吉澤ひとみであるという事
- 1 名前:スキマニア 投稿日:2005/09/01(木) 03:52
- 吉澤さん中心のリアルです。色んなハロメンが登場しますが
主に娘。の卒メン・現メンが多く絡みます。
話の中の時間軸が事実と多少異なる部分がありますがご了承を。
(矢口さんが脱退し、吉澤さんのリーダー就任直後の話になります)
- 2 名前:吉澤ひとみであるという事 投稿日:2005/09/01(木) 03:55
-
アタシはアタシで吉澤ひとみ 吉澤家に産まれ育ち モーニング娘。のアタシ
それ以外に何がある? 他にどんな自分がいる? そんなの考えもしなかった
前世や占い 運命や宿命 そんなもの信じない そう思っていた
こんな事になるまでは・・・・
- 3 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/01(木) 03:57
- 何も無い 静寂も喧騒も 光も闇も 天も地も
強く鋭い閃光に包まれ 感じる『声』
『 その魂は エデンへ 還る 』
『はっ・・・』
勢い良く目を開けるとそこには見慣れた自室の天井があった
『夢・・・??』
今まで自分がいた世界を 夢だと認識し難い程のクリアな感覚
まるで目を開けている『今』と 先程までの『今』が繋がっているかの様
でもベッドの上にいるというこの状況から 先程はやはり夢 これは現実なのだと解釈した
だが不思議な事に それ程リアルに感じているのに どんな内容だったのか思い出せない
断片すら思い浮かばない ただただリアルだったというだけで他には何も・・・・
いや 『・・・・エデン・・・・』 その単語だけが頭にぽっかり浮かぶ
覚えているのはそれだけで 後は綺麗さっぱり 嘘の様に消え去っている
窓をポツポツ叩く音 外を見ると静かに雨が降っている どんよりした低くて重い雲
今日4/12日は20回目の誕生日
- 4 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/01(木) 03:57
-
「雨か・・・・・・・」
少しばかり気分が沈む
雨がイヤだと思った理由など これと言って特には無い
ただ 自分が誕生した日で 世間的に大人だと認められる日でもある特別な朝
そのイメージがなんとなく 雨では無く 晴れだった というだけの事
そもそも雨が嫌いな理由など「傘が面倒臭い」と言う位なのだから さほど問題では無いし大した支障も無い
大きく背伸びをしてドアを開け 階段を降りた
ダイニングキッチンでは弟が朝食をとっており 母親は洗い物をしている いつもと変わらない光景
「おはよう」
声をかけ冷蔵庫を開ける
「おぅ ねーちゃんおはよう!どう?ハタチの感想は?」
「別なんもかわんない。」
「当たり前だな。まぁとりあえず誕生日おめでとう。」
「おぅ! センキュー。」
「今日起きるの早いな?」
「うん 九時から新曲のレコーディングとジャケ写撮りなんだ。」
「へぇ新曲出るんだ?」
「まぁね。」
「どんな曲?」
「んーーー つんくさんだな?って曲。」
「何だよソレ。まぁわからないでもないけど・・・」
詳しく言えば説明は出来たが この表現が一番分かり易いかと思った
「誕生日おめでとう。で?ハタチになったひとみは何食べる?」
濡れた手を拭きながらいつもの調子で聞く母
「ベーグル」
冷蔵庫から成分無調整の豆乳を出しながらいつもの調子で答える
朝はここ何年 決まった様にベーグルを食べ続けている
「いい加減ベーグル飽きない?」
うんざりといった表情の弟
「別に?」
飽きるよりむしろこれじゃないと朝が始まらないという感じになってる
「はい、いつものヤツね。タマゴは?」
「あーーー いいや」
皿の上のベーグルをちぎり口へ放り込む
- 5 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/01(木) 03:58
-
「ん・・・・? ねぇお母さん、これ賞味期限切れてない?」
「まさか!昨日買ったばっかりよ?」
「なんかまずい・・・・」
「そう?おかしいわねぇ どれ?」
皿の残りをちぎり口に入れる母
「ね?おかしいでしょ?」
「・・・・・全然?別に普通じゃないの?」
「え〜〜〜?」
もう一度食べたがやはり不味い事に変わりは無い
「やっぱまずい・・・お母さんおかしいよ〜」
「そんな事無いって!ちょっと食べてみて?」
母親が持っているベーグルを弟に渡す
「・・・・別に?こんなモンじゃん?」
モグモグ食べる弟 その様子はいたって普通
「ひとみ昨日飲み過ぎたんじゃない?二日酔い?」
「えーー別に・・・・」
昨日は親友の里田まいとアヤカの三人で『二十歳前夜祭』をした
と言っても 酒を飲むのは初めてでは無かったし 次の日に大事な仕事があるという状況
二日酔い等とは とうてい縁遠い
「んーーーーなんでだろ?」
口直しのつもりで コップにたっぷりと注いだ豆乳を飲む
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なに?」
眉をひそめた顔を見て 怪訝な顔で聞く母親
「・・・・・・・・これもまずい」
「いいかげんにしなさい」
- 6 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/01(木) 03:59
-
結局ちゃんと朝食を取れずに迎えのタクシーに乗り込んだ
味覚がおかしくなったのかな? 同じ物食べ過ぎて突然ヤになったとか?
