To you

1 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/15(火) 12:05
気ままに短編を書かせていただきます。本当に気ままなので更新も不定期です。話を思いついたら更新します。
底のほうでひっそりやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
2 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/15(火) 12:07
まずは、テレビ版「電者男」のサントラを聴いていて思いついた話です。今更電者男は古いかもしれませんが、田舎では旬なんです(w
3 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:08

「亀井、遅れてるよ!!何やってるの!!」
「す、すいません!」

今日は新曲の振り付けを練習している。ところが、皆が少しずつしっかり踊れるようになっていく中、絵里1人がうまく踊れていなかった。

「亀井、また遅れてる!!」

何度も何度も、夏先生の怒鳴り声が響く。
4 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:09
「しょうがない、じゃあ10分休憩。亀井も少し休んで、またみっちりやるよ。」

束の間の休憩に、それぞれタオルで汗を拭いたり、スポーツドリンクをがぶ飲みしたりしている。私も鞄からペットボトルを取り出して飲んでいると、吉澤さんが「あ、亀ちゃん…」と言うのが聞こえた。

「吉澤さん、絵里がどうかしたんですか?」
「うん、外に出て行ったみたいなんだけど……どうしたのかな。」
「……ちょっと見てきます。」

急いで後を追いかけた。
5 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:10
絵里は、近くにあった自販機と壁の隙間にいた。その姿は本当に幸が……と、今はそれどころじゃない。

「絵里ー、そげんところにいないで出てくるっちゃ。」

できるだけ優しく呼びかける。すると意外にも、絵里は素直に隙間から出てきた。

「ほら、戻ろ?」
「れーな……。」

泣きたいのを必死に堪えているような、あるいはすっかり絶望してしまっているような、絵里の声。
「ん?」と返事をする私の肩に、絵里は顔を乗せる。そして、くぐもった声で呟いた。

「もう死にたい………。」
6 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:10
「はぁっ!?」

私は絵里の「死にたい」発言に驚いて大声を出し、絵里は私の大声に驚いてビクッと肩を震わせた。

「死にたいって……本気?」
「本気。」
「絵里が死んだら、みんな悲しむとよ。」
「みんなせいせいするよ。」
「ファンの人達は?」
「絵里のファンなんていないもん。」

……これは重症らしい。
7 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:10
きっと…というよりも絶対、絵里は夏先生に怒られてばっかりで凹んでいる。それで「死にたい」なんて言い出したんだろう。
私だって絵里に負けないくらい夏先生に怒られているけれど、私はそういうのをすぐに忘れてしまうタイプ。絵里はずっと引きずってしまうタイプ。

どうやって死ぬのを思いとどまらせようかと考えているうちに、絵里はとうとう「どうすれば苦しまないで死ねるのかな……」なんて呟き始めた。
8 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:11
「ね、れーなは苦しまないで死ぬ方法、何か知らない……?」
「絵里……ほんとに死ぬ気なん?」
「……ほんとに死ぬ気。」

はあっ、と大きくため息が出る。絵里はしゅんとして俯いた。……最初からしゅんとしてたけど。

「絵里って、すごく勇敢っちゃね。」
「……褒められたって嬉しくないもん。」
「だって、れいなは自殺なんて怖くてできないけん。絵里は勇気があるとよ。」

ピクッ、と絵里の肩が動いた。
9 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:11
「死ぬのって痛いだろうなー。息できなくなるのって苦しいだろうなー。」

わざと明るく言いながら、両手で絵里の鼻と口をつまむ。

「んー!!んー!!」

息が出来なくなった絵里は、当然私の手をどかそうとする。私は絵里が苦しそうにし始めたのを見計らって、手を離した。

「どう?息が出来ない気分は。」

わざとらしく笑いながら聞いてみる。

「……バカ!!れーなのバカ!!大バカ!!」

じわじわと目に涙を浮かべて、バカ、を連発する絵里。……ちょっとやりすぎたかな。

「もう一回聞くばい。絵里、ほんとに死ぬ気?」

首をかすかに横に振ったのを見て、今度は安堵のため息。
10 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:12
「ほら、そろそろ戻ろ?みんな心配しとるけん。」

すると、無言で手を差し出された。

「ん?どげんしたと?」
「……手、繋いでって言ってるの、バカ!!」

顔を真っ赤にさせて言う絵里がとにかく可愛らしくて。「甘えんぼ。」と言ってからかいながら、その手をしっかり掴んだ。ちゃんと掴んでるけんね、と聞こえないように呟いて。
11 名前:ちゃんと掴んでるよ。 投稿日:2005/11/15(火) 12:12
「2人とも、休憩はとっくに終わってるよ!!何してたの!!」

手を繋いで戻った私達は、仲良く夏先生のお説教を受けた。

でも、絵里はもう大丈夫。しっかりと繋がれた手が、その証。


fin.
12 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/15(火) 12:19
肝心なことを書き忘れていましたが、作者の好みで好き放題書いていきます。そのため、カップリングは田中さん、亀井さん、道重さんの中から2人、もしくは3人選んで組み合わせます。

最初の話は、言わずもがなですが「ちゃんと掴んでますから」という曲をイメージして書いたものです。常々、自殺できる人ってほんとに勇気あるなあと思っていたのでそれも話の中に組み込んで。

こんな調子でぐだぐだ書いていきますが、感想やダメだし、待っています。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/15(火) 18:27
うひょひょw
駆け出し作者さん待ってました!!
作者さんのれなえり最高です!!
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/15(火) 18:46
駆け出し作者さんのれなえりホンットに大好きです!
15 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/19(土) 09:29
ストーブにかじりつきながらPCに向かっています。寒い。寒すぎる。外はうっすらと雪が積もっています。

>>13 名無飼育さん様
レスありがとうございます。待っていただけるなんて(泣 作者も「うひょひょ」と言いたいです(w

>>14 名無飼育さん様
ありがとうございます。わんや嬉しーじゃー、と謎の言葉を発するほど嬉しいです。れなえり以外も大好きになっていただけるように精進します。


さて、れなえりが思いがけず好評だったようなので、今回はれなさゆで(ぇ 「ちゃんと掴んでるよ。」に比べると少しだけ糖分控えめでしょうか。本当は前回も糖分控えめにするはずだったのですが、いつの間にやら砂糖が混入されていたようです(w
今回も電車男のサントラから、「エルメス」なる曲をイメージして書いてみました。それではどぞ。
16 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:30

楽屋では今日も、絵里とさゆが楽しそうにじゃれあっている。そして、それを遠くから見ている私。いつもと同じ。

絵里がふざけてさゆにキスしようとしている。笑いながら「やめてよー」と赤くなった顔をよける、さゆ。
体全体が、カアッと熱くなった。

黙っていると何かが爆発してしまいそうで、トイレに行ってくると嘘をついて楽屋を出た。
17 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:31
程よく冷たい空気が体の熱を奪ってゆく。それと同時に気持ちも少しは落ち着いてきたけれど、さっきの光景が頭から離れることはなかった。

例えば絵里と吉澤さんがふざけてキスをしたとして、私はそれを微笑ましく思う。けれども、さゆと絵里―――さゆと誰かがふざけてキスをしようとするだけで、胸が張り裂けそうになる。
そんな気持ちの名前は、とっくの昔に気付いていた。さゆのことがどうしようもなく好きなんだと。
気付かないほうが幸せだったのかもしれない。気付いてしまってからは、2倍辛かったから。

私はさゆが好きで、さゆはきっと絵里が好きで。それに気付いてしまうくらいなら、自分自身の気持ちを知らないまま、さゆと絵里を見守っていたほうがずっと楽だっただろう。
18 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:31
ハロモニの収録中も、気付けばさゆを目で追ってばかり。ゲームやコントを楽しむ余裕もなかった。

―――恋の病、ってこういうことか……。

想いを伝えることもできずに、たださゆを見ているだけの自分が情けなくて、思わず自嘲気味の笑みがこぼれた。
19 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:32
果たして自分が何をしゃべったのか、そもそも何かをしゃべったのかどうかも思い出せないまま、収録が終わった。
楽屋に戻り、ほとんど放心状態で着替える。何も考えたくなかった。

「れーな、ちょっといい?」

振り返ると、いつものニコニコ顔ではなく、真面目な表情をした絵里。

「2人で話したいことがあるんだけど……。」
「それは大事な話?」

大事な話でなかったら、今度にして、と断るつもりだった。他でもない自分のせいで気分は最悪だったから。

「れーなにとっては大事な話だよ。」

絵里は意味あり気な笑顔を浮かべていた。
20 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:32
「さゆのことなんだけどね。」

外を歩きながら言われた一言に、ドキッとする。そして、いつもは3人で帰っているのに「2人で話したい」と言ったのはそういうことか、と納得。

「れーな、顔赤いよ?さゆの名前出しただけなのに。」

ニヤニヤと意地の悪そうな笑い顔でからかわれる。……それだけ。たったそれだけで、今日1日ずっと溜め込んでいたものが爆発した。

「絵里には関係なか!!!!!」

自分でもびっくりするくらいの大声が出た。
さゆに届かない想いが悲しくて、さゆと羨ましいくらい仲のいい絵里が憎くて、そんな気持ちを抱く自分が大嫌いで。

「……ごめん、絵里。」
「いいよ。好きな人が誰か他の人と仲良くしてるのを見れば、誰だってイライラするでしょ?」
「えっ!?」

驚いて絵里をじっと見つめる。私の中では、さゆに対する気持ちは誰にも気付かれないようにしていたつもりなのに。絵里は気付いていた……?

「だってれーな、いつもさゆを見て悲しそうな顔した後、私を睨みつけてくるんだもん。私に嫉妬してることくらい誰でもわかるよ。」
「……れいな、そんなにわかりやすかったと?」
「うん。気付いてないのはたぶんさゆだけだと思う。」

傍目八目とはこのことを言うのだろう。
21 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:33
「だからさ、さゆに気持ち伝えなよ。」
「絵里は……告白したら結果がどうなるか、わかっとーと?」
「うへへ、知らないよーだ!れーなが自分で確かめなさい。」

……怪しい。

「絵里はさゆのこと、好き?」
「んー、好きは好きだけど、友達としてね。れーなの『好き』とは違うよ。」
「そっか。」
「だから安心して。絵里も協力してあげるから。」

何をどう協力するのだろうと疑問に思ったけれど、言わないでおいた。協力してあげるというのなら、ありがたく協力してもらおう。
22 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:33
そして数日後。別の番組の収録がある日。

楽屋に入ってきたさゆは、いつものようにまっすぐ絵里のところへ向かう。そして、何やら話し始めた。
1分くらい何か話した後、さゆが入り口のドアのほう―――私がいるほうにスタスタ歩いてきた。
トイレにでも行くのかと思っていると、さゆは私の目の前で立ち止まった。

「れーな、話し相手になって?」
「ふえっ?」
「絵里、ちょっと気分が悪いみたいで。少し寝れば大丈夫って言ってたけど。今日はれーなのとこに遊びに行ってきなよ、だって。」
「はあ…。」

―――おかしかね……。絵里、さっきまでうるさいくらい元気やったのに……。
23 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:33
さゆが椅子を持ってきて、私の隣に座る。……やばい、ドキドキしてきた。
テンパっている私をよそに、さゆは鏡を取り出して「よし、今日も可愛い」と呟いている。

「ねえ、今日のさゆ可愛い?」
「へっ?あ、ああ、かわいかよ。」
「えへへ、ありがとー。」

ぱあっと笑顔になったさゆが、私の首の後ろに手をまわして抱きついてきた。顔も、耳も、手足の爪の先までもが熱くなる。今なら口から火を噴けるんじゃないかと思うくらい、体中が熱い。同時に、胸が苦しかった。

―――ねえ、さゆ。こうして恥ずかしがったりしないで抱きつくってことは……れいなのこと、友達としか思ってなかと……?
24 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:34
その日の収録をなんとか無事に終え、楽屋に戻った。

「れーな。絵里が『急用を思い出したから、今日は2人で帰って』だって。」

さゆの言葉に、またしても心臓が速く鼓動し始める。絵里のほうを見ると、もう着替え終わって楽屋から出て行くところだった。……そして、出て行く直前。間違いなく、私のほうを見てウインクをした。

―――まさか…この前言ってた「協力」ってこのことだったと……?
25 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:34
2人並んで道を歩きながら、頭の中ではぐるぐると渦が巻いている。

―――今は告白する絶好のチャンスたい。けど、もしふられたら……。
―――絵里がわざわざ2人きりで帰れるようにしてくれたんやけん、告白せんと……。
―――でも……ふられたくなか。今までの友達という関係まで壊れてしまうのが、怖くてしかたがなかと……。

「……れーな、ごめんね。私と2人で帰ってもつまんないよね……。」

さゆの声でハッと我に返る。

「あ、いや……ごめん、考え事しとって。」

慌てて弁解したけれど、気まずい沈黙が流れる。泣きたくなってきた。
26 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:35
ほとんど会話もないまま、十字路に来た。私は右、さゆは真っ直ぐ。

「じゃあ…ね。」
「……うん。」

さゆの背中が遠ざかっていく。頭の中は真っ白で、意識が朦朧としてきた。

目に見えない『何か』が、私に働きかける。


「……れーな?」

気がついた時、私はさゆの手首を掴んでいた。
27 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:35
「どうしたの…?」

目を見開いているさゆを。何も言わずに、強く抱きしめた。

「さゆのこと……好いとう。ばり好いとう。」

これが精一杯の告白。不器用な私に、気の利いた言葉を考える余裕はなかった。

抱きしめた格好のまま、怖くて目をギュッと閉じた。
体を離されて、冷たく突き放されるのだろうか。さゆは今、何と言って断るか考えているのだろうか。
そんなことを考えていた脳は、さゆに抱きしめ返される感触とともに活動を一時停止した。

「よかった……ずっと片想いだと思ってたんだから……。」
「私もれいなのこと、大好きだよ……。」

震える声で、そう言ってくれた ――――――
28 名前:Bittersweet 投稿日:2005/11/19(土) 09:36
楽屋では今日も、絵里とさゆが楽しそうにじゃれあっている。そして、それを遠くから見ている私。いつもと同じ。

だけど。もう、さゆを見てため息をつくことも、絵里に嫉妬することもない。

「れーなも遊ぼー!」
「早く来ないとさゆにチューしちゃうよー!」

私は笑顔で頷いて、さゆと絵里のところに走って行った。


fin.
29 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/19(土) 09:39
『Bittersweet』でした。頭の中で思い描いたイメージの通りに書けたかなと思います。
れなえり、れなさゆときたので、次回はもう1つの組み合わせでいきます。
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/24(木) 03:36
作者さんもしかして僕と出身同じですか。
最近わぃやさみぐなったぃな〜とか言ってみたり。
まぁそれはいいとして、今後のお話にも期待してます。
31 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/24(木) 09:30
ハリーポッターに似てると言われている駆け出し作者、参上です。ハリーポッター役のダニエル君に似ているのではなく、ハリーポッターに似ているんです。余談はさておき。

>>30 名無飼育さん様
おおっ、同郷の方ついに発見(w だばって、わー実は方言あんまし多ぐは知らねんずよ。
期待に応えられるようけっぱります。

前回の予告通り、今回はさゆえり…のつもりです。さゆえりと言えるかどうか微妙なんです。さゆえりということにして読んでやってください。
32 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:31




―――『友達』って、何……?



