一期一会

1 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/17(木) 00:03
6期の誰かが多分主役の、短編の集まり(になる予定)です。
カップリングは6期内の田×亀・藤×道が多いかもしれません。
同じ趣味の方、よろしければお願い致します。
2 名前:◇こんなやつとへんなやつ◇ 投稿日:2005/11/17(木) 00:04
れーなの最初の印象は……なんか、怖そうだった。
だって、茶髪だったし。ピアスとか指輪、すっごいつけてたし。
垂れ目のくせに、目つき悪かったし。

初めて喋った印象は……なんか、偉そうだった。
だって、年下なのに最初からタメ口だったし。
絵里、年上なのに。お姉さんなのに。

なのになんでこんなやつ、好きになったんだろ。
こんなやつ、こんなやつ、こんなやつ。

3 名前:◇こんなやつとへんなやつ◇ 投稿日:2005/11/17(木) 00:04
「絵里、うざい」
「うぁ」

こんなやつと言いながら、えいえいとれーなのちっちゃい背中を指で突付いてたら、あっさりと言われてしまった。
言葉遣い悪いんだよ、れーなは。

「うざいとかひどい」
「ひどいとかうざい」
「……」
「……」
「………グスン」
「あーっ、うざいとか言い過ぎた。ごめん」

すぐ謝るくらいなら、言わないで欲しいよ。
いっつもそうだもん、れーなは。
学習してくれたらいいのに。
れーなは、頭悪い。

「ってか、なんね?」
「…何が?」
「背中突付いたやろ。しかも何回も」

だって突付きたかったからとか言ったら、やっぱり怒るかな。
怒るよね。だってれーな、短気だもん。

「絵里の相手してよぅ」
「さゆ呼べば」
「れーなに言ってんのぉ」
「そんな暇なんてなか」
「冷たい…」

冷たいよ、れーなは。
しかも今、そんな暇ないなんて言いながら、寝てたじゃん。
寝るのに一生懸命で、こんな可愛い絵里の相手をする暇ないとかなんて、ありえないよ。
4 名前:◇こんなやつとへんなやつ◇ 投稿日:2005/11/17(木) 00:05
れーなは絵里に対する愛が足りない」
「はっ?」
「さみしいよ」

かなしいよ、れーな。
言葉も、ぬくもりも、もっと欲しいんだよ絵里は。

「ねぇ、絵里の事好き?」
「………」

黙らないでよ、れーな。
不安になっちゃうよ。
自分の機嫌がいい時は、絵里にとってどうでも良い事、ベラベラ興奮して話すくせに。
自分勝手だよ、れーなは。

「い、言わんでも分かるやろ」
「分かんないもん」
「はあっ?」

そんな答え、ずるい。
絵里はそんなので納得なんてしないもん。
絵里は、れーなみたいに子供じゃないんだから。
ごまかされないよ。
5 名前:◇こんなやつとへんなやつ◇ 投稿日:2005/11/17(木) 00:05
「ちゃんと言って」

声に出して。
いっつもうるさいくせに、ここぞって時に何も言えないへたれなれーな。

「………」

目が泳いでるよ。
ほっぺた赤いよ、れーな。
恥ずかしがりやで、照れ屋なれーな。

「あー、いー、うー」
「えー、おー?」
「ちがうっ」
「…ウヘヘ」

なかなか言えないれーなをからかってみた。
ムキになって、すかさず否定された。

「じゃあ、言って?」
「っ…!」

あーあ、耳まで赤くなっちゃったよ。
なんだか、可愛いれーな。

「い、言おうとしてる前から笑うな!」
「絵里は元からこんな顔だよぉ」

……失礼なれーな。
6 名前:◇こんなやつとへんなやつ◇ 投稿日:2005/11/17(木) 00:06
他にも、色んなれーながいっぱい。
ぶきっちょなれーな。あまのじゃくなれーな。意地っぱりなれーな。甘えたれーな。

れーな。れーな。れーな。

なんだよぅ、こんなやつ。
そう思うけど。
こんなやつが好きな、へんなやつ。
それが、亀井絵里だったりするんです。

7 名前:◇こんなやつとへんなやつ◇ 投稿日:2005/11/17(木) 00:06

8 名前:◇こんなやつとへんなやつ◇ 投稿日:2005/11/17(木) 00:06

9 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/17(木) 00:08
>>2-6「こんなやつとへんなやつ」でした。
現実ではなかなか見れない組み合わせなわけですが、
妄想はいくらしたっていいじゃないかという事で許して頂けると…
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/17(木) 01:27
素敵でしたっ!6期絡みや田亀が大好きな自分なので、すごく嬉しかったです。
二人とも可愛くて微笑ましい雰囲気で♪
次回更新楽しみにしております。
11 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:35
学校からの帰り道。
れいなと絵里は手を繋いで、並木道を歩いてる。
ついさっきまで、絵里がちょろちょろとしていたのだが、今は余所見せずちゃんと前見て歩いているので、
れいなとしても引っ張られてよろめく心配がない。
でも、普通に歩いててもやっぱり顔は笑ってて口はアヒル口なんやねぇ…とどうでもいい事を思っていたら、

「あ、そーだ」

絵里が不意にこちらを向いた。
笑っていた顔は、意識的に真面目になっていて。
何か怒られそうな感じ。

「なん?」
「れーな、また先生に怒られてたでしょ」
「……えーと」
「ごまかしたってムダだからね。絵里知ってるもん」

れいなより1つ年上なので、教室の事は知らないはずの絵里に、
ご丁寧に、れいなと絵里の関係を知っている絵里のクラスメイトが教えてくれたのだ。
「あの子、職員室で先生に怒られたよ」と。
12 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:36
「今度は何したの?」
「なんもしとらんよ」
「はいウソぉー」
「ウソじゃないって、マジで! れいなは悪くないっちゃ!」
「…んんー?」

立ち止まって弁解する。
どうか絵里よ、れいなの話を聞いてくれ。

「れいなは普通にさゆと廊下歩いとったのに、前も見んも友達と喋りながら後ろから違うクラスの奴がぶつかって来たと。
けど謝りもせんと行こうとするから、『謝ってよ』って言ったら『はぁ?』とか向こうが言うけん、
ちょっとこう、頭キて………」
「…頭キて?」
「………すいません。肩を押した、正確に言うと突き飛ばしましたごめんなさい」
「うぁー、れーなやっちゃったぁ」
「けどそいつやり返してきて、こっちも負けんとやり返したら先生に見つかって…。
ってかなんでれいなだけ怒られんといかんと。あいつだけおとがめなしとか、マジむかつく」

覚えてろよ、と言葉が続くくらいの勢いのれいな。
熱い性格は結構だけど、そういう所には熱くならないで頂きたい。
13 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:36
「ダメだよ。友達とケンカなんてしちゃあ」

そんなれいなに、年上らしくお説教なんかしてみたり。
迫力がないのは仕方がない。

「分かった?」
「分かるも分からんも何も、あいつとは友達じゃなか」
「友達は大事にしなきゃダメだよ、うん。それでなくてもれーな、友達多くないのに」
「いや、やけんあいつとは友達じゃ…」

そう言うれいなの声は、絵里には聞こえていないようだ。
れいなの交友関係を、れいな以上に一生懸命考えている。

「友達がいなくなったら困るじゃん」
「…………別に」
「えー」

その言葉に、少しの意地や見栄はあった。
あったけど、れいなは――――
14 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:37
「……れいなには絵里がおれば、別にいい」
「え…」

立ち止まって、離れていた手をまた掴んで歩き出す。
少し早く歩きすぎたかなと思ったけど、すぐに絵里もれいなの歩調に合わせてくれた。

コツコツと、足音。
しばらく話さずそのまま黙っていたら、小さな声で絵里が言った。

「…………でも」
「ん?」
「…でも絵里は……友達じゃないよ」

れいなの言葉に小さい否定。
その否定は、れいなにとってとっても可愛くて。
絵里にバレないよう、少し頬を緩ませた。
伏し目がちの絵里はそんなれいなに気付かず、どこか落ち込んだ様子でさっきの続き。

「…絵里は…絵里は、れーなの友達じゃなくて……」
「――恋人」
「ふぇっ?」
「やろ?」

2人の関係。
先輩後輩でもなく、友達でもなく。
そう、恋人。

「へへ…うんっ」
15 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:37
ウヘヘヘヘ、と頬の緩みきった笑み。
そうだ、絵里はれいなの恋人なのだ。

「ね、れーな」
「?」
「繋ぎ方、変えよ」
「は?」
「手、繋ぎ方、変える」
「……」

なぜ聞き返したらカタコト言葉になる、そう突っ込みたかったのだが。
既に絵里はせっかくれいなが繋いだ手を離して、こちらに手のひらを見せて出していたので、
れいなも同じように絵里の真似。
真似した途端、れいなの左手に絵里の右手が乗せられた。
手のひらと手のひらが合わさって、2人の指が絡み合う。
そのまま手は降ろされて、絵里のれいなの2人の間に収まる。
16 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:38
「恋人繋ぎぃ〜。んふふぅ」
「…べ、別に前のでもよかったやん」
「ダメだよ! だって絵里達は友達じゃなくて恋人同士なんだもん」
「けど、恋人同士じゃなくてもやってる人は…」
「そーいうのは言わないお約束なんです」
「はい…」

絡み合った手にギュッと力を入れられた。痛い…。
余計な事は言うな、そういう事だ。

「……寒いっちゃね」
「そだね。でも、れーなの手、汗ばんでるよ?」
「…」
「やっぱり絵里を好きだから? 絵里を意識しちゃってるから?」
「そーいうのは言わないお約束!」
「そんなお約束なんかないもん」
「こ、このっ…」

そんなのって、アリ?
素直に「はい」って頷いたれいながバカみたいじゃないか。
17 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:39
「それかられーな、寒いからってスカートの中にジャージ履くのとかやめなよぉ」
「だって寒い」

ヒラヒラするし。風ですぐめくれるし。
ズボンの男子が羨ましく感じる。

「それだったらさぁ、スカート短くするんじゃなくて、長くしたらいいんだよ。
ほら、昔の女の不良の人がやってたやつ。スケバン…? なんかそんな感じ。いいじゃん、れーな似合いそう!」
「アホ」
「ぃったーい!」

何すんのよぅ、と、脳みそが詰まっているのか見てみたい頭を押さえて。
さっき、れいなにはたかれたのだ。
パチコンと、それはそれはいい音がした。
絵里の抗議は無視して、れいなはなんだか満足げ。
18 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:39
「ちょっとれーなっ、聞いてる?!」
「聞いてない」
「返事するって事は聞いてんじゃん!!」
「聞いてない聞いてない」

寒くなってきた今日この頃。
恋人同士の2人は、恋人同士っぽくない会話をしながら、恋人繋ぎで帰ってく。
19 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:39

20 名前:◇2人は恋人◇ 投稿日:2005/11/17(木) 15:39

21 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/17(木) 15:42
>>11-18「2人は恋人」でした。
>>15の1番最後「絵里のれいなの」は「絵里とれいなの」の間違いですすいません…

>>10
ありがとうございます。
最初は時間が空いた時、後々はゆっくり更新となりそうですが、また覗いて下さると嬉しいです。
22 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:02

年の差ってやつは、厄介だ。
同じクラスにはなれないし、一緒にテスト勉強して教えあいっこも出来ないし、何より、今あなたがどこで何をしているかが分からない。
23 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:02
「つらいの…」
「分かる。れいなには分かる」

机に上半身を預けるように突っ伏した形のさゆみの前には、れいな。
さゆみの前は自分の席ではないけれど、まるで自分の席のように椅子の上であぐらをかいでくつろいでいる。

「同級生の話とかされても分からんしね」

うんうん1人で頷きながら。
だがさゆみは頷かず、なんだか不貞腐れた顔で元の姿勢に戻った。

「れーなはいいじゃん、まだ」
「え、なんで」
「だって、同じ学校内にいるでしょ」

お昼ご飯何食べたんだろう、愛しいあの人が。

「さゆみの場合、同じ学校ですらないんですけど」
「あー……」

相手との年の差1つのれいなと、年の差5つのさゆみ。
れいなと相手は同じ高校生になるけれど、さゆみの場合は、高校生と大学生になるのだ。
その差は、大きい。
24 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:03
「一緒に登校とか、不可能だし」
「う…」
「お昼一緒に食べるとか、不可能だし」
「うぅ…」
「一緒に帰ろうってお誘いがかかるとか、不可能だし」
「うぅぅ…」

さゆみにとっては不可能な事が可能なれいなにとって、何と言っていいか分からず言葉を詰まらせるだけ。
現に今日も一緒に登校しお昼も一緒に食べた。
帰りも迎えに来るとまで約束がある。
そんなれいなが、さゆみに何を言えるというのだ。

「やっ、け、けど、れいなだってあと2年したら、高校生と大学生になるしっ」
「あと2年したら、さゆみの場合は、高校生と社会人になっちゃうの…」
「うぅぅぅ………」
「いいよね、れーなは……」
「い、いや…」

そうでもないんだけど、これが。
さゆみが言ったように、同じクラスにはなれないし、
れいなはまだ習っていないんだから勉強の教えあいっこは出来ないし、今だって誰と何してるか知らないし。
けれど、さゆみと比べたら…。
25 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:04

「れーなぁー、かえろー」

ほら、こうしてHRを終えて、愛しいあの人が1年の教室まで迎えに来てくれる。
さゆみの愛しいあの人がこの学校に来たら、この教室に来る前にまず職員室行きだ。
いや、ひょっとしたら警察署行きかも。だって、目つき悪いし。
不審者に間違えられる可能性もなきにしもあらず、だ。
…とまあ、そんなことは置いといて。

「ほられーな、愛しいあの子のお迎えだよ」
「う、うん」
「早く行ってあげないと、また拗ねちゃうよ?」
「けど…さゆは? 一緒に帰らんと?」
「邪魔しちゃうと馬に蹴られて死んじゃうの」

そんな事本気で思っちゃいないけど、あんまり気分が乗らなかったから。
だから、また机に伏せながら手を振った。

「ばいばい、また明日」
「…うん」

あぐらをかいてた足は下ろされて、前の席が空いた。
椅子は引かれたまま。
元に戻すという事は、大雑把なれいなはしなかった。

だけど、これだけは言いたかった。
26 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:04
「…あのさぁ、さゆ」
「……んー?」

左の頬は、冷たい机につけたまま、右側だけをれいなに向けて。
なんだろう、珍しく(と言ったられいなは怒るだろうけど)優しく笑っているれいな。

「そう思ってんの、さゆだけやないと思う」
「?」
「つらいって思ってんのは、さっきも言ったけどれいなもそうやし」

どうしようもない年の差。

「やけん、大丈夫」
「……」

やけん、何がどう大丈夫なのか、その続きは聞けなかった。
というか、言わなかった。
れいなは、廊下に待たせたままの、愛しいあの人の所に行ったから。
「おそーい」なんて言われて、謝ってる。
27 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:05

「…意味分かんないの…」

顔の良さには自信はあるが、頭の良さには自信がない。
だから、れいなの言っている意味が分からなかった。
そんなさゆみのもとに、個別設定された着信音。

「!!」

慌ててブレザーのポケットから携帯を開いて、切れる前に通話ボタンを押す。
顔は見えないのに、思わず前髪が乱れてないか手で触ってしまった。

「も、もしもしっ」
『もしもーし。シゲさん?』
「はいっ」
『今何してた?』
「今ですか? 今は…」
28 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:05


愛しい、あの人。

つらいのは、逢いたいのは、声が聴きたいのは、どちらも同じ。

だから、大丈夫。
年は離れているけど、気持ちはちゃんと繋がっているのだから――――

29 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:06

30 名前:◇愛しいあの人◇ 投稿日:2005/11/19(土) 00:06

31 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/19(土) 00:07
>>22-28「愛しいあの人」でした。
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 11:39
超いいっす。
6期最高。
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 13:48
田亀はたまに見るけど、藤道は少ないんで嬉しいです
自分も6期大好きです
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 19:12
藤道だいすきです。可愛いお話すごくよかったです。
35 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 11:59
『藤本さんのせいなんですからね!』
「……意味分かんないんだけど」

もう勘弁してよ。美貴、寝たいんだけど。
それなのに、美貴の彼女のシゲさんのお友達の亀井絵里って子は、さっきからずっと怒ってる。
このまま通話を切ってしまうのも一種の手だったけど、それをしたらきっと今以上に怒られると思ったからしなかった。
反対に怒鳴り返すっていう方法もあるけど、相手はシゲさんの友達。
口喧嘩も腕っぷしの喧嘩も明らかに美貴の方が勝つと思うけど、友達を泣かしたらシゲさんに怒られるので、それもしなかった。
じゃあ、残された美貴が取れる方法。
ただ黙って、この子の怒りの原因が何なのか聞いて、対処するだけ。
36 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:01
「何怒ってんの、さっきから」
『さっきからじゃないですもん! 絵里はねぇ、言わなかっただけで、もうそれはそれはかなり前から怒ってたんですぅ!』
「あぁ、そう…」
『藤本さんのせいなんですから、そんな他人事みたいな返事しないで下さいよ!』
「だから、なんで美貴のせいなんだっつーの」

藤本さんのせいはもう聞き飽きた。
いいかげん、その理由を教えて欲しい。

『だってだって……さゆ、絵里と遊んでくれない…』
「はぁ?」

何その子供みたいな理由。
…ん? あぁ、そういえばこの子、まだ子供だっけ…。

『さゆ、絵里が誘っても、藤本さんと約束があるのとか言って、全然絵里に付き合ってくれないんです…』
「だからってなんで美貴のせいよ」
『藤本さんのせいじゃないですかぁ! 絵里からさゆ取った!』
「取ったってアンタ…」

そんな人聞き悪い事をよくもまあ、そんな大声で言ってくれたもんだ。
略奪愛みたいな言い方されてるけど、それは大間違い。
37 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:02
「そもそもさぁ、最初にえりえりがれいなの事ばっかシゲさんに言うからじゃん」
『…えー?』
「『絵里がれーなれーなうるさいんです』って、シゲさんがれいなの姉貴のこの美貴に愚痴言うようになったからだよ?
で、いつのまにか愚痴じゃなくて、美貴とシゲさんの間に愛が生まれた…みたいな」
『む…っ』
「だから、えりえりのせいだと美貴は思うんだけど」

えりえりがシゲさんにれいなの事ばっか言わなければ、美貴が愚痴を聞く事なかったわけだし。
そもそもの原因は、今美貴のせいにしてる人だと、思った事そのまま言ったら、また怒鳴られた。

『ちがうもんちがうもんちがうもん! 藤本さんがさゆ誘惑したせいだもん!!! うぇーん!!!!』

…挙げ句、泣かれた。
そして、切られた。

……………何?
38 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:02
呆然としている美貴に向かって、また携帯が。
うんざりしながら見てみたら、そこには【亀井絵里】って表示ではなく、美貴の可愛い彼女の名前。

「おーシゲさん」
『藤本さん?』
「美貴だよ。声で分かんない?」
『分かりますよぉ』
「へへ」

あー、なんか顔がにやける。
やっばい、声すら可愛いってどういうこと?
こんな美貴の顔、親にもれいなにも見せれないな、マジで…。

「で、どしたの?」
『あのね、明日逢いたいの…』
「明日…」

明日は日曜。美貴は特に予定はない。
だからいいよ、と返事しようとしたけど、さっきの電話を思い出す。
39 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:03
「あーシゲさん?」
『はい?』
「明日さ、美貴とじゃなくて、えりえりと遊んだげてよ。あの子うるさいんだよ」
『絵里?』
「さっき電話かかってきてさぁ、美貴のせいでシゲさんが自分と遊んでくれなくなったって」
『えーっ! そんなこと藤本さんに言ったんですかぁ?』
「超怒られたんだけど、美貴。なんか泣きそう」
『!! 絵里ひどい!』

