心象

1 名前:日季 投稿日:2005/12/02(金) 01:00
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/silver/1128336383/
引き続きスレをお借りいたします。前スレの番外や、石吉・藤道などの短編・中編などを書いていきたいと思います。
まだまだ未熟で拙い文章ですが、よろしくお願いします。

2 名前:日季 投稿日:2005/12/02(金) 01:00
先に前スレの藤道(フリージア、クローバー、スノードロップ)の続編を……
夏頃に書いたものなので、ほんとに季節外れですいませんw
3 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:01
「ねえ、藤本さん聞いてますか?」
「ん?う、うん聞いてるよ。この映画で良いんだよね?」
「そうです…」
「ほら、いこっ!?」


この頃、藤本さんの様子がおかしいんです。
話をしていても上の空だったりして…… 

ようやくテストも終わって終業式までの休みに入った学校。
だから、こうやって学校以外で会えるのは嬉しいけど……


「さゆみ、ジュース買ってくるけど何が良い?」
「えっと、藤本さんと同じものが良いな」
「そっか。じゃあ待ってて」
「はい!」
4 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:01
 
 
 
5 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:02
『12日と13日あけといて!美貴と遊ぼうよ』

なんて言ってくれて、すっごい嬉しかったんです。
それに、家族の人が旅行でいないって聞いたママが
『さゆ、泊まってきたら?』なんて簡単に提案して……
『一人だと寂しいものよ』ってママの一言に負けて思わず頷いてた。

ママは『美貴ちゃんみたいな娘も欲しいわ〜』なんて呑気に呟いて。
吉澤さんを見ても『ひーちゃんみたいな娘が欲しいわ〜』って言うけど……

いつもより長い時間を一緒に過ごせる事が、嬉しいけど
ちょっとだけ怖かったりもするの。

ただ漠然と何かが怖いの……
 
6 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:02
 
 
 
7 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:02
「はい、ジュースだよ」
「あ、ありがとうございます!」


にっこり笑う藤本さんはさっきまでの様子は無くって。
時々、ほんのちょっとだけおかしいだけだから別に気にすること無いのかな。


「梨華ちゃん達も映画見に来るって言ってたけどな」
「そうなんですか?」
「うん。でも梨華ちゃんアクションものが好きだから、この映画を見に来たんじゃないなぁ、たぶん」
「うわぁ、意外ですね〜。石川さん恋愛ものが好きだと思ってました」
「ダメダメ、梨華ちゃんストーリー重視のお話だと寝ちゃうときあるんだよ。
 あんがい乙女チックじゃないんだ、あの人」
「藤本さんは?」
「美貴は・・・まぁ内容によりけりかな?
 今日はさゆみが観たいの観に来たんだから気にしなくって良いよ」


へらっと笑った顔が可愛い人。
いつも凛々しい顔立ちは私の前だけ安心したように崩れるようになって。
一緒にいることで、そんな風に安心してくれてるんだったら嬉しいな。

私は、敬語で喋るクセがぬけなくって。
藤本さんは、今のままで良いと思うよって言ってくれてる。
8 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:03
映画も中半にさしかかった所で、肩に重みを感じて隣を見ると
藤本さんはスヤスヤと気持ち良さそうに眠ってた。
首が痛くならないように少しだけ藤本さんの方に肩を寄せてあげると
小さい声で名前を呼ばれた…

映画の内容よりも隣で眠る藤本さんが気になって、観察してみる。
半目で寝るクセがあるって言ってたけど、いまはそんなことなくって。
閉じられた瞼をふちどる睫毛に視線を落としたり
すこしふっくらと厚みのある唇に、視線が吸い込まれている事に気付いて
一人で赤くなったりして……

自分の意思でキスしたいって思うようになってきたんですよ?
ふわふわした気持ちになって、どんなお菓子よりも甘くって……
でも、藤本さんはきっと我慢してると思う。
最近、おかしい理由だってほんとは少し分かってるんです。


視線が唇から外れていることだって知ってます。
優しく触れるだけのキスを繰り返しながら
抱きしめてくれる腕が小刻みに震えてることも……

でも怖いから、私はずっと気づかないフリをしてます。
だって……
唇をわって挿しこまれる舌にさえ慣れていないのに
その先を求められてもきっと泣き出してしまうと思うから。
失望させるような気がして怖いんです。

9 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:03
「藤本さん終わりましたよ?」
「あれっ、ごめん寝ちゃったんだ美貴……」
「えへへっ、あんまりだったから寝てて正解かも」
「なんだそれぇ、ごめんね。もっと面白い映画にすれば良かったかな」
「ううん、そんな意味じゃなくって…
 一緒にいられるだけで嬉しいから気にしないで?」
「うん、そっか。そだね、美貴も寝られてスッキリしたし」

そんな風におどけてくれるから、気まずい空気もすぐに消える。
この後の予定も考えてないし、どうするのかな?


「お家でご飯食べますか?」
「食べて帰ろうよ、なにも用意してないんだ。
 あっ、ケーキは予約してあるんだよ!?」
「ホントですか!?すっごい嬉しいです!」


考え過ぎなのかな。
ホントに好きだって気持ちがあれば、時間が解決してくれるのかもしれない。
無理しなくたって、マイペースで付き合おうって言ってくれたの藤本さんだもん。
私は迷わずに、繋がれた手を離さないように一緒にいよう。
ほんとは誰よりも寂しがり屋さんな、あなたの傍にずっと……


10 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:04
 
 
 ******
 
 
11 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:04
「おじゃましま〜す」
「はい、どうぞー。適当に座ってて、飲み物持ってくるね。
 ケーキも食べよっか?」
「あ、はい!」


はぁ……やっばいくらいに緊張してる。なんだろ、これ。こんな緊張したことないよ、ありえないんだけど?
昨日もほとんど眠れなくて、映画館で寝ちゃうしさ。

でも、安心するんだよね、重ちゃんといると。いざ意識すると、こんなにドキドキして大変なんだけど……
心音が速くなるのに反比例して、傍にいるだけで安心もできる。一緒にいるだけで安らぐと言うか……


「ちっちゃいケーキでごめんね。二人だし、これくらいで良いかなって…」
「二人分ですね〜。えへへっ、すっごい嬉しい♪ありがとう藤本さん!
 可愛い、ウサちゃん乗ってるの〜!?」

目を爛々とさせて笑う姿に、頬が緩むのが自分でも分かる。
予約して、サイズも小さめにしてもらって
彼女の好きなピンクのウサギを2羽乗せてもらった。
小さいくせに結構な値段するんだよね、オリジナルのケーキって……

目の前で嬉しそうにケーキを頬張る彼女を見てたら
こんくらい安いもんじゃんって思えるから不思議だ。
12 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:04
 
 
 
13 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:05
「お風呂先にはいる?美貴は後でも……」
「絵里とは一緒に入ってますよ?」
「えっと、うん。そうだよね、あははっ」

声が裏がえちゃったよ。
ついにあの服の中身とか見ちゃうんだよね?どうしよ……

パジャマとか着替えを両手に抱えて、ニコニコ美貴を見つめる重ちゃん。
あぁ、いますっごいキスしたい……
でも、そんなことしたら理性が絶対に保てないから
とりあえず部屋に着替えを取りに戻るって言って、先に入ってもらった。

絵里とは一緒に入ってますって…あんにゃろう、羨まし…いや、そうだよね親友だもんね。
美貴だって梨華ちゃんと入っても全然平気だもんな。
それとこれとは勝手が違うんですよぉ。重ちゃん、分かってないよね?
分かってたら色々と美貴を悩ませるようなことは無いんだけど。

よっちゃんが言ってた「無自覚」な誘いは堪らなくカラダに悪いって
最近になって、やっと分かったよ……

平気で腕に胸を押し付けるし、スカート際どいし
ドコで覚えたんだか顔を覗き込む角度が可愛いし……
14 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:05
とりあえず落ち着こう。っていうか落ち着け美貴の心臓!?
そだ、コンタクトを外せば視界がぼやけてちょっとは冷静になれるんじゃ?
そうだ、そうしよう。ちょっともったいないけど――――――


とはいえ、この扉の向こうには……


「遅いですよぉ、藤本さん」
「あははっ、ごめんね」


浴槽の縁に顎を乗せて上目遣いに美貴を見る重ちゃん(が、ぼんやりと見える)
可愛い、可愛すぎる(はず)……
かれこれ10分以上も入るのを躊躇してしまって
重ちゃんは髪もカラダも洗ってしまったらしい。
15 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:05

雑念を振り払うように乱暴に髪を洗う。


「あのぉ…」
「は、ははい!?」
「暑いので出ちゃっても良いですか?」
「あ…そだね、のぼせちゃうよね。リビングで待ってて?
 適当にジュースとか飲んでも良いから」
「はい…」


あほ、美貴のあほぉ……

先に出る重ちゃんをとりあえず見ないようにした。
顔上げたらうっすら見えるんだろうけど……

夏はシャワーだけで良いじゃんね、なのにお湯はったのに。
一緒に入らなかったなんて……
16 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:06
タオルで髪をふきながらリビングに行くと、重ちゃんはボーっとテレビを見てた。


「さゆみ、髪の毛乾かさなきゃ。ドライヤー持ってきたから。
 先に渡しとけば良かったね、ごめんね」
「大丈夫ですよ。藤本さんもちゃんと乾かしましょう?」
「う、うん」


か、かわいい…
小首傾ける角度とか、どっかで習うんだろうか…
ぽーっと髪を乾かす重ちゃんを観察。

普段、結んでる事が多いけど髪の毛下ろすと大人っぽく見えるんだなぁ。
染めてないから痛んで無くって、綺麗なサラサラのままの長い髪。
見惚れ過ぎてると、バチッと視線が合ってしまった。
彼女のほっぺが、ほんのり赤くなってて。これまた可愛い。
全てが愛しく思えるなんて完全にハマッてるな、重ちゃんに。
17 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:06
「藤本さん、メガネも似合いますね?」
「へっ、そうかな?家ではだいたいメガネだよ」
「そうなんですか?可愛いしカッコイイです!!
 そうだ髪の毛、乾かしてあげますね」
「あ、ありがとう…」


美貴の後ろにきた重ちゃんから、ふわっと香る甘い匂いがなんかくすぐったい。
髪を梳く指の動きが気持ち良くって目を閉じる。
こうして一緒にいられるだけで幸せだなぁって思う。


ドライヤーを切るカチッと言う音で目を開けると、急に後ろから抱きしめられた。
カラダ中の神経がヤバイくらいに背中に集中。

あ、あたってる……あたってるって重ちゃん!?
この感触がダイレクトに伝わってくるってことは
つ、着けてないよね……寝る時に着けないタイプなんだね――――――
 
18 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:06

”藤本さん、大好き。ほんとにケーキ嬉しかったの”
耳元で囁く声さえも、なんだか遠くに聞えて。
せっかくリセットしたはずの欲望が湧きあがりそうなのを必死で堪える。
暴れ出した心臓の音が激しくって、カラダ中で響いてるみたいだ。

美貴を抱きしめていた腕が離れて、背中の感触からも解放されて
やっとの思いで後ろを振り返る。
なぜか泣き出しそうな潤んだ瞳さえ、甘い誘惑に見えてしまう。
頭では、わかってるんだよ?
重ちゃんが深い意味があって、美貴を抱きしめたんじゃないことくらい。
すごく純粋な愛情表現だってわかってるつもりなんだけど――――――。


そのまま顔を寄せると、重ちゃんはぎゅっと強く瞼を閉じた。
目尻には涙が滲んでて…

だから、そのまま引き寄せて抱きしめた。ありったけの想いを込めて。
なにもしないから。美貴といることで悲しい思いをさせたく無いんだ。
だから、泣かないで……
19 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:06

「寝よっか?」
抱きしめてる腕を解いて、ちょっとだけ流れたらしい涙を指で拭う。
重ちゃんは複雑そうに微笑んで頷いた。
20 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:07
 
 
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21 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:07
さっきは、イヤになるくらい意識してしまって、キスされるって思っただけで
なんでだろ、泣いちゃったの。
藤本さんは優しいから、キスもしないで抱きしめてくれた。

一緒にお布団に入るだけで、こんなに緊張してて大丈夫かな…


「ね、さゆみ……」
名前を呼ばれて顔を上げると、藤本さんは私の手をぎゅって握った。
22 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:07
「キスしても良い?」
「えっ…」

普段、そんなこと聞かないのに……。


「ダメかな?」
返事につまっていると、藤本さんは優しく微笑んで私の髪を撫でた…


「なんか話そっか。ほら12時越えるまでは起きてようよ。
 美貴、一番に誕生日おめでとって言いたいんだ」
「……うん」


暖かい雰囲気と優しさに、大切にされてるんだと想えることに
泣きたくなる、嬉しくて泣きたくなるんです……

私の手を優しく握ったまま、横になって藤本さんは会話をみつけて話しかけてくれる。
普段はいっつも聞き役で。私の話に時々、突っ込んだりしながら聞いてくれて。
なのに今日は不思議なくらいに饒舌で……
23 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:08
「もうすぐだね」
そう言って体を起こして、壁に背中を預けた藤本さんと同じように
自分も上体を起こす。
時計を確認してから、藤本さんはゆっくり顔を上げた。

真剣なその目に圧倒されて見つめ返す事しか出来ない。
視線が絡み合うのを感じながら、秒針が時間を刻む音だけが部屋に響いてる。

時計をもう一度確認してから、ゆっくり近づいてくる唇を
吸い込まれるように見つめてた。


言葉の前にあなたは優しいキスをくれた。
そして、ほんの少しだけ唇を離して『誕生日おめでと』そう囁いて再び口付ける。
私の携帯がメールの着信を知らせているけど、何度も口付けて離してくれない。

触れた唇の暖かさ、抱きしめてくれる腕の強さ、微かに感じる吐息。
なにもかもがあなたらしくって、大好き……
24 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:08
「…んっ……んぅ……」
苦しくなって薄く開いた唇に舌が挿し込まれて、絡めとられる…
でもイヤじゃなくって、ただ甘い感触に思考が霞んでゆく。


「さ、ゆみ………」
唇がまた少しだけ離れたと同時に、掠れた声が耳に届く。
いっつも凛としていて、よく通る藤本さんの声が……
こんなに切なく名前を呼んでる。泣き出しそうに掠れた頼りない声。
震えてる?藤本さんが?違う、私だ。私が震えてるんだ。
どうしよう、止まらない……

  
 
25 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:08
 
 
 ******
 
 
26 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:09
自分が発した声は頼りなく掠れて、甘ったるく名前を呼んでしまった。
初めてだよね?キスを深くして嫌がらなかったの……

「……ふじもとさん?」

泣き出しそうな声がするけど、その声にさえ気持ちが昂ぶってしまう。
少しだけ離していた唇をまた重ねる、何度も何度も……

「んっ………はぁ……」
息継ぎさえ巧く出来ない彼女が、時より漏らす甘い吐息に、愛しさが増していく。
薄く開いた唇に舌を挿し入れて、絡めていく……
ぎこちなく動きをあわせて、懸命に応えようとする姿に泣きたくなって
強く抱き寄せると、彼女の震えが伝わってきた……
27 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:09
 こんなに震えてたの?……気づけなくて、ごめんね。
ゆっくり、だけど完全に唇を離すと肩で息をしながら
苦しそうに眉をひそめて美貴を見つめる。

彼女の目がトロりと溶けそうなほど甘く潤んでいるけど
涙がスーっと音も無く流れて……

「さゆみ……」
名前を呼んで頬に手を添えると、少しだけまだ震えてるのに
美貴の手に自分の手を重ねて、笑ってくれた。

「藤本さん、ぎゅーってして?」
いつもの甘えたセリフも、ちょっとだけ掠れていて。
抱き寄せると、美貴の肩先に甘えるように額をすり寄せて囁く。

”藤本さん、大好き……”
ぎゅっと力を強めて抱きしめると満足したように微笑んで、顔を上げてくれた。
28 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:09
「大好きです」
「うん……」
「藤本さんは?」
「好きだよ」

そっと触れるだけのキスをすると、また照れたように美貴の首筋に顔をうずめて
”みーちゃん”なんて甘く名前を呼ぶ声がくぐもって、首筋にかかる吐息がくすぐったい。

「みーちゃんは勘弁して…」
「たまにだったら呼んでもいい?……」

良いでしょ?お願い?なんて上目遣いで甘えられたら何も言えなくなりそうだけど……

「じゃ、さゆみからキスして。そしたら呼んでも良いよ?」
戸惑ったように揺れる瞳が、ぎゅっと閉じられて
ちゅって軽く触れるだけのキスを、ぎこちなく届けてくれた。
抱きしめたカラダは、もう震えていなくって、ホっと胸をなでおろす。
29 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:09
「みーちゃん、ごめんね…」
「何にゴメンか、わかんない」
「わかんなかったら良いの……なんか眠たいね?」
「そだね、明日は遊園地行くんだし寝なきゃ」

メールの着信を知らせる光が、チカチカと点滅しつづけてるけど
確認することなく重ちゃんは”おやすみなさい”って美貴にひっついて瞼を閉じた。


メガネを外して目を閉じると、自分の心臓の音がドクンドクンと
静寂の中に響いているようだった。


―――――――こんなにも好きだよ。

好き過ぎて、なぜ好きなのかもワカラナイくらい好きで。
いまなら出会った頃に泣いてたキミの気持ちが、わかるかもしれない……
30 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:10
 ただ隣に寝ているだけなのに、重ちゃんの温もりに包まれてるようで
ドキドキしてるけど、安心もしてる。
年下なのにお姉ちゃんみたいな雰囲気もある彼女。
美貴の願い事をなんだって叶えてくれるって言ってくれたし。
もっと甘えても良いかな?美貴、意外と甘えんぼなんだよ……

  
31 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:10
 
 
 
 
 
32 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:10
ぼーっと朝食中。いまいち脳は目覚めて無い……。

重ちゃんはブリブリのピンクのパジャマのまんまで
一生懸命に、昨晩のメールの返事をうってるようだ。

朝起きるとすでに重ちゃんは隣にいなくって。
起きたら『おはよう』と言いつつ、ちゅーとかすんの
期待してたからさ、かる〜くへこんだ。

はむっとパンを食べながらも観察。
なんかピコピコって、けっこうな速度でうってるメール。
あぁ、なんか知んないけど可愛いな。
33 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:11
 でも、あんまりメールに夢中だから面白くない…
まだ時間あるんだけど、気を引こうと思って『重ちゃん着替えないと時間無いよ?』って言うと
慌ててパジャマのボタンを外し……

「ま、待って重ちゃん!?ココで脱ぐの?」
「えっ、着替えないと時間無いんですよね?」
「あぅ……」

見ちゃった、見えちゃった…
しかも変に声をかけたもんだから、ボタン全開で露わになってるのに
こっちを、きょとんって顔して見てるし。
まだまだ幼い顔立ちなのにスゴっ……。真っ白な彼女の肌が眩し……
34 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:11

「藤本さん、大丈夫ですかぁ!?」
ちょっと眩暈がしてきたと思ったら、すごい勢いで近づいてきて……
もう完璧に見ちゃった、なんて内心激しくへこむ美貴を
すっごい心配そうな顔で覗く重ちゃんのドアップと、お……


「みーちゃん、どうしたのぉ!?」
目の前の状況は夢なんだと思いたいほど、すっごい眺め。
それに気付いてない彼女は、全開のパジャマのまんま。
やっばい美貴ダメだわ、泣きそうな重ちゃんの声も遠くなっていくし
目の前がグルグルして……




 
35 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:11
 


「美貴ちゃん、子供じゃないんだから…」
「子供だったら無邪気に”わ〜い、おっぱいだぁ”って言えてるよ…」
「言ってるじゃない、はっきりと……」
「梨華ちゃんになら言える…」
「なんか失礼ね、それって!?」
「だって、梨華ちゃんのことはそう言う意味で好きなんじゃないから」
「そう言う意味って、どう言う意味?」
「……したいと思う対象じゃないじゃん」
「あぁ、そうだよね……」


どうやらパタンって倒れた美貴を見て、
ものすっごく慌てた重ちゃんは、梨華ちゃんに電話。
あまりにもパニくって、”みーちゃんが!?”を連呼して要領を得ないものだから
非常事態かと思った梨華ちゃんが合鍵で入ってきてくれたらしい。
36 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:12
 情けな過ぎ、あんくらいで倒れるって……
焦っちゃうじゃん。本人はまったく気付いてないし。
しかも梨華ちゃんに向かって”みーちゃん”を連呼したんだね。

目が覚めた美貴に『みーちゃん、だいじょうぶでしゅか〜?』
とか嬉しそうに言いやがったんだぞ、このアニメ声は。


「最悪だよね……」
「何が?」
「美貴が、だよ。意識し過ぎだよね。つい見ちゃうんだよ胸元とか…
 それをいざ見ちゃったら、倒れて……けど、別にしなくったって好きなんだよ。」
「うん、わかるよ。大切にしてるんだから、今のままで良いじゃない?」
「さっきの気にしてるよね。 美貴が意識しまくってるって分かっただろうし……」

上で着替えてくるって言ったっきり、降りてこないらしいけど。
まさか怒ってる?悲しんでる?泣いてないかな、どうしよう……
37 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:12
「っていうか純粋よね、さゆも。それに、美貴ちゃんもね。
 けどビックリしたんだよ?だって、さゆ肌蹴たまんまだったし」
「肌蹴たんじゃなくって、パジャマ脱ぐとこだったから…」
「それはちゃんと聞いた。最初入ってきた時は、思いっきり美貴ちゃん疑ったわよ…。
 欲求溜まり過ぎて襲ったんじゃないかって…」
「うぅ、そんなことしないやい……」


そんな嫌がることしないよ。
たしかに触れてみたいなんて思うことは、日常茶飯事だけど。
キスだけでも充分というか、あの”ぽわわぁ”ってした雰囲気を壊したくないって言うか…。


「すぐ目が覚めて良かったけど。あのまま起きないんじゃないかって心配したよ〜。
 しっかりしなきゃ?誕生日なんだよ、さゆの」
「わかってる…」


38 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:12
 とりあえず美貴が目を覚まして安心したからって
梨華ちゃんは家に戻って行った……と思ったら……。


「ミキティ、ご愁傷様♪ なに、見たくらいで卒倒したの?」
「うっさい、よっちゃんが何でいるんだよ…」
「冷たいなぁ。今日、うちらも遊園地行くんだ。せっかくだから、梨華ちゃん家に泊まった」


マジかよ……。
なにかと重ちゃんに甘いよっちゃんは、常に美貴達のこと見張ってません?
それに、せっかくだから泊まるってなんだよぉ。


「これだけ、純情だったとは…さゆが汚されてないってことで
 ひーちゃんはすっごく安心したんだぞ!」
「キショいよ、よっちゃん…」
「みーちゃんは冷たいなぁ」
「みーちゃん言うなっ!?」


もう絶対、しばらくからかわれるよ。
でも、さっき美貴が倒れた時に入ってきたのが梨華ちゃんで良かった。
だって、ねえ……よっちゃんには絶対に見せたくない!?

39 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:13
「藤本さん、ごめんなさい…」
ぎゅって美貴の服の裾を握って、顔を上げてくれない。
な〜んで重ちゃんが謝るんだよ……。


「ごめんね、情けなくって。別に、さゆみは悪くないんだよ?
 あの、その免疫が無かったもんでぶっ倒れたと言うか……
 とにかく美貴が悪いんだから!?ね、笑ってよ?」
「はい……」
「今日の服も可愛いね、すっごい似合ってるよ」
「……ほんとですか?」


やっと顔を上げてくれた。目尻の所がほんのり赤くなってて。
ちょっと泣いちゃったんだなって分かった。
こんなことなら昨日のうちに、見るだけ見とけば良かった……
そしたら慣れ……るものなのかな?後で、よっちゃんに聞いてみようっと。


「ほら、今日も可愛い!ってやってよ?」
「えっ?……よし、今日も可愛いの!!」


この首を傾ける角度が可愛いんだよね。
天性の物なのか狙ってるのか、わかんないけど全てが可愛い。

40 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:13


 ******
 
 
41 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:13
「ぎゅーってしてください」
玄関で甘えると、キツク抱きしめてくれた。
無神経だったかなぁ、藤本さんの前でパジャマ脱ごうとしたくらいで
倒れるなんて思わなかったもん……


「ほら、いこ?梨華ちゃん達は駅で待ってるって。
 別に一緒でも良いよね?ごめんね……」
「大丈夫です。乗り物には藤本さんと乗るし
 ず〜っと一緒にいてくださいね?」

優しく頭を撫でられた。すこし困ったみたいに笑ってるから元気になって欲しくって…

「みーちゃん?」
甘えたように呼ぶと、ドアに手をかけたまま微笑んで振り返る藤本さん。
素早くちゅっとだけ唇を合わせると、ビックリして目を見開いた後
だははっって笑ってくれた。

「おでかけ前のちゅーってやつだ?」
なんて言って嬉しそうに顔が綻んでいく。
ほんとにね、日付がかわった瞬間にキスしてくれて、すごい嬉しかったんです。

少しづつ、少しづつだけど慣れてきてると思うの
まだそれ以上は無理ですけど……
42 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:14
 
 
 
 
43 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:14
「美貴ちゃん、メガネのまんまだね?」
「だーって時間無かったんだもん……」


ぶっ倒れて時間無くなったなんて情けない……。
電車の中でも、よっちゃんは”みーちゃん”連呼するし最悪。
重ちゃんが楽しそうだから良いけどさ。

遊園地に着いてフリーパスを買う。
プレゼントを買っても、バイト代残ってるから余裕なんだよね。
夏休みに入ったらまた連れて来てあげようかな?


「ね、夏休みは二人でこよっか?」
「ほんとですか?すっごい嬉しいです!!!」


パスを受け取りながら満面の笑みで返事をくれた。
今度は、よっちゃん達に邪魔されないように二人で来ようね……
44 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:14
「梨華ちゃんの分もパス買ったよ、はい」
「ありがとう美貴ちゃん♪あたしまで良いの?」
「うん、バイト頑張ったからね。平気だよ」
「あのーみきちゃんさん、おいらのは?」
「よっちゃんさんは、自分で買ってください」


なんでだよー!!!!
なんて言いつつ自分のパスを購入したよっちゃんと合流して入場する。
だって、ずっとからかってたじゃん美貴のこと。


「んだよ、ミキティは梨華ちゃんには甘いよな…」
「よっちゃん以外に甘いんだよ」
「なんだよ、それっ……梨華ちゃーん、ミキティがいじめるぅ…」


梨華ちゃんにべったりくっついて甘えるよっちゃん。
素直に行動できて良いよね。正直、ちょっと羨ますぃ……。

45 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:15
「とりあえずご飯にしない?」
梨華ちゃんの一言でお昼にすることにした。
美貴のせいで、午前中に来れ無くなっちゃったんだよね……
一番近くにあったお店を指差したよっちゃんについて行こうとすると
重ちゃんが美貴の服を引っ張った。


「どったの?」
「あのね、これ……」
「へっ、おべんとう?」
「うん、朝作ったんです!勝手にキッチン借りてごめんなさい…」


このために先に起きてたんだ。ヤバイ、すっごい嬉しいんだけど?
着替えもしないで、こっそり美貴の為に……


「おーい、行かねーの?あぁーーーー弁当じゃん!?」
「ほら、ひとみちゃん二人で行くわよ」
「うぅ、美貴が羨ましいよほ……」
「今度、あたしが作ってあげるから……」
「それは遠慮します。むしろ、あたしがつくろっか?」
「むぅ、ひとみちゃんなんて嫌い!?」
「だぁーーーー!?りがじゃん、ごめんってばぁ」

騒がしく去って行く二人をボー然と見送ってから、なんとなく笑い合う。
へへっ、すっげー幸せ♪

でも、美貴は忘れてた。彼女の料理の腕も奇跡的なこと……

味じゃない、愛情なんだと言い聞かせながら完食。
こないだよりは、ほんの少しだけ美味しいなと思った。
サンドイッチなら、おにぎりや卵焼きより大丈夫みたいだ……
46 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:15

「なに乗りたい?」
「コーヒーカップに乗りたいです。」


梨華ちゃんは有無を言わさずよっちゃんを連れてメリーゴーランドへ行った。
重ちゃんが、あれに乗りたいと言わなくてホっとした。

―――――のも乗るまでの一瞬で、降りる時にはフラフラ……
鬼のように回すんだよ、この子。しかも自分は全然へーきなんだね……


「藤本さぁーん、ごめんなさい……」
「へ、へーき・・・」

ヘラヘラと笑って見せるけど、うぅっ、気持ち悪い……。
でも、すっごい楽しそうだったから。
その笑顔見てたら、回し過ぎるのやめなよ!とは言えなかった。

次々に乗り物を選んで、美貴を引っ張る姿が可愛くて
なんとか元気だと言い聞かせて、一緒に乗り物に乗って行く。
最後に辿りついたのは……
47 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:16
「すっごいね〜、これも乗るの?」
「はい!藤本さん苦手ですか?」
「う〜ん、ちょっと苦手だけど大丈夫。乗ろっか?」
「うん!」


聞き慣れた声がして振り返ると、そこによっちゃん達の姿が見えた。
梨華ちゃんは元気そうだけど……
よっちゃんが、すっごいグッタリして無い?

とりあえず、合流してジェットコースターに乗ることになった。
相変わらず、よっちゃんの様子は疲れきっている……
どうしたんだろって思ってる間に順番が来て、みんなで
ジェットコースターへ乗りこんだ―――――――

48 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:16
 




なぜか別々に乗ることになった観覧車……
美貴は今、なぜかよっちゃんと乗ってます―――――。


「でも、すっごい意外」
「なにが?」
「ミキティって、もっと遊んでると思ってた。だから、さゆが心配だったんだよね〜」
「遊んでませんよ〜、付き合うとか初めてなんだから」
「ほっほう…」

なんかニヤついてる、よっちゃん。物凄くイヤな予感がする……


「いざと言う時の為に、このひーちゃんが手取り足取り腰…」
「よっちゃん、ジェットコースターもう1回乗る?それとも梨華ちゃんのおしおきが良いのかな?」
「どっちもヤです、ごめんなさい…」

ったく、よっちゃんが絶叫系苦手だってのが意外だよ。
梨華ちゃんの手を握り締めて”降りるーーーー!?”って叫んでたし。
にしても、朝からからかわれっぱなしで腹立つ…
49 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:16
「教えてもらうなら梨華ちゃんに聞くから良いよ。
 なんか梨華ちゃんの方が色々と教えてくれそうだし
 体型も女の子っぽいし実戦的かなぁ……って嘘だから!?」
「たりめーだ……」

いきなりの無表情にちょっとビビった。
いまじゃ梨華ちゃん一筋な、よっちゃん。
ごっちん曰く、よっぽど相性が良いのだろうってことだった。
もちろん心もだけどカラダの方も……

こりゃ、お風呂で冗談とは言え触った事があるとか言ったら……
お墓の中まで持って行く秘密にしよう。重ちゃんにだってバレたら、絶対また泣かせちゃうだろうし。

重ちゃん以外の子のは平気なんだよ。別に冷静って言うか、なんて言うか……ほんと何とも思わない。
自分だって女なんだから、当たり前って言うか。
50 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:17
「よっちゃん、ちょっと聞いて良い?」
「改まってなに?」
「梨華ちゃんの裸見るのって慣れた?」
「……慣れたら失礼だろ。芸術的にエロいんだぞ!?」
「そーですか……」

たしか付き合うまでは我慢しまくってたんだよね、よっちゃん。
梨華ちゃんって無自覚でひっつくクセがあるから。あと誘ってるような目をしてるって……


「でも、慣れとかじゃなくってさ。自然となんていうのかな相手好きなら、なんとかなるっていうか……
 ミキティが焦ってないなら、今のままで良いと思う。考えるのイヤだけど、さゆだってそのうちしたいって思うかもしれないし」

「美貴、別に焦ってないよ」

「偉いよなぁ。アタシなんか付き合えた瞬間に……付き合うまで長かったじゃん。だから、こうテンション上がってたし……」

「美貴の場合は付き合うことになったのって、出会ってすぐなんだよね」

「アタシが知らないうちに知り合ってるし……相手がミキティって聞いて複雑だったけどさ、知らない奴より
 良いかって思ったんだよね。梨華ちゃんも大丈夫だって言うし」

「よっちゃん、重ちゃんのなんなのさ…」

「幼馴染?」

「美貴に聞いてどうする!?いっつも思うけど、なんかお父さんみたいじゃん」

「やだな、綺麗なお姉さんだって」

「はいはい……」


お互いに幼馴染に甘いよね……
51 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:17
よっちゃんと喧嘩する度に梨華ちゃんは、美貴の家に来て
ギャーギャーと愚痴を言うだけ言って満足しちゃうんだよ。
黙って聞いてないとすっごい怖い目をするし…。
美貴がどれだけ苦労したか知ってる?


「まぁ、人それぞれなんだしさ。ミキティが無理してないんだったら、さゆに合わせて付き合ってあげてよ」
「うん、それは任せて。ちゃんと大切にするから」
「ミキティ、さゆとも乗る?」
「もう帰るよ。夜は重ちゃん、家で誕生日祝いしてもらうみたいだし
 それに、すっごい人増えてるから次に乗るまで待ち時間長そう…」

下を見ると結構な人が集まってる。電車が混む前に帰りたいなぁ……。

 
52 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:18
 
 
 ******
 
 
53 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:18
「石川さんは、どれくらいで…」
「どれくらい…って、あれだよね?」
「はい……」
「すごく言い辛いんだけど、付き合って1ヶ月経った頃には最後まで…」


ほんとのことなんて、言えないよ。だって付き合った日にしちゃったはず……
美貴ちゃんは結構モテるから、それなりに経験あるって思い込んでたんだけど
キスしかしたことなかったんだ。だって見ただけで倒れちゃうなんて、すっごい意外。
一緒にお風呂入った時に、平気で胸とか冗談で触ってきたような……
絶対、さゆには言えない。あっ、ひとみちゃんにも言えないか。
54 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:18
「はぁ………やっぱり藤本さん無理してるんでしょうか?」

「う〜ん、無理はしてないと思うよ。今までそんな経験無いから、戸惑ってるだけだと思う」

「藤本さんって……」

「美貴ちゃん、ちゃんとお付き合いしたのさゆだけだよ。
 だから安心して?安心とは違うかな…でも大切にしてるんだと思うよ。
 自分の気持ちだけを、押し付けたりしたくないんだと思う。
 ちっちゃい時からそうなの。相手のことをまず考えちゃう」

「言葉より態度で、私のこと優先してくれてるんだって感じてます」

「それに、そんな”したい”って思ってるわけじゃなくって。
 さゆが魅力的なんだよ。他の人より特別だって想ってるから意識しちゃうんだと思うよ。」


これくらいの話でも羨ましいくらいの白い肌が、ちょっと紅く染まる。
照れてるのと、恥ずかしいのと両方かな?
美貴ちゃんはきっと、こんな無垢な部分をまだ壊したくないんだと思うな。
55 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:19
「この後もう一回、美貴ちゃんと観覧車乗る?
 ごめんね、お話したくって無理矢理一緒に乗せちゃったから」

「あっ……夏休みにまた連れてきてくれるって約束したから
 今日は一緒に乗っちゃうと何もお話しできなくなりそうなので……
 石川さんと乗れて、お話できて良かったです!」

「そっか、さゆは可愛いなぁ。美貴ちゃんがベタ惚れなのもわかるよ」


照れ笑いをする彼女の雰囲気は、子供と大人の狭間で揺れている感じ。
きっと、もっと綺麗になって美貴ちゃんを虜にしちゃいそう。
夏休みにまた遊園地に行くことは、ひとみちゃんには黙ってよう。
あの人、さゆにはホント甘いから……


 
56 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:19
 
 ******
 
57 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:19
「じゃ、帰るね。ほんとに朝からいろいろとごめん───えっと……」
家の前まで送ってくれた藤本さんが何か言いかけて止まって、ちろって横を見る……


「よっちゃんは自分家へ早く入ってよっ」
「え〜、恋人同士のさよならの風景を見とこうと思っ……」
「見なくて良いから!?」
「もー、ひとみちゃん……。今日も泊まっていくんでしょ?」
「そうだった、梨華ちゃん家に泊まるんだ〜。美貴も、一緒に帰ろ……」
「ほら、先に帰るわよ。じゃあ、さゆ今日はごめんね。誕生日プレゼントはまた明日持ってくるからね」
「はい、ありがとうございます。」


石川さんに引っ張られて連れて行かれる吉澤さんにも手を振って
改めて藤本さんを見ると、苦笑いしながら二人を見送ってた。
58 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:20
「えっと、改めてなんだけど……誕生日おめでとう」

「ありがとうございます。藤本さんも気をつけて帰ってくださいね?」

「うん、おばさんに宜しくね。ほんとは挨拶したいんだけど」

「大丈夫ですよ、また来てくださいね?」

「うん、明日でも……毎日だって来るよ」

「毎日来てくれますか?」

「イヤじゃなかったら。」

「イヤな訳ないですよ。嬉しいです!!」

名残惜しそうに帰って行く姿を、なんだか可愛いなって想いながら見送る。
何度も手を振って、藤本さんの背中が見えなくなってから家の中に入ると
ママが飛んできた――――――
 
59 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:20
「おかえり〜。お部屋に良いもの届いてるわよ」
「ただいま〜、良いもの?誰から?」
「まぁ、上がって見てきなさい。それと、ご飯もうすぐ出来るからね」
「うん、わかった」

首を捻って部屋の扉を開けると――――――


「わぁ〜!?これ……」
私のベッドの上に、どか〜んと乗った大きなウサギのぬいぐるみ(ピンク色)
私と同じくらいあるんじゃ?っていうくらい大きな、ぬいぐるみの首にかけられた
メッセージカードには……
60 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:21
Dear SAYUMI

  お誕生日おめでとう。
 素敵な1年を過ごせますように・・・。
 どんな時でも、ずっと傍にいるよ。
 ウサギがね(笑)
 
 MIKI 
 
61 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:21
付き合い始めた頃だった。ウィンドーショッピングしてた時に一目惚れして。

『藤本さん!?』

『ん、急にどうしたの?』

『ウサちゃんなのぉ〜』

『へっ???』

『ウサちゃんのヌイグルミ!?すっごいよぉ、おっきいの。
 うわぁ、良いなこれふっかふかだよ〜。お部屋に欲しい!?』


一人でテンションが上がっちゃって、藤本さんは苦笑いしてた。
ものすごく値段が高くて、買えないのぉ…なんて呟いたんだっけ。
その後も別に、この話題に触れることも無くって。
とっくに忘れちゃってると思ってた。ううん、気にもとめてないって、そう思いこんでた。

なのに、憶えててくれたんだ……
どうしよう、すっごい嬉しい。



62 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:21
「藤本さん?」

『どうしたの?えっと……届いた?』

「はい。すっごい嬉しくて…あのウサちゃんも嬉しかったんですけど
 憶えててくれたことが嬉しくって!?」

『へへっ、喜んでくれたら美貴だって嬉しいよ』


電話しちゃって、ちょっと後悔……
だって、声を聞いちゃったら――――――――。


「……グスっ…みーちゃん?」

『ちょっ……さゆみ?どした、なんかあった?』

「ほんとに嬉しくって……」


心配かけちゃったよぉ、だって声を聞くだけで涙が出て来るんだもん。
電話じゃなくって会いたいよぉ、さっきまで一緒だったのに迷惑だよね?
困らせることばっかりして、ごめんなさい……
63 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:22
『さ〜ゆ、窓の外。外見て?』

「……えっ?」

慌ててカーテンを開けて見ると……

「藤本さん?」

『戻って来ちゃった。なんとなく……』

急いで下に降りるとママがビックリしてたけど
藤本さん来たから上がってもらうね?って言うとニッコリ笑ってくれた。

扉を開けると、照れたように頭を掻いて立っている姿が可愛い。
藤本さんを見て嬉しそうなママが話しかける前に、ご飯になったら呼んで?
と早口で伝えて、藤本さんの手をひいて慌てて自分の部屋へ上がる。
64 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:22
「なんか気になって。ちゃんと日付指定で送ってもらったんだけど
 届いてるかなぁって。それと気に入ってもらえるか不安で・・…」


ちろって上目遣いで私を見る藤本さん。
年上だけど、やっぱり可愛らしい人だなって思うの。


「すっごい嬉しいです。この、ウサちゃんホントに欲しかったの」

「よかったぁ……うわっ、すっごいふかふかだよね」

「みーちゃんって名前にしようっと。毎晩一緒に寝ます!」

「うっ、こいつ羨まし……」

「だって、どんな時でも一緒に居てくれるんだもんね〜。
 カードにそう書いてありますよ?」

「うっ……ちょっとした冗談じゃんかぁ」


拗ねて、耳とかひっぱちゃダメですってば……
ヌイグルミに妬いてくれるほど、私のこと好きでいてくれるんだ。
65 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:22

「藤本さん、今日泊まりませんか?」
「えっ?でも着替えとか……取りに行けば良いのか」
「一緒に行っても良い?」
「うん。じゃ、おばさんにOKもらったら泊まるよ」
「ママが断わるわけ無いもん」

藤本さんの家と私の家を往復する間も、いつも以上に上機嫌な藤本さんは
可愛らしくって、いくら見てても飽きなかった。
ぼそっと寝る前に呟いた藤本さんの本音、しっかり受けとめたいと思います。
う〜んと甘えてくれて良いですよ。
同じくらい、私に甘い藤本さんでいてくださいね?
66 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:23
『我慢してるんじゃないんだよ。まだ今のままが良いなって……
 え〜っと、あのね。……美貴も、いっぱい甘えて良い?』


ぎゅって私に抱き着いて眠ってる藤本さん。
胸に顔をぴったりくっつけて眠る寝顔がすっごく可愛いけど……
擦り寄るような仕草を時々するから、くすぐったいよぉ。

昨日よりも近い距離で繋がってる心。
あなたの優しさに甘えて、しばらくは今のままで良いですよね?
67 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:23

みーちゃん、今日は一緒に寝れなくってごめんね?
ベッドによかって座る、ウサギのみーちゃんに心の中で謝って瞼を閉じた――――――



68 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:24

ヘビイチゴ:7月13日誕生花・花言葉【可憐】
69 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:24


おしまい。
70 名前:ヘビイチゴ 投稿日:2005/12/02(金) 01:25


71 名前:日季 投稿日:2005/12/02(金) 01:26
>>2-69更新終了です。
72 名前:名無し 投稿日:2005/12/02(金) 05:39
更新おつです
いままで、さゆばっかに気をとられてたけど
ミキティーがむちゃくちゃカワイイー!?
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/02(金) 15:29
一連のさゆみき楽しく拝見しましたー
優しすぎるくらいのミキティが意外で、好きです。
74 名前:日季 投稿日:2005/12/02(金) 22:30
いしよしのアンリアルです。
とある詩を見ていて思いついたお話で、なまぬるいですが
しばしお付き合いくださいませ……
75 名前:日季 投稿日:2005/12/02(金) 22:30
 
『 心象 』
 
76 名前:0.プロローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:30
てのひらに確かに残る感触と記憶
追い求めても、ふたたび手にいれる事が出来ない


快楽の空を舞う真っ白な天使――――――


記憶の底に沈めた暖かなぬくもり
日常のどんな場面でも探してしまう愛しい人の影を
通りすぎる街の景色はもう色褪せて
目の前に広がる空もセピア色をしている
77 名前:0.プロローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:31
キミの透き通るような茶色の瞳が、アタシの姿を映すことはない
心をふるわせる優しいその声が、甘くアタシの名前を呼ぶことはない
やわらかな輪郭をたどることさえ、もうできない……

いつしか喜びも哀しみも、あらゆる感情を深い闇の底に沈めて……
何も感じなくなってしまった


───愛してる


虚しく夢の中で繰り返される言葉

ねえ?アタシは……
死ぬ事も出来ず、生きる事にも必死になれず
こんなにも弱いんだと思い知らされて……


  
78 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:31
 
 
 ******
 
 
79 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:32
 街並は溢れ出した人混みに紛れて、そのかたちさえワカラナイ。
12月も中旬をこして、冷え込んだ街の風が冷たく頬を刺す。

 君の居ない夜がこんなに寒いなんて知らなかった。
当たり前のように傍にあったぬくもりはもう戻らない。
感情はすべてその機能をなさなくなり、ただカラダが欲するままに肌の熱を求めて……

 本当に何もない冬が始まっている。
去年までたしかにアタシの腕の中にあった幸せは音もなく崩れ去った。
もう戻らないぬくもりを探して今日も街をさ迷う。
二度と会えるはずのない君の姿だけを探して――――――
80 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:32
 
 
 
81 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:32
夜の闇に紛れて、泣き出しそうな声がする。
少し甲高い声は、鼓膜を刺激して不快な気持ちにする。

君の声を思い出しながら、角を左に曲がれば大通りへ。
右に曲がれば――――――
 
 
82 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:33
  
 行き止まり。その場所で数人の男に囲まれるようにして華奢な肩を震わせてる。
ドコから紛れこんだんだよ。子猫みたいに右も左もわからなかったってか?
一人の男の肩を掴むと、突然の事に少しビクッとなりながら振りかえる。
卑下た笑いが恐怖へ変る。


───人を化け物みたいに見るなよ。


「吉澤さんどうしたんですか?」
とたんに姿勢が低くなりひれ伏す様に問いかけてくる。
別に通りかかっただけ、気まぐれでこっちに曲がっただけ。
恐怖で震えている女は、目の前の男たちの知り合いと分かったからか
諦めにも似た感じで大人しく俯いている。

 シャープな顎のライン、すこしだけ茶色がかった髪の毛が頬に陰をおとす。
どことなく儚いその雰囲気は……
83 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:33
 女の前まで近づいて顎を上げさせる。
不安で潤んだ漆黒の瞳は純粋に輝いている。



―――――― 住む世界が違うよ、お嬢さん



 綺麗な瞳をしてる。
その瞳に光り輝く世界しか映した事が無いのだろう。
あいつがそうだったように……
艶やかな唇はかすかに震えて、言葉を失っている。
自分でもよくわからないうちに惹き込まれるように……くちづけてた。

 唇を離すと何が起こったのか分からないと言うように、瞳が見開かれる。
アタシは気付かないフリして、後ろで呆然とする連中に声をかける。


「アタシがもらうから。他を探したら?」

何か言いたげに黙って頷くとすぐにその場を離れていく。
その後ろ姿を睨みつけてから、ゆっくり振りかえると……
84 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:33
「泣く事無いだろ。とって食ったりしないから、帰りな」

 ぶっきらぼうにそう言うとキッと鋭い眼差しを向けてくる。
さっきのやつらにその顔しろよ。
怖くないんですけど?むしろ、そそられる。

さっきよりも距離を近づけて抱きすくめると腕の中で暴れ出す。
もう一度、無防備に薄く開かれた唇を塞ぐ。

「……ぃてっ」

唇から流れる血を手で拭って見下ろす。
アタシの傍にいない方が良い。早く自分の世界に帰りなよ。

「……どうして?」
「はっ?」

 噛まれた唇から流れ出した血が、口の中に嫌な鉄の味をひろげる。
久しぶりに味を感じたな、こんな味だけど。
真っ直ぐに見上げられた視線は弱弱しくて……


それでも綺麗だなってぼんやりおもったんだ。

 
85 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:33
「どうして、こんなことするの?」
「キスしたかったんだよ。あんた綺麗だから」
「あんたじゃないもん!」
「どうでも良い。早く帰れよ。お前そうしないと絶対やられるぞ」

 帰ろう、頭がおかしくなりそうだ。
もうあいつは居ない、街をいくら歩いても出会う事なんて無い。
歩き出そうとしたら、後ろから服を掴まれ溜め息と共に振りかえる。
86 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:34
「お前でもないもん……梨華」
「・・・・・」
「梨華って言うんだもん」

名前聞いたって仕方ないじゃん。
なんだこいつ、子供みたいなこと言うな。ってか呼び方の事に話しがそれてますけど?

「りかは処女?」
想いっきり目を見開いて信じられないって顔をする。

「なんでそんな事こたえなきゃ」
言葉の途中で強引に引き寄せて唇を奪う、抵抗される前に素早く離れる。


「別に聞いただけ」
色の無い世界にあんたの光りは必要無いんだ。
一夜を、あいつの居ない空白を誤魔化せる相手が欲しいだけ。
87 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:34
「………そんなにすることって大事?」
「人間は本能でしか生きてないからだろ。知るか」
「あなたは大切な人は居ないの?」


大切な人。
なぁ、もう手の届かない所にいるんだ…どうしろって言うんだよ。
崩れ去りそうな世界を繋ぎとめているのは、あいつと過ごした記憶だけ。
やわらかな、暖かなあいつの記憶だけ…


「りかは?いるのかよ」


相手しちゃったよ、今夜はどうかしてる。
話す事さえ億劫で自分から誰かに問い掛けることなんてなかったのに。
りかは黙って首を横に振った。俯いているから表情が読み取れない。
何も話す気になれなくて、もう一度帰ろうとしたのに……
88 名前:1.寒い夜の自我像 投稿日:2005/12/02(金) 22:34

「かえっちゃうの?」


上目遣いに瞳を潤ませて。なんて瞳をしてるんだよ……
ぶつかった視線を逸らすことができない。


「家に来るか?」

勝手に出てきた声は自分でも信じられない旋律。
こんな甘ったるい声だったっけ?

その瞬間、ほんのすこし笑って見せた顔にどこか寂しさが覗いて
なんだ、こいつ光りの世界を生きてたんじゃないのかって
何故か、ほっとけなかった。



 
89 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:35
 
 
 ******
 
 
90 名前:2.朝の歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:36


「……亜弥?」


ぼんやりと視界に人の影が見えた。居るはず無いって頭では分かってるのに……
声に出すだけでこんなに愛しい。名前を呼ぶだけで胸焦がれるほど愛していたなんて───


「おはよう」


思考回路がすべてストップする。
亜弥じゃない。亜弥はもう居ない。亜弥はこんな高い声じゃなかった。
焦点の定まってない瞳が宙をさ迷って……捉えた。


「……りか?」
「そうだよ、ひとみちゃん!」


かるく頭を振って考える。
部屋に人を上げるなんて、亜弥以外ではじめてじゃん。
しかも何もしなかったんですけど?ただ一緒に布団に入ったような記憶はある。
何してんだろ。

視線を再び「りか」に戻すとにっこりと微笑んでいる。
綺麗な漆黒の瞳があまりにも綺麗で。
亜弥……君の影を重ねようにも重ならない筈なのに。何故か同じ色をしてるんだ。


―――――― 君が自分の運命を悟った時と同じ、哀しみの色をしてる。


   
91 名前:2.朝の歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:36
「ねぇねぇ、あやってだれ?」

無邪気な問いかけ。残酷な問いかけ。
誰もふれる事の出来ないアタシだけの天使……


「関係ない……」
そのこたえに不服そうに唇を尖らせる。
昨日見たときよりもうんと子供みたいな態度。なんでアタシなんかに気を許してるんだか……
何もこたえたくない。話すのでさえ大切な記憶が奪われるようで嫌だ。


「私の名前、果物の梨に中華の華で梨華だよ?昨日言おうと思ったら寝ちゃうんだもん」

一人で話しながらベッドの脇に腰掛ける。
なぁ、ほんとに分かってる?無防備に誘ってるようにしか見えないこと。

ぐっと腕を引き寄せればあっけなく布団になだれ込む。
そのまま唇を塞いで服のボタンに手をかける。


―――――― 不思議な感覚に囚われる


似てないはずなんだ。アタシの天使は透き通るような真っ白な肌をしていた。
薄茶色の綺麗なガラスのような瞳を潤ませてた……

手をすべりこませて触れた感触は……
滑らかな肌。ほどよい肉づき妖艶なカラダのラインを
掌で辿っていると錯覚を起こすほどに似ている。
92 名前:2.朝の歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:36
「亜弥……」


離れた唇から洩れた甘ったるい声は愛しい人の名前。
でも、すぐに抗議するように視線を合わせてきた漆黒の瞳は
涙をうかべて――――――


『梨華だもん』
昨日と同じように囁くように自分の名前を口にする。


名前なんてさ記号と同じって想ってた。でも、特別なんだって失ってから知ったよ……

どんっと胸元を叩かれる。軽い痛みで現実に戻される。


「あやちゃん、見てるよ」

ベッドのサイドボードにある写真を指差す。あの頃のままの亜弥が微笑んでる。
太陽のようにアタシを照らし出してくれた人。もう、亜弥はいない……


「亜弥はもういないから」

いないから?アタシは何も出来ずにいる。自分が生きている意味がわからない。
どうしてアタシだけ生きているんだろう。

梨華は何も聞かずに服の乱れを直す。ふっと香る匂いが、亜弥と同じで目を見開いた。

そうだ、この匂いに感覚をおかしくさせられた。
そして亜弥と違うはずなのに同じに感じるその感触にも……
昨日の夜、意識が遠くなるように眠りの世界に引き込まれた。それは安心できる匂いに包まれたから。

梨華に亜弥を重ねてる?

違う所は亜弥はもういなくて、梨華はココに居ると言う事。
93 名前:2.朝の歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:37
すっと伸ばした手で梨華の頬に触れる。
一筋だけ流れたらしい涙のあとを指でたどると、何も言わずにアタシの手に自分の手を重ねて。


―――――― 梨華は微笑んだ


鮮やかな色が目の前にひろがる感覚……
こんなにもあっさりと、アタシの目の前の景色に色と光りを運んできた。
華のように美しい人。例えるものが見つからない……


「梨華はここにいるよ?」
そう呟いた梨華の声は落ち着いた甘さで、ほどよく高くてアタシの心に染みた。
亜弥、弱いアタシの心は満たされたいって誰かを欲してしまう。
もう帰らない過去に縛られるのは良そうか。少しなら好きになっても良いかな?

亜弥ならどうする?


そっとくちづける前に……
想いのままに無意識に洩れ出た言葉は君の名前だった。

「梨華…」

忘れられない人が居る、それでも良い?
忘れたくないんだ。本当に愛した人だから。
アタシに愛を教えてくれた人だから。その人以上なんて無理だよ。
94 名前:2.朝の歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:37
「亜弥以上なんて無い……」

そう言うと君は優しく笑いかけてくれる。

「忘れちゃダメだよ。
 記憶の中で亜弥ちゃんは生きてるんでしょ?
 死ぬ事よりも忘れられる事の方がずっと辛い事だよ。

 以上とか1番だとか気にしない。
 この世でたった一人しか居ないんだよ、私もひとみちゃんも亜弥ちゃんも。

 貴方の心の奥に大切にしまわれた記憶の宝物。
 亜弥ちゃん以上なんて望んだりしない。

 でも、いまこの時を一緒に過ごしてる私の事も忘れないで?
 あなたの隣に確かに居るのは……私だって事を」



愛を教えてくれた亜弥の為に、アタシは生きて行く事を選ぶ。
ねえ?亜弥。
もう叶えられない夢もあるけれど、いまアタシが
見つけ出そうとしてる答えも間違っちゃいないよね?

亜弥の姿にシンクロするような可愛らしい人なんだ。
だから、もう一度進んで行こうと想う。



 
95 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:38


 ******
 
 
96 名前:3.1つのメルヘン 投稿日:2005/12/02(金) 22:38
「ねえ、どこでお仕事してるの?」
「パン屋」
「うわぁ、意外」
「うっさい好きなんだよパン」
「このマンション高そうだよ?」
「親の持ち物だからな」
「ひとみちゃんって学年だと1こ下なんだね?」
「んだよ」
「私より年上だと思ったからビックリしたの」


ふ〜んって適当に流してそっぽを向くと、腕にじゃれ付いてくる。
くすぐったくなる甘さは亜弥に似ていて。やっぱり亜弥の影を梨華に重ねてしまう。

サイドテーブルの亜弥の写真に心の中で謝りながら。
梨華を引き寄せてキスをする。なんどもなんども……
魔法にかかったように夢中になる。

「……んっ」
時より洩れる甘い吐息は耳の奥に染み込んで、全身が震えるような快感に包まれる。
キスを繰り返すと少し苦しげに唇が薄く開いていく。


”満たされるんだよ。好きな人とキスするの”

だからひーちゃんもっと、いっぱいキスしてて……
忘れられないように、最後の瞬間の恐怖に負けないように。

”アナタをアタシに刻んで”

亜弥の声が脳裏に甦る。こんな風に誰かを求めたのは……
亜弥を失ってからは、はじめてだ。
97 名前:3.1つのメルヘン 投稿日:2005/12/02(金) 22:39
絡めとった梨華の舌は甘くて酔いそうだよ。
亜弥……また君のような穏やかなぬくもりを見つけられたのかな?

ゆっくり唇を離して見た梨華の瞳は昂揚した熱で潤んでいる。
ただ胸にうずまく感情にいますぐ名前はつけたくなくって
黙って見つめていると、少しづつ我に帰った梨華は頬を染める。


「……ねぇ?」

いままでより低くめの甘い掠れた声に、アタシの心は高鳴りはじめる。
無自覚で醸し出す色気がすごいな───そこが亜弥とは違う所かな。


「亜弥ちゃんはなんて呼んでたの?ひとみちゃん?」
「違うよ……」


亜弥はいつもアタシの名前を呼ぶ時だけ、普段より甘えた声を出してたっけ。
その声に魅了されて亜弥に溺れていった。


「ひとみちゃんって呼んでも良い?」
「もう呼んでるじゃん」
「これからも呼んで良い?」

ねえねえ、良いよね?なんて言いながらまた顔を近づけてくる。
こんな所は似てるかな。夢中になると子供みたいになるところ。


「かってにどうぞ」

そんな甘ったるく呼ばれたく無いんだけどね。
そうは思ったけど否定したって無駄な気がして。
それに亜弥とは違う呼び名の方が良いかなって想った。

梨華だけに許すよ。そんな甘ったれた呼び方。
98 名前:3.1つのメルヘン 投稿日:2005/12/02(金) 22:39
近づいた唇にかるく触れてから、再びベッドに組み敷いたアタシを
真っ直ぐ見上げて梨華は拗ねたように言う。

「スキって想ってる?それともえっちがしたいだけ?」
「ん。したいだけ」

面白いように反応する表情。
アタシの代わりにさ、そうやって色んな感情を見せてよ。いつか……
おなじようにさ表現できるかもしれない。



「私は好きだって想ってない相手に」

”キスさせたりしないもん”

そういって顔を横にそむけてアタシから視線を外す。
一つ一つの行動がなんだか亜弥とは違う部分も見え隠れして。
アタシはほんとに彼女を大切に想えるかもしれないって想った。

でも素直に、そんなすぐに割り切れるものじゃない。
亜弥を愛してる。
そのことが真実。それがすべてだから───すべてだったから。


からかうように首筋に唇を寄せると、カラダが微妙に震えだす。
触れてみたい。梨華のすべてに……
99 名前:3.1つのメルヘン 投稿日:2005/12/02(金) 22:39
「まだ愛することは出来ないけど」

そういったアタシの言葉に反応して顔をゆっくりアタシのほうへ向け
少し潤んだ瞳は不安で揺れている。


「好き……にはなれそうだよ」

素直じゃないなって想う。確実に惹かれてるくせに言えないんだ。

梨華はフッと口元を綻ばせ、綺麗な笑顔を見せる。
改めて見ると整った顔立ちなのにドコか幼くて。
三日月みたいに目を細めて無邪気に笑いながら
アタシの頬へ手を滑らせてぎこちないキスをくれた。

あったかくなる。心の中がいっぱいになる感覚……
亜弥にしか感じたことのない感情。

それと同じだとは言えないけれど、確かに梨華を――――――
そのさきの言葉は怖くて口に出来ないんだ。
ごめんね。弱いんだ。アタシは亜弥を失ってから自分の弱さに気付いた。
梨華はアタシのどんなことに気付かせてくれる?
100 名前:3.1つのメルヘン 投稿日:2005/12/02(金) 22:40
「好きだよ、ひとみちゃん」

甘えるように擦り寄りながら耳元でそう言う。
亜弥の色で染まったアタシは一度、色を失ってしまった。
そんなアタシを梨華はどんな色で彩ってくれる?


ゆっくり閉じられた瞼。
サインをうけとってゆっくり、もう一度くちづける。

触れた肌から伝わる熱は亜弥よりも熱く感じるよ。もう取り戻せないって……
二度と出会うことはないって想ってた。

そんな満たされる感覚に包まれて、少しづつ乱れていく呼吸の合間に聞える
カラダの底から絞り出されるような声に溺れていく。
抱いているはずなのに、抱きしめられてるような安心感。

このまま絡み合う2人の熱が、記憶を焼き尽くしてしまえば良い。

梨華の香りは亜弥とは違ったのかもしれない。
亜弥の幻を追いかけてたアタシが勝手に見た幻影……

いま確かに腕の中にいるこの人がアタシを包み込むように微笑む。

胸に顔をうずめて君の心臓の音を聞いて、安心出来る場所なんだっておもった。
101 名前:3.1つのメルヘン 投稿日:2005/12/02(金) 22:40
意識が朦朧として、快楽に溺れて堕ちていく感覚によいしれる。
いつもより素直になる瞬間なんだ。

無防備なアタシの心は、いま梨華に開かれてる――――――
この快感から冷めたら多分、言葉に出来なくなるから。
いまだけの言葉として聞いていて。どれだけ想っても、約束しても運命には勝てない。
分かってるから。亜弥を失った時に分かってしまったから……

でもいまだけは夢の中にいさせてほしい。
いつのまにかアタシの体は、梨華の細い腕に抱きしめられていた。


「いなくならないで……亜弥のように」
 
”梨華が……好き………”


愛するまでは、もうすこし待っていて。
アタシの心が素直になるまで。凍りついた心の奥が君の暖かさに溶けてしまう日まで。
傍に居てほしい……
 
102 名前:3.1つのメルヘン 投稿日:2005/12/02(金) 22:40
ただ抱きしめる腕の力が強くなって夢じゃないと教えてくれる。


”ひとみちゃん”
ただアタシの名前だけを呼ぶ声に満たされて、子供みたいに眠りに落ちていく。
意識を手放す瞬間に亜弥の声が聞えた。

”ひーちゃんが大好き”


そしてシンクロするように梨華の声がかぶさって……


”ひとみちゃんが大好き”

二人の甘い声に満たされて
ほんとうに眠りの世界に引き込まれていった――――――

 
 
103 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:41


 ******
 
 
104 名前:4.汚れちまった悲しみに… 投稿日:2005/12/02(金) 22:41
目が覚める。
いつもなら、ぼ〜っと夢から現実へと頭の中がシフトして。
亜弥がいないことを噛締める。

時計を見ると梨華に出会ってちょうど24時間くらいって所だった。

まだ冷めきらない思考で考える。
たしか朝起きて。少し、ほんの少しだけ話して。それで……梨華と寝て。
ふ〜っと息を吐き出す。信じられないくらい。気持ち良かった。
夢中で溺れるなんて……
どこかしら冷めてたのに。亜弥以外のぬくもりじゃ全然足りなくて。


お互いに深く相手を知らない。
ただ知ったのは余りに落ちつけるお互いの体温だった。

疲れたんだろう。梨華はしずかな寝息を立てて無防備に眠ってる。
綺麗でどこか幼い顔をしてる。

でもやっぱり亜弥じゃないんだ。
まだ満たされてない気がしてくる――――――
105 名前:4.汚れちまった悲しみに… 投稿日:2005/12/02(金) 22:42
考えるのを止めてシャワーを浴びる。
熱いシャワーに思考が冴え渡り心がまた堅く閉ざされていく。
普通はこの熱で溶けても良さそうだけど。
アタシの心にありつづける亜弥への気持ちは簡単に消えない。

そっと鏡に映る自分の顔を見た。亜弥が好きだったアタシは、どんなカオしてた?