などと自問自答しながら 腑に落ちない気持ちでイヤホンを耳に入れる
新曲の仮MDを流す 今日のレコーディングの為の確認作業
_______________
「・・・・さん?吉澤さん?」
自分を呼ぶ微かな声
「はっ・・・・?」
「着きましたよ?」
MDの音でよく聞き取れなかったが 運転手の口の動きでそう言っているのがわかった
慌ててイヤホンを外す
「ごめんなさい。アタシ寝てました?」
「はい、乗って早々に寝てらっしゃいましたよ」
「そうですか・・・・」
いつの間に眠ったのかそれすら覚えていない
「疲れてらっしゃるんじゃないですか?最近忙しいから。」
「そうかも知れないですね・・・」
「なんだかいつもより顔色悪いですよ?白い肌が余計白く見えますし。」
「ほんと?」
「はい。お若いからって無理なさらないようにしてくださいね。」
「そうだね〜 気をつけなきゃ!」
「はい」
運転手はニッコリ微笑む
「今日はお迎え何時でよろしいですか?」
「あぁ 今日は多分大丈夫です。レコーディングと撮影で長くなると思うし・・・・」
「そうですか。23時までなら待機してますのでお入用ならお電話ください。」
「はい、ありがとうございます。」
「それでは いってらっしゃいませ。」
「行ってきます!」
(疲れてるのかな? 運転手さんがそう言うんならそうかもなぁ)
- 7 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/01(木) 04:00
-
この運転手にはほぼ毎日会っている 体調が悪い時など家族よりも早く気付いてくれる時がある
吉澤がこの契約タクシーを使い始めもう3年 この運転手とも3年の付き合いになる
物静で紳士的な運転手は そこ辺りを転がすタクシー屋と違い余計な詮索もおしゃべりもしない
不特定多数の人間とあまり関わりたくない商売である吉澤は これがとても助かる存在だった
したがって 何処に行くにもこのタクシー以外には 殆ど乗らなくなっていた
ブーンと音を立てて開く自動ドアを抜け スタジオへ入る
広々としたロビーは朝から多くの人間が忙しく動き回る
「おはようございます。第4スタジオでレコーディングのモーニング娘。です」
バックからIDカードを出して受付に置く
最近は盗撮、盗聴等の不審者が多く確認され TV局・スタジオの出入りは全てこれが無いと出来なくなっていた
「はい、承っております。IDお預かりいたします」
IDカードを機械に通し確認する受付嬢
「ありがとうございます。こちら、お返しいたします。」
「はい」
IDカードを受け取る時 受付嬢の手に一瞬指が触れた
『・・・・きゃぁ よっしぃー超綺麗!!・・・・』
「えっ?」
受付嬢を見る
「はい?」
何?という表情で驚いてる様子
「あ、いや・・・・すいません 何でも無いです・・・」
カードを財布に突っ込みながらエレベーターに向かう
吉澤はどうもあの受付嬢の声が聞こえた様な気がしてならない でも確かに聞いたという自信もない
考えても当然答えは出ない ただの空耳だと解釈する事にした
降りてきたエレベーターに乗り4階を押す
「やっぱ疲れてんのかなぁ・・・・・」
静かに動き出したエレベーターの中 心地の悪い重力を感じながら誰かに問いかける様つぶやいた
- 8 名前:スキマニア 投稿日:2005/09/01(木) 04:07
- こんな感じで進んで行きます。
お付き合いの程、どうぞ宜しくお願いします。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 05:46
- 前作の完結を読みやってまいりました。
レス一番乗りで緊張w
なんだか雰囲気変わってミステリアスな感じイイですね!
吉ヲタ的にすごく楽しみなタイトルでw
期待しちゃいます!
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 11:49
- 面白そうな始まりですね。期待してます。
- 11 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 02:50
-
【モーニング娘。様 控え室】
張り紙がされたドアを引いて中に入った
『おはようございまーす!』
もう既に楽屋入りしてるメンバーから声が掛かる
「はい、みなさんおはよう。」
バックをテーブルに置きパイプイスに座る
今居るのは 小川まこと 紺野あさ美 亀井絵里 道重さゆみ の4人
「吉澤さんオハヨーーー」
小川が手を振りながら駆け寄ってくる
「おはよ まことは朝からテンションたけーなぁ。」
「そう?そんな事ないよ〜」
「そんな事ある。」
「まぁまぁ〜それより、ハイ!これ!」
金色の包みを差し出す
「おっ!」
「お誕生日おめでとーーー!!」
「ありがとう!開けていい?」
「うん!開けて開けて?」
丁寧にラッピングされた包みを開け中を覗く
「可愛いでしょ?それTシャツとタオルオソロなんだよ〜。」
「へぇ〜そうなの?どれどれ」
NIKEと胸に刺繍がある色んな色が使われたスポーツウェアとタオル
「ちょっと派手じゃない?」
「そんな事ないよぉ〜
これNIKEの最新モデルでブラジルのロナウジーニョ?さんも着てるんだって!」
「へぇ〜〜〜マジで?それは熱いね!」
「嬉しい?」
「うん、嬉しいよ!ありがとう!」
「サルの練習で使ってね!」
満足そうに笑う小川に中々ツボを抑えているなと関心する
そうこうしてる間に他のメンバーもプレゼントを持って集まって来ていた
1人ずつ礼を言って包みを開く これが毎年恒例行事
道重と亀井は二人で一つ 中身は軽量体脂肪測定器
前に欲しがっていたのを覚えていたみたいだ
紺野は携帯低周波マッサージ機
これも前に紺野が使ってるのを見て「いいね?」と言ってたヤツ
みんな健康グッズとかスポーツ系が多い
やはり吉澤ひとみのイメージは スポーツ・健康 に定着しつつあるのだと思った
