17歳のカルテ
- 1 名前:エリック 投稿日:2005/09/25(日) 23:39
- タイトルはアレですが内容はあまり関係ありません。
キャストは 亀×吉×石 (垣)です。
アンリアルですがどうぞ宜しく。
- 2 名前:エリック 投稿日:2005/09/25(日) 23:39
-
私、亀井絵里17歳。
ただの女子高生だった あの人に出会うまでは・・・・
- 3 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/25(日) 23:40
-
眩しくて熱い夏が通り過ぎて行こうとしているこの季節
半そででは肌寒く、長袖にはまだ早いこの季節
「いってきまーす」
誰に言うでもなく呟きながらローファーのかかとを踏んで玄関を出た
地元の女子高に通う2年生 ごく普通の女子高生の私
学校と家の往復を繰り返す毎日に正直飽き飽きしていた
腕時計を見ると7時45分
いつもより5分スタートが遅れてる このままじゃバスに間に合わないな・・・
フゥッと息を吐き、駆け出そうとしたその時
ガラガラ ドカーン
目の前で原付がゴミ置き場にツッ飛んだ
驚いた私は思わず足を止め、その方に歩み寄る
「・・・・あっ・・・あの・・・大丈夫ですか?」
ゴミの山に埋もれる人に声をかける
返事は無い・・・・・
私はバッグを放り投げ、人の上にのしかかったゴミ袋をかきわける
「あの?あの?大丈夫ですか?」
さっきよりも少し強い口調で問いかける
すると、モゾモゾとゴミの中から手が出てきた
その手は何かを探すように空を掴んでいる
引っ張り出さなきゃ!とその手を掴んだ
「キャッ!!!!」
グイと掴まれた腕を引っ張られて私は勢いよくゴミの山へ・・・・・
「・・・・おっと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私はゴミの山の中であの人と出逢った
- 4 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/25(日) 23:40
-
倒れこんだ私を受け止めて、ゴミの中で抱き合うカタチになった私達
「ごっごめんなさい!!!!!」
私は慌てて立ち上がって頭を下げる
「・・・よっと!」
その後からのそっと立ち上がるゴミの中に居た人
「こっちこそごめんなさい。助けてくれてありがとう。」
助けてなんかいない。逆に上からのしかかってしまったんだから・・・
「・・・いっいえ。あの・・・ケガとか・・・してませんか?」
「ん?あぁ・・平気!ちょっと酔っててハンドル切り損ねちゃった。ハハッ。」
「あ、アハハ。」
いたずらっぽく笑うその人につられて、私までなんだか笑っちゃった。
「ゴメンね?制服汚れちゃったね?」
「えっ?」
見ると白いセーラー服はゴミのせいで汚れてしまっていた。
「それじゃ恥ずかしくて歩けないよね?」
「あっ・・・・はぁ」
ケチャップやなんやらにまみれた私を見て申し訳無さそうにいう。
「・・・これ、着てって?」
そう言って自分の上着を脱ぎ、私にかけてくれた
その皮のジャケットからは香水のいい香りがした
「よいしょっと。イテーイテー。」
ブツブツ呟きながら、原付を起こしまたがった
ブルンブルルン ブンブンブン
何度かエンジンをふかして調子を見ている
ヘルメットはもともと被ってないみたい
「・・・本当にごめんね?助けてくれてありがとう。」
そう言ってスロットルを回して走り去ろうとした
「・・・・あの!!!!!待って!!!!」
- 5 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/25(日) 23:41
-
キッ!!!!!
ブレーキの音がして走るのをやめる原付
「・・・ん?」
「・・・・・あの・・・あの・・・弁償・・・・制服、弁償してください!!!」
思い掛けない自分の言葉に自分で驚いた
なぜかこのままこの人と別れてはいけない様な気がした・・・・から
なんでもいいから、この人を引き止める術を考えないといけないって
とっさに思っちゃった・・・・から。
「・・・お金か。今無一文なんだよね。」
「・・・・・・・なら、・・・・・・なら。」
「どうする?家に帰ればあるんだけど。」
「・・・・・・・・・・」
「じゃぁ、乗る?」
原付の後ろポンポンと叩いて問いかける人
コクン
小さく頷いて、私はその後ろにまたがった
「しっかりつかまってなよ?」
「・・・・・・・はぃ。」
ブーーーーーーーーーーーーーーーン
勢いよく走り出した
すごい速さと風に思わず恐怖を感じる
少し頭を上げると、サラサラで金髪の綺麗な髪が風になびいている
それを見ていると、さっきまでの恐怖が嘘みたいに消えていく
私はその背中を抱く様に手を回し、しっかりと密着する
でも・・・・どうして私 こんな事してるんだろう・・・・・
- 6 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/25(日) 23:42
-
体が引き剥がされ、流されていきそうな感覚
でもこのままこの背中と同化してしまいそうな感覚
不思議な感覚に交互に襲われていた
ブルンブルン・・・・・・ キーッ
相変わらずうるさいブレーキの音にハッとした。
「着いたよ?」
耳を押し付けていた背中越しに聞こえる声
冷たい様な、温かい様な、その声
「・・・・あっ。はぃ。」
「お金取って来るから待っててよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ね?」
私はそのTシャツをグッと力を込めて握った
「・・・・・・あのね?」
フゥ・・・と溜め息をついた後に続けて言う
「何?キミってその、援助交際とかやりたい子なの?」
援助交際!!!とんでもない!!!
ブンブンと首を振る
「じゃぁ何?何が目当て?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
わからない・・・・・ 何故なのかなんて私にもわからない
「んで、どうしたい訳?」
ブンブンとまた力なく首を振った
「うう〜ん。困ったな。」
ブルンブルンブン・・・・
鍵を回してエンジンをとめる
「じゃぁとりあえず、中入ろうよ、腹減ったし。」
Tシャツを握った私の手をポンポンと軽く叩いて言う
私は握り締めていた手をそっと離し、小さく頷いた
- 7 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/25(日) 23:42
-
大きくて立派なマンション ボロボロの原付とは不釣合い
その中にその人と入っていく
ジャラジャラと色んな鍵が付き捲っているビトンのキーホルダー
無機質な金属が擦れる音がフロアーに響く
エレベーターの前にとまり上を押すとドアはすぐ開いた
ガチャン
エレベーターが開いた音が耳の中でこだましている
なんだか今更だけど、足がすくんでしまって動けない
「ん?乗らないの?」
不思議そうに聞かれた 顔を上げてエレベーターの中のその人を見る
ゴミで汚れた白いTシャツととぼけた様な顔。
サラサラの金髪に白い肌 スラリと伸びた手足
私の心の中は何とも言えない感情で満ち溢れる
怖いのに薄目を開けて見ていたいホラー映画の時の様に
一度目をしっかりつぶってから大きく見開き
私は鉄の箱の中へ進んでいった
R というボタンを押す
Rって何だっけ?屋上?何で屋上なの?
そう思ったけど聞けない
「・・・っつーかさ、怖いとか思うんなら来なきゃいいじゃん。」
「えっ?」
そのままその会話は流れた
ブーン
低い機械音がして止まる 着いたみたい
ガチャン
扉が開いて見えたもの それはただの屋上だった
「えっ?」
「何?」
「あの・・・なんで屋上なんですか?」
「何でかって?そりゃー決まってるじゃん。」
「?」
「 ここから飛び降りるんだよ 」
「・・・・!!!!」
「 そう。自殺する 」
グッと顔を寄せて真剣な眼差し その目にまた足がすくんだ
- 8 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/25(日) 23:43
-
「じ・・・じさつ・・・・?」
「そう。今日ここから飛んで死のうと思ってた。なのにキミが着いて来るからさ。
まぁ・・・最後を見ててくれる人がキミって言うのも悪くないかもな。」
「ちょ!!!なに言ってるンですか?そんな!!!からかわないで。」
「からかってなんか無いよ?」
淡々としたトーンで言い屋上を歩いていく
「ちょっと・・・待ってください!!」
屋上の柵の前で立ち止まり向きを変える
「じゃぁね。短い間だけど会えてよかった。」
「はっ?」
「じゃぁ。」
ポンと私の肩を叩き柵を越えて 気持ち良さそうな顔をして空を仰ぐ
両手を広げて まるで本当に飛び立つ鳥の様
不謹慎だけど 今から死のうとしているその人を綺麗だと思ってしまった
でもここで飛ばれたらシャレになんない!!
「ちょっと!冗談は止めてください!危ないですよ?」
「危なくなんかないよ。飛べるから。」
「はぁ?ちょっとマヂですか?」
「マジマジ。オオマジ。じゃぁね?さよなら。」
ニコッと笑った後 もう一度空を見た
背中を向けてその人は・・・・・・・・・・
私の目の前から
居なくなった
- 9 名前:エリック 投稿日:2005/09/25(日) 23:44
- こんな感じで進みます。
読んでくださった方ありがとうございます!
- 10 名前:はち 投稿日:2005/09/26(月) 00:03
- 更新乙です
なんか新しい感じでワクワク読ませてもらいましたw
すんごい気になるとこで終わってて・・・更新待ってます!
- 11 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:18
- >>10 はちさん
読んでくださってありがとうございます。
すんごい気にしていただけて嬉しいです。
頑張りますのでどうぞ宜しくですw
- 12 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:19
-
「・・・・・・・・・・・」
ヒュゥと風が吹き抜ける屋上で私は愕然としていた。
さっきゴミの山で出会ったあの人は、さっきまでここに居たあの人は、飛んでいってしまった。
いや、飛んではいない。
落ちた。
今この柵から身を乗り出せばあの人は居る。
ずうっと下に・・・ きっと・・・ 変わり果てた姿で・・・
いや、でも居ないかも知れない。
本当に飛んで行ったのかも知れない。
そんな事を意外と冷静に、繰り返し思ったりしている。
これは夢?そう思ったけど、制服に付いたケチャップの染み。
それがアカラサマでリアル。
混雑している頭で目の前の柵に手をかける。
「・・・・・・・・・・・・・・」
柵が思った以上に 冷たくて 硬くて 次第に体ごと震えだす。
この柵がボーダー。 あの人と私のボーダーライン。
なぜだかそう思った。
ふら付く足でようやく立ち、羽織っている薄紅色の皮のジャケットの裾を握り締める。
何処までも澄んだ秋の空。
細い雲が風に流される。
喧騒と静寂が交じるこの屋上から、私も飛び立てるのかも知れない。
この柵を越えれば、アナタはそこに居るのかも知れない。
そう、思った。
ガチャン
冷たい柵をまたぎ、あの人の様に空を仰ぐ。
ホントだ。鳥になったみたい。
私、飛べるかも。
大きく息を吸い込み、今から身を任せるであろう空中とその下に目をやる。
- 13 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:19
-
「・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!」
居た。
そこにはあの人が居た。
眩しそうに目を細め、けだるそうに立っている。
そして フッと少しだけ笑って 両手を広げて 私に言った。
「 おいで? 」
私は言葉にならない音を発する。
両方の目からはボロボロと涙が落ちる。
「・・・・うっうううぅ・・・・」
唇を噛み締めて 私は 飛んだ あの人の元へ
- 14 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:20
-
「コーヒー?紅茶?水?」
「・・・・・・・・・・」
「何?」
「・・・・・・・いりません。」
私は頬を膨らませつぶやく。
「ご機嫌ななめ?」
ソファーに座る私に、ニコニコして問いかける。
「・・・別に。」
「そんな顔しないでよ。驚かせて悪かった。」
「・・・・・・・・・ホントです。」
さっきのあの出来事
この人が飛んで、私も飛んだ。
正確には・・・・・飛んではいないけど。
あの屋上から、この部屋のせり出した広いテラスに飛んで降りた。それだけの事。
テラスに着地した私は、大きなガラスの戸越しのこの部屋に招かれた。
「・・・・・なんであんな事したんですか・・・?」
「何が?」
「飛び降りるとか・・・死ぬとか・・・・」
「あぁ、その事?」
「騙すなんて・・・・ひどい。」
「騙してなんかないよ。」
「だって・・・生きてるじゃないですか。」
「うん。生きてる。」
ハァ・・・・・ 私は溜め息。
「でもね?」
少し小さくなった声のトーンに、私は顔を上げてその方を見る。
「さっきは死んだの。さっきまでの自分は死んだ。」
「・・・えっ?」
「リセットしたんだ。」
リセット・・・・・ なんだろ。この人って話してる事があんまりわかんない。
「嫌な事があった日は、玄関じゃなくて屋上からこの部屋に入るんだ。
屋上から飛んで、一度死ぬ。テラスに降り立った時は、新しい自分。」
「新しい・・・自分?」
「そう。だから飛んだんだよ。」
そう言った後、小さく よいしょっ と立ち上がりキッチンの方へ歩いていく。
「あっ・・・・。」
何故だろう。この人が立ち去ろうとすると、なんだか胸が苦しくなる。
ただキッチンへ行くだけだとわかっているのに、引き止めたくなってしまう。
出会った朝もそうだった。
- 15 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:21
-
「ところでさー何飲む?」
冷蔵庫を開けてまた私に問いかける。
「・・・・・・・・・・・牛乳。」
「ねぇし。」
「じゃぁオレンジジュース。」
「ねぇし。」
「じゃぁ・・・・」
「意外とわがままなんだね。意外と、でもないか。」
フフッと鼻で笑う。
「そんな事・・・・ないですよ。」
「あるよ。無理やりここまで着いて来たしね?」
「・・・・うっ。」
そうだった・・・ 今になって自分の行動を思い起こす。
ゴミの山で圧し掛かり、弁償しろと言い、バイクに乗り、後追い自殺・・・・まで・・・・。
待って? 私って・・・ストーカーじゃん!!!!
コン
テーブルに置かれた二つのマグカップ 控えめな湯気が出ている。
「何1人でバタバタやってんの?百面相したりして。」
「なっ・・・何でもっ!」
「変なコ。」
「へんじゃ・・・・いや、へんですね。」
「うん。」
「はぃ。」
「まぁいいから、とりあえず飯にしよう。腹へった。」
「あぁ!はぃ。すいません。」
電気も点いてない。音楽もかからない。シロとクロの部屋。
ソファーに並んで座っている。
手にとったカップには苦いコーヒー
でもそれがなんだか大人な感じに思えて少し嬉しくなったりしている。
- 16 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:21
-
「それ、何ですか?」
「ベーグル。」
「パン?」
「ベーグル。」
「美味しいですか?」
「うん。」
「へー。」
コーヒーをちょっぴり舐める。
「何歳ですか?」
「ハタチ。」
「にじゅっさい?」
「ハタチ。」
「大人なんですね?」
「うん。」
「はぁー。」
コーヒーをまた。
「私、17歳です。」
「ふーん。」
「高校生です。」
「だろうね。」
「はい。」
コーヒーを。
「何か話が弾みませんね?」
「そう?」
「私、うざいですか?」
「うーん。まぁ。」
「げっ・・・。」
「自分が聞いたんでしょ?」
「まぁ・・・はぃ。」
「でも。」
「でも?」
「なんかおもろいからいいんじゃない?」
「おもろい・・・?関西人ですか?」
「別に。」
「へぇ。」
ブルブルブル ブルブルブル
テーブルに置かれた携帯が震える。
シーンとしてたからちょっとビックリした。
ブルブルブル
携帯はカタカタと揺れている。
「出ないんですか?」
「うん。」
「何で?」
「うざいから。」
「・・・・・・・・・・・」
すごく冷たい言い方。 それって私の事・・・・も・・・・ですか?
携帯は動きを止める。
- 17 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:22
-
「わっ、わたしの・・・。」
ブルブルブル
再び携帯はマナーモードビートを刻む。
「何か・・・用があるんじゃ・・・。」
「だろうね。」
「出た方が・・・・。」
「いいよ。」
さっきよりも冷たい言葉。
ちょっとだけ凄みが効いてて、背筋が冷たい感じになった。
着信を見なくてもわかっているんだろうか。電話の相手が。
一気に曇った顔から、そう思った。
ブルブル カタン
携帯はまた止まった。
出来ればもう動かないで欲しい。
これ以上機嫌が悪くなったら怖い・・・・。
「あっ、そうだ。」
「えっ!?」
突然の声に私はビクッとなってしまった。
ゴソゴソとお尻のポケットを探って、皮の財布を取り出す。
「はい、これ。」
目の前に差し出された2万円。
「え?」
「クリーニング代。」
「あっ・・・。」
弁償してって言ったんだった。
「・・・いいです。」
「はぁ?」
「お金、いりません。」
「じゃぁ何?どうするの?」
「・・・・・わかりませんけども。」
「あのさぁ。キミ、何?」
「ナニって・・・。」
「こっちも暇じゃないんだけど。」
「・・・・・・・・。」
そうですよね。
こんな何処の馬の骨とも解らない、つまらない女子高生なんかうざいですよね。
そんなの判りきった事なのに、また悲しくなってきた。
涙腺がバァーっと緩む。
目が熱くなって、涙が溢れてくる。
- 18 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:23
-
「ちょっと、ナニ泣いてんのさ?」
「・・・・・・・うっううぅ。ごめんなさい・・・・・。」
「参ったなぁ。」
「ごめ・・・っあ・・・さぃっ・・・。」
フーーーーーーーーッ
鼻から大きな溜め息をつかれる。
「わかったよ。ココに居たいならいてもいい。」
あきれた口ぶり。
「気が済むまで居たらいいよ。ね?」
頷く事も首を振る事も出来ない私。
だって自分でも何でここに居るのか。今、泣いているのかわかんない。
「だから泣きなさんな。」
「・・・・ぁぃ。」
ホラ とティッシュを三枚くれた。
私は二回鼻をかんで、残り一枚で涙を拭いた。
- 19 名前:エリック 投稿日:2005/09/26(月) 15:25
- 本日以上です。読んでくれた方ありがとうございます!
