5年間

1 名前:ピス 投稿日:2005/11/16(水) 11:27
いしよしオンリーです。
スレッド名と同タイトルの小説は、もう少し先に。
まずはちょっと早い、季節モノです。
よろしくお願いします。
2 名前:ピス 投稿日:2005/11/16(水) 11:28




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メリークリスマスツリー


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3 名前:ピス 投稿日:2005/11/16(水) 11:28


「ねぇねぇみきたん、知ってる?」
「なになに、亜弥ちゃん」


今日もとなりは、バカップル。
あー、一緒にいるだけで、今にもバカが伝染りそう。
暑苦しくて甘ったるくて、年中ピンク色。色ボケもいいとこだ。


「吉澤さんて、恋人いないらしーよー」
「うそォ?!マジでー!!」


はぁ?!何言ってんだコイツら。
前のテーブルの女子!こっち見んなっ!
テメーら全員、おかず一品ずつ奪ってくかんな。


「かわいそーだねー、もうすぐクリスマスだってのに」
「ねー」

「クリスマスなのに、ひとりもんだよー」
「あーカワイソ。泣けてくる。うっうっ」


嘘つけ。微塵も思ってないくせに。
あたしは鯖の味噌煮に箸を突き刺す。
ぶすっと怒りを込めて。コイツら、いつか、ブッ殺してやる。

4 名前:ピス 投稿日:2005/11/16(水) 11:29


「あたしたちはどうする?クリスマス」
「そーだねー、どうする?」

「綺麗な夜景見てー」
「美味しいもの食べてー」

「あとは・・・」
「スイートルームとか泊まっちゃう?」

「ヤダぁ、みきたんのエッチぃ☆」
「亜弥ちゃんこそ、何考えてんだよぅ〜」


おいテメーら、ここ出てけ。他所行ってやれ。他所で。
飯がマズくなるじゃねーか。それでも黙々と平らげる。
一刻も早くここを出るために。


「あ、梨華ちゃん」
「ほんとだ。梨華ちゃーん」

5 名前:ピス 投稿日:2005/11/16(水) 11:29

チッ。余計なヤツが来た。
コイツに関わると、コイツが喋ると、ロクなことがない。
急いで飲み込もうと水で流し込んだけど、
喉に痞えて目を白黒させる。ホラ、言わんこっちゃない。
石川は、ロクなヤツじゃねぇ。げほげほ。


「こんにちわー。美貴ちゃんに亜弥ちゃん。」

「「こんにちわー」」



「あれ、よっすぃーもいたんだぁ」
「うるせぇンだよ」

「???」



「ごめんねぇ、梨華ちゃん。」
「今よっすぃー荒れてんの。モテないから。」


「え?そんなことないよ、よっすぃーはモテるよぉ」

6 名前:ピス 投稿日:2005/11/16(水) 11:30

オメーに言われなくたってわかってんだよ。
キンキン声で喋んな。超音波みてーだから。
それに何だよ、そのスカート、短すぎっ!
冬は厚着して防寒って、決まってるだろ昔からっ!!!


「クリスマスに一緒に過ごす人いないんだって」
「かぁいそーだよねー。寂しーよねー。」

「そうなんだ」


おぃ、石川。
それ以上言ったらはっ倒すかんな。
いくら声が高くたって、いくらム、胸がおっきいったって。
許さねぇ。絶ッ対にな。
じっと睨んで黙らせる。よしよし。怯えて声も出ないってか。


「梨華ちゃんは、クリスマスのご予定は?」
「一応、誘われてるんだけど・・・」

「わぁーやるぅー♪」
「で?誰誰誰???」
7 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:30

「三好さん、っていうんだけど・・・」


三好、っつったら。
経営学部の変わり者じゃん。
プッ。まぁ石川に、お似合いだな。へへへ。


「三好さんって、超モテるって聞くよ?」
「スゴイじゃん梨華ちゃん!!!」

「ええぇぇぇ?そーなの?」

「そーだよ?綺麗な顔してんだよねー」
「亜弥ちゃんには負けるけどねー」

「そんなの当たり前だよみきたん」
「う、うん」


ダッセェ。藤本ダッセェ。
まだ尻に引かれてんのかよ。
てゆうか三好ってモテんのかよ。
あたしよりモテんのか?え?え?え?
8 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:31
「こくはく、されたの」

「こ、告白ゥ?!」
「で何て答えたの梨華ちゃんは」


ちょっとおもしろくなってきたじゃねぇか。
あたしは水の入ったボトルをガツンと持ち上げ、
一気にザーッと水を注ぐ。そして一気に飲み干す。
早く言えよ石川。次の講義まで時間無いんだかんな。


「か、考えさせてください・・・って」


もったいぶんじゃねぇよ。石川のくせに。
オメー、彼氏とか彼女とかいたことないって言ってなかったっけ。
チャンスじゃん。滅多に無いチャンスだったんじゃねーの?
三好みたいなヤツに惚れられるなんて、そうそうないぞ、コラ。
やっぱ三好って、変わり者。ぷくく。


「・・・だ、だ、だってだってだって!・・・怖かったんだもん・・・なんか」
9 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:31
っかー!処女かよオメー。って処女だったな。
ハイハイ。で、クリスマスに初デートすんのね。以上。
石川に面白い話を期待したって無駄だったな。
間違った。相手を、間違った。俺が悪かったよ石川。


てゆうかさ。うん。あたしはサミシイのよ。ひとりだから。ロンリー論理。
人肌が恋しいんだ。誰でもいい、とにかく誰かにそばにいて欲しいんだよね。
吉澤、只今恋人募集中です。ステキな彼女を、募集しています。
年齢はあまり問いません。宛先はコチラまでー、って何か拾っちゃったんですけど。

って、アレ?
10 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:31




**********



11 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:32

「ありがとうございます、助かりました、ホントに」
「いやいや。困ったんじゃない?ケータイ失くすと、大変だよね。イロイロ。」


結構かわいいじゃん。こう、美少女!って感じでさ。
拾ったケータイの、『自宅』の番号にかけたら、あっさり持ち主は見つかった。
なーんか、このままバイバイってのも、ちょーっと、もったいねぇような気がするなぁ。


「あの」
「ハイ」

「聞いてもいいですか?」
「?・・・どうぞ」

「名前」
「あぁ、吉澤。吉澤ひとみって、言います。」

「私はさゆって言います。さゆ、って呼んでください。」
「さゆちゃんね。オッケー」

「さゆ!・・・です」
「あぁ、うん分かった」
12 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:34
名前聞いたところで、いつ呼べっての。
もうこれっきり?イヤまぁさすがに、それはないだろうけど。
結局すぐに番号とメルアドを交換して、さゆと連絡を取り合う日が続いた。


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------------------------------------
--- ょι(+〃ゎL+ω ---
--- L+ゅτ〃£         ---
--- 今度〒〃→├ιτЙё  ---
------------------------------------
------------------------------------


あ、あのぅ・・・全く文字が・・・読めません・・・。
あたしは日本人としての誇りを失った。
間を置かず、に、2通目。早いなぁ。どれどれ。

13 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:36

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------------------------------------
--- 勹l)ス々スっτ
--- 予定ぁぃτма£カヽ?
--- м○ιょカヽっ†ニяа
--- 土ゅ`⊂勹l)ス々ス
--- 〒〃→├ιτ<ナ=〃土ぃ☆
------------------------------------
------------------------------------


勹l)ス々ス???
・・・クリスマスかっ?
クリスマスにデートしようって誘ってんのかっ?
おー!おおーー!!

何だかだんだん暗号が読めてきたぞ。

・・・オッ・・・けぃ・・・
・・デートな・・・ら・いつ・・・でも
してあげ・・・る・・・よ・・・っと。送信。

14 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:36

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------------------------------------
--- ゃっナニぁ!!!
--- U〃ゃぁ、
--- ィヴσ日ナニσιゐ
--- レニιτма£ネッ☆
------------------------------------
------------------------------------


はぁ・・・疲れた。読むのだけで何でこんな疲れるんだ。
あたしは返信しないことにした。目を閉じた。
・・・・・・。
んだよ。さゆか?またメールが届いたぞ。


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------------------------------------
--- よっすぃーへ。
--- 結局デートすることに
--- なりました。
--- よっすぃーのお相手も
--- 早く見つかるといいね。
---       梨華より
------------------------------------
------------------------------------

15 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/16(水) 11:37

うんうん。これぞ古き良き時代のメールだな。
って石川ぁっ!よけーなこと言ってんじゃねぇぞ。
あたしのお相手はだな、スパイみたいなメールを送ってくるけども、
石川より色も白くって、カワイイ子なんだぞ!!!
オメーのお相手の三好より、ずううぅぅぅっとレベルが高いんだからなぁ!


ゼェゼェ _| ̄|○


つ・・・疲れるなぁ、しかし。


16 名前:ピス 投稿日:2005/11/16(水) 11:38
スミマセン。
タイトルがずっと名前のまんま、
あげくズレも生じていました。
読みにくいすね。スミマセン。
本日は以上です。
17 名前:メトロ 投稿日:2005/11/16(水) 22:17
若いおなごは凄いなぁ。
勹l)ス々スとかうたれたら普通に文字化けかと思いますもん。
そして一人称が黒吉。どこか愛嬌があっておもしろいですね。
伝説の?「俺が悪かったよ」とかww

このスレはいしよしオンリーらしいので信者としては安心して読めます!
がんがってくらさい。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/16(水) 23:49
わろた、めっさわろた……
マターリがんばってくらさい。
19 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:08


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


なんで。ナンデなんでナンデ。
せっかくの休日に、バイトも無いって日に、
石川とデートみたいなことしなきゃなんないわけ。


『よっすぃー、お願い!』


不覚にも、ちょっとカワイイなって思ってしまって、
つい叶えてあげようと思ってしまった、石川の切実なお願い。

何でも、三好とのデートに失敗したくないらしく、
リハーサルの相手にされてしまったのだ。

別に。三好に任せとけばいんじゃないの。
オメーがリードしなくたって、三好の頭ん中じゃ、
ぴかぴか光るお城がデートコースの最終地点だと、思うけど。
あたしだったら、そうするけど。
イヤ石川に、そんなことしたいと思ってるわけじゃないんだけど。
断じて、ナイナイ。

20 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:09

「ねぇねぇよっすぃー、あれ取って!」
「ハァ?!」

「あのぬいぐるみ、カワイイと思わない?」
「思わない」


ガンッと石川はUFOキャッチャーのガラスに頭をぶつけた。
くっくっく。おもしれー。
石川は涙目であたしを見上げて、訴えた。


「・・・普通は、彼氏が彼女のために、一生懸命取るんじゃないの?」
「だってあたし、石川の彼女じゃないし」

「そうだけど」
「だろ?」

「でも」
「ん?」

「今日だけ、彼女になってくれるって、言ったじゃん」
「・・・・・・・・・」

「ね、よっすぃーお願い。」
「・・・・・・・・・」

21 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:09

なんで。ナンデなんでナンデ。
貧乏苦学生なのに、100円玉を積み重ねて、
カワイイと思わないぬいぐるみを取らなきゃなんないわけ。
しかも、よりによって、石川のために。


「あー!」
「くそっ。もう1回!」

「がんばって、よっすぃー」
「おっしゃ!」


いつの間にか、石川よりも夢中になっていて。
石川も一生懸命応援するから。だんだんムキになって。
2000円かけてようやく、GETすることができた。


「ほら」
「わぁ・・・ありがとう、よっすぃー」


ポロンと出口から出てきたぬいぐるみは、
石川のノートの端っこによく落書きしてあるうさぎによく似ていた。
こんなもんが欲しいなんて、石川って変なヤツ。

22 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:10

「大切にしろよ」
「・・・うん」

「しっかし、カワイクないなぁ、コイツ」
「そんなことないよ、かわいー」

「絶対、大事にするね」
「あ、あぁ・・・」


別に、捨てたってかまわないけどさ。
苦労して取ったものだから、やっぱり大事にして欲しかった。
三好だったら、どう言うのかわからないけど。
てゆうか、何か、石川の反応が、ちょっとおかしい。
モジモジして、クネクネしてさ。何なワケ?
ビョーキ?どっか痛いのか?え?え?


「・・・どした?」
「何だか、恋人ってこんな感じなのかなぁって」


うさぎをぎゅっと抱きしめて、
はぁ、とピンク色のため息をつく石川。
三好のことでも思ってんのかよ。ぅあー。
なんかやっぱり、キショイ。さぶいさぶい。

23 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:10

「知らねぇよ、そんなの」
「えへへ」

「笑ってんなよ」
「だって、嬉しいんだもんっ」


あたしも胸がムズ痒くなってたまらなくて、コツンと石川の額を弾いてやった。
つるんとゆでたまごみたいな自分の額をすりすり擦って、
でもどこか幸せそうに微笑んだ。ホンっトに、そりゃあもうやわらかく。
女の子だなぁって。素直にそう思った。

24 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:10

顔寄せてプリクラ撮って。
石川は丁寧にハサミで半分こした。
いらねーよって言うあたしに、よっすぃーも、持ってて!
って強引に握らされた。どうしようか、コレ。

一緒にアイスを食べながら散歩して。
あんまり並んで歩いたことが無いから、石川が歩くのが遅いことなんて知らなかった。
きゅってあたしのパーカーを握るから、その石川の握る強さで歩く早さを決めて、
石川のペースでゆっくりと歩いた。石川と同じものを見て歩いた。

フラフラと一緒に洋服を選んで。
やっぱりどうしても石川はどっかしらピンクが入ったものを選ぶ。
たまにはシブイものも選んでみたら?と、黒いキラキラしたドレスを渡すと、
しばらくじーっと眺めてから、やっぱりいいと元の場所に戻された。
相変わらず頑固なんだから。出会った頃と何一つ変わっていない石川が、
ほんのちょっとだけ嬉しく思ってしまった。


あたしたちは別になんてことない、普通のデートを楽しんだ。

25 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:11

「ありがとう。ごめんね、送ってもらっちゃって」
「別に」

「あ、今日は恋人だもんね、当たり前か」
「言っとくけど」

「?」
「今日だけだからな。こんなことすんの。」

「あ・・・ごめんね?変なことに巻き込んで」
「成功するといいな」

「うん。ありがと」
「ま、せーぜー焦って空回りして嫌われないようにしろよ」

「んもー!よっすぃーったらヒドイ」
「がんばれよ。んじゃ」

「おやすみ」
「おやすみ」

26 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:11

何か今普通にあたし、石川に微笑むことができたんですけど。
ん〜・・・最後だし。
最後くらい、『恋人同士』ってものを、してみる?
27 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:11



ちゅっ



「!!!」


軽く頬にキスしたら、石川は見る見るうちにユデダコみたいになった。
あたしの唇が触れた部分を、必死に両手で押さえてる。

28 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:12

「おやすみのチュウ、どーだった?」
「・・・・・・」

「おーい、石川さぁーんってば」
「・・・・・・」


あ、あれ?反応なし?
ポカンとして、心ここにあらずって感じ。
ちょっと石川には刺激が強すぎたか、ってか?


「・・・しかわ、石川っ!」
「あ、よっすぃー・・・」


しつこく石川の肩を揺さぶると、ようやく帰ってきた。
ったく、これくらいでこんなんなって。
29 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/17(木) 06:12

「大丈夫かよ」
「う、うん」

「嫌だった?」
「ううん」

「口には三好にしてもらえ」
「・・・え?」

「風邪引かないうちに家入れ、早く、ほらっ」
「うん・・・」


ず、ずずず。ヤバイな、風邪引きそう。
鼻水をすすりながら、マフラーを口元まで引っ張り上げて、
駅まで急いで歩く。

見上げた澄んだ空に チラチラと輝く星が、やけに綺麗だった。
30 名前:ピス 投稿日:2005/11/17(木) 06:17
少ないですが、以上です。


>メトロさま

ですよね。初めてそういうメールもらったときはぽかーんてなりましたもん。
根っからのいしよし信者です。ご安心ください。


>18 名無し飼育さま

笑けましたか?ありがとうございます。しっかり頑張ります。
31 名前:名無し飼育 投稿日:2005/11/17(木) 23:23
素敵ですた。よっちゃんかっこえぇな〜
32 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:50




**********




33 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:50
「えっ、おま、さゆ、高校生だったの?」
「うん、高一ですっ」

「こぉいちィ?」


ヤッベ。こないだまで中学生だったってこと?
あたしは飲んでいたラテを噴出しそうになった。
うーん。こないだから、石川と擬似デートをしてから、なんか熱っぽいんだよなぁ。
さゆみちゃん、高一だって言うし(それは関係ない)、今日はダルいし早めに帰ろっかなぁ。

34 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:51


「吉澤さん」
「あ、うん、なに?」

「彼女いるんですか?」
「いないよ」

「そ・・・っか。そうなんだ」
「さゆは、いるの?」

「いませんよぉ」
「そうなんだ」

「そうですよ」
「わかった、わかったからあんましひっつくなっ」

「寒くないですか?」


うん。寒い。背中からゾクゾクと。つか、種類が違う。
たぶんこれって、よーするに、風邪だと思う。
関節もだんだん痛くなってきて、鼻水が止まんない。
じゅるじゅると鼻をすすって、あたしはさゆを抱きしめた。

35 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:51
「さゆ・・・」
「吉澤さん」

「こうしてると、あったけぇな」
「はい」

「また、会おうな」
「はい」
36 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:51




**********



37 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:52
う、うう〜〜〜。
寒い。風邪って、こんな苦しかったっけ?
あたしは頭から布団をすっぽりとかぶり、ぶるぶる震えていた。
夜になって更に風邪は悪化して、油断すると咳が止まらなかった。
誰か。誰か、誰でもいいから。早く何とかして欲しい。

枕元のケータイが、やけに激しく鳴って、あたしはビビッた。

38 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:52
「あい」
「あ、ごめんね。よっすぃー。寝てた?」

「い、いじがわ・・・?」
「よっすぃー、何なのその声?!」

「ぢょっど、風邪、いーだみだいで」
「大丈夫なの?熱はない?お医者さん行った?」

「わがんない。ずっど、寝でるがら」
「ちょっとスゴイ鼻声だよ?」

「うん」
「どうせ何も食べてないんでしょ?」

「まぁ、別におながずいてないじ・・・」
「食べなきゃ。待ってて。今近くにいるの。大人しく寝てるのよ?」

「え、いいよ。悪いがら」
「病人は気を使わなくていいのっ!行くからね、待ってて。」

「う、うん・・・」
39 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:53


ピッと切ってから、あたしはケータイを放り投げた。
いいや。この際、あんまり当てにならないけど石川でも。
近くにいると言ったから、すぐ来るだろう。
あたしは鍵を開けて、もう一度布団に戻ることにした。

用件はなんだったんだろう?ま、いいか・・・。
40 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:53


「・・・すぃ。よっすぃー・・・」
「あ、いじがわ」


いつのまにか寝てたんだ。
今日もやっぱり石川はピンクのセーターを着ていた。またピンク?
そんなエプロン、どっから持ってきたの。まさか持参?いつも持ち歩いてんの?
まぁそんなことはどうでもいいんだけど。


「大丈夫?お粥作ったんだけど、食べれる?」
「う、うん。ぢょっどだげなら」

「薬も買ってきたからね。食べたら、飲もうね」
「あ、ありがど」
41 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:54

何か、いつもならキショイ石川でも、今なら天使に見える。
石川だったらピンクのナース服着て、やっぱり丈は短くて、
あぁ、いいな。なんか似合いそう。エロくて。


・・・・・・。


ヤバイな。あたし、そーとーキテる。むっちゃ熱出てる。
石川に対してそんな妄想をしはじめるなんて。う、わわわわわ。


「よっすぃー、大丈夫?気持ち悪いの?」
「え、ううん。」


手の止まったあたしを不審に思ったのか、石川は顔を覗き込んだ。
鼻が詰まって味がよくわからなくて助かった。
元気だったら、たぶん食えなかっただろう。
石川、料理できないって普段から自慢してるし。
だけどあったかくて、あたしの大好きな卵も入っていて、すごくうまい。

42 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:54
「おいじいよ」
「え?そう?よかったー・・・」


石川も、心底嬉しそうな顔をして、あたしが食べ終わるまでずっと見てくれてた。
は、恥ずかしいんですけど。そんなじっと見つめられちゃ。
最後のほうは掻き込むようにして食べた。
やっぱり、味はよくわからない。


「食べた?」
「うん、食べだ」

「じゃ、お薬飲んで寝よっか」
「うん」


石川が、コップに水を入れて持って来てくれた。
薬を水で流し込み、げほげほとむせた。
石川、あたしほんとは粉薬って飲めないんだよ。覚えといて。
43 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/18(金) 05:55
「大丈夫だからね。眠るまで、そばにいてあげるから」
「ぞんな、子供じゃねーんだがら」

「ふふふ。よっすぃーお子ちゃまみたい」
「うっざい。覚えてろよ」

「・・・かわいい」
「もー寝るがら、黙っでで」


実際、頭をなでられて眠りに落ちるあたしは、子供のようだった。
ゆっくりあたしに触れる石川の手はしっとりと女の手で、母親のようだった。

妙に気持ちよくて、安心することが出来て、あたしはすぐに眠ってしまった。
いいなぁ。なんかこーゆーの。
でも、風邪なんていう理由がないと、あたしは甘えられない。
ましてや、石川になんて。

でも、今日くらい、今日だけなら、いいよね・・・?
44 名前:ピス 投稿日:2005/11/18(金) 05:59
本日は以上です。

>31 名無し飼育さま

ありがとうございます。
こっから、よっちゃんは少しずつ変わってきます。
今日はちょっぴし、甘えんぼよっちゃんです。
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/18(金) 10:44
最高です。甘えたよっちゃん可愛いし、お姉ちゃん梨華ちゃん可愛いし。
王道な二人なのに新鮮な雰囲気がすごく好きです。
まったり頑張ってくださいね。今後の二人も楽しみにしています。

46 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:23




翌日。



47 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:24
ぱちっと目を開けたらそこには石川がいた。ベッドの上で、ふたりして。

いつのまにかあたしの黒いTシャツを着ていて、あたしの隣ですやすやと寝ていた。
石川は、あたしの首の辺りでぎゅっと服を握って、しがみつくようにして寝ていた。

って、あたしもナニ腰に手ぇ回して寝てたんだよ!
つーか石川、腰、細っせぇなぁ・・・折れそう。ぎゅっ。
何て、腕に力を込めてみた。やわらけぇ〜!気持ちいーな。うんうん。ぎゅうううう。


「う、うぅん・・・」
「!!!」


ヤメ、ヤメろよ!そんな艶っぽい声出すの!
石川の吐息が首にかかってマジ、変な気持ちになってしまう。
あたしはそーっと、石川を起こさないようにベッドを抜け出す。

シャワーを浴びて戻ってくると、石川はもう起きていて、すでに着替えていた。
ちぇ。惜しいことしたな・・・。
綺麗にたたまれたTシャツ。昨日食べたあたしの食器も、きちんと洗われていた。
48 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:24


「おはよう」
「おはよ」

「大丈夫?」
「うん、だいぶマシ」

「そっか。学校行ける?」
「うーん。今日は、やめとく」

「その方がいいね」
「うん」


がしがしとタオルで頭を拭いていたら突然、石川があたしに触れてきた。

49 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:24
「ちょ!何やってんだよ!」
「頭拭いてあげようと思って」

「いいってば!」
「何でよー。貸して?やってあげるから」

「頭おかしいんじゃねぇの?」
「そうかもね」


そうかもね、じゃねぇ〜〜〜!
昨日から、昨日は仕方ないかもしれないけど、石川は朝から変にあたしにかまった。
50 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:25


「あのさ石川」
「なぁに?」

「・・・何でもない」
「あっ、よっすぃー」


「何?」
「昨日寝言で、梨華ちゃあん・・・って言ってたよ」

「嘘つくな、ボケっ!!」
「痛ぁい!よっすぃーのバカ!!叩かないでよっ!!!」


ったく。昨日からペース乱されっぱなし。けほけほ。
・・・でもさ、いくらあたしが暴言吐いてもヒドイことしても、石川はニコニコ笑っていた。
まさか。あたし、ホントに石川の名前を呼んでたってか???
51 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:25

「よっすぃー、私学校行くけど、大丈夫?」
「あぁ、行って来い」

「心配だなぁ。どっか遊びに行ったりしない?」
「しねーよ。だってまだ本調子じゃないしさ」

「うん・・・学校終わったら、もう一度見に来ようか?」
「いーって。」

「そう?」
「うん、大丈夫。」

「じゃ、ね。行ってきます」


きゅっとミュールを履いて、石川は部屋を出て行った。
ジャージ姿でその背を見送るあたし。
カンカンと、マンションの階段を下りてく音を確認してから、ドアの鍵をかけた。
52 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:26



トントン、トン。



再び眠ろうとしたら、ドアをノックする音が聞こえて。



53 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:26


「んだよ、忘れ物?」




ガチャ



54 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:26
「・・・おはよう、よっすぃー」
「カオリさん・・・」


そこには昔の恋人が、立っていた。


「誰か泊まってったの?」
「い、いや別に」

「隠さなくてもいいよ。そこまで詮索しない」
「・・・・・・」

「何だか急に、よっすぃーに会いたくなって」
「・・・・・・」
55 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:27

去年のクリスマス、あたしはぽいっと簡単にカオリさんに捨てられた。
会わなくなって、もうすぐ1年になる。
今ではもう思い出すことは少なくなって、でも時々夢に出てくるカオリさんよりもずっと、
目の前のカオリさんは綺麗だった。


「よっすぃー」
「はい」

「恋人、できた?」
「できませんよ」

「あれから、ずっと?」
「そうじゃないですけど。今は、いません」

「そっか」
「はい」
56 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:28

フリーになってあたしのことを思い出し、気が向いて会いに来てくれたのだろうか。
だって別れた原因は、カオリさんの浮気だったから。
イヤ、彼女は本気だった。本気だったから、あたしを捨てたんだ。


「ごめんね、急に会いに来て」
「うれしかった」

「え?」
「会いに来てくれて、うれしい」


あたしはカオリさんを抱きしめた。
よっしゃ、今日はずいぶん調子がいい。
別に、カオリさんとヨリを戻そうなんて、これっぽっちも思ってないけれど。

57 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:28
「よっすぃー」
「はい?」

「キスして」


上から見下ろしてくれるカオリさんの視線がすごく懐かしくて。
あたしは夢中でキスをした。
うん・・・やっぱり、あたしにはこういう恋愛の方が向いてるのかな・・・。
58 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:28

「カオリさん」
「・・・・・・」

「気持ちいい?」
「うん・・・よっすぃー、気持ち、イイよ・・・」

「もっと?」
「うん、もっと」


腕の中のカオリさんはかわいくて、あの頃のまま。
普段は手の上で遊ばれて、ベッドの上ではあたしが主導権を握る。
そんな関係が心地よかった。楽だった。忘れていた、感覚が蘇る。
59 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:29




**********



60 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/19(土) 07:34
本日は以上です。

>45 名無し飼育さま

ありがとうございます。新鮮と言って頂けてむちゃくちゃ嬉しいです。
ちょっと違ういしよしを目指しています。
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/20(日) 02:04
これからが楽しみですな
62 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 06:59




**********



63 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:00

「ふー・・・」
「・・・・・・」


終わったあとはカオリさん、いつだってそっけない。
それだけがなんか、いつも不満だった。
あたしが吸わないタバコを、美味しそうに肺に吸い込む。
ヤッたあとは、何か知んないけど吸いたくなるんだってさ。
そんなところも、変わらない。

64 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:00
「ねぇ、カオリさん」
「ん?」

「結婚でも、すんの?」


あたしはベッドに寝そべったまま、背中を向けるカオリさんに問いかけた。
羽が生えたような背中を見つめながら、あたしはぼんやりと口を開く。
午後2時。まどろみの中、あたしは何となくそう思ったんだ。

65 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:00
「しない。しないけど・・・」
「けど?」

「するかも、しれない」
「?」


そういえば。朝から何も食ってない。
石川がポテトサラダを作っておいてくれてたみたいだ。
あぁ、何かマズくてもいいから食いたいなぁ。
66 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:01
「プロポーズされて、迷ったの。そしたら・・・」
「うん」

「よっすぃーに会いたくなったの」
「何で?」

「何でだろう。カオの最高の恋人だったから、かな」
「・・・そうなの?」

「そうだよ」


そんな風に思っていてくれても、結局きっとカオリさんはあたしを選ばないだろう。
あたしはそれだけが全然わからなかった。
別れを予感するようになっても、何度話し合っても、教えてくれなかった。
なんで、一番好きな人と、歩む道を選ばないんだろう?
67 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:01
「帰るね」
「シャワーは?」

「いい」
「そ、か」


あたしは毛布だけを身にまとい、部屋を出て行くカオリさんを見送った。
さよなら。きっともう、会うことはないだろうけど。
さよなら。きっともう、分かり合うことはないだろうけど。
せめて、しあわせになってください。あたしがいなくとも。

さよなら。さよなら。

68 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:02




ガチャ


せ、セーーーーーフ。


風邪をぶり返してはいけないと思い、服をようやく着たときだった。
授業終えた石川が、宣言どおりまたやって来たのだ。


69 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:02

「よっすぃー」
「な、なに?」

「どう?」
「うん。全然元気。ピンピンしてるよ、ホラ」

「・・・・・・・・・」


ちょっと怪しかったかな。
石川の表情が少し歪んだように思えた。
疚しいことがあるとき、人は、錯覚をするものだ。
必要以上に、わずかな変化に意識が行ってしまうものだ。
それはきっと、無駄なこと。気にするな。バレてない。
70 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:02



・・・なんで、バレたらいけないんだ?
―――傷つけるといけないから。


・・・なんで、傷つけたらいけない?
―――石川は、処女だから?


・・・処女? そんなの、あたしには関係ないじゃん。
―――いいのか?それで?

・・・石川は、あたしにとって、何?
―――友達? ともだち? トモダチ?


71 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:02
「友達?」
「へっ?」

「友達、来てたの?」
「え・・・いや、・・・うん来てた」


ここは正直に。正直に答えよう。


「そっか。よっすぃーの部屋から出てくるの、見えたから」
「なんだ。見えてたのか」

「お見舞い?」
「うん」


石川がスポーツドリンクを冷蔵庫に入れながら、さらっと何でもない風に言った。
あたしはしつこく後ろめたい気持ちで、答えた。
72 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:03
「やだぁ、よっすぃー」
「何が?」

「ポテトサラダ、食べてくれてないじゃなぁい」
「食欲なくって、食べれなかった」

「食べなきゃ、ダメだよ」
「うん、ごめん」


食べたくなかったわけじゃ、ないし。
食べる時間がなかっただけで。
マズくとも、絶対平らげた。
何か石川、喜びそうじゃん?
73 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:03

「病み上がりのよっすぃーは、やけに素直ですねぇ」
「なんだよ。悪ぃのかよ」

「ううん、悪くない」
「じゃ黙っとけ」

「いつもそうしてくれればいいのに」
「黙ってろっつってんだよ」

「照れてるの?」
「ハァ?」

「かわいいね、よっすぃー」
「殴るぞテメー」

「きゃあっ」
「コラ待てぇっ」
74 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:04

お腹壊すといけないから、と、石川はあっさりとポテトサラダを捨て。
一緒に野菜たっぷりのスープと、オムレツを食べた。
手伝おうとするあたしを制して、石川は後片付けをする。
あたしはすることがなくて、読みたくもない雑誌を手にする。
テレビだけがうるさく喋っていた。

石川早くこっちこいよー。
念力リキリキリキリキリキ。
絶対面と向かって口には出せないから、テレパシーなんぞを送ってみる。

あ。こっち、来た。
75 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:04

「終わったよ」
「おー、サンキュ」

「お薬飲んだ?」
「うん」

「熱は?」
「下がった」

「よかったぁ」
「うん」
76 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:04
「・・・・・・」
「石川」

「ん?」
「あ、ありがと」

「どういたしまして」
「お前、結構・・・」



「?」

「できるじゃん」


77 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:05
この2日。ありがたかった。本当にありがたかった。安心できた。
カオリさんにもちゃんと決別できた。あんな簡単に、さよならすることができた。
ずっと、気づかなかっただけで、心のどっか奥の方に、ひっかかってたんだと思う。
直接石川のおかげでもないだろうけど、今は素直に、石川に感謝した。
78 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:05


「三好にもそやって看病したりした?」
「何で三好ちゃんが出てくるの?」

「三好・・・ちゃん?」
「あ」

「オマエ、何だかんだ言って三好と付き合ってんの?」
「つ、付き合ってなんかないよ!」

「隠すな」
「隠してないよ」

「嘘つくな」
「嘘じゃないよ!」

79 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:05
ショックだった。何かショックだった。
石川が、いい女に見えたのも、もしかしたら三好のおかげじゃないかって。
石川も、結構好いてたりして。そんなふうに、うかがえたから。

あぁ、いつもの悪い癖。ちょっとお気に入りの子ができると、その子を独占したくなる。
恋愛感情は別にして。いつでもあたしを一番に映して欲しいって、そう願わずにはいられなくなる。
80 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:06


「じゃ、どう思ってんの」
「三好、さんのこと?」

「他に誰の話してんだよ」
「いちいちつっかからないで」

「いいから。答えろよ」
「何で?」

「何でも。ほら早く」
「そんなの、よっすぃーに関係ないじゃない」

「・・・関係ねぇよ」
「じゃ答える必要もない」

「好きだってことだな?」
「どうしてそうなるの?」

「いーだろ。こんなのフツーの、友達の会話だろ」
「とも・・・」

81 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:06
思えば出会ったときから、そうだった。

石川とはなぜか、普通の話が出来なかった。
たぶん、半分以上はあたしの言い方が悪いせいなんだろうけど。

石川もそういう、色めいたものはすぐに隠したがるから、
そんでもってこんなあたしだから、上手く石川のことを聞け出せず。
それでもどっか気になるから、あたしは亜弥や美貴伝いで話を聞いていた。
そこでも話は終わらずに。ふーんと言って終わらせた。
何も言うことはないけれど、いつだってあたしはムカついていた。
82 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:07
亜弥や美貴から、石川のことを聞くたびに。
石川のお気に入りっぽいヤツが、現れるたびに。

だけどオクテの石川は、自分の中でいつもその恋を終わらせているらしく。
あたしは処女処女と言って必ずからかっていた。
ずっと、モヤモヤしてたままで。。

それは石川に直接当たることで、少しは解消できていた。
83 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:07


「・・・・・・」
「・・・・・・」


嫌な沈黙が続く。優しくないあたしは、石川に何の言葉もかけられずに。
石川も黙りこくって。思い出したようにテーブルを拭いたり。あたしが放り投げた雑誌を集めた。

やがて石川は荷物をまとめ始め。コートを着て。
部屋を出てく準備をしはじめる。

黙って帰るつもりかよ。

84 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:08


「・・・だろ?」
「え?」

「亜弥や美貴には相談するんだろ?」
「何、言ってるの」

「他の友達には言えても、あたしには言えないんだろッ!」
「・・・・・・」


独占欲丸出しのその言葉。
な、情けねぇ・・・。

あたしは思わず言ってしまったその言葉に、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい気持ちになった。
顔を上げることも出来ず、うな垂れたまま。
石川が近寄ってきたことも気づかずに。
85 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:08


「やきもち?」
「はァ?!」


見上げるとすぐそこに、不思議そうにあたしを覗き込む石川の姿。


「よっすぃー、やきもち焼いてるの?」
「な、んでそうなるんだよ」

「さっきから聞いてると、そう聞こえるんだもん」
「んなわけねーだろ!早く帰れよ!」

「うれしい」
「バカじゃねーの」

「今日は帰るね。私がいたらよっすぃー、血圧上がっちゃいそうだから」
「余計なお世話だよ!」

「ほらまた怒鳴る」
86 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:08
こおいう、上からものを言う姿勢があたしはムカつくんだ。
お姉さんぶるっちゅーか。なんちゅーか。
全部わかってるようでわかってない、世間知らずなこの女。
安心して身を任せらんないんだよ。その舟はぜってー泥舟。


イーッって白い歯見せて、勢いよくドアは閉じられた。

バタンッ!って石川が閉めたドアをしばらく見つめて、あたしは我に返る。


「なーんであんなこと言っちゃったんだろう・・・」


しばらく自己嫌悪から立ち直れなかった。
フテ寝したけど思い出してはムカムカ腹立って。
結局朝まで眠れなかった。石川のせいだ。
87 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/20(日) 07:09




**********



88 名前:ピス 投稿日:2005/11/20(日) 07:10
更新しました。

>61 名無し飼育さま

ありがとうございます。今回は『吉澤さんの変化』の巻です。
89 名前:名無し飼育 投稿日:2005/11/20(日) 16:31
うわ〜素直になれないよっすぃが可愛い…
凄く好きです、この話。倒置法。
90 名前:ゆう〜 投稿日:2005/11/20(日) 17:11
面白いです。
やっぱり二人はかわいいですね。
次も楽しみにしております。
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/20(日) 21:12
かなり大好きです、この話。
次待ってます!!
92 名前:ななししいく 投稿日:2005/11/20(日) 22:11
おもしろーい!吉が小学生の男子みたいなのがおもしろいですw
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/20(日) 22:20
かなりいいです。よっすぃーの不器用さに気付いてほしい。
94 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:43




**********





95 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:44
「聞きました?」
「聞きました聞きました」


はぁ・・・。自分で疑うよ、自分の神経を。
何でコイツラの友達やってんだろうって。
ハイハイ。今日も朝から、バカップル。


「『他の友達には言えても、あたしには言えないんだろッ!』」
「・・・だって。超カッコ悪ぅー」


「てっめぇ!藤本!!!」


ガタンッ!


「いくらよっすぃーでも、みきたんに手ぇ出したら許さないんだから」
「・・・・・・・・・」
96 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:44
振り上げた拳をしまい、ストンと椅子に座りなおす。
亜弥の背後で、ニシシと笑う藤本。ほんま、いつか、ブッ殺す。

案の定、石川との一件はこと細かく二人に伝わっている。
どういう風に石川は言ったのかしらないけど、あの勘違い野郎、絶ッ対脚色つけて喋ってる。
そうに決まってる。そういうヤツだ。


「石川は?」

「そういえば・・・」
「見てないね」

「・・・・・・」


どんな顔して会えばいいのかわからなかったけど、いなくてちょっとホッとしてる。
97 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:44
「吉澤さんとしては、寂しい?」
「何言ってんだ」

「てゆーか、よっちゃんさん、普通に梨華ちゃんのこと好きなんじゃん」
「バッカ言ってんじゃねぇ!」


ガタンッ!


