罠
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:33
- はじめまして
誤字、脱字、及び文章のおかしい所等あるかと思いますし
稚拙な表現しか出来ませんが、暇つぶしにどうぞご覧下さい
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:33
- 「由美がかわいいからですよ」
「やっだぁよっすぃったら、ねぇ・・・今度一緒に食事に行かない?」
「いいですよ・・・・もちろん、いつにします?」
そぉねぇ〜
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:37
- ちょろいもんだ・・・
親に無理やり通わされた女子高で、どうやら自分は女の子に好かれるたちらしいと気づいてすぐにこの道に入る
元々真面目な方ではなかったし、同じようにモテてるごっちんとホストにでもなってみる?って思い立って都会に出てって働けないか聞きに行った店で即決定
学校も辞めて、家も飛び出して・・・・・
最初こそごっちんと二人で暮らしてたけど
ウチらはモテた
あっという間にナンバーワンの座を争い、稼ぎはハンパじゃない
都心の高級マンションに二人は一人づつ部屋を借りて、何ら不自由のない生活を送っている
ウチの気を引こうと、高価なプレゼントを持って来ては
抱いて欲しがる女達
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:39
- 恋は駆け引き・・・・・押したり引いたり
その加減が難しい
今日の女は、後二、三度食事して優しくすれば、足しげく店に通ってウチに貢ぎだすだろう
惚れさせればこっちの勝ち
惚れたら負け
ろくな人生送れないと言って怒鳴りまくってた先生達は・・・・今頃何してるだろう
今頃ちまちま、出来の悪い生徒のテストでも必死で採点してるかもしれない
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:42
- なんだか人生の勝ち組みになった気分で仲間たちと一緒に店を出た
午前四時・・・・そろそろ日が昇ってくるのか、すこぅししらじらと明るくなってきている
そろそろ冬がやって来るからか、随分と寒い
「さびっ、早く帰ろっ」
店の仲間達は待っていた女と一緒に消えたり、ごっちんは買った・・・・
いや、買ってもらった車を取りに駐車場に行った
どうやら今日はそのお客の所に向かってサービスしないといけないみたいだ
ウチは昨日、客の家に泊まってお疲れだから早く帰りたいのに、
こんな時に限ってタクシーが掴まらない
チッとしょうがないから少し歩いた大通り迄出て拾うか・・・・・
と、久しぶりにネオン街を歩き出す
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:44
- 薄暗いビルとビルの間
そこには、都会の黒い部分がひしめきあったりするのでなるべく見ないようにしている
遊びなれた人たちもそう・・・・・誰もそんな場所なんて見やしない
なのに
今日に限ってガチャンという音と共に目の端で何かが倒れた映像にそっちを見てしまった
人が二人も並べばギチギチくらいの通り道で・・・・
ビルのエアコンの室外機の横に、どうやら人が倒れている
どっかの酔っ払いのおやじかぁ・・・・
気にも留めずに二・三歩歩いて行ってから今見た映像が分析された
頭がこっち側に倒れて・・・・
白く反射するように見えた手のようなものは・・・・・
どう考えても小さく・・・・・おやじ・・・・と決定するには情報が違い過ぎていた
フェミニストなウチは・・・・・一応女性にはめっぽう優しい
どうみても女の手でしょ
と、隙間に入って近づくにつれ・・・・それは女性ではなく子供じゃないか・・・・って気付いた
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:49
- 「どうしたの?大丈夫?」
恐る恐る声を掛けると、ピクッと動いた
次の瞬間ガバッと起き上がって室外機の陰の隅に隠れて小さくなってガタガタと震え出す
・・・・ってかマジで小さい・・・この子
いや・・・・・それよりやばいのに首突っ込んだ?
「何もしないよ・・・・・ってか・・・・・どうしてこんな時間にこんな所にいるの?」
おどおどと、顔をあげたその子は、薄汚れた顔をしてたけど
しっかりとした大きな黒目がちな目をしてこっちを見た
あ・・・かわいい・・・・・つい思ってしまった
短髪の髪はぜんぜん揃ってないし、ボサボサだけど、さもすればアバウトな今時の髪型にも見える
まぁただのぼさぼさ頭だけど
子供か大人かもわからない微妙な感じ
その子は、薄汚れた洋服だし全体に埃っぽさを醸し出してたけど、目だけはキラキラと輝いてじっと私を見てた
ああ・・・泣いてたのか
思わずじいっと見つめあい、またついこの口が言ってしまう
「行くとこ・・・・・あるの?」
これが死にそうな人だったとしても・・・・・酔っ払ったおやじだったとしても絶対にこんな事は言わない
まぁ普通言わないか
その子は、小さくふるふると頭を振った
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:52
- 「・・・・・家・・・・・来る?」
言ってしまった・・・・
どうしてだか解らない
こんなめんどくさそうなガキを拾ってどうしようってんだ
まぁ・・・・頷く訳ないか・・・
コクン
って、ええええっ、今頷いた?
「家の人には言わなくていいの?」
ってか・・・・いくつだよ・・・・この人
ふるふると首を振ってこっちを潤んだ目で見つめてくる
あ・・・・・マジかわいいかも・・・・この子
じゃあおいで
おいでおいでをして路地を出ようとすると、怯えたように立ち上がって
ってちっちゃ・・・・・すっげーちっちゃいこの子
ジーパンが膝でちぎられたようなパンツと
ヨレヨレのシャツとボロボロな靴・・・・
しかも土とかで薄汚れてる・・・
寒そうだし
転んだのかな・・・・というか、遭難してたって言った方が正しいかも
道に出るのを一瞬躊躇って、キョロキョロしながらウチの後ろをチョコチョコとついてくる
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 20:57
- なんだか子犬を拾った気分
しかもタクシー止めて乗せようとしたら、ちょっと待ってとシートに新聞紙を敷かれてしまった上に
誘拐犯じゃないかと思われてしまったようで、
家につく前に誤解が解けるように必死にこうなった経緯をしゃべってしまった
「早く警察届けた方がいいかもしれませんよ、お客さん」
「うん、明日そうします」
すると彼女はピクッと体を縮ませた
マンションに着いたタクシーから降りたらペコリとウチにおじぎをしてダッと逃げ出した
「おっおいっ、ちょっ待てって」
ちっちぇ〜くせに案外速くて、ひさびさにウチも本気で追いかけてしまう
こう見えても運動神経はいい方だから、すぐに追いつく・・・だってフラついてるし
「何だよっ、待てって、警察が嫌なのか?
なぁ・・・・訳を話してよ、悪いようにはしないから」
ちっちゃな細い腕をむんずと掴んで止めさせた、
瞬間怯えた感じになったので手をすぐ離したけどもう逃げなかった
きらきらとした目で見上げて来るばかりで何も言わない
「しゃべれないの?」
すると俯いてしまい、長い沈黙が訪れる
「ウチもさぁ・・・・警察ざたはやばいからさ・・・・・一応未成年で酒場で働いてるし、
巻き込まれるのやだから警察には行かないよ、今日だけ泊めてあげるだけだよ」
すると、にこっと笑い、嬉しそうに頭を下げた
不覚にもドキッとしてしまった・・・・あんまりかわいらしくて
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:03
- 部屋に入ってまずお風呂に入らせる
寒くなったこの季節なのに、結構臭う
悪いけど靴を脱がせる前に自分が着替えて汚れてもいい服に着替えると
抱きかかえてそのまま浴室に入らせた
使い方解る?と聞くと不思議そうな顔したので、
蛇口を開いて足元でシャワーを出してやるとすごく驚いていた
まさかシャワー知らない?とか思ったけど、まさかねと思い、
とりあえずこれが頭洗う奴でこっちがコンディショナー、こっちがボディソープ・・・
と解ったのか解らないのか
ジェスチャーまでして説明してしまった、しかも最後はこのバスタオルで拭くんだよと言って
出て来た水がお湯に変わり、温度調節迄してあげて、解った?って聞くとコクンと頷いたので籠を持って来て
「これに脱いだ服を入れてね、着替えはそこに置いておくから、下着はちょっと大きいかもしれないけど未使用のをあげるよ」
よ〜く洗うんだよ、という言葉に笑顔で頷くので思わず笑顔でその場を去った
ちっちゃいからウチの服は全部大きいかなぁ
タンスの中をあさくるけど、結局ウチにはピタTと短い丈のジャージ上下と下着
・・・・パンツだけを置いてきた
変わりに泥だらけの服を袋に入れて持って来た
ってか・・・・・これ洗うと洗濯機が壊れそうだ・・・悪いけどそのまま持ってかえってもらおう
それに・・・なんか・・・じゃらじゃらいってるし
ポケットに何か入ってるっぽいけど・・・・正直この洋服をこれ以上触る気にならずにそのまま袋に入れた
ざっと畳んで入れてあげよう、
さっき脱衣所で音を聞いた限りでは、ちゃんとシャワーも浴びれてるみたいだったし
あ、一応ブラジャーしてたんだね・・・・・片方ひもとかないし、ボロボロだけど
いやいや・・・何考えてんだ・・・・ウチは変態か
袋を置いて手を洗うとビールを取り出して飲んだ
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:09
- はてさて・・・・・どうしたものか
とっておいたドラマを見ながらボーッとしてるとカチャっと出て来た
今迄汚れてて解らなかった顔がはっきりと解って驚く
ジャージがブカブカで、大きな服を着せられた子供のようで、
恥ずかしそうに笑って出て来る顔はめちゃくちゃかわいらしかった
思わず呆けてると、どうしていいのか解らないその子が近くにとてとてとやって来てぺこりと頭を下げ、
タオルを差し出して来た
タオルを私に渡すと、ウチが袋に詰めた洋服をキョロキョロと探してて、
見つけるとさっきじゃらじゃらいってた音を聞いて安心するように微笑んでいた
何か大事なものなのかな・・・・ポケットからジャラジャラと音のするものを手にとって大事そうにジャージに詰めていた、
そこで我に帰って
「あ、気持ち良かった?」
にこっと笑って頷く・・・・・頬とかはこけてて・・・
さっき抱き上げた時もめちゃくちゃ軽かったからそこで気付く
「お腹空いてるんじゃない?」
彼女は情けなさそうにうなずく
ん〜・・・しかし家には何もないしなぁ
「今からご飯炊くからちょっと待ってて」
彼女のそばを通ってキッチンに行くと、てけてけとついてくる
どうしたのと聞くと、自分がやるというジェスチャー
お釜にお米を入れてやると、きらきらした目でお米を見てた
米を研いでる間に、ジャージの袖をめくってあげた
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:14
- よっぽどお腹空いてたんだ・・・と、彼女が慣れた手つきで米を研ぐのを横で見て、
研ぎ終わったお釜をジャーにセットしてあげたら私もシャワーを浴びに行った
シャワーはちゃんと使いきれたみたいで、
心配してしまってた自分にちょっと笑いながら今日一日の疲れを洗い流す
浴室から出てくと、ソファにちょこんと座ってて、テレビに夢中になっていた
頭を拭きながら隣に座ったら、こっちをちらっと見てまたにこっと笑う
しばらくしてニュースが始まると、矢口さんは一生懸命テレビを消そうとしてエアコンのリモコンのや
コンポのリモコンのボタンを押し捲っていた
あまりの慌てっぷりに、これがテレビのだよ・・・と消してあげ
「そんなに珍しいの?テレビ」
問い掛けてみると、やっぱりにこっと笑って頷く
かわいい
いやいや、違うだろ
「ねぇ・・・・なんて名前?」
聞いてどんするんだろう・・・・・と、一瞬思ったけどもう口から出てってしまったからしょうがない
職業病とでも言うのだろうか
困ったように笑って俯いたので、ああ、しゃべれなかったっけ・・・・・と紙とペンを持って来た
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:20
- 戸惑いながらその子は、久しぶりに書いたような字で
矢口真里
そう書いた
「矢口真里ちゃんかぁ・・・・いくつなの?」
聞いたら、首を捻ってしばらく考えてから20と書いた
「二十歳?年上?」
かなり見えないその容姿とのギャップに驚いているとペンを置いて縮こまってしまった
「あの・・・ごめん・・・すいません、年下かと思って」
ふるふると首を振ってにこってこっちを潤んだ目で見つめてくる
ここは一応中学の時の体育会系の癖というか
年上にはちゃんと敬語を話さないとっていう意識が働く・・・慣れればそうでもないんだけど
濡れた髪と、恥ずかしそうな笑顔にまたドキッとしてしまったので、
慌てて立って肌の手入れをしようと隣のベッドルームに行く
ペタペタと化粧水とかクリームとか保湿剤をぬっていると、
ドアからじっと見つめられてた
「あ・・・・そっか、真里ちゃ・・・・・矢口さんも化粧水つけな・・・いと・・・いけませんね」
子供と思っていたので話し方に苦労してると
本人は嬉しそうに近づいて来て、見よう見まねでつけていた
その仕草の一つ一つもかわいらしくて、思わずじ〜っと見てしまった
う・・・・・いかんっ、変態おやじかウチは・・・
視線をずらすと・・・
どうしたのって感じで見つめられた
いや・・・・まじかわいいから・・・・やめてよそんなつぶらな目で見るの
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:23
- そこで炊飯器が炊き上がりを知らせる音を出したのでキッチンに戻る
やっぱり後ろをちょこちょことついてきて、お茶づけでいいですか?と聞くと、嬉しそうに頷いた
私のお茶碗によそって、お茶漬けの素を入れてお茶を入れてあげた
その茶碗を嬉しそうに両手で受け取って匂いを嗅いだりして
そろそろとソファに持っていくと地べたに座ってフーフーしながら食べ出した
熱いけど食べたいのか、ハフハフと口を開きながらかき込んで・・・
おかわりというようにチラチラと茶碗とウチの顔を見たりしたのでもう一杯入れてあげる
結局、私も起きたら食べようと思って炊いていた2合のお米は・・・・ほとんど食べられてしまった
だから
またお米を研いでセットする
彼女はもうその時にはソファにもたれかかってこくりこくりと船をこぎかけていたので
「眠いんですね・・・・じゃあこっちで寝ましょうか」
と、ベッドルームに連れて行く
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:25
- 布団に入る間際、朦朧とした意識の中だけど、何度も私に手を合わせて頭を下げた
セミダブルのベッドの奥に彼女を寝かせると、
小さく丸まってすぐに寝息をたてだす
「髪の毛・・・まだ乾いてないけど・・・いいですね・・・・寝癖ついちゃったらまたシャワーあびればいいし」
もう寝ちゃってる矢口さんに独り言のように言った
子供みたい・・・・・
静かに部屋を出て、浴室でドライヤーをかけて髪の毛を乾かすと、
もう一度戻ってそっとベッドに潜って子犬のように丸まっている矢口さんを見た
まじ・・・かわいい
なんとなく腕を回そうとしたら矢口さんの体はぎゅっとこわばってしまった
起きた?と思ったら寝ているみたい
だから、触らないであげようとちょっと離れて私も眠りについた
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:30
- 翌朝・・・というか朝に寝たから昼過ぎに、何か聞こえてきて起きた
う〜っといううめき声・・・・もちろん私ではない
頭に思考がついてきだすと、隣に誰か寝ていた事を思い出す
「どうかしました?」
ガバッと起き上がって見ると、眉間に皺を寄せて苦しんでる様子の矢口さん
お腹を抑えて唸っている
「お腹痛いんですか?」
起き上がって矢口さんの体にしっかり布団を被せてあげると
冷や汗をかいた顔でぎこちなく笑って首を振った
「薬・・・・はウチには無いんだよっ、あ〜っ、どうすれば」
おろおろしてるとピンっと思い出す
「病院行きましょう、病院」
ベッドから離れようとすると、矢口さんがぴょんって起き上がって
転がるようにベッドから起きるとウチの足を掴んできた
「びょ・・・・病院嫌いですか?でも痛いんでしょ」
ふるふると必死に笑顔を作ってるのが痛々しい
よろよろと立ち上がって両手をガッツポーズのようにさせて笑った
「無理しないで下さいよ〜」
パニックになりそうになって、どうしようと呟いてうろうろする私は
顔色がものすごく悪いのに気付く・・・・冷や汗も出てるし
やせこけている顔がさらに悪そうに見えて、よく見ると小刻みに震えているし
もしかしたら警察に行くのも嫌がってたから、病院もやばいって思ってるのかもしれない
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:33
- 慌てて携帯を取りに行って何百人といるお客さんの中の一人をスクロールさせて電話した
不安そうに見ていた矢口さんは、
耐え切れなくなったのかまた蹲って転がってしまったので慌てて布団を降ろして巻きつける
「あ、かおりん?わかる?吉澤だけど」
『解るわよっ、丁度今休憩中、で、どうしたの?こんな時間に珍しい』
「うん、ちょっと助けて欲しいんだ」
え?珍しい、ひとみがそんな事言うなんてっ・・・から始まって、丸まった矢口さんの背中をさすりながら事情を説明すると、
解ったから連れてきてと言われた
かおりんは、都会の片隅の小さな診療所のお嬢さんで自分も医者
ストレスが溜まる仕事なのか、ウチの店でよくうさを晴らして帰って行く
ウチが店に入ってすぐについたお客さんの一人
嫌がる矢口さんをようやく説得してタクシーを呼びつけてる間に自分の身支度を整えて、
寝ている矢口さんを簀巻きのような状態で抱えてタクシーに乗り込んだ
はぁはぁと苦しそうに言ってる矢口さんは昨日も思ったけどびっくりするほど軽くて、
腕なんか骨と皮しかないんじゃないっていうくらいやせこけてた
かおりんは、矢口さんを見て驚くと、診察室に連れて行ってウチを追いやった
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:41
- けっこうお客さん・・・・じゃなかった患者さんが来てて、順番をすっとばして診てくれるんだぁと思った
待ってる人も、あまりの矢口さんの顔色の悪さに文句は言わないでくれた
どうしたんだい?あの子・・とウチに聞いてくるおばちゃん
解らないんです・・・と答える私
しばらくするとかおりんが出て来て私を手招きする
中のベッドですやすやと寝ている矢口さんの顔はもう苦しそうではなかったが
やっぱり顔色が悪くて
「どうしたの?何の病気?矢口さん」
思わず必死に聞いてしまった
「うん・・痛そうだったから注射してちょっと眠ってもらった・・それと栄養失調・・
そんな胃に大量のごはんが入れ込まれて体中がパニックになっちゃったっ・・・て感じかな?」
あああ〜っ、そうだったのかぁ・・・・・でもあんなかわいいおかわりの顔されたら
と、口から思わず言い訳じみた声が漏れた
「あ・・・・・だって・・・・すっげーお腹空いてたみたいで」
「うん、よっすぃが悪いって言ってる訳じゃないんだけどね・・・・・それより・・・・
警察に・・・・・届けた方が良くない?何か事情がありそうよ、今時栄養失調なんて」
・・・・・・・確かに・・・・・厄介な感じは否めない
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:45
- でも・・・・
ちょっとの時間だったけど・・・・・
一生懸命知らない私に笑いかけてくるこの小さな体が・・・・・・
一体どうなってしまうのか考えると
「解らないけど・・・・・・こんな体なのに警察に連れて行かれるのだけは嫌みたいで病院も行かないでって・・・
大丈夫だって笑うんだよ・・・・・なんか・・・・連れてけなくて」
かおりんは肘掛に肘をついて顎を触りながら綺麗に笑った
「へぇ〜っ、ひとみって結構人情に厚いんだねぇ〜っ、なんか意外」
はいはい、いつも冷酷ですよ
・・・・ってか、まじこんな世話焼きタイプじゃないんだよねウチ
改めて今日の自分の行動に苦笑する
「んな訳じゃないけど・・・・・だって・・・・なんかほっとけないじゃん」
「ひとみってロリ?」
にやにやと笑ってるからついカッとなって
「ちがっ、こう見えて矢口さん20らしいよ、ウチよりも年上」
ありゃ、そりゃまた驚いたわぁ〜と優雅に笑ってた
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:48
- なんか・・・・急に恥ずかしくなった・・・・こんなに優しい奴じゃなかったはず
看護婦さんが先生そろそろ次を・・・・と言いに来て、
慌てたようにかおりんは紙に何か書き出す
「とりあえずここに行って薬もらって帰っていいわよ、しばらく安静にしてた方がいいと思う・・・・
何かあったら電話して、注射くらいは射ちに行ってあげる」
「サンキュかおりん」
だんだん思い出す・・・・・ウチはこんな奴じゃなかったっけ
看護婦さん二人がかりでおんぶさせてくれて、
前にからっているリュックから、受付でお金を払った
・・・・もちろん保険証なしの全額払い
自分が金持ちでよかったと思いつつ、
ウチを見て赤くなってる若い看護婦達にウィンクでありがとうと言って病院を出た
薬局で薬をもらう間にまたタクシーを呼んでもらって、
すやすやと眠る矢口さんを今度はすまきで抱えてタクシーに乗せた
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:51
- ようやく帰って来た頃にはそろそろ夕方
あと少ししたら働きに行かないといけない
う〜ん、今日は何も食べてないし
何も出来なかったなぁ・・・・
やけに金使っちゃったし・・・・・病院代・タクシー代
厄介な拾いものを見ながら頭を掻いてため息をついた
まぁ、貧乏学生じゃないから困りゃしないけどさ
炊いていたご飯で手っ取り早くチャーハンを作って食べた
まぁ、それくらいは作れるから
かおりんが言うには一時間位で起きるだろうって
胃袋が小さくなってるから、最初は少量で流動食を食べさせるようにって言われて
お茶漬けは流動食なのか?とか思って聞いてみると、
だし汁にご飯を入れて塩少々で、卵を落としてあげるといいよって
おかゆ?なんてのは作った事も作ってもらった事もないからね・・・・
だし・・・なんてどうやってとるんだよ
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:54
- ごっちんに電話して
「ねぇ・・・・おかゆ作ろうと思うんだけどさ・・・・だしってどうやってとんの?」
聞いた私に、大爆笑でしばらく会話にならなかった
で、ようやく教えてくれたのは、どの材料もウチにはなく、
結局塩だけでいんじゃないの?って言われた
聞かなきゃ良かった
笑われただけだった・・・・客の看病の為と思われて、
やばいんじゃないのぉとやらしい笑いをされてしまった
誰が客の為におかゆなんて作るかっつーの
・・・・・・いや・・・・お客以下だったっけ・・・・矢口さんって
う〜ん、一泊だけのつもりだったので、
ウチが仕事行ってる間の事をどうするか考えてもなかった
ってか・・・こんな状況じゃ追い出せないし
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 21:57
- あ〜っ、昨日拾わなきゃ良かった
いくら子犬みたくかわいくても
なんかやばそうって解ってたじゃん
ベッドサイドの窓際に腕組みして寄りかかってすやすや寝ている矢口さんを見てたら
ピクピクと瞼が痙攣しだしてゆっくりと目を開け・・・きょろきょろしだした
そして私を見つけると、ほっとしたような顔をして笑った
「どうですか?お腹・・・・まだ痛いですか?」
よっこらしょとおきあがったらお腹を自分で触ってにっこりと笑った
じわっと何かが自分の中に広がる
「もう痛くないんですね・・・・良かった・・・・・
じゃあ・・・・もうちょっとしたら仕事行かないといけないけど・・・・・」
と言うと、何かを察したようにこくりと頷いて、来ていたジャージを脱ぎだす
「なっ、どうしたんです」
一気にジャージとTシャツを脱ぐもんだからちょっと驚いた
そしてもっと驚いたのが・・・・
よくテレビとかでアフリカの飢餓の子達の映像のように
べっこりとへこんだお腹とあばら
それに申し訳程度の胸の膨らみに、思わず目を逸らしてしまった
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:00
- 栄養失調って・・・・マジなんだ
服が大きいから・・・・解らなかった
きっと出て行かないとと思って借りた服を返そうとしたのか・・・・と理解して
「あの・・・・その服はもうあげます・・・・それに・・・・
体調が良くなる迄ここにいてもいいですよ」
何言ってんだウチは・・・・・訳ありなこんな人をここに置いてどうする
心とはうらはらに、私はこんな事を口走ってしまっていた
沈黙がしばらくあって・・・・しばらくすると衣擦れの音が聞こえて来たので、
洋服を着てくれたのかなと思って矢口さんを見たら服を着ててにこって笑った
「どうして栄養失調になんて・・・・・」
そう呟くと、ちょっと悲しそうな顔して、ふるふると首を振って
またガッツポーズのような仕草で元気だよ・・・と伝えてくるように笑った
それがなんか・・・・・自分にとって初めての感情
というか・・・瞼の奥がじんと熱くなった気がした
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:03
- 「とにかく・・・・・昨日いきなり一杯食べたから・・・・
体がびっくりしちゃったんですって・・・・・・だから・・・・
おかゆ・・・・・って解ります?」
ちょっと間があってからこくりと頷いた・・・微妙
「体に優しい食べ物を・・・少しずつ食べないと、またお腹痛くなっちゃうみたいですよ」
こくりと頷いた後、照れたみたく頭に手をやって笑っていた
そして気付く・・・・・ハンパなく寝癖がついてることに
プッと笑って頭を触ろうとすると、ビクッと一瞬怯えて目を瞑っていた
だから、触ろうとした手が止まった
多分それは一瞬・・・・・すぐに元に戻って笑みを浮かべてこっちを見上げた
昨日もそうだった、触ろうとすると一瞬怯えている
だから私は伸ばした手を自分の頭に持っていって髪の毛をハネてるみたく持ち上げて
「寝癖・・・・ついてますよ」
教えてあげたら、えへへと聞こえて来そうな赤い顔で笑っていた
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:06
- 「えと・・・・今はお腹空いてないですか?」
こくりと頷く
「もうすぐ仕事行かなきゃいけないから・・・・・・お腹空いたら自分で何か作れますか?」
ん〜と首を捻って力強く頷いた
んん〜なんか心配
ウチでさえ作った事のないおかゆをどうして教える事が出来るだろう
かおりんが帰り際に言った
多分、栄養がないせいでずっと生理とかも来てないはずだけど・・・・・
薬飲んで栄養のあるもの一杯食べれるようになればもとに戻れるからって笑ってくれた
もうウチが面倒を見るだろうとふんでの言葉
「何か解らない事とかは?朝迄帰って来ないから・・・・・聞きたい事があれば今のうちに」
言ったそばから寂しそうな顔をして来た
言葉がしゃべれない分、感情が顔に出るんだ・・・・矢口さんは
「大丈夫ですよ、ここには誰も来ませんし、鍵をかけていきますから」
不安なんだろうと言った言葉に、首を小さく振ってベッドから降りるとウチの手をそっと握った
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:10
- 瞬間心臓が跳ね上がった
掴んで見上げて来る顔が、行かないでっていう顔をしてたから・・・・・
まだ少し顔色の悪いやせこけた小さな女性の顔がとてもかわいく見える
私も頭を振って気を取り直し
「大丈夫、矢口さんが寝てる間に帰って来ますから・・・・あの、少し説明しましょうか、家の中の事」
そう言ったらにこっと笑ってくれた
どういう暮らしをしていて・・・・何を知っているのか解らない矢口さんの顔に意識を集中しながら、
トイレとか・・・・玄関とか・・・・インターホンが鳴った時のモニターとか
ガスの使い方とか・・・・・・エアコンのつけ方、テレビの見方迄
説明する全てのものにきらきらと目を輝かせて真剣に話しを聞いていた
とりあえずごはんはおにぎりにして、なぜか家にあった土鍋を出して
「お腹空いたら、これに水・・・・これを下げたら出ますから、
水を入れて、ガス・・・・あ、やってみましょう、一度つけてみて下さい」
おそるおそる矢口さんはガスを捻って、火がつくと嬉しそうに笑った
「そう・・・・そこにこれ・・・おにぎりを一つずつ・・・・いいですか?
一度に食べたらダメですよ・・・・一つ入れてぐつぐつしたら、
これ・・・お塩です、少し入れて冷蔵庫」
矢口さんはこれでしょ・・・と言う感じで冷蔵庫を開けて卵を取って見せた
「そうです・・・・・火は危ないのでちゃんと消えてるか見て下さいね」
こくりと頷く
何で年上にこんな子供に対するような話し方をしてるんだろう・・・と不思議に思ったけど
矢口さんは、なんか純粋で・・・・・
この世の中の便利なものは何も知らないような印象を与えていたから
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:13
- メモ帳とペンを渡して、ソファの所に座って何か聞きたい事はありますかと尋ねると
”本当に、ここにいてもいい?”
不安そうに聞いてくるから
「いいですよ・・・・元気になる迄」
ウチらは微笑みあう
”やくにたちたい・・・・・いろいろおしえて”
「まずは体を治して下さい」
うるうるとした目で私を見上げて来る
”ありがとう・・・・・名前は?”
そっか・・・まだ言って無かったっけ
「吉澤・・・・・吉澤ひとみ19歳」
”よしざわ ひとみ?”
「そうです、吉澤・・・ひとみ」
矢口さんの書いたひらがなの下に漢字で書いてみた
すると、隣に矢口さんは真似して書き出す
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:16
- なんか・・・・・・変な感じ・・・・・中学生みたい
恥ずかしくなってそろそろ支度をしようと立ち上がると、
また何か書いて、私のスボンを引っ張った
”よっすぃ”
「よっすぃ?」
矢口さんは少し赤くなってウチを指差した
「あ・・・・・ウチの事・・・・・あは・・・・よっすぃですか、いいですよ、何とでも呼んで下さい」
そう言うともの凄く嬉しそうにうんと頷いた
「じゃあ、支度しますから、矢口さんは安静にしてて下さい、何かあったら・・・・・・・・あ」
ウチには電話はない・・・・・その変わり、プライベート用の電話と仕事用の電話
う〜ん、でも心配だし・・・・・ってか・・・・・電話解るのかなぁ
考えこんでる私の視線の先で、どうしたの?という視線の矢口さん
充電器にあった仕事用の電話と、バックの中のプライベートのやつを持って来て
解る?電話と聞いてみた
矢口さんはふるふると首を振った
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:19
- やっぱり
「これ携帯電話っていうんですけど・・・・・何かあったら連絡・・・・あ、しゃべれないか・・・・
ん〜じゃあメールっていうんですけど・・手紙みたいなもんですね、えっと・・・」
プライベートの携帯から仕事用のアドレスに矢口真里と名前を打ってメールを入れてみせてあげると
大きな目をくりくりさせて驚いていた
”やってみていい?”
手に取った携帯を持ってこう書かれた
「いいですよ、え・・・っと、でも」
と、矢口さんの持ってる電話に着信させて音を鳴らすとまたびっくりしてて
「こういう音が鳴っても決して出ないで下さい、私から連絡する時はメールしますから」
何度か繰り返すと電話とメールの音の違いを理解してくれたようだ
まぁ、取り方もわからないだろうしなによりしゃべれないし・・・・・
だから入力の仕方とか、変換の仕方を教えると
自分の携帯に仕事用の番号の登録名を、ちょっと恥ずかしいけどよっすぃに変えてあげて
「ほら、ここによっすぃって出てるでしょ、そしたらウチから入れたものですから読んでもいいです、
他の名前だったら別の人から私への連絡ですから見ないで下さいね」
こくこくと頷いて、二つの携帯でしばらく練習していた
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:23
- どうやら矢口さんはあんまり漢字も解らないみたい
ん〜・・・・多分小学校で習う位の漢字なら解りそうだ
そして、スーツに着替えた私の所にとてとてとやって来て、
仕事用の携帯を私に差し出すと、矢口さんの打った内容を見せられる
「はやくかえってきてね・・・・はは、はい、仕事終わったらすぐ帰って来ますよ、
朝ですから寝てて下さいね」
笑顔でこくこくと頷く
ちょっと心配だけど、見送りに来てくれた矢口さんに、
ドアの鍵・・・・これは障っちゃダメですよと言って、
寂しそうな顔をして携帯を握り締める矢口さんを置いて出て来た
いつものように大通りに出てタクシーを拾う
そろそろ車買おうと思ってたけど、すぐにでも欲しいと思った
酒を飲むから店に行くのはほとんどタクシーだからいいかと思ってたけど
今日みたく病人が出た時すぐに行動できな・・・・何考えてんだろ、矢口さんがずっといる訳じゃないのに・・・・
まぁ、デートには必要だから買おうとは思ってたけど・・・・
昨日みたくタクシー掴まらないと
ろくな事にならないしなぁ〜とか考えながらタクシーを捕まえるとメールが入る
ウチの携帯からだから矢口さんから
『よっすぃやさしいありがとう』
たどたどしい文字の羅列が・・・・なんだかとても心地よかった
返事に、早く良くなるといいですね(^^)と返信した
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:26
- 落ち着かない・・・・・・今頃どうしてるのか気になって・・・・
いつものセールストークにキレがない
携帯を仕事中にチェックするのはお客に失礼だから、
何かとカウンターの後ろに用事を作ったり、
トイレに行ったりして携帯を見るが何も入っていなかった
「なんか今日のひとみ変だよね〜」
常連のお客に言われる
「そう?千佳さんがあんまり綺麗だから舞い上がってるんですよ、きっと」
「もうっ、ひとみぃ〜」
と、ウチの胸にベッタリとひっついてくる
内心冷や汗もののトークに、客が一瞬ひけた時に控え室に連れ込まれて突っ込まれる
「何でそんな上の空なんだよっ、吉澤っ」
入った時からナンバーワンの座を欲しいままにしてた市井さんからの説教は久しぶり
たまにウチが月間ナンバーワンになったりするから
「いち〜ちゃ〜ん、なんかね〜、
よしこ今日誰かの看病してたからその人の事でも気にしてんじゃない?」
にやつくごっちん
「まじかっ、お前誰かに惚れちまったのか?誰だっ、客か?男か?」
にじり寄る市井さんは、ホストは惚れたら負けだと私に教えてくれた人だから
「そんな訳ないじゃないすか、別に惚れた訳じゃないっす」
「って事は、誰の看病してたんだ?」
「いや・・・・・その・・・・・・あの・・・・」
実は・・・・と、昨日からの出来事を話す
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:29
- 話し終わると、すぐに市井さんが
「すぐに追い出せ・・・・・そんなサツに絡みそうな奴拾って、
お前がホストしてんのバレたらこの店だって危ないんだぞ、
ったく、バカじゃないのか?今頃そいつお前の金取って消えてるよ」
「あ」
その可能性だってあるんだっけ・・・・・・
「でも栄養失調なんて人が、お金取って逃げる体力あると思う?
この寒空だし、またどっかで倒れちゃうんじゃない?」
のぺ〜っとしたごっちんがテーブルに肘をついて市井さんに言った
「いやっ、絶対いないよ、んで、バカみたく自分の携帯迄プレゼントして置いて来たんだ」
すぐ止めた方がいんじゃね〜か?携帯・・・・とか言い出す
「そうかなぁ〜・・・・でも・・・・・・・なんかそんな事出来なさそうな人なんすよね〜」
「で、よしこその人の面倒見る気でいるんだ」
ごっちんはにやにやして聞いてくる
「まぁ・・・・・体が良くなる迄は・・・・」
何言ってんだってすぐ市井さんが怒鳴って、
その後すぐにホールから市井さんとウチに指名のコールがかかった
「ったく、すぐ追い出せって、ろくな事にならね〜から、いいな、帰ったら追い出せよ」
「・・・・はい」
ひらひらとごっちんが行ってらっしゃ〜いと手を振って、最後ににやっとしたのが気になった
その後すぐにごっちんにも指名が入ってホールに現れると、やっぱこっち見てにやついてた
くそっ、何か気になる・・・・ってかまじ心配になって来た
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:32
- 漸く、四時過ぎの閉店時間になると、片付けもそこそこにウチは飛び出した
「よしこ〜っ、送ってくよ」
「まじ?助かる」
こうして何もなければごっちんが車で送ってくれるけど・・・・・
ごっちんは色んな女にマメにしているのでめったに送ってくれる事はない
だけど、それにはちゃんと訳があって
「栄養失調って、何かよしこ栄養がつくようなご飯作れるっけ」
「え?コンビニで買えばいいじゃん」
「そんなに弱ってる子に刺激たっぷりのコンビニ弁当食べさせたら倒れちゃうよ、
ゴトーが作ってやるからさ、買い物して帰ろうよ」
「何っ、ごっちんめっちゃ優しいじゃん、気持ち悪っ」
一緒に暮らしてる時は、いつもおいしいご飯を作ってくれてたっけ
「今頃ゴトーの優しさに気付いちゃった?」
「どうせ、矢口さんの事見たいだけでしょ」
「へぇ〜っ、やぐっつぁんっていうんだ」
「何?やぐっつぁんって」
「名前」
う〜ん、今イチ信用出来ない・・・・何か企んでる風
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:36
- 二人で24時間営業のスーパーに寄って、買い物して帰る
家について、一抹の不安を抱えながらドアを開けると、
熱帯のような熱さと、コンポから流れる音楽とテレビの音で結構うるさい
「何これ・・・・火事?ってな訳ないか」
「エアコンだよっ、どうしたんだろ」
ごっちんの一言につい怒鳴るように言って
玄関から廊下を走ってリビングに行くと、
ソファで汗だくで苦しそうな顔して矢口さんはぐったりと寝てた
「やばくない?やぐっつぁん」
ごっちんは、エアコンと音楽とテレビを切って、キッチンへと走っていった
「矢口さんっ、大丈夫?」
ゆさゆさと抱きかかえて起こすと、バッと怯えてウチから離れた
ウチを確認すると、
今度はすまなそうにしてエアコンとかコンポを指して、リモコンを指差す
「ああ、全部解らなくなって止められなかったんですね」
しゅんと俯くと、ごっちんがコップに水をついで持って来てくれた
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:40
- ビクッとしてソファから降りると、ウチの影に隠れるようにしてごっちんを見ていた
「これ、ウチの友達で後藤真希ちゃん・・・怖くないですよ」
「これってひど・・・・後藤です、始めまして」
差し出した水を、矢口さんは一度私を見てどうしようという顔をしてたので笑って頷くと、
にこっと笑ってコップを受け取りこくこくと飲んでいた
「ひゃ〜っ、かっわいい」
ごっちんの口から漏れた声に、また矢口さんはビビッてウチの影に隠れた
「ほら、矢口さんびっくりしてるでしょ、ごっちんはご飯作ってよ、ほらほら・・・・・
で、具合はどうです?気分は?」
聞いたら力なさげに笑うとしゅんとして紙に書き出した
「ごめんなさい・・・ああ、この部屋の事ですね?いいんですよ、
よく解らない矢口さんを置いて出てったのが悪いんですから」
よく見ると、高い所にあるエアコンを止めようとよじ登ったのか棚の物は床にちらばり
何か説明書を探そうと雑誌の棚をほり起こして
・・・・きっと音を小さくしようとしてコンポには私のタンスの中にある洋服が一杯周りに積まれていた
くすっと笑う・・・・・
一人残された部屋で、きっと初めて見た機械達や、
よく読んでも解らない本と格闘している矢口さんの姿を思い浮かべてしまって
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:43
- 「台所もけっこう悲惨だよ〜」
のんびりしたごっちんの声
カチャカチャとごっちんがガラスを片付けている音が聞こえる
両手をぐっと掴んで直立で俯いている矢口さんを覗き込む
「気にしないでいいです・・・・初めての事ばかりなんですよね」
う〜と口をへの字にして、少し涙目になってる
「この棚からコップ取ろうとしてすべっちゃったんだよ、手が届かなくて」
ごっちんが楽しそうに説明してくれると、その通り・・・というように頷く
「そっか、コップは上の方に置いてましたからね・・・・
もっと低い所に置いておけば良かったですね、すみません」
「大丈夫、すぐ片付くよ、それによしこはそこら辺片付けてればすぐポトフ出来るからさ」
「うん、ありがとごっちん」
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:46
- それから矢口さんと一緒に部屋を片付けだす
洋服の畳み方は知ってるみたいだから詰まれた洋服を畳んでもらった
棚からちらばった物も、壊れたものはなく、元通り並べればすぐに片付いた
「電化製品に弱いんですね、矢口さんは」
正座して畳んでいる小さな背中に話し掛けるとしょぼんと頷いた
「メールしてくれれば良かったのに」
こう呟いたらテーブルに来て、紙に書き出す
「しごと中だから・・ですか・・・そっか・・・気を使ってくれたんですね、
でもいいんですよ、困ったら聞いてくれて」
しゅんと頷いた
そしてペンを握る矢口さんの手に血の後・・・・
ああ、コップ割った奴慌てて触っちゃったのかな
カバンからバンソウコウを出してから傷の具合を見て貼ってあげた・・・・
虫さされやら、あかぎれの後やら、
なんだか痛々しい手・・・後でクリーム塗ってあげないと
不思議そうな顔してた矢口さんは、傷の手当てと解ると照れくさそうに笑う
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:49
- その様子を見てたキッチンにいるごっちんは
「まじで二十歳なの?やぐっつぁん」
その声にまた泣きそうになったので
「ごっちんっ、失礼でしょっ」
「あ、ごめん、変な意味じゃなくてさ、すっげ〜かわいらしいじゃん・・・なんかさ」
まったく・・・とごっちんをひと睨みして
「何か食べました?お腹は?薬は?」
質問責めに何か言いたそうな矢口さん
「食べれてるみたいだよ、作った形跡があるから」
それを助けるようなごっちんの声・・・・ほんとだ、二つあったおにぎりがなくなってる、
薬も夕方紙に張って、食後2個とか説明書きした分は無くなっていた
「痛くないですか?お腹」
まだ反省してるような顔でうんと力なく答える
でもちらちらとごっちんを見てはソワソワしてるので、どうしたのかなぁと問い掛けると
”ごとうさんは何を作ってるの?”
なるほど・・・・ご飯が気になる訳ですね
「何作ってんだっけ、ごっちん」
「んぁ〜、ポトフだよ、胃に優しいかなって、栄養あるし」
「ですって」
聞きなれない名前なのか首を傾げているので
「見てきたらどうです?」
言った途端に嬉しそうに頷いててけてけと寄っていった
そばにきた矢口さんに、ちっちゃ〜い、とか、かわいいとか言って、
一緒に作る?なんて言いながら楽しそうに二人は料理してるようだった
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:52
- ふ〜ん・・・・・何故かつまらないという感情が生まれる
いや・・・・何考えてんだ・・・
まぁ、料理なんてウチは教えてあげられないしね
一人で片付けを続けて、元通りの部屋に戻ると、先にシャワーを浴びさせてもらう
あれ、矢口さんは入ってないんだ・・・・
ってか・・・・あの様子じゃ毎日お風呂に入る習慣なさそうだね
浴び終わってリビングに戻ると、楽しそうなごっちんの声
「よしこ〜っ、やぐっつぁんに踏み台買ってあげなよ、これじゃ大変そうだよ」
ってかごっちん・・・・矢口さんいつまでもここにいる訳じゃないから
言うとかわいそうだから、何も答えないでいると
「やぐっつぁん結構料理してたみたい、包丁は使い慣れてるよ、
作り方は知らないみたいだけど」
えへへとウチを見て笑ってる
仲良さそうに並んで作ってる姿に、何故かイラつく
レンジで煮るのか、使い方を教えてあげながら二人でレンジを覗き込んで笑いあったり
なんだ・・・・・
誰にでもあんな無防備な笑顔してんだっ・・・て
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 22:55
- 肌の手入れをしにベッドルームに行く・・・・
昨日興味ありげに近づいて来た矢口さんは今料理に夢中
保湿クリーム迄つけ終わると、リビングに戻って乱雑にテレビをつけて、
頭をガシガシタオルで拭きながらソファに身を沈ませた
通信販売の番組か変な外国の映像が流れるような番組しかやってないこの時間帯・・・
いつもの接待会話用に録画しているビデオを見る
まぁ、もうすぐ朝の情報番組が始まるだろうけど、
耳に聞こえてくるのはキッチンの様子
うん、もうちょっとお塩入れた方がいいかな
この位?というような視線でごっちんを見上げて
味見をしたごっちんが、うん、おいしいよと、
小さなお皿を矢口さんにも飲ませると二人は満面の笑みで微笑み会う
「よし、これでポトフは煮込めば出来上がり、
よしこ〜後何か作り置き出来るようなの作っておくよ」
「よろしく〜」
そっけなくウチは返事をしてビールを取りに行った
「あ、あてにこれでもつまんでて」と、ごっちんはほうれん草のおひたしをウチに渡す
なんかおやじっぽいな、ウチ・・・・
かつおぶしをまぶしてポン酢をたらしてソファに戻る
とか言いながらおとなしくつまんでるし
ごっちん、興味本位でここに来た割に、いやに親切じゃん
まぁ・・・・元々優しい奴だけどさ・・・・・
はぁ・・・・・どうしよ、これから矢口さんを・・・・・
楽しそうな二人を横目で見ながらチビチビとビールを飲んだ
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 23:00
- その後、昔ごっちんと住んでた時の食卓のよう・・・いや、今日は豪華かも・・・・・
三人でテーブルを囲んで、矢口さんが手を合わせたのでウチらもくすっと笑って手を合わせた
「へぇ、ごっちんこんなの知ってたんだね、んまいよこれ」
ポトフとやらは、スープの中にごろごろと色とりどりの野菜が煮込まれていて、
ほんとに優しい味がした
矢口さんが何か書き出して、ごっちんに見せる
「ん〜、まぁよしこよりは知ってるし上手いとは思うよ、
何?やぐっつぁん料理興味あるの?」
こくんと恥ずかしそうに頷いてるし
「へぇ〜っ、やぐっつぁんはどんなの作ってたの?慣れてるみたいだったけど」
困ったようにしてた矢口さんは、また何かを書いてごっちんに見せてた・・・・・
ってかウチはしかとかよずっと
「魚焼いたり、野菜茹でたりするしか出来ない・・・だってさ、
へぇ・・・どんな暮らししてたの?」
二人しかここにいないように、二人はどんどん会話を進めていく
「ははっ、海のそば?へぇ〜っ、だから魚焼いてたんだ、漁師さんか何か?」
戸惑いながらこくりと頷く
「何でこんな都会に出て来ちゃったの?」
私が聞きたい事をストレートに聞いてるごっちん
その質問には、ブロッコリーを小さな口に運んで俯いてしまった
「あちゃ〜っ、聞いちゃだめだったか?ごめんねやぐっつぁん」
にこっと笑って首を振る
「ゴトーでよければさ、暇な時料理教えてあげよっか?」
話題を変えるようにごっちんが言うと、矢口さんは嬉しそうにこくこくと頷いた
「だってさ、いい?よしこ」
「うん、そりゃ・・・い〜けど・・・・そんな暇あるの〜?忙しいくせに」
今おかかえの客が、めちゃくちゃ惚れてきてて困ってるって言ってたじゃん
「ん〜、まぁね・・・・・ゴトーを待ってる人一杯いるから難しいかもしんないけど、
なんかやぐっつぁんに色々教えるの楽しいんだもん」
瞬間矢口さんが少し顔を赤らめて照れていた
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 23:01
- 何、その反応・・・・・矢口さん拾ったのはウチなんだけど
「ほらっ、かっわい〜っ、まじ子犬みたいだね〜」
なんか癒される〜って、ごっちんが腕を伸ばして頭を撫でて
ってか・・・・・・ウチが撫でようとしたときの拒否感というか
・・・・怯えた感じが見られなかった
ちぇっ・・・・なんか負けた気分
「このままここで飼っちゃえばいいじゃん」
「え〜っ、そんな訳にはいかないっしょ」
即答してしまったのに気付いて、ちらっと矢口さんを見たら、さっき撫でられてた時の顔と一変して、
お茶碗を握って悲しそうにご飯を口に運んだ
「まぁ、ここにも客連れ込んだりしてるだろうしね、無理だよね」
あっさりと言うごっちん
「まぁね・・・・でも、体良くなる迄はいてもらっていいですよ」
ぺこりと頭を下げる矢口さんは、張り付いた笑顔をしてた
- 44 名前:中途半端 投稿日:2005/12/03(土) 23:06
- ここで一息
名前の所に何かつけた方が良かったと気付きました
今までの分は序章とでもしておいて下さい。
とりあえずこれから第一章という事で・・・・
申し訳ありませんがもう少し駄文におつきあい下さい。
- 45 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:10
- 「まだ追い出してないのかよっ」
「でもさぁ〜っ、かっわいいのよ、やぐっつぁん・・・・
なんつーのか・・・・癒されるってか・・・・・ちょっと痩せすぎててやつれてるけど、
普通になればめっちゃイケてる」
へぇ〜っと控え室で、みんなで支度中
「吉澤もとうとう彼女出来たのかぁ?これで客が減るね、チャンスじゃん紗耶香」
オーナーが口をはさむと
「ん、まあね、って違うっす、な〜んかヤバイ子らしいんすよ、サツがらみしそうな子拾っちゃって」
「嘘っ、そりゃすぐ追い出しな、吉澤」
その場にいる人たちみんな頷く
未成年を働かせている店の弱点
だけど、若い子がいないと客も寄り付かない・・・・こんな世界もけっこう厳しい
ウチら三人がいるから客足が途絶えないといってもいい位だし
「でも、ほんと、悪い子には見えないよ、やぐっつぁん」
ごっちんはよほど矢口さんを気に入ったのか、一人フォローしてくれる
昨日食事をして帰って行くごっちんは、最後には矢口さんを抱き締めてホッペにチューして帰って行った
矢口さんも、メモに”ごっつぁんいい人”とか私に訴えるし
ウチは何とも言えずに、疲れたんで寝ますけど、シャワー浴びたりテレビ見たりしてていいですよと言うと、
照れくさそうに首を振って隣に入り込んで来た
しかも、今日は丸まって寄り添ってくるし
寄り添ってきてるので不自然だから腕をまわすと、
今日は怯える事なく安心するみたいにウチの胸の中で目を閉じた
もう・・・・とか心の中で呟きながらも、
小さな温もりにすうっと心地よい眠りについて行ったっけ
- 46 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:14
- 昼過ぎに先に目覚めた矢口さんは、まだ寝てる私の為に、
昨日のポトフの残りを温めたり、紙に質問事項を書いたりしていたみたい
電源・・・という言葉を知らないらしくて、その説明をすると、
リモコンをいっぱい持って来てどれがどれのリモコンなのか聞いたり、
主電源がつかないからこれを押してもつかないとか
本当に基本的な事を聞いて来て、一生懸命メモしていた・・・
大きなボタンをおしてからリモコン・・・とかね
漢字も解らないので、時々読み方を教えて・・・・
とにかく一生懸命なのでなんとなく本でも買って来てあげようかな
なんて気分になってきた
だけど今日はお客さんのところに行かないといけないかもしれないもんなぁ・・・
と帰れないかもしれないので自由にしててと言うと、寂しそうにしていた
その日は時々メールが入る・・・・質問ばかりなのだが
・・・・どうやらテレビの中の事で解らない事が一杯らしい
客が不愉快になって仕事に支障が出るので、
本当に困った時だけ連絡して下さいと返すとぴったり来なくなった
ニュースの中の言葉の事だったり、
なかには私も解らない難しい言葉の意味を聞いてきたりして・・・・
とにかく今の現代の世界とはかけ離れた世界にいたというのは嫌という程解った
ようやく質問責めから開放された私は、快調に接客する
- 47 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:19
- そして、夜中過ぎになると、ウチのお得意様のお客がやって来る・・・・
店長や客についていない仲間達も立ち上がってお迎えする
「睦美さんいらっしゃいませ」
超ビップ扱いの睦美さんは、日本有数の財閥の奥さんで、
元々この店を知ってた訳でなく、
たまたま店の近くを歩いてたウチに惚れこんでこの店に来だしたお客様
35才になった睦美さんは、10年前に20歳も年上の旦那さんと結婚し
今、夜の生活に不満を持ってる奥様
ちょっと前はホストクラブに出入りしたりしたらしいけど、
由緒正しい旧家の屋敷に男を連れ込む事も出来ずに、たまたま見かけた私ならと気付き
時々、女友達と言っておじゃましては、奥様の体を満たしてあげたりしている
普通は店が終わってから家に戻ってシャワーを浴びて、女の子の格好をしてから朝屋敷に向かうのだが、
今日はどうやら待ちきれなかったらしい
昨日仕事用の携帯にメールが来て、会いたいと言われたから行かないといけないと思ってたけど、
まさか店に来るとは
「待ちきれないから来ちゃった・・・もういいわよね、店長さん」
「もちろんでございます、鷲尾様、吉澤、帰る支度しろ」
そう言うと、睦美さんはまだ飲んでもいないのに店長に10万円を渡してカウンターに座った
そしてウチの帰り支度をカクテルを飲んで待っている
昔モデルをしていたという睦美さんは、旦那さんに一目ぼれされたというのを納得するような美人なので、
市井さん他の悔しがり方は尋常じゃない
まぁ・・・・性癖は少しエグかったりするから最初未熟なウチにはきつかったりしたけど・・・・
逆にそれが新鮮だと言って気に入られてしまった
- 48 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:22
- 「そろそろ入れてぇっ」
高級ホテルの一室で、シャワーを浴びた後すぐに始まった行為
「はい」
十分な前戯の後で、ウチをぎゅっと抱き締めながら催促される
ウィンと電源を入れると体の中心にうにうにと動く機械をゆっくりと沈めて行く
ああんっ・・あっ・・・・ひとみぃ・・・・愛してるって言ってぇ
「愛してます・・・睦美さん」
首筋に吸い付き、耳に舌を入れたりしながら囁くと、背中に痛みが走り出す
腰がそのうち激しく動き出すと、
それに合わせて機械を出し入れして奥様の絶叫が部屋に響く
背中に爪が食い込んでいるのを感じながら恍惚の表情の綺麗な顔を冷静に眺めている自分を感じる
激しい動きが、一変して静寂に変わる
ああ・・・・あん・・・・・あ・・・・・ひと・・・みぃ・・・・キスしてぇ
はい・・・と唇を寄せてついばむ
チュッ・・・チュッと、余韻に浸るようにウチの顔を挟み込んでキスしてくる
この人は1回で終わる事はない・・・・・自分が気絶するまで何度も求める
だからいくら疲れてようと、持ってる全ての力を使って彼女を喜ばせないといけない
それ程旦那さんとはセックスしていないのだろう
キスの温度を上げて、息が荒くなるのを見計らうと、
入れていた機械を頭の上に置いて胸を揉みしだく
- 49 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:24
- う・・ふん・・・ああん・・・・ひとみぃ
睦美さん
脇や胸に音をたててキスしていくと、ウチの髪の毛をぐちゃぐちゃにしていく
たっぷりと時間をかけて内腿から足先までキスしてあげて、
睦美さんは自分で胸を揉んで悶えている
足の間に触れもしないウチに、焦らされていると思っているのか、
大きく足を開いて胸を上下させて自分で形が変わる位胸を揉んでいた
ぐいっと一気に両足を掴んでお尻を上げさせ、
蜜が出まくっている中心に吸い付くとひときわ大きな声を出す
ねっちりと音を立てて、彼女の中心を嘗め回していくと
あああんっ・・・・もっ・・・もうだめよ・・・・いっちゃうわ
「まだですよ、我慢して下さい」
「いやぁぁ・・・もう我慢出来ないっ・早くっ・・・ひとみっ」
さらに焦らすように輪郭を舐めていると
「入れてぇっ・・・・早くぅっ」
自分で頭の上の機械を手探りで取ってスイッチを入れると自分であてがっていた
かわいそうになって彼女をひっくり返すと後ろから抱きついて
左手で彼女の右胸を強く掴んで肩口に噛み付き、機械を中心にズボンと入れた
- 50 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:29
- ああああんっ彼女の口から涎が垂れ流される
早く帰る為には短期決戦と思い、ここは頑張って責めてみる事にした
ものすごく激しく機械を上下させて胸を揉みまくる
全身が跳ねるように上下し、粗い息と喘ぎ声が途切れなく聞こえてくる
あそこから蜜が流れ出る程興奮している睦美さん
これを55歳の旦那に求めるのは自殺行為だろう
彼女の顔を覗き込むと、白目がちで恍惚の表情をして涎を流していた
体を抱きかかえるようにしてフィニッシュのように激しく上下したら
彼女はぐちゃりと潰れた
そこをひっくりかえして再び胸の頂きを咥えて舌で刺激すると
「あぁっ・・・もうダメぇ」
容赦なく敏感になってるアソコに手をやると、体が痙攣しだす
「はぁっ、もうっ・・・今はそこはっ・・・ああっ」
勘弁しない感じで中心を弄ぶと
はああああっ・・・もうっ・・・もう・・・と、
シーツを掴んで体をのけぞらせるが、
力が入らなくなっているのか声になりなくなった
ぁ・・・・・はぁ・・・・・・んぐぅ・・・・・ぁ・・・・・ぁ・・・・・・っ
もう少しかなとくりくりと刺激したり花びらを開いたりするとぐいっと突っ込んだ
瞬間
目を見開いて口を大きく開けるとぐったりと布団に沈んで行った
- 51 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:31
- ふぅ・・・・・と、
体を綺麗に横たえてあげて布団をかけて上げると、シャワーを浴びにいく
これだけ満足させてやればいいだろう・・・・・
彼女には色々教えてもらったりしたけど・・・・・どうも人生を考えさせられる
やっぱ今が楽しければいんじゃん・・・って
サッパリして部屋に戻ると、
けだるそうに睦美さんはベッドで寝転がってこっちを見て手招きしていた
「起きてたんですか」
バスローブで近寄るとベッドに寝転ばせられる
肩口に頭を置いてきて腰に手を回された
「やっぱり若いっていいわね」
「睦美さんこそまだ若いじゃないですか」
バスローブの胸の隙間から、ウチの胸を触りだす
「ううん・・・・この肌の張り・・・・・昔は私もこうだったのに」
「十分素敵ですよ・・・・睦美さんは」
唇を寄せてキスする
- 52 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:33
- 「ひとみに会えて良かったわ・・・・・そうそう・・・・
お礼したいと思ってるの・・・・何か欲しいものはある?」
「何言ってるんですか、こうやって睦美さんとこんな事出来るだけでウチは十分ですよ」
にこやかに笑って額にキスする
「あなたと結婚すればよかったのかしら・・・・・」
「そうですね・・・・・その前に性別の壁を越えないと」
我ながらなかなかの二枚目っぷり・・・・・
「ふふふっ・・・・・ひとみが女なんて・・・・ほんと信じられないわ」
そんな失礼な事を言いながら私の胸を揉んでる
「私が男だったら・・・・・必ず旦那さんからあなたを奪うんですけどね」
ねっとりと舌を絡めてキスをする
「でももうする体力は残ってないわ・・・・・残念だけど朝迄に屋敷に帰らないといけないし」
「残念です」
と、体を抱き締める
「もうすぐクリスマスじゃない?」
「ええ」
クリスマスかぁ・・・後一ヶ月ないなぁめんどくせ〜なぁ・・・・・
いつも争いが起こるから
- 53 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:37
- 「もう、予約とか入ってる?」
「どうしてです?クリスマスは皆さん旦那さんと過ごしたり家族と過ごしたり忙しいですからね・・・・
今の所寂しい限りですよ」
本当は、既にデートが1件入っている
「嘘ばっかり・・・・・夜は何時が開いてるの?」
この人のこういう所は好きだ・・・・・
へたに嫉妬してわめきちらされるとげっそりだから
「敵いませんね・・・・睦美さんには・・・・・夕方食事が入ってるだけです」
「その後その子と寝る?」
「さぁ・・・・・どうでしょう」
相手はその気まんまんだろうね・・・・なんてったって高校生だから
どっかの金持ちのお嬢さんは、ウチに入れ込んで店に足繁く通ってるし、
クリスマスに敏感だから一ヶ月も前に予約を入れさせられた
「10時から私が買うわ・・・・どう?」
「・・・・・いくら睦美さんの頼みだろうと・・・・・その人に満足していただく迄は、
放っておく訳にいきませんからね・・・・・こんな職業だと」
大人のあなたなら解ってもらえますよね
「じゃあ・・・・・ひとみが前から欲しがってる車・・・・・プレゼントするって言ったら?」
嘘・・・・・前から言ってたけど・・・・・
プレゼントした途端に私が離れるんじゃないかってなかなかプレゼントしてくれなかったのに
「はは・・・・・・それは考えますね・・・・・解りました・・・・・
10時からはあなたの物になります・・・・イブですよね」
「ええ」
まだ私の胸で遊んでいる睦美さんをやんわり離して、
鞄からスケジュール帳を取り出すと記入した
「やっぱりもう一回してもらおうかな」
書いてる背中に寄り添ってそう言いだす
「いいですよ・・・・・もちろん」
振り返って唇を落とした
やったね・・・・車ゲット
サービスしましょ・・・・・たっぷりと
これでクリスマス、もう他の人は断る理由が出来たしね
- 54 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:40
- 家に帰ると電気がついていて、中からペタペタと矢口さんが笑顔で出て来る
飛びついてきそうな勢いで
「ただいま・・・・起きてたんですか?」
にこっと頷く
戸惑うように私の手を引いてリビングのテーブルの上のメモの山を渡される
「質問かぁ・・・・・矢口さん、勉強熱心なのはいいけど、体は平気ですか?」
戸惑ってから頷く
あれ・・・・いつもは笑顔で元気ってアピールするのに
ポンと手を打って、矢口さんはキッチンに向かう
出て来たのは、温かいご飯と、味噌汁に野菜炒め・・・・それとゆで卵
そしてメモに何か書いて渡される
”これくらいしか作れなかった・・・・ごめんなさい”
「いいんですよ、そんなの気にしないで・・・・・・ウチ、
ここでご飯食べる事は少ないと思いますから、自分の好きなものを作って食べて下さい」
優しく言ったつもりだったけど・・・・彼女は不満なのか、何も言わなくなってしまった
「あ、今日は食べますよ・・・・・疲れたんで食べて寝ないと」
ほっとしたようににこっと笑うと、
メモのちらばったソファのテーブルにお盆を置いてウチを座らせた
- 55 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:46
- 「いただきます」
手を合わせてから味噌汁を一口飲む
ちっとしょっぱ
「あ・・・・おいしいですよ、矢口さん食べました?」
ほっとした顔をした後、目が泳いだ
「食べて下さいよ、ちゃんと・・・・・・じゃないと体良くなりませんからね」
ずずっとしょっぱい味噌汁をすすって、
今日の分の薬がはりつけてあった紙を見ると・・・・・薬も飲んでいないようだった
「あれ・・・・・薬・・・・・・ダメじゃないですか、
ちゃんと飲まないとまた倒れちゃいますよ」
テーブルをはさんで向かい側のソファに座るんじゃなくて、
カーペットに座っている矢口さんは、落ち着きなくメモを整理していた
「矢口さん・・・・」
出来るだけ優しく名前を呼んだけど・・・・
どうやら怒られてると思ったのか、正座をしてしゅんとしていた
「ただでさえ弱ってるんだから・・・・ちゃんと食べて、元気にならないと」
ため息をついてキッチンに向かい朝食べてまだ残っていた少量のポトフを温めて、
ごっちんに昨日ならっていたごはんの炊き方を実行したのか、
きちんと炊けた炊飯器からお客用の茶碗にご飯をよそって持って行くと食べさせた
「眠ってないんですね、シャワーは?浴びましたか?」
こくんと頷く
どうして食べないんだろう・・・・・薬も飲まないで・・・・・・
ここ二日様子を見てると、機械には弱いみたいだけど、
教えた事はだいたい1回で覚えるし、頭はいいみたいだ・・・・
ただ・・・・・学校とかに通って無かったイメージ
- 56 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:51
- どんな生活してたんだろう
キッチンに戻りすぐに温まったポトフをスープ皿に入れて持っていく
「はい・・・・・ちゃんと食べて下さい・・・・
私の分を作ってくれるのはありがたいんですけどね」
コクンと頷いて、観念したようにちょこちょこと口をつけだした
「そうそう、ゆっくり食べて下さいね」
自分も野菜炒めに口をつけると心配そうな顔して上目遣いで見ていた
「うん、おいしいですよ・・・・これ」
やっと笑ってくれた
しばらく二人で黙って食事をしていると、ハッと思いつく
もしかして
矢口さん元気になったら
ここを出てかないといけないと思ってわざと薬飲まなかったりしてる?