あ、タイトルが微妙にエリックになってますが、お気になさらずw
- 20 名前:はち 投稿日:2005/09/26(月) 21:35
- 更新乙です
ど、ドキドキしましたw
名前はまだでてませんが・・・リセット、あの人らしいですねぇ
自分も小説の更新頻度あげれるよう頑張ろう、って思いましたw
- 21 名前:はち 投稿日:2005/09/26(月) 21:36
- 更新乙です
ど、ドキドキしましたw
名前はまだでてませんが・・・リセット、あの人らしいですねぇ
自分も小説の更新頻度あげれるよう頑張ろう、って思いましたw
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/26(月) 22:36
- 更新お疲れ様です。
なんか面白そうですね。
期待してます。
- 23 名前:エリック 投稿日:2005/09/27(火) 16:17
- >>20 はちさん
ドキドキしてくださりありがとうございます。
あの人は素敵な人ですよねw更新頑張ってください!
>>22さん
期待を裏切らないよう頑張ります!どうぞ宜しくw
- 24 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/27(火) 16:19
-
テーブルの上のお皿にあるベーグルをペロリと平らげた後
あーーーーーーーぁ と声を出しながらフカフカのソファーにもたれ掛かった。
そして周りをキョロキョロ見回したり、ジーパンのポケットを探ったりしている。
「ね?その上着に入ってない?」
「えっ?」
私は慌ててジャケットに付いたポケットに手を入れ、
触ったモノを取り出す。
「それそれ。」
起き上がり私の手からそれを奪い取る。
カチッ
フゥーーーーーーーーー
白い煙がフワーッと伸びていく。
「煙草・・・吸うんですね?」
「吸うよ?」
「美味しいですか?」
「不味かったら吸わないし。」
「・・・そっか、そうですよね。」
吸い込むと先っぽが赤く燃えて、吐き出すと白い煙。
お父さんの煙草は迷惑だと感じてたのに、この人のはなんだかいい感じに見える。
「・・・一本貰ってもいいですか?」
「吸うの?」
「・・・いつもは吸いませんけど・・・。」
「ふぅん。いいよ?」
「あざーす!」
煙草を一つ箱から取り出し、ライターを手に取る。
カチッ
・・・・・・・・・
カチッ
・・・・・・・・・
何で?この煙草、火が点かない。
「・・・・吸いながらじゃないと点かないから。」
私を横目で見て、ボソッとアドバイスをくれる。
そうなんだ・・・知らなかった・・・ 今度こそ!
ぐえふぉっ・・・・・ ゲホッゲホ!!!!
「あははっ!お約束。」
むせ返る私に大爆笑 こっちは笑い事じゃない。
「ケホケホ・・・よく・・・こんなの平気で・・・。」
「コツがあるんだよ。」
「やっぱり・・・無理。吸えません。」
- 25 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/27(火) 16:19
-
灰皿に押し付けて火を消す。
綺麗なガラスの灰皿に真ん中から折れた長い煙草がひとつ。
不恰好で不似合いで、そのまんま私みたい。
「煙草なんて吸わない方がいい。」
「みたいですね。」
何やっても様にならない私。ちょっとへこむ。
「でさ、制服どうすんの?」
「あ・・・。」
「洗濯したらいいよ。どうせ暫らく居るんでしょ?」
どうせ・・・・ まぁ、そうなんですけども。
「着替えが・・・。」
「あぁ。」
煙草をふかしながらクローゼットを開け、服を持ってきてくれた。
「こんなんしかないけど。」
「あざーす!」
「・・・・何それ?」
「ん?」
「あ・ざーす?」
「知らないんですか?」
「うん。」
「お笑いとか見ません?」
「TV見ないから。」
「ほぇー。そーっすか。」
「うん。」
「あざーす。は感謝の言葉ですよ!」
「ふーん。」
聞いたくせに興味無さそう。
「えっと・・・着替えは何処で?」
「キッチンの右のドアがバスルーム。」
「あ、はい。」
「別にいいよ?ここでも。」
「なっ・・・無理ですって!」
「恥ずい?」
「当たり前です!」
「でもさっきパンツおもっきし見えたし。」
「えっ・・・」
・・・・屋上!!! 飛んだ時!!!
しまった・・・・ もっと可愛いの・・・ いやいやそうじゃない。
「隠す様なカラダ?」
ニヤニヤ笑ってる。
失礼しちゃうなぁ。そんな事・・・・ある、かな。
「バスルーム借ります!」
クスクス笑う人を置いてバスルームのドアを閉めた。
- 26 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/27(火) 16:20
-
曇り一つ無い透き通る鏡 整頓された洗面用具
綺麗に折り重ねられたタオル達
神経質なんだなぁ。片付けられない私とは正反対。
話す事や仕草なんかは適当っぽいのに、人は見かけに寄らない。
上着を脱いで、スカートのホックに手をかけた時・・・
コンコン ガチャ
!!!!!!!
いきなり・・・入って来た・・・
「なっ!ちょ!!」
私は慌てて屈み込む。
「良かった、まだ着替えて無かった。」
何が良かったんですか・・・・全然良くないんですけど・・・
「さっきゴミかぶったしさ、シャワー浴びなよ。」
バスタオルとハンドタオルを出して、給湯のスイッチをつけて
「ごゆっくり。」と言い出て行った。
・・・・・・・・・・ 何だろ。意識すらされてないみたい、私。
17才のうら若き乙女なのに・・・ って女同士だし。
意識する訳ない。逆にされても困る・・・よね?
てか、意識してんの私ジャン!今日の私・・・マヂおかしいよ・・・
お言葉に甘えて制服を洗濯し、シャワーを浴びた。
部屋に戻ると、午前中だというのに薄暗い部屋は相変わらずで、TVだけがついている。
この部屋の主はソファーで眠っていた。
- 27 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/27(火) 16:20
-
「あの・・・あの・・・」
そっと肩を叩いてみるとダルそうに目を開ける。
「あぁ・・・寝てた。ごめん、シャワー行く。」
のそっと立ち上がり、背中を掻きながらバスルームに入って行った。
小さな音がする画面はDVDみたい。
アレだ。ジブリの最新作。ハウルのナントカの城。
アニメとか見るんだ。何か以外かも。
途中からでよくわからないけど、ボーッとそれを見ていた。
ガチャッ
バスルームから頭をガシガシ拭きながら出てきて、ソファーの後ろで立ち止まる。
「それ見る?」
DVDの事?
「いえ、別に・・・」
「なら消して。」
「あ、はい。」
リモコンをいじってDVDを止め、電源を切った。
「んじゃ、寝るわ。」
スリッパをパタパタ鳴らして、少し離れた所にある大きなベットに潜り込む。
私はその様子をソファーから眺めている。
寝ちゃったら私、1人でどうしよう・・・とかちょっと思ったりして・・・。
暫らくモゾモゾしていたけど動かなくなった。
静寂に包まれる部屋。
だだっ広いワンルームに寝ている人と、私。
また、今更だけど変な感じ。
- 28 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/27(火) 16:21
-
「ねぇ・・・」
ベットからかすれ気味の小さな声。
「はい?」
「こっち来て。」
「はぁ。」
大きなベットの前に立つ。
「おいでよ。」
『おいでよ』って偉そうな言葉の割に甘えた口調で
トロンと眠そうなその眼が何だか可愛い。
「いや?」
そう尋ねる表情がまた、もう一段可愛らしい。
胸の奥がくすぐられる、そんな感覚。
「いぇ・・・」
「なら。」
少しだけ横に動いて場所を作る。
私はソーっとその場所に入り込んで、向き合えないから背を向けた。
自慢じゃないけど産まれて此の方、家族意外と寝た事なんてありませんし・・・
変に緊張して体が強張る。
- 29 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/27(火) 16:21
-
グイッ
後ろから伸びて来た手に抱すくめられた。
バイクの時と逆 私が前でアナタは後ろ
でもバイクと違ってここはベット
恐ろしい気持ちも、引き剥がされる感も無い
ただただ静寂と触れた肌の温かさだけが存在する。
背筋が凍りそうな冷たい言葉
いつもあきれた様な冷たい態度
そこから想像出来ない体温の高さ。
それを感じて嬉しい様な、悲しい様な。
今、この人はここに私と眠っている。
だけど・・・私は代用の様な気がする。
もっと言うなら、私じゃなくてもいい。そう感じた。
「・・・・・・・・・・・・・・スーッスーッ」
規則正しい寝息が聞こえる。
私は怖い物見たさの気持ちで後ろに向き直る。
- 30 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/27(火) 16:22
-
寝ている 子犬の様な 金の狼は眠っている
長い睫毛を揺らして 気持ち良さそうに
さっきの屋上で、私は柵を越えた。
名前も知らないこの人の、側に行こうとボーダーを越えた。
あの時私は飛べると思った。
でもイコール 死ぬ では無かった気がする。
でも、あの屋上から飛んだ私は、死んだ。
今ここに居るのは新しい私。 と新しいこの人。
今朝玄関を出た亀井絵里は、もう居ない。
天使の様に愛らしくて 悪魔の様に美しい寝顔を
刃物の様に鋭どく その精鋭さ故にもろそうな、その寝顔を
新しくなった私は、ずうっとずうっと見つめていた 出会った日の午後
- 31 名前:エリック 投稿日:2005/09/27(火) 16:23
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
- 32 名前:プリン 投稿日:2005/09/27(火) 20:28
- 更新お疲れ様です。
不思議な感じですんげー面白いっすw
この二人も好きだしw
次回の更新もワクワクしながら待ってます。
- 33 名前:はち 投稿日:2005/09/27(火) 21:01
- 更新乙です
な、なななななんかイイ!w
引き込まれました
こ、更新頑張ります
- 34 名前:エリック 投稿日:2005/09/28(水) 14:41
- >>32 ぷりんさん
この二人、好きですかwこの二人独特の雰囲気がいいですよね?
頑張りますのでどうぞお付き合い宜しくお願いします。
>>33 はちさん
嬉しいお言葉ありがとうございます!
ん、なななんかいい感じでがむばりますw
- 35 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/28(水) 14:42
-
微かな話し声で目が覚める。
いつの間にか眠ってたみたい。
「・・・・何でも無い。」
「嘘よ。」
「何でも無いって。」
「嘘!じゃぁどうしてあんな事・・・。」
1人はあの人、もう1人は高い声の女の人。
「本心・・・なの?」
「あぁ。」
「・・・・・・・・。」
「何?引き止めて欲しいとか?」
「・・・・・・。」
「梨華ちゃんが決めたんでしょ?ならいいじゃん。」
「・・・・・ひとみちゃんの気持ちは?」
「だからさっきから言ってる。」
「・・・・嘘。・・・・嘘よ。」
冷たい口調のあの人。
高い声の女の人は涙声。
何?喧嘩?修羅場?
起きるタイミングなんて何処にも無いから
黙って寝てるふりをしてるしかない私。
「だから嘘なんかじゃないって。
それにアタシはもう梨華ちゃんが居なくてもやってける。
1人で生きて行けるから。」
「・・・そんな・・・そんな、私、どうしたらいいか・・・。」
「どうもしなくていいって。決めた様にすればいいじゃん。」
「ひどい、ひとみちゃん・・・ひどいよ・・・。」
「ひとみちゃん」はあの人で、「梨華ちゃん」は高い声の人。
それだけはわかった。
- 36 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/28(水) 14:44
-
「もぉ私の事なんかどうでもいいんだ・・・。」
「何それ。」
「そうでしょ?それに新しい恋人も出来てたんだね。」
「はぁ?」
「ベット・・・寝てるのが新しい人なんでしょ?だから昨日あんな事・・・・。」
「・・・あぁ。まぁね。そうだよ。」
・・・・そう?何?これって私の事だよね?
恋人?まさか!!嘘でしょ??
「店は・・・ルパンは辞めないから心配しないで。」
「・・・・・・・。」
「ちゃんと責任は果たすから。」
「・・・・責任・・・・ね。私の事もそう思ってるの?」
「・・・・・・・・。」
「ねぇ?ひとみちゃん!」
「さぁ。」
話が見えないんだけど、でもこれは多分・・・・・。
大人な雰囲気である事に間違いは無い。
「そろそろ準備あるから。」
「・・・・わかった。電話・・・出てね?」
「暇があったら。」
立ち上がり玄関に向かう一つの足音。
パタリ
それがベットの前で一瞬止まる。
パタパタ
そしてまた動き出し バタン 玄関を出て行った。
足音が止まった時、心臓が飛び出そうな程ドキドキした。
意味も解らず、息苦しかった。静けさが重苦しかった。
はぁぁ・・・・
まだ起きるタイミングを見出せない私はベットの中でうずくまっている。
バタン
あの人・・・ひとみさんはバスルームに入っていった。
- 37 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/28(水) 14:44
-
その間に起きてソファーに座った。
シャワーを浴びて出てきたその人は、私を見て おっ と言い隣に座る。
「おはよう。」
「おはよぉございます。」
今は夕方だけど。
「今から出かけるから。」
「はぁ。」
「・・・はぁ。じゃないって。」
「え?」
「まだ居んの?」
「あ・・・・。」
「学校サボって外泊したら、とんだ不良だぞ。」
不良・・・・か。ちょっといい響き。
「早く帰んないと親心配すんぞ。」
「はぁ。」
「制服、乾燥機かけたから乾いてるよ。」
「あ・・・ありがとうございます。」
「いいよ。アタシのせいで汚れたんだしね。」
朝の出来事。何だか遠い思い出の様に感じる。
でも、とても鮮明な思い出。
「出る時に一緒に出ようか。」
「はぃ。」
あの人の大きめのTシャツと短パンを脱ぎ、セーラー服に着替える。
かぼちゃの馬車がかぼちゃに戻った。そんな感じ。
テラスからかかとの潰れたローファーを持ってくる。
なんか現実。そんな感じ。
エレベーターの中で駅の方向とかを教えてもらう。
相変わらずジャラジャラ鍵の付いたビトンのキーホルダーが印象的。
あと、いい匂いの香水。この人の匂いが充満してた。
- 38 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/28(水) 14:45
-
ブルンブルンブルルン
ボロボロの原付にまたがる。
「送ってあげられないけど、気を付けてね。」
「はぃ。」
「じゃぁ。」
「あっ!!」
「・・・・・何。」
「あの、また・・・来てもいいですか?」
「うーん。」
「駄目、ですか・・・。」
「んーまぁ、その代わりガッコはサボんなよ。」
「・・・・・いいんですか!!」
「まぁね。」
フッと口の端を上げて笑いながら言う。
「大体昼間にしか居ないし、鍵開いてないから、あそこから飛ぶしかないけどね?」
「・・・・・・。」
またあそこから飛ぶ・・・・。本気で怖いんですけど。
「飛びたかったら来ればいい。」
「はぁ・・・・。」
じゃぁ と言い捨てるように ブゥンとエンジンをふかし行ってしまった。
知らない街をトボトボと歩く。
まだ6時だと言うのに辺りは薄暗く、夕日が遠く燃える。
何だかたまらなく寂しくて、切なくて、胸が痛カユイ。。。
カバンを探って携帯を取り出す。メールが二件。
その差出人はいずれも『ガキさん』こと新垣里沙。私の親友。
今日無断欠席しちゃったから、その事で心配しているみたい。
【今からガキさん家に行っていい?】
送信っと!
程なくして返信が来た。
【いきなりだな、おい。でもいいよ!】
よし!この不思議な出来事を親友に報告しなきゃ!
少し前向きになった私は、駅までの道を急いだ。
- 39 名前:エリック 投稿日:2005/09/28(水) 14:52
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます!
- 40 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/29(木) 15:53
-
今日一日の出来事を出来るだけ詳しく、親友に説明する。
不思議でリアルで嘘みたいな今日1日を。
「へ〜、亀にしちゃえらく冒険したんだね?」
興奮して話終えた私を尻目に意外と冷静。
もともとこんなコなんだけど。
「そう!何かね、自分じゃないみたいだった。」
「自分じゃ無いかぁ。」
「その・・・知らない自分って言うか・・・。
考えるよりも先に動いちゃったって言うか・・・。」
「うん、うん。」
「理性の範囲内じゃなくて、本能がモロに働いてる感じ。」
「ほうほう。呼び出されちゃったか。」
「あの人を見た瞬間からだったと・・・思う。」
「一目惚れ?」
「・・・・そんな軽いモンじゃない。」
「じゃぁ何?」
かつて人々を魅了したスター達の顔が浮かぶ。
ジョン・レノン オードリー hide 生きてる人なら あゆ
そんなスター達を形容する言葉 表現。
「カリスマ。」
「カリスマ?」
「そうだよきっと!あの人みたいな人をカリスマって言うんだよ!」
「カリスマねぇ。」
「やばい、私、生カリスマに出会っちゃった!」
ガキさんが私のおでこに手を当てる。
「熱は無いみたいね?」
「熱なんか無いよ!」
「だってさぁ〜。」
怪訝な顔で私を見ている。
「信じられないかも知れないけど、ホントなんだって!」
「へぇ〜カリスマな金の狼?」
「そ!例えるなら天使な悪魔。」
「・・・まぁ、それはいいとして、引っ掛るのが、『梨華ちゃん』と『お店・ルパン』だね。」
「うん・・・・。」
カチャカチャカチャ
デスクトップに向き直りキーボードを弾きだす。
- 41 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/29(木) 15:58
-
「原付で通勤出来る距離、尚且つ亀の家を帰宅ルートで通る。
夜の営業。そして『ルパン』。これでなんとか割り出せるかもしんない。」
「割り出す?」
「そう。天使な悪魔のマンション以外の居所と、正体。」
「・・・・・・・・えっ。」
あの人の事・・・・知りたい
でも知りたくない ・・・知りたい ・・・知りたくない
「がっガキさん!いいよ!」
「なんで?」
「なんか・・・こんなの卑怯な感じする。」
「卑怯じゃないよ?何者なのか知らなきゃ危ないじゃん。」
「危ないけど・・・でもあの人は、知らない私とさっきまで居てくれた・・・。」
「だーかーら、それが危ないっての。どんな大人だよ。
朝から飲酒運転、横転事故、意味不明瞭発言、喫煙幇助、未成年略取。
これは大した犯罪だよ?」
「は、犯罪だなんて!!あの人の・・・悪口言わないでよぉ・・・。
そもそも私が無理やりに・・・・。」
鼻の奥がツーンとして また涙が出そうになった。
悪く言われたからじゃなくて・・・何だか上手く説明出来ない気持ち。
- 42 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/29(木) 15:58
-
カチャカチャカチャ・・・ ポン!
