偽りの真実
- 1 名前:日季 投稿日:2005/10/03(月) 19:46
- 初めまして、拙い文章ですがよろしくお願いします。
主に石川さん中心の85年組のお話。(ごく稀に5、6期カプ短編など予定)
へタレなので、ぬるい展開になると思いますが読んでもらえたら嬉しいです。
最初にアンリアル85年組のお話です。(微エロ?)
- 2 名前:『 偽りの真実 』 投稿日:2005/10/03(月) 19:47
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―1.依存する二人─
- 3 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:48
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いつからかなぁ、こんなにもホントの気持ち話せなくなったの……
ね、心にも無い軽い言葉達が、サラサラと自分の中から流れ出して、
完璧な私を形成していく。
あなたに会うのは怖い。
その瞳に、私の全て映し出されて見透かされるような気がして……
勘違いじゃないって分かってるの。
少しだけ熱っぽい視線が私にだけ向けられていること、
ちゃんと頭では理解してるんだよ。
でも、心は侵蝕されることを恐れて、逃げろと私を急き立てる。
護り固めた心の壁が崩れてしまわないように
偽りの笑顔と言葉で、私は自分を形成していく。
いつしかそれが、真実に変わってしまうまで……
- 4 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:48
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- 5 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:49
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ふーっと眼鏡を外して、レポートから視線を上げると
嬉しそうに近づいてきた親友の姿が見えて、小さく手を振る。
最初はぶつかって、他愛ない喧嘩をしたね。
きっと、ホントの私を知ってるのは彼女だけ――――
「梨華ちゃん、頑張るねー。美貴のも書いてよ?」
「ヤだよ、自分で頑張って」
「眼鏡姿は、相変わらず知的に見えるよね」
「知的ですよ〜だ」
「はいはい、梨華ちゃんは知的美人ね。
そう言うことにしてあげるから、お昼奢ってよ」
「もう、単にお金無いんでしょ。私より頭良いくせに……
バイト代入ったら奢ってね?」
「はーい!じゃ、美貴が買ってくるよ」
「うん、一緒の定食でいいよ。一人で持てる?」
「問題無いよ。待ってて」
ルームメイトを探している時に偶然出会って……
広いマンションで一人で居るのが、なぜかイヤだったから。
一緒に暮すようになって、打ち解けるまでには少しの時間を要したけど
いまでは、何も言わずに傍に居てくれる。
優しい人。けど、ちょっとだけズルイ人……
でも、お互い様かな?ね、美貴ちゃん。
- 6 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:49
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- 7 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:50
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「目」
「目?」
「そう、話をする時に絶対逸らさないで、相手を見つめて話す。
ああいうのって、嘘ついてる女性特有の心理らしいですよ」
「嘘……」
「ほんとの自分をさらけ出したくないから、だから目を見つめて
相手を飲みこんでしまう」
女性は嘘をつくと相手の目を見つめて話す事が増えるそうです。
まぁ、誰しもにあてはまるわけではないと思いますが、ちょっと面白くないですか?
イチコロで騙されちゃいますよね……
気があるんじゃないかなんて、そう勘違いしちゃいそうですよね。
───彼女の声が何処か遠くに聞こえた。
「でもクセなのよ。小さい時からの。
相手の目を見てお話しなさいって言われてたから」
「わかっています。石川さんがそうだって言う話ではなくて、世間一般の心理です」
「吉澤さんって心理学を学んでるの?」
「まさか。心理学の本でかじった程度のド素人です」
そう言って穏やかな微笑を浮かべる……
いくら言葉でかわしても、なにもかも見透かされているようで怖くなる。
穏やかに広がる水面は、どこまでも澄んでいて透明な色をしている。
彼女の瞳には一点の曇りも見つけられない。
- 8 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:50
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- 9 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:51
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レポートを仕上げると言ってた美貴ちゃんに、おやすみと言って
先にベッドに入ったけど、全然眠れなくて。
どうしてかな、最近は特に酷い。
一人で居ると、言い様のない恐怖が訪れる。
「美貴ちゃん……」
「眠れないの?どった〜」
「レポート終わったの?」
彼女に寄り添い見つめると、滑らかな手つきで髪を撫でられる。
目を閉じると、彼女の息遣いが穏やかに聞えてきて安心する。
どうした?という問いかけは言葉だけで、その核心を聞く気は無い。
それが心地良くて、あなたの傍にいるのだけど―――――
「締め切りまで時間あるから明日でも平気。寝よっか?」
「うん」
”ありがとう”とか、”ごめんね”とか言うと怒るから言わない。
ただ一緒に寝たかっただけ。それは美貴ちゃんも一緒。
- 10 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:51
-
ね、悩んで相談しても相手に話した時点で7〜8割解決してるんだって。
残りの2〜3割は、自分でどうにかしなければ意味の無いこと。
結局は、それを解決させるのは自分自身だと言うこと。
だって、替わりに泣いて笑って怒って哀しんでもらっても
自分自身は何もしてないんだもんね。
一人になった瞬間に、またフリダシに戻るだけ。
けど、ただ聞いてもらうことでスッキリすることもあるんだって
頭の片隅ではわかっているんだけど……
いつのまにか、言葉にしなくなったね。
「明日、早い?」
「ううん。午後からだよ、美貴ちゃんは?」
「美貴も午後の1時間だけ。あとはバイト」
「そっか……。バイト遅いの?」
「ん〜、終わるの9時頃。なに寂しいの?」
「ちがっ……」
彼女のキスは唐突に降ってくる。
言葉の途中でされるなんて、いつものことなのに
この瞬間を、私は心の底から待ちわびて求めてる――――
けど、そんなこと言葉にしない。
たぶん、お互いにそう。わかっていても口にはしない。
そうすることが、お互いの欲求をより加速させ満たしていくから。
- 11 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:51
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スキだとか、アイしてるなんて言葉は聞き飽きた。
そんなものより、私を溶かしてしまうほどの熱が必要なだけ。
ただ寝る為だけに必死で口説こうとするバカな奴らより、打算無くストレートな
感情を私にぶつけてくれる彼女との行為の方が、満たされる。
「梨華ちゃん、恋人つくんないの?」
「ん、いらな〜い。めんどくさいじゃん」
「まっ、お互い様か……」
美貴ちゃんは、ニって笑って、お風呂入ろって手を差し伸べる。
私は気だるい体を起こして、その手を掴んだ。
- 12 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:52
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- 13 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:52
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会わなければ良いのに。こうして会ってしまうのは自分の弱さのせい?
それとも、彼女に興味を持っているから?
どちらでも関係無いか……
美貴ちゃんが帰ってくるまでの時間を、潰したいだけだから。
ちらっと時計を見るたびに、あなたが切なそうに目を伏せる仕草が
いつしか目にとまるようになった。
「時間、無いですか?送って行きますよ」
「うん、9時には帰りたいの」
「じゃ、でましょうか……」
自然な動作で伝票を持つ彼女の手を止めて、レジへ向かう。
お会計をしている私の後ろに立って、彼女はどんな顔をしてるだろう。
「すいません、あの……」
「平気よ。こないだ奢ってもらったから、お返し」
ニッコリ微笑んで見せれば、少しだけ嬉しそうな顔をするあなた。
その笑顔を見ると、思い出してしまうの……
失ったはずの記憶がココロを震えさせて、私を孤独にする。
- 14 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:53
-
「ちょっと意外でした。」
「意外?」
「はい、石川さんって自分でお金払わないイメージあったんで。
すいません、失礼ですね……」
「ふふっ、イメージなんてそんなものよ。奢られるのあまりスキじゃないわ」
力を誇示されてるようで、あまり好い気はしない。
お金さえ出せば、なびくと思ってる連中には特に奢ってもらったりしない。
幸いに親から与えられる生活費は、常識と言う枠からはみ出しているから。
「梨華ちゃんじゃん。いま帰り?」
「バイト終わったの?」
「うん、ちょっと早く終わったんだ〜」
お店を出たところで美貴ちゃんに会った。バイト、この近くだったっけ?
知らないうちに傍に来ちゃうなんて、私どうかしてるなぁ……
一緒に帰ろうと言うように私の隣に並んで、美貴ちゃんはようやく
少し後ろに立っている彼女に気付いた。
一瞬だけ警戒した目を向けたけど、すぐに人懐っこい笑顔を浮かべる。
「ども、梨華ちゃん家に居候してる藤本で〜す!」
「あっ、初めまして。吉澤です」
少し高い美貴ちゃんのテンションに、ちょっとだけビックリしたみたいだけど
すぐに笑みをうかべる。
特別な会話も無いまま、私のマンションの傍まで一緒に歩いて。
吉澤さんは、”あたしこっちなんで”って別れを告げる。
「今日はありがと。また今度ね」
「はい、おやすみなさい」
- 15 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:53
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おやすみって歩いていく背中を見送っていると、
美貴ちゃんがにひひって笑い出す。
「も〜、何よその笑い方……」
「”せっかくだから、家に寄ってかない?”なんて甘い言葉は
やっぱかけないね、梨華ちゃん」
「社交辞令は嫌いなの。人を誘うのも苦手」
「知ってる。だから一緒に住んでるんだけどね」
また、へらへらと笑って”早く帰ってお風呂入ろうよ”と歩き出す。
「髪の毛洗ってくんない?
人に洗ってもらうのって、気持ちいいよね〜」
「良いよ。美貴ちゃんも洗ってね?」
「おっけい〜。どこでも洗ったげるよ」
「遠慮しておきます。髪の毛以外はヤだよ」
ちぇ〜なんて言いながらも、微笑む彼女は言葉とは裏腹に
さっきよりもずっと大人っぽい顔になる。
慣れた手つきで私の髪を撫でてから、家の扉を開けた。
- 16 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:54
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- 17 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:54
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泣きつづける私をヘタに慰めたりしない。
それでも、ずっと傍にいてくれる彼女は優しい。
初めて心の中を話した時……
私の話を聞いて、大笑いしたんだ。
泣きながら大笑いしてくれた。
一緒だね、美貴も捨てられたんだよって。
お互い幼いなりに精一杯、愛した人が居た。
けれど失ってしまった。
だから求めたりしなければ良い。
- 18 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:55
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なのに私は彼女の腕の中で、また彼女を欲して果てていく。
それに意味があるのかは、わからないけれど……
「み、きちゃ……ん…」
「ん?どったの」
「いじわる」
「だって梨華ちゃん焦らすと可愛いんだもん」
「もぅ……んっ、やぁ…」
「それに他のこと考えられると癪なんだよね。
いまは溺れてよ、もっと気持ちいいって美貴に教えて?」
いたずらに指の動きを変えては反応をたのしむ。
面白いくらいに反応してしまう私のカラダ。
『忘れてしまえ』
シグナルが点滅して、すぐに意識がハジけ飛んだ……
- 19 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:55
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「美貴ちゃんって……」
「ん?美貴が何?」
「上手だよね」
「上手?」
意味ありげに口元の端だけ上げて微笑む。
けど、合わさった視線をすぐに伏せる仕草に息を呑んだ……
時々、ドキッとするほどに彼女は大人な顔を覗かせる。
それは何処か冷めていて、きっと昔を思い出している時だと思う。
「でも美貴、受けだったんだけどな」
「えっ?」
「美貴だって女の子だもん……なんてね」
- 20 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:55
-
スッと伸びてきた指先が、私の髪を滑っていく。
急に真顔になった美貴ちゃんは唇を1回きゅっと噛み締めた。
「梨華ちゃんが思い浮かべてるのは前の人?それとも」
「どっちでもないわ」
「そうかなぁ、あの子に興味はあるでしょ」
「無いよ、単に時間を潰す時に会ってるだけだもん」
「嘘だ。……別に良いけどさ」
「良いなら聞かないで!?」
「はいはい」
美貴ちゃんはスッと立ち上がって浴室へ向かう。
怒らせちゃったかな……
いつもなら私に”一緒に入ろう”と促すのに。
こんな瞬間に気付く。
必要以上に深く関わらない”フリ”をして。
結局は彼女が手をさしのべてくれないと、動き出せない自分が歯痒い。
- 21 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:56
-
布団に顔を埋めていると、すこしの疲労感で思うように身体が動かない。
重すぎる愛は永遠に受け止められることは無いのだろうか。
愛したいのか、愛されたいのか
何を求め、何を欲して、何を与えられるのか……
ワカラナイ、自分自身のことさえも何一つワカラナイ。
- 22 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:56
-
しばらくして美貴ちゃんが戻ってきた気配がする。
きっとまだお風呂には入っていないだろう、石鹸の香りがしないから……
「なにやってんの。そのまま寝ちゃうの?」
「……美貴ちゃん」
「お風呂入ってから寝なよ」
「……起き上がれない」
「ほんとに世話が焼けるお嬢さんだことで」
美貴ちゃんが、ほんとは優しいの知ってる。
だから、どうしようもない私の傍にいてくれるんだよね。
- 23 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:56
-
「美貴ちゃんに甘えすぎかな?」
「何をいまさら」
「今更だよね……」
「今更だよ。いいじゃん別に、美貴はイヤじゃないよ。
梨華ちゃんのこと嫌いじゃない」
「私もイヤじゃない。嫌いじゃないよ」
抱きしめられて感じるのは確かな安堵感。
いつものように私の髪をすべる優しい指先。
耳元にかかる吐息がくすぐったいけど、イヤじゃない。
この温もりを離さずにいれば、きっと私は壊れたりしない。
- 24 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:57
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囁くように優しい声がした。
”お風呂はいるよ”って。ちょっと甘く鼻にかかる声がした……
『お願い、傍にいて……』
言葉にならない想いが、閉じた瞼からひとすじだけ零れ落ちた。
- 25 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:57
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- 26 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:58
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- 27 名前:1.依存する二人 投稿日:2005/10/03(月) 19:58
- 更新終了
- 28 名前:日季 投稿日:2005/10/03(月) 20:02
- (全5話予定です)
- 29 名前:29 投稿日:2005/10/03(月) 22:02
- スレ立て、お疲れさまです。
85絡み〜!!
とても楽しみな組合せですw
更新をまったりお待ちしております。
- 30 名前:『 偽りの真実 』 投稿日:2005/10/04(火) 10:23
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―2.重ならない心―
- 31 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:23
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知らずに惹かれていた。
完璧なまでに微笑む彼女の姿に……
歩み寄ろうとするほどに、遠ざかる心。
その心の中に存在するのは誰なのか
探し出したいのに、近づくことさえ出来ないでいる。
彼女の瞳の奥に答えを求めても、何も映していない。
あたしの姿さえも映していない。
偽りの仮面の下で彼女はどんな顔をしているのだろう?
漆黒の宝石は、ただ深く輝いて底が見えない……
- 32 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:23
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- 33 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:24
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「最近よしこは冷たいなぁ〜」
「そんなことないよ」
「たま〜に現れるけど、こっちから連絡取れない時があるし」
「ちょっと用事があるんだよ」
「女でも口説いてんの?」
「ちげーよ」
石川さんに会った後、ごっちんに会いにくると必ず質問責めされるようになった。
誤魔化すようにタバコをふかす。
何もかも煙とともに消えてしまえば良いのに……
「香水の匂い消えちゃったね」
「そんなに香水の匂いしてた?」
「べっつに強烈にするわけじゃないよ、ごとーが敏感なだけかもね……」
「う〜ん、自分じゃわかんないな」
「そうだろうね。けっこう好きな匂いなんだ」
「へー」
知らないうちに彼女の幻を連れて帰ってるわけだ。
微かに香る甘い匂いは、あたしも大好きだ。
- 34 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:24
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一緒に居るときは、絶対にタバコは吸わない。
彼女のすべてに神経を集中したいから、余計なものは排除したいと思ってしまう。
ただ二人だけが存在する空間だと、錯覚していたいのだ。
- 35 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:25
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灰皿にタバコを押し付けて、潰すように火を消してから
ごっちんを見ると、窓辺に座って遠くのほうを見ていた。
あんな顔どっかで見たことある。
目の前にあるもの全て見えていなくって、何も映してない哀しげな瞳。
あたしのずっと向こうを見てる。
どれだけ見つめても合わさることが無い……真っ暗な闇のように。
ちょっとだけショックだったんだよね。あんな風に笑うんだって。
あの人に向けた微笑みは、明らかにあたしへのそれとは異なっていた。
安心したように微笑んだんだ、無防備にあの人に向かって微笑んでいた。
でも同じである必要は無い。
あたしは、あたしだ。
- 36 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:25
-
「よしこ?」
「ん?」
「見つめすぎだぞー」
「真希ちゃん可愛いから〜」
「あはっ、気持ち悪いよ!ふざけてんでしょ?」
「ほんきなのに〜」
「うそつきだね、よしこは……」
窓の向こうは闇の世界。あの人の瞳のように……
目の前の彼女に口付けながら、あたしは何も考えていなかった。
心が一つになるなんて有り得ない。
重なり合うことは無いんだ、どこまでも平行を辿っていくだけで……
- 37 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:25
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「ご飯食べたら帰るの?」
「真希ちゃんも頂いてから……なんてね」
「たっく、便利屋じゃないんだからね」
「そんな風には思ってないよ。ごっちんのこと……」
「でも満たされてないから、誤魔化すようにごとーの所に来るんだもんね。
好きな人、出来たんじゃないの?ひとりで百面相しちゃってたよ」
「ごっちんだって……」
「ごとーだって好きな人くらいいたさ〜」
「別れ…たんだっけ?」
「まあね。ごとーの胸にしまっておくんだ、大切な記憶だから」
「豊満な胸にね……」
「よしこのエロオヤジ!」
じゃれる様にふざけあっても心はどこか冷めていて。
自分が何をしたいのかわからずにいる。
腕の中に預けられる重みは、本音をさらけ出せない自分への罰。
お互いに満たされることの無い行為に溺れて、ただ虚しくなるだけ……
- 38 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:26
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- 39 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:26
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「なんだよー、ご飯作らない日って……」
「良いじゃんたまには外食も」
「あたしはいっつも外食なんだよ」
「よしこは一人暮らしだっけ?」
「ごっちんだって一人じゃん」
「ごとーは料理つくるの苦じゃないから」
「そうだったね……」
料理なんてやろうと思えば出来るけど、する気がおきない。
ごっちんとこに食べに行ったら、珍しく料理しない日とか言われて。
外食に飽きた時だけ、ふらっとお邪魔するのもどうかと思うけど……
小さい頃から気兼ねなく行けるのはごっちんのとこくらいで。
だから自然と足がそっちへ向かってしまう。
けど不思議なことにお互いについては、あまり知らない。
”お互いの周りについて”と言った方が正しいかな。
誰と付き合おうと何してようと詮索したことが無い。
会うとすれば必ず二人きりで会っているから。
- 40 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:27
-
「よしこさ〜、用事があるとか言ってなかったっけ?」
「急に無くなったの」
「振られたんだ」
「だから違うって」
図星だよ、悪かったな……見事に振られたんだよ。
他の用事があるから無理って。
ギリギリまで連絡しないことにしてるから、こういうことは慣れてて当然なんだけど。
幸いに今まで断られたことが無かったのだ。
昨日の店を素通りして、適当な店を探す。
あれが食べたいとか、これはイヤだ、なんて話していると
ふっと視界に見慣れた人が映る。
- 41 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:27
-
あーあ、やっぱあの人と居るのか……
同じ大学の同級生だって言ってたっけ?
反対側の歩道を楽しげに歩いていく。
あたしに見せることの無い屈託ない笑み。
年相応に大人びている普段とは違う顔で、笑っている。
道路を挟んで距離が開いていて良かった。
あたしはきっと、子供じみた嫉妬剥き出しで声をかけてしまったかも知れない。
二人の時間を少しでも消してやろうなんて……
しばらく二人を見送っていると、ごっちんが肩を押す。
”早く歩けー、お腹減った〜”なんて呟きながら。
「ごっちん?」
「なに?」
「どうかした?」
「なんでもないよ、どうして?」
「や、別に。なんとなく聞いてみただけ」
「あはっ、へんなよしこ。ほら行こうよ」
- 42 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:27
-
ごっちんは、いつものふにゃりとした幼い笑顔を浮かべた。
あたしもつられて笑う。
さっき肩を押されてすぐに振り返ると、ごっちんは穏やかに目を細めて微笑んでた。
それはあたしが見たことが無いほど大人っぽくて、別人のような表情だった。
お互いの心の中にある『何か』でも、それに触れることは無い。
自分のことで精一杯だから。
あたしは自分がどうしたいのかを、いまだに見つけられないでいる。
いまも隣のごっちんのことよりも、彼女のことを考えはじめている。
ごっちんも何かを考えているような、思いだしてるような顔をして黙っている。
相変わらず、その顔は穏やかで暖かい。
お互いに無言のまま、適当なお店を見つけることが出来ずに、ふらふらと歩いていく。
目的地が有って無い様なものだ、いまのあたし達って。
しばらく歩いても決められずにいると、店で食べるのが面倒になってきた。
だから家で食べよっかと、ファーストフードをテイクアウトして帰る。
こういうときだけは気が合うな。
すぐに面倒になって妥協しちゃうところとか……
性格が似てるって誰かに言われたことがあったっけ。
大胆なようで繊細。そして臆病だと……
- 43 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:28
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- 44 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:28
-
「石川さんは、料理しますか?」
「ほとんどしないよ」
「そうなんですか、普段どうしてるんですか?」
「ん〜、美貴ちゃんが作ってくれたり。外で済ませちゃったりかな」
「料理できるんですね、藤本さん」
「美貴ちゃんのほうが自立してるの」
「じゃ一緒にいるとラクですね」
「そうだね。なんだか恵まれてるんだと思う。
それが続いてるから、余計に料理下手になっちゃって……」
グラスの中のストローをぐるぐると回しながら、質問に答える石川さん。
滅多に、吉澤さんは?なんて返ってこない。
他人に興味が無いのか、人のプライベートに関わるのが嫌なだけか。
でも、興味がまったく無いなら会わないだろうと思うんだけどな。
少しくらいは、あたしのことが気になってるはずだ。
- 45 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:28
-
自惚れてるわけじゃないけど、勘違いしそうになるほど
見つめられてると感じる時がある。
でも目線を合わせようとすると、するりと逃げられる。
もし視線が合わさっても、余裕たっぷりに微笑むだけ。
壁だらけの完璧な笑み。美しいけれど、ただそれだけの……
あたしは笑顔が欲しいんじゃないんだ。
欲しいのは、欲しいのは、欲しいのは?
どんな表情だというのだろう。よく、わかんないな。
なおも彼女はストローでアイスティーをかき回しながら、何かを考えている。
アイスティーの中に、何が見えるんだろう?
その中に、何を見い出してるんですか?
その答えがわかるなら、あたしは彼女のすべてを手に出来るのかもしれない。
けど安っぽい征服欲のために、彼女の傍に居るんじゃないんだ……たぶん。
- 46 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:29
-
「携帯鳴ってますよ?」
「メールだよ」
そういって画面を見た石川さんは、すぐに視線をあたしに戻して
ちょっとごめんねって電話をかけた。
「保田さん、どうしたんですか?」
「美貴ちゃんがですか……」
「えぇ、いま外ですけど……あっ大丈夫です。はい」
「それじゃ、切りますね。はい、わかりました」
何かやり取りをしてから、携帯を閉じて短いため息をつく。
「ごめん、もう帰らなきゃ」
「あっ、送っていきます」
「今日はいいわ、タクシー拾うから」
「そうですか……」
- 47 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:29
-
通りに出て、タクシー待ってる間中、彼女はそわそわして落ち着かない様子だった。
誰からの電話かわからないけれど、”美貴ちゃん”という単語だけが耳に残った。
あの人の為に帰るんだ。遠ざかるタクシーを見つめていると、虚しくなってくる。
少しづつ感じていた手応えも、あっさりと無くなってしまうのかな?
でも諦めたりしない。
口元が勝手に綻んでくる、なにニヤケてんだろ。
楽しみで仕方ないっ。こんな状況でさえ、あたしは楽しんでいる。
結果がすべてだと思っていたけれど、過程を楽しむ余裕が出来始めてる。
辿り着く場所が同じなら、まわり道したり、迷ったりしながら
すべての過程を楽しんでしまおう。
きっとぜんぶ無駄になったりは、しないはずだ。
「ごっちん、今日は暇?」
『んあ〜?別に家にいるけど』
「会いに行っても良い?」
『じゃ、待ってる』
焦るな、急いては事を仕損じる……
リセットしよう、今までの自分を。
今度会うときに、もっと彼女を知れるように真っ白になろう。
- 48 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:29
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ただただ暗い闇の中に白い煙を吐き出す。目の前を浮遊する煙はあの人のようだ。
その煙を掴もうと手を伸ばして、すぐにひっこめる。
すこしづつ、すこしづつ近づけるだろうか?
煙の行方を見ながら、ボンヤリと考える。
泥臭く、理由もなく誰かを欲することが、こんなに苦しいなんて知らなかった。
触れてみたい。
心ごと彼女のすべてに触れてみたい。
なすがままに、流れに身を任せて彼女の傍に
必要とされるまで傍にいてみよう。
どんな結果が待っていようと、あたしは現在を楽しむことに決めた。
冷えた空気に身震いして、滑稽な自分を愛しいと感じながら……
- 49 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:31
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- 50 名前:―2.重ならない心― 投稿日:2005/10/04(火) 10:31
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- 51 名前:『 偽りの真実 』 投稿日:2005/10/04(火) 10:36
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―3.侵蝕する瞳―
- 52 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:37
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驕っていた、彼女には自分しかいないのだと……
いつしか、それは間違いだと気付いた。
気付いたときには自分の中には、もう彼女の姿は無く、そして必要ともしていなかった。
人間の心なんて勝手なものだと思う。
優柔不断でどうしようもなく身勝手。
あんなに自分の全てだと思っていた世界は、音も無く崩れ去り
そして新しいカタチを形成していく。
たぶん人はそれの繰り返しで、自分という人間を造っていくのかもしれない。
求められるのは悪くない。
でも、求めはじめたら歯止めが効かなくなってしまった。
腕の中で本能に酔いしれるキミは、どこまでも美しい……
- 53 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:37
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- 54 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:37
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「いらっしゃいませ〜」
いつもの光景が目に留まる。
席についてしばらくは、うっとりと自分を愛でる少女。
そんなに自分が好きなのかな。
わかんないな、今時の女子高生って……
嫌な影が頭を過ぎって、振り払うように首を振る。
梨華ちゃんと暮らすようになって、思い出すことも少なくなったのに。
忘れたんだ。もうあの頃の美貴は、この場所には存在していない。
「こら〜藤本!顔が怖いわよ」
「保田さんほどじゃないです……」
「なんですって!」
「なんでもありませ〜ん」
「まぁ、いいわ。あんまりバイト中に考え込まないでよね。
ただでさえ素のときは怖いんだから」
はいはいって返事をするとコツンとかるく頭を小突かれる。
”はい”は1回でいいのよと、あったかい声で注意しながら。
この喫茶店は、なんだか居心地が良い。
店長を務める保田さんは、梨華ちゃんの幼馴染でお姉ちゃんみたいな存在だそうだ。
だから、梨華ちゃん家に居候できることになったし感謝している。
理由はわからないけれど、美貴は信用されて保田さんに推薦されたのだから
悪い気はしなかった。
最初はあのピンクだらけの部屋に戸惑ったけれど……
家賃無しなんて物件は、どこを探したって無いだろう。
- 55 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:38
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「すいませーん」
「あっ、は〜い少々お待ちください」
やばいやばい、また昔の自分に囚われるところだった。
梨華ちゃんの様子がおかしくなってから、美貴までも
過去のことを思い出すようになってしまった。
「ご注文はお決まりですか?」
「あの、イチゴのパフェお願いします」
「私はチョコパフェにしようかなぁ」
「かしこまりました」
どうやら自分を愛でる時間は終わったらしい。
友達も慣れているのか、いつも気にしている様子は無い。
メニューを下げるのに受け取る瞬間、首を傾けてにこっと笑った女の子。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
自分をよく見せる方法をわかっているのだろう、彼女がそうだったように……
- 56 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:38
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ダメだ。
こんなにも昔を思い出す日は1日憂鬱で。
何をやっても、忘れたはずの彼女に結び付けてしまうのだ。
そんな気配を察したのか、保田さんは少しだけ早く終わっても良いと
美貴に告げた。
- 57 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:38
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「お疲れ様でしたー」
「藤本お疲れっ!そうだ、あんた知ってる?」
「何をですか?」
「ほら鏡をじーっと見てる子が来るでしょ」
「あぁ、注文するまでしばらく見てますね。あの子が何か?」
「あんたが居る時にしか来ないのよね」
「へっ?」
「別に意味があるとは言わないけど、未成年に手を出しちゃダメよ」
「保田さん、美貴はそんなことしませんって……」
「冗談よ。たまには石川も連れてきなさいね」
「笑える冗談にしてくださいよ〜。明日はお客として梨華ちゃんと来ます」
それじゃっと外に出ると梨華ちゃんが見えた。
なんでだろって思いながら走り寄って声を掛けると、やんわりと笑ってくれる。
- 58 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:39
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少し後ろに人の気配を感じて振り返る。
キレイな顔立ちに透き通るような白い肌、大きな瞳は梨華ちゃんだけを映しているようだ。
ふ〜ん、梨華ちゃんってば面食いだ。美貴だって可愛いけどさ。
あっ、だから選ばれたのかもルームメイトに……なんちゃって。
お互いに視線だけで牽制しあう。
すぐに笑って挨拶すれば、しばらくして我に返ったのか微笑み返された。
敵もなかなかやるな……
別に争う気は無いけどね。
少なくとも彼女に美貴は負けていない。
寄り添うように隣を歩く梨華ちゃんが必要としているのは
きっと美貴のほうだろう。
- 59 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:39
-
家の前で別れるときも梨華ちゃんと彼女の視線が合わさることは無かった。
でも、いつか呑まれてしまうかもしれないね梨華ちゃん。
彼女の瞳は何処かあの子に似ているから。
梨華ちゃんが愛したあの子に……
真っ直ぐな感情を伝える瞳。
いつしか『憂鬱』という二文字しか瞳の中に映さなくなったあの子。
でも、ほんとは……
あの子はきっと、梨華ちゃんのこと嫌いになんてなってない。
そして美貴なんかよりも、ずっとずっと優しくて臆病なんだよ……
- 60 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:40
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- 61 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:40
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「ケメちゃん変わってないね」
「素だよね、いつでも。自然体って言うか」
「うん、不器用だけど優しいしね。面倒見も良いんだよ」
「それは、すっごいわかる。美貴なんて雇ってくれたしね」
「良い目をしてるんだって、ケメちゃんが言ってたよ」
「保田さんが?」
「そう、意志の強そうな真っ直ぐな感じがしたんだって
だから美貴ちゃんを採用したんだって言ってたもん」
「へ〜」
コーヒーを淹れながらお客さんと話す保田さんを見る。
けっこう美貴のこと気に入ってくれてたんだなぁ。
美貴には、ぜったいそんなこと言わないのに。
- 62 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:41
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「今度は美貴ちゃんがバイトしてる時に、来ても良い?」
「いいけど、吉澤さんと来る?」
「……誰と来るかは、わかんないよ」
残りわずかなアイスティーをストローでかき混ぜながら
梨華ちゃんは考え込む仕草をした。
「別にひとりでも良いよ? 何かサービスしてあげる。サンドイッチとかさ」
「奢りにならない?バイト代から引かれちゃうんだったら、いらない」
「美貴が作るやつ食べてよ、こないだの学食のお返しだったら良いでしょ?」
「そっかお返しなら頂こうかな。じゃ楽しみにしてるね」
そういって無垢な笑顔を見せる。
少しづつ梨華ちゃんの時間の中に、彼女は浸透してきている。
それがイケナイことだとは思わないけど、まだちょっとイヤだなって思う。
言葉にはしないけど、自分の傍に居て欲しいって思っちゃうんだ。
- 63 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:41
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店を出て少し歩いていると、見慣れた制服が目に留まる。
近くの女子高の制服は、保田さんとこの喫茶店の常連さんに多くよく見かける。
鏡の彼女もまた、ここの生徒だ……
去年は見かけなかったから恐らく1年生だろうか。
梨華ちゃんが席を外した時に、周りを見渡してみたけど
たしかに鏡の女の子は居ないし、来なかった。
そんな風に考え事をしながら制服の群れへ目を向けたとき、一人の女の子だけが視界に飛び込んできた。
すぐに目が合う。彼女の瞳は迷い無く美貴を見ているから。
真っ直ぐな視線に、居心地が悪くなるのに逸らせないでいる。
「どうしたの?」
「ん?別に〜なんでもないよ。梨華ちゃん焼肉いこうよ」
「また〜?」
「いいじゃん、いいじゃん!たしか1週間以上は食べてないってば」
仕方ないなぁって感じで梨華ちゃんは歩き出す。
何かが心の中で危険を知らせる。早く逃げろと急きたてる。
もうイヤなんだ、あんな想いをするのは……
愛でる視線から逃げられるうちに逃げておこう、関らない方が良い。
- 64 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:41
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『大好き』
───ウソツキ
『世界で一番好き』
───ウソツキ
『愛してるよ』
───ウソツキ
彼女が愛していたのは美貴じゃない。
美貴の瞳に映る自分自身を愛していたのだから。
もうアナタの姿など映したくないんだ……
- 65 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:42
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- 66 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:42
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「いらっしゃいませ〜」
いつもと変わりないバイトの時間。
昨日の梨華ちゃんの姿が離れなくて戸惑っている。
泣きじゃくるのは慣れている。泣き止むまで傍にいるのが美貴の役目だから。
けれど昨日はいつもよりも酷かった……
苛立っていた自分にも腹が立つ。
割り切って傍にいたはずなのに、誰を思って抱かれようと関係ないはずなのに。
抱きしめた感触がリアルに腕に残っている。
『傍にいて』
そんな声が聞こえた気がして、美貴は泣きたくなった。
自分を変えたいと思っていたけれど、変わる必要があるのだろうか?
お互いに同じ迷路に迷い込んでいるのかもしれないね。
弱くったって良い、ありのままでいられることが、幸せなのかもしれない。
意地っ張りだから、お互いに。ムズカシイだろうけど……
- 67 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:42
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ため息とともに振り返ると、鏡越しに目が合って飛び上がりそうなほどビックリした……
心臓がカラダ中に音を響かせ、容赦なく打ちつける。
震えだしそうなカラダを自分で抱きしめ、なんとか理性を保たせる。
あの子は彼女じゃない、ただ自分が好きなだけのお客さんじゃないか。
- 68 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:43
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また今日も彼女は自分を愛でて、そして何度も美貴に微笑みかける。
その瞳で美貴に微笑みかける……
あの子の真っ直ぐな視線が絡みついて、離れようとしてくれない。
瞳の中に溺れて息さえも出来なくなってしまう。
苦しい、苦しいよ───
───助けて
美貴をあの頃に戻さないで……
- 69 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:43
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- 70 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:44
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「おかえり」
「……ただいま」
玄関の鍵を開けるて入ると梨華ちゃんが目の前にいた。
いつもならリビングから声を掛けるだけなのに、どうしたのだろうかと
思っていると先に問いかけられた。
「美貴ちゃん顔色がよくないよ、どうしたの?」
頬に添えられた手は少しだけ冷たくて、秋なんだと感じた。
心配そうに美貴を映す目は、あったかくて……
「今日は早めに終わっていいって」
「うん……」
「保田さん心配してくれてるみたいで……
けど、美貴は別にどっこも悪いわけじゃないんだよ」
甘えるように抱きついてみた。
頬から伝わる心音は、心地よく美貴に響いてくる……
急なことに驚いたのか上擦った声が聞こえた。
「美貴ちゃん?」
「少しだけこのままでいて?」
「うん……」
- 71 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:44
-
今日で終わってしまっても良い。
この温もりを憶えていたい、カラダ中で忘れないように。
依存しすぎた。離れられなくなる前に、逃げよう……
「大丈夫なの?」
「平気だよ」
「そう……」
梨華ちゃんは何も言わずに抱きついた美貴のことを、ギュッと強く抱きしめてくれた。
子供をあやすように背中をポンポンとリズムよくたたかれ、喉元にせり上がってくる息苦しさ。
歯を食いしばるほどに涙が溢れだしてきて、止まってくれない。
声は出すまい。溢れ出る涙がおさまれば”サヨナラ”を言おう。
- 72 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:44
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「落ち着いた?」
「ん、ごめん」
「ごめんって久しぶりに聞くね」
「そうだね……」
「美貴ちゃん?」
梨華ちゃんは穏やかに笑っていた。
「サヨナラとか言わないでね?」
「梨華ちゃ……」
「暗黙の了解だったじゃない」
「暗黙の了解?」
「お互いに深く関わり過ぎないように……
きっと過去に囚われたままだから、私も美貴ちゃんも
一歩だって歩みだすことが出来ないんだと思うの」
「……そうかもしれないね」
- 73 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:45
-
”お風呂に入ろう”
そう美貴が問いかけると梨華ちゃんはもう一度微笑んだ。
「今日はちょっと冷えてるでしょ。お風呂溜めておいたの」
「ありがと」
「どういたしまして」
『ありがとう』『ごめん』どちらも最後に交わしたのはいつだっただろうか?
まだ一緒に住みはじめて、お互いのこと何も知らなくて。
ぎこちないくらいに気を使っていた頃を思い出す。懐かしいな……
あの頃は上っ面だけだった言葉が、いま伝えれば心からのメッセージに聞こえる。
不思議なものだなぁと、ボンヤリ思った。
- 74 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:45
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- 75 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:45
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不器用に美貴のカラダをすべる手は一所懸命で……
だけど、快楽というのは気持ちで感じる部分が大きいのだと、改めて悟る。
こんなにも感じているのだから。
あの頃よりもずっと美貴は満たされているんだと思う。
「やっぱ美貴ちゃんみたくできないなぁ」
「まあまあでしょ?悪くはなかったもん」
「そうかなぁ、だって美貴ちゃんがしてくれると意識飛んじゃうもん」
「それは梨華ちゃんが感度良すぎなんだよ」
「……もうそんなこと言わないでよ、ばかぁ」
「そんな梨華ちゃんが嫌いじゃないけどね」
「……私も、嫌いじゃないよ」
「えっちが?それとも美貴が?」
「…どっちも」
”嫌いじゃない”お互いに少しだけ逃げた言葉を使う。
軽々しく口に出来ていた頃は良かったなと、ほんの少しだけ思う。
- 76 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:46
-
「ぷはぁー、あったかくて生き返るね」
「オヤジみたいだよ美貴ちゃん」
「だってさー寒くなってきたよね朝晩。
梨華ちゃんの手も冷たかったもん」
「冷え性だからね〜」
「いつでもあっためてあげるよ」
「うふふ、ほんと?」
「ほんとほんと。ってか”うふふ”はキショい!」
「もうキショいって言わないでっ……」
湯船の中でギューっと抱きしめればダイレクトに伝わる感触。
彼女の魅力はそれだけではないけれど……
美貴が手を緩めようとしたら、今度は逆に抱きしめられた。
伸びはじめた美貴の髪を、梨華ちゃんの指がやさしく撫でていく。
その動きが気持ちよくて、ゆっくりと瞼を閉じた。
「美貴ちゃん?」
「ん〜?」
「寝ちゃダメよ」
「気持ち良い」
「もう、お風呂で寝ないでね」
「あとちょっとだけ……」
- 77 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:46
-
胸元に軽く噛み付いてから吸い上げると、すこしカラダが震えた。
唇を離せば、ほんのり赤い華が咲いている。
ちょっと困ったように下がる眉と、仕方ないなぁって細められる瞳。
ちろちろと痕がついた場所を舐めていると、くすぐったそうに身をよじって
吐息まじりに名前を呼ばれた。
抱きしめた彼女の体温が、心地良いほどに上昇する。
その熱に包まれて、何も考えられなくなる。
溺れてしまう。
あなたの愛の中に溺れてしまいそう……
- 78 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:46
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- 79 名前:―3.侵蝕する瞳― 投稿日:2005/10/04(火) 10:47
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- 80 名前:日季 投稿日:2005/10/04(火) 10:50
- 更新終了です。
1.依存する二人、2.重ならない心、3.侵蝕する瞳
以上3つは、ほぼ同時期のお話で少しづつ時間が交差しています。
(まだ書くのが不慣れな為わかりづらかったら、すいません)
>29様
ありがとうございます。楽しんでいただけたら嬉しいです。
まったり頑張りますので、よろしくです。
完結してるので、時間があればさくっと更新できると思います(どっちやねんw)
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/04(火) 11:37
- 引き込まれました
楽しみにしています
- 82 名前:29 投稿日:2005/10/05(水) 09:52
- ‘さくっと更新‘が一気にきて、ますますのめりこんでます。
副題のつけ方が大好きですw
- 83 名前:『偽りの真実』 投稿日:2005/10/05(水) 17:01
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―4.交差する想い―
- 84 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:02
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甘い罠に堕ちていく……
でも、それは自然なことなのかもしれない。
触れてしまえば止められないとワカッテいた。
頭のどこかでワカッテた。
こんな行為に溺れるのは愚かでしょうか?
美しい姿態に溺れて、そして堕ちていく……
快楽の海を漂いながら、あなたは誰を想っていますか?
- 85 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:02
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******
- 86 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:02
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「うわっ最悪……」
隣町の本屋になんて寄るんじゃなかった。
今日は夕方までだったバイトが終わって、「参考書でも買うか」なんて
真面目に寄り道したら、これですか……
電車に乗って一つ隣の駅へ。そこから徒歩10分ってところにある大型の本屋さん。
あーあ、わざわざ買いに来るんじゃなかった。って後悔しても遅いし。
やばいって危険信号が点滅する。
美貴の方へと走ってくる姿が、少しづつ大きくなる。
本屋の出口で突っ立ったままの美貴の姿を見つけて、大きく目を見開いた女の子。
その反応から察するに、美貴だってわかって走ってきたわけではないらしい。
- 87 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:03
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「あっ、店員さん……」
「ども」
「あの……」
俯いた少女は持っていた鞄をギュッと抱きしめて。
心なしか少し震えていた。
「どしたの?」
「駅から歩いてたんですけど……」
心臓が悲鳴をあげハジメる。
カラダの内側から激しく、逃げろ逃げろと鳴り響く警報。
ギリギリギリギリと痛み出す心臓は、壊れてしまいそうだった。
そんな美貴の心の動揺など知らないこの子は
潤んだ瞳で真っ直ぐに美貴を見つめて、”助けてください”と
擦れた声で訴える。
- 88 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:03
-
「助けるって?」
「誰かが後ろをついてきて、怖くなって走ったの」
「走っても足音、ついて来てた?」
「はい……」
「家、どっち?」
「あっちです」
指さされた方向へ目を凝らす。ちょっと暗すぎだね、あの道。
なんてぼんやりと思っていると、袖をひっぱられた。
「しばらく一緒にいてもらっても良いですか?」
「別に良いけど」
「良かった……」
「家に電話しなよ。ご両親にでも迎えに来てもらったら?」
「パパもママも仕事で今日は帰らないんです」
「帰っても一人?」
「……はい」
- 89 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:03
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- 90 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:04
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「ごめんなさい、家まで送ってもらって……」
「気にしないで、暇だったし」
「ご飯一緒に食べませんか?」
「ほんとに?お腹ペコペコなんだよね」
「パスタで良いですか?」
「何でも良いよ」
ほんとはすぐに帰ろうと思ったんだけど、意外と普通だったから。
普通に接してくれたから、まあいっかなんて居座ってる。
だだっ広い家の中をぐるりと見渡す。すっごい金持ちの子だったんだね。
そういえばあの女子高ってお嬢様学校だ。
たしか梨華ちゃんもあそこの出身だったような……
- 91 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:04
-
とりあえず遅くなるからと梨華ちゃんへメールする。
”何時頃になる?”って返事が着たから”わかんないんだ”と返した。
即効で返信があり”帰る時間がわかったらメールして?”と問いかけられた。
きっと誰かと一緒にいるのだろう。吉澤さんだな。最近だとあの子しかいない。
美貴が帰る時間にまたサヨウナラなわけだ……
”時間が確定したらメールするね”と打っていると、用意が出来たのか戻ってきた気配がする。
「ごめんなさい、店員さんも帰らないとダメですよね」
「あ〜友達の家に居候して二人暮しだから平気だけどね。
あと、店員さんはちっとね……藤本って言うんだ」
「藤本さん……そう呼んでも良いですか?」
「あっ、適当に呼んでよ」
「はいっ!私のこと憶えててくれて良かった……」
「覚えてるよ、鏡の子だし」
「鏡、ですか?」
「いっつも見てるでしょ」
「嬉しい……」
ほんとに嬉しそうに、はにかんで美貴を見つめる。
何に対しての”嬉しい”なのかは分からないけれど。
- 92 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:04
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「帰りいっつも遅いの?」
「今日は遅かっただけです。学校の用事で……」
「そっか……」
「家に帰っても誰もいないから、遅くなっても平気かなって……」
「でも危ないよ。今日みたいなことがあるかもしれないし」
「ほんとに、藤本さんがいてくれて良かったの……」
「友達は?いっつも一緒にいる子」
「今日は先に帰ってもらったんです。いつもだったら一緒なんですけど……」
「なるべく二人で帰ったほうがいいよ」
「そうですね、そうします」
何がそんなに嬉しいんだか、ずっとニコニコとしている女の子。
話しかけるたびに、増えていく笑顔。
なんとなく帰りづらくって、ガラにも無く話し相手なんかをしてる。
寂しいだろうな、こんな広い家で一人なんて……
ご飯をご馳走になって、噛み合ってるのか合ってないのか分からない会話をして。
それでも楽しんでいるのは事実で……
- 93 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:05
-
だけど……
なんでもない会話をしていないと、濡れた瞳にのみ込まれてしまいそう。
幼さと大人の狭間で揺れる魅力的な瞳に。
- 94 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:05
-
ほんの少しの沈黙、痛いくらいに鳴り響く鼓動。
ドクンドクンと波打つように、美貴の中を駆けめぐる。
早く帰らなきゃ、帰らなきゃ───
『帰らないでください……』
囁くような声と、腕にかかる重み。
ダメだ、これ以上傍にいたら───
『……なんて言ったら、迷惑ですか?』
美貴の腕に寄りかかって、甘えるような仕草と上目遣い。
何もかもが歪んでいき、また新しいカタチを作りハジメる。
失った彼女の姿、梨華ちゃん、目の前の女の子。
ぐるぐると頭の中に映し出され、混ざり合っていく。
この瞳の中に溺れてしまうのか?またあのときのように……
美貴を愛でる視線が偽りであるかもしれないのに。
- 95 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:05
-
でも、違うとわかるから、この子は彼女では無いんだとわかるから
この子の瞳の奥に触れてみたいと思うのだ。
そんな言い訳をして携帯を開く。
ほんのすこしの理性が美貴を繋ぎとめようとするけれど、指先は答えをはじき出していた。
- 96 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:06
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- 97 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:06
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”今日は友達のとこに泊まってくね、おやすみ”
- 98 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:06
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- 99 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:07
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「もう帰りますか?」
携帯のディスプレイを見て固まっていたら、そう声をかけられた。
美貴ちゃん……
家の中で居るのが好きな人だから。だから予想外の答えに戸惑ってしまう。
バイトが終われば、真っ直ぐに帰ってくるって言ったじゃん。
本屋さんに寄ったら帰るね、帰りが遅くなりそう……最後には泊まってくなんて。
今日は帰れないってことだよね、一人で過ごすなんてどれくらいぶりだろう。
「一緒に帰ろう?」
私の言葉に彼女は目を白黒させて、理解に苦しんでいる。
”ふぇっ?”なんて間抜けな返事が返ってきただけだった。
「家に寄って行かない?美貴ちゃん、今日は帰ってこないみたい」
「……いいんですか?」
「うん、どうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
- 100 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:07
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自宅について紅茶を淹れながら、なんで部屋に呼んじゃったんだろうって
ちょっとだけ冷静になってきている。
吉澤さんは、部屋の中をきょろきょろと見渡すわけではなくて
ソファに座って、固まってしまっている。
どうやら、彼女も状況が理解できていないらしい。
ちょっと可愛いな。
緊張した表情とか、大人ぶっても子供っぽい素顔が見え隠れして可愛い。
あぁ、そっか。
やっぱり似てるんだ、あの子に。
だから惹かれたのかもしれない。
優しくて、繊細で、大人っぽいのに子供な人だった。
- 101 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:07
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「どうぞ」
「すいません、いただきます」
「吉澤さんって一人暮らし?」
「あっ、はい。そうです一人です」
「じゃっ、泊まっても平気だよね?」
私の言葉にかるくむせて、涙目になって見つめてくる。
その瞳で私の中に答えを見つけ出そうと、必死になってる。
けど、きっとわかんないよ。
私ね、いま自分がワカラナイの。
だから他の人にも、わかるはずが無いの……
「良いんですか?」
「うん、泊まって?」
「……はい」
「着替えとか……ジャージだったら少しくらい小さくても平気だよね」
「はぁ」
「お風呂入ちゃっていいよ」
「……じゃあ、お先に失礼します」
- 102 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:07
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- 103 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:08
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「美貴ちゃん、どうしちゃったのかなぁ……」
最近、様子が変だった。
何かあったのかと思っても聞けなくて……
保田さんから連絡が入ったとき、身が切られるように辛かった。
どうして意地なんて張ってたんだろうって、こんなに近くに居るのに
私たちはその心の中を見ないフリをして……お互いに自分で自分を追い詰めてた。
あんなに弱いところを素直に見せる美貴ちゃんは初めてだった。
ほんとに愛しくて、抱きしめて閉じ込めてしまいたかったの。
けど、また一線を越えれば崩壊へと進んでいくだけ。
怖くて何一つ言葉に出来なかった。好きだとさえ言えなくて……
「寒いよぉ、美貴ちゃん……」
ぎゅーっと震えだしそうな自分の体を抱きしめる。
目を閉じれば鮮明に浮かぶ、昔の自分と……愛したあの子の姿。
口にした名前と違う人が浮かぶなんて、バカみたい。
- 104 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:08
-
梨華ちゃん、一緒に寝よーよ
安心するんだー梨華ちゃんが居てくれると
ねえねえ、梨華ちゃん何食べたい?作ったげるよ〜
あはっ、スーツ大人っぽい。今日から大学生なんだね
梨華ちゃん、もっと視野を広げないと……
世界はね、二人だけで構成されてるんじゃないんだよ?
そんな顔しないで、アタシも辛いんだ……
もう傍にはいられない
- 105 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:08
-
何気ない会話の中で、あなたから聞いた言葉に縛られてるの。
私の中に眠る記憶はあなたでいっぱいだよ。
誤魔化すように、幾重にも増え続けてる新しい時間は
ただ、あなたとの記憶を底に沈めて蓋をしているだけ。
一度開けてしまえば、また溢れ出してこんなにも私を虜にして……
なのにどうしてかな、『好きだ』と言われた記憶が無いの。
どこへ消えちゃったんだろう?
お願い、好きだと聞かせて?
あなたのその声で、私を好きだと言って欲しい。
忘れることが出来ないくらいに、好きだと聞かせて?
ただ好きだと聞きたい、永遠に忘れられないように……
- 106 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:08
-
******
- 107 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:09
- 私がお風呂から出ると、ボーっとしたまま真っ暗なブラウン管を見ていた。
まだ夢の中みたいな顔をしてる……
ほんとに幼い表情が可愛い人、憎らしいくらいに可愛い人。
「髪、乾かさないと。風邪ひいちゃうよ?」
「あっ、すいません」
「じっとしてて」
彼女の真正面からドライヤーをあてていると、目線が泳いでいるのに気付いた。
自分の胸元を見下ろす、美貴ちゃんがつけた痕が見え隠れしていて……
うっすらと額に滲んだ汗は、どうやらドライヤーのせいではないらしい。
「吉澤さん、熱い?」
「へっ?いや、あのへーきです」
「そう」
目が合った瞬間に、彼女は硬く瞼を閉じた。
ドライヤーの風が止むのを待つ間中、繊細そうな目元が細かく震えていた。
ねえ、その瞳を開ければどんな世界が映っているの?
あなたの瞳に映る私は、どんな風に見える?
- 108 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:09
-
おしまいってドライヤーを切って、洗面所へ戻しに行くと
安心したのか、大きく息を吐き出す音が聞こえた。
冷静な思考と違って、さっきから速くなる鼓動が憎らしい。
何を期待してるの?
- 109 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:10
- 「石川さん?」
ソファに並んで座る吉澤さんの肩に、こてっと頭を乗せると
少し上擦った声が聞こえた。
普段すっごくクールなのに、焦ると可愛いんだなぁ。
熱を上げていくカラダとは裏腹に、私はすごく冷静だった。
欲しいの、あなたが欲しい。
触れてしまえば、きっとハジケ飛んでしまう弱い心。
わかってるの、けど止められなかった。
- 110 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:10
-
唇が触れる瞬間まで見つめあったまま。
あなたの瞳は澄んでいて深くて、底が見えない……
その瞳の中に私を沈めて、もう息も出来ないくらいに愛して欲しいの。
ただ触れるだけのキスをして、自然と離れた唇。
物足りないと思う私の心は暴走し始める。
不思議と何も考えられなくなっていた。
強く見つめられて、もう何も考えられなくなっていく……
あの子も美貴ちゃんも、私の中で眠っているみたい。
だから、私を……
- 111 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:10
-
******
- 112 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:10
-
******
- 113 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:11
- 唇が離れて合わさった視線。それは蕩けそうに甘かった。
「私、あなたが嫌いなの」
口元が綻んで紡ぎだされた言葉に、目を見開いた。
「あなたを見てると思い出しちゃうから」
石川さんの瞳はガラス玉のように、脆くて美しい。
「好きだったの……
もう彼女しか必要ないくらいに好きだっ……」
それ以上は聞いていたくなくて、力いっぱい抱きしめたのに
石川さんは抵抗しなかった。
それどころか……
- 114 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:11
- 「壊して?私のこと壊して」
そんな言葉をあたしに囁いた。
とても落ち着いた声で、いつもは高い声のトーンを最大限におとして……
低く低く囁かれた言葉。
返事のかわりに口付けると、石川さんはゆっくりと瞼を閉じた。
真っ暗な闇を湛えた瞳が閉じられた。
さっきよりも濃く繋がる唇から、直接伝わる熱がカラダ中を沸騰させる。
背骨がゾワゾワとして、腰が砕ける感じなんて久しぶり……
支えきれずに後ろへと一緒に崩れていく。
少しだけ開いた視界の先にいる石川さんは、大人っぽいのにドコか幼くて……
この無防備なカオを見たかったんだ、あたし。
見上げれば、可愛い可愛い石川さんが腕の中にいる。
- 115 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:12
- 「石川さん」
「名前で呼んで?」
「なま……梨華?」
「そう、お願い……」
吸い込まれそうなほど輝く漆黒の瞳が、あたしの本能を誘い出す
ゆらゆらと漂って、どこか虚ろな視線はあたしを映し出していた。
堪えきれない涙が、幾筋も流れてあたしの頬に降りそそぐ……
涙が零れ落ちた痕を、指先で辿りながら口付けて。
渇いた部屋の空気の中に、お互いの唇が合わさる音だけが響いている。
唾液が絡まり、混ざり合って口内に流れ込み
頭の芯がぐらぐらと揺れて、視野を狭めていく。
───もう、あなたしか見えなくなっても構わない
- 116 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:12
-
「梨華」
体制を入れ替えて、上になると石川さんはうっとりとあたしを見上げていた。
「好きです」
囁いた言葉に満足したように微笑み、あたしの手を引き寄せて
自分の胸元に触れさせた。
そこには赤い痕が見え隠れしていて……
誰がつけたなんて、もうどうでもいいんだ。
あたしがそれ以上に、刻んでしまうから――――――
- 117 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:12
-
******
- 118 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:12
-
快楽に揺られながら、彼女はただうっとりとあたしを見つめて、その瞳を優しく細めていた。
あたしはこれ以上ないくらいに満たされていた。
やっとその瞳の中に、自分の姿を見つけられたのだから……
乱れた呼吸の合間に何度も”好き”だと囁いて、
溶けてしまいそうに熱い中に触れ、乱れていく様子に幾度か
意識が遠のいた……
抱かれてるあなたより、あたしのほうが感じてしまってるみたい。
- 119 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:13
-
あなたが好きなんだ。
ほんとにほんとに……
そこには理由なんて存在していなくって。
ただ好きだと痛感してる。
あなたの闇の中に浮かび上がるあたしの姿は
いままで見た事が無いほどに、穏やかで満たされていた……
あなたが望まなくても、何度だって言えます。
この声が聞こえますか?
あなたが、好きです──────
- 120 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:13
-
- 121 名前:―4.交差する想い― 投稿日:2005/10/05(水) 17:13
-
- 122 名前:日季 投稿日:2005/10/05(水) 17:15
- 更新終了です。次回で最終予定。
>81名無飼育様
ありがとうございます。興味をもってもらい嬉しいです。
今後も読んでもらえるように頑張ります。
>29様
ありがとうございます。
副題いいですか?ひっそり嬉しいですw
- 123 名前:『偽りの真実』 投稿日:2005/10/06(木) 19:14
-
―5.答えのない世界―
- 124 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:15
-
「可愛いなぁ」
まだ無垢な寝顔を見つめる。
ほんと子供だった、キスしただけで目に涙とかためちゃうんだもん。
うるうると誘ってるようにしか見えなくて、でも我慢してそこで終わり……とはいかなくて。
「んっ……」
寝返りをうって洩れた吐息にドキッとする。
いらんところが大人っぽい、罪な子。
目が覚めたら……
ちょっとからかってみようかな?
- 125 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:15
-
「おはよう」
「……おはようございま」
上半身だけ起き上がり目をごしごしさすってから、しばらくすると現状に気付いたのか
パッと胸元を押さえた。
みるみるうちに染まる真っ白い肌。
ほら桜色に染まったりしたら、また欲しくなっちゃうからさ。
ダメだよ、無防備に誘ったりしたら。
「もう見ちゃったから隠しても意味ないよ」
「……意地悪ですね」
「そうかな?優しくしたんだけどな」
「優し……かったですけど」
「まだ最後まではしてないんだけどね」
俯いてた顔を、思いっきり上げてビックリしている。
「痛くしちゃ可哀想だから」
「い、痛いんですか?」
「どうでしょう?」
「やっぱり藤本さんは意地悪です!?」
潤んだ瞳は甘美な誘惑に変わる。
理性がハジケてしまわないようにしなきゃ、きっと傷つけてしまう。
- 126 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:15
-
「可愛かったよ」
「・・・・・」
「すっごい可愛かった。だからキスしていい?」
「あの……」
聞くのはポーズだから。憶えてて?
美貴は天邪鬼なの。だから、嫌いになるなら今のうちだよ。
- 127 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:15
-
再び俯いてしまった顔を下から覗き込んで、優しく唇を重ねる。
ぎゅっと左腕を掴まれて、彼女の緊張が痛いほどに伝わってくる。
ただ重ねただけの唇を、離さずに待つ。
苦しくなって薄く開いた唇から、甘い吐息が漏れだすのを待って……
「んっ……はぁっ…」
口内に素早く舌を滑り込ませて、彼女の舌を絡めとろうとするが逃げられる。
歯列をゆっくりなぞってタイミングを計るが、思うようにいかない。
掴まれている腕はそのままに、空いていた手で肩を抱き寄せて
唇を離して囁いた。
「舌、だして」
「…えっ?」
「だして?」
ちろっと遠慮がちに舌を出して、不安そうに揺れる瞳。
目だけで訴えてくるから、それでいいんだよって微笑む。
- 128 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:16
-
「逃げないでね?」
すこしだけ出された舌を唇で挟んで、ちゅっちゅっと軽く吸い上げてから
舌を絡めていく。
美貴の動きにこたえようと、硬く瞼を閉じて必死にがんばってる。
昂ぶった感情が溢れないようにしながら、すこしづつ口内を侵していく。
どこか冷静な自分がブレーキをかけているから、いまは大丈夫。壊したりしない。
「はぁっ……ん…んぅ……」
ねっとりと絡みつき流れ込んでくる唾液は、媚薬のように美貴を酔わせる。
薄く開いたままの口からツーっと零れ落ちて、顎をつたう。
零れた唾を舐め上げて、また舌を絡めて……
- 129 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:17
-
とろけるような視線に、溺れてしまいそうだった夜。
いや、もう彼女の瞳に溺れて、うまく呼吸さえ出来なかったんだ。
うっとりと美貴にされるがままの表情が、あまりにも可愛くて。
必要以上に囁いていた、”可愛い”と何度も何度も……
- 130 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:17
-
ちゅぱっと美貴の舌に吸い付いて、至近距離で見つめる彼女の瞳は
トロリとまどろんで、朝露のような滴を湛えている。
「どんな感じ?」
「甘い…です」
その顔が苦痛で歪んでしまうのを、いまは見たくないから
湧き上がってくる欲情をなんとか静めて、触れるだけのキスをする。
「はぁ……」
唇を離すと、くてっと美貴に寄りかかり甘い息をつくのが感じられた。
「可愛い」
ぎゅっと思いのほか強く抱きしめてしまったけど、彼女は小さく息を呑んだだけで
そのまま甘えるようにさらに身を寄せた。
くったりと寄りかかられて、触れ合う肌のあたたかさに心が癒されていく……
- 131 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:18
-
雪のように白い肌が淡く色づいて、たまらなく
「おいしそう……」
無防備な胸元に甘噛みして、美貴を刻む。
「あっ……」
「おいし」
「おいしいですか?」
「うん、甘い」
うっすらと赤くなった痣を指先でなぞりながら
困ったように笑ってる。
- 132 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:18
-
「また来ても良い?」
「えっ?」
「ダメ?」
「ダメじゃないの……」
「あんがと」
「あの、これ……」
携帯を指して「アドレス?」って問いかけると、頷くので
教えると入力しながら、嬉しそうに自分の携帯を見て微笑んだ。
こんな風に子供っぽく笑ってる顔も、可愛い。
思っても、普段は絶対に口には出さないけど。
「いつでもメールしてよ。バイトとか講義中じゃなきゃ暇だから」
「はいっ!」
そう元気よく返事をした瞬間に、布団がずれてまた真っ赤になる。
引っ張り上げた布団から目だけ出して、かるーく泣きそうになってるし。
だから、もうぜんぶ見ちゃってるから。まぁ、そんなところが可愛いけど。
「藤本さんは平気ですか?」
「ん?あぁ、もっと見たい?」
「いいです!」
「ほら」
「別に見たいって言ってないの!?」
相変わらず目だけだして……
そんな泣きそうな顔で睨まれても、怖くない。
- 133 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:18
- 「お風呂一緒にはいろ?」
「……立てないの」
「どして?」
「わかってるくせに……」
「わかんないなぁ」
「腰が…なんだか力が入んないんです」
「キスだけで砕けちゃった?」
「藤本さんは、いぢわるなの」
唇を寄せると真っ直ぐ受け止めてくれたけど、ちょっと噛まれた。
ちくっとしたけど本気で噛んだわけでは無いから、血までは出ていなかった。
「痛いじゃん」
「だって、意地悪するから…」
「舐めて?」
美貴の言葉にちょっと戸惑ったように眉をひそめる。
ゆっくりと美貴の唇を、小さな舌先で舐めはじめる。
くすぐったさに笑みが漏れる。
目を閉じて、生温く湿った感触に身を任せた……
- 134 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:18
-
透けるような白い肌は熱を帯びて、暗闇に妖艶に浮かび上がっていた。
あったかくて、すべすべの肌触り、甘い舌の味、とろける様な視線。
「癖になりそう」
「・・・・・?」
「また会おうね、今度はぜんぶちょうだい」
「……会ってくれますか?」
「美貴に、ぜんぶくれますか?」
ちょっと微笑んで、ぴったりと美貴にひっついた。
トクントクンと、触れた肌からは少しづつ早くなる心音が響いてきた。
- 135 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:19
-
「……藤本さんにあげます」
”ぜんぶ、あげるの”
素直で可愛い妖精さんは、そう呟いてそっと口づけ
美貴のことを抱きしめてくれた。
不器用なほど真っ直ぐな瞳が、美貴を包み込んで離してくれそうにない……
心地いい束縛に浸りながら、言いようの無い幸せを感じていた。
さよなら、愛した人。
さよなら、さよなら、さよなら……
もう、あなたを映すことは無いでしょう。
- 136 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:19
-
******
- 137 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:19
-
******
- 138 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:20
-
「痛っ……」
鈍痛がはしる腰と、隣に感じるいつもとは違う気配。
覗き込んだ寝顔はなんだか穏やかで幸せそう……
起こさないように、ゆっくりと布団から抜けると遮光カーテンを開けた。
眩しいくらいの朝日が、私の体につけられた痕を鮮明に浮かび上がらせる。
優しい人だ、彼女は。
何度『好き』と囁いて、何度『梨華』と呼んでくれただろう?
