心に夢を、君に花束を。

1 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:26
初スレで、多少の短編を書かせていただきます。
度々作家フリーの所で書かせていただきましたが、
流石にそこに頼りすぎるのもどうかと思いまして、初スレです。
2 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:27


■オリメン同期愛。
3 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:27


「なんだかなあ」

 はあ、となっちが溜息をついた。
 テレビ画面では、元気にあたし達の後輩が踊って歌っている。

「どうしたー」

 あたしはなっちにお酒を渡しながら、溜息ついたなっちに聞く。

「うん……なんか、モーニング娘。も変わったなあと思って」
「そりゃあね」

 たくさん、いなくなったもの。

 そんな事を口にしようとして、やめた。
 たぶん、なっちもわかってる。
4 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:28
「うーん。変なの」

 なっちがお酒を舐めながら苦笑い。
 あたしも苦笑い。

 モーニング娘。

 あたし達で作り上げた、大切なもの。
 でも、今、あたし達はそこいなくて。

「みーんな、いなくなっちゃったねえ」

 そんな、なっちの呟きが。
 いつか聞いた、住職さんの言葉と重なった。


 みんな、いなくなっちゃったんですか。




 重いなあ、と思う。その言葉が。
 オリメンが、いない、グループ。



「いなくなっちゃったねえ」

 あたしが繰り返すと、なっちははあ、と溜息。
5 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:29

「この間、あたしが卒業したばっかりだと思ってたんだけどね」
「はは、いつの話してんの」
「――ハワイでさあ。語ったじゃん。最後のオリメンだとかって」

 なっちの言葉に、あたしは夜のプールを思い出す。

「ああ、うん」
「圭織がさ、頑張ってねってたくさん言われたって。あたし、感動してないちゃったべ?」
「うん、覚えてるよ」
「――あの時のことをね。思い出してずっと、どんな時も、頑張ろうって思えた」

 なっちの声は震えていて。あたしはお酒をぐいっと飲んだ。
 体が一気に熱くなる。

「あたしもだよ」

 あたしの言葉に、なっちは顔を上げた。
 なっちは、ぽろぽろ涙を流していた。
6 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:29

「――駆け足、過ぎたのかなあ」

 小さく呟かれた言葉。

 確かにあたし達の人生は、とても駆け足だった。

 十六歳から大人の世界。
 用意されたレールなんかなくて。
 自分たちで作り上げるしかなかった。

 がんがん突っ走って、大人に立ち向かって。
 売れ出した頃から、何かがかみ合わなくなってきた。

 明日香が卒業して。あやっぺも卒業して。紗耶香もいなくなって。

 裕ちゃん、後藤、圭ちゃん、なっち、辻、加護、あたし、矢口、石川――。


 あまりにもたくさんの仲間たち。
 ずっと一緒にやっていけると、思ってた。

 でも、無理だったね。

 みんな、いなくなっちゃったあ。

7 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:30


「何なんだろうね、あたし達」

 なっちが苦笑した。


 歌っていながら、何も言えず。
 笑っていながら、作らされて。
 踊っていながら、操り人形で。


 あたし達って何だろう?
 アイドルって何だろう?

 そんな事、考えたって、きっと答えは出なくて。


 ふと、昔言われた事を思い出す。


「――元気の源、だってさ」
「え?」
「そう言われたの。昔にね」

 元気が出ます。頑張ってください。
 応援してます。癒されます。

 とか。

「――皆の笑顔を作る職業ってことで、いいんじゃないの」

 納得は出来ないかもしれない。
 心は全然理解できないだろう。

 それでも。

 ただ、そこに。

 理屈と言う理由があれば。
8 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:31


「――だから、頑張れるって、思えればいいよね」


 そうなんだ。
 だから、だからこそさ。


 あたし達は、笑えるんじゃないかな。



「ね、なっち」
「ん?」
9 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:31

 ――あれから色んな事があったね。

 たくさん卒業していったこととか。
 娘。の人気が徐々に低下していった事とか。
 なっちの盗作問題とか。
 あたしが卒業して、頼みの綱だった矢口の脱退とか。


 ホントに、めげそうになって。
 何度も、何度も、泣いた。

 でも、そのたびに、ファンの皆の声援とか。笑顔とか。


 後輩の、不安そうな顔とか見て。



 あたし達がしっかりしなくちゃって。
10 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:32
 陰で悪口とか、もうダメだとか色々言われてるのは知ってる。
 でも、それでも、あたしはがんばりたいんだ。

 その言葉に、なっちが涙を拭いて笑った。



「あたしもだよ」
「――ガンバろ」

 あたしの笑顔に、なっちも得意のなっちスマイルを見せてくれる。
11 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:33

「化粧、落ちてるよ」
「うるさいなー。圭織は」
「なっちのためにいってあげてるんじゃない」
「もう、圭織しかいないからいいんだべ!」
「なまってるよー」
「同じ出身だからいいの!」

 あたし達の、築いたものを継いで行く後輩たち。
 頼もしいなあ、とも。
 羨ましいなあ、とも。

 そうして、頑張って欲しいなあとも。



 テレビでは、新メンバーの子が笑っていた。




 ――がんばれ。
12 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:35
ここで同期愛はおしまいです。
一期はお互いを惜しむと言うよりは、モーニング娘。を惜しんでいそうな気がしてなりません。
まあ、あくまでも妄想ですが。
13 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:37




■でっかいのちっさいの。


14 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:37


「ごめん。ホントに、ごめん」
「もういいよ」

 矢口はいつまでもあたしに頭を下げてくる。


 突然の脱退。

 もちろん、あたしは発表前日には知らされていたけど。


「圭織に、嘘ついた。護れなかったよ」
「うん……」

 泣き虫矢口。
 でも、今は涙目で、必死に泣かないように頑張っている。

 たぶん、泣けば許される問題じゃないって思ってるんだろうな。
15 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:39

「ごめん……」
「ね、矢口」
「?」

 頭をなでなで。
 今まで、同い年っぽく扱ってきたけど。

 ああやっぱり、あたしの方が年上なんだ。


「怒ってないよ、あたし」
「でもさあ……」
「よっすぃーとさ、ちゃんと話したんでしょ?」
「……うん」
「じゃあ、いいよ」


 うな垂れてしまった矢口に、あたしは笑った。
16 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:40

「矢口、あのね、あたしがリーダーになった時さ、うたばんで泣いちゃったじゃん。覚えてる?」
「え? うん……」

 あたしが急に、本番中に泣き出してしまった時。

「あたしさあ、リーダーになったばっかりですごいプレッシャー感じてたのね。それで、中居さんが、矢口がリーダーじゃん? とかいうしさあ」

 あの時、ぐさっときた。
 裕ちゃんだって、矢口がリーダーにしたほうがいいとかいってたし。

 やっぱりあたしはだめなんじゃないかって思った。

「でもさあ、矢口があたしのやり方で自信もっていいんだよって言ってくれた時、すんごい嬉しかったんだよね」

 だから思わず、泣いちゃったんだ。
17 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:41
「……うん」

 ぐしって矢口が鼻をすする。

「だからさ、矢口は矢口なりのやり方で、けじめつけたんでしょ? だから、もういいんだよ」


「……かおりぃ……」

 矢口はあたしに抱きついて、大泣きした。

 あ、やっぱりパグチ、なんて懐かしい事を思ってみる。

 二十センチくらいあるあたしと矢口の身長差。


 ねえ、こんだけ違うんだから、やっぱりやり方も変わって来るんだよ。


 だからさ。


 怒ってないわけじゃないんだけど。

 矢口は矢口のやり方でやっていって欲しいんだ。
18 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:41



 変わっていくモーニング娘。

 あたし達で大きくしたモーニング娘。



 今はもう、あの頃とは大きくかけ離れていて。


 築き上げていったものを受け継いで欲しいけど、それでも、と思う。


「矢口、焼肉食べに行こうか。みんな誘ってさ」
「……うん」


 それでも、新しい風の吹くモーニング娘。をさらに築き上げていって欲しい。



 貴方たちのやり方で、自信を持って。
19 名前:知人。 投稿日:2005/10/17(月) 08:42
終りです。
納得のいく、終わり方を。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/18(火) 00:10
なんか、すごいよかったです。
これからも期待しちゃいます。
21 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:45



■85年組。

22 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:45


「あー! よっちゃんそれ美貴の肉ー!」

 藤本が肉を口に放り込んだ吉澤に叫んだ。

「うるさいなー。そっちにもあるじゃん!」
「狙ってたんだよ、それ!」

 ぎゃんぎゃん喧嘩する二人に石川がとめに入る。

「ちょっと、二人ともー」
「ムダだよ梨華ちゃん、やめときな」

 マイペースで肉を頬張っているのは後藤だった。
23 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:46
「それにしても、結構珍しい組み合わせだよね」
「確かに」

 石川の言葉に後藤が頷いく。
 85年組同士はあまり食事などには行かない。
 たまたまハロモニ収録が終わってから、藤本と吉澤がご飯を食べに行くというので、石川と後藤もついてきたのだ。

「あー! 石川、ごっちん! 何二人でパクパク食べてんの!」
「ホントだよ、美貴の分も残しといて!」
「二人が喧嘩してるから行けないんじゃん」

 二人が言い合っているうちに後藤と石川はさっさと自分の分を確保して食べていた。

「あーもー! 二人とも黙って食べてよ!!」



「は、はぁい……」



 石川の鶴の一声。
 吉澤と藤本は大人しく肉を分け合った。
24 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:47



「はぁー。食べた食べた」
「よっちゃん食べすぎ」
「みきてぃだって喰ってたじゃん」
「二人とも?」

 喧嘩が始まる前に石川が睨みをきかせる。


25 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:47


「さてと、明日はまた仕事かー」
「DEF.DIVAだっけ? 頑張ってね」

 後藤の言葉に吉澤が声をかけた。後藤はそれに笑顔で頷く。

「今回は梨華ちゃんも一緒だしね。嬉しいよ」
「ホントにそう思ってる〜?」
「思ってるよー」

 石川と後藤がじゃれ合っていると、藤本は、そうか、と呟いた。
 吉澤が不思議そうな顔をする。

「どしたの、みきてぃ」
「いや、モーニング娘。なんだなあって。みんな」
「ああ」

 元がつくけれど。
 後藤も、石川も、モーニング娘。だったのだ。

「確かにね。――あたし達も成長したね」

 ふぅ、と。
 感慨深げに吉澤が息を吐いた。
26 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:48

「だよね。あたし、よっすぃーが娘。入った時、リーダーになるなんて思ってもなかったもん」
「うるへー。あたしだって、梨華ちゃんが卒業するとか思ってなかったし」
「あ、それはあたしも。卒業するなんて思ってもなかったよ」

 後藤がそう言うと、藤本が眉をひそめて、

「それをいうなら、美貴なんて娘。に参加するとも思わなかったよ」



「あー」と後藤。
「ねー」と石川。
「まー」と吉澤。


「なっ?! ムカつくリアクション取りやがって!!」

 藤本が怒ると、吉澤がぽんぽんと肩を叩いた。

「ま、人生色々さ」
「うるさいなー!」

 吉澤が逃げ出し、藤本がそれを追いかける。

「あ、二人ともどこいくの?!」
「もー。ほっときなよ、梨華ちゃん」

 追いかける石川に、声をかけつつもそれを追う後藤。
27 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:49

 ようやく二十歳と言う成人を向かえ。
 一人立ちや、後輩に頼られている。

 それでも、まだまだ彼女たちは世間的に見れば未熟な新人なのだ。


 どんなに頼られていても。
 どんなに一人で立っていても。


 二十歳は、まだ未熟な大人。



 まだまだ、子供。

28 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:49


「もーすぐ、冬だね」

 後藤の何気ない呟きに石川が振り向いた。
 綺麗な笑顔を見せる。

「冬なんてすぐ終わるよ」



 その言葉に、後藤は何故だか自分達の境遇を重ねあわせた。



「……そーだね」



 まだまだ子供で、辛いことにへこんでしまう時もあるけど。
 でも、冬はすぐに終わるね。

29 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:50


「どっかでお茶飲もうよー、疲れたー」

 吉澤がぜぃぜぃと息を切らしてやってきた。
 かなり必死で逃げていたらしい。

「美貴もー」
「もー、二人とも! 明日も仕事あるんだよ?」

 石川の叱る声に、後藤は目を細めて、ほんの少し笑った。

「んじゃあ、あたしが奢ってあげるー」
「まじでー!? ごっちん、超優しい! 愛してるー」
「んぁー。よしこに愛されてもなあ」
「えっ、なにそれー! 愛を誓い合った仲ジャン!!」



 誰もが不安で。
 誰もが頑張ってる。



 だれも、もう、子供としては見てくれないけれど。

30 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:50


「あ、美貴、クレープ食べたいなあ」
「いいね、クレープ」
「もう、ごっちんまで!」
「梨華ちゃんは何食べたい?」
「え? あたしもチョコバナナ……ってこら!」
「いいじゃん、石川は真面目すぎるんだよー」
「よっすぃーは黙ってて!」

 この中でぐらい、まだまだ子供としてはしゃぎまわってもいいかもしれない。
31 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:52
終りです。
85組は今先輩として頑張っているけどよく考えたらまだ二十歳。
世間では大学生ぐらいの年です。
だからまだまだいい意味で遊び足りないんじゃないかなあってことで。
32 名前:知人。 投稿日:2005/10/18(火) 01:54
>20
レスありがとうございます。
これからも頑張ります。
33 名前:konkon 投稿日:2005/10/19(水) 00:43
すごいまったりとして楽しかったです。
つい口元がにやけちゃいましたw
85年組いいですよね〜。
これからも更新がんばってください。
34 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 19:28



■一人ぼっち。


35 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 19:32


 ごとーだって、羨ましくないわけじゃないよ。
 モーニング娘。のエースとか言われてきたごとーでもさ。

 なっちやかおりんとか裕ちゃんとか。
 圭ちゃんとかやぐっちゃんとか。
 よしこや梨華ちゃん、加護、辻とか。
 五期、六期だって。


 みーんな、同期がいて。

 一緒に頑張って励ましあってた。


 いーなあって思うよ。

36 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 19:33



 一人ではいってきたごとーは、すごいプレッシャーだったから。


 だってみんな先輩で。
 裕ちゃん怖かったし。
 夏先生にも叱られて。
 いちーちゃんにも最初のうち、すごい怒られてて。


 独りぼっちで励ましあう人がいなかった。


 なのにごとーが入ったすぐ後に「ラブマ」が売れ出して。
 ごとーは世間的にゴマキとか変な仇名で有名になって。


 なんか知らないうちにエースとか言われ始めててさ。


 十三歳の小娘だったんだよ、ごとー。

 結構、一人を耐えるのって大変だったんだよ。
37 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 19:35


 でもなんか、エースとかでいつの間にかなっちとセンターやってて。

 よしこ達四期が娘。に加入してきて。
 大好きだったいちーちゃんが卒業しちゃって。
 気がついたら、五期とか入ってきて。
 それで、いつの間にか卒業してソロやってて。


 なんだろ。
 なんだかなあ。

 エースって言われたのは凄い嬉しかった。
 今を変えようと思って娘。に入れて、凄く良かった。

 でもさ、時々思うんだ。


 悲しくなった時とか、嬉しくなった時とか。

 同期っていう、なんだかすごく大切な絆が欲しいなあって。

 ホントに、時々なんだけどね。
38 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 19:36
「ごっちん、どしたの?」
「んぁ、梨華ちゃん」

 ぼーっとしてたごとーを変に思ったのか、梨華ちゃんが話しかけてきてくれた。

「休憩もう終わるよ?」
「わかってるー」
「わかってないだろ、ごっちんはー」

 後ろから声がかかる。振り向いたら、よしこがいた。その隣には紺野とかおりんがいる。

「後藤、遅れたら怒られるよー。裕ちゃんに」
「あ、それは嫌。怖い」

 かおりんの言葉に、震える真似をしてみせる。けらけらよしこが笑った。

「後藤さん、次、エリックですよ」
「紺野ー。あたしのかわりに行って来てー」
「え、えぇ!?」
「ごっちん、そりゃ無理だって!」
39 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 19:37

 でもまあ、ホントはちょっとわかってる。

「紺野、後藤は無視していいからね。休憩してきな」
「かおりん、ひどいー」
「あ、じゃあ失礼します」
「うあー。紺野があたしを捨てたー」

 ごとーには、同期っていう大切なものはないけど。

「うはは、紺野ナイス!」
「よしこ笑うな!」
「ほら、ごっちん、遅れるよ!」

 モーニング娘。っていう大切な仲間と絆があるんだなってこと。

「梨華ちゃん、代わりに――」
「いや」
「……」

 結構、これでも上手くやっていけるみたい。
 そりゃあ、時々寂しくなる時だってあるけどさ。


40 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 19:37



「あ、あの、後藤さん!」
「ん?」

 誰だっけ? この子……。
 あ、確か娘。の新メンのミラクル……。

「私、久住小春っていいます。宜しくお願いします」

 そーいえば、この子もごとーと同い年で。


 一人。


 ごとーは笑顔を見せて、


「うん。よろしくね」



 独りぼっちは寂しいけど。
 でも、大切な事に気付いていけるんだよ。


「頑張ろうね。ミラクルさん」
41 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 19:39
終りです。
不完全燃焼ですが……。
42 名前:知人。 投稿日:2005/10/19(水) 21:14
>>30
レスありがとうございます。
85年組って色々大変そうですが好きな組み合わせです。
これからも頑張りますので宜しくお願いします。
43 名前:知人。 投稿日:2005/10/20(木) 01:47
>>42
>>33の間違いです。すみませんでした。
44 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:26



 よっちゃんが急に変な事言い出すのには慣れている。
 ――そう、思ってた美貴がオオバカでした。




■ラブパニックでゴーイングマイウェイ。


45 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:27

「みきてぃ。モノは相談なんだけど」
「うん?」

 朝早く来てしまったために収録までまだ待ち時間ある。オレンジジュースを飲みながら、暇潰してしていた美貴によっちゃんが珍しく真面目な顔でやってきた。

「なに? なんかあった?」
「うん。あたし、結婚しようと思うんだ」

 その時の美貴の驚きようは言葉では表せられない。
 その証拠に美貴は盛大にオレンジジュースを噴出し、盛大にそれはよっちゃんにぶっかかった。

「うわっ! 汚ネエ!!」
「はぁ!? 何言ってんのよっちゃん!?」
「ミキティ、何すんだよ!」
「こっちの質問に答えろ!!」

 がしっとオレンジジュースまみれのよっちゃんの胸倉掴んで、
46 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:28

「誰と結婚する気なの?!」
「矢口さん」

 即答かよ!!
 そりゃあ、よっちゃんと矢口さんは仲いいけどさ!
 もうグループ公認の仲だけどさ!!
 楽屋じゃツッコミ殺したいくらいいちゃついてるけどさ!

「よっちゃん。ここはニホンだよ? 海外じゃないんだよ? 結婚は無理。無理無理無理すぎだよ」
「ああ。養子縁組とかやればいけるらしいよ。紺野から聞いたんだけど」

 あの頬袋!! 余計な事よっちゃんに吹き込みやがって!!

「そしたら矢口さん、吉澤真里とかになって……あぁ、可愛いだろうな……」

 なにやら妄想してにやついてるよっちゃんに声をかける。
47 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:28

「でででも、美貴達、アイドルだよ!?」
「あ……そっか」

 わかってくれたかよっちゃん――。

「記者会見しなくちゃいけないね」

 こいつが心底バカだってこと忘れてました。
 美貴の頭の中に素敵な笑顔で記者会見するよっちゃんと矢口さんが浮かんできた。
 きっと次の日の新聞やニュースの見出しには「モーニング娘。やはり同性愛があった!」とか「電撃同性結婚! モーニング娘。の吉澤矢口!」とかなんだろうなあ。
 ああそしたらモーニング娘。どうなるんだろ……。解散かな……。
 ……そしたらまたソロに戻れるかな。
48 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:29

「でね、プロポーズの言葉を考えようと思って」
「……なんでそれを美貴に相談するの」

 ありえない。ありえないから。
 お願いだから美貴を巻き込まないで。

「五十年後の笑顔も見てみたい、にしようかと思ったんだけどイマイチ矢口さんの反応が薄かったからさあ〜」

 さっきのハロモニのあのアンケート回答はそのためだったのか。
 用意周到だね、よっちゃん。

「何やってんの?」
「あ、石川。おはよ」
「梨華ちゃん、何とかしてよ!!」
「ちょっとよっすぃ〜! オレンジジュースまみれじゃない! 早く着替えてきなよ!」
「あ、忘れてた。やっべー」

 おーい。美貴は軽くスルーですか。ああそうですか。

 よっちゃんが行っちゃうと、梨華ちゃんがにっこり素敵な笑顔で振り向いてくれた。
49 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:30

「えっと、何か言った? 美貴ちゃん」
「よっちゃんが結婚するんだって」
「え!? 誰と?」
「矢口さん」
「ええー!?」

 素直に驚いてくれる梨華ちゃんがとてもつもなく愛しいよ。

「そっかぁ〜。ついによっすぃ〜も決意したのね」

 ってお前もか。お前も美貴を裏切るのか。

「いやいやいや。感動する前に色々突っ込む所あるでしょ」
「うふっ。やっぱり矢口さんには真白なウェディングドレスが似合いそう。チャーミー久しぶりに頑張っちゃおうかしら!」

 ナニをだよ!!
50 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:31

「ねえ美貴の話聞いて……」
「おはよー。あれ、まだ二人だけ?」
「あ、飯田さん、聞いてください! よっすぃ〜と矢口さんが結婚するそうですよ!」
「ちょ、梨華ちゃ……!」

 リーダーにそんな事言っちゃだめじゃん!!
 この人前にグループ内交際禁止って言ってたし!

「え……」

 ほら固まったじゃん!

