F  M  0  5   

1 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2005/10/07(金) 21:07
 
 
  Formula  Musume  0 5  
 
 
 前スレなどは>>2
2 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2005/10/07(金) 21:11
ついにスレを立ててしまいました。
タイトルの05どおり、話の中の5年目のシーズンを中心に進めて行くつもりです。
時間軸としては、”2seater ”(ttp://mseek.xrea.jp/purple/1042988047.html#r35)が
5年目の開幕戦ですから、この続きからになります。

前スレは以下の通り。
Rd.1:ttp://mseek.xrea.jp/green/1007830858.html
Rd.2:ttp://mseek.xrea.jp/gold/1015426332.html
Rd.3:ttp://mseek.xrea.jp/blue/1023607602.html
Rd.4:ttp://mseek.xrea.jp/purple/1042988047.html

わからないところや変なところなどあったらどんどん質問ください。
できる限り対応いたします。
3 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2005/10/07(金) 21:13
ということでとりあえず短編なぞを
 
 ” ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 ”
 
 
…ベタだなあw
4 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:14
王者不在で迎えた5年目のシーズン。
その第3戦、舞台は富士スピードウエイ。
曇り空の日曜日、コース上にはマシンが並びスタートの準備を進めていた。
 
予選1位は松浦亜弥。開幕戦以来2回目のポールポジションから初優勝を狙う。
その隣には昨年ランキング2位の吉澤ひとみが。3番手はルーキーの藤本美貴。
以下、4番手に紺野あさ美、高橋愛、矢口真里と続く。
 
そして開幕戦で自身初優勝、続く第2戦で連勝を記録、
現在ポイントリーダーで注目の石川梨華は、なんと最後尾に。
石川は前日の予選1回目でコースアウトしてアタック出来ず。
望みを賭けた2回目のセッション直前に、無情の雨。
ヘビーウエットのコンディション、マシンをコースに留めるのが精一杯。
石川は無念の最後尾21番スタートとなったのだった。
5 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:14
「多いなぁ…」
最後尾から前方を見ると、否が応でも前方のマシンが目に入る。
この位置から車群をかき分けてのスタートは絶対的に不利だ。
そして、もうひとつ石川の気を重くしている存在が。
腕を組み、口をキッと結んでコクピット横にそびえ立つ中澤だった。
その目元はサングラスで覆われ、よくわからない。
しかし、どんな表情をしているのかは、簡単に想像できた。
 
「はぁ」
石川のため息が中澤の耳に届く。
間髪入れず視線を一瞥する中澤、石川がさらに恐縮するのを確認する。
さっきから幾度と繰り返されてきたこのやりとり。
予選最後尾など、誰でも明るい気持ちでいられる状況ではない。
今の石川の実力からすればありえない結果。
中澤はそれを態度で示しているだけに過ぎない。
 
しかし、サングラスに隠された中澤の目が穏やかなのに、石川は気づく由もなかった。
6 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:15
今期は石川をエースとしてシーズンをリードするチーム・ナカザワ。
率いるのは元祖・日本一速い娘。の称号をもつ中澤裕子。元祖メンであり初代チャンピオンでもある。
しかし、その中澤も決して華々しい戦歴をもつわけではない。
むしろ今回の石川と同じ、後方からのスタートが多かった。
 
そう、目の前に多くのマシンを臨むスタート風景を懐かしむほどに。
7 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:15
 
   ■  □  ■  □
 
中澤がレースを始めたのは地元の高校を卒業し、大阪で就職してからだった。
誘われて参加したミニサーキットの走行会がきっかけ。
スピードにはまった中澤は週末にサーキットを走り回り、峠や高速などにも行くように。
そしてついにレースに参戦。ローカルの草レースでそこそこの速さを見せるようになる。
そうなると公式レースへ参加しないかと誘われはじめるが、決断できない中澤。
 
時間やお金、コネやツテなどまったく無い自分に勝機などない。
そして、レースの世界が自分とは縁遠いという意識が強かった。
8 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:15
その意識を変えたのがF1日本GP、鈴鹿のレースを観戦した時だった。
当時最強のマクラーレン・ホンダが猛烈な速さでストレートを駆け下りていく。
大迫力と巨大なエネルギーの戦いに驚く中澤。
だが、中澤の心を動かしたのはそれだけでなかった。
前座のシビックワンメークレース。
市販車に近いシビックが、同じ鈴鹿のコース上で激しいバトルを繰り広げる。
操るマシンこそ違うが、戦うのは同じフィールド。
同じ道でつながっていることを、初めて実感した。
 
一歩を踏み出した中澤。
鈴鹿のフレッシュマンレースからスタート。
天性の速さに、負けず嫌いが加わりどんどん速くなる。
成績も向上し、何度か表彰台にも登った。
やがてフレッシュマンを卒業、ステップアップする。
9 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:16
だがOLと両立しながらのサンデーレーサーの悲しさ、だんだんと苦しくなっていく。
偶然の出来事から会社の支援と理解を得られたが、それでも限界はあった。
クラスが上がるごとにコストが上がり、参戦自体が難しくなっていく。
周りも早い相手が増えていく、徐々に中団に埋もれ、さらに後方へ沈んでいく。
 
その中でも特に手強い相手がいた。
速さと若さで敵わず話題性もある女性ドライバー、平家みちよだった。
現在では深い親交のある二人だが、当時はお互いに名前くらいしか知らなかった。
しかし、その存在は互いに意識していた。
二人とも、同じ女性に負けるのは男性に負けるよりも悔しかったのだ。
10 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:16
トントン拍子でステップアップできるほどでなく。かといって続かないほど遅くもない中澤。
コネやツテが出来た分、簡単に辞められない中途半端な状態になっていた。
悩んだあげく、勝負に出る中澤。
上のカテゴリーであるF4に無理をしての参戦。
これで結果が出なければ、スパッとあきらめる。そう決めていた。
 
