外の世界

1 名前:フォート 投稿日:2005/08/09(火) 14:28

「また,お話聞かせてくれませんか?」

「んー,そうだね…。じゃあね,あの話しよっかな。」

「どんなお話ですか?」

「それは聞いてからのお楽しみだよ。後で感想文書いてもらうからねー」

「…主人公の女の子がモテモテな話ですか?」

「まあまあ,聞いてみなって」
2 名前: 投稿日:2005/08/09(火) 14:31





「それはそれは,この世界にモンスターがいた頃の話。え?モンスターなんていたわけないって?
いたことにしといてよ。その方が物語っぽいでしょ?」
3 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:36


ガランガラン。



城の見張り台にある大きな鐘が響き渡る。
規則的に5秒に1回のペースで,1分間もの間鳴り続ける。
それがこの国1日が始まる合図。


そんな城に2人の姉妹がいた。
4 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:42

さてさて,今日は起きれるのかしら?

ベッドへとゆっくり近づきながら,寝ている少女を確認する。

「れいな,起きな?朝だよ」
「うーん…」

後5分とか言いそうなれいな。
アタシはその耳元で囁いた。

「…いいの?」

途端にれいなが飛び起きる。

「は,はい!起きた!起きました!」
「まだ鐘鳴ってるからセーフだね。偉い偉い」
「えへへ」

れいなの頭を撫でてあげると,すごい笑顔になるんだ。
この顔が大好きだから,アタシはれいなの頭をよく撫でる。

「早く着替えておいで。ご飯できてるから」
5 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:44

食卓についてまもなくれいなが部屋から出てきた。

「おはよう,れいな」
「おはよーございます。真希さん」
「今日も頑張ったね。たんと召し上がれ」
「いただきます!」

れいなはご飯が大好き。アタシの作った料理はなんでも喜んで食べてくれる。
今も,美味しいです,なんて笑いながら食べてる。
それは一緒に住み始めた時から変わらないこと。
そして,そうあって欲しいと願うこと。
6 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:46

「ちゃんと続いてるね。鐘の鳴ってる間に起きるって約束」
「もちろん!れいなも真希さんのいる騎士団に入りたいですもん」
「まだ早いよ。もうちょっと剣の腕を上げないとね」


騎士団入団にはいくつかの条件が存在する。
1つは剣の腕。1つは鐘の鳴り終えるまでに起床していること。
他にまだあるけど,すごい重要なのはこの2つ。
城のみんなの治安を守るということを考えたら,必要なことだと思う。
…お寝坊さんな騎士団員なんて,ちょっと頼りないでしょ?
7 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:47




「それじゃ行ってくるね」
「いってらっしゃい!頑張ってきてください!」
「頑張ってくるよー」


8 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:51

大広間へ向かう途中,色々な人から挨拶を受ける。
実はアタシは騎士団の中でも重鎮だったりする。

「あ,ごっちんおはよー!」
「おはよー,まっつー。今日は美貴ちゃん来てる?」
「来てるわけないでしょー。みきたんは朝がダメダメなのさ」


ごっちんというのはアタシのこと。後藤真希だからごっちん。
アタシがまっつーって呼んでるのは松浦亜弥。美貴ちゃんっていうのは藤本美貴のこと。
2人とは同期で騎士団に入団。ほとんど同じ早さで昇進してきた。
ライバルっていえばライバルだけど,アタシにしてみれば親友って感じかな。
9 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:51




「後藤真希,松浦亜弥,藤本美貴への本日の指令を発表する」

毎朝恒例の指令発表だ。女王の中澤裕子が威厳たっぷりに言う。
10 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:53

「特になし!鍛錬に励み,非常事態に備えるんや!」
「「了解」」
「松浦,藤本は?」
「寝坊です」
「あいつは…。まあええ。解散」

美貴ちゃんが寝坊するのは毎度のこと。裕ちゃんも諦めてるのか何も言わない。
他の人だったら大変なんだ。実際に寝坊で騎士団を退団させられた人もいる。
美貴ちゃんだから許される。理由は知らないけどね。
11 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:55

「また鍛錬かぁ。毎回そればっかじゃん」
「しょうがないよ。特に揉め事も起きてないし」
「だってだって!鍛錬以外に何か指令もらったことある?」
「んー,ああ,あれは?若返りの草を探してこいっていうの」
「…あれはどう考えても中澤さんが使おうとしてるよねぇ」
「あはっ。裕ちゃん気にしてるからねー」

裕ちゃんは三十路突破して,独り身。この城だと独り身が普通なんだけどね。
実はこの城,女性しかいないんだ。
裕ちゃんが負け犬なんて呼ばれたくなくて,この国を作ったっていう噂もある。


まあ…そういう特殊な環境だからこそ,騎士団が強くないとね。
12 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:58

「今日は何しよっか。外出たいな。城で剣の稽古なんて嫌ー」
「んー,美貴ちゃん待とうか。どうせ美貴ちゃんが決めるでしょ」
「じゃあ森に行こうかな。美貴,肉食べたいし」
「肉って何食べる気よ…。って,みきたんいつの間に!」

まっつーと会話してるといつの間にか美貴ちゃんが出現する。
それは毎朝のことなんだけど,気付かないんだよね。
ミステリアスな人だよ,ほんと。

「まあ,いいじゃない。とにかく,森いこ森」

そう言うとアタシとまっつーの腕を取って美貴ちゃんは歩き出す。
森は城から東にある。かなりでかいし,モンスターもそれなりに出る。
だから鍛錬にはもってこいな場所なわけ。
13 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 14:59


モンスターには色んなタイプがいる。

まっつーが対峙しているのは人型。動きが遅く,力が強いのが特徴だ。
棍棒などの木を主体とした武器として襲いかかってくる。
まっつーは力がそれほどあるわけじゃないけど,スピードはピカイチ。
だから,攻撃を回避しながら致命傷となる一撃を与えるといった感じで仕留める。
好んで人型を仕留めてるね,まっつーは。


美貴ちゃんは大体獣型のモンスターを選ぶ。
獣型の特徴は,動きが素早いこと。牙や爪で攻撃してくる。
美貴ちゃんはまっつーほど素早いわけじゃないけど,力が強い。
動きを見切って,回避カウンターのように仕留める。
肉好きなのもあってか,無意識に獣型を追ってしまうみたい。

アタシは特に好き嫌いはない。
だから,2人が選ばない奴を倒していく。植物型だったり,鳥型だったり。
14 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 15:01