33 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:31
私と絵里は、誰もが認める大親友。もちろん私達自身も、「ずっと親友だよね。」とお互いに言っている。
れいなともかなり仲は良い。れいなは、親友に限りなく近い友達。絵里は、最高の親友。これはれいなの何かが嫌いだというのではなく、絵里と信じられないくらい気が合うだけ。

時々、喧嘩とは言えないような小さい喧嘩をしながら、3人仲良くやっていた。
34 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:32
私が煙草に手を出したのは、本当に「つい出来心で」だった。なんとなくイライラした時に、なんとなく煙草を吸ってみたくなっただけ。おいしいと思うわけでもなく、一足先に大人になったような優越感に浸るわけでもなく、ただなんとなく吸い続けた。
煙草はやめようと思えばやめられた。3時のおやつとか、昼寝と同じような感覚で吸っていたから。あって困ることもなければ、なくて困ることもない。依存はしていなかった。
35 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:32
日曜日に、絵里が家に遊びに来た。当然、煙草と灰皿は隠すつもりでいた。それが、昨夜は「明日起きてから片付ければいいか」と思ってそのまま寝てしまい、さらに最悪だったのは、今朝起きた時にはそのことを忘れてしまっていたのだ。

部屋に入った絵里が「えっ……」と声を上げた。「どうしたの?」と尋ねる。
何も言わず、震える手で絵里が指差した先。煙草と灰皿。

すーっと、体が冷えた。
36 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:33
「煙草、吸ってたの……?」
「……そうみたいだね。」

他人事のように答えてしまう。

「どうして…?」
「わかんない。」
「煙草なんかやめようよ!!さゆはまだ吸っちゃいけないんだよ!?体にだって悪いんだよ!?」
「っ……絵里には関係ないじゃん!!親友ならいちいち口出ししないでよ!!」

目を潤ませながら取り乱したように叫ぶ絵里につられ、私も口調が荒くなる。
絵里が家を飛び出していった後も、イライラは収まらなかった。そのイライラを理由に、また煙草を吸う。それでも、イライラはずっと消えなかった。
37 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:33
れいなから電話がきたのは、次の日の午前中だった。

「昨日、絵里から電話かかってきたとよ。」

それを聞いただけで、れいなが何を言いたいのか想像できた。

「…どうせれいなも、煙草はやめろって言うんでしょ!?なんで2人ともそんなにおせっかいなの!?」

れいなが何も悪くないことぐらい、わかっている。絵里が何も悪くないことぐらい、わかっている。それなのに、腹が立つ。

「お願い、さゆ。ちゃんと聞いて。」
「…………」
「煙草のことは何も言わないけんね。さゆがやめようと思ったらやめればいいし、やめたくないならやめなくてもよか。けど、絵里にひどいこと言ったのだけはどうしても許せない。」

―――『絵里には関係ないじゃん!!親友ならいちいち口出ししないでよ!!』

昨日絵里に言った言葉が甦る。

「……もしも絵里が煙草を吸ってたら、さゆはどうする?」
「…やめさせる…かな。」
「うん、それなら後はれいなは何も言わん。」
「………れいな、ありがと。」
「お礼に明日焼肉を奢ってほしか。」
「……バカ。」
「ニヒヒ、冗談っちゃよ。じゃあね。」
38 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:34
絵里が煙草を吸っていたら、私はやめさせる。なぜなら絵里は大事な友達だから……。
それなら、絵里が同じことを考えるのは当然だった。そんな当然のことに、私は気付けなかった。

悪いことをしても口出ししないのが友達なのではない。口出しするからこそ友達なんだ。
39 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:34
玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると、そこにいたのは俯いている絵里。

「さゆ……昨日はごめんね。おせっかいなこと言っちゃって。」

言いながら絵里が何かを差し出している。―――「吸いたくなったらニ○レット」とかいう、あれだった。
どうしようもないくらい可笑しかった。それでいて、どうしようもないくらい涙が溢れてきた。

「絵里のばか……。」
「え…?」
「何で…何で絵里が謝るの。なんにも悪くないのに謝らないでよ……。」
「さゆ…」
「ごめんなさい。それと、ありがとう。」

泣きながらで聞こえにくかっただろうけれど、たぶん聞き取ってくれたんだろう。そっと頭を撫でられた。

その手は、優しかった。
40 名前:ベスト・フレンド 投稿日:2005/11/24(木) 09:35
その日から私は煙草をやめた。ニ○レットは必要なかった。けれども捨てるのはもったいないような気がして、机の引き出しの中に入れてある。ちょっと面白いけど、これは「友情の証」のように思えたから。


3人並んで道を歩いていたはずが、いつの間にか私だけ少し後ろになっていた。れいなと絵里は前のほうで何やら言い争っている。

「ちょっと、絵里のお菓子勝手に食べないでよ!」
「誰かのものだなんて決まってなか!」
「ひどい!れいなとなんかもう絶交!」
「勝手にすればよかよ!」

その様子を見て私はくすくすと笑い、2人に聞こえないような小さい声で、そっと呟いた。

―――私達、ずーっと友達だよ……?
41 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/24(木) 09:37
『ベスト・フレンド』でした。さゆえり難しいorz
次回は亀井さん視点のれなえりを予定しています。
42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/24(木) 22:13
さゆえり最高でしたよ!!
自信もってください!!
次回のれなえりも期待してます
43 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/28(月) 09:05
近所のスーパーの中にド○ールがあるのですが、そこで珈琲を飲みながら小説を書くと不思議なくらいはかどります。テレビとか音楽がガンガン流れているのに。家で静かな中書いてもなぜかはかどりません。

>>42 名無飼育さん様
ありがとうございます。最高なんて言われると自信を通り越して天狗になっちゃいます(w
作者はれなえり大好きなので、どんどん書いていくつもりです。


今回のれなえりは甘めにしてみました。実はタイトルをつけるのにかなり悩みましたが、結局普通のタイトルに。
それではどうぞ。
44 名前:2人きりの休日 投稿日:2005/11/28(月) 09:06

久しぶりにもらったオフの日。
ごく自然な流れで、私は大好きな恋人の家に遊びに行った。外で買い物とかをするよりも、家の中でいちゃいちゃしたい。それが私の魂胆だった。なのに……
45 名前:2人きりの休日 投稿日:2005/11/28(月) 09:06
「れーなー。」
「なん?」
「漫画読んでないで他のことしようよー。」
「うん、絵里も好きなの読んでよかよ。」

聞いてない。

私が来てからもずっと漫画を読み続けているれーな。構ってほしくて、その背中に抱きついた。

「………」
「………」
「………」

それでも一心不乱に漫画を読み続けている。
46 名前:2人きりの休日 投稿日:2005/11/28(月) 09:07
背中をこちょこちょやってみたり、髪の匂いを嗅いだりしたけど、それでもれーなは無反応。後ろから一緒に漫画を読んでみても、すぐに飽きた。

……れーな、それってあんまりじゃない?恋人と2人っきりなのに、1人で漫画読んでるなんて。

れーなの心を掴んでいる漫画に、だんだん嫉妬していく私。絵里がれーなといちゃいちゃするのを邪魔したりして、許せない。

「えいっ」

れーなの手から漫画を取り上げた。
47 名前:2人きりの休日 投稿日:2005/11/28(月) 09:07
これでれーなといちゃいちゃできる。そう思ってたのに。

「なんばしよっとね、絵里」

低い声で不機嫌そうに言われ、漫画を取り返された。そしてまた漫画を読み始めるれーな。
48 名前:2人きりの休日 投稿日:2005/11/28(月) 09:07
―――何で…?恋人より漫画のほうが大事なの?ひどいよ、れーな……。

「う……ぐすっ……」

振り向いたれーなが「やばい」というような表情になる。

「え、絵里……あの……」
「グスッ………ヒック……」
「……ごめん。」
「れーな一人で…グスッ…漫画読んでればいいじゃない…」

れーなは漫画があれば、絵里はいなくてもいいんだ。もう知らない、れーななんか。
49 名前:2人きりの休日 投稿日:2005/11/28(月) 09:08
小走りでれーなの部屋から出て行こうとしたその時、がしっと腕を掴まれた。

「離して…」

振り向きざまに、キスされる。見た目通り鈍感で、見た目によらず恥ずかしがりなれーなからのキスは珍しかった。

「ん……!」

体の力が抜け、れーなの唇が離れると同時にへなへなと床に座り込んでしまう。

「……絵里がいないと……漫画読んでもつまらん…。」

素直に「絵里がいてくれないと嫌だ」と言えばいいのに、「漫画読んでもつまらん」を付け加える。きっとこれは、れーなの照れ隠し。

言ったれーなも言われた私も、顔は真っ赤だった。
50 名前:2人きりの休日 投稿日:2005/11/28(月) 09:09
今度は、2人並んで座り、仲良く一緒に漫画を読んでいる。なんとなくそうしたくなって、隣にあったれーなの手をそっと握った。

「ねー、絵里。」
「なに?」
「片手で漫画持ってもう片方の手も塞がってれば、ページめくれないっちゃけど。」
「あっ、そうだね。」
「…………」
「…………」
「……手、離さんと?」
「やだー。」
「……バーーーーーカ。」
「バとカの間、のばしすぎじゃない?」
「絵里はそれぐらいバカやけん。」

バカバカ言いながらも、れーなはあいてるほうの手で漫画を閉じた。
お互いに体の向きを変えて向き合う。


……その後のことは、秘密。


fin.
51 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/28(月) 09:12
『2人きりの休日』でした。謎の多い終わらせかたですが……あとのことはご想像にお任せします(ニヤッ

次回、カップリングはまだ決まっていませんが、ちょっとは泣けるような話でも書きたいなあと思っていたりいなかったり。
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/01(木) 19:12
なうっ!糖分の取りすぎで鼻血でそうですw
53 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/03(土) 13:14
電車男を観終わったところで更新です。豹変した陣釜さんに笑ったりネットのやりとりに感動したりと忙しかった(w 次回が最終回みたいです。

>>52 名無飼育さん様
レスありがとうございます。鼻血出そうですか!?そりゃ大変だ(と言いながら笑顔)
これからも鼻血出そうなのをたくさん書いていきたいと思います。


今回はアンリアルのれなさゆで、さゆ視点です。テーマを「いじめ」なんていう過激なものにしてみたのですが、思うようにうまく書けませんでしたorz
青板でも不登校なんて重いテーマを書いてましたが、こういうのはやっぱり実際に経験して初めてうまく書けるんだなあと痛感しました。いじめる立場の気持ちもいじめられる立場の気持ちも、自分ではわかっているつもりでも本当は全然わかってないと思っています。
べべべ別に文章力がないのを言い訳しているわけでは決してな(ry
54 名前:ずっと側に 投稿日:2005/12/03(土) 13:15

『バカ』『クズ』『消えろ』『死ね』

いつも通りの時間に登校した私の机には、今日も無数の言葉。『可愛いね』とか『付き合ってください』なら喜ぶところだけど、実際に書かれている言葉達で喜べというのは無理な相談だった。
55 名前:ずっと側に 投稿日:2005/12/03(土) 13:16
机に書かれた言葉達に蓋をするように、鞄をドサッと置く。そして、椅子を引いて座る。

「いたっ…」

座った瞬間、お尻のあたりに鋭い痛みが走る。立ち上がって見てみると、椅子に画鋲が置かれていた。

私をじろじろ観察していた何人かが、クスクスと冷たく笑う。
私は小さくため息をついて画鋲を取り、ごみ箱に捨ててから椅子に腰掛けた。

本当は大声で泣き叫びたかったし、担任の教師に言いつけたかった。でも、そのどちらを選択してもいじめはエスカレートするのだろう。そもそも、担任の教師はいじめのことはとっくに気付いているはずだった。それなのに見て見ぬふりをしている。そんな教師失格の教師に相談したって、問題が解決するはずがない。
56 名前:ずっと側に 投稿日:2005/12/03(土) 13:16
「おい道重、お前調子に乗んなよな。」

私が机の落書きにも画鋲にも特に反応を示さないのに痺れを切らしたのか、今度は集団で囲まれる。そして、リーダー格の子が机を蹴る。
私よりあなた達のほうが、よっぽど調子に乗ってるじゃない。そんな気持ちを込めて、睨みつけた。

「なんだよその目は。」

ほとんど加減せずに頬を張られる。これだけは―――大事な顔を傷つけるのだけは許せない。頬を張り返してやろうかと手を振り上げた時だった。

「あんたら何やっとー。」

隣の席のれいな―――田中れいなが登校してきた。

「邪魔やけん、通してくれん?」

れいなが一睨みすると、いじめっ子集団はすごすごと引き下がった。

「……ありがと。」
「べ、別にアンタを助けようとしたわけじゃないけんね!勘違いするんじゃなか!」

椅子にドカッと座り、顔をプイッと背けるれいな。だけど、その耳がほんのり赤くなっているのを私は見逃さなかった。
57 名前:ずっと側に 投稿日:2005/12/03(土) 13:17




――――――――



58 名前:ずっと側に 投稿日:2005/12/03(土) 13:17
「道重さん、ちょっと話があるんだけど、来てもらっていいかな。」

昼休みになり、いじめのリーダー格の子が私の席にきた。「道重さん」なんて呼ばれると、かえって気味が悪い。どうせトイレにでも連れ込んで殴るなり蹴るなりするつもりだろう。

「ごめんね、今ちょっと忙しいの。」
「5分で終わるからさ、ちょっと来てよ。」

腕を引っ張られ、無理矢理連れて行かれそうになる。


ガンッ!!


背後で大きな音がした。振り向くと、れいなの机が倒れている。れいな本人が蹴飛ばしたようだった。

「どこまでいじめれば気が済むと?あんたらは。」

れいなの声が震えている。顔は恐いなんてものじゃない、小さい子供が見れば間違いなく泣き出すような表情。

「1対1の喧嘩もできないような弱虫が群がって強いふりしてるのを見ると、ほんっと虫酸が走るばい。弱いものいじめしてるあんたらより、1人で耐えてるさゆのほうがよっぽど強か。」

それでも、この場で間違いなく一番強いのは、空手を習っているれいな。それは明らかな事実だったから、ずっと腕を掴まれていた手は離された。
59 名前:ずっと側に 投稿日:2005/12/03(土) 13:18
その日の帰り道。いつの間にか、私はれいなと一緒に帰っていた。

「ねえ。」
「ん?」
「昼休みの時……さゆ、って呼んでくれたね。いつもアンタ、アンタって呼んでるけど。」
「っ……し、知らんそんなの!!覚えとらんばい!!」

その真っ赤な顔には、はっきり『覚えてます』と書かれている。火を見るより明らか、ってこういうことを言うんだっけ。

「でも、どうしていつも私を庇うの?れいなまでいじめの標的になっちゃうよ?」
「そ、それは……」
「なになに?さゆが可愛いから?」

冗談で言ったのに。れいながコクンと頷いたのには仰天した。

「…他のやつがいじめられてても、自分の力でなんとかしろって思う。けど……アンタだけは…れいなが守りたい……」


「アンタのこと…さゆのこと、好いとうけん…………。」
60 名前:ずっと側に 投稿日:2005/12/03(土) 13:18
「…………」
「……アホ面しとらんで、なんか答えろ。」

アホ面とは失礼な。驚いて開いた口が塞がらない私も可愛いのに。

「私は…よくわかんない。」
「は?」
「れいなのことが好きなのか、よくわかんないの。」
「……」
「でもたぶん……ずっと側にいて、ずっと守ってくれてれば、そのうち好きになるかもしれない。」
「ずいぶんと我侭なお姫様っちゃね。」
「こんなお姫様だけど、ずっと側にいるの?」

少しだけ、意地悪な質問。それに対して。

「……当たり前たい。」

そう言って、れいなはニッコリ微笑んだ。
61 名前:ずっと側に 投稿日:2005/12/03(土) 13:18
今はまだ、自分の気持ちがわからないけれど。
あなたしか見えなくなるくらい、側にいてほしい。
私だけの王子様になって、いつでも私を守ってほしい。

そしていつの日か……あなたと恋に落ちたい。


fin.
62 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/03(土) 13:21
『ずっと側に』でした。わーはこの話で何が言いたいんだべな……。無理かとは思いますが、何かを感じ取っていただければ幸いです。

次回は、あからさまな涙狙いの話になる予定です。
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/06(火) 00:37
更新お疲れさまでした。次の更新に期待しています。あと自分、前の作品のDEENの歌好きです。
64 名前:初心者 投稿日:2005/12/07(水) 22:17
さゆれな大好きで、とってもよかったです
今まではラブラブになったりして終わるのが多いですが
>>61 のような終わり方が新鮮ですごくよかったです
次回も期待してます
65 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/09(金) 09:23
時々ふと思うこと。例えば教師という職業なんかは、エリートタイプよりも学生時代に落ちこぼれだったり不良だったりした人のほうがむしろ向いてるんじゃないか、と思うんです。なぜなら、勉強ができない子とか、不良の生徒の気持ちとかを一番わかってあげられるだろうから。
同じ理由で、大きな病気をしたことのある人が医者になれば……とも思います。以上、ochiも何もない独り言でした。

>>63 名無飼育さん様
レスありがとうございます。あの曲はいいですよねぇ。初めて好きになった曲なんです。

>>64 初心者様
ありがとうございます。終わらせ方は、どう結んでいいのかわからなくなってああなっちゃいました(汗


今回はれなえりです。予告通りに涙狙いで書いたものですが、果たして……。
66 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:24