”ひーちゃんの瞳がすきだよ。”

”綺麗な色だね。その瞳で見る世界はきっと綺麗なんだろうなぁ”

”アタシはどんな風にあなたの瞳に映ってますか?”

綺麗だったよ。可愛かったよ。誰よりも誰よりも……
君しか映したくないほどアタシは君が好きだった。

『アタシにだけ向ける笑顔が好きだよ』

”特別なんだって想えるの。アタシはひーちゃんの特別”

そうだよ。亜弥だけ。亜弥だけが特別。
もう君が好きだったアタシではないね。ごめんね。笑い方も忘れてしまった。
106 名前:4.汚れちまった悲しみに… 投稿日:2005/12/02(金) 22:42

――――――梨華は亜弥じゃない。


ふいに後ろに人の気配……
黙ってシャワーを指差す。いまは話したくないんだ。
また亜弥でいっぱいになってるアタシの中に君の姿は必要ない。

何か言いたげな眼差しも無視して部屋に戻る。
梨華が使うシャワーの音を聞きながら。
思考はやっぱり亜弥以外を受け入れる事が出来ないらしい。

さっきまであんなに溺れていたのに………
梨華は亜弥じゃない。そんな単純な事。
亜弥が欲しいんだ……



しばらくすると梨華は出てきた。
アタシの様子の違いはなんとなく感じているんだろう。
アタシが座ってる反対側のソファに腰を下ろしている。

流れる沈黙に耐えられなくなったのは梨華だった。
後悔しているだろう。こんな奴に抱かれたんだ。
107 名前:4.汚れちまった悲しみに… 投稿日:2005/12/02(金) 22:42
「ひとみちゃん……」


真っ直ぐに向けられた瞳は、相変わらず綺麗な色をしてる。
漆黒の鮮やかに光り輝く宝石のように。
亜弥と違うようでやっぱり似てるのかなって想っちゃうんだ。

言葉よりも瞳がおしゃべりだったね亜弥も。


お互いに言葉は無くて、黙って見つめるだけ。
『梨華は亜弥じゃない』そんなことに拘ってるアタシはバカなんだろう。
哀しそうに伏せられた顔は本当に綺麗で、縁どられた睫毛でいまはその瞳が見えない。
108 名前:4.汚れちまった悲しみに… 投稿日:2005/12/02(金) 22:42
「ごめんね……帰るね。」


コートを掴んでゆっくり立ち上がる梨華を見上げる。
なにも言えない。
手にしたはずのぬくもりを自分で手放すんだ。
弱いくせに――――――

「まっすぐ家に帰れよ、危ないから」

それだけ言って視線をそらす。
梨華は”そうするね……”なんて呟いてアタシに背を向けて玄関へ向かう。
その背中を見つめていたけれど、梨華は一度も振りかえらなかった。
扉が閉まる音が何処か遠くに感じられて……
部屋の温度が一気に下がったような気がした。
109 名前:4.汚れちまった悲しみに… 投稿日:2005/12/02(金) 22:43
 窓から見えたのは、しずかに降りゆく雪だった……
真っ白な君を思い出す雪。
亜弥会いたいよ。亜弥……

 瞳を閉じて震え出しそうな体を自分で抱きしめる。
もうぬくもりをくれる人はいない。
自分で手放してしまったんだから。

 もう亜弥はいないのに、目の前の梨華を自分で手放した?
離れると欲してしまう。手に入らないと欲しくなる。
子供みたいな自分の欲望に苦笑する。

 この雪が亜弥ならアタシを責めてるの?
ちゃんと前を見て生きろと。
なぜか雪の降る街は温かく感じるよね?
君と居た頃に過ごした雪の降る街は暖かく感じられたんだよ。
110 名前:4.汚れちまった悲しみに… 投稿日:2005/12/02(金) 22:43


 梨華――――――
この街のどこかでいつか会える?

 ふっと梨華のしていたマフラーが視界の片隅にとび込んでくる。
外の雪はただしずかに街を白く染めようとしている。
これからもっと冷え込みそうだな…
マフラーを渡すだけ、心の中でそんな風に言い訳しながら外へ出る。

 いまアタシに降る雪は……
心に染みるように冷たくて、弱い自分をぬくもりで包んではくれなかった。
心が満たされていたから。あの時の雪は暖かくて美しかったのかもしれない。


 
111 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:44


 ******
 
 
112 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:44
夢中で街の中を探した。
ぼんやりとする頭にあの日のことがリンクする。

亜弥、君もアタシの優柔不断さに傷ついて。
家を飛び出した事があったね。
雪の降る中。
必死で街を走り回って探したんだ。

でも……

最後に見つけたのは。
マンションすぐ横の公園。
そこのベンチで降り積もる雪を見ながら、たぶん亜弥はアタシを待ってた。
113 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:44
なぜか笑っちゃったんだ。
なんだ、こんな近くにいたのに……って。
そしたら亜弥は膨れた頬を見せて。

「なんで笑ってるの?」

”すっごい寒かったんだからぁ”
そういって立ち上がってアタシの傍まで来た。
そして気付いたんだよね。
こんなに優柔不断でさ、クールなフリをしてたアタシが
汗だくで走り回ってたのが分かるような、息の乱れ方をしていて。

一生懸命に探しまわってたのがばれた。
かっこわりぃ……

流れる汗が急に寒く感じられたけど、心は……
すごく暖かかった。
114 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:45
抱きしめた亜弥の体も冷たいのに、満たされたように笑いあった。
ぽつんと囁いた一言がいまも胸の中で暖かく残ってる。

「愛されてるね、アタシ」

黙って頷くと背伸びしてキスをしてくれた。
愛しくて……
胸の中が愛しさでいっぱいになって。

はじめて喧嘩して、仲直りして……
はじめて口にしたんだ。この言葉を。

「愛してるよ、亜弥」

微笑んだあと……君は泣いちゃったんだ。
びっくりしていろんな言葉で謝ったっけ。
そしたら泣き笑いの顔をして亜弥は言った。

「嬉しいんだもん。はじめて言ってくれたんだよ?」

”愛してる”って特別なんだもん。

「アタシも。ひーちゃんを愛してる」

アタシの目を真っ直ぐに見上げて。
まだ幼いアタシ達には少し背伸びした言葉だった。
115 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:45
それでも……
嘘はなかったんだ。
たしかにあの瞬間、愛を感じていた。
それはいまでもアタシの心の中にある。

さっきまでとは違い、アタシの上に降りそそぐ雪は……
アタシをつつみこむように暖かく感じられた。

―――――― 亜弥

傍にいてくれるんだね。
たしかに君のような綺麗な真っ白い雪だよ。
アタシを責めてなんてない。

早く素直になれ。
亜弥がいない現実を受け止めきれなくて。
アタシはずっと亜弥を縛ってた。
ちゃんと天使は空にかえさないと。
 
116 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:45


降り積もり始めた雪を、微かな月明かりが照らしている。

この雪は亜弥……きっとアタシを包み込むように降っている。
差し伸べられた手に甘えてちゃいけない。
自分で見つけに行こう。
117 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:46
 結局、広い街の中では見つけられなかった。
梨華が出て行ってから1時間も経ってないと思うけど……


あの日、亜弥が待っていた公園。
乱れた呼吸を整えて、入り口に足を踏み入れた時。


幻かと想った……


あの日の君のようにベンチに座って空を見上げてた。
雪が降るその景色の中に、美しく浮かび上がる輪郭。
118 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:46
 まただ……遠回りしちゃったよ。
随分、まぬけだ。
同じこと2回もあるのかよ。
近くに行こうと……1歩踏み出した時。

さっきまで降り続いていた雪が一瞬止んだんだ。

この雪は亜弥の涙……
情けないアタシに流した涙。
涙が雪の結晶になってアタシに勇気をくれた。
119 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:46
亜弥……

愛しても良いよね・・・。愛しなさいって
言ってるのかもしれないね。

亜弥……

口元が勝手に綻んでいくのをどこか他人事のように感じていた。
あぁ、笑ってるんだ。アタシ、笑ってるよ?

梨華が気付いて不服そうにアタシを見る。

「待ってたわけじゃないもん……」


”雪が綺麗だったから見てただけだもん”


亜弥……

有難う。
梨華をアタシの傍から離れないようにしてくれて。
 
120 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:47
 梨華の前に立つと、ゆっくり梨華も立ちあがった。
寒そうな首元にマフラーをかけて引き寄せる。

冷えてしまったカラダは冷たいはずなのに……
やっぱり暖かいと感じられた。
梨華は腕の中で身じろぎしてアタシを見あげる。

「汗かいてるよ?」

「……走ったからね」

いたずらっこみたいに笑って。
梨華は嬉しそうにしてた……
121 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:47
ふたたびアタシの胸に額をつけて呟いた。

”あのね、亜弥ちゃん……亜弥ちゃんがね
 いたような気がしたの。逢ったことないのに。
 なんとなく、この雪が降ってきたら暖かく感じたの”

亜弥……

アタシに愛を教えてくれた人。
出会えて良かった。君を愛して良かった……
いまでもこんなにもアタシは幸せをもらってるよ。
ありがとう。
122 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:47
「おんなじ所で待ってたことあるから」

主語のない台詞。独り言に近い。
梨華はなんとなく理解したのか黙ってアタシを見上げた。

綺麗な瞳。
亜弥は儚かった。雪のように儚く脆く……消えてしまった。
でも。アタシの心に降り積もったぬくもりも確かに亜弥。
だから亜弥は永遠に消えたりしない。
アタシの中で一緒に生きていく。
123 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:48
「梨華」

真っ直ぐ見つめる瞳だけで問い返してくる。
吸い込まれそうな綺麗な瞳……

「……好きだよ」


まだ愛してるって言えないけど、梨華が好き。
アタシに忘れてた色を取り戻してくれる人。
124 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:48
 唇がかさなった時……
雪がしずかに降り出した。


「ひとみちゃんのこと好き」

”好きになっちゃったんだもん”
子供みたいにストレートな言葉に、頬が熱くなるのを感じた。
雪が降り注ぐなか、暖かいぬくもりに包まれて……


梨華の小さいてのひらがアタシの頬を包むように触れた。
アタシは自分でもわからないうちに泣いてた。
熱く感じたのはアタシの瞳から溢れた涙のせい……
亜弥、君を失った時でさえ流れなかったのに。
125 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:49
あの日の君を思い出す。
”嬉しかったんだもん”そういって……泣いてたね。
嬉しい時に涙って流れるんだ。

ただ梨華が傍にいてくれることが嬉しくて。
涙が暖かいことを知った。


亜弥……
忘れたりしない。ずっと愛してる。

だから梨華を愛するよ。

アタシ達のために降り始めた雪は
亜弥がくれた最後のプレゼント。
126 名前:5.生ひ立ちの歌 投稿日:2005/12/02(金) 22:49
大切にする。
不器用だけどちゃんと愛すること出来ると想うんだ。
亜弥がアタシに教えてくれたことだから。

一人じゃないんだって教えてくれるぬくもりが
いまココにちゃんとあることに満たされていく。
そして、重ねた唇から愛しさが伝わるといいな。


梨華を――――――


心の中で呟いた。いつか口に出して言う日まで。
その言葉は大切に大切にアタシの宝物としてしまっておくよ。


 
 
127 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:50


 ******
 
 
128 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:50
 
 ******
 
129 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:51
 ひとみちゃんはよく笑うようになった。
時々、亜弥ちゃんをおもいだしてるかもしれないけど……
ちゃんと私の傍にいてくれる。


”どうして、亜弥と同じような哀しみの色に見えたんだろ”
ってひとみちゃんが言った。私が分からないって顔をすると、

”瞳の中に……なんか切ない光が見えたんだ”

そう言った。気付いてくれたんだって嬉しかった、あたしの心の闇。
だけど、ひとみちゃんはその理由は聞かなかった。

”今は幸せ?”
ただそう問いかけられて、すぐに頷くとニッコリと微笑んで、


”アタシも梨華が幸せなら幸せだよ。それだけで良いじゃん”

そう言ってくれた。
130 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:51

 私の心はアナタといるだけで穏やかになる。
結局、私の過去のことも全部知ってなお、あなたは私を愛してくれた。



 出会ってからもうすぐ1年だね。
2人で雪が見れると良いな、この季節に亜弥ちゃんがまた雪を降らせてくれるかな?
131 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:52
「公園に行こう」

ふいにひとみちゃんが言った。
私は頷いて2人分のコートを持ってくる。
マフラーを渡すと迷わずに私の首にまいてくれた、あの日と同じように。
愛されてるって想えるんだ。こんな些細な事で……
でも言葉をもらったことはないんだよね、欲張りすぎるかな?


ひとみちゃんの手を握ったまま、公園のベンチに座って。
お互いに何も話さない。


でも沈黙が……心地良い。
2人が重ねた月日が充実してたんだなって想える瞬間。
132 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:52
 しばらくしてから、ふわふわと天使が舞い降りた………
あの日と同じように雪がしずかにふりだして。

幻想的に舞う雪は――――――
きっと亜弥ちゃんのプレゼント。

 目を閉じたままで幸せそうに口元を綻ばせながら、
繋がった手の力をひとみちゃんが強めた。

私がひとみちゃんのほうを向くとゆっくり瞼がひらいていく。
綺麗な茶色く透ける瞳が私を見てる。
ねえ、私だけを映してる?
133 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:52
「何考えてたの?」

私が問いかけると”梨華と同じ事だとおもうよ”
ってこたえてくれた。

わかんないよ?って言うと優しい視線を空に向けた。

「亜弥が雪を降らせてくれた。
 アタシと梨華を見守ってるんだなぁって」


亜弥ちゃんは天使。
綺麗な真っ白な天使。

「亜弥ちゃん、喜んでくれてるかな?」

「……ん。あったかいな雪」

私とひとみちゃん。
いつのまにか天使に導かれて……
こんなにも愛を感じてる。
134 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:53
ふいに手を握ったままで、ひとみちゃんが立ち上がった。

”キスがしたい”

そんな唐突な囁きに微笑む。
あなたの傍にいて知ったことがあるよ。
キスするの好きだよね。子供みたいな人なんだ。

”その前に……”なんて呟いてから、ごそごそとポケットを探って
私の目の前に小さな箱を差し出した―――――― って言いたいけど。
無造作にポケットにそのまま入れてたリングを、私に見せた。

指輪、傷ついちゃうよ?
でもなんか良いな。気取らない、ひとみちゃんらしくって。


「梨華」

迷いなく私の名前を呼んで。
ひとみちゃんは白い息を吐き出した後、少しだけ息を吸い込んだ。
135 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:53

「愛してる」


凛とした空気によく通る優しいアルトの声。
はらはらと舞い落ちる雪が滲んでいく……

1年前アナタが流した嬉し涙、あったかかったよね?
いま自分の頬を伝う涙もすごく暖かい。
ちゃんとひとみちゃんを見たくて、涙を拭おうとしたら優しい指先がその涙を拭ってくれた。


「私もひとみちゃんの事、愛してるもん」


子供みたいな語尾。いつもからかわれるのに、なおらない。
でも、ひとみちゃんは満足したのか黙って優しく私を見つめる
瞳の奥に暖かい光りがみえる。
136 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:53


―――――― その綺麗な瞳に私だけが映ってる。


「ずっと一緒にいよう」


 黙って頷くと、きつくきつく抱きしめてくれた。
まるで私の存在を確かめるように……
ひとみちゃん、ここにいるから。ちゃんと、ひとみちゃんの傍に梨華はいるよ?

自分は仕事でつけれないのに、ペアリングを買ってくれていた。
その手には2個の指輪が輝いてる。

お揃いのシンプルなデザインのリングは、2人を繋ぐ見えない絆。
亜弥ちゃんにもあげた事ないんだって。

ちょっと……ほんのちょっと特別を感じるな。
そう話したら、ひとみちゃんは穏やかに微笑んで囁く。

”梨華はアタシの特別”

甘い言葉もぜんぶ亜弥ちゃんが演出してくれたであろう雪のせい?
137 名前:6.エピローグ 投稿日:2005/12/02(金) 22:53
ひとみちゃんが素直になる瞬間の言葉をちゃんと心に刻んでいこう。

真っ白い雪の降る中でしずかに重なった唇は――――――
暖かく2人の心を繋いで離れられなくする魔法。

いつのまにか雲の間から暖かな光りが射し、二人を照していた……







 
138 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:54
 
 
  FIN
139 名前:心象 投稿日:2005/12/02(金) 22:55
 
 
140 名前:日季 投稿日:2005/12/02(金) 22:55
>>74-138更新終了です。


>>72さま
ありがとうございます。藤本さん可愛いですか?嬉しいです。
カッコかわいいを目指した……つもりなのでw

>>73さま
ありがとうございます。藤道読んでいただいてありがとうございます。
優しすぎますか?でも好きって言ってもらえてよかったですw
141 名前:名無し 投稿日:2005/12/03(土) 01:39
いしよしキタ――\(^∀^)/――!?
キレイな描写にうっとりしながら読みました
142 名前:日季 投稿日:2005/12/03(土) 10:11
「心象」Side R
143 名前:心象・R 投稿日:2005/12/03(土) 10:12
 出会った日、あの人の瞳はガラス玉のように何にも映していなかった。
それはどこか儚くて……
俯いていた私の顔を持ち上げて、さっきまでなんの光も宿していなかった瞳は
私を捉えて熱っぽく揺れた。


つぎの瞬間――――――


 唇に暖かい感触が触れた。
それは一瞬で、私はキスされた事が理解できなかった。
なのに嫌じゃなかったんだ。だからね。名前を呼んで欲しかった。
大好きなママがつけてくれた名前なの。



 気付けば二人っきりになってて。
アナタの声が優しく私の心に入りこんできた。
知らない人の家に行くなんて、どうかしてたのかもしれない。だけど、怖くなかった。
なぜか惹かれてたの。その綺麗な瞳に……映っていたかった。
144 名前:心象・R 投稿日:2005/12/03(土) 10:12
ひとみちゃん。
学年で言えば1つ年下だった。
何もしないまま眠ってしまった人。
寝顔を見てるとすごく幼く感じる。

 可愛いなって見惚れていると、目を覚ましたアナタは、
アタシの気配を感じたのかうっすら目を開いた。
ぼんやりと視線が宙をさ迷った後……


「……亜弥?」

そう呟いた。
あや?亜弥ちゃん。サイドボードに置かれた写真の笑顔の女の子だ。
名前とメッセージが写真の裏に書いてあった。

 アナタは夢の中から醒め始めると現実を理解したのか、哀しそうに瞳をふせた。
私に何か言いたそうだったけれど、何も言わずに黙ってる。
145 名前:心象・R 投稿日:2005/12/03(土) 10:12
 哀しかった。
亜弥ちゃんと重ねられて……亜弥ちゃんを想ってキスしたの?
でも……あの一瞬だけは、私の名前を呼んでくれた。
痛かったんだよ。すごく……だけど言えなかった。
なぜかアタシを抱いてるアナタのほうが、あまりに気持ち良さそうだったから。

ふわふわと視線が快楽を舞うように揺れた後、まっすぐに私を捉えた……
洩れ出た言葉……それはアナタの本音?

”いなくならないで、亜弥のように”

私はアナタが愛しいって想ったんだよ……
出会ってそんなに経ってないし、お互いのこと何もわからないのに。
確かなぬくもりと感触だけは2人を繋いでいた。
146 名前:心象・R 投稿日:2005/12/03(土) 10:12
 だけど、今度目を覚ました時。
ひとみちゃんは、冷たい瞳に戻ってた……

勝手に勘違いしたのかな。
ただ寂しさを紛らわせたかっただけかもしれない。
一人で好きになって、勝手に想いこんでた……アナタも同じ気持ちだって。
147 名前:心象・R 投稿日:2005/12/03(土) 10:13
 マンションを出てすぐに、雪が降り出した。
寒いはずなのにすごく暖かくて……
目を向けた先の公園に吸い込まれるように歩いてた。

亜弥ちゃん……たぶん、こんな風に暖かかったんだ。
だからひとみちゃんはあんなに誰かのぬくもりを必要としてる。

 それは私じゃなくても平気?
だけど動く事が出来なかった。ベンチに座って、ただ雪が舞い落ちる刹那を見つめてた。

―――――― 綺麗

きっと亜弥ちゃんみたいなんだって想った、この雪は亜弥ちゃん。
逢ったこともないのに、そんな気がしたの……
148 名前:心象・R 投稿日:2005/12/03(土) 10:13
 だってひとみちゃんを連れてきてくれた。
出てきた言葉は意地っ張りな言い訳だけど、ほんとは嬉しかった。
抱きしめてくれたぬくもりはアタシを虜にする。

自分で気付いていないだけ、すごく暖かい。
ひとみちゃんは、優しくて暖かい人。


 アナタに包まれて幸せなんだって想う。
その綺麗な瞳に、ずっとずっと私を映していてほしい……





FIN
149 名前:心象 投稿日:2005/12/03(土) 10:14
 
 
 
 
150 名前:心象 投稿日:2005/12/03(土) 10:15
「心象」A番外編
151 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:16
 友達の誘いを断わって、アタシはなんとなく街の中をあるいていた。  
でもなにもする事がなくて……

 12月。
クリスマスイルミネーションに輝く街は綺麗で、でもどこか寂しい。
街をはずれてママと二人で暮してたマンションへ戻る。

 もう迎えてくれる優しいママはいなくて……帰りたくなくて、公園のベンチに座ってた。
降り出した雪が綺麗で見惚れていると、いつのまにか夜の闇がアタシを包んでいた。

152 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:16
寒い……
寒いよぉ。手をすり合わせていると誰か人が公園に入ってくるのが見えた。
公園の入り口の外灯に照らされた顔があまりに綺麗で、見惚れちゃった……

その人はアタシの前までなんの迷いもなく歩いてきて、
アタシの横に座った。

静寂に包まれた公園は、この時間になるとひとけが少なくて寂しいんだけど。
なんだか一人じゃないんだなっておもえた。


「こんばんわ」

ぽつんって何気なく呟いた一言がすごく暖かくて、
不思議な人だなって想った。

アタシはぎこちなく”こんばんわ”って挨拶をかえした。
ゆっくりアタシを見た瞳は綺麗で吸い込まれそうな不思議な感覚がした。
とてもボーイッシュで綺麗な女の人だった。


「これ、あげる。」

そういってアタシの手に暖かい紅茶の缶を渡してくれた。
ニコって笑った顔はなんだか可愛らしくて、つられてアタシも笑ってた。
153 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:17
 色んな事を聞いてもらった。学校の事、ママの事……
なにも言わずに聞いてくれて、アタシが話し終わると名前を聞いただけ。

「名前、なんて言うの?」
「……亜弥」
「あやちゃんか。あやはどんな漢字?」

 携帯を開いて漢字を打って見せた。
そして名前を聞くと、彼女は番号とメールアドレスも一緒に教えてくれた。
お互いに苗字を聞かずに、下の名前だけで登録。


”ひとみさん”かぁ……

「結構、時間経っちゃったね。亜弥帰らなくてへいき?」

最初に呼んだ時だけ”ちゃん”付けで、もう呼び捨てしてる……変な人。
154 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:17
「大丈夫。アタシ一人しかいないから」
「そっか……ママと2人だったの?」
「うん」

”家においでよ”なんて、さらっと誘われた。
ひとみさんがゆっくり向かったのは、アタシと同じマンションだった。
ここに住んでるから、この公園に来たんだ。


「アタシもここに住んでるんですよ」
「ん。だろうね」

”あの公園にいるくらいだし”
なんて呑気に笑ってた。部屋の前まで行って表札を見ると、名字は吉澤……吉澤?


「このマンション……」
「うん。うちの親の」

お部屋に入ると電気がついていなかった。誰もいないのかな?
155 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:17
「おじゃましまぁす」
「誰もいないよ。どうぞ」


分かってたけど。一人暮しかぁ。

「ご飯食べた?」

聞かれてはじめて気付いた……食べてなかったや。
一人で食べても美味しくないんだもん。

「う〜ん、なんもないやぁ」

昨日のシチューしかねぇなんて呟いてひとみさんは
キッチンのカウンターからアタシに声をかけた。

「ちょっと作るからまってて」

お料理出きるんだ。
なんて思ってるうちに、軽快な包丁の音や炒める音なんかがしてきた。
156 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:18
「どうぞ」

目の前にはシチューとオムライス。
シチューの湯気の向こうに優しい笑顔があった。

「いただきます」

オムライスを一口食べて……

「美味しい」

自然と出た言葉にひとみさんは嬉しそうに”良かった”って言って
自分も食べ始めた。

一口食べるごとに……
ケチャップライスをくるむふわふわのタマゴとか、シチューの暖かさとか。
ママをおもいだして。

―――――― 頬を涙が伝っていた。

157 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:18
 ママが死んだ時も泣けなかった。
これっぽっちも、実感できなかったから。
いま……本当にママがいないんだって実感した気がする。

ひとみさんは黙って食べ終わったアタシの傍に来て、
すっと抱きしめてくれた……

「泣いても良いんじゃないかな」

優しい声……心に響いてくるような。
アナタの腕の中でアタシはおもいっきり泣いた。
もう涙が出ないんじゃないかっていうくらい。

顔をゆっくり上げたら、変らない笑顔で微笑んでた。
とってもスッキリしてアタシも笑った。
158 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:19
 それから、家まで送ってくれて。
同じマンションなのにね。

眠る前には”おやすみなさい。今日はほんとに、ありがとう。ご飯おいしかった!”ってメールして。
すぐに返信があって”おやすみ。あったかくして寝るんだよ”
なんて優しい言葉をくれた。

その日の晩は、なんだか心が暖かくなって
よく眠れたんだ。
159 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:19
 
 ******
 
160 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:19
「おはよ」

朝、公園にひとみさんは居た。
隣に座ったアタシに昨日と同じように暖かい紅茶をくれた。

「がっこは?」
「もうテスト休みだよ」
「そっか」

はぁ〜なんて吐いた息が白くなるのを嬉しそうに眺めてる。
その姿はなんだか子供みたい。

「ひとみさんはいくつ?」
「ん?アタシは18だよ。高校さんねんせー」
「じゃあ、アタシより2歳年上なんだぁ。学校は?」
「アタシだってテスト休みだよ。でも、バイトあるんだけどね」
「何のバイト?」
「パン屋さんでいる」
「わぁ〜今度行っても良い?」
「良いよ、おいで」

それからひとみさんはバイトに出かけた。
アタシ、また逢いたいって……誰かの事を考えた事無かったなぁ。
ひとみさん、また会ってくれるかなぁ。
161 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:20
 なんとなく夕方まで家の中でボ〜っとして。
ひとみさんにメールしたら5時でバイト終わって帰る。って返信があった。

すぐに会いたくて、エレベーターを降りて公園へ向かった。
ココで待ってれば来てくれる気がしたんだ。

15分くらいしてひとみさんが帰ってきた。
ママがいなくなってから誰かを待つなんてなかったな……
そんな風に思いながら、ベンチから立ち上がる瞬間――――――
162 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:20
 アタシはめまいがして地面にふらふらと倒れそうになった。
その腕を走ってきたひとみさんが支えてくれた。


「だいじょぶ?」
「……うん。なんか貧血かなぁ」
「・・・・・」

 心配そうに顔を覗きこんでくれるひとみさんを安心させたくて。
アタシは思いっきり笑った。
けど、アナタは複雑そうな顔で微笑んでいた。

「ご飯作ったげるから、おいで」

そういってアタシの手を握ってマンションへ。

その手の暖かさが……
本当にアタシの心にじんわりと染みてきて、涙が零れ落ちた。

163 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:20
 それから時間のある時は公園でよく話をするようになった。
呼び方も”ひーちゃん”に変って。
すごく恥ずかしがって嫌がったけど最後はアタシに負けて”勝手にしろ”なんて言ってた。

いつものように公園で2人でおしゃべりして。
じゃあ、帰ろうかって立ち上がる時。

目の前の景色が、一瞬消えてアタシはその場に崩れた………

とっさに掴まれた腕をひっぱられ、なんとか地面と激突せずに済んだみたい。
でも薄く開いた瞼の先はぼやけていて、うまく焦点が合わない。
綺麗に咲いている桜の花びらが散っていくのさえ分からなくなってる……

心配そうなアナタの声が、近くにいるはずなのに
なんだか遠く聞えてアタシはすごく不安になる。
ぼんやりする頭になおも優しい声がして、でも耐えきれずにアタシはもう1度瞼を閉じ
意識を手放していた……
164 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:21

 目を覚ますとアタシはひーちゃんの部屋にいるみたいだった。
ひーちゃんが心配そうに覗きこんでいる。
なにか言わなきゃって思うけど、カラダが言う事を聞いてくれない。
うまく声が出せない……すっごく喉がかわいたぁ……

そんな様子を敏感に感じ取ったのか、アナタは優しくアタシの頬を撫でてくれた。

「無理しないで。ゆっくりしてて。お水持ってくるから」

素直に頷くとまた微笑んでキッチンに行った。


アタシのカラダどうしちゃったのかな?
前まで貧血なんてなかった。
どっちかというと健康体だったのにな……
165 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:21
 6月になって、病院へ行こうと言われた。
パン屋さんの店主の中澤さんは親戚が医者なんだそうだ。
だからちょっと精密検査してもらおうって事になった。
最近、頻繁に貧血を起こすようになったから……

いろんな検査を受けたけれど、これといった原因が分からずにいた。
最後に訪れた街一番の大きい病院での結果を聞きに言った
ひーちゃんの様子が明かにオカシイことにすぐに気付いた。

「嘘はつかないで」

アナタの瞳はとっても正直だよ?隠したって見え隠れする動揺がわかる。

「お願い教えて、アタシ病気なの?」
「・・・・」

唇を噛締めて黙ってしまうアナタの表情がとても切なくて。
こんなに好き。だから本当の事を教えて?

「ごめんね。ひーちゃん……」

”こんなに苦しませてごめんなさい”
呟いたアタシの言葉にアナタは苦しそうに歪んだ顔を
ゆっくりとあげた。
166 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:22
「亜弥……」

消え入りそうなほど頼りない声。
その雰囲気でアタシのカラダがよくないことはすぐわかっちゃうよ。

「……原因がわからない病気で」
「わかんないんだ。治ったり……もしないのかな?」


アナタは、アタシを抱きしめた。キツクキツク……


「一緒に住もう。離れていたくないんだ」
「……うん」
「ご飯だって作るからさ」
「ご飯は練習するもん」

”ひーちゃん。ほんとの事おしえて?”腕の中で呟いた。
アナタの体が小刻みに震えてるのが伝わってくる……泣いてるんだ。
きっとひーちゃんは泣いてる。
167 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:22
「……治す方法が今はなくて」

”3ヶ月、生きられれば……”
そこで涙声が混じってアナタは声を殺して泣いた。
泣かないで?出会えたんだもん。いま一緒にいる事がすごく嬉しいよ。


「ひーちゃん、大好き」


アタシの声は落ち着いていて、部屋によく響いた。


「亜弥……」
「ひーちゃんの気持ち。教えて?アタシには……」


”時間がないんでしょう?”
そう言うと抱きしめる腕の力がさっきより強くなった。
ねぇ?こうやってアタシにアナタのぬくもりをたくさんちょうだい。
まだ信じられないけどね、いずれくるであろう最後の恐怖に負けないように……
168 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:22
「好きだよ……亜弥が、好き………」


涙交じりの優しい声がアタシの心に、カラダ中に響いて……
アタシとひーちゃんは初めてキスをした。
それは、ただ触れるだけのかるいものだったけどいまでも憶えてるよ。
大切な大切な記憶の宝物だから。
169 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:23
 
 
170 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:23
それから数日後の、誕生日の夜。

「お願い。ひーちゃんにもらってほしいの。」

”最初で最後の人になって?”
アナタが夜遊びしてたの知ってるんだよ。
女の人をこの部屋には呼ばないみたいだけど、外で綺麗な人と歩いてた。
アタシには未来がないからそれはイヤだって言えない。

でも誓ってくれた。もう他の人と会わないって……
だから……亜弥のこといっぱい愛してしまうかもしれない。
子供みたいなイタズラな笑顔に戻ってた。
残りの亜弥の人生。アタシがもらったなんておどけて言う。
171 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:23
 それが精一杯の強がり……だって、アナタは強くなんてない。
寂しいから、アタシの心の寂しさにも気付いてくれて。
あの日、公園から帰れないでいるアタシを迎えに来てくれたんだよね?

中澤さんから聞いたの。
「毎日、公園で座って空を見上げてる子が居るんだ」って
名前も知らないアタシをずっと気にしてくれてた事。

ひーちゃんは見つけてくれた。
一人ぼっちのアタシを……
172 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:24
 

あなたの腕の中で
アタシは快楽の波に揺られて――――――

このまま…………
このまま何もなかったように消えてしまえれば良いのにって思ったんだ。


−−−−−空白――――――


 触れる指先や、掌や唇の優しさがアタシを死の恐怖から救ってくれる。
アタシに触れるアナタのすべてが優しくて。
生きていると実感できるんだよ……
173 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:25
 
 
 
174 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:26
 その日帰りが遅くなったひーちゃん。
ねえ?やっぱり寂しがりやさんだよね。
最近はからだの調子が悪くて、ずっとアナタにあげられなかった。
ひどく香る香水の匂いに、理由も聞かないでアタシは一方的に怒って
部屋を飛び出した。

 12月の夜空には星なんて見えなくて、どんよりと曇っているようだった。
あの日から2人の気持ちを繋いでた公園のベンチは、すごく寒かった。
けっこうな時間待ってもアナタは来ない。

もうアタシの事、きらいになっちゃったのかな……

 そんなことを思ってると、しずかに雪が降り出して。
その雪がすっごく綺麗で『死にたくない、ずっと一緒にいたい』って思った。
だって寿命だって言われてた3ヶ月を越して、また12月を迎える事が出来てるんだもん。
実は病気だけど死ぬほどじゃないんじゃないかって思っちゃう。
175 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:26
 しばらくそうしていたら、息を切らしてアナタはやってきた。
アタシの姿を見て笑ちゃってるし……


「なんで笑ってるの?」

”すっごい寒かったんだからぁ”
立ち上がってアナタの傍まで行くと……
雪まで降るような寒い日なのに、アナタは汗だくで。
アタシが飛び出してからずっと探してくれてたんだって、わかった。

お互いに冷えちゃってるのに、抱きしめてくれたアナタの腕の中は
すごく暖かかった。

 残りの時間は少ないのに、お互いにすれ違っちゃダメだよ。
なんだか可笑しくなって2人で笑った。
少し、落ち着いてから真っ直ぐにアナタを見て思ったことを口にする。
176 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:27
「愛されてるね、アタシ」

ひーちゃんは黙って頷いてくれた。
そのまま背伸びしてキスをしたんだ。

はじめて喧嘩して、仲直りして……
アナタはアタシに初めてくれた、この言葉を。

「愛してるよ、亜弥」

嬉しさのあまり微笑んだあと……泣いちゃった。
アナタはびっくりしたのかいろんな言葉で謝ってくれた。

違うよ、ひーちゃん。
必死過ぎる姿が可笑しくて涙を拭わないまま、素直な気持ちを伝えた。

「嬉しいんだもん。はじめて言ってくれたんだよ?」

”愛してる”って特別なんだもん。アタシはひーちゃんの特別。

「アタシも。ひーちゃんを愛してる」

アナタの目を真っ直ぐに見上げて言えた。
その瞳にアタシの姿を残しておきたくて……
177 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:27
 
”満たされるんだよ。好きな人とキスするの”

だからひーちゃんもっと、いっぱいキスしてて……
忘れられないように、最後の瞬間の恐怖に負けないように……

”アナタをアタシに刻んで……”
 
178 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:28
 
「死にたくない……」

「……うん」

「死にたくないよぅ………」

「亜弥……」

本音はやっぱり怖いよ。もう会えなくなる。
会いたくても、悲しくても、寂しくても……
暖かいアナタの腕に抱きしめてもらえなくなっちゃうんだよ?


けれど、アタシはいつしか泣き疲れて眠っていた。
179 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:28


 ほんとにアタシしんじゃうのかな?
眠ることまで怖くなったらどうしよう?ひーちゃん一緒に起きててくれる?
明日、起きてちゃんと”おはよう”って言えるかな?
どんどん普通の生活が幸せなんだって、実感してるよ。

 
180 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:28
すぐに……
すぐにじゃ嫌だけどね。
アタシ以上に好きな人を見付けて幸せになって欲しいな。

だって……
ひーちゃんの笑顔ね、大好き。
だから笑ってて欲しい。

アタシの分までアナタの綺麗な瞳で、この世界の色んな事を見て聞いて知って欲しい。

そういったら辛そうに笑うんだろうな。
ごめんね、またひーちゃん一人になっちゃう……
 
181 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:29
 
182 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:29
  ひーちゃんが幸せになってると良いなぁ。
  好きな人は出来た?
  もしできたなら……
  アタシ以外の人を好きになるくらいだもん。
  とっても素敵な人だって想う。

   ひーちゃんが愛するあなたのことアタシも大好きだよ。
  2人がいつまでも幸せでありますように。

                    亜弥
183 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:29
「愛ちゃん、ちょっと」

「ん〜?どしたんやぁ」

「あのね……」

親友の愛ちゃんが御見舞いに来た時に手紙を渡した。
愛ちゃんは何も言わずに受け取って、弱弱しく微笑んだ。
目には涙がたまっていたけど、それを流さないように気丈に笑ってくれた。

アタシの大切な親友。だからお願い……
184 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:30
アタシは1通の手紙を、愛ちゃんに渡した。

ひーちゃんが未来に歩き出そうとする前に渡してほしいの。
アタシという存在をもう1度思い出してほしいんだ。
最後の我侭です、ひーちゃんごめんね。

でも、忘れられる事が怖いの。
だから記憶の片隅でも良いから、アタシを憶えていて欲しい。
185 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:30
ずっとずっとね、大好きだよ。
ほんとにほんとに、ありがとう。
この雪が降り続く間は、きっとアナタの傍にいるからね……
 
 
 
186 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:30
 
 
187 名前:雪夜に舞う夢 投稿日:2005/12/03(土) 10:30
 
  FIN
188 名前:日季 投稿日:2005/12/03(土) 10:32
>>142-148「心象」石川視点短いですが更新終了です。 
>>150-187「心象」亜弥番外編の更新終了です。
このお話の松浦さんのイメージは、デビュー前後くらいです。
あの緊張で泣き出しそうな表情を見せてステージに立っていた頃……初々しかったなぁw

>>172途中に「空白」とかいう文字は無視してください・・・orz
コピペをミスって消すのを忘れてました。申し訳ないです・゚・(ノД`)・゚・


>>141さま
嬉しいお言葉ありがとうございます・゚・(ノ▽`)・゚・
まだまだ未熟でへタレなので、なまぬるくて申し訳ないw
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 18:02
179のところで泣いた
切ないな、うまく言葉にできないけど感動した
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 23:44
切ない…。泣きそう。
それにしても吉くん意外な職業ですねw
それもまた良いと思います。
191 名前:名無し 投稿日:2005/12/04(日) 04:06
あややが切ない
オイラも泣きました
192 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:35
 ひとみちゃんは案外、まめみたいで
料理も出来るらしいし掃除もなんとなくしてそう。お部屋が綺麗だもんね。
シーツを洗濯機に持って行って私が座るソファの隣に腰掛けた。

 じ〜っと私の顔を見つめる。
その綺麗な瞳に、吸い込まれそうな錯覚に陥る。


「綺麗だね。でも可愛いなぁ」


 一瞬、理解できなかった……
えっ?私がきょとんとしていると、ひとみちゃんの口元が綻んだ。
穏やかな微笑み。

これが本当のひとみちゃんなんだ。
不思議な暖かさを持っている人。
193 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:36
「可愛いよ、梨華は」


もう1度、優しい声がして、私の唇は塞がれていた。
咄嗟のことに戸惑ってちょっと拗ねて俯いてると耳元に近づいてくる気配がする。
吐息がかかるほどの距離で……

”もっかいしようよ”なんて囁く声が甘くて、驚いて顔を向けるといたずらに光る瞳。
”こんどは気持ちよくしてあげる”そういってソファに……


「ちょ、や……ここじゃやあだ」

 否定するつもりが甘ったるい声で、場所移動しかお願いしてないじゃん!
ひとみちゃんはおもむろに私のことを抱えてベッドに運ぶ。
うっわぁ〜、お姫様抱っこ?初めて……ちょっと無理してるように見えるけど……


 優しくベッドにカラダをおかれて。何の迷いもなくその上にひとみちゃん……
見下ろされてるのが恥ずかしくて、唇を想いっきり引き結んで顔をそむける。
194 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:36
「もう我慢できない」
優しい声色に顔を正面に向けて、真っ直ぐ見つ返すと……

”いたくしないから”そんな言葉を囁かれて。
ひとみちゃんの手は、私のカラダを撫でるように触り始めている。
その掌のぬくもりにカラダの強張りが溶かれていく。

 しずかに触れ合った唇を、何度も何度も角度を変えながらついばまれ
口内を味わうように暴れるアナタの舌に翻弄される……
絡まる舌をつたって流れ込んでくる甘い甘い媚薬に感覚が麻痺していく


 もう力がはいんないよぉ……
声が出ないように必死で唇を噛締めようとするけど、喉元をせかすようになめあげられ
無意識に漏れはじめた声は、なんだか自分じゃないみたいで。
それに……
今日はずいぶんカラダのすべてを確かめるように、丹念に愛撫されつづけている。
ひとみちゃんの唇が指が触れるたびに甘い吐息が漏れていく


”いれるよ”耳元で囁かれた時には私の思考は霞みがかって朦朧として……
なんだか恍惚とした表情を向けてしまっていた。
昨日の痛みも、もう忘れちゃってて、私の中に広がる快感の波はひくことなく押し寄せてきた。
たまらずに洩れ出る声とはりつめたカラダの感覚、それがすべて開放される瞬間――――――

 目の前が真っ白?真っ暗?意識が飛ぶくらいの感覚が訪れて、波は一気にひいていった。
脱力してぐったりする私のカラダを、ひとみちゃんは強く抱きしめてくれた。
そして、終わりを告げるように優しいキスをくれる。
195 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:37
 
 
 
 
196 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:38
「亜弥との?」
「うん。どうやって出会ったの?」
「ん〜……」

 そういって少しだけ考えるような顔をして、寂しそうに笑った。
ごめんね。ごめんなさい……辛い事ばっかり思い出させてるね。


「ごめ……んっ」

言葉にする前に口を塞がれる。柔らかくて暖かい感触は……
ゆっくり唇を離すとひとみちゃんは話し始めた。
亜弥ちゃんとの出会いを――――――

197 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:38
 12月くらいだったかな、2年前の。
仕事からの帰りに、公園のところに女の子がいるんだ。
毎日、毎日。なにをするわけでもなくって、ただ空を見てたり
もう薄暗くなってるその場所にあまりにも不釣合いで。

 アタシは名前も知らないその子が気になって仕方なかった。
それをさパン屋の店主で裕子さんって言うんだけど、その人に話したんだ。
そしたら『好きなんだよ。きっと』そう言われて。
アタシは『スキとかよく分からないよ』って言ったんだ。

 だけど、ある日ね。その子はやっぱり公園にいて、雪が降り出したんだ。
寒そうに手をすり合わせてるのを見て、ほっとけなかった。
今、行かなきゃって想ったんだ。

 アタシは自販機で買ったあったかい紅茶をあげようっておもって。
隣に座って挨拶すると、ぎこちないけど返事してくれたんだ。
梨華ほど高くない声で。
198 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:39

「どうせアニメ声って言われるもん」
「へへっ、あん時の声は色っぽいのに……いだだだっ」


イタズラっぽく笑うひとみちゃんの頬をつねる。
ごめんなさいって目で訴えてくる姿が可愛くて、手を外して赤くなったほっぺたを撫でてあげると
ひとみちゃんは穏やかに微笑んだ。
さっき、公園から帰ってくる時、手を繋いでくれたけど、すごく暖かい手に心が癒される気がしたんだ。
きっと亜弥ちゃんもすごく癒されたんだと思う……ひとみちゃんの暖かさに。
 
199 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:39
 そんで、紅茶をあげたらすごい嬉しそうに笑ってくれたんだ。
可愛いなって想った。それまでたいして女の子に興味なかったんだ。
する事はしてたけどスキとかいう感情がわかなかった。

 亜弥は学校の事とかを話してくれて、最後にママが死んだ事も話してくれた。
アタシは名前聞きたかったから名前だけ聞いたんだ。それでメールと電話番号を教えて。

気付いたら結構な時間になってて、帰らなくて平気?って聞いたら一人だからって。
すごく寂しそうな目をしてた。

だからさ。一人にするのが嫌で、家に呼んでご飯作ってあげて……


そんな感じで出会って。
毎日、バイト行く前と、バイトから帰ってくる頃に亜弥は公園に来てくれるようになったんだ。
なんとなく毎日一緒にご飯食べるようになって。

けど、カラダの異変にも徐々に気付いて。
亜弥は時々、眩暈みたいなのを起こすんだ。
ずっと気になってたけど意識を失った事があってさ。
精密検査、受けたんだ。

結果は……
原因不明の病気で
いまの医学ではどうにもならないって言われた。
200 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:40

「その病気が原因で……」
「でもさ、6月に分かったんだけど、その時点で3ヶ月持てば良い方だって言われたんだ」

”でも亜弥は12月までは一緒にいてくれた”
そういって哀しそうに目を伏せた。


「亜弥ちゃんを抱いたのって?」
「ん。病気が分かってからだよ。
 キスしたのも精密検査の結果がわかった時がはじめて。」
「扱いが随分違うよね……」
「あぁ…… でも家にいれたの亜弥以外だと梨華だけだよ」


 そういって、哀しみの余韻を残したまま微笑む。
その瞳に映ってるのは……いまは私かな?
201 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:40
 それから一緒に住むようになって。
一緒にいたかったんだ、残されたすべての時間を
ただ一緒にいたかった……

 6月の終わりが誕生日なんだけど……
その時に最初で最後の人になって欲しいって、そう言われたんだ。
夢中だったよ、もう他の女なんてどうでも良くなった。
亜弥だけがアタシのすべてだって……アタシを満たしてくれるのは亜弥だけ。

綺麗な白い肌は透けるように美しかった……
薄茶色の瞳は綺麗な宝石のようにアタシの姿を映してくれた。
202 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:40

「梨華も綺麗な色だけどね?」
「……もう気にしてるのにぃ」
「なんで?肌すべすべじゃん」


 そういって腰から胸までを撫で上げる。
亜弥ちゃんとの話しにちょっと感動してたのに……

「……えっち」
「だって梨華の気持ち良いもん」

また触ろうとする手を止めるけど、じっと見つめる瞳はなんだか熱っぽい……

「梨華の瞳、綺麗だよ」
「……ひとみちゃん」

亜弥ちゃんの事をおもいだしてるひとみちゃんは、凄く穏やかで、瞳も優しくって
ほんとに愛してたんだってわかる。

なのにね……
この人は……
私にキスをすると……



 
203 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:41
 
 ******
 
204 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:41
「おはよ」

 声をかけると薄っすらと開いた瞼をごしごししながらも起き上がろうとはしない。
結局、あの後何度も何度も求められて……
目の前のひとみちゃんは、なんだか子供みたいな仕草が可愛くて
口調がどうしても甘くなる。


「ほら、ひとみちゃん。おきて?」
「ん〜、おっきしないよぉ。梨華もっかいさせてくれたら起きれるぅ」
「ふつうに起・き・て!!!!!」


甲高いアニメ声が脳天を衝き抜けたのか、耳をおさえながらゆっくりひとみちゃんは上体を起こす。
私はそれを無視して先にリビングにむかう。
後ろからごそごそと起き上がってくる気配がして、急に後ろから抱きしめられた。
この人って……ほんとに子供なんじゃないだろうか?
205 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:41
「りかぁ」

”おこんないで?”なんて甘えてくる。
出会った時は、なんかもっとクールだったような
この人は誰?みたいなくらいのギャップ……


「ひとみちゃん、お洋服きてね」

そのままで抱きつかないで、なんか昨日の事が鮮明に浮かんで……
顔が真っ赤になる。

いたずらっこは嬉しそうに”昨日は全部見たのにぃ”
なんて言いながらシャワーを浴びに行った。
206 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:42
「いただきます」

 嬉しそうに朝食を口に運んでくれる。
ニコニコと食べる姿は出会った日の夜とは、まったくの別人で。
これが本当の姿?
亜弥ちゃんといた頃のひとみちゃんなんだろうか。


「ひとみちゃん、おいしい?」
「ん。うまいよ」


”良かった”って呟くと、黙って微笑んでくれた。


「そうだ、お仕事行かなくて良いの?」
「アタシ、平日勤務だから」
「じゃあ、お休みなんだ」

出会ったのが金曜日で。
昨日が土曜……
207 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:42
「今日はちょっと付き合ってくれないかな、行きたいところがあるんだ」

どこに?って顔をすると薄く口元が綻んで。
なんだか切なそうに微笑む。そんな哀しい瞳をしないで……


「亜弥の命日なんだ。だから墓参り」

そっか……
亜弥ちゃんに出会ったのも、お別れしたのも12月。
ひとみちゃんが亜弥ちゃんを1番思い出す季節に
私は出会ったんだなぁ……
208 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:43
 
 
 
209 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:43
「なっちゃん、こんちは」

 ひとみちゃんが連れて行ってくれたのは、駅の傍にある雰囲気の良いお花屋さんだった。
中から凄く優しそうな女の人がでてきた。小柄だし、童顔で可愛らしい。


「よっちゃん、こんにちわ。真希ちゃんなら今はいないよ」

と言ってから私に気付いて、ビックリしたような顔をしてる。
なんだか素朴な雰囲気がする人だなぁ表情が豊かで。


「こちらは?よっちゃんが誰かと来るなんて珍しいべ」
「ん。ちょっと拾った」

なんて言っていたずらっ子みたいな顔をする。
無邪気な笑顔は本当に悪ガキそのもの。
不服そうにしている私とひとみちゃんを交互に見て、お姉さんは穏やかに微笑んだ。


「亜弥ちゃん以外をお店に連れてきた事ないからビックリ」
「石川梨華って言います。はじめまして」
「はじめまして。私は、安倍なつみです」

「なっちゃん。お花ちょうだい。亜弥のところに持って行くから」
「はいはい。可愛らしい花束つくってあげるから」

”ちょっと待っててね”なんて言いながら花を選んでいる。

「亜弥ちゃんのところに連れて行くってことは……」

なつみさんはゆっくりと振りかえって”よっちゃん特別な人みつけたんだ”なんて言う。
ひとみちゃんはさっきみたいなイタズラ笑顔は消えて、照れたように頷いてくれた。
210 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:44
「亜弥に報告してくる。それとごっちんにさ伝えてよ
 ちゃんと生きていけそうだよって」

「OK!喜んでくれるよ」

”できた”と言ってなつみさんはピンクを基調とした花束を持って来てくれた。


「ありがと。詳しくはまた今度話すよ」

「うん。真希ちゃん帰ってきたら電話させるから。
 梨華ちゃん、よっちゃんを宜しくね。」


なつみさんは私の手を取ってニッコリ微笑んでくれた。
私は頷く事しか出来なくて何度も首を縦にふった。
211 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:44
 お店を出るとひとみちゃんは切符を二人分買ってくれた。
それを私に渡してゆっくり立ち止まる。

「海が見える所にあるんだ、お墓」

 電車に乗ると空いてる席に私を座らせてひとみちゃんは目の前に立った。
窓の外を流れる景色を見て、お話したりしなかった。
少し経った頃ゆっくり私を見て”次ぎで降りるよ”と言ったきりまた話さなくなる。
そのまま駅に着いて。改札を抜けて少し歩くと海が見える。
不安になってひとみちゃんの服を引っ張る。


 ゆっくり合わされた視線はどこか儚くて。
あぁ、亜弥ちゃん……
きっと亜弥ちゃんを思い出している。
この場所はきっと想い出の場所なのかもしれない。

 ひとみちゃんは私の手を握ってそのまま歩き出した。
やっぱり、その手は暖かかった。
212 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:44
 ゆっくりと海岸沿いを歩いて到着したお墓には亜弥ちゃんと、多分
亜弥ちゃんのママの名前が彫ってあった。

”享年17歳”

 亜弥ちゃんは17年間の人生で、すごく大切な1年をひとみちゃんと過ごして。
こんなにも、ひとみちゃんの心を掴んで離さないほど魅力的な人だったんだろうな。
ひとみちゃんはお花を供えて、私も一緒にお墓の周りを掃除した。

 ひとみちゃんがゆっくり手を合わせて目を閉じた。
私も同じように手を合わせる。



 会ったことないけどね、なんだか凄く亜弥ちゃんが好きだよ。
ひとみちゃんの事、ちゃんと愛するから安心してね?
そんな事を想っているとひとみちゃんが、ゆっくり私を見た。


 その瞳は海のように深くて、綺麗な水面には私の顔が映っていた。
ゆっくり唇が綻ぶ様子を息をのんで見つめていると
ドキッとさせられるような綺麗な微笑みをたたえて私を見つめてくれる。
213 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:45
「亜弥に」

”亜弥にお願いした”

 なにをお願いしたの?聞こうとした唇は塞がれた。
お墓の前でキスするなんて不謹慎じゃない?なんて想ったけど。
それはたぶん、凄く純粋なひとみちゃんの気持ちの現れ。


「誓いのキス」

なんて言って、さっきまでの大人っぽい笑顔から子供みたいな顔に戻る


「亜弥に。ずっと見守っててくださいって」お願いしたんだ。
そう言って屈託ない笑顔を私にくれるから、つられるように私も笑う。
もう1度かるく唇が触れて、ひとみちゃんは立ち上がって伸びをした。
それから私に手を差し出してくれた。

差し出された手は暖かくて。
この手をずっと離さないでいたいと強く願った。
 
214 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:45

 ******
 
215 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:45
「愛ちゃ〜ん」
「もう遅い!?」


 だって〜なんて項垂れながら麻琴は坂を駆け上がってきた。
荷物の入った鞄とか、お供えのお菓子も全部自分で持つとか言うから……


「だから手伝うって言ったのに」
「だって愛ちゃんの細い腕より、アタシのが力あるもん」


へタレのクセに……
そう言うところはカッコイイなって思う。
ちょっとふくれっつらをしても可愛い、1つ年下の恋人。


「今日は吉澤さんきてるのかなぁ?」
「そりゃあ、きてるよ」


あたしらよりずっと亜弥ちゃんのこと大切にしてたんだもん。
海沿いの道を麻琴と2人で歩いてると向こうから見覚えのある人が来た。
でも、いつもと違う。
216 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:46
 その隣に女の人が居たから緊張で喉が震えた……
亜弥ちゃん、手紙を渡す日がきたのかな……
緊張して動けないアタシを不思議に思いながら麻琴は
人懐っこい笑顔をうかべて大きい声でその人を呼んだ。


「吉澤さ〜ん、お久しぶりです!」

 相変わらずのポーカーフェイスは麻琴の姿を捉えると、ニッコリと微笑んだ。
あっ……ちょっと表情が戻ってきたかも。
麻琴はようやく隣の人に気付いたのかアタシの方へ顔を向けた。


「ああああいちゃん。だれだろぉ?」
「どもりすぎ。彼女さんちゃうの?」
「でもぉ……」
「いつまでも哀しい想いばっかりしてても亜弥ちゃんは喜ばんから」


 近くに来た吉澤さんは1ヶ月前に会った時よりもうんと
笑顔が戻っていた。
亜弥ちゃんと居た頃の優しい穏やかな笑み、そしてどこか幼い表情。
217 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:46
「久しぶり。墓は掃除しといたよ、ありがとね」
「お久しぶりです」


 そういって視線を隣の人に向ける。
肌の色や目の色は違うけど、なんとなく亜弥ちゃんに似てる雰囲気。
心の何処かで安堵する……
亜弥ちゃん、やっぱり愛されてるんだね。


「えっと、梨華って言うんだ。亜弥にも報告したんだけど」


”一緒に暮そうと思うんだ。”
照れたように言った後、アタシと麻琴の紹介をしてくれた。
梨華さんは吉澤さんより1つ上みたい。
綺麗で可愛らしくて、吉澤さんの心を掴んだくらいだから
きっと素敵な人だよね?亜弥ちゃんも見てるのかな、どう思ってるだろう?
218 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:47
「そだ、ジュースでも奢るよ」

 そういうと吉澤さんはアタシ達を海沿いのベンチに座らせて、麻琴を連れて自販機へ向かった。
寒い季節だけど、今日は太陽が照ってるところはしのぎやすい暖かさ。


「梨華さんは、亜弥ちゃん知ってるんですか?」
「私?写真とひとみちゃんのお話しか聞いた事無いんだよね」

”ひとみちゃん”そう呼んでるんだ。気を許してるのかがわかる。
亜弥ちゃん以外の人にあまり名前を呼ばせてなかったから。


「お墓に来るの嫌じゃ無かったですか?」
「どうして?これて嬉しい……嬉しいって言うのとは違うかな。
 なんだかね亜弥ちゃんに見守られてる感じがするんだ」


 そういって微笑んだ顔は純粋に美しくて。
少しだけ意地悪な質問をしたことが恥ずかしかった……


「なんとなく嫌かなぁって思ったんで。でも良かったです。
 亜弥ちゃんも梨華さんなら応援してると思う」


 恥ずかしそうに笑う姿も綺麗。
亜弥ちゃんから預かった手紙を思い出す。

”愛ちゃん、ひーちゃんがね。もし恋人ができたら渡して欲しいんだ”
そういって預かった。ねえ、いつ渡せば良いのかな。
もう少し、もう少し後でも良いのかな?
219 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:47
「すこし聞いてもいいですか?」
「うん、良いよ」
「どこで出会ったんですか?どのくらいお付き合いしてますか?」
「まだ出会って3日なんだ、街でね絡まれてる所を助けてもらって」

”でもちゃんと本気で好きだよ”そう呟いた。
3日……あの吉澤さんを3日で?それくらい素敵な人なんだよね?
亜弥ちゃん1年もかかって吉澤さんはようやく歩き出そうとしてるよ。


「これからも仲良くしてくださいね、あとこれメールと電話番号
 なにかあったらいつでもお話しましょう」
「……う、うん。わかった、連絡するね」


 麻琴の姿が見えた。
小さく手を振ると、無邪気に手を振り返してくれる。
そんな姿に頬が緩む。
220 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:48
「可愛いね、彼女?」
「はい。1つ下なんですけど。あぁ見えても頼りになるところもあるんですよ」


 普段へタレだけど……
全部好きだから可愛くて仕方ない。


「亜弥ちゃんが勇気をくれて。麻琴が告白してくれたんです」

 アタシが言う前に、麻琴は精一杯無理して……
亜弥ちゃんに背中を押されるようにアタシに気持ちを告白してくれた。

”アタシも麻琴が好き”
震えるような声で告白してくれた麻琴に精一杯こたえたのにね。
麻琴はしばらくポカンと口をあけて放心状態。
振られる覚悟で告白したらしい麻琴が戻ってくるまでたっぷり
アタシは待たされた。

でもその後、抱きしめてくれたぬくもりは麻琴の優しさを
最大限に感じた。
いまでもヘタレだから”愛ちゃん”ってちゃん付けだけど。
 
221 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:48
 
 ******
 
222 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:48
「まこっちゃんは愛ちゃんとうまくいってるの?」
「えへへ。大丈夫ですよ〜」

 なんて子犬みたくみえる愛らしい笑顔を見せる。
亜弥の親友の彼女は優しくて穏やか。2人には幸せになって欲しい本当に……
亜弥の大切な大切な友達だもんね。
亜弥の事忘れないで居る人がアタシにとっても本当に愛しいんだ。
記憶の中でだけでも亜弥は生きていてほしいんだ。アタシの我侭だけど。

 梨華はそんなアタシでさえも受け入れてくれるから。
確信めいた物がある彼女は大丈夫だと。亜弥が……
亜弥が弱ったアタシをみかねて見つけてくれたのかもしれない。


「梨華さんって……なんとな〜く松浦さんに似てませんか?」


 まこっちゃんはふいにそう言った。とても無垢な質問。
自然と笑っている自分がいた。


「そう?やっぱりそう思う?アタシも何となくそんな気がするんだ」

”肌の色は違うんだけどさ〜”
っていって2人で笑う。忘れてた感情がとめどなく溢れて
”楽しい”って純粋に思うことなくなっていたな。

ねえ、亜弥。アタシちゃんと笑えてるかな?君が好きだったアタシに……
梨華は凄いよね。アタシにこんなにも余裕をくれた。
223 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:49


 はにかみながらも小さく手を振る愛ちゃんの姿が見えると
まこっちゃんはすぐに無邪気に手を振り返す。


梨華。
君が居るポジションにね亜弥が居たんだ
愛ちゃんの隣で亜弥が笑ってた……

ごめんね。
こんなにも亜弥と重ねてる。
こんなにもまだ亜弥の事、忘れていない。

でも君を想う気持ちも結して嘘じゃないから
だから待っていて……
亜弥の事を忘れないけど、乗り越える日まで――――――
224 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:49
 
225 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/04(日) 12:49
 
226 名前:日季 投稿日:2005/12/04(日) 12:51
>>192-223更新終了。
ぬるいお話が少しの間続きますが、しばしお付き合いください……

>>189さま
ありがとうございます。泣いてもらえて感慨深いです。

>>190さま
ありがとうございます。最初書いてたイメージとは違う、かわいい職業にしようと思ったのでw

>>191さま
ありがとうございます。切ないですよね松浦さん、ほんとにごめんなさい……
227 名前:名無し 投稿日:2005/12/04(日) 18:14
マターリにはマターリした良さがある
作者様のキレイな世界観スキです
ガンガって。。。
228 名前:メトロ 投稿日:2005/12/04(日) 19:47
やっぱり更新ペースはやいですね。尊敬します。しかも、おもしろいですし!
…最後の話とか、
中学1年生の女の子(現代っ子)が観たら途中
「やぁだもぉ〜」
なんて赤面して、思わずいったんパソコンから離れてお母さんのお手伝いに行ってしまうが
気になってもう一回覗いてみたら世界にのめり込んでしまって、
「ご飯よー」
「ちょ…ちょい待って…」
なんて会話しながら結局、最後まで読んで
「えー、マジ!?こんなのありえないってばぁ…切なすぎ………グスン」
とかぶつぶつ言いつつも涙零しちゃうようなおもしろさ。
たまりませんね。
…久々にレス書いたと思ったら、スレ汚しな意味不明変態妄想劇ですんません…。
これでも応援してます。…本当ですって!あと、何気に自分も泣きました(ボソッ
よっちゃん、幸せになれよ!
229 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:10
 

 凛とした眼差しが私を真っ直ぐに見据えている。
緊張して言葉が出てこないじゃない……
ひとみちゃん遅いよぅ、早く帰って来てー!?