とはいえ、F4は純粋なレーシングマシン。
今までの市販車改造のいわゆる”ハコ”とは全く違う。
車重は軽くエンジンパワーも大きい。サスペンションも違う。
前後ウィングもあるので空力のセッティングも要求される。
なにより、鈴鹿のラップタイムで20秒以上速いのだ。
同じストレートも短く感じる。肉体的な負担も違う。
単純な乗り換えでは済まなかった。
 
チャンスはわずか3レース。資金の問題から中澤にはそれが限界だった。
デビュー戦、新調したフルフェイスを抱きかかえて深呼吸。
グリッドは最後列だが、緊張は今まで以上。
そして車群の前方には、一足先にステップアップしていた平家の姿も。
スタートでエンストしそこねて、そのまま最後尾で完走した。
11 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:16
2戦目ののスタートは後から2番目。そこからじりじりと順位を上げる。
が、レース中盤に押し出されて再び最後尾に。そこから1台を抜くのがやっとだった。
 
そして、最後のチャンスとなる3戦目。
なるようにしかならない。無駄な力みが抜けた中澤は予選から好調。
予選12番手、6列目からのスタート。自己最高位だ。
決勝グリッドの隣になる予選11位にはまたしても平家が。
前戦で早くも表彰台を獲得していた平家、早くもF3へという噂が囁かれていた。
スタート前に初めて言葉を交わし、健闘を誓った。
12 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:19
スタートが得意でない中澤にとって、1コーナーまで順位を守れることは少なかった。
だが、このときは自分でも驚くような好スタートで3台を抜く。
シケインで1台抜かされるが、オープニングラップを10位で帰ってくる。
前に離されないように、後ろに追いつかれないように必死に走り続ける。
終盤、ペースの落ちた前の集団に追いついてバトルを演じる。
ここで2つ順位上げる。さらに前が潰れ6位でゴール。
まぁまぁかな。けれどやるだけのことはやった。後悔無くピットにマシンを戻す。
このレースの優勝は平家充代。
表彰台のシャンパンファイトを見て、F4参戦以来絶っていたビールの味を思い出していた。
13 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:19
中澤は、もう待つしかなかった。
1週間が経ち、2週間が過ぎた。具合的な話は何一つなかった。
もう少し続けられれば、という手応えはあったが、運がなかったのだ。
さっぱりレースを辞めて、何か違う挑戦を始めるつもりだった。
新たな挑戦を。今度は身の丈にあった冒険を始めるつもりだった。
 
だが、神様は中澤へ最後のチャンスを用意していた。
それも、大きな大きなチャンスを。
14 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:19
 
「はい検査課です…え。近藤レーシンゲ?はぁ?」
 
外線電話が回ってきた。
妙な名前だが、おそらくレーシングの聞き間違いだろう。
そして、近藤レーシングと言えば、あの近藤真彦の率いるチームしかない。
なんの用事があるのだろうか。そんな疑問を持ちながら受話器を取る。
向こうから聞こえてきた声は、間違いなく近藤のもの。
その声が、驚愕の事実を告げた。
 
『今週のフォーミュラーニッポンに出て欲しい』
「はっ?!」
 
思わず、奇声を上げてしまった。
15 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:20
全日本フォーミュラー選手権、通称Fポン。
3リッターV8から500馬力を発生し最高速は300km/hを超える。
国内最高峰のフォーミュラーカーレースだ。
Fポンに参戦している近藤レーシング、その2人のドライバーの内1人が事情により離脱。
その空いたシートを中澤にゆだねるという話だった。
スポンサーの意向もあったが、なによりF4での走りを見た近藤が気に入っていた。
よくわからないまま承諾する中澤。ここから事態は転がるように進んでいく。
16 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:20
スポンサーとの折衝、ライセンスの申請、各種の書類作成。
それらを慌ただしく済ませた2日間。
その成果として金曜日、中澤はなんとか鈴鹿へ来ることが出来た。
ここで分厚い契約書を読みあわせてハンコを押す。正式な契約だ。
続いてピットへ移動。出来上がったばかりのレーシングスーツに腕を通す。
そしてマシンのフィッティングを行う。
それまでと全く違う整った設備に圧倒され、まるで夢の中のようだった。
 
夢でないと実感したのはマシンに乗り込みエンジンがかけられたときだった。
F4に初めて乗ったときも驚いたが、それ以上の音と振動。
恐れることはない。同じクルマだ。そう自分に言い聞かせる中澤。
ゆっくりとクラッチミートして発進。逃げ出したい衝動を抑えて、深呼吸を繰り返す。
ピットレーンでハンドルを軽く左右に切って感触を掴む。ゆっくりとコースイン。
加速・減速。コーナリング。その全てが今までの次元を超えていた。
慣れたはずの鈴鹿が、とても狭く感じる。
中澤はリズム良く、しかし落ち着いてマシンを走らせていく。
 
無事に周回を重ねていく中澤のマシン。
最低限走れること証明できれば、ルーキーテストは合格である。
17 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:20
本当の関門は、ここからだった。
土曜日の予選。ここでトップタイムの107%以内に入らないと決勝へ進めない。
予想ではポールタイムが1分45秒前後、そして予選通過のボーダーラインが1分52秒台後半か。
金曜に中澤が出したベストタイムが1分55秒台ほぼフラット。
これから路面状況が良くなっていくのを考慮しても、すこし厳しい。
ここから先は、中澤の本当の実力が問われるところだった。
 
今まで以上に真剣な表情の中澤。
データロガーの解析結果を思い出す。S字〜逆バンクとスプーンでのロスが大きかった。
この2カ所だけで2秒以上ロスしていた。
だが、それだけでは足りない。全体的に速さが必要だ。
 
「落ち着いて、思い切って行って来い」
 
近藤の声にうなずく中澤。コースへと飛び出した。
18 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:20
多くのレーシングドライバーが語ることだが、
コクピットからの景色はタイムを詰めた分だけ変化する。
 
中澤もこれを体感している。
慣れ親しんだ鈴鹿ならば、流れる景色の密度から、
タイムをどのくらい削ったかも感じ取れるほどだ。
 
金曜日は何をしても55秒を切れなかった中澤。
今朝のフリー走行でもようやく54秒台だった。
だが、予選1回目のアタックで見た景色からは手応えを感じていた。
ホームストレートを駆け抜け、コントールラインを横切るマシン。
タイムは1分53秒828。
 