でもよく考えてみて?ここはどこだろうね?
森だよ?つまり,植物がいっぱいです。しかも,アタシは複数のタイプ担当です。


…アタシが1番損な役回りってわけ。


15 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 15:02

騎士団の中の主力メンバーが3人も揃っているPTがしくじるなんてことは,
この森ではあり得なくて。
この森だったら,実はみんな1人でも大丈夫。
ただ,1人で鍛錬なんてしててもつまらないから3人でいる。
それにね,3人だから出来る事もあるから。
16 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 15:04

「亜弥ちゃん,剣に上手く力が伝わってないよ。
もっと,足を踏み込んだ時のバランスを保って」
「みきたんこそ,ステップ上手く刻めてないよ。
上体を安定させて,動作が流れるようにしていかないと」


自分の非を相手に指摘してもらいつつ,お互いの実力の向上を図る。
そうやって,この2人は成長してきた。アタシはというと…
17 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 15:09





「2人とも,アタシも何か指摘してよー」

「…ごっちんは指摘するとこなんてないよ」
「ごっちんに指導出来るレベルの人なんていないから」

じゃあ,アタシが居る必要ないじゃんか!ってことになるけど,
ようは2人は人と獣以外とはやりたくないわけなんだね。

…アタシってやっぱり損な気がする。

「ごっちんのフォーム盗んだりしてるんだからね」
「そうそう。美貴たちにとってはプラスなわけ」


亜弥ちゃんより速くて,美貴より力あるとかずるいからっていうのが美貴ちゃんの口癖。
18 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 15:09

アタシには昔の記憶が無い。
アタシの記憶の始まりは,れいなの心配そうな顔。
4年前に城外に倒れていた意識不明のアタシを,れいなが介抱してくれたんだ。

その当時からアタシは剣に秀でていて。
騎士団に入団して3日で,1団を任されるようになったことからもそれはわかる。
記憶を無くす以前に,かなり鍛錬を積んでいたっぽいんだね。
記憶を取り戻したくないとは言わないけれど,アタシはこのままでもいい。
この城を守りたいと純粋に思える。れいなのいるこの城を。
この剣の腕はそのためのモノなんだ,きっと。
だったら,どうして剣に秀でてるかなんていう事なんかどうでもいいじゃないか。

目の前でアタシの作った夕飯を美味しそうに食べているれいなを見て。
アタシは柄にもなく,そんな事を考えていた。
19 名前:  投稿日:2005/08/09(火) 15:10



ガランガランガラン。

明け方。まだ薄暗い中で,見張り番が非常事態を知らせる鐘を鳴らした。
騎士団員であるアタシはすぐ大広間へ行かなくてはならない。
急いで準備していると,れいなが起きてきた。
その顔はとても不安そうで,アタシを心配しているものだったから。

「大丈夫だよ。アタシを信じな」

そういって,額にキスをした。
これはおまじない。れいなを安心させるためのおまじない。
気付くとやるようになってた。ただそれだけのことだ。
20 名前:フォート 投稿日:2005/08/09(火) 15:12
本日は区切りが良いのでここまでで。
初執筆なので,更新が遅くなるかもしれませんが,
気長にお待ちいただければと思います。
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 01:12
こういうお話は大好きです。そして続きが気になる展開。
次を楽しみに待ってます。
22 名前:名無し読者 投稿日:2005/08/10(水) 10:19
面白そうなの発見!
続きが楽しみです。
23 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:34

大広間に着くと,アタシ以外揃っていた。
さすがに美貴ちゃんもいた。非常事態とあって,顔は真面目そのもの。
まもなく,裕ちゃんが息を切らせがら玉座に座った。

「恐竜型がこの城に向かってきてる」

裕ちゃんの言葉を聞いて,大広間は騒然とした。
恐竜型というのは,モンスターの中でも最強の強さを持つといわれている。
その身体は巨大で,その皮膚は剣を通さないほど硬く,岩をも砕く力を持っているのだ。

「この近くに恐竜型はいないはずでは…」

誰かはわからないが,騎士団員の誰かがそう口にする。

「現実として,向かってきてるんや。もう肉眼で確認できる。
そこで討伐隊を編成する。志願者はいるか?」
「はい。後藤真希,志願します」

24 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:34

恐竜型と聞いてみんな尻込みしている。
そんな時こそアタシが身をもって示さなければ。
騎士団とはなんたるかを。



「じゃあ美貴も志願しよ。もちろん,亜弥ちゃんもするよね?」
「当然でしょ。あたしら3人が行けば楽勝楽勝♪」
「3人でええか。じゃあ,ちゃっちゃと頼むわ」

25 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:35



城外へ向かう途中,城のみんなから応援をもらう。
その中には当然,れいなの姿もあった。

「あ,ごっちん。れいな来てるじゃん」

耳元で美貴ちゃんが囁く。
れいなに頑張るよって感じで片手でガッツポーズした。

「れいなは優しい子だからね。美貴ちゃん狙っちゃダメだよ」
「えー!美貴,ああいう感じの子がタイプなんだけどな」
「ありえないから。4歳差じゃん」
「ごっちん?なんか言った?」
「あはっ,言ってないよー」

美貴ちゃんに年齢差の話はタブーなんだ。
最近,騎士団に若い子が入ってきて,自分の年齢気にしてるみたい。
その点アタシは自分の年齢なんてわからないから,全然気にしなくていい。
26 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:36

「いくらごっちんでも年齢の事言ったら許さないよ」

美貴ちゃん with 凍てつく笑顔。
普通の人だとその笑顔に凍り付いてしまうんだけど,
アタシとまっつーには効かない。慣れてるし。
だから,カウンターパンチを食らわせる。






「「戦わなきゃ,現実と」」

美貴ちゃんはその場に崩れ落ちた。
27 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:37



「…これ結構でかくない?」
「でかいね…。富士山ぐらいあるんじゃない?」
「いや,そんなでかくないから。ていうか,富士山て何」

そんな会話が成立してしまうぐらい,恐竜型のこのモンスターはでかい。
アタシ達を上に5個ぐらい繋げた感じ。
片方の目が剣によって傷つけられている。でも,かなり昔の傷らしく。
今回の暴走の原因ではないようだ。
28 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:38