「ね、石川さんっていくつ?」

「えっと、20歳でもうすぐ21だよ」

「そっか、同じ年なんだ」

「うん……学年だと上になっちゃうけど」

「でも同じ年生れだから、同い年ね」


 そういって後藤さんの表情が崩れた。あれっ、可愛い……
ふにゃふにゃって笑って、さっきまでの冷たい空気も一気に暖かく変った。
探るように見つめられて感じていた居心地の悪さもいつのまにか消えていた。
230 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:10
「そだ梨華ちゃん。ごとーケーキ作ったの食べる?」
「えっ、え、うん!?」
「あははっ、急いで返事しなくってもいいよ〜、なんか、ごとーコワイかい?」
「ううん、そんなことないよ!?」


 慌てて首を横に振るとへにゃって崩れた笑顔のままケーキを取り出す。
あれ〜?私いつのまにか石川さんから梨華ちゃんって呼ばれてる。
人懐っこい笑顔のまま私に差し出してくれたのは、たっぷりとクリームをかけたシフォンケーキ。


「ふわぁ、美味しいよ後藤さん!!」
「よかったぁ〜ミルクティ味だよ。すごいっしょ?」

「うん、すっごいよぅ!ミルクティ風味で、そのまま食べても
 かかってるクリームと一緒に食べても美味しいし」

「紅茶の葉はなんでも良いんだけど、アールグレイが一番香りが出るんだ。
 完成するまでに何個も試作品作ってようやく出来たんだよ〜」

「後藤さん、お料理上手だってひとみちゃんが言ってたけど
 お菓子作りも上手なんだね〜」

「うん、料理は得意だよ。今度、梨華ちゃん食べにおいでよ?」
「良いの?嬉しいな」


 亜弥ちゃんのお墓参りに行った時に寄ったお花屋さんの真希ちゃん。
彼女のことは、ひとみちゃんとの何気ない会話で少しだけ知っていたけど
今日訪ねてきた彼女と二人っきりになると、人見知りな私は最初何も話せなくって。
それに、後藤さんは部屋に入るのを躊躇していた。

『ほんとに入っても良いのかな?』
なんて聞かれたけど、どうしてだろう?
大丈夫だと思うよって言うと、納得いかないって表情ながら上がってくれた。
さっきまで緊張していたのに、後藤さんの放つ和やかな空気が私を饒舌にしていく。
231 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:11

「愛されてるんだね、梨華ちゃん」
「えっ?」


 ひとしきり続いた会話が途切れた時、唐突に後藤さんはそう言った。
意味をわかりかねて首を捻っているとしずかに微笑んで
ドキッとするような大人びた笑みをもらした……


「よしこね、この家に友達すらあげた事が無かったの
 だから梨華ちゃんは愛されてるんだよ」
「そうなのかな?」
「そうだよ〜、毎日キスされてない?」
「え、えーーー?」
「そんなに驚かなくても……されるでしょ?」


 恥ずかしいよぅ、そんなこと真顔で答えるなんて。
だって朝起きて眠るまで……
ううん眠ってる時でさえ、ひとみちゃんは私を求めてくれて、それは日増しに増えていく。
キスするだけで満たされていく毎日にコワイくらいはまってる。
もう、彼女なしでは生きていけないくらいに……
232 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:11
「されてるんだね、梨華ちゃん。それ、よしこの好きのバロメーターだから。
 それに顔に出やすいよね〜、幸せですって書いてるよ!」

「……よく言われるの、思ってることが顔に出やすいって」

「可愛いじゃん、そのまんまの梨華ちゃんがきっと好きなんだよ」


そのまんまの私か……ひとみちゃんの過去を聞いてばかりの私はズルイのかな?
時々そんな風に思ってしまう。
ひとみちゃんは優しいから、何も聞かないから。
その優しさにずっと甘えてる私はズルイよね?


「こらっ、ごとーをおいてどっか行くな〜。梨華ちゃんって面白いなぁ」

「そんなことないよぉ、お話にオチが無いって言われるし
 自分一人でテンション上がったりする……」

「良いんだってば〜、そのまんまでいなよ
 よしこのこと好きだよね?それだけで良いんだよ」

「うん……」

「よしこ遅いね〜、ごとーはそろそろ帰るよ。
 あんまり梨華ちゃんと一緒にいると怒られちゃう」


おもむろに立ち上がって帰り支度をする。
慌てて後ろをついて玄関まで行くとちょうど、ひとみちゃんが帰ってきた。
233 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:12
「んだよ、ごっちん来てたの?」

「んだよとは、なにさ〜。ケーキ梨華ちゃんにあげたんだ
 勝手に上がってごめんよ」

「それは別にいいけど……」

「梨華ちゃん、よしこが不満みたいだからさっさと帰るよ。
 ご飯食べにおいでね?」

「う、うん!ありがとう後藤さん」

「そうだ!あたしのことは『さん』付けじゃなくって良いよ?
 可愛い梨華ちゃんには特別に名前で呼ぶの許してあげるよ」

「えっ?真希ちゃんって呼……」

「そうそう、真希ちゃんで良いよ〜?」


私の言葉を遮って後藤さ―――――― 真希ちゃんは帰っていった。
なんだか不機嫌なひとみちゃんは真希ちゃんの出て行った後をじっと睨んでる。
234 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:12
「ひとみちゃん?」
「なんでごっちんが梨華ちゃんなんて呼んでるんだよ」

「なんでって……お話してたら呼び方が変ってて」
「楽しそうだったじゃん、すっごい笑顔だったし……」

「どうしたの?」
「どうもしないよ、風呂はいってくる」


私のほうを見るでもなくカバンをソファに放り出すとお風呂に行ってしまった。




 
235 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:12
 ソファに座ってひとみちゃんが出てくるのを待っていると
髪をタオルで乱暴に拭きながら私の横に無言で座った。
なんでか哀しそうな横顔に私のほうが哀しくなる……


「なんて顔してるんだよ……」
「だって、ひとみちゃん怒ってるんだもん」

「怒ってないよ」
「怒ってるもん……」


はぁ〜って吐き出された、ため息にますます気まずくて俯く。


「んなカオするなよ、梨華」

あまりにも優しい声色に、優しく髪を撫でる手の暖かさに……
真希ちゃんの言葉が脳裏に浮かぶ。

『愛されてるんだね、梨華ちゃん』

こどもみたいな言動をしてもひとみちゃんは優しく包み込んでくれる。
どんな些細なすれ違いで自分が悪くなくっても、ひとみちゃんは私を責めない。
愛されてるって分かる度にコワくなるの。
幸せな事がコワイなんて贅沢だと思うけれど……
236 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:13
「あのさ、簡単に人をあげちゃダメだよ。
 そういうのは、アタシがいる時にしてほしいな」

「……うん」


そのことを怒ってたのか……
真希ちゃんが躊躇してたもんね。


「真希ちゃんはね、入って良いの?って確認してくれたの。
 私が大丈夫だと思うよっていって上げちゃったの」

「ん、わかってるよ。ごっちんが自分から上がるわけ無いし」

「ごめんね、ひとみちゃん」
「これからは気をつけて。約束、ね?」

「うん、わかった」
「じゃあ、ねよっか」
237 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:13
布団に入った瞬間に抱きしめられた……
ひとみちゃん?


「ほんとは嫉妬したんだ。ヤなんだ、梨華が誰かと2人でいるの……」

”カッコ悪いけど、ヤなんだ……”そんな風に思ってくれてることが嬉しいよ。
カッコ悪くなんて無いよ、だからいつまでも私を束縛して?
優しく掠め取る唇の暖かさで私を束縛しつづけて?
お願い、ひとみちゃん私を束縛しててよ……

私はひとみちゃんだけが必要なんだよ
ほかに何も望んだりしないから、私の傍でこうして愛を伝えてて?
私もアナタのことだけを想いつづけるから……
 
238 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:13
 
 
239 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:14
「ごっちんからメール」

 ひとみちゃんは、そういって私に画面を見せる。
それ私の携帯じゃない……


【たんじょうびおめでとー!? こないだのケーキがごとーのプレゼントね?】


 無邪気な彼女の笑顔が浮かんで思わず噴出す。
そっか、私の為にあのシフォンケーキを作ってくれたんだ。
何度も失敗を繰り返しながら……
あの時はな〜んにも言わなかったのに、真希ちゃんありがとう。
最初から私にケーキを渡すつもりで来てくれたんだ。
優しいね、ひとみちゃんの周りの人達は。


「梨華のこと気に入ったみたいだよ、ごっちん」

ちょっと膨れたように言うから、可愛くって。

「ひとみちゃんだけだよ。キスするのもそれ以上も……
 だから、そんなお顔しないで?」

「わかってる……梨華はアタシのだ、誰にもあげない」


 真希ちゃんからのメールに返信するのは後にしよう。
なによりもアナタを優先するから、だから離さないで?
ずっと私をその腕の中にいさせてくれる?ひとみちゃん……
240 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:15
「あのさ、プレゼント買いに行く暇が無くって」

うん、お仕事終わったら真っ直ぐ帰ってきてくれてたもんね。
それが何よりのプレゼントだよ?
毎日、そんな穏やかな時間をくれてたじゃない?
だから不満なんてないんだよ。


「けど、特別な日じゃん」

「うん、でも構わないよ?
 いまは毎日が特別だもん。ひとみちゃんといっしょにいるだけで幸せだよ?」

「でもさ、クリスマスとかそんな他人事な行事はどうでもいいと思うけど
 梨華が生れた日だけは特別だと想うんだ」

「ひとみちゃん……」
「だから、ご飯作るよ。ありきたりの物だけど食べてほしい」
「うん、嬉しいな」
241 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:15
 料理が得意じゃない私に、文句1つ言わずに家事を任せてくれて……
ひとみちゃんは美味しいよとか、もうちょっとこうした方がいいよ
なんてアドバイスをくれたりしながら、それでも手を出したりしなくって。
私の居場所をちゃんと確保してくれてるんだと思う。

優しいから、ほんとのアナタは優し過ぎるから
時々ね、恐いの。優しさが恐いんだ……
私は、私の全てでアナタに尽くそうと思うよ。
ぜんぶアナタに捧げても構わないっておもってるからね?
だから離れていかないで、お願い――――――

242 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:16
「うわぁ、美味しそう」
「ごめん、めっちゃふつうのメニューで」
「ううん。嬉しいよ、すっごく嬉しい!」


 目の前に並べられたサラダ、シチュー……そしてオムライス。
亜弥ちゃんに初めて食べさせたメニューだってこと気付いてるよ。
でもお互いにそのことを口にしたりしなくって。

 一口食べては噛み締める。
お店屋さんで出るような凝ったオムライスじゃないのに
ふんわりひろがる味が優しくて、暖かくて……
いままで食べたどんなご飯よりも美味しいよ。
ねえ、愛する人が作るだけでこんなにも美味しいんだね。
ひとみちゃんも私の作るご飯をこんな風に思いながら食べてくれてるのかな?


「梨華?」

 優しい声色に視線をむけると、すこし心配そうな表情が目に入る。
伸びてきた指先が繊細に私の頬を撫でたことで、はじめて自分が泣いていることに気付いた……
243 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:16
「私、なに泣いてるんだろ……」
「梨華、おいし?」
「うん、すっごく美味しい」

微笑んだアナタを見つめて、滲む視界を幸せだと感じながら食事をする。


「なんかアタシの方がすっげー嬉しい
 梨華が一緒に居る事に、アタシの料理を食べて泣いてくれる事に
 もう何もかもが嬉しくって堪らないよ……」


大好きだよって囁かれて抱きしめられる。
その腕のぬくもりに、アナタのくれる言葉に……
全てに愛を感じて幸せだよ?
244 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:16
いつのまにか私の涙は止まっていた

私はアナタにこんなにも幸せをもらってるけど……

私はアナタを幸せに、できていますか?
245 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:17
 唇が触れるたびに私の頭をかすめることがあるの
近くて遠い過去の記憶の中に眠らせた想いに胸が絞めつけられて痛み出す……
アナタに全てを捧げたはずなのに、どうして記憶は離れていかないのだろう?
246 名前:『心象』無題 投稿日:2005/12/05(月) 00:18


247 名前:日季 投稿日:2005/12/05(月) 00:19
>>229-245 更新終了。(まったり進んで行きます……)

>>227さま
ありがとうございます・゚・(ノ▽`)・゚・自分なりに頑張っていきます。
その言葉に勇気をもらいました〜。

>>228さま
ありがとうございます。今はストックがあるのを更新してるのでw(わりと前に書いてた分なんです)
妄想劇面白かったですw メトロさまのレスにはほんと元気をもらいます。
(0´〜`)<自分も密かに応援してますよ(ボソッ
248 名前:名無し 投稿日:2005/12/05(月) 06:34
ぐっと距離がちかづき甘いふたりなのに・・・
マターリ続き待ってます
249 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/05(月) 13:41
ごっつぁんキタ?!ほのぼのしてかわいい
石の過去が気になる
250 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 17:57


 梨華は時々、イヤな夢でも見ているのかうなされ、苦しげな吐息を洩らす
眉間によせられた皺が深くならないうちに、アタシは梨華を引き寄せる
そうすれば彼女は安心したようにアタシに身を寄せて微笑むのだ……

―――――― ひとみちゃん

 アタシの名前を呼んで幸せそうに微笑むから
眠ったままの彼女に何度も口付けて眠りに落ちていく……

251 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 17:58

散歩に行こうと梨華を誘った。

 喜怒哀楽すべての感情を豊かに操っているような彼女だけど
気になることがあるんだ、ひとつだけ。
けど、無理に聞こうとは思わないから、安心してアタシに甘えててよ。
アタシが亜弥を忘れられないように
梨華にもきっと心にしまいこんだ記憶があるはずだから。
それを無理に見せろなんて言わないから、傍に居てほしい……
傍にいてくれるだけで幸せなんだよ?


「ひとみちゃん、おまたせ」
「遅いよ。今日はピンク少なくって良い感じじゃん」

「もう、だっていっつも意地悪言われるから、真希ちゃんに相談したもん」
「そっか、似合ってるよ」


 目を細めて嬉しそうに笑う君につられて、アタシまで笑顔になっていくけど……
真っ白な春物のジャケットは鮮やかに亜弥の記憶を甦らせる。
それを着ている梨華がこんなにも愛しいのに……
252 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 17:58
「白、ダメかなぁ……似合わない?」
「似合ってるって言ってんじゃん。
 可愛いよ、ピンクばっかより今日のほうが」


 敏感な君はアタシの心の揺れをすぐに察知してしまう
けど、別に悲しいわけじゃないんだよ?ただ少し思い出してしまうだけ。
だから、そんな顔をしないで?


「梨華は、すぐ泣きそうなカオするんだから。ほら、笑って?」
「えっ?泣きそうになんてなってないよ?」


アタシが頬を撫でてそう言っても、分からないっていう顔をしてきょとんとしてる


「じゃ、桜でも見がてら散歩しよう」
「うん!」


 手を差し出せば、迷うことなく握り返してくれる。
屈託の無い笑顔を顔中に広げて梨華はアタシを見上げる。

いつしかアタシは梨華のことだけを、愛していくのだろうと想う。
亜弥と梨華を重ねることが、ほんとに少しづつ減っているから……

だから、そんなに悲しい瞳をしないで?

253 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 17:59

 ******
 
254 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 17:59
「すごいね、すごいなぁ……ひとみちゃん、散っていくのも綺麗だね」
「桜は散り際が一番綺麗なんだってさ」

「でも、なんか寂しいなぁ」
「ん、そだね…」


 春になって満開の桜が咲き乱れる季節……
隣にいるひとみちゃんは、時より私の顔を心配そうに見つめる。 
私ってそんなに頼りないのかな?


「夜桜、見たかったんだぁ」
「梨華も?アタシも」
「なんか不思議な気分にならない?」


 黙って頷くひとみちゃんは愛しそうに私をその瞳に映す……
自惚れかも知れないけど、視線だけでもこんなに愛を感じる。
255 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:00

 夜の闇に浮かびあがる桜から、花びらが舞っていることが特別に想える。
昼間見せるのとは違う雰囲気だけど、街灯にぼんやり照らされた桜は美しい。
鮮やかに切なく、風に舞って桜が散りゆく様は……
どこか私とアナタに似ている


理由もなく惹かれあい、求めあい、絡みあった2人に似ている……


 夢の中にいるような幸福感
おとぎ話みたいに、幸せになったところで終り
そのまま幸せに暮しました………
とは片付かない現実世界を生きることが私は恐いの
現実にぶつかる度に、その一つ一つを乗り越えて行けるかな?
そう不安になって逃げ出したくなるの。
256 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:00

 小さく震え出す心に呼吸さえ奪われそうになって、喘ぐように息を吸いこんだ
それはちょっとした発作みたいなもので……
すぐに治まるのだけど、少しの間は呼吸することが苦しくって
胸がしぼられるように痛みだし、思考が遮断されてしまう



―――――― 『何も思い出すな』と、カラダが悲鳴をあげているのかもしれない

 
257 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:01
 そんな私の変化にひとみちゃんは戸惑いながら、握った手の力を強める
何度も名前を呼ばれて、何度も名前を呼び返す
バカみたいなやりとりが心の隙間を埋めてくれる

ひとみちゃん、ひとみちゃん、ひとみちゃん……

もっと私の名前を呼んで?
そして、もう世界に私とひとみちゃんしかいないと錯覚させて欲しいの


「梨華、どした?」
「……ごめんね、もう大丈夫」
「梨華?」


 瞳だけで問い返すとひとみちゃんはまた名前を呼んでくれる。
私の心をよんだかのごとく私の名前を甘く響かせる……

梨華、梨華、梨華・……


 満たされていく私の心……
自分が与えようとすればするほどに、私はひとみちゃんにたくさんの愛をもらっちゃう。
欲しいものを欲しいだけ私にくれるひとみちゃんに甘えてても良い? 
258 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:01
「喉渇かない?買ってくるから梨華待ってて」
「うん、ありがとう」


 ひとみちゃんの背中を見送って…
一人になると途端に寂しくなる、ねえ早く戻ってきてね?

 一緒にいる事が当たり前になって、二人で過ごせない時間は
ひとみちゃんがお仕事してる時だけ。
それ以外の時間の全てを私と過ごしてくれるようになった。
離れるのを惜しむように、過ごす時間を慈しむように
アナタは私を優しい眼差しで見つめつづけてくれる。

でもそれはきっと、
私の中に亜弥ちゃんの影を求めながら……


 それでも愛されてるって感じているよ、私もアナタを愛してるって想うの。
けど、心の奥に沈めたはずの想いが時々溢れだしそうになる。ごめんね、ひとみちゃん……
私のほうが過去に縛られてる、きっとアナタを苦しませてしまう。
それでもアナタを想う気持ちは嘘じゃないの。
ただ、恐いの……私の中の想いが膨らみ過ぎてしまうことが恐いの。
259 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:01
「梨華?」

 紅茶の缶を持ったまま、ひとみちゃんは困ったように立っていた。
私は慌てて笑顔をつくるけど、それが余計に彼女を不安にさせちゃうみたいで………
不安になるとアナタは私を抱きしめるのがクセのようになっていて
その腕の力が優しければ優しいほどに、私は思い出してしまうの
だから、もっと力いっぱい私を閉じ込めて?
カラダが軋むくらいに抱きしめてくれて構わないから……




 はらはらと舞う桜吹雪の中、刹那的にアナタが欲しくなる
私だけのものだと感じたくって噛みつくように口づける
不器用な口づけ、ただ押しつけるだけの――――――

 咄嗟のことにビックリしていたアナタの唇が、やがて私を包んでいく
どんなに感情が昂ぶってもアナタは優しい……

それが不安だ、なんていう私は贅沢なのかな?
260 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:02
 
 
 
 
261 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:02
「いらっしゃいませ!?」

 元気な声が響いて迎えられる。
私の姿を見つけた途端に愛らしい笑顔を顔中に広げて、彼女は店の奥から顔を出した。


「こんにちわ、まこっちゃん」
「あ〜、梨華さんだぁ。こんにちわ〜、吉澤さんは?」

「ひとみちゃんはお隣だよ」
「あ〜、後藤さんの所ですね。今日は何にしますか?苺大福なんてどうですか?」

「じゃあ、それもらおうかなぁ。イチゴ大好きなの!」
「イメージ通りだなぁ、梨華さん可愛らしいから」


 もうっ、からかわないで!なんて言うと、ヘラヘラと笑いながらも手際良く用意してくれる。
彼女はこの老舗の和菓子屋さんの後継ぎなんだって。
262 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:03
「愛ちゃんは?」
「愛ちゃんは学校で〜す、講義がビッシリとあるので夕方しかこれないみたいです」

「そっかぁ。ってちょっと多くない?」
「可愛い梨華さんにオマケしちゃいました!?」

「そんなこと言ってたら愛ちゃんに怒られちゃうよ?」
「えへへっ、内緒でお願いします。愛ちゃん、冗談が通じない時があるんで〜」


ちょっと困ったみたいに笑った顔が子犬みたいで、
耳がはえてたら、しゅんって垂れてそう。


「な〜んか2人で楽しそうだな」
「ひとみちゃんには内緒のお話してたの!」

「あ〜、なんだよぉムカツクなぁ!?」
「たいしたことじゃないですよ〜、気にしない気にしない」

「麻琴まで…いいよ、愛ちゃんだけ連れて海行くからお前らは留守番な」
「な〜んでですかー!?愛ちゃんはダメですよ!?」
「冗談だろ、ほんとバッカだなぁ」


 まこっちゃんは膨れっ面をしていたけど
他のお客さんが来て慌てて接客に行ってしまった。
憎めいない彼女の笑顔は店の売上に相当貢献してそうだなって思う。
263 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:03
「ひとみちゃん、海って?」
「あぁ、ごっちんが夏になったら海に行こうって」

「……海かぁ」
「行くのイヤ?」
「ううん、行きたいけど…焼けちゃうかなぁって」


ブハって噴出して笑うひとみちゃん。
こっちは真剣なのにぃ!?


「いまどき日焼け止めとかあるんだから気にすることないよ」
「そうだけど…・・」

「なら良いじゃん、一緒にいこ?」
「うん、わかった……」


 接客中のまこっちゃんに”また来るね、ありがとう”って口パクで伝えると
満面の笑みで元気良く『ありがとうございました〜!?』と私に言ってから
ひとみちゃんにベーって舌を出した……
隣でひとみちゃんは呆れたみたいな顔をして肩を竦めて見せる。


「ほんとに子供だな」

「まだ可愛らしいね、
 愛ちゃんが『麻琴は可愛い』ってしょっちゅう言ってるもん」


 歩き出すとひとみちゃんは自然と手を繋いでくれる。
特別な会話を交わさなくっても、温もりを感じられて幸せな気持ちが
心いっぱいに広がっていく……
264 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:04


 私の誕生日には『特別な日』だと言っていたのに、自分の誕生日は
恥ずかしいのか、0時になった瞬間に『おめでとう、ひとみちゃん』って
耳元で言うと照れたように布団に隠れてしまった。

 真希ちゃんに付き合ってもらって、アクセサリーを買いに行ったのだけど
思ったより高くって焦ったな。
真希ちゃんが少しくらいなら出すよって言ってくれたけど
気持ちだけいただいとくねって断わって、自分で買える範囲のものにした。
指輪もお仕事柄つけていないし、ブレスレットも邪魔かなぁ。
いつも身につけてもらえるものは?と考えてピアスにした。

シンプルなデザインのピアスは、今日もひとみちゃんの耳にしっかりとつけられて。
お店で見たときよりもずっと輝いて見えた………

 
265 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:05
 
266 名前:『心象』3.春宵感懐 投稿日:2005/12/05(月) 18:05
 
267 名前:日季 投稿日:2005/12/05(月) 18:07
>>250-264 更新終了。(季節が進んでいきます。いきなり……飛びます)

>>248さま
ありがとうございます。まったり進みますので見守っていてください。

>>249さま
( *´ Д `) <ありがとうございます。 過去はそのうち登場します。
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/05(月) 20:59
甘いのに切ない
>>257あたりのやり取りがすき
269 名前:名無し 投稿日:2005/12/05(月) 23:30
更新乙です。梨華ちゃんどしたんだろう?
マターリ見守ってます
270 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:12

 
「梨華ちゃん、ナイスバデーだねぇ」
「ごっちん、おっさんくさいよ言い方が〜」

「だって、ごとーの水着貸そうと思っても、胸のところとかあわないんだもん
 だから結局は買いに行く事になったんだよね……」

「う〜ん、でかいとは思ってたけど」
「よしこ、その手つきは止めなさい!」

「あの腰のラインは改めてみるとえろいなぁ」
「自分の方がおっさんじゃん………」


 日焼とか気にしてたくせに、着いた途端に
はしゃいじゃって麻琴と愛ちゃんと遊んでる梨華。
ここは他に人が来る場所ではないし、安心してるせいもあるだろう。
梨華は人混みとか苦手らしいから。
271 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:12
 海に行く予定がすっかり狂って、なっちゃんの親が所有している別荘に招かれた。
それはそれでラッキーだったかもしれない、アタシ達しか居ないから気楽だし。
それにえらく大きなプールやサウナなどの施設も充実していた。
なっちゃん家って金持ちなんだな……

 梨華は案の定、ピンクの水着を買ってきたけど
ごっちんが一緒に行ってたこともあって、落ちついたピンクで
少しだけホッとしたっけ。

 たまには無邪気に遊んでるのも悪くないのかな。
お互いに忘れられない過去に縛られているのだから
少しくらいは安息の時があっても良いのだろう。
272 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:13
 
 ******
 
273 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:13
 プールサイドで真希ちゃんと座って参加してこないひとみちゃんに手を振ると、
小さく振り返してくれた。
気付いた真希ちゃんもおっきく手を振って”そっち行くね〜”と立ちあがる。
ひとみちゃんは渋々って感じで一緒にプールの中へやってきた。


「ってか愛ちゃん幾つだよ、浮き輪って」

「愛ちゃん泳げないんですよ。良いじゃないですか〜」

「麻琴、手離しちゃヤだ!?」


 からかうひとみちゃんを避けるように、まこっちゃんは愛ちゃんの浮き輪を押して
少し離れた場所へ行った。
あ〜あ、せっかく遊んでたのにぃ。


「ひとみちゃん意地悪しないでよ〜、せっかく遊んでたのに」
「んだよ、いいじゃんアタシが来たんだから」


 ぷいってそっぽを向いたその首筋が真っ赤になっていて。
なんだか可愛い………
真希ちゃんもニヤニヤとその様子を見ている。
274 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:13
「あ〜、よしこ自分で言って照れてるぅ」
「うっさい、ごっちんもあっち行けよ〜」

「ヤだよ。ごとーだって梨華ちゃんと遊ぶもん。
 二人っきりでいたいなら勝負するかい?」


 勝負?って首を傾げると、真希ちゃんはニコって笑って
50メートル泳いで競争しようって。
この後、夕飯までの時間をどう過ごすか勝った人が決められる。
ということを提案して、まっこっちゃんにも参加するように促す。


「勝ったら思い通りなんだな?」

「そだよ、よしこは梨華ちゃん一人占め?」

「さあね……」


 なんて意味ありげに微笑む、ひとみちゃん。
まこっちゃんは溜息をつきながら準備運動をしていた。
真希ちゃんは私達に手を振って余裕だ。
275 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:14
プールサイドで一緒に見ていた愛ちゃんが、準備をする3人を見ながらポツンと呟いた。

「麻琴が勝ちますよ」

そういってニッコリ笑った。私が「?」を浮かべていると愛ちゃんは説明してくれた。
麻琴、ず〜っと水泳をやってたんです。だから泳ぎは得意なんです。
泳ぎだけやなくって、意外と運動神経良いんですよ?って。


「愛ちゃんは、勝ったら二人っきりになるの?」

「ううん。二人ではいつでもいられるから皆さんと遊びたいです。
 麻琴もきっとそう言います」


 なんだか凄い自信だなぁ。なんか羨ましい。
見えない絆が二人を繋いでる、そんな感じかな。

 愛ちゃんの言葉通り結果はあっさりと決まった……
綺麗なフォームを披露したまこっちゃんは、あっという間に差を広げて
二人よりも早くゴールした。
276 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:14
「だー!?麻琴おめー早過ぎだよ!」
「まこっちゃんの勝ちだね〜。どうする?」
「とりあえず、みんなで遊びましょうよ!せっかく遊びに来たんだから」


 愛ちゃんと私は顔を見合わせて笑う。
愛ちゃんは”言った通りでしょ?”って嬉しそうに微笑むとまこっちゃんの
傍に行って頭を撫でてあげてる。
まこっちゃんは嬉しそうに笑いながら、されるがままだ。

 その横で真希ちゃんもまこっちゃん達に
”3着だったよー。まっ、ごとーも皆で遊ぶつもりだったもん”
と言ってふにゃふにゃ笑いながらおどけてる。
277 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:14

 ひとみちゃんの傍に行くと照れた様に苦笑いして
”別に負けても良かったんだけどな、どうせなら勝ちたかった”なんて呟いた。

 きっと、ひとみちゃんも、実は答えは同じだったんじゃないかな。
皆で遊ぶ方を選んでたと思う。そういう気遣いの出来る人だから。

 みんな違うことを考えていそうで、同じようにお互いを尊重しあってる。
優しくって、暖かい人達に囲まれて…
私は久しぶりに時間を忘れて楽しんでいた。
ひとみちゃんも、いつもよりうんと笑顔で。私を見ては満足そうに微笑んでくれた。
278 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:15
 
 ******
 
279 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:16
 さんざん遊んだから、食事までの時間を部屋で過ごそうと言うことになり
梨華と二人で戻ってきた。
部屋に入るなり梨華を引き寄せて唇を重ねる……
朝からしてないんだからと、ちょっと長めに味わう。
何をするでもなく、ただ梨華を感じているこの瞬間が一番幸せだと感じるんだ。

唇を離すと梨華がクスクスと笑う。


「どした?」
「最近キスばっかだね?」

「そうかな、物足りない?」
「キスの方が愛されてるって感じて好きだよ」

「そっか」
「ひとみちゃん、それ以上する時に私の事あんまり見てくれないもん
 なんだか、うっとりしてて可愛いけど……」

「なんだよ、そんなに冷静に抱かれてたの?」
「えっ?冷静かなぁ……」


そのままゆっくりと梨華を倒していく。
いまは何もかも忘れてアタシの腕の中で快楽に溺れてほしい。
280 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:16
「試してみよっか?」
「……ひとみちゃん」


 顔を近づけていくと、ぎゅっと瞼を閉じる。梨華は待ちの人なのだろうか……
キス事体には不慣れな感じはしないのに、こうやってただ待っている事が多い。
それに自分からとなると途端にぎこちなくなったりするのだ。


「ダメだよぉ、まこっちゃん達に聞えちゃう」
「聞える?なにが聞えるのかなぁ」
「もう、意地悪……」


 麻琴達だって子供じゃないんだ、手を繋いで寝てるだけなんて無いって。
そう言っても躊躇する梨華の服の中に手を入れ、ゆっくりと触れていく。
胸の中心だけを避けて、ゆるゆると揉んでいると切なげな瞳が
もどかしそうにアタシを見上げてくる。


「声、我慢できないよぉ……」
「我慢しなくっても良いって、聞えても平気だよ」

「私が平気じゃないもん」
「んじゃ、我慢して?アタシは梨華が欲しい。ちゃんと梨華のこと愛してあげるから」
281 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:16

 アタシの言葉に反応したのか、スーっと梨華の瞳から涙がひとすじ流れ出す。
それはスローモーションのようにゆっくりと頬を伝って床へと落ちて行った。
梨華は表情を崩すことなくアタシを見上げたまま泣いている………


「ご、ごめん。やめるから」
「イヤなんじゃないよ?愛してくれるんだって嬉しかったの」

「でも、梨華……」
「ごめんなさい…」


 そんな顔をさせたいんじゃないんだ、だから泣かないで?
梨華を引き寄せて起き上がらせると、梨華からアタシにキスをした。
そして肩に顔を埋めて、何度もごめんなさいって言うから
”する事が全てじゃないから”って言って、幾つものキスを落としていく。
閉じられた瞼に、額に、頬に、鼻に唇にと………

 あまりにもキスをするものだからそのうち、梨華は声を殺して笑いだし涙は消えていた。
なんだかもっと、ずっと触れていたくって、
アタシ達は、じゃれるようにキスを交わしながら
食事の時間までを過ごした。
282 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:17

 ******
 
283 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:17
 なつみさんと真希ちゃんが用意してくれたご飯は家庭的な料理ばかりで
すごく美味しくて、まこっちゃんなんてもう顔が緩みっぱなしだった。

「安倍さん、めちゃくちゃ美味しいです♪」

なんてニコニコして、なつみさんとばっかりお話していて
ちょっと拗ねた愛ちゃんに太ももを抓られて、ちょっぴり凹んでた。


 食事の途中で飲み始めたら、みんな上機嫌になって会話がはずむ。
他愛ない会話を続けながら、飲むペースが上がる3人。
真希ちゃんも、ひとみちゃんも。そして意外なことに愛ちゃんも
それなりに強いらしくってどんどん飲んでる………

 私とまこっちゃんは苦手なのかすぐに顔が赤くなって、あまりペースは上がらない。
なつみさんは1滴も飲めないってウーロン茶を飲んで、微笑みながら話を聞いている。

 食事が終わってしばらくすると、まこっちゃんは眠そうに瞼をこすりはじめた。
そんな様子に気付いた隣の愛ちゃんは、膝にまこっちゃんの頭を乗せて上げて
髪を優しく撫でてあげている。
まこっちゃんは愛ちゃんの背中に腕を回して、お腹に顔を埋めて甘えてるみたい。
284 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:18
「なんだか、麻琴寝ちゃいそう?」
「はい。あんまり強くないんですよ、お酒」
「そっか〜。まこっちゃ〜ん子供みたいだよぉ」

「まだまだ子供だよな、麻琴は。梨華だって弱そうじゃん、顔が真っ赤だ」
「あんまり飲んだことないから…」

「あはっ、梨華ちゃん可愛い〜。ごとーが一緒に寝てあげ……」
「ぜったい許さん!?」

「よしこ冗談じゃん。愛ちゃん、まこっちゃんと部屋もどる?
 完全に寝ちゃったら運べないでしょ?」
「そうですね、そうします」
 

 愛ちゃんが”麻琴、ほら起きて?”なんて言うと瞼をゴシゴシしながら
まこっちゃんはボーっとした顔から、二パって笑顔になって
みんなに手を振りつつ愛ちゃんに連れて行かれた。
酔っても愛想が良いんだね、まこっちゃん。
285 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:18

「梨華ちゃんとよしこはどうする、まだ飲む?」
「いや、やめとく。梨華寝ちゃうとつまんないし」

「あははっ、そっか。夜はこれからだもんね〜」
「ばっか、ちげーよ……」


 もう、真希ちゃんは……たまにこうやって二人をからかう。
最初見た時のクールなイメージはすぐに崩れた、けど良い意味で。
彼女は場を和ませる力があるみたい。
なつみさんもすごく暖かくてお母さんみたいな人だ。
みんなを黙って包み込むようなそんな人。


「プールサイドだと星も綺麗に見えるよ。
 よっちゃんも梨華ちゃんも二人で居たいなら、どうぞ」


なつみさんの一言に少しだけ考えてから、ひとみちゃんは
私の腕をとって、行こっか?って誘ってくれた。
286 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:18
「なっちゃん、ごめん。後片付けもしないで」

「ううん、いいっしょ。
 あたしは、こういうことするの好きだから気にしないで」


真希ちゃんがチューハイとかを2、3本渡してくれて
ゆっくり飲みながらイチャついてて良いよ〜、ごとーたちは行かないようにするからって
無邪気に笑いながら手を振る。
ひとみちゃんは、何考えてんだよ〜なんて言いながらも
それを受けとって足早にプールへ向かった。
 
287 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:18
 
 ******
 
288 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:19


「ほら、あんまり飲むなよ」
「らいじょうぶらもん……」


 ごっちんが渡したチューハイを飲んでいた梨華が少しづつ
酔ってきてるのが分かった……
らいじょうぶってなんだよ。呂律回ってないじゃんか。


「ひとみちゃあん、お星さんが綺麗だよぉ」
「あぁ、うん」


 梨華はぐったりとアタシに凭れかかり目を閉じている。
星、見てないじゃん……

 しばらくして、うっすら梨華が目を開けた。
酔った熱で潤んだ瞳が、アタシを捕らえて離してくれない。
もう、いますぐにでも……
289 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:19
「だっこして?」
「はぁ?なに抱っこって………」


『だっこぉ』なんて言いながらアタシの膝の上に向かい合わせに乗っかってくると
ぎゅうぎゅうと背中に腕を回して抱き着いてくる。
”甘えたかったのか”なんて思って、抱きしめ返すとくすぐったくなるような
甘えた声でアタシの名前を連呼する。
顔を上げた梨華の瞳がうっとりとアタシを見つめた後、ゆっくりと閉じられた。
唇を近づけそっと触れると、暖かな感触に心が穏やかに澄んでいく。

 何度か触れた後、唇がそっと離れると梨華はアタシの肩にまた顔をうずめる。
ゆっくり背中を撫でてるうちに、スースーと寝息が聞えてきた………

 まじかよ。寝やがった。
アタシの肩に顔をうずめて眠る姿は子供みたいだ。
ほっぺを突ついても起きる気配が全くなく、内心マジで途方にくれる。
やけくそにキスをしまくったけど、舌をいれても反応無し………
 
290 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:20


 梨華を、おんぶして中に戻るとごっちんが笑いながら
”お〜寝ちゃった?残念だったね〜”なんて
言いながらも部屋まで一緒にきて扉をあけてくれる。

 ありがとうって言おうとしたが”寝こみ襲うなよ!”
とか言うので思いっきり睨んでから無言で部屋に入った。

 梨華をベッドに寝かせると自分もその隣へ横になる。
あ〜別にしたかったわけじゃなくって、もっと一緒に起きてたかったんだ。
星を見て、あーでもないこーでもないって他愛ない会話をしたかったんだ。

アタシは、梨華に酒は飲まさないようにしようと固く誓う。
291 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:20
 けど、幸せそうに眠る寝顔を見てたらなんだか安心して
アタシも眠くなってきたから、キスをしてゆっくり瞼を閉じた。
明日は今日よりもっと一緒に遊ぼう。
何もかも忘れてさ……
 
 
292 名前:『心象』4.夏は青い空に…… 投稿日:2005/12/06(火) 11:21
 
 
293 名前:日季 投稿日:2005/12/06(火) 11:22
>>270-291更新終了。(真冬に夏の話w)

>>268さま
ありがとうございます。名前を呼び合うだけで絵になる二人ですよねw

>>269さま
ありがとうございます。石川さん情緒不安定です……
見守ってもらえて嬉しいですw
294 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/06(火) 17:13
酔ったまこりかカワイイ。つづき楽しみにしてます。
295 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:02
彼女の澄んだ……
澄みきった瞳はアタシを見つめているのだけど
それはドコかアタシのもっと向こうを見つめてるような
そんな錯覚に襲われる時があるんだ…

見つめ返すだけで、漆黒の闇に落ちていきそうなほど
深く輝く瞳……

その瞳がとらえている空に何がみえるの?
キミは何を想ってそんなに切ない瞳をしているの?
296 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:02
 
 
 
 
297 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:03
「頭、痛いよぉ」

布団から目だけ出して訴えてくる姿は、ほんとに子供だ。
あのな、だから飲むなって言ったのに………


「ひとみちゃん、ごめんね?」
「怒ってないから、気にするな。ほら、なっちゃんに薬もらったから飲んで?」

「飲んだら、頭重いのとか治る?」
「治るから飲め!」


”だってー苦いのヤなんだもん”って駄々をこねる。
薬嫌いっていくつだよ、あんたは………
溜息まじりに名前を呼ぶと不安そうな顔でアタシを見つめる。
だから、そんな顔は反則だって。


「待ってて、飲みやすい様にオブラートもらってくるから」
「ありがと、ひとみちゃん」


とことん甘いなアタシも。
298 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:03

 なっちゃんとこに行くと、一緒にいたごっちんにからかわれる。
甘やかしすぎだーとか色々言ってくる、子供かお前も……

 ごっちんを宥めながらオブラートをアタシに渡して、湖の周りを散歩すると
景色がのどかで気持ち良いよって、なっちゃんが教えてくれた。
梨華の体調が少し良くなれば一緒に行こうかな………
299 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:03
 
 ******
 
300 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:04
 薬を飲んで頭痛も治まってきて落ちついた頃
改めて”昨日は、ごめんなさい”って言うと、ひとみちゃんは気分転換に外に行こうって言って
私の手を引いて連れて行ってくれた。

 日差しは午後の一番キツイ時だから、日焼止めを塗って
Tシャツの上に薄手のシャツを羽織った。
愛ちゃんとまこっちゃんは、室内のトレーニングマシンに興味津々で
二人で遊びに行ってるらしい。


「真希ちゃんとなつみさんは…」
「付き合ってないよ、姉妹みたいなもんだってさ」
「そうなんだ…」


 私の言葉を遮ってひとみちゃんは答える。
どこに行ったのか聞こうと思っただけなのにな…
ひとみちゃんはボーっと空を見てた視線を私に向けて
ゆっくりと微笑んでくれた。
301 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:05
「梨華、あっちに散歩道があるんだってさ。運がよけりゃリスとかに会えるらしいよ」
「ほんと〜?うっわぁ見たいな」


 しばらく歩くと、湖を囲む散歩コースの看板が出てきた。
一周するのに1時間弱かかるらしい。


「単純な道だな。ただ1周まわるだけかよ…」

 そんな風に毒づいてたひとみちゃんも、その道を進むにつれて
言葉を失っていた。

 見渡す限りに広がる新緑の美しさは、単純に美しく都会の喧騒がほんとにちっぽけに思えた。
空に向かって伸びゆく木々の漲る力の息吹は
確実に私たち人間よりも生きる意味を知っているかのように尊い。
青々とした木々の自然な香りに包まれて、すごく穏やかな気持ちになる。

 お互いに会話もなく歩いているけれど、きっとひとみちゃんも感じているんだろう。
自然の尊大な空気を吸い込んで、たまに交わる視線はすごく暖かくて優しい。
302 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:05

 繋ぎあった手が、夏の陽射しに汗ばんできたころ
ひとみちゃんが”あっ!?”って小さく声をあげた。
どうしたの?って聞こうとする私に、ひとみちゃんはシーっと
唇に手をあてて、森の方を指差した。

 そこには小さなリスがいた。
きょろきょろと辺りを見渡して、餌台に置かれたクルミを手にして
一所懸命食べている姿が愛らしい。
私たちの存在に気づけば、すぐに逃げてしまうかもしれないから
そう言ってひとみちゃんは私の手を離した。


「こっから見てよう」
「…うん」


 背中から私を抱きしめて、肩に顎を乗せて話すから耳元に息がかかってくすぐったい。
その態勢が気に入ったのかしばらく、ひとみちゃんはそのまま
私を抱きしめて、愛らしいリスの姿を見ながら色々と話してくれた。

 小さい時に遊びに行った動物園での話や、学校で飼っていたウサギの話を
甘く低い声で囁くから、私はなんだか不思議な気持ちになる。
ひとみちゃんに包まれるようにして過ごすこの瞬間を
切り取って、私の中に閉じ込めてしまいたい。
303 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:05
 何匹かのリスが代わる代わる置かれた餌を取りにくる様を見ていたけど
飽きてきたのか、ひとみちゃんは私を抱きしめていた腕を離して
私に、こっち向いてって囁いた。


 振り向いた瞬間にキスされて、そのまま抱きしめられる………
ビックリして閉じられなかった瞳には、湖の水面に光が反射して
キラキラと揺れる様子が飛び込んでくる。
ぎゅーっと力いっぱいに抱きしめられて、呼吸も苦しくなるのに
それでも離して?なんて思わなかった。

 この腕の中でなら、私は本当にすべてを忘れられる気がしたから。
ひとみちゃんは少しだけ力を緩めて私の顔を見つめた。

 その瞳は、視界に広がった光よりも綺麗で私を虜にする。
新緑の景色さえも霞むようなアナタの美しさに
私はかるく眩暈を起こしそうになり、抱きしめてくれる腕に
すべてを委ねて身を任せた……
304 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:06

 肩に顔をうずめて甘えたようにお願いする………
もう一度、今度はゆっくりキスして?と。
スローモーションのように、瞼を伏せながら近づいてくるひとみちゃん。
唇が重なる瞬間まで目を離したくなかった。

この一瞬が『永遠』に変われば良いのに、そんな風に想いながら。

アナタのすべてで私を包み込んでいて欲しい。
どんな我侭を言っても私を離さないで?
 
 
305 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:06
 
 ******
 
306 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:07
 散歩から戻ってなっちゃん家の別荘の、ふかふかの芝生の上に寝転がると
梨華が黙って膝をたたいて見せる。
好意に甘えて膝の上に頭を移動して見上げると、梨華がやわらかく微笑んでいた。


「良い眺めだよ」

 そう言ってちょんっと胸に触れると、”もう!?”って
怒った声を出しながらもアタシを膝枕したまんまで微笑む。
こうやって、辛い過去も良い想い出に変えながら穏やかに暮らしていこうよ。
笑って泣いて、また笑って……

 夕方の涼やかな風が吹いて心地良い。
梨華の手がアタシの髪を梳くたびに気持ち良くって眠ってしまいたくなる。
307 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:07
 けど、一緒にいるこの時間を少しでも無駄にしたくないから、アタシは頑張って睡魔と戦う。
瞼が閉じかけては気合で持ち上げる、そんな様子を梨華は不思議そうに見ながら
お夕飯までなら寝てても良いよ?って囁く。

 その声に安心してアタシは睡魔との戦いを止めることにした。
梨華の頬に触れてから、ゆっくり瞼を閉じると


『ひとみちゃん、好きだよ』

 梨華の甘い声がアタシの心を満たしていくのを感じながら
眠りへとおちていった……

308 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:08
 
 ******
 
309 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:08
 食事を食べてしばらくは皆と談笑してたけど
ひとみちゃんは外いこ、今日こそちゃんと星を見ようって私を誘った。

 プールサイドに二人寝転がって満天の星空を見上げる。
限りなく続く空を見ていると、自分はなんてちっぽけなんだろうって
少しだけ哀しくなる。

 こんなにも綺麗なのに、私はその星空を見て素直に感動できないなんて
何もかも忘れて”綺麗だね”って言えれば良いのに。
どうしてだろう、いつからなんだろう……

 ひとみちゃんも黙って空を見上げてるけど、何を考えてるの?
綺麗だなってそう思ってるのかな?
空を見ることを止めて隣のひとみちゃんを見つめていると
視線に気付いたのか、ゆっくり私のほうにカラダを起こして、瞳だけで問いかけられる。
何でもないよって笑うと、すごく曖昧に微笑んで私の手を握った。


 あったかい温もりに包まれても、不安が広がった私の心は
どこか冷めていて……
こんなに近くにいるのに、寂しいと感じてる。
310 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:08

ひとみちゃんは私の手をゆっくりと離して、立ちあがった。


「プールはいろっ?」
「えっ、いまお洋服だよ?」


 突然の言葉に戸惑っていると、良いからって私の腕を引っ張って立たせたかと思うと
そのまま夜のプールへ入ってしまった………

 ひとみちゃんはずんずんと水の中を進みプールの途中で止まった。
そこの水深は、ひとみちゃんの胸元くらい。
水面がプールサイドの明かりを反射してキラキラと揺れている。
その光の中で、ひとみちゃんは両手を広げて私を呼んだ。


『梨華、おいで?』


低く穏やかに奏でられる私の名前は、あなたのアルトの声が呼ぶだけで
こんなにも特別で誇らしく想える。
311 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:09
 私は吸い込まれるように近づいて、しずかに水にカラダを沈めた。
ひとみちゃんの居る場所まで辿りつく頃には服が水を吸いこんで
随分と重くなってるような気がしたけれど、不思議とイヤではなかった。

 ひとみちゃんは傍まで来た私を引き寄せて、ぎゅっと強く抱きしめた。
肩先に顔を埋めるとプールの塩素の匂いと、ひとみちゃんの匂いがする。
安心できるアナタの匂いは私を癒すと同時に切なくさせる。
こんなに近くにいることが切なくなるんだ、それってオカシイかな?

 顔を上げると、ひとみちゃんは何も言わずに口付けた。
ただ触れるだけなのに、私の心をいっぱいにしてしまう魔法みたい。
私の全てがアナタでいっぱいになる。
さっきまで感じていた寂しさはどこかへ消えてしまった……
312 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:09

 唇が離れると、ひとみちゃんは私の顔を覗きこんで泣きそうな顔をする。
泣かないで?そう言おうとした私の頬をひとみちゃんはゆっくり撫でた。


「梨華、気付いてないの?」
「ひとみちゃん?気付くって………」
「泣いてるんだよ」


梨華、泣いてるよ?と悲しそうに震えた声が届く。

泣いてないよって言おうとしたけど、雫がポタンポタンと落ちてきて、水面を揺らした。
自分の目から無意識に涙が流れ出たことを悟る……
313 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:10

「梨華、いっつも涙を流す時にそんなカオしてる
 泣いてる事がまるで分かってない顔を…」


”ほんとにわからないの?”

アナタの腕に閉じ込められている私。
しがみついてアナタがいることを理解するけど
自分の頬を伝う涙がなぜ流れているのか分からない……

 


 
314 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:10
 
 ******
 
315 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:11
「わかんないよ、わかんな……」


 言葉を塞ぐようにキスをして、そのまま唇を浮上させ涙を拭う。
梨華はアタシにしがみつくようにして華奢な肩を震わせている。
やっぱり彼女は自分の涙をコントロールできていなかった。
本能だけが彼女に泣くことを許しているのかもしれない………

 出会った時、不意打ちでキスしたアタシに涙した君は
泣いてる事を感じていないような顔をしてたっけ。

 アタシに亜弥と重ねられて涙した時も、たった一筋流しただけで
微笑んで見せたんだ………

 誕生日の日にアタシが作ったご飯を食べた時も………
桜を見ながら泣いていた時も、昨日だって自分の涙に気付いていなかった。

なにが彼女から涙を流す感情を奪ったのだろう?
自分で泣こうとする意思を奪ってしまったのだろう?
316 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:11
 けど、いまは聞くときじゃない気がして。
アタシは何も言わずに梨華を抱きしめて閉じ込める。
わかんなくっても良いよ、アタシの前でだけ泣けるのならそれで良いから。


『梨華が好きだよ』


いまはアタシの腕の中にいるのだから離さない
絶対に失いたくないんだ。

梨華だけがアタシの全てなんだよ――――――



 
317 名前:『心象』5.夏の日の歌 投稿日:2005/12/06(火) 19:12
 
 
318 名前:日季 投稿日:2005/12/06(火) 19:13
>>295-316 更新終了(また真冬に夏)

>>294さま
∬´▽`)*^▽^)<ありがとございます。嬉しいです〜。
319 名前:名無し 投稿日:2005/12/06(火) 22:43
更新いっぱいキテタ!!!
この二人の醸しだす空気や世界はキレイですね。。。
寒いなか夏の話を読むのも、乙なものですw
マターリ最後まで見守ってるからガンガって?!
320 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/06(火) 23:48
前半あたりの、なにげない日常を垣間見たような雰囲気が、堪らなくいい。
ふたりには幸せでいてほしいな。
321 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/07(水) 06:39
ローギアのようなゆったりして落ちついた感じがすき
322 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:14



 秋の紅葉が美しい季節になった。
梨華の寝顔が苦痛に歪むのを幾度も見て……
アタシはどうすれば良いのか途方にくれる。

 梨華の眠りは浅く、少しの物音ですぐに起きてしまう。
その度に梨華は淋しそうに微笑み”ごめんね”となぜか謝る。
アタシが梨華を起こしたのに……


 だから起こさないように、細心の注意をはらって
キミの寝顔を盗み見るのが、アタシの日課になっていた。
そして、いつもかるく唇に触れてから眠りにつく――――――
323 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:15



324 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:15
 裕ちゃんに誘われて、ごっちんと食事がてら飲みに行き帰ってくると
梨華は眠ってしまったのか、珍しく玄関へと来なかった。
いつもアタシが遅くなるからといっても彼女は待っていてくれる。
扉が開くのと同時にアタシに抱き着いて甘えてくる姿に
愛しさが溢れ出して、壊しそうなほどに強く抱きしめてしまうけど
梨華はとても嬉しそうにアタシの名前を呼ぶ、何度も何度も…


 ”先に寝てて”と電話をした時に梨華は”待ってるもん”と言っていた。
時計を見ると11時を少し過ぎた所だった。
そんなに遅い時間ではないのだけど………

 リビングに入るとソファの肘掛に凭れるようにして眠っている姿が見えた。
待ちくたびれたのかな?ごめんねって心の中で呟いて顔を覗きこむ。
 
 子供みたいな寝顔を見るにつけ梨華を愛しいと想う。
少しだけ大人びた寝顔を見る度に梨華が遠くに行ってしまいそうで不安になる。
いまの梨華はあどけなさの残る寝顔をしていて少し安堵する。
アタシの梨華だと安堵する……
325 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:16
 ベッドに行くように促そうと思ったけれど、アタシが帰ってきた音で
起きなかったという事は久しぶりに熟睡できているのかな?
そう思うと起こすのも忍びなく、動かすのも躊躇われた。

 毛布を持ってきてかけてあげると、少しだけ梨華の口元は綻んだ。
隣に座って自分の方へ梨華を寄りかからせる。
2人の隙間をうめる様に梨華はカラダを寄せ、アタシにしがみつく…
梨華は隣で眠ると、必ずと言っていいほどに隙間を埋める様にくっついてくる。


 しばらくすると、梨華の手が離れる気配がした。
視線を梨華に移すと、まどろみの中をさ迷うような視線とぶつかる…
アタシが名前を呼ぼうとした時、梨華の口が先に開いた。
326 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:16





『……美貴ちゃん?』


 一瞬、理解が出来なかった。
”みきちゃん”彼女の唇はそう言葉を発した…

みきちゃん?
沸き上がるような怒りなのか戸惑いなのか分からない感情がアタシを震えさせる。
アタシが梨華を亜弥だと呼んだ時、彼女はこんな気持ちだったのだろうか?

 次にアタシが視線を向けた時には、梨華の瞳はもう開かれていなかった
また眠りの世界へと戻ってしまったらしい……
そのままアタシは彼女の隣を抜け、玄関へと向かう。
毛布にしがみつくようにして眠る梨華の姿が見えるが、起きる様子はない。
327 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:17
 アタシの知らない”みきちゃん”への嫉妬心がカラダを妬き尽くしそうだった。
梨華の声色があまりにも穏やかで、その人がどれだけ彼女にとって大切な人なのかが窺い知れる……

 無意識に彼女が口にした名前が自分のもので無いと言う事実は
アタシの心を容赦無く斬りつけた……
流れ出した痛みや不安がアタシの全身を廻って急激に体温を奪っていく。
いま梨華の傍に居たら、アタシは彼女を傷つけるだろう。


そのままアタシは夜の冷たい空気へと身を投げ出した……

328 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:17


 ******
 
 
329 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:17
「梨華さんですか?梨華さんだったら…」

 駅前で店の前を掃除していた女の子に声をかけ
問いかけると屈託の無い笑顔で教えてくれた彼女の居場所。
彼女と離れ、いつしか覚えた微笑みと言葉巧みな嘘。
それがこうもあっさり離別を選んだ彼女を探し出してしまうとは
夢にも想っていなかった…

 ただ一目逢いたかった。元気にしているのか、彼女は笑えているだろうか?
そんなことを知る権利が無いと知っていても……
自分は彼女を手放したのだから。
あれほどに欲した彼女の愛を自分の弱さの為に手放したのに。
それでも逢いたかった、大好きな彼女の笑顔に……
 
330 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:18



「……美貴ちゃん?」

どこか夢の中のように濡れた瞳が美貴を見ていた。


「美貴ちゃんだぁ…」

あの頃と少しも変らない甘えた声が美貴の心をくすぐる………


 玄関を開け美貴の姿を確認した途端、梨華のカラダは大きくふらついた。
慌てて支えると、異常なほどに暖かい梨華のカラダ。
どうやら熱があるらしい、風邪でもひいたのだろう。
触れるだけでわかる梨華が苦しんでいると……


 カラダは熱をおびて、汗で着ていた衣服を湿らせている。
恐らく今この部屋の主はいないのだろう。少し冷えた室内に他に人の気配はない。
331 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:18
 美貴は梨華を抱えるようにしてベッドまで運んだ。
ふ〜っと大きく深呼吸して、乱れた呼吸を整える。
梨華と同じくらい華奢な美貴には、梨華を運ぶだけで手一杯だった…

 まずは着替えさせなければ、余計に悪化させてしまう。
熱で混濁した意識の梨華に、何度も問いかけてやっと着替えを探り当てる。
少し大き目のパジャマは恐らく梨華のものでは無いかもしれないが
この際、どうでも良いだろう。


「梨華ちゃん、脱いで?ほら着替えよう」

 梨華は素直に長袖のトレーナーを脱ぎ、ズボンにも手をかける…
美貴はすぐに視線を逸らして床を見据えた。

梨華の胸元にいくつも咲いた赤い華………

いま彼女が誰かに愛されているのだと示すように美貴の視界に飛びこんできた。
自分は梨華の奥深くに触れるのが恐かった…だから仕方ない。
仕方ないことだけれど、美貴は酷く動揺していた。
332 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:18
 
「……美貴ちゃん」

梨華の甘えた声が頭上でして、ゆっくり美貴は顔を上げる。


「ボタン止めて欲しいの、うまくできない……」


 子供じゃあるまいしと思ったけれど、熱のせいだろうか手元が思うように動かないようだ。
苦しそうに息を吐き出している梨華を見ていると、ほっては置けなかった……
ボタンに手をかけたまま、梨華の少し荒い呼吸がふくよかな胸を上下させる様に
美貴は釘付けになってしまう。



「美貴ちゃん?」

 もう一度名前を呼ばれ、軽く頭を振ってから急いでボタンを止める。
梨華は小さな声でありがとうと呟いて布団に横になる。
美貴は梨華の脱いだ服を洗面所へと運ぼうと考えたが
”傍にいて”と訴えるので服をそのままにしてベッドの脇に座り、梨華の手を握ってやった。
333 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:19
 満足そうに微笑んだ梨華は少しだけ大人びて見えた。
何度も髪を梳くように撫でてやると安心したのか
梨華はしずかに目を閉じた……


「梨華ちゃん、こんな夜中に人をいれちゃダメだよ…」


 美貴だから入れたのかもしれないが、非常に無用心だ。
こんな時間になるまで訪ねるのを躊躇っていた美貴も意気地なしだし
常識外れかもしれないが………
334 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:19
 
 
 
335 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:19
 
梨華の紡ぐ愛の言葉が重いと感じ始めたのはいつ頃だろう?