だから慰めて、なんて、日頃皆に怖いって言われてる顔からは想像つかない可愛い事を言おうとしたのに。
それより先に、実は美貴よりも姉御肌なシゲさんが『じゃあさゆみが藤本さんの仇取ります!』とか言って、これまた一方的に電話を切られた。

「………やばい」

ものすんごく、ヤな予感。
40 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:03
15分後。ヤな予感は的中。
携帯の着信画面には、【亀井絵里】。

あぁ…どうしよっかなぁ…やっぱ出ないといけないかなぁ。
出たくないんだけどなぁ…。
出ても言われる事、予想ついてるんだけどなぁ…。
やだなぁ…やだなぁ…はぁ。

しょうがない。
通話ボタンを押して、耳から少し離してえりえりの第一声を待つ。
そしたら、予想通り大きな声で、こんな事。

『うえーん!!! 藤本さんのせいでさゆに怒られたぁーーーーっ!』

――やっぱり美貴のせいですか、そうですか。
41 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:04
それから、鼻声でぐずぐずで、舌っ足らずで何言ってるか分かんないのが悪化しているえりえりの気が済むまで怒られた。
藤本さんのせい、それが大半だったけど。
シゲさん、どんな風に仇を討ってくれたのよ………なんか、余計悪化しちゃったんですけど。

くそぅ。
あー、なんかムカついてきたぞ。
なんで美貴が黙って怒られなきゃいけないのさ。
そうだよ、なんで美貴が。
そもそもなんで、こんな事に。

シゲさんがえりえりと遊ばなくなったのは美貴のせい。
シゲさんが美貴に愚痴を言っていたのはえりえりのせい。
えりえりがれーなれーなばっかり言うのは………

「そうだ!」
42 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:04
原因が分かった美貴はすぐさま行動に移る。
移るといっても、すぐ隣の部屋に移っただけだけど。
そこには、呑気に自分の部屋でテレビを見てゲラゲラ笑っているれいな。

「あ、美貴ねえ。見てこれ、面白いよ」

この楽しさを姉妹で分け合おうっていうわけですか。
でも美貴はそんな気分じゃない。

「ねえイライラする」
「は? なんで?」
「すべてれいなのせいだからだよ!」
「ぐはぁっ?!」

お母さん直伝の飛び蹴りを、我が妹に。
細くて軽いれいなは、見事に吹き飛ばされた。

よし、これでいい。
43 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:05


次の日、飛び蹴りのダメージが思ったより深刻だったようで、しばらく学校に行けなかったれいな。
えりえりだけでなく、お母さんやお父さん、しかもシゲさんにまで美貴のせいと言われてしまった。

くそっ……グレてやる………。





44 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:05

45 名前:◇これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/11/20(日) 12:05

46 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/20(日) 12:09
>>35-43「これって誰のせい?」でした。
言い忘れていましたが、リアルであんまり絡みがないカップリングですので、
基本、ここではアンリアルの話ばかりになると思います。

>>32さん
超ありがとうございます。6期最高!…とか言いつつ推しになったのは最近だったりします…

>>33さん
自分は数少ない藤道を読ませて頂いてハマりました。
自分も6期大好きです。でも推しになったのは最近(ry

>>34さん
藤道の感想ありがとうございます。嬉しいです。
47 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:01

今日はデートなんです。
おめかしする日なんです。
1番可愛くなきゃいけない日なんです。

藤本さんに、逢える日なんです。

48 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:01
駅前の噴水広場の前にあるベンチに腰掛ける。
寒くてたまらないこの季節のベンチは冷たくて、座るのにちょっと勇気がいった。
駅から藤本さんが出て来るのを見るには、この場所が1番いい。
藤本さんも、真っ先にあたしを見つけてくれる。
待ち合わせの時間の30分前に来て、わたしの心は早くもドキドキワクワクしているの。

ふわふわの白いコート。
ホントはピンクがよかったんだけど、藤本さんが白も似合うって言ってくれたから。
下は、寒いけど頑張ってミニスカート。
スカートとブーツの間の素肌の部分が、すんごく寒い。
それでも、藤本さんに可愛いって言って欲しいから。
可愛らしいわたしの、可愛い乙女心。
49 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:02
髪の毛、乱れてないかな。
メイク、崩れてないかな。
今日のわたしも可愛いかな。

愛用の鏡を出して、確かめる。
うん、大丈夫。
今日は、ちゃんといつも以上に可愛い。
そして、藤本さんに「可愛い」って言ってもらって、わたしはもっと可愛くなれるの。

早く逢いたい。
メールや電話じゃなくて、直接お話したい。
いっぱい話したい事が、言いたい事があるの。
藤本さんに、聞いて欲しいの。
わたしの事、もっともっと知って欲しいの。
50 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:02
もうすぐで、10分前。
だらしなさそうに見えて意外ときっちりしている藤本さん。
デートの待ち合わせに遅れて来た事は、1回もないの。
どこかの絵里みたいに、7時間も遅れて来るなんて、ありえないの。
だけど、もし藤本さんが7時間遅れたとしたら、わたし、きっと待っちゃうんだろうなぁ……なんて、乙女なわたしも可愛いの。

その前に、もう1回だけ鏡のチェック。
自信がないわけじゃないの。
だけど、やっぱり気になるの。

冷たい風で、少しだけ乱れていた前髪を鏡を見ながら直してた、その時。

「お待たせ」

きっちり10分前。
藤本さんの声が、聞こえた。
51 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:02
「ふじも…」

とさん、そう続けようとしたんだけど、顔を上げたらそこには藤本さんが見えなくて。
…ううん。違うの。
藤本さんは目の前にいるんだけど、藤本さんの顔が見えないの。
首だけじゃなくって、口や鼻までも隠した分厚いマフラーと、目まで隠れそうなニットの帽子を被っていたから。

「ど、どうしたんですか、その格好…」
「寒いから」
「そりゃ寒いですけど…」

なんだか藤本さん、ぽっちゃりしちゃってるし。
一体どれだけ着てるの? 細い身体じゃなくなってる。
肌の露出は、ホントに目と少しの頬だけしかなくて。

これからもっと寒くなったら、どうするんだろう?
どうしよう、目出し帽とか被られて来られたら。
水族館に連れてってくれるはずなのに、銀行強盗の後、警察署に連れて行かれたりして。

人一倍寒がりな、藤本さん。
でもだからって、何もここまで…。
52 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:03
「っていうかさ、シゲさんこそその格好どーしたの」
「え? さゆみですか…?」
「このクソ寒いのに、超ミニじゃん」
「………」

見てるだけで寒いよ、って。
…分かってない。分かってないの、藤本さん。
わたしの事、分かってくれてないの、藤本さん。

「…藤本さん、好きって言ったの…」
「えっ?」
「ミニ…」

なんかえっちな事したくなる、って。
恥ずかしかったけど、だけど、嬉しかったの。
今日だって寒いけど、頑張ったの。
そんな怪訝そうな顔じゃなくて、優しい笑顔で「可愛い」って言って欲しかったの。
53 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:03
「……ごめん」
「もういいです…」
「ごめんってば」
「もういいんですってば」

だから早く行きましょう。
怒ってるけど。だけど、別れたくないし。
だからもう、いいの。
藤本さんの言う通り、寒いし。

「ねぇシゲさん」
「…」
「ねぇねぇ」
「…」
「ねぇ、さゆってば」
「っ…………」
54 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:04
「うわ。恥ずかしいのに頑張って名前呼んだんだから、その時くらい返事してよマジで」
「ふ、藤本さん…」

今、さゆって。
わたしの事、名前で。

「ごめんね…美貴の言った事覚えてて、寒いのにそれ着て来てくれたんだよね」
「…」
「うん、やっぱ可愛い。けど美貴、美貴のせいでシゲさんが風邪ひいたらヤだよ。
だから別に、ミニなんて穿かなくていいんだからね? あ、でも、その、家で遊ぶ時は穿いてて欲しいけど…って、何言ってんの…」

言って欲しかった言葉。
可愛い。可愛い。可愛い。

嬉しいの。嬉しいけど…
55 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:05
「藤本さん」
「ん?」
「……今は、『可愛い』より、名前を言って?」

そしたらわたしは、とびきり可愛くなれるから。
どうしたらいいか分からない程、嬉しくなれるから。
おかしくなる位、藤本さんをもっと好きになれるから。
だから、あなたのその可愛い甘い優しい声で。

「………さゆ」

可愛いわたしの可愛い名前。
こんなにも、愛しいものだったなんて。

可愛いとか、好きと言われるより、嬉しい言葉があるなんて。
わたし、分かってなかったの。
56 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:05
わたしの事、まだまだ分かってくれない藤本さん。
だけど、わたしに色んな事を分からせてくれるのも、藤本さん。

あのね、藤本さん。
わたし、こんなに藤本さんの事が――――。

藤本さんは、分かってくれてるかな?
その答えは、わたしだけが分かってたら、いいよね。
みんなには内緒。言いたいけど、うん、内緒。
藤本さんは、皆の前で平気で鼻をかんだりしたりするけど、こういう事は恥ずかしがり屋な人だから。
だから、わたし達だけの、秘密。
57 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:05
「ねぇさゆ、どこ行こう?」
「鏡と藤本さんさえいれば、どこでもいいの」
「そっかそっか、やっぱ可愛いなぁさゆは…って、美貴だけじゃなくて、鏡もいるのかよ! しかも鏡の方が先だし!」
「鏡に妬かないの」
「どうせ妬くなら、物じゃなくて人に妬かせてよ!」

…でも藤本さん、ちょっとうるさいの。
そう思ったのは、内緒。
わたしだけの、秘密。

「ねぇ藤本さん」
「んー?」
「寒いなら、もっとくっついてもいいですか?」
「嫌だって言ってもくっつくでしょ」
「藤本さんは、嫌だって言わないもん。だって、さゆみを好きだから」
「そうだね。寒いし好きだから、嫌だなんて言わないよ」
「えへへ」

いっぱい着すぎてもこもこしてる藤本さんの腕に抱きついて、笑う。
今日は、デート日和。
藤本さんにくっつけれる、デート日和。

58 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:05

59 名前:◇よしっ、デート日和。◇ 投稿日:2005/11/21(月) 21:05

60 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/21(月) 21:06
>>47-57「よしっ、デート日和。」でした。
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/22(火) 00:38
藤道もいいなって思えるような感じでした!
いや、実際ハマりそうですw
登場するみんなが可愛くて仕方ないw
62 名前:◇君が好き◇ 投稿日:2005/11/22(火) 14:41
「絵里、また髪切った?」
「んー、うん」
「ふぅん…」

どちらかというと、サラサラよりふんわりとした絵里の髪質。
程よく明るい色に染まった髪。
長くて黒かった髪の頃の名残は、まったくない。

適当なところに指を差し込んで、そのまま指を流す動作が好きだったのだけど。
今はもう差し込んだら、すぐに空を切ってしまって、なんだか物足りない。

「髪切った絵里も、可愛いもん」
「うん」

言われなくても分かってる。

「…てか、なん。ほっぺた膨らませて」
「……べつにぃ〜」

いっぱいに空気が入った頬を突付くと、プイッと逸らす顔。
別に、では済ませないくらい怒っている。
63 名前:◇君が好き◇ 投稿日:2005/11/22(火) 14:41
短い髪が嫌いなんじゃない。
ただちょっと、寂しかっただけだ。
長かった頃、いつもいつもいつも、していたから。
じゃあ長い自分の髪ですればいいと思うが、自分の髪でしたって、全然気持ち良くなかった。

「もう、伸ばさんの?」
「…伸ばして欲しいの?」
「れいなが伸ばしてって言ったら、伸ばすん?」
「………」

じっとれいなの目を見ていた顔が俯いた。
考えているんだろうか、絵里は何も言わない。
まあ、伸ばせと言ったところで前と同じ長さになるには、かなりの時間がかかるだろう。
64 名前:◇君が好き◇ 投稿日:2005/11/22(火) 14:42
「…絵里、短くしたの初めてだけど、気に入ってるもん」
「うん」
「シャンプーとか、ほんとにちょっとでいいし。髪乾かす時間も、すっごい早いし」
「へえ」
「だから、当分は今のままのがいい」
「そっか」

という事は、伸ばさない、そういう事。

「でもれーなは、ちゃんと絵里を好きでいなきゃダメ」

髪が短くたって髪の色が変わったって、ちゃんと。
口を尖らせて言う姿は可愛いけれど、これは命令である。

「…むー。返事がないんだけど」
「え?」
「ちゃんと、絵里を好きでいなきゃダメっていう、返事」

服の袖を引っ張られた。
上目遣いの瞳がれいなを責めている。
普段は絵里の方が幾分か高いせいで、上目遣いはそうお目にはかかれない。
65 名前:◇君が好き◇ 投稿日:2005/11/22(火) 14:42
「好きやけん、こうして一緒におるんやん」
「そうだけどぉ」
「…絵里の髪、いい匂いする」

まとめて掴んでさらさらと落とすと、そこから香るいい匂い。
それは、髪が長かった頃から変わっていない。
不貞腐れた絵里の機嫌を少しでも逸らそうと、流れと関係ない事を口にする。
けど、いい匂いと思ったのは本当だ。

「わ、れ、れーな…」

抱き締めて頬に摺り寄せるようにすると、額に当たる気持ちいい髪の感触も変わっていない。
女の子らしい可愛い声も。
舌っ足らずな喋り方も。
あったかさも。
唇の甘さも。
れいなを、好きな気持ちも。
髪型や色が変わっても、それさえ変わらなければ、れいなはずっと好きでいれる。
66 名前:◇君が好き◇ 投稿日:2005/11/22(火) 14:42
「やけん絵里も、れいなをちゃんと好きでおって…」

ぎゅう。
力を入れすぎたのが悪かったのか、そう言ったれいなの腕から絵里が抜け出した。
そして。

「それは任せてよ」

――えっへん、胸を張られた。
67 名前:◇君が好き◇ 投稿日:2005/11/22(火) 14:43
「だって、最初っから悪いとこばっかのれーなが好きなんだよ? 今更何されたって何言われたって、可愛いもんだよ」
「…最初っから悪いとこばっかとか……ほんっと、絵里は一言多い!」
「えーっ?」
「この、バカ」

そこは変わって欲しいかも、そう思ったが、そこが変わってしまうと絵里が絵里でなくなるので、やっぱりやめた。

「れーなは絵里の事、バカバカ言い過ぎぃ〜っ」
「バカバカバカバカバカバカ」
「言い過ぎにも程があるよ!」
「ひひひ」

基本的に絵里は可愛い。
根本的に絵里はバカ。
れいな的に、そんな絵里が好き。
68 名前:◇君が好き◇ 投稿日:2005/11/22(火) 14:43

69 名前:◇君が好き◇ 投稿日:2005/11/22(火) 14:43

70 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/22(火) 14:45
>>62-67「君が好き」でした。

>>61さん
是非ハマって、藤道仲間にw
登場するみんな可愛いと言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます。
71 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:18
放課後の図書室の窓際に座っている、小柄な女の子。
視線は外のグラウンド。
そこから動く様子はない。

そこに、静かにやって来るつもりだったが、開いた図書室のドアがガラガラと音を立てたので、
静かではなくうるさくやって来てしまった、平均身長よりやや高い女の子。

「れーな、やっぱりここにいた」
「……さゆ」
「また…見てたの?」

グラウンド。
さゆと呼ばれた女の子も、れーなと呼ばれた女の子と同じ方向に目を向ける。
そこには、サッカー部・陸上部・ソフトボール部と運動部が活動していて。
れーなが見ていた先は、陸上部だった。
72 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:19
「今日もいるの?」
「うん」
「って、いなかったら今ここにいないよね」
「……」

返事はない。
ないという事は、今、さゆが言ったその通りだった。

れーなは、陸上部を見ていたんじゃない。
陸上部員の、ある1人をただ見つめていたのだから。
その人がいなければ、自分は今ここにはいない。

「…3年さぁ、こないだ引退したらしくて、さ」
「うん?」

椅子をれーなの横に持って来て座ったら、ぽつりと横から話し声。
視線は変わらず陸上部に向けたまま。
さゆは、れーなに向き直して。
73 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:19
「あの人、副キャプテンになったらしい」
「へー」

れーなが見ている人は、2年生。
陸上部で、短距離選手で、エースで。
そしてそこに、3年生が引退してから副キャプテンが追加された。

「でもなんでそんなこと、れーなが知ってるの?」
「…違うクラスの陸上部の子が話してるの、聞こえたけん」
「盗み聞きはいけないんだぁ〜」
「ちっ、ちがっ」

茶化すように言ったら、やっとさゆの方を見たれーな。
その顔は焦っている。

「おっきい声で話してたあっちが悪いと! れいなは悪くない!」

どこかの訛りがある言葉で、必死に自分の罪はないと訴える。
最初はそんなれーなに笑ってはいたが、段々とその笑顔は消え、さゆの顔は真面目になった。
74 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:20
「…さゆ…?」

珍しいそんなさゆを不思議に思ったのか、若干首を傾げて名前を呼ぶ。
茶化しはしない。笑わない。
今までずっと、あえて言わなかった事を、今言う為に。

「直接、聞いたらいいじゃん」
「…」
「盗み聞きなんかしないで、直接、本人に」

手を伸ばしても届かない距離じゃない。
だって、ほら、窓の外から見えてるのに。
テレビや漫画の中でしか存在しない人間じゃない。
だって、ほら、今目の前で一生懸命走っているのに。

「そ、そんなん、全然知らん後輩にいきなり聞かれても困るやろ」
「だったら、陸上部に入ればいいじゃん。そしたら嫌でも知られるし」
「…れいな足遅いけん、無理」
「じゃあれーなは、どうしたいの?」

授業が終われば、ほぼ毎日ここに来て。
18時に図書委員によって閉められるその時まで、見つめて。
何の進展もない、こんなのじゃ。
75 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:20
「別に………どうしたいとか……ただ、見れたらそれで……」
「じゃあもし、あの人が陸上部辞めたらどうするの」
「っ」
「れーな、もう見れなくなるよ?」
「や、辞めんよ。副キャプテンになったし、短距離のエースやし」
「あの人と喋った事ないれーなに、そんなのわかんないじゃん」
「…………」

キツイのには気付いてた。
気が強そうな外見とは違って、れーなは弱いと、さゆは知っていたから。
知っていたけど、一度口に出してしまった以上、止まらなかった。

「ほっといてよ…もう」
「ほっとけないよ」

友達なんだ。
見れたらそれでいいと言っているくせに、全然満足出来ていないのを、誰よりも分かっている。
本当は直接本人と喋りたいのに。
76 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:21
「…………れーなの意気地なし」
「……」
「なんで、何も言い返さないの」
「…だって、その通りやけん」
「分かってるんだったら…」
「すいませーん、もう閉めるんですけど」
「あ…」

図書委員らしい女の子に言われて気付く。
図書室にいれる時間は終わり。
れーなが新副キャプテンを見れる時間は、今日は終わり。

「さゆ、もう部活終わりなんちゃろ?」
「え、あ…うん」
「じゃあ一緒に帰ろ」
「うん…」

さっきの事がまるでなかったかのように接する、普通のれーな。
さゆだって一緒に帰るつもりでここにやって来たのだ。
あそこまで言うつもりはなかった。
だからこのまま、もうそれには触れないで、れーなのようになかった事にするのもいいかもしれない。
77 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:21
最後にもう一度チラリと陸上部の方を見て、名残惜しそうに先に歩き出して出て行くれーな。
さゆもそれについて行こうとして、鞄を椅子の横に置いていた事を思い出した。
踵を返して椅子の横から鞄を拾いあげて、ふと、グラウンドを見たら。