「吉澤」
「・・・・・・・・・」


こぉえ〜〜〜。超こぇーよ。
亜弥のあんな低っい声聞いたことねーよ。ドス効きすぎ。
慌てて再び座りなおす。かまわずニヤつく藤本。お前な〜〜〜〜。
98 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:45
「風邪はもう大丈夫なの?」
「・・・おかげさまで」

「梨華ちゃんの献身的な介護でね(吉澤)」
「〜〜〜〜〜!!!!」

「ほんっと梨華ちゃんどうしたんだろうね〜?」
「確かに」

「・・・・・・」




まさか。まさかね。




99 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:45
「おい」

「きゃあっ!」


突然後ろから声掛けられたら、誰でもビックリするけど。
ちょっと驚きすぎ。涙目だし。尻餅ついてるし。色黒いし。アニメ声だし。


「なにやってんだよこんなとこで」
「よっ、よっすぃーには関係ないじゃん」

「まぁ、そりゃそうだ」


第二校舎の非常階段。
あたしのお気に入りの場所。
石川と初めて出会った場所。
実はふたりだけの、秘密の場所。
亜弥も美貴も、誰も知らない。
100 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:45
「昨日は、まぁ、なんつーか・・・」
「私よっすぃーがわからない」

「はぁ?!」
「超意味不明」

「っそ」
「うん」


あたしの方がアンタのこと、超わからないんですけど。


「顔くらい出せよ。みんな心配してたぞ」
「あ、うん」

「しっかし寒いな、ココ」
「また風邪引くよ?」

「それはヤだ」
「でしょう?」
101 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:46
ぴゅうっと風吹きすさぶ非常階段。

春はぽかぽかあったかくて、
夏は日差しから守ってくれて、
秋は落ち葉が舞い落ちる。

だけどどうしても冬だけは、寒くてしょうがない場所。


「なんでこんなとこにいたわけ?」
「よっすぃーこそ」

「あたしは・・・よく来るんだよ、ココに」
「なんで?」

「さぁ?」
「落ち着くもんね、寒いけど」

「うん」
「だよね・・・」
102 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:46
何を話すわけでもなく
何をするわけでもなく

ただそこにいた

ずっとそこにいた

いつから、いつまでいたのかわからなくなるほどに

裸になった大きな落葉樹を、ずっと見ていた
103 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:46




**********




104 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:46
「・・・ぅお〜い、さゆ」
「・・・・・・」

「さゆ、ってば!」
「あ、吉澤さん」

「クリスマスの計画立てようって言ったの、オメーだろ?」
「うん・・・」

「ったく、しょーがねーなぁ」
「ごめんなさい」
105 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:47
シュンとなるさゆの頭を撫でて、あたしは雑誌に目を戻す。
キラキラ輝くイルミネーションに、豪華なご馳走。
ご丁寧にラブホの案内まであって、プランもなんもあったもんじゃない。

あたしはバイトの時間まで、さゆと会っていた。
106 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:47
「ここ、行ったことある?」
「ない!行きたい!」

「じゃ、ここにする?」
「でも・・・」

「でも、何?」
「ううん・・・」

「どうしちゃったのさ。前はあんなに、張り切ってたのに。」
「あの、どうして、吉澤さんは」

「ん?」
「さゆに優しくしてくれるんですか」

「え?・・・ん〜・・・まぁ」
「・・・」


「好きだから」


107 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:47
途端にさゆは大きく目を見開いて、少し悲しそうに視線を落とした。
なんで?あたし何か言ったか?何の気に障った?
さゆはカプチーノの入ったカップをぐるぐるとかき回す。ぐるぐる。ぐるぐると。
108 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:48
「あの」
「ほい」

「デートコース、吉澤さんにお任せします。全部」
「はへ?」

「さゆ、急に用事思い出したんで帰ります。ごめんなさい」
「あ、そーなの?」

「ホントにごめんなさい」
「いーって。気にしないで。」

「お金、置いときますね」
「イヤ、いいから!高校生に払わせ・・・」
109 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:48
ありゃ。ピューって。行っちゃったよあの子。
あたしは置き去りのままの500円玉をポッケに突っ込んで、店を出た。
フラれちゃったかな?あ、まぁアノ年の子はあぁなのかな。
ワケのわからない理由をつけて店を出る。
おいてけぼりは、この寒さにはちと厳しいから。

コドモのままの頭では、あたしという人物は理解できなかったか。
期間限定の恋人。恋に恋する乙女には、ちょっとかわいそうだったかな。
今度。今度から。もうちょっと優しくしてみようか。

って・・・『なんで優しくしてくれるのか』って言われてなかったっけ???

バイト先までの道のりは、さゆとよく会うカフェから徒歩数分の距離。
思えば、さゆのケータイを偶然拾ったのもこの道の途中だった。
さゆは会うべくして会ったひと、なのか?わからねぇ。
110 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:48





「みきたん!」

・・・おや?

「みきたん、待ってよ!たんっ!!」
「イヤだ待たない」


声のする方に振り向くと。
通りの向こうに、知りすぎた人物が、ふたり。
ぷくく。ケンカかよ。街中で。恥ずかしー。

111 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:48
「ごめんね。ごめん、ごめんってば」
「今更謝られても困る」

「なーんで!なんでそんなに怒るの?」
「知らない」


バッカだなー藤本も。
スネて引き返せなくなったって感じだな。
だって顔が怒ってない。亜弥のこと、気になってしょうがないって感じだもん。

美貴が点滅している横断歩道を渡る。
少し出遅れていた亜弥は赤信号に捕まって。
無残にも二人の間にはもうすでに車が横切っていた。
112 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:49


「好きだよーーー!!!」


クラクションにかき消されそうになりながらも、亜弥の声は必死だった。
街中で。恥ずかしげもなく。声を張り上げる亜弥。
さて。藤本。どう出る?


「・・・亜弥ちゃん」


ハイ、ドラマの再現キター!
ハイハイキモい。うわぁ、超キモい。

やがて信号は青に変わり、何の関係もない通行人は足を踏み出す。
横断歩道のド真ん中で、抱き合う二人。バカップルもここまでくれば立派立派。

113 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:49
「はい、カット」

「よっちゃんさんっ・・・!」
「よっすぃー」

「ほんとは知らない振りして通り過ぎようと思ったけど、止めてあげる役も必要だろ?」


あたしはなんておせっかいなんだ。石川のが伝染ったみたい。
あたしはふたりを引っぺがす。また磁石のように引き合う二人。
勘弁してよ、もう。
114 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:49
「止めなくてもいいです!」
「邪魔しないでよね、おせっかい」

「コノヤロウ・・・!」


「ちょっとはうらやましかったでしょ?」
「だから美貴たちの間に割って入ったんだ」

「なわけねーだろ」


「なんならよっすぃーもやってみる?」
「さっき梨華ちゃんと別れたばっかなんだ」

「結・構ですっ!」


しかし何で二人とも石川石川言うんだ?
あたしにはれっきとしたさゆ・・・ってあぁ、誰にも言ってなかったっけ。
115 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:50
「あのさぁ」

「「ん?」」


「あたし、カノジョができそうなんだ」


余裕のVサイン。高校生ってのはあえて伏せる。あえて。
116 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:50
「カノジョ?」
「またまたァ・・・冗談でしょ」

「マジ。超マジ。」


「ほんとに?」
「嘘でしょ?」

「いやぁ〜スイマセンね。節操なくて。」


コレはちょっと謙遜。だって清い出会いだし。清い清い恋愛だし。たぶん。
117 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:50
「ほんと節操なさすぎだよ」
「聞いて呆れる」

「何でだよ!」


「ちょっとカワイかったら」
「ホイホイ声掛けて」

「ちょっと仲良くなって」
「飽きたらポイ」
118 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:51
「やだぁ〜〜〜不潔ぅ〜〜〜」
「ね、亜弥ちゃん。こんな奴と一緒にいたら、不潔になるよ」


「清潔不潔の区別はしっかりしなきゃ」
「さすが亜弥ちゃん」

「ついでにゴミの分別も」
「よっ!エコロジスト亜弥ちゃん!!」


ヒドイ言われようだな。アンタら友達じゃないの?
っとバイトに遅れそう。言いたいヤツらには言わせておこう。
119 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:51
「勝手に言っとけよ」

「ハイハイ梨華ちゃんにご報告〜」
「よっすぃーは、また新たなターゲットを見つけました!」


「そーゆー意味じゃなくて!」


・・・・・・。ほんっとに血圧上がりそう。
こめかみの血管がムクムク浮き出て、ドクドクピキピキいっちゃってるよ、もう。
120 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:51
「ホントごめん。バイト遅れそうだから」

「そっかそっか」
「ごめんね邪魔して。お騒がせしました」


「オメーら。からかってただけかよっ」

「あ。」
「バレた?」


「!!!」


これ以上一緒にいたらもう、バイトどころじゃなくなる。
つま先を翻したその時。
121 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:51




「よっすぃー!」


「お、おぅ」



突然亜弥に呼び止められた。



122 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:52
「あたし。思うんだけど」






「梨華ちゃんは本気でよっすぃーのことが好きなんだと思う。たぶん」




123 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:52



「・・・ハァっ???!!」




「それだけ。行こ、みきたん」
「う、うん」
124 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:52





石川が・・・。



あたしのことを・・・。



本気で



好き・・・?
125 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:52
「いいの?言っちゃって」
「いいんだよ」

「大丈夫かなぁ」
「今のよっすぃーにはいい薬だよ」

「うん・・・」
「風邪薬のあとは恋の薬、ってとこかな。ニシシ」

「恋の薬ィ?」
「ちょっとは考えてもらわなきゃ☆」
126 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/21(月) 10:59




**********





127 名前:ピス 投稿日:2005/11/21(月) 10:59
更新しました。

>89 名無し飼育さま
素直になれないよっすぃ〜は、
そろそろ気づくのでしょうか、梨華ちゃんのこと。倒置法返し。

>ゆう〜さま
面白いといって頂けて光栄です。頑張りまっす。

>91 名無飼育さま
最高のお褒めの言葉ありがとうございます。

>ななししいくさま
ありがとうございます。幼いガキンチョを見守ってやってくださいね。

>93 名無飼育さま
ありがとうございます。ブキッチョも見守ってくださいね。
128 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:31




**********





129 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:31
亜弥と美貴が、そんな会話をしてるとはつゆ知らず。
あたしの頭の中は、亜弥が発した言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。


ぐるぐる、ぐるぐる。

ついでにさっきからそこのオッサンも、ぐるぐる、ぐるぐる。


って、エェェェェェェエエエ????!!!!


そこのオッサンは運動公園のトラックを、何周も何周もしていた。
30秒にいっぺんのペースでぐるぐるぐるぐる回っていた。
130 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:32
何度も顔を合わせるのが急に恥ずかしくなって、あたしはそそくさを公園を出た。
時計は18時ジャスト。もちろん、とっぷりと日は暮れていた。

ジージーと外灯に蛾が、集まってる。
冬でもずっと、虫っているもんなんだな。

あたしの知らないところで。
石川も、ずっとあたしのことを好きでいてくれてたんだろうか?
131 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:32



急に不安になる。闇とともに、不安がどっと押し寄せてくる。
もし、仮に、例えば石川があたしのことを好きだとして。


あたし、今までそーとーヒドイことをしてきたのでは、ない、だろーか?


132 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:32
亜弥と美貴のペースに乗せられて、
石川もあたしに言われるようなことをするから、
それが余計、あたしを狂わせて。
亜弥や美貴と同じように、いっつも、いっつも、
憎まれ口ばかり叩いてきた。

石川は石川で。
いっつも、いっつも、ニコニコニコニコ微笑むから、
あたしもそれについ慣れてしまって。
時々、本気で怒らせたこともあった。
だけどやっぱり最後まで石川に頼ってしまって、
明らかにあたしが悪い場合でも、あたしから折れることは本当に少なかった。


もし、そのたびに、傷ついていたとしたら?
133 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:33
「っ、あー、ワケわかんねぇ」


第一。真実かどーかわかんないし。亜弥のことだから。
また気まぐれでついた嘘かもしんないし。
いちいちそれに踊らされて、無駄に悩んで慌てふためいて、ネタにされて笑われるのがオチだ。
カッコ悪ぃ。そんなの。


「やめっ、ヤメだヤメっ」


ごろーんと、入り口の近くのベンチに座る。
冬の空は、きれい。透き通って、きれい。
ずっと飽きることなく、星空を見ていた。
134 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:33




**********



135 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:33
「吉澤ぁ、おーまーえーなーぁー」
「スミマセンッ!ほんっと、すみませんでした!」


家に帰り、自分で風呂を沸かし。
服を脱いで裸になった瞬間。
あたしは、重大なことを思い出した。

そう、バイトをすっぽかしたのだ。


「連絡もないから、事故にでも遭ったのかと・・・」
「いえ!無事です!ご心配をおかけして、すみませんでした」


裸のまま見えもしない相手にぺこぺこと頭を下げる。
仮に見えてたとしたら、素っ裸なんて、返ってすげー失礼だし。
136 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:33
「こっちは何とか大丈夫だったけど」
「あ、そうだったんすか。よかった」

「明日から、頼むぞ。ほんっとに」
「はい。絶対に」

「じゃ、ま。仕事に戻るわ」
「ハイッ。お疲れ様です。本当に、申し訳ありませんでした。」


深々と、一礼。
137 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:34


ぶくぶくぶくぶくぶく。

鼻まで湯船につかり、ちょっと凹む。


やっちゃった・・・。

大抵のことは、しっかりできていたつもりだったんだけど。

138 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:34
自分自身、こんなに動揺するなんて。
バイト行くのを忘れるくらい、考え込むなんて。
全く思っちゃいなかった。

自分にとって亜弥の言葉が、こんなに威力のあるものだとは、思いもしなかった。

ずっと、石川のことが頭から離れず。
モヤモヤ、モヤモヤと浴室の湯気のように頭が霞む。
嬉しさ。悲しさ。驚き。怒り。やるせなさ。しあわせ。恥ずかしい。イヤだ。好きだ。嫌いだ。
どれにも当てはまらず、ただただ、どうしようどうしようって思ってた。
139 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:34




**********



140 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:34
「ここです」
「あ、うん」


さゆに話があると、連れて来られた場所はさゆの家。
別れを切れ出されるか、それともあたしを欲しているのか。
その答えは両極端。あたしを見つめるさゆの目は真剣だった。


「4階なんです」
「そうなんだ」


ポインセチアが飾られた、小奇麗なエントランスホールを抜け、エレベーターに乗り込んだ。
はあっと白い息が目の前を掠める。そしてそれはすぐに消えた。


「お茶、淹れますね」
「あー、悪いね」
141 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:35
両親は共働きと言っていた。絶好のチャンスじゃね?
っと。今日はさゆの話を聞きにきたんだっけ。
襲っちゃ、マズイよ。自粛、自粛。
制服のまま、さゆは紅茶をリビングに運んできた。
きょろきょろと部屋を見渡すのをやめて、勤めてあたしは笑顔で迎え入れた。


「どうぞ・・・」
「ありがと」


それにしても。このよそよそしさは何なんだ。
さゆがあまりにも意識しすぎるから、あたしまでそれが伝染した。
窓ガラスが曇るくらい外は寒いのに、手のひらは汗で滲む。
142 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:35
「話って?」
「・・・え」

「話があるって、言ってたじゃん。何?」
「ああああのそれは、それはですね」

「・・・・・・」
「その・・・」

「別れたい、とか」
「?」

「あるいは」
「・・・」

「抱かれたい、とか」
「よっよよ吉澤さん!」


心臓はドキドキしてるのに、口からするすると言葉が出て。
気がつけばいつのまにかさゆを押し倒してしまっていた。
そんなつもりじゃないけど。ま、いっか。
143 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:35
「さゆ」
「・・・ちょ、ちょっと」

「さゆ」
「ちょっと待ってくださいッ!」

「?」
「違うんです。そういうんじゃないんです」

「あ、ごめん」
「そうじゃないんです・・・」


あたしを見つめる目に、だんだんと涙が溜まって、
さゆはとうとう泣き出した。参ったなぁ。どうしようか。
144 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:36
「ごめん」
「・・・」

「ごめんね、驚かせちゃったね」
「・・・」

「大丈夫だから。何もしないから、安心して」
「吉澤さん・・・」


心の中では正直迷っていた。どうしたらいいのか。
そういうんじゃない、としたら?
一体さゆはどうしたいんだろう。んーと。
145 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:36




ガチャガチャッ



146 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:36
あ。やべ。親でも帰ってきたのかな?
再び緊張が走る。えっと、よ、吉澤ですっ。初めまして!



「さゆー?帰ってるのー?」



???
147 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:37



「お姉ちゃん?!」

「もー外すごい寒いねー?お姉ちゃん速攻で帰っ・・・」


148 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:37



リビングのドアが開いて、あたしは絶句した。

お姉ちゃんって。ま、さか。



「い・・・石川・・・」


「・・・・・・・・・」


149 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:37
今更遅いんだとゆーことは百も承知だけど。
これ以上ないくらいのスピードで、あたしはソファまで一気に後ずさりした。


「何でオメーがこんなとこにいるんだよっ!」
「なっ・・・ここは私の家だもんっ!」

「えっ」
「よっすぃーこそ、私の家で、何してるの?!」

「あたしは、さゆと・・・」
「さゆ・・・?」

「お姉ちゃん」
150 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:38



おっおっおっお姉ちゃんんんっっっ???!!!



さァーーーーーーーーーっ。


ち、血の気が・・・。


151 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:38
「ち、違うんだ石川」
「何よ?」

「あ、え、っと違くはないんだけど、あぁ、その」
「なに動揺してんの?」

「・・・・・・」
「さゆ」

「ハ、ハイ」
152 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:39


般若のような石川の顔。すっげ。怖ぇ。マジ怖ぇ。
さゆは石川に呼ばれて、奥の部屋へ入っていった。


ぱたん。


石川が、さゆの妹だった。
さゆとあたしは恋人になりそうな、微妙な、関係。

まさか。考えたくはないんだけど。
さゆは初めから、あたしを知っていた、とか?

153 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:39



どーすりゃいーんだよ・・・。


154 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/22(火) 15:39




**********




155 名前:ピス 投稿日:2005/11/22(火) 15:40
更新しました。
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/22(火) 20:01
(*´Д`)ポッ
157 名前:ゆう〜〜 投稿日:2005/11/22(火) 20:03
吉澤さん大変ですね。
まさかさゆが妹だとは思ってなかったんです。
次も頼みます。
158 名前:プリン 投稿日:2005/11/22(火) 20:23
はじめましてw

ど〜なっちゃうんだぁぁぁー。
なんでこんな良スレもっと早くに発見してなかったんだ…
次回の更新待ってますね。
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/22(火) 22:47
面白い展開だw
160 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/23(水) 10:26
今日見つけて一気に読みました。
テンポがよくてすごく読みやすい。
続き待ってますよ。
161 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:18




**********



162 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:18

あたしは思わず頭を抱え込んだ。

何か、石川には知られたくなかった。

石川とさゆが姉妹であろうとも、どんな関係であろうとも。

今まで、本気じゃない恋愛なんていっぱいしてきた。

どこか後ろめたい気持ちで。
163 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:19

恋に恋する石川にとって、ちょっと酷だと思って、

あたしは石川にだけはいつも、ネタとして笑って話せなかった。

幻滅されるかな。そう思うと、話せる自信がなくて。

好きと言われて求められれば、大概の人にはそれを出来る限り叶えてあげてた。

だけどお互いしあわせにはなれなかった。

とりあえず、あたしがしあわせとは思えなかったから。

それでもこのスタイルを崩すつもりはなかった。
164 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:19

もしかしたら、本気で人と向き合うのが怖かったのかもしれない。

いつか終わりが来たとき、傷つくのを恐れていたのかもしれない。
165 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:19



冷たかった部屋が、だんだんぬくもってきて。
石川とさゆが戻ってきたら、ピンと糸を張ったように緊張が走った。
166 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:20
「・・・・・・」
「ごめんね、おまたせ」

「あのさ石川・・・」
「よっすぃー」

「?」
「私、出掛けてくる」


えっ、・・・え?なんでそーなんの?
あたしはダウンジャケットを引っ掴み、玄関へ向かう石川を追いかけた。
167 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:20
「で、出てくことないだろ」
「いーじゃない。私がどうしようと」

「あの、ホントさゆとはまだ何もないから」
「私に弁解しなくてもいいよ」

「違う、そうじゃなくって」
「これからも付き合ってあげてね」

「・・・・・・」
「さゆのこと、傷つけないで」


そう言った石川は、誰よりも傷ついた顔をしていた。
オメーがいちばん傷ついてんじゃねーかよ。
辛そうにこっち見んじゃねーよ。
やめろ。何だか、あたしまで泣きたくなるから。
168 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:21
「あ、うん」
「よろしくね」


だけど、さゆのことを、傷つけることもできない。


「石川」
「なに?」

「あたし、ほんとに知らなかったんだ。さゆが、石川の妹だったなんて・・・」
「似てない?」

「・・・似てない」
「私がお母さん似で、さゆはお父さん似だから」


そんなこと、どうでもいいし。
そんなプチ情報、いらないし。
169 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:21
「じゃあね」
「・・・・・・」

「絵梨香と約束してるから」
「はっ?」

「付き合ってるの。三好さんと、私」
「え、だって」


付き合ってないって否定したの、5日くらい前だろ。
なんで、そんな展開になってんの。
し、しか、しかも『絵梨香』って・・・呼び捨て?

マジで、付き合ってんの?ウソ、だろ???
170 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:21
「だから別に、さゆとよっすぃーが付き合っても何の関係もないから」


ナニそのトゲのある言い方。
あたしには何の興味もないってか。クソッ。

「じゃね」
171 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:22




パタン



172 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:22
「・・・・・・」


あたしは部屋を出てく石川の表情が頭から離れなかった。

迷うとき、傷ついたとき、困ったとき。
いつでも石川は、眉間にしわ寄せて眉はハの字になってた。

さっきもそんな顔で、でも、笑ってた。
はっきり言って微妙だった。
笑顔と言うにはあまりにも、下手っぴに笑っていたから。
173 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:22




**********



174 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:23




「・・・さん」



175 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:23
「吉澤さん」


「あ・・・え?」
176 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:23



「そんなとこ、ボーっと突っ立ってないでくださいよ」
「うん・・・」

「どうして凹んでるんですか?」
「え?」


177 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:24

「そんなに、ショック?」
「いや・・・ビックリしただけ」

「ふふふ」
「何で笑ってんの」

「いやぁ、ふたりとも素直じゃないなぁと思って」
「ふたり・・・とも?」
178 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:24

「吉澤さん、お姉ちゃんのこと好きでしょ?」
「・・・・・・」

「三好さんと付き合ってるって聞いて、ショックなんでしょう」
「・・・ショックっつーか、ただ・・・」

「ショックなんでしょ?」
「・・・うん」

「やっぱり」
179 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:24
「お姉ちゃんも、さっき私と吉澤さんが一緒にいるのを見て、かなりショックだったって言ってました」
「石川が?」

「はい。お姉ちゃん、私には素直ですから」


あのね吉澤さん、と言ってさゆはゆっくり息を吐き出した。


「私、出会う前から知ってたんです。吉澤さんのこと」
「な、なんで?」

「お姉ちゃんから聞いてたから」
「な、なんて?」

「女タラシで口悪くって、だらしがなくて意地悪で」
「・・・・・・」

「でも優しいひとなの、って言ってました」
「・・・・・・」
180 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:25


外を見ると木枯らしが吹いて、すげー寒そう。

石川はあたしを看病したりしたけど、実は本人が一番風邪を引きやすい。
毎年毎季節ごと、必ずハズレなく風邪引いて、ウンウン唸ってる。

今頃、寒空の下で震えてなければいいけれど。

181 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:25
「お姉ちゃん、ずっと、吉澤さんのことが好きだったんです。
 だから、さゆが試してあげようと思って。吉澤さんの本当の気持ちを。」


「じゃ、ケータイ落としたりしたのも、ぜんぶ・・・?」
「うん、わざとやりました。ごめんなさい。」

「石川も、それ知ってて・・・?」
「それは言ってません。さゆが、全部自分で考えてやったことなんです。」
182 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:25

「でもね。こないだ吉澤さんに、『友達だろ?』って言われたとき、すごく落ち込んでて。
 お姉ちゃん、泣いてました。私すごくひどいことしたんだって、気づいたんです」
「・・・」

「吉澤さんにも、お姉ちゃんにも。
 嘘ついて人の気持ちを知ろうとするなんて、絶対やっちゃいけないことだって。」
「そうだね」

「吉澤さんはお姉ちゃんの言うとおり、優しいひとでした。
 そんなの、初めからわかっていたことなのに。
 吉澤さんの気持ちは、お姉ちゃんが直接聞けばよかったんです。」
「うん」

「でもお姉ちゃん、吉澤さんのことが本当に好きで。だから、本当の気持ちを知るのが、怖かったんです」
「・・・・・・」

183 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:26



石川・・・。



なんでそんなに怖がってんの?

優しさが、誰に向かってるのとかってさ。

あたしの本当の気持ちなんて、知っても、さ。

価値のないものだと思うけど。つまんない、もんだよ。



でも。今なら。


184 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:26
「吉澤さん。試したりして、本当にごめんなさい。」
「・・・こっちこそ。さゆのおかげで、自分の気持ちに気がついた。」

「そんな・・・」
「ありがと」

「いいえ。それより、あの・・・」
「ん?」

「お姉ちゃんのこと、しあわせにしてくれますか?」
「・・・うん」

「今頃きっと、寒くて震えてるだろうから」
「あぁ」
185 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:27


さゆも、あたしと同じことを考えていた。
ふたりして、石川を思うことは同じだった。

186 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:27
「早く、追いかけてあげて」
「うん」

「・・・吉澤さん?」
「あのさ、さゆ」

「はい?」
「さゆはあたしといて、傷ついたりしなかった?」



「・・・吉澤さんて、自意識過剰ですね」
「なっ・・・!」

「私にも、恋人くらいいますよ」
「こっ・・・高校生のくせに!」

「それより早く」
「わ、わかってるよ。うるせぇな」
187 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:27



「あ」



「何だよ、呼び止めんなよ」


188 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:27
「吉澤さん、今さゆに初めて乱暴なこと言った」
「?」

「吉澤さんが憎まれ口叩く相手って、みんな好きな人なんですよね?」
「え?」

「吉澤さんにとって、安心して、ぶつかっていける人ってことです」
「何言って・・・」

「吉澤さんもお姉ちゃんも、素直じゃないですね」
「・・・・・・!」
189 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:28



「ごめんなさい。余計なこと言って。」
「ホントによけーなお世話だよ」

「早くしないと、三好さんにお姉ちゃん取られちゃいますよ」
「・・・っ!」


あたしは急いで外を飛び出した。
頬に突き刺さる冬の風が、神経を麻痺させてく。

だけど澄み渡る青い空。クリアーで、すべてを透過する空。


190 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:28
早く。早く。石川のもとへ。

それだけが体中を駆け抜けて、上手く走れない。
もつれる足を何とか動かして、あたしは街中を走り続けた。
191 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/23(水) 11:28




**********



192 名前:ピス 投稿日:2005/11/23(水) 11:34
更新しました。

>156 名無飼育さん
(*´Д`)アリガトウゴザイマス

>ゆう〜〜さま
吉澤さんはまた大変なことになりました。
ま、任してください。

>プリンさま
はじめましてw
良スレと言って頂けて有頂天です。ありがとうございます。

>159 名無飼育さん
ありがとうございます。一番うれしい言葉です。

>160 名無飼育さん
書いてる方としてもポンポンと書きやすいです。がんばります。
193 名前:ゆう〜〜 投稿日:2005/11/23(水) 12:07
面白いです!!!!
さゆは大人ですね。
ふふっ
毎日楽しく読んでおります。
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/24(木) 00:51
連日更新お疲れ様です
195 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/24(木) 01:21
さゆ・・ええ奴や・・・。
非常に楽しみです。
196 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:45



**********



197 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:45
「あ。ケータイ・・・」



その存在に気づいたのはもう、もう探すところがなくなってしまった頃。

ポケットから手こずりながらもケータイを出す。
手がかじかんで、うまくボタンが押せない。
そんなになるまで夢中で石川のことを探してた。

しかし無常にも、石川のケータイはすぐに留守番サービスに切り替わった。



「どこ行ったんだよ・・・」
198 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:46
一応、メールはしておいたけど、返事は期待できない。

石川って。

やるときめたら一直線。
突っ走ったら、全部やることは唐突すぎ。
周りのことなんておかまいなし。
不器用だからあちこちガンガンぶつかるし。
一生懸命なぶん、人よりも傷つきやすくて。
そんなところがほっとけなかった。

必要以上にかまってしまい、
ムカムカしながらからかっていたのって。本当は。
いつもあたしひとりでヤキモキしていただけなんじゃのかな。


―――会って伝えたい。


言いたいことは山ほどあるのに。
肝心の石川には会えなくて。
199 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:46
あたしさ。


ようやく気づいたんだよ、自分の気持ち。
半ばさゆに騙されるようにして、わかったことだけど。
ちょっと荒療治とも、思えるけど。

でもそれって、すごくすごく大事なことだった。



石川。

あたし、誰よりも、石川のことが大切なんだ

亜弥でも、美貴でも、同じようだけど違うんだ



いつも変なことばっか言って石川を怒らせていたけど。
それはさゆの言うとおり、石川があたしにとってすごく安心できる相手だったからなんだ。
200 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:46

石川じゃないとダメなんだ。



やっと、見つけた相手なのに。
何で今、会えないんだよ。



いしかわッ・・・!!!

201 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:47



**********



202 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:47
駅前の、コーヒーショップを探し。
商店街を駆け抜けて。
公園に寄ってないか見に行って。
一応、大学へも行ってみたけれど。

気がつけば日が暮れようとしていた。

バイト先へ連絡して、店長は怒っていた。
クビかもな。まぁ、そんなことはどうでもいいけど。
203 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:47
♪ ♪ ♪ ♪



「・・・さゆ?」
『吉澤さん、今どこですか』

「駅前。もうどこ探していいのかわかんねぇよ・・・」
『お姉ちゃん、帰ってきました』

「マジで?」
『はい。吉澤さんに教えてるっていうのは、内緒ですけど』

「うん。」
『・・・どうします?』



「行くに決まってるだろ!」
204 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:48
あたしはすでに、街中を走り回ったせいでヘロヘロだった。
だけど、何かがあたしの足を動かしてくれていた。

道行く人にも何度ぶつかったかわからない。

派手にクラクションを鳴らされて、何度も道路に飛び出した。

キリキリ痛む腹。汗が冷えて風邪引きそう。
膝だってガクガク笑って、腕もダルくてしょうがなかった。




だけど、それ以上に今、石川に会いたい。
205 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:48




ピンポーン。



・・・ピンポーン。




ガチャ


206 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:49
「あっ吉澤さん」

「石川は?」



「部屋に、閉じこもってます」
「ずっと?」

「はい。帰ってきてから、ずっと」




あたしは黙ってズカズカと部屋に上がりこんだ。
さゆが指差した方向を睨むと、その一番奥の部屋へ突き進む。
意を決して、ドアをノックした。
207 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:49



コンコンッ



「・・・石川」



コンコンッ



「石川?」



「なに」



やっと、会える・・・。


208 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:50
なのにドアの向こうから聞こえてきたのは石川の冷たい声。
あたしはメゲそうになったけど、それでも声を掛け続ける。



「開けてくれない?」
「ヤだ」

「話したいことがあるんだ」
「・・・ヤだ」

「石川」
「・・・・・・」

「石川ぁ」
「・・・・・・」

「・・・お願いだから。開けてくれない、かな」
「・・・・・・」


石川はようやく観念したのか、ゆっくりとドアを開けた。
コートを着たまま、あたしを見上げて。
外から帰ってきたまま、ずっと閉じこもっていたらしい。
ドアの隙間から見えた石川の部屋は一面ピンクで。
てゆーか立ち話もなんだから、さ。
209 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:50
「入れてくれる?」
「う、うん」

「おじゃまします」
「・・・・・・」

「あのさ」
「・・・・・・」

「三好と付き合ってるってホント?」
「・・・ホント、だよ」

「ウソつけ。」
「どうして?」

「さゆから聞いた」
「!?」



「オマエ、本当はあたしのことが好きなんだろ?」
「はっ?!」

「だから、三好だなんてウソついてるけど、本当に好きなのはあたしなんだろ?
「なっ・・・何言ってるのよっすぃー!」

「だって、、、」
「・・・・・・」
210 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:50
さゆも亜弥も言ってたし。
動揺してちょっと騙されちゃったけど、あたしも、どうやったってそうとしか思えない。
自意識過剰だって、またさゆに言われそうだけど。


「三好じゃなくてあたしなんだろ」
「違う」

「嘘つくなよ」
「嘘じゃない!」

「はぁ・・・」
「そんなこと言いに来たんなら、帰って」

「・・・・・・」
「よっすぃーが帰らないなら、私が出てく」
211 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:51
あたしにくるっと背を向けて。
そのまま、石川は部屋を出ようとした。

ちょ、ちょっと待って待って。
そーじゃない。そーじゃなくてさ。
わ、わかるだろ?



「おい待てよ石川」
「・・・・・・」

「石川ッ」


去ろうとした石川の腕を引っ掴む。
ばっと振り払われて、あたしはまた更に強い力で引き寄せる。
212 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:51
「離してっ」
「離さない」


ギリギリと、指が石川の腕に食い込む。
それでもあたしは離さなかった。離したくなかった。


「よっすぃーなんて大ッ嫌い」
「ちょ・・・」

「大ッ嫌い!!!」


あたしが怯んで力が緩んだ隙に、石川は逃げ出した。
ヤバっ。ちょ、ちょお、待て、待てってば。
213 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:51





「ちょっと待て梨華ぁ!!!」

「・・・・・・」



214 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:51
石川の足が止まる。
廊下に出て、石川の背中に向かって話しかけた。



「石川のこと、そんな風に思ったことなくて、ホントに」



「ゼンゼン素直じゃないし、キショイし寒いけど・・・」
215 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:52



「そんな石川の、キショくて素直じゃないとかも全部、かわいい・・・とか思ってるし」



「つ、つまりあたしは、いい石川が、好き、で」



「だから・・・あたしにしとけ」



「な?」



216 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:52





「やっぱりもう・・・あたしのこと、キライになった?」





「・・・・・・」
「・・・・・・」



「・・・・・・」
「・・・・・・」



「よっすぃ・・・」
「・・・・・・」



「好きっ・・・!」


217 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:52
石川があたしに向かってダッシュしてきて、あたしは慌てて石川を受け止めた。
華奢な体があたしにまとわりついて、廊下にドサッとふたりして尻餅をついた。
あたしの背中が廊下の壁に激しく激突して、着地して、そこでようやく視線が交わった。



「・・・石川」
「ん」



至近距離で石川を見つめた。
少し涙で潤んでて、零れ落ちそうな雫。
でもキラキラ光ってて、一生懸命あたしを見つめてくれている。
かわいい・・・素直にそう思ったら、素直に言葉もこぼれてた。
218 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:53


「石川、すき」
「うん」


「好き、だよ・・・」



うわぁ。キスしてェ。すっげぇしてェ。もーダメ。我慢できない。
石川の手首をぎゅっと掴んで逃げられないようにロック。
石川の甘えるような視線に浸ってから、あたしはおずおずと石川に顔を寄せた。
至近距離で見つめた石川の顔は、マジありえないくらいカワイイ。
あたしはゆっくりと目を閉じた。


219 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:53
「・・・」
「・・・」



「や、やだッ!」



どんっ



「・・・???」



「きゅ、急にするんだもん。な、何かやだっ!」

「オマエなぁ・・・」
220 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:54
石川はあたしを思いっきり突き飛ばして、あたしは頭を激しく壁にぶつけた。
あたしは打った頭をすりすり擦り、じとっと石川を見た。
石川は胸元を手で隠して、あたしを責めるように見つめる。


「よっすぃーと、そんなこと、恥ずかしすぎて出来ない」
「オメー処女かよ」

「処女だもん」
「あ、そっか。そーだった。」

「・・・悪い?」
「悪かぁないけど・・・」

「けど?」



「それを奪うのは、あたしだから」
221 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:54

「?!?!」
「覚悟しとけ。」


こりゃあそーとー時間かかるな。・・・でも。
呆れるくらい恋愛初心者の石川を、ゆっくり開花させてくのも・・・ま、いっか。

腕の中の石川を、ぎゅっと抱きしめて。
あたしは思い切り息を吸い込んだ。

鼻腔をくすぐる、石川の甘い香りに酔いそうになりながら。
あたしは、コイツをしあわせにしてやろうと心に誓った。

ガラにもなく、そんなふうに思った。

222 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/24(木) 05:54



**********



223 名前:ピス 投稿日:2005/11/24(木) 05:59
更新しました。SOGの、いしよしのリアルな絆ってスゴイですね。

>ゆう〜〜さま
毎日レスありがとうございます。めちゃくちゃ励みになります。

>194 名無飼育さん
連日レスくださる皆々様、本当にありがとうございます。

>195 名無し飼育さん
姉思いなのです。ありがとうございます。
224 名前:ひすい 投稿日:2005/11/24(木) 06:47
ハァ━━━━━━ *´Д` ━━━━━━ン!!!!
を100万回お願いします。

素晴らしい!!
お疲れ様です。次もお待ちしております。
225 名前:いしよし初心者 投稿日:2005/11/24(木) 21:42
読みながら想像してかなりドキドキ!
胸キュンいしよしってサイコーですね。切ない系もいいけど。

これからも読み続けますので!

ところで、SOGってなんですか?
226 名前:ゆう〜〜 投稿日:2005/11/24(木) 21:49
初恋はやっぱり甘酸っぱいですね。
何かすごくいい感じです。
お疲れ様です!!
227 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/25(金) 09:19
初めて書き込みします。
いつも楽しく読ませていただいてます!
ほんとう、大好きです(ヴぁく
次回も待ってます〜

>>225さん
スピリッツオブガッタス(ガッタスの本)の頭文字ですよ〜w
228 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:56


**********



229 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:56
「う、っわ〜〜〜」
「キショ〜イ。よっすぃー、キショイよ、それ」

「キショイキショイ言うな。」


報告を兼ねて。今日は4人で飲みにやって来た。
亜弥と美貴にさんざん根掘り葉掘り聞かれて、あたしは困った。
まぁ、結果的によかったんだけど。そう。あたし今、すっごいしあわせッス。


「ほら、石川も何か言ってやれよ。あたしら言われっぱなしだぞ?」
「えへへ〜〜〜」
230 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:57
コラぁ!寄っかかってくんじゃねぇ!
あたしはうっとおしそうに石川を押しやる。
石川はすでに酔っていて、甘えたモード全開だ。

美貴がもう一杯!と店員を呼んでいる間。
ふと、亜弥と目が合って。ウインクされる。


「よかったじゃん」
「ま、ね」

「さゆちゃんにも騙されて、いい経験になったんじゃない」
「くっ・・・!」

「これに懲りて、もう他の子と遊んじゃダメだよ?」
「わ、わかってるよ・・・」
231 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:58
「なぁに〜?二人でコソコソ話しちゃってぇ」
「石川は黙ってろよ!」

「よっちゃんさん、亜弥ちゃんに気安く触らないでくれる?」
「触ってねぇよ!」


と、言いつつ、テーブルの下で石川の手を握った。
優しく石川も握り返してくれて、二人で微笑み合う。
いいカンジじゃね?ニヤニヤ。


『ふたりでどっか行こっか』


そっと耳打ちしたら、石川はぼんっと耳まで真っ赤に染まった。
アルコールのせいだけじゃない。あたしの甘い声でそうなったんだろ?