「ごめんごめん、悪かった。泣かないでよもぅ。」
「・・・うっうっ。」
「今日会ったばかりの人の為に泣けるアンタは素晴らしいし、
そこまで思わせるその人もある意味凄いよ。」」
「・・・それ、褒めてる?」
「まぁ〜わからんでもない。このマスクは反則だねぇ。」
PCのモニターを見ながら ウンウン頷いてるガキさん。
「えっ???」
「出たよ。検索で、『ルパン』。英語の『LUPIN』だったけど。」
モニターを覗こうとする私を制止する。
「ちょっと!何?見せてよ!」
「・・・卑怯なんでしょ?」
「うっ・・・・。」
僅か1分前の自分の意志が・・・揺らぐ。
これ以上深く入り込んではいけないと思う閉鎖的な私の理性。
一度ボーダーを超えてしまった開放的な私の本能。
せめぎ合う私の中の私と私。
それを動かすのが あの人。
「やっぱり見る!」
「変わり身が早いね〜。」
「いいの。頭じゃないの、心なの。」
「お、名言風な発言。じゃぁどうぞ。」
制止が解けて自由になった私はモニター一直線。
- 43 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/29(木) 15:59
-
真っ蒼なバックに一面の星 TOPのタイトルは
【LUPIN〜今夜も貴女のハートを狙っています〜】
カウンターは
【ハートが盗まれた数 24678】
その下に
【当店1の大泥棒 LUPIN】
その更に下 画面ではセンターの位置に
あの人の画像
間違いない。ホクロの位置も、長い睫毛も、サラサラの金髪も。
「このHP開いてみる?」
モニターに釘付けな私に問いかける。
緊張してきた。口の中に唾が溜まる。
「・・・ゴクッ・・・・うん。」
「よし。」
カチャ
マウスの乾いた音が響いた。
☆オーナー
☆システム
☆スタッフ
☆メニュー
☆アジト
「じゃぁ上から。」
一番上の☆をクリック
「あ・・・・・。」
そこに現れたのは
【I・G・C(石川グローイングアップコーポレーション)代表 石川梨華】
「石川梨華。亀が言ってた『梨華ちゃん』はこの人だね。」
「・・・・多分。」
石川梨華さん。 綺麗な人。
ディズニーに出てくるヒロインみたいなお姫様、お嬢様、そんなのが似合う人。
このビジュアルであのアニメ声・・・・反則でしょ・・・。
- 44 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/29(木) 15:59
-
「次行くよ?」
カチャ
○フリーチャージ 5000円
○キープチャージ 4000円
○ゲスト レディースONLY
「ふりーちゃーじ?何これ?」
「私もよくわかんないけど、飲んだり食べたりする以外に、
座っただけで発生する料金じゃない?いわゆる場所代。」
「へぇ・・・じゃぁゲストってのは?」
「お客さんの事だと思う。レディースONLYだから女性限定。って事かな?」
「ほぉえー。」
「ここ・・・ホストクラブ?」
「えええ!あの人女の人だよ?ひとみさんだし。」
「じゃぁ・・・・・。」
「じゃぁ?」
「なんて言うか・・・ニューハーフの逆?ミスダンディー?」
「・・・・・・・。」
確かに中性的な人だけど、それって女の人が恋愛対象って事だよね?
「TVなんかではたまに見かけるけど、実際あるんだね、こう言う世界。」
さほど驚かず納得するガキさん。
でもこれであの時ベットで聞いていた喧嘩の内容が理解出来る。
寝ていた私に対しての『新しい恋人』発言も。
「亀?何だかややこしいトコに首突っ込んじゃったみたいだね?」
「・・・う、うん。」
「やめとけば?」
「・・・・・・・。」
「危ないって。」
「・・・・・・。」
- 45 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/29(木) 16:00
-
平凡なイチ女子高生の私。
それが垣間見た鮮烈な世界。
私はまた、胸がドキドキしていた。
絶叫マシーンも、お化け屋敷も苦手。自ら進んで楽しむなんて考えられない。
でも今の私は・・・・少なくとも このスリルにのめり込んでいる。
自分の意志で、このスリルとアブノーマルへ近付きたがっている。
「どうしよう・・・どうしようガキさん。」
「なに?」
「私ヤバイ。ヤバイよ。」
「どうした?」
「なんつーか・・・ときめいて、血が騒いでる感。」
「乙女チックで野性的な表現だね?」
「何だろ?ねぇ?何コレ?」
ガキさんを揺すぶって問いかける。
「恋・・・かな。」
「恋。」
「んーなんかニュアンスが違う様な気もする。」
「じゃぁ何?」
「一言ではまとめられないけど、未知への憧れ、現実逃避、思春期の迷走。って感じか。」
「なんか・・・不純な感じ・・・。」
「人の気持ちなんて不純だらけだよ。そんなモン。」
「ガキさん意外と哲学者だね?」
「アンタよりは大人なだけだよ。」
「私、どうしたらいい?」
「んー今から考えよう。」
「うん。」
それから私達は色々な事について語り合った。
いつも話してる男の子の話題やオシャレの話題、つまらない人の噂。
そんな事は微塵も出てこない、本気の話。
青春 ジェンダー 現実 夢 将来 道徳 人間 終いには人生についてまで。
オレンジジュースとコーラを酌み交わし、夜通し語った 17才のある夜。
- 46 名前:エリック 投稿日:2005/09/29(木) 16:07
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
- 47 名前:はち 投稿日:2005/09/29(木) 19:30
- 更新乙です
ガキさんいいキャラしてますねwやっぱりメカに強いトコとかw
ちょっとずつ謎が明かされていってドキドキです
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/29(木) 21:22
- お早い更新お疲れ様です!
だんだん話が見えてきましたねー。
なんだかんだで超大胆な亀ちゃん素敵です。
期待して待ってます!
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/30(金) 00:35
- 亀ガキの会話がテンポよくていい感じです。
いしよしの関係も気になりますし面白いです。
頑張ってください。
- 50 名前:arowana 投稿日:2005/09/30(金) 14:27
- この記事、すごくないですか?
ttp://www9.kir.jp/sgm/
- 51 名前:エリック 投稿日:2005/09/30(金) 15:02
- >>47 はちさん
ガキさんを褒めていただきありがとうございます。
実際のガキさんは・・・・多分・・・いえ、何でも無いですがw
>>48さん
書き溜めもしていないのにエブリディ必死ですw
いけるトコまで頑張ろうと思います!
本来控えめに見える亀ちゃんが持つ大胆さ。
それを上手く載せれたらと思います。
>>49 亀垣は最近気になるコンビですw
いしよしはなんたって王道w頑張ります!
>>50 間に合ってますw と空気嫁ずにマジレスしてみますw
- 52 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/30(金) 15:03
-
「うっ・・・・ううん。」
身体に圧力を感じて目を覚ました。
私に覆いかぶさる様に迫っているガキさん。
いつもは大人ぶってるけど、寝顔は可愛い。
昨日は散々語り合ったけど、結局答えなど出せなかった。
最後の方はもう何か、ワケ解んない感じになり
昇る朝日に向かって、こう叫んでバタンキュー。
『青春を謳歌している諸君に告ぐぅ!我々は完全に楽しんでいる!
さぁ、諸君も楽しもうではないかぁ〜!!』
でも不思議。ガキさんと同じベットで寝てるのに何とも無い。
緊張もしないし、ドキドキも無い。まぁそれが当たり前なんだけど・・・。
あの人に抱き締められた時は・・・息苦しかった。
胸の中をギュッと掴まれた様に・・・・。
掬い上げられて息が出来ない金魚みたいに・・・。
この感情の正体は何なんだろう。
私の中に沸き起こる想いの正体は。
今の私には解らない。
だからあの人を求める。
知りたい、あの人を。知りたい、私自身を。
- 53 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/30(金) 15:03
-
あれからもう一眠りして親友の家を後にした。
帰り際のガキさんの言葉。
「くれぐれも無茶はしない事。」
無茶か・・・。
うん。きっと無茶はしない。
だって今の私には『無茶』な事なんて無いから。
新しくなった私は何だって出来る。そんな気がする。
突発的で偶発で不確かな出来事。
それが重なって、繋がっている今現在。
気付かなかっただけで、これまでの17年もきっとそうだったはず。
新しい毎日、新しい時間を生きて、歩いているんだから。
-----------------
ゆとり教育の現代っ子は2連休。大した予定も無い。
家に着いてとりあえずシャワーを浴び、遅めの朝食をとる。
部屋に戻っても何処か落ち着かない。外に出たくてソワソワしている。
いや、外に出たくてじゃない。きっとあの人に会いたくて・・・・だ。
スピーカーから流れるBGM。
『Let it Be』
ほら、ジョン・レノンも歌っている。
『あるがままに・・・・ あるがままに・・・・』
あるがままに財布と携帯を握り締め、私は玄関のドアを開けた。
- 54 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/30(金) 15:04
-
電車を乗り継ぎ、またやって来たこのマンション。
重々しい鉄の箱に入り Rのボタンを押す。
ガチャン ブーン
重い扉が開いたら、昨日と同じ清々しい屋上。
今日はちょっと風が強い。柵の近くまで行き一呼吸。
あの時は勢いに任せっきりで何も考えてなかったけど、
こうして改めて来てみると・・・・やっぱり高いし、怖い。
幾ら下にフロアーがあろうともここから飛び降りるなんて・・・もう嫌。
でも・・・他に方法も無いし、飛ばなきゃ入れないみたいな事言われたし・・・。
ビューッと下から吹き上げる風を受けた後、私はある事に気付いた。
「駄目じゃん・・・・。」
ここから飛んだとしても、中にあの人が居なければ入れない。
いくら私でも、不法侵入という罪位は知っている。
勝手に入ったりしたらそれこそストーカーそのもの。
階段を使い一階下る。
広いフロアーの綺麗な白いドア 701号室
その前で聞き耳をたてる。
「聞こえる訳無いよね・・・。」
インターホン押してもいいかな・・・
寝てたら迷惑だよね・・・
でも、ここまで来たんだし、うざがられるのも今更じゃん?
俄然強めな発想で、インターホンを押した。
ピーンポーン
響く
応答ナシ
アゲイン!
ピーンポーン
また響く
応答ナシ
居ないのかな?それとも素無視?
あ!原付!確認するの忘れてた。
ちょっと一回降りて、あるかどうか見てみよう。
- 55 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/30(金) 15:05
-
マンションの玄関にある駐輪場でバイクを確認。
「・・・・・・・・・・・。」
無い。ボロボロで傷だらけの原付はここには居なかった。
じゃぁ当然、あの部屋も空っぽだ。
「・・・・・はぁ。」
思い切って来たのに・・・・。
ツーアウト満塁で空振り三振 1R開始と同時にカウンターでKO
失意に満ちて溜め息をついた。
その時
「・・・・あの?」
「えっ?」
特徴がある聞き覚えのある声
振り返るとそこには・・・・
「突然お声掛けて申し訳ありません。」
「・・・・・・・・・・・。」
IGC代表の石川梨華さん が立っていた。
驚きのあまり声の出ない私。
「失礼ですが、今、エレベーターで7階から降りて来られましたよね?」
「あっ・・・まぁ。いぇ。」
「もしかして吉澤ひとみのお知り合いの方ですか?」
吉澤ひとみ・・・ あの人吉澤って苗字なんだ。
名前まで何かいい感じ。いやいやのん気にそんな事思ってる場合じゃない。
超キマヅイ・・・・。どうしよう・・・。
「いぇ、あの・・・私7階に住んでるんです。」
これでどうだ!マンションの住人に成り済ます。いい方法。
「そうですか・・・。」
よし!成功したみたい。私って賢い?
「702号室に御住まいで?」
「あっ・・・いぇ。」
「違いましたか?」
「・・・はぁ。」
わぁぁん もぉ何この人。しつこいよぉ。
- 56 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/30(金) 15:06
-
「・・・・うふふっ。」
突然笑い出すIGC代表の石川梨華さん。
「あの、何か・・・。」
「いえいえ、失礼。ウフフッ。」
失礼。とかいってる割にまた笑ってるし・・・・。
「本当に、突然ごめんなさい。」
一転して今度は丁寧に頭を下げる。
「いぇ・・・。」
「お詫びにお茶でもいかかですか?」
「へっ?」
「失礼ついでにご馳走させてくださいません?」
この流れからどうしてそうなるのか・・・
セレブって人等の思考回路は難しい・・・
「吉澤のお知り合いに、こんな失礼したままじゃ叱られちゃうわ?」
ちょこっと首をすくめて、片目でウインク。
今時こんなのリアルでやる人いたんだ・・・。ちょい関心。
でも、何処までも女の子らしいのが似合う人だなぁ。
「いぇ別に・・・私はただ7階に・・・」
「隠さなくっていいのよ?吉澤のとこに行ったんでしょ?」
ニコニコと笑って聞いてくる。その笑顔が逆に怖い様な・・・。
でも何で・・・。
「7階は最上階でお部屋は2つしかないの。一つは701で吉澤の部屋。
もうひとつは702で、今は空き部屋の筈!」
「あ・・・・・。」
「うふっ、気付かなかった?」
「・・・・・・・・・・・。」
ミステイク・・・
やっぱ私って爪が甘い。ってか、ただのバカじゃん・・・
- 57 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/09/30(金) 15:06
-
「吉澤、居ないんでしょ?」
「はぁ、そうみたいです。」
「じゃぁ、お茶をご一緒してくださいません?」
「・・・はぁ。」
半ば強引に押し切られた感じでその方向に持ってかれた。
浅はかな嘘で、こっぱ微塵に敗れた私は、この誘いを断る術も持たない。
IGC代表石川梨華さんの運転する赤のBMWは、
失意溢れる私を乗せ、軽快に走り出した。
「自己紹介もしないでごめんなさい!私、石川。石川梨華。」
「あっ、亀井絵里です。」
最初の信号で止まった時、思い出した様に話が始まる。
「絵里ちゃんね?よろしく!」
「こちらこそ!」
「初めまして・・・じゃないわよね?正確には。」
「・・・・恐らく。」
「ウフッ、そんなに固くならないで?捕って喰いやしないわ。」
「・・・・・・・・。」
昨日の痴話喧嘩 恋人発言 それが無きゃこう緊張もしない。
「まぁ、お茶しながらゆっくり話ましょ?」
「はぃ・・・。」
ブーン
『吉澤ひとみ』という、たった一つの共通点でなぜか一緒にいる他人の二人。
バラバラの線が、平行な線が、少しずつ集まり、交わる様に
段々と重なっていく、私と、あの人の周りに居る人、それぞれの時間達。
また新しい何か動き出そうとしている。そんな気がする。
車は軽快なBGMと共に このロードを走っていく。
- 58 名前:エリック 投稿日:2005/09/30(金) 15:25
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます!