「あ……」

そこには、図書室を出て行く時のれーなと同じ顔でこちらを見ていた、陸上部の新副キャプテン。
さゆと目が合うとすぐに逸らされ、走ってスタート位置に戻って行く。

なんで、れーなが見ている時に見ないんだろう。
18時にいなくなるのを知っていて、そんなに名残惜しそうに見つめるなら、それまでに見つめたらいいのに。
ちょっと勇気を出すだけで、きっと2人は幸せになれるのに。
78 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:21
「あのー、すいません…閉めたいんですけど」
「…あ、ごめんなさい…」

きっと、あの人は部活を辞めない。
辞めたら、れーなを見れなくなるから。

あの人の事をれーな以上に何も知らないさゆだったけど、それは分かった。
そして、もう1つ。

「………意気地なし」

あの人も、また。

意気地なし同士のこの想いは、一体いつまで続くのか。
どちらが勇気を出すのか、出さないのか。
79 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:22
「さゆー、早くー」
「うん」

何もなかったように急かすれーな。
何もなかったようにまた練習に没頭するあの人。

そんな2人を、もう少し見守ろうとさゆは決めた。
同じく何もなかったようにれいなの元に駆けつけ、そして、いつも通り。

「学校でのさゆみも、やっぱり可愛かったの」
「あーはいはい」

どうか、意気地なしの2人が、さゆのおせっかいなく、自ら勇気を出してくれる事を願って――――。

80 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:22

81 名前:◇意気地なしの恋◇ 投稿日:2005/11/23(水) 17:22

82 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/23(水) 17:22
>>71-79「意気地なしの恋」でした。
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/23(水) 20:18
やばい!!
もう胸がキュンキュンしすぎて
キュン死にしそうです(死
これからも頑張って下さい!!
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/23(水) 22:55
萌えました
85 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/24(木) 01:12
ぐぁっ!あと一歩踏み出さない二人がもどかしい!
そしてそれをあえて見守る彼女の優しさが伝わりました。
やはり作者さんの文章にはすごく惹かれますw
86 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/24(木) 09:14
初レスさせていただきます。作者様と同じ趣味の者です(w
藤道はあまり読んだことがなかったのですが、見事にはまりました。食後のアイスクリーム(謎)みたいな爽やかさが好きです。
これからも期待してます。
87 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 14:57
満員電車が好きな女の子って、いるんだろうか?
少なくとも、今年の高校入学から電車通学をする事になった田中れいなは大嫌いだった。

幸いにもれいなの家からの最寄の駅は、終点でもあり始点もある事から、ぎゅうぎゅうに詰められる事なく座席に座る事が出来る。
けれど、座っているれいなの前にはびっちりとはいかないが、人、人、人。
見るだけでうんざりだ。
女性専用車両がないこの電車は、サラリーマンからOL、れいなと同じ学生まで様々である。
ラッシュの時間帯からは少しずれているので、身動きが取れない程ではないにしろ、
れいなはまだ座っているからいいものの、女の人は本当に大変だと思う。
カーブや停車する度に電車は揺れるし、次々と人が入ってくるし。
その中で、今日もれいなが目にする女の子がいた。
名前は知らない。
制服も、れいなと同じではない。降りる駅は、れいなより2つ前。
乗り込む車両がいつも同じで、れいなはいつも彼女を見ていた。
88 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 14:57
最初、初めて見た時、彼女の髪は黒くて長かった。
それがいつの間にか、気付いたら茶色くなってて短くなっていた。
髪を切って染めた事なんて勿論知らなかったれいなは、しばらくずっと彼女を捜していた。
もしかして、乗る車両変えたのかも、とか。
いつもいつも周りをサラリーマンに囲まれて、押されて小さくなっていた彼女。
嫌気が差して、電車通学を辞めたのかもしれない。

いつも視界に入っていた人がいなくなったくらいで、なぜこんなに悲しいのか。
それまでは何気なくだったのに、いないと気になって。
いつも、長くて黒い髪を目印に捜していたので、顔がちらりと見えて気付けたのには嬉しかった。
そっか、髪切って染めたから気付かなかったんだ、と。
彼女は相変わらずれいなと同じ車両で、電車通学で。
相変わらず満員電車の中立って、サラリーマンに囲まれて押されて小さくなっていた。
89 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 14:58
恋なんだろう、これは。
どうして彼女なのか、どうして好きになったのか、れいな自身にも分からなかった。
けれど、彼女が乗り込んでくると駅に着くと嬉しくて、彼女が降りる駅になると悲しかったから。
そう自分の気持ちに気付いてからは、憂鬱だった満員電車も少し楽しくなった。
近いようで遠いこの距離、見つめる事しか出来ないけれど。
90 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 14:58
今日も、こっそりと人と人の間に挟まっている彼女を見やる。
残念ながら今日の彼女はれいなに背を向けている形で立っていて、顔が見れない。
その彼女の横に、ぴったりとくっついているスーツを着た男性。
大体大きな駅は過ぎ、少しは車内にもスペースが出来たというのに。

「…?」

様子が変だ。
彼女の肩がビクンと震え、身を縮めた。
肩から下に視線を落とすと、隣の男性の手が、彼女の短いスカートから覗くふとももに当てられていて。

間違いない、痴漢だ。
声を出せそうにない大人しそうな彼女に狙いを定めてる、確信犯。

ふざけるな。
れいなだって見ているだけなのに、彼女に無断で触るなんて。
そんな事、許さない。
91 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 14:59
「あんた、なんしよっと!」
「うぉっ?!」
「今この子に変な事しよったやろ!」

ふとももから上に上がりそうだった手を掴み、捻り上げる。
れいなは正義の味方なんかじゃない、ただの、嫉妬した人間だった。
だけど理由はどうであれ、それは彼女を助けた形となる。

「ち、ちがっ、俺は何も…!」

それでもしらばっくれようとする男性。
車両全員の好奇な視線が刺さる。
92 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 14:59
「なぁっ、お、俺何もしてないよね、ねっ」
「この…っ」

ここで彼女が「はい」と言えば、この男性は無実になってしまう。
絶対にしたのだ、それはれいなは断言出来る。
けれどこの視線の中で、大人しそうな彼女がちゃんと言えるんだろうか。
恥ずかしいのか怖いのか、ずっと俯いていた彼女。
傍にいたれいなの腕を掴み、言った。

「さ、されました……この人に、変な事…」

――ちゃんと、言えるんや。
このまま黙って泣き寝入りするようなタイプかと思えば、そうじゃないらしくて。
しっかりと、伝える事が出来た。
それを聞いた近くの男性が痴漢をした男性を掴んでくれて、れいなも彼女も次の駅で降り駅員さんに事情を説明する事になった。
彼女の告白の後、観念したのか素直に認めた男性は、すぐに警察が引き取りに来るらしい。
93 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:00
駅員さんの所まで一緒に連れて行ってくれた男性にお礼を言い見送って、れいなは憧れの彼女と、学校がある駅じゃない駅に2人になる。
しかし、どうしたらいいのか。
まさかここでメアド交換や告白なんぞ出来る雰囲気じゃないし。
何より彼女は痴漢をされて、傷ついているはずだ。
しかし、なんと声をかけてよいのか、良い言葉が見つからない。

「あ、あの…」

考えあぐねていると、か細い声がなんとかれいなに届いた。
どこからだと思ったら、彼女から。

「あの…その、ありがとうございました」
「え、何が…?」
「だから…助けてくれて…」
「あぁ…」

知り合いでもないのに、助けてくれて。
本当はただ、れいなはこっそり見つめる事しか出来ないのに、最低な事をしてでも彼女に触った男性に嫉妬しただけなのに。
それでも彼女は、れいなに感謝の言葉を述べてくれた。
94 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:00
「…大丈夫?」
「あ、はい」
「そ、そっか」

思ったより元気そうなその声。
れいなが訊ねると、笑顔で返してくれた。その顔が、物凄く可愛らしい。
そして1つの発見。
彼女には、八重歯があった。
初めて笑った顔が見れて、初めて八重歯あるという発見が出来て、れいなは嬉しかった。
基本、彼女はいつも立ったまま寝てたから。

けれど、この後になんと言葉を繋げればいいんだろう。
普通ならば、学校もあるし「じゃあ」と言って終わりなんだけど。
れいなは彼女を好きで。これは、チャンスで。
彼女もれいなをただ見つめるだけで(れいなが何かを言うのを待っているだけかもしれないが)、何も言わない。
少し尖がったアヒル口がまた可愛かった。
95 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:01
少しでも長く話せるように。
これから少しずつでも仲良くなれるように。
この事件を利用して、れいなは良い事を思いついた。

「あ、あのさぁ」
「はい?」
「また…さ、電車乗ったりしたら、痴漢にあったりするかもしれんやん」
「…は、はぃ」
「あっ、いや別に怖がらせようと思って言ったわけやなくって! えっと…そのぉ」
「……?」
「れ、れいな、いっつもあの電車最初から乗ってるけん、座席に座ってるから……。
もしよければ、その……あ、あなたが乗って来た時、その席交代するよ……」

また、痴漢に遭ったら嫌だろうし。
人がいっぱいで苦しそうだし。
れいななら心配しなくても大丈夫と、一生懸命その言葉のフォローをしてみたのだが、彼女からの返事はノーだった。
96 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:01
「いやでも、悪いし…」
「やっ、やけんれいななら全然へーきっ」

彼女が悲しく苦しい思いする方が平気じゃない。――とは、言えなくて。
口下手なのが恨めしい。
どうしたもんかとモゴモゴさせていたら、彼女がとても変な事を。

「それに……絵里……好きなんで…」
「……へっ? そ、それって…さ、触られるのが?」
「ちちちちちがうちがうちがう! そうじゃなくってそうじゃなくって!」
「えぇ…じゃあ…」
「満員電車が好きなの…好きなんです…」
「――――は?」
「ちょっと人に押されてるなぁくらいな感じが好きだから…だから、座んない方が……」
「………」

何て答えたらよいものか。
というか、開いた口が塞がらない。
97 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:02
「やっぱ変ですよね…ですよね……いいんですよく言われますから…どーせ絵里は…」
「あっ、い、いやいや」

確かに変で、実はちょっと気持ち悪かったけど、そこはすかさず否定しておく。
だって否定しないと、とことん彼女は落ち込みそうだったから。

「ま、まあ、人には色んな好みがあるし…」
「じゃ、じゃあ絵里っ、変じゃないかな?…あ、じゃなくて、変じゃないですかね?」
「う、うん。…ってか、別に敬語じゃなくてもよか。高校生っちゃろ?」
「あ、はい。2年です」
「へー、2年かぁ。れいなは1年…って、年上ぇ?!」。
98 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:02
本来敬語を使わなきゃいけない方が、敬語じゃなかった罠。
年下には見えなかったけど、年上にも見えなかった。
てっきり、同い年かと思っていた。
軽いどころか、大きな驚きだ。

「…名前、れいなって言うの?」
「あ…う、うん。じゃなくて、は、はい」
「敬語じゃなくてもいいよぉ」
「……う。あ、うん…」

そう、今更だ。
それに彼女がそう言ってくれてるんだし、お言葉に甘えよう。
99 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:03
「あ、絵里の名前はね」
「絵里…やろ?」
「えっ、なんで分かるの?」
「え、自分で言っとーやん」
「……あ、そかそか。ウヘヘ」

やばいどうしよう、この子はバカだ。
れいなの脳がそう伝えてきた。
だけどそれ以上に、可愛い。

「じゃ、じゃあ、明日から、絵里がまた痴漢にあわんように、絵里が乗って来たら、れいなが絵里を守る!」
「ええ? でもそれじゃ座れないよ?」
「絵里が来るまで座ってるけん、いい。絵里が来たら、変な奴から絵里を守る事にする。もう決めた!」

守るべき絵里も十分変な奴だったが、それでもれいなの想い人。
身体は小さいけれど、れいなは絵里を守るのだ。

「けど…」
「……やっぱ、嫌だ……? 今日初めて逢ってこげん事言う奴とか…」
「ううんっ、いやじゃないよ。…うれしい」
100 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:04
それから――――
101 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:05
「うーん、今日も狭いねぇ」
「う、うん…」

ゆらりゆらりと電車に揺られながら、ドアの前でそんな世間話をする2人。
1人はちょっと押されて幸せそうで、もう1人はかなり押されて苦しそう。

「ぅわっぷ」

少し急なカーブにかかって、人が揺れて更に押し潰される。

「え、絵里、大丈夫?」
「うん。っていうかこれくらいが1番好きかも。れーなは?」
「れいなも大丈夫……それに、れいなもこれくらいが1番好きかも…」
「そっかぁ。れーなもこの狭さが落ち着くようになってきたんだね、ウヘヘ」
「へへへ…」

絵里と超密着状態になって幸せそうなれいなと、より狭くなって更に幸せそうな絵里。
2人は今日もそんな想いをしながら、電車に揺られる。
102 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:05

103 名前:◇満員電車は好きですか?◇ 投稿日:2005/11/24(木) 15:05

104 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/24(木) 15:10
>>87-101「満員電車は好きですか?」でした。

>>83さん
胸がキュンキュンして下さったようで、嬉しくて、書いた自分もキュンキュンしました(;´Д`)ハァハァ

>>84さん
その言葉に萌えました。

>>85さん
どうもありがとうございます。
こんな感じで上達なぞまったく出来ないですが、惹かれると言って頂き光栄です。

>>86さん
自分も最近まで藤道どころか田亀すらまったく興味なしだったんですが、
小説の影響で、自分で書くようになるまでどっぷりとハマってしまいました…。
105 名前:桜桃 投稿日:2005/11/24(木) 22:36
田亀大好きです。
田亀大好きです。
田亀大好きです。
萌えすぎて死にそうなんですがどうしたら良いでしょうか先生?
106 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/25(金) 17:12
ここのさゆが可愛すぎて倒れそうですw
藤道だいすきですよ〜
107 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:13
見た目で判断されるのは、超ムカつく。
いっつも第一印象は「怖そう」「ヤンキー」「冷たい」とか。
ロクな印象がないれいな。

それでも実は、自分で言うのも変やけど、れいなは真面目なんです。
そりゃちょっとは遅刻とかサボったりするけど、宿題とかはちゃんと自分でするし。

やけん、外見とか授業態度で、ホントに判断せんで欲しいと。
108 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:13
6時間目も担任に怒られた。
授業中、外で、れいなの幼馴染でれいなの好きな絵里が体育やってたんで見てたら問題当てられて、聞いてなかったって言ったら、見事に。
余所見しとったん、れいなだけじゃないのに。
さゆなんて、鏡見てたとよ?
なのになんでれいなだけ……。

「れーな、ご愁傷様ぁ」
「ムカつくっ。超ムカつく!」

んふふ、と笑いながら、これまたれいなと幼馴染なさゆがやって来た。
さっき怒られた事をからかいに来たらしい。

「いっつもいっつもれいなばっか。アイツ、れいなの事目のカタキにしてる」
「れーな、目立つんだよ。だからじゃない?」
「はー?」

目立つって言われても、れいなはただ外見てただけやのに。
授業中奇声を発したりせんし、暴れたりもせんのに、なんで目立つとか。
109 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:13
「まぁまぁ、そうカッカしちゃダメ。可愛くないよ?」
「別に可愛くなくてもよか」
「えー。そしたら絵里に嫌われちゃうかも」
「う」

そ、それは困る。
そうやね、あんまり怒らんでおこう…。やっぱり、怒ってたら可愛くないし。

「ってか、帰ろ」
「うん。……と、言いたいところなんだけど」
「?」
「美化委員の会議があるらしいの」
「へえ」

クラスの1番最初の授業で決めた委員分け。
さゆは自ら美化委員に立候補して、一発で決まった。
後でなんで美化委員に立候補したのかって聞いたら、「学校の鏡を綺麗にするため」と、さゆらしい理由が返ってきた。
おかげでこの学校の鏡はいつもピカピカで、可愛いさゆを映している。
れいなは一応放送委員やけど、いつもブッチしているので関係ない。
………やっぱり、真面目じゃないかも。
110 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:14
「ってことで、今日はごめん」
「あー、いいよいいよ」
「絵里と帰る?」
「んー。けど絵里も友達と帰るやろうし」
「そっか。ごめんね」
「いいっていいって。んじゃまた」
「またねー」

可愛らしくれいなに手を振って、おそらく会議室に向かうさゆを見送る。

「さて、と」

のんびりとした足取りで、目指すは自転車置き場。
幼馴染で、家に帰ったらすぐ逢えるれいなと絵里は、いつも一緒に帰ったりはしない。
さゆとは一緒に帰るけど、絵里は学年が違うから。
2年は2年で色々と忙しいみたいやし、友達も違うから、学校ではほとんど逢ったりもせんし。
絵里は自分で作ったお弁当で、れいなは学食って事もあって、昼休みも別々。
じゃあどこで恋人らしい事をするって言われたら、家しかない。
けど、家ん中はやっぱりいい。落ち着くし、何よりカギつきやし。
それはそれは色んな事を家の中で………ムフフフフフ。
111 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:14
「あっ、れーな!」
「どわぁあっ?!」

――と、人には言えん事を考えてたら、目の前にはなぜか絵里。
え? え?

「なななっ、なん? ってかどげんしたと?」
「れーなこそ変な顔してたけど」
「や、ま、まあれいなの事はいいけん!」

変な顔の理由を、絵里に言えるはずがない。
言ったら、どうなるやろ……。きっと、真っ赤にして怒ると思う。

「にしても、1人?」
「うん」
「今日は誰かと一緒に帰らんかったと?」
「なんか委員会の会議あるんだって。だから、れーな達と帰ろうかなって思って、待ってた」
「あ、さゆも一緒で、委員会の会議があるらしくて、今日はれいな1人」
「そっかー。じゃあ久しぶりに2人で帰ろっか」

2人で、って言った時、超嬉しそうな顔の絵里。
久しぶりやもんね、うん。
れいなも、実は超嬉しい。
112 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:15
自転車通学のれいな達。
1年と2年とは置き場が違うけん、少しのお別れ。
……の、はずなんやけど。

「……絵里?」
「ん?」
「2年、あっち」
「うん。知ってるよ」
「じゃあ…」
「今日は、れーなの自転車で2人乗りして帰ろうよ」
「はっ?」

ふにゃふにゃ笑顔で、一体何を。
なんで、そうなるん。
113 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:15
「ここ、学校。自転車の2人乗りは禁止」
「いいじゃんちょっとくらいぃ」

だってほらみんなしてるし、と絵里が指差した先には、確かに。

「絵里が前乗ってこいであげるから」
「えー、けど…」
「だーいじょうぶ、大丈夫!」

その自信はどっからくるんか分からんかったけど、まぁ、みんなしてるし…。
絵里がこいでくれるって言うし。
114 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:15
まぁいっか、ってれいなも思って、後輪の上に立ち乗りする。

「うぁあわわ」
「絵里危ないって!」

最初はひょろひょろで他の人に当たりそうになりながらも、なんとか安定して。
快調に校門へと向かう途中。

「田中ぁ!!!!」
「「っ!!!」」

…やばい。どっから来たんか、担任に名前を呼ばれてしまった。
反射的に絵里がブレーキかけて、れいな達は校門前で止まってしまう。
115 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:16
「お前はまた2人乗りなんかして!」
「や、けど他の人も…」
「他の人がよかったら自分もいいのか! お前はこがずに乗ってるだけで大変な思いもしないで、そりゃあ気分いいだろうなぁ」
「いやいやいやいや」

え、何。
これって、れいなのせいになってる?