- 12 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 02:51
-
「そろそろメイク入りますんでまず4人、メイクルームにお願いしまーす。」
「じゃぁアンタら先行ってきな?アタシ後でいいや。」
『はーーい』
自分を引いた残り4人を送り出す
「ハラ減ったぁ〜。」
いつもきちんととる朝食を今日は殆ど食べていない 少しばかり空腹を感じていた
ガチャッ
「おはようございま〜す。」
ドアを開け入って来たのは高橋愛
「おはよ〜。」
「あれ?吉澤さんだけ?」
「うん、他はメイク入った。」
「あ、そうですか。」
抱えていた大きな紙袋を下ろし 少し離れた場所に座って何やら後ろ向きでガサゴソやっている
何かを取り出しピタッと動きを止め 散々固まったあげく突然に振り向く
当然その姿を見ていた吉澤と目が合う
「「!!!!」」
吉澤は高橋の突然の行動に驚き 高橋は吉澤と目が合った事に驚いている
「あの、あのぉ・・・・よしざーさん、朝ご飯食べてきましたよね?」
早口で尋ねてくる
『〜ですか?』じゃなく『〜ですよね?』と質問まで断定的なのは彼女ならでわの事
「うん、一応食べたけど。」
「そーですよね、食べてますよね・・・。いや、そのっ、焼きたてで・・・いえ、何でもナイデス・・・。」
なにかボソボソと自分だけで納得した様につぶやく
おそらく何か食べ物を渡そうとしたが「食べた」と言われ困っているのであろう
長年付き合って来ているのに この高橋とは加入当初から中々縮まらない距離を吉澤は感じていた
- 13 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 02:53
-
歴史や上下関係という物を非常に重んじる
文化系で体育会系 堅苦しい程に堅い優等生な高橋の性格
大抵の物事はフィーリングで解釈し
面倒臭い事にはあえて深入りしない 大雑把で大らかな吉澤の性格
何とも違い過ぎる二人の性格 それがこの微妙な距離を生む最大の理由なのかも知れない
それに加えて 二人共『ド』が付く程の照れ屋だった
余計な部分でシンクロしている これも中々のデッドポイント
リーダーとなった今 この高橋との距離を克服するのも 吉澤の大切な仕事の一つとなっている
元々器用な吉澤は やろうと思えば大抵の事をこなす ただ機会が無いとやらないだけの事
高橋との事もそうだ 今まであえてやる必要が無かったから やらなかっただけだった
だが時は来た 今がその課題を進める第一歩的状況
高橋の性格を存分に考慮し わざとらしく無く でも積極的な 程良い誘い水を浴びせる
「何が焼きたて?実はあんま食べてないからお腹すいてるんだよね。」
「ほんとですか!?」
パッと目を見開き 予想通りのリアクション 吉澤は思わず頬がゆるむ
「うん。ちょこっとなんか食べたいと思ってたとこ。」
「えへっ」
鼻の上の方にシワを寄せクシャッと笑う彼女独特のその笑顔
吉澤は密かにそれが好きだった
- 14 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 02:54
-
加入当初の高橋に『凛とした子』という印象を受けた吉澤
それはツンとしてとっつきにくそうというイメージでもあった
だが このクシャクシャ笑顔で訛って話してるのを見た瞬間
吉澤は良い意味で高橋に裏切られた気がした
そして思わずこの笑顔に『惚れちゃいそう』だと思ってしまったものだった
吉澤はこの年下の新メン高橋愛の二面性・ギャップというものに衝撃を受け
何処かしら惹かれていた
そしてそれ以来 この高橋には一目置いているのも確かである
これらの事項も 二人の微妙さを醸し出す原因の一つである事は否めない
嬉しそうに近付いてくる姿に 吉澤はほほえみ返す
高橋は手に持った白い箱をテーブルの上に置きフタを開けた
「がとーしょこらなんやけど、食べますか?」
甘いチョコの香りがふわっと漂ってくる
「わぁ、美味しそう!食べていいの?」
「はぃ。あのぉ、よしざーさん今日が誕生日やでぇ、
食べてもらおう思て・・・今朝焼いて来たんです。」
「ホントに? 朝焼いたの? 来る前にわざわざ?」
「はぃ。」
「嬉しいなぁ〜ありがとう!早速食べるね?いただきまーす!」
「はぃ、めしあがれぇ〜。」
備え付けのフォークでとり 口に運ぼうとした時 一瞬朝の事がよぎった
味覚がおかしくなっているのならこれも当然不味いと思う筈だ
思わず口に入れる前に手が止まる
「もしかしてよしざーさん・・・・ コレ嫌いなんやないデスカ?」
「あっ!!違う!!そうじゃなくて・・・」
慌てて口に放り込む
「・・・・大丈夫ですか?マズかったら無理して食べんでください・・・。」
お預け中の子犬の様な表情で覗き込んでくる
「ううん、美味しい!!マジ美味しい!!」
「ほんまに? はぁぁぁぁーーーーよかったぁ〜〜!!」
ホッとした様子で大げさに胸を撫で下ろす高橋を見て 自分もホッとしていた
これがちゃんと美味しいという事は やはり家のベーグルと豆乳がおかしかったんだと
- 15 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 02:55
-
空腹だった為 大きいサイズだったがもう殆ど残ってない
「よしざーさん無理してる事無いですか?そんな食べて大丈夫?」
まだほんのり温かかったガトーショコラ 最後の一片を口に運ぶ
「ううん、マジで美味しかったから全部食べちゃった!」
「ほんまに良かったぁ〜!やっぱ朝から焼いてきて良かった。焼きたてのが美味しいから!」
「ご馳走さま、ありがとう。愛ちゃん料理上手なんだね?」
「いやぁ・・・これとオムライスくらいしか作れへんのですよ・・・」
「あはは、いいじゃん。それで十分じゃん。」
「ありがとぉございます。」
はにかんで笑う顔を見てると 褒めた自分までなぜか照れてしまった
それと同時に 何とも言えない温かい気持ちにもなった