「……吉澤はどこ?」

 少し低い声でそういう飯田さんはちょっと怖かった。
51 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:32

「いやー。オレンジでべとべと! 大変だったんだからな、ミキティ!」

 なんてタイミングよく帰ってくるんだろうこの人。
 もう狙ってるとしか思えないよね。

「吉澤」
「え?」
「結婚するの? 矢口と?」
「あ、そうなんですよー。しようかと思って今プロポーズの言葉を……」
「カオリ、グループ内交際禁止って言ったよね?」
「う……」
「でも、仕事に差し支えないならってことで渋渋認めたんだったよね」
「まあ……」
「で、今度は結婚?」
「はぃ……」

 説教に入りそうになった飯田さんを止めたのは、騒ぎの原因だった。
52 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:33

「おっはよー! あれ、どしたの?」
「あ、矢口さん」
「ちょっと、矢口どういうこ……」
「あー! あー! あー!」

 よっちゃんが慌てて飯田さんの口をふさいでいる。
 そして小声で、

「まだダメですよ!!」

 っていうのが聞こえた。
 なんだかこの結婚、色々問題がありそうだった。
 ……いや、結婚自体が問題なんだけどさ。


53 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:34
うーん。どうしたらかおりんを説得できるかなあ」
「そうねぇ……」

 深刻な表情をしてよっちゃんと梨華ちゃんが悩んでいる。

「てゆーかなんで美貴はここにいるの? ねえ?」
「ミキティ、よしこが困ってるんだよ。助けてあげなよ」

 何故かジュースをちゅるちゅるストローで飲みながらのんびりそういうごっちん。

「なんでソロのごっちんがここにいるの? ねえ、なんで?」
「やだなあ、友達が困ってるの、ごとーは見捨てられないよ」
「いやいやいや。困ってるのは美貴だから。巻き込まれてる美貴だから」
「ミキティは二人と幸せな姿を見たくないの?」
「いや、見たいとかみたくないとかじゃなくてね」
54 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:34
 もうナニから突っ込んでいいのかわかんないよ。
 いや結婚から突っ込めばいいんだろうケドさ。
 する気マンマンだし。
 ていうかもうすでに飯田さん説得から行く気マンマンだしね。

「美貴ちゃん、何かいい案ないの?」

 梨華ちゃん、美貴にそんなこといわれても。

「あー。じゃあ、飯田さんの弱みを握るとか」

 とてもオーソドックスだけどさ。

「うわー。さすがミキティ。卑怯」

 アンタは人のために考えてあげてんのに……。

「ミキティ、顔が怖い」
「うるさい、ごっちん」

 大体美貴、なんでここにいるんだよっ!!
55 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:35
「飯田さんの弱みって……なんだろ?」

 梨華ちゃんの言葉にごっちんとよっちゃんがそれぞれ案を上げる。

「交信してるとか」
「ダジャレとか」

 いやそれ弱みじゃないし。
 なんて突っ込んでしまう自分が悲しい。

「辻ちゃんとかー?」

 今ではそんなにないけど、昔は溺愛してたとかいうし。
 美貴の提案によっちゃんがバカみたいに叫んだ。
56 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:36
「それだー! 石川、辻を捕獲して来い!」
「はいっ!!」

 いやいやいや。
 梨華ちゃん君はそれでいいの?
 なんでパシリになってるの貴方は。

「あはー。ミキティ、ナイスアイディアだね」

 ごっちんの言葉に、美貴は心底自分のアイディアを後悔した。
57 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:36



「何すんだよ、梨華ちゃん!」
「ちょっと、よっすぃ〜が呼んでるのよ」

 しばらくして梨華ちゃんが楽屋に辻ちゃんを引きずってきた。

「なに、よっちゃん」
「辻、このよしざー、一生の頼みがある」
「?」

 心底面倒くさそうな辻ちゃん。

「飯田さんに……何してと頼めばいいんだ?」

 バカが美貴を見た。
 溜息をついて、助けてやる。
58 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:37
「飯田さんに、よっちゃんと矢口さんの結婚ぐらい許してあげなよーってかわゆーくいってきてくれない?」
「えー! よっちゃんと矢口さん結婚するのー?!」
「しー! まだ矢口さんにプロポーズしてないんだから! 結婚するために飯田さんの許しが必要なんだよ! 頼むっ!!」

 土下座するよっちゃん。
 美貴にもしてもらいたいなー。

「んー。わかった! 同期の願いだしね! 行って来る!」

 おおー。さすが辻ちゃん。
 楽屋から駆けて行った辻ちゃんを見届け、美貴はごっちんの方を向いて、言った。

「ところで、ホントに辻ちゃんで大丈夫なの?」
「さあ?」

 ごっちんはふにゃっと笑った。
59 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:38



 数分後。
 辻ちゃんが帰ってきた。

「オッケーだってよー」

 マジかよ!!
 いいのかよ飯田リーダー!!

「マジ!? よっしゃあ、矢口さーん!」

 早っ!!
 いいのかよ次期サブリーダー!!

「んー?」

 スタジオ収録が終わって楽屋にかえって来ていた矢口さんが振り返る。よっちゃんはどこに持ってたのか指輪を取り出し、
60 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:39
「好きです結婚してください!!」

 ストレート!?
 さっきプロポーズの言葉考えるとかで美貴に相談してなかったっけ?!

 そこで矢口さんは満面の笑顔を浮かべる――ことはなかった。

 なんととてつもなく不機嫌な表情になり、

「よっすぃー……」
「は、はぁぃ?」

 予想外な反応によっちゃんも戸惑っている。

「ちょっとそこに座りなさい」
「は、はい……」

 矢口さんに正座させられるよっちゃん。
61 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:39
「あのね、おいら来年リーダーなの」
「は、はい」
「で、よっすぃーはサブリーダー」
「……そうですね」
「だから、そんな時に結婚なんてダメだと思うの。モーニング娘。をかき乱しちゃうでしょ?」

 うわあ、断られちゃったよ。
 よっちゃんもはたから見て同情しちゃうくらい落ち込んでる。

「でも……あたしは矢口さん好きで……」
「おいらもよっすぃー大好きだよ。でも、今結婚しなくてもいいじゃん? おいら達が娘。卒業してからでもいいしさ。焦らないでゆっくり行こうよ」
「……そうっすね。あたしも矢口さん大好きですし!」

 あ、結局そういう方向に行くのね。
 このバカップルは。
62 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:40
「でも、よっすぃーの気持ちは凄く嬉しい……ありがと」
「矢口さん……」


 誰かお願い。
 奴らを止めて。


「良かったね、よっすぃー……まりっぺ……うぅ」

 いやいやいや。梨華ちゃんナニ感動してるの?

「一件落着だねー。じゃ、ごとーは帰るから」

 結局アンタは何のためにここにいたの?
 ていうか実は楽しんでたでしょ?
63 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:41
「辻、あいぼんと約束があったけど、飯田さんと一緒にご飯食べに行く約束して結婚許してもらったのに……」

 ごめんね。辻ちゃん。
 どうやら貴方の協力はムダに終わってしまったみたい。


 美貴は溜息をついて、新しいオレンジジュースに手をのばした。

 いちゃついてるバカップルを眺めながら、

 ああ、いつものモーニング娘。の楽屋だなあなんて思った。


 ……ていうか何だったの、この騒動は。
64 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:41







 その頃影からこの騒動をじっと見ていた松浦の姿が。

「美貴たん……結婚……」


 なにやら再び波乱の予感。
65 名前:知人。 投稿日:2005/10/21(金) 21:42
終りです。
やぐよし(?)ドタバタでした。
藤本さんが若干かわいそうな扱いになっています。
すみません、藤本さん。
66 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/23(日) 14:52
こういうコメディー系の話もおもしろくていいですね
つっこみ満載で楽しかったです(*´Д`)
今までは静かにROMってましたが
吉矢に反応してちょっこす出てきちゃいました
また楽しみにしてます
67 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:21



 よっすぃ〜は少し不安定だ。





■青空の涙。


68 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:22


 よっすぃ〜は時たま不安定になる。

 急にご飯を食べなくなったり。
 空元気でいつも以上にへらへら笑ってたり。

 何に悩んでいるのかおいらには分からない。

 わかんないけどでも――。


「よっすぃー」
「はい?」

 いつもの笑顔で振り返ってくる。
 でもやっぱりどっかそれは寂しげ。

「屋上行かない?」
「え?」

 おいらの言葉に少し驚いた顔。
69 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:22
「いいですけど……どうしたんですか?」
「んーん。ちょっと風に当たりたいから」

 よっすぃ〜の少し冷えた手を握って。
 おいらは屋上まで歩いていく。

「矢口さん?」
「なに?」
「何かありました?」

 それはこっちの台詞だよ、バカ。
 でもそんなこといわずに、何にもないよって返した。

「あー、結構風強いね」
「そっすねー」

 屋上の扉を開けた瞬間からおいら達の体に当たってくる風。
 このままどっか飛んでいけそう。

 両腕を広げて、風を感じてみた。

 気持ちいいなあ。
70 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:23
 そんな事を思ってたら、後ろからよっすぃ〜に抱きしめられた。

「よっすぃー?」
「ん、なんか、矢口さん、飛んでいきそうだったから」

 笑いを含んだ、そんな言葉。

「そんなにちっちゃくねぇよ」

 おいらも言い返した。

「そうですね」

 よっすぃ〜はおいらを抱きしめたまま、床にぺたんと座った。
 おいらもそのままよっすぃ〜と一緒に座る。
 よっすぃ〜の肩に頭を預けて、小さく聞いた。

「よっすぃーさあ」
「はい」
「……何悩んでるか知らないけど、あんま難しく考えなくていいんじゃない?」
71 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:24

 よっすぃ〜の抱きしめてくる力が強くなった。
 しょうがないので頭を撫でてやる。

「考えたって、しょうがないこともあるよ」
「分かってます」

 案外はっきりした声で、よっすぃ〜は言い切った。

「分かってるんです。でも」

 でも、わかんないんです。

 もどかしそうな彼女。
 自分の言いたい事が中々まとめられなくて、それをとても悔やんでいる感じ。
 おいらはそれに少し溜息をついて、言ってやった。

「まとまんなくてもイイよ。思い浮かんだ事、言っていいよ」
「……っ、やぐちさぁん」

 泣き出したよっすぃ〜。
72 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:24
 案外、涙もろいんだ、この子。
 そんな事を知ったのはいつだったかな。

 皆の前では絶対泣かない。意地っ張りだから。
 悩みとか悲しみとか全部自分の中に押し込んで。
 それでダメになっちゃう。

 親友、って意味ではアヤカとかたくさんいるはず。
 でも、この子は親しくなるほどその弱みを隠す。

 友達じゃ、ダメなんだ。この子は。
 本当に、心から弱みを見せられる人を彼女は必要としていた。
 いつだったかな。そんな事に気付いたのは。

「ぅー……っ」
「バカ、声だして泣けよ。どうせ泣くんだったら」

 頭を撫でながら、声を押し殺して泣くよっすぃ〜を抱きしめる。
73 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:25
 我慢なんかしなくていいよ。
 おいらには、弱みを見せていいよ。
 大丈夫だよ。嫌ったりなんかしないから。

「急に、こ、怖くなったり……するんです」
「うん」
「これから、どう、どうなるんだろう、とか……どうしよう、とか……っ……」
「うん……」
「ふあんで、でも、どうしようもなくてぇ……」
「うん、うん……」

 ねえ、よっすぃ〜。
 おいらは傍にいてあげる事、話を聞いてあげる事しか出来ないけど。

「――みんな、いなくなっちゃっ……」
「――そうだね」

 こうして抱きしめている事が、貴方の何かに繋がればいいと思う。

 

 ぼろぼろと涙を流すよっすぃ〜を抱きしめながら、おいらは空を見上げた。



 ――涙が出るくらい、青かった。
74 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:26
終りです。
よっすぃ〜の悩みが何だったのかよくわかりません。
多分誰かの卒業とかで不安定になったのかと(汗
75 名前:知人。 投稿日:2005/10/23(日) 23:30
>>66
レスありがとうございます。
やっぱり感想とかあるととても嬉しいです。
自分も吉矢ファンなので、
これから多々出てくると思いますので宜しくお願いします(笑

76 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 13:51
更新お疲れ様です。
吉矢いいですね。
自分もかなり好きです。
77 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 17:31

 タンポポ。
 花言葉:真心の愛・神のお告げ・別離・軽率・思わせぶり・明朗な歌声



■ダンデライオン。


78 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 17:32

 シャッシャッシャッと鉛筆を走らせて、あたしは今日も絵を描く。

「かおりぃ。何かいてんの?」
「んー」

 好奇心旺盛な矢口が話しかけてきたけど、今のあたしは絵に夢中。
 ちょっと矢口のつまんなそうな声が聞こえてきた。

「かおりぃ」

 甘えてる口調に思わず、笑った。

「なに、矢口」
「なーにかいてんの」
「何って、絵だよ」

 あたしが笑って返すと、矢口はむっとしたような表情になって、

「何の絵って意味だよ」
「タンポポ」
79 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 17:32
 その言葉に、矢口は少し困ったような表情をした。
 かつてあたし達がなくした、大切なもの。
 あれからあたし達、随分大人になったね。

「矢口、あたしさ」
「ん?」

 鉛筆を走らせながら、あたしは言った。

「タンポポをやれて、良かったとおもう」
「うん、おいらもそう思うよ」
「……そうだね」
80 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 17:32

 矢口は強いと思う。
 タンポポだけじゃなく、自分で育てたミニモニすら取り上げられた。
 それでも彼女は歩いている。

 ――強いね。


 あたしは、できあがった絵を矢口に渡した。

「ん?」
「あげる」

 笑って言うと、矢口はしばらくその絵を見つめて、ありがとって笑った。
81 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 17:33


 矢口はタンポポだ。


 どこにだってある花だけど、風が吹いても負けない花。強い雨が降っても大丈夫な花。

 一生懸命咲いて皆に笑顔を与えてる。



「矢口」
「なーに?」


 絵を見ていた矢口が顔を上げる。
 最近ちょっと大人っぽくなってきた矢口。
82 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 17:33


「――頑張ろうね」



 あたし達は、どこにでもある花だった。
 それでも、この世界で精一杯咲き誇ろうって頑張ってきた。
 そしていまも。

「うん、頑張ろう」



 ――画用紙の中には、二つのタンポポが、咲き誇ってた。
83 名前:知人。 投稿日:2005/10/24(月) 17:34
以上です。
間違って名無し飼育さんの名前でorz
気にしないでください。
84 名前:知人。 投稿日:2005/10/24(月) 17:36
>>76
レスありがとうございます。
吉矢いいですよね。あの身長差とか。
更新なるべく早くできるように頑張ります。
85 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/10/25(火) 20:53
早い更新、嬉しいですね〜!お疲れ様です
作者さんも吉矢好きですか^^同志ですなw
自分感想書くの下手なんでレスに結構時間かかるんですが
言葉を選びながら慎重にお邪魔させていただいてます
次回更新も楽しみにしてます!!
86 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 15:32
面白かったです
次回期待して待ってます
87 名前:真っ直ぐ。 投稿日:2005/11/01(火) 20:07
 呼べばすぐに振り向いて。
 よっすぃーは真っ直ぐな目でおいらを見つめる。



■真っ直ぐ。



88 名前:真っ直ぐ。 投稿日:2005/11/01(火) 20:08
「えっと、なんですか? 矢口さん」

 きょとんとした表情で、おいらを見てくるよっすぃー。
 綺麗な顔で、悔しいぐらいに可愛い。

「んー」

 おいらの意味不明な返事に、よっすぃーは苦笑い。

「なんですかー」
「最近、フットサルどーよ?」

 適当に話題を作り上げる。
 よっすぃーが自ら見つけた居場所。
 そういえば、あれからよっすぃーは随分変わったと思う。
89 名前:真っ直ぐ。 投稿日:2005/11/01(火) 20:08
「最近ですか? そーですね、もうすぐ試合あるんで頑張ってますよ皆」

 目をきらきらさせて、フットサルについて語る。

「朝練も、最近は休む人少ないし……」

 一時期は太ったり、不安定だったりしたよっすぃー。
 何か吹っ切れたのか、急に成長しだして。
 明るくなって、自分のポジションを確立していった。

 イイコトだと思う。

 でも、少し寂しくも思う。教育係りとして。
90 名前:真っ直ぐ。 投稿日:2005/11/01(火) 20:09
「あの、矢口さん?」
「ん?」
「いえ、つまんなかったですか?」

 怯えたような表情で。
 おいらを見つめるその目さえ、真っ直ぐで。

 ほんの少し、羨ましかった。

「よっすぃーさ」
「は、はい」
「不器用だよね」
「へ?」

 全く違う話題に、よっすぃーはなんともいえない表情で、少し情けない顔をした。
91 名前:真っ直ぐ。 投稿日:2005/11/01(火) 20:09
「んー。いーんじゃない?」
「な、なにがですかぁ?」

 その不器用すぎる真っ直ぐさ。
 正直、この世界には向いていないと思っていたけれど。
 きちんと、自分自身を見つけられる強さが彼女にはあった。

 ちょっと寂しいけど。離れてしまうのは。
 とても羨ましいけど。その真っ直ぐさは。

 でも、イイコトだと思う。


「頑張ってね、試合」
「え? あ、は、はい。って、ホントに聞いてたんですか?」
「聞いてたよぉ。ちゃんと」


 よっすぃーはおいらの手から離れて自分自身のポジションを確立して。
 そうして、一人できちんと歩けるようになった。

 不器用だから、きっとまた壁にぶつかるだろう。

 そうして、その真っ直ぐな強さでそれをぶち壊していくだろう。
92 名前:真っ直ぐ。 投稿日:2005/11/01(火) 20:10
「よっすぃー」
「はい」

 真っ直ぐなその瞳でおいらを見てくる。

 その真っ直ぐがおいらは大好きで。

「頑張ってね」

 ちょっと、羨ましくて。

「はい」

 それと同時に、いつだって応援しているから。
 だから、頑張れよっすぃー。
93 名前:知人。 投稿日:2005/11/01(火) 20:11
以上です。
頑張れリーダーってことで。
94 名前:知人。 投稿日:2005/11/01(火) 20:19
>>85
レスありがとうございます。
同士ですかw
レスにお時間割いていただいてありがとうございます。
これからもなるべく早めの更新していくよう目指すので、
宜しくお願いします。

>>86
レスありがとうございます。
拙い文章ですがなるべく更新していきます。
95 名前:名無し飼育 投稿日:2005/11/26(土) 20:59
待ってますよ〜
96 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:11


 ぺら。ぺら。ぺら。
 さっきからそんな音と共ににやにや笑いを浮かべる先輩。

「……えへへ〜」


 怪しい。
 怪しすぎる。

 どうしよう。どうしてこんな人と同室になっちゃったんだろう。
97 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:11



■ラブパニックで喧嘩上等!



98 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:11

 地方のコンサートが終わって、思い思いに過ごすはずの夜。
 今じゃモーニング娘。には欠かせない顔となっているはずの絵里こと、亀井絵里。そんな絵里と同室なのは、先輩の吉澤ひとみさん。

 同室になったのは、偶然なんです。
 たまたま、マネージャーが部屋割りを勝手に決めちゃって。

 ホントはさゆとかれいなとかと一緒が良かったんですけどっ。


 でもなんでかこの先輩とで。

 んでもって、この先輩、いきなり部屋に入って荷物片付けたかと思うと、おもむろにトランクからあの先輩の写真集を出してきてにやにや見始めたんです。

 で、さっきから。
99 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:11


 ぺらぺらぺらぺら。

 何度も何度も同じもの見たり、ちょっと何か色々想像しちゃってるのか時々空中を見上げたり。

「えへへ……かぁーいー」

 もうやばめです。
 お願い誰か助けて。

「んー。亀井ー」
「は、はい」
「かわいーよな、矢口さん」

 だらしない笑顔で。
 絵里に先輩の矢口真里さんの写真集を見せてくるとか。


 ……吉澤さん、トークのねたにしちゃいますよ。
100 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:12

「は、はぁ……」
「えへへ、矢口さんかわいーなー」

 嗚呼何とかしてよ、この師匠バカ。






 矢口さんと吉澤さんの仲はもう娘。の中では公認で。
 誰も何も言いません。(いやたまに中澤さんが乱入したり小川さんがうるさかったりするんですけど)

 ええ、だから絵里も何にも言いません。
 ……安眠の邪魔さえしなければ。
101 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:12

「あの……吉澤さん、そろそろ電気……」
「んーもうちょっと」
「えーと、さっき二時間前にもそんな事言ってたきが……」
「んー」

 ダメだこの人全然聞こえてないよ。

「……」

 絵里は仕方なく無言で布団を被って寝ることにしました。
 ええ、先輩には逆らいませんよ!

「えへへぇ……」
「…………」
「んぇへへ……」
「…………」
「うぇへへ……」

 すみません、前言撤回です。

「吉澤さん! いい加減にしてくださいよ!」
「んー?」
「うるさくて眠れません!」

 絵里だっていう時は言うんですからね!
102 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:12
「大体変な声出して写真集ニヤニヤ見ないでくださいよ!」
「やー、かわいいなーって。矢口さん、あたしのためにさー」
「確かに可愛いですけど、それって吉澤さんのために脱いだり水着着たりしてるわけじゃないんですよ! ファンのためなんですからね!?」

 あれ、なんか絵里今すごく大胆なこと言わなかった?
 まあいいや。

「だから今は大人しく寝てくださ……吉澤さん?」

 あれ、どうしたんだろう。急に震えだして。
 あ、もしかして怒った?! ど、どうしよう……。

「よ、吉澤さん、すみませ……」
「許せん!」
「わあっ?! ごご、ごめんなさいー!!」
「ファンの人たちが矢口さんの肌を邪な目で見てるなんて許せん!」

 いやアンタも見てただろ!!
 あ、なに? 今の絵里の突っ込みよくなかった?
 あは、明日藤本さんに聞いてもらおう――いやいやそうじゃなくて。
103 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:13
「つーわけで亀井! 今からファンの人撲殺――」
「いやいやいや!! 何言ってんですか前科一犯になる気ですか?!」
「じゃあどうしろってんだよ?!」

 えー?! なんで絵里怒られてるのー!?

「はっ、そうか! 矢口さんの写真集を絶版にして古本屋で売られている五百円のヤツは全部あたしが回収すればいいんだな?!」

 矢口さんの写真集の値段って五百円何だぁ。

 ってそうじゃないでしょ絵里。もう何やってるのよ。

「あのー吉澤さ……」
「よし! 行動開始ー!」


 あ。

 部屋飛び出しちゃったよ!
 どどどどうしよう。
 と、とにかく電話電話! ケータイ!

「あ、もしもしれーなー?!」

 ……後で考えれば何であの時一番頼りなさそうなれいなに電話したんだろう。
104 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:13
「――で、よっちゃんは行方不明、と」
「はい」

 目の前にでんと座っているお方は藤本美貴さん。絵里達の同期なんだけど、業界では随分先輩で、しかも年上なので敬語なのです。

「とりあえず、よっすぃに今電話入れても全然繋がらないから、かかってくるまでほっておくよ」
「はい……あのー、矢口さんは?」

 リーダーの飯田さんは、ふぅ、と溜息ついて、

「あのバカ犬はもう知らん。と愛想尽かしまして、寝てます」

 よ、吉澤さーん。早く帰ってこないと大変な事になってますよー。

「どうするのー? よっすぃー帰ってこなかったら」

 石川さんが眠たげに目を擦りながらそういいました。

「てか、どこいったんだろね」

 藤本さんの言葉に、れいなが言った。
105 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:13
「やっぱ、事務所か印刷所じゃないですか?」
「なんで?」
「だって、矢口さんの写真集絶版にするならそこしかないじゃないですか」
「まあ確かに。でも事務所だったら明日帰るんだから別にそんなに急がなくても」
「いやあの人なら絶対今からでも行きますよ」

 高橋さんが断言した。

「んー。どうする?」
「とりあえず、亀ちゃん、矢口さん起こしてきて」

 藤本さんの言葉に一瞬固まった。

「えー!? 絵里がですか!?」

 なんで絵里が……。

「元凶」
「……いってきます」

 ちくしょう、吉澤さんのばかー……。

「あ、絵里、これ鍵」

 矢口さんと同室のれいなが渡してきた鍵。
 酷く、重たく感じられた。

 っていうか、同室のれいながいけよ。
106 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:14





「おいら眠いの」
「すみませぇん」
「あんなバカ犬知らない」
「でもぉ。飼い主は矢口さんじゃないですか」
「あのね、皆はコンサート終わったすぐにホテル帰れたけど、おいらラジオがあったのよ? それも十二時過ぎまで! だぁかぁらぁ。寝させろ」
「知ってますけどぉ。やっぱり、矢口さんからちょぉっとだけでもケータイで電話してもらって吉澤さん呼び戻してくださいよぉ。次期リーダー……」
「……」

 次期リーダーって言葉に矢口さんがむぅっとうなった。
 効果ありか?