 出会った時は正直、『合わない』と思っていた。
梨華はすごく女の子っぽい趣味だったし、どことなく陰のある雰囲気だった。
既に母親は死別していて、そのことが彼女に愁いを含んだ妖艶さを
身に着けさせていたのかもしれない。

 良くも悪くも梨華は目立っていた。それは美貴も同じかもしれないが…
美貴は一匹狼的な所があり、少なからず社交的に振る舞ったりしていなかったから。
でも梨華はそんな美貴に臆することなく近づいて、喋りかけ微笑んで見せたのだ。


 そんな梨華はとても魅力的だったと美貴は想う。
お姉さんみたいなのに、無邪気な子供のようでもあり…
時にはヤバイくらいに高い梨華のテンションに苦笑いした日もあったけれど
それでも、そんな梨華に癒されていた。
彼女が教えてくれたのは、笑っていれば空気が暖かくなる事だったり
すごく単純なことだったけれど、美貴にはとても大きなことだった。
 
336 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:20

 初めて気持ちを打ち明けたのは2年生になってからだっただろうか?
同じクラスになれたねと嬉しそうに笑う梨華に「おはよう」っていうくらい
軽い気持ちで『好きだよ』って口にしていたのを思い出す。
それからすぐに付き合ったわけではなく、ごく自然に親友の延長線上に梨華との恋はあった。
だから、いつから彼女を特別と感じ、彼女だけを特別に扱ってきたのか憶えていないのだ。
自然に美貴の傍に梨華はいたし、梨華の傍に美貴はいたから。


 初めて意識してキスしたのは3年生に上がる前だっただろうか?
梨華の誕生日だった気がするけど……
それまでは冗談っぽく触れるだけだった唇を
深く深く味わうほどに、甘い罠に堕ちていくように溺れた。


 初めて梨華の体温を感じたのは、1ヶ月後の美貴の誕生日だっただろうか?
幼い二人は互いの体温に安らぎを覚えた。
平穏な毎日が幸せだったし、梨華は毎日のように愛の言葉を囁く
それは、酸素のように美貴の中に吸収されて癒しをくれた。
 
337 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:20

 高校卒業を控えた頃……
まだ社会に出ることが怖く、怯えていた美貴。
たしか梨華は大学へ一緒に行こうと誘ってくれていたが
美貴は勉強する事に嫌気がさして断わったんだっけ。
梨華もそのうち大学へは行かないと言い出したのを憶えている。


 梨華は美貴を『優しい人』と言うけれど、美貴は弱虫だっただけだ。
彼女の全てを奪う事が怖かった。
唐突に口付けても梨華は嫌がらなかった。
それは自分を愛していたからだろうし、誰にでも許していたわけではないだろう。
美貴は溺れた、彼女の愛の中に堕ちていくように……
何度もキスをして、触れる度に美貴は安らぎを感じていた。

 けれど、怖かった。
漆黒の瞳から、抜け出せなくなってしまうのが怖かった。
彼女の瞳は美貴しか映していないように、艶っぽく輝くのだ。
どこか色のある梨華の存在は美貴を狂わせてしまうかもしれない……
だから最後の最後までは触れることが出来なかった。
338 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:21

”梨華ちゃんを傷つけてしまうから”

 そんなことは美貴の都合の良い、言い訳にしか過ぎない。
ホントは自分が傷つくのが怖かった。


『美貴ちゃん、いま死ねたら幸せかな?』


 20歳になる直前だったかな?ある日、彼女はそう言ったのだ。
もう終りだと思った、自分は梨華を狂わせてしまう……
もう狂っていたかもしれない、美貴だって………
 
339 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:21
 
 
 
340 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:22
 梨華の服を洗濯機に放りこむ。
深夜なので回すわけにも行かずそのままにしておいた。
自分を呼ぶ声が聞えて美貴は梨華の傍へ。

 熱に侵された彼女は有り得ないくらいに妖艶で……
病人相手に何を考えてるんだと、自責の念にかられながら梨華の傍に腰を下ろす。


「梨華ちゃん、ココに居るよ」

 額に手をあてるが熱は依然として下がってはいなかった。
それでも美貴の顔を見ると梨華は安心したように微笑んだ。


「美貴ちゃん、喉が渇いたよぉ…」
「待ってて、飲み物持ってくるよ」


 他人の家だけど仕方ない。
あんな状態の梨華を一人にするなんて薄情なやつだなと思いながら
美貴は冷蔵庫からペットボトルの水をとりだし、コップに注ぎ梨華の元へ戻った。
341 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:22
 
「起きあがれる?」
「しんどいよぉ…」


 そういって目線だけで美貴に訴えてくる。
勘弁して欲しい……
この瞳に美貴は弱いのだ、熱で潤む瞳ほど甘美な誘惑は無い。
また彼女に触れたいという欲求が心の奥から顔を擡げる。

 どうかしてる、自分も梨華も。
もしかしたら、熱のせいであまり状況を把握していないのじゃないだろうか?
昔に戻ったように梨華は自分に甘えてくる。
熱にうなされ苦しげに漏れる吐息にさえ、美貴の心は場違いに高鳴ってしまう。


 あれこれ考えている美貴の服を梨華が引っ張った。
思考を遮断して視線を落とすと、拗ねたように唇を突き出している。


「美貴ちゃん、飲ませて?」
「……梨華ちゃん」


 やっぱり梨華は昔に戻っているのだ。
いま現実に美貴が目の前に居るのを、夢の中だと思っているのかもしれない。
だから、こんなにもトロンとした目で自分を見つめて、素直に甘えてくるのだろう……

 
342 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:22
 美貴は水を口に含むと梨華に口付ける……
久しぶりに感じる梨華の唇の感触は、触れるだけで眩暈がしそうなほど……
頭の中がクラクラして倒れそうだ。
こぼさない様に強く口付けて、梨華の口内にゆっくり水を流しこみながら
美貴は理性が弾け飛ばないよう必死だった。


「ありがと、美貴ちゃん」
「もういい?」
「うん…」


 熱のせいだ、梨華の瞳が自分を熱っぽく見つめていても
それは熱のせいなんだと美貴は自分に言い聞かせる……
なのに梨華の発した一言に目を見開いた


”もっとキスして?美貴ちゃん……”


 梨華の放った言葉は、美貴の堅く鎖していたはずの心を
揺れ惑わせ壊していく
343 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:23
 熱のせいだろうか?口内までも温かく、その熱が美貴を昂ぶらせる
甘い梨華の舌に自分を絡ませ、溶け合うようにひとつになる感覚に溺れていく
時より漏れる甘い吐息に痺れて昂ぶっていく感情に、戸惑いながら溺れていく



「………んっ」

 ゴクッと、流れ込んだ唾液をのみこむ音が彼女の喉をならした。
その音で少し現実に引き戻された美貴は、ゆっくり唇を離す。
透明な糸が二人の間を繋ぐようにのびて、ぷつりと途切れる。
二人はもう一つになれない……
そんな現実を感じながらも、自分を止めることは出来そうに無い。
黙って自分を見上げてくる、その瞳はいまだ熱っぽく揺れている。
夢中で溺れていたあの頃が、美貴の脳裏にフラッシュバックする…


 しかし、パジャマから覗く胸元にある赤い華が、なんとか美貴の理性を呼び覚ます。
そうだ、もう梨華は自分が知っていた彼女ではないのだ
彼女を侵している熱が呼び起こした、幻影に過ぎない。
344 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:23
 

 布団を梨華の胸元まで上げてきちんとかけ直す。
梨華はじ〜っと美貴の顔を見ていたが、熱のせいだろうか焦点がどこかおかしい。
明日、熱が下がっていなければ病院に行った方が良いだろう。

 自分はココにいるべきじゃないと思うのに、動くことができない。
梨華の感触をこんなにリアルに感じてしまった事は誤算だった……
その笑顔を見れるだけで良かったはずなのに。
なぜだろう、カラダが言うことを利いてくれない。離れることができない


 今日だけ、今日だけこの熱の幻影に甘えても良いだろうか?
美貴が隣に横になると梨華はぴったりと寄り添ってくる………
熱いくらいの体温は寒がりな美貴にはちょうど良いなんて思う。
そして、昔から梨華は暖かかったと懐かしくも切ない気分になる。
345 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:23
  

 しずかな寝息が聞えはじめた頃、眠りの世界に引き込まれていった
やわらかな梨華の感触をリアルに感じながら……




 
346 名前:『心象』6.幻影 投稿日:2005/12/07(水) 11:24
 
 
347 名前:日季 投稿日:2005/12/07(水) 11:26
>>322-345 更新終了(秋になりました)

>>319さま
ありがとうございます。レスを励みに更新していきます!
……こちらの世界は秋を迎えました。w
美しい世界を描けるように頑張りまっす(*´▽`)´〜`*)

>>320さま
ありがとうございます。そういってもらえて嬉しいです(O^〜^)^▽^*)
そうですね、幸せに……今回はこんな感じですいません(T▽T;)
すこしだけ、夢の中を彷徨ってしまいました……

>>321さま
ありがとうございます。
ゆったりしすぎてるお話です申し訳ですが、レス嬉しいです。
348 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/07(水) 17:02
こんなとこで出てくるなんてorz
あー夢だもんな夢 早く目を覚まして?!
つづきマターリ待ってます
349 名前:初心者 投稿日:2005/12/07(水) 18:15
前スレから作者さんの作品全部読ませていただきました
どれもとても魅力的な作品ばかりでよかったです
特にさゆとミキティにはキュンキュンさせられっぱなしでした
できればまた藤道をお願いします
350 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:05

 



なんだか熱っぽかった夕方に、ひとみちゃんから電話があったんだ。
その時に素直に言えば良かったのに、しんどいよと言えなくて。
待ってようと思ったのにカラダが言うことを聞いてくれなかった。


苦しいよ……ねえ助けて…………
 
 
351 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:05

 私はたぶん夢を見ているんだと思う。
暖かな温もりが私を包んでくれたけど、それはひとみちゃんじゃなかった。
どうして、ここにいるの?問いかけるよりも私は少しだけ夢の中に溺れた………

 昔の自分がそこにはいて、あの頃、夢中で愛した人が一緒に居た。
もう出会う事は無いと思っていたのに………優しい口づけは始まりの合図。


 いつだって触れる手は冷たくって、けど愛されてると感じていた。
お互いのの熱で繋がれた手も暖かくなり、優しく優しく……
ただ真摯に私を愛してくれているのだと幸せだった。
352 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:06

 好きだよ、大好きだよ………
けど、いま私の中にある愛はアナタのものじゃない。
私には大切な人がいるの。


ひとみちゃん、ひとみちゃん、ひとみちゃん……


 
 
353 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:06
 
 
 ******
 
 
354 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:06

『ひとみちゃん』


 熱にうなされながら梨華は何度もその名前を口にした。
恐らく梨華の想い人だろうか……
額に手をあて熱を確認すると幾分か下がっていた。



 梨華が起きたらなんて言おう……
彼女がいまココに美貴が居る事をどう思うだろう?
寝顔はあの頃よりも幼く感じる。
美貴といた頃の梨華はどこか大人びて、いつも自分を包んでくれていた。



 ほんとうの梨華はこんな風に誰かに甘えたかったのかもしれない。
美貴に甘える時、彼女はどこか遠慮していた。
甘えたような声を出しても、おねだりしてもそれは
美貴が出来る範囲のことばかりだった。


 自分の全てを委ねるほどには甘えてこなかった、美貴はそれが寂しかった。
何も考えずに、無条件で甘えて欲しかったのかもしれない…


 
355 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:07

「美貴ちゃん…?」

 案の定、梨華はわからないって顔をしてしばらくボー然としていた。
美貴はできるだけ簡潔に昨日の事を話した。
もちろん、キスした以外の事を………


「ひとみちゃんに怒られちゃうよぉ…
 誰もお部屋に上げちゃいけないって言われてるの」


 梨華が早口にひとみちゃんについて話し始めて、美貴は苦笑した。
あの頃も、要点がまとまらず落ちが見えそうに無い話を
自分は黙って聞いて理解しようと努めていたっけ……時々キツイくらいに突っ込んだりしながら。


 いま何故かその状況におかれているのだ。
梨華はかなり動揺しているのだろう。
当たり前かと自嘲気味に笑う。昔の恋人が突然いたら誰だって混乱するだろう。
356 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:07
「落ちついて?」
「美貴ちゃん…」


 梨華は泣きそうな顔をして微笑んだ………
この顔だ、最後に美貴が見たのは。


 梨華は『ひとみちゃん』への想いを独り言のように話し出した。
出会ってから今日まで、日毎に彼女のことがスキになっていること。
不器用だけど、繊細で優しく暖かな人だと言う。
自分が望むことの全てを叶えてくれそうな、そんな人だと……



 美貴は曖昧に笑いながら話を聞いていた。
心の中は土砂降りの雨が降っているようだった。
梨華の前では泣くまい、そう心に決めていたあの頃。
一度も梨華の前で泣かなかった。


梨華の心が壊れそうになったあの時でさえ、美貴は笑っていたんだ…
そうしないと自分までも狂ってしまうとわかっていたから。
だから美貴は泣けなかった。
357 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:08

 目の前の梨華が泣いている。
あの時と同じように、しずかに頬を涙がつたっている。
けれど梨華は、どこか虚ろでその涙に気付いていないように
美貴を見て微笑んで見せた。


 なにもかも別れを選んだあの時と同じ光景。
たった一つを除いては………
 
 

 
358 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:08
 美貴の目に涙が滲んでは溢れていく。
そして、自分が別れ際に彼女に言った一言を鮮明に思い出した。


『梨華ちゃん泣かないで?美貴は梨華ちゃんの笑顔が大好きだよ。
 だから、笑っててよ…ほら笑顔を見せて?』


 なんて自分勝手だったのだろう。
美貴は梨華に泣く事さえ許してあげなかった…
残酷な美貴の言葉を梨華はずっと守っていたというのか?
無意識のうちに彼女は泣く感情を殺していた。


 泣いても良いよ?もう泣いても良いんだよ梨華ちゃん。
ごめんね、美貴が笑っててなんて言ったから。
359 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:08



『美貴ちゃん泣かないで』


そう言いながら、梨華はしずかに涙を流し続けている……



 
360 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:09
 
 
 ******
 
 
361 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:09

 美貴ちゃんが泣いている姿をはじめて見た………
私を見つめたまま彼女は溢れた涙を、乱暴に拭いながら泣いている。


「梨華ちゃん…ごめんね、泣いても良いんだよ?」


 美貴ちゃんの冷えた手が私の頬をすべる。
そのまま私は美貴ちゃんの腕の中へと抱きすくめられた。
少し熱っぽい私には彼女の冷えたカラダが心地良かったけれど
私はもうアナタでは温もりを感じられないみたい。
362 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:09
「美貴ちゃん、私泣いてる?」

「……梨華ちゃん泣いてるんだよ。泣いても良いんだよ
 ごめん、美貴が悪いんだ。逃げてばかりで何もしてあげられなかった」

「そんなこと無いよ。美貴ちゃんだって優しい人。
 あの頃の私を暖めてくれたのは、美貴ちゃんだけだったんだよ」

「でも、美貴は梨華ちゃんを苦しめてばっかりで……」

「美貴ちゃんのせいじゃないの。私が弱かったから」

「美貴だって強くなれなくって、梨華ちゃんを傷つけてばっかりで」

「生きろって言ってくれたの美貴ちゃんだよ。
 美貴ちゃんがいたから、私は現在ココで生きてるんだもん」


 美貴ちゃんの優しさに甘えてたんだ。
だから、美貴ちゃんを束縛したくって死にたいって…
美貴ちゃんの気を引いていたかったの。
私から離れて行ったりしないか試したかったの。
美貴ちゃんはいっつも笑顔で、そんな私を間違ってない道へと
案内してくれてたんだよ。


だから、ひとみちゃんに会えたんだもん。
美貴ちゃんは悪くなんか無いんだよ?

363 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:10



「梨華ちゃん、どしたの?」

「まだ、ちょっとしんどい」

「そだ、梨華ちゃん病院に行かな…」


 私からアナタへの最初で最後のキスだよ。
ただ触れるだけのキスが1番好きで、いつもくれてたのは美貴ちゃんだった。
唇を離すと美貴ちゃんは泣き止んでたけど、なんだか複雑な顔をして
笑っていた。


364 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:10
 
 
 
 
365 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:10

「なんか不思議」
「不思議だね、美貴も変な感じだよ」


 あははっなんて屈託なく笑う姿はあの頃とちっとも変ってなくって
やっぱり美貴ちゃんのこと好きだったんだなって思う。
笑顔を強気な仮面で隠してた頃の美貴ちゃんは、私の前でしか笑わなかった。
けど今は……

 知らない近所のおばあちゃんにさえ挨拶されれば、微笑みかけ挨拶を交わしている。
お互いにあの頃と変ったね、成長したのかな?


「こんな風に美貴ちゃんと、また会えるなんて思ってなかった…」
「うん、美貴も」

「美貴ちゃん…」


 名前を呼んで止まった私をゆっくりと振り返る美貴ちゃん。
”ん?”なんて短く言って、やさしい眼差しで先を促す姿も懐かしい…
あなたはいつだってキツイ言葉の裏に、穏やかな優しさを持っていた。
366 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:11
『どうして逢いに来たの?』なんて聞かないでおこう。
だって逢えてよかったって思ってるよ。
過去の呪縛からお互いに解放されることが出来る気がするの。


「なんでもないの、病院すぐそこだから」
「そっか。じゃ、美貴もう帰るね」
「うん、ありがとう」


 ありがとう美貴ちゃん……
少しだけ前を歩いていた美貴ちゃんが立ち止まってから
私のところまでひき返してくる。
その顔は、もう泣き出しそうな様子は無くって、でもどこか切ない。
367 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:11
「梨華ちゃん、あのさ…」
最後にキスしてもいい?美貴ちゃんの言葉に、咄嗟に首を横に振りかけて止める。
さっきのキスは私から最後のお別れ。
アナタからの最後のお願いを、私は断わることは出来ない……

 黙って目を閉じると、すぐに美貴ちゃんの唇が降ってくる。
それは、ほんの僅かな時間だったけれど愛した頃を思い出す
やさしい、やさしいアナタらしい口づけの仕方。
けれど、もう思い出すことは無いよね?



ポタっと頬に何かが触れた…


「美貴ちゃん、泣き虫さんだ」
「だって……なんでもないよ。梨華ちゃん、ほんとにありがとう」
「うん、私こそ看病してもらちゃって…」


 美貴ちゃんは私の頬にかかった涙を拭ってから
自分の涙を拭きさった……
それから、もう行くねって呟いた後にまた顔を近づける。
咄嗟にキスされると勘違いした私は、瞼を堅く閉じてしまった。




368 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:12
”大好きだったよ梨華ちゃん!”

 けど暖かなアナタの声が耳元でしただけだった…
目を開けるとイタズラな顔で笑ってくれた。
無邪気な笑顔は彼女の最後の強がり。その目にはやっぱり涙が滲んでいたから。

 どこに住んでいるのか?いまどうしてるのか?
何一つ聞けなかったし、話さなかったアナタ。
ココから二人はまた新しい日々を始めるんだね。
お互いに幸せになれると良いな。

 二人で見つけられなかった幸せを……
私はひとみちゃんと、アナタも愛する人とみつけられるよね?
369 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:13

 カサっと音がして慌ててポケットを探る
ポケットには1枚の紙切れが入っていた。
最後に私が目を瞑った時に入れたんだ…変な所が器用な人だったね。
やっぱりちっとも変ってないと懐かしく思う。

370 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:13
 梨華ちゃん、美貴はあの街にまだ居ます。
 一緒に過ごした日々を忘れる為に引っ越したりしたけど
 意味が無かったんだよね。
 だから、この街でまた暮そうって。

  それでね、逢いたかったんだ。
 梨華ちゃんが元気で新しい一歩を踏み出してるのが見れたら
 美貴も進んで行ける気がしたから。
 美貴がしてあげられなかったことがたくさんあるけど、美貴は梨華ちゃんにたくさんの
 ものをもらえました。
 あの時、言えなかったから伝えたかったんだ。
 ほんとにありがとうって。

  でね、忘れないよ。
 梨華ちゃんといて感じたことも想ったことも全部
 ぜんぶ美貴の宝物なんだ。
 梨華ちゃんに逢えてよかったって思ってるから
 だから忘れない。

  ごめんね、勝手なことばっかり言って。
 でも、心配しないで。
 美貴も新しい一歩を踏み出せそうなんだ。
 ちょっとで良いから応援してて?

 梨華ちゃんがいつまでも幸せでありますように…

371 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:13
 手紙なんて書いたこと無いじゃない………
メールだって素っ気無くって、なのになのに
最後にこんなにも気持ちをぶつけてズルイよ、美貴ちゃん。



風邪でまだ少し熱っぽいことも忘れて、私は無意識に走り出していた。

372 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:14
 
 
 
373 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:14
「美貴ちゃん!?」
「ちょっ、梨華ちゃん走っちゃダメだよ!!病院は?なんで……」
「だって、だって…」


 美貴ちゃんばっかりズルイよぉ、自分の気持ちをちゃんと伝えてない。
逃げてたのは私なんだよ。恐かったの、美貴ちゃんの優しさが。
だから私は、美貴ちゃんを困らせることばっかりしてたの。それでも離れて行かないか試したの。
好きで好きで好き過ぎて、あなたの全てが欲しくって…
ほんとに美貴ちゃんがいたから、私は生きてこれたんだよ。
たくさん、ありがとうを伝えなきゃいけないのは私の方だよ。
374 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:15

 あの頃言えなかった気持ちをぶつける…
最後まで聞いてから美貴ちゃんは、私をぐっと引き寄せた。
その腕の強さはふんわりと優しくて、やっぱり美貴ちゃんらしい。


「梨華ちゃんのば〜か」
「バカじゃないもん」

「バカだよ、美貴なんて追いかけてきたらダメだよ
 病院行って風邪治さなきゃ。
 梨華ちゃんいなかったら、吉澤さんだって心配してるよ」

「だって……」
「もうあの頃とは違うんだ、お互いに。大切な人に甘えなきゃ、ね?」

「美貴ちゃん、また会えるかな?」


 こまったみたいに笑って腕を解かれた。
いっつも強気な眼差しが不安でゆらゆら揺れている。
375 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:15
「会えるかな?会っても良いのかな?」
「良いに決まってるじゃん…手紙すっごく嬉しかったんだよ」

「うん、めちゃくちゃガラにもないことして恥ずかしいから
 そのまま帰りたかったのに……」

「そうだね。じゃあ、さよならは言わないね。またきっと会おうね?」


美貴ちゃんは”またね”って手を振って駅へと向かった。

 私はその背中を少しだけ見送って、踵を返して病院へ向かう。
お互いに違う道を歩んで行くけど、きっと間違ってないよね。
アナタはアナタの。私は私の道を………


 また笑って会えると良いね。
その時はお互いに大切な人の隣で――――――


 
 
 
376 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:15
 
 
 ******
 
 
377 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:16
「吉澤さん、泊まったんですか?」
「あぁ、ちょっと飲み過ぎて…」
「そうですか…」

 ごっちんの家から出ると麻琴が外を掃いていた。
毎朝と毎夕の日課なのだと言う。
昨日は結局どこに行くあてもなくって、ごっちんの家に泊めてもらった。
何も聞かずにごっちんは風呂を用意してくれて、
ゆっくり寝て、朝になったら梨華ちゃんのところに帰りなさいって……
378 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:16
「昨日なんですけど、梨華さんのこと聞かれたんです」
「梨華の?」

「はい、親戚だっていう優しそうな人でした」
「親戚?聞いた事ないな……」

「梨華さんと同じ年くらいの綺麗な女の人でしたよ。
 住んでるところ言っちゃまずかったですかね?」

「いや、親戚なら……そっか、ありがと」


 麻琴に笑ってやると安心したのか、へらへらと笑って手を振る。
ほんとに憎めない笑顔だ。
その笑顔のおかげで無駄な肩の力が抜けたような気がして
”ありがと”って心の中で呟く。

379 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:16


『梨華に会いたい』


いま想うのはそのことだけだった………


 


380 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:17
 
 
381 名前:『心象』7.秋の日 投稿日:2005/12/08(木) 00:18
>>350-379 更新終了(まだ秋……)


>>348さま
ありがとうございます。川V-V)<ごめんなさい・・・orz
すぐに目が醒めてこれまたごめんなさい……(*T▽T)<・・・
後は平穏な日々が待っていますので、まったり見守ってください。w

>>349さま
全部読んでいただいたんですか?ありがとうございます!
藤道を良いと言ってもらえるとすごく、嬉しいです从*VvV(・ 。.・*从
(実はいま書いてます、クリスマスに間に合えばいいなぁ……)
今後も藤道を書きますので、よろしければ覗いてみてくださいね。
382 名前:名無し 投稿日:2005/12/08(木) 00:40
秋になって一波乱あるとは。。。
でも夢から覚めてよかった。・゜・(ノД`)・゜・。
甘いふたりが読みたいです(ボソッ
383 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/08(木) 02:01
よかった 夢からはやく覚めてくれてよかった
ちょっと情けない風なミキティー萌
次回もマターリたのしみに待ってます
384 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:09




 ゆっくりと家までの道を歩きながら考える、親戚って?
出会って1年が経とうとしているのに、まったく聞いた事がなかった。
梨華がいれば良いやって、そう思ってたから。


 ただ現実にアタシの傍に居てくれるだけで良かったんだ。
過去とかどうでもよくて、現在とこれからの未来に
梨華が居てくれれば良いなって、そう思うんだ。



「ただいま」

 なんて呟いて、玄関を開けたけど返事はない。
出会った日から、当たり前の様にアタシが帰ると梨華がいたっけ。
どれだけ一人でいた頃の孤独を、梨華が消してくれていたのか痛感する。
385 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:10
 ソファに座ってぼ〜っとしていても、頭の中に浮かぶのは梨華の姿で。
いっつも自分が帰るまでの時間をどんな風に待っていたのかな?
夕飯の献立を考えながら?明日の朝食を考えながら?
昼間にぶらっとパン屋に会いに来る時、梨華は寂しいなんて口に出さないけど
その瞳は酷く泣き出しそうに見えた。


 もっと不安に思う事を消してあげたい。
出来れば、そう出来るならアタシのことだけを考えていて欲しい。

 亜弥のことを忘れきっていないクセに随分と勝手だと思うけど。
それでも、梨華のことばっかり浮かぶことに嘘は無くて。
日常のどんな場面でも、アタシは梨華に結び付けてしまう。
これを見たら喜ぶかなとか、ビックリするかなとか。
どんな反応するかなって考えるだけで楽しくって、毎日飽きない生活を送れるようになった。


 アタシの生活全てに梨華が浸透していて、
いま彼女がいない事が、こんなにも寂しくて壊れちゃいそうだよ。
386 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:10

「麻琴、ごめん今へーき?あぁ、うん。親戚の名前さ、なんて言ってた?」

『名前ですか…え〜っと藤本美貴さんって言ってましたよ』

「そっか、ありがと」


ふじもとみき、か………

”みきちゃん”が来ちゃったのか。
ソファに身を沈めて、最悪の考えが頭をよぎる。
このまま……このまま帰ってこないとかないよな?
387 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:11
 
梨華に逢いたい。
逢って、力いっぱい抱きしめたい。
アタシの腕の中で名前を呼ぶたびに、うっとりしたような顔で
見上げる姿が瞼の裏に描かれる


梨華、梨華、梨華・……







 
388 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:11
 
 ******
 
389 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:11
「ひとみちゃん?」
「梨華、どこに行って…」


私の顔を見て、慌てたようにひとみちゃんは走り寄ってくれた。


「梨華、病院行ってたの?どうしたの?」
「落ちついて、ひとみちゃん」
「だって、顔色悪いし…それに熱っぽいよ」


 額にあてた手が微かに暖かい………
ひとみちゃんだ、ひとみちゃんの温もりだぁ。
溢れ出る涙は、悲しいからじゃないよ?
ひとみちゃんの温もりで安心して溢れ出したんだよ。


戸惑ったように笑いながら、ひとみちゃんは私を抱きしめた。
その腕の中に閉じ込めるみたいに強く、強く………
 
390 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:12
「梨華、風邪?」
「うん。昨日ね、すごい熱が出てたみたいで……」

「それでアタシが帰っても起きなかったんだ」
「ひとみちゃん、帰ってたの?ごめんね、全然気付かなかったよぉ……」

「アタシこそ、ごめん………」

 
 耳元で低く抑えた声が響いた。
そして”みきちゃん”って誰?アタシの知らない人?
昨日、誰か来た?矢継ぎ早にひとみちゃんは質問する。
声が震えてるよ、ごめんね。こんなに不安にさせちゃった。



 全てを話そうと想う。
ねえ、ぜんぶ真っ直ぐに受けとめてくれるかな?
私のことそれでも好きでいてくれるかな?
391 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:12
「ひとみちゃん、あのね…」
「梨華?」

「美貴ちゃんとのことなの、聞いてくれる?」
「それを話しても梨華はアタシの傍にいてくれる?」

「えっ…」


それは私のセリフだよ、ひとみちゃん。
それを話しても傍にいてくれる?って私が言うセリフだよ………
392 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:12
 
 
393 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:13
子供だったと言えばそれまでかもしれない。

……美貴ちゃんが欲しかったの

 美貴ちゃんのすべてを自分のものにしたかった。
それは酷く独り善がりな感情だったけれど、美貴ちゃんは
イヤな顔もせずに私の傍に居てくれて。


 現在ならわかるよ、美貴ちゃんが『物』では無いって。
けど、あの頃はその心までも欲しかったの。

それをわかっていても美貴ちゃんは何も言わずに、私の傍に居てくれた。
『やさしい人』なの、優し過ぎる人なの……

紡ぎだされる言葉がキツクても、その心の中はものすごく暖かい。そんな人なの。
394 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:13
 
『美貴ちゃん、いま死ねたら幸せかな?』


 何気なく発した一言に、美貴ちゃんはすごく哀しそうな顔をしたのを憶えてる。
けど彼女は私を怒ることはなく、淡々と生きることを選ぼうと手を握っていてくれたの。
冷たい美貴ちゃんの手に触れると、なぜか暖かい気持ちになったんだ。

 こうして、色んなことを感じられるんだから生きよう
そう言ってくれた美貴ちゃんの瞳は、慈愛に満ち溢れとても綺麗だった。



 二人が別れる少し前だっだかな、狂っているかもしれないと感じ始めたのは。
もう美貴ちゃん以外なんて必要ないと想い始めていた頃。


……その命までも欲してしまったあのころ


美貴ちゃんは、やっぱり自分を怒ったりしなかったし
取り乱すことなく私に話をしてくれたの。
395 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:14
 
死んだら一緒に居れなくなると思うんだ。
ほら、死後の世界なんて誰も見たことないじゃん。
そんな世界に美貴は行きたいと思わないし、梨華ちゃんを
連れて行くのもイヤだな。


どんな現実だって、気持ちさえあれば繋いだ手を離さないでいられるけど
未知の世界ではそんなこと通用しないと思うんだ。
だから梨華ちゃん、生きよう。
美貴と一緒に生きていようよ。
 
396 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:15
 20歳になる前に私達は別れを選んだ。
狂った歯車を戻そうって、美貴ちゃんはそう言って
私の手をゆっくりと離した…

 美貴ちゃんは泣かずに私をまっすぐに見ていてくれた。
さよならは言わなかった、また会えるよね?っていう私に
また会おうねって呟いて………



 美貴ちゃんに最後に言われたの、泣かないでって。
でも、ほんとはね………
397 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:16
 たぶんその時から泣いてることが わからなくなったんじゃないと思う。
きっと同じ言葉が重なって、私は泣けなくなったんだと思う。
泣き虫だった私に、ママがよく言ってたの。


『良い子だから泣かないで』


 泣き止んだらママは嬉しそうに笑ってくれるの。
だから泣かないようにしようって。
もっと褒めてもらいたい、ママの笑顔が見たいって………



『梨華は、泣かない良い子だね』


 それからあまり泣かなくなった私に、ママはこう言って頭をやさしく撫でてくれたの。
私が笑ってるとね、ママがすっごく安心したように微笑むんだ。
だから私は泣くことは悪いことなんだって思うようになっていたの………
 
398 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:16
 
 
 
399 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:17
「泣いてるのが分らなくなったのは、随分と小さい頃からなんだね…」
「いつからそうなったのかわからないの…」

「死ねたら幸せになんて思ったらダメだよ」
「うん、ごめんなさい…最低だよね、軽々しく言っちゃう私なんて…」

「たしかにその言葉を言っちゃった梨華は悪いけど
 ホントはわかってるでしょ?命の重さとか…」

「でも私、ひとみちゃんまで欲しいって思っちゃう
 きっとまたオカシクなっちゃう…」

「いま、アタシを欲しくないの?
 梨華は想う事を真っ直ぐにアタシに言ってくれれば良いよ。
 ぜんぶ、受け止めてあげるから」


”アタシに梨華の全てをちょーだい?”
そういって私を腕の中に引き寄せる。
ひとみちゃんの心音が穏やかに、私のカラダに響いている。
400 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:17

耳元で囁く声まで私の中に流れ込んで、私の心を満たしていく…

”梨華はオカシクなんて無い。相手の全てを欲しいと思うことは間違ってない。
 アタシが許すんだから、梨華は悪くなんて無いんだよ。
 梨華とアタシの愛は二人が納得してれば、それで良いと思うんだ。”



「ひとみちゃんが欲しいよ?私だけを見てて欲しい
 私のぜんぶをひとみちゃんにあげる、あげるもん…」

「梨華だけを見てるよ。梨華がいなきゃ、ダメみたいなんだ」



”それに泣いても良いんだよ、アタシの前でならいくらでも。
 いつか笑えれば良いじゃん、最後に想いっきり笑えれば良いんだよ”


 
 私の涙がひとみちゃんの肩先を濡らしていく
ひとみちゃんは、私の背中を涙がおさまるまでゆっくり撫でつづけてくれた………




 
401 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:18
「梨華のママは?」
「中学の頃に、病気で……」

「そっか、パパとか他に家族は?」

「いないよ。物心ついた時にはママしかいなかったもん。
 だから、家族みたいに一緒にいてくれる人が欲しかったの」

「いまはアタシがいるじゃん、ね?」
「ありがと、ひとみちゃん」

「みきちゃんとはどうしたの?会ったんでしょ?」
「ちゃんとお別れしてきたよ。お友達に戻れたかな…」
「そっか………」


 まだ熱っぽいなぁなんて私を抱きしめたまま呟いたけど
ひとみちゃんは何かを思い出したように腕を離して、私の肩を掴んで揺する………
402 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:19
「もしかして、梨華の初めての相手はみきちゃん?」
「えっ、えっと、うん…そうなるのかな?」

「かな?って自分のことだろ?」
「ひとみちゃん?」
「だから、寝たんだろ付き合ってた時に!?」


大声で言われて固まる。寝るって?


「うん、一緒に寝たよ。だって一緒に住んでたから…
 毎日ね、手を繋いで寝てくれるの」


今度はひとみちゃんが固まっちゃった…
私、変なこと言ったかな?


「あの、梨華ちゃん?」
「やぁだ、”ちゃん”付け普段しないじゃん」

「それってホントに一緒に布団に入って並んで寝ただけ?」
「うん、そうだよ?」


 あははって笑いながら、ひとみちゃんは後ろにバタンって倒れて
天井を見上げながら声を上げて笑い出した。
おろおろして顔を覗き込むと、涙がうっすら滲んだまま私を真っ直ぐに見つめて
柔らかく微笑んでくれた。
403 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:19
「よかったぁ…」
「よかった?」
「梨華はやっぱりアタシのだ。アタシだけの梨華だ」


 そう言って、カラダを起こして力いっぱい抱きしめる。
苦しいほどの力に、なんだかカラダが軋んだ気がするけどそれさえも嬉しい。
ひとみちゃんは、また腕の力を緩めて顔を覗き込んでくる。 


「何年一緒にいたの?」
「えっと、ちゃんとお付き合いしてからは3年弱くらい?」
「そっか、それでキスだけか…」


そっか、そっか…
なんて呟きながらニヤニヤしてる。
ひとみちゃんもオカシイのかな?
404 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:19
「石川梨華さん?」
「なんか、ひとみちゃん変だよ……」

「その3年分以上のキスをしてやる!」
「ちょっ、やぁだ……まだ私、熱があるんだよぉ」

「大丈夫、ほら汗かいたら治るって言うし」
「それってキスだけじゃないでしょお?」

「いいの、良いじゃん。寂しかったんだよ、梨華がいなくって」


”もう帰って来ないかと思ったんだ”
そう言って私の胸に顔をうずめて甘える。
ごめんなさい、朝起きてすぐにひとみちゃんに連絡しなくて
熱のせいだとは言え、美貴ちゃんをお家に上げちゃって………
 
405 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:20
 
顔を上げたひとみちゃんがじ〜っと私の顔を見つめる。


「梨華?」


 名前を呼ばれただけで、背筋がゾクゾクして痺れる。
魔法をかけられたみたいに、ひとみちゃんしか映らなくなる。


 ひとみちゃんは何度も、私の瞳の中を確認しながら名前を呼ぶ
それは愛しくて堪らないという感じで、梨華、梨華、梨華と……
しばらく、その声に酔いながらただ見つめ返していた。



「梨華」
「ひとみちゃん」
「梨華」
「ひとみちゃん」
「梨華」
「ひとみちゃん…」

そのうちに、お互いの名前を何度も呼び合って、どちらともなく笑い出してしまう。
おでこをゴツンってあわせて、名前を呼びながらまた笑いあう。
顔がぼやけて見えるくらい近くで笑いあって。

ひとみちゃんはちゅっと軽くキスをして、顔を少しだけ離した。
406 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:20
「アタシの瞳には誰が映ってる?」
「…私」

「梨華の瞳には、アタシが映ってるよ
 その瞳の中に、もう他の誰も映して欲しくないくらい梨華のことが好きだよ」

「ひとみちゃんは、私だけを見てくれる?」
「うん、梨華だけだよ」


視線が合わさったまま近づいてくる、唇が重なる瞬間まで
お互いに見つめあったまま――――――

 


 
407 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:21

「ダメだ、眠い…なんか昨日あんまし寝れなかった」
「ごめんなさい…」

「梨華は悪くない。すぐに謝っちゃダメ」
「ごめ…うん。私もなんだか眠いな?」

「まだ熱っぽいね、唇まで熱いよ」
「だって熱があるんだもん…」

「寝よっか?」
「寝るだけだよ、何もしないでね?」

「わーってる。キスだけで我慢する」
「それだけなら……いっつもするよね、ひとみちゃん?」

「へっ?いっつもって、もしかして起きてたのかよ……」

「眠り浅いもん、気付いてるけど起きてないフリしてるの。
 ひとみちゃんにおやすみのキスしてもらえるから」

「だーーー、別に起きてるってわかってもしてやるから
 寝たふりは勘弁して……ハズいじゃんか」
408 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:22
 ベッドに寝転がってすぐに私のカラダをぎゅーっと抱きしめて、幸せそうに溜息をつく。
それからすぐに、何度も小刻みにキスされては名前を呼ばれて。
その度になんだか、うっとりと私を愛でる視線がくすぐったいけど嬉しくて。


「やっぱ梨華がいるだけで良いや」

「ひとみちゃんと出会えて、良かったぁ…
 毎日ね、好きだって思うの。どんどん好きになってる」

「可愛過ぎるんだよ」


そして、またキスの嵐……


「眠いんじゃなかったのぉ?」
「梨華が寝るまでは起きてるんだ」

「キスされてたら寝れないよぉ…」
「じゃあ、ちょっと我慢するから…あと1回だけ、ね?」
409 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:22

 返事をする前にあわされた唇は、暖かくて
満たされた心にはもう何も浮かばないほど、ひとみちゃんがいっぱい。

夢でも会えると良いね、ずっと一緒にいられたら良いね。
そして、夢から覚めても隣にひとみちゃんがいて欲しいな……


410 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:22


アナタの腕の中に帰ってこれて良かった。
私を受けとめてくれて、ありがとう。



 ……ひとみちゃん、ただいま……




 
411 名前:『心象』8.帰郷 投稿日:2005/12/08(木) 10:23
 
 
412 名前:日季 投稿日:2005/12/08(木) 10:25
>>384-410 更新終了(そして秋も終わりです)
(0´〜`)<あと2回ほどでぬるいですが、終わります……

>>382さま
ありがとうございます。へタレのため非常になまぬるい波乱ですがw
甘いの……甘いの書くほうが楽しいので、頑張ります!
この二人は名前呼び合うだけで、(*´▽`)<とろけちゃ〜う♪ほど美しいと想いますw

>>383さま
ありがとうございます。从*VvV)<ちょっと弱い女の子なところもあるのだw
ぬるま湯みたいなお話しか書けないのですが、今後ともよろしくです。
413 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/08(木) 12:12
うわーん最後の方のやりとりがあまーい・゜・(ノД`)・゜・。・゚・。
やっぱいしよしは あまいのが似合う
414 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:28



「ひとみちゃん、くすぐったいよぉ」
「いいじゃんか…」


 さっきからず〜っと私の手を触ったり撫でてみたり、指を絡ませてみたり……
何がしたいのかよくわからないんだけど、なんだか真剣な顔が
妙に可笑しくってつい笑ってしまう。


「笑うなよ…」
「だって、ず〜っとおんなじことしてるんだもん」
「いいの。触ってたいんだから」


 梨華はアタシのでしょ?なんて耳元で囁かれたら悪い気はしなくって
まぁ、いっかなんて許してしまう。
しばらく、そうして手を預けているとひとみちゃんの温もりに安心して
瞼を閉じると浮かんでくる、昔の私。
なんて自分勝手で子供だったんだろう。今でも子供だって言われるけど………
415 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:28
 
「美貴ちゃんにも、束縛して欲しかったのかもしれない」

 ぽつんと呟いてしまった言葉に、ひとみちゃんは心配そうに私の顔を覗き込んで
視線を合わせて続きを促す。


 美貴ちゃんはいつでも優しかった。
けど、いつしかそれが不安になっていったの。
もっと強く私を抱きしめて、誰にも渡さないって想ってる事を証明して欲しかった。
やさしすぎることが不満なんて贅沢だけど………


「だから、ひとみちゃんに惹かれたのかな?」
「どうせ、強引でしたよ…」

「そこが良かったんだってばぁ」
「なんか優しくないみたいじゃん」

「優しくってあったかいよ、ひとみちゃんは」


 出会ったあの日、私をこの世界に繋ぎとめてくれたんだもん。
美貴ちゃんと別れて1年経っても何も変らなくって。
私ね………
416 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:29
「あの日、まったく知らないこの街で……」
「それ以上は、言わなくって良いよ。今はそんなこと思わないよな?」

「うん…」


 だって、ひとみちゃんがいる。それに見守ってくれる人達がいる……
もう、あんな気持ちにはならないよ。


「ば〜か」
「バカだもん…」

「ほんと怒る気力もなくなったよ…
 これからは、そんなこと言ったら許さないからな」


 絶対、言わないし思わないもん。
亜弥ちゃんに怒られちゃうよ、そんなこと考えたら。


 ただちょっと思い出しただけ。あの頃の弱い自分を。
きっと窓から見える雪があまりにも綺麗だから、思い出しただけ………




417 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:29
 

ひとみちゃんは相変わらず、私の指に指を絡ませて真剣な顔をしていた。
雪、もう止んじゃったんだぁ……


418 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:29


 ******
 
 
419 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:30
 梨華にもらったピアスを毎日つけている。
飽きっぽいアタシを知る周りのみんなは、その事実に気付き驚きながらも
梨華との日々を見守っていてくれる。

 
420 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:30
 
 ショーウィンドーに並ぶ鮮やかなリングはどれも綺麗だけど
心に響いてこない。
何軒も店を回りながら、しっくりこない指輪を見ては溜息をついていた。



 もう探すのに疲れていた時に目に付いたのは、こじんまりとした
オリジナルのアクセサリーを作っているらしいお店。
小奇麗にまとめられた店内はひどく落ち着けて、
店員さんもこっちの様子を伺ったりしないので、わりと自由に見学する事が出来た。
421 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:31
 
『あなたの理想のアクセサリーをオリジナルで作成します!』
の文字が目に飛び込んでくる。
どうしようか迷っていると、お姉さんに声をかけられた。

同じ場所に何分もいたら声かけられるよな…


「誰にプレゼントするの?」
「えっと…」


 何も話していないのにその人は穏やかに大きな瞳を細め、振り返ったアタシの顔を覗きこんだ。
なんでプレゼントってわかったのかな………
スラっと背の高いお姉さんは、ぐっと怯んだアタシの言葉を急かすことなく待ってくれた。
しばらくたってから、思い切って口を開く。
422 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:31
「あの、大切な人に。ずっと着けててもらいたいんです」
「どんなものが良いの?」

「あっと…、指輪!?指輪が良いんです。
 手のひら自体がすごいちっちゃくて、間接とかも、あの、スッと細くて。
 とにかく小さくて可愛らしい手をしてて…」

「可愛らしい手をした女の子に、OK!
 その手の感じだと可愛いシルエットの指輪が似合いそうね」


 アタシはものすごい勢いで梨華の手について説明してから
ハっとしたけどお姉さんはニッコリと笑って、アタシにサンプルを幾つも見せてくれた。


「あの、気になりませんか?…」
「女の子でも大切な人なんでしょ?別に疑問は無いよ?」


アタシの言葉を遮ってお姉さんは、梨華の雰囲気だとかを一つ一つ訪ねてくれる。
423 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:31
 
 ピンクが好きで女の子趣味で、けど芯はたぶんしっかりしていて
いっつも自分を支えてくれるんです、それは言葉とかだけじゃなくって雰囲気とか
あー!?、巧く言えないけどすっごく大切な人で……
いつのまにか梨華の雰囲気ではなくて、アタシは梨華への気持ちを話していた…


「大好きなのね、とっても良い顔してるもの。
 最高の指輪を作ってあげるからペアリングにしたら?」

「仕事で指輪はつけられないんですよ」
「そうなの?でもネックレスにでも通してかけとけば、いつでも一緒にいられるわよ」

「そっか…」
「ところでサイズは?あなたのは計ってあげるけど」

「あっ…」


 そうだ、聞くのもなんかイヤで自分の指で確かめようとしたけど、わかんなかったんだ…
んで、ごっちんに遠まわしに聞いてくれって言ったんだっけ。
424 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:32
「ちょっと待ってくださいね」

 そう言ってごっちんに電話すると、サイズをちゃんと聞き出していたごっちんが
得意げにアタシに報告してくれた。
ごっちんにもなんかお礼することを約束して電話を切って、お姉さんにサイズを告げる。


「出来あがりの希望とかはある?渡したい日があるとか?」
「2週間とかで出来ないですか?」

「それくらい時間があるなら大丈夫かな。
 あまり凝った細工を施すわけじゃないし、大丈夫」

「じゃあ、お願いします!」


 お礼を言うと、プレゼントしたら一緒にお店に来て?
あなたの大切な人が見てみたいとお姉さんはアタシに言った。



きっと連れてきます。
鮮やかな宝石に負けないくらい美しいアタシの大切な人を。
そう約束して店を後にする。


425 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:32
 
 
 
426 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:32

亜弥にはプレゼントすると言うことが思い浮かばずに、何もあげた事がなかった。

それは時間が限られた恋だったから。

亜弥には時間が無く、その時間の全てを一緒にいてあげることだけが
アタシが亜弥に出来るたった一つのプレゼントだった。


 
427 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:33
 
「梨華ちゃん嬉しそうだね」
「ん〜?へへっ、良かった…」

「よしこ、ごとーにもお礼は?」
「わ〜ってるよ、ご飯奢ってやる」



 やったねーなんて無邪気に笑いながら、ごっちんは梨華の元へ行って
やたら褒めてあげている。
嬉しそうな梨華と目が合ってなんとなく照れくさくなる。
428 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:33
 
リングの真ん中に小さく光るピンクの石の宝石言葉は「以心伝心」と言うらしい。

よくわからないけど、ピンク色の石のサンプルを見ていて選んでる時に教えてもらった。
誰かが勝手につけた意味だけど、なんだか特別っぽくて良いなって思った。
いつだって、アタシの梨華だと感じたいし彼女にもそう感じていて欲しい。



 あのね、梨華。
アタシ達の幸せは他人から見たものではなくて
梨華自身が幸せだと想って笑ってくれることが、アタシにとっても幸せで。
二人が幸せだと感じられることが何よりも大切で。


きっと泣いても笑っても怒っても哀しいことがあっても
二人でいる事が大切なんだと想う。


 
429 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:34
 
 
 ******
 
 
430 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:34
 

「ひとみちゃん、どこに行くの?」
「ちょっとね…」

「ねぇ、ちょっと早いよぉ」
「歩くの遅いの、梨華が」

「遅くないもん…」


 立ち止まった私を振り返って、ひとみちゃんは引き返してくる。
その顔がなんだか嬉しそうで、私は頬を膨らませて怒ったことをアピール。
でも、そんな顔に全然かまわずにニッコリ笑いかけて
”ほら、いこっ”って私の手を握って歩き出すひとみちゃん。

 さっきと違って、歩幅をあわせてゆっくり歩いてくれる横顔を見上げていると
なんだかやっぱり幸せそう。
不思議と私まで幸せになって足取りも軽くなる。

 
431 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:34
「此処」
「ここって?」

「指輪を買ったところだよ」


 そう言ってひとみちゃんはお店に入っていった。
中にはいると背の高い綺麗なお姉さんが、笑顔で迎えてくれる。



「こんちわ」

「あっ、プレゼントしたんだ!?いらっしゃい。
 初めまして、リカさん」

「は、はじめまして…」

 
432 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:35
 
 むぅ、なんで仲良さそうなんだろう………
お姉さんの手がひとみちゃんに触れるたびに、頬がひきつってるのが自分でも分かる。
なんだか嬉しそうに話すひとみちゃんを見てると、面白くないんだもん。
会話なんて耳に入らなくって、ぼーっとしてると心配そうに
ひとみちゃんが振りかえる。


「どした、もっとこっち…」

「指輪見せて、リカさん」


 ひとみちゃんの言葉を遮ってお姉さんがそう言った。
穏やかな微笑みが、私の心をちょっとだけ開いてくれる。
さっきまで、つまらなそうにしてしまったことも申し訳ないなぁ。
433 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:35
 ゆっくり指輪をつけている方の手を差し出すと、お姉さんは
嬉しそうに私の手を見て微笑んだ。


「ほんとに可愛らしい手。愛されてるよ、リカさん」
「えっ??あの…」

「イメージ通り。可愛らしくって綺麗な女の子。きっと似合うと思ってた。
 自分の子供みたいなものなの、この作品達は。
 これだけ、愛されて大切にされれば凄く嬉しいわ。
 何よりもすっごく似合ってるんだもん、私まで最高に幸せ!」

「はい、宝物です!!」


 満面の笑顔でそう言うと、握手ってお姉さんは手をぎゅっと握ってから
私の頭を優しく撫でてくれた。
安倍さんとはまた違った雰囲気だけど、すごく癒される。
こんなお姉さんがいたら良いなぁって感じの綺麗な人。

434 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:35

 そんなやり取りを終えてひとみちゃんを見ると、少し膨れてる。
さっきの私と一緒だ………
ひとみちゃんの腕にぎゅって抱きつくと、ちょっとだけ頬が緩む。
大丈夫、こうして一緒にいたいと想うのはアナタだけだよ?



 そんな二人のやり取りもお姉さんはあったかく見つめながら微笑んでいた。
その後、他愛ない会話を少ししてから帰る事にした。
気が向いたらいつでも来てね!なんて言ってお姉さんは店の外まで見送ってくれた。
 
 
435 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:36
 
 お店の外に出てしばらく歩いていると、ひとみちゃんが急に立ち止まった。
なんだろうって思って首を捻って見上げると、真剣な瞳が私を見てた。
吸い込まれそうなほどに美しい瞳は、ただ真摯に私を映してくれる。

繋いでいた私の手をそっと引き寄せて、ひとみちゃんが口を開いた。


「梨華、気付いてた?」
「気付くって?」

「指輪の裏。文字が彫ってあるんだよ」
「裏に?」

「そう、裏に」


言われてすぐに外して確認すると
『HITOMI』『RIKA』と名前だけが彫ってあった………




 
436 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:36
 
 ******
 
437 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:37
 
「いろいろと言葉をいれてもらおうとか考えたんだけど
 なんか思いつかなくって……
 梨華はいっつも名前呼ぶと嬉しそうな顔するじゃん。
 だから、二人の名前だけいれてもらったんだ」

「…ひとみちゃん、ありがとう」
「なんか愛想無いけどな」

「ううん。名前だけですっごく嬉しいよ」


 ふわっと梨華が笑うだけで、自分がすごく誇らしいことをした気分になる。
いつだって梨華はアタシに自信をくれるんだ。
弱かったアタシをこんなにも強くしてくれたのは梨華なんだよ。
 
 
438 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:37
 
亜弥と過ごせなかった2度目の四季を、梨華と迎える。
どんな出来事が待っているだろう?


美しい漆黒の瞳の中に、溢れるほどの幸せを映していて欲しいと願う。
きっと、梨華にその幸せをプレゼントできるのはアタシだけだと感じてる。
自惚れなんかじゃなくって、そう言いきれる。

 
439 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:38
 


だから、ずっとアタシの傍にいなよ……




 
440 名前:『心象』9.雪の賦 投稿日:2005/12/08(木) 17:38
 
 
441 名前:日季 投稿日:2005/12/08(木) 17:42
>>414-439更新終了(冬です>>129-138エピローグ前後の話です)

視点が変わる場面が分り難かったらすいません。
「 ****** 」を挟んだら、視点が変わったと思ってください。
あと空白を挟むのは、視点はそのままで場面が変わった場合などです。


>>413さま
ありがとうございます・゚・(ノ▽`)・゚・ 甘いのはいいですよね!
(*^▽^)<ひとみちゃん涙を拭ってあげて?
(O^〜^)っ□泣くなよ〜。
442 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/08(木) 18:35
うわーん。・゜・(ノД`)・゜・。ありがとう涙をふいてくれてw
おだやかな甘さがイイ(゜∀゜)やさしい雰囲気がすき
443 名前:名無し 投稿日:2005/12/08(木) 19:48
ちょい甘キテタ━━━━━━( ゚∀゚ )━━━━━━!!!!!
マターリした甘さがくせになる。
読んでてほんわか、しあわせ
444 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 22:58
 




「藤本美貴から手紙…」
「ありがとう」


 ひとみちゃんはムッとしたような顔をして手紙を渡し、
どかっと私の隣に腰をおろす。
気になるくせに、わざとそっぽを向いて……
時より、ちらちらと視線だけを動かして様子を窺っている。


「一緒に読む?」
「んだよー、別に…」


 振り向いた所を、ちゅっと軽くキスをすると不貞腐れながらも
脱力した様に微笑む。
445 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 22:59
「んで、みきちゃんさんはなんて?」
「介護の資格をとるのに頑張ってるんだって」

「偉いね」

「美貴ちゃん、おばあちゃんとか大好きだから力になりたいんだって。
 もっと色々できる様に資格を取るんだって」 

「友達…だよな?」
「うん、大切なお友達だよ」


 何を心配してるのよって言うと、だってさ………
なんて口篭もる。


「見て、写真!ひとみちゃん見たことなかったよね、美貴ちゃん」
「いいよ、べっつに…あっ、可愛いじゃん。いででっ抓るなよぉ…」

「なにちょっとデレっとしてるのよ!?」
「デレデレはしてないよ………で、どっちがみきちゃんさん?」

「どっちって……あれ?」


 そこには美貴ちゃんに寄り添うように、もう一人写っている。
とっても穏やかな美貴ちゃんの微笑みが、寄り添う子の安心しきった笑顔が
彼女達の気持ちを現していて、なんだかこっちまで嬉しくなるような…そんな写真。
美貴ちゃん、みつけたのかな?大切な宝物。
446 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 22:59

「教えてあげないもん」
「なんだ、それ…」


 まー良いけどなんて言って、手紙を私の手からひょいって取り上げて
テーブルの上に置いた。まだ読んでる途中なのに………
ゆっくり近づく気配に瞼を閉じる。
けど一向に唇が重なる気配は無くゆっくり目を開けると……


「もう、何見てるのよぉ…」
「や、可愛いなって思って」


 梨華が一番可愛いや、なんて言って素早く何度も口付けて。
そのまま、ぎゅーって力いっぱい抱きしめる。
それだけで満たされていく心にもう迷いは無くて。


……アナタだけを愛してるって想うの。


 去年の桜の季節に思い出してしまった終わったはずの想い。
胸が苦しくて、呼吸さえ奪われてしまいそうになったあの時……
鮮明に甦った、桜のように舞い散っていった幼い恋。
447 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:00
  
 でも、もう桜を見てもきっと辛い思いをすることは無いでしょう。
真っ直ぐな愛で私を離さないと伝えてくれる人がいるから。
存在全てで、私を虜にしてしまう人。


 アナタに抱きしめられているだけで良い、他にはなにも要らない。
穏やかな心音がカラダに響いてきて、幸せなんだと感じられるの。
その腕の中にいられるなら、それだけでいい……


448 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:00
 


「もう寝ちゃうの?」
「ん、したいの?」

「…そんなストレートに言わなくっても良いじゃん」
「梨華がそんなこと思うの珍しいなぁって」

「そんなことないよ」
「いっつもアタシだけ、こう欲情してるのかと思ってて…」

「ひとみちゃん……」


 私に触れるアナタのすべてが、愛を伝えてくれる。
ゆっくりと重なるシルエットは、いつしか自然な二人のカタチになっていく。
言葉よりダイレクトに伝わるアナタの想いを必ず受け止めるから。


 お互いのぬくもりの中で安らぎを感じながら、
溶け合うように熱を上げて身を焦がして……
アナタのものになっていく私をずっと求めつづけてほしい。
449 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:01
美貴ちゃん、ごめんね。手紙、明日ちゃんと読むから……
いまは、ひとみちゃんに溺れさせて?



 
450 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:01
 
 ◇
 
451 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:01
「ずっと渡せなくって…」
「愛ちゃん?」


 亜弥ちゃんの2月の月命日。
お墓参りに行くと、愛ちゃんとまこっちゃんが真剣な顔をして私達を呼び止めた。


 なぜか泣き出しそうな愛ちゃんに腕を掴まれているまこっちゃんは
凛々しい顔をして彼女のことを見守っている。
いつものほんわかした空気がなくって『あぁ見えても頼りになるところもあるんですよ』
そう愛ちゃんが言っていた言葉を思い出した。

 愛ちゃんがまこっちゃんを見上げると、力強く1回だけ頷いて見せた。
それを見て決心したのか愛ちゃんが1枚の手紙を渡してくれた。
452 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:02

「これ、吉澤さんになんです。亜弥ちゃんから預かってて…
 吉澤さんに恋人ができたら渡してほしいって。
 すぐに渡そうと思ったんですけど、なかなか渡せなくってごめんなさい」

「…ありがと。梨華も一緒に」
「でも…」


だいじょうぶだよってひとみちゃんは手紙を開いた。
そこには可愛らしい文字が並んでいて………

453 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:03
 ◇                         ◇


   ひーちゃんが幸せになってると良いなぁ。
  好きな人は出来た?
  もしできたなら……
  アタシ以外の人を好きになるくらいだもん。
  とっても素敵な人だって想う。

   ひーちゃんが愛するあなたのことアタシも大好きだよ。
  2人がいつまでも幸せでありますように。

                    亜弥
 ◇                         ◇
454 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:04
 短い文章の中に、こんなにも暖かな空気を閉じ込められる亜弥ちゃん。
すごいね、ひとみちゃん。
亜弥ちゃんはすごいなぁ、こんなに切ないのに穏やかな暖かさを同時に運んできてくれる。
亜弥ちゃんに大好きって言われた気分になって、すっごく嬉しい………


 ひとみちゃんは泣きそうな顔をして唇をぐっと引き結んでいる。
やっぱり忘れちゃダメだよ?亜弥ちゃんは大切な人なんだから。
もう私にとっても大切な人なのだから……

 
455 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:05
 
 その手紙を握り締めたまま、ひとみちゃんは私を強く抱き寄せた……
震えている振動が微かに響いてくるから、泣いてるんだって分かった。
いまは泣いてるところを見られたくないんだね。
そのまま、ひとみちゃんの胸に顔をうずめて背中にまわした手で
ゆっくりと背中を撫でると……


 声を殺して泣きながら、ひとみちゃんは私の名前を呼ぶ。
ちゃんといるよ、ここにいる。ひとみちゃんの腕の中にいるじゃない。
だから安心して?




 すこしだけ顔をずらして、ひとみちゃんの背中越しに二人を見ると、
愛ちゃんの手を引いてまこっちゃんが”帰りますね?”って口パクで伝えてくれる。
遠ざかる二人の背中を見送って、顔を上げようとしたけど
また息がつまるくらいに強く抱きしめられた・……
 
 
456 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:05
「梨華…」
「どうしたの、ひとみちゃん」

「ん、なんかダメだ…」
「なにがダメなの?」

「こんなにも梨華が好きで、幸せで…アタシだけ幸せで……」
「私も幸せなんだけどな」


 ぐっ…と言葉を飲み込んだのか、喉を鳴らす音がした。
ひとみちゃんは腕を緩めて私の顔を見つめる。


 端整な顔立ちに幾すじもの涙の後、今はひどく子供に見えて頼りない。
その涙を拭いながら、やさしく頬を撫でていると
ひとみちゃんは安心したように瞼を閉じて、私にされるがままになっている。
 
457 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:05
 ほら、亜弥ちゃんが見てる。
泣いちゃダメ、いまは笑おうよ。こんなに幸せだよ?
そう亜弥ちゃんを安心させてあげようよ。



「んだよぉ、こんな時だけお姉さんだな梨華は…」
「一応、お姉さんだもん」

「3ヶ月くらいじゃんか……」
「い〜の、だって後1ヶ月ほどは私のほうが年上だもん。
 ひとみちゃん泣いちゃダメでしゅよ〜」

「うっさい、子供扱いすんな!」


 ぷいってそっぽを向いても、わかるよ。アナタには、私が必要なんだって。
視線を外しても、その心の中ではきっと私を見てる。

 
458 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:06
 
『……ひとみ』


 ぽつんと呟いた私の声に、ひとみちゃんはすごい勢いで振り向いた――――――
そんなに驚かなくってもいいじゃない!?


「なんか似合わねぇー!?」
「なによぉ…」

「あはははっ、別に良いけど。これからも、そう呼んでくれるのかなぁ?りっかちゃん?」


 私の顔を覗き込んでくる瞳にもう涙は無くって。
子供みたいに、目の奥をキラキラと輝かせてる。


「そっちだって似合わないもん。ちゃん付けしないでよぉ」
「なんで?梨華ちゃんってみんな呼んでるじゃん」

「そう美貴ちゃんも呼ん…」
「やめる。梨華って呼ぶ……」


 私の言葉を遮って真剣な顔でそう言うから可笑しくって………
ついつい噴出すと、また抱きしめられた。
何度目だろう、お墓の前でこんなにじゃれてて怒られないかな?
なんて思うけど、こうされることが嬉しいから良いよね…… 
459 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:06
 
「ひとみちゃん?」

しばらく、そのままで何も話さないから心配になって名前を呼ぶと
さっきよりも真摯な瞳が私を映す。


「どうしたの、ひとみちゃん?」
「梨華はやっぱその呼び方のが似合うよ。その甘ったるい声、好きだよ」

「……うん」


真っ直ぐに見つめ返すと、薄く口元が綻んで…『キスがしたい』と告げる。


 アナタの瞳に自分が映っているのを確認してゆっくり目を閉じると
そっと近づいてくる気配がする。
460 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:07
 


遠くで聞える波の音、吹きすぎる浜風の冷たさ、アナタのぬくもり……


夏になったら、あの海に行きたいな。ほら、いっつもお墓参りだけでしょ?
だから、波打ち際を一緒に歩きたいの。



「な〜に考えてんだよ?」

 唇が離れても目を瞑ったままでいると、ひとみちゃんがちょっと不機嫌そうな声を出す。
ゆっくり目を開ければ、待ってましたとばかりに私の瞳の中を覗き込んで
なにかしら答えを探し出そうと必死な姿が可愛らしい。



 なにを考えてるか、教えてあげる。
ひとみちゃんと視線を合わせて、極上の笑顔をうかべ……
461 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:07
 
「ひとみちゃん、だ〜いすき!」

「なっ、なんだそれ…。人の質問は無視かよ」
「好きだって考えてたんだよ。大好き」

「…あんがと」
「好きだよ?」


 羨ましいくらいの白い肌が、ほんのりと赤くなってる。
照れてるんだろうけど、誓ってくれるんだよね?だから、ちゃんと聞かせて。
アナタが私の声を好きだという様に、私もアナタの声が大好きだよ。
ねえ、アルトの声が奏でる愛の言葉が聞きたいな?
462 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:08
 

『梨華が好きだよ、ってか愛してる』


 望む以上の愛をくれるアナタに甘えてても良い?
2度目の春はもっと楽しくなると思うんだ。
だから、ふたりっきりでお散歩しようよ。


もう一度、かるくキスをしてから
ひとみちゃんは亜弥ちゃんのお墓に向かって微笑んだ。
463 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:08
「帰ろっか?」
「うん。ひとみちゃん何が食べたい?」

「う〜ん、オムライス?」
「…がんばってみるね」
「練習したんでしょ?ごっちんが言ってた」

「たぶん、真希ちゃんほど巧く出来ないし…
 ひとみちゃんよりもヘタかもしれないよ、それでも良い?」

「梨華が作ってくれるなら、なんだって美味しいよ」
「じゃあ、材料買って帰らなきゃ」
「おしっ!?駅までダッシュだーーーー!」


 よくわからない勢いで走り出したひとみちゃん。
自然と繋がれた手は、変らずに暖かくって。



 息を切らして駅までの道を走りながら思う。
きっと実際の年齢よりも、まだまだお互いに子供だなって実感する。
でも、それで良いよね。急いで大人にならなくっても。
時間はまだまだあるのだから、焦らずに歩いていこう?
464 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:09
 

一緒に過ごせなかった以上の歳月を、きっと私達は歩いていくのだから。
自分たちのペースで進む未来には、永遠なんかが見えてくるのかな?

ずっと一緒にいようね、どんな時も一緒に……




 
465 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:09
 
 
 ******
 
 
466 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:10
 
あるきだす新しい春。
冬を幾度越えても2人でいられるようにと願う。

亜弥と過ごした1年間。梨華と過ごした1年間。
何が変わって、何が変わらないだろう?

あの日からアタシは”永遠”なんて信じていなかった。
始まりがあれば必ず終わりが来る。


今日の空は青く澄みわたり、真っ白な雲が気持ち良さそうに泳いでいる。
いつかの空は、漆黒の闇から冷たい雨を地上に落として大地を潤す。

あの空のずっと向こうにいるであろう大切な人。
この痛みを忘れたくなんて無い。
アタシは痛みを抱いて、忘れずに生きていくことを誓ったんだ。
467 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:10
 
その隣にやわらかな光りを放つ君がいてほしい。
あの日から色を失っていた世界に、輝かしいほどの光りと色を運んできてくれた人。
アタシをいつまでも照らして、自信をくれる人。
終わりが始まりだと教えてくれた人。


わざと歩調を合わせずに、君のほんのちょっと前を歩くのが好きなんだ。
アタシの腕を引っ張って、名前を呼ぶ甘い声と見上げる表情が好きだから。

時には無邪気に笑いながら、時にはちょっと拗ねながら子供みたいな顔を覗かせる。
そして不意に愁いを称えて微笑み、大人になりかけている事をしめす。


くるくる表情を変える瞳の奥に、アタシの姿が映っていることを確認して
並んで歩き出す。


ねぇ、梨華。
永遠なんて誓わないけど、毎日想うよ。梨華の事が大好きだって。
468 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:11
 

一緒に過ごす、この瞬間を心に刻んでいく。
そうすればアタシ達が歩いた道のりが、永遠になるんじゃないだろうか……





 
469 名前:『心象』10.早春散歩 投稿日:2005/12/08(木) 23:11



 FIN
470 名前:『心象』 投稿日:2005/12/08(木) 23:11

 
471 名前:日季 投稿日:2005/12/08(木) 23:13
>>444-469 更新終了(ぬるく完結です)

「心象」本編の副題は、すべて詩のタイトルから引用させていただきました。
お話の内容は詩の中身とは一切関係ありません。
その詩を読んで感じたことや、イメージから作り上げたお話です。

表現力が足りず、分りづらい箇所が多々あったかと思います……
まだまだ未熟だなと痛感しています。



>>442さま
穏やかでゆるやか〜なお話でしたが、レスありがとうございました〜。
レスとても励みになりました(*´▽`)´〜`*)

>>443さま
ありがとうございます。(0^〜^)^▽^) 幸せになってもらえたら本望です。w
レスとても励みになりました。でも、まだまだ微妙な甘さしか書けてませんね……
 
472 名前:前29 投稿日:2005/12/08(木) 23:46
完結、本当にお疲れさまでした。
すべて更新されるのを待って、もう一度最初から読み直させてもらってきました。
本当に、大好きな作品です、心象。
これしか言葉がない。

473 名前:名無し 投稿日:2005/12/08(木) 23:49
ここで>>453がくるとは。。。
でもいいですね、いざとなったらお姉な梨華ちゃんw
完結乙でした。マターリ今後もたのしみにしてます。
474 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/09(金) 00:05
完結おつかれさまです。・゜・(ノД`)・゜・。
幸せに ただ幸せにと願ってました
読後に心があたたまる話でした
475 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/09(金) 10:42
>>464の一行目の台詞がさりげないのに 深い
石川らしい感じがする
476 名前:日季 投稿日:2005/12/09(金) 19:15
「心象」番外編です。
>>444の手紙を書いたときと、
>>322「6.幻影」と>>350「7.秋の日」前後の出来事を回想しているお話です。
477 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:16

◇                           ◇
 メッセージカードとお花すごい嬉しかったよ、ありがとう。
 素晴らしい1年にお互いしようね!