最初から負けるつもりで、スポーツの試合に臨む人なんていない。

最初から落ちるつもりで、試験を受ける人なんていない。

私だって、いつかは別れるつもりで付き合い始めたわけじゃなかった………。
67 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:24
「絵里………別れて……。」

絵里の部屋で過ごす、日曜日の甘い時間を切り裂く一言。いつもと変わらぬ、ふにゃふにゃとした笑顔だった絵里の表情が、驚きに変わった。

「絵里と一緒にいるのが、辛いっちゃよ……。」

もしも「どうして辛いの?」と訊かれたら、答えに窮する。どうして辛いのか、こっちが教えてほしいくらいだったから。
絵里のことが嫌いになったわけではない。いつだって、絵里と一緒にいたい。心がそう叫んでいる。それなのに……一緒にいると、辛くなる。
68 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:25
「……れいなが別れたいって言うんなら、それでいいよ。」

絵里の言葉は予想外だった。泣かれて、怒られて、「別れたくない」と言われるだろうと思っていた。自惚れかもしれないけれど、それくらい絵里は私のことを好きでいてくれたから。

それでも事実上、この瞬間に私と絵里は「恋人同士」ではなくなった。それなら、もうこれ以上ここにいる必要はない。もうこれ以上ここにいたくない。未練がましくここに長居することは、即ち傷口に塩を塗ることになる。

絵里にかける言葉も見つからなくて黙って出て行こうとした私に、絵里は「今までありがとう」と言う。感謝の言葉には違いないけれど、どこか冷たい響きがある。
私はやはり無言で絵里の部屋を出て、そっとドアを閉めた。


ドアを閉めた瞬間、そのドアの向こうで絵里が声を出さずに泣き始めたなんて全く気付かずに。
69 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:26
外は、皮肉なくらいの快晴だった。

一緒にいるのが辛いから別れた。それなのに消えないこの辛さは、いったい何なのだろうか。

「ははっ……もう…わけわからん………。」

わけがわからなすぎて笑えてきたし、わけがわからなすぎて泣けてきた。いわゆる泣き笑いの状態。

「絵里…教えてよ。れいなは何でこんなに辛いと……?」

呟いてみても、絵里には届かない。

どれだけ涙を流しても消えない傷を消すために、涙を流すことしかできない。あまりにも無力だった。
70 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:26




――――――――



71 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:27
翌日。

正直、学校に行く気が全く起きずに仮病を使ってみたけれど、熱がないから大丈夫ということでほとんど追い出されるような格好で家を出た。

仮病で休もうと頑張っていたせいで家を出るのも遅くなり、いつもは私より遅く登校してくる親友のさゆも既に来ていた。そのさゆに、教室に入った途端声をかけられる。

「れーな、屋上行こ?」

そう言ったさゆの優しい笑顔の中にも、どこか有無を言わさぬ迫力があった。
72 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:27
屋上に着き、さゆの第一声は私の予想と一字一句違っていなかった。

「絵里と別れたって……本当なの?」
「うん。」
「絵里のこと、嫌いになった……?」
「…………嫌いには…なってない。」
「じゃあどうして……」
「……絵里と一緒にいたいのに……一緒にいると辛いけん。」

さゆは何かを考え込み始めた。
73 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:28
「……れいなは、紅茶に砂糖を入れるとしたらどれくらい入れる?」
「……はい?」

紅茶?砂糖?

「さゆ、何ば…」
「いいから、いいから。答えて。」
「……スティックシュガーを1本くらい、だと思う。」
「じゃあ、もし同じ紅茶にスティックシュガーを10本入れたら、れいなは飲める?」
「そんなの、甘すぎて飲めるわけなかよ。……それより、紅茶に砂糖がれいなと絵里のことに何の関係が……」
「れいなは紅茶を飲む人。絵里は紅茶。砂糖は、れいなが絵里を好きな気持ち。これでわかる?」

―――スティックシュガーが1本なら、紅茶はおいしく飲める……。スティックシュガーが10本になると、甘すぎて飲めたものじゃない……。つまり………

「絵里のことを好きな気持ちが、大きすぎると……?」
「推測だよ?それが合ってるのかどうかは、れいなしか分からない。」

一緒にいたいはずなのに一緒にいると辛くなるのは、好きすぎるから。別れても辛い気持ちが消えないのは、嫌いだからではない、好きすぎるから。

……胸がスーッとする感覚がした。
74 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:28




――――――――



75 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:29
放課後。

2年生用の下駄箱のところで、絵里を待つ。さっきこっそりと絵里の下駄箱を見て、まだ帰っていないことを確認しておいた。

「あれ、田中ちゃん。どしたの?」

絵里と同じクラスのガキさんだった。

「あ…絵里、待っとって…。」
「亀ちゃんなら掃除当番だけど。呼んでこよっか?」
「い、いや、大丈夫です。待ってますんで…。」

情けないことに、心の準備がまだできていない。
76 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:29
10分くらいして、2年生たちの中に絵里の姿を見つけた。

「絵里……!」

私がいるのに気付いた絵里が、ハッとした表情になる。

「今ちょっと……よか?」
「…うん。」
77 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:30
人通りの少ないところまで歩き、絵里と向き合う。そして―――地面に手をついて、頭を下げた。

「絵里、ごめん!!この前別れるって言ったの、なしにしてほしか!!」

情けなかった。土下座している自分が情けなかったし、自分から別れを切り出しておいて自分から取り消してほしいというのも最高に情けなかった。

「絵里と一緒にいるのが辛いって言っとったけど……それは絵里が嫌いだからじゃない。絵里が好きで好きで好きすぎるからなんだって気付いたっちゃよ……。れいなには……絵里が必要やけん……。」

言いながら、涙が出てきた。
78 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:30
「頭……上げて……?」

言われた通り、頭を上げる。涙で絵里の表情は見えない。けれど、次の瞬間には体をふわっと包み込まれる感触がした。

「絵里のこと……嫌いになってないの…?」
「…うん。絵里のこと、ばり好いとうよ………。」

糸が切れたように、絵里は声をあげて泣き始めた。泣きながら、途切れ途切れに「絵里もれいなが大好きだよ」と言ってくれた。

その頭を撫でてあげながら……私もまた、涙が止まらなかった。
79 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:31




――――――――




80 名前:Purest Love 投稿日:2005/12/09(金) 09:31
「れいなが『別れよう』って言った時ね…ほんとはすごく嫌だった。」
「え…?」
「でも『嫌だ』って言えばれいなが困っちゃうと思って、言えなかったの。」
「なんで……なんでそんな……」
「だって、れいなが大好きなんだもん……。」
「絵里…」


絵里がどれだけ大切な存在か。それは、ほんのわずかな間の別れが私に教えてくれた。
だからもう、絵里と一緒にいて辛くなることはない。


私はどこまでも、絵里と一緒に歩いてゆく。


fin.
81 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/09(金) 09:36
『Purest Love』でした。>>73の例え話、2日くらい考えてこれしか思いつきませんでしたorz

突然ですが放…じゃなくて更新ペース落とします。現在下書き中の長編がほとんど進まず、某CMではありませんが「軽くヤバイ」ので。気長にお待ちいただければと思います。
感想、ダメ出しはいつでも大歓迎です。
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:12
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
83 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/23(金) 10:00
最近「やる気メーター」が上がってきています。某スレにも同じこと書きましたが(w

>>82 名無飼育さん様
わざわざありがとうございます。案内板見てますよ。
企画の成功を祈っています。

予定を急遽変更して更新です。11月11日には書いて(青でも草でもないどこかにちゃっかり短編を投下)、今日書かないのはいかがなものか、と思いまして(汗
今日の0時過ぎに急いで書き始めたものです。ではどうぞ。
84 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:01

…55、56、57、58、59……

「誕生日おめでとう。」

12月23日0時00分。17歳になった瞬間、自分にそっと呟いた。
85 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:02
それから30秒もすると、次々に携帯がメールの着信を知らせ始めた。

小川さん、小春ちゃん、紺野さん、高橋さん、ガキさん、藤本さん、さゆ、吉澤さん。『誕生日おめでと〜!』とみんなから……あれっ?

一番肝心な…れーなは……?
86 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:03
5分待っても10分待っても、れーなからのメールは来ない。まさか忘れてる?……れーなのことだからあり得る。
私のほうからメールしようかとも思ったけれど、それじゃあ悲しすぎる。

「れえなあ〜……」
87 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:03
♪〜

「!!きたきたきたっ!」

すぐさま携帯を見る。差出人はれーな。本文……

『外出てみて。雪降ってて綺麗っちゃよ。』
88 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:03
ぽたっ。

「れーな」の文字のところに涙が落ちた。
一番誕生日を祝ってほしい人に誕生日を忘れられる。これほどショックなことはない。

「ばか……」

携帯を握り締めて、壊してしまいたかった。メールもアドレス帳のデータも、全て消してしまいたかった。
89 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:04
♪〜

再び着信音が鳴った。今度は…電話。

ちょうどいい、たっぷり文句を言ってやろう。

『もしもし、絵里?はよ、外出て。』
「っ…他に言うことないの!?信じられない!」
『……その、他に言うことを言うから、外出て。』

訳がわからなかった。なぜわざわざ外に出なければいけないのか。
訳がわからないまま、玄関のドアを開けた。
90 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:05
「……れーな…」

ドアのすぐ目の前に、手を振っているれーな。

「絵里、誕生日おめでとう。」

ああ、そういうことだったんだ。ようやく理解できた。

「せっかくやけん、メールじゃなくて直接伝えたかっ……ちょっ、なんで泣いとーと!?」
「だって……ヒクッ……誕生日忘れられたと……思ったんだもん…。」
「あー……ほんとは12時ちょうどに着くはずだったとよ。けどすぐそこまで来たら道路が工事中で通れんで……ぐるーっと遠回りしたけん。」
「…バカァ……」
「れいなは悪くなか!工事のオッサン達が悪いと!!」

それは本気で言っているというよりも、泣いている私を笑わそうとして言っているような口調だった。

もう、さっきまでの怒りや悲しみは消えていた。
91 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:05




――――――――



92 名前:伝えたい言葉 投稿日:2005/12/23(金) 10:06
「ねえ、誕生日プレゼントに、1つだけお願い聞いて?」
「れいなにできることなら何でもよかよ。」
「やった!じゃあ、一緒に寝よ?」
「ブッ!ば、バカ、それはできん!」
「だめ!何でも聞くって言ったじゃん!」
「ば、ばってん…一緒に寝たりしたら、れいなの理性が……」
「れーなになら襲われてもいいから。ほら、さっさと行こ!」

火事場の馬鹿力、はちょっと違うけれど、私は軽々とれーなを抱き上げて、一緒にベッドへ飛び込んだ。

今夜はきっと、いい夢が見られそう。


fin.
93 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/23(金) 10:11
『伝えたい言葉』でした。亀ちゃんお誕生日おめでとうございます。……あ、天皇陛下も(w

明日更新予定だった短編も書いてあるので、明日も現れます。次はれなさゆで。
おそらく次で今年最後になるかと思います。
94 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/24(土) 09:21
どうしよう……運命の出会いってやつをしてしまったかもしれません。人じゃなくて小説ですが。
あのカップリングであの設定なんて最強ですよまったく。例えるなら、内角田亀…じゃなかった内角高めいっぱいのところに150キロの直球を投げられた感じです(w 作者さん誰なのかな。

さてさて今回はれなさゆです。きっと読み終わった後に「なんでクリスマスなのにこれやねん!」と突っ込みたくてしかたがなくなると思われます(何
95 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:22

窓の外の景色を眺めながら、もう十回は越えたであろうため息を、さらにもう一回ついた。

窓に映っている私は、今日はちっとも可愛くない。
96 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:22
原因はついさっきの出来事。買い物に行く途中、恋人のれいながマックで女の子と一緒にいるのを見てしまった。一緒にいたのは、れいなと同じ部活の亀井先輩。

楽しそうに話す2人を、見ていられるわけがなかった。
97 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:23
その時の光景を思い出して、もう一度ため息をつく。

れいなと亀井先輩が普通の友達の関係なのはわかっている。それでも、胸が苦しかった。
98 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:24
♪〜

さらにもう一度ため息をつこうとした時、携帯が鳴った。画面には「れーな」の文字。

「…もしもし。」
『あ、さゆ?明日デートせん?ほら、明日はクリスマスイブだし。』
「……亀井先輩とデートすればいいじゃない。」
『え?』
「明日も、今日みたいに亀井先輩と過ごせばいいじゃない!れいなとなんか会いたくない!!」

一方的に叫んで、一方的に電話を切った。
99 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:24
亀井先輩と過ごせばいい、なんて嘘。会いたくない、なんて嘘。私以外の人と一緒に過ごしてほしくないし、会いたくて仕方がなかった。

ただの嫉妬なのは、自分でもわかっていた。悔しいくらいれいなが大好きだから、ちょっとしたことで妬いてしまう。

「…グスッ……」

れいなが大好きで、れいなが大嫌いで、自分が大嫌いで。ポロポロと涙がこぼれた。
涙が口の中にまで入ってくる。とてもしょっぱかった。
100 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:24
夜ご飯を食べ終わった頃、再びれいなから電話がかかってきた。

「…お母さん、出てくれない?」
「なんでさゆみの携帯にお母さんが出るのよ。」
「だって……ちょっと気まずいんだもん。お願い!どうでもいいような話でもしててほしいの。」
「まったくこの子は。…もしもし?れいなちゃん?さゆみの母です。」

耳をすましてれいなの声を聞こうとしたけれど、何を言っているのかまでは聞き取れなかった。

「ごめんなさいね、さゆみなんだかへそを曲げてて。いえいえ、さゆみが1人で勝手に拗ねてるだけだと思うわ。いつもれいなちゃんにご迷惑かけてない?……そう。これからも仲良くしてあげてね。え?さゆみ?はいはい、ちょっと待っててね。……ほら、れいなちゃん、さゆみと話したいって。」

携帯を受け取る。手に少し汗をかいていた。
101 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:25
「…もしもし。」
『さゆ…ごめん。今日は絵里の誕生日だったけん…。れいなが絵里と2人でいたのが嫌だったとね?』
「…知らない。」

本当は、手を繋いだりしたの?とか、何かされなかった?とか、いろいろ聞きたかった。けれど、本当に手を繋いだり何かされたりしていたら余計に傷つくから、聞けない。

『……れいなは、絵里に友達以上の気持ちは持ってなかよ。れいなの恋人は、さゆしかおらんけんね。』
「っ……バカ…当たり前……じゃない……」

れいなの言葉は全然嬉しくないのに、これ以上なく嬉しかった。溢れた涙は、きっと嬉し涙なのかもしれない。
102 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:26
『さゆ、泣かんでよ……さゆが泣くと、れいなまで悲しくなるけん。』
「泣いて……ない……!」

鼻をグズグズさせて声を震わせながら言ったって説得力ないじゃん、なんて、自分に突っ込みを入れてしまう。それがツボにはまって、今度は笑いだしてしまった。

『泣いてたかと思ったらいきなり笑いだして、変なやつー。』

れいなもゲラゲラ笑い始めた。

『…でも、笑ってるさゆがれいなは一番好いとうよ。』

……うん。もう泣くのはやめよう。笑ってる私が、一番可愛いのだから。明日のクリスマスイブを好きな人と過ごせるんだから、たくさん笑わなきゃ。
103 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:26




――――――――



104 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:26
「れいなお待たせー。」
「さゆ遅いっちゃよ。」
「髪がなかなか可愛くきまらなかったの。」
「別にどんな髪型でもさゆはかわ…」

ザーーッ

「うわっ、雨なんて聞いてなか!」
「ここで雨宿りするしかないね。」
「クリスマスイブなんだから雨じゃなくて雪が降ってほしいばい……」
105 名前:大雨、のち快晴 投稿日:2005/12/24(土) 09:27
「あ、止んだ。通り雨だったとね。」
「じゃ、行こっか。」
「そだ、ケーキでも食べに行かん?」
「あ…お金、あんまり持ってきてないの。」
「ケーキくらい奢ったげると。き…昨日…れいなのせいでさゆ泣かしちゃったし。」