私を想って、私を感じて真摯なほどに愛してくれた。
初めて真っ直ぐに彼女を見た気がする。
透明な光を宿した瞳は、私を浄化していく……
- 139 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:20
-
「石川さん?」
「おはよ」
「おはようございます」
寝ぼけた顔で私の後ろに来て、無防備に微笑んだ。
「ありがとう」
「ふぇっ?」
「気持ちよかった」
「あぁ……」
ちょっと照れたように頭を掻いてから、複雑な顔をした。
「あたしのほうが気持ちよかったりしました」
「えっ?」
「石川さん、すごいから。抱き心地がいいなぁって感じで」
「すごいのかなぁ……」
「なんだか心配ですね」
「心配?」
「はまったら抜けられなくなりそうで……
それに、あたしなんて代用品だろうし」
そんな泣きそうな目をしないで?
昨日は見つめられるだけで、イッちゃいそうだったんだよ……
たぶん、そんな気持ちは初めてだった。
- 140 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:20
-
「吉澤さんが良かったんだよ。代わりじゃない」
「・・・・・」
「だって、あなただからお願いしたんだもん」
「自惚れちゃいますよ、調子に乗っちゃうし」
そっと背伸びして口づける。
触れるだけでこんなにもカラダ中が熱を帯びる。
「もう嫌いじゃないもの」
探るような視線に、真っ直ぐ向かい合うことが苦痛では無くなった。
愛されてるんだと感じながら、私はドコかで違う誰かを求めてた。
けど、あなたに抱かれてる時はそんなこと思い出さなかった。
- 141 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:21
-
「吉澤さん?」
「はい」
「また、愛してくれる?」
「喜んで……」
今すぐにとは言っていないのに、勘違いした彼女は
ゆっくり私のカラダを撫ではじめた。
深く口付けながら、カラダの上を滑る指先は繊細で。
彼女の生真面目な性格を現しているよう。
けれど熱を帯びていくうちに大胆になる指先に
翻弄され溺れた夜……
- 142 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:21
-
「だめ」
「へっ?」
「ここまでね、朝ごはん食べよう?」
「はぁ……」
「続きはそのうちに、ね?」
「そのうちですか……」
焦らないで。
きっと、また二人で会いたくなる日が来ると思うから。
- 143 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:21
- 「石川さんは愛されてたんですね」
「どうして?」
「愛され上手なように感じます」
「そんなこと言われるの初めて」
「そうですか?あたしは、そう思いました」
愛され上手か……
二人の人が頭に浮かび、私はまた迷いはじめる。
誰が一番で、誰が二番……そんなの決められるほど
私は偉くなんて無いから。
「聞いてもいいですか?」
「答えられることなら」
「あなたの心にいるのは誰ですか?」
「いまは、吉澤さんかな」
その答えは不満だったらしく、大げさにため息をついて
力なく笑った。
- 144 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:22
-
「石川さんはずるいな……」
「ずるいかもね」
「藤本さんは?」
「うん、美貴ちゃんも好き」
「それ以外の誰かも?」
「えっ?」
「名前。掠れてハッキリとは聞き取れませんでしたけど、
なんか違う名前を口にしていたから」
「そう……」
久しく呼んだりしてないのに……
やっぱり似てるんだ、あの子に。だから無意識に呼んじゃったのかな。
自分で全然憶えてないんだもん、ほんとに呼んだのかな?
「でも、心の中に居る人で浮かぶのはその二人と、あなたくらいよ」
「じゃあ、頑張っちゃおうかな」
「頑張るんだ」
「はい。きっと……」
「きっと?」
- 145 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:22
-
透き通るように美しい瞳が自信有り気に揺れる。
その視線は私を……
『きっと好きになりますよ、あたしのこと』
いつか射抜いてしまうかもしれない。
- 146 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:23
-
******
- 147 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:23
-
やけに機嫌よく美貴ちゃんは帰ってきた。
そうそう、伝えたいことがあるの聞いてくれる?
そんな問いかけに、視線だけで続きを促した美貴ちゃん。
「これからは私が、美貴ちゃんのこと気持ちよくしてあげる」
「なにそれ?」
「こないだのクセになりそうなんだもん」
「はあっ?」
「美貴ちゃんとっても可愛かったから」
「……うっさいなぁ」
「甘えたな美貴ちゃん可愛かったぁ」
「……勝手にして」
そう呟いて美貴ちゃんは私の横をすり抜ける。
”お腹すいたー”なんて暢気にあくびして。
別に怒ってるわけじゃないのに、素っ気無い雰囲気……
うん、こうじゃなきゃ美貴ちゃんらしくないよね。
- 148 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:23
-
「ねえねえ、どこ行ってたの」
「ん?さあ、どこでしょう?」
「教えてよぅ」
「梨華ちゃんこそ、誰と過ごしたのかな?」
「あっ……」
ソファの脇に置いたまんまのシーツ。洗おうと思って忘れてた……
「珍しいね。自分の部屋に入れたんだ」
「……うん」
美貴ちゃんは別に気にする風でも無く、ソファに腰を下ろした。
よっこらしょなんて呟いて、買ってきたものをテーブルに無造作に置いた。
「ご飯食べてないの?」
「……違うものは食べたんだけどね」
「はい?」
「あぁ、こっちの話」
「だからぁ、どこにいたの?これからも行ったりする?」
「内緒。これからも行くと思うよ」
そう言って携帯を見せられた。
「可愛いでしょ?」
幼い寝顔はとても可愛らしくて。
っていうか……
- 149 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:24
-
「美貴ちゃん、犯罪」
「痛いとこつかないで……梨華ちゃんらしくない」
「なによぅ、私らしくって?」
「寒いこと言ってるくらいが良いんじゃない?的外れな感じの。
もうカッコつける必要も無いんだし」
「……そうだね」
お互いに、逃げてばかりいたから。
もう無理に自分を造る必要は、ないんだね……
「好き……なの?」
「ん〜、好きかもしれない」
「そっか」
「梨華ちゃんはどうだった?」
「私も……嫌いではなくなったわ」
「そっかそっか」
買ってきたオニギリを嬉しそうに頬張って
なんだか優しい顔になってる、美貴ちゃん。
- 150 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:24
-
「忘れられそう?」
「忘れないよ」
「忘れない?」
「うん。昔の私も、今の私も間違ってはいないと思うの」
「間違ってない、か……」
「卑屈になっていただけで、ちゃんと愛されてたんだろうなって。
いまなら、そう思えそう」
「そうだね、愛されてた、愛してた……」
「そう、愛してた気持ちも間違いじゃないよね」
いま美貴ちゃんを想う気持ちも間違いじゃない。
自分のことだって……
愛してあげなきゃ、誰よりも自分を。
こんな私を好きだと言ってくれる人のためにも、自分のためにも。
- 151 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:25
-
「じゃっ、美貴も自分の心のままに生きてみよっかな」
「答えが出るまで、迷い続けちゃっても良いよね」
「それも楽しんじゃえば良いんだよ、きっと」
微笑んでやっぱり大人な顔をする。
いままで見え隠れしていた冷めた雰囲気が緩和され、穏やかな笑みを浮かべて
美貴ちゃんは私を見つめていた。
「梨華ちゃん?」
「なあに?」
「好きだよ」
「うん、私も大好き」
照れたように視線を合わせてはにかんで。
こつんっとおでこをくっつけて、また笑って……
触れるだけのキスをした。
- 152 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:25
-
******
- 153 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:25
- 止まる事のない時間の中で、すこしづつ変わっていく真実の姿。
囚われすぎていた心の中を、少しだけ開放すれば
まったく違った世界が見えてくる。
答えなんてどこにも存在していないから、迷って苦しむのかな。
ね、いつしか偽りさえも真実になってしまうかもしれない。
自然と零れ落ちた想いと言葉が、真実になっていけば良い。
いますぐに、すべてを決めてしまう必要はないから。
少しくらい矛盾しても、心のままに生きていこう。
心の行方は、自分自身で導き出して、歩んでいくしかないのだから。
自分で責任がとれるなら……
きっと、どんな答えも間違っていないよね?
- 154 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:26
-
******
- 155 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:26
-
求め合えば終わりだと思っていた。
けど、はじまってしまえば簡単なことで。
お互いに依存していようとも、過ごし難いことは無く。
それが当たり前で自然なカタチになっていく。
見えないものを探しすぎたのかもしれない。
もっとラクに生きればいい。
立ち止まって振り返ったときに、いまが一番幸せだと思えるように。
いろんな想いを抱えて、歩んでいけばいい。
何通りもの物語が待っている未来へ……
- 156 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/06(木) 19:26
- すごく引き込まれました
作者さん、話の組立て方がお上手ですね
更新も早くて読み手としては嬉しい限りです
自分もこんな素敵な小説が書きたいなと思いました
応援してますので頑張ってください!
またちょくちょくお邪魔させてもらいますw
- 157 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:26
-
- 158 名前:―5.答えのない世界― 投稿日:2005/10/06(木) 19:26
-
【 了 】
- 159 名前:日季 投稿日:2005/10/06(木) 19:33
- ぬる〜いですが、完結です。
答えは焦って導き出す必要は無いんじゃないかと思います。
悩んで迷っていずれ一つに絞るかもしれませんが……まったりいきまっしょい。
この続編や番外編も、いつになるか分かりませんが書けたら更新したいと思います。
番外は( ´ Д `)を予定。
>>2-24 1.依存する二人
>>30-48 2.重ならない心
>>51-77 3.侵蝕する瞳
>>83-119 4.交差する想い
>>123-155 5.答えのない世界
>156:名無し飼育だYO様
嬉しいお言葉有難うございます。
調子に乗っちゃうタイプなので、頑張れそうですw
まったり頑張りますので、よろしくです。
- 160 名前:日季 投稿日:2005/10/06(木) 19:34
- 大好きなカプの中途半端な短編を一つ……
ばかっぽーにお付き合いくださいませ。w
- 161 名前:日季 投稿日:2005/10/06(木) 19:35
-
『すきな理由』
- 162 名前:日季 投稿日:2005/10/06(木) 19:35
-
「あったかい冬が好きかなぁ」
最初聞いたときは冗談だと思ったの。
けどよっすぃは、すごく真面目な顔をしてた。
どうやって返事をしたら良いのかわからずに困っていると、
よっすぃは私の頬に手を添えて唇を寄せる。
戸惑いながらキスを受け止め、私の頭の中にはまださっきの言葉がぐるぐると回っている。
”あったかい冬”が好きって言うのは……
寒い季節にほんのちょっとだけ暖かくなった時のことを指すのかな?
もう一度、最初から整理してみよう。
- 163 名前:日季 投稿日:2005/10/06(木) 19:35
-
******
- 164 名前:日季 投稿日:2005/10/06(木) 19:36
-
「ねぇ、よっすぃはどの季節が好き?」
何気なく聞いた質問の答えは予想外だった。
前は”夏”って答えてたじゃない?
「あったかい冬が好きかなぁ」
「えっ?」
冬って暖かくないよね?冗談で言ってるのかと思ったら
よっすぃは真面目な顔……どういうことだろう?
そう思ってたらキスされて。
それでも頭の中で回り続けるよっすぃの言葉。
だって、わかんないんだもん。
いっつもよっすぃは言葉が少し足りないんだから。
- 165 名前:日季 投稿日:2005/10/06(木) 19:36
-
******
- 166 名前:好きな理由 投稿日:2005/10/06(木) 19:36
-
口づけされたまんま考えてたら、唇が離れた瞬間に拗ねた顔が見えた。
もう、可愛いんだから!なんて暢気なこと思ってたら、ますます唇がとんがってくる。
「な〜に考えてるんだよ?」
「あったかい冬について?」
「ついて?って……。さっきの質問の答えのこと?」
「そうだよ。わかんないんだもん」
「感性が豊かな人は分かる」
「どうせ私は右脳人間じゃないわよ」
「あぁ、ハロモニ。の診断結果?一人だけ左脳人間タイプって言われたんだっけ。
そんなん気にすることないじゃん。
どっちかって言うと、考えるよりカラダが先に動くタイプなんだから
ほんとは右脳人間だと思うけどね」
「いっつもから回ってるもんね……」
「そこが魅力でしょ?気にすることないんだって」
「そうかな?」
「そうだよ」
ぎゅっと抱きしめられてうっとり……
あったかい冬についてはどうなったんだっけ?
少しだけ腕の力が緩んで、また真面目な顔でじーっと私を見つめる。
この視線だけで私は生きていける、なんてバカなことを考えちゃう。
- 167 名前:好きな理由 投稿日:2005/10/06(木) 19:37
-
「人の温もりが分かるから、寒い冬が好きってこと。
寒いから、あったかさが分かるんだよ。だから冬は暖かくて好き」
あぁ、そういうことかぁ……
納得したアタシの顔を見つめた後、よっすぃは私の胸元に顔をうめる様にして
抱き着いてきた。
「梨華ちゃん、あったかいから好き」
子供みたいに頬をすりすりしてくる姿に苦笑しながらも”可愛いなぁ”って思う。
髪を優しく撫でると、気持ち良さそうに目を閉じて……
- 168 名前:好きな理由 投稿日:2005/10/06(木) 19:37
-
「なにしてるのよ!」
「やっ、直にぬくもりを感じようと思って」
「思ってじゃないわよ……」
「いいじゃん、感じあおう?」
「やだ」
「りかちゃ〜ん!?」
結局はどの季節でも、結果は一緒じゃないの?ばかっ!?
でも、そんな彼女が大好きな私もバカなんだろうなぁ。
- 169 名前:好きな理由 投稿日:2005/10/06(木) 19:37
- おしまい。
- 170 名前:好きな理由 投稿日:2005/10/06(木) 19:38
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- 171 名前:_ 投稿日:2005/10/06(木) 19:38
-
- 172 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/06(木) 20:13
- ありがたい更新中の横レス、ごめんなさい…
アフォな自分が情けなさすぎて
同時に作者さんに申し訳なくて再び舞い戻ってきた次第です
レスして、ご飯を食べ、戻ってみれば更新が!
途中自分のバカっぽい文章が目に入り顔から火が出そうでした…
以後気をつけますのでどうぞお許しください・゚・(ノД`)・゚・
本編もいい結末でしたし、短編も可愛かったっす!
ありがとうございました
- 173 名前:29 投稿日:2005/10/06(木) 22:20
- 完結お疲れ様でした・・
を書く前に次の更新まできているとは!!
どこまで嬉しいことをしてくださるんですかw
中篇も短編も大好物ばかりです。
これからも楽しみにしています。
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/07(金) 01:33
- 作者さんの書く世界観に凄く引き込まれました
大好きです
- 175 名前:日季 投稿日:2005/10/07(金) 18:46
- 『偽りの真実』のおまけです。
シリアスではありません。軽い感じです……本編とは雰囲気が違いすぎるのでご注意を。
登場人物のイメージを損なう恐れがあります(ヲイ
鏡の女の子と藤本さんのその後っぽい?感じです。
- 176 名前:『偽りの真実』おまけ?? 投稿日:2005/10/07(金) 18:47
-
─小悪魔注意報─
- 177 名前: ─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:48
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「ちょっと、どういうことなの美貴ちゃん?」
「あの深いような、浅いような……まぁいろ〜んな事情が……」
「お家でじっくり聞こうかしら?」
「ええっ!?」
ありえない、ありえない、ありえない……
- 178 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:48
-
******
- 179 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:48
-
「こないだ梨華ちゃんと歩いてたときに、目が合ったよね?
なんであの時に声かけなかったの?」
「だって、藤本さんしか目に入らなかったんだもん!
それだけ大好きなの」
キャッとか頬に両手を添えて古典的なポーズをとられても
全然、可愛くな……ちょっとは可愛いけども。
そんなことよりも、あっちで黙々とお茶を淹れてる梨華ちゃんが怖い。
- 180 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:48
-
「だいたい、梨華ちゃんには写真見せたじゃん!?」
「あんな寝顔じゃわかんないわよ!?そんなにじっくり見たわけじゃないし」
「写真ってなあに、お姉ちゃん?」
梨華ちゃんは美貴の携帯を勝手に開いて、こないだの写真を表示させる。
それを見てこの子は……めちゃめちゃ嬉しそうに頬を染めて美貴を見つめる。
おまけにがっつり腕にくっついて、胸を押し付け……
「デレデレしないで、美貴ちゃん」
「し、してないよ!」
「してるわよ!」
「やーだぁ、藤本さんったら!!うれしい〜、こんな可愛い子いないですもんね」
ほっぺたにチューされながら、つい数時間前のことを思い出していた……
- 181 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:49
-
******
- 182 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:49
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今日は授業も無かったから朝からバイト。
午後の講義が終わったら梨華ちゃんが来ると言っていた。
いつもの時刻に、女の子は喫茶店にやってきた。
ニコニコへらへらしてる友達を連れて……
なんとなく見つめられるのも慣れて、鏡越しに笑いあう余裕までできた。
あの日、恥ずかしそうに教えてくれたんだ、鏡に映る美貴を見てたんだって。
愛でる視線は美貴への愛情の深さを現していたんだと、純粋に嬉しかった。
それを知ってから余計に、彼女の視線は心地良いものに変わった。
- 183 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:49
-
梨華ちゃんまだかなぁ、なんて思ってたんだよね。
あのときまでは平和だったなぁ、女の子は鏡を見つめて、友達がふにゃふにゃ笑ってさ……
ほんと、あの瞬間に戻りたい。
で、梨華ちゃんが店の扉を開けた瞬間だった。
「「お姉ちゃん!」」
2人の声に目を見開いた。
美貴はいらっしゃいませって言うのも忘れて、きょとんって。
ものすっごい間抜けな顔できょとんってしちゃってた。
- 184 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:49
-
「あっ、さゆじゃない。久しぶり〜。絵里は、ちゃんと勉強してるの?」
その声に物凄い速さで逃げなきゃって思ったら、保田さんに捕まって。
「あんた手出したわね」って悪魔の笑み……その笑顔、普通に怖いですって。
知ってましたね、保田さん。あの子が梨華ちゃんの妹だって。
妹?いや、苗字が違ったぞ?って悩んでると
保田さんに襟首を掴まれてる美貴を、不思議そうに見ながら梨華ちゃんがこう言った。
「美貴ちゃん紹介するね。妹の絵里と、従妹の道重さゆみちゃん」
って。あぁ、従妹ですか……だったら苗字が違っても、お姉ちゃんって呼んでるのは納得できる。
っていうか重さんの友達が妹?色は、ちょい似てるかな、顎は姉のが俄然強めだけど。
梨華ちゃんは3姉妹の次女だったのを思い出しながら、もう一つの不安が頭を過ぎる。
でも、”ないない”って自己完結して忘れることにした。
- 185 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:50
-
そして、重さんがとんでもない言葉を口走った。
『さゆみは、心もカラダも藤本さんのものなの』
えへっとか小首傾けて言われた美貴は、えへっなんて返せるわけも無く
現在に至る……
- 186 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:50
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- 187 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:50
-
「二人で撮りましょ?はい、うさちゃんピース!」
「・・・・・」
この異様な空気の中で、できるか。
梨華ちゃんはというと従妹に甘いのか、ちゃっかり美貴のと重さんの携帯で
二人の写真を何パターンか撮影してる。
しかも、無表情で……
怖い、怖いよお母さん!
「笑ってよ、美貴ちゃん」とか「うさちゃんピースくらいして」って、抑揚の無い声で促されたりして
泣きそうになる……
美貴が何をしたってんだよ…
いや、したのか。どうしよう、まさか従妹だったなんて。
言えないけど色だって違うしさ、顎だって出てないしさ。
口元のホクロとか可愛いしさ。あっ、梨華ちゃんの鼻筋のホクロも好きだけど。って関係ないし。
表札見たけど、『道重』なんだもん、わかるわけ無いじゃん。
- 188 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:51
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- 189 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:51
- 重さんは塾があるとか言って帰っていった。
残されたのは……
「じっくり聞かせてね?」
こわっ、笑顔が怖い。助けて、マジで助けて……
絵里のふにゃふにゃ笑顔が恋しい。
- 190 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:51
-
「あの日たしか、『違うものは食べた』とか言ってたわよね?」
「や、あの…違うものといいますか、なんていうか」
「ぶっちゃけ、さゆのこと食べたわね?」
「最後までは食べてない!ほんとだよ、ちゃんとその辺はわきまえて……」
「途中まではってこと?どの辺りを基準に言ってるのかしら?」
「えっとその…なんて言うんだろ、中には触れてないって感じ?」
「もう、だいたい分かった。際どいとこまで手を出したわけね?」
「……うん」
「幾つだと思ってるのよ?」
「高校1年生です、えっと16歳だって聞いてます」
「美貴ちゃんは幾つになったのかな?」
「二十歳になりました」
大学3年生です。もういっぱしの大人です。お酒とか飲めます。
ついでに空気が読める子です。だから大人しく怒られようと思います。
とりとめのない、落ちのない説教を延々と聞かされて、美貴はもう……
混濁した意識の中で、彼女の笑顔が浮かんでくる。
ってか、あんなテンションの子だったっけ?
かるく騙された?あほ、美貴のあほーーーー!?
- 191 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:52
-
******
- 192 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:52
- 重さんが塾が終わったと戻ってきた、絵里を連れて。
『今日は泊まるの』とか能天気に言ってるし……
呼べば飛んでくる専属の運転手がいるんだって。ちょっと奥さんどう思います〜?
そういや、ご令嬢だよね。家とかでかかったし。
「だって藤本さんが偶然いたんだもん。チャンスだって思ったの」
「チャンスって……呼べば来たんだよね、車が」
「車を呼ぼうと思って本屋さんに逃げたら、藤本さんが見えたの」
だからって、だからって……
怖がってたのはホントだったし、気が動転してたのかもしれないし。
計算してやったわけじゃないはず。
そんな風に信じたいってーの。
- 193 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:52
-
「藤本さん?」
「なに?」
「やだ、声がつめたいです!?あの時はあんなに…」
「だぁーーーー!?言うな、それ以上は言わないで、重さん!」
「それスッゴイ聞きたいなぁ」
「絵里も聞きたいですぅ〜」
「梨華ちゃん、それに絵里まで……」
「優しいの。さゆみのこと何度も可愛いって言ってくれて。
それで”さゆみ”ってちゃんと名前で呼んでくれたり〜」
「へ〜、いまは重さんって呼んでるじゃん?」
「恥ずかしがり屋さんなの、藤本さん」
誰が恥ずかしがり屋さんだ、誰が……
絵里、いまはその笑顔がすっごいムカつく。ニヤニヤするなぁーーー!?
雰囲気に呑まれたら名前呼んじゃうじゃん。
ほら、だって可愛かったんだよ。
ぽわわぁって、うっとり〜って、とろ〜んってなってて。
あーーーっもう、自分で言ってて意味ワカンナイけど。
ぶっちゃけ可愛かったんだから仕方ない。
- 194 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:52
-
なんでか美貴の部屋で寝ることになった、道重さん家のお嬢様。
さっきからテンションがコロリと変わって、あの日と同じような
甘い雰囲気が漂う一歩二歩手前のこの状況──────
「よしっ、『今日も可愛いかったの』って言ってから寝るんですけど」
「なにそれ……」
「藤本さん、お部屋に鏡置いてないんですね」
「必要ないじゃん」
「必要ですよ〜、でも今日は我慢します。変わりに」
「変わりに?」
「私、可愛いですか?」
「あー重さんは可愛い可愛い」
「棒読みなの」
ぐっといきなり顔を近づけられて仰け反った。
唐突だな行動が……ビックリするじゃん。
- 195 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:53
-
「重さん、顔近いっつーの」
なおも潤んだ瞳に見つめられて、ちょっとどころか我慢できない。
触れるだけと何度も自分に言い聞かせて、かるくキスをした。
ちょっとだけ長めに触れて、唇を離すと泣きそうな顔が見えた。
「藤本さん……」
「ん?」
「心臓が壊れちゃいそう……」
そう言った瞬間───
美貴の手をとって、自分の胸にあてた。
- 196 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:53
-
ぐはっ、心音よりも先に感じたやわらかい感触に……負けそう。
なんてことするんだ、この子は……
まったく分かってないから、ほんとに性質が悪い。
美貴の心臓のほうが壊れそうだよ、どーしてくれんのさ?
なんて想ってると重さんは満面の笑み?なんで笑って……?
「お姉ちゃんいるから、今日は無理です」
「や、美貴なんにも言ってないから」
「だって、藤本さんの目がハンターなの」
”襲われそうで、こわ〜い”とか言ってる。
いや、美貴のほうが怖いよ……その変わり身の早さは何なわけ?
- 197 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:53
-
”今週の土曜日、また一人っきりなの”
こてっと美貴の肩に甘えるように頭を乗せて囁いた。
行こうかな、なんて思ってる美貴の負けみたいじゃん。
「また、いっぱい可愛いって聞きたいの」
「はいはい……」
「名前で呼んでくれますよね?」
「まあ、気分によってだね。そこは重さん次第だから」
「さゆみ次第ですか?」
「そうそう」
首を捻ってすこし考えた後に、にっこり微笑んで宣言する。
『じゃあ何万回でも呼ばせる自信があります!』と。
どっからくるんですか、その自信は?──────
おわり?
- 198 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:53
-
******
- 199 名前:─小悪魔注意報─ 投稿日:2005/10/07(金) 18:54
-
それから数日後。やっぱり拭い去れない不安と好奇心。
「ちょっと聞いてみよ〜」なんて、軽いノリで尋ねたまでは良かったけれど……
「梨華ちゃんのお姉ちゃんってさ、名前なんていうの?」
「圭織だけど、それが何?」
「かおり……えっと、それは保田さんの圭に織で圭織さんだったりしないよね?」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
「言え……」
「言えないですって?」
「まだ、美貴途中までしか言ってませんが……」
「じっくり聞こうかしら?」
「・・・・・はい」
その晩、美貴は容赦ない攻撃を受けた。
圭織さんとの事はご想像にお任せします……
まあ、淡い青春の1ページだと思ってください。
ほんとに、おわり。
- 200 名前:_ 投稿日:2005/10/07(金) 18:54
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- 201 名前:_ 投稿日:2005/10/07(金) 18:54
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- 202 名前:日季 投稿日:2005/10/07(金) 18:56
- 『偽りの真実』おまけっぽいの更新終了です。(このふたり好きなんです。マイナーCPでごめんなさいw)
>>176-199
>名無し飼育だYO様
ほんとにありがとうございます。
レス頂けるだけで嬉しいので、気にしないでくださいね。
これからも、よろしくです。
>29様
いつもありがとうございます。
喜んでいただけて良かったですw
気分的にいしよし多めでがんばっていきます(たぶんw
>174名無飼育さん様
嬉しいお言葉ありがとうございます。
これからも頑張りますのでよろしくです。
それでは、良い連休をお過ごしください。
- 203 名前:日季 投稿日:2005/10/07(金) 18:59
- 最後に忘れてました・・・orz( ノ▽^)アチャーミー
読む前に>>175に注意書きありますので一応目を通してもらえれば……
- 204 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/08(土) 08:21
- こんな感じの話も面白いですね
この二人嫌いではないですw
- 205 名前:名無し 投稿日:2005/10/08(土) 11:48
- シリーズ化キボン!
マジ面白い!
- 206 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/08(土) 18:59
- いや〜、今回も可愛いお話でした
年下の彼女の変わり身の速さにはおいらも驚きましたよw
というより美貴さん、手ぇ出しすぎ…
彼女らには共通して惹かれる何かがあるんでしょうか?
次回もまた期待して待っております。がんがってね(゚∀゚)!!
- 207 名前:『強気なあまえんぼ』 投稿日:2005/10/10(月) 21:56
-
愛ちゃんは、ちょっと泣き虫で甘えんぼ。
あたしだけにみせる可愛らしい愛ちゃんのほんとう。
- 208 名前:『強気なあまえんぼ』 投稿日:2005/10/10(月) 21:56
-
ちょっとだけ強めにぎゅっと抱きしめると心臓の音が響いてくる。
ふたりの心臓の音が綺麗にリズムを合わせて。
満たされていく。心の中がなんだかいっぱいになる。
「スキやよ、麻琴」
ゆっくり視線を合わせて微笑んで、迷い無く言う。
「あたしも……愛ちゃんが好き」
あたしの返事を聞いて満足そうに綻ぶ口元。グロスで彩られた誘惑。
愛ちゃんはゆっくりと瞼を閉じて……
心臓がありえないくらい速く鼓動を刻む。
愛ちゃんの身体にもきっと響いてる。それに愛ちゃんのも同じくらい速いもん。
言ったら拗ねそうだから言わないけど……
- 209 名前:『強気なあまえんぼ』 投稿日:2005/10/10(月) 21:57
-
ゆっくりとくちづける。触れるだけでいっぱいいっぱいです。すんまへん。
- 210 名前:『強気なあまえんぼ』 投稿日:2005/10/10(月) 21:57
-
すぐに離した唇に、今度は強く愛ちゃんがくちづけた。
ビックリして閉じれなかった目の前には、いつもよりも大人っぽい愛ちゃんの顔が……
あぁ、やっぱり愛ちゃんがスキだ。
年上で積極的で甘えたでわがまま、でも本当は繊細で……
しばらく経って離れた唇からの第一声は、いじっぱりな彼女の照れ隠し。
「麻琴のヘタレ!」
「だってぇ、慣れてないもん」
「慣れてたら……許さん!」
「愛ちゃあん」
「情けない声ださんでよ?」
これからもず〜っと傍にいて?あーし独占欲強いから。覚悟して?
そんな風に言われても嬉しくて仕方ない。あなたに束縛されるなら構わない。
おしまい。
- 211 名前:_ 投稿日:2005/10/10(月) 21:58
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- 212 名前:_ 投稿日:2005/10/10(月) 21:58
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- 213 名前:日季 投稿日:2005/10/10(月) 22:00
- 小高(まこあい)の短編更新終了です。
>>207-210
>204 名無し飼育さま
ありがとうございます。
この二人を好きになってもらえるように頑張りますw
>205 名無し さま
ありがとうございます。
面白いですか?そう言ってもらえて良かったですw
シリーズ・・・はどうなるか分かりませんが頑張ります。
>206 名無し飼育だYOさま
ありがとうございます。まったりと頑張ります!w
藤本さんが惹かれる何か・・・また本編の続編で触れる予定ですw
(次回は、いしよしかな……?)
- 214 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 00:08
- 『 圭織さんとの事はご想像にお任せします……』なんて仰らずに
是非、圭織編を…。
お願いいたします。。
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 13:40
- ああ。ええなあ〜、まこあい。
ヘタレまこっさんと強気愛さんはツボッす。
- 216 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/13(木) 00:34
- まこあい、好きです(#´Д`)
おいらは綺麗なおねーさんとへたれなやんちゃぼーずの
設定が大好きですw
いしよしも然り。吉&お姉さんチームの絡みに期待!
次回も楽しみにしてます
- 217 名前:日季 投稿日:2005/10/14(金) 20:09
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『アザミ』
- 218 名前:アザミ 投稿日:2005/10/14(金) 20:10
-
「はぁ〜?」
『だからぁ、私が仕事終わるまでちょっと相手してあげてよぉ』
「あのね、あんたの彼女でしょうが」
『むぅ、柴ちゃん冷たいぃ〜!?
だって急にお仕事はいちゃって、かまってあげられないの』
「明日休みなんでしょ?」
『そうだけどね、よっちゃん今日も一人で寂しい想いさせちゃったら可哀想だし』
「……はいはい。わかりました。梨華ちゃんの代わりにお守りすれば良いわけね」
『えへへっ、柴ちゃん宜しくね!夕方にはいけると思うから』
おいおい、お守りって皮肉で言ったのにスルーですか?
確かに梨華ちゃんの前じゃ、よっすぃは子供みたいだって言ってたけどさぁ。
別に遊んだりするのは嫌じゃないよ、梨華ちゃんや里ちゃんと一緒だったらね。
でもね、梨華ちゃんも知らない二人の関係があるんだ。
ごめんね、梨華ちゃん。アタシはすっごい裏切りをしちゃった事があるんだ。
だから二人っきりになることは避けてきたのに……
- 219 名前:アザミ 投稿日:2005/10/14(金) 20:10
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******
- 220 名前:アザミ 投稿日:2005/10/14(金) 20:11
-
「しばっちゃん、ごめん」
「別に良いよ。どうせ梨華ちゃんに言われたんでしょ?」
「うん、まぁ……」
どうも歯切れの悪いよっすぃに問いただす。なぜアタシなのか?
別に一人で待ってても良いはずなのに。
「いや、梨華ちゃんがさ……」
浮気しちゃうと嫌だからしばっちゃん家で待っててよって。監視してもらえるし。
そう言って無理矢理……
ため息が出る。梨華ちゃん、めっちゃアタシのこと信用してる。
それにしてもそこまで恋人を信用してないのはどうなの?
『まぁ、よっすぃなら仕方ないか』とか失礼なこと思っちゃうけど。
適当に時間を潰そう。梨華ちゃんが仕事を終える予定が午後の四時過ぎ……
あと5時間もあるじゃん。どうしよう。うん、どうにかなるさ。
それにアタシとよっすぃがちょっと……だったのは梨華ちゃんと付き合う前だし。
まさか彼女の親友に手を出したりするほど、この子もバカじゃないはず。
あぁ、他にも一人くらい呼べば良かった?
- 221 名前:アザミ 投稿日:2005/10/14(金) 20:11
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「しばっちゃん、寝よ?」
「はぁっ!?」
いや、思わず大きい声とか出しちゃった。焦っちゃった。お昼寝だよね。
ちょっとお昼ご飯食べて眠いんだよね?そうそう。何を焦ってるんだろ。
「うん、どうぞ」
軽く裏返った声にこのおバカは……
「どうしたの?しばっちゃんなんか変だ」
「別にどうもしないよ」
ちょっと視線を交わす。この人のエロさは梨華ちゃんに嫌と言うほど聞かされてる。
その大半はノロケなんだけど。
「にしても、よっすぃはなんで信用されてないわけ?めっちゃラブラブでしょ?」
「ん〜?喧嘩してさ、それで仲直りはしたんだけど」
H禁止されてるんだよね、だから美貴んとことか行かないようにじゃないかな。
そんなことをさらっと言う。
もうこのバカッポーめ人を巻き込まないでよ……
待てよ?
それって、よけい危険じゃない?
アタシの貞操が……ってか1回はいただかれた事あるけど……ぜったい梨華ちゃんには言えないけど。
- 222 名前:アザミ 投稿日:2005/10/14(金) 20:12
-
気付いたらアタシの隣に座って甘えるようにくっついてくる。
やばいよね、この状況。あの時は……そうあの時は前の彼女に振られて
で他の女の子を抱いちゃったんだって少し後悔してて。
なんだか見ていられなくて『慰めてあげる』とか言っちゃったんだよ。
別に変な意味で言ったわけじゃなかったけど、よっすぃは温もりで安心するタイプらしく
アタシの事を押し倒しちゃったんだよね。
しかもえらく巧いキスに抵抗力奪われて。もともと嫌いではないタイプだったし。
こんな子供っぽくなければ好きになっちゃってたかもだし。
けど梨華ちゃんは純粋に、よっすぃが好きで。ずっと好きで。
それこそ可哀想になるくらい一途で。それでようやく手に入れたんだよね。
もう盲目なくらいによっすぃの事……愛してるって知ってる。
だから梨華ちゃんには言えない。口が裂けてもよっすぃと寝ただなんて。
「よっすぃ、梨華ちゃんのこと好き?」
「うん、大好きだよ。どうして?」
「もう浮気とかしちゃダメだかんね?」
「うん。わかってる、もう誰にも……」
しばっちゃんにだって迷惑かけないようにする。だから少しだけ……
そう少しだけこうしてて?眠たそうな視線を上げてよっすぃはアタシを見る。
- 223 名前:アザミ 投稿日:2005/10/14(金) 20:12
-
きっと梨華ちゃんは心配なんだ。何かあれば誰かのぬくもりを欲してしまう、よっすぃのことが。
だから1番信用できるアタシの傍においておきたかった。
だったら2人で梨華ちゃんの為にがんばろ?決して昔に戻っちゃダメだよ。
もう忘れたいんだ、なにもかも。アタシの抱いた想いの全部、忘れたいんだ……
お願い、触れないで欲しい。もうアタシの心には触れないで?
甘えるなら、梨華ちゃんに甘えてよ。
- 224 名前:アザミ 投稿日:2005/10/14(金) 20:12
-
携帯の音に目が覚める。一緒に寝ちゃったんだ……
お互いに寄りかかるように眠っていたみたいで、アタシが動いた事で目が覚めたのか(携帯の音では起きないらしい)
よっすぃも視線を上げる。けどまだ眠たいのかアタシの膝の上に頭を移動……っておいおい。
甘え過ぎですから!!!!
まぁ、いっかと幸せそうな寝顔を見て携帯に出る。
絶対に頭を撫でたりなんか、してあげない。
『柴ちゃん、お仕事終わったから今から行くね。ごめん』
「べっつに何もすること無かったからお昼寝してたんで」
『良い子にしてた?よっちゃん』
「あのね……ハタチにもなった人に良い子って言う?」
『だってー甘えたさんだもん』
「はいはい。良い子ですよ。アタシの膝で寝ちゃってますよ」
『もうーーーー!!!なんで膝枕なんてしちゃうのよぉ!?』
「しちゃうのよぉって、勝手に甘えてきたんです!」
『すぐ行く、速攻で行くから、よっちゃん起こしちゃって!!!ね?聞いてる柴ちゃんっ』
「わかった、わかったから。落ち着いて、こっちに来るんだよ」
そこで電話は切れる。そんな焦らなくても何もありませんよ。
もう来たら言ってやるんだ。H禁止とか子供地味たことするなって。
よっすぃだって、ちゃんと梨華ちゃんだけを愛してるよ。
- 225 名前:アザミ 投稿日:2005/10/14(金) 20:13
-
だってほら幸せそうに見えた寝顔が寂しげで……
ぽつんと呟いた寝言に愛を感じるもん。梨華ちゃんに報告してあげよう。
どんなカオするのかな。きっと最高の笑顔を見せるんだろうな。
『梨華ちゃん……』
こんなに愛されてるよ。無意識に名前を呼んじゃう程に。
会いたくて寂しくてもれ出た本音だと思うよ。
だってアタシのぬくもりじゃ、よっすぃは満足していないもん。
よっすぃを満たせるのは、梨華ちゃんだけだよ。
あなたの笑顔のために、アタシはどこまでもピエロになろう。
大好きな二人のために……
おわり。
- 226 名前:_ 投稿日:2005/10/14(金) 20:14
-
- 227 名前:_ 投稿日:2005/10/14(金) 20:14
-
- 228 名前:日季 投稿日:2005/10/14(金) 20:16
- 石吉+柴のぬるい短編更新終了です。(タイトルのアザミは花の名前です)
某番組(魔女だったりするやつ)のDVDを見てて、オマケの石柴が面白くって……
その時に柴田さんが不幸な?キャラだったので、今回こんな役にしてしまいました(w
石川さんと居るとお姉ちゃんみたいになる柴田さんが好きです。
>214 名無飼育さん様
圭織さん編は、いまのところ未定ですが……
書けそうだったら頑張ってみます。
>215 名無飼育さん様
ありがとうございます。ツボでよかったです。
今後もおそらくこの二人はこんな感じです(w
>216 名無し飼育だYO様
ありがとうございます。まこあいダイスキで良かったです。
(うちの吉澤さんは(*^▽^)一筋です。たぶんw)
- 229 名前:名無し飼育 投稿日:2005/10/15(土) 01:17
- 幸せの裏側は辛いですね。。。
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/15(土) 09:59
- すっごく良かったです!!
柴ちゃんとの関係にドキドキしたり、
最後のよっちゃんのセリフに安心したり。。。
最高でした(^o^)/
- 231 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/15(土) 12:58
- 柴っちゃんキター(゚∀゚)!!
この3人の関係すごく良いです!
吉澤さん、可愛いなぁ…。( ^▽^)一筋だってぇ!?
それではそんな健気なふたりに今後も注目していきたいと思います
- 232 名前:29 投稿日:2005/10/16(日) 07:08
- ううう!!柴視点いいっす〜〜!!
柴っちゃんの気持がちょっとせつなくて。
それにしても数時間さえ信用されてない甘えたさんって一体・・・w
- 233 名前:日季 投稿日:2005/10/16(日) 16:47
-
- 234 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:48
-
出会った瞬間に惹かれあった───?
そんな2人のお話。
- 235 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:49
-
「かわいい」
桜並木が続く校舎までの道のり。
鮮やかな桜が舞うその光景に、負けないくらい綺麗な人に出会った。
「おっしゃ、あの人とまずはお友達になる!」
「んあ?なに突然……」
ビックリするくらいの唐突な叫びに真希は顔をしかめました。
”なんか熱いね〜よしこは”なんて呑気に呟きながら。
- 236 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:50
-
******
- 237 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:50
- 「それじゃ先に帰るね?委員会がんばれ〜」
親友の励ましを受けて嬉しそうに図書室に向かう。
本来の自分なら絶対にこんな場所にはやってこない。
むしろスルーだ。
だけど、この扉を開ければ……
「石川先輩、こんちわ!」
「あっ、吉澤さん早かったね」
「えぇ、飛んできましたから!」
掃除サボっちゃいましたもん♪なんて心の中で呟いて……
あぁ、石川梨華ちゃん。可愛いよぉ。
「うふふ。真面目だよね?よかったぁ、いっしょにする子が吉澤さんで」
「そうっすか?なんでもやりますんで、何でも言いつけてください!」
彼女にだってなっちゃいますよ!みたいな。
あぁ、梨華ちゃん今日も綺麗過ぎ。
そしてあの腰。ほっそい上にセクシー。
それに細いのに自己主張の強いおっ(ry
いかんいかん。そっちにいってはいかん。もっと純粋に愛するのだ、ひとみ!
- 238 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:50
-
「じゃあ、これあの棚に上げてもらっても良い?」
「えっ、あっはい。任してください」
この上目遣いですよ、可愛過ぎるんですよ。
もう何時間でも見つめられたい……
いやそれは危険だ。自分が危険だ。
見つめられたら理性吹っ飛ぶこと間違いなし。
こんなアホウな考えを胸にひとみは梨華の傍をうろちょろ。
梨華も人懐っこいひとみを可愛いと思っているのか嫌な顔もしない。
そう、ひとみは梨華の前でだけは「かわいい」のだ。
それが梨華の警戒心を無くした理由かもしれない。
「石川先輩は付き合ったりしないんですか?」
「うん。いまはべつにいらない、かな?」
「そっかぁ……そうですよね!」
「えっ、うん。吉澤さんだって素直で可愛いじゃない。モテるでしょ?」
「はぁ〜……自分もあんまり興味ないので」
そっか、いまはいらないのか。
- 239 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:51
- 「あの、吉澤さんって止めません?」
「えっ?吉澤ちゃんのほうが良い?」
ずっこけそうになりながら、そんな梨華のずれてる所も可愛くて仕方ない。
気を取り直して提案してみる。いつまでも”石川先輩”なんて呼ばないんだ。
目指すは”梨華”だ―――――― 頑張れ自分!
「下の名前で呼んでくれて良いですよ?」
「ほんと?じゃあ、ひとみちゃんとか」
「ひーちゃんとかどうっすか?」
「うん、わかった。じゃあ、ひーちゃん」
えへっへへへえ・・・・・やっばい、顔が緩む。
甘い声だよね。可愛いよぉ。
ばぁーちゃんとかも「ひとみちゃん」だから他の特別な呼び方が良かったんだ。
他のやつが”ひーちゃん”なんて呼んだらぶっ飛ばすけど梨華ちゃんなら
何百万回でも呼ばれたいよ――――――
「じゃ、私も先輩は止めてほしいな?」
「はい!じゃあ梨華・・・ちゃんで」
あと一歩でヘタレな自分。
でも梨華は嬉しそうに、はにかんでくれました。
あぁ、もう死んでもいい───
いや、あの細い腰……じゃなくってあの意外と大きそうなおっぱ(ry
違う違う。ちゃんと手を繋いで歩けるようになるまで死ぬな、ひとみ!
- 240 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:51
-
******
- 241 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:52
- それから2人は徐々に仲良くなり、一緒に帰ることも出来るようになりました。
それでもヘタレなひとみは告白できず……
「えっ?付き合ってなかったの?」
「そんな驚くなよ、ごっちん」
「いや、毎日一緒にいるじゃん?」
「いるけども」
「そんな風にならないんだ?」
「そう梨華ちゃんってさ〜純粋ぽいじゃん。」
「でも狙ってる奴結構いるぞ」
「そうなんだよね……」
自分もモテるが梨華もモテる。
だから暇があれば梨華の傍にいるようにしているのだ。
誰も近づけない為に。
「おっす!久しぶり〜」
「藤本先輩!!!」
「なにしけた面してんのよっちゃん。先輩って水臭過ぎ、どうしちゃったの?」
「ミキティたしか梨華ちゃん先輩と同じクラスじゃなかった?」
「あぁ、そうだけど?それがどーしたの?」
「クラスではどんな感じ?」
「どんなって……いじられキャラ?面白いよ、突っ込みがいがあるし」
「仲良いの?」
「うん、こないだ一緒に遊んだけど」
「遊んだ・・・」
がーん。アタシなんてプライベートで会ったこと無いのに……
- 242 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:52
-
「おい、よっちゃん。ハンカチかむのはやめい!」
「あははは、よしこ重症だ」
重い足取りで図書室に向かう。
あの後、美貴に聞いたが亜弥と梨華と3人で遊んだそうだ。
二人のイチャイチャをみかねた梨華が、次ぎはもう一人呼んでも良いかと聞いたそうだ。
だれなんだよぉ───それってダブルデートじゃん。
- 243 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:53
-
「ひーちゃん。顔色悪いよ?」
「そんなことないですよ。ほら早く終わらせて帰りましょうよ」
「でも……」
梨華の困った顔が見える。これから自分が告白とかしたら梨華はもっと困るだろうか?
そんなこんなで黙々と作業をこなして帰宅する時間になり……
ほとんど会話しないなんて初めてじゃないだろうか?
そんな風に思っていたら、梨華が今にも泣きそうな顔で自分を見ていた。
「梨華ちゃん?」
「ひーちゃん、私といるの嫌?」
「そんなことないよ。今日はちょっと…」
「やっぱりしんどいの?」
「ううん。ちがくて」
「じゃあ、やっぱり私のこと……」
うっわ。これがネガティブ梨華ちゃん?
ミキティが言ってたけどマジでくろ……いや、暗い。
───でも、かあいい……
- 244 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:53
-
「あ〜もう言います。はっきり言います。だからちゃんと聞いて下さい!?」
「やだ!?やっぱり聞きたくない……」
「ちょっ、梨華ちゃん?お願いだから、聞いて!」
梨華はとうとう泣き出していました。
あんなに笑顔しか見たこと無かったのに、泣かせてしまった……
気付いたら、ひとみは梨華を引き寄せて抱きしめていました。
ありえないくらい自然な動作で。
梨華ちゃんってほっそいのに、なんて肉感的なんだろう。
女のこ特有の丸みを帯びたカラダ。目の前がくらくらします。
(※ひとみも女の子ですよ?)
梨華は突然のことに言葉も出ないようでしたが───
「やぁだ……こんなことされたら忘れられないよぉ」
「忘れるって?」
「だって、ひーちゃんに嫌われても諦められなくなるもん……」
嫌われる?諦められない?なんだそれ????
「梨華ちゃん、だからちゃんと聞いてよ。誰も嫌いなんて言ってないよ?」
- 245 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:53
- 涙で濡れた目元は甘くひとみを誘っているように見えて……
吸い寄せられるように顔を近づけていました。
軽く触れただけなのに、背筋に電気が走ったように痺れて倒れそうでした。
なんだこの感触?梨華ちゃん梨華ちゃん梨華・・・
「梨華ちゃんがスキなんだよ」
ビックリして開いたままだった瞳が伏せられて、また梨華の瞳から涙が零れ落ちます。
ひとみは咄嗟に謝ったのですが───
「やだっ……謝っちゃやだ!嬉しいもん」
「・・・・・」
「ひーちゃんのこと好きなの」
「あ、あたっ、あたしも好き!」
カッコ悪っ、噛んだ、噛んじまった……
いつのまにか梨華の手が背中に回ってきて、ぎゅっと抱きしめられていました。
- 246 名前:『りかのひとみ』 投稿日:2005/10/16(日) 16:54
-
こうして校内一のバカップル誕生。
っていうか今まで付き合ってなかったの?みたいな。
梨華が誘おうとしていたのはひとみだったのです。
勝手に落ちこんで傷つけて……ってか梨華ちゃんも勘違いしすぎだよ。
手を繋ぐ前にキスしちゃったけど、なにわともあれ結ばれた二人なのでした。
おしまい。
- 247 名前:_ 投稿日:2005/10/16(日) 16:55
-
- 248 名前:_ 投稿日:2005/10/16(日) 16:55
-
- 249 名前:日季 投稿日:2005/10/16(日) 16:56
- 学生風味な、いしよし短編更新終了です。(制服はブレザー派w)
>>234-246
>229名無し飼育さま
そうですね、ちょっと柴田さんは辛いかなぁ……
>230名無飼育さんさま
ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです。
(O^〜^)<これからも、頑張りますのでよろしくです!
>231名無し飼育だYOさま
いつもありがとうございます。3人の関係そう感じてもらえたなら本望です。
健気というか、アホなΣ!(゚▽゚;)゚〜゚O)を見守ってもらえたら嬉しいですw
>232 29さま
毎度ありがとうございます。柴田さんは何気にこういう感じかなぁと。
( `▽´)<つまみ食いが多いんです!?
(0´〜`)<主食は・・・いしかわーおれがわるかったよ〜
(次回は、まこあい予定……?)
- 250 名前:名無し飼育 投稿日:2005/10/16(日) 19:18
- 初々しいくてカワイイ
けど脳内がエロイよしざーさんがすきですw
- 251 名前:そーせき 投稿日:2005/10/16(日) 19:36
- ヘタレでエッチぃよしざーさんに好感・共感・同感。
こーゆー雰囲気、好きです。
- 252 名前:ポン酢 投稿日:2005/10/16(日) 19:57
- 更新お疲れ様です!
んあ〜ちょっとおバカな(※褒め言葉ですw)よっちゃんかわいいですね〜。
かなりツボです。
次回のまこあいも楽しみにしてますので、無理せず頑張ってくださいね♪
- 253 名前:メトロ 投稿日:2005/10/16(日) 21:14
- 容姿端麗なのにへたれバカッポー萌えでつ。
あとレス返しにたまに入るいしよしAAもキャワ!
- 254 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/16(日) 23:39
- いや〜、ひーちゃんカワイイぞ!!
大事なところでかむあたりはさすがですねw
でもそんなところも好き。 ライバル出現…>(T▽T )(^〜^○)ニヤニヤ
まこあい、待ってまっす!!(←気合充分!)
- 255 名前:29 投稿日:2005/10/17(月) 06:35
- 更新お疲れさまです〜♪
よっすぃの隠れ妄想がだいすっきw
ちょっとお姉さま風に見えながらあいかわらずの石川さんがキャワw
このばかっぽおーはまだまだ続きますよね???(半強制w)
- 256 名前:日季 投稿日:2005/10/18(火) 20:37
-
- 257 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:38
-
生れた時から離れたことが無かった――――――
そんな2人のお話。
- 258 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:38
-
何の迷いもなく彼女の口が奏でる愛の言葉。
それは小さい頃から聞きなれているはずなのに。
どうして、何度聞いてもトキメクのだろう?
- 259 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:39
-
******
- 260 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:39
-
「まこと、朝だよ?」
「うっわぁ!?愛ちゃんなんで……」
「おばちゃんが起こしてって言うんだもん」
「言うんだもんって」
跳ね起きた麻琴でしたが……
愛ちゃんお願いだから、ベッドの上に平気で乗ってこないでよ。
「まことぉ。こんな女が良いの?」
「へっ、う・・・?どぅっわーーー!!!」
「見たいんやったら、あたしが……」
「ああああいちゃん、滅多なこといっちゃダメだよ!」
麻琴が先輩から無理矢理渡された、際どいグラビアが載ってる本を見つけた愛が
それを持ってトンでもないことを言ってきました。
充分、ベッドの上で危ないってのに。
- 261 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:40
-
「それはね、吉澤先輩が」
「吉澤先輩がなに?」
こわっ、愛ちゃん怖いよ。
目落ちちゃうから、あんまり見開いちゃダメ!?
「いたいけな麻琴にこんな本を……石川先輩のところに行って来る」
「だぁ〜、待って。もう起きるから!一緒に学校いこ愛ちゃん」
「うん。早く着替えて?」
「・・・・・・」
「まこと?」
天然?あのね、着替えたいので先に部屋を出てくれるとありがたいんですけど?
「遠慮せんと着替えて?」
「いやぁ、あのー……」
- 262 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:40
- そんなこんなで、愛の強引な朝の誘い?は毎日のこと。
その度に思うのです。
”なんで愛ちゃんはアタシなんか……”
どちらかというとヘタレ。そんな麻琴に校内でも有名な美少女(喋らなければ)の愛がベタぼれ。
優しくて可愛らしい麻琴は人気こそあれ”恋愛対象”で見られることは少ないのです。
- 263 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:41
- 「麻琴、お昼一緒に食べようね」
「えっ、うん。中庭で良い?」
「うん。お昼休みは教室に迎えにきて?」
上目遣い。
自分より背の低い愛は、完璧な角度を必ずキープして自分を見上げてきます。
それは世界に麻琴しかいないような、キラキラした目で……
「わかった。行くから待ってて」
そんな目をされたら麻琴は断わるなんて選択肢をいっつも速攻で排除。
周りから見たら相思相愛のバカップル?なのに本人たちは幼馴染という枠から出れずに……
愛はもがいて、麻琴は逃げてばかりいました。
- 264 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:41
-
******
- 265 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:42
-
そんなことが続く毎日の中で。
はじめて、そう2人は生れて初めて喧嘩をしました。
理由は些細なことでしたが、どんどん話が逸れていき、つい心にもないことを言ってしまった麻琴。
愛はひどく傷ついた顔をしていました。
「麻琴、なんでそんなこというん?」
「わかんないよ。愛ちゃん、なんでアタシに構うのさ」
「だって、麻琴が好きだから」
「もう子供じゃないんだよ?」
「わかってる。だから麻琴がスキだって……」
「軽々しく言っちゃダメだよ。愛ちゃんにはもっと良い人がいるよ」
「麻琴のアホ・・・もう嫌や」
「だから、もう構わなくって良いよ……」
涙。
愛の涙を見たのは、いつぶりだろう。
いっつも笑ってて。強がりな愛は滅多なことでは泣かなくって。
泣きながら愛が部屋を出て行くのを、麻琴は呆然と見ていました。
これで良かったんだと思いながら……
自分に愛はもったいない。だからコレで良かったんだ。
そう思えば思うほどに、目頭が熱くなって……
いつしか、ぽたんぽたんと握り締めた手の甲に
頬をつたった涙が落ちてきました。
止まない雨のようにいつまでも、いつまでも流れ落ちて
その日は眠ることさえ出来ませんでした。
- 266 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:42
-
それから毎日のように一緒にいた時間。
登下校も昼休みも。夜の宿題している時間でさえ。
一人になって感じる寂しさ。
避けられてるのか、自分が避けてるのか愛と会うことはありませんでした。
「……愛ちゃん」
愛ちゃんが隣に居ることが当たり前で。
甘えてたのはアタシ?
なのに、愛ちゃんの気持ちをこれっぽっちも考えないで突き放した。
本当は愛ちゃんはどんな気持ちで自分に”スキ”だと言ってたんだろう。
2週間で愛ちゃん不足。なんだそれ。
2週間も会わない喋らない。そんなこと今まで無かったのに。
- 267 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:43
-
******
- 268 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:43
-
「うえ〜ん、まことぉーーーーーーーーーー!?」
「ああああいちゃん、なにしてるのさ」
「だってだってー」
朝起きると――――――
というか麻琴に抱き着いて泣き出し始めた愛によって起こされ
しばらくは状況が把握できない麻琴でしたが……
久しぶりに感じる愛の香りと暖かい体温。
なんだろう、ドキドキするのに安心できるそんな不思議な気持ち。
「あいちゃん、あのね」
「まことのばかぁ」
ただただ泣く愛の姿を、愛しいって……
なんの迷いもなく愛しいって想ってる。
- 269 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:44
-
ぎゅっと力をこめて抱きしめると懐かしい記憶が甦る。
そうだ、愛は麻琴の前でだけ泣いてた。ちっちゃい時から。
それだけ自分を信頼して、頼りにしてくれてたんだ。
だから、自分は強くなれた。それは、喧嘩とかそんな目に見えるものではなくて。
愛がいるだけで精神的に成長できてた部分がたくさんあったんだ。
そんな大切な人が小さな肩を震わせて泣いている。
こんなにも無防備に自分を信じて、飛びこんできてくれてる。
いつだって愛は、麻琴の味方だった。そういつだって傍にいてくれて……
- 270 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:44
-
「愛ちゃん、だいすきだよ」
「……まことぉ?ほ、んと」
「うん。気付くの遅くってごめんなさい」
「キスして?」
「ああああいちゃん、いきなりそれは……」
「なんで?ちっちゃい時は毎日して」
「あああの頃は、ほら…だって、なんだろ、なんていうーかぁ」
「良いの!するの!?」
するのって―――――― あうぅ。
覚悟を決めて目をつぶると……
愛の方から、ちゅっと触れるだけのキスをしてくれました。
こんな時まで愛には勝てないなぁと思い知る麻琴。
「麻琴から出来るようになるまで、毎日特訓ね?」
「・・・・はい」
- 271 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:45
-
麻琴と一緒にいなかった2週間。
愛のうわべだけを見て告白される事数十回。
なかには強引に迫られそうになって……
小さい時から合気道やらを習ってた愛は、華奢な見た目と違って相当強い。
なので逆にフッ飛ばしたようですが。
それでも耐えられなくなり、麻琴のところへかけ込んできたようでした。
麻琴は怒りよりも自分が情けなくって
もう絶対に愛を悲しませたりしないと誓うのでした。
- 272 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:45
-
「やっぱり麻琴が良いって。そいつら見てて想ったの」
「へっ?」
「だって比べても比べても、麻琴が良い」
「ほんと?」
「麻琴はあんなこと絶対せーへんもん。襲ったりせーへん」
「……へタレだもん」
「ヘタレ?違うよ……」
『麻琴は、ちゃんと相手の気持ちを考えて行動できる、優しい人』
そういって朝の爽やかな太陽の光を浴びて微笑む愛は……
うんと綺麗で眩しくて。
そして、なんて自分のことを愛してくれてるんだろうと。
- 273 名前:『まことのあい』 投稿日:2005/10/18(火) 20:46
-
「ちゃんと傍にいて?もう”構わないで”なんて言われたくない」
「うん。愛ちゃんの傍にいる。もっと構って欲しい」
「それと……」
”毎日キスして?”
「ががっがんばります!?」
「がんばらんでも出来るようになること!」
「・・・・はい」
唇が重なりながら麻琴は”多分、一生愛には勝てない。”
それも悪くないなぁと想うのでした。
おしまい。
- 274 名前:_ 投稿日:2005/10/18(火) 20:46
-
- 275 名前:_ 投稿日:2005/10/18(火) 20:46
-
- 276 名前:日季 投稿日:2005/10/18(火) 20:49
- >>257-275学生風味な、まこあい短編更新終了です。
なんだかんだと高橋さんに愛されてる小川さんが好き。
(小川愛……すいません書いてみたかっただけですw)
>>250 名無し飼育さま
ありがとうございます。初々しく出来ててよかったですw
(0´〜`)<あたまのなか〜 ほとんど〜梨華ちゃん。
>>251 そーせきさま
ありがとうございます。
雰囲気をすきって言ってもらえるのはかなり嬉しいです。
(O^〜^)<三感達成!?w
>>252 ポン酢さま
ありがとうございます。ツボをつけて嬉しいです。
(O^〜^)<最高の褒め言葉ありがとーw
まったりがんばりまっす!
>>253 メトロさま
ありがとうございます。萌えてもらえて嬉しいです。
(*^▽^)σ)^〜^o)ゞラブラブがんばりますw
>>254 名無し飼育だYOさま
いつもありがとうございます。吉澤さんかわいいですか?よかったw
( `▽´)<ひーちゃん浮気はダメよ! しないよ〜>(´〜`0)
気合十分で待っていただいて感激ですw
>>255 29さま
いつもありがとうございます。ここの吉は、ムッ○リなんですw
( *`〜´)<ちがうやい! (*´▽`)<キャワって言われた、嬉しい…w
え〜っと、続け!?みたいな感じで・・・がんばってみます。
吉の隠れ妄想が膨らんだら、書けるかなぁw
(次回は、学生風味をもう1つ更新予定です|vV)
- 277 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/18(火) 22:05
- 愛が溢れてますね、可愛いです
次回更新楽しみです。。。誰か覗いてますよ!?w
- 278 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/19(水) 00:15
- やったー!まっこあい、まっこあい♪
こちらこそいつも素敵なお話、ありがとうございます!
よっすぃも可愛いですが…まこ!まこっちゃんカワイイYO!
やっぱ自分はおねーさん&年下のへたれwという設定にめちゃ弱らしーです
毎回毎回長文レスですまんです;実はもっと書きたいんですが…(マテ
また次回も楽しみにしております!!
- 279 名前:ぽち 投稿日:2005/10/19(水) 02:18
- まこあい、良い!
可愛いし、純粋…
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/19(水) 15:31
- すごーくかあいい感じでかなりほのぼのな気分になりました。
すごくいいです!
まことたちの先輩らの様子も気になりますw
- 281 名前:日季 投稿日:2005/10/19(水) 21:34
-
- 282 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:35
-
言葉にしなくても、心は繋がってる――――――?
そんな二人のお話。
- 283 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:36
-
******
- 284 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:36
- 「みきたん、遊びに連れてって」
「やだ」
「即答かよ!」
「即答だよ!」
「どっか行こう、ねえ行こうよ〜」
「寒いから絶対にいや」
「なんでー?まだそんなに寒くないじゃん…ってもうコタツだしてんの?」
「1度も気温が下がった。寒い、寝る」
二人は、同じマンションに住んでいるのですが
たいがい亜弥が美貴の部屋に来て、休日を一緒に過ごしています。
それもこれもインドアなこの焼肉バカのせい……
だけど、美貴がだいすきな亜弥は文句を言いつつも一緒にいたくって
こうやって部屋におしかけています。
- 285 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:37
- 「ねえ、たん遊びに行く予定無いの?」
「……そだ、梨華ちゃんとそんな話したんだ」
「石川先輩?」
「相談があるっぽい」
「二人で会うの?」
「さ〜、どうかな」
素っ気無いうえに、はぐらかす様な美貴の返事に拗ねてると
美貴がちょんちょんって肩をつついてきました。
「あ〜やちゃん、こっちむいて?」
「なに?」
「こわっ、そんな顔しないの」
「だって……」
「なんだったら一緒に来る?」
「でも、石川先輩が二人でって言ったんでしょ?」
「別に亜弥ちゃんも一緒でいいって」
「ほんとに?」
「うん。だから一緒にいこっか」
「やった!絶対だからね?」
「分かってるって」なんて言って優しく髪を撫でられ、すでに上機嫌の亜弥。
美貴は心の中で”単純で、かわいいな”なんて思っています。
- 286 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:37
-
******
- 287 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:38
- 「あやちゃん上機嫌だね〜」
「わかる〜?」
「藤本先輩となんかあったんか?」
「あったっていうか〜、やっと遊びに連れて行ってくれるんだ!」
「ほー、それは良かった」
「あいちゃん、あんまり感情こもってない。もっと驚け!」
「あーしの麻琴はどこでも連れてってくれる」
「惚気ですか」
「惚気です」
「にゃははは、すっごいムカつく」
お昼休み、愛は麻琴と食べています。
クラスが違うのに迎えに来てくれるのです、毎日のように……
羨ましいなんて―――――― 毎日思ってますが何か?