「どうする?とりあえずやってみようか」
「んーじゃあ,いつものように布陣はデルタで」
「「了解」」


指揮官っていうか,指示出し役はアタシ。
普段は美貴ちゃんが出すんだけど,強敵だと思われる時は。

なんか,こいつ,アタシばかりみてる気がする。
デルタになられたら2人が見えるように視点変えるのが普通なのに,アタシをまっすぐに睨んでる。

29 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:38

刹那,その口から赤い炎が放たれた。


は?ちょっと待って。何で恐竜型が炎なんか吐くの。
予想外。ダメだ避けられない。






やられる。
30 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:39






今までの思い出が走馬燈のように頭を巡り出す。

31 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:40

昨日食べた晩ご飯。3日前に森で見つけた絶景スポット。
湖に泳ぎに行った日のこと。
あの時,美貴ちゃんは行くの渋ってたな。まっつーはノリノリだったけど。


美貴ちゃんと亜弥ちゃんとの鍛錬の日々。
剣を初めて持った時,亜弥ちゃん,アタシの髪間違えて切ったよね。
あれは結構ショックだった。アタシの髪,その頃はかなりロングだったから。
その時からアタシはショートになった。3人揃ってショートだからいいかなんて思った。
美貴ちゃんは結構乙女なところあって,剣を持つ手が震えてたな。
32 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:40



城のみんなの思い出。
指令を出す裕ちゃんはたまに,飲みに行くで!ってアタシ達を酒屋に連れて行ったな。
もっぱら飲まされるのは美貴ちゃんで,アタシと亜弥ちゃんは料理ばかり食べてたけど。

そして,れいなと過ごした楽しい日々。
初めて見た時のれいな。まだ小さくて,幼さが残る可愛らしい子だった。
今もアタシから見たら幼い子だけど,随分成長したなって思う。
33 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 18:41




ああ,アタシ,本当に死ぬんだ。

34 名前:フォート 投稿日:2005/08/10(水) 19:01
本日は区切りがいいのでここまでです。
どこぞの対談レポで興味を持って,殺戒や百姫夜行を読んだのですが,
名作といわれる作品はすごいですね。何回も涙が零れそうになりました。
次はINSANITYという作品を覗いてみようと思っております。

>>21 名無飼育さん
初レスありがとうございます。
続きが気になるという感想は大変嬉しいです。
どうぞ今後もお付き合いくださいませ。

>>22 名無し読者さん
レスありがとうございます。
面白そうと言われて少し安心しています。
この話自体を面白いものにできるように頑張りたいと思います。
35 名前:名も無き読者 投稿日:2005/08/10(水) 23:22
更新お疲れ様です。
初レスです。
れなごまに悶死しかけております。(死
バトルもあって面白そうです、期待させてもらいますね。
でわ、これからも更新頑張って下さい。(平伏
36 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 00:56


『…真希』

誰?





『真希!打ち込みが遅いぞ!もっと速く!速くだ!』

あなた誰?わからないよ…。
でも,すごい懐かしい感じがする。




『ははは。真希は甘えん坊だなー。』

誰?あなた誰なの?
思い出せない…。




『真希…生きろ。外の世界で自由に生きろ』

外の世界?なにそれ?
…分からない。

37 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 00:56




「ごっちん!よけてー!」

まっつーが叫んでる。気付くと目の前の炎が段々とアタシの方へ。
その時,アタシの身体は勝手に動いた。
アタシの左手が炎に向かって挙げられて,アタシの口が何かを言った。

「解」

アタシの左手から何かが出た。そして,炎は消滅した。

38 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 00:57

炎が消えたと見ると,アタシは大きくジャンプした。
アタシはその大きな物体に迫った。アタシの右手が剣を居合いの要領で抜き払う。
その物体の首はその大きな胴体から離れた。


なにか,懐かしさを感じた。自分の動きがとても心地よかった。







「ごっちん…強すぎ」
美貴ちゃんのつぶやきが聞こえた。
まっつーはポカンと口を開けていた。

39 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 00:58


その後は大変だった。裕ちゃんに例のごとく,酒屋に連れて行かれた。
美貴ちゃんは顔を真っ赤にしながらも裕ちゃんの相手してる。
城のみんながアタシを褒め称えた。もうお祭り騒ぎだ。
れいなは滅多に酒屋には来ないのだけれど,今日は特別だって言って,アタシの隣を占領してる。






「あたしはもうダメかと思ったんだ。ごっちんの目の前まで炎がきてて」

亜弥ちゃんが周りが少し落ち着いてから,話し始めた。
40 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 00:59

「でもさ,ごっちんどうやって炎消したの?」
「わかんない。なんか消えたんだよね。身体が勝手に動いてさ」
「へー。でもさ,あれ恐竜型じゃないよね。炎吐いたし」
「そうだよね。なんか,突然変異なのかな。吐かれた時はびっくりして,もうダメかと思った」
「真希さんが負けるはずないです」
「れいなちゃんの言うとおりだよ。ごっちんが負けるなんてことはありえない」
「でも,走馬燈見たよ。なんか…」
「なんか?」
「いや,なんでもない」

言う必要はないと思ったから。実際,アタシ自身もよく分かってないし。
ただ,記憶を失う前の出来事なのかなってぐらい。

「でもこの城も安泰ですね。真希さんがいるし,松浦さんも藤本さんもいるし」
「れいなちゃん,安心していいよ。あたし達騎士団がモンスターの侵入を許さないから」
「そうだね。直にれいなも入団するしね。もう,平和過ぎて困るかもよ」

あははって3人が笑った。周りの人たちもつられて笑った。
人々はその日の出来事を各々に喜びながら,夜はさらに更けていった。


41 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 00:59



アタシは昂揚していたのかもしれない。
れいなのちょっとした変化に気付くことが出来なかった。

部屋に帰って,先に戻ったれいなの布団を掛け直そうと思ったら,れいなの姿がない。
いつもベッドの隣においているはずの木刀もない。


「あの馬鹿!」

アタシは城の外に向かって駆けだした。
42 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 01:00

なんで?今日に限ってなんで?いつもは黙って稽古になんて行かないじゃない。
しかも夜行くことなんてこと,絶対無かった。夜はモンスターの動きが活発になって危ないんだよ?