顔を真っ赤にして言うれいなは、悔しいけど、私と同じくらい可愛い。

「えへへへ、れーな大好き。」
「ば、バカ、こんなとこで抱きつくんじゃなか!」
「大好きなんだから抱きついたっていいの!」


fin.
106 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/24(土) 09:32
『大雨、のち快晴』でした。曲を聴いてたら思い浮かんだんですそれだけですorz

今年の更新はこれで最後です。次回は年末年始の慌しさが落ち着いた頃、ふらっと現れます。
それでは皆様、よいお年を。
107 名前:初心者 投稿日:2005/12/25(日) 17:21
更新お疲れ様です
れなさゆ大好きです
れいなの困ったり、ストレートな言葉が素敵ですね
さゆの拗ねるのも可愛いです
また来年の更新楽しみに待ってます
108 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/05(木) 09:04
新年明けましておめでとうございます。
2006年が作者にとっても、読者の皆様にとっても、飼育全体にとっても、実りある1年になりますように。

>>107 初心者様
ありがとうございます。作者の脳内設定では、亀ちゃん重さんが拗ねたり怒ったりして田中さんがなだめる、というふうな図式ばかりが浮かぶんです(汗
なかなか進歩しない文章でよろしければ、これからも読んでやってください。


新年一発目はれなえりです。たまにはお姉さんな亀井さんを書いてみました。
109 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:05

誰でも、一度は考えたことがあると思う。

『人は、死んだらどうなるのか』

死後の世界がああだこうだというテレビ番組を見ていて、やはり私もそう疑問に思った。人は死んだらどこへ行くのか。死後の世界は本当にあるのか。

そんなことを考えているうちに、「死」が身近なものに感じられて怖くなった。
110 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:05
心臓に手を当てる。トク、トク、トク、と鼓動している。この鼓動が、今にも止まってしまうのではないか。そんな恐怖に襲われる。

今すぐではなくても、いつか必ず死ぬ時は来る。当たり前のことなのに、今の私にとってはどうしようもない恐怖だった。
111 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:06
おばあちゃんが転んで骨折したとかで両親はお見舞いに行き、家には私1人。
家に1人でいるのも堪えられなくなって、衝動的に携帯に手をのばした。アドレス帳を開き、電話をかける。

『もしもし?』
「絵里、今から会えん?」
『え?今から?』

ちらっと時計を見る。午後8時半。

『昨日デートしたばっかりなのに、れーなもう寂しくなっちゃった?うへへへ、れーなかわい〜。』
「そ、そんなんじゃなか。…お願い、10分だけでよかよ。」
『ん、わかった。』
「じゃ、今からそっち行くけん!」
112 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:07
ちらちらと雪が舞う中を、全力で走った。
誰か側にいてほしかった。絵里に、側にいてほしかった。

夜の暗闇に飲み込まれてしまうような気がして、ただひたすら、絵里を求めて走った。
113 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:07
絵里は外に出て待っていてくれた。

「いきなり会いたいって言ってすまんね。」
「いいよ、絵里もれいなに会いたかったし。さ、中入ろ?」
「えっ、でもこげん時間に迷惑じゃなかと?」

ただ絵里に会いたかっただけだから、中に入れてもらおうとまでは思っていなかった。

「いいのいいの。もしおかーさんおとーさんが許可しなくても、絵里が許可するから。」

軽く腕を引っ張られ、少しびくびくしながら絵里の家の中に入った。
114 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:07
絵里がすたすたと居間のほうに歩いていき、「れいな来たからちょっと遊んでるね。」と言うと、絵里のお母さんが顔をひょこっと覗かせた。

「あ、夜遅くにすいません…。」
「いいのよ、ゆっくりしていってね。」

もうすぐ夜の九時になろうかという時間なのに、全くもって何も言われなかった。安心というか、拍子抜けというか。
115 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:08
絵里の部屋に通してもらい、ベッドの上に並んで腰掛けた。

「それで、れいなは寂しくなって絵里に会いに来たってことでいいんだよね?」
「だ、だから違うって言っとるやろ…。」
「じゃあどうして?」
「っ………」
「………」
「………」
「…やっぱり寂しかったんだー!」

これは……本当のことを言うしかないのだろうか。正直、絵里に告白した時に匹敵するくらい恥ずかしい。

「さっき…『死後の世界』ってテレビでやっとったやろ?」
「うん、うちでも見てたよ。」
「それ見てたら……その…れいなもいつかは死ぬんだと思って怖くなったけん……それで……」
「それで会いに来たの?」

絵里から顔を背けて、コクンと頷いた。……キャラじゃないことは、私自身が一番わかっている。
116 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:08
「うへへへへ…」

案の定……恐る恐る見た絵里の表情は、気持ち悪いくらいのニヤニヤ顔。

「ぐ……どーせれいなはお子様たい!笑いたきゃ笑えばよか!」
「や、そうじゃなくて。れいなも可愛いとこあるんだなあ、ってね。」

ニヤニヤしながら言われても、バカにされているとしか思えない。

「…例えば……もしも、今この瞬間に死んだら……絵里を残して死んだら……そう思うと、怖くて仕方がなかとよ……。」

言い訳して恥ずかしさを誤魔化したかったのに、本心を言って余計に恥ずかしくなった。赤くなった顔を見られたくなくて、ぷいっとそっぽを向く。
117 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:08
「……大丈夫だよ。」

不意に、絵里の声が優しくなった。コテン、と私の肩に顔を乗せる。

「いっぱい、いっぱい一緒にいよう?いつか離れ離れになっても、後悔しないくらい。たっくさん、一緒にいよう?」

そっと、背中に抱きつかれた。
118 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:09
「絵里の卑怯もん」
「え?」
「急に優しくされると……泣きそうになる……」
「…泣いていいんだよ?」
「ぜったい……嫌…やけん。」
「……たまには、絵里にお姉さんぶらせてよ。」
「絵里みたいな頼りないお姉さん……そうそうおらんと。」

本当は…絵里が優しいお姉さんみたいに思えて、すごく安心感があった。その証拠に、ちょっとでも気を抜けば涙が流れそうになっている。
119 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:09
「…ありがとう」

そっと呟いた言葉は絵里に届いていたようで。ゆっくりと頭を撫でられた。

温かくて優しい、絵里の手。
120 名前:いつか… 投稿日:2006/01/05(木) 09:10
―――――いつかは永遠の別れが訪れるけれど。きっと、怖くなんかない。

そう思うことができるくらい、ずっとずっと一緒にいよう……。


fin.
121 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/05(木) 09:13
『いつか…』でした。田中さんと同じことをぐるぐる考えて眠れなくなったりした時代が懐かしい(w

次回は、気付けばまだ1回しか書いていなかったさゆえりでいきます。
122 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/13(金) 09:12
市内でプロゴルファーによる殺人未遂事件があったり、家から徒歩2分の距離にある県営住宅でアスベスト使用の可能性が発覚したり、周りで大変な事件が2つも起こりました。
それこそ、「自分のところは平和だし大丈夫だろう」的な考えだったので衝撃を受けています。


さて、今回はさゆえりです。>>108に書いてあるような理由で、さゆえり+恋愛というのがなかなかイメージしにくかったのですが、妄想して書いてみました。
お姉さんな亀ちゃんもいいなぁ、と1人で悦に浸っていたり(w
123 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:13
「さゆ、聞いて聞いて!!」
「どうしたの?」
「亀井先輩と挨拶しちゃったとよ〜!!」
「そっか、よかったじゃん。」

教室に入ってきた途端、嬉しそうに話したれいな。
よかったじゃん、と言葉では言っても、心からは喜べなかった。
124 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:14
亀井先輩というのは、私とれいなの1つ上、つまり2年生の先輩。
学校中で知らない人はいないくらい、美人で人気がある(私のほうが可愛いとれいなに主張したら、鼻で笑われた)。

亀井先輩は3人姉妹の末っ子で、長女のひとみさん、次女の愛さんもここの高校でファンクラブができるくらいにモテていたらしい。
ひとみさんは石川さんという人、愛さんは小川さんという人と付き合っていて、今度は『亀井絵里と誰が付き合うか』で、ファンクラブの中で争いが起きているとかいないとか。
ちなみにれいなは「集団でキャーキャーするのはバカバカしい」という理由でファンクラブには入っていない。
125 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:14
誰にも言ってないけれど、亀井先輩には私も密かに憧れている。でも、私はファンクラブに入っているような人達とは違う。
彼女達のように、可愛いから、綺麗な人だからという理由で亀井先輩に憧れているわけではない。
126 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:15




――――――――



127 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:15
夏休みが明けてすぐの頃だった。
学校の帰り道、小さな子供が泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
角を曲がると、地面にしゃがみこんでいる小さな子供が目に入った。転んですりむいたのか、両手で膝を押さえている。

その子供と一緒にいたのが亀井先輩だった。
128 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:16
ボーッと眺めていると亀井先輩は鞄から絆創膏を取り出し、泣いているその子の膝に貼ってあげた。

「大丈夫だよー。痛いの痛いの飛んでけー。」

何回か「痛いの痛いの飛んでけー」を繰り返すうちに子供の泣き声は小さくなり、やがて泣き止んだ。

「泣き止んだねー、偉いね。」

子供の頭を撫でてあげている亀井先輩の優しい笑顔に、胸が高鳴った。
129 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:17




――――――――



130 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:17
れいなは朝や帰りに亀井先輩を見かけると、挨拶を交わしたりしているらしい。そのおかげで2人は結構仲がいい。
それに比べて私はただ遠くから見ているだけ。声をかける勇気もない。
亀井先輩と挨拶を交わしたことを嬉しそうに話すれいなが、羨ましかった。
131 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:18
数学の時間。先生の説明はちんぷんかんぷんで、そうなると必然的に寝るか他のことを考えるかのどちらかになってしまう。今回は後者だった。

―――亀井先輩は今頃、真面目にノートとってるのかな。意外に寝てたりするのかな。

凛とした表情でノートをとる亀井先輩を想像する。そして、教科書の陰であどけない表情をして寝ている亀井先輩を想像する。
想像だけでドキドキしてしまう。

「み……げ!おい、道重!」

耳元で大声がして我に返った。先生がじっと睨みつけている。

「さっきから何回も呼んでいたんだがね。」
「……すみません。」
「昼休みになったらすぐ職員室に来るように。」
「…はい。」
132 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:19
「最近しょっちゅうボケーッとしているな。そういうのは学年1位になってからにしろ!」

昼休み、これでもかというくらいに叱られている私。ずっと立ちっぱなしで足が疲れてきた。

「失礼しまーす」

職員室のドアがガラガラと開く。入ってきたのは―――亀井先輩。
一瞬だけ目が合い、ドキッとする。

「言ってるそばから余所見するな!」

軽く頭をグーで叩かれ、渋々体の向きを戻す。
こっそり目だけで亀井先輩を追うと、何やらプリントの束を受け取って運んでいた。
133 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:20
その日の帰り。

「はぁ……」

気分は最悪だった。先生にガミガミ怒られるわ、それを亀井先輩に見られるわ。
そして、不幸というのは重なるもので。

「きゃっ」

空を見ながら歩いていたせいで、凍っていた地面で滑って見事に転んだ。

―――あー、もう嫌!

憂鬱すぎて立ち上がるのも面倒になり、尻餅をついた格好のまま地面に座っていた。
134 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:20
「大丈夫!?」

後ろのほうから慌てたような声。

「大丈夫?どこか痛くしてない?」

大丈夫です。そう言おうとして相手の顔を見たところで、頭の中が真っ白になった。
135 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:21
―――亀井先輩……!

「あ、だだだだだ大丈夫です!」
「よかった。立てる?」
「は、はい。」

立ち上がろうとしたら、手を貸してくれた―――つまり、手が触れた。
思わずビクッとする。

「あ…ごめん」
「い、いえ!ありがとうございます!」

顔がものすごく熱い。
136 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:22
自然な流れで、一緒に帰ることになった。内心、かなりアガっている。

「道重さん…だよね?」
「え…私のこと知ってるんですか?」
「うん。みんな可愛い可愛いって噂してるよ?」
「そ、そんなことないです!」

亀井先輩の前だと、私がいつもの私じゃない。可愛いという言葉に対して否定したのは生まれて初めてだと思う。

「亀井先輩のほうが……ずっと綺麗です…。」
「うへへ、褒めたって何も出てこないよ?」

―――亀井先輩、「うへへ」って笑うんだ。でも可愛い…
137 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:22
他愛のないことを話しながら帰ったけれど、緊張で何を話したかほとんど覚えていない。

「あ、私こっちだから。それじゃあ。」

偶然一緒に帰ることができたけれど、もうお別れ。名残惜しい。
今度亀井先輩と話ができるのは、いつになるだろう。

今日一緒に帰れたのは、きっと神様がくれたチャンス。

「あ、あの…!」

亀井先輩が振り向き、目が合う。じっと見つめられて心臓が爆発しそうになりながら。

「また……一緒に帰ってもらってもいいですか…?」

亀井先輩は一瞬驚いたような表情を浮かべた後――――――ふにゃっ、と柔らかく微笑んだ。

「絵里でいいならいつでもいいよ?」
138 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:23




――――――――



139 名前:Make miracle! 投稿日:2006/01/13(金) 09:24
「で、毎日一緒に帰っとーと?」
「うふふ、いいでしょー。遠くから見てるだけだった人と一緒に帰れるなんて奇跡みたいだよね。」
「羨ましかあ。れいなと3人で一緒に帰るってのは?」
「だめー!」
「…ケチ。」
「ケチで結構ですぅ。」

『奇跡』は神様がくれるものだと思っていたけれど……
ほんの少しの勇気、ほんの少しの努力があれば、誰でも『奇跡』は起こせるのかもしれない。


fin.
140 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/13(金) 09:29
『Make miracle!』でした。この話、続編(の設定)を思いついたのでそのうち書くかもしれません。
…ところで、東京はこの時期道路が凍っているのでしょうか。

次から2回ほど、音楽の歌詞をイメージしたものでも書こうかなと思っています。
著作権云々の問題にならない程度にするつもりですが、ちょびっとだけ怖かったり(汗
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/13(金) 18:52
新鮮なさゆえりですね。続編期待!