- 59 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/01(土) 15:55
-
閑静な住宅街を抜けた先の小高い丘にある喫茶店
喫茶店と言っても、レストラン位大きくて、綺麗なお店。
運ばれて来たティーポットと綺麗な花柄のカップ。
石川さんが注いでくれる。
「これはね、グリーンアップルティー。
リンゴとミントで出来たお茶なの。」
「へぇー。」
不思議な匂いがする紅茶。なんだかセレブな気分。
「お砂糖は1つでいい?」
「あ、はい。」
「どうぞ。」
「すいません。」
手際よくお茶の支度をする人。全く持ってセレブな感じ。
シガナイ女子高生の私とは大違い。
「このシフォンケーキがまた最高なの。さぁ食べよ?」
「はぃ。いただきます。」
一口放り込む。
甘くて、上品で大人な味。
「どう?」
「すっごく美味しいです!」
「良かったぁ。」
屈託の無い笑顔で微笑む。
この人、悪い人じゃなさそう。
「それで・・・さっきの続きなんだけど。」
「はぁ。」
「昨日吉澤の部屋に居たのは絵里ちゃんだよね?」
「・・・・はい。」
「吉澤とはいつから?お店で?」
「・・・・・・き、昨日初めて逢いました。」
「えっ?」
「昨日の朝の通学途中です。」
「通学・・・、大学の?」
「いぇ・・・高校です。」
「高校生?」
「はい。高2です。」
「驚いた!でも、どうして吉澤の部屋に?ナンパされた?」
「・・・いぇ。それは・・・・。」
- 60 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/01(土) 15:56
-
昨日の7時45分からの出来事を話した。
屋上からのリセット、私達が飛んだ事は除いて。
あの事は何故か言っちゃいけない様な気がした。
あの人と私の秘密。そんな気がしたから。
「そうだったの。ごめんなさいね、私てっきり・・・。」
「いぇ・・・。」
「でもあのコよっぽど絵里ちゃんを気に入ったのね?」
「え?」
「吉澤はね、人嫌いなの。中々人と関わろうとしない性格。」
「へぇ〜。あ、でも、そんな感じですよね。」
「冷たいでしょ?」
「確かに。冷めてるというか、なんと言うか・・・。」
「子供の頃からあんな感じよ?可愛げが無いの。」
可愛げが無い そう言いながらも頬を緩ませる石川さん。
その表情からは 可愛くってたまらない。それが醸し出されてる。
「部屋に誰かをあげるなんて、おそらく初めてよ?」
「へぇぇぇ。」
「絵里ちゃんには何かあるのね。」
私の顔を真剣に覗き込む石川さん。
キマヅイ私は話を切り返す。
「もう長いお付き合いですか?」
「私達?そうねぇ・・・5・6年になるかな?」
「お、お友達・・・ですか?」
「ううん、違うわ。家族なの。」
「家族?」
「ちょっとややこしいんだけど・・・・。」
それから二人の出会いを話してくれた。
石川さんのお父さんの2号さん、つまり愛人の子供として産まれたあの人。
二人は腹違いの姉妹である事。
そして14歳の時、石川さんの家に養女としてあの人が来た事。
その後、お父さんが亡くなり、経営していた会社をこの若さで継いだ事。
石川家の娘で在りながら、あの人は遺産相続を拒否し続けている事。
苗字も未だに『吉澤』である事。
先代があの人に残した責任の事。などなど・・・・。
とっても複雑だった。ドラマの中の世界だと思った。
- 61 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/01(土) 15:56
-
「でもね、最近私達チグハグなの。特に吉澤が、私を避けてる。」
痴話喧嘩の時、マナーモードの携帯の時を思い出す。
あの不機嫌さは尋常では無さそう。
「何かあったんですか?」
「・・・・うん。私が・・・悪いんだと思う。」
表情を曇らせ、声は高いままだけど、トーンは低い。
「婚約・・・・したの。」
「誰がですか?」
「私・・・・。」
「へぇぇぇ・・・。」
「多分それでなんだと思う。」
はぁ と息を尽く石川さん。
「おめでたい事じゃ無いんですか?」
「まぁ・・・世間的にはね。でも本当は違うの。いわゆる政略結婚かな・・・。」
「政略・・・。」
「私が父の会社を継いだのは父の遺言なの。でもその時の私は18歳。
高校3年生だったわ。会社を経営する能力なんて何処にも無かったし、
世間の事すら何も解らない子供だった。今だってそう。21の小娘に何が出来る?」
「・・・・。」
「でもやらなきゃいけなかった。父が残したモノを必死で守ってきた。
会社を縮小して、今はたった2軒のお店だけをやっているんだけどね。」
「お店?」
「そう。『LUPIN』と『FUJIKO』ってお店。」
あのHPのお店だ。
「元々この二つは父が趣味でやってたお店。
『LUPIN』は昔はホストクラブで『FUJIKO』は会員制クラブ。
今は『LUPIN』はレディースバーになって吉澤が、
『FUJIKO』はキャバクラに毛が生えた程度のクラブで、私が店長なんだけど。」
ホスト、レディースバー、キャバクラ お水の花道って感じ。
「この二つで精一杯。私は大学もあるし、会社もあるし。
昼は大学生。夜はクラブのママ。もぉ大変で大変で・・・。」
「ホント・・・大変ですね・・・。」
「正直もう嫌なの、こんな生活。」
高い声で低いトーンがまた一段と低くなった。
- 62 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/01(土) 15:57
-
「だから結婚して会社を手放して、自由になりたい。
普通の女に戻りたいの・・・・。」
「それで婚約を・・・・。」
「そう、相手は父の右腕だった人。今でも専務としてやってくれてる。
この人なら任せてもいいかなと思ってるの。」
「スキなんですか?」
「えっ?」
「その専務さんの事。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
眉毛がハの字になる。
「いい人で、私を大切にはしてくれる。」
それ以上は何も言わない。でもその表情から本心はわかる。
「・・・・大変・・・・ですね。」
そんな言葉しかみつからない私。
「吉澤さんは反対してるんですか?」
「ううん。何も言ってはくれない。婚約するって言った時は
『そう。』だけだった。あとは・・・『責任は果たす。』と繰り返すだけ。」
「責任?」
「うん。父が亡くなる前に吉澤とした約束。
詳しくは教えてくれないんだけどね。」
「そうなんですか。」
「ホントに今の私達は他人みたい。昔は良かったなぁ・・・・。」
窓の外を遠く眺める哀愁に満ちた表情。
私の知らない二人の時間、想い、が溢れている。そう感じた。
二人とも幸せそうな顔はしていないけど、それでも私は羨ましい。
切っても切れない絆。消えない思い出。
どんなに走っても、望んでも、
私とあの人の間には生まれないモノがそこにはあるから・・・・。
ケーキを食べて甘ったるくなった口の中。
色んな想いと甘さを一緒に流し込む様に、ぬるくなったハーブティーをゴクリと飲み込んだ。
- 63 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/01(土) 15:58
-
「そうだ!絵里ちゃんに相談があるんだけど。」
「何です?」
「今、吉澤に、ひとみちゃんに一番近いのはアナタだと思うの。」
「へっ?私?」
「うん。」
「昨日逢ったばっかですよ?」
「そうなんだけど・・・。でもさっきも言った様にあのコは人嫌いでね。
そんなコが逢ったばかりのアナタを家に入れた、ベットに寝せた。
それは大変な事なのよ。」
「はぁ。」
「一緒に・・・寝たんでしょ?」
「まっ、まぁ。」
「何か・・・された?」
「いぇ、何も・・・。」
「ほらね?」
「何で ほらね?なんですか?」
「あまり大きな声では言えないけど・・・・・。」
口元に人差し指をあてて私に顔を近づける。
「あのコ、女の子しか愛せないの。」
「・・・・・・・・・・。」
やっぱり・・・・
薄々と解ってはいたけど、こうして改めて聞くとやっぱり驚く。
「でも特定のコは作らない。言葉は悪いけど、遊びでしか付き合わないの。」
「はぁぁ。」
「相当なプレイガールよ。手も早い。」
「そうなんですか・・・・。」
「でもアナタには何もしなかったんでしょ?」
「はぁ。」
「どういうアレか解らないけど・・・でも、いつもとは違うのよ。
他の女の子とは違う。」
「はぁ。」
他のコとは違う。か。
それは喜んでいいのかな?
私がガキだから何じゃないかと思うんですけど・・・・。
- 64 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/01(土) 15:58
-
「そこで、お願いなんだけど。
ひとみちゃんの側に居てあげてくれない?」
「私がですか?」
「うん、だって私は避けられてるし。」
「えぇぇ・・・。」
「最近あのコおかしいの。」
「おかしい?」
「飲めないお酒は飲むし、前にも増して言葉数が少ないし。
私、心配なの・・・・。」
「荒れてる感じなんですね?」
「そう。だから絵里ちゃんが側に居てあげてくれない?」
「私じゃ役不足ですよ・・・・。」
「そんな事無いよ!絵里ちゃんなら大丈夫!」
「・・・・・なぜです?」
「そんな気がするから!」
そんな適当な・・・・
自信ない。うざがられてるし・・・・
「今からもう一度マンション行こうか?もう帰ってるかも知れないし。」
「今から・・・・ですか?」
「どうせ部屋に行くつもりだったんでしょ?」
「はぁ、まぁ。」
「じゃぁ決まり!さ、いこ?」
またまた押し切られる。
石川さんは悪い人じゃないけど、ちょっと強引な人だ。
- 65 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/01(土) 16:03
-
私はまた赤のBMWに乗り ロードを戻っていく。
車内は軽快なBGM。
お互いに黙ったままでいる。
私の中の、さっきハーブティーと一緒に飲み込めなかった、引っ掛っている言葉。
それを出そうか出すまいか、迷っている。
言い合いしてた時の石川さんの悲しそうで必死だった声。
私に時折見せた哀愁と愛情に満ちた表情。
只ならぬ『想い』が在る。
私はそう感じていた。
曲が終わり、BGMが途切れた時、私は動いた。
「石川さんは・・・・どうなんですか?」
「ん?」
「吉澤さんの事・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
シーンとする
「絵里ちゃんは?」
私に振り返すなんて・・・・・
「私は・・・・わかりません。」
「そうなの?」
「はい。」
「じゃぁ、私もそうかな?」
「え?」
「私も・・・わかんない。でも多分・・・・。」
「多分?」
「うーん。・・・・やっぱわかんない。ウフフッ。」
「何デスカそれ。」
「でも。私達、姉妹なのよ。」
一変して小さくなった声。
音楽が始まる
飲み込めずに吐き出した言葉は、より大きくなって、重くなって
また私の喉に戻って来た。
『でも。』の前には何か言葉が在ったに違いない
それを言葉にはしない 出来ない石川さん
私とこの人には もう一つ共通点が在る
そんな気がした あの人の家族と居る午後。
- 66 名前:エリック 投稿日:2005/10/01(土) 16:08
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
- 67 名前:プリン 投稿日:2005/10/01(土) 21:03
- 毎日更新お疲れ様っすw
すっかり嵌ってしまいましたw
続き待ってますねー。
- 68 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/01(土) 21:45
- 自分もすごい嵌ってます!
また次も楽しみ〜w
- 69 名前:はち 投稿日:2005/10/01(土) 23:13
- 更新乙です
もう抜け出せませんw
- 70 名前:エリック 投稿日:2005/10/03(月) 08:30
- >>67 プリンさん
毎日お付き合いありがとうございます。
嵌ったって漢字が読めなかった自分、頑張れ自分。ww
頑張ります!
>>68 さん
ありがとうございます!感謝します!
>>69 はちさん
そのままそこに居てくださいw
最後まで居てくださいw頼みます!
今回の皆さんのレスが三段オチになってる感じで
面白いと思っちゃったのは秘密ですw
- 71 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:30
-
マンションの前に車を停める。
「あ、ある!」
遠目からボロの原付が確認出来る。
「帰ってるみたいね?」
「はい。」
「起きてるかなぁ、電話してみた方がいい?」
「電話・・・ですか。」
あの不機嫌な顔が瞬時に浮かぶ。
「しない方がいいかも・・・ですね。」
「そう?」
「はぁ。」
「まぁそうね。しても出ないし。」
ふぅ と言う顔をして開いた携帯を折りたたむ。
出ないって解ってるのにいつもかけてるなんて
この人やっぱり、ちょっと鈍感なのかも・・・
良く言えば『ポジティブ』な人。
「あっ!そうそう!」
折りたたんだ携帯をまた開いた。
「絵里ちゃんのメルアドと番号教えてくんない?」
「あ、はい。石川さんドコモ?」
「うん。」
「じゃぁ赤外線でいけますね。」
「うんうん。」
私達はお互いの携帯をゴッツンコさせて番号交換をする。
機械同士が意志を疎通している。
見ていたらそんな事を思った。
「完了!なにかあったら連絡して?」
「はい。ありがとうございます。」
「ごめんね?何だか色々と・・・・。」
「いえ、私こそ・・・。」
よく解らないけどお互い謝り合っている
- 72 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:31
-
「何も無くても電話してよ?」
「は、はい。」
「ウフッ。ひとみちゃんの気持ち、何だか解ったかもしんない。」
「どういう事です?」
「絵里ちゃんって、何て言うか・・・可愛いから!」
「えええ。」
こんな可愛い人にそんな事言われたら・・・何だか。
「ホントホント!超可愛い。」
「えええ。」
「ウフッ。」
何だか恥ずかしい。面と向かってカワイイだなんて・・・・
「じゃぁまたね?」
「はい、ご馳走様でした!」
「また、行こうね。」
「はい!」
「ひとみちゃんを・・・よろしくね。」
悲しげに微笑む。複雑な表情。
「・・・はぃ。」
バタン
車を降りた。中から石川さんが手を振る。
私は ありがとうございましたー と口パクで言い頭を下げた。
車を見送った後、手に握った携帯を見る。
それが何故かいつもより重く感じたから。
視界に入るあの人の原付。
すくみかける両足。
逢いたい。逢いたくない。
相反する私の気持ちが混ざり合う。
もう一度携帯を見る。
いつしか石川さんに対して、戦友の様な感情が芽生えていた。
私達は、同じモノに心を奪われている者同士
自ら甘い罠に両手両足を差し出す者同士
答えを模索して、自分と戦っている者同士
そんな感情。
でも本当は敵同士なのかも知れない
私達が求めるのは・・・たった1人しか居ないあの人。
たった一つしか無い あの人の心 なのだから。
- 73 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:32
-
「よし・・・。」
自分を勇める様な気持ちで言葉を吐き出し、マンションの玄関をくぐった。
やっぱ R だよね・・・・
しぶしぶボタンを押す
本日二度目 昨日からすると三度目の屋上
ビユゥゥゥ
一段と強くなっている風が前髪を吹き上げる。
「飛びたくなったら来ればいい。」
あの人の言葉
今の私は飛びたくもないし、リセットもしたくない。
昨日新しくなったばかりなんだもん。
柵に手をかけ下を見た。
「あ・・・・。」
「あ・・・・。」
相変わらずけだるそうな表情。
バスローブ姿でテラスに立っていたあの人。
私は上。あの人は下。
「飛ぶの?」
ブンブンと首を振る私。
「じゃぁ何してんの?」
「何って・・・・。」
「暇人だな。」
「ええええ。」
「じゃぁね。」
そう言って部屋に入って行く。
「ちょーっと!待ってくださいよ!」
私は必死で叫ぶ。
「くっくっくっ。」
笑いを噛み殺して再び私の視界に現れた。
「冗談。おいでよ、玄関から。」
いたずらっこの様な笑顔で部屋の中を指差した。
- 74 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:33
-
ガチャ
「ほい。」
「おじゃまします。」
ホントお邪魔だな とつぶやいてドアを閉める。
相変わらず薄暗い部屋。シーンとしている。
「今日学校は?」
「土曜ですから。」
「そか。」
煙草に火をつけてドカッとソファーに座り、ポンポンと隣を叩く。
恐る恐る隣へ座った。
フゥーっと煙を吐く。モクモクと広がり、一面に白いモヤがかかる。
「つーか、すげータイミング。」
「え?」
「キミ。昨日と言い、今日と言い。」
「そうですか?」
「昨日事故った道いつもは通らないんだ。
近道があるんだけど工事してたから周ったんだ。」
「そうなんですか。」
「今だって、いつもはテラスになんか出ない。」
「何故出たんです?」
「・・・ツバメが居たから。」
「ツバメ?」
「テラスの壁に巣作ってるみたいで、小さな枝とか葉っぱとか
咥えて何度も戻って来るんだ。それ見てた。」
「へぇ〜。ツバメの巣ってそんなので出来てるんだぁ。」
「そうみたい、さっき知ったけど。こんな都会でさ、一生懸命生きてるって言うか、
野生を身近に感じたって言うかさ。そんな感じ。」
ツバメについて述べた感想は、ツギハギで率直なんだけど言いたい事は解る。
きっと頑張ってる姿に励まされた感じなんだ。
「誰も教えないのにさ、凄くね?」
「何を?」
「巣作りとか、親からは習わないんでしょ?」
「本能なんですかね。」
本能 自分で言って ドキッ とした。
昨日から私を動かし続けているモノ それも本能。
- 75 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:33
-
「本能か、人間にもやっぱあるのかな?」
「ありますよ!」
「どんなん?」
「うーん。」
「飯の喰い方とかトイレとか学校とか服とか。
全部親から教えてもらわなきゃ出来ないじゃん。」
「まぁ確かに。」
「人間って野生じゃないから本能無いんじゃない?」
「そんな事無いですよ?ちゃんとありますから。」
「そう?」
「人を・・・好きになる、愛する本能。親からは習わないですよ、恋愛は。」
「・・・・ゴッ、ゴホッ。」
煙を吐いている途中にむせた。
その後、私をジッと見る。
「なっ、何デスカ?」
「へぇ〜。」
「何が へぇ〜 なんですか。」
「いや、何かさ、かっけーよ。」
かっけー?カッコイイって事?
「誰が?ツバメ?」
「キミ。」
私?なんだ?褒められてんの?