まだ、足りなかった。
19 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:21
アタック2回目が1分53秒654。3回目1分53秒301。
アタックの度にタイムは削っているものの、予選通過にはまだ届かない。
あとコンマ5秒ほど。もうひとつ、なにかブレークスルーがあれば。
しかし、中澤の体力は限界に近いところまで来ていた。
全神経を集中した予選走行。慣れない大パワーのフォーミュラーマシン。
だが、あきらめるわけにはいかない。4回目、最後のアタックへ出た中澤。
 
アウトラップを丁寧に走り、西ストレートから130R辺りでペースを上げる。
幸い、クリアラップはとれそうだ。
中澤裕子、アタックに入った。
20 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:21
何かが変わった。
 
何が変わったのかは全くわからない。
しかし、全ての出来事がゆっくりと起きている様に感じられた。
景色は確実に変わらぬ、いやそれ以上のスピードで後方へ流れているのに。
1コーナー。路面の継ぎ目や縁石の表面が意識していないのによく見える。
ブレーキングポイント。
目安にしている看板が、やけにゆっくり接近してくる。
余裕を持って、しかし正確にブレーキング。そして短時間に減速を済ませる。
2コーナー。散々走ってよく知っているはずの鈴鹿のコース。
しかし、今では全く異なって見える。
そう、ラインが見えるのだ。
躊躇わずにそのラインをトレースする中澤。マシンも素直に反応する。
スムーズにコーナーを駆け抜けるマシン。
中澤の身体を今まで感じたことのない感情が駆け抜ける。
 
この状態は1周を終えるまで続いた。
21 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:21
 
『52秒0。予選通過おめでとう』
「えっ!?」
 
アタックを終えてピットへ戻る途中に届いた無線の声。監督の近藤だった。
何が起きたのか、よくわからないまま返事をする中澤。その意味を理解して驚く。
ピットではスタッフが大挙して歓迎してくれた。
ハーネスを外し、ゆっくりと立ち上がる中澤。
モノコックを跨いでから、疲労で足元がふらついてしまう。
近藤が肩をささえる。
 
「おめでとう。よくやった」
 
至近距離で言われてハートを打ち抜かれる中澤。
いや、冗談ではない。日常ならともかく、レースで誉められたことはほとんどなかった。
 
予選タイム、1分52秒037。グリッドは最後尾。
しかし、中澤にとっては価値のある最後尾だった。
22 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:22
決勝レースは雨だった。
体力に不安のあった中澤には、ある意味恵みの雨。
35周のレースを、途中スピンしながらもなんとか走りきる。
結果は最後尾の8位完走。
 
「まぁまぁ、やったかな」
 
長いレースの間で、予選の最後のアタックのあの感覚は一度も無かった。
わずかな期待も持っていたが、結局は単に走り続けているだけ。
それがこの結果につながったのだろうか。
 
契約はこの1戦限り。ヘルメットを脱ぐ中澤。
あっけない終わりに、自分のレース人生が象徴されているように感じた。
しかし、やりきった達成感も感じていた。
たった1回の、それも突然の挑戦で、むしろ上手くいったほうじゃないのか。
 
もう一回。
なんでもいいからもう一回なにか挑戦して、それから辞める。
鈴鹿を赤く染める夕日を見ながら、そう決心していた。
23 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:22
この実績を引っさげて挑んだその”もう一回”の挑戦が、
寺田光男率いるレーシングチーム”シャ乱Q”が主催したオーディションであった。
最終選考まで残るも、またしても平家みちよに敗れる中澤。
 
だがチャンスは再び巡ってくる。
中澤を初めとする5人のドライバーに課せられた試練。
 
彼女たちがそれを乗り越え、F・娘。へと昇華していくのは周知の通りである。
24 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:22
 
   ■  □  ■  □
 
 
決勝レースのスタート前。中澤が石川にかけた言葉はたったひとつ。

 「ベストをつくせ」

フォーメーションラップを終え、グリッドにつく各車。
雲はさらに黒く低くたれこめ、イヤな風も吹き始めていた。
シグナルに集中する石川。オールレッドからブラックアウト、レースがスタートする。
先頭で1コーナへ飛び込んだのはポールポジションの松浦亜弥。
藤本美貴、吉澤ひとみ、高橋愛と続く。
石川はストレートと1コーナーで2台ずつ抜き17位へ。
その周にもう1台抜き、最終コーナーでさらにもう1台。15位でオープニングラップを終える。
序盤、先頭集団は膠着状態が続く。各自決め手に欠き、お互いに牽制しあっていた。
そんなことはつゆ知らず。石川は攻めまくっていた。
最後尾スタートの石川。今日はもう何も失うものがなかった。
25 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:23
そして40周のレースの折り返しを過ぎた22周目。
ついに、雨粒が空から落ちてきた。
ここで問題になるのがレインタイヤに交換するタイミングだ。
雨の量と路面の変化を読み、適切な時期に交換したい。
先頭集団では吉澤が真っ先にピットインする。
先週出場して大暴れしたCARTの疲れが残っているのか、ここまでキレのない走り。
高橋に抜かれ、後方から矢口につつかれていた状況を良くしたいのだろうか。
しかし、その判断がすぐに間違いだったことがわかる。
ストレートで明らかに伸びないスピード。まだ、ドライタイヤで粘るほうが速かった。
そして、無情にもそれがわかった後に雨が本降りになる。
一気に濡れる路面。コーナーを横切る川も発生する。
市井がスピンアウトし、あさみがコースアウトする中で先頭集団は同時にピットイン。
先ほどレインタイヤを履いた吉澤もここでもう一度交換せざる終えない。
水しぶきで視界が遮られるレインのレースだ。
2位を走行していた高橋愛が保田圭に追突して両者ともリタイヤしてしまう。
目測を誤るというイージーミスが重くのしかかる。
26 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:23
このころ、石川は入賞圏内の5位を走っていた。
ドライタイヤで粘っていたために順位を上げたが、さすがにずっとは無理だった。
29周目にレインタイヤに交換。これで7位と入賞圏内から落ちてしまう。
が、5位走行中の紺野が雨によるトラブルでストップ。6位に上がる。
残り5ラップ。とらえた吉澤のテールを執拗に追い続ける。
ついに残り1周のストレートで抜き、再び5位浮上。
さすがに、その前の加護には届かなかった。
 