作者さんどこの人なのかばっちり分かってしまったw
この週末の暖気には気をつけてくださいね。
142 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/20(金) 09:26
気が付けばもう1月下旬。次回作の長編、進んでるんだか進んでないんだか微妙です。そろそろ向こうのスレに予告編を載せねば。

>>141 名無飼育さん様
ありがとうございます。裏切るのが怖いので、あまり期待せずにお待ちいただければと思います(汗
暖気が通り過ぎた後はうって変わって大雪なんですがorz


歌詞シリーズ第一弾、と思いきや>>95-105も歌詞シリーズだったので第二弾ですね。
れなえりです。
143 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:27

しとしと、と雨の降る音以外は何も聞こえないくらい、静かな部屋の中。

何かをするわけでもなく、私はただ物思いに耽っている。
144 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:27




――――――――



145 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:28
1か月くらい前だったと思う。

「さゆと別れた」

れいなからその言葉を聞いた時、心から同情できるほど私は大人じゃなかった。

ずっと想い続けてきたれいなにさゆが好きだと打ち明けられ、さゆにはれいなが好きだと打ち明けられ。2人の恋のキューピッドになるしかなかった私は、れいなへの想いを袋の中に密閉した。

そのれいなが、さゆと別れた。

密閉していた袋の口が、開いた。

「じゃあさ、今度のオフの日、気晴らしにどこか行こうよ。」

れいなに元気を出してほしくて言ったのか、それともれいなを私に振り向かせたくて言ったのか、私自身にもわからない。どちらもあったのかもしれない。

私はれいなと、気晴らしという名のデートをすることになった。
146 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:29




――――――――



147 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:29
街で服やアクセサリーを見たり、ゲームセンターでUFOキャッチャーに興じたり。れいなに元気を出してもらうために出かけたはずなのに、一番楽しんでいたのは私のほうだったかもしれない。

それでも、れいなもアクセサリーを見て目を輝かせたり、UFOキャッチャーで猫のぬいぐるみを取って無邪気に喜んだりしていて。それを見て、すごく安心したのを覚えている。
148 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:30
ゲームセンターを出てぶらぶら歩いていた時。ふと、隣にいたはずのれいなの姿が見えないのに気付いた。
辺りをきょろきょろ見回すと、後ろのほうで何かをじっと見つめながらゆっくりと歩くれいなを発見。急いで駆け寄った。

「何見てるの?」
「ん…これ、綺麗だなーと思って。」

れいなが指さした先には、ショーウインドウに飾られた真っ白なウエディングドレス。

「綺麗……。さゆとかが着たら似合いそうだね。…あっ。」

思わず口を手で抑えたけれど、もう遅い。何気なく漏らした感想で、れいなの傷口に塩を塗ってしまった。

「あ…その……ごめんなさい……。」
「ううん。でも本当に、さゆが着たら似合いそうっちゃね……。」

笑っていても、今にも泣き出しそうな笑顔。

「……行こっか。」
「うん…。」

もう一度だけちらっとウエディングドレスを見て、ゆっくり歩きだす。
149 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:30
「あ、れいな、段差気をつけ…」

言い終わる前に、れいなが段差で躓いた。転びそうになっていたれいなを、とっさに手を差し出して受け止める。

「あ……ありがと。」

私の右手に、れいなの左手が触れている。私の左手に、れいなの右手が触れている。意識のすべてがそこに集中していた。

体が熱く、熱に浮かされたような感覚になる。体の内側からじわじわとにじみ出てくる感情は。華奢なれいなが壊れてしまうほど、きつく抱きしめてしまいたい。れいなを自分のものにしてしまいたい。純粋であり、醜くもある感情。
150 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:31
「絵里……?」

私を現実に呼び戻したのは、か細い声。れいなが、少し怯えたような目で私を見ていた。そこで初めて、れいなの手を相当な力で掴んでいたことに気付く。

「ごめんっ…!」

覆水盆に返らず。手を放したけれど、気まずい雰囲気はどうにもならなかった。
151 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:32
結局それからは気まずい雰囲気のままで終わってしまった。でも、家に帰るとすぐにメールがきて。

『楽しかった。ありがと。』

短くて素っ気ない文だけど。私には、顔を赤くしながらメールを打つれいなの姿が想像できた。「ありがとう」がなかなか言えない、ちょっぴり恥ずかしがりなれいなの姿が。
152 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:32




――――――――



153 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:33
携帯の着メロが鳴り響き、現実に引き戻された。
画面に表示された「れいな」の文字に、心拍数が一気に上昇する。

「…もしもし。」
『絵里?』
「うん。」
『えっと……手紙、読んだとよ。』
154 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:33
手紙―――俗に言う、ラブレター。自分の口で想いを伝える勇気が出せず、今日の帰り際に渡してきたもの。

その返事がまさに今、れいなの口から発せられようとしている。

聞きたい。聞きたくない。その細い細い境界線の上にある、微妙な気持ち。

そして……。

「絵里、最悪。」
155 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:34
「え……?」

イエスでもなければノーでもない答え。……でも、最悪ってことはノー?

スーッと、体から力が抜けた。
不思議と悲しい気持ちはない。きっと、電話を切った瞬間に一気に悲しみが押し寄せるのかな、と妙に冷静になって考えていた。

そのせいで。れいなの言葉を、よく理解できなかった。

「どうやって絵里にコクるか考えてた時に絵里からコクるんやもん、ほんと最悪っちゃ。」
156 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:35
「え………今、何て……」
「だーかーら!さゆと別れたのは他に好きな人ができたからだって言っとろうが!!」

さっき抜けたはずの力が、もう一度抜けた。
157 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:35




――――――――



158 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:36
翌日の番組収録前。楽屋から少し離れたところに、さゆを呼び出した。

「あ、あの、さゆ…」
「おめでとう、絵里。」
「え……」
「れいなに告白したんでしょ?昨日手紙渡してたもんね。」
「あー、うん……。」

ふふっ、と微かに笑い声が聞こえた。

「れいなに『他に好きな人ができたけん、別れてほしい』って言われた時ね、すぐに絵里だってわかったの。それでさゆが泣いて『別れたくない』って縋ったんだけどね、れいな、おどおどするかなと思ったけど全然おどおどしなかった。きっぱり『ごめん』って。」
「そう、なんだ……。」
「だからね、絵里にはれいなと幸せになってほしい。じゃなきゃれいなを返してもらうの。」
「さゆ……絵里とれいなのこと、恨んでない……?」

恐る恐る聞くと、さゆは怒ったような声で即答した。

「さゆは心も綺麗で可愛いの。」
159 名前:想い 投稿日:2006/01/20(金) 09:37
その日の帰り。もちろん、れいなと2人で帰っている。

「れいな、約束。」
「なん?」
「いつでも、絵里の側にいてね?」
「うん。絵里もやけんね?」
「もっちろん。」

どちらからともなく、小指と小指を絡ませる。


「「ゆーびきーりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった!!」」


fin.
160 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/20(金) 09:43
『想い』でした。タイトルが『オモイ』になった途端、PCの動作がいつになく重くなりました(殴
テーマ曲は>>159のメール欄を参照。

ちょっと宣伝なんぞを。
衝動買いならぬ衝動開設で、ブログ始めてみました。
ttp://blog.goo.ne.jp/kakedashi3948/
小説のことも、小説に全く関係ないことも、いろいろ気軽に語っていきたいなあ、と。
よろしければ覗いてやってください。
161 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/29(日) 09:10
ブログ開始から一週間ちょっと。意外と書ける。毎日1000字くらいになるのですが、短くまとめる能力が欲しい今日この頃。

はい、歌詞シリーズ第二弾(第三弾?)です。方向性が定まらないまま書いてたらわけわからなくなりましたorz
笑うしかないような出来になってますがどぞ。れなさゆです。
162 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:10

収録前の楽屋。

私は今、何やら楽しそうに話している絵里とれいなを少し離れたところから眺めている。
163 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:11
さっきまで私の側にいてくれたれいなが絵里に呼ばれて離れていったのは、ちょっぴり複雑な気持ち。
でも、れいなを信じている。れいなは誰よりもさゆを好きでいてくれるって。

れいなを見ているだけでぽかぽかする心と、他の誰にも触れてほしくないというほんのちょっとの独占欲。
全部まとめて、「愛している」という気持ち。
164 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:11
「お待たせー」

話が終わったのか、れいなが戻ってきた。

「絵里と何話してたの?」
「……秘密、って言ったら?」
「れーなのこと嫌いになっちゃうかも。」

嫌いになっちゃうわけがないのは、私もれいなもわかっている。私とれいなだからできる、ちょっとした言葉遊び。

「絵里、『さゆにばっかり構ってずるいー!』って言ってたと。」

ちらっと絵里のほうを見た。……なるほど。少し不貞腐れたような目でこっちを見ている。

「絵里と三人で話さん?」
「ぅー……」

正直言うとちょっと嫌。何より、絵里がれいなとベタベタしたがるし。
れいなのこういう誰にでも優しいところは好きなんだけれど、今だけは嫌い。
上目遣いでれいなを見つめてみたけど、効果なし。

「帰りはずっと2人っきりやけん。ね?」
「…わかった。」
165 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:12
「れーな会いたかったー!」

目の前には、れいなに思い切り抱きついている絵里。そして、「やめんねー」と言いながらも顔は笑っているれいな。

ここまでになると、いくらなんでも見ていられない。

何で、人の恋人に平気でベタベタするの?何で、拒まないの?

2人にとってはじゃれあっているだけのつもりなのはわかるけど。れいなが、絵里に特別な感情を抱いていないのはわかるけど。そんな理屈抜きに、見ていられない。

「……トイレ行ってくるの。」

逃げるように、楽屋を出た。

心のどこかで、れいなが追いかけてきてくれるのを期待して。
166 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:13
最悪最悪最悪最悪最悪。
楽屋前の廊下に座り込む私の頭の中を、「最悪」の2文字が円を描いてグルグル回っている。子供じみた嫉妬心は、ただれいなを困らせるだけ。

「さゆー。」

やっぱり来てくれた。ちょっと心配そうに、私を見つめている。嬉しいのに。本当に嬉しいのに。

「何…?」

出てくるのは、不機嫌でぶっきらぼうな声。

「怒っとーと?」
「別に。」
「怒っとるやん。」
「怒ってません。」
「そっかー。怒っとらんなら、絵里と 2 人 で 話してくるけん。」

2人で、のところをわざとらしく強調して言われる。

「……それは、やだ。」

妬いて、拗ねて、嘘をついてれいなの気を引こうとする私は子供で。それを見抜いて本音を言わせるれいなは私より一枚も二枚も上手。
167 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:13
「絵里がれいなに1分間触ったら、さゆがれいなに2分間触るの。」
「うわ……なんねそのルールは。」
「れいなに拒否権はありません。」
「あーもう……好きにすればよか。」

廊下に座り込んで、れいなにムギューッと抱きつく。なんだかとっても安心する。

「れいな、絵里とさゆの2人も相手しなくちゃいけなくて大変だね。」
「なん?それじゃ、さゆはれいなの負担を減らすのに協力してくれると?」
「……しない。」
168 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:13
「あーっ、さゆずるい!!絵里もー!!」

楽屋から出てきた絵里が、私の反対側かられいなに抱きついた。

「絵里!れいなから離れるの!!」
「さゆのほうこそ!!」
「暑苦しい!!2人とも離れるっちゃ!!」

そのあとは、私と絵里のどちらを選ぶか詰め寄られたれいなが小声で「…さゆ。」と呟き、絵里が大声で泣き出し、楽屋にいた藤本さんが「お前らうるさい!!」と半ギレになり、吉澤さんと藤本さんに3人まとめて叱られた。小春ちゃんに哀れむような、軽蔑するような目で見られて余計に悲しくなった。

「あー、これから収録なのにクタクタに疲れたばい。」
「……ごめんなさい。」
「や、さゆのせいじゃ……なくないか。じゃあ、お詫びにキスして。そうすれば疲れも吹っ飛ぶけん。」

こういうお詫びならいくらでもしたい。そう思いながら、唇をちょこんと触れ合わせた。
169 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:14



ちなみに。絵里は収録が始まる直前まで隙間に挟まっていじけていたけれど、れいなと2人で謝って、とりあえず一件落着。


170 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:15




――――――――



171 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:15
帰り道。れいなと2人で帰るはずだったのに、なぜか絵里もついてきた。
左かられいな、私、絵里の順に並んで、3人で手を繋いで歩いている。……絵里とれいなには、絶対手を繋がせてあげない。

「ねー、れいなはさゆが絵里と手を繋いでも何とも思わないの?」
「ん、別に。」
「れーなは誰かさんみたいにお子ちゃまじゃないもん。ねー、さゆ?……痛い、痛い!」

握っていた絵里の手に爪を立ててやった。絵里のほうがよっぽどお子ちゃまなくせに。

「恋人が他の人と手を繋いだりしてたら、妬くのが普通じゃないの?」

ちょっぴり非難がましく聞いてみる。そうしたられいなは「だって」と言いながら悪戯っぽい笑顔になった。


「さゆが他の人と手を繋いだって、さゆは絶対にれいなのことが好きやけん。全然妬かん。」
172 名前:見つめる 投稿日:2006/01/29(日) 09:16
ああ、やっぱりれいなは大人なんだ。
れいなは、本当の意味で私のことを見てくれているんだ。目に見える行動だけじゃなくて、心の中までちゃんと。

私も『心の目』でれいなを見れば、もっともっと、れいなを好きになれるのかな――――。


fin.
173 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/01/29(日) 09:26
『見つめる』でした。テーマ曲は>>172のメール欄に。曲の雰囲気と作品の雰囲気が違う気がしてならない……。
亀ちゃんは大人っぽくてもお子ちゃまでも、どっちでも可愛いよ(w
从*´ ヮ`)<……  从*・ 。.・)<……
も、もちろんれいなも重さんも可愛いよ(焦

次回は『Make miracle!』の続編でも。「色っぽいじれったい」感じに仕上げてるつもりです。
174 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/08(水) 09:06
最近マフラーを巻いてヨン様気取りしている作者でございます(殴 ちゃんとメガネもかけてますし(どーでもいい)

>>123-139『Make miracle!』の続編です。今回は亀井さん視点。
175 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:08

自慢じゃないけど、絵里はモテる。

一番上のひとみお姉ちゃんが入学した時にできて以来ずっと続いている『亀井家ファンクラブ』の人数の多さが、全てを物語っている。。
でも。慕ったり好きになってくれるのは嬉しいけれど、何かが違う。きっとファンクラブの子と付き合う気にはならないだろうな、と思っていた。

さゆと初めて話をしたのは、その年の冬。
176 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:08
学校の帰り道、前のほうに女の子を見つけた。2年の間でも可愛いと噂になっている、1年の道重さゆみ。確か、れいなと同じクラスの子だったかな。
いつか「れいなはファンクラブに入らないの?」と冗談で聞いたら、「あいつらなんて、先輩を外見でしか見とらんけん」と怒っていて。その言葉が嬉しくて、それ以来れいなと親しくなった。

で、れいなが言うには、「さゆはナルシストだけど、大人っぽいところもある」らしい。
177 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:09
その道重さんといろいろあって、気がついたら一緒に帰ることになって。
いろんなことを話したけれど、素直に可愛い子だと思えた。顔を真っ赤にして、噛みながらも一生懸命に話してくれて。
別れ際、ますます真っ赤な顔で「また一緒に帰ってもらってもいいですか?」と言われた時は、頬が緩むのを隠せなかった。
178 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:09




――――――――



179 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:10
今日も授業が終わるとすぐに、さゆと一緒に帰るために1年の教室へ向かう。
今日は帰りに近くの喫茶店でお茶でもしようと約束していて、廊下を歩きながらも顔がにやけそうになるのを必死にこらえた。

ふと、ファンクラブの子やれいなとさゆの違いは何なのかな、と考える。さゆ以外の子にお茶に誘われてもよほどのことがない限りノーとは言わないけれど、私のほうから進んで誘ったのは、さゆが初めてだった。

―――何か…さゆは守ってあげたくなるような子なんだよね。儚いっていうか、健気っていうか。
180 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:10
さゆのクラスについた。ホームルームは既に終わったみたいで、がやがやと話し声が聞こえてくる。
最初の頃のようにこそこそすることもなく、堂々と中に足を踏み入れる。

「あ、亀井せんぱーい」と手を振ってくれた子に笑顔で手を振り返し、さゆの席を見た。…あれっ、いない。隣の席にはれいながいた。

「れいなー、さゆどこにいるかわかる?」
「あ、先輩。さゆなら屋上行きましたと。『大事な話がある』って呼び出されたみたいで。」
「そうなんだ。わかった、ありがとね。」
「先輩……!もし良ければ、今度先輩とさゆとれいなの3人で帰りませんか…?」
「うん、絵里は全然いいよ?」
「ありがとうございます!」

花が咲いたような笑顔を見て、れいなもこういう可愛い表情するんだ、と微笑ましくなる。普段はキリッとしているイメージしかなかったから。

……さて、どうしよう。さゆが戻ってくるのを教室で待つか、屋上に行くか。
「屋上」で「大事な話」と言えば、きっと告白。さゆに告白するのがどんな人なのか、そして、さゆの返事は。ものすごく気になる。

誘惑に負け、屋上を覗き見しに行くことにした。……ごめんね、さゆ。
181 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:11
屋上は本来立ち入り禁止なんだけれど、告白スポットとしてみんな利用している。屋上から飛び降りたりした人もいないから、先生のチェックも厳しくない。

窓越しにこっそり、屋上の様子を覗き込む。意外な光景が広がった。

―――5人もいる……みんなさゆに告白するのかな?でも、さゆが見あたらない…。

会話を聞こうと、音を立てないように窓を開けた。

「テメーちょっと可愛いからっていい気になってんじゃねーよ!」
「亀井先輩はみんなのもんだから誰かが独り占めしちゃいけない、っていうのがファンクラブの中の決まりなんだよ。それなのにテメーは亀井先輩と毎日帰りやがってよぉ!!」

よく見ると、5人の足下にさゆが倒れていた。時折蹴られて顔を歪めている。

目の前で繰り広げられている光景に吐き気がした。どうして、さゆがあんな目に遭わなければならない?さゆが一体何をしたの?