確かに、ここにずっと置く訳にはいかないけど・・・・・
- 57 名前:第一章 投稿日:2005/12/03(土) 23:58
- とりあえず食事して・・・・洗い物を二人で片付ける
食器乾燥機とかの使い方も一応教えてみる・・・・
うんうんといつものように熱心に聞いている
「あの〜、質問の事なんですけど、とりあえず寝てからでいいですか?
ちょっと疲れてて・・・・明日はお店休みですからゆっくり付き合えますし」
ぱあっと矢口さんの顔は明るくなった
歯磨きをしようとバスルームに向かうと、ちょこちょこ後ろをついてくる矢口さんにも新しいハブラシを渡し
見よう見真似で歯磨きしてもらう
二人で仲良く並んで鏡に向かって歯を磨き、口を濯ぐと、ベッドルームに向かう
今迄歯磨きは?と聞くと、塩でしていたみたい・・・・原始的だ
ジェスチャーでシャワーは浴びないの?と聞いて来るので、
浴びて来たからいいんですよと言うと、納得いかないような顔をした
でもすぐに笑顔になってまた布団にもぐりこんできた
「矢口さん、ウチと一緒の時間に行動する事はないんですよ・・・・
普通に昼間出かける時間が少なくなってしまいますからね」
昨日のように丸まって寄り添ってくるので、腕を回してそう呟いた
矢口さんは少し笑って小さく首を振ったら目を閉じた
ん〜、別に追い出しはしないけど・・・・・このまま情にほだされてここに居座らせるのもどうかとは思うし
・・・・・・
明日・・・・買い物にでも連れて行こうかな
また不思議と心地よい温かさに誘われるように、すぐに夢の中に入った
- 58 名前:*** 投稿日:2005/12/04(日) 00:00
- とりあえず今日はこれまでにします
- 59 名前:*** 投稿日:2005/12/04(日) 00:01
- 難しいですね、書くのって・・・
- 60 名前:*** 投稿日:2005/12/04(日) 00:07
- ひっそりといきたいのでsageめでいきたいと思います
- 61 名前:774飼育 投稿日:2005/12/04(日) 00:46
- いやぁ ナンカ面白そうな話ですね
次回更新も楽しみにしています
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/04(日) 00:48
- なんか興味を引かれます
続きが読みたい
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/04(日) 04:08
- とりあえず拾った相手の正体にぶっとびました。
これからどう展開するか楽しみなお話です。期待して次を待ってます。
- 64 名前:*** 投稿日:2005/12/04(日) 12:32
- なんか読んで下さってる人がいて驚きました
時間がある限りサクサク更新しようと思いますが
レス返しは、他の皆さんのように気の利いた事を
返せそうにないので、この場で皆さんに
ありがとうございますと申させて頂きます
- 65 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:38
- 「ほら、これもかわいいじゃん」
何故か突然ごっちんが車でやって来た
先日、暇があったら色々教えてあげるって言ったからと、休日にわざわざやって来た
買い物に行こうとは思ってたけど、
まさかごっちんも一緒とは・・・・・何買わされることやら、と思ってたけど
なんか、今迄買った服はごっちんのプレゼントだそうで・・・・・
ごっちんまさか矢口さんに惚れた?と思ってしまった
矢口さんは、車に乗ると、
子供のようにはしゃいで窓の外の風景をきらきらした目で眺めて運転席のごっちんや、
後ろの私に指を指して何か言いたそうに笑ったりしてた
そっか・・・タクシーに乗った時はいつも病人であんまり憶えてないんだね・・・・・
車乗るのも珍しいんだ
そんな矢口さんをかわいいと言いまくってご機嫌なごっちんは、
矢口さんの手を繋いで次々にショッブに入って洋服を選んであげていた
ウチがあげたジャージじゃやっぱ町は歩きにくいし、外で異様にめだってしまう
最初の店でトータルして服を購入し着替えさせると、
ウチは荷物になるのでジャージとか全て捨てていいと言ったのに、大事に袋に入れて持って帰るという
・・・・自分の靴は捨てたのに
そして、買ってもらった服をウチにどう?と言わんばかりにくるくるとまわって見せてくれた
「かわいいですよ、矢口さん」と言うと、照れくさそうに笑った
センスのいいごっちんが、着まわしが利く様に次々にショップをまわり
あーでもないこーでもないとコーデイネートして、もう結構な数買ったと思う
出て行く時に持っていけるように大きなバッグ迄買ってあげて、
服だって洗濯しやすくてコンパクトにまとまりそうな奴選んだよって偉そう
どうしてそんなに親切なのか・・・・・
- 66 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:40
- ついてまわるのも疲れたので、
ごっちんに待ち合わせ場所と時間を言って別行動にする事にした
寂しそうな顔する矢口さんに手を振って、本屋を探す
朝から幼稚園の子のどうして攻撃のように色々と聞かれたので疲れてしまって、
これは何とかしないといけないと勉強道具を買いたかった
子供用の漢字辞典と、辞書、料理に興味があるみたいだから基本的な料理の本、
国語・算数・理科・社会・・・・小学校高学年の問題集
拾った人にどうしてここまで尽くさないといけないのか自分でも不思議だった
だけど、色々教えて解った時の彼女の笑顔が眩しくて・・・・
もっと色んな事を教えてあげたかった
義務教育を受けてなくって・・・・
電気のない生活を送ってた海の近くってどんなとこなんだろ・・・・・
両親とか姉妹とか・・・・そういう事は一切教えてくれないし
もしかして外国からの密入国者?
いや・・・それなら名前・・・・しゃべらなければアジア系なら解らないかも・・・・・
名前なんてそのへんで見たのを拾ってくればいいんだし
まぁ・・・・ひらがなや漢字も少し知ってるし・・・・
聞き取りは出来るみたいだし日本人とは思うけど
お金の価値っていうか、認識も出来てるみたいだし・・・・
情報に偏りはあるものの、通常の常識範囲で知っている事は多い
とにかく何かにつけて純粋だ
両手に矢口さんの洋服を沢山持って、
しかも重い本や辞書を持てば嫌でも座りたくなる
早々に待ち合わせ場所に行って後ろをがんがん車が通ってる植え込み近くに腰を降ろした
- 67 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:42
- 「彼女ひとり?」
あた・・・ナンパかよ
「彼が一緒、もうすぐ来るよ」
そっけなく答えるとチッと言ってどっかいった
そうだった・・・町ってウザかったっけ
顔が見えないようにキャップを深く被って顔を隠した
近くの自販機でコーヒーを買って
体を温めながら寒いこんな場所で待つのは失敗だったなぁと後悔し始めた頃
後ろに一台の車が止まってクラクションが鳴る
「何してんの?ひとみ」
体勢を車道側に変えて睨むように見ると見知った顔で緊張が緩む
- 68 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:44
- 「あれ、アヤカ」
よくウチって解ったね、こんなとこにいてキャップ被ってるのに
「待ち合わせ?もしかして彼氏?彼女?」
「ちげーよ、ごっちん、今どっかで買い物してるはず」
上品にくすっと笑うと
「相変わらず仲良しなんだ」
嫉妬ですか?まぁごつちんと寝た事はないよ・・・・
っていつもアヤカには言ってたのになかなか信じてくれなかったっけ
「まぁ・・・・古いからね、で、そっちは?」
「うん、仕事中、また今度店に行くわ」
「ああ、お待ちしてます」
軽く手をあげて車を見送ったら
「アヤカじゃん、どうしたの?」と後ろからごっちんの声
振り返ったら沢山の荷物を持った二人
- 69 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:48
- 「偶然通りかかっただけ」
「ゴトーも話したかったなぁ、久しぶりだったから」
「あ、店に近々来るっつってたよ」
「そっか、とりあえずやぐっつぁんの生活品は一通り買ったからさ、
荷物置きに車帰ろうよ、それからどっか食事行けばいいじゃん」
「あれ、ごっちんまじで今日予定ないの?」
珍しい・・・・嘘だ、ごっちんに限ってそんな事ある訳
「うん、あ、外じゃなくて買い物してご飯一緒に作ろうか、やぐっつぁん」
うんっと嬉しそうに頷く矢口さん
料理大好きなんだね・・・・
でもあの味噌汁はちとしょっぱいよ・・・とは言えない
多分味見とかしてないっぽい・・・・きっと何も食べないように
だからごっちんが一緒にいればちゃんとしたもん食べれるし
矢口さんも食べてくれるか・・・としぶしぶ納得した
私も本当なら客の一人とデートのはずだったが・・・・・仕方なくキャンセルした
「あ〜、美容院も連れてってあげたかったなぁ、明日よしこ連れてってあげなよ」
なんて軽くお茶しながらうきうきしながら言ったり、
その後スーパーにも寄って再び大量の野菜達を購入するごっちん
- 70 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:50
- おかげで車と部屋を二往復させられた
とりあえずよしこは邪魔だからビールでも飲んでてと、
買ってたスナック菓子を渡されてキッチンから追い出される
楽しそうな二人の姿
どうやらごっちんは何でも真剣に耳を傾けている矢口さんに教えるのが
楽しくて仕方が無いみたいだ
スーパーでも野菜の選び方やら、肉の選び方やら、
値段の安い高い迄いちいち教えながら買い物するという熱心ぶり、
しかも矢口さんはメモとってるし
依然として削げた顔をしているけど、
二日前に比べたら格段に血色のいい顔色をしている
ごっちんが買って来た日用品の数々を見ると・・・・
これはずっとここに置いておけと言われているようだ
- 71 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:53
- 日ごろの疲れと、今日の買い物の疲れに飲酒でウトウトとソファで寝てしまって・・・・
起きた時にはずらりと料理が並べられていた
いつかけられたのか、毛布迄かけてあって
お皿を運んでた矢口さんがウチが目覚めたのに気付いてにこっと笑う
ああ・・・かわいい
つい、思ってしまう・・・・
てててと矢口さんはごっちんの方に行ってウチが目覚めた事を袖を引っ張って教えていた
「おはよ〜、よしこ、お疲れなんだね色々と・・・・
もう出来たから毛布片付けちゃって」
にやけがおのごっちんが気に入らないけど、素直に頷く
「あ〜、うん」
からあげやら、サラダやら煮物やら、とにかく沢山の種類のおかず
「すごいっしょ、やぐっつぁんが作ったんだよ」
「まじ?すごいじゃないすか」
ポッと赤くなって首を振ってごっちんを指差す
「大丈夫、本見ながらやぐっつぁんと一緒に少しずつ作ったからさ、
これからやぐっつぁんも作れるよ」
- 72 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:56
- どれくらい時間がたってるのかわからなかったけど、
言われて携帯の時計を見ると二時間位寝て夜中近くになってた
「それと今日泊まってくからよろしく」
「え・・・うん」
珍しい・・・・ここに越してからは一度だって泊まりに来た事ないくせに・・・・
たまにご飯は食べに来いって言ってくれるけど
今日だって買い物の途中何度もメールが来てたくせに
寝てるウチの携帯にも5件のメールが来てた
全部お客さん・・・・しかも誘いのメール
全員に同じ言葉を素早く返送・・・・
ごめんなさい・・・先約がありますのでまた今度誘って下さい
打ち返す私の手元を向かい側からじっと見てる矢口さん
「ん?」
顔を見るとパッと顔を逸らした
「誰にメールしてるんだろうって思ってんだよきっと」
本人は恥ずかしそうに首を振っているとごっちんはにやにやした顔で言う
「仕事だよやぐっつぁん、よしっ、食べよっ」
余計な事を言う人を一睨みしてから、三人でいただきます
- 73 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 12:59
- テレビを見ながらゆっくり食事して、お酒も進む・・・・
もちろん矢口さんはお茶だけど・・・
チャンネル主導権は矢口さん・・・ニュースになると突然別の番組に替え出す
酔っ払ったごっちんは、その後恥ずかしがる矢口さんと一緒にお風呂入ろうと湯船にお湯を張り出す
人んちという事を忘れたかのように我が物顔で飲み続けるごっちん
途中で買って来た本を矢口さんに渡すと
ぱぁっと喜んだ顔をしてぎゅっと本を胸に抱き締めてぺこりとお礼をしてくれた
こういうのを親心っていうんだろうか・・・
まぁ重かったけど買って良かったと思ってしまう
その後酔っ払いの馬鹿ごっちんと二人で、算数の問題を解いたりしてた
先お風呂入るからねと入って、
ウチがあがると二人は本当に後に続いて入った
生活のリズムは一般の人と逆だから、そのまま朝まで二人は仲良く勉強して、
私は溜まっていた洗濯物をしたり、やんわり掃除したり
防音設備のないマンションじゃ苦情が来てもおかしくないけど、
幸いここはどんなにウルサクしても隣近所に迷惑はかからないようになってる物件を選んだから大丈夫
勉強しながら、矢口さんの情報を色々と聞き出しているごっちん
- 74 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:00
- 少しずつ解ってきた
どうやら家族は父親と妹がいたみたい
どうして一人こんな都会に出て来たのかはまだ解らないけど
父親に連れられて海の近くの人のいない場所でずっと三人で暮らしてたみたいだった
電気もガスもない生活をもう十年も続けているという
自分は小学校高学年、妹は小学一年で連れて行かれたので、
妹には自分が勉強を教えていたという
これだけ聞き出すのに、なんと5時間位かかってるし
詳しく突っ込もうとすると、悲しい顔で俯いてしまうみたいで、
ごっちんはその度に話しを変えてたけど、
なかなか探りがうまいなぁと思いながら話を聞いていた
- 75 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:02
- 朝が近づいてくると、買い物したり勉強したりで疲れたのか、
それともずっとちょこちょこ食べ続けたのが疲れたのかウトウトし始めて
「よしこソファで寝なよ、ゴトーやぐっつぁんと眠るからさ」
「はいはい、んじゃ矢口さん寝かせてやりなよ、
ごっちんは片付けしてから寝ようね」
言う通りに矢口さんを寝かしつけて、片付けにやって来たごっちんと二人
思い切って聞いてみる
「まさか矢口さんに惚れた訳?」
「んあ〜、まぁ、ほっとけないよね、なんか」
「めちゃくちゃ世話してやってるじゃん」
ウチの言葉ににやにやして皿を洗ってる
「へぇ〜っ、そんな顔するんだ」
「そんな顔ってどんな顔よ」
「ん?お気に入りのおもちゃを取られた子供みたいな顔」
なんじゃそら・・・・んな顔するかっつの・・・
と無言でいると、陶酔するような顔で言い始める
- 76 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:04
- 「かわいいんだぁ、ウチが支払いの度に自分はお金持ってないから返せないっていうんだ・・・・
知ってるっつの、金持ってないのなんて、最初千円見てびっくりする位だしね」
「だけどさ、ずっとここに置いておける訳じゃないんだから、
あんまり世話すると矢口さんが後でつらい思いするんじゃない?」
野良犬を拾うのと一緒でさ
「一緒に住めばいいじゃん、お手伝いさんとしてさ、
きっとその為に一生懸命料理覚えようとしてんだよ、やぐっつぁん」
「そうかな・・・・・
でもウチらの商売でこんなのバレたら彼女とかって誤解されて指名減るじゃん」
連れて来る事だって出来ないしさ・・・
今の所家が気になってなかなかサービスに回れないし
「この世界で気を抜くとあっという間に人気なくなっちゃうからね〜」
そこで気付いた
「な〜るほど・・・・それが狙いね、ごっちんウチを潰しにかかってんのか」
大分片付いた時に白い目をしてきっとごっちんに言っているだろう自分がいた
「ばっかよしこっ、んな訳ないっしょ、ずっと二人でトップ争ってきて、
今更そんな事・・・・よしこの為にやってんの、いいからかわいがってやんなよ、やぐっつぁん」
「訳わかんね」
いいのいいの・・・・・バカは何も考えないで・・・・・
そう言うとベッドルームに消えて行った
お互い馬鹿同士仲良くやってきたのにさ
一人さみしくソファで横たわって布団を被った
- 77 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:06
- そんなこんなでもう一月がたつ
市井さんに、早く追い出せと毎日言われながらも、なかなか言いづらいし・・・・・
休みの日には何故かごっちんがやってきて色々料理をしている
毎日いらないというのに、私の為に何かしらご飯を用意してくれる矢口さん
結局食べてしまう私・・・・・そして、日に日に料理がうまくなっているし
普通の人の夕方は、私にとっては午前中と一緒・・・
そんな起きてすぐ外出する気にはならないけど、
どうやら矢口さんは近所のスーパーの特売日を覚え、私について来いとうるさい
矢口さんを拾って一週間後に、フロから上がった私は耳を疑った
矢口さんがテレビでよく流れる歌を口ずさんでいたから
- 78 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:07
- その日騙していたんだと言ってちょっと怒った私に、
ごめんなさい・・・とちゃんと言葉で言った矢口さん
どうやら、口が聞けない方が、周りに色々詮索されずに済むし、
かわいそうと思ってもらえていたからしゃべれなかったと正直に話してくれた
筆談という面倒くさい作業が無くなって、
コミュニケーションはスムーズになったものの、
今迄の矢口さんの事については、ごっちんが聞き出した事以外口をつぐんでしまう
ウチが帰る迄必ず起きててくれて、
玄関を入るとおかえりよっすぃと抱きついて来てくれるのは・・・・少し嬉しかった
仕事に行ってる間は、必死に勉強してるみたい・・・・
すぐに新しい問題集を買わないとおいつかない位
辞書は使いすぎてよれよれになってるし・・・・・・
そろそろ大人用の辞書でも買わないといけないって位毎日勉強している
最初の質問のように幼稚園レベルではなく、
中学生程度になったってレベルだけど、それでもすごいと思った
- 79 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:09
- 体重は一月で5キロ増えたみたいで、やつれた感じがなくなって、
普通に細いちっこい人になった
「今日は何が食べたい?」
これも日課
「いや、マジで今日はいりません・・・・
多分明日の昼過ぎに帰って来ると思いますから」
「うん・・・解った」
にこっと笑う顔は、少し寂しそうで胸が痛い・・・・
お客様の相手も立派な仕事なんです・・・なんて自分に言い訳しながら部屋を出る
すっかり我家の家政婦さんのように、掃除・洗濯をマスターし、
心のこもった料理で私を迎えようとしてくれるけど・・・・・
矢口さんは良くなったらここを出て行かないといけないんですよ
そう思いながら、あの後すぐに鷲尾睦美さんから送られて来た車のある駐車場に向かったら、
二人の女性が目の前に立った
- 80 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:11
- 何てったって今日はクリスマスイブ・・・・
今から女子高生をお迎えに行って願いを叶えたら、奥様の所に行かないといけない
誘いを断った女のまわしもの?嫌な予感がした時に、
彼女達は胸ポケットから警察の紋章の入った身分証明を取り出した
「吉澤ひとみさんですね、私、○○署の捜査一課の保田といいます」
「私は生活安全課の安倍なつみといいます」
「はぁ」
警察?何?未成年でホストしてんのバレた?
「そんなに警戒しないで下さい・・・・少しお話しを聞かせていただければと思って」
「あの・・・・今日・・・クリスマスイブで、色々約束があって時間が・・・・・」
とりあえず逃げ道を確保しようと先手を打ったら
「ああああああっ・・・・そうだべさっ、圭ちゃん、
私達が仕事してるからって世間はクリスマスイブだってさぁ・・・・・・
忘れちゃダメだべさっ」
いきなり小さい刑事さんの方が目つきの悪い人の背中を叩いて笑い出す
- 81 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:13
- 「いたっ、なっち痛いわよっ、忘れてる訳ないじゃないのっ、
私だって予定位あるわよっ、失礼な」
「うっそうそ〜っ、また見栄はっちゃってさ〜っ、
解ってるって、二人でシャンパンでも飲もうよっ、これ終わったらっ」
「嘘じゃないわよっ、ま・・・まぁ、かわいそうななっちの為に、
少し位つきあってやってもいいけどさ」
何なんだ・・・・この変な刑事さん達は・・・・
「あの〜、私時間が・・・・」
「あらっ、そうだったわね、そっか時間がないのかぁ〜っ、
年内解決したかったんだけど」
「明日出直せばいいべさ、それから寝ないで裏とれば年内解決も夢じゃないべ」
「徹夜は肌に悪いのよ・・・・・ん〜、でもしょうがないわね、吉澤さん、
申し訳ないけど明日でいいから時間作ってもらえないかしら・・・」
「・・・・・・あの・・・・私・・・・・・何かしました?」
ふざけてるようななんともいえない二人組みに、一応恐る恐る聞いてみる
「ああ、いいのよ、別に未成年でお酒置いてる所で働いてる事でなんてしょっぴかないから」
「圭ちゃんっ」
バシッと今度はさっきより痛そうな音が響く・・・ってか
・・・・もうバレてるのね
「いてて・・・なっち痛いって、だからね・・私達が聞きたいのは・・
あなた・・・・一月位前・・・・タクシーに載せて小さな女の子をここに連れてこなかった?」
- 82 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:15
- 二人の目がキラっと光っているのが解る
どう考えても矢口さんの事だ・・・・・どうして・・・・・
でも、ウチにいるとは今は言えない
「いえ・・・・」
大丈夫・・・何の動揺もなく言えてるはず
がくっとする二人・・・・どうやら騙せた?
「そう・・・・・・やっとここまで辿りついたと思ったんだけどね〜っ、
また振り出しかぁ〜っ」
保田と名乗った刑事の肩を小さい安倍という人がポンポンと叩き、
また足で調べましょ・・・・この辺にいるという情報は多いからね
「あの、何かあったんですか?」
「ううん、いいの、関係ない人には教えられないし」
と、明日はもういいわ、最初でつまづいたら話進まないからね、
ごめんなさいね驚かせて・・・と二人は去って行く
「はぁ・・・・・お疲れ様です」
- 83 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:17
- 何だろ・・・・警察がどうして矢口さんを
不思議に思いながら車に乗り込む
そして迎えに行った学校近くの公園
校門のそばを通るとなんだか懐かしいと思ってしまう
こんなお嬢様学校みたいなとこじゃなかったけど・・・・
一応高校に半年位は通ったから
今日のデートのお相手を、路肩に駐車して待つ
しばらくするとコンコンと窓を叩く音
シートを倒して、つい眠ってしまいそうだった私は、笑ってその子を迎える
「すみません、待ちましたか?」
「ううん、それより大人っぽい服着てるね〜、いつもはもっとかわいいのに」
「ダメですか?」
「いや・・・・素敵だよ」
髪の毛を耳にかけてあげると、耳まで真っ赤にしている
女子高生のくせに、ウチの店に来て遊んで行く少女
擦れていないのに、金遣いの荒いお嬢様
- 84 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:18
- 「じゃあ行こうか・・・予約してるんだよ、絵里の為に」
「はい」
純情そうなその顔の中にはどんな素顔を持っているのやら・・・・・
なかなか楽しみだと思いながら、少し遠い場所へと車を走らせる
海の見えるレストランを予約して、
その後雰囲気のいいホテルでその子は初めて女になる
というシチュエーションを夢見ている彼女・・・・・・
そのおとぎばなしに登場する馬鹿な王子様は私
薄暗いレストランからは、湾岸沿いを走る車の光と、
湾の向こう側の明るい光で幻想的に彩られている
小さな泡をたてているシャンパンをカチンと言わせて、
大きな皿に綺麗に盛り付けられた芸術品を食べていく
最高の雰囲気に、彼女は終始うっとりした表情をしている
まぁ・・・全て絵里のおごりだけど
- 85 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:20
- 金持ちのする事は解らない・・・・・・
どうしてこんな高校生にこんな高額な金を自由に使わせるのか
彼女の学校のたわいのない話を、笑顔でうんうんと聞いてあげて、
食後のコーヒーを飲むと彼女をエスコートして車に乗り、
すぐそばにあるコテージへと連れて行く
同じような幻想的な景色の見える広い部屋で、
少し緊張するように彼女は荷物をソファに置く
「シャワー先に浴びていい?」
「は・・・・はい・・・・・」
こういう子を抱くのはちょっとしんどい
どうして恋人でもない、こんなホストと初めての夜を過ごしたいのか・・・・・・
でも、せっかくのクリスマスイブの初めての経験を少し手伝ってあげるのも私の仕事と割り切る
去年は、私を取り合って、会ってる場所場所に次々にお客がやって来て大変だった
全て市井さんの策略だったので、今年からは全て内緒にさせてもらったけど
- 86 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:21
- 自分のシャワーが終わり、今は絵里ちゃんがシャワールームに入る
窓の外の景色を眺めながら、ビールを飲むと、
今部屋で矢口さんは何をしているだろうかと気になる
クリスマスイブの夜・・・・・一人できっと勉強してるんだろう
警察がどうして矢口さんを捜しているのか解らない
矢口さんが何を隠しているのか・・・・・・
一つ解るのは、私がニュースを見そうになると、チャンネルを替えるという事
最初はニュースがつまらないのでバラエティー番組や音楽番組を探しているのかと思っていたけど・・・・
もしかして矢口さんは何か事件に関わってるのかも・・・・と思ってた所だった
- 87 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:22
- 「吉澤さん?」
ふいに後ろから声をかけられた
バスローブを着て恥ずかしそうにもじもじと私のそばに立っていた
「ああ・・・ごめん、気付かなくて」
「疲れてるんですか?」
「いや・・・・・絵里が笑ってくれればそんなの吹き飛ぶから」
そう言って優しく抱き寄せる
「吉澤さん・・・・好きです」
ぎゅっと背中に回された手
彼女は解ってるんだろうか・・・・この時間はお金で買われた空間だという事を
「メリークリスマス、絵里」
「メリークリスマス」
震える彼女の唇を塞いだ
- 88 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:23
- 怖いっ・・・・怖いです・・・・
大丈夫
あん・・・吉澤さん
吉澤に全部まかせて・・・・・そう・・・・・私の事を好きなんでしょ
はい・・・・好きです・・・・好きすぎて・・・・私
絵里・・・・かわいいよ
吉澤さんっ・・ああっ
焦点の合わない目で天井を見上げて、時折苦しそうに眉間に皺を寄せる
そうだね・・・・初めての経験はちょっと怖くて・・・・・初めての感触に戸惑うんだよね
私もそうだった・・・・相手は男だったけど・・・・
互いに慣れてなくて、ロマンティックなこんな雰囲気とは程遠い程自己満足な男とのセックス
おかげで女の人と寝る気持ち良さを知ったけど
この子には、少し甘い思い出を作ってあげたかったから・・・・
思い切り優しく経験させてあげようと思う
- 89 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:25
- 十分な湿り気の場所の誰も触れた事のない場所を、
彼女の反応を見ながら探り探り刺激する
強い刺激ではなくあくまでソフトに
そんな所ダメぇっと悶える彼女
ああんっっ・・・・はぁ・・・はぁ・・・・
初めてなのによく声の出る子だ
チュッチュッと、顔中にキスの雨を降らせながら、
力の入らなくなった足を押し広げてゆっくり中心に一本指を沈めて行く
片足がピンと伸びて、口があっ・・・と開いた
吉澤さんがっ・・・吉澤さんが入って来たっ
感想を言う彼女・・・・・ってか、何かで情報入れてた?
「今、絵里と吉澤が一つになってるんだよ・・・・」
「ああっ、い・・・痛い・・・・痛いです」
「大丈夫・・・すぐに慣れるよ・・・・・」
あっ・・あっ・・・
指を二本にゆっくり増やして狭い壁を突破する
あああっ
全身が硬直すると指を締め付けてくる
- 90 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:26
- 「大丈夫・・・痛くないから・・・・大丈夫だから」
首筋にキスしながら胸へと唇を滑らせ、
抱き締めるように体を抱え上げると入れている指を動かしてみた
男だったらめちゃくちゃ嬉しいシチュエーションなんじゃないだろうか・・・・
まぁよっぽど経験積まないとここまで冷静にはなれないだろうけどね、男は
大興奮で腰を動かして、女には痛かったという感想が残る
だから私は違う・・・・・こんな夢見る少女に出来るだけ優しく教えてあげる
頭が変ですっ・・・吉澤さんっ・・・何か変・・・・何か出ちゃう
いいよ・・・出して・・・・・ほら・・・・自分を解放させて
ああっ・・・恥ずかしいっ・・・・吉澤さん
絵里はかわいいよ・・・・だから恥ずかしがらないで
- 91 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:28
- 胸の頂きを弄びながら指を上下させていくと、
閉められていた場所がゆるくなって腰が動き始める
自然に動いているんだろう・・・無意識に・・・・・・・こうなったらもう少し
耳に口を寄せて囁く
「絵里・・・愛してる」
ああああああああっ
がくがくと腰を揺らせて彼女はぐったりとする
指を抜いて足を閉じさせると、そのまま抱き寄せてねころばる
乱れた髪の毛を直してあげながら、
腕の中で息をきらせている少女の額に唇を寄せる
「よ・・・吉澤さん」
はぁはぁ言ってるよ・・・・絵里ちゃん・・・まだしゃべらない方がいい
「ん?」
私の胸を遠慮がちに触りながら言う
- 92 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:29
- 「絵里のものになって下さい」
また言われてしまった・・・・・これはビジネスなんだよ・・・・絵里ちゃん
「絵里・・・・こうしてここで素敵なクリスマスを迎えられるのは絵里を素敵な子だと思ってるからだよ」
「だったらっ・・・・だったら絵里と付き合って」
頭を上げた絵里の必死な唇に人差し指をたてる
「それは言わない約束でしょ」
「だって・・・・だって好きなんだもん」
ぎゅっと抱きついてくる
- 93 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:30
- 「そっかぁ・・・・・でも吉澤と絵里が素敵な時間を過ごせるのは店の中だけでしょ・・・・・・
それは最初から解ってたはず・・・・今日だって絵里が思い出にしたいっていうから
こうやって絵里を必死に喜ばせようと頑張ってるんだよ・・・・・・
だから・・・・・吉澤も今日の夜は忘れない・・・・・・・それじゃダメ?」
「これからも色んな思い出を吉澤さんと作りたい・・・・・どうすれば
・・・・・どうすればこれからも思い出を作れますか?」
「そうだね・・・・・絵里が、笑顔でお店に来てくれれば・・・・・
いつもその時間は絵里の恋人になるよ・・・・吉澤は」
こんな時も自分が恨めしい・・・・・
どうしてそんな言葉がすらすらと口から出るのか
- 94 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:32
- っと何時だっけ・・・・・・
いけね・・・・10時に睦美さんとこに行くにはもう出ないと
「でも・・・・」
「ほら・・・・・そろそろ帰らないと・・・・
心配性のお父さんがまた家の中をウロウロしているよ・・・・・家迄送って行くから」
チュッと唇にキスをして彼女の体を起こした
一度優しく抱き寄せて、後ろからバスローブをかけてあげる
自分も下着をつけてシャツを羽織ると、彼女はのろのろと帰り支度を始めた
帰りの車の中で、彼女の手をずっと握っててあげた
言われた通りの道順で着いた屋敷は、予想通り大きなお屋敷に大きな門
「じゃあ、絵里・・・・・素敵な夜をありがとう・・・・また会いにおいで」
「はい・・・・・」
頭の後ろに手を置いて引き寄せるとキスしてあげた
真っ赤になって彼女は舌を入れて応戦して来た・・・・
私はもう子供じゃありませんと言わんばかりに
「かわいいよ、絵里」
車を降りた後、窓を下げてそう言ってメリークリスマスと言うと門にとぼとぼと入って行った
パタンと門が閉まったら、バックにギアを入れて方向転換
今度はもっと大きなお屋敷へと向かう
- 95 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:34
- 着いたお屋敷は様々なイルミネーションで彩られ、
門が開いて迎え入れられると、
いつも迎えてくれる執事のような人がどうぞと笑顔で部屋に案内してくれる
部屋に入るとポフとちっちゃい塊が飛びついてくる
瞬間矢口さんを思い出して笑う
「隆文君、メリークリスマス」
「メリークリスマスっ、ひとみっ」
5歳になる息子さんがいるのに・・・私なんかにのめりこんでる母親を君はどう思うかな
「こらっ、呼び捨てしちゃだめって言ってるでしょ」
「だってママもいつもひとみって言ってるじゃないですか」
さすが金持ちの息子・・・・家族にも敬語なんだ・・・・・
って最初驚いたっけ
「お友達だもの・・・それくらいはいいじゃない」
こう見ると・・・・仲のいい理想的な親子
- 96 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:36
- さっきコンビニでスーツからジーパンに着替えて、
隆文君の為にちゃちな靴の入れ物に入ったお菓子の詰め合わせを買って来た
「
はい、これ気持ちだけど」
わぁ〜っと言って、隆文君は母親の顔を伺っていた
母親・・・睦美さんはにっこりと笑って頷く
それからしばらく隆文君と三人でゲームをして、
執事の人たちがケーキとかコーヒーとか運んできてくれて楽しく過ごす
夜中近くになると、隆文君は眠そうにしだし、
睦美さんは寝かせて来るわと部屋を出た
執事の人たちも、どうぞごゆっくりと言って、今日は失礼致しますと帰って行った・・・・
といっても敷地内に家族はいるみたい
ハンパなく金持ちのこの屋敷は、少し離れた場所にメイドさん達の為の部屋迄ある始末
次に彼女がこの部屋に戻って来る時には、
彼女の欲求を満たす為にひたすら仮面を被る
さっき迄の余裕ある大人の仮面から、
少しやんちゃだけど従順な仮面にチェンジする
- 97 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:38
- 部屋の隅にあるワインセラーから、高そうなワインを何個か取り出して眺めてみる
味なんて解らない・・・・もちろん価値だって
カチャっとドアの音がして、睦美さんは部屋の鍵を後ろでに閉めていた
彼女の仮面も、母親の顔から女の顔に早代わり
「それが気に入った?じゃあグラスに注いで」
「はい」
シュッとコルクを取り巻く金具を取ってコルクを抜くと、
トクトクとそばにあったピカピカのグラスに注ぐ
さっき迄三人で座っていたソファに、
違う人のように座っている彼女の隣に腰掛けてグラスを渡す
- 98 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:51
- 「そういえば気に入った?私のプレゼント」
そう・・・・・あの車はクリスマスプレゼント
「もちろん」
チン・・・と合わせたグラスに口をつける
「あ、うまい」
「ふふ・・・・まぁ・・・・それだけの値段はあるからしょうがないわね」
「そんなに高いものなんですか?これ」
香りを嗅いでから再び口をつける
「・・・・そうね・・・あなたより高くはないかな」
そう言って、睦美さんは優雅に笑って私の顎に手を置くと、
唇を寄せて今飲んだワインを口移しに流し込んできた
「なるほど・・・・じゃあどちらがお好みですか?」
「そうね・・・・・今日の出来次第かしら」
すでに私の首に腕を巻きつけて、トロンとした目で唇を押し付けてくる
- 99 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:53
- さっき迄あんなに優しい母親を演じていたのに
隆文君は、こんなに妖艶な魅力を放つ母親を見た事あるだろうか
私の股の間にあの機械を仕込んで騎乗位で髪を振り乱し腰を振ったり
私の手を後ろでしばりつけて好きなようにしたりする母親
これが父親となら何の問題もない・・・・・
その父親はきっと私くらいの女に今頃入れてるだろうから
こんなにお金持ちなのに・・・・・・彼女達は幸せじゃないのだろうか
市井さんは、こういう女性に夢を見せてやるのが私達の仕事だと言う
だから、彼女の欲しい言葉や行動は、心を込めて演じなさい・・・・・
それが市井さんの教え
「愛してます・・・睦美さん」
だから心を込めて演じますよ・・・・・睦美さん
- 100 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:55
- 結局眠りについたのは朝方・・・・そして起きたのは昼の少し前
夜更かしした隆文君が、母親の部屋のドアを叩いた音で目覚める
ありえない程すばやくシルクのパジャマを着て髪の毛を整える睦美さん
それにも負けない程の勢いでちゃんと服を着た私
何事もなかったように、子供を抱き締めた睦美さんの顔はもう母親の顔
豪華な昼食をいただいて屋敷を後にする
さすがに疲れた・・・・・帰ってシャワー浴びて寝たい
ク
リスマスイブは毎年お客様感謝デーのようで、予約のある人以外で店を開けている
だから、今日は交代で私達が店に出ないといけない
一眠りしたらすぐに仕事が待っている
だけど、部屋に帰ると矢口さんはランチョンマットを二人分用意して、
お皿だけを置いて準備された横で教科書にうつ伏せになってペンを持ったまま眠っていた
待ってたのかな・・・・・
今日はいつも通り帰って来れないって言ってたけど
そおっと着替えを取りに行って、
いくら暖房がきいてるとはいえまだ痩せてる矢口さんが風邪ひいちゃ大変だと思ってそっと毛布を掛けた
かわいらしい寝顔・・・・・さっき迄起きてたっぽい
- 101 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 13:58
- シャワーを浴びて出てきたら、矢口さんが飛びついてくる
「おかえり、よっすぃ」
「あ、ただいま、起きちゃったんですか?」
「さっき迄起きてたけど、寝ちゃったみたい・・・へへ」
抱きついたまま見上げてきてそう言う
「いいんですよ、寝てて、あの、私も疲れててすぐ眠りますから」
一瞬寂しそうな顔をして、
一緒に寝ていい?と聞いて来る
「いつも寝てるじゃないですか、じゃあ目覚ましセットしてすぐ寝ますよ、疲れちゃったんで」
うんっと元気に頷いて私から離れると、
もうすっかり使いこなせるようになったエアコンを切って、
次は連日お伝えしている事件の続報ですというニュースを伝えようとするテレビも切った
- 102 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 14:02
- あ、そういえば昨日刑事が来たっけ
そこで思い出して、ちゃんと話しないといけないなと明日話しがあると言おうとしたら、
じいっと矢口さんがある一点を見つめている
視線の先には、隆文君に買ってあげたものと同じ、
赤い靴のお菓子の詰め合わせをキッチンのカウンターの上に置いてたから
「ああ・・・・・クリスマスだから・・・・一応プレゼント」
こんなちゃちな物、小さな子供しか喜ぶ訳ないけどつい買ってしまったから、はい、と渡すと
「嬉しい・・・・ありがとう、よっすぃ・・・・おいら初めて・・・こういうの」
ってキラキラした笑顔で安っぽい靴を抱き締めていた
「・・・・あの・・・・いつも何もお返し出来ないから・・・・
せめてよっすぃの好きな物作ろうと思って・・・」
恥ずかしそうに俯いてる姿がなんだかかわいくて
「何か作ってくれたんですね・・・・・じゃあ、さっき食べちゃってちゃんとおいしさをかみ締められないから、
起きて食べます・・・・・ありがとうございます、いつもおいしい料理を」
ふるふると首を振って照れている
- 103 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 14:03
- 「疲れてるんだよね・・・・もう寝よ・・・あ、これベッドに持って行っていい?」
赤い靴を抱き締めたまま言う・・・・・
こんな子供だましをそんなに喜んでくれるなんて
「いいですけど、布団に入れるとチョコレートとか熔けちゃいますからね」
ふふっと肩をすぼめて、てててとベッドルームに行った
先に布団に入ると、枕もとに靴を置いていつものように丸まった
「先に入って暖めておけば良かったね、ごめんねよっすぃ」
ぶるぶるっと体を震わせて言った
「そんなのいいですから早く眠りましょう・・・・矢口さんも眠いでしょ」
「うん」
きゅっと丸っこく寄り添ってくる場所からだんだんと温かくなって来るのでいつものように手を回す
ああ・・・・この人の温もりはどうしてこんなに眠りに誘われるのか解らなかったけど、
言わなきゃと思って飛びそうな意識の中言った
「矢口さん・・・明日・・・仕事の後・・・・・少し話しを聞かせて下さいね・・・・・」
「・・・・・・う・・・ん」
矢口さんも意識が飛びかけてるのだろう、返事が重かった
「昨日・・・警察の人が・・・・来たから・・・・・・多分・・・
矢口さん・・・を探してるんじゃ・・ない・・・かって・・・思って・・・・」
そこ迄言ったら意識が飛んでしまった
- 104 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 14:06
- 目覚まし時計の音で目が覚める
やっぱ疲れてたんだぁ・・・・と伸びをして気付く
「あれ・・・・矢口さん?」
隣で寝ているはずの矢口さんはいなかった
まぁ、だいたい矢口さんは早く起きて朝食(時間は夕方だけど)作ってくれたりしてるから、
のんびりと上着を羽織って部屋を出た
いつもなら、部屋を暖めてくれておはようよっすぃ・・・・
と笑顔でキッチンから覗いてくるのに・・・・今日は物音一つない
「矢口さん?」
洗面所やトイレにも・・・・・どこにも矢口さんの姿は無かった
ごっちんが矢口さんの為に買ったバッグを探す
バッグも・・・・・洋服も全てあった
- 105 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 14:08
- あれ・・・・じゃあどっか買い物にでも行ったのかな・・・・・と、
キッチンに行くと、カウンター越しにテーブルのランチョンマットが一枚になっていて
きちんと一人分だけ料理が用意されラップがかぶさっていた
そしてその横には紙の上にビー玉とおはじきが重しがわりのように乗ってた
そこには見慣れた字
毎日毎日、私に教えてと言っては必死に書き取りをしていた矢口さんの文字
優しい優しいよっすい・・・・・大好き・・・・・ありがとう・・・・・
たったそれだけが書いてあった
咄嗟にそのままコートを羽織って外に出た
マンションの廊下から下に向かって叫ぶ
「矢口さんっ」
下を歩いている人がいぶかしげにこっちを見上げてきているが、
どれも矢口さんではない・・・・・矢口さんのように小さいけど
しばらく外を探して回った
- 106 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 14:10
- 矢口さんの行動範囲は近くのスーパーに行く事意外は何も解らない・・・・
というか外を怖がって出ようとしない
スーパーだっていつも私と一緒じゃないと行けないみたいだった
最近はそれじゃいけないよねと、頑張って一人で行ってたみたいだけど
どうして急に
あ・・・・・警察が来たって私が言ったからだきっと・・・・・
- 107 名前:第一章 投稿日:2005/12/04(日) 14:12
- 朦朧とした意識のまま、部屋に戻って部屋を見渡す
大分使い方に慣れた私のプライベート用の携帯もちゃんと充電器に差してあって
無くなったのは・・・・・
前に来ていたボロボロの服と大事にしてた宝物のビー玉とおはじき、
・・・それに私が一番最初にあげたジャージに・・・・・
お菓子が入った赤い靴だけ
生活費がいつも入れてある引き出しには・・・・
ちゃんとお金が入っていて・・・・・持っていった形跡はない
嘘でしょ・・・・・だって、出て行きたくなさそうにしてたじゃないっすか
体良くなったら出てかないといけないんだよねってたまに小さく呟いてたじゃないっすか
ラップがかかったお皿の料理は、きちんとリボンが結ばれたりしたチキンと、
マカロニグラタン、かぼちゃのスープに野菜サラダ
和食ばっかり作ってた矢口さんが、きっとクリスマスだからと思って一生懸命作ってくれた料理
矢口さんが食べたと解るチキンの骨が生ゴミ入れに入ってる
じわじわと視界が滲んでくる
一人でポツンと食べてる矢口さんの姿を思い立ち尽くした
- 108 名前:*** 投稿日:2005/12/04(日) 14:13
- 今日はここまでです。
また時間があったら更新します
- 109 名前:*** 投稿日:2005/12/05(月) 23:02
- サクサク行かせていただきます
- 110 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:04
- 「いなくなったぁ?」
「うん」
「あのやぐっつぁんが?」
「うん」
ごっちんの少し怒ったような突っ込みに市井さんがのほほんと口をはさむ
「よかったじゃん、やっといなくなってくれて」
「いちーちゃんっ」
その後二人はあーだこーだと言い争ったけど・・・・・
私にはもうその会話に入る元気が無かった
イブに主力は営業デートでいなかった分、この日は大入り満員で、指名の嵐だったけど
私はいつものトークは全くできずに、早々に店長から帰りなさいと言われた
駐車場には向かわず・・・・
歩いて大通りへと向かい矢口さんと出合った路地迄来て見た
だけど矢口さんがいる訳はなく・・・・
私はただただ空を見上げるだけだった
ちらちらと雪が降ってくる
「ひどいっすよ・・・・・黙っていなくなるなんて」
- 111 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:06
- 行き交う人たちは立ち止まる私を気にする事もなくすれ違って行った
家に帰っても部屋は真っ暗、
ここ一ヶ月毎日のようにあった矢口さんの笑顔は迎えてはくれなかった
そんな調子で数日そろそろ正月という頃
これじゃだめだと自分を奮い立たせてたけど、どうしても店長に帰れと言われた・・
そして店から出た所であったのはどこかで見た顔
「ほらっ、やっぱあの子だべ」
「ほんとだ・・・・・たまにはなっちの言う事も当たるのね」
威張る小さい人を目つきの悪い人が悔しそうに見ていた
「憶えてますか、私、○○署の捜査一課の保田です」
「生活安全課の安倍なつみです」
- 112 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:10
- 「なんですか?」
今さら何を聞かれても矢口さんはいなくなってしまったんだからしょうがない
「目撃証言がね、こことあなたの住んでる場所近辺に固まってるのよ・・・・・
そしたらなっちがこの辺りであなたが働いているんじゃないかって・・・・ホストって聞いてたし」
なんだ、調べてんじゃん
機嫌の悪い私を見てか、目つきの悪い方が慌ててしゃべりだす
「あなたの職業をどうこう言う訳じゃないのよ、ただ私達は人を助けたくって、
早くしないとその子も死んじゃいそうだと思って」
「死ぬ?」
「そう、死にそうなのは矢口真里さん・・・・って子」
やっぱり矢口さんの事だったんだ