「ダ、ダメっ」
「なんで?」

ムッとして聞き返す。何だよちょっとくれーいいじゃんよぉ。
232 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:58
「・・・ママが、心配するもん」


困って俯く石川。
覗き込むあたし。

目を泳がせる石川。
負けずに微笑みかけるあたし。

耳元で、そっと囁く。


「ねぇ、どっか行こうよ」


ようやく、笑って頷く石川。
そうだろ?そうこなくっちゃ。
233 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:59
冷やかすバカップルを振り切って、店を出た。
アルコールで火照った体を夜風が冷やしてくれる。
でもまだやっぱ冬の外は寒くって。
石川の、細くて小さな手を繋いで歩いた。




「よっすぃ・・・」
「どした?キモチ悪い?大丈夫か?」

「ぅん」
「水買ってくるから。ちょっとソコ座ってな」
234 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:59
慌ててコンビニで水買って。
ちょっと心配だったけど、石川はちゃんと座って待っていてくれてた。
ひとりで浮かれて、バカみてぇ。石川のこと、考えてなかった。


「ほら。水飲め。」
「ありがと・・・」


大事そうに両手で受け取って、んくんくと水を飲み込む。
不思議そうにカップルがチラチラ見て、あたしたちの横を通ってゆく。
235 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:59
「帰るか」
「・・・うん」

「立てる?」
「だいじょぶ」

「石川、ごめんな」
「なにが?」

「気分悪かったのに、誘ったりして」
「・・・・・・」

「・・・ごめんな」
「よっすぃ、あのね」


半分抱きかかえるようにして、駅まで歩いてゆく。
タクシー使ったほうがいいかな?
石川と付き合いだしてから、あたしは石川を大事に大事に扱うようになった気がする。
石川は、どう思ってるのか知んねーけどさぁ。コレ、今までより全然優しくねーか?
236 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 09:59
「私、すこしくらい無理しても、だいじょぶなんだよ」



「よっすぃーのこと、すきだから」
「・・・何言ってンだよバカ」



今日は帰るけどね、と言ってするりとあたしから抜け出し、改札を通り抜けた。
いつまでも石川の甘い香りが抜け切れなくて、あたしはしばらくその場に立ち尽くしていた。
237 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:00



**********


238 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:00
付き合うようになって、1か月が過ぎ。
世間はクリスマス一色で、今日も街にはクリスマスソングが流れてる。
学校帰り、ふらふらと石川と一緒に並んで歩く。
あの時と変わらずあたしの服の袖を握ってる。
カワイイやつめ。このやろっ。


「そういえばさー」
「んー?」

「三好とは、どーなったワケ?」
「!」


ちょ、その反応、すげー心配なんですけど。
まさかまさか。やっぱり付き合ってる、とか、ないですよね?
二股とかちょーイヤだよ。石川の初めての彼女って、あたしじゃないのっ?
そーだと言ってくれ。ねぇ、どーなの?ねぇ、石川ぁ!!!
239 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:00
「・・・あの、いしかーさん・・・?」
「・・・・・・ごめん、よっすぃー」


ヘエェェェェェェエエエエ???!!!

ちょっとマジですか?
だいたい『ごめん』ってナニよ?!何!!!
どーゆうコトぉぉぉぉ!!!!

うがあぁぁぁそんなのやっぱ聴きたくねえっっっ!!!
240 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:01
「・・・っく」
「よっすぃー?」

「ダメだ。だーめー」
「え?」


突然あたしは歩くのをやめて、石川からぐんぐん離れ、外灯の下にでんっと座った。


「どうしたの、よっすぃー」
「・・・ムカつく」

「だ、誰が?」
「石川も、三好も!どっちも!!!」


膝の間に頭を突っ込んで、あたしは背中で怒りを表す。

っ、どーせオマエ、困った顔してんだろ。わかってるよ。
眉間にしわ寄せて眉なんかハの字にして、おまけに内股とかで。

石川に惚れた男はそれを見てコロッと機嫌とか直すかもしんないけど。
でも。あたしは許してやんねー。ヤダヤダ。ぜってーヤダ。
241 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:01
「めっちゃ嫉妬する」
「しっ・・・と・・・」

「ムカつく。石川、あたしだけじゃなかったのかよ」
「あのね、よっすぃー」

「んだよ」
「三好さんとは、始めから何もなかったんだよ」


「ハ?」


「だから、始めっからお断りしてるの」


「ハ?」
「歯?」


「葉。」


道路に落ちてる枯葉を石川はあたしに見せた。
は・・・ねぇ・・・。
242 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:01
「葉じゃねぇよ!!!」
「んもー、よっすぃ、また血圧上がっちゃう」

「ビックリさせんじゃねーよ」
「うふふ。ごめんね・・・」



「・・・ちょっと待て」
「え、なに?」

「今まであった数々の意味ワカラン言動を説明しろ」
「なんのこと?」



知らないとは言わせねーぞ。

『三好さんとのデートの練習台になって』・・・とか
『三好ちゃん』・・・って言ったこととか
『絵梨香と付き合ってるの』・・・とかイロイロだよ!
243 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:02
「い、言わなきゃダメ?」
「あたりめーだろ、バカ」

「どうしても?」
「疚しいこととかあんだろ、どーせ」

「ないよ!」
「じゃー言え。言ってしまえ。」



「よっ、すぃ・・・の気を引くためだもん」

244 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:02
「・・・はッ?!バカじゃねーの」
「バカって言った!」

「バカだからバカって言ったんだよ」
「バカって言う方がバカなんですぅ!」

「・・・んなことされても、あたし鈍いみたいだし、わかんねぇよ」
「やっぱり」

「わかってるんなら言うなよ」
「でも、そこで駆け引きしたくなるのが女の子ってもんじゃないの?」

「知らねーよ」
「そう?」

「そんなのもう通用しないから」
「ハイハイ」

「ハイは一度。」
「はい」

「今度からはちゃんと、言いたいことはハッキリ言え」
「ハイハイ」

「一回でいいっつってんだろ」
「・・・ハイ」
245 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:02
ちょっと、かわいーとか思ってしまった。
あたしの気を引こうと、一生懸命がんばってくれてたんだな。
ヤバイ、吉澤マジ感動してます。
胸の奥がふるふるとざわめき、あたしは石川を見つめた。
イジワルな目で見つめないで、って石川は顔を背ける。・・・ちげーよ。
そゆんじゃなくって、好きだ、とか思ってんのに。

んー、なんだか、今まで石川のこと知らなくて、ちょっともったいなかったよなぁ。
もっと早くにこんな関係になってればよかったのにな・・・。

さてさて、もうすぐクリスマス。
石川と初めて過ごすクリスマス。
忘れられないクリスマスにしような。


と。誓ったのはいいけれど。


246 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:03
「ねぇところで」
「なぁに?」

「クリスマス、どーするよ石川」
「有名じゃないスポットじゃない場所探そ」



「・・・このイルミネーションとか綺麗じゃね?」
「ヤダ!人の家の外壁見るなんてロマンチックじゃなーい」

「・・・じゃコレは?『クリスマスに古寺をライトアップ』だってさ」
「もっとロマンチックなのがいー」
247 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:03
「じゃどーゆうのがいいんだよ」
「フツーのクリスマスがいい」

「フツーのって、どんなクリスマスよ?」
「フツーは、フツーだよ」

「知らねーなぁ」
「・・・いじわる」

「だってメシ食ってツリー見るだけだろ?」
「それがいいんだもん!」

「じゃ住宅街でもお寺でもいーってこと?」
「よっすぃーって、ホントに意地悪・・・」
248 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:03
石川の髪をくしゃくしゃ撫でたら、石川はさらに拗ねる。
けどそんなんお互い、じゃれあう延長みたいな感じだってこと、わかってる。
言葉がなくたって、そんなふうに関わりあえることが、あたしはうれしい。

前は石川がわからなくてムカついてしょーがなかったけど。
ってあれ?あたし、石川のこと結構前から好きだったんかな?
249 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:04



**********


250 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:04
そしていよいよクリスマス。

結局レストランで食事して、有名なツリーを見に行く予定で落ち着いた。

石川はもっと穴場がイイって最後までゴネてたけど。



「おまたせぇ」
「・・・ったく、おせーんだよ」

「ゴメンネ」
「まぁ、いいけど」

「早く行こっ」


どこもかしこも、カップルだらけ。
ツンとくる冬の寒さに、思わず顔をしかめてしまうけど。
初めてちょっとまぁ、好きだって、思える相手と、クリスマスを過ごすことが、
ちょっとだけ照れくさくて、ちょっとだけ、しあわせ、かも。
251 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:05
「あのね、よっすぃ」
「ん?」

「私、行きたいところがあるの」
「へっ?!」


そう言うなりあたしの手を取ってぐいぐい歩き出す石川。
有言実行、石川の頭上にはそんな言葉がガツンと圧し掛かっていて、あたしのことを惑わせる。
えっ、ちょ、ちょっとチョット待ってよ。

このあとこの近くのツリーを見に行って、そのすぐそばのレストランで予約してあるんだけど。
先輩の知り合いの人が経営していて、ちゃんと下見も行ったし、ものすごく雰囲気もよかった。
石川、あたしはそれなりにあたしなりに、ちゃんと考えてあるんだけど?
252 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:05
はやくはやくって、息せき切らして時折あたしを振り返る石川がかわいくて、いとおしくて。
あたしはワザト遅めに歩いて、石川に構ってもらおうとしたりとか。
もーなんでそんな遅いのよぉって、予想通りのキショイ言葉が振ってくる。

ま、こーゆーのも、いいかな・・・?


253 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:06
「なぁ石川」
「何?」

「あたし、この道知ってるんだけど」
「・・・そぉ?」


ウソつけ。顔が笑ってンだよ。
あたしの頭の中に嫌な予感がよぎった。ま、まさか。


「はぐらかすなよ」
「えー知らなぁい」


「うちの大学に向かってるだろ」
「ち、違うよ」

「おい、休みの日までガッコ来て何すんだよ」
「だから違うって」
254 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:06
すでに日は落ち、石川の顔がよく見えなくて。
だけど弾んだ声でわかる。あたしを喜ばせようと思って、一生懸命なのが。

思わず石川に駆け寄りそうになって。どんどん前に進みたくなって。
自然と顔がニヤけてくる。空が綺麗に見えてくる。
ね、あたしわかっちゃった。石川の考えてること。


あの場所だろ?


そうだな、あの場所なら石川の言うとおりの超穴場。
しかもあたしたちの思い出の場所でもあるし。
イイじゃん。超カッケー!
255 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:06
「行こう石川っ」
「え・・・?よっすぃー?」

「ホラ早く行くぞ!」
「う、うん!」


やっぱ我慢とかできなくて。つい石川の手を取って走り出した。
あたしたちが毎日通う場所。毎日学ぶ場所。学び舎で。
聖夜の夜、こっそり忍び込んじゃって。

あたしたちが出会って、恋人になれたこと。
それを、この星空の真下でお祝いしよう?



256 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:06
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・」

「ここだね」
「うん」

「・・・開けるよ、せぇーのっ!!!」


一緒にふたりで扉に手を掛けて。
非常階段の、重い鉄製の扉がギギッと音を立て。
またぴゅうっと風があたしたちの間を駆け抜ける。
257 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:07
「・・・」
「・・・」


静かだった。
隣には、石川の息遣いだけが聞こえてきて。
あたしたちしか知らない秘密の場所で、こうして一緒にいるんだ。

薄青の光がぽわんと闇に浮かんで、石川が携帯を開いて何かを見ているのに気がついた。
すぐにしまって、石川はこっちを振り向いて、めずらしくその身体を寄せてきた。
ふふっと小さな笑い声が聞こえて、だんだんとふたりの間が熱を帯びていった。


「・・・石川」
「・・・・・・」


呼びかけにも答えずに、石川はじっとしてた。
あたしがキスをしようとさらにもっと身を寄せた瞬間―――――




258 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:07
暖かいオレンジ色の光が、一斉に溢れ出した。

すぐ目に飛び込んできたのは、でっかいでっかいクリスマスツリー。

その周りの木々たちにもたくさんの電飾が施されていて、
非常階段から見下ろす中庭が、あたしの視界いっぱいにキラキラと輝いている。

あ。あの、名前も知らない落葉樹。
第二校舎の非常階段から見える、あの。
その木に葉っぱと飾り付けをしてんだ。
こんなの知らなかった・・・
259 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:07
「あたしが来たときこんなメリークリスマスツリーとかなかったんだけど」
「メリークリス・・・」

「なんかすごいライトアップされてるよ」
「うん」

「すげー・・・」
「・・・・・・」


あたしはまばたきも息をするのも忘れ、ただその光の世界に見入っていた。

260 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:08
「よっすぃー」


あたしを引き戻す甘い甘い声がして、隣を向くと石川が微笑んでいた。
光を浴びた石川の表情。さっきは見れなかったけど、すっげぇ綺麗。
少し照れたように口を引き、上目遣いであたしのことを見つめてる。
あたし、こんな綺麗なひと今まで見たことナイんですけど。

優しく微笑み返したつもりだった。
だけど石川はぎゅうっと目をつぶって、俯く。
顎にそっと手を掛け持ち上げる。整った顔も、一緒にあたしの方へと向いた。
どくどく激しく動く心臓。甘い痛みも、全身を駆け抜ける。
久しぶりだよ。こんなにドキドキすんのって。




ちゅ



261 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:08
恐る恐る触れた石川の唇は、ほんのり甘いような気がして。
感じたことのない感情に、あたしは戸惑いを隠しきれず。
でも最後までカッコつけたいあたしは、それがバレないように何度もキスを繰り返した。

石川がいる。

それだけでよかった。石川の言うとおりだよ。
ツリー見て、食事して、有り触れたクリスマスでいい。
通い慣れたこの場所も、石川がいるだけでこんなにも素敵な場所に変わるのだから。
最早まぶしい光たちも脇役でしかなくなる。
石川しか、目に入らなくなる。どんどん、夢中になっていくのがわかる。

262 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:09
「よっすぃ・・・」
ちゅっ


「ね」
ちゅ

「・・・んッ」
ちゅっ、ちゅっ


「ちょ、あ、あの」
ちゅうぅぅぅ、ちゅ


「シッ。黙ってて」
ちゅっ

263 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:09
手すりに乗せていた自分の手を、石川の腰に回した。
傾けていただけの首を、もっと寄せて。
正面からぴたっと抱き合う。
あたしの肩あたりでさまよっていた石川の腕を、あたしの首に回してやった。
ふるふると石川の身体が動き、それだけで緊張が伝わった。


ちゅ


自然と唇が離れ、あたしはうっすらと目を開ける。
余韻に浸った、石川の顔がすごい色っぽくて。
思わず笑みがこぼれた。
264 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:09
「・・・ふふっ」
「なによぉ」

「こんな誰も来ないような所にあたしを連れ込んで何かヤラシー」
「何でよ!」

「思わずキスしちゃったあたしもあたしだけど」
「・・・・・・」

「ピカピカひた、光るクリスマスツリーの下でちゅーとかしたかったんでしょ」
「!!!」

「ちょーキモーイ」
「キモイって何よ人に向かって!!」


265 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:09
「・・・でも」
「でも何よ!」

「かわいい。うん、かわいいよ石川」
「・・・・・・」

「もっかい、してもイイ?」
「ヤだ」

「ヤだじゃない。するから」
「えっえっちょ、ちょっと待ってよっすぃー!」
266 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:10
離れようとする石川の身体をぐいっと引き寄せて。
嫌がる石川の唇を何度も求めた。
さっきよりあたしに強くしがみつく石川が、もう、最高にかわいくて。

触れ合う唇と、握り締めた小さな手。
身を寄せ合うようにした場所からは暖かな温度が流れ込む。

次第に石川からも求めてくるようになって、あたしも負けじと求め続けた。
石川も負けず嫌いだから、どっちも奪い合うような、情熱的なキス。

あ。レストランの予約時間、もうすぐじゃん。

キスの最中にそんなことを思い出す。
もういっかい。もういっかいだけしたら、ここを出よう。

そう思っても、またすぐ石川に夢中になり。
最後のキスは、まだまだ終わりそうもない。


メリークリスマスツリーの下・・・いや上か。
その光の世界の中で、いつまでも抱きしめ合っていた。
267 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:10



メリークリスマス、石川。



・・・大好きだよ。


268 名前:メリークリスマスツリー 投稿日:2005/11/25(金) 10:12



****************

メリークリスマスツリー
                  fin

****************



269 名前:ピス 投稿日:2005/11/25(金) 10:19
おしまい。
次はふたりのクリスマスから少し経った、梨華ちゃん視点のお話を予定しています。
明日は上京して梨華ちゃんのディナーショー行ってきます。ドキドキ!


>ひすいさま
ありがとうございます!!!
を100万回お願いします。

>いしよし初心者さま
胸キュンいしよしでしたか。ありがとうございます。
次はもっと甘めを目指したいなぁ。

>ゆう〜〜さま
初恋は甘酸っぱいですか。
そんないしよしは久しぶりで何だか作者もドキドキしてしまいました。

>名無飼育さま
フォローありがとうございます。まだ読んでないんですけどね。
これからも気兼ねなく書き込んでやってください。
270 名前:ひすい 投稿日:2005/11/25(金) 10:31
リアルタイムで読んじゃった(*´Д`*)ハァハァ

甘い甘いいしよしは大好物なのれす
完結お疲れ様でした!小説って書くのは難しいですよね
また読ませていただけるとありがたいですYO!!
271 名前:ゆう〜〜 投稿日:2005/11/25(金) 13:57
お疲れ様です。
素敵なクリスマスですね。
ドキドキしました。
今後もよろしくお願いします。
りかちゃんのディナーショー羨ましいです。
272 名前:225 投稿日:2005/11/25(金) 14:26
<<227さん

そうなんですかぁ!どうもありがとうございます!
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/26(土) 01:07
寝る前に読んで(*´Д`)ポワワ
今夜はいい夢が見れそうです。
作者さんありがとう。
274 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/26(土) 01:27
番外編楽しみです '`ァ(;´Д`)'`ァ

275 名前:Rink 投稿日:2005/11/26(土) 04:01
夜中に爆笑堪えながら、一気に読ませていただきました
ラストは心がホクホクしました。
作者さん、素敵な作品をありがとう。

梨華ちゃん視点マターリ待ってます!
276 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:24



****************

やまとなでしこ

****************



277 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:24


―――優しくて、綺麗なひと。

それがよっすぃーの第一印象だった。


278 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:24
なりたい私になりたくて、ちょうどいいタイミングで大学生になった。
そう。勉強して、バイトもして、友達と遊んで、ステキな恋・・・とかもできればいいな。
おとなしすぎて、ツマンナイ奴。そう呼ばれるのは、もう嫌だったから。
フツーに、人並みに、カワイイ女の子になりたかった。

入学して、しばらくたった時。
同じ学部に、それなりに仲いい友達も出来て。
出だしはまずまず順調。私はゴキゲンだった。

・・・でも、何か・・・決定的なものが足りなくて。
279 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:25


運命的な出会い?

280 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:25
そう、それ!それよぉ!
けれど、そんなものはころんと道端に落ちているはずもなく。
毎日が過ぎていった。
それなりに楽しかったから、出会いなんて自分から求めなかった。
281 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:26



よく晴れた、暖かい春の日。
ぽかぽか暖かいお日様が、ゆっくりと頭のてっぺんに昇る頃。



私は、よっすぃーを見つけたの。


282 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:26
学校内をテクテク歩いていると、大学の広さに圧倒される。
移動中はキライじゃない。お散歩をしているみたいに楽しい。
ふと、第二校舎を見上げたら、こっちを見ている人と目が合った。

太陽を浴びて揺れる髪の毛がキラキラ光ってて、キレーだな、って見とれてた。
ジッとこっちを見ていたよっすぃーは、頬杖ついて私を見下ろし、やがてクスッと笑った。


ヤだっ私ヘンな顔とかしてたのかしらッ?!

283 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:26
慌てて鞄を持ち直して、逃げるように顔を隠してその場を去った。
口とか開いてたのかな?ヨダレとか垂れてた??・・・急いで思い出す。
だけど浮かんでくるのはよっすぃーの笑顔ばかり。

スッとまぶしそうに細められた目が、とっても優しそうだったのが印象的だった。
284 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:26
それから毎日、よっすぃーはそこにいた。
ある時は小さな本を読んでいたり、またある時はヘッドホンをして居眠りをしていたり。

何の本を読んでいるんだろう?
何の音楽を聴いているんだろう?

よっすぃーへの興味がどんどん湧いてくるのを感じられずにいられなかった。
私は、用事がないときもその道をあえて選んで歩いたり。
友達と一緒に歩いているときも、さりげなく校舎を見上げてみたりして。



春の歌。春の風。春のにおいに任せて・・・。

私の、爽やかな恋は静かに動き出していた。
285 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:27




**********




286 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:27
「ZZZZZ・・・」
「ったく」


イロイロあって、よっすぃーはようやく私を選んでくれた。
私ね、ずっとずっと言えなかったけど。
ほんとうは、よっすぃーの恋人になりたかったの。

ようやく願いが叶って。今は一緒にいてくれるようになった。
恋人になってからよっすぃーは、学校では見せない顔を見せるようになった。

だってお腹出してお昼寝してる姿なんて、私の前だけでしょ?

ぽかんと開いた口元も、だらしなく広げた長い腕も、
改めて見たらやっぱり好きで。愛しいな・・・とか思ってしまう。

私をほったらかしにして、かまってくれないこの時間も、
よっすぃーがそばにいるだけでこんなにもうれしいの。
287 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:27
「よっすぃ」
「・・・ん〜〜〜」

「よっすぃ・・・」
「・・・るさい」


まったく。虫を跳ね除けるようにしなくたっていーじゃないっ。
私のこと本当に好きなの?ねぇ、どーなの?
ちょっとムカっとくるけど、耳元で名前を呼んですぐに返事があるだけで、やっぱりうれしい。
今までは、よっすぃーの写真を見てため息をつくばかりだったから。


風邪引いちゃうよ?
288 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:28
透きとおるくらいの白いお腹に、ゆっくりと触れてみる。
冷えないように・・・そっとそっと撫でてみる。
起こさないように・・・すうっと指を滑らせる。


「・・・っは!くすぐってェ!!!」


突然身体をくの字に曲げて、よっすぃーは飛び起きた。
わっ。起こしちゃった・・・。よっすぃー怒るだろうなぁ。
私は観念して固く目をつぶった。ごっ、ごめんなさい!
289 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:28
「・・・石川ぁ」
「ご、ごめんね」

「・・・・・・」
「起こしちゃって。ごめんね・・・」


「なぁんで謝んだよぉ〜〜〜」


ベッドの上に引きずり込まれて、私はあっという間によっすぃーの腕の中。
ふわふわとした感触が私を包み込む。あったかい。
よっすぃーの大きな目が、私を映し出す。次第にその瞳は、細められて。
290 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:28


「いっしょに寝よ」
「え・・・?」

「石川抱きしめてると、安心する」
「よっすぃ・・・」

「おやすみ」
「・・・おやすみ」

291 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:29
ちょ、ちょっとォ〜〜〜。
よっすぃーは安心してお昼寝できるかもしれないけど、私はどうなるの?
心臓がばくばくしちゃって、顔がすぐそこにあって、どこ向いたらいいのかゼンゼンわかんない。
どきどきどきどき。どきどきどきどき。や、ヤダよぉ。

私がモゾモゾ動いていたら、よっすぃーも起きちゃったみたいで。
またやっちゃった・・・だってでも、やっぱり緊張するんだもん。
どきどきして、よっすぃーの腕の中じゃ、眠れない。
292 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:29


「どしたの?」
「ね、寝れないよぉ」

「ふ〜ん」
「だって今、昼間じゃん」


もっともらしいことを言って、言い訳してみる。
よっすぃーにドキドキさせられっぱなしなのはやっぱりまだ、癪だから。
私の好きの方が今はまだ大きくて。
同じくらい、好きって言ってもらえるようになるまで。頑張るから。
よっすぃーにもっともっと好きになってもらえるように、努力するね、私。
293 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:29


「おやすみのチューでもしてみる?」
「しないよ!」


よっすぃーは余裕の微笑で私をからかう。
本気にして、私もどきどきしちゃうから、よっすぃーも調子に乗ってすぐ悪ノリする。
こうゆうの、よっすぃーは慣れてるのかもしれないけどさぁ。
私はまだまだ初心者だもん。・・・やっぱり癪だよ。
294 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:30


「あたしは石川とキスしたいんだけどな」
「?!」

「石川はすぐ嫌がるからなぁ・・・」
「そ、そんなこと!」

「?」
「・・・ない、けど・・・」

「ないの?いいの?ねぇ、ちゅーしちゃっていいの?」
「〜〜〜〜〜!!!」

「ね、どーなの?いいの?ねぇ梨華ちゃん、ちゅーしよーよ。」
「・・・」

「ちゅって、軽くだけだから。ホントに。ね、いーでしょ?ね、ね?」
「・・・・・・ぅん・・・」

「マジで?マジでいいのっ?!」
「・・・・・・」

295 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:30
ね、よっすぃー。からかってないよね?
本気にしちゃうよ?バカとか言って、笑わない?
でも。あまりにもよっすぃーの目が真剣だから、私はゆっくりと頷いた。


「・・・ほら、目閉じて」
「・・・・・・」

「・・・」
「・・・」




「おねーちゃん、ただいまっ!!!」
296 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:30




さ、さゆ〜〜〜〜!!!!




慌ててベッドから飛び降りたら、
視界の隅っこでよっすぃーが丸くうずくまって、うな垂れているのが見えた。

ちょっとは仕返しできたかな?


297 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:31




「梨華」



298 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:31
ふいに名前で呼ばれて。
ドキンとして振り返ったら。



ちゅ、って。



吸い付いて、離れたよっすぃーの唇が見えて。



よっすぃーはイジワルく、ニヤニヤ笑っていた。
299 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:31
「・・・よっすぃ!!!」


ばちんっ!


「っイテェ!」


思ったよりも強く、腕を叩いてしまっていた。
ご、ごめんね!よっすぃー。
300 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/11/29(火) 20:31




**********



301 名前:ピス 投稿日:2005/11/29(火) 20:40
更新しました。梨華ちゃん編スタートです

>ひすいさま
甘い甘いいしよし目指して頑張りまっす

>ゆう〜〜さま
一足早いクリスマスをお届けしました。
DS最高でした。めちゃくちゃ生の梨華ちゃんを堪能してきましたYo

>273 名無飼育さま
いい夢見れましたか?こちらこそありがとうございます。

>274 名無飼育さま
番外編のはじまりです。

>Rinkさま
よかったです。甘く甘くホクホクした作品が書けるように頑張ります。
ありがとうございます。

え、と、早速ですが梨華ちゃんの残像が消えないまま、
5日間ほど海を渡ってきます。無事更新できますように。
302 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/29(火) 23:24
キャワス!!
303 名前:bob 投稿日:2005/11/30(水) 00:09
初めて、読ませていただきました。
おなかいっぱいです!!ゴチになりましたw
304 名前:ゆう〜〜 投稿日:2005/12/02(金) 16:39
お疲れ様です。
やっぱり面白いです。
梨華ちゃんは今中国ですよね。
梨華ちゃん頑張れ〜〜
305 名前:Rink 投稿日:2005/12/02(金) 21:04
キャワーー!
幸せ気分で胸いっぱい。ありがとうございます

当方も某板でいしよしを書いているのですが
作者様のようないしよしを書きたい・・・
更新マターリ待ってます!
306 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:11




**********



307 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:12
「吉澤さんも、お姉ちゃんだと苦労しますね」
「ホントだよ。・・・っあ〜イテぇ。」

「さゆ!誰のせいだと思ってんの!」
「え〜?さゆのせいなのっ??」

「ふはは」
308 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:12
・・・私のせいか。黙っていたら、よっすぃーに頭をくしゃくしゃ撫でられた。
んもぅ、乱れるからヤメテって言ってんのに。
よっすぃーの手をぎゅっと掴むと、そっと握り返してきた。
コタツの下でずっと手を繋いだまま、さゆと三人でおしゃべりする。

妹の手前、何だか気恥ずかしくて、私はあんまりうまく喋れなかったけど。


よっすぃーは最近、私をよく見つめてくれるようになった。
からかうことも、今も変わらずあるけれど、そんなときも優しい目で。

初めて会った、あのときのように。
優しく、目を細めてちゃんと見つめてくれる。
309 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:13
「さゆ、恋人とはどーなの?」
「モチロン、うまくいってますよぉ」

「つまんねーなぁ。またちょっかい出してもイイ?」
「どうしよっかなぁ。吉澤さんだと、本気になっちゃいそうだし」

「ほんとの恋、教えてあげよっか」
「やだぁ。本気にしますよ?」

「いいよ。マジで付き合おっか」
「えぇ〜?ダメですよ・・・」

「なんで?いーじゃん」
310 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:13



「〜〜〜ダメに決まってんでしょ!!!」


バシィッッ!!!!


「っイテェ!」


311 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:13
ナニ考えてんのよ、ヒトの妹に!てゆーか、彼女の妹に!
信じらんない。あぁ、もう、冗談でも言わないでよねえっ。
よっすぃーのバカバカバカ!!!!!



312 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:14
「・・・おーい」
「ついて来ないで」


「待てって」
「待ちません」


「梨っ華ちゃ〜ん・・・」
「知りません」


「冗談だろ?あんなの」
「冗談すぎます」


「・・・はぁ」
「・・・・・」
313 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:14
止まれって言ったって、止まってやらないんだから。
謝っても、許さないんだから。

なんでって、さゆだから。
さゆだけは。絶対ダメ。

他の女の子に、私がどれだけ嫉妬したか、知らないくせに。
ずっと黙ってガマンしてたのかも、どうせ気づいてないんでしょ?!

よっすぃーとさゆがコソコソ会ってたのを知ったとき。
諦めようって、初めてその思いを封印しようとしたのも。

知らないくせにぃっ!!!



私が、どんな思いで・・・。
314 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:14




**********



315 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:15
「ねぇねぇ、さゆ」
「またァ?!」

「いーじゃーん。聞いてよ、ねっ」
「・・・いいけど」

「ホントっ?!」
「はいはい、どーしたの?」


今日ね、よっすぃーがね。
あのね。あのね。

よっすぃーと仲良くなるたびに、よっすぃーとの思い出が増えるたびに。
私は何でもさゆに報告していた。いいことも。悪いことも。
よっすぃーが女の子を連れて歩いてたことも。よっすぃーが彼女できたって喜んでたことも。
何でも、何でも話していた。うれしいことも。悲しいことも。
316 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:15


ある日。


友達の紹介で、何度か一緒にご飯を食べた、三好さん。
パッと見、クールな印象で、声もハスキーでカッコイイ。
ちゃんと気を使ってくれる人で、いつもおちゃらけてばかりのよっすぃーとはまるで正反対だった。

317 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:15
「石川さん」
「あっ、三好さーん!」

「元気そうですね」
「久しぶりだねっ、なんか」

「あの、話が」
「どしたの、悩み事?」


喫茶店に移動してもなーんか、三好さん、落ち着かない。
ソワソワソワソワしちゃって、私も落ち着かない。
なんだろ?ヘンだな?
息を吸ってー、吐いてー。すぅー、はぁー。
318 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:16



「好きです」

「えっ?」



「石川さんのこと、好きです。付き合ってくださいっ」

「え、エエッ??!!」


こくはく、されちゃった・・・?
ちょっとチョット、待って・・・!

319 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:16
「あっ、アノ。突然で、ビックリさしちゃって、ごめんなさい。」
「いえ・・・」

「でも、クリスマス。クリスマスを、一緒に過ごしたくって。石川さんと。」
「はぁ・・・」

「それまでに、返事を頂けたら、と・・・」
「はい・・・」

「で、できれば返事は早い方が、って何焦らしてんだろアタシっ」
「か、考えさせてください・・・」

「は、はい」
「・・・・・・」

320 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:17
ビックリしたぁ。三好さんにそんな風に思ってもらえてたんだって。
全然気づかなかったし。わからなかった。
第一私は、よっすぃーのことが好きで。好きだし。
ど、どうやって断ればいいのかしら・・・?



「ねぇ、さゆぅ」
「ん?」

「どーしたらイイと思う?」
「え、フツーに断ればいいんじゃない。ゴメンナサイって」

「で、できるかな」
「しなよ」

「・・・うん・・・」
「それで、よっすぃーさんをクリスマスデートに誘えば」

「はあっ?・・・で、でで、できないよ!!」
「う〜ん。じゃ、三好さんとクリスマスデートだね」


321 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:17
「そんなの、ズルくない?」
「楽しまなきゃ。楽しいことは楽しむ。好きなものは好き。コレさゆの哲学。」

「だれがそんなこと教えたのよ・・・」
「さゆのコイビト。」

「ちょっと大丈夫なの、その人」
「大丈夫。あいしてるもんっ!」


322 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:18
「あ、そうだお姉ちゃん」
「なに?」

「デートの練習って言って、よっすぃーさんとデートするのはどう?」
「れっれっ練習ゥ???」

「そうだ。そうしようよお姉ちゃん」
「でも・・・」

「練習だったら、よっすぃーさんもOKしてくれるでしょ?」
「・・・う、うん・・・」

「決まり!ハイ、メール打って今すぐ!」
「今すぐなの?」

「膳は急げ。思い立ったが吉日。コレもさゆの哲学。」
「ソレただのことわざだよ・・・」


323 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:18
あまりによっすぃーが、渋るから。
半ば強引に、『よっすぃー、お願い!』って切実なメールを送ってしまった。
三好さんが好きなのか、って勘違いされちゃうかな。
違う違うそうじゃない。私が好きなのは、あなただけ。

よっすぃーはダウンジャケットとジーパンを合わせていて、ゴツめのベルトも超似合ってた。
私服姿なんて見慣れてるけど、外で会うのは何か、妙に照れちゃう。


「・・・行くか」


ちょっと遅れてきた私に何も言わず、ぶっきらぼうにそう告げて、私の前をスタスタ歩く。
もっとこう寄り添って、ゆっくり彼女に歩調を合わせるもんじゃないの?

だけど言えなかった。だってデートさえ、したことないもの。

ムードも何もない、ゲーセンに連れて行かれて。
よっすぃーはメダルゲームに夢中。コドモみたいって笑ったら、ジャラジャラとメダルをくれて。
324 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:18
「石川もやってみ?」


って、それから夢中になってたのは私の方。


UFOキャッチャーを見つけて。


「ねぇねぇよっすぃー、あれ取って!」
「ハァ?!」

「あのぬいぐるみ、カワイイと思わない?」
「思わない」


ガンッとガラスに頭をぶつけて、むちゃくちゃ痛かった。
私とよっすぃーのテンションが全くかみ合わなくて、気持ちは焦るばかり。
最初で、最後のデートかもしれないのに。
擬似デートでもよかった。デートできるってだけで、うれしかったのに。
頭は、痛いし。涙が、出てきそうだよ・・・。
325 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:19


「ね、よっすぃーお願い。」


眉毛をピクッと上げて、しゃーねぇなぁ、って私のお願いを聞いてくれた。
やっぱりよっすぃーは、優しいな。だいすき。

ぶきっちょなよっすぃーは、私の思うぬいぐるみを取ることが出来ず。
一生懸命に応援しながらも、ちょっとだけ、もういいよ・・・なんて思ってしまう。
だけどあんまりムキになって取ろうとしてるから、引き下がれない。がんばって。


「ほら」
「わぁ・・・ありがとう、よっすぃー」

「大切にしろよ」
「・・・うん」

「しっかし、カワイクないなぁ、コイツ」
「そんなことないよ、かわいー」

「絶対、大事にするね」
「あ、あぁ・・・」

326 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:19
カワイクないなんて。そんなことはどうでもいい。
がんばって、よっすぃーが私のために取ってくれたんだもん。
カワイクなくても、汚くたって、ゴミみたいなものだったとしても、
それはぜんぶ私だけの宝物になるんだよ?

これがもし三好さんだったら。
あの人のことだから、キレイで私の好きなものをくれるだろう。
もしかしたら、高価なものをくれるのかもしれない。
自分があげたものをカワイクないなんて、絶対言わない気がする。

うれしいけど、でもやっぱり全く、違うの・・・。

よっすぃーから貰ったものが、いちばん、うれしい。

327 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:20
「・・・どした?」
「何だか、恋人ってこんな感じなのかなぁって」


よっすぃーが恋人だったら。
間違いなく毎日がハッピーだよ。些細なことが、とってもうれしいはずだよ。
貰ったばかりの宝物を、ぎゅうっと抱きしめてそう言ったら、
よっすぃーはぶるっと身震いをした。口をへにゃっと曲げて、こう言った。


「知らねぇよ、そんなの」
「えへへ」


あらら。またキショイって思われたかな?
でもでも。そんなのどーでもいい。
すごくスゴクうれしいよぉ。よっすぃー、ありがと。
328 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:20
「笑ってんなよ」
「だって、嬉しいんだもんっ」


よっすぃーにコツンとおでこを弾かれて、そこが熱を帯びた。
きゅうっと胸が高鳴って、ザワザワしてる店内でもよっすぃーしか見えなかった。
うれしくて、うれしくて。ほわんとしあわせな気持ちになった。
デートって、こうゆうもんなんだねっ!
329 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:20
「背景、どれにする?」
「ん〜・・・どーでもいいよ」

「もぅ、ちゃんと考えてよ」
「じゃ、どれでもいいです」

「違〜う!!」
「なんでよ?」


よっすぃーとプリクラを半分こして。
私は大事に大事にケータイに貼った。
いつか、色褪せちゃうかもしんないけど。たいせつに、ゼッタイ大切にするんだ。
330 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:21
冬はアイスだろってよっすぃーが言う。
黙って食べたけど、唇が冷たくなって、麻痺しそう。
構わずよっすぃーが前を歩くから、私は恐る恐るよっすぃーのパーカーを掴んだ。
ぎゅうっと強く引っ張られたら、よっすぃーはちょっとだけゆっくりめに歩いてくれた。
傍から見ればそれはまるで犬の散歩みたいだったけど、よっすぃーと同じ景色が見れてしあわせだった。


洋服を一緒に選ぶときも、よっすぃーは相変わらず憎まれ口を叩く。
だってピンクが目に入っちゃうんだもん。黒のキラキラしたドレスを渡されて、
それを着た私とよっすぃーがクリスマスを過ごしていることを、無意識のうちに想像しちゃってた。
・・・やっぱり、いい。と元の場所に戻す。きっとそれは叶わない夢だろうから。
331 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:21
よっすぃーはナンダカンダ言って、ちゃんと家まで送ってくれた。
帰り道が近づいてくるにつれて、私は寂しくなった。

もうすぐ、もうすぐ、魔法は解けてしまう。
恋人ごっこは終わっちゃう。
明日からはまた、友達に戻っちゃう。



別れ際、三好さんと成功するといいな、みたいなことを言われた気がする。
そんなこと、言って欲しくないけど。まぁ、しょうがないよね。


332 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:21
おやすみ、ってニッコリ微笑んでくれて。
あのときの、初めて会った日を思い出した。

忘れてたけど、最近じゃあんな風に笑ってくれないけど・・・

穏やかに見下ろしてくれて、優しく細められた、大きな瞳。
私だけを見ていてくれる、あったかい視線。
333 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:22




ちゅっ




頬にやわらかい感触がして、私はやかんのように沸騰寸前。
必死に頬を押さえて、いつのまにやら放心状態。


334 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:22
「・・・しかわ、石川っ!」
「あ、よっすぃー・・・」



「大丈夫かよ」
「う、うん」

「嫌だった?」
「ううん」


嫌じゃない。全然、嫌じゃない。
335 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:22
「口には三好にしてもらえ」
「・・・え?」

「風邪引かないうちに家入れ、早く、ほらっ」
「うん・・・」


なんで、そこで三好さんが出てくるのよぉ・・・
うれしさと、悲しさが入り混じって、私は肩を落としてそっと家に入った。
336 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/08(木) 14:23




**********



337 名前:ピス 投稿日:2005/12/08(木) 14:27
ただいまです。無事帰国しました。

>302 名無飼育さん
アザッス!!