「えっと、あのぅ、せんせぇ…」
「ん? あぁ、君はもう帰っていいよ。田中は俺がしっかり怒っておくから。
君も田中に言われたからって、2人乗りなんかオッケーするんじゃないぞ」
「いやいやいやいやいやいや」
「あ、はい…ごめんなさい………じゃぁ…れーなまたね!」
「は?! ちょっ、ちょっと待てや絵里ゴルァ!!!!!」
「田中っ、お前なんて言葉使いするんだ!!」
「ちがっ、だってあれれいなの自転車…! っていうか絵里がっ、あいつがぁ!!!!!」
116 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:16
そんなれいなの訴え虚しく、れいなは職員室に連れて行かれる。
その途中、何度も2人乗りしてる自転車とすれ違ったけど、担任はれいなに怒るのに一生懸命で、無視。
2人乗りしてる人達は、キャッキャッと騒ぎながら楽しそうに帰ってく。
………それに比べて、なんねこの差は、マジで………。

好きな人にそそのかされ、好きな人に置いて行かれたれいな。
濡れ衣なんたい、マジで。
そう言っても、まったく信じてもらえないれいな。我ながら、可哀想。
117 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:17
結局お説教はさゆの会議が終わるまで続いて、優しいさゆに付き合ってもらいながら、れいなは歩きで帰る事になった。
絵里の自転車を借りようにも、ちゃっかりカギを持って帰ってたから乗れんかったし、
さゆの後ろに乗ったらまた担任に掴まりそうやったんで、悲しいけど、歩いて。
さゆも自転車から降りて一緒に歩いて帰ってくれた事が嬉しかったけど。

とりあえず、帰ってまず1番にする事。

絵里、ぶっ殺す………


118 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:17

119 名前:◇そんなにれいなは悪いのか◇ 投稿日:2005/11/25(金) 23:17

120 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/25(金) 23:21
>>107-117「そんなにれいなは悪いのか」でした。

>>105さん
よし、とりあえず田亀を書こうそうしよう。ハァハァ

>>106さん
藤道仲間をミチシゲッツ!
121 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:23
「アルー、お手」

右手を出して、アルという名の絵里のペットの右手(正確に言うと、右の前足だ)を待つんだけど。
アルはプイッと顔を反らして、あくびなんかしている。
お手なんてくだらない事、なんでオレがしなきゃいけないんだよ――そんな気持ちだろうか。

「こ、こいつ…」

生意気だ。
人がせっかく手を出してるのに。

「…アル、お手が出来んのやったら、おかわり」

しかしそれにもまったく反応せず。
絵里の部屋に敷いてある柔らかいじゅうたんの上で、ぺちゃんこに伏せて眠る態勢に入ってしまった。
一体どうなってるんだ、この犬のしつけってものは。

「くっ…!」

ひどくないですか、この態度。
れいなは短気なのだ、犬にここまで懐かれずバカにされた態度を取られ、怒らないわけがない。
122 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:23
しかし相手は犬。しかも、自分のではなく、絵里の。
じゃあこの怒りをどこにぶつければいいのだろう。

「ごめーん、ジュースないからあったかいお茶持ってきたぁ」

ちょうどそこに、ふにゃふにゃ笑いながら1階から戻ってきた絵里。
あったかいお茶にしたのは、絵里が好きだからだ。
ふーふんふふぅ、と変な鼻歌を歌いながら2つの湯のみをテーブルの上に置いて、アルの横に。
戻って来た絵里の匂いをしっぽを振りながらかいで、アルはご機嫌だ。

「アルぅ、れーなに遊んでもらった?」
「クゥン」
「そっかそっかぁ、よかったねーアル」
「コラコラ、ちょっと待ちんしゃい」

その都合のいい解釈は、どうやったら出来るのか。
ナデナデと気持ち良さそうに撫でられているアルには悪いが、れいなには異議がある。
123 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:24
「なに、どしたの」
「遊んでやろうとしたら、こいつ、れいなの事無視したと」
「えー? そうなのアル?」

少し垂れ気味の耳をくにゃくにゃ触りながら絵里がアルに訊ねると、アルは下を向いて首を左右に振る。

「ほら、無視なんかしてないってさ」
「たまたま首振っただけやろっ」
「違うよねぇ」

今度は縦に。

「ほらぁ。たまたまじゃないって」
「こ、こいつら……!」

悔しい。物凄く悔しい。
何が悔しいって、れいなが言っても全然分かってくれないという事。
だって一匹は犬で言葉が通じないし、もう1人はバカだし。
124 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:24
「もうよか……けど、お手とかおかわりくらいは教えた方がよかよ。
もっと年取ってから教えたら、余計覚えにくくなるけん」
「え、お手とかおかわり出来るよ? お座りも待ても伏せも出来るし。アルかしこいんだから、絵里に似て」
「……はぁ?」

突っ込みたい所が山ほどあるそのお答え。
まず、れいながお手とかおかわりと言ったのに無反応だったアルが、それを出来るらしい事。
そしてお手やおかわりやお座りや待てや伏せが出来るだけで、賢いって。
しかも、絵里に似て賢い?
それは本気じゃなくて冗談であって欲しい。
それに、賢いと思ってやるなら、顔を可愛いと思ってあげて欲しい。
飼い主なのに自分ちの犬(の顔)が可愛く思えないなんて、どうかと思うので。
125 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:25
「ほら見ててよ。アル、お手」

突っ込みたい所がありすぎて突っ込めなかったれいなを置いて、絵里はれいなの前で披露してみせる。
その結果、アルは見事に絵里の右手に前足を乗せた。
そのまま続けておかわり、伏せ。

「アルかしこーい!」
「………納得いかん」

喜ぶ絵里と嬉しそうな絵里と、ブスッとしたれいな。
れいなの気持ちは、よく分かる。

「なんで絵里にしてれいなには…」
「まあしょうがないよ、アルは絵里大好きだから」
「…」
「でもれーなはまだ吠えられないだけマシだって。さゆは今でも吠えられるし」
「……」

それでも、だ。
納得がいかない。
126 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:25
「よしアル、もっかいお手」
「もー。れーな負けず嫌いなんだから」
「ちょっと絵里黙って」
「むぅ」
「アル、お手。この手に、さっき絵里にしたみたいに乗せるっちゃよ。ほれ」

そうして差し出すと、くんくんとれいなの手の匂いを嗅ぎ始めたアル。
どうやら先程とは違い、興味を持ってくれた様子。
それは絵里がいるからか、それとも気分次第なのか。
とにかくお手さえしてくれたら、れいなは納得する。
さあ、匂っているこの手に前足を――――と、思ったら。

「ぎゃあぁっ!?」

カプリと、アルに噛まれてしまった。
すぐにその手引っ込め,て、ふぅふぅふぅと涙目になりながら、れいなは息を吹きかける。
127 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:26
「こいつっ、こいつ、れいなの手噛んだ! 噛んだぁ!」
「わ、わ、こらアル、ダメでしょ。めっ、でしょ」
「クゥン…」

ぺちんとアルの頭を叩く絵里。
それすらもれいなは納得がいかない。

「っていうか明らかに、今アルが叩かれた力より、噛まれたれいなの方が痛いんやけど!!」
「本気で噛んだわけじゃないから大丈夫だって。じゃれて噛んだだけだよ」
「じゃれてもなんでも痛いもんは痛か!!!」
「やっぱふりょーさんは怖いねぇ、アルぅ。あーやってイチャモンみたいなのつけるんだよ」
「イチャモンやなくてマジモンたい!!!!」

もはやその言葉が合っているのかはよく知らなかったが、興奮状態のれいなにそこまで頭は回らない。
回らない代わりに、頭にくる。アルじゃなくて、絵里に。
128 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:26
「絵里は、れいなよりアルの味方すると?!」
「味方とかそーいうんじゃないじゃん。それに、アル怒ったじゃん」
「怒り方が甘い!」
「れーなが怒りすぎなだけでしょお」
「噛まれて怒らずにいられるかぁ!」

ふぅふぅふぅ。息遣いすら荒くなる。

「そんな怒んないでよぉ」
「ふん!」
「しょーがないなぁ、れーなは」

ねー、なんて声が後ろから聞こえる。
きっとアルに同意を求めているんだろう。
だけどれいなは絵里に背を向けているので、その様子は分からない。
もう向けてなんかやるか。
れいなは怒っているのだ。噛まれた手は痛いし。
129 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:27
それでも。

「ねぇれーな」
「…」
「ねぇねぇねぇってば。機嫌直してよぅ」

ゆさゆさ手を掴まれて甘えたな声でそうねだられると、なんとも言えないものが、機嫌の悪さをくすぐってくる。
もうこのまま振り向いて、さっきの絵里ではないが、しょうがないなぁとか言いながら笑ってやるのもいいかもしれないと思ったが、
それでも手の痛さを思い出し、ぐっと堪える。
130 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:27
「もー。どうしたら機嫌直ってくれるのさぁ………あ、そーだ!」
「…?」
「これだったら絶対直ると思うな、うん」
「え」

もしかして、キスとか?
そんな事を考えた自分が1番バカだった。

「ほられーなぁ、ねこじゃらしだよぉ。れーなぁ、れーにゃぁ。…あれ? 機嫌直んない?」
「直るか!!!」
131 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:27

132 名前:◇犬と猫◇ 投稿日:2005/11/28(月) 23:27

133 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/28(月) 23:29
>>121-130「犬と猫」でした。
現実のアルくんはえりりんの部屋でおもらしはしても、れいなの手は噛まないと思いますが、妄想なので…
134 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 18:56
「目、閉じて」

時計の針の音だけが響く、静かな部屋。
その部屋に2人きり。
2人の関係は、恋人同士。
まだ半年も経っていない、初々しい2人だ。

2人の間に隙間はなくて。
2人の目は見つめ合っていて。
2人の気持ちは盛り上がっていて。

目、閉じて。
少し鋭くきつくも見える外見の藤本美貴が、そう言う。
初々しいが、どこか優しい声色でリードしながら言う美貴は、他に何度かこういう経験をしてきたのだと窺える。
対する道重さゆみの頬は、淡く染まっていて。
ぽーっとただ美貴だけを見つめて。
美貴だけしか知らない、その瞳。
135 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 18:56
この場合、静かに言う通り目を閉じるのがセオリーである。
だがさゆみは、そんなこと知ったこっちゃない。

「嫌、です」
「……は?」

その言葉は、先程美貴が言った言葉に対して。
なんで。どうして。

「いやあの…シ、シゲさん?」
「目閉じるの、嫌です…」
「……えっと……」

うるうる涙目が美貴を見つめる。
どうしたらいいんだろう。
というか、それってつまり。
136 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 18:57
「美貴と…キスすんの嫌って事だよね…」

――口にしたら、これ以上ないくらいへこんだ。
確かにキスは初めてではないが、こんな風に拒否されたのは初めてだったのだ。
しかも、さゆみは美貴を好きで、美貴もさゆみを好きなのに。
嫌、って。
137 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 18:57
「え、あの」
「まだ早かったかな…いやでも、シゲさんもして欲しそうだったのに…」
「藤本さんっ、そうじゃなくて」
「……え?」
「違うの。藤本さんとキスしたいの。けど…」
「…けど?」

目が伏せられた。
けれどすぐ、上目遣いに戻る。
座っているとそれが見られていい。
立ってしまえば、さゆみの方が背が高いから、逆に美貴が上目遣いをしなければならないのだ。
可愛いさゆみの可愛い上目遣い。
その後、発せられる言葉は――。
138 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 19:03
「さゆみ、自分の目が自分の身体の中で1番好きなんです」
「は…?」
「だから、目、閉じたくないんです。藤本さんに、さゆみの目、ずっと見てもらいたいから」

まばたきなんてしなくていいのなら、したくないくらい。
ずっと大好きな自分の目に大好きな人を映して、大好きな人にずっと自分の大好きな目を見てもらいたい。
それが、さゆみの願い。
たとえキスする時も、だから目を閉じたくない。

「け、けど、美貴目ぇ閉じちゃうよ。だからシゲさんの目見えない」
「じゃあ閉じないで下さい」
「えーっ。そ、それに、キスしたら距離近すぎて余計見えなくなるんじゃ?」

目を開けてのキスなんかした事なかったから、よくは知らない。
知らなかったがそんな気がしたので、言ってみた。
だがそんなあやふやな事では、さゆみは納得してくれない。
139 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 19:03
「藤本さん」

ただそう、名前を呼ぶだけ。
それだけでも、さゆみの大好きな目は、それ以上の事を伝えていて。
なんだろう、照れ臭い。

さゆみの目は、大きい。
さゆみの目は、綺麗だ。
さゆみの目は、美貴への想いで溢れている。
目は口ほどに物を言うというが、口以上に物を言っているさゆみの目。
そんなさゆみの目に見つめられて、美貴は。

「…………恥ずかしいよ」

顔が赤くなって。視線を合わせられなくて。
キスなんか出来そうになくって。
初めての時以上に、ドキドキしていて。

年上なのに、これじゃ高校1年生のさゆみより子供だ。
140 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 19:04
「可愛い。藤本さん」
「…うるさいよ」
「ねぇ、こっち向いて?」
「…向けないよ」
「さゆみの事、好き?」
「…好きだよ」

だからキスしたいと思った。
だから恥ずかしい。
さゆみの事が、好きで好きでたまらない。

「さゆみ、キスして欲しいです」
「…出来ないよ」

したいけど。

「じゃあ、どうしたらしてもらえます?」
「……目、閉じてくれたら」
「嫌です」
「じゃあ、出来ない」
「そっちの方が、もっと嫌です」
141 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 19:04
顔も口元も目もすべて笑って、さゆみが言う。
もう、しょうがないなぁ。

「じゃあ、キスの間だけ、目閉じます」

どっちが年上なのか、本当に分からなくなりそうだ。
恥ずかしがる美貴に微笑んで、美貴だけを映しているその目が閉じられた。

くるりと巻かれた長い睫毛。
うっすらとされている、アイメイク。

閉じても、その目にはまだ恥ずかしがっている美貴が映し出されてそうで、ちょっと困った。

ドキドキしている。5歳も年下の女の子に。
おそらくさゆみはファーストキスであろうのに、そんなさゆみより緊張している。
そんな彼女に、気を遣わせて。
大好きだという、目を見ながら見てもらいながらのファーストキスをダメにしてしまった。
だったらせめて、唇の感触くらいは夢と想像以上のものを――――
142 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 19:05
キスの後、開けたさゆみの目に1番最初に映ったのは、どんな美貴なのか。
せめて恥ずかしがらないようにはしようとは思うが、美貴の想いで溢れている目に見つめられて、普通になんて出来るはずがない。
どうしよう、何て言われるだろう。
幻滅されたりしないだろうか。
リードしていたはずなのに。惚れられていたはずなのに。
照れ臭くて恥ずかしくて、そして、怖い。

「………藤本さん」

名前を呼ばれ、ゆっくりとその目が開けられる。

「藤本さん、大好き。………それから、すっごい可愛いの」
「――バカ」

年上に向かって、可愛いとか。

「可愛いって言うのは、シゲさんの為に存在する言葉だよ」
143 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 19:05


藤本美貴は、彼女の目に、彼女の言葉に、彼女の可愛さに、彼女のすべてに夢中です。




144 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 19:05

145 名前:◇君に夢中◇ 投稿日:2005/11/29(火) 19:05

146 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/29(火) 19:06
>>134-143「君に夢中」でした。
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/29(火) 21:35
連日更新お疲れ様です。
藤道いいっすね!
ハマりそうです。
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/30(水) 18:10
>>142の最後のセリフで溶けましたw
可愛い、いいなぁ藤道だいすきです。
149 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:37
朝。7時15分。
ペットのアルを連れて、亀井絵里は散歩に出かける。
今までは母親の仕事だったのだが、今年の冬に入ってから、それは絵里の仕事となった。
母親の体調が悪くなったりだとか、誰かに交代しろと言われたわけでもない。
そうなったのは、絵里が自ら申し出たからだ。
その為に早起きして、寒い外に出かけなければいけないと、分かっていた。
だけど、代わってもらった。

「アルー、お散歩いこっか」
「ワン!」

母親に行ってきますとだけ行って玄関に出ると、銀色の鎖に繋がれているマイペット。
アルと名付けたのは、絵里だったか兄だったか妹だったか、それとも両親だったか。
男の子で、まだ若いアルは、絵里の言葉が分かっているのか元気に返事をして、しっぽを振り絵里の周りを飛び跳ねる。
150 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:38
スコップやら袋やらが入った、ペットを飼って散歩する上でのマナーが詰まったバッグを持って、リードを鎖と付け替えて。
一歩踏み出すとアルが今にも走り出そうとしたので、リードを持つ手をきゅっと引っ張って勢いを殺す。
恨めしそうにアルが絵里を振り返り見たが、見て見ぬ振りをした。
あまり早く行かれると、困ってしまうから。

それでもやや駆け足気味なアルに引っ張られる形となり、歩いて10分程の公園に辿り着く。
時刻は7時30分。ジャストだ。
携帯電話で時間を確認して、思わず顔が綻ぶ。
…大丈夫だ、マフラーで口元を隠しているので、綻んだその顔は誰にも気付かれていないだろう。
すれ違う他の飼い主とペットに頭を下げながら奥へと進んで行くと、ブランコの横のベンチに小さく丸まった大好きな姿を発見した。
151 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:38
「れーなっ」

砂場を匂っていたアルを忘れて、リードを引っ張りながら駆け寄る。
それに一瞬びっくりしたような顔と同時に、匂いを嗅いでいたのに邪魔された顔をしたが、
アルも絵里が行く先に見覚えと嗅ぎ覚えのある姿を見つけて、嬉しそうに一緒に駆け寄った。
嬉しそうなのは絵里の方が俄然強かったが、れーなと呼ばれた田中れいなの元に着いたのは、アルの方が早かった。
152 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:39
「おー、アルおはよー」

ハッハッと息遣い荒くれいなに飛びついて頭を撫でてもらう。
嬉しそうなアルとは対照的に、嬉しそうだった絵里の顔は不機嫌になった。

「アルずるい」
「犬相手に嫉妬すんな、アホ」
「アホじゃないもん!」
「可愛いアホ」
「…可愛いアホだったら許す…」
「許すんかい」
「うへへ」

白い息を吐き出しながらの言い合い。
メールでも電話でもない、直接の言い合い。
幸せだった。

「おはよ、れーな」
「おはよ。絵里」
153 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:41
7時30分に、学校がある日は毎日、この公園で。
2人が付き合うようになってから交わされたこの約束。
2人の家はちょうどこの公園が中間地点。
しかし、2人の通う学校は違う。
それでも休み以外にも毎日逢いたかった2人は、そんな約束をした。
晴れの日も雨の日も、寒い日も。
暑い日や台風の日はまだ経験していないけれど、きっと、毎日逢いに来るだろう。

だけど誰にも言っていないこの約束は、内緒で。
絵里は散歩、れいなはジョギングと偽って、毎日行われていた。
だから絵里の横にはいつもアルがいるし、れいなの服装はいつもジャージだ。しかも、原色ジャージ。
だけどそんなジャージのおかげで、いつものベンチに座っていなくても、すぐにれいなを見つけられる。
154 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:41
「けど絵里、来んの遅い。10分待ったと」
「でもちょうど30分に来たよぅ。れーなが来るの早すぎただけじゃん」
「待ち合わせとかの時間は、いつも基本5分前が当たり前」
「とか言っちゃって、れーな、早く絵里に逢いたかったんでしょ」
「はぁ?」
「だっていっつも、れーな先にいるもんね」
「っ…」

アルのリードをブランコの前の柵にくくりつけ、自由になった絵里はれいなの横に腰を降ろす。
好奇心旺盛なアルは、くくりつけられて、その中で届く範囲内の匂いを先程からずっと嗅ぎまわっている。
155 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:42
「同じ学校が、よかったなぁ」