 と思ったら、

「はい」
「え?」
「そんなかによっすぃーの番号はいってるから」

 矢口さんのケータイを渡された。
 そしてすぐに夢の中へと飛んでいく矢口さん。

 ……。



 絵里は仕方なく、ケータイ片手に皆のところへ帰っていった。


107 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:14



「おーご帰還ーで、矢口姫は?」
「なんですか矢口姫って……はい、これです」

 飯田さんにケータイを渡した。怪訝そうにケータイを見る飯田さん。

「なにこれ」
「矢口さんのケータイです」
「……」

 飯田さんは無言で絵里にケータイを押し付ける。


「かけて」

 リーダー命令。


「……」

 皆が見守る中、吉澤さんの番号にかける。

 トゥル…「矢口さんっ!?」


 うわぁこの人飯田さんの電話は受け取らなかったのに矢口さんの電話かかった瞬間に出たよ?
 いいんですか? 次期サブリーダー?
108 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:15
「あー……あのぉ、亀井ですぅ」
「ちっ。なんだ亀ちゃんかよ」

 舌打ち!? 絵里うざがられてる?!

「ん? でも今の着信音は絶対矢口さんのだった! え? 何? なんで亀ちゃんが矢口さんのケータイもって……」

 絵里が答えようとしたら、ぱっと石川さんがケータイをとって、

「あ、もしもしよっすぃー? あのねー、矢口さん、よっすぃー見捨てたっぽいよ」

 ……石川さん?

「矢口さん、よっすぃーのことなんかもう知らないってー」


 確かにそんなこといってましたけど。


「だからー今度はかわいいかわいい亀ちゃんにするって」

 ……。


 いいいいい石川さーん!?

 な、何言っちゃってるんですかー!?


『なんだってー!?』


 電話の向こうから、吉澤さんの大きな声が聞こえてきました。




 こっちが叫びたいよ!!



「頑張って……」


 藤本さんが、励ますように肩を叩いてくれました。
109 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:15



 絵里、明日生きていられるかなあ。



110 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:16


「んーぁ」
「おはようございます、矢口さん。いいお目覚めですか? ん?」
「ど、どしたの亀ちゃん、顔怖いよ?」
「どーしたもこーしたも!! あんたらバカップルのせいで絵里の命が危ないんですよ!!」
「え、絵里、落ち着かんと。敬語とタメ口ごっちゃになってるたい」
「知るかバカー!!」
「なんかよくわかんないけどー。よっすぃーは?」
「知りませんよあんなバカ犬!!」
「えーと、とりあえず昨日の夜にタクシーに飛び乗って東京に向かってたんですけどある電話でまたこっちに引き返してきてます」
「ふぅん。あれ、今何時?」
「五時です」
「なんだー。まだ全然寝れるじゃん。おやすみぃ……」
「寝るなー!!」
「え、絵里ぃ」
「もー。亀ちゃん、あのね。おいら達は体が大切……」
「絵里は絵里の命が大切です!! 助けてくださいよぉ!!」
「なにがあったの、もー」
111 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:16
 ぶつぶついう矢口に絵里は仕方なくいきさつを説明してやった。

 矢口さんの部屋で、ようやく起きた矢口さんと絵里と、れいなの三人。

 他の皆は薄情にも吉澤さんが帰ってくると知ったらさっさと睡眠をむさぼりに言ってしまった。
 絵里の命が狙われる原因を作った石川さんまでも。

 で、一番安全だと思われる矢口さんの部屋に非難、じゃない、避難。
 れいなは付き添ってくれている。うう、今度焼肉奢るね、れいな。
 って感動したんだけど、よく考えたら彼女は矢口さんと同室だ。

 ……んだよ、単に部屋に戻っただけかよ。
112 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:16
「で、今ナイフもって亀ちゃんを殺しに来てる、と」
「石川さんの証言によりますと、かなり殺気立ってる声だった、らしいとです」
「へぇー」
「なんでそんな落ち着いてんですか!! もとはといえば矢口さんが写真集出したりするから!!」
「いやー……他人事だし」
「恋人が犯罪者になっていいんですか!?」
「まあそれはそれで」
「「いやいいの!?」」

 絵里とれーなのツッコミ。

 っていうか矢口さん、実は寝ぼけてますよね!?

「まあまあ、亀ちゃん」
「なんですかぁ」
「人はいつか死ぬものなんだよ、だから……」
「こんな若さで死にたくねえええ!! っていうか爽やかぷりてぃ笑顔でそんなこといってんじゃねええ!!」
「え、絵里ぃ! 落ち着いてー!」

 と、その時。


「矢口さぁぁぁぁん!!」


 ばったーんとドアを蹴破って華麗に登場。

 バカ犬、じゃない、吉澤さん。
113 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:16
「あー、よっすぃーおかえりー」
「矢口さん、あたしのこと飽きたんですか?! それとも嫌いになった?! いやそんなんはどうでもよくて、なんで別れる前にもっと文句とか不満とか言ってくれなかったんですかぁー!! そしたらあたしだって努力してもっと変われたのに!! しかもよりにもよって亀井なんかに乗り換えなくたってー!!」

 なんか何気に侮辱されてる気がする。
 早口にそうまくし立てた吉澤さんは、半泣きだ。いや、もう泣いてる。
 マジ泣きだ。

「あのねー、よっすぃー……」
「つーか亀井! あたしの大事な大事な矢口さんを誑かしやがって! こっち来い!!」

 い、いやああ?!
 思わずれいなにしがみつく。

「よっすぃー!!」

 矢口さんの怒鳴り声。すごい声量。
 吉澤さんがぴたりと止まる。

 ……歌にも活かしてください。
114 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:17
「は、はい」
「おいらよっすぃーのこと嫌いになってないし、まだ好きだから。亀ちゃんのは石川の嘘だよ、嘘」

 眠そうな目で、ぽりぽり頭をかきながら。
 説得力皆無ですけど、矢口さん。

「ほ、ほんとですかぁ」

 でもきっと好きな人の言葉なら何でも信じるんだろう。
 信じられるんだろう。

 吉澤さんは、安堵から涙をこぼした。

「泣くなよー。もー。ほら、亀ちゃんに謝って」
「はいぃ。ごめんな、亀井……」
「あ、いや……」

 泣かれちゃったら、どうしようもない。

 溜息をついて、首を振る。


「もういいですよ。っていうか、これからは矢口さんと吉澤さん、同室にしてくださいよ」
「え、いいの!?」

 ばっと吉澤さんが顔を上げる。ひとみなだけに、ひとみがきらきら。……っていうか嘘泣きだったんじゃないかって言うほどの変わりよう。
115 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:17

「それはやだ!!」

 矢口さんの否定。

 って、ええ?!

「な、なんでですかー!?」

 吉澤さんの悲痛な叫び。

「寝れないから」

 ずばっと。
 ていうか後輩の前でそんな事いわんでください。
 思わず赤面した絵里とれいな。

「そ、そんなー!!」
「っていうかさー、朝からうるさいし迷惑かけんなこのバカ犬!」
「きゃんっ」

 矢口さんに頭を叩かれ悲鳴を上げるバカ犬じゃなくて、吉澤さん。
 あー、しつけですか。
116 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:17
「いい!? 今度からあんたは写真集禁止!」
「えー!? じゃああたしどうやって生きてけばいいんですか!?」

 もうどうやって突っ込めばいいんですか!?

「そんなん知るか!」
「矢口さーん! じゃあ本物見せがふっ」
「後輩の前でそんなこというなー!!」


「…………」
「…………」
「……れーな」
「なん?」
「今日は一緒に寝ようか……」
「……うん」


 絵里とれいなはいそいそ絵里の部屋に行きました。
 でもその後吉澤さんは部屋に帰ってこなかったのでそのままいちゃついていたんだと思います。


 ……絵里、もう絶対あの二人と同じ部屋にはならない。
117 名前:ラブパニックで喧嘩上等! 投稿日:2005/12/02(金) 05:18
 後日、石川さんが吉澤さんに酷い目に合わされてたのはまた別の話。
118 名前:知人。 投稿日:2005/12/02(金) 05:19
以上です。
お馬鹿なよっすぃーでごめんなさい。
ラブパニックシリーズは矢口さんバカなよっすぃー。
119 名前:知人。 投稿日:2005/12/02(金) 05:20
>>95
待っててくださってありがとうございます。
すごく嬉しいです。
120 名前:名無し飼育だYO 投稿日:2005/12/03(土) 14:14
更新お疲れさまデス
最近ずっと忙しくて来れなかったんですが、いや〜いいもの読ましてもらいやしたw
こういうわちゃわちゃした話大好きですよ!
バカよっすぃ〜ラヴ(*´∀`)
亀ちゃんもいい味出してましたよ
121 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/04(日) 13:01
まってたよ〜
亀ちゃんに笑いましたw
122 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:03




 ――声が、でない。



123 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:04



■例え僕が世界を失っても、君が笑っていてくれればそれでいい。



124 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:04

 始まりは朝起きて、朝食作っていた母親にオハヨウといおうと思ったら声が出なかった。

 驚いてうがいして、のど飴食べたりしたけど、声は出なかった。


 病院に行ってつげられたのは、心因性失声。転換性運動障害とかいうらしい。
 精神的なものだといわれる。いつ治るのかもわからない。

 マネージャーがしばらく様子を見ようと休みを取ってくれた。


 声がでない。声がでない。声がでない。声がでない。声がでない。



 ――歌が、歌えない。
125 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:05





 ストレスから来る病気?
 声が出ない方がよっぽどストレスになる。

 なんで、どうして。



 テレビではあたしのいないモーニング娘。が映ってる。

 なんで、どうして。
 なんでなんでなんで。
 なんで、あたし、だったのかな。


 家の呼び鈴が鳴った。
 誰かが家にやってきたらしい。

 この三日間、ずっと部屋に篭ったままのあたし。




 ドアが、ノックされた。



 それから、彼女の声。


「やーぐちさん♪」



 バカみたいに、のん気な声に、なんだか救われた。



126 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:06





「ケーキ買って来たんですよ、食べましょう」

 にこにこ笑顔でお皿とケーキを持ってきてくれた。
 紅茶は母親が入れてくれたらしく、矢口さんのお母さん優しいですねーなんて、笑ってる。

「どれがいいですか?」

 あたしはどれでも良かったから近くにあったチョコレートケーキを指差した。
 それを丁寧にお皿に載せて、あたしの前においてくれる。

「ここのお店美味しいって、辻から聞いたんですよ」

 笑顔が絶えない彼女。
 なんで笑ってるの?

「矢口さん、食べないんですか?」

 首を傾げられた。いらないよ、そんな気分じゃないんだってば。
127 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:07
「このモンブランはうまいですよ」

 やめて。笑わないで。
 俯いたあたしに近づいてきた。

 近寄らないで。


 そんなことすら、声にならなくて。



「矢口さん」


 名前を呼ばれても、彼女の名前を呼べない。


「泣かないでください」


 涙が、こぼれた。



128 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:08




 歌が唄えない。



 それはあたしの世界が壊れること。




 ――大好きな、歌。




129 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:09

 小さい頃から憧れだった歌手。
 モーニング娘。に入れた時、すごくすごく嬉しくて。
 これからがんがん頑張って行こうって張り切ってた。

 そりゃ辛い事もたくさんあって。
 悲しい事とか、嫌な事もあったけど。



 それでも。



 歌を唄えるって事が。



 嬉しくて、仕方なかった。

130 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:09



「で、今日は加護が楽屋で石川にまた変なことして――」

 彼女はあれ以来毎日来てくれる。
 そして皆の様子を報告してくれる。

 皆からはメールがたくさんくるけど。
 一通も返信していない。

 でも、それでも、みんな、毎日毎日欠かさずに、メールをくれる。

 あたしって、やなヤツだと思う。



 声が出なくなって、二週間。長期の入院ってことになってるけど。
 このままじゃ、娘。にいられなくなっちゃう。


 怖い。嫌だ。唄いたい。誰か。
131 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:10

「矢口さん」

 バカみたいな笑顔浮かべて。
 彼女は毎日毎日笑ってくれる。

 なんで。


 笑ってられるの?
 
 名前を呼ぼうとしても。


 ――声が。


「矢口さん?」


 ――声が、でない。

132 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:11



 喉をかきむしって、涙を流す。
 どうして、声は出ないの?
 どうして、唄えないの?
 どうして、名前を呼べないの?


 ねえ、誰か、お願い。

 教えてよ。

 カミサマ。あたし、何したの?


 あたし、世界を失うほど、悪いことした?


 ねえ、

 ねえ、

 ねえ!



 教えてよ!


133 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:11

「あーあー、矢口さん、ダメじゃないですか。飲みっぱなし」


 今日も彼女が来た。
 転がってるお酒の缶を笑いながらごみ箱に捨てていってくれてる。
 なんで、笑ってるの。

 ねえ、なんで笑ってるの?

 あたしのこと嘲笑ってるの?

 ねえ、そんなに滑稽?
 声のでないあたし。

 やめてよ。笑わないで。あたしは。

 あたしは、惨めなんかじゃない。


「ん? 着信? あ、ちょっと待っててくださいね」


 彼女のケータイに届いたメールは、あたしから。



 後ろを向いて、送った。
134 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:12





 ――もう、二度とこないで。






135 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:13
 振り向いた彼女は、笑顔じゃなかった。
 困ったような、寂しそうな、悲しそうな、泣きそうな顔。

「……すみません」

 何で謝るの?
 悪くないのに。
 バカみたい。バカだよ、ねえ、バカなんだよ。


「なんで、泣いてるんですか」



 わかんない、わかんないよ。だって、だって。



 泣きじゃくるあたしに、彼女はいった。
 この二週間、絶対に触れてこなかったこと。



「なんで、声、でなくなったんですか」
136 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:14




 ずっと疲れてた。笑ってなきゃいけないこととか。
 でもそれはみんなもなんだって言い聞かせて我慢してた。


 引き金になったのは、何だったんだろう。



 みんなが笑って喋ってるのを見たから?

 あたしは、もう、オフでは笑ってられなかったから。
 それぐらい疲れてたから。

 羨ましかった。
137 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:15

「矢口、アンタ最近変だよ?」

 それとも圭織にそんなこといわれたから?

「疲れてるのは分かるけどさあ。他の子たちにあたるのはやめなよ」

 だって、うるさかった。




 わかんない。よくわかんないけど。
 そういうこと、全部、重なって。


 ああ、そうだ。
138 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:15

 石川と、彼女が、いけないんだ。
 いっつもにこにこ一緒にいるから。


 それが引き金だったのかも。
 わかんないけど。

 前の日に、石川と彼女が、笑って、それで。

 それで、抱き合ってたから。


 いつものことだった。
 なんてことのない、日常。

 知ってる。分かってる。ふざけてんだって。
 でも、それでも。
 ずっと、一緒にいて。

 寂しくて。
139 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:16


 なんで、彼女は、ここにいるんだろう。
 なんで、彼女は、石川といないの?


 なんで、あたしと、いるわけ?


「矢口さん?」

 声がでない。名前を呼べない。歌が唄えない。
 ――どうして、声が、でないの?

「ああ、な、泣かないでくださいよぉ」

 ――どうして、あたしといるの?
 ――どうして、抱きしめてくれるの?
140 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:17
「や、矢口さん、ほら、えーと、キムチ! キムチですよ!」

 ばか。
 ホントに、バカ犬。

「ばかぁ……」
「え? あの、あれ、声、声!」

 まだ全然掠れてたけど。声らしい声じゃなかったけど。
 嬉しそうに目を輝かせて。
 眩しいよ、バカ。

「バカよっすぃ〜」
「だ、第一声がそれって酷いっすよぉ」

 困ったような声。でもそれでも。
141 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:17
「ずっと傍にいろよ」
「はぁ……」

 脈絡のないあたしの言葉に首をかしげながらも、その抱きしめる腕に力が篭ってた。

 だからあたしは、信じられる。

 声が、だせる。

 歌が唄える。

 ――君の名前が、呼べる。


142 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:18


 娘。のみんなはあたしの姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきてくれた。
 みんな、大丈夫、大丈夫? なんて聞いてきてくれて。

 その優しさに、涙がこみ上げた。



 歌が、唄える。

 みんなが、いる。



 こんなにも、幸せな事ってないんだ。
 そんな当たり前な事に、今更気付いた。

 自然に、笑顔になっていた。



143 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:18



「――で、なんで声でなくなったんですか?」
「……知らないっ」
「えー」



 嫉妬だったなんていったら。
 君は喜んでくれるだろうか。
144 名前:例え僕が世界を失っても 投稿日:2005/12/05(月) 11:21
以上です。
今回の小説はよくある話なのですが、
今の状況下で正直載せていいものかどうか迷いました。
けれど彼女にいつかまた唄って欲しいという願いを込めて。
彼女の夢が、歌うことだったと彼女自身が忘れないでいて欲しいです。
145 名前:知人。 投稿日:2005/12/05(月) 11:37
>>120
レスありがとうございます。
自分もこういうおばかな話大好きなんでこれからバンバン行くと思いますw
娘。は大勢いるんでいつかみんなでわちゃわちゃさせたいです。
亀ちゃんはこんな子じゃないとは思いつつ、暴走しました。
最初はミキティさんだったんですがw

>>121
レスありがとうございます。
期末試験真っ最中でして、更新が遅れました。
待っててくださって嬉しいです。
亀ちゃんはいいキャラなんでこれから出していきたいです。
もちろん、普通の役割でw
146 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 09:57




 裕ちゃんの横顔は、寂しかった。


147 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 09:58


■モーニング娘。の育ち方。



148 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 09:59

「圭織ぃ」

 ハロモニの収録。
 休憩時間に裕ちゃんがやってきた。

「どーした、裕ちゃん」

 けらけら笑いながら言うと、疲れたーと裕ちゃんは椅子に座ってジュースを飲みだした。
 もう年かなあ。なんていったら怒られるだろうケド。

 向こうの方で、亀ちゃんとか、シゲさんがきゃらきゃら笑ってる。


 とても、微笑ましい光景。
149 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 09:59

「育ったなあ」
「は?」

 裕ちゃんの突然の呟きに、あたしは首を傾げた。
 育つって、なにが? 亀ちゃん? シゲさん?

「娘。や、娘。」
「ああ。まあ……今更じゃない?」
「そうやけど……」

 裕ちゃんは、何かいいたそうに、亀ちゃんたちを見ている。

「最近良く思うねんけど」
「うん?」
「……このまんまで、娘。は大丈夫なんかな」

 痛い、言葉。

 返せる言葉は、ない。

「――昔は」
「裕ちゃん」
150 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 10:00
 遮った。
 過去をどうこう言っても、仕方ないんだ。
 けど、裕ちゃんはあたしに優しく微笑んだ。

「違うねん。昔は良かったとか、そういうこといいたいわけやない。ただな、昔のモーニング娘。は、メンバーがモーニング娘。を一生懸命育ててた。けどな、今は、今のモーニング娘。は、モーニング娘。がメンバー育てとる。そうやろ?」


 確かに、そうだった。

 あたしたちで大きくしたモーニング娘。は確かにあたし達メンバーが育てた物。
 でも、今のモーニング娘。は。

 モーニング娘。っていうブランドが、メンバーを育ててる。ソロになるために。

 不慣れな普通の女の子を芸能人に仕立てる一時期の溜まり場って感じになってしまっている。

 モーニング娘。という、グループ名のブランド。
151 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 10:01



 大きく、なりすぎたんだろうな。


152 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 10:02

「昔と今を比べてどっちが良かったかなんてわからん。そんなん言わんつもりや。これからどうなっていくかもわからんからな。けど、けどな。今の娘。には自覚がないねん。自分らがモーニング娘。を育てていくんだって言う」



 ――守っていく。


 いつも、それだけだったような気がする。

153 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 10:02
「それが、少し、寂しくてな……」


 裕ちゃんの横顔は、寂しかった。
 あたしは、何もいえなかった。

 目の前で笑っている、後輩。
 幸せそうで、一生懸命で。



 彼女たちが、これからの娘。を作っていくんだって、改めて感じた。



 向こうの方で、四代目リーダーが皆に号令をかけていた。
154 名前:モーニング娘。の育ち方。 投稿日:2005/12/06(火) 10:06
以上です。勝手なこと書いてすみません。
なんとなく思った事を書きなぐったものなので。
今の娘。はとてもいい感じです。今までになかった空気って感じで。
けれど考えてみると中澤リーダーの時と比べると大分違って、
彼女はどう思ってるんだろうと妄想を膨らませただけっていう話でした。
まあ所詮ヲタの妄想なんで。
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/08(木) 01:32
今の彼女達、それもまたモーニング娘。なんですよ。
ずっと昔がすべて正しいとは限らないし、逆もまた然り。
156 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:24



「あたしなら、大丈夫ですよ」

 力強く笑ってくれた一番弟子。
 五年前とは比べほどにならないほど、強くなったんだね。


157 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:25



■心に夢を、君に花束を。



158 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:25
 写真を撮られたとき、どうしようと思った。
 頭の中が真白になって、何を聞かれても答えられなくて。
 立っているだけで、精一杯だった。

 彼がなんとかフォローしてくれたけど。
159 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:26

「脱退します」


 決心とか、そんなのなかった。
 でも、娘。にそういうのがあっちゃいけないって、何度も何度もマネージャーさんたちに言われてきたから。
 恋愛禁止、していても常に報告。それが娘。に入るときに言われた言葉。

 ――歌えなくなるかもしれないけど。
 皆に、迷惑をかけるんだけど。
 信頼を、なくすかもしれないけど。

 でも、それでもやっぱり。


 リーダーとしての責任があるから。


「モーニング娘。を、脱退します」

160 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:26




 あたしの一番弟子は、入ってきた頃、うまく笑えなかった。
 なんていっても、教育係のテーマが「表現力」だったしね。
 頼り無くて、曖昧に笑っていて、中々前に出ようとしなくて。
 しょーがないんで、あたしが「よっすぃ〜」っていう仇名をつけた。
 それがなんか結構うけて、その愛称が皆に知られていくのは嬉しかったっけ。

 それで、だんだん前に出てトークとか頑張ってた。

 でもその内にちょっと太ったりとかして、大丈夫だろうかなんて心配したけど。
 フットサルやりだして、なんか自分の居場所みたいなの見つけられたみたいで。
 コントとかそんなところに力入れだして。でも、そっからどんどん頼もしくなってきてさ。

 ――うん、なんか、懐かしいな。


161 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:27


 本当に二十歳になったばかりの彼女にリーダーを押し付けるのは心苦しくて。
 謝る事しか出来なかった。

 こんな不甲斐ない師匠で本当にごめん。

 なのに、彼女は笑って、


「あたしなら、大丈夫ですよ」


 その笑顔に、とても安心できた。力強い、笑顔。
 自分勝手な脱退。あまりにも突然で、みんな動揺してるはず。

 それをこの子に、押し付けて。
 自分は逃げてるのって、すんごく卑怯な事だと思う。

162 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:28

 二人っきりの帰り道、なんだか気分が重くて。
 彼女は笑ってくれたけど、やっぱり申し訳ない。
 だって、あんまりにも自分勝手すぎるよ。

 そんなのはわかってて。
 でもどうする事もできない自分が憎い。


「あ、矢口さん、ちょっと待ってください」
「?」

 急にかけられた言葉に顔を上げる。彼女は花屋に向かっていく。
 花屋の店員となにやら会話。その後、花束を受け取ってお金を払ってる。

「はい」

 ぼんやりみていたあたしに、彼女はその花束を差し出してきた。

「え?」
「卒業、おめでとうございます」


 彼女の優しさが、痛かった。

163 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:28

「何言ってんの……」
「卒業式、できないから。だから、二人だけの卒業式。ししょーの門出ですから」

 へへへっていつもの笑顔。こみ上げてくる何かを必死に飲み下しながら、あたしはその花束を受け取った。

「ありがとう……」
「矢口さん。ね、卑屈になんないでくださいね」

 背の高い、一番弟子は。

「あたし達、ちゃんとやってきますから。矢口さんも、ちゃんとやってってください。じゃないと、脱退されたこっちがたまらないですよ」

 いつもいつもあたしの心配してくれてる。
164 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:29

「矢口さん、変な遠慮とかしちゃだめですよ。ちゃんと、思いっきり矢口さんらしくやってかなきゃ」

 ああ。
 頼もしいなあ。

「やーぐちさん? 返事はー?」
「うん……」

 花束に顔を埋めて、涙をこらえる。
 ホント、この五年間で成長したね。

「よっすぃー……ごめんね」
「矢口さん、ここ、謝るとこじゃないでしょ」
「……ありがとう、よっすぃー」
「はい」
165 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:30