>bobさん
はじめまして。もっとおなかいっぱいになっていただけるように、頑張ります!

>ゆう〜〜さん
空港で梨華ちゃんに会えるかなとか思ったりもしましたが・・・_| ̄|○
ぶきっちょな梨華ちゃんを応援してあげてくださいね。

>Rinkさま
ののののの。Rinkさんの激甘いしよしに毎日ヤラれてます。ありがとうございます。
338 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/08(木) 19:55
( ^▽^)<おかえりなさーい
339 名前:ゆう〜〜 投稿日:2005/12/08(木) 22:39
お疲れ様です。
かわいい梨華ちゃん...女心ってこういうものですね。
いつも楽しく読んでおります。
340 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:14
突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
341 名前:Rink 投稿日:2005/12/16(金) 00:27
ああ、またホクホク
(*´Д`)ポワワッ うれしいのわぁ
342 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/17(土) 22:39
がんばれ
343 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 19:09
俺の知らないところで
いしよし小説がかかれてたなんて・・・う、ぅ、うれしい!!!
いしよしかおさゆ最高です!
344 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:38



**********




345 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:39
よっすぃーが、風邪を引いた。

タイヘンだわ!


きっと、あの日に夜まで出歩いていたせいだ。
ごめんね、よっすぃー。

電話でもそーとーしんどそうだった。
一人暮らしをしているよっすぃーは、普段から食生活が疎か。
きっと、しんどくて寝込んでるに決まってる。



ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ。


慣れないキッチンに立って、今私はお粥を作ってる。
よっすぃーの大好きな卵を入れて。
すぐ食べられて、私でも作れるポテトサラダを作り置きしておいた。

で、できた、けど・・・。
346 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:39
どうしよう。起こしてもいいのかな。
でも、せっかくよく眠ってるし・・・でも、食べてお薬飲まないと、だし。
どうしよう。どうしよう。うーん、やっぱり起こしちゃえ!



「・・・すぃ。よっすぃー・・・」
「あ、いじがわ」



やっぱりまだヒドイ声。
いつもなら安心できるよっすぃーのアルトの声が・・・
あぁ、ワガママ言った私のせい。よっすぃー、ごめんね。


ちょっとずつ、お粥をふーふーして食べてるよっすぃーのことを見守って。
ずっと見つめていたら、よっすぃーがチラチラこっちを見て、ガチンと固まった。
よっすぃーが心配になって顔を覗き込んだら、首を振ってよっすぃーはお粥を食べ始めた。

347 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:40
「おいじいよ」
「え?そう?よかったー・・・」


その言葉で十分だった。よかった。よっすぃー、早くよくなってね。
私は食べ終わるまでじっと見つめた。
よっすぃーには悪いけど、ちょっとだけ、うれしかった。
看病させてもらえて、うれしかった。

お腹が空いていたのか、よっすぃーはガツガツお粥を食べてくれた。
熱のせいで、顔を真っ赤にしながら一生懸命食べてくれた。


布団にもぐって、よっすぃーが私を見上げる。
コドモみたいで、弱くって、いっつも自信満々のよっすぃーからは考えられない。
それだけでちょっと得した気分。うふふ。

よしよしと頭を撫でていたら、よっすぃーはふうっと眠りに落ちた。
意地っ張りだけど、悔しそうに甘えてくれるよっすぃーがかわいくて、愛しくてしょうがなかった。



348 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:40
よっすぃーのことがほっとけなくて、私は必要以上に構っちゃう。
やめろよ、と手を振り払う仕草も照れ隠しなんだって。そう思えるようになった。

少しだけ、よっすぃーに近づけたかな?

友達から、恋人に、ちょっとだけでも近づけたかな?

学校から終わったら様子を見に来ると約束して、翌朝になって私はよっすぃーの家を出た。


よっすぃー、大丈夫かな。
私がいなくてもちゃんと食べてるかな。
そうだ。晩御飯は何にしよう?
昨日の卵が残ってたから。オムレツでいいかな?
ちゃんと栄養もつけて、野菜も買っておこう。


あのときの私はまさに、よっすぃーの奥様気取りだった。
349 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:40




急いで学校から戻ると。
よっすぃーの部屋から女の人が出てくるのが見えた。

・・・また?

よっすぃーが、次から次へととっかえひっかえ女の人と一緒にいるのは、
もう初めてのことじゃないけれど。慣れてしまったような気がする。
それでも、ぐつぐつ沸いてくる怒りと、胸の痛みは、どうしようもなくって。
そんなんじゃ、慣れているとは言えないかもしれないな。

ちょっとォ、それより、その人、誰なのよぉ・・・。

でもよっすぃー、風邪引いてるし。
ただお見舞いに来た人なのかも。



ちょっと、会うのにためらってしまった。
350 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:41




ガチャ



よっすぃーは、ベッドのそばで立っていた。
慌てたように、こっちに振り返る。

部屋はたぶん、私が出て行ったときのまま。
イヤ、ダメだよ。そんな怪しんじゃあ。
知らないフリをしないと。


「よっすぃー」
「な、なに?」

「どう?」
「うん。全然元気。ピンピンしてるよ、ホラ」


ぐるぐると腕を回して見せて、よっすぃーは高らかにそう言った。
ピンピンしてるんなら。・・・怪しい。怪しすぎだよ、よっすぃー。
やっぱり、さっきの女の人と・・・?


「・・・・・・・・・」


351 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:42
「友達?」
「へっ?」

「友達、来てたの?」
「え・・・いや、・・・うん来てた」


認めちゃうんだ。何か、それはそれで悲しい。


「そっか。よっすぃーの部屋から出てくるの、見えたから」
「なんだ。見えてたのか」

「お見舞い?」
「うん」

我ながら、よく平気な顔で言えたものだと思う。
それはたぶん、よっすぃーに背中を向けていたからであって。
顔を見たら、聞くことなんて出来ないよ。
352 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:42
あんまり尽くすのも空しくなってきて、
冷蔵庫に入れたままのポテトサラダをぽいっと捨てた。
上手く出来たはずのオムレツも、昨日のように出すことは出来なかった。
よっすぃーに胃の中に入れば、味なんて、同じこと。美味しいに越したことは、ないけれど。
あぁ、何だかなぁ・・・。


「三好にもそやって看病したりした?」
「何で三好ちゃんが出てくるの?」

「三好・・・ちゃん?」
「あ」


『あ』なんて、自分でもワザトらしいくらいだった。
もちろん、あれから三好さんとは会ってない。
ちょっとだけ、私もよっすぃーの気を引くようなことをしてみたかっただけだから。
353 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:42
「オマエ、何だかんだ言って三好と付き合ってんの?」
「つ、付き合ってなんかないよ!」

「隠すな」
「隠してないよ」

「嘘つくな」
「嘘じゃないよ!」


どうしてそうやって決め付けるの?
もし、認めても、よっすぃーには何の影響力もないんでしょ?
何なのよ。そんな風に言うなんて・・・。
まるでよっすぃーは、三好さんと私が付き合って欲しいみたいじゃないっ。


「じゃ、どう思ってんの」
「三好、さんのこと?」

「他に誰の話してんだよ」
「いちいちつっかからないで」

「いいから。答えろよ」
「何で?」
354 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:43
何よエラソーに。
自分は私に何も話してくれないじゃない。
いっつも何でもないように振舞って。
彼女もとっかえひっかえしちゃってさ!


「何でも。ほら早く」
「そんなの、よっすぃーに関係ないじゃない」

「・・・関係ねぇよ」
「じゃ答える必要もない」
355 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:43
自分でも何言ってるかわかんなかった。
悔しかった。私のこと、まるで気にも留めないよっすぃーが。
私は努力して、仲良くなろうとしてるのに、いつだってよっすぃーは上から物を言う。
エラソーに。石川石川ってバカにして。
何でも知ってる顔をして。キョーミねぇよ、って人をバッサリ斬って。


「好きだってことだな?」
「どうしてそうなるの?」

「いーだろ。こんなのフツーの、友達の会話だろ」
「とも・・・」
356 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:44
そうね。友達だね。
私たちはずっとこのまま、友達なのかもしれない。
だけど私がよっすぃーに、恋とか愛だとか、好きとか嫌いとか話せない理由は、ただひとつ。

あなたが好きだから。

気まぐれで私のことを知ろうとして欲しくなかった。
私のことを、ちゃんと見て欲しかった。それまでずっとガマンしてた。
いつか、本当のことを話そうって・・・ずっと抱えてた気持ちを、言うつもりだった。

だけど、今言うのにはあまりにも答えが見えすぎてた。
私だって、好きな人に好きって言ってもらいたいんだよ?


他の誰でもない、あなたに。
357 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:44
私は返す言葉もなくなって、部屋を片付けたりして沈黙を紛らわせた。
ただの友達なのに、こんなことでモメたりして、バカみたい。
意地、張りすぎちゃったのかな。私。


・・・帰ろう・・・。


よっすぃーはずっと不機嫌そうに黙ったままで、
私は相手にもされなくて、みじめだった。
カバンを持って、コートを羽織る。ずっとずっと、黙ったままで。
358 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:45
「・・・だろ?」
「え?」

「亜弥や美貴には相談するんだろ?」
「何、言ってるの」

「他の友達には言えても、あたしには言えないんだろッ!」
「・・・・・・」


うな垂れたままのよっすぃーが、とってもちっちゃく見えた。
ウソ、まさか・・・でも・・・なんで?
自分に都合のいい考えが体中を駆け巡る。
359 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:45
私は、よっすぃーにそっと近づき顔を覗き込んだ。


「やきもち?」
「はァ?!」


「よっすぃー、やきもち妬いてるの?」
「な、んでそうなるんだよ」

「さっきから聞いてると、そう聞こえるんだもん」
「んなわけねーだろ!早く帰れよ!」

「うれしい」
「バカじゃねーの」
360 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:45
うれしいなんて、ただそれだけの感情じゃないけど。
ねぇ、よっすぃー。私、だいぶ怒ってるんだよ?
だけど。ちょっとカワイイよっすぃーを見ることが出来たから。

今日は、許してあげようかな?



そのことをさゆと亜弥ちゃんと美貴ちゃんに細かく報告したのは、言うまでもない。
361 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/20(火) 10:46




**********



362 名前:ピス 投稿日:2005/12/20(火) 10:53
お待たせいたしました。
いんたーねっとがずっと出来なくて、ひたすらROMってました。何とか開通。ホッ。

>338 名無飼育さん
(0^〜^)<わーいわーい

>339 ゆう〜〜さま
女心がよくわからない作者ですが、勝手な梨華ちゃん像はこんな感じデス。ありがとうございます。

>340 名無飼育さん
お疲れさまです

>341 Rinkさま
連日の更新お疲れ様です
毎日作者もホクホクさせていただいています、ありがとうございます。

>342 名無飼育さん
応援メッセージをひしと受け止め、これから頑張りたいと思います。

>343 名無し飼育さん
あーりがとーございます。知られちゃいましたか。…う、ぅ、うれしい!!!
363 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/20(火) 11:15
梨華ちゃんもよっすぃもカワイイなぁ。
更新お待ちしておりました。大好きなお話が読めて幸せです。
364 名前:ひすい 投稿日:2005/12/21(水) 08:21
ポワワ(*´д`*)梨華ちゃんイイヨイイヨー
365 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:38




**********



366 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:39

ねぇ、よっすぃー。

何度も、新しい女の子がよっすぃーの前に現れたとしても。

やっぱり、始めは妬いちゃうんだけどね。

ぐるぐる悩んで、結局行き着く先は。

やっぱり、よっすぃーが好きなんだってこと。

それはずっと変わらない、私のたったひとつの答えだったの。
367 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:39
いつからだったかな。
よっすぃーが意地悪く、私のことをからかうようになったのは。
初めて会ったとき、あんなにも優しい顔をしてくれてたのに。

私も、大概バカだから、砕けて話してくれるようになったのは、
よっすぃーが心を開いてくれるようになった証だって、信じてた。

え。・・・何か違う。そう言って欲しくて、話したわけじゃないのよ。
違う、そうじゃない。私が言ったこと、全否定なの?
ちょ、ちょっとそこは広げなくていいからぁ!


もっと、ラブラブになりたいのーーーーー!!!!



時はすでに遅し。



いつの間にか、私はよっすぃーのおもちゃにされていた。
368 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:39
「ねぇねぇ、さゆぅ」
「・・・今度は何?」

最近よく寄り道をするようになった、さゆ。
恋人がいるのは知ってたけど、何か違うのよねぇ。
ごまかしたり、さらっと流したり、そうゆうのが多くなった。
多分私に秘密にしてること、多くなっちゃってるんだろうな。

お姉ちゃんお姉ちゃん、って言ってた頃もあったのに。

我が妹よ。オトナになっちゃうのかい?
いつか離れてっちゃう日も来るだろうけど、それはそれでやっぱり寂しいなぁ。
369 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:40
「よっすぃーがねぇ、優しいの」
「100万回聞きましたけど」

「違うの!」
「どこが」

「始めは、ホンットーに優しくて」
「ハイハイ」

「だんだん、それてっちゃうのよ、コレが」
「はぁ」


ころころ〜〜〜っとコタツの上のみかんを転がしてみる。
そう、そうなのよ。軽やかに、転がってくの。
370 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:41
「それなりに、親しい人には優しいのよ。完璧すぎるほどに。」
「うんうん」

「でもねぇ・・・」
「お姉ちゃんには、優しくないと」

「そう。やっぱ嫌われちゃったのかな?」
「う〜ん。まぁ、意識はされてないよねぇ」

「だよねぇ・・・亜弥ちゃんや美貴ちゃんにも遠慮なくすごいガーッって言うし」
「そんなすごいの?」

「吠えるよ。がおって」
「ふーん」


がおって、みかんに指を突き刺す。
そう、がおって。ぶしゅ。
371 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:41
「こないだ、ちょっとケンカしたって言ったじゃん」
「あぁ、ヤキモチ妬いたってやつでしょ」

「あの時ね、よっすぃー、しまった!って顔してたな」
「へぇ。クールなんでしょ?ホントは」

「ホントって言うか、根は寂しがりやさんなんだよ、きっと」
「じゃーお姉ちゃんには本音を言えるんだ」


ムキムキムキムキ。みかんの皮を次々と剥いてゆく。
あ。みかんの赤ちゃんだ。わーい。
食べちゃうぞ。食べちゃうぞ?えいっ、ぱくっ。
372 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:41
「ほーはほふぃーんふぁべどへ・・・」
「わっかんないよ」

「みかんが見っかんないよ!ってね」
「それも意味がわっかんないよ」

「私も」
「・・・おいっ」


えーとね。つまりね。
と、友達だろ?って言われちゃって。
373 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:42
「意識して、好きだなぁって思う相手には、すごくすごく優しいんだよ」
「うん・・・」

「亜弥ちゃんや美貴ちゃんも、友達でさ。私も、友達だから。」
「・・・・・・」

「友達には言いたいことも、言えるでしょう?思ったことも、ズバズバと。
 そのへんは、よっすぃーにとって私は、何でも言える友達なんだって、胸張って、言えるよ」
「お姉ちゃん・・・」

「も、あんな風にキッパリ言われちゃうとね・・・グスッ」
「ポジティブ石川はどうしちゃったの!?」

「ネガティブでも何でもいい」
「ダメだよぉ!」
374 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:42
「・・・上向いてるとさぁ、涙がこぼれないって誰かが歌ってたよね」
「そ、そうだよ!キューちゃんだよっ!」

「今の私は、上向いて歩きすぎて落とし穴にはまりそぅ・・・ぅえーん、さゆぅ」
「(わ、笑えないヨ)」


ネガティブ石川が、決定的にへこたれてしまったのは、さゆとよっすぃーの関係を知ったときだった。
375 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:43




**********



376 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:43
わぁ、寒い!

肉まんでも買って帰ろーかと思ったけど、これは寒い。寒すぎる。

早く帰ってコタツで紅茶だよねぇ。
さすがに今日はさゆも寄り道しないよね?

テトリス対戦しなくっちゃ!
377 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:44




ガチャガチャッ



「さゆー?帰ってるのー?」



378 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:44
「お姉ちゃん?!」

「もー外すごい寒いねー?お姉ちゃん速攻で帰っ・・・」




「い・・・石川・・・」


「・・・・・・・・・」



379 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:44
よ、っすぃー・・・。
私の家は知らないはずなのに、どーして、どーしているの?

さゆと、な・・・何してたの?!




「何でオメーがこんなとこにいるんだよっ!」
「なっ・・・ここは私の家だもんっ!」


そーよ!ちゃんと『石川』って書いてあったもんっ!
間違えるハズないじゃない!!
380 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:45
「えっ」
「よっすぃーこそ、私の家で、何してるの?!」


努めて私は冷静に、よっすぃーに問いかけた。
そんな、取って食おうってワケじゃないんだから、ソファにしがみつかなくてもいいじゃない。
そんなに私って怖い顔してる?


「あたしは、さゆと・・・」
「さゆ・・・?」

「お姉ちゃん」


さぁーっと血の気が引くよっすぃーを見て、
逆に私は冷静になるのを感じていた。
381 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:45
「ち、違うんだ石川」
「何よ?」

「あ、え、っと違くはないんだけど、あぁ、その」
「なに動揺してんの?」

「・・・・・・」
「さゆ」

「ハ、ハイ」


ばたん。


奥の部屋にさゆだけを連れ出す。
ふつふつと湧いてくる怒りもあったけど、どうしてなの。
なんでなんでこんなことになってるの。
382 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:45
「・・・どーゆうこと?」
「お、お姉ちゃん、落ち着いて、ね?」

「さゆこそ」
「う、ん」

「よっすぃーと、知り合いだったの?」
「・・・うん」

「いつから?」
「お姉ちゃんが三好さんにコクられて、悩んでたあたりから」

「・・・・・・」


絶句。何も言えないじゃない。
よっすぃーに、カノジョができそうなんだって、亜弥ちゃんが言ってたのって、
さゆだったのおっ???!!!
383 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:46
「ごめんね、ごめんねお姉ちゃん」
「・・・・・・」

「さゆ、もうこれ以上ウソつけないと思って。今日で吉澤さんとは終わりにしようって思ったの。」
「何のために、よっすぃーに近づいたの?」

「吉澤さんの、ほんとの気持ちを、知るためだよ」
「勝・・・手にそんなことして・・・」

「だってお姉ちゃん、これからもずっと黙って見てたでしょ、どーせ!」
「・・・いけないの?」

「お姉ちゃん」
「好きで、ずっと好きで、それなりに努力もしてきて。
 でもそれでも友達だって言われて、でもやっぱり好きで。」
384 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:46
「・・・・・・」
「さゆもわかったでしょ?よっすぃーに優しくされて。私のことなんて、好きじゃない、ん、だって」

「そ、そうだけど。でもねお姉ちゃん。それでも、やっぱり違うよ。」
「なにが?」

「吉澤さんは、さゆのこと好きじゃないよ」
「・・・・・・」
385 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:46



「さゆ」



「私、よっすぃーのこと諦める」



386 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:47
「なっ・・・!何で!!!」
「さゆに任せると思って、諦める」

「ちょっと待ってよお姉ちゃん!さゆは、吉澤さんのこと好きじゃないんだよ?」
「わかってる・・・でも、そーでも思わないと、お姉ちゃん、よっすぃーのこと、諦められない」

「・・・お姉ちゃん!」
「さゆ。いい子だから。よっすぃーには、黙ってて」

「ほんとに、いいの?」
「・・・いいよ・・・」
387 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:47
ウソだった。そんなのウソだよ。
諦めることに、理由もなにもない。
他の人ははダメだけど、さゆはイイ。なんてことは絶対ないのに。
絶対イヤだ。私じゃなきゃ、ダメなのに。

さゆの前ではお姉ちゃん、ちょっとはカッコつけたかったのかも、しれないね。

あーでも、よっすぃーにフラれちゃったんだったら、どっちみち一緒だぁ。
おかしいね。お姉ちゃん、最後までオッチョコチョイだ。
カッコ悪いね・・・。
388 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:47
「・・・・・・」
「ごめんね、おまたせ」

「あのさ石川・・・」
「よっすぃー」

「?」
「私、出掛けてくる」


よっすぃーは何か言いたそうにしてたけど、私はそれを言わせなかった。
弁解とか、言い訳とか、いらない。
よっすぃーはやっぱり他の子を見てた。その結果がすべて。
389 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:47
「で、出てくことないだろ」
「いーじゃない。私がどうしようと」

「あの、ホントさゆとはまだ何もないから」
「私に弁解しなくてもいいよ」


『まだ』、とかって。
これから、はあるのかな。
よっすぃーの中の予定に。

よっすぃーは、こうゆうときウソがつけないね。


「違う、そうじゃなくって」
「これからも付き合ってあげてね」

「・・・・・・」
「さゆのこと、傷つけないで」
390 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:48
ズルイ言い方だった。
友達の妹を、よっすぃーが傷つけるワケないとわかってるのに。
わざとよっすぃーが逃げられないような言い方をした。
よっすぃーを必死で突っぱねた。

もう、私の心はすでにボロボロだった。
ねぇ、よっすぃー。早く私をここから出して。
つらいの。心が痛くて痛くて、今すぐ泣きたいの。

私だって一応、女の子なんだから・・・ね?
391 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:48
「あ、うん」
「よろしくね」


「石川」
「なに?」

「あたし、ほんとに知らなかったんだ。さゆが、石川の妹だったなんて・・・」
「似てない?」

「・・・似てない」
「私がお母さん似で、さゆはお父さん似なの」


「じゃあね」
「・・・・・・」

「絵梨香と約束してるから」
「はっ?」

「付き合ってるの。三好さんと、私」
「え、だって」
392 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:48
ごめんね、三好さん。
自分をこれ以上傷つけられなくて、私は三好さんの名前を出した。
本当は、付き合ってないし、これから付き合う気もない。
ごめんなさい。私、やっぱり三好さんの気持ちには応えられません。

よっすぃーの顔が、驚きと混乱の色に染まる。
よっすぃーも、ごめんね。大事な友達だと思ってくれてるのかもしれないけど、
私はウソをついちゃった。こうでもしないと、私・・・。



「だから別に、さゆとよっすぃーが付き合っても何の関係もないから」



さゆと目が合う。さゆも物凄くつらそうな顔をしていた。
ごめんね。ごめんね。
393 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:49



「じゃね」




パタン



394 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:49
「・・・・・・」



「・・・くっ・・・ぐすっ・・・」



ギリギリセーフか。遅かったかな。
最後に、よっすぃーに笑って見せたつもりだったけど。

上手く笑えてたかな。


よっすぃー。今でも、好きだけど。


でも、もう、ダメかな・・・。
395 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/21(水) 15:50




**********



396 名前:pisu 投稿日:2005/12/21(水) 15:52
更新しました。

>363 名無飼育さん
お待たせしました。最後までよろしくお願いします。私も幸せです。

>ひすいさま
ネガティブ梨華ちゃん全開です。
397 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/21(水) 22:57
また更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
結果がわかってても梨華ちゃん切ない。・゚・(ノД`)・゚・。
398 名前:ハミング 投稿日:2005/12/22(木) 01:20
更新お疲れ様です。
切ない(T_T)
健気な感じの梨華ちゃんキャワ^^
梨華ネェのグチ聞きたいなぁww
399 名前:ひすい 投稿日:2005/12/22(木) 06:44
梨華ち゛ゃ〜ん(つДT)
理解して!よっちゃん!という感じですねぇ
400 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:13




**********





401 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:14
「石川」
「・・・・・・」

「石川、ってば」
「・・・・・・」

「・・・」
「・・・」

「・・・梨華・・・」
402 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:14

よっすぃーはズルイ。
よっすぃーに名前で呼ばれたら、私は意識しちゃうって知ってるくせに。
私がヘソ曲げて手がつかなくなって、途方にくれると、
そうやって私の気持ちを自分に向けさせるのが上手い。

よっすぃーの思い通りに、簡単に自分が手玉に取られちゃってるのが悔しい。
自分ばっかり、よっすぃーに夢中になっていくのがイヤだ。

走って競争したら、よっすぃーに勝てないってことはわかってた。
すぐに捕まえられて、公園のベンチに無理やり座らされる。
私はぐすぐす泣いて、よっすぃーは隣に座ってる。

時々、名前を呼ばれるけど、私は返事をしない。
意地を張れば張るほど、収拾がつかない。
く、悔しいよぉ・・・。

403 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:17

ぴゅうっと襟元から北風が入り込んで、マフラーをしてくるのを忘れたことに気がついた。
私は身を硬くして、よっすぃーに背を向けた。

あぁ、私よっすぃーと付き合い始めてから、どんどんイヤな女の子になってくよ。
こんなんじゃよっすぃーに愛想つかされてもおかしくないね。
絶対手放したくないのに。よっすぃーだけは絶対に。


好きになればなるほど苦しくて、

全然上手くいかなくて。

好きな気持ちばっか先行して、

空回りしてカッコ悪い。

もっとオトナな女性に、なりたい。


404 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:17
「あのさ石川」
「・・・」

「こんなんしてて、楽しいか?」
「えっ・・・」


パッと振り返ると、よっすぃーは苦しそうに、笑ってた。
眉間にキュってシワ寄せて、口をぎゅっとつぐんで。
無理して笑ってた。見てるこっちがつらくなるほどだった。


「よっ・・・すぃ」
「い、イヤあのあたし別に、そーゆー意味で言ったわけじゃ」

「・・・・・」


もう、私のことヤになっちゃったのかな。
めんどくさくなっちゃった?
別れるって言い出すのかな、よっすぃー。
405 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:18

「・・・ごめん」
「えっ?」

「あたし、結局いつも石川にヤな思いさしてるじゃん」
「・・・・・」

「だから、」
「・・・」


「申し訳ないなー・・・って」
「うん」

「なんか、やっぱ、ケンカとかしちゃうし」
「・・・」

「で、であの」
「・・・」


よっすぃーが、一生懸命私に伝えようとしてくれているのがわかった。
上手く言えない自分の気持ちを、伝えることが苦手だって言ってた。
めんどくさいことが、嫌いだって、昔言ってた。
そんなよっすぃーが、頑張って私に言おうとしてる。
406 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:19

「その、いちばん・・・だ大事にしたいのは、その・・・」

「・・・石川だったり、します」
「よっすぃー・・・」

「だからちょっとしたことですぐ、こんなふうにケンカとか、したくない」
「うん」



「あたしが冗談で言ったりとか、周りとかから聞いた噂とか、ぜんぶ信じたりしないで」


「石川は、どーんと構えてればいいから」


「もっと、自信持ってくれていいから、さ」



「・・・石川」
「ん」
407 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:20

初めて好きと言われた日のことを思い出した。
あの時もこんなふうにぎこちなく、でも真剣に伝えてくれたよね。

そうだ。そうだった。
泣いちゃうほどに、嬉しかった。
幸せで。今いちばん世界中で幸せ者って思えるほどに。

もう今なら、死んでもいいなんて、思いつめちゃって。
でもあながち嘘でもなくて、嘘みたいな現実が、怖くて。怖くて。



ねぇよっすぃー。
怖いの。嬉しくて、怖くなることってあるんだね。
知らなかったよ。

だからいっぱいいっぱい、抱きしめて。
胸が痛くてつぶれそうだから、あなたの腕で抱きしめて。
好きだと言わなくてもいいから、抱きしめて。

抱きしめて。
抱きしめて・・・。

軋む身体とうるさいくらいの心臓が、今ここに生きてることを教えてくれた。

顔に突き刺すような寒さと、細い枝を揺らす北風。
高く住んだ青空に、薄い雲が漂ってる。
冬、なんだ。
408 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:20

よっすぃーだけをまっすぐに見つめる。言葉なんて出てこない。
そんなのいらない。ずっと見つめていたいから。

あの日の景色とぬくもりが重なった。
心の痛みと切なさも、あの日と一緒だった。

きゅうっと締め付ける心が、震えるほどの甘い幸せに変わった。
声を抑えてまた泣いちゃった。
それさえも、あの日と同じだった。
409 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:21

私は俯いたまま、恐る恐る、よっすぃーの指先に触れる。
冷たくて、感触とかわかんなかった。かじかんで神経とか麻痺したみたい。
ロボットのようにぎこちなく、私の指は、そっと動き出す。

ぴくってよっすぃーの指も震えて、私たちの指先は絡まった。
指先から、よっすぃーの気持ちが流れてくる。

どくどくと、指が心臓に変わったみたいに動いているような気がした。
繋がった私たちの手が、同じリズムで鼓動を繰り返していた。
410 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:21

よっすぃーの手が、私をあたためてくれる

あったかい

ほんとうにあったかいね

凍えて冷たくなって、閉ざしてた私の気持ちを溶かしてくれる



目の前に白い息が漂っていて

それがよっすぃーの吐く息だとわかった

私は、そっと顔を上げる

二度ほど、私の目は瞬いた



よっすぃーは笑ってた

ほんとうに笑ってた

それは、

私のいちばん大好きな笑顔

私だけを映す、よっすぃーの目をもっと近くで見たくて寄り添った
411 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:22

知らないことだらけ

わからないことばかり

不安になるときも、怒っちゃうときもあるかもしれない

だけど

まっすぐに私を映す、よっすぃーの目がこんなに近くにあるのなら

困ったときは迷わずに寄り添って

その中に答えを見つけよう




うまくはぐらかしたりして、よっすぃーはちゃんと答えてくれないから

なんとか頑張って、あの手この手を使って ワガママ言って

たまには直接、よっすぃーの口から言わせたりしてみたい
412 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:23

「よっすぃー」
「ん?」

「言って」
「・・・・・・」

「わかってるでしょ?」
「・・・うん」



ぎゅっと力を込められたよっすぃーの手のひらが、熱いくらいにどくどくいってて

私の耳のそばに、白い息が揺れる

ねぇ、はやく

はやくその声で、息で、囁いて

あなたの気持ちを、ちゃんと聞かせて

おねがい、おねがい、だから
413 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:23



『 す き だ よ 』


414 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:24

たったその一言で、心が満たされる

私だけに効く、魔法の言葉

よっすぃーじゃないと、効かない言葉


耳元で囁かれて

ふいに抱きしめられて

息が詰まりそうになった

ぴったりとよっすぃーの胸に私は着地する

風に吹き飛ばされないように、よっすぃーにしがみつく



ねぇ よっすぃー

よっすぃーはケンカしたくないと言ったけど

たまにはこんなのも、いいよね?

だってすれ違って、言いたいことを言って、ぶつかって

そのあとに分かり合うことができたら、前より仲良くなっちゃうんだよ
415 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:25

私の願いはやっと叶って

じわりじわりと満たされる



「すきだよ」

「石川が、すきだよ」



「好き・・・」

「いしかわ」




「・・・梨華・・・」



416 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:25

澄んだ空気に、のせられたよっすぃーの静かな声が、
私の耳元でクリアーに届いた。


よっすぃーの腕の中で、私は世界一しあわせな女の子になれる。

よっすぃー、だいすき。

大好きだよぉ。
417 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/22(木) 16:25




**********



418 名前:ピス 投稿日:2005/12/22(木) 16:30
更新しました。雪積もってます。スゲー

>397 名無飼育さま
切ない気持ちは恋ならではのお味ですねぇ

>ハミングさま
作者も梨華ちゃんのグチだったら聞いてあげますもう何時間でも。

>ひすいさま
はい、吉澤さんはまだわかってない状態です。これからどうなりますでしょうか。
419 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/22(木) 16:38
(・∀・)ニヤニヤ
420 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/23(金) 12:45
連日の更新おつかれさまです
二人の気持ちがとてもあったかいです
421 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:47




**********





422 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:48
迷子になった、子供のように。
私はよっすぃーに手を引かれて家まで帰ってきた。
道すがら、何も話すことはなかったけど、さっきと同じ景色なのに、
しあわせで。ただしあわせで。

『冬なのに、春みたい』

そんなオメデタイことをしばらく思っていた。

423 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:48
家に着くとよっすぃーは、
小さな電気ストーブを焚いてくれて、
私が飲めないコーヒーを入れてくれて、
そして一緒にこたつに入った。

私がたっぷりの牛乳を入れているのを見て、よっすぃーは気づいたらしく。
『コーヒー、飲めねぇの?』と聞いてきた。
小さく私がうなずくと、よっすぃーはゴメン、と小さく謝った。

不器用で、ちょっとぶっきらぼうなよっすぃーの優しさが嬉しかった。
気の使い方とか、そんなんじゃなく、よっすぃー気持ちが嬉しかった。
424 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:49


「おいしい」


胸にしみこんでくるあったかさとしあわせが、私を笑顔にさせる。
よっすぃーもまたへにゃりと口を緩ませた。
425 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:49



「さゆ、出掛けたのかな」
「かな・・・?」

「気を遣ってくれたのかな」
「かもね」

「よっすぃ」
「ん?」



「ごめんね」



426 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:50
私が謝ると、よっすぃーはビキッと固まって、
みかんに手を伸ばしかけていた手を引っ込めた。

「な、な、なんだよ」
「私、ヤキモチばっかり妬いちゃってるから」

「え・・・」
「ケンカするの、ヤなんだよね」

「それはそうだけど」
「ごめんね。じゃあ約束する。もうしない」

「・・・石川」
427 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:50
ぺこりと頭を下げた私に、よっすぃーは触れようかどうか迷ってる。
私はマグカップを包み込むように持ち、ほわほわ上がる湯気を見ていた。

嫉妬しないとか・・・できるかどうか全然わからないけれど・・・
・・・すっごくヤだけど・・・。
がまんし、しなくちゃ。


428 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:50

「てゆかあたしっ・・・」
「ゴメンやっぱダメぇ!!!!!」


429 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:51
「はァ・・・?」
「できないよやっぱそんな約束。だってだって私、よっすぃーをひとりじめしたいんだもん!」

「・・・・・・」
「ワガママだよね、ウザイよね。でもヤなの。よっすぃーが他の人とか見るの、ヤなんだもん。」

「・・・」
「好きだもん。こんなに好きなんだもん。よっすぃーのこと、好きすぎるの。」

「ちょ・・・」
「お願い、私だけを見てて欲しいの。好きだから、そばにいてほしいの!」

「・・・」
「私、こう見えて実は嫉妬深いし独占欲強いし色は黒いしアゴだって出てッ・・・」
430 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:51




「・・・・ぅひゃあアァ????!!!!」



431 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:52
ナニ?何なにナニ???
ぐるんと視界が回って、私は床に寝そべった。


ギシッ


床が軋む音がして、よっすぃーがだんだん近づいてくる。
ちょ、ちょっとよっすぃーが覆いかぶさってきてるじゃないっ。
いいぃ痛いっ。ヤだままま待って離してぇ!わ、わわわわわ。。。。
432 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:52

「誰だよそんなこと言うヤツは」
「えっ、えぇ?!」


「ちくしょ・・・」
「・・・ん、んぅぅぅっ!!!」


433 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:52
唇をふさがれるというのはこうゆうことですか?

むぎゅうと唇を押し付けられて、強く強く吸われた。
ちゅ、ちゅ、ちゅっと息継ぎのようにキスされて、
息つく暇も無いまま、また強く唇が合わさった。

舐められて、吸われて、はぁとようやく息を吸った。
けれどすぐによっすぃーの舌がぬるりと入ってきて、
私はパニックになる。頭も真っ白になる。
434 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:53



「ん、んッ、ふぅ」

「んんん・・・ん、あっ」




「はぁ、はぁ、り、梨華・・・はァ」



435 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:53
よっすぃーがひどく興奮しているのがわかる。

いつもは涼しげな顔をしているのに、熱いキスを交わしたら、
よっすぃーは全力疾走した後みたいに、はぁはぁと浅い呼吸を繰り返してた。
ニットの隙間から簡単によっすぃーの手が入り込んでくる。
冷たくて、氷のような手が私の身体を這い回る。
436 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:53

「やっ・・・」
「やじゃないだろ」

「ふぇ?」
「オマエ何でそんなにかわいいの」

「あんっ」
「かわいすぎ・・・」


437 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:54
かわいい、とか、普段あんまり言ってくれないのに。
とろんと目尻が下がった顔で、よっすぃーはかわいいって言葉を連発する。
嬉しい。嬉しいんだけど。やっぱその、よっすぃーの手が気になっちゃう。

私の首筋に唇で触れ、ブラの上から胸を優しく撫でていた。
ちょっとくすぐったいし、よっすぃーが今までに無いくらい近くにいて、
もちろんドキドキして、ほのかに甘いにおいがした。
よっすぃーって、こんなに、甘い、におい、だったんだ・・・。
438 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:54

「ああああああの、よっすぃっ」
「なに?」

「・・・する、の?」
「うん。ダメ?」

「だっだっだってさゆがぁ」
「帰ってきちゃうから?」

「それにまだ昼間だし明るいしッ」
「・・・はぁ」

「よっすぃー?」
「あのさぁ」

「ぅん・・・?」
「あたしだって石川のこと独占したいんだけど」

439 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:54
ワカル?と言ってよっすぃーはオデコをこつんと当ててきた。
熱い、まっすぐな視線が私をありえないくらいドキドキさせる。


「あたしだって、おんなじなんだよ」
「え・・・」

「だから、」
「ちょ、ちょっと待ってダ、ダメだよぉ」

「黙って」


再びよっすぃーが近寄って、キスされた。そうして私は、いよいよおとなしくなる。
440 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:55
手を引かれて私の部屋に入った。
入るなり抱き寄せられて、私の耳元に はぁ、と熱い息が降りかかる。
ベッドの端に座ると、よっすぃーは軽くオデコに唇で触れた。
ぼーっと見とれてたら、窓際へ行ったよっすぃーはカーテンを閉めた。

戻ってくると床に膝立ちして、手の甲を撫でられた。
私を、確かめるように、いとおしそうなまなざしで指先をなぞる。
441 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:55


「梨華・・・」


442 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:55

ベッドにそっと、横たわる。
すぐによっすぃーも私の横に寝転んだ。
髪を手で梳いて、名前を呼ばれる。

顔を横へ向けると、よっすぃーの顔が近くにあって。
よっすぃーの肩の向こうには、いつも見ているはずの窓があった。

少ーし、カーテンが開いてるなぁって。
見られちゃったら、どうしよう。でもそんなことも言ってられなくて。
よっすぃーが顔を寄せてきて、静かな部屋に、チュッと音がした。
これから、エッチするんだなぁ・・・って、ただ漠然と思っていた。

443 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:56

水晶みたいな、よっすぃーの瞳。キラキラと光ってて、吸い込まれそうだった。
その瞳にすべて見透かされている気がして、私は恥ずかしい気持ちでいっぱいだったけど。
何度もキスされているうちに、よっすぃーは私が覚悟を決めるのを待っていてくれているんだとわかった。

キスされて、手を握ってくれて。腕、肩、首・・・と順番に撫でられて。またキスされて。
規則的によっすぃーの手は動いてた。何度も、何度も。


好きすぎて、恋しくて、いとしくて。
ずっと、私だけを見てほしくて。あなたを独占したくて。

なのに、こんなに好きなのに、少しだけ怖くて。
嬉しいはずなのに、怖いの。

それもすべて、よっすぃーはわかってくれていた。待っててくれた。

444 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:56

「よっすぃ」
「なに?」

「・・・恥ずかしいよぉ」
「うん」

「あと・・・怖いよぉ」
「うん」



「でも」



「好き・・・」
「わかってる。ぜんぶ、わかってるよ」

445 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:57

見上げると、よっすぃーは微笑んでいた。
私はよっすぃーの頭の後ろに手を回す。
きゅっと引き寄せて、私の方からキスをした。

そっと、触れるだけのキス。


ねぇ、よっすぃー。
ちゃんと伝わってるかな?