考えると今まで手作りのプレゼントという物を殆ど貰った覚えが無い
朝から思わぬ人の思わぬ心使いと 甘くて小さな温かさに心が安らぐ思いだった
「あと、もぅひとつ・・・・」
ガチャッ
「メイク終わりました〜まだの方どうぞ〜!!」
さっき出た第1班がメイクを終え戻って来た
「「ギリギリセーフ!!」」
藤本美貴と新垣里沙に続き田中れいなも入って来る
残り5人でメイクルームに向かった
メイク室の鏡の前に座りそこに映る自分を見る
『・・・顔。疲れてるかなぁ?吹出物も出てないし、肌の状態も良さそうだけどなぁ・・・』
「おはようございまーす!」
「あ、おはようございます。お願いしまーす」
いつものメイクスタッフが 手際良く前髪をピンで留めメイクの準備に取り掛かる
- 16 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 02:57
-
「さてと、・・・ん?あれ?」
首をかしげて何やら悩んでいる
「どうしたんですか?」
「うーーーん。ファンデの色が合ってないなぁ。なんでだろ?」
もう一度塗っては首をかしげる
「吉澤さんのファンデっていつもコレだよね?」
「はい。あ、もしかして日焼けしちゃったかなぁ?」
「いやっ、なら色落とせばいいんだけど・・・
逆に肌のが白いんだよねぇ。困ったな・・・」
「なんでですか?」
「これ、今使ってるヤツ一番白いのなんだ。
大体吉澤さん色白いからさぁ。これ以上だとオシロイになっちゃう。」
「マジですか?」
「まぁでも・・・しょうがないからちょっとピンク系メイクで誤魔化すかな?」
「アタシ、今日そんな顔色悪いですか?」
「うーーーん。顔色悪いって言うか、顔色が白い・・・かな?」
「白い・・・・。」
「いつも透き通る様な肌だけど、今日はそれ所じゃなく透き通ってるって感じ。」
「はぁ・・・」
なんだかよくわからないが 黒くなるよりはマシだと瞬時に思う
オシロイという言葉に吉澤は 石川梨華、石川が時代劇に出た時の事を思い出していた
見た途端に噴出してしまった程アレは酷かった
あの白塗りは幸薄コントの遥か上を行っていた
あんな風になっては困る 内心笑い事でも無い状況だと吉澤は思った
- 17 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 02:58
-
メイク・ヘアメイク・着替えを済ませていざ撮影へ
まずは全員でポーズの確認 正面 斜め上 横など色んな指示を出される
並んだ9人はその通りにポーズをきり
それにカメラマンがフラッシュの角度や露出を合わせる
「はーい。では全体撮り行きまーす」
パシャッ! パシャッ! パシャッ!
いつもよりフラッシュが眩しく感じた吉澤は 思わず目をつぶってしまう
「一旦止めまーす。リーダー大丈夫?全部目つぶってるよ?」
カメラマンは気付いていた
「すいませんっ。なんか眩しくて・・・ごめんなさい。大丈夫です。」
「そう?笑顔で頼むよ!あっ、そうだなぁ・・・こうしよう!」
カメラマンの思いつきで吉澤は両サイドと手を繋ぐ事になった
隣は藤本と亀井 ほいっと言わんばかりに手を出す藤本とニヤニヤしている亀井
同時に二人の手をとる
「わっ!!!」
途端に両手から身体中に生温かいモノが流れ込む感覚が走る
それに驚き手を離す吉澤
「なに?どうしたのよっちゃん?」
不思議そうに聞く藤本と驚いた顔の亀井
「ちょ、ごめん。ちょっと待って。」
生温いお湯が手の平から流れ込んで来た そんな感覚だった
ほんの一瞬だったがハッキリと感じた 気のせいでは無い
- 18 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 02:59
-
「ミキティーちょっといい?」
恐る恐る藤本の手を握る
ブワァッとぬるい感触が伝わると同時に聞こえたモノ いや 感じた『声』
『ヘンなよっちゃん。みんな待ってるのに、どうしちゃったんだろ・・・』
再び手を離し 今度は亀井の手を握る
同じ感触と『・・・吉澤さんなんかヘン?絵里と手繋げて嬉しいのかな?』
・・・・離す
「・・・・・今さ、二人とも喋った?」
両サイド揃って首を振る
確かにそう 二人の顔を見ていたが口は動いていなかった
今朝に感じた『声』 『・・・・エデン・・・・』をふと思い出す
今 二人から感じた『声』 なんとなくだが似ている気がする
あの朝の感覚 不思議で 何処かと繋がっていた様な感覚を思い出した
「はーい では戻ります!いきますよーー」
ボーッとしていると 両サイドが勝手に吉澤の手をとる
一気に両方の手から流れ込んでくる生温かさ
それと同時に身体の力が抜けていく
そして絶え間なく聞こえる二人の『声』
- 19 名前:4/12日の朝 投稿日:2005/09/02(金) 03:00
-
パシャッ
「あと何枚かなぁ」 「わっ、今の顔NG!」
パシャッ
「あーお腹へったぁ」 「うん、今のは可愛い」
パシャッ
・・・・眩しい ・・・・眩暈がする ・・・・熱い
パシャッ
何かが見える ・・・・何も見えない? ・・・・アタシ 何処にいるの?
パシャッ
パシャッ
パシャ・・・
パシ・・・・
パ・・・・・
ドタッ!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
薄れていく意識の中で 周りの人の悲鳴を微かに聞いた
- 20 名前:スキマニア 投稿日:2005/09/02(金) 03:18
- 本日以上です。
忘れていましたが、このお話は9人の娘。で進みます。
ミラクル小春さんは・・・出てきません。
書いている当初あまりにも情報が無さ過ぎて・・・・orz
>>9
前作読んでくださってたみたいでありがとうございます!
そうですね・・・まったく雰囲気違いますねw
色んな引き出しを開けまくっている次第ですw
>>10
面白くなる様に頑張ります!
ご期待に副えます様頑張ります!