みきたんってば、学校でべたべたすると嫌がるんだもん。
誰もいないと平気みたいで……むしろくっつけば、ニヤニヤと嬉しそうにするくせに。
- 288 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:38
-
お昼休み。
珍しく一緒に食べようなんて誘いに来てくれて、平静を装いつつも内心では大喜びの亜弥。
けど目の前には……
「ひーちゃん、あーん」
「あーん」
「おいし?」
「うん、ちょっと不思議な味がするけどおいしいよ」
「よかったー、じゃ次はこっち」
「あーん」
目の前に見えますは熟年夫婦の域に達してるのに、若夫婦みたくイチャつく
石川先輩と吉澤先輩で、ございます。
愛妻弁当ですか、そうですか――――――
1年生からカッコイイなんて言われてるY先輩自ら「あーん」とか言ってます。
母親のようにお世話を焼いてるI先輩、顔が蕩けちゃってますね。
つい先日お付き合い始めましたってわけじゃないのに、なにこのアツアツぶり。
でもでも……
「いいな」
「ん?どしたの亜弥ちゃん」
「ううん、なんでもない」
「そっ」
素っ気無い返事とお弁当から顔を上げない美貴の態度に、ちょっぴり悲しくなります。
ほんのちょっと前までは、あんな風にじゃれ合ってたのにな……
- 289 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:39
- 「今度遊びに行く打ち合わせするとか言ってたけど、無理っぽいね」
「相談がどうとか言ってたやつ?」
「そうそう、相談って言うよりは二人の今後について聞いてくれとかなんとか言ってた」
「いっつもあんな感じなの?」
「さー、どうなんだろ?美貴いつもは屋上で食べてるからね」
「一人で?」
「一人で。だって寝るからさ」
たんの視線はお弁当箱に向けられたまま……ちょっとくらいこっち向けば〜か。
その間も聞こえるは先輩二人のイチャつきっぷり……
「ひーちゃん、すき」「梨華ちゃん、すき」
ほっといたらエンドレスで言い合いそうな二人と食べるのがイヤで
誘いに来たんだ、あたしのこと……
最近、美貴から『好き』って聞いてないと落ち込む亜弥。
ほんとはもっと言って欲しいのに。自分で言う回数も減っちゃった……
- 290 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:39
-
******
- 291 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:40
- 「愛ちゃん仲直り……してたら一緒に帰らないよね」
「聞かんといて……」
愛はめずらしく喧嘩したそうで、どうやら麻琴と会ってもいない様子。
「意地になってるんよ、自分で分かってるけど……」
「会いに行ったらいいじゃん」
「ちょっと離れてみて気付くこともあるかもしれんし」
でも元気のない愛を見てるのは、正直いやだなー……と思う亜弥。
もっとバカみたいに喋って笑いあいたいのに。
愛を照らす太陽のような麻琴。美貴にとって亜弥はどんな存在なんだろう?
「あやちゃんこそ、藤本先輩は?」
「みきたんは図書室で勉強するんだって」
「そっか、受験やもんね」
「そうだよ、だから一人で帰れなんて言うんだよ、ひどくない?」
「あやちゃんも不満の一つや二つあるんやね」
「いっぱいあるね」
「溜め込まんと言うてみたら?」
「ここで?」
「ここで」
人もまばらな正門まで続く道。
春なら桜が咲いて綺麗なこの道も、いまはすっかり秋模様。
「みきたんは、普段は愛想ないし口悪いし目つき悪いし
寒がりすぎだし、何かあればあたしより肉だし……
あたしのこと、ぜんぜん見てくれない!すきって言ってくれない!
でも好きで大好きで……誰より優しくてちょっとへタレなのも知ってるんだもん!?
だけど、最近はぜんぜんわかんないよ。たんのこと、わかんない……」
言ってるうちに怒りよりも悲しくなって……
あたしの半分でもいいから、みきたんにも言って欲しい。
すきだって、たまには言葉で聞きたいよ
- 292 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:40
-
「こんな公の場で悪口言うな。あとへタレ言うなっ」
突然、背後から聞こえた声にビックリ!?
「わっ、たん?……だって、かまってくれないんだもん」
「美貴、いちおー受験生。勉強とかあんだよ」
「でもでも……」
それでも気持ちを伝え合うことくらいできるはずだ。
自分のワガママを、どんなに文句言っても叶えてくれてた美貴なら
絶対に大丈夫だって思ってたのに……
最近は何も言ってくれないんだもん。
たった2文字だけど、とても大切な2文字の言葉が聞きたいのに。
「わかった」
「たん?」
「言うから。一度だけ言うから、ちゃんと聞いとけ」
スーッと息を吸い込んだかと思うと、美貴は恥ずかしいのか
はんばヤケ気味に下を向いたまま、早口に話し出しました。
- 293 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:41
-
「美貴は、亜弥ちゃんが思ってる以上に亜弥ちゃんが好きだよ。
見てないんじゃなくて、見てないフリをしてるんだよ。
ほかの誰かと喋ってるのも見たくないの。美貴以外と一緒にいるなんてありえない。
それに不思議と目立つは、スカート短いは、発育が美貴よりいいわ……あれっ?」
下を向いていた美貴。視線を少しづつ上に向けていくうちに違和感に気付き───
「藤本さん、そんなに亜弥ちゃんへの気持ちをあーしに言われても」
目の前には愛の姿が――――――
「た、たかはしっ!いつの間に」
「藤本さんが勝手に間違ったんです……」
「うそ〜?」
「も〜バカたん!?なんで間違うかな、信じらんないっ」
「だって……」
勢いで言っちゃえ!って思ったから、ろくに確認しなかったんだもん……
なんて思ってたら――――――
「というか、藤本さん失礼なところで見分けつけましたよね?」
「うっ……」
「どこどこ愛ちゃん?」
「あーしの胸見て違うって思ったがし」
「みきたんっ!?あっ、こら逃げるな!」
「ちがっ、違うってば。ちょっとは判断材料にしたけど」
だって亜弥ちゃん急成長してんじゃんかー!!!おっきさが違ったんだもん!
逃げろ逃げろ、明日へ向かって逃げろっ!?
言葉にしなくったって伝わってるって思い込んでたんだよ。
ちゃんと言うから、亜弥ちゃんにだけ言うから。
家までの道を走りながら、美貴は帰ったら一番に好きだと伝えようと思い
亜弥は美貴を追いかけながら、もっと好きって言ってもらおうと考えています。
そんな二人を見て、麻琴にものごっつい会いたくなる愛なのでした……
おしまい?
- 294 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:41
-
「梨華ちゃん、ミキティは?」
「う〜ん、窓から亜弥ちゃんが見えたら飛んで行っちゃった」
「なにしに行ったのかな」
「さ〜、わかんないよ」
「まっ、いっか。二人きりだね」
「ひーちゃん、梨華のこと好き?」
「うん、だいすき」
「どれくらい?」
「表す単位がみつからないくらい無限に好きだよ」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「じゃ、どこがすき?」
「おっ……じゃなくって」
「お?」
「お顔も、性格も。梨華ちゃんのぜ〜んぶが好きだよ」
「や〜ん、ひーちゃんってば〜」
「えへへへへへ……」
勘弁してくれよと思う図書委員と、バカップルの放課後は
こうして更けていくのでした――――――
川;・-・)<早く帰ってください!(*´▽`)´〜`*)
ほんとに、おしまい?
- 295 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:42
-
******
- 296 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:42
- 「ママが泊まってもいいって」
「マジで?」
「マジですよ?」
「亜弥ちゃんお風呂はいっちゃおうよ」
「お風呂はいってから、なにするつもりだー?」
「寝るんじゃん、なに想像してんのー?」
「たんこそ、えっちぃ想像したでしょ?」
「するわけ……あるじゃん」
「したのかよ!」
「しちゃったよ!」
「にゃははは」
「へへへへへ」
- 297 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:43
- 「じゃっ、お風呂場でしちゃえっ!」
「しちゃえって……しちゃうよ?」
「ちょっ、誰がいまって……やん」
「あやちゃん、あやちゃん?」
「なに?ってもう……ぁっ…触りすぎぃ」
「すきだよ」
「お肉より?」
「……あたりまえじゃん」
「なに、その間は?」
「気のせいだってば」
「むぅ、ぜったいに今考えたね。天秤にあたしとお肉乗せたでしょ?」
「ないない。あやちゃんだけが好きだもん」
「ほんとのほんとに?」
- 298 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:43
- 「焼肉1週間ぬきでも良いくらい好き」
「なんか微妙なんですけど……」
「じゃあ、一生食べなくっても……いいくらい好き」
「だから、間が邪魔」
「松浦亜弥を一生愛することを誓います」
「唐突だね」
「たまには、いいかなって」
「えへへっ、めっちゃ嬉しいかも」
「かもじゃなくって、嬉しいって言い切れよ」
- 299 名前:『みきのあや』 投稿日:2005/10/19(水) 21:44
- 「みきたんにとってあたしってどんな存在?」
「あやちゃんは、美貴のゆたんぽでしょ?」
「なんだそれっ」
「いいのいいの。寒がりな美貴の必需品じゃん」
「たん、愛してるのチューして」
「あっついの?」
「あっついのでお願いします」
前よりずっと気持ちを伝えてくれるようにるかな?
これからはお互いに言葉でも確認しあおうね?だいすき、みきたんっ!
気持ちをカタチにして確かめ合った二人の夜は、こうして更けていくのでした――――――
ほんとのほんとにおしまい。
- 300 名前:_ 投稿日:2005/10/19(水) 21:44
-
- 301 名前:_ 投稿日:2005/10/19(水) 21:44
-
- 302 名前:日季 投稿日:2005/10/19(水) 21:46
- >>282-299
学生風味な、あやみき短編(ちょっと(*´▽`)´〜`*)もあり)更新終了です。
この二人書いたの初めてです。どうなんだろう?微妙だったらごめんなたい(T▽T;)
学生風味3編は密かに繋がってますw(石吉だけ時期が違いますが)
>>277名無し飼育さんさま
ありがとうございます。愛情はたっぷりです。
|vV从 覗いてました!?気付いてくれて嬉しいですw
>>278 名無し飼育だYOさま
いっつも嬉しいレスをありがとうございます。喜んでいただけてよかったですo(^-^)o
川*’ー’)<まことは可愛いやよー
∬´▽`)<えへへへへへ
レス励みになりますんで、長くってもへーきです。むしろ嬉しいw
>>279 ぽちさま
ありがとうございます。まこあい良いですよね〜。
川*’ー’)人(´▽`*∬ ミスムンまた見に行きたい・・・
>>280 名無飼育さんさま
ありがとうございます。ほのぼのしてもらえて嬉しいです∬´▽`)
小川さんたちの先輩、今回の更新で入れてみました。こんな感じの人たちですw
- 303 名前:日季 投稿日:2005/10/19(水) 21:50
- (あれっ?あげてしまった・・・・゚・(ノ▽`)・゚・ )
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/19(水) 22:52
- (;´Д`)スバラスィ ...ハァハァ
この3組の組み合わせ、大好物すぎです。
にやけまくりです。
いいなあ、この学校w
- 305 名前:名無し 投稿日:2005/10/19(水) 23:02
- 楽しく読めました
バカップルだらけの学校で、楽しそうっすねw
- 306 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/19(水) 23:09
- どっちかが優勢なわけではないあやみきは新鮮ですね
やっぱり美貴さんはお肉が好き…?w
相変わらずのばかっぽーも愛しいですな。
ここ最近ずっと入り浸っててスイマセン…
自分もなんだか書きたくなってきたので勉強させてもらってます
ではまた次回も楽しみにしてますね!!
- 307 名前:日季 投稿日:2005/10/20(木) 21:17
-
更新開始。
- 308 名前:『Sweet glance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:18
- 「ねぇ、ひとみちゃん」
「ん〜?どうしたの梨華」
「ちゃんとお話聞いて?」
「うん。聞いてるよ」
放課後、教室の机に座ってなにやら雑誌を読んでいるのが吉澤ひとみ。
その前の席に座り、ひとみの真正面にて頬杖をついて
話し掛けているのが石川梨華。
特徴的な高い(アニメ声)甘えた声をだし
さっきから呼んでいるのに返事だけで顔を上げないひとみに不満顔。
- 309 名前:『Sweet 投稿日:2005/10/20(木) 21:19
- 「・・・・・・・・・」
「……梨華?」
急に無言になった彼女を心配してようやく顔を上げました。
すかさず梨華は――――――
「ひとみちゃんは、梨華のこと嫌い?」
潤んだ瞳で上目遣いをし、甘えたように聞きます。
天然魔性の梨華はこの態度が、ひとみを瞬殺しているとは想っていません。
「嫌いなわけない、好きだよ梨華」
真剣に答えながら内心は冷や汗タラリ――――――
”やばい、可愛すぎる、どうしよう”
といっても、ここは学校。どうすることも出来ないのですが……
- 310 名前:『Sweet 投稿日:2005/10/20(木) 21:19
- 「嬉しい♪だったら、ちゃんとお話聞いてね?」
「ごめんって。明日、ここに行こうかなって」
そういって、さっきまで読んでいた雑誌の特集を指差す。
そこはオープンして間もない水族館。
「あっ……」
そう梨華は行きたいと、ずっと話していたのです。
「行きたいって行ってたから。下調べ」
そういってニコニコと梨華を見つめます。
”…憶えててくれたんだ”
梨華も機嫌を直して自分の話したかった事も忘れて微笑返し。
(※梨華の話は別段意味のないことだったので、話せなくて大丈夫なのですが……)
- 311 名前:『Sweetglance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:20
-
******
- 312 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:21
- 「ねぇ、どうしたの?」
「あ、梨華ちゃん。あそこにさ……」
そういって親友の美貴が指差したのは正門のあたり。
そこを通る生徒たちも、こちらから門を見ている生徒たちも
なんだか落ち着かない様子でざわざわしています。
高校3年生になった梨華は私立の女子高に通っています。
友達の藤本美貴は高校に入ってから出来た友達で、目つきの鋭さに最初はビックリしたのですが、
話すと温和な性格・優しい人柄でよく笑う人。
どこかサッパリした気性の2人は、打ち解けてからは気が合って一緒にいるようになりました。
ざわざわしている子達は口々にカッコイイとか、でも可愛い系?などと話しています。
女子高なので男の子が待っているという事実はかなり目立つようです。
「男の子が立ってるの。しかもかなりのイケメン君らしいよ」
「ふ〜ん」
梨華の居るところからはよく見えないので答えようがなく、曖昧な返事を返します。
美貴も別段興味が無いらしく……
「とりあえず帰りますか?」
などと呑気に梨華を促しました。
「そうだね。美貴ちゃん、どっか寄って行く?」
「ん〜?そうだねお茶でも飲んで帰ろっか」
賛成なんて言いながら、既に話題に上ってる男の子の事をすっかり忘れて歩き出す二人。
- 313 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:21
-
しかし――――――
門の所でまで行ってその姿を確認した梨華の様子が変わりました。
門にもたれる様にして待っているその姿。ただボー然とその横顔を見ていた梨華でしたが……
「……ひとみちゃん?」
やっと出た声は少し掠れて頼りない物でした。
それでも、その声に反応してゆっくりと振りかえったその人は――――――
優しい眼差しを梨華に向けて微笑みました。
サラサラの髪が春風に揺れて綺麗に舞っています。
「梨華、ただいま」
梨華に話しかけるその声……もうずっと聞いていないような
そんな懐かしい甘い響きがありました。
磁石のように引き寄せられ梨華は腕の中へ……
「おかえりなさい」
抱きしめてくれる確かな腕の感触に幸せを感じながら、胸元でつぶやきます。
昔よりも背が伸びた?なんだかちょっと逞しくなったみたい───
でも昔と変わらない甘い香りに包まれて安心しきっている梨華。
そんな梨華の事を愛しそうに抱きしめる彼……?
- 314 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:22
-
2人の周りには誰も居ない、そんな空間を作り出す2人に美貴は困惑を隠せません。
”おい、めっちゃ見られてるぞ?”などと内心で突っ込みながら
「梨華ちゃん?知ってる人……だよねぇ?」
少し顔をずらして見つめあう2人を交互に見ながら、戸惑いがちに訪ねる美貴の声で
ようやく梨華はあっちの世界(どこだよ)から帰ってきたようです。
とりあえず抱きしめられていた腕から名残惜しそうに離れて、美貴に向き直ります。
「あっ、お友達の美貴ちゃん。」
”いやいや美貴の紹介じゃなくて、その彼の事聞いてるんだよ!”
どこかズレてる梨華に苦笑しながら、律儀に心の中で突っ込む美貴。
「高一の時から梨華ちゃんのお世話してます、藤本美貴です」
「ちょっ、美貴ちゃん。お世話してますって……」
「だって本当の事じゃん」
「そうだけどぉ」
なんて遠慮のない2人のやりとりに嬉しそうに微笑みながら彼はゆっくりと口を開きます。
- 315 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:23
- 「初めまして、吉澤ひとみです。でも、安心した。梨華のお話通り良い友達みたいで」
そういってまた愛しそうに梨華を見る瞳はとても暖かい色をしていました。
「で、なんでおかえりとか、ただいまとかなの?」
「あぁ、美貴ちゃん言ってなかったっけ?」
「いや、聞いてないし。恋人が居るとしか……」
そう友達になってすぐ梨華には恋人が居る事は聞いていました。
実際、梨華はその可憐な容姿でもの凄くモテました。
あくまでも『可憐な容姿』のおかげで――――――
”だって梨華ちゃん、いちいち言動がキショいんだよね”
その梨華が誰にもOKの返事をしない理由は”恋人が居るの”ということ。
でも、梨華が男の子と居るところを見た人が居ないため、石川さんの妄想?
なんて嫌な噂までされて―――――― 当の本人はまったく気にしていないようでしたが。
- 316 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:23
-
「う〜ん、そうだっけぇ……」
と言いながら指を顎に当てて思い出してる様子で、古典的な悩み方を披露してくれます。
”いや、それがキショいんだって”
と内心で突っ込んでいた美貴でしたが、甘〜い雰囲気をかもしだす彼の方は
そんな梨華が可愛くて仕方ないといった様子……
「あのね、私が中3にあがる前にひとみちゃんがねアメリカ行くのが決まって……
それでね、3年は帰って来れないって言われたの」
その時を思い出したのか泣きそうな梨華の頭を、優しく撫でる彼。
もうこの2人には敵わないなと諦めモードで話を聞くことにした美貴。
「梨華ちゃん、もうちょっと詳しい話はさ、別の場所で話さない?」
いつの間にやらギャラリーが増えすぎていました。
”近くの男子校からも見にきてるやついるよ、おいおい”
なんせ梨華は結構、『容姿が可憐』で有名人。
学校の門前で抱き合った姿なんて見せたら、目立たないはず無いのです。
とりあえず野次馬たちの熱〜い視線を振りきって、駅前の喫茶店へ行く事に。
- 317 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:24
-
喫茶店でとりあえず腰を落ち着け、梨華は思い出話をはじめ……る前に。
「ねえ、美貴ちゃん?」
「なに?」
「あのね、誤解してるみたいだから先に言うけど……」
美貴は目を見開きました――――――
えっ?マジで?そういえば梨華は自分に『恋人がいるの』と言っただけでした。
「えぇーーーー!?オンナの子なの?」
確かに背も男の子だったらそんなに高いほうではない。
顔立ちも確かに女性っぽいし、体型だって線が細く華奢だ。
けど、なんとな〜く男の子っぽい?いや中性的なのか……言われてみれば十分に女の子だ。
「ひとみちゃんは、女の子だよぉ。私より料理だって出来るし〜
お片づけも上手でね……1歳上なんだけど凄い頼りになるんだよ〜
でもでも、ジェットコースターとかオバケが苦手で可愛いところもあってね───」
あぁ、忘れてた。美貴としたことが隙を作ったらダメじゃんか……
梨華のひとみちゃん話の長さに、美貴は頭の中がアニメ声でいっぱいになり
ぐったりとテーブルに突っ伏しました――――――
- 318 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:24
-
そして、3年前。
「両親の仕事の都合で、アメリカに行くことになったんだ」
「えっ?」
「大学はこっちに戻ってくるからさ、待っててくれないかな?」
そう言うひとみに、梨華は”え〜ん”と言いながら思いっきり
抱きつき、わんわん泣いてしまいました。
ひとみは口パクで、もう一人の幼馴染である後藤真希に助けを求めます。
「梨華ちゃん、一生会えないわけじゃないんだしさ。
それに向こうには、よしこのおじいちゃんもいるわけ、わかる?」
ひとみの胸元で小さくコクリと頷く気配がして、真希は続けて話します。
「ず〜っと離れて暮らしてたからおじいちゃんも、おばあちゃんも寂しいと想うよ?」
梨華は涙が止まったのか、ゆっくりとひとみから離れます。
「……わかってるもん。わかってるけど……」
小さい時、ひとみちゃんとは毎日のように一緒に遊んで
色んな事から梨華の事守ってくれて――――――
(※いっつも真希も一緒だったことをキレイに忘れています)
- 319 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:25
-
「梨華?」
優しい呼びかけにも梨華が顔を上げることが出来ません。
”きっと困った顔してるもん…梨華の事嫌いになっちゃうよ”
「梨華、あたしを見て?」
『ねぇ?梨華』
3度目の囁くような甘い声に、想わず顔を上げた梨華が見たのは
優しく微笑むひとみの姿でした。
それは全然、困ってる風では無くて……
むしろ愛しそうに自分を見つめてくれる瞳に、吸い込まれそうになりました。
「ひとみちゃん……」
やっと出た声はひどく震えていて、また泣き出しそうな梨華を
ひとみは抱き寄せました。
- 320 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:25
- 『待ってて。必ず3年たったら戻ってくるから。あたしが帰る場所は、梨華のところだけだから』
そう耳元で囁く声と、少しだけ速くなったひとみの心音が響いてきました。
それは梨華の心音とリンクするように音を奏でて、梨華の全身を
心地よく駆け巡って、何故か胸のドキドキと反比例するように安心できました。
「うん。待ってる、待ってるから」
「ちゃんと帰ってきて?」そう胸元で話す梨華のくぐもった甘えた声を聞きながら
ひとみは絶対に彼女を幸せにしたいと……そう強く想うのでした。
「コホンっ」
わざとらしい咳ばらいに我に帰った2人は身体を少し離して苦笑い。
真希もそんな二人を見て複雑な表情。
「まぁ、約束通り帰ってきてよ」
「わーってるって」
「それまでちゃんと、梨華ちゃん守ってくからさ!!」
そう照れたように言う真希が、頼もしく力強く感じられました。
- 321 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:26
-
「で、数日後の放課後に私の中学にひとみちゃんが来てくれて……」
水族館に行く約束をしてくれてぇ、うんぬん……長い話が始まりそうで
慌てて美貴は止めます。
「いや、梨華ちゃんその話はいい!関係無いじゃん」
「え〜、なんでよぉ」
「だいたい、離れてた事情とかは分かったからさ」
まだ話し足りなそうな梨華でしたが渋々納得して黙ります。
- 322 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:26
-
「たぁ〜ん!!!!」
物凄い不意打ちに響いた声に、どわぁって美貴はコケそうになりました。
”この声は……”と振りかえらずとも分かる元気娘。
「亜弥ちゃん、声でかいよ」
美貴の元へ、タタタタタッと近づいてきた人物に振りかえらずに言いました。
「えへっ、見なくってもアタシだってわかるんだぁ〜愛だねぇ」
なんて呑気な声が……
「あのね、”たん”とか呼んでるのアンタだけだから」
「むぅ〜、アンタじゃなくて”亜弥”」
「はいはい、亜弥ちゃんだけだから」
「はんせいしてな〜い」
そう言うと美貴の横に勝手に座ってしまいました。
「梨華先輩、おじゃましま〜す!
あっ。美貴たんの従姉妹の松浦亜弥で〜す!あなたは?」
他人に入りこむ隙を与えない亜弥の喋りに目を丸くして
驚くひとみは暫くボー然としていました。
- 323 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:27
- 「ひとみちゃん、自己紹介」
と隣の梨華に肘でつつかれ我に帰ります。
「あっ?あぁ、吉澤ひとみです」
「吉澤さん、初めましてぇ」
かくして梨華の思い出話をもう一回、亜弥の為に
聞くハメになった美貴は再びぐったり……
「すっごいですね、お二人さんはラブラブだぁ」
と亜弥は目を輝かせます。
となりで美貴は……”おいおい、あんまり深く聞くなよ。絶対長くなるから…”
しかも落ちの無い梨華ちゃんの話は疲れるんだよ。と人知れず、ため息をつくのでした。
「離れる前は、辛く無かったですか?」
美貴はしまったと思いました……
あぁ、その話しは甘ったるくてキショくなるってば…
現に梨華はもうキラキラした目で話す気満々の様子。
- 324 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:27
-
再び3年前。
水族館に行った後、しばらく逢えないからと、ひとみが梨華の部屋に泊まりにきました。
「一緒に寝ても良い?」
上目遣いにそう聞いてくる梨華に瞬殺される、ひとみ。
「・・・うん」
ベッドに座って暫く他愛の無い会話をしていた二人でしたが
会話が途切れたその時……
みつめあう瞳が揺れました。
少しづつひとみの顔が近づいてくるのを感じて、梨華は反射的に目を閉じました。
そして、ふんわりと唇に柔らかい感触を感じて不思議と幸せな気持ちになりました。
”キスしたんだ……”
すごく冷静にそう感じた自分にちょっと可笑しくなり……
でも、暫く逢えない現実が容赦なく梨華を襲います。
ひとみもまた、離れてなお残る梨華の唇の感触に戸惑っていました。
大切にしたい、傍に居たい、離れたくない……
複雑な感情が体中を駆け巡って行きます。
でも、ちゃんとケジメをつけなきゃ。梨華を守って上げられる強さを手に入れたい。
「ひとみちゃん、大好き……」
「待ってるから、、、良い子にして待ってるから」
梨華の子供みたいな言葉が甘い声で届きました。
「ちゃんと帰って来るからね」
「うん」
「大好きだよ、梨華」そう囁いたひとみは、もう一度梨華に口付けました。
- 325 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:27
-
「梨華先輩のファーストキスだったんですねぇ〜」
その言葉に梨華は頬を抑えて赤面。
「やぁだ〜、亜弥ちゃんはっきり言わないでぇ」
”それがキショいんだって〜の、もう梨華ちゃんは突っ込み所ありすぎ”
と美貴は、ため息をつきます。それに離れずらさの話じゃないじゃん……
ひとみは別段、表情を変えることもなく話を聞いています。
- 326 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:28
-
「ところで、キスだけで終わったんですか?」
亜弥の突然の質問に、飲みかけてたコーヒーでひとみは軽くむせました。
「ひとみちゃん、だいじょうぶ?」
「げほっ…だいじょぶだよ・・…」
「亜弥ちゃん、なんちゅうこと聞くんだよ……」
美貴は呆れ顔ですが、亜弥は”なんで?”っていう顔をしてます。
「だって〜、梨華先輩ってスタイル抜群じゃないですか?
まぁ、アタシも負けてませんけどぉ・…2人っきりって我慢できるのかなぁ?って思って」
「いやいや、亜弥ちゃんのことは置いといて……そういう事をストレートに聞くんで無い!」
自分は放置と分かって亜弥はぷぅ〜っと頬を膨らませます。
そんな亜弥はサクッと無視して美貴は梨華を見ました。
- 327 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:28
- 「ん〜、一緒に寝ただけだもん。何にもして無いよ」
「ってことは、まだ梨華先輩は……むごぐぐっ・・・」
とんでもなくストレートに言いそうな亜弥の口を慌てて、美貴は塞ぎました。
”ったく、亜弥ちゃんも梨華ちゃんと違う意味で手がかかるよ”
そんな美貴を苦笑しながら見たひとみは、小声で”大変だね?”って呟きました。
美貴はダハハっと情けなく笑いながら頷きました。
「梨華と居るだけで満たされるんだ。だから急いで大人になりたくないって
その時は思ってたんだよね。実際めっちゃ子供だったし」
”まぁ、したからって大人になるわけじゃないけどさ……”
なんて優しく微笑むひとみに感心した亜弥と美貴。
梨華は恥ずかしそうに、でも嬉しそうにひとみを見つめています。
- 328 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:29
- 「やっぱり、梨華先輩は愛されてるんですね?
あんなにモテるのにまったく他の人に関心示さなかったのは
こんな素敵な人が居たからかぁ」
なんて亜弥は羨望の眼差しで2人を見ています。
美貴もこの2人の作り出す雰囲気に、いつのまにかのまれていることに苦笑しました。
”甘ったるいのに、嫌じゃないなんて不思議だな”
「そんなにモテた?やっぱり…綺麗になったよね、なんかちょっと大人っぽい雰囲気になったし。
内面は変ってなくてホッとしたけど」
なんて言ったひとみにまたトンでもない発言をする亜弥。
「大人っぽいですよね梨華先輩。ってか身体のラインは絶対にエロいです!」
「だぁ〜うんなこと宣言するな!もう亜弥ちゃんは……美貴、頭痛いよ」
だいじょうぶぅ?なんて美貴の頭を撫でる1つ下の無邪気な従姉妹に
”お前のせいだって〜の”と律儀に突っ込みます。あくまでも心の中で…
”口に出したら亜弥ちゃん怖いからな”
そんな2人のやり取りを見て、梨華は呟きます。
- 329 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:29
- 「身体がどうのとかって自分ではわかんないよ。告白されても知らない人だし。
一目惚れとかですぐ告白する人とか嫌だな、ナンパと一緒じゃん?」
そういうと隣のひとみを見上げて得意の上目遣い(※本人無自覚なんですが……)
「ひーちゃんはアタシの何処が好き?」なんて問いかけます。
「梨華の?なんに対しても精一杯頑張っちゃう所かな。たまに空回りしてるけど・・・
具体的にあげていけばキリが無いと思うけど、ようするに梨華の全部が好きだよ」
他人を目の前にこうもあっさり彼女の好きなところとか上げちゃうこの人も凄いや
と美貴は思いました。
「梨華もひーちゃんの全部が好きだよ?それに素直な所。
なんでも素直に伝えてくれるから……大好き」
はぁ〜っと人知れず、ため息を美貴は吐き出します。
砂糖より甘いよ、この人達。
亜弥もじぃ〜っと二人を見ています。
またトンでもない事言わないだろうな…なんてそっちの心配も美貴はしています。
- 330 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:30
-
「梨華先輩って、吉澤さんの前でだけ甘えた感じになるんですね?
なんか大人なイメージがあったのでビックリですよ!なんか可愛いです!」
「アタシと美貴たんの次ですけど」なんて余計な一言付きで言います。
ってか美貴も一応は可愛いって思ってくれてるのね、亜弥ちゃんは。
「自分ではわかんないけど、真希ちゃんにも同じこと言われた。
甘すぎて見てらん無いとかなんとか…」
「…そうだ、真希にも会ってないなぁ、まだ」
「え〜、連絡は?って私にしてなかったし、して無いのか…」
「うん。どうせ家近所だしね、帰りに寄ろうかな」
「そうだね。真希ちゃんも心配してたから帰ってきたよって言わなきゃ」
「じゃあ、美貴たちも帰るかな。ねっ?亜弥ちゃん」
「うん。美貴たん晩御飯2人っきりだよぉ、今日はママもパパも旅行で居ないから」
「はぁ〜聞いてないよ?」
「朝、置手紙があったよ?気付かなかった?って寝坊して見てなかったのか」
「はぁ〜、なんか疲れる……そんな急に旅行に行くか普通?」
「まぁ、そういう両親だもん。」
”で、こういう自由奔放な子に育ったわけね”と美貴は改めて納得しました。
- 331 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:30
-
「じゃ、また明日学校でね。美貴ちゃん」
「梨華ちゃん噂の的だと思うよ、明日」
「え〜、なんでよぅ?」
「何でって、正門前で抱きしめ合ってた事実がね…?」
「え〜、お2人はそんな大胆なことを…羨ましいな」
「うぅ〜あれは久しぶりに逢えたからつい・・・」
「まぁ、これで告白してくる馬鹿も居ないでしょ?」
そんなこんなで甘い甘い梨華達の話しを聞いて
疲れた上に、この元気娘。亜弥と2人っきりと言う事実に4度目のため息をつきながら
美貴は帰途に着きました。
- 332 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:30
-
******
- 333 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:31
-
「ねぇ?身長伸びたね?」
「ん〜、5センチくらいは伸びたかな。梨華も伸びたね」
「え〜?私はちょっとしか延びてないよ」
「なんか雰囲気が大人っぽくなったからそう感じるのかな」
「…そう?」
「うん、綺麗になっててびっくりした」
「えへへへ…」
照れながらも、ず〜っとひとみの手を握って、本当に帰ってきたんだなぁと実感する梨華。
「ひーちゃんは大学生?」
「そうそう真希と同じところ」
「真希ちゃんと一緒?・・・私の高校の隣じゃん!?」
「いろいろとあって、入学式には間に合わなかったけどね」
「一緒に登校できるんだ!?」
「でも、時間がちが・・・」
「やったぁ、ひとみちゃんと毎朝一緒〜♪」
ひとみの言葉をまったく聞かずに喜ぶ梨華に苦笑い……
大学は時間帯が違うと言ったら、梨華は悲しむだろうな。
そう思うとひとみは何も言えずに、ただ微笑みました。
明日から、早起きして一緒に行くか――――――
図書館辺りで時間つぶせば良いしと考える、優しいひとみなのでした。
- 334 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:31
-
帰宅途中、二人の家より少しだけ駅よりの真希のお家が見えてきました。
その家から真希がちょうど出てくる所だったので声をかけます。
「真希、久しぶり!んで、ありがとっ」
その言葉に頷きながらも真希は口を尖らせて怒ったふり。
「え〜、よしこ帰ってきたの〜?なんだよぉ、連絡くらいしてよね!」
「梨華に1番に会いたかったから」
なんて呑気に答えながらも、しっかり繋がった手を上げて見せます。
そんなひとみのストレートな言葉に頬を染めつつ、梨華は嬉しそうに微笑みます。
「こらっ、2人の世界を作るな!」
「だって真希ちゃん、嬉しくって…」
「はいはい、二人でゆっくり空白を埋めてくださいな」
「は〜い」
なんて呑気に返事をする梨華。
- 335 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:31
- 「真希は、でかけんの?」
「そっ、友達んところでレポート一緒に書くんだ」
「そっか、大学生になったんだもんね」
「一応、女子大生だから!って、よしこもでしょ?」
「あっ、そうだった」
「ほんとにバカ……」
「でも、安心した。またこうやって3人でお話しできて!」
「そうだね」
「うん。良かったよ。キショい梨華ちゃんのお世話しなくて済むから」
べ〜っだと子供染みたことをする梨華に苦笑しながら
真希は片手を挙げて ”じゃっ、また今度よしこのお帰りなさいパーティしよ〜ぜぃ!”
と歩き出しました。
2人で返事しながら、真希の後姿を見送りました。
- 336 名前:『SweetGlance』 投稿日:2005/10/20(木) 21:32
-
「ひとみちゃん?」
「どーしたの、そんな甘えた声だして」
「今日は一緒に寝ても良い?」
「そうだね、一緒に寝よう」
「いっぱい向こうでのお話聞かせてね」
「明日も学校なんだから、ほどほどになら話してあげるよ」
「ほどほどでもいいから、聞きたいの〜」
甘えるように擦り寄ってくる梨華の姿を見て、たぶん今夜は寝れないんだろうな
と密かに覚悟するひとみなのでした……
おわり。
- 337 名前:_ 投稿日:2005/10/20(木) 21:32
-
- 338 名前:_ 投稿日:2005/10/20(木) 21:32
-
- 339 名前:日季 投稿日:2005/10/20(木) 21:34
- >>308-336 いしよし更新終了です。
分かり辛かったと思いますが、85年組の年齢が逆転してます。
(O^〜^)( ´ Д `)<大学1年生。
(*^▽^)从*VvV)<高校3年生 。
>>304 名無飼育さんさま
ありがとうございます。萌えていただいたようで良かったです。
3カプ揃った学校通ってみたいですw
305 名無しさま
ありがとうございます。楽しんでもらえて良かったです。
イチャイチャで溢れてると思います、この学校w
>>306 名無し飼育だYOさま
ほんとにありがとうございます。 愛すべきばかっぽー達ってことでw
自分なんてまだまだ未熟ですが、そういってもらえて幸せです。
- 340 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/20(木) 21:56
- 年齢逆は新鮮ですね
いしかーさんが、かわいらしい
心の中で突っ込むミキティーに笑わせてもらいました
- 341 名前:メトロ 投稿日:2005/10/20(木) 23:46
- 今まで私的最エロ(でもへたれ)カップリングのいしよしばかり真面目に読んでいたのですが…
ここの小説、どのカプでもおもしろいじゃないですか!
本当ヤバい。なんで今まで気づかなかったんだろ?
最初の5話完結の話が「キュン!」なのは言うまでもないとして更にその番外。
ー小悪魔注意報ーが、ヤバい。
贔屓のカップルでもないのに、読んだ後笑いと萌えで心が一杯になって、
モー大変でした。
…美貴たんは、天然娘を扱わせたら敵無しですね。
あと石川さんの親戚三人も堪らない!
絶対、典型的次女タイプな石川さんを
おっとりマイペース三人組で振り回しちゃったりしてくれてるもんw
まぁ、全員天然なので 振り回しor振り回されきれてないと思いますがww
長文失礼しました。まったりがんばってくらさいね。
- 342 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/21(金) 19:12
- 更新お疲れ様です!
最初は誤植かと思いましたw>逆転
甘々な空気出しまくりの石と吉がいいなぁ〜
後藤さんのキャラも大人な感じがしてよかったです
ハイペースな更新はすごく嬉しいですが、無理しないでくださいね
作者さんのペースでマターリね♪
ではまた楽しみにしておりまっす!!
- 343 名前:Y 投稿日:2005/10/22(土) 10:20
- 来ちゃいました。w 更新おつです。
バカップル万歳!これからも楽しみにしてます。
- 344 名前:名無し飼育 投稿日:2005/10/23(日) 14:26
- ここのごまの話が見たい
ちょい役でもいい味出しそう
- 345 名前:29 投稿日:2005/10/23(日) 20:18
- 逆バージョンきた〜w
上なのに甘える梨華ちゃんも萌えですが、
気負いなく頼りまくる梨華ちゃんが新鮮でイイっっ!!
番外なんてあるといいなと またまたリクもどきっw
- 346 名前:日季 投稿日:2005/10/23(日) 22:35
-
>>308-336の番外編です。
- 347 名前:番外編『SweetGlance』 投稿日:2005/10/23(日) 22:36
-
ずっと小さい時から、好きだった。
でも、キミは自分とは違う人を見ていた――――――
- 348 名前:番外編『SweetGlance』 投稿日:2005/10/23(日) 22:37
-
知ってたよ、よしこが好きなのは梨華ちゃん・…
梨華ちゃんにだけ注がれる特別な愛情。
傍にいればいる分だけ、それを肌で感じていたんだ。
でもね、キミがいなくなって気付いたんだ。
あたしが見てたのは、よしこだけじゃなくて――――――
”梨華ちゃん”と居るキミだった。
梨華ちゃんに向けられる優しい目が好きだった。
梨華ちゃんに笑いかける優しい微笑みが好きだった。
だからさ、2人にはずっと一緒に居て欲しい。
梨華ちゃんとよしこが作り出す雰囲気が好きなんだよね。
- 349 名前:番外編『SweetGlance』 投稿日:2005/10/23(日) 22:37
-
引っ越すキミを見送りながら、心の中で誓ったんだ。
”よしこの好きな梨華ちゃんで居られるように、守ってるから”
ねえ、梨華ちゃん全然、変ってないでしょ?
外見はさ、どんどん大人っぽくなって綺麗になったけど
心の中はちっちゃい時のまんまなんだよ!?
でも、笑っちゃうくらい弱そうなのに強いんだ。
一生懸命な姿に、こっちが元気をもらったくらい。
良い友達も出来たし、本当真っ直ぐに成長してるでしょ?
- 350 名前:番外編『SweetGlance』 投稿日:2005/10/23(日) 22:38
-
「真希、久しぶり!んで、ありがとっ」
そうキミが言ってくれて本当に嬉しかった。
これからは、よしこが梨華ちゃん守っていってよ。
んで、いっぱいさ甘えさせてあげて。いっぱいいっぱい無理してたから。
幼馴染として2人の事が大好きだから
これからも見守ってる、頑張れっ!!!
おわり。
- 351 名前:_ 投稿日:2005/10/23(日) 22:38
-
- 352 名前:_ 投稿日:2005/10/23(日) 22:38
-
- 353 名前:日季 投稿日:2005/10/23(日) 22:40
- >>346-350 ( ´ Д `)<短いですが更新終了でーす。
>>340 名無し飼育さんさま
ありがとうございます。 (*^▽^)<あたし、可愛い?
影の主役は藤本さんですw
>>341 メトロさま
ありがとうございます。長文でのレスたいへん嬉しいですw
何気にここの从*VvV)さんは気苦労人です。
(自分で言うのもあれですが「小悪魔注意報」は、作者もさりげなく一番好きなんですよw)
これからも、がんばりますのでよろしくです。
>>342 名無し飼育だYOさま
ありがとうございます。石川さんだったら年下でも似合うかなぁと思いまして、逆転させました。
ストックがあったのでさくっと更新しましたw
今後はマイペース更新で本編にも戻りたいと思います。今後もへタレ作者ですが、よろしくです。
>>343 Yさま
わーい、ありがとうございます!バカップル話を楽しんでいただけるように
まったり頑張りますw
>>344 名無し飼育さま
ありがとうございます。後藤さん書くのが苦手なのでいっつも脇で申し訳……orz
機会があればもっとチャレンジしたいです。
>>345 29さま
ありがとうございます。うちの(*^▽^)さんは基本的に甘えるの担当ですw
逆バージョンはネタが浮かべば単発で書いていきたいなぁと。
なにかネタがあれば教えてくださいw
(次回は小川さんの誕生日に更新予定です)
- 354 名前:名無し 投稿日:2005/10/24(月) 00:01
- ごっちん切ないけど、カッケーっす
なんか好きだ
- 355 名前:344です 投稿日:2005/10/24(月) 00:14
- 脇役でもちょい役でも嬉しいっす
ごま、キミはいい子やね
- 356 名前:メトロ 投稿日:2005/10/27(木) 20:01
- そうかぁ。『SweetGlance』のキャワワないしよしに昇華するまでに、
ごっちんの中でこういう葛藤が起こっていたのかぁ。
>>355さんのおっしゃられたようにごっちん、サバけてていいこだなぁ。
こういう友人は大切にしたいものです。
´ Д `)<んあ?
次の更新、マコの誕生日という事はマコの短編ですかね。
もしそうでしたらマコも可愛くていいこなので楽しみ〜。
ていうか、ここのスレのこは全員いいこか!あはは
- 357 名前:日季 投稿日:2005/10/28(金) 00:37
- かるい?エロです。衝動的に可愛い道重さんが書こうと思ったら、こうなっちゃいましたw
藤道ですので、エロともに苦手な方はすいませんスルーしてください……
- 358 名前:Dear moment 投稿日:2005/10/28(金) 00:38
-
- 359 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:38
-
「ふ、じもとさ…んっ?」
「なに?」
「……好きですか?さゆみのこと……」
「好きだよ」
「ほ、んと…に?」
「うん」
安心したように目を細めて、ゆっくりと瞼を閉じて身を任せた……
美貴の動き一つで如実に現れる反応が堪らなく愛しい。
絡めとった指を硬く握り締めて、緊張して固まっているカラダから力が抜けるまでキスを繰り返す。
キスを深くすればするほどに、少しづつ力が抜けていく。絡めた指を解くと、不安そうに彷徨う彼女の指先。
だいじょうぶ。ここにちゃんといるから、そんな心配そうな顔をしないで……
触れる肌からすべての気持ちが伝わればいいのに、こんなに愛しいと伝わればいいのに……
「ふぁっ……」
「きもちいい?」
ね、もっと教えて?美貴を溶かすくらいに、キミのすべてで伝えて欲しい。
- 360 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:39
- 気持ちが昂ぶってくるほどに、彼女は美貴を見つめ返してくれるようになる。
そして、もっとあたしを見てと言わんばかりに、美貴の名前を甘く連呼する。
視線から伝わるのは、彼女の確かな安らぎ。快楽の波に揺られながら、満たされきった瞳の中に
美貴は自分の姿が映し出されていることに、この上ない幸せを感じている。
- 361 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:39
-
******
- 362 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:40
-
彼女の限界を感じとって、いかに焦らすか考え始めていて。
泣き出しそうな顔さえ、可愛いと思ってしまう自分はオカシイのだろうか?
「んっ……藤本さ、ん……ねえ………」
「ん?」
「もぅ……もう、だめで……」
「イっちゃいそう?」
「カラダが……奥のほうが熱いよぅ……」
少しづつさゆみの中で変化をつけて掻き乱していた指先を早めて動かすと
美貴の背中に回されていた指先が、宙を彷徨う。
耐え切れない快感が押し寄せているだろうに、美貴を傷つけまいと必死に堪えている。
「爪立てていいから」
「でも……」
「辛いんでしょ?いいから」
ぎゅーっとしがみつく腕の力が増して、眉を顰めて切なげに美貴を見つめる。
物足りなそうに欲しがる口元にキスを落として、ゆっくりと舌を挿しいれていくと
唐突に肩口を押し返された……
「どした?」
「だ、め……」
「ダメ?」
「……か、んじゃう…よぉ」
指の動きを緩めて、少しづつ喘ぐ合間の言葉を拾っていく。
「噛んじゃうって?」
「だって……い、く……」
「うん」
「……イク時に、噛ん、じゃ…うの………」
「なにを噛んじゃうって?」
「し…たぁ……ぁあぁぁぁぁんっ」
ほんとは言いたいことを理解したのだけど、意地悪な自分が顔をもたげて……
言葉の途中で指の速度を上げていくと声が跳ね上がった。
でも、上がりきる前にすぐに動きを止めると、うっすら開いた目に涙を浮かべて睨みつけてくる。
- 363 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:40
- 「もう1回言ってみて?」
「ぁん、いぢわるっ……」
「教えて、さゆみ」
「……舌いれたら、イクときにかんじゃうの」
動きを止められているからスムーズに飛び出した言葉。
恥ずかしそうに視線を逸らす仕草さえ可愛くて。再び指を動かしはじめると、すぐに反応するカラダ。
指先に絡みつき零れ落ちる白濁した蜜が、半端なく厭らしい音を響かせる。
ほら、美貴の指先一つでキミはこんなにも快楽の中を美しく舞うことができる。
「どうして噛んじゃダメなの?」
「だってぇ…いた、く…なっちゃ…っ……ぁっ」
”藤本さん、痛くなっちゃうから……”
一所懸命に伝えてくれた言葉は心からの彼女の優しさ。その可愛さに打ち震えた。
あぁ、壊してしまいたい。快楽の中へと堕としてしまいたい……
もっと美貴に溺れて、そして何も考えられないくらいに感じて欲しい。
「……噛んでいいってば」
「だめなの……」
「じゃ触れるだけ」
コクッと小さく頷くのが見えたので、唇を寄せてキスをして片方の手で強く抱きしめる。
苦しげに漏れる吐息と、くぐもった声ごと口付けて離さない。そして、指のスピードを上げて突き上げ続けると
熱くねっとりとまとわりつく彼女の中は、もう限界が近いことを示すように美貴を締め付けはじめる。
触れたままの唇から直接響いてくる声が脳を痺れさせて、感覚をおかしくさせる。
もうダメみたい、美貴の方がイっちゃいそうだよ……
- 364 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:40
-
******
- 365 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:41
-
快楽に揺られてまどろむ瞳は、うっとりと美貴を映しだす。
愛でる視線が甘いほどに彼女は行為に溺れているのではなくて、美貴自身に溺れているのだと伝えてくれる。
その視線が、心地いいほどの安らぎを与えてくれる。
キミの瞳に溺れながら、この愛しい瞬間を永遠に変えていく………
FIN
- 366 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:41
-
- 367 名前:DearMoment 投稿日:2005/10/28(金) 00:41
-
- 368 名前:日季 投稿日:2005/10/28(金) 00:42
- >>357-365みきさゆ短編更新終了です。次は予定通り29日かな……
>>354 名無しさま
ありがとうございます。後藤さんは健気なイメージなので……
好きだといってもらって喜んでると思いますw
>>355 344ですさま
ありがとうございます。喜んでもらえてよかったです。
後藤さんはいい子ですね、ほんとに。
>>356 メトロさま
ありがとうございます。後藤さんみたく冷静に自分を見れる友人は貴重ですね。
ここに出てくる人たちはいい子です、ヘタレなもので悪人を作り出せないんですよ・・・
- 369 名前:日季 投稿日:2005/10/28(金) 00:45
- >>357
「道重さんが書こうとしたら」ってなんだろう・・・orz
「道重さんを書こうとしたら」ですね、微妙な言葉間違いで申し訳ないです(T▽T;)
- 370 名前:名無し 投稿日:2005/10/28(金) 01:07
- エロだけど可愛いし健気なさゆカワイイ
マターリがんばってください
- 371 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/28(金) 11:59
-
キャ―――(*゜Д゜*)―――!!!
- 372 名前:メトロ 投稿日:2005/10/28(金) 21:38
- おー、甘々藤道(←四字熟語みたいw)キター!
「衝動的に可愛い道重さんが書こうと思ったら…」
うーん、なんて素敵なミステイク!
从*・ 。.・)<さゆは衝動的に可愛いの。そして文才もあるの。
今回も楽しませていただきました。
あーもうみんな可愛いよー。
さては作者様、我々読者をDDにさせようとしてますね?
- 373 名前:日季 投稿日:2005/10/28(金) 23:59
-
- 374 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:00
-
川* ')3(´▽`*∬
- 375 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:00
-
「まことぉー」
むにゃむにゃと愛の呼びかけに幸せそうに緩む頬。
可愛い寝顔で満足……なんて出来るわけもなく。
「つまらんがし」
- 376 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:01
-
******
- 377 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:02
- 数時間前。
「なんで、なんでどうして風邪ひくの〜」
「あ、あいちゃん、替え歌笑えないからぁ……」
「しかたないで〜かたさんでよ〜」
「いやっ、かたしてないです……」
「まことぉーだいじょうぶかー?頭痛い?それともクラクラ?グルグルする?
おえってならへん?吐くんやったら遠慮なく……なー、聞いとるん?」
「……あいちゃん、ごめんなさい」
「なんで麻琴が謝るんよ」
「だって……」
今日は麻琴の誕生日。愛と二人きりで過ごせるはずが……
麻琴が昨夜から体調を崩して寝込んでしまったのです。
正直、麻琴は寝ていたいのですが愛はというと……
心配するものの一人で起きてるのは辛いらしく(つまらんと言うてました)
麻琴の傍でず〜っと話しかけてくるので、寝れないのです。
だから、「ごめんなさい。寝たいです」と続けようとした言葉を遮って、
「なんで謝るん?」と聞かれた麻琴は、本音は言えずに申し訳なさそうに呟きます。
「愛ちゃんとせっかく二人きりなのに、寝てばっかでごめんね」
「ええよ。麻琴がよくなるまでゆっくり寝てて?」
「………うん」
言ってることは矛盾だらけの愛。
だけど優しく髪を撫でてもらうと、その指の動きが気持ちよくて
なんだか少しだけ元気になれるような気がします。
- 378 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:02
- 「麻琴、お粥食べて、お薬飲んで寝よう?」
「うん。愛ちゃんありがとー」
愛がすくっては麻琴の口へ運んで、いわゆる「あ〜ん」をしてもらっています。
1つ年上だからか、麻琴のキャラのせいなのか、いっつも世話を焼く愛と
すっかり甘えグセがついちゃってる麻琴……
「おいしかった?」
「うん、愛ちゃんがつくってくれるのは、なんだっておいしい」
「や〜ん、麻琴ほんとに可愛い〜」
麻琴の頭をむぎゅっと自分の胸に抱いて喜ぶ愛。
胸に頬を埋めながら、ぎゅっと抱きついて心音を聞いていました。
”愛ちゃんといると落ち着くなぁ”なんて思いながら。
さっきまでは寝たくって仕方なかったのに、もう忘れちゃってます……
- 379 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:02
- 「愛ちゃん?」
「なあに、麻琴?」
「えっとね……」
薬を飲んで横になった麻琴でしたが、その横に愛も一緒に入っています。
べったりと麻琴にくっついて、いつものように足を絡めて……
「愛ちゃん、風邪うつっちゃうよ〜」
「いいの!麻琴と一緒に寝たいのっ!!―――――― 麻琴、迷惑?」
あうっ……
上目遣いの愛に、これまで何度も瞬殺されてる麻琴。
今回もあっさりと完敗。
「わかったぁ。くっついて寝ると安心するもんね」
「うん!麻琴あったかいもん」
それは風邪のせい?
でも、いつもより高い麻琴の体温さえも愛しく、そのまま瞼を閉じました。
そして、お互いの存在を感じながら二人は眠りにつきました。
- 380 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:03
-
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- 381 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:03
- 先に目が覚めたので、おでこに手をあてると、幾分か熱は下がってるように感じます。
朝よりは苦しそうな顔もしなくなりました。
「まこと、18歳になったんやね」
「まこと、ま・こ・と、まことぉー」
「つまらんよー」
「麻琴、だいすきっ」
「・・・・・」
「なんか言えー」
「す〜きなんよ、まこと好きなんよ〜。な〜んどなんど伝えても〜」
「す〜きなんよ、すきはすきなんよ〜。だけどまこと寝たまんま〜」
「好きって言えあほー」
「もうちょっと寝るかのー」
- 382 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:03
-
- 383 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:03
- 「あれっ?」
「愛ちゃん?」
「あいちゃ〜ん?」
「寝ちゃってるなぁ、うーん……」
「いっぱい呼ばれたような気がしたんだけどなー」
「愛ちゃんだいすきな小川麻琴でぇーごす」
「・・・・・」
「虚しいよー、起きないかなー?」
「でも愛ちゃんの寝顔、かあいい」
「もっかい寝よっかな……」
- 384 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:04
-
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- 385 名前:『風邪っぴきな誕生日』 投稿日:2005/10/29(土) 00:04
- 「お・き・てっ!!」
「いだっ!!」
「あとちょっとで誕生日終わってまうからのー」
「だからって頭どつかなくても……」
「ほら、おっきして」
「ふぁ〜い」
起き上がって目をごしごししていると、愛の腕にふわっと包まれました。
愛ちゃんの匂いだぁなんて暢気に目を閉じてると───
「あだっ!!」
「目、閉じてへらへらせんの」
「だって眠いんだもん。チョップも痛いよおー」
じとーっと見上げると、くしゃっと表情を崩して微笑む愛が
”ごめん”って口パクで伝えてくれました。
頭を撫で撫でされれば、痛みも消えちゃう単純な自分が恨めしい。
「あと1分で日付変わってまう……」
「ほんとだー」
「あらためて……誕生日おめでとう」
「えへへっ、ありがとー」
「素敵な1年になるように、プレゼントあげる」
「へっ?」
” チュッ ”
「18歳の麻琴も、だいすきやから」
もう離さんざってな具合に麻琴を抱きしめて、愛は囁きました。
あまいキスで終わった誕生日。二人の熱さに風邪も退散???してくれると良いんだけどなあー。
おしまい。
- 386 名前:_ 投稿日:2005/10/29(土) 00:05
-
- 387 名前:_ 投稿日:2005/10/29(土) 00:05
-
- 388 名前:日季 投稿日:2005/10/29(土) 00:05
- >>374-385 小高更新終了です。
小川さん誕生日おめでとー。これからも愛すべき雰囲気のままでいてほしいですw
>>370 名無しさま
ありがとうございます。可愛いって言ってもらえてよかったです。
まったり頑張りますっ!
>>371 名無し飼育さんさま
キャ―――从*VvV)(・ 。.・*从――从*VvV(・ 。.・*从――川*V)3(・ 。.・*从―――!!!!!ww
>>372 メトロさま
いつも、ありがとうございます!四文字熟語いいですねw
从*・ 。.・)<作者は現在進行形で、さゆみにハマッてるの
えぇ、可愛くなられましたよね……すいません、昔からずっとかあいいです・゚・(ノ▽`)・゚・
いえいえ、DDなんて……当たってますw(基本カプは石吉、小高、藤道or松藤)
これからも楽しんでもらえるように頑張りまっすo(^-^)o
- 389 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/29(土) 00:43
- ほのぼのバイオレンスwまこあいイイです!
なんだかんだ甘い2人萌
- 390 名前:メトロ 投稿日:2005/10/29(土) 14:47
- いやぁ、愛ちゃんのキャラを凄くよく掴んでる!
『風邪っぴきな誕生日』 って題名もいいですし。
小高は「明るく単純で素直になった石吉」って感じで、読むと心が和みますね。
「基本カプは石吉、小高、藤道or松藤」って…うわ、自分丸かぶり…。
やっぱり、攻めがへたれ気質は好感が持てますww
次回も既に楽しみにしているので、まったーり頑張って。
あ!あと、そうだ。
マコおめでとう!
∬∬´▽`)<でへへ
- 391 名前:名無し 投稿日:2005/10/31(月) 19:12
- マイペースな愛ちゃんがいいな
単純なマコもかわいらしい
- 392 名前:日季 投稿日:2005/11/01(火) 21:14
-
「偽りの真実」本編に戻ります。続編っていうんでしょうか?(^▽^;)
>>2-24 >>30-48 >>51-77 >>83-119 >>123-155 (>>175-199おまけ藤道)
拙い文章ですが、引き続きお付き合いいただければ幸いです。
- 393 名前:―1.穏やかな夜 ― 投稿日:2005/11/01(火) 21:15
-
- 394 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:16
-
「きれいですね」
「……そうね」
窓に映るあなたは、とても穏やかな目をしている。
「そっちじゃなくって、あなたが……なんちゃって」
「キザすぎだよ」
クスクスと笑う彼女は、上機嫌だ。
愛しい人の背中越しに見る夜景は、思ったよりも美しくあたしを酔わせる。
見慣れた街の僅かな輝きを、これほどまでに美しいと思ったことは無い。
「今度ご飯行きましょう?」
「二人で?」
「藤本さんとあたしの友達で」
「4人で?別に構わないけど」
「幼馴染なんです、気のおけないやつだから平気ですよ」
「そう……」
彼女の後姿から目が離せない。
浮かび上がるシルエットの美しさは誰も敵わないだろう。
- 395 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:16
-
「まだ帰らなくて平気ですか?」
「うん、美貴ちゃんも戻らないから」
「じゃあ泊まってくれますか?」
「どうしようかな」と呟き、曖昧に微笑むのが窓ガラスに映った。
来てくれた時点であたしの中では勝算99%だったんだけど
石川さんは分からない所があるから、1%でも不安が残るうちは安心できない……
「最近は、可愛い子みつけたみたいで」
「・・・」
「今日は会いに行く日なの」
「そうなんですか……」
「私の従妹なの。まだ16歳」
「若っ」
「私たちだって若いじゃん」
「まぁ、そうですけど……」
ほら、はぐらかされてる。
でも焦ることは無いさ、飛びまくる会話も楽しんでしまえば良い。
- 396 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:17
- 「16歳の頃ってどんなだった?」
「高1くらいですか?んー、どんな感じに見えますか?」
「吉澤さんだったら、モテてそう」
「女の子に?」
「自覚あるんだ」
「まぁ、女子高にいれば感覚的に」
「そっか、そうだね。夢見る年頃だし」
「綺麗なものだけ、見ていたいときですよね」
ようやく窓の外に向けられていた視線が、あたしへと戻ってきた。
そのまま「座ろうよ」とソファへと向かう。
並んで座るのってまだ慣れない、喫茶店とかだと向いあうことが多いから。
どのくらいの距離感が良いのか分からずに、間を空けて座ったら石川さんが少し距離を詰めた。
「石川さんは?」
「んー、私も女子高だったからね」
「モテました?」
「どうだろ。一人だけ仲の良い子がいて守ってくれてた」
「守ってもらうって……?」
「ほんとに友達って言える人は一人だったわ。不器用なの、人付き合いとか下手だし」
「あたしも、ひとりだったかな。幼馴染」
「今度、会える人?」
「えぇ、そうです。その友達は藤本さんですか?」
「ううん。美貴ちゃんは大学からの友達」
「そうなんですか」
「ルームメイト探してるときに偶然ね。高校時代の友達はメールとかはやり取りしてるけど、
会えるほど近くにいないの」
「遠いんですか?」
「うん、外国に行ってるから。夢があってね、留学したの」
「へー、すごいなぁ」
「偉いよね……。柴ちゃん元気かなぁ、久しぶりに会いたいな」
あー、自分の世界に行っちゃった石川さん。
時々、何か思い出すとこんな風にあたしを置いていってしまう。
”梨華ちゃんのお姉ちゃんのほうが電波系。妹も面白いよ”
藤本さん曰く、石川三姉妹は全員そんな感じだよって言ってたな。
会ってみたいかも、マジで。
- 397 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:17
- それと最近、気付いたことがある。
ポーカーフェイスだった彼女は、あの夜を過ごしてからあたしの前でも表情豊かになった。
壁を壊してしまえば、こんなにもクルクルと変わるもんなんだと感心するくらい。
でも、ほんとうの素顔はきっと見せていないのだろうけど……
「高校の頃ね、相談とかする度にずっと聞き役になってくれたり頼りになる人だったんだ。
でも高校卒業と同時に外国に行っちゃってね。いまは年に1、2回会うくらいかな」
「大学入ってすぐに藤本さんと仲良くなったんですか?」
「ううん。2年生の頃だよ、一緒に住みだしたのも。5月の連休くらいだったかな。
1年のときは勉強ばっかりしてたって言いたいけど、恋に夢中だったの」
「恋ですか……」
「逢いたいな」
「そのお友達に?」
「どうだろうね」
困ったように下がる眉は、きっと自分自身への戸惑いを表している。
彼女はまた違う誰かを浮かべてしまったのだろう。
泣き出しそうな顔をする時、昔を思い出しているのかもしれない。
「飲みませんか?チューハイもらったんです」
「う〜ん、お酒強くないんだよね」
「少しだけでも、気晴らしになりますよ」
「……そうね。じゃ、泊まっていい?」
「泊まってください」
”一緒にいたいです”と囁くと、嬉しそうに微笑んでくれた。
誰かに必要とされるのは悪くないらしい。
ほんとは藤本さんが帰らない時点で、あたしの誘いを断るつもりなんて無かったのだろう。
だけど、すぐに返事をせずに焦らしたりして、素直じゃないところが可愛いから。
あたしはそれに踊らされてるフリも、悪くないなって思ってる。
- 398 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:18
-
「心理学の話。ちょっと聞かせて?」
「あたし、ド素人ですって」
「いいの。一般的な人の考えとか知りたいだけだから」
「うーん」
「私ね、ちょっと人とズレてるって言うか違うなって思うことが多くて」
チューハイの缶を所在無げに見つめて、石川さんは小さな溜め息を漏らす。
なんだか儚く見えるその姿に、急に寂しくなった。
一緒にいるのに、彼女の心はこの場所に存在していないようで、寂しくなる。
「ご両親、どんな人ですか?」
「パパはお仕事で忙しくしてる。けど家庭を大切にする人。
ママはすっごく面白くて、娘に甘いわ。パパ以上かもしれない」
「珍しいですね。普通は父親のほうが甘いってイメージだけど」
「昔からね、短所さえも長所のように受け止めてくれる人なの。
ちょっとくらい出来ない事があっても、そこが人間らしくて可愛いって。
ダメな部分も含めて梨華なんだから自信を持ちなさい、そう言ってくれてた」
「愛されて育ったんですね。口で言うだけの愛じゃなくって心の底から。
自分の優れた部分だけを愛されるのではなく、自分という唯一の存在そのものを
愛されて育った。だから、人を愛することも信じることも出来るはずです」
「言い切っちゃうんだ」
「はい、好きですから。あなたは魅力的な人です」
「……ありがと」
複雑な顔をして笑う彼女から、まだ悲しみが見え隠れしている。なにがそこまで彼女を縛っているのか……
両親の愛だけでは足りない何か、その存在は分かっているけど彼女を救う方法が解らない。
救うなんて偉そうなこと言えないか。それは、あたしのエゴでしかない。
言葉で伝えようとすればするほどに、きっと彼女は困るのかもしれない。
ただ傍にいよう、彼女が愛されてるのだと空気から感じられるくらい傍に……
- 399 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:18
- 「多かれ少なかれ、人は偽りの自分で他人に接しています」
「うん、そうだね。私もそうだもん」
「自己防衛や体裁を保つために、仮面を被っている人がほとんどですけど
その仮面が自分そのものになってしまったら、どうでしょう?」
「完璧に演じてる方の自分が、真実になったり?」
「でも、完璧なんて諸刃の剣。どこかで崩れてしまうかもしれない。
崩れたときに、本当の自分が分からずに何もかも失ってしまう恐れがある」
「なんだか怖いね」
「そうやって”よそいき”の自分を演じることが間違ってるわけではないんですよ。
それを外せなくなることが怖いんです。
石川さんは根底にしっかりとした基礎がある。だから大丈夫だって思うんです」
あなたの本当はもっと暖かくて、そして美しい。
その核心に迫りたくて、あたしは傍にいたいと思うのだ。
もっと、あなたのすべてに触れてみたいと――――――
「基礎って、愛されて育ったこと?」
「はい。愛されたことが無ければ、人を愛することは無理だって言われてます」
「じゃ、両親に感謝しなきゃね」
「無償の愛ですからね。誰もがくれるものではないです」
親だけではなくて、恋人やもしかしたら親友からも愛され成長する可能性はある。
でもそれは、非常に単純なようで難しいことだ……
「それにほら、家族の前で演じることは無いでしょう?」
「うん、そうだね……でも家族には見せない一面もあるけどね」
「それは……友達や恋人の前で見せられているなら、大丈夫です」
「あっ、そっか。どこでも仮面を被り続けてると危険だってことだね」
「外せる場所があるなら大丈夫です。自信を持ってください」
あなたはとても素敵な人だから……最後の言葉はぐっと呑み込んだ。
危ない危ない、ついつい言葉に逃げようとしてしまう。必要なことがほんとうに伝わる瞬間は
見つめられ愛されていると感じられたときだと思う。言葉じゃないんだ……たぶん。
「うん、ありがとう」
ふんわりと微笑む笑顔に、息が止まりそうだった。
アルコールのせいか上気した頬は、彼女を少しだけ幼く見せた。
- 400 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:18
-
******
- 401 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:19
-
「吉澤さん?」
「はい?」
「眠いよぉ」
「ちょっ……い、石川さん!?」
しなだれかかり、あたしに体重を預けて目を閉じたと思ったら
「お風呂入りたいの」
「はいっ?」
呟いて、いきなり上目遣いに見上げられた。
「一緒に入ろう?」
「えっ?一緒にって……」
「入りたいのぉ。美貴ちゃんはいっつも一緒に入ってくれるもん」
「はぁ…」
昼に会った藤本さんの言葉を思い出す。
”梨華ちゃんにお酒飲ませすぎないほうがいいよ”
”まぁ、大変なことになるから”
”あ〜、でも面白いことになるかもね〜”
呂律はちゃんと回ってるけど甘え口調になって、目がトロンとしてて危ない感じがする。
服の袖をぎゅーっと握り締めて、懇願するように見上げられて……覚悟を決めるしかないらしい。
ガラじゃないんだけど、風呂に一緒に入るなんて――――――
- 402 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:19
-
「どーしたの?」
「ふぇっ、ああっ熱くないですか?」
「平気だよ、丁度いい感じぃ」
明るい場所で見るとまた凄いラインに愕然とする……腰とかありえねー、あたしだって痩せたんだけど。
骨格が違うのか、華奢だもんな。でも、適度な感じで肉付きも良いんだよね。不思議な人だ。
「髪、洗ったげる」
「い、いいですって。自分で出来ま―――――― 洗ってください」
「えへへへっ、いい子ですね〜」
よしよしと頭を撫でられて妙に恥ずかしくなってくる。子供扱いされるとは……
断っただけで泣きそうな顔されても困ります。
藤本さんの口調から察するに、こんな状態の彼女を見たことあるってことか。
可愛いけど、ちょっと困ったな。対処法とか聞いておけばよかった。
”痒いところはないですかー?”なんて能天気に呟いて上機嫌な石川さんに、とことん付き合うしかないらしい。
- 403 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:20
-
- 404 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:20
-
「石川さん、どうですか?」
「んぅ……ね、名前で呼んで?」
「梨華……ちゃん」
ふっと口元が綻んで、うっとりとあたしを見つめる。
完全に甘えたモード全開で、目がヤバイくらいに潤んでる。
「んっ……きもちいぃ〜、ひとみちゃん」
熱っぽい声で名前を呼ばれて、それだけで満たされちゃうなんて……
ほんと不思議な人だ。あんなに大人ぶっていたのに、素顔はこんなに甘えたで。
藤本さんがあたしに酒を渡した意味が、いまちょっと解った。
こんな石川さんを見せたかったのだろう、飾らない素顔の彼女を……
そして思ったよりもあたしのことを信頼してくれてるらしい。
「ひとみちゃん?敬語も、いらないの〜」
「は……うん」
「もっと強くぅ……おねがい?」
「こうですか?」
「ん…ぁっ……敬語だめだってば〜」
「わか、わかった……よ」
「いたぁい」
「ご、ごめん」
「優しくしてってば〜」
「こう?」
「ん〜、きもちいい〜。ひとみちゃん、じょうずぅ」
強くって言ったかと思えば、優しくしてって……
酔っ払ってるから矛盾しまくりな彼女のお願い。それに翻弄されてるバカなあたし。
- 405 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:20
-
「どこが気持ちいい?」
「もうちょっとしたぁ……」
「ここ?」
「んっ、もっと下だってば〜」
「ここかな」
「ぁっ、そこ……」
「石川さん、もう無理です」
「あぁん、ダメっ……やめちゃダメ〜」
「もう手が疲れちゃいました」
「ひとみちゃんのばかぁ」
「ばかって……」
あたし普通の大学生なんですから……
指圧とかマッサージを30分もさせられたら、疲れますよ。
藤本さん、これも予想外なんですけど?最初に言っといてください、マジで。
「眠いの?」
「石川さんが眠いんでしょ?」
「うん、もう限界」
「寝ましょ。あっちまでは歩いてくださいね」
「は〜い」
- 406 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:21
-
「電気、全部消していい?」
「ううん、ちっちゃい明かりはつけてて?」
「りょーかい」
「石川さん」
「梨華だってば〜」
「おやすみ、梨華ちゃん」
「ひとみちゃん、おやすみぃ……」
”続きはそのうちに、ね?”