「その人・・・どうかしたんですか?」
「うん、多分自分が掴まると思って逃げてるみたいだし、
早く知らせてあげて保護してあげたくって」
「保護・・・・?」
安倍さんが保田さんを見上げて話し聞いてくれそうだねって言うと
「とりあえず喫茶店か何か入らない?めちゃくちゃ寒いんだよね、ずっと外にいて」
保田さんがそう言って体を震わせた
そういえばちらほら振ってる雪が頭や肩にうっすらと積もってる
そこで連れて行かれる事に疑問を持てない自分が馬鹿だという事もその時は気づかなかったけど
こんな雪の中、どっかで震えてる矢口さんを早く見つけて欲しかった
この人たちは捕まえようとしてる訳じゃないみたいだし
- 113 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:12
- 近くの喫茶店で、寒かったべーと暢気に言う安倍さん
「吉澤さん、ここに来てくれるって事は矢口さんの事は知ってるのよね」
あ・・・・・・そっか・・・・・そうなるよね
「はい」
私の返事で二人はほっとしたように顔を緩ませた
「どうして嘘ついたの?」
「・・・・・・どうして警察が矢口さんを捜してるのかわからなかったから・・」
「あなたテレビとか見てないの?」
安倍さんが驚きの声をあげると店員が注文を聞きに来た
私にも何がいいか聞かずにコーヒー三つと言って追い払うようにする・・・・一応聞けよ
「コーヒーで良かったわよね」
店員が言ってから聞いて来るので、内心少しムッとしながらも結局コーヒーを頼んだだろうなと思って頷いた
- 114 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:14
- 「で、テレビって何の事件に関わってるんですか?矢口さん」
二人は顔を合わせて少し困った顔をした
だって家にいる時には、ビデオでお客との会話の為のドラマとか見てるんだもん・・・・
ニュースも見るけど・・・・矢口さんがチャンネル替えるから
「じゃあ今矢口さんはあなたの所にいるのかしら」
「いえ・・・いません」
がっくりする二人は、少しイラつくように聞いて来る
「じゃあどうして嘘をつくの?私達は矢口さんを捕まえようとしてる訳じゃないのよ」
「そうそう、ただ早く矢口さんを普通の生活に戻れるようにしたかっただけなの」
「普通の・・・生活・・・」
確かにどうみても普通の生活をしてたようには見えなかった
- 115 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:16
- 「二ヶ月位前に、指名手配中の殺人犯が12年ぶりに掴まった事件知らない?」
ああ・・・・そういえば、長い逃亡生活の末、こそどろで掴まってしまった間抜けな犯人
私が少し知ってるような顔をしたからだろうか
「その犯人は、10年前、自分の奥さんを殺して、二人の子供を連れて逃げてた」
「二人の・・・・子供?」
まさか・・・・その子供が矢口さん
そう思いついた時に、コーヒーが運ばれて来た
ウェイトレスが以上でお揃いですかといって伝票を置いて去って行ってから、
ゆっくり保田さんが話し出す
「当時12歳と7歳の子供を連れて逃亡していったの」
「それが矢口さん・・・・・じゃあ矢口さんは逃げる必要ないじゃないですか」
思わず言ってしまう
「そうなの・・・・でもね・・・・・きっと自分も掴まってしまうって勘違いしてしまったのよ・・・・
だって小学生の知識しかないんだから」
「とにかく詳しい話はまた今度するから、今矢口さんを探すのが先決・・・・
吉澤さん、本当の事を教えてちょうだい」
だから私は今迄の事を全部話した
そこの路地で見つけて・・・・
自分の家に連れて帰って・・・・・
そして突然いなくなってしまった事
- 116 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:19
- 「私がもっとちゃんと話しを聞いていれば・・・・」
俯いてると、優しい声で安倍さんが言ってくる
「とにかく一度は体力が持ち直してるのが解ったし、
大丈夫、きっとどこかでちゃんと生きてるよ」
「そうね・・・・・10年もの長い間、何もない所でちゃんと生きて来た人だから、
三日前迄は吉澤さんの所にいたんだし、
お金も持ってないのならそう遠くには行ってない
署に一度連絡を入れて、近辺の山の中を中心にもう一度捜索しなおすわよ」
「山・・・ですか」
「そう、町は結構捜査員が出て探してるの、
それでも見つからなかったのはあなたの所にいたからだけど、
あの子の育ったのは山を越えたずうっと北の海の近く
・・・・そこに帰ろうとしてるのかもしれない」
「うん、そんな気がするね、多分人のいない山を通ってそこへ行こうとするはず・・・
来た時のように・・・・・・ただ山はもう雪が深いしこの時期で歩くのはとても」
「早くっ、早く見つけてあげて下さい・・・・矢口さんを・・・・・矢口さんを」
自分の馬鹿さ加減を呪いながらテーブルに頭をこするように頭を下げていた
「私がもっと早くあなた達に話しに行ってれば・・・・・矢口さんは」
「もういいの、あなたの事情も解ってるし・・・・警察に関わるとまずいって事は私達は十分解ってるわ、
じゃあ連絡があったら今度こそすぐに連絡してね」
「はい」
そう言って彼女達は私の携帯と彼女たちの連絡先を交換して慌てて出て行った
- 117 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:21
- こんなに寒いのに・・・
ウチは何も彼女の事を考えずにあんな寝ぼけた状態で彼女に事情を聞こうとしてしまった
普通の時では聞く勇気がなかったから
そして・・・・・
心のどこかで彼女を拾ってしまった事を後悔してしまってた・・・・・・
いつまでもいてもらうと困ると思ってたから
それから本屋に行って、いつもは素通りする週刊誌を立ち読みした
そこには、興味本位で面白がるように矢口さんの事件がシリーズ化されて書かれていた
こんなに大事件なのに・・・・全く知らなかったなんて
- 118 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:24
- いや・・・・ホストという職業がら、
世間のニュースには今迄ちゃんと目を配ってた
ここ一ヶ月は・・・・
今思うとニュースを見そうになるとさりげなくチャンネルを変えたり、
勉強で解らない所を聞いてきたりして注意を逸らされていた事がはっきりと解る
彼女は父親と妹と暮らしていたと言っていたけど
一ヶ月程前に、彼女の妹は死んでしまっていた
発見したのは近くの農家のおばあちゃんで、
犬の散歩中、犬がいつもと違う道に連れて行った所、
女の子の泣き声が聞こえたので懐中電灯で照らすと女の子が逃げ出して行ったらしい
その場に残されて死んでいた妹の亜依ちゃんの手には
しっかりとビー玉とおはじきが握らされていて、死因は餓死
今から二ヶ月前に掴まった父親を待っていて、
待ちくたびれたのか、それとも逃げ出して街に助けを求めにやってきたのか解らないそうだ
子供の死を知った父親は、今迄の事を全て話し出した
それによってその後、確実にこの大都市に向かってきた足取りを警察が掴んでいて
その内容が、さらに興味本位で面白がるように書かれている
- 119 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:27
- 日本海側の今は誰も近づかない防空壕の中で、
10年もの間、父親が取って来た魚と、山で取った山菜で暮らしてきた家族
一切の現代の情報から切り離された時間の中で、少女達は何を見て来たのか
最近はテレビではあまり取り上げられる事もなくなったが、
その週刊誌では引き続きその少女の行方を捜しているとの事
特徴は、
身長140〜150、
人に話し掛けられるとかわいい笑顔で人の目をじっと見て、言葉が話せないふりをするという
彼女の実際の年齢は21歳、
歳よりもかなり幼く見えるという
まさに矢口さんだった
どうして気付かなかったんだろう
こんなに大きく話題になってるのに
私はポケットからカチャカチャと言わせて、
手紙に置かれていたビー玉とおはじきを取り出して見つめた
彼女が宝物だと言っていたもの
読んでいた雑誌にポタリと雫が落ちて慌ててふき取ってその場を去った
- 120 名前:第一章 投稿日:2005/12/05(月) 23:30
- 夜中過ぎに、真っ暗な部屋に帰り、
もう迎える笑顔のないこの玄関でため息をつく
もし矢口さんがいたら・・・・
こんなに早く帰って来た私に飛びついて大喜びしてくれただろうと思うと、胸がじわじわと苦しくなる
矢口さんは、一度もここに住んでいいと聞いた事はなかった
ただ私と一緒にいる時には、
私との時間を少しでも共有しようと子犬みたいについてまわって来て
私にかわいい笑顔を見せてくれるんだ
よろよろと、リビングの隅におかれている矢口さんの勉強道具を手に取った
楽しそうに漢字の勉強をして・・・・
テレビや私の話の中で解らない単語があるとすかさず辞書で調べていた
パラパラとめくると・・・・
所々鉛筆で線が引かれてる
その中で目に付く
・・・殺人
・・・・指名手配
・・・・・・事情聴取・・・・・
そんな言葉にばっかり線が引いてあって
あの笑顔の奥でどんなに彼女が怯えていたのか・・・・・・
今になってじわじわと胸に広がってくる
早く・・・・・早く見つけてあげて・・・・・
ずっと・・・・一人で笑って来た矢口さんに・・・・・
本当の笑顔を見せてもらいたい
- 121 名前:*** 投稿日:2005/12/05(月) 23:35
- 今日はこのへんで終了します
配役や設定にご不満な方もいらっしゃるかもしれませんが
何分未熟者ですのでお許し下さい。
それではまた時間がある時迄
- 122 名前:*** 投稿日:2005/12/06(火) 00:18
- 間違い発見
115 :
×「二ヶ月位前に、指名手配中の殺人犯が12年ぶりに掴まった事件知らない?」
○「二ヶ月位前に、指名手配中の殺人犯が10年ぶりに掴まった事件知らない?」
すみませんでした
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/06(火) 03:59
- なかなか切ないですね。
山奥で裸で暮らしていた姉妹の話を思い出しました。
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/07(水) 00:12
- 面白い
- 125 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:24
- 次の日
接客してる時に、ちょっと吉澤借りるねと連れてこられた
お客さんがつまらなそうにしてたから見るにみかねたぞと言われる
私は罰が悪くて
「あ〜、すみません」
頭から矢口さんの事が離れなくて・・・・と適当に言ってしまった
「おい吉澤、お前いい加減にしとけよ」
ここ何日・・・・腑抜けのようになっていたウチに、とうとう市井さんがキレた
ガチャガッチャ〜ンと、派手な音が控え室に響きわたった
胸倉を掴まれて、控え室の端っこに飛ばされたから
「そんなに仕事する気がなきゃ、もうやめるんだな・・・・・
お前にはこの職業は無理だ」
殴られはしなかったけど
・・・・・並んでる椅子をすっとばして壁のそばで寝転がってる
まぁ怒られて当然だから、言い返す言葉はない
- 126 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:26
- 音を聞きつけて、店長が控え室に入って来ると、
市井さんは、みんなごめんねぇ〜っ、大きなねずみがいたからさぁ〜と笑いを取りながら去って行った
「すみません・・・・・店長・・・・・しばらく・・・・休みを下さい」
「よしこ」
立ち上がって頭を下げる私に、店長と一緒に控え室にやってきたごっちんが肩を叩いてくれる
「しかし吉澤が抜けると・・・・・いるだけで売上が違うんだよね」
「ゴトーがカバーしますよ・・・・ってか、よしこの客もらいますから
・・・・・まぁすぐ帰って来ますって、元々馬鹿ですから」
ごっちん・・・・・・ありがと
そこにプライベート用の携帯が鳴り出す・・・・・
もちろん客からではない・・・・警察、安倍と画面に出ている
- 127 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:28
- 「もしもしっ」
慌てて出たので、ごっちんも店長も何事かとそばに近寄って来た
『吉澤さん?生活安全課の安倍です、解ります?』
「解ります解ります・・・あの矢口さんは?」
『うん・・・・・発見されたよ、やっぱり北の方に向かってた、
街で捜索してた人たち全員北へと集中させたら案外早かったべさ』
よっしゃっとガッツポーズ
「そっかぁ〜っ、良かったぁ〜・・・・・ほんと、良かった」
『うん、吉澤さんのその声聞けただけで良かった・・・・それじゃ、まだ仕事があるから報告迄だべさ』
「あのっ、矢口さんには会えますか?」
『・・・・・・・・ん〜、どうかな・・・・・とりあえずしばらくは事情聴取とか、
治療とかで会えないと思うけど・・・・・会えるようだったら連絡入れようか?』
「はい、是非・・・・え?治療?どっか怪我でも?」
『ううん、雪が降ってる中ずっと歩いてたんだべ、少し凍傷にかかってて、
でももう心配ないよ、今入院して眠ってるって』
「そうですか・・・・ありがとうございます、それじゃまた連絡して下さい」
- 128 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:30
- はぁ〜っと息を吐いて電話を切り、思わずごっちんを見ると
ごっちんも嬉しそうに言う
「見つかったんだ、やぐっつぁん」
「うん、良かったぁ〜、これで安心だぁ〜っ」
両手を天に突き上げて伸びをすると、店長に言う
「店長っ、さっきの休暇願い取り下げます・・・・・ほんと、すみませんでした」
「私はいいけど、紗耶香に謝りな、最近ずっと吉澤のフォローしてたのはあいつだから」
確かに・・・・・ウチの接客してる客に迄ちょっかい出してきて楽しませてあげていたから
「ほんとですね・・・・・うん、すみませんでした、吉澤また頑張りますっ」
ほっとしたからか、それから市井さんに謝って、絶好調で接客にあたった
- 129 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:32
- だけど・・・・・新年の馬鹿騒ぎをしていても
年明けの新年会ラッシュを乗り切っても
・・・・・・安倍さんからの連絡は来る事は無かった
いつでも会いに行けるように、
矢口さんの荷物をごっちんが買ってくれたバッグに入れていつも車で持ち歩いて
新年の特別番組もそろそろ通常番組が始まると、正月で目立たなくなっていた事件が再び顔を出す
矢口さんの事も各ワイドショーがかわいそうな少女として騒ぎ出していた
入院されている病院の前からの中継や、
矢口さんが10年間住んでいたと思われる防空壕やらが悲劇の少女として扱いながら見世物のように流されていた
どこから探して来たのか、
小さい頃の矢口さん達の家族の写真や、
お父さんの写真も流れる
幼い矢口さんの目には黒い目隠しがされているものの、
その顔はやっぱり矢口さんでしかなかった
- 130 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:34
- ふと思う・・・・
安倍さんから連絡が来て・・・・・
矢口さんと会って・・・・・
私は一体どうするつもりなんだろうって
元々私と彼女には、何の縁もゆかりも無い間柄
たとえ一ヶ月一緒に暮らしてても・・・・
そこから私が彼女にしてあげられる事は何もない
それからは、安倍さんから連絡が来たらどうしようって・・・・思ってしまうようになった
見つかった当初なら、きっとすぐに会って・・・・
良かったねって声を掛けてたはず
時間がたつにつれ、
テレビが色々矢口さんの事を教えてくれるにつれ・・・・
彼女の生い立ちがあまりにも凄惨で、掛ける言葉が見つからないような気がした
- 131 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:35
- そんな頃に今度は保田さんから連絡が来る
『憶えてる?捜査一課の保田だけど』
「は・・・・・は・・い」
『その声・・・・・もしかして矢口さんの事もう関わりたくないとか思ってる?』
ちげーよ、安倍さんからじゃないし・・・・・保田さんちょっと怖いし
しかしあながちはずれでもない為即答出来なかった
「・・・・いえ・・・・・そんな訳じゃ」
『明後日、更生施設に行くから、もし会うなら明日少しだけ時間があるの、どうする?』
「更生・・・・施設」
『そう、凍傷も良くなったし、誰かさんのおかげで栄養状態も大分改善されてたし
・・・・・調書も取り終わったから・・・・後は次の人たちの仕事』
なるほどね・・・・・警察はもう面倒見切れないって事か
- 132 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:37
- 『で、どうするの?会う?』
「あ・・・・はい」
その返事を聞いてか・・・・しばらく何も言わなかった保田さんは
『矢口さん・・・ここに来てから誰の世話にもなっていないって言ってる、
都会は食べ物が沢山捨ててあっていい街だねって・・・・それでも会う?』
「え?」
なんで?
「記憶・・・・喪失とか?」
『ううん、ちゃんと憶えてるわ、父親や妹の生活から、どうやってここまでたどり着いたか迄』
「じゃあ・・・・・どうして?」
『さぁ・・・・・多分吉澤さんに迷惑かけたくないんじゃないかな』
「私が・・・・未成年であんな店で働いてるから?」
『ん〜、そこ迄理解出来てるかは解らないけど・・・・・
多分自分が迷惑をかける存在だって事は理解出来てるみたい』
「そう・・・ですか」
矢口さん
『出来れば私は会って欲しくない・・・・
あなたの存在は、上には報告していないし・・・・・それにマスコミも怖いし』
ふ〜ん、なるほど・・・ようはめんどくさいってか
「そう・・・・・なんすか・・・・・すみません」
- 133 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:39
- でも・・・・・
どうしよう・・・・
なんか腹立つけど刑事さん達に迷惑かけちゃいけないし・・・・・
もう生きてるって解ってるし・・・・・
だったらこのまま会わない方が
『圭ちゃんっ、何言ってるべさっ、ちょっと変わって』
安倍さん?隣にいたんだ
『今どこにいるんだべさ?』
「あ、マンションですけど・・・」
『すぐ行くから待ってるべさっ』
なっちっ、こらっという声と共に通話は途切れた
- 134 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:43
- ほどなくやって来た二人
リビングにあげてあげると、安倍さんはキョロキョロと部屋を見回して
「いいとこ住んでんだべなぁ〜、やっぱホストってもうかるんだべ」
結構大変なんすよ・・・これでも
だからコーヒーを二人の前に出しながら
「そんな事ありませんよ、今だけです、こんな暮らし・・・・
年とったらつぶしきかないですから、色々考えないと暮らせませんからね」
こんな事口に出したくなかったけど、これも現実
「いや〜っ、それでも公務員やってるよりよっぽどいいっぺ〜」
「なっちっ、いい加減にしなさい、全く恥ずかしいっ」
「恥ずかしいって何だべ」
また始まった
「いいからっ、なっちが言いたい事あるんでしょっ、吉澤さんに」
目の前に座った私に、安倍さんはそうそうと前のめりになって話し掛けて来る
「吉澤さん・・・・・あなた・・・・矢口さんの事どう思ってるの?」
「へ?・・・・・いや・・・・・その・・・・・どうって」
どういう事?
- 135 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 21:48
- 「なっち、急ぎ過ぎ、説明しなきゃ解らないじゃない」
「あ、うん、あのね、圭ちゃんは刑事だし、
立場があるからさっきそう言ってたけど、本当は会って欲しいって思ってるの、なっちもそう」
「なっちっ」
また小競り合いが始まり、口を開けて返事をするしかなかった
「・・・・はぁ」
なんなんだ・・・この人たちは
「もう矢口さんがどんな生活をして、どんな風に生きて来たのかは解ったわよね?」
部屋の隅にある矢口さんの勉強道具に目をやって、
保田さんはゆっくり立ち上がるとそこに近づいて手にとった
「まぁ・・・・もっと早く気付けば良かったって思ってます」
すると、怖い顔をしていた保田さんは、真剣な顔をして話し出す
「矢口さんはね、父親がいなくってやっと自由になれるって思ったのよ・・・
仲のいい妹と一緒に・・・・」
「でも・・・妹さんは」
使い込まれた辞書をパラパラと捲って、
ある場所で止まってそこに視線をやりながら静かに話しを続ける
「そうね・・・それが矢口さんはショックだったみたい、
自分の力が足りないばっかりにって、でもしょうがないのよ・・・・
矢口さんには頑張っても知識が無いんだから」
ほら、こんな単語も理解出来ない位・・・と安倍さんに見せていた
- 136 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:02
- 「うん・・・・ただでさえ人の足で二日位歩かないと人里にはつかない場所だったし、
逃げだそうにも父親に怒られるし・・・
まぁ父親は矢口さんが亜依ちゃんと笑ってればあんまり機嫌が悪くなる事はなかったみたい
でも、うるさくしたり、不安そうな顔をするとすぐに怒り出してしまうような父親で
・・・・・怖かったというかやっぱり父親の事を見捨てられないというか
・・・・・離れられなかったって」
何かを見つけてはパラパラとめくりながら話は続く
「そう、冬になると雪に閉ざされるし、食べ物も少なくなるから・・・
今年も三人でいつものようにどこか近くの町の畑とか店に冬を越せる分だけのいるものを泥棒しに行って・・・
手口は矢口さん達のけなげな笑顔の演技に騙された人からの恵みの物とかをもらってくるやり方、
もちろん成功して先に防空壕に帰ってたら、いつまでたっても父親が帰って来なくて、食べる物もなくなって」
「母親を父親に殺されたのも知らなかったんだべ・・・・
それに母親がいると思ったこの街に来ようと行動した時にはもう二人にそんな体力は残って無かった」
保田さんはパタンと辞書を閉じて、ソファに戻ると一度コーヒーを飲んで私をじっと見つめた
- 137 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:05
- 「電車に乗ろうにも、行く先を書かれた文字が読めない、
お金もないし乗り方も解らない、
かろうじて東京という文字が解る為に線路をたどって歩くいて」
まだそんなに寒くない時期だったからまだ良かったけど、
少し遅かったら二人とももういなかったはずだという
妹が途中で息絶えてしまって・・・・・・
お姉ちゃん・・・母ちゃんに会いたかったねって言われた時は、
自分のふがいなさに涙が出たって悔しそうだった
自分がもっと勉強してれば、
もっと強ければもっと早くこっちに来れたかもしれないのに、
自分が妹の命迄奪ってしまったと
死んでしまった亜依ちゃんの為に、絶対に母親に会うんだって、
死に物狂いで・・・今まで躊躇してやっていた事・・・
色んな人を騙したり、お金を盗んだり・・・・列車にキセルしたりして
やっと着いたこの街の色んな場所に溢れる街灯テレビの画面で、
父親が捕まった事や、とっくの昔に母親は父親に殺されていた事を知った時には、
もう死にたいと思ったそうだ
多分その時に私が拾ってしまったんだろう
「それからの事は、あんまり話さない・・・・この町は、
家が無くても平気な街だからって言って・・・・話せる訳ないよね吉澤さんといたんだもの・・・・」
知らないって言ってくれてるんだもんね・・・私の為に
- 138 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:10
- 「でもね、何も言わないけど・・・・・きっと頭には吉澤さんの顔が浮んでて
・・・・とても・・・・とても嬉しそうな顔をしてるの
・・・・それがなっちにはね」
「なっちっ、だから急いじゃダメだって」
なぜか保田さんは安倍さんに話をさせたがらない
「だって・・・・・ねぇ、吉澤さん・・・・・
もし良かったら矢口さんをまた預かってもらえない?」
え・・・・・?
「だからなっち、私は反対だって、一時の感情で決めれる事じゃないの、
あの子はまだ普通の生活だってまともに送れないし、
普通の人が小さい時からゆっくり学んで行く事をこれから学んで行かないといけないんだもの
・・・・そんな子を年下の・・・・しかも女の子に押し付けてどうするの?
当の本人は吉澤さんの事なんて知らないって言ってるんだよ」
「でもほんとは矢口さんだって」
「矢口さんは心配しないでって私に言ったわ・・・・・・
一人ぼっちになっちゃったけど・・・・・
これから連れて行ってくれる所にはきっと友達とかいるよねって笑ってた」
「なっちにも・・・・時々でいいから遊びに来てねって・・・・・
これから沢山友達作りたいんだって・・・・だから寂しくないよとか言っちゃってさ・・・・」
目に浮ぶような矢口さんのその時の顔は、絶対拾ったときに見せていた笑顔なはず
「だからさ、私はそんないい子をもう悲しい思いさせたくない訳・・・・
一般的には可愛そうな子って言われるかもしれない・・・・・
でも、その施設には大なり小なり同じような経験をした子が沢山いるんだもの・・・・・・
傷を舐め合う・・・っていうのはひどい言い方かもしれないけど・・・・
少しずつ・・・・矢口さんには幸せになってもらいたいの・・・・
だからね・・・・施設に入るのは私は正解だと思うの」
「でもっ」
保田さんはウチに会わせたくなくて、
安倍さんはどうしても私に今迄みたく一緒に暮らして欲しいって思ってる
- 139 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:13
- 「本人が吉澤さんとの生活をとてもいい思い出としているのなら・・・・・・
出来れば吉澤さんには矢口さんに会ってもらいたくない・・・
解るよね・・・私の言いたい事・・・・・それでも会いたい?」
会いたい・・・・・
確かに私は会いたいと思ってる・・・・・・
だって何も言わずに突然出てって・・・・・
心配したのは間違いないし
会って無事を確認して・・・・・・・・
確認して・・・・・・
それから?
保田さんが言うのは、それからの話・・・・・
今は私も矢口さんとの生活がとても楽しいものだったと思ってる・・・・・
思い出として
もし私が中途半端に引き取って・・・・・
楽しかった思い出を、
つらい思い出に塗り替えさせるのなら会わずにこのまま他人として暮らして行けという事
「少し・・・・・考えさせて下さい・・・・明日
・・・・・何時迄に連絡すればいいですか?」
「うん、解った、じゃあ12時迄に私に連絡頂戴、
それから段取りすれば、2時には会えるように出来るかもしれない
・・・・・でも・・・・よく考えて会って欲しい」
「はい、解りました」
まだ何か言いたそうな安倍さんを、保田さんはキツい目で制す
「おじゃましました」
保田さんが安倍さんの手を掴んで玄関に向かうので、私も送りに行く
安倍さんが会ってあげてというのを、
保田さんが背中をパシッと叩いてそんな事言うんじゃないわよっ
行くよっほらっと引きずって行ってしまった
- 140 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:16
- 「もうっ、圭ちゃんどうして吉澤さんに会って欲しくないとか言うの?
だって矢口さんは吉澤さんの事が本当に好きなんだよ」
知ってるよ・・・・
圭ちゃんだってあの吉澤って子に矢口さんをあずけたがってるの・・・・・
影でもしそうなったらどうすればいいか調べてるのも
「そんなの解ってるわよ・・・・あの子の大切にしてる物・・・・
妹にも天国で遊べるようにって持たせたビー玉とおはじきに、
どう見ても吉澤さんからもらったジャストサイズじゃないジャージと長T
それに、きっと吉澤さんにもらったお菓子の入った靴・・・・・
今の矢口さんにとって吉澤さんは本当に大切な人なんだよ」
「だったら、吉澤さんだって心配してるみたいだったし、
また一緒に暮らさせてあげればいいべさっ」
「悪いけど吉澤さんはホストよ、職業に偏見を持つ訳じゃないけど、
好きでもない人とそういう事したりするのが商売・・・・・」
- 141 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:20
- 心配してるんだよね・・・矢口さんの事
「でも矢口さんの事、少しは憎からず大切に思ってるみたいだったべ」
「そうね・・・・でもその思いと矢口さんの思いは違うものかもしれないじゃない」
「え?」
どういう事?
「さっき、矢口さんが勉強してた辞書を見てたらね・・・・・
恋・・・って所に線が書いてあるの・・・・・
そして、その意味は 異性を愛し慕う心
それから異性の所にも線があって・・・・・
矢口さんは確実に吉澤さんに恋心を抱いてる・・異性じゃないのにって・・・
なのに吉澤さんは、その恋心を操る事を商売にしてる・・・・・
普通の人が小さい時から培う恋愛の心を
今の吉澤さんに上手に教えてもらえるとは限らない・・・・・・
ましてや同性なんだから・・・・
今のままの綺麗な思い出としてあげた方がいいのかもしれないって私は思ったの」
そう・・・・・かもしれない・・・・・吉澤さんって人・・・・・
確かに魅力的な雰囲気で・・・・・きっと普通に育った人でもふらっと泣かされそう
「私が見た所では・・・・・吉澤さんは確実に矢口さんに情はあると思うの・・・・・
後は真剣に吉澤さんに考えてもらってから・・・・答えを出してもらいたいの」
「ん〜・・・・難しいべさ・・・・」
でも圭ちゃん・・・・・
きっと吉澤さん矢口さんの事大事にしてくれると思うんだよね〜
全くのカンだけど
- 142 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:22
- 「珍しいわね、そんなにため息つくの」
なんとなく気分が乗らないまま店を終え、
気がつくとアヤカのマンションで抱き締められていた
こんな時は、必ずアヤカに会いに来てしまう
アヤカもそう・・・・・彼と何かあった時には必ず店を訪れてバカ騒ぎしたりして
アヤカの胸に顔を埋めて、心臓の音を聞くと落ち着いた
「子犬をね・・・・拾ったんだ」
「へぇ・・・・かわいいの?」
私の髪を撫でながら聞いてくれる
「うん・・・・かわいい」
「それで?」
「飼いたいけど、育てる自信がない」
はっきり言えばそうなんだろう・・・・・
あまりに彼女の背負ってるものが大きすぎて・・・・・
私がその傷を癒す事が出来るか
- 143 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:23
- 「いやに弱気なのね・・・・いつも強引で強気な癖に」
「そうだね」
くすっと笑う
確かにそうだ・・・・・これでも私は客の気を惹くことに関しては結構強気だ
「一度飼っちゃうと、簡単に捨てれないもんね・・・・女みたいに」
「あ、そういう事言うんだ」
顔をあげて不貞腐れようとしたら唇が振ってくる
舌をからめてだんだんと深くなっていく口付け
「ほんとにかわいいよね、ひとみは」
「もうっ、いつまでも子供扱いして・・・・他の人には落ち着いてるって結構言われるのに」
そのまま胸を刺激して首筋に吸い付く・・・
アヤカが女の人ではじめて体を合わせた人だから、やっぱ特別な気がする
「あっ、跡はつけないでね・・・・誤解されたくない」
彼への愛情?・・・・・そうだよね・・・・婚約してるんだから
- 144 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:25
- 「アヤカはズルいよね、いつも」
「ひとみ程じゃないわよ」
互いに見詰め合うと、再び唇を寄せて貪りつくようにキスした
結局結論は出なかった
起きた時にはタイムリミットの12時近く
このまま時が過ぎてしまえば後悔せずに済む?
ぼんやりとアヤカのマンションの天井を見つめていると、
朝食の準備をしてくれているアヤカが寝室から繋がってるリビングから声を掛けてきた
「飼いたいって言ってたよね・・・・・だったら飼えば?」
「へ?」
ああ・・・・飼いたいって・・・ウチそう言ったっけ
「犬も子供も・・・・・買主や親が育てるものじゃないっていうわよ・・・・・
買主や親は見守るだけ・・・・そういうものなんだって」
アヤカは、母親のように優しい笑顔でこっちを見て笑ってた
- 145 名前:第一章 投稿日:2005/12/07(水) 22:27
- 保田さんは、ちゃんと覚悟を決めろと釘を刺した
19年間、私はそういう決断をする時、必ず逃げていたから・・・・・
逃げ出したくなるんだ・・・・・追い詰められると
そしてアヤカは必ず甘やかしてくれる
だから楽観的に私は結論を出しに行く
「そうかも・・・・・しれないね」
とにかく会おう・・・・・
だって会いたい・・・・・
正直そう思うから・・・・・
私は携帯を取り出した
- 146 名前:*** 投稿日:2005/12/07(水) 22:30
- 今日はこのへんで
- 147 名前:はち 投稿日:2005/12/09(金) 09:05
- はじめまして
どえらい作品を見付けて感動ものです
- 148 名前:*** 投稿日:2005/12/10(土) 16:17
- 二日酔いですが、とりあえず更新してみます
- 149 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:20
- 「ふぅ〜、まだマスコミが張り付いてるわね〜」
待ち合わせをした最寄の駅で、保田さん達は覆面で乗りつけた
乗っけてもらってから病院迄は終始無言で
私を裏で降ろしてこっそり侵入さして、
保田さん達は表から入ってマスコミを引き付けると、3階のロビーで落ち合った
ちゃんと事情は説明してあると、
警備員の人に保田さんから預かった手紙を渡すと入れてくれた
目立たない服を着て来いと言われてたので普通にジーパンを着てる
「じゃあ、こっちよ、先に私達が入るから、いいよって言ってから入って来て」
「はい」
警察病院もただの病院かと思ってたけど、
やっぱり階段とかに警備の人がいて、
奥の方には牢屋のように鉄格子があったりした
- 150 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:21
- へぇ〜と眺めてると、一番手前のドアにいきなり二人は入って行った
「こんにちは矢口さん」
まずは安倍さんが明るく挨拶して、聞きなれた声が聞こえる
「
あ、なっち、こんにちは、圭ちゃんも」
良かった・・・・元気そうだ・・・・矢口さん
「どう?荷物は片付いた?」
「うん、元々荷物なんてないし、いつでも行けるよ」
「そうだね・・・・でも良かったね、案外早く不起訴がもらえて」
そっか・・・・一応窃盗の罪があるもんね・・・・・でも、
不起訴って・・・・あんまり解らないけど、
被害者の人が事件にしないでくれたって感じだよね
「あ〜、うん、良く解らないけど、でもね、盗んだ人の所にはいつかちゃんと謝りに行きたい・・・・
その時は二人共付き合ってね」
「「もちろん」」
- 151 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:23
- 「それで、どうしたの?明日じゃなかったっけ・・・・二人が来るのは」
この二人には矢口さん心を許してるんだね・・・・・ってか
・・・・・矢口さんは誰にでもすぐなつくし・・・・・・・・・
何ジェラってんだか・・・
「うん、ちょっと会いたいって人が現れてね・・・・
どうしようかって思ったけど、いいわよ、入って」
ガラッと引き戸を開けたら右の方にベッドがあり、
起こされたベッドの上にちょこんと矢口さんは入ってた
一瞬驚いた顔をして、笑顔が消えた
どうして?・・・・・・私の顔見たら・・・・きっと喜んでくれると思ってたのに
- 152 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:24
- 「圭ちゃん・・・・誰?おいら知らない」
聞いた事のない声だった・・・・・いつも明るい声で話し掛けて来たのに
「矢口さん」
思わず漏れた落胆の言葉に、
何も言わずにじっと俯いて、指先を落ち着かなく遊ばせている矢口さん
私の口からは声にならないようなヒューヒューとした息が漏れるだけ・・・・・
本当は私と住んでたのは苦痛だったとか・・・・・
でも・・・・・でも大好き・・・って
悲しい気持ちになりながらも、矢口さんの周りに眼が行きだした
ベッドの脇には中身はないけど私がクリスマスにあげたあの靴が置いてあって・・・・・
矢口さんは私があげたジャージを着ていた
それに小さい頃の矢口さんと、多分亜依ちゃんの写真
じわりと胸に込み上げてくる
- 153 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:25
- 「そっか、知らない人なんだ・・・・・じゃあしょうがないね、
吉澤さん帰っていいわよ」
保田さんが結果を出そうとしている・・・・・・矢口さんの為に
「圭ちゃんっ」
安倍さんが保田さんの袖を掴んで何かを訴えようと見ていた
「保田さん」
私は意を決して保田さんの目を見た・・・・
私の中から湧き出るこの気持ちをもう抑える事は出来ない・・・
私の気持ち・・・・・
- 154 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:27
- 「家政婦さんを・・・・・探してもらえませんか?」
目の端で矢口さんの手がピクリと動くのが見えた
「家政婦?それなら紹介所に行きなさい・・・・」
「住み込みがいいんです・・・・・こんな職業だし・・・・・
そうですね、出来れば時間の融通が利いて、ウチの好みを頑張って覚えてくれて
帰って来たら笑顔で出迎えてくれて・・・・・・
いつもお風呂もトイレも部屋もピカピカにしてくれて・・・・・・
寒い日は先に布団に入って暖めてくれるようなかわいい女の人がいいんです」
安倍さんがパチパチと目をはたかせて保田さんの袖をこれでもかと引っ張る
「そんな都合のいい家政婦さんなんて、いる訳ないじゃない」
保田さんは少し笑いながら言う
「いえ・・・・・知ってます・・・・・私は確かにそんな人を知ってます」
にやりと私を見て、
なんだか落ち着かない感じで保田さんにぶら下がる安倍さんを引きずって近寄って来る
「だったら私に探してなんて言う必要なんてないよね」
「そうですね・・・・・それに当てはまる人物を私は確かに知ってますから」
「決めたの?」
一度私のそばで立ち止まり、睨みつけるように聞いて来る
「決めました・・・・・これから色々力を貸して下さい」
うん・・・・・私は矢口さんと住みたい・・・・・また二人で
- 155 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:29
- 「解った・・・・じゃあ、早速手続きして来るわ」
認めてくれた・・・・
ううん、本当は保田さんも私に矢口さんを引き取って欲しかったんだろう
安倍さんがぱあっと明るい表情をして叫びそうになるのを
保田さんに取り押さえられながら部屋を出てった
いきなり二人きりになった、
矢口さんは顔を窓の外に向けてこっちを見てくれなかった
近寄ってベッドのそばに立つ
「心配・・・・・しましたよ」
「・・・・・」
「ひどいじゃないすか・・・・黙っていなくなるなんて」
ぶかぶかのジャージの袖からちょっとだけ見える矢口さんの指
凍傷って言ってたっけ・・・・少し肌の色がおかしいように見えた
触ろうと手を近づけるとバッと布団に隠してしまった
俯いた顔の唇はへの字に結ばれて
- 156 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:31
- 差し出した手を一度握り締めて矢口さんの膝の上に置くと
私はベットに斜めに腰掛けて矢口さんの背中に手を回すよう寄り添い顔を覗き込む
「一緒に暮らして下さい・・・・もう体が良くなる迄なんて言いません・・・・・・
いたければずっといてもいいです」
矢口さんはこれでもかと首を振る
「どうして?」
への字の口元はしっかりと閉じられ、私の視線から逃れるように窓の外を見る
「おいら・・・・周りの人を不幸にするから」
寂しく出て来た言葉に、こみ上げてたじわっとした感情がこれでもかと喉元から溢れる
「そんな事ない、私は矢口さんに沢山幸せをもらった・・・・
矢口さんの笑顔に随分助けてもらった」
これはリップサービスの言葉ではない
- 157 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:32
- いなくなってからずっと考えてた・・・振り返ってみると
いつまでもいてもらっては困ると思っていたのは仕事モードの自分の感情
だけど
吉澤ひとみは・・・・・いつのまにか矢口さんがそばにいるのを求めてた
愛らしい笑顔でおかえりと言ってほしい
あなたの頑張る姿をそばで見守らせてほしい
だから・・・・
「ごっちんに買ってもらった矢口さんの洋服は、私には少し小さくて着られませんし」
少しおどけた口調で言って
固まっている小さな小さな体をそっと抱き寄せる
- 158 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:33
- う・・・・ううっという泣き声が腕の中から響く
「良ければ、一緒に暮らして下さい・・・・お願いします」
「よっ・・・・すぃ・・・」
ガラガラッと引き戸が再び開いて保田さんが入って来たんだろう
「あれ、一応ここは病院だからね」
離れようとする矢口さんを私は離さなかった
「それくらいは解ってます・・・・いつから矢口さんは家に住めますか?」
笑って聞いた私に、保田さんは笑顔で答えてくれる
「明日、送って行くわ、あなたのマンションに・・・・
マスコミには施設に入った事にしておくから」
まだ泣いている矢口さんの頭を撫でながら
「解りました・・・・待ってます」
- 159 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:35
- 矢口さんの体を離して、
への字口で泣いている矢口さんは今度は安倍さんに飛びつかれる
「良かったべさ〜っ、なしてこんな時に素直にならないだべか」
「だって・・・おいら・・・・おいら亜依を・・・だから・・・・」
「それはもう言わないべさ、矢口さんのせいじゃないんだから・・・・」
「亜依ちゃんの分も・・・・生きなきゃね、矢口さん」
う〜と、安倍さんにもたれて俯く矢口さんは、憑き物が取れたように泣きじゃくっていた
「じゃあ、吉澤さんも色々書類を書いてもらわないといけないからこっちに来てもらえる?」
「はい」
「矢口さんも色々話したい事あるかもしれないけど、
明日のお楽しみにしときなさい、じゃあなっちも帰るわよ」
子犬が子犬を撫でるように矢口さんを撫でたら、
嬉しそうな安倍さんは保田さんに抱きつかんばかりに飛んできて
「じゃあ矢口さん、また明日だべ」
と、ドアから出てった
私も後に続き
振り返ると、まだ何か言いたそうな涙目でじっと私を見てた
「明日、待ってますから」
そう言うと、少し笑顔を見せてくれた
- 160 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:36
- うん・・・これでいい、矢口さんは家からゆっくり社会復帰すればいい
その後めちゃくちゃ書類やら身分証明やら提出・記入させられて
こっそり裏から保田さん達と出て来た
覆面のパトカーに載せて送ってくれる間中、安倍さんはウルサイ位に喜んで、
いつのまにか私をよっちゃんとか言い出して親しげにしてくれた
「今度よっちゃんの店行くからサービスしてよね」
「ええ、お待ちしてます、保田さんも一緒にどうぞ、
これでもウチナンバーワンなんすよ、優先的に相手させていただきますので」
調子こいて言うとばっさりと切られた
- 161 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:38
- 「警察でそんな未成年雇ってる店に行ける訳ないでしょっ、なっちもっ」
「え〜っ、勤務中じゃなければ警察じゃないべ」
「それでもダメッ、まぁ・・・・吉澤さん家に遊びに行く位はいいと思うけど」
「だべな、なっちは結構通うと思うけどよろしくね、よっちゃん」
「あ、特殊な学校に通うんですよね」
義務教育を途中で放棄させられた子達の施設
そこでマンションに到着
「そう、矢口さんにはちゃんと言っておくし、
しばらくは、他の事件の合間に面倒見に来るからさ」
「よろしくお願いします・・・・あ、それと保田さん・・・・・
矢口さんは、家で一所懸命勉強して、買い物とか日常生活の事も、もうちゃんと出来ますよ」
一瞬ギロッと睨まれてビビった
「そっか・・・・・
私が前に普通の生活がまともに送れないって言ったの・・・・・気に食わなかったのね」
「はい・・・・すみません」
それからくすっと笑って
「また明日ね」
と優しく言って去って行った
- 162 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:40
- その日の仕事は上の空で、市井さんにまたかと頭を何回叩かれた事か
昼過ぎに来るという連絡がきてたので、いつもどおり昼過ぎ迄寝る事にしてた・・・
けど、何故か今は午前中・・・・ぱちりと目が覚めた
そしてなぜかごっちんまで隣で寝てるけど
「そろそろ起きよっか、ごっちん」
「んあ〜・・・・・そろそろ?」
「わかんね、でも起きちゃったし」
むにゃむにゃと頭の上に置いた携帯で時間を確認すると
「ふ〜ん、よしこでもそんな事あるんだね」
って言われてしまった、ふんっと起き上がって寒い体を震わせると、
リビングに行ってエアコンをつける
戻って来て着替えながら一応尋ねた
「そんな事って、どんな事?」
「んぁ〜、遠足前の幼稚園生・・・・あはっ、わかり易いっしょ」
「何言ってんだか」
でもごっちん・・・・それ当たりかも・・・・・
矢口さんがここに戻って来るのがこんなにも待ち遠しい
- 163 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:41
- ごっちんに朝食を作ってもらって食べたら、
リビングで二人・・・ダラーっとしてテレビを見ていた
そしてもう夕方になろうという頃
「遅いっ」
もう待てないと携帯を掴んだら丁度のタイミングで鳴り出した
相手は安倍さん
「もしもしっ」
勢い勇んで出ると
「早くっ、今下にいるからっ、早く来てっ」
「え?安倍さん?」
「いいから早くぅ〜っ」
叫ぶ安倍さんの後ろから保田さんの声も聞こえる
- 164 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:42
- 「どしたのっ、よしこ」
「わかんない、下に来てって」
玄関から外に飛び出ると一度下を覗き込む
私が昨日乗った車の後ろのドアの所で人の塊がうごめいていた
「何やってんの?あれ」
のんびりごっちんが言うのを置いて私はエレベーターに滑り込む
後をすばやくごっちんもついてきてた
降りると、じたじたと暴れる矢口さんを、
保田さんが後ろから抱えあげて、安倍さんが暴れる手足を捕まえようとしてるけど
きっと凍傷の事があって触れないんだろう、押さえ切れないみたいだ
- 165 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:44
- 「矢口さんっ」「やぐっつぁんっ」
私に気付くと一層激しく暴れ出した
少しショックだった・・・・・そんなに私の所に住むのが嫌なんだろうか
もしかして私は、とんでもない誤解をしてたんだろうか
「矢口さん・・・・・」
「何やってんのよっ、吉澤さんっ・・・早く受け取って」
切羽つまった声で暴れる矢口さんを後ろから抱えている保田さんが近寄って来る
矢口さんはへの字口で真っ赤な顔をしてじたじたとしている
「矢口さん、やっぱり迷惑掛けたくないってぐずるんだべ」
「もう正式に吉澤さんの所で暮らす手配は済んだから、
もう迷惑なんて掛けないって言うんだけど」
困った顔をした保田さんの髪の毛はぐちゃぐちゃなのに、
私は何も出来ずに立ち尽くしてしまった
- 166 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:45
- 「よしこっ・・・・不安なんだよ、やぐっつぁんは」
泣きそうな顔で歯を食いしばっている矢口さんの目は、不安に揺れていた
ほらっとごっちんが私の背中を押す
「矢口さん・・・・・何が不安ですか?