「やめて!!」

182 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:12
気がついたら叫んでいた。
5人が一斉に振り向く。

「か、亀井先輩……」
「どういうこと……?さゆがあなた達に何かしたの?ねえどうなの!?」

興奮して大声が出る。でも、あるのは怒りではなく悲しみ。なぜだか分からないけれど、悲しかった。

「………すいません、でした。」

呟いて、5人は逃げるように屋上を出ていく。
183 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:12
「さゆ!!」

急いで、地面に仰向けになっているさゆのもとに駆け寄る。大丈夫!?と言いかけて、やめた。たとえ身体が大丈夫でも、心は大丈夫なはずがない。

「ケガしてない…?」

弱々しくだけれど、コクッと頷いてくれた。

肩を支えて、ゆっくりと体を起こしてあげる。
184 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:13
「怖かった……」

私の肩にしがみついて、さゆが肩を震わせて泣き始めた。

「ごめ…ん……なさい……。」

私の制服に涙が付いて慌てて離れようとしたさゆを、すっと自分のほうに引き寄せる。泣いているさゆが儚くて、消えてしまいそうで。どこかに行ってしまわないように、ぎゅっと包み込んだ。

泣いているさゆを見て、包み込んでいて、思った。


―――許されるのなら、ずっとこの子を守っていてあげたい。
185 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:14
屋上を出て教室にさゆの鞄を取りに行く時、自然に私達は手を繋いでいた。特別な意味はない。ただ、手を繋ぐことでさゆを安心させたかった。

鞄を取って、下駄箱まで歩いて靴を履き替える。その間、会話は一言もなかった。でも靴を履き替える時以外は、ずっと手を繋いでいた。気まずいのに、心地いい。
186 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:14
校門のところまで歩いた時、しばらくぶりにさゆが口を開いた。

「あの………お茶、していきましょう……?」
「ふえっ…?」

まさに今、私が口にしたいのを必死に我慢していた言葉。

「その……約束…してたから……」
「で、でも……ほら、さゆ、疲れたでしょ?絵里に気を遣わなくてもいいんだよ?」

本当は今行きたくてしょうがないけれど、あんなことがあった後だから。お茶は今度にしようと、そう思っていたのだけれど。

「前から楽しみにしてたし……それに、先輩とお茶すればすぐ元気になっちゃいます。」

浮かんだ笑顔には一点の曇りもなくて。私の顔も、自然に綻んだ。

「わかった。じゃ、行こっか。」
「はい!」
187 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:15
学校からそれほど遠くない場所にある喫茶店。私は時々来ているのだけれど、さゆは初めてだと言っていた。

私は紅茶と苺のショートケーキ、さゆは紅茶とチョコレートケーキを。おいしそうにケーキを食べているさゆはとても幼く見えて、それがまたたまらなく可愛らしい。

「ふふっ、さゆ、口にチョコレート付けてるよ。」

口の横の茶色くなっている部分を指で取ってあげると、さゆの顔がみるみる赤くなった。
母性本能をくすぐられる。いや、それ以上に胸がドキドキする。

恋、なのかな。
188 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:16
さゆがトイレに行った隙に、お会計を済ませてしまった。普段友達と来る時は駄々をこねて逆に奢ってもらっているくらいなのに、今だけはどうしても先輩ぶりたかった。相手がさゆだから、なんだと思う、きっと。

私が2人分払ったのを知ったさゆはすぐに自分の代金を私に差し出したけれど、意地でも受け取らなかった。
189 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:16
いつも帰る時、さゆと別れる十字路に来た。いつもよりもあっと言う間に思える。

「あのね、さゆ。」

「はい?」
「えと……またあの子達に呼び出されたら、絵里に言って?やっつけてあげるから。」

さゆはニコッ、と微笑んだ。ケーキを食べている時とは別人のような、大人びた笑顔。

「なんかね……」



「絵里、さゆのこと好きになっちゃいそう。」
190 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:17
こんなことをさらっと言ってしまうのも、可愛い妹のような子だからなのかな。
冗談だと思ってほしかったし、本気だとも思ってほしかった。はっきり「恋」とは断定できないけど、好きになりそうという言葉に嘘はないから。

さゆは一瞬驚いた表情を見せたけれど、私の微妙な気持ちをなんとなくでもわかってくれたのかもしれない。完全に本気にするでもなく、完全に笑い飛ばすでもなく、少しはにかんだような笑顔になった。

「じゃあ……好きになっちゃった時は、言ってくださいね…?」
191 名前:守ってみせる 投稿日:2006/02/08(水) 09:17
恋の甘酸っぱい香りは、すぐそこまで来ている――――。


fin.
192 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/08(水) 09:21
『守ってみせる』でした。自分の中ではさゆえりもけっこうキてます。
 |´ ヮ`)……
田中さんの出番は次回。
193 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/09(木) 11:22
更新お疲れさまです。
密かにずっと読んでいましたが、勇気が出らず・・・今日初めて書き込みさせて頂きます(ヘコヘコ
作者さん独自の柔らかい雰囲気がすごく好きですねw
次回更新も楽しみにしております。
194 名前:初心者 投稿日:2006/02/15(水) 10:05
更新お疲れ様です
Make miracleの続編うれしいです
えりとってもかっこよかったです
さゆも可愛くて、守ってあげたくなるえりの気持ちがわかります
次回更新楽しみに待ってます
195 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/15(水) 10:28
今まで生きてきた中で本命チョコなるものをもらったことがない作者の登場です。

>>193 名無飼育さん様
レスありがとうございます。柔らかい雰囲気……まさに作者が目指していたものです。そう言っていただけてすごい嬉しいです。

>>194 初心者様
ナイスタイミング自分(ぇ 今日はゆっくり寝てたので。
ありがとうございます。基本的にれなえりの亀ちゃんは可愛く、さゆえりの亀ちゃんはかっこ良く書くようにしてます。
れいなはかっこ良いけどちょっとヘタレ、重さんはいつでも可愛く。
从*・ 。.・)<可愛く書くのが当然なの!


今回はれいな視点れなえり。雪が舞っている薄暗い夕方を思い浮かべて読んでいただければ。
196 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:30

ここ2年くらい、恋をしていない。

前の恋が散ったのが2年前。「絵里」と呼び捨てにするくらい親しかった1つ上の先輩が中学校を卒業した日に、想いを打ち明けた。

「その……れいなは可愛い妹みたいな感じだから……恋愛とかそういう対象としては見れない……。」

最大限に丸く、滑らかな曲線のようにしてくれた言葉でも、私の心をズタズタに切り裂くには十分な鋭さだった。
197 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:30




――――――――



198 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:31
学校の帰りに冬道を歩きながら、まだ鮮明に覚えているその出来事が頭の中に蘇り、ふうっとため息をつく。
私の中では、もうあの恋は終わった。それでも、記憶は吐き出した白い息のように簡単には消えてくれない。

「ため息ついてるれいなは可愛くないの。」

一緒に歩いている、同じクラスの親友さゆの言葉で現実に引き戻される。

「ため息ついてなければ可愛いと?」
「うん。でも、さゆの次にね。」

言うと思った。「はいはい」と適当に流したら、さゆは頬を膨らませて拗ねてしまった。

―――そういえば。絵里も、拗ねたらよく頬をふくらませていたっけ……。

私は絵里と違う高校に進んだから、もうずっと会っていないけれど。笑った顔、拗ねた顔、泣いた顔、びっくりした顔。今でもみんな覚えている。
199 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:31
回想モードで相手をしていなかったせいか、さゆは家の前に着くと「れいなのバカ」と捨て台詞を吐いて中に入っていった。

そんなさゆの様子をぼんやりと見送ったあと、再びとぼとぼと歩き出す。

不意に、頬に冷たいものが触れた。雨だと思ったその正体は、雪。

暖かい家の中から眺める雪は好きだけど。ここだと冷たいし、寒さで耳が痛いし、あまりいいことがない。早く帰ろう。
200 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:32
前方に見える歩行者用信号が青から点滅に変わったのを見て、急いで走った。しかし努力は報われず、横断歩道の10メートルくらい手前で赤になる。ツいてない日っていうのはこういう細かいこともツかないもんだ、と苦笑いした。

ただ、同士がいたらしく、右のほうから2人組の女子高生が走ってきた。「うわー、間に合わなかったかー」と残念そうな声に続いて、「うへへ、惜しかったね」とこちらはあまり残念じゃなさそうな声。――――確かに聞き覚えのある、その声。
201 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:33
恐る恐る、顔を右に向ける。

彼女も、こっちを見ていた。

脳が身体に命令を出す時間が果たしてあったのか。目が合ったその瞬間に、回れ右して走り出した。曲がってきた車にひかれそうになってヒヤッとしたけれど、ずっとずっと、息が切れるまで走り続けた。
202 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:34
彼女が絵里だったのか、はっきりとはわからない。目が合った一瞬の、彼女の表情もあまり思い出せない。ただ、彼女はあまりにも絵里にそっくりだった。

なぜ逃げ出したのか、今になって不思議に思う。…彼女が絵里だったとして、合わせる顔がなかったのか、あるいは何かが怖かったのか。

考えたところで、答えは出なかった。
203 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:34




――――――――



204 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:34
それから一週間、再び彼女を見かけることはなかった。
学校の期末テストが近くなって勉強に忙しかったこともあり、彼女のことも頭の片隅に追いやられた。


そして彼女に再び会ったのはちょうど一週間後、同じ時間、同じ場所。
205 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:35
今度も私は1人、彼女は友達と一緒だった。状況は一週間前と全く同じ。ただ一つ違うのは、私が逃げ出さなかったこと。

私は彼女のほうをちらちら見た。彼女も私のほうをちらちら見ていた。時折、目が合った。

「ん?どうしたのカメ。」
「あ、いや……何でもないよ。」

彼女の友達が、彼女を「カメ」と呼んだ。絵里も中学の頃、クラスメートに「カメちゃん」「カメ」と呼ばれていた、と聞いたことがあるのを思い出す。95%だった確信が、限りなく100%に近くなる。

告白した日以来ずっと会っていなかった絵里と、2年ぶりの再会。

しかし、話しかけようにも友達がいるからできない。そもそも2人きりだったとして、何を話せばいいのかわからないだろう。

結局、再会は信号が青になるまでの2分に満たない時間だった。
206 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:35




――――――――



207 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:36
さらにその一週間後。やはり同じ場所で、やはり同じ時間。彼女―――絵里はそこにいた。

――――今度は1人で。

「れいな…っ」

か細い声だったけれど、確かに名前を呼ばれた。昔は絵里が呼んでくれるだけで特別な響きを感じた、私の名前。

「なん…?……絵里。」

そして、昔は口にするだけで胸が高鳴った、その名前。
208 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:36
絵里の次の言葉を待った。何かを期待する気持ちもなければ、不安な気持ちもない。何を言われるのか見当もつかなかったから。

しかし、絵里は何も言わない。少し俯いて、今にも泣き出しそうな、悲痛な表情を浮かべているだけ。

…そんな顔をしないで。例えふられて赤の他人のようになってしまった今でも、絵里のこんな表情を見るのは辛い。
209 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:37
やがて信号が赤から青になり、しばらくして点滅を始めた。それでも絵里は、まだ何も言わない。

「用がないんなら……行くけん。」

言ってすぐ、横断歩道を駆け抜ける。2週間前のようにずっと走り続けた。安堵と後悔の混じり合った、複雑な気持ちで。
210 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:37




――――――――



211 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:38
一週間後。
今度は違う道を通ろうかとも思ったけれど……やっぱり同じ道を通ることにした。絵里が私に用があるのなら、今日もいるだろう。それなら用を聞けばいい。いなかったらいなかったで別に構わないし、寂しいとも悲しいとも思わない。

もう、2年も前に終わらせたはずの恋なのだから。
212 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:38
………いた。今日も1人で、信号が青になっても渡らずに待っている。

歩いていき、黙って絵里の目の前に立った。顔を上げた絵里が「あ…」と声を漏らす。
今日も、私は何も言わない。あとは絵里次第。

「あの……」
「…………」
「……ちょっと…話したいんだけど……いいかな…?」
「…ていうか、そんなビクビクされても困るけん。」
「あ……」
「これじゃあ傍から見ればカツアゲでもしてるかと思われると。」

絵里にビクビクしないで、笑ってほしくて言ったんだけれど。「…ごめん」と蚊の鳴くような声で謝られただけだった。
213 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:39
「……で、話っていうのは?」
「……………」

また、俯いて黙り込んでしまった。内心イライラしていたけれど、それを表に出さずにじっと待つ。

「……れいなは、今は絵里のこと、嫌い?」
「え…?」

もともと何を言われるか見当もつかなかったけれど。この質問は本当に驚いた。

「や……嫌い…ではないけど……。」

でも、好きなのかどうかはよくわからない。少なくとも、2年前までの燃えるような「好き」とはすっかり気持ちが変わってしまった。

「高校に進んでから……れいなのことばっかり考えてて………それで……」

言いながら、絵里の頬を雫が伝っていった。

「…れいなのこと……妹みたいだって言ってたけど……本当は好きだったのかなあ……って……」
214 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:39
嬉しい…?何とも思わない…?迷惑…?
自分が今どう思っているのかさえ、よくわからない。

「もしれいなが…絵里をまだ好きでいてくれてるなら……付き合って…ほしいの……」

泣いている姿に胸が締め付けられる。でも……私は、絵里が好きなのだろうか。

「……ごめん…ちょっと……考えさせて。」

今は、こう言うことしかできなかった。
215 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:40




――――――――



216 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:40
一週間、悩みに悩んだ。おかげで勉強がはかどらず、期末テストは散々だったげど。

一度終わった恋を続けるか、最後の「終わり」にするか。
決断したのは、告白されてから一週間後―――返事をする当日の朝だった。
217 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:40
先週と、先々週と、三週間前とずっと同じ場所。そして今日も、絵里はそこにいた。
ただ、三週間前に見た時のような笑顔ではなく、先々週のような驚いた顔でもなく、先週のような泣きそうな顔でもなくて。覚悟を決めてきた、というようなきりっとした表情だった。
一瞬、思わず見とれてしまう。

私に気付いた絵里が一瞬、にこっと微笑んだ。なんだか、絵里よりも私のほうが緊張しているのではないかと思ってしまう。

「すっごい悩んだけど……決めた。」

単刀直入に話し始める。気の利いた前ふりも思いつかなかったし。

「自分の中では……絵里にふられた時、何もかも終わりにしたつもりだった。未練とか後悔とか、そういうのは全部捨てた。」

絵里が黙ってひとつ頷く。

「だから………」



「……今更告白されても正直迷惑やけん………。」
218 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:41
辛い言葉を一息に言って、上を向いた。今にも涙が出そうだったから…。
本当は迷惑だなんて思っていない。告白されて嬉しかった。ただ、一度finの字を刻んだ物語を再開させたくなかっただけ。

でも、中途半端に断るよりもきっぱり拒絶したほうが、私のためにも絵里のためにもいいだろうと判断したから。心にもないことを言ってしまった。

「そっかあ…。」

絵里の声は、明るかった。それが私にとって唯一の救いかもしれない。

「ごめんね…?それと……一生懸命考えてくれてありがとう。」

絵里が手を差し出す。その手を弱弱しく握った。
温かくて、涙が流れそうになる。絵里の顔をまともに見ることができなかった。

「じゃあ……」

絵里が後ろを向いて、歩き出した。
ゆっくり、でも確実に、その背中が小さくなっていく………。
219 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:42
もうだいぶ小さくなってしまった背中を見ながら、私は泣いた。
これでいいんだと言い聞かせているのに、なぜこんなにも辛いのだろう。なぜ、こんなにも苦しいのだろう。

正義の仮面を被った悲劇のヒロインぶる心は、もはや悪の仮面を被った本心に勝てないほど弱っている。
220 名前:Last  End 投稿日:2006/02/15(水) 10:42


やがて。もうほとんど見えない背中を追いかけて、私は走り始めた―――――。


fin.
221 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/15(水) 10:47
『Last  End』でした。バッドエンドにするつもりが、書きながら胸が痛んだので少し方向転換しました。
このお話は1割の実体験と9割の妄想でつくられています(何

次回更新日は未定です。ちょっと間が開くかも。気長に待っていていただければ幸いです。
222 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/15(水) 10:53
そうだ忘れてた。蛇足ですがタイトルについて補足。
LastとEndの間に空白がありますが、この空白を考えないでくっつけると「LastのEnd」という意味。
空白のところに「or」を入れると、ちょっと違う意味になるかもしれません。
223 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/26(日) 09:04
藤本さんおたおめです。21歳かあ。
今日はちょっと浮気心を出して、最近はまっているみきさゆ書きます。重さん視点です。
224 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:04