絵里の指摘に照れてそっぽを向いたれいなを優しく見つめながら。

「そしたら、学校でも逢えるのに」

制服とか体操服とか授業中とか休み時間とかお昼ご飯とか部活とか。

「…しょーがないっちゃろ」
「そうだけどぉ」
「やけん、こうやって朝に逢っとう」

毎日、毎日。
これからもっと寒くなるけど。
その分早起きしなきゃいけないけど。
君に逢いたいから。
156 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:42
「…ね、れーな」
「ん?」

もうすぐお別れの時間。
あんまり遅いと不審がられるし、学校に行く準備をして、朝ご飯も食べなきゃならないし。
そろそろアルも退屈し始めて、伏せをしながらじっと絵里を見ているし。
でも、その前に。

「…キス…」
「…」

じゃり、と音を立てて、れいながベンチを伝って絵里に近付いた。
片手を繋いで、見詰め合う。
今現在、絵里達の周りには誰もいない。
するなら、今。
今、したい。
157 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:43
少し曲げられる首。
近付く顔。
感じる息遣い。
ぎゅっと握られる手。

触れた、唇。

軽くて、優しくて、まだまだ幼稚なキス。
それでも今の2人にとってこのキスが、気持ちを伝える1番の方法だった。

「……ウヘヘ」
「…その笑い方のせいで、ムード台無し」
「えー、なんでよぅ」

ぷくっと絵里が頬を膨らませると、声には出さずれいなが笑う。
くしゃりと顔を崩すそれは、猫のようで。
猫に似ていると言われるのが、とても理解出来た。
158 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:43
「…じゃあ」
「……うん」
「アルも、バイバイ」

ぽふぽふとアルの頭を軽く叩くように撫でてやると、アルよりもれいなよりも高い身長の絵里がまた拗ねた。
生まれたのは1番早いくせに、1番子供っぽい。
アルだけでなく、絵里も同じようにして欲しいのだ。

「ガキ」
「ちがうもん」
「ガキやん」
「ちがうもんちがうもん」
「じゃあどう違うとね?」

背のびするのはなんだか嫌だったから、少し手を伸ばして絵里の頭を撫でてやる。
撫でてやりながらいつもの軽口を叩いていると、絵里が間を空けて3回同じ事を言う。

「れーなが好きなだけだもん」

そして、拗ねながら告白された。
159 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:44
「れーなだから頭撫でて欲しいんだもん。れーなだからキスしたいんだもん。
れーなだから、毎日毎日、朝でも寒くても何があっても逢いたいんだもん」
「え、絵里…」
「れーなだって、そうでしょ? 絵里だから時間より早く来たり、絵里だからキスしてくれたり、
絵里だかられーなは毎日毎日逢いにここに来てくれるんだよね?」
「……………うん」
「一緒だね、絵里と」
「うん」
「好き同士だもんね、絵里とれーな」
「うん」
「こっそり付き合っちゃってるもんね、絵里とれーな」
「うん」
「今、密会しちゃってるもんね、絵里とれーな」
「うん」

そんな事を言って、それにいちいち頷いて。
その事実に嬉しくって。
2人して笑顔で。
おままごとだ、一時の気の迷いだ、と言われるかもしれないけど。
2人は子供なりに、真剣だった。
160 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:44
「じゃあ」
「うん、じゃあね。またメールするね」
「うん。れいなもする」

これから何事もなく、犬の散歩からジョギングから帰り、普通に家族と喋っていつも通りに登校する2人。
しばらくの、お別れだ。

「ばいばい」
「バイバイ」

そして、また明日――――。

また、ここで逢おう。

161 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:44

162 名前:◇待ち合わせ◇ 投稿日:2005/11/30(水) 22:44

163 名前:名無しさん 投稿日:2005/11/30(水) 22:48
>>149-160「待ち合わせ」でした。
アル君が好きです。でもその飼い主さんの方がもっと好きなんです。

>>147さん
連日更新しすぎて、そろそろネタが…ゴホゴホ
藤道いいですよねぇ、是非ハマってくださいw

>>148さん
溶けてくださってどうもですハァハァ
藤道、いいですよね。藤道が一推しじゃないんですが、一推しになりそうな勢いで怖いです…
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/01(木) 19:32
>>159の会話が好きw
田亀も可愛いけど、藤道けっこう好きですよ〜
作者様の書かれるお話は可愛くて癒されます!今後も楽しみにしています。
165 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:16
前から思ってはいたのだ、可愛くないな、って。
…もちろんそれは、顔じゃなくて。

「確かに、『シゲさん』ってびみょーだよね」
「だよね…」
「なんかおじいちゃんみたい」
「絵里…」
「うへへぇ、うそうそ」

怒んないでよさゆぅ、とクネクネする絵里。1つ上のさゆみの親友。
ちょっとどころか、かなり変わっている親友。
それでもさゆみにとっては、大事な親友である。
166 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:16
「さゆはなんて呼ばれたいの?」
「『さゆ』とか『さゆみ』とか。やっぱり呼び捨てがいいの」
「あー…『さん』だもんね。どっちが年上か一瞬分かんないよね」
「なんか、親密感がないっていうか…恋人って感じがしないの」
「付き合ってどれくらいだっけ?」
「3ヶ月…」
「それはちょっと困るよねー」

腕組みしながら、まるで自分の事のように悩んでくれる親友。
そういう所がさゆみは好きだった。
手紙をわざわざ書いて渡しても返事は一向に返って来ないけど、一生懸命相談に乗ってくれる親友。
さゆみの恋人とはまだ3ヶ月の付き合いだが、絵里とはもうすぐで3年の親友関係。
考えている事は大抵分かるし、性格だって把握している。
167 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:17
「絵里はいいね、呼び捨てで」
「えーっ、よくないよぅ。だってえらそうだし、れーなの方が年下なのに!」
「いいじゃん。あたしだって絵里だよ?」
「さゆはいいの、さゆは」
「あははっ、何それ。れーな可哀想」
「かわいそーじゃないよ、あんなやつっ」

プンッとそっぽを向いて唇を尖らせる。
尖らせなくても、絵里の唇は基本的に少し尖ってはいるのだが。

「れーなとケンカでもしたの?」
「知らない。れーななんて知らないもん。れーなって誰?」
「今さっき絵里『れーなの方が年下なのに!』って言ってたよ。年下って事も知ってた」
「……さゆ、ちょっとムカつく」
「ひどーい」

負けじとさゆみも唇を尖らせ、頬まで膨らませてみる。
傍に鏡がなかったので確認は出来なかったが、そんなさゆみまで可愛い。これには自信がある。
168 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:17
「絵里も年上の人と付き合いたかったなぁー」

だったらこんなケンカなんてしなくていいのに、と呟いて。
口ではそんな事を言ってはみたものの、それが本気ではない事なんて、親友のさゆみはもちろん分かっている。
だけど、もう少しそれに付き合ってみてもいいかなとも思えた。

「藤本さんはダメだよ?」

付き合っても、それだけは釘を差しておく。
冗談でもさゆみの恋人を狙うなんて事、いくら親友でも許せないから。

「さゆのケチ」
「ひどーい」

ムカつくの次は、ケチとか。
可愛くないと言われるのが1番嫌なので、それくらいは何てことはないけれど。
169 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:19
「それより、藤本さんのさゆに対する呼び方だよ!」
「あ、そうだった」
「もー。さゆが言い出したんだから忘れないでよね」
「ごめんごめん」
「やっぱさぁ、『さゆ』か『さゆみ』って言ってくれるまで返事しないとか…どう?」
「え…それは無理かも」
「なんでぇ」
「だって、それで藤本さん泣いちゃったら困るもん」
「………え。ふ、藤本さん…泣くの?」
「分かんないけど。泣いて欲しいな」
「それ、さゆの願望じゃん!」
170 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:19
「誰だって好きな人に無視されたら傷つくの」
「いやだから、それは名前を呼ばせる為に…」
「それはそうだけど……もういいの。2人っきりの時は『さゆ』って呼んでくれるから」
「ずこっ」
「効果音を自分で言うのって、絵里くらいだと思うの」
「いいもん。絵里オンリーワンだもん」
「オンリーワンってどういう意味だった?」
「えっとー………ウヘヘヘェ」
「自分で言ったんだよぉ? もぉー」
「まぁまぁ。それより、何の話してたっけ?」
「……なんだっけ? れーなの話?」
「あー、思い出したらまたムカついてきたぁ!」
「よしよし。可愛いさゆみお姉さんがお話聞いてあげる」
「絵里のが年上なんですけどぉ」
「今は同い年なの」
「あ、そかそか。花の16歳〜♪」
「16歳〜♪」
171 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:20
結局、まとまらないし話が繋がらない2人の会話。
それでも2人は親友なんです。


「えっと、で、あたしは絵里の何の話を聞いてあげるんだっけ?」
「………ん〜?」


そして2人は、物凄く物覚えが悪いんです。
そんなとこまで一緒なんて、とっても仲良しな親友です。

172 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:20

173 名前:◇似た者同士、親友です。◇ 投稿日:2005/12/02(金) 22:20

174 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/02(金) 22:22
>>165-171「似た者同士、親友です。」でした。

>>164さん
会話好きって言って下さりどうもです。
萌えな話を書きたいのですが、なかなか…
それでも少しでも164さんを癒す事が出来て、幸せでございます。
175 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/03(土) 13:01
更新お疲れ様です。更新ペースが速くて嬉しい限りです。
おかげさまで藤道にすっかりハマってしまいました。さゆえりのちょっと抜けてる会話も大好きです。
次回も楽しみにしています。
176 名前:164 投稿日:2005/12/03(土) 19:58
更新お疲れ様です。藤道だいすきっこなのでここを読むと幸せな気持ちになりますw
こんかいのマイペースでちょっとあほ(褒め言葉w)な二人可愛すぎます。

177 名前:◇あつくて◇ 投稿日:2005/12/03(土) 23:23
「うわ、ダサッ」

来て早々の第一声が、それ。
可愛い外見とは裏腹に、実はちょっと言葉が汚い松浦亜弥。
その汚い言葉をぶつけられたのは、この部屋の主の藤本美貴だ。
普通なら怒るべきその言葉も、相手が亜弥だからか、それとも別段気にしない温厚な人間なのか、美貴は眉1つすら動かさない。
こたつにこれ以上ないくらい丸まって、ただただあったまっている。

「ちょっとみきたん、はんてんはないでしょ、はんてんは」

もうすぐ21の女の子が、と亜弥が言う。
亜弥は美貴のお母さんでも姉でも妹でも親戚でもないのに。
しかも自分の事でもないのに、何かと口うるさい。

「だって寒いんだもん」
「寒いからって、もうちょっと着るやつとかあるじゃん」
「いいのー、これあったかいし。超厚いんだよ、こー見えても」
「あったかいし厚いからってさぁー…」

はんてん、って。
横目で見ると、亜弥が苦笑していた。
178 名前:◇あつくて◇ 投稿日:2005/12/03(土) 23:24
「いっぱい着るより、これ一枚のがもこもこしないし」
「だからって、はんてんだよ? たん、女の子だよ? せめて、カーディガンとかにしようよ」
「やだこれがいい!」
「…子供ですか、アナタは」

安く買った割に着心地も良くて、何よりあったかい。
確かに21歳の女が着るような物ではないかもしれないが、これで外に出て行くわけでもないし。
しかし、外でも家でも常に可愛くありたい亜弥は、そんな美貴が許せないというか、納得出来ないらしい。

「しかも男物みたいだし」
「ちっちゃいよりおっきい方があったかいかなとか思って」
「ほんっと寒がりだねぇ、たんは」
「へへへ」
「いや褒めてないから。何照れてんの?」
「亜弥ちゃん、突っ込み早くなったねぇ」
「たんといれば誰とでもそーなるよ」
「そーいうことかぁ」
「そゆこと」

とか言う割に、亜弥以外の人と会話する時は、もっぱら美貴が突っ込み役なわけなのだが。
亜弥が美貴以上に突っ込み気質なのか、相手が亜弥だから美貴の性格がボケに代わってしまうのか。
きっと、どちらともだと思う。
179 名前:◇あつくて◇ 投稿日:2005/12/03(土) 23:24
「っていうか暑いよみきたーん」
「そう? あったかいじゃん」
「いや、暑いってば」

さっきまで外にいたから、最初は確かにあったかかった。
…けど。

「…暖房、30℃だし」
「寒いからね」
「暑いって!」

しかも美貴はその上、こたつまでずっぽり入って、ふわふわであったかそうなはんてんまで着て。
一体どこまで寒がりなんだと、亜弥を呆れさせる。
知ってはいたが、この季節になると、毎度毎度驚かされてしまう。

「もー冬にたんと逢うのやだぁ」
「美貴は亜弥ちゃんに逢えて嬉しいんだけど」
「くっつけてあったかいからでしょ」
「えへ」
「夏はウザいとか言うくせにっ」

ベタベタ甘えんぼのくっつきたがりの亜弥。
冬は重宝されて、夏は邪魔者扱いされる。
180 名前:◇あつくて◇ 投稿日:2005/12/03(土) 23:25
それでも、暑い暑いと言う割に、ちゃっかり美貴の横にべったり座る辺り、惚れてるなぁとか思ったり。
室温30℃で暑いと分かっているのに来ちゃうところからして、もうダメだ。

「冬なのに汗かきそうだよ…」
「汗、かく?」
「え? うん、このまま居たら汗かくかも…」
「じゃあかこっか」
「………うん?」

かこっかって、美貴はあったかいと言っているのに。
どうやって汗をかくんだろうと思ったら、急に押し倒された。

「え、なに?」
「汗かこうよ。もっとあったかくなるよ」
「いやいやっ、もう十分あったかいから! っていうか暑いから!」
「美貴はもっとあったかくなりたい」
「じゃあはんてん脱がなくてもいいんじゃない?!」
「邪魔じゃん、だって」
「いや、あたしにとって邪魔なのはみきた――――んっ」
181 名前:◇あつくて◇ 投稿日:2005/12/03(土) 23:25
なんで、こんな展開に。

室温30℃。
強にされたこたつの中。
あったかい美貴の身体。

けれど拒めなかったのは、なぜか。

外は暑くて、身体の中は熱くて。
とりあえず終わった後、息も荒く額に噴き出す汗を拭いながら、亜弥は清々しい笑顔を見せている美貴にデコピンを見舞わせてやった。
182 名前:◇あつくて◇ 投稿日:2005/12/03(土) 23:25

183 名前:◇あつくて◇ 投稿日:2005/12/03(土) 23:25

184 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/03(土) 23:34
>>177-181「あつくて」でした。
シゲさんごめんよシゲさんと言いつつ、これが本命だったりします。
>>1に6期の誰かが多分主役って書いてて、このCP書かないとは書いてないので、見逃して下さい…

>>175さん
ネタがそろそろやばいので、このまま更新が出来なくなりそうな悪寒です(((( ;゚Д゚)))
藤道書いてて楽しいです。

>>176さん
藤道だいすきっこってなんだか可愛くて萌えw
基本、この6期ーズ(美貴様含む)はアホで出来てます。
いや、現実はアホじゃなくてもっとアホとか(ry
そんな6期が大好きです。ごめんなさい。
185 名前:164 投稿日:2005/12/04(日) 00:40
更新お疲れ様です。アホで出来てる6期……リd*^ー^)<ちゃいこーですw
あやみきも好きなので(*´∀`)ポワワしますた。
186 名前:桜桃 投稿日:2005/12/04(日) 19:50
あやみきハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!
もっともっと…ハァハァ……
从#‘ 。‘)<みきたんの変態っ!
从*‘ 。‘)<…でもだいすきっ!!
あやみき最高です。
187 名前:名無しβ 投稿日:2005/12/04(日) 21:26
更新お疲れ様です。
6期の小説も素敵ですが、あやみきもすごいですね。
可愛すぎます。
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/04(日) 21:43
やっとあやみき……
ずっと待ってましたよw
189 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:44
チーズケーキにイチゴのショートケーキにチョコレートケーキ。
小さな箱に入った、3つのケーキ。
思ってたより値段が高くて、4つ買って2つずつにするつもりが、お金が足りなくて3つになってしまったケーキ。

彼女はチョコレートが好きだから、チョコレートケーキは何も言わず彼女の前に置いてあげた。
ほろ苦くもない、ただただ甘いチョコレートケーキ。
まだビターなチョコが美味しいと思える程、彼女は大人じゃなかった。

「藤本さんは?」
「美貴はじゃあ、チーズケーキの方にしようかな」
「じゃあ乗せてあげます♪」
「ありがと」

可愛らしいお皿に、フォークをつけて。
飲み物は、紅茶。
さっき、彼女のお母さんが持って来てくれた。
190 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:44
「で、ショートケーキなんだけど」

残った1つのケーキ。
どっちのお皿に乗せるべきか。
やっぱりここは、もちろん。

「シゲさん、食べな?」
「え、藤本さんは?」
「美貴はいいよ。お呼ばれした身だし」

チョコレートケーキを少し左に寄せて、空いたスペースにショートケーキを乗せる。
嬉しそうな顔をしてくれるかと思ったら、でも、となんでか悲しい顔をされた。
191 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:44
「ん?」
「…」
「なに、ダイエットしてるの? 大丈夫だよ、こんくらいで太んないって。それにシゲさん、全然細いし」
「そうじゃなくて…なんか」
「なんか?」
「……」

大好きなチョコレートのケーキにも手をつけず、悲しそうに俯かれて。
えっと、どうしたら。
こういう時、どうしたら。

「シゲさん…? 別に、美貴の事は気にしなくていいんだよ?」
「でもいっつも、そうやって藤本さん我慢させてる気がする…」
「我慢なんかしてないって」

っていうかむしろ、奮発したんだけども。
だって、ケーキだよ。こんな機会がなけりゃ、絶対に自分から買わないケーキだよ。
192 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:45
「…分かった。はんぶんこすればいいんだ!」
「や、だから…」
「そうしたら、あたしも藤本さんも一緒に食べれるの!」
「………まぁ…そうだね…」

いいのに。ほんとによかったのに。
でもまあ、悲しい顔が笑顔に変わってくれたのが、1番よかったけど。

「でもどうはんぶんこする?」

二等辺三角形のようなケーキ。
縦からか、横からか。

「やっぱり縦ですかね?」
「美貴が切るの?」
「あ、一緒に切りましょうか? なんかケーキ入刀みたいに♪」
「ごめん、1人でいいや」
「………むー」
193 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:45
不貞腐れてしまった彼女。
均等に切るのに集中したいのに、冷たい視線がチクチク痛い。
こうなったら、早く機嫌を直してもらわないと。

「…シゲさん、あーんして」
「え?」
「あーん」
「……あー…んっ」

不審げに開けられたその口に、乗っかってたイチゴを放り込む。

「…おいし?」
「おいしいです…」
「それはよかった」
「あ、でも」

はんぶんこって、言ったのに。
美貴が食べれなくなっちゃったって、彼女はまた悲しい顔。
194 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:46
「シゲさんに食べてもらいたかったから、いいんだよ」

そう言って頬を撫でたら、くすぐったそうに笑ってくれた。
本当は、イチゴが嫌いで、切るのにも邪魔だったからなんて事、言えないけど。
いいの。要はどんな理由であれ、彼女が喜んでくれるなら。

「藤本さん、大好き」
「ありがと。美貴も、シゲさんが大好き」

はんぶんこにしたケーキを分けて。
お互いに笑い合う。
そして、シゲさんはチョコレートケーキを一口食べて、とろけそうな幸せそうな顔。

「ん〜〜っ♪」

可愛いなぁ。
やっぱりこうしてると年相応だなぁ。
195 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:46
でもちょっと、意地悪したくもなっちゃって。
それに、やっぱり自分も幸せになりたかったし。
幸せそうにチョコレートケーキを食べてるシゲさんには悪いけど、こんな事を聞いてみた。