アタシは舌打ちしながら,先を急ぐ。

「ごっちん?どうしたの?」

まっつーに美貴ちゃんがいた。美貴ちゃんがまっつーに肩を貸してもらってる感じ。
美貴ちゃんは足下がフラフラ。裕ちゃんにかなり飲まされたみたい。

「れいなが!れいなが城の外に出たらしいの!」
「マジで?!あたしも探すよ!」
「でも美貴ちゃん運ばないと」
「美貴は平気だから。ていうか,そんな事言ってられる状況じゃないし!」

そういうと,美貴ちゃんは亜弥ちゃんを吹っ飛ばし,マッハで城外へ駆けだしていった。

「…ひどくない?あたしに対する思いやりがないよね」
「今のはちょっとひどいね」
「そして,これはなんでしょう?」
「…美貴ちゃんの剣」
「ということは,みきたんは?」
「丸腰だね」

はあ…と2人でため息をつきつつ,一緒に城外へ駆けていった。

43 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 01:00

城外へ出てみたものの,れいなの行き先がわからない。
稽古をしに行ったのだと考えると

「森かな…?」
「れいなとの稽古は森しか行ったことないから…多分森かな」
「れいなちゃんは肉好きだから,きっと森だね」
「美貴ちゃんもそういうけど,食べられそうなのいないよね」
「みきたんは肉なら何でも食べるから」

まっつーはこういう時,一番良く人の事を考えてくれる人だと思う。
今だって,アタシはまっつーがいなかったら冷静を保っていられないだろう。
軽い冗談を言って,アタシを落ち着かせようとするまっつーに心の中で感謝する。

44 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 01:01

森に向かって全力で走っていると

「あっ,あれ!」

駆けながら,まっつーが指さす。
指の先には地に蹲っているれいなと,植物型っぽいモンスターと対峙している美貴ちゃん。

「れいな!しっかりして!」

れいなの元に駆け寄ると,れいなの苦しみ方が尋常ではない。
外傷はほとんど無い。しかし,顔が青白くなっている。
考えられることは1つ。

「ごっちん!こいつの毒にやられたみたいなんだ」

美貴ちゃんがモンスターと対峙しながら言う。
確かに植物型なら毒もあり得る。
45 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 01:01

「でも…それ見たこと無い奴だね」

そう,そうなんだ。見たこと無いんだ。
恐竜型のあいつといい,この植物型といい,なんなんだ。
美貴ちゃんが攻撃を躊躇っているのを見ると,相当強いのだろう。
でも,躊躇している暇はない。一刻も早く,れいなを城へ運ばないと。


「そいつはアタシがやるから,2人はれいなを城へ」
「でも…ごっちんそいつ」
「いいから速く!」
「わかった…。でも,気をつけて。そいつ強い」
46 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 01:02

美貴ちゃんとまっつーが遠くへ行ったのを確認してから,そいつと向かい合う。
れいなはそれほど弱くはない。実戦経験が乏しいのはあるけど,素質はある。

何もない風を装ってたけど,美貴ちゃんも重傷を負っている。
剣があったら美貴ちゃんは勝ったのかな。
無理だろうと思う。実は美貴ちゃんは素手での格闘の方が得意なんだから。

れいながやられ,美貴ちゃんがやられた。
それがこのモンスターの強さを端的に表している。
こいつは相当強いのだろう。
47 名前: 投稿日:2005/08/12(金) 01:03


「でもそんなの関係ないんだよね」

ポツリと独り言を漏らす。


「アタシは今,猛烈に怒りを感じてる」

目の前のそれを睨む。こんなに怒りを覚えた記憶はない。



「強い弱いに関わらず,アタシはお前を倒す」
48 名前:フォート 投稿日:2005/08/12(金) 01:18
本日の更新を終わります。
結構,ストックはすぐ無くなくなっていくものですね。
なるべく更新が滞らないように頑張ります。
今のペースを保てというのはご勘弁を(苦笑

>>35 名も無き読書さん
レスありがとうございます。
幻のDDの方で合ってますでしょうか?ちょっとデフォルトに名前が近いので自信が…(苦笑
設定上,後藤さんに妹が必要だったのですが,
誰が妹っぽいかなぁと考えてみたところ,性格似てるという田中が妥当かなと。
悶死しかけていらっしゃるということで幸いです(笑
バトル主体の話ではないので,ご期待に沿えるか不安ではありますが,更新頑張ります。
49 名前:名無し読者 投稿日:2005/08/12(金) 11:07
ごっちんの過去が気になりますね。
更新がんばってください!
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/12(金) 23:16
んっ!おもしろい!!ビビッときました☆更新楽しみにまってます
51 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/13(土) 01:32
初めまして。
すごく面白いです!
かなりはまりそうです。
52 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:41

身体から怒りが溢れてくるようだ。
それでいて,どこか冷静な自分がいる。
…前にもどこかでこんなことがあった気がする。
53 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:42



『真希,逃げろ!お前の敵う相手じゃない!』
『許さない…。…ちー……んをこんなにして…』
『落ち着け!我を忘れるな!』



『お前もう死んだよ。この人に手を出したのが運の尽きだ』

54 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:43


目の前のそいつが無数の蔓を放ってくる。
それがスローモーションに見える。
不思議な感覚だ。昼間の時とはまた違った感覚。
全身から力が湧き出てくるようだ。


「お前もう死んだよ。れいなに手を出したのが運の尽きだ」


自然と言い放つと,アタシは目の前のそれに向かって突進する。
左手を半円を描くように回転させる。

「障」

アタシの周りに薄い透明な壁のようなものができた。
それは周りの蔓の接近を拒んだ。そして,接近を拒まれた蔓は跳ね返される。
55 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:45


どうやら,目の前にいるモンスターの弱点は中央に位置する大きな花のようだ。
そんなことも,なぜか分かる。そんな自分が少し不思議に思えた。

花目がけて,剣を突く。突如大きな歯が出現し,挟むようにして剣を受け止めた。
押し込もうとするが,びくともしない。
そいつから,気色の悪い笑いが聞こえたような気がした。



「動かないね。でも,それがどうしたの?」




剣を自分の方へ引く。そして,もう1回突く。
そいつに剣が貫通することになった。



「押してダメなら引けばいいんだよ」

56 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:49


うーん,勝手に身体が動いて戦ってくれるって楽だ

そんなことを思いながら,アタシはその場に崩れ落ちた。


57 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:49

『真希』

また…あなた?