私なら何も迷惑じゃないし、むしろ今日帰って来るのを待ってたんですよ」
暴れたせいで大きなジャージの袖口がめくれて、包帯が巻かれているのが解る
「幸せになるのが不安なんだよね、やぐっつぁん」
後ろから優しい声でごっちんが言ってる
すると・・・
じたじたしていた矢口さんは、
急におとなしくなって保田さんから抱えられた状態で静止した
「そうなの?矢口さん」
おとなしくなった矢口さんを下に降ろして、保田さんが頭上から顔を覗きこんだ
- 167 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:47
- 「おいら・・・・疫病神だから」
「「そんなことっ」」
二人の刑事さんの声がダブる
「よしこを不幸にしちゃうんじゃないかっていうのと・・・・・・
幸せになっていいのかなって思う自分がまだ整理整頓出来てないんじゃない?」
ごっちんはウチを肩でつついてくる
体中にめいっぱい力を入れてふんばって立ってる矢口さん
私と暮らす事を幸せだと思ってくれるんですね・・・・
だったらいいんですよ・・・・・
ちゃんと面倒みます・・・
「おかえりなさい・・・・矢口さん」
「おかえり・・・・やぐっつぁん」
ううっとうるうるして来た目をした矢口さんに、
後ろから抱えて覗き込んでた保田さんが手を離し、
優しく背中に手を回して私の方に押しやる
だから、大きく両手を広げて、矢口さんを迎える準備をした
- 168 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:49
- いつも飛び込んで来てくれたみたいに・・・・・
また飛び込んで来てほしくて
不安かもしれないけど・・・・・
一緒に不安と戦いましょう
あなたが幸せになるのを私は見届ける心の準備はもう出来ているからと
やがて固まっていた矢口さんは、保田さん・・安倍さん・・・・
ごっちんと順番に見ていって、最後に私を見た
だからもう一度言う
「おかえりなさい、矢口真里さん」
私には全然不安はないよという笑顔で彼女を迎えたいと思った
固唾を飲んで見守っている三人
「た・・・・ただいま」
一度俯いてちっちゃな声で言う
「聞こえません・・・・いつもならもっと元気にウチに飛びついて来るじゃないですか」
俯いてた矢口さんは、恐る恐る顔をあげて、
両手を広げて満面の笑みで微笑んでいる私の顔を見てくれた
そしてゆっくり・・・・恥ずかしそうに笑顔を作る
私はうんと頷いて、早く飛び込んでおいでと両手を揺らした
「よっすいっ」
これでもかという位の勢いで飛び込んで来た
背中に手を回してゆっくりと撫でる
「はい、おかえりなさい」
ぎゅうううっ
と私の背中に手を回した腕に力を入れて抱きついてくれててちょっと苦しい
- 169 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:51
- 「ほらっ、やぐっつぁん、ちゃんともう1回挨拶しなよ、
教えたでしょ、挨拶は大切だよって」
「そうよ・・・・これから面倒見てくれる吉澤さんにちゃんと言わないと」
「そうそうっ、笑顔でねっ」
三人は嬉しそうに笑ってた
私の腕の中で顔を上げて、ようやく昔見てた笑顔を見せ始めた
「よっすぃ・・・・ただいま」
「はい、これからもよろしくお願いしますね、矢口さん」
「うんっ、よろしくお願いします」
はぁ〜っ、良かった良かったと額を拭く真似をする安倍さんと、
あんまり手間かけさせないでちょうだいと腕を組む保田さん
- 170 名前:第一章 投稿日:2005/12/10(土) 16:53
- 「やぐっつぁん、これから何か作ろうよっ、出勤前にやぐっつぁんと料理作りたい」
ウチが外出出来ないからと、一人でいそいそと買い物に行ってたっけ
いいの?って聞くように私を見上げるから
「よろしくお願いしますね、いつものように」
ぱあっと笑顔に磨きがかかる
「うんっ、圭ちゃんとなっちも食べてけば?ごっつぁんの料理はおいしいんだよっ」
「ほんと?食べる食べるっ、いいよねっ、圭ちゃんっ」
「もうっ、しょうがないわね〜っ、食べたら報告書作り手伝ってよ」
なんて言いながら髪を整えてる保田さんも嬉しそうだ
さっき迄ぐずぐずしてたくせに〜なんて安倍さんに言われながら
じゃれあう子犬のようにエレベーターに向かって行く
ちっちゃなその背中に一杯悲しみを背負ってるけど
ゆっくりと荷物を降ろして行って欲しいと願わずにはいられなかった冬の日だった
- 171 名前:*** 投稿日:2005/12/10(土) 16:53
- 第一章 完
- 172 名前:*** 投稿日:2005/12/10(土) 16:56
- やっと第一章が終わりました
途中で何人かレスをくれた方、こんな駄作を
面白いと思っていただき誠にありがとうございます
とても嬉しかったです
これからは、色んな人の視点から物語は進んで行きますが
何分想像で遊んでるだけですので実際のシステムとかとは
かけ離れているのかもしれませんが、フィクションと割り切って
楽しんでいただければと思います。
- 173 名前:*** 投稿日:2005/12/10(土) 17:01
- それに結構機械に弱く、管理人様や
皆様に迷惑をかけていないか心配ですので
何かマナー違反をしたり、どなたかのお話と
カブったりしていたら、即刻中止致しますので
お知らせ下さい。
それでは次回第二章でお会いしましょう
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:21
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 175 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:18
- 信じられなかった
すっかり春が近くになって、毎日ほんわかした気候の中、この人はやって来た
- 176 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:20
- ひとみさんがどうしてもここで働かせてくれと言って連れて来た人は、
ありえない程小さくて、かわいらしい子だった
この店の人気ナンバーワンを争うひとみさんの必死の頼みで店長は最初しぶしぶ了承したものの
その容姿と、屈託のない笑顔に安心したようで、みんなを集合させて仲間入りを発表
その子の口から、きちんとした挨拶を聞いた後、私は教育係りを指名されてしまった
私だってまだここで1年しか働いてない
てててと私の前にやって来たその人は、よろしくお願いしますと頭を下げて来た
その後ろから、今迄見た事のない優しい顔をしたひとみさんがやって来て
「矢口さんは、ちょっと前にニュースに出てたけど、
ずっと山奥に住んでたから知らない事も多いんです、
だから迷惑かけるかもしれないけど本人は頑張るらしいんでよろしくお願いします」
はっきり言って、ひとみさんとはあまり仕事以外話した事はない
・・・ってか話し掛けられるのも初めてなくらい
- 177 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:23
- ウェイターはホストと違って、まともな人種だと思ってる
その中でも紗耶香さんと真希さんとひとみさんはひときわ異色な感じが否めなくて、
別世界の人だと一線をひいていた
いつも余裕で客を魅了していく三人・・・
特に二人は年下なんて・・・・って最初カルチャーショックを覚えた位
だから私には理解出来ない人たちと思ってたけど
まさかそんな人が、あの事件の話題の人と一緒に暮らしていただなんて思いもしなかった
そういえば冬に話題になった頃、ひとみさんの様子がおかしくなった事はあったけど
だけど、別世界の人だから、そんな事もありなのかなってちょっと無理やり納得させた
あの事件の事は私も知ってて、
かわいそうな人もいるもんだと思ってたけど、
目の前でにこにこしている小さな人はそんな過去を持っているとはとうてい思えない
とまどいまくってる私に、
困りますよね、じゃあおいらから質問していいですか?といきなり辞書とノートを見せてから言われる
「おいら一生懸命頑張ります、でも色々聞いちゃうし、
イライラする事もあるかもしれないけどどんどんしかって下さい」
家でひとみさんに教えてもらったんだろう
お酒の種類やカクテルの名前がズラリと並んでて、
これはどれですか?と早速聞いて来た
ある程度の種類はビンで説明出来るけど、
カクテルなんかは作ってもらわないと解らないだろうから、
開店準備から改めて説明しはじめた
真剣に私の説明に耳を傾けて、一生懸命聞いてくれるもんだから、
ついつい細かい事迄説明してしまって、気がつくと開店していた
- 178 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:26
- いらっしゃいませの声が飛び交う中
「三好っ、フォローよろしくね」
「はい」
店長から再度念を押されてる中、紗耶香さんが同伴で客を連れて来た
私はおしぼりを持ってすぐにセッティングに行こうとして、
矢口さんに「ここで見てて下さいね」
なんてちょっと先輩ぶって座ったお客様の前に膝まづいておしぼりをお渡しする
すでに紗耶香さんの魔法にかかったお客様は、
うっとりと紗耶香さんを見つめて話しを聞いてて、
その前にコースターを置くと
注文はだいたい紗耶香さんとかが聞くかホストさんが勝手に頼むかするので
オーダーを聞いてバーテンに言うか自分で持っていくのが仕事
混んで来ると各テーブルのグラスの空き具合をチェックしたり灰皿をまめにチェックしたりで案外忙しい
- 179 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:27
- 「ワインでいいですか?」
今日は紗耶香さんが聞いてくれた・・・・
頷くので、赤でよろしいですかと聞くと、爽やかに笑って紗耶香さんは銘柄を告げトークを開始する
ワインは、一応ワインセラーがあり、そこそこいいものが揃っているので言われた銘柄を取りに向かう
矢口さんはちょこちょこと後をついて来てじっと見ている
「ここには、一本で凄い高いものから、安いものまで揃ってますけど、
銘柄を憶えるのは大変ですのでしばらくは一緒に来ましょう」
「はい」
にこにこして下から見つめられるのでちょっと困る
言われた銘柄のボトルを持ってフロアに戻ると、
ピカピカのグラス2つと一緒にワイン入れに氷を入れて持っていく
ワインの場合は、だいたいホストの方が注いでくれるので私達の仕事はこれまで
- 180 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:28
- 次のお客様が来る迄、少しノートを見せてもらう
ひとみさんがだいたいの流れを書いて、私達の仕事を理解してくれている事が解る
あくまでも主役はお客様・・・・それを演出するのがホスト、
それを助けてくれるのがウェイターという説明
「次お客様が来たら、おいら行ってもいいですか?」
「いいですよ・・・大丈夫ですか?」
「はい、目立たず自然におもてなしするんですよね」
おもてなし・・・・・なんか・・・・意外だった
- 181 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:31
- 次にいらしたお客様は、ひとみさんを指名した
控え室から出て来るひとみさんに矢口さんはぴくりと反応したが、
おしぼりとコースターを持ってちょこちょことついていった
お客様をいつものように魅了する笑顔でエスコートすると、
みごとな流れでお客様におしぼりを出していた
それを気にするでもなくいつものように接するひとみさんは、
ドリンクを何にするか予想する為にさりげなく質問したりして尋ねる
「じゃあ、カクテルにしましょう、美代子さんにぴったりのを持ってこさせます」
ひとみさんは名前を聞く迄もなく、その人の名前を言い当てた・・・・
私はうっすらとしか記憶はない1.2回来た程度のお客様
矢口さんに向かって優しくジンベースの軽いやつってみちよさんに伝えて下さい、
私はいつものを・・・とにこりと笑った
するときちんと一礼して笑顔で矢口さんは帰って来た
- 182 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:32
- 私の所に戻って来て、とまどった感じをしているのを、
お客様が見ていないのを確認して矢口さんを心配そうに見ているひとみさんがありえないと思った
「みちよさんはあの人です、そのまま伝えれば伝わりますのでそばに行って静かにオーダーして下さい」
「はい」
店長も少し注目していただけに、
もちろんみちよさんもそんな流れはきちんと掴んでいて、
矢口さんに解りましたというと早速ジンのボトルを手に取った
何も解らないと言ってたけど、何も問題無いじやん・・・・と、少しホッとしてた
なんだ・・・・普通じゃんって
- 183 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:33
- だけど、その後、後は何をすればいいですかと尋ねる矢口さんに、
後は各テーブルをさりげなく見てグラスが空いた時とかに注意すればいいんですよと言うと
じゃあ、少し調べていいですか?と私に許可をとった後、角っこで持って来た辞書を調べ始めた
驚いた私は、悪いけど上から覗き込ませてもらって、何を調べてるんだろうと見ていると
ベースがわからなかったらしい
私が覗きこんでるのを知ってるからか、恥ずかしそうに私に辞書を見せてきて、
二つあるけどこっちの意味ですよね、さっきのジンベースってと笑った
「そうです・・・・ジンを基本にって感じですね、もう一つのは楽器の事ですよ」
教えるとにこっと笑ってへへっと照れ臭そうにしていた
- 184 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:36
- その後、じゃあみちよさんの近くに行ってもいいですか?と言うのでもちろんいいですよと言うと、
グレープフルーツ系と合わせた感じの色のロングのグラスと
最近ひとみさんは車で通勤しているから、お酒に見せかけたノンアルコールのカクテルが出来上がっていた
みちよさんになんていうカクテルなんですかと尋ね
それはひとみが決めるから、黙って置いて来ればいいよと言われていた
はいっとにっこり笑って、おぼんに載せてこっちに歩く姿は、
お手伝いをしている小学生みたいで微笑ましいけど
「矢口さん、こう・・・片手で持ってみて下さい」
三本指でお盆を持てなんてことは言わないけど、
とりあえずこの店の雰囲気に合わせたスマートな感じで持っていかないといけないと習った
危なかしい手つきで、ちょっと無理かなぁと思ったので
「私行きますね、見てて下さい、雰囲気が大切なので」
背筋を伸ばしてスッとした感じでお客様からお出しすると、
いつものようにひとみさんがありがとうと目配せしてくる
矢口さんが持って来なくてがっかりしたのか、
安心したのかは解らないけど、とりあえずいつもどおりだった
- 185 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:39
- 「難しいんですね」
と、カウンターの中に戻った私にそう呟くと、
その近くにあったグラスを置いて片手で持って歩く練習をしだした
その頃、次々と来店するお客様が入って来て、
控え室からどんどん指名された人、サブに入る人が出て来ると、店内は活気付いて行く
一度やってみて解った矢口さんは、たどたどしいながらも私と一緒にちゃんとこなしていった
ひっきりなしに指名の入るひとみさんは、少し開いた時間には、
ひっそりと矢口さんに近づいてさりげなく何かを語りかけ、矢口さんは嬉しそうに何かを話す
その姿は、暗い店内の中で暖かな光を放つようなほんわかした雰囲気が漂い、
初めてひとみさんを人間らしいと感じた瞬間だった
優しい笑顔をしながらも、どこか冷めた瞳で生きているひとみさんを、怖いと思った事さえある
相手に合わせて、色っぽくなったり、子供のようにはしゃいでみたりと役を演じ切る姿しか見た事なかったから
車だってお客さんに買ってもらったようだし・・・・・
三日に1回は、お客さんと・・・・・その・・・・・体の関係になっているという話・・・・
実際どうかは知らないけど
田舎からモデルになりたいと夢見て上京して来て、いくつかオーディションを受け、
都会の人達のレベルの高さにそれも無理だとなかば諦めていた時だった
田舎で溜めた貯金もそろそろ尽きようとした時に見つけたこの店のウェイター募集の張り紙
そして、田舎ではそこそこイケてた私を打ちのめすホストの人達の美しさに、
これは別の道を探さないといけないと、とりあえずバイトしてこの町に留まる事にして一年
だけど男としか付き合った事のなかった私は、やはり信じられなかった
そして・・・・・・・・
そんな私が・・・・・・
これだけ沢山綺麗な女の人の中にいて何とも思わなかった私が
この小さな人を好きになってしまうなんて・・・・・一番ありえない事が起きてしまった
- 186 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:42
- 彼女がここで働き初めて一ヶ月
みるみる矢口さんはここの店のマスコット的な存在になっていった
解らない言葉も多いのか、すぐに辞書で調べたり、
一生懸命私や、他のウェイターの仕事ぶりを見て研究したり、
みちよさんのそばについてシェーカーと格闘したりと
純粋に一生懸命やる姿が、周りに助けてやりたいと思わせているのか、
やたらホストの人も気にしたりして、特に問題も起こさずに仕事を覚えていた
私の事も、三好ちゃん三好ちゃんと子犬のようになついて来るのがかわいらしくて堪らない
まぁ、他の人にもだけど
あの仕事に厳しい紗耶香さんでさえ、
矢口かわいいなぁって暇があればじゃれつきにやってくる位
だけどやっぱり矢口さんの目が悔しい位熱っぽく見つめるのはひとみさんで
ひとみさんも、前は準備が整う頃にやって来てたのに、
今は矢口さんと一緒に来るか、同伴があれば一度店に送りに来るという過保護っぷり
しかも、自分が仕事の後、お客さんとどこかに行く前には、
必ず矢口さんを誰か送ってくれる人を探す
そんな役は大体真希さんだけど、そんなに大事にしておいて
・・・・・二人は恋人同士ではないという
ひとみさんは誰かに縛られるのは絶対にしない人だろうし・・・・・天性のジゴロ体質の人なんだと思うし
それとも、矢口さんがあんまり純粋だから、手が出せないだけなのかもしれない・・・・
でも矢口さんがひとみさんを好きなのは、あからさまに解ってしまう
全身が、ひとみさんを信頼してますと言っている
だから余計ひとみさんが許せなかった
- 187 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:44
- 大分親しくなった頃に、ひとみさんがお客と消えていった後
さみしそうにしてた矢口さんに、ご飯でも食べに行かないかと誘ったら
よっすぃが帰って来たらおいしいもの食べさせてあげたいから帰ってごはん作る・・・と嬉しそうに言われ愕然とした
あまりにけなげで
しかも、その後三好ちゃんご飯ないなら来ませんか?おいら大分上手になったんです・・・・・
と屈託なく笑われてしまい・・・・・送ってくれる後藤さんと一緒に結局ついていってしまった
楽しそうに料理する矢口さんの口からは、最近のヒット曲の鼻歌
- 188 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:45
- その時に初めてゆっくりしゃべった真希さんとの内容は、
明るい語り口とはウラハラな、ちょっとヘビーな内容ばっかり
ひとみさんの世話になり始めて、
国が世話してくれる特殊学校に勉強しに行きながら
警察の友達と一緒に盗んだ家に謝りに行ったりする毎日だったという
家族以外誰もいない、現代と隔離された気の遠くなる程の年月
生きていく事だけ考えて過ごして来た矢口さんが、
ひとみさんと知り合って広がった新しい世界に心を躍らせている姿
テレビのニュースでは伝わって来なかった現実感がそこにはあった
- 189 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:47
- 月に一度の給料日が近くなったある日
「三好ちゃん・・・・お願いがあるんです」
矢口さんは仕事の合間をぬって私にそう切り出した
「何ですか?」
「買い物に・・・・・一緒に行ってくれませんか?」
嬉しかった・・・だっていつのまにか私は矢口さんが気になって仕方が無くなっていた
毎日、仕事に来るのが楽しみになって、
矢口さんが下から笑いかけてくれると私も幸せな気分になる
- 190 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:48
- ひとみさんがその日お客さんといつものように消えてって、
真希さんにまた連れてこられたひとみさんの部屋
二人で楽しそうに作ってくれた食事が目の前に並ぶ
食べてる時に聞いてみる
「そういえば何買うんですか?」
「あ・・・・・へへ・・・内緒」
ん〜、かわいい・・・・
女の子にときめくなんて今迄一度たりともなかったけど
- 191 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:49
- 楽しい食事の時間も終わり、見送ってくれる矢口さんに手を振ってマンションを後にする
「まさか絵梨香さん、よしこに対抗しようとか考えちゃってる?」
真希さんからからかわれるように言われた送ってくれてる車の中
「まさか・・・・・でも別にひとみさんと矢口さんは恋人ではないんですよね」
今の所勝ち目は100%ないし
「ん〜、そうだけどさ〜」
まぁ頑張ってと、にやついて言われた
その時はなんだか不愉快だったけど・・・・
やっぱりひとみさんがひどい人の感じは否めなくて・・・・
だから買い物に誘われて嬉しく思ってしまった
- 192 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:51
- 早速給料日の次の日の昼過ぎに待ち合わせをしようとした
しかし電車の乗り方がわからないと言われて説明してあげてたけど、
結局心配になって私が迎えに行くと、いそいそとひとみさんのマンションにやって来た
下に来たからとメールすると、すぐに降りてきて掛け寄って来た
ごめんなさい、わざわざここまで迎えにこさせちゃって・・・・今日ちゃんと覚えますからと
その姿が子犬みたいで撫で回したいと思った
だんだん変態じみてってる感じ
「ひとみさんは?」
「よっすぃさっき帰って来て寝てるんです」
ああ、お疲れなんですね・・・・・多分昨日はあの大富豪の奥様のお相手
職場以外ではよっすぃとひとみさんを呼んでいる
いつもながら、矢口さんの私服はかわいい
どうやら真希さんのおみたてらしいのだが、かなりイケてると思う
「いっつも車だし黙って行き先もあんまり解らない電車に適当に乗ってたりしてたからちゃんと電車乗った事ないんだぁ」
よっすぃ教えてくれないしってわくわくしてる矢口さん
- 193 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:54
- 「何買うんです?」
「うん、三好ちゃん、いっつもかわいいペンダントとか、
指輪とかしてますよね、だからその店に連れて行ってほしいんです」
「へぇ〜っ、私が行く所でいんですか?」
「うんっ、三好ちゃんの行ってる所がいい・・です・・・・だめ?」
「ダメじゃないですけど・・・・・良ければ気に入ったの譲りましょうか?」
貧乏な私にしては大胆な発言
「ううんっ、おいらのじゃないの・・・・・あの・・・
いっつもお世話になってるからね・・・・・よっすぃに何かあげたくって」
途端に恥ずかしいのか歩幅を小さくして俯いて歩き出す
「そっか・・・・初めての給料ですもんね」
勢い良く見上げて満面の笑みでうんっと頷く
「初めてなんだぁ・・・・自分でお金を稼ぐの・・・・・
あんな大変な思いをしていっつもよっすいは生活してたんだなぁって・・・・・
おいらみたいなの拾ったばっかりにもっと大変になったんだと思う
だからね・・・・・あんまり高いのは買えないけど、もらった分位で何か無いかなぁって」
「全部ですか?」
「だって、よっすぃに渡したら、自分の好きに使えって言うんだもん・・・・・
だったらおいら感謝の気持ちを伝えたいんだ・・・・・誕生日も何もプレゼント出来なかったし」
「好きなんですね、ひとみさんの事」
すらっと言葉にしたら
「うんっ、大好き」
太陽に照らされた春の風の中で、矢口さんの顔はひときわ輝いた
- 194 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:56
- 今日だってひとみさんはあの大富豪の奥さんと、
いやらしいことをして帰って来たのに・・・・・
こんなに屈託無く笑う矢口さんのこんな気持ちを少しかわいそうだと思った
ほら、こんだけ・・・・と私に昨日もらった給料袋を見せてくれた
私と同じ時間働いてるのに、金額は私の半分しかない・・・・
時給の差だろうけど・・・・きっとひとみさんが無理に働かせたから店長に足元を見られたんだろう
嬉そうにまたバッグにしまっていた
恋とか・・・・恋愛とか無かった世界だから・・・・・
もしかしたらこれから矢口さん色々傷ついたりしちゃうかな
なんとなく・・・・・自分が守ってやらないといけない気分になっていた
駅に行って、路線図の見方、切符の買い方、改札の通り方、ホームの選び方
いつものようにうんうんと熱心に聞いてくれる
ご自由にお取り下さいの路線図を見ながら、
矢口さんは楽しそうに、ここに行くならここで乗り換えてこれに行くの?ってまるで子供のように聞いて来て
楽しい電車の時間だった
そう・・・・・矢口さんといると、すごく楽しい気分になる
何事も貪欲に吸収しようという姿勢と、
何があるんだろうというわくわくした姿を見るだけで、なんだか胸が熱くなる
こんな事に感動出来るんだ・・・とか、
こんなに普通の事は本当は幸せなんだって感じれて
- 195 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:58
- 連れて行ったお気に入りのジュエリーショップ
ファッションやアクセサリーに少しこだわる私は、
洋服はそんなに高いの買わないけど、
アクセサリーだけは少し値が張っても本物をつけようというこだわりがある
キラキラと輝くジュエリー達以上にキラキラした目でショーウィンドウや商品を見て悩んでいる矢口さん
矢口さんの所持金じゃ、買えるのは限られてしまうかも
「何あげるんですか?」
「ピアス?耳に穴ほがしてる所に入れるやつ・・・・・
でも、よくよっすぃ無くして来るんだぁ〜、で、指輪もあんまりしないし、腕にする奴にしようかなぁ」
「ブレスレットですか?」
「う〜ん、ネックレスもいいなぁ」
値段の札を見て、○の数を数えたりしてため息をついたりと、
店の店員さんも微笑んでしまう程真剣に悩んでいる
- 196 名前:第二章 投稿日:2005/12/12(月) 23:59
- 「そういえば矢口さんはしてませんよね」
「あ〜、うん、おいらは別にいらない・・・・そんな贅沢言えないし」
「ひとみさんだったらいくらでも買ってくれそうですけどね」
なんてったって、店を通さずにもらえるお金はかなりあるはず
まぁ、勝手な想像かもしれないけどね
「これ以上負担になりたくないんです、おいら」
あくまでもけなげな矢口さん
「じゃあ、おそろいにしてみたり?」
「お揃い?」
ん?お揃いって解らないかな
「同じ物を一緒に身につける事です、恋人同士とかだと嬉しいんですよね〜」
つい昔の自分を思い出して遠い目をして言ってみちゃったりしたら
矢口さんは少し考えこんで
「ううん、よっすぃのだけ買えればいいです」
少し寂しそうにそう言った
- 197 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:00
- その日は、何件か周ってみたけど結局買えなかった
こんなの似合いそうと一目で気に入って手にしたブレスレットは、お金が足りなかった
「似たようなの、他の店でも探しておきますよ、
多分あんなデザインだったら安くであるはず、見つけたら写メ送ります」
「写メ?」
「あ、写メールです」
携帯を出してレンズを見せてみると、やった事ないって笑ってた
自分からの携帯はあんまりしないという矢口さん・・・
ひとみさんに安心の為に持ってるだけだからと笑ってる
夕方が近づくと、矢口さんの携帯に着信が入る
瞬間嬉しそうな顔になるので誰だか解る
「あ、起きた?」
嬉しさを一杯に顔に表して
「ごめんなさい・・・・今、三好ちゃんと買い物に来てるの、もうすぐ帰るね」
いい顔で電話を切ってる
- 198 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:02
- 「ひとみさんですか?」
「うん、どこに行ってるんだって慌ててた」
「じゃあ、帰れますか?電車」
「うん、多分平気、でも三好ちゃんもウチに来ません?
今日のお礼に、ご飯作りますから、食べて一緒にお店行きましょうよ」
え〜っ、でもひとみさんいるんですよね
「でも、この前もご馳走になったし・・・」
「いいじゃないですか、いつもお世話になってるし、ね?
今日はから揚げにしようかなって考えてたんです、嫌いですか?」
「・・・・・・・大好きです」
じゃあいいよね、と手を取って駅へと行こうと、反対に向かったので
「矢口さんっ、駅はこっちですよ」
「あ・・・へへ・・・・こっちか」
大丈夫かなぁ・・・・これで一人で帰ろうとしてた?
- 199 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:03
- 小さな手をぎゅっと掴んで駅に行く間
・・・・ずっとドキドキしてしまった
待って、自分で切符買うから何も言わないで下さいね・・・と、
路線図を見上げながら、さっき乗った駅を探して金額を知ると早速切符を買って改札に向かった
なんだか保護者になった気分で、後ろをついていくと、
一生懸命上にぶら下がってるホームの表示板とかを見ながら4番ホームだよねっと嬉しそうに歩いて行く
とても私より2歳上だとは思えない
かわいらしすぎて、変態のように笑顔で矢口さんの後ろをついていった
追いついた時には、こっちだよねって・・・・・覗き込んでくるので、そうですよと答えた
よっしゃとガッツポーズして、まだかなぁと電車が来るのを待つ
- 200 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:05
- 今日一日で、なんだか矢口さんと仲良くなれた気がする
矢口さんのぎこちない敬語が、取り払われて、マンションに着く頃には、
真希さんやひとみさんと話しているようなしゃべり方になっていた
どうしてか私の小さい頃の話や、田舎の話を聞きたがった
マンションに着いたら、ただいまぁっとひとみさんに飛び込んでいく
それを愛おしそうに抱き寄せておかえりと言ってから私に気付く
「あれ、絵梨香さん、あ、矢口さんに買い物付き合ってくれたんですってね、
ありがとうございます」
なんかムッとした・・・・いつもだけど、
矢口さんを自分の持ち物のように言う様が今の私には非常に不愉快に感じる
- 201 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:07
- 「うんっ、だからお礼にご飯ご馳走しようと思って、
食べたらみんなでお店行けばいいよね」
「そうですね、ウチは今日同伴ですから送りますね、二人共」
「あ〜、じゃあ、ご飯いらない?」
夫婦のような会話
「今日のおかず何です?」
「から揚げしようと思って昨日から漬けといたんだ」
「あ、食べます、からあげだけ」
惜しかった顔をしていたからきっと矢口さんのからあげはおいしいんだろう・・・
「じゃあすぐ出来るから、三好ちゃんとゆっくりしてて」
えええっ、二人で待てと?・・・・・
- 202 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:10
- 「手伝いますよ、私」
咄嗟に答えた
この前も真希さんと二人で作ってくれてすごくおいしかったけど、
その時は私ここで一人待たされてゆっくり出来たけど・・・ひとみさんと二人は・・・
「いいの、三好ちゃんはお客様なんだから、あ、コーヒーでいい?」
「じゃあコーヒーは私入れます」
ひとみさんがスッと矢口さんの隣に行ってケトルを手にした
ひとみさんも気まずかったんだろう
二人は見詰め合って笑いあうと、何もしゃべらずに作業していた
その様がとても眩しくて・・・・悔しかった
今迄私と楽しく過ごしてたのに・・・・
- 203 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:13
- コーヒーを持ってリビングで待つ私の前に座った普段着のひとみさんは間違いなく素敵だと思った
それがまた悔しい
間が持たないのか、テレビをつけてくれる
ジュワジュワとからあげを揚げる音がしだすと、ひとみさんが
「買い物って何です?」
小さな声で聞いて来る・・・矢口さんには聞こえないだろう
え・・・・・いや、これは秘密にした方がいんだよね
「さぁ・・・・・結局は何も買いませんでしたけど」
心配そうな顔
「そうですか・・・・初めての給料がよほど嬉しかったんですね
・・・・・それに随分仲良くなったみたいで」
ちらりと矢口さんの後ろ姿を見てた
「はい・・・・・あ、今日電車に初めてちゃんと乗れたって喜んでました」
くすっと笑ってそうですかと言い口を閉ざす
「かわいいでしょ」
突然言われ、はいと即答してしまった
- 204 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:14
- 一瞬射るように見られちょっとビビりそうになった、でもすぐに笑顔に戻って
「絵梨香さんが認めてくれれば、店を辞めさせて、
もっと普通の店か何かに働き口を探すんですが、どうです?」
「辞めさせちゃうんですか?」
「まだ・・・・当分は働かせますけど、あんまり普通の環境じゃないし、
見せたくない事もありますからね・・・・・・
本人は頑張り屋さんなんで、どこでも大丈夫かなと思うけど」
履歴が小学校でさえ出てないですからね・・・・・なかなか・・・・とちょっと寂しそう
「ほんと・・・・・頑張り屋さんですね・・・・思わず助けたくなります」
私の言葉に、笑みを浮かべうんと頷いて
「とりあえずは、目の届く所でって・・・・なにぶん純粋過ぎて、危なっかしいから」
いつまでも世の中の汚い部分を見ない訳にはいかないだろうけど・・・・・過去が過去だし、
少しでもゆっくり世の中を知ってもらえればって思うんですって・・・・本当に親みたいな口ぶり
こんなにちゃんと話した事は無かった人だけど、なんだか負けてる気分になってくる
- 205 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:16
- 「店の事はほとんど心配ないですよ、
後はカクテルの名前をもう少しと、ワインの銘柄がこんがらがってるみたいで」
「はは、英語はさっぱり解らないらしいですからね、私も苦手だから教える事も出来ないし」
とりあえず特殊学校で少し習ったみたいなんですが、しょせん付け焼刃程度です
なんてコーヒーを飲んで微笑んで、ちらっと見た本棚には、
ずらりと子供の勉強道具、教科書みたいなのが並んでる
一生懸命勉強したんだろうなろぁ、
一緒に勉強して来たなら、親心もつくのかなぁ
- 206 名前:第二章 投稿日:2005/12/13(火) 00:17
- 「絵梨香さんって、恋人いるの?」
突然の言葉
「え・・・・今はいないですけど」
ふ〜んと、ちょっと視線を落として
「ノーマルでしょ、絵梨香さん」
にこやかに聞いて来るひとみさんの目は、昔よく見た危険な色をした目
「まぁ・・・・男の人しか付き合った事はありませんけど」
「ですよね、まぁ・・・・・本人は友達が沢山欲しいみたいで、いい遊び相手になってくださいね」
解りました・・・・そっちは何を勘ぐったか知らないけど、
友達として念を押したんでしょうね
しかし、私はもう矢口さんにときめいたりしちゃってますから・・・・・・
今はひとみさんには敵わなくても、徐々に距離を縮めて行きますから
それから、揚げたての下味がきっちりついたおいしいからあげを食べて
ひとみさんに店迄送ってもらった
- 207 名前:*** 投稿日:2005/12/13(火) 00:17
- 本日はこのへんで
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/13(火) 00:58
- やー面白い。これからも期待してます。
- 209 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/13(火) 18:57
- おー、この人が絡んできましたか。
これからの展開が楽しみです。
- 210 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:38
- 気に食わない
絵梨香さんは、控えめなウェイターで、
堅実に仕事をこなしている印象しか今迄なかった
なんか知らないけど、
こっちで夢があって夢に敗れてこの店で働き始めたという事位しか今迄の印象はない
矢口さんが色んな所からの支援を受けて、
三ヶ月間小学校から中学校レベルの教育を施設の子供達と一緒に受けてから
外の世界に出る事を望みだしたから
だから、私のそばにいれば安心だ店で働いてもらおうと思って店長に無理いったけど
愛くるしさと、人懐こさでたちまち店で人気者になってしまって、
しかもお客に迄いじられるようになってしまった
店長が、冗談で来月から時給あげたるわという位・・・実際良く働いていると思う
明るい笑顔で空気を読み、わからない所も後でこっそり誰かに聞くという気配りが出来る矢口さん
最初事務的だった絵梨香さんが、どんどん矢口さんに、
より親身になって世話する姿や、その眼差しに胸騒ぎを覚えた頃
矢口さんとの会話の中に、良く三好ちゃんという言葉が聞かれるようになった
- 211 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:41
- すっかり懐いてしまった矢口さんは、
三好ちゃん・・・・という独自の呼び方で最近仲がいい
今日だって、起きたら矢口さんがいなくてまた姿を消したのかと慌てて電話したら、
三好ちゃんとお買い物とかのんびり言われてしまった
きっと私が起きる前に帰って来るつもりだったんだろうけどなんだか面白くない
矢口さんは携帯で話しをするのにお金がかかるのを知って、
絶対に連絡をよこさないようになってしまった
一緒に新しく矢口さん専用の携帯を買いに行って、
お金がかかる事を認識してしまって、ほとんど私からの連絡の受信用になっている
だって学校が終わって、
ウチの迎えが遅れてしまって自分の足で帰って来た事が何度かある程・・・・・その距離3駅分
地図を与えても、帰り道は好奇心旺盛にいろんな道に行きたくなるらしく、
迷子になったりして結構大変だった・・・・
それにいくら電話しなさいと言っても聞かなかったし・・・・
- 212 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:44
- 電車の乗り方はまだ教えてない・・・
教えたらどっかにふらふら行ってしまいそうだったから
最初は夕方そろそろ終わるかなという頃に私が迎えに行こうかと電話すると、
必ず今帰ってる途中とか言うし
だから学校前で出待ちして、スーパーで買い物して帰るのは私達の日課になってしまった
その頃は、矢口さんは普通の生活で、私は夜の生活だから時間帯が違って、
起きたらちゃんとご飯の準備がしてあって、やっぱり歩いて学校に行っていた
さすがに行きは送れたり送れなかったりしたもんで
学校では小学生とかしかいないから、
同じ歳位の友達は出来ないんだってちょっと寂しそうだったり
だから、その学校の卒業試験が終わったら、どこか働き口を捜してあげたかった
でも安倍さんや保田さんに手助けしてもらって色々あたってみたけど、なかなか勤め口は無い
あんまり勧めたくはなかったけど、
ごっちんもいるし、ウチの近くにいるから目も行き届くんで勤めさせたけど
市井さんは、矢口さんを気に入ってしまってセクハラまがいの事を言って
後から私に意味を聞いてきたりしてある意味大変
それに比べたら、絵梨香さんは本当に良くしてくれてるから安心と思ってたのに
いつのまにか絵梨香さんが矢口さんを見つめる目が熱っぽい事に気がついてしまった
- 213 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:46
- 「何ぶすくれてるの?ひとみ」
今日は里美さんとの食事の後、店で飲む事になってる
「いえ・・・・ちょっと飼い犬の事で」
「あら、ひとみ犬買ってるの?」
里美さんも、ちゃんと旦那さんがいて子供もいるのに、
月に一度位の割合で私に連絡をくれる
「ええ、この前から」
ごめんなさい矢口さん・・・・とりあえず犬にしてしまってます
まさかこの商売で女と住んでるなんて知られたら、いらん噂がたってしまうから
「なんて種類?」
やべっ・・・・なんだろ・・・・パグ?いやいや、
かわいいけどもし知られたら怒るかも
- 214 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:50
- 「柴犬です」
里美さんはくすりと笑う
「意外ね、洋犬かと思ったら」
「そうすか?」
ちょっと動揺していつもの言い方をしたら、楽しそうに笑った
「ふふっ・・・・ねぇひとみ、今度旅行に行かない?」
「旅行・・・・・ですか?」
「もちろん費用は私が持つわ」
「何かあったんですか?」
里美さんは、名家の嫁に行って、子供の世話も姑が仕切るような家らしい
「ううん、別に何も無いわ、ただ・・・・・ちょっとの間女に戻りたくって」
そう言うお客は多い・・・いや、こういう人たちがいるから私達の職業が成り立つ
- 215 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:51
- 「解りました・・・・日程は教えて下さい、
日曜の夜は休みですからそれに合わせればなんとかなりますよ」
にこっと笑って、
じゃあ今日はとことん飲むわよと、ワインに手を伸ばす
たまにはお友達と飲みに行ってらっしゃいよと、
姑に言われ・・・・そんな日は必ず子供達を姑に取られてしまうのが寂しいようだ
私は女だから・・・・
浮気相手とは疑われる事はないし・・・・
それにウチはちゃんと女性として扱うからね
- 216 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:54
- 「やぐっつぁん、そんな心配そうな顔しないの」
真希さんが、暇だからか矢口さんに近づいて来た
「心配?」
とぼけた矢口さん
「よしこちゃんと来るからさ、同伴でしょ」
うんと頷く矢口さんに、いつも絡むのが紗耶香さん
「やぐちぃ〜っ、そんな寂しいなら市井が相手するからさぁ、控え室いこーぜぇ」
「仕事中っ、紗耶香はゆっくりしててっ」
すっかり仲良くなった紗耶香さんに後ろから抱きつかれた矢口さんは
振り払おうとして邪険な態度を取ってるけど・・・・それも楽しいのか顔は笑ってる
「いいじゃん、そんなにお客もいないし、ちょっとしたら忙しくなるんだからさ、
少しだけイチャイチャしようぜっ」
「もうっ、いちーちゃんっ、そんな事ばっか言ってるといつかよしこに殴られるよっ」
「何っ、やっぱあいつと出来てんのかっ、許さんっ、矢口のバージンは市井がもらうって決まってんだから」
「んな事無理に決まってんでしょっ、いちーちゃん、あんま変な事言わないのっ」
矢口さんから紗耶香さんをひきはがして控え室に戻る真希さん
- 217 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:56
- そしてやっぱり聞いて来る矢口さん
「バージンって?」
「いや・・・・その・・・・・」
やっぱ私に聞いて来るよね
何の邪気もない視線で見上げて来るので困る
言いにくい事なのかと、自分で辞書を調べ始めてしまった
「生娘・・・・処女?」
なんて口に出すとなんともいえない言葉を言って、
さらに解らなかったのか、処女を調べ始めていた
「異性との接触を持っていない娘?三好ちゃん・・・接触って?」
「いや・・・・・・あの・・・・・・その・・・・」
目の端で、控え室からいやらしい目をしながら紗耶香さんが覗いているのが見え
「紗耶香さんっ」
思わず叫んでしまった
待ってましたと紗耶香さんは再び矢口さんの首に手を回して矢口さんの耳元に囁くように言い始めた
「セックスだよ・・・ほら、調べてみ?」
素直に調べ初めて、二人で辞書を覗き込んでいた
- 218 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 14:58
- もうっ、真希さん助けてぇ〜っとか思ってたら、
真希さんは指名されたのか客席へと向かってて、
慌てて私がおしぼりを準備し始めたから矢口さんはそこで中止して仕事に向かった
「真面目だね〜、矢口は」
その後ろ姿を面白そうに見送った紗耶香さんが呟く
「紗耶香さんあんまり変な事教えない方がいいですよ、自然に知る迄」
すると不適な笑顔で
「自然にって、教えないと解らない事はちゃんと教えてあげなきゃ・・・・・
この前生理がやっと来た矢口には特にね」
う〜ん、そうかもしれないけど・・・・・ひとみさんに怒られそう
確かに、初潮がこの前訪れたと聞いた時はかなりビビッたけど、
ちょつと前迄栄養失調だったみたいだからそれも仕方ないのかもしれない
ようやく成長をとげた体で・・・・矢口さんはどんな恋をしていくのか・・・・・・
ううん・・・・もうひとみさんを大好きで・・・・
「矢口が、自然に性的な欲求を持ったりする時が来るだろうけど、
その時にはちゃんとした知識を持ってないと危ないだろ」
それなりに矢口さんの事を思ってるんだなぁと感心・・・・・してる場合じゃない
- 219 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:00
- 接客の終わった矢口さんが帰って来て、みちよさんにオーダーを通し、
それをにやにやと紗耶香さんが見つめてるとひとみさんがお客さんとやって来た
今日の相手は里美さんだったんだ・・・と知って、私がおしぼりを持って行って、
どうして矢口さんじゃないのかの視線をしているひとみさん
飲み物に迷っている里美さんからやっと注文をとって帰って来たら
既に他のテーブルに飲み物を持っていった矢口さんに、紗耶香さんが教えていた
「そう・・・普通の女は男とセックスすると子供が出来るんだ・・・・だから子供を作る為にする行為の事」
へぇ〜と、あんまり解ってない風の矢口さん・・・・・
こりゃ後でひとみさんに質問するんだろうなぁ
それから紗耶香さんのお客様もみえて・・・・
他の客もぼちぼち来はじめて無駄話する暇は無くなったけど
夜中も過ぎて二時位になるとぽっかり客がいなくなった・・・・
これから来る客は大体ホストの人たちと消えていくのを目的に来店する人か、
帰りたくないとばか騒ぎしようと来る客かのどちらか
- 220 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:01
- そんな時にやっぱり勉強熱心な矢口さんは、辞書で調べても解らなかったのか
「三好ちゃんセックスって・・・女の子同士でもすると子供出来る?」
「いや、出来ません」
速攻だった・・・・あまりの早さに矢口さんはしばらく考えて
「ふ〜ん、だめなんだ・・・・それって楽しい?」
もしかしてこのキワドイ会話にしばらく付き合わないといけないんだろうか
「た・・・・のしい人は楽しいでしょうね・・・・」
何をする事なんだろうという純粋な気持ちからなんだろう、次の言葉に驚いた
「じゃあ三好ちゃんおいらにしてくれる?」
「ええええっ」
速攻で叫んで、店中の注目を浴びてしまった
- 221 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:02
- もちろん目の前の矢口さんも驚いてて
私はすみません、お騒がせしましたと少ない客と、店長達にペコペコと謝った
そして注がれるひとみさんの強い視線
何でもないという素振りでカウンターを拭いたりして小声で矢口さんに言う
「あのですね・・・・・そういう事絶対人に言ったらダメですよ」
「そうなの?」
あくまでも邪気のない顔だから、強く怒れない
「そうなんです・・・・そういうのは、お互いに好きで恋人同士とか・・・
夫婦とかじゃないと言ったらダメだし、しちゃいけないんです・・・・普通」
ここの人たちは全員守れてないけど
「ふ〜ん、キスとかってのと一緒だね」
「そうですね・・・・一緒です」
「キスしたら子供が出来る?」
「出来ません」
「おいら子供欲しい」
どこまでも純粋
- 222 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:05
- そういう事・・・・でも紗耶香さんの言うみたく・・・・・
ちゃんと教えないとやばいかもしれない
「男の人の前でそんな事言うのもダメですよ・・・・何されるか解りませんから」
心配になって言うと
「何・・・って、そのセックスとかいう事?」
私は頷く
「恋人ならいいんだ」
再び頷く
そっかぁ・・・・と何故か納得してるけど・・・・・ひどく不安になった
なんとなく真希さんを探してしまう・・・・・この事をひとみさんに言うと怒られそうだから
探しながらも言う
「あの・・・・補足すると・・・・
いっちばん好きな人としかダメなんですよ、好きな人誰とでもしたら絶対ダメ」
「一番・・・・好きな人?・・・そっか・・・恋人だもんね」
矢口さんは呟くと視線をひとみさんに向けていた
だろうね・・・・そりゃ・・・・だけど・・・・・
ひとみさんの事・・・・もっとちゃんと知らないと
「そっか・・・・・じゃあ相手の人もいっちばんおいらを好きな人じゃないとしちゃダメなんだ・・・・」
解ってくれたみたい・・・・良かった
だけど、その後矢口さんは少し元気が無くなってしまった
- 223 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:06
- 「何でそんなにヘコむんです?」
へこむという言葉は、散々教えられて知ったみたい
「へへっ、おいらの事を好きになる人なんているのかなってちょっと考えちゃった」
なんて見上げて笑われると、思わぬ行動をしてしまっていた
「いますよ・・・・いるに決まってるじゃないですか」
思わずぎゅっと矢口さんを抱き寄せてしまった
だってここにいるから
「・・・あんがと三好ちゃん」
きゅっと抱きついてくる矢口さん、
そして店長がカウンターの外から音もせずに近づいて来てて頭を叩いた
「何やってんだ、仕事中だろっ」
「あ、はい、すみません」
二人はぺこぺこと謝って笑いあった
- 224 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:11
- その後も男の人じゃないと子供出来ないんだぁ・・・
って呟きながら今空いたテーブルの片付けに向かおうとお盆を持って行ってしまった
そこで遠くのひとみさんと目が合い・・・・
なんだか闘志に火がついたようににらみ合ってしまった
だって・・・・・・私矢口さんの体に触れたいって
・・・・・抱き締めて改めて感じたから
そしたらいきなり声が聞こえてひとみさんとのにらみ合いを終わらせた
「何、マジボレしちゃった?」
いつのまに真希さんが隣にやって来たのか、
にやにやと私の横に立っていた・・・・そして、その時の私は素直だった
「そうですね・・・・マジボレかもしれません」
せっせと片付けている矢口さんの背中を目に入れた
真希さんは、ポンポンと私の頭に手を置いて笑った後
「いいね〜、そうこなくっちゃ、相手は手強いけどね」
応援するよ・・・・・なんて言って去っていった・・・・
あの・・・・一応私一つ年上なんですけど・・・・とは言えなかった
そして仕事が終わって一度家に帰りシャワーを浴びて矢口さんの感触を振り返りながら眠りについた
次の日から、いそいそと街に出てジュエリーショップを回る
いつも行く街じゃなく・・・・もっと安いジュエリーショップがあるかもしれないと、
あんまり行かない場所に探しに行って見る
昨日矢口さんがピンと来たブレスレットにより近いものを探しに
- 225 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:13
-
「絵梨香さんと何話してたんです?」
帰りの車の中で聞いてみる
あっ・・て思った瞬間矢口さんの体は絵梨香さんに抱き寄せられて、
絵梨香さんが本当に愛しそうに抱き締めてたから聞かずにいられなかった
「ん?・・・・色々教えてもらってただけ」
「どんな事です?」
「・・・・・・・内緒」
何っ?超気になる
その後の絵梨香さんの挑戦的なあの目・・・・・面白くない
帰ったらいつものように私からシャワーを浴びて、
矢口さんがシャワーを浴びてる間に髪の毛を乾かしリビングでテレビを見る
話題のテレビやドラマのビデオをチェックする・・・・
お客様との会話についていく為に必要な事
その間に矢口さんが、軽く食事を作ってくれたりして、
さらさらっとお茶漬けとかだけど、本物のシャケを焼いたり、
高菜を入れたりと一工夫ある・・・・ごっちんに教わったみたい
ビデオチェックしながら食べてしばらくすると矢口さんはすぐにうとうとしだす
自分本位に早送りしたりするビデオに、黙って隣に座っているから退屈なんだと思うけど、
決して先にベッドに行く事はない
- 226 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:15
- 今は、仕事の後に誘われた時には、ちゃんと眠っててくれるようで、
でも私が帰って来た音に気付くとやっぱり起きて抱きついてくれる
いつもなら早送りするラブシーンの所で、
考え事してるせいか早送りするのを忘れてて、気がつくと濃厚なキスシーンが流れていた
おっと、と早送りのボタンを押すと
「あれってキスっていうんだよね」と呟いた
「そうですね」
なんとも気まずい・・・・いずれはちゃんと教えるつもりだったけど
・・・・ってか・・・・紗耶香さん達が面白がって教えてたりするので困るんだけど
「ねぇ・・・・」
ドキりとする・・・・何を聞かれるのだろうか
「よっすぃは子供とか欲しいの?」
「は?」
何言い出すんだろう・・・・また紗耶香さんに何か言われたのかな
- 227 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:17
- 「ど・・・・どうしてですか?」
「ううん・・・・・何でもない」
どきどきさせないで下さいよ・・・・まさか妊娠?
んな訳ないか
でもこの前ちゃんと生理も来るようになったし・・・
聞いた時は本人も驚いてたけど私があたふたしてごっちん呼んで説明してもらったし
「矢口さん欲しいんですか?」
「・・・・ううん・・・・おいらは無理」
あれ・・・・膝を抱えてしまった
「どうしてです?あの・・・・いつか・・・・
素敵な男の人が現れて、結婚すれば出来るじゃないですか」
自分の口から出て驚く・・・・・
そっか・・・・・矢口さんもいずれ出てってしまうんだって
「結婚しないと子供って出来ないの?」
邪気のない目でこっちを伺って・・・・
どこまでの知識を持っているのかに戸惑う
「そんな事はないですけど・・・・・一般的にはそれが一番正しいとは言われますよね」
「そっか・・・・・」
膝の上に顎を置いて、ラブシーンの飛ばされたドラマの続きを眺めた
- 228 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:18
- 多分間違いなく、矢口さんが今一番好きなのは自分だという自信はある・・・・
それがどんな好きかは別として
だって私は、矢口さんを犬だとすれば拾い主で・・・・・一応ご主人様だから
それに自分は間違いなく、その子犬に愛情を持って育てているつもり
まぁ飼い主は所詮飼い主・・・・手放す時はやって来るかもしれない
いつかやって来る矢口さんの結婚の時・・・・・自分はどうするのだろう
今の所予定の無い事柄に悩むのは性に合わない
だから考えない
とりあえず今・・・・・
矢口さんのいない生活は全く考える事が出来なくなってしまったのは確か
- 229 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:20
- 束縛や、拘束を嫌う私が、誰かと一緒に暮らす事なんて、
ごっちんが驚くより自分自身が一番驚いていた
矢口さんに対してエッチしたいとは考えられないけど、
矢口さんの温もりを感じながら眠る事に幸せを感じるのは確かだった
やりたいならいくらでも相手はいる・・・・昨日の麗佳さんだってそう
今度旅行に行きたいという里美さんだって、
ウチとのエッチを気に入ってるから誘ったんだろうし
あのクリスマスを過ごした絵里ちゃんも、
時々会ってと言っては店にやって来て、
金にものを言わせて私を店から連れ出して欲しがるようになった
そろそろ絵里ちゃんにはちゃんとした恋人が見つかって欲しいと思う今日この頃だけど
・・・・・まじで私に惚れてるようだし
いいお客さんだったけど、潮時かもしれないと最低の事を考える
すると、珍しく矢口さんは、先に寝るねとベッドルームに行ってしまった
初めての事で驚く
幾分自立したとはいえ・・・・だいたいウチの後ろをついてくる感じで、
少しでもウチの近くにいたいとそばにいたのに
一応ドラマを見終わって、私もベッドに行くと、
いつもはこっちを向いて丸まってる矢口さんは、向こう側を向いて丸くなっていた
拒絶されてる気がして背中から抱きついていけない、
困ったなぁ・・・もうなんか・・・・最近矢口さんを抱き締めてないと眠れないんだよね
他の人にそんな事は思わないけど・・・・ちっちゃいから抱き枕っぽくて・・・・・
まぁ、今日はしょうがない、普通に寝るかな
そっと忍び込んで、普通に上を向いて目を閉じた
- 230 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:21
-
- 231 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:23
- 再び矢口さんの家に遊びに来てしまった
今日もひとみさんは、お客さんと営業エッチをしてるんだろう・・・
でもすごいよね・・・・・よくあれだけの人と体を合わせられると思う・・・
しかもみんな美人だったりかわいかったりするし
女の人ってそんなに気持ちいいのかなぁ・・・・
いかんいかん・・・何考えてんだ
そうそう、矢口さんを真希さんが送ってくれる時は、
私に気を使ってくれるのか、何故か一緒に連れてきてくれる
多分面白がってるんだと思うけど
今日はブリの照り焼きと、里芋のお味噌汁に、たんぽぽ?のおひたし、
れんこんのきんぴら、ナスの漬物に、なぜかマカロニサラダ
う〜ん、幸せかもしれない
一人で暮らしていると絶対こんな品数と、メニューにはお目にかかれない
「絵梨香さん、嬉しそうだね」
「うん、超うれし・・・・・いです」
思わず素になって言いそうになって、
真希さんが相手だというのに途中で気付いた
「あはっ、いいよタメ語で、もともとそっちのがしゃべりやすいし」
- 232 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:25
- 真希さんって、絶対年下に見えないけど・・・・・
なんとなくいい人なんじゃないかって最近特に思う
市井さんの扱い方とか・・・・めちゃくちゃ上手いし
ひとみさんの事もよく解って、色々協力しあってる気がする・・・
なにかと矢口さんの面倒みてるし
って考えてると、右側から視線を感じる
もちろん下の方からだから間違いなく矢口さん
「おいしいご飯食べると幸せ?」
小首を傾げてごはんを口に運びながら言ってる
ううっ、かわいい・・・・どうしてこんなにかわいいんだろう
- 233 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:27
- 「幸せですよ、もちろん、こんな料理絶対一人じゃ作らないし」
へぇ〜って言いながらも嬉しそうな顔してる矢口さんを見てると真希さんが
「絵梨香さんって作れるの?」
「あ〜、こんなのは作れない、簡単なのしか無理」
「んじゃ、今度来る時は三人で料理しようよ、色々教えてやるよ、ゴトー」
「ぜひ、お願いします」
「オッケー、じゃあ何作る?やぐっつぁん」
「おいら作った事ないのがいい」
食べながら、料理雑誌をはしでめくってる真希さん
「行儀悪いぞっ、ごっつぁん」
矢口さんに言われて雑誌をパタンと閉じてるのを見て笑いながら言う
「おっこられた〜」
ふふっ、何か楽しい・・・・・こういうのいいね、なんか
まさか自分が真希さんにこんな親しげな突っ込みいれる日が来るとは
- 234 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:29
- 食べ終わったら矢口さんの携帯が鳴った・・・もちろん相手はひとみさんだろう
「どうしたの?よっすぃ」
嬉しそうに出ると、うんうんと頷いて
「解った、で、よっすぃどれ位で帰って来るの?」
「そっかじゃあ早く帰って来てね、ごっつぁんが来て今日はごちそうだよ」
は〜いと言って電話を切る矢口さんは、まさにるんるんと声が聞こえそう
「絵梨香さん」
やべっ、ここに私の気持ち知ってる人が一人優しく笑ってくれてた
そして私に向かって一度頷いてくれると
「ふふ、ねぇ、やぐっつぁん、よしこ何だって?」
ああ・・・・私が聞きたい事・・・・聞いてくれた
「うん、今日クリーニングの人が来る日だけど、
準備するの忘れてたから出しててって、帰りは昼過ぎになるだろうからって」
お泊りなんですね
「解る?やぐっつぁん」
「うん、右から順番に三つ出しててって言われた」
てててって、寝室だろうか、隣の部屋に入って行った
- 235 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:31
- 「あれでよしこ几帳面なんだよね、右から三つだってさ、着た順に並べてたりして」
いつもビシッと決まってるひとみさん・・・・スーツの着こなしも髪型も、
いつみてもかっこいいし・・・・綺麗だと思う・・・ちゃんと身だしなみとか気にしてるんだ
しかもクリーニング屋さんが決まった日に来るなんて・・・・やっぱ世界が違うなあ
「ごっつぁ〜ん、ちょっと来て〜」
私に笑いかけてどうしたんだろという真希さんもやっぱり綺麗だと思った
私も後を追いかけてみるとクローゼットの中に沢山のプレゼントの山
「ねぇごっつぁん・・・・これって何?」
三つ色違いのスーツを持った矢口さんは、高そうなスーツがズラリと並んだ下を指差す
- 236 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:32
- 「あ〜、この前のよしこの誕生日プレゼントだよ、お客さんからの」
「この前・・・って一ヶ月も前だよ」
半分しか開けられていない・・・・開ける暇がないのか・・・
開ける気がないのか・・・しかも付箋で一個一個もらった人の名前書いてあるし
多分わざとだろう・・・・
常連客からのはちゃんと開けて感想を述べ、あまり来ないような客のなら興味もない
矢口さんはスーツをベッドに置いて、空けてあるブランドの箱から、
超レアものの財布とか・・・・・高そうなブレスレット、指輪、ネックレスとかを何個か見ていた
「よっすぃ・・・・人気者だもんね・・・・・」
笑顔が胸に痛かった
- 237 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:34
- 「やぐっつあん、ゴトーも結構プレゼントもらったりするけどさ・・・・・
やっぱりお客さんからのプレゼントはお客さんの重みしかないんだ」
「え?」
「多分開けられてるのは、親しい友達ので、あんまり親しくない人のは、
暇が出来たら空けようと思ってるんだよ、よしこは」
それを聞きながら、開けられている箱の中のものを取り出す
「うん・・・・・ねぇこれって高いの?」
雑誌で見た事ある、確か限定もので35万位のバッグ・・・
「そうだね、きっと高いかな」
「じゃあ触ったら怒られちゃうね」
元の場所に戻してパタンとクローゼットを閉めた
閉めた後、ちょっと慌てた感じで笑って
「あ、よっすぃは怒ったりしないけど・・・これくれた人に悪いもんね」
ベッドに置いてたスーツを両手で抱えて、てててと私の方にやって来る
にこっと私の前を通ってキッチンから紙袋を持って来てスーツを綺麗に入れていた
- 238 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:35
- 「どしたの?絵梨香」
「え?」
絵梨香・・・って言った?
「なんか絵梨香さんってムズがゆくってさ、いいよね、呼び捨てでも」
「あ・・・ああ、はい、ぜんぜん」
あ、なんか友達っぽい
「で、どしたの?せつない顔して」
綺麗な顔で私の肩に手を回して顔を近づけてくる
ドキドキしてくるっ・・・・ああ・・・・お客さんってこんな感じなんだ
せっかく顔が近いから、でも恥ずかしくてじっと顔は見れないけど小声で言ってみる
「あ・・・いや、ちょっと、矢口さんひとみさんにはじめての給料で何かプレゼントしたいみたいで、
この前買い物に行ったりしたんですけど・・・・」
そこまでで真希さんは、私が思った事を感じ取ったようで
「あちゃ〜、そうだったんだ・・・・・でも高けりゃいいってんじゃないし・・・・
ん〜やぐっつぁんちょっと落ちちゃったかな?」
よいしょっと隣の部屋で綺麗に畳んで入れていた矢口さんは玄関へと紙袋を持っていってた
その様子は普通で、別に気にしてもなさそうだった
- 239 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:37
- 今の時間は普通に出勤する人が動くような時間・・・・
私達にとっては晩御飯の後って感じ
「矢口さん、今日泊まってっていいですか?」
私は笑顔で玄関から戻って来る矢口さんに話し掛けた
「うんっ、いいよ、もちろん」
嬉しそうにソファに座ってクッションを抱え込む
「何、絵梨香、いきなり積極的」
まだ肩を組んでる真希さんがにやりと笑う
「明日買い物行きましょうよ」
一瞬戸惑った感じでうんと言った
「あ、そういう事ね」
小さな声で囁くと、ポンと肩を叩いた
- 240 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:39
- 「じゃあゴトーはそろそろ帰ろうかな」
真希さんも大変だね
「ごっつぁん泊まらないの?」
バッグの所に行って手にとった真希さんにててっと寄って言う
「これでも昨日泊まりだったからさ、帰らないと洗濯物も溜まってるし」
頭をぽんと叩いて、なでなでする姿がきまってる
「残念っ、また今度泊まりに来てよ」
「あいよっ」
ほっぺにチュッとキスして玄関に向かう
その行動に少し驚いた私の顔を見て、友達の証だよってにやっと笑っていた
二人で玄関でバイバイと手を振る
- 241 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:40
- 「三好ちゃん先にお風呂入っておいでよ」
あ、下着持って来てない・・・けど、
まぁいっか、同じので、寝るやつはTシャツとスウェットを貸してくれたし
広いお風呂・・・・しかも綺麗だし
早く浴びないと矢口さんも入るんだし、と、
置いてある高そうなシャンプーとコンディショナーの使いごこちに感動しながら入浴を済まして出ると、
玄関方面から矢口さんが帰って来て言う
「あれ、早かったね」
「どっか行ってたんですか?」
「ううん、クリーニング屋さんが来たから、ついでにゴミ出して来た」
ふうん・・・・ほんとに家の事は矢口さんがしっかりやってるんだ
おいらも入って来るから先に寝てていいよ〜って、寝れる訳ないでしょ
ひとみさん帰って来るんじゃないの?