「ねぇシゲさん」
「はい?」
「さっき、美貴の事大好きって言ってくれたよね?」
「はい!」
「じゃあ、チョコと美貴、どっちが大好き?」

食べ物と人間を比べるのはどうかと思うけど、まあ、あまり突っ込まないで。
にこにこと、「当然藤本さんなの」と言ってくれるのを待ったのに、なかなか返事が返って来ない。

「シゲさん…?」
「……ぅーん……迷うの…」
「――迷うのかよ!!!」

……人に突っ込まないでとか言っておきながら、美貴が突っ込んじゃいました、えへ。
………えへとか、美貴がやっても全然可愛くねぇorz
196 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:46
その後シゲさんは、迷ったふりして、落ち込んだ美貴にすぐに「藤本さんに決まってるじゃないですか」と言ってくれた。
じゃあなんであんな事言ったのって言ったら、美貴をからかってみたかったからとか。

………年下にからかわれて、見事落ち込む美貴って、一体。

「シゲさんのばか。チョコに嫉妬しちゃったじゃんか」
「よちよち、さゆみがいい子いい子したげまちゅねぇ」
「ぐすん。もっと頭撫でてくんなきゃやだぁー」

……美貴って、変態だわ。


197 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:47

198 名前:◇はんぶんこ◇ 投稿日:2005/12/04(日) 22:47

199 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/04(日) 22:51
>>189-196「はんぶんこ」でした。

>>185さん
ちゃ、ちゃ、ちゃいこーですキタワァ*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*
ウヘヘ…ウヘヘ…実は6期よりも書いてる作者が1番アホです。ごめんなさい。

>>186さん
もっともっとといきたいとこですが…なかなか…
でも冬はあの2人を妄想しやすい季節だったりします。

>>187さん
可愛いアホまたはバカを目指してますので、嬉しいお言葉どうもありがとうございます。

>>188さん
ずっとお待たせして申し訳ないです…そ、そんなに待たしてしまいましたか…
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/04(日) 23:09
変態なところが好きですw
201 名前:164 投稿日:2005/12/05(月) 19:35
*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*
年下にからかわれる変態すっげ可愛いですw
202 名前:初心者 投稿日:2005/12/07(水) 20:37
読ませていただきました
藤道、この二人大好きなのでうれしいです
最近ミキティもさゆって呼ぶようになったし
これからも期待してます
203 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:15
夜の学校というのは、暗くて怖い。
でも、さっきまではまだ夕日が出ていて明るかったのだ。
それがいつのまにか、冬は日が落ちるのが早くて、絵里がいた教室は真っ暗になってしまった。

教室の電気を点ければ、その暗闇から解放される。
けれど、電気を点けてしまえば、見つかってしまう。

亀井絵里は、家に帰りたくなかったのだ。
204 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:15
朝、母親と喧嘩をした。
理由は、食事中にテレビに集中しちゃって、何もかもおろそかになってしまった事。
最初は母親は小言を言っていただけだったのだが、自分の星座占いの時にそれを大きな声で言われたもんで、
せっかく楽しみにしていた占いの結果が分からず絵里がカッとなって、つい。
それからはもう売り言葉に買い言葉で、最後には「もう家になんか帰んないから!」と言って出て来てしまった。

そして授業も掃除も部活も終わり、今、朝言った「家になんか帰んない」という事を、学校の教室の中で実行しているのだが。
…………どうしよう、早くも挫けてきた。
205 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:16
色々なものが出来たこの時代、一夜を明かすくらいなら、カラオケボックス・ネットカフェ・ファミレスなど、様々な所がある。
しかし絵里は欲しいコートを買ったばかりでお金がなかった。
だったら女の子という事を武器にして、どこかでいい人を引っ掛けて過ごすという手もあったが、そんな事絵里には出来なかった。

「怖いよぉ…寒いし……暗いしぃ」

黒板の下で丸くなって体育座り。
スカートでその座り方だと下着が見えてしまうが、誰もいないので問題はない。しかも、真っ暗だし。
パカッと開くと光る、携帯の明かりだけが絵里の心の支えだった。
待受画像は、時間によって変わる4つの待受を設定しているが、現在開いた待受は、
絵里ともう1人、生意気な顔した垂れ目の女の子が、絵里のアヒル口を真似して映っていた。
206 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:16
「…れーな」

それが彼女の名前で、絵里が今傍にいて欲しい人の名前。
1時間ほど前に、心配して欲しいという事もあって、【もう今日から家帰んないから!学校で寝泊りする】とメールを送った。
返事はすぐに返って着たけど、【はぁ?何子供みたいな事言っとーと?絵里バカ?早く家帰れ】なんて冷たい事。
負けじと絵里もすぐに【バカー!!!】と送ったが、それ以降返事も電話もない。
怖いし寒いし暗い上に、寂しかった。

もう、帰ろうかな。
でもでもでも、絵里にだって意地がある。
母親からメールや電話でも着たら別だけど、それがないまでは絶対に帰らない。
……が、れいなからだけでなく、母親からも何の連絡もないのがこの現状。
本気で泣きたくなってきた。
207 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:17
「…グスッ」

抱えた膝に額をつけて、溢れてきた涙を隠していると。
――ガッシャン!

「ふぇええぇええ?!」

誰かが何かを落としたような音が聞こえた。

「え、え、え、え」

その後もジャラジャラ音を鳴らして、ペタペタ足音立てて、こちらに近付いてくる。
用務員のおじさんはさっき見回りに来ていたので、多分違う。
じゃあ一体誰なのか。
物音に驚いて大声を出してしまった絵里の居場所なんて、きっと特定されている。

だってほら、足音が絵里がいる教室の前でピタッと止まって。
ガラガラガラ、とドアを開けられた。
208 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:17
「っ」

怒られる怒られる怒られるっ。
誰が来たかも怖くて確かめられず、かといって逃げる事も出来ず、教卓の下へ隠れてブルブル震える絵里。
そこに、小さいが光を当てられた。

「……やっと見つけた」
「ぅええ…?」
「バカ。早く家帰れって言ったやろ。っていうかマジで学校におると思わんかったと」

不機嫌な声。
ブスッとした顔。
細い身体。
聞き慣れた方言。

「れ、れーな?」
「そう」

名前の通り亀のようにゆっくりと教卓の下から頭を出して覗いたら、間違いなくれいなだった。
209 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:17
「なんで電気点けんの。おかげで捜すの、超苦労した」
「え…じゃあ見つけたの、絵里の匂いとかしたから? すっごーい、愛の力――」
「絵里が変な声出したから分かっただけ」
「へ、変な声って何よぉ! れーなが何か物音立てたからじゃんっ」
「ケータイ落ちたけん」
「ばかー、ばかばかばかーっ。すんごいビックリしたんだからね」

頭だけでなく身体も全部教卓の下から抜け出して、ぷんぷん怒ってみせる。
不思議だった、もう全然怖くない。
相変わらず明かりは携帯の光(今はれいなの携帯のみだ)だけで、相変わらず回りは静かだったけど、
それでももうこの教室には、相変わらず絵里独り――ではなかった。

「…けど、来てくれると思わなかった」
「なんで」
「だって、メールすっごい冷たかったもん」

口を尖がらせて、ん、とれいなにそのメール内容を見せてやると、「…はは」光に照らされたれいなは苦笑い。
その顔になぜかちょっとときめいたりした事は、悔しいから言ってはやらない。
210 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:18
「やー、まぁ、それは」
「なに」
「いや、まさかこんな時間までホントに帰らんって思わんかったから」
「帰んないからって送ったじゃん」
「まー、それはそうっちゃけど」

宣言した割に、結構コロッとすぐに意見や気持ちを変えたりする絵里の事、そうは言ったがすぐに帰ると思っていた。
暗くなるし、人もいなくなるし、夜の学校は色々怖いし。
だから、絵里の母親から電話がかかってきた時は、れいなの方がすんごいビックリした。

「おばさん、心配してた」
「………」
「おばさんがれいなに、絵里がまだ帰って来てないって電話かけたから、れいなもこうやって絵里捜しに来たと」
「…なんで絵里じゃなくれーなにかけるのさ」

絵里だって携帯を持っているというのに。
人に訊ねるのなら、本人に訊ねたらいいのだ、どこにいるのって。
どうしてそれをしないのか。
それが、絵里は気に入らない。
211 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:18
再び黒板の下の壁にもたれて体育座り。
れいなも何も言わず、絵里の隣に座る。
座り方は、絵里のように体育座りではなく、ヤンキー座り――でもなく、ただ足を伸ばしてだらんとしていたが。

「かけにくいんちゃろ?」
「だから、なんで」
「心配してるけど、でも、向こうも怒ってる手前、ためらうとか。かけたらまた喧嘩しそうで、とか」
「……むぅ」
「…………ホントは迎えに来るの、れいなじゃない方がよかったね」
「えっ、そ、そんなことないよ! れーなの方がよかったっ、っていうかれーながよかったもん!」

嬉しかったのだ、来てくれて。
勿論、友達でも親でも兄妹でも、誰でも嬉しかっただろうけど。

「…なんで?」
「れーなが、好きだから」
「…あんがと」
「あんがとじゃなくて、ほら、れーなも」
212 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:18
何か絵里に言うべきことあるでしょ、そうねだる。
ねだられても、恥ずかしいものは恥ずかしい。

「だいじょぶだよ、暗いから顔赤いのとか分かんないし、絵里の他に今んとこ誰もいないから、絵里だけにしか聞こえないし」
「そっ、そもそも、そげんこと言いに迎えに来たわけやなか!」
「あ、ずるい。話そらした」
「そらしたんやなくて、戻したっていうか」
「顔もそらした〜」

ダメだよ、ちゃんと目を見て喋らないと。
だから逸らしていた顔を両手で頬を挟んで元に戻したら、結構な至近距離。

「「あ…」」

そしてなんだか、いい雰囲気。
213 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:19
パタン、と、携帯を閉じる音。
小さい光は消え、教室は真っ暗に元通り。
しかし2人の顔の距離は元に戻らず、どんどんと近付いて、唇が重なった――――と、思ったら。

「……あの、れーな? そこ、ほっぺたなんだけど……」

暗すぎて唇の位置が分からず、れいなは絵里の頬にキスをしていた。
すぐに離して、携帯をまた開く。
開いて見えたれいなの顔は、微妙な顔。

「気まずい」
「あ、一時期の絵里の口癖取った!」
「今はもう違うやん。なんやっけ、俄然弱め?」
「ちがうっ、俄然強め! れーなのパクリぃ」
「はいはい」

その軽いあしらわれ方に腹が立った。
そしてまだ母親にも腹が立っていたから、れいなが立ち上がって手を差し伸べながら「かえろ」と言ってくれても、絵里は立たなかった。
214 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:20
「えーり」
「…やだ。帰んない」
「いつまで意地張ってるとね」
「だって…」

続きは出て来なかった。
だって、続きなんかなかったから。
意地を張って、駄々をこねて。
最悪だ。

「おばさん、マジで心配してるって」
「けど、心配してたって、どーせ帰ったら絵里怒られるじゃん…」

こんな遅くまで何してたの、って。
誰のせいで学校にいたと思ってんのって、また喧嘩になる。
215 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:20
「じゃあ、怒られんように、絵里が怒らんように、れいなも一緒に絵里んち行く」
「…え…」
「やけん、かえろ」
「で、でも」
「ってか、来た時より暗くなってるけん、もうれいな1人で帰れん。やけん絵里、一緒にかえろ」
「…れーなの怖がり」
「はいはい、そーですよ、れいなは怖がりですよ」
「……うへへ」
「その笑い方が1番怖い」
「ムカつくーっ」

れいなの怖がりは、本当なんだけど嘘で。
れいなは確かに怖がりだけど、だけどそれをこうして口に出して自分を弱く見せる事を嫌っていた。
それなのにこんなにあっさりと口に出して認めたのは、すべて意地っ張りで駄々をこねてばかりの、絵里の為。
絵里が帰りやすいように。
絵里が怒らないように。
絵里が独りで泣かないように。
216 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:20
「…ね、れーな」
「ん?」
「手、繋いでもいいよね」
「…別にいいけど。なん、学校出たのに、絵里まだ怖いと?」
「違うよ。れーなが好きだからだよ」

赤くなる顔。
つっけんどんな言葉。
全部全部、好き。

だから今日は、れいなに免じて、母親は許してあげよう。
絵里は絶対悪くないけど、とりあえず謝ってあげよう。
そして、仲直りをしてあげよう。
しょうがないから、れいなが言うから、家に帰ってあげよう。
217 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:21
そう、れいなに免じて。
決して、自分の方が実は悪くて謝りたくて仲直りがしたくて家に帰りたいからでは、一切ないので、そこのとこお間違えなく。

218 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:21

219 名前:◇帰らない◇ 投稿日:2005/12/07(水) 23:21

220 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/07(水) 23:24
>>203-217「帰らない」でした。

>>200さん
从*・ 。.・)<さゆみもそんなとこが好きです(ポッ

>>201さん
川*VvV)<か、可愛いとか褒められても全然嬉しくなんかないよ!ほんとだよ!

>>202さん
ほ、ほんとにさゆって呼ぶようになったんですか?ハァハァ
だとしたらネタが一個出来る!
221 名前:164 投稿日:2005/12/08(木) 11:36
从*・ 。.・)<美貴さん照れちゃダメなの。可愛いんだからw
意地っ張りな亀、可愛い〜(*´∀`)ポワワ
まったり次回も楽しみにしています。
222 名前:初心者 投稿日:2005/12/08(木) 23:18
更新お疲れ様です
れいなの「もうれいな1人で帰れん」なかなかうまいこといいますね、かわいいし

ミキティはハロモニで「さゆ頼んだよ」って言ってました
初め聞いたときはビックリしましたが、なんかうれしいですね
藤道待ってます
223 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:32
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
224 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:53
染めた事のない、あたしの髪。
日本人らしい、真っ黒なあたしの髪。
小さい頃はお手入れの仕方も分からなくて、ちょっと傷んでいたりもしたけど、今はちゃんとお手入れもしてサラサラな黒髪。
でも人より少し髪が多いから、ちょっと重く見られるかもしれない。

一時期に比べると、大分髪も伸びた。
今までは近所に住んでる親友の絵里が1番長かったけど、高校生になってしばらくして、
髪を茶色くして、今年の1月にショートにしたから。
もう1人の親友・れいなも長いけど、きっと、あたしの方が長いと思う。
そのれいなも、高校生になってから髪を明るい茶色に変えた。

れいなと同い年で今年高校生になったあたしは、冬になってもまだ、黒い髪。
225 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:53
「いいじゃん、黒髪。可愛い」

そう言われたのは、夏休みの真ん中らへん。
れいなのバイト先の焼肉屋さんに絵里と一緒に遊びに行って、そこで同じくバイトの先輩の藤本さんって人と仲良くなった。
絵里もれいなも茶髪にして、まだあたしだけ黒髪なんで、色変えた方がいいかなぁなんて言ってたら。

「シゲさんは、黒髪のが似合ってるよ」

目を細めて優しく笑ってくれた、藤本さん。

「れいなも絵里も茶髪より黒髪のがよかったけどね」
「「えー!」」

それから、かな。
もっとこの黒髪の手入れに力を入れるようになって、絶対に染めないって思うようになったのは。
226 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:54
夏が過ぎて、秋になって、冬が来ても。
あたしは黒髪のままで。
髪は少し伸びて。
藤本さんへの気持ちは、大きくなるばかりで。

藤本さんがこの黒髪に触れるだけで、身体が熱くなる。
藤本さんが笑ってくれるだけで、嬉しくなる。
藤本さんが好き過ぎて、どうしたらいいか分からなくなる。

あたしの髪だけに触れて欲しい。
藤本さんの笑顔は、あたしだけに見せて欲しい。
藤本さんの気持ち、あたしと一緒がいいの。

そんな独占欲。
それって、可愛くないのかな。
227 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:54
「可愛いと思うよ、絵里は」
「…ホントに?」
「うん。独占欲って、なんか愛されてるって感じするし、されたらうれしいな。ね、れーな」
「え? あ、あ、うん」

絵里に相談されたら、お姉さんぽく笑ってそう言ってくれた。
このあたしの気持ちについても、学年についても先輩の絵里。
とっても心強い、あたしの味方。

「こうなったら、思い切って藤本さんにコクっちゃえ、さゆ」
「えー…」
「さゆなら大丈夫だって! だって可愛いし。絵里には負けるけど。ね、れーな」
「え…?」
「……可愛さは、絵里にも勝つの」
「ちがうよぉ、絵里には負けるもん。ね、れーな?」
「こ、怖いから。睨みながら言わんでほしか…」
「絵里のが可愛いよねっ」
「あー、うんうん、可愛い可愛い」
「むぅ」
「あっ、も、もちろんさゆも可愛かよ?」
「だったらいいけど」

見た目じゃこの3人の中で1番立場が強そうなのに、実は1番立場が弱いれいな。
そんなれいなも、あたしの味方。
……どっちが可愛いかっていう事に関しては、絵里の味方っぽいんだけど。
228 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:54
「まず、れーなが裏口に藤本さん呼ばせるの。そんで、絵里達は近くで見守っとくから、そこで告白!」
「でも、もし断わられたら、あたし生きてけないの…」

だって藤本さんは、れいなや絵里みたいに分かり易い人じゃない。
あたしの事をどう想ってるか、全然分からないのに。

「けど藤本さん、れいなが見た限り、他の人に髪触ったりとかせんよ?」
「え…」
「さゆだけやと思う、会う度触るの」
「そういえば黒髪好きとかよく言うよねー、藤本さん。あ、だからさゆ、髪染めたりしないの?」

じゃあ、自信持っていいですか?
藤本さんの好きな黒髪をしているあたしも、好きになってくれますか?
229 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:55
そして絵里の考えた、作戦と呼べない作戦実行の時。
焼肉屋さんの裏口に、藤本さんとあたし。
裏口のドアからこっそり顔を覗かせているのは、絵里とれいな。
れいなは従業員だから分かるけど、あそこに絵里がいるのはかなりおかしいの。
でもそんな事、気にしてられないの。
場所が場所なだけに、焼肉とかの匂いがプンプンして可愛くないけど、それすらも気にしてられないの。

「なんかれいなが、シゲさんが美貴に話したい事あるって言ってたけど、どしたの?」
「あ、はぃ…あ、あの、あたし、藤本さんを…」
「ん? ごめん、よく聞こえないや」

ぶおんぶおんと回っている換気扇が、あたしの邪魔をする。
言い出しにくくて。怖くて。
逃げ出したくて2人の方をこっそり見たら、片手を振り回したり振り上げたりして、何かを口パクで叫んでる。
きっと、「言え、言っちゃえ」とか、「もっと大きな声で」とかなの…。
だけど、だけど……。
230 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:55
…言えないの。
怖いの、振られるのは。
毎日毎日鏡を見てつけた自信が、崩れてしまいそうで。
だから、遠まわしな言い方しか、出来ないの。

「あの……ふ、藤本さん、黒髪、す…っ、好きなんですよねっ?」
「へ?」
「黒髪……」

似合ってるって言ってくれた。
可愛いって言ってくれた。
好きって言ってくれた。
その、あたしの黒髪。
………だから、黒髪のあたしも好きになってくれませんか。

「いや、別に黒髪好きじゃないよ」
「――――え?」

なのに、なんで?
231 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:56
「……美貴が好きなのは、シゲさんの黒髪なんだけど」
「へっ…?」
「だぁかぁらぁ! 別に美貴黒髪フェチなんかじゃないし! っていうかシゲさんが好きなの!!
せっかくコクられるかもってドキドキしながら来たのに、なんで今美貴がコクってるわけ?!」
「ふ、藤本さん?」
「……………お願いだから自信持ってよ、シゲさん。あんだけ自分の事可愛い可愛いって言ってんだから。
…そんな可愛い子に、惚れないわけないじゃん」

自信持っていいんですか?
自惚れちゃっていいんですか?
じゃあこれって、両想いってことで、いいんですか?