446 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:57

「よっすぃー。だいすき、だよ」
「うん・・・」

447 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:58

恥ずかしいのも。怖いのも。
ぜんぶわかってるって、言ってくれた。

知られてるって思うと、もうどうしていいのかわからないくらい、焦っちゃって。
知られるのが、怖いけど。
ちょっとだけ、嬉しくて。
安心できるの・・・。


ねぇ、よっすぃー。
もっと、私を見て。

448 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:58

私は、ゆっくりと目を閉じて、
よっすぃーの唇が降ってくるのを、じっと、待ってた。

449 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/24(土) 05:58



**********




450 名前:ピス 投稿日:2005/12/24(土) 06:01
更新しました。明け方に、ちょっとこーふん気味です

>419 名無飼育さま
ありがとうございます

>420 名無飼育さま
連日お読みいただきまして本当にありがとうございます
ようやく一歩前に進みつつある二人を見守ってやってくださいね
451 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 10:29
こっちこそこーふん気味です。
どうなるのでしょうか。ドキドキ。
452 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 11:20
ひゃー!!か、かわいい…
続きが非常に楽しみで仕方ありません!!
453 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 12:42
クリスマスイブにありがとうございます
続きを激しくお待ちしております
454 名前:ピス 投稿日:2005/12/26(月) 11:13
途中から視点が変わります

□□□□□□□・・・吉澤
■■■■■■■・・・石川

です。ラストまでいっきにごー
455 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:14




**********





456 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:15




□□□□□□□
457 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:15
どれくらい、不安な気持ちにさせてたんだろう
どれくらい、あたしのことを好きでいてくれてたんだろう

ちゃんと石川だけを見ていたつもりだったけど、それはただの思い込み

ひとり迷って、膝を抱いて、泣いてた夜もあったのか
ごめん・・・


好きだ

好きだよ、

大好きだ

ってかもう、

好きすぎて

どうかなりそう


もう泣かなくていいから
泣きたいときはずっとそばにいてあげる
真っ暗な闇も、長い長い夜も、そばにいてあげる

怖い夜なんて絶対ないってコト
ずっと石川のことが好きだってコト

あたしが教えてあげるから
458 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:16
目を閉じた石川の、綺麗すぎるほど整った顔に見とれていたら、
待ちきれなかったんだろう
そっと震えながら石川は目を開けた

「よっ、すぃ?」
「ゴメン・・・見とれてた」

「ヤだぁ」
「梨華が、綺麗すぎるから」


肩をそっと温める
華奢なカラダがぴくぴくと震えだす
ゆっくりとニットを捲り上げてそのまま引き上げた
もう
一瞬だって見逃したくない
服が頭を通る一時でさえもどかしかった
早く、梨華を見たい
すばやく脱がした服をベッドの下へ投げ捨てた
459 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:16
熱く、見つめ合いながら あたしはシャツのボタンに手を掛ける

緊張した顔で、ボタンを外されているのをじっと見てる 梨華

いつも以上に 小さくなった梨華が もう 最高級にいとしくて

はだけた服の隙間から すかさず手を滑り込ませて 口づける

何度も 何度も 優しく そっと 小さな キスで

好きだよって気持ちを込めながら
460 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:17
体温が上昇してく梨華のカラダにあたしもちゃんとリンクしてて
不思議だった
こんなにも、ぴったりと当てはまるんだから

近く、もっと近くに寄り添って
ぎゅうっと抱きしめる
愛しさが波のように打ち寄せる
461 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:17
梨華は?あたしのこと好き?

迷わず梨華は伝えてくれるのかな

言葉じゃ照れて聞けないから

触れ合う身体で 教えてよ



462 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:18
「梨華・・・?」
「んッ」

「指が、震える」
「どうして?」


梨華の、素肌に触れるたび
慣れてないみたいに緊張が走る

その全てぜんぶ、わかってるみたいに
あたしを見上げて微笑む梨華が

天使のように見えたんだ
いやホント、マジで

だから
優しく羽を広げて待ってる天使の中に
腕を広げてあたしも迷わず飛び込んだ
463 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:18
イヤッて身をよじらせたのを見て
胸が弱いんだと知った
嬉しくなったあたしは
くすぐるみたいに撫でて、ちょんと主張したトコロを口に含む
急に愛しさが溢れ出して
舌で転がす 舐め上げる 痛くならないように吸う


「・・・ん・・ぁあ・・・はあっ」
「はッ・・・んぅ・・・」
464 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:19
右手で抱きしめて
左手でズボンの上から触れる
腰が浮いた瞬間に
剥ぎ取った

下着を つうっと指でなぞったら
梨華は急に暴れだす
隠し切れない恥ずかしさが伝わる
怖がる気持ちもその奥に見え隠れする

大丈夫
こわくないよ
あたしは梨華を知りたいだけだから

愛して 愛して いとしい気持ちを梨華に知って欲しくて
今までのぶん、全部梨華のすべてに注ぎたくて

待たせてごめん
こんなに梨華が苦しむまで
これからは
そんなことはもうしないから

何度も 何度も 何度も 抱きしめてあげる




465 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:19




■■■■■■■
466 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:19
息が触れて、溶け合って、冷たいこの部屋を温めて、
よっすぃーが降りてくる ぶつかって、私の中に流れ込んでくる 

快感と、幸せにとっぷりつかれるように
よっすぃーはゆっくり抱いてくれる

次の扉を開けようかどうか迷う私の代わりに
よっすぃーはノブを回してくれる
時にちょっと
大胆に私の背中を押しながら


下着の中にそっと指を入れられて
私はまた新しい感覚を知る

ひとつひとつ、子どもが言葉を覚えるように
少し戸惑いながら
私は飛び上がるように感じていた
467 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:20
「や、やだぁ」
「ヤじゃないでしょ」

「こ、こわい」
「うん」

「は、恥ずかし・・・」
「わかってる」

「でも」
「・・・気持ちいい?」


全部、知られちゃってるんだ
私の思うこと、すべて

くちゅくちゅと、溢れるところを弄りながら、
よっすぃーは私の反応を見て楽しんでる
悔しい、
悔しいけど嬉しい

私の感情すべて、さらけ出しても
よっすぃーは受け止めてくれるって
ちゃんと好きだって、示してくれる

抱きしめられると
すごーく、安心できた
468 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:20
「ひッ・・・」
「冷たい?」

「・・・うん」


ちょっとだけ我慢してた
よっすぃーの指が冷たいこと

でも冷たい刺激が、反対に私を熱くさせるから
じんわりと、また溢れさせるから

黙ってたのに
469 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:20
「手が、じーんてする」
「え?」

「梨華のココ、すっげぇ熱いから」


「すぐあたしの手なんて、ぬくもっちゃうかも」
「やッ、よっすぃ!」


くるんと刺激されて、尖ったトコロは右往左往する
あわてふためいて、私は混乱する

さっきから、絶え間なく聞こえるのは私の声
恥ずかしい・・・でも・・・気持ちいい・・・
470 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:21
「・・・ッあ!!!!」


激しい快感が、私を突き刺す
私を見下ろしていたよっすぃーが、いつのまにかいなくなってて

私に顔をうずめて、吸い上げ、舐め回していた


「んっ、あぁ、、はあっんあ、あんっ、あん・・・ん」

「わかる?どんどん溢れてんの」



「っく、・・・っあ・・・っっ」

「声、ガマンしなくていーよ」



「や、やああぁぁぁ」


471 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:21
よっすぃーは言葉で私をいじめる

やだ、やだよそんなのっ
気持ちよくないっ

反抗したいけど、それさえもできなくて
よっすぃーがどんどん追い求めてくるから
私は逃げ場をなくす

感じて震えて、首を振って、声を上げることしかできない
472 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:22
「大丈夫?」

そんなときでさえ、私の上でイタズラな指は彷徨う

「だ、ダメぇ」
「梨華・・・」

「も、もう、あ、ああぁぁぁ」

動きを再開したよっすぃは、ちゃんと私を見てるのかな
こわくて、こわくて、どうしたらいいのかわからないのに
感じて、とだけ言い続けるよっすぃーを恨んだ
それができなくて、困ってるのに

つうーっとよっすぃーの熱い舌が、私を撫で上げる
舌の感触がわからないほどに溢れているその箇所は
よっすぃーには丸見えで
冷静にそんなことを考えてたら叱られてお仕置きされるかのように
また激しく私を攻め立てる
追い詰められて飛び降りそうになると
よっすぃーは私を手放す

永遠にその繰り返しな気がした
473 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:22


「梨華」

ふいに名前を呼ばれて
思わずよっすぃーを見た
赤い舌が、自分でもそう触れない場所を行き来して
そっと離れた


透明な細い糸が、光って、
私とよっすぃーの舌の間に長い橋を掛けた

いやらしく光って、そうっと落ちた


「・・・見た?」
「見てないっ」

「すっげーの、見た」
「見てませんッ!」

「見てみ。ホラ」


同じことをして見せられる
粘性のモノが、何度も何度もしつこく橋を掛ける

上目遣いのよっすぃーが、まるで悪魔に見えた
いやらしい目つきが、私を躍らせる


「見たくない・・・」
474 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:23
顔を背けたら、慌ててよっすぃーは私をよじ登り、
カラダごと抱きしめた
胸と胸がぶつかって、押しつぶされて、
よっすぃーの温もりがじんわりと広がってゆく

頬に、瞼に、額に、耳に、口に、顎に、髪に、
すべて確かめるように口づけられる

それだけで機嫌を取り戻して
もっとほしくなる
あきれるくらい、私、よっすぃーのことが好き

ダメかなぁ?

ダメじゃないよね?
475 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:24







□□□□□□□
476 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:24
ダメだと言っても抱きしめてキスしたら
嬉しそうにしてる梨華が単純すぎて笑ってしまった

バカじゃん。

バカなくらい、あたしのことが好きなのか?
梨華がバカだったら、あたしはそれ以上に大バカだ。

そんな梨華が、好きで好きでしょうがないのだから。

いとしくて、うっとり快感を味わってる梨華を見たら、
何か悔しくて。もっと狂ってほしくって。
ちょっと苛めてやったら、拗ねた。

ち、違うんだ、そんなんじゃなくって

もっとあたしのこと、求めてほしいんだ。
その度に、愛されてるって実感できるから。

こんなことでしか、梨華の気持ちを確かめられなくて
情けないけど
それくらい、梨華を想ってる、つもりなんだけど
477 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:24



でも

それでも



あたしだけの優しい笑顔 絶対離したりはしないから

あたしたちの大切な未来 あたしが守ってみせるから

ずっとずっと梨華だけを 変わらずに愛し続けるから


478 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:25
濡れて、また少し冷えた指先を、口の中で温める
梨華は良い顔をしなかったけど、
あたしは幸せな気持ちでソレを舐め取った



  好き

  梨華、好き


  なにもいらない

  梨華さえいれば

  だから、もっと、


  梨華が欲しい



何嬉しそうな顔してンだ

何泣いてんだよ

あたしまで泣きたくなるから、やめてよ
479 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:25
「ぅああああん、ん、ああぁぁ」


梨華の声に導かれる
指を動かしながら、必死に伝え合う
キスで探す
全身に浴びせて
梨華の、すべてを
今までも ずっと これからも
未来のまた その先まで


「ん、はあ」
「よ、よっ・・・ぁっ、っ、」

「入れるよ」
「っ、い、いっあぁぁぁぁッッッ!!!!」
480 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:25
尖った声が、響き渡る
ゴメン、梨華ごめん

しばらく動かさずにじっと梨華を見つめた
一生懸命飲み込もうと、呼吸を整えるけど
浅く呼吸を繰り返すのを見て
あたしはひどく心が痛んだ


「大丈夫?」
「ん、ん・・・」
481 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:26
静かにはらはらと、梨華の瞳から涙が零れる
左手でなぞって そっと拭って
息を吹き込む
ぎこちなく
梨華が舌を絡めてくる

顔を上げて
仰け反って
喉を鳴らして
夢中になる

しばらくして梨華の中をくすぐった
始めは探るかのように
後からその跡をたどって
梨華が少しでも気持ち良いように
やっぱ始めは、ツライと思うけど


「っ、っく・・・ッ」


ほどなくして、指を抜く
梨華は情けない顔で あたしを見上げる
ごめんねのキスをすると
微笑む梨華がいとしくて いとしくて

キスで返される
少し申し訳なさそうな顔に
大丈夫だよと囁いた
482 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:26
梨華に顔をうずめて指で撫でると
梨華はまた声を上げる
首を振って 脹脛には汗が伝う

頭を掴まれてぎゅうっと押し付けられる
すごくすごく、あたしを求めてくれてるのがわかる

少し遠慮がちに腰を振って声を上げる梨華に
あたしがゆっくりと降り積もればいいな
粉雪が降る景色を、いつでも思い出してもらいたい




483 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:27

「梨華・・・」
「・・・」

「梨華?」
「んぅ」



汗で張り付いた前髪をどけて、
そこに優しいキスをする

嬉しそうに笑う梨華に、
苦しいほどのキスをする

あちこちに触れて、唇でなぞり、
抱きしめて囁いた
484 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:28



「愛してる」




485 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:28
どれくらい届いただろう?

幸せを確かめたくて

肌と肌とすり合わせる



溶け合うあたしたちの温度が

そのまま答えになる



くたっとあたしに預けてくれる

梨華のあったかい重みが

あたしには嬉しいんだけど



だって重いから、と 照れる梨華

身体を反転させて自分の上に乗っける

たまには見下ろしてもらいたい
486 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:29



上になり、下になりながら じゃれ合って

きっとこれからもそんなふうに過ごしてゆくのだろう

もっともっとあたしに夢中にさせたい

もっともっと笑わせたい

やっぱ梨華の笑顔は

皆を幸せにするチカラがあるから



そばにいて

ずっとそばにいて

あたしを世界一の幸せ者にしてよ



487 名前:やまとなでしこ 投稿日:2005/12/26(月) 11:29



********************

       やまとなでしこ
               fin

********************




488 名前:ピス 投稿日:2005/12/26(月) 11:32
『やまとなでしこ』完結です。

>451 名無飼育さま
書き上げてさらにこーふんです。やばいやばい

>452 名無飼育さま
>453 名無飼育さま
お待たせしました。やっぱハッピーエンドストーリーっちゅうことで。
489 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/26(月) 12:36
完結お疲れ様でした
まっ昼間からかなりヤバいです(汗)
490 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/26(月) 15:10
うひゃー(照
すっごくよかったです!幸せなお話をありがとうでした!!
491 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/27(火) 16:20
次も楽しみにしています
492 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/29(木) 20:07
よかった、萌えた
493 名前:ピス 投稿日:2006/01/11(水) 13:37
>489 ありがとうございます。まっ昼間にこーふんさせてしまって申し訳ないです

>490 こちらこそありがとうございます。

>491 お待たせしちゃってすいません。

>492 最高の褒め言葉です。ありがとうございます。


さて、年も明けまして、1月です。
梨華ちゃんの誕生日に向けて、ひとつお話を書きます。
全8話の予定です。
よろしくお願いします。
494 名前:Love Anthem 投稿日:2006/01/11(水) 13:38






495 名前:Love Anthem 投稿日:2006/01/11(水) 13:39



Love Anthem



496 名前:Love Anthem 投稿日:2006/01/11(水) 13:39





497 名前:Love Anthem 投稿日:2006/01/11(水) 13:40

どこにでもあるような、そんな街の片隅で

普通でどこか中途半端なあたしと、羨むくらい綺麗な君が出会った

ありふれた、ひとつの恋のお話


498 名前:Love Anthem 投稿日:2006/01/11(水) 13:41


だけど、今日だけは、君だけが、

世界中でいちばん幸せになれる日だよ




――――― 梨華ちゃん、誕生日 おめでとう


499 名前:1.Windy Love 投稿日:2006/01/11(水) 13:41
何でもない、いつもの風景。
少しずつ寒さも和らいできて、でもコートは手放せないある冬の日。

柔らかな木漏れ日の午後。
あたしはいつものテラスに出て、雑誌を片手にカプチーノを頼む。

ビルの谷間に、風が吹き込んでそれがキラキラと反射する。


「はぁ・・・」


長い髪を風になびかせて、退屈そうにため息をつく

君を、見つけた
500 名前:1.Windy Love 投稿日:2006/01/11(水) 13:42

いつだって恋は突然で
どうしようもない心の変化に戸惑うけど
もっと知りたい、君のこと

一瞬だって見逃せない表情や
まだお互い隠してるほんとの気持ちとか
あたしを虜にさせる、夢中にさせる


あたしの中に、断りもなく
舞い降りたひと



「ねぇ」

どんな最初の一言もそこから始まってゆくんだ
501 名前:1.Windy Love 投稿日:2006/01/11(水) 13:43
白いマフラーの、君の名前は梨華と言うらしい。
カップを片手にして半ば強引に君の隣に腰掛けて、ペラペラと喋りまくった。

『かなりナンパなひとだね?』

君は肩をすくめて笑うけど、その笑顔にだってあたしは心躍らせていたんだ。

―――ねぇ?どうしてあの時、ため息をついていたの?

そんな核心に触れることもできずに、あたしは軽いジョークで君を笑わせて。
君の瞳の中に映る自分を確かめるように、あたしは顔を近づける。

『やだぁ・・・顔、近すぎー』

ほら、そう言ってまた君は目を細めて笑うから。

もっと、もっと、笑顔を見せて
そのためにあたしは努力も惜しまず、話しかけるんだ
君を笑わせたい、もっともっと笑わせたい
顔中くしゃくしゃにして、幸せな時間になるといい
502 名前:1.Windy Love 投稿日:2006/01/11(水) 13:44
二人の頬を、くすぐりながら吹き込む風をまた感じていた。
まだ二人で歩くことに慣れない自分に苦笑する。

待ち合わせの場所に君がやって来ると、
あたしだけに分かる、この街をすり抜けてゆく風。

色づいた陽射しが街を優しく照らす。
まだ春には程遠いけど、あたしの心はウキウキで。

だって、ホラ、見てよ?
あたしの隣にいる君は街中の視線を集めてる。
だって息が止まるくらい、カワイくて綺麗なひとだから。

誰もがみんな眩しそうに振り返るひと

あたしは少し得意気に 胸を張って歩くんだ
503 名前:1.Windy Love 投稿日:2006/01/11(水) 13:45
コンクリートにブーツがこすれる音が止み、ふいに立ち止まりあたしを見た。

「どうした、の?」

困惑してドキドキするあたしに、

「どうもしないよ?」

夢に見たような澄んだ瞳で君は見つめてくるけど。
504 名前:1.Windy Love 投稿日:2006/01/11(水) 13:46
あたしと梨華ちゃんの胸を震わせながら、
今日もこの街には風が吹く

「ん?」

ちょんとあたしの服の裾を摘んで、あたしは問いかける

「・・・いい?」
「いいよ、別に」

そっけない空気を包んでまた澄んだ空が広がる
505 名前:1.Windy Love 投稿日:2006/01/11(水) 13:46

ぎゅっと繋いだ手のひらが熱を帯びてくるけど
こんなときに限って風は止んで

隠せないあたしの心が、梨華ちゃんに釘付けです
君にもきっと同じようなときめきが広がってるでしょ?
506 名前:1.Windy Love 投稿日:2006/01/11(水) 13:47


風が運んだ出会い 見つめ合うその瞬間に時が止まった

身体が甘い痛みに包まれたなら 時計の針が動き出す

ステキなこのはじまりは ずっと、ずっと忘れない

舞い上がれ街中に ずっと、ずっと


507 名前:ピス 投稿日:2006/01/11(水) 13:48
更新しました。
508 名前:あいわい 投稿日:2006/01/12(木) 08:07
おぉ!新作きてたー!今回も期待してますよw頑張って下さい!
509 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:12



RRRRRRRRR・・・・・


510 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:12

『只今留守にしております
 発信音の後に20秒以内で お名前とご用件を・・・』

511 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:13


ピッ


「・・・・・・」


512 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:13
繋がらない
眠れない

会いたい
会いたい
会いたい

心は焦がれて、浮かぶ君の笑顔。
電気もつけず、カーテンは開けたまま、
真っ暗な部屋の中に携帯の照明だけが浮かび上がる。

電話だけでも 繋がっていたい
想いだけありったけ込めて、またボタンを押す
もし、次のコールで君に繋がったら・・・
何から話そう?
513 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:14
楽しい時間を過ごすたび
君のことを知るたび
あたしのことを知ってもらうたび

独占欲も渦巻いて

君だけを、手に入れたいと思う

514 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:14
最近何度電話してもメールしても、君からの連絡はない。
原因は、自分でも分かってる。心当たりは、たったひとつ。

梨華ちゃんと映画を見に行ったとき、のこと。
偶然美貴と会って、ちょっとしたことがあったから。


いいよと言ったのに、割と世話焼きな梨華ちゃんは
あたしの言葉を遮ってドリンクを買いに行ってくれていた。
515 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:15


『・・・次はどこへ連れて行こう?』


いつだって何かを考えるとき、梨華ちゃんのことを思うのに。

おいしそうなものを見つけると梨華ちゃんに食べさせてあげたいと思うし、
綺麗な景色を見ると梨華ちゃんにも見せてあげたいと思う。
カワイイものだって、カッコイイものだって、
笑った話や泣いた話、悔しいことや嬉しかったことも。

もうすでに梨華ちゃんなしでは考えられないのに。
516 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:18

「よっちゃんさん!」
「美貴?」

パンフレットが並んでいる近くで、友人と偶然久しぶりに会った。

――― アイツはどーしてるの?
――― 今何してんの?
――― 今どこに住んでんの?

お互いの近況を報告し合って、懐かしい気持ちになる。

517 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:21
「ひとみちゃん・・・」
「あ」

帰ってきた梨華ちゃんと、美貴が顔を会わせる。
美貴はニヤニヤしながら、

「なぁにー?カノジョ?」
「美貴!」

勘が鋭い美貴はあたしの態度で、分かったと思う。
あたしが梨華ちゃんをスキだってことに。

「・・・そんなんじゃありません」

ちょっとムッとした梨華ちゃんに、多少凹みつつ。
一緒になって反論して。何やってんだ、あたし。
518 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:22
いじめたがりの美貴は、あたしの過去を暴露して。
青い青春時代を、梨華ちゃんに話しやがった。

「よっちゃんさん、手ェ早いから気をつけてね」
「大丈夫ですよぉ」
「コ、コラ美貴!」

出会いから察するに、梨華ちゃんも遊ばれてると思ったのか。
妙にぎこちない空気が、それから。


――― おかしいぞ?


期待は拭い切れなくて
都合のいい考えが頭を巡って
また今日も眠れない 繋がらない
519 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:23
君はまた電話の向こう

ほんとの気持ちを伝えれば、何か解決すると思うけど

君はまだ電話の向こう



『また、後でかけるか・・・。』

電話を切るたび、大切な人だけを、ひとり思う

欲望と愛情が膨らんで、知りたい、本当のこと

ねぇあたしのこと、好きなの?
520 名前:2.電話の向こう 投稿日:2006/01/12(木) 18:24

欲しいのは君の鼓動で
あたしはひとり、ずっと寂しくて

夢にまで見た 君への想いは
夢に解けて うずいては膨らむばかり
メールじゃ伝わらない この想い

会いたい
会いたい
会いたいよ

せめて、声を聴かせて・・・

甘くとろけるような、あなたの声が、聴きたいよ・・・


521 名前:ピス 投稿日:2006/01/12(木) 18:26
更新しました。

>508 あいわいさま
ありがとうございます。ご期待に添えられるよう頑張ります。
522 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:30
ほんの少しの勇気が、あたしを後押しして
時がすべてを解決してくれた


「・・・梨華ちゃん?」
「ひとみちゃん・・・」


やっと繋がった、ある日の午前中
頼りない携帯の電波が、梨華ちゃんの声を届けてくれる


「久しぶり」
「うん」

「元気だった?」
「うん」


たいして日は経ってないだろうけど、手帳を開くのが怖い
会えなかった時間がつらい
ずっと、ずっと会いたくて、会いたくてしょうがなかったから
523 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:31


「・・・・・・」


肝心な、連絡がなかった理由は聞けなくて
梨華ちゃんを責めることもできずに
やっと繋がることができた、ほっとした気持ちだけが
じわじわと身体中に広がってゆく

君を好きだという気持ちが、溢れ出す
524 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:32


「会いたい・・・」


素直な言葉が零れ落ちて
街中だというのに、あたしは落ち着きを失くして


「梨華ちゃんに、会いたい・・・」


ただその言葉だけを繰り返した


「・・・・・・私も」


耳を澄ましてないと聞こえない、君のか細い声が


「私も、ひとみちゃんに会いたい」


ふわりとあたしの耳元に届いたんだ、あったかく
525 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:33



夕方になって、小さな雨粒があたしを濡らす
コンビニで小さな傘を持って、待ち合わせの場所へ向かう

もう、梨華ちゃんしかいない
梨華ちゃんだけが好きなんだ

ねぇ、亜弥・・・やっと、見つけることができたよ?

糸のような雨の日は、あの日の別れを思い出す・・・


526 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:33
  「・・・泣かないで」


  涙を拭きなよもう 人が見ているよ、ホラ
  心で泣いてたのはあたしの方だよ


  「亜弥」


  宙ぶらりんのあたしの腕が、
  亜弥を抱きしめたいと叫んでる

  雨の音でかき消されて聞こえないと分かっていたから
  あたしはあなたへの言い訳を囁いた
527 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:34


  楽しかった、亜弥との思い出が
  亜弥と別れることになった瞬間、鮮やかに雨の街を彩る

  思い出を消してほしいんだ

  亜弥と抱き合ったあの夏の幻を、
  夢中で亜弥を好きになった日を


  例えこれからの日々の中で
  ときめく恋に落ちたとしても

  亜弥を忘れる自信がなかった、ずっと


  あれからいくつもの夏が通り過ぎて行ったけど
  亜弥を忘れることができずに
  亜弥と誰かを比べてしまっていた

  別れた後も、ずっと好きだった
528 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:34


  あんなに忘れたいと願っていたのに

  梨華ちゃんと出会ってからのあたしは
  まるで別人のように
  あの痛みを忘れてしまっている

  最近では少し懐かしい、あの痛みが


  あたしならずっと願っている、亜弥の幸せを
  亜弥を幸せにできるのは、あたしじゃないけど


  今日も雨が降っている
  あの日と一緒だね

  雨の時はあたしも亜弥と同じように、
  近くて遠いどこかで濡れている
529 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:35


  亜弥と、二人はしゃいで傘もささず歩いた
  汚れた服も気にせずに、水たまりを蹴飛ばした

  忘れずに忘れられずに
  あたしは今もあの雨を覚えてる
  悲しい痛みと共に


  あなたはあたしを許さないだろう
  ひどいことをしてしまったね、ごめん
  お互い背負った、心の傷だけが
  正しい道へとあたしを導いてゆく


  やっとあたしも、いとしいひとに出会えたんだ
  亜弥に負けないように、幸せになろうと思う


  亜弥もきっと誰かを愛せるよ

  あたしじゃない、他の誰かを



530 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:36
この細い雨に今までの想いを洗い流して欲しかった
ちゃんと決別して、梨華ちゃんの元へ向かいたいと思った

歩道橋の上から、テールランプを見下ろして、
ようやく亜弥に言えた、『さよなら』

さよなら、さよなら、さよなら・・・



地下鉄の入り口で、空を見上げる君を見つけた
ゆっくりと今、近寄って
何度も心の中で呼んだ、君の名前を口にした

あたしの姿を見るなり、安心した顔を見せる

梨華ちゃん

どうしてそんなにあたしのことを夢中にさせるの?
531 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:37
「・・・なんで?」
「へっ?」


梨華ちゃんはあたしの髪へ手を伸ばす


「ひとみちゃん、傘持ってるのに、どうして濡れてるの?」
「・・・あ」

「もう、しっかりしてよぉ」
「ぼーっとして、傘さすの忘れてたんだ」


あたしに触れる、梨華ちゃんの手を掴む


「ひとみちゃん・・・」
「・・・梨華ちゃんも、濡れてるじゃん」


雨で冷えた手を、温めたいと願うのは
梨華ちゃんだけだった
532 名前:3.After the Rain 投稿日:2006/01/13(金) 18:37



ねぇ、亜弥?

いつか自慢の彼女を紹介します

やさしくて、綺麗で、おっちょこちょいで
案外ズボラで、下手するとあたしより男前な、梨華ちゃんです

今はまだ、彼女とは呼べないけれど

いつか、いつの日か

自慢の彼女を紹介します


533 名前:ピス 投稿日:2006/01/13(金) 18:38
更新しました。
534 名前:愛虎 投稿日:2006/01/13(金) 23:26
一気に読ませていただきました。
せつなく、なおかつ甘くて“いしよし”はやっぱりサイコー。
今回の作品の続きも楽しみです。
535 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:23






536 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:24

「はやく、行こ」
「うん・・・」

あたしが広げたビニール傘に、たたっと2、3歩梨華ちゃんは駆け寄ってくれた
しっとりと濡れた、長い髪の毛に目を奪われる

梨華ちゃんだ・・・

やっとの思いで、触れるのを我慢する

「もっとこっちおいで」
「え?」
「濡れるから」

服の袖を、ちょいと摘んで引っ張るのが、精一杯

537 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:24
素敵な夜に
素敵な君に

桃色の泡が弾ける

嬉しそうに梨華ちゃんはそれを見つめてた
あたしはそんな梨華ちゃんを見つめてた

「どうかしたのひとみちゃん?」
「何でもないよ・・・」

あたしを見上げて微笑んだ、君に酔ってしまいそう

「あの、ね」
「?」
「あ、あの・・・」
「?」

「ごめんなさい」

「私、ずっと、ひとみちゃんのこと。避け、てるみたいに、して、て」

一生懸命、言葉を紡ぐ君が
とてもかわいくて、とてもいとしくて

538 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:25
「ごめんね」
「・・・うん」

梨華ちゃんの手首をそっと掴んだ

「もう、いいし。」
「でも」
「それに・・・美貴とはただの友達だから」
「!?」


溶け出した夜を今注ぐよ

誰も見たことない君を今夜見たいんだ

熱く見つめるあたしの目から、君には伝わってる?


「あたしの部屋、おいでよ」
「え?」
「さ、ほら行くよっ」


最終電車に飛び乗って

誰も通らない路地裏を抜けて

扉を開けて手招く場所まで

539 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:26
「何もないけど。どうぞ」
「おじゃまします・・・」

「座って、そこ」
「うん」
「よいしょっと」

「・・・・・・」
「・・・・・・」



見つめ合う、梨華ちゃんの瞳へと落ちながら

あたしは熱くなってゆく身体を抑えることができない

梨華ちゃんにそんな気がないだろうことはわかってる、

欲求と感情のあいだで葛藤している

キスを重ねよう ゆっくりと心も素肌も脱いで

あたしはもう、一時も離れたくないんだ

見てたい君を 知りたい君を 愛したい君を

540 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:27
霧の中を彷徨うヘッドライトみたいに
あたしの中の、ぼやけてた思考回路だけど

あの一瞬の出会い すべて鮮明に覚えてる
あたし達は前世でもこんなふうに出会ってる、と


「梨華ちゃん・・・」
「え?あ、あ、あの何??」

「梨華ちゃん・・・」
「・・・・・・え?」

「・・・・・・なんか、飲む?」

飛び出した言葉は妙な空気に放り出されてた
541 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:27
肝心なとこで、勇気が出せないとこはいつまでたってもダメらしい
キッチンへ飛んで行き、浅く乱れた呼吸を取り戻す
ワインを片手に梨華ちゃんのそばに、戻ってきた

ベッドの近くの、明かりをともす
・・・いいよね?
グラスに注ぐワイン1杯
542 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:28


とぽとぽと真紅の液体が、グラスを満たす

そのワインの香りで満たしてく部屋



ふいに揺れた、

もうすでに乾ききってる梨華ちゃんの長い髪の毛から

淡い香りも漂う



甘い空気がさらに加速させ

梨華ちゃんを優しく抱き寄せ囁く

目を閉じ頷く梨華ちゃん


543 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:29


同時に重なる唇



ずっとこうしたかった

ゆっくり唇を離すと

弾力のある梨華ちゃんが吸い付く 離れない



目が合った瞬間 流れる沈黙

お互いここからどうすんだ


544 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:30


「・・・酔ってんね?あたし」
「ふふっ」

「まだワイン飲んでないのに」
「飲もうよ」

「またキスしちゃうかも」
「大丈夫、逃げるから」


おどける俺あしらう君


545 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:30


そのままあたしを酔わせてよ?

同じソファ 同じ目線 同じ空気



あたしだけに君を見せて

ずっとずっと流れてた



君に流されてくのがとても心地いい

君のこと君のことだけ・・・


546 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:31


「綺麗、梨華ちゃん」

ほんのり紅がさす頬も魅力的

「やだ・・・ひとみちゃん」

「ほんと、だよ」



綺麗だよ

ほんとだよ

誰にも渡せない

君だけは・・・


547 名前:4.Love a flava 投稿日:2006/01/14(土) 12:34






548 名前:ピス 投稿日:2006/01/14(土) 12:35
更新しました。

>534 愛虎さま イッキ読みありがとうございますお疲れ様でした。せつなく甘く、はいしよしならではですね。幸せ〜
549 名前:あいわい 投稿日:2006/01/15(日) 13:30
はぁぁぁぁ!いいですこの雰囲気!やっぱりこの感じはいしよしにしか出せませんねーw
次回も楽しみにしてます!
550 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:33





551 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:34
あたしは錯覚の酔いに任せて動き出していた
今夜じゃないとこんなに積極的になれそうもない

久しぶりの再会と、揺れるグラスの赤ワイン

ぴったりとこの偶然が重なって
一番の媚薬はそう、梨華ちゃんだよ


『逃げる』と言ったのは口だけで
梨華ちゃんの目も 肩も 手のひらも 逃げる様子がない

淡い照明に揺らめいて輝くその瞳に
今にも吸い込まれそう
552 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:36



「ドキドキしてる」

「私が?」

「あたしも、梨華ちゃんも」


553 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:37
全身がまるで心臓になったみたいに
暴れだす 震えだす そして牙を向ける


このままノリに身を任せたとしても
夜が明けたら全部夢だとか・・・ないよね?


あたしの首に手を回す、細い梨華ちゃんの腕が
どこか幻のように 霞んで見えた


だけど伝わるぬくもりだけは疑いようもなく
あたしはもっと求める


腕だけじゃなく
腰も 唇も 身体も 全部


二人掛けのソファに並んで座って
さっきから、梨華ちゃんはあたしを探ってる


ギリギリまで捲れ上がったスカートから覗いた太ももに、
自分からぴったり寄せて すり合わせるように
隙間なく埋める 二人の空間を
554 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:39



「今夜・・・」


「・・・・・・?」


「あたしと一緒に過ごしてくれる?」


「喜んで」


「ひとばんじゅうだよ」


「・・・うん」


555 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:41
更に引き寄せた彼女の腰を支えるようにして
そっと口づける 軽く触れるだけのキス


触れたまま、そっと体重を掛けるようにしながら
梨華ちゃんをソファに寝かせる


揺れる睫が、カッと火をつける
燻るふうでもなく 燃え上がるわけでもなく
じわじわと温度を上げて あたしの全身を駆け巡る


唇で 吐息で 手のひらで 梨華ちゃんをかわいがる
身を寄せて 足を絡ませて 梨華ちゃんに溶け込んでゆく


そして、間をたっぷりあけて 熱っぽい目で見つめて 囁くんだ
556 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:43



「梨華ちゃん」

「ん・・・」



「ベッド・・・行く?」


557 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:44
抱きかかえて
グラスもそのままに
大きい照明だけ消して


離さない

もう

片時も


二人を包む光の輝き
ベッドサイドの明かりが梨華ちゃんをぼんやりと映し出す


胸元を彩るきらめき
あたしが口づけた跡が、そのまま梨華ちゃんに残る


膝を撫でた手のひらをスライドさせて、もぐり込む
指で引っ掛けて引き抜くと、腰を上げて手伝ってくれた
素直な、彼女がいとおしい

シャツを剥ぎ取るように脱がせて
現れた、華奢な身体のライン
重ねるように覆いかぶさると
広がってゆく、心地よいぬくもり
558 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:45



「あったかい・・・」

「うん」


「ね、もっと」

「もっと?」


「ギュッってして。離さないで。」


559 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:45
その微笑みは誰のため?

梨華ちゃんの弾む息を感じてみたい

お望みどおり、強く抱きしめるから

シーツのこすれる音と、枕を必死に掴む小さな手


仰け反る首に、舌を這わせて

彷徨う瞳に、視線を合わせて

甘い声も、すべて覚えてる


今夜こそは本当の気持ち聞かせて

変わらぬリズムに合わせて

このまま、勢いに身を任せてよ
560 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:45



朝まで一緒にいさせてよ

同じ朝を見よう

これから、このまま・・・・・・


561 名前:5.Groovin' 投稿日:2006/01/16(月) 00:47





562 名前:ピス 投稿日:2006/01/16(月) 00:48
更新しました。昨日中に更新したかったのに…グッスン

>549 あいわいさま ありがとうございます。雰囲気を読んで欲しかったので嬉しいです。
563 名前:あいわい 投稿日:2006/01/16(月) 18:08
うぁぁぁいいですこの雰囲気!ピス様の文章はなんというか…描写で魅せるって感じですね。引き込まれてしまいます…!楽しみに待ってますよー!
564 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:09





565 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:10

気だるさと、あたたかな幸せが身体中に広がってゆく
目を閉じ うっとりとした梨華ちゃんを
抱き寄せて 唇を重ねて 耳元にも口付ける


「んっ」

「ごめ・・・ん」


起こしてしまった梨華ちゃんに小さく謝っても
もうすでに君は夢の中
穏やかな笑顔がまたあたしを幸せにする

566 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:10
こんなにも広い星の海で出会えたことが
もうすでに奇跡のように思ってしまう

寄せては返す 波のように 快感を味わって
小船に揺られたらあたしたちはどこへ行く?

窓からは月の光が差し込んで
この夜空から目を離さずにじっと見つめる
真っ暗な闇が、星座に変わるまで
567 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:10


「・・・ひとみちゃん?」

「梨華ちゃん」


君は
目が覚めてしまったのか
心配そうにあたしを覗き込んで
安心させるように力を込めて抱きしめる

君は
もっとしがみつくように
あたしのTシャツをぎゅっと握り締めた


「・・・・・・・・・」

「・・・離したくない」

「えっ?」

「梨華ちゃんを、離したくないよ」


568 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:11
今日一日が 幸せだといえる喜びを

また明日も明後日も この先ずっと一緒だと

甘い声を聞かせて

いとしいひとよ



「ひとみちゃんが、好き・・・」

「・・・・・・あたしも」


「うん」

「すごい、好き。梨華ちゃんが」
569 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:11

あたしは何度でも 流れ星に乗せて
君への想いを届けよう

静まり返った部屋の中で
少しぬくもった部屋の中で

音のないキスを繰り返す

梨華ちゃんと、あたしの吐息が溶け合って

好きだという気持ちが膨れ上がる
愛しさがあふれ出す

570 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:11

「ちょっと眠ったら、散歩に行かない?」

「寒くない?」


「うん、寒いと思う」

「えー」


「星、見に行こうよ」

「ヤダ寒いもん」


「行こうよ・・・梨華ちゃん」

571 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:12


笑ってしまうほど厚着をして、
そっとマンションから抜け出した

風が服の隙間から差し込んで
この身を震え上がらせるけど

鼻まで上げたあたしのマフラーを無理やり下げて
梨華ちゃんは小さなキスをくれた

・・・さて、どこへ行こう?