レスありがとうございました
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/02(金) 04:45
- なにやら面白そうな設定ですね。
続きを楽しみにしてます。
- 22 名前:エデンの姿 投稿日:2005/09/03(土) 02:14
-
_______________
真っ暗闇 遠くに見える小さな光 何の感覚も無い 息をしている感覚さえ
浮いている 深い闇に浮かんでいる
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ
耳をつんざくひどい音は次第に大きくなる
それと同時に感じ出すリアリティー
自分の身体に酸素が流れ込み 鼓動を刻み始め 血が巡ってゆく
普段あまり感じた事の無い感覚
___________ 生きている そんな感覚
突然猛スピードで近付いて来たまばゆい光と轟音に一瞬で飲み込まれる
モロに受けた重たい衝撃に息が詰まる
そんな事お構いなしに 次々と目まぐるしい速さで現れるビジョン
見える 段々と目が慣れてきて周りがはっきりと見えてくる
まるでそこに その場所に立っているかの様に・・・・・
- 23 名前:エデンの姿 投稿日:2005/09/03(土) 02:14
-
荒れ果てた山 枯れた木 ひび割れた大地 よどんだ海
飢えたライオン 痩せた鳥 解体される家畜 捨てられたペット
彷徨う子供 銃弾を放つ戦士 泣き叫ぶ母親 もう動かない人
次々と流れてゆく場面 切り裂かれる痛み 押し潰される痛み 貫かれる痛みが押し寄せる
痛い 痛い ココロが 身体が 痛い 痛い
コレガ オマエノ ゲンジツ
コレガ オマエノ セカイ
コレガ オマエノ エデン
「ワァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
- 24 名前:エデンの姿 投稿日:2005/09/03(土) 02:15
-
「はぁっ はぁっ ゴホッゴホッ・・・・ はぁっ はぁっ・・・・」
「吉澤!!しっかりしろ!!吉澤!!」
「いや・・・・・いやだ・・・・・いやだぁぁ・・・・・」
誰に向けてでもなく声を出す 振り絞る様な声 身体はガクガクと震えている
「大丈夫か吉澤!!」
必死な形相はマネージャー 吉澤はベットから跳ねる様に起き上がる
「落ち着け!吉澤!」
身体を揺すられる しっかり肩を掴まれた指の感触にハッとする
「よっすぃー・・・」
その後ろに見える顔は石川梨華
「あっ・・・あっ・・・」
吉澤は上手く言葉が出ない 唇が震え 歯がガチガチと音をたてている
「早く看護婦さん呼んでください!!」
「わかった!!」
「あっ・・・・あっ・・・・」
「よっすぃ喋らないで。ねっ?楽にして。すぐ看護婦さん来るからね?」
石川は泣きそうな顔だが 気丈に振る舞い吉澤の背中を優しく撫でている
吉澤の体を支え ベットに横にならせると自分もその目線までしゃがみ込む
「よっすぃ・・・・よっちゃん・・・・うっ・・・うっ・・・」
石川の目からは涙が流れる 顔が段々クシャクシャになって来ている
依然と吉澤の歯はガチガチと鳴る 身体の震えも止まらない
(梨華ちゃんがいる・・・・ ここは・・・ 現実・・・・? さっきのは・・・・)
頭が割れる様に痛む 思い出そうとするとグラグラしてグルグル回り 吐き気を催す
- 25 名前:エデンの姿 投稿日:2005/09/03(土) 02:16
-
「うっっ・・・・・・」
「石川!看護婦さんだ」
バタバタと小走りでマネージャーと看護婦が部屋に入って来た
吉澤の様子を見てナースコールで主治医を呼び
忙しく脈をとったり血圧を計ったりしている
程なくして白衣をきた医者が現れ 鎮静剤と吐き気止めの注射を打つ
「暫らくしたら楽になりますよ。」
ニッコリ微笑んで言う医者に吉澤の代わりに石川が頷く
医者の言う通り割とすぐに吉澤の震えは止まり 嗚咽も嘘みたいに収まった
鎮静剤のおかげで多少ボーッとしているが 先程よりは何倍もマシな状態の様だ
吉澤は スーーーッ息を大きく吸い込んで深呼吸をする
「・・・・梨華ちゃん。」
閉じていた目を開けてベットの横にへばりついている石川を呼んだ
「よっすぃーもう平気なの?楽になった?」
小声で心配そうに顔をよせる
「・・・うん。ちょいボーッとするけど・・・だいじょぶ。」
「よかったぁ・・・・」
眉を下げて情けない表情をする石川 その目にはまた薄っすらと涙が浮かんで来る
「ここ病院でしょ?アタシいつの間に・・・。」
「えっ?覚えてない?・・・3日前、
ジャケ写撮りやってた時に倒れたってマネージャーさんに聞いたけど。」
「あぁ・・・・そうか。あの時・・・・・か・・・・。」
あの不思議な出来事を思い出そうとしたが 薬のせいかなのかソレが上手く出来ない
「私も美貴ちゃんから電話もらって知ったんだけどね。でもよかったぁ。
心配したよぉ・・・・うっ・・・うっ・・・」
「ごめんね、心配かけて・・・。」