「まぁ、ツバメもかっけーよな。ビューって飛ぶし。」
『飛ぶ』 コレがこの人のキワード。
大空や鳥に憧れがある。
野生のたくましさ・誠実さに憧れがある。
そう感じた。
それ イコール 自由
この人は自由になりたい。
解き放たれたい。解き放ちたい。
イコール
何かに縛られている。何かを縛っている。
そう感じた。
- 76 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:34
-
「かっけーですよ。」
「ん?」
「アナタも十分かっけーと思います。」
短くなった煙草を消す。
フッと笑って
「ナマ言うな。」
パン と自分の両膝を叩いて立ち上がり、大きな窓に向かって背伸び。
「生意気でした?」
「相当ね。」
生意気か・・・。思い切って言ってみたのに・・・。
「ツバメには適わねー。」
独り言みたいに呟く。
「もう寝るけどさ、どうする?」
「どうって・・・・。」
不敵な笑みを浮かべた顔。
私の反応を伺って、からかってる様な・・・
プレイガールの片鱗を見せる。
「・・・帰った方がいいですか?」
「どう思う?」
ソファーの後ろに周りその背越しにズイッと私に寄る。
「・・・・・・・・。」
「ははっ。その顔。」
笑って離れ、キッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けて何か取り出し プシュッ タブを開ける。
「好きにしなよ。」
ゴクゴクと流し込んだ後、ちょっと冷たく言う。
そのままベットに向かっていく。
突き放された。 そんな感じ。
さっきまで機嫌良くツバメや本能を語ってくれてたのに。
胸の奥がズーンと重くなり、ズキズキ痛む。
近付いて 遠ざかって 開いて 閉じて その繰り返し。
でも、青春の最中にいる私は・・・・きっとへこたれない。
ツカツカとベットまで歩き、隣に掛ける。
- 77 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:35
-
「おっ。」
面白がる様な目で私を見る。
その手には 缶ビール
「お昼からそんなの飲んで良くないですよ。」
「誰が決めた?」
「・・・・・・・・私が決めました。」
グイッ
ゴクゴクゴク
その手から缶を奪い 一気飲み。
炭酸が喉で弾ける。
プハッ ハァハァ・・・・
思ったより、量があった・・・・
口の中が苦い ビールってマズイ。
「あーぁ、全部飲んじゃったよ。」
私の手から缶を奪い取り中を覗いている。
「大丈夫?」
「はい。」
「飲めるの?」
「多分。初めてですけど。」
「無茶すんなぁ。」
その言葉にガキさんを思い出す。
ごめんガキさん。流石に今のは無茶だったかな・・・
「・・・・プッ。なんだその捨てイヌみたいな顔は。」
「えっ・・・」
「あの朝もそうだった。まるで置いてかれてる捨てイヌ。」
この人に必死でしがみ付いてた朝の私・・・か。
今もそう。必死で側に近付いている。
「だって、置いていくんですモン。」
さっきのビールが効いてきたのか頭がクラクラする。
「出逢った瞬間にもうサヨナラなんて、勝手です。」
何だか涙まで出てきたし。
- 78 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:36
-
「おいおい、何泣いてんだよ。マジ泣き虫だなぁ。」
「私は泣いてません。本能が泣いてるんです。」
「また訳のわからん事を・・・。」
「わからんでいいんです。自分でもわからないから。」
今の私って俄然強め? ビールってアルコールって自白効果があるの?
この勢いなら言える。
「でも、わかんないけど、側に居たい。近くに居たい。」
ポロポロと出てくる涙
ポロポロと出てくる言葉 想い
これは私の本能 私の中の私
「わかったよ。」
冷たく優しく私を誘い、共にベットに横たえる。
左腕に抱きこまれてグッと距離が縮まる。
「ほら、近いよ。」
「遠いです。」
アナタと私の距離
「これでも?」
- 79 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/03(月) 08:38
-
フッと視界が暗くなり 私達の距離が無くなる
ヒンヤリ冷たくて、柔らかい優しい感触
今の私は正に 溺れる金魚
ビールの泡に溺れている
「これでもまだ遠い?」
笑った様な真剣な様な 悲しいその瞳に また涙が溢れる
きっと私達はお互いに同じ瞳をしている
近付いた物理的な距離
でもきっと変わらない精神的な距離
離れようとする身体を引き寄せ
今度は自分から距離を無くす
近付いた距離の先には きっと何かがある筈
それが何であろうと構わない ただただ今は 側に居たい
苦くて甘くて 冷たくて温かい ビールの味がした 17才のファーストキス
- 80 名前:エリック 投稿日:2005/10/03(月) 08:47
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
- 81 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/03(月) 09:26
- こちらこそありがとうございます
- 82 名前:プリン 投稿日:2005/10/03(月) 20:15
- お疲れ様でっす。
おおっ。どーなっちゃうんだ!?ワクワク
ありがとうございました。(ナニガ
待ってまーすね。
- 83 名前:仮名募集中。。。 投稿日:2005/10/03(月) 23:50
- 萌えた・・・
- 84 名前:エリック 投稿日:2005/10/07(金) 16:44
- >>81 さん
いえいえこちらこそありがとうございます。
>>82 プリンさん
どうなっちゃうんでしょう(ニヤニヤ
ありがとうございますw
>>83 さん
喜ばしいお言葉ありがとうございますw
- 85 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/07(金) 16:44
-
------------------
ズキズキ
ズキズキ
酷い頭痛で目を覚ます。
何でこんなに頭が痛いんだろう・・・・。
風邪?じゃぁないよね・・・・
もしかして・・・これが噂に聞く二日酔い?
まだ二日とか経ってないけど?
若干もうろうとしてる頭で何時間か前の記憶を呼び起こす。
キス を した
初めはこの人から。
次は私から。
今もこの身体に絡められている長い腕に擁かれ、何度も何度も。
蘇るあの時の想いと感触。
容赦ない頭痛と、相反するトキメキが私を襲う。
吐息を刻む目の前の唇を見つめながら 自分の唇をなぞる。
信じられない。でも真実。
この人と・・・キスをした。
映画で見る恋人同士の様な、愛の溢れるキスじゃない
唐突で偶然で成り行きなキス。
この人にとっては軽い火遊びなのかも知れない。
火遊び所か、単なる気まぐれなのかも知れない。
でも 私はそれでもいいと思ってる。
この人が私を求めた。私もこの人を求めた。
それで十分。
今の私にとっては十分過ぎる。
自分の想いに、本能に、正直なキスだったから・・・
- 86 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/07(金) 16:45
-
決して性的なモノじゃ無く、慈しみ合う様な、それこそ傷を舐め合う様な行為。
お互いが何かを得たり、癒されたりした訳じゃない。
舐め合った傷は、前よりもっと深くなり
触れた唇を離す度、この距離は遠ざかったかも知れない。
でも、散々にこの唇を、舌をほだした後 アナタが言った言葉。
「ゴミの中で、このシャンプーの香りに救われた気がしたんだ。」
そう言って私の髪にそっと口付けたアナタ。
抽象的過ぎてよくは解らなかったけど 『救われた』 その言葉が嬉しかった。
零から何かが生まれるのかも知れない。
そんな感じがしたから
♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私の携帯のメール着信音が鳴る。
静寂を破るその音がやけに耳につく。
「・・・・うっううん。」
「・・・・・・・・。」
目を覚ましたアナタ。
その顔を見ていた私と目が合う。
フッと優しく笑う綺麗な顔。
「キミの名前・・・聞いてなかったよね?」
起きてからの第一声
なんともロマンチックな言葉・・・
- 87 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/07(金) 16:45
-
「絵里・・・亀井絵里です。」
「よろしく、亀井絵里さん。」
「よ・・よろしくお願いします・・・。」
何をよろしくなのかわからないけど・・・
とりあえず自己紹介。
「名前・・・知りたい?」
自分を指差す。
「そりゃぁ・・・・。」
どーしよっかなぁー とかつぶやいてる。
本当は知ってるんだけど・・・・
「吉澤。」
「吉澤・・・さん・・・。」
「そう。ヨシザワ。」
「はい。」
「よっすぃーって呼んでもいいよ?」
笑いながらベットから起きあがる。
「よっすぃー・・・ですか?」
「うん。」
短く返事をしパタパタとスリッパを鳴らしてキッチンへ。
よっすぃーとか・・・なんか・・・。
私も起き上がりテーブルに置いた携帯をチェックする。
【From 石川梨華】
ひとみちゃんとは会えた?様子はどう?
元気そう?ご飯食べてる?
うーん、心配(T-T ) 絵里ちゃんのメール
待ってるよ!!
石川さん・・・・だった。
石川梨華 の文字を見た時、胸の奥がチクッとした。
抜け駆け 裏切り そんな単語が頭に浮かぶ。
この人を想って一生懸命な石川さんにとても申し訳無い気持ちになる。
悪い事・・・してるのかな・・・
ドカッ
ソファーに座る吉澤さん。
カメカメ、絵里っぺ、えりりん、エリー・・・・
1人でブツブツつぶやいてる。
「亀ちゃんでいいや。」
「へっ?」
「アダ名だよ。」
「はぁ・・・。」
アダ名とか久々。
何か子供の頃みたい。
「じゃぁ私は・・・吉澤さん、で。」
「普通じゃん。」
「・・・駄目ですか?」
「いいけど。」
なんだろ・・・。
またいつもの雰囲気に戻ってる。
あのキスが・・・・嘘みたい。
ズキズキ
また頭痛が始まる。
「・・・イタイ。」
「ん?」
「頭・・・痛いです。」
「飲んだからだろ。」
「ですか、やっぱり・・・」
大人の階段を登った証。
大人への洗礼。
そう思う事にしよう・・・。
- 88 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/07(金) 16:46
-
「明日も休み?」
「はい、日曜だし。」
「じゃぁ、居なよ。」
煙草に火をつける。
「朝方には戻るからさ。」
静かな目で私を見る。
迷惑とかお邪魔とか散々言っておいて
今度はそう来ましたか、そうですか。
居てよ。とか居たら?とかじゃなくて
頭っから『居なよ。』ってトコがこの人らしいんだけど。
「はぃ。」
間髪入れずに返事をしてる私も私。
「うん。」
----------------
「DVD好きなだけ見てていいから。」
「はい。」
「誰か来ても開けない様に。」
「はい。」
「火は使わない。」
「はい。」
何だろ、お子様の初めてのお留守番みたい・・・
「じゃぁ。」
「行ってらっしゃい!」
「うん。」
パタン
行ってらっしゃい。
その言葉に不思議な違和感を覚えた。
昨日出逢ったばかりの人を、そう言って送り出してる。
「変・・・なの・・・。」
1人でつぶやいた。
あの人の居ない部屋は余計にだだっ広い。
大きなTVの前に行き、DVDを物色。
ジブリ全作品を始めとするDVDがズラリ。
でも系統は決まってるみたい。
宮崎アニメかアドベンチャーモノしかない。
インディージョーンズ、パイレーツ・オブ・カリビアンなどなど
でも私はとりあえず、電源をつけてそのままメニューを押した。
ハウルの動く城
初めて来た日にあの人が見ていたモノ。
新しくなった、リセットしたあの人が見ていたモノ。
それがどんなモノなのかちゃんと見てみたかったから。
- 89 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/07(金) 16:47
-
滑稽でゴチャゴチャな歩くお城
その城主は魔法使いハウル
悪魔との契約
ハウルが失ったモノ
周りが欲しがるモノ
「ちょっと・・・・」
私はある事に気付いた。
あの人はハウル。
この魔法使いハウルそのもの。
広いだけであまり意味の無い部屋
その部屋の主は吉澤ひとみ
父親との約束
吉澤さんが失ったモノ
周りが欲しがるモノ
唖然とした。
似過ぎてて寒気までした。
ハウルはあの人だ。
あの人はハウルだ。
ピーンポーン ピーンポーン
突然のインターホンに身体が固くなる。
開けてはいけない決まりのドア。
私は息を潜める。
ピーンポーン ピーンポーン ピーンポーン・・・・
しつこく繰り返される。
ドンドンドン
今度は叩いてる。
「おーーーい、亀井絵里!!」
「えっ?」
あの人、吉澤さんの声だ。
私は慌てて玄関へ飛んだ。
- 90 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/07(金) 16:47
-
ガチャ
扉を開けるとそこには
白いスーツをまとった実写版ハウルが
コンビニの袋を両手に持って立っていた。
「・・・開けるの遅い。」
「だって・・・。」
「まぁ、開けんなって言ったけどさ。」
「はいぃ。」
苦笑するハウルな吉澤さん
「はい、これ。」
コンビニ袋を差し出す。
「どれが好きかわかんなかったから全部買ってきた。」
「えええ。」
「好きなの食べてよ。」
「はっ、はぁ。」
一方の袋にはお弁当やパンがどっさり。
もう一方にはジュースや水、お菓子がどっさり。
「じゃぁね、抜けて来たけらもう行くよ。」
白いスーツ
それは『LUPIN』になった姿。
「あっ、ありがとうございます!」
「おう。」
立ち去ろうとする『LUPIN』
「あの、白、似合ってますよ!」
「・・・・・・アホゥ。」
「ホントです!」
「七五三だよ。」
照れた様な顔で「鍵、忘れない様にね。」とだけ言ってドアを閉めた。
私の両手には重いビニール袋。
魔法使いなハウルで大泥棒な『LUPIN』からのプレゼント。
ひとつひとつテーブルの上にそれを並べて幸せな気持ちになる。
これは全部あの人が私にくれたモノ。
白いスーツを着て、ボロい原付に乗り持って来てくれたモノ。
ぶっきらぼうで素っ気無い態度とは裏腹なこの量。
胸がジンとした。
飛び上がりたい程嬉しくなった。
食べるのが勿体無いとさえ思った。
いつかわからない帰りを待つ あの人の魔法にかかった17才の夜
- 91 名前:エリック 投稿日:2005/10/07(金) 16:53
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
あと、ハウル見てない方、ネタバレすいません。そして、是非見てください。
- 92 名前:はち 投稿日:2005/10/07(金) 18:42
- 更新乙です
なんかそうきたか!って感じですw
いいんじゃないでしょうか、あえて何とは言いませんがw
次回の更新もお待ちしとります
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/07(金) 18:47
- 更新お疲れ様です。
いいです!!
吉亀いいなぁ。
ハウルみたこと無いんで、これを機に見てみます。
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/07(金) 23:53
- せっかく●持ちの俺がまとめサイト作ってたのに…
- 95 名前:エリック 投稿日:2005/10/10(月) 19:37
- >>92 はちさん
こう来てみました。亀井さんは未成年なのでw
>>93 さん
ハウル最高です。是非御覧ください!
>>94 さん
おおお。アナタは前作をまとめてくださったお方ですか?
あそこで連載するには長すぎるとみてこちらにやってきました。
お心遣い感謝いたします。今後もよろしくお付き合いください。
- 96 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/10(月) 19:38
-
明け方の空 遠くが薄っすらと明るい
ペットボトルのミルクティーを一口飲んでテラスに出る
「・・・・さむ。」
思ったより冷えるな
もう、秋か・・・・
壁には作りかけのツバメの巣がある。
まだまだ土台という程も出来ていないその形
巣と呼べるカタチになるまでどれ位かかるんだろう。
私とあの人の間に何かのカタチが出来るまで、見えるまではどれ位・・・
ガチャガチャ
玄関から音がする。
帰ってきたかな?
私は玄関へ忍び足。
「・・・・何やこれ?どれかわからへん。」
「おい!吉澤!どれが部屋の鍵やねんな?」
「何でこんなに鍵があんねん!!おい!」
ジャラジャラと金属がぶつかり合う音
鍵が付きまくったビトンのキーフォルダの音
そして知らない人の声
ガチャガチャと鍵穴に何度も鍵を差し込む音
「ちょーアンタしっかりしいや!ほれ!どれやねんな?」
「これ?これなんやな?」
ガチャリ・・・
鈍く響く開錠音
扉の向こうに居たのは、金髪で大人な感じの女の人と
スーツがグチャグチャに乱れたグデングデンの吉澤さん
「・・・・何や、中におったんなら開けてくれたらええのに。」
驚いてる私に、面倒臭そうな顔をして言う女の人。
「すっ、すいません!」
「あ〜ちょっとこのアホ支えたってくれへん?
多分よう歩かんから、気を付けてな!」
「はっ、はい!」
その人にもたれ掛る吉澤さんの肩を支える。
「とりあえずベットにでも放り投げときや。」
「あ、はい。」
ヨロヨロと典型的な千鳥足
漏れる息は苦しそうで、お酒の匂いがする。
「よいしょっと・・・・」
ベットに寝かそうとするけど上手くいかない。
「きゃぁ!!」
共にベットに倒れこむ私達。
- 97 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/10(月) 19:39
-
「ちょっと、いちゃつくんは後にしいや。」
女の人が冷蔵庫を開けながら言う。
「そっ・・・そんなっ・・・。」
力の無い重い身体をベットに転がして、自分だけ起き上がる。
目の前にいる白いスーツ姿は完全な酔っ払い。
『飲めないお酒は飲むし・・・・』
石川さんの言葉が浮かんだ。
「なぁ?これ飲んでええ?」
ペットボトルのコーヒーを手に持っている。
「あ、どうぞ!」
「アンタも座りいな、そいつはほっといても大丈夫やから。」
「は、い。」
私はその人の隣にオズオズ腰掛けた。
「あー疲れたわ。ホンマ。」
「お疲れ・・・サマです。」
「なぁ?」
同意を求める様に私を見る。
「はぁ、まぁ・・・。」
「アンタ、吉澤のコレ?」
右手の小指を立てている。
「コレ・・・・?ですか?」
「コレやん、コレ。」
「コレ・・・・。」
「吉澤の女かって事やん。コレわからへんて歳ナンボやねん。」
立てた小指を強調して呆れた口調。
「お・・・女って・・・。いえ・・あの17です。」
「はぁ?」
「女とかじゃないです。えと、17才です。」
「・・・・・。」
鳩が豆鉄砲くらった様な顔をする関西弁の人。
「何?妹?いや、妹はおれへんよな、何、17?」
「はぁ・・・。」
「若っ!!んで?何でここにおるん?」
「・・・・何で、ですか。」
何でだろう・・・・ 居ろと言われたから・・・・ですかね・・・
- 98 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/10(月) 19:39
-
「引っ掛けられたん?」
「えっ!」
「たぶらかされたん?」
「えっ・・・。」
「そうなんやな?あいつこんな若いコまでいっとるやなんて・・・・。」
「いえ!そんなんじゃないです・・・。」
「そうなん?」
「はい。吉澤さんとは・・・・・お友達デス。」
『友達』 自分で言って相当な違和感
「ほお〜友達か。ほぉ〜。」
マジマジと私を見る。
「まぁええわ。ウチは中澤ってモンや。『LUPIN』のマネージャーです。」
「あ、あぁぁ。中澤さん・・・。」
『LUPIN』のマネージャーさんか。
「私は亀井絵里です。」
「亀井さんね?逢うた事無いよな?」
「はい。多分初めてお会いします。」
「ん。ほなよろしく。」
ニコッと微笑む中澤さん。
「宜しくお願いします。」
「吉澤との付き合いは長い?」
「いえ・・・そんなには・・・。」
まだ2日とか言えません。
「そうか、でもこの部屋におるっちゅー事はまぁ、気心しれてんのやな。」
「ま・・・まぁまぁです。」
石川さんも言ってた様な事。
「最近荒れてるよなぁ吉澤。」
「みたいですね。」
これも石川さんが言ってた。
「まぁ、わからんでもないけどな。」
わからんでも無い。中澤さんは何かを知ってる?