 美貴ちゃんもまた元気にしてるよって、お手紙でも書いて?

◇                           ◇
478 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:17
「お友達ですか?」
「えっ?あ、うん。高校の時の」
「あぁ〜、梨華さん!」


 1月の彼女の誕生日にメッセージカードと花を送った。
たった一言、『誕生日おめでとう』と添えて。


 そしたら律儀な彼女は、手紙と写真を送ってくれた。
吉澤さんの隣でとても幸せそうな顔を見てると、こっちまで嬉しくなった。



「藤本さん、一緒に写真撮りましょうよ」
「へっ??」

「一緒に撮って送ってあげたらどうですか?
 一人で写真撮るの嫌だってよく言ってるから。二人だったら平気でしょ?」


 梨華ちゃんも安心してくれるかな。
美貴もちゃんと頑張ってるよって写真を送ったら。
手紙を書くのも久しぶりだね、あの再会の時以来かな。
479 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:17

「じゃ、一緒に撮ろっか?」

「はい!」


屈託ないキミの笑顔は少しだけ美貴の心を救ってくれる。
梨華ちゃん、美貴も頑張るよ。
480 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:18
 
 
 ******
 
 
481 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:18

「今日もありがとう、また明日来ますね」

「美貴ちゃんはいっつも有難うって言ってくれて面白いね。
 こっちがお世話になってるのに」


そう言っておばあちゃんは無邪気に笑う。
なんか可愛らしいんだよね、おばあちゃん。


「いろいろとお話とか聞けるし、勉強になるんですよ」

「そうかい?ほんとに美貴ちゃんが担当で良かった。
 孫も来るの楽しみにしてるんだよ」

「今日は学校ですか?」

「部活があるからって残念がってたよ。明日は来るかなぁ、相手してあげてね?」

「はい、喜んで!それじゃ、帰りますね」


 昔からばあちゃん子だった美貴は、いつか大人になったら
介護の仕事をするんだと思っていたけれど、いつしかそんな夢も忘れてしまってた。
482 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:18
 高校を決める前に大好きな、ばあちゃんが亡くなって。
ばあちゃんが死んだのにお金の話ばかりの、冷たい親戚の態度が美貴は許せなくて、
この場所を離れようと決心したんだ。

 両親は最初反対したけど、最終的には好きなように頑張りなさいと背中を押してくれた。
美貴の唯一の救いは……財産放棄した、このあったかい両親の子供だったこと。
483 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:19
 
 ◇
 
484 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:20

『ママがいた記憶しかないの』

 彼女はそんなことを言ってたな。
すごく不思議だったから、学費や生活費はどうしてるの?
と聞いたことがあった。


『毎月ね、生活費とかが振り込まれるの。
 ママがいる頃から私の口座に毎月。だからそれを使ってる』


 そう言っていた。ママが梨華へのお金だからと。
困った時は遠慮無く頼れば良いんだよ、と言っていたそうだ。
485 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:20

 美貴は少しだけ彼女のことを調べた。
彼女の母親が働いていた病院の婦長さんに、会いに行き
真相を聞き出すのに1年くらいはかかったっけ。
結して、梨華には言わないで欲しいと念を押されたりして……


 梨華の父親は相当な資産家で、数人の愛人がいたそうだ。
本妻に子供が出来ない事がきっかけで、愛人達の子を……
後継ぎ用の子供を養子にして、他にできた子供には金銭援助をして、
マンションまでプレゼントしたと聞いた……
そしてあとは知らんぷり。子供への愛情なんてこれっぽちも無い。
醜い世の中の理不尽さ。そんなことが暗黙で許される汚い世界。
486 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:20
 けど梨華の母は、そんな人でも愛していたから……
愛していたから、お金なんて欲しくなかったと言っていたそうだ。
そして、いま自分の生き甲斐である梨華をとられる事だけは嫌だからと
金銭援助すら断っていた。


 けど、後継ぎも決まり養子にとられる心配も無くなった事で、援助を受けるようにしたみたいだ。
自分の体を病気が蝕んでいたことも、援助を受けるきっかけになったのかもしれない。
梨華が一人になっても生活出来るようにと……
487 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:21
他にも同じような境遇の子供がいるのかと思うと、怒りで震えた……


 家族って……命ってそんな簡単なものだろうか?
当たり前のように優しくいつも傍にいてくれた両親と兄弟達。
美貴は苦労なんて知らずにいたから。
梨華の気持ちを全てわかってやることは出来ないけど、ただ傍にいようと思った。
支えてあげたいと、強く思った。


 彼女は知らない方が良い。
母親もそれを望んで、父親の話をしたことが無いのだから。
梨華にとって大好きなママの記憶があればそれで良いのだろう。
そのほうがきっと幸せだと思う………
488 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:21
 
 ◇
 
489 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:22
 恋に恋してるような幼い恋だった。
あの頃は、ただ一緒にいるだけで満足だった。
触れることが怖かった。壊してしまいそうで、怖かった。


 抱きしめなくったって、彼女の心の傍にいるんだと言う自信もあったし。
ただ繋いだ手や、重なる唇から美貴の愛は伝わりきらなかったみたいだけど。


お互いに望むことが違っただけ、だから別れを選んだのだから。
梨華ちゃんも、美貴も悪くなんて無いんだよね?
490 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:22
 もう一度、会いたいな。会って笑顔が見たい。
そしたら、美貴はもっと頑張れる気がするんだ。



 別れてすぐに、この街に引っ越して1年弱。
いまの仕事について介護の勉強もしているけど、まだまだ勉強不足。
だから勉強を優先させて夢中で過ぎた1年。

 けど、心の中にはいっつも彼女がいて。忘れられなかった。
そして、また彼女と暮した街に戻ってきた。
職場は同じ所だから通うのはちょっと遠いんだけど、この街にいた方がなんだか落ち着くから。



 もしかしたら、偶然会えるかもしれないって………
すこしだけ、甘い考えが頭をよぎったのも否定は出来ないけど。
491 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:22

    ◇ ◇ ◇ 
 
492 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:23
「せんせー!?」
「美貴は先生じゃないってば」

「良いの!勉強教えてもらってるから」
「はいはい。わかりました」

「ほら、おばあちゃんも待ってるよ!」


 くすぐったくなるほどの甘え方をしてくれるこの子に出会ったのは
いつも訪れるおばあちゃんの家だった。
孫で、傍に住んでいる彼女はよく遊びに来るんだそうだ。


 一通り美貴の仕事が終わると、おばあちゃんは体調を整えるのに寝ちゃうから
その間は二人で別の部屋に移動して、勉強を教えたり話し相手になったり。


「今日は宿題は?」
「毎日は無いですよ。今日はお話しましょ?」

「良いよ」
「あっ、お姉ちゃんから聞いたんですけどね……」


彼女はよくお姉ちゃんの話をする。小さい頃から大好きなんだそうだ。
いまでは、自分の方が背が高くなってしまったらしいけど……
493 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:23

「お姉ちゃんの友達が高校の時に病気で亡くなって……
 その人の恋人がひどく落ちこんで1年くらいは、誰にも心を開いたりしなかったのに、
 ある人に出会ってすごく変ったって、最近嬉しそうに話してくれるんです。
 
 一度だけ絵里の……絵里は高校の友達なんですけど、お姉ちゃんの恋人の妹で。
 その子の家に遊びに行った時に会って、すっごい綺麗で可愛らしい人だったんです………」



少しづつ遠くなる声。心に浮かぶ疑問。
色が黒くてアニメ声で顎がちょっと出てるんだけど、綺麗な人。
 



「な、名前は?なんていうの?」
「たしか、梨華さんって言うんですけど…」


りか?……梨華ちゃん?
494 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:24
「藤本さん、どうしたんですか?」
「それってこの人?」


 いつも使っている定期入れは彼女がプレゼントしてくれた物で。
そのなかに当時の彼女と写した写真が入っている。
それを見せて問いかけた


「あっ、そうです。この人だぁ、藤本さんのお知り合いですか?」
「高校の時の友達なんだ。シゲさんの友達が住んでる場所教えてくれないかな?」



 まさか、こんな繋がりがあるなんてね。
彼女がいる場所がわかった。
誰かの隣で笑っていても良いから、会いたい……






 
495 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:24
 

    ◇ ◇ ◇ 
 
 
496 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:25
 

 何度も唇を指でなぞって……
きっと忘れらんないな。美しい彼女の微笑とともに。
久々に会えて、夢のような時間を過ごせた。
いや夢だったと思って、割切らなきゃね。


うぅ冷えてるなぁ……


「藤本さん!」
「えっと……」


屈託の無い笑顔で声をかけられた……
子犬みたいな子だなぁと改めて思う。
497 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:25
「小川麻琴って言います。藤本さん、梨華さんに会えましたか?」
「え?あ、うん。昨日は教えてくれて有難う」

「いえいえ、さゆに話は聞いてたし…」
「さ、えっ?なんで??」

「さゆの友達の絵里、あたしの妹なんです。
 だから藤本さんのことも、話を聞いてて知ってました。
 でも顔は見たことなかったですけど……」


 えへへって、照れたように笑いながら言われて、唖然とした。
知ってたんだ、美貴が親戚じゃない事……
騙されたフリをこの子はしてくれてたんだ。
498 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:26
「さゆが心配してました。
 大切なお友達に会いたいんだって、藤本さんが寂しそうに話してるから。
 梨華さんはきっと大切な人なんだろうなって…」

「うん、梨華ちゃんは大切な親友なんだ。
 元気にしてるかなって思ってね。幸せそうで安心した」

「親友ですか……
 大丈夫、吉澤さんは優しい人です。それに梨華さん愛されてますから」


さっきまでの屈託無い笑顔が、ぐっと大人っぽく引き締まる。
すごく説得力のある言葉。


”愛されてますから”


 零れ落ちそうな涙を誤魔化すみたいに、思いっきり笑う。
美貴では支えられなかった華奢なカラダを、心を……
きっとその人なら包んでくれるのだろう。
499 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:26

「せんせー!」


 耳慣れた声が聞えた―――――
きっと無垢な笑顔で手を振っているだろう姿が浮かぶ。
ぐっと拳を握り締めて、振り返る事が出来ない……


「一緒に帰りましょ?」
「方向、まったく逆だよ」
「それでも、一緒に……」


 語尾が掠れて途切れた。
振り返った美貴が見たのは、想像してた無垢な笑顔じゃなかった―――――


 
500 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:27
「シゲさ……」
「一緒に帰ろうよ、せんせー」


涙が浮かべたままの強い眼差しが、美貴を見てた。


「家に寄って行きませんか?」
「へっ?」
「美味しい和菓子ご馳走しますよ。さゆもね?」
「はいっ!」


 まだ涙を浮かべたままだけど、それでも笑って……
美貴の腕を掴んで歩き出してくれる。
お店の手伝いがあるからと、自分の部屋に案内してお茶と苺大福を置いて
小川さんは、いそいそと出て行ってしまった。
501 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:27
「会えましたか?」
「……うん」
「そうですか……」


 小川さん、この苺大福おいしすぎるんだけど?
そう言えば、苺好きだったっけ、梨華ちゃん……
なんて思い出しそうになって頭を振って、振り払おうとしてる美貴を
不思議そうに見つめる、シゲさん。


「せんせー?」
「だから、美貴は先生じゃないってば。名前で呼びなよ」


 お茶を飲み干して、彼女を見ると美貴の隣まで移動してきて
隣にピタッとくっつく。何だろうって思ってると……


「藤本さん、泣いても良いですよ?」








 
502 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:28
 
 こんな風に甘えてばっかりで、梨華ちゃんに甘えて欲しいなんて矛盾してたんだ。
ただ泣きじゃくる美貴を、黙って抱きしめてくれる彼女は
子供だとばっかり思ってたのに。美貴よりう〜んと大人だった。



「藤本さんが他の誰かを好きでも、それでも私は……
 だから、この気持ちをずっと大切にしてても良いですよね?
 言える時がきたら――――――
 藤本さんに伝えることが出来るようになるまで、大切に心にしまっておきます。
 今は、私を見てくれなくても平気ですよ。大丈夫」


 真っ直ぐに合わされた視線から伝わってくる、強い想い……
君のことまだそんな風には思えない。甘えるだけ甘えて自分勝手だと思うけど――――――


”でも、傍には居させてください。今まで通り普通に会ってくれますよね?”


会えないなんて、偉そうに言う権利は美貴には無いよ。
503 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:28
 

 外に出たら、昼の眩しい太陽が照り付けていた。
ほんのちょっと、陽射しのおかげか暖かい。
あんなに寒かったのになぁ、朝は。



一歩下がって前を行く背中を見つめる――――――




”梨華ちゃん、大好きだったよ”

それは過去形。君に伝えた時は強がりだったけど……
いま、心から伝えたい想いは過去形に出来そうだよ。
まだ愛してるのかはわからないけど、この子のこと嫌いじゃないから。
少しづつ、自分の気持ちと向き合っていこうと思ってる。
504 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:28
 
また逢おうね。
今度はお互いに大切な人の隣で笑いながら――――――








FIN 
505 名前:『心象』M番外編 投稿日:2005/12/09(金) 19:29
 
 
506 名前:日季 投稿日:2005/12/09(金) 19:30
>>476-504 美貴番外編更新終了。
これで『心象』は全て終了です、ありがとうございました。

>>75-138 「心象」
>>142-149 「心象」Side R
>>150-187 「心象」亜弥番外編

「心象」
>>192-223 
>>229-245 
>>250-264 
>>270-291 
>>295-316 
>>322-345 
>>350-379 
>>384-410 
>>414-439 
10>>444-469
507 名前:日季 投稿日:2005/12/09(金) 19:31
>>472さま
レスの言葉が心に沁みて嬉しいです・゚・(ノ▽`)・゚・ありがとうございます。
表現力不足で、書き切れてない部分も多々あったのですが……
(*^▽^)<ほんとに、ありがとう♪ すっごく励まされました!

>>473さま
(;^▽^)<いざという時男前なの〜w
(0´〜`)<案外、アタシのが乙女なんだよね……
ほんとにレスありがとうございました!まったり頑張ります。

>>474さま
暗いのは苦手なので、ハッピーエンドです……(O^〜^)^▽^*)
(O^〜^)っ□ 涙を拭きなよ〜。w 
あったかくなってもらって本望です。レスありがとうございました!

>>475さま
何気なく書いたのですが……深いと言ってもらえて嬉しいです(^▽^)
(0^〜^)^▽^) <レスありがとうございました!



次回は前スレ「偽りの真実」番外編を更新予定。
末っ子のノノ*^ー^)主役(一応)で、他の6期メンも出ます。
508 名前:日季 投稿日:2005/12/09(金) 19:39
微妙な間違い修正・・・orz

>>500
×涙が〜

○涙を〜
509 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/09(金) 21:10
心象お疲れ様でした!
番外編も楽しめて、早い更新速度で読者としてはおなかいっぱいでした。
次回もまた楽しみで涎が…ジュルリ
ってか他の6期メンて、あとあの子しか…w
510 名前:名無し 投稿日:2005/12/09(金) 22:46
番外もよかったです
かわいくて健気だなーさゆ
次回更新も楽しみにしてます!!
511 名前:初心者 投稿日:2005/12/10(土) 01:32
更新お疲れ様です
番外編とてもよかったです
前回初めて読んだとき一気に読んだので分からなかったんですが
更新がすごく早いんですね 読み手としてはすごくうれしいです
またさゆを見たいのでおねがいします
次回更新楽しみに待ってます
512 名前:日季 投稿日:2005/12/10(土) 07:04
前スレ「偽りの真実」番外編
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/silver/1128336383/

えっと、とりあえず石川三姉妹(圭織、梨華、絵里)の末娘。のお話です。
5回ほど続きます。しばらくお付き合い頂ければ幸いです。
513 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:06



「そんなに気持ちいいのかな〜?」
「し、知らんと」
「だって〜、さゆがすっごいうっとりとした顔して話すよ?」
「だから、わからんっちゃ」


 こ、こいつぶん殴ってやりたいばい。
さっきから際どいことばっかり聞いてくるのは、
れいながまだ経験無いのを知っていっとるんやろうか?


「ねえ、れいな〜?」
「なんっちゃ……ぁぁぁあああ!?」
「急に叫んだら耳痛いじゃん」
「ええええりが、えりが急に来るから」


 名前を呼ばれたと思ったら人の前にちょこんと座り
勝手にれいなの両手を掴んで自分の前に回して、包まってきた絵里。
こいつの頭の中は意味がわからん。
514 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:06
「だって狭いところ好きなんだもん」
「はあ〜?」

「れいなのサイズがちょうどいいじゃん?」
「いいじゃん?やなか……」

「落ち着くな〜、れいなの部屋」



 絵里の家はそれはもう想像を絶するお金持ち。
庶民な自分の家とは比べるのが虚しくなるくらいに……
絵里の部屋も、とにかく広い。ぶっちゃけ部屋の中だけでも生活できそうなくらいに広い。

バス・トイレ・小型冷蔵庫完備。もちろん空調なんて自動調節されていて……
そんな部屋ふつう無いと思う。
れいなの部屋なんかこのシングルベッド置いただけで、狭くなっとるのに。


絵里の部屋には、れいなの部屋と同じサイズのベッドが……


 最初に遊びに行ったときはまず玄関で絶句した。
いや、玄関まで向かう道に絶句したと。なんね、これ?家がまったく、見えないっちゃ……って。
でも裏口からすぐ入れるとかで、それ以来表からは入ってない。
だってあの玄関までの道を見ただけで、気が遠くなる。
絵里も裏からいっつも出入りしとるし。
515 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:07

 絵里は嫌味無く悪気無く言うのだ。「れいなの家のほうが落ち着く〜」と。
それにいつでも唐突で。今日もいきなり部屋に入るなり発した一言目は……


「キスってどんな感じなのかなぁ」だった。

516 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:07
 
 
 ******
 
 
517 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:07
「久しぶりだね、れいな」
「あーっ!梨華さん」


 パーッと明るくなる表情。さゆと同い年で、小学校からの親友であるれいなは
いつだってお姉ちゃんを見るとそんな顔をする。
いつからだろう、そんな姿にちょっとムカつきだしたのは……
はぁーっと溜め息、幸せが一つ逃げていった。


 12月の朝はとても空気が冷たくて、吐き出した息をほんのり白く染める。
白い色は従姉妹を思い出す。淡く透明な雪のように白い肌。
絵里なんかよりずっと大人になっちゃって……
いまごろ藤本さんと二人で甘い時間を過ごしているのかな?


「れいな可愛いなあ、もうニャンニャンしてみて〜」
「ニャ……にゃ〜」
「きゃーーーー可愛いっ!」


 むぎゅっと抱きしめられて、真っ赤になりながらも嬉しそうにしてる。
お姉ちゃんはそんなれいなを猫撫で声で可愛がる。れいなも「にゃ〜」って……
二人が(主にお姉ちゃんが一方的に)じゃれているのを横目に、またひとつ溜め息を吐き出す。



 お姉ちゃんはいつだってズルい。
愛され上手で甘え上手で、なのに甘えさせることも出来る人。
後藤さんだって、藤本さんだって、いまは吉澤さんだっけ……みんなに可愛がられてる。
キショいとかキモいとか褒め言葉にしか聞こえないくらい、みんなの視線が優しい。
518 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:08
「絵里、拗ねないの」
「拗ねてないもん。お姉ちゃん用事があってきたんじゃないの?」
「実家に帰ってくるのに用事なんていらないじゃん」
「そうだけど……」
「それに絵里の元気な顔を見に来たんだよ」


 お姉ちゃんの笑顔はズルい。目を細めて顔全体で幸せを作り出す。
その笑顔を嬉しそうにれいなは見上げている。
絵里だってそんな風に笑えるもん。笑えたはずなのに……


「絵里の笑顔、だいすきなのにな〜お姉ちゃん」


 頭を撫でてくれる、やさしい手のひらの感触は馴染んだあたたかさがある。
知ってるよ、お姉ちゃんが妹想いで優くて……
絵里のことちゃんと大切にしてくれてるってこと。

 でも、さゆみたいに甘えられなくて。
昔からすぐに気持ちとは裏腹な可愛くないことを言ってしまう。
だって負けたくない。真っ直ぐで不器用なのに一生懸命で。そこが可愛いって愛されて……
そんなお姉ちゃんに絵里の気持ちなんてわかんないよ。


「絵里、いいこだから笑ってよ〜」

 
519 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:09
「子供扱いしないでったら!」
「絵里……」


 払いのけた手が痛い。
お姉ちゃんが悲しそうに眉を下げているのを、1秒も見れなかった。
俯いた頭上にポツリとお姉ちゃんの声が聞こえた。


「ごめんね」 
 寂しそうな呟き。きっとお姉ちゃん泣きそうな顔してるかな……
いつだってお姉ちゃんは怒らない。絵里には一度も怒ったことが無いんだ。
520 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:09
 軽快なメロディーが流れて、着信を知らせる。
さっきまで絵里を心配そうに見ていたお姉ちゃんは
かかってきた電話にすぐにでた……


「あっ、さゆ」
『待ってるのになかなか来ないんだもん』
「ごめんごめん。絵里の顔見てから行こうと思って……絵里?」



 踵を返して家とは反対の方向へ歩き出したあたしに、お姉ちゃんは
心配そうに声をかけてくれた。けど口をついて出たのは……
521 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:10
 

「お姉ちゃんなんてだいっきらい……」


 れいなと遊ぶはずだったのに。さっきまで楽しかったのに。
お姉ちゃんのせいだ、お姉ちゃんがいけないんだ……



「えり!」



れいなが呼ぶ声がしたけど、逃げ出した心は止められなかった――――――

 
522 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:10
 
 
523 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:10
「えりっ!?」

「ついてくんなー、ばかれーなー」
「なんっ、バカとはなんね。バカとは」

「お姉ちゃんにデレデレしてたらいいじゃん」
「し、してないと」


 絵里のほうが早いから、れいなは必死でついてきてる。
こんな状況で冷静だなって思うけど、絵里はちょっと手を抜いて走ってるんだぞ。
だって捕まえて欲しいんだもん、れいなに。


「た、たのむと……もう走れんって……」
「体力無いのが悪い」

「えりが……元気すぎると……」
「ほんとにいっこ下なの〜?」

「あ、あたりまえやけんっ!……えりより、若……」


まったく説得力無く息が切れて、途切れ途切れに聞こえるれいなの声。

524 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:11
「なん……なんでえりは……」


走りながら苦しいなら、喋らなきゃいいのに。


「もっと……す、素直に」


聞きたくない。いまは聞きたくないんだってば。


「梨華さ……ん、悲しそ…だっ……」


ほら、お姉ちゃんが心配なんでしょ?追いかけてこないでよ……


「えりは……えりは……」


どうせ素直じゃない。可愛くないよ……
続きは聞きたくなくて、走る速度を上げる。
525 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:11
 
「ちょっ…ま……は、はや……」


 本気で走り出した絵里に追いつけず離れていく距離。
もう自分が走ってる理由だって分らないけど、止まらない。
だって止まったら、涙が溢れてきそうだから。泣きたくなんてないんだもん。



「バイバイ、れーな」


なにやってるんだろ、絵里のバカバカバカ
れいなが見えなくなった途端、急に胸が苦しくなった――――――


 
526 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:12
 
527 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/10(土) 07:12
>>512-525 更新終了。
田中さんの方言が適当でごめんなたい……
528 名前:日季 投稿日:2005/12/10(土) 07:13
>>509さま
レスありがとうございます!
番外編以外は書き終えていたので、ついつい更新してしまいました(^〜^0;)
他の6期メン……はい、あの子でした〜w  
从*・ 。.・)<れいなが涎を拭いてあげるの。
从*´ ヮ`)っ□ これで拭くっちゃ。

>>510さま
ありがとうございます!可愛いですか?よかった〜。
从*・ 。.・)<ありがとうなの♪
まだ続きますので、まったり楽しんでもらえたら嬉しいです。

>>511さま
レスありがとうございます!
ストックあると、つい更新してしまうクセがあるようですw
藤道にハマッてますので、道重さんはちょくちょく出る予定です〜。
从*・ 。.・)<次は出るの♪
529 名前:名無し 投稿日:2005/12/10(土) 13:26
素直になれ。。。
次回のさゆ登場楽しみにしてます!!
530 名前:509 投稿日:2005/12/10(土) 15:49
(*´∀`)っ□<れいなありがとう(フキフキ
えりりんかわいいよえりりん
531 名前:初心者 投稿日:2005/12/10(土) 23:11
更新お疲れ様です
「偽りの真実」番外編ですかどんどん期待します
しかし作者さんの藤道にはまって何回も何回も読み返してしまいました
ちょっとはまりすぎてヤバイかなって思うほどに
次回更新も楽しみに待っています
532 名前:日季 投稿日:2005/12/11(日) 20:07


533 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:08
 
「気付いたら藤本さんのこと考えちゃうの」

腕の中で甘えるように、そんなセリフを囁く。

美貴が玄関に入るなりぎゅーっと抱きついてきて……
開口一番にそう伝えてくれた。


「授業中もね、ふとした瞬間に考えちゃうの」
「そっか……」

「藤本さんは?」
「美貴?」

「バイトのときとか、大学の講義のときとか……」
「うん、考えちゃうね」


 何気ない瞬間に重さんのこと考えてるよ。
なにしてるのかな?とか、今度どこに連れて行ってあげようとか。
きっとそれを伝えたときの反応が、また可愛いんだろうなとかさ。

 重さんってば、気持ちを素直に表すから。
反応が純粋で可愛らしいんだよね。
534 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:08
「ほんとに、ちゃんとさゆみのこと想ってくれてますか?」
「ほんとだってば」

「えへへ、嬉しいの……」


 心の底から嬉しそうに呟く姿が可愛くて
キスしようとしたら、やんわりと押し戻された。


「これからお姉ちゃん迎えに行くんです」
「お姉ちゃん?」

「はい。一人暮らししてる、さゆみのお姉ちゃん」
「あぁ、帰ってくるの?」

「さゆみの顔を見に来てくれるって」


 嬉しそうな重さんを見て、ちょっと複雑。
恒例のお泊りを楽しみに来たんですけど、美貴……
535 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:08
「夜には帰るらしいので、心配ないの」
「別に心配なんて……」

「さゆみは、藤本さんのものなの……」


 さっき美貴のこと押し戻したくせに、甘えるように腕の中に身を預けてくる。
いちいち可愛いことをしてくれる、年下の彼女は。


「お部屋で待っててくれて良いですよ」
「うん。昼寝でもしようかな」

「適当に漫画とかもありますから」
「ほい、気をつけていってらっしゃい〜」


 ひらひらと手を振って見送ってると、ドアを開けかけてピタっと止まった。
重さんは何か思い出したのか、くるっと回転してこっちを見た。

 今日もスカート短くて、へへっ……
なんて頬緩めながら見ちゃったのに気付いたのか、ちょっと睨まれた。
慌てて口元を引き締めて、誤魔化し笑いをしてみる。
536 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:09
「お姉ちゃんと一緒に帰ってきますけど……浮気しないでくださいね」
「しないから……」

「だってお姉ちゃん可愛いんですよ」
「そうなの?」

「さゆみの次ですけど」
「次かよ……あっ、もしかしてこないだ美貴が次の次だったのって」

「はい。さゆみ、お姉ちゃん、藤本さんの順番です!」
「あははっ、なるほど……」


 可愛い順とか別に気にしてないけどさ……
ちょっとはランク上がったりしないもんかね?
思いっきり言い切ったぞ、この子。
537 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:09
「でも、好きな人ランキングは……藤本さんがダントツ1位なの〜!」
「・・・・・」

「もう、なんか言ってください」
「ちょっと……かなり嬉しくてやっばい」

「藤本さん?」
「ちょっと遅れるとかダメ?」

「ダダダダメなの。無理ですっ!なに考えてるんですか〜」
「だって可愛いことばっか言うんだもん」

「お姉ちゃん来ますから……」
「迎えに行くんでしょ?」

「だから梨華お姉ちゃんが迎えに来て、一緒に行くんですってば……」
「ちょっとくらい、いいじゃん……」


 抱きしめようとした美貴の腕をすり抜けて、重さんは梨華ちゃんに電話した。
あわわわわ、携帯から聞こえるのは確かに梨華ちゃんの声だった。
くそっ、梨華ちゃん怖くて何も出来ない自分がムカつく……



 電話を終えた重さんに、「大人しく留守番してますよ」って言うと
「いい子にしててくださいね」なんて頭を撫でられた。
これじゃ、どっちが年上なんだかワカンナイや。
538 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:10

 ◇
 
539 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:10
「藤本さん!」
「は、はい!って絵里、いきなり来たらビックリするじゃん」


合鍵を見せて、えへへへ勝手に入っちゃいました〜って…… 
ピンポンを鳴らしなさい、ピンポンを。
従姉妹だからって勝手に入ってくるんじゃない。


「あれっ、さゆは?」
「重さんはさっき梨華ちゃんが来て……」
「お姉ちゃんが来たんですか?」


急にムッとした絵里。
絵里にしては珍しく表情が硬い。


「どうしたの?」

「藤本さんってお姉ちゃんとも……
 その、そういうことしたことあるんですよね?」

「そういうこと?」


 一瞬意味が分らずに聞き返して絵里を見たら、真っ赤になっていた。
恥ずかしいなら聞かなきゃいいのに……
540 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:10
「そんなにお姉ちゃんっていいですか?」

「やっ、いいかって……
 そういう観点で見るなら、かなり素晴らしい身体なんじゃないかと」

「身体?キスに身体って関係あるんですか?」

「えっ?キスのことなのか……
 いや、無いとも言えないような。無いかな……どうだろう」

「……絵里じゃダメ?」

「はい?」

「絵里にも教えてください」


目を閉じる絵里。意味が理解できない美貴がいて……
危険だ逃げろって、頭の中で点滅するシグナル。
541 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:11
 

 えっとここは重さんの家で、美貴は確か留守番してて。
ベッドの上で漫画を読んでました。
そしたらいきなり絵里が来て……いま目の前に絵里がいて……
えっとなんで目とか閉じてるんだろ?



なんだか回らない思考。
ガチッと固まってしまった美貴が何も出来ないでいると、
絵里が薄く目を開いた。
542 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:11

 スッと髪に指を差し込まれ微笑まれる。
それはいつものへらへらした笑顔ではなくて……
なんて言うんだろ、うすく微笑み……女の顔をしていた。


 緊張で、喉の奥に何かがはりついたみたいに声が出ない。
絵里は熱っぽく美貴を見つめたまま、視線を逸らそうとはしない。


なんだか頭がボーっとしてきた……

 
543 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:11
 


あと数センチ美貴が動けば、唇が触れてしまう――――――




 
544 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/11(日) 20:12
 
545 名前:日季 投稿日:2005/12/11(日) 20:13
>>533-543更新終了。川V-V)<続きます。

>>529さま
レスありがとうございます!
从*・ 。.・)<登場なの♪

>>530さま
レスありがとうございます!
リd*^ー^)<絵里かわいいですか〜?嬉しいです♪

>>531さま
レスありがとうございます!
読み返してくれたんですか?めちゃめちゃ嬉しいです(VvV*从
そう言ってもらえると、ものすごい励みになります。
从*・ 。.・)<がんばるの♪
546 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/11(日) 21:05
気になるところで・・・
続きをマターリ待ってます
前の更新の>>514えりりんのベッドワロスw
れいなドンマイ?!
547 名前:名無し 投稿日:2005/12/11(日) 22:44
>533さいしょの台詞にヤラレタ。。。
さゆ、かわいいよさゆ
ミキティーがんばるんだ!!!
548 名前:名無し飼育 投稿日:2005/12/12(月) 00:15
こらっ美貴ちゃん!
549 名前:初心者 投稿日:2005/12/12(月) 00:18
更新お疲れ様です  でもそんな所で止めちゃ
ミキティ・さゆ可愛い〜〜
しかし今回は小悪魔えりりん・・・?
ミキティだめだよミキティ
次回更新楽しみに待ってます
550 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:06
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
551 名前:日季 投稿日:2005/12/12(月) 10:36
>>550了解いたしました)
 
 
 
552 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:37
 
「ねえ、藤本さん……」


 喉がカラカラに渇いてる……
何か言わなきゃ、止めなきゃ、やばいよね、やばいって……
少しだけ後ろに顔を引いて、唇の距離を少しでもいいから離す。


「…え、絵里ストップ!?」


なんとか絞り出した声は、情けないほどに裏返った。
もう手には、尋常じゃないほどの汗が……


「教えてください、絵里にも……」
「む、無理だって……」


 甘えた声と潤んだ眼差しで、また距離を詰められる……んぐぅ……
至近距離の誘惑に、背中にイヤ〜な汗がつたう。

553 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:37
「さゆには内緒にしますから」
「や、甘い声でお願いされても……」


 一瞬呑まれそうになった絵里の瞳の中。
目に留まったのは、うっすらと浮かぶ涙。それを見て我にかえる……
すこしだけ赤い目。もしかして、ここに来るまで泣いてた?



そっと絵里の肩を押して、なんとか冷静さを取り戻す。


「お願い、藤本さん……」


 悲しそうに微笑んだ絵里は、なおも美貴に迫ろうとするけど
明らかに最初の威勢は無い。ダメだよって強い意志をもって見つめ返したら
諦めたのか、絵里はふっと視線を落として俯いた。
554 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:37
 

「魅力ないのかな……」


 こてっと美貴の肩に額をつけて、絵里はそんな風に囁いた。
彼女の口から切ない溜め息がこぼれ、居た堪れなくなって咄嗟にぎゅっと抱きしめた。
湿った感触がいつしか肩に広がっていた。泣いてるんだ……



 けど可哀想になんて同情心で、絵里とキスするわけにはいかない。
いままでの美貴なら、そりゃ美味しくいただきます……
とかいう展開でもオカシクは無い状況だったけど、それでもいまは重さんがいる。
あの日の戦友である携帯が見てるじゃん。滅多なことはできないよ。
555 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:38
 
 声を殺して泣く絵里には、いつもの騒がしい雰囲気は微塵も無かった。
儚さを漂わせる雰囲気は、どこか梨華ちゃんとダブって……
あぁ、やっぱ姉妹なんだなって思った。
 
556 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:38
「絵里、初めてならなおさら大切にしてみたら?」


 自分からキスしようとはしなかった絵里。
きっと美貴からしてくれるのを待っていた。
だったら、ちゃんと自分からしてあげたくなるような人とすればいい。


 さっき呟いた「魅力ないのかな」は美貴への問いかけでは無かったように思う。
きっと他の誰かを……大切な誰かを思い浮かべてのヒトリゴトだろう。


「好きな人がいるんでしょ?」

「好き……なのかな?
 ちっちゃいし目つきたまに悪いしへタレでにゃ〜とか言うし」

「へタレでにゃ〜ってなに?」

「あっ、こっちの話です」

「どんな話だよ」


やっと笑った絵里を見てホッとする。
やっぱりそうやって笑ってるほうがいいよ。 


「あっ……」
「ん?」

「似てるんだ……」
「似てる?」

「藤本さんに雰囲気とか似てて……」
「そっか」


けっこうイイやつなんじゃん?って思ってたのに……


 
557 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:39
 
「へタレで目つき悪いところだけ似てる……」
「こらこら」


 失礼だな。笑顔が可愛いとか重さん言ってくれるんだぞ!
ミキティなんて可愛らしいあだ名だってあるんだぞ……
それに黙ってたらすっごい凛々しくてカッコイイって言われるんだい……


まっ、でも絵里が笑ってくれたし いっか。



「漫画でも読む?重さんのだけど」


ふるふると首を振ってから、絵里はあくびをひとつ……


「眠い?」
「昨日あんまり寝れなくて……
 今日、遊ぶ約束してたから。嬉しくて寝れなかったんです」


そんなに楽しみなことがあったのに、どうしたんだろうって思ったけど
聞いちゃいけない気がして、「そっか」とだけ答えておいた。
558 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:39
「ちょっと寝ちゃっていいですか?」

「うん、いいけど……」
「すぐに起きて帰りますから」


 さゆには内緒にしてください……
そんな風に呟いて、絵里は瞼を閉じた。
かわいい寝顔に、心の中でおやすみって呟いた。





 
559 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:39

 ◇
 
560 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:40
 
「藤本さんっ!」
「うわっ、おかえり」


 物凄い勢いで扉が開いて、飛び上りそうなほどビックリした。
にしても、なにその無表情?重さん、目が据わってて怖いってば……


「おかえり、じゃないの」
「ん?」



 あーーーーー!?なんちゅう格好だよ……
美貴にひっついたまま寝てしまった絵里。これは違うんだ、ベッドにいるけど
ほら電車とかで隣の人が寝ちゃったから、肩を貸してあげました……みたいな展開でですね。
たまたま重さんのベッドで話しこんだから、この状況なだけで。
リビングで話すべきだったなとか考えても、いまさら物凄い遅いし。


 頭が混乱して言葉が出てこない。
なおも重さんの冷たい視線が美貴を射抜く……




 
561 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:40
 

美貴にどうしろと言うんですか?

絵里、暢気に寝てる場合じゃないよ。えりーーー!?





 
562 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/12(月) 10:41
 
563 名前:日季 投稿日:2005/12/12(月) 10:42
>>552-561更新終了。川V-V)<まだ続きます。

>>546さま
レスありがとうございます。たまには焦らしてみたり……
从*´ ヮ`) <きっと狭いなりの良さがあるはずっちゃw

>>547さま
レスありがとうございます。道重さん可愛いと言ってもらえると嬉しいです。
从*VvV)<がんばっただろ?がんばったのに……

>>548さま
レスありがとうございます。从*VvV)<む、無実だ……

>>549さま
レスありがとうございます。なんとなく焦らしてみたりw
藤道可愛かったですか?嬉しいです〜。楽しんで頂けるように頑張ります。
リd*^ー^)<えりは必死だったんです…
从*VvV)<耐えたのだ。耐えたのに…
564 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 12:48
ミキティー災難つづくねミキティーw
続きまたーり待ってます
565 名前:名無し 投稿日:2005/12/12(月) 18:59
更新おつです
ここのミキティーなんかカワイイ
ミキティーのがんばりが報われる日はくるのか?!w
566 名前:初心者 投稿日:2005/12/13(火) 00:03
更新お疲れ様です
ミキティよく頑張った、戦友の携帯もGJ
本編読み返してみると番外編の伏線をちらほら発見 作者さんすごいなぁとしみじみ
でもミキティどっか抜けてるぞ頑張れ
次回更新楽しみに待ってます
567 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:48
 



「美貴ちゃん!」

 後から飛んで入ってきた梨華ちゃんの声に、
絵里が目を覚ましたと同時に、美貴は脳天に衝撃を感じた……
誤解だってばって言うまもなく、絵里を抱き寄せて美貴を睨む梨華ちゃんが見えた。
痛い、素で痛い……重さんは怒って下に降りていってしまった。


「あれほど絵里には手を出さないでって……」
「ちちちがうって、そんなんじゃないんだって!」

「言い訳しないで!なんでベッドにいるのよ」
「何でって……漫画読んでてそれで絵里が来て……」


「美貴ちゃ」
「お姉ちゃん……違うの。藤本さんは悪くない」


梨華ちゃんの言葉を遮って絵里が小さく呟いた。


「絵里?」
「絵里が勝手にきて、それで……」


 さっき起こったことを絵里は梨華ちゃんに話してくれた。
黙って聞いていた梨華ちゃんが、絵里のオデコを指で弾いた。
568 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:49
「絵里、ダメだよ。もっと自分を大切にして……」
「うん、ごめんなさい」

「美貴ちゃんに襲われてたら、私どうにかなっちゃってたよ?」
「お姉ちゃん……」
「絵里には悲しい想いとかして欲しくないの、できるだけ楽しく生きて欲しい」


 なんか聞き捨てなら無いセリフがあったけど、梨華ちゃんの妹を想う気持ちは……
かなりの姉バカっぷりだ。
圭織さんにも梨華ちゃんにも愛されてるんだよ。そんな絵里なら、きっとうまくいく。
誰か知らないけど、恋の相手はきっと絵里のこと嫌いなはず無い。




「お姉ちゃん、さっきはごめんね……それと」

”すき”嫌いじゃないもんって、絵里は梨華ちゃんの腕の中で
照れくさそうに呟いた。その言葉に梨華ちゃんはふたたび絵里をぎゅーっと
抱きしめて、涙を浮かべた。とても嬉しそうに口元を綻ばせながら。
なんて美しい姉妹愛……っていうか、甘すぎじゃないお二人さん?
569 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:50

「で、美貴ちゃん」
「はい?」

「二人でさゆにちゃんと話してきてね」
「うん……」


素直に頷くと、絵里を抱きしめたまま
梨華ちゃんは美貴を見て微笑んだ。


「美貴ちゃん大人になったんだね」
「そうかな?」

「だって間違いなく前の美貴ちゃんなら……」
「はいはい。襲ってましたよ……どうせ美貴はえろいです」

「誰もそこまでは言って無いじゃん」
「言ってるのと同じだよ……」


 普段ならこっから口喧嘩してただろうけど、いまは気力がない。
だってこれからの方が大変そうなんだもん。
絵里もちょっと不安なのか、目が合うと情けなく笑った。






 
570 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:50

 怖い、なにその責めるような目は……
重さんの怒りは納まってないようだ。
それと……目を見開いて美貴を凝視している人物に見覚えは無い。
あっ、あれがお姉ちゃんか。


「き、気まずいなぁ……非常に気まずいですぅ」
「や、絵里。美貴のほうが気まずいから……」


 リビングのソファに座らず、ラグの上に正座している美貴と絵里。
なんとなく、謝るシチュエーションはこんな感じかなぁって……
二人ともなぜか同じ座り方を、意識せずしていたのだ。

変なところで気が合うよね、美貴たち。
571 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:51
「うちの妹に手を出したのがこの細っこい顔ちっちゃい人なんか?
 その上、親友にまで手を出すって信じれんって。あーしのマコトなんて一途やし
 へタレやけどあの時は強引でちょっと嬉し……コホンっ。
 そうそう笑った顔が可愛いのに、こうキリッと黙ってジッとしてたら
 ものすごいカッコイイでの。もう何時間見てても飽きんくらい素敵なんよ……」


 えっと早口なのでよく分からないけど、
途中からただの恋人自慢っぽくなってませんか?

重さん以上の電波系姉ちゃんだったとは……
黙っていれば綺麗なお姉さん風だったのに。



「愛ちゃん話が逸れてきてる……」
「あーマコトも連れてくればよかったわ。そや電話しよ」
「ちょっ、いまから?愛ちゃんそれよりさゆ……」


 お姉ちゃんは愛ちゃんというらしい。
話を戻そうと梨華ちゃんが話しかけたのだが、気にするでもなく愛ちゃんは重さんを見て
ニッコリ微笑んだ。その目はとても穏やかで優しそうだった。
572 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:51
「さゆも大人になってんやったら、自分の力で解決せなあかんよ」


妹に向けたまなざしは暖かい。けど言葉は少しだけ突き放すように発せられた。


「お姉ちゃん……」
「人の力ばっかり頼ってたら、なにも解決せんでの。
 この人信じてるんやったら、ちゃんと話せなあかん」
「うん……」
「離れてても信じられる人なんやろ?だから好きになったんとちゃうんか?」


ゆっくり妹の髪を撫でて、愛ちゃんはもう一度微笑んだ。


「と言うことでマコトに電話するで、後は梨華殿に任せた!」
「らじゃっ!って愛ちゃんなに逃げてるのよ〜!?こらっ、まてっ」


そのまま放置かよ……ってか結局、梨華ちゃんも逃げた……
残されたのは――――――



 
573 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:52

「誤解なんだよ」


 ものすごい情けない顔で謝ってる美貴を、見下ろして立っていたのに
すっと視線を合わすように、重さんは目の前に座った……
怖いよ〜、なんか目が据わってるんだってば。


「そんなこと、わかってるの」
「へっ?」


 はぁ〜って溜め息をついて、重さんはグッと美貴に擦り寄ってきた。
ものすごい至近距離で見つめられて、溶けそうになる。
こんな時に不謹慎ですけど、すっごい可愛い。


「許せないのは、藤本さんの鈍感なところなの」
「えっ?」
「なんで絵里に肩なんて貸しちゃうの?……ダメなの」


 さゆみのなのに、藤本さんのぜんぶさゆみのなのに……
そう呟いて美貴の腕の中で甘える。
絵里を見るとちょっと気まずそうに、視線を泳がせていた。
 
574 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:52
 うん、ちょっと甘い空気漂ってきてるよね。
重さんってば絵里の存在とか、忘れてない?


「さゆみのこと好き?」
「はい?」
「好きですか?」
「……うん」

 じーーーーっと見つめられて、なんか変な汗が……
なにこの誘ってる眼差しは……


「藤本さん、だいすき」

 スイッチ入った重さんは、何度も好きだと伝えてくれる。
こうなったら美貴が言うまで止まらないんだよね――――――
言うから、ちょっと絵里放置するのやめようよ……


「さゆみが……」

”すき”
美貴の言葉を聞き終えると、満足そうに微笑んで頬にキスされた。
焦った、唇にされると思ったから……
絵里は見てられないって感じで、違う方向を向いて固まっている。
 
575 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:53
 
「そうだ……忘れちゃいけないの」


 パッと美貴の腕の中から飛びのいて、携帯を取り出した重さん。
やっぱ唐突だ、この子は……さっきまでの甘いムードを一瞬で消してしまった。
いくら経っても慣れない、さゆペースに戸惑っていると
絵里が重さんと一緒に立ち上がっていた。


「さゆ、ごめんね……」
「もう忘れるからいいの。それより反省してる?」
「うん、すっごいしてる」
「だったら話は早いね、もう帰ってほしいの」


えーーーー?すっごい怒ってるじゃん?と思ったけど
意外と普通の顔して、絵里に笑いかけた重さん。
絵里もつられてふにゃりと笑った。


「さゆみには、藤本さんとラブラブタイムが待ってるの……」
「う、うん。そうだよね、絵里邪魔だよね」

「絵里のこと探してる人がいたの」
「えっ?」

「誰とか言わなくても分るでしょ?」
「・・・・・」

576 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:53
 重さんは携帯で誰かにかけたようだった。
もしかして絵里の好きな人とか?だよね、この状況だと。


「れいな?」

『なん?さゆどーしたと』

「いま絵里が来てるんだけど……」

『えりのことは知らんと』

「そんなこと言っちゃっていいの?知らないからね……」


 絵里はどうしていいのかワカラナイって顔をして、重さんを見ている。
重さんは絵里に向かって、もう一度微笑んで見せた。

577 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:54
なんとなく絵里が好きな子を呼び出すのかな?
とか考えてはいたんだけど……


次の瞬間、重さんが発した一言を聞いて美貴は眩暈がした……




「絵里、藤本さんと寝ちゃったの」






   


578 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 18:54
 
579 名前:日季 投稿日:2005/12/13(火) 18:56
>>567-577 一旦更新終了。
川V-V)<次で最後。たぶん今日中に更新予定です……たぶんw

>>564さま
レスありがとうございます。ちょっと、ここの藤本さんは苦労人ですね。
从*VvV)<慰めて?w

>>565さま
レスありがとうございます。報われる日は……道重さん次第ですね?w
从*VvV)<可愛いとか……照れるのだ。

>>566さま
レスありがとうございます。伏線に気付くほど読んでいただけて嬉しいです。
(自分で書いてて忘れてる伏線もあったりしますがw)
从*VvV)<意外とボケキャラですw
从*・ 。.・)<そんな藤本さんが可愛いの
580 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/13(火) 19:18
さりげなく重姉がキタw マイペースな感じワロス
次の更新まってます
581 名前:名無し 投稿日:2005/12/13(火) 22:07
みきさゆの>>573-574が甘くてカワイイ
石川妹に甘すぎだし
道重姉妹は揃ってマイペースですねw
つづきマターリ楽しみにしてます!!
582 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:56




『・・・・・嘘っ』

「本人に確かめてみればいいと思うの」

『さ、さゆはそれでどーしたと?なんでそんな冷静なん?」

「切るからね。絵里と話したほうがいいと思うの」

『ちょっと、さゆ!ちゃんと話』

「さゆみは、これから藤本さんをお仕置きするから忙しいの。切るからね」

 そこで一方的に切ってしまった重さんは、とても清々しい表情をしていた。
っていうか美貴ってばオシオキされるの?ちょっとビビッてる美貴の隣では
絵里がポカーンって口開けて固まっている。

583 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:56

「さゆぅ、絵里寝てなんて……」
「寝てたじゃん。さゆみは素直に事実を言っただけなの」
「あっ……」

 そっか、絵里はたしかにただ寝てただけだ。
あの言い方じゃ相当な誤解を招いたと思うけど。
半泣きの絵里の頭をやさしく撫でながら、重さんは絵里の背中を押した。


「ほら、もうすぐ来ると思うから」
「さゆ〜、無理無理無理無理」
「だめ。さゆみの藤本さんを誘惑しようとした罰なの」


やっぱ怒ってんじゃん重さん……


「素直になるの、絵里」
「……わかった」


 渋々といった感じで頷いた絵里が、歩き出そうとした時……
玄関のチャイムがけたたましく鳴った。
重さんが帰ってきたときに、鍵をかけ忘れたらしく
すぐに扉が開いて、バタバタとものすごい勢いで誰かが入ってくる足音が響いた――――――



 
584 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:57
 

 ******
 
 
585 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:57
 

「れーな、だいじょうぶ……」
「へ、へーきったい」
「もう弱いんだから、話も聞かないで行動するからだよ?」
「だって、絵里が襲われたんかと……」


さゆが電話してからすぐにれいなが来た。
そして、絵里がちょっと涙目だったのを見てなにを勘違いしたのか
れいなは……



――――――――――――
―――――――――
――――――
――――
――


586 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:58
「……えり?泣いと……貴様ーーー!?」

 プチって切れちゃって、藤本さんに掴みかかろうとした……
んだけど、逆に思いっきり投げられたんだよね。
柔道技?どこで習ったのか知らないけど、見事に決まっちゃって。
ボー然とするれいなの目にちょっと涙が滲んでて……


それを見た絵里はつい――――――



 
587 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:58
「えりだって藤本さんのこと叩いたっちゃ」
「だって、れーなが投げられたの見てつい……」


 そう咄嗟に藤本さんの頬を叩いてた。
自分でもビックリしたけど、さゆもビックリ。
藤本さんはもっとビックリしてたけど……


「れ、れーなぁ」
「なに情けない声だしてると?」

「どうしよう、藤本さん怒ってるよね」
「さゆが怒ってなかったし、大丈夫っちゃろ」

「でもぉ」
「平気やけん。さゆが大丈夫って言うとったばい」


 今度会う時に高級なお肉プレゼントしよう。
ママに言ってうんと高いの用意してもらおう。
焼肉食べ放題のチケットも用意してもらおう……

 
588 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:59

「それと……誤解してるみたいやけん言いたいことがあると」

 なんだか真っ赤になってるれいな。
どうしたんだろうと顔を近づけると、慌てたように距離をとる。


「ちかすぎっ」
「だって、れーな真っ赤だもん」

「あ、暑くなか?」
「そーかなぁ?室温は自動調整されてるはずだけど……」

「それより、話聞いて欲しいと」
「あっ、うん」


 素直に頷くと、れいなはぎゅっと拳を膝の上で握り締めた。
っていうかなんで正座してるの?
589 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:59
「り、梨華さんのこと」
「聞きたくない」

「ちょ、聞きんしゃい。梨華さんのこと誤解して…」
「お姉ちゃんはそりゃ可愛くて綺麗で素直でイイ体してるよ……」

「はぁ?なに言うとるん?それにイイ体って……
 そんなん、れなに関係なかやん」

「なんで、関係あるよ!れーなお姉ちゃん好きじゃん」
「そりゃ好きやけど……えりが誤解しとるんは、れなの梨華さんへの想いばい」



 好きやけど違うから。ちょっと黙って話聞いてほしい……
れいなは泣きそうな顔でそう訴えた。 



「……憧れったい。恋愛やなか」
「えっ?」

「あほやけん、えりは……」
「むぅ……あほじゃないもん」
590 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/13(火) 23:59
「素直じゃなくっても、えりはかわいか」
「……れーな?」

「ちょっとひねくれてて、変わってるくらいが丁度いいっちゃ」
「それ褒めてるの?」
「褒めとる」
「なら、いいけど……」


恥ずかしくってプイッと顔を背ける。


「憧れは恋愛にはならんやろ?憧れは、憧れのまま終わると」
「そんなんわかんないじゃん。好きには変わり無いじゃん」


「まったく違うばい!」


 強めに否定したれいなに、こっち向いてとお願いされた。
視線を合わすのが妙に照れくさい。れいなは絵里をまっすぐに見つめてくれてる。
 
591 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/14(水) 00:00

「れなは、え、ええりのこと……」

「噛んだ」
「そこは聞き逃せっ」

「そんなれーなが好き」
「なななんっいいよーとや……先にいったらあかんばい」


 激しく凹んでしまったれいな。やっぱりかわいい〜。
絵里が「巻き戻し〜」なんて言いながら腕をぐるぐる回すと
苦笑しながらも、一緒に巻き戻しポーズ(?)をしてくれた。

仕切りなおしと言うように、れいなは大きく深呼吸を一回した。
 
592 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/14(水) 00:00

「えりのこと、バリ好いとー」

「水筒?」


 真っ赤なれいながかわいくて、それにちょっと恥ずかしくて嬉しくて……
ついつい聞き間違ったフリ……


「しばく……」
「や〜、こわいぃ〜」
「怖いっておもっとらんやろっ!」


 へへへへへへ〜って笑うと力なく笑い返してくれた。
ついでに「えりには敵わん」なんて呟いた。
 
593 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/14(水) 00:01

「もう1回言って?」
「もう言わん」

「なんでよ〜」
「えりが悪いと。人が真剣やのに茶化すから」

「もうしないから〜」
「知らんもん」

「あーーーー!?」
「な、なんね……」


 指差した方向に素直に顔を向けるれいな。
隙だらけのほっぺに、チュっとキスするとフリーズしてしまった。
解凍はもうちょっとしたらしてあげるね。今度はもっと熱いキスで……





 
594 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/14(水) 00:01

今年の誕生日は、一緒に過ごせそう――――――

 先を越されてばっかりの従姉妹の悔しがる顔が浮かんで、頬が緩む。
さゆは来年にならないと誕生日一緒に過ごせないもんね?
い〜っぱい自慢してやろうっと……











おしまい。
595 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/14(水) 00:02
 

 ******
 
 
596 名前:恋愛進行形……?おまけ1 投稿日:2005/12/14(水) 00:02

「痛いよ〜」
「れーなを投げたりするからですよ……」

「イタイイタイ〜、さゆみどうにかして……」
「もう、甘えんぼ」

「いいじゃん絵里たち帰ったんだしさ〜」
「痛いの痛いの飛んでいけ〜。れいなのところに行っちゃえなの」

「ん〜ありがとー」
「藤本さん、可愛いの」


 ぎゅっと抱きついて柔らかい感触に顔を埋める。
あったかい。やっぱ重さんは暖かくて気持ちいいや……
髪を撫でる指が優しくて心地よく、なんだか寝ちゃいそうになる。


けど、待て。
美貴は今日あったことを思い出してみる。
597 名前:恋愛進行形……?おまけ1 投稿日:2005/12/14(水) 00:03
「今日、すっごい厄日だよ美貴」

はぁーーーーって溜め息とともに項垂れる。
よく考えたら勘違いされっぱなしの1日だった。




「藤本さん!」


名前を呼ばれて顔を向けた瞬間キスされた――――――
唇にしっかりと……



「これで、良い日になるの」
「うん、そだね」


そっと抱き寄せて、今度は美貴から口づける。
もっと熱い夜を期待しちゃってもいいですか?
なんて思ってたけど、すっかりがっつり忘れてました。



 
598 名前:恋愛進行形……?おまけ1 投稿日:2005/12/14(水) 00:03

「ひゃーーー!!ちょっと梨華殿みた?」
「……見ちゃったわよ」


そう重さんの実のお姉さまと、従姉妹のお姉さまがいたことを
すっごいビックリ顔と呆れた顔……


「なななっ!?居るなら居るで声かけてよ!」


「だって美貴ちゃんったら甘えてたし……」
「さゆがものすごい甘い顔してたでの……」


重さんは平然とした顔で『だって愛し合ってるんだもん』なんて
元気よく宣言してくれた。
599 名前:恋愛進行形……?おまけ1 投稿日:2005/12/14(水) 00:04
「あかんわ、マコトに逢いたくなってきたから帰ろ」
「私も吉澤さんに逢いに行こう……」


二人ともそう呟いて帰っていった。
梨華ちゃんはいいとして……重さんのお姉ちゃんは何しに来たんだ?
結局、実家に居たのってものすごい僅かな時間だったような……


600 名前:恋愛進行形……?おまけ1 投稿日:2005/12/14(水) 00:05

でもいっか。
とりあえず何もかも忘れて美貴は、腕の中の愛しい人と……
うん、まあ甘い夜でも過ごしちゃいますか?









おしまい。
601 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/14(水) 00:05


 ******
 
 
602 名前:恋愛進行形……?おまけ2 投稿日:2005/12/14(水) 00:06
 



「ひとみちゃん、遊んで〜」
「あたし眠いんですって……」
「ん〜やだ〜、だってだって絵里までラブラブなんだもん」
「えり?」
「あっ、妹」


う〜ん、なんて唸って暖かいココアを前に何かを考える石川さん。



「もうすぐ誕生日なんだよね〜」
「そうなんですか?」
「23日ね……クリスマスイヴイヴ生まれなの」
「はぁ……」



 ココアをふーふーして一口飲んだ後も、何かを考え中。
あっ……アヒル口になるんですね、考え事すると。可愛いかも……
603 名前:恋愛進行形……?おまけ2 投稿日:2005/12/14(水) 00:07
ぽーっと見つめてたら、視線が合ってしまってちょっと照れくさい。



「もう、あんまり見つめちゃヤダ〜」
「だって可愛かったんです、石川さん」
「いや〜ん、ひとみちゃんったら!」



バシバシと腕を叩かれて……痛い、痛いですってマジで。
顔をしかめたのに気付いたのか、石川さんは叩くのを止めた。
ちょっとジンジンするけど、やさしく腕をさすられると
それだけで、なんだか痛みが緩和されるから不思議だな。



「ごめんね、つい嬉しくって」
「へーきです。それより妹さんがどうのって?」

「あぁ、うん。誕生日だからさー、恋人に……あっ、付き合ってるのか微妙な関係なんだけど
 二人とも可愛いの。相手の子もね、ちっちゃくって華奢でねかわいくて……」

「話逸れてますから」
「そうそう。それでね、その恋人に誕生日だから〜」


 パッとあたしを上目遣いで見つめて恥ずかしそうに頬染める……
ちょっと誘わないでくださいよ。かなり可愛いんですけど?
あたし、頭の中がおめでたくなってきちゃったな。石川さんのおめでたいのが
うつった気がする……
604 名前:恋愛進行形……?おまけ2 投稿日:2005/12/14(水) 00:09
「絵里が、『れーなが欲しい!』とか言わないか心配で……
 キャーーー!どうしよう絵里が大人になっちゃう!」


 またバシバシが再開されて、叩かれる……
ふつう言わないと思いますよ、欲しいとかってそんな具体的なこと。
何を想像してるのか一人で盛り上がってしまった石川さん。


「いや、あの腕痛いですって……」

「ふぅ、どうしよう……絵里になにかアドバイスしたほうがいいかな〜?」
「……いやそれは」

「姉としてはもうちょっとじっくり付き合って欲しいのよね」
「だから……」

「でも今の子って案外進んでるんだよね。さゆなんて……」
「石川さんってば」

「美貴ちゃんとしちゃったんだし……」
「・・・・・」

「絵里だって……あ〜でもなぁ案外へタレっぽいしな〜」
「・・・・・」

「やっぱりまだ早いよね……早くは無いのかな〜」
「・・・・・」

「どうしよう、もうすでにそんな関係だったりして……
 早いよ、それは早いよね。喧嘩してたもんね」
「・・・・・」

「喧嘩した後って……いい関係になっちゃったりしそうだよね。
 いまはもうラブラブだったり?あーもう心配だな…………」


 止まりそうに無いヒトリゴト。すでにあたしの存在忘れてませんか?
遊んでとか言って、かまって欲しそうだったのに……


605 名前:恋愛進行形……?おまけ2 投稿日:2005/12/14(水) 00:09

「梨華ちゃん!」

 少し大きめの声で呼ぶと、あたしの声にやっと我に返って石川さんは
えへっなんて悪びれずに、はにかんだ……
その笑顔に撃たれて、眠気吹っ飛んじゃいました。責任とってくださいね?



「ひとみちゃん……」


 こてっと甘えて寄りかかるタイミングでやられたって思った。
まんまと誘われてしまった。
最初から計算してたかどうかは不明だけど、この人わりと策士だった……
現にあたしを呼ぶ声が、甘くてエロい。


606 名前:恋愛進行形……?おまけ2 投稿日:2005/12/14(水) 00:10
 
そうだな。
聖夜はそういう日ではないですから、一緒に過ごすだけにして……
今のうちに愛しあいましょうか?