「…藤本さんは、黒髪じゃなくて、あたしが好き…?」
「うん。………シゲさんは?」
「あたしは…………さゆみは――――」

他の誰でもない、藤本さんが大好きです。

232 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:56

233 名前:◇黒い髪の女の子◇ 投稿日:2005/12/13(火) 17:56

234 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/13(火) 18:05
>>224-231「黒い髪の女の子」でした。
なんか話もオチも微妙な感じでごめんなさい…っていうかもうすぐネタ切れ…
从;- 。.-)<藤本さんの誕生日のレス番号、ミチシゲッツし忘れたの…

>>221さん
川*VvV)<いやシゲさんのが可愛いから
↑で美貴様がそう言っておりますが、自分は意地っ張りな亀ちゃんが1番かわ川V-V)つ==○));゚听)グハァッ

>>222さん
地方人なので、来週のハロモニを生きる力に頑張ります!
さゆって萌えますね。

>>223さん
ご苦労様です。
また覗かせて頂きます。
235 名前:164 投稿日:2005/12/13(火) 18:42
更新おつです。>>231の美貴さんキャワっ!自分もしげさんの黒髪大好きですw
(そんな自分も亀推しでつw)
从*・ 。.・)<暴力はよくないの。めっ! ……ごめんなたい>(´v `*从
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/14(水) 11:19
今や娘。で貴重な黒髪派なんで、そのままでいてほしいですね。
そんな自分はれいな推しですがw
237 名前:初心者 投稿日:2005/12/14(水) 19:08
更新お疲れ様です
さゆ美貴ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!
さゆの黒髪最高・ミキティがドキドキしてるの最高
絵里の作戦と呼べない作戦最高・れいなのさりげないフォロー最高
次回更新も楽しみに待ってます
238 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:35
>>35-43「これって誰のせい?」の続編というか。
239 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:35
「藤本さぁん。ねー。ねーねー………ねーねーねーねー!」
「そんな何回も言わなくても聞こえてるよ!」
「じゃあちゃんと返事してくださいよ! やっぱり藤本さんもいじわるだ……」

ブツブツと独り言が美貴のベッドの上から聞こえる。
なんなの、もう。
ホントに勘弁して下さいって、いやマジで。
しかも、「やっぱり藤本さんも」って何。
「も」って。
それに該当する奴は誰かって、分かってはいるけどさ……あいつと一緒にしないで欲しいよ、まったく。

「あのさぁ、えりえり」
「…はぃ」
「お願いだから、グチはこの隣の部屋にいる本人に言ってよ」

美貴の妹のれいな。
美貴がえりえりって言ってる、今美貴のベッドの上にいる亀井絵里の恋人。
240 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:35
「えりえり、入る部屋間違ってる」

姉妹なんで、入る家は一緒だけど。
さすがに部屋は別々なので、当然れいなの恋人であるえりえりはれいなの部屋に入るべき。
なのに、どうしてここに。

「絵里は怒ってるんですよ、藤本さん」
「あぁ、そうなの」
「はい」
「………」
「………」
「………」
「………って、なんで怒ってるのか聞いてくださいよぉぉおお!」

…厄介なコだなぁ、ほんとに。
なんでこんなコ選んだんだ、あのバカは……我が妹ながら、好みを理解しかねる。
241 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:36
「…で、何なの、怒ってる理由は」

超めんどくさい…。
いつも聞かなくても勝手に喋るくせに…。

「それがね…………なんだと思いますぅ?」
「いや、知らねーよ! っていうか聞いたんだから勿体ぶってないで教えろよ!!!」
「ふ、藤本さんが怒った…」
「誰だって怒るわ!!!!」

何このコ! マジありえないしマジおかしいしマジむかつくし!!

「藤本さんが…ふじもとさんが………ふじもとさんがぁ〜グスッ」
「…や、ちょっと…えりえり?」
「ふぇ…っ」
「待って、泣かないでよ、ちょっと」
「ふぇーーーん!!!」

終いには泣きやがったぁ!!!
242 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:36
「ヒックエック…グスグス…れーなぁ…れーなぁー!」
「あー? なん…って、絵里ぃ?! な、なんで泣いてんの!」
「ふじもとさんが…グスッ」
「美貴ねえが?!」

…え、また美貴のせい…?
なんで? どうして?
美貴、悪くないよね? 確かにえりえり泣いてるけど…でも、勝手に泣いたんだよ。
しかもえりえり、れいなに怒ってたんじゃないのかよ。
美貴がいくら部屋間違ってるとか言っても、頑として動かなかったくせに、
何あっさり部屋行って、出て来たれいなに抱き着いて、可愛い絵里を泣かせた美貴に仕返ししろみたいな指示出してんの?
しかもしかもしかも、あんたが今抱き着いてるれいなも、藤本さんなんですけど…。

「美貴ねえ!」
「ちょっと待ってれいな。お前は今、そこの亀に騙されている」
「はぁ? 騙されてるも何も、絵里泣いてるし」
「美貴のせいじゃないの、ほんとに」
「ちがうぅ、ふじもとさんのせいだぁ〜」
「どうやったら美貴のせいになるんだゴルァ!!!」
「っ! うわぁぁあぁああん」
「あ……」
243 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:37
あぁ、なんでこうなるんだろう…。
…やっべ、れいなマジで怒ってる。

「美貴ねえが絵里泣かせた…美貴ねえのせいで絵里が……」
「や、だから…」

違うんだよ、と言いたくても、さっきおっきい怒鳴り声をあげた後じゃ何の説得力もなくて。
っていうかまず、何が原因か知らないけど、れいながえりえりを怒らせたからこうなったんじゃん。
そんで、そのえりえりが美貴を怒らせて、今度は美貴が今れいなを怒らせた、と…。

「くっそぉ…絵里の仇! 美貴ねえ直伝の飛び蹴りくらえ!!!!」
「ぐはぁ?!」

き、効いたぜれいな…さすが…美貴が教えただけ…あ……グフゥ…………
244 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:37
…………ってかホントにこれって、美貴のせいなの…?

「きっと、さゆみが可愛すぎるせいなの」
「いやいや、それまったく関係ないし。や、可愛いけどね、可愛いけど。……Σ川;VoV)って、シゲさんいたのかよ!!!!」


245 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:37

246 名前:◇一体これって誰のせい?◇ 投稿日:2005/12/14(水) 23:38

247 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/14(水) 23:43
>>238-244「一体これって誰のせい?」でした。

>>235さん
勿論えりりんはキャワイイわけですが、みきさゆ、おまいらほんと可愛いなぁw
っていうか美貴様、顔が!顔が!w

>>236さん
ほんとにずっと黒髪でいて欲しいですね。
田中さんにももう一度黒髪を…ともう叶いそうにない事を願う黒髪れいなヲタですw

>>237さん
リd*^ー^)<最高連発ちゃいこーです!
248 名前:164 投稿日:2005/12/15(木) 10:02
朝からハァ━━━━━━ (´v `*从━━━━━━ン!!!!
(美貴さんの顔が溶けてしまいましたw)
えりえり可愛すぎだよえりえり……けど可哀想過ぎるよ美貴さん。
>>244で激しく笑いましたwすごいタイミングで入ってくるし、突っ込み慣れてるしww
249 名前:ななし 投稿日:2005/12/19(月) 02:27
さゆみき絡み大好きです
この二人マジでコンサで口チューしてましたw
これからももっとラブラブ場面が読みたいです
更新待っています
250 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:40
12月23日が、もうすぐやってくる。
天皇誕生日――違う。
いや、違う事はないけれど、れいなにとってその日は、天皇ではなく絵里の誕生日とされている。
今年で17歳。
今まで同じ16歳だったのに、彼女は23日で、また1つ年上になる。
251 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:40
「絶対に0時ちょうどにメールか電話してね。約束」

学校の終業式の帰り道、手を繋ぎながら真剣な顔でアヒル口の絵里にそう言われた。

「けど絵里、れいなの誕生日、メールも電話も…」
「あっ、もちろん誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントは別にしてちょうだいね」
「……こんにゃろう」

上手く話を反らされた上に、我侭も。
まあ言われなくても最初からプレゼントは2つ用意するはずだったが、そういえばれいなの誕生日は、
ポッキーの日だからと言って誕生日はポッキー詰め合わせだった事を思い出す。
確かに11月11日はポッキーの日だと以前CMでもやっていたが、誕生日プレゼントがポッキー詰め合わせって。
勿論食べたけど。そして次の日太ったけど。
れいなの誕生日の時と絵里の誕生日を思うと、何だか納得がいかない。
252 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:41
しかし、だ。
結局誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを分けて買って、さっきから時計を見ながらメールの文章を考えているれいな。
ベッドの上で仰向けになり、携帯電話と睨めっこ。
メール作成画面は、かれこれ30分程開きっ放し。

「うーん…」

なんて送ろう。
シンプルに【誕生日おめでとう】とか、短く【おたオメ!】とか、
【17歳っていやセブンティーンやね!響きかっこよかー、れいなも早くなりたいなぁ…あと何百日やろ、あ、そういえば(以下略】みたいに超長文とか。
色々思い浮かぶが、どれも打っては消しての繰り返し。

そもそも、だ。
絵里自身や絵里の身内や友達にはおめでたい事かもしれないが、よく考えなくてもちょっと考えれば、絵里が17歳になるのはれいなにとって嬉しくない。
絵里と、差が広がったようで。
絵里がこのまま、れいなを置いてどんどん大人になっていくようで。
42日しか同じ年じゃない二人。
それでなくても背がちっちゃく、色んなところが発育不足のれいなにとって、絵里との年の差・学年の差はコンプレックスだった。
253 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:41
「絵里」の後に、「先輩」なんてつけない。
敬語なんて使わない。
お姉さんぶらせないし、子供扱いなんてさせない。

絵里は、れいなと対等でなくちゃいけないのだ。

絵里が誕生日とクリスマスのプレゼントは別々にと我侭を言うように、それはれいなの我侭だった。

それに、だ。
0時ちょうどにメールか電話してね、約束、と絵里は言ったがそれは命令ではないだろうか。
だってれいなは頷いていないし、それに結構難易度が高い。
命令されるのがイヤなれいなに命令するなんて、絵里の奴め。
254 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:42
「くそーっ、何がセブンティーンね! そんなん知るかっ、絵里のアホ!」

携帯電話を放り投げ、独り勝手に怒ってみる。
そんでもって不貞寝。
5分。10分。15分。
その間ぴくりとも動かなかった身体が、0時の1分前で動いた。
運動神経には自信がなかったけれど、自分でも驚くくらい素早く身体が動いて、携帯電話が手元に戻った。
右手の親指でポチポチ打って、送信。

「……ふぅ」

0時ちょうどかどうか正確な時間は分からなかったが、れいなの部屋の時計は、ちょうど0時を差したところ。
なんだかんだ言いながら、しっかり絵里の命令――ではなく、約束通り0時ちょうどに送ってしまった。
弱いなぁ、とつくづく思う。
255 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:42
けども、だ。
れいなにだって意地がある。
確かに0時ちょうどには送ったが、「おめでとう」なんて祝いの言葉は送ってやらないし贈ってもやらない。
じゃあなんと送ったのか。
焦っていた為、きちんと打てていたか確認しようと送信ボックスを開いた時、電話を知らせる着信が鳴ってそれは中断された。

「もし?」
『れーな、もしもしくらいちゃんと2回言おうよ』
「うっさい」

17歳になりたての絵里からの電話。
声は明るい。

『へへー、セブンティーンになっちゃった〜』
「れいなだって来年なると」
『そしたら次は絵里、えっと……エ…エ…エイトティーン?…エイエイ……18になるもん!』
「…英語言えんなら最初から言うな」
『ムカつくぅ〜!』
256 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:43
年が1つ増えたからといって、頭の賢さがアップしたわけではないらしい。
年齢は対等ではなくなったが、賢さは対等なようで一安心だ。

ところで、だ。

「…メール、見た? ちゃんと0時ちょうどに送ったとよ」
『見たよぉ。あのね、その返事しようと思って今電話したの』

んへへ。
きっと笑顔でいるんだろうなという事が窺える。
聴いているれいなの顔も、自分では気付いていないが優しい笑顔をしている。

『絵里もね、』
「うん」
『また年下になったれーな、好き』
257 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:43
0時ちょうどに絵里に送ったメールの内容。


【17歳になった絵里も、好き】

258 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:44
「………年下言うな」
『年下じゃ〜ん』
「数分前まで同い年やったくせに!」
『でも学年上だもん』
「ぐっ…」
『ウヘヘ』

悔しい。物凄く悔しい。
学年なんて制度、誰が作ったのだ。

「…絵里のアホ」
『なんでよーっ』

それでも、だ。
好きって言われて、世界で1番嬉しかったりする。

それを口に出さず、憎まれ口を叩くのは、我侭でも意地でもなんでもなく、ただれいなが照れ屋なだけだからである。
259 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:45
リd*^ー^)<まっ、
260 名前:17歳―セブンティーン― 投稿日:2005/12/23(金) 23:45
リd*^ー^)<俄然強め!?
261 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/23(金) 23:51
>>250-257「17歳―セブンティーン―」でした。
ま、間に合った?間に合ったよね_| ̄|○ハァハァ…
絵里ヲタ歴短いですが、ヲタなんだから祝わなきゃと思って即興で頑張ってみました。
リd;´ー`)<真剣に気まずいんですけど…

>>248さん
美貴様、溶けたら別人ですよ、美貴様w
笑って頂けて嬉しいです。

>>249さん
リアルで口チューキタワァ*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*
でも家中転げ回って喜べないのが悲しいです……アヤヤ……
262 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/23(金) 23:52
すみません、今回更新分>>250-258でした…
263 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 01:11
ちゃんと間に合ってますよw
これで即興なんてすごいっす!
次回もまったりお待ちしております。
264 名前:164 投稿日:2005/12/26(月) 23:15
絵里誕更新乙です。間に合ってますよ〜w
あほな絵里が愛しいです(*´∀`)ポワワ
265 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:34
絵里と喧嘩をした。
絵里が泣いて帰って行った。
絵里に電話やメールをしても無視された。

絵里は、喧嘩して5日経った今も、れいなに逢ってくれない。
266 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:34
どっちが悪いと聞かれたら、れいななんだと思う。
…違う。思うじゃなくて、れいなだ。
完全に、れいなが悪い。

絵里とデートの約束をしていた日、友達から買い物へ行こうと誘われた。
その誘いに乗った、れいな。
先に約束をしていたのは絵里で、れいなも「楽しみにしてる」と言っていたのに。

いつもふにゃふにゃ笑っている絵里も、怒った。
拗ねる事はよくあるが、あそこまで怒ったのはれいなは初めて見た。
それに、動揺して。
その上絵里が怒り任せにれいなのコンプレックスである事を口に出してきて、頭に来て。
最終的に、キレてしまった。
もっと怒らせるどころか、絵里を泣かせてしまった。
267 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:34
絵里とは、性格もまったく違えば、服の好みも全然違っていて。
どちらかというと、原色で派手な服が好きなれいな。
買い物に誘われた友達とは、服の好みでいつも話が盛り上がる。
それに、いいお店知ってると言われ、行ってみたくなったのだ。
友達がその日しか空いていないと言うので、絵里との約束を断わってまで。

そして喧嘩をして、その日は結局友達と買い物へ来たけれど、全然楽しくなかった。
れいな好みの服はいっぱいあったけど、何も買わなかった。

絵里の選ぶ服を見てれいなが「もっと派手でもよくない?」と言い、
れいなの選ぶ服を見て絵里が「派手すぎない?」と言うやりとりの方が、楽しかった。
好みじゃなかったけど、絵里が選んでくれた服を買ったりして。
268 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:35
なんで、一言「ごめん」と言えなかったのか。
泣いて、帰ってしまうまでに言う時間はあったのに。
絵里は、その一言を待っていたかもしれないのに。
それなのに何も言わず俯いていたれいな。

メールの内容だって、謝罪の言葉はない。
【なんで電話出てくれんの?】【絵里いつまで怒ってると?】など。
絵里が逢ってくれず無視する理由も分かっているのに。
分かっているのに、たった一言が伝えられない。

「絵里ぃ〜……」

鳴らない携帯電話。
待受け画面は、絵里が勝手に設定したれいなとのツーショット。
この頃に、戻りたい。
269 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:35
絵里の誕生日、イヴ、クリスマス、と3日間過ごした絵里との日々。
そして26日もデートだったのに。
今日は、31日。大晦日。今年最後の日。

初詣、一緒に行こうね。

可愛い八重歯を見せながら、手を繋いで嬉しそうに言ってくれていた。
その誘いに頷いたれいな。
その約束は、絵里としかしていない。
たとえ誘われたとしても、もう、絵里より優先するものなんて、ない。

だから、謝らなきゃ。
れいなが悪いから。
初詣、一緒に行きたいから。
例年も、絵里とずっといたいから。

だから、行かなきゃ。
絵里のもとに。
270 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:35
紅白の最終結果が出るより前に、家を飛び出す。
足がまともに地面につかない、身体に似合わない大きな自転車に乗って、力強く漕ぐ。
外は寒くて雪が降っていて、白い息がこれでもかと出るけれど。

漕いで、漕いで、漕いで。
途中、信号を無視したりぶつかりそうになったりもしたけれど、次からは気を付けるという事で許してもらう事にして。
漕いで、漕いで、漕いで。

――――絵里の家に、やっと着いた。
271 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:36
息を整える時間も作らず、目の前にあったインターホンを押して。

『はい』
「れいなですっ、絵里いますか!!!」

夜分遅くにという挨拶もロクにせず、ただそれだけを伝える。
すると、大体の事情は知っていたのか、『ちょっと待ってね』と優しい声を最後に、インターホンの音声は途切れた。
その言葉に安心して、やっと一息つく。

すると今度は、心臓の音が速くなってきた。
身体もなんだか硬くなって、自分が今緊張している事に気付く。

面と向かって謝るのだ、これから。
思った事と反対の事を言ってしまうあまのじゃくな性格に、日にちが経ってしまった上、
余計言い辛い、言えない一言を言う為に、今、ここに。
272 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:36
「あ…絵里…」

左胸の部分の服をぎゅっと掴んだ時、静かに玄関ドアが開かれた。
現れたのは、5日ぶりの絵里。

髪は短くて。
色は茶色くて。
肌の色は少し黒くて。
アヒル口で。

5日前の絵里は耳を隠していて、今日は耳を出している事だけを除けば、何一つ変わっていなかった。
ただ、外見は5日前と同じでも、気持ちは、どうなんだろう。

れいなの事、まだ好きかな。
273 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:36
「……何?」
「あっ…と、その…」

後ろ手でドアを閉め、そこにもたれるようにして。
視線は合わせてくれない。
でもそっちの方が都合がよかった。
へタレでビビリのれいなは、見つめられて上手く言える自信がなかったから。

「……………ごめん」

小さくて、か細くて。
絵里に届いたかさえ分からないような声。
それでも、恐る恐る確かめた絵里の顔は、その言葉を聞いて綻んでいるように見えたんだけど。
口を開いて出た言葉は、冷たかった。
274 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:37
「何で謝られるのか、意味分かんない」
「え…、だ、だって、こないだ……絵里と約束しとったのに…」
「もう忘れた」
「え、絵里…」

それって、もう、れいなとの関係は絵里の中で終わりになった――そういう事?