「でも負けたらアカンねん。」
強めの口調。
「今は辛いかも知れんけど、これでええんちゃうかと思うねん。
ただ、酒に逃げるのは良うないわな。」
真剣な顔付きで語る。
- 99 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/10(月) 19:40
-
「今日もお嬢さんが来はった途端に機嫌悪うなってな。
その後アホみたいに飲み出してこの有様や。」
「お嬢さん?」
「石川さん、梨華さんや。知っとるやろ?」
「あ、石川さんですね!」
「そう。店に専務と二人で様子見に来てんやんか。
後、従業員に報告も兼ねてな。」
「あぁ・・・。」
「わざわざそんな事せんでもええのにな。
まぁあの男の考えそうな事やけど。」
「専務さん?」
「そうや、おそらくヤツがみんなに見せ付ける為に来たんやで。
もうすぐIGCのトップは自分になるって見せ付ける為にな。」
「へぇ・・・・。でもいい人だって石川さんは言ってましたよ?」
「・・・・梨華さんの前ではな。
でもウチは知っとる。先代の頃からの付き合いや。
あいつは、専務は中々の喰わせモンやで。」
「そうなんですか・・・・。」
「でも梨華さんも薄々は気付いとる筈や。
それでももう選択肢が無いからこうなったんやろう。辛い話や・・・・。」
石川さんの曇った表情が思い出される。
今の話しを聞いてなんとなく解ってきた。
あの人の態度・お酒・屋上・・・・
全ては石川さんの婚約と会社の事に関係してる。
「でもこれでいいんや。
長い冬の終わりがきたんや。梨華さんにも、吉澤にも。」
意味深にそう言って、頷きを繰り返す中澤さん
- 100 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/10(月) 19:41
-
「お二人との付き合いは長いんですか?」
「ウチ?そうやな、梨華さんとは子供の頃からやな。
ウチは元々亡くなった社長の秘書やってん。
会社がこうなってからは『LUPIN』のマネージャーで、
吉澤のお守りと言うか、お目付け役というか・・・教育係りやな。」
「教育・・・。」
「何も知らん子供の吉澤に世の中を教えて、
立派なナンバーワンにしたのは、このウチや!」
「そうなんですか。」
「そうや、言うならばオカンみたいなモンやな、ハハッ。」
「オカンですか・・・あははっ。」
「コイツの世話大変やねん。
最近はまぁマシになったけど、昔はやんちゃなヤツでな。」
「へぇ〜。」
「苦労したわ・・・。
まぁこれから暫らくはまた苦労すると思うけどな。」
「ご苦労様です・・・。」
「乗りかかった船や、ウチも吉澤の事可愛いしな。」
優しく微笑む顔はまさしく オカン
肝っ玉なお母さんの顔
「で、アンタ・・・絵里ちゃんやっけ?アンタはどういう立場なん?」
「え?」
「友達ちゃうやろ?」
「え・・・。」
「吉澤には友達なんかおれへん。今も昔もな。」
「・・・・・・・・・。」
- 101 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/10(月) 19:41
-
「絵里ちゃんも好きなんやろ?あのやんちゃくれが。」
「・・・・・・・・・・・。」
「顔見てたらわかるわ。」
「・・・嘘!?」
「わかるわそんなん。何年この商売やってる思てんねん。」
「・・・。」
「吉澤はホンマ魅力的やからな。
堕ちた女は数知れず、たまにウチも堕ちそうや。」
「えええ!」
「イタリアの少年みたいな美しい容貌で、掴み所のない性格。
ほがらかな表の顔、甘えたな中の顔、ダークな裏の顔。
何処を執っても世の中の女の大好物な存在や。
ウチももし店の客やったら、イチコロやったわ、あはは。」
笑いながらコーヒーを飲む中澤さん。
目が笑ってないですよ、目が・・・
「好きなんですかね・・・・。」
「へっ?」
「私、わからないんです。でも側に居たいなっては思うんです。」
「そうか、まだ17才やもんな。」
「子供だから解らないんですかね?」
「ん・・・・そうとは言い切れんけど、それはあるよな。」
「そうですか・・・。」
「でもな、絵里ちゃんは何か違うで。
アイツにただ堕ちていく女達とは違う雰囲気がある。
なんやろ・・・わからへんけど。」
石川さんもそんな事言ってたよね?
「梨華さんもそうやけど、またバージョン違いやな。
うん、めずらしいタイプや。」
「・・・・そうですか?」
「うん。だから吉澤もアンタと関わるんやろうな。」
何だろう・・・・・
私って・・・・何なんだろう・・・・
自分じゃ解らない。
石川さんや中澤さんが言う 『違い』
平凡なイチ女子高生の私に何があるって言うんだろう。
- 102 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/10(月) 19:42
-
「吉澤をよろしく頼むわ。」
頼むって言われてもどうしていいかなんて解らない。
「頼まれても困るんです!どうしていいか・・・・。」
「どうもせんでいい。そのまんま、その気持ちのまんまで側におったってや。
それだけでアノ子には十分や。」
「そのまんま・・・・。」
「うん、そうや。」
「は、い・・・。」
「なら、ウチ帰るわ。まだ店の仕事残っとるし。」
「あ、はい。」
立ち上がりスタスタ歩いてベットまで行く
ほんま可愛いやっちゃなぁ と言ってあの人のホッペにキスをした。
「ほなね。」
「・・・はい、お疲れ様です!」
中澤さん・・・・・
この人に対して、石川さんとはまた違う愛情を持った人。
もちろん私とも違うモノ。
静かにベットサイドに寄り屈み込む
依然と乱れた呼吸
微かに出来てる眉間の皺
苦しいのかな
戦ってるのかな
深い深いこの人の中
そこに入り込んで行けるのならそうしたい
こんな私で役に立つんなら
側に居る意味があるのなら
- 103 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/10(月) 19:43
-
窮屈に締まったシャツのボタンをひとつ外す
顔に掛かった長い前髪をそっとよける
ゆるく握られた手の平に触れる
冷たい
乾いていて 冷たくて 柔らかくて 細くて
ポタッ ポタッ
白いシーツに染みが出来る
染み込んでいく 私の涙
動かないこの手を握り締めていよう アナタが目覚めるまで
ずっとこうして握り締めていよう 私の温度を感じて目覚めてくれるまで
もし 私の熱が無くなって このまま凍ってしまっても ずっと握り続けていよう
アナタが少しでも安らかに目覚めるのなら
凍りついた心の氷壁が少しでも剥がれ落ちるのなら
堕ちます アナタに
迷わずに
アナタの心が見えるなら 触れられるなら
迷わずに
どんなに真っ黒で底無しでも
真っ白で無限でも
迷わずに
何処までも
アナタに 堕ちてゆきます
約束します
- 104 名前:_ 投稿日:2005/10/10(月) 19:45
-
- 105 名前:_ 投稿日:2005/10/10(月) 19:45
-
- 106 名前:エリック 投稿日:2005/10/10(月) 19:45
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 20:16
- まぢでイイです・・・
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 22:21
- きゃなり良すぎっす・・・
- 109 名前:エリック 投稿日:2005/10/11(火) 13:34
- >>107 さん
ありがとうございます!マヂありがとうございます。
>>108 さん
そのお言葉きゃなり嬉しいです!
- 110 名前:17歳のカルテ[ side her] 投稿日:2005/10/11(火) 13:37
-
暖かい・・・
目を開けると見慣れた天井
ムカムカする。
飲み過ぎだな。
どうやってここに帰ったのかさえ思い出せない。
左手に重さを感じて横に目をやると
そこにはベットに寄り添って眠る姿
その両手がこの左手を固く握り締めている
この子か 暖かいのは・・・
テラスからはもう午後の日差しが差し込んでいる
右側のズボンのポケットで振動を感じた
携帯電話を取り出し開く
午後のニュース便・・・か
何となく残念でホッとしてる自分
何を期待したんだろう
何でホッとしたんだろう
待ち受け画面に戻すと不在着信マーク
10/02 4:25 不在
梨華ちゃん
10/02 5:45 不在
梨華ちゃん
10/02 9:03 不在
梨華ちゃん
静かに携帯を折りたたみ枕の下に押し込む
- 111 名前:17歳のカルテ[side her] 投稿日:2005/10/11(火) 13:38
-
不思議と穏やかな気分
体中を酒が廻ってるけど穏やかだ
いつものあの苛立ちも少ない
この子のお陰だろうな
グチャグチャなゴミの中でこの子に救われた
冷たくて広いベットの中でも救われた
今も、目が覚めた瞬間に救われた
いや、夢の中でも救われていたはず
突然この腕に飛び込んできた
追い掛けて飛び降りてきた
泣きながらキスをしてきた
暖かくこの手を包んでくれてた
辛そうな体勢で静かに眠る少女
その頬をそっと右手で触る
暖かいな。
しつこい様だけど、またそう思った。
「絵里・・・亀井絵里・・・・。」
この少女の名前を呼ぶ。
「亀ちゃん・・・。」
自分が付けたアダ名で呼ぶ。
ゆっくりと開かれる瞳
次第に彩るその瞳
グッと強く握られる左手
「・・・・良かった、暖かい。」
そう言って微笑むその少女
- 112 名前:17歳のカルテ[side her] 投稿日:2005/10/11(火) 13:41
-
鉛の様に重い体でベットからすべり落ち そのまま少女を抱き締めた
ゆっくりと回された腕がこの身体を包む
「おかえりなさい。」
くぐもった声が胸の辺りで響く。
「ただいま。」
とっくの昔に忘れていた
もう使う事も無いと思っていたこの言葉
懐かしくて 温かくて らしくもなく 涙が出そうになった。
ブルブルブル
低い振動音が枕の下から。
ゆるりと身体を離す。
立ち上がり 枕をめくる
もう逃げない
そんな気持ちで電話をとった。
- 113 名前:17歳のカルテ[side her] 投稿日:2005/10/11(火) 13:43
-
「・・・・・もしもし。」
「・・・・えっ?ひとみちゃん?」
「自分が掛けたんでしょ?」
「そうだけど、出てくれると思わなかったから・・・。」
出ないと思って電話を掛けるなんて何処か間違ってるよ
「何?」
「・・・・えーっと・・・何だっけ・・・。」
「フフッ。」
「驚いて忘れちゃった、ウフフ。」
「おかしいよ梨華ちゃん。」
「やだぁ!でもホントおかしい。」
「うん。」
「忘れちゃったけどいいや。ひとみちゃんが出てくれたから。」
「そうなの?」
「うん、いいや。ありがとう。」
「何そのお礼。」
「ウフフッ。」
「フフッ。」
「じゃぁ、また電話してもいい?」
「いいよ。」
「わかった。じゃぁね。」
「じゃぁ。」
ピッ
思ったより普通だった。
意外と冷静だった。
久し振りにした普通な会話。
構えないで話をした。
ずっとずぅっと昔みたいに。
下を向くと
床に座ったまま自分を見上げている少女。
また、捨てられた犬みたいな顔して。
同じ目線まで屈んでもう一度抱き締める。
「大丈夫だよ。」
少女にも 自分にも そう言った
- 114 名前:エリック 投稿日:2005/10/11(火) 13:47
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 14:03
- 人のぬくもりっていいですよね。
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 20:49
- 泣きました…
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 23:21
- 自分も読んでて自然に涙が出ました。心が温かくなりました!
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/13(木) 23:38
- やべぇ〜、泣ける。まぢではまりました!!!
- 119 名前:エリック 投稿日:2005/10/14(金) 16:07
- >>115 さん
温もりだけは1人では感じられないモノ。
孤独と背中合わせですよね。
>>116 さん
ありがとうございます・・・
>>117 さん
読んでいただき何かを感じていただける。
こんなに嬉しい事はございません。
>>118 さん
ありがとうございます。今後もお付き合い願います!
- 120 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/14(金) 16:08
-
いつもは出ない電話に出た。
優しい声で「梨華ちゃん」と呼んでいた。
何とも言えない表情をしていた。
そこにどんな感情があるのか、私にはわからない。
きっと石川さんとこの人にしかそれはわからない。
でもそれでもいい。
今までこの人に流れてきた時間を知る事は出来ないけど
こうして今ある時の流れ、瞬間が繋がっていく『今』
これは紛れも無い私が知るこの人の時間だから。
私と吉澤さんが共有するかけがえの無いモノなんだから。
抱き締められて、暫らくそのままでいた。
何も話さずに。
聞こえるのはお互いの呼吸。
感じるのはお互いの体温。
それを存分に堪能するかの様に抱き合っていた。
ふいに弛められた腕
見つめ合う
近付いて来るその瞳に反射的に目をつぶった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「プッ。」
噴出すその人
「何て顔してんだよ。」
「・・・・えっ?」
目を開けると綺麗に笑う顔
「ほんっと、犬みたい。ははっ。」
「・・・・・・・・。」
「ごめん、悪気はないんだ。」
微笑んでポンポンと私の頭を軽く撫でる。
「・・・・・・・・バカにしてます?」
膨れる私の頬
「そうじゃないよ。」
犬か・・・・ 私、ペットなのか・・・・
まぁいいや。うざい女子高生よりはマシ・・・なのかな・・・・
「その顔、嫌いじゃないよ。」
フフッと笑って立ち上がる。
「コーヒー飲む?」
コクンと頷く
「座ってなよ。」
- 121 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/14(金) 16:08
-
運ばれてきたカップ
お砂糖もミルクもない苦いコーヒー
ブラックがゆらゆら揺れている。
香ばしい香りはやっぱり大人な感じ。
「今思えばアレって新手のナンパ?」
「え?」
「泣きそうな顔して「弁償してください!」だもんね。」
「ううっ・・・。」
「ありゃー拒否れないわ。」
「すいません・・・でした。」
必死だったあの朝。
恥ずかしくて顔が熱くなる。
「でもさ、本当はあの時財布持ってたんだ。」
「じゃぁなんで・・・・。」
「シャンプーかな。圧倒的なゴミの中でのシャンプーの存在感。」
「シャンプー・・・ですか。」
シャンプーの存在感・・・よくわからないけど・・・
「シャンプー何使ってんの?」
「ビダルサスーンです。」
「じゃぁセーラー服とサスーンクヲリティーだな。」
「なんですか・・・それ。」
「知らない?セーラー服と機関銃ってやつ。」
「さぁ・・・。」
「まぁそれはいいけど、なんていうか・・・・。
新鮮さと純粋無垢なイメージ?っての?