- 242 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:42
- ぼんやりと朝の情報番組を見ながら、つい眠くなってうとうとしてると
「あれっ三好ちゃんっ、眠いんでしょ、こっちで寝よっ」
と、手を取って連れて行かれた
セミダブルの十分広いベッドに矢口さんはいつも丸くなって寝ているのかこっちを向いて笑ってた
「何買い物するの?」
って、私が言った意味解って無かったんですね
「プレゼント・・・・まだ買ってませんよね」
私も矢口さんの方を向いて向かい合うと、笑ってた顔がちょっと沈んだ表情
「・・・・・・・・うん・・・・・・でもさ・・・・・喜んでくれるかな・・・よっすぃ」
やっぱりちょっとショックだったんですね
「くれますよぉ・・・・だって矢口さんからですよ」
まぁ・・・・もらったプレゼント達が・・・・・
なんとなく大切にされていない感じだったし
それがすごく高いものだったりすればね・・・・なんとなくね
- 243 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:43
- すぐにスースーと寝息が聞こえて来て、まじまじと眠りについたその顔を見つめる
あどけない顔で眠る矢口さんの顔を見ると、
なんだかだんだん眠たくなって・・・すごく気持ち良く眠りにつけた
だけど、ガバッと矢口さんが起き上がって飛び出したので目が覚めた
時計を見るともう昼になってる・・・・すっかり熟睡してた
で、どこに飛び出て行ったのかと思って部屋を出ると、
玄関で飛びつかんばかりの勢いでひとみさんを迎える矢口さん
毎日こんな事やってんのかな
そのお迎えを受けるひとみさんは、嬉しそうにただいまって言ってる
だけど、私の姿を捉えると、瞬時に冷たい視線を私に浴びせた
「三好ちゃん泊まってくれたの、今から二人で出かけるんだぁ」
「そうですか・・・・いらっしゃい絵梨香さん」
つかつかと私の前に来ると、冷ややかな笑顔でリビングに入って来た
「おじゃましてます」
「あ、三好ちゃん顔洗ってきたら?おいらよっすぃのご飯温めて朝食作るから、パンでいい?」
「あ、はい」
無条件にひとみさんがいると嬉しいのか、心なしか弾んで見える
- 244 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:45
- 洗面所で顔を洗って、髪の毛を整え出ると、
部屋着に着替えたひとみさんがビデオをチェックしてた
「あ、これ、借りました、すみません」
このスウェットとかはきっとひとみさんのだろう
「あ、いいですよ、別に」
そっけね〜・・・・・ってか不機嫌?
じゃあ洗って返しますからと、ベッドルームで着替えようとしたら
「いいよ、洗わなくて、おいらが洗うから」
後ろ姿に言われてしまった
すぐに着替えて、畳んだスウェットを持って出て来ると、
矢口さんはもうテーブルにひとみさんの為の食事と、
私達のトーストと目玉焼きとサラダを持って来てて
「あ、先食べてます、すみません、店迄あんま時間ないし、ちょっと休みたいんで」
怖い・・・・と思ってしまった・・・・・
「あ、ぜんぜん・・・・私の方がおじゃましてるから」
「三好ちゃん、早く食べて出かけようよ、おいら達も時間ないし」
「はい」
矢口さんはもぐもぐと元気に食べながら、
ひとみさんが食べてるぶりの照り焼きの照りの出し方について楽しそうにひとみさんに語りかけ
ひとみさんはビデオで、ドラマを見ながらうんうんと聞いてあげていた
- 245 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:46
- いつもこんな感じなんだろう・・・・・別に違和感なく時が刻まれる
目玉焼きは、私好みの半熟で、胡椒派の私の事を知ってるかのように胡椒がかけられていた
食べ終わった私達は、二人で片付けをして、
シャワーに行ってしまったひとみさんに矢口さんは出かけてくるね〜と叫んで家を出た
矢口さんも私も、そんなにメイクに時間をかける方ではない・・・・
それに矢口さんはしなくても充分かわいいと思う
その証拠に、さっきからひっきりなしに男の人がナンパして来る
「ねぇねぇ、どっこいっくの〜」
「買い物だよっ」
しかもちゃんと答える矢口さん・・・・ちゃんと笑顔で
「急いでるんで、すみません」
にこにこしてる矢口さんの手を取って足早に逃げるのが精一杯
- 246 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:49
- 「ねぇ、さっきからどうして声かけてくる人から逃げてるの?」
全くかわいらしい・・・
「さっきも言った通り、あれはナンパって言って、
かわいい女の子なら誰でもいいんです・・・・・
ついてったら危ない事も多いからへたに相手しちゃ駄目なんです」
「でも・・・・・話しないと解らないでしょ・・・・いい人か悪い人かなんて」
「それは・・・・そうですけど、とりあえず駄目です・・・・ああいう場合は無視して下さい」
この前と違って今日は土曜日・・・・学校も休みだからやけに人が多い
何個か回った後、裏原宿のジュエリーショップで似たようなのがあったから、
そこに向かっているけど・・・・今日は路肩にいろんな人がショップを開いてる
さっきからずっと矢口さんの手を引いて歩いてると、
一つの道に出てる店の前で矢口さんが止まったので手を引かれた
「どうしたんです?」
「あれ・・・・・よっすぃに似合いそう」
クロスのついたチョーカー
首の長いひとみさんには似合うかもしれない
広げられたジュエリー達は、ブランドとか本物とかとは程遠い露店のものだけど、
なぜか凝って、細かい細工のされたあんまり見た事のないようなデザインばかり
- 247 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:50
- 「気に入ったの?」
きつめの視線ながら、なんだか人懐っこい笑顔でここの店の人が話し掛けて来た
「うん、それ見てもいい?」
にこにこした矢口さんはこれっとチョーカーを指差してそれを取ってもらっていた
「それ、美貴のお気になんだ」
「おきに」
小首をかしげた矢口さんに小さくお気に入りって事ですと言うと
「ははっ、あんた外人?」
「ううん、日本人」
ちゃんと返す矢口さんに、その人はしばらく笑い続けた
- 248 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:51
- 「おいら何か可笑しい事言った?」
ちょっと寂しそうな顔で隣でしゃがんでる私に聞く矢口さんがかわいくて
「いいえ、ただ、矢口さんがかわいいんだと思いますよ」
「ひぃっ、けほっ、あ゛あ゛〜、ごめんごめん、ほんとマジかわいいからさ、ごめんね矢口さん」
「おいらの名前知ってるの?」
「今隣の人が言ってたじゃんっ、ほんと、突っ込ませないでよあんま」
「突っ込む?」
そっか、今時の若者は、私達の周りにはいないからね、
ホストの人たちは、年上の女性を相手する事が多いからか、結構ちゃんとしゃべるし
- 249 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:52
- 「あんたまじで、どっから来たの?」
「ん〜」
悩む矢口さんに
「あんまり苛めないで、純粋で素直なだけだから」
なんだか憎めないその人は
「あはっ、ごめんごめん、これら全部美貴のデザインなんだ、一点ものだよ」
「一点も・・・の」
「同じ商品が無い事です」
「そっ、世界に一個って事」
すると、チョーカーを目の前にかざして
「世界に一個かぁ〜」
- 250 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:54
- 「いくらなの?」
「5000円」
露店にしちゃ高くない?
予算よりはめちゃ安いけど
でも矢口さんはキラキラした目でそれをかざしたまま、
いろんな角度からそれを見てた
そのチョーカーをつけたひとみさんを想像してるんだろう
「三好ちゃん、これあげたらよっすぃ喜ぶよね?」
「はい」
その目には、素敵に輝いてるひとみさんが見える気がした
「プレゼントなんだ、彼氏?」
これ男物?・・・・いや、でも似合うと思う
「ううん、彼女、こんっくらいの背で金髪で色が白くて、優しいの」
聞いてもないのに一生懸命ひとみさんを説明する矢口さんに、
店の人はにこにこと聞いてあげてた
- 251 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:57
- 「好きなんだ、その人の事」
優しい顔で聞いてきた
「うんっ、大好き」
ああ・・・・・・・やっぱつらいかもしれない
こんなにはっきり、好きな人から好きな人の事を聞くのは
なのに・・・・・矢口さん・・・・どうしてもあなたに惹かれていきます
きっとこんなに純粋でかわいらしい人っていないし
うん、少なくとも今迄生きて来た中ではいなかった
「そっかぁ・・・・・お揃いでネックレスとかあるけど・・・・・
矢口さんにはどうも似あわ無そうだから、それ買ったら、この指輪2000円で売るよ」
勧められた指輪にも、チョーカーについてるクロスと同じデザインの小さなクロスがついていた
「かわいくない?」
聞かれた矢口さんは、うん、かわいいと言って手に取った
「ありゃ、でもちょっと大きいかな、矢口さんには」
はめてみてとその人が矢口さんの右手の薬指にはめたらやっぱり大きくて
「ん〜、直しとくから今度取りに来てよ」
あれ、まだ買うって言ってないのに
「うん、こっちは持ってかえってもいい?」
「いいよ」
指輪を抜いて、もう一方の手からチョーカーを取ると、
かわいい手作りの袋に入れてくれた
- 252 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 15:59
- 「じゃあ7000円になります」
「えっ?もらってない指輪の分も?」
思わず私が言うと
「もしかして騙しとか思ってる?ンな訳ないじゃん、
来週ここに来てくれればまたいるからさ、1時〜5時位かな」
夜は移動するから・・・・って大丈夫?
「解った、来週また来ればいいんだ」
納得してるし・・・・もう・・・・素直はいいんだけどね〜
「
じゃあ連絡先とか教えてよ」
私が聞くと
「あ、疑ってんだ、だいじょぶだって、美貴いい奴だよ、ね、矢口さん」
「うんっ、美貴いい奴」
にかっとか笑いあってるし
この二人、意外と波長が合う?
「ほい、めったにやらない美貴の名刺だぞっ、
あんたにも似合いそうなの考えとくからまた来てよ」
「あ、うん」
- 253 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:01
- めったにもらえないという名刺を受け取ってしまった
「じゃあミキティ来週ね」
買い物が出来て嬉しいのかあだ名迄つけて満面の笑みで挨拶してる
ミキティだって、と笑い転げてる藤本さんだったけど
「うん、ちゃんと直しとくよ、矢口さん」
涙目でうんうんと頷いていた
ばいばいと手を振って駅へと戻る
「良かったですね、買えて」
「うんっ、ありがと、三好ちゃんのおかげだよ」
「何もしてないじゃないですか、私」
「ううんっ、だっておいらだけじゃここに来れなかったし・・・・・色々探してくれてたんでしょ」
矢口さん・・・・・もうっ・・・・どうしてこんなにいい人なんです?
ニコッと笑ってありがとって言われ、どうしようもなく手を繋ぎたくなって手を取った
「気にしないで下さい、じゃあ、帰りましょう・・・
すぐ仕事ですよ、私1回家に帰ってから来ますから」
「うんっ」
ぶんぶんと繋いだ手を振って、私達は駅にむかう
喜んでもらえるといいですね、矢口さん
- 254 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:01
-
- 255 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:04
- すっかり夕焼けになってるのに、まだ帰って来ない
矢口さんが一緒に寝てないせいで、あんまり寝れなかった
一応、睦美さんとやりすぎて、結局ホテルで昼迄寝てしまったけど・・・
抱き枕を抱いてちょっとでも横にならないと疲れがとれない
睦美さんはどうやら旦那の浮気が発覚したみたいで、
むしゃくしゃしてたみたい・・・・おかげで何度も求められてしまった
解っててもショックなのかな・・・・・ってか夫婦って?さすがに思ってしまう
ってか、最近絵梨香さんと接近しすぎでしょ
いくら矢口さんが誰にでもなつくからって・・・・・
確かにもらった給料は好きにしていいって言ったけど・・・・・
買い物したかったらウチに言えばいいのに・・・・・
いくらでも付き合ってあげるし買ってあげるのに・・・・・
いつもの近所のスーパーじゃなくてさ
なにげにウチのベッドで矢口さんと眠ったって事でしょ
何もないって解ってるけど・・・・・なんとなく気に食わない
- 256 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:06
- この前から、矢口さんは私に背中向けて寝ちゃうし・・・・・少し寂しいんだぞ
出迎えてくれる時に抱きついてくれなくなったし
リビングに戻ってきてあいかわらずビデオチェックしながらも、
隣に矢口さんがいないからソファに寝転がってる
明日は、里美さんと一泊で旅行しないといけないのに
・・・・・まさか、また絵梨香さんを泊まらせたりして
カチャッ・・・パタン
あ、帰って来た
「たっだいま〜っ」
超ごきげんで帰って来てるし
今日はそこまでも出迎えてやらない・・・・ってか、
あんまり出迎えた事なかったっけ・・・・
矢口さんには出迎えて欲しいって思ってるくせに
- 257 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:07
- 矢口さんはすぐにキッチンに入った
「ごめんね、すぐご飯作るから」
「いいですよ、まだ時間あるし」
「じゃあ魚だけ焼いちゃうね」
この前魚屋さんにかわいいからサービスするよって勧められて買ったアジね
ちゃんとごはんはセットして出てってるし・・・・・
ちゃんとクリーニングも出してくれてた
海のそばで暮らしてただけあって、魚料理は得意みたいで、
ちゃんとさばけたり、三枚におろせたりするのがすごい
鼻歌をごきげんで歌いながら汁物を作ってる
矢口さんはウチの好き嫌いや好みをいつのまにか感じてくれて・・・・・
いつもおいしい食事を作ってくれる
ウチが男だったら・・・・お嫁さんにして・・・・・って・・・・あほか
- 258 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:09
- しばらくすると食事も出来上がって
いただきますと一緒に手を合わせて食べ始める
「今日ね・・・・ナンパ?って三好ちゃんは言うんだけど、返事したら怒られた」
何ぃ?
「ダメです・・・・返事なんてしたら余計図に乗ってつきまとわれるだけですから」
魚の身をほぐしながらきつめに言うと
「よっすぃもダメなんだ・・・・・友達沢山作りたいのに」
「友達はいるじゃないですか、ごっちんだって安倍さんだって保田さんだって・・・・・
それにナンパはトモダチにはなりませんから絶対ダメ」
やりたいだけだっつーの、あんなの・・・それにウチなんて友達っつったらごっちんくらいだしね
「は〜い」
よしよし、一応絵梨香さんも注意してくれたんだ
- 259 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:13
- 「あ、今日新しい友達出来たよ・・・・美貴ちゃ・・・・・
ミキティっていうの・・・・道でアクセサリー売っててね」
あ〜、ああいう人ね・・・・まさか何か売りつけられた?
「ああいう人も、怪しい人とか多いですから、気をつけて下さいね」
言い切る前にそう注意したから、ちょっと悲しそうな顔をして
「それでね・・・・あのね・・・・・あの・・・・・あっ、明日、明日店お休みだよね」
「ええ・・・ですけど、
お客さんと旅行に出かける事になってしまって・・・・・明日はいないんですよ」
「そっ・・・・か」
残念そう・・・どこか連れてってほしい所でもあったんだろうか
泊まりだから丸二日・・はさすがに矢口さん来てから家を空けた事なかったもんね
「じゃあまた絵梨香さんに来てもらってもいいし、ごっちんに来てもらいましょうか」
「ううん、一人で平気」
へへっと笑って・・・そっかそっか・・・じゃあ今度ゆっくりした時にするねと、
訳の解らない事を言いながら食べていた
- 260 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:15
- ちゃんと一人で電車に乗って帰って来たんだぁ〜と少し得意そう
まぁ自分の知らない場所でちゃんと生活出来るようにって少しずつ教えていってるけど・・・・
お客さんが、だんだん自分の子供に手が掛からなくなると、
楽だけど少し寂しいという気持ちが解る気がした
「だから明日は色々どっか行ってみるね・・・・あ、ちゃんと掃除と洗濯はするから」
「ああ、それはいいんですよ、家は矢口さん来てから綺麗になってますからね、
でもあんまりどこそこ行くと迷子になっちゃいますよ」
「大丈夫っ、おいらこうみえても方向感覚はいいんだよ、地図なしで東京これたし・・・・へへ」
いつも持ってる地図見ればだいたい歩いて行けるしって
ん〜、なんか心配・・・・安倍さんに後で電話しておこう・・・
絵梨香さんとまたどっか行くとなんとなく嫌だし
ご馳走様をして、仕事の準備をして矢口さんと一緒に通勤
私はもっと後からでもOKなんだけど、矢口さんを一人でどうしても行かせられない
- 261 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:19
- 保田さんには過保護過ぎるのもよくない・・・・と何度か叱られた事がある
もう矢口さんは一通り家の事も覚えて、生活に必要な事は大抵理解している
思ったより・・・ううん、多分矢口さんは私なんかよりよっぽど強くって、
与えられた境遇にきちんと対応出来る能力があるんだと思う
それでもやっぱりやきもきするのは、
きっと子離れ出来ない母親と表現するのが一番近いんだろうけど
「おいらも一人前にならないとね」
ぐっと拳に力を込めて私に唇をかみ締めた決意の顔を向けてるけど・・・
そんなに頑張らないで下さいよ・・・と言いたくなる
「いいんですよ、もっとゆっくりで、時間ならいくらでもあるんだから」
「ん〜ん、だってさ・・・・よっすぃおいらの面倒ばっか見てたら
結婚とか・・・恋人とか・・・・おいら邪魔になっちゃうもんね」
おしっ・・・と気合を入れてる
「そんな事言わないで、無理せずに行きましょう」
心からそう言う
- 262 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:22
- そっか・・・それでこの前子供は欲しくないのとか聞いて来てたのかな?
別に彼とか恋人とかいる訳じゃあるまいし・・・・
こうみえてウチ恋人っていた事ないかも・・・・
中学ん時にちょっと好きかなって思ってた先輩にヤラれちゃって
なんとなく誰でもいいかな・・・・位だったし
今もその延長戦で、しかもそれを職業にしちゃってるし
ちらっと矢口さんを見たら、
ほっとしたように助手席でウチの顔と手を交互に見たりして落ち着きがない
「あのね、よっすぃ」
「なんです?」
「やっぱいい・・・・・今度ゆっくり話すね」
「なんですか?気になるじゃないですか」
「ううん・・・くだらない事・・・・・」
って落ち着いて笑って外を見始めちゃった
「矢口さん・・・・何か悩みでもあるんですか?」
「ないよっ、こんなに幸せなのに・・・・ある訳ない」
「ほんとですか?」
信号待ちでちょっと顔を伺ってみたけど、笑顔でないないと笑った
- 263 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:26
- 店にいくと、まず店長ににこやかに挨拶して、
絵梨香さんがいればおはようございま〜すと飛んでいく
ウェイターやバーテンは店の掃除や、花を飾ったりグラスを磨いたりと忙しいけど
私は控え室でゆっくり準備してメイクして置いてある雑誌で流行をチェックしたりする
今迄家でやってたけど、ここで他の人の買って来た雑誌に目を通すのもなかなか勉強になるし、
ウェイターの人の地味な苦労も少しは感じられる
いつのまにか店長がそばに来てて
「なぁ、吉澤・・・・矢口っちゃんの給料・・・・少し上げるよ・・・・あれじゃあんまりだよね」
冗談であげよう言ってたけどやっとマジになってくれたんだ
「まぁ・・・・・通常じゃ考えられませんけど、
ウチもどれくらいやれるか未知の世界だったんで強くいえなかったし」
「いやいや・・・・ほんと、あの事件知ってるだけにちょっとなって思ったけど、
めっちゃいい奴やしかわいいし・・・・仕事も真面目だし他のバイトと一緒だからさ」
ほんとだよ
「じゃあ、通常の時給でいいんですか?」
「いや、まぁ・・・・そうだな、今日から通常で計算するよ」
やったね
「ありがとうございます、本人も喜びますよ」
「吉澤もすっかり客連れて来るようになって、稼がせてもらってるからな、
矢口っちゃんも常連から顔覚えられて指名っぽく呼ばれるようになってるし」
「はい」
- 264 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:29
- ほんと・・・・あのちっちゃい子かわいいわね、
とお客さんが手招きする事がある
呼ばれた矢口さんは子犬のように嬉しそうに来るもんだから、
お客も喜んじゃって帰り際にチップをくれたりする
矢口さんは困りますと言っていつも返そうとするが、
ホストの人達に、いいからもらっとけって言われていつも私の所に持って来る
それをまたみんな見てるもんだから、かわいらしくて仕方が無いみたいだし
んぁ〜っ、ねむっ、一人でこの部屋にいるとやっぱ退屈で、
今日は矢口さんがいなかったからなんかスッキリしない目覚めだったし
「んぁ〜、おはよ、よしこ」
突然入り口から眠そうに入って来た
「おわっ、おはよっ、ごっちん・・・・ってかちょい早くない?」
「ん〜、なんとなくね、早く来るとやぐっつぁんに抱きついてもらえるし」
ピクッと私が動くのを見て
「妬かない妬かない・・・・ゴトーは取ったりしないよ」
にやにやとウチを見てごっちんは身だしなみを整えだす
「何言ってんだか」
「くふふふ、楽しくなって来たね〜」
なんだそりゃ・・・・・
- 265 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:34
- 「あ、そうだ、ごっちん明日の休み何してんの?」
「おっ、デートの誘い?でも明日はゴトードライブ連れてけって客がいてさ〜」
「そっか・・・・・んじゃいいや」
ごっちんはダメかぁ〜・・・
みんなが来る前に安倍さんに連絡入れとこ・・・・危ない危ない、忘れる所だった
『どしたのよっちゃんっ』
相変わらず慌しい感じ
「あ、お久しぶりです」
それから矢口さんが明日家に一人だという事を言うと、
『いいよぉ、どうせなっちも夜は暇だしさ、次の日出勤だから早く出るけど泊まりに行くね』
「よろしくお願いします」
まったく過保護もいい加減にしないとまた圭ちゃんに怒られるよ・・・と苦言を残して切った
- 266 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:42
- 「な〜るほど、そういう事だったんだ」
準備の出来たごっちんがにやついてこっちを見てた
「まぁね、いっつも一人にしてるようなもんだから心配いらないとは思うんだけどさ・・・・・一応」
「・・・・・・・帰って来て、またいなくなってたらショックだから?」
ドキッとした・・・・・確かにそれも少し怖いから
今迄ずっと一人で生きてこれてたのに・・・・・
こんなに誰かを必要としてた事は無かったから
矢口さんがまたいなくなってしまったらって・・・・・少しだけ怖かった
だからホント子離れ出来ない母親のように・・・・・
色んな事が出来るようになっていく矢口さんに寂しさを覚えてしまうのかもしれない
「そうだね・・・・・ショック・・・・・だね」
矢口さんの中でウチに迷惑にならないようにっていう思いは強いから、
またいつ出て行くと言い出すか解らない
絵梨香さんに取られるのはいやだと強く思うけど
もし私と矢口さんと恋人同士になったとして・・・・・
私が矢口さんを傷つけるのは目に見えてる
一度矢口さんを襲ってみたり?
いや・・・・そんな湧き上がるような欲望は私の中には起きない
ただそばにいて欲しい
それだけ
「複雑だね、男前な乙女は」
じっと考えこんでる私に、ごっちんはこう言ってフロアへと向かっていった
- 267 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:45
- 開店後、賑やかな店内に、ひときわ歓迎の声があがる
何故かというと・・・・アヤカが来たから
この店で古くから・・・高校の時から通ってる客であり、
そのルックスと性格からここの若いホストの憧れの的といってもいい存在
だけど、そのアヤカが気に入ったのは、なぜかウチ
前は、既に辞めてしまったホストに夢中だったみたいだけど、
その人が自分の店を持つ為に大阪に行ってしまったので、
そこに入って来たばかりのウチを教育してくれた
「いらっしゃい、今日は婚約者は?」
「もう、いきなりそんな事言わないでよ、ここは現実を忘れさせてくれる場所でしょ」
ごめんと席に案内すると、矢口さんがトレイを持っておしぼりとコースターを持って来る
- 268 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:46
- 「あら、新人さん?」
「まぁ・・・一ヶ月位かな、矢口さんって言うんだ、よろしくね」
基本的にウェイターはあまり話しをしないので、矢口さんはにこにこと頭を下げるだけだった
「ふぅん・・・・かわいい、よろしくね、矢口さん、アヤカって言うの」
「はい、よろしくお願いします」
アヤカはいつもドンペリなので、いつものと矢口さんに伝えた
オーダーを通しにカウンターに消えた後、私と矢口さんのやりとりを見て
「ふ〜ん・・・・」
「何?」
「いやにあの子に対する目が優しいから、少し驚いてるの」
「そう?ただのウェイターだよ」
「子犬に向けるような目」
かなわないなアヤカにはと、ふっと笑ってしまった
- 269 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:48
- 「そういえば子犬を飼うとか飼わないとか言って悩んでなかったっけ」
「あ・・・・うん、アヤカの一言で結局飼ってみる事にした」
そこにドンペリのボトルを持って矢口さんが登場
静かにコースターにグラスを置いて、
私にはいつものノンアルコールを置いた後ボトルを私に渡した
「それでどんな感じなの?」
その飼い犬がこの人・・・・とは言えないし、目の前で笑ってるし
「いい感じだよ、毎日癒される」
何の事を話してるんだろうとにこにこしながら私がドンペリの栓を開けるのを見て、
開けた後の線やらラッピングの紙くずの片付けをして一礼して去って行った
「へぇ、今度見に行っていい?」
「いいよ・・・でも無理なくせに」
アヤカだけは家に呼んでたっけ・・・昔は
- 270 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:49
- でも今は・・・・なんとなく入れたくない
なんだろ・・・・・あの家で淫らな事はしたくない・・・・って何考えてんだろ、この私が
「どうして?」
アヤカの言葉にまた現実に引き戻されたという感じで片繭をあげた
「結婚の準備で忙しいんでしょ」
「そうね・・・・今日だってひとみに会いたくてやっと来たのよ」
「そっか・・・・・じゃあ早目に抜けるようにしようか?」
満足いったのか、にこりと微笑んで私の注いだグラスをもちあげた
「ええ、じゃあいただきます」
「いらっしゃい」
- 271 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:51
- あの相談した日から、
毎日先方のお宅に向かって打ち合わせをするのに疲れたと話し出す
自分をいい所のお嬢様と思っている相手の両親に合わせて、
おとなしいお嬢様を演じるのに嫌気がさしたりしているようだ
確かにアヤカはお嬢様だけど、
若い頃からその辺のゴロツキをまとめたりしていたなかなかのツワモノ
お金持ちをいい事に高校生からここに入り浸ってたから・・・・
噂ではヤバイ事もそうとうしてたみたい
絵里とは違った感じのお嬢様だったに違いない・・・・
会話の端々に昔の片鱗を垣間見る事があったりするし
でも店長に言わせると、随分昔に比べると落ち着きと色っぽさが増したようだ
結婚相手の話やその親の話を、面白く話してくれるアヤカに、私もつい楽しくなって話し込んだ
サブについた麻琴も、へぇ〜そうなんすかぁなんて感心しながら、二人でドンペリ一本空けてしまった
- 272 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:53
- 満席になった店内で、いつのまにか時間が過ぎていたのと丁度ボトルが空いたのとで、
アヤカがそろそろと店長を呼んだ
明日は里美さんと旅行だから、矢口さんにちゃんと言っておかないとと、
アヤカに着替えてくると言って控え室に戻る時さりげなく矢口さんを呼んだ
「どうしたの?よっすぃ」
「今日はもう帰りますので、帰りはごっちんに送ってもらって下さい、
それとウチのご飯は準備しなくていいですし寝てて下さい、帰ってすぐ出る可能性が高いと思いますから」
「うん・・・解った」
笑ってるけど、なんだか輝きはない
「それと明日の夜は安倍さんが遊びに来てくれるそうなんで、泊めてあげて下さい」
「なっちが?」
パッと顔を輝かせるんで、少し安心して
「ええ、だからすみませんけど」
「大丈夫大丈夫っ、行ってらっしゃい」
にこっと笑ってくれる
- 273 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:55
- バッグと鍵を持って、矢口さんと控え室を出ると、
アヤカの帰る準備も整ったようで、腰に手をそえてエスコートしながら店を出る
帰り際ごっちんによろしくと手で言うと、
手でオッケイと合図をしてくれて安心して行く事が出来る
全員のありがとうございましたの声を後に、エレベーターのホールでの待ち時間、
二人きりになると、アヤカは待ちきれないとばかりに私の首に手を回した
「焦らないでよ」
なんて言いながら、寄せてきた唇をしっかり堪能していると、
店の中の音が漏れてきて誰か出て来た足音
横目にちらりと映る影にヤバイっと顔を離した
視線を向けると、驚いた顔の矢口さんが再び笑顔になって
「お客様・・・忘れ物でございます」
ハンカチを差し出して来た
- 274 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:56
- アヤカは何故か私の顔色を伺い、
その後ゆっくりとありがとうと言ってそのハンカチを受け取った
「失礼しました」
と、矢口さんはすっかり板についたウェイタースマイルで一礼しまた店に入って行った
呆然と私は店の入り口を見つめてしまった
「どうしたの?」
アヤカの声
我に帰ってアヤカを見ると、少し探るような視線で見ていた
「ううん、早く行こう」
丁度来たエレベーターに乗り、車を取ってきていつものホテルに入る
- 275 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 16:58
- 私はさっきの気まずさを一人感じないように、ひたすらにアヤカを攻めた
「あんっ、ひとみっ・・・ああっ・・・はっ・・・激しいわっ」
はぁはぁ・・・・さっきの驚いた顔が私の胸の中でじわじわと痛い
矢口さんには・・・・・
いつもキスっていうのは一番好きな人とじゃないとしたらいけないと
口をすっぱくして言ってたから
さっきのを見られてたとしたら・・・・・
私が一番好きなのはアヤカという事になって
そしたら・・・・・・
矢口さんはきっと私を一番好きだと思ってくれてると自負してるから
傷ついたかもしれない・・・・・
そんな恋愛感情なんて私に持ってるのか持ってないのかは解らないけど・・・・・
とにかく恋愛というものを知らない矢口さんは・・・・・
さっきのをどう捕らえたのか・・・・
むちゃくちゃにアヤカの中心を舐めながらそんな事を考えていると
「ひとみぃっ、あんっ・・・なっ・・・どうしたの?」
足を広げて、その間にあるウチの髪を掴んで片手は体を支える為に
ベッドにもたれているアヤカが、掴んだ髪をぐいっと引っ張った
「どう・・・・したって?」
髪の毛痛いっす・・・そんなにひっぱらないでよ・・・・という視線も向けてみた
- 276 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 17:00
- 「何を・・・はぁはぁ・・・考えてるの?」
体を支えている手をかくんと折って、上にずりあがるとアヤカを抱き寄せる
「どうやったらアヤカをもっと気持ちよくさせられるかだけ考えてるよ」
愛液で濡れた私の口の周りをアヤカは唇を寄せてついばみながら
「さっきの子でしょ・・・・・子犬みたいな」
解ってるような視線
「まさか」
これ以上突っ込ませないように唇を塞いだ
ねっとりと舌を絡めて途中でやめてしまった行為の続きをする
さっきの行為でアヤカは絶頂に近くなっていたからか、それからは口を聞かなかった
- 277 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 17:01
- はぁっはあっ・・・・
とうとう上り詰めたアヤカ
ウチにぎゅっと抱きつくアヤカに手を回して、髪の毛を撫でる
「はぁ・・んっ・・・ひとみ・・・・・やっぱ変ね、今日は」
「そう?別にいつもと一緒だよ・・・・あ・・・・・違うかも」
「ん?」
私の顔を触りながら優しい顔をしていた
「これがアヤカとの独身最後だからかな」
- 278 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 17:04
- 「・・・・・結婚したら終わり?」
普通・・・・・そうでしょ・・・・・
ってか女とは寝ないし・・・・普通・・・だけど
「え・・・・・たまには会ってよ」
「うん・・・・・旦那よりうまい女なんてひとみくらいじゃない?」
「うまいの?ウチ」
良く言われる・・・・自信もある
「女にしとくの勿体無い位・・・・」
なんて、私の胸揉んでるし
「それに、抱く楽しみも知ったし」
「そっかぁ、アヤカももうすぐ人妻かぁ」
私の胸に吸い付きながらふふっと笑ってるし
「そっ、まだ若いのにね・・・・・しょうがないわ、それも運命だもの」
政略結婚なんて今時・・・とか思うけど、結構イケメンみたいだし、
相手も結構やり手のようで満足してるっぽいし
「それよりやっぱりひとみの方が気になる」
んっ・・・感じて来た・・・・のに何?
- 279 名前:第二章 投稿日:2005/12/15(木) 17:05
- 「気付いてる?あの矢口さんって子に対するあなたの眼差し」
「眼差し?」
「そっ・・・・・私の知らない優しい目してた」
まぁ・・・・子供みたいなもんだし・・・・年上だけど
「ちょっと悔しいから悪戯したの・・・・」
「えっ?」
何
「わざとハンカチ忘れたりして」
「え?」
やられた・・・・・
私の胸を弄ぶアヤカについ何でそんな事・・・・・
って怒鳴りそうだったけど・・・・・なんとか抑えた
「ひとみは誰のものにもなって欲しくなかったんだけどなぁ」
「矢口さんとは・・・何でも・・・ぁっ・・・ないから」
そう・・・何もないし・・・・これからも何も始まらない・・・・
ただ・・・・・私の隣にいつもいるだけ
「かわいいわね・・・・ひとみは」
本格的に攻められ・・・・それからの思考回路はショートしてしまった
- 280 名前:*** 投稿日:2005/12/15(木) 17:06
- 本日はここまでです
- 281 名前:名無し飼育 投稿日:2005/12/15(木) 22:34
- 矢口さんがかわいいですな
友達になりたいw
- 282 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/16(金) 12:48
- 面白いですね。これからどうなるのか楽しみです。
- 283 名前:バード 投稿日:2005/12/17(土) 02:25
- モテモテ矢口さんいいですね〜
- 284 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:00
- 急に矢口さんが沈んで行った
表面ではいつも通り笑ってるけど
3時を過ぎた頃、お客も少なくなって、
ゆったりとした時間になった頃聞いてみる
「どうしたんです?何かありました?」
まぁひとみさんがアヤカさんとさっき帰ってしまったからだろうけど
「ううん、何もないよ」
ケロッとした顔をして笑ってるし
でも解る、矢口さんのこんな顔は、ちょっと無理してる笑顔
しんどい時ほど、こんな笑顔をする
だから、真希さんに今日もごちそうになりに行く?と言われ、
二つ返事で行くと言う
ここの所ひとみさんのマンションに行く事が増えて、
家の事が少し出来ないけど、そんなのは気にしない
真希さんも実は、
ここで食べた方が一人で食べるよりも楽しいから好きなんだそうだ
今日は、三人でキッチンに入る
矢口さんは意外と仕切り魔で、
三好ちゃんはアレして、コレしてと指示してくる
- 285 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:06
- いつものように楽しく会話して、元気に食事する矢口さん
だけど、矢口さんがトイレに行った時に真希さんに聞いてみる
「矢口さん、何かあったんですかね」
すると、真希さんは何もかも知ってるような眼差しで唇の端を少しあげて笑った
「心配?絵梨香」
「そりゃ・・・・・あんな風に隠されると、余計心配で」
なぜか私の頭に手をやって優しく笑ってる
「ふふん・・・やぐっつぁんがいつもの様子じゃないって解ってるんだ・・・・いいね絵梨香」
なんかバカにされたみたいで
ふざけないで下さいっと手を払ってみる
「もうっ、絵梨香とゴトーはそんな硬い仲じゃないっしょ、敬語はなしって言ったじゃん」
「くっ・・・・・で・・・ですけど・・・・」
振り払われた手をなでなでしながら食べ終わった茶碗を重ね出して
「やぐっつぁんもさ、乗り越えないと行けない事・・・・・沢山あるからさ・・・・・
ウチらは、それを見守るしかないんじゃない?」
ぐぐっ・・・・・確かに・・・・
「本当に好きだったらなおさらさ・・・・・」
色んな事を初めて感じるやぐっつぁんだから・・・・
教わるより自分で学んでいった方がいいっしょ
特に、色んな人との交わり方についてはね・・・・・と、
妙に納得させられるような言葉を吐いて洗い物を持ってキッチンに行った
私が追いかけたら、矢口さんもトイレから出て来て一緒に片付け出す
- 286 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:08
- そこにひとみさんが帰って来たのか
ドアの音が聞こえたので矢口さんは濡れた手を慌てて拭いて出て行く
「おかえりっ」
「あ、ただいま」
キッチンからちらっと顔を出して、その様子を見ると
昨日見た光景とは違い、少し強張った表情のひとみさんがいた
そして、私の姿を見て、ちっと言わんばかりの表情になった
「ごっつぁんと三好ちゃんと今ご飯食べた所、よっすぃいらないって言ってたから・・・・、あ、ご飯ならあるよ」
お茶漬けでもと言った所で、いりませんと言いながらこっちにやって来て
「すぐ出てきますから・・・・ごっちんいつもありがとね」
「ううん、ゴトーここでご飯食べた方が楽しいからさ、
よしこ毎日アフターしてくれるといんだ・・け・・・・あ、ゴトーもたまにあるから無理か」
まっ・・・真希さんっ・・・・どうしてそんな事言うんです
アフターなんて言い方・・・・・・あ、でも矢口さんには意味解らないか・・・・
聞かれた時、お客さんと店が終わった後遊びに行く事っていうだけで、
まさかエッチしてますなんて言う訳にもいかなかったし
- 287 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:10
- ひとみさんは、口でフッと笑って何か聞きたそうな矢口さんに笑顔を向けると
くるっと私に視線を向けて少し上から見下すように
「絵梨香さんも、いつもありがとうございます」
言われた途端、ピリリと背筋に冷たいものが走る
「い・・・・いえ」
「んじゃ、よしこも帰ってきたし、そろそろ絵梨香帰ろうか、せっかくの休みだもんね」
「あ、うん」
洗い物を終えて手を拭きながら肩を抱いて来た
きっと、怯えた私を助けてくれたんだと思う
「また来てね、三好ちゃん、ごっつぁん」
「うん、なっちによろしく言っておいて」
「は〜い」
バッグを持って玄関に向かう私達を、矢口さんだけ見送りに来て、
ひとみさんはベッドルームへと入って行ったみたいだった
- 288 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:13
- 笑顔で見送ってくれる矢口さんを少し心配しながらドアを出ると
「よしこ機嫌わる〜・・・・・あんなよしこ久しぶりに見た」
やっぱり?
だって怖かったもん・・・・なんか
送ってくれる車の中で
「よしこもね・・・恋には慣れてないからさ・・・・要するに不器用なんだよ」
ひとみさんを良く知る真希さんの言う事だから、
お客さんを魅了しているひとみさんとは違う所を知ってるんだと思うけど
「それって矢口さんを好きって事?」
だったら両思いだし・・・・私の出る幕じゃないけど
「う〜ん、まぁ好きは好きだろうけどね・・・・・それが恋愛としてみているのか・・・・
はたまた家族愛なのか・・・・・本人にも解ってないんだろうね」
「私に付け入る隙はある?」
かっこよく車を運転している真希さんは、ニヒルに笑うと
「ど〜かなぁ・・・・・ゴトーは絵梨香を応援するけどさ・・・・・
正直な所やぐっつぁんが幸せになればそれでOKって所かな」
「まさか真希さん・・・・」
「あはっ、心配しないの・・・・ゴトーはやぐっつぁんに恋愛感情はないよ、
ただほおっておけないというのは家族愛のほうだから」
ほっとした息を吐いてる私を、真希さんは笑ってみていた
- 289 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:15
- 「どこがいい?やぐっつぁんの」
綺麗な横顔
「なんてんだろ・・・・
それこそほっておけないっていうか・・・・・守ってやりたいっていうか」
「いいねぇ〜、絵梨香頑張れ」
「面白がってる」
「あははっ、解っちゃった?」
「もうっ」
あれれ・・・なんかほんと友達っぽくなってる
「真希さんは好きな人いないんですか?」
すると、ん〜と、笑いながら
「今、恋すると、仕事できなくなるからね・・・・ゴトーこうみても一途なんだ」
へぇ〜っ、これはまた意外な
「今意外って思ったでしょ」
「あ」
優しい笑いが車内に広がる
- 290 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:16
- 「だからしばらく恋はいいよ・・・・お客さんと楽しんでるだけでさ」
そう言って笑う真希さんは、ちょっと寂しそうな気がしたので
「いつか素敵な恋が出来るといいね」
ぎこちない敬語をやめて心からそう言ってみる
「なんか友達っぽい〜、嬉しいなぁ〜」
「うん・・・・そうだね」
こうみてもこっちに出て来てから友達と呼べる人はいないから
知り合い程度なら沢山いるけど
たまに田舎からの電話で友達と話すと、帰りたくなっちゃったりしてたし
なんだか嬉しかった
- 291 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:17
-
- 292 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:18
- 全くいつもの矢口さんだった
アヤカを送っていっての帰り道、
キスしてる所を見られた事をどうやって説明しようか色々考えてたのに
困って帰って来た私を全くいつもの矢口さんの出迎えで、
しかもごっちんと絵梨香さんがいた
疲れているからか、今日は不機嫌な態度を取ってしまった
矢口さんが家に来てからこんなに不機嫌になったことはなかったけど・・・・
そんな私を察したのか、ごっちんが早々に帰って行った
- 293 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:20
- 見送りもせずにベッドルームで一泊用の旅の準備をしているウチに、
ドアの所から矢口さんが話し掛けて来る
「気をつけてね」
ちょっと振り返ると少し元気がないように思えた
「はい・・・・矢口さんこそ気をつけて下さいね、
まぁ安倍さんがいるから大丈夫とは思いますけど、変な人が来ても絶対にドア開けちゃダメですよ」
「うんっ、解ってる」
たかが一泊の旅行で、何をそんなに心配してるんだろう
時間にすると一瞬なんだろうけど・・・・矢口さんと目が合って・・・・
そしてすぐに逸らされると矢口さんはキッチンに行ってしまった
それがやっぱり違和感があって・・・・・昨日の事を何か聞きたいんだろうと思った
だけど、荷物を持って出て行くと
「明日は何時位に帰って来るの?」
超普通にいつもの笑顔で聞いて来る
「ん〜、まだ解らないんです」
「じゃあ、夕飯だけ作ってればいい?」
ほんとにかわいい笑顔だった
「はい、よろしくお願いします・・・・
何時頃に帰れるかは途中で電話入れるかメール入れるかしますから」
「うん、行ってらっしゃい」
にこにこと手を振って玄関迄来てくれた
- 294 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:21
- でもやっぱり心なしか元気のない感じは否めない
ウチの事で傷つけた・・・・それもしょうがない?
それともウチに愛想をつかす?
矢口さんがどこまで恋愛に関して理解しているのか全く解らないから・・・・
こんな時どうしていいか解らない
だから何も言えずに手を振って出て来た
ため息をついて、里美さんの家に迎えに行く
一応女だから、女同士の旅行だと旦那さんも快く了承してくれるし、堂々と迎えにも行ける
こんなスリルを楽しんでいたのに・・・・・なんだか今日は楽しめない
いやいや・・・・・・これも仕事仕事・・・・
里美さんを日常から解放してやる為に頑張らないと
もしかして自分も?
私・・・・矢口さんから逃げたいと思ってる?
意味が解らない・・・・
何も始まってない関係に逃げるもくそもないんだから・・・・・と苦笑して
車のエンジンを掛け、一吹きさせてから出かけた
- 295 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:22
-
- 296 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:25
- 事件ばっかで忙しい中、
明日丁度早く帰れそうな日によっちゃんから電話がかかってきた
お店が休みで、よっちゃんはどうしてもお客さんと旅行に行かないといけないので
矢口を頼むって事だから仕事を終えて、洗濯物を抱えてルンルンとよっちゃん家に行ったら
「なっちぃ〜っ」
いつものようにかわいらしく飛びついて来る
あの事件の後、一月位かけて、
矢口の学校の無い日に矢口が迷惑をかけた人達に謝りに行ったりするのにつきあってると、
矢口の純粋さがかわいくて楽しくて
暇があるとついつい、会いに来てしまっていたりした
お母さんのお墓の中に入れてもらった亜依ちゃんのお墓に
力強くお姉ちゃん頑張るからと言って唇をかみ締めてた矢口
その後ろで優しく見守ってたよっちゃんに、
矢口さんはもう大丈夫だと思った・・・・圭ちゃんは複雑な顔してたけどね
矢口がよっちゃんの店で働き始めたって聞いて、
時間帯が合わないかもと少し考えてしまってメール以外は連絡してなかったから顔を見れて嬉しかった
「矢口ぃ元気だったぁ〜?」
「うんっ、なっちは〜?」
「元気だべさぁ〜っ、どう?よっちゃんのお店でもちゃんと働けてるかい?」
「えへへっ、ちゃんとやれてるよ、多分」
鼻の下を人差し指でこすって少しいばってる
「そっかそっかぁ〜っ、良かったべさぁ〜っ」
心配する事無かったかな・・・・特殊な世界だから、
圭ちゃんも心配してたけど、まぁよっちゃんはともかく
ごっちんがついてるから大丈夫だね・・・この分だと
- 297 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:27
- きゃいきゃいと夕飯を一緒に作って食べる
矢口は自分が役に立てるのはご飯や家事をする事だけだと思ってるから一切手抜きをしない
知らなかった事を貪欲にどんどん吸収していく小さな体
圭ちゃんが、今日矢口に会うと言ったら、渡すようにと言われたパンフレット
よっちゃんがあまりに矢口に対して過保護なもんだから、
圭ちゃんは矢口の自立の為にと色々考えて、
調理師の免許を取ったらいいんじゃないかと言い出した
こうやって一緒にご飯を作ると、矢口が料理好きなのが解る
後でちゃんと話をしようと思い、今は矢口の話を聞いてあげている
最近は三好ちゃんという子がよく矢口の面倒を見てくれるらしい
街に買い物に行ってナンパされたり、
ミキティっていう子と仲良くなれそうとか話してたけど、
今日はよっちゃんの話がなかなか出てこない
聞かなくてもよっちゃんの話はいつも出て来るのに・・・・と、
私がよっちゃんの話を振ったら
どうやら朝よっちゃんが寝ないで旅行に行ったから大丈夫かなぁって少し心配してる様子
- 298 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:30
- 矢口がよっちゃんの話をする時の目がいつもと違っていた
いつもはありえない位、大好きって感じの目で話をしてくれるのに
今日はちょっと沈んだ感じ
片付けも終わって順番にお風呂に入ったら、
矢口がなっちが持って来た洗濯物をしてくれてる間リビングでパンフレットを眺めた
ちょこまかと動き回る矢口がかわいくて、いつも任せっぱなしにしてしまう
二人でベランダに洗濯物を干して、
矢口はやっぱりちょこまかと準備してくれていたコーヒーを持って来てくれた
「ビールか何かが良かった?」
ウェイターになってお酒というものを知ったからか、そんな事を聞いて来た
「ううん、なっちビール苦手なんだ、ってかお酒自体そんなに飲めないべさ」
「へぇ〜っ、そうなんだぁ、で、何見てるの?さっきから」
「あ、これね、圭ちゃんが矢口にってくれたの」
「おいらに?」
パンフレットを手にとって眺めてから
「えっと・・・・調理師?専門学校?」
「そ、レストランとかでね、作る人を育成する所だべさ」
「へぇ〜っ」
「二年かけてゆっくり通うコースと、寮に入って短期で資格をとるコースがあるみたいだべ」
圭ちゃんはもうすぐ入学出来る短期コースをお勧めしてるんだけどねって言うと
じいっと中を見つめて、真剣に何か考えてる
- 299 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:34
- 「おいらね・・・・・自分が作ったご飯でね、
幸せそうに食べてくれる人見ると、良かったなぁって思うんだぁ」
「だべさ、なっちも料理好きだけど、誰も食べてくれる人いないからさぁ、食べてくれる人がいると嬉しいべ〜」
って言ったら
おいらそれ位しか人の役に立てないからさ・・ってちょっと落ちた感じ
「んな事ないべ、矢口はよっちゃんを幸せにしてるし、
なっちだって圭ちゃんだって矢口と出会えて良かったって思ってるべさ」
「ほんと?」
笑って聞いて来る
「良かった・・・・・でもそうだよね・・・・おいらも、
ちゃんと一人で暮らせるようにならないと、よっすぃにいつまでも甘えてたら迷惑だもんね」
「まぁ・・・・よっちゃんは迷惑どころかずっといて欲しい位に思ってると思うけどね〜、
一応ちゃんと生きて行けるように就職出来るといいかなぁって」
「仕事・・・してるよ、おいら」
「うん、でもああいう店もだけど、普通の店とか会社とかでもいいし、
色んな職業がある事も知らないといけないべさ」
「よっすぃのお店は普通じゃないの?」
ありゃ・・・・そこはまだ解ってなかったべか
「ん〜・・・・・・そうだべなぁ・・・まぁ普通じゃないっていったら普通じゃないべか」
するとソファで身を乗り出してパンフレットを手に持って眺めていた矢口が
「女の人同士でキスするのって普通?」
その聞き方がちょっと切羽詰まった感じで、しかも内容が内容だし焦っちゃって
「うぇぇっ?ん〜っ、普通・・・じゃないとは思うけど・・・・・
まぁスキになるのに女も男もないってなっちは思ってるべさ」
じっと自分の手を見つめながらもじもじして、少し顔を赤くしながら
「じゃあ・・・・女の人と恋人同士っていう事も・・・・あるの?」
ああ、自分がよっちゃんの事を思う気持ちが、やっと恋愛感情だって気付いたのかなぁって
「あるべさ・・・・・その人を大切だって思う気持ちには、性別は関係ないからね」
励ますつもりで言ったのに・・・・矢口はどんどん落ちて行った
- 300 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:37
- 「なした?矢口」
なっちが心配そうにしてると、首を横に振ってまた笑顔を見せてくれた
「なんでもないよ、そうだね、おいらもちゃんと一人前になんなきゃだね」
うんうんと頷いて、どうしてそんな風になっちゃうのか解らなかったけど、
それから矢口は無理して明るく振舞うようになっちの恋愛の話とかを聞きたがった
そういうなっちも・・・・・実は女の人に恋心なんつーのを抱いてしまってるから
そう・・・・厳しい口調と厳しい目つきで人を怖がらせてるけど・・・・・
本当はすっごくすっごく暖かい圭ちゃん
自分の方が精神的にも肉体的にもきつい刑事さんの仕事をしてるのに、
生活安全課のなっちが、子供達を巻き込んだ事件や事故で傷つくといち早くなっちを励ましに来てくれる
今だって、窃盗団が管轄の中に潜んでる可能性があるからって毎日走り回ってるのに
本当はなっちの仕事のはずの矢口の就職の事も親身に考えてくれて、
だからそんな圭ちゃんを、いつのまにか同僚という枠からはみ出た感情で見てしまってる
- 301 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:39
- でも、矢口には、まだなっちが学生だった頃の失恋の話や、
恋人と呼べる存在が初めて出来た時の事をゆっくりゆっくり話して、
夢中で話してたらいつのまにか朝方近くになっていた
なっちは通常通り仕事があるから、ここで寝ちゃうとキツいしそのまま出勤すると言うと
「ごめんね、なっちおいらのせいで」
と、すまなそうな視線を投げかけてくるので
「別に矢口が謝る必要なんてないべさ、久しぶりに昔の事思い出して楽しかったし、
あ、矢口のおいしい朝ご飯食べたいべ、作ってくれるんだべさ」
ぱあっと明るい表情になってうんっと頷くとキッチンに向かって行った
出て来たコンソメスープと、綺麗な半熟の目玉焼きにはちゃんとベーコンが敷いてあって、
野菜サラダといい具合に焼けたトーストとロールパンが出て来た
「いやぁ・・・・毎日こんな朝食が食べれるよっちゃんは幸せものだねぇ・・・・」
「えへへ」
照れてる照れてる・・・・かわいいべさ
- 302 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:42
- 食べ終わって片付けようとすると後で矢口がするからいいと言ったので、
出勤の準備と共に、洗濯物を取り込んだ
温かくなった気候が、優しく洗濯物を乾かしてくれたので、
二人で畳んで入れて来た袋に詰める
ってか、下着迄ちゃんと洗ってくれたからちょっと恥ずかしいけど、ほんと時間ないんだもん
「じゃあまた来るべさ」
「うん、来て来て、それと圭ちゃんに学校に入るにはどうすればいいか言ってて」
「あ、行く決心したべか」
「うん・・・・・ちゃんと・・・・自立しないとねって思うんだ」
6月から入学するんだよね・・・・
前向きな言葉とはウラハラな表情
「解ったべさ、圭ちゃんに言っておく」
「うん・・・・ごめんねいっつも面倒かけて」
しょげた子犬を思わせるのでつい頭を撫でてしまうんだけど
「全然面倒じゃないよ、それとね・・・・・悩んでるなら、ちゃんとなっちに言うべさ」
撫でた頭がちょっと動いて動揺した事を知らしめる
「おいら悩んでないよ、幸せだよ」
そんなに悲しそうに笑わないで・・・・抱き締めたくなるべさ
そして、絶対何かあるべさ、ごっちんに聞いてみるべか
- 303 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:43
-
- 304 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:45
- 旅行先は、鄙びた温泉だった
お忍びで来るような小さな温泉宿
でも、中の造りは高級な感じがして、きっと芸能人とか一杯来てるんじゃないかな
近くには、綺麗な庭園があって散歩できるようになってて、
着いてしばらくすると一緒に散歩に行く
里美さんは、貴婦人のような格好をして色っぽく、
隣に立っている私は他人の目からみるとどういう関係なんだろう・・・とかちょっと考えてしまった
こんな姿を・・・・・もし矢口さんが見てしまったら
いやいや、矢口さんの事は考えないようにしないと・・・と
一緒にお風呂に入った時も、夕飯を食べた時にも、
なるだけ矢口さんの事を考えないようにしていた
もちろん夜になってアレが始まっても
いつもだったら眠れない時間帯に、
昨日ほとんど寝てない事が原因か夜中過ぎには力尽きて眠ってしまった
- 305 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:47
- 里美さんとの朝は、なんだかすごく悪い事をしているような気分になって、
誘われるままにまた温泉に行った時も、
お風呂の中で求められた時も心ここにあらずといった状態だった
さすがにこれではいかんと、
帰る迄にペースを取り戻してセールストークに花を咲かせる
里美さんは現実から少しの間逃避する事が出来たのか
「久しぶりに一人の女になれた気がしたわ、ありがとう、ひとみ」
そういって自分の屋敷へと戻って行った
そして私の現実に戻って来たのは昼前の事
だいたいいつも起きるのと同じ時間になったので、
矢口さんが迎えに出て来るとばかり思っていた私は、シーンとした玄関の中で少し不安になる
何時に帰るのか電話はしなかったけど・・・・・ってか携帯が通じない所だったから、
さすがにロビーに電話しに行く事は出来なかったし
そろりとリビングのドアを開けると、
リビンク゛のテーブルの上には、安倍さんと食べたんだろう、食事の後がそのまま残っていた
きちんとしている矢口さんにしては珍しいと近づくと、
ソファの上の方に本当に小さく丸まって眠ってる矢口さんがいて驚いた
- 306 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:49
- ベッドで寝なかった・・・・ってか、疲れて寝ちゃったんだね
いくら春になったとはいえ、何も被らないで寝るにはちと寒いから、
しずかにベツドルームから肌布団を持って来るとそおっと起こさないように被せながら気付く
矢口さんの目からは涙が流れてて・・・・それを見つけた途端、
今朝から胸の中でもやもやしていた罪悪感が顔を出してくる
被せ終わった頃に、ピクッて矢口さんが動いて、
朦朧とした視線を私に合わせると慌てて起き上がった
「よっすぃ」
「はい、すみません起こして」
「ううんっ、ううん、あ、おいらまだ片付け終わってなかったっごめんっ・・・あ、それとお帰りなさい」
涙が流れてるのがわからないのか、そのまま笑顔でそう言った
起き上がって立ち上がる矢口さんをたまらずに引き寄せて抱き締めた
- 307 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:51
- 小さな体をぎゅうっと抱き締めていると
「どうしたの?よっすぃ」
少し抵抗されるように体を強張らせてるし
「な・・・んとなく・・・・抱き締めたくなって」
ふ〜ん・・・・と、体を少しリラックスさせて
「いい匂いする・・・よっすぃ」
押しつぶされた胸の中でそう言って矢口さんは呟いた
もしかして・・・・里美さんの香水の匂い?