- 26 名前:エデンの姿 投稿日:2005/09/03(土) 02:16
-
「吉澤・・・・。」
コワモテのマネージャーがヒョイと顔を出した
「仕事・・・穴空けちゃってすいません。」
「バカヤロ・・・こんな時までそんな事言うんじゃねーよ。」
「一応リーダーなんでね・・・。」
口の端をクッと上げて笑うマネージャー その目は幾分潤んでいる
「会社には意識が戻ったと電話入れておいたからな。まぁ何も気にせずゆっくり休め。」
「はい。・・・・ご迷惑お掛けします。」
マネージャーはそれだけ言うと鼻をすすりながら廊下へ出て行った
「よっすぃーごめんね・・・。」
「ん?」
「・・・色々気付いてあげれなくって。」
「なにが?」
「リーダーでキャプテンで・・・、娘。では同期もいないし、辛かったね。」
「あぁ・・・・。」
「電話とかくれれば良かったのに・・・・。」
しかし実の所 吉澤本人は周りが気にする程 今の立場を重荷と感じてはいなかった
前リーダー矢口の衝撃的な脱退で 話題性も大きく 突然の就任ではあった
だが リーダー就任の話があったその時から 既に大体の覚悟は出来ていたのだ
ガッタスのキャプテンをやっていたお陰で トップに立つという事に恐れは無かった
それどころか 何処か微かな自信さえ感じていた程だった
でも周りが大変だ大変だと騒ぎ立てる為 それは言えずにいた
そしてまた いちいち否定するのも正直面倒臭かっただけだった
「うん、いや・・・・・まぁいいや。でさ、アタシなんで倒れたの?」
「多分働き過ぎで疲れてるんだって先生言ってたよ。」
「そっか。いわゆる過労ってやつ?」
「うん、たぶんね。でも起きてくれて良かった。もし今日起きなかったら
素敵なお姫様のキスで起こしちゃわないといけないかな?って思ってたからっ!」
「ソレ誰の事?」
「も・ち・ろ・ん・梨華姫でしょ?」
「キショ・・・・」
「いひひっ!」
「キショ」と言われ 嬉しそうに微笑む石川
言った吉澤もなぜか嬉しそうだ
- 27 名前:エデンの姿 投稿日:2005/09/03(土) 02:18
-
コンコン
「石川、そろそろじゃないか?」
コワモテマネージャーが入り口から言う
「あっ、はい。」
「なに?」
「うん、仕事・・・・。」
判り易く残念そうな顔をする石川
ギュッ
吉澤の手を両手で包み込む
生温い何かが流れ込んでくる感触を感じる
両手だからかも知れないが異常に温度が高い様に思える
それと同時に聞こえて来る石川の『声』
『・・・仕事なんか行きたくない。よっすぃーが心配だよ・・・・。』
すると瞬時にあの日倒れる前の事が甦ってきた藤本と亀井の『声』の事
初めは身構えてしまったが 落ち着いて感じると
別にそれが不快なモノでは無いと気付く
石川の手を軽く握り返す
「アタシならもう平気だよ?仕事はちゃんと行かなきゃ、プロでしょ?」
「でも・・・・。 えっ? 待って? 私、何か言った?」
ハッとした吉澤は慌てて繕う言葉を捜す
「あっ、いや、なんかそんな顔してたから、そんな気がして・・・。」
「本当に?すごいや!テレパシーってあるのかも・・・。」
「ほら、なんつーの?同期の絆って言うか・・・。」
「なんか感激しちゃう!!」
「大げさだよ〜。」
なんとか上手く誤魔化せた 石川が単純で良かったと心から思う吉澤
- 28 名前:エデンの姿 投稿日:2005/09/03(土) 02:19
-
石川はニコニコしながらバッグを持って立ち上がった
「じゃぁ行くね?また来るよ。」
「うん。あ、会ったらみんなにもよろしく言っといて?」
「あ、そう!よっすぃ眠ってる間、みんなココ来たんだって。」
「そうなんだぁ・・・寝てて悪かったなぁ。」
「ううん、そんな事無い!
みんな顔見るだけでもいいって思って来たんだと思うから。」
「そう?」
「うん、私もそう思って今日来たんだし・・・。
あ、いけない。じゃぁ、行って来るね。」
腕の時計を見て少し慌てる石川
「うん、行ってらっしゃい。」
その石川にヒラヒラと手を振って見送った
パタン
「ふぅ・・・・・危なかった。でもアタシすげぇ・・・・」
自分の両手を見てつぶやく
吉澤はこの人の心の『声』が聴こえるという現象をもう既に自分の中で受け止めていた
柔軟で深く考え込まない性格がこんな所で役に立っている
「アタシ超能力者だったのか・・・・。これが第六感てヤツ?」
軽く鼻で溜め息をつき目を閉じる 体が一気にダルくなってきた
途端に襲ってきた異常なまでの睡魔
それに抵抗する事無く そのまま身も心も委ねた
- 29 名前:スキマニア 投稿日:2005/09/03(土) 02:24
- 本日は以上です。
>>21
そう言っていただけて嬉しいです。
リアルですが少々現実離れしていますので・・w
レスありがとうございます!
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/03(土) 13:33
- 新作おめでとうございます!
前作に引き続きよい雰囲気な作品でw
ごとーたちソロ組もでるんでしょうか?