 ねえ、よっすぃー。
 いつか君が卒業する時、あたしも花束を渡しても、良いかなあ。

 二人っきりの卒業式を、やらしてくれないかな。

 この謝罪と、お礼の意味を込めて。


166 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:30

 みんな、心に夢を抱えて、娘。に入ってきて。
 みんな、心に夢と寂しさを交えて卒業していく。

「大丈夫ですよ! 少なくとも、あたしは矢口さんのために歌ってますから」

 あたしは、悲しみで、満ち溢れていたけれど。


 ――いつか、君の番が来たら。


 あたしは、君にあたしの夢を託すよ。
 君の、卒業式がとても楽しみ。
 きっと、もっと、素敵になってる。




 心に夢を、君に花束を。



 いつか、あげられるように。
167 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:32
以上です。
紅白の発表がされた今、
この話に不快を覚える方もいると思いますので落とさせていただきます。
本来ならこの話は来年の四月にあげる予定でした。
しかし、紅白の話を聞いて、今あげさせていただきます。
168 名前:心に夢を、君に花束を。 投稿日:2005/12/09(金) 21:35
>>155
レスありがとうございます。
自分もそう思います。
「絶えず変化する」のが娘。の良くも悪くも特色なんでしょうね。
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/10(土) 11:36
作者様と同じようなことを自分も考えることあります。
でも最後は結局、娘。達の笑顔に励まされて「応援していこう」って
気持ちになります。それは今も昔も一緒です。
こういうお話は扱い方が難しいとは思いますが、これからも楽しみに
待たせて頂きます。
170 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:49


「実質的にさー。矢口さんの卒業式になるわけじゃない?」


171 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:50



■君の世界にほんの少し明りを灯せればいい。



172 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:51
「へ? なにが?」

 ミキティの言葉にあたしが聞き返すと、ミキティはちょっと不満そうな顔をして、言った。

「紅白。ドリームモーニング娘。」
「ああ、そだね」
「そだね、ってよっちゃん、なんも感じないのー?」
「しょーがないじゃん。事務所が決めたんだし」
「そうだけどさ」

 ミキティは溜息をついた。
 あたしだって分かってる。

 急に脱退という形を取った矢口さんが、紅白出場決定。
 ううん、矢口さんだけじゃないや。元モーニング娘。たちも。
 十九人体制のモーニング娘。

 これでタンポポオリメンは八年連続出場。おめでとうございます。
173 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:51

 それが何を意味してるのかは考えない。
 今のモーニング娘。を否定してるなんて思わない。

 でも、やっぱり、ちょっとどっか釈然としないのはある。

 ミキティもそうなんだろうな。
 なにより、矢口さんは卒業じゃなかったからね。

「矢口さんだって、驚いてるんじゃないの」

 あたしの言葉にミキティは笑った。笑った顔は、少し泣きそうだった。

「だよね」
「いーじゃん。仕事より愛をとったんだよ」
「はは、よっちゃん、師匠バカだね。なんでそんなに庇うの」
「庇ってないよ」
「かばってるよ」

 ミキティはあたしの睨んだ。
174 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:52
「怒ってないの、矢口さんのこと」
「まあ、最初ははぁ!? とか思ったけど」
「今は?」
「今は、なんていうか。まあ、いっかみたいな」
「あほだね、よっちゃんさん」

 阿呆。確かに、阿呆かもしれない。

「でもさー、なんていうの? 矢口さんはさ、辛い道をとって、それでも笑ってたじゃん」

 見かける彼女は、どんな時でも笑顔だった。たとえ、それが、心からのものじゃなくても。

「それってさ、凄い事だと思うんだよね。プロとはいえ、やっぱ笑うって事ができるのは」
175 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:52
 すごい、強い意思がなきゃダメだと思う。

 だって、周りから冷たい眼で見られたりしたと思うんだ。
 きっと、歌を歌いたくて仕方ない時もあったと思うんだ。


 だから、


「応援してあげたいなーって」
「よっちゃんって……バカだよね」

 酷いなー。ミキティ。

「だってさ、あたしらいちいち止まってられないじゃん。止まったら、うちらお終いじゃん」
176 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:53

 モーニング娘。は歩みを止めない。
 何があっても歩いてきた、そしてこれからも歩いていく。

 それは、今も昔も変わらないモーニング娘。の魂<スピリッツ>。

「だったらさ、応援してくれる人のためにいつだって笑顔でいたいと思うんだ」

 アイドルは、生きる希望。

 落ち込んでる人や、悲しんでる人に、笑顔や歌で元気を与えたい。




 ――それは、矢口さんだって例外じゃない。

177 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:53

「許すとか、許さないのレベルじゃないと思うんだ。うちらは止まれないし、もう矢口さんも戻れない。それだけなんだよ」
「わかってるよー。わかってるけどさー」
「ミキティ、泣くな」
「泣いてないよ」
「そっか」

 あたしは立ち上がって伸びをした。
 んーって声を出して、窓の外を見る。


 冬独特の、広く感じる青空が、少し寂しかった。
178 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:54


「さて、いきましょうか、リーダー?」
「はいはい、サブ」
「サブっていうな」
「はは、頼りにしてるよ」


 これから何があるのか分からない。

「みんなー! 集合だー! ミーティングやるよー!」
「ってか、よっちゃん、こんなに小さな楽屋なんだから別に集まんなくても……」
「いいの! 集まるの!」
「はいはい……」
179 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:54
 もしかしたら、とても悲しい事があるかもしれない。
 驚くような事があるかもしれない。嫌なことがあるかもしれない。

「れーな、今日、終わったら焼肉食べに行かない?」
「あ、いきとーばい!」
「さゆもいくから、小春も行く?」
「はい、ご一緒します!」
「あさみちゃん、あとでかぼちゃプリン食べる? 今日ね、すっごい美味しいの買ってきたんだ! 限定品だよ!」
「ほんとに? 食べる食べる!」
「もう、みんな食べる話ばっかり。色気がないな〜。ね、愛ちゃん」
「そうやね〜。でも美味しいよ、この新作お菓子」

「そういうガキさんと愛ちゃんも食べてるんだから説得力ないよね」
「お、ツッコミキティ!」
180 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:54



 ――でも、それでも。


「さてと、皆集まったな。じゃあ、今日は――」


 モーニング娘。は決して歩みを止めないんだろうな。



 みんなの世界に、ほんの少し明りを灯すために。
181 名前:君の世界に。 投稿日:2005/12/10(土) 22:56
以上です。
何かの記事でよっすぃーがアイドルは生きる希望だってことを
言っていたのを思い出しました。
作者の主観が入りまくりですが。一応sageで。
182 名前:知人。 投稿日:2005/12/10(土) 23:10
>>169
レスありがとうございました。
自分も変わっていく娘。たちを応援していくし、その時がくるまで見届けようと思っています。
自分が娘。ファンになったのは、実は誰が好き、というわけでなく、グループ全体、
あるいは個人個人の成長に惹かれたからです。
とはいっても、ファン歴もわずか一年という短いものです。
だから、正直、今とか昔、と語れる立場ではありません。
ビデオや動画、テキストを読んでいてもやはり当時の雰囲気は肌で感じ取れません。
それでも、彼女たちの成長ぶりを見ていたいから、これからも続けていくつもりです。
最後に、読んでくださり、レスをしてくださり、本当にありがとうございます。
183 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:50



 ある日唐突に矢口と入れ替わった。


184 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:51



■ラブパニックでざ・ちぇんじ!




185 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:52
「な、な、なんでぇー!?」

 矢口の大きな叫び声になっちも叫ぶ。

「なんで?! なっちが目の前にいるの?! 嘘、なんで?! やだよ、ありえない!!」
「それをいうならおいらもだよ!!」

 どうやら矢口となっちは入れ替わってしまったもよう。
 原因はさっき、廊下の曲がり角で思い切りぶつかったから?
 気がついたら、入れ替わっていた。

「ど、どうしよう……」

 矢口の困った顔に、なっちだってわかんないべさ。
 今日は写真撮影の後、収録がある。歌わなきゃいけない。
 それぞれのパートなんて、練習していないし……。

「と、とにかく戻れる方法考えよう!」

 なっちの提案に、矢口はじゃあ、と、いきなりなっちの胸倉つかんで。
 思いっきり頭を後ろにそらし。
186 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:54


 がすっ。

187 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:56
 鈍い音と共にオデコに激痛。
 思わず、頭を抑えた。

「矢口ぃぃ……」
「いや……ぶつかって入れ替わったなら、もう一回、みたいなね?」

 矢口の頭突きに二人で頭を抑えている。矢口は自業自得だべ。

「もっと他にいい方法ないんだべかぁ?」

 なっちが激痛からようやく立ち直った時、愛しいあの人の声が。

「あれー、なっち何してんのー?」

 体はなっち、心は矢口にぎゅっと抱きつくごっちん。
 な、なんかすんごい複雑!!
188 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:57

「なっちぃ? ちゅー……」
「だー! ごっちん、やめろって!!」

 ぐきっと変な音がしてごっちんの首が曲がった。もちろん矢口が抵抗したのだ。って、ごっちん! 大丈夫?!

「ごごごっちん!? 大丈夫?!」
「んぁー! なっち酷いよー! やぐっちゃん、今のきいたー!? ぐきって、ぐきっていったー」

 泣きながらこっちに抱きついてきてくれるのは嬉しいんだけど……あれはなっちじゃなくて矢口で、なっちは矢口じゃない……ああややっこしい!!

「え、えと……」

 なっちが返答に困っていると、矢口が手でばってんを作っていた。ああ、つまり言うなって事ね?
189 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:58
「そ、そうだよなー、なっちってば酷いよなー!」

 なんで自分で自分を罵倒しなくちゃいけないの?!

「ご、ごめんね、ごっちん……なっち、ちょっと恥ずかしくて……」

 上目遣いでごっちんを見るなっちの体の矢口。って、なっちそんな事しないべー!!

「んぁー。なっちかわいー」

 ぎゅーって矢口を抱きしめる。ああああああ。やめて欲しいよー!!

「え、えと、ごっちん、そろそろなっ……おいら達撮影があるからさー」
「そ、そうだよ! ごめんね、ごっちん」

 制止すると、矢口が慌ててごっちんから離れて、なっちの手を握って歩き出した。
 ごっちんの、なっち今夜家行くからねーって声が聞こえてくる。

 ……夜までになんとか戻らないと大変な事になる。
190 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:59




「どうしよう」

 矢口が涙目でなっちの方を向いた。なっちの顔だからなんか微妙。

「早く元に戻らないと、収録に間に合わないべ」
「なんか、なんかいい方法……」

 矢口が頭を抱えている。なっちも何かいい方法はないかと考え始めた。

「あれ、どうしたんですか? 安倍さん。頭抱えて」

 この声は……よっすぃーだ。
 なっちが顔を上げると、矢口のほうに視線を向けている。正確には、なっちの体の矢口。

「あ、よっすぃー」

 矢口の顔がぱっと明るくなった。いやいや、あんたまさかなっちの体だってこと忘れてないべ?
191 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 19:59

「よっすぃー、あの、撮影終わったの?」

 なっちが声をかけると、嬉しそうな笑顔を作るよっすぃー。

「あ、終わりましたよ。次、安倍さんです」

 にこにこ綺麗で可愛い笑顔。純真無垢ってのはこのこというんだろうなー。

「そっかーわかった」

 そんな事考えながら、思わず立ち上がった。

「へ?」

 よっすぃーが呆けた表情。
 ん?

「あの、矢口さん、次、安倍さんですよ?」
「あ……そうだよね、はは」

 笑って誤魔化す。今は矢口の体だったべ。
 すると、矢口がなっちの方に駆け寄ってくる。
192 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:00

「なっち!」
「な、なに?」
「いい? よっすぃーに変なことされそうになったら外に逃げてね! 絶対やられちゃだめだからね!! されたらおいら、許さないからね!」
「え、ええ?」
「じゃ、行ってくるから!」

 と、撮影にいってしまった矢口。あれ、ちょっと待って。
 変なことって……なにぃ〜!?

 あ、あんな事とかこんな事?!
 ごっちんとなっちが夜部屋で二人でしているような事?!
 それを楽屋でよっすぃーと矢口はしてるんだべか?!
 どうするべ?! どうするんだべ?!


「どうかしました? 矢口さん」
「んぇ?! い、いや、なんでもないべ……」
「あはは、なんですか、それ? 安倍さんの物まね?」
「え?! あ、ああ! そう、そうなんだよ! に、似てただろ?」
「イントネーションがすごく似てましたよー」

 本人だべ、しかたないべ……。
193 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:01

「今日はうたばんの収録があるんですよね。頑張りましょう」
「う、うん……」

 っていうかよっすぃーかっこいいなあ。これならなっち、あんな事やこんな事されても……って何考えてるんだべ! なっちの浮気もの!!

「矢口さん?」

 うわあ、ち、近寄らないで! な、なんでこんなにドキドキしてるんだろう、なっち……。

「どうしたんですか? 熱でも……」

 おでこを触られ、びくっと反応してしまった。か、顔が熱い。
 よっすぃーの口が笑みを形作った。妖しげな、笑顔。

 お、襲われる!?

 と思ったら、すぐにその手は引いた。

「なんでそんな怯えてるんですか? 酷いなあ〜」

 へらへら笑って、いつものよっすぃーだった。
 あ、なんだ……。
 思わず、ほっと息をついた。
194 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:03



 収録まで間近。一体どうすればいいんだろう。
 なっちの撮影――まあ言い換えれば矢口の体の撮影――もすんで、後残り、圭織、梨華ちゃん、まこっちゃん、それと紺ちゃんの四人が残ってる。

 大体、四十分って所だろう。

 その間に、早く戻らなきゃ。

「よっすぃーに変なことされなかった? ねえ?」
「されてないよー」
「ホント? 絶対?」

 な、なんでこんなに矢口はしつこいんだべか……。

「ホントだって。何にもしてこなかったよ?」

 まあちょっと触られたけど、変なことじゃないし。
195 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:04
「ふーん……おかしいなー。いつもなら絶対してくるのに」
「いつもなら絶対って……」

 二人っきりになったらいっつもされてたんだべか。知らなかったし、気付かなかったよ……。

「なんかあやしー……あ、もしかして浮気とか!?」
「あー、あの、矢口?」

 早く元に戻る方法を……。

「ちょっと確かめてくる!!」
「ええ?!」

 確かめてくるって、なっちの体で!? あ、ちょっと!

 ……あーあ、いっちゃったよぉ……。
 仕方なく、後をついていく。

 タイムリミットまで、あと四十分ぐらい。


 なっちたち、元に戻れるかなあ。


196 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:06

 こっそり影からなっちの体の矢口とよっすぃーを見る。
 確かに本心を聞くなら違う人の体のほうが良いね。

 なっちもごっちんにきけばよかったさ。


「でね、や、矢口が今日はちょっと冷たいなーってぼやいてたからさー。よっすぃーなんかあったのかなーって」

 矢口がよっすぃーの隣に座って、そんな事を聞いている。
 よっすぃーはジュースを飲みながら、矢口を見ている。

「……いや、別になんもないんですけどー」

 いいにくそうな、よっすぃー。
 なんだろ?

「けど?」
「やー、なんか、今日の矢口さんいつもと違ってて」

 ぽりぽり頬をかく、よっすぃー。
197 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:07
「なんか、矢口さんみたいじゃなくて。変な違和感が……」
「……よっすぃー」
「あ、でも、別に矢口さん嫌いになったとかじゃなくて、なんていうんだろ、今日は、なんか、ちょっと違うって言うか……」

 しどろもどろになりつつあるよっすぃー。
 矢口は目をうるうるさせてる。よっすぃーは気付いてない。

 恋人のちょっとした――まあちょっとじゃないんだけど――変化にも気づいてしまう子なのに。

 なっち、っていうか、なっちの体は視界に入っていないらしい。
 いや分かってる事なんだけどさ。

 あれか? 犬が飼い主の顔をいつも見ているのと一緒かい?
 ああそうだよね、よっすぃーは矢口の犬だもんね。


 いいね、矢口。羨ましいよ。
 変化に気付いてもらえるなんて。しかもそれで手を出さないなんて。

 それにくらべて、なっちの恋人は……。
 全然気付いていない上にちゅーしようとしてたもんなあ……。
198 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:08

「よっすぃ〜! おいらは嬉しいっ! すんごく嬉しいよー!!」
「んぇええ?! あ、安倍さんー!? だ、抱きつかれても……」

 って。

「こらあああああ! なっちの体で何やってるんだべさー!! っていうかあんたばらすなとかいっておいて、ばらしてんじゃねー!!」

 はっ。しまった、なっちがこんな暴言はくなんて。
 あ、でも矢口の体だし、いっか。

「え? なっち? え?」

 よっすぃーは混乱してる。当たり前だ。



199 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:08

 仕方なく、よっすぃーに状況を話した。
 元々おかしいなあって違和感があったせいか、すぐに納得してくれた。

「なるほどー! すげー! かっけー! そんなことあるんすねえー!」

 ……納得って言うか、感動? ちょっとムカつく。

「あ、でもそしたらあたしはどっちを抱きしめればいいんですか?!」

 知るか。

 なっちの体の矢口と。
 矢口の体のなっち。

 さあ皆さん、どっちがいいですか?

「……よっすぃーはおいらの外見が好きなの? それとも中身?」

 矢口の意地悪な質問。案の定、よっすぃーは困ってる。

「え!? い、いや、もちろん中身も好きですけど、外見だって……」
「じゃ、なっちとおいら、どっち抱きしめたい?」
「えー!?」

 ねえ、そんな事話してる場合じゃないと思うの。
 あと時間は二十分しかないんだけど。
 もっと焦ろうよ、ねえ。
200 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:09
 そんな事を思いつつも。
 なっちの頭にはあるイタズラが浮かぶ。

「よっすぃー……」
「はい!」

 矢口の声で、甘えた声を出してみる。
 パブロフの犬みたいにすぐに反応してくるよっすぃー。
 矢口が半目になった。

「……よっすぃー、結局外見じゃん」
「え!? い、いや、これは矢口さんの声に反応する高性能な矢口さんレーダーってやつが勝手に……」
「もういいよ! 早く元に戻る方法考えよう!」

 怒りながら、矢口。
 いたずらが過ぎただろうか。まあいいや。
 とりあえず、戻る方法を考えよう。

「矢口さぁん」

 一匹のかわいそうなバカ犬は放置。

201 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:10






「やーっぱ、ぶつかるしかないよねえ」
「矢口さぁん」
「だよねー。でも頭突きじゃだめだったし。矢口のやつ、かなり痛かったけど」
「矢口さんってばー」
「もっかい廊下でぶつかってみる?」
「矢口さん、矢口さぁん」
「そうだね」

 なんかかわいそうなバカ犬。
 矢口、せめてハウス! とでもいってやればいいのに。
 でもごめんね、なっちたちはそんな事してる場合じゃないの。
 早く元に戻らないと収録が大変な事になってしまうから。

「えっと、じゃ、矢口は向こう側から来てたんだよね」
「うん」

 なっちは矢口が走ってきた方向にたった。
202 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:10
「いいー?」

 矢口の声。返事をする。

「おっけーだよ」
「じゃー、いくよーってぎゅあああ?!」
「や、矢口ぃ!?」

 矢口の叫び声に慌ててそっちに駆けた。
 そこにいたのは――ごっちんだ。

「んぁー。なっちぃ。酷いよ、そんな叫び声」

 矢口の――正確に言えばなっちの体にしっかり抱きついて、にこにこ笑ってる。
 あわててる矢口。

「ごごごっちん! あの、離れ……」
「なっち、今日冷たいー」

 ごろごろ猫みたいに矢口の肩口に顔を埋めるごっちん。
203 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:12


 ……。



 ……なんか、腹立ってきたんですけど。


 よっすぃーはちゃんと、矢口がおかしいって気付いたのに。
 ごっちんは、何にも気がつかないで矢口にベタベタ。なっちの体とはいえ。

 ……なんだよ、何なんだよ。

 悔しいっていうか、悲しいって言うか、寂しいって言うか。



 アイドルであるなっちがこんな言葉いっちゃいけないんだろうけど……。




「ちくしょー……」
204 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:12
「え? やぐっちゃん、どうしたの?」
「なっ……や、矢口? どしたの?」
「ごっちん……」
「や、やぐっちゃん? 顔怖いよ?」
「や、矢口?」

 がしっとごっちんの胸倉を掴む。大きく息を吸ってー。

「ごっちんのー!! オオバカもん――!!」


 泣き叫んで、走った。

 後ろから、矢口の声が聞こえてきたけど、知らないもん。




 撮影終了まであと十五分くらい。



 ――でも、収録なんて知らないっ。

205 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:13


「安倍さーん」

 よっすぃーが俯いているなっちに声をかけてきた。ふいっと横を向く。

「まだ元に戻ってないんですかー?」
「ほっておいて! 全部ごっちんが悪いのっ。なっちに気がつかないごっちんが!」

 んーってよっすぃーが困ったように笑った。

「早く元に戻ってくれないと、あたしもごっちんも矢口さんも……それに安倍さんも困るんじゃないんですか?」

 確かに、そうだけど!

「それに、ごっちんが気がつかなかったのは、仕方ないと思いますよ」
「なんでよ」
「だって、ごっちん、安倍さんのこといっつも自慢してますもん」
「……?」
「ごっちんがね、いっつも言うんですよ。『なっちはすごいんだよ、いつだってごとーの上いってて、会うたびに綺麗で、強くなってるんだ』って」
「それ……」
「『なっちが頑張って向上してるから、ごとーも頑張れる』って、いっつも会うたびに聞かされてるんです」
206 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:14
 ごっちんが、変化に気付かなかったのは。
 なっちの些細な変化すらも受け入れて愛してくれていたから?
 変わっていることを、誇りに思っていてくれたから?