2月26日。今日は藤本さんの誕生日なんだけれど、同時に私の運命の日でもある。


今日私は、藤本さんに愛を告白する。
225 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:05
楽屋にメンバー全員が揃ったところで、ささやかながら藤本さんの誕生日パーティーが始まった。全員で「ハッピーバースデー」を歌って、いつ用意したのかクラッカーを鳴らして。

そして、1人ずつ藤本さんにプレゼントを渡す。
226 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:06
私が今日藤本さんに告白することは、藤本さん以外の全員が知っている。れいなと絵里が「さゆが藤本さんを隣の部屋に連れて行って告白する」と予め伝えてくれたから。
何週間か前、2人に相談したら、告白のしかたとかをいろいろアドバイスしてくれた。絵里がれいなに告白する時に言ったという言葉を頭に叩き込んで、今日を迎えた。
227 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:06
「最後のプレゼントは…重ちゃん?」

いよいよきた。

「えっと……隣の部屋……来てください。」

不思議そうな表情の藤本さんを連れて、隣の部屋に向かう。
楽屋を出る瞬間、ちらっと後ろを振り返ると……みんなが握り拳をつくって、「頑張れ」というような仕草をしていた。
228 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:07
「なになに?この部屋に仕掛けでもあるの?」

隣の部屋に入った藤本さんは、興味深げに周りをキョロキョロ見回している。

「あの………藤本さん……」
「うん?」

優しい笑顔で見つめられて、こんな時でもドキッとしてしまう。

言わなきゃ……。

昨日まで何度も何度も練習した言葉を……

言葉……

言葉は……

何だった……?
229 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:07
緊張で、あれほど練習した言葉を思い出せない。

焦り。パニック。

「あははっ。重ちゃん口パクパクしてどうしたの?金魚みたいだよ。」

……笑われちゃった。
230 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:08
目の奥からこみ上げてきた涙は、あっという間に目尻から頬を伝って床に落ちる。

「重ちゃん!?」

藤本さんの声が聞こえたけど、視界がぼやけて姿は見えない。

しばらくして、温かい何かに体が包まれた。
231 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:08
「笑ったりしてごめんね、重ちゃん……」

私を優しく抱きしめて、何度も謝る藤本さん。
違うんです。泣いたのは藤本さんのせいじゃないんです。

私のせいで流れた涙は、優しすぎる藤本さんのせいで止まってくれない。

「ふじ……もとさん……の……こと……」
「美貴のこと……?」

嗚咽で聞き取りにくいはずの私の言葉を、藤本さんは一生懸命聞いてくれている。

「藤本さん……のこと……大好き……なんです……。」


伝わったのかな……。
藤本さんは何も言わない。
232 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:09
しばらくして、私を抱きしめる腕の力が強くなったのを感じた。

「美貴もさ、好きな人いるんだ。天然で、なんか危なっかしい子で、信じらんないくらいナルシストで。でもほんとに世界一可愛くて、今美貴の腕の中で泣いちゃってる泣き虫な子。美貴、その子のこと大好きなわけ。」


「美貴も、重ちゃんのこと好きだよ。大好き。」
233 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:09
「…ほら、だからもう泣かないで?重ちゃんは笑ってる時が一番可愛いんだからさ。」

藤本さんのばか。泣いてるのは藤本さんのせいです。藤本さんが優しすぎるから。それに……

「……さゆみは泣いてても可愛いの…」

そしたら藤本さん、お腹抱えて笑いだした。

「あっはははは!!重ちゃん泣いててもやっぱナルシストなんだ!あーお腹痛い。」

私がジト目で見ているのにも気付かずにしばらく笑い続けた藤本さんだけど、一頻り笑い終わるとまた優しい笑顔に戻った。

「うん、でも泣いてる重ちゃんも綺麗で可愛いと思うよ。ていうか重ちゃんの可愛くない表情なんてないからさ。」
234 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:10
「藤本さん……一つだけお願い聞いてください。」
「何?」
「さゆ、って呼んでくれませんか……?」

みんなに「さゆ」って呼ばれているけれど。
藤本さんが呼んでくれる「さゆ」は、特別だから…。


「……さゆ、大好きだよ。」

言い終わると同時に、唇を塞がれた。


唇を触れ合わせるだけの、たった3秒くらいのキス。
それでも、胸が熱くなった。
235 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:11
「……そろそろ、戻ろっか。」
「そうですね。」

楽屋に戻ったら、みんなに自慢しよう。
藤本さんの温かい手を握りながら、そう言って2人で笑いあった。

藤本さんが隣にいてますます可愛くなった世界一可愛い私は、藤本さんが隣にいて世界一幸せ。
236 名前:大好きです。 投稿日:2006/02/26(日) 09:11
告白するところもキスするところも、全て全員に覗き見されていたことを初めて知ったのは、その5秒後。


fin.
237 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/26(日) 09:22
『大好きです。』でした。
言い訳タイム。脳内イメージで「みきさゆは変にひねらないで素直に書いたほうがいいかな」と思って、タイトルも内容も一切捻りを加えませんでした。
いつも読んでる素晴らしきみきさゆ達の足元にも及ばないやん……_| ̄|○

次回。めっっっちゃくちゃ軽くですがエ○に挑戦してみます。エ○と言っても絡み合ったりするんじゃなくて、片方が欲情するお話です(w
18禁まではいかないなあ……13禁くらい(低っ)
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/27(月) 07:25
思わずニヤニヤ(゜∀゜)していたら、親が一言
「あんたキモい」と。危ない危ない。
次はエ○ですかw期待して待ってます。
239 名前:初心者 投稿日:2006/02/28(火) 20:04
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!!
さゆ美貴とっても良かったです
最後みんなに見られてるの知ったミキティを想像してニヤニヤしました
240 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/28(火) 23:45
駆け出し作者さんのおかげで
みきさゆが好きになりました!!
次回も「いっぱい期待」してます!!
241 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/03/10(金) 09:03
顎関節症とやらになっちまった可能性ありです。物食べる時に口大きく開けると頬が少し痛い。

>>238 名無飼育さん様
レスありがとうございます。大丈夫です、作者もみきさゆ読んだ後の顔は人に見せられないようなものですから(w

>>239 初心者様
ありがとうございます。最後藤本さんどんな反応したんでしょうか。
作者の妄想では、かなり照れながら必死の弁解、みたいな(w

>>240 名無飼育さん様
ありがとうございます。自分のおかげ……(ガクブル)みきさゆ書いたのは初めてなので、なんだか恐縮です。
もっと素晴らしいみきさゆを書く方もたくさんいらっしゃいますよー。


さて、エロというか欲情話。13歳未満の方は保護者の同意を得てご覧くださいませ(w
れなさゆです。
242 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:04

れいながさゆと付き合い始めて3ヶ月になる。まあその……キスは経験したけど、その先まではまだない。
243 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:04
「れーなぁ。」

水道水をア○エリアスに変えてしまえそうなほどの甘い声。絵里とか小春ちゃんも時々甘えたような声で私を呼ぶけれど、この声の甘さはレベルが違う。

「さy」

さゆー、と言い切る前に、突進してきたさゆに抱きしめられた。
しかも、イスに座っている私をさゆが立ったまま抱きしめる格好。つまり……ちょうど顔のところにさゆの大きな胸が当たっている。ヤバイ、鼻血出そう………。
244 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:05
「あー、れいながさゆの胸に顔うずめてる!!」

絵里がはやしたてる声。それに続いて、「小春は見ちゃダメ!」と言うガキさんの声。……ああ、たぶん、この中で一番「まとも」なガキさんと目隠しされているであろう小春ちゃん以外は、ニヤニヤしながらこっちを見ている。……というかその前に、そろそろさゆの胸で窒息しそうだ。
245 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:05
でもこの中で窒息死するのも悪くはない、なんてことを考えた瞬間、解放された。残ね…じゃなくて助かった。

傍から見れば刺激的なシーンが終わったからなのか、こっちを見ていた目はみんな別のほうを向いた。

窒息寸前になったこととみんなにヘンタイなことをしていると誤解されたことの文句を言ってやろうと思ったけれど、さゆの無邪気な笑顔を見ると何も言えなかった。

「れーなれーな、あのね。」
「なん?」
「…今夜ね、うちに誰もいないの。お泊まりしない?」

耳元でこっそり囁かれて、田中れいな、ノックアウトされました。

……本人は色気を出して誘っているという意識がゼロだから、余計にタチが悪い。
246 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:06




――――――――



247 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:06
仕事が終わると急いで家に行き、着替えなどを鞄に詰めて、全速力でさゆの家に向かった。運動会でもこんなに必死になったことはないというくらいのスピードで走る。全く疲れを感じないのは、愛の力ってやつ。

「れーなー!」

さゆが家の前に立って手を振っていた。それを見て、一気に疲れが押し寄せる。……と言っても、悪い意味ではない。運動会の100メートル走で、ゴールして初めて疲れを感じるのと同じ。

思わず道路の真ん中で座り込んだ私に、さゆが慌てた様子で駆け寄る。

「れーな大丈夫!?」
「あんまり大丈夫じゃなか……。でも、キスしてくれたら疲れなんて一発で取れると。」

たぶん顔がニヤニヤと気持ち悪くなっているであろう私の唇はすぐに、さゆの柔らかいそれによって塞がれた。道路のど真ん中だけど、人通りは普段からほとんどない。今は2人だけの世界。

息が続かなくなるまで、キスは続いた。

「これで…疲れ取れた?」
「へへ……お陰様ですっかり。」
248 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:07
「ねえ、夜ご飯何食べたい?」
「んー……カレーライス食べたいっちゃ。」
「よしっ、それじゃ買い物に行こっか。」
「肉はたっぷりでよろしく。」
「特別サービスでピーマンもたくさん入れちゃうの。」
「それだけはやめてくださいお願いします世界一可愛いさゆみ様。」

手を繋いで、冗談を言って笑い合いながら歩く。そんな、ちょっぴり幸せな夕方。
249 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:07
歩いて5分程のところにスーパーがあった。
私がカートを押し、さゆが品物をカゴに入れていく。カレールー、じゃがいも、人参、肉、玉ねぎ、チョコレートのお菓子、ポテトチップス……って…

「何でお菓子まで買っとー。」
「え?食べるからだけど?」

いやいや、そんなキョトンとしながら言われても……。

「そんなん食べて太っても知らんけんね。」
「大丈夫ですぅ。それにもし太っても…」
「わからんよー?れいなはぶくぶく太ったさゆを見て可愛いと思ったり好きでいられる自信はありません。」

これくらい言って脅さなければ。さゆのためだ。

「…………」
「……目をうるうるさせて無言で見つめるな。」
「れーなぁ……」
「うがー!わかったわかった!!じゃあ半分ずつ食べると!これで文句ないやろ!!」
「うんっ!」

困った。さゆの上目遣いは凶器だ。
そして何より、私とさゆが太りませんように……。
250 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:08
さゆの家に戻り、さっそくカレーを作り始める。

野菜を洗って、皮をむいて、一口大に切って。2人で作業しているんだけど、私はさゆが包丁で指を切ったりしないか心配でしょうがない。それでもなんとか細かく切られた野菜が揃った。

「よし、あとはれいながやるけん。さゆは休んでてよかよ。」

優しいようだけど、さゆにこれ以上のことをやらせるわけにはいかないというのが本音。さゆの料理は天国への招待状だから。

「え〜、さゆもやりたい〜」
「いいっていいって。れいなに任しとき。」

ごめん、れいな、さゆの料理食べれる自信ないんだ。なんて言ったらさすがに怒るだろうし……。

「ねぇー。2人で一緒に作ろ…?」

本日2度目の上目遣い。……だめだ、この視線だけには勝てない。

「…ん。わかった。」
251 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:08




――――――――



252 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:08
さゆには丁寧に教えながら、なんとかカレーが完成した。味見してみたら普通のカレーで、ちょっと安心。

「「いただきまーす。」」

テーブルに向かい合って座り、食べ始めた。1口食べて顔を見合わせ、「おいしい!」と言って笑い合う。
私はカレーを口に運びながら、同じく幸せそうにカレーを食べるさゆを微笑ましい気持ちで見ていた。……いや、見ようとした。見ようとしたところで、飲んでいた麦茶が気管に入ってむせた。

下を向いているさゆの、服の隙間が……正面から丸見えになっていた。胸の谷間が目に飛び込んできて、顔が熱くなる。

「れーな大丈夫?」
「あー、うん、ごめん。大丈夫。」

むせた私にさゆが一瞬顔を上げたけれど、またすぐ元に戻す。またしても刺激の強い光景。

見ちゃいけないけど、どうしてもちらちら見てしまう。

カレーの味が、よくわからなくなっていた。
253 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:09
「れーな、お風呂わいたから先入っていいよー。」
「あ、うん。」

皿洗いも終わらせてソファーでテレビを見ながらくつろいでいると、リビングのドアからさゆがひょこっと顔を覗かせて言った。

鞄から着替えを取り出してそそくさと風呂場に向かう。

「一緒に入る?」

後ろから声が聞こえて振り返る。にやにやしたさゆが、こっちを見ていた。

「……」

私は無言でさゆのほうに歩いていき――――デコピン。
さゆがぶーぶー文句を言う声を背に受けて風呂場に向かった。

冗談じゃない…。
今一緒に入ったりしたら、500%襲ってしまう。
254 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:09
悶々としながらお風呂に入って、私の次にさゆも入って、それからソファーに並んで座ってテレビを見た。お風呂上がりのさゆの色っぽさに、ちょっとドキドキしながら。

隣でパキッという音がしたと思ったら、板チョコを差し出された。そういえば夕方に買ったんだっけ。

「ありがと」と受け取って、一口分に割って口に放り込む。じわっと甘さが広がった。

テレビでは純愛ドラマのクライマックスで、名前も知らない2人が口づけしている。さっきからずっと悶々としていた私にとっては刺激が強すぎた。

「さゆ」

振り向いたさゆの唇に、私の唇を強く押しつけた。チョコレートの香りがする。

もうどうしようもないほどに頭の中が真っ白になっていた。今までに経験したことのない感覚。

本能の赴くまま、さゆのパジャマの上からでもはっきり認識できる膨らみに、手をのばす。
255 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:10
あと何ミリ、というところで、息が続かなくなったのか唇が離れた。同時に我に返り、慌てて手を引っ込める。

さゆが息をする音と、私の心臓が鳴る音と、テレビから流れている今は少し場違いな明るいCMと。それだけが聞こえていた。

「……ごめん。」

なんだか急に申し訳ないような気持ちになって、俯いたまま謝る。

「ううん。なんか嬉しかった。れいなからキスしてくれたの、久しぶりだったもん。」
「……」

何と言えばいいのかわからない。ありがとうと言うのも、もう一度ごめんと謝るのも、何か違うような気がするし。

「…ちょっと早いけど、もう寝よっか。」
「うん…。」

まだ10時前だったけれど、さゆの提案に素直に肯いた。これ以上起きていると、さゆに何かひどいことをしてしまいそうで怖かったし。
256 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:10
………甘かった。さっさと寝てしまえば理性を失って暴走することもないと考えていた私は甘かった。

さゆの「凶器」を忘れていた。

「一緒に寝よう?」

上目遣いでさゆにお願いされた私は、蛇に睨まれた蛙と大差ない。
257 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:11




――――――――



258 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:11
「スー、スー」
「………………」

寝息を立てて眠っているさゆの隣で、私は目が冴えて眠れない。
横を向くと、さゆの寝顔。「どんなブスでも寝顔は可愛い」というのを聞いたことがあるけど、元から可愛いさゆの寝顔は奇跡的な可愛さだ。

―――ヤバい、また……

どうしようもない衝動。触りたい。

寝てるし、きっと気付かれない。もし起きたら「心臓の鼓動を確かめてた」と、とぼけてみせればいい。
259 名前:ピンク・スイートハート 投稿日:2006/03/10(金) 09:12
震える手で、パジャマの上から膨らみにそっと触れた。柔らかい。
どす黒い欲望が渦を巻き始める。

「ん……」

さゆがモゾモゾと動いた。ビクッとしてとっさに触れていた手を戻す。

……寝返りを打っただけだった。

はあっ、と大きくため息をつく。

さゆのアホ。さゆのせいで、全然眠れん………


fin.
260 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/03/10(金) 09:16
『ピンク・スイートハート』でした。これ以上過激なのは、へたれ作者には書けませんorz
ちょっとでもニヤニヤしていただければ。