ガバッとはなすと矢口さんの顔を覗き込んだ
前なら絶対ににこっと笑ってくれたのに、
あっ・・・て今日は顔を逸らして、落ち着きなく机の上の片付けをしようとしだす
- 308 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:53
- 好きなんでしょ・・・・やっぱりウチの事
そして、おとといの夜の事を誤解しちゃったんだ
だったら?その思いを受け止めるの?
「矢口さん」
呼び止めて何を言うつもり?ウチも好きって?・・・・
確かに・・・・好きだけど・・・・大切だと思うけど
お盆に載せながらこっちを見て笑ってた・・・もう涙の後はない、
私の服に吸収されたのかな・・・・そして私に何も話しをさせないみたいに
「旅行楽しかった?」
笑いながら聞いて来て・・・・
「あ・・・・・まぁ・・・普通です」
「普通?楽しんで来ないとだめじゃない」
載せてしまってキッチンへと向かった
- 309 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:54
- 別人みたいだった・・・・・
矢口さんは・・・・・
いつも勉強熱心で・・・・
でもいつも笑顔で・・・・・
私の事を大好きっていう目でいっつも見て
無条件に注がれる私への愛情を・・・・
いつのまにか私は当たり前だと思ってしまったんだろうか
急に、そこら辺の少女のように、何を考えてるのか解らなくなってた
視線を落とすと、調理師学校のパンフレット
せっせと洗い物をしてる矢口さんに
「これ・・・・」
カウンター越しにパンフレットを見せると
「あ、それなっちが持って来てくれたの、
圭ちゃんがおいらの為にね、探してくれたんだって」
なんかね、もうすぐ入学出来る寮?に入ると短期間で資格が取れるみたいだよ・・・と
笑顔で言われて、どんどん機嫌が悪くなっていってるのが解った
- 310 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 21:57
- 「学校・・・・行くんですか?」
「あ・・・・・・・お金・・・・・なら心配ないって、
圭ちゃんがちゃんと安心出来る所から貸してもらえるように話をしてくれるっていうから・・・・・」
寮でみんなで生活しながらみっちり勉強するんだって・・・
実習も兼ねてバイトしたりするみたいだし、お金は心配ないって笑ってる
何?金って
そんなんじゃない・・・・
どうしてそんなにここを出て行きたがってるのかって事でしょ・・・・
ウチがアヤカとキスしてたから?
そこは関係ないでしょ・・・・
自分に突っ込んだらウチの口から
「そんなのはいいんですよっ」
って思わず怒鳴ってしまった
・・・・・ってか・・・・・どうして怒る必要があるの?
矢口さんがびっくりしてる・・・・
まん丸な目になってフリーズしてしまってる
そしてパチパチと目をはためかせると焦るように
「あ・・・・ごめん・・・・ううんっ、いいのっ、
よっすぃが反対ならおいらいいの・・・・ごめんね」
相変わらずの笑顔で・・・・だからそんな事言われたら
・・・・ウチがすごく意地悪してるみたいで
「いやっ・・・・ちがっ・・・・あのっ・・・・その」
自分がどうしたいのか全く解らずに、何を言えばいいのか全然浮ばなかった
- 311 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:02
- 「おいらが決めちゃだめだよね、えへへ・・・・そっか・・・・ごめんねよっすぃ」
「ちっ・・・違うんですよっ、いいんです・・・
あのっ・・・・それはいいんですけど・・・・その」
ぐちゃぐちゃになった頭で必死に、どうして怒ったのか考えてると、
洗い物をして笑顔を作ってる矢口さんの目にみるみる涙が溜まってきてるのに気付いた
焦る私は慌てて回りこんでキッチンの中に入ると矢口さんに近づいた
そして、震えてる背中から抱きついてぎゅっと抱き締めた
「ごめんなさい・・・・その・・・・多分怒鳴ったのは
・・・・そんなに焦って色々頑張らなくてもいいって思って」
「・・・・・うん」
「ここをそんなに出て行きたいのなら・・・・止めないんですけど」
首を振ってる
「だけど・・・・・ちゃんとおいら・・・・一人で生きていけるようにならないと・・・・」
ううっ・・・て震えてて
「だから焦る必要は無いんですって」
「焦るよっ・・・・・おいら人より遅れてるしっ、
よっすいがいないと生きていく事さえ出来ないんだもん・・・・・・焦るもん」
追い詰められてるって思った・・・・回したウチの手に、
水滴がぽたぽた落ちてきてて・・・流しっぱなしの水道がなんか悲しかった
- 312 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:05
- 「それを言うならウチだって一人じゃ無理ですよ・・・・
だから矢口さんにここにいてもらってるし・・・・
矢口さんいないとおいしいご飯も食べれないし、部屋だってこんなにいつも
綺麗になってないし・・・・・いや・・・・家事をする人がいるって訳じゃなくって
・・・・・・矢口さんがここにいないとダメって言いたくって・・・その」
抱き締めてると・・・・なんだか・・・変な気分になってそれ以上言葉が続かなかった
「・・・・・・おいらよっすぃに嫌われたくない」
ダメな私に呟かれるけなげな言葉
かわいい・・・・・どうしてそんなにかわいいんです
「嫌う訳ないじゃないですか・・・・・だから、焦らずにゆっくりいきましょう」
この前からそう言ってるでしょ・・・・・
矢口さんは水道を止めて、鼻をすすると
「おいら邪魔はしないよ・・・・約束する」
「邪魔なんて・・・」
言おうとしたら、くるっと振り返って笑顔を作ると体を押された
「洗濯物出して、今のうちにやっちゃうから・・・へへっ、ごめんね、
なんかおいら変なんだ・・・・・あ、変か、元々っ、へへっ」
洗う途中だったお皿を乾燥機に入れて手を拭くとそう言ってまた笑った
「疲れてるのにごめんね、ほらほら、早く、ちょっとでも横になった方がいいよ」
背中を押されてリビングの方に向かわされた
- 313 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:08
- 私の旅行バックに手をやった矢口さんの手を掴んで
「じゃあ一緒に横になって下さい」
「え?」
「最近矢口さんを抱き締めて寝ないから少し寝不足気味で困ってるんですよ」
「・・・・・・・」
素直に口からスラスラと出て来る
だって本当の事だから
私には矢口さんが必要だと伝わらせたかった
「・・・・いいの?」
「どうしてそんなに遠慮する様になっちゃったんですか?」
「だって・・・・」
何?恋人じゃないからなんて思っちゃってるんですか?
ぐいっと手を引いてベッドルームに入ると矢口さんを先に寝かせて、
自分もパジャマに着替えて抱き寄せた
「そうそう・・・・これこれ、この感触がないと寝れないんですよ」
いつもより強張った感じで丸くなってる矢口さんは、
上目遣いにまだ視線で「いいの?」って聞いて来る
何も心配ないと、もっと抱き寄せて頭を撫でた
「何を考えてるのかは解りませんけど・・・・・
私は矢口さんとこうやって寝ないとちゃんと眠れないんですよ」
「・・・・・おいらも」
くぐもった声でそう聞こえたら・・前のように寄り添って来た
うん・・・これこれ・・・・やっぱこうでないと・・・・
お互いの体温と、心臓の音を聞きながら、久しぶりに心地よい眠りにつく
- 314 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:10
-
- 315 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:12
- 休みの日は、溜まってた洗濯物と掃除をすれば、何もする事はない
天気が良かったんだろう・・・・
でも気がつけばもう真っ暗になってて、一人でご飯を作る
最近矢口さんと楽しい食事ばかりしてたから、ポツンと一人でいる事が妙に寂しいと思った
かといって、矢口さんは安倍さんという刑事さんが泊まりに来てくれてるらしいから
遊びに行く訳にも行かなかったし
すっかり暗くなった道をとぼとぼと行き着けのビデオショップに行き
前から見たかった映画が安くなっていたので借りて帰る
なんだか見たかった映画のはずなのに内容が頭に入らない
夜と昼が逆転した生活を送って一年
前は故郷に帰りたいと思いながらもなんか悔しくて、
休みの日には雑誌で必死に研究したりしてたけど
少しあきらめかけてた最近の休日は、
ダラダラした日を過ごす事が多かった気がする
- 316 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:16
- 今日はなんだか寂しい気持ちが大きくてあんまり飲まないお酒を飲んで過ごす
映画も終わり、深夜番組が終わっていつのまにか眠りに着いて目覚めたらまた昼過ぎ
買い物に行ってご飯を食べたら落ち着かなくて
早く矢口さんに会いたくて、待ち遠しい気分で早めに職場に来る私
ひとみさんが旅行に行ってしまって・・・・
どんな旅行なのかとか考えちゃったかなぁと心配してみる
だけど、いつも来る時間にも来ないし、
ホストの人が来る時間になっても現れない為に、
店長もみんなも遅いよねとちらちら口にしだす
もうすぐ開店ってところで、二人は焦った感じで仲良く店に入って来る
「「すみませんでしたっ」」
よほど焦ったんだろう、ひとみさんは、いつものビシッとしたスーツ姿ではなく、
普段着のジーパンだし、矢口さんもメイクも何もしていない感じ
- 317 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:18
- 店長に寝坊しましたと謝る二人に、紗耶香さんや真希さんが茶々を入れる
「何してたんだよっ、二人でっ、こら吉澤っ」
「決まってんじゃんっいちーちゃん」
「ウチの矢口をついにやっちゃったか?」
「んな訳ないっす、あ〜っもううっさいっ、準備して来ますっ」
言われてる意味の解らない矢口さんと、
珍しく動揺して真っ赤な顔で奥の控え室に消えてくひとみさん
昨日とうってかわって、少し元気になってる矢口さんは、
ほんとにごめんなさいともう一度店長に頭を下げ、みんなにも謝って着替えに行った
なぁなあ、どう思うよ、真希・・・・
なんていやらしい目線で矢口さんが小走りしている後ろ姿を見てた紗耶香さんが真希さんをつつく
「まぁ・・・・まだまだあの二人の道のりは長いからねぇ〜、
色んな人を巻き込んで一波乱も二波乱もありそうだね〜」
お主も悪よのぉ〜と、聞こえて来そうな二人の様子
完全に面白がってるし・・・・
- 318 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:21
- すぐに開店して、めずらしくわが店の看板ホスト三人が開店時にいるので、
はじめに店に来た人なんか選び放題だね
サイズの合わないダボッとしたウェイターの服に着替えたかわいい矢口さんが元気に隣にやって来た
「えへへ、寝坊しちゃった」
良かった・・・よく眠れたんですね
その嘘のない笑顔がそう物語る
「ひとみさんと何かありました?」
実に機嫌のよさそうな笑顔につい口から出てしまった
ちょっと恥ずかしそうに、うんっと言うので思わず前のめりになって言葉を待つ
「おいらの事、ちゃんと必要って言ってくれたの」
ええええっ、そっそれって愛の告白?
「それでね、よっすぃに抱っこされて寝てもいいって言ってくれてね・・・・・
安心するんだぁ・・・・よっすぃに抱っこされて眠ると」
よっすぃがいなくてもちゃんと寝れるようにならないとって思ってたんだけどね
・・・もうちょっと甘えさせてもらうんだって
夢見ごこちのような視線を天井に向けて言ってる矢口さんに、
私は敗北宣言を言い渡された気がした
とても幸せそうな横顔に
「それにね、ゆっくりおいらが成長するのを見守ってくれるみたいだから、
おいらよっすぃの彼女さんの邪魔しないようにするんだぁ」
か・・・・のじょさん
「いるんですか?そんな人」
ちょっと驚き・・・・ひとみさんに本命浮上
私の質問に、はっと驚いた顔をして内緒って笑った
ちょっぴり寂しそうだけど、この前より随分復活した感じで楽しそうに仕事してた
そして閉店時間になったら、ちゃんと仲良く二人で帰って行ったし
残念っと私を切って、真希さんはお客さんと消えて行った
- 319 名前:第二章 投稿日:2005/12/17(土) 22:23
- 本日はここまでにします
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 00:27
- なんか好きです、この作品。いいです。楽しみにしてます。
- 321 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 08:20
- みんなに幸せになってほしいです。
よっすぃにも矢口にも三好にも。
いつも続きが気になってます、頑張ってくださいね。
- 322 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:43
- あれから矢口さんは、前のように帰って来ると抱きついてくれるようになったし
眠る時にも寄り添って眠ってくれるようになった
前はいつも二人で行ってたスーパーの買い物も一人で行くとか言ってはりきってるし
まぁ、行かせないで結局二人で行くんだけどね
そんなある日、店にいつものように向かうと、
入り口の所で、めちゃくちゃ気合入った視線を浴びせる女子高生がいた
矢口さんも少し不安そうに私を見上げたまま近づくと
「あんた吉澤って人?」
私に用事なんだ
「そうだけど・・・・・何?」
その子がズイッと近づくと何故か矢口さんが私の前に出てその人と対峙した
「なんね、このチビ」
その一言で悲しそうな顔した矢口さんは
口をへの字にしてこっちを振り返ったので頭を撫でて私が前に出た
「矢口さん、この人知り合いですから、先に入ってて下さい、
あ、心配いりませんよ友達です」
あんな挨拶で友達も何もあったもんじゃないけど、
矢口さんは素直に店に入ってくれた
- 323 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:45
- 矢口さんがちらちらと振り返りながら入った後は、
すぐにその女子高生に向きなおして睨んでみる
「お前誰?」
「あのチビが彼女?」
デレッとした顔しとったし・・・・ってあんたどこの出身?
それにチビってあんた
「そうだって言ったら?」
「ちょっと顔かして」
ほぉ・・・・・今時呼び出し・・・・・
しかもウチよりぜんっぜんちっこいし、細いけど大丈夫?
つい笑ってしまったら
「何笑っとーとねっ、失礼やなかと?」
どっちが
「いやぁ、かわいいなぁと思って」
いいよ、どこ行く?って肩に手を回して顔を近づけると
真っ赤になって飛び去ってこっちを威嚇するように睨み付けて来た
- 324 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:47
- 「あんたなんかに絵里は幸せには出来んとよっ」
絵里・・・・ああ、絵里ちゃんの・・・・なるほど
「決闘たいっ」
ファイティングポーズなんて取っちゃって、マジかわいい
私の入り時間にはまだ時間あるし、少し遊んで行こうかな
やって来た小さな公園、まだ宵の口なだけあって人も少ないし、
第一こんなきたね〜公園じゃ子供遊べね〜っつの
くるっと振り返ったそのヤンキー少女は
「あんた絵里をどう思っと〜と?」
「かわいいね〜、絵里ちゃんは」
「だったらちゃんと絵里と付き合ってやんなよ」
あらあら
「ウチの仕事の事はちゃんと最初に言ってるし、
遊びに来たお客さんをむげには出来ない商売だからね」
いきなりその子は殴りかかって来て咄嗟によけた
- 325 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:49
- 「あんまり好き勝手しとっと、痛い目見るとばいっ」
剥かされた拳を握り締めて振り返りざままた胸倉を掴もうと手を伸ばした所を取って後ろ手に捻る
つっ
苦痛に歪んだ顔で口から出してる子の後ろに捻った手を背中に押し付けて後ろから話し掛けた
「どう痛い目に合わせてくれるの?絵里ちゃんの心の傷と同じ位の痛みを与えてくれる訳?」
「そうたいっ、絵里は初めて出来た友達なのにっ、
あんなに寂しそうな顔させるあんたに一言言わんと友達やなかとっ」
「そっか・・・・・そうだね、じゃあ絵里ちゃんに言っといてよ、
もうおしまいだねって、んじゃね」
突き飛ばすようにその子の体を押して店へと向かうように背を向けると
「さいてーやねあんた」
思わず微笑む・・・・そうだよ、最低だよ
- 326 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:50
- 自分にふさわしい言葉をもらって、
こんな事久しぶりだなぁって笑ってると後ろから走ってくる音
こんな時って刺される可能性もあるから振り返ると
「なんで絵里じゃ駄目やと?」
って涙目になって言ってくる
「ウチは客に夢を見せるだけの仕事・・・・・
それはちゃんと絵里ちゃんも解ってるはずだからね」
「解ってないっ、絵里はバカやから全然解ってないったいっ、
絵里があんたの事を話す時、輝いとーとよっ、それって好きって事ばい?」
いい子だなぁ・・・・ってその子の話を聞きながら見てると
「れいなっ」
背後から絵里ちゃんの声
「絵里」
ばつが悪そうな顔をして後ずさった
- 327 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:52
- 振り返ったら絵里ちゃんが必死の形相で駆けて来てて、
そのまた後ろに何故かごっちんと矢口さんがついて来てた
私を通り越して、絵里ちゃんはれいなと呼ばれた子の前に立って怒鳴り始める
「何でこんな事するのっ」
言われた子は背中を丸めてさっき迄のヤンキー少女の姿ではなかった
「ご、ごめん」
「勝手な事しないでよっ」
いつも見てるおっとりした絵里ちゃんの姿ではなかった
いつもは普通の女子高生なんだなぁって微笑ましく思ってると
「ほら、大丈夫でしょっ、やぐっつぁん」
「う・・・うん」
のんびりした声が聞こえて来た
「よしこ、やぐっつぁんがあんまり心配するから来たけど、ゴトー帰るね、ほらやぐっつぁんも」
心配そうな顔した矢口さんの手を引いて、ごっちんは手を振って去ろうとしていた
こんな話、矢口さんには聞かれたくないからね
「すみません矢口さん、ほんと大丈夫ですから、もうすぐ帰ります」
そう言うと、よっすぃと言いながら引きずられて行った
- 328 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:54
- 「吉澤さんごめんなさい、れいなが何言ったか知らないけど、
ほんと、気にしないで下さい」
背中からそんな声が聞こえてまた振り返ると
泣きそうな少女が二人
これはいい機会だね
「絵里ちゃん、こんなに優しい友達いるんじゃん、もうウチの店みたいな所に来ちゃダメだよ」
「吉澤さんっ」
絵里ちゃんがそう言って次の言葉を発する前に、れいなという子が遮る
「絵里っ、見かけはかっこいいかもしれんけん、こいつ最低な奴ったい、
会いに来てみて良かった、やっぱ絵里には似合わんとっ」
「そんなのれいなが決める事じゃないでしょっ」
「絵里みたいな子には言わな解らんったいっ、よう解ったやろ、もう諦めんしゃい」
「嫌っ、絵里はっ、絵里は吉澤さんが」
私に詰め寄りそうになる絵里ちゃんの頭に手を乗せてポンポンと叩く
「悪いけど、絵里ちゃんみたいな子はもう相手出来ないんだ、
私は絵里ちゃんが思ってるような優しい人でも、かっこいい大人でもないから」
仕事あるからと踵を返すと
絵里っ、いい加減にってれいなの声がした時、パシッと叩く音
「好きなのっ、絵里は吉澤さんが好きっ」
そんなにウチみたいな最低な奴にのめりこんで・・・・・
- 329 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:56
- しょうがない・・・・・最後の手段・・・・・
これはあんまりしたくないけど
少し離れた所から、言い争ってる二人を呼ぶ
「れいなとかいう子」
「あん?」
絵里ちゃんを掴んだまますごい顔をして睨んでいた
「あんた学校行ってる?」
何言い出すんだろうという視線の絵里ちゃん
「行っとーよっ・・・・・・たまにだけど」
「そっ・・・・・・れいな・・・昔のウチに似てるな、やっぱ」
にやっと笑いながら近づく私は、二人にどう映る?
「似とらんっ、あんたみたく最低じゃなか」
絵里ちゃんを後ろに押しやって、守るみたく強い視線をするれいな・・・・
いいねぇ〜
さぁどうする?れいな
きっとあんたは絵里ちゃんが好きなんだよね
ウチから守りきれるかな?
- 330 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:57
- 「れいなみたいなタイプ1回やってみたかったんだ」
「は?」
視線とはウラハラにビビッてる体
「絵里ちゃんもかわいかったけどさ、イキがいいのもたまにはイイね」
れいなの胸倉を掴んで引き寄せる
歯を食いしばって目を瞑って・・・・殴られると思ってんだよね
その体を少し持ち上げるようにして乱暴に唇を奪った
驚いて目をぱちくりさせてる至近距離のれいなちゃん
離れようと暴れようとする体をぎゅっと抱き寄せて、
頭をしっかり包んで舌をねじ込む
- 331 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:58
- がっ・・とか・・んっ・・・
とか言いながらも小さな体は容易に封じ込めるから少しいやらしい音をさせて貪り続ける
すると、ゴチッという音と共に火花がちったと思ったら
どうやらおでこに頭突きをくらっていたようだ
「って〜っな、何すんだよ」
「それはこっちのセリフたいっ、この変態っ」
真っ赤になっちゃって、まさかファーストキスじゃないよね
「変態とは言ってくれるじゃん、よぉ〜し、
変態ついでに行こっ、3人でするのも楽しいかもよ」
ガシッとれいなの手を掴むと、もうそれだけで大変だった
持っていた鞄で叩かれるわ、砂をぶつけてくるわ
「ざけんなっ、絵里っ、解ったやろっ、こんな馬鹿相手にしたらいかんと」
と、すでに涙目の絵里ちゃんの手を掴んでズンズンと公園を出て行った
「さようなら」
絵里ちゃん・・・・・いい奴じゃん、そいつ
幸せになるんだよ
- 332 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 13:59
-
- 333 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:00
- よしこからいきなり頼まれた
お客の部屋のベッドの上でまったり過ごしていると、携帯がしつこい位に鳴った
何かと思えば、やぐっつぁんがどうしても買い物に行くと言って聞かないから、
連れて行って欲しいという
自分がお客と予定があるからって、ゴトーが空いてるとでも思ってるのかねぇ
まぁ帰りに寄るのは簡単だからいいけど
迎えに行くとぶすくれたやぐっつぁんがいた・・・
よしこは安心したように駐車場に向かってよろしくと手を振っていた
「一人で行くのはダメって言うんだもん」
おいら一人で行けるのにって
心配性だねぇ・・・・よしこ
「絵梨香は?」
喜んで付き合ってくれるはずなのに
「なんかね、田舎から急に両親が来たんだって・・・・」
- 334 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:01
- 車の中で会話する事数十分
言われた街は、若者でごったがえす所
裏原宿の方の露店に行きたいんだそうだ
この前ナンパというのに会った話をよしこにしたから、危ないって猛反対に合ったらしい
「この前だって一人で帰れたのに、おいらもう電車一人で乗れるよ」
助手席で項垂れるやぐっつぁんは確かにかわいい
「まぁ・・・・・よしこの気持ちも解るかな、
ここらは危ない人もいるからさ、で、ゴトーは待ってればいい訳?」
「ううん、降ろしてくれればちゃんと帰れる、三好ちゃんと1回来てるから」
「そ?でも気をつけなきゃダメだよ、ナンパって結構怖いからね」
「うんっ、返事しちゃダメなんでしょ、解ってる、よっすぃにもしつこく言われたもん」
目に浮ぶようだ
- 335 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:03
- あ、あそこあそこと言われた場所は、
ゴトーが走ってる車線の反対側に店を出している女の人の店・・・なんかスケッチしてる
「ここからじゃ渡れないからあっちで降ろすけど、ほんと大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、よっすぃみたいだよごっつぁん」
よしこも心配性だけど、この前女子高生が殴りこんで来たときのやぐっつあんもかなりの心配性だったよ
お互いに大事な存在なんだよね
少し行った場所でやぐっつぁんを降ろすと、
笑顔で手を振って去って行く・・・なんだか嬉しそうに
そういえば、新しい友達が出来そうとか言ってたっけ
店の人なんて、売上をあげるために調子いい事言ってるだけなのに
なんて、少し考えると心配になって、近くのパーキングに車を止めてそこに向かってみた
ゴトーもそうとうやぐっつあんに甘いね
- 336 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:04
- やぐっつあんに気付かれないように気を配りながら近くに行って、
近くの木に隠れる・・・・・変態だと思われないように誰か待ってる振りをしながら
「へぇ〜、矢口さんまじで面白いね〜」
「そう?普通だと思うけど」
「いやいや、ありえないって、その純粋さ」
車道を背中にして指輪を磨きながら隣に同じように腰掛けたやぐっつあんとそんな会話してる
「ほい、1回してみて」
その指輪を渡してサイズを試してる
「あ、ピッタリ」
「良かった、こんなちっちゃいの初めてだからさ、ちょっと心配だったけど」
「へへ、あんがと」
「こっちがありがとうですよ、矢口さん」
なんて言って笑い会ってる
- 337 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:05
- 「もうあげたんですか?この前の奴」
「・・・・ううん、明日あげようかなぁって・・・・ちゃんとね、伝えたいんだ、感謝の気持ち」
「そっか、伝わるといいね」
すると、ちょっと元気なくした感じで
「でもね・・・・喜んでくれないかも・・・・・・
ちょっと前にその人の誕生日があったんだけど、その時色んな人にプレゼントもらっててね・・・・
なんか、すっごい高い奴みたいなんだけど
あんまり嬉しそうじゃないんだ・・・・・・おいらお金ないし・・・・・」
やっぱあの時の事・・・・気にしてんだ
「それでも美貴の作った奴が似合うって思ってくれたんでしょ」
「・・・・・・うん」
「美貴の作品に喜ばない奴はいないから大丈夫っ」
自信まんまんなんだね、あんた
やぐっつぁんもうんっ、そうだったって笑ってるし
- 338 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:08
- 「ついでに告白しちゃえばいいじゃん、なんちて、
女の人だったねその大好きな人って」
うん・・・・と言ってから笑顔がふいに固まって、
行き交う人の通り過ぎる足を見ていた
「でも・・・・・彼女さんいるみたいだから」
彼女さん?よしこに?
「彼女?彼じゃなくって?」
こくんと頷くやぐっつぁん
「女の人とキスしてたもん」
えっ誰と?
「はぁ?キス位誰とでもするっしょ、てか、じゃあ矢口さんも射程圏内って事でしょ」
あ〜あ、言っちゃった
いちーちゃんが言ったりするのを必死に阻止して、
キスは一番好きな人とだけしかしたらいけないってよしこが言ってたのに
「射程?圏内?」
- 339 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:10
- 「相手も同性でオッケーって事ですよね」
まぁね、どっちともオッケーみたいだけど、最近は女ばっかだからねよしこ
「でも・・・・よっすぃが、キスは一番好きな人としかしちゃダメって」
解んない〜って顔してるやぐっつぁんに
「んなわけないない、なんなら矢口さんにしてあげよっか?」
なんてケラケラ笑うその店の女・・・・ってかあんたそっち系?
・・・ってかやぐっつぁんに変なこと言うな
驚いた感じでじ〜っとその子を見てたやぐっつぁんは、しばらく固まってた
- 340 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:12
- 「ごめんごめんジョークジョーク、お客にそんな事しないって」
当たり前だろっ、しかもこんな人通りの中
「うん・・・・しよっ、ミキティ」
「はぁ?」
えええっ、や・・・や・・・・やぐっつぁんっ・・・ダメだって
って何でそんな焦ってんだろっ、たかがキス位
いや・・・・でもやぐっつぁんっ・・・・・何でいきなり
ってあ〜っなんだか見つめあってるし
「美貴の事・・・・好きなの?」
「うんっ・・・・好き」
ええええええっ・・・ちょっ・・・・やぐっつあん
- 341 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:14
- 「一番好きなのは?」
その子が優しい顔して言う
「・・・・・よっすぃ・・」
「じゃあダメじゃん」
ってゲラケラと楽しそうに笑ってスケッチしだす
「・・・・・・おいら解んないんだ・・・・・キスするってどういう事なのか・・・・
どんな意味があるのか・・・・・だからしてみたい・・・・・
ごっつぁんとか・・・三好ちゃんとかなっちとか、おいらの周りで優しくしてくれる人に言うと
・・・・みんな焦って反対するから・・・・・どういう事なのか知りたい」
一番好きな人としかしちゃいけないって言ってるのに・・・・
よっすぃは好きでもない人とキスしたの?
なら、どうして?って
ああ・・・・そういう事・・・・・そうだね・・・・・みんな・・・
ってかゴトー達もどんな事か・・・・どんな意味があってキスしてるのか解ってないのかもね
- 342 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:16
- 「意味なんてないよ」
「え?」
「キスに意味なんてない」
美貴って子が優しくやぐっつぁんを見てる
「ないの?」
「うん、ない」
きっぱり・・・・・まぁ・・・・そうだね
「でも・・・・・・誰かの事を本当に好きで・・・・大好きでいると・・・・・・
その人の事をもっと知りたいって・・・・・もっと触れたいって思うでしょ」
「・・・・・・・うん」
「その延長線に、キスとかエッチとかあるけど・・・・
それ自体に意味はないんだよ、ただ触れたいだけ、知りたいだけ」
「・・・・・・・・じゃあ・・・・よっすいが・・・・おいらにキスとかしないのは・・・・・
おいらに・・・・そんな感情がないって事でしょ?」
・・・・・やぐっつぁんは、きっと大切な事をゴトー達に聞けなくて
・・・・・一度会ったっきりのこの子に聞いてみたいって思ったんだ
「そうとは限んないけど」
じいいいっとしょげたやぐっつぁんを見て、しばらくすると
- 343 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:17
- 「キスしましょっか」
おいおい
こくんと頷くやぐっつぁん
おいおいおい
「じゃあ目を瞑ってください」
うん、とかわいらしく目を瞑ってる
人通りが多いにも関わらず、
美貴って子はやぐっつぁんの肩に手を回して顔を近づけて行った
いいの?やぐっつぁんのファーストキスがこんなんで
- 344 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:18
- 「やぐっつぁんっ、ダメぇ〜っ」
咄嗟に叫んでて、キスする寸前の所でぱちっと目を開けたやぐっつぁんが
こっちを向いてゴトーと目が合う
邪魔すんなよっていう顔で睨んでくる美貴って子
「ごっつぁんっ」
「知り合い?」
「うん・・・友達」
肩に手を乗せたまま睨んでる
やぐっつぁんの手を取って美貴って子から離して立たせた
「どうしたの?帰ったんじゃなかったの?」
「ちょっと心配だったからさ」
やぐっつぁんはちょっと寂しそうに美貴って子に言い出す
「ほら、優しいでしょ・・・・でね、皆おいらを心配するの」
「ふ〜ん、なるほどね」
そこに、他の客がアクセサリーを見に寄って来て、いらっしゃいと放置された
- 345 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:20
- 「ダメでしょ・・・・軽軽しくあんな事しちゃ」
「だって」
しゅんとしてる・・・・別に怒ってるんじゃないんだよ・・・・・
あぁ、ゴトーいつからこんな真面目になっちゃったんだろ
自分は昔から好き勝手やって来たのに・・・・・
その時来た客がいきなり
「あなたならどっちにします?」と両手にネックレスを持っている
は?って思ったけど、その人とそのネックレス二つを見比べて適当にこっちと言ったら、
その客はそっちを買うと言ってる
そのネックレスを磨いたり梱包してる間に、ずっとその人はゴトーに話し掛けて来た
しかも、またここに来れば会える?なんて言われて・・・・
いや、私も客ですと言うと、じゃあ携帯教えてと言われ、持ってないんですと答えた
残念、じゃあ、またねと去って行った・・・・・変な人
下に座ってる美貴って子が笑いながら聞いて来る
「あんた・・・・モテるんだ」
いきなりそんな・・・だけど
「まぁね」
と即答すると
「なんか悔しいんだけど、美貴」
この感じ・・・・嫌いじゃない・・・ってか好きかも
- 346 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:21
- 視界の端っこに、口を開けて見上げてるやぐっつあんの顔が目に入った
ゴトーたちの会話があんまり読めないやぐっつぁん
そんなやぐっつぁんの頭を撫でて
「もう買い物終わったんでしょ、やっぱ送るよ」
うん・・・・と頷くが、その表情は硬い
「ねぇ、あんたなんて名前?」
立ち上がった美貴って子に肩を捕まれる
「後藤だけど、あんたは?」
「藤本」
そう言うと、いきなり顔が近づいて来てキスされてた
- 347 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:23
- 再び目の端にやぐっつぁんの驚く顔と、行き交う人の視線をちらほら
「な・・・・何やってんの?」
「ほら、こんな感じ」
と、驚いたやぐっつぁんに説明する
「あの・・・・意味解んないんだけど」
「キス自体に意味はないって事・・・・・さっき邪魔されたし、後藤さん慣れてそうだから」
って二人は見詰め合って・・・それから少し微笑み会った
- 348 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:24
- 「・・・・・・・・ミキティ・・・・・また来ていい?」
「お待ちしてます」
なんて笑ってる
そうとう気に入ったんだ・・・・藤本・・・美貴だっけ・・・この子の事
あ、よく見るとかわいい・・・美人っていうかかわいいっていうか、
座ってると背が高そうなのに小さい
じーっと見てると
「何?美貴訴えられちゃう?」
笑ってる藤本美貴に
「そう・・・だから携帯教えて」
思わず言ってた・・・・・もっと・・・・話してみたい・・・・って思った
- 349 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:26
- びびったのか、固まった藤本美貴
「じゃあゴトーの番号これだから、興味あったら電話して」
「興味っ・・・て」
ニヤッと笑って謎っぽく視線をやってからやぐっつぁんの手をひく
「ごっつぁん?」
パーキングへの道のりで呼ばれた時携帯が鳴るので
やぐっつぁんにちょっと待ってねと言い携帯を取り出す
『携帯持ってないんじゃなかったっけ、後藤さん』
登録されてない番号は、藤本美貴
「興味ない人用のは持ってないって事」
『ふぅん・・・・・・ねぇ、下の名前なんてーの?』
「後藤真希、真実の希望」
『ふ〜ん、いい名前じゃん』
「まあね」
『いつか会える?』
興味あり?
「いつでもいいよ、でもゴトー夜の仕事だから昼間・・・それも午後ならだいたいok」
『じゃあ、明日1時、ここで待ってる』
「解った」
- 350 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:26
- 電話を切ったら、隣から視線をひしひしと感じる
もちろんやぐっつぁん
「ミキティの事・・・・好きになったの?」
「さぁ・・・・・どうだろ」
「ごっつぁんはミキティとキスしてもいいの?」
「ん〜、まぁ・・・嫌じゃなかったよ」
ふ〜ん、と言って前を向いて歩いてるやぐっつあんは訳が解らなそう
- 351 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:28
- 「本当はお互いが一番大好き同士でするのが一番普通で、一番いい事」
「ん〜」
やぐっつぁんは今、昔私達が不思議に思った事を感じてるだけなんだよね
それに対して、ウチらが何かを押さえ込む事も良くないのかもしれない
純粋なままでいて欲しいと思ってるよしこには悪いけど、
そろそろやぐっつぁんも色んな事を経験して傷ついたりする事も必要なのかもしれない
藤本美貴のように、解らなければちゃんと体験させてあげて
「普通って難しいね」
やぐっつぁんが呟いた
「そだね、よしこもゴトーも普通じゃない世界で生きてるからね、
やぐっつぁんには普通でいてもらいたいって余計思っちゃうのかもね」
「ごっつぁんもよっすぃも・・・・普通じゃないの?」
「うん、普通は男の人を相手にするのが常識だからね、でも、普通じゃなくても生きて行く事は出来るから」
「おいらがよっすぃを好きって思うのは、いけない事じゃないの?」
そこから悩んでたんだね
「いんじゃない?でもやたらそんな事を言うと、
変な目で見られちゃうよ、やっぱり男の人と恋愛するのが普通だからね」
「恋愛・・・・・」
車についた時にそう呟く
- 352 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:30
- 「おいらよっすぃが一番好き」
車に乗ってから、ゴトーに向かってそう言ってくる
「知ってるよ・・・・・」
それは解り易いもんね・・・・よしこも多分そうじゃないかなって思うけど
「でもよっすぃにとっておいらは一番じゃないんだよね・・・・・だったら・・・・どうすればいいの?」
やんわりと理解してるんだね・・・・もうやぐっつぁんは恋愛を
きっとよしこもやぐっつぁんが一番大事なのは確かだよ、
ただどうやって扱っていいのか解らないだけ・・・・体からしか愛し合った事のないよしこだからさ
「みんな同じだよ・・・・男にしろ女にしろ、好きになった人が、
自分じゃない人を好きなのはよくある事だし、
お互いに一番っていう人とめぐり合えると嬉しいし幸せだし・・・
だから思いが通じなければ、他の人を探したり、
幸せにしてくれそうな人を好きになったりして生きてる」
「おいらよっすぃの近くにいるのすっごい幸せ・・・・・
だけどよっすぃにとって幸せな人は別にいるんでしょ・・・・
だったらよっすぃにそれを言ったら・・・・よっすぃ困っちゃうの?」
「それはよしこじゃないと解らないよ・・・・・
みんな相手の気持ちが解らないから恋愛に悩んで、泣いたりしてるんだよ」
「ふ〜ん」
それからやぐっつぁんは、買ったばかりの指輪を眺めていじったりしながら考え込んでいた
- 353 名前:第二章 投稿日:2005/12/18(日) 14:32
- マンションに着いて降りるやぐっつぁんに
「やぐっつぁんは普通だよ・・・・それにすごく魅力的な女の子」
ドアを閉める前に言った言葉に、にこっとして頷いて
「ありがと、ごっつぁん・・・・・ごっつぁんも大好き」
元気に手を振ってくれるやぐっつぁんを置いて家路に着く・・・・・
ん〜、ちょっとしか寝れないね、これじゃ
早めに店長に遅れるって言ってお〜こぉ
とアクビをしてハンドルを切った
- 354 名前:*** 投稿日:2005/12/18(日) 14:33
- 今日はこのへんで失礼します
- 355 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:13
- お客さんの買い物につきあって夕方に帰ると、すでに矢口さんがご飯を作っていた
あいかわらずかわいらしくおかえりと飛びついて来る
おいしいご飯を食べながら、今日はどこ行ったんですか?と尋ねる
自分は聞かれたくないくせに
「ミキティんとこ」
ミキティ・・・・・・誰だっけ・・・・あ、露店のアクセサリー屋さん
思い出すと、矢口さんの右手薬指に指輪がはめられてるのに目がいった
「あ、その指輪」
口にしたら、あっという風に手をひっこめて
「なんでもない・・・・・」
は?どういう事?
「なんでもないって・・・・・あの・・・・少し位見せて下さい、買ったんでしょ?」
まさか・・・・そのミキティって奴からのプレゼントとか・・・・・
「・・・・・・・ううんっ、ううんっ、あのっ、気にしないで」
何で隠すんです・・・・・何・・・まじで誰からもらった?
気にしないでと言われて・・・・・気にしますといえない私
しかも指輪をはずしてポケットに入れてしまった
- 356 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:16
- もちろん、私は平静を装いながらも、不機嫌になっていくのが解る
解り易い矢口さんが、ウチに隠し事なんて
「ねぇ・・・よっすぃ、明日のお休みはお出かけしちゃうの?」
そんなかわいい言い方しても、さっきので機嫌悪いんですからね
「いえ・・・今の所用事はないですけど」
「ほんと?良かったぁ・・・・じゃあ明日の夕飯は一緒に食べれる?」
「ええ」
なんだろ・・・・明日って何か記念日とかだっけ?
誕生日・・・は、安倍さんの調べによると、
一月二十日だったみたいでもう過ぎちゃってるし・・・・
でも、よしっとかちっちゃくガッツポーズしてるし
そういえばちょっと前の休み前にも聞いて来たっけ・・・・
あんまりウチの予定を聞いて来る事だってないのに
- 357 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:17
- 「何かあるんですか?」
「いや・・・・・あの・・・・・・ただ、
よっすぃとゆっくりご飯食べたり・・・・お酒飲んだりしたくって」
微笑む矢口さんがかわいくて・・・・
まぁ・・・・指輪の事はゆっくり聞けばいいかと思いだした
ウチと明日過ごす事をこんなに喜んでるんだから・・・・・
まさか好きな人が出来たとか言わないでしょ
はぁ〜っ・・・
父親はまだ娘の彼氏を見たくない・・・・
って心境?ってか・・・・年上だけどねウチの娘は
- 358 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:17
-
- 359 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:19
- いきなり両親がやって来た
まさか家出同然で出て来た娘の所にやって来るなんて
しかも・・・・・見合い話なんて持って来て
いつの時代の話だよっつの
「三好ちゃん?」
「あ、どうしました?」
くりくりとしたかわいい目で隣から覗き込んでた
「何かあったの?なんか・・・・変だよ?」
おかげで超ブルーな事、顔に出ちゃってるんだね
「ええ・・・ちょっと」
「どうしたの?おいらで力になれる事はするよ」
必死に言い寄ってくる・・・・・・どうしてそんなにかわいいんです
「ありがとうございます・・・・でもいいんです
・・・・内輪の事でちょっとあっただけですから」
「うちわ?」
って仰いでるし・・・・ん〜、癒されるなぁ
- 360 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:20
- 「ふふ、家族の事です・・・・・でもなんか矢口さんと話したら元気出ました」
「ほんと?よかったぁ」
全くかわいらしい
「今日、どうでした?藤本美貴は」
ひとみさんと同じ飾りの指輪を直してくれると言ってた約束の日
心配だからほんとは私もついて行きたかったんだけど
「うんっ、ちゃんと直してくれてたよ」
「そうですか、良かった」
あれ、でもしてないですね・・・という視線をすると
「うん・・・・・よっすぃにあれ明日あげて、
おいらも指輪していいよって言われてからしようかなって」
なんて律儀な・・・・
- 361 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:22
- 「喜んでくれるといいですね」
「うんっ」
頷くと、お客さんに呼ばれて矢口さんはフロアに入って行った
こんな所でバイトしてる事を両親には言っていない
モデルをまだ目指していると思ってて
そんな夢みたいな事を言ってないで、北海道に帰って来なさいの一点張り
確かにちょっと前だったら・・・・
見合いはともかく帰ろうかなと考えた事はあった
でも今はまだ若いし・・・・・
矢口さんのそばにいたいのもあるし・・・・・
それに・・・何かまだ自分にもあるんじゃないかって思ってたりしちゃってる
- 362 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:24
- 明日は、一日両親の東京観光に付き合わないといけない
その間ずっと説得を受けるのかとうんざりする
思わずため息をつくと
「絵梨香、どうした?」
今度はお見送りが済んだばかりの真希さんが話し掛けてくれる
「あ〜、すみません」
「もしかして諦めちゃった?やぐっつぁんの事」
あ、そっちのため息と思ったんだ
「いえ・・・・・あの、今両親が来てて・・・・・それでちょっと色々あって」
「もしかして田舎に帰って来いとか」
心配してくれるんだ
「ええ・・・・まぁ」
そっかぁ・・・・と肩に手を回されて
「で、帰るの?」
「まさか」
私の即答に、真希さんは笑みを浮かべる
- 363 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:26
- 「絵梨香って、なんかやりたいことあるの?」
そういえば、そんな事についてこの店の中で話すのは初めてかもしれない
いや・・・・・この街に出て来てから初めてかも
「・・・・・・・・・うん」
何?なんて優しい視線
「でも、もう無理かなぁって思ってる所だから・・・・・余計帰りたくなくて」
「・・・なるほど・・・・で、何の夢があるの?絵梨香」
教えてよっていう優しい視線に、つい
「・・・・・も・・・・モデル」
笑われるかも、と床を見つめてしまった
しまった・・・・と思ったけど
「なれるよ・・・・・絵梨香なら」
思ってもみなかった言葉が帰って来た
「雑誌で出て来る絵梨香の姿って想像出来るし」
なんてウィンクしてくる・・・・
なまじっか綺麗な顔だからすっごく決まってるし
「・・・・ありがと」
そうだね・・・・・諦めるのはまだ早いかな・・・・・
最近応募してないオーデイションにまたチャレンジしてみよっかな
ほらっ、そこしゃべってないで・・・・という店長の注意に、
頭をぽんぽんと叩かれてから真希さんは離れて行く・・・・
ん〜、私の事子供扱いしてる?年下はそっちだっちゅうのに
- 364 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:27
-
- 365 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:28
- 昨日約束したように、
起きてすぐにあの場所に行くと、変わらずに店を出してる
しかも、日曜だからひときわ人が多く、それに客も寄って来てた
近くの木にもたれて、しばらく接客の様子を見てると、
ゴトーに気がついて手を振ってる
軽く手をあげると、こっちに来いと手招きされ
「ほれ、ごっちん、これをこの布で磨いてこれに入れてあげてよ」
おいおい、いきなり手伝いかよ
でも嫌いじゃない、元々接客業って好きだから
いつものホストトークでなく、
等身大のゴトーでカップルや女子高生を相手にするのは楽しい
夕暮れが近づくと、そろそろ片付けるよと、自然にゴトーを手伝わせて
特殊なバックに綺麗に商品を収納していく
- 366 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:31
- 全部が綺麗に収納されたら、手ぇ出してと言われ、
差し出すと手のひらにネックレスが一つ落とされた
「ごっちんあんがとね」
オープンハートが少し斜めにデザインされた脇には、
羽がセンスよく配置されてて、ゴトー好みだった
「お礼だよ、手伝ってくれた」
ここの商品は高くても3000円、安い物は500円という代物
ちなみによしこにやぐっつぁんがプレゼントすると買ったチョーカーは
超気合入ってたから5000円の最高値だったみたい
まぁ、いつももらうアクセは、安くても5.6万って所だけど、
なんとなく嬉しかった
「これ、商品に並んでなかったよね」
「うん、昨日急いで作ってみた、イメージが浮んだから」
ドキッ・・・・・てした
そう言って笑う美貴が、なんか輝いて見えて
「作るとこ・・・・見てみたいな」
「え〜っ、美貴没頭しちゃうよ、作り始めたら」
って言ってから、なんか食べに行こうよ・・・って重たそうなバッグを持って歩き出す
くせになってるからか、つい荷物を持つと
「何?優しいじゃん」
「まぁね」
- 367 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:34
- それから知り合いの居酒屋に連れて行って
少しお酒を飲んで
美貴がちっちゃいお店を持ちたいという夢を語った時
昨日聞いた絵梨香のモデルの夢を思い出した
みんな自分なりの夢があって
・・・・じゃあゴトーは?
ゴトーの車を代行業者に頼んで一緒にゴトーのマンションにやってきた
「なに、すっごいとこ住んでんだね、ごっちん」
「「まぁね」」
美貴がゴトーの真似をして言うのと重なる
笑いあって、おたがいに笑い終わると、
じっと見詰め合ってしまった
そう・・・・・昨日初めて会った時から互いに何か感じてたのかもしれない
- 368 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:35
- 美貴が持っていたバッグがホトリと床に落ちると、
それが合図になる
自然に二人の距離がなくなって、唇が重なっていた
誰も寝かせた事のないセミダブルのベッドはよしことお揃い
気付くと裸の女が二人、足を絡め、舌を絡めてお互いの体温を感じていた
「なんだろ・・・・・ちょっと美貴運命なんて感じてるかも」
「運命?」
それはまた安っぽい言葉
- 369 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:37
- だけど、いつもお客の口から聞く言葉と同じなのに・・・・・
心に響く何かが違ってる
「だから、昨日キスしてたし・・・・・・
会いたいって思って・・・・・迷惑だった?」
見上げて来る美貴
組み敷いたゴトーの髪の毛がさらさらと美貴に落ちて行く
「迷惑じゃないけど・・・・ゴトー女だよ」
「うん・・・・だから運命・・・・・美貴今迄男しか経験ないもん」
薄暗い中、笑う美貴に見惚れる
「じゃあ付き合う?」
「いいよ、美貴は」
何・・・・・この感じ・・・・・
「いいの?」
「うん・・・・・いい・・・・気持ちかったし」
ゴトーの落ちてった髪の毛を両手で掻き揚げてそのまま頭を抱き寄せられてキスされる
もちろんそれに答えるゴトー
- 370 名前:第二章 投稿日:2005/12/20(火) 23:38
- こうみえてゴトー・・・・・人と付き合った事ない
だからちょっと不安・・・・
誰とでも寝れる自分を・・・・・
好きになってくれる人なんているのか
同じようなよしこが・・・・
やぐっつぁんの純粋な愛に答えられるか自分に置き換えて試してた
あのよしこが、誰かを愛す事が出来るのか
今は、よしこの中の愛情が自分達の経験の無い家族愛なのか
大切な人を思う愛情なのか解らない所で揺れ動いてるから
そしてやぐっつぁんの事を好きな絵梨香が、
そんな純粋なやぐっつぁんを振り向かせる事が出来るのか
愛情というものを信じていないゴトーは、よしこや絵梨香で試していたから
こんな風に純粋な気持ちをぶつけられた時の気持ち・・・・・・ゴトーは知らなかった
どうなるか解らないけど・・・・、
腕の中で感じまくってる人と、何か見つけられるかもしれないって・・・・・そう思った
- 371 名前:*** 投稿日:2005/12/20(火) 23:39
- 今日はこのへんで
- 372 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/21(水) 12:32
- よっすぃ、ごっちんのそれぞれの思いが今後も気になります。
楽しみにしてますのでがんばってください。
- 373 名前:*** 投稿日:2005/12/23(金) 02:53
- 昼過ぎにいつものように二人で買い物にスーパーに行った
どうやら今日はごちそうみたい
何の記念日かは知らないけど、
矢口さんは起きてすぐに料理雑誌を抱えてウチの寝てる横でどれが食べたい?と大張り切り
なんだかんだいって和食党の私は、
色々考えて茶碗蒸とか炊き込みご飯があればそれでいいと言う
外でしか食べた事ないし・・・・そんな料理
じゃあ、それにすると言いながらも、なんか華やかじゃないなぁなんてページをめくってた
起きて簡単に食事を済ますと、我家の主婦についてお買い物
財布には一月分の生活費を同じ額だけ入れて、一生懸命矢口さんがやりくりしてる
別にオーバーしてもいいのに、大体余ってる・・・・
粗食って訳でもなく、いつも豪華な食事が出来るのは
矢口さんが広告をチェックしたたまものなのかもしれない
吟味された広告の中で、買い物リストをいつも作って出かけて買い物するのはいつか見たテレビの中の方法、
そして今日も手馴れた手つきで食材をチェックして帰って来ると
真っ赤な見慣れたスポーツカーが止まってた
しかもウチの駐車場に・・・・・
だから矢口さんが アレ、誰か止めちゃってると言った
- 374 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 02:57
- 誰が止めてるのか解ってる私は、
嫌な予感をさせながらゲスト用の駐車場に止めて荷物を持った
エレベーターに向かうウチらに、その人は車から降りて近づいてくる
はめていたサングラスをはずしてしゃなりと近づいてくる色っぽい人は、
結婚間近のあの人
「どうした?アヤカ」
「子犬が見たくて・・・・・なるほどね」
どうやらばれたらしい
隣で、何故かどうしようとおろおろしている矢口さん
「お・・・おいら出かけてくるね」
自分のバックを持って、逃げるように去ろうとした
- 375 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 03:00
- 「いいですよ、矢口さん」
それを言ったのはウチではなかった
だからこうやって今、ウチの部屋でアヤカと向かい合ってる
矢口さんは買い物した奴を冷蔵庫に入れながら、
コーヒーを入れようとお湯を沸かしてる
そして、入れられたコーヒーをカタカタと緊張しながらアヤカの前に置いて
「どうぞごゆっくり」
と、心なしかぎこちない笑顔でベッドルームに行ってしまった
「まさか、子犬があの子とはね・・・・・どうして黙ってたの?」
「ん〜、黙ってた訳じゃないけど・・・・・言えなかった・・・・かな」
「いつから?」
そんな怖い目しなくてもよくない?もうすぐアヤカ結婚するんだし
「もうすぐ半年・・・くらいかな」
「やってるよね、もちろん」
やってるって・・・・そんな言い方
「そんな訳ないよ、ただ一緒に暮らしてるだけだって」
「嘘ばっかり、それにそんなに慌てる事ないじゃない・・・・・ひとみと私は恋人でもないんだし」
まぁ・・・・・そうだけど
「ね、今日は泊まってってもいい?」
「は?」
- 376 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 03:03
- 「いいですよ、矢口さん」
それを言ったのはウチではなかった
だからこうやって今、ウチの部屋でアヤカと向かい合ってる
矢口さんは買い物した奴を冷蔵庫に入れながら、
コーヒーを入れようとお湯を沸かしてる
そして、入れられたコーヒーをカタカタと緊張しながらアヤカの前に置いて
「どうぞごゆっくり」
と、心なしかぎこちない笑顔でベッドルームに行ってしまった
「まさか、子犬があの子とはね・・・・・どうして黙ってたの?」
「ん〜、黙ってた訳じゃないけど・・・・・言えなかった・・・・かな」
「いつから?」
そんな怖い目しなくてもよくない?もうすぐアヤカ結婚するんだし
「もうすぐ半年・・・くらいかな」
「やってるよね、もちろん」
やってるって・・・・そんな言い方
「そんな訳ないよ、ただ一緒に暮らしてるだけだって」
「嘘ばっかり、それにそんなに慌てる事ないじゃない・・・・・
ひとみと私は恋人でもないんだし」
まぁ・・・・・そうだけど
「ね、今日は泊まってってもいい?」
「は?」
- 377 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 03:04
- すみませんダフリました
- 378 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 03:06
- 今日のアヤカは可笑しい
私の驚きっぷりに、満足したようなアヤカ
「何かあったの?アヤカ」
コーヒーを飲みながらアヤカは笑ってる
「そうね・・・・昨日あの人に抱かれたら・・・・・
急にひとみに抱かれたくなったの」
そういう事・・・・・相手の人はへたくそとか?