「だから、ごっちんは――」
「んぁー! なっちぃー!!」
「んえ!?」

 いきなり腰の辺りに抱きつかれて悲鳴を上げる。さっきの矢口もこんな感じだったのかなあ。

「ごめんねー! やぐっちゃんがなっちだって気がつかなくてー! ごとー、なっちがやぐっちゃんなんて知らなくてー! 話をやぐっちゃんからきいてー!」
「う、うん、会話が多少変な感じもするけど……」
「ごとーがすきなのは、なっちだよ? なっちが好きだから……」

 目をうるうるさせて。顔を近づけられる。そのままキ――。
207 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:15

「ってごらああああ! 矢口さんの体で何しようとしてるんだー!!」

 バカ犬、さすが忠犬なだけはある。
 まあ確かになっちも矢口とごっちんがキスするのは嫌だし。

「よしこ、この際目を瞑れ」
「いやだ」

 ……。


 ま、まあ、ごっちんの気持ちもわかったし。
 撮影終了まで約五分。

 早く、元に戻ろう。


208 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:16

「いっくよー!」
「うんー」

 矢口の元気な声に、なっちは思いっきり走り出す。

 角を曲がった所で、矢口と出くわして――思い切り、ぶつかった。




 気がついたときには、ごっちんが心配そうになっちの顔を覗き込んでた。

「大丈夫? なっち? なっちなんだよね?」
「うん……ごっちんだぁ……」

 へにゃって笑ってしまった。
 同時に、マネージャーさんの移動の声がかかる。
209 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:17
「間に合ったねー」

 矢口が矢口の体でにこにこ笑ってる。額が少し赤い。ぶつかった所なんだろう。なっちも額の右側が痛むから。

「うん、良かったべー」

 そう言ってから、そうだ、よっすぃーにお礼を言わなくちゃなんてことを思い出す。励ましてくれたのは、よっすぃーだ。

 立ち止まった。

「あっ」

 ごっちんのそんな声。どんっと、体に衝撃が走る。
 前のめりに倒れるなっち。後ろから重たいものが乗っかってきた。

「えっ?」

 よっすぃーの声。その後、どさっ、ごちっていう鈍い音がした。
210 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:21





 ……。




211 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:25

「んぁー!?」
「えー!?」

 なっちの上にいる、よっすぃーとごっちん。
 お互い指差して、叫んでる。


 ……ははは、今度は二人が入れ替わっちゃったみたい。



 確か次のスタジオまで移動時間は十分だっけ?


 ――間に合わないなあ。
212 名前:ラブパニックでざ・ちぇんじ! 投稿日:2005/12/11(日) 20:28
以上です。
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:30
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
214 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/19(月) 12:10
ざ・ちぇんじおもろかった!
なんかキャラがいい感じで出てて
次も期待して待ってます。
215 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:28



 ある日、おいらは犬を拾った。


216 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:29


■捨て犬ご用心。


217 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:30


 犬って言うか、犬みたいな人間を拾った。
 これがまたでっかい図体しててさ。

 あーほら、ゴールデンレトリバー? そんな感じでさ。



 雨の中、路地裏にずぶ濡れになって一人座ってたのをさ。
 ほっておけなくて。
 声をかけてしまった。
218 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:30

 だってすんごい、悲しそうに俯いちゃってるんだもん。
 何か見てるこっちが涙こぼれちゃうような。
 それに、おいら自身寂しくて仕方なかったし。
 寂しい寂しいっていうところに、そいつが落ちてた。

 まさしく捨て犬だったね、うん。

 で、その捨て犬は、やっぱ人間に捨てられたんだろうね。

 人間を憎んでるような目をしてた。
219 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:31

「はい、ドライヤー。乾いたら、こっちでご飯食べてね。怪我はどこもしてないね?」
「…………」

 鋭い目でこっちを警戒しつつ、髪を乾かしてる。
 ややっこしい捨て犬を拾ったもんだって今更ちょっと後悔。

 ご飯は簡単にオムライスを作ってあげた。
 食べながらも、やっぱりこっちも睨んでる。

「ねえ、おいらの顔、変?」
「…………」

 首を小さく左右に振る。
 なんだかなあ。
220 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:32
「君、名前は?」
「……吉澤ひとみ」
「吉澤さんね、なんであんなとこいたの? 肺炎にでもなって死にたかったの?」
「……別に」
「死にたかったんならごめんね」

 変な謝り方。まあでも、一応謝っとく。これで恨まれたら嫌だから。

「……死にたかったわけじゃない」
「ふぅん。じゃ、なんであそこにいたの?」
「……別に」
「そればっか。なに、ふられたの?」

 ぴくり、と彼女の肩が動いた。あたったらしい。

「あー、なるほど。だからあんなとこで悲しんでたの」
「……違う」
「いやー悲しみの雨に打たれてってやつ? 青春だね」
「違う!!」

 がたんと彼女が立ち上がって怒鳴った。肩で息をして、馬鹿なヤツ。
 おいらは平然と言い放った。
221 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:32
「捨て犬」
「っ……」

 激昂したような表情に、言ってやる。

「でも、まだ、負け犬じゃないんじゃないの」
「え?」
「ていうか、あんなとこで悲しんでたら、捨て犬どころか負け犬じゃん」

 今日のおいらは辛口。だっておいらだって、失恋経験あるもん。

「あんたに……何が分かる」

 唸るような、声。警戒心むきだしで、牙をむいている犬。
 でも。

「何も分からないよ。でも、何もわかんないからこそわかることもあるんじゃないの?」

 所詮、野良犬。負け犬。捨て犬。
222 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:32
「彼女しかあたしにはいなかった。いなかったのに……!」
「うるさいなー。それならおいらには誰もいないよ。両親も、恋人も、友達も」
「…………」

 彼女が黙った。呆けた表情を見せてくる。
 あーやっぱ似てるわ。ゴールデンレトリバーに。

「なんで……」
「生まれてすぐ捨てられて、孤児院行きで、そっからでたら今度は孤児院出だから就職先が見つからなくて、仕方ないから夜の店ではたらいてんの。こんなんで友達できると思う?」

 独りにはなれていた。寂しいなんて思ってなかった。
 あの人に、会うまで。
 あの人に、会って、おいらは知ってしまった。温もりを。

「だからー、別に一人二人失ったくらいで自分の人生捨ててたらもったいないっしょ?」
「べつに、捨ててなんか……」
「捨ててるも同然じゃん。捨て犬」
223 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:33

 ずばっといったのに、今度は睨むことなく俯いてしまった。
 言い過ぎたかな。

 俯いてしまった彼女の頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
 慌ててる彼女に言ってあげた。

「でもまー、おいらが拾ったんだし、責任もって飼ってあげるよ?」
「え?」
「……いやじゃなければ」

 情が移ったとか、そんなんじゃない。
 そんなんじゃなくて。
 おいら自身が寂しかったから。
 もう誰でもいいから温もりがほしかった。

「……いい、の? 全然知らないのに」
「うん? いいよ、別に。どうせこんな身だし」

 全然知らなくても一つだけ知ってる。
 彼女が全力で誰かを愛して捨てられたって事。
224 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:33



 それだけ知ってれば、別に、いいや。


225 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:34
 それからおいらは捨て犬だったヤツと一緒に住んでる。
 しばらくはなんかしゃちほこばってたけど、最近は懐いてくれたらしい。
 捨て犬から飼い犬になったやつはテキパキとおいらの身の回りの世話をしてくれる。

 ……なんか、おいらが飼われてる気分だ。

「矢口さぁん。ご飯できましたよー」
「うんー。今行く」

 一緒に暮らし始めて、また一つわかったことがある。
226 名前:■捨て犬ご用心。 投稿日:2006/01/15(日) 07:35
「今日はグラタンです」
「おーうまそー」

 捨て犬だった野良犬は――。

「えへへ、グラタン頬張ってる矢口さんかぁいー」
「うるせっ」

 とんでもないバカ犬だったってこと。



 ……まあ、可愛いからいいんだけどさ。
227 名前:知人。 投稿日:2006/01/15(日) 07:41
以上です。
明けましておめでとうございます(遅

>>213
 了解しました。
 頑張ってください。

>>214
 レスありがとうございます。
 凄く励みになりました。
 引越しやらが続いていて、
 更新が難しくなりましたが、これからも頑張ります。
228 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:41


■青空の果て。


229 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:41



 屋上から見下ろす街はあまりに小さくて。
 下を歩く人々は小さすぎて。
 きっとちっちゃいおいらはもっとちっぽけな存在なんだろう。

 なのにどうしてカミサマは、こんなちっぽけなおいらを生かしたのだろう。




230 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:42



 上を見上げれば、青空しかない。
 青色の、絶望。
 綺麗過ぎる、絶望の色。




231 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:42


 煙草に火をつけて、煙を吸い込む。


 そうすれば、なにもかも、きっと忘れられると思った。
 そうすれば、どうしてか、きっと死ねるんだと思った。


 下を向いて、上を向く。
 溜息をついて、フェンスに手をかけた。



 屋上から、飛べれば、きっと。
 気持ちいいんだろうな。

232 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:42



「何してるんですか〜?」



233 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:43
 突然聞こえてきた、のん気な声に思わず振り向いた。

 貯水タンクの上からこちらを見下ろしてくる人が一人。



 立ち入り禁止のココに、人の事言えないけど、何でいるんだろう。



「ここは立ち入り禁止のはずなんですけど〜」



 こっちの台詞だっつーの。
 その人は、いきなり貯水タンクから飛び降りた。
234 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:43




 あ、綺麗だ。





235 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:43

 飛び降りる瞬間とか、着地した瞬間が、きらきらまぶしくて。

 太陽みたいで、




 すっごく、綺麗だと思った。


236 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:43
「こんにちは」

 にこにこのん気に笑ってくる、目の前の人は背の高い女の人。
 おいらが小さいからか、それとも彼女が高すぎるのか。

 多分、両方なんだろうなー。

 何年生かを確認するために上履きを見ると、一年の色、赤。


 なんだ後輩ジャン。タメかと思ったわ。
 おいらはタバコの煙を吐き出して、彼女を睨んだ。
237 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:44
「何してるの、こんなトコで」
「サボりッス」

 ひるむ事もなくあっけらかんと答える彼女。
 中々良い根性してる。


「で、先輩は?」
「おいらも、同じ様なもん」


 適当に答えておく。
 だって、いったらまずいっしょ。


 飛び降りようと思ってたなんて。


 目の前の後輩であるはずのでっかい彼女は、前髪をがしがしかくと、ニッコリ笑った。
238 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:44
「んーでも、さ。先輩」
「なに?」
「飛び降りようとしてたでしょ」

 あっさり。
 はっきり。

 思わず目を丸くしたおいらに、後輩は、さらに追い討ちをかける。



「煙草を吸っても、別に楽になりませんよ」
「なにいって……」

 言いかけたおいらの口を遮るかのように、彼女はおいらからタバコを奪った。

 奪ったタバコを自分で吸いながら、おいらに微笑んでみせる。
239 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:45

 何コイツ。
 何コイツ。

 すっごい、ムカつく。


 年下の癖に。

 余裕ぶっちゃって。


240 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:45
「吸うな、とはいいませんけど。学校で吸ったら流石にやばいですから」
「うっさい。返せよ!」

 背伸びして取り返そうとすると、彼女は手から煙草を落とした。
 
 そして地面に落ちたところをすぐに上履きで踏んでもみ消す。


 おいらまだちょっとしか吸ってないのにっ!!


「こんなの吸ってると、背、伸びませんよ?」


 へらっと笑われて、ムカつく。ムカつく。ムカつく。
 人が気にしていることを。
241 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:45
 睨んでもにへっと笑って全然効果がない。

 それどころか今度はおいらの方に手を伸ばして胸ポケットに入っていた煙草の箱を取りやがった。

「何すんだよ!」

 取り返そうとすると、素早い動きでそれを自分のポケットに入れてしまう。

「だって、持ってたら吸うでしょう?」

 にこにこ笑って、さらりと。


 ムカつく。ムカつく。
242 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:45
 そいつはイラついているおいらに、代わりにコレあげますからと、

「はい」

 差し出された、お菓子。

「なにこれ」


 ぶっきらぼうに聞き返すと、彼女はやっぱりのん気な笑顔を浮かべる。


「チョコレートです」

 おいしいですよ〜? なんていわれた。

 こいつ、絶対おいらの事子ども扱いしてる。

「いらない」
「まあまあ。おいしいんですってば。限定品」
「いらないってば」
「これは魔法のチョコレートなんですよ。元気でますよ」


 ……殴ってやろうか。
243 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:46
「いらないってば! 子ども扱いすんなよ!!」
「してませんよ。えっと、疲れてるときとか、元気のないときはチョコレートはすごくいいんです」

 真面目な顔で、だけど少し考えながら解説する彼女。

「なにが魔法だよ」
「魔法のチョコレートですよ。本当に。効果は、あたしが保障します」


 にっこり綺麗な笑顔。

 う。

 一瞬だけど、見惚れたおいらは馬鹿かもしんない。

 そして、その笑顔につられて手を差し出したおいらはすっごい馬鹿だ。


 オオバカ。馬鹿馬鹿馬鹿。
244 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:46
 でも、きっと。


 心のどこかではコレでよかったって思ってた自分がいる。


「元気出してくださいね」


 ぽんぽんと頭を撫でられる。
 子ども扱いジャンかよ。
 背中を向けた後輩を睨むと、その視線を感じたのか彼女は振り返った。


 そして、やっぱりあの笑顔を見せる。
245 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:46

「あたしも吸っちゃったから、共犯ってコトで。黙っときますから」


 煙草の事いってるんだろう。
 彼女は吸殻を拾うと、おいらに軽く手を振って屋上から出て行った。
 太陽のような笑顔を残して。


246 名前:青空の果て。 投稿日:2006/02/13(月) 01:47



 ……すっごい、ムカつくくせに。


 なんだアイツ。


 すっごい、かっこいいじゃん。
247 名前:知人。 投稿日:2006/02/13(月) 01:47
以上です。
248 名前:□ロッキーズ愛。 投稿日:2006/02/26(日) 22:01





□ロッキーズ愛。


249 名前:□ロッキーズ愛。 投稿日:2006/02/26(日) 22:01
「さゆは、これがいいの」
「絵里はこれ! れいなはどれにする?」
「れいなはこれがいいっちゃ。美貴姉ぇはどれにすると?」
「んー。これかな。これ、おいしそう」

 収録帰り。

 亀ちゃんのオススメケーキ店ってやつに連れられて、美貴達はケーキパーティをすることになった。

「それじゃあーかんぱーい」
「何によ」

 亀ちゃんの言葉に美貴がそう言うと、亀ちゃんはうーんとうなった。
250 名前:□ロッキーズ愛。 投稿日:2006/02/26(日) 22:01
「えっとー、六期にです!」

 亀ちゃんの答えに、重さんとれいなが賛同した。

「じゃ、六期に乾杯なの」
「かんぱーい」

 かちん、と紅茶やらコーヒーやらのカップが音を立てる。
 美貴は心の中で苦笑した。


 一応、六期<同期>と認められてるらしい。

251 名前:□ロッキーズ愛。 投稿日:2006/02/26(日) 22:01


 入った当初、反発ばかりしていたせいか、あるいは先輩という意識からか、中々打ち解けてくれなかった。

 けれど彼女たちがこの世界になれてくるにつれ、美貴達はだんだんと結束を強めていく。


 モーニング娘。として。

252 名前:□ロッキーズ愛。 投稿日:2006/02/26(日) 22:02

「今度さー、この四人で映画でも見に行こうよー」
「あー、いいっちゃね。れいな、あの飛行機のヤツみたいっちゃ」
「れいなそういうの好きだよね。藤本さんは?」
「んー。美貴はなんでもいいかな。あ、でもラブストーリーとかはダメ」
「藤本さんらしいの」



 けらけら笑って。
 苦楽を共にしてきた仲間。


「今度さ、小春ちゃんも連れてきてあげようよー。同期いないじゃん」
「そうっちゃ。さゆ、教育係なんだから連れて来るっちゃ」
「あんたらも先輩なんだから頑張りなよー」
「「「はーい、サブ!」」」
「サブいうな!」

 そうしてこれからも。



 この子達と一緒に、歩んでいくんだろうな。


 結束を強めながら。
253 名前:□ロッキーズ愛。 投稿日:2006/02/26(日) 22:02


「さゆ、それちょっと頂戴ー」
「だめなの。絵里は自分のを食べてればいいの」
「えーけちー」
「絵里、れいなのあげるっちゃ」
「えーいらなーい」
「……どうせれいなは、はぶられいなっちゃー……」
「れいな、ほら、美貴のあげるから!」


 結束、強まってる、よ、ね?
254 名前:知人。 投稿日:2006/02/26(日) 22:02
以上です。
255 名前:知人。 投稿日:2006/02/26(日) 22:07
*以前どこかのスレで作者フリー短編集に載せたものを
改稿してここに載せます。
256 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:08


「久々だねえ、集まるの」

 よっちゃんがそう言った。
 それにあいぼんと梨華ちゃんが笑って頷いた。


 あたしたちが卒業してWになって。
 梨華ちゃんが卒業して美勇伝のリーダーになって。
 よっちゃんがモーニング娘。のリーダーになって。


 互いに忙しくて。集まる事なんてできなくて。
 そうして。
 ようやく、久しぶりに。
257 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:08

「んでー、どこいく?」

 アイボンの言葉に、よっちゃんが元気よく、

「うみー!」
「無理だから」

 さらっと梨華ちゃんが流した。
 梨華ちゃん、美勇伝になってからちょっと変わったよね。

「や……」
「山も無理だからね」

 よっちゃんが言う前に、梨華ちゃんが釘をさした。
 さすが、長年付き合ってる事はある。
258 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:08
「ちぇー」
「ちぇー、じゃなくてさ。よっちゃん、今十月だから」

 アイボンが呆れたようにそう言った。確かに今海に行ったら寒いだろうなー。

「ののはどこいきたい?」
「ん? んー。あたしはどこでもいいかな」

 梨華ちゃんの言葉にへらって笑ってみた。

「あ、じゃああそこ行こうぜ」
「え? どこ?」

 よっちゃんの言葉に、あいぼんが聞いた。

「プラネタリウム」


 よっちゃんにしては、随分静かなところだな、と思った。
259 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:09




□四期はプラネタリウムの下で。


260 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:09

 プラネタリウムはがらがらだった。
 ていうか、あたし達しか客がいない。

「さみしー」
「いいじゃん、貸切ー」

 あたしの言葉によっちゃんが嬉しそうに言う。
 しばらく静かにしていると、アナウンスが聞こえ始めた。
 ぼんやり人工的なヒカリの星を見る。


「つまんなーい」


 あいぼんが呟いた。梨華ちゃんがこらこらとたしなめる。
 ちょっとの間だけ、静かになったけど、ぼそっとよっちゃんが呟いた。
261 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:09


「あたしさ」


 誰もがよっちゃんを見た。よっちゃんは、星をじっと見つめて、唇を舐めた。


「ちゃんと、護るから」


 その言葉がずしっときた。

262 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:10
 安倍さんや飯田さん、中澤さんが作り上げたモーニング娘。
 そうして、いろんな人が娘。の道を築き上げてきた。
 それは、あたし達も同じで。

 共に入って、頑張ってきた。
 娘。に入った頃は、脱退とか、卒業とか、そーいうの、全然考えてなくて。
 一緒に頑張って、泣いて、笑って、ライバル視しあって。
 いつまでもこの空間が続けばいいなあって思ってた。

 いざ、卒業して、あいぼんと二人だけの楽屋とかで。
 時々ハロモニの収録とかで会うけど。それでも。

 やっぱり、昔のようには行かなくて。


 寂しくて、切なくて、言葉では表せないくらいの感情が渦巻いていて。

263 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:10



「頑張るから」

 よっちゃんは震える声でそう言った。

264 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:10


 あたしとあいぼんが卒業した娘。
 飯田さんが卒業した娘。
 矢口さんが急に脱退してしまった娘。
 梨華ちゃんが卒業した娘。
 新メンバーが入った娘。



 もう、あたし達の知ってる娘。じゃないけれど。
 きっと、新しい風が吹いている娘。なのだろうケド


 今まで築いてきたものが、ちょっとでも残っていればいいな、と思う。


265 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:11

「まかせたぞー、よっすぃー」

 あいぼんが、涙目で笑った。
 梨華ちゃんはしゃっくりあげて泣いてた。

 お客さんがいなくて、幸いだった。

 あたしも、ぼろぼろ涙をこぼしながら、よっちゃんがんばれーって言った。


 たぶん、こーいうのって、娘。に入らなければ絶対経験できなかった事。


 友達、だけど。でもちょっと違った感じの友達。

 そう、いわゆる「仲間」
266 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:11
 何かを一緒に作り上げてきた、「仲間」。それはとても、かけがえのない物で。

 絶対的な、絆。
 絶対的な、信頼。



 友達のような友情じゃなく。それは仲間意識で。
 

「おう、頑張るわ」
267 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:11

 今、確実にあたし達は違う道を歩いている。
 スタートラインは一緒だったけど。

 やっぱり、歩幅も進む方向も、全然違うね。

 嫌でも、そんな事に気付かされる。
 いつか、あいぼんとも進む道は違ってくるのだろう。



「もー、よっすぃーってばこんな所で泣かさないでよ」
「勝手に石川がないたんじゃん」

 いつから梨華ちゃんたちはお互いにちゃんづけで呼ぶ事をやめたのだろう。

「よっすぃーたち、成長しないなあ」

 いつから隣にいるあいぼんは、こんなに大人になったんだろう。

 時は流れ。
 いずれは、別れるのだろうけど。
268 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:11
「あ、ほらほら。流れ星」

 あたしが星が映っている天井を指差した。
 人工的に作られた流れ星がいくつも、いくつも流れた。

「っしゃー! 娘。のリーダー頑張れますようにー!!」
「ちょ、よっすぃー!?」

 梨華ちゃんが大声出したよっちゃんを止める。

「よっちゃんがちゃんとモーニング娘。護れますようにー!!」

 あいぼんが続いた。梨華ちゃんが慌てて、止めている。
 だからあたしも叫んだ。
269 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:12
「あと、梨華ちゃんの顎が治りますようにー!」
「うははは、辻、それいい! 治りますよーにー!!」

 よっちゃんがバカウけして、大声でさけんだ。

「な、治るって病気じゃないわよっ、バカ!!」
「んじゃ、引っ込みますようにー!」
「引っ込みますようにー!」

 あいぼんとよっちゃんがそう言って梨華ちゃんをからかう。

 それを見て、あたしは、明日レコーディングがあるにもかかわらず、でっかいでっかい声で叫んだ。
270 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:12




「いつまでも一緒にいられますように――!!」




271 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:12

 皆が吃驚したようにこっちを見てきた。

 あたしはそんなの関係なしに、泣きながら叫んだ。


「一緒にぃ、いられますように――!」


 ぼろぼろ泣きながら。大きな声で、叫んだ。

 梨華ちゃんがハンカチ渡してくれて、あたしを抱きしめてくれた。
 あいぼんは、あたしの右手を握ってくれた。
 よっちゃんがあたしの頭を撫でてくれた。はは、お父さんみたい。
272 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:12

「いつまでも皆一緒にいられますように――!」

 よっちゃんが、大きな声で叫んだ。それにあいぼん、梨華ちゃんも続く。
 あたしは、泣きながら、笑った。
273 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:13
こんな素敵な仲間、きっとモーニング娘。に入らなかったら、絶対手に入らなかった。

 友達だけど。でも、それとはちょっとだけ違っていて。
 それは、多分、仲間、なのだと思う。

 一緒にスタートラインにたって、別々な方向に進んだ仲間。
 一緒に泣いて、笑って、喧嘩して、相談に乗って、友達かと思えば、ライバルで。
 絶対的な友情はなく。絶対的な信頼がそこにある。