あの日の言葉を思い出す。今日はその続きは、望めそうに無いみたいだ。
もう瞼が重力に勝てないとでも言うように、閉じられて開く気配が無い。
微かな寝息が聞こえはじめ、隣で眠る彼女の寝顔はとても安心したように穏やかで……
でも、ほんの少しだけ悲しげに見えて――――――
この夜が明ければ、また彼女は素顔を隠してしまうだろう。
彼女が欲する愛は、きっとココにあるのに……
- 407 名前:穏やかな夜 投稿日:2005/11/01(火) 21:21
-
- 408 名前:日季 投稿日:2005/11/01(火) 21:22
- >>394-406 更新終了です。
>>389 名無し飼育さんさま
ありがとうございます!萌えていただけてよかったです。
高橋さんはバシバシ人を叩きながら笑ってるイメージが(ヲイw
>>390 メトロさま
いつもほんとに、ありがとうございます!高橋さんらしく書けてたようで嬉しいです。
そうですね、小高は石吉の後輩夫婦のような気持ちで見守ってますw
>>391 名無しさま
ありがとうございます!高橋さんはマイペースな人なイメージがw
小川さんは可愛いですよね。
- 409 名前:日季 投稿日:2005/11/01(火) 22:18
- >>392参照(書き忘れた・・・orz)
- 410 名前:名無し 投稿日:2005/11/01(火) 22:25
- つづきだ!微妙な距離がもどかしい
作者さんドンマイ!?
- 411 名前:29 投稿日:2005/11/01(火) 23:05
- うひょ〜〜w
番外きた〜〜!!!
酔った石川さんってどうしてこうも可愛いんでしょうねえ。
正座して続きを待ってます。
- 412 名前:メトロ 投稿日:2005/11/02(水) 01:02
- 石吉続編キタ━━━━(0^〜^)^▽^ *)━━━━ッ!!す…素敵すぎる…。
ネタバレになるのでどこかは言いませんが、あの書き方は狡いですって!
これ読んだ人全員あの場面で、「騙された…!」って呟いてますよきっと。
けれど、ボクにはわかる…。結局あそこの場面では
「いしよしからは、何をしても天然なエロスが滲み出てくる」
という事がいいたかったのですね?
あとは、仮面の話だとかのくだりおもしろかったです。
アタイ作者様の話のそういうとこ好きさよ。(何
そしてもちろん石川三姉妹には反応しましたよ、ええ。
モニターの前で「キター!」ってなりましたもん。
毎回キチンと繋がっているというか、ちゃんと伏線を引いている書き方には脱帽します。
次回も楽しみにしていますね。
- 413 名前:偽りの真実 投稿日:2005/11/04(金) 18:55
-
―2.星降る夜に ―
- 414 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:55
- 「ときに重さんは?」
「さゆのクラスはHR長いんです、だから先に来ました」
「ふ〜ん、同じクラスじゃないの?」
「言い忘れてましたけど、絵里のが1つ学年上ですよ」
「へっ?絵里、2年生なの?」
「そうですよ〜。だから、帰りが一緒じゃないこともあるんです」
「そうなんだ」
ごつんと脳天に衝撃が――――――!?
「いでっ」
「こらっ、藤本!サボってんじゃないわよ」
「サボってませんよー。接客中だったんです」
「何言ってるのよ。お喋りしてただけでしょ」
「はいは……はい、仕事戻りまーす!」
「分かれば宜しい」
拳骨をくらった頭を自分でさすりながら仕事に戻ろうとしたら「そうだ、ちょっと」と呼び止められる。
すごい嫌な予感……
保田さん、そのニヤニヤ止めてもらえませんか?
- 415 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:56
- 「藤本、あんた絵里にまで手出しちゃダメよ」
「なっ!?」
「圭織とも面識ありと見た」
「なんで知ってるんで、す……か?」
あぁぁぁぁぁあーーー!?
忘れてた、梨華ちゃんの幼馴染=圭織さんの幼馴染
「あんた石川家のDNAに弱そうだし」
「絵里はありえないですって」
「藤本さん、しつれーい!絵里だってナイスバディーですよ?」
「ですよ?って……それじゃ美貴がカラダ目当てで友達と付き合ってるみたいじゃんか!」
「違うんですか?さゆのこと堪能したんでしょ?」
「堪能って……なんちゅう表現をするんだよ!」
「藤本、人はね自分に無いものに惹かれるのよ」
「はぁ・・・って保田さんどこ見てるんですか!!」
「あら気のせいじゃないかしら、おーほほほっ」
絶対に見てた、泣いてやる。重さん来たら泣いてやる……
なんだよ、どーせ小さいですよ――――――
- 416 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:56
- 「そういえば、さっき誰か来てたみたいだけど」
「あぁ、梨華ちゃんの友達です。チューハイあげたんです」
「どっかで見たことあるのよね」
「そうなんですか?梨華ちゃんのお気に入りみたいですよ」
「あんた、お気に入りって……」
「お茶飲み友達だけは次から次へと変えてましたから」
「今度のは違うんだ」
「遊びじゃすまないかもしれませんね」
「藤本は、それでいいの?」
「美貴は友達ですから。彼女は梨華ちゃんの壁を少しづつ壊してくれてます」
「そう……」
「前よりずっと肩の力が抜けて、いい感じですよ」
「なら良いんだけど」
保田さんはテーブルを拭きながら、難しいカオをしている。あの子が気になりますか?
カウンターに座って無邪気に笑ってみたり、大人びた寂しげな顔をしたり。いつまでも消えない彼女の幻。
美貴は二人が一緒にいるところを見たこと無いけれど、想像はつく。
表面上はしっかりして見える梨華ちゃんが、どれ程までに彼女に依存していたのか。
- 417 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:56
-
「あんたは大丈夫なの?」
「何がですか?」
「重ちゃん。勉強教えてるんだっけ?」
「そうです週に何回か、時間が合えばですけど。今日は泊まりにいきます」
「今日もご両親いないの?重ちゃん」
「仕事みたいですね。だから一緒にいて欲しいって」
「……そう。だったら、あんたほんとに傍にいてあげなさいね」
「いますよ〜。どうしたんですか?」
「どうもしないわよ。ほんとにしっかり傍にいてあげるのよ?」
「わかりました」
なんだか怖いくらいに真剣な目で、何度も美貴に確認をとった保田さん。
ちょっと不思議に思ったんだけど、その迫力に負けて聞き返すことが出来なかった。
言われなくっても一緒にいますよ。ちゃんと傍で面倒みますって。
何もかも”初めて”を奪ってしまったらしい美貴にできることは、それくらいしか無いから。
それに、一緒にいて時々感じる違和感の理由を知りたいし。
- 418 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:57
-
勢い良く開いた扉から、走ってきたのか荒い息のまま重さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ」と言いながら、髪の毛をすこし直してあげると
嬉しそうに微笑んで、美貴を映す純粋な輝き。
「もうすぐ上がるから待ってて」
「はいっ!」
「そうだ、飲みたいものあったら奢るけど」
「えへへっ、ケーキ付き?」
「このちゃっかりものが……高くつくよ?」
『じゃあ、さゆみを丸ごとあげます』なんて囁いてニッコリ笑う。
いざとなれば恥ずかしいのか怖いのか、震えちゃって見てらんないのに。
まあ、あんまり慣れられても可愛くないだろうけど……
「好きなの頼んでいいよ」
「あま〜いチョコレートケーキ、一つお願いします」
「イチゴ、おまけしよっか?」
「いいんですか?」
「たぶん、大丈夫。内緒だよ?」
「内緒、内緒♪保田さん怖いですもんね?」
「そうなんだよ!今日だって殴るんだよ美貴のこと」
「あらら、可哀想な藤本さん」
ちょっと泣くマネをしたら、よしよしなんて頭を撫でられた。
店じゃなきゃ、その胸に飛び込んでるのに……。気持ちいいんだよね、重さんの感触って。
- 419 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:57
- 「でしょ?それに……いや、やっぱいいや」
「言いかけて止めないでくださいよ〜」
「自分で虚しくなるだけだから、気にしないで……美貴が小さいとかじゃないから」
「はぁ……なんとなくわかっちゃいました」
重さんは自分のブレザーの胸元を見てから、美貴を見て困ったように笑った。
まだ言われたほうが傷つかないかもしれない。いいもん、美貴は美貴だし。
「拗ねないで、藤本さんっ」
「拗ねてないし。早く絵里のとこいっちゃえ」
「もう、可愛くないんだから」
「どーせ可愛くないですよ」
「さゆみの次の次くらいには可愛いですってば」
「次の次かよっ!」
「えへへっ気にしない気にしない。じゃあ、待ってますね」
今日は珍しく店の奥のカウンター席に座ってる絵里。
そこまで歩いていく後姿を見つめていると……
「いだっ!?」
「サボるなって言ってるでしょ。あと30分もあるんだから」
「サボってませんって〜、”いらっしゃいませ”ちゃんと言いましたし」
「なんか今にも襲いそうよ、あんたの目」
「どんな目ですか……」
「ハンターよね、藤本」
「保田さんに言われたくないです……」
「なんですって?」
「何でもありません。仕事頑張りまーす!」
なんか前にも同じようなことを言われたような気がするなぁ。
気のせい気のせい。誰がハンターだよ、美貴の目なんて可愛いもんだよ、ほんと。
保田さんのほうが……なんて考えてたら再び目が合った。
こわっ、心を読まれてる気がする……自給減ったらヤバイから考えるのはやめとこう。
- 420 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:58
-
- 421 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:58
- 「じゃ、お疲れ様でーす」
「お疲れ〜。あんた送っていきなさいよ二人とも」
「何でですか〜?絵里の家なんて知りませんよ〜」
「絵里の家も近所よ。あんた石川の実家知らないの?」
「知りません。行ったこと無いですもん」
「そうだったかしら?まぁ、重ちゃん家の近くだから送っていってよ」
「わかりました」
ぽこぽこ前を歩く二人の後ろを、すこし離れて歩く。
なんだかじゃれながら歩く重さんと絵里は、年相応に無邪気で微笑ましい。
だけど……時々、後ろの美貴を確認するように重さんは振り返る。とても不安そうな瞳で……
目が合ってニッコリ笑って見せると、安心したように微笑むんだけど。
「なんか妖しい〜」
「は〜?」
「だって目と目で会話してるんですもん、さゆと藤本さん!」
「んなこた〜ない」
「ありますって、ね?さゆ」
「えっ?うん……」
戸惑いがちに美貴を見て、頼りない声で返事をした重さん。
どうしてなんだろう、いつもは自分大好きで自信に溢れてるように見えて。
なのに、ふとした瞬間にこの子はとても臆病な顔をする。
- 422 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:58
- 「ほら、さゆがそう言ってるんですよ〜?」
「はいはい、見てました。重さんばっかみてますよ美貴は」
「きゃーーーー、さゆ聞いた?ね、聞いた〜?」
やたらテンションの高い絵里は置いといて……
重さんは美貴の言葉にビックリしたように固まってる。
いや、たしかに普段は絶対言わないセリフだったけど。そんなに止まらないでくださいな。
「ほら、電車来るよ」
「あっ、はい……」
「あ〜藤本さん、この話終わらせようとしてますね?」
「うっさいなぁ。愛の言葉は当人同士が言い合えばいいの」
「わっ、愛の言葉とか言ってる……おっとな〜」
「絵里が子供なの」
「わっ、むかつく〜。さゆに言われたっ」
「さゆみの方が大人だもん」
「ぜったい絵里!」
「年だけでしょ?精神年齢は私の方が上なの」
「むぅ、絵里だって……」
絵里と言い合いしながら、わーわー騒ぎ出した姿を見てホッとする。
ほんの一瞬見せる陰りは何だろうか?それが分かるほど、まだ近づけていない。
あー美貴、近づきたいって思ってるんだ。
程よい距離感なんてわかんないから。もういっちゃうしか無いよね。
- 423 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:59
-
******
- 424 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:59
- 重さんの家のほうが近かったので、先にそっちに寄って。
「着替えて待ってますね」と言うから、一人で絵里を送ってきた。
「ありがとうございましたー」
「でっかい家だね、やっぱ」
「いま一番上のお姉ちゃんが、一人暮らしやめて帰って来てるんですよ〜」
「そ、そうなの」
「帰ってたら呼んできましょーか?」
「いい、気持ちだけでいい。よ、よろしく。いや、よろしく伝えてもらっても困る」
「藤本さん、意味がわかりません」
「いや、こっちのことだから」
「そっちのことなんですね。じゃあそう伝えます」
「待て、絵里!?伝えるなって……」
ニヤニヤする絵里。こいつ……何か知ってるな。とりあえず早くこの場を去りたくて、走って重さんの家に向かう。
絶対、梨華ちゃんの実家には近づかないぞ!まぁ別に会っても良いんだけど……
どうしようもない、情けない自分を思い出すから。圭織さんに会えばきっと思い出してしまうから。
もうちょっと自分の気持ちがしっかりするまでは、会いたくないんだ。
- 425 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 18:59
-
- 426 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:00
- 「お風呂沸かしました」
「お嬢様ってあんまり何もしないイメージなんだけど、わりとするんだ」
「料理以外はできますよ」
「へ〜、ちょっと意外」
「一人でいることが多いから……」
「あっ、そうだね。ごめん」
”謝らないで”そんな風に目で訴えるのはやめて欲しい。
曇ってしまった瞳の中に見え隠れする、彼女の本心。
その奥を覗いてみたいのに、近づけないでいる。
「お風呂はいろ」
「はい」
スッと伸ばした手に触れるサラサラの黒髪。
真っ直ぐに見つめるほどに、ほんのり淡く色づく真っ白な雪肌。
「重さんって一人っ子?」
「ううん、お姉ちゃんがいます」
「そうなんだ」
「大学生になって、一人暮らし始めたのお姉ちゃん」
「寂しいね」
「寂しいです。ほとんど帰ってこないし、恋人がいて夢中みたいで。かまってくれないの」
「大好きなんだ、お姉ちゃん」
「はい、自慢のお姉ちゃんです。歌がうまくて、ちょっと変なとこあるけど優しくて。
背もね、さゆみのほうが伸びちゃって……前はずっと傍にいてくれたのにな……」
子供っぽさが消えた瞬間、彼女は大人びた目をする。
何もかも悟っているような、諦めにも似た色の無い目をする……
ちゃんと見ててあげるから。そんな顔をしないで……
こんなに傍にいると上手に伝える術を知らないから、強く抱きしめることしか出来なかった。
「藤本さん、ありがとう……」
腕の中で彼女は静かに泣いていた。その涙の訳を、聞く勇気すらなくて……
しばらく涙がおさまるのを待っていた。ただずっと抱きしめたまま、待っていた。
- 427 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:01
-
******
- 428 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:01
- 「今日は星が綺麗に見える日なんですって」
「へ〜そうなんだ」
「学校で先生が言ってました」
「ちょっと見てみよっか?」
「はいっ!」
- 429 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:01
-
- 430 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:02
- 星を見上げながら、彼女の目は人形のように光を失ってしまっていた。
どうして、そんな目をしているんだろう?
なんだか寂しくなって、思わず彼女の手に自分の手を重ねていた。
ゆっくりと美貴を映しながら、哀しげに揺れる瞳。
見つめあったまま言葉を交わさずに、時間だけが過ぎていく───
- 431 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:02
-
「このままずっと、さゆみの手を握ってて?」
美貴の目を見つめながら、甘えるように囁く。
咄嗟のことに返事が出来ないでいると、突然いつもの調子に戻って……
「やだっ藤本さん!?」
「いやいや美貴なんにも言ってないし」
「だっていま可愛いって想いましたよね?ねっ?」
わざと声のトーンを上げてるのが分かるから。だから余計に切なく感じる……
どうして、そんな泣きそうな瞳をしてるの?
「……さゆみは可愛いよ」
「・・・・・」
「なんか言えよ。おーい、恥ずかしいんですけど?」
- 432 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:03
- 「してないときに名前呼んでくれたの、初めてです」
「そうだっけ?」
「嬉しいの……」
「可愛いよ、重さん。美貴はそう想う」
自分で口にする分には何とも無いらしいが、人から言われるのには弱いらしい。
照れて恥ずかしそうに頬染める反応が、なんだか新鮮だった。
「照れんなよ〜、普段は自分で言ってるんだから」
「藤本さんだからですよ」
「美貴だから?」
「藤本さんが言ってくれるから、嬉しいの」
繋いだ手はそのままに、甘えるように身を寄せる。
じんわりと伝わってくる体温が愛しくて、もっとこっちへと抱き寄せる。
それだけで安心したように笑ってくれるから、今日はこのまま……
- 433 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:03
- 「寝よっか?」
「はい」
「寒くない?」
「大丈夫ですよ、寒いですか?」
「うん、美貴寒がりなんだよね」
「毛布出しましょうか……」
「それは嬉しい、あんがと」
「それに、さゆみがいっぱい暖めてあげます」
夜空に輝く星々が、彼女の瞳に降りそそぎ哀しみを消してくれますように……
ただ触れるだけのキスをして、そう強く願った――――――
- 434 名前:星降る夜に 投稿日:2005/11/04(金) 19:04
-
- 435 名前:日季 投稿日:2005/11/04(金) 19:05
- >>413-433 更新終了です。
>410 名無しさま
ありがとうございます。微妙に進んでいくとはおもいますw
>411 29さま
ありがとうございます。うひょ〜に笑っちゃいましたYO!w
ぬるい話が続くと思いますが、見守ってください。
>412 メトロさま
ありがとうございます。好きって言ってもらえて安心しましたw
会話部分が読み辛くないかと心配だったもので(^▽^;)毎回、感想読んで励まされてます。
- 436 名前:名無し 投稿日:2005/11/04(金) 20:27
- こっちにも何かあるんですね。。。
う〜気になるけど、わかるまでマターリ待ってます
- 437 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/04(金) 22:05
- れなさゆいいなぁ…
っていうかハマったのは作者さんのせいですw
子供なえりりんのお相手は、まだやっぱりいないのかな?
- 438 名前:437 投稿日:2005/11/04(金) 22:06
- >>437
すいません、れなさゆじゃなくてみきさゆでした…
- 439 名前:29 投稿日:2005/11/05(土) 00:04
- 〉〉415のアルファベットに激しく笑いましたw
そうですよね。めっちゃ弱そう〜(>_<)
だんだんはまってく美貴さんの描写が好きです〜w
- 440 名前:メトロ 投稿日:2005/11/05(土) 15:58
- 圭ちゃんはハンターですが、それ以上に獣でもあります。(w
いやぁ、藤道純愛(←今度は中国映画のタイトルみたい…)ですね!
自分よりずっと単純だと思っていた恋人の、
自分も知らないような深い所に訪れてしまった時のドキッとして切ないような
感じが…というかなんというかもう、とにかく2人が初々しくて温かかったです。
それにさゆの危うい部分の表現がうまい!
石川さんやさゆの様に、”自分を忘れて”明るさを演じる女の子は
根の部分に嫌なくらい静かなモノを持っていそうですよね。
そんな不安定で壊れやすそうな、守ってあげたいと思わせる雰囲気がよく出ていると思います。
『毎回、感想読んで励まされてます』のレス返しに、こちらが励まされました。
好き勝手に書いているだけなのに、まさか、まさかそんなことをおっしゃってもらえるなんて!
この小説との”出会い”も嬉しく思いますが、この作者様との”出遭い”も同じように嬉しく思います。
- 441 名前:偽りの真実 投稿日:2005/11/05(土) 19:50
-
―3.朝の風景 ―
- 442 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:51
- 窓から差し込む陽射しが眩しい……
大きく伸びをして、上半身をどうにか起こしてみると
開きっぱなしのドアから、香ばしい匂いがただよってきて鼻腔をくすぐる。
のろのろと起き出して部屋を出ると、キッチンに立つ美貴ちゃんが見えた。
「ん〜、美貴ちゃん今日早いんだ」
「授業、朝からだったの忘れてた」
「夜更かししたのにね」
「誰のせいだよ」
「しらな〜い」
「……ムカつく」
だって、可愛い美貴ちゃん見たくなったんだもん。
お風呂で先にイタズラしたのは、美貴ちゃんじゃない。
「梨華ちゃんは?」
「今日は授業とってない」
「は〜?」
「だって単位は余裕だもん」
「そうですか〜」
「美貴ちゃんだって余裕じゃん」
「そうだけどね。早めに終わらせたいじゃん」
「最後はラクしたいって感じだよね」
美貴ちゃんはスクランブルエッグを作り終えて、サラダを作ってるみたい。
シンプルな朝食だけど、それすら作ったこと無い私ってダメかな?
でも手伝おうとしたら、たいがい”邪魔”って一言で終わるし。
なんてボーっと見つめていたら、視線に気付いた美貴ちゃんが振り返る。
- 443 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:52
- 「食べる?」
「今は、ほしくないかなぁ。でも、なんか飲みものほしいな……」
「トマトジュースならあるけど」
「それだけ飲もっかな」
「ほいっ。後でちゃんと食べなよ」
「うん、ありがと」
冷蔵庫から取り出した缶から、コップに注いで渡してくれる。
意外に見えるけど、美貴ちゃんって気が利く。さりげなくやっちゃうから、凄いなぁって思う。
「週に1回は重さん一人置いて、両親いないみたいだけど」
「あの子の家は……ちょっといろいろあるからね」
「いろいろって?」
「私の口からは言えないよ。さゆに聞いて」
「言いたくないことなら、聞くつもりは無いよ」
「そうだね」
さゆから届くメールね、美貴ちゃんのお話が増えてるよ。
「藤本さんのおかげで、成績が上がったの」とかは良いんだけどね……
具体的に書かなくても、ニュアンスでものすごいことを伝えてくるときもあるの。
今日の藤本さんはどうだったとか……ほんと勘弁してよね、美貴ちゃん。
まだ子供なんだとばかり思ってたのに、いつのまにか大人びた目をしていたさゆ。
でも最近は、私が見たことのない表情をするようになった。前よりも幼く感じる瞬間があるのは
きっと美貴ちゃんをどこか心の底から信頼しているから。
演じる幼さではなくて、ほんとうに甘えられる相手がみつかったのなら、それは喜ぶべきこと。
大切ならそれでいいの。ただ、傷つけるようなことだけはしないで……
「どしたの、えらく渋い顔して」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと考えごと」
「そっか」
「あのね、吉澤さんが今度ご飯食べましょうって」
「美貴も一緒に?」
「うん。なんか幼馴染と4人でどうですかって」
「別にかまわないよ」
「そう。だったら伝えておくわ」
美貴ちゃんが出かけたら、もうちょっと寝よう〜っと……
大きなあくびを一つして、窓の外を見ると一点の曇りも無い青い空が広がっていた。
悩みや迷いなんて、あの青い空に消えてしまえばいいのに――――――
- 444 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:52
-
******
- 445 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:52
- 「一緒にご飯か〜」
う〜んっと伸びをして見上げた空は快晴。雲ひとつ無い空をすこし恨めしく思う。
「熱いんだよっ」
照りつける陽射しは、直接浴びるとすこし鬱陶しいと感じる。
あくびを噛み殺して、昨日の夜を思い出す。
バカみたいに風呂場でじゃれあって、出てからもUNOがしたいだの
やれ人生ゲームだの二人で遊んだ。ほんとに何も考えずに遊んだ。
「勝つまで止めないんだもんな〜」
美貴だって負けず嫌いだけど。梨華ちゃんはもっとすごい。
そのうちに花札やったことない教えて、とか言い出して……
すっかり今日の授業のことを忘れてたもんだから、さー大変。まぁ、課題とか無くてよかった。
「吉澤さんとご飯……ってか幼馴染って誰だよっ」
なんだかんだと人付き合い出来始めたんだから、イイ傾向だよね。
このまま狭い世界だけを生きていけるわけは無いんだし。
すこしづつ視野を広げていければ、言うこと無しかな。
美貴も梨華ちゃんも、きっと自由なんだ。
自分で自分を縛り付けて、そして勝手に束縛された気になって身動き出来ないって、もがいて。
だから過去のことを忘れなくても、歩いていけるはずだよ。
ふいに携帯が震えた。ディスプレイに表示された名前を見るだけで頬が緩む。
さいきんの美貴の時間を半分くらい占領してる人。ってか、こんな時間になんだろっ。
- 446 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:53
- 『藤本さん?』
「藤本さんだよ、どったの?」
『来週からテストなんですぅ〜』
「あー、そうだっけ……で、なに?」
『ママが家庭教師を雇うって言うから、藤本さんにお願いしようと思って』
「美貴なら構わないけど。お母さん、なんて言ってた?」
『梨華お姉ちゃんの親友だから、安心ねって言ってました』
「安心ね」って言われることに、ちょっと背徳感が……。
でも、勉強教えてるのは確かだし。いろんな勉強教えてる感じだけど……
「テスト前、毎日行こうか?」
『ほんとですかっ?』
「うん、暇だし」
『良かった……じゃあ、お願いします』
「おっけー。重さんも駅しょ?切るね」
『はい。ありがとうございました』
「どーいたしまして。じゃっ、またね」
『はい。また……逢えますよね?』
「ん?なに?会えるよ。会いに行くってば」
『はいっ!あっ、電車来ちゃった……それじゃあ切ります』
うんって返事する間もなく切れたため、美貴の耳にツーツーという電子音だけが残った。
どうして電話を切る刹那――――――
あの子はあんなにも哀しそうな声を出すのか……
一気に醒めた頭の中に、あの子の声が反復する。
何度も何度も実感が湧くまで、言葉で確認しないと不安なんだろうか?
彼女がそうだったように……
- 447 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:53
-
******
- 448 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:54
-
昨日は朝から学校だった美貴ちゃん、今日は朝からバイトで。一人でいるのがつまらなくて
彼女に連絡を取ると寝ぼけた声で、すぐに行きますって返事をくれた。
待ち合わせの時間にいつもきっちりしてる彼女から、すこし遅れるとメールがあった。
家の近所の公園を指定したのは私なんだし、悪いことしたかな……
でも、予想していたより早く彼女は姿を現した。
「藤本さんに聞いてくれましたか?」
「うん。とりあえず座りなよ」
走ってきたのが簡単に想像がつくくらいに、乱れた呼吸と上気した頬。
ほんのりと赤みがかったほっぺが可愛くて、思わず触れたい衝動にかられたけど
なぜか触れられずに、私は自分の飲みかけの紅茶の缶を差し出した。
「すいません……あぁ、喉が……生き返るな」
「そんなに走らなくっても良かったのに」
「なんか無駄に焦っちゃって。待ち合わせに遅れたりとかって、イヤなんですよ」
「真面目だね。でも私もそう、早めに着いちゃうタイプ」
「あっ、待ちました?」
「ううん、さっき着た所」
「よかった……」
ふわっとひろがる笑顔がとても綺麗な人。一つ一つの仕草から見え隠れするのは、彼女の真実。
男っぽく振舞っても、根はとても繊細で女の子っぽい人なんじゃないだろうか。
穏やかなあなたの空気は私をとてもリラックスさせてくれる。
「美貴ちゃんも別にかまわないって。何が食べたいとかは聞かないでね」
「どうしてですか?」
「答え、決まっちゃってるから」
「何聞かれても同じこと答えちゃうんですね」
「焼肉がイイっ!しか言わないから」
「なるほど」
「それに食べれないものは無いと……あっ、ねぎ嫌いだったかも」
「ねぎか……、伝えときます」
吉澤さんは素早くメールを打って、「送信」なんて呟いた。
すぐに伝えなきゃ気が済まないタイプなんだ。実は気が短いのかな?
どっちにしても、しっかりしてるんだと思う。
- 449 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:54
- 「4人で食事するときは夕飯でいいですか?」
「そうだね。美貴ちゃんのバイトが夕方で終わる日がいいかなぁ」
「じゃ藤本さんの喫茶店で待ち合わせて、あたしの家で食べませんか?」
「食べに行くんじゃないんだ?」
「ええ、料理できるんですよ。プロっぽいですよ。専攻はデザートですけど
本当は和食とか、そっち系の料理が得意なんです」
「わ〜、すごいね。デザートも食べてみたいかも」
「頼んでおきましょうか?石川さん好みのデザート」
「ほんとに?嬉しい」
「何がいいですか?」
「んっとね〜……」
ふっと脳裏を過ぎったのは、あの子が作ってくれた料理の数々……
言葉で伝えてもらえなくても、それを一口食べるだけでどれだけ愛されてるのか
ほんとは痛いほどに伝わってきてた。
優しい味がしたから。あの子らしい、あったかいふんわりした味がしたから……
なのに私は、もっともっととドコかで欲張りになりすぎてたんだ。
どうして、素直に受け止められなかったのだろう?真っ直ぐに視線を合わすことさえ出来なくなってしまって。
逃げ出したのは、たぶんお互い様。ちゃんと気持ちを伝え合わなかったから。
合わさらない視線は、どんどん二人の距離を広げそして遠ざけていった。
指の隙間から零れ落ちた未来は、もう二度と重なることは無い――――――
「……わさん、石川さん?」
「あっ、ごめん……なんだったっけ?」
「あの、食べたいものとかありますか?」
「特に無いかな。お任せするわ」
「食べれないものとかあったら伝えますよ」
「ううん、出されたものはきちんと食べるから」
「わかりました、そう伝えておきます」
「うん、ありがとう」
話を急かしたりすることが無く、何事も待っていてくれる雰囲気は大人だなって思う。
私なんかよりもずっと大人だなって……
- 450 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:55
- 「タバコ吸うんだよね?」
「気晴らし程度に。最近はあんまり吸ってません……
あれっ、石川さんの前で吸ったことありましたっけ?」
「待たせちゃった時にね、一度だけ吸ってたよ」
「あっ、そっか……」
「止められない?」
「タバコですか?……止めようと思ってます」
「そのほうが良いよ。止められるなら、止められるうちに……」
止められなくなって、依存してからでは遅すぎるから。
後戻りできるうちに止めたほうがいいんだよ、きっと。
「じゃ、止めます。石川さんに誓って……ちょっと違うか、証人お願いします」
「うん、ちゃんと聞いたからね」
「ちゃんと止めますよ」
ニッコリと宣言するあなたは、綺麗なその瞳に私を映す。
私は、少なからずあなたの傍にいれる理由を手に入れた気分だった。
漠然とただ理由が欲しかったの。傍にいる理由が……
「なにか食べに行きませんか?何も食べてなくて……」
「美貴ちゃんとこで、ケーキ食べたいな……モーニングもあったと思うけど」
「じゃ、いきましょっか」
「朝からケーキ?とか思ってるでしょ」
「すこしだけ……」
「美味しいんだよ、保田さんとこのケーキ」
「へ〜、楽しみですね」
「お昼まで時間があるし、いいよね」
黙って頷いてくれたのを確認して立ち上がる。
まだうっすらと汗が滲んでいる額に、触れることが出来ずにハンカチを差し出した。
- 451 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:55
-
- 452 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:56
- 「いらっしゃいませ〜」
「美貴ちゃん、カウンター座っても良い?」
「どうぞどうぞ。吉澤さんもどうぞ〜」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「今度ご馳走になるらしいから、ここは美貴の奢りね」
そう言って店の奥に引っ込んだ美貴ちゃんは、すぐに紅茶とケーキを持って戻ってきた。
なんてことは無い普通のチーズケーキなのに……見た瞬間、私の時間は止まりそうだった。
「どうかしましたか?」
「……ううん、食べよ」
口に広がるのは、確かに愛したその味で。一口食べたら止まらなくって、もう少しもう少しと
欲しては「いい加減にしなよ〜」なんて優しく髪を撫でられて……
滲む視界に映し出される過去の自分達。それはとても愛しい記憶。
あなたを愛した自分がたしかに存在していた、大切な宝物。
失ってからの方が、こうやって鮮明に思い出せるようになったんだよ。
美化されて、幸せな夢を見ているだけかもしれないけど……
頬をつたう涙が、ポタポタと落ちてテーブルに染みをつくっていく。
周りさえ見えなくなったあの頃の恋のように、私の視界は塞がれ
心配する吉澤さんの表情さえ見えなくなっていた。
「梨華ちゃん」
カウンターの向こうから聞こえた美貴ちゃんの声は、すごく優しかった。
なんだかあったかくて、ビックリするくらいに棘が無い。
もっと、キツイ空気を持っていたのに。いつのまに、こんなに柔らかくなったんだろう。
「……っく」
「そこの席ね。よくあの子が座ってたんだよ」
「……あの、こ?」
「梨華ちゃんがよく知ってるあの子」
そっと頬に触れたハンカチで涙を拭われ、少しづつ開けていく視界。
穏やかに笑う美貴ちゃん、すこし困ったように口をへの字に曲げた吉澤さんが見えて……
- 453 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:56
-
- 454 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:57
-
私の目の前には、真っ白な光が見えた気がした。
あなたは何色にも染まりそうで染められない、そんな美しい白をイメージする人。
すこしも変わらないその雰囲気が懐かしい……
「梨華ちゃん」
その声は、ずっと求めていた人のもので……
「……真希ちゃん?」
なのに、私はその声を聴いても懐かしさしか抱くことが出来なかった。
嬉しい?ううん、嬉しいわけじゃない。
イヤなの?ううん、嫌なわけでもない。
いまの感情を言葉で現すなら、「無」だろうか。何も感じられない。
けれど、その存在を確かめるように私は無意識的に、その腕の中に飛び込んでいた。
どうしてだろう、あんなに求めていたはずなのに――――――
- 455 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:57
-
涙が意思とは関係なくあふれ続けるのに、懐かしいとしか感じない。
やっぱりそれ以外の感情は、溢れ出してはこなかった……
そのことに戸惑いながら、彼女の腕の中で私は泣き続けた。
ただ懐かしい感触と匂いに包まれて、私は泣き続けた。
自分のすべてが流れ出てしまうかのように、涙は止まりそうに無かった……
- 456 名前:朝の風景 投稿日:2005/11/05(土) 19:57
-
- 457 名前:日季 投稿日:2005/11/05(土) 19:58
- >>441-455 更新終了です。次回は番外編更新予定です。
>436 名無しさま
ありがとうございます。気になってもらえてよかった……w
まったり待っててもらえると幸いです。
>437 名無飼育さんさま
ありがとうございます。ハマってもらえて感無量です(間違いはお気になさらずに)
絵里のお相手……本編が終わったら、チャレンジしてみようかなw
>>439 29さま
ありがとうございます。笑ってもらえてよかったw
遺伝子レベルで惹かれてるんですよ、きっと。
>>440 メトロさま
ありがとうございます。藤道純愛φ(..)メモメモ 韓流っぽくて、これまたイイw
身に余るほどのお言葉を頂いて恐縮です。レスを読んで、「ああそうか」と気付くこともあり
作品に活かしていきたいなぁって思ったりします。出遭いは大切ですね。
- 458 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 00:50
- 番外編も楽しみにしてます
>>446の電話の出方がなんかカワイイ
- 459 名前:メトロ 投稿日:2005/11/06(日) 16:42
- りかみきは、これぞ女の子同士の絡み!という感じで、いいですね。
それより、キ タ ━━━━Σ(;0゜〜゜)( ´ Д ( ▽T * )━━━━ ッ ! !
いつくるかとハラハラしていましたが、遂にきてしまいましたか…。
石川さん、感情が飽和状態ですねぇ。いいですいいです、おもしろいからどんどん揺れちゃって!
この先は介する人(ある血筋に弱い人w)が入る分緩い展開なのかな?それとも…?
うーん、期待大です。マターリ頑張ってください。
- 460 名前:名無し 投稿日:2005/11/07(月) 00:32
- うわっ、遂に役者が揃いましたね
どんな展開になるか予想しながら待ってますw
- 461 名前:29 投稿日:2005/11/07(月) 21:25
- おおっっっ!ついにキタ━━(*^▽^)^~^0)━( *^▽)~^* )━( *´)`* )━━ !!!!!
この人でしたか!!そうですか!!
こっからの展開を息をひそめて待ってます。
- 462 名前:『偽りの真実』番外編 投稿日:2005/11/09(水) 00:17
-
― 幸せのカタチ ―
- 463 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:18
-
「もっと『好き』と言えばよかった〜」
ただ1日も気を抜くこともなく あなたを――――――
何気ない朝に、ゆったり過ぎる午後に、夜に意識を手放す瞬間に……
ふとした時に脳裏をかすめる、大切な記憶。
幼かったね、お互いに。
だから、伝えきれない想いが膨らみすぎて……
一緒にいることが怖くなったんだ。
笑顔が見たかった。
ただ無邪気に笑ってる、そんな笑顔が。
だからね、あの日偶然に見たあなたの笑顔が眩しくてアタシは目を細めた。
あはっ、ちゃんと笑えてるじゃん。その笑顔が見たかったんだよ、嬉しくてしかたなかった。
嬉しくて、嬉しくて―――――― ほんのちょっとだけ切なかったんだ。
- 464 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:18
-
******
- 465 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:19
- 「こんちわっ」
「あらっ、後藤じゃない。久しぶりね」
「圭ちゃん元気そうだね、相変わらず?」
「なにが相変わらずなのよっ!主語がないのよ、あんたはいっつも」
「相変わらず一人身ですかー?ってか」
「大きなお世話よ。あんたこそどうなの?」
「髪伸ばしてんの、いまの長さ結構いいと思わない?」
「なに、話逸らしてるのよ……ばっさり切ったときは驚いたけどね」
「一区切りつけたかったのかなぁ、たぶん」
”そうだったわね”と呟いて圭ちゃんはミルクティーを淹れてくれた。
あったかいあったかいミルクティーを……
「後藤、カウンターで寝ないでよ」
「はーい」
「もう……まぁ、ゆっくりしていきなさい。この時間は暇だから」
「ありがとー圭ちゃん」
長く伸ばしていた髪を切った18歳の春。ばっさりショートヘアー。
彼女といた頃の自分を忘れたかったわけじゃなく、ただ何か変化が欲しかったんだ。
こう、ちょっと違うんだぞっていう。些細なことでよかった。
昨日と違う自分になりたかった。
そうしないと、いつまでも離れられないって思ったから。
- 466 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:19
-
彼女に出会ったのは高校2年の春だった。
圭ちゃんの喫茶店でバイト中にボーっとしてたとき、桜並木を歩く彼女に目を奪われた。
特別に目立つ人だったからじゃなかったんだ、どうしてか惹かれてた。
初めて喋ったときのことは今でも覚えてる。
だって特徴的な声だったし、すっごく人見知りなのか変わんない背なのに上目遣いだったんだよ。
無意識でやってるんだから、凄いよね。
好かれるか嫌われるか、きっと人によって両極端な印象を与えるタイプだと思う。
アタシは心臓がバクンバクンって、どこで鳴ってるんだかわかんないくらいに動揺して。
いま考えたら心臓がある場所なんて決まってるんだけど、
そのときは、何もかもわからないくらいに心奪われてしまってた。
会うのはいつも圭ちゃんの喫茶店。
そこで彼女を待っている時間が好きだった。
今日は何を話そう、どんな顔してくれるのかな───
浮かれ気味に、いくつもの展開を頭の中でシュミレートして。
どれひとつ頭で描くようには上手に行動できなかったな。
待っている彼女に会いに行くときも楽しかった。
アタシが店の扉を開けた瞬間に、ふわっと広がる笑顔が綺麗で。
愛されて育ったらしい彼女は、その表情全体が愛に満ち溢れていて
その眩しいほどの光の中に、アタシはいくつもの希望を見ていたのだろう。
くるくる変わる表情に見惚れてた。よく笑うし、よく拗ねる。
子供っぽいって思ったら、急にお姉ちゃんっぽくなったり。
- 467 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:19
-
圭ちゃんの提案で彼女と暮らすようになったのは、高2の終わりだった。
彼女は大学に進学したら一人暮らしをすると決めていたらしい。
だから、アタシなんて邪魔だろうなって思ったんだけど。
しばらく考え込んでから、アタシを見てニッコリ微笑んでくれた。
「一緒に住んでくれる?私、料理が全然できなくって」
ご飯作ってくれるなら、一緒に住んでもいいかなって。
二つ返事でOKした。料理は得意だし、そっちの道に進もうと思ってるって。
いつのまにか彼女が好きなスイーツを作ることが増えちゃったけど……
けど、自分で借りていたアパートはそのままにしていた。理由は特に無くて、なんとなくね。
一人になりたいときに、馴染んだ畳の上で何も考えずにボーっとしたりしてたんだ。
逃げ場所が……弱い自分を隠す場所が欲しかったのかもしれない。
- 468 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:20
-
マイペースなアタシを、可愛いと溺愛してくれた彼女。
甘えられる空間が、ものすごく心地よくて。
あまい束縛に浸りながら、彼女の中でいられることはアタシにとって
かけがえのない時間だった。
求めれば求めるだけアタシを愛してくれる、そんな人だった。
寂しいって感じたことが無かったな、一緒にいるときは。
とても愛するのが巧い……巧いって変かな?でもそう感じる人だった。
とてもうまくアタシを愛して、満たしてくれていた。
愛されることを知って、初めて人は愛することができるんだって。
幼馴染がね、言ってたんだ。心理学をかじっててさ……
彼女の両親が彼女にあたえた一番の財産は、無条件の愛だった。
だから、アタシは彼女の愛でとても救われたんだと
いまごろ実感してるんだ。
アタシに愛を教えてくれたのは間違いなくあなただよ。
親の愛を知らないアタシを、無条件に愛してくれた……
なのに、ごめんね。何一つ返して上げられなかった。
うまくなんて愛せなくて不安にさせて。
アタシは、あなたの愛を奪うことしかできなかった……
- 469 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:20
-
彼女の瞳は心は真っ直ぐだった。
真っ直ぐすぎて、周りが見えてないんじゃないかと思うほどに。
それは、誰のせいかなんてわかってたんだ。そう仕向けたのはきっとアタシ。
なのにアタシは、世界に二人しかいないような、そんな瞳を怖いと思った。
もっと他にも目を向けないとって。
でも、いつでもあなたはこう言うんだ。
「真希ちゃんがいればいいんだもん」
それが重いと感じたわけじゃなかった。
自分は彼女を幸せになんて出来ないとわかっていた。
出来ないと思った時点で、幸せなんてあげられないんだきっと。
逃げだしたアタシの心は、彼女との別ればかりを考えるようになった。
- 470 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:20
-
******
- 471 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:21
-
「圭ちゃん、ごとーね」
「なによ、どうしたの?」
「卒業したら、引っ越すんだ」
「……そう」
「就職、決めたんだー。偉い?ねえ、あたし偉い?」
「もう、あんたは……偉い偉い、後藤はよく頑張ったわよ。立派な職人になれるでしょ」
「あはっ、腕の立つパティシエさんになっちゃうよ」
「また遊びにいらっしゃい」
「うん、圭ちゃんのミルクティー飲みに来るね」
「待ってるわ」
「またね、圭ちゃん」
「ぜったい、くるのよ?」
「あーい」
ひらひらと手を振って店を出る間際……
圭ちゃんの声が聞こえた。
”最後に、ちゃんと会いなさいね”
- 472 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:21
-
いまでも憶えてるよ、アタシの名前を呼ぶあなたの甘い声を。
ふっとした瞬間に思い出すのは、ありふれた日常。笑ってるあなた。
穏やかに笑ってる幸せそうな顔……
泣いた顔なんてどっかにいっちゃった。
ねえ、今度逢えたなら。
ちゃんと向いあえたなら――――――
『好き』
そう伝えてもいい?
あの日、言えなかった言葉を伝えてもいいですか?
- 473 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:21
- でも、それはもう必要の無い言葉。
幸せはカタチを変えて、きっとあなたを包み込んでいるから。
”いまさら”だよね、言えるわけ無いじゃんね。
あとちょっと泣いたら、もう一度サヨナラをして記憶に鍵をかけよう。
大切な日々を重ねてたんだぞ、って想える誇らしい記憶。
アタシの中に閉じ込めて、永遠に誰にも触れられないように。
- 474 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:22
-
- 475 名前:幸せのカタチ 投稿日:2005/11/09(水) 00:22
-
桜が咲き誇る刹那に恋をして、桜が舞い散る刹那に終らせた。
心のまんなかに大切にしまったアナタの欠片。
ずっと忘れないから、ずっと大好きだから。
たくさんの幸せの光が、アナタを包み込んで
そして、永遠に失われることがありませんように――――――
【 了 】
- 476 名前:日季 投稿日:2005/11/09(水) 00:23
- >>461-475 後藤番外編更新終了です。冒頭の文は後藤さんのシングルより……
この唄の雰囲気は、切なくも暖かくてだいすきです。やさしいメロディーの唄がとても似合う人だなぁと思います。
次回は本編に戻ります。
>458 名無し飼育さんさま
ありがとうございます。何気なく書いたのですが、可愛かったですか?
良かったww
>459 メトロさま
藤本さんは見た目よりうんと女の子っぽいイメージがあるので。
介入する人は……どうでしょう?川VvV)<しらな〜いw と申してます。
き、期待されるほどの展開にはなりません(エッ?w
>460 名無しさま
ありがとうございます。いちおう全員集合してみましたw
すっごい唐突な展開になるかとww
>461 29さま
ありがとうございます。(そのAA大好きですw)
急展開する予定(嘘)すいません、たぶんごっつい微(ry・・・期待せずに待っててもらえればw
- 477 名前:日季 投稿日:2005/11/09(水) 00:25
- 間違った・・・orz
今回更新 >>462-475です。(素で間違ったよほ・゚・(ノД`)・゚・ 、ごめんなさい)
- 478 名前:名無し 投稿日:2005/11/09(水) 01:03
- 圭ちゃんが気になる。。。ぜんぶお見通しよ、みたいな感じなのかなw
作者さま焦らずにがんばって
- 479 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/11/09(水) 21:50
- ごっつぁんを応援したくなr(ry
どうなるのか更新まってまつ
マターリがんばって下さい
- 480 名前:偽りの真実 投稿日:2005/11/10(木) 07:57
-
―4.唯一無二の…… ―
- 481 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 07:58
- ただしがみつく様にして泣きはじめた梨華ちゃん。
肩を震わせて、声を殺して……しばらくは泣き止まないだろう。
止まっていた時間が、いま動き始めたのだから。
困ったようにただ抱きつかれたまま、固まってしまってる後藤さん。
複雑な顔は予想通りの反応だったからか、はたまた逆の反応だったからか……
困惑してる真意は―――――― 美貴にはワカラナイ、解るはずない。
ぐっと唇を噛んで、何かに堪えるように表情を歪めてる吉澤さんを手招きして
店の外に出る。『CLOSE』にした店の扉の前で、ぽんって肩を叩くと
いまにも崩れそうな不安な顔で、美貴を見た。
酷なことをしただろうか、幼馴染が梨華ちゃんの忘れられない人だったなんて。
美貴だってその事実を知ったのは、今日の朝だった。
昨日の夜に保田さんから電話があって。「明日、後藤が店に来るから」と伝えられた。
言い出せなくて、何も言えなくて。いってらっしゃいって見送ってくれた梨華ちゃんに心の中で謝った。
店に行くと、久々に見る後藤さんがケーキを作っていた。
変わることの無いふにゃっとした笑顔で挨拶されて……
そのとき初めて知らされた、吉澤さんが幼馴染なんだと。
そして、この後梨華ちゃんが来るらしいことも――――――
後藤さんは笑顔の裏にどんな想いを隠していたのだろう?
そして、この場所へ連れて来た吉澤さんはどれだけ辛かっただろうか?
- 482 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 07:59
-
- 483 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 07:59
- 「意外でした、あんな風に泣くんだなって」
呟くような声に反応できなかった。それは独り言のようにも聞こえたから……
自分以外の腕の中に飛び込んだ想い人を見て、どんな気持ちになっただろうか?
「感情が表にでるのは、いいことだと思う」
「そうですね。いまの方が魅力的です」
「ハマってるね〜」
「ハマってますね……ごっちんにも嫉妬して。一緒に来るの、ほんとはイヤだったんです」
「でも、ちゃんと連れて来たんだ」
「あたしより石川さんを知ってるんだろうなって、そう思うから」
こつんと道端の小石を蹴って、その行方を見つめながら吉澤さんは大きく溜め息をついた。
あの小石と一緒だよ、思い出はどこまでも転がり続けて、戻ってこない。
「でも”未来を見ることは出来ない”って別れを選択した時に思ったんだって」
「未来か……。ごっちんはどうして別れを選んだのかな」
「サヨナラ、友達にはなりたくないの……なんて歌もあったね」
「……恋人じゃないと意味ないから?」
「一日でもはやいうちに忘れたいの……ってか。でも、二人とも忘れては無いね」
「忘れたくないんでしょうか……」
「たぶんね。お互いにいまでも好きだと思う」
忘れられないだろうね。大切な記憶だから。あの頃を否定してしまったら、何も残らなくなってしまう。
本人達は超がつくほどに真剣だった。それを忘れることなんて、きっと無理だ。
それに別れてすぐに「今日からお友達に戻ろう」なんて出来るわけが無い。人はそんなに強くなんて無いから。
でも、「好き」の意味やカタチは確実に変わってしまってるんだよ。
吉澤さんは気付いてないかもしれないけど、梨華ちゃんが飛び込む瞬間に見せた表情は
確実になにかを迷い確かめるようだった。答えを見つけるために、彼女に身を委ねてみたんだと思うよ。
- 484 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 07:59
- 「ごっちんとはいつ頃出会ったんですか?」
「梨華ちゃんに会う少し前だよ。バイトの面接に来た時」
ふにゃりとした笑顔でお店にいた後藤さんは、とても穏やかな人だった。
その佇まいの中に眩しい光が宿っているような、美しい人だった。
わずか1ヶ月くらいしか仕事をともにしなかったけど、バイトを辞める直前は
憂鬱が浮かんで、美貴にもわかるくらいに無理してた。
「昔はもっと髪が長かったんですよ」
「だね。美貴が会って1ヵ月後くらいかな、ばっさり切ったの」
スッゴイ驚いたっけ。バイトを辞める日、腰くらいまであった髪をばっさりと切ってきたのだから。
どこか吹っ切れたようなカオをして、けれどほんのすこしだけ寂しそうに、後藤さんは
新しい道を歩き始めた。専門学校に通うんだと聞いた、バイトも学校の近くにしたって。
美貴がいるときは来なかったけど、2、3ヶ月に1回は店に顔を出してたんだそうだ。
昔を懐かしむように、あのカウンターに座ってしばらく一人でボーっとしてたって。
「藤本さんにとって石川さんは……」
「友達だよ。似てないようで似てるんだと思う。初めて愛した人を引きずってる。
気になる人に似た影を探してしまう。だから、傷を舐めあってただけなんだ」
「やっぱごっちんが好きなんでしょうか?」
「どうかな。吉澤さんに惹かれてるから戸惑ってるんだよ。誰も好きにならないなんて
どっかで思ってたんじゃないかな。だから、こんな筈じゃないのにって。
優等生の壁を壊したんだから、大したものだよ」
「そうですか?」
「安く抱かれるほど弱くは無いよ、梨華ちゃん」
「はぁ」
「好きだって口説かれても靡かないような人だもん。だから自信を持ちなさい」
「はい」
美貴の言葉にすこしだけ安心したのか、彼女は照れくさそうに笑った。
あははっ、ちょっとドキッとしちゃうじゃん。
無防備な笑顔はきっと梨華ちゃんの閉ざした心にも、すんなりと届いたに違いない。
それを認めたくなくて虚勢を張っていた頃が懐かしいくらいに、いまの梨華ちゃんは素直だ。
偽りの自分で固めようとしていた一頃に比べれば、雲泥の差。
- 485 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:00
- 「ちょっと安心してたりして」
「安心?」
「石川さん、よく色んな人といるのも見かけたし」
「あぁ、時間潰しだよ。口説こうとすると会うの止めてたし」
「完璧すぎる笑顔の裏を覗いてやろうって思ってました。でも、ただ傍にいてみたいに変わったんです」
「ただ傍に……」
ただ傍にいることだけを望んだ吉澤さん、梨華ちゃんはそんな彼女に心惹かれて。
傍にいることで伝わるものってなんだろう?どれだけ相手に届くものだろう?
「傍にいることで、愛情ってどれくらい伝わると思う?」
「真剣に伝えたい想いなら……ほら、目は口ほどにものを言うって」
「美貴次第ってことか……」
「そうですね、あくまでも自分次第です。それに伝わりきらないことの方が普通じゃないですか?」
「そっちが普通なのか、そっか。それなら気がラクかも」
「他人に想いを全部理解してもらおうとすればするほどに、身動きできなくなっちゃいますよ」
「なるほど。深いこと言うね」
こんなに愛してるのに、こんなに辛いのに、こんなに寂しいのに。こんなにこんなにこんなに………
それが解ってもらえないから、とすれ違って……
あの頃の自分は、彼女に何一つ伝えようとしていなかった。解ってくれるだろうと言う驕りは
不安だけを増長させて、彼女のすべてを遠ざけていった。
もっと気楽に生きればよかったんだね。美貴もあなたも――――――
「そろそろ戻ろっか」
「大丈夫でしょうか?」
「ん、へーき。ってか梨華ちゃんには、吉澤さんが必要なんですよ」
- 486 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:00
-
- 487 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:03
- 「あの、えっと……梨華ちゃん?」
「なによぉ……」
ぎゃ、逆ギレ?急に抱きついてきたのは、そっちなのに……
でも、急に現れたのはあたしか。
華奢な彼女の輪郭はあの頃のままで、腕の中にいることが夢のようだった。
けど流されちゃいけない。変わらぬ面影を見つけても、昔に戻れるわけじゃないんだから。
「なによなんなのよぉ……どうして、居るのよぉ」
「んっとね、圭ちゃんが会った方がいいって」
「人に言われたからって……ばかばかばかばかぁ…」
胸元でイヤイヤをするように、ぐりぐりと顔を押し付けられて
めちゃくちゃ、くすぐったい。
あ〜絶対に涙以外のものも擦り付けてるでしょ、梨華ちゃん……
「……ごめん。ほんとは、あたしが逢いたかった」
逢って伝えたかったことがあるんだ。
ちゃんと、あたし生きてるよって。あの頃みたいに、投げやりになんてなって無いよって。
実力があれば認めてもらえること、見つけたから。
ゆっくりとあたしから離れた梨華ちゃん。でも、華奢な指先はあたしの腕を強く握り締めていて……
俯いた顔からは、まだポタポタと涙が落ちては床に吸い込まれるように染みこんでいく。
彼女は泣き虫だった。強いから感情を表すことが出来るんだと気付いたのは、別れてからだった。
感情を素直に表現できるのは、根底に確かな自分を持っているからだって。
- 488 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:03
-
「ありがとう」
「意味わかんない……」
「ありがとうって、梨華ちゃんに言いに来たんだ」
ぎゅっと唇を噛み締めて、彼女は顔を上げた……その瞳は真っ直ぐにあたしを映していた。
漆黒に輝く彼女の瞳は、いつだってあたしを溺れさせた。
気を抜いたら呑み込まれそうなほど深い瞳は、あの頃よりも強い光を放っていた。
「梨華ちゃんが教えてくれたこと、いっぱいあたしの中に残ってるよ」
「私、なにもしてないもん」
「いっぱいいっぱい、教えてくれたよ」
「・・・・・・」
「ちっちゃい頃に失った家族を、もう一度手に入れたみたいだった」
まだ揺れる瞳は、戸惑いばかりを映し出していて。
ほんとに魔が差したら「いまでも好きだよ」って口走ってしまいそうになる。
彼女の愛はとても居心地が良く、暖かかったから。
- 489 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:04
-
「お母さんみたいだったなぁって」
「家族みたい……?」
「うん、家族っぽい感じ。だから、別れようって」
「理由も教えてくれなかったじゃない、あのとき……」
腕を掴んでいた指先が微かに震えている。怒りと悲しみが交じり合って揺れる瞳に
うっすらと透明な雫……いまにも零れ落ちそうなそれを零すまいと、口元を引き結んで耐える姿は
あの日の姿と重なって、あの頃に戻れたんじゃないかと勘違いしそうになる。
あのときは、ただ別れようって思っただけなんだもん。
いま気付いたんだ。梨華ちゃんへの気持ちは家族に対するような感じだって。
「真希ちゃんを見て、すごく懐かしかったの」
「あたしも、懐かしい」
「もう憎む気持ちすら存在してなくて、自分でもよくわかんない」
「あはっ、あたし嫌われてたんだ……」
じろっと睨まれて首を窄める。ごめんなさいって、意味を込めてやったのにな。まだ怒ってるみたい。
だけどすぐに、はぁ〜って溜め息を大げさについて、腕から指が離れた。
急に重みを失った腕の感覚に、ほんのちょっと寂しいって感じた。
- 490 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:04
- 「嫌われないと、思った?」
「思わない。ってか口も聞いてくれないかも、とか考えてた」
「もう、そんなに子供じゃないもん」
「大人になっちゃったかぁ……」
昔、圭織を泣かせてたじゃん。「梨華が口聞いてくれないの〜」って泣きつかれたことがあったんだよ。
無視して姉を泣かせるなんて、どれだけ強靭な精神力してるんだよって驚いたの。
あのときの圭織、可哀想だったんだぞーって思ってたら、笑えてきて。
「ニヤつかないの。真希ちゃん、いっつもそう」
「いっつも?」
「すぐニヤニヤするんだから……あっ、へらへらかな?ふにゃふにゃとか?」
「とか?って聞かれても……」
「普段はクールなのに」
クールだったのは、ただ何も考えていなかったから。ボーっとしてただけだよ。
近づきがたい雰囲気だとよく言われたっけ。懐かしいな。
でも、その空気を変えられたのは梨華ちゃんに逢えたから。
- 491 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:05
- 「ほら、お口閉じて……」
「んむっ」
むぎゅっとわざと強めに掴まれた唇。触れた指先から熱が広がって、不意に胸がぎゅうぎゅうと痛みだした。
触れられるだけで、飛び出しそうな気持ちを必死で堪える。
壊しちゃいけない、いまの空気を。とても穏やかな彼女の現在を、壊しちゃいけない。
あたしはサヨナラをしにきたんだ。過去の想いにサヨナラを……
そして、新しく芽生えた気持ちを伝えにきたんだから。
「真希ちゃん、どこか痛いの?」
「……へいき、だいじょぶ、なんでもないのだ」
笑ってはみたけど、顔が引きつってる。思いっきり、大丈夫じゃないと表情に出てしまってたらしい。
困ったように眉を下げるのは彼女の特徴で……不器用で鈍感な彼女が次にとる行動は?