優勝は松浦亜弥。自身初優勝だ。
すでに速さなら文句無し。むしろようやくといった優勝だった。
これでランキング2位に浮上。タイトル争いにも名乗りを上げた。
3位の藤本美貴は初表彰台にもかかわらず仏頂面。
2位を走っていたのに、延々プレッシャーをかけ続けた矢口に最後で負けたからだ。
チロッと舌を出す矢口。
先輩はこうやってさりげなく役者の違いを見せておかないとならないのだ。
27 名前:ずっと後ろから見てきた 〜最後列がどないやねーん!!〜 投稿日:2005/10/07(金) 21:24
ピットに戻ってきた石川は、中澤の上機嫌ぶりに驚く。
なにしろ満面の笑みでハイタッチを求めてきたのだ。スタート前からは考えられない。
 
「ちょ、5位でそんなに喜ばれてもうれしくないんですけど…」
「そうかもしれんけどな、冷静に考えてみ? 最後尾から16台抜きは誇れるやろ
 それに最初から最後まで全力で走ったやろ。それで十分十分」
 
確かに、そうだ。
最後尾スタートで失うものが無いということは、後は得るだけ。
今日は5位で2ポイントも得られたのだ。
 
「いいときもあれば悪いときもある。でもその中で全力を尽くす。
 そうすれば、きっといいことがあるからな」

中澤の言葉を改めて実感する石川。
この週末、初めての笑顔を浮かべていた。
 
  
    <おわり>
28 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2005/10/07(金) 21:26
 
 从#~∀~#从人( ^▽^)
29 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2005/10/07(金) 21:30
まあしょうもない話でスマソ
 
元々は昨年の中澤さんの誕生日記念に書いていたものの間に合わず、
石川梨華の誕生日の記念として書き続けたものの進まず、
そして石川梨華の卒コン記念として書き(略
さらに今年の中澤さんの誕生日記念として(略
とまあ紆余曲折があってようやく完成して
こうやって何にも関係ない時期にうpしたわけです(をい
 
これからも管理人さまをふくめぬるーくおつきあいしていただけると幸いです。
30 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2005/10/07(金) 21:33

 ずっと後ろから見てきた
  〜最後列がどないやねーん!!〜
 
 >>4-27
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/27(日) 18:27
祝・復活
ミカ・ニネンさん、お疲れ様です。
2ヶ月近く気づきませんでした。
前スレの時から、ずぅーと読んでいました。
出来ましたら「ル・マン編」の続きを期待しています。
32 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2005/11/28(月) 01:29
>>31
レスありがとうです
 
…ということは2ヶ月近く更新してな(ry
年内に1回は更新するつもりです。
ルマンは…一から書き直すかもw
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:14
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
34 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2005/12/29(木) 12:12
年内更新を予定していましたが、ちょっと無理でしたorz
ほぼ完成しているので、新年あけて早い内に更新します。
 
では、良いお年を。
35 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/13(金) 23:52
朝日に輝くスタンドを見上げて、小さな身体を目一杯に伸びをする。
再びこの舞台へ戻ってこられた。それだけでも最高。
ちょっと長い休息は、自分にレースしかないことを良く良く教えてくれた。
 
フォーミュラー娘。第4戦美祢。
怪我で欠場していた安倍なつみが、ついに帰ってきた。
36 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/13(金) 23:53
金曜日、一発目の記者会見。
ここに呼ばれるのは直近の話題を持つ人間がほとんど。
今回は、松浦亜弥、吉澤ひとみ、安倍なつみ、そして中澤裕子の4人。
 
まずは前戦で初優勝を遂げた松浦に質問が飛ぶ。
「そーですね。やっぱり優勝はうれしいですね。これからどんどんどんどん、勝っていきますから」
いつものアルカイックスマイルで答える松浦。
実力は抜群ながら、多くのトラブルで苦汁を嘗めた昨シーズン。
オフでは有力どころのチーム・フィラへ後藤の後釜としての移籍も持ち上がったものの、
最終的に身内だが零細のケン・マツウラの残留を選んでいた。
そして迎えた今シーズン、速さにはさらに磨きがかかったが結果がついてこない。
開幕戦のトラブルと第2戦のピットミスは、どちらもトップ走行中に起きていた。
勝負事にたらればは禁物だが、それらがなければ3連勝していたかもしれない。
37 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/13(金) 23:55
 
「アッメリカ仕込みのドライビング、ニホンでもみせちゃいますからネ!」
続いて、アメリカンレースの最高峰であるCARTシリーズへ参戦していた吉澤。
エセ外国人の振りなのか、カタコト日本語で受け答えをする。

「ソーデスネ。アッメリカのレースもレベルがハイだけど、ニホンのレース負けてないネ」
前の週のミシガンを最後にCART参戦を中止した吉澤。
元々チームとの契約はミシガンまでの前半戦のみ。契約は延長しなかった。
最高位はオハイオの5位だが、それ以外は些細なトラブルで後方に沈むことばかり。
慢性的な資金不足に加え、チームのミスで順位を失うことが多すぎた。
テストすら満足に行えない弱小チームで無理に掛け持ちするよりも、F・娘に専念した方がいい。
そういう判断だった。
38 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/13(金) 23:56
「久しぶりのレースだからホント緊張しちゃって昨日とか全然寝られなくてねー
 今日もレーシングスーツとかメット準備してるともうドキドキしちゃって。
 こんなのでレースできるのかなって、ねえ」
 