「一生、一緒に、いられますように――!!」


 それは、無理な願いだって事はわかっている。
 あたし達は、もう、全く別方向の道を向いている。
 そうしていつしかあたしの隣にいるあいぼんとも別れる時が来る。
 それは、きっと、あたし達が成長している証なのだろうけど。
274 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:13

 寂しくて。


 切なくて。


 やっぱり、悲しくて。


 でもあたし達は決してその歩みをとめることはないのだと思う。

275 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:13
「いつまでも一緒にいられますようにー!!」
「一緒にいられますようにー!」
「いつまでも、ずっとずっと――!!」


 それは無理な事だって分かってる。
 でも。だけど。きっと。

 こんな事してなきゃ、やってられない。


 時は流れ。
 道は違ってくるのだろうけど。

 交わった事、忘れない。

 友達じゃなく。家族じゃなく。恋人じゃなく。
「仲間」という、そんな特別な特別な人たち。
276 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:14

 それは決して。
 他では手に入らなかったもの。


 ね、みんな。

 あたし、幸せだよ。





「いつまでも、皆と、一緒にいられますように――!!」






 あたし達は泣きながら、声がかれるまで、叫び続けて。



 叶うはずのない、願いをただただ。



 人工的なヒカリに願った。
277 名前:四期はプラネタリウムの下で。 投稿日:2006/02/26(日) 22:15
以上です。
278 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2006/02/27(月) 03:55
更新お疲れさまです

びっくりしたのですが、四期のお話、以前読ませて頂いてました。
短編集の頃と状況は変わっていますが、
なんだろう、
やっぱり涙がでました。

279 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:04


 風がふいた。
 春の、風だ。



280 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:05




□春よ来い。



281 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:05
「ふぁ〜ぁ」

 久住小春は欠伸とも溜息とも取れぬように息をつくと、ブランコに座った。

「また失敗しちゃったなあ」

 ダンスレッスンで失敗した事を思い出して、空を見上げながらブランコをこぐ。東京に来たとき、偶々見つけたこの公園は、小春の気分転換の場所だった。
 木に囲まれていて、絶好の場所だとは思うのだが、不思議な事に子供は誰一人遊んでいない。
 恐らく小さな公園だから、誰も遊びに来ないのだろうと小春は考えた。
282 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:05
 きぃ、きぃ、きぃ、とブランコが鳴る。小春はブランコに揺れながら、目を閉じた。少し、疲れていた。

 ダンスレッスンの時、教えてくれる先輩はたくさんいた。
 教育係の道重や、面倒見のいい紺野、新垣。
 それに時にはリーダーの吉澤も見てくれる。

 けれどそのたびに思う。それは贅沢な願いなのかもしれないけれど。
 一緒に笑ったり、励ましたり、遊んだりしている彼女たちを見て。


 一緒に頑張ってくれる人がいればなあ。

283 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:06




「ねえ、君」


 聞こえてきた声に目を開けると、目の前にいたのはまだ二十代前半であろうという若い女だった。女子大生だろうか。あどけない顔をしている。

「こんな所で寝てたら、風邪ひくよ」
「あ、はい……」

 慌てて小春が姿勢を正すと、女はクスクス笑った。

「なに、こんな所に独りでいて、どうしたの? 男に逃げられた?」

 小春はきょとんとして、ぼんやりした頭で考えた。そうしてようやくその意味を理解すると、ぶんぶんと頭を強く振った。

「違います!」
「あ、そ。じゃ、なんかやな事あったんだ」

 言い当てられ、思わず沈黙すると、またしても女はケラケラ笑った。小春を覗き込んでくる。
284 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:06

「何々? 何があったの?」

 興味津々と言ったように聞いてくる女を、まじまじと見る。
 自分の事を知らないのだろうか。
 割と若いだろうし、テレビも見るはずなのになあ。
 モーニング娘。はもう落ち目であると、小春ですら知っていた事だが、現実を見せ付けられると、何だ悲しいような気がした。

「ちょっと、失敗しちゃって」
「あー、失敗ね。あるある。そんなに落ち込むなって」
「えーと、はい」
「なんか、納得いかなさそうね」
「いや、失敗はいいんですけど……その」

 小春はもじもじして、ちらりと女を見た。こんな見ず知らずの人にいってもいいことなのだろうか。
285 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:06

「んー?」
「その、一緒に励ましたり、頑張ろうって言ってくれる人が欲しいなあって」
「なに、君、友達いないの?」
「えーと……えと、まあ」

 少し違うのだが、まさか自分の立場を語るわけにも行かず、仕方なく頷いた。

「ふーん」

 女が小春の隣のブランコに座った。きぃ、と軋む音がする。

「まあ、友達いないのは、辛いよね」
「辛いって言うか……時々、寂しいんです」
「寂しい、か」
「先輩とか、凄くいい人で、面倒とか見てくれてるんですけど……」
「ふぅん」
「頑張ろうねって、一緒に言える相手が欲しいんです」
286 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:07

 女は何も言わない。小春の話を聞いているだけだ。
 小春はただ自分の心境を吐露している。
 ぼんやりと、自分は何をやっているんだろうと言う考えが頭に浸透してきた。

「……それで、さあ」

 女の声にはっとした。
 自分の弱音に恥ずかしくなって俯いた。

「先輩たちは、頑張ってないの?」

 その言葉に、少しだけ、はっとした。
287 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:07
「で、でも、先輩たちは……」
「んー。なんていうかさ。そんなに気にする事無いんじゃない? 先輩後輩ってやつ。先輩だって、頑張ってるんだから、頑張ろうって言っていいし、一緒に遊んだりとかしてもいいし。少なくとも、あたしらの時はそんなのなかったけどなあ。ま、年が近かったのもあるけど」
「あたしらの時?」
「あ、いや。こっちの話。だからさ、先輩後輩なんて区切らなくていいじゃん」
「で、でも、やっぱり先輩たちには、友達がいて、相談したりとか……」
「それ、友達じゃなくてもできるじゃん」
「そうかもしれないけど、やっぱり立場が同じ人が欲しいっていうか……」
「あのさ、あんた、チャンスなんだよ? 分かってる?」
「へ?」

 女が、地面を蹴った。ブランコが、大きく揺れる。
288 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:08
「一人だけってことは、それだけ頑張れば認められるようになるって事だよ。そりゃ、先輩たちにはライバルがいてお互い高めあってるかもしれないけどさ。一人だけだったら、先輩たちにたくさん見てもらえる時間があるし、その分先輩たちに追いつけるかもしれないんだよ? あんた、目標にする背中がたくさんあるんだから」
「はぁ……」

 目標にする、背中。
 確かに、たくさんある。ありすぎる。

 でも、だからこそ、一緒に歩いてくれる人が必要じゃないだろうか。


 そんな事を思うと、女は小春の頭にぽんと手をのせた。
289 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:08
「今、苦労しておけば、それはあんたの大きな力になる。頑張れ」

 今は、一人で歩く時期。

「それに、同期がいたっていなくたって、頑張るのは結局自分なんだよ」

 それと同時に、皆頑張っている。
 先輩だって、これからやってくる後輩だって。

 きっと、きっと。
 みんな、頑張ってやってきた。

「一人で寂しいって思わないでさ。一人でよかったって、思わなきゃ、損じゃない? それにね、ミラクルちゃん」

 にっと、女が笑った。かっこよかった。
290 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:08
「――モーニング娘。の結束を、甘く見ないでちょーだい」
「……え?」
「あれでも、中々なもんなんだよ。娘。って普段方向性バラバラの癖に、一旦同じ方向向くと強いんだから。だから、一人だ何て思わないこと」

 何を、言っているんだろう。それに、どうして、知っているんだろう。

「創始者がいうんだから、間違いないって。じゃあねん、小春ちゃん」

 女がひらひら、手を振りながら歩き出した。

 きょとんとして、呆然として、どうしたものかと考える。
 目の前を歩いていく女。
 ――この人は誰だろう。

 けれど、今は、そんなことより。

「あ、あのっ!」

 女が不思議そうに振り返った。
291 名前:春よ来い。 投稿日:2006/03/04(土) 04:08
「あ、ありがとうございます!!」

 大声が。
 小春の声が、辺りに響き渡った。

 女は笑いながら、小春に、言った。


「モーニング娘。を頼んだぞ、七期!」
「はい!」


 ――あの人は。

 小春はうすうす気付いていた。自分が知っているのは、黄金期のモーニング娘。だったけれど。

 ――あの人は。



 風が、ふいた。
 春の、風だ。





 もうすぐ春が、来る。
292 名前:知人。 投稿日:2006/03/04(土) 04:15
以上です。

>>278
レスありがとうございます。
以前のも読んでいただいたようでありがとうございます。
本来なら書き直しは載せるべきじゃないのでしょうが、
あいぼんの知らせを受けて、思わず書き直しました。
早く復帰できるよう願いをこめて。
293 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/04(土) 11:29
更新お疲れ様です。
以前にも一度レスさせて頂きましたが、作者様の話は娘。への思いが詰まっていて
すごく好きです。今回出てきた人は、たぶん自分が娘。を好きになるきっかけと
なった人なので、なんだか懐かしくて嬉しかったです。
次のお話も楽しみに待たせて頂きます。
294 名前:笑顔日和。 投稿日:2006/04/04(火) 06:32

 にこにこにこにこ。

 にこにこにこにこ。



 ホント、楽しそうに話すよね……。
295 名前:笑顔日和。 投稿日:2006/04/04(火) 06:32



□笑顔日和。
296 名前:笑顔日和。 投稿日:2006/04/04(火) 06:33
 きっかけは、確かハロモニだったっけ。

 紺野が確か、

「結構悲しい事とかも笑って話すんです」

 見たいなこといってて。
 その時はへーそうなんだーって頷いただけなんだけど。


 やっぱり、リーダーとしてそんなの見逃せないよね。
 なんて、勝手に思ってたりして。

 亀井を今日も、観察する。
297 名前:笑顔日和。 投稿日:2006/04/04(火) 06:34



「それでね、絵里ねー」

 ホラ今だって。
 友達と喧嘩をした事を楽しそうに話してる。

 あたしだったら、そんな気分にはならないなあ。




298 名前:笑顔日和。 投稿日:2006/04/04(火) 06:34


「飯田さん、飯田さん」
「ん? どうかした?」
「飴食べます?」


 ミルクキャンディーをいつもの笑顔で差し出す亀井。


「うん、ありがと」
「えへへー」

 嬉しそうに、楽しそうに、笑っている亀井。
 なんだかうそ臭くて。

 ぼそっといってしまった。
299 名前:笑顔日和。 投稿日:2006/04/04(火) 06:35

「亀ちゃんさー」
「はい?」
「そんなに笑わなくてもいいんじゃない?」

 きょとんとして、それから困ったような笑顔。

 ああほら、ここでも笑顔。

「えー?」
「……なんでそんなに笑ってるの?」

 質問を変えてみた。

 そしたら亀井はまた笑顔で言ったんだ。

「えーと、絵里が笑ってると、他の皆も笑ってくれるんです。それが嬉しくて、また絵里も笑うんです」
300 名前:笑顔日和。 投稿日:2006/04/04(火) 06:35

 アイドルの理想。ってヤツなのかもしれない。
 そんなの、あるかどうかしらないけどさ。


 忘れかけていたもの。
 大切すぎた物。

「そっか」

 亀井の頭を撫でて。

 笑ってみた。

 そしたらすぐに亀井も笑顔になる。




 ――笑顔だけは、忘れちゃ、ダメだね。
301 名前:知人。 投稿日:2006/04/04(火) 06:49
以上です。小話ですみません。

>>293
レスありがとうございます。
すごく好きですとか言ってくださってとても嬉しいです。
それに以前にもレスしてくださったとか。本当にありがとうございます。
作者の主観が入りまくりなため、ここに書くのをずっと躊躇ってたのですが、ほっとしました。
のんびり更新ですが、よろしくお願いします。
302 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:28


 猫のまりは、ひとみがとても好きでした。


303 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:29



□小さな恋の歌。



304 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:29

 ある雨の日。
 箱の中でただ小さく震えていました。
 タパタパタパ……。
 雨の音しか聞こえません。
 身体はぶるぶると震え続け、自分のものでないようで、ただ不安でした。周りでみいみいと母猫を呼んでいた兄弟達は、鳴くのも、動くのもやめ、だんだん冷たくかたくなっていくのです。
 ふと、靴音が聞こえ子猫は顔を上げました。
 すると大きな手が伸びてきて子猫を抱き上げました。
 子猫はびっくりしてにげようとしましたが空腹で目がまわっているのでにげられませんでした。
 よく見ると、それは一人の少女でした。
 少女は優しそうな笑みを浮かべ子猫を抱きあげています。
 その温もりに、子猫はしっかりと少女に抱きつきました。

「可哀相……。他の子、みんな……」

 小さく呟くと、少女は仔猫を見ました。

「家に来る?」

 それが、ひとみとまりの出会いでした。

305 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:29




「あら、ひとみ。どうしたの、その仔猫」
「捨てられてた。飼ってもいいでしょ? 面倒見るからさ」

 ああ、このおねえちゃんの名前はひとみ、と言うんだなと仔猫は思いました。

「いいけど。震えてるじゃない。お風呂入れてあげなさい。こんなに泥だらけで」
「うん。ね、何かご飯用意しといてあげて」
「そうね。コンビニでキャットフード買ってきて上げるわ」
「ありがとう、お母さん」




306 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:30

 温かいお湯に入れてもらって、ご飯をたくさん食べさせてもらって、まりは温かいベッドに寝転びながら、毛づくろいをしていました。
 その横には、ひとみがいます。

「ねえ、名前、何にしようか」

 仔猫は知らん振り。自分に名前なんてありませんでした。

「ねえ、まり、でいいかな? ね、良い名前でしょう? えへへ。可愛いんだよ、矢口さんは」

 最後の矢口さんって誰なんだろう。仔猫は顔を上げました。
 ひとみが目を輝かせています。
307 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:30

「ね、まり、でいいよね? 気に入った?」

 仔猫、まりは、にゃーと鳴いてみました。

「ははっ、言葉が分かるの? 利口だね」

 だけど口を開いても言葉にならず、にゃあとしか言えないのです。悲しくなってにゃあにゃあ鳴くと、ひとみは頭を撫でてくれました。

「お母さんが恋しいんだね。大丈夫だよ」

 違うのです。その言葉も、にゃあになりました。



308 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:30


 ひとみは朝から夜まで仕事というものに行っていて帰ってきません。寂しいのですが、ひとみのお母さんが遊んでくれるので、それほど嫌ではありませんでした。
 ひとみは時々人を連れてきます。
 矢口さんという人ではなくて飯田という人です。
 彼女は何故か、不思議な事に猫の言葉が分かりました。
 まりは飯田のあぐらの中にすっぽり納まりながら毛づくろいをしていました。

『どうしてひとみは、いいださんのようにことばがわからないのですか?』
「それはね、カオが特殊なんだよ」
『ひとみもいいださんみたいにことばがわかればいいのに』

 すると飯田はくつくつと笑い、

「可愛いね。まりは。うん、恋する女の子は皆可愛い」

 抱き上げられて、ちゅうっとキスをされたのでまりは慌てて飯田の手から逃れました。
309 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:30

「飯田さん、やめてくださいよ」

 紅茶のカップを持ったひとみが飯田を睨みました。

「うわ、吉澤ったら猫にまでヤキモチ妬くの? もう、相談乗ってあげないよー?」
「そうじゃないです。ほら、まりが嫌がってるじゃないですか」

 まりはひとみの足の間に身を隠そうとしました。

「あはは、ごめんね。まり、もうしないから」

 ひとみはまりを抱き上げ、非難の視線を送りました。

「飯田さんが意地悪するから」
「愛されてるね、まりは〜」

 そう言って、飯田は笑いました。

310 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:31




 ある日の事でした。
 凄く背の小さい女の人が一人、部屋にやってきました。

「あ、これが猫? 白くて綺麗だね」

 女の人はまりの頭を優しく撫でてくれました。
 にゃあ、と鳴くと女の人は嬉しそうに笑いました。
 ひとみは紅茶を入れながら微笑んでいます。

「あ、ねえ。名前は?」

 少女が振り向くと、ひとみは戸惑った顔をしました。

「どしたの? 名前、ないの?」
「いや、ありますよ。その……まり、です」
「まり? あはは、おいらの名前と同じだー。ね、まり。おいら、矢口真里。よろしくね」

 ああ、このひとがひとみのすきなひとなのか、とまりは思いました。
 ひとみは少し苦笑いをした後、矢口さんの隣に座りました。
311 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:31

「……あの、ずっと言いたかったんですけど」
「え?」

 矢口さんはまりを抱き上げながら、首を傾げました。
 ひとみの頬が赤くなっているのが見えます。

「矢口さんのこと、ずっと見てました。まりの名前も、矢口さんから取ったんです」
「……えぇと、それって」

 矢口さんが少し赤くなりました。
 ひとみは、頬をかきながら、

「ええと、その、ずっと好きでした。付き合ってください。」

 矢口さんは真っ赤になって、それから首を大きく縦に振りました。
 まりは振り落とされないように懸命に矢口さんの腕にしがみついていました。

「う、嬉しいよ」

 ひとみが、本当に嬉しそうに笑いました。
 きれいなえがおだな、とまりは思いました。
 それから矢口さんはよく遊びに来ました。
312 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:31




 それから一ヶ月ほどたって冬の季節になった頃です。
 矢口さんがある日からまったく遊びに来なくなりました。
 ひとみも遅くまで帰ってこなかったり、朝早くから出かけてしまったりしているのです。
 まりは寂しかったけれど、ひとみがいるときは優しく接してくれたのでその時に思い切り甘えることにしました。
 けれど、この頃ひとみは何故か元気がありません。
 まりは心配でたまりませんが、話すことも出来ません。

313 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:31


 それからまた、ほんの少したった頃でした。


 ある夜、仕事から帰ってきたひとみはベッドに倒れこむと、枕に顔を埋めました。

 にゃー、とまりが鳴いても返事がありません。

 どうしたんだろう。不安になって、ベッドの上に飛び乗りました。
 ひとみはそれでも顔を上げてくれません。

 にゃー、と、鳴きました。返事がありません。
 仕方なく、ひとみの背中に乗って、そこに座り込みました。
 すると、ひとみは急に上半身を起こしました。

「うるさいなあ! あっちいっててよ!」
314 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:32

 初めて怒鳴られました。まりは吃驚して、ベッドから急いで飛び降りると、机の影に隠れて、ひとみをじっと大きな目で見つめました。

「…………」

 怒鳴ったひとみはばつが悪そうに、再び枕に顔を埋めました。

 にゃー。

 まりは、なんだか悲しくて泣きました。




315 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:32

 それから数日後、ひとみが出かけているのに飯田が遊びに来ました。

「やっほー、まりちゃん」
『どうしたのですか』
「うん、吉澤に面倒見るよう頼まれてね。ここの所遊んであげてないからって」
『ひとみはどうしてげんきがないのですか?』
「うん、矢口が病気になっちゃったんだ。心配なんだよ」
『びょうき、ですか』
「そうだよ。でもすぐに良くなるよ」
『そうですか。よかったです』
「うん、よかったね」

 飯田はそう言ってまりの頭を優しく撫でてくれました。



316 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:32
 クリスマスの日、ひとみはすごく嬉しそうでした。小さく回って、それから小さなペンダントをまりに見せて、

「クリスマスだけ、仮退院が認められたんだって。だからこれをプレゼントしようと思ってるんだ」

 それは矢口さんにきっと似合いそうなオレンジ色のペンダントでした。
 この日は、まりも一緒に外へ行く事になっていたのでまりはとても楽しみでした。

「まりにもプレゼントがあるんだ。はい」
317 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:32

 それは赤いリボンに通された銀色の小さな鈴。
 ひとみはそれをまりの首につけました。
 ちりりん。
 透き通った音が鳴ります。
 とても、とても綺麗な音でした。
 ありがとう、と言おうとにゃお、と鳴きました。

「はは、似合うよ。それじゃ、行こう」

 小さなベルトをつけられひとみの腕に抱かれるとまりはひとみを見上げました。
 ああ、ほんとうにうれしそうだな、と嬉しくなりました。


318 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:33



「あは、久しぶりだね、まりちゃん」

 まだ具合が悪いのか、顔色の悪い矢口さんがまりの頭を撫でました。

「矢口さん、大丈夫ですか? 寒くないですか?」
「ううん、大丈夫だよ」

 矢口さんは笑って、ひとみと並んで歩き出しました。
 ひとみが矢口さんと手を繋ぎたいように見えたので、まりは気を利かせて肩の上に乗りました。
 すると一瞬、ひとみは驚いたように目を見開きましたがすぐに笑顔になり、

「ありがとう」

 それだけいいました。
 そして、矢口さんと手を繋ぎました。
 二人は、とても幸せそうです。
319 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:33

「ねえ、よっすぃー。あそこのお店見よう」

 綺麗に飾られた扉を指差し、矢口さんは微笑みます。

「はい。猫は大丈夫ですかね」
「食べ物屋さんじゃないから、大丈夫じゃない?」

 矢口さんが指差したのは、オルゴールショップでした。
 可愛らしい音楽が流れる店内では、優しそうな老女が立っていました。

「いらっしゃいませ。あら、かわいい子猫ちゃんね」

 そう言って、老女はまりを撫でました。
 まりはにゃあ、と鳴きました。
 矢口さんは店内を見回し、それから一つのオルゴールを見つけました。

「あ、コレ可愛い」
320 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:33
 小さな、小さなオルゴールでした。
 蓋を開けると音楽が流れます。

「綺麗な音ですね」

 ひとみが矢口さんの持っているオルゴールを見ます。

「それは恋の歌、という題名ですよ」

 老女が柔和な笑みを浮かべます。
 けれど、まりには悲しい音楽に聴こえました。
 矢口さんは笑って、そして老女にオルゴールを差し出しました。

「これ、ください」
「毎度ありがとうございます」
「あ、私が払います。クリスマスプレゼント」
「ええ?いいよ。これはおいらが買うの!よっすぃーはダメ!」

 そう言って、ひとみを後ろに押し、自分でお金を払った矢口さんは嬉しそうに微笑みます。
 二人はお店を出て、そして大きなクリスマスツリーの前で立ち止まりました。
321 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:34
「はいっ、よっすぃー」

 矢口さんがオルゴールの入った綺麗な袋をひとみに差し出しました。

「え?」

 ひとみは面食らったように矢口さんを見ました。

「クリスマスプレゼント」
「でも、これ」
「いいから!ね、持っておいて欲しいのよ。ひとみに」
「……はい、わかりました。ありがとうございます」

 矢口さんの微笑みにひとみはオルゴールを受け取ります。

「それじゃ、私からはコレ」
 ひとみは先程まりに見せてくれたオレンジ色のペンダントの入った袋を矢口さんに渡しました。

「開けていい?」
「もちろんですよ」
322 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:34

 矢口さんは嬉しそうに包みを開けます。そして、出てきたペンダントを嬉しそうに見て、

「ありがとう、よっすぃー」
「どういたしまして」

 照れたように頬をかくひとみを、まりは可愛いなと思って眺めていました。

「ね、もう一個いい?」
「え?」
「クリスマスプレゼント」
「はぁ……」

 ひとみは不思議そうな顔をして、首を傾げました。
323 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:34
「あのさ、真里って呼んでくれない?」
「……えっと」
「ダメかな?」
「……うー……わ、分かりました」
「敬語も、やめて欲しいんだけどさ、ホントは」
「それはダメです。一応、娘。じゃ先輩なんですから」
「はは、言うと思った」