『真希,今日もあそこ行ってたのか』

懐かしい…。なんか懐かしい感じがする。

『あそこは危険なんだ。もう行くな』
『嫌だ!だってあそこは…』


『真希…,お前にも何かあったら私は…』
『大丈夫だよ。お母様も言ってた。アタシはもう一人前だって!』


『真希…もう…い…のことは忘れるんだ』
『…何でそんなこと言うの!…ちーちゃんなんて嫌いだ!』


『真希!待て!おい!』


『くそっ!』

58 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:51


気付くとアタシはベッドの上だった。
目を開けたら,まっつーの心配そうな顔があった。

「よかった,気がついて。なんともない?」
「うん,大丈夫。ありがとう」

どうやらアタシはあの後,気を失ってしまったらしい。
れいなと美貴ちゃんを城まで運んだまっつーはその足で引き返してきて,倒れてるアタシを発見。
アタシを担いで城に運んでいってくれたらしい。
まっつーには世話かけちゃったな。


「ごっちん泣いてたよ?寝てる間」
「あー…なんか夢見てたんだ。多分昔の」

そう,多分記憶を無くす前の出来事なんだろう。


「あっ,れいなは?れいなは大丈夫?」

途端にまっつーの顔が苦しそうに歪む。アタシはれいなの状況が芳しくない事を知った。

「今,中澤さんが看てるけど…」
「行ってくる!」

裕ちゃんはなぜか治癒する能力がある。
怪我している部分に手をかざすだけで,みるみるうちに怪我が治っていくんだ。
アタシも随分お世話になった。
59 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:52

裕ちゃんの部屋に行くと,れいなと美貴ちゃんが寝かされてた。
美貴ちゃんは大丈夫そうだ。

「裕ちゃん!れいなは大丈夫?」

裕ちゃんは首を振った。

「これは私の力じゃどうにもならん。この毒は随分特殊なものらしい」
「そんな…」
「藤本は外傷だけだったから治せたけどな…,田中は…」

れいなは青白い顔をして,呼吸がかなり速い。
すごい苦しそうだ。アタシはいてもたってもいられなくなった。
60 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:52

「なにか…なにか方法はないの?」
「あるといえばあるけどな…」

裕ちゃんは沈痛な面持ちをして,アタシを正面に見据えて言った。



「相当危険やで。不確定な情報やし」
61 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:53

アタシは裕ちゃんの言葉に,逆にイライラし始めた。

「危険?そんなの関係ない!れいなを救えるかもしれない!それならアタシは何でもやる!」

裕ちゃんは,やっぱり若いな…って呟いた。
アタシがこう言うのを予想していたみたいだ。

「ここからずっと南に行った所に小さな村がある。そこにある巻物持ってきてくれ」
「わかった!」

アタシが駆け出そうとすると,裕ちゃんに手を捕まれた。

「ここから出るのは朝になってからにしな。それまで田中の側にいてやり」

アタシは静かに頷いた。
62 名前: 投稿日:2005/08/13(土) 10:54

「あと,巻物持ってくるのには時間かかるやろうから,応急処置をしとく」

裕ちゃんが両手をれいなに向かってかざす。
れいなの顔に少し赤みが帯びてきた。

「治ったわけやない。毒のまわりを極めて遅くしただけや。1年はもつと思う」

そういう裕ちゃんは苦しそうな顔をしていた。

「裕ちゃん…?」
「私の生命力を抗体みたいに田中の身体に入れただけや。たいした問題やない」
「たいした問題だよ。裕ちゃんの寿命が短くなっちゃうってことでしょ!」
「そうや。でもいいねん」

裕ちゃんが田中の顔を優しい顔をして見た。
そして,アタシの右手と田中の手を重ねた。

「こんな若い子を助けられる可能性をつくれたんやで?私は満足してる」

裕ちゃんの笑顔が眩しくて,アタシは一筋の涙を禁じ得なかった。



アタシは心の中で誓った。
裕ちゃんの心遣いを無駄にしないためにも,れいなを救うためにも,
絶対に巻物を持ってこの城に帰ってくるのだと。
63 名前:フォート 投稿日:2005/08/13(土) 11:12
本日の更新はここまでです。
小出し小出しで行ってる感があるのですが,更新頻度を落として,
まとめて更新の方がいいのかなとか思ってたり。
総更新量は変わらないんですけどね。

美勇伝のANNR聴いてたので,すごい眠いです。
もうちょっと早い時間帯でやって欲しいですね。3時には寝たいです。
結局内容をろくに覚えていないので録音を今聴いてるわけですが…。

>>49 名無し読者さん
レスありがとうございます。
後藤さんの過去は謎めいてますね。
この作品のテーマにも絡んでると個人的には思っております。
更新,なるべく滞らないように頑張りますね。

>>50 名無飼育さん
レスありがとうございます。
ビビッときましたか。そう言われると嬉しいモノがあります。
拙い文章ですが,お付き合いください。

>>51 ミッチーさん
レスありがとうございます。
どうぞはまっちゃってください。基本的に自分の好みを具現化してる感じなので,
共感していただけると嬉しいです。
64 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/14(日) 02:16
更新お疲れ様デス。。。
後藤さんの過去が小出しで出てきますね。
○○ちゃんってもしや・・・。
続きすごく楽しみに待ってます。
65 名前:rina 投稿日:2005/08/14(日) 11:05
素直に面白いです!
ワクワク・ドキドキの連続で、楽しませていただいてます。
続きも楽しみに待っています。
66 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:53

裕ちゃんが出て行った後,しばらくすると,美貴ちゃんの寝息が聞こえてきた。
れいなは少し楽になったみたいだけど,相変わらず苦しそうだ。
アタシはれいなの苦しみを少しでも軽減してあげたかった。
れいなの小さな手を両手で包む。


「ごめんなさい…」

れいながか細い声で言う。


「勝手に抜け出してごめんなさい…」
「急にどうしたの?理由を教えて」

67 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:54

正直,怒鳴りつけたい衝動に駆られた。でも,今のれいなの状態を見るとそれはできなかった。
少しでも傷つけたら壊れてしまいそうで。

「少しでも早く強くなりたくなったんです」
「なんで?れいなは強いよ」
「真希さんみたいになりたいんです。今日,あのモンスター倒してる真希さんを見て…そう強く思いました」
「…そっか」



重苦しい空気が流れる。
アタシのせいでれいなが無茶な行動を起こしたと思うと,胸が痛い。
こんな雰囲気はれいなの身体に良くないと思って,アタシは打破することを試みる。