ニコニコと満面の笑みで快活に喋る安倍。ブランクの後も印象は変わらない。
しかし、つきあいの長い中澤は感じ取っていた。その裏に隠された期待と緊張を。

サングラスをいじりながら待っていた中澤。順番が回ってきて質問が飛ぶ。
「チーム・ナカザワは安倍さんと石川さんの二人が走るわけですが、監督とししてはどうですか?」
 
語外の意味を悟る中澤。それはつまり、昨年の吉澤と石川を期待しているのだ。
 
「どうもこうも。監督としてベストのドライバーを揃えただけですから」
微笑む中澤。タイトルを争う資格は十分にあるはずだ。
39 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/13(金) 23:57
決勝日、天気は快晴。
予選1位、ポールポジションは吉澤ひとみで今シーズン初。
そして2番手には注目の安倍なつみ。復帰戦を感じさせない位置だ。
本人は謙遜するも、とりあえず一安心といった表情だ。
以後、3位にポイントリーダーの石川、4位に紺野。前戦優勝の松浦が5位。
6位高橋、7位に辻、8位に藤本というオーダー。
 
定刻通りの午後1時、全車21台がスタートを切った。
40 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/13(金) 23:59
ロケットスタートを決めたのは気合い十分の安倍だった。
ホイールスピンさせすぎた吉澤を交わして先頭で1コーナへ飛び込む。
石川も吉澤に襲いかかる。並んで1コーナーへ進入するが、軽く接触。
吉澤はそのままだったが、石川はアウトに大きくふくらみ順位を下げてしまう。
監督の中澤は目を覆う。ちょっと無理しすぎた。
 
先頭に出た安倍がレースをリードしていく。
ブランクを感じさせない堂々とした走りだ。
美祢のような狭いレイアウトのコースを苦手だと言う安倍。
だがそれとは裏腹に、ファステストラップを刻み少しずつ差を開いていく。
 
追いかけるは吉澤、松浦、高橋、紺野の4台。一列縦隊。
しかし5周目、松浦がスローダウン。ゆっくりとピットへ戻る。
またしてもマシントラブルでリタイヤ。ステアリングを叩いて悔しがる。
ペースをあげて吉澤に迫っていた高橋も、フライングの裁定が下りペナルティ・ストップ。
紺野も少しずつ遅れだし、安倍と吉澤の一騎打ちの様相へ。
41 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:00
今日の安倍の戦略は明確だった。
長丁場の決勝レース、ブランクのある安倍には後半に不安があった。
2位という予選順位を活かし、序盤から前に行けるだけ行く。
スタートで吉澤を交わしそのまま引き離す、とここまでは成功している。
あとはこのリードをどうやって守るかだ。
 
「なっち、どうや?」
『ちょっとアンダーが強くなってるけどだいじょーぶ』
心配で声をかけた中澤に、陽気な声が帰ってくる。まだ、大丈夫そうだ。
「次の周ピットでタイヤ交換」
『了解〜』
ストレートを駆け抜けるマシンの姿を見送りながら、無線を飛ばした。
42 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:00
 
「くそーやべーちくしょーここで離されてたまるかってーの!」
 
歯を食いしばって追いかける吉澤。
吉澤はレースの勝負所を後半と読んでいた。
マシンのセッティングもガソリンの減る後半に重きを置いたもの。
それだけに、序盤から安倍を簡単に逃がすわけには行かなかった。
その差は3秒ちょっと。まだ、何とか見える範囲にいた。
 
今期は未だ納得のいくレースが出来ていない吉澤。今日こそはの思いが強い。
CARTの参戦をやめたことをいろいろ言われているのも知っている。
それだけに、簡単に負けるわけにはいかなかった。
43 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:00
レース折り返しの25周目。先頭を走る安倍がピットイン。
続いて吉澤もピットイン。両者とも規定のタイヤ交換を同じ周に持ってきた。
ピット作業に定評のあるチーム・ナカザワ。
吉澤の所属するチーム・ゴナツヨも最近は早い。
電光石火のタイヤ交換。4人のタイヤマンの手が素早く上がる。
所要時間は2台ともほぼ同じ。差は変わらずにコースへ戻っていく。
残り24周。決着はコース上で。
44 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:01
灼熱の太陽がアスファルトを焼いていく。
立ち上る蜃気楼の中を駆け抜けていくそれぞれのマシン。
タイヤ交換を終えて、安倍の走りが変わっていた。
コーナーの進入が神経質になっているようだ。
燃料が減って軽くなったマシンと、新しいタイヤ。そのバランスが崩れていた。
しかし、目立って遅くなっているわけではなかった。
今までとあまり変わらないタイムでラップを刻んでいた。
 
追いかける吉澤も状況が変わってきた。
序盤のアンダーステアから、ニュートラルを経て軽いオーバーへ。
軽くなったマシンはだんだん狙った動きをするようになっていた。
見た目にも序盤の我慢の走りから、
クリッピングポイントまで最短でアプローチする本来の走りになりつつあった。
 
タイミングモニタを見ていた中澤の表情が曇る。
それまで開く一方だった二人の差が、初めて縮まったのだ。
45 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:01
安倍はもちろん気になっていたが、中澤は同じくらい石川も気になっていた。
序盤にコースアウトで遅れた石川。その場で作戦を変更する。
早い内にタイヤ交換を済ませあとはしぶとく順位を上げていくという狙い。
その狙いはピタリと当たり、先の周で飯田を抜き6位。入賞圏内に上がっていた。
 
黒いノーズに書かれたピンクのゼッケン19。
自身の誕生日、そして”行くで!”にかけた19は中澤が好んでつけたゼッケン。
中澤は19をつけて初年度のチャンピオンを獲得していた。
すなわち、#19は最速娘。の代名詞でもあった。
中澤が引退した昨年は安倍が、そして今年は石川がゼッケン19を引き継いでいた。
前戦の猛烈な追い上げ、そして今日の見事なリカバー。
1月19日生まれの石川、走りもゼッケンに恥じないものになっていた。
46 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:02
状況が変わり、追い上げに転じた吉澤。
しかし、安倍も簡単に追いつかれはしない。
絶対的なスピードでも負けていても、要所を締めて差を保つ。
追い上げる相手に精神的な優位を与えないためだ。
 