予想通りにふわっと包まれた、あまい彼女の香りの中に。
柔らかな感触は彼女の魅力で、甘い香りはいつまでもあたしを包んでくれていて……
ちっとも変わってない。変わってないから、すごく辛いよ。
もっと触れたくなる、もっと欲しくなる、もっとめちゃくちゃに……
ぎゅっと握り締めた手のひらに爪が食い込んで、あたしをすこしだけ冷静にしてくれた。
この痛みを忘れちゃだめだ。もう、同じことを繰り返しちゃだめだ。
- 492 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:05
- 「もう、避けないで?」
「うん、ごめん……会わない様にしてたの、ばれた?」
「わかるよ。突然、会えなくなったんだもん。避けられてるってすぐに思った」
「梨華ちゃんの行きそうなところとか、行かなかったから」
「大切な家族なんだよね?会えないなんて、もう嫌だよ」
ゆっくりとあたしの背中を撫で始めた手の感触は、あの頃よりもっと優しくて……
彼女にとって、あたしは家族なんだ。そう思えることの嬉しさと寂しさ。
「まま〜」
「大きい赤ちゃんですね」
おどけた言葉にも嫌がることなく、彼女はあたしを受け止めてくれた。
もうちょっとだけ、甘えさせて。もう、あなたに縋るのは止めるから。
いまのあなたを輝かせているのは、きっとあたしでは無いから――――――
一人でも歩いていける道を見つけたんだ。
そして、ほんの少し休憩する場所に笑顔のあなたがいてほしい。
変わらない愛で、あたしを包んで欲しいんだ。その隣に大切な誰かがいたとしても……
- 493 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:06
-
******
- 494 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:07
- 「梨華ちゃんあた、あたしね……」
「うん」
優しい目をした梨華ちゃん。どれだけ彼女が大切か物語っている。
やさしく背中をさする手に、抱きとめる腕に、そしてその瞳に……
彼女を想う真っ直ぐな気持ちが、伝わってくる。
美貴たちが戻ると、さっきと形勢逆転。梨華ちゃんの腕の中で後藤さんが泣いてた。
「あのね、伝えたいことがあって……」
伝わってくるのは痛切な想い。ホントの気持ちを伝えられない歯痒さに声が震えている。
その言葉を言ってしまったら、きっと壊れてしまうから。お互いに歩き始めた未来が、また崩れてしまうから。
ぐっと言葉を呑み込むようにゴクリと喉を鳴らしてから、後藤さんは話を再開した。
- 495 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:08
- 「梨華ちゃん、後藤ね。ちゃんと……就職した」
「ほんとに?和食?洋食?」
「ううん、パティシエ。デザートを専攻しました」
「……それでよかったの?」
「自分で決めたんだよ。ほんの少しの幸せを、みんなにあげたいんだ」
気丈に涙を拭って、後藤さんは微笑んで見せた。
それは花束を彩る真の主役と言えるだろうカスミソウのように、奥ゆかしく透明感のある微笑。
「美味しかった……。幸せ、感じたよ」
「ほんと?」
「うん、真希ちゃんのケーキ大好き」
「やった、自信もっていいよね」
「だいじょうぶ、真希ちゃんならできるよ」
「あはっ、がんばれそう」
ぎゅーっと梨華ちゃんに抱きついて、それからバッと離れた。
少しだけ距離を置いて、ゆっくりと微笑んだ顔にもう迷いも辛さも覗いていない。
離れていた間に、後藤さんは随分と強くなったんだ。そう感じた。
そのまま吉澤さんの隣まで歩いてから、梨華ちゃんの方を見ないで話し出す。
- 496 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:08
- 「梨華ちゃんの匂い、大好き。よしこから香ったときは、ビックリしたんだよ」
「ごっちん、あの時……」
「気付いた。……でも、偶然かもとも思ったんだ」
「ごめん、あたし何も知らなくて」
「なんで謝るんだよ。何があっても傍にいること。これくらいは誓ってよ」
「言われなくたって、傍にいるよ」
「よし!ほらっ、梨華ちゃんのとこ行っちゃえ」
「わっ、押すなよ……」
梨華ちゃんの前に押し出されて、居心地悪そうに俯いてしまった吉澤さん。
その顔を梨華ちゃんはイタズラな笑顔で覗き込んだ、まだ涙で潤む瞳で。
「傍にいてくれるんだ?」
「言ったじゃないですか、きっとあたしを好きになるって」
「うん、自信満々だったもんね」
「必要とされるまで、傍にいます」
「ひねくれてるよ、私」
「それも含めて、石川さんなんですよね?だから、平気です」
「そっか」
見つめあう視線は、周りの人を忘れたかのように熱く絡み合う。
きっと融けて混ざり合って、また一つになる。その瞳の中を二人だけの色に染めて……
梨華ちゃんの心を射止めたのは、彼女の真っ直ぐな視線。
どんな言葉を並べても、きっと心に響かなかっただろう――――――
言葉のイラナイ空間を目の当たりにしたら、何も言えなくなるじゃんね。
確認するように見てしまった後藤さんと視線がぶつかった……。
彼女は美貴に向かって、ふにゃっとあどけないほどの笑みを浮かべた。
- 497 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:08
-
- 498 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:09
- 「ご飯、食べるのいつにする?」
「んあっ、ごとーだけで作るの面倒」
「なっ、ごっちんが一人で作るって言ったんじゃん」
「忘れたー」
「あのなぁ……」
「まあまあ、美貴なら手伝うから」
「私も、私も!」
「「遠慮しときます」」
「ちょっと美貴ちゃんと真希ちゃんで声揃えないでよ!」
「だって」
「ねえ?」
顔を見合わせて笑うと、プーっと膨れた顔が見えた。
笑いを堪えてる吉澤さんまで睨まれて、ニヤつく口元を慌てて隠してる。
とばっちり受けてるよ、可哀想に。
「梨華ちゃんさー、白玉しか作れないじゃん」
「ちゃんと、ちゃんと白玉から作るもん!」
「粉混ぜてこねて丸めて茹でて終わりじゃん。料理じゃないし」
「でもでも……いいもん、じゃあ食べるだけにするから」
「最初から大人しくそうすればいいのに……」
ぽんって肩を叩いたら、梨華ちゃんは思いっきり美貴のことを睨んだ。
あらあらお姉さん怒っちゃった。どうしよっかな?まあ、ほっとけばいいか。
- 499 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:09
- 「あっ、あたし白玉食べたいです!」
「ほんとに?じゃ、吉澤さんにだけ作るね」
その言葉に飛び上がりそうなほど喜んだ梨華ちゃん。吉澤さん、頑張ってっ!?
白玉はトッピングで誤魔化されて、ちゃんと食べれる味だった気はするけど……保障はどこにも無いから。
「あー、ごとーも食べたい食べたい。ズルイ、よしこはズルイ」
「なんでだよ、ごっちんが余計なこと言うからだろ」
「だって、よしこよりは性格知ってるもん。からかうと可愛いんだよ」
「ど、どうせあたしの方が付き合い浅いですよ……めっちゃムカつく」
「いいじゃん、いまは本人食べれるんだしさー」
「そ、そういう発言はやめろよ。それにまだ、いっかぃ……なんでもない」
「うそ、1回とか……」
「うっさい、黙れ」
ガルルルルッって言いそうに近づいて睨みあう二人。
「やめなよ」って苦笑いの梨華ちゃんを見て、二人ともぷいって顔を背ける。
どっちも子供だな、おい。さっきまでは、二人ともあんなに大人っぽかったのに。
というか、吉澤さんはとんでもないことを口走りかけてたよね。こっちも、からかうと面白いわけか。
覚えておこう……
- 500 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:10
- 「美貴はどっちでもいいや」
「美貴ちゃんにもあげないもん」
「だから、別にいらないってば」
「……なんでよぉ。そこまで、いらないって言わなくてもいいじゃん」
「甘いの苦手。ただでさえ、最近は……」
「あぁ、そうね」
重さんに付き合って、甘いもん食べなきゃいけない時があって辛いの。
一緒に食べないと、街中で泣きそうな顔するんだよ?美貴、悪者にされちゃうんだよ?
それに、甘さ控えめのお菓子を作ってあげますって言われて……
ついでにお弁当とか作ってくれたんだけど、これが素晴らしくマズイ。
従姉妹だなって思った、料理下手で驚きましたよ。殺す気ですか?って味付けだし。
『さゆみ食べないから、味見忘れちゃった』
ってぶりっ子して言われて、怒る気も失せました。
そのうち料理も教えてあげたほうがいいかもしれない。
玉子焼きは、先にタマゴを味付けして溶いてから焼くんだよとか……
焦げすぎは非常に体に悪いからねとか……
- 501 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:11
-
- 502 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:11
- 「美貴ちゃん、バイトがんばって」
「ん、二人はデートでも行ってこ〜い」
「もう……ふつうに遊ぶだけだもん」
「普通ってどんなんだよっ」
「普通は普通だもん……」
呟いたと思ったら、もう頭を切り替えたのか梨華ちゃんは後藤さんの傍にいた。
美貴のことは無視ですか、そーですか……
「ほんとにありがとう」
「気にしないで。食べてほしくて作ったんだから、あたしも嬉しかった」
「うん、また食べたいな」
「いつでも、遊ぼっ」
「そうだね……真希ちゃんはどうするの?」
「ごとーは後片付けあるのだ〜」
「そっか……」
梨華ちゃんの指先が一瞬だけ躊躇して止まったけれど、すぐに後藤さんの腕を掴んだ。
離れ辛いって全身からオーラが出てる。甘えたな彼女の無意識の行動。
困ったようにその手を撫でて、後藤さんはやんわりと笑顔を作った。
「また逢えるよ。梨華ちゃんはママなんだから」
「……うん。逢えるよね」
ママ……?意味不明なやりとりをきょとんって見学してると、首を捻った吉澤さんと眼が合う。
あちらも解りませんって顔してるが、ちょっと拗ねたように窓の外に視線を泳がせた。
ヤキモチ発生。これから色々、う〜んと楽しめそうな予感に頬が緩む。
ひらひらと手を振りながら後藤さんは、店の奥へと消えていった。
その後姿を見送ってから、梨華ちゃんと吉澤さんは店を後にした。
- 503 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:12
- すっかり夕飯食べる日とか、決めるの忘れてるじゃんって思ったけど、まぁいっか。
また、いつだって決められる。こうして集まる場所があるのだから。
みんなで集まる理由があったほうが、いいに違いない。
「やれやれ、ね」
「保田さん……」
「どっかで見たことあるはずだわ。後藤と歩いてるの見たことあったのよね」
「あぁ、吉澤さんですか」
「ちゃんと石川を真っ直ぐ見てた。良い目をしてるわ」
「雇っちゃいますか?ちょうど一人辞めるって言ってたじゃないですか」
誰かいい子いないかしらって言われたときから、美貴の頭には彼女の姿があった。
梨華ちゃんは想い出が詰まりすぎていて、ここに来るのは息苦しいと呟いたことがあった。
こんなに居心地のいい場所なのに、そんな風に思うのはもったいない。
だから、吉澤さんがいれば何かが変わるんじゃないかなんて、思ったんだよね。
「それもそうね。お願いしようかしら。女子高近くだから使えそうね」
「うっわ〜、なんか打算的ですね」
「石川も会いに来易いでしょ。あと後藤もね」
「なるほど。で、梨華ちゃんのヤキモチ妬く姿とか見れて面白いっと」
「そうそう、モテる吉澤にキーーーって……あんた何考えてんのよ!」
「あははっ。だって見たくないですか?」
「……今までが感情を殺しすぎてたのよね。それもいいかも」
もっと無邪気に何も考えずに。別に急がなくたって大人ってのになっちゃうんだから。
いまは楽しもう、なにもかも。
重ならない未来も、並んでなら歩いていける。
それぞれが、それぞれの道へ――――――
- 504 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:13
-
******
- 505 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:13
- 「美貴ちゃんは、美貴ちゃんだね」
「はい?」
「吉澤さんは、吉澤さんで」
「ちょっと梨華ちゃん?」
「真希ちゃんは、真希ちゃんだった」
「……なんだそれ」
「私ね、どこかに真希ちゃんの影を探してたの。美貴ちゃんや吉澤さんに。
ふっとした瞬間にね、錯覚するほどに似てるって思うことがあったんだけど」
「うん」
「でも、それもぜんぶ私が勝手に見た幻だったんだろうなって」
清々しいほどの笑顔は、過去から解放されたせいだろうか?
自分を縛り付けていた見えない鎖が砕け散って、生まれ変わったように笑ってる。
眩しすぎて逸らしたくなるほどに……
でも、きっと美貴だって乗り越えられる。みっともなくっても足掻いてみる決心はついた。
「真希ちゃん、美貴ちゃん、吉澤さんってそれぞれにその人らしさがちゃんとあって。
いまなら分かるんだけど、ちょっと前までは全然区別しようって 思えなくて……」
「なんとなくは、わかるよ」
「さゆ?」
「うん、美貴も重ねてた部分もあったけど。実際に話した時にね違うって感じた。
重さんは、重さんなんだって」
「そう、誰でもないその人自身に惹かれてるから愛せるんだよね。
……いつも探してたのは、自分の気持ちだったのかな。自分がワカラナイから、何も出来なくて」
「何かに縋らないと、動き出せなくて……」
何かに縋っていないと、自分を保つ術が分からなかった。
だから、似てる誰かの仕草に安堵したりすると同時に怖く思ったり。
- 506 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:13
- 「唯一無二……って言葉を思い出したの」
「唯一無二?」
「たったひとつのもので、ふたつとないって意味」
「うん、意味はわかるけどさ」
「子供の頃ね、理由は忘れちゃったけどすっごい泣いちゃった時にね。
ママが言ってくれたの。梨華は唯一無二のあたし達の娘なのよって」
遠くを懐かしむように緩む口元、彼女の幸せな思い出の1ページが
緩やかにめくられ、目の前で浮かんでいるのだろう。
「そのときは意味がわからなかったの。でも、ママがぎゅーって抱きしめてくれて。
たぶんね愛されてるんだって、いっぱい心で感じてたんだ」
「子供のほうが感受性は豊かだしね」
「うん、言葉よりもずっと確かに私の心に届いてたと思う」
ふわっと笑った梨華ちゃんは、穏やかにその目を三日月に細めて。
穏やかな微笑は救いの神のように、美貴の心の闇を洗い流してくれる。
不意に目頭が熱くなり、涙が零れ落ちた。
「ちょっ、美貴ちゃん……」
「えへへっ、自分でも意味ワカンナイ。なに泣いてんだろ」
「いいじゃん、心になにか響いたんだよ」
「くさっ、さむっ……」
「もう、そういう事言わないでってば〜」
- 507 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:14
- 涙が零れたほんとの理由は、唐突に思い出した最低な自分の行動のせいだったのかもしれない。
冷たく突き放したのは、自分のほうだった。
なのに、どうして捨てられたなんて言えたんだろう………
愚かだったあのときの自分に別れを告げるためには、一歩踏み出さなきゃいけなくて。
たぶん、いま試されてる。自分の心が自分自身を試してる。
見つけ出した想い、そこへ向かうためには……
すこしの寄り道が必要なんだ。
待ってて、キミの元へ帰るから。
きっとキミがいる場所へ、帰ってくるから――――――
- 508 名前:4.唯一無二の…… 投稿日:2005/11/10(木) 08:14
-
- 509 名前:日季 投稿日:2005/11/10(木) 08:15
- >>480-507 更新終了です。(まとめられずに、長くなってしまった・・・orz)
(0´〜`)<知らないうちに、ほのぼのしてたYO!
川V-V)<微妙だな……
( ´ Д `)<・・・・・
( T▽T)<申し訳ありません
>478 名無しさま
ありがとうございます。あったかいお言葉身に沁みますw
保田さんは、居るだけで頼もしい人ですよね。
( `.∀´) <黙って見守ってるのよ!
>479 名無し飼育さんさま
ありがとうございます。後藤さんの健気なほどの可愛さを
どうもうまく書けないんですけど。
( *´ Д `) <応援してもらっちゃった……
- 510 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/11/10(木) 11:11
- 川rァo・-・)rァ <510サンゲッツ
ほのぼの〜てしてるシーン、すきw
マターリがんがって
- 511 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/10(木) 19:43
- ドロドロ予想(期待ともいう)したけど、こうきましたか。。。
ミキティーの決心が気になりまつ
あと、モテ吉に妬く姿は是非みてみたいですw
- 512 名前:メトロ 投稿日:2005/11/10(木) 22:13
- チェックしてないうちに更新キテター!
唯一無二…たしかにみんな、唯一無二な存在なんですよね。
うーん。良い言葉だ。
ここの娘達はいいこだと思っていましたが、やっぱりいいこでした。
しかも強いこです。
これなら大丈夫でしょう。ミキティ、がんがってこい!
そして帰って、さゆの愛がこもった料理を食べてあげるんだ☆
そうそう料理と言えば、いしよしらたま萌え!!
- 513 名前:29 投稿日:2005/11/11(金) 01:04
- 大量更新乙です。ほんとにこの部分がまとめて読めてよかった・・。
一人一人の心理描写がもうとにかく凄いっっ・・・。
最初から最後までみっちり組み上げられてるからなんだろうなあ・・。
もうひとつのストーリーが解明されていくのも楽しみにしています。
(なんか今回は真面目だぞおw)
- 514 名前:偽りの真実 投稿日:2005/11/12(土) 20:44
-
―5.昼下がりの憂鬱 ―
- 515 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:46
-
「美貴ちゃん、聞いても良い?」
「なに、改まって」
「さゆのこと遊びなら、もう会わないで欲しいの」
切羽詰ったような声でそう訴えられ、言葉に詰まる。
なにかあったんだろうか、朝のメールではそんなに深刻なことが起こってるとは感じられなかった。
普通に『テストがんばります。勉強したところが出ますように』たったそれだけのメールだった。
あの子にしたら、短い文だったから気にはなったけど……
自分のことで頭がいっぱいだったから、まだ返事は返せていない。
「これ以上傷つくの、見たくないんだ」
「……美貴、傷つけてるかな?なにか聞いてる?」
「ううん。美貴ちゃんと居るとすごく楽しいって。私が見てても、そう思う」
「そっか、良かった……。でも、じゃ」
「真剣に、あの子を見てくれる?」
「じゃあどうして?」と聞き返そうとした美貴の言葉を遮って、梨華ちゃんは真剣な目を美貴に向けた。
逸らしちゃいけない気がして、黙って見つめ返す。
- 516 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:46
- 「ごめんね、こんなことホントは言うべきじゃないんだけど」
「美貴が、しっかりしなきゃね」
「ごめん」
「謝りすぎ。大丈夫だよ、泣かせても傷つけたりしないから」
「泣かせちゃうの?」
「うれし泣きしてもらおう、なんちゃって」
「もうっ!」
ちょっと怒ったフリをしながら、梨華ちゃんはどこか安心したように微笑んだ。
自分をきちんと生きていきたいんだ。
すこしづつでいい、ちゃんと自分と向いあって生きていきたい。
だから、逃げ出した時間を、もう一度だけ取り戻したい……
「ちょっと、出かけてくるね」
「どこに行くの?」
「んっと、過去の自分にサヨナラをしに」
「いってらっしゃい、でいいのかな……」
「うん、いってきます」
この扉を開けて待っているのは?
答えを自分で見つけにいくんだ、それが例え辛すぎる現実でも……
美貴は、美貴の道を歩いていきたいんだ。ちゃんと自分の足で――――――
- 517 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:46
-
- 518 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:47
- 「落ち着きましたか?」
真希ちゃんの新しいアドレスも教えてもらった。
何も変わらない雰囲気のメールの文章に、すこし胸が痛むけど……
”家族みたいだ”って、そう言ってくれたから。
「うん、ずいぶん吹っ切れた。大切なことに気付いたし」
気付けば傍には私を見守ってくれる人がいて……
なんて恵まれてるんだろうと、すべてのことに感謝の気持ちでいっぱいだった。
一人で苦しんでるなんて思ってたときよりも、ずっと周りが見えるようになった。
きっと知らないうちに、私は色んな人を傷つけて、自分だけ不幸だなんて錯覚して。
いつでも幸せは目の前にあったのに、気付かないフリして眼を逸らしてたんだね……
「どうかしたんですか?」
「ううん、なんでもないの……」
心配そうに寄り添ってくれる温もりが、いつしか私の心に沁み込んで。
離れてもずっと心の奥があったかい感じがして。いつでも私を包み込んでくれる。
だからね、寂しいって感じなくなったんだ。
- 519 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:47
-
「美貴ちゃんね。過去の自分にサヨナラを言いに行くんだって」
「藤本さんも自分の道を歩こうって、思えたんですね」
さゆのこと美貴ちゃんならきっと救えると思う。
あの子は大人びているから。だから、子供を演じているの。
大人が思うよりもずっと、子供は貴方達を見てる。
なのに解ってないだろうなんて、勝手に解釈して誤魔化して。
上辺だけで愛情を注いでも、そこから伝わるものなんて何も無い。
どうしてあの子を傷つけるの?どうしてあの子を一人にしてしまったの……
だからいつしか上手に笑うことを覚えて、上手に嘘をつくことも覚えて。
自分自身を見失わないように、鏡の中に真実を求めて。上手に自分を表すことが出来なくなってしまった。
自分を探して見つめていた鏡の中に、いつしか気になる人が出来たと呟いた。
『自分を愛でるよりも、幸せな気分になれるの』そんな風に教えてくれたとき、
あの子はすごく嬉しそうだった。
- 520 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:48
-
こんな気持ちは初めてだから、これが何を意味するのかワカラナイと
泣き出しそうな瞳を潤ませて私の所に来たあの子は、16歳の普通の少女の顔をしていた。
ううん、きっと同じ年代の子達よりもずっと幼く見えた。
それが何かはゆっくりでいいから自分で考えてごらんって言ったら、不満そうに唇を尖らせていたっけ。
久々に見る、子供らしい仕草になぜだか安堵したのを鮮明に憶えている。
あの子が発し続けたSOSを受け取ったのが、美貴ちゃんだった。最初は驚いたけどね。
美貴ちゃんに出会って、あの子はようやく自分と向き合うようになったみたい。
思ったよりも早く惹かれあってしまった二人だから、戸惑ったけど
いまのあの子を見てたら、幸せそうだから。少なくとも、美貴ちゃんと居るときはすごく幸せそう。
出来ることなら、あの子が一人でいたとしても『孤独』を感じないくらいに、愛してあげて欲しい。
けどそれは、私が言うべきことじゃないから。黙って見守ってるしか、できないんだよね……
- 521 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:48
- 「石川さん、どっか行きますか?」
「う〜ん、すっごい天気があやしいよ」
「そうですね……いまにも降り出しそう」
心配そうに窓の外を見た横顔が可愛くて、イタズラ心に火がつく。
肩にもたれるようにして、上目遣いに”ねえ?”って囁くと
途端に白い肌が、ほんのりと赤くなる。突然に弱いあなたのツボが、だんだんとわかってきたよ……
「続きしよっか?」
「ふぇっ?つづき……」
「あの日の朝の続き。いつでも愛してくれるんだよね?」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえて、ひどく緊張したように
膝の上で握りしめられた拳が震えてる。
美しい瞳が探るように揺れるから、ただ見つめ返して自分の心を伝える。
意を決したように伏せられた瞳。目元に美しく存在する長い睫が迫ってくる。
綺麗で、なんて可愛い人なんだろう。
- 522 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:49
-
初めてのように触れるだけのぎこちないキスに、こんなにも満たされてる。
これから何度交わしても、一番最初に思い出すのは今日の――――――
このはじまりを告げる、子供のように触れるだけのキスなんだろうな。
「石川さ」
唇が離れてすぐに発せられた言葉を止めるように、人差し指を彼女の唇にあてる。
生暖かい湿った感触と、不思議そうに私を映すその瞳。
ゆっくりと輪郭をなぞったら、腰を強く抱き寄せられた。
あなたの本能に火をつけちゃったみたい、もうさっきまでの戸惑いを含んだ色が消えて
しずかに青く燃えている。きっと私を焼き尽くしてしまうほど、熱く燃えている。
「ひとみちゃん、名前で呼んでね」
「うん……」
- 523 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:49
-
******
- 524 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:50
-
「こんにちわ」
「あら、重ちゃん一人?」
「絵里はもうちょっとしたら来ます。今日は藤本さん、お休みですか?」
「そう。今日は藤本来ないわよ」
「病気か何かですか?……朝からメールの返事がないの」
保田さんは少し考えるように黙りこみ、内緒よって苦笑しながら教えてくれた。
『古い友人に逢いに行ってるわ』と。
心に落ちた不安が、波状して広がり全身を蝕んでいく……
ガタガタと震えだしそうなカラダを自分で抱きしめ、落ち着かせる。
だいじょうぶ、藤本さんは居なくなったりしないから。私にまた逢いに来てくれるもん。
あの人たちのように、私を一人にしたりしない。
- 525 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:50
-
可愛い、可愛いと育まれた自尊心は自分を守る盾になり、自分を誤魔化す術である。
- 526 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:50
-
私はみんなの一番になりたい訳じゃない。誰か一人のものになりたかった。
私だけだと言ってくれる存在が欲しくて……
あなたの凛とした眼差しの中に、私のすべてを映して欲しかった。
あなたの腕の中で……
はじめて感じる感覚の渦の中で、ずっと見つめられて嬉しかったんです。
何度も可愛いって熱っぽく囁かれて。ほんとに蕩けそうな視線に包まれて、私は満たされていました。
自分を必要としてくれる熱いまなざしに、溶けてしまいたいとさえ想いました。
もっともっと私を見て……
望むほどに言えなくなる気持ちは、あなたを失うのが怖いから。
言ってしまえば、離れて行っちゃうんじゃないかって怖いから。
- 527 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:51
- ブレザーのポケットに入れた携帯が、ふいにブルブルと震え着信を知らせてくれる。
ディスプレイに煌めく名前を見ただけで、携帯を抱きしめたくなるほどに嬉しかった。
『重さんテストどうだった?』
「教えてもらったところがでました」
『良かった、なんか元気なくない?』
「そんなことないですよ〜、今日は3科目あったから疲れたのかな」
『そっか、無理しちゃダメだよ。ちょっと用事があるから、また電話するね』
「はい、待ってます」
あなたの声が聴こえるだけで、手の中にある携帯さえ愛しく想う。
短い会話だけでも、自分の為にかけてきてくれたことが嬉しくて泣きたくなるの。
嬉しいのに…………嬉しいけどほんとうは不安で仕方ないの。
- 528 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:51
-
「藤本から?」
「はい、用事が終わったら電話してくれるって」
「テストの心配するなんて、藤本もいっぱしの教師みたいね」
「先生なんかよりずっと教え方がうまいんですよ」
「まあ、それは意外ね。あいつ家庭教師の仕事増えたりしないでしょうね」
冗談っぽく言われた言葉に、急に不安になる。
唇を噛んで涙が零れないようにしていると、それに気付いた保田さんはビックリして固まっている。
「ちょっ重ちゃん!だいじょうぶ?あたし気に障ること言ったかしら?」
「藤本さんは、さゆみだけの先生なの……」
さゆみにだけ、いろんなことを教えててほしいの。
他の誰かにとられるなんて、ヤダ……
- 529 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:52
-
「あ〜もう……あたしのバカ。そうよね、そう重ちゃんだけの先生だから」
「はい……」
「泣いちゃダメよ」
「泣いてません」
ニッコリ笑って見せたけど、保田さんは心配そうに顔を近づける。
自分を繕うのが下手になってきてる……
藤本さんに出会ってから、ずっとそう。自分をうまく隠せなくなっちゃった。
「保田さん、顔近いですよ〜。さゆみの眼が見ちゃイケナイって言ってるの」
「ったく、心配したのにこの子は……重ちゃんはそのぐらいの方が可愛いけどね」
「さゆみに惚れちゃダメですよ」
「惚れないから」
「さゆみは、藤本さんのものですから」
「……人の話を聞けっ」
「あ〜、絵里遅いなぁ」
「疲れるは、若い子の相手は……」
そう呟いて、肩をトントンって叩きながら仕事に戻っていく。
おどけた会話に、何も言わずに付き合ってくれる保田さんは大人だと思う。
きっと、気付いてるよの。私がいっぱい無理してるって……
- 530 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:53
- 「わーーーさゆ、遅れたーー!?ごめんっ」
「遅いよ〜。ここは絵里の奢りね」
「え〜、今日財布忘れた……」
「朝、持ってたの」
「見てたか……」
「絵里は甘いの」
絵里といるのは楽しい。ふにゃふにゃと和やかな空気で笑ってる絵里といると
私は一人じゃないんだと思えるから。穏やかな時間を生きる絵里が、だいすき。
「あっ……」
「どうしたの?」
「さゆ、500円しか入ってないよぉ」
「ジュースしか飲んでないから、それで大丈夫なの」
「えーー?絵里もなんか飲みたかったのにぃ」
情けない顔をしてそう訴える絵里が可愛くて、自然と笑ってる自分がいる。
ほら藤本さんがいなくても、私はちゃんと笑えるの。
だから、だいじょうぶ。大丈夫です、あなたをずっと待っています……
あなたが逢いに来てくれるなら、一人で待つくらい平気なの。
「じゃあ、絵里のはさゆみが奢ってあげるの」
「それって奢りって言わなくない?」
「いいの。絵里、早く頼んだら」
「まあ、いいけど……保田さ〜ん、オレンジジュースひとつぅ」
- 531 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:53
-
「かしこまりましたっ!」って保田さんの声がすると
かしこまりぃ〜なんて言いながら絵里は、はしゃいでいる。
何がそんなに嬉しいのだろうか……絵里はいつも楽しそう。
「テスト明日で終わりだね」
「ようやく終わるね」
「今日も藤本さん来るの?」
「うん……」
今日は来てくれないんじゃないか、なんてそう考えてしまう自分自身がイヤなの。
だから沈んでしまったように聞こえた声色を、敏感に察した絵里は、心配そうに私を見つめる。
どうしてこの姉妹は、こうも鋭いのだろうか……みんな電波系なのにな。
「だいじょうぶだよね、さゆ」
「だいじょうぶなの」
「なら、いいんだけどさ。何かあったら言うんだよ」
「ありがと、絵里」
「素直なさゆかわいいじゃ〜ん」
「さゆみはいっつも可愛いの」
- 532 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:54
-
あれっ?いつもなら対抗して『絵里のほうがかわいいよ〜』なんて言うのに。
絵里はいつものふにゃっとした表情じゃなくて、ただ口元を緩めて微笑んだ。
たくさんの愛情を知っている、穏やかな笑顔。それは眩しくて、羨ましくて、憎らしくて……
醜く歪んでしまう前に、考えないようにしなきゃ。だいすきだもん、絵里のこと。
憎むなんて間違ってるの……
「さゆ、プリクラ撮ってから帰ろう?」
そっとテーブルに置いた手の上に、絵里の手がふんわりと触れた。
絵里がいる。傍に居てくれる、藤本さんがいなくても今は絵里が………
なのにすこしだけ落ち着く心とは裏腹に、私の心が求めてるのは――――――
絵里にも、一番大切な人がいる。さゆみが一番になることは無いの。
私は誰かの一番になれますか?私だけを必要としてくれる、そんな人が……
窓の外はどんよりと曇っていて、いまの私の心模様が映し出されているよう。
- 533 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:54
-
- 534 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:54
- 窓の外は雨。さゆみの心の中みたい。
子供の頃、雨は大好きだった。どこにも行かないでお家の中で
ずっとママが一緒に遊んでくれたの……
幼い自分は無邪気に愛を信じて、絶大な信頼をあの人たちによせていた。
何も知らなかったから。何も、考えたり出来ない子供だったから。
いまは中途半端に大人になって、哀しいくらいに現実にぶつかっている。
戻りたい、けど戻れない。出会ってしまったから、あなたに。
あなたといられるなら、すこしの痛みくらい耐えられるはずなの………
- 535 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:55
-
「もしもし、藤本さん?」
電話を待ってると言ったけど、待ってられなくてかけてしまった……
すぐに藤本さんの返事が無かったから、口をついて出た本音。
「声が聴きたかったから」
『うん、ありがと……』
とても安心したような声が聴こえた。それは涙交じりで、とても弱弱しくもあった。
どうしたのだろうと、聞き返そうとしたら突然通話が切れた。
襲い来る不安を増長するように鳴りつづける機械音。
ツーツーツーツーツーツーツーツーツー…………
手元から滑り落ちた携帯が、ガツンと鳴らした音で我にかえる。
急いでリダイヤルしたけど、繋がらない。
もっともっと、あなたの声が聴きたかったのに……
聞こえるのは、無情な雨音と電話から聞こえる無機質な音だけ。不安を加速させるような音が響くだけ。
お願い、一人にしないで………
- 536 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:55
-
可愛くない自分の姿を映す鏡なんて要らない。
ガシャンと叩きつけた床に、破片が散らばりバラバラに歪んだ私を映す。
膝におでこを強く擦りつけて瞼を閉じる。
鮮明に浮かぶ藤本さんの優しい笑顔。鋭い眼差しがいつしかやわらかく、暖かく変わった。
その瞳の中にいられるなら、私はいつまでも可愛くいられるって想うの。
けれど、いまは一人ぼっち。あなたは居ない。誰も居ない……
降り続ける雨の音だけが部屋の中に鈍く響く。
また孤独の闇が私を覆ってしまう夜が、もうすぐ音も無くやってくる――――――
- 537 名前:昼下がりの憂鬱 投稿日:2005/11/12(土) 20:55
-
- 538 名前:日季 投稿日:2005/11/12(土) 20:56
- >>514-536 更新終了です。次回は番外編更新予定です。
>510 名無し飼育さんさま
ありがとうございます。ほのぼの好きって言ってもらえて良かった……
うわっ、そのAAめっちゃ可愛いですね( *´ Д `)ポワワ 从rァ*VvV)rァ<シゲッツ!!w
>511 名無飼育さんさま
ありがとうございます。あぁへタレでごめんなたい・・・orz
そうですね、妬く(*`▽´)は可愛いだろうなぁw
>512 メトロさま
ありがとうございます。みんなイイ子です。イイ子過ぎるくらいにw
物足りなく急ぎあしな展開でしたが、次に頭が飛んでしまってて……ドロドロ出来なかったんですよね・゚・(ノД`)・゚・
从*VvV)<えへへっ、がんばるのだ(料理は勘弁してほしい……)
>513 29さま
ありがとうございます(真面目にほんとにありがとうw)
そういってもらえるだけで嬉しいです・゚・(ノ▽`)・゚・
書きたいシーンまでヘコタレナイように頑張りますw
- 539 名前:日季 投稿日:2005/11/12(土) 21:10
- ミスったのです……orz 脳内で修正していただければ幸いです・゚・(ノД`)・゚・
>>529
×きっと、気付いてるよの。私がいっぱい無理してるって……
○きっと、気付いてるの。私がいっぱい無理してるって……
- 540 名前:名無し 投稿日:2005/11/12(土) 22:31
- アワワワワワワッどうしたんだ!?
続きをおとなしく待ってます。。。
- 541 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/13(日) 00:14
- 亀ちゃんにも一番大切な人がいるのか…そっかそっか…って、誰だYO!
続きも気になりますが、そこも気になりますw
- 542 名前:29 投稿日:2005/11/13(日) 17:20
- うむむ・・いろんな伏線の波状攻撃にあっております・・
どういうことだ・・・?うむむ・・。
よし、次の更新を待とう、そうしよう。
いしよし好きとしては>>522のあたりで幸せに浸る〜w
- 543 名前:偽りの真実 投稿日:2005/11/13(日) 21:46
-
─ サ・ヨ・ウ・ナ・ラ ─
- 544 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:47
- 愛して欲しかった
あなただけに愛して欲しかった……
あなたは優しい人。
でも優しさがいつしか刃みたいになって、アタシの心を切りつけはじめた。
”アタシの事好き?”
怖くて聞けないうちに、どんどんアタシは追い詰められていたのかもしれない。
傷つけられた心から流れ出た血は、不安となってアタシの中に流れ始めた。
メールすれば必ず返事をくれる、電話しても良い?と聞けば必ず電話をしてくれる。
でも、いつだって始まりはアタシのメールで……あなたからメールが始まる事が無かった。
いつもどこか距離を感じていた。
でもあなたの心の中に踏み込む勇気も無くて、うやむやにしたまま過ごしていた。
擦れ違い狂いはじめた歯車は、二度と正常に機能することなく二人を引き裂いた――――――
- 545 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:47
-
「みきたん、かまって」
「ちょっと待ってて。勉強しなきゃ洒落になんない」
「ちょっとでいいのにぃ……」
「受験なんだから、無理」
彼女の住む狭いアパートが、私の居場所だった。2つも年上なのに末っ子の彼女は、とても甘えたで……
なのに強がって家を飛び出し、一人暮らしをしている。それに突き放すくせに、アタシがいないとダメな人。
素っ気無い振りをしても、ちゃんとアタシのことを考えてくれる、そんな人。
勉強だって一区切りつけたら、相手をしてくれる。
受験が大変だって分かってたけど、もっとアタシだけを見て欲しかった。
意味のわからない数式よりも、アタシを見て欲しかった……
- 546 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:47
- 「たん、気持ちいい?」
「んっ………や、ばい……」
涙を溜めてかなしげに揺れる瞳。快楽に溺れてるのはきっと私のほうで、あなたは
ただ苦痛を感じ、この時間が終わるのを待っている。
そんな顔がみたいんじゃないんだよ、穏やかに微笑んでアタシを愛して?
アタシはあなたに愛されたくて……
求めても求めてもあなたはアタシを欲してくれない。
こんなに好きなのに、大好きなのに……
あなたの心に届かない。アタシを愛してくれない……
それは、なんて自分勝手な想い。あなたの気持ちなんてこれっぽちも考えないで決め付けて。
きっと、こう思ってるってそう勝手に考えて落ち込んで、悔しくて、切なくて……
- 547 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:48
-
初めてじゃなかったかな、喧嘩をしたんだ。最初で最後の喧嘩を――――――
すごく些細なことからはじまって、いつしかお互いに制御できないくらいに不満をぶつけ合ってしまった。
今まで見せ合わなかった二人の心の中からは、一度溢れ出してしまえば醜いエゴばかりが飛び出して、
傷つけあう結果にしかならなかった。
でも、何週間も逢えなくて。ひとりぼっちで寂しくって。
他の誰かの存在なんかじゃ誤魔化しきれなくて。耐えられなかった。
きっとあなた以外の人では、心の隙間を埋められないって思ったから。
だから、仲直りをしようって思ったんだよ。
メールで送った『逢いたい』って一言に対する答えは『わかった』だけだったけど。
逢える喜びに、もう喧嘩したことなんて忘れていた。弾む心を抑えていくつもの笑顔を頭の中に描いて。
きっと、扉を開けたみきたんが溢れるような笑顔で迎えてくれるんだと信じて疑わなかった。
「たん、お肉喜んでくれるかな」
途中に寄り道して買ったお肉。スーパーの袋をぶんぶんって振り回して
あなたの待つアパートへ向かった。
- 548 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:48
- 目前に広がる光景は嘘なんだと思いたかった。
階段を上がってそこから3番目の部屋が、大好きなあなたの部屋。
そこのドアが開いたから、アタシはみきたんが出てきてくれたんだと思って
咄嗟に手を上げかけて―――――― 止まった。
出てきたのは、髪の長いスラッとしたシルエットの綺麗な女性。
扉を押さえて見送るみきたんに、その女性はかるくキスをした。
ちょっと照れたように、止めてくださいよ〜なんて言って緩みきった頬。
そんな全然イヤだなんて思っていない、甘えた表情を向けていた。
「美貴、才能あるわ」
「そうですか」
「うまかった、かお死んじゃうかと思ったんだから」
「大げさですよ、美貴そっちは初めてですもん」
うまかった……そっちは初めて……
すこし濡れたみきたんの髪。きっと乾かすのが面倒だから、そのままなんだ。
どうしてこんな真昼間に、お風呂なんて入らなきゃダメだったの?
アタシが欲した彼女の愛を、知らない誰かが手にいれていた。
どうしてこんな――――――
- 549 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:49
- 知らない誰かと話すあなた。安心しきったような微笑み――――――
”ほかの誰かの前で笑わないで・・…”
心にドロドロとした黒い塊が溢れ出してくる。今のアタシすっごく嫌な女だ。
何かを話しては、女性の手がみきたんに触れる。触れるたびに、アタシの心は切りきざまれ……
流れ出した血は物凄く冷たくて、アタシの体温をどんどん奪っていく。
”触れないで”
寒いよ、みきたん。抱きしめて暖めて欲しい……
そんな自分勝手な言葉は届くはずも無く。一度だってアタシの存在に気付く様子は無い。
見ていられなくて瞼を閉じる。けど、みきたんの残像は瞼に焼き付いて離れてくれそうに無い。
愛しいはずの姿が、今は酷く歪んで見える……
- 550 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:49
- ドサッと緩んだ手元から落ちた袋の音で我に返る。
その音で二人ともこっちを見た。みきたんは驚いた風でもなく、さっきまでの笑顔もなく
冷たくアタシを見ていた。女性の顔は憶えていない。だって、みきたんしか見えなかった。
あんな顔、見たことが無かった……
そんな目でアタシを見ないで、寒いのに寒いのに。こんなに寒いのにもっと凍えてしまう。
凍りついちゃうよ、たん――――――
「亜弥ちゃん、ごめん。もう美貴戻れないよ」
「……たん」
頬を流れる液体が微かに暖かくて、アタシは少しだけ救われた。
止め処なく溢れる暖かい涙と、あなたの冷たい言葉。その記憶しか無い。
「だって、亜弥ちゃんが悪いんだよ。美貴以外の人と会ったりするから」
ちがうの、ちがうんだよみきたん――――――
- 551 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:50
- 喋りたいのに、もっと声を上げてみっともなくも想いを全部ぶつけたいのに……
喉の中があなたの冷たい視線で凍りつき、声がぜんぜん出てこない。
そうか、誤解してる。アタシがあなた以外の人を必要としたんだと。
だって疑われてもオカシクナイ行動ばかりしてたもん。そうだよね、自業自得ってこういうことを言うんだね。
バカだな、アタシ。自分で身を持ってはじめて、その言葉の意味を理解したよ。
ふざけるように抱きついた腕も、引き寄せられた腕の中もちっとも暖かくなかった。満たされなかった。
だって、あなたじゃないから。自分じゃないような浮遊感を味わって、虚しさだけを覚えた夜。
もう、ダメだって思った。優しいはずのみきたんが笑わない。こんな表情見たことなかった。
アタシはバカだから、そんな顔さえもキレイだなって思ってしまった。
あぁ、みきたんってばキレイだね。アタシが愛した人だもん。
心の中でなら言葉は饒舌に流れているのに、声にならない――――――
- 552 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:50
- 逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げた――――――――――――
だって、あんな顔で見られたくないよ。アタシ以外に笑う姿も見たくない。
付き合う前のアタシは……?
誰かと話す笑顔を見ているだけでも幸せだった。
凄く優しい光を放つみきたんを見ているだけでも、満足できたのに。
今のアタシは、自分に向けての笑顔が見れないなら見ていたくないと想ってしまう。
どんどん醜い想いが心を支配していくような虚無感に支配されていく。
終わりを告げるベルは鳴り響かないんだね。
ただ静寂だけがアタシを包んで、あなたとの別れを急かしているようだった。
追いかけてなんて来てくれない道を、何度も振り返りながらアタシは……
- 553 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:50
-
******
- 554 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:51
-
たくさん涙が溢れました。
美貴を好きだと、愛してると映し続けた彼女の自慢の瞳です。
その瞳が絶望で曇って雨を降らせました。
その雨を降らせたのは、紛れも無く美貴自身です。
その雨を止ませることは、美貴にはきっと出来ません。
だってもうないから。彼女への愛などないのだから――――――
そのときは、そう想うことでしか自分を保つことが出来なかったのです。
- 555 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:51
-
- 556 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:51
- 走り去る彼女の姿を追いかけることなく、美貴は圭織さんと部屋に戻った。
「いいの、藤本?」
「いいんです」
「次は無いよ、今日でおしまい。理由はどうあれ、いけないことだよやっぱり……」
「はい。ありが」
「お礼はいらないから。別れるの?」
震えだした心が止まらない。
こんなに好きなのに?別れちゃうんだ。そうだよね、美貴は最低のことをした。
彼女以外の誰かに縋って依存して助けてもらおうとしたんだから……
「ちょっと、だいじょうぶ?」
「あははっ、なんだろこれ……」
「藤本……」
「圭織さん震えが止まらないんです、なんだろっ」
ぐっと引き寄せられた腕の中は、ひどく安心できていい香りがした。
甘くて切ない……とても穏やかな匂いが美貴を包み込んでくれた。
- 557 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:52
- 「やり直し。できないの?」
「無理です……」
「藤本……」
「だってきらいだもん、美貴は亜弥ちゃんが……」
きっとキツクキツクしがみ付いているから、痛いはずなのに。
圭織さんは黙って美貴の髪を撫で、背中を撫で一緒に居てくれた。
暖かな愛に溺れるように、美貴はまた彼女と一夜をともにした。
彼女の中で、感じられたのは愛情ではなく同情。
それでも、あのときの美貴にはそれに縋る以外に、あの夜を越える道は無かった。
もう誰も愛さないのだと誓った。そして、誰にも愛されたりしないだろうと想った。
美貴の中でずっと、止まない雨が降り続く。
彼女の瞳から流れ落ちた非情の雨が、降りそそぎ美貴を責め続ける。
愚かな美貴を、突き刺す針のように雨が止むことは無い。
- 558 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:52
-
******
- 559 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:52
- 逃げるように日本を離れた。
高校に上がってから、ずっと持ち上がっていた留学の話に縋った。
彼女と同じ地に居れば忘れることなんて出来ない。
けれど、たとえどれだけ離れても、アタシの命ごとこの記憶を破壊してしまわない限り
アタシから彼女の姿が消えることは無い。
通い慣れた彼女のアパート。手に馴染んでる彼女の部屋の鍵。見慣れた部屋の中の風景。
居ない時間まで把握しているから、逢わずに済む。
メッセージを一言だけ書いたメモを机に残して、アタシはあなたの部屋を出た。
ドアのポストに鍵を入れると鈍い音が響いて、やがて静寂が訪れた。
終わりを告げる、静かなベルがアタシの中に鳴り響いた。
「サヨウナラ……」
たん、サヨウナラ。ほんとにほんとにサヨウナラ。
- 560 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:53
-
サヨウナラは、アイシテル――――――
- 561 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:53
- 伝えられないから、だから”サヨウナラ”
ねえ、その言葉の裏側をほんの少しでいいから感じて?
アイシテル。あなたを愛してる。幼いけれど、愛の意味くらい心で感じてる。
頭で分からなくても、カラダがココロがあなたを求めてた。
アタシは愛をどうやったら手に入れられるかばかり考えて、大切なことを何一つ伝えて無かった。
愛されたい気持ちが歪んであなたを傷付けた。もっと出会った瞬間のように、ただ純粋に愛せたなら……
あなたを失わずに済んだのかな?
でも、もう遅かった。遅かったんだよね、みきたん。
いまなら解るよ、お互いの行動の浅はかさ。けど、あの頃は真剣だったもんね。
- 562 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:54
-
- 563 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:54
-
「みきたん?アタシ……わかる?少しでいいんだ会えないかな?」
今度こそホントにサヨウナラをしなきゃ。
未来へ向かうためにね、やっぱり逢いたい……
あの日のまま凍ってる心を溶かして、未来へ歩き出したいんだ。
アタシの時間はあの日のまま止まってるみたいだから。
あなたの時間は、いまどう動いていますか?
少しでも、この携帯の番号のようにアタシといた頃のままならいいのにな……
バカな自分の考えを嘲笑して、色褪せたアパートに背を向けて歩き出す。
あなたの部屋には、別の人が住んでいた――――――
【 了 】
- 564 名前:サ・ヨ・ウ・ナ・ラ 投稿日:2005/11/13(日) 21:54
-
- 565 名前:日季 投稿日:2005/11/13(日) 21:56
- >>543-563 从*‘ .‘)番外編更新終了です。次回は本編に戻ります。
次は半分くらいしか書けてないけど、へこたれてますw
(´-`).。oO(慣れない事はするものじゃないなぁ……)
>540 名無しさま
ありがとうございます。ええええええっとすいませんw
続きは近いうちに更新しますので、それまでしばしお待ちを……
>541 名無飼育さんさま
ありがとうございます。うーん誰なんでしょうか……?
ノノ*^ー^)<石川絵里です。大切な人は教えませんよ?w
>542 29さま
ありがとうございます。うむむむ……そんなに波状攻撃したかなぁw
いしよしシーンは、アナタのために書きました(ヲイw
(*´▽`)´〜`*)の甘く蕩けるようなのを書いてみたい……
- 566 名前:名無し 投稿日:2005/11/13(日) 23:06
- 連夜の更新乙です
少しづつわかってくる展開に、またアワワワワワワってなってますw
作者さんのペースで焦らずガンガってください
- 567 名前:29 投稿日:2005/11/14(月) 17:01
- ああ…なるほど…。
切ねえっっ!こっちも応援してあげたくなるほど切ない…。
どっちもこんなに好きなのに…。むぅっっ…(>_<)
慣れないことって、一体何でしょ????
聞きたい気持ちをぐっとこらえて次回をまったりお待ちしております。
(いしよし甘めにはいとも簡単に釣られちゃいますw)
- 568 名前:偽りの真実 投稿日:2005/11/15(火) 19:00
-
―6.雨の情景 ―
- 569 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:01
- 「雨ですね」
「降り出しちゃったね」
「泊まって下さい」
「ん?どうしよっ……」
窓の外を見てたら、後ろからぎゅっと抱きしめられて言葉が遮られた。
抱きしめてくれた腕をゆっくりと撫でると、すこしづつ力が抜けていく。
羨ましいほど透明感のある真っ白な肌。私なんかよりずっと女性らしてキレイだね。
「裸で覗いちゃダメですって」
「でも、ここ高いじゃん。だいじょぶだよ」
「石川さんは無防備すぎるんです……」
”心配だな”そう呟いて背中に唇が触れる感触がした。
背骨がゾクゾクする。ね、まだ余韻がカラダ中に残ってるみたい。かるく触れられるだけで
ふわふわと湧き上がってくる熱っぽい感情。それは別にしたいとかじゃなくってね……
ただこうして抱きしめてもらえるだけでも、すごく満たされるみたい。うまくは言えないけど……
- 570 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:01
- 「えっと、あれっ……」
きょろきょろとベッドの下を探って、服を探してる。
自分だって、まだ何も着てないのに。真っ先に私のことを優先してくれる優しい人。
「お洋服、さっき洗濯機にいれちゃった」
「着替えとか……あたしのでいいですか?」
「ジャージでもいいよ、貸してくれる?」
「あっ、はい」
時計を見ると、まだ午後の3時前くらい……
あぁ、もう夜みたいに思ってた。雨のせいで薄暗いから、時間の感覚がおかしいみたい。
来週からはもうちょっと真面目に講義を受けなきゃなぁ。ちょっとサボりすぎだし。
「まだ昼間なんですね。おやつの時間だ」
服を片手に持って、吉澤さんが戻ってきた。ジャージ姿、ちょっと可愛い……
見惚れてた私を不思議そうに見下ろして、急に真っ赤になる。
首を傾けて見上げてると、恥ずかしそうに口を開いた。
- 571 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:02
- 「あの、これ着てください」
「あっ、うん」
「石川さんへーきですか?」
「なにが?」
「いや、ぜんぶ見えてて刺激的で……」
ちょっと外された視線、あたふたと背中を向けて照れまくってる仕草に
さっきまでの面影は無い。もう、あんなに激しかったのに……
「もっと見て?とか思うこともあるよ」
「なっ……」
ビックリして振り返った彼女は、まだ服を着てない私を見て、あわあわしてる。
ダメだってば、可愛すぎるもん。そんな態度は反則だってば。
「だって、これつけたのひとみちゃんだよ」
「あっ、そそそうですけど……名前で呼ばれると照れるんで勘弁してください」
「そう?じゃあ、えっちの時だけの特別な呼び方だね」
「……はあ」
ちょっと赤く咲いた痣をみせてカラかって、わざと名前で呼べば予想通りの可愛い反応。
堪らなく愛しいと感じられる彼女のすべて…………すっごい彼女のこと好きになってる、私。
吉澤さんは諦めたようにベッドの端に腰掛けて、トレーナーを着せてくれた。
「お願いですから、着ててください」
「うん、ごめんね?」
「や、別にいいんですけど……」
「ねえねえ、梨華ちゃんってあの時だけの呼び名?」
ビックリしたのか咳き込んで、涙目で見つめてきた。
だって、昂ぶってくればそのうち呼び捨てしてくれたりして、かなり新鮮なんだもん。
ふだんは敬語がまったく抜けないくせにぃ。そこが、またいいんだけど……
- 572 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:02
- 「そういうことは、暗黙の了解でお願いします」
「そうだね、あまり口にすることじゃないね」
反省したフリをして、こてっと甘えて寄りかかると抱き寄せてくれた。
ちょっとだけ広いあなたの腕の中が、こんなにも落ち着ける場所なんだとわかった。
鎖骨辺りにそっと頬を埋めて考える。私ばっかり、ずるいな。負けず嫌いな性格がオカシナ方向に顔を出す。
そっと白い肌に触れると、ちょっとカラダが強張った。
大丈夫、別に変なことしようって思ってるわけじゃないから。
「あのね?」
「は、はい?」
胸に抱きついたまま、見上げると上擦った声で返事をしてくれた。
スーッと鎖骨辺りを指で撫でて、甘えた声でお願いするとあなたは苦笑しながら返事をくれた。
「いいですよ」
「えへへっ、やってみたかったんだ」
すぐに唇を寄せて、甘く吸い上げる。こんな感じかな、強すぎないかな?なんて考えながら……
うっすらと赤み帯びている場所に、チュっとわざと音を立ててキスをしてから、顔を離した。
- 573 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:03
- 「あんまりうまくできないもんだね」
「でも、かなり目立つところですね」
「あっ、ごめんね」
そっと指先で痣を撫でながら、吉澤さんは照れくさそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。
彼女の肌は白いから、思ったよりも目立っちゃった……
ちょっと、しゅんとして俯いてるとクスクスと笑う声が聞こえた。
「でも、初めてなんですよね?」
「えっ、うん。痕つけたの初めて」
「あっ……」
すごく嬉しそうだったのに、いきなりガクッと項垂れた。
どうしたんだろう?って思ってると、ちょっと情けない顔で私を見る。
やめて、その顔。可愛すぎるもん。吉澤さん、わんちゃんみたい……
「つけられる方は、慣れてますもんね石川さん……」
「えっと……」
そんな風に言われると恥ずかしいけど……
気にしてたんだね、前の人たちをの影を。そんな素振りほとんど見せないのに。
ごめんね、何もかも初めてじゃないみたいで。だって一緒に過ごしたこと無い時間がかなりあるんだし。
これからだよ、これから。ポジティブ、ポジティブ……。
- 574 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:03
-
「でも嬉しいな。石川さんの初めてだったんだし」
無邪気な笑顔が、私の心に沁み込んでまた笑顔を増やしていく。
嬉しいって気持ちはわかるな。確かに、つけられるの嫌いじゃない。それは、もちろん好きな相手だから。
私のこと愛してくれた証拠みたいで好きなんだと思う。そっかみんなお洋服着ちゃえば見えない位置に
つけてたんだ、知らなかった……。
「ひとみちゃん?」
「だだだから、突然名前で呼ばないでくださいよ」
「だって〜甘えるときはこっちのほうがよくない?」
「あ、あまえる?」
「もうちょっと寝たいな」
「ね、ねる……」
強張ったカラダをくいっと引き寄せて、そのままベッド寝っころがる。
いま変な想像したでしょ。オウム返しばっかりしてるし。
「なんか身体がダルイから、もうちょっと寝たいな?」
「ふつうに寝るんですね、そうですよね……」
「ふつうって?変なの〜」
「いいんです!石川さんの言葉が足りないんですよ」
「人のせいにしないでよぉ〜」
「いや……もういいです、寝ましょう」
- 575 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:04
-
ぷいっと顔を背けたから、がっちりと真正面から抱きついた。あったかいな……
こうしてるだけでスゴク眠くなるみたいあっ、そうだ。これからは『甘える』って合図にしよう。
ひとみちゃんって呼んだときは、甘えさせてね……
「ひとみちゃん、おやすみなさい」
諦めたように溜め息をつき、腰に腕が回るのがわかった。
ぎゅっとさらに引き寄せられて、二人の隙間が無くなっていく。
「……おやすみ、梨華ちゃん」
その囁きで私は、ふわふわと夢の中へとおちていく。幸せな夢が見れそう。
額にそっと触れる感触がしたような気がするけど、それが現実なのか夢なのか
すでに私にはわからなかった――――――
- 576 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:04
-
******
- 577 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:04
- 「重さんテストどうだった?」
『教えてもらったところがでました』
「良かった、なんか元気なくない?」
『そんなことないですよ〜、今日は3科目あったから疲れたのかな』
「そっか、無理しちゃダメだよ。ちょっと用事があるから、また電話するね」
『はい、待ってます』
弱かった美貴は、甘えられる腕の中に身を投じ快楽に溺れ、相手を征服する気持ちを覚えた。
変わりたかったのに、変われずに逃げ出したんだ。美貴は彼女から逃げるように
今までの行動とは逆のことを望むようになった。求められるよりも、自身が求める側へ……
それでも満たされなかった何か。その何かを埋めてくれたのは、間違いなくあの子だから。
待ってて。逢いに行くから。
帰る場所はきっと、キミがいる場所だから――――――
- 578 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:05
- 初めて喧嘩をして、そしてそれが二人を別つ引き金になった。
彼女は他のやつと遊んでる。そんな噂がすぐに耳に届いた。
噂だけなら笑い飛ばすことも出来ただろう、けれど残酷にも美貴の目は現実を見てしまった。
そして、同じく見たくも無い現実を彼女に見せた……
『みきたん?アタシ……わかる?少しでいいんだ会えないかな?』
突然の電話。ずっと消せなかった彼女の番号からの……
懐かしく切ない彼女の声を思い出していたら、雨が降り出した。
この雨は、あの日美貴が降らせた彼女の涙。打たれて打たれて思い出せ、あの日の愚かな自分を。
そして、傷つけた彼女の瞳を思い出せ……
- 579 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:05
-
- 580 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:05
- 初めて出会ったこの場所で、ちいさな声で囁くように歌ってたあなた。心に響いてくるような歌声は
美貴の心を癒してくれた。強がって飛び出した家族の温もりが恋しかったあのとき。
美貴は、あなたに出会った。そして、たぶん恋に落ちた。
それはすごく単純な理由だった。可愛かったんだ、亜弥ちゃん。他の誰よりも輝いて見えた。
既存する誰かと比べることでしか、美貴は人を愛せなかった。それが愛とは言わないと知らずに……
びしょ濡れで現れた美貴に、彼女は酷くビックリして自分が差していた傘を渡そうとした。
美貴はその手を押し返し、すこしの距離を開けて彼女の前に立った。
傘で表情は見えない。それでいい。ほんとはもうあなたを映すことなんて無いとさえ思っていたんだから。
「濡れてたいんだ。だから、傘はいいよ」
「そっか。でも風邪ひいちゃうよ」
「大丈夫だよ、バカは風邪ひかないって言うから」
「たん、頭良いじゃん……」
懐かしい声、そして呼び名。
たしかに憶えてるよ、美貴を呼ぶ甘い声を。けれど、もう必要ないんだ。
「亜弥ちゃん戻ってきたの?」
「ううん、明日には帰る」
「そっか。がんばってるんだね」
「好きなことだから……」
留学したって聞いたのは、あの置き手紙を見た3日後くらいだっただろうか。急な出発だったから
全校集会で事務的に発表されただけだった。「夢に生きるんだ。頑張れっ!」なんてそのときは思えなくて
ただ捨てられたんだって……そんなこと勝手に思ってたんだ、バカでしょ美貴。自分が悪いのに……
- 581 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:06
- 「サヨウナラって、ちゃんと言いたくて」
「美貴も、同じこと考えてた」
気持ちの整理がついてからも、やっぱりドコかで亜弥ちゃんのこと考えてた。
けれどあの子に出会った。いつしか亜弥ちゃんの姿なんて思い出さなくなってた。
なんでだろうね、こんな情けない美貴を頼りにしてくれて、甘えてくれるんだ。
だから安心するのかな、重さんといると。ありのままでいられるんだ。強がりも必要無いって教えてくれる。
「ごめんね、アタシいっぱい傷つけたよね……」
「お互い様だよ。美貴だって……」
「ううん、アタシが悪いんだよ。アタシのせいでみきたん……
許して?なんて都合のいいこと言わないから……だから……」
涙まじりに届く声は酷く震えていて。無性に腹が立った。なんで自分が悪いとか勝手に決めちゃうんだよ。
いつだってそうだ。美貴の気持ちを先読みして。いつだって間違ってるじゃんか。
今日は、そんな話をしに来たんじゃ無いでしょ?ねえ、サヨウナラって言いにきたんじゃん。
いまさら、偽善的な言葉の応酬なんて意味が無い。また簡単に擦れ違う思い、また誤解しあう無意味な会話。
美貴たちは何処で道を間違ったのかな?どうして、こんなに自分勝手なんだろう……
「たん、アタシのこと嫌いだよね……」
「亜弥ちゃんなんてだいっきらいだ」
雨は非情にも降りそそぎ美貴のすべてを流していく。冷たい冷たい雨に冷え切った心は……
彼女を傷つける言葉を選んで、美貴をどうしようもない闇に沈めようとする。
嫌いなわけない。すきだよ。だいすきだったんだ。すきだから許せなかった。
好きだから、亜弥ちゃんも許せなかったんでしょ美貴のこと?ハッキリ言ってほしかった。
どうして自分ばかりを責めるの?どうして美貴は人のせいにばっかりしちゃうんだろう。
- 582 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:06
- 「ハッキリ言われちゃった……どこかでね、期待してた。最後に逢ったあの日も。
仲直りすぐに出来るなんて思ってて……今日もね……番号、変わってなかったから……」
「面倒だったからだよ」
「そうだね、たん面倒なこと嫌いだったよね……」
饒舌な亜弥ちゃんの言葉は、どこかにまだ期待を含んでいる。あの日は何一つ喋らなかったのに。
なんで今日はこんなにも美貴に話しかけるの?もっと美貴のこと責めてよ。責めてダイキライだって
言ってくれればいいじゃん。自分が悪いのに、すぐ相手の責任だと摩り替えて逃げるのが美貴の悪い癖。
そして、自分ばかりを責めるのが亜弥ちゃんの悪い癖。解っているのに変えられないどうしようもない性格。
まだ迷ってる。どうして逢おうと思ったんだろうか?どこかで期待をしていなかったか?
そして、無意識という名の意識の中に、彼女の面影をいつまでも住まわせて
美貴はズルくこの関係を終わらせないことも考えていなかっただろうか?
あの子を大切だと思う一方で、彼女と逢えるなら……都合のいいことを考えてなかっただろうか?
ほんとうはこの場所に来るべきでは無かったのかもしれない。
逢ってもサヨナラって一言さえ言えずに、昔のキモチを確認するようなことばかりしてる。
- 583 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:06
- 本当のココロは何処にあるんだろう?また迷路に迷い込んで抜け出せなくなりそうだよ……
もう、この雨に流されて消えてしまえればいいのに。だって美貴は何も成長していない。
梨華ちゃんみたいに純粋でもない。誰かに依存することでしか、生きていけないどうしようもない奴なんだ。
傷つけることしかできないのだから、このまま消えちゃえばいいのに。
ひたすら強く振り続ける雨が、すべてのものをべっとりと美貴に纏わせる。
拭いされない罪がカラダに貼り付き、あまりの重みに地面へと平伏す。
もはや自分が解らない。何をしたいんだろう?何のために雨に打たれてるんだろう?
この雨はなぜ降り続くのだろうか?なぜ自分がこの場所に存在しているのだろうか?