地図を片手に小船に揺られて旅をする
そばにはいつも君だけが
見つめたら変わらない笑顔が、そこに


572 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:12

「明るいから、あんま見えないね、星」

「そんなことないよ」


「そう?」

「冬の空って、澄んでるよ。だから、好き。」


公園を横切るタクシーのヘッドライトも、
公園を囲む外灯も、コンビニの明かりも、関係無く
見上げれば、透き通る夜空


地図を隠しても見上げれば満天の星の夜
伸ばした片手にはあたたかなぬくもりが、君から伝わる

明日も、いつでも



「ひとみちゃん」
「ん?」

「私のこと、好き?」
「好きだよ」

「・・・夢、みたい」
「なんで?」


「ずっと、私の方だけが好きなんだと思ってた」

「あたしはずっと、梨華ちゃんが好きだったよ・・・」

573 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:13

缶コーヒーを握り締めて温もった手のひらを、
そっと梨華ちゃんの頬に滑らせてみる

猫のように目を細めて
首をすくめて身をよじる梨華ちゃん

あたしを見上げるようにして、
顔を埋めているマフラーを引き摺り下ろして
そっと、目を閉じた

あたしも目を閉じたら、輝く星が広がって見える

そしてゆっくりと、唇を重ねた


574 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:13


春の星のように あなたと寄り添いながら
夢の中も二人で誰よりもそばにいて


夏の星のように あなたと囁きながら
その心で答えて永遠のメロディを


秋の星のように あなたと見つめ合うから
遥か遠い未来へ輝きをつれてゆく


冬の星のように あなたと微笑みながら
長い夜を重ねて運命の向こうまで


575 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:14


誰よりもそばにいる

梨華ちゃんの、すぐそばに・・・


576 名前:6.満天の星の夜 投稿日:2006/01/17(火) 09:14






577 名前:ピス 投稿日:2006/01/17(火) 09:16
更新しました。

>563 あいわいさま いつもありがとうございます。すごく励みになりますです
578 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/17(火) 20:36
綺麗な文章ですね。すごい!
これからも読ませていただきます^^
579 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:41






580 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:42
いくつか雨が通り過ぎ
たくさんの出会いと別れをして
ずっとさがしてた 君と逢う


不器用で うまくいかなくて
何度も人を傷つけた
同じぶんだけ 自分も傷つきながら


形ないもの 人は求めたがるから
不安に愛を染めて それに皆 縛られる


・・・ただ、好きなだけなのに

・・・愛してるの、その一言が言えなくて


言葉はいつも 想いには足りないから
抱きしめる強さだけ 恋人は欲しがるね

その腕の中を信じきれず

自分のもとを去った人
自分のもとから遠ざけてしまった人

どのひとも、どこか違っていて
ぴったりと自分に当てはまる、だいじなひとをずっと さがしていた
581 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:42



「ね」

君と街を歩く時も、
道行く人を見つめてしまう、
いつまでも直らない あたしの癖に

「どこ見てるの、ひとみちゃん」

毎回変わらずにヤキモチを妬く君がいとおしい

「・・・ちょっと、人間ウォッチングしてただけ」
「ちょっとじゃないよ!」

こんなに素敵な恋人がいるっていうのに
まだ他の誰かに目を奪われるなんて
あたしはバカだよね?
582 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:43
「私の方、向いててほしいのに」
「・・・え?」

「何でもない」
「梨華ちゃん見ながら歩いてたら、こけちゃうなぁ」

「〜〜〜聞こえてるんじゃないっ」
「あはは」

だからそのぶん抱きしめる
キスをして、想いを伝え合う
梨華ちゃんが好きだと、態度で示す

「なによぉ」
「ゴメン、あの・・・」

「どうしたの?」
「今日、梨華ちゃんちに泊まっても、いいかな?」

どうしても離れられずに 予定はくるって
毛布に包まって 抱きしめ合う夜がやってくる
眠りに落ちながら、それでも
無意識にあたしを探して彷徨う 君の手を迷わず掴む
583 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:43
「ん・・・」
「梨華ちゃん?」

「ひとみちゃ・・・」
「大丈夫、ここにいるよ」

「ひとみちゃん」

ぎゅっとその手にチカラを込めて
ぎりぎりと食い込む君の細い手が
好きだと叫ぶ
離れたくないと願う
そして、やがて甘い声が部屋に漂う

「ひとみちゃん」
「どしたの?」

「あのね」
「ん?」

「あいしてる」
「・・・・・・」

「ひとみちゃんを、愛してるよ」
「梨華ちゃん・・・」

「おやすみなさい」
「・・・おやすみ」
584 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:44
はじめて聞く言葉が あたしは何故懐かしいのだろう
不意にもらったその言葉に 思わず涙ぐむけど
伝えるだけ伝えて、何も知らない君は寝息を立て始める

別々の街にいて 別々の道を歩いていたふたりが
出逢い 思いを伝え合って 今ではもう
同じベッドに眠り 同じ夢を見ている

ならばあたしは夢を通って 君に会いにゆく
夢の中でも、伝えるよ
愛してる・・・たったその一言を
いつまでも、何度でも
585 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:44


小さな日常が 積み重なって一日となる

何気ない一日 それがやがて運命になる

そして人生の意味を 今、君に授かった


ここにいて
ここにいる

小指を絡めて、誓った遠い昔の約束のように
君はあたしの隣にいる
隣にいて、微笑んでくれる

この、今を刻みたい 君と繋いだこの右手は離さない
迷ったなら 傷ついたなら 思い出せばいい
あたしの右手の温度を


586 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:45

いつまでも
どこまでも

遠い彼方、遥か彼方まで行く
約束の羽があたし達を乗せて 羽ばたいてゆく
ずっと一緒に 未来の彼方まで
旅の途中も 笑っていて
切ない胸と、愛しい胸を重ねたい



そっと
強く

心が言うんだ

やっと、さがしていた いとしいひとに

めぐり合えたと
587 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:46


交わした約束を忘れずに
遠い声の導きで 僕はここへ来た
そして君に声をかける 『待たせて、ごめん』
透明な過去 すべて背負い込んで 忘れずに サヨナラを告げた


588 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:46
風の吹き込む あのカフェで

あたしは
君と

君は
あたしと

出逢っていたことを想い出したよ
589 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:46


空に連なる

雲の影
風の形
太陽の温度

見上げる君のその髪に 吸い込まれて 解けてゆく


590 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:47

夜が明けて

陽射しが生まれてゆく

また新しい空へ

次の朝へ

はじまった、輝かしい一日が

591 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:47



「おはよう、梨華ちゃん」


「おはよう、ひとみちゃん・・・」



592 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:48






593 名前:7.遠い約束 投稿日:2006/01/18(水) 08:51
更新しました。

>578 名無飼育さま ありがとうございます。綺麗な世界がいしよしにはぴったりです.
594 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:35






595 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:35
ふたりで遅く起きた朝
布団の中でじゃれあって
額に 瞼に 鼻に 唇に
優しいキスの雨を降らせる

きゃあきゃあ言って笑う君を
抱きしめて 離さない
しばらく髪を撫で続けて
あたしは朝っぱらから愛の言葉を囁く

寝癖でぴょんぴょんはねた髪のまま
笑い合って お互いの頭を撫で付けるけど
あたしは気にしない


「さ・・・行こっ」

「待ってまだ寝癖が」

「行くぞ梨華ちゃん!」


手を取って部屋を出る
596 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:36
太陽の陽射しがまぶしくて
冷たい風に身を硬くする


「さーぶーいー!」

「あっちの方行こっ」


川べりを並んで歩く
固く 強く 手を繋いで
初めて会った時のことを思い出す

そして 春になったら

お花見をして
もっといっぱい散歩をして
いろんなところへ出掛けよう
597 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:36

「ひとみちゃん、4月生まれだったよね?」
「うん、梨華ちゃんは1月」
「うん・・・」


きっと、梨華ちゃんが誕生日を迎えて
あたしの誕生日も来たら、その時は
もっともっと梨華ちゃんのことが 好きになってる

春の木漏れ日の中を歩く頃
梨華ちゃんへの想いが、
あたしの胸にピンクの花を咲かせるだろう

春が来ても夏が来ても冬が過ぎても

変わらない気持ちを今、誓いましょう
598 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:37
「流れ星が、見たいな」
「見えるかな?」

「ずっと一緒にいられますように、ってお願いするの」
「誰と?」

「わかってるくせに・・・」
「誰?」

「・・・ひとみちゃん、だよ」
「ふうん」

「流れ星が、消えたら」
「?」

「消えてから、本当の愛が始まるの」
「じゃあ絶対うちら離れられないね?」

「イヤなの?」
「とんでもない」

「えー」
「じゃ、今夜にでも」

「?」
「あたしが、星の数を教えてあげるよ」
599 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:37
意外にロマンチック
そんなところが、あたしたちは似ているね

ふたりして 絶対噴出しちゃうんだけど
言ってみたい あなたになら

キザな台詞も 歯の浮くような甘い言葉も



朝日を見て
スピードを上げて走る車
太陽に反射してキラキラ輝く水面

一日が始まって
一日が終わる

日常が積み重なって

できあがる、君への愛の歌



600 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:38

どこにでもあるような、そんな街の片隅で

普通でどこか中途半端なあたしと、羨むくらい綺麗な君が出会った

ありふれた、ひとつの恋のお話

601 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:38

だけど、今日だけは、君だけが、

世界中でいちばん幸せになれる日だよ

602 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:38

そしてあたしは君のこと

世界中に自慢しちゃうんだ



大っきい声で

街中に 世界中に

響き渡るくらい 叫ぶんだ

603 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:39


――――― 梨華ちゃん、誕生日 おめでとう


604 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:39
「さ、入って入って♪」
「おじゃまします・・・」

テーブルにはキャンドル
ケーキにシャンパン
豪華なごちそう
キラキラに飾り付けられた部屋
スピーカーから聞こえてくる、賑やかな音楽

「わぁ・・・すごぉい」
「でしょ?」

「ありがとう」
「まだ、まだ」

梨華ちゃんのコートを受け取って、座らせた

「乾杯しよ」
「うん」

「それでは・・・」
「ハイ」

「何か照れくさいね」
「だね」

はぁ、と息を吸って、君を見つめる
605 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:40
「――― 梨華ちゃん、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」

「じゃー、乾杯!」
「乾杯!」

梨華ちゃんはあたしの作った料理を
おいしいおいしいと言って口いっぱいに溜めて
笑顔を見せる あたしもつられて微笑む

紅茶を淹れて 食後のケーキ
梨華ちゃんもあたしも口いっぱいに頬張る

食事も済んで
ソファにもたれて
少し休憩

あたしはごそごそと 机の下から用意する

606 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:40
「ね、梨華ちゃん」
「ん?」

「はい、プレゼント」
「ありがとう・・・開けてもいい?」

「もちろん」

嬉しそうに待ちきれない様子で
梨華ちゃんは包みを開ける

「・・・キーケース・・・?」
「うん。梨華ちゃんの好きなブランドの、やつ。一応」

「ありがとう、うれしい・・・」
「どういたしまして」

まだ、まだ

「ありがとう」
「うん。で、ね。これ・・・」
607 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:40
銀色のものを梨華ちゃんの手のひらに置いた

「?」
「うちの鍵。合鍵」

「え・・・」
「いつか、一緒の鍵が持てたらいいんだけど」

一緒の鍵、合鍵とかじゃなくて、さ

「・・・」
「嬉しくない?」

「うれしいっ・・・!」

いつか、一緒に暮らそうよ

608 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:41
「ねぇ、ひとみちゃん」
「ん?」

「タイミングよすぎだね、私たち」
「どういうこと?」

「ほら」

ピンクのリボンがつけられた、似たような銀色のものが
あたしの手のひらに、置かれた

「私の、合鍵」
「え、ウソ!」

「貰っても、いいの?」
「もちろん」

「ありがと・・・」
「えへへ」

「でもさ、コレ貰っちゃうとさ」
「嬉しくない?」

さっきのあたしの質問を、返された
609 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:41
「・・・うれしいよ、だけどさ」
「?」

「クリスマス、梨華ちゃんに気づかれないようにしないとね」


ちょっとした物音ですぐ梨華ちゃんは起きちゃうから
サンタクロースは慎重に、眠る梨華ちゃんの枕元に プレゼントを置かないと
610 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:42


去年は梨華ちゃんの家のドアノブに
ピンクの花をくくりつけて
プレゼントもぶら下げといたんだ

朝起きて 出掛ける時
そのプレゼントを見つけた梨華ちゃんが
少し興奮気味に電話してきたのを思い出す


611 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:42
「今年も、サンタさん来てくれるかな?」
「さぁね?梨華ちゃんが、いいこにしてたら来てくれるんじゃない」

「あー!今テキトーに言ったでしょっ」
「んなことないよー」

軽くキスをしてゴキゲンをとるあたしは、ズルイかな

「またそうやってごまかすし・・・」
「そんなつもりないよ」

腕に 指に 耳に 首筋に キスをして

「ひとみちゃん」
「なに?」

「流れ星、見えるかな・・・?」
「どうかな」

「・・・」
「梨華ちゃん」

「うん?」
「目を閉じて」
612 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:43

明かりを消して そっと君を横たえる
震える瞼を見届けて 耳元で吐息だけで囁く


「すきだよ」
「ひとみちゃん・・・」


あたしの背中を泳ぐ、君の小さな手

あたしは今ゆっくりと、君に愛を注ぎはじめる

613 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:43
「目、閉じてる?」
「閉じてるよ・・・」


服をゆっくりと剥ぎ取って 口づけて

時々漏れる、押さえ切れない君の声

あたしも高ぶって、熱い息を我慢できない
614 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:44



「梨華ちゃん」
「っん・・・」


「何が、見える?」
「・・・・・・」


「・・・・・・」
「・・・・・・星・・・」


「うん」
「星が、見えるよ・・・ひとみちゃん」



615 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:44

キスして 抱きしめて 愛してるって言う

目を閉じたまま あたしに見せる笑顔

強く ぎゅっと ちぎれるくらい 胸が痛む

波に揺られて お互いを お互いに 焼き付けるようにして

もっと 見せてあげたい あたしの海で 輝く星を

616 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:44

ねぇ、梨華ちゃん

そこから愛は始まるんでしょう?

617 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:45

ずっと 離さない

君を 花を 星を 愛を

今日も 明日も あたしと 君と

溶け合って

あたしたちは永遠だと 誓い合って

愛の歌を 届けよう

618 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:45

長い尾を引いて夜空にかかる ほうき星

もうすぐ

流れ星が見える頃

地平線に吸い込まれる頃

手を伸ばして

君を迎えにゆく

619 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:46



――――― 梨華ちゃん、誕生日 おめでとう



620 名前:8.Late-blooming 投稿日:2006/01/18(水) 23:46



Love Anthem


::::END::::



621 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 02:00
梨華ちゃんの誕生日に、いいものを読ませていただきました
ため息が出るくらい綺麗な文章でした
622 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/20(金) 15:53
完結お疲れ様でした。また次も楽しみにしています。
623 名前:愛虎 投稿日:2006/01/24(火) 22:10
今回の作品も最初から最後までとても素敵な文章でした。
甘々のいしよし大好きです。
624 名前:ピス 投稿日:2006/02/10(金) 20:46
>621 名無し飼育さん
ありがとうございます。綺麗な文章と言っていただけて有頂天ホテルです。
これからも頑張ります。

>622 名無し飼育さん
ありがとうございます。次回作もよろしくお願いいたします。

>623 愛虎さま
甘々いしよしはワタクシの大好物です。ありがとうございました。
625 名前:5年間 投稿日:2006/02/10(金) 20:48







626 名前:5年間 投稿日:2006/02/10(金) 20:48



        5年間


627 名前:5年間 投稿日:2006/02/10(金) 20:49







628 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:50


------------------------------------------------------------------------------------------


梨華ちゃんへ。


ついにこういう手紙を読むときが来ちゃいました。
照れるけど、ちゃんと聞いててや。

4期メンバーとして5年間とちょっとたつけど、
こんなに長い時間ずっと一緒にいた人は初めてです。

モーニング娘。に入ってから、一緒に走り続けてきた5年間の思い出は本当に大切な宝物だね。
入ったばっかりの頃は、怒られてばかりで、
おまけに梨華ちゃんは4期で一番年上だったから、辻加護の面倒をよく見てくれてたよね。
今では、よく思い出話して笑ってるけど、当時は毎日が戦いでほんとに必死だったね。
けど、だからこそ、素晴らしい今があるんだなって思う。

5月7日の武道館まで、モーニング娘。として頑張ろうね。
そして卒業しても、4期愛は変わらず、これからもよろしくね。

最近またプリクラ撮れたの、かなりうれしかった。
また行こうね。

ポジティブ梨華ちゃん 大好きです。


よっすぃ〜より。


------------------------------------------------------------------------------------------

629 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:51
「初めて手紙をたぶん書きます。」


石川が卒業する前の、最後の収録。
吉澤は、石川に内緒で手紙を書いていた。

何ひとつ、嘘偽りのない手紙。
630 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:51
本番収録の、数日前―――。

移動中、いつもならば睡眠時間の一部だったその時間を、
吉澤は流れゆく景色を見ながらずっと、何を書こうか考えていた。

信号が青になり、赤に変わり、メンバーを乗せたワゴン車が止まる。
窓から見える、道行く人が傘を差している。
吉澤は、そこで初めて雨が降っているのだと知る。

窓に張り付いた水滴を見ながら、
ぽつ、ぽつ、と浮かんでくる言葉達を、
吉澤はどうしてもうまくつなげられないでいた。

そして今日も、石川への手紙が書けないまま、一日が終わる。
631 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:52

「よっすぃ〜!」
「・・・ん?」


ポップジャムの本番収録後、カツカツと廊下に響くヒールの音。
衣装のまま、石川は吉澤に駆け寄ってきた。
吉澤は、私服姿で問いかける。


「まだ着替えてないの?」
「あ・・・うん。スタッフさんとか、いろんな人に挨拶してたら遅くなっちゃった」

「もうすぐ移動らしーから、早く着替えなよ?」
「わかってるっ」


元気良く返事した石川を、眩しい気持ちで見ていた。

632 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:52
ぴよんと伸びた、石川の衣装に付いた、背中の羽を引っ張る。

梨華ちゃんの卒業も、あと少し・・・なんだなぁ・・・。

摘んだ手をなかなか離せなくて、くいくい弄ってみたりしてると


「よっすぃー」

石川は、顔だけを吉澤に向ける。


「どした?」
「あ、あの、ね」

「なんだよ」
「その・・・あの手紙」

背中から、小さな声が聞こえてくる。
633 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:53
「手紙?」
「私に、くれないかなぁ、って」

まさか。捨てるつもりだった。
あげるつもりなんてない。だって、ずっと。
今思い出すだけでも顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに。
634 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:54
「さっきの手紙を?」
「うん」

「ヤだよ恥ずかしい」
「読み返したいの、お願いっ!」

「そんなんわかってて渡せるかよっ」
「えー」

「・・・」
「ダメかぁ」

「・・・・・・」
「残念」


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


「・・・しょうがねぇなぁ」
「え?」


「・・・・・・やるよ」
「ホントっ?!」


「卒業式の日に、やる」
「やった!じゃ私、着替えてくるねっ」

「あぁ、うん・・・」
635 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:54

今でも時々、あの手紙うれしかったよ、と石川は思い出したように言う。
悪気のない石川のことだから、素直に思ったことなんだろうけど。
吉澤にはからかわれているようにしか思えない。

口をつぐんだ不機嫌そうな吉澤に、石川はまたさらにうれしそうに微笑み、
「なんで?なんで?」ってしつこいくらいに聞いてきて、吉澤の顔はポスト並に赤くなる。
だからそんなふうにしてほしいわけじゃないっての。

636 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:55

石川宛の手紙を書いて欲しいと、スタッフから依頼が来た時。
吉澤は二つ返事で承諾したが、
後から冷静になって『マズイんじゃないか』と思うようになった。

だってうちらの5年間、誰にも説明することが出来なくて、
何を書いたらいいのかわかんなくて、
どこまで書いたらいいのか、とか
どれくらい石川へ熱意を込めて書いたらいいのか、とか。
どうしようどうしようって焦ってた。

流れゆく 窓の外の景色を目で追うことに疲れ、吉澤は目を閉じる。
真っ暗な闇の中に、次第に石川の笑顔が鮮やかに浮かび上がっていた。

637 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:55


デビュー当時のあどけない笑顔

仲良くなって、安心しきった笑顔

先輩に見せる、甘えたような笑顔

後輩に見せる、天使のような笑顔

他の人に見せる、あたしが見たことのない笑顔

あたしだけに見せる、楽しそうな笑顔

638 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:56


まるで紙芝居のように浮かんでは消える石川との思い出が

どっか 切なくて

どっか 苦しくて

どっか 痛くて

どっか 思い出したくないような

そんな 感じで

639 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:57
結局。収録当日、朝目が覚めてペンを握ったとき、吉澤は
すぅっと頭の中に思い浮かんだこと、毎日変わらず思うこと、そっくりそのまま手紙にした。
それしかできなかったわけじゃなく、それが自分らしいと思ったから。

悩むより、考えるより、素直な、自分の気持ちを。
どんな綺麗な言葉を並べて涙を誘うよりも。
そのまま書いて伝えた方が、石川が喜ぶと思ったから。

石川には最後まで、笑顔でいて欲しかった。

ただ。

ありふれた言葉だったかもしれない。
あっさりしすぎた内容だったかもしれない。

だけど。
640 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 20:58
それはいつまでたっても、梨華ちゃんが卒業してしまった今でも・・・


やっぱりずうっと思っていることで。
ムカついたり、嫌なことがあっても、それだけは根強く残ってて。
それを、どんな言葉に置き換えようとしても無理なんだ。
641 名前:01.ノクターン 投稿日:2006/02/10(金) 21:01




ただひとつ 書けなかったことと言えば



642 名前:ピス 投稿日:2006/02/10(金) 21:02
更新しました。
643 名前:あいわい 投稿日:2006/02/10(金) 22:52
狽ィぉぉ!新作ですね!待ってましたよー!
ピスさんの文章は描写がキレイだなぁとつくづく実感。次回も楽しみにしてます!
644 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/11(土) 00:40
本編きたー
楽しみにしてます
645 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/11(土) 22:06
読んでいるこちらもあの頃にタイムスリップしています
二人の絡みが嬉しくもあり切なくもあり・・・
646 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:06





647 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:07
踏み入れた路地裏の、ソウルバーの中から聞こえてきた音。
ノイズ混じりの甘いノクターンが、体に染み渡ってゆく。
バーの入り口に立って、店の看板に寄りかかり吉澤は、目を閉じそのメロディーに身を任せた。

心地よい音に酔いしれそうになりながら、穏やかな気持ちで彼女を待つ。

しばらくすると、彼女にしては珍しく、黒の衣装で店の前に現れた。
大人びた表情も今の石川にはよく似合う。
小さな爪だけは、昔と変わらずに鮮やかなピンクで彩られていたけど。
648 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:07

「おまたせ」
「・・・うん」


そっと彼女の腰に手を回し、薄暗い店内へと案内した。

649 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:08
「よっちゃんにエスコートされるなんて、気持ち悪いね」
「気持ち悪いってなンだよ。こっちだって」

「フフッ。こんな店、よく知ってるね」
「たまにね。来るけど」

「大人っぽぉい」
「うるさいよ」

「よっちゃんなら、似合ってる」
「・・・・・・・・・」
650 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:08

石川は、吉澤に向かって綺麗に微笑んだ。
どくんとひとつ、心臓が音を立てた。

たとえば今、手を伸ばして石川に触れたとしたら。

あたしは、どうなるんだろう。
石川は、どうするんだろう。

651 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:09

薄い氷の壁が、ふたりの間にはあって、
あたしたちはそれを、大事に守っている。

温度を感じないほどの冷たさが、あたしたちを凍りつかせ、
想いが重なったふとした瞬間に、氷の壁はあっけなく崩れ落ちそうになる。

だけど、それは許されないこと。

今までずっと壊さない距離で保っていた。
付かず離れず、何も触れないままで。
これからもきっと、その距離は縮まることはないだろう。

652 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:10

言葉では言い表せられない関係だから。
だから、だからこそ、あたしたちはそれを大事に守っている。

それだけで、じゅうぶんだから。
それが一番、いいことなんだ。


壊れないように、壊さないように。大事に、大事に。



あの時 穏やかな波の音を聞きながら、吉澤は誓った。



653 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:10


遠く聞こえる潮騒が

今でも

忘れられずに


654 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:12
吉澤は頬杖をついてグラスを傾けながら、隣に座る石川を見つめていた。
店内はわずかな照明のみで、角度によっては表情は見えないけれど。


・・・梨華ちゃんは、割とポーカーフェイスだったりするときも、あるもんな。


プライベートで遊んでるなんて、マスコミとか、外では口には出さなかったが、
実はずっと、こうして隠れて会っていた、石川と吉澤。

食事して仕事の話をして、ハタチになると少しだけ酒を飲むようになった。
石川が行ったことのない店を探しては、吉澤は石川を珍しい店に連れて行った。
手を叩いて喜ぶ石川を見るのが、吉澤は好きだった。

無邪気で、かわいくて、その時だけは何もかも忘れることができたから。
655 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:12

「なんかさ」
「うん?」

石川が、ふと思い立ったように話しかけた。
吉澤は、優しく耳を傾ける。

656 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:13

「私の卒業が近づいてきて、昔話が多くなったような気がしない?」
「あー・・・そうかも」

「懐かしいよねー」
「うん」

「よっちゃんが、私に色々話してくれるようになって、うれしい」
「そう?」

「うん、うれしい」

657 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:13

石川は相も変わらず無邪気に微笑みかける。
吉澤の心臓は、規則正しいリズムを崩し始めた。

658 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:14

「でもそれは、そっちが」


石川が。


「?」
「色々話してくれるようになって、そんで」

659 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:15

何を慌てているんだろう。
吉澤の中のもう一人の自分が、笑っている。

だけど。

伝えなくちゃ。
こんな機会、滅多にないんだから。

もう、ないかもしれないから。

660 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:16
「・・・・・・」
「少しずつ、話せるようになったから、昔みたいに」

「そっか」
「うん。だからあたしが、じゃないし」

「ふうん」
「ふうんて何だよ」

「・・・うれしいな」
「っそ。」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

661 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:17
少しだけ開いた石川の唇が、『昔は』と言いたそうに動く。
わかってるよ、わかってる。だけどどうしようもないじゃんか。

一瞬店内がシンとなり、有名すぎるメロディーが流れた。

662 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:18
「・・・あ。この曲」
「ん?」

「題名、なんだっけ」
「・・・・・・」

「忘れちゃった。よっちゃん、覚えてる?」
「・・・忘れた」

663 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:18


ショパンの第二番だよ、バカ。

吉澤は忘れたフリをして、石川のことを心の奥で怒っていた。

忘れるわけないだろうが。
石川は忘れたかもしんないけど、こっちは忘れられないンだよ。

ずっと


664 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:19


「こういうの、好き」


665 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:20
店の客は皆、うっとりと耳を傾け、それぞれに思いを馳せている。
吉澤の心はざわつくばかり。隣に石川が、いるせいで。
膝の上で硬く拳を握り、口をつぐんで気持ちを押さえつけることしか出来なかった。



そっと今、梨華ちゃんの手を握ったりとか出来れば、あたしたちは何か変われるのかな?

梨華ちゃんの横顔からは、やっぱり何も読み取れない。



髪の隙間からキラキラ輝くピアスが、どっかで見たことあるなぁなんて思ってた。
伏せたまぶたに、長いまつげ。
それが緩くカールしていて、ホントに女の子だなぁって見とれてた。
666 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:21


「やぁだ、よっすぃー」


石川はグラスに目を向けたまま、少しだけ笑って話す。


「あ・・・えっ?」


無意識的に石川を見つめていて、吉澤は我に返る。


667 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:21
「そんなに見つめないでよ」
「み、見てねぇし」

「そうなの?」
「そうだよ」

「見つめられてるって、勘違いしちゃった」
「・・・自意識過剰め」

「えへへ」
「笑ってンなよ」

「じゃあねー、もう1杯飲んじゃおっかなぁ」
668 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:22

石川がジンを頼むと言い出した。

調子に乗って自分からオーダーし始めるのは、石川の限界が近い証拠。
吉澤は店員に向かって挙げた石川の手を優しく制し、帰ろうか、と誘う。

669 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:23

「なんでよぉ」
「ダメ」

「あと1杯だけ。ねっ」
「それがダメだって言ってんの」

「んもー、よっちゃんのケチ。」
「バカ」

「バカァ?!」
「ほら、怒ってないで。帰るよ」

「〜〜〜〜!!!」

670 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:23

石川は口を尖らせて吉澤に小さく抗議をする。
ベロベロに酔っ払って、そのあと介抱すんのは誰だと思ってんだ。

ほんのちょっと、吉澤の中の悪魔が囁く。
しかし大事に守って大切にしてきた、今までをブチ壊したくないから。
吉澤は石川の家まで、安全にタクシーで送る。

エレベーターの前で、石川の家に寄ってくかと誘われたけど、それもやんわり断って。

671 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:24
「じゃ、またあした」
「戸締りはちゃんとしなよ」

「はぁい」
「ほんとにわかってんの?」

「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
672 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:25

お決まりの挨拶。別れ際、石川にぎゅうっと抱きしめられる。

締め付けられるように痛む吉澤の心臓。

吉澤はほんの少し、背中に手を回して、ぽんぽんとあやすように触れて。

673 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:25


「よっちゃんも、気をつけて」
「あぁ」

「バイバイ」


674 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:26


石川は小さく手を振り、エレベーターの中へ消えてゆく。

吉澤は自動ドアを抜けてから、静かに空を見上げる。

石川の部屋に明かりが点るのを確認して、マンションに背を向ける。

いつものこと。今までだってずっと、そうだった。


675 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:29


でも・・・あと何回出来るんだろう。

いつかは・・・できなくなる日が来るのだろうか。



目を閉じてもおぼろげに浮かび上がる月を胸に刻み、

苦しいほど叩きまくる鼓動を、

吉澤は抑えるのに必死だった。



676 名前:5年間 投稿日:2006/02/13(月) 22:35





677 名前:ピス 投稿日:2006/02/13(月) 22:35
更新しました。
勝手にサブタイトルをつけるのをやめました。
汚くなってゴメンナサイ。

今回の作品は現在と過去が交互に出てきます。
ややこしいので、ぜーんぶを『5年間』とすることにしました。


>あいわいさま
毎度ありがとうございます。いつもお褒めの言葉を頂き、大変嬉しく思っています。

>644 名無飼育さま
お待たせしました。ご期待に添えられるよう頑張ります。

>645 名無飼育さま
そおです。私もタイムスリップしながらあの頃を思い出して書いています。
これからもよろしくお願いします。
678 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/14(火) 01:57
更新お疲れ様です。
ものすごい惹きこまれました…。。期待して待ってます!
679 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 03:58





680 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 03:58

いつだって思い出す あの坂道を あの春の日を

まだ幼くて弱くって、何もできない子どもだったけど、
確かにあの時 私達は、はじまった―――――。


681 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 03:59


二〇〇〇年、春


682 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:00
「梨華ぁー」


「梨華―――っ」


「アンタいつまで寝てんのっ・・・」



「・・・梨華」




「ちゃんと用意できてるよ、ママ」

683 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:01

2階の石川の部屋に、母親が慌てて駆け上がってくる。
ベッドに座り、何かを考えていた石川が、ゆっくりと母親の方を向く。

窓から差し込む朝日に輝く黒髪が 穏やかに、揺れた


684 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:01
中学時代、石川は母親に毎朝起こしてもらっていた。
寝ぼすけで、いくら母親が叱っても、それでも石川は朝が苦手だった。


「ね、そこのジャム取って」
「はい」

「ありがと」


どこか緊張が漂う石川家の食卓。
父親はぼんやりとニュースを見ている。
アナウンサーの声が、静かに流れる。
母親が洗う食器の音が、カチャカチャと響く。
685 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:02
今までならば姉妹で取り合う洗面台も、この日ばかりはしんとしていた。
茶色のブーツを履き、玄関で見送る家族に微笑んだ。


「行ってきます」


乾いたアスファルトに、すれ違うスクーター。
道端に咲くタンポポに、思わず笑みがこぼれる。

石川は、駅へと向かった。
686 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:02


******************************


687 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:03
「アンタまたあたしの服着たでしょっ」
「いーだろ別に」

「よくねぇよっ!」
「ひとみのケチ」


吉澤家では朝から兄弟喧嘩が始まっていた。
吉澤の母が一喝すると、一旦は静かになるが、
しばらくするとまた、同じように兄弟の怒鳴り声が響く。


「ひとみっ!いいかげんにしなさいっ!!!」
「・・・なんであたしなんだよぉ。コイツが・・・」

「早くしないと遅刻するよっ」
「あっヤバイ」

「ほら忘れ物はないの?」
「ないよ」

「・・・行ってきますっ」
688 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:04
ひょいとバッグを肩に担ぎ、ファーの付いたコートを羽織った吉澤が、
弟にイーッと白い歯を見せる。半ば慌てるようにして吉澤は家を出た。


「バーカ。」
「早く行けよ、バカひとみ!」


通い慣れた駅までの道を、早足で歩く。
財布と、ケータイ。スケジュール表と、いろんな書類。
繰り返し繰り返し吉澤は持ち物を確認し、ヘッドホンのボリュームを上げた。

道端に咲くタンポポに、吉澤は気づかない。
クリーニングのタグが付いたまま歩く、サラリーマンの背広に小さく笑う。

吉澤も、駅へと向かった。
689 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:05


******************************


690 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:05
駅を出ると、スタジオまで一直線。

今日はメンバーと、新メンバーの石川たちとの、初顔合わせ。



――― 吉澤は、急いでいた。

空に続く長い坂道を、息を乱すことなく駆け上がる。
はぁっと深い息をすると、吉澤は澄んだ空気を知る。


「よっしゃ」


真っ白なスニーカーが、軽やかに地面を蹴った。

691 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:06
――― 石川の足取りは、重かった。

コツ、コツ、コツ、コツ・・・・
一歩一歩確かめるように、坂道を上る。

緊張しながら、口をきゅっと結んで歩く。
油断したら、緊張に押しつぶされて泣いてしまいそう。

母親の顔を思い浮かべて、少し安心する。
ふーっと小さく開いた唇から、浅く息を吐き出す。


『石川梨華、16歳ですっ』


凛々しい顔を作って、スタジオを目指した。

692 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:07
坂道の途中で、吉澤は立ち止まる。
早朝から行き交う車の音も、聞こえない。
ヘッドホンから流れるお気に入りの曲が、余計な考えを消し去ってくれていた。

「・・・・・?」

電柱の影に、自分と同じように信号待ちをしている人を見た。

「・・・・・・」

俯き、じっと立ち止まっている少女。
時々思い出したように鼻をズズッと鳴らす。
寒さで少し、赤くなった小さな鼻。


さむい、のかな・・・?


その少女の顔は、吉澤からはちゃんと見えない。

ただ、みんなに平等のはずの朝が、これからはじまるというのに。
その少女にとっては、死刑台に上がるような、そんな。

重苦しい空気が、信号待ちをしているふたりを包んでいた。

吉澤は、少女のことが気になった。

やがて信号が青に変わり、吉澤は少女を追い抜いて歩く。
ひょいとまた、バッグを肩に担いで。
693 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:08
――― 立ち止まっていた少女は、泣き出しそうだった。

極度の緊張が、石川を支配してゆく。
信号が赤になり、俯く。


このまま青にならなければいいのに・・・。


願いは無常にも叶うことなく、信号は青に変わる。
スッと自分の横を自分と同じくらいの年の少女が、追い抜いて行った。

その後姿は堂々としていて、今日という一日の始まりをを待っていたかのよう。
対して、自分は・・・ビクビクと怯え、歩くのも躊躇っている。

石川は、自分でも知らないうちに前を歩く少女の背中を、追いかけていた。

追いかけられている少女が、石川の存在に気づいているとも知らずに。
694 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:09


「・・・・・・あのさぁ」

「!」



前を歩く少女が突然、石川に背を向けたまま喋り始めた。
刺々しい語尾から、少女が苛立っているのが感じられる。
石川は驚いて怯え、すぐに足を止めた。

ヤバイっ。気づかれちゃった!

ゆっくりと、その少女が、石川の方へ振り返る。
石川はごくりと、唾を飲み込んだ。


「「あっ!!!」」


石川と少女は、同時に声を上げた。
前を歩く少女は、吉澤だった。
お互いに、その存在を知る。
695 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:09
「よし、ざわ、さん・・・?」
「いしかわ、さん、だよね?」


吉澤が、石川のもとに駆け寄る。
ふたりとも同じ場所を目指していることがわかり、急に心強くなる。


「何であたしの後ろついてきてんだろうって、思っちゃったよ」
「ご、ごめんなさい」

「いーのいーの。気にしないで。」
「ホントにごめんなさいっ」

「大丈夫。石川さんだったから」
「そう、なの・・・?」
696 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:10


会話をしながら、まだ長く続く坂道を二人で歩く。
ゆっくり、ゆっくりと。



「緊張、すんね」
「うん・・・」


「実はさ、すっげー心細かったんだよね」
「そんなことないよ。吉澤さんすごく、カッコよく歩いてた」


「あたしのこと、見てたの・・・?」
「えっ?!」


「・・・・・・」
「ゴメンね」

「石川さん、謝りすぎ」
「だって・・・」
697 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:11

ねぇ、よっすぃー。

私たちが出会ったあの日を、私はまだ忘れられないよ。

よっすぃーがいてくれて、ほんとに嬉しかったから。


「行こっか」
「うん!」


でも、ホントに、カッコよかったんだから。
私はあの時、よっすぃーの後姿だけを見つめて、追いかけてたんだよ?