- 31 名前:スキマニア 投稿日:2005/09/04(日) 08:38
- >>30
ありがとうございますw
スキマニアの中の人は密かにごとーさんが大好きなのでクルはずですw
レスありがとうございます
- 32 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:42
-
目の前に広がる景色
柔らかい風が吹き 花々がそよぐ 暖かい日差し 輝く水面
穏やかな時間が流れる風景
「ここは・・・・?」
今までに見た事も無い場所の筈だが 吉澤はなぜ懐かしさを感じている
あても無く水辺を歩いていると ふと目に留まった銀色の鳥居
その奥には古い神社がある
赤なら見た事があるが銀色の鳥居なんてめずらしい
微かな好奇心をくすぐられ 銀の鳥居を見上げながらその下をくぐった
その瞬間 目の前が歪む
見ていた全てが円を描く様に交ざり合いマーブル模様が出来上がる
今度はそのマーブルが逆回転をしながら 巻き戻しの様に戻っていく
あっと言う間に元通り 先程の風景が目の前にあった
周りを見渡しても先程となんら変わりない風景
後ろを振り返ると 先程くぐった銀の鳥居がある
今起こった現象が良く理解出来ないが
目の前にある古い神社になんとなく気をとられ歩を進める
錆びた取っ手の付いた木の扉を開け 神社の中に入る
埃臭くて禍々しい雰囲気が漂うが 何かに誘われる様に奥へ進む
「・・・・!!!!」
暗い室内に人影が見え 一瞬身構える
「あの・・・・」
その人影に向かい声を掛けるが返事は無い 入り口で様子を伺う
・・・・が 暫らく見ていると気が付いた
「なんだぁ・・・」
一気に張り詰めていた緊張感がほぐれ ほっと胸を撫で下ろした
奥に見た人影の正体 それは中央にある大きな鏡に映った自分の姿だったからだ
- 33 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:42
-
驚いて損をした気分になりながら 踏むたびにギシギシと鳴く床の上を歩む
自分の背丈よりも大きく 古びた神社の割に曇り一つ無い透き通った鏡
その前に立ち それに映る自らを凝視した
「え・・・・?」
そこに映る自分は明らかに 普段見ている自分とは様子が違っていた
髪は銀 肌も銀 瞳の色までも 全てが銀色になった吉澤ひとみ自身の姿
一瞬自分では無いと思ったが 鏡の中の銀色の自分が
今着ている自分の服を着ている事から
やはり自分なのだと解釈せざるを得ない
キラキラと銀色の光を放つ鏡の中の自分の姿
有り得ない現実だと思いながら そんな自分に少し見惚れる
が・・・ しかしある事に気付いた
鏡越しに見る自分は銀色だが 肝心の自分自身は別にいつも通りの肌の色だ
短い前髪をひっぱり見上げて見ても やはりいつものブーリーチした髪の色
この不思議な現象は この鏡の中でだけ起こっているのだ
光輝く自分がいる透き通る鏡面に 何げなく触れてみた
バチバチバチッ
冬の乾燥した空気が起こす静電気
それの何十倍もありそうな強い電流が身体を駆け巡る
「うわぁぁぁあぁ!!!!」
・・・・・・・・・駆け巡る刺激にそのまま気を失った
- 34 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:42
-
「ううっ!!!」
目を開けると白い天井の蛍光灯が見えた
『夢・・・?』
こう思いながら目覚めるのは あの誕生日の日から実に何度目になるであろう
部屋中に漂う消毒の匂いがぼやけた頭にこの場所を認識させる
側のテーブルに置かれた時計を見る
2時半
先刻 石川が部屋を後にしたのが確か正午過ぎだった
約2時間ほど眠っていた事になる
- 35 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:44
-
コンコン
ドアをノックする音
「はい?」
入って来たのは看護婦だった
「お加減どうですか?
お昼は眠ってられたのでお取り起きしてますけど、お食事なさいます?」
「あっあぁ、はい。」
食事という言葉を聞き 思い出した様に空腹を感じた
運ばれて来たのは 白いプレートに乗った病院食
おかゆみたいな柔らかい米と味噌汁 野菜をあえた物と気持ち程度のハンバーグ
「まだ起きたばかりですので軽めですが、これ位なら食べても大丈夫との事です。」
「ありがとうございます。」
倒れた日の朝からまともに口にしたのは高橋のくれた物だけだったと思い出す
空腹に誘われる様に箸をとり まずは野菜を口に入れた
「・・・・・・・」
あの朝と同じ 何処がどうとかはわからないが不味い
次に味噌汁を飲む 不味い
「・・・・ん?」
吉澤は気付いた 食べ物には全てその素材の味というものがある筈だが
今は何を食べても味は無く 全てが同じでただ不味いと感じるだけ
食べ物の味が全くわからない
ハンバーグを小切りにし恐る恐る口の中へ
「・・・ペッ!!」
今まで口にした物とは比べ物にならない程
不快な不味さに思わず吐き出してしまった
- 36 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:45
-
そこへお茶を持ってきた看護婦
「あら、まだ気分悪くて食べれませんか?」
「・・・あ、ハイ。」
不味くて食べれないと言うと勘違いされそうで黙っていた
「では無理せずにおきましょうね。お腹減って辛いでしょうけど・・・。」
そういってプレートをさげようとしている
「あの・・・他の患者さんもこれだったんですか?」
プレートを指差し吉澤は尋ねた
「そうですよ、内容は多少変わりますけどほぼこのメニューです。」
「そうですか・・・。」
「なぜです?」
「・・・いえ。」
看護婦は不思議そうな顔をしたがそれ以上追求はしない
皆が黙って食べたのなら
やはりおかしいのは自分だけなのだと納得した吉澤も何も言わなかった
「では、お茶を置いておきますね。」
コトリ
側のテーブルにお茶を置いて部屋をでていった
一旦食欲を意識してしまったため 余計に空腹を感じる
食べたいのに食べれない 食べたのに不味い 軽いジレンマが沸き起こる
この空腹を紛らわそうと置かれたお茶を飲む
「・・・・・・・」
不味い お茶の味は分からない ただ同じ様に『不味い』と感じた
お茶すらも飲めない そんな事から一旦沸いたたジレンマは徐々に大きくなる
普段はそんなに食い欲が強い訳ではない だが今の吉澤は違った
- 37 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:46
-
下が収納になっているテーブル その扉をを開ける
「あった。」
自分のバッグを見つけて そこから財布を取り出す
備え付けのスリッパを履き 部屋を出た
病院には売店や食堂がある筈だ