その挙句に「弁償してください」だからさ、何か面白くって。」
面白いか。何かと面白がられてる様な気がする。
「ケチャップの紅がセーラー服によく似合ってた。
風になびくスカーフとスカートが眩しく感じたな。」
思い出す様に空中を見て話す人。
「何だかそれじゃぁ制服マニアのおじさんみたいですよ。」
「制服マニアか。そうかもな?」
ニヤッと笑う。
怪しくていやらしい綺麗な顔。
「ちょっと・・・。」
「あはは。」
「からかわないでください!」
「びびるなよ。」
「びびってなんか・・・・。」
「ホントに?」
「もっもちろん・・・・・。」
だってその顔。
嫌いじゃないけど・・・動揺する・・・
- 122 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/14(金) 16:10
-
「ガキが背伸びすんな。」
「ガキガキって子供扱いしないでください!」
「なに?やなの?」
「そりゃー・・・・。」
「ガキで居られる時間なんてそうないもんだよ。
楽しむべきだって。今しか見えない物や出来ない事もたくさんあるし。」
「そうですか?」
「うん。17だろ?最高じゃん。」
最高・・・か。今の私にはまだそれがあまり実感出来ないでいる。
「吉澤さんが17才の時はどんなでした?」
「・・・・・・・ガキだった。自分のガキさを嫌と言う程思い知った歳でもあった。」
「へぇ〜。」
「生まれてからずっと自分の力で生きてきて、これからもそうだと思ってたんだ。
・・・・・・・とんだ思い上がりだったよ。」
コーヒーをゴクンと飲み込んでテラスの方を見る。
「ほら、ツバメの親だってまだ見ぬ我が子の為に必死で巣を作ってる。」
「うんうん。」
「親は休む事無く働く。まだ見ぬ我が子を、その成長を願ってね。
でも子供はそんな事知らないし、わからない。
毎日口を開けて運ばれてくる餌をただ待ってる。」
「・・・・はい。」
「でもそれでいいんだよ。ちゃんと育って巣立っていく、それだけでいい。
どっちもそれで幸せなんだ。」
うんうん と頷きながら遠い目をして語る。
何かを誰かを思い出すように。
「ナントカは先に立たず。一寸先はナントカ。っていうけどホントそう。」
「ナントカばっかじゃないすか・・・・」
「まぁ、今を生きろって事。亀井絵里の17才は今しかないんだよ。
今日この日も一度しかない。何だってそう。たった一度きり。」
静かにいつもの煙草に火をつける
- 123 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/14(金) 16:10
-
「後悔した事・・・あるんですか?」
「ばっかだよ。偉そうに言ってるけどね。解ってても・・・ね?」
「んん。」
「色々あるんだよ。大人には。」
「はぁ。」
ガキにも大人にも色々とある。
問題やしがらみは山の様に。
「人が生きていく中で約束されてる事って何だか解る?」
「・・・・なんでしょう?」
「『死ぬ』事。それ以外は何もかも、保障が無くて不確かなんだ。
『死ぬ』『この世から居なくなる』それだけが絶対に避けられない事象。」
死ぬ か。思えばそんな事真面目に考えた事ない。
死を身近に感じるなんて事が日常にはない。
「決まった事実の中でどう生きるかが重要なんだよ。
まぁそんなに上手くは行かないけどね。それも生きるって事だな。」
どう生きるか・・・・。
今の私は口開けて待ってるだけの雛と一緒だ。
いや、雛の足元にも及ばない。
ちゃんと巣立ち、大空にたった一人で飛び立つ雛は私なんかより遥かに素晴らしい。
私は、羽ばたこうともしていない臆病者。
言うなれば、ただの傍観者で、野次すら飛ばせない野次馬。
自分の人生に対して。
この人に出会わなければそのまま流れていくところだった。
立ち止まりもせず、振り返りもせず。
『死ぬ』事も『生きる』事もわからずに。
ただなんとなく生きている。死なないから生きている。そんな感じで。
『今』は進んでいく。
ずうっと『今』。『今』の通り道が過去。『今』の積み重ねが未来。
『今』という時間。私だけの『今』。
ぼやけていた現実、遠かった『今』を感じる。
リアリティー それこそが私に足りなかったモノなんだ。
- 124 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/14(金) 16:11
-
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
携帯の着信音
音でわかる・・・・家からだ。
ピッ
「もしもし・・・。」
「はい。はい・・・・はぁい。」
ピッ
お母さんからの電話。
二日も家を空けている私におかんむりの御様子。
これこそ私のリアリティー・・・・
「叱られた?」
「まぁ・・・・。」
「女子高生は大変だな。」
「はぁ・・・・。」
立ち上がり周りを見渡す。
「あった。そう言えば昨日どうやって帰ってきた?」
ビトンのキーホルダを持って、自分を指差している。
覚えてないんだ・・・・・
「中澤さんって方が連れて帰ってきましたよ?」
「まぢ?祐ちゃん?」
「多分。マネージャーさん?」
「うわぁ〜またうるさく言われるな。」
「ははっ。」
「何か言ってた?」
「ん・・・・。」
色々と話したけどそれは内緒な方がいいかな・・・・
「可愛いやっちゃ。って言ってました。」
「・・・・何それ?」
「さぁ?あはは。」
不思議そうな顔をしてる。
愛されてるんですよ、吉澤さん。
「まぁいいや。送るよ。」
ブルンブルン
「しっかり捕まってなよ?」
「はい。あの・・・」
「ん?」
「ヘルメットは?」
「ない。」
「・・・・・・・・。」
ブゥゥゥゥゥゥウン
勢い良く走り出す原付。
二日前の朝と同じ場面。
頬を通り過ぎる冷たい風
全開になるオデコ
うるさいエンジン音
本当ならうっとうしいしヤな感じなのに
不思議とどれも心地いい。
そして寂しい。
この背中のせいなのかな・・・・
- 125 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/14(金) 16:11
- あっと言う間に家の前
「そんな顔すんなよ。」
「・・・・。」
「帰したくなくなるじゃん。」
冗談なのか本気なのか
冗談でも嬉しい 泣きそうになる位。
「あ、これ。」
そう言って手渡されたモノ
「え、これって・・・。」
「屋上からまた飛びたい?」
ブンブンと首を振る
「じゃぁあげる。」
「いいんですか?」
「好きな時に来ればいい。居ても居なくてもいいから。」
あまりの驚きとあまりの感激に言葉が出ない。
「じゃぁ。」
ブルンブルンとエンジンをふかす
「あ、りがとうございます!!」
「あざーす!だろ?」
「あ、あざーす!!です。」
「じゃぁね。」
ブウン
小さな銀色の鍵
リアリティー溢れる金属の質感
『今』を生きる為の鍵を手にした 17才の『今』という瞬間
- 126 名前:エリック 投稿日:2005/10/14(金) 16:17
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/15(土) 04:11
- 久々に娘小説を読みました。いい感じです。
楽しみにしてるんでがんばってください。
- 128 名前:エリック 投稿日:2005/10/16(日) 05:33
- >>127 さん
ありがとうございます!
ご期待に添えます様精進してまいります!
ここから少しサイドストーリーになります。
言わば回想の様な感じですが、タイトルを一つずつ付けて行きますので
よろしくお付き合いください。
- 129 名前:【遠い想い出】 投稿日:2005/10/16(日) 06:27
-
幼い頃の記憶 消えそうになっていた子供の頃の事
一度だけ母に連れられ行った遊園地
愉快な音楽が流れて 楽しげな人でごったがえす
そこで待っていた男の人と女の子
男の人はアタシを見て 「大きくなったなぁ」 と驚いている。
その陰からヒョコッと目を覗かせている女の子
ジーッとこっちを見ている。
「一緒に遊ぼう!」
突然にアタシの手をとり走り出す。
「ひとみちゃん ひとみちゃん」と嬉しそうに自分を呼ぶ。
「たのしいね おもしろいね」と繰り返し微笑む。
何かとテンションが高くて声も高い
背は自分より低いのに年上ぶりたがる女の子
聞いてもいないのに、好きな漫画やキャラクターの話を続ける女の子
「こんどおうちにおいでよ?おさがりあげる!わたし、おねえちゃんだから。」
子供心に服の趣味は合わないと思った。
ピンク色はどちらかと言えば好きじゃない。
でも、何とも言い様の無い嬉しそうな笑顔のせいで
「うん。」 と返事をしてしまった。
でも、それからその子と逢う事は無かった。
一緒に居たおじさんとも。
内心ホッとしていたけど、何処か残念だった。
もう一度位なら、コーヒーカップに乗ってみてもいいかな と思ってたから。
少しだけ・・・ほんの少しだけ・・・・着てみてもいいかな と思ってたから。
ピンク色のブラウスを。
あの女の子のおさがりを。
- 130 名前:【幼心の日々】 投稿日:2005/10/16(日) 06:28
- 幼い自分を1人で懸命に育ててくれていた母
いつも変わらず微笑みかけてくれていた母
そんな母に対して反発していたあの頃
一年の中で一番嫌いな日 父の日
クラスのみんなはお父さんの絵を描いた。
私はひとり描かなかった いや 描けなかった。
居ない人の絵なんかどうやっても描けなかった。
運動会 夏休み クリスマス
子供には嬉しいはずの行事や休日
そんな決め事がやって来る度にアタシは母を責めていた。
「なんでウチにはお父さんが居ないの。」
そんなアタシに母は
「お母さんが居るでしょ?それじゃ駄目?」
と言い抱き締めてくれていた。
それでも私は言い続けた。母を責め続けた。
幼いながらも片親である事の引け目を常に感じていたあの頃。
何処にもぶつけ様のない気持ちを、ひたすらそういった形で母に投げつけていた。
母にはどうする事も出来ないとわかっていた
母が悲しい顔をするのがわかっていた
でも、でもアタシは子供だった 小さな小さな子供だったから・・・
************
- 131 名前:【幼心の日々】 投稿日:2005/10/16(日) 06:29
-
13歳の冬 母がこの世から居なくなった
日に日に小さくなる母 口数が少なくなる母
真っ白な病室がとても印象に残っている
ある日 眠りから覚めた母が消えそうな声でアタシを呼ぶ。
「ひとみごめんね、いつも寂しかったよね。
でもね、お母さんね、貴女が居てくれて幸せ。本当に本当に・・・・。
毎日ずっと幸せ。貴女のお陰で幸せなの。」
そう言って力の無い腕で私を包む
幼かったあの頃 ワガママを言って困らせたあの頃
抱き締めてくれていたこの腕は今も変わらず温かい
「 産まれて来てくれてありがとう 」
何度も繰り返しそう言って 微笑んでいた
「何言ってんの、もぉ。」
ガラにも無く改まる母に照れたアタシはそれだけ言って部屋を出た。
そんな事があった日その夜に
母は遠くへ逝ってしまった
病院から電話をもらって駆けつけ
信じられない気持ちで握ってみた母の手は
いつも温かかった母の手は
氷の様に冷たかった
冷たかった
いつも優しかったその目は
アタシだけを見てくれていたその目は
もう二度と 開かなかった
開かなかった
- 132 名前:【幼心の日々】 投稿日:2005/10/16(日) 06:30
-
大切にしたいと心から思っていた
今度はアタシが守ってあげたいと思っていたのに
もう居ない
アタシの大切な人は
もう何処にも居ない
ヒトリ
ヒトリ
ヒトリぼっちになってしまった 13歳の冬の夜
- 133 名前:【幼心の日々】 投稿日:2005/10/16(日) 06:31
-
- 134 名前:【幼心の日々】 投稿日:2005/10/16(日) 06:31
-
- 135 名前:エリック 投稿日:2005/10/16(日) 06:32
- 本日以上です。読んでくださった方ありがとうございます。
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/16(日) 09:36
- 泣いた
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/16(日) 17:38
- 初めて読みました。
はまりそうです。
- 138 名前:ぱぱんだ 投稿日:2005/10/16(日) 18:26
- sage
せつなくて、時にあったかくて好きです。
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/16(日) 21:46
- これからの展開がとても楽しみです。
>>138
E-mail欄に半角でsageって入れたらsageられるよっ。
- 140 名前:ケロポン 投稿日:2005/10/17(月) 01:22
- 泣いてます
- 141 名前:エリック 投稿日:2005/10/17(月) 06:35
- >>136 さん
その涙無駄にはいたしません!!糧にいたします!!
ありがとうございます!!
>>137 さん
読んでいただきありがとうございます。
ガンガリます!!最後までよろしくお願いします!!
>>138 ぱぱんださん
ありがとうございます!
カワイイヒトそんなアナタはカワイイヒトです!!
>>139 さん
気合入れて頑張ります!!そしてナイスアシスト素敵!!
>>140 ケロポンさん
その気持ち、その涙、ありがたいです。
嬉し涙を流させていただいております。
登場人物一人一人が息をし、躍動する、そんな物語になればいいな。
と、そんな風に思っています。頑張ります!皆様ありがとうございます!
- 142 名前:【現実からの逃走】 投稿日:2005/10/17(月) 06:36
-
母を亡くしたアタシは天涯孤独。
遠い遠い街の、可哀想な子供が集まるそんな施設に連れて行かれた。
自分の境遇を晒して馴れ合っているそこの子供達とは打ち解ける事が出来なかった。
誰が一番不幸だとか、マシだとか、そんなのどうでも良い。
ただ 喰えて 寝れて 生きてさえ居られればそれで良かった
「 産まれて来てくれてありがとう 」
母の最後の言葉 それがアタシを支えた。
生きていく事 それが死んだ母に対する恩返し。
そう思い続けていた。
自分が施設で暮らしている事は誰も知らない。
転校した学校の同級生にすら話していない。
人に自分の境遇を知られたくなかった。
身寄りが無い子供 不幸な子供 そんなレッテルを貼られるのはもううんざりだった。
そういう理由で意味も無く人に優しくされるのが嫌だった。
自分を見るその哀れみに満ちた人の目が大嫌いだった。
アタシはいつでもヒトリだった。
誰もアタシの中には入れなかった。
14歳の誕生日を迎える少し前、施設の中のアタシ宛に手紙が来た。
差出人は全く知らない人。
『 一週間後に迎えに来る 』と書いてあったが、それ誰なのかがわからなかった。
施設の先生に呼ばれて話を聞き、初めてそれが自分の 「父親」 だと知った。
母の死を知り、身寄りの無い自分を引き取ると決めたらしい。
- 143 名前:【現実からの逃走】 投稿日:2005/10/17(月) 06:37
-
男と女が居て子供が出来る。
そんな事は13歳のアタシでも理解はしていた。
でもそれが 「父親」 であるという事を今更認識は出来ない。
幼い頃に望んでいた 「お父さん」
でもそれは漠然とした子供のイメージであって、
ここまで成長したアタシの中にはもう存在しないモノに等しい。
突然現れたアンリアルな人物に、アタシは何故か恐怖を感じた。
他人とも知人とも違う 「肉親」 という存在に対して戸惑っていた。
そして何より、今更ノコノコ現れた「 父親ぶる見知らぬ男 」に激しい怒りを感じていた。
段々と近付く約束の日
迫り来る得体の知れない重圧に耐え切れなくなったアタシは
在るだけ全部の現金をかき集め、施設を逃げ出した。
途中、セールで売ってた1万5千円の原付に無免でまたがり遠くを目指して走り続けた。
コンビニで雨宿りをし、公園で水を飲む。
そんな野良猫みたいな数日間。
このまま行ける何処までも
アタシはひとりで生きていける
14歳の誕生日をひとりで迎えた。
この先、自分はずっとひとりだろう、こんな風に生きていくんだろう。
強く唇を噛んで 小さく痛む胸の奥に気付かない振りをした。
- 144 名前:【剥がれた鎧】 投稿日:2005/10/17(月) 06:38
-
無計画な逃走生活はあっという間に幕を閉じ
ガソリンスタンドで給油中に巡回していた警察に補導された。
子供がボロの原付で行ける距離などたかが知れている。
捕まったのは施設からそう遠くない街だった。
無免許と家出の容疑者になったアタシ。
自分の身元を中々素直に明かさないアタシに対して警察は
「大人をなめやがって、このガキが。」と罵倒した。
原付に貼られた登録シールから住所を割り出され、アタシの事が明らかになると
鬼の様だった警察が態度を一変させた。
「お嬢ちゃんも辛いんだね。でも頑張るんだよ?」
アタシはそいつを睨みつけてツバを吐いた。
取って付けた様な台詞とその目。
お葬式に来ていた人の目を思い出す。
「無責任な哀れみ」「他人事の同情」それがくっきりと映っていたあの目。
虫唾が走る。
初犯である事と情状酌量が相まってさほど大きな罪に問われなかった。
孤児ならば何をしても許されるのか。
可哀相なら仕方ないのか。
アタシにとっては都合がいい世の中なんだと笑いが込み上げた。
腹の底から込み上げた。
- 145 名前:【剥がれた鎧】 投稿日:2005/10/17(月) 06:39
-
施設の先生と一緒に迎えに来た男。
何処かで会った様な、見覚えがある様なそんな気がした。
一瞬目が合ったけど、すぐに自分から逸らした。
その男はそんなアタシに目もくれず警察にひたすら謝っている。
「申し訳ございませんでした」を繰り返してペコペコ頭を下げている。
絵に描いたような平身低頭ぶり。
立派なスーツ姿で黒光りする靴を履いた大きな男のその姿が滑稽に映る。
イスに座ったままその光景を見ていたアタシ。
ツカツカと早足に男が近付いてくる。
グッと腕を掴まれて強引に立たされた。
「甘えるな。自分の責任は自分で取れ。それが出来ないのならせめて心から謝りなさい。」
男はアタシの目を見据えて強い口調で言った。
唖然としたアタシは声が出ない。
「ほら、ちゃんと自分で言いなさい。」
バンと肩に置かれた手の勢いに負けて口を割る。
「・・・すいませんでした。」
俯いてその言葉を出すだけで精一杯だった。
- 146 名前:【剥がれた鎧】 投稿日:2005/10/17(月) 06:39
-
帰りの車の中 運転する男の後ろに座り黙っていた。
男は何も言わない。
ラジオから流れる野球中継
興味は無いけど耳に入って来るから聞いている。
最後の打者がホームランを打った。
逆転サヨナラ満塁ホームランらしい。
盛り上がるラジオの実況
その声にガッツポーズをして「やったぞ!」と男が突然振り向いた。
「さすがだな。松井は4番の役目をちゃんと果たした。立派な奴だ。」
マツイとかヨバンとかさっぱりだけどアタシは黙って頷いた。
前を向いてハンドルをコツコツ指で弾きながら男は言う。
「人には自分の役目がある。どんな人にも。
それをわかってるのとわからないのとでは雲泥の差がある。
しかし、わかってても出来ないじゃ話にならん。
責任を持って果たして初めてその価値が生まれるんだ。わかるか?」
「はぁ・・・。」