今でも私は、自分にイマイチ自信が持てないけど。
あの頃からよっすぃーの後姿は自信満々で。
ずっとずっと、よっすぃーの背中だけを見てた。

私の目標は、凛としたよっすぃーの堂々とした姿だった。
背中で語る、その姿が頼もしくて、憧れで。
私は離れた今もどこかで、追いかけてしまっているのかも、しれないね。
698 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:11


いつからかそれが、よっすぃーに負担に思わせてることに気づいても

・・・それから・・・それでも・・・今でもずっと

あなたの背中を見るのが、好きでした

ほんとうに ほんとうに 大好きでした



私は、あなたのような強さが 欲しかった

あなたのように、なりたかったの

699 名前:5年間 投稿日:2006/02/18(土) 04:12





700 名前:ピス 投稿日:2006/02/18(土) 04:15
更新しました。出会い編です。

>678 名無飼育さま
ありがとうございます。まだまだ序盤ですが、ぼちぼち書けたらいいと思っております。
701 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/18(土) 21:52
更新お疲れ様です。
梨華ちゃんのネガっぷりが懐かしい・・・
本当にこんなことがあったんじゃないかなぁ。
702 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/19(日) 23:41
>>691
加入当初石川15歳でわ・・・
703 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:14





704 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:14

かわいいな、って 思ってた

あたしにはない、その笑顔と 時折見せる、泣き顔と

梨華ちゃんのすべてに、惹かれていった

気がついたら、好きだった

もし、あたしが男だったら…

迷わず口説き落とすのに

705 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:15
同期で年も近くって、何でも話せる、仲間になった
友達とは違う雰囲気で、不安も愚痴も、何もかも
言っていたのは梨華ちゃんで、聞き役はあたしだった

メソメソする梨華ちゃんを、あの手この手で励まして
最後に見せる、最高の笑顔を見るために


「ひとみちゃん、ありがとう」


そう言ってくれるだけで、全部吹っ飛んじゃうんだ



加入してすぐ、新曲を出すことになった
それまでの曲も、まだ満足に覚えていないっていうのに


新しいものを、自分のものにするって、すっごく大変



梨華ちゃんに負けないくらい、あたしも悩んでいたけど…
706 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:15
テーブルの上に置いてあった、携帯が着信を告げる。
この着メロは…梨華ちゃんだ。


『…もしもし、ひとみちゃん?』
「どしたの、こんな時間に」

『ゴメンね、寝てた?』
「起きてたけど」


車の通り過ぎる音がする。
ブラインド越しに、赤いテールランプがぼやけて映った。


『あのね、私ね』
「うん」

『もうダメかも。歌えない…』

707 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:16
開いていた雑誌を閉じて、吉澤は携帯を持ち直す。


「急にどうしたの?新曲のこと?」

『うん。またダメだった…』
「そんなことないって。ダメでも、またやればいいじゃん」

『だって、また、みんなに迷惑かけちゃうもん』
「最後に成功すればいいんだから、焦らず頑張ってみたら」

『そうかな…』
「そうだよ」


吉澤は軽く笑って、テレビの電源を落とした。


「梨華ちゃん」
『何?』

「あたしだって、怖いよ」
『ひとみ、ちゃんも?』

「うん」
『ひとみちゃんはすごいね。私よりうまくいってるもん』

708 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:16
ベッドに寝そべって、目を閉じる。


「梨華ちゃんも、うまくできるって」
『できないよ…』

「できない、じゃないよ。やる、んだよ」
『でも…』


梨華ちゃんまた、落ち込んでる。今すぐ抱きしめてあげたいな。
そんな気持ちに駆られて、吉澤はぎゅっと拳を握った。


「でもじゃない」
『………』

「あのね梨華ちゃん」
『…怒ってる?』

「怒ってないよ」
『ホントに?』


じゃなかったら、励まさないし。
怒る意味も、わかんない。

709 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:17
「あたしたち、同期でしょ?」
『うん』

「つらい時とか、支え合うって約束したでしょ?」
『うん…』

「そんなことで、怒んないから」
『ありがと、ひとみちゃん』

「何言ってるんだよ…当たり前じゃん」


仕事が終わっても、頻繁に梨華ちゃんから電話がかかってくるようになった。
オフの日も、一緒に遊んだりして、普通に仲良くなっていった。
お互いのことも、よく話すようになっていった。

710 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:17

テレビ収録の合間、それぞれに時間を潰すけど
あたしはジャケットだけを引っ掛けて、非常階段を駆け上がる

澄んだ東京の空の下、珍しいなって思いながら
ぐんぐん伸びてく飛行機雲を、ずっとずっと眺めてた

この世界に入って、こんなに忙しいなんて思わなかった
最近では寝る時間もままならなくて、
昨日みたいに携帯を持ったまま、しかも帰ってきた服のまま寝ていた…なんてことも少なくない


「ひとみちゃんっ!」

「梨華…ちゃん」


―――どうして?

視線で問いかけた吉澤に、石川は秘密を教えるようにそっと吉澤の耳元で囁く。


「ひとみちゃんが、階段上ってくのが見えたから。…追いかけてきちゃった」


「つけて来たの?」


「うん。探偵みたいで、ドキドキした」

711 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:17

褒めてほしいと言わんばかりに、石川は吉澤を見上げるから、


「よしよし、エライエライ」


吉澤は優しい手つきで石川の頭を撫でる。

猫のように目を細めて嬉しそうに石川が微笑むから、
吉澤はその手を離すタイミングを逃し続ける。


かわいい、な…


心の中だけでつぶやく吉澤の声は、石川には聞こえない。


「もっと褒めて?」
「ゼンゼン気づかなかったよ。梨華ちゃんって尾行の才能、あるんじゃない?」

「でしょー」
「うん。スゴイスゴイ」

「もっと…他には?」
「え。うーん、と…」


出てこない言葉の代わりに、吉澤は石川の腰を抱き寄せる。
手すりにもたれて、石川を受け止める。

712 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:18

「髪の毛が、きれい」
「それから?」

「声が、かわいい」
「ホントッ?!」

「う、うん」
「声だけ?」

「違うよ。顔も、性格も、ぜんぶ」
「かわいい?」

「うん、かわいいよ」


口元が緩んで、吉澤は石川に微笑みかける。
至近距離の石川は、吉澤だけを真っ直ぐに見つめていて、


「うれしい」


素直に喜んでくれるのが吉澤も嬉しくて、背中を撫で続ける手が止められない。
石川も吉澤をきつくきつく抱きしめて、吉澤を確かめるように、頬を擦り付ける。

713 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:18


「ひとみちゃん、大好き」
「…ありがと」


「ひとみちゃんは…?」
「すきだよ」


「ありがと、うれしい」
「………うん」


714 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:18

まいったなぁ………


吉澤はバレないようにそっと、石川の背中の向こうにため息をひとつ、吐き出した。

自分の腕の中でのんきに鼻歌を口ずさむ石川が、少し憎らしく思えたけど。

春のやわらかい風に乗って、石川の甘い声は楽しそうに弾んでいた。


715 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:19

石川の身体の感触が、手から頭から離れない

好きだと言ってくれた石川の声と、好きだと言い返した自分の声

上目遣いで自分を見る、真剣なまなざしと

石川の香水のにおい…



全身がガチガチに固まって

ドキドキして、止まらない

それは少しずつ、何かのカタチになってく

胸につっかえるようなそのカタチは やがて正体を現す

その正体を あたしはもう、認めるしかなかった

それは、『恋』としか呼びようがなく


716 名前:5年間 投稿日:2006/03/04(土) 09:19

認めてしまった、その次からは

今まで以上の楽しさと、期待と

それ以上の 不安が



初めて梨華ちゃんと出会った、あの坂道も

毎朝違って見えるんだ


717 名前:ピス 投稿日:2006/03/04(土) 09:22
更新しました。遅くなってゴメンナサイ。

>701 名無飼育さま
ありがとうございます。もっともっと梨華ちゃんのネガっぷりが、書きたいです。

>702 名無飼育さま
ご指摘ありがとうございます。石川さんは15歳でした。すみません。
718 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/03/04(土) 12:49
続きキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
ひそかにお待ちしてましたw
ビスさんありがとう
719 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:40
ほんとうに、誰かをいとしいなんて 思ったことがなくて

ほんとうに、誰かをほしいなんて ずっと思ったことがなくて



はじめて知る感情は、嬉しいような 恥ずかしいような、で

何だか、くすぐったくて

でも、うれしい

720 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:41

『よし、ざわ、さん…?』



梨華ちゃん?

君と出会ってから、あたしは毎日、新しい感情を知ったんだ


毎日が、

好き の連続で

好き の積み重ねで


苦しくて、切なくて、いとおしくて

暴走する君に、あたしは振り回されてばっかりだったけど

一瞬でも、君から目が離せなかったんだ

721 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:41



二〇〇〇年、秋


722 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:42
初めての、写真集
オーストラリアで撮影した


「ねー、よっすぃー、見て見て!」


隣にはいつも、梨華ちゃんが


「すっごい海、きれいだよ!」
「…ほんとだ」


忘れられない、真っ青な海が、飛行機の下に広がっていた

言葉を失うほどの、すごい景色に

あたしの目は奪われて

ふと、視線を感じると思ったら

梨華ちゃんがこっちを見てた
723 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:42
「な、何?」

「よっすぃー、ひょっとして感動してる?」
「か、からかわないで!」


嬉しそうにあたしを見つめる梨華ちゃんも、

同じくらい綺麗だと思ったけど

照れ隠しに怒鳴ることしかできないのは

まだまだこどもだからかな?
724 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:43
「もっと自然な感じで」
「目線、こっち」
「はい、笑ってー」


意外と、撮られるって難しい
注文されたことに、応えることも
体力も、もちろん必要だし


「あ、あいぼん止めてぇぇぇえええ」


それでも頑張れたのは
あいぼんにイジメられて逃げ惑う梨華ちゃんの姿や
ののとはしゃいで笑ってる梨華ちゃんの姿があったからであって


そう、梨華ちゃんがいるだけで

梨華ちゃんが、いると思うだけで

楽しくて、しょうがなかった
725 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:43
「夜は、ちょっと寒いね」
「うん」

「風邪、引かないでよ?梨華ちゃん」
「ありがとう、大丈夫だよ」


夜になると、浜辺でキャンプファイヤーをした


「きれー」
「うん」


火を囲んで、みんなで歌を歌って
手をつないで、笑い合って
炎をじっと、見つめたりして

みんながうっとりと、そのオレンジに見入っていたから
あたしはこっそりと、梨華ちゃんを盗み見していた

梨華ちゃんの横顔はとっても綺麗で

シャッターを切るカメラマンさんがうらやましいと思った
だって堂々と、梨華ちゃんを見つめることができるから

梨華ちゃんは変わらずに、最高の笑顔をカメラマンさんに向ける

あぁ、なんてかわいいんだろう

726 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:44
上着を羽織って、梨華ちゃんと砂浜に寝そべって
空を見上げると、満天の星


ザンッ…


目を閉じると、波の音だけ、聞こえてきて
温かい温度は、梨華ちゃんのぬくもり


「梨華ちゃん」
「ん?」

「…これからも、よろしく」
「どしたの?急に」

「んー、何か言いたくなった」
「ふふっ」


もっと近くに、梨華ちゃんが擦り寄ってきて
あたしはぎゅいっと、空を見上げるしかなくて

どきん、どきん、って心臓がうるさくて
あたしは切なくなった


「海って、いいね」
「う、うん…」

「また、来たいね」
「あ、あぁ…」


できれば梨華ちゃんと、って思ったけど
言わないことにした

忘れられない、海の思い出

遠く聞こえる、潮騒

727 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:44



******************************



728 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:45
「よぉーっすぃーーーーーー!!!」


ビルの4階の窓から、恥ずかしいくらいの大きな声で叫んでる。
両手をぶんぶん振って、あたしの名前を呼んでいる、ごっちん。


「あ…ごっちん」


「おはよーーーー!何ぼーっと突っ立ってんのぉーーー????」


「………」


梨華ちゃんのことを、考えてたなんて、言えるわけない


「早くおいでよーーー!梨華ちゃん待ってるよーーーー!!!」


ごっちんの後ろから、ひょこっと梨華ちゃんが顔を出した
背中を叩いて、なんか怒ってる

そんなこと言うのやめてよー、とか、かな…
簡単に想像出来るなぁ
729 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:45

「今行くよ、梨華ちゃあーーーん!!!」


あたしも叫ぶと、
ビックリした顔で、梨華ちゃんは窓から身を乗り出した


「あ、危ないって梨華ちゃんっ!」
「梨華ちゃん!」

「ご、ごめん」


あたしもごっちんも、顔を見合わせて朝から笑った

今日も、楽しい一日だと、いいな


730 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:46
「あ、よっすぃーが来た」
「おはよーございまーす」


あたしが楽屋に着き、ドアを開けると
窓際にはごっちんと梨華ちゃんがまだじゃれ合っていて、
ちょっとうらやましく思ってしまった


「おはよ、よっすぃー」
「おはよー」

「おはよう、梨華ちゃん」
「おは…よう」


梨華ちゃんの顔が何となく赤いような気がして、覗き込むと思いっきり視線を逸らされた。


「梨華ちゃんさっき、窓からよっすぃーに向かって、飛び降りるかと思ったよー」
「も、もう言わないでよ、ごっちん…」

「王子様、私からそっちへ行くわー!…ってね?」
「やめてぇ!」

「いやいやお姫様、僕の方から迎えに行きますよ」
「よよよよっすぃー!!」

「梨華ちゃん…おもしろーい」
「あははは!」


毎日が、こんなふうに楽しければ、いいな


731 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:47

梨華ちゃんが、ドジしたり
熱くなりすぎて、泣いちゃったり
人と違うところで、爆笑したり
怒ったり、寂しがったり
ご飯を一緒に食べて、一緒に仕事を頑張って

そんな梨華ちゃんを、あたしは誰よりも近くで見ていて
一緒に同じ事を感じることができて


きっと、ずっと、出逢った頃から…


あたしは梨華ちゃんのことが好きだったんだ


732 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:47

「よっすぃー?」
「梨華ちゃん」

「何見てるの?」
「梨華ちゃんのヘンな写真」

「あーっ!変なおじさんの格好のやつ!」
「そうだよ」


こんな、おもしろい写真だって
あたしの大切な思い出となる

どんな梨華ちゃんだって、好きだから


「いいなー私も欲しい」
「あげよっか?」

「うん、ちょーだい!」
「いいよ…」

「よっすぃー、大好き!」
「………」


733 名前:5年間 投稿日:2006/04/07(金) 20:47

最近、『よっすぃー、大好き!』が口癖の梨華ちゃん。
あたしはもっと、その言葉を言わせたくて
梨華ちゃんに好かれるように、努力ばっかしている気がする。

例え、その言葉が梨華ちゃんにとって意味のないことでも
例え、それがあたしと同じように好きじゃなかったとしても

その瞬間だけは、絶対あたしのことを考えているはずだから

お願い

もっと

あたしのことだけ、考えていて


734 名前:ピス 投稿日:2006/04/07(金) 20:49

更新しました。お久しぶりですみません。

>718 名無し飼育さま
お待たせしました。ちょくちょく頑張ります。ありがとうございます。
735 名前:名無し飼育 投稿日:2006/04/09(日) 20:45
更新お待ちしてました。
ハミルトン懐かしいですね。久しぶりに引っ張り出して見ちゃいました。
これからも作者さんのペースで頑張ってください。
736 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:39


『石川さん、すごいよね』
『デビューするだけで、あんなに注目されてる』
『テレビのひとみたい』
『芸能人なんだから、当たり前でしょ?』
『いくら貰ってんだろ』
『彼氏はどうするんだろ』
『すぐ別れたって聞いた、アタシ』
『引っ越すんでしょ?』
『会える時間だって少なくなるだろうし、ね』
『でも芸能界かぁ』
『いいなぁ』


737 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:39

彼は、やさしい
彼は、私の数少ない男友達のうちのひとり

みんなが言う、『彼氏』とは違う

どこにも属さない、彼

彼は、彼 なのだから



738 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:39

TRRRRRR・・・・TRRRRRR・・・・




「あっあのっ…」
『おー』


『梨華じゃん』

「うん」


『どぉ?ゲーノーカイ、は』
「うん…忙しいかな」

『ユニット、とか色々してんだろ?』
「うん」

『風邪とか引いてない?』
「大丈夫」

『そっか』
「うん」


彼は、やさしい

739 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:40

『梨華…何か、一気にスゲー人になっちゃったな』
「え?」

『ちょっと、寂しいような』
「………」

『あっ!ウソウソ俺らちゃんと、応援してるから』
「うん、わかってる」


『だから、がんばれ』
「うん」


彼は、私の数少ない男友達のうちのひとり


『梨華、今度の休みいつ?』
「んーと…」

『18日とか空いてる?』
「どうしたの?」

『みんなで会うんだけど、どうかな』
「えっと、」


電話を片手に、急いで石川は手帳を開く。
その日は待ち合わせギリギリまで仕事が入っていて、しかも次の日は早朝から仕事だ。

無理、じゃ、ない。だけど…

普通ならば自分の身体のことを考え、誘いを断ってもいいはずなのに
石川は少し迷って、笑顔で頷いていた。

740 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:40

「うん…あんまり、時間ないけど。ちょっとだけなら」
『そっか。あんまり無理すんなよ?』

「大丈夫だよぉ。」
『楽しみにしてるから。みんな、梨華に会いたいって言ってるし』


期待には、できるだけ応えたい

テレビを見てくれているファンの声援にも応えてるんだから
昔からの友達も、大切にしたい それ以上に応えたい

何より、失くしたくない。だいじな、私の友達を



初めて買った、ピンクのピアス

誕生日に買ってもらったPHS

お父さんと、お母さんと、お姉ちゃん
妹と、飼っている犬のラッキー

私が芸能人になっても、変わらずに付き合ってくれる、ともだち

それが私のたからもの



741 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:41

「今度、新曲が出るの」
『マジで?!』

「みんなに、いちばんに聴いてほしいな」
『もちろん』

「がんばるね」
『うん、がんばれ』

「じゃ…」
『うん、また』

「また、今度」



みんなが言う、『彼氏』とは違う

やさしい、ひと

どこにも属さない、彼

彼は、彼 なのだから




742 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:41

「みんな、おまたせっ!」

「梨華ちゃん!」
「うわ…石川だ」
「かわいい!」

「………」


仕事が終わると、石川は逃げるようにして帰った。

『そんなに急いで、どーしたの?』

吉澤に声を掛けられたような気がしたけど、

『おつかれさまでした!』

顔も見ずに背中を向けて、ダッシュで駅へと向かっていた。



「元気だった?」

彼がさりげなく、石川の隣に座る。
久しぶりに見る彼はどこか大人びていて、安心できた。

見慣れた友達の笑顔も、なぜか嬉しくて、
自分の居場所はここなんだと、実感していた。


「昨日電話、したじゃない」
「だって…梨華の顔は、見れなかったから」


カーッと自分の顔が赤くなる音が聞こえた気がした。
昔から彼は、石川をドキドキさせるようなことを、たまに言う。
石川はそんなことを言われても、顔を真っ赤にして俯くことしかできなかったけど。


743 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:42

「あんまり、無理すんなって、言ったろ?」
「ふ…ふっ………ッく…」

「泣くなよ…泣くほど、仕事つらいの?」
「…ち、違…」


自分の居場所が、ちゃんとここにはあって


「あーッ!梨華ちゃん泣かした、コイツ!」
「梨華ちゃん大丈夫?」
「ほら、これで涙拭いて?」
「何言ったのよ、アンタ!」

「お、俺は何も言ってないし!」
「ふぇ……っく…」

「コイツまた梨華ちゃん泣かしたぁ!」
「えっ…!ご、ごめん」


「泣くなよ…」


心配してくれる仲間が、嬉しくて


また明日も、がんばれる
ここに帰ってこれるなら

ずっと、がんばれるから


ありがとう
ありがとう


私は、もっともっとがんばらなきゃ



744 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:42



次の日。
疲れた身体に鞭打って、石川は朝からダンスレッスンをしていた。
ひどくだるい。昨日、遅くまで遊んでたからかな。


「…かわ!石川ッ!!!」
「……?」

「何ボッとしてんの!石川ついてこれてないよ!!!」
「すっ…すみませんっ!」

「ったく…じゃ次のとこから行くから」
「すみません…」


先生に謝って俯く寸前、石川の視界には心配そうに自分を見る吉澤の姿が見えた。
視線を合わせられない。顔も、上げれない。笑えない。
きっとよっすぃー、呆れてるんだ。こんなこともできないのか、って。
恥ずかしい。みんなについていけてない。
でもやらなきゃ。これから、もっともっと厳しくなるのに。


「梨華ちゃん」
「…よっす、ぃ」


少しもらった休憩中、吉澤は石川に近寄って、顔を覗き込んだ。
ハイ、とペットボトルのお茶を渡して、吉澤は石川の隣に座った。

鏡の向こうには、先輩達が笑って話をしている。
落ち込んでる自分が、やっぱり恥ずかしかった。


745 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:43

「きのう、」
「あ!よっすぃー電話くれたんだよね、ごめんね私出れなくて…」

「いや、たいした用事じゃなかったんだけど」
「ごめんね」

「もう寝ちゃってた?」


吉澤が電話をくれたその頃、石川は家へも帰らず友達と遊んでいた。
遊んでいて、疲れて、今日の仕事に影響が出ている。
そんなこと、石川は吉澤には絶対に言えなかった。
プロ失格。そんな烙印を、ドンッと押されてしまいそうだったから。


746 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:43

「…うん…」
「だよね。ごめんね電話なんかして」

「いいけど…何かあったの?」
「ううん。なんでもない」

「そっか」


「梨華ちゃんさ…」


「うん?」
「梨華ちゃんは、ひとりしかいないんだから、さ」

「どういう意味?」
「自分を、大切にしてよ」

「え…?」
「無理は、しないで?」


「………」
「ホラそろそろ、休憩終わりだよ。行こっ」

「うん…」


どういう意味だろう。
よっすぃー何か、知ってるのかな。
石川は、吉澤の言いたかったことが分からなかった。


747 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:44

よっすぃーって、すごく大人だ。
いつでも落ち着いてて、ワガママなんて言わないし、
仕事の飲み込みも早いし、何でもできて、とても年下だなんて思えない。

しかも先輩には可愛がられてて、人との付き合いも上手くって、
私は、私なんか………とても真似できないよ。


そんな不安を消し去るように
いっぱいいっぱい練習して
ダンスも歌も、いっぱい いっぱい

鏡の前では笑顔の練習をして
スタイルを維持できるように
お菓子を控えめにしたり
努力は欠かさないでいたら


どんどん、どんどん
『私』が創り上げられていった


ホッとできるのは、家に帰った時だけだった


748 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:44

「疲れたぁ〜」

誰に言うわけでもなく、つぶやいて
どっと重いものが、肩にのしかかる


早く、新曲のダンスも歌も、仕上げなきゃ。


お風呂の中で、練習をしていたら
わかんないところがあった

???

どうしよう、よっすぃーに聞こうかな

迷惑かな、

こんな時間に



どうしよう

どうしよう

どうしよう?




749 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:45


TRRRRRR・・・・




「もしもしっ?!」
『あー、梨華ちゃん?』

「よっすぃー!」
『うん。どしたの?そんなに慌てて』

「今ね!よっすぃーに電話しようと思ってたの」
『そうなんだ、ちょうどよかった』


すごく安心した

『仲間』だって

すごく心強かった


「新曲で、わからないところがあって…」
『どこ?』


彼には、わからない話が
よっすぃーとだったらできる


よっすぃーに言えないことが
彼にだったら言えてしまう


芸能人になって私には、いくつもの世界ができていった

いろんな顔を、持つようになった

私のすべてを知っているのは、私だけ


成長して、大人になるって、みんなに秘密を持つことなのかな?

誰でもいい、教えて欲しい

大人になるって、どういうこと?


750 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:45


『梨華ちゃんは、ネガティブだね』
「えっ?!」


『よく言われるでしょ?』
「う、うん…」


『梨華ちゃんは、考えすぎるからさ』
「………」


『でも、そこがあたしにはできないんだけど』
「そんなこと、ない…」


『梨華ちゃんは、気配りができて』
「…」


『やさしくて、面倒見が良くて』
「…」


『頑張り屋さんで、いつも一生懸命で』
「…」


『明るくて、かわいくて』
「…?」


『…あれ?何言ってんだろ、あたし』
「…ふふっ」


『笑わないでよ…』
「あはは…うん」


『とにかく、元気出して。明日も、頑張ろ?』
「そうだね。ありがとう、よっすぃー」


751 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:45


こんなふうに、やさしく私を励ましてくれて
たくさん、褒めてもらえて
頑張ろうって、一緒にやってくひとがそばにいて

明日も、笑えるんだったら


まだまだ、こどもだとしても

少しずつ、大人になっても、いいのかな?

いつか、自分の足で前へと進んで
仕事もできて、恋愛も…ちょっとはして

そんなふうに、綺麗な女性に、なるために
一歩ずつ、頑張ってっても、いいのかな?


752 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:46


「よっすぃーが、同期でよかった」
『…』

「あいぼんも、ののも」
『…』

「みんなが同期で、ほんとよかった」
『…』

「だいすきだよ、よっすぃー」
『…うん』


753 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:46


電話の向こうで、きっと、よっすぃーは照れてるんだろうな
かわいい。

壁に貼ってある、いくつもの写真を見ながら、私はしあわせだと感じていた。

みんながいるから、がんばれる

今日も明日も、あさっても

ずっとずっと、前を向いてがんばろう

いつの日か、昔の自分を

よくがんばったねって、褒めてあげれるように



754 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:47



そうして、



大人になった私が、大人になったよっすぃーを、
よくがんばったねって、頭を撫でてあげたいな

そしたらよっすぃーはまた、照れて大声を、あげるのかな
それでも私は、かわいいって抱きしめるのかな


それまで、まだ、よっすぃーに甘えてても、いいよね…?


だいすき

だいすきだよ、

よっすぃー。




755 名前:5年間 投稿日:2006/04/10(月) 21:49
更新しました。

>735 名無し飼育さま
ありがとうございます。懐かしいですよね。
ハミルトンはスッゲー好きな写真集なので、今でもよく見ています。
海辺のいしよしが、好きすぎます。
756 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:15



はじめは、こんな感情なんて

一時のものだと信じていた

梨華ちゃんは、アイドルだから―――だから、気になるんだと

その辺の女の子より、かわいくて、綺麗で、芸能人で

何より

自分とライバルで、同期で、気になるなんて言う方が無理だ

だから、だから、ちょっとだけ、好きな気持ちが強くなっちゃったんだって

そう、言い聞かせるしかなくて



はじめは、うれしかったし しあわせだった

梨華ちゃんに毎日、会えることが楽しみだった




757 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:16



それが『恋』だと気づいても

いつか冷めるだろうと期待した

でも

そんな期待とは裏腹に

あたしをしあわせにしてくれる

いつでも近い存在の、梨華ちゃんが

とても大切で、かわいくて、仕方なくて

だけど、どうやったって



―――あたしたちは結ばれることはない―――



758 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:16



そんな苦悩が続いた

もう

無邪気に好きだと言って笑うには

限界だった




759 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:17





二〇〇〇年、冬





760 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:17
「ねーねーよっすぃー!」
「………」


「もうよっすぃーも仕事終わったでしょ?」
「うん」


「一緒に帰ろう?」


―――ビクッ!


左腕に触れられた部分から
熱を帯びて
全身を駆け巡る、何か

761 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:17
「…っ、あたし、用事あるから」
「え…?」


まだあたしに触れている、梨華ちゃんを手を強引に解いて、
つかつかと楽屋へと戻った

背中に梨華ちゃんの視線を感じる
か細い声が、あたしの背中に届いた


「ご、ごめんね…?」


梨華ちゃんは素直で優しい子だから
あたしがちょっと冷たくしても

自分が悪いと
自分が嫌われていると
思っているようだった

そう、その方が都合がいいんだ



こんなおかしい感情を持っているって

梨華ちゃんのこと、同期のフリして実は好きなんだって

梨華ちゃんだけには

梨華ちゃんだけには

絶対、気づかれるわけにはいかないから………!



762 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:18


―――パタン


ひとりで楽屋へ戻ると、誰もいなかった
もうみんな、帰ったんだ
もしかして梨華ちゃんは、あたしをずっと、待ってくれてたのかな


「ごめん…」


ドアの前で膝をついて、顔を手のひらで覆って、さっきの梨華ちゃんの顔を思い出す



梨華ちゃん…

傷ついた顔、してた

悪いのは

あたしが

梨華ちゃんに

ヘンな感情を抱いている

せいなのに

763 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:18

「梨華ちゃんの鞄…」


あたしが楽屋にいると、この鞄だって、取りに来にくいだろう
ふたりぶんの鞄を持って、楽屋を出る

こんなときは
いつだって
あの場所に


「やっぱり…」
「よっすぃー…」



非常階段を駆け上がった先の

屋根を持たない、その屋上は

真っ青な空にいちばん近くて


上から見下ろすと、東京の街が広がってて
ちっぱけな自分に気がつくと

そんなふうに、いつか、梨華ちゃんが言っていた場所

764 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:19

「梨華ちゃん、ごめん」
「………!」

「待ってたんなら、言ってくれればいいのに」
「だってよっすぃー、用事あるって…」


「梨華ちゃんは、悪くないじゃん」


長いサラサラの梨華ちゃんの髪が、屋上を過ぎる風になびいて
ぎゅっと目を瞑って、怯える姿だとか

細く伸びた、スカートから見える足も
寒そうに首をすくめる仕草も

もう

限界で…


「コート、着ないと風邪引くよ…?」

765 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:19

楽屋から持ってきた、梨華ちゃんのコートを着せてあげた

冷たくしようと思っても、こんなふうに甘やかしたり
梨華ちゃんが風邪を引きやすいことを忘れられなかったり


「ありがと、よっすぃー」


あたしにお礼を言って、微笑む姿にも

もう、気持ちが制御できそうにもなくて


ただ、そばにいるだけで

梨華ちゃんが、あたしを見ていてくれるだけで


今にも気持ちが溢れ出しそうで………!!!


766 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:20

「………っ」
「どうしたの、よっすぃ」


「何でも、ない」
「どっか痛いの?何か、つらそうだよ?」

「何でも、ないんだ」
「でも…」



お願いだから、優しくしないで


もう

メンバーだとか
同期とか
戦友とか
友達とか
仲間とか

そんなふうに、思えなくて


いちばんたいせつな

女の子にしか、思えない


好きだと言ってしまいそうになる口を押さえて、
心配そうにあたしを見つめる、梨華ちゃんを残したまま、
何も言わずに屋上を飛び出した

767 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:20


「よっすぃっ…!」




ごめん
ごめん
ごめん


ふつうに、ふるまえなくて
あなたを、傷つけた

だけど

あたしだって、つらいんだ


どうして
出逢ってしまったんだろう

どうして
女同士だったんだろう

どうして
梨華ちゃんだったんだろう


どうして
どうして
どうして…!!!


限界だった、何もかも

もう、我慢するには苦しくて
届かない想いの、行き場がなくて
むくわれない気持ちの、やり場がなくて

768 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:20


「梨華ちゃん…」



そんな時だった



梨華ちゃんに、大切な人がいると聞いたのは



769 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:21

「えっ?梨華ちゃんって彼氏いるの?!」
「や、やめてよののっ!そういうんじゃ、ないから…」


ドクッ…


「昔から、仲いいだけだもん」
「あやしぃなぁ」


ズキン…


女の子は、そういう話が好きだから
メンバーも皆、梨華ちゃんの話に興味深々だった


楽しそうに、梨華ちゃんに話を聞く皆

周りを見渡しても、あたしだけ

梨華ちゃんが頬を染める姿に

胸を痛めているのは


きっと、あたしがおかしいせいだ
あたしだけ、ヘンなんだ


異常な、感情を持っているのは

770 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:21

「だってこの、一緒に写ってるプリクラとか、超仲良さそうじゃん」
「ほ、他の人も写ってるじゃないですかっ」



―――やめて



「どんなひと?」
「優しい、ひとですよ」



―――やめろ



「ねぇ、ちゅーとかしちゃった?」
「してません!!!」

「うっそぉ…。したでしょ?」
「まだです!!!」

「まだってことは…これからするの?」
「ちょっと、飯田さん、揚げ足取るのやめてくださいよぉっ」



―――もう、やめて…!


771 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:22

「泣きそうだよ?石川」
「やだぁ…」



―――バンッ!!!!



「よ、よっすぃ…?」
「……すいません、手が滑っちゃって」

「びっくりしたぁ」
「へへっ、すいません」


思わずテーブルの上の雑誌を床に投げつけた
手が滑ったなんて、笑ってしまいそうな嘘だった

嫉妬で狂いそうになるなんて



そんな、

あたしが、

まさか



…はじめての、感情だった


そしてそれは、あたしをひどく苦しめた

772 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:23
梨華ちゃんを独占したかった

誰のものにも、ならないでほしい

やらしい気持ちになって、欲望が溢れ出す



夢でも 現実でも いつでも どこでも

何度も何度も想像した

梨華ちゃんと、愛し合う 甘い夢を



「ごめんね、うるさかった…?」


あたしを呼ぶ、梨華ちゃんの唇にキスをして



「よっすぃ、顔が真っ青だよ」


あたしに触れる、その手を握り締めて

細い腰を、抱き寄せて

梨華ちゃんを覆う、服を剥ぎ取って

やわらかい身体のあちこちに、触れて

773 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:23

嫌がって、暴れても

怖くて、泣いても

それでも梨華ちゃんを、抱いた



梨華ちゃんはあたしの指のいちいちに反応して

高い声が更にもっと高くなって

甘い声で鳴きつづける



かわいくて、かわいくて

しょうがない

あたしのものに、したかった


774 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:24


「よっすぃ?」



梨華ちゃんの声で、現実に引き戻される

もう楽屋には誰もいなくなってて

床に落ちたままの雑誌
広がったままの椅子

目の前には

変わらない、梨華ちゃんの心配そうな顔



何を考えてるんだ

あたしは



『頭がおかしい』

『いやらしい』

『きもちわるい』

『汚れている』

『気が狂ってる―――』


775 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:24
「ご、ごめん」
「え?」

「みんなは…?」
「空き時間ができたから、コンビニに行ったよ?」

「梨華ちゃんは行かないの?」
「え、だってよっすぃーが…」

「ちょっと待って。あたし、何かした?」
「………」

「何したんだよ。言ってよ」
「…よっすぃーが…」



目を泳がせる梨華ちゃんを見てたら、
こっちまで動揺してくる

これ以上ないくらいに鼓動が早くなる
嫌な汗が背中を伝う

あたし、梨華ちゃんに何をした?
776 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:24

「言って」
「………」

「言って。お願い」
「……急に、黙ったと思ったら、眠っちゃって」

「そうなの?」
「眠ったまま、私の服を掴んで、離さなくて」

「………」
「……梨華ちゃん、梨華ちゃん…って、何度も呼ぶから…」

「ごめん…」
「どうして謝るのよぉ」

「ごめんね…」
「いいんだよ?私、気にしてないからっ、全然!」

「………」
「よっすぃ…?」
777 名前:5年間 投稿日:2006/04/11(火) 09:25


夢の中まで、無意識に

梨華ちゃんを、愛してた



梨華ちゃん


あたし、もう、自信がないよ


梨華ちゃんを、好きでいることを


隠し通せそうに、ないんだ



梨華ちゃんが、好きすぎて

好きすぎて、

もうどうしようもないほど、好きで



つらいんだ



梨華ちゃんを好きでいるのが、



どうしようもなく、つらいんだ




778 名前:ピス 投稿日:2006/04/11(火) 09:26
更新しやした。出来る時にどーんと更新です。
779 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/04/11(火) 11:59
連日の更新お疲れ様です。
楽しみがまた一つ増えました。
780 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/11(火) 16:11
更新お疲れさまです。
切なくてつらいです。
781 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/14(金) 22:51
何々??
切ない系?
続きが読みてーのです!!w
782 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/16(日) 16:20
苦しくて呼吸困難になりそうです(ノД`)
783 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:46

人を嫌いになるってことは、とてもとても難しい。


あたしは、自分の周りの人が、大好きで
いい人に恵まれたなぁって、実感している。


人を嫌いになるってことは、とてもとても難しい。


だけど


愛している人の心を手に入れることの方が、

もっともっと、難しい―――



784 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:46

誰もいない楽屋。
梨華ちゃんと二人きり。
あたしはただ、涙を流している。


「よっすぃー。泣かないで」
「……っく……泣いて、ない…」


「意地っ張り」


きっと梨華ちゃんは、あたしが仕事か何かで悩んでいると思い込んでいる。
最近は専ら、あたしが梨華ちゃんの悩みを聞くことの方が多かったので、
お返しのつもりか、あたしを何とか元気にさせたいのだろう。


―――そんなんじゃ、ない


「…そんなんじゃ、ない」
「何か悩み事があるんでしょ?」

「ないから、そんなの」
「嘘ぉ」

「ホント」
「言ってみてよ」

「だからないって、言ってんじゃん」
「隠さなくていいよ。だって私たち、」

785 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:47



「同期でしょ?」



そんなふうに思っているのは、梨華ちゃんだけ

だってあたしは、やましい気持ちを、抱いている


どう頑張ったって
あたしが女だってことは治らない

これから先も、その彼じゃない人だとしても
梨華ちゃんを奪っていくのは男だけだ

いつか来るその日を、梨華ちゃんのそばで見ているなんてこと
あたしには、耐えられそうにもない



仕事仲間である以上、これから先も
梨華ちゃんと離れるなんてことは不可能だ

でも

梨華ちゃんを忘れるなんてことも、もっと無理だ


ならば



ならば、いっそ


梨華ちゃんのしあわせを


この手でぶち壊してやる



786 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:47



「梨華ちゃん…」



ゆらりと自分の影が動いて、自分が梨華ちゃんに近づいたことを知る

半分意識的に、半分本能で身体が動く

不思議そうにあたしを見上げる梨華ちゃんに、罪はない

あたしの頭がおかしいだけ

あたしが、最低な人間なだけなんだ



「……っ?!」



何か言いたそうに梨華ちゃんの唇が開いた瞬間に、一気に口付ける

深く、深く、梨華ちゃんを味わう

柔らかい感触に、気絶しそうになった

他の人の唇も、梨華ちゃんと同じように甘いのか



もう


どうでもいい


壊れてしまえ


何もかも



梨華ちゃんがいなくちゃ、世界は何の意味も持たない

あたしは力の限り、きつく梨華ちゃんを抱きしめた


787 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:48



「…んっ…んんんんんんっ!!!!」


どんどんと、肩口を乱暴に叩かれる
目を閉じてても、梨華ちゃんの苦しそうな顔が目に浮かぶ


ごめん…


だけど止められない


気持ちにセーブがきかない


崩れてしまえばいい


何もかも


梨華ちゃんがいる世界は、時に残酷で むなしさばかり感じてしまうから




ずっと憧れていた


あなたに触れることを




その小さな唇を 軽く吸って
優しく、離す




静かに、終わりを告げる

鐘の鳴る音がした



788 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:48


「………はぁっ……」
「…………………」



閉じていた目を、ゆっくりと開ける

ぼやけた視界が、次第にはっきりとしてゆく

梨華ちゃんの驚愕した顔が、そこにはあった



「何…したの…?」

「………キス、した」



あぁ、もう、触れることはないのだろうか

甘い甘い唇に

その髪に 頬に 腕に



「…びっくりしたぁ」

「……………」

789 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:48

あまりにものん気に 梨華ちゃんが胸をなでおろすから

ふとした疑問にぶち当たる

こんな時でさえ、あなたはあたしを、疑うことも恐れることもないの?

あたしはやがてじわじわと、嫌な予感に覆われる

まさか…



「だって急に、するんだもん」

「あのさ、もしかして…」



「ん?」


梨華ちゃんの優しい笑顔は、変わらない
あたしは梨華ちゃんに、問いかける


「冗談だと、思ってる?」



さあっと、梨華ちゃんから笑顔が消えて

笑ったままの、顔が引きつって

ゆっくりと、認識しているようだった
790 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:49

「冗談………じゃないのぉっ?!」

「……はぁ…」



こんなにも梨華ちゃんが、鈍感だったなんて思わなかった。
だって普通、いきなり、キスなんてされたら、そりゃびっくりもするだろうけど、
でも、こんな真面目な場面でそんなんがあったら、疑問とか、疑惑とか、怪しむモンじゃないの?