結構遊んでるみたいだからそんなでもないでしょ
「ごめん・・・・今日はちょっと」
「ここじゃ無理ってだけでしょ・・・・・子犬飼ってるから」
飼ってる訳じゃ・・・・・・・って、最初そう言ったのはウチだし突っ込めない
「まぁ・・・・」
「じゃあウチに来て、来週引越しだから最後に」
最後かぁ・・・・って、結婚しても続けるつもりでしょ、ウチらの関係
それに、今日矢口さんがなんだかはりきってるからね
何の記念日か解らないけど
- 379 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 03:08
- 「来てくれるでしょ」
向かい側にいたアヤカは、セクシーに隣にやってくる
別に男じゃないから・・・・
なんて思うけど、癖になってるのか、アヤカの色香にふらふらと誘われてしまう
「解った・・・・泊まれないけどいい?」
少しの良心がアヤカの家に泊まる事をはばからせる
「・・・・・・ええ」
結局ウチって男みたいなんだ・・・・
誘われればふらふらとついていってしまう
そう・・・・・だから、彼や彼女を作らない・・・・
その人を傷つけてしまうのが解ってるから
こうやって誘われると断る事が出来ないから
- 380 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 03:11
- ベッドルームを開けると、
矢口さんはウチのデスクでパソコンをいじっていた
ゲームしか出来ないんだけど、この部屋に押し込められて、
する事が無かったんだろう
「矢口さん、ちょっと出てきます・・・・」
「あ、うん」
笑顔は変わらないけど、なんだか寂しげに見える
近づいて、アヤカには聞こえないように
「すみません・・・・・せっかく今日ごちそう作ってくれるのに」
「ううんっ、いい、気にしないで行ってらっしゃい」
そこにウチの携帯が鳴る
- 381 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 03:28
- ベッドルームを開けると、矢口さんはウチのデスクでパソコンをいじっていた
ゲームしか出来ないんだけど、この部屋に押し込められて、
する事が無かったんだろう
「矢口さん、ちょっと出てきます・・・・」
「あ、うん」
笑顔は変わらないけど、なんだか寂しげに見える
近づいて、アヤカには聞こえないように
「すみません・・・・・せっかく今日ごちそう作ってくれるのに」
「ううんっ、いい、気にしないで行ってらっしゃい」
そこにウチの携帯が鳴る
- 382 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 03:28
- すみません、またタブッてしまいました
- 383 名前:*** 投稿日:2005/12/23(金) 03:45
- そして大変中途半端ですが
パソコンの調子が悪い様なので一旦中止させて
いただきます・・・使い手が悪いのかも・・・
明日また更新させて頂きます
大変申し訳ありません
- 384 名前:*** 投稿日:2005/12/23(金) 09:03
- 大変見苦しい事をして申し訳ありませんでした
今までも途中でフリーズする事はよくあったのですが
こんな読みづらくしてしまうとは・・・
途中レス頂いたりしても、ろくに返答もしない癖に
こんな風にしてしまうなんて
読んでいただく方に本当に申し訳ないと反省してます
今後このような事のないよう頑張りますので
よろしければまたおつきあい下さい
それと、途中感想を下さった方々
本当に嬉しくて、どういう言葉をお返しすればいいのか・・・
と、そこで手が止まってしまうのですが、ありがたい事だと感謝しております
期待を裏切らない様頑張ります
- 385 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:06
- 相手は保田さんだ
私に話しがあるとの事・・・・
今日ウチの店が休みだからと安倍さんとウチに来ようと思ってたが、
仕事の都合がつかずにギリギリでの連絡になったとの事
話っていうのもうっすら解ってるし・・・・・
どうせついでに説教しに来るんだろうと逃げ道を作る
私は今から出ないといけなくなったけど、
矢口さんいるから来て下さいと言った、矢口さんを一人にするのはやっぱり心配だから
まぁ二人が来てくれれば安心出来る・・・・・
それに今日はごちそうだから二人も喜んでくれるはず
そして食事して満足するまで抱いてやれば夜には戻れると思うし
「保田さんと安倍さんが今日来るそうです・・・・夜には戻りますけど、
食事は多分してくると思いますんで」
「うん・・・・解った」
と言いながら視線が後ろに逸らされた・・・・
アヤカが入って来たんだろう
- 386 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:08
- アヤカはきっとわざとウチの後ろから抱き付いて
「ごめんなさいね、少しお借りするわ」
肩越しにアヤカの横顔を見ると、挑発するような視線で矢口さんを見てた
「はい・・・・・」
柔らかく笑う矢口さん
見送りに玄関に来て笑って行ってらっしゃいと言う
アヤカの車に乗り込んだ時
「かわいい子犬ね・・・・・ちゃんと弁えてるし」
「アヤカらしくないね・・・・なんだか」
こんなアヤカは今迄見た事ない
- 387 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:09
- いつも大人で、余裕かましてて・・・・
ウチよりも上をいつも見据えて歩いてる人だったのに
「嫉妬?」
「・・・・ん・・・・・ひとみを取られそうで怖かったのかも」
「もともとアヤカのものじゃないし」
少しムッとした感じが出てしまった
「そうね・・・・・・・・ちょっとマリッジブルー入ってるのかも
・・・・・もうしないわ、こんな事」
マリッジブルー・・・・・・
そっか・・・・アヤカも不安定なのかもしれない
「ごめん」
ギアに手を置いているアヤカの手に重ねて言う
信号待ちで、ウチらは唇を合わせた
- 388 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:10
-
- 389 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:11
- 「何で怒ってるんだべか」
全くなっちは全然解ってない
矢口が吉澤を本気で好きなら、
もっと早く矢口にひとり立ち出来る力をつけさせないと
お互いに不幸な結果になってしまうかもしれない
過保護すぎる吉澤にいつも注意してはいたものの、
このままでは矢口がダメになってしまう
もともと私は吉澤の家に暮らさせるのは反対だった
あの吉澤って子がどんだけの女を食い物にしてるか知ってたから
まぁ・・・・仕事の関係と割り切ってるんだろうけど・・・・・
あの純粋な矢口にそんな事を理解させる気にはぜんっぜんならない
- 390 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:14
- なっちはあの二人をどうにかしてくっつけようとしてるみたいだけど
あのままの吉澤にはやっぱり矢口を任せられない
今の所手は出してないみたいだけど・・・・・
矢口の純粋な思いはますます強くなってるみたいだし
ここらでちょっと歯止めをかけておかないと・・・・
ん〜・・・互いに大人なんだから、
中学生の色恋ざたのように監視する事はないんだけど・・・・・
やっぱ私も矢口には過保護なのかも・・・・
なっちが矢口の様子がおかしいと言ってゴトーに聞いた所、
心配ないって・・・今矢口は恋愛を勉強中だから、
周りは見守ってあげるしか出来ないって言われたみたい
後藤みたいな子が近くにいるからまだ安心だけど、
さっきの電話だと矢口を置いて女と遊びに行くみたいだった
矢口がそれを知ってるんだったら・・・・・
そう考えるといてもたってもいられなかった
- 391 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:15
- 「圭ちゃんは優しいべさ〜っ」
かっとばす車の中で、
のんびりと助手席でそう言ってるなっち
「何言ってんのよっ、先週会った時に矢口にちゃんと言ったの?
パンフの学校の寮制の方の話だって」
なっちは吉澤と暮らしながら通えるようにって言ってくるけど
「どうしてそう圭ちゃんは、よっちゃんと離したがるんだべさ?」
「確かに今吉澤は矢口を大切にしてくれてる・・・・
だけど、本気で矢口が吉澤に惚れちゃってるなら話は別」
「なんでだべさ、矢口はよっちゃんに恋人が出来ても邪魔しないようにするって言ってるよ、
よっちゃんのそばが幸せだからって」
「そんなけなげな矢口を・・・・もっと幸せにしてあげたいのよ」
私だって矢口が吉澤のそばにいれば幸せに思うのは解ってるのよ
- 392 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:17
- 「・・・・もう・・・・・圭ちゃんは頑固だべ」
「悪かったわね」
「そんなとこもなっちは好きだけど」
そうそう・・・・悪う・・ご・・・・ざ
「は?」
え・・・・?助手席を見ると真っ赤になってるなっちが俯いて笑ってて
「解ってるべ、結局矢口がちゃんとひとり立ちする事で、
よっちゃんと本当にうまくいくと思ってるんだべ?」
そうそう・・・・・それが言いたいのよ・・・・・って・・
まぁ・・・・
結局そうなんだけど
「解ってるじゃん」
私達は目をあわせて笑い会った
- 393 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:18
- なっちは本当によく私の事を解ってる・・・・・
互いに忙しくて、あんまり会えないけど
怖いってよく言われる私に・・・・
優しいなんて言ってくれる人は少ない
のんびりした雰囲気のなっちが、
時々私を癒して・・・包んでくれてるのは感じてるよ
さっきなっちが好きって言ってくれた意味がどんな意味なのかはわからないけど・・・・
私にとってなっちはとても大切な存在・・・・・なくしたくない存在
だからあんまり思わせぶりにそんな言葉を言わないで欲しい
- 394 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:20
- 吉澤のマンションに着いたら、
いつものようにかわいらしく二人に飛びついて歓迎してくれる
「圭ちゃんっ、なっちっ、いらっしゃい」
かわいい矢口・・・・こんな風にいつも迎えられれば、
吉澤だって手放したくないと思うだろう
そして、何故か豪華な食事が並んでいた
「どうしたんだべさ〜っ、こんなごちそう」
「へへっ、なっち達が来るって言ってたから頑張っちゃった」
少し元気がないけど、笑顔でそう言う
炊き込みご飯に、茶碗蒸し、筑前煮になんか青物のおひたしのようなもの、
お刺身の盛り合わせやサラダ、これを一人で準備したの?
「すごいわね〜、絶対私には無理だわ・・・・こんな豪華料理」
「矢口はよっちゃんの為なら頑張って作るんだもんね〜っ」
これこれなっち・・・・・そして矢口もなんか照れてるし
という事は、本当はこの料理たち、吉澤の為に作ったんだ
- 395 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:21
- 「さっ、食べて食べて・・・・ちょっと茶碗蒸は自信ないけど、
ちゃんと本の通りにしてみたんだ」
どれどれとリビングで料理を挟んでいただきますと食べると
「おっいしい、矢口、これおいしいよ」
「うん、おいしい・・・・ほんと」
すごい・・・・矢口本当に料理うまくなったね
「へへっ、良かった」
なっちと二人できゃあきゃあ言いながら食べてしまったら、二人で片付けしてる
私はゆったりとビールを飲みながらテレビなんて見たりして、極楽なもんだった
いやいや・・・こんな生活たまんないね
- 396 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:23
- まさか吉澤・・・・
矢口がかいがいしく世話してくれるのが手放せなくて一緒に暮らしてんの?
純粋に矢口が吉澤を思ってしている事を、
ただのお手伝いとしての必要性だけでそばに置いてる?
洗い物を終えて二人がこっちに戻って来た時には、
二人はコーヒーと紅茶をついでいた
「専門学校の事でしょ、圭ちゃんが来たの」
そして、意外にもこの話題に触れてきたのは矢口からだった
「そう、考えてくれてる?」
「うん、おいら行きたい」
笑ってるけど・・・
「それはなっちが言ったべ」
「でも、私が勧めるのは、通いの学校じゃなく、寮に入ってみっちり勉強する方」
「ん〜」
矢口は少し首を傾ける
「そう・・・・その方が早い期間で資格を取得出来るみたいだし、
より高い技術や知識を学べるみたい」
同じ目的で集まる人とも一緒にね
その一言に、矢口はピクッと反応する
「・・・・・友達・・・・出来るかなぁ」
その笑顔が、前に施設に入る前のような寂しい感じを受けた
- 397 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:28
- 「矢口なら出来るべさぁ、
それに、よっちゃんに会いたい時は休みの日にここにくればいいし」
「・・・・・よっすぃ・・・・休みの日も忙しいから・・・・」
かわいい矢口・・・そんな彼女にこれから私は酷な事を言わないといけない
「矢口・・・・・こう言っちゃなんだけど・・・・・
やっぱり小学校も卒業してない矢口には、資格ってすごく大切なものなんだよ・・・・・・
専門学校も高校卒業者が対象な所がほとんど
だから規定の無い学校は少ないの・・・・・・
それに大体入学は4月がほとんどなのに、そこは6月からの入学・・・・・
きっと他の入学に漏れた人を狙ってると思うの・・・・
一応警察の手を使って色々調べたら、入寮者は色んな問題を抱えた人が多いのは確かよ・・・・・
だけど、本当に社会復帰をめざす人ばかりいるって
しかも、学費をローンで組む人には、入寮中にちょっとしたアルバイトをして学費に当てる制度を導入してるから、
卒業してからの負担も少ない
卒業生は100%就職できるって事で全国から入校したい人が殺到する程で競争率も高いみたい・・・・・
簡単なテストがあるみたいだけど・・・・決定するのは面接なんだそうよ」
真剣にパンフレットを眺めて私の話を聞いてくれていた
「そんな難しい所に・・・・おいら入れる?」
「大丈夫・・・・矢口なら絶対」
そこの校長にはもう話しがしてあるから
一見怖そうな・・・・変わった人だったけど、
なんか・・・・・魅力的な人物だったから
- 398 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:31
- 「明日・・・・その面接があるんだけど矢口大丈夫?」
先週なっちにちゃんと言ってたんだけど・・・・・
どうしても吉澤と暮らさせてやりたいみたいだったからわざと伝えなかったみたい
「・・・・・・うん」
こんな急な話だけど、矢口は笑顔で頷いた
「断ってもいんだべ・・・・探せば他の所もあるんだし」
「なっち」
そばにいさせてあげたいのは解るけど
「だって圭ちゃん・・・・・」
目の前に矢口を置いてしまうと、情が先走るのはなっちのいいところだけど
「大丈夫だよ、おいらの事を思ってしてくれてるんだもんね、圭ちゃん・・・・・
それにおいら早く一人前になりたい・・・・・ちゃんと・・・・・一人で暮らせるように」
矢口・・・・・本当にいい子だと思う・・・・
吉澤にはもったいない位・・・・
だから
それから具体的にどれくらいお金がいって、
どんなバイトをしていくようになってるか一緒にパンフレットを詳しく見て説明した
ここに吉澤がいないのが残念だけど、矢口はとりあえずやる気になってるし
寂しそうに見えるのはきっと吉澤がいないから
吉澤は今頃、他の女と矢口に言えないような事をしてるに違いない
仕事だと言われればしょうがないけど・・・・・大切に思う人がいるなら、
その人を悲しませないような仕事の仕方ってあると思う
吉澤にはそのやり方も出来ると思うから・・・・・もっと自分や、
大切な人を思いやる事出来ると思ってるからいいきっかけにして欲しいと思う
- 399 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:32
-
- 400 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:34
- マリッジブルーのアヤカを抱いて戻ったのは夜中だった
帰って来たら、笑顔で矢口さんが迎えてくれて・・・
ちゃんと食べて来たんだけど、折角だから少しだけでも食べてあげたくて言うと
私がシャワーを浴びてる間に、ちゃんと茶碗蒸と炊き込みご飯をよそって温めてくれていた
保田さんと安倍さんは帰ってしまったみたい
「ん、うまいっ、これ食べたかったんすよね、さすが矢口さん」
今日ゆっくり過ごしてやれなかった後ろめたさからだろうか、こんな調子になってしまった
「よかったぁ〜、圭ちゃんとなっちもね、おいしいって言ってくれたんだよ」
「うん、おいしいですもん、これ」
矢口さんは満足そうに笑ってた
- 401 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:35
- 「で、何の用だったんですか?二人は」
「うん、おいらのね、専門学校の話」
「ああ、調理師になる為のですか、いつごろから通えるんですか?」
あれからうっすら考えてた、こんなに料理が好きなら、
その道もありかなって
「入試があるみたい・・・・それが受かれば6月からだって」
「6月?すぐじゃないすか」
来週でしょ・・・・めちゃ急ですね
私は来年の4月かなって思ってたんですけど
- 402 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:37
- 「で、入試って?」
「うん、明日」
「明日〜?」
思わずパンフレッドを探してしまう
あんまり乗り気じゃないからか、パンフレットに真剣に目を通さなかったから
「それでね・・・もし受かったらね」
「はい」
探しながら、言いよどんでる矢口さんの言葉に耳を傾ける
「寮に住む事になりそうなんだ」
ハタと固まると俯いてもじもじしている矢口さんを見た
「寮?」
なんでわざわざ寮なんて
「どっか遠い所なんですか?そこ」
場所さえ把握してなかった
まだずっと先の話だろうからって
「ううん、えっとね・・・こっから30分位だって」
「じゃあここから通えばいいじゃないですか」
「なんか・・・・短い期間でより高い技術を学ぶには、寮に入った方がいいんだって」
「保田さんが言ったんですか?」
こくんと頷く
「全く・・・・ゆっくり矢口さんは勉強すればいいって言ってるのに、何でそんな急ぐかなぁ」
むかついたので思わず口から出てしまう
「でもね、おいら、圭ちゃんが言ってくれてるのって解るから・・・・・
だからそこに行ってみようって思ったの・・・・」
- 403 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:40
- どうして・・・・・ウチの事好きじゃないんですか?
そばにいたいって言ったじゃないすか
・・・・・・・何言おうとしてる?ウチ
「いいじゃないですか・・・・時間はたっぷりあるんですから」
口調がちょっときつくなってしまって、矢口さんは少し縮こまってしまった
「・・・・・・でも」
「またウチに迷惑とか考えてるんでしょ、いい加減にして下さい・・・・・
ウチは迷惑なんてちっとも思ってないし、矢口さんには家にいて欲しいって本気で思ってます」
そうだよ、このウチが
「うん・・・・うん、解ってる・・・・・ほんとにおいらの事を考えてくれて嬉しい・・・・
あの・・・・だからね、おいらね」
「保田さんに何吹き込まれたか知りませんせんけど、ウチは反対ですっ」
冗談じゃない・・・・この家から矢口さんがいなくなるなんて、ウチは考えたくない
そして、困ったような悲しいような目をして俯く矢口さん
いや・・・・怒ってるんじゃなくて・・・・・ん〜怒ってるんだけど
- 404 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:41
- 堪らず、私は携帯を取り出して電話を掛けた
それをちらちらと見て、私が食べかけている茶碗蒸と炊き込みご飯をじっと見つめてた
長い呼び出し時間を経て第一声
『何?』
何って、そんな、いきなりそれすか?
「あの・・・・どうして保田さんはいつも矢口さんを私から離そうとするんですか?」
じわじわと広がっている胸の中のイラつきが私の口調をよりキツいものにする
『私は一人でちゃんと生きてる吉澤にも、その生き方にも別に何も言わないわ、
だけど、矢口には私責任を感じてるの』
「は?」
ウチに預けて失敗だったと?
『家政婦なら他を紹介するわ』
「はぁ?」
より怒った口調の私の声に、ビクッと矢口さんはちっちゃくなってしまった
- 405 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:44
- 「んなつもりはないっす、ウチは」
『そう?私にはそう見えるけど・・・・確かに一見あんたは矢口を大事にしてて、
めちゃくちゃ過保護に甘やかして、矢口に外の世界に触れさせないようにさせてるじゃない
でもそれって自分が面倒みてるから、自分だけを見させて満足してるようにしか見えないけど』
「それマジで言ってんすかっ、冗談じゃありませんよっ」
『あんた矢口の気持ち知ってて他の女と寝たりしてるじゃないっ、矢口が何も知らないと思って』
カァっと頭に血が上って、怒鳴ろうとした瞬間に怒鳴られて言葉を呑んだ
『言い返せないわよね、本当の事だもんね・・・・・
矢口は気付いてるよ、ちゃんと・・・あんたにそんな相手がいるって』
そりゃ・・・・・アヤカとの事・・・・恋人とか勘違いしてるみたいだけど・・・でも違うし
『今日、きっと吉澤に何か伝えたくてご馳走作ったんじゃないの?
それなのに一人おいてけぼりにして客だか恋人だか知らないけどその人と出てって』
ちっちゃくなって俯く矢口さんを見た
瞬間に思い出す・・・・・クリスマスの日・・・・・
一人で作ったご飯を食べさせてしまって、一人で出てった時の事
- 406 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:46
- 『そんな自分勝手な奴に、大事な矢口をおいそれとまかせておけない・・・・
いくら矢口がそばにいたいって思っててもね・・・・・・
だって吉澤が今にもっと矢口を邪魔にするようになって
何も出来ない矢口をポンと社会に追い出すような真似しかねないもの・・・・・・
その時矢口に何が残ってる?母を殺され父に浚われて、妹を死なせて、
大好きなあんたに捨てられて』
邪魔なんて・・・・でも唇を噛み締める・・・・
その後の事について反論する術が無い
『見違えるようにいい笑顔をするようになったのはきっと吉澤のおかげよ・・・・
だけど社会は厳しいの、普通に生きて、普通に生活してる人だって
自殺したいって思う人は沢山いるわ
矢口が今迄見て来た世界は、他の人から見たら不幸でかわいそうな生い立ちかもしれないけど、
ある意味幸せだったのかもしれないでしょ』
この人には敵わない・・・・そう思った
『あの特殊な世界を生き抜いて、しかも生きる為に笑顔を忘れない矢口は、
きっと私達が知ってる身の回りの人誰よりも強いの・・・・
だからあまり過保護にするとどんどん弱くなる・・・・解る?』
「・・・・はい」
ちらっと、ちっちゃくなった矢口さんが、落ちついて来た私を見上げる
- 407 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:50
- 『矢口が行こうとしてる学校の校長はね、
昔色々問題があって警察にやっかいになってた人よ・・・・・・
だけど、今は何故か人を育ててる・・・・そんな人が、きっと矢口をもっと強くしてくれる
私はそう思ってるけど・・・・・・・吉澤はまだ籠の中の鳥を飼いたいって思ってる?』
痛い所をビシバシとついてくる・・・・・
それに矢口さん・・・子犬から鳥にされてしまって・・・・
「解りました・・・・・よろしくお願いします」
『言っておくけど・・・・吉澤はあの時、
矢口を面倒見るって言った責任があるのよ・・・・・
その事はちゃんと理解してるわね』
「・・・・・はい」
元々ウチはズルい女で・・・・・褒められる要素なんて何もない奴だった
そんなウチが誰かを面倒見るなんて、とんでもない事だった
それが解ってるから、恋人なんて作らないし、作ろうと思わない
なのに愛しいからって、
愛玩物のように矢口さんを近くに置いておく事を保田さんは責めてるんだと思った
- 408 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:52
- 電話を切ってテーブルに置くと、気まずい沈黙が続いたけど・・・・
矢口さんから口を開いた
「ごめんなさい」
それだけで、ちっちゃくした体のまま固まっていた
「謝らないで下さい・・・・・こっちが泣きたくなります」
どうして?って顔でこっちを見上げる
それがかわいくて、くすっと笑って少し落ち着く
「えっと・・・・・あの・・・・今日・・・・・
どうしてご馳走作ってくれたんです?何かの記念日ですか?」
中途半端にしてたご飯を再び食べ始める
「う・・・・・うん・・・・」
さっきの私に怯えちゃったんですね・・・・すみません・・・つい
「ほんし・・・すみませんでした」
「ううん・・・でもね・・・・大した事じゃないの・・・・・あのね・・・・」
そう言うと、スタッと立ち上がって部屋に行ってしまった
- 409 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:54
- 「矢口さん?」
茶碗を持ったままベッドルームを見てたら、てててと出て来て、
恥ずかしそうにかわいい手作りっぽい紙袋に入った物を渡される
「あ・・・あのね・・・・・おいらね・・・・」
あまりの恥ずかしがりかたに、まさか告白っ?て思ってドキドキしてしまった
「おいら・・・・すっごく・・・あの・・・すっごくね」
すっごく?
「あの、今、すっごく幸せで・・・・・初めてもらった給料で、
どうしてもよっすぃにお礼がしたかったの・・・・・それでね、
三好ちゃんとかに手伝ってもらってね・・・・色々探したんだけどね
結局・・・・・・これがいいかなぁ・・・って・・・・・
あのねっ、でもいいのっ、つけなくてもいいんだけど・・・・・
あのね・・・・・おいらが感謝してるって事をどうしてもね・・・・・伝えたかったの」
純粋な矢口さんの思いが突き刺さる・・・・・
私なんかに感謝なんて・・・・
先週からどうしてそんなにウチの予定を聞くかと思ったら・・・・・
それなのにウチは客と旅行したりアヤカと出かけてしまったり
確かにウチはひどい奴だと思い知る
- 410 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:56
- 「ほんとはね、持ってるお金全部使って買いたかったんだけどね・・・・・
色々見て周って・・・・これがなんかピンと来ちゃって・・・・・
あの・・・・ごめんなさい」
じわっと来てるのにまた謝られてしまって
「だからどうして謝るんですか?」
こっちが謝らないといけないのに
「迷惑だったらいいの、ほんとに・・・・
彼女さんにも悪いし・・・・・だからごめんなさい」
袋を開けると、カッコイイチョーカー・・・・きっと男物なんだろう・・・・
「もちろん迷惑じゃありません・・・・嬉しいですよ」
「ほんと?」
その顔は本当に嬉しそうに笑ってて
早速つけてみて、鏡を見に行くと、ちょこちょこついて来て
「うん、いいです・・・・ありがとうございます」
へへへへって、もの凄く照れ臭そう
- 411 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 09:57
- 自分で言うのもなんだけど、私の為に作られたって感じがした
ブランドものではない、手作りっぽいチョーカー
あ、それと彼女とかって言ってたよね・・・
そんなのいないって事を言わないとって思ったらもじもじして矢口さんが話し出す
「で・・・でもね、調子に乗ってね・・・・・あの・・・・」
ポケットから何かを取り出して、ゆっくりと私の前で手のひらを開いた
この前つけてた奴・・・・よく見ると、
私のチョーカーと同じデザインがアクセントについている指輪
「あれ・・・これ」
私の声にその手をきゅっと引っ込めて
「ダメならいいの・・・・・だけどね・・・・
おいらよっすぃと一緒の奴がどうしても欲しくて・・・・・・」
ってその指輪を握り締めてる
- 412 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:00
- 全く・・・・どうすればいい?こんなに矢口さんを愛おしいと思ってしまう
「お揃いですか・・・・・いいですね」
ちゃんとウチ笑えてる?
「じゃあいいの?つけても」
当たり前です
「もちろんですよ、ウチも嬉しいです」
にこぉっと嬉しい顔をする
「ほんと・・・ありがとうございます・・・大切にしますね・・・・
じゃあ、ご飯食べちゃいますね、折角作ってくれたんだし、美味しいから」
急に照れ臭くなってしまったから
そう言ってリビングに戻ると、
にこにこしてテーブルの向こうで指輪を見てはウチを見て喜んでいた
そういえば、前にしてるのを見た時に隠したのは、そういう事だったんだ
誰かにもらった訳でもなかったって事ね
よかった・・・・ん?良かった?
どこかの誰かに取られた訳でもなかったって事に?
だいたいありえない・・・・
他の誰かにこんな事をされたらきっとウザがってしまってるに違いない
- 413 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:01
- なのにこんなに嬉しい自分がいた
こんなに一生懸命に生きてる矢口さん
こんなに一生懸命に私を一番に思ってくれる矢口さん
こんなに思ってくれるのに、私に甘えないでちゃんと自分の道を歩き出そうと思ってる矢口さん
そうだね・・・・・矢口さんの為に・・・・・寂しいけど我慢するしかないか
そう思いながら食べ終わった頃、ちゃんと話そうとした時に電話が掛かってくる
プライベート用で、今頃鳴るのは決まっている
「何ごっちん」
『あはっ、超不機嫌じゃん、まさかやぐっつあんといい事してた?』
「ばっばか言わない」
動揺した私は立ち上がって部屋の隅に移動してしまったから、
指輪をはめて嬉しそうな矢口さんがこっちを見てしまった
『んなわけないか、よしこはヘタレだもんね、案外』
何?なんかムカつくんだけど・・・・・でも何よりごっちんがおかしい・・・・
- 414 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:03
- 「んなのいいから、どうしたの?」
『ふふっ・・・・あのね、よしこにはちゃんと言わないとって思って』
何?妙に浮かれてて、こんなごっちんを初めて知るような気がした
「だから何?」
ちょっとイラついた私の横に矢口さんがやってきて、
ごっつぁんどうしたのって呟いてる
『何怒ってんの?ってか、マジ話なんだよね・・・・』
急に真剣な声になって、少しドキッとする
「あ、うん、で?」
解らないジェスチャーをしてみせると、矢口さんは首を傾げたままそばにいた
- 415 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:04
- 『うん・・・・・・・実はね・・・・ゴトー仕事やめるかもしんない』
「え?」
ど・・・・うして?
『今すぐじゃないよ・・・・ゴトー何も出来ないからさ、
でも、積極的に今の仕事にはもう打ち込まないと思う』
元々、本腰は入れてなかったし、それなりに楽しんでたみたいだったけど・・・・
「何か・・・・・あったの?」
『ちょっとね・・・・・でも、よしこにはすぐに言っておきたかったからさ・・・・・決心した事』
もしかして・・・・・
好きな人でも・・・・出来た?
- 416 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:06
- 「解った・・・・そっか・・・ごっちんもどっか行っちゃうか・・・」
つい寂しくて口から出てしまったら
『何?ごっちんも・・・って、まさかやぐっつぁん?』
「ん・・・・なんかね、調理師の専門学校に通うって」
私?って自分を指差してる
『へぇ〜、それでよしこは許可したの?』
「うん・・・・別に矢口さんが永遠にいなくなる訳じゃないし・・・・・
もっと矢口さんに色んな世界を見てもらいたいし」
いつのまにかごっちんとでなく、矢口さんに話していた
矢口さんは複雑な表情で見上げて来る
「まぁ・・・・・ここにまた帰って来るんだし・・・・・
それまで寂しいけど我慢しようと思って」
帰って来ていいの?って顔
『何?出てくって・・・学校通うだけじゃないの?』
「うん、寮に入るって・・・・・ごっちんも店やめても友達なんだよね」
『おう・・・・もちろん・・・・ちょ・・・・よしこ、いい事思いついた』
「は?」
- 417 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:07
- 急に声色が変わって、隣に誰かいるのか、
その人にも言うように大きい声で話し出す
『ウチも行くよ、そこ』
「は?」
『だから、調理師でしょ、ゴトーもやぐっつぁんと一緒に行く』
「何言ってんの?」
『その方が安心でしょ、よしこだって、それにゴトー料理好きだからその道も有りかなって』
「いや・・・・・何か間違ってる気するけど」
『いいよね、美貴』
み・・・・美貴?
誰だよ
『よしっ、そういう事だからさ、よしこちょっとやぐっつぁんに代わって』
「はぁ?」
どういう事だよ
- 418 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:09
- ほら早くとせかされ、矢口さんに代わろうと電話を渡すと、
おいら?って言いながら代わってくれた
「どうしたの?ごっつぁん」
その後、うん、うんってウチの顔を見ながら頷いてると
「明日面接って言ってたけど・・・・なんか入学するの難しい学校みたいだから、
おいらも入れるかどうかはまだ解らないんだって」
そっか・・・・それに落ちれば、まだしばらくは今のままかもしれないか
なんてそんな事に希望をもったりして
よっぽど、矢口さんに出てってほしくないんだなぁ、ウチ
「うん、だからね、圭ちゃんが話しをしてくれてるみたいで
こんなに急にでも面接してくれるらしいから、
おいらにそんな事を言われてもどうにも出来ないよごっつぁん」
ごっちん、思いたったら吉日なんだね
「おわっ、ごっつぁん」
と、叫んで矢口さんは唖然とした顔で切られたと言っていた
「ごっちん矢口さんと一緒の所行くって言ってましたけど」
「うん、今から圭ちゃんに連絡入れるから大丈夫って切られちゃった」
「今からって、今、夜中、さっきまで起きてたけど・・・・・・・絶対説教ですよね、ごっちん」
さっきも不機嫌だったし、ウチと話したおかげでもっと不機嫌になってるはずだし
「うん」
二人で苦笑して、少し沈黙になった
- 419 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:12
- 私は一度小さく深呼吸して
「ごっちんはともかく・・・・明日の面接・・・・頑張って下さい・・・・・・
それと、寮に入っても、矢口さんの家はここです・・・・それはいいですよね」
「いいの?」
電話を渡しながら聞いて来て
「もちろんです、さっき言った通り、寂しいけど我慢します・・・・・
一杯勉強して、資格を取って帰って来て下さい」
「うん・・・・おいら頑張る」
にこって笑ってぴょんっと抱きついてくる
優しく抱き締めると、きゅっと抱きついてきて
どうしようもなく自分の心から温かい感情が溢れる
このまま、矢口さんを抱いてしまったら・・・・
一瞬頭を過ぎる・・・・だけどもちろん踏みとどまる
- 420 名前:第二章 投稿日:2005/12/23(金) 10:13
- ぴょんって私の腕の中から飛び出すと、
じゃあ片付けちゃうねとテーブルを片付け出したので私も手伝う
「矢口さんいなくなっちゃうと、おいしいご飯食べられなくなっちゃうんだなぁ」
「まだ入れるか解らないけど、
週末とかは自由みたいなんだ・・・・・その時ここに来てもいい?」
洗い物しながら遠慮がちに聞いてくるから
「ここは矢口さんの家でもあるんですから自由に帰って来ていいですって・・・・・
ってか、ちょくちょく帰って来て下さいね」
隣でにこっと笑って頷いてくれた
- 421 名前:*** 投稿日:2005/12/23(金) 10:15
- 本当は昨日更新したかったのですが、今日はここまでにします
ほんとお見苦しくしてしまって申し訳ありませんでした
- 422 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/23(金) 12:47
- どんとまいんです
そんなには見づらくなんてないですよ
てかまだ二章なんですね…
これからどうなっていくのか非常に楽しみです
- 423 名前:*** 投稿日:2005/12/25(日) 15:31
- 暖かいお言葉ありがとうございます
一応四部構成で考えておりますが、なんとなくグダグダな感じに
なってしまいそうで怖いです
暇つぶし程度で軽い感じでごらん下さい
(最初から見てくと結構誤字とか多くて恥ずかしいです)
- 424 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:33
- 昼に圭ちゃんから電話が来た
説教は昨日の晩で終わったかと思ってたけど、
さらにブツブツ言われながらも、
試験と面接を受けさせてもらえるらしいので今すぐ行けと言われ外に出る
美貴は数時間前にバイトがあるからと帰って行った
言われた場所は、少し都心から離れたのどかな場所にあって、
入り口の門の所でやぐっつぁんを待つ事にした
6月から今度の生徒が入るという事で、がらんとした感じ
駅から歩いて10分、閑静な住宅街を見渡せる小高い丘の上の平屋立て、
それにすぐ隣の寮も三階建てのかわいい建物がある
- 425 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:35
- そんなウォッチングをやってたら、
坂道を歩いて上がってくるちっこい人発見
「あっ、ごっつぁ〜んっ」
と叫ぶと、てててとダッシュでやって来て、パフっと抱き付いて来た
ん〜かわいい
「一人で来たの?」
「うんっ、電車も乗れるんだよ、おいら」
うんうんかわいい
「偉いねぇ〜やぐっつぁん」
へへんと満足そうに笑ってる後ろに、怪しい人も発見する
だてめがねをかけて帽子を被ってるけど・・・・・紛れも無くあれはよしこ
ゴトーが見てるのに気付いたのか、電柱に隠れてしまった
アホか・・・・・
そんなに心配なら一緒に来ればいいのに
ちょっとした悪戯心から、やぐっつぁんを抱き締めてよしこに視線をやると、
中指を一本伸ばして電柱から出して来た
あはっ・・・・楽しい
「ごっつぁん・・・・?」
むぎゅってされてるやぐっつぁんはちょっと苦しそうに見上げていた
これはかわいい・・・・
よくよしこは襲わないなぁなんてまじまじと見詰め合ってると
「そこの二人、いい加減入ってきぃ」
- 426 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:36
- 施設内から響き渡る関西弁の放送
「ゴトー達?」
バッと体を離してキョロキョロと二人ですると
「そう、そこのホストとちっちゃいのやっ、
ええから入ってきい、待ちくたびれてんねん」
ホストって・・・・・圭ちゃんそんな事言ったんだ
慌てて二人で入っていくと、玄関に仁王立ちした派手なおねーさん
「遅いっちゅうねんっ」
いや、時間通りだから・・・・とは突っ込めずにぺこっと頭を下げたけど
「ごめんなさい」
素直に謝るやぐっつぁん
一瞬その人の表情がデレッとなるのをゴトーは見逃さなかった
- 427 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:38
- 「ほな、面接しよか、面倒臭いから二人いっぺんにええか?」
大丈夫?この人
あの圭ちゃんは、随分買ってるみたいだけど
スリッパに履き替えてちょこちょこついていくやぐっつぁんにゴトーも続く
調理台が並んでる部屋で、好きなとこ座りぃと言われ、
やぐっつぁんと一番前の席に座ったら、黒板の前にその人は立って仁王立ち
これって面接?
「すぐに新規の講習が始まるねんけど、ほんまに来るつもりあるんか?二人は」
「「はい」」
「ちっちゃいのは、小学校も出てへんそうやな」
「はい」
まっすぐにやぐっつぁんはその人を見てた
「字ぃは読めるんか?」
「一応・・・・でも、解らない事は都度、勉強してます」
必死に言う姿が胸を付く
「そんな必死に言わんでええよ、事情は知ってるさかい」
その人は優しく笑ってる
- 428 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:40
- 「そっちのホストのねーちゃんは?」
ムっとして
「字は読めます」
って言ったら
フッと笑ってその人が
「そおか・・・・・まぁ、ウチの学校は全員資格を取得して旅立ってもらわんといかんねん、
途中でやめられてもうたら困んねん」
まぁそうだろね・・・そうしないと宣伝にならないもんね
「やめへんか?」
「はい」
やぐっつぁんは即答する
「お?自信ないんか?そっちのホストはんは」
「後藤です」
反抗的な口調のゴトーに、その人は笑って
「悪かったな、後藤、まぁ、ウチは中途半端っちゅうのがめっちゃ嫌いでな、
途中で挫折するかもしれんなんて決意の弱い奴には別な優しい学校を勧めるんや
だから字が読めようと勉強が出来ようと関係あらへん、
ようは、この資格を取って何かしようっつー奴を応援するだけやねん」
- 429 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:43
- 「やめませんよ、ゴトーは」
にやっと笑みを浮かべたその人
「ならええ、後藤も寮に入るんか?」
「通いもあるんですか?」
「せやな、二年かかるけどな」
寮なら一年か
「寮でいいです」
やぐっつぁんと一緒の方がいいだろうし・・・・あ〜マンションどうすっかなぁ
ってかこれ面接?
「矢口はな、もう入れる事は決まってんねんけど、
後藤の事はあんまり急な事であんまよう解らんねん、今日聞いたばっかやしな」
「その前にさぁ・・・・あんた誰?」
面接も何もあったもんじゃないけど、思わず吐いた暴言に、
こりゃもうダメだなってやぐっつぁんを見たら、心配そうな顔をしてた
やぐっつぁんが恐る恐るその人を見ると、
みるみる顔が俯いて行って、何かを溜め込んでいるように見える
一気に爆発?
ごめんねよしこ、やぐっつぁんについててやる事出来なさそう
- 430 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:45
- するとぶあっははははっと大笑いしだして、やぐっつぁんと顔を見合わせる
「せやな、まだ名前言うてへんかったな、失礼しました、
ウチは中澤裕子、この学校の創設者で校長やってんねん」
えええっ、この人がここの一番偉い人?
事務員かと思ってた
「二人の他に、入寮する人が後20人いるねんけど、
みんな一癖二癖ある人ばっかやな・・・・・
まぁ今迄入って卒業してった奴らもみんなそんな奴やったけど
今んとこ全員資格取って卒業してったからな、店もっとる奴もおるし、
外国に留学しに行った奴もおる、ようは自分の頑張り次第やね」
「あの・・・・・ゴトーは入学出来るんですか?」
「せやな、なんか根性ありそうやし、おもろいからな・・・
後は詳しく手続きやらお金の事やらの説明があるから、
あっちゃん呼んで来るんで待っててや」
面白い・・・・とか・・・・そんなんでいいの?
「「はい」」
中澤校長は、笑いながら出てった・・・・・大丈夫なんだろうか、この学校
- 431 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:46
- 「今ので受かったって事?」
やぐっつぁんも鳩が豆鉄砲くらったような顔でこっちを見て言った
「そうなんじゃない?なんか変な人だったね・・・・校長先生」
「うん、おいらあの人好き・・・・絶対いい人だよ、中澤さん」
「ん・・・・・そんな気するね・・・・なんか」
そしたらまた関西弁の人が入って来て
「ど〜も〜っ、事務の稲葉あつこいいますぅ〜、よろしゅうなぁ〜」
「「よろしく・・・お願いします」」
いきなりのテンション高めの人の登場にやぐっつぁんもゴトーも少し戸惑った
- 432 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:49
- それから入学金や寮費等の説明と、ここのシステムについての説明があった
他の人達は、とっくに説明会があってるようで、
ぼちぼち入寮しに荷物を持ち込んで来てるみたい
どうやら授業の中にバイトするシステムがあって、それぞれがバイト先で修行しながら、
そこで持った疑問や問題点を討議したりする内容もあるみたい
バイト代を、入学資金や授業料にあてるのもよし、
自分の好きなように使っていいんだとか・・・へぇ
但し、支援制度を利用して、借金のある人は強制的に半額が返金にあてられて、
後は返済に充てるもよし、生活費にするのもよしだという事
土日は自由・・・・他にバイトするもよし、遊ぶもよしと、割と自由な学校のようだ
但し、平日は、朝から夜9時位迄みっちり授業があり、
昼食時の10時から2時迄がそれぞれどこかバイト先に派遣される
受入先の中には、学校の給食センターだったり、ホテルのレストランだったり、
私達が普通に雇わせてもらおうと思ってもなかなか行けないような所もある
よほどこの学校は信頼があるのか、
リストを見ると結構な数のバイト先をチョイス出来るようになってる
すぐにでも寮に入っていいという事だけど、
自分の身の回りの事もまだ何もしてないのでギリギリになるだろうと伝えた
やぐっつぁんは、世話になってる人と相談してここに来る日を決めるとの事
忠実だねぇ・・・よしこに
そうだ、今頃そこらでイライラして待ってるんだろうなぁ
- 433 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:51
- 案の定、全ての説明を終えて、入寮日の連絡先を聞いてから靴を履いて外に出ると、
門の所に怪しい人影が隠れた
「ねぇごっつあん」
笑いそうになってる所に、やぐっつぁんが聞いて来る
「ん?」
その人影が、駅の方に走り去って行くのを目の端に見ながら
笑い出しそうになるのをこの問いかけで奪われてしまった
「おいらが心配だから一緒に来てくれるの?」
ちょっと沈んだ感じで聞いてくるから
やぐっつぁんは一人でちゃんと生きられるようになりたいって思ってるんだもんね
「そんなんじゃないよ、ゴトーちょっと好きな人出来たかもしれないからさ、
今の仕事やめようと思ってて・・・・丁度良かったからさ」
「好きな人?」
「うん、なんかね・・・・ビビッと来たんだ・・・・・
まだ会ったばかりだけど・・・・なんかいいなってさ」
「それがどうしてお仕事辞める事になるの?」
「まぁ・・・・・そうだね〜」
大切にしたいなって思う人が出来ると、
他の人を抱いたりする事をしたくないっつって、解るのかなぁ
言うとやぐっつぁん落ち込んじゃう?よしこと自分を考えちゃって
- 434 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:53
- 「好きな人の為に、何か自分の出来る事を始めたいって思ったんだよね」
こんなんで納得するかなぁ
「ふ〜ん、それってミキティ?」
おっ、意外とするどい
「そうだよ」
「えっ、ミキティって・・・女の・・・・そっか、関係ないよね、そんなの」
それからちょっと考え事をしてから
そっかぁ・・・・ごっつぁんミキティの事好きになっちゃったんだぁって呟いてる
ほんと・・・ゴトーもびっくりだよ、
なんか・・・肌が吸い付くっつーか、息が合うっつーか・・・・・・
とにかく一緒にいてみたいんだよね
「だからさ、どっちかっつーとゴトーがやぐっつぁんに世話になってるって感じだからさ、
それにやぐっつぁんはさ、もう一人でも大丈夫だと思うよ、ゴトー」
「ん〜、おいらよっすぃいないとダメだもん・・・・・あっ、よっすぃに連絡しないと」
慌てて携帯をごそごそと探し出す
- 435 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:55
- ほどなく着いた駅のホームで言い始めた時だった
きっと合格した事を伝えようとした忠犬だからそう思ったんだろうけど、
遠くからよしこの携帯の音が一瞬聞こえてやぐっつぁんもキョロキョロしてしまった
アホだね〜、よしこ
「あれ、運転中みたい、どっか行ってんのかな、よっすぃ」
さっきの事に何の疑いも持たないやぐっつぁんはそう言ってちょっと沈んだ
「さぁ・・・・」
言いながらもさっき音が鳴ったやぐっつぁんの後ろの方を見ると、
こそこそと遠くに離れて向こうの階段を上っていた
やぐっつあんの携帯がそれから鳴って
「あ、ごめんね運転中だったの?」
って言ってるからよしこなんだろう・・・・ってか、アホかあいつは
「うん、合格みたい、来週迄に引っ越さないといけないって」
後一週間かぁ・・・・めちゃ忙しいなぁ
「あ、うん、解った、ごっつぁんも一緒だよ」
知ってるよ、よしこは
「うん・・・うん、じゃあね」
嬉しそう、好きな人と話すだけでそんなにいい表情するんだね〜
- 436 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:57
- 「なんだって?」
あのあほは
「お祝いに、どっか食事に行こうって、駅に迎えに来てくれるって」
嬉しそうにしてるし・・・・・
大丈夫かぁ?待ってるって事は、ウチらより先に下りて外にいないといけないんだよ〜
全くあのあほは・・・・
って苦笑しながら、ウチも美貴に連絡しようって電話をした
『どうだった?』
「うん、受かったみたい」
『マジでぇ〜っ、絶対無理って思ってたのに』
「それひどくない?ゴトーやれば出来るんだって」
『はいはい・・・・じゃあホストは本当に辞めるんだ』
昨日さんざん言ったけど、信じてなかったのかい?