沈黙と雨音。
耳の奥でこだまするのは不甲斐無い自分を野次る自分の声のみ。
―――――― 美貴なんて、いなくなっちゃえばいいんだ……
- 584 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:07
-
- 585 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:07
-
- 586 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:07
-
沈黙を破ってけたたましく鳴り響いた着信音。あぁ、間抜けにも明るすぎるこの音は……
ディスプレイを見なくてもわかる。無邪気な笑顔と、あの子の泣きそうな顔が美貴の脳裏で点滅している。
バカな考えをしていた自分を責めるように鳴り続ける携帯。
濡れまくった携帯のボタンを、冷えて震える指先で押した。ただ助けて欲しいと祈りながら――――――
『もしもし、藤本さん?』
あったかい……美貴の耳に流れ込んで、カラダ中を暖めてくれる声。
カラダの芯がなんだかポカポカと暖められて、『生きてるんだな』なんてぼんやりと思った。
『声が聴きたかったから』
泣きたくなった。ううん、もう泣いちゃってるみたいだ。雨が涙を隠してくれるけど
声までは隠し切れずに、ちょっと掠れて情けないほどの声になってる美貴。
「うん、ありがと……」
そう言うのが精一杯だった。美貴は携帯を抱きしめたいほど彼女の声に救われた。
消えちゃダメじゃん。美貴のこと待ってますって。そう言ってた。だから、美貴は存在する意義がある。
そして、もっと声が聞きたいって思った瞬間だった。
- 587 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:08
-
ピーーーーーーーーーーーーーーって音とともに、携帯のディスプレイが消えた。
あっ、そっか。通話ボタン、押しちゃったから。そこから水が浸入してぶっ壊れたんだ。
二度とつかない携帯。けど、さっきまで確かに美貴とあの子を繋いでた。
ありがとう、携帯。そして、ありがとう重さん。消えたりしたらダメじゃん。
約束した。『逢いにいく』そう言ったもんね。
この雨に情けない涙ごと自分を流して、ぜんぶ流し去って……
そこからまた創めればいい。なにもかも、一から始めたら良いじゃん。
もっと雨よ激しく降りそそぎ、愚かな美貴のすべてを流せ───――――――
- 588 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:08
- 「亜弥ちゃん、もういいよね?」
「うん………みきたん、傘は?」
「いらない……美貴、行くところがあるから」
「そっか……」
傘で隠れた亜弥ちゃんの表情は見えない。けれど、明らかに笑っていないのはわかる。
愛した人なのだから、手に取るように浮かぶ。彼女のどんな表情もその声のトーンでわかる。
「なんか変わったね、たん」
「そうかな?柔らかくなったって言われたけど」
「うん、すっごく。もっと棘があった、アタシの心を切り裂くくらいに……」
そうだね、何も終わってない。また美貴は逃げようとしてる。暖かなあの子の元へ逃げようと……
亜弥ちゃん、美貴はあなたが嫌いなんかじゃなく……ただ、ちょっと恋人でいるにはお互いに無理があったんだと思う。
どこかで本心を言えてたなら。もっとこういう風に付き合いたいんだと言えてたなら良かったのかもしれない。
そしたら誤解を生まずに、二人なりに付き合っていけたのかもしれない。
けど、終わったんだから。新しいキモチが生まれてしまったんだから。もう戻ることは出来ない。
- 589 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:09
- 「亜弥ちゃんは、亜弥ちゃんのままでいいんだよ。亜弥ちゃんの愛し方を
受け入れてくれる人が、いるはずだから。美貴には無理だったんだ。ごめんね」
そっと傘の中を覗いた。泣き顔見せて……
最後にその顔を憶えてたいんだ。美貴が泣かせてしまった顔を、ちゃんと忘れないように。
眩しすぎるほどの笑顔を見せられる誰かを見つけなよ。こんな酷いやつよりも……
「たん、ずるいよ……ばかっ………はやく行っちゃえ……」
咄嗟に美貴から離れて後ずさった亜弥ちゃん。見られたくなかったんだろう。
彼女も意地っ張りだったから。泣き顔を見られるなんて屈辱だったに違いない。
でも、ほら美貴なんて傘も差してないし、さっきから情けないズタボロ姿見せてるんだしおあいこだよ。
「た、たんなんか……だい、だいっきらいだよ……」
やっと言えたね、本音を。あなたの偽らない本音が聞きたかったんだ。
サヨウナラ、アイシテル……
あなたの言葉にはいつも隠された真実が宿っていた。美貴はそれをうまく見つけられずに、あなたを傷つけた
いま解るなんて皮肉だね。だからほんとにサヨナラをしよう――――――
美貴と亜弥ちゃんは近すぎたんだよ。近づきすぎてお互いが見えなくなっちゃったんだ。
- 590 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:09
- 亜弥ちゃん。あの頃の美貴に太陽のように降りそそいだ光は、あなただった。
生まれ変わっても、どれだけ違う場所で居ても、きっとめぐり逢う運命なんだと思う。
どこかでそんな風に感じてた。あなたに出会ったのは運命で必然であると。
美貴たちは何か見えない糸で繋がっているはずだから、この命のカタチを変える度にきっと逢える。
どんなカタチで出会っても、あなたを見失ったりしないから。
現在は、亜弥ちゃんを待っている人たちがいるはずだよ。その場所があなたの帰りを待ってる。
美貴は?美貴にも大切な場所がみつかったんだ。こんな情けない美貴を包み込んでくれる
そんな居場所が。きっとね、弱っちい美貴を見てもあの子は受け止めてくれると思う。
お互いの居場所で、お互いの人生を精一杯生きよう。
そして、また逢えるといいね。今度はもっと傷つけあわずに逢えればいいね……
愛とはね……教えてもらったんだ。美貴もまだよく分からないけれど……
たとえばあの人よりキレイだから愛されてる。あの人よりも頭がいいから愛されてる。
あの人よりもあの人よりも……そうやって誰かと比較されるのは、愛では無いらしい。
「自分が自分だから、愛されている」ことが大切で。
人より優れているとを証明する必要がない―――――― そう感じられることが
愛されていることなんだって。
- 591 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:09
-
傘で隠された彼女の表情。最後に焼き付けた泣き顔をずっと忘れたりしない。
別れの言葉はキレイに言えなかった。いつだって別れは美しくないのかもしれない。
サヨナラって心で呟いて、小さく空を仰ぎ見る。
止まない雨に打たれながら、歩く速度を少しづつあげていく。
そうだ、待ってる。あの子が美貴のことを待ってる。突然切れた電話を思い出す。
『声が聴きたかったから』
待ってて、声なんかよりも確かなものを持っていくから。
美貴自身を持って、逢いに行くからね――――――
- 592 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:10
-
- 593 名前:雨の情景 投稿日:2005/11/15(火) 19:10
-
- 594 名前:日季 投稿日:2005/11/15(火) 19:11
- >>568-591 更新終了です。この後の从*‘ .‘)さんは、本編終了後におまけでちょこっと書く予定です。
>>566さま
ありがとうございます!そうですね、自分ペースで頑張ります。
>>567さま
ありがとうございます!書いてて、迷いが生じて先に進まなかったんです。
(*´▽`)´〜`*)はプレゼントw)
- 595 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/15(火) 21:58
- いしよし可愛い。。。
(松のおまけも気になりますが)
本編終了までマターリがんばってください
- 596 名前:29 投稿日:2005/11/15(火) 23:03
- いしよし最高〜w
翻弄されるよっちゃん、可愛いっすw
と前半で幸せに浸りながらの後半・・・
これもまた素晴らしかった・・・。
無我夢中で読みました。しばらく椅子から立ち上がれません・・・。
- 597 名前:偽りの真実 投稿日:2005/11/16(水) 17:14
-
―7.急ぎあしの夕暮れ ―
- 598 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:15
-
速く速く速く速く速く――――――
やっばいな、苦しくて笑えてきた……鈍ってるよね、なんか運動始めたほうがいいかな。
くだらない事を考えながら雨の中をキミの元へ。きっと待ってる、美貴のこと一人っきりで待ってるはずなんだ。
息が切れて喘いだ喉の奥に、降りしきる雨がざんざん入ってる気がするけど、走る足を止めることが出来ない。
よく滑ったりコケたりしないよな〜、なんて冷静な自分にも笑えてくる。
たぶん、いまなら梨華ちゃんの寒いギャグでも笑えそうな気がする。身に起こること全てが一々面白い。
苦しいのに楽しい。
なんか変な鉄の味までしてきた、ちょっと気持ち悪い。でも、ほら逢えばそんなのどっかに飛んでっちゃうって。
もうすぐキミに逢えるから。だから美貴は雨の中を闇雲に走るんだ。
ずぶ濡れのカラダが重いんだか軽いんだか、ワカラナくなってきた。
それでも、ただ前へ前へいまは振り返ったりしない。ただ前へ進んでいこう。
速く速くキミの元へ――――――
- 599 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:15
- 「藤本さんっ!」
「へへっ、ごめ」
ぎゅーっと抱きしめられた腕の中で、確かに感じたのは言葉では表せないほどの安らぎ……
この子、あったかい。こんなに美貴をあっためてくれるんだ。
その声で、カラダで、心で、たぶん自分のすべてで美貴を包もうとしてる。
すぐにわんわん泣き始めてしまった重さん。美貴のカラダに直接響く彼女の本音。
寂しかった?辛かった?逢いたかった?美貴もだよ。逢いたかった。ただキミに逢いたかった。
言葉にならない想いが涙に代わって溢れ出してくる。
泣いて泣いて泣いて──────――――――
笑おう、この涙が枯れたらあの空に向かって笑おう。
きっと、太陽だって顔を出してくれるはずだから……
- 600 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:16
- 少しだけ落ち着いたのか、美貴を抱きしめていた腕を緩めた。
涙に濡れて、赤くなっちゃった瞳をこんなにも愛しいと感じている。
美貴だけを待っていた、なきうさぎ……さみしいとしんじゃうんだぞ。
小さい頃にお母さんがそんな話をしてくれたなぁ……
「心配したんですよ」
「うん、ごめん」
またぎゅーっと抱きしめられて直接カラダに響く声は、震えていて……
また泣いちゃったかな。今日で何日分くらい泣かせちゃっただろう?
「携帯だって繋がらなくなっちゃうし、なんだか泣いてるみたいだったし」
「正直、泣いてた。あと雨の中でボタン押したから、水が入ったみたいでぶっ壊れた」
「びしょ濡れじゃないですかぁ」
「寒い、あっためて」
「お風呂入りま……」
唐突に口付けても、彼女はそれを受け入れて……
抱きしめてくれる腕により力がこもったのが、わかった。
- 601 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:17
-
******
- 602 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:17
- 「あっつい!あついってば」
「子供じゃないんですから……」
「うぅ、しみるよー重さん。カラダ冷えてるんだもん」
「我慢してください、そのうちに慣れますから」
「はーい」
ジャーーーーっと熱いシャワーを浴びせられて。痛いくらいに冷えたカラダに沁みた。
ほんとは冷え切ったココロに沁みたのかもしれない。
重さんは浴槽に美貴を入れて、洗い場から美貴を温めようと必死だ。
年下の子に世話を焼かせてどうするんだって思うけど、居心地よすぎて動けない。
―――――― 徐々に温もってきたカラダに、シャワーのお湯はとても優しく感じた。
「重さんは入んないの?美貴のせいで濡れたっしょ?」
「じゃあ一緒に、はいろうかな」
「おいでおいで」
「変なことしないでくださいね」
「しないしない」
「……絶対ですよ?」
「絶対だってば、そんな元気ないもん」
ぐったりって全身でアピールすると、苦笑いして美貴の頭を撫でてくれた。
しばらくは動きに身を任せて、心地いい感触に身を委ねたけれど……
暖まってきた指先を、スッと伸ばして洋服に手をかけてボタンを外す。
彼女は驚いたのか、ほんの少しだけ身を引いて、美貴を見つめたまま固まってる。
- 603 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:17
-
「制服のブラウスだよね?スカートも」
「……着替えるの、忘れちゃって」
「なんだそりゃ」
一つずつボタンを外していっても、美貴の動きにされるがままだった。
呼吸さえ忘れてるんじゃないかと心配になるほど、美貴の顔を見つめたまま固まっている。
ぜんぶのボタンを外し終えて真っ白な肌が見えたけど、欲情してくることは無かった……
なんだか不思議な感じ。真っ白い彼女の肌は、ほんとうに美貴を癒してくれる。
あまりにも見つめすぎたのか、重さんが我に返っちゃって「もう自分で脱げます」と慌てて浴室を出て行った。
ガタンって物凄い音が鳴ってキャッなんてちいさな悲鳴が聞こえた。あちゃー洗濯カゴひっくり返したな、ありゃ。
いまごろ動揺しちゃったらしい。やっぱ可愛いな、重さんは。
それにしても残念。どうせなら、もうちょっと脱がせたかったのに……
結局はそんなこと考えてしまう自分に、凹みながらお湯が溜まるのを待った。
- 604 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:18
-
「でも、嬉しかったの」
湯船に一緒につかりながら、隣で呟くような声がした。
うっとりと美貴を愛でる視線は、どんなものよりも甘くて暖かい。
「今日は来ないって思ったから……」
「電話、してくれたじゃん」
「はい、藤本さんの声が聴きたくて……」
「美貴もね、声聴いたら逢いたくなったんだ。だから飛んできちゃいましたー」
「えへへっ」
頬に流れる涙は見なかったことにしよう。
だって、こんなに嬉しそうに笑っているんだから――――――
- 605 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:18
-
******
- 606 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:19
- 「そういえばお父さんやお母さんは?」
「今日、急に帰れないって……」
「そっか……電話があったの?」
「はい。藤本さんが泊まりに来てくれるから、心配しないでって言っちゃった」
「まあ、嘘ではないね。こうやって来たんだし」
バラバラに砕けた鏡が視界の隅に映る。ちょっとビックリしたんだけど触れちゃいけない気がして……
とりあえず見なかったことにしよう。後で片付けてあげるかな。怪我するといけないから。
なんか不器用そうに見えるんだよね、重さん。
「仕事忙しいんだね」
「・・・・・」
「重さん?」
「パパもママも仕事だって言ってるけど」
「けど?」
「愛人に会いに行ってるの」
「・・・・・」
「良い家族を演じてるの。周りから見たら素敵なパパとママだけど、私には最低の両親です」
自分で言い切った言葉で、彼女は顔中に苦痛を浮かべた。
自身の言葉が容赦なく心を切り裂き、痛みを伴って哀しみを増長させている。
哀しみはどこにも行き場が無く、ただ彼女の感情を心の内へと溜め込んでしまうだけ。
- 607 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:19
- 「欲しい物は、なんだって買ってあげるって言うけれど、さゆみが欲しいのは、そんなものじゃないの……」
「そういえば、これだけの家なのにお手伝いさんとか傍にいないの?」
「自分達のことが悟られないように、用事が済んだら帰るように命じてるみたい。
それに、身の回りのことはある程度は自分で出来るようになって欲しいから、
さゆみに、自分でするように教育してるって……もっともらしいことも言ってました」
「ご飯は、どうしてるの?」
「昔からお世話になってるお手伝いさんが、お弁当やお夕飯を作ってくれて……
だから私、家庭の味って知らないんです。ママのご飯を食べた記憶が無いんです」
料亭に並ぶような豪華な料理は、何一つ彼女の心に響かない。
ただ、愛されたくて……でも愛される術がわからずに、彼女は自分を愛していたのだろう。
愛でるように自分を見つめ、鏡の中の自分が自分を愛してくれている錯覚に陥って……
愛は目に見えないものだから、たしかな実感が無いから、寂しくて不安で孤独で。
彼女はこの大きな家で、闇の中をたった一人きりで過ごしていた。
美貴が彼女を欲したあの夜……。ただ彼女の存在だけを求めたあの夜。
どれ程までに幸せを感じてくれただろうか?
いつもは純粋な光を宿す瞳が、哀しみに曇っている。
ただ抱き寄せて震える心ごと抱きしめて……美貴にはそれしかできなかった。
キミが望むままに、傍に……ううん美貴が望むままに傍にいるから。
だから、もう哀しまないで。
過去も未来も、そしてこの瞬間でさえもキミにあげる――――――
- 608 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:19
-
- 609 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:20
-
******
- 610 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:20
-
私は夢の中をさ迷うように、あなたを見つめていた。
ぎゅーっと抱きしめてくれる腕の力が、これは現実なんだと教えてくれる。
藤本さんの瞳が、いま私だけを映し出していて……
「藤本さん……、抱いて?」
みつめあったまま沈黙した後、私の口から出た声は枯れて頼りない物だった。
藤本さんは少しだけ驚いたように目を見開いてから、ゆっくりと微笑んでくれた。
いまだけは言葉は要らないの。あなたの熱を私にください。もう私を溶かして、あなたのものにして下さい。
「……いいの?」
確かめるように瞳を覗き込んで、藤本さんは心配そうに呟いた。
すこし掠れた声が戸惑いを含んで耳に届いた。
「教えてください、もっと……」
見上げた頬にそっと触れると、泣き出しそうな顔で微笑んですぐに優しいキスをしてくれる。
きっと、私は出会った瞬間からあなたの瞳の中に囚われている。
だから私をあなただけのものにして?もうあなたの中へ堕ちてひとつになりたい………
- 611 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:20
-
- 612 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:21
-
******
- 613 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:21
- 「だいじょうぶ?」
「……痛いけど、だいじょうぶです」
幾すじも頬をつたう涙、顰められた眉が大丈夫なはず無いって教えてる。
気丈にも美貴を見て微笑む姿に、こっちが泣きたいくらいだよ。
初めて触れた彼女の中はひどく狭くて、少しづつ時間をかけてなんとか……
すこし動かすだけでも痛そうに顔を歪めるから、しばらくはじっとしてることにした。
「目閉じて楽にしてればいいよ」
無理な注文だってわかってる。ラクになんて出来るはず無いって。
抱きしめたカラダが痛みで強張ってるの、すっごく感じてるから。
「眼は閉じたくないです」
「へっ?」
「藤本さんのこと見てたいから」
「なんか恥ずかしいな……」
「さゆみのほうが、恥ずかしいんですから……」
「うん、そだね。いいよ、美貴を見てて。美貴もさゆみを見てるから」
緩やかに綻んでいく口元。幸せそうな微笑が艶っぽくひろがっていく。
ほんのりと淡いピンクに染まる肌は、ただ美しくて――――――
壊したくないって、そう想っていたけど。彼女の中に触れられるのは美貴だけなのだから。
きっと彼女は快楽に溺れて壊れたりしない。そう想うから、もっと教えてあげるよ。
いままで以上に幸せを感じられる瞬間を………
- 614 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:22
-
- 615 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:22
- 「ちょっと残念……」
「言わないでください……」
「初めてだもんね」
「でも最後は……痛くは無かったです」
シーツから目だけ出して、ちょっと拗ねながらも遠慮がちにそう呟いた。
ほんのちょっとだけ弾けたかな?って思ったんだけど、それは中でイったわけじゃなくて……
まあ、なんだ……そのうちに、彼女のキモチいい場所を探り当ててみせるなんて燃えてます。
時間はたっぷりあるんだし。急がなくてもいいや。ちょっと辛そうだった表情が、すこしづつ
恍惚としたものに変わりはしたんだし。
「楽しみはこれから、これから……」
「もう、あんなに痛くないですよね?」
「やっぱ痛かったんだ……」
「痛くないもん……」
なんで涙目で睨むかな……
もしかして、強がりなの?意地っ張り?これも石川系のDNAですか?
アホなところに感動しながら、そっと髪を撫でると表情がすこし和らいだ。
- 616 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:22
- 「だいじょぶ、次はそんなに痛くないよ」
「……藤本さんを信じてます」
「うん、信じて信じて」
「ちょっと、心配ですけど……」
「心配なのかよっ」
そっと髪を撫でる美貴の手に、自分の手を重ねた。
そのまま甘えるように美貴の肩に、顔をうずめて囁いた。
「ほんとはね」
”藤本さんとこうしてるのが、一番キモチいいの……”
ぎゅっと抱きつかれて、肩先にかかる甘い吐息がくすぐったい。
そうだね、こうして直接触れ合う肌の温もりで安心できる。
ストレートに伝わってくる彼女の想いは、とても心地よくて美貴を癒してくれる。
- 617 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:23
-
「携帯買いに行かなきゃ」
「えっ……いまからですか?」
「ちょっと雨、上がったみたいだし。メモリーの最初は重さんね」
そこからまた、美貴の人生は始まるんだ。
まっサラの携帯にキミの番号から登録して、どれだけ増えるかな。
「よし、行こう!服着て」
「ちょっと待ってくださいよぅ……」
「着せたげよっか?脱がしたんだし」
「遠慮しときます」
「ちぇ〜っ、遠慮しなくっていいのに」
「なんかまた襲われそうなの」
「襲いませんって……ってか襲ってないじゃん!重さんが言ったんだよ、抱っ」
「あーーーー!?もう言わないもん、違うもん……あれは、あれは夢の中だったんだもん」
急に真顔になった美貴に怯えたように身を竦める。
あっ、ちがうちがう怖がらせちゃダメじゃん。でも変に笑おうとしたらもっと怖くなりそうだし……
このままいっちゃえ、もうどうにでもなれっ……
- 618 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:23
- 「夢ね。じゃ、いま現実を教えてあげよっか?」
不安そうな瞳は、美貴の言葉の真意を探ってる。
ゆっくりと、スローモーションのように閉じていく瞼が完全に閉じられてから
そっと口付けた……
「美貴が傍にいることは、いつだって現実だよ。夢じゃない」
雲の切れ間から、薄く陽が射してきていた。
もうすぐ夕闇迫る時間なのに、雨上がりの淡い薄紫の空は時間の感覚をオカシクさせる。
朝みたいだね、夢の中だとキミが言うのも無理は無いかもしれない。
けど、現実だよ。美貴はココにいるから。こうやって触れられる。
温もりですべての気持ちが伝わればいいのに……
- 619 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:23
- 「藤本さん、この携帯もらってもいいですか?」
「別にいいけど、壊れてるよ?」
「さっき……さゆみと藤本さんを繋いでくれてた携帯さん」
重さんは愛しそうに携帯を両手で包み込んで、やさしく撫でた。
あははっ、ちょっと妬いちゃった。こいつ、よかったな。あったかいでしょ重さんは?
美貴が居ないときは見守ってあげてよ。頼んだぞ、携帯。
「頑張った携帯さん、捨てちゃったら可哀想。雨で苦しかったはずなの」
「うん、そうだね。頑張った、すっごい頑張ってくれたよ」
「もう濡らしたりしたら、ダメですよ?」
「はい、雨の日は傘を差すようにします」
「藤本さんまで壊れちゃったら、たいへんなの」
携帯をそっとベッドのサイドテーブルに置いた重さんは、その手を美貴の頬に添えた。
すごく大事なものに触れるように、ふんわりと触れられた頬がじんわりと熱をおびてくる。
その温もりに、ふいに涙がこみ上げて……
- 620 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:24
- あれだけ雨で濡れてたのに、この携帯壊れてなかったんだ。
重さんの電話が通じるその時まで、美貴をちゃんと守ってくれてたんだね。
声が聴けたから、美貴は正気に戻れた。ちゃんと、重さんに逢いに来れた。
いまこうやってキツク抱きしめる事だって、出来なかったかもしれない。
彼女の温もりにしばらく包まれて、美貴は溢れる想いを流しきるまでずっと泣いた。
ただ黙って寄り添ってくれる温もりに安堵して泣き続けた。
携帯、ほんとにお疲れ。これからは、重さんの部屋でちゃんと留守番をするんだぞ。
戦友として、尊敬するよ。雨の中よく繋がったで賞をあげよう。
それと……まっサラな携帯は、もっと大切にしてあげよう。
美貴と彼女をずっと繋いでいてくれるだろうから。そして、美貴のこと見守ってくれるはずだから。
- 621 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:24
-
******
- 622 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:24
-
「ピンクが良かったの……そうしたら、お揃いになるのに」
「無理。ピンクとか有り得ないから。ただでさえ借りたこの服がピンクで恥ずかしいのに……」
「だって藤本さんがあんなに濡れて来るから悪いんです」
「へいへい、美貴が悪かったです……」
気付かれない程度に溜め息をつく。そんな唇尖らせて拗ねられても。
それで口も聞いてくれなかったのか。急にムッとして黙り込むからビックリしたけど
店で機嫌を取り捲るわけにもいかないから、ちょっと放置しちゃったんだけど……
ご機嫌斜めのお姫様を、ちょっと人気の少ない路地に連れ込む。これだけ聞くとすっごい危ない。
別に変なことするのに連れ込んだわけではないので、悪しからず……
「ね、重さん」
「・・・・・」
「お〜い、美貴の話を聞いてくださ〜い。意味があるんだよ。
この色を選んだのも、重さんの為なんだってば」
ちゃんとシルバーにした意味があるんだってば。そんな拗ねないで聞いてよ。重さんってば!お〜い
ひらひらと手を振っても視線を俯かせたまま、まったくこっちを見てくれない。
- 623 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:25
- 「さゆみの為って、ほんとですか?」
「えっ、うん。そうだよ、シルバーは鏡の色」
「藤本さん……?」
両手を胸の前に組んで美貴を見つめる。自分がもうちょっと背が高ければ死ぬほどの上目遣いが
直撃していたに違いない。俯き加減からだから、すこしは上目遣いになってるんだけど……
いかんせん美貴は背が足りない。それでも、これだけ可愛いわけだし……って違う違う。
ちゃんと話さなきゃ、忘れちゃうところだった。美貴の言葉の意味がわからないらしく、固まっちゃってる。
解凍してあげなきゃ……
「いつだって美貴が、可愛い重さんを映してあげるよ。ってそんな意味」
そんな不器用で意味不明な説明だったけど、幸せそうに笑ってくれた。
ねえ、素直じゃないから。毎度、こんなに甘いわけじゃない。
今日は特別な日だから。美貴が生まれ変われた日だから。たくさんの甘い言葉を甘い視線を君だけに贈るね。
憶えていよう、このハジマリの日を――――――
- 624 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:25
- 「お願いがあるの」
「お願い?」
「ストラップ、お揃いの買ってください」
「オーケー。買いにいこっ」
ちょっと頼りない歩き方の重さん。まだ初めての余韻をすこしだけ引きずっている
あぁ、すぐに買いに来たせいで無理させちゃったかな……でも、あの家に一人でいさせるほうが酷だって思ったから。
「ストラップはピンクにしたいの」
「えーーー?やっぱピンクですか?」
「ピンクじゃなきゃ泣くもん」
「わかりました。ストラップくらいは妥協します」
「敬語の藤本さん可愛いの〜」
「はいはい。さっさと行くよ、ほら」
遠慮がちに伸ばされたその手を美貴の腕に絡ませる。支えてあげるから、掴まってて。
その手に頼られると、なんだか強くなれる気がするんだ。
嬉しそうにしがみつく少し背の高い彼女。大きな声で宣言したいくらい、美貴の大切な人。
- 625 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:25
-
******
- 626 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:26
- 「ご飯つくったげるよ」
「お手伝いして良いですか?」
「よし、一緒に作るか?」
「はいっ!」
やったー!なんて言いながら嬉しそうに両手を挙げて喜んでいる。
取り戻そう、一緒に過ごせなかった時間を。手に入れられなかった愛を二人でみつけよう?
「あああああぶないよっ、ちゃんと包丁持ってない方の手で押さえて!
重さんってば……手、切っちゃうよ。そんな切り方じゃ…………」
半泣きになりながら教える美貴と、すっごく楽しそうに無茶苦茶しようとする重さん。
しかもA型のクセして、意外と適当。「まあ、いっか」なんて可愛く言ってもダメ。
妥協しちゃダメ。料理は愛情だけじゃダメな部分もあるんだよ。ほら、一生懸命味付けして!?
「藤本さん、じゃがいもさんの切り方がわからないんですぅ〜」
「美貴が切っとく」
「さゆみ、ブルーチーズがだめなんですぅ」
「このチーズは種類違うから……」
「藤本さん、オイルが先ですか?火をつけるのが先ですか?」
「油ひいてから。先に火つけたら危ないってば……」
「ねえねえ、チョコ……」
「ぜったいに入れるな!死ぬから、そんなん入れたら味変わりすぎるから!?」
「まだ何にも言ってないのにぃ。じゃあ食べてもいいですか?」
「いいけど……ってかあっちで食え」
「…………一緒に作りたいの」
「……チョコ食べていいし、一緒に作るから泣きそうな顔しちゃだめ」
「えへへへへ、藤本さんすきぃ」
「はいはい……」
- 627 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:26
- ものすごく疲れたけど、二人で作ったご飯は意外と美味しかった。たいはん美貴が作った気がするけど……
でも、こうやって一緒に食べれるから美味しいってことにしとこう。
嬉しそうな笑顔と、おいしいって言葉。それだけで疲れなんて吹っ飛んじゃったし。
さあ、寝ようかなって布団に入っても、幸せの余韻で緩む頬を戻せそうに無かった。
先にベッドに入って、重さんがあたふたと肌の手入れするのをボンヤリと見てた。
「よし、今日も可愛いかったの」って、ほんとにやってるんだね…………
ずっと見つめていたいな。キミの瞳に映し出される幸福な自分を。
幸せに緩んだマヌケな笑顔、キミにはどんな風に見えてるのかな?
今度、あの壊れた鏡の代わりを買ってあげよう。真実だけを映し出す鏡を。
キミは一人じゃない、そう教えてくれる鏡を。
「藤本さん、寝ちゃったの?」
「ん〜、起きてるよ」
「電気、全部消しますか?」
「重さんに任せま〜す」
ぼんやりとしたオレンジ色の光の中で。しばらく見つめあったまま、まどろんでいた。
あったかいね、そんな風に呟けば。イタズラっぽく笑ってぎゅうぎゅう抱きついてきた。
もっと温めてあげますね、なんて呟いて。
抱きしめようと思ってたのにな。いつのまにか甘い匂いに包まれて、重さんの腕の中にいた。
- 628 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:26
-
ね、夢中でキミに触れながら……
抱いてるはずなのに、抱きしめられてる様な安心感をずっと感じてた。
愛とは………
ただ傍に居るだけで、安らぎを感じられることなんだって――――――
- 629 名前:急ぎあしの夕暮れ 投稿日:2005/11/16(水) 17:27
-
- 630 名前:日季 投稿日:2005/11/16(水) 17:27
- >>597-628 更新終了です。
>>595さま
(0^〜^)^▽^) <ありがとうございます! 最後までまったりと頑張ります。
>>596さま
(O^〜^)^▽^*)ありがとうございます!後半は、必死だったのでちょっと意味不明な部分もあったかと思いますが
そう言ってもらえて泣いてますw まだまだ表現力が足りないと痛感……
- 631 名前:名無し 投稿日:2005/11/16(水) 20:36
- ウワアアアアアアン二人があまーーい!?
なんかさゆが好きになりましたw
- 632 名前:メトロ 投稿日:2005/11/16(水) 21:00
- いつのまにやら石川三姉妹の長女キテター!あんな所で出てくるなんて罪なお人や。
で。
美貴たんよく頑張った!!
少し前になってしまうのですが
>>588 9行目の亜弥ちゃんの台詞、
いかにも亜弥ちゃんらしくて凄くカコイイ!
あと、同じ『雨の情景』内のいしよしがポワワって来ました。ポワワって。
ベッド内とベッド外のいしよしの立場が逆…というか対照的なところに、テラ萌え。
そして最後のほうは、さゆの妹力が炸裂でしたね!…藤本さん、色々教えてあげて下さいw
なんというか…、出てくる人全員で攻撃してきますねこの小説。
も、萌え死にます隊長。
- 633 名前:29 投稿日:2005/11/17(木) 22:29
- ほんとだあっ…!
なんか全員にトリコにされてる気がするんですが…(^^ゞ
おそるべし最強DNA…。
- 634 名前:「偽りの真実」おまけ。 投稿日:2005/11/18(金) 10:46
-
―― To the world ――
- 635 名前:To the world 投稿日:2005/11/18(金) 10:46
- 「お嬢さん、雨も上がったのに傘を差してどちらまで?」
急に声をかけられて、立ち止まる。暢気な声にちょっとだけムカついた。
止まない雨が降ってるの。アタシの上にはずっと降り続けるんだよ……
いつまでも止まない懺悔と後悔の雨が。
無視して歩き出す。けど、とてとてついてくる気配がする。
やだな、こんな情けない姿見られたくないのに。明日にならなきゃ帰れないし。
ホテルまでの道がやけに遠く感じる。タクシー使えばよかった……
「ついて来ないでください」
「だって、あたしの家もこっちなんだもん」
ちょっとだけ立ち止まって告げると、そう返事が返ってきた。
一緒の方向なら仕方ない。アタシが他人の帰り道まで文句を言う権利はないし……
ついてないな。本格的に失恋した上に、変な人が後ろを歩いてる。
- 636 名前:Totheworld 投稿日:2005/11/18(金) 10:47
-
パッと目に付いた公園。さっきまでいた場所に似てる。
ふらふらと立ち寄って、ベンチに座るために傘を閉じる。いつの間にか、雲の切れ間から陽が射していた。
もうすぐ沈んでしまう太陽が、ほんの少しだけ空を明るく染める。薄いピンクのような紫色は、とても目に優しい暖かな色。
あー腫れちゃうだろうな瞼。ちょっと重いような気がするし。それに泣き顔見られちゃった悔しい。バカ、みきたんのば〜か。
小さな声で想い出の曲を口ずさむ。あの日と同じように……
いつだってアタシを支えてくれたのは、想い出の中に眠る愛しい曲たちだった。
「And now the …………」
”紫に煙る夕闇の頃 空には小さな星が光り 永遠に心に残る歌を歌いながら
あなたは小道を彷徨い歩く 愛は星くずとなり 昔聴いたあの歌も通り過ぎてゆく…………”
「Love is now the stardust …………」
日本語訳詞を必死で目で追いながら、ちょっとだけ背伸びして英語で口ずさんでいたあの頃、
みきたんはアタシを見つけ出し『歌、じょうずだね』そんな風に話かけてくれた。
この歌のように、あなたと離れるときが来るなんて知りたくなかったな……
- 637 名前:Totheworld 投稿日:2005/11/18(金) 10:48
-
気付けば隣に人の気配。ちょっと伺い見ると端正な顔立ちの女性だった。
アタシより少し年上かな?雰囲気が落ち着いてるから。
「ねえねえ、あのさー」
不意に声をかけられた。ビックリしてそっちへ顔を向けると美しい穏やかな笑みを
咲かせて、その女性がアタシを見てた。
「これ、食べない?」
差し出されたのは、小さな蒸しケーキ。
誰かわからない人から食べ物なんてもらえない。それにそんな気分じゃないんです。
アタシすっごく憂鬱なんだから……そんな子供みたいな期待した眼差しを向けないでください。
ぷいっと顔を背けた。真っ直ぐな光が眩しすぎるから。
- 638 名前:Totheworld 投稿日:2005/11/18(金) 10:48
-
「蒸しケーキ、無視された」
「…………面白くないです」
思わず反応してしまったのは、くだらない冗談が妙に心に沁みたから。
「相手してくれた〜」
よく見ると、にぱ〜っと笑った顔が可愛い人だった。子供っぽく見えるその反応は
さっきまでの少し大人びた雰囲気を、一瞬にして隠してしまった。
人懐っこい笑顔がアタシを見てるから。大丈夫だよ、なんて心で呟いてケーキを口に運ぶ。
「おいしい……」
「よかったぁ。あたしこれでもプロ目指してるんで。ってかもうすぐプロだ」
ホッとしたのか彼女はまた屈託の無い笑顔を、もう一つ咲かせた。
いいな、そんな風にアタシも笑っていたい……
- 639 名前:Totheworld 投稿日:2005/11/18(金) 10:49
-
「あたしも!あたしもね、プロ目指してるんだ」
「へ〜、名前聞いてもいい?」
「亜弥……。松浦亜弥」
「亜弥ちゃんかぁ」
「あなたは?」
「あたし?あたしは後藤真希。そのうち世界一のパティシエさんになりま〜す」
手を上げて宣言する彼女はすごく楽しそう。夢ってこんなに素晴らしいんだね。
この人の笑顔と、このケーキすっごく輝いて幸せそう。アタシもきっと、輝ける。じゃなきゃ歌えないよ。
それにみきたんのおかげで、悲しい唄も上手に歌えそうな気がする。
「あたしは、世界一の歌姫になる!生きた歌をみんなに届けるんだ」
「おぉ、亜弥ちゃんは歌い手さんになるんだ?」
「うん。いま歌のために留学して、いろんな勉強してる」
「偉いじゃん、あたしもお金貯めてそのうち留学する予定。もっと勉強したいから」
「そっか、頑張って」
「うん。そっちも頑張れ」
「ありがとう、ほんとに……なんかちょっと幸せになった気がする」
「あははっ、良かった。ごとーの夢ちょっとずつ叶ってるみたい」
ほわっと心が暖かくなるような笑顔に、アタシまで笑顔になっていくのがわかる。
後藤さんは満足そうにアタシが食べているのを見ていた。
- 640 名前:Totheworld 投稿日:2005/11/18(金) 10:49
-
「ごとーこれからバイトだから、行かなきゃ」って立ち上がって、ひらひらと手を振る。
あれっ?家に帰るって言ってたのに……まぁ、いっか。
覚えていよう。この幸せの味と悲しみの涙。あたしを成長させてくれた街。
後藤さんの背中に”ありがとう”って呟いた。ほんとの夢を思い出せた気がするんだ。
どこか上辺で歌ってた歌が、もっと輝きそうな気がするよ。
- 641 名前:Totheworld 投稿日:2005/11/18(金) 10:49
- 今日から生まれ変わって、あたしの道を歩いていこう。きっと、また逢えるよね……
世界一の歌姫になって、たくさんの人へ届けと歌い続ける。それが私の歩むべき道。
希望を歌っていこう、絶望さえも吹き飛ばすような幸せの歌を歌おう――――――
【END】
- 642 名前:To the world 投稿日:2005/11/18(金) 10:50
-
- 643 名前:日季 投稿日:2005/11/18(金) 10:50
- >>634-641 予定変更しておまけを先に……更新終了です。
松浦さんが口ずさんだ歌はJAZZのStardustの一部です。
>>631さま
ありがとうございます!わあ〜い好きになってくれて嬉しいw
基本的に甘いのを書くのが好きです。
>>632さま
ありがとうございます!次も長女登場するかもw 松浦さんかっこいいって、嬉しいです。
从*‘ .‘)<どっかのへタレとはちがうんだよね。 川V-V)<・・・
し、しんじゃダメだっ!ww もっと萌えるまでしんじゃだめ(エッ?w
>>633さま
ありがとうございます!トリコに出来ててよかったぁ。从*・ 。.・)<でもDNAの力なのw
- 644 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/18(金) 16:47
- 松キテタ―――!!!きみはツヨイ子だ
もう一人の登場人物が優しくていい味だしてますね
- 645 名前:メトロ 投稿日:2005/11/18(金) 17:25
- 亜弥ちゃんやっぱりカコイイ。
というか素敵だ。…うん。素敵。
皆様もそうだと思うのですが
娘。小説に限らず、自分が本を読んで
「あー。これいいなぁ」
と感じる作品って、読後に
その時の自分の中の何か(気分,価値観,テンションw etc)を変えてくれるものが多いんですね。
今回の短編は、ハローという世界を壊さずにいながら
確実に今の自分の心境を前向きなものに変えてくれました。
流石!
- 646 名前:29 投稿日:2005/11/20(日) 19:26
- CPCPしくなくて潔い。
カッコいい亜弥ちゃんともう一人に
元気づけられます。
番外でこの姿が見れてよかった。
- 647 名前:偽りの真実 投稿日:2005/11/23(水) 11:20
-
―8.夢に唄えば ―
- 648 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:21
- あの雨の日から1週間くらいが過ぎた土曜の昼間。だと思う。ず〜っと寝てたから時間の感覚がないんだよね。
昨日の晩から熱が出て寝込んでる美貴を心配して、明け方近くに重さんがすっ飛んで来てくれたんだ。
それで安心したのか爆睡。んで、目が覚めたら梨華ちゃんが居なくって。
「だいじょうぶですか?」
「ん…………だいじょうぶくない」
大丈夫じゃないと言おうとしたのに、よく分からない言葉になってしまった。
それでも重さんは気にすることなく、美貴の手を握って泣きだしそうな潤んだ瞳をむけてくる。
―――――― あぁ、そそられる。
なんて考えてるアホな美貴は、決して熱のせいではなくて……
単に素でえろいだけだよっ、悪かったな。もう自分で言っちゃうよ。
熱で頭がボーっとするけど、なんだか身体は元気な気がする……
ってかあれだけ雨に打たれてすぐは、風邪ひかなかったのに。なんで今頃……
- 649 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:22
-
「あのね、重さん……」
「うん。なあに?」
「美貴は風邪をひいたの。わかるよね?風邪だから死んだりしないから。
それに昨日までは辛かったけど、昨日打ってもらった注射も効いてすっごいマシになったから」
「でも、風邪は万病の元って言うの」
完璧なくらいな角度で首を傾けた、重さん。うん、すごく可愛いんだけど……
そうだね、そうだよね……風邪は舐めちゃいけないよね。
でもね、美貴が言いたいのはそういうんじゃなくて。
そこまで泣きそうな顔して悲しまないでほしいってことなんだけども。
なんか美貴がもう瀕死の重体みたいな顔するんだもん。ビックリだよ。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「お願い?さゆみに出来ることだったら何でも言ってほしいの」
「さゆみにしかお願いしないよ」
「藤本さん……」
美貴の言葉が嬉しかったらしく、重さんは真っ直ぐに見つめ返してくれた。
そんな純粋なこの子に、今からこんなことを言う美貴は外道だなんて思うんだけど……
それでも、我慢できないんだい!なんて心の中で逆切れして。
「美貴、さゆみと……したい」
「……えっ?」
「したら治りそうな気がする。いっぱい汗かけば治るっていうじゃん」
重さんは大事そうに包み込んでいた美貴の手を一瞬離しそうに驚いた後、
片手だけ離して自分の胸を押さえた、ちょうど心臓がある辺り。
それからしばしの沈黙。しばらくすると、ものすごく真剣な顔で美貴を見た。
ごくっと喉を鳴らして、あぁ嫌われちゃったかな……なんてちょっぴり反省したんだけど……
- 650 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:22
-
「さゆみ嬉しいの」
「へっ?」
「だってぇ、”さゆみにしかお願いしない”って……」
ポッと頬染めて目を伏せる姿が妙に艶っぽい。
単純―――――― もとい純粋で可愛い彼女に心の中でガッツポーズ!?
「じゃ、早速……」
「んっ……」
重さんの返事を聞いた途端、元気いっぱい夢いっぱいの美貴は
手をとり布団の中に引き入れて触れるだけのキスをした。後は……そうそう愛の言葉。
「さゆみ、好きだよ」
「藤本さんだいすき」
キスを繰り返しながら、胸を緩やかに揉み……
- 651 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:23
-
―――――― ぴんぽ〜ん
がばぁっと起き上がった美貴は、慌てて重さんの服の乱れを正してから
すぐにベッドに横になって瞼を閉じ、ドキンドキン脈打つ心臓の音を聞いてた……。
誰だよ、こんな時に……なんて思いながら、梨華ちゃんが帰ってきたんだろう
そんな風に思って目を開けると、重さんがインターフォンの画像を確認して、
口パクで「お・ね・え・ちゃん」と知らせてくれた。
恨んでやる、この昂ぶった気持ちと火照ったカラダをどうしてくれるんだ……
梨華ちゃんのバカヤローーーーーーっ。ちょっと頭痛くなってきた。
- 652 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:23
-
- 653 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:23
-
「圭織お姉ちゃんだったの」
「げっ……」
「げっ……とは何よ美貴。あの時はあんなに愛してくれたのに〜」
「なっ、ちがっ違うってば」
絵里以外の二人の従姉妹はお姉ちゃんって呼んでたのか……それを最初に言ってよ重さん。
てっきり梨華ちゃんが帰ってきたんだと思ったから、かなり油断してた。
必死で重さんの気を逸らさなきゃと思って、慌てて彼女を見たら……
「美貴……」
「あっ、藤本って呼ぶべきだった?」
「いや、もう遅いですってば」
”美貴”って呟いてトリップしちゃった重さん。あぁ、どっか遠いところにいってるよ……
3姉妹だけじゃなくって従妹までもが、どっかに行くのかよ……
ってかなんで梨華ちゃんじゃないのさ……
それに冗談きついです圭織さん。美貴のこと ”藤本”って呼んでるじゃないですか。
よりによって重さんの前で呼ばないでください。
「梨華は行くところがあって戻れそうに無いから、圭織頼まれたのよね」
「はぁ……」
「だって料理作る元気ないでしょ?」
違う元気ならあったのに……これは、なんの罰ゲームですか?
待て、美貴。そうだ料理だよ。圭織さんじゃなかったら重さんが作ってたんだよね?
芸術的なセンスをお持ちの道重嬢が作ったお粥……ヤバイね、普通にヤバイと思う。
梨華ちゃん、バカヤローとか言ってごめんね。ありがとう、心の底からありがとう。
- 654 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:24
-
「ねえねえ重さん、ごめんってば〜」
「……美貴って呼んでたの」
「だから、あれは冗談で〜。いつもは藤本って呼ばれてるんだってば」
「……いいの。さゆみはさゆみだから。『ふじもとさぁん』って呼び方もきっと可愛いの」
「そうそう、可愛いから。どんな呼び方でも重さんが言えば可愛いから。お願いだからこっち向いて?」
さっきからこの調子でヒトリゴトを呟き、こっちを見てくれない。圭織さんはキッチンでお粥やらを作りながら
必死で笑いを堪えてる。くそっ、ご機嫌取りしてる病人って滑稽だよ……
なんで美貴が……身体はたしかにマシになった気がするけど、熱だってあるんだよ?
ベッドから這い出して、リビングのソファでひたすらご機嫌とりってあほみたいじゃん……
はぁ〜って溜め息ついて俯いたとき、視界に真っ白で華奢な太ももが見えた。
スカート短っ、脚がめっちゃ出てるよ。良く見ると今日の重さんの服、可愛いじゃん。ピンク多いけど。
気付かなかった、さっき胸に気をとられてたから………ってエロ親父か美貴は。
「藤本さん?」
「ひゃいっ!」
つい変なことを考えてたせいで、声が思いっきりひっくり返った。さっきまで美貴を見なかったのが嘘のように
顔を近づけ美貴を凝視する……この子はいつだって唐突だ。
よく考えるといまの美貴ってばカッコ悪っ。ずっと寝てたからパジャマで、寝グセ頭バリバリだし。
自慢のオデコには冷えピタ貼ってて間抜けだし、なんか微妙にくたびれてるし……妙にエロいし。
「しんどいですか?」
「えっ、うん……ちょっと頭痛い」
「お熱も痛いのも飛んでけ〜」
「へへへっ」
なんだそれっ……頭を撫でられて、痛みも和らいだ気がする。単純な自分がちょっと悔しい。
こうなったら思いっきり甘えてやる……圭織さんが帰ったら。
- 655 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:25
- 「圭織お姉ちゃんが帰ったら、続きしましょう」
「へっ?マジで?」
「うん。今日は好きにしてください」
真っ赤になりながら、そんなことを言ってくれる。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに……
でも嬉しかったから、言ってくれてありがとう。夢をありがとう……って意味ワカンナイし。
「もう、痛くないですよね?」
「たぶん、だいじょぶだって」
「たぶんじゃイヤなの……」
「じゃあ、痛くない。ぜったい気持ちよく……ってうわぁーーー!?」
なんか視線を感じて振り返ったら、後ろに圭織さんがいた。キッチンからいつの間に移動したんだろう。
美貴の叫びがうるさかったらしく、耳を押さえて大袈裟に仰け反っている。ってか気配消して来ないでください……
「な、なんでいるんですか」
「ひどい、圭織お粥作ってあげたのに……。さゆのご飯も作ったからね」
「お姉ちゃんありがとう」
「藤本。あんまり無理しちゃダメよ。っていうか、無理させちゃダメよ?」
「どういう意味ですか……」
「さゆ食べる気でしょ?」
あの梨華ちゃんと同じ言い方するの止めてもらえません?どうして食べるとか言うんですか。
ぐったり項垂れてる美貴を、重さんはそっと支えてくれてる。ほんとにさりげなく暖かい子だ。
- 656 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:25
- 「まっ大切にしてよね、さゆのこと」
「もちろん。ちゃんと大切な人ですから」
「イチャイチャ見せられてたら寂しくなったから、帰るわ」
「あっ、すいませんお粥」
「いえいえ」
立ち上がりかけた美貴と重さんの頭を撫でて、「見送りはいい、じゃあね〜」って圭織さんは帰っていった。
なんか照れもせずに”大切な人”とか言っちゃったよ美貴。風邪の力ってすごい。なんか素直になるもんだね。
そう想ってると、重さんが美貴に甘えるように身を寄せてきた。
「うれしいの……」
「ん?」
「大切な人……」
「あぁ」
美貴の言葉一つで、こんなに幸せそうな顔をしてくれる愛しい人。
夢か。亜弥ちゃんも今頃は海の向こうで、自分の夢を叶えようと頑張ってる。
美貴は?美貴は、どんな夢を見よう。どんな夢を叶えようかな…………
- 657 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:26
-
******
- 658 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:26
-
******
- 659 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:26
- 「藤本、風邪はどう?」
「美貴ちゃん寝込んじゃって……」
「あんた出てきて大丈夫なの?」
「さゆが来てるし、かおたんにご飯はお願いしてきたから大丈夫ですよ」
「そう」なんて呟いてケメちゃんは紅茶を淹れてくれてる。
金曜の朝はボーっとするけど行かなきゃってバイトに出かけた美貴ちゃん。
無理したのが祟って夕方すごい熱が出ちゃって。家の掛かりつけのお医者さんを呼んで
注射を打ってもらったんだけど……さゆに見せてあげたかったな、注射に耐えてる涙目の美貴ちゃん。
すっごく可愛かった。素直に腕は出したんだけど、注射を見ないで私の方を見てうるうるしてたっけ。
先生が帰った後は抱きついてきて、「痛すぎてしんじゃうかと思った〜」なんて言いながら甘えてきてた。
さゆに話したら妬いちゃうだろうから、話さないほうがいっか……
「なに笑ってんのよ」
「昨日の美貴ちゃん思い出しちゃって」
「てっきり吉澤のことでも考えてるのかと思ったわよ」
ニヤッと笑ってケメちゃんが指したほうを見ると……
なに、あれは?吉澤さんが女子高生の集団に話しかけられてる姿だった。
ふ〜ん、美貴ちゃんに聞いてたけどほんとにモテちゃうんだ。
そうだよね、普通に考えて『憧れ』という対象にはもってこいの美形だもんね。
髪伸ばせばすっごい似合うだろうなぁ、吉澤さん。
「石川〜顔が怖いわよ!ってほど変化しないのね、つまんないじゃない。
ムキーーーっとか怒れば面白いのに。後藤のときはよく拗ねてたじゃない」
「あの頃は若かったんです……」
「いまでも若いでしょーが」
「ちょっとは大人になったんです」
慣れてるのか吉澤さんは適当に相手をしてテーブルを離れた。
女子高生達が手を振ると、ひらひらと振り返す姿は、どこか真希ちゃんにダブって見えるけど……
その顔に笑顔は無かった。ちょっと違うんだなってなぜか安心したりして。
真希ちゃんはへらへらと笑ってかわしてたけど、吉澤さんはあまり表情を変えずに
事務的な対応だけしているようだ。
- 660 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:27
-
「すいません、待たせちゃって」
「バイトなんだからいいの。それに私が勝手に早めに来たんだし」
逢いたかったの、吉澤さんに。ほんとはね、美貴ちゃんを見ててあげたかったけど
さゆが来てくれたし、私は必要ないかなって思えて……すこしだけ寂しかったから。
店の扉を開けて私が見えた瞬間の、あなたの笑顔がだいすきだしね。
「どこか行きますか?」
「ううん、特に行きたいところは無いかな」
「じゃあ、このままあたしの家で」
「愛してくれるの?」
「やっ、べつにちがっ……ご、ご飯食べに行きましょうか」
俯いてつま先にあたった小石をこつんと蹴ってみた。
慌てたように話題を逸らさなくってもいいのに。どうしてこうも可愛いんだろ。
あの時は、まるで別人みたくなっちゃうくせに……
そっと服の袖を掴んで引っ張ったら、ちょっとビックリしたのか私の顔を覗き込んできた。
だって手を繋ぐのは恥ずかしいんだもん。これぐらい、いいじゃん。
- 661 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:27
- 「もうちょっとゆっくり歩いて」
「すいません……」
「くっついても平気?」
「平気だと思います」
彼女の着ているジャンバーの袖を掴んで、体を寄せた。密着すれど寒い季節はあまりくっついてる感じしないな。
物足りない。逢うともっと傍にいたいと思う。確かめられる距離に居るから、あなたの存在をより近くで感じたいって思う。
「ご飯は吉澤さん家で食べようよ」
「いいですけど、インスタント食品とかしかありませんよ」
「うん、それでいいから」
袖を掴んでた手を腕に絡めて、よりぎゅっと抱きついた。
さっきよりは縮まった距離。強張るカラダからは戸惑いが感じられる。
もっともっと近づきたいの、いまよりももっと近づきたい……
「ひとみちゃんと二人でいたいな」
まだ伝えてないこともあるし。
ほら、私言わせてばっかりだったから。今日はちゃんと伝えたいなって、そう想ってる。
あなたに偽らない気持ちを――――――
- 662 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:28
-
- 663 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:28
- 「ん〜あったかい」
「や、あの動けないんですけど」
「やだ?」
「イヤじゃないです……」
部屋に着くなり石川さんがぎゅーっとしがみついてきて、安心したように呟いたんだ。
「もっとくっつきたかったの」って。ソファにもたれて座るあたしの前に、向いあうように座ってきた時は驚いたけど……
なんだか腕の中で安心している姿が可愛かったから、このままでいっかなんて流されてる。
「ね、ひとみちゃん」
「はい」
「愛してくれないの?」
「そんなハッキリと聞かれても……」
石川さんは素直で直球型の人。二人きりのときは特にそうだ。
はっきりと口にして伝えられるのに慣れていないから、それだけでドギマギしてしまう。
もっとこうムードをつくって流れでそういう感じになるほうがいいと思うんですけど?
いつだって強引にあたしはその気にさせられてしまう。でも、嫌なわけじゃないんだけど……
- 664 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:28
-
携帯が着信を知らせる。メールかなと呟いて石川さんはゆっくりと離れ
あたしの隣に移動してメールを確認した。
「真希ちゃんだ」
「ごっちんですか?」
「んっとね、元気にやってますか?だって」
「こないだ会ったばっかりですよね……」
「かわいい、真希ちゃん……」
メールを見ながらクスクス笑って、石川さんはあたしなんか見ていない。
なんだよ、さっきはふたりでいたいの……なんて言ってたのに。
「泣いてる女の子に蒸しケーキあげて、すごい喜んでくれたんだって」
「はぁ……」
「それが嬉しくって、バイトもがんばれたー!だって」
「……ごっちんらしい」
このタイミングで送ってくるところとか、すっごい憎いくらいにごっちんらしい。
なんだよ、そんなに嬉しそうに返信してさ。そりゃあたしなんかよりも人懐っこくて可愛いだろうよ。
石川さんの最初はぜんぶごっちんが奪っちゃってるわけだし……
あたしなんてキスマークつけてもらったんだぞ……!って誰に言ってるんだよ。
- 665 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:29
-
「ひとみちゃん、そんなお顔しちゃやだ」
頬をふにふにされても嬉しくないです。視線を逸らしていると急に石川さんの両腕が首に絡まり
あたしの膝を跨いで座られた。ぐっと近づいた距離、微かに香る甘い匂いにちょっと頭がクラクラした。
「お膝に乗ってもいい?」
いや、すでに乗ってると思うんですけど?とは思ったけれど「いいですよ、別に……」って呟くと
「ありがと」なんて囁いて頭を引き寄せられた。柔らかい感触に頬うめて、この人には敵わないな……なんて思う。
彼女の胸元に抱かれたまま、そっと見上げるとバチンと視線が合った。
穏やかに綻んだ口元と、スッと細められた目元。あたしを包むように放たれる彼女の空気は
とても心地よく、あたしを安心させてくれる。
愛されてるんだと、その視線から真っ直ぐに伝わってくるようで満たされる。
さっきまでのごっちんへの嫉妬なんて、子供染みてたなと反省。
だって、いま彼女の腕の中にいられるのはあたしなんだから。ごっちんは自分の道で頑張ってるのに
勝手に嫉妬なんかしたら迷惑だろう。
- 666 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:29
- 「ひとみちゃん、かわいい」
「梨華ちゃんのほうが可愛いよ」
「……名前で呼んでくれた」
”嬉しいな”なんて呟いて、あたしを見つめる熱すぎるくらいの視線。
スイッチが入ればあなたは誰よりも魅力的で、あたしをその気にさせちゃうんですから。
ほんとに罪な人だ……
「ゆっくり愛して?」
「じゃ、キスから……」
「キスだけでもいいな。ご飯食べて、お風呂入ったら続きしてね……」
「それまで我慢できるかな……」
「我慢しなくてもいいけどね」
”我慢はカラダに悪いから”そう言って、いたずらに微笑む姿はほんとに魅惑的。
そっと唇が降ってきて重なった。唇の輪郭をなぞるように彼女の舌が動く。
唇をかるくちゅっと吸われたり、甘噛みされたり、その動きに身を任せていると
すこしづつ誘うように舌先をつつかれる。誘い出されたフリをして絡めとる舌の味は
甘ったるくクセになる味。媚薬のごとくあたしを酔わせる。
- 667 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:29
- 「…………はぁ」
「梨華ちゃん?」
「キスってきもちいいよね」
うっとりと囁いてまた唇を寄せる。
いままでだって何度も唇を交わし、カラダを重ねた……でも、あたしは一度だって聞いたことが無いんだ。
あなたが紡ぎだす愛の言葉を。でも、それでも平気だって思ってる。いや、思ってた。
今までに見たどんな本にも「愛があれば言葉はイラナイ」そんな風に書いてあったけど
実際には人間なんて弱いんだから。やっぱり不安になる。この気持ちをカタチにしたいって思うし
カタチにして伝えて欲しいって、そう思ってしまう。
「キスだけじゃイヤ?」
「そんなことないよ」
「ほんとに?」
「うん」
覗き込む瞳が不安そうに揺れるから、今度はあたしから唇を重ねた。
キスだけでも、心はありえないほどに満たされているのに。いまは、ちょっと欲張りになってるみたい。
だから、もっともっととあなたを求めてしまう。唇を離すと、石川さんはそっと耳元に唇を寄せた。
- 668 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:30
-
”ひとみちゃんが好き”
くてっと預けられた体重が堪らなく愛しくて、ぎゅっと腰を抱き寄せる。
耳元で囁かれた言葉は、ほんとにちいさなちいさな囁きだった。
「ひとみちゃんが好きなの」
こんどは真っ直ぐにあたしを見つめ、ハッキリと発せられた言葉。その言葉が胸を締め付けて、呼吸が止まりそうになった。
彼女の愛があたしにだけ降りそそぐ。この瞬間よ、どうか消えてしまわないで……
知らずに零れ落ちた涙の痕を彼女はそっと指で撫でた。キレイに彩られたネイルが美しくキラキラと揺れて見える。
薄いピンクに彩られた視界が滲んで、あたしは自分を解放した。もうがむしゃらに好きだと伝えてしまおう。
拘ってたんだ教科書通りのような恋愛に。愛はこうあるべきだと決め付けて、その通りに振舞ってることがラクだったから。
けれど、ほんとに愛してしまえばそんなカタチ通りになんて愛せるわけ無い。
あらゆる感情が生まれて、どんどん大きくなって、自分じゃないみたいにバカになるんだから。
キレイになんて愛せないかもしれないけど、あたしらしく愛してみせます。
「好きで、好きすぎて」
「ひとみちゃん……」
「梨華ちゃんを誰にも渡したくない……」
この腕の中に閉じ込めてしまいたいとさえ想ってる。
その華奢なようで芯の通った心ごとぜんぶ、誰にも渡したくないって……
石川さんはそっとあたしの髪を撫で、もう一度涙の痕を指先で辿った。
- 669 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:30
- 「うれし泣き?」
「そこには触れないでください……」
「えへへっ嬉しいんだもん。私、気持ち伝えたこと無かったね……」
「あたしはかなり言いまくってましたけど」
「えっちの時だけだよ、でも」
「それでも、言ってましたもん」
「ベッドの中の言葉は信用しちゃダメだって、かおたんが言ってた」
「かおたん?」
「あっ、お姉ちゃん」
そんな言葉を信じてたなんてことは無いですよね?あたしが伝え続けた言葉とか
ぜんぶベッドの中の戯言として受け止めてはないですよね?急に不安になったけど
石川さんは「だいじょうぶ」だと呟いた。「ちゃんと信じてる」って。
「これからは、いつでも言ってね」
「飽きるくらいに言いましょうか?」
「飽きないもん」
「梨華ちゃんからも聞けるんですよね?」
「鬱陶しいくらいに言っちゃうかもしれないよ。それに束縛しちゃうかも」
「かまいません。むしろ喜んで束縛されちゃいます」
「じゃあ敬語も少なくしてね」
「えっと……そうで、そうだね」
「なんか、ぎこちな〜い」
「だって敬語に慣れちゃってて」
「実際にはそんなに年変わらないじゃん」
「3ヶ月ほど違うだけですね」
- 670 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:31
- 「美貴ちゃんが毎週末、さゆのとこに泊まるの。だから、その日は一緒に居てくれる?」
「喜んで……」
必要とされるまで傍に……そう願っていたけど。必要とされてからの方が、より傍にいたいと想う。
もう偽りで自分を装うことも無い関係になれたのかな?その答えは目に見えるものじゃないから、不安に
思う日々が訪れたりして。もっと近づけば近づくほどに、きっと衝突することも増えるんだろうな。
これからのほうがきっと大変だと思う。けど、あたしはそれさえも楽しんでいけるはず。
一緒にいろんなことを学んでいきましょう。お互いにまだまだ子供みたいだから。
もういちど触れた唇の熱と柔らかさ。きっと忘れません。そして、忘れないで……
どんなに離れていても繋がっているから。あたしはあなたの心の傍に居ます。
- 671 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:31
-
******
- 672 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:31
-
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- 673 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:32
- 「美貴ちゃん聞いて!よしざわさんったらね……」
「はいはい。今日は何があったの?」
「めちゃくちゃ優しいの〜」
「……やっぱ惚気かよ。どうせ同じような話でしょ。毎回なんで同じことに感動できるんだよ」
「え〜、同じじゃないよ。日々優しくなっていくんだから〜」
「だいたい、最初から優しかったじゃん……」
「でもでも、その優しさがこう変化して進化していくって言うか〜」
「5分で語れ。ってか終わらせろ」
「濃密な時間だったから、そんなに短縮できるかな〜」
「出来ないなら聞かない」
「わかったよぉ。あのね……」
- 674 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:32
-
梨華ちゃんすっごいキャラが変わりました。
変わったんじゃなくって戻ったのよと圭織さんが言ってました。
圭織さんは石川家の長女で、こないだ久々に会ったんですけど……髪を切っててビックリしました。
あっ、バイト先の店長の保田さんに言われたとおりに、石川家のDNAに弱いらしい美貴は
危うく姉妹制覇をするところでした。今時の女子高生はとっても怖いです(棒読み
その話は、またの機会に…………いまは、思い出したくありません。
以前よりも近づきやすくなった梨華ちゃんの周りには、不思議と人が集まるようになりました。
美貴は重さんに家庭教師をしながら、いろいろと教えて……コホンっ、ちゃんと勉強を教えてます。
同じ大学に行くために勉強頑張るって言ってるんだけど、今の成績なら大丈夫だと思います。
重さんが入学する頃には、普通にいけば美貴は卒業してるんだよね……
でも、院に進んで大学に残るのも悪くないかなとは思ってます。そんで運がよければそのまま大学で何か仕事見つかるかも……
重さんには、まだ伝えてないけどそんなことを考えています。
まっ、そんなこんなで。とにかく平和に暮らしてます。
追伸
なんとなく追伸って使ってみたくって書いてみました。
美貴も何か夢を見つけて、そして前を向いて歩いていこうと想います。
時々、寄り道したり後ろを振り返ったりしながら。ゆっくりと進んで行こうと想ってます。
- 675 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:32
-
「未来への自分へ……っと」
パタンと閉じた日記帳。買ったのに、まったくつけてなかったから。
こうやって何か残そうと想ったんだ。それぞれが同じ時間を、違う場所で違う夢に向かって歩いていってる。
一回きりの人生だけど、自分次第で何通りもの夢が見れる。その軌跡を、こうやって記していこうかなって思ってる。
- 676 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:33
-
大切なことを見失わずに、『自分』を生きていきましょう。
真実は、いつだって心の中にあるから――――――
―――――― 偽りの真実【 了 】
- 677 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:33
-
- 678 名前:夢に唄えば 投稿日:2005/11/23(水) 11:34
- >>647-676 最終話更新終了です。唐突ですが、生ぬるく完結です。
当初は石吉だけを描くつもりが、なぜか藤道を書いてしまってましたw
好きなんですよ、みきさゆ。いしよしも大好きですけど……
更新がいつになるかわかりませんが、今後は番外をちょこっと書けたらなと思います。
たぶん石川家の末っ子のお話をw(あくまでも予定)
>>644さま
ありがとうございます!この二人にも幸せになってもらいたい……
そんな想いで書きました。
>>645さま
ありがとうございます!ほんとにレスが励みになりました。
元来がへタレなので、頂いた言葉一つ一つに勇気付けられました。
今後もまったりと出来れば更新しますので、よろしくお願いします。
>>646さま
ありがとうございます!そういう感じが伝わっていたら嬉しいです。
最後のほうは、いしよし少なくなっちゃいましたけどレスほんとにありがとうございました。
今後ともよろしくお願いしますw
- 679 名前:日季 投稿日:2005/11/23(水) 13:16
- (´-`).。oO(名前欄変えてない・・・orz)
- 680 名前:名無し 投稿日:2005/11/23(水) 17:41
- 完結おつかれさまです。両CPとも幸せそうでなによりです
それにしても、さゆカワイイな〜w
番外編マターリ楽しみにまっています
- 681 名前:29 投稿日:2005/11/24(木) 00:28
- 完結お疲れ様でした。
登場人物それぞれの心の変化、成長を
丁寧に描きつつ、萌えどころ満載っていう
一粒で何度もおいしい・・・
毎回胸いっぱいになりながら読んでました。
本当にどうもありがとうです。
番外、まったりお待ちしております。
どうぞ日季さまのペースでw
- 682 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/24(木) 23:01
- お疲れ様でした。とても毎回楽しみに読ませてもらってましたー。
りかみきチックな始まりにとてもドキドキしながら読んでましたが、
落ち着いた関係になりましたね。
また書いてください。宜しくお願いいたします。
- 683 名前:日季 投稿日:2005/11/30(水) 20:31
- 番外編が思うように進まないので、まったく違うお話を……
春先に書いたものですので、ちょっと季節外れですがよろしくお願いします。
(アンリアル、登場するメンバーの年齢も少し変えてあります)
- 684 名前:日季 投稿日:2005/11/30(水) 20:32
-
『フリージア』
- 685 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:33
- 「よしっ、今日も可愛い!」
鏡の前で、真新しい制服に身を包んでくるっと回って決め台詞。
真っ直ぐな黒髪はずいぶんと伸びた。
トリートメントまで気をつかって完璧な髪の毛だと自負してる。
ママとパパに感謝だよ。こんなに素敵な王子様のいるお家の隣に住んでいてくれて。
待ちに待った高校への進学。ずっとずっと入りたかった高校へ合格したの。
髪型をツインテールに決めていざ憧れの学び舎へ――――――
- 686 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:33
-
******
- 687 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:34
- そう期待ばかりでずっと忘れてた。あなたには彼女がいる現実……
見てしまった。入学して1週間後の放課後の教室でキスをする二人を。
ただ、みつめあう姿に。愛しい眼差しに。
2人の甘い雰囲気が夕闇の教室にとけていく……
涙が頬を伝う。意思とは関係無くただ悲しくて流れる。
どうして現実と言うのはこうも胸をしめつけて、私を傷つけるのだろう。
わかってた、甘い声も優しい眼差しもすべてあの人のものだって。
私は妹のような存在。可愛い可愛いと言われるたびに切なくて。
4月の夕暮れはちょっと肌寒い。なのに私は一人になりたくて屋上に来てしまった。
髪を結んでいたリボンを解いて、軽く手櫛で梳く。
サラサラの自慢の髪は風になびいて、気持ち良さそうに私の気持ちとは裏腹に綺麗に舞う。
扉が開く音に振り向くとそこには――――――
「さゆ?どうしたの」
優しい声色は私の胸に染み込んで痛みと共に鼓動を速める。
どうしてココにきたのだろう?あの人と帰れば良いのに。
朝の約束を思い出す。
”委員会、長引くと帰り危ないからさ、一緒に帰ろう”
黙って振り向いた私の涙に気づいて。優しいあなたはそっと私を抱き寄せる。
その優しさが私を傷つけているのに……。ズルイよ。嫌いになんてなれないんだもん。
- 688 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:34
- あなたの胸の中は甘い香りがして。適度なぬくもりが余計に涙をあふれさせる。
ちょっと戸惑っている背中に腕を回してしがみつくように抱きつく。
今だけ、この一瞬だけでもあなたの腕の中で勘違いしても良いですか?