「れいなはさ,なんで倒れてるアタシを助けてくれたの?」
「真希さんが綺麗だったからです」
「へ?」

思わず素っ頓狂な声をあげる。
68 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:55


「れいなは1人だったから,真希さんみたいな綺麗なお姉さんが欲しかったんです」


その後れいなが思い出したように付け足す。

「真希さんの方が妹になるのかもしれませんけどね」

悪戯した子供みたいな笑顔をするれいな。

「アタシはれいなよりは年上だと思うよ。さすがにね」
「中澤さんよりも上かもしれませんけどね」
「あはっ,れいなも言うようになったじゃん」

2人して静かに笑う。側で寝ている美貴ちゃんを起こさないように。
69 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:55

「なんか眠くなってきた」
「寝ちゃいな?アタシが手握っててあげるから」
「まだ真希さんとお喋りしたい」
「だーめ。病人なんだよ?」
「はい…」

しばらく口をとがらせてたけど,寝たみたい。規則正しい寝息が聞こえる。
朝まで待つつもりは元々なくて。
それは,一刻も早くれいなを治してやりたいから。
れいなの手から手を離そうとするが,れいなが弱々しく握っているので離せない。


「真希ちゃん…」

一瞬びくっとしたが,寝言だったらしい。
真希ちゃんなんて普段呼ばないくせになんて思いながら,れいなの手を優しく振りほどく。
それは他ならぬれいなのため。許せ。
70 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:56


治ったらいっぱい話そう?
れいなが,もう嫌っていうぐらいさ。


71 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:57


自分の部屋に帰り,荷物を揃えていく。
ちょっと保存食作っていかないと食料に不安だ。
キッチンに立って,手際よく保存食を作っていく。
れいなの朝食作る材料がなくなっちゃうけど,きっと裕ちゃんが調達してくれるでしょ。

72 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:57


コンコン

ドアがノックされる。

「どうぞ」
「お邪魔しまーす」

こんな真夜中に訪ねてくるなんてまっつーか美貴ちゃんぐらいなもん。
美貴ちゃん寝てたからまっつーだな,なんてね。
73 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:58

「やっぱ旅に出るの?」
「うん。南の方にある村から巻物取ってくる」
「あたしも行くよ!」

驚いて振り返ると,旅立つ準備万全なまっつーがいた。
背中に大きなリュックサック,腰には剣が4本,胸元に水筒,頭の上には帽子。
剣は多分,予備なのかな。
74 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:58

「アタシは1人で行く。まっつーは城に残ってほしい」
「なんでよ!あたしは足手まといにはならないつもりだよ?」
「そういうことじゃなくってさ,城を守っててほしいんだ」
「みきたんがいるし,他に騎士団の人たちもいるから大丈夫だよ」
「でも今日みたいに強いモンスター来るかもしれないし」
「う…」
「まっつーと美貴ちゃんってさ,2人で戦った方が強くなるじゃん?」
「そうだけど…」
「それにさ,まっつーに残ってほしい理由は他にもあるんだ」
「え?な,なにさ…?」
「れいなに変な虫がつかないように見張っててほしいんだ」

そういってアタシは笑う。まっつーも笑う。
まっつーは分かってくれたんだと思う。
75 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 19:59

「わかった,あたしはここに残る。でも,気をつけてよね」
「わかってる」
「れいなちゃんは任せておいて。寂しがらせないようにするから」

やっぱりまっつーは分かってた。
変な虫がつかないようにっていうのは,2つの意味を込めていった言葉。
れいなが寂しくならないように一緒にいてあげてね。
れいなに美貴ちゃんがちょっかい出さないように見張っててね。




「でもみきたん邪魔するのは無理かも」

また2人して笑った。
76 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 20:00

城門のところでまっつーと握手。

「絶対に無事で帰ってきてよね」
「うん。巻物持って帰ってくるよ」

握手を終えると,まっつーは自分の剣をアタシに差し出した。

「これ持っていって」
「え,でも…まっつー困るでしょ?」
「あたしスペアいっぱいあるから」

そういって,腰元に刺さっている残りの3本を見せる。

「1本だと不安なの。何かの拍子に無くすかもしれないし」
「ありがとう」

まっつーの剣を受け取る。

「じゃ,行くね」
「気をつけてね!」
77 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 20:00

まっつーは城門からアタシが見えなくなるまで手を振ってくれてた。
受け取った剣を腰元に装着する。まっつーが使いこんでいるだけあって,かなり年季が入っている。
ふと,自分の剣を見る。


この剣はいつから使ってるんだろう。


れいなの話だと,倒れているときにはもう持っていたものらしいが。
剣には後藤真希と彫られている。
これによって,アタシは名前を失わずに済んだのだ。




ま,いいか。先を急ごう。
78 名前:フォート 投稿日:2005/08/14(日) 20:18
本日の更新を終えます。
筆が止まるってこういうことかっていうのを体感。
もうちょっと滞りなく更新は出来そうではありますが。

>>64 ミッチーさん
レスありがとうございます。
全ては筆者のみぞ知るといった感じですね。
後藤さん自身も小出しにされて,ちょっとイライラしてることでしょう(笑
○○ちゃんって誰でしょうね(苦笑

>>65 rinaさん
レスありがとうございます。
素直に面白いとの言葉が素直に嬉しいです。
更新,続くように頑張りますね。
79 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/15(月) 01:32
更新お疲れ様デス。。。
ついに旅立ちの時ですね〜。
どんなことになっていくのか楽しみです。
80 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:18

剣を思いっきり振り下ろす。
目の前のモンスターが真っ二つに割れる。

さすがにちょっと疲れてきたぞ。

ちょっと進むとモンスターに遭遇し,倒して,また進むとモンスター。
南って本当にモンスターの数が多い気がする。

美貴ちゃん…,だから南に鍛錬行くことなかったんだね。
毎回森なのもおかしいと思ってたんだ。
肉好きって言っても,毎回何も食べてなかったし。
81 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:18

目の前に新たに出現したモンスターを居合い抜きで仕留める。

それにしても,関所の人たち大丈夫なのかな。
昨日の恐竜型だって南からの侵入だし。


城から南に離れたところに関所がある。
そこまでが城の管轄。そこから先は未知の世界…みたいな。

そういえば最近あの子に会ってない。
若くしてその才能を認められて,国境警備隊隊長に任命されたあの子。
そのポジションの重圧は並大抵ではないと思う。

でも,あの子は何てことはない感じでこなしてるんだろうな。
82 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:20

関所に着くと,団員に出迎えられる。

「後藤様,遠路はるばるお疲れ様です」
「高橋いるかな?」
「高橋隊長はモンスターと交戦中であります」
「お,いいね。久しぶりに高橋の妙技が見れそうだ」
「関所の外側にいます。この先をお進みください」