おしまい。
607 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/14(水) 00:12
 
608 名前:恋愛進行形……? 投稿日:2005/12/14(水) 00:13
 
609 名前:日季 投稿日:2005/12/14(水) 00:14
>>582-594「偽りの真実」番外編完結です。
(前4回のまとめ→>>512-525>>533-543>>552-561>>567-577

れなえりを書ききれなくてスイマセン……orz
慣れない事はするものじゃないですね(T▽T;)


>>596-600 番外編おまけ、みきさゆ。
>>602-606 番外編おまけ、いしよし。



>>580さま
レスありがとうございます。重姉びっくり顔で登場しましたw
川*’ー’)<普通に話したつもりやってんって。

>>581さま
レスありがとうございます。藤道は甘いのが好きです。
石川家は基本的に、みんながみんな甘いですw
川*’ー’)<さゆよりマシやし。
从*・ 。.・)<お姉ちゃんより普通なの。
610 名前:名無し 投稿日:2005/12/14(水) 00:27
完結お疲れさまでした
みんなカワイイなー
それぞれに甘くてお腹いっぱい
ミキティーよかったねミキティー甘い夜を過してくださいw
611 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/14(水) 01:53
みきさゆの>>596でニヤニヤしちゃいました(^∀^*)
梨華ちゃん一人で>>604ワロスw
612 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/14(水) 08:05
れなえり萌え!
慣れてなくてもまた作者さんのれなえり見たいです…
613 名前:初心者 投稿日:2005/12/14(水) 18:52
完結お疲れ様です
藤道はやっぱりいいなぁと再確認できました
でもさゆ姉があの人とはビックリだけど面白かったです
また機会があれば藤道を読ませて下さい
次回作を楽しみに待ってます
614 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/14(水) 19:19
完結お疲れ様です。
れなえり慣れてないとは思えないくらいによかったですよ!
また、作者様のれなえり読みたいです。
亀井さんの誕生日あたりに勝手に期待してます。
615 名前:前29 投稿日:2005/12/15(木) 11:18
完結お疲れさまでしたw
いやあ、見事な姉妹、従兄弟っぷりでした。
れなえり、いいっす。開眼w
で、最後にいしよし読んで安らぎを感じる・・・。

ほんとに番外も面白かったです。ありがとうございます。
616 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/15(木) 14:39
作者さんのさゆ美貴最高です
こんなにさゆ美貴で萌えられるなんて、それに何度も泣きました
可愛いさゆと優しい(エロイ)ミキティとってもいいです
これからも頑張ってください
617 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:25





「焼肉!」

「チョコレートケーキ!」



 楽屋に入るとそんな言い争いの声が聞えてきた。
周りのメンバーは我関せずと言った感じでもくもくと
事務所から渡されたアンケートに答えている。
最近はほんとに疲れるよ、いらん仕事ばっか増えてさ……



「な〜にやってんだよ!おめ〜らはぁ」


二人同時に振り返ったと思ったら……


「よっちゃん遅いよ!重さんが理想の朝ご飯が
 チョコレートケーキとか言うんだよ……」

「吉澤さん聞いて下さい!?
 藤本さんが朝から焼肉とか可愛くないこと言うんです!」



事務所のアンケートの中の1つ。
『理想の朝ご飯は?』
というお題についての議論ですか?そーですか……
618 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:26

「むしろ朝ご飯はベーグルに決まってるだろーがー!?」


力強く拳を突き上げて言ったは良いけれど……



 こわっ、ミキティの目よりもシゲさんのがこわっ!?
目が据わっててめっちゃ怖い。怒った時の梨華ちゃん並に怖い……


「チョコレートケーキが良いんですぅ、甘いやつ……」

「そ、それはそれで良いじゃん。シゲさんにはそれが似合うよ」

「なに、よっちゃんは重さんの肩を持つわけだ」

「個人の自由じゃん、なに食べよーと。だからミキティは焼肉で良いと思うよ」

「なんだよー投げやりだなぁ。朝から気合入れるためにも焼肉。
 これが理想だよ絶対」

「チョコレートケーキだもん」
「焼肉だって」
「チョコレート!」
「肉!」


 おいおい、ミキティたかだか16歳相手にムキになるなよ。
ちょっとシゲさん泣きそうじゃん。
619 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:26
「藤本さんと一緒が良いの」
「へっ?」

「藤本さんと少しでも同じ感性になりたいの。
 でも焼肉は無理なんだもん……だから、さゆみに合わせてください」

「・・・ヤダ」


即答したるなよ。
嘘でも考える素振りを見せてあげなさいな。




「ちょっ……泣かないでよ〜。美貴が悪かった」
「じゃあ、朝ご飯はチョコレートケーキにしてくれますか?」

「それは無理」


相変わらずキレのある即答っぷりを披露するミキティの言葉に
俯いちゃったシゲさん。
そして、すこしだけ沈黙が続いた後……



 
620 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:27
 俯いていたシゲさんが、急に顔を上げてニッコリ満開の笑顔!!!
その切り替えの早さにリーダーちょっとおったまげちゃった!?


「じゃあチョコレートケーキと……」

「チョコレートケーキと?」

「さゆみ付きでどうですか?」



「はぁーーーーー?こらっシゲさん、なに言ってるんだよ!?」


そんなんリーダーが許すわけないだろ!!
意味わかって言ってるんだろうか、この子は?
621 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:27
 
『どうですか?』

 ミキティになおも詰め寄るシゲさんの声がぐっと低く甘くなる。
恐いくらいに妖艶な微笑みを浮かべて、顔を近づけている。
自慢の瞳を輝かせて、ミキティを見つめる迫力は凄い……
もはやリーダーの声など彼女に届いていないらしい。


 しかも、とどめと言わんばかりにシゲさんは軽く”ちゅっ”って
唇の間際に確信的にキスをした。
あ、あえて唇を外してくるなんて……どこで教わったんだ?


 これでもかっていう攻撃に、表情が緩むのが見えたけれど
ひたすら念じるしかない。断われミキティ、シゲさんより肉でしょ?
頼むよ、娘。内の風紀を乱さないでくれよ?
これでもアタシら二十歳になったんだよ?年長組だよ?
リーダーとサブちゃんだよ?

なのになのに……
 
622 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:28
「うん、美貴もチョコレートケーキで良いよ。
 っていうか、むしろ重さんだけで良いや」

「やぁだー藤本さんったら!」

「アンケートにサクッと答えてブレックファーストいこっか?」

「はーい!」



 そんな期待はあっさりと裏切られ……
ミ、ミキティめぇ〜!!!
それに、道重さん?良いお返事を返してますけれども
わかってっらっしゃいますか?あの言い方は違うニュアンスを含んでるんですよ?
 
623 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:28
とそこへ……
ガチャって扉が開いて、満面の笑みで現われたピンクな人。


『ちゃ〜み〜石川で〜す!?チャオ〜♪』


 なぜかハイテンションの石川梨華……
アンケートを黙々と記入していたメンバーも苦笑いで挨拶をかえしている。
ミキティの真正面に座って甘えてたはずのシゲさんが、
いつのまにか梨華ちゃんの傍にいた。



「いしかわさーん!勝てましたよ?」

「でしょー?さゆもこれで一人前だね!」

「はい!石川さんのおかげです!」



はい?
一人前って何でしょうか?
さっきからの重さんの行動を思い返してみる。
うん、イヤな予感がする。


涙目 → 可愛い言葉(時にキショいとも言ふ) 

→ 甘えた声で駄目押し(いつもより低め) → 至近距離で見つめる

最後にはわざと外すキス……
624 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:28
 これって、これってーーーーー!?
そうだよ、くだらない痴話喧嘩をすると必ず梨華ちゃんはうまく
アタシをまるめこんじゃうんだ。


 最後に外されたキスが、なんだかドキドキして……
怒ってた事とか、こだわってた事とか、ぜんぶ吹っ飛んで思考回路が
ちゃんとした「キスしたい」でいっぱいになるんだよ。


 そしたら後は、済し崩し的にそういう雰囲気にのまれてしまって。
気付いたら恍惚とした顔の梨華ちゃんに、頭撫でられてたりするんだ。
アタシの理性が弱いのはこの際おいといて……


「梨華ちゃん?」
「な〜に、よっすぃ?」

「うちの可愛いメンバーに何を教えてくれたんだろう?」
「やだな、よっすぃ。お顔が恐いぞ?」


 恐いなんてちっとも思ってないクセに……
”可愛いんだから、よっすぃは♪”って顔に出てるよ、おねーさん。
今日は誤魔化されないぞ。ぜったい頑張るんだ!
なんて気合を入れても梨華ちゃんにはすぐに負けてしまう。
625 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:29
 だってもう上目遣いだけで溶けそうなんだもんアタシ。
メンバーの(特にミキティ)ニヤついた視線が痛いほど刺さってるけど。
もう、どうにでもなれ……



”ちゅっ”


 わざと音を立ててキスすると両頬をパシンっと挟まれた。
でも全然力は入っていなくて痛くはない。



唐突な行動はアタシの得意分野――――――



だったはずなのに予想外にも梨華ちゃんは、頬に添えた手をそのままにキスをしてきた。
メンバーの嬌声が聞えるけど、そのまましばらく梨華ちゃんは唇を離さなかった。


 
626 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:29
 あはは、やっぱ勝てない。
何について怒ってたんだか、悩んでたんだか忘れちゃったよ。
肩の力も一気に抜けてアタシの心もぽかぽかしてきた。


 硬直していたカラダから徐々に力が抜けてきて
アタシは彼女の腰を強く抱き寄せる。
梨華ちゃんだ、梨華ちゃんがいる。
アタシの全てが梨華ちゃんの香りで満たされている。


 これがたぶん彼女なりの励まし。
リーダーとして威厳を保とうと気張ってるアタシが、壊れてしまわないように。
良い意味での息抜きをいっつもくれるんだ梨華ちゃんは。
 
627 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:29
 いつも心の中にある君への想いは、離れてからの方が溢れ出して
アタシのカラダを侵食していくようになった。
いまなら迷わずに言えると思う。梨華ちゃんのこと大好きだよって。

「愛してる」よりも「好きだよ」の方がなんか良くない?

なんてね……
唇を離した梨華ちゃんは、優しい瞳をして真っ直ぐにアタシを見上げてる。
何度も逸らしては逃げてきた、アタシに向けられる一点の迷いもない瞳。
いまは見つめ返すことだってできるようになったよ?


そういえば何でアタシ梨華ちゃんと楽屋でこんなことしてるんだっけ?



まあ、でも梨華ちゃんがいるだけで幸せだなぁ。







628 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:30
 
 
629 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:30
「藤本さん、さゆみもチュー……」
「はいはい、後でね。亀ちゃんとかスッゴイこっち見てるから」

「えー、コンサートでもしたじゃないですか〜」
「そん時はそん時……」

「遊びだったんですね……」
「違うから!人聞き悪いことを言うなっ」

「じゃあ、チューしてください」
「二人っきりになったらね……」

「はーい……」

「まっ、でもよっちゃん元気出たみたいだし
 重さんは今日も可愛いし、後でケーキおごってあげるよ」

「ほんとですか〜? 藤本さん、だ〜いすき!」



 楽屋を出る間際に、梨華ちゃんが微妙なウィンクを美貴にした。
あははっ、ウィンクぜんっぜん出来てないから!


『よっちゃんが元気ないよ?』ってメールしたら、
すぐに飛んでくるんだからさすが。
また今日の収録中に、よっちゃんはニヤニヤと
モニターに映る愛しい人を、見つめるんだろうね。
630 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:31
 それにしても……
迫られるのも案外悪くないなぁなんて思った。
っていうか美貴だって素でドキドキしちゃいました。

あとでやっぱ重ちゃんも頂いちゃおうと思ったのは内緒だよ?






从*・ 。.・)从*VvV)< ばかっぽー!(*´▽`)´〜`*)



おしまい。
631 名前:理想の朝ごはん 投稿日:2005/12/15(木) 15:31
 
632 名前:日季 投稿日:2005/12/15(木) 15:32
>>617-630藤道&石吉の短編更新終了です。
最初はリーダー視点でみきさゆをと思ったのですが……
いつのまにかいしよしになってた( ノ▽^)アチャーミー



>>610さま
レスありがとうございます。お腹一杯になってもらえましたか?よかった〜w
从*VvV)<とびっきりの夜を……いででっ
从*・ 。.・)<余計なことは言わなくていいの。


>>611さま
レスありがとうございます。藤道は書いてる自分も頬緩めてますw
(0´〜`)<一人で突っ走っちゃうんですよ…
(;^▽^)<だって〜クセなんだもん。


>>612さま
レスありがとうございます。萌ていただいて激しく嬉しいです・゚・(ノ▽`)・゚・
そのお言葉で書く気力が湧きました〜。
从*´ ヮ`)*^ー^)<まったりがんばりま〜す!
633 名前:日季 投稿日:2005/12/15(木) 15:35
>>613さま
レスありがとうございます。毎回ほんとに励みになりました。
藤道は手探りで書いてる状態ですが、楽しんで書いてますw
从*・ 。.・)<クリスマスがんばるの。
从*VvV)<楽しんでもらえるといいな……


>>614さま
レスありがとうございます。
れなえりよかったと言ってもらえて嬉しいです・゚・(ノ▽`)・゚・
レスにお力をもらって、続編書く予定ですw
从*´ ヮ`)*^ー^)<また読んでもらえるように、がんばりま〜す!


>>615さま
レスありがとうございます。
開眼しましたか?ほんとに?マジで?(しつこいw)
(*´▽`)´〜`*)は、こんな短いのしか書けなかったけど……
あなたの為に書きましたw
(*^▽^)<クリスマスに更新できるように
(O^〜^)<がんばるらしいよ?


>>616さま
レスありがとうございます。藤道最高ですか?めちゃめちゃ嬉しいですw
泣いていただいたなんて……こっちが泣きそうです・゚・(ノ▽`)・゚・
从*・ 。.・)<さゆらしく頑張るの。
从*VvV)<(ちょいえろ)でがんばるのだ。
634 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/15(木) 18:39
リアルは初めてですか?よかったです
さゆ美貴の、子供っぽいやりとりかわいい
635 名前:名無し 投稿日:2005/12/15(木) 22:19
理想の朝ごはん>>617とさゆが答えたのは、マジネタですよね確かw
いやーふたカプともに楽しめましたが。。。
さゆにそんなこと教えちゃだめだよ梨華ちゃんw
636 名前:前29 投稿日:2005/12/15(木) 23:13
いつのまにかいしよしになってた、なんてもう最高ぢゃないですかあw
あんなことで忘れてしまう吉の可愛さが好きw
リアル大好物なんで、たっぷりおいしくいただきました♪
あなたのために、なんていわれたら作者さまに惚れそうですw
クリスマス、期待しまくってますよお!!
637 名前:初心者 投稿日:2005/12/16(金) 00:17
更新お疲れ様です
藤道ハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!!!
石吉ハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!!!
やっぱり梨華ちゃんの後継者はさゆだった この二人だからできる方程式最高
でもミキティもよっしーもある意味純粋でかわいいですね
次回更新楽しみに待ってます
638 名前:ななし 投稿日:2005/12/17(土) 02:29
ミキティとさゆのカップルが好きすぎる
やばーい最高です
更新楽しみにしてます
639 名前:ね〜え? 投稿日:2005/12/17(土) 23:58
 

 
「キュート担当からセクシー担当になるには、どうしたら良いと思いますか?」



真剣な顔で相談があるんですって、呼び出されたんだけど……
開口一番で、いきなりそれかい!?

親友の歌が一瞬頭をかすめて苦笑する。




『セクシーなの キュートなの どっちが好きなの?』






 
640 名前:ね〜え? 投稿日:2005/12/17(土) 23:58
「あっ、石川さんが美勇伝でセクシー担当だって言ってたから
 聞いてこようかな……」

「えっ?梨華ちゃんってそうなの?」

「そうみたいですよ」

「ふーん……」



そうなんだ、まぁ妥当な選択だよね。
無自覚に色っぽいじれったい感じの人だし。
ってか最初からそっちに相談しろよ。
聞く相手、思いっきり間違ってるよね?
641 名前:ね〜え? 投稿日:2005/12/17(土) 23:59
 
「セクシーとキュートどっちの感じが好きですか?」

「えっと……」


いつのまにそんな話しになったのかな?
キミがセクシー担当になるには?って話しだよね……


キュート担当って番組とはいえ、
自分で言いきったキミはスゴイと思うけど。
どっちの感じがスキかと聞かれてもなぁ。



どっちでも良いじゃんなんて答えたら、怒りそうなほど真剣な眼差し。
正直、早く帰って寝たいんだけどね。
久しぶりに仕事早く終わったんだし……

 
642 名前:ね〜え? 投稿日:2005/12/17(土) 23:59
 
「ね〜えってばね〜え?」

「お話聞いて〜……」



いきなり歌いだしてビックリする暇も無く、
つられて歌っちゃったよ……



「こないだイベントで歌ったんですぅ〜」

「そ、そうなの?」

「はい!愛ちゃんと二人で……」



語尾がフェイドアウトしたな〜と思ったら……
急に落ち込むな!ビックリするじゃん。
ついでにちょっと潤んだ瞳で、こっちを見るんじゃない。



「でも、あんまりうまく歌えなくて……」

「なんで、大丈夫だよ」

「ほんとですか〜?」

「えっ、うん。ちゃんと歌えてるじゃん」


よかったぁ、なんて人の手を引き寄せて胸に押し付けないで……
あうぅ、あたってるよね?胸に手が思いっきりあたってるってば……
 
643 名前:ね〜え? 投稿日:2005/12/18(日) 00:01
 
「藤本さんは、どっちが好みですか?」


そしてまた本題に戻るんだね。
やっぱ唐突なキミの行動には勝てない……



「どっちもタイプだよ」

「優柔不断……」

「うっさい」



だって、可愛らしくって時々
ありえないセクシーさを発揮するキミに……

なんだか負けちゃってるから、ちょっと悔しいのに
口をついて出た言葉は、普段ならぜったいに言わないような
素直な気持ちだった。
644 名前:ね〜え? 投稿日:2005/12/18(日) 00:01
 
「重さんなら、どっちだって可愛いよ」


でも、お願いだから美貴の手を離して……
胸に触れてるような、触れてないような微妙な感触に
我慢しまくってる、この気持ちわかりますか?



「藤本さん、だいすき!」



そんな「純粋です!」って顔で、美貴を見ないで……
やっぱりまだまだ、お子ちゃまでいいと思う。
王子様が理想とか言ってるくらいが、ちょうどいいんじゃない?

ほら、あんまりドキドキさせられると心臓に悪いし。

 
645 名前:ね〜え? 投稿日:2005/12/18(日) 00:02
そうだ!と何かを閃いたらしい重さんは
美貴の手を胸元で握り締めて、宣言する。



「さゆみは、藤本さん担当で!」

「なんだ、それっ!」

「えへへへへ〜。さゆみのぜ〜んぶ、藤本さんのものなの」



はうぅ、なにこの子。



可愛い……まじ可愛いんですけど?








 
646 名前:ね〜え? 投稿日:2005/12/18(日) 00:02
 
おしまい。
647 名前:日季 投稿日:2005/12/18(日) 00:03
>>639-646みきさゆ短編更新終了です。 

ものすごい短くて、終わりが微妙でスイマセン。
(次回は亀井さんの誕生日に更新予定です)
648 名前:日季 投稿日:2005/12/18(日) 00:03
>>634さま
レスありがとうございます。リアル初めてです……たぶんw
ちょっと子供っぽい感じの藤本さんが好きです。
从*・ 。.・)<さゆみの方が大人なの。

>>635さま
レスありがとうございます。理想の朝ご飯はマジネタです。
道重さんのアンケートとか見てると、ミラクルな発言がたまにありますよねw
(;^▽^)<ごめんちゃい。

>>636さま
レスありがとうございます。石川さんのチューでなんでも忘れちゃう吉w
(リアル大の苦手なんで、今後は無いかな……)
ええええっとあんまり期待されると、お腹がいたい(へタレw
(0^〜^)^▽^) <初々しい感じに頑張ります!

>>637さま
レスありがとうございます。ハァ━━━━━━ (*´▽`)´〜`*) ━━━━━━ン!!!!
してもらえて嬉しいです。
石川さんの後継者として、将来有望ですよね?w
从*・ 。.・)<藤本さんを手玉に取るの。
从*VvV)<だ、騙されないぞ……

>>638さま
レスありがとうございます。最高ですとか嬉しすぎです。
みきさゆ書いてて良かった・゚・(ノ▽`)・゚・
从*・ 。.・)<がんばるの。
649 名前:名無し 投稿日:2005/12/18(日) 00:18
終始さゆペースでかわいいw
なんだかんださゆに弱いミキティ-萌
次回の更新楽しみにしています!!
650 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 04:27
さゆ、なにを担当したいんださゆ
思いきり負けてしまってる美貴様ワロスw
651 名前:前29 投稿日:2005/12/18(日) 09:44
さゆと一緒の時の美貴さまって
ほんっとにかわいくなりますよねえw
○ヲタなのに美貴さまイイって思ってしまう・・・。
これが日季さまマジックw
652 名前:614 投稿日:2005/12/19(月) 00:55
更新お疲れ様です。
みきさゆよかったです!
さゆに振り回される美貴様いいですね。
れなえり勝手に期待してたのですけど、
続編書いて頂けるなんてとてもうれしいです。
これからも頑張って下さい。
653 名前:ななし 投稿日:2005/12/19(月) 02:42
さゆみき良かったです
特に大好きなメンバーなので読んでてドキドキしましたw
次の更新も待っています
654 名前:初心者 投稿日:2005/12/19(月) 17:10
更新お疲れ様です
さゆ美貴とってもよかったです
まっすぐなさゆとドキドキミキティに萌え萌えです
次回更新まで楽しみに待ってます
655 名前:日季 投稿日:2005/12/23(金) 00:01
「偽りの真実」番外編
(>>512-525>>533-543>>552-561>>567-577>>582-594の続編)



『Panic Birthday』


 
656 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:02
 おされてるかな〜くらいが好きな絵里としては、
もっとれいなとくっついていたい。
けど寂しがり屋のクセに、それ以上に恥ずかしがり屋のれいなは
一向に自分からはぴたっとしてくれない。
でも今日は絵里の誕生日だから……



「れーな?」

 待ってる数秒が、ものすごく長く感じられて……
甘えた声で名前を呼んでみる。
一瞬だけ視線が合わさった後すぐに、ぎゅっと瞼を閉じて
ゆっくりと近づいてくる唇……


 まだ二人とも、まったくそういう経験が無い。
もどかしいくらいに奥手な二人だから、いまだにキスはほっぺまで……
別にそれが不満なわけじゃないけど、なんだか物足りない。




あと少しできっと唇が合わさる――――――

















  
657 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:02

ルルルルルルルルーーーーーーーーー!?
と鳴り響いた呼び鈴。
これは、来客者ありのお知らせ。


ビックリして固まってしまったれいなをそのままにして
とりあえずモニターを確認する。


「はい……」

『絵里お嬢様。さゆみお嬢様がいらしておりますが?』

「お部屋に通してください……」

『かしこまりました』

 
658 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:03
「れいな、さゆが来たから……れいな?」
「ひゃい!さ、さゆ?」

「うん。プレゼント持ってきたんじゃないかな」
「た、誕生日やもんね」



せっかくヘタれいなが、自分からしようって頑張ってくれたのに……
もう、さゆのバカバカバカバカ!



「さゆみはバカじゃないの」
「あっ、さゆ……」

「思いっきり口に出しちゃだめなの」
「だって、せっかくれいながキ……」
「え、えり!」


慌てたれいなを見て、何かを察したのかさゆは不適に笑った……
659 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:03
「もっと奪っちゃうくらいにすればいいのに……」
「奪うっ!?」


れいなはガチンと固まったように、さゆを凝視。
ダメ、いまのれいなに刺激を与えないで……


「だって、藤本さんは限りなく求めちゃ……」
「し、重さん余計なこと言っちゃダメだよ!」


あっ、藤本さんもいたんですね……
さゆに気をとられて気付かなかったです。


「余計じゃないの……」
「えっ、ちょっ……泣くな!」

「愛のある行為なのに……余計なんて言っちゃヤなの」

「余計じゃないよ、めちゃめちゃ愛があるから!でもね、
 人前で言うことでもないんだよ?二人だけの秘密にしよう」

「藤本さん、大好き」


がちっと藤本さんを抱きしめたさゆ、ちょっと表情が崩れた藤本さん。
あっ、顔面に胸がヒットしましたね?
幸せそうに頬を埋めないでください……

 
660 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:03
あの……よそでやってもらっていいですか?
みきさゆ愛の劇場とか見せられても、すごい気まずいです。



「れいな?」
「……奪うくらい限りなく求め……」

「れいなってば?」
「え、えりもそんなんがよか?」

「えっ?なに急に」


あれは藤本さんとさゆの場合だから……
絵里はそんなの求めてないよ?だから、れいならしくでいいんだってば〜。
そう言うと安心したように笑って「好きなんがえりでよかったと」と呟いた。


ちょっと視線をずらすと……
愛しそうに藤本さんを抱きしめてるさゆが見える。
腕の中でうっとりしてる藤本さんも、いい加減にしてください。

さゆ〜、いつまで抱きしめてるつもり?
とりあえず、早く帰って……



 
661 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:03
 
 ******
 
662 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:04
「え、えり」


さゆは「れいな次第なの」なんて余計なプレッシャーを与えて
藤本さんと、ムカつくほど仲よさそうに帰って行った。
俄然強めに見えるけん、誤解されることが多いけど
ぶっちゃけれいなは、へタレっちゃ!?
実はえりのほうが、根性据わってると思うばい。


「れーなぁ」

そっと掴まれた腕が小刻みに震えてる。
えりも緊張しとるんやね。
ぎゅっと目を閉じて顔を寄せる、やっぱり長く感じられる
唇が届くまでの数秒……



あと少し、たぶんもう少しで唇が合わさる――――――

















  
663 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:04
 
ルルルルルルルルーーーーーーーーー!?
と再び鳴り響く……
またお客さんね?えりの誕生日やから仕方ないっちゃけど。
それにしても、心臓に悪か音やね……



「はい」

『絵里お嬢様。梨華お嬢様が来られました』

「お部屋で待ってます……」

『かしこまりました』

664 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:04
「絵里お誕生日おめでとう。はい、プレゼント!」
「お姉ちゃん……」


嬉しそうに梨華さんが抱えてるのは……
ちょっと大きい……


「ほら、にゃんにゃん可愛いでしょ〜」
「う、うん」

「れいなみたいに可愛がってね」
「う、うれしいな〜……って絵里のこと幾つだと想ってるの?」

「17歳だよね!」


あぁ梨華さん、そんな輝かしいほどの笑顔を見せたらいかんと。
えりが何も言えんくってかたまっとる……
それにしても、妹へのプレゼントが、ぬいぐるみって意外だったばい。
もっと高いアクセサリーとかを想像しとったから、ちょっと安心したと。
 
665 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:04
「これ高かったんだね、お姉ちゃん」
「……そうだよぉ、絵里のために特別に発注したんだもん」

「ありがとう、やっぱり嬉しい」
「絵里……」


梨華さんは、それは嬉しそうにえりを抱きしめた。
う、羨ましくなんかなか……
れ、れいなだって抱きしめるくらい……まだしたこと無いけど
これからは、いつでもぎゅってしてあげるっちゃ!




「お姉ちゃん、これ高かったでしょ?」
「ん〜っとね、内緒。10万はしてないから安心して」

「安かったんだね」
「そうなのオマケしてくれたんだ〜」


えっと、その値段が安い……orz
れいなの耳がおかしくなったんでしょうか?
激しく凹んでると、ポンポンと肩を叩かれた。
666 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:05
あっ、初めまして……田中れいなと申します。
吉澤さん綺麗ですね、吉澤さんもその……
お金持ちですか?れいなは庶民のお家の子供です。



「石川さん家の基準だから仕方ないよ」
「吉澤さん……」


どうやら吉澤さんも一般ピープル……
だからあのプレゼントの本当の値段を聞いて、倒れそうになったらしい。
と言う事は、かるく10万は超えとる?……orz





え、えりにあげるのに用意したのは、
1万ちょい超えるかな〜くらいのピアスと指輪。
いろいろあって、まだ渡せてないんやけど……

お母さんの手伝いとか、お父さんの手伝いとかいっぱいして
やっと貯めたお金やけん……
いまのれいなには、これが精一杯。
667 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:05
「気持ちが大事だから、気にすること無いよ」
「そう、そうですよね?」

「そうそう。あたしも来月のこと考えるとすっごい憂鬱」
「あぁ、梨華さんの……」


そうですね、1月には梨華さんの誕生日が……


「物で勝負は出来ないから、焦ってる」
「演出とか?」

「そうなんだよね、出来る限り尽くそうかと……」
「あははっ、大変ですね」


尽くすって……
吉澤さん見た目は男前なのに、案外女性っぽいっちゃね。
えりも今年の初めに髪を切るまでは、『女の子!』ってイメージだったのが
髪を切ってイメチェンしてから、なんだかボーイッシュになったと。
ショートのほうが好きやし似合ってて可愛いけん、いいんやけど……

 
668 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:05
梨華さんは満足そうに、えりの頭を撫でて帰っていった。
吉澤さんは口パクで「がんばれ」って伝えてくれた。
ありがとーございます……めっちゃ頑張るけんね。
きっとえりに、人生で一番の誕生日やったと言わせてみせます!


とか意気込んではみたものの……
二人っきりになると、やっぱり緊張するっちゃ。
どないすれば、いいと?



 
669 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:06
 
 ******
 
670 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:06
「れーな」


そっと瞼を閉じると、れいなは初めて自分から
絵里を抱きしめてくれた。
華奢なれいなの腕の中……なのにすごく落ち着く。
もっとぎゅっとしてて?


「れーなぁ?」

ドクンドクンって頬に伝わる心音。
めちゃくちゃ緊張してるのが、れいなの全身から伝わってくる。
甘えたように名前を呼ぶと、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。


覚悟を決めたらしいれいなの顔が近づいてくる。
咄嗟にぎゅーっと瞼を閉じる。

今度こそ、今度こそ――――――



















  
 
671 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:06
 
プルルルルルルルルーーーーーーーー!?


「こ、ここんどはなんね……」
「で、でんわー」


ちょっとどころじゃなくムカついたけど、
そっとれいなの腕を抜ける。
誰だろうと電話に出ると、取次ぎの人からパパだと教えられる。


『絵里、17歳の誕生日おめでとう』

「……ありがとう、パパ」

『海外出張で逢えなくてごめんな』

「別に気にしてないよ。お仕事がんばって」

『帰ったらママと圭織、梨華みんな揃ってパーティーをしよう』

「うん、わかった……」


パパのバカバカバカバカ――――――
でも、だいすき。
 
672 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:06
「いいお父さんやけん、バカとか言ったらあかんばい」
「えっ?また口に出してた?」

「だいすき、とか……」
「もう……れいなが一番だよ!」

「なっ……れなもえりが一番やけん」
「絵里が一番な〜に?」

「えりが一番すきやけん」


恥ずかしかったのか顔が見えないように、
れいなは絵里をぎゅーっと抱きしめてくれた……
あぁ、めっちゃ嬉しいよぅ。

673 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:07
「さきにプレゼント渡しとくばい」
「わっ、ありがと〜」

「高いのは、まだまだ無理やけん……」
「ううん、めっちゃ嬉しい♪」

「誕生日、おめでと」
「えへへへ、れいなよりまた年上になっちゃった」

「ま、またすぐに追いつくけん!」
「れいなの誕生日が来れば、1ヶ月ほど同い年だもんね」


11月は随分先なのに、れいならしい対抗の仕方が可愛い。

指輪をつけて喜んでいると、れいなは絵里を抱きしめてくれた。
遠慮がちな腕の力がれいならしいけど、物足りなくて。
「もっと強くていいよ?」と言うと、加減がわからなかったのか
腕の力がすこし痛いくらいに強まった。

でも、この感じがだいすき……
もっと絵里のこと抱きしめてもいいよ?
 
674 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:07
ママと圭織お姉ちゃんには朝逢ったし、
おばあちゃまも昨日のうちに電話をくれた……
他に来そうな人もいない。もう大丈夫だよね?大丈夫。
今度こそ、れいなと初めての……

ゆっくりと近づくシルエット。
あと少しで、初めてれいなと――――――

















  
675 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:08
  
 ♪♪♪〜♪♪♪♪♪♪♪♪〜〜♪♪



「こ、こんどは」
「メールみたい」


鳴り響いた着信音にビクッとなったけど、
れいなは、抱きしめた腕を離さなかった。

ディスプレイには『保田さん』の文字が……
すいません!後で見ますから、いまは放置で……
『すぐに見なさいよ!?』って声が聞こえた気がしたけど
目を瞑って気のせいだと言い聞かせる。

676 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:08
待っても待ってもこない唇。
また、ヘタれいな発動してるのかな?
お互いに止まったままじゃ、キスできないってば……










 
677 名前:PanicBirthday 投稿日:2005/12/23(金) 00:08
 

 思い切って唇を自分から寄せる。
チュッってかるく触れた瞬間に、れいなの手が緩みかけたから
ぎゅーーーっと抱きつくと、ちゃんと抱き返してくれた。

ほんの数秒だったけど、まちがいなく二人は繋がってた。
まだまだお子ちゃまな二人の恋は、ここから始まるんだよね?
何年経っても、いまの気持ちを忘れたくないな。
ずっとず〜っとドキドキしてたい……



「今度は、れいなからキスしてね」



れいなは、目が合うと照れくさそうにはにかんで……
そっとやさしいキスを絵里にくれた――――――






 
678 名前:『Panic Birthday』 投稿日:2005/12/23(金) 00:09
 
おしまい。
679 名前:日季 投稿日:2005/12/23(金) 00:09
>>655-678更新終了です。


从*´ ヮ`)<えり誕生日おめでと〜♪
リd*^ー^)<えへへへへ〜セブンティーンですよ?


次回は>>2-69の続編を更新予定です。
前回は夏のお話でしたが、一気に季節飛びますw
680 名前:日季 投稿日:2005/12/23(金) 00:09
>>649 名無しさま
レスありがとうございます。突っ込みつつ愛情たっぷりの从*VvV)さんですw
从*・ 。.・)<藤本さんってほんとは優しいの。

>>650 名無飼育さま
レスありがとうございます。藤本さん担当におさまりたいみたいですw
从;VoV)<ま、負けてないんだぞ……負けたフリなんだ。

>>651 前29さま
レスありがとうございます。藤本さん可愛いと言ってもらえると本望です。
从*VvV)<乗り換えちゃう?w
从*・ 。.・)っ<TvT从イデデデデデッ

>>652 614さま
レスありがとうございます。押され気味の方が可愛いですよね、藤本さん。
れなえりを書くの楽しかったですw
リd*^ー^)<頑張りました。

>>653 ななしさま
レスありがとうございます。ドキドキしてもらえましたか?
みきさゆを良かったといってもらえると、すっごく嬉しいです。
从*・ 。.・)<これからも頑張るの。

>>654 初心者さま
レスありがとうございます。うちの道重さんは、藤本さんに真っ直ぐですw
从*VvV)<ドキミキ、ドキミキ♪
从*・ 。.・)<萌えてくれてありがとうなの。
681 名前:名無し 投稿日:2005/12/23(金) 00:25
更新お疲れさまでした
れいなもえりりんも激キャワ!!
しかも美貴さゆのバカップルぶりも素晴らしい(褒め言葉ですw
しかし石川家はさりげなくスゴイですねw
682 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/23(金) 00:25
れなえりの萌えを あ り が と う
683 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/23(金) 00:49
放置された>>675に噴いた
初々しくてかわいいれなえり、よかった?!
次回も楽しみです
684 名前:初心者 投稿日:2005/12/23(金) 23:39
更新お疲れ様です
誕生日おめでとうえりりん!!
石川家の人々、愛の劇場、保田さんも最高
続きないかなってちょっと期待してたので>>2-69の続編めちゃめちゃうれしいです
楽しみに待ってます
685 名前:日季 投稿日:2005/12/24(土) 00:09
>>2-69続編です。※年齢設定が実際とは異なります。


『クリスマスローズ』
 
 
686 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:10
「よしっ!今日も可愛いの」


 鏡に映る藤本さんを、ちらっと確認する。
でれっと崩れた笑顔が見えた……



「さゆみ、かわいぃ」

 すっごい幸せそうに私を引き寄せて、ぎゅって抱きしめてくれる。
藤本さんに気づかれないように、小さく溜息………




 なぜか私に「よしっ!今日も可愛い」を言わせたいらしくって……
首の角度が可愛いよとか、目が可愛いよねとかやたら褒めてくれる。


そして、その腕の中にぎゅーっと閉じ込められるの――――――

 
687 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:10
 それ以上何かがあるわけではなくって、満足すると態勢を入れ替えて
甘えるように擦り寄ってきて、上目遣いでじ〜っと私を見た後に
必ずちゅっと軽くキスをひとつ……


 後は、膝枕だとか、抱っこしてだとか、イイ子イイ子してとか……
とにかく甘えんぼな素顔が顔を出す。
こうしてると、どっちが年上なのかわからない。
可愛いけど、すごく可愛いけど……
私だって、もっと甘えたいのになぁ。
688 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:10

 一緒にお風呂入っても、慣れてしまったのか倒れなくなった藤本さん。
ボーっと湯船から見つめられたりして、緊張するんだけど……


 こうやって何もかもに慣れちゃったら、どうしよう?
唇が重なるまでのドキドキも、抱きしめられて感じるドキドキも
当たり前になっちゃったら……


「好き」と伝える一言さえ、当たり前になっちゃうのが怖いの。




ねえ、藤本さんはどんな風に想ってるのかな?





 
689 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:11
 
 ******
 
690 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:11
「ドキドキ……かあ」
「梨華ちゃんたちは、どう?」

「だから、いまでも慣れてるわけじゃないわよ」
「付き合った初日にめでたく結ばれちゃったのに?カラ……ダも」

「ハッキリ言わないでよ〜」
「はいはい」



真っ赤になりながら、美貴のこと叩くな。
普通に痛いから、照れるような関係でもないでしょうが……



「どうしてそんなこと聞くの?なに、もうさゆに飽きちゃったとか!?」
「だーーー声でかいよ!そんなワケナイじゃん」


梨華ちゃんの声に慌てて否定したけど、クラスのみんなに聞かれたような気がする。
みんな気にしてないフリをしてるが、明らかに耳を欹てている。


「あー良かった……」
「あのね、おたくらより純粋なの美貴たちは」

「失礼ね〜、こっそり付き合ってた人に言われたくない」
「ちゃんと話したじゃん。それに隠してたわけじゃないって」

「どうだか……」
「喧嘩売ってるのかな、石川さん?」


むむむむむむと睨みあってはみたものの、別に喧嘩しても仕方ない。
ここは悔しいが、『一応』人生の先輩である梨華ちゃんに
アドバイスもらうしかない……
691 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:11
「ごめん、言い過ぎたよね?」

話をどう切り出そうか考えていただけなのに、
梨華ちゃんは泣きそうな顔で美貴を見る。


「いや、美貴も悪かったし……泣くな!頼むから泣かないで」

俯いた頭に向かって必死で謝ったのに……



「泣いてないもーん」
「あのね……」


見た目的に洒落にならないの分ってますか?
美貴が、梨華ちゃんいじめてるって思ってた人がいるんだぞ。


「その女の子っぽいのは、わざとでしょ?」
「美貴ちゃんにはわかっちゃったか〜」

「だって、よっちゃんのが女の子だよね。何気に」
「そうなのよね……」


そう梨華ちゃんは、見た目よりもかなり大雑把で豪快な人だ。
まぁ、要所要所は細かいわけだからバランスが取れているんだろうけど。
692 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:12
「まさかとは思うけどさ」
「なに、美貴ちゃん?」

「よっちゃんにくっついてたのって……」
「なによぅ?」

「だって美貴にはあそこまではひっつかないじゃん」
「そうだけど……」


誤魔化すように笑う梨華ちゃんに「白状しろ〜」なんてくすぐったら
すぐに降参した。



「だってママがね……」

梨華ちゃんは何かを思い出すように、窓の外を見た。
おい、美貴を置いてどっかに行く気だろ?
仕方ない、しばらくは放置しよう。そのうち返って来るよね……


 
693 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:12
 
 ◇
 
694 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:12
 高校に入学してすぐに、同じクラスのごっちんと友達になった。
なんとなく近寄りがたいと思っていたのに、席が隣だった彼女は
何かあれば屈託ない笑顔で、私に話しかけてくれた。


「梨華ちゃん、帰りは?」
「隣のクラスにね、友達がいるの」

「へ〜、あたしも一緒だよ〜。今度紹介するね〜」
「うん!」


ごっちんは掃除当番だったから、私は一人で
美貴ちゃんのクラスが終わるのを待ってた。


そして、美貴ちゃんが教室から出てきた時
なぜだろう?私は美貴ちゃんではなくて、瞬時に隣の人を見てしまってた。
目が大きくて、色が白くて……羨ましい。
最初の印象は『ほんとに綺麗な子』だった。
695 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:13
「あっ、さっき話してた梨華ちゃん」
「よ、吉澤ひとみです!」


美貴ちゃんが紹介してくれたと同時くらいに、
上擦った声が響いた。


「石川梨華です、よろしくね」
「あっ、よよろしく」


 なぜか教室の前で握手して……
美貴ちゃんは不思議そうに、真っ赤になってるひとみちゃんを見てた。
私もなんとなく気にはなったけど、照れ屋さんなのかな?
って思う程度だった。


「よっすぃ〜とか、よっちゃんとか呼んであげて」
「ん〜っとね……じゃあ、よっすぃ〜」
「は、はい。なんとでも呼んで下さい」

「よっちゃん、敬語要らないってば」
「そうだよ、梨華って呼んでね?」
「り、梨華ちゃん……」


名前を呟いて、なんだかポーッとしてるけど大丈夫かな……
そこに掃除を終えたごっちんが帰ってきて、またビックリ。
ごっちんの友達が、ひとみちゃんだったから。
696 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:13
「あれっ、よしこじゃん」
「ごっちん掃除終わったの?」

「たったいま掃除終わったー」


聞いたのはひとみちゃんだったのに、ごっちんは私の前に来て
甘えるように、掃除が終わったと告げたので、なんとなく頭を撫でてしまった。
絵里も、こんな風に甘えただったなぁ……と、もう一人の幼馴染を思い出しながら。


「どうも藤本美貴です」
「あっ、後藤真希です」


家がまったく逆方向だったから、とりあえず下駄箱まで一緒に帰った。

そういえば、この時のひとみちゃん。
私がごっちんの頭を撫でたのがショックだったのか、嫉妬したのか
一言も話さなくなってしまったんだよね……

だから出会った日のインパクトが、すごく薄いの……
ごっちんと美貴ちゃんが、よく喋ってた思い出しかないんだよね。
697 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:13
この出会いの時……
ひとみちゃんは私を見て、一目惚れ?としか思えないほど
ドキドキしてくれてたんだって。
でもすぐに好きだと思ったわけじゃないみたい。

確信したのは、毎日美貴ちゃんを待ってる姿を見る度に
逢えるから嬉しいのと、自分を待ってるんじゃないって言う寂しさとを
感じるようになったからだって、言ってたなぁ。


私もふとした瞬間に、自然とひとみちゃんの姿を探すようになった。
でも、それが「好きだから」って気付くのに随分とかかっちゃって。
たぶん初恋だったんだもん。めちゃくちゃに遅い初恋。
この感じが恋をしてるんだっていう事に、しばらく気付かなかった。

美貴ちゃんやごっちんに言わせれば、私がひとみちゃんを呼ぶ声は
ものすごく甘ったるかったって……気付いてないのは、当人同士だけ。

それにいくら鈍い私でも、1年の終わり頃には
完璧にひとみちゃんが好きだって、意識するようになってた。
698 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:14
 
意識しすぎて、うまくお話できない時もたくさんあったなぁ。
言葉にする前に、自分の中で色々考えて。
考えすぎて悩んで、結局は言葉にならずに伝えられないまま終わる。
そんなことを繰り返して、一人で落ち込んだりしてた。


2年生に上がって、同じクラスになれた。
それでも、すぐに付き合ったわけではなくて……
意識はすれど「お友達」からまったく進展できないでいた。

何かきっかけが無いと、前に進めないような気がしてた。
だからママに相談したんだよね。
好きな人がいるの……どうしたらいい?みたいな感じで。


美貴ちゃんは、この頃……
ほら、色々と忙しかったから。
亜弥ちゃんとか亜弥ちゃんとか亜弥ちゃ……
私にかまってる余裕が無さそうだったから、相談できなかった。
699 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:14
そう、あれは6月の初旬。
いつもと変わり無い放課後だった。

「今日家に来ない?」そう声をかけたら、ひとみちゃんは一瞬固まってしまった。
けどすぐに表情を崩して、嬉しそうに微笑んでうなづいた。


「ミキティは?」
「ごっちんとデートだって」
「えええっ!?」


びっくりしたのか、ひとみちゃんは大袈裟に飛び上がって驚いた。
あまりに素直な反応が可愛くて、自然と笑みがもれる。


「冗談だよ。二人でお買い物行くからって言ってた。聞いてない?」
「あっ、うん」

「私と二人じゃ不満?」
「んなわけないよ!」

「えへっ、よかったぁ」


腕に思いっきり抱きつくと、緩む頬とは裏腹に、
カラダは強張って離れようとする。

照れてるのは意識してる証拠。
そんな風にママが教えてくれたっけ……
 
700 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:14
「あれっ、ママでかけるの?」
「梨華、お留守番しててね」


私の家に着いた時、ちょうどママが出て行くところだった。
お友達に呼び出されて、夕飯も食べてくるからって。
パパも出張でいないしね……なんて呟いて。
そしてママはひとみちゃんに、とんでもないことを言った。


「吉澤さん、梨華一人なのよ。よかったら泊まっていってね?」

「はい……って、ぇぇぇえええええー???」
「ママ!?」



ママがあまりにも普通にお願いしたから、ひとみちゃん「はい」って返事した後に
頼まれた内容に気付いて、めちゃめちゃ動揺してた……
701 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:15
「ママ、何時に帰れるかわからないから」
「でも……」

「いいじゃない、明日休みでしょ?」
「でも、よっすぃ迷惑だよね?」


ちらっと確認すると、ひとみちゃんは固まってたんだけど
ぎこちなく微笑んで、じゃあお言葉に甘えて……なんて返事をした。


「そう?だったら安心してミニ同窓会できるわ」
「ちょっ、ママ!」

「じゃあ行って来るからね〜。何かあったら電話して?」
「……わかった」


ママぁ、お出かけしちゃうなんて酷いよぉ。
だって、二人っきりでいるのにあんまり慣れてないんだもん。
いつもは賑やかな教室とかだから、緊張も薄れて大丈夫なんだけど。
702 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:15
「ごめんね?」
「いや、へーき」

「お家に電話する?」
「うん、そうだね」



 ひとみちゃんのママも、あっさりとお泊りしていいって返事で……
なんだか緊張して喉が渇いたから、とりあえず紅茶を淹れて……
なんとなく並んで座って、それでテレビをつけたんだよね。



「あっ……」

再放送のドラマのキスシーン。
ちょっと刺激的……
そっとチャンネルを変えたんだけど、そこでも
ものすごいタイミングでキスシーン……


「見るものないね、この時間」
「そ、そうだね」


ブチっとテレビを切って、どうしようか思案していると
美貴ちゃんとごっちんからメールが入った。


【名前の呼び方を変えて近づけ作戦!?実行すること】

なにそれ……
そんな作戦知らないわよ!?
心の中で逆切れしても仕方ない。
でも、そうだよね。ちょっとでも近づけるなら……
紅茶を一口飲んで、カップを両手で包み込んで覚悟を決める。

いま、思えば名前呼ぶだけなのにここまで緊張しなくっても……
でもこの時は、真剣だったんだよね。
703 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:16
「ひとみちゃん!」
「ふぇっ?」


考えすぎると何も言えなくなるから、いきなり名前を呼んでみた……
あまりに唐突すぎて、ひとみちゃんはビックリして目を見開いた。
あ〜もう勢いだ、いっちゃえ梨華!?


「ひとみちゃんって呼んでもいい?」

勢いで言っちゃったけど、どうしよう嫌だったかな?



「い、いいよ」

しばらく経って、ひとみちゃんは呼んでもいいと返事をくれた。
真っ赤になってるから、やっぱ恥ずかしいのかな?
誰にも呼ばれて無いもんね、ひとみちゃんなんて……


「ほんとにいいの?」
「うん。そう呼んでもらえると嬉しい・・・かも」


羨ましいほどの白い肌だから、真っ赤になってるのが
目立つんだよね、かわいい。


「ひとみちゃん可愛い」
「り 梨華ちゃんのが可愛いよ」
「えっ?」


思わず呟いた私の言葉に、ひとみちゃんはすぐに可愛いと言い返してくれた。
いままでそんなこと言ってくれた事ないのに……
704 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:16
「あの、梨華ちゃん」
「はい……」


いきなり真剣な表情になったひとみちゃんに、
ただ返事を返すので精一杯だった。


「あ、あたし…そのあの……」


しどろもどろで落ち着かない様子を見て
この数ヶ月、自信がまったく無かったのが嘘みたいに確信できた。
ひとみちゃんも、きっと同じ気持ちだって……

でも、私から言っちゃったら、
きっとひとみちゃん自信無くしちゃうかな?
待ってよう。ひとみちゃんが言えるまで。

なんて考えられるほど、この時の私は冷静だったんだよね。
705 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:16
 
「1年の時から、ずっと梨華ちゃんのことが……」

すこしだけ逸らされていた視線が、今度は真っ直ぐにぶつかる。
これでもかって言うくらいの整った顔立ちが、視界に飛び込んでくる。


やばいです、石川梨華……
また改めてその美しさに惚れ直してます。


ちょっと意識がどっかに飛んでいっちゃいそうなのを、なんとか堪える。
でも自分でも分る、うっとりと見つめてしまってること……
失礼なくらい凝視しちゃってるもん。
706 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:17
 
どれくらい、そうやって見つめあっていただろう。


「好きです」

と聞こえたのに、私はひとみちゃんを見つめたまま
なにも言うことが出来なかった……


幸せな気持ちに満たされすぎて、思考回路がショートしちゃったの。
ポーッと見惚れてた、なんだか泣き出しそうな潤んだ瞳さえ素敵で。
ほんとに綺麗だなって……


 
707 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:17
「ごめん……」


ん?ごめん……って聞こえた?
その声で我に返った。ダメダメ勘違いしちゃってる。
何も言わない私に、勘違いしたのかひとみちゃんは俯いて落ち込んでる?
だから慌てちゃって、慌てすぎてから回って……



「私も……だいす」


勢いよく抱きつこうとしたんだけど……
紅茶の入ったカップを持ったままだった私は
思いっきり自分の制服にそれをこぼした――――――


あぁ、染みになっちゃうなんて暢気に考えてたら
ひとみちゃんが胸元を見たまま、固まってた。

どうしたんだろうって思って、自分で見てみると
夏服の薄いブラウスが、濡れたせいで透けて……
708 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:17
咄嗟に声が出なかったけど、先に我に返ったひとみちゃんが
わざわざ視線を逸らして、見てないってアピールしながら
「着替えなきゃ」って言ってくれた。
そりゃあ、耳まで真っ赤になって可愛かったのなんのって……


「お風呂はいっちゃうね……」

告白もなんだか有耶無耶になっちゃって、自分のせいなんだけど……
とりあえずお風呂に入って着替えて……


シャワーを浴びて少し落ち着いた私は、自分の行動のおかしさに気付く。
別に制服を着替えるだけでいいのに、私なんでお風呂入ったんだろう?
あ〜もう、今日は頭がうまく回ってない。

行動のすべてが勢いだけで成り立ってる。
709 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:17
部屋に移動すると、ひとみちゃんは改めて「好きだ」と伝えてくれた。
今度は、落ち着いて「好き」と伝え返した。
それ以上、言葉にできなくてただ見つめあうことしか出来なかった。


熱っぽく揺れる瞳が、なんだか魅力的で
どちらともなく唇を寄せて……
ぎこちないほどの、触れるだけのキスをした。


「ひとみちゃん?」

唇が離れても、かなりの至近距離で見つめあったまま
なんだかボーっとしてたひとみちゃんは、名前を呼ぶと
凛々しく顔を引き締めた。

あぁ、今日何度目だろう……

す・て・き

完全に、頭の中ほとんどひとみちゃん――――――
 
710 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:18
「梨華ちゃん、あたし……」

甘く掠れた声が聞こえた瞬間、熱っぽい吐息が耳元にかかる。
そっと抱きしめられて、もう一度かるくキスされて……


「やっ……」

胸元を触られた感触に、咄嗟にカラダが強張った。
ひとみちゃんは私の反応に、すぐに手を離してキツク抱きしめてくれた。


「ごめん……」

違うのビックリしただけだよ?イヤなんじゃないから。
ちょっと震えてるのはどっちなんだろう?
私?ひとみちゃん?


腕の力が緩んで、顔を覗き込まれた。
泣き出しそうな憂う表情も、とても綺麗で――――――
やっぱり美人さんだな、なんてバカみたいに
そればっかり頭の中で繰り返してた。
何回、綺麗だの可愛いだの思えば気が済むんだろ、私。
711 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:18
「ひとみちゃん、あのね……」
「い、いきなりはマズイよね」

「ううん、だいじょうぶ……」
「梨華ちゃん?」


今日は勢いでここまできたんだから、迷い無く飛び込めばいい。
成せばなる、なさねばならぬ何事も……
梨華、ファイトッ!!


「もっと、キスして?」
「う、うん」


最初はぎこちなかったキスも、だんだん様になってきて……
ひとみちゃん、うますぎだよぉ……
よくわかんないけど、きっとうまいと思う。

だって、腰に力が入んない
なんだか自分のカラダじゃないみたい
そのまま沈んでいくお互いのカラダ
ベッドの上で重なるように一つになる

絡み合う視線と舌とが、なんだかワカラナイほど
きもちいい……きもちよすぎてボーっとする。
 
712 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:19
目を伏せた表情も綺麗。
あぁ、ひとみちゃんに溺れちゃう――――――


「好きだよ、だいすき……」
「んっ…ぁっ………」
「梨華ちゃん、だいすき」


今までの想いをぜんぶ出し切るみたいに、ひとみちゃんは
なんども好きだと伝えてくれる。
私も言わなきゃって思うのに、言葉がうまく出てこなくって
ただ必死にひとみちゃんにしがみついた……

胸のあたりから少し下がっていった手が、腰を撫でながら止まっている。
そっと瞼を開けると、困ったようにひとみちゃんが笑った。


意を決したみたいに触れられた瞬間、ビクンって腰が浮いたら
ビックリしたのか、また手が止まる。
そーっと触れながらも、戸惑いがちに何度も私の反応を確認しては
情けない顔で、苦笑いするひとみちゃん。


「あ、あれっ……」
「な、なに?」

「ど、どう?痛くない?」
「ううん、たぶん……大丈夫」

「えっと、だいたいは分るけど……だいたいは……」
「ひとみちゃん?」


お互いに初めて。そういう知識もゼロではないにしろ、100ではない。
胸まではなんとかなっても……
あたふたとしてて、さっきのキスまでの余裕は無い。
713 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:19
ひとみちゃんは、しゅんとして申し訳無さそうに私を見て
これ以上続ける自信が無いんだ、なんて泣きそうな顔で呟いた。


「梨華ちゃん、ごめん……」
「でもキス上手だったよ?」

「ほんと?あれでも、あたし初めて……」
「うそ?」

「うそじゃないってば、何もかも初めてだよ」
「私も!ぜんぶ、ひとみちゃんが初めてだよ?」

「あぁ、めっちゃ嬉しい……」
「だからね?」

「うん?」

「やっぱりここから先も……」


『 初めては、ひとみちゃんがいいな? 』


そう囁くと、パタンって――――――
ほんとにパタンってひとみちゃんは横に倒れた。
714 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:19
「ちょっと、どうしたの!?ひとみちゃん?ねえ、だいじょーぶ?」
「あはははっ……」

「ひとみちゃん?」
「嬉しすぎて、死ぬかと思った……」

「やだっ、しんじゃダメだよぉ」
「いや例えだから」

「でも言っちゃヤダ」
「わかった……」


それからゆっくり起き上がって、ぎゅーっと私を抱きしめて、
キスを何度もしてくれた。
自分の緊張をほぐすように、夢中で私を求めてくれて――――――


快感は慣れていないと、ただ怖くて逃げ出したくなるけど
迷いなく触れる指先から伝わってくる「愛しい」という気持ちを信じて
身をまかせる……
さっきまでのぎこちなさが嘘のように、滑らかに私を包む手の暖かさに
徐々にカラダが熱をあげてくる……


「……きもちいい?」
掠れた声が熱をおびて、蕩けるように耳の奥に流れ込んでくる……


「…う、んっ………」
なんだかわからないけど、たぶんきもちいい……
触れるすべてが優しいから、いま私に触れてるのがひとみちゃんだから……
きっと、心が満たされてるからキモチいいんだよね?

そして、ひとみちゃんはより深くに触れようと
指先を私の中に伸ばした――――――
 
715 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:20
「ぁ、痛っ……」
「あああぁぁ、ご、ごめん!」

「ん、だいじょうぶ」
「梨華ちゃん……」


思わず漏れた呻き声に、また泣いちゃいそうな顔をしてるから
安心させようと微笑んで見せるけど、まだまだ不安そう。
最初からうまくいくわけないよ?だから大丈夫だってば……


「つづき、して?」
「でも、痛いでしょ」

「最初は、誰だって痛いんでしょ?」
「……みたいだね。個人差があるらしいけど」

「これ乗り越えないと……ね?」
「そうなんだけど……」

「もっと、きもちよく……なってみたいな」
「う、うん……」


抱きしめる腕に力をこめて、またキスをしてくれた。
痛みを緩和させるように、何度も何度も……
 
716 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:20
「……ぅ…くっ……ぁっ……」

自分でも信じられないくらい、声が艶っぽく響く。
あぁ、恥ずかしい……恥ずかしいけど、それ以上になんだか……
幸せなの、ひとみちゃんに触れられてることが幸せ。


「……あぁっ……ぁっ…はぁっ……」

「きもちいい?」
「……んっ、い、いよぉ……ひとみちゃ…」


安心したように微笑んでくれるから、もう痛みなんて感じない。
そう言い聞かせれば不思議だね……ちっとも……ってことはないけど
大丈夫、だいじょうぶだよ……


「かわいい、梨華ちゃん」

ただ身を委ねて、あなたに身を委ねて……
私は快楽に溺れるんじゃない、あなた自身に溺れていくのだから……


「梨華ちゃん、だいすき」

その言葉に反応したように、甘い声がもれる
喉元におさまることなく、あなたにだけ届くように
背骨を軋ませ、あなたをのみこんでいく……
全身が震えるような感覚に包まれ、弾け飛ぶ意識……


幸せの雫が、瞳から零れおちるのと同時に、
私の腰はゆっくりと落ちていった――――――
 
 
717 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:20
「梨華ちゃん……」

ひとみちゃんは甘く名前を呼んで、涙の痕が残る目元に
キスをいくつもおとしていく。

まだ潤んだままの瞳の中を覗き込んで、また名前を呼んでくれる。
愛しいと伝えるように、私の名前を甘く響かせる……


「だいじょぶ?」
「うん……」

「痛みは?」
「んっとね……すこしだけ。でも大丈夫だよ」

「そっか……」
「私のこと好き?」

「うん、だいすき……」


ぴったりと寄り添えば、じんわりと伝わってくるぬくもり
あなたとこうしていることが、何よりも幸せ……

 
718 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:21
「なんか照れるね……」
「どうして?」

「どうしてって……梨華ちゃんとこんな風にしてること」
「そうかな〜?私は嬉しいな」

「うん、嬉しいっか……そうだね、なんか幸せ」
「あったか〜い」


ぎゅっと抱きつけば、ダイレクトに伝わる心音。
満たされきった心とカラダは、ほんの少しだるいのに幸せでいっぱい。


「梨華ちゃん……」
「なあに?」

「好き」
「えへっ」

「えへっ、じゃなくってさ〜」
「好きだよ。ひとみちゃんだ〜いすき」




 
719 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:21
 
 ◇
 
720 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:21
 
「りかちゃん、おーい?どこいった〜?」


やばいくらいに瞳が潤んできてるし、そろそろ呼び戻そうと声をかける……
が、すぐには戻ってこないので、目の前で手をひらひらさせると、
ようやく戻ってきた梨華ちゃん。


「あれっ?……ごめんね美貴ちゃん」

「おかえり」

「ただいま……」

「どこいってたわけ?」

「……付き合った日のこと思い出してたの」

「なんかぽわ〜っとしてたよ」

「だって……」

 なぜか真っ赤になって両手で頬をおさえてる梨華ちゃん。
わざわざ俯き加減で上目遣いしてこっちを見るんじゃない!
キショいから、やめれ……

かるくスルーしとこ。


「で、ママがどしたの?」
「あぁ、あのね……」
 
721 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:22
 
「ママが女の武器は最大限に使えって……」


け、計算して胸おしつけてたんかい!
ってか、おばさん!娘になんちゅうアドバイスをしてるんですか……


「最初から狙ってたわけじゃないもん」
「そう思いたいけど……」

「ほんとだもん。無意識にくっついちゃうの……」
「ほー、それだけ好きだったってか」

「だって、よっすぃったら反応が可愛いんだもん」
「こんの魔性め……」


えへっなんて笑われても……
美貴はもう誤魔化されませんから!