もっとも吉澤だってわかっている。
差が縮まらないからといって、簡単にはくじけはしない。
無線とピットサインで実際の差は把握している。
安倍が一筋縄でいく相手ではない。
なにより、最後まであきらめないことが勝利へ繋がること。
それをよく知っていた。
 
残り10周で3秒台前半の差。
ワンミスで簡単になくなってしまう差だった。
47 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:03
その鍵を握る存在のひとつが、周回遅れの処理である。
抜き所の少ない美祢のコース。
抜けるところで追いつけるように、タイミングを調整する。
そして、タイムロスが最小限になるように追い抜く。
このあたりもテクニックのひとつ。矢口や後藤あたりが得意としている。
タイミングにムラがある安倍と、イケイケドンドン的な吉澤。
二人ともどちらかというと上手い方ではなかった。
 
周回遅れで目下一番手強そうなのは、藤本美貴。
前のレースでは初表彰台を獲得した、期待の大型ルーキー。
アグレッシブな走りに、コース内外での負けん気の強さ。
フリー走行で接触しかけた相手ドライバーのピットに殴り込んだ逸話もあるほど。
こちらも、一筋縄では済まなそうだ。
48 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:03
ストップ&ゴーの美祢は抜くポイントが少ないサーキットだ。
コース幅も狭い方で、バックマーカーが道を譲りにくい。
加えて長らく実戦から遠ざかっていた安倍。レースのカンが鈍っていた。
第2ヘアピンで藤本と微妙な距離になってしまい、一瞬躊躇する安倍。
次のシケインの進入までに抜きたかったが、並ぶのが精一杯。
最終コーナーの手前でインを譲る藤本。安倍がようやく前に出る。
 
「とおぉぉぉぉぉぉりゃー!」
その後方に迫っていた吉澤が、叫びながら最終コーナーに突っ込む。
アウトから強引に抜きにかかる吉澤。軽く藤本をかわす。
その勢いで、安倍のスリップストリームに入る。
900メートルのメインストレート。安倍がマシンを右に振り牽制する。
1コーナーの手前、吉澤は一気に左に出て並びかける。
ストレートの最後の伸びが足りない安倍。吉澤が前に出て1コーナへ飛び込んだ。
49 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:04
実は、勝負は最終コーナーで決まっていた。
藤本に詰まってしまった安倍はリズムを崩し、理想のラインを取れなかった。
一方の吉澤は自分のリズムでパスし、思う通りのコーナリングが出来た。
結果、最終コーナーの脱出速度で勝った吉澤。それを活かしての勝利だった。
 
回り込む1コーナーを抜け、バックストレッチ。
追いすがる安倍を振りきるかのように、吉澤が加速していく。
50 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:04
抜かれた瞬間にうわーもうダメだと思った安倍。
しかし、即座にそう思ったのがダメだと反省する。
クルマという道具を使うモータースポーツ。だが、それを扱うのは人間。
スポーツは人間が競うもの。気持で負けたら、絶対に勝てない。
 
しかし、一度切れた気持を繋げるのは至難の業。
あるいは、それがレースを走っていなかったブランクのせいなのか。
マシンのバランスも崩れていたレース後半、吉澤との差がどんどん開いていく。
51 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:05
『無理せんでええよ。2位で十分十分』
中澤の声が無線で届いた。
なにげなく、優しく言ったように聞こえるが、
その影にわずかな悔しさを感じ取った安倍。でも、仕方ない。
無事に2位でチェッカーを受けること。それが今日の自分にできること。
「この次は、負けないから」
自分に言い聞かせるように、つぶやいた。
 
ピットサインを横目で見ながらストレートを通過する安倍。
後方の3位には、ゼッケン19が浮上したのを確認した。
「#19って……梨華ちゃん!?」
スタート直後にミラーの端でダートにはみ出るマシンがいたのを思い出す。
それが確か#19だったはず。
 
「なっちも負けてられないから!」
後輩の成長に勢いづけられた。
52 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:06
消耗戦になったレース終盤。
ひとりペースが落ちない石川は、ついに3位争いの集団に追いついていた。
紺野あさ美、辻希美、小川麻琴そして石川の4台によるバトル。
石川もタイヤの消耗など楽な状況ではない。
シーズン通して考えれば、松浦のリタイヤした今回のレースでは、
確実にポイントを稼いでおきたいところだ。
そう考えた中澤は無理をしないよう、抑えて走るように言った。
 
『中澤さん、全力を尽くせって言ったじゃないですか!』
 
全く聞き入れない石川に、中澤も苦笑いする。
1コーナー、4コーナー、そしてヘアピンで前に出た石川。
3位表彰台まで上り詰めた。
53 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:06
ラストラップ。
青のマシンに乗った吉澤ひとみが最終コーナーをゆっくりと立ち上がってくる。
両手を突き上げてチェッカーフラッグを受ける。吉澤ひとみ、今期初優勝だ。
満面の笑みで手を振りながらのウィニングラン。もっとも今回も楽勝ではなかった。
ラスト数周はブレーキの消耗が激しかったし、水温も限界を超えていた。
あと数周レースが長ければエンジンが息絶えていたかもしれない。
まさに薄氷の勝利。それだけに喜びもひとしお。
 
2位でゴールした安倍。そして3位の石川。
チームナカザワが2-3フィニッシュ。2台が並んでランデブー走行。
吉澤に敗れたものの、チーム力の高さを見せつけた。
54 名前:真夏の死闘  〜帰ってきた安倍なつみ〜 投稿日:2006/01/14(土) 00:08
表彰式。
 
「どす〜ん!!」
両手を突き上げて叫ぶ吉澤。今年の初優勝を素直に喜んでいた。
ランキングもこれで20ポイント(pt)になり、
今回リタイヤでノーポイントの松浦亜弥(16pt)をかわして2位に浮上。
昨年逃したタイトル、まだ十分に狙える位置にいた。

吉澤の隣に、目を細めて笑う安倍。
復帰戦を見事2位で飾った。シーズンはまだ3戦が残っている。
数字上ではタイトルの可能性も十分にあるのだ。
石川は暑さにやられたのか汗だくで疲労気味。
今回は吉澤に負けたものの、それでも26ptでランキングトップと俄然有利な状態。
もう一度流れを引き寄せて、なんとかタイトルを獲りたい。