関所を颯爽と通り抜けて,外の世界へ出る。
見覚えのある背中が見える。
ちょっと身長が伸びた気もするその背中は,かなり逞しくなったようにみえる。
83 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:20

人型のモンスターと戦っているようだ。
複数の棍棒を高橋は左手に持つ1本の剣で捌く。
左手で捌いていく棍棒の数が減っていく。
右手に持つ剣で1体1体を確実に仕留めているからだ。
背後からの攻撃も紙一重で避けていく。

最後の1体を高橋が仕留める。
その腕はいささかも衰えてない。むしろ,以前よりも磨きがかかっているといえる。

ここでの実戦経験が高橋をここまで強くしたようだ。
84 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:20

「高橋,久しぶり」

高橋が振り向く。
お馴染みの顔がお出迎えしてくれる。

「ご,ご,後藤さん?!」

高橋の目がパチパチしている。
しばらくそれを続けた後,高橋が笑顔になる。
そして,そこから消える。
瞬間,アタシの身体にすごい衝撃が加わったけど,足を後ろに出して必死に耐える。
85 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:21

「会いたかったですよー!」
「そ,そう。いいから離してね」
「後藤さんも高橋に会いたかったですか?」

そういって,アタシを見上げる高橋。
その目は確固たる主張を持っていて,アタシにどうしても会いたかったと言わせたがっている。

「あ,会いたかった…よ?」
「そうですよね!こうしてわざわざ会いに来てくれたんですもん!」

高橋のアタシに抱きつく力がさらに強まる。

「それで,今日は泊まっていってくれるんですよね?」

この子はアタシが自分に会いに来たわけではないことは,ちゃんと分かってる。
高橋は聡明な子だ。そうでないと,ここの隊長なんてものは務まらない。
ちょっとした師弟関係を持つアタシにしか,こう甘えることもないだろう。
86 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:21

「泊まらせて。ちょっと今日は疲れた」

そう言うと,高橋の腕の力がさらに強まった。
もう,頬までアタシの胸に押しつけてるし。

アタシは高橋を抱きしめた。
この孤独な剣士に短い休息の時を与えようと思った。


そして,さっき冷たくあしらってしまった自分を心の中で叱咤した。
87 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:22

「城のみんな,元気ですか?」

「松浦さんや藤本さんも?」

「中澤さんはどうですか?」

質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
高橋の作ってくれた夕食を食べながら,それに答えていく。

「城のみんなは元気だよ」

「まっつーも美貴ちゃんも相変わらず」

「裕ちゃんは,毎日お酒飲んでる」

質問の答えに様々なリアクションを見せる高橋。
こんな遠くまで1人で赴任してきているのだから,城の様子が気になるのは当然だろう。
88 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:22

「れいなは?」

予め予想がついた質問だったが,いざ改めてくると動揺してしまう。
高橋はれいなの面倒を良くみていたから。

「れいなは…今ちょっと危険な状態にある」

高橋の顔が急に真剣なものになる。

「だからアタシはここから外の世界に出る必要があるんだ」
「なるほど…,そうでしたか」

アタシは外の世界へ出る目的を話した。
ここから南にある村で巻物を手に入れなければならないことを。

「それは…無理かもしれません」

高橋が顔を歪める。
89 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:23

「ここから先に確かに村は存在します。
ですが,周囲が結界に覆われているので入ることはできないのです」
「アタシは行く。それしかれいなを助ける方法はないから」
「高橋はいつも思うんですが」

そういって,高橋は顔を上げる。
そこにはもう先ほどの高橋の顔はなく,少し笑顔になっている。

「後藤さんが失敗するところなんて想像つかないんですよね。
結界が自然と消えてしまうような…。そんな光景が目に浮かぶます」
「あは,誉めてもなんも出ないぞー」

高橋のおでこにデコピン。
高橋が嬉しそうに笑う。それにつられてアタシも笑う。
90 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:23

「ところで,昨日恐竜型が城に流れてきたんだけど」
「あーあれはですね。倒すのに骨が折れそうだったので,通過させました」

後藤さんも退屈してるだろうと思いまして,なんて付け足すこの子はやっぱり憎めない子。

「そんなことだろうと思ったよ。高橋があんなの倒せないはずないからね」
「お褒めにあずかり光栄です」
「でも,アタシが出てる間はなるべくスルーしないでね?」
「いえいえ,松浦さんと藤本さんがいるなら大丈夫です」

そういって,悪戯っぽく笑う高橋。
口ではそう言ってるけど,多分そういうことはしない。
高橋は謙遜するけど,高橋はアタシに次ぐ実力の持ち主だ。
それこそ,まっつーや美貴ちゃんの比ではない。
キャリアが違うとはこのことだとアタシは思う。
高橋はアタシが城に来る前まで,幼いながらナンバー1の実力を持っていたのだ。
素質はあるといえど,剣を学んで4年のまっつーや美貴ちゃんが敵うはずがない。
そんな2人にそんな悪戯をする高橋ではない。
アタシだから,数少ない気を許せる存在のアタシだからすることだ。
91 名前: 投稿日:2005/08/24(水) 18:23

「まだ城へ帰る気はないの?」

アタシは触れたかった核心に触れる。
瞬間,高橋の顔に陰りが現れる。


「高橋でないとここの隊長は務まりませんよ」

無理矢理作られた笑顔は実に痛々しかった。
92 名前:フォート 投稿日:2005/08/24(水) 18:32
今回の更新はここまでです。
こんなペースに落ち着きそうな予感。夏も終わりそうな気配ですし。

>79 ミッチーさん
レスありがとうございます。
旅立たせたはいいけどここからどうしましょう…。まあこれは冗談ですが。
93 名前:ミッチー 投稿日:2005/08/25(木) 01:20
更新お疲れ様デス。。。
新キャラ登場ですね。
みんなそれぞれ何かしら暗い過去があるのでしょうか?
94 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:12

夜,高橋と一緒のベッドに寝る。
ベッド1つしかないんで一緒に寝ましょう,と高橋は言った。
高橋の部屋に行くとベッドは2つあるのに気付いたけど,
アタシは敢えて何も言わなかった。
時折でる,高橋の恥ずかしがり屋な部分が出ただけだ。