 二人の会話は難しくてまりには良く分かりませんでしたが、どうやら、自分と同じ名前が増えるんだな、と思いました。

「えーっと、ま、真里、メリークリスマス」
「メリークリスマス」

 そして二人はキスをしました。

「あ、まりも、メリークリスマス」
「そうだ。メリークリスマス、まり」

 すっかり存在を忘れられていたまりは、非難するように、にゃーと鳴きました。

「寒くなってきましたね。私の家行きます?」
「うん」

 はく息が白い中、二人は微笑んで歩き出します。
324 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:35

「ケーキ買ってきましょうか」
「うん。まりも一緒に食べようね」

 まりも返事をしました。
 ふとその時、小さな白い物がひらひらとまりの前に降ってきているのに気付きました。

「あ、雪だ」

 ひとみが言って上を見上げました。

「ホントだぁ、綺麗〜」

 矢口さんも空を見上げました。

「ホワイトクリスマスっていうんでしたっけ?」
「そうだね」

 えへへ、と二人は幸せそうに笑いあいました。
 まりはこの二人がいつまでも仲が良ければいいのにな、と思いました。


325 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:35


 それが起こったのは丁度、横断歩道の前でした。

 別に誰も悪くないのです。
 ただ、その時たまたま車が走っていたのです。
 ただ、その時たまたま男の人が急いでいたのです。
 ただ、その時たまたま矢口さんが病気で弱っていたのです。
 そして、その時、たまたま反対車線には車がいなかったのです。
 誰も、何も、悪くないのです。





326 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:35



 車が物凄い勢いで走っていくのを見て、まりは少し怖く思えました。
 ひとみにしっかりしがみついて、落ちないように気をつけました。

「あはは、まりったら怯えてるよ」
「大丈夫だよ。よっすぃーが護ってくれるからね」

 矢口さんはまりにそう言って、笑います。
 まりは矢口さんに向かってにゃあと鳴きました。
 その拍子にちりりんと鈴がなりました。

「似合うね、その鈴」
「私からのクリスマスプレゼントですよ」

 矢口さんの言葉にひとみが微笑みました。
 その時です。
 矢口さんの身体が何かにぶつかったように前に出ました。
 見ると、男の人が急いでいて矢口さんにぶつかったようでした。
 別に普段ならなんともありません。
 けれど。
 今は。
 矢口さんは。
 入院するほど身体が悪かったのです。
 ちょっとの衝撃にも絶えられず、そのまま車の前に出ました。
 急ブレーキの音がしました。


327 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:36
 まりは、ひとみがとても好きでした。だから、悲しい顔を見たくありませんでした。
 だから、まりはひとみの腕から飛び出しました。
 だから、矢口さんに思い切り体当たりをしました。
 矢口さんの身体は思っていたより凄く軽く、そして簡単に飛びました。
 偶然にも、反対車線には車は通っていませんでした。

「まりっ!!」

 その時、ひとみが呼んだのは。
 矢口さんだったのか、それともまりだったのか。
 猫のまりにはわかりませんでした。
 ただ、しっかりと聴こえたのは。
 大好きなひとみの焦ったような声と。
 ひとみがくれた綺麗な鈴の音と。
 ひとみが落としたひょうしに蓋が開いたのか、あのオルゴールの音でした。


328 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:36



 別に誰も悪くないのです。
 ただ、その時たまたま車が走っていたのです。
 ただ、その時たまたま男の人が急いでいたのです。
 ただ、その時たまたま矢口さんが病気で弱っていたのです。
 誰も、何も、悪くないのです。


 ただ、ほんの少しの偶然が重なり合っただけなのです。




329 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:36





 白いまりの身体は、白い雪に埋もれ、そして赤い血に染まりました。
 赤い血に、染まりました。









330 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:37

 背の高い美女が、ふと小さな白い猫が写っている写真をじっと見ていた。

「よっすぃー? 何してんの? 次、よっすぃーの番だよ、写真」
「はーい。すぐ行きます」

 小柄な女性が美女を見上げている。その胸には、オレンジ色のペンダントが輝いていた。
 吉澤と呼ばれた美女は、写真を自分の鞄にしまうと、立ち上がった。

「あ、よっすぃー」
「はい?」

 背の低い女性に呼ばれ、嬉しそうに振り返る。

「今日、帰り、一緒に――」
「もちろんですよ」

 にっこり笑顔で、頷いて、吉澤が出て行った。
 小さな女性は、それに微笑むと、吉澤の鞄から見えるオルゴールに気付いた。
331 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:37

「ちゃんと、持ってきてたんだ」


 鞄からオルゴールを取り出して、蓋を開けた。
 同時に流れる綺麗な音。

 女性は目を瞑って、ほんの少しだけ、涙を滲ませた。

 その中には、赤いリボンに通された鈴が入っている。



 女性は、そっと蓋を閉じると、鞄の中に戻した。

「メリークリスマス、まり」

 小さな呟きを残して、女性は部屋から出て行った。 
 ちりりん。
 鈴が、なったような気がした。
332 名前:小さな恋の歌 投稿日:2006/04/05(水) 10:37








 猫のまりは、ひとみがとても好きでした。
 それは、小さな子猫のリトルラヴソング。
 悲しき恋の、物語。

333 名前:知人。 投稿日:2006/04/05(水) 10:38
以上。
ちなみに訂正。

×背の高い美女が、ふと小さな白い猫が写っている写真をじっと見ていた。
○背の高い美女が、小さな白い猫が写っている写真をじっと見ていた。

馬鹿なミス、すみませんでした。
334 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:28




 ざあざあ雨のふる中彼女は言った。


「――好きです」


 ずぶ濡れの彼女はとても冷たくて。
 そしてその言葉は、うまくおいらの中に響いた。



335 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:29




□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。


336 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:30
 地方コンサートが終わってホテルへと向かうバス。
 外は雨が降っていて、水飛沫が車から上がってる。
 皆さすがに疲れているらしく、ほとんどが寝ていた。

 おいらはスケジュール表を見て、今日のホテルの部屋を確認した。

 確か、今日は二人部屋だったよね……。

 この時期客が多く、一人ずつ部屋が取れなかったと先ほどマネージャーから聞かされた。
 相部屋は――圭織だ。

 ちらりと圭織を見ると、彼女は静かに本を読んでいた。
 その姿がとても絵になり、やっぱり圭織は美人だなあと溜息をつく。

「どうしたんですか? 矢口さん」
「んー。なんでもないよ」

 隣に座っている石川が話しかけてきたが、返事をする気にもなれず適当に応える。
337 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:30

「石川は、誰と相部屋?」
「よっすぃ〜ですよ」

 その言葉に聞かなきゃ良かったと後悔した。
 なんであいつの名前がここで出てくるんだろう。

「そう……」
「でも最近よっすぃ〜元気ないんですよね。矢口さん、何か知りません?」
「さぁね。風邪でも引いてるんじゃない?」

 わざとつっけんどんに言ってみる。いらいらした。

「あー。そうかもしれませんね。少し鼻声だし。あとで薬飲ませとかなくちゃ……」

 保護者みたいな石川の発言に、よっすぃーを探した。
 彼女は紺野の隣ですやすや寝ている。能天気なもんだ。


 ――いや。

 おいらが、考えすぎなのかもしれない。
338 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:31




「よっすぃー! 薬飲まなきゃダメだよ!」
「だーかーら! すぐ治るって!」
「あたし達は体が基本なのよ?!」
「もう治りかけだからいいんだよ!」

 ぎゃあぎゃあ喧嘩している石川とよっすぃーを冷ややかな目で見つめる辻と加護。

「うるさいなー」
「大丈夫だよ、梨華ちゃん。よっすぃーはバカだから風邪ひかんて」
「なんだとこらぁ! あいぼん!!」
「あっ、こら! よっすぃー!!」

 ぎゃあぎゃあ。

 ……。

 ぎゃあぎゃあ。

 ……プチッ。
339 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:31

「うるさーい!! お前ら飯食い終わったんなら部屋にいってやれ、部屋に行って!!」
「うぁ、矢口さん、ごめんなさーい」

 辻が素直に謝ってくる。よしよし。

「もー。石川のせいで怒られたじゃん」
「よっすぃーが薬飲まないからジャン」

 ぶつぶつ言いながら薬を飲んでいるよっすぃーと飲ませてる石川。

 石川とよっすぃーは凄く絵になる。
 そんなのだいぶ前から知ってる。今更だ。

「どしたの、矢口。機嫌悪いじゃん」

 圭織が話しかけてきた。長い付き合いだから、分かるんだろうな。
 それでもおいらは、なんでもない、と返した。



340 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:32


 その日も、雨が降ってた。
 居残ってダンスレッスンやってたらもう十時過ぎてて。
 早く帰ろうって思って、外に出たら、ずぶ濡れになった彼女がいた。

「……よっすぃ〜?」

 驚いて声をかけると、よっすぃーはおいらの方を向いた。
 雨が頬つたっていたから、泣いてるのかと思って少しドキッとした。
 よっすぃーは絶対、人前では泣かない子だったから。

 ずぶ濡れのよっすぃーはただぼうっと立っていた。

「ど、どしたの、よっすぃー。なんかあった? 風邪引いちゃうよ? 傘は?」

 慌ててよっすぃーを傘に入れると、よっすぃーは少し悲しそうに笑った。

「矢口さん」
「ん?」
341 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:32
 次の瞬間、おいらはよっすぃーに抱きしめられてた。
 冷たいよっすぃーの体温に少し体が強張る。

「よ、よっすぃー?」

 名前を呼ぶと、抱きしめられてる力が強くなった。
 小さな声で、矢口さん、と呼ばれた。







「――好きです」





 それは本当に、小さな小さな呟きだった。
 それでも、それは雨音に消されることなくおいらに届いた。
342 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:32


「え?」

 おいらが思わず聞き返すと、よっすぃーはおいらから離れた。

「……すみませんでした。忘れてください」
「あ、ちょっ、よっすぃー!?」

 急に駆け出したよっすぃーを追えず、おいらはそこに立ち尽くしていた。
 よっすぃーに言われた言葉。


 ――好きです。


 それは、どういう意味で?

 先輩? 友達? 仲間? それとも――。




343 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:32
「矢口さん」
「ん、んぇ?」
「なに変な声出してるんですか?」

 考えにふけっていたおいらに声をかけたのはミキティだった。

「なんでもないよ。何か用?」
「いえ、ちょっと相談したい事があるんですけど」
「え?」
「よっちゃんなんですけど……」

 ……何なの今日は。

「よっすぃーがどうかした?」

 動揺を見せずに聞き返すと、ミキティはちょっとだけ困った顔をした。

「矢口さんが原因ですよね? よっちゃんが変なの」
「え?」

 驚いて目を丸くしているおいらに、ミキティはくすくすと笑う。
344 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:33
「見てれば分かりますって。よっちゃん、なんか今日ずーっと矢口さんの事見てましたし。矢口さんは矢口さんでよっちゃ

ん見てたし」
「…………」
「まー、ミキ的にはどうでもいいんですけどー。一応、よっちゃん友達だしそろそろ助けてあげようかなーなんて」
「……なんだよそれ」
「矢口さん、迷ってるんでしょ? よっちゃんからの告白」
「なんで知って……」
「知ってますよー。ミキはなんでもね」
「はぁ?」
「ま、なんでもいいじゃないですか。それより、どうするんですか?」

 どうするって……。
 何もいえずにいると、ミキティはニッコリ笑った。

「ケリつけるんなら、今日がチャンスですよ」
「なんでよ?」
「ミキにはわかるんですよぉ」


 不思議な人だと、思った。


345 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:33

 ――不思議というかなんというか。なんでですか。


「……なんでよっすぃーがここにいるの」
「……石川が、飯田さんと相部屋がいいって……」

 重たい沈黙。
 よっすぃーは居心地悪そうに、おいらをちらちら見ている。

 思わず、溜息。

「すみません、石川に言って、飯田さん連れてきますから」
「別にいーよ。荷物持ってきちゃってるんでしょ? もう遅いし」
「ホントにすみません。矢口さんが相部屋だったなんて知らなくて……」

 しゅんとして、大分大人になった横がでも、可愛らしく感じる。

「いや、気にしてないし」
「でも……」
「もういいから、さっさと寝ようよ。明日も早いし、ね?」
「はい」
346 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:34
 ああ、なんか空気がぎこちない。
 いつもなら冗談とかいえるのに。

 あのことが、頭から離れない。

「あの、矢口さん。お風呂どうします?」
「よっすぃー先はいっていいよ。おいら、明日の準備したいから」
「分かりました」



 溜息しか出てこないよ、もう。
 気まずい雰囲気。
 ねえ、ホント、どうしよう。

347 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:34







「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」

 電気を消して、おいら達はベッドに入った。
 沈黙が続いて、おいらは寝返りを打つ。

 よっすぃーはもう寝ちゃっただろうか。

「矢口さん」
「え?」

 声をかけられて、そちらに体を向ける。

「あの、すみませんでした、この間の」
「あ、ああ……」

 気まずい。
 それでもよっすぃーは言葉を続ける。

「その、疲れてたんです」
「そっか……」

 何だろう。
 この胸のもやもやは。
 何でだろう。

 何でイライラしてるの?

「だから、気にしないでください」
348 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:34





 ――この気持ちは、なに?





「――……なにそれ」
「……え?」

 思わず口走ったおいらの呟きに、よっすぃーが訊き返してくる。
 おいらは思わずベッドから上半身を起こして、よっすぃーを睨んだ。
349 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:35
「気にしないでって、そんなこと出来るわけないじゃん。よっすぃー、あんなシチュエーションでおいらのことスキってい

ったんだよ。ねえ、それを気にしないで? 疲れてたから? ……それじゃあ、よっすぃーにとって、おいらは疲れてたら

好きっていえちゃうような存在なんだ?」
「何言ってるんですか。違いますよ」
「そうだよ。よっすぃーの言ってる事はそういうことだよ」
「違いますってばっ」
「じゃあ、なんで謝るの? なんで気にしないでくださいなんていうの? ううん、それよりも、なんで好きですなんて言

ったの? 都合が良すぎるよ」




 感情が、溢れて、止まらない。
 ダメだよ。ねえ、止まって。お願いだから。
 このままじゃ、傷つけちゃうよ、彼女のこと。



「矢口さん……」
「よっすぃーは逃げてる。自分の気持ちから。馬鹿みたいだよ、ホントに。悩んだおいらが馬鹿だった」
「……なんで矢口さんがあたしの気持ちを知っているんですか」
350 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:35
 よっすぃーの怒ったような、声。けれどおいらはひるまない。

「知らないよ。よっすぃーの気持ちなんか。でも、よっすぃーのあの行動とさっきの発言は明らかに矛盾してるじゃないか


「だからそれは……その……」

 口ごもるよっすぃーに、なんだか泣きたくなった。
 なんでだろう。

 おいらは、なんでこんなに泣きそうなんだろう。
 なんでこんなに悲しいんだろう。

「もういいよ。見損なった。……もういいよ」

 おいらは何度も頭を横に振って、よっすぃーを遠ざけようとした。
 もういい。もう考えない。もういいんだ。

「……矢口さん」
「やめて。もういいから」

 拒絶。
 これが、どれだけ彼女を傷つけるのだろう。

「矢口さん」
「やめてっていって……!」


 抱きしめられる感触。
 視界いっぱいに彼女の白い鎖骨。

「よっすぃ……」
「分かってください」

 悲しそうな、けれどそれでいてどこか諦めたような声。
351 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:36

「なに、を?」

 よっすぃーはおいらから、そっと、離れた。寒気がした。

「――……言いたくても、言えないことがあるんですよ」

 呆然と、よっすぃーを見つめる。
 ねえ。



 なに、それ。






 よっすぃーは、ふらふらと、部屋から出て行った。
 頭、冷やしてきますと。



 ねえ。
 言いたくても、いえないことって、なに?

 ねえ。
 よっすぃー。

 おいら達、どうしちゃったんだろうね。


352 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:37

 よっすぃーの出て行ったドアを見つめる。
 彼女はどこへ行ったのだろう。
 おいらはどうしてこんなに泣きたいのだろう。


 考えて、考えて、それでも答えは出ない。


 がんがんと、荒々しいノックとはいえないノックに我に返る。

「矢口さん! いるんでしょ?! 開けてください!」

 ミキティだ。珍しいなあ。近所迷惑だなあ。

「どーしたの、ミキティ……」
「何してるんですか!? よっちゃん外にいっちゃいましたよ」
「ああ、頭冷やすって……」
「頭冷やすって、よっちゃん、矢口さんに何か言ったんですか?」
「知らない。言いたくてもいえないって」

 ミキティが、額に手をついて、溜息をついた。

「矢口さん。よく聞いて下さい」
「なんだよ」

 唇を尖らせると、ミキティは頬を染めた。やめろきもちわるい。

「かわいいなあ……いやそうじゃなくて、いいですか」
353 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:37
 ミキティはごほんと咳払いを一つ。

「矢口さん。ミキはよっちゃんの気持ちを知ってる。知ってるけど、言わない。これはよっちゃんが言うべきだから。でも

、矢口さんの気持ちは矢口さんにいえる。ミキは、矢口さんの気持ちも知っている」
「おいらの気持ち……?」

 なんで、そんなの、ミキティが知ってるんだよ。

「見てれば分かりますよ。……矢口さん、よっちゃんのこと好きでしょう」

 その言葉がおいらの胸の穴をすっぽりふさいだ。なんて簡単な言葉なんだろう。

「おいらは……」
「矢口さんは、吉澤ひとみが好きなんでしょう?」

 もう一度。
 念を押すように。
 ミキティの、力強い視線。



 こっくりと、頷いた。
354 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:37


 ミキティが、優しく微笑んだ。

「じゃあ、よっちゃん、追いかけてください」
「でも……」
「お互い、遠慮ばかりしてたら、一番遠い所に行っちゃいますよ」


 ミキティは、そう言って、おいらの背中を押してくれた。


 自然と、駆け足になる。
 ミキティを振り返らずに、あいつがいるところへ、走ろうとする。


「ミキも、ホント、お人よしだよね……」


 ミキティのそんな呟きが聞こえてきた。






355 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:38





 そいつは雨の中を馬鹿みたいにぼーっと突っ立てた。
 おいらは裸足のまま外に飛び出して、力いっぱいそいつに後ろから抱きついた。

「っ……!?」

 よっすぃーは、驚いたように振り返ってきた。
 おいらはそれに、力いっぱい笑ってやる。

「や、や、矢口さん!?」
「何やってんだよ、お前」

 風邪引くだろと不機嫌そうに言うと、ごめんなさいとわたわた慌てている。

「矢口さん、なんで……」
「よっすぃー」

 彼女の言葉を遮って。
 おいらの言葉を言ってやる。
356 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:39
「よっすぃー、おいらね。よっすぃーのことが大好きだよ」
「……え?」
「凄く好きだし、コレは多分、恋愛感情だと思う。よっすぃーのこと、すごく愛してる」
「…………」
「よっすぃーに好きだって言われた時、戸惑いと困惑があったよ。でも、それでも、やっぱりドキドキした。それなのに、

よっすぃーは気にしないでくださいとかいうんだもん」
「すみません……」
「謝らないで。おいらは、よっすぃーが好き。それだけがいいたいの。他のは全部、許してあげる。だって、愛してるから



 言いたかった事はそれだけ。
 おいらはそっとよっすぃーから離れて、数センチ上にある彼女の顔を見上げた。

 ああ、綺麗だな。

 きらきらと瞳が輝いて、泣いていたんだろうな、ほんの少し、目が赤い。

 たくさん傷つけちゃったね。ごめん。

「矢口さん……」

 抱きしめられた。ああ、冷たいけれど、温かい、彼女の体温。
 そうして、かき消されそうな、小さな、小さな、声。
357 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:39





 ざあざあ雨のふる中彼女は言った。


「――好きです」


 ずぶ濡れの彼女はとても冷たくて。
 そしてその言葉は、うまくおいらの中に響いた。











358 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:39
「へっぐし!」
「っくしゅん!」

「……やーね、二人して風邪?」

 石川が怪訝そうにおいら達を見てきた。
 笑って誤魔化す、おいらとよっすぃー。

「あー、ちょっとね」

 よっすぃーが石川の相手してる間に、おいらはミキティの方へ向かう。

「ミキティー」

 がばーっと抱きつくと、ミキティはちょっと嬉しそうに、けれど眉をひそめた。

「矢口さんおもーい」
「へへっ。昨日は、ありがとね」
「……上手くいったようですね」
「まあね。ホント、ありがと。すごい、感謝してる」
「やー、あのヘタレよっちゃんもそろそろ見飽きてたんで……」
「ははっ、ヘタレね〜。ホントだよ」

 おいらが笑うと、ミキティはあの優しい笑顔で、笑ってくれた。
359 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:40

「今度、焼肉でも奢るよ」
「マジっすかぁ〜。やったー! じゃ、二人っきりで行きましょ。二人っきりで。よっちゃんは絶対バクバク食うから」
「おー。じゃ、二人で行くかー」
「えー!? 何ですか!? 二人っきりって! ちょっと美貴矢口さん盗らないでよ!」
「うわ、よっすぃーいたの!?」

 よっすぃーが急に後ろから出てきたので驚いて飛び上がる。

「早速嫉妬? あれだけぐだぐだ悩んでたのにねー」
「うっさい」

 ぎゃんぎゃん喧嘩している二人は、なんだかおかしかった。
 いい友達持ったね、よっすぃー。


 外を見れば、気持ちいいくらいの晴天だった。


360 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:40
 おまけ。


「あいぼん、ミキティが哀れだよ。ミキティ、矢口さんのこと好きだったのに。完全に、よっちゃんを応援している……」
「大人やな、ミキティ……。あ、ちょっと泣きそうになってる」
361 名前:□嘘じゃないこの気持ちはなんだろう。 投稿日:2006/05/06(土) 00:42
以上です。
ぐだぐだすみませんでした。
362 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:42



「のの、ごめん」



 それが、久しぶりに聞いた、あいぼんの声。


363 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:42



□あったい春の花火。



364 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:43


「のの、ごめん」

 謹慎になったあいぼんからの、初めての電話。
 あたしは震える声で、笑った。

「なんで」
「だって、のののイメージダウンになるやんか」

 本当にごめん、とあいぼんは悲しそうに、泣き出しそうな声。

「それより、あいぼん、謹慎いつ解けるの」
「……わからん」
「――そう」
「…………」
「…………」

 五年も共にしてきた、親友というより戦友との会話が続かない。
 こんなの、初めてだよ。
365 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:43
「――ごめん」

 謝ってばっかりだよ、あいぼん。
 悲しくなって、あたしはなんだか携帯を握り締めた。

「あいぼん、ねえ、謝らないでよ。悲しくなるよ」
「でも」
「ねえ、あたしのイメージダウンより、あたし、寂しいんだ」
「……それは」
「それに、あたし、悲しかった」
「うん」
「でも、あいぼんは、友達だよ。たとえ、どんな事があっても」
「……うん、ありがと」

 それきり、また、沈黙。
 今度は、あたしがその沈黙を破った。
366 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:43