夏の夕日が3人を紅く染める。
ひときわ目立つのがチームナカザワの黒のレーシングスーツ。
ナカザワの二人を中心にシーズン後半が進んでいく。
そんな予感がする、真夏のレースであった。
 
  
    <おわり>
55 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2006/01/14(土) 00:09
(●´ー`)
56 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2006/01/14(土) 00:18
定期しょうもない話でスマソ
 
本文は年末に書き上がっていましたが、タイトルが思いつかずに帰省を迎えてしまいまして。
結局しっくりくるのはなくてこんなベタなのになってしまいましたが、わかりやすくていいかw
 
しかし久しぶりに書くと文中のなっちさんと違って全くかけなくてイヤーンです

関係ないようなあるようななんですが、今回の舞台の美祢サーキットが閉鎖だそうです。
ttp://www.cqmotors-mine.jp/1info/press.html
今期のレースとかどうするんだろうなあ。
FポンとかGTとか当然日程に組まれているはずなんだけど…。
わりと好きなサーキットなので、どうにか存続して欲しいものです。
57 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2006/01/14(土) 00:20
 真夏の死闘
  〜帰ってきた安倍なつみ〜
 
 >>35-54
58 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2006/09/15(金) 23:08
ヒサブリに更新とか
 
5シーズン目のF・娘。を締めくくる方向で
59 名前:第5戦もてぎ ダイジェスト 投稿日:2006/09/15(金) 23:10
・予選
前戦から好調の安倍が1位で復帰後初のポールポジションを獲得。
僅差の2位には吉澤、3位松浦、4位矢口、5位藤本、6位市井と続く。
石川はまたしても予選を失敗し13番手からのスタートになる。

・決勝
快晴でレース開始。安倍が飛び出して首位を守る。
吉澤は松浦にかわされて3位に後退。藤本は市井と1コーナーで接触して両者ともリタイヤ。
入賞圏内に紺野、高橋、辻、矢口らが走行。猛然と追う石川はこのグループに追いつく。
終盤、飯田のクラッシュで赤旗中断。2パート制になる。
この日3回目のスタートで石川がロケットスタートを決めて上位へ進出。
最終周で高橋もかわして石川は4位でゴールする。5位高橋、6位に辻。
上位陣は大きなリードを築いた安倍が逃げ切って復帰後初優勝をポールトゥウィンで飾る。
中盤、2位の松浦の背後に迫る吉澤だったが、軽いコースアウトで前ウィングを破損。
これで順位キープに徹する。結局2位松浦、3位吉澤でゴールした。
60 名前:第6戦富士 ダイジェスト 投稿日:2006/09/15(金) 23:13
この時点でドライバーズタイトルの可能性は、
1位石川梨華(29pt)、2位吉澤ひとみ(24pt)、3位松浦亜弥(22pt)、
4位安倍なつみ(16pt)、5位高橋愛(10pt)までに絞られた。
3戦欠場しながら可能性を残す安倍だが、第6戦のスタート前にチームメイトの石川への援護を表明する。

・予選
曇り空の元で行われ、ポールポジションは石川梨華。意外にもこれが自身初。
2位には松浦、3位に吉澤、4位安倍、5位高橋とランキング上位のドライバーが並ぶ。
6位飯田、7位加護、8位辻、9位に紺野と続いた。

・決勝
好天となった日曜日の決勝はスタートが荒れ2度ほどやり直し。
4度目のスタートも松浦が出遅れて紺野と接触するが、黄旗で続行。
これで松浦は大きく後退、タイトルはほぼ絶望的に。
トップに立ったのは吉澤。これを石川と安倍が追う。
ピットストップでも順位は動かず、吉澤が逃げ切って今期2勝目。
終盤石川が攻めすぎてスピンし3位に後退したが、ラストラップで安倍が譲る。
2位石川、3位安倍。松浦は必死に挽回して4位に滑り込む。5位飯田、6位に高橋が入る
61 名前:ポイントランキング 投稿日:2006/09/15(金) 23:14
ポイントランキング(第6戦終了時、上位10名)

1 石川梨華  35ポイント
2 吉澤ひとみ 34ポイント
3 松浦亜弥  25ポイント
4 安倍なつみ 20ポイント
5 高橋愛   11ポイント
6 矢口真里   9ポイント
7 藤本美貴   5ポイント
8 辻希美    4ポイント
9 飯田圭織   4ポイント
10 加護亜依    3ポイント
62 名前:終わりは次の始まり 〜最終戦・鈴鹿〜 投稿日:2006/09/15(金) 23:25

鈴鹿山脈から寒風が吹きつける11月の鈴鹿サーキット。
F・娘。の長いシーズンも、この最終戦で幕を閉じる。
これで最後という解放感と、これが最後という焦燥感が入り混じる。
今シーズンの全てが収束する最終戦。
最終戦特有の賑々しい雰囲気がサーキットを包む。
特に今回は特別な雰囲気だった。
開幕前日の木曜日に行われた記者会見で配られたプレスリリースに記された一文。
 
”トヨタF1レーシングチームは来シーズンのレギュラードライバーに後藤真希を起用する”
 
ついに、F・娘。出身のF1ドライバーが誕生することになったのだ。
63 名前:終わりは次の始まり 〜最終戦・鈴鹿〜 投稿日:2006/09/15(金) 23:26

アメリカ最高峰のフォーミュラーレースシリーズであるCART。
後藤は今シーズンそのCARTにトヨタ系有力チームのチップガナッシから参戦していた。
シーズン序盤こそ苦戦が続いたが、中盤から調子をあげ常にトップグループにいるように。
終盤にはついに初優勝、最終的には3勝をあげてランキング4位、ルーキーオブザイヤーも獲得した。
初年度にしては文句の無い好成績だ。
  
以前からトヨタの支援を受けている後藤。
前からアメリカで勝って次はF1、という噂は流れていたが、あくまで噂のレベル。
その噂に対して周りを納得させる結果を残したのは、紛れもない後藤の実力だった。
 