大胆にアタシに抱きついてくる高橋。
一緒に寝てほしいと素直に伝えられない高橋。
どちらが,本当の高橋なんだろう。
こんなことを考えるが,そんなことどちらでもいいことは自分が良く分かっている。
どちらにしても,高橋はアタシに甘えたいのだ。
それなら,思う存分に甘えさせてあげればいい。
少しずつ少しずつ,傷を埋めていく助けができればいい。
95 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:12

「高橋…,アタシには頼っていいんだからね」


そう,寝ているはずの高橋に呟いた。
心なしかアタシに抱きついている高橋の腕の力が強まった気がした。



でもさ,いくらベッドが狭いからってアタシの上で寝るのは勘弁してほしい。
アタシ,襲われてるみたいじゃん。

96 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:13

なんか身体に重みを感じる。
重い瞼を上げると,目の前に足形の物体が見える。
ていうか,足だ。

そうだ。高橋が上に寝てたんだっけ。




…?なんで足?
97 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:13

なぜか高橋は寝ている間に一回転したらしい。
見る人が見れば勘違いしそうな体勢。それは寝る前からだね。

「ふふふ」

高橋の足の裏をくすぐって,起こそうとする。
意外に手強く,身体をクネクネするばかりで起きる気配はない。
しょうがないから,高橋の腰に腕を回してローリング。

「ぐは」

高橋の身体がベッドから落ちるアタシの身体の下敷きになる。
98 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:13

「おはよ」
「いったー…」
「起きない高橋が悪い!…でもごめんね」

立ち上がって,高橋の腕を引っ張って起こしてあげる。

「後藤さんがいたから,いつもよりよく寝れたみたいです」

恥ずかしがることもなく,そう言う高橋。
昨日の夜の高橋はどこへやら。

「そっか。よかったね」

アタシも暖かい笑顔を返した。
99 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:14

途中まで送ると高橋は言ったけど,断った。
アタシの腕は信頼できるでしょ,って言って。
高橋は不服そうだったけど,渋々承諾してくれた。

関所から外に出てみる。
昨日とはまた違った印象を持たせる外の世界。
そういえば昨日は高橋にばかり関心を寄せていたから,良く見てなかったのかもしれない。
見たことのない植物たちが見える。土の色も少々違うように思える。
関所という壁を隔てて,これほど違った世界が広がっているとは思いもしなかった。
100 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:14

関所を振り返って見る。
見張り台の上に高橋の姿が見える。こっちに向かって大きく手を振っている。
アタシも小さく手を振り返した。


特に考える事もなく,南へと進んでいく。
遠くの方に湖が見えるのでそれを目指して進んでいけば間違いないだろう。
101 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:14

それにしてもおかしな事があるものだ。
関所を出て行ったっきりモンスターと出会さなくなった。
かといって,モンスターの気配が無いわけでもない。
考えられることは数通り。

観察されてるのかな。

こんな所を1人で歩く人間なんて珍しいだろう。
珍しいモノを見るのが面白いのは万国共通に違いないし。
だからアタシは今,動物園の檻の中にいるレッサーパンダ状態なんだ,きっと。

絶対ないからって美貴ちゃんのツッコミがアタシの頭の中で展開された。
流石のアタシでもそれが違うことくらいわかるよ。
102 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:15

確実に仕留められる状況を待ってるんだろうね。

どうせ,寝てる時を狙ってるに決まってるんだ。
それまでこのストーカーされてる状況を維持しているなんて悪趣味すぎる。
なら,そういう状況をわざと作り出す。
モンスターもアタシも手っ取り早く事を済ませられて一挙両得。

目の前にある小さな川に近づいていく。
水は透き通っていて,かなり綺麗だ。これは飲んでも大丈夫だろう。
片膝を地面につき,手で水をすくって口に運ぶ。
すると,ものすごい勢いの追い風が起きた。

来たな。

身体を後ろに振り向かせながら構える。
そしてアタシは唖然とすることとなった。



今まで歩いていた森がこっちに移動してきていたのだから。
103 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:15

少し取り乱したが,冷静になって考える。
森が襲ってくるわけはない。目の前のこれは森ではなかったのだろう。
よく見ると,部分によってこっちに移動してくるスピードが異なっている。
とすると,複数の生命体なのかもしれない。
考えていると木が1本転倒した。
それは,この森の木1本1本が植物系のモンスターだということを証明している出来事だった。
そうなれば,アタシの取るべき行動を1つ。

三十六計逃げるにしかず。






後藤真希は逃げ出した!
104 名前: 投稿日:2005/09/03(土) 11:15

必死に逃げている時に気付く。
このまま湖まで走っていけば目的の村にも早く着くじゃないか。

森を振り切った後も尚,アタシは全力に近いスピードを維持して走る。
途中で多少のモンスターと遭遇したが,走るスピードを緩める事は無く,逃げの一手。
1日1日経つ事に,湖が大きくなっていく。
着いてみると,かなりでかい湖だった。それはもう海と言ってもいいかもしれない。
霧が深い時分に着いたのでそう見えるだけかもしれないが。

ずっと南に行ったら,海のでかさはあるのではないかという湖に行き着いた。
そうすると,これ以上南に行けるのかという疑問が生じてくる。
じゃあ村はどこにあるというのか。
その村の住人はこの湖の水を飲み水に利用している。
そう思う。この規模なら余程の事が無い限り水に困る事はないだろうし。
この湖付近を散策しようと思い,辺りを見回す。

どう考えてもあれじゃん。

右方向,少し離れた所にいかにも結界が張ってありそうな場所が見える。
そういえば,アタシは結界解除など出来るヒトではない。
難しい事は考えずにとりあえず,村へと歩き出した。
105 名前:フォート 投稿日:2005/09/03(土) 11:20
今回はここまでです。
リアルが忙しく,あまり時間が取れてません。
後浦+石川という情報はどこかで耳にし,どうなんだろうと思ったぐらいであります。

>93 ミッチーさん
レスありがとうございます。
キャラ数はなるべく抑える方針ではいますが,
書いてる間に増殖したくなってくるんですよね。困ったことですが(苦笑
106 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/03(土) 15:11
更新されてますね。この後どうなっていくのか楽しみです。
急がず頑張ってください。
107 名前:ミッチー 投稿日:2005/09/04(日) 00:37
更新お疲れ様デス。。。
ついに村に近づきましたね。
後藤さんがどんな旅をしていくのか楽しみです。
ゆっくりがんばってください。
マターリ待ってます。
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:09
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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