「明日、十時に仕事終わるんだ」
「え?」
「あいぼんの家の前に、十一時に集合」
「のの?」
「わかった? ちゃんと準備しておいてね」

 そういって、あたしは携帯を切った。
 あいぼんは、あたしをわかっている。


 だから、きっと、あたしもあいぼんをわかっている。







 メールをした。
 そうなればいいと、願いを込めて。

367 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:43



「温かくなったね」

 居心地悪そうなあいぼんの横で、あたしはニコニコ笑う。

「……なあ、のの。何するんや? うち、謹慎中で」
「今日はいいの」

 時計を見て、約束した十一時ぴったりになった。





 一番最初に来たのは、中澤さんだった。
 なんとトランクを持っている。

「おー、久しぶりやな、加護」
「な、中澤さん?!」

 あいぼんの驚いた顔。怒られるかもしれないと思ったらしく、さっとあたしの後ろに隠れた。

「何や、怒らんよ」

 中澤さんは、優しい目で、優しい声で、あいぼんに触れた。
368 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:44
「あんた、反省しとるやろ、ちゃんと」
「は、はい」
「だったら、ええ。自分のした事、きちんと反省してるんやったらな。してないでふてくされてとったら、お仕置きしてたけど」
「…………」

 あいぼんは、あたしの後ろに再び隠れた。

「ところで、中澤さん、それ、なんですか?」
「ん? ああこれ。秘密」

 中澤さんの持っているトランクを指差したら、ウインクが返ってきた。
 まあ、中澤さんの事だ。何か企んでいるのかもしれない。
 あいぼんが、首を傾げた。

「中澤さん、でも、なんでここに……?」
「んー、それはなー」

 中澤さんは、ちらっとあたしを見た。
 ウインクしてやった。

 ちょっと驚いたような顔をしたけど、クスクス笑う中澤さん。
 あたしの頭を撫でてきた。
369 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:44

「大人になったなあ、辻」
「もう、十八ですよ」

 子ども扱いに頬を膨らませて抗議する。

「十八かあ。あたしも年取るはずだよなあ」

 何をおばさんくさい事を。
 ちらっとあいぼんをみた。いつもならここで茶々を入れたりするけれど、今はそんな元気もないみたい。

「中澤さんもとから年取ってたじゃないですかー」
「なんやとー! 辻ー!」

 笑いながら、中澤さんから逃げるように、数歩離れた。
 あいぼんの代わりのからかい。

 ねえ、あいぼん、覚えてる?
370 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:44

「なによ、騒がしいわね、静かに出来ないの?」
「もう夜中なんだからさわいじゃだめだよ」

 保田さんと、後藤さんだ。少し意外な組み合わせだな、とちょっと目を丸くする。

「なんや、二人なんて珍しいなー」

 中澤さんも意外そうに二人を見た。

「駅であったのよ。タクシー、つかまんなくて」
「ごとーは電車の方が早かったから」

 二人がそう言って、あいぼんの方に目を向けた。
 あいぼんは、ばつが悪そうな顔をしている。

「馬鹿なことやったねー」

 教育係だった後藤さんが、そう言った。あいぼんが少し傷ついた顔をする。

「ちょっと」

 保田さんが止めに入ろうとしたけれど、後藤さんはあいぼんの目の前にたった。
 怒っているみたいだった。
371 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:45
「あんただけの問題じゃないって、身にしみて分かった?」
「……はい」
「…………」

 後藤さんは、何も言わずにあいぼんの頭を撫でた。あいぼんは少し驚いたように、顔を上げた。涙目だった。

「じゃ、これから頑張んなよ」
「――……」

 あいぼんは何も言わずに、こくこく頷いた。
 きっと何か言ってしまったら、泣いてしまうからだろう。

 一生懸命、首を振っているあいぼんに、後藤さんが噴出した。

「なんか、首振りワンワンみたい」
「もう、泣かすなよ、後藤」
「勝手に泣いたんだよー」

 保田さんに拗ねたような表情を見せる後藤さん。
372 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:45
「おばちゃんの顔が怖くて泣いたんだよ、ね、あいぼん」

 あいぼんの肩を抱いて、にししと笑ってやる。
 ああ、今日のあたしは、もうあいぼんの役割全部引き受けてあげる。
 だから、あいぼん。


 気にしないで、今を楽しんで。

「なんですって、辻ー!」
「キャー!」

 楽しそうに、駆け回って、馬鹿みたいにはしゃいでやる。
 中澤さんにたしなめられるまで、あたしは保田さんから逃げ回った。



 ねえ、あいぼん。
 覚えてるでしょ?
 こんな、懐かしい、光景。


373 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:46
「やっほー、久しぶりぃ」
「あー、矢口さん!」
「矢口ぃー!」

 ちっちゃい影が見えて、中澤さんが駆け出した。
 それにちっちゃい影が逃げ出す。

「何で逃げるん、矢口ぃー!」
「だぁー! 裕ちゃん近所迷惑ー! こっちくんなー!」


「それをいうなら、二人とも」

 保田さんが、顔を抑えて溜息をついた。
 後藤さんがへらへら笑っている。
 あいぼんは、二人を懐かしそうな目で見ている。


 うん。
 なんか、懐かしい。


「何さわいでんのさ、二人とも」
「もー、二人ともいい大人なんだからー」

 飯田さんと、なちみだ。
 二人はゆっくりこちらに歩いてくる。

「なっちに言われたくないっ」

 矢口さんが叫んだ。そこへすかさず、中澤さんが後ろから抱きつく。
 暴れる矢口さん。殴られる中澤さん。

 もう、随分見ていない光景だなあ。
374 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:47
「キャー、みんなー!」

 甲高い声が聞こえて、あたし達はいっせいに耳をふさいだ。

「ちょっ、その反応酷くないですか!?」
「ん? 何か今声が聞こえたような……」

 矢口さんがワザとらしくあたりを見渡す。

「えー、気のせいだよ」

 後藤さんが白々しく、そう言った。

「ちょっと、皆して酷いじゃないですか!」
「あれっ、梨華ちゃん! こんなとこにいたの!」

 驚いたような仕草をする矢口さんに、梨華ちゃんが酷いですと睨む。

「いやー、闇と同化しちゃって分かんなかったー。ごめんごめん」
「今更そんなネタですか!? 古くないですか!?」

 梨華ちゃんの言葉に、矢口さんは梨華ちゃんの膝を蹴った。
375 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:47
 アザになるじゃないですか! と梨華ちゃんが抗議したが、矢口さんが、小さな声で、

「お前、空気読めよ!」
「え!? そのネタも?!」
「ちげーっつーの!!」

 なんだかおかしくて。
 なんだか懐かしくて。
 なんだか嬉しくて。

 でもなんだか悲しくて。

 あたしはあいぼんの腕にしがみついた。


376 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:48
「おぃーっす。みんな集合してるー?」
「よっちゃん、大声出さない方がいいよ。近所迷惑」

 先頭に、現リーダーとサブリーダーが見えた。
 後ろには、ぞろぞろ幼稚園の遠足よろしく、後輩たち。
 なんかハロモニのコントを思い出した。

「うわあ、安倍さん。お久しぶりです!」
「おお、ガキさん。元気だねえ、相変わらず」

「わー、みんないるねえ。ねえ、麻琴」
「愛ちゃん、はしゃがないで、転ぶよ!」

「ご、後藤さん、お久しぶりです。体調どうですか?」
「んぁ、もー大丈夫。こんちゃんもお久しぶりだね」

「絵里、なんでそんな嬉しそうと?」
「だってー、れいな、みんないるんだよー。えへへ、嬉しいじゃん!」

「さゆ、久しぶりだね。教育係、どう?」
「お久しぶりです、飯田さん。頑張ってますよ。」

「小春ちゃん、親御さんにちゃんと連絡した?」
「あ、石川さん。大丈夫です、ちゃんと話しときました」 


377 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:48


 あいぼんが、呆然としている。
 あたしは、隣でにししって笑った。

 相棒は、あたしの方を見る。

「なに、企んでるの……のの?」

 あたしは、ウインクして、ぐっと親指を立てた。

「ドリームモーニング娘。再来ってね」


 うん、今のあたし、昔のよっちゃん風にいえば、かっけー。





378 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:48
「きゃー! 海だ海だうみだぁ!!」
「亀、はしゃぎすぎ」

 はしゃぐ亀ちゃんの隣で、よっちゃんが苦笑い。
 タクシーじゃこれなかったので、あたし達は仕方なく、電車で大移動した。

 深夜でよかった。

 あたし達の車両には、酔っ払いが数人しかいなかった。


「でもなんで海なの?」
「さあ? 誰が言い出したんだっけ?」

 保田さんの言葉に飯田さんが首をかしげて、矢口さんを見た。
 矢口さんは中澤さんを見上げて、中澤さんはなちみに視線を移す。
 なちみはよっちゃんに目を向けると、よっちゃんは梨華ちゃんに顔を向けた。
 梨華ちゃんが後藤さんをチラッと見ると、後藤さんは美貴ちゃんに首を傾げた。

「って、誰も知らないのかよっ!」

 ナイスツッコミ。
379 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:48
「さすがツッコミキティー」

 あたしが笑うと、嬉しくないからと、美貴ちゃんは拗ねたように言った。
 あいぼんは、何も言わずに俯いたまま、あたし達のやり取りを聞いている。

「あー、かっぱえびせん! 新垣さん、ちょっとください!」
「えぇ! さゆ、さっきポテト食べてたじゃん」
「そうだよ、さゆ。太るよ」
「絵里も人のこと言えなか」

「れいなはちょっと太るべきだよね」
「愛ちゃん、そんなすっぱりと」
「愛ちゃんもあさみちゃんも、二人はいいよ。あたしなんか、事務所に……ううっ」
「小川さん、元気出してください! 同じ新潟出身としておにぎりあげますから!」

 こっちもこっちで、随分、賑やかだなあ。
 あたしは、あいぼんに囁いた。

「楽しいね、あいぼん」

 あいぼんは、小さく、頷いた。

380 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:49
「おー。暗いー」
「ちょっと涼しいね」

 矢口さんとなちみが体を震わせた。
 ちっちゃい二人の後を追うように、みんなが歩いていく。

 海は、暗くて、静かで、それでいて大きかった。


「ねー、裕ちゃん。そろそろそのトランクの中身教えてよ」
「そうだよー。気になるよー」

 おばちゃんと後藤さんがトランクを持っている中澤さんに、不満を漏らしている。
 あたしも気になっていたところだ。

 中澤さんは、にやりと笑うと、トランクを砂浜の真ん中に置いた。

「ま、こんなとこで何やるっていっても限られとるしな」

 中澤さんが、トランクを開ける。

「うわー! すごーい!」

 まず最初に、小春ちゃんが声をあげた。
 それに何々とみんなが覗き込む。

 そこにあったのは、お菓子、飲み物、ビニールシート、ご丁重にも紙コップや紙皿まで。そして――たくさんの花火。
381 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:54
「どっから手に入れて来たんですか、花火なんて」

 よっちゃんが花火を手にとって、中澤さんに聞いた。

「んー、ちょっとなー。知り合いからな」
「うわー、お菓子がイッパイ!」
「食べ過ぎるなよー」

 喜ぶまこっちゃんに、中澤さんが苦笑いした。
 田中ちゃんと梨華ちゃんがビニールシートをひろげて、その上に小春ちゃんとよっちゃんが寝転がった。

 まこっちゃんと飯田さんがお菓子をあさって、なちみと理沙ちゃんが紙コップにジュースを注いでいる。

 あたしはあいぼんの手を引いて、海に近づいた。
 花火に火をつけて、あいぼんに手渡した。

「あいぼん、綺麗だよ」

 音を立てて色を散らす花火に、あたしは笑った。

「あー! 二人で先にズルイ!」

 まこっちゃんが慌ててあたし達に参加してくる。
 その後に、理沙ちゃん、田中ちゃん、小春ちゃん。
382 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:54
「わー! ロケット花火だったー!」
「きゃー!? 何してんのまこっちゃんー!」

 理沙ちゃんたちがぎゃーぎゃー叫んでいる。

「ロケット花火なんか持ってくるなよー!」

 矢口さんが中澤さんにそう言っている。
 なんか、笑えた。

「んあー。これすごそうだねえ」
「打ち上げ花火……ごっちん、やめなよ」

 打ち上げ花火を手に取った後藤さんに、梨華ちゃんが止めている。

「ね、ね、圭織」

 なちみが飯田さんを呼んで、ぽんっとロケット花火を手渡す。ちなみに火はつけてある。

「ぎゃー! なっち何すんのー!!」
「わー! 飯田さん投げないでくださいー!!」

 慌ててそれを捨てる飯田さん。
 慌てて駆け出すみんな。


 ぱーん! といい音を立てて、ロケット花火は砂浜をすべり、海のほうに向かった。
 そして海に突っ込んで、明りは見えなくなる。
383 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:54

「……ぷっ、あははは」

 あたしは思わず笑い出してしまった。
 飯田さん、それにみんなの必死の表情がおかしくて。

 みんなも思わず笑い出す。
 見れば、あいぼんも笑っていた。




 楽しいねえ、あいぼん。



384 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:55
「辻ぃー!」
「ぶぁっ!? よっちゃん何すんのさー!!」

 海水引っ掛けられて、よっちゃんに抗議する。

「このー! あいぼん、行くぞー!」
「ええ? ちょ、のの?!」

 あいぼんの手を引いて、よっちゃんに復讐しにいく。

「きゃー! なんであたしにまで飛ばすの!?」
「四期連帯責任!」
「意味わかんないから! しかもののたちも四期じゃん!」

 梨華ちゃんには悪いけど、楽しいから、もう何でもあり!

「ちょ、美貴まで巻き添えかよ!」
「娘。連帯責任! リーダーの尻拭いだー!」
「よっちゃん、美貴こっちに加勢して良い?」
「え、裏切りかよ、ミキティ! ちくしょー! モーニング、集合! 辻加護藤本を狙えー!」
385 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:55
「キャー! あいぼん、にげろぉー!」
「アハハ! のん、向こうに逃げよ!」


 いつものあいぼんの笑顔に戻ってきたのを見て、嬉しくなる。ねえ、やっぱり、その笑顔が大好きだ。


「あー! 中澤さんたち、お酒飲んでるー!」

 まこっちゃんが大声を出して、シートで楽しそうに笑いあってる中澤さんたちを指差した。

「ちくしょー、いつの間にー!」

 悔しそうなよっちゃんがたからかに、叫んだ。

「奇襲だぞ、みんなー!」

 手で水を掬って、皆で走っていく。



 水をかけられた、一期二期それにたった一人の三期さんが、怒って、笑って、やり返しに海にかけてきた。


386 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:55




 相棒、ねえ、楽しいなあ。




 馬鹿みたいに騒いで。馬鹿みたいに笑いあって。
 あたし達の人生みたいだね、あいぼん。
 馬鹿みたいに笑いあって、怒って、喜んで、泣いてきた。

 ねえ、幸せだね、こんな仲間、それに人生。






387 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:56
「あいぼん、ねえ」
「ん?」

 あいぼんが振り向いた。出会った頃より、ちょっぴり大人になった彼女。
 隣に立っていたあたしも、ちょっとは大人になったかな。

「楽しいねえ」
「……うん」

 あいぼんは、しばらくの沈黙の後、頷いた。あたしはそれに、また笑ってみせる。

「幸せだねえ」
「うん」

 あいぼんは泣きそうな顔をしながら、けれどしっかり頷いた。

「ね、あいぼん。あたし、あいぼんのこと、大好きだよ」

 嘘偽りの無い言葉。
 心底から言える言葉。

 ねえ、五年間、本当にありがとう。


 そして――。
388 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:56

「これからも、よろしくね」
「……うん」


 あいぼんが泣き出した。声もあげず、ぼろぼろ涙を流して、何度も何度も頷いた。
 あたしも泣き笑いのような顔をして、頷いた。

「ずっとずっと、戦友だよ」
「……うん、のの、ありがとう」


 友達だけじゃない。仲間だけじゃない。
 大切な人だから。



「おーい! 二人とも何やってんだよー!」

 よっちゃんがこちらに向かって大きく手を振ってきている。

「今行くってー!」

 あたしはずずっと鼻をすすって、そう大声を上げた。
389 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:56

 空を見上げれば、たくさんの星。
 海を見つめれば、潮の香り。


 そんな世界に立っているあたし達。



 ――ああ、世界って、美しいなあ。



390 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:56
「いこ、あいぼん」

 あいぼんに手を差し出して。
 あたしはあいぼんの目を見つめた。

 あいぼんは、しっかり見つめ返してきて。
 あたしに頷いた。

「うん、行こう」

 ぎゅっと手を握って、歩き出す。


 真っ暗闇の中の海を背に。


「のの」
「ん?」
「……ありがと。うち、頑張るから」
「うん」


391 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:57


 世界は大きい。世界は広い。
 あたし達はその中に生きている。

 飲み込まれそうになっても、一生懸命、自分を生きている。


 頑張れ、あたし達。
 頑張る、あたし達。

392 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:57

「ののー! あいぼーん! 乾杯するよー!」
「はーい!」

 大きく返事して、あたし達はずんずん歩き出す。
 向こうには、頼もしくて優しい仲間たちが待っている。

「皆と、ずっとずっと笑っていられたら、いいね」
「……そやな」

 あいぼんが頷いた。しっかりと。
 一緒にいなくてもいいから。
 こうやって、時々でいいから。
 皆で集まって。

 楽しく、笑いあっていたい。




393 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:57


「日の出見れるかな」

 あいぼんの呟き。あたしはそれに微笑む。

「見れるよ、きっと」


 真っ暗闇の海から現れる、一つの希望。


「それじゃー、モーニング娘。にかんぱーい!」

「かんぱーい!」

 
 いつの日か、あたし達も見られるといい。
394 名前:□あったい春の花火。 投稿日:2006/05/06(土) 00:58
以上です。
あいぼん頑張って企画でした。
395 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:02


 海辺で皆が、花火をやっている。
 年の差も、身長差も、みーんな、ばらばら。
 それでも皆、花火をやっている。

 仲良く、笑いながら、馬鹿みたいに、子供みたいに、明日のことも考えず。


 目を閉じて、皆の笑い声に、夜の海の囁きに耳を澄ます。



 瞼の裏には思い出の光景。心の中にはあったかい何か。
 零れて来るのは、微笑みと、ほんの少しの涙。




396 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:02





□愛の種。



397 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:02

「売れるかな」
「売れるよ」


 きっかけだよ。


「五万枚ー!」
「モーニング娘。愛の種ー」


 大切な歌。


「売れたね」
「やったあ……!」



 だから、だから、ずっとずっと忘れないでいて欲しい。



398 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:03

「飯田さん、飲んでないで花火しましょうよぉー」
「んー。後で行くって」

 小川の誘いにあたしはそう言って、笑った。小川はそれに拗ねたような顔を見せる。

「ちゃんと、後で行くからさ」
「約束ですよー!」

 小川が念を押すように言うと、向こうにかけていった。
 ふと横を見ると、紺野が傍にやってきていた。

「どーした?」
「……いえ、何となく」

 珍しいなあ。なんて思っていると、紺野が口を開いた。

「こんなこと、できるのも、あと少しなんだな、と思いまして」
「……ああ」

 そうだった。
399 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:03

「急なことだったから、吃驚したよ、正直」
「すみません」

 笑いながら謝られ、あたしも思わず苦笑。

「でも、後悔はしていないつもりです」
「そっか」
「楽しかったです、五年間」
「うん」

 お酒を口に含んだ。ちょっぴり、苦かった。

「ありがとう、ございます」
「なにが?」

 紺野の笑顔に、首をかしげると、紺野はあたしの目をジッと見つめてきた。
400 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:03

「モーニング娘。を作ってくださって。モーニング娘。として認めてくださって」
「……うん」
「すごく、いい経験と想い出になりました」
「そっか、良かった」

 風が吹いた。潮の香りを運んでくる。
 あたし達はそれを感じながら、騒いでいる皆を見つめる。

「おーい、こんこん、こっち来いよぉー!」

 四代目リーダーが紺野を呼んでいる。それに、紺野は苦笑いをして、あたしに頭を下げた。

「ちょっと失礼します」
「はは、いってらっしゃい」

 紺野の後姿を見て、成長したなあと感心する。
401 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:03

 ――紺野だけじゃない。

 周りを見渡せば、皆、大人になった。成長した、成長している。
 そうして、あたし自身も。

 なんだか、笑いたくなった。楽しかった。嬉しかった。何もかもが。
 楽しかった事、悲しかった事、悔しかった事、嬉しかった事。

 その何もかもが、思い返して、嬉しかった。
 素晴しい経験と、今の悲しい現実とが入り混じって、あたしは空を見上げた。
 真っ暗じゃなくて、たくさんの星が輝いている。

 ――誰もが好きな空を目指している。



402 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:04



 わいわい騒ぐ、モーニング娘。
 いなくなった人、功績を残した人、まだまだこれからの人。
 ちっちゃかったり、大きかったり、年が違ったり、性格もばらばらだし。


 共通点は、モーニング娘。だけ。


 それって、なんだか、もしかしたら、最高かも。


403 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:04


「なにぼーっとしてんのさ、圭織」
「んーん。良い感じだなと思ってさ」
「はあ? なにが?」
「なーんでもないよ。あ、なっち、今度さーご飯食べに行こうか。裕ちゃんも誘ってさ」


 十一月、三十日。


 あの頃から、娘。は始まったんだよね。
 懐かしいし、ちょっと寂しいし。


 でも、やっぱり、なんだか嬉しいなあ。
404 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:04





 皆それぞれ、好きな空追いかけている。
 モーニング娘。にやってきて。それぞれに。



405 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:05

「愛の種、か」
「はあ? 圭織、大丈夫?」
「うるさいなー、なっちは。ああもう、お酒引っ掛けるぞー!」
「きゃー! 圭織、この酔っ払いー!!」

 あの時、十一月三十日。

 愛の種は、しっかり撒き散らされた。





 未来へと続く、愛の種。

406 名前:□愛の種。 投稿日:2006/05/06(土) 01:05


「安倍さん、飯田さん、花火しましょー」
「ちょっ、小春ちゃん、花火、火をつけたままこっちこないで!!」

 なっちが慌てて小春ちゃんを制止する。

「楽しいですよぉ」
「わかった、行く、行くからー! ほら、圭織、行くよ!」
「はいはい」



 今のこの子達のために、あたし達は、しっかり、愛の種をまき終えたね。

407 名前:知人。 投稿日:2006/05/06(土) 01:10
以上です。

この板の更新はコレにてお終いです。
今まで読んで下さった方々、コメントを下さった方々、
本当にありがとうございました。
そしてこの場所を提供してくれた管理人さんにも感謝を。

作者の主観が入りすぎな自己満足な文章でした。申し訳ありません。
今後は読んで下さる人が楽しめるような文章を書けるよう努力したいと思います。

それでは、数ヶ月間、ありがとうございました。
408 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/05/06(土) 12:06
今日見つけて、一気に読ませていただきました。
娘。が変わっていったこととか、きっと彼女達はかけがえの無い仲間を見つけたんだろうなとか。
自分も思っていたことだったので、話の中に入り込んで読むことができました。
笑えるトコロもあり、泣けるトコロもあり。
作者さんのモーニング娘。に対する思いも伝わってきました。

この先もまた、作者さんの作品を読めることを楽しみにしています。
約7ヶ月間、お疲れ様でした。
409 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/06(土) 12:21
更新お疲れ様です。
今回で終了ということで寂しい気持ちでいっぱいです。

作者さんの熱い気持ちが伝わってくるような話ばかりで、
自分自身の娘。に対する気持ちも再認識出来たような気がします。
やぐよしのラブパニックシリーズもすごく面白かったです!

また、作者さんの作品を読めたら嬉しいなあと思っています。
ありがとうございました。

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