「絵里、てっきり初詣のお誘いに来てくれたんだと思ってたのに」
「…………へ?」
「もう、年変わったよ」

ん、と携帯を突きつけられた。
見てみると、0時を過ぎていて。
れいなが必死になって自転車を漕いでる間に、ハッピーニューイヤーになっていたらしい。
そういえばやたらと自転車ですれ違う人達がうるさかったなと、今になって思う。
275 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:37
「だからもう、去年の事は、絵里忘れちゃったよ」
「お…こっとらんの?」
「だから、もう忘れたって。………新年から、れいなとケンカしたままの、やだし」
「絵里…」
「……けど、謝ってくれて、すっごい嬉しかった」

んひひ、白い可愛い八重歯が見えた。
大好きな、ふにゃふにゃした笑顔が見れた。

「そ、それはもう忘れてよかよ」
「喧嘩した事は忘れたけど、謝った事は忘れないもん。だって今年だし」
「ぐ…――ぅわっ」

真っ赤になって俯いたれいな。
そんなれいなに、絵里が駆けて来て抱きついた。
276 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:37
「…もう、絵里とのデートは断わったらダメなんだからね」

去年の事、全然忘れとらんやん――れいなは思った。
その絵里の呟きに応えるように、ぎゅーっと抱き締める。
今年初の抱擁。

「あけまして、おめでと」
「へへ…今年もよろしくね」
「うん」
「初詣、行きたい」
「れいなも、絵里と行きたくて来たと」
「じゃあ行こう?」
「うん」

あ、でもその前に。
「ごめん」よりもっともっともっと言えない一言。
今年初めて、頑張って言ってみようと思う。
大丈夫、「ごめん」が言えたんだ。
今から言う事だって、それよりもうちょっとの勇気を出したら言える。
たった一言。
それを今、言いたくて。
277 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:38
「あのさ、絵里」
「うん?」
「………好いとぅよ」
278 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:38
絵里の事がムカついて、分からなくて、好き過ぎて、これから1年の間に、また喧嘩をするかもしれない。
それでもまた来年は、やっぱり絵里と一緒にいたい。

「絵里も、れいなが大好きだよ」

絵里みたいに笑顔で言えないけど。
絵里みたいに何度も言えないけど。
搾り出して言った1回ではすべて言い表す事は出来ないけど。
たった一言が言えなくて、絵里を不安にさせてしまう事があるかもしれないけど。

それでもれいなは、絵里の事がばり好いとう。

それだけは忘れず、分かっていて欲しいんです。




279 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:39

280 名前:たった一言が言いたくて 投稿日:2005/12/30(金) 23:39

281 名前:名無しさん 投稿日:2005/12/30(金) 23:45
>>265-278「たった一言が言いたくて」でした。
1日早いあけおめ話。
来年は願わくばれなえりがリアルでもっと見れますように…と、初詣に行けそうにないのでここで言っておきます。

>>263さん
間に合っててよかった…ハァ
来年もまったりお待ち頂ければ幸せです…

>>264さん
リd*^ー^)<絵里はただのあほじゃなくて、可愛いあほですよ?
从*・ 。.・)<さゆみは可愛すぎるあほなの
川;VoV)<…可愛いあほもなんだけど、可愛すぎるあほもどーなの?
从*´ ヮ`)<どっちも愛しいと思います!
6期万歳なの。
282 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/31(土) 01:04
超良かったです!!れなえり可愛いですね〜♪
私も来年はもっとりあるれなえり見れるよう祈っとこう(笑
283 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/12/31(土) 09:13
更新お疲れ様です。
もう、>>274の会話なんかは大好きでございます。とっても癒されました。
2006年はリアルでも小説でもれなえりが増えればいいなぁ……。
284 名前:164 投稿日:2006/01/09(月) 10:50
れなえり可愛い〜♪
今年も甘い甘い作者様のお話が読めるの楽しみにしています。
可愛いあほも、可愛すぎるあほも大好きですw
285 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/11(土) 20:52
どの6期話も可愛いですね〜
更新楽しみに待ってます。
286 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 00:59
>>35-43「これって誰のせい?」
>>238-244「一体これって誰のせい?」の続編というかなんと言うか。
287 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:01
今年もよろしくお願いします、そう言うべきなのに、この子は違った。

「見て下さいっ、着物着たんです〜。可愛くないですか?」
「……いや、可愛いよ。可愛いけどね」

袖を親指以外の指で掴んで、くるくる回る可愛いシゲさん。
いつもはうさぎ風(シゲさんはうさちゃん風と言う)の髪型か、ポニーテールか下ろしているかの3択みたいだったのに、
今日は着物を着ている事もあって、日本人らしい黒髪を綺麗に上げている。
うなじが見えて、可愛いながらもちょいセクシー……って、違う!
288 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:03
「うわ。なんか藤本さん、今顔がすっごい気持ち悪かった」
「あぁ!? 気持ち悪かったってなんだよゴルァ!!! っていうか、えりえりいたのね」
「ひっどーーい!!!」

背の高いシゲさんの後ろから、これまた着物を着たえりえりが。
髪は短いからそのままだけど、女の子らしく髪の毛に色んなアクセントをつけてる。
っていうか、今年初めての言葉が気持ち悪いって、おい。
…まあ、美貴も結構ひどい事言ったわけだけど。
誰一人としてまだ、おめでとうって言ってないような。
289 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:03
「まぁ、まず新年のご挨拶しない?」
「しません」
「…シゲさん、シゲさんの後ろにいるそのアヒル口、ダチョウ口にしてやってもいい?」
「こわいこわいぃ、藤本さんがこわいぃ〜」
「まともな美貴の提案を、えりえりが拒否るからだろっ」
「可愛らしいちっちゃな反抗じゃないですかぁ〜」
「全然可愛くないし」
「藤本さん、さゆみは?」
「シゲさんは可愛いよ」
「えへ〜」
「…………ムカつくんですけどぉ」

じと〜って感じる視線。
えりえりには残念だけど、だってシゲさんえりえりより可愛いんだもん。これはもうしょうがない。
去年も可愛かったけど、今年は更に可愛い!
290 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:05
「ねー藤本さぁん! 絵里にも可愛いって言ってぇ」
「あー?」
「言ってよぉ、言ってくださいよぅ」

シゲさんには今年も引き続き甘やかし路線で、えりえりには今年からシカト方向で行こうと決めた矢先、
シカト出来ないくらい美貴の腕にまとわりついてきた。

「れいなに言ってもらえばいいでしょーが」
「言ってくんないんだもん、れーなっ」
「何それ。えりえりが可愛くないってこと?」
「ひどいぃ! 藤本さん絵里の事可愛くないって言ったぁ! ふぇっ…」
「わーっ、ちょ、ちょ」
「藤本さんが絵里泣かしたのぉ」
「なんでそーなんのっ」

シゲさんに頭ナデナデしてもらいながら肩に顔を埋めるえりえり。
っていうかまた美貴のせいなのシゲさん。
どっちかって言ったら、シゲさんのせいじゃない…?
だってシゲさんが「さゆみは?」とか可愛く聞くから…。
それに、えりえりが泣いたらもう1人の藤本さんが………
291 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:06
「ええええ絵里ぃいいいい!!」

――きやがった。
こいつ、美貴がいくら呼んでも起きないくらい爆睡してやがったくせに、ちょっとえりえりが泣いたくらいで飛んで起きてきやがった。

あけましておめでとう、とか明るく笑顔で挨拶する雰囲気ときっかけすら作らせてもらえない美貴。
ちょっと待ってよ…新年から妹に睨まれるのかよ、美貴。なんて可哀想なお姉ちゃん。

「れいなぁ、れいなぁ。ふえーん」
「だ、だいじょぶ? また美貴ねえに何かされた?」
「されたんじゃなくて、言われたぁ」
「なな、なんて」
「可愛くないって…絵里の事ブスって」
「おいおい! ブスとか付け足されちゃってるよ!?」

美貴知らないのに! 何この子の脳内!!

「……」
「うわー美貴すごいれいなに睨まれちゃってるしねなんだろうこれは」

しかも信じる我が妹! すごいねこの、頭がバカップル!
292 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:06
「…シゲさん、助けて?」

うるうると、瞳を潤ませて。

「そうですね…ここは、れーなが藤本さんの代わりに、絵里に『可愛い』って言えば解決すると思うの」
「え…?」
「そうだ、言え。言ってしまえ、へたれいな」
「ん、んなっ、なんでそんなハズい事っ! れいなはそんなキャラじゃ…!」
「じゃあえりえりが泣き止まないでもいいのか? ええ?」
「ぐ…っ」
293 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:07
泣かした事は忘れて、ここぞとばかりに妹いじめ。美貴ってなんて優しいお姉ちゃん。

「え、えと…その…」
「声が小さい!」
「っく!」

あぁ、妹いじめって楽しい…。なんか趣味が増えそう。
いやでもこれは、妹の恋を応援しているわけであって。
294 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:07
「え、絵里は………か、かゎぃぃから…」

おお。言った。頑張って言った。
そして、おお。えりえりが顔を上げた。

「……………グス…ほんとぉ?」
「う、うん…」
「さゆより、絵里のが可愛い…?」
「当たり前っちゃろ!」
「うへへへへへぇ」

おお。泣き止んだ。
おお。抱き合ってほっぺにちゅーとかされちゃってる。
これにて一件落着、落着………――――と、思いきや。
295 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:08
「ちょっと待つの」
「ん? シゲさんどーしたの」
「絵里より、さゆみの方が可愛いの」
「うん、それはそうなんだけどね?」

そこはほら、今は心の中でとどめておこうよ。せっかく一件落着したと思ったのにさ。

「違うもんっ、絵里のが可愛いもん! だってれーなもそう言ってくれたし!」
「さゆみですぅ! 藤本さんいつも言ってくれてるもん!」

……ねぇ、2人、何しに来たの?
初詣のお誘いじゃないの?
っていうか、全然あけましておめでとうじゃないんですけど…………
296 名前:◇新年、明けまして 投稿日:2006/02/15(水) 01:09


「…とりあえずれいな、顔洗ってきたら?」
「…うん」

今年からは、さゆえりの2人の喧嘩は放置決定ということにしたので、終わるまで美貴もゆっくりしようと思います。


297 名前:名無しさん 投稿日:2006/02/15(水) 01:10
>>286-296「新年、明けまして」でした。
1ヶ月以上遅れた話で本当に申し訳ないと思ってます。すみません…
遅れすぎていたので、ageずにおとしました。

>>282さん
れなえり可愛いと言ってもらえて書いてよかったです。
新年明けてかられなえり…今のとこあったかなぁ…

>駆け出し作者さん
会話を考えたり書くのがすごく楽しい人間です。
2006年、本当にそうなってほしいですね…

>164さん
今年一発目が遅くなってすみませんでした…
自分もそんなあほ2人大好きですw

>>285さん
更新、お待たせしました。
スローすぎるペースですが、ひたすら6期でいきたいです。
298 名前:164 投稿日:2006/02/18(土) 11:43
おこちゃまな喧嘩が可愛いw
美貴さん苦労するけど、頑張ってね。
そして……从*VvV)<さゆかわいいよさゆ。
299 名前:土に潜った某作者。 投稿日:2006/03/05(日) 02:09
 更新お疲れ様です。
 新作も相変わらずウヘヘヘヘヘと顔を気持ち悪く緩ませながら読ませていただきました。
作者さまの話は全部好きですが、特にこの「これって誰のせい?」シリーズが一番好きです。
彼女に甘い藤本姉妹が萌え☆次回も頑張ってください。
300 名前:300GET 投稿日:2006/05/08(月) 00:18
300GET
301 名前:◇GAMオメ◇ 投稿日:2006/06/15(木) 12:10
どこかでテレビの音が聴こえる。
薄手のタオルケットに裸で眠っていた美貴は、それで起こされてしまった。
といっても、すぐに目も頭もパッチリ覚めるというわけにはいかず、不愉快で不機嫌なまま、タオルケットを頭から被り、
もう一眠りしようとまずは試みる。
しかし、やはり薄手のタオルケット。
冬布団のように、音をシャットダウンする事は出来ず、相変わらず寝起きの美貴の耳には、何と言っているか分からないテレビの声。

「も〜……」

しょうがない、起きてしまおう。
出発のギリギリまで寝る美貴としては、まだ起きなければいけないギリギリの時間ではなかったけれど。
たまにはゆっくりと、2人で朝ご飯を食べるのもいいかもしれない。
美貴が寝る前まで隣でくっついて寝ていたもう1人は先に起きて、おそらくテレビを見ている。
302 名前:◇GAMオメ◇ 投稿日:2006/06/15(木) 12:11
さすがに裸のままでは起きれないと、裾の長いTシャツを被り、下着を穿く。
大事な所はそれで隠されたが、まだふとももなどが丸見えだ。
だが丸見えでも、もう今更恥ずかしがる相手でもないので、寝癖頭のまま、そのままテレビの音がする部屋へ。

「…ぉあよぅ」
「はよー」

その部屋に入ると、テレビの前に置かれたソファに体育座りをしてリモコンを握っていた、亜弥が。
美貴を起こした犯人は、そいつだった。
亜弥も美貴と同じような格好で、寝起きの美貴にご挨拶。
亜弥の方はというと、大分前に起きていたのか爽やかだった。

「早いじゃん、起きるの」
「起きたんじゃなくて起こされたの」
「誰に?」
「…亜弥ちゃんしかいないでしょ」

すっとぼけているのか本気なのかそう訊ねる亜弥に、呆れてしまう。
ドアを閉めてくれればテレビの声は寝室まで届く事はなかったのに、
親切にドアを全開にしていてくれたもんだから、美貴は起こされたのだ。
おかげで、ドアを開けてこの部屋に入るという動作はせずに済んだけれど。
303 名前:◇GAMオメ◇ 投稿日:2006/06/15(木) 12:11
どっこいしょ、と、亜弥に左に寄ってもらい、美貴もそのソファへ座る。
体育座りの亜弥と違って、あぐらをかいて。
どちらも良い座り方とは言えないが、それを咎める者はいない。

「珍しい。亜弥ちゃんがニュース見てる」

あくびを噛み殺しながらテレビ画面を見ると、見慣れた、何度か生でも会った事のあるアナウンサーが、ちょうどニュースを読んでいた。
その番組は毎日朝早くからある番組で、ハロー!プロジェクトをよく取り上げてくれている番組。
8時に終わる前に、最後、いくつかのニュースを今読んでいた所だ。
その後は占いが待っていて、すぐに次の番組がもう始まる。
304 名前:◇GAMオメ◇ 投稿日:2006/06/15(木) 12:12
「まあニュースっていっても、芸能ニュースを見てたんだけどね」
「あぁ。やってた?」
「やってたやってた。やっぱあたし可愛かった」
「……え、何それ。ユニットの感想じゃなくて、自分の感想かよ!」
「うーん。寝起きだけあって、やっぱちょっと突っ込み遅いね。マイナス625点」
「ええっ、マイナスとか何? ってかなんで625点…」
「あたしの誕生日じゃん!」
「そうだけど。マイナスしすぎでしょそれ。どうせなら226点とか」
「口答えは許しません」
「ごめんなさい……って、なんで美貴が謝んなきゃ…」
「にゃっはは」

まあ、いつもの事だ。
その言い合いは後には引かないし、それ以上続ける事もない。
305 名前:◇GAMオメ◇ 投稿日:2006/06/15(木) 12:13
芸能ニュースの自分達を見てもう用は済んだのか、ポチッとテレビを消す。
そして今度は、亜弥があくび。

「眠いねー、どうしよっか」

もう一眠りしたいけれど、何かちょっと中途半端だし。
ソファの背もたれにもたれかかりながら、起きてきたばかりの美貴に意見を求める。

「ご飯は?」
「食べんの? あ、でもなんもないかも」
「マジでぇ?」
「昨日、帰りにコンビニ寄って買ってくるの忘れてた」
「もー。亜弥ちゃんのバカ」
「えーっ、あたしですか。あたしがバカですか。もうすぐハタチのあたしがバカですか」
「いや、もうすぐハタチとかカンケーないし」
「一般的にオトナになるからバカじゃないってことぉ」
「オトナになってもバカな人はいっぱいいるじゃん。ほら、よっちゃんとか」
「あぁ。たんとかね」
「美貴も!?」

いやまさか、そう来るとは。
いや、ちょっと思っていたけど。
どうやら最近亜弥は、美貴いじりに凝っているらしい。
亜弥が思い通りの反応を美貴がすると、してやったりと笑う。
思い通りに動かされる美貴は、本当にバカだ。
306 名前:◇GAMオメ◇ 投稿日:2006/06/15(木) 12:14
「でもお腹空いたー。亜弥ちゃん、あるもんで何か作って」
「あたしがぁ?」
「だって亜弥ちゃんちじゃん。作ってよ」
「何その可愛いお願い」
「えへ。じゃあ可愛いから作ってくれる?」
「…いや作んないけど」
「ちょっ、作んないのかよ」
「うそ。作るよ」
「どっちよ」
「たんと一緒に作る」
「美貴もかよ!」
「えへ」
「うぁ、笑い方真似された」
「うん。可愛いからあたしの物にしてやった」
307 名前:◇GAMオメ◇ 投稿日:2006/06/15(木) 12:19
そして、場所は変わってキッチン。

「何作る?」
「洋風? 和風?」
「和風でいいんじゃん? 亜弥ちゃん和食好きだし」
「でも和食に欠かせない、お味噌汁のお味噌がないよ」
「じゃあ和風って聞かないでよ…」
「えへ」
「可愛くない」
「えー。じゃあ本物も可愛くないって事じゃん」
「違う。本物は可愛いの。でも真似してる人は可愛くない」
「何それっ」
「えへ」
「…やっぱ本物も可愛くないしぃ〜」
「はい亜弥ちゃんとりあえず黙って。
っていうか、お味噌どころか材料すらないんですけど!」

冷蔵庫を開けて、ビックリ。
もうちょっと何かあっても良さそうだったのに、お見事としか言いようがない。

「……」
「…オイ、何か言えよ」
「黙ってって言った」
「……そーゆー時だけ美貴の言う事聞くでしょ……はぁ〜」
「溜め息つくと、幸せ逃げて老けちゃうよ、たん」
「亜弥ちゃんに言われたくな――」
「はい、たん禁句言った!」
308 名前:◇GAMオメ◇ 投稿日:2006/06/15(木) 12:19

生足眩しい、朝の一コマ。
2人はそれからもバカバカしい言い合いをし、結局ご飯を食べられずに出かけるのだった。

309 名前:名無しさん 投稿日:2006/06/15(木) 12:20
>>301-308「GAMオメ」でした。
どうしてこのユニットをもっと早くやってくれなかったんだろう…
お祝い超即興なのでどうかお許し下さい…orz

>164さん
从*・ 。.・)<藤本さんも可愛いの!

>土に潜った某作者。さん
緩ませながら読んで下さりどうもですw
次回は大分遅くなった上に、そのシリーズじゃありませんが、趣味に合えば是非。。
HNがとても気になりますw

>300GETさん
300GETおめでとうございまーす\(^▽^)/
310 名前:桜桃 投稿日:2006/06/19(月) 00:15
GAMキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
嬉しいですね。ほんと。
やっと見れますね、二人のラブラブっぷりが!!
名無しさんのあやみきが可愛すぎて悶えてます。
『えへ』っていう二人可愛すぎ!!


個人的には亜弥ちゃんの方が好みなんで、みきたん、
亜弥ちゃんを私にくださ(ry
311 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/12(火) 23:44
どれを読んでも、ニコニコするというか、
ニマニマするというか、ニタニタするというか。(マテ

いわゆる、平和。

う〜ん、和みますなぁ。(笑)

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