……あ


そっか……


あたしたちが、女同士、だからなんだ………


ハロプロ内では、キスなんて挨拶みたいなものだし、
最初生で見たときはすっげー驚いたものだけど、今となっては別になんとも思わない。
自分からはしないけど、されたとしても、気にも留めないだろう。

梨華ちゃんもたぶん、メンバーからされるキスの延長だって、思い込んでしまったんだ。
でも、あたしたち。
絶対ふざけてキスなんて、しないじゃん。
むしろ初めてじゃん。ねぇ、梨華ちゃん。

791 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:49

「冗談じゃないってことは、それって、つまり、あの、その…」

「………本気…」



「本気のキスを、あたしが、梨華ちゃんに、したんだよ」

「本気って、本気って…」


梨華ちゃんはしどろもどろになる
あたしは梨華ちゃんを真っ直ぐに見つめ、告白する


「梨華ちゃんのこと、好きなんだ」

「え?」



「家族とか、友達とか、そんなんじゃなくて」



「本気で、梨華ちゃんのこと、好きなんだ」



ギッ、とパイプ椅子が軋む音がした
緊張した顔で、梨華ちゃんは座り直す
あたしも、緊張で喉が張り付く

792 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:49

「冗談なんかで、梨華ちゃんにキスなんかしない」

「だってあたしは、梨華ちゃんのこと、恋愛対象にしか思えないから」



「……やらしい、こととか考えるし」

「この先、一緒にいると無理矢理してしまうかもしれない」



「よっすぃー…」

「怖いでしょ?こんな人が身近にいて」



「気持ち悪いって、そう、思うでしょ?」



「気持ち悪いって、そう、言ってよ……!!」



ぶんぶんと顔を横に振って、梨華ちゃんはそれを否定した

何ともないよって、嘘で固められてしまうと、あたしは死んでしまいそうになる

気持ち悪いって、近寄らないでって、思い切り嫌われた方が、まだマシだから
793 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:50

「思わないの?」

「思わ、ない…」



「―――だったら、あたしのものになる?」

「えっ…?」



「彼とか言う人を捨てて、あたしを選ぶか」



「普通に、真っ当に、男と恋愛するか」



「どうする…?梨華ちゃん」

794 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:50

梨華ちゃんは優しい子だから
女の子に恋をしているあたしを、気持ち悪がったり簡単に無視しない
かわいい笑顔を、あたしに向けてくれて
無邪気にあたしに寄り添って、大好きと微笑む

だけどもう、そんなこと、我慢できそうにないから
無茶苦茶に梨華ちゃんに詰め寄って、嫌われる方が絶対いいに決まってる

…嫌われたかった


ズタズタな結果が、早く梨華ちゃんを忘れさせてくれる
若さゆえの失敗だって、笑って思い出すことができる
いつかきっと誰かを、梨華ちゃんよりも好きだって言ってみせる

…忘れてみせる

絶対、忘れてみせるから

はやく、大ッ嫌いって、言って欲しい―――!
795 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:50



カタカタと、自分の全身が震えてる気がした

私を見つめる、その瞳があまりにも真剣で。
顔をしかめる、その表情があまりにもつらそうで。

よっすぃ…


でも私、どっちも選ぶことなんて、そんなこと、できないよ


「どうするって、そんな、急に」
「急じゃない。あたしはずっと、梨華ちゃんが好きだったんだ」


強く力を込められて、手首がギリギリと締め付けられる。
よっすぃーが、よっすぃーじゃ、ないみたい。

どうしよう。どうしよう。どう答えたら、いいの?


「よっすぃー落ち着いて?手、手も離して…」
「離さない」
796 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:51

「ずっと、出逢った時から、気になってた。」

「こんなにかわいい子が近くにいて、同期で、びっくりした」

「梨華ちゃんがいたから、仕事も頑張れた。そばで支えてあげられることが、嬉しかった」

「好きになって、何で、何で、女の子なんだろうって、悩んだりもした」

「どうしても、諦めようとすればするほど、目が離せなかった」

「かわいくてかわいくて、仕方がなかった。今はもう、梨華ちゃんしか…見えない」

「好きなんだ…梨華ちゃんが」

797 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:51


そんなに私のことを、好きでいてくれたの?
私は、そんなことに気づきもしないで
ずっと、よっすぃーに頼ってばかりだった
ひどいことを…してたのかな

もし、今、よっすぃーを受け入れなかったら…どうなるの?


断ったら、よっすぃーは私から離れていくかもしれない

喋ってくれない
笑いかけてくれない
目も合わせてくれない

そんなこと、耐えられない


もし、今、よっすぃーがいなくなったら

よっすぃーを失ってしまったら

もう笑えない
歌えない
踊れない

寂しくて苦しくて、もう、生きていけない

死んじゃうよ…


798 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:51



「よっすぃ………」

「…………」


799 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:52

「よっすぃーのものになるには、どうしたら、いいの………?」



真剣なよっすぃーの目が、私を捉えた。


ドキン…


カーッと、頬が上気する。

こんなこと、ダメだよね。おかしい、よね?
女の子同士で…私たちはアイドルで…
やってはいけない、ことなのに。


それでも…今の私にはよっすぃーが必要なの
800 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:52



「抱きしめて」



そう言って立ち上がったよっすぃーと、同じように私も立ち上がった。
私が見上げると視線がぶつかって、よっすぃーが熱っぽい目で見つめてきた。
私もよっすぃーから目が離せない。心臓の音が速くなる。

よっすぃーはただ立っているだけ。きっと私を、待ってるんだ。
そうっと、恐る恐る、腕を伸ばした。
腰に手を回して、身体をくっつけた。
よっすぃーの胸に顔をうずめて、きゅうっと抱きしめた。
それでもよっすぃーは、動かなかった。



「キス、して」



顔を少し離して、よっすぃーだけを見つめる。
綺麗な顔。薄く開いた唇。
私を好きだと、言ってくれた口。
私に無理矢理、キスした唇。
深く息を吸い静かに目を閉じて、私はゆっくりと顔を近づけた。

「…っん…」

初めて自分から、よっすぃーに口付けた。
甘い甘い、味がする。
触れた唇から、熱くなる。

私は、よっすぃーを失いたくなくて。
必死に、慣れないキスをした。


お願い、よっすぃー。

そばにいて………



801 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:52



「梨華ちゃん」


「………」



「もっかい、して…?」


802 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:53
梨華ちゃんが、あたしにキスをしている。
ずっと願っていたその行為は、予想通りあたしを夢中にさせた。
もうたまらなく愛しくて、思い切りきつく梨華ちゃんを抱きしめて、
むちゃくちゃに口付けた。
少しだけ開いた唇を、舌でこじ開けるようにして、梨華ちゃんを犯す。


きっと今は、梨華ちゃんはあたしを失いたくないがために。
あたしの無茶な願いを、とまどいながら受け入れてくれているだけだ。
あたしのことなんて、好きじゃない。
気が狂ってしまいそうなほど、あたしと同じように好きじゃない。


それでもよかった

それでも、しあわせだった

きっぱり拒絶されると、思っていたから
803 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:53



「梨華ちゃ…」

「よっすぃー、私、あのね」


「わかってる。梨華ちゃんは、あたしを好きじゃない」

「………」


「いいよ、それでも。悪いのは、無理矢理迫ったあたしなんだから」

「………」


「梨華ちゃんは、悪くない」

「………」


「悪くないよ」


804 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:53


涙が溢れ出す

触れた唇が、震え出す

よっすぃーがつらいと、私もつらい

いつの間にか、知らないうちに、私たちは繋がっていた



あの時、よっすぃーは自分が悪いと言ったけど

私から、キスした瞬間から

きっと同じ罪を、犯していた

だから涙が止まらなかったの

自分だけが悪いなんて、言わないで欲しかった

一緒に罪を、背負いたかった

805 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:53


「よっすぃ…」
「ん?」


抱きしめ合ったまま、私はよっすぃーにそうっと尋ねる。


「どこにも行かない?」
「え…なんで?」

「私のそばに、ずうっといてくれる?」
「行くわけないじゃん。どしたの、急に」

「よかった…」
「梨華ちゃんが好きだって、言ったでしょ?」

「うん…」
「…好きだよ、梨華ちゃん」

806 名前:5年間 投稿日:2006/04/16(日) 20:54


私はよっすぃーの、手を取った
同じ罪を背負う、者として

あの頃の私は、そんなことに気づきもせず

ただよっすぃーを独占したい


そんな子供染みた、感情だけで
よっすぃーを同じ道に引き込んでいた…


807 名前:ピス 投稿日:2006/04/16(日) 20:59
更新しました。

>779 名無し飼育さま
楽しみにして頂いて大変光栄です。ありがとうございます。

>780 名無飼育さま
自分で書いててもギューってなります。しんどいw

>781 名無飼育さま
切ない系に入りますか?落ち着いた、静かーなのをイメージしております。

>782 名無飼育さま
申し訳ありませんが、もうちょっと呼吸苦は続くかもしれません。
808 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/16(日) 22:56
更新お疲れさまです。
二人の気持ちを考えて苦しくて泣いちゃいました。
809 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/17(月) 17:44
これからどうなるか楽しみです。
切なすぎて胃が痛ひ…
810 名前:前782 投稿日:2006/04/17(月) 18:26
苦しい…酸素マスクが必要になってきました(ノД`)
811 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/17(月) 18:52
ひぃーん(;д;)
切ないっ
812 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:39





813 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:39
人は、こんなにも貪欲なのだろうか

はじめは、見ているだけでしあわせだった
そばにいられるだけで、しあわせだった

あたしにも笑いかけてほしい
一緒の時間を過ごしたい

やがて欲望はエスカレートして

自分のものにしたい
梨華ちゃんがほしい

好きだって言ってほしい

確かな約束がほしい
変わらぬ約束がほしい
もっと、もっと…ほしいんだ

梨華ちゃんの今日も、明日も、その先の未来まで
814 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:39



梨華ちゃんに無理矢理せまってキスしたあの日から、
あたしは頻繁に梨華ちゃんの家に行くようになった。

『行ってもいい?』と聞くと必ず、『よっすぃーが来たいって言うなら』と、
梨華ちゃんは承諾してくれて、あたしは梨華ちゃんのピンク色したどぎつい部屋に転がり込む。


今日だって…


「よっすぃー、何飲むー?」
「んー、おかまいなくー」

815 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:40


寒い、雨の日だった。
晴れの日だって、あたしたちはそうそう外出できないから。
天気なんて関係ないけど、
今日は誰もが家に閉じこもっているのだろうと思うと、
少しだけうれしかった。ざまーみろ。

外はありえないくらい寒くて、梨華ちゃんの家に着く頃には。
雨がちょっとだけ氷のようなものに変わっていた。
身体に突き刺す氷を振り払い、ふたりして『痛ぁーいっ!』と手を繋いで駆け出した。

その氷の正体が、霙だか霰だかちゃんとした名前は知らなかったけど。
それでも、よかった。梨華ちゃんと過ごす、冬の日が。
何より、嬉しかった。しあわせだった。


816 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:40


「でね、そこであいぼんがぁー」
「うん」

「あっ、おかわり入れてこよっか?」
「あ、うん…」


817 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:40

梨華ちゃんの何でもない話を聞きながら、
お腹がチャポチャポになるくらい紅茶をおかわりして、
最後までずーっと話を聞いてあげるあたしは、大概お人よしかもしれない。

梨華ちゃん…

キッチンに立ってお湯を沸かしている梨華ちゃんに、
あたしはそっと背後から近寄って、抱きしめる。


「あっ…。」
「梨華ちゃん?」


こうして抱きしめるだけで、梨華ちゃんはカチンコチンに固まって。
首まで真っ赤にしている梨華ちゃんを、もっと困らせたくなる。

髪に、首に、耳に、頬に、キスの雨を降らせる。

窓の外の雨よりも、もっと優しく、もっと温かい雨を…。


818 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:41


「よ、よっすぃ…」
「んー?」

「あの、私、お湯沸かしてるからっ」
「ダメ。もっとキスさせて」

「火のそばで…危ないんだからぁっ」
「はいはい」


819 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:41

梨華ちゃんを後ろから抱きしめたまま、片手を伸ばして火を消して、
梨華ちゃんごとリビングへ移動する。
ソファに座らせて、怯える梨華ちゃんを他所に、あたしの気持ちは止まらない。

なるべく怖がらせないように、優しく優しく梨華ちゃんに触れて、
重くならないように体重を乗せて、背中を支えながら梨華ちゃんを横たえた。


「あ、あの…」
「どうしたの?」

「え、と。何て言うか…」
「?」

「………」
「イヤじゃないなら、続けちゃうよ?」


甘いキス。もっと深く。

とろけそうな梨華ちゃんの唇は、紅茶の味がした。

820 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:42

「ん…んぅ……」
「梨華ちゃんかわいい」

「!」
「無茶苦茶言うかもしれないけれど」


舌で、唇をなぞって。
肩から腕を、何度も往復して。
固く手を繋ぐ。メキメキと、指が折れるほどに。
きつく絡み合う視線。胸が締めつけられるように痛む。
梨華ちゃんは、あたしの目を覗き込んでその先を探ろうとしている。



「なに…?」


「はやく、あたしのこと、好きになって」



無理を言ってるって、わかってる。

少しだけでも、受け入れてもらえたこと。
今までのの関係を、続けていられること。
それだけでも、じゅうぶんなのに。

もっとほしい。
もっと好きになってほしい。

貪欲なあたしの願いは、更に増してく。

821 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:43

「そ、んな…」
「無理?」

「わかんないよ…そんなこと」
「じゃあ、せめて今だけは、あたしのことだけ見てて?」

「………うん…」


無茶苦茶言ってるって、わかってる。
イヤと言えない梨華ちゃんを騙して、自分のものにして。

かわいい梨華ちゃん。
もっとあたしのことだけを考えていて…!

822 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:43


噛み付くようにキスをして
唇と歯を割ってこじあけて
わざと、怖がらせるようなことをした

今はまだ、梨華ちゃんの『好き』はもらえないから

ひどいことをする、あたしをどこまで受け入れてくれるかどうかで
梨華ちゃんの愛情を計っていた


これは?
これくらい?
じゃあ、これは?
一体、どこまで?


梨華ちゃんが拒絶したら、ちゃんと止めよう
そう、思っていたはずなのに


823 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:43



「あの…梨華ちゃん?」
「………」



胸に手を置いても、黙っていて
スカートを捲りあげても、じっとしていた



「怖くないの?」


824 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:44

ふいに、梨華ちゃんが窓の外を見た
曇りガラスの向こうに、何が見えるんだろう
梨華ちゃんの視線の先を、追いかけた
あたしに覆いかぶさられたまま、梨華ちゃんは軽く息を吸って…



「ああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」


「へっ?」



ドカッとあたしを押しのけて、
梨華ちゃんは窓のそばに駆け寄る。

ポカンと口を開けたまま、あたしはソファから立ち上がれずに、
梨華ちゃんの後姿を見つめていた。

825 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:45

「よっすぃー、雪!雪降ってる!!!」
「あ…ほんとだ」


「雪だぁ〜!初雪、じゃない?」
「そうかもね」


「すごいねぇ〜。雪だよぅ」
「うん」


「気のない返事…よっすぃーってば、ムードなぁい」
「ムードがないのはどっちだよ」


「う…」
「いいけど、別に」



窓にへばりついてる、梨華ちゃんの近くに寄って
ずっと変わらない態度で接してくれる、梨華ちゃんを見つめた

826 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:45

「ねぇねぇ、柴ちゃんにでも、メールしようかなぁ」
「何で?」

「雪降ってるよ、って」
「ふぅーん」



何だかあたしはつまらなくなって。
パーカーをぐいっと鼻まで上げて、そっぽを向く。

結局、柴ちゃんかよぉ。
今はあたしといるんだから、もっと、ちゃんと…。



「雪降ってるって気づいた時、誰かに教えたくならない?」
「べっつに」

「ええーっ」
「それってたぶん、梨華ちゃんだけだよ」



あたしは、あたしは…。

きっと、梨華ちゃんにだけ、誰よりも早く教えたいって思うだろう。

そんな愛情の深さの違いに、ちょっと凹む。

827 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:45

「…送信、っと」
「送った?」

「うん」
「そっか」



きっと梨華ちゃんは、あたしの小さなヤキモチには気づいてないだろう。

くやしいな…。

あたしだけこんなに好きで、好きで、好きで。

もっかいパーカーを鼻まで上げて、灰色の空を見上げた。

828 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:46



「よっすぃ」



梨華ちゃんがあたしの鼻に引っかかってる、
パーカーをぐいっと引き下げて、




ちゅ




ほっぺたにキスを届けてくれた。


829 名前:5年間 投稿日:2006/04/19(水) 21:46


「梨華ちゃん…?」

「えへへ…」



ダメだよ。そんなかわいい顔したら。
そんなかわいいキスをされたら、耐えらんないって。


梨華ちゃんをぎゅうぎゅうに抱きしめて。
あたしは降り続ける雪の結晶の数だけ、梨華ちゃんにキスしたいって、
そんなバカなことを考えていた。



830 名前:ピス 投稿日:2006/04/19(水) 21:53
ちょぴっと更新しました。

>808 名無飼育さま
(0^〜^)<泣くなよぉ〜
ありがとうございます。まだまだ通じ合えない二人ですが、見守っててください。

>809 名無飼育さま
胃が痛いんですか。作者も胃痛はよくあります。食べすぎでw
ありがとうございます。

>810 前782さま
( ^▽^)つ[酸素マスク]
ボンベ交換の際は言って下さい。あとちゃんと安静にしててください。ありがとうございます。

>811 名無飼育さま
切ない系、頑張ってます。ありがとうございます。

皆様レスありがとうございますれす。これからもレス大歓迎れす。
831 名前:nanasi 投稿日:2006/04/19(水) 23:07
更新お疲れ様です。
すっごい胸が熱くなりました。
まだドキドキして止まらないです(>_<)!!
梨華ちゃんが幸せ者だと思うのは私だけでしょうかw
832 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/04/20(木) 00:34
ここでよっすぃーの『独占欲』が聴きたーい!
833 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/20(木) 15:59
もどかしいけど好きです。これからも頑張って下さい!
834 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/20(木) 23:42
なんかすごいなぁって。
読んでると胸がグッって詰まる感じで。
更新お疲れ様です。。。
835 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/04(日) 20:10
作者さんお忙しいでしょうがそろそろ続きを・・・
836 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/27(火) 00:52
まってますよ〜。
837 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:15



******************************




838 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:15
刻一刻と、石川の卒業が近づいていた


焦るわけでもなく 悲しいわけでもなく つらいわけでもない

吉澤はじっと、時間が流れてゆくのを感じていた


何も感じないわけじゃない、だけど

流れてゆく時の速さに 自分の気持ちがついていけなくて

日々をこなすだけで疲れていて

ふと梨華ちゃんのことを考えても 寂しさしか生まれなかった


かみさま

お願いです

もう少し もう少しだけ あたしたちに 時間をください…
839 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:16
梨華ちゃんが卒業して、離れたとしても

あたしたちは大丈夫 絶対壊れたりはしない 繋がっていける そう信じてる

だけどもう 今以上に近づくこともない

同じ夢を、同じ道を進むわけじゃないから


でも 心の奥の ずっとずっと深いところで

梨華ちゃんは存在している あの時の、輝く笑顔のままで

それだけが、唯一だった

唯一、自分を支えてくれていた
840 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:16
梨華ちゃんも、同じふうに思っていてくれているだろうか

ねぇ、あたしはどんな存在?

問いかけるチャンスはもうないかもしれないけれど

いつか いつの日にか


笑って気軽に、話せればいいと 思ってる

かみさま

お願いです

それまでもう少しだけ、あたしたちに時間をください―――――
841 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:16



******************************


842 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:17
吉澤は石川と、久しぶりに食事をした。

卒業を目の前にした石川は、案外落ち着いていた。だけど。
あの曲を聴いた辺りから、酔ったふうに吉澤に甘えてきて、『見つめないで』とか言い出した。

見つめてたのは事実だったから、恥ずかしくて、また口悪くあしらってしまった。
素直になれない自分が、少し嫌だったけど。そうでもしないと、気持ちが溢れそうだった。

石川のマンションまで送った後、
家族が寝静まった我が家に吉澤は、気を使ってそっと入る。
忙しい日々の末、引越しを繰り返し、広くなりすぎた家。
生活は豊かになったけれど、吉澤はどちらかと言えば、昔の狭い家の方が好きだった。

いつだって近くには家族がいた。
狭いぶんだけ、近くに家族がいた。

吉澤が弟たちとまだ同じ部屋、だった頃。
石川に色々話しかける弟に、少しだけヤキモチを妬いたりして…。
843 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:17



******************************


844 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:17
「ねーねー石川さん」
「ん?」

「ここに、サインして」
「これ、教科書だよ?」


石川が頻繁に吉澤の家に遊びに来る。
すると決まって吉澤の弟は、石川に話しかけた。

今日はサインしてほしいと石川にねだっている。


「うん!」
「オマエこないだも、梨華ちゃんにサインしてもらっただろ!」

「してもらってねーよ。」
「梨華ちゃん、コイツにサインなんかすることないからね」


石川の肩を掴み、吉澤は言い聞かせた。
そんな二人を見て、弟は面白くない顔をする。
845 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:18
「こないだはノート!今日は教科書じゃん!」
「同じようなもんだろ!」

「うるせーひとみ」
「何だと姉に向かって!」


決まって吉澤と弟は、最後にはケンカになった。


「まぁまぁ、よっすぃー」
「だって、梨華ちゃん」

「いいよ、私。サインしたげる」
「ちょっと、いーってば梨華ちゃん」

「ペン貸してもらえる?」
「あ、ハイっ」
846 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:18
弟には甘いんだよな、梨華ちゃん。
あたしには結構手厳しいのにさ。ちぇっ。

結局石川は弟に、サインをしてやった。
弟は嬉しそうに微笑み、石川もまた満面の笑みで弟を見つめた。
満足した弟は、下にいる吉澤の母に、
サインしてもらった教科書を見せるために1階に降りた。


閉じるドアを見つめて、ため息をつく吉澤。

847 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:19
「…ねぇ、梨華ちゃん」
「なぁに?」

「もしかして、とは思うんだけど」
「?」

「ウチの弟のこと、気になったりとか、し、してない、よね?」
「……ぷっ」

「笑うことないじゃん!」
「だって、よっすぃーがさぁ…」

「なに?」


二人でベッドにもたれて座り、目が合った。
石川の華奢な手が、吉澤に触れた。
848 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:19
「ヤキモチ妬いたりするんだもん」
「梨華ちゃんが、ウチの弟に優しくするからじゃん」

「かわいいじゃない。よっすぃーの弟くん」
「あたしだってかわいいと思うけどさ…」

「うん」
「梨華ちゃんがもし、他の誰かを好きになったら」


吉澤はうなだれて、視線を落とす。
石川は吉澤の視線を追いかけて、顔を覗き込む。


「…だいじょうぶ、だよ」
「え?」

「絶対だいじょうぶ。」


吉澤の頭は途端に跳ね上がる。
石川も少し嬉しくなって、言葉を続けた。
849 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:19
「私、よっすぃーがすき。」
「梨華ちゃん…」

「弟くんより、よっすぃーが好き。」
「よ、よかった…」

「ふふ。かわいい、よっすぃー」
「んだよ」

「好きよ。よっすぃー」
「うん…」


ホントに?
ホントに、あたしが好き?

視線で問いかけると石川は穏やかに笑う。

自然に、どちらからともなく顔を寄せて、キスを交わした。
850 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:20
『よっすぃーが好き』
そう、言ってくれた。

まだまだ、胸が締め付けられるほどの感情は、石川には無いことはわかってる。

だけど、石川の瞳には自分だけが映っている。
好きだと言ってくれて。
キス、してくれた。


梨華ちゃん。

もっともっと、あたしのことを見て?
あたししか考えられないくらい、そばにいて?

梨華ちゃん、梨華ちゃん…
851 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:20
何度も、深く、もっとそれ以上に求めたくなる。

煽るように、吉澤は力を強めた。


「よっすぃ…ダメだよ」
「…うん…」


吉澤を優しく諭すように、ゆっくりと、石川は押し返す。
吉澤は胸へと飛びかけた手を、寂しそうに引っ込めた。
852 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:21
「弟くん、また上がってくるよ?」
「だね」

「一緒にゲームでもやろうって、誘おっか」
「え?負けると泣いちゃうよ、アイツ」

「そうだっけ?」
「勝負になると、周りが見えなくなるから」

「誰の話?」


きょとんと自分を見上げる石川に、吉澤はちゅっと軽く口付けて。



「梨華ちゃんの話」



石川は頬を押さえて、真っ赤になった。
それでも嬉しそうな吉澤の顔を見ると、石川にも笑顔がこぼれた。
853 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:22
石川は、日ごとに吉澤のことを想うようになっていた。

昨日よりも今日、今日よりも明日の方が、絶対絶対よっすぃーのことが好きになってる。

吉澤の深い深い愛情が、なくてはならないものになっている。
ズルイかもしれない。
自分は、何もあげられていないのに。

だけど、確実に、石川は。

吉澤と過ごす時間を、とても大事にするようになっていた。
854 名前:5年間 投稿日:2006/06/30(金) 16:22






855 名前:ピス 投稿日:2006/06/30(金) 16:23
少量ですが、更新しました。お待たせしてしまって申し訳ありません。

>831 nanasiさま
ありがとうございます。こんなふうに吉澤さんに想われたい!ですね。

>832 名無し飼育さま
(0^〜^)<じぇらしー♪

>833 名無飼育さま
もどかしさ爆走中です。これからもよろしくお願いします。

>834 名無飼育さま
救心どぞ。ありがとうございます、頑張ります。

>835 名無飼育さま
お待たせいたしました。長いこと空いてしまってごめんなさい。

>866 名無飼育さま
ありがとうございます。マイペースでやらせてもらってます。
856 名前:ゆら 投稿日:2006/06/30(金) 16:23
リアル!!とってもいいです!
857 名前:nanasi 投稿日:2006/06/30(金) 16:38
更新お疲れ様です。
良いA♪これからの展開が楽しみです!
もう一息だぁぁぁぁ!!!
858 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/30(金) 20:34
更新キテター━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
あ〜待ってた甲斐がありました!!!良い良い良い!!
859 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/30(金) 23:23
更新お疲れ様です。
いい感じですねー。でも、まだなにか起こりそうな予感がするのは、私だけでしょうか?
860 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/21(月) 01:32
待ってますよ
861 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/01(金) 07:07
同じく、待ってますよ。
862 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/10(日) 10:15
えーと・・・待ってます。・・・
863 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:52
写真集、ハミルトンアイランドが発売された頃には。
少しだけ、少しずつ、自分が変わっていたような気がした。


『ウジウジしてる自分を変えたい―――』


その一心で、ついに芸能界への道を進んできたけど、
優しい仲間と温かい人たちに囲まれて、何とかここまでやってこれた。

楽しいことばかりじゃない。
辛いことも、悔しいことも、たくさんあった。


テレビも、雑誌も、新聞も 特集ばかり組まれている
今年の人気のスポットだとか、限定メニューとか、ファッションに至るまで
街中、華やかになり人々は浮かれ出す

そう



世間はもう、クリスマス


864 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:52
あの頃、いちばん忙しかった。
家に帰ってきて、テレビをつけるほんの少しの時間でも、
自分達が映っていない日はない。

移動中は大切な睡眠時間で、
ようやく帰ってきたと思っても、寝るためだけの部屋。

もちろん、クリスマスもお正月も、スケジュールは仕事で埋まっている。


「ね、ね、梨華ちゃん」
「なぁに、よっすぃー?」

「今まででいちばん楽しかったクリスマスの思い出って何?」
「え、えーと…」


実際思い描くクリスマスは、きっと過ごせないだろうから。
雑誌を広げながらの、吉澤との会話が嬉しかった。
865 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:52
「家族とケーキ食べて、プレゼント貰って。普通だよ?」
「ふうん」

「よっすぃーは?」
「友達と、パーティーしたりさ。普通でしょ?」

「ね、今年は、」


私たちきっとお仕事だろうね。
よっすぃーにプレゼントあげようかな。

何がいいかな?
何だったら喜んでくれるかな?


「…ケーキさえ食べれないだろうね…」
「の割に、梨華ちゃん嬉しそうなんだけど」

「そお?」
「何企んでんだぁー?」

「た、企んでなんかないっ」
「ウソだぁー眉毛引きつってるじゃん」

「や、やめてぇ!」
「ほら、白状しちゃいなよ」

「なんでもないからぁ!ぅきゃあああ!!」

866 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:53

わき腹をくすぐられて、大声で笑った。
いじわるなよっすぃーは、もっともっとくすぐってきた。
くすぐったいだけじゃない。よっすぃーといると、すっごく楽しいから。
楽屋で、ずっとずっとよっすぃーと笑っていた。

ちょっとだけでも、普通のクリスマスを過ごしたい。
よっすぃーと、一緒に…。



867 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:53
ワゴン車のスモーク越しに、オレンジ色の光が続いている。
道行く人は皆肩を寄せ合い歩いていて、幸せそうに見えた。

街路の両側に一列に並んだイルミネーション。
光の道を走る車のテールランプさえも、クリスマスの夜を演出しているようだった。


「…寒くないですか?」
「え?」


運転手に声を掛けられたが、ちゃんとよく聞き取れず、
石川は聞き返した。


「もっと、暖房上げましょうか?」
「い、いえ。大丈夫です」
868 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:53
クリスマスまで結局、時間も取れず石川は、吉澤へのプレゼントは買うことが出来なかった。
だけど、せめて、一緒にケーキくらいは食べようと思い、休憩の合間に小さなケーキをひとつ買った。

『吉澤、事務所に一旦戻るかも』というマネジャーの言葉は叶うことなく、
ひとり雑誌の取材が残っていた石川は、結局吉澤に会うことはなかった。

膝に乗せられたケーキの箱をきゅっと握り締める。


一緒に、食べたかったな…。


石川の小さな願いが、澄んだ星空に散ってしまうまで、あと2時間足らず。
もうちょっとで、1日が終わる。


このまま、吉澤に会いに行ければいいのに。


少し考える。電話のひとつでも、してみたら。
吉澤はきっと会いに来てくれるだろう。
自惚れでも何でもなく、吉澤は優しいから。それが例え、自分じゃない別の誰かでも。
きっと、誰の願いでも叶えられるように努力するだろう。
869 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:54
車が停車する。
ウインカーの音が、車内に響く。


「あの…」
「…どうしました?」


―――このまま、よっすぃーの家まで、行って下さい。


「………」
「石川さん?」

「…あの」
「コンビニでも寄りましょうか」

「……そうしてください…」


―――言えそうに、なかった。
870 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:54
車は進路を変えて、24時間照らし続けている見慣れた看板を目指す。


だって、何の権利があって、こんな時間に。
よっすぃーに会いたいと言えるのだろう。

例えば私たちが恋人同士だったら。

そういうワガママだって言えるのかも知れない。
会いたいから…そんなシンプルな気持ちだけで。

理由なんて要らない。
だって好きだから。
871 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:54
「ここで、待ってますね」
「すみません」

「ゆっくりしてきてください」


コンビニで、ゆっくりも何も。
石川は曖昧に微笑んで、車から降りた。
コートは羽織ったまま。帽子を目深にかぶって。


「ケーキいかがですかぁー」


コンビニの前には、サンタクロースの格好をした店員が立っていた。
ふと、サンタの格好をした吉澤を想像する。

…よっすぃー、似合いそう。

笑いをかみ殺して、明るい店内へと踏み込んだ。
クリスマスソングが流れている。
お茶だけ買って、すぐ車へ戻った。
872 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:55
再び車は加速して、石川の家へと走る。

吉澤に会いたいという気持ちも加速する。


暗い車内の中で、光る携帯のディスプレイ。
吉澤の名前を呼び出すけど、なかなか最後のボタンが押せない。


声が聴きたい。
でも声を聴いたら、会いたいと言っちゃいそうで。

特別な夜だから。
一緒にいたいけど。でも、できない。

一目会いたい。
ただ、それだけのことを我慢するのが、どうしてこんなにも苦しいのだろう。


よっすぃー、会いたいよ…

いつものように、笑って、抱きしめて欲しい…



873 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:55
車がゆっくりと停車し、運転手に挨拶をして石川は車を降りた。
街の静けさにたまらなくなって、空を見上げた。

澄んだ冬の空に小さな星がいくつか輝いていて、
しばらくその場に立って星を見つめていた。

ほう、と立ち昇る自分の白い息。
いけない。風邪引いちゃう。

慌てて中に入ろうとしたその時。


「ちょっと待って」
「!?」


草の陰から声がした。


イヤ。怖い。誰が私を呼ぶの。
助けて。たすけて、よっすぃ―――



874 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:55
「梨華ちゃん、あたし。」
「えッ?!」



「あたしだよ」




「よっすぃー!」




石川は吉澤に駆け寄り、抱きついた。
衝撃で足元が揺らぐも、吉澤は石川を受け止めた。


「…っとぉ」
「………びっくりした」

「あたしも」
「よっすぃーがいて、びっくりした」

「驚かせてゴメン。明日も早いのに」
「ううん。いいの」

「うん」
「よっすぃーに、会いたくて」

「………」
「会いたくて、しょうがなかったの」

「…うん」
「会えて、嬉しい…」

875 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:56
どうして梨華ちゃんは、こんなにも素直なんだろう。
素直すぎて、何と言うか。

あたしも、梨華ちゃんが好きすぎるせいで。
何もかも全部、真に受けちゃう。

そんなことを考えていると、梨華ちゃんはひとつ、くしゃみをして。


「…くしゅん」
「風邪引いちゃうね、梨華ちゃん」

「ううん」
「引いちゃうって」

「大丈夫」
「…梨華ちゃん」

「大丈夫だよ」


あたしを見上げる梨華ちゃんの笑顔が、最高に綺麗で。
両手で梨華ちゃんのほっぺたを挟んでみた。
冷たい、って梨華ちゃんは抗議をして。
あたしはからかうように小さく笑った。
876 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:56
「メリークリスマス、梨華ちゃん…」
「よっすぃ…」

「それだけ、言いたくて。」
「会いにきてくれたの?」


驚いたような顔をして、梨華ちゃんは。
あたしの目を覗き込む。

暗闇に、外灯だけがポツンとあるようなところで、よかったと思う。
照れて真っ赤になっているであろうあたしの顔を、
闇を背負っているせいでうまく隠してくれるから。
877 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:57
「まぁ、うん」
「ありがと」

「………」
「じゃあ私からも、プレゼント」

「え?!」
「ケーキ買ってきたの。一緒に、食べよう?」

「あたしと…?」
「うん。よっすぃーと食べたいなって思って」

「あの…」
「なに?」

「梨華ちゃんちに、上がっても、いいの?」
「うん、もちろん」


ごちそうなんて何もない。
プレゼントは用意できなかった。
あるのは暖かい部屋と、小さなケーキだけ。
878 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:57
「よっすぃー、紅茶でいい?」
「うん、ありがと」

「今、お湯沸かすからね」
「あのさ、梨華ちゃん…」

「ん?」
「………」


あたしと、ケーキを食べるって言うんなら。
どうして、家に帰ってきたの?
もしかして、それは他の誰かと…?
879 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:57
「何でもない」
「ヘンなのぉ」

「昔からですー」
「そうだったね」

「………」
「………」

「…やっぱり聞いていい?」
「何よぉ」

「その、ケーキさ」
「あぁ、これ?」

「誰か違う人とのために買ってきたんじゃないの?」
「なんで?」

「なんでって…」
「ヒドイなぁ、これはよっすぃーと食べるために買ってきたの!」

「ホントに?」
「ホントホント」

「じゃあさぁ、もし今日会えなかったらどうするつもりだったの?」
「……半分諦めてた、けど」

「?」
「もし会えなかったら、ひとりで食べようと思ってたの」


キッチンで小さくなってる梨華ちゃんに、そっと近寄って。
あたしは後ろから抱きしめた。
そんな、気を遣ってるふうな梨華ちゃんが、とってもいとしくて。
880 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:58
「梨華ちゃんに呼ばれたら、あたしは飛んでいくのに。」
「よっすぃ」

「いつでも、何時でも。」
「…うん…」


首をひねって、後ろ向いてあたしを見つめる梨華ちゃん。

あるのは暖かい部屋と、小さなケーキだけ。
あればいいのは、梨華ちゃんだけ。


そっと手に手を重ねて、梨華ちゃんに触れる。
梨華ちゃんは指を絡めて、きゅっと握った。

じんと梨華ちゃんの気持ちが伝わってきて。
一緒にいられて嬉しい気持ちが膨らんだ。

梨華ちゃんの首筋に鼻をうずめて。
もっとぎゅっと抱きしめると。
音のないこの部屋に、梨華ちゃんだけが広がった。
881 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:58
「…だいすき」
「よっすぃー」


「ダイスキだよ。梨華ちゃん」
「う、うん」




ピ―――――――――――――――――ッ




「………」
「……ふふッ…」

「あは、は…」
882 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:58
キスをしようとしたら。
ヤカンのお湯が沸いた音がして。
唇の触れ合う寸前で。止められた。

ビックリして目を開けたら。
同じ表情をしていた梨華ちゃんと目が合って。

照れくささでいっぱいになって。
小さく笑い合うしかなくて。

くしゃっと笑う梨華ちゃんの鼻の頭に。
あたしも苦笑いをして。自分の鼻をこすりつけた。


梨華ちゃんと過ごした、一晩は。
本当に来てよかったと思えるものだった。

真っ白なケーキを食べさせ合って。
梨華ちゃんの紅茶でほっこりして。
883 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 08:58
ソファにもたれて抱き寄せて。
軽く口付けると、思った以上に顔が赤くなった。

甘いキスに酔いしれて。
絡め合う舌にとまどう梨華ちゃんがかわいくて。

こんなに熱を帯びて、どうしようもなくなっちゃって。
それだけ梨華ちゃんが好きなんだと思うと、それだけしか言えなくなって。


『好き』を連発して。
甘いキスを何度もして。


一緒に毛布に包まって。
世界で一番優しい夜を過ごしたんだ。


884 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 09:07





885 名前:5年間 投稿日:2006/10/19(木) 09:07
更新しました。

>ゆらさま
ありがとうございます。プチリアルを目指してるので嬉しいです。

>nanasiさま
じらしているわけではないのですが、あと一息って距離感が好きなのでこんな感じになりました。
ありがとうございます。

>858 名無飼育さま
お待たせいたしました。期待を裏切らないように頑張ります。ありがとうございます。

>859 名無飼育さま
ありがとうございます。恋には障害がツキモノですよね(・∀・)

>860、861、862 名無飼育さま
大変お待たせ致しました。ありがとうございます。待って頂けて、むちゃくちゃ嬉しいです。

間空きすぎだろ!って怒られそうですが、やっとこさ一歩進みましたです。
夏過ぎて秋終わってクリスマスまで飛んでしまいました。
が、5年間は長い長いです。またふらっと更新するかもですが、ヨロシクお願いします。
886 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/19(木) 15:27
待ってたかいがありました
情景が浮かんでくるような...
ほのぼの系好きなんで
887 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/19(木) 23:03
お疲れ様です。
幸せそうな二人の顔が浮かんできました。
888 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/23(月) 18:12
待ってました!
二人の会話のテンポがよいです
889 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/14(木) 01:11
待ってます。
890 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/16(金) 23:48
ジーっと、待ってます。
891 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/22(日) 12:36
ずぅーっと待ってます。
892 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/23(月) 04:38
作者さーん
いしよし復活してますよー
起きてくださーい。

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