ゲストパスを首から下げた後藤が、以前所属したチーム・フィラのガレージを訪れる。
律儀な後藤、監督を始めお世話になった人へひとりひとり報告をしていく。
変わらぬ笑顔に、アメリカで身につけた自信が垣間見える。
64 名前:終わりは次の始まり 〜最終戦・鈴鹿〜 投稿日:2006/09/15(金) 23:27

この時期は来期へ向けてさまざまな動きも少しずつ明らかになってくる頃だ。
まず発表されたのは、平家みちよの参戦中止だった。
実力には定評のある平家。昨シーズンは劣るマシンで表彰台も獲得した。
今期も不屈の闘志で参戦。マシンが他チームと同じレイナードになったこともあり期待も膨らんでいた。
しかし、随所に光る走りを見せたが、なかなか結果に繋がらなかった。
おりしも不況のさなか、プライベーターとして参戦するのは難しくなってしまった。

「ま、走るのやめるわけでないしね」
激励に訪れた中澤に笑顔で答える平家。
決断を下した彼女の表情はむしろ晴れ晴れしていた。
 
もうひとり、保田圭も今回がラストラン。
F・娘。には新たな才能を発掘し育成するという意味合いもある。
現在参戦中の選手の中で最年長の保田、F・娘。シリーズを晴れて卒業となった。
ピットには来期の参戦が濃厚な新人ドライバー3人が見ていた。
保田の熱く激しいスピリットを継承させようと寺田が手配していたのだった。
65 名前:終わりは次の始まり 〜最終戦・鈴鹿〜 投稿日:2006/09/15(金) 23:28

衝撃の出来事も起きていた。
最終戦まで2週間となった日に飛び込んできた、衝撃のニュース。
飯田圭織と矢口真里の所属するチームであるTANPOPO、
その経営母体の会社が脱税の容疑で大規模な家宅捜索を受けたのである。
元々はカーショップのチェーンが立ち上げたレーシングチームであるTANPOPO。
長く幅広く活動しており、石川や加護などF・娘。以前に所属していたドライバーも多い。
数年前にそのチェーンごとベンチャー企業に買収されたが、チームの活動はそのまま継続されていた。
 
今回家宅捜索が行われたのは、そのベンチャー企業だった。
グループ企業も含めた大掛かりな捜査はチームにもおよび、マシンなども差し押さえられてしまった。
これに対し、主催者の寺田光男が各所と交渉。差し押さえはなんとかレースに間にあうよう解除された。
しかし、問題が解決されたわけではない。準備不足に加え、当面の資金も不足。
ドライバーの飯田と矢口も問題解決に奔走し、とりあえず最終戦鈴鹿にだけは出走できることに。
2人の表情には疲労の色が濃かった。
66 名前:終わりは次の始まり 〜最終戦・鈴鹿〜 投稿日:2006/09/15(金) 23:29

今回のレース最大の注目ポイントは、最終戦までもつれたチャンピオン争いだった。
ドライバーズタイトルは石川梨華と吉澤ひとみ、松浦亜弥の3人に絞られていた。
ただし、松浦がタイトル獲得するには優勝かつ石川7位以下、吉澤6位以下、という厳しい条件。
実質的には石川と吉澤の直接対決と言える状況だ。
2人の差は、わずか1ポイント。
先にゴールしたほうがチャンピオンとなる。
 
両チームとも今回はチームオーダーを出さないことを明言した。
記者会見で正々堂々と戦うことを誓った2人。晴れやかな表情で、固い握手をした。
67 名前:終わりは次の始まり 〜最終戦・鈴鹿〜 投稿日:2006/09/15(金) 23:31

さてレースである。
土曜の予選を制したのは吉澤ひとみで、今期2回目のポールポジション獲得だった。
圧倒的な速さを誇った昨年に比べると結果では劣るものの、安定した速さを発揮するようになっている。
実際、低い気温に悩む選手がほとんどだった昨日、吉澤はほとんどノーミスだったのだ。
これも、コース状況の厳しいCARTを経験してきたからか。
吉澤の眼が鋭く光る。勝って全てを決める。狙うのは勝利のみ。
 
その吉澤の斜め後ろ、2位グリッドにつけたのは今日のもうひとりの主役である石川梨華。
堅実な走りの石川だが、今期は一皮剥けて元々の速さに勝負どころでのキレた走りが加わった。
必要なときにリスクを冒す姿勢。その成果が今年果たした初優勝と予選1位、そしてタイトル争いだ。
深呼吸して自分を落ち着かせる石川。全てを出すのは決勝レースだけでいい。
そのためには必要以上に緊張することはないのだ。
68 名前:終わりは次の始まり 〜最終戦・鈴鹿〜 投稿日:2006/09/15(金) 23:32

吉澤と石川の後方2列目には、タイトルにわずかな可能性を残す松浦亜弥と、
元チャンピオンで石川と同じチームの安倍なつみが控える。
タイトル争いに関して露骨なことはしないと言う安倍だが、こちらも微妙な位置関係だ。
以降5番手に矢口真里、6番手藤本美貴。
チーム存続の危機という酷い状況の中、気合一発でタイムを叩き出した矢口。
その矢口に第3戦で2位を奪われた藤本。リベンジを狙っていた。
このあたりの攻防も面白くなりそうだった。
 
様々な想いを乗せた21台のマシンが1周のフォーメーションラップを終え、グリッドにつく。
空は曇り空。気温はこの時期としては平均の10度前後だが、風が少し強い。
スタートを待つわずかな時間。
吉澤がヘルメットのシールドを一度開け、シグナルを見てから閉める。
その後方石川はシールドをごくわずか開けたまま。一度吉澤を見てからシグナルへ集中。
エンジン音が高まり、サーキット全体が緊張に包まれる。
 
時が止まる一瞬。
 
シグナルがレッドからグリーンに変わり、21台のパワーが解き放たれる。
69 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2006/09/15(金) 23:33
ヒサブリの更新完了sage 
 
続きは、今月中に…できたら良いな♪

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