美貴、ちょっと太ったんじゃない?
- 1 名前:ささるさる 投稿日:2005/11/25(金) 02:20
- ささるさると申します。
藤本主役の超短編です。
- 2 名前:ささるさる 投稿日:2005/11/25(金) 02:20
- モーニング娘。の出演した番組が田舎で放映された日の夜遅く。
あたしのケータイに必ずお母さんから電話が入る。
最初の話題はいっつもおんなじ。
『ねえ美貴。番組見たんだけど、前よりちょっと太ったんじゃない?』
「もう、太ってなんかないってばあ。たぶんそっちのテレビがいいかげん古くなってるんだって。きっと縦と横の比率がビミョーに歪んできてるんだよ」
『そうかしら。前と比べてふっくらした感じがしたんだけど…ひょっとして陰でカレシができて幸せ太りじゃないの?』
「だーかーらー、太ってないってあたし。他に用ないんだったら電話切るから!」
ピッ。
ケータイをソファーの上に放り出してベッドに寝っ転がった。
「心配してくれるのはありがたいけどさ、もうちょっと違う話題ってあるじゃない。よりによって最初の話題がいっつもいっつも『太ったんじゃない?』なんてさ。そりゃ食べなきゃもたないから毎日仕事の合間にけっこう食べてるよ。でもその分消費するくらい仕事してるしさ。幸せ太りも何も、カレシができるヒマもチャンスもねーって」
ベッドの上でゴロゴロしながら、独りでグチをずーっとブチブチブチブチ。
何だか気分が元に戻らないままで眠り込んでしまった。
- 3 名前:ささるさる 投稿日:2005/11/25(金) 02:21
- 次の日。
いつまでも鳴りやまない着メロで目が覚めた。マネージャーさんだ。
「うわ、いっけなーい! 遅刻遅刻!」
あわてて着替えて出て行ったら、やんわり注意されてしまった。
「美貴ちゃん、髪がボサボサだよ。とかして来た方いいよ」
「いいです。またヘアメイクさんにお世話になりますから」
「身だしなみも気にしないとダメじゃないかな。それにまだ意識できてないかもしれないけど、今が女性として一番輝いてる年齢なんだからさ、自分を引き立てることも覚えないとさ」
「はーい。近い将来からガンバリマース」
ばっちりキメたテレビの藤本美貴からは想像できないくらい、普段のあたしって恐ろしく無精者。
マンションの外に停めてあるワゴン車に乗り込んで、マネージャーさんと本日のスケジュールをもう一度確認。
今日は一日新曲のレコーディングだけど、その前に単独で雑誌のインタビューが一件。
年頃の女の子が読むようなやつで、インタビューのテーマが「教えて!あなたのミリョクのヒミツ」。
ウーム。ボサボサ頭でフツーに仕事場へ行く人がどうこう言えるテーマじゃないなあ、これ。
- 4 名前:ささるさる 投稿日:2005/11/25(金) 02:22
- いきなり初対面の編集の人とインタビューってどうも苦手なんだけどなあ。
しかもぎこちなくて一問一答みたいで、写真も何枚か撮影してせいぜい20分ちょい。
あれでホントに記事になるのかちょっと心配だけど、気を取り直してレコーディングスタジオに直行。
やっとみんなと合流して、録りの番が来るまでMDで仮歌を聞きながら自分のパートの練習したり、精神集中したり。
そのうちいつの間にか控え室に何人か集まってきてお菓子をつまんでおしゃべりの始まり。
そこへ歌い方の指導で来てたつんくさんもやって来ておしゃべりの輪に参加。
いろいろ話してたら、あたしは思わずお母さんのことをつんくさんに言ってしまった。
「へえ。おもろいお母さんやんか、藤本」
「そうですか? だって話題って言ったらいっつもそれなんですよ」
「そんなんテキトーに答えとったらエエやん。うん太った、言うて」
「イヤですよお。年頃の女の子がジョーダンでも言えるワケないじゃないですかあ」
「まあそれもそうや。でもな、たぶんそれ、お母さん寂しいんとちゃうんかな」
「え…寂しいんですか」
「考えてみ。田舎におったころの藤本はそれこそ単なる藤本家の娘でしかなかったんや。お母さんにしてみたら、生まれたときからずっと見てきた自分の娘という見方やろ」
「はあ」
- 5 名前:ささるさる 投稿日:2005/11/25(金) 02:23
- 「そんでオーディション受かって、歌を歌ったりテレビでいろいろやってるうちに、藤本の中からお母さんの知らんかった部分がどんどん磨き出されてきてびっくりしたと思うんや。うちの美貴にこんな部分があったんか言うて。それはずうっと身近にいながら全然気付かへんかった部分やから、今までとは違う娘になってしまった気持ちなんや。それで寂しなってるんやと思うで」
「…」
「いろいろ心配なんやけど気持ち的に遠くに行ってもうた感じもあって、何から話してエエかわからんようなってんのとちゃうんかなあ。だから藤本が怒るようなことをわざと言うんや」
「でも話題だったら他にもいっぱいあるじゃないですか。わざと怒らす必要とか、ないと思いません?」
「いや、怒るようなこと言うて怒ってくれたら安心なんや。思ったとおりに反応してくれる今までと同じ我が娘ということやから。自分の娘がアイドルっていう違う存在になったうえに何を言うても涼しく受け答えされてみ。それメッチャ寂しいで」
「…」
「太ったんとちゃうん言われて、それに怒ってる今のまんまでエエんやないかな。それが今の藤本とお母さんの間での自然なやり取りなんやろうし」
「はあ…」
- 6 名前:ささるさる 投稿日:2005/11/25(金) 02:23
- レコーディングスタジオからの帰り道。
マンションまで送ってもらう車の中で、つんくさんの言葉を思わずつぶやいていた。
「アイドルっていう違う存在、かあ。あたしってそんな別世界の人間になっちゃったかなあ」
色んな歌を歌って。ライブもどんどんやって。
いっぱいCD出して。テレビやラジオにも雑誌にもたくさん出て。
仕事といっても普段からそれが当たり前なんて確かに別世界だよね。
周りはどうしてもアイドルっていう目で見ちゃうだろうし、その周りの中にお母さんもいるんだね。
でも何て言うのかな。
うまく言えないけど、アイドルのときのあたしって自分の心に必要な栄養を吸収してる姿なんだ。
その栄養があるから、あたしは今でも本来のあたしのままで居続けられるんだ。
もともとの自分であるためにアイドルやってるって言うとヘンかも知れないけど、でもそんな感じ。
だから周りがどう見ようとあたしの真ん中にあるものは、田舎にいた頃と変わらないあの時のあたしなんだ。
やっぱりつんくさんの言うとおり、お母さんは確かめたいんだね。
美貴が違う存在になっちゃったんじゃないかって心配なんだね。
大丈夫だよ。美貴はいつだってあのときの美貴だから。
よし、今度「太ったんじゃない?」って聞かれたら、こう答えるんだ。
「全然変わってないよ。だって美貴はお母さんの知ってる昔のまんまの美貴だもん」
美貴、ちょっと太ったんじゃない? 完
- 7 名前:ささるさる 投稿日:2005/11/25(金) 02:24
- 以上で終わりです。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/26(土) 21:32
- なんか、良かった。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/27(日) 00:49
- うん。カンドー!
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:57
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
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