「ところで、ドキドキについてはなんだったんだっけ?」
「キスするだけで……いまでもドキドキするんだよ」

「あら、可愛い〜美貴ちゃん」
「うっさい」

「あたしだってドキドキするよ?」
「マジ?」

「あのね……」
「そうか、そうだよね。好きだったら……」

「そう好きだもん。ドキドキしてたいじゃない」



穏やかに笑う梨華ちゃん。
キショいけど……ちょっとカワイイとか思ってない…はず。

722 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:22
「美貴ちゃん、まだキス以上とかないんだ」
「うん。お風呂は一緒に入れるようになった」

「成長したじゃん。胸見ただけで倒れてたもんね」
「それは言わないで……忘れたいんだから」

「まぁ、いいじゃん。美貴ちゃんたちのペースで」
「まだ、したいとか思わないんだよね」

「昂ぶるときが来るよ、そのうち……」
「なんか、えっちぃなぁ」

「なによぅ」
「この天然エロ娘め……」

「だってあたしってばセクシー担当じゃん?」
「どこでセクシーを担当するんだよ」

「どこだろう?」
「真剣に悩まなくて良いから。
 よっちゃんにだけセクシーふりまいてれば良いから」


「別にふりまいてないもん」


 プーっと頬を膨らませてる梨華ちゃんを無視して
お昼の用意をしようかなと思ってたら、よっちゃんの姿が見えた。
愛しのハニーを迎えに来たんだね、蕩けそうな顔で見つめあってるし……
と思ったら足早に歩いてきて、美貴の前に立った。
723 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:23
「ミキティー?」
「どったの、よっちゃん?」

「進路指導室に来いって、せんせー呼んでたよ」
「なんだろ……」

「なんか悪いことしたんじゃないの?」
「よっちゃんじゃあるまいし」

「みーちゃんほど悪くないぞ、あたしは」
「みーちゃん言うな!それに美貴がいつ悪いことしたんだよ!」

「さゆをたぶらかした……」
「たぶら……かしてないから!普通に出会って恋をしたんです」

「ひゃーー恋をしたとか。可愛いな〜ミキティは」
「うっさい、おっさんには無い可愛さがあるんだよ」

「誰がおっさんだよ。
 髪も伸びてきて、お姉さん度が増した綺麗なあたしをつかまえて」

「美貴のほうが髪伸びたもんね」

「あたしだって……」


むむむむむむむむぅ――――――
今度は、よっちゃんと睨みあう。
けど、トントンと梨華ちゃんに肩を叩かれて周りを見ると……
あっ、けっこうな人に見られてましたね。
止めます。すぐに止めます……
 
724 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:23
「んじゃ美貴行って来るね」
「あっ、うん。美貴ちゃんお弁当持って行ったら?」
「そうだね……」


バカップルがいちゃいちゃし始める前に教室を出よう。
そうだ、メール送らなきゃ。
先生に呼び出されたから、昼一緒に食べれない……

「ごめんねっと……送信」


今日はバイトだし、帰りも一緒じゃないんだった
ごめんね、重ちゃん――――――





  
725 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:23
 
 ******
 
726 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:24
「なに話してたの?」
「さゆと美貴ちゃんのことだよ」

「さゆとミキティ?」
「うん、いまだにキスだけでドキドキするって」

「そっか」
「あの二人、可愛いよね」

「梨華ちゃんが一番可愛いけどね」
「うふふふ、ありがと」

「あのさ?」
「なあに?」

「梨華ちゃんも……」
「するよ。いまでもドキドキする」

「まだ何も言って無いじゃん」
「わかるもん。ひとみちゃんのことは何だってわかるよ」

「じゃあ、いま何考えてるでしょーか?」
「……キス」
727 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:24
「へっ?」
「キスしたいな」

「なっ……」
「だめ?」

「ダメじゃないけど……場所変えよ?」
「ここじゃだめ?」

「他の人に見られたくない」
「……教室だもんね」

「梨華ちゃんのキス顔とかぜんぶ、あたしだけのもんだから」
「ひとみちゃんのもの……か」

「なにか不満でも?」
「ううん。嬉しいなって思ったの!」

「じゃっ、いつものとこでご飯食べよ」
「うん、二人っきりになれるしね」
728 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:25
「あと……梨華ちゃん食べたい気分」
「お家に帰ったらね」

「マジっすか?」
「マジっすよ。今日、ママいないの」

「早く放課後にならないかな〜」
「気が早すぎだよ〜」

「とりあえず梨華ちゃんの唇だけは、いただいちゃいま〜す」
「いただかれちゃいま〜す」


ぎゅっと腕にしがみつくと、
ふにゃっと崩れる表情はあの日のまま。

この腕の中で知ったのは、幸せな時間と……
それ以上に長く感じる、逢えない時間の辛さだった。
でも、逢えない時間の辛さなんて……
こうやって傍にいる瞬間に忘れちゃうほど、ちっぽけなものだから。
逢えない夜も乗り越えていける。
729 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:25
「そういえばさ……」
「どうしたの?」

「初めてがぜんぶ……あたしだって言ってたじゃん」
「うん。だってほんとだもん」

「でもキスだけは……」
「あっ……」

「違うじゃん……」
「違うね……でも、あんな風にキスしたのは」

「あたしだけ?」
「そうだよ、ひとみちゃんだけ」

「これからも?」
「ひとみちゃんだけだよ」

「梨華ちゃーん」


二人っきりになった途端に、甘えるように抱きついてきたひとみちゃん。
「だいすきだー」と叫んで、ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。


言葉で伝えることも、時には大切かもしれない。
だって、ほんとに些細なことでも不安になるよね?
お互いのすべてを分ろうとすればするほどに……

ねえ美貴ちゃん、深く考えすぎないで?
ドキドキできるんだから、きっと素敵な恋なんだよ……
感じたことを、そのまま伝えることも大切なんだと思うな。
 
730 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:26
 
 ******
 
731 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:26
 
「みーちゃん、藤本さんは……」


ベッドにどで〜んと居座るウサギのおおきなぬいぐるみ……通称みーちゃん。
まだ高校生の私達は会えない夜のほうが多いから。
そんな寂しさを紛らわせてくれる存在が、
誕生日の日に藤本さんがくれた、このみーちゃん。


「さゆみのこと……飽きちゃう日がくるのかな」


あれは科学の授業のため、特別教室への移動のときだった……



 
732 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:26
 

 
733 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:27
「さゆ、気にしちゃだめだよ」
「うん……」


 擦れ違った3年生の先輩は明らかに私を見て、ひそひそ話。
聞こえてきたのは藤本さんと石川さんの名前だった。
二人でなにやら話し込んでたらしくて……その後仲良くじゃれてたみたいなの。
私に飽きたんじゃないかとか、あんな子供相手にすわけないよねとか
先輩たちの声が、心に突き刺さった……


 立ち止まりそうになった私の手を、絵里が引いてくれて
なんとか歩き出すことが出来た。ほんとは泣きたいくらい悔しかったの。
なにも知らないくせに、私と藤本さんのことなんて何も……
けど泣かないって決めたから。泣いて良いのは、藤本さんの腕の中だけなの。
 
734 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:27
「何かの間違いだよ。美貴ちゃん、さゆのこと大好きなんだから」
「うん……」

「飽きるわけないじゃん」
「うん……」

「まだお揃いのストラップしてるんでしょ?」
「うん……」

「ピンクなんてつけない人だよ」
「うん……」

「ああ、見えても真面目だから」
「うん……」

「すっごくさゆのこと大切に思ってるんだよ」
「うん……」

「大切だから、いろいろ我慢したりしてくれるんだよ」
「うん……」

「さゆより絵里のほうが可愛いよね?」
「う……さゆみの方が可愛いの」

「そこは”うん……”じゃないんだ」
「甘いの」

「とにかく気にしちゃだめだかんね!」
「うん……」
 
735 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:27
 出来る限りの時間を、一緒に過ごしてくれる藤本さん。
6月までの短期で入っていたバイト先から、週2回でいいから来てほしいと
頼まれた為、夏休み明けから藤本さんはバイトを再開した。
でもバイトの無い日は、一緒にいてくれる。
けど、お夕飯の時間には帰ってしまう律儀な人。


信じてる、あなたのこと……信じてるの。


だけど今日はお昼休みも逢えなくて、放課後も逢えなくて……
この不安で悔しい気持ちをぶつけたかったのに……


逢いたい、藤本さんに逢いたい


涙が溢れないように、固く瞼を閉じる。
ぎゅーっと、みーちゃんにしがみついて瞼を閉じる。
このまま眠って、早く明日になって欲しい。
明日になれば、きっとあなたに逢えるから……
こんな不安なキモチ、すぐに忘れられるはずなの。
736 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:28

   ◇  ◇  ◇
 
737 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:28
「昨日はごめんね」
「ううん、だって進路相談とかバイトとか……仕方ないですよ」

「実は……」


急に真顔になった藤本さんに驚いて、泣きそうになって
ちょっと混乱してしまった。


「やだっ!聞きたくないの……」
「へっ?なんで……」

「だってだって、まだお付き合いして1年もたってないの。
 それにそれに、悪いことがあったら直します……
 逢いたいってメールを休み時間ごとに送るのも
 ピンクを強要するのだってやめるの……
 鏡を見るのは一日三回までにするし、寝起きの悪さもなおします。
 だからだから別れようなんて……」


「すとーーーーーっぷ!?」
「……藤本さん?」

「ストップ!ちゃんと最後まで話は聞こうね?
 えっとメールは……それだけ逢いたいって言ってもらえて嬉しいよ。
 ピンクはストラップだけ……は、へーきだから」

「はい……」


なんだ違う話なのね……でも、いきなり真剣な顔されたら、
別れようとか、あまりいいお話な感じがしなくって……勘違いしちゃうの。
自分の気持ちがいまネガティブだから、余計にそう感じちゃうのかな?
738 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:28
「鏡は……何回見てもいいよ。あっ、美貴と一緒のときはダメ。
 それとなんだったっけ……寝起きだ。寝起きは別に悪くは無いと思う」

「かわいいですか?」

「うん、かわいい。それに、別れようなんて1回も想ったこと無いよ……
 話っていうのはね、美貴のことだよ。大学のこと」

「えっ?」

「こっから一番近い大学に、行く事になったんだ」
「ほんとですか?」

「うん。隠しててごめん。決まるまでは言わないようにしてたんだ」
「嬉しいの……」


 そっと凭れかかると優しく抱き寄せてくれた。
そして、いつものように「ギューってして?」
とおねだりすれば、抱きしめる腕の力が増す。


誰も居ない昼休みの屋上。あなたが傍にいて――――――
それだけで、こんなに幸せです。
739 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:29
 安心できる腕の中で、ちょっとだけ泣くことができた。
やっぱりあなたの傍が一番落ち着ける場所です。
ごめんね、ウサギのみーちゃん。
やっぱり、さゆみの一番は藤本さんだから……


「泣くなよ〜」
「だって〜」

「帰りケーキ食べに行く?」
「わ〜い!藤本さんだいすきっ」



けど、一人になると……
不安が心の中に巣食って、離れていかない。
このままのお付き合いでも、飽きたりしませんか?
このまま、私のこと好きでいてくれますか?



ちゃんと言葉にできないまま、時間だけが過ぎていった――――――




 
740 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:29
 
 ******
 
741 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:29
 クリスマスイヴの日、街はキラキラと輝いていて賑やかだ。
人混みは苦手なんだけど、悪くないかな、今日だけは……
どれだけくっついても人混みのせいだと思えばいい。
恥ずかしくなく手を繋いだり、腕を組んだり出来るんだから悪くない。


プリクラを何枚も撮って、賑やかに彩られた街を二人でぶらぶらと歩いて……
そして、前から重ちゃんが行きたがっていたカフェへ
一緒に行くことに――――――
  
742 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:30
なっていた、はずだったんだけど……正直、道に迷いました(涙


 だって重ちゃんいちいち、色とりどりの街並みを見ては立ち止まって
美貴をひっぱるんだ。「藤本さん、これすごいですね〜」とか「綺麗ですね〜」なんて……
そんな嬉しそうな顔を見てたら、なんでか一緒になってはしゃいでた。


そしたら、どんどん目的の場所から外れてたらしくって
目の前にいつのまにかお城のような建物が……
やっばい『高校生不可』とか書いてますよ?

そーっと道を修正しようとしたのに、重ちゃんは美貴の腕をまた引っ張った。


「藤本さん、お城みたい〜」
「そ、そうだね」

「どうして『高校生不可』って書いてるんですか?」
「えっ?」


知らないの?マジで?じゃあ、いくらでも誤魔化せるじゃん!
なんて思ってたのに……


「入っちゃダメですかね?」
「ダメじゃないっすかね?」

「どうしてですか〜?」
「ほら高校生ダメらしいし」

「今日は私服だし。
 ほら髪だって下ろしてきたから、さゆみ大人っぽくないですか?」


 あぅぅぅ、ちょっと色っぽいかも……
何を誘ってくれるんだこのお嬢ちゃん。
そりゃ、白のロングコートもラインが綺麗で……
化粧も今日は多少してるわけで、一見すれば大学生に見えるさ。
743 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:30
「カフェ行くって言ってたじゃ〜ん!」

 間抜けなほど高いテンションで誤魔化そうとしたのに、
むぅっと頬を膨らませて、重ちゃんは拗ねてしまった。


「拗ねないでよ〜、カフェ行こう?」
「やだもん……入りたい」

「ここ何する場所か分ってないでしょ?」
「中見てみたいの。ほら、お姫様ベッドみたいなのがあるみたいですよ?」


 重ちゃんが指さした先にあるのは、客室案内の看板……
ここは新しくできたらしく大々的に宣伝してる『メルヘンチックなお部屋がいっぱい』って・・・orz
ものっすごい重ちゃん好みっぽいピンクな空間。
744 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:31
「飲み物とか飲み放題ですって、藤本さん」
「あぁ、そうみたいだね」

「ケーキもあるよぉ……入っちゃダメですか〜?」


 なにそのわざとしゃがんでの上目遣い?
また泣きそうになってるし、入ってもいいけど……

入ってもいいけど、美貴だって正直どんなところか知らないんだよ?
っていうかクリスマスだし、イヴだし?満室ってこともありうるよね?
むしろ部屋を埋めとけバカップル……

『よし、満室だから残念だったね。ほら次の機会と言う事で今日はカフェに行こう』作戦(仮)

これでいこう。満室って見たらさすがに引くでしょ。



 
745 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:31
「あっ、さっきのベッドがあるお部屋空いてますよ?」
「あはははっ、みたいだね……」

なに1部屋だけ空いてるなんていうミラクルを起こしてくれてるんだ、このやろう……
薄暗くなってきた空に向かってバカヤローとか叫びたい気分。
なんだかムーディーな雰囲気の夕暮れに、のみこまれそうで怖い。


しばらく動けないでいると、腕を掴んでぐんぐん中に連れて行かれ
いつのまにやらお会計しちゃって鍵を受け取ってた美貴。


うぅ、初めて入ったんですけど、新しいだけあって
すごい綺麗ですね内装……
ほんとにピンクのお姫さま風ベッドが置いてありました。



「ほんとにすごいんですね、こういう所って……」
「へっ?」

「どういうところか知らないわけ無いじゃないですか〜」


やられた……
当たり前だよね、いくらドリンク飲み放題でケーキもつくよ!とか書いてても
「休憩2時間××××円」とか書いてて、そもそもベッドがある時点でわかるよね・・・orz

って、なにを小さな冒険をしてるんだ重ちゃんは!?
 
746 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:31
「美貴、帰る!」
「2時間分料金払ったんですから、ゆっくりしましょうよ」


立ち上がったんだけど手を引っ張られて、うわぁ〜ってベッドに戻された美貴。
なんだか勢い余って抱きついちゃったよ。


「えへへドキドキしてる」
「うっさい」

「・・・・・」
「さゆみ?」


突然黙ってしまった彼女が心配になり顔を覗き込む。
なぜか重ちゃんは、泣きそうになっていた……


「ちょっ、泣くなよ〜。なに、どした?」
「だって、藤本さんに飽きられたくないの……」


だからって、する理由にはならないよ。
まだ、早いんだよ美貴たちには。
だって、美貴の心臓ありえないくらい速くなってる。
もう自分で止められないほど早鐘をうって、壊れそうなんだ。
 
747 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:32
 重ちゃんだってきっと……
キスだけで壊れそうなくらいドキドキして、
いっつも泣きそうな顔するくせに。
なのに今日はいつも以上になんだか……その艶っぽい。


どうした道重さゆみ?


「無理しなくていいんだよ?」
「無理なんて……してません」

「でも……」
「さゆみのこと、嫌いですか?」

「嫌いじゃないって、いつも伝えてるじゃん」
「だけど……」


不安なんだもん……そう呟いた。
748 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:32
「藤本さん、お風呂に一緒に入っても平気そうなの」
「そんなこと……ないってば」

「そんなことあるの」
「ないって。倒れなくなっただけだよ、コンタクト外してるし」

「見たくないですか?」
「見ないようにしてる……」

「私じゃダメですか……」
「違うよ。さゆみだから……」


勢いだけでしちゃうなんてヤなんだ。だからね……
よわっちい理性が負けてしまわないように、
見ないようにしてるんだよ。ほんとに、深い理由なんて無いんだ。
749 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:32
気分を変えようとテレビの電源を入れたけど、マッハで消した。
なんでふつうのチャンネルじゃないんだよ……
気まずい、めちゃめちゃ気まずい。


「藤本さん、手がすっごく冷たいの」
「あっ、寒かったよね外……」

「温まりませんか?」
「はい?」

「お風呂入りましょう」


なんだか眼力に負けて、コクコクと頷いてしまった美貴。
するすると服を脱ぎだした重ちゃんを見て、慌てて自分も服を脱いで……


なんだ、なんだ?
今日はやけにテキパキと美貴をリードしていくよね……
ほんとにどうしたの?
750 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:33
重ちゃんが、ちょっと視線を泳がせた。
その視線の先には――――――


うわっ、ガラス張りのバスルームって……



二人でお風呂につかりながら、沈黙……
どどどどどうしよう、美貴から喋るべき?
と思ってたら、先に話しかけてくれた。


「あったかいですね」
「お風呂だしね」

「くっついてもいい?」
「へっ、あぁ……うん」


そっと美貴の方に寄りかかって、重ちゃんはちいさな溜め息をついた。
直接触れた肌が、異様に熱を帯びていくように感じられる。
お風呂の暖かさのせいじゃない……
額から汗が噴出して、もう目も開けていられない。

緊張しすぎて、なんだか思考が回らない。
心臓がヤバイ。ドクンドクンって全身で脈打ってるように感じる。
い、息も苦しい……
751 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:33
「藤本さん、汗いっぱい?」
「あ、熱くって」

「じゃあ出ましょう?」
「うん……」


そっと美貴の手をとって、立ち上がらせてくれた。
汗が目に入って、視界がちょっと悪い……
着替え……着てきた服はたしかソファだか、ベッドだか……
どっちかで脱いだから、そのまま置きっぱなしだ。


どうしようかなと思いつつ、カラダを拭きながら
キョロキョロしてると、重ちゃんがバスローブを渡してくれた。


美貴が、バスローブを着るのにもたもたしてると
先に着替えた重ちゃんが、着てきた服をハンガーにかけてくれていた。
752 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:33
ソファにゆったりと座……
あれっ、なんだこれ?


「テーブル高いですね」
「なんかバランス悪いよね……」

と言いつつ、いらん想像をして倒れそうになった。
ここ、テーブルに座……ごほごほっ、考えるな美貴!
ふいに重ちゃんがバスローブの袖をひっぱった。
指差された先にあるのは……


「ウォーターベッドみたいですよ?」
「マジ?」

「ちょっと面白そう」
「乗ってみるか……」

「寝ちゃいますか?」
「えっ?でも2時間でしょ……あと1時間半くらい……」

「とりあえず、ベッド行きましょう」
「う、うん……」


とりあえずって、あんた……
ものすごい誘われてるのかな、美貴って?
どうしよう、さっきの話も流れたまんまだし。
753 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:34
  
「おっっと……とりゃっ!…」
「キャッ……藤本さん飛ばないでください」

「だって面白いよ、これ」
「なんかチャプチャプしてる」

「おわー沈んでくみたい」
「藤本さん子供みたい……」


ベッドの上で飛び跳ねたり、寝っころがって体を沈めてみたり……
ほんとに美貴のが子供みたいじゃん。
でも、自分でテンションあげないと、なんか変な雰囲気になりそうで
怖いんだよ……


美貴を見て微笑む重ちゃんは、ちょっと大人びた顔してる。
やばい、やばいなぁ。
そっと起き上がった美貴に、ぐっと近づいてきた瞳は
熱をおびて、なんだか色っぽい……

754 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:34
「みーちゃ」
その呼び方は慣れないんだってば……
言葉の途中で、思わず唇を塞いでしまってた

あぁ、ダメだ
やわらかな感触に、ぐらぐらと揺らぐ思考


「みーちゃん…」


脳に響くように聴こえる甘えた声……
唇を離してそのまま見つめると、その瞳は
もうありえないくらいに潤んでいて……


ゆっくりとベッドに倒していくと……
カラダが強張って、瞬きすら出来ないでいる
隠し切れないほどの緊張が、その瞳から伝わってくる
755 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:35
期待なんかじゃない、ただ不安に潤む瞳
強張って固まっていたカラダが、小刻みに震えはじめて
その震えが、美貴にまで伝わってくる……


「さゆみは、そんなにしたい?」
「えっ?」

「さゆみが……そう想うなら。心から想うなら美貴だって覚悟決めるよ」
「藤本さん……」



重ちゃんはブンブンと首を振って……違うのって呟いた。
そして、気持ちをうまく言葉にできないのか、泣き出してしまった。
だいじょうぶ、わかるから。その気持ち、痛いほど分かるから。

こんなことを望んでる訳じゃないって、分かってる。
何も言わなくてもいいよ。ごめんね、ちょっと意地悪しただけなんだ。




 
756 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:35
 
 ******
 
757 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:35
 自分から誘ったようなものなのに……
なのに問いかけられて、やっぱり何か違うって思った。
なにかが怖くて、不安で、どうしようもなくって泣いてしまった。
きっと困ってる。矛盾だらけの私の行動に怒ってるかもしれない……


涙をなんとか止めようと、固く瞼を閉じた。


 
758 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:36
ぽたり、ぽたりと頬に落ちてくる感触に
そっと瞼を開けて見上げると、藤本さんが泣いていた。
唇を噛みしめて、泣いていた――――――


「ごめん……」
「藤本さん?」

「こんなに心配させて、不安ばかり感じさせて……」
「違うの違うんです」


自分に自信が持てなくて、勝手に傷付いた顔して
あなたのこと、こんなに傷つけて……

藤本さんの涙が、私の頬を少しづつ濡らしていく


「さゆみが……さゆみがこんなに悩んでるなんて知らなかった」
「藤本さん……」

「ごめんね、ごめん……」
「泣かないで、みーちゃん……」


華奢な藤本さんのカラダを引き寄せて、ぎゅーっと抱きしめた。
芯はしっかりしてるのに、どこか甘えたな可愛らしい人。
私のことを守ろうって、いっつも無理してくれてる。
なのに、いつもこんなにも困らせて哀しませて……
 
759 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:36
「もっと伝えてあげれば…ちゃんと気持ちを……」

「いっつも「好き」って言ってもらってたのに
 さゆみが贅沢になってただけなんです……」

「そんなことないよ。美貴が悪い」

「悪くないの」

「今日は謝らせて……ちゃんとさゆみに伝えたいんだ」


先に起き上がった藤本さんは、そっと私のカラダを起こした。
真っ直ぐに見つめる瞳は、いつもの凛とした眼差しに戻っていた。
ほんのちょっと涙の痕を残して……
 
760 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:37
「慣れたり飽きたりなんてしないよ」
「はい……」

「だって、こんなにドキドキしてる。いっつも一緒にいるだけで……」


私の手をそっと自分の胸の中心にあてた。
心臓があるのは左じゃなくて、カラダの真ん中あたりなんだよ……
そう藤本さんが教えてくれたことが、あった。

響くように伝わってくる心音は、あなたが私を好きな証拠――――――


「好き」


すこしの迷いも無く、藤本さんは言い切った。


「好き」


強い意志がこもった言葉に、胸が苦しいほどにしめつけられる。
どうして「不安」なんて感じたんだろう?
どうして、どうして……
こんなにも愛されていたのに――――――

 
761 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:37
「好きって伝えようとするだけで、泣きそうになるんだ」


そっと頬に触れた手の感触が、あまりにもやさしくて
また涙があふれ出してくる……
その涙を見て藤本さんは『泣かないで』とは、言わなかった。


「さゆみ、いまのままがいいんだよ」
「うん……」

「こんなに美貴のこと好きでしょ?」


涙を確かめるように拭って、微笑んだ藤本さん。
凛とした眼差しから伝わってくるのは、たしかな愛情……


「……みーちゃあん」
飛び込んだ腕の中は、とても暖かくて大きく感じた。
華奢なはずなのに、とても大きく……


「さゆみのこと、ほんとにほんとに好きだよ」

「ぅっ……ぇっく……」
言葉の代わりに漏れる嗚咽
あふれ出す涙は、すこしづつ藤本さんの胸元にしみていく。
762 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:38
「泣き虫なところも」

そっと瞼にキスされる。
目を閉じていても浮かぶ、あなたのやさしい笑顔……


「自分大好きなくせに、美貴のこと好きすぎるところも」

頬に唇が触れた。
零れおちる涙にキスするみたいに
ふんわりとやさしく。



「さゆみのすべてが、好き」

甘い声で囁く愛の言葉が、深く心に沁みこんでいく……
ゆっくりと瞼を開ければ、想像通りのあたたかな笑顔があった。



唇の柔らかさ、伏せられた睫の美しさ
そして甘い甘い囁きを、きっと忘れない……


そっと伸ばした指先を、あなたは1本1本絡めとり握りしめる。
隙間無くぎゅっと繋がった指と指……
確かめるように握れば、すぐにぎゅっと握り返してくれる。


「これからは、どんな些細なことでも溜め込まないで……
 ちゃんと美貴に伝えてほしいな」

「うん……」


愛しさに満ちた眼差しに、もう不安なんて感じなかった。



 
763 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:38
 
あふれだした想いのすべてが、涙にかわって零れ落ちる
涙に彩られた私とあなたの恋は、ずっと色褪せない



「大好き」



想いを伝え合うように、しずかに唇を重ねた――――――



 
764 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:38
 
 ******
 
765 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:39
 彼女はとてもしっかりしてて……
見た目よりうんと弱虫で甘えんぼな美貴を、包んでくれる。
自分に自信が無いなんて、これっぽっちも気付かせなかった。


 でも、ほんとうの彼女はとても泣き虫。他の人の前では泣かないけど……
それが嬉しくて、ほら頼りにされてるんだって感じるから。
それだけで単純な美貴は強くなれるんだ。

アンバランスなようで、とてもバランスよく繋がってる二人だから。
いつか……そう、いつかそんな日が来るまでは現在のままでいよう?



初めて触れた本音。たくさん抱えてた不安。
ぜんぶ包んであげられたのかワカラナイけど、笑ってくれたから安心した。
涙をいっぱい流したあとに、溢れんばかりの笑顔を美貴にみせてくれた。


お互いに自信や言葉とか、いろんなものが……
まだまだ足りないだらけの幼い恋。

だけど、自分達のペースで進んでいけばいい。
こんなに想いあっているんだから、何も怖がることはないんだよ。
766 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:39
ゆっくりゆっくり焦るな美貴……
急がば回れって、言うじゃん?



「藤本さん!」
「走ったらこけちゃうよ?……さゆみってば」

「すご〜い!綺麗なツリー……」
「うん、綺麗だね」

「ツリーとどっ」
「さゆみ」

「まだ最後まで喋ってないのに〜」
「さゆみが一番きれいで可愛い」


嬉しいって呟いて、
甘えるようにぴったりとひっついてくる。

そう、この笑顔をまだ壊したくないんだ。
このイルミネーションよりも煌めく世界を、
君の自慢の瞳に映してもらえるように、美貴がんばるから。

繋いだ手から伝わるぬくもりを、絶対に忘れないようにしよう。
離れていても、傍にいるから。
767 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:39
 
そして、そうだな。まず手始めに……
いままでで一番素敵なクリスマスを、プレゼントするからね――――――








 
768 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:40
 
クリスマスローズ:花言葉【私の不安を取り除いて?、追憶、大切な人】
 
769 名前:クリスマスローズ 投稿日:2005/12/24(土) 00:40
 
 
おしまい。
770 名前:日季 投稿日:2005/12/24(土) 00:41
>>685-769「クリスマスローズ」更新終了です。

まとめきれず長くなってしまいました……orz
クリスマス当日は予定があるので、更新する時間がいましかなく
一気にあげました。

あっ、今回は(*´▽`)´〜`*)馴れ初めなんかも書いてみましたw
でも、書き切れなかった……( ノ▽^)^〜^0)アイシテヨッスィー 

このみきさゆは、キスまでのお付き合いをモットーにしていますw
些細なことでも悩んで苦しんで……
そんな純粋な気持ちを、書いていけたらな……なんて思います。



从*VvV)<Merry Christmas!>(・ 。.・*从

皆さんにとって素敵な一日になりますように……
 
771 名前:日季 投稿日:2005/12/24(土) 00:42
>>681さま
レスありがとうございます。キャワに出来ててよかったです。
石川家はありえないくらいのお金持ち設定ですw
从*VvV)<ば、ばかっぷる……褒められたんならいいや。

>>682さま
レスありがとうございます。
从*´ ヮ`)*^ー^)<萌えてくれて、あ り が と う ♪

>>683さま
レスありがとうございます。初々しくしすぎたかな?と思ってたので良かったです。
( `.∀´)<メールの返事すらこないわよ!w

>>684さま
レスありがとうございます!石川家は平和で愛があふれてますw
このみきさゆの続編は、ずっと書きたかったんですよ〜。
季節が一気に飛んでしまいましたが、期待にお答えできたでしょうか?(汗
从*・ 。.・)<これからも純愛なの。
772 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 00:48
リアルタイムで見てました。
更新量多い上に何もかも甘くて、でもちょっぴり切ない部分もあって、最高のクリスマスプレゼントを頂きました!
作者さんもいいクリスマスを…

683さんの作者さんの返レスのケメ子に激しくワラタw
773 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 01:20
さゆと一緒に泣きそうになったり、美貴さんと一緒に頬が緩んだりしちゃいます
こちらの藤道大好きです
774 名前:名無し 投稿日:2005/12/24(土) 01:29
大量更新お疲れさまでした。かなり読みごたえありましたー。
むちゃくちゃさゆがカワイイし、ミキティ-かっこいいし最高でした!!
この美貴さゆ今後も続いてほしいです。
775 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 01:35
最高です。美貴ちゃんもさゆもすごく素敵。
続編、期待しております!
776 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 01:55
683です。けめちゃ〜ん。・゜・(ノД`)・゜・。は置いといてw
さゆ美貴最高です!かわいすぎですよ作者さん
続くといいな
777 名前:前29 投稿日:2005/12/24(土) 08:33
最高のクリスマスプレゼント、ありがとうございます〜!!
いただかれっちゃった石川さんキャワw
みきさゆもいしよしもほんとにオール甘甘で
ゆるみっぱなしでしたわ・・・w
.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n`∀`)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*☆.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n
778 名前:初心者 投稿日:2005/12/25(日) 16:59
更新お疲れ様です 長いのは大歓迎です
よっしー梨華ちゃんの初々しい馴初めがとってもいいですね 梨華ママすごい
健気なさゆの言動とミキティの優しさがたまらなく素敵です 泣いちゃった
またこの続きが読みたくなりました 次回更新待ってます
779 名前:日季 投稿日:2005/12/25(日) 23:46
>>685-769の続編です(一応)短いです。


『デージー』

 
780 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:47

「さゆみみたいなんです」

「はっ?」


まどろんだ冬の夜。クリスマスを満喫した(であろう)二人は
家でまったりすることにした。

ご飯もたらふく食べたし、コタツに入って美貴はボーっとテレビを見ていた。
なにやらフィギュアスケートなるものをやっている
『銀盤の妖精・聖夜に華麗に舞う』なんて大々的に宣伝してた。


それで重ちゃんはというと、何やら梨華ちゃんから借りた本を
ジーッと見てた。何だろう?って思ったんだけど、妙に趣味の合う二人のことだから
どうせ乙女チックな、美貴にはどうでもいい本だろうと気にも留めていなかった。


そしたらいきなり「さゆみみたいなんです」という発言。
どの辺から突っ込めばいいのか分らずに「はっ?」なんて聞き返したら
プクッと頬を膨らませて、拗ねてしまった。
781 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:47
「あの、さゆみ?」
「藤本さん、テレビばっかり見てるんだもん」

「いや、なんとなく面白いんだよフィギュア」
「さゆみなんて興味ないんだ……」


おいおい先に美貴を放置したくせに……
ご飯食べて帰ってきて、いきなり本を読み出したのは重ちゃんじゃん。
でも、まあ一緒に読んでくださいって光線を、たしかに無視してしまったし
ええ、美貴が悪いですね……悪かったですとも。


「ごめんね、ちゃんと聞くから機嫌直して」
「やだ」

「即答しないで、機嫌直せよ〜」
「まずはテレビ消してください」

「えっ?」


あとちょっとで終わるんだよ……
ほら細い綺麗な選手の涙とか美しくない?
みんなそれぞれに最高の演技をしてて、感動するよ?
にわかファンですが、結果が気になるんですけど……


でも消さなきゃ泣くな。もう潤々して零れ落ちそうな涙が見える。
素直にボチッと電源を落とすと、ちょっと機嫌が直ったらしく
美貴の傍に移動してきた。
782 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:48
「このお花、可愛いんです」

重ちゃんが指差した先にあったのは『デージー』という花。
春頃に梨華ちゃんがよっちゃんに買ってもらったと、真剣に読んでた例の本か。
懐かしいな、たしか重ちゃんに会った頃だったよね。



「デージーは、日の光が射すと花を開き……」
日が沈むと花を閉じます。デイズ・アイ(太陽の目)と呼ばれていて、
デージーという名前がつきました。



「へ〜、すっごい可愛らしい花だね」
「さゆみみたいでしょ?」

「う?うん……」
「だって、さゆみは藤本さんの前でだけ花を開きます!」

「美貴は太陽ですか?」
「さゆみの太陽さんです!」


太陽さんです!とか、満面の笑み&ロリ声で言われても嬉しくなんかないぞ。
嬉しくないはずなのに、なんだ緩んでるな……頬が思いっきり緩んでる。
なに言われても嬉しいって反応を、意識せずにしちゃうみたい。
783 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:48
でもヤバイな、美貴は汚い大人かもしれない……orz
美貴の前でだけ花を開きますとか宣言されて、ものすごいアホな想像をしてしまった。
昨日誓ったばかりじゃないか……
ありえないくらいの純愛街道まっしぐらですよ、お母さん。

だって重ちゃんは、自分の言葉がそんな風に解釈されるなんて
これぽっちも思ってないんだよ、絶対に。
アホな考えを頭から排除して、もう一度視線を本に落とす。


「花の芯を太陽に、花弁を太陽の光に見立てた名前です。
 だって、すごいね。花の名前にも色々な理由があるんだね」

「あと、これ」


ん?なになに……デージーはイタリアの国花です。
うん、それがどうしたの?と様子を伺うと……


「さゆみ、明太子スパゲッティーがいちばん好きなんです!」
「はぁ、そうだよね。よく食べに行くもんね」


っていうか、それしか頼まないよね。
だから外で食べると、必ずパスタ屋さん行かされるもんね……
784 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:49
「パスタといえば……」
「あぁ、イタリア料理だけど」

「だから、さゆみにぴったりのお花です」
「……そ、そうだね」


意味わかんないけど、もう慣れてきた。
重ちゃんの脳内の不思議レベルには、慣れました。
だって明太子パスタは『和風パスタ』だよって突っ込んだら
また機嫌悪くなりそうだし。さわらぬ神に祟りなし……



花言葉は……『乙女の無邪気』ですか、そうですか。
ほんとに重ちゃんにぴったりかもしれない。
無邪気に美貴のこと振り回してくれるもんね。
785 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:49
「藤本さん……」
ぴとって寄り添って甘く囁く。


「だいすき」
確認するように見上げる視線に、頬が緩みっぱなし。
情けないけど、情けないほどに……


「すきだよ」
「だいすき?」

「うん、だいすきだよ」
「えへへへへ、ちゅ〜」


ちゅ〜っていいながら、かるくキスされる。
たはっ、なんて情けない幸せな笑みが漏れる……

 
786 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:49
ごめんね、一緒にいる時は全神経を重ちゃんだけに集中すると……
誓ったほうがいいですか?いいですよね?そうします。
もうテレビなんて見ませんから……


胸を押し付けるのだけは勘弁してください。
潤んだ瞳で見上げてくるのも止めてください。
無意識ってほんとに怖いね……


そんな風に思ったクリスマスの夜の出来事でした。







 
787 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:50
 
「みーちゃんからも〜」
「な、なに?」

「ちゅーして?」
「いや、あの……」

「……してくれないんだ。さゆみのこと嫌いなんだ」
「好きだから!大好きだから……みーちゃんは照れる」

「いい加減に慣れてください」
「慣れの問題なの?」

「だって、さゆみのこと名前で呼べるようになったし」
「なったね……(心の中では、いまだに重ちゃんなんだけど)」

「すこしづつ進んでいきましょう?」
「うん、そうだね」


そっと目を閉じる重ちゃん。あの、唇は尖らせなくても……
まだちょっと子供っぽさが残る彼女。そこが可愛くて仕方ない。

しばらく見惚れてると、じれったそうに揺れる睫。
甘やかし過ぎかなぁって思いながらも……

ありったけの想いを込めて、そっと口づけた――――――




 
788 名前:デージー 投稿日:2005/12/25(日) 23:51
 
デージー:花言葉【乙女の無邪気、無意識】



―――――― おしまい。
 
789 名前:日季 投稿日:2005/12/25(日) 23:52
>>779-788 更新終了です。
やっつけで書いたんですけど、萌えの無い更新でした?……orz
(作者は子供の頃からフィギュアスケート大好きですw)

しばらくは、このみきさゆの続編を書こうかと思います。
また更新した時には、読んでいただけたら幸いです。
(ストックが無いので更新日は未定です)
790 名前:日季 投稿日:2005/12/25(日) 23:52
>>772 名無飼育さん
レスありがとうございました。リリリアルタイム……長くってスイマセンでしたw
こちらこそ最高に嬉しいです!あったかいお言葉もありがとうです。
( `.∀´)<笑ってもらえれば本望よ!

>>773 名無し飼育さん
レスありがとうございます。感情移入して読んでいただけて嬉しいです!
从*・ 。.・)*VvV)<今後も頑張ります。

>>774 名無しさん
レスありがとうございます。読み応え……長すぎ?とか思ってたので嬉しいですw
道重さん=可愛く、藤本さん=かっけくがモットーです。
从*・ 。.・)*VvV)<続きます!(と宣言してみるw)

>>775 名無し飼育さん
レスありがとうございます。最高ですなんて……最高に嬉しいです。
从*・ 。.・)*VvV)<続編……が、頑張ります!
791 名前:日季 投稿日:2005/12/25(日) 23:53
>>776 名無飼育さん
レスありがとうございます。可愛すぎましたか?そう言ってもらえて嬉しいです。
つ、続きます……がんばりますw
( `.∀´)<ちょっと放置はダメよ! 

>>777 前29さん
レスありがとうございます。少しでも幸せになってもらえたら……と頑張りました。
やっぱり甘いほうがいいですよね?w
(*^▽^)<夜はもっと……キャッ!

>>778 初心者さん
レスありがとうございます。長文大歓迎と言っていただけて良かったです。
いしよしもこんな時代が……ってことで書いてみました。ママも豪快な人ですw
みきさゆ続編も、まったり見守ってもらえれば幸いです。
从*VvV)<さゆみ、涙拭いてあげて。
从*・ 。.・)っ◇ 泣いてくれてありがとうなの。
792 名前:名無し 投稿日:2005/12/26(月) 00:05
甘えたさゆカワイイ!!今後も楽しみです
いつミキティ-が無意識の誘惑に負けるのか見守ってますw
793 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/26(月) 04:14
美貴様と一緒に顔がゆるみっぱなし
ここのさゆはかわいすぎます
続編楽しみにしてます
794 名前:日季 投稿日:2005/12/27(火) 00:06
>>779-788の続編です。


『アスター』

 
795 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:07

今年はあなたに出逢えて
とっても素敵な一年になりました


来年もあなたと一緒に
素敵な一年になりますように――――――





 
796 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:07
 
   ◇  ◇  ◇
 
797 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:07
『もしもし、さゆみ?』

「はい、さゆみです」

『だよね、携帯だし……』

「えへへ、どうしたんですか〜?」

『これからご飯食べに行くんだ!焼肉!』

「・・・・・」

『あれっ?もしも〜し』

「楽しそうですね……」

『やっ、あの…ほら、焼肉だからテンション上がっただけだってば』

「さゆみはこんなに寂しいのに……ぐすっ」

『ちょっ、泣かないで!寂しいよ、寂しいってば』

「ほんと?」

『だって声が聴きたくて電話したんだよ』

「……嬉しいの」

『ご飯終わったらまた電話するから』

「はい」
798 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:08
『ごめんね、その……北海道は毎年恒例で、美貴が行くとばあちゃんも喜ぶんだ』

「わかってます……私だって山口ですもん。おばあちゃんもおじいちゃんも喜んでくれました」

『さゆみ?あのね……』

「どうしたんですか、藤本さん」

『えっと……よかったら。よかったらでいいんだけど』

「うん」

『いつか一緒に北海道行こう。んで、美貴も山口に行ってみたいな』

「……みーちゃん」

『いいよね?』

「うん!いつかじゃなくって、絶対ですよ?」

『わかった、絶対』

「約束」

『約束……じゃあ、またかけるね』

「はい、また後で……みーちゃん?」

『ん?』

「だいすき」

『……すきだよ、美貴も』
799 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:08

耳元に残る声の余韻が愛しくて……
携帯を耳にあてたまま、しばらく放せなかった。

「すき」

何度聴いても慣れないほど嬉しくて、ドキドキする魔法の言葉。



離れ離れの年末年始はちょっと寂しい……
ほんとは一緒に居たかったけれど、藤本さんに言われたから。
家族も大切にしなきゃダメだよって。


少しの間くらい離れていても、大丈夫って思わなきゃ。


「ね、ちびみーちゃん」

そっと小さなウサギのぬいぐるみを抱きしめる。
さすがに大きなぬいぐるみを持っては来れないから
クリスマスに買ってもらった小さめのうさちゃん……通称ちびみーちゃん
を抱えて瞼を閉じて、あなたの優しい声を想い出す。
800 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:09

   ◇  ◇  ◇
 
801 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:09
マナーモードにして、藤本さんからの電話を待つ。
もう眠いから、なんて嘘をついて一人で部屋に戻った。
ウトウトとし始めた時、着信を知らせるように携帯が震えた。

ディスプレイに大好きな名前を見つけて、ぱぁ〜っと目が醒める。


「藤本さん!」

『わっ、どしたの?』

「嬉しかったの」

『あははっ、ビックリするじゃん』

「ごめんなさい……」

『ううん、美貴も嬉しい』

「焼肉どうでしたか?」

『うまかったぁ〜。さゆみにも食べさしてあげたかったな』

「さゆみもフグ食べたんですよ!」

『まじっ?いいなぁ……』

「藤本さんにも食べさしてあげたかったなぁ」
802 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:10
『やっぱさ、考えちゃうね』

「考えちゃう?」

『こう、ふっとした瞬間にさゆみどうしてるかなぁとか』

「一緒に食べたいなとか」

『どんな顔してくれるかなとか』

「えへへ、嬉しいですね」

『照れるけどね』

「どこにいても考えちゃうなんて素敵なの」

『ちゃんと繋がってるんだよ、キモチは』

「電話だと藤本さん素直なの」

『え〜、普段からさゆみには素直だよ』

「そうですか〜?」

『そうですよー。まっ、お互いに素直にいこう』

「はい!」

『いい返事だ、褒めてあげよう』

「やったぁ〜!」

『あははっ』
803 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:11
「あと3日……」

『そっか3日に帰るんだね、さゆみ』

「藤本さんも3日ですよね?」

『うん、夕方に着く便だよ』

「さゆみの方が早く帰ってくるから、空港までお迎え行きますね」

『ほんとに?大丈夫?行き方わかる?疲れてるでしょ?』

「子供じゃないんですから。それに少しでも早く逢いたいの」

『逢えるのは嬉しいけど……心配だ』

「大丈夫ですよ。吉澤さんと行きますから」

『だめだめ、よっちゃんと二人なんて……』

「ヤキモチだ〜」

『ちがっ……わないけど』
804 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:11
「大丈夫ですよ、さゆみが好きなのは藤本さんだから」

『わかってるけどさ……』

「それに、石川さんも一緒ですよ」

『えっ?梨華ちゃんも?なんで?』

「だって石川さんにお願いしたんだもん」

『……よっちゃんのがオマケだったわけか』

「そうです。ごめんなさい」

『はぁ、安心した』

「怒らないんですか?」

『だって、せっかく話せてるから……怒って欲しい?』

「ううん。優しい藤本さんが好き」

『でしょ?美貴ってば大人なんだー』
805 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:12
「ちびみーちゃん連れてきたんですよ」

『そっか……ってか、ちびみーちゃんってそのまんまじゃん』 

「だって、みーちゃんよりちっちゃいから」

『じゃあ、あいつはデカみーちゃん?』

「それはあんまり可愛くないから却下です。それにあいつって……」

『だってさ、美貴よりさゆみと一緒にいるんだよ』

「ヤキモチだ〜!に〜かいめ!」

『くそぉ、何回でも妬いてやる……』

「今日の藤本さんとっても可愛いの」

『いつだって可愛いやい』

「さゆみは?」

『さゆみは毎日可愛い』

「えへへへ、やっぱり素直だ。今日の藤本さん」
806 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:12

『ふぁぁ……ごめん』

「あくび?」

『ううん……ちがっ、だいじょぶだよ』

「眠そうですよ?」

『眠くなんて無いよ。ちびっ子に混じって雪合戦して疲れてなんか無いから』

「疲れたんですね……」

『ん?美貴、疲れてないってばぁ……ふぁっ』

「あくび出てますよ」

『……ごめん』


 
807 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:13
 
   ◇  ◇  ◇
 
808 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:13

「藤本さん?」

『……スースー』

「みーちゃん……」


しばらくお喋りに付き合ってくれてた藤本さん。
けど、我慢できずに寝ちゃったみたい。
疲れてるんですね、ちびっこのお相手お疲れ様でした。

その場のノリで意外とはしゃいで……後でどっと疲れるタイプの藤本さん。
きっとカワイイ寝顔で携帯を握りしめている。


「みーちゃん、おやすみなさい」

「みーちゃん、年が明けちゃったよ?」

「みーちゃん、今年もいっぱい大好き」

「みーちゃん、これからもいっぱい愛してね?」

「みーちゃん……」

みーちゃん、みーちゃん、みーちゃん……

ふだんは照れちゃってあまり呼ばせてくれないから
寝てる間に慣れてもらおう。
809 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:13
電話口から穏やかな寝息が聞こえて、傍にいるみたいで安心する。
離れていても、心の中がぽかぽかとあったかくなる……

でも早く逢いたいな。寝顔だってちゃんと見たいもん。
あとは、あとは……
ぎゅーって力いっぱい抱きしめて欲しい。



ツーツーという音が聞こえて、そっと携帯を放す。
電話、切れちゃった。
見つめても見つめても、着信を知らせてくれることは無い。
もう、ほんとに寝ちゃったのかな……
やっぱりちょっと寂しいな。
810 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:14
私も寝ようと布団に横になったとき
着信を知らせるランプが点滅した。


「メール?誰だろう」

携帯を開くと、送信者は……

「知らないアドレスだ、『でも美貴つぁんです』ってタイトルなの……」

画像が添付されていたので、ちょっと怪しいなと想いつつ見てみると



「あっ……」

こたつで携帯を握ったまま眠ってる藤本さんの画像だった。
可愛い寝顔、見れちゃった……
保存しよう思ったら、着信を知らせる画面に切り替わってしまった。
画面に表示された名前を見て、ビックリしたけど……
慌てて通話ボタンを押した。
811 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:14
「藤本さん?」

『み、美貴!……なんかメール着てた?』

「えっ?……はい、着ました」

『くっそ、なち姉のやつぅ……』

「可愛いかったの、みーちゃんの寝顔」

『なっ、やっぱもう見た……はずいぃ』

「寝ちゃうからいけないんですよ」

『うぅ、ごめん……いつのまにか寝ちゃってた』

「もう、寂しかったんですから」

『さゆみの声聴いてたら、安心して眠くなったんだもん』

「もう、藤本さんったら」

『えへへへっ』

「ところで、なち姉って誰ですか?」

『従姉妹だよ』

「どうして、さゆみのアドレス知ってるの?」

『昼間にさ……』
812 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:15
 
 ◇
 
813 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:15
「みきつぁん、このめんこい子誰だべ?」
「うわぁっ!勝手に見るなよっ」

「誰、ねえ誰だべさ?」
「後輩だよ、学校の」

「仲良しだべ?待ち受けにするなんて」
「か、勝手にされたんだよ」

「でも変えないなんて珍しいべ」
「いいじゃんか……」

「頬寄せちゃって……可愛い2ショットだね〜。名前なんていうの?」
「道重、さゆみだよ」

「さゆちゃんって言うんだ〜」
「ちょ、勝手にアドレス帳とか見るなよ!」

「いいべ減るもんじゃないし」
「わっ、ちょっとなち姉!携帯返してっ」



  
814 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:16
 ◇
815 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:16
『たぶんそのときに……』

「ふ〜ん……」

『さゆみ?』

「学校の後輩なんだ……勝手に待ち受けにされたんだ……」

『いや、言葉のあやで……』

「藤本さんが待受に二人の写真使ってるって知らなかったから
 嬉しいけど、でも勝手にされたなんて言い方酷いの」

『ごめんなさい』

「自分の意思で待受にしたんですよね?」

『はい、そうです』

「人のせいにしちゃだめなの」

『反省してます……』

「写真のさゆみも可愛い?」

『えっ?』

「……可愛くないんだ」

『可愛いから!スッゴイ可愛くさゆみが写ってるのにした!』

「素直が一番なの」

『あはは………ちょ、待って…なち姉!?まだいたのかよっ』

「藤本さん?」
816 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:17
『さゆちゃん!?』

「えっ?あの……」

『みーちゃんの従姉妹の、安倍なつみで〜す』

「みーちゃ……」

『もうなっち恥ずかしくなるくらい愛の言葉が聞こえてきたのに
 みきつぁんったら寝てるんだもん。罪な子だべさ〜』

「は、はぁ……」

『なんか可愛いとか何々?きゃーーーー!?
 二人ともラブラブ?ラブラブ?きゃーーー』

「あの……」

『ちょっと携帯返せ〜!……さゆみが困るじゃんか……』

『さゆみとか呼んでるんだべか〜?ただの後輩じゃないな』

『うっさい、とりあえず返せよ〜』

817 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:17
電話から聞こえる子供じみた言い合いに苦笑する。
心配するような関係ではないみたい……
しばらくバタバタと慌しい様子の携帯に、耳を傾けていた。

ふぁ〜あ……
なんだか、さゆみまで眠くなってきちゃった。
藤本さん、はやく電話に出てくれないと寝ちゃいそうだよぉ……


『みーちゃんとか呼ばれてるべか?』

『う、うっさい……いいじゃんか!』

『きゃーーー絶対に妖しい〜』

『妖しくない、正しいお付き合いを……って何を言わせるんじゃ』

『やっぱり付き合ってるんだべね。さゆちゃ〜ん寝言でも……』

『なち姉!いらんこと言わないで!!』

『え〜、さゆみぃ……とか呟いてたべ』


いらん事じゃないの……
『さゆみぃ』なんて寝言でも呼んでもらってたんだ、嬉しいなぁ。
それにしても、まだ落ち着かないのかな?
さゆみのこと、かまってくれないと……ほんとに寝ちゃいますよ?

 
818 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:18
   ◇  ◇  ◇
819 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:18
『さゆみ、もう寝ちゃった?』

「まだ起きてます」

『ごめんね、その……いろいろと』

「大丈夫です。ちょっと……なこともあったけど
 それ以上に嬉しいことが多かったの』

『ほんと?』

「うん。藤本さんがさゆみのこと大好きって言うのは
 すっごくよく伝わりました」

『あははっ……』

「もう年明けちゃいましたね」

『そうだね、さっきは寝ちゃってごめん……』

「ほんとに、気にしてないですから」


だって、可愛い寝顔が見れたもん……
安倍さんに感謝しなきゃ。
820 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:19
『今度は、さゆみが寝るまで起きてるから』

「そしたらさゆみも起きてます」

『でも、寝ないと辛くない?』

「辛いのは藤本さんでしょ?」

『うぅ、痛いとこつくね』

「やっぱり眠いんだ……」

『ね、眠くないってば!』

「無理しないで、みーちゃん」

『みーちゃ……』

「すこしは慣れましたか、みーちゃん?」

『……正直、まだ無理』

「さっきあんなに言ったのになぁ、みーちゃんって」

『ごめん……』

「これから、も〜っと呼んで慣れてもらいますから」

『えぇえっ!?』

「聴けないと寂しくなっちゃうくらい、呼んじゃうの」

『あははっがんばれ美貴……って自分で言ってどうする』
821 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:19
「藤本さん?」

『ん?……あれ、みーちゃんは?』

「あっ……」

『あはは、さゆみだって慣れて無いじゃん』

「みーちゃんのばかぁ……ぐすっ」

『な、泣かないで!ごめん美貴が悪かった……泣くのはダメ』

「泣いてないもん」

『泣き真似かよ……。離れてるとさ』

「はい」

『泣いてても、涙拭いてあげられないから。泣かないで?』 

「うん……」

『泣いていいのは、美貴の前だけ』

「えへへ……」
822 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:20
『あぁ、はやく逢いたいな……』

「ほんとですか?」

『さゆみは?』

「さゆみも逢いたいの」

『美貴も逢いたい』

「大好き?」

『うん、だいすき』

「えへへ、みーちゃん?」

『ん?』

「寝ましょう」

『へっ?』
823 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:20
「初夢で逢えるかもしれないもん」

『夢で……逢えるかな?』

「きっと逢えるの」

『うん、逢えるよね』

「だから、おやすみなさい」

『おやすみ』

「みーちゃん、だいすき」

『だいすき』

「名前も……呼んでください?」

『好きだよ、さゆみ』

「・・・・・」

『さゆみ?』

「……切り辛いの」

『うん。なんか切り辛いね』
824 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:21
「……夢で逢えるの」

『うん、逢おう』

「みーちゃん、おやすみなさい」

『さゆみ、おやすみ』


電話を切っても耳に残る甘い声。
甘く名前を呼ぶ声……藤本さんのすべてが大好き。
どんなに離れていても、傍にいてくれる。
そんな風に感じられた1日だったの……



みーちゃん、夢でもいっぱい好きって言ってね?

あっ、寝顔待ち受けにしようっと――――――





 
825 名前:アスター 投稿日:2005/12/27(火) 00:21

アスター(桃):花言葉【甘い夢】



―――――― おしまい。
826 名前:日季 投稿日:2005/12/27(火) 00:23
>>794-825 更新終了です。年内最後の更新です。
電話の会話文だけで構成したので、読み辛かったらスイマセン…orz
年明けにできれば甘いのを……書けたらいいなw


毎回いただくレス、本当に励みになりました。
冒頭の>>795は読んで頂いた皆さんへのメッセージでもあります。
今後も未熟な作者ですが、よろしくお願いします。

从*・ 。.・)*VvV)<よいお年を……
 
827 名前:日季 投稿日:2005/12/27(火) 00:24
>>792 名無しさん
レスありがとうございます。今後もまったり頑張ります!
从*・ 。.・)<誘惑した覚えが無いの……?
从*VvV)<誘惑になんて……ま、負けないのだ。

>>793 名無飼育さん
レスありがとうございます。作者も頬緩めてますので仲間ですねw
続編もまったりペースで頑張ります!
从*・ 。.・)<可愛すぎなんて……当然なの
从;VoV)<こらっ、さゆみ……す、すいません。
828 名前:名無し 投稿日:2005/12/27(火) 04:59
更新おつかれさまでした。会話だけでも萌えましたー!!
さゆみきに出会えて幸せです。ありがとう
829 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/27(火) 10:04
きゅううううん!!
萌えすぎて苦しい
素敵な藤道をありがとうございました

良いお年をお迎え下さい。
そして新年早々の甘いお話期待しています。
830 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/27(火) 15:34
なんでつか>>820-823この甘さ。・゜・(ノД`)・゜・。
ここの心配症で甘甘なミキティファンですw

たくさんの萌えをありがとうございました。
次回更新も楽しみにしてます。
831 名前:初心者 投稿日:2005/12/28(水) 10:06
更新お疲れ様です これない間に2つも更新来てた、うれしいです
電話の会話でこんなに萌え萌えになれるなんて
なち姉いい仕事してくれました ひやかされるミキティもよかったです
さゆとミキティの喜怒哀楽の全てが可愛いです
来年もそんな可愛い2人に会えたらいいなと期待しております お願いします
832 名前:名無し。。。 投稿日:2006/01/03(火) 00:08
みきさゆのピュアな感じに胸キュンです
そういえば12月のはじめにやったMBSラジオのガール☆ドライバーっていうラジオドラマ聴きましたか?
さゆとミキティが主人公なんですが二人でケーキを食べるシーンがこの小説のまんまな感じで超萌えました〜
833 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:54
 
 

いつからだろう、君の言葉に溺れていったのは――――――


なんだか満たされない……
なんて呟いたあたしに彼女なりの答えをぶつけてくれているのだろう
甘い声が耳の奥に、身体中に染み込んで離れていかない

そして、あたしはもう彼女から離れられなくなる……


『ねぇ?私のぜんぶ、ひとみちゃんのものだよ』

彼女は何度も甘くあたしをみつめて囁く
その声に身体中が痺れる感覚におちいる
綺麗な瞳の中にアタシは囚われていく……

『梨華はひとみちゃんのものだよ』

魔法のように心をしめつけて離れない
満たされるんだ、梨華がくれる言葉に――――――
 
834 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:54
存在を確かめるように、彼女の身体のラインを指先で辿っていく
少しくすぐったそうに身を引くけれど逃がさない
抱きしめて今度は掌で撫でるように身体のラインを確かめる


「ひとみちゃんってカラダの線を撫でるの好きだね?」

すこし幼い顔で無邪気に笑いながらそう問いかけられた


「ん。なんか気持ち良い」

『?』が浮かんだ顔で首を傾ける
そんな無垢な姿がほんとに可愛いと想う


「梨華ちゃんの身体のライン好きなんだ。触ってて安心する」

”へんなの”なんて良いながらあたしの首に腕を巻きつけ抱き着いてくる
そして耳元で妖艶に囁く


「ねぇ他の人に触れないで?梨華だけ感じてて?」

最近は毎回のようにあらゆる言葉で囁かれ束縛を感じている
それでもイヤじゃない
縛り付ける梨華の言葉に、あたしはこれ以上ないくらいに満たされているから
835 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:55
「うん。梨華ちゃんにしか触れないよ」
「浮気しちゃダメだよ」


返事のかわりにキスをする
少し納得してないような顔で拗ねたフリをする


「もう、誤魔化しちゃだめ!ちゃんと約束?」
「うん、しない。梨華ちゃんを愛するので精一杯」

「むぅ……絶対だからね」
「ちゃんと梨華ちゃんだけを見てるよ」


”触れたいって思うのは梨華だけだよ”
そう囁き返せば満足そうにアタシを見つめて微笑む



ほら、キミの瞳にもあたししか映らなくなる――――――
 
 
836 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:56

 ******
 
837 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:56
 
ほんの些細な理由で喧嘩をして、もう何週間逢わなかっただろう?
あなたの温もりが欲しいの
肌から直接伝わるあの焼けるような熱を私は忘れる事が出来ない

こんなにも私にあなたを焼きつけてしまってるんだよ?
あなたがくれる温もりだけが私を満たしてくれる


ねぇ逢いにに来て?もう嫌なんて言わないから私を抱いて
そして、その甘い声で私を呼んで?
他に何も欲しがらないように熱い視線で焼き尽くして欲しい………

 
838 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:56

   ◇  ◇  ◇
 
839 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:57
 
鍵を開けてゆっくり扉を開くと、チェーンが、かかってなかった
いつもなら絶対閉まっているのに……
静かな様子に帰ってないのかな?と思いながらリビングへ向かう
かすかに彼女の声が聞えた気がした。
少しづつ聞えてきた声は、苦しげにあたしの名前を呼んでいる


「ひとみちゃんひとみちゃん、ひとみちゃ……」
繰り返される声は少しづつ小さくなって途切れた



「……梨華ちゃん?」

声をかけながら入ると、ソファで寝てしまったらしい姿が見えた
手に携帯を握り締めて、眠る頬には涙が流れている
何度も連絡を取ろうとしては止め、色々な事を考えて疲れてしまったのかな?
彼女の携帯のディスプレイにはあたしの名前……
840 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:57
「……ひとみちゃん」

もう一度呼ばれて顔を覗き込むがまだ夢の中のようだ
苦しげに顰められた眉を見てたまらなくなり
そっと額にキスをおとすと彼女のカラダが一瞬だけビクッと反応した


携帯をそっと手から離して、テーブルの上に置く
ゆっくり服の上から彼女の身体のラインを指先で辿っていく……


心から愛しい人
キミの身体だからあたしは満たされるんだよ
あたしはまだまだ大人になれないから、キミの身体ごと全てが欲しいんだ


「……んっ」
手の動きに少しだけ反応するように声が漏れた
彼女の瞼がゆっくりと薄くだけ開いた
でも、まだ醒めきってないのかうつろな眼差しをあたしに向けている
841 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:58
「……ひとみちゃん?すきだよぉ」

子供みたいにあたしの首に腕を回してぎゅっと抱き着いてきてくれた
彼女はあたしの事を引き寄せて抱きつく腕に力をこめた


「傍に居て、離れないで、私だけを……愛して」

なおも強く引き寄せられ、自然と梨華の胸元になだれ込むように覆い被さる
彼女をつぶさぬよう腕で自分の体重を支えながら、彼女の体温を感じていた
満たされるんだ、本当に……彼女の心音が暖かくあたしを包むように響いてくる
この温もりを失う事が何よりも怖い……


「ねえ梨華ちゃん?」

優しく呼びかけるとゆっくり腕の力を緩めてあたしの顔を見た
 
842 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:58
 
   ◆  ◆  ◆
 
843 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:58
 

私はどんどん遠ざかるひとみちゃんを必死で呼んでいた
でも声が掠れてうまく言葉が出ない
それでも必死であなたの名前を呼ぶ
まるで、その言葉しか知らないように……

そんなもどかしい夢の中でようやくひとみちゃんが
私の傍に来てくれた


「……ひとみちゃん?すきだよぉ」

リアルな感触に泣きそうになった
ずっと求めてた温もりが目の前にある……


「傍に居て、離れないで、私だけを……愛して」

夢で良いの、だから醒めないで
このままずっと一緒に居てよ、私の傍からいなくならないで?
844 名前:深愛 投稿日:2006/01/03(火) 23:59
 
「ねえ梨華ちゃん?」

優しい声がすごくリアルに聴こえた
腕を離して顔を見る……あれっ?私何してたんだろう?
夢じゃない、いま私の目の前には……


「ひとみちゃん?」

愛しげに目を細めて私を見つめてくれるひとみちゃん
穏やかに微笑む彼女も涙目になっていた


「ごめんね、梨華ちゃん。好きだよ梨華だけが好き。好きすぎてもうダメなんだ」

なんども好きだと言ってくれた
私はもう1秒でも離れたくなくて必死であなたを見つめ
その存在を確かめた
845 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:00
「ひとみちゃん、しよ?」

見つめあったまますこしの沈黙の後そう言うと
ひとみちゃんは少しだけ驚いたように目を見開いてから、ゆっくりと微笑んでくれた。



”ひとみちゃんだけの梨華でいたいの”

キスから始まる優しく熱い時間
激しい感情の波をぶつけてくれる姿は私だけのものでしょ?
知ってるよ、ひとみちゃんが求めてるのは……
愛してる、愛されてると確かに感じられること


ねぇ?全てこうやって受けとめられるのはきっと私だけだよ
どうしようもなくひとみちゃんが好き
不器用なあなたの愛し方でなきゃ、私は満たされないみたい

どれだけ激しく愛されても、あなたを嫌いになったりしないよ?
むしろ愛されてると感じて嬉しいんだよ?
もう戻れない……夢みたいなあなたへの理想なんて意味が無かった


だって今のあなたがこんなに好きで……
どうしようもないほどに愛してる


端正な顔立ちも、時々見せる幼い笑顔も、よく温度を変える薄茶の瞳も、サラサラの髪の毛も
我侭なほどのこの行為の仕方でさえも、どんなあなたを見ても愛しくて
どんどん好きになっていく
846 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:00
もう狂ってるかもしれない……
ひとみちゃんもそうだよね?


いつも以上に感じてる自分がいた
やっぱり安心できる場所はあなたの腕の中
ひとみちゃんも同じように想ってくれてる?