そこで自分の好きな物を買おうとそう思ったのだ
沸き起こる異常なまでの食欲 足早に院内地図で確認し売店へ急ぐ
病室に帰ってきた吉澤の手には大きな白いビニール袋が二つ
中身はお菓子・おにぎり・パン・ジュース・果物
ありとあらゆる食べ物が入っていた
ベッドに腰掛け 一つずつ口に入れる
「駄目。」
「駄目。」
「駄目。」
「駄目。」
「・・・・・やっぱ駄目だ。」
全部一口ずつ食べて全部を吐き出す その行為を繰り返した
さんざん試してみたものの吉澤が望む結果は全く得られなかった
唯一口に出来たものは
『富士山の水』と書かれたラベルのミネラルウォーターだけだった
うまい訳ではない ただマシだったというだけ
「あ〜〜何なんだよこれ・・・マジでハラ減ったぁ・・・・・」
吉澤は力無くベットに倒れ込む
- 38 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:47
-
コンコン
先程の看護婦が入って来た ベットに散乱する食べ物を見て驚いている
「吉澤さん、これどうなさったんですか?」
「ちょっと・・・食べてみようかと・・・」
「まぁ、無理しちゃダメですよ!暫らく食べて無いのにいきなりこんなに・・・」
「すいません・・・」
バツが悪そうに眉を下げる
「食べれないから点滴で栄養とりましょうね?」
「・・・ハイ。」
吉澤は観念した様に脱力しベットに横たわり天井を見上げる
看護婦はその腕をまくり上げゴムチューブで腕をしばり パンパンと叩く
「あれ?」
パンパン パンパン
余程血管が出ないのか 真っ赤になるまで腕を叩いている
看護婦は腕を諦めて 手の甲を見る
「・・・・・・・」
なぜか絶句している看護婦 一旦針を置き自らの手の甲を見ている
また吉澤の手を見て 自分の手を見て を繰り返す
「・・・すみません、ちょっとお待ちください。」
青ざめた顔をして突然部屋を出て行く
その間に食い散らかしたモノを袋に詰めて開き戸の中に隠した
アイドルが暴飲暴食というイメージはマズイ とっさにそう思ったからだ
- 39 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:47
-
あの看護婦はもう1人太めの看護婦を連れて戻って来た
「そんな事あるわけ無いじゃない」とか何とかブツブツ言いながら部屋に入る
「どうも。おまたせしまして・・・どれどれ・・・」
太めの看護婦は吉澤の腕をとり凝視する
「・・・・・・・う〜ん。」
「婦長、どうですか?・・・ナイでしょ?ね?ね?」
あの看護婦は同意を求める様に覗き込んでいる
「ちょっと、待ちなさい。ここなら・・・」
続いて手の甲を見る
「・・・・おかしいわね。」
首をかしげながら腕の脈 首の頚動脈をひとしきりとってみる
その後しかめた顔で吉澤を見て また首を一層かしげた
「・・・・先生を。アナタ一応血圧計っておいて!」
焦った様に小走りで太めの看護婦は行ってしまった
残された看護婦は吉澤の様子を伺いながら バタバタと血圧計を用意している
「吉澤さん・・・なんとも無いですか・・・・?」
まるで物珍しいモノを見る様な目で吉澤をみている
「へっ?あ、はい、まぁ。」
「あの・・・血圧・・・計りますね・・・」
あからさまに動揺している看護婦に吉澤が尋ねる
「アタシなんかおかしいんですか?」
「・・・いっ、いえ。別に・・・大丈夫ですよ。」
明らかに大丈夫ではない口調 吉澤は眉をひそめる
「いっ、今 先生が来ますから・・・・」
「はぁ・・・・」
自分がどんな状態なのか気になるが そんなに体調が悪い訳でも無い
そしてどちらかというと 段々と迫り来る空腹に多く気をとられている吉澤
皆が慌てているのは自分の事なのに大して気にする様子も無い
- 40 名前:懐かしい場所 投稿日:2005/09/04(日) 08:49
-
そうこうしているうちに 午前中に注射をした医者が太めの看護婦と現れた
「どうも。失礼します。」
にこやかに吉澤に言い まずは皆と同じ様に腕、手の甲、脈、頚動脈の順で診ていく
「・・・・・。」
これもまた皆と同じ様に絶句している
「すいません、いいですか?」
顔に手をあて 目の下を引っ張ってライトをあて瞳孔確認を始める
手を離し ひとしきり考え込んだ後に看護婦に指示を出す
「心電図・・・それからCT、MRI、血液、エコー、全部やるから。」
「ハイ。」
「急いで準備して!!」
何分か前のにこやかさは微塵も無い 焦りに満ちた医者の表情
「吉澤さん、ちょっと今から精密検査をしますね。今特に何か症状はありますか?」
「はぁ。ん〜特には・・・・」
「どこもおかしい感じはありませんか?」
「・・・・・・。」
食べ物が不味い テレパシーが使える 変な夢を診る
など吉澤が思いつくおかしい事は沢山ある だがどれもおかし過ぎるので言えない
言った所で今のこの状況に果たして役立つのかさえあやしい
医者に対して無言で首を振った
「まぁ・・・いいでしょう。
とりあえず検査しますので落ち着いて待っててくださいね。」
「はぁ。」
そう言った医者の方が全く落ち着いておらず 額には汗がじっとり滲んできている
「おい!キミ!キャリーベッドを用意して、まずはレントゲン室だ。」
後ろの看護婦に声を荒げる
「はっはい!!」
ガラガラガラ
吉澤は足に車の付いたベッドに乗せられて部屋を後にした
- 41 名前:スキマニア 投稿日:2005/09/04(日) 08:58
- 本日以上です。
吉澤さんに何が起こったのか明らかになるまでは
状況説明が多くなります。すいません・・・orz
- 42 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/04(日) 14:59
- 更新お疲れさまです。
一気に読まさせて頂きました。
そして新作おめでとうございます。
中々興味深い作品です。
これからも頑張ってください。
次回更新待ってます。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/05(水) 01:11
- 続き待ってます。
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/29(土) 16:02
- 待ってますよー
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:25
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/05(木) 19:58
- すごく面白いです。
続きが気になる・・・更新待ってます。
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