「さ〜ゆ。綺麗になったね?」
ちょっとおどけたように、でも私の気持ちを探るように向けられた眼差し。
髪を撫でながら話すあなたの真意は、ただの妹みたいな存在に贈る言葉。
「スキです」
なのに私の口から漏れ出た言葉は伝えるつもりの無かった言葉。
だってわかっているから。あなたの答えは。
「……ごめん。スキな人いるんだ」
「石川先輩?」
だってあんなに優しい瞳であの人を見てる。あんなに甘い声で”梨華ちゃん”って呼んでいる。
綺麗で、なのに気さくで可愛らしい人。
「彼女がいるの、知ってます」
”だから、こんな風にされると嬉しいけど……辛いです”
自分勝手な私の最後の我侭きいてくれますか?無言で頷いたあなたに思い切って話す。
『 初めての人になって欲しいんです。 』
- 689 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:34
-
- 690 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:35
-
何かを勘違いしたらしいあなたは焦ったように言葉を繋ぐ。
「違います!そんなことじゃないです…… 」
”キスしてください”
純粋な気持ちです。私に教えてください。キスの味を……
戸惑うあなたに顔を向けて、その綺麗な瞳に私の姿を確認してゆっくり瞳を閉じる。
隠しきれない震えが伝わりながら重なるシルエットはただ切なくて……
もうあなたに恋なんてしない。もうあなたを困らせたりしない。
ただ好きだったことは忘れたくない。あなたは素敵な私の――――――
いまこの一瞬だけ。あの夕日が沈むまでの時間だけでも。
私だけの王子様だと想いたい……
- 691 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:35
-
******
- 692 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:35
-
******
- 693 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:36
- 「で、キスしたの?」
信じらんない。何考えてるの?そりゃあね子供の頃から可愛がってるのは知ってるよ?
でも、まだ子供だって言ってもねもう15歳だよ。
アタシより背が高くて胸も───なんだか良いプロポーションしてるし……
怒りを通り越して呆れ口調のアタシの前にいる当人はというと……
どうして微笑んでるのよ、この人は。
「綺麗になったなぁって想ったよ。ただ純粋に妹みたいな存在としてね」
「だったら最後のお願いだからって……キスする?」
少しの沈黙。ニヤついた顔にますます呆れる。
「だから誰も唇にしたとは言ってないじゃん」
「えっ?」
「おでこに軽くキスしただけだよ。これで元の幼馴染にもどろうってね」
「おでこ……」
”ちゃんとしたキスは梨華ちゃんとしかしないよ”
そんな風に言われて見上げた瞬間にキスされる。
いっつもそう、こんな風に奪われて。心ごともっていかれて。
貴方のことどんどん好きになる。
- 694 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:36
-
「さゆは白いフリージアなんだよ」
「……何それ?」
「昔、さゆがフリージアが好きだって言ってたんだけどね。
ちょこっと調べたわけよ。赤は純潔、白はあどけなさって花言葉なんだ」
黄色は無邪気だったかな。なんて花言葉解説をする。
「ほら、まださゆって”あどけない”の方が似合うでしょ?肌も白いしさぁ〜」
ジトーっと睨むと、しまったという顔をするひとみちゃん。
「じゃあ、黄色はひとみちゃんだね」
「無邪気、アタシ?」
「無邪気で残酷だよね」
ちょっと困ったみたいに笑う。
いっつも子供のように真っ直ぐで。それで人を傷ける事だってあるんだよ?
「さゆ、傷つけたかな……」
「でも変に期待もたせるよりは良いでしょ?」
「うん。そのつもりで断わったんだけどな。きっと良い人みつかると思う、さゆなら」
「可愛いもんね」
「うん、可愛い」
ムッとした顔をしたら素早くキスをされて誤魔化される。
「梨華ちゃんが1番だよ」
っていうか、梨華ちゃんとさゆを可愛いって言うのは意味が違うんだよ。
わかるよね?
そんな風にもったいぶる。わかってる。わかってるけどね……
時々すごく不安になるんだよ。本当にアタシのことが好きなのかなって。
貴方は優し過ぎるから。
- 695 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:37
- 「あぁ、でも心配でもあるんだよね。」
変な虫がつかないと良いけど。さゆを大切にしてくれる人が見つかると良いなぁ。
なんだかお父さんみたい。って噴出すとそうかもって納得しちゃう単純な人。
あなたの優しさは色んな人へ向けられ過ぎている。
そろそろ、その優しさを一人に向けても良いと想わない?
黙って頷いて微笑む姿を忘れない―――――― ちゃんと約束は守ってね?
- 696 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:37
-
- 697 名前:フリージア 投稿日:2005/11/30(水) 20:37
-
おしまい。
- 698 名前:日季 投稿日:2005/11/30(水) 20:42
- >>684-697 短編更新終了です。
>>680さま
ありがとうございます。道重さん可愛いですか?うれしいw
>>681さま
ありがとうございます。いつも暖かいレスをいただいて私のほうが胸いっぱいですw
>>682さま
ありがとうございます。楽しんで読んでいただけて良かったです。
藤石でドキドキしてもらえたようで、嬉しいです。
- 699 名前:名無し 投稿日:2005/11/30(水) 23:00
- さゆぅ。。。>>690あたりに騙されたーw
余裕なよっちゃんがイイ感じです
- 700 名前:日季 投稿日:2005/12/01(木) 12:22
- >>683-697の続編です。
『クローバー』
- 701 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:22
- 「美貴ちゃんの好きなお花は?」
「はっ?なんでいきなり好きな花?」
登校して教室に入るなり美貴の所に駆けより聞いてきた梨華ちゃん。
おはようも言わずに問いかけられた脈略の無い質問。
「ほらなんでも言って?」
「いや、だからぁ……」
スルーですか?美貴の些細な質問はスルーなんですか?
「最近ね、よっすぃにもらったの」
「よっちゃんに?何を?」
「花言葉の本」
それで好きな花ね。っていうかそんなに興味無いし。
でも答えないと―――――― ほら潤々した瞳で見てくるわけよ。
そんな顔しても美貴には通じないんだけどね、泣かせたら隣のクラスから
おっさん……じゃなくてよっちゃんが飛んでくるからなぁ。
- 702 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:23
- 「あえていうなら、ひまわり?」
っていうか、ひまわりしか知らん。それは大袈裟だけど。無難でしょ?
席に座って何やら神妙な顔で本開いてるけど、そういう本は気楽に見ようよ。
「う〜んとね、ひまわりの花言葉はぁ」
”あなたをみつめる”だってぇ〜。
そう言ってなぜか頬を赤く染めた梨華ちゃんが上目遣いに美貴を見る……
小さい時から見なれてるけど梨華ちゃんってキショ───嫌いじゃないけどね。
立ったままなのを思い出して隣の席にゆっくりと座る。
目線が同じ位になっても甘えた角度をそのままに見つめてくる梨華ちゃん。
おっさ……よっちゃんなら理性が吹き飛んでるんだろうなぁ。
「別に梨華ちゃんを見つめてないから」
「分かってるってば〜。そうだ覚えてる?」
「何を?」
「ほら小さい時にアタシが泣かされてたら、美貴ちゃんいっつも助けてくれて」
「あぁ、そうだったね」
「すっごく頼れて。すっごい好きだったのになぁ」
「はいはい。美貴も大好きでしたよ」
”やっぱり〜?”なんて無邪気に笑ってる梨華ちゃん。
そんな子供っぽいところは変ってほしくないって思う。
普段はお姉さんぶってカラ回りしてるから。
- 703 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:23
-
「美貴ちゃんって無愛想なのに必死でアタシのこと元気づけようとして」
「無愛想は余計です」
「ぎゅーって抱きしめてくれてさ。河原に咲いてるお花をくれたの」
「そうだっけ?美貴、花なんかあげた?」
お母さんとかのマネして、梨華ちゃんが泣き止むかなって子供心に思ったんだよね。
それでよく”美貴がいるから泣かないで?”って言って、ぎゅって抱きしめたのは覚えてる。
「うん。いっつもね、くれてたんだよ」
「河原に咲いてる花ってなんだろう……」
「昨日、よっすぃと見てきたんだけどね……」
「ふ〜ん。ってそれクローバー?」
「そうだよ。懐かしいでしょ?」
「いや、それって花なの?」
「白いお花が咲くんだよ。まだ咲いて無かったの」
そっか白い小さい花が咲くんだ。河原に咲いてたらそれをよく梨華ちゃんにあげてた。
クローバーだったのか、知らなかったなぁ。
- 704 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:23
- 「それでね、花言葉が……」
耳打ちされた言葉に目を見開く。へえ〜、5歳の美貴ってば梨華ちゃんが好きだったとか?
いやいや、そんな花言葉知ってたわけじゃないから違うだろう。
美貴が一人で百面相していたのか、梨華ちゃんは慌てて言葉を付け足す。
「でも”幸運”って意味とか、他に違う意味もあるし」
「だよね。梨華ちゃん……なんてありえないもん」
「ちょっと〜、ありえないまで言わなくても言いじゃん」
「まぁまぁ。でも美貴にとって梨華ちゃんは……」
って何を言いかけてるんだ。”梨華ちゃんは特別”なんて言ったらつけあがる。
それに……ものごっつい真顔で言うには恥ずかし過ぎる。
「美貴ちゃんにとってアタシはな〜に?」
「何でもない、忘れて」
気になるだの何だの言ってる梨華ちゃんを無視する。
- 705 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:24
- いつからだろう、泣き虫だった梨華ちゃんがあまり泣かなくなって頼れるようになったのは。
普段はつっこんでばっかりで、わざと素っ気無く接するけど。
家族と喧嘩したり、何かあると素直に自分を出せるのは梨華ちゃんの前だけで。
この年になっても抱きしめられるぬくもりは特別で甘えてしまう。
でも何かが違うんだ。うまくあらわす言葉を美貴は知らないけど。
梨華ちゃんじゃ足りない何か……。
いつの間にやら梨華ちゃんの隣には、よっちゃんがいることが当たり前で。
寂しいって想う気持ちも確かにあると思う。
でも、それ以上に梨華ちゃんに笑顔でいてほしいって思うから、幸せそうな2人を見てると
美貴まで嬉しくなるんだよね。
「美貴ちゃん、どうしたの?」
心配そうな声に視線を戻すと不安そうに揺れる漆黒の美しい瞳。
よっちゃんが失いたくない、守りたいって言ってた宝石のような輝き。
ねえ、美貴にもそんな宝物ができるのかな?
「梨華ちゃんは美貴の特別だから」
美貴の言葉に反応が出来ずに、きょとんとしている梨華ちゃん。
なんども瞬きをして美貴の言葉を口の中で反復している。
「これからも無敵の幼馴染でいよっか?」
「う、うん!そうだね、美貴ちゃん大好き!?」
そういって座ったまま抱き着いてくる……ぐえっ、あんた力強過ぎですから!
- 706 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:25
-
―――――― 視線が突き刺さってる気がするんですけど?
梨華ちゃんごしに教室の入り口を見る。
いたよ、すっごい怒り泣きみたいな顔で見てる人が……
イタズラ心で梨華ちゃんの背中に腕を回して抱きしめてみる。
でも、まったくドキドキしないんだ。家族のように落ちつく場所ではあるけど。
梨華ちゃんの柔らかな感触と、甘い香りに包まれると安心するんだよね。
もうちょっと遊んでみようかな?甘えるように鎖骨あたりに擦り寄って顔をうめる。
痛い視線にまったく気付いてない梨華ちゃんは美貴の頭をやさしく撫でながら、
”髪伸びたね〜”なんて呑気に呟いてる。
「美貴ちゃん、どうしたの?甘えたさんだね」
「思い出したよ美貴。梨華ちゃんになんで花をあげたのか」
クローバーは「シロツメクサ」って言うんだ。
『シロツメクサみたいな小さな花の生命力は、尊いほどに強いのよ。』
お母さんの言葉は少しだけ難しくて、幼い美貴には理解できなかったけど。
けど、なんとなく”花は強いんだ”ってことは理解できた。
強くなって欲しくって。自分も強くなりたくて。河原に咲くこの花を選んだ。
- 707 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:25
-
- 708 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:26
- 目を閉じると規則正しい梨華の鼓動が、
美貴の頬に直接響いてきて、懐かしい記憶が甦る。
「ずっとず〜っとおともだちでいてね?
みきちゃんのこと、だいすきなんだもん」
「うん。みきも、りかちゃんがすきだよ
みきがそばにいるから、もうなかないで?」
美貴が傍にいる時は、泣かないで笑っていてよ。
いろんな感情は本当に大切な人に───アイする人に見せれば良い。
だから美貴の前では笑っていて?君の笑顔が大好きだから。
「おしばなっていうんだって、みきちゃんがくれたおはなでね
ままがつくってくれたの。ほら、りかのもあるんだよ」
「すごいね〜。たいせつにするよ」
これからも1番の親友でいるよ。
忘れてないから、小さい時に交わした約束。
2人を繋ぐシロツメクサのお守りだけが知ってる。
- 709 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:26
-
”ふたりがいつまでも なかよくいられますように……”
指切りのかわりに”ちゅっ”って触れるだけのキスをした幼い二人。
シロツメクサのお守りだけが見ていた。
梨華のぬくもりを感じながら、美貴は次々に思い出される幼い日の自分を懐かしむ。
”でも指切りしないで、なんでちゅーしたんだろ?”
淡い淡い―――――― 本人がちっとも気付かなかった恋。
美貴の初恋は、始まることもなく終わりを告げていたようだ。
- 710 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:26
-
- 711 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:27
- いい加減やばそうだから、梨華ちゃんからゆっくりカラダを放すと
真顔のよっちゃんがこっちに歩いてくる。
どうやら梨華ちゃんの『美貴ちゃん大好き!?』あたりが、よっちゃんに聞えたらしい。
それで、こっちの教室を覗きに来たようだ。
「なんでミキティ抱きしめてもらってるんだよ……」
「あははっ。美貴達、ほら幼馴染だし」
「や〜ん、ひとみちゃんがやきもち妬いてるぅ♪」
ぶりぶりなポーズで嬉しそうに美貴から離れた梨華ちゃんは、よっちゃんの腕にからみつく。
おいっ、顔が緩んだぞ。絶対、腕になんかあたってるんだろ?
梨華ちゃんは分かってるんだか、分かってないんだか───無自覚って怖いね。
じゃれてる二人を見て美貴は ぼんやりと想う。
こんな風に誰かと想いあう日が、自分にもくるんだろうか?と。
- 712 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:27
-
******
- 713 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:27
-
******
- 714 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:28
- 「絵里は、好きな人いるの?」
「急に何?」
「なんとなくね……。恋がしたいの」
「また唐突だねぇ、さゆは」
苦笑する絵里に、ニッコリ完璧な笑顔を向ける。
あの日の涙は、あの屋上でおしまい。
だってアタシの長所は『あまり気にしない』なのだから。
絵里の家の近くの河原で見た2人……
無邪気に甘える吉澤さん。甘やかす石川さん。
とても入りこめない雰囲気と、理想とかけ離れた空間。
小さい頃から、ただカッコイイ王子様に憧れて。
でも王子様なんて、私が勝手に作り出した幻でしかなかった。
ありのままのあなたをスキになれない私が、あなたに選ばれるわけは無かった。
「絵里、今日も遊びに行って良い?」
「え〜、またおやつ目当てでしょ?」
「だって絵里の家のおやつ美味しいんだもん」
「まぁ、良いよ。今度さゆの家にも行きたい」
「そうだね、さゆみの家の方が近いし」
そんな、何でもない朝のやり取りが心を軽くしてくれる。
思い出さないように、悲しい気持ちに胸が痛まないように。
授業に集中したり、大好きな自分の顔を見ていたり、絵里とおしゃべりしたり。
きっと、こんな風に何もかも忘れていくんだと思いたい……
- 715 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:28
-
でも結局は強くなんてなれなくて。こうやって屋上にいる私。
この場所でだけなら泣いても良いよね?そんな風に自分を落ち着かせて。
髪の毛切ろうかな?色を抜いてみようかな?
ピアス開けたり、ちょっと制服を着崩したりしてみようかな?
そんな何でも無いような事でさえ、あなたを思い出して。私の中の全てが、あなたに染まっています。
昼休みの喧騒から、かけ離れた空間。本当は入っちゃ行けない屋上。これも、あなたが教えてくれた場所です。
涙は風に飛ばされて消えていく。
何一つ、あなたを忘れていない自分の弱さが悔しいです。
- 716 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:29
-
「ねえ、飛び降りたりしないよね?」
ふいに後ろから声がした。
びっくりして振り返ると、ひどく不機嫌な顔をして立っている人がいた。
その眼差しはすごくキツくて、凛として真っ直ぐな怒りの感情を私にぶつけてくる。
端整な顔立ちで、風にサラサラと揺れる髪の毛も凄く綺麗なんだけど・・…
(おでこ、広いですよ?)
なんて思ってしまった自分の心の声に、つい笑いが漏れた。
なおいっそう怪訝な顔で私を見上げながらその人がもう一度口を開いた。
「急に笑わないでよ。こっちは昼寝邪魔されたんだから」
鼻にかかったようなクセのある声が低く不満を吐き出す。
いや、昼寝邪魔したって。私、別に喋ってないんですけど?
それとも独り言とか喋ってたのかな?絵里じゃないんだから違うよね。
- 717 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:29
- 「でさぁ、何してんの?手すりの所でそんな思いつめた顔されたら
すっごい気になるんですけど?」
「えっと、ちょっと……」
「ここって立ち入り禁止なんだよ。知ってるよね?」
「はぁ、まあ……」
アナタだって入ってるじゃないですか?とか言いたいけど、なんか怖そう。
私より背が低いのに、迫力があるというか。校章の色からして上級生だと分かるし。
「とりあえず教室帰りなよ?死のうなんて考えちゃダメだからね」
「……別に死のうなんて思ってません」
「それなら良いけど。とりあえず寝るから」
とりあえず寝るからって……
無造作に横になって目を閉じてしまった。なんだろうこの人。
しばらく、あっけに取られて見ていた。
ふいに閉じられていた瞼がゆっくり開かれ、私を見上げてる。
なんだかイタズラに光るその瞳に見つめられて、心臓がドクンと大きく跳ねた。
気のせいだ、ビックリしたから。そう自分に言い聞かせる。
- 718 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:29
- 「あのさ、さっさと行かないと丸見えだよ?」
「なにが……って、先輩のバカ!スカート覗いて楽しいですか?」
「あ〜、バカって言った!先輩に向かって。それに見てないよ!」
おどけたように上半身だけ起こして言う姿は子供みたいで。
なんだろう、この人のこと嫌だって思うのに話してるのが苦痛じゃない。
そんなことを思ってると昼休み終了のチャイムが鳴る。
「それじゃあ、失礼します」
そう言って頭を下げた。顔を上げると先輩が立ちあがって、スカートについた埃を掃っているのが見えた。
授業はちゃんと受けるんだ、なんてぼんやり思う。
- 719 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:30
- 「ピンク好きなんだね?」
唐突に発せられた言葉に絶句する。最悪……
やっぱりスカートの中、見たんじゃないですか?
何でもないような顔で私の隣をすり抜ける先輩から、あの日と同じ匂いがした。
―――――― どうして?
あの日あの時、あなたの腕の中で感じたものと同じ香り……
止まったはずの涙が、溢れ出そうになって私はキツク瞼を閉じた。
- 720 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:30
-
- 721 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:30
- 「あっ……」
放課後、絵里の家に向かっている途中で
河原で話す二人を見つけて、思わず声を上げてしまった。
絵里は不思議そうに私を見ていたけど、何でもないよって言うと再び会話を始めた。
河原に居たのは石川さんだった。もう一人は───屋上に居た先輩だ。
2人は楽しそうに笑いながら話していた。
昼休みに屋上で見せた表情なんかと違って、安心しきった笑顔。
溢れそうな笑顔を石川さんに向けている。
何かを言う度に、じゃれるように引っ付いたり離れたり……
その度に先輩が見せる笑顔に、少し気分が悪くなる。
「さゆぅ、どうした?」
「ううん。何でもないよ」
「ほんとかなぁ…なんか変だよ〜、悩み事?」
「な〜んでもないって。悩みはひとつだけあるなぁ。
さゆみは、なんでこんなに可愛いのかって毎日思うよ」
「はいはい。さゆより絵里のが可愛いもんね〜」
「さゆみだもん」
「絵里ですぅ〜」
「さゆ!?」
「絵里!?」
エンドレスで続く意味のない議論……
こんな時でさえ、冷静に河原の2人を映し出す大好きな自分の瞳が憎らしい。
2人の姿が見えなくなっても、胸に広がるもやもやとした霧は晴れなかった。
- 722 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:31
-
******
- 723 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:31
- 次の日。
放課後、先に絵里が帰ったので一人屋上へ。
変なの。
目を閉じると、昨日の先輩の顔が浮かぶ。
それと同じくらい、あの鼻腔をくすぐる優しい香りも放れない。
甘くて、でも切なくなる───そんな香り。
最近買い換えた鏡は、前よりは小さくなったのに
まだ大きいとか言われるけれど、気にしない気にしない。
可愛い自分の顔を見ていれば気分は晴れるから。
でも今日は違う。
なんだろう、なにがこんなに胸を締め付けるんだろう。
また成長してるのかな?なんて自分の胸を見ていると、扉が開く音がした。
深呼吸して、ゆっくり振り返る。
- 724 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:32
- 「今日は泣いてないんだ」
昨日のように怒った顔ではなくて、ちょっと半笑いの先輩が居た。
ブレザーのポケットに手を入れたまま、私の隣にきて校庭を見下ろす。
「おっ、梨華ちゃんとよっちゃん」
その声に下を見ると仲良く下校する二人の姿が見えた。
その二人を見る先輩の瞳はやさしく細められていた。
綻ぶ口元が、なぜか幸せそう。
ん?あれっ……前は2人が一緒に居るところを見るのが辛かったのに。
前ほどは切なくならない。
「あの2人お似合いだよね〜、って君に言っても仕方ないか」
先輩のほうへ顔を向けると、ニッと子供みたいに無邪気に笑ってた。
その何気ない笑顔に心音がはね上がる、カラダ中に鼓動がうるさく響いている。
そして、ふっと疑問に思う。今日はあの香りがしない。
初恋の痛みを思い出す、優しくて甘いあの匂い。
- 725 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:32
- 「先輩、香水は?」
「へっ?なに急に」
「昨日、甘い匂いがしたから……」
「あぁ、あれね。普段はつけないよ。
多分ね、梨華ちゃ───友達の香水だと思うよ」
「……石川さんですか?」
「あれっ、梨華ちゃん知ってるの?」
「はい、まぁ……」
先輩はビックリって顔をして、きょとんとしている。
「えっと、美貴のことも知ってる?」
「いえ、先輩は知りません」
「そっか。でもなんで知ってるの?その前に美貴は、藤本美貴っていうんだ」
「……私は道重さゆみです。吉澤さんの幼馴染なんです。だから石川さんのことは知っています」
「あっ、よっちゃんの近所の子だっ! 自分が大好きな!?」
「えっ?まぁ、そうですけど……」
ブハって噴出して笑い出す。目にちょっと涙まで浮かべて。
なに、この人?やっぱり失礼だ。
- 726 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:33
- 「それで、あの鏡のデカさだ・・・ありえなくない?
ねえ、でもいいよ。面白い。重ちゃんは面白い!?」
重ちゃんって…。いきなり馴れ馴れしいんですけど?
というか香水の話も曖昧になっちゃったし。
どうして石川さんの香水の匂いが、藤本さんからするんだろう?
まだ隣で笑ってた藤本さんは、私の不機嫌な顔に気付いたのか
なんとか笑うのを堪えて”ごめん、ごめんってば”と口にした。
「えっと、なんだっけ。そうだ香水。あれね、昨日じゃれて梨華ちゃんに抱きつかれたから。
それで匂いがうつってたんだと思うよ」
「そうですか……」
「香水が、どうかしたの?」
「いえ……」
前に吉澤さんからも同じ匂いがしたから。
あの日、あなたの腕の中で感じた匂いは石川さんのものだった。
吉澤さんは石川さんのもの。
そうあの香りが言っているような気がした。
私は石川さんの香りに包まれていただけだったんだ。
- 727 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:33
- 「重ちゃん、大丈夫?」
優しい声色に目を向けると、心配そうに私を見つめる藤本さん。
どうしてだろう、まだ吉澤さんの姿を見ると少し辛い。
それ以上に藤本さんにそんな顔をされたら、私は泣きたくなるんです。
「さゆみです」
「はっ?」
「重じゃなくって、”さゆみ”です」
「えっと……それは美貴にそう呼べと?」
藤本さんは意味深に笑って見せてから
クセのある甘ったるい声で私を呼んでくれた。
「じゃあ呼んじゃおう」
”さゆみ”
その響きはとても優しくて、また泣きたくなるんです。
- 728 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:33
-
藤本さんは、わ〜恥ずかしいよぉ。なんておどけた後に、手すりに顎を乗せて
私を上目遣いで見上げる。
(か、かわいい……)
いや、何を考えてるの……。藤本さんは確かに可愛いけれど。
吉澤さんより、うんと背が低くて。もしかしたら石川さんよりも低いかも?
それに、それに───すっごく失礼な人。スカートだって覗くし、人のこと見て笑い出すし。
何でもない。私はなんとも思ってないもん。
でも優しい人かもしれない。
泣いてた理由を1回も聞いてこない。
- 729 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:34
- 「そんなに見つめられると、美貴照れるんですけど?」
「見つめてません!」
「まぁ、良いけど。そろそろ帰らないと日が暮れちゃうよ?」
「えっ?……はい、もう帰ります。」
さよなら、そう呟いて逃げるように屋上を後にする。
”気をつけて帰るんだよ”と聞えたけど振りかえらなかった。
ゆっくり階段を降りて気持ちを落ち着かせる。
いつもより速くなる鼓動に、なんだかムカムカとして気分が悪い。
私、何に動揺してるんだろう?
正門に向かう途中で屋上を見上げると、藤本さんの姿はなかった。
ちょっとだけ残念だなって思ってしまう。
今日は何も考えずに早く寝よう。
- 730 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:34
-
******
- 731 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:34
- 昨日は、ぜんぜん眠れなかった。
瞼を閉じれば、すぐに藤本さんの顔が浮かんでは消えていく。
昨日は帰りの心配とかしてくれたけど、あの時間で日が暮れるわけないじゃん。
あの人も変だけど、私もなんで気付かなかったのかな。
ボーっと歩いていると、門の所で意外な人に声をかけられる。
「おはよう、さゆちゃん」
「……おはようございます」
石川さんだ。2人で話すのは初めてなんだなぁ。
「朝は一人?」
「はい。家も近いし友達は反対方向なので」
「そっか、よっすぃの家の近所だもんね。近いね」
よっすぃ?あれっ、ひとみちゃんって呼んでたような気がするけど。
でも、自分も小さい時に呼んでた呼び方では随分呼んでいないなぁ。
- 732 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:35
- 「石川さんは、一緒じゃないんですか?」
「よっすぃね、朝から迎えに行くって聞かないんだけど。でも断わったの。朝はゆっくり寝てって。
ほんとは朝も一緒にいたいって思ってくれて嬉しいけど、無理はして欲しくないから、別々に来てるの」
そう言う石川さんの笑顔はとても優しくて。
自然と隣に並んで歩いている石川さんの横顔を盗み見る。
ちょっと、顎が……。でも綺麗な人だな。
「あと私の家、よっすぃの家とまったく反対方向なんだ」
「そうなんですか?」
「うん。ほら河原があるでしょ。あそこのすぐ近くだよ」
「ありますね。私の友達もそこの近所ですよ」
「そうなの?1年生だよね───もしかして、絵里?」
「はい、そうです。石川さん知ってるんですか?」
「うん、向かいのお家なの。幼馴染だよ」
絵里のお向かい───表札見てなかったから気付かなかった。
藤本さんも近くに住んでるんだろうか?
でも、いきなり聞くのも変だよね。藤本さんのお家はどこですか?なんて。
- 733 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:35
- 「あの、よっすぃって呼び方……」
「本人以外と話す時は照れちゃって。あだ名で呼んじゃうの」
「なんとなく分かります。私も小さい時は呼べたけど、今は無理です」
「そっかぁ。なんて呼んでたの?」
「……ひーちゃん」
ひーちゃん。
いつも優しくて───なんだろう傍にいるだけで安心できた。
こないだまでは本当に好きで、大好きで。考えるだけで胸が痛かったんだっけ。
なのに……
いつのまにか涙は違う理由で、流れようとしている。
だけど認めたくなくて、なんとか流れないように頑張ってる。
視線を石川さんに戻すと、ニコニコと私を見てくれていた。
- 734 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:36
- 「ひーちゃんかぁ。可愛らしいなぁ、今度呼んでみようかな?」
「なんとなく石川さんの声に、似合いそうですよ?」
「ほんと?じゃあ、呼んじゃおう♪」
なんて無邪気に笑いかけてくれる。
私は、その笑顔に自然と笑い返すことも出来た。
石川さんは、大人っぽく見えたけど喋ってみると、雰囲気はとても可愛らしい。
そして、微かにあの香水の匂いがしていた。
やさしくて甘い───石川さんにぴったりだなって思う。
その香りで、あの日の痛みを思い出すことはないけど
別な感情に胸の中を支配されていく。
私はきっと、この香りから逃げられない。
そんな風に思いながら、手を振る石川さんに頭を下げて教室に向かった。
- 735 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:36
-
- 736 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:37
- 「絵里、おはよ」
「おはよう〜、今日は早いね?」
「うん」
だって寝れなかったんだもん。
絵里には寝不足だから大人しくしてるね。って言って自分の席につく。
授業中、何も考えないようにしていた。
きっと考え始めると、醜い感情にカラダ中が侵食されてしまう。
そんな私はきっと世界で1番、可愛くないと思うから。
机に突っ伏して目を閉じる。
やさしい笑顔、かわいらしい声、あまい香り。
綺麗に澄んだ瞳も、石川さんのすべてが魅力的ですね?藤本さん。
- 737 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:37
- 1時間目が終わった時、絵里が心配そうに私の傍に来た。
「さゆ気分悪いんだったら、保健室行く?」
「ううん。もうちょっと頑張ってみる」
「無理しちゃダメだよ?」
「うん。ありがと、絵里……」
あのね、ちょっと聞いても良い?というと絵里は首を傾けて私を見た。
すぐにふにゃっと力を抜いて笑いかけてくれる。
あぁ、なんだか癒されるな絵里の笑顔。余分な力が抜けるから脱力系かな。
「石川さんと幼馴染なの?」
「石川───梨華ちゃん?」
「そう。今朝ね、門の所で偶然会ったから少しお話したんだ」
「うん、幼馴染。絵里の家のまん前が梨華ちゃんの家で、その隣が同じ3年生の、藤本美貴ちゃんの家だよ」
あっさりと分かった事実。そっか、幼馴染で同い年で。
きっと小さい時から一緒に居るんだ。
- 738 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:37
- 「絵里は仲良いの?」
「小さい時はよく遊んでくれたけど、最近は遊んだりはしてないなぁ
今でも可愛がってはくれるし、仲は良いと思う。」
「優しい?」
”藤本さんは”って言葉を飲みこむ。絵里は知らないんだ。
私が藤本さんを知っている事。なぜか藤本さんを見ると泣きたくなる事も……
「うん、2人とも優しいよ。梨華ちゃんは見た目通り
美貴ちゃんは見かけ以上に…ってさゆは知らないか?」
「えっ、うん……」
「梨華ちゃんと美貴ちゃんは年も一緒だから、いっつも一緒にいたなぁ。
私も同い年の幼馴染ほしかったもん」
「そうだね、年が一緒って良いよね」
「さゆも幼馴染、2歳上だもんね」
そう、2歳下だから。子供にしか見られなくて。
妹としてしか見てもらえない。きっと同じ事になるんだろうな。
- 739 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:38
- やっぱり気分がすぐれなくて、2時間目が終わると保健室に行く事にした。
絵里はついて行くって言ってくれたけど、断わった。
ごめんね、ちょっと1人になりたいんだ。
保健室で、とりあえず頭痛がひどいことを伝える。
元々、白い肌が幸いして?顔色が相当悪くなってるらしく
先生はすぐに休むように言ってくれた。
少しずつ薄れていく意識の中で、浮かんだ藤本さんの笑顔。
どうか、『夢の中には出てこないで……』と願う。
涙が頬を伝っている気がしたけれど、私はそのまま眠りに落ちていった。
- 740 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:38
-
- 741 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:38
- ガタッと言う椅子のずれる音に少しだけ目が覚める。
でもまだボーっとした視界に入ってきたのは――――――
「……ひーちゃん?」
「さゆ、起こしちゃった?ごめんね」
首を横に振ると安心したように笑ってくれた。
小さい時から変らない優しい笑顔に私もなんだか安心する。
「でも久しぶりだね、さゆがそう呼ぶの。なんか嬉しいな」
「あっ……」
今朝、石川さんと話してたからかな。懐かしい響きに嬉しそうに笑ってる。
少しだるい体を起こすと、もう少し寝てなきゃって言われたけど
朝よりは頭痛もしないし、起き上がることにした。時計を見るともう昼休みだった。
- 742 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:39
- 「気分はもう良いの?」
「うん、寝不足なだけだから。寝たら楽になりました」
「そっか。無理しないで帰らせてもらう?しんどかったら送って行くし」
「大丈夫、午後の授業は受けます。吉澤さんも体調悪いんですか?」
「あたし?元気だよ。梨華ちゃんの幼馴染の子が連絡くれたんだよ。
さゆが保健室にいるって。なんだっけ、さゆが友達になった…
なんとかちゃんが連絡くれて。ちょっと心配だから見に来てみたんだ」
「絵里ですか?……すいません」
「謝らなくて良いよ。これから委員会でどうせココの前、通る予定だったから」
そうだ、吉澤さんは生徒会長さんだっけ?時々、昼休みに話し合いとかあるって言ってたなぁ。
無理しちゃダメだよって言って頭を撫でてくれる時、
吉澤さんから、あの香りがしたけど、不思議と嫌な気分はしなかった。
- 743 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:39
- 「顔洗ってから教室戻った方が良いよ」
泣いたでしょ?涙のあとがついちゃってるよ。
そう言われて頬に触れるけど自分では分からなかった。
「どした?ひーちゃんには言えない事かな?」
少しだけおどけてるけど、すごく心配そうな目をしてる。
私は何も言えずに、溢れそうな涙を堪えた。
引き寄せられそうになって、咄嗟に避けてしまう。
今までなら迷わず飛びこんだその腕の中は、私のものじゃない。
そう、わかっているから。だから、もうあなたには甘えられない。
そして、できればあの人に
石川さんの香りから逃れる魔法をかけてもらいたい。
- 744 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:40
- 「あの───気になる人が出来たんです。だから……」
「……そっか、そうだね。優しくすると辛いって言われたのに、また同じことしようとしちゃったよ。
でも、あたしは何があってもさゆの味方だからね?」
「うん。ありがとう・・・」
ありがとう、ひーちゃん。
また昔のように笑いあえることが、純粋に嬉しい。
あの日以来、どうしても避けてしまってたあなたとの距離。
これからも大切な人。大切な幼馴染だから、変らずにいたい。
あなたも、私にとってちゃんと特別なんです。
だって、その笑顔に勇気をもらってる。
言葉で現すことが出来ないくらい、あなたは素敵な人。
だから、見守っていてください。
- 745 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:40
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- 746 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:40
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- 747 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:40
- よっちゃんが、生徒会で呼び出されたから暇とか言って久しぶりに梨華ちゃんが屋上に上がってきた。
いつも2人はお昼ご飯を一緒に食べてるけど、美貴は遠慮して屋上にいっつもきてる。
一緒にいると、2人のやりとりが甘すぎて昼ご飯
吐きそうになるんだもん。グスン・・・とか言ってキショッ。
「美貴ちゃん、お昼休みいっつもここに来てるんだね」
「うん、寝るには最適でしょ?人来ないから」
「鍵の場所知ってる人、少ないからね」
「なんか、よっちゃんの幼馴染も来てたな」
「さゆちゃんに会ったの?」
「2回ほどね……別に話してないけど」
それは少しだけ嘘。
でも話したって言ったら梨華ちゃんは色々と聞くだろう。
そしたら、あの子が泣いてたことまで喋っちゃいそうだし。
しずかに涙を流して思いつめている表情に、理由を聞く勇気はなくて。
わざとぶっきらぼうに話しかけたんだっけ。
- 748 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:41
- 「ふ〜ん、きっと美貴ちゃんが恐かったからお話出来なかったんだね」
「いや、失礼だよ。美貴そんなに恐くないって」
「美貴ちゃんは慣れるまで恐いみたいよ。よっすぃだって恐かったって」
「あんにゃろう……」
誰が梨華ちゃんと話すきっかけを、つくってやったと思ってるんだ。
わざと梨華ちゃんにくっついて、おちょくったりもしたけど……
1年の時に同じクラスになった美貴とよっちゃん。
違うクラスだけど、美貴のところに放課後になると必ず迎えに来る梨華ちゃんに
一目惚れしたよっちゃん。
美貴に梨華ちゃんの事どう思ってるのか?ってしつこく聞くからウザくって。
つい『梨華ちゃんは、ごっちんが好きなんだよ』って嘘ついたら
よっちゃんはすごく辛そうに顔を歪めた。
よっちゃんと、ごっちんは中学からの親友だって言ってたもんね。
すぐに否定しようとしたのに、美貴が冗談だよって言う前によっちゃんは
ごっちんに『今日からライバルだ!』って言い残して帰って行ったんだよね。
- 749 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:41
- その後、状況を把握しきれてないごっちんに説明して謝るのも一苦労だった。
あの時のごっちん恐かったなぁ───普段はあんなにふにゃふにゃしてるのに。
とりあえず次の日の、お昼ご飯奢って許してもらったんだよね。
実は、よっちゃんに奢らせたんだけど……
ごっちんに説明した後、急いでよっちゃん家に行って嘘だと話して。
お詫びに梨華ちゃんの写真1枚渡すと、機嫌はすぐになおって奢ってくれたっけ。
写真1枚であんなに喜ぶとは思わなかったなぁ。
なんだったら一緒にお風呂入った時に―――――― それは犯罪だな。やめといて良かった。
でもこっそり梨華ちゃんの水着写真あげたんだけどね。
いやぁ、懐かしいな〜って美貴ヒドイね。よっちゃんもごっちんもゴメンよ。
それにしても、梨華ちゃんにバレなくて良かった……
怒るとこのお姉さん何気に怖いんだ。全然、喋ってくれなくなるんだよね梨華ちゃん。
無言の重圧ってやつだろうか、あれは相当堪える。
まぁ、美貴は小さい時の経験で怒らすことも無くなってきてたけど。
付き合い出して初めての喧嘩の時に、口聞いてくれないからって
よっちゃん泣いてたことあったっけ。
思い出して身震いしていると、梨華ちゃんの心配そうな顔が目に入る。
- 750 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:42
- 「どうしたの美貴ちゃん、お腹でも痛い?」
「うんにゃ、眠いだけだよ」
「もう寝る?アタシ本でも読んでるから」
「うん、そうする」
寝ようとすると梨華ちゃんが膝を、ぽんぽんと叩いて見せる。
えっと、膝枕ってあんた…。
なんだかお母さんみたくなってきたよね?なんて思いながらも
心地良いぬくもりと、爽やかに吹く風が気持ち良くて、だんだんと瞼が重くなってくる。
あぁ、そうだ。あの子の言ってた梨華ちゃんの甘い香水の匂い。
これも眠りを誘うんだよね……
- 751 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:42
- 瞼を閉じれば、なぜかあの子を思い出す。どこか梨華ちゃんに似てるんだ。
ポジティブそうに見えて、実はネガティブなんじゃ?ってところとか。
なんかピンクな雰囲気とか───
結局、美貴は昼休みが終わるまで、梨華ちゃんに膝枕させちゃったみたいで。
ちょっと足が痺れたみたいだけど、大丈夫って笑ってくれた。
そう言えばあの子の笑顔……見たこと無いなぁ。
けど、不謹慎にも泣いてる顔も可愛いなんて思ったのは
美貴だけの秘密にしておこう。
- 752 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:42
-
- 753 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:42
- 家までの道にある想い出の河原。土手を歩いていると、あの子がいた。
河原に座って、なにをするでもなくただ川の流れを見ていた。
その横顔が少しだけ大人びて見えて。
ただ立ち止まって見ていることしか出来なかった。
また泣いてるじゃん……
あの子、よっちゃんの幼馴染だよね。よっちゃんに聞いたら何かわかるかな?
でも、そんな勝手なことしたら迷惑かもしれない。
- 754 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:43
-
しばらく見ていたけど、美貴には関係ないと家路を急ぐ。
でも、家に帰っても気になって仕方ない。
制服から着替える時、ブレザーから梨華ちゃんの香水の香りが少しだけした。
この匂いをさせて行ったら、また悲しいカオするのかな?
こないだ見せた表情が浮かんでは消えていく。あんなに切ない顔をさせている原因は何だろう?
ジーンズにパーカー、ラフな格好に着替えて。
梨華ちゃんの香りがうつった制服を部屋に残して、河原へと向かう。
なんでだろ、こんなお節介な美貴……らしくないなんて思いながら。
- 755 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:43
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- 756 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:43
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- 757 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:44
-
「そんなところで泣いてたら、変な人に連れてかれちゃうよ?」
耳に届いたのは優しいあなたの声。
振りかえらなくても分かる。まだ出会って間もないけれど。
あなたは、ちょっと困ったみたいに笑ってるだろう。
この河原にくれば、少しでも藤本さんに近づける気がしたんです。
あなたが見てた風景や、触れていたもの……その全てを見てみたかった。
けど、溢れてくるのは涙だけ。
しめつけるような胸の痛みしか感じられなかった。
「おっ、シロツメクサ咲いてるじゃん。」
返事をしない私の隣に来て、あなたは白い小さな花を見ていた。
「ほら、クローバーの花なんだよ。なんか可愛らしくない?」
”ほら、重ちゃんみたいに可愛いよ”
その言葉に反応してあなたを見るとイタズラに笑ってた。
「やっとこっち向いた。やっぱ重ちゃん、可愛いに反応するんだね」
話す気になれず返事はしなかった。
多分、なにか言葉にすれば涙がもっと溢れてしまいそうだから。
もっと、もっとあなたを困らせると思う。
- 758 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:44
- 藤本さんは気にするでもなく、花を見ている。
「昔、よく梨華ちゃんも泣いてたな。いまじゃお姉さん?
お母さんみたいになっちゃったけど」
隣にいるのに……あなたが優しく微笑むのは石川さんを思い出しているから?
「ねえ、泣いてる理由は聞かないからさ。重ちゃんもう泣かないでよ?」
”笑ってる顔、見たことないような気がするんだ”
藤本さんはそう言って私の顔を覗きこむ。
だって笑えないですよ……あなたのせいだもん、泣いてる理由。
いつのまにか泣く理由が変ってたなんて言えない。
「ほら、重ちゃ〜ん。可愛いお顔見せて!」
嫌だ、子供みたいに首を振って自分の膝に顔を埋める。目尻から、また少しづつ涙が流れ落ちていく。
嗚咽が漏れはじめた時、あなたはそっと私の肩を引き寄せた。
背中をさすられると、よけいに涙が溢れてくる。その手の動きに煽られて、私は子供のように声をあげて泣いていた。
うわぁ〜んって叫ぶような泣き声の勢いに圧倒されて、あなたは、必死で私を慰める。
- 759 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:45
- 「わ、わ〜マジで泣き止んでよ。美貴が泣かせてるみたいじゃん!?」
「うぇ、ひっく……ふ、ふじもとたんがわ、わるいんだもん」
「えっ、美貴何かした?美貴が悪いの?」
「だって、だってぇ……」
もう気付いちゃったんだもん。認めたくなかったけど。
自分の気持ちを偽ることなく教えてくれる、心音。
藤本さんに会う時、正確なリズムを刻めなくなるんです。
「ね、美貴何した?謝るから泣き止んでよぉ……」
ちょっと情けない声が聞えたけど、返事はせずに隣にいるあなたに抱きついた。
初めて直に感じるあなたの匂いは、洗濯したての爽やかな香り。
あの香水の匂いがしないことに深く安堵して、暖かいぬくもりは少しづつ心を落ち着かせてくれる。
あなたの背中に腕を回して、ぎゅっとしがみつくように抱きつく。
頬を埋めた胸からは、あなたの心音が聞えてくる。
一定のリズムを刻む藤本さんの鼓動を聞きながら、私の涙が少しづつ、少しづつ止まりはじめた時――――――
- 760 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:45
- ぴったりくっついている藤本さんのカラダから、少しづつ速くなっていく心音が私に響いてきた。
顔を上げると、真っ赤な顔をした藤本さんと目が合う。
あれ?どうしたんですか?
口を開く前に、焦ったように体を離そうとするから悲しくなる。
やっぱり、私じゃダメですか?
再び泣きそうな私に気付いたのか、そのままの態勢で優しく話しかけてくれる。
「ちょっとは涙、止った?」
「藤本さん、ドキドキしてますよ?」
「へっ、ちがっ……ちがう別にそういうんじゃないから」
動揺してる姿が可笑しくて、自然と笑みがもれる。
さっき離れそうになった藤本さんの腕が、私を強く引き寄せ抱きしめてくれる。
痛いくらいの腕の力に、あなたなりの優しさが見えるような気がします。
強く、もっと強く――――――
溢れ出してくる想いごと、私をあなたの腕の中に閉じ込めてください。
- 761 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:45
- 「やっと笑ってくれた〜、美貴まで泣いちゃうとこだったよ」
泣きそうな理由。同じだったら良いのにな。
好きだから笑わなきゃいけないって事、ないですよね?
「重ちゃん?」
「さゆみです」
「へっ?あぁ……ごめん。さゆみは泣いてるより笑ったほうが良いよ」
「泣いてても可愛いもん」
「うん、泣いてても可愛いよ」
お世辞でも嬉しい。話を合わせてくれるだけでも嬉しい。こうして2人でいられる事が嬉しい。
あなたの心の中に大切な人がいたとしても。
「ほら、帰らなきゃ。日が暮れちゃうよ」
「……まだ明るいです」
「いや、暮れ出すと早いじゃん?危ないよ」
腕を解かれて、ちょっと残念だなって思ったけど
それ以上に悲しいです。私と一緒にいたくないですか?
- 762 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:46
- 「石川さんが好きなんですか?」
「梨華ちゃん?好きだよ、幼馴染だしね」
”好きだよ”
あっさりと肯定されるとは思ってなかったからビックリした。
「さゆみは、よっちゃんが好き?」
「吉澤さん…はい、大好きですよ。お姉ちゃんみたいで」
「そっか、お姉ちゃん…。美貴にとっての梨華ちゃんもそんな感じだよ」
「えっ?」
「同い年だけどお姉ちゃんみたいだよ。家族みたいなもんかな」
家族……?
それって恋じゃないってことですか?
それとも家族と同じくらい深い愛情があるって言うことですか?
- 763 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:46
- 「おあっ!発見!?見てみて、重ちゃん四つ葉のクローバー!!!」
「・・・・・」
「重ちゃん?」
「さゆみですってば」
「頑固だねぇ、重ちゃ……さゆみは。ほら、これあげる」
だから帰ろう、送って行くから。
そういって私の手に四葉のクローバーを藤本さんは渡してくれた。
先に立ちあがった藤本さんが、私に手を差し伸べる。
一瞬迷ったけど素直に甘えて、その手を掴んで立ち上がる。
藤本さんの手は少し冷たくて。でも心はあったかくなった気がします。
「うっわぁ、やっぱ重ちゃ……さゆみのが背が高いね」
「気にしてるのに……」
「なんで?良いじゃん、スラっとしてて可愛いよ?」
「可愛いですか?ダメなんですよ、あんまり大きいと」
「そんな事無いと思うけどなぁ」
”可愛い”というフレーズが、他の誰に言われるよりも嬉しくて。
もっと言って欲しいけど、あんまり言って欲しくないそんな複雑な心境。
- 764 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:46
- 私の家まで向かう道、特別な言葉を交わすわけじゃないけど藤本さんと一緒に歩いてる。
ほんの少しの勇気があれば、その手を掴むことが出きるのにな。
微妙な距離がいまの2人を現しているみたい。
「ここ?よっちゃん家の真向かいなんだね。じゃ、美貴帰るね、また学校で」
「はい、ありがとうございました」
自分の手の中にある四葉のクローバーを見ていると、なんだか幸せな気持ちが胸の中に広がっていく。
一緒にいるだけで、好きだって想えるだけで幸せなのかもしれない。
そんな単純なことに気付いたら、心はもう痛まなかった。
バイバイって手を振った後、藤本さんは踵を返して帰って行く。その背中に私は誓う。
―――――― きっとあなたを振り向かせる
私だけを想ってもらえるように可愛さを磨いていこう。
あなたに心から可愛いって言ってもらえるように。
いまよりもっと、も〜っと可愛くなりますよ?覚悟していてくださいね。
- 765 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:47
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- 766 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:47
- 「クローバーの花言葉は……。ちょっと強引な愛の告白みてぇだよ?
さゆ、告白するの?」
「……いまは内緒です」
苦笑いしながら、吉澤さんはパソコンに視線をうつした。
藤本さんがくれた四葉のクローバー。
なんとか保存する方法はないですか?と、吉澤さんに相談した。
ネットで調べてもらうと、押し花にして保存すれば良いということで
早速、作り方をメモする。
- 767 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:48
- 「さゆ、ストラップとかあるみたいだよ」
「あっ、可愛いですね」
「ペアで買ってみたら?すごいねぇ、本物のクローバーが入ってるんだってさ」
値段をみると、自分のお小遣いで買えないことは無いくらいだった。
ペアのストラップのデザインは少し丸みを帯びていて、あの人のイメージには合わない気がした。
「あの、こっちのデザインのを2つ欲しいんですけど?」
「えらくシンプルで愛想が無いね。相手に合わせちゃったのかな?
って〜かどんなやつ?さゆのこと泣かせたりしない?」
画面に向かいながら、相手を想像して1人で心配をはじめた吉澤さん。
あなたのよく知ってる人ですよ―――――― そう心の中で呟く。
- 768 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:48
- 「ほんとにこれで良いの?」
急に振りかえって確認され、少し考えてみる。自分が合わせる必要は無いのかもしれない。
これを見た時に、私のことを思い出すような……
そんなデザインのものをプレゼントした方が良いかも。
「やっぱり、こっちで」
「うん、その方がさゆっぽいかも」
もう一度、画面を元に戻して別のデザインのストラップを注文してもらう。
私っぽいのな?吉澤さんの言葉を聞きながら、ストラップの説明に目がいく。
『涙のしずくをモチーフにした……ストラップです』
ピンクだと嫌がるかな?これを渡した時の反応を想像して自然と笑ってしまう。
そんな私に気付いた吉澤さんが、不思議そうに見ていたけど、
誤魔化すように笑いかけると、つられて笑ってくれた。
この想いがあなたに届きますように――――――
そう、吉澤さんの笑顔に願いをかけた。
- 769 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:48
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- 770 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:49
- 注文したストラップも届いて、押し花も完成した頃、私は屋上へ向かった。
誰も居ない屋上で、自分の手の中にある涙の雫を太陽にかざす。
淡いピンク色に包まれたクローバーが、光りに透けて輝いている。
あなたの心に、ほんの少しで良いから私の存在が残りますように。
「重ちゃん、久しぶりだね?」
明るく弾むようなリズムで声をかけられた。
その声に自然と反応するように心臓が鼓動を速めていく。
それは、壊れそうな錯覚をおこすくらい激しく私を揺さ振る。
「ねぇ、重ちゃん無視しないでこっち向いて?」
「・・・・・」
「お〜い、重ちゃ……さゆみ」
「お久しぶりです。藤本さん」
「頑固だね〜」
隣に並んだ藤本さんは不思議そうに私の手の中にあるストラップを見ている。
キラキラと透明なピンクの雫が揺れる。
- 771 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:49
- 「それ、ストラップ?やっぱピンクなんだね」
「やっぱりってなんですか?」
「なんかピンクが好きそうだなって。雰囲気がそんな感じ」
藤本さんに、黙って差し出すと不思議そうに手にとって見ている。
「へ〜凄いなぁ、これって本物の四葉のクローバー?」
「はい、本物を使用してるから年数が経てば変色したりするみたいですけど」
「そっかぁ、でも本物ってだけで良いね。なんか雨粒みたいな形だね」
雨粒ですか?
藤本さんにかかると涙の雫なんてイメージは消されてしまうのか……
ふぅっと息を吐き出して、なんだか緊張が薄れちゃった。
「あれっ?水のカタチじゃないのこれ?」
「違いますよ」
水分には違いないですけど。もっとロマンティックに考えられないのかな?
しばらく難しい顔をしてストラップと睨めっこする藤本さん。
- 772 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:49
- 「あぁ、わかった。なんか重ちゃんに似合う理由。これって……」
”涙みたいなんだ”
呼び方が戻ってちょっと不満だけど、黙って頷くと満足そうにストラップを見ている。
そして、小さい子供のように得意げに私を見て。
その姿を見て想う。理想は理想でしかなくて。
現実にスキになった人は意外にも子供っぽい人だった。
「なんか泣いてるイメージなんだよね。ほら、美貴と会う時泣いてたから」
「そうですね。藤本さんのせいでもあるんですよ?」
「こないだ曖昧になっちゃったけど…マジで美貴、何かした?
考えてもわからないんだ。重ちゃん泣かせちゃった理由。やっぱ美貴の目つきが恐かった?」
「いや、別に目つきは……ちょっとは恐いですけど」
「やっぱ恐いんだ……」
「でも泣いた理由は違います」
ついでに言えば、最初はあなたのせいでもなんでもなかったんですよ。
だけど、それは教えてあげない。
- 773 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:50
- 「う〜んと、ごめん……まったく心当たりがない」
「別に良いですよ。私のこと、ちゃんと名前で呼んでくれれば許してあげます」
「へ?重ちゃん…じゃなくてさゆみって呼べば良いの?」
「はい、ちゃんと約束ですよ?」
「なんだか訳がわからないけど…とりあえず呼び方は了解。
ねえ、マジでなんで泣いてたの?」
「わかりませんか?」
あなたの手の中で忘れるなって揺れる、クローバーを閉じ込めた涙の雫が答えですよ。
私の想いを全て凝縮した贈り物なんですから。
「そのストラップ、藤本さんにあげます」
「いや、美貴ピンクはちょっと……」
「良いじゃないですか?四葉のクローバーをくれたお礼です」
「あれは河原でみつけて、タダだし」
「良いんです。くれたことが嬉しかったから」
- 774 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:50
- 河原で動けなくなっている私を、迎えに来てくれた。
恋すると言うことが苦しくて、切ないだけでは無いことを思い出せたのも藤本さんのおかげなんです。
恋してる自分に酔ってしまって、背伸びして無理して。ほんとに人をスキになることが出来てなかった。
今は理由もなく、考える事が追いつかないくらい”好き”という気持ちが溢れて私を包んでいます。
泣きたくなる理由が、あなたを好きだからってオカシイですか?
無意識に涙が滲んで、あなたの姿が霞んでくる。
泣こうと思ってるわけではないのに、止めることが出来なかった。
あの日のように、カラダが軋むくらい私を抱きしめた藤本さん。
それは不器用な慰め方だけど、あなたの優しさを感じます。
「泣かないで」
あなたの声が少し震えているのは気のせいですか?
”好き”だという一言を言わずに、それでも気持ちが伝わる方法はないだろうか?
案外冷静な自分に感心しながら考える。
「ストラップつけてくれますよね?」
「えっと……うん。つけるよ」
「それが私の気持ちです」
「ふぇっ?クローバーが?」
「四葉のクローバーの花言葉は……」
- 775 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:50
-
”私を想ってください”
私が言う前に藤本さんが口にした。
それは本当に小さい声で、独り言のように聞えた。
「美貴が梨華ちゃんにあげてたのは、すっごいちっちゃい頃で。
最近まで忘れてたくらいなんだ…だから、この四葉のクローバーは」
”重ちゃんに……たぶん、きっと”
言葉が途切れ、途切れに聞えてくる。やっぱりそれは独り言のように小さい声で、少し聴き取り辛い。
藤本さんから少しだけ顔を離して見ていると、なんだか情けない顔をしていた。
「あぁ、もう美貴わかんないんだ。スキとかそんなの……けど、誰といるよりもオカシクなる。
重ちゃん見てるとほっとけないって言うか」
- 776 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:51
- 遠まわしじゃダメなんですね。藤本さんに意識させるのは……
少し開いていた距離をまた近づける。
ぎゅーっと隙間無く抱きつくと、激しい鼓動が響いてくる。
ほら、あなたも自分でコントロールできないくらいドキドキしてる。
「さゆみって呼ぶの忘れてますよ?」
「う、うん。そうだったね。で、泣いてた理由は美貴、自惚れても良いのでしょうか?」
「……鈍感」
「すいません」
「私は、藤本さんが大好きです」
なぜか立場が逆転して敬語になっちゃってる藤本さんは真っ赤だった。
ホントに好きになるって理由なんて無いものだと知りました。
きっと、理由は後付けで増えていくのかもしれない。
好きになってしまえば、全てが良く見えてくるもの。
「藤本さんは?私のこと好きですか?」
「えっと……言わなきゃダメ?」
「ズルイですよ。人にばっか言わせて」
「別にお願いしてないんだけど……」
「やっぱり、もっと泣いちゃおうかな……」
「あ〜それは勘弁してください!言うから、待って…」
「ちゃんと名前で呼んで言ってくださいね」
「───はい」
- 777 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:51
- ふか〜く深呼吸して、藤本さんは照れて外していた視線を
いったん空に向けてから私に合わせた。
でも、すぐに抱きしめられて顔が見えなくなる。
”好きだよ……さゆみ”
寄り添ったカラダを通して聞えるその甘い声にゾクッとする。
重なりあう鼓動はお互いを好きな証拠ですよね?
リズムを合わせて奏でられる幸せの音。
それを、いつも確かめられるように傍にいてください。
でも――――――
今度からはもうちょっと手加減して抱きしめてくれると嬉しいかな?
それと、ちゃんと私の目を見て好きだって言ってくださいね。
『今日も可愛い!』でもOKです!
- 778 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:51
-
いつしか涙はアナタだけの為に流れて。
そして、アナタの腕の中でしか溢れ出すことはないでしょう。
しずかにリズムを合わせて刻まれる心音。
いまこの瞬間を、涙の雫に閉じ込めて――――――
ふたりの運命は廻り始める。
- 779 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:52
-
おしまい。
- 780 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:53
- 白詰草(しろつめくさ)※別名:クローバー
【花言葉】約束、Be Mine(私を想って)
- 781 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:53
-
- 782 名前:クローバー 投稿日:2005/12/01(木) 12:54
-
- 783 名前:日季 投稿日:2005/12/01(木) 12:54
- >>700-780 更新終了です。
ここの重さんは大人です。ある意味、藤本さんよりもうんと大人です。
>>699さま
ありがとうございます。从*・ 。.・)<騙したのは吉澤さんなの。
吉澤さんいい感じでしたか?よかった〜。w
- 784 名前:名無し 投稿日:2005/12/01(木) 19:23
- りかみきカワイイし、いしよしの繋りも随所に見え隠れしてますねー
主役(?)のみきさゆの今後も見てみたい。。。
- 785 名前:日季 投稿日:2005/12/01(木) 23:07
- >>700-780の続編です。これも随分前に書いたものなので、季節外れですいません。w
『スノードロップ』
- 786 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:07
- 「藤本さん?」
ちょっと甘えた響きに振り向くと――――――
おあっ、重ちゃんこの距離で目とか閉じちゃダメだよぅ。
どどどどどどどうしよう、梨華ちゃん?