「ねぇ私のこと好き?」

定番の質問がまたできる嬉しさで抱きついたまま聴く


「好きだよ。梨華だけが好き」
「私もひとみちゃんじゃなきゃダメみたい」

少しだけ顔をずらしてみつめあう


「私のどこが好き?」
「からだ」
「もう!」

そういっておでこをぶつけると楽しそうに笑って
優しい瞳で私を見ていた……
847 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:01
「カラダも心も梨華を彩るすべてが好き。そのすべてが欲しいって想ってる」
「私のぜんぶ、ひとみちゃんのものだよ?」

そういってひとみちゃんの手を自分の胸へと誘導する

「こんな風に触れて良いのはひとみちゃんだけ?
 ひとみちゃん以外の人なんて考えたくない……だから私だけを求めてて?」

「うん」

「他の誰かを見ちゃ嫌だからね」

「梨華だけだよ、あたしが満たされるのは……」


ゆっくり唇を塞がれ再び組み敷かれる
ベッドの中だけ情熱的なのもどうかと想うけど………
そんなあなたも大好きだから。私は拒む事は出来ない
848 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:02
子供みたいに求めてくれるのは私を愛してるからだよね?
もう離れたりしないで………
愛撫されながら、何度も何度も確かめるようにあなたの名前を呼ぶ
行為に夢中になってるあなたをもう一度呼ぶと
昂ぶった熱に染まった妖艶な瞳がゆっくりと私の姿を映す


「んっ……ひと…みちゃ…ん…名前、よんで?……」
「梨華……梨華…」

甘い声でそう呼ばれるだけで私のカラダは熱を上げていく
昂ぶってくる気持ちはあなたを求めて止まない

初めての時よりも熱く愛された気がする……
何度、すれ違っても離れられない
お互いの中へ一緒に溺れて堕ちていこうよ
849 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:02
『梨華はひとみちゃんのもの』

2人でのぼりつめる事だって出来るかもしれない
でもね?頂点を極めてしまったら後は落ちるしかないもん
だからドコまで堕ちても怖くない
そこから2人はのぼっていけば良い
ゆっくり、ゆっくり2人だけのペースで……


『ねぇ、梨華はひとみちゃんのものだよ?』

何かの魔法のように、あなたを縛り付ける魔法のように囁く
何度も、何度も……
そう、囚われてるのはきっとあなたも同じ
私の中から逃げる事なんて出来ないんだよ、きっと……


『梨華のぜんぶひとみちゃんのもの』

髪を撫でながら何度も甘く囁けば、あなたは満足そうに瞳を閉じて聴いている
850 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:03
ゆっくり瞼を開けたひとみちゃんの瞳に
自分の姿を見つけて問いかける


「ひとみちゃんは?」
『あたしの全て梨華のものだよ」

「私だけを愛して?」
「梨華だけを愛してる」


そっと優しいキスをくれた
ねぇもう離れられない……
あなたの腕の中でしか幸せを感じられないみたい
851 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:03
 
 
 
852 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:03
私は魔法をかける
囁く言葉が、あなたを見えない糸で縛りつけているとしても……

「ねえ私のこと好き?」
何度だって問いかける。何度だって……

「すきだよ梨華」
キスから始まる優しい時間が、お互いを求めて止まない激しい時間に変ることも
それは、2人だけの秘密……





FIN
853 名前:深愛 投稿日:2006/01/04(水) 00:04
 
854 名前:日季 投稿日:2006/01/04(水) 00:05
>>833-852 いしよし短編更新終了です。
(0^〜^)^▽^) <あけおめ
从*・ 。.・)*VvV)<今年も宜しくお願いします。


勢いだけで新年最初の更新……orz
なんとなく怖いほどにお互いしか見えてない話になってしまいました。 
ちょっと視点が変わりすぎて分り辛いかもしれませんがすいません。
(今度はゆっくりじっくり煮詰めたいと思います)
855 名前:日季 投稿日:2006/01/04(水) 00:06
>>828 名無しさん
レスありがとうございます。萌えて頂けて良かったです。
幸せなんて……心から嬉しいです・゚・(ノ▽`)・゚・
从*・ 。.・)*VvV)<今年も宜しくお願いします。

>>829 名無し飼育さん
レスありがとうございます。だだだいじょうぶですかぁ!w
素敵と言ってもらえて、心から嬉しいです。
リd*^ー^)っ【藤道1錠】萌えに効くお薬出しておきますね♪
从*・ 。.・)*VvV)<今年も宜しくお願いします。

>>830 名無飼育さん
レスありがとうございます。甘いというか青いというか……
恥ずかしくなるようなやり取りを目指しましたw
从*・ 。.・)<ライバルなの。从;VoV)<ファンは大切にしなきゃ……ありがとうw

>>831 初心者さん
レスありがとうございます。萌え萌えしてもらえてよかったぁ。
すべてが可愛いとか、心から嬉しいです。
今後も楽しんでもらえる藤道を書いていきたいと思います。
从*・ 。.・)<いっぱい、がんばるの。
从*VvV)<頑張るのだ。

>>832 名無し。。。さん
レスありがとうございます。胸キュンしてもらえて嬉しいです。
ラジオドラマ聴きました〜。デートっぽい場面がありましたよねw
从*VvV)<ぴゅ、ぴゅあ……
从*・ 。.・)<照れる藤本さんも可愛いの。
856 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 01:01
ゾクッとするような美しさに、引き込まれました
857 名前:名無し 投稿日:2006/01/04(水) 06:23
更新おつです。
ふたりだけの世界を、つくってしまういしよしスゴイ!?
マターリ無理しないでがんばって。
858 名前:前29 投稿日:2006/01/04(水) 22:30
うわあい!!新年一発目は、アダルトないしよしで〜ww
二人の台詞にドキドキしまくりっす。
タイトル通りの強い絆を感じました( ^▽^)(O^〜^)
本年も更新を楽しみにしております。
859 名前:初心者 投稿日:2006/01/05(木) 18:04
更新お疲れ様です
いやぁーいしよしってホントいいですね エロイし・・・
でも石川さんが自分のこと梨華って言ってるのが良かったです
次回更新楽しみに待ってます
860 名前:日季 投稿日:2006/01/08(日) 20:01
>>794-825の続編です。
 
『アザレア』
 
861 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:01
「明日ですね」

『うん、明日だね……』

「藤本さん?」

『……早く逢いたい』

「さゆみも」

『ぎゅーってしたいんだ』

「一番にぎゅーてしてくれますか?」

『逢った瞬間に抱きしめたい』
 
 
862 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:02

   ◇  ◇  ◇
 
863 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:02
「いってきま〜す」
ニコニコとママが見送ってくれた。
お泊りの準備は……去年のクリスマスに藤本さんの家に預けてある。

駅で待ち合わせた石川さんと吉澤さんに連れられて
空港まで藤本さんを迎えに来た。
逸る気持ちを抑えて、到着ロビーで藤本さんを待つ。
すごく落ち着かなくて辺りを見回していたら、吉澤さんに苦笑されたの。


「さゆそんなにそわそわしなくっても、もうすぐ出てくるって」
「もう、ひとみちゃん乙女心がわかってないんだから……」

「あたしだって乙女だよ」
「だめ、顔が見えるまでは不安なの」

「そんなもんかね……」
「ひとみちゃんは、私が飛行機に乗ってても心配じゃないんだ……」

「はい?」
「そっか、飛行機が落ちたらどうしようとか思わないんだ……」


そう言って石川さんはグリグリと吉澤さんの肩を指で押している。
拗ねてるんだけど甘えてるようにしか見えなくて、吉澤さんの表情も
困ってるんだけどどこか嬉しそうで、愛しくて仕方ないという感じだ。
864 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:03
「いや、あの……ごめん、あたしが悪かった。それに梨華ちゃんのことは毎日考えてるし
 毎日、心配だよ?」
「ほんと?」

「当たり前じゃん。こんなに綺麗で可愛いんだから、誰かにナンパされたらどうしようとか
 知らないおじさんに連れて行かれてないかとか心配で心配で……
 いつ何時でもくっついて歩きたいくらい心配だよ」
「ひとみちゃん……」


肩を押していた石川さんの指に自分の指を絡ませ、熱く見つめる吉澤さん。
そんな吉澤さんを潤んだ瞳で見上げて、うっとりとしちゃってる石川さん。

あの、私の存在をきれいに忘れてませんか?
見つめあう二人は自分達の世界に入ってしまった。
ぷくっと膨れてみても、藤本さんがいないから慰めてくれる人もいない。
寂しい……

到着した人たちの中に、はやく藤本さんを探そうとキョロキョロしているんだけど
見つからない。もう到着から随分と時間が経っているはずなのに……
いつのまにか二人の世界から返ってきた石川さんが、私の後ろに立っていた。


「遅いね、美貴ちゃん」
「うん、ちょっと遅いな〜。さゆ、到着時刻間違ってないよね?」
「えっ?……はい、昨日この便だって電話で教えてもらいました」


不安でじわじわと涙がうかんでくる。そっと優しい感触に振り向くと石川さんが髪を撫でながら
微笑んでくれた。その仕草に甘えたいキモチを堪える。
甘えていいのも泣いていいのも、藤本さんにだけ……
そう約束して心に決めているの。

それでも見つめる先には藤本さんの姿はない。
この便で着いたお客さんはほとんどの人が姿を現しているようで
人がどんどん少なくなっていく。


「ちょっとあたし聞いてくるよ。梨華ちゃんさゆと一緒に居て」
「ひとみちゃん、お願いね」

任せとけみたいに拳を握り締めて石川さんに見せた吉澤さんは
やわらかく私に微笑んで走り出そうとした――――――






 
865 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:03
 
「あれ、よっちゃんどこ行くの?」


待ち侘びた声が意外な方向から聴こえてボー然とする。
藤本さんが歩いてきたのは到着ロビーの反対にある待合室のほう。
いつの間に私達の前を通ったのだろう?
ぽこぽこと暢気に手を拭きながら現れた藤本さんは、不思議そうにこっちを見ていた。
そして、近くまで来た瞬間に腕を引き寄せ抱きしめてくれた。


「さゆみ、どした?泣きそうな顔して」
直接カラダ中に響いて聴こえる愛しい声。
強すぎるくらいの腕の力であなただとわかる。けど……


「藤本さん、どうしてあっちから来たんですか?」
「へっ?だってみんな待ってても来ないからさ。トイレ行ったりしてた」

「えっ?だって到着時間……」
「あれっ、メールしなかったっけ?美貴、1便早いのに乗るからって」

「……着てません」
「嘘っ」


センター問い合わせをするとやっぱり着ていないメール。
オカシイと思ってたら自分の携帯を確認して藤本さんが固まっていた。


「送ったつもりになってたみたいです……」

しゅんと項垂れる藤本さん。
でも目の前に居るから、いまこうやって傍に居るからそれだけで幸せです。
でも……
866 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:04
「心配したんですからぁ」
「うん、ごめんね」

ぎゅっと背中に回した腕に力をこめると、同じくらいの強さで抱きしめてくれた。
甘えるように首筋に顔を埋める。普段なら私のほうが背が高いからこんな風には甘えられないけど
今日は高めのブーツを藤本さんが履いてるから、甘えやすいな……
 

「ただいま」
「おかえりなさい、みーちゃん」


二人にしか聴こえないような小さな声で囁きあう。
くぐもった声が甘く響いてお互いのカラダに溶け込んでいく。


「美貴だって探したんだよ。けどいないんだもん」
「寂しかったですか?」
「寂しかった……」
「素直なみーちゃん……かわいいの」
「さゆみのほうが可愛いよ」


目を閉じて周りの世界を遮断する。感じるのは藤本さんの体温と甘い匂い。
待っている間に感じた不安なんてどこかに飛んでいってしまった。
きっと寂しがり屋の藤本さんも同じように寂しくて不安だったんだろうな。
だから人目など気にせずに一番に抱きしめてくれた。

 
867 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:04
 
「そろそろ帰るぞ。次の便が到着したら人が増えるから」
「いい加減にしようね、ふたりとも」


ちょっと呆れたような声が聞こえて振り返ると、吉澤さんと石川さんが
苦笑いしていた。さっきはさゆみのこと二人して放置したくせに……
ほんとはもっとこのままでいたかったけど、その声に藤本さんの手が離れた。
名残惜しそうな表情はきっと気のせいでは無いはず……
いつだって同じキモチを感じているんだと少し嬉しくなって
照れる藤本さんの腕にしがみついて歩き出す。
いつもなら人前でベタベタするのは嫌がるのに、今日はその腕を振り解こうとはしなかった。

 
868 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:05

 ******
 
869 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:05
家に向かう途中でなぜかよっちゃんたちも泊まる事になった。
調子に乗ってお酒を買うよっちゃんを梨華ちゃんが止めていたけど……

湯船に浸かってボーっと今日のことを思い返していた。
メール送り忘れたりして、すっごい些細なことだったけど不安にさせたし
自分もめちゃくちゃに不安になった。
これからは気をつけなきゃ、あれだけで泣きそうな顔をしてた。
涙の分だけキモチが深まってきた恋だけど、あまり泣かせるのは気分のいいものじゃない。
しっかりしろと自分に言い聞かせる。


「お風呂あいたよ、ゆっくり入っていいからね」
「はい!」


着替えを抱えて浴室に向かう後姿を見送ってると、酒のせいで
テンションが上がった人に絡まれる。


「なんかさゆを襲いそうだな、ミキティーは」
「はぁっ?そんなことしないよ」
「まぁ、飲め!」
「……ちょっとだけだよ」


ちびちびと飲んで注ぎ足されるのを阻止する。
美貴、あんまり強くないんだよ。だから飲みたくないのに、このおっさんは……
870 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:05
「お風呂換気扇回しておきました」
「うん、ありがと」

最後に入った重ちゃんが出てきて、改めて乾杯する。
新年の挨拶すらしてなかったことに、今頃気付いたし。
よっちゃんは何故か重ちゃんにはジュースを渡してた。
やっぱ重ちゃんには甘いんだ……


「藤本さんはお酒強いんですか?」

なんて問いかけながらぎゅっと背中に抱きつかれて、服ごしでもわかる柔らかい感触。
でれっと緩む頬を必死で引き締める。相変わらず、寝るときはつけない主義なんだね重ちゃん。


「そんなに強くないよ」
「そうそう、美貴ちゃんお酒弱いんだから」
「わかってますって……」
「あんまり飲まないでね」


うぅ、梨華ちゃんは知ってるんだった……
酔った勢いで思いっきり甘えちゃうんだよね。
一緒に寝るとか言っちゃって困らせたこともあるってお母さんが言ってた。
よっちゃんや重ちゃんには言えないようなことは、してないと思うけど……
まったく憶えてないから性質が悪い。
次の日に梨華ちゃんにケーキ奢らされた記憶しかない……
 
871 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:06
ちょっとずつしか飲んでなかったのに酒が入ったからかカラダがポカポカしてくる。
眠くなってきて目をこすると重ちゃんが心配そうに美貴を覗き込んだ。
にへらって笑って見せると余計に心配そうな顔をする。


「大丈夫ですか?」
「うん、へーっきなのだ……」
「すごい眠そうですよ?」
「だいじょぶ、だいじょーぶ」


気持ちだけは起きてなきゃとか、もっと話したいと思うんだけど
どうもカラダがおいついてこない。
重くなってくる瞼に逆らえず目を閉じてしまった。

優しく聴こえてくる重ちゃんの声さえ、いまは心地よくて
ただ眠気を誘う……
ほんとにふわふわとしてきた。もう瞼を開けることさえも
出来なくてくったりともたれかかった。

寝ちゃダメですよとか聴こえる気がするけど、どこか遠くに感じられて
やっぱりふわふわとカラダが浮いていくようだ。
ぎゅーっと抱きついて感じたのは甘い重ちゃんの匂い。
あーやわらかい、全体的にマシュマロに包まれてるように気持ちいい……

おやすみ。
ごめんね、だいすきだよ……



 
872 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:06
 
 ******
 
873 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:07
 
ぎゅっとしがみつくように抱きついて眠ってる藤本さん。
いっぱいお話したかったのにな……
でも、寝言のように小さい呟きが聴こえて幸せな気持ちに満たされる。
”おやすみ、ごめんねだいすきだよ……”そう早口に呟いて幸せそうに眠ってる。
眠りにつく瞬間まで、私のことを考えていてくれたことが嬉しい。


「あれ、ミキティ寝ちゃった?」
「はい……」
「もうだから言ったのに、美貴ちゃん弱いんだから」

「どうしましょうか?ここで寝たら風邪ひいちゃうの」
「さゆ、一緒に運ぼう?」


石川さんに手を貸してもらって、和室にひいてある布団まで藤本さんを連れて行った。


「私達、隣で寝てるから。何かあったら呼んでね」
「なにか?」
「まぁ、いろいろと……何もないとは思うけど」
「はぁ……」
「ごめんごめん、なんでもないの忘れて?」


おやすみって襖を閉めた石川さんを見送って、自分も布団に一緒に入る。
毛布をかけると幸せそうに私に抱きついてきた。
子供のような仕草に頬が緩む。ほんとにこうしてるとどっちが年上なのかわからないですね。


「ふじもとさぁん」
お酒、弱いんですね。
見たかったかわいい寝顔、見れるのは嬉しいんですけど……

「もっとお話したかったなぁ」
 
874 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:08
 
そっと瞼を閉じて眠ろうとしたとき……
襖だけで仕切られた隣の部屋から微かに声が漏れてきた。

『………ぁっ…ぁん……んっ……』
何かを我慢するようなトーンの声質。きっと石川さんだ。
どうしよう、聞いちゃダメ!早く寝ようと思うけど
意志とは裏腹に冴え渡ってしまう頭。


『だっ……め…ひとみちゃ……ん』
『梨華ちゃんかわいい』

『聞こえちゃうってばぁ……』
『へーきだって』


平気じゃないの。すっごい漏れてます……
どうしよう藤本さんはまったく起きる気配が無い。
さっきの石川さんの言葉を思い出す。あの何かあったらの「何か」
って石川さん達の事を指してるんじゃないですよね?

まさか、何かあるから早く寝てねって意味だったとか?
でも、石川さんの口調からするとそんな感じではなかったの。
私に何かあったら、呼ぶようにって……そんなニュアンスだった。

色々と考えてたら目は冴える一方で眠くならなくて。
リアルに隣から聞こえる声に緊張するし、藤本さんは一人で寝ちゃうし。
なんだかカッとなって、勢い余って頭を叩いてしまった…… 
875 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:08
叩かれた箇所をおさえながら藤本さんはボーっと起き上がった。
まだ夢の中のようなトロンとした目をして、私を見つめる。
その視線が、とっても危険だって察知した時にはすでに遅かった……


「さゆぅ」
視界全体に見える藤本さんの顔。その向こうは天上……
押し倒されたと理解する暇もなく塞がれた唇。
いつものように優しい口づけなのに、すこしだけ違う。

唇の輪郭を確かめるようにゆっくりとなぞられ舐められる。
すこしづつ濡らされ、しっとりと潤っていく唇。
そして半開きになった口に入り込んだ舌が口腔内で暴れまわる。
お互いの舌が絡み合い、唾液が混ざり合って自分の中に流れ込んでくる。
ごくりと飲み込んだだけで一つになれた様な錯覚を覚えた。


じわじわと襲いくる波が私の思考をさらっていく……
どこか熱に浮かされたような視線はトロリと私の輪郭をなぞるように這い
カラダの中から熱くなってくるのをおぼろげながら感じていた。
石川さん、どうしよう?何かってこの事ですか?
876 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:08
いつもなら触れられることは無い胸に藤本さんの手が触れた。
ゆっくりと弧を描き触れる優しいてのひらの感触に、カラダが痺れた。
感じたことの無い感覚に無意識に涙が滲んで、ぼやけそうな視界に見えた藤本さんは
いままで見たことないような目をして私を見ていた。

凛とした中に浮かび上がる妖艶さを……
美しいと、ほんとうに美しいと霞みゆく思考の片隅で私は想った。
同時にその美しさが怖いとさえ感じた。


そっと唇が重なりまた口膣内にするりと入ってくる舌。
いつも感じていた躊躇がお酒のせいなのかまったく感じられない。

塞がれた唇から行き場を失った声無き声が……
口の中でくぐもって甘く掠れて脳内に響く。
じわりと滲んでは零れ落ちる涙。その涙が藤本さんを昂ぶらせてしまったのか
涙を舌ですくって耳元で可愛いと囁かれた。
吐息がかかっただけで、自分でコントロールできなくなっているカラダは敏感に反応してしまう。

涙で濡れた視界の先に見えたのは、そっとボタンにかかった指先。
首筋に落とされた唇が這うたびにぞわっとカラダが浮くように感じた。
これを快感と言うの?慣れない刺激に侵され思うように動くことが出来ない。
ただなすがままにされ、じっと瞼を閉じて待っていることしか出来なくて……
877 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:09
「さゆ、み……」
熱っぽく名前を呼ばれる度にカラダが熱を上げる。
朦朧とする意識の中で大好きな藤本さんの声だけが耳の奥でこだまする……
甘く自分を呼ぶ声が濡れて切なく響く。



少し肌蹴けた服の隙間からするりと侵入した手が直にそっと触れた瞬間――――――
ダイレクトに感じた手の感触に我に返り、ようやく声が出せた。


「やぁ…だっ……やめて!」
はっきりとした拒絶の声に藤本さんは触れていた手をすぐに離した。
首筋から顔を上げて私を見た藤本さんは、まだ醒め切らない様子でボーっとしている。
けど何を思ったのかすぐにキスされた。それはいつものようにただ触れるだけの
ほんとにやさしいキスで……

いつもの藤本さんだと思うだけで、涙が溢れ出してくる。
まだ酔いが醒めていないのか、状況が把握できない顔をしてるのに
すこしオロオロしながら藤本さんはパジャマのボタンを留めようとしていた。
でも手元が覚束無くて、まったく閉めることが出来ないみたいであたふたとしている。
 
878 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:10
「さゆ!」

そこへ私の声を聞いて反応したのか、襖が勢いよく開いて吉澤さんが入ってきた。
私の服に手をかけている藤本さん、泣いちゃってる私……
この状況は勘違いさせるのに十分だったみたいで、目を見開いて驚いた吉澤さんが
飛び込んできて、藤本さんは突き飛ばされた。


「なにやってるんだよ美貴!」

いつもなら発しないような怒気を含んだ声。
なのにわからないという顔でポカンとしてる藤本さんは
あろうことか吉澤さんの向こうに見える石川さんに甘えるように助けを求めた。


「梨華ちゃん、よっちゃんがいぢめるぅ……」
「あ〜もう、よしよし」


さっきまでの吉澤さんとの行為のせいでパジャマの前が全開だった石川さん。
その胸元に迷いなく飛び込んだ藤本さん。
甘えるようにべったりくっつく藤本さんを、石川さんは慣れた様子であやしている。
そういえば「美貴ちゃんはお酒弱いんだから」なんて飲むのを止めていた。
こうなることを知っているということは、以前にも同じようなことがあったということで……
もう絶対にお酒なんて飲ませないんだから……


「おいっ美貴、人の話を聞け……ってか胸に顔を埋めるな!」
「ちょっと静かにしてひとみちゃん!」
「だって、さゆを襲ったんだよ……」
「襲ったのか聞かなきゃワカラナイでしょ」
「だって泣いてたじゃん」


そう涙がたしかに零れ落ちていて……
でも吉澤さんが見た時に泣いてたのは、安心したからなんです。
襲われてないとは言えないけど、無理やりだったわけでもないの。
879 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:11
「あの……」
「どうしたさゆ?」

「ほんとにごめんなさい」
「なんでさゆが謝るんだよ」

「だって襲われてません」
「ふぇっ?」

「たしかに酔った勢いだったと思いますけどキスも優しかったの」
「あ……そ、そうなの?」

「はい。だからあまり怒らないであげてください」
「さゆがそういうなら」


まだ納得できない表情だけど、渋々と行った感じで吉澤さんは首を竦めた。


「けど藤本さん?」
石川さんの胸で目を閉じる横顔に問いかける。
ムカつくくらいに幸せそうなその顔に……

「今度は酔ってない時に押し倒してください」
そう言うと吉澤さんも石川さんもビックリして一瞬固まってしまった。


「なななにを言うんだよ、さゆ……」
「意外と大胆なのね……」


だって悔しいんだもん。咄嗟に抱きつくのが傍にいた私じゃなくて
どうして石川さんなんですか?
ぷくっと膨れてると、藤本さんを抱きとめたままの石川さんが
吉澤さんに何やら文句を言い始めた。


「もう、ひとみちゃんが美貴ちゃん家なのにしようとするから」
「だって……」
「だってじゃないわよ!」
「りがじゃ〜んもうしないから」
「知らない、一人で寝てね?」
「そ、そんな〜」

「ほら、さゆ寝よう」
「は、はい」


石川さんの勢いに負けて思わず返事をしてしまった。
情けない顔でおやすみって呟いた吉澤さんは向こうの部屋に戻っていった。
880 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:11
 
石川さんの胸にぺったりくっついて、幸せそうな寝息をたてる藤本さん……
はぁ〜っと溜め息をついても、仕方ない。
ちびみーちゃんを抱きしめて、石川さんと一緒に寝ることにした。
正確には石川さんの腕の中で眠ってる、藤本さんも一緒だけど……


「ごめんね、さゆ」
「……いえ、だいじょうぶです」

「美貴ちゃん起こしちゃおうか?」
「なんだか幸せそうなので、可哀想です……。
 石川さんさえ良かったらそのまま寝かしてあげてください」

「うん、私はいいんだけど……ね?」
「あっ……」


そう、さっきからパジャマの前が開いたままの石川さん。
直に触れられてくすぐったそう……
とか言ってる場合じゃないの。たいへん……


「ボタン閉めなきゃダメですよね?」
「う、うん。ごめんね、さゆ……」

「たいへん、石川さん風邪ひいちゃうの」
「えっ?」

「ちょっとだけ藤本さんのお顔離してください」
「あっ、うん」


藤本さんを支えてるから、手を離せそうにない石川さんの変わりに
ボタンを留めてあげる。
ゆっくり布団に横になって、藤本さんを抱っこしたような体制のまま
横向きに寝た石川さんに布団をかけて……。よし、これで大丈夫。
881 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:12
「ありがとう」
「寒く無かったですか?」

「ちょっと寒かったんだ」
「危ないですよ〜、新年早々風邪とかひいちゃったら大変なの」

「さゆは優しいね」
「そんなことないです」

「だって怒られても当然なのに……私達、二人のこと邪魔ばっかりしてない?」
「そんなことないですよ……」


だってほんとは……押し倒されて、いつもと違うキスが怖かった。
なんだか不思議なくらいにカラダが熱をおびて
抵抗することさえ出来なくて、ただ怖かったの。
そのときに吉澤さんが飛び込んできてくれて、ほんとはホッとしてました。


「そっか、よかった」
「だって酔った勢いで……なんて全然ロマンティックじゃないですよね?」

「うん、そうだね」
「一つだけ聞いてもいいですか?」

「うん、いいよ」
「石川さんはその……藤本さんと……」


どう聞いていいのか分らずに、うまく言葉に出来ないでいると
何を聞きたいのか察した石川さんから話してくれた。


「前に酔っ払ったときにね、甘えて帰らないって離れなかったの。
 高1のお正月だったかな。別にそれだけだから安心して?
 さゆを悲しませる様な関係じゃないから、私達は」

「はい……」
「余計な心配させてごめんね」
「いえ、大丈夫です。すこし安心しました」


寝よっか?と優しく微笑んだ石川さんは、そっと藤本さんの髪を撫でた。
その仕草がなんだか自然で大人びて見えて、ほんのちょっと悔しい。
いつか私の腕の中でも、そんな風に安心して眠って欲しい。

「おやすみ」って瞼を閉じた石川さん。「おやすみなさい」と返して
藤本さんの背中に抱きついて、私も瞼を閉じた……
  
882 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:13

   ◇  ◇  ◇
 
883 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:13
息苦しさに目が覚めた。
まだぼんやりする頭でなんでだろと考えながら
開いた瞼の先には……

「!?」

飛び出しそうになった声を喉元でおさめる。
ななななななんで梨華ちゃん?
背中からも感じる圧迫感は……重ちゃんだよね、たぶん。
うぅ、なにも憶えてない。なんかキスとかしたような気はする。
なぜ梨華ちゃんに抱きしめられて、背中に重ちゃんがくっついてるの?


「……んっ、美貴ちゃんおはよう」
「お、おはよ」


寝ぼけ眼で美貴を見て……
いや、おはようっていうか手を離して欲しいというか。
なんて思ってると梨華ちゃんは不適に微笑んだ。


「もう美貴ちゃんったら抱きついて離れないんだから」
「なっ……」
「憶えてないでしょ?大変だったんだからね」
「た、大変?なにが?」
「さゆにでも聞いて」
「美貴、なんかした?」
「う〜ん、したようなしてないような……どうだろうね?」
「どうだろうって……」
「私、よっちゃん連れて家に帰るね」


そう言って起き上がった梨華ちゃんは、う〜んなんて伸びをして
顔を洗いに行ってしまった。
ほぼ一方的に喋られ要点すら聞く事が出来なかった。
 
884 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:13
重ちゃんはまだ起きない……
背中に抱きつかれて身動きできないので、とりあえず
このままの体勢で考えてみる。

昨日は風呂上りにお酒飲んだんだ、少しだけ。
その後の記憶がほとんど無い。
美貴、なにか酷いことをしなかっただろうか?
そういえば泣いた次の日に、すこし目が腫れちゃったことがあった。
”今日は目が腫れてるからかわいくないです”なんて言って落ち込んでたっけ……
顔が見えないから、確認することも出来ない。


しばらくして、起きたのか重ちゃんの腕が緩んだ。
そっと振り返るとパチパチと瞬きしながら美貴を見つめる。

「おはよ」

ボーっとする重ちゃんの顔を覗き込む。
ほんの少しだけ目が腫れてる気がする……


「……おはようございます」
「ごめんね、昨日……なにかしなかった?」
「いっぱいキスされました。それと……」
「キ、キスだけじゃないの?」
「胸を触られました……」


がくっと項垂れるとやさしく頭を撫でられた。
なにをしとるんじゃ美貴のアホ……
しかも憶えてないよ、もったいないじゃん…じゃなくて
どどどどうしよう、ほんとにごめん。謝っても謝りきれないくらいにごめんなさい。
 
885 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:14
「怖かったんですからぁ」
「ごめん……」


ぎゅっと真正面から抱きついて重ちゃんは泣きそうな声で訴えてくる。
ほんとに情けない、なにやってんだか……
去年のクリスマスに「ゆっくりでいい」なんて話したばっかりなのに
酔った勢いとはいえそんなことをするなんて。


「昨日、言った言葉とか憶えてますか?」
「えっ?美貴なにか言ったの?」
「ううん、さゆみが藤本さんに言ったんです」
「なに?教えて?」
「憶えてない人には教えてあげません」

 
 
886 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:14

 ******
 
887 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:15
教えてあげません。だって変に真面目な藤本さんのことだから
「酔ってない時に押し倒してください」なんて言ったら無理して襲ってきそうなんだもん。
やっぱりそういうのはもっと……
一人で考えて、ひとりで赤くなる。どうしたいとか言う希望はないの。
ただ優しく愛されてみたい、藤本さんになら……そう想うけど怖くて。


「怖かった?美貴ホントにそれ以上のことしなかった?」
「やだって言ったら慌てちゃって、ボタンを閉めるのに必死になってました」
「ちゃんと止めたんだよね?っていうか美貴ボタン外そうとしたの?」
「はい。でもすぐに手を止めて優しいキスをしてくれました」


ほんの少しだけホッとしたのか微笑んだ藤本さん。
もうあんな美しいほどに怖い表情は見たくないの。
可愛い藤本さんのほうが好きなんだもん。


「じゃあ、あの……胸ってちょっと触っただけ?」
「えっと……服の上からと…ほんのちょっと直に……」
「マジで……あぁ、ごめん。ほんとにごめん」
「そんなに謝らないでください」
「でもさ……」
「もう気にしてないですから」


気にしてないなんて嘘だけど、憶えてないんだから仕方が無いの。
誰にでもあんなことするわけじゃないって石川さんが言ってました。
そういえば藤本さんは、ちゃんとさゆみの名前を呼んでくれてたの。
888 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:15
「石川さんは?」
「梨華ちゃんは顔洗って着替えたら、よっちゃんと帰るって」
「そうですか……」
「ね、他に何もなかった?美貴ほんとに憶えてなくて」
「ん〜っと……とりあえず甘えてください」
「はい?」


きょとんとする藤本さんを抱きしめる。
戸惑いがちに名前を呼ばれたけど、そのまま腕の力は緩めなかった。


「だって藤本さん、こうやって石川さんに抱きついたんだもん」
「えっ!?マジで……」


しかも直接胸に顔を埋めてたなんて恥ずかしくて言えません。
ほんとにほんとに……


「藤本さんのばかぁ」
「ごめんなさい」
「もう抱きついたりしたらダメなんですからね?」
「わかった。なるべく……」
「なるべくじゃイヤなの」
「絶対に梨華ちゃんには甘えません」
「約束ですよ?」
「うん、約束」


腕を離して小指を絡めて指切りをした。
二人きりのときは私がすることを拒んだりしないから
照れながらもそのまま動きをあわせてくれた。
 
889 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:16
「そうだ、さゆみ……」
「どうしたんですか?」

「あいつはひとりなの?」

ちょっと照れたように頭を掻きながら問いかけられた。
あいつ?

「ちびみーだけ連れてきたみたいだから、ひとりなのかと思って……」
「あっ、みーちゃん!」

「は、はい!」
「あのウサギのみーちゃんですよね?」

「あっ、そっちか……そうです、ウサギのみーちゃ…なんか言うのハズい」
「だって大きいから運べないの」

「そうだよね」
「みーちゃんがどうかしたんですか?」

「あっ、えっと……」


”きっと寂しがってるよ”ボソッと小さく呟いて藤本さんは真っ赤になっている。
可愛いから、からかいたくなるけど、藤本さんの優しさをそんな風に無駄にしたくない。


「そうですね、ひとりで寂しがってるかも……」
「えへへへ……ダメだ、美貴なに言ってるんだろヤバっ。ヤバイよね?」

「やばくないですよ。やさしい藤本さんが大好き!」
「あははっ、ありがと」


不器用なのに優しすぎる人。
そんなあなたが大好きです。
 
890 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:16
「あのさ……」
「どうしたんですか?」
「ちょっとだけ触らせてとか……むり?」
「触る?」
「むね……」
「ばかっ!」
「うぅ……だって昨日触ったの憶えてないんだもん」
「藤本さんのえっち……」
「ごめんってば〜」
「もう知らないの」
「言わないから、もう言わないから許して!」


素直に気持ちを話してくれるのは嬉しいけど、ちょっと困ります……
不器用で優しすぎてほんの少しえっちで素直な人。
それでも大好きです。大好きだけど、もうちょっと我慢してください。
心の準備が出来るまで……


「さゆみのこと好き?」
「好きだよ」
「大好き?」
「大好きだってば」
「だったら我慢だよみーちゃん」
「わかった……」
「さゆみも、みーちゃんがだいすき」


大好きだからもうすこし待っていてください。
ぎゅーっと抱きしめると藤本さんはへへっと情けなく笑った。
 
891 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:17
  
アザレア:花言葉【禁酒、愛の喜び、愛される喜び】




―――――― おしまい。
892 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:17
 
893 名前:アザレア 投稿日:2006/01/08(日) 20:18
 
894 名前:日季 投稿日:2006/01/08(日) 20:19
>>860-891更新終了です。

レスありがとうございました!

>>856 名無飼育さん
美しいと言っていただけて感激です。今後は引かれない様に頑張りますw

>>857 名無しさん
(*´▽`)´〜`*)揃えばそこは二人の世界……ですよねw
まったりまったり頑張ります!

>>858 前29さん
うわぁ〜い!最近書くとエ○に走ってしまうのですがΣ!(゚▽゚;)(゚〜゚O)
ドキドキしてもらえたなら良かったです〜。

>>859 初心者さん
醸し出す雰囲気がえろくて、ついついそうなっちゃう二人w
(*^▽^)<梨華
って甘える時に自分で呼んでたら可愛いだろうなと思って書きました。
895 名前:名無し 投稿日:2006/01/08(日) 21:02
この話のさゆもミキティ-もカワイイ!!
どうなるかとハラハラしたけどよかったです
いろんな意味でミキティ-が羨ましいのですがw
896 名前:前29 投稿日:2006/01/08(日) 21:56
初々しい重さんに不器用で可愛い美貴さんにw
対照的なバカップルに萌え〜〜♪
全開って・・全開って・・・ww
897 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/08(日) 23:49
先生!藤道1錠では足りません!w
お薬を処方してください。

今回も大変とろけさせていただきました
可愛いさゆと優しい美貴さんにメロメロです
898 名前:初心者 投稿日:2006/01/09(月) 03:10
更新お疲れ様です
もうドキドキしちゃってドキドキしちゃって大変でした
それに最後のミキティのおねだりはとっても素直で可愛かったです
凄くさゆ心配なよっすぃとお母さんみたいな梨華ちゃん大好き
次回更新楽しみに待ってます
899 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/09(月) 10:52
さゆみんが可愛すぎる
美しいほどに怖い表情のミキティって・・写真集「cheri」の表紙みたいな
感じかなと思いながら読んでいました

次回も、すごく楽しみにしてます。
900 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/09(月) 23:33
ううう…最高。萌え死ぬかと思いました。
さゆの心の準備ができた時、…期待してますw
901 名前:腰痛に苦しむ読者 投稿日:2006/01/10(火) 02:21
更新お疲れ様です
楽しく読ませていただきました。

酔っちゃって甘えたな美貴さんに萌えました。
さゆも可愛いし、梨華ちゃんに弱いよっちゃんも可愛いです!!
題名の花言葉も意外に好きな読者ですvv

次回も楽しみに待ってます。
902 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/10(火) 03:05
ミキティ頑張れっていう気持ちと
今の関係のままいてくれっていう気持ちが両方ありますね
あと所々知ってるネタっていっていいのかな?があってスキです
903 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/11(水) 01:16
今回のみきさゆめっちゃドキドキしました!!
甘えるミキティと純粋なさゆ本当可愛い・・
これ以上の関係も見てみたいけどこのままの純粋な関係もいいですよねー
それとラブラブでまるで夫婦みたいなないしよしも萌えます
上級者っぽいいしよしとまだ未熟なみきさゆの四人の関係も好きです
904 名前:日季 投稿日:2006/01/12(木) 14:56
>>860-891の続編です。


『ストック』
 
905 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 14:57
「触りたい」

お正月から気がつけばそんなこと考えてしまう自分がいて……
はぁと溜め息をついていると、何故か目の前にいる梨華ちゃんが胸を両手で隠した。
あちゃー…心の声が思いっきり口をついて出ていたらしい。

「いや梨華ちゃんのじゃないし。それに美貴は一言も胸なんて言ってないじゃん」
「だって美貴ちゃん胸見ながら呟くんだもん」
「マジ?」
「マジデジマ?」
「いやそんな返しはいらないから…」

やばいなぁと机に突っ伏す。あぁ、もう重症みたい。
夏頃も同じような状態だった気はするけど……
あの時よりも酷い。寝ても覚めても重ちゃんのこと考えてる。
しかも、おっぱ……のことだなんて最低じゃん。あほじゃん。えろすぎじゃん?


「それより誕生日近いの私」
「それどころじゃない……」
「美貴ちゃん酷い!小さいときは毎年一番におめでとうって言いに来てくれてたのに。
 それに私の初めて奪っておいてそれは無くない?」
「だぁーーー大声で初めてとか言うな!」
「だって美貴ちゃん冷たい!」
「冷たいって、よっちゃんと過ごして美貴の誕生日スルーしたのどこのどいつだ!」
「あっ……えへっ」
「”えへっ”で誤魔化されるか」
「でもお互い様ってことよね」
「まあね」

梨華ちゃんの初めて……あぁ、キスとか。っていうかキスだけじゃん?
と思ってたけど、もしかして……
906 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 14:57
「あのさ梨華ちゃん?」
「どうしたの?」
「初めてとかその辺の話」
「あぁ、キスだけじゃないよね」
「やっぱり……」
「うふふ、よっすぃには内緒だけどね」
「……それはありがとう」
「もちろん、さゆにだって言えないじゃん」
「分ってます」

そうかあの遊んで梨華ちゃんの胸とか掴んだのがいけなかったんだ。
中学くらいだったけ?無邪気だったね、美貴たち。
感触とか憶えてない。やっぱりもったいな……くないから!
違う、そんなことばっかり考えてるからダメなんじゃん。


「でも二人とも何も考えずに遊んでた延長線上だしね」
「だね」
「ちゅって感じでしょ、キスって言っても。幼稚園の頃だし」
「う〜ん、そう。そんな感じだね」
「ね?まぁ、その胸だって遊んでだったわけだし」
「……反省してます。いまは凄い反省してます」
「美貴ちゃんって意識しなきゃ大胆なんだから。意識しすぎなんだよ」
「そうなのかな」
「そうそう」
「うん、なるべく考えないようにする」

考えすぎるから意識してしまうわけで……
それでまた態度がオカシクなっちゃったら、絶対に重ちゃんは落ち込む。
美貴の言動一つであんなに表情を変えるのだから。
それに内に溜め込んじゃうタイプだから、また一人で落ち込んで傷ついてしまうかもしれない。
 
907 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 14:58
「そういえば、よっちゃんは?」
「風邪でね、今日はおやすみ」
「お見舞い行かないの?」
「行こうと思ってたんだけどね……」
「行けないの?」
「来るなって言われたの」
「なんで?」
「風邪がうつるといけないから」
「そっか、梨華ちゃんすぐ風邪ひいちゃうもんね」
「治ったらいつでも逢えるんだから、我慢しようって」
「なるほど」

二人は周りが見えてないようなバカップルなんだけど……
けど美貴なんかよりずっと大人だ。
二人ともお互いのことをすごく考えている。
美貴ならきっと逢いに来てほしいと思うだろう。
そして自分も逢いに行ってしまうだろうと思う。

だけどそれも間違ってはいない筈なんだ。
それぞれの付き合い方があるのだから。
大人になんてなれなくていい。美貴は美貴だから。
そんな自分を好きだと言ってくれるのだから、ありのままでいればいい。


「美貴ちゃん急に真剣な顔してどうしたの?」
「ちょっと考え事」
「やっと胸から興味が逸れた?」
「だぁー、それを言うな」
「うふふ、だって美貴ちゃん可愛いんだもん」
「可愛いとか……」
「さゆに怒られるから、あんまり言わないでおこう」
「へっ?」
「体育の授業みたいだよ」
908 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 14:59
指差されたグランドを見ると、1年生が外に居た。
あっ、重ちゃんのクラスだ。と思ってるとばっちり目が合った……


「げっ……」
「あ〜あ、逸らされちゃった」
「いつから気付いてたんだろう?」
「たぶんグランドに出てすぐにじゃない?」
「っていうことは……」

休み時間が終わろうとしてる。あぁ、最悪……
もう一度机に突っ伏す。かなり長い時間こっちを見てたんだろうな重ちゃん。
なのに気付かずに梨華ちゃんと喋ってた美貴。


「フォローしなきゃね」
「フォローって?」
「次はお昼休み〜」
「迎えに行くべき?」
「どうせ私達のクラスは自習じゃん。1年の教室前で待ってれば?」
「体育から帰ってくるのを?」
「そう。ちょっと早めに教室を出て待ってるの」
「そうだね……」
「自習プリントは終わらせてからだよ」
「この優等生め……」

恨めしそうに見上げてみたけど、チャイムが鳴ってプリントを配られると
梨華ちゃんは前を向いて美貴に背中を向けた。
くそっ、なんかお姉ちゃんみたいなんだよいっつも。
イタズラで消しゴムをちぎって投げつけてると、ちょっとだけ振り向いて
”めっ!”なんて怒られた。キショっと心の中で悪態づいてプリントに視線を落とす。

なんだ簡単じゃん。5分で終わらす。絶対に終わらす……
そして、外の重ちゃんを見ていよう。気付いてもらえなくても、気持ちが分るかもしれない。
どんな想いでこっちを見てたのか分るかもしれないから。
 
 
909 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 14:59
   ◇  ◇  ◇
910 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:00
「藤本さん?」

体育が終わって帰って来た重ちゃん。美貴を見つけてちょっとびっくりした顔で
だけどその顔はすぐに”嬉しい”と伝えるように綻んだ。


「美貴ちゃんのお迎えだ〜、いいなぁさゆ」
「えへへ」
「じゃあ早く着替えなきゃ」
「うん!藤本さんちょっと待っててください」

頷くとかるく手を振って、絵里と教室へ入っていった。
つられて手を振り返したんだけど、他の1年生にものすごい見られてることに気付いて
すぐに引っ込める。なんか照れくさい。


1年生の教室は3階にある。2年生は2階、で3年は1階。
廊下から見える中庭に視線を落とすと、梨華ちゃんとごっちんが見えた。
よっちゃんが見たら嫉妬しそうな感じで歩いてる。
梨華ちゃんのあのクセはどうにかしたほうがいいと思う。
隣を歩いてる人の腕にくっついてしまうクセ。
まぁ、よっちゃんと一緒の時が一番最強だけど。

ごっちんにからかわれてるのか、大きく身振り手振りをして抗議してる梨華ちゃん。
ふにゃふにゃ笑って走り出したごっちんを慌てて追いかけてる。
何やってんだか。子供みたいなやり取りを見て、自然と口元が緩んでくる。
 
911 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:00
「窓の外がそんなに楽しーかー?」

くるっと振り向くとそこには……

「な、中澤!……先生」
「こらっ、いま呼び捨てしようとしたな」
「してませんって、やだなぁ」
「藤本、嘘はあかんで嘘は」
「嘘なんてつきません」
「まあ、今日は大目に見よう。なんで1年のところにおるんや?
 校舎裏に呼び出しとかせんやろうな?」
「するわけ無いでしょ!先生こそなんでいるんですか?」
「ここの担任だから」
「えっ?」

中澤が指差したのはどう見ても重ちゃんたちのクラス。マジでか……orz
美貴も1年のときに中澤クラスだったんだよ、重ちゃん。

「せ、セクハラしてないですよね?」
「なんや藤本は人聞き悪いこというな〜。あれはスキンシップや」
「いまは、してないですよね?」
「あの噂はマジやったんか〜?あかん中澤が許さんで」
「何をですか」
「ここではマズイやろ」

ふっと周りを見渡すと人、人、人って感じ?
つい大声になりすぎた……

「でも美貴用事がありまして……」
「分ってるって。もう出てくるんやったら3人で話しようか?」
「な、なんでですか?」
「可愛い生徒やからね。悪い虫がつかんようにせんと」
「虫って……」


がっくりと項垂れると扉が開いて重ちゃんが出てくる。
美貴と中澤を交互に見て、不思議そうな顔をしている。
912 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:01
「中澤先生?」
「おぉ重ちゃんやんか、ちょうど良かった一緒にご飯食べるで〜」
「はぁーーー?聞いてません!」
「言ってないもん、アホやな藤本は」
「どうせアホですよ……」
「認めるんか、やけに素直やな」
「藤本さんはいつでも素直で可愛いです」
「あははっ」
「なんや、なんやラブラブしよってからに」
913 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:01
   ◇  ◇  ◇
914 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:02
「で、どこまでのお付き合いや?」

単刀直入に質問していいかと言われて頷いたらそれですか?
思わず飲んでいたお茶が変なところに入ってむせる。
背中をさすりながら重ちゃんが「大丈夫みーちゃん?」なんて呟いたのを
地獄耳の中澤はちゃっかり聞いてるし。


「なんか親しい感じやな」
「はい!お付き合いして8ヶ月目くらいです」
「ほっほう。入学して間もなく付き合ったわけか」
「そうです」
「きっかけは?」
「さゆみの一目惚れに近い感じです」

ちょっと頬染めて話す重ちゃんが可愛くて、ちょっと見惚れてた。
ほんとに白いよね、肌。だから赤くなるとすっげえ、かわいい……


「藤本、エロい目で重ちゃんを見んといて」
「なっ!?違いますよ、可愛いって思ってただけですから!」
「やだっ、みーちゃんったら声大きいよぉ」

やだと言いつつ嬉しそうに背中をばんばん叩かれて……
ってか、でっかい声でみーちゃん言うなぁ!?


「みーちゃんか。ありえんな。イメージに無い。
 すっごいな、ほんま重ちゃんは愛されてるんやな」
「はい!もういっぱい愛してもらってます」

「そうかココロもカラダも……」
「まだです!カラダはまだ!中澤先生、余計なこと言わないでくださいよ」

「ひゃー、まだ……。重ちゃん、ほんまに愛されてるわ。見捨てんと付き合ったってな」
「はい!みーちゃんだけが好きですからぁ」

「あっついから溶けそうや。まぁお昼楽しんでや」
「はい、どうも……」


ぐったりする美貴とは正反対に嬉しそうな重ちゃん。
美貴が可愛いと発言したのがよほど嬉しかったみたい。
915 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:02
「中澤先生と喋ってて疲れたの?」
「さゆみは疲れない?」

「平気だよ?みーちゃんとのことも巧くごまかしてるの」
「これからも誘導尋問されちゃうかもだけど、ごめんね」
「いいよ。いっぱい惚気ていっつもかわしてるから♪けっこう楽しいの」

案外したたかなんだろうか……あの中澤と対等に喋ってたし。
っていうか思ったより邪魔されなかったな。
あとは昼休みが終わるまで二人でまったりと過ごそうね。


「さっきの休憩時間……」
「ん?さっきの……あっ、ごめんね。美貴気付かなくて」
「楽しそうでしたね」
「いや、あの……」
「石川さんといると楽しそう」
「そんなんじゃないってば」
「だって全然さゆみに気付かないんだもん」


ぎゅっと唇を噛みしめて涙を堪える重ちゃん。
初めて出会ったときから、何度この屋上でこの子は泣いたのだろう。
そっと引き寄せて腕の中に閉じ込める。
916 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:03
泣きたいときは泣いたらいい。
もう泣かせないなんて誓っても意味が無いことに気付いたから。
だって泣いてくれる度に、美貴のことが好きなんだと分かって嬉しくなるんだ。
涙が枯れないように、美貴への想いも、美貴からの想いも枯れることはないんだよ。


「さゆみのこと考えてたんだよ」
「・・・・・」
「さゆみのこと考えて、考えすぎちゃって……それを話してたんだよ」
「ほんとですか?」
「うん。毎秒考えてる、さゆみのこと」
「えへへ……嬉しいの」

美貴の肩にぐりぐりと額を押し付けて、重ちゃんは囁いた。
”みーちゃんだいすき”その声にこんなに満たされてる。
心の中がキミでいっぱいになって、こんなに幸せを感じてる。


触ってみたいとかそんなこと、いまはこれっぽっちだって思わない。
腕の中にいるだけで満たされちゃった美貴は、アホな願望なんて忘れてた。
 
917 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:04
「ほんとはね……」
「うん」
「みーちゃんが振り返ってくれますようにって見つめてたの」
「振り返ってくれますように?」
「さゆみに気付いてくれたら、それだけでいいなって思ってたの。
 だから最後にこっちを見てくれて、ほんとは嬉しかったんです」


ほんとに嬉しそうに言うから、言い出せなかった。
梨華ちゃんが気付いたから、美貴はそっちを見たんだよなんて言えなくて……


「なのに、目が合った途端に悔しくなって……」
「悔しい?」
「さゆみはこんなに見つめてるのに、藤本さんは気付くの遅すぎ!って」
「あはは、ごめん……」
「だから目を逸らしちゃったんです。でも安心しました。
 さゆみのこと毎秒考えてるとか……嬉しいです」
「いつだって考えてるよ」
「さゆみも……みーちゃんのことばっかり考えてるの」
「ありがと」

考えてることに嘘は無いんだよ。
だけど、その考えてた内容が情けなくてすいません……orz
もう胸に囚われたりしないから、どうか美貴を見捨てないでください。
918 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:05
「今日は真面目ですね?」
「へっ?」
「だって屋上で居る時は二人きりだから、いっつもちゅーとかしてくるんだもん」
「あっ……」
「どこか具合悪いんですか?」
「ううん、なんか満たされてて考えられなかっただけ」
「満たされる、ですか?」
「うん、さゆみといられるだけで幸せみたい」


美貴の言葉に潤む瞳。なんで?泣かせるようなこと言った?
あれれ?なんて思ってると、重ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
あぁ、また見逃すところだった。嬉しくても泣くんだ、この子は。


「さゆみはもっと幸せみたいです」
「へへっ、美貴だって」
「お互いに幸せってことで」
「そうだね」
919 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:05
そっと瞼を閉じるから、触れるだけのキスをした。

あっ、そういえば唇尖らせてなかったぞ……
少しづつ成長してるんだね、重ちゃんも。

これからは見逃さない。どんな些細なことでも絶対に。
もっと重ちゃんの想いを受け止めて感じなきゃ。
少しづつだけど近づいている心の距離。遠ざからないように頑張ろう。
それで、ちゃんと愛を伝え続けよう。

キミが安心して笑っていられるように、大好きだと伝え続けよう。



 
920 名前:ストック 投稿日:2006/01/12(木) 15:06
ストックの花言葉
【愛の絆・不変の愛・逆境に堅実・未来を見つめる・努力・思いやり・永遠の美・永遠の恋】




―――――― おしまい。
921 名前:日季 投稿日:2006/01/12(木) 15:07
>>904-920 更新終了です。
(´-`).。oO(多いけどみつけた花言葉ぜんぶ載せました…orz)

レスほんとにありがとうございます!
みきさゆは手探りで書いてきたのですが、暖かいレスをいただいて
ほんとに嬉しいです。
一つ一つのレスにものすごく励まされています。
ほんとに、ありがとうございます。
922 名前:日季 投稿日:2006/01/12(木) 15:07
>>895 名無しさん
キスまでのお付き合いと言っておきながらすいませんw
可愛いままでいてもらいたいので、今後もこんな感じでいきますw
从*VvV)<えへへ、いーだろぉw(でも触らせてクレナイのだ)

>>896 前29さん
平和で甘いのが好きなので、いしよしはバカップル道まっしぐらです♪
みきさゆも影響を受けていくとは思いますが……エロくならないようにしようw
(*^▽^)<いつでも全開だよ!
(0´〜`)<梨華ちゃん意味わかってないでしょ?

>>897 名無し飼育さん
リd*^ー^)っ【甘甘藤道37錠】お薬出しておきますねw
とろけてもらえて嬉しいです。今後も頑張っていきます!
从*・ 。.・)<さゆみは藤本さんにメロメロなの〜。

>>898 初心者さん
わ〜い、すっごくドキドキしてもらえて嬉しいです!
藤本さんは(えろ)カワイイを目指してますw
ここのいしよしは二人を暖かく見守りつつ、たまに邪魔しますw
从*VvV)<おねだり叶えてくれるかな(ドキドキ
(0^〜^)^▽^) <大好きとか……嬉しいです。
923 名前:日季 投稿日:2006/01/12(木) 15:08
>>899 名無飼育さん
从*・ 。.・)<可愛すぎるって罪なの。
藤本さんの写真集……想像して読んでもらえて嬉しいです。
思わず写真集を見直してしまいましたw 

>>900 名無し飼育さん
萌えていただいて感激です。死なないで!w
从*・ 。.・)<き、期待されてるの…。
从*VvV)<まったりいこうねw

>>901 腰痛に苦しむ読者さん
腰のほう大丈夫ですか?腰痛はつらいですよね…
楽しんでもらえて光栄です。花言葉すきと言ってもらえて嬉しいです!
从*VvV)<美貴は甘えんぼなのだw
(0´〜`)<梨華ちゃん最強だYO

>>902 名無飼育さん
自分もこのままを維持していきたいのが本音ですw
すぐには頑張れないへタレ藤本さんなので、まったり見守ってください。
たまにひっそり入れてるネタに気付いてもらえて嬉しいですw
从*VvV)<美貴は、頑張り過ぎない程度に頑張る予定。

>>903 名無飼育さん
ドキドキしてもらえて嬉しいです!このまま現状維持を目指しますw
いしよし&みきさゆの関係が好きと言ってもらえてかなり幸せです。
从*・ 。.・)<ここでは毒舌封印なの。
从*VvV)<純粋だよね、ここではねw
从*・ 。.・)っ<TvT从イタタタタタタタタッ
924 名前:腰痛に苦しむ読者 投稿日:2006/01/12(木) 15:41
更新お疲れですvv

腰を心配してくれるなんて・・・優しい人だ!!!!
でも、まだ完治には程遠いようです(泣
花言葉は本当に好きですね。それにお勉強になります。

梨華ちゃんとよっちゃん、それに美貴ティとさゆ
それぞれ人によって、恋の仕方も愛し方も違うことを感じることが出来ました。
美貴ティには美貴ティなりの愛し方でさゆを幸せにしてもらいたいなぁ〜と。
中澤先生もよかったです。

次も楽しみに待ってますvv

925 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/12(木) 16:10
ミキティの前ですぐ泣いちゃうさゆが、かわいいです。
素直に恋してる二人の関係が、すごーく素敵です!
926 名前:名無し 投稿日:2006/01/12(木) 19:04
みきさゆがすこしづつ成長してて、イイ感じ。
今後のふたりも見守ってます。
りかみきの関係も好きで、二人のやりとりがカワイイ!!
927 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/12(木) 19:28
ここの藤道読むと甘酸っぱい気持ちになります
いつも幸せをありがとう
928 名前:初心者 投稿日:2006/01/13(金) 23:30
更新お疲れ様です
中澤先生 セクハラ?スキンシップ?なにしてたんだぁw
いしよしのバカップルだけど大人な関係も
大人じゃなくてもさゆ美貴の素直なありのままの2人も素敵です
次回更新楽しみに待ってます
929 名前:How to call 投稿日:2006/01/16(月) 11:25
 


「どったの、さゆ?」


楽屋に向かう途中に前を歩いていたから声をかけたんだけど…
聞き慣れない呼び方に戸惑って、固まってしまった
普段の彼女はそう呼んでくれないからビックリしたの


「呼んどいて無視かよ」

ちょっと不機嫌そうに唇を尖らせて顔を覗き込まれた
子供っぽい仕草が妙に可愛い人。心臓がドキドキと速くなる

「ねえ、だいじょうぶなわけ?」
「……あっ、はい!」
「あははっ、最初に呼んだのそっちじゃんか
 美貴のこと凝視したまま動かないからどうしたのかと思った」

ホッとした顔をして私の隣に並んだ藤本さん
だっていつもなら”重さん”とか呼ばれるから……
なのに今日は”さゆ”ってそう呼んでくれたの
930 名前:How to call 投稿日:2006/01/16(月) 11:26
「一緒に楽屋に行こうと思って……」
「で、走ってきたんだ」
「えへへっ。藤本さん!」
「なんだよ〜、キショいからくっつくな」

キショいなんて言いながら、抱きついた腕を振り払ったりはしなかった
楽屋までのほんの少しの間……
二人っきりでデートみたいなんてはしゃぐと、今度どっか連れてってあげるよって
そんな答えが返ってきた


「絵里にまたヤキモチ妬かれちゃう」
「なんで亀ちゃん?」
「だって藤本さんと遊んだこと無いんですよ、絵里」
「そうだっけ……なんでかさゆとはあるんだよね」
「ですね。えへへ」


今日は呼び方が変わった記念日
たぶん何気ない藤本さんの気まぐれだと思うけど、いいの
この後のお仕事いっぱい頑張れそう……



おわり
931 名前:日季 投稿日:2006/01/16(月) 11:27
>>929-930みきさゆ超短編更新終了です(リアル)
932 名前:日季 投稿日:2006/01/16(月) 11:27
レス、心から嬉しいです。ありがとうございます。

>>924 腰痛に苦しむ読者さん(まったりじっくり治してくださいね)
花がもともと好きなのですが、花言葉いろいろと調べるのが趣味になってますw
それぞれの恋を楽しんでもらえたらなと思います。
从*VvV)<美貴らしくがんばるのだ。

>>925 名無飼育さん
从*・ 。.・)<泣いてるさゆみもかわいいの。
お互いの気持ちを素直に言い合える関係って素敵ですよね。
実際にはなかなかうまくいかないのですが……

>>926 名無しさん
いい感じでよかった〜。今後もマイペースに成長していくと思いますので
まったり見守ってもらえたら幸いです。
(*^▽^)<えへっ
从*VvV)<喧嘩するほど仲がイイ。
933 名前:日季 投稿日:2006/01/16(月) 11:28
>>927 名無し飼育さん
青春は甘酸っぱい……ありがとうって言われて幸せな気持ちです。
こちらこそ、ありがとうございます。

>>928 初心者さん
いつもありがとうございます。
从*VvV)<な、なかざわ……先生は危険なのだw
それぞれ対照的なカプにしたかったのですが、素敵と言ってもらえてよかったです。
みきさゆは今後も、少しづつまったりペースで進んでいく予定です。
934 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/16(月) 12:58
さゆキャワッ!!!
从*・ 。.・)<絵里はれいなと遊べばいいと思うの。

新スレ立てなくても大丈夫ですか?容量が…
おせっかいでしたらすいません。
935 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/16(月) 14:13
おぉ今回は現実っぽいですね!
確かにえりりんはミキティと遊んだことないから遊びたいってよく言ってますもんね
さゆとミキティはずーっと前だけど買い物に行ったとか言ってましたね〜
二人の買い物とかどんな感じなのか妄想が膨らみますねw
936 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/16(月) 16:12
藤本さん大好きなさゆが可愛い
こんな風な超短編でもいいので沢山読みたいです
937 名前:名無し 投稿日:2006/01/16(月) 21:20
リアルの距離感もイイ感じ!!
短編でもカワイイなあ、さゆ美貴は。
938 名前:初心者 投稿日:2006/01/16(月) 22:13
更新お疲れ様です 
ミキティがさゆって呼ぶのいいですね
ほんとに呼んでるの聞いた時はビックリとなんかうれしいのと両方でした
余談ですがZONEの一雫聴いてたらここのさゆ美貴が思い浮かびましたw
次回更新楽しみに待ってます
939 名前:日季 投稿日:2006/01/17(火) 17:57
レスありがとうございます!

>>934 名無飼育さん
キャワっに出来てて良かったです。
从*VvV)<亀とT○ガイドで遊ぶ約束したような気がするw
容量かなりヤバイとこまできてますねw ありがとうございます。

>>935 名無飼育さん
从*・ 。.・)<年末特大号のT○ガイドにひっそり腕組んだ写真が載ってたのw
リd*^ー^)<めちゃくちゃ小さい写真だけど。
重さんには甘い藤本さんが好きなんです。きっと買い物中も甘かったに違いないw
けっこうリアルでも道重さんには甘いと思うのは自分だけでしょうか?

>>936 名無し飼育さん
从*・ 。.・)<とっても大好きなの。
超短編……リアルを書くとすればこのほうが簡単なのに気付きましたw
書くネタを発見した時には頑張ります。

>>937 名無しさん
ちょっと違う感じにしてみたのですがイイ感じでよかったです。
これからも甘く可愛い感じで頑張りますw

>>938 初心者さん
リアルでももっと呼んでくれると嬉しいのですが……
今までにラジオやライブで道重さんに甘いシーンが多々あったので、
今年も期待しています。
歌を聴いて思い浮かぶ……嬉しいですね。ちょっと気になるので探して聴いてみようかなw
940 名前:日季 投稿日:2006/01/17(火) 17:58
容量がいっぱいなので新スレを立てさせていただきました。
↓「Code for flowers」です。
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/silver/1137487941/
941 名前:まとめ 投稿日:2006/01/17(火) 18:04
・「心象」>>506参照

・「偽りの真実」番外編
れなえり>>512-594>>655-678
みきさゆ>>596-600
いしよし>>602-606

・短編
藤道&石吉>>617-630
みきさゆ>>639-646>>929-930 
いしよし>>833-852

・みきさゆ花言葉(85年組が高3、さゆえりが高1)
>>2-69 「ヘビイチゴ」
>>685-769「クリスマスローズ」
>>779-788「デージー」
>>794-825「アスター」
>>860-891「アザレア」
>>904-920「ストック」

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