「松井はホームランを打った。それは本当に素晴らしい。
でもその松井まで打席を回した打者がいる。バントで走った打者がいる。
懸命に守った野手がいる。投げ続けた投手がいる。
みんながそれぞれ自分の役目をきちんと遂行している。
だからこそ松井が打てて、チームが勝ったんだ。
チームメイト・監督・マネージャーそれぞれみんなの勝利なんだ。」
「はぃ・・・・・。」
「どんな人も1人で勝利は掴めない、成功は出来ない。
お前もそう、俺だってそうだ。「All for One One for All」それを忘れるな。
そして、勝った人の隣には負けた人がいる。常に二つは背中合わせだ。
それも絶対に忘れちゃいかん。」
力強くて静かなその声 その言葉が頭の中で響いている。
アタシがした悪い事や、自分が誰であるかも語らないこの人。
この人は・・・・この人は・・・・
- 147 名前:【剥がれた鎧】 投稿日:2005/10/17(月) 06:40
-
ブウン
車はレストランの駐車場に入る。
「腹減ったな。飯食うか。」
「あ、はい。」
向かい合わせに座りメニューを渡される。
「好きなのを頼め、いくつでもいい。ただし残すなよ。」
ニカッと笑う顔。優しいのか恐いのか。
出されたお冷を飲みながらアタシをじっと見る。
「いい顔してるよ、ちょっと目付きが悪いけど。」
笑いながら言う。
「でもそれ位がいい。俺の娘が軟弱では困るからな。」
「・・・・・・。」
父親 この人がアタシの父親なんだ
やっぱりそうだった
なんとも言い得ない感情が沸き起こる
明らかにそうだと思っていたけど、実際口に出されると・・・・
身体に力が入る。きっとアタシは睨み付ける様な目をしてる。
「そんな顔するなよ。」
溜め息混じりのその声
「覚えてるか?遊園地に行った事。」
遊園地 あの記憶が蘇る 女の子 ピンクのスカート コーヒーカップ
「梨華・・・俺の娘の梨華とお前のお母さんと4人で行ったよな。」
「ああぁ。はい。」
何処かで見た面影は遊園地だった
あの日の男の人 それは今ここに居る人でアタシの父親
- 148 名前:【剥がれた鎧】 投稿日:2005/10/17(月) 06:41
-
暫らく続いた沈黙の後
「許せとか解れとかじゃない。
でも、でもな、俺はお前を愛してる、今までもこれからも。」
「ひとみ、お前は俺の娘だ。」
真剣な顔 その目の奥の優しい光
周りの大人とは違う。アタシを哀れんでなんかいないその目。
「誕生日おめでとう。」
紙袋から出されたぬいぐるみはふわふわで可愛らしいクマ
お人形とかぬいぐるみとか女の子の定番品なんだけど
アタシは正直そんなに好きじゃない。
でも、これはアタシへのプレゼント
アタシの為に用意してくれていたプレゼント
アタシの誕生を祝うプレゼント
何より嬉しい どんなモノよりも嬉しい
その心が 感じた愛の温もりが
体中にまとっていた重い鎧がガラガラと音をたてて剥がれていく。
落ちて粉々になってゆく。剥き出しになるアタシの心。
ヒトリじゃない
ヒトリじゃない
お父さん
お父さんがいる
アタシがいる
ヒトリじゃない
ヒトリじゃない
- 149 名前:【剥がれた鎧】 投稿日:2005/10/17(月) 06:41
-
視界がゆらゆらと揺れる。
勝手に滴がポロポロと落ちていく。
止まらない涙
声を出せず唇を噛んで流す涙
ボロボロと溢れる涙
そんなアタシの頭をガシガシ撫でる。
大きくて力強い手の平が髪をぐちゃぐちゃにする。
父親の手 お父さんの手
お父さん お父さん
アタシのお父さん
泣きじゃっくりが止まらなくて
大好きなオムレツがちょっとしか食べれなかった。
「残すなって言ったろう?」と笑ってスプーンをとり
自分の口とアタシの口に交互にオムライスを運ぶ。
ひっくひっく となりながら 懸命にオムライスを頬張った 14歳の誕生日
- 150 名前:エリック 投稿日:2005/10/17(月) 06:52
- 本日以上です。読んでくださった方、ありがとうございます。
- 151 名前:はち 投稿日:2005/10/17(月) 16:09
- 更新乙です
あったかぁ…
こう…人の心に触れた気がします
今のよっちゃんは昔の面影満載っすねw
- 152 名前:エリック 投稿日:2005/10/23(日) 04:35
- >>151 はちさん
今も昔もやんちゃくれでCoolなお人w
全く罪深き、魅力深きお人ですよ、あのお方は。。。
- 153 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:36
-
コツコツコツ カリカリカリ・・・・
薄っぺらい紙の下の机にぶつかるシャープペンの芯の音
今はテスト中・・・・
今日からテストだという事を忘れていた、綺麗サッパリ。
前、横、後ろ、時間と自分の脳を相手に必死で戦っているクラスメイト
その中で私だけが置いてけぼり。
浮かんでくるのはあの人の笑顔とあの感触。
ハッ として周りを見ると戦う戦士達。
自分の中の現実と自分を取り巻く現実の狭間でヒトリうろうろしている私。
『・・・・・もういいや。』
まだ問4の(2)までしか解いてない。
と言うか、これ以上解けない。
これから先の公式は覚えていない。
- 154 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:37
-
目の前に置かれた薄っぺらな紙。
これが私を計る道具。
学生である私の絶対値を示すモノ。
XがどうとかYが何とか、Lをどうするとか・・・・
そんなのどうだっていい事だと
そもそも公式をあらかじめ知らなければ解けない問題に何の意味があるのか。
決まりきったひとつしかない答えを求め、導き出した先に何があるのか。
そんな物には何の魅力も感じない。
決まりきった答えなどもういらない。
数学のテスト中、青春哲学を悟った私。
意味不明な記号配列だらけのテスト用紙を裏返して机に突っ伏した。
はぁ と誰にも気付かれない様に溜め息を吐く。
今の私、実はちょっと冷めている。
この現実に。
いつもなら鼻息を荒くしてかじり付き問題を解いていく私。
時計を確認し、問題に応じてペース配分をして、
完全に完璧を目指して突き進んでいく私。
予習、復習は当たり前で、テストが近付くと単語帳を作るのが趣味だった。
自慢じゃないけど成績は良い。
学生の本分は勉強で、とりあえず大学には楽に推薦で行きたい。
そんな打算的で流動的だった今までの私に、私をとりまく環境に、冷めている。
- 155 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:37
-
数日前のセンセーショナルな出来事が私を変えてしまったんだ。
未成長な羽をバタバタ広げて、少しばかりの空中を知った。
流れる風の冷たさや速さ、羽ばたく事の難しさや怖さを知った。
そんな私にとってこの巣の中はつまらなさ過ぎる。
羽ばたきたい。
あの人の様に。
飛んでゆきたい。
あの人の元へ。
窓から吹き込んでくる秋風
遠い遠いあの場所に想いを馳せて目を閉じる。
机の下で握り締めた銀色の鍵
私とあの人を繋ぐ
同じモノを共有する幸せってこんな感じか。
恋人同士がペアリングをするのはこんな感じなのか。
私達の間には、何の約束も、愛の言葉も無いけど何処かで繋がる何かが在る。
そう信じてみる 数学のテスト中
******************
- 156 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:38
-
「どうだった?」
賑やかなマック店内で女子高生らしくお昼の最中。
「え〜?」
「今日の三教科。満点近い?」
「・・・・・・・・まぁまぁ。」
「またまた謙遜しちゃってぇ〜。」
「多分、赤点。」
「誰が?」
「わぁたぁしっ。」
「何言ってんの?」
「殆ど白紙だもん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
言葉を失っているがきさん。
「ねぇ、亀、アンタ大丈夫?」
「うん、結構大丈夫。」
「いや、意味わかんねーよ。」
「うん、私も大体わかんないし。」
湯気を立てる紙コップのブラックコーヒー
「何があった?」
いつも通り淡々としている親友。
「色々と、あったよ。」
「くあしく!」
「ん〜あり過ぎてわかんないけど・・・とりあえず今日のテストの事は忘れてた。
赤点確実だけど、なんか平気な感じ。」
「まぁ幸せだ事。」
「うん、確かに不幸だなって気はしてないかなぁ。」
「ふぅんそうかい。」
「何なんだろこれ。」
「そうだねぇ、まぁ、この間も言ったけどさ、迷走だよ。」
「迷走・・・。迷ってるのか私。」
「迷ってるって言うか、彷徨ってるんだろうけど。」
「へぇ?」
「迷うってのはいくつか選択肢がある中で決め兼ねてる状態でしょ?
彷徨うってのはただ漠然と歩き回る。選択肢も目的地も解らない状態。」
「そうかぁ・・・・。確かに。」
「また何かあったの?」
キラリと確かな目線で私を探る親友。
「・・・・うっうん。まぁ。」
昨日までのノンフィクションをそのままお伝えしていいのだろうか・・・・
- 157 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:39
-
「真実を率直にどうぞ、亀井絵里さん。」
見透かした目・・・嘘はつけないな・・・・
「キス・・・・した。」
「おおおおおおおっつつ!!!」
ナイスリアクション さすがリアクションに定評のある新垣さんです。
でもココは街中のハンバーガーショップですよ。オチツイテ!!
「ちょっ!!がきさんシーッ!!」
「ごめん・・・取り乱した・・・・。で?」
「で?って?」
「その先は?」
ゴクッと息を呑んで私を見る。
「後は何もないよ・・・。」
「無い?何にも?」
「うん、無い。」
「そっ・・・そうか、そうか・・・。」
「ホッとした?」
「うん?いや・・・・なんだろ。」
「何?」
「微妙に亀が遠く感じる。あははっ。」
「なんでぇ〜どうしてぇ〜。」
「いやいや。あはは。」
顔が赤いがきさん
「ちょっと!何でがきさんが赤くなるの!?」
「あっ、赤くなんかなってないって!!バカ!!」
「なってるよぉ〜。やめてよ、もぉはずいじゃん。」
「こっちがはずいわっ!!」
二人して顔を赤らめる私達。変なの・・・・・
「がきさんってさ・・・・ある?」
「は?」
「その・・・・キスした事・・・・ある?」
「なっ、ばっ、わっ!!!ある訳ナイジャン!!」
「だよね。私も初めてだったし・・・・。」
『初めて』 その言葉にまた一層恥ずかしさが込み上げる。
- 158 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:39
-
「好きなの?例のルパンさんの事。」
「・・・・・う〜ん。」
「好きでも無いのにキスしたの?」
「・・・・・う〜ん。」
「自分の事でしょ?ちゃんとしなよ。」
「・・・・う〜ん。そうなんだけど・・・・・今までこんな事って無かったからさぁ。
自分でもよく解んないの。」
「掻い摘んで言うとどんな感じなの?」
「ん・・・・側に居たい。かな。」
「側に?」
「うん。寂しげで、何処か影があって、強気で素っ気無くて・・・・。
それが全部こう、私の中に流れ込んで来るの。伝わって来るの。」
「フィーリングか。」
「何?フィール?」
「魂の共鳴って言った方が解り易い?」
「タマシイ。」
「波長が合うとか魂が呼び合うとかのアレだよ。言葉では説明し難い現象ね。」
「はぁはぁ、うん。多分そうなんだよ。それ。」
「動物の雄と雌が自然に惹かれ合うのと同じ。まぁ、その女同士だけども・・・・。」
「う、ん、そう、だね。」
シィンとした空気。
「ごっ、ゴフォン!!まっ、それは今度またくあしく話そう。
でさ、今日はちょっと偵察に行って見ない?」
「偵察?」
「そう。この携帯にこの間のHPのURL貼ってあるんだ。
住所を頼りに『LUPIN』に行ってみない?」
「えぇ?だって今お昼だよ?お店開いてないじゃん。」
「アホ。夜になんか危なくて行けるかい!何も中に入るんじゃないよ。
どんな店なのか見に行くだけだよ。」
「はいはい。そっかそっか。」
「どう?乗る?」
「うん。見てみたい!」
食べかけのポテトを持ち店を出た。
- 159 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:40
-
「ここからはそんなに遠くないよ。このアーケードの丁度裏側だね。」
携帯を見ながらキョロキョロ。
なんだか探偵になったみたいでワクワクする。
目的地へ向けて進むにつれ 人がまばらになる。
ごった返していたアーケードの賑やかさは遠い。
明るい日中なのになんだか暗い雰囲気の路地ばかり。
チカチカ光るピンクのネオン看板。
その側に立つおじさんが私達を舐める様ないやらしい目つきで見る。
「ちょっとがきさん!大丈夫?道あってる?」
「うん。この如何わしい地帯を抜けたらその先にあるはず。あ、こっちこっち。」
また一段と細い路地を指差す。
私達の前を野良猫の親子が歩いている。
なんだか案内されてるみたい・・・・。
「よし、多分この通りだ!」
路地を抜け出た広い道。立ち並ぶお店。
大人の世界。夜の世界の昼の顔。
「三丁目。IGビルズ1階。」
「あっ。」
「あぁあそこじゃん。」
「うわぁ・・・なんかゴージャス。」
「だねぇ。」
一言で言うとドデカイ金庫。
黒い壁に金の文字で『LUPIN』
入り口のドアには重々しいダイヤル式のナンバーキー。
本物の金庫みたい。
「お洒落なデザインだねぇ〜。」
「ほんと、いかにもルパンって感じがするかも。」
道を挟んで店を眺める私達。
「あっ。」
「あっ・・・・。」
「あの人ってあのIGC代表とかいう人だよね?」
「うん、そう。梨華さん、石川梨華さん。」
巨大な金庫のドアが勢い良く開き、中から出て来たのは石川さんだった。
けど、様子がおかしい。
出てくるなりそのままそこに立ちつくし、両手で顔を覆っている。
- 160 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:41
-
「泣いてる・・・?」
「・・・・多分。」
次はゆっくりと開くドア。
そこから出て来たのは・・・・あの人、吉澤さん。
石川さんは俯いて肩を揺らす
吉澤さんが近付き言葉をかける
その言葉に首を振る
その肩を触る
その手を振り払う
尚も泣きじゃくる
触れようか触れまいか迷い、空中を彷徨う腕
握り締めて静かに下ろされたその腕
向き合って俯く二人
通り過ぎる風
揺れるスカートの裾
なびく金の髪の毛
遠目からでも解るその雰囲気。
見てちゃいけない。
そんな雰囲気。
「亀・・・・・。」
「うん。」
「行こうか。」
「・・・・うん。」
静かにその場を立ち去る。
細い路地を抜けて、来た道を戻る。
頭の中でリピートされる場面。
石川さんの涙。
あの人の横顔。
グルグル回る映像。
二人の世界。
目の当たりにしたリアルな二人。
- 161 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:41
-
「亀。」
差し出された小さな手。
握っていたポテトの袋を持ち替えてその手をとる。
ギュッと握り返される手は力強い。
引っ張って歩く、私より小さな後姿。
唇を噛む。
涙が、気持ちが、零れない様にしっかりと・・・・
- 162 名前:17歳のカルテ 投稿日:2005/10/23(日) 04:42
-
帰りの電車の中でもがきさんの手を離せなかった。
左手に持ったポテトの包みも。
「もうさ、忘れた方がいいよ。」
がきさんの言葉は静かで優しい。
解ってる。解ってる。
あの二人が生きる世界は私とは違い過ぎる事。
なまじ知った位でいい気になってた自分が居た事。
でも、それでも頷けない私。
あの人の冷えた手を思い出している私。
悲しい笑顔を思い出している私。
「・・・・・出来ない。」
出来ない。忘れる事なんて出来ない。
私は堕ちてしまったから。
約束してしまったから。
「辛いんでしょ?」
依然と優しい言葉。
辛い。
あの人の想いが。
あの人の残像が。
私が辛いのは想い合えないからじゃない。
あの人が抱える全てを感じてしまうから。
流れてきてしまうから。
「・・・・・あの人の方が辛いの。きっと。」
「どうにか出来るの?」
「解らない。でも、要らなくなるまで側に居るって、
私を必要としてくれるんならその間だけでもって・・・そう思うの。」
「そう。」
「ごめんね、がきさん。」
「うん、わかった。でも無茶はしないでよ?」
「うん、ありがとう。」
電車を降りて歩く。
私の手にはクシャクシャになったポテトの包み。
夕暮れの道 長い陰を追って歩く。
決して踏む事が出来ない自分の陰を追って。
- 163 名前:エリック 投稿日:2005/10/23(日) 04:43
- 本日以上です。読んでくださった方、ありがとうございます。
- 164 名前:はち 投稿日:2005/10/23(日) 08:25
- 更新乙です
亀ちゃんとタメだからってのもあるけど分かる、分かるよその青春哲学!
あぁ、こっちの2人もあっちの2人も気になりますw
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/23(日) 09:08
- いい親友だあ。
- 166 名前:名無し飼育 投稿日:2005/10/23(日) 13:26
- あぁ…なんかがきさんがすごく好きだなぁ
いま亀ちゃんよりも気になる存在です
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/23(日) 21:40
- 更新お疲れ様です。
亀ちゃんは良い親友を持ちましたね。今後が気になります!
- 168 名前:名無飼育 投稿日:2005/11/18(金) 23:55
- 亀レススマソ。
今更ながらに見つけて、ついつい引き込まれながら
一気に読んでました。
薄れていく記憶を思い出すような淡い感慨に包まれて
時々涙しながら、いつもはROMだけの自分ですが
ついついカキコしています。
彼女たちの呼吸はしっかり伝わってきます。
これからも更新が場ってください。
長々とスマソ。
- 169 名前:名無飼育 投稿日:2005/12/07(水) 00:04
- いやー平成17年も終わろうとしてるときにどえらい名作を発見してしまった
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/10(土) 12:02
- 作者様!!待ってます!!!
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:46
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 22:38
- 待ってます。
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 16:22
- 今日はじめて見つけて一気に全部読みました。
ずっと待ってます。
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/23(月) 23:55
- 待ってとぉけん!
- 175 名前:174 投稿日:2006/01/23(月) 23:56
- 待っとぉけん…やったorz
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