容量のほうが一杯になってきたので、次回でラストにしようと思います。最後は切ない系れなえりで締めさせてください。
261 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/03/21(火) 08:41
最終回というものを迎えるのは細かく数えると3回目ですが、毎回神妙な気持ちになります。


最終回、亀井さん視点でれなえりです。
262 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:42

電話を切ると同時に、コートも着ないで外に飛び出した。

走って10分足らず。さほど遠くはない道のりが、異常なほど長く感じる。
263 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:43
「れいな!!」

乱暴にドアを開けた私の目に入ったのは、れいなのお父さんお母さんの後ろ姿。2人が、私のほうを振り返った。

「れいなはっ……れいなは……」

取り乱す私を見て、何も言わずに2人が脇にどく。ベッドで仰向けになっているれいなが見えた。

「れいな……!」

れいなは、ゆっくりと私のほうを見た。所々に包帯が巻かれている以外は、特に変わった様子はなさそう。
安心しかけたその時、れいなの表情に怯えの色が浮かんだ。そして――――



「あなたは………誰…………?」
264 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:44




――――――――



265 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:45
「れいな、絵里んことずっと好きやった。」

突然告白されたのは遠い昔のようで実際は今日、土曜日の午前中。いつものようにぶっきらぼうな口調で、でも顔を赤く染めて、貴方は言った。

嬉しかった。待ち望んでいた言葉だった。……当たり前のように、「絵里もれいなが好き」と、すぐに伝えるべきだった。

―――私は長い間片想いをしてきたのだから、すぐ両想いになるのはなんだか癪だ。れいなにも少しは片想いの辛さを味わわせてやれ。

そんな子供じみた理由で、私は「1日だけ考えさせて」と返事をした。

私は両想いだとわかっていて、れいなはわかっていないという優越感に浸りながら。
次の日見られるはずの、れいなの嬉しそうな笑顔を想像してこっそり顔を綻ばせながら。


れいなのお母さんから、れいなが車にはねられたと電話で知らされたのは、そのわずか数時間後。
266 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:45
命に別状はないらしいと聞いて安心したけど、それでも心配なものは心配で。すぐ病院に駆けつけた。

命に別状はなかった。それなのに……

「あなたは………誰…………?」

貴方の口から発せられた言葉の意味が理解できなかった。脳が理解することを拒否していた。

「れいなは……体のほうは軽傷だったけれど……記憶をなくしたって………先生が言っとったと………。」

れいなのお父さんの声が、頭の中で虚しく響いた。
267 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:46
「どうして……?どうして……!?」

その場に崩れ落ちた。涙がとめどなく溢れてくる。

愛する人が記憶を失ったのが悲しい。愛する人から記憶を奪ったモノが憎い。
そして。想いを伝えられなくなってしまったことが、悔しい。
268 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:46
「……泣かない、で…?」

見ず知らずなはずの私を、それでも「泣かないで」と慰めてくれるれいな。

「っ…………」

涙は止まるどころか、ますます溢れ出てきた。
269 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:47




――――――――



270 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:48
「そうなんだ…………。」

病院を出て、まっすぐ中学校からの親友さゆの家に行った。さゆは目を真っ赤に腫らした私を見て驚いていたけれど、何も言わずに話を聞いてくれた。

「その、れいなちゃんって子も、すごく不安だと思うよ。記憶がないんだもの。れいなちゃんが不安な時は、例えれいなちゃんにとって知らない人でも絵里が側にいてあげなきゃ。絵里が側にいて昔のこととかを話してあげれば、ちょっとずつ思い出すかもしれないじゃない。絵里が辛い時は、いつでもうちに来てわんわん泣いてもいいからさ。」
「……ありがとう、さゆ。」
「頼れるお姉さんなさゆも可愛いでしょ?」

変なポーズまで決めたさゆを見て、堪えきれずに「ぷっ」と吹き出した。

「よしっ、笑顔笑顔!絵里が笑顔じゃなきゃ、れいなちゃんも不安になっちゃうよ。」
「うん…!」
271 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:49
翌日、日曜日。朝早くから病院へ行った。

れいなの病室の前で立ち止まり、1つ深呼吸。それからゆっくりと2回、ドアをノックした。

「どうぞ」と女の人の声がして、ドアを開ける。

中には、昨日と同じようにベッドに横たわるれいなと、椅子に座ってリンゴを剥いているれいなのお母さんがいた。お母さんに会釈して、ベッドの脇に立つ。

れいなと目が合う。――――今度は怯えるかわりに、少し笑顔を浮かべてくれた。

「昨日の……」

覚えていてくれたのがなんだか嬉しくて、顔が綻ぶ。

「えと……名前…は……?」
「あ……絵里。亀井、絵里です。」

「かめいえり、かめいえり」と何回か口に出して呟いた後、「よろしくね」と笑顔で手を差し出された。温かいその手をしっかりと握る。

心のどこかで…私の名前を言えば、れいなは全部思い出してくれるのではと、淡い期待を抱いていた。でも、だめだった。
また涙が出そうになるのを堪えて、笑顔をつくる。
272 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:50
「絵里ちゃん。」とれいなのお母さんに呼ばれて振り返る。

「ごめんね、おばさんまだ朝ご飯食べてないけん、食堂行ってくると。」
「あ、はい。」

もう10時近くで、朝ご飯を食べるにしては遅い時間。きっと、れいなが心配で食欲も出なかったんだろう。よく見ると目の下にクマもできている。

「よかったら絵里ちゃんも食べて」とリンゴの皿をテーブルのようなスペースに置き、ドアを開けて出ていき、そして病室には私とれいなだけになった。
273 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:51
「あ…リンゴ…食べる?」
「うん…。」

リンゴを1切れフォークで刺して、寝ているれいなの口元に持っていく。小さく口を開けて、端のほうをくわえた。
シャリシャリという音だけが病室に響く。

「おいしい?」
「うん。」

無邪気な笑顔が私を癒し、同時に私を傷つける。

もう一度リンゴをれいなの口元に運ぼうとした時、「あの……」と呟くのが聞こえた。

「私は……『田中れいな』は……どんな人だったの………?」
274 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:51
少し、ドキリとした。
でも…考えてみれば、自分がどんな人だったか気になるのは当たり前なのかもしれない。

「……優しい、子だよ。」

慎重に、話し始めた。

「わがままで生意気だけど……すっごく温かくて優しい子なの……。」

過去形にはしない。れいなは優しい子「だった」んじゃない。今もここに存在している。今も、変わらずに優しいのだから。
275 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:52
「亀井…さん……?」

呼ばれて、初めて気付く。泣いていた。

「ごめん……何でも…ないから…。」

慌てて涙を拭う。

……今日はこれ以上、ここにいないほうがいいような気がした。

「あっ、もう帰って勉強しなきゃ。もうすぐ模試なんだけど、全然勉強してなくてさー。」

……実際には、今度模試があるのは1ヶ月以上後。我ながらわざとらしい芝居だと思ったけれど、れいなが怪しんでいる様子はない。ただ、「そっか……。」と少し悲しそうな顔をした。

「迷惑じゃなかったら……また来ていい?っていうか、毎日来ていい?」

そう聞くと、今度は嬉しそうに肯いてくれた。
276 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:53
次の日からは学校だったから、お見舞いに行くのは夕方。それでも毎日欠かさずに行った。

れいなと話すのは、主にその日学校であったこと。体育のバスケで偶然スリーポイントを決めたこととか、授業中に居眠りして廊下に立たされたこととか。れいなは時々笑いながら聞いていた。
277 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:53
たまに、「れいなは私のことが好きだったんだよ」と教えてしまいたい衝動に駆られることがあった。その度に必死で押し殺した。今教えても、れいなが混乱するだけだから。
「絵里とれいなは親友」とだけ言ってある。

―――でもさ、れいな。「亀井さん」って呼ばれるといつも、悲しくなっちゃうよ………。
278 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:54




――――――――



279 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:55
身体のほうは幸いにも軽傷だったれいなは順調に回復し、2週間足らずで退院の許可が出た。記憶に関しては、日常生活の中で少しずつ取り戻していくしかないらしい。

「あの……亀井さん。」
「ん?」
「もしよければ……明日、一緒に散歩してくれる?ほら……どこにどういう店があるとか、覚えなきゃいけないから。」
「…うん、いいよ!」

本当はそれを私のほうから申し出ようかどうか迷っていたから、れいなのほうから言ってくれて嬉しい。

れいなは今日家に帰り、明日は私と一緒にこの街を歩いてまわる。
家を見て街を見れば、絶対に記憶は取り戻せるはず。私には確信に近い自信があった。
280 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:55
翌日。昼ご飯を食べてから、れいなの家へ行った。

インターホンを押すと、ドアを開けて出てきたのはれいな。
服装を見て、はっとした。れいなが記憶をなくした日――――れいなが私に告白した日と同じ服装。

「…どうかしたの?」
「えっ?あ、いや、何でもないよ。行こっか。」
281 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:56
まずは学校に行ってみた。休日で、運動部の姿がちらほら見えるだけ。

「ここが、私とれいなが通ってる高校だよ。」
「へぇー……」

文化部もいくつか活動していて中に入れたから、教室棟も見てまわった。

「れいなのクラスがここだよ。1年B組。」

れいなは興味深そうに中を見ている。やっぱりまだ思い出せないのだろうか。
282 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:56
学校を出て、2人でよく行った喫茶店、よく買い物をした店、いろんな場所に行った。

そして、最後に。

「…この公園で、2人でよくおしゃべりとかしてたの。」

れいなが私に告白した、その場所にやって来た。
283 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:57
思い出してほしい。強く印象に残る場所のはずだから。この場所で、全てを思い出してほしい。

「………何か……思い出せた…?」

れいなは――――――


静かに、首を横に振った。

「そっか……。」
「……ごめんね、亀井さんが一生懸命思い出させようとしてくれてるのに。」
「ううん、いいの。謝らないで。」

絶望感が、私を包み込んだ。
284 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:58
れいなを家まで送ったあと、そのままさゆの家に向かった。

「あ、絵里どうしたの?」

さゆの顔を見た瞬間。
ずっと我慢していた涙が、一気に溢れだした。
285 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:58
「れいな退院したんだけどね、記憶まだ戻らないの。」
「いろんな場所一緒に見て回ったのに、れいな何も思い出せないの。」
「れいなに『亀井さん』って呼ばれる度に悲しくなるの。」

頭の中がごちゃごちゃして、嗚咽混じりの言葉を絞り出すのが精一杯。

さゆは何も言わずにずっと背中をさすってくれていた。あえて何も言わなかったのか、あるいは何も言えなかったのかはわからないけれど。
286 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:59
涙が止まっても、心にぽっかり開いた穴は塞がらない。

れいなはれいなだけれど、私のことを好きでいてくれるれいなではない。れいなはれいなだけど、今のれいなにとって私はただの友達。

「絵里?………!!」

だからさ。


私を慰めてよ、さゆ。
287 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 08:59
さゆの唇を塞ぎ、さらに無理矢理舌を入れる。「んー!!!」という悲鳴に近い声も無視。

苦しくなってきたところで唇を離した。

なぜだか、また涙が溢れてきた。

「さゆ……付き合ってよ……絵里と…。れいなはもう絵里のこと…好きじゃないんだもん……。」

これ以上辛い思いなんてしたくないもの。

現実から、逃げさせてよ。
288 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:00
パシンッ!

音がして何秒か経ってから、頬の痛みに気付いた。

見ると、さゆも涙を流していて。こんな時に綺麗だと思ってしまった。

「絵里は……れいなちゃんのことが嫌いになったの…?」

ふと考え込む。……その必要もない。
首を横に振った。

「だったら……れいなちゃんを、もう一回振り向かせようよ…。思い出させてあげようよ…。このままじゃ、絵里もれいなちゃんも可哀想すぎるよ………。」

私だけでなくなぜさゆも泣いているのか、よくわからない。

でも、私のために泣いてくれているのかな、となんとなく思った。
289 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:01
家に戻って、ぼんやりと2週間前のことを思い出す。

―――れいなにも少しは片想いの辛さを味わわせてやれ。

あの時私は、そんなことを考えた。
少し考えればすぐわかる。――――れいなだって、私に告白する前は1人で片想いをしていた。告白した後に、片想いの辛さを味わう必要なんてどこにもなかったんだ。

れいなが記憶をなくしたのは……最低なことをした私への、神様からの罰なのかもしれない。

そう思うと、やりきれなかった。



その夜見た夢の中で、私は記憶をなくしていないれいなと手を繋いで歩いていた。心から幸せそうに。
290 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:01




――――――――



291 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:02
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る音で、目を覚ました。起き上がって時計を見ると、午前10時。太陽が眩しい。日曜日だから目覚ましもセットしていなかった。

その間にもチャイムは鳴り続け、訪問者は諦める気配を見せない。仕方なく急いで着替え、小走りで玄関に向かう。

「どちら様ですか?」

ドアの向こうの訪問者に声をかけたけれど、返事がない。
不審に思いながら、ほんの少しだけドアを開けた。
292 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:02
その瞬間、訪問者のほうがドアを一気に開けた。あっ、と言う間もなく、腕を掴まれて引き寄せられる。

誘拐される…!!とっさにそう思った。けれど――――



私は、訪問者に抱きしめられていた。
293 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:03
「絵里……!」


抱きしめられていて顔が見えなくてもわかる。声が震えていてもわかる。

「訪問者」の顔を見たその瞬間に、その顔は涙で見えなくなった。
294 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:03
「れいな……どうして………」
「……ゆうべ絵里に告白する夢を見て……今朝、目が覚めた瞬間に全部……思い出したと……。」
「……うわあああああん!!!!」
「辛い思いさせてごめんね、絵里…」
「ばかぁっ!!れいなのばかぁっ!!」
「ごめんね。ごめんね……。」

頭の中が真っ白で、何も考えられない。
たった1つ、赤ん坊のように泣きじゃくる私を包み込む温もりだけが、これは夢じゃないんだと教えてくれた。
295 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:04




――――――――



296 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:05
失って初めて大切さに気付いた「それ」を、再び取り戻した気持ち。
清々しいのに、そのくせ妙に切ない。


抱きしめられたまま、まだ泣き止まない私に、れいなが静かに話しかける。

「れいなの記憶が間違ってなければ……れいなは確か絵里に告白して、まだ絵里の返事を聞いてない気がすると。」

そう。まだ言っていない、大事な大事な言葉がある。何よりも言いたくて、今までずっと言えなくて、ずっと胸に秘めていた、貴方への言葉。

「返事……聞かせてくれると……?」


優しく照りつける太陽に見守られて。

「絵里は…」

今、伝えます。

「絵里は……」

貴方へ。



「絵里は……れいなのことが………大好きです。」
297 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:05




――――――――



298 名前:To you 投稿日:2006/03/21(火) 09:06


『To you』 fin.

299 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/03/21(火) 09:09
……ふう、終わった。最後もまたベタな展開でしたが。
リクも受け付けずに(裏切るのが怖かった)好き勝手書いてきましたが、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
300 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/03/21(火) 09:16
最後に目次を。

ちゃんと掴んでるよ。 (田×亀) >>3-11

Bittersweet (田×道) >>16-28

ベスト・フレンド (亀×道) >>32-40

2人きりの休日 (田×亀) >>44-50

ずっと側に (田×道) >>54-61

Purest Love (田×亀) >>66-80

伝えたい言葉 (田×亀) >>84-92

大雨、のち快晴 (田×道) >>95-105
301 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/03/21(火) 09:22

いつか… (田×亀) >>109-120

Make miracle! (亀×道) >>123-139

想い (田×亀) >>143-159

見つめる (田×道) >>162-172

守ってみせる (亀×道) >>175-191

Last End (田×亀) >>196-220

大好きです。 (藤×道) >>224-236

ピンク・スイートハート (田×道) >>242-259

To you (田×亀) >>262-298
302 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/22(水) 16:22
初めて書き込みさせて頂きます。
言いたい言葉がありすぎて何を口にしたらいいのやら…。
作者さんの柔らかくて温かい世界観が好きでした。
また再びお会いできることを密かに心待ちしております。
たくさんの感動をありがとうございました。
303 名前:初心者 投稿日:2006/03/26(日) 02:03
お疲れ様です
楽しく読ませていただきました
またどこかで書くことがあったら是非誘導お願いします
304 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/31(金) 23:08
お疲れ様でした!!
いや〜作者さん…素晴らしいッス!!
なんかもう言葉にならないほどいい作品ばっかで…
ほんとありがとうございました(感涙


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