ってなんで梨華ちゃんなんだよっ、こう言う時は……
そうだ、よっちゃん。よっちゃんどうしたら良いですか?
って居ないよ、ここには美貴と重ちゃんしか居ないじゃん!?っていうか、ここどこ?
「みーちゃん」
さらに美貴の傍に擦り寄ってきて甘える重ちゃん。
それに”みーちゃん”って誰?美貴?ありえな〜い……
えらい懐いてた子に『美貴たん』とか呼ばれてたけど、そのうち『たん』
になって『美貴』はいずこへ?とか思ったけど。うん、そんなことはどうでも良い。なに、この状況?
ちゅーだよね?ちゅーだよな、ちゅーしかないよね……
うぅ、激しく童謡……ちがっ、歌ってどうする。
動揺しまくって思い出したくない過去が甦ってくるじゃん。
そうだよ、『たん』とか呼んでくる小悪魔にさんざん痛い目にあわされた1年前の春。
だから、こういう状況は苦手なんです美貴は。
- 787 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:08
- そう考えてる間にも目に入るのは柔らかそうな唇……
あぅ、可愛いよぉ。なんだろ、重ちゃんはたま〜に目が据わってて恐い時もあるけど
なんとなく、ぽわわぁと可愛いんだよね。これって、”あばたもえくぼ”とかいうやつ?
ふぅ〜、覚悟を決めていざいこう。
そうだ、軽く触れるだけで良いんだよ。別に悪いことじゃないんだから。
”美貴ちゃん、美貴ちゃんってば?”
ん、なんだかアニメ声が聞える。気のせいだ、きっとそうだ。
目閉じちゃったんだから、いくしかないべ?ゆっくり顔を近づけ……
ぷにっとした感触に触れる、唇にしてはなんか変。
「美貴ちゃん、寝ぼけちゃだめよ」
「ふぇ?のわぁ〜!?」
梨華ちゃんのどアップと手のひらにぶちゅっとな……
苦笑いの梨華ちゃんとこんにちわぁ!
「もう電話しても起きないから、起こしにきたのに」
「えっ?あの……」
「なんの夢見てたのか知らないけど、汗かいてるよ美貴ちゃん」
びっしょりやたら汗かいてる美貴を心配そうに見る梨華ちゃん。
- 788 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:08
-
―――――― 梨華ちゃん?
「ってか梨華ちゃんなんでいるの?」
「あのね、よっすぃとこに遊びに行くって言ったのどこの誰?」
「……美貴ですね、忘れてましたすいません」
棒読みで謝ると梨華ちゃんは溜息をつきながら携帯を確認する。
そうだ、まだ重ちゃんのこと話してないから。
一応、2人には言っておかないとなって思って、遊ぶ約束をしたんだ。
「ちょっと遅れるって言っておくから、早く着替えてね?」
「うん、ごめんね……そだ梨華ちゃん、先に行ってて!」
「ちょっとぉ、起こしに来た意味無いじゃん!」
「ごめんって。ちょっと寄る所があるんだ、すぐ行くから」
「もう、早く言ってくれれば先に行ったのにぃ」
「ゴメンって。ケーキでも買って行くから、ね?」
渋々って感じで頷いて美貴の部屋を出る梨華ちゃん。
去り際に一言呟いたのはここらじゃ有名な高いケーキを扱ってるお店の名前だった。
うん、聞えなかった事にしよう。そうしよう。
重ちゃんと出会ってから1ヶ月くらい経つけど、2人にはまだ話して無いんだよね。
知り合ったのは言ったけど、なんとなく照れて言えない。
改まって付き合ってるんですって言えなくて。
そしたら、また重ちゃんに泣かれました……
違うから、別に隠したいわけじゃないから!!って必死で謝って。
今日はシークレットゲストですよぉ。そだ、遅れるってメールしとかなきゃ。
- 789 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:09
-
******
- 790 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:09
- 「ちょっと聞いてる?」
「あ〜、聞いてるよぉ……」
「き・い・て・な・い!」
「あだっ!?」
最近やたらゲームにはまっている彼女は画面に目を向けたまま
生返事を返すから耳を引っ張って振り向かせる。
ちょっとだけ涙を溜めて恨めしそうに見てくるけど無視……
「美貴ちゃんが変なの。夢見てうなされてると思ったら……」
”キスされそうになったの”
「んがぁ〜!!!!なんだとぉ!?美貴めぇ」
「ちょっと、落ちついて!寝ぼけてだから、されてないから」
「それでも梨華ちゃんにキスしようとするなんて許せん!」
「あのね、寝ぼけてたの美貴ちゃん。ホントに大丈夫だよ。
それに美貴ちゃんそんなこと出来る子じゃないから。知ってるでしょ?」
「でもファーストキスはミキティだとか言ってたじゃん」
「幼稚園の時だよ?」
「それでも、やだ……」
「やだって言われても」
「しかも高校入るまで一緒にお風呂入ってたって言ってたし」
「だって姉妹みたいに育ったんだもん。それに毎日一緒だったわけじゃなくて
泊まりあいした時に一緒に入っただけだから」
「隣同士で泊まりあいって……。仲良過ぎなんだよう」
「でもお付き合いしてからは、ひとみちゃん優先してるでしょ?」
「そうだけどさ〜」
- 791 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:10
- こうなったら子供より性質が悪い。早く機嫌を直してもらおう。
ゆっくり距離を縮めてぴったりくっつくと途端に顔が緩む。
ぎゅっと腕にしがみついて泣きそうな声で名前を呼べば、もう拗ねた様子は消えていく……
「美貴ちゃんは大事な幼馴染なの、あのこと以来
恋もして無いじゃない?だから心配なの……」
「まぁ、そうだけどね。ミキティだってもう忘れてるよ」
「でも、うなされてたんだよ?きっとまだ忘れてないんだよ」
「強烈だったからなぁ、あの子は」
1年前に突然、現われて離れていったあの子。美貴ちゃんはどう思ってたんだろう?
- 792 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:10
- 『寝坊したんですか?』
「うっ、そうです。ごめんね?」
『別に大丈夫ですけど……ケーキ買ってくれるんですよね?』
「あ、うん。何が良い?」
『チョコレートケーキ!』
「チョコレートね、わかった」
メールしようと思ったけど、結局は電話した。
ワンコール鳴るか鳴らないかのうちに電話に出たところをみると
携帯を握りしめて美貴の連絡を待っていた姿が容易に想像できて、自然と頬が緩む。
少し遅い美貴の連絡にヤキモキしながら待っていたのかな?
「じゃあ、買ったらすぐに行くから」
『はい、近づいたら電話下さい。玄関で待ってますから』
「うん、ごめんね。じゃ切るね」
『あの……』
「ん?なに、どした?」
『えっとね、大好き』
「へっ、うん。ありがと」
『じゃあ、早く来てくださいね?』
「うん、わかった」
電話を切ってから少しだけ後悔。あ〜ぁ、美貴も言ってあげれば良かったなぁって。
けど、考えすぎるせいだろうか。美貴はつい言葉に出来なくて。
あれ以来1度も『好き』という一言を口に出来ないでいる。
恐いんだ。何度言っても、たった1回の『嫌い』と言う言葉で『好き』なんてすぐに消えてしまう。
だったら言わなくたって一緒な気がして逃げてしまう。
- 793 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:21
- とりあえずチョコレートケーキ4つを買って重ちゃん家へ急ぐ。
「遅いですよぉ……」
なんて文句とは裏腹に美貴に抱きついて来て”会いたかったぁ”なんて甘えた声で囁く。
隠しきれない鼓動が恥ずかしくて、口調がつい素っ気無くなってしまう。
「学校で会ってるじゃん、毎日」
「でも昼休みだけなんだもん」
「だって放課後はバイトだし……」
「短期なんですよね?」
「うん、6月末まで。あとすこしだけ辛抱して?」
「その後はいっぱい遊んでくださいね?」
「ちゃんと約束した遊園地だって行くから」
「絶対ですよ?コーヒーカップ乗りたいんです!」
「うわぁ、コーヒーカップって……」
「良いじゃないですか?目が回るくらい、ぐるぐる回すのがだいすきっ!なんだもん」
はぁ、気分悪くなりそう……マジで。容赦なく回しそうだしなぁ。
とある理由があって付き合い始めてすぐにバイトをはじめた。放課後と土日はたいがいバイト。
そら、会いたいって思うだろうけど。色々と理由がね。美貴だってちゃんと重ちゃんが大切なんですよ。
今日はさすがに休みをもらったけど。
- 794 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:21
- 「藤本さん?」
妙に落ちついたトーンで声をかけられると焦る。さっきから抱きつかれたまま会話してるんだな……
ここって外ですよね?玄関の中でならわかるんだけど、この状況ってやばくないの?見られちゃうよ?ねえ?
「ぎゅーってして下さい」
「や、あの……ここで?」
「ダメですか?」
ダメじゃないですけど、玄関入りません?
人通り少ないみたいだけど、いつ誰が来るかわかんないじゃん。
迷ってると重ちゃんの抱き着く腕の力が増す。美貴の心臓破裂しそうだ……
「えへっ、ドキドキしてるよぉ?」
「うっさい……」
はんばヤケクソ気味に抱きしめようと思った瞬間――――――
- 795 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:22
- 「ごらぁーーーー!美貴何してんだぁ!?」
「どわぁっ、よっちゃん!?」
「離れろ、今すぐ離れろ!? さゆも離れなさい!」
「ちょっと、ひとみちゃん落ち着いて、ね?」
「落ちつけるか、朝から梨華ちゃん襲おうとしたのに、さゆまで襲うとは良い根性してるじゃないか!?」
「ちょっと待て、誰が梨華ちゃん襲ったんだよ!ちがっ、誤解だよ重ちゃん。その目は止めてってば」
「藤本さんのバカぁ……」
「だから、美貴ちゃんはアタシを襲ってないし、さゆちゃんだって襲われてないでしょ?」
とりあえず冷静な梨華ちゃんに引っ張られて、よっちゃんは家の中に消えて行った。
どうやら遅いから美貴の様子を見に行こうと玄関を開けたら――――――
抱き合ってる美貴達が見えたみたいだね。っていうか相変わらず美貴の腕の中で半泣きの重ちゃん。
どうしてくれるんだよ、よっちゃんのバカ。
「ほんとに誤解?」
「誤解だよ、変な夢見てうなされてるのを起こしに来てくれたの
その時に寝ぼけてたから美貴覚えてないんだけど、別に何かしたわけじゃないよ」
「お部屋に入ったんだ石川さん……」
「だってお母さんが勝手に部屋に上げたんだもん……」
いや、覚えてないとか嘘だけどさ。梨華ちゃんにキスしそうになったなんて言ったら絶対誤解は解けないじゃん。
部屋に梨華ちゃんが入ってきたのは不可抗力じゃん。美貴悪くないよね?だから泣かないでよ、頼むよぉ。
「それにまた重ちゃんって呼んでる……」
「あぅ、ごめん。ごめんね、さゆみ」
「ここでギューってして下さい」
返事をせずに抱きしめる。あぁ、何度目だよ泣かせるの。
ごめんね、ごめん―――――― 何度も心の中で呟いて。
もっと素直に気持ちを伝えられたらどれだけ良いのだろうと思う。
- 796 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:23
- 「で、美貴ちゃんは最初からさゆちゃんを呼ぶつもりだったの?」
「うん、2人にちゃんと伝えてない事があるから」
「認めへん、わしは認めへんで……」
「よっちゃん関西弁で言わなくても……美貴まだ何にも言ってないし」
「言わへんかってもわかるんや。わかるから辛いんやないか」
「ひとみちゃん、言葉遣いが変だよぅ……」
「む、梨華ちゃんまで泣きそうじゃん!美貴どうしてくれるんだ!」
「梨華ちゃんは美貴のせいじゃないじゃん!?よっちゃんが変だから泣きそうなんだよ!!!」
「人のせいにするな、謝れミキティ!」
「・・・・・」
なんで美貴が……別に悪くないじゃん。そらぁ、ちょっと言うの遅れたけど。
さっきから重ちゃんは黙って俯いている。また泣いてないだろうな……
どうして、よっちゃんはこんなに怒るんだよ。
人のこと梨華ちゃん離れできてないとか言うけど、自分だって幼馴染に甘いじゃんか。
「さゆ、ミキティのどこが良かったんだ?すっごい危険人物無んだぞ」
「誰が危険なんだよ、誰が!」
「梨華ちゃんとかに甘いし─── それに1年前のこと忘れたとは言わせないぞ」
「なっ……」
「1年前?」
「やっぱり、さゆは知らないんだな。ミキティは……」
- 797 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:23
- 『ひとみちゃん!?』
梨華ちゃんにしては珍しく声を張り上げた。その声に我に返ったのかよっちゃんは少し青冷めてる。
梨華ちゃんの無表情に負けたな、よっちゃん。
重ちゃんも不安そうな視線を美貴に向けてすぐに逸らしてしまった。
「美貴ちゃん帰ろう」
「ちょ、梨華ちゃん……」
「さゆちゃんもおいで。美貴ちゃんのお話してあげるから」
「……はい」
「ひとみちゃんは反省してて。美貴ちゃんのこと悪く言わないで」
梨華ちゃんはよっちゃんの方を振り向きもしないで
重ちゃんの手を引いて部屋を出て行く。
もう片方の手には、ちゃっかり美貴が買ってきたケーキの箱が――――――
- 798 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:24
-
- 799 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:24
- 「さ、ケーキ食べようか。紅茶で良い?1個余っちゃうね。あ〜、絵里呼んじゃう?」
「そうですね、喜ぶと思います」
「アタシお茶煎れてくるから、美貴ちゃん絵里呼んでね?」
「へっ、なんで美貴が―――――― はい、わかりました」
妙に冷静(軽くハイテンション)な梨華ちゃんの目が怖かったのでエリエリに電話する。
美貴がしなくっても重ちゃんがすれば良いじゃん。
それに美貴の家に来たのになんで梨華ちゃんがお茶煎れるのさ。
さっきから重ちゃんは美貴のこと見てくれないし。
絵里は電話したらすぐにいきますって嬉しそうに返事をしてくれた。
そりゃ梨華ちゃんの希望通り高いケーキ買ったんだもん、来るわな。
「エリエリって呼んでるんですか?」
「あっ、いやたまにだよ。普段は絵里……」
「私のこと重ちゃんとか言うのに」
「ごめんなさい」
「・・・・・」
「ちゃんと”さゆみ”って呼ぶから」
「”さゆみん”が良いです」
「いや、さゆみでお願いします」
「じゃあ、約束ですよ?今度やぶったら……」
「やぶったら?」
「毎朝迎えに来てください」
「えーーーーー!?」
「なんですか?」
「なんでもないです……」
やぁだよ。朝の貴重な時間を迎えに行く為に早く起きるなんて。
そこに絵里と梨華ちゃんが一緒に入ってきた。
- 800 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:25
- 「明日からでも迎えに行けば?美貴ちゃん遅刻しないで済むじゃん」
「やぁだよ、人事だと思って」
「あぁ、さゆ可哀想。吉澤さんは梨華ちゃん迎えに来るぐらい朝飯前だって言ってましたよ」
偉いよ、よっちゃん。でも美貴には無理。
っていうか絵里にまで梨華ちゃんについて熱く語ったのかい、よっちゃん。
一途だね、よっちゃん。美貴も頑張……ろうとは思うけど無理。
「梨華ちゃんお茶煎れてこなかったの?」
「あっ、そうだ紅茶切れてるじゃん。美貴ちゃん買ってきてくれないかなぁ?」
「なんで美貴が……わかりました行ってきます」
今日の梨華ちゃんは怖い。ん?いっつも怖いか……
とりあえず財布を持って出ようとしたら重ちゃんと目が合った。
そだ、重ちゃんと一緒に行ってとりあえず元気出してもらおう。
でも美貴が声をかける前に視線を外されてしまい、タイミングを逃し声をかけられなかった。
「えっと……美貴ちゃん絵里連れて行ってきて?」
「はっ?なんで絵里?」
「さゆちゃんと話したいから。良いでしょ?」
「はぁ……」
よく分からないけど、ニコニコと絵里が後ろについてきたので
いってきますと言いつつ一緒に部屋を出る。
う〜ん、重ちゃんが元気無いのがすっごく気になるけど、なにもしてあげられなくてゴメンね。
- 801 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:25
-
******
- 802 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:25
- 「石川さんは、藤本さんと仲良いですよね……」
「小さい時から姉妹みたいに育ったからね。お互いに口には出さないけど信頼してるよ」
「良いなぁ……」
「でも恋愛感情じゃないから、安心して。アタシも美貴ちゃんも一緒にいて家族みたいに安心できるけど
ドキドキ?とかそういうのは無いから。
それはきっとね、アタシはよっすぃに。美貴ちゃんは、さゆちゃんにしか感じてないと思うよ」
「そうでしょうか……」
「気になる?美貴ちゃんの昔のこと」
「……はい」
「ちょうど1年くらい前にね……」
- 803 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:26
- 2年生に上がってすぐだったの、新入生のその子に出会ったのは。
美貴ちゃんすっごく気に入られてね。
『みきたん』なんて甘く呼ばれては、好きだって言われて。
毎日、美貴ちゃんの傍にきては抱きついたり、ほっぺにちゅーしたりね。
それはもう美貴ちゃんが脱力して抵抗できないくらいにスキンシップされて。
それでも、2人がそれ以上の関係になることは無かったの。
亜弥ちゃんは美貴ちゃんを通り越して他の誰かを見ているから
大好きだよって言われるたびに辛いんだって、美貴ちゃんよく洩らしてた。
好きって聞かれれば、好きだよって答えるだけの関係で。
美貴ちゃんはとことん受身でね、押しに弱いってのもあるんだけど――――――
でも、ある日そんな関係が崩れたの。亜弥ちゃんが転校するって話を聞かされた日に……
今まで一度も美貴ちゃんから触れたことは無かったのに、亜弥ちゃんにキスしたらしいの。
でもアタシはその場にいたわけじゃないけど、美貴ちゃんがそんなこと簡単にするはず無いって思ったよ。
目撃した人も亜弥ちゃんが美貴ちゃんに『だいっきらい』って言うところしか見ていなかったし。
けど自分が強引にキスして別れたみたいな噂がたって。
それでも美貴ちゃんは亜弥ちゃんを責めたりしなかったの。優し過ぎるんだよ、美貴ちゃんは……
自分が傷ついた事よりも亜弥ちゃんが傷ついたことを心配して。
そして、美貴ちゃんは亜弥ちゃんを避けつづけたんだ。
亜弥ちゃんが転校する日も美貴ちゃんは学校にこなくって、そのまま別れたまんまで一度も会わないまま終りを選んだ。
- 804 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:26
- 後で聞いたら、誰にも言わないって約束で美貴ちゃんは話してくれたの。
亜弥ちゃんがキスしてほしいって言ったからキスしたんだって……
最初、美貴ちゃんは自分にはできないよって、亜弥ちゃんは別な人を見てるからって。
それでも亜弥ちゃんは美貴ちゃんが好きだからってひかなくって。
頑なに拒んでた美貴ちゃんと、亜弥ちゃんは軽く言い合いみたいになって
箍が外れたって言うのかな、美貴ちゃん感情が爆発しちゃって……亜弥ちゃんがお願いした以上のキスをしちゃって。
それで「だいきらい」っていわれちゃったみたい。
よっすぃはそんな経緯を知らないから、今でも美貴ちゃんが
亜弥ちゃんとキスするだけして振ったんだと思ってるんだ。
だから、さっきはあんな言い方をしたんだと思うの――――――
「そんなことがあったんですか、だから……」
「だから?」
「お付き合いして1ヶ月くらいは経つんですけど何もされた事ないんです。手も繋いでくれないし。
お互いに両親が共働きでいないことが多いのに、家にも来てくれないし呼んでくれないし……」
「1ヶ月前から付き合ってたんだ……そういえばピンクのストラップなんてつけてて
美貴ちゃんの様子が変になったのそのくらいだなぁ」
「変でしたか?」
「メール見てニヤニヤしたり、そんなこと今まで無かったからね。
そっか、さゆちゃんから着たのを読んでたんだなぁ。
アタシのメールになんて返事忘れてる事だってあるんだよ!」
「石川さんよりは愛されてますね♪ちゃんと速攻で返事が返ってきますよ!!」
「そうそう、だから自信持って、ね?美貴ちゃんのこと信じてあげてよ」
「はい!!」
「さゆちゃんは良い子だね〜。たぶん美貴ちゃん怖いんだと思うの、
また嫌いっていわれたらとか考えて。気長にお付き合いしてあげてほしいな
美貴ちゃんのこと、本気で好きだよね?」
「……はい、大好きです」
真っ赤になってしまったさゆちゃん。
純粋で可愛い彼女になら、美貴ちゃんは癒されるんじゃないだろうか。
焦らないでね美貴ちゃん。
- 805 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:27
- 『 だいっきらいっ!? 』
あの子のよく通る声が耳の奥で何度も繰り返し思い出されたあの頃。
いつのまにか忘れてた。多分そうしないと辛いだけだから。
あんなに毎日聞いていた大好きと言う言葉は、たった1回の嫌いで消されてしまった。
胸に残ったのは心を奪い去られた喪失感だけだった。
あんなに毎日言っていた(正確には言わされていた)好きと言う言葉は
意味の無いものになり虚無感だけが残った。
美貴はもう口に出さないと誓ったのに。
いとも簡単に口にしてしまったあの日の「好き」はどれくらい彼女に届いたのだろう?
どんな美貴を見ても彼女は変らずに美貴の傍にいてくれるだろうか?
「・・・ちゃん、美貴ちゃん?」
「えっ?あっ、絵里どした?」
「さっきからボーっとしっぱなしですよ?」
「あぁ、ゴメン」
「さゆのことですか?」
「ん〜まぁ、そんなとこかな」
「さゆのこと大切ですか?」
「大切だよ」
「だったら安心した。さゆ押しが強いからそれに負けたのかもって心配で」
「う〜ん、負けたっちゃあ負けたんだけどね……」
「やっぱり。美貴ちゃん昔から押しに弱いもんね」
「うっさい、絵里まで言わないで」
「あははっ、梨華ちゃんにも勝てなくって。あれ?美貴ちゃんあそこにいるのって?」
「ん?どーした……」
って、こわっ!?
電柱の影から美貴の家を凝視してる人ハケーン!?
とか言ってる場合じゃなくって――――――
- 806 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:28
- 「こらっ、よっちゃん!!」
「うわっ、美貴…… それに絵里ちゃんこんにちは」
暗い、暗いよ……負のオーラが出てる、よっちゃん。
絵里が怖がって美貴の後ろに隠れちゃったじゃん。
「で、どした?」
「うっ、まだ怒ってる?ごめん、ミキティ悪くないのにさ……マジで、ごめん」
「いいよ、頭上げなよ!梨華ちゃんだって怒ってないから」
「ほんとに?梨華ちゃん怒ってない?」
なんだか、ちっさい子供みたいなよっちゃんってば可愛いじゃん。
とか美貴ってば余裕こいてる場合じゃないよなぁ。
今日はあんまり重ちゃんの笑顔、見てないぞ……
- 807 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:28
- 結局、梨華ちゃんはそんなに怒ってなかった。(でもケーキをよっちゃんにあげなかったけど……)
遊びに行く気分でも無くなったから家でまったりするという、梨華ちゃんとよっちゃんを見送って
絵里もケーキを食べて満足したのか自分の家に戻って行った。
やっと2人っきりとか思ったらバイト先から電話がかかってきて
他のバイトの子が病気で人手が足りないらしく急遽、美貴が行く事になってしまった。
「ごめん」
「ううん、バイトだったら仕方ないです」
「埋め合わせはちゃんとするし、明日休みくれることになったから」
「ほんとですか?」
「うん、一緒に帰ろ」
「藤本さん……」
重ちゃんの家まで送ってきて玄関についたところで名前を呼ばれる。
なにって問い返そうとしたけど抱き着いてきたその仕草で理解する。
そのままぎゅーって抱きしめると安心したように微笑んでいる。
可愛いなって想ってるんだよ。でも、何もしてあげられなくってごめんね――――――
好きなんだよ、好きだけど言えなくってごめん。
- 808 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:29
-
******
- 809 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:29
- 「今日はお弁当作ってきたんですよ?」
「へ〜、すっげー」
すっげぇよ、重ちゃん。芸術的な形のおにぎりだね、あははっ。
ちょっと魂が抜けかけたけど、なんとか美貴かえってこれたよ。
ようは味だよね、そうだよ味が良かったら見てくれなんてね……
「んぐっ!?」
「藤本さん、お茶です」
「……ぷはぁ〜、ありがとぅ」
おにぎりが塩辛いなら分かるんだ。なんでちょっとだけ甘いんだよ!?
こわい、聞くのが怖いよ美貴は。何いれたの?とか聞かないようにしようと思います。
- 810 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:30
- 「美味しかったですか?ちょっと涙目になってますよ?」
「えっ?あぁ、うん。作ってきてくれたことも嬉しくってね……」
「そんなに喜んでもらえて嬉しいです。また作ってきますね?」
「あははっ、うん。めちゃくちゃ嬉しいよ」
気持ちはね……気持ちは凄く嬉しいんだよ、味はともかくとして。
でも嬉しそうな重ちゃんの笑顔を見てたら、ちょっと我慢して食べるくらい平気かなって思うんだ。
「帰り、門の所で待ってるよ」
「はい……」
「どうしたの?」
「ううん、何でも無いですよぉ〜。迎えに来てほしいとか思ってませ……あっ」
「そっか、じゃあ教室まで行くよ。美貴のクラスはHR終わるの早いから」
「ごめんなさい、つい言っちゃった……」
「平気だよ、そのくらいしか美貴してあげられないから」
また嬉しそうに笑う笑顔を壊したくないんだ。だからなんだってしてあげられると思う……
けど言えなくてごめんね。お昼休みが終わる時に大スキって言ってくれた君に
笑い返す事しか出来なかった。ほんとに、ごめん――――――
- 811 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:30
-
- 812 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:30
- 美貴が迎えに行っただけでクラスが静まりかえる……まずったかな。
噂にはなっていたけど別段「付き合ってます」宣言をしたわけじゃないし。
でもへらへらとした笑顔を浮かべた絵里と一緒にやってきた重ちゃんが
物凄く嬉しそうに笑ってくれたから、なにもかもどうでもよくなった。
「ちょっと早かったかな?」
「今日はお掃除無いから大丈夫です、じゃ、絵里帰るね?」
「うん、2人ともバイバ〜イ」
絵里に手を振って美貴と並んで歩く帰り道。
少しだけ様子がおかしい。いつもなら美貴が話しかけなくても何かと今日あったこととか
他愛もない会話をしてくれるのに。
その大半が自分がどう可愛かったっかってことなんだけど……
「どっか行きたいとこある?」
「あの……」
「どこ行きたい?」
「私の家に─── お話したくって」
「うん、分かった。じゃ、さゆみの家に直行だね?」
いっつもみたいに無邪気に笑ってよ?なんでそんなに不安そうに笑うんだろう、美貴なにかした?
あぁ、何もしないから不安なのかな――――――
ごめんね、好きだとさえ言ってあげられなくって。
- 813 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:31
- 「鮮やかだね……」
「可愛いでしょ?」
うん、ピンクだらけだ。梨華ちゃんほどではないにしろ……
ピンクのお城へようこそ!?みたいな。
「お茶煎れてきますね」
そういって美貴を残して重ちゃんは台所へ行ってしまった。
ピンクな部屋にぽつんと一人でいると、なんだか落ちつかない
救いは梨華ちゃんみたくピンクのカーペットをひいてないことだろう。
床は普通の木目のフローリングだったから。とりあえず床でも見とくか、目の保養になるよね……
ふっと上げた視線の先に、机に置かれた写真が目に入る。
まだ少ないけど美貴と撮ったのや、絵里と撮った写真が並んでる。
でも、なんで……?
よっちゃんの写真がいっぱいあるじゃん。美貴のより多くない?そりゃ、幼馴染だけど……
美貴だって梨華ちゃんと撮った写真の方が多いけど、アルバムの中に閉まってあってこんなに目に付く所に置いたりしてないんだよ。
ぱらぱらと無造作に置かれた写真を見てると、ノートの切れ端を折りたたんだ手紙が目に付いた。
見ちゃいけないって思ったのに。美貴は無意識にその手紙を開いてしまった……
- 814 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:31
-
DEAR⇒さゆ
さゆ、美貴ちゃんとお揃いのストラップだからビックリしちゃった!!
ほんとにお付き合いするの?さゆって吉澤さんのこと好きだって言ってなかった?
ね、もし軽い気持ちなら付き合わないで欲しいんだ。
さゆが、そんな子じゃないって思うけど。もし、もしもだよ。
吉澤さんの代わりなら美貴ちゃんかわいそうだよぉ……
そんなのイヤだよ?絵里はちょっとだけ心配です。
ほんとに好きなんだったらごめんね。
絵里の勝手な思い違いならこんな手紙捨てちゃって?
FROM⇒えり
- 815 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:32
- 血の気が一気に引いていく。自分でも分かるくらい指先が冷えて感覚がオカシイ……なんだそれ?
絵里は知ってたっけ、美貴が1年前に振られたこと。だから心配してこんな手紙を重ちゃんに渡して。
どうして捨てないんだよ。勝手に見た美貴が悪いんだけど、こんなの置いてなければ気付かなかったのに。
重ちゃんが、よっちゃんのこと好きだったなんて知りたく無かったよ。
言ったじゃん、美貴に……よっちゃんのことお姉ちゃんみたいだって。
あれは嘘だったの?よっちゃんは梨華ちゃんのものだから?だから美貴で我慢するの……?
美貴は動く事ができなくって……
こんな手紙読んでないフリすれば良いんだろうけど、出来そうに無いよ。
酷いことを言ってしまいそうで、なんとか爆発しないように拳を強く握るけど……
ツメが食いこむ感覚さえ分からないほど麻痺してしまってる。
戻ってきた重ちゃんは、机に広げられた手紙を見て愕然としている。
あははっ、知りたくなかったけど見ちゃったんだ……
「藤本さん……」
「ごめんね、見ちゃったよ。バカだね美貴は。そんなすぐにスキになるわけ無いもんね。
好きだって言われて舞いあがってたかなぁ……」
「ちがっ、それは違うんです。確かに吉澤さんのこと好きだったけど、けど
それは憧れ?とかそんな感じで。ほんとに好きだったわけじゃなくって……」
目に涙を溜めた重ちゃんは動揺してるのか、言葉が巧く出てこないみたいだ。
- 816 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:33
- 「だから、藤本さんが好きなのは本当です。絵里にもちゃんと話して分かってもらったんです!
今日もそのことを伝えたくって来てもらったんです!!」
「信じられると思う? 美貴はよっちゃんの代わりなんでしょ?
誰でも良かったんじゃないの?ねえ、そうなんでしょ……」
「そんなことないもん……」
「そんなことあるよ、そんなすぐに忘れられるの?美貴にはわかんないよ、よっちゃんのほうが優しいし……
美貴を好きになる理由がわからない」
「吉澤さんは優しいし、私を泣かせたりしません……」
「だったら……」
「だけど、けど藤本さんが好きなんだもん。どれだけ泣かされても藤本さんといたいんだもん……」
「さゆみ……」
「好きなんだもん。理由なんて考えられないほど好きになってたの!抱きしめる腕の力とか、
ぶっきらぼうだけど暖かい言葉とか……ぜんぶ、藤本さんのぜんぶが大好きなんだもん!!」
”好きなんだもん”
そう繰り返す彼女の頬を流れる涙をみて想う。
こんなにストレートに気持ちを言える子が嘘なんてつくだろうか?
ほんとに嘘ついてるんだったら、もっとマシなこといって誤魔化そうとするだろう。
けど彼女は真っ直ぐに好きだとぶつかってくる。まるでその言葉しか知らないみたいに……
- 817 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:33
- 情けないな美貴は――――――
よっちゃんのことがずっと好きだったなんて聞いて嫉妬した。何やってるんだろ。
いま何か言葉を発したら泣いてしまいそうで、唇を強く強く噛み締める。
重ちゃんの瞳から溢れた涙を拭ってあげたいって思うのに、カラダが思うように動かない……
情けないよ、美貴。なにひとつ強くなんてなれてなかった。弱過ぎじゃん、カッコ悪すぎじゃん?
なのに好きだって、こんな美貴が好きだって言ってくれるんだこの子は。
堪えていた涙がたまらずに溢れ出してきた……
もう止めようにも身動き一つできなくなって、呼吸しようにも胸が苦しくて喘ぐように嗚咽が漏れ出してくるだけ。
どうしよ、なんだろ混乱して思考がうまく働かない。
美貴何してんだろ?泣いてるんだよね、困ったみたいな重ちゃんがぼんやりと見えるもん。
あぁ、ヤバイな見えなくなってきた……涙に滲んだ視界に重ちゃんが見えなくって。
膝に力が入らないから、そのまま崩れ落ちるようにカラダは沈みこんだ……
離れて行かないで――――――
美貴の傍にいてよ?失いたくないよ。好きだってちゃんと言ってない、心から重ちゃんのこと好きで必要で
理由なんていらないほどに好きだから、一緒にいてほしいって伝えてないんだよ?
「さ、ゆみ……何も望んだりしないから美貴の傍から離れないで?
好きなんだ、大好きだよ。だから、だから―――――― 」
突っ伏すように泣いている美貴には重ちゃんの姿が見えない。
涙でかすんだ視界にはただフローリングの茶色がぼんやり映るだけ。
セピア色の世界に美貴一人がいるみたいで堪らなく寂しい――――――
- 818 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:34
-
ふいに、ふわっと暖かく包み込まれた。甘酸っぱい香りが美貴を包んでいく……
”香水買ったんです♪これ、良い匂いでしょ?”
美貴の為に買ったって言ってたよね。もう梨華ちゃんの匂いなんてさせないでって言って……
美貴は身勝手に重ちゃんのことさ、離さないようにいっつもキツクキツク抱きしめてた。
無意識だったんだよ、怖かったんだ腕を解いたら離れて行っちゃうんじゃないかって。
でもその強さが好きな証拠だって分かってくれてたんだ、この子は。
だからいっつも美貴に『ギューってして?』なんておねだりしてくれて……
無償で甘えてくる重ちゃんを愛しいって思ってた。
でも心の奥からその言葉を取り出すのが怖くて言えなかったんだ、ごめんね。
ほんとにね、重ちゃんのこと閉じ込めてしまいたかった。美貴の腕の中に。
涙が止まらない美貴のことをどんな風に思ってるんだろう?
情けない?カッコ悪い?もう嫌いになっちゃったかな?ねえ、重ちゃんの声が聞きたいよ。
いつもみたいに甘えたように美貴のこと呼んでよ。
「藤本さん、いっぱい望んでください」
優しい声が抱きしめられたカラダに響いてくる。
「いっぱい何でもお願いして、私にも甘えてください。
藤本さんのお願いだったら私がどんなことでも叶えてあげるから。
だから、私のどんな我侭も聞いて叶えてください。」
「……美貴、カッコ悪いよ、強くないし。いっぱい泣かせちゃたし
こんなに泣いてさゆみのこと困らせるよ?」
「良いですよ、好きだもん。カッコ悪くっても意地悪されても嫌いになんてならない。
藤本さんが優しいこと、誰よりも私のこと想ってくれてること知ってるもん。
私だって誰にも負けないくらい藤本さんだけが好きです」
「ありがと……」
「いっぱい”好き”って聞かせてください。いっぱい、いっぱい好きだって……
どれだけ聞いても嫌いになったりしないから。
私のこと信じてください。私は誰よりも藤本さんを信じてます。だから……」
- 819 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:35
-
”キスしてください”
そう言って真っ直ぐ向けられた瞳は、美貴なんかよりうんと強い意思を伝えてくれる。
その言葉に、視線に、いま美貴の腕を掴んでいる手に甘えてても良いの?
戸惑いながら重ちゃんを見ると瞼をぎゅっと閉じて待っている。
動いちゃいけないって思ってるのか、懸命なその姿に自然と笑みがもれる。
美貴の腕を掴んだまま、すこしだけ震えてるのに気付いた。
ねえ、怖いの?怖くなんて無いこと美貴が教えてあげるから……
ゆっくり唇が重なり合う――――――
一瞬ビクッと反応したけど、強く腰を抱き寄せたら美貴にカラダを預けてそのまま寄りかかってくる。
少しだけ感じる重みさえ愛しいって思う。これが最後じゃないよね?ここから始まるんだよね?
そしてぼんやりと美貴は考える。どうして人はキスをするのだろう?誰が考えたのかな。昔の人?
人は無意識に何かの温もりを、暖かく柔らかい感触を求めて……
それが気持ち良いことだって知ってしまったから何度も繰り返すのかな?
- 820 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:35
- そんなことを考えていたら唐突に重ちゃんが美貴の肩を押した。
唇が離れて視線が合うと上気した頬のまま、重ちゃんは大きく深呼吸をした。
「もしかして息止めてたの?」
「だって……」
だってって言われた……そうだね、上手にキスすることなんてわかんなくて良いよ。
重ちゃんはそのままで良い。そのまんまが可愛くて良いんだよ。
「それに心臓壊れちゃうかと思いました……」
「あははっ、可愛い、可愛過ぎるよ……それに、そのうち慣れるよ」
「……慣れですか?」
「んっと違うか。自然と………え〜っとぉ…まぁ、なんとかなるよ」
美貴が、なんとかしてあげるよ。あきれるくらい好きだと言ってあげる、キスだって何度でもしてあげる。
だから傍からいなくならないで。ほんとに大切なものは目に見えなくて。
だからこそ、それを伝える言葉があるから。できるだけ形にしていこう。
美貴に甘えるように身を預ける重ちゃんが愛しくて……
こんなにも満たされるんだ、キスするだけで。ね、もっと触れてみたいって思うけど。
いま腕の中で、美貴に身をゆだねて安堵のため息をつく重ちゃんを見てたら、まだ早いのかなって思うから。
大切にしたい。焦らずゆっくり、ゆっくりと。
ただ我慢できずにもう一度だけ。今度は苦しくないほどの長さで唇を重ねて……
いつかお互いの吐息を感じることさえ愛しくなるようなキスをしよう?
自然とできるようになるまで、美貴が教えてあげるから。
- 821 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:35
-
******
- 822 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:36
- 「みーちゃん?」
「・・・・・」
「みーちゃんってばぁ?」
「だぁー!?それだけは止めて……お願いだから。恥ずかしい、恥ずかし過ぎるから!」
「なんだって叶えてくれるって約束したもん♪じゃあ、みきたん?」
「それは一番やめてください……」
「冗談だよぉ。だったら美貴って呼び捨てとか?」
「別に構わないけど、そんな風に呼んじゃうさゆみは、あんまり可愛くないよ?」
「……可愛いもん、わた……んっ」
うるさい、可愛いって分かってるから自分で言わなくっても良いよ。そんな口は塞いでやるんだ!
キスだけは、もうそりゃ自然に出来るようになりました。
でも――――――
- 823 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:36
- 「いだっ!」
「藤本さんのえっち…… 」
「えっちって、舌をいれ―――――― あだっ」
「まだそれはヤダ!」
「でもキスはイヤじゃないよね?」
「それは……」
”気持ち良いもん”
真っ赤な顔で答えてくれるけど、触れるだけのキスしかまだしたくないらしく……
毎度、口内にいれようとした舌を噛まれると言うある意味興奮しそうな(ってヲイ)
ことをされても、懲りずにチャレンジしてるアホな美貴。
そんな純粋なところだって可愛いけどさ、可愛いんだけど。
なんていうんだろ、もっと先も……なんて思っちゃう美貴が悪いのかな?
でも時々、ほんとにドキってするくらいの仕草をしたりするんだよ、この子。
精一杯がんばって自分からキスしてくれるようになったし。
その度に抱きしめるとダイレクトに伝わってくる心音は
壊れちゃいそうなくらいに激しく響いてきて、まだ早いんだなって我慢してる。
慣れるまでの辛抱だ、人生長いんだし、気長にいこう。
- 824 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:37
-
けどさ――――――
夏服になってイヤというほど感じてるんだけど。
心音よりも先に触れるあの膨らみは凶器じゃないでしょうか?
思ったよりダイレクトに感じる感触に、こっちの心音が跳ね上がるんですけど……
美貴の理性が負ける日が来ないように、日々精進して行く所存であります。
あぁ、でもさ重ちゃん?あの日のこと憶えてるか〜い?重ちゃん、美貴に言ったよね……
あの殺し文句すっごい美貴の心に響いたんだよね。
『藤本さんのお願いだったら私がどんなことでも叶えてあげるから』
その約束はいつになったら果たされるんでしょうか?
- 825 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:37
-
- 826 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:38
- 2月26日の誕生花
スノードロップ:花言葉【初恋の眼差し・希望・まさかのときの友・慰め】
和名はユキノハナ(雪の華)、マツユキソウ(待雪草)
イギリスでは「2月の美しい少女」とも呼ばれる。
- 827 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:38
-
- 828 名前:スノードロップ 投稿日:2005/12/01(木) 23:38
-
おしまい。
- 829 名前:日季 投稿日:2005/12/01(木) 23:40
- >>785-828更新終了です。松藤も好きなのですが……ここでは藤道です。
(他のスレに誤爆してごめんなさい、ものすごい反省しています……orz)
>>784さま
(*´▽`)´〜`*)一緒に登場してないんですけど、気付いてもらえて嬉しいです。
藤道の今後も〜なんて、すっごい嬉しいお言葉ありがとうございます。
- 830 名前:名無し 投稿日:2005/12/02(金) 00:04
- リアルタイムでヨメター!?
更新オツカレさまです。なんかみきさゆハマってます
えらくやさしいミキティーが新鮮
- 831 名前:日季 投稿日:2005/12/02(金) 01:27
- >>830さま
リアルタイムで読んでいただいて、ありがとうございます。
藤道にハマってもらえたら本望です。これからもよろしくです。
容量が足りなくなりそうなので次は↓に更新です。
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/silver/1133452824/
宜しければ覗いてみてください。
- 832 名前:日季 投稿日:2005/12/03(土) 19:21
- >>234-246いしよし
>>257-273まこあい
>>282-299あやみき
学生風味の番外短編を更新します。
- 833 名前:勝手にしやがれっ 投稿日:2005/12/03(土) 19:21
- 「美貴ちゃん達は最初どうだった?」
唐突な梨華ちゃんの質問に面食らって、思わずフリーズした美貴。
どうやら付き合って1年になるが手を繋いだり、キスだけでいっぱいいっぱいで
進展しないのだそうだ。
や、そんな相談されましても……
「よっちゃんは、さぞ辛かろうて……」
「なんでよう」
「だって……」
この人、自覚無いだろうけどエロい。視線やら、体型やらまぁいろいろと。
そんでもって引っ付き癖がある。おまけに仕草がやたらとキワドイ。
普通にしてるだけで、エロい。存在がエロい。いや、別にけなしてるわけではない……
それを自覚なくやっているから、性質が悪いのだ。
- 834 名前:勝手にしやがれっ 投稿日:2005/12/03(土) 19:22
- 「っていうかさ……」
隣のよっちゃんは真っ赤か。可哀想に、真横でこんな相談をされるとは思わなかったのだろう。
ガチっと固まって、俯いてしまってる。ふつう居ない時にするだろ、相談ってのは。
相手が真横にいるのに、やるにはどうしたらいい?みたいな。やるってのは言葉悪いね、ごめんなさい。
愛を確かめ合うくらいがいいですか、石川さん?
「そういうのは、よっちゃんいない時にしてあげたほうが……」
「だって、亜弥ちゃんが……」
ものっそい勢いで亜弥ちゃんを見ると、鼻唄を歌いながらそっぽを向く。
あ、あやしい……。変な汗が背中を流れる。
「聞いてたら、なんだか羨ましくって……」
「はぁ?ちょっ、なにを聞いたんですか石川さん?」
「情熱的なんだね、美貴ちゃん」
「はい?」
目の前に座ってる梨華ちゃんは、両手を顔の前で組んで乙女チックに美貴を見つめる。
なに頬とか染めてんだよっ、キショいから。ってか情熱的ってなに?
美貴がいつどこで情熱を燃やしたんだよ……
- 835 名前:勝手にしやがれっ 投稿日:2005/12/03(土) 19:23
- 「休みの前日は寝かしてくれないとか……」
「や、寝てる。最近は寒くなったしコタツでぬくぬくしてるよ」
「こ、こたつで……」
「よっちゃん、いま変な想像しただろ!」
「し、してません!こたつで……なんて想像してません!?」
分かり易い反応をありがとう……な、わけねーだろっ。
ちょっと待て、隣の亜弥ちゃんをもう一度見ると今度はバッチリと視線が合った。
にゃはははって誤魔化し笑いとか、意味無いから。
こんにゃろ何を梨華ちゃんに吹き込んだ?
「たん、怒っちゃイヤ」
「可愛く言っても無駄」
「にゃはは可愛い?あたしってばかわいい?」
「あー亜弥ちゃんは可愛い可愛い……って違うから!いまはそれ関係ない」
「……むぅ、かわいいって思ってないんだ」
今度は美貴の服を掴んで拗ねた……フリだろ、それ。
長年の付き合いでそんくらいは、わかんだよ。口元がピクピクしてるってことは
笑いを堪えてるとしか思えない。次に美貴が「かわいいって、亜弥ちゃんはほんとにかわいいから」
なんてご機嫌とるのに言えば「泣いてないも〜ん」みたいな切り替えしが待ってるはず。
ここはさっくり無視させていただきます。美貴ってば冷静〜。
- 836 名前:勝手にしやがれっ 投稿日:2005/12/03(土) 19:23
- 「で、梨華ちゃんに何を言ったのかな?」
「え〜、みきたんとの甘い夜のこと」
やっぱりか。やっぱりなのか……どんくらい脚色したのか目の前の梨華ちゃんが
キショいくらいに恥ずかしそうに見つめてくる仕草で想像はつく。
あのね、美貴はいっつも寝たいの。朝までぐっすり健全に寝たい派なの。
『夜は寝るためにあんだよ!』ダメだ、いまこの状況でそれを口走って力説したら
違う意味に捉えられて勘違いされるに決まってる。夜は睡眠をとるためにあると思ってますから!
「誘ってくるのは亜弥ちゃんじゃん」
「負けるみきたんがエロい」
「悪いじゃなくて、エロいのかよ」
「にゃはは、エロた〜んだもんね」
「んだよ……」
胸ばっか成長してからに。それ言ったら絶対に美貴のせいにされるから言わない。
あぁ、違うじゃん。美貴たちのことは置いといて……
目の前のバカップルの相談を解決するんじゃなかったっけ?
よっちゃんがもう噴火しそうなくらい赤くなってる。こういう話には弱いんだ、意外。
今時に無いくらいの純情青年……いや、少女?
- 837 名前:勝手にしやがれっ 投稿日:2005/12/03(土) 19:29
- 「とりあえず自分達のペースで付き合いなよ?」
「うん……」
「はい……」
その美貴の言葉に納得いかないって顔の梨華ちゃんと
この話が終わりそうで安心したのか、明らかにホッとした顔のよっちゃん。
ほら、頭で考えるよりも本能の赴くまま……じゃなくって、お互いの気持ちが高まったときとかにさ。
なんとかなるんじゃないかなって美貴は思うよ。
とりあえず美貴は、さっき無視したことでほんとうに拗ねてしまった可愛い恋人の機嫌を
元に戻すのが大変そうなことに頭を抱えた――――――
ぜったい2時間は口聞いてくれないかも……
- 838 名前:勝手にしやがれっ 投稿日:2005/12/03(土) 19:30
-
******
- 839 名前:勝手にしやがれっ 投稿日:2005/12/03(土) 19:37
- 一線なんて越えちゃえばなんてことはない。
目の前で繰り広げられる惚気話に、正直うんざり。
「……もう、その話いいから」
「えーーせっかく美貴ちゃんに報告しようと思ったのに〜」
「報告とかいらないから」
「だって、私ばっかり聞いてたから悪いかなって」
「喋ったのは亜弥ちゃんでしょ?しかも飛躍して……」
あきれるくらい二人は急速にことを進めた。
いちいち報告される身にもなって。二人の顔とか見辛くなるから。
美貴に聞いても無駄だと思い、梨華ちゃん結局は亜弥ちゃんに相談したみたい。
んでもって、誘い受けなるものを伝授……されるまでもなく出来たらしい。
だって石川さん、年中無休で誘ってましたからっ!?
気付いてないのは本人くらいで、よっちゃんはそりゃ我慢してたんだろう。
だって「王子様が理想」とか平気で口走る高校3年生とか、いないから普通。
会えば必ずオチの無い梨華の小話を、よっちゃんに延々と話してくれるらしい。
だからそういう雰囲気にならないって、嘆いてたもんね。
エロいんだけど、本人はそのつもりないから。
- 840 名前:勝手にしやがれっ 投稿日:2005/12/03(土) 19:37
- 「私ばっかきもちよくなるのは、フェアーじゃないと思って」
「ふ〜ん……」
「ねえねえ、どうしたらいいと思う?」
それまで聞きますか?美貴はなんてお答えすればいいですか?
襲うぞこらっ……っていうのは冗談だけど、そんなの二人でどうにかしろ……
「あのね梨華ちゃん……」
「うん!どうすればいいか教えてくれる?」
期待に満ちた顔してる梨華ちゃんには悪いけど、そんなの答えられないから……
「勝手にしやがれっ!!」
おしまい。
- 841 名前:_ 投稿日:2005/12/03(土) 19:38
-
- 842 名前:_ 投稿日:2005/12/03(土) 19:38
-
- 843 名前:日季 投稿日:2005/12/03(土) 19:41
- >>832-840学生風味いしよし&あやみき更新終了です。
いしよしの話を書くつもりが話が逸れた……w
(´-`).。oO(これで容量使い切ったかな?)
- 844 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:19
- あやみきだいすきー
おもしろかった
- 845 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:28
- よっすぃ〜>>835何を想像したんですか?w
- 846 名前:日季 投稿日:2005/12/04(日) 00:30
- >>844さま
ありがとうございます。あやみきあまり無くてすいません。
おもしろいと言ってもらえて嬉しいです。
>>845さま
ありがとうございます。う〜ん何を想像したんでしょうか?
この話の(0´〜`)はムッツリですからね。w
- 847 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:12
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 848 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 10:58
- 続編とか期待しててもいいでしょうか??板変わる際には是非ともお知らせを・・・
- 849 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 16:46
- >>831に案内がある
- 850 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/13(火) 10:22
- ありがとうございますっ
o(^-^)o
- 851 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/13(火) 15:29
-
- 852 名前:Best friend and lover 投稿日:2005/12/28(水) 22:09
- 「みっきたぁーーーーん!?」
「ぎゃぁっ……」
だだだだだだっと走ってきて、抱きつかれた勢いと
腕の力の強さに、変な呻き声が漏れた……
「ぎゃぁってな〜んだ?」
「……美貴死ぬから。離れて、げほっげほっ」
「だいじょうぶ〜?」
「大丈夫なわけないでしょ!」
「にゃはははは〜」
「ムカつく……」
離れたは良いけれど、美貴に向かって満面の笑みでピース……
絶対しばくぞ、まつうらぁ。と心の中で毒づいてみたが、あっさりばれる。
「たん、あたしに力で勝てるとでも?」
「……思ってませんが、それが何か?」
「ふ〜ん、強気じゃん」
「いつだって美貴は狂犬だい」
「こわ〜い」
「思ってないくせに……」
こわ〜いなんて可愛く言いながら、美貴をむぎゅっと抱きしめる。
あんたのオモチャかあたしは。ほんと勘弁して欲しいと思いつつ
がっつり抱きつかれて感じる、柔らかい感触に頬緩むバカ一人。あぁ、情けない。
- 853 名前:Best friend and lover 投稿日:2005/12/28(水) 22:10
- 何やら黙り込んだ亜弥ちゃんが窺った先には……
視線をそっちに向けて固まる。あぁ、柔らかくてキモチいいな〜とか
暢気に言ってられない、マジやばいってば!
離れろ。マジで離れてくれ、まつうらぁーーー!?
「たん、何焦ってんの〜?」
「うっさい、離れて……マジでお願い!」
「やだよ〜。たんはあたしのでしょ?それに嬉しいくせに」
「嬉しくない。嬉しくなんか無いから!」
「え〜おっぱいに顔埋めて幸せそうだったじゃん」
「だだだだ誰がおっぱ……胸に顔埋めたんじゃこらっ!」
「きたきた、みきたんのお姫様がやってきたよ〜」
「なっ……」
「狂犬ミキティ見せつけてね〜」
咄嗟に美貴から離れた亜弥ちゃんは、ほのぼのした空間へと走っていった。
梨華ちゃんの右隣では、ごっちんが幸せそうにココアを飲んでる。
左隣では、よっちゃんが膝枕をしてもらって甘えてる。
そんなほのぼの空間を見て、現実逃避をしても仕方ない。
目の前には、現実が迫ってきてる。
美貴も一緒に逃亡すればよかった……
- 854 名前:Best friend and lover 投稿日:2005/12/28(水) 22:12
- 「楽しそうですね、藤本さん」
「そそそんなこと、なくなくなくなくな〜いって感じ?」
「面白くありません」
「……すいません」
しゅんとする頭上に降ってきたのは”ほんとに触り魔なんだから”
と言う失礼な発言。ちょっと待って、おかしいからそれ。
だって美貴から触ったわけじゃない。
おっぱいから美貴に引っ付いてき……もとい、亜弥ちゃんから引っ付いてきたんだ。
「押しに弱すぎなの。藤本さんのほうが年上なんですよ?」
「はい、そうです」
ついでにあなたよりは学年で言うと5歳も年が上になります。
なのに説教って・・・orz
「もう、そんなに触りたいなら……」
「はい?」
「さゆみのを触ってくださいよ〜、キャッ!」
アホかと……。いや、嬉しくなくなくなくなくな〜い。
ぶっちゃけ嬉しいですが、こんな公共の場で出来ませんよ〜。
何でそんなこというんですか〜!?都会は恐ろしいところです……
- 855 名前:Best friend and lover 投稿日:2005/12/28(水) 22:12
-
そのあとすぐに、瞬殺で美貴はシゲさんの腕の中に堕ちた……
がちっと抱きしめられて、窒息するくらいの幸せを味わいました。
おしまい。
- 856 名前:日季 投稿日:2005/12/28(水) 22:15
- >>852-855
(´-`).。oO(容量がちょっと残ってるので、超短編ひっそりと更新)
从*VvV)<おいっ、最後まで美貴はえろいんか?
从*・ 。.・)<自業自得なの。
从*‘ .‘)<ほんとのことだもんね。
- 857 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 23:31
- 更新発見w
わらいますた、ミキティの心の声や、>>854の8行目にわらいますた
- 858 名前:名無し 投稿日:2005/12/29(木) 09:48
- エロティ━━━━━━( ゚∀゚ )━━━━━━!!
さりげなくおばかさんな、二人が愛しい
- 859 名前:29 投稿日:2005/12/29(木) 09:55
- まさかここが更新されてたなんて〜〜!!!
あやみきといしよし絡みって最高ですよね。
伝授の内容が知りたい・・・・w
年末更新、乙でした〜!!
来年もがんばってくらさい☆
- 860 名前:日季 投稿日:2005/12/29(木) 15:21
- >>832-840の番外です。
- 861 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:22
- 「こうちょっと上目遣いでぇ……」
松浦、たったいま石川先輩にある行動を伝授しています。
みきたんと吉澤先輩は、おなじ匂いがするので確実に効果あり……
悔しいけど、あたしよりも体系が……な石川先輩のことだからバッチリだと思う。
「亜弥ちゃん、はずかしいよぅ……」
「それっ!それです石川先輩!?」
「えっ?なになに?」
「いま出来てましたよ!完璧です。角度といい、甘えた声といい」
「ほんと?よかったぁ」
まだ教えてないのに、石川先輩ったら上目遣いにプラスして
甘え声までやってのけた。
やっぱり才能のある人は違うね……無自覚で出来るんだから。
- 862 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:23
- 「次はですね〜……こう、ちょっと腕を掴んで」
甘えたように寄りかかるんです。実際に石川先輩にやってみたら
意外な言葉が返ってきた。
「いっつも、お部屋でお話してる時はそんな体勢だよ?」
「えっ?」
「ひーちゃんに、こうやってひっついてお話してるの」
そう言うと石川先輩は、あたしにぴとっと寄り添って
少しづつ体重を預けて、上目遣いで見上げてきた。
おまけに潤んだ瞳を添えて……
- 863 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:24
- はふぅ……危ないぞ、非常にやばかったぞ松浦。
危うく石川先輩の攻撃に蕩けて、押し倒しそうになっちゃった。
というか、この体勢でず〜っと引っ付かれてるのに
いまだに手を出してない吉澤先輩を、ものすご〜く尊敬。
みきたんと同じ匂いなんて、とっても失礼だね。
ジェントルマンな吉澤先輩には、心から拍手を贈ります。
「こんな風にひっついてるのに……その襲われたりしないんですか?」
「やだっ、亜弥ちゃんってば……襲うなんて」
「ないんですよね?」
「うん……」
しゅんとしてしまった石川先輩。ちょっと、ほんとに可愛いじゃん。
なんで襲わないかなぁ、こりゃへタレにもほどが……
「魅力ないのかなぁ?」
目に涙をいっぱいためて、あたしを見ないでください……
なんでそんなにネガティブなんですか!
もう、こうなったら実力行使ですよ。行動あるのみです、石川先輩!
- 864 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:25
- 「魅力ありまくりますから、自信を持ってください!」
「う、うん」
「松浦が保証します!石川先輩はぜったいに魅力的です」
そして、エロ過ぎます。
気付いたんですけど、さっきから腕にあたってる柔らかい感触。
この体勢で話してるなんて、ほんとに罪作りな人……
「いいですか、先輩。制服でアタックしましょう?」
「制服で?」
「?」を浮かべて小首を可愛らしくひねらないでください。
松浦を攻撃してもダメですから。
「制服をちょっと着崩して……」
そっと胸元のリボンをほどき、ボタンを2、3個外す。
石川先輩は素直にあたしにされるがまま。
みきたんなら、この時点で襲ってるね絶対。
気をつけよう、石川先輩と二人っきりにならないように言っとかなきゃ。
たん、いつか間違い起こしそう……
- 865 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:26
- 「胸元のチラリズム。これ最強です」
「……ちら、りずむ?」
「絶対に、これで今まで通りに行動してください」
「うん……」
「普段通りの石川先輩で、十分に吉澤先輩はクラッときてるはずです!」
「そうかなぁ……」
「そうなんです!自信を持って、あとは行動あるのみです!」
「わかった!梨華、がんばるっ!?」
- 866 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:26
- ◇ ◇ ◇
- 867 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:27
- 「亜弥ちゃん!」
「石川先輩、どうしたんですか〜?」
「あのね、あの……」
ボソッと報告を受ける。成功したよって、頬染めながら
嬉そうに話す石川先輩。
より愛を深めたみたいで、何よりです。
「ひーちゃんにね、キスされた後に……」
「何かあったんですか?」
「ううん、言ったの。素直にキモチを」
「キモチですか?」
耳打ちされた言葉に、ちょっとビックリ。
やっぱり自分でぜんぶ出来てるじゃないですか……
『カラダが熱いの』なんてセリフ、教えた覚えありませんもん。
- 868 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:28
- 「石川先輩?」
「なあに、亜弥ちゃん」
今度は、松浦と一緒に甘え方の研究しましょうよ。
学ぶべきことが、非常に多いような気がする。
天然誘い受けの先輩には、ちょっとこの松浦も敵いそうにないから。
味方につけとくのが得策だって思った。
だって、みきたん簡単に誘惑されたら負けそうなんだもん。
まぁ、「ひーちゃん命」な石川先輩が、みきたん誘惑することは無いと思うけど
たんが誘われてるって、勘違いするといけないから。
「甘え方かぁ……」
「どうしたんですか?」
「甘えてもらうのも、いいよね〜」
「そうですね、たんもすっごく可愛くなります」
「ねえねえ、亜弥ちゃんは……その美貴ちゃんを……」
「みきたんをどうしたんですか?」
「あのね、教えて欲しいことがまたできたの」
「松浦に出来ることだったら、協力しますよ」
- 869 名前:Secret instruction 投稿日:2005/12/29(木) 15:29
- 「ほんとに?美貴ちゃんは教えてくれなかったの。
だから嬉しい……亜弥ちゃん大好き!」
そう言って抱きつかれて、ちょっと困惑。
石川先輩って、甘くてすっごくイイ匂いがする……
なんかちょっと、変な気持ちになっちゃうような甘い匂い。
これは本格的に、みきたんには近づけないほうがいいな。
そう思いながら、石川先輩と吉澤先輩のために
松浦とっておきの愛の確かめ方を、ほんのすこし教えてあげた……
おしまい。
- 870 名前:日季 投稿日:2005/12/29(木) 15:37
- >>860-869ひっそり更新w
ほんとにレスありがとうございました。皆様も、よいお年をお迎えください。
引き続き>>831に案内のあるスレで書いていきますので、宜しくお願いします。
(来年まで更新しないつもりが、短編のみ出来たのでこっちに上げましたw)
>>857さま
見つかちゃったw 笑ってもらえてよかったですo(^-^)o
>>858さま
从*VvV)<エロティって……
从*・ 。.・)<可愛いなら、おばかでもいいのw
>>859さま
実は更新してましたw
伝授編を取り急ぎ書いてみました〜。
(;´D`)<勢いだけで更新してしまったのれすw
- 871 名前:名無し 投稿日:2005/12/29(木) 18:11
- 更新おつかれさまです
ふたりともなにを勉強してるんだw
エロティ信用無さすぎ。・゜・(ノД`)・゜・。
来年もマターリガンガって下さい。作者さんも良いお年を。。。
- 872 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/29(木) 20:44
- 梨華ちゃん最強ですなww
この二人の話もおもしろかったです
来年も楽しみにしてます
- 873 名前:29 投稿日:2005/12/29(木) 21:32
- うはははっっ!!やったあっっ!!
伝授編、口元ゆるみっぱなしでしたわw
ありがとうございます。
あっちでも続いて欲しいんですが・・この4人w
- 874 名前:日季 投稿日:2005/12/29(木) 23:17
- (まとめてで申し訳ないですが)レスありがとうございました!
ひっそり更新にも反応してもらえて嬉しいです・゚・(ノ▽`)・゚・
ほんとにレスの一つ一つが励みになりました。それでは、失礼します……
- 875 名前:日季 投稿日:2005/12/29(木) 23:23
- >>871さん
(*^▽^)<えへっ
从*‘ .‘)<たんはエロいんですけど〜、そこが可愛いんですw
>>872さん
(*^▽^)<あたし最強?
从*‘ .‘)<面白かったですか〜?よかったぁ。
>>873さん
(*^▽^)<喜んでもらえてよかったです。
从*‘ .‘)<作者が〜、みきさ○に浮気してるんですけどねw
(´-`).。oO(続けようかなぁ……)
- 876 名前:(まとめ) 投稿日:2005/12/29(木) 23:24
- ・偽りの真実
本編>>2-155、藤道番外編>>175-199
続編&番外編>>393-676
・短編
いしよし(>>161-169、>>217-225)
まこあい(>>207-210、>>374-385)
みきさゆ(>>357-365)
あやみきさゆ(>>852-855)
・学生風味
いしよし>>234-246、まこあい>>257-273、あやみき>>282-299
石吉&藤松>>833-840、石&松>>861-869
・「SweetGlance」※85年組年齢逆転してます>>339参照
(いしよし>>308-336、後藤番外>>347-350)
・みきさゆ花言葉(アンリアル、登場するメンバーの年齢も少し変えてあります)
フリージア>>684-697
クローバー>>700-780
スノードロップ>>785-828
次スレ(ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/silver/1133452824/)
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