美貴がゴトーの職業を知った時に一瞬引いたのを見逃さなかったからその顔で辞めようって思った
そして、決心が鈍らないうちによしこに電話して決意表明したような感じ
「そうだよ・・・・・まぁ・・・寮に入る事になっちゃったからさ
・・・・・・あ、今から時間とかある?」
『うん、今バイト終わった所』
「じゃあさ、今から会えない?」
誘い出して、そこなら近いよと言うのでバイト先を聞くと、
なんとよしこ達の降りる駅の隣の駅近くだった
丁度いいからと、よしこ達と一緒する事にしよう
- 437 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 15:59
- ゴトーは優しいから、一番先頭の車両に乗ってあげる事にして、
よしこを見つからないようにしてあげた
やぐっつぁんは複雑な表情で終始黙り込んでて、決まったはいいけど、
これで本当によしこと離れるのが寂しくてしょうがないみたい
駅につくと、小走りで走ってくよしこの背中が見えて、
笑いたくてしょうがなかった
なるほど、やぐっつぁんちっちゃいから人の背中で見えないんだね
階段を下りると、改札の外で、
キャップとめがねを外して涼しい顔したよしこがいて爆笑しそうだった
やぐっつぁんは、そんなよしこを見つけて嬉しそうに掛けて行く
改札を出ると飛びついて
「おいらちゃんと一人で行けたよ」
さっき迄の沈んだ顔じゃなくて明るくそう言って笑ってた
ほんとにけなげだねぇ・・・・やぐっつぁん
「そうですか、すごいですね〜」
なんて、しらじらしく言うよしこの顔は本当に優しくて、
やぐっつぁんを受け入れてあげればいいのにと思わずにいられなかった
- 438 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:00
- そんな二人の後ろに柱に寄りかかっている美貴を発見
「美貴っ」
改札を出てよしこ達をすり抜けると
気付いた美貴が小さく手をあげた
「待った?」
「ううん、さっき来た所だから、どこ行く?」
「あ、やぐっつぁんも一緒なんだ」
「矢口さんも?」
と、二人を振り返ると、よしこ達もこっちを見てて、
気付いたやぐっつあんはすでにこっちに笑いながら来る所だ
「ミキティっ」
てててとやって来たやぐっつぁんは、美貴に抱きついていた
「矢口さんっ、一緒だったんですか?」
「うんっ、ごっつぁんと一緒に学校行って来たっ」
後ろから不機嫌そうに近寄って来るよしこ・・・・・そんな妬かなくても、
やぐっつぁんは好きな人に合った時は抱きつくのが普通なんだし
美貴もそんなよしこに気付いて
「あ、そのチョーカー・・・・ああ」
既に離れたやぐっつぁんに視線を落とすと、
やぐっつぁんが照れ臭そうに頭を掻いていた
- 439 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:02
- 「おいらの命の恩人、よっすぃだよ」
「へぇ〜、なるほど、背が高くてカッコイイ、始めまして藤本美貴19歳です」
「吉澤ひとみ・・・・19です」
「同じ歳だけど、学年は美貴のが一個上だよ」
「年下?見えないね、大人っぽい」
「んな事ないっす」
人見知りのよしこはこんな時にホストとは思えない一面を見せる
仕事と割り切れば、その顔は爽やかに笑って人を魅了していくのに
「よっすぃ、そのチョーカー買ったお店の人でね、ミキティが作ったんだよ、それ」
「気に入ったでしょ、美貴の自信作なんだよね、それ」
「はい、気に入ってます」
その答えに美貴は満足そう、それにやぐっつぁんも嬉しそう
ただ一人、複雑な顔をしたよしこはちょっと照れた感じで笑ってた
- 440 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:03
- 「よし、早く何か食べにいこっ、店始まっちゃうよ」
入り時間迄後二時間位・・・・ここら辺の喫茶店に入ろう
入った店で一通り注文を済ますと、報告会が始まる
「関西弁のヤンキーみたいな人が校長だったんだよね〜、やぐっつぁん」
「関西弁?ヤンキー?」
わかんなかったか
「なんやねん・・・とか、変な言葉・・・
まぁ、大阪とかあっちの方でしゃべる方言を関西弁って言ってね、
ヤンキーっていうのは不良ってか悪っぽく振舞う人の事」
「ああ、なんか変わった言葉使いだなぁって思ったら、
あんな話し方を関西弁っていうんだ」
「そうそう、日本には色んな場所にそれだけの言葉があるんだよ、それを方言っていうの」
「ヘェ〜面白いんだね〜」
美貴がそれを見てにこにこしながら
「かわいいね〜、矢口さんは」
ちらっとよしこを見ると、なんかムカついてそうな顔で口を開いた
「で、どうでした?やってけそうでしたか?」
「うん、頑張るよ、おいら」
「週末とかは帰って来てくださいね、マジで」
「うんっ」
って嬉しそう、やぐっつぁん
- 441 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:05
- そうそう、こっちのカップルにかまけてる場合じゃなかったっけ
「でさ、美貴・・・・ゴトーも寮に入るからさ、
ゴトーのマンションが空いちゃうんだよね」
「あ〜、うん」
「美貴引っ越さない?」
「ええっ?」
驚いてるのは、美貴とよしこ、やぐっつぁんはあんまり解らない風
「来週入るんだっけ、寮って」
「うん、ごめんね、いきなりこんな感じで」
付き合い始めていきなり遠距離みたくなっちゃうもんね
「ううん、いいよ、そうなったのも美貴との事を真剣に考えてくれたからっしょ」
「まぁ・・・そうなんだよね〜」
そう・・・・まだ会って数日・・・・
昨日初めて夜を過ごしたばっかなんだよね
- 442 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:06
- 「あのさ〜」
二人で話し合ってたら、よしこが片肘をついた姿勢でこっちを見てた
「あ、ごめん、よしこ、存在忘れてた」
「やっぱし?」
美貴との関係を解ってくれたみたいで、ちょっとは安心してるみたい
「あの、藤本さん、ごっちんこうみえていい奴なんで、よろしくお願いしますね」
「OK」
軽いノリでそんな風に答えてる美貴
「じゃあ、引越し屋手配しといていい?この紙に住所と間取り書いといて」
紙を受け取った美貴が少し驚いたように言う
「段取りいいじゃん」
「うん、思いたったら吉日だもんゴトー」
- 443 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:07
- 「でも美貴貧乏だから家賃とか無理だよ、あんな高そうな部屋」
「平気、あのマンションゴトーのだし、払いは終わってるもん」
「ええっ、賃貸じゃないの?あれ」
「そう、だから一年も空けとくと部屋が死んじゃうし、美貴だって家賃無い方がいいでしょ」
「そりゃ助かるけど」
「でしょ、もっとデザインの勉強してもらいたいしさ」
素直にうんと小さく頷く美貴
へぇ〜って小さく言ってるよしこにちょっとムカついたりして
やぐっつぁんはにこにこ私達を見て笑ってる
「何よぉ〜っ」
二人に向かってそう言うと
「別に」
というよしこと
「へへっ」
となぜか照れてるやぐっつあん
- 444 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:08
- 出て来た料理にああだこうだ文句とか言って、
食事が終わると、二人は仲良く歩いて帰って行った
ちょこちょこと嬉しそうにしっぽを振ってよしこの横を歩く様がとてもかわいい
美貴もその姿を見て、なんかお似合いだねと笑いながら改札に向かう
ゴトーも一度家に帰ろうと美貴を誘うけど、
引っ越すなら家を片付けとかないと見積りとか見に来るよね、ああいうのってと帰って行った
- 445 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:09
-
- 446 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:12
- 驚く事が起きた・・・やっと両親が田舎に帰って、
新しいオーディションの情報を仕入れ、心機一転頑張ろうと店にやって来ると
何やら深刻な顔で真希さんと矢口さんがオーナーと話していた
開店が近づくと、やっと話が終わったので真希さんは控え室に・・
そして、カウンター近くにいる私の所に矢口さんはやって来た
「どうかしたんですか?」
「うん・・・・三好ちゃん、おいらこの店辞める事になった」
「ええええっ」
大きい声なのでオーナーや、他のバーテンがこっちを見ると近づいてくる
どうしたどうした?とみんなも気になってたのか口々に矢口さんに聞くと、
オーナーがパンパンと手を叩いて
「後でちゃんと話そうと思ってたけど、先に言っておく、
後藤と矢口は今週で店を辞めることになった」
さっきの私のように皆が驚く
- 447 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:13
- 「皆さんには本当にお世話になりました、ありがとうございました」
矢口さんは笑顔で皆にそう言って、
近くの人からそぉかぁ〜、やっと慣れて来たのにねぇ〜とか言われて頭を撫でられていた
「真希さんも一緒なんですか?」という質問にオーナーは
ちゃんとお客さんを次に引き継げる人は引き継がせて、
お世話になったお客にはちゃんと礼儀を尽くしてから辞めるそうだと告げた
「二人は調理師の免許を取る為に専門学校に通うとの事だから、
まぁ・・・・惜しいけど温かく見守ってやろうかなと思ってな」
すみませんと矢口さんは皆にひたすら頭を下げてたけど、
頑張れとまた頭を撫でられていた
皆がまた開店準備に散らばった頃
「調理師・・・・ですか」
「うん、おいらが他の人を幸せに出来るのって料理しかないし、作るの楽しいから」
「そうですか・・・・・」
- 448 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:15
- 目の前からいなくなる
毎日のように会えていた矢口さんが、
自分の夢を見つけて・・・・・ここを離れて行く
「あ・・・あのさ・・・・」
急におどおどして・・・もじもじしている
「何です?」
突然訪れた別れに、呆然としてしまいそうになる所を必死に言葉を返す
「三好ちゃんはさ・・・・おいらの友達?」
うるうるした目で見上げられ、店の中だけど抱き締めてしまった
「もちろんです・・・・辞めても・・・・友達でいて下さいね」
だけど少し胸が痛い・・・・永遠の友達宣言
「うんっ・・・うんっ」
きゅっと手を回されて小さな体を実感する
「あの・・・・矢口さん」
言ってしまおう・・・・私の気持ちを・・・・例え結果が解ってても
- 449 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:16
- 「矢口さん」
頭の上からアルトの声が聞こえ、
抱き締めている視線の先に見慣れた靴が見える
バッと矢口さんの体が離れて、その声の方に一歩近寄った
「よっすぃ・・・あのね・・・三好ちゃんをね・・・・
これからも家に呼んでもいい?」
言われたひとみさんは、無表情で私を見た後、フッと笑って
「かまいませんよ・・・・大事な友達ですもんね」
「うんっ」
嬉しそうに矢口さんが答えた後こっちを向いた瞬間、
ひとみさんは私を冷たい目で見た
「これからもよろしくお願いしますね、絵梨香さん」
声は穏やかだけど、あんまり近づくんじゃねぇよという視線
「はい」
やはり怖いという思いは拭えなかった
- 450 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:18
- 気付いているんだろうか・・・・
この人は確かに矢口さんを愛しはじめてる事を
矢口さんに近づく全ての人に対する警戒心と、嫉妬の視線・・・・
それが人を怖くさせている事を
「おいらね、寮に入るんだぁ・・・・
だから週末は帰ってこれると思うけど・・・・またお買い物とか一緒に行こうね」
「はい」
寮・・・かぁ・・・・ひとみさんとは離れるんだ
少しにやついてると、ひとみさんがまだ見ているのに気付いて顔を引き締める
「メールもしようね、三好ちゃん」
「はい」
屈託のない矢口さん
ある意味チャンスかもしれない
平日に離れるという事は・・・・
私と矢口さんがどうしているか筒抜けになる訳ではなくなるし・・・
まだ見ているひとみさんと静かに視線を交わした
- 451 名前:第二章 投稿日:2005/12/25(日) 16:25
- 本日はここ迄
皆さんはステキなクリスマスを過ごせたでしょうか
次で長かった第二章は終わる予定です
よろしくおつきあい下さい
- 452 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/26(月) 05:17
- 三好さんの心模様が面白いと思いました。
これからも楽しみにしています。
- 453 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/26(月) 11:31
- 更新お疲れ様です。いつも楽しく読ませてもらってます。
なにげにスレタイが気になっていますw
- 454 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:31
- 思いのほか、入寮の日迄早かった
ごっちんはあの日から入寮前日までで全ての固定客に連絡を取って毎日忙しく挨拶に回り、
徐々に藤本さんの引越しや自分の荷物をまとめて行った
矢口さんは同じように入寮日前日迄きちんと働いて、
昼間に少しずつ何をもっていけばいいかごっちんと相談しながらダンボールに詰めていた
正直ごっちんが一緒でよかったと思ってる・・・
へたな野郎達から少しは守ってもらえるだろうから
大事にしている宝物は、ウチの家に置いておくように言い聞かせた
妹と共に過ごしたおはじきとビー玉・・・・
私が一番最初にあげたクリスマスの靴・・・・・
矢口さんの家はここなんだから・・・・
ここに置いておいた方が安心だよと説得にあたる
結局亜依ちゃんとの写真立と私とお揃いの指輪があるからいいという事で何故か納得して
使い込まれた辞書と、新しく買ったことわざ辞典、歴史の本、
中学生程度の算数のドリルも持っていくみたい・・・・
大丈夫かなぁ・・・そんなに勉強して
社会に出てそんな事使いはしないのに
- 455 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:36
- 寮には、冷蔵庫もエアコンもテレビもついてるみたいだし、
ビデオやレンジがいれば自由に持ち込んでいいみたい
だから結局、ダンボール一つに、生活品や下着も入れて、
ごっちんに買ってもらった大きなバックに洋服を入れてしまえば準備完了みたいだった
最後の仕事場で、店が終わってごっちんと矢口さんのささやかな送別会が行われ、
矢口さんはみんなと少しずつ話してまわってた
あの紗耶香さんも、いつもは誰か去って行く時は、
これもその人の人生だからとクールに別れてたのに、
矢口さんには一際思い入れがあるのか、困ったらいつでも連絡して来いと言ってた
みんなの電話番号や、メルアドが矢口さんの携帯に記憶されて、嬉しそうだった
そして、明日矢口さんは行ってしまう
体内時計を通常に戻そうと、昨日はウチを待たずに夜寝てたみたいだけど、
ウチが帰って来ると飛び出して迎えてくれた
そして、ご飯をいつも通り準備して、ウチが寝てしまってから、
一週間分の食事を作ってくれたり、最後の洗濯をしてくれたりしようと思ってるみたい
「よっすぃ・・・・ちゃんと日持ちしそうなの作るから、少しずつでも食べてね」と
最後なんだから一緒に横になって下さいと言っても
やる事が一杯あるからと断られてしまった
- 456 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:48
- こうやって、矢口さんがちょろちょろしてくれているのを感じながらも眠れずに
一人ベッドでため息をついてる
昼に私が目覚めたら・・・・矢口さんを送って寮に行く
ごっちんが藤本さんという運命の人・・・・本人がそう言ったそうだ
出会ってすぐにビビッと来たみたいで、
これから二人で生きていけたらってお互いに思ってるみたい
あのごっちんが・・・・・・
ウチとどっこいどっこいの人生だったのに・・・・
急に一人のものになりたいと言い出した
心配しなくても、やぐっつぁんはウチがちゃんと監視しとくからと、
最後の日には肩を叩かれた
それなのに・・・・
絵梨香さんは、私の家から出て行く事に希望を持ったのか何なのか・・・・
私に挑戦的な視線を投げかけてくる
その事をごっちんにそれとなく聞いてみると
ごっちんは絵梨香さんを応援すると言ったようだ
「だってやぐっつあんの事、本当に好きみたいだもん、応援したくなっちゃうよね」
だそうだ
ウチだって
・・・・・・ウチだって?
どうしてそこで悩む?好きなのに違いないんだから、抱けばいいし、
いつもみたく好きだってささやけば、矢口さんはきっと喜んでくれる
どうして出来ない?
大事にしたいから・・・・・そう言えば聞こえはいい・・・・・
- 457 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:50
- 多分、ごっつぁんがウチをそう言うように、ヘタレなんだと思う
何分の一かの確立で残っている嫌われる可能性が怖くて手が出せない
無邪気に与えられる好意に慣れてしまってるから
これから毎日一人になるんだよ・・・・・
たった半年
たった半年一緒に暮らした人がいなくなってしまうだけだけど・・・・・・
矢口さんがよく口にする、よっすぃがいないと一人じゃ生きられないって言葉
多分今じゃ私の方がそれを恐れてるのかもしれない
もう私は矢口さんなしじゃ生きられなくなってるって事?
保田さんが言ったように、外の世界を矢口さんに見せないようにして・・・・
ずっと手の中に置いておきたいだけ?
こんなに悩んでる事・・・・・矢口さんは知ってるだろうか
知る訳はない・・・・・
だって一番不安なのは矢口さんだから
ちゃんと笑顔で送ってあげなきゃ
無理やりにでも心を沈めて、ようやく眠りについた
- 458 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:52
- 浅い眠りから、なんとなく起きると、昼過ぎになってた
リビングに出たら、矢口さんは膝を抱えてテレビを見ていた
「あ、起きた?おはよう」
さっと立ち上がってキッチンに向かう
「おはようございます」
それ何も言う言葉が見つからない
玄関先に置かれたダンボールと大きな旅行バッグがただ矢口さんが出て行く事を物語るだけだった
顔を洗って、化粧水やクリームを塗り肌を整えると出来たよ〜という声
いつもの朝食・・・・
大好きなゆで卵に、今日はベーグルサンドを作ってくれていた
互いになんとなく無口になってしまっているので箸が進む
- 459 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:53
- 口火を切ったのは矢口さんだった
「よっすぃ」
大体食べ終わって、紅茶を飲んでいる時の事
「は、はい」
ちょこんと正座して
「あの・・・・行って来ます・・・・それと、あの・・・・
一応お礼言っておくね・・・・・これからも迷惑かけちゃうし・・・・
お世話になっちゃってばっかりだけど、けじめ?って奴?
おいら頑張って来るんで・・・・・あの・・・・・これからも見守ってて下さい」
ぺこりと頭を下げてから笑った
「・・・・・・はい・・・・頑張って下さい」
その目にはうるうると潤んで見えた
「それでね・・・・・お願い・・・・が、あるんだ」
あらたまって言われてしまって
「な・・・んですか?」
ドキッとしてしまう
- 460 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:55
- 「お・・・おいらね・・・・よっすぃの写真が欲しいの・・・・・」
「え?」
「よっすいがいないと寂しいからね・・・・・ミキティが写真でも撮ったらって教えてくれてね」
しゃ・・・・しん・・・・・最近撮ってないなぁ
あ・・・この前里美さんが撮ってくれた奴が確かまだ鞄に
取りに行くと、あんまり気に入らなかったけど、写真を捨てるのも気が引けてとってた奴
ウチが家に置いてきた矢口さんを心配してボーッとしてる時に不意打ちで里美さんに撮られた一枚
後は全てツーショットだから・・・・・とてもじゃないけど見せられない
「こんなんで・・・いいですか?」
両手でその写真を取った矢口さんは、胸に押し付けて嬉しそうな顔をしてくれた
「これで頑張れるよ、おいら」
なんとなく嬉しい
そしたら急に矢口さんとの写真が欲しくなるけど・・・・・ある訳もなく
「携帯で・・・・私も取らせて下さい」
「お・・・おいらの?」
- 461 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:56
- 矢口さんは出かける準備が出来ているのに、鏡に飛んで行った
あんまり焦ってるので
「ゆっくり準備して下さい、私もちゃんと着替えて来ますから」
食べ終わった皿とカップをキッチンに持って行って洗おうとすると、
矢口さんがすっ飛んできておいらするから準備しててと言われ
してくれてる間にシャツとジーパンに着替えた
メイクもして、髪の毛もセットしてから携帯を二つ取り出してカメラを作動させた
「矢口さ〜ん、撮りますよぉ」
いい天気だからベランダでどうかと誘ってみたらてててと恥ずかしそうにやって来た
カメラを向けると、肩をすぼめて
「緊張する〜」
と下唇を出していたのでそこを撮ったら、面白い位に飛びついてきて
「今のダメッ、絶対変な顔だった」
「もう撮っちゃいました〜、はい保存」
ほら、と見せると、あらかわいい
- 462 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 00:58
- 「かわいいじゃないですか」
「やだっ、そんなの」とさらに拗ねた顔
「解りました、じゃあちゃんとしましょう、いいですか」
「えっ、うん・・・・はいっ」
めちゃめちゃ緊張してるし・・・・表情硬いし
「固まってますね〜」
「だって・・・・だって写真なんて撮った記憶ないもん・・・・」
「たまには送って下さいね・・・ムービーでもいいですから」
「ムービー?」
と、解らずに首を傾げた所をまた撮って、矢口さんに怒られ
「でもよっすぃ・・・・これ撮ってどうするの?おいらはよっすぃを待受画面にしたいんだぁ・・・・
でもよっすぃのは・・・・・おいらが載っちゃダメだし・・・・」
「しますよ」
「え?」
「ずっと言いそびれてたけど、私には恋人はいませんよ」
「嘘・・・だって・・・・・あ・・・あの人と」
「彼女はもう結婚しました・・・ついこの前ですね」
あんぐりと口をあけてパチパチと瞬きしてる
意味が解らないって感じ
「だから、私も矢口さんがいないと寂しいんで、矢口さんの写真を待受けにします」
その時の笑顔がとてもかわいかったのでそれを納めた
- 463 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:01
- その写真にも矢口さんは納得いかないらしく
「なんか恥ずかしい、やつぱりやめて、それ待受けにするの」
「かわいいですよ、すごく」
う〜とぶすくれたけど、今度は矢口さんが両手で一生懸命操作して、
出来た・・・と言うと私を撮ろうと納めていた
実は私もあんまり写真を撮られるのは得意じゃない
「ちょっと待って下さいね」
引きつった笑顔より、自然にした方がいいと一度上の空を向いて表情を考えると
ピロピロリンという音
「あ〜っ、まだですよぉ」
「へへっ、さっきのおかえし」
それから正面の写真を撮ってから、矢口さんの携帯を取り上げる
なんか変な顔・・・
ピピッと操作して
「消しちゃダメだよっ、よっすぃ」
慌ててる矢口さんのそばに顔を寄せてカメラをこっちに向けて、
小さな小窓をみながら二人の写真を撮ろうと思った
「あ・・・」
ちょっと戸惑ってる矢口さんと二人ではじめてのツーショット
「ダメでしたか?そんな勝手な事しちゃ」
「ううんっ、嬉しい・・・・へへっ」
「じゃあもう一回、今度は私の携帯の奴です」
取れた写真は恥ずかしそうな二人の顔
「へへへっ、じゃあ次の恋人さん出きるまでおいらと一緒のにしといて」
ああ・・・・失恋したと思ってんだ、アヤカに
「こんなの待受にしてたら、恋人なんて出来ないかもしれませんね」
あんまりお似合い過ぎて・・・と言おうとしたら
わたわたと私の手から携帯を取ろうとして
「そんなのだめっ、おいらよっすぃに迷惑かけたくないもんっ」
真上に上げた携帯をぴょんぴょんと飛びついてそんなかわいい事を言う
- 464 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:03
- 今かもしれない・・・・
流されてるのかもしれないけど
今・・・矢口さんを恋人にしたいと思ってる自分が確かにいた
ぴょんぴょんしている体を抱き締めようとした瞬間、矢口さんの携帯が鳴る
「あ・・・ごっつぁんだ」
助かったのか・・・・・
チャンスを逃したのか・・・・
パタンと電話を畳んで、先に部屋に戻った
「うん、じゃあおいらも今から出るね」
という声が聞こえる・・・・・ごっちんと同じ日に入寮する事にした・・・というかさせた
あの時ごっちんから電話が来なかったら・・・・
ごっちんが藤本さんに出会わなかったら、矢口さんは一人であの寮に入る事になっていたはず
それを考えるとごっちんには感謝しないといけない
矢口さんは複雑な顔で部屋に入って来て窓の鍵を閉めてレースのカーテンを閉めた
「ごっちんがそろそろ出るからって」
「じゃあそろそろウチらも出ますか」
「ごめんね、折角の休みなのに」
「いいんですよ、そんなの気にしないで」
- 465 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:04
- エレベーターの中でも終始無言
トランクにダンボールとかばんを詰め込んで出発した
「どうして黙りこんでるんです?」
流れるラジオにばかり会話の糸口を探していた私は思い切って話し掛けた
「うん・・・・・」
「不安・・・・ですか?」
ちらっと助手席の様子を伺うと、指にはめた指輪をいじって俯いていた
「ちょっとね・・・」
ちっちゃな声
「じゃあ・・・やめましょうか」
今ならまだ間に合うかもしれないし
私の本音
ハッとした顔でこっちに向いた
「ううん、大丈夫・・・おいら頑張るから」
「無理しないでいいんですよ」
「うん、ありがと、でもおいらほんとに頑張らないとね・・・・」
と、前を向いた時には、決意に満ちた顔をしていた
- 466 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:07
- 車で来るとこの前歩いた道とは逆からやって来た感じで、山を降りて来た
すると何人か人が門の所に並んでて、その中に藤本さんの姿を見つけた
「あれっ、ミキティだ」
窓にはりつくようにして見てる、
そして左ウィンカーを出して中に入ろうとすると門の前で止められた
「ここの中は外部者立ち入り禁止なんです、入寮証のある方のみの入寮となります」
矢口さんがごそごそとバックからカードを出した
「はい、それです、荷物はいつ来るんですか?」
「トランクです」
「え?」
皆そんなに荷物があるんだろうか
「はい、じゃあ開けて下さい、おいっ、こっち手伝って」
門のそばでパイプ椅子に腰掛けてるガラの悪い感じの男達を呼び寄せる
- 467 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:08
- 最初に話し掛けた男が、矢口さんの入寮証と手に持ってた紙を見て
「302号室に運ぶように」
その男達が二人で来る後ろを藤本さんが寄って来る
「ミキティ」
助手席から出た矢口さんが藤本さんに駆け寄る
私は降りてそのガラの悪い若者にジロジロ見られながらトランクに近寄った
「どれ?荷物」
舐めるような視線が気持ち悪い
「ダンボールとそのバック、それと後ろに積んでる布団」
ベッドはあるけど布団は持参するようにって事みたいだし
「こんだけ?今迄で一番少ないじゃん」
ムカつく顔してると、にやっと笑って荷物を持っていった
おいおい・・・・大丈夫かよ・・・・この寮
- 468 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:09
- ずったらと持っていくそいつらの背中を見てると、
金髪のスーツを来た女性が出て来る
「おう、来たなぁ矢口」
「あ、校長先生」
校長?このヤンキーあがりで飲み屋のお姉さんみたいな人が
「それやめて、裕ちゃんでええさかい」
藤本さんにも視線をやってにこやかに笑うと、
さっき車に近づいた男の人に視線をやり
「すまんな、この子で最後やろ、お疲れさん、今日ははよ帰り、子供とたまには遊んでやらんとな」
「はい、じゃあ失礼します」
入寮証を矢口さんに返して、紙を校長先生に渡すと駅に向かって行った
- 469 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:12
- 矢口さんがその校長先生に言われて荷物についていけと指示され、
私を見ながらその人達についていった
「なんかすごいとこだよね」
トランクを閉めてる私に藤本さんが近づいてくる
「うん・・ちょっと心配だね」
と、話していたら
「そこの派手な車乗ってる男前と、きっつい目した子もこっちきいや」
ムッとした私達は、だらだらと近くに行く
「心配せんでええで、寮は男女別やし、互いの入り口も別や、
階段も廊下も一杯防犯カメラついとるし、
もしもぐりこんだら退学やからな、今迄誰も破った事ないから平気やよ」
「でも、なんかガラの悪い人達でしたよね、さっきの人達」
藤本さんがすぐに聞く
「おやおや、あんたらもそこらのPTAのおばちゃん達と一緒の目ぇしか持っとらんのか」
わっかいのにと呆れ顔
「でも心配ですよね、か弱い女の人を入れるんですから」
聞いた所によると、入寮コース22人の内男子15人女子7人しかいないという
毎年そんなものだという事だけど、余計心配になる
- 470 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:15
- 「ほぉ、聞いた通り過保護なんやなぁ、吉澤さん」
なんで名前知ってんだよ
「大丈夫やって、ここは普通の学校ちゃうで、いたって自由な校風なんや、
ここの敷地内でのセックスは禁止やけど、ここから一歩出れば誰と何処で何しようとぜんっぜんかまへんのや
門限もないしな、野郎は溜まっても一人で処理すればええし、
どっかそんな場所行ってもいいって事になってるからな、ここの中で襲われる事はまずないで」
余計心配じゃん
「余計心配ですよね」
ってまた藤本さんが突っ込んでくれた
「恋愛は自由やし、止められんからな、ほっとくんがええんや、
でもな、きちんと授業にでぇへんかったり、さぼったりすればすぐ退学や、
親御さんのお金や、自分で借金して来る子ぉに
どおしてここに来てるのか責任を持たせる為に自由なんや、
だから授業の一環のバイト先で迷惑かけたりする事も処罰対象になる・・・
そのやり方で今迄どんなに世間では悪い奴も
きちんと筋を通せばきちんと資格を取っていくし、それが出来る奴しか入れへんからな」
「なんの理屈もないですね」
「せや、ここはウチの学校やからウチの自由なんや、ええやろ」
面白そうに笑ってるし
「嫌ならやめればええんや、まだ入学前やからな・・・・
まぁ、本人はやる気なんやから他人のあんたらの出る幕やないと思うけどな」
そこに荷物を置いて来たごっちんと矢口さんがやって来るのが見えた
それに気付いて校長先生は
「まぁ、矢口の事はよう圭ちゃんに聞いてるからな、
ちょっと今迄の子ぉ達より目ぇかけたる、心配しなや」
ウィンクしてくるその人に私の視線は正直怖かっただろうと思う
- 471 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:17
- 「鍵はもらったか?」
やって来た二人に話し掛ける
「「はい」」
ずったらした男達が自分達の部屋に戻っている様子も確認してから
「ほな、6時迄は自由にしててええで、矢口達は中で片付けでもしぃ、
他の人達もそうしてるやろ、遠方組は大荷物で入寮したさかいそれ手伝ってやってもええし」
付き添いのあんたらははよ帰り、と言って追い返された
じゃあねよっすぃと手を振る矢口さんは寂しそうで連れて帰りたくなる・・・
ごっちんも今日はなんだかしおらしいし
タクシーでごっちんと来た藤本さんを送っていく事になった
「ってかさ、あの校長怖くない?」
「うん、怖かったっすね」
微妙に知らない同士の二人だけど
「「大丈夫かなぁ」」
声が揃った事でプッと二人噴出す
- 472 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:18
- 元々人懐こいのか、それを気に一気に緊張感が熔けたのか
「大体吉澤さんちゃんと矢口さんにキスしてあげたりした?」
いきなりな言葉がそれで驚く
「はい?」
「だって美貴にキスって何の意味があるの?ってキスしてって言うんだよ」
「はぁぁぁぁ?」
思わず路肩に駐車してしまった
「うわっ、びっくりしたぁっ、何?未遂だよ、もちろん」
「あ〜びっくりしたぁ・・・・・驚かせないで下さい、
それに矢口さん純粋だからまだそんな事はいんです」
「マジだったんだぁ〜、ごっちんが言ってたよ、
過保護だからかえって矢口さんにとって良くないって」
ごっちん・・・・・そんな事迄
- 473 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:20
- 止めた車を再び走らせる
「ね、この後何かあるの?」
「いえ・・・別に」
「じゃあさ、寂しいからご飯でも食べに行かない?」
「・・・・・・・いいですけど・・・・」
「何?さっきので怒ってんの?」
ちょっとね
「いえ・・・別に」
「もうちょっとで矢口さんのファーストキスは美貴のものだったんだけどね〜、
まぁごっちんに邪魔されちゃってしてないんだからいいじゃん」
そういう問題?
「・・・・・・・・」
こっちの事情も知らないで
「でもさぁ・・・・そんなに大事なら、とっとと告ってやっちゃえばいいじゃん
・・・・吉澤さんホストなんでしょ」
それが出来れば悩んでないし・・・・それ偏見っていうんだよ
「美貴もねぇ、速攻ごっちんに抱かれちゃったけどね、
ホストって聞いた時はちょっと引いちゃったんだよね」
「まぁ・・・そうでしょうね」
速攻かよ・・・・ごっちんさすが
あんたと矢口さんは違うんだよ
- 474 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:22
- 「女の人は初めてだったし、ごっちんが手馴れてたから、
遊ばれちゃったのかなって思ったけど・・・・・なんか・・・・ね、
あっさりやめてくれて・・・・」
ほう
「嬉しかったんですか」
「うん・・・・まさかすぐ離れ離れになるとは思いもしなかったけどね」
ようは寂しいんだ
「何食べます?」
「あれ、つきあってくれるんだ」
「まぁ・・・・・寂しいもん同士ですからね」
「だったらさっさと告っちゃえばいいのにっての」
「色々事情があるんですよ、で、どこいきます?」
まったく・・・・
「寂しいからおごってくれる?」
「なんでウチが」
「じゃあラーメンでいい」
なんじゃそら
- 475 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:23
- 「おごるなら何になってたんですか?」
「フレンチ・・・・行った事ないから」
はぁ?
「ごっちんは連れてってくれなかったんですか?」
ごっちんの方がいろんな人にいいとこ一杯連れてってもらってたっぽいよ
「ごっちんはいっつも手料理だった・・・・おいしかったよ」
そんなのは知ってます・・・・前は暮らしてたから
あ、そうだ、矢口さんが最初じゃないっけ、ウチ人と暮らすの・・・
まぁ一緒に育ったようなもんだしねごっちんは
仕方ない・・・・・これからよく顔を合わせそうだし・・・・
「じゃあ・・・・イタリアンでもいいですか?
フレンチは二人共カジュアルな服装すぎますし」
まぁ、値段的に半分にはなるし・・・・ってか、おごる理由が解らないし
「まじで?やったぁ〜っ、言ってみるもんだね」
ってか、何でおごらないといけないんだろう・・・・
いつもはおごられてるからね〜・・・うちの体求めて・・・
別に藤本さんの体なんて・・・・まぁ・・・普通に綺麗だけど
- 476 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:25
- 「なんか・・・・・交通事故にあったみたいっす」
その一言がウケたのか、しばらく笑ってて
「よっちゃんさんって、けっこう面白いんだね」
「よっ・・・ちゃんさん」
露店の人だっけ・・・・・この人
「ダメ?なんか浮んだんだよね、
それに休日はまたあそこに連れてってもらわないといけないし」
何を?これから私にあの寮との送迎をしろと?
「だってごっちん車置いてったけど美貴車運転出来ないし、
美貴自体は貧乏だから電車乗ると大変なんだよね〜」
「いや・・・・ごっちんが十分金持ちだから」
「つっめた〜い、恋人と離れ離れになった運命共同体じゃん」
「いや・・・違うし」
恋人・・・っつか、娘っつか
- 477 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:26
- 「早く認めてあげたら?矢口さんよっちゃんさんの事大好きみたいだし」
何て言いにくい事をストレートに言う人なんだ
「・・・・・・・いや・・・・・その・・・・・」
だから、矢口さんにどう接すればいいのか実際解らないんだよ・・・
大切だって事は解ってるけど
「ごっちんから聞いた通り、ヘタレなんだね・・・・ホストのくせに」
「それ・・・偏見ですよ」
「ごめんごめん、美貴矢口さんの事大好きだからさ、なんとなく応援したかったんだよね」
また矢口さんに虜にされた人が一人
あの純粋な人柄にどれだけの人が魅せられるのか
だから・・・・
だから自分の汚さで汚してしまうのが怖いんだよ
どうして解ってくれないのか・・・・みんな
「余計なお世話だよね、ごめん、
ごっちんもめちゃ心配してるからさ、親友だし言えないみたいだし」
「まぁ・・・いいですけど」
こういうズケズケした・・・でも潔い感じがごっちんはピンと来たのかもしれない・・・・・
ウチらのまわりには絶対にいないタイプ
「余計な事を一言言わせらもらえば、
矢口さんかわいいからほっとくとどんどん他の人に連れて行かれちゃうよって感じかな」
ほんとに・・・・気にしてる事をズケズケと・・・・
- 478 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:28
- 解ってる・・・・
あんなにかわいらしい人を、男がほっておくはずはない
しかもちょっと見ヤバそうな奴ばっかだったし
ごっちんが一緒じゃなかったら速攻やめさせてたね
「まぁ・・・大丈夫とは思うけどね」
「へ?」
一転なんか優しい口調になって笑ってた
「矢口さんよっちゃんさんしか見えてないし・・・・それに結構しっかりしてるよ、
ちゃんと自分を持ってるように見えるし、どつちかっつーとごっちんのが危ない」
むむ・・・それは否定出来ない
だって昔からめっちゃ男にモテてたし
「やっぱそう思うんだ、そのリアクション」
やべっフォロー入れとかないと後でごっちんに怒られる
「いや・・・・・でも、あんなごっちん初めてですよ・・・・
いい奴なんすけど・・・・今迄どっか投げやりだったから・・・なんかいい感じっす」
「・・・・・うん・・・・ね、ちょっと電話していい?」
「いいっすよ」
ごっちんにか・・・・あ、
ウチも矢口さんに電話しとこうかな・・・・・と車を路肩に寄せた
- 479 名前:第二章 投稿日:2005/12/28(水) 01:34
- 私が車を寄せてるうちに、藤本さんの電話はつながったようで
「あ、どう?」
と話だした
・・・・私も携帯に矢口さんとのツーショットを見てからメモリーを呼び出して通話ボタンを押した
速攻で繋がる
「よっすぃ〜っ」
待ってましたとばかりの声が嬉しい
「はい、どうです?そこの具合は」
『うん、綺麗な所だし、静かだし・・・・今掃除してる所』
「そうですか・・・・さっきの男達に何かされませんでした?」
『ううん、親切だったよ、荷物置いたらすぐ出てこないと退学だからってすぐに出てったし』
うんうん
「なら良かった、何かあったらすぐに連絡下さい、仕事中とか気にしなくていいですから」
『うん、解ってる・・・・・なんかね・・・
隣に入った子とかチラッと挨拶したりしたけどね、仲良くなれそうだったよ』
「そうですか、友達になれるといいですね」
『うんっ、よっすぃはミキティと一緒?』
「はい・・・・・どういう訳かこれから食事に行きます・・・・・寂しいもん同士に仲良くしようって」
『いいなぁ・・・・おいらも行きたい・・・・・なんてね、
ミキティにもよろしく言っててね、ごっつぁんはおいらがちゃんと見張っておくからって』
ほんとだ・・・・・・しっかりしてる
ってか・・・・・・矢口さんは・・・・・・ちゃんと理解してる
恋したり・・・・・・付き合ったりするって事・・・・・・
「はい・・・・・解りました・・・・・じゃあ・・・・頑張って」
『うん・・・・・』
私はまだ矢口さんの事・・・・・何も解ってないのかもしれないですね
電話切るとシートにもたれてため息をつく
そして、同じボーズで同じタイミングでもう一人ため息をつく人
目を合わせて
「「寂しいねぇ」」
くすっと互いに噴出して、
さあ・・・・と気合を入れてご飯を食べに行く
頑張って下さい・・・・矢口さん
- 480 名前:*** 投稿日:2005/12/28(水) 01:40
- 第二章終了です
レス下さった皆さん、なにげにいつもありがとうございます
スレタイ・・・が最初解らずしばらく考えてしまいました
意味・・・・はそのうち出てくるのかもしれません
毎日寒いし、忙しいし、慌しいし、飲み会は多いし
皆さんお疲れだと思いますが
体に気をつけて頑張りましょう
それでは、時間がある限り更新させていただきますので
おつきあいよろしくお願い致します。
- 481 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 17:41
- 更新お疲れ様です。
矢口さんとごっちんの寮生活がどうなるのか、
残された二人の想いなど気になることだらけで楽しみです。
作者さんもお体に気をつけて頑張ってください。
- 482 名前:*** 投稿日:2006/01/02(月) 14:18
- あけましておめでとうございます
今年もひっそりと更新させていただきますので
よろしくおつきあい下さい
それと心配して下さった481:名無飼育さん
暖かい言葉ありがとうございます
期待に添えるか解りませんが精一杯頑張ります
- 483 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 14:23
- 入学して二ヶ月が過ぎた
はっきりいって・・・・美貴に満足に会えない
だって、めっちゃ勉強させられてるんだもん
世間の学生は夏休みに入りエンジョイしてるけど・・・入学も遅く、
時間の限られているウチらは、そんな余裕もない・・・・
お盆休みはあるみたいだけど
入学式の前日の説明会からめちゃくちゃだった
寮の説明は、セックスは外でやれ・・・・の一言から始まる
その後、卑猥な言葉の連発の校長先生に、
何か問題がありそうな皆の口はポカンと開いたままだった
本当は二年かけてじっくり勉強する所を一年・・・
いや10ヶ月で習得させる為に詰め込めるだけ詰め込んだカリキュラム
頻繁な試験・・・・合格点に満たなければ先に進めない・・・
ようするに一人でも理解出来てないとずっとそのまま同じ授業を受け続ける
最初にカリキュラムの授業予定を細かく教えてくれて、
卒業するまでの授業内容を消化する為に自分たちでペースを作るという変な学校
9時以降は自由に外出してもいいと言われながらも、
翌日の課題やテストの準備に追われてほとんど外出は出来ないというありさま
- 484 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 14:28
- 入学した人には、俗に言うヤンキーが半分、一度社会に出て、
どうしても夢をあきらめられずに入学した人等ちょっと訳あり風な人ばかりだった
みんな土日は、そんなうさを晴らすように彼女に会いに行ったり彼氏に会いに行ったりする
ゴトー達も自宅に帰ったり出来た事は月に数回
なにより・・・・自由な事が大変
教え方が、詰め込み型じゃなく、ある程度要点を言えば、
後はテストで結果が出る迄自分達で理解していかなければならない
先生は、教えなれてるのか、ここまでは教えるけど後は自分で理解しろの一点張り
どっちかというと、一人じゃとても無理
って事に、早くも社会人経験者の最年長川辺さんが気付いて、ここは協力し合うしかないと言い出し
成績順に均等になる様5つのグループに別れて、みんなで一つずつ理解していく事を実行してった
最初は牽制しあってた男達や、女のウチらもなんとなく協力するようになって、
ようやく全員世間話しする程度になった
- 485 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 14:31
- やぐっつぁんは最初から一生懸命辞書片手に頑張ってはいたが、
いかんせん知識・学力不足は否めない・・・出て来る言葉の意味が解らない事が多いみたい
でも、負けず嫌いと責任感の強さは人一倍のやぐっつぁんは、
休みも帰らずにコツコツと勉強して、どうしても解らない所をゴトーや他の人の部屋に尋ねて頑張った
最初は栄養学から始まって、ざっと経営学を学んだ後、自分達で人数分あるバイト先を選んで行った
人気なのは一流ホテルのバイトや、専門店のバイト
勝気で料理の腕に自信のある男達がどんどんいい場所を決めてって、
ギャルとヤンキーの女が男達に喧嘩を売っていくのも先生達は見てるだけだった
自分達で決めたらいい・・・・それだけ
途中でぶちきれたりして出て行く奴とかいて、結構熱い教室
ゴトーは、そんなのを冷静に見て黙ってる方だから、
途中で切れられたりしてやっぱ胸倉とか捕まれたり
やぐっつぁんはそんな時はおろおろしてるから男達に面白がられたりして、
余計ゴトーと喧嘩になったりと・・・・・・まぁ・・・・ここまで苦労したかな
- 486 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 14:41
- 昼間は、全員バイトに行ってる・・・ゴトーは中華の専門店・・・
めちゃ暑い厨房に毎日通う・・・・
やぐっつあんは結局誰もなりたがらない小学校の給食室に紺野と二人でなってしまった
紺野はスピードが遅い為、結構やぐっつあんがフォローするみたいな事を紺野が言ってた
・・・・ひたすらじゃがいもの皮むきとかそんなのばっかみたい・・・・
まぁゴトーも同じようなもんだけど
だいたい先生達は喧嘩になっても止めようとしない
・・・・・事件にならない程度ならOKと最初から高みの見物
どこから何処まで普通の学校と違うのかと思ってたら、一度マジ喧嘩になった男に、
切れた先生が机を蹴飛ばし、椅子をぶん投げて窓を割って止めた
その迫力ったら、全員がシーンとなると同時に、
先生の迫力が本物の迫力だという事を知らされたから
ここの先生には二年制度の先生と、寮生相手の先生は全く別の担任が受け持つ・・・・・
教科によって違うけど・・・・全員かなり気合の入った感じは否めない
そんな人達に一目置かれる中澤校長・・・・
その頃には女子からは裕ちゃんと呼ばれ、男子からはあねごと呼ばれている
本物っぽい男子教師達に一目おかせる校長は何者なんだろうともっぱら生徒達の噂になってる
だいたい出席確認に校長が出てくるってどうなの?って思うけど
・・・・病気以外で来ない人がいたらぶっとばして退学させると初日に言われたから・・・妙に納得した
- 487 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 14:46
- 女子の中で唯一真面目そうな紺野が、
朝の出席確認の時に一度怯えながら裕ちゃんに聞いていた
「こんな状態で私達卒業出来るんですか?」
誰もが思っていた事を、クラス一消極的な紺野が聞いた事で全員が注目した
「今年は優秀な方や、いつもはもっとすごいで、今の時期でまだ栄養学から進まんかったからな、
みんなもイライラして夜どっか行く奴が多くてな、出来へん奴を袋にしたり
今年はそんな争いもないし、いじめもないし、優秀なもんや」
げっまじで・・・・・・ってかこの学校ってどんな学校?
「それでも去年もちゃんとカリキュラムを消化して全員資格を取得して卒業してったで」
ほんとなら、バイトを決める時点で、実習に入ってないといけないのに、
まだ理論とか、筆記の勉強の所から抜け出せないでいる
各グループに二人ずつ位の割合でまだテストが合格出来ない人がいるから
その中にだいたいやぐっつぁんは入ってて、会いたくてたまらないよしこに、
土日も会いに行く事なく必死に勉強している
しょうがないじゃん・・・・・だってやぐっつぁん小学校ぐらいの学力しかないんだから
- 488 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 14:53
- まだ一人だけ落ちこぼれてる訳じゃないからいいけど、
今こうやって食品衛生学や公衆衛生学・調理理論や食品学を毎日毎日繰り返していると愚痴も出て来る
「おい、矢口、そこから理解出来ないんじゃ無理だろ、予習しとけよちゃんと」
「ごめん」
違うグループになってしまったやぐっつぁんに飛ぶ声は、いつもこんな感じ
多分みんな早く調理実習したくてしょうがないから最近はイラついてるんだと思うけど、
最初はやぐっつぁんのかわいさに結構甘かった男達も最近は厳しい
隣にいる仁っていう金髪のピアス男がこそっと聞いて来る
「矢口って知恵遅れ?」
「んな訳ないじゃん」
「たまに話題になるんだよ、ありえね〜程純粋じゃん・・・・・かわいんだけどさ」
「やぐっつぁんを馬鹿にしたら許さないからね」
あんたらが彼女に会いに行ってる間も一人で勉強してんだぞ、やぐっつぁんは
「はいはい・・・・すみませんでした」
世間じゃ落ちこぼれのくせに、
ちょっと自分より弱い奴見つけるとどうしてこう馬鹿な事言い出す奴らが多いのかねぇ
- 489 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 14:56
- 「でもさ、マジ矢口ってちょっと変だよな・・・・最初ビタミンとかもわからねんだぜ」
調味料の合わせ方でどういう変化があるのか調べながらまだ仁が言ってると
「せ〜なっ、仁、てめ〜馬鹿のくせに」
いつも教室の隅でみんなを馬鹿にしたような目で見てる奴が珍しく口を開いた
授業で当てられるか、発表する時位にしか声を聞かないという男瑠依
朝・昼・晩の食事のメニュー作りも自分達でやってるので、
その意見がもめて喧嘩になった時にもこいつが一言言うと、男達は結構黙る事が多い謎の人物
普通ならここでキレるんだろうけど・・・・・この男には一目置くのか仁もチッと言って黙った
実際わからない人に教えてると、今迄おぼろげに理解出来ていた事が、
他人の教えたり聞いたりして妙に納得する事がある
だから、解らない人がいるのはみんなの為にいいんじゃないかってゴトーは思うんだけど
・・・・・なんかみんな焦っちゃってるし・・・・
みんなまじで免許を取りたいらしく、お金もない奴とか多いので必死のようだ
- 490 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:00
- 一応ここに来るだけあってみんな食べるのや作るのは好きみたいで、
専門的な技術を習う前に好き勝手に食事を作ってる状態だ・・・まぁおいしいけど
だんだん、栄養学やら健康面の衛生学を習っていくうちに、
最近はやっと考えながらメニューを組み立てるようになり
それも最近はグループに別れて、
一週間分のメニューを最初先生に提出させられて、合格の班だけ授業に入れる
そしていつでも徹底した仲間意識を持たせられてる
休憩時間に一生懸命やぐっつぁんは紺野の所に行って一人勉強してる
みんなタバコすいに行ったりしてるのに
紺野あさ美・・・・女子7人の中で唯一真面目な風貌・・・・・
どうやらどもりがひどく、いじめられやすい性質なのか、
最初全くしゃべらなかったが頭は多分クラス一いい
人と接するのが苦手で、人の目を見れないし、
話す声も小さい為に最初ギャルの麻生からさんざんからかわれてた
やぐっつぁんもいきなり初対面でチビって言われてたし、なかなかの爆弾娘だ
やぐっつぁんの偉い所は、そんな事を言われても、
いつもにこにこして笑ってるだけ、からかう方も面白くないのか結構早くに飽きて行った
まぁ・・・・・やぐっつぁんは、昔・・・・そうやって生きてたから、
慣れてるのかもしれない・・・・・人から馬鹿にされたり見下されたりするの
今迄知ってる笑顔と違う笑顔をしてるから・・・・・・
なんとなく会ったばかりのやぐっつぁんの笑顔・・・・・
確かに彼女の生い立ちを知らない人には理解出来ないかもしれない
そんな中で、やぐっつあんが唯一ウチらと同じような笑顔で接したのが
寮で隣の部屋の紺野だったって事
紺野がテストでいつもいい点数を取ってるのがみんな解ってたから、
質問される事は多いが、紺野はやぐっつぁんにだけは特に親切に教えてあげてた
基本的にゴトーとやぐっつぁんは一緒に行動する事が多いから、そこに紺野が加わっている
- 491 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:03
- いつものように今日の授業がやっと9時に終わる・・・・
お風呂に入って美貴に電話して寝よう・・・疲れたし・・・・・・
なんてやぐっつぁんと帰ろうとしたら
「ちょっと先に帰ってて」
と、やぐっつぁんは寮とは別の調理場に向かった
何か忘れ物?と聞いたけど、何でもないと笑顔で去って行った
超一流設備の調理場・・・・・都内でも一・二を争う設備のようだし・・・・・
二年制の通いの学生達は、なにやらいい所の坊ちゃんだったり、本格シェフをめざす人達ばかりみたい
彼等は4月から入学してて、既に実習をキチンと消化している・・・・それにバイト制度もない
バイトは二年になった時に、少しだけウチらが6月に入学する迄の二ヶ月位、
体験として少し実習に出る位だという
その調理場は、ウチらがバイトに行ってる間にその二年制の人達が調理場を使用し、
朝食からバイト迄と夕食から夜にかけてはウチらが使用するみたい
そっちの生徒には会った事がない・・・・・
今は昼食の際に少し前に人がいたなっていう位の雰囲気しか解らない
まぁそんな説明はさておき、やぐっつぁんは何でそんな調理場に行くのか不思議に思ってこっそり付いて行った
- 492 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:06
- 閉められたドアに耳をつけると
「ごめんね」
「ったく、いい加減にしとけよ、ふざけてんのか?ウチのグループが一番遅れただろ」
確かに今日やぐっつぁんのグループが一番遅れてしまった・・・後はやっと今日全員合格点になった
「うん・・・・」
あいつだ・・・さっき文句言ってた哲郎・・・・・
自分だって最近ついてけるようになったくせにとドアを開けようとすると
ガッと手を捕まれて振り返った
瑠依・・・・・しかも黙ってろと言う視線
「お前どっか可笑しいんじゃね〜のか?ちゃんと学校出てんだろうな」
あの馬鹿・・・・・
我慢出来なくて動こうとすると瑠依が止める
「出て・・・・ない」
一応特殊学校卒業したじゃんっ
「出てね〜のかよ矢口・・・・お前どこ出身?」
「・・・・・・解らない」
関係ないじゃんっ
「だからそれが可笑しいっつってんだよ・・・・・
普通あるだろ、北高出身とか、南中出身とかさぁ」
「・・・・・出てない」
てめーはどこなんだよっ、だいたい
「はぁ?出てないぃ?中学迄は義務教育っつって全員通わなきゃなんないんだよ、
にっぽんって国は、んな訳ないじゃん」
- 493 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:08
- あったまきた・・・・えっらそうにあの馬鹿
もう瑠依が止めても待てないと行こうとしたら、瑠依が先にドアを開けた
一瞬驚いた哲郎が、開き直って言い出す
「あ、瑠依、聞いてくれよ、矢口学校出てないとか言うんだぜ、んな訳ないよンガッ」
いきなり瑠依が哲郎を殴った
激しく吹っ飛ぶ体
ゴトーは咄嗟にやぐっつあんに駆け寄り抱き寄せると、
小さな体はガタガタと震えてた
「もう大丈夫だよ、いこ・・こんな奴の言った事なんて気にしなくていいから」
「・・・・うん」
言いながら背を向けて瑠依を見ると、手で行けという合図をした
- 494 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:10
- 「関係ね〜だろ瑠依、お前だってほんとはイラついてんじゃね〜の?
こいつのせいで毎日毎日同じ事やらされて」
って声が聞こえると、また激しい音がして苦痛の声が響く
廊下に出て少しした所でやぐっつぁんがゴトーの手から離れて戻って行った
「もうやめて瑠依・・・・・・・・それにごめんね哲郎・・・・
今から勉強するから・・・・絶対明日テスト合格してみせるからね」
毎朝あるテスト・・・・微妙に違う問題に結構苦労してる
「俺・・・・こいつみたいな奴許せね〜・・・・・」
瑠依が顔色を変えずに哲郎の胸倉を持って殴ろうとしたら、ゴトーの背後から声が聞こえた
「そこまでにしとき、瑠依」
「裕ちゃん」
腕を組んですました顔でやって来た
「悪いがここも監視カメラっつーのがあってな、あんたらの事は丸見えなんや」
守衛室から様子がおかしいって連絡があったからだそうだ・・・・ふ〜ん
- 495 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:12
- 「しかし・・・・・弱いものいじめみたいな真似・・・・最低ですよね」
人一倍悪そうに見える瑠依の口からそんな事を聞くとは
「せやな・・・・でも社会に出れば哲郎も瑠依もまだ弱いもんなんやで・・・・・
まぁ・・・・普通の働いてる人も弱い奴やねん、だから協力したり仲良うしたりするんやないかな」
やぐっつぁんのそばに行って頭を撫でて笑いかける
「こいつはかしこいねんで、小学校も出てへんのに一杯漢字知ってんねん・・・・自分だけで勉強してな、
それなのに学校行ってたお前らとそう変わらない点数取ってるやん」
唇から血を流しながら、苦い顔をして哲郎が裕ちゃんを睨んだ
「だから何で学校行ってねんだよ、ありえね〜だろ」
「だってずっとお父さんと妹と暮らしててんもんな・・・・しょうがないやんな」
言っちゃやだっていうやぐっつあんの動き
「ええやん、ウチは矢口をすごい思うねん、
だからそんなちっこい事で矢口が馬鹿にされんのはウチが悔しいねん」
- 496 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:14
- 「どういう事だよ」
冷たい色をしていた目に色が戻って来た瑠依が聞く
「矢口はな、ほんまな事言うと同情されるかもしれんから言わんといてって言うたんやけどな、
ちょっと前に事件になっとったやろ、奥さん殺して娘二人を連れて海沿いで暮らしてた奴」
「ああ、泥棒して捕まった間抜けなおっさん・・・・って・・・・あ」
哲郎が矢口を指差して口を開けた
「もしかしてもっといじめるってか哲郎」
やぐっつぁんの頭に手を置いたまま目を伏せて言う裕ちゃんの体から怒りのオーラ
「い・・・いえ」
んな事したらゴトーだってただじゃおかないよ
「これからその事や学歴の事で矢口がいじめられるような事あったら
この裕ちゃんがボコボコにしたるからな・・・・憶えとき」
ゆ・・・・裕ちゃん・・・こわ
そのセリフを言う時の裕ちゃんの目といったらそりゃ・・・・ゴトーもびびった
- 497 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:17
- やぐっつぁんはちょっと泣きそうになって俯いてる
「おっおいら普通になりたいのっ・・・・だから言わないでっ」
「せやったな、すまん矢口」
抱き寄せて慰めようとする裕ちゃんを突き放してぶすくれて
「おいら明日絶対受かるからっ」って言って走って行ってしまった
どんなにバカにされてもいつも笑ってたやぐっつぁんの悔しそうな顔に、もう限界かなって感じた
「まずい事したんかなぁ・・・・矢口に嫌われとうないねんけど」
「嫌われちゃったかもね・・・・必死にやぐっつぁんが隠して普通でいたいって
よしこにもろくに会わずに頑張ってんのに」
なんだか後藤も悔しくてあ〜あって感じで言ったら、
ツカツカとピンヒールを響かせて二人に近づき、瑠依と哲郎の胸倉を掴んだ
「お前ら明日から矢口に違う態度取ってみぃ・・・・・マジでボコるで・・・・・
ウチのかわいい矢口泣かせてもたんやからな」
泣かしたのは裕ちゃんだけどね
「・・・・・わ・・・解ってるよっ・・・・・
ちょっと驚いただけだろ・・・・まさか矢口があの事件の子供なんて・・・」
バツが悪そうな哲郎
こいつだって悪い奴じゃないんだろう
- 498 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:20
- 「俺は別に気にしない」
「あん?」
裕ちゃんが瑠依の胸倉に力を入れてる
「俺はここに資格を取りに来てるからあいつがどんな奴だろうと関係ない」
それを聞いて裕ちゃんがにやっと笑って瑠依を離した
「せやった・・・・・どうも矢口がかわいいていつものウチやなくなってもうてる、
ウチは本気で資格を取っていける奴しか入れへんかった・・・・お前もやろ哲郎」
「ああ・・・・・だから矢口にちょっとイラついちまったけど
・・・・なんか・・・・悪い事したなって」
「まぁ俺らは、仲間全員協力しあってけば、全員卒業出来るんだろ
・・・・焦んなくていんじゃね〜の哲郎」
少し笑みを浮かべる瑠依
「ああ・・・・」
すっかり落ち着いた感じの三人は、裕ちゃんにボンポンと皺皺になった胸倉を叩かれて、
それから祐ちゃんはゴトーに振り返ってすまなそうに言う
「悪いけど、かわいい矢口の様子みとってな後藤」
「あいよ」
哲郎が出て行くゴトーに、
悪かったから頑張れっつってた事を伝えてくれと言ったので頷いて寮に戻った
- 499 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:22
- ゴトーの部屋の隣のやぐっつあんの部屋をノックしても出て来なかった
「やぐっつぁん?」
「お・・・・おいら平気だからっ、ごめんねごっつぁん」
中から叫んでたけど・・・・なんとなく泣いてるっぽい声
「とりあえず開けて」
「・・・・・・」
「やぐっつぁん」
優しく言ってみる
「ほんと・・・・大丈夫・・・・今勉強してるから」
ドアのそばにやって来てくれたのか、小さな声
「うん・・・・・解った・・・・解らない所あったら部屋にいるから聞きにおいで」
「うん」
馬鹿にされても頑張って笑顔でいて、一生懸命普通に見られようとしてたやぐっつぁん
一人前になれば、堂々とよしこに好きって言えるって思ってるみたい
ちょっとずつちょっとずつ・・・・やぐっつぁんは胸のうちをゴトーに話してくれた
もしかしたらもう次の恋人とか出来て・・・・
自分の事なんて戻って来なければいいのにって思っちゃうかもしれないけど・・・・
そんな時にちゃんと好きって言って笑顔でさよなら言えるように一人前になりたいってさ・・・・
特に、何度も同じ教科のテストで不合格した頃に・・・・
いつも美貴の作った指輪をいじりながら話してくれた
今日みたいな・・・・・そんな日に
- 500 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:24
- 今頃あの馬鹿よしこは女としっぽり呑んでる時間なんだろうけど、
自分の部屋に戻って携帯を取り出す
『どしたっ、ごっちん』
たまに後藤と会うとき、
ものすごくやぐっつあんを心配してるよしこは秒殺で声を発してきた
「ね、仕事中なのは解ってるけどさ・・・・ちょっと出てこれない?」
『え・・・・矢口さんに何かあった?』
急に声色が変わると、ちょっとすみませんというよしこの声の後少しして周りが静かになり
『まさか矢口さんいじめられたとか』
やぐっつぁんは弱音を吐いてないみたいだから今までよしこには元気にやってるとしか言ってない
「いや・・・・そこまではないけど・・・・・ちょっと落ち込んじゃって」
『すぐ行く、そこの前に着いたら電話入れるから』
言った後プツッと通話が切れて、クスッと笑う
大丈夫・・・・よしこもきっとやぐっつぁんを好きだよ・・・・
同情とか・・・・そんなくだらない感情じゃなくね
- 501 名前:第三章 投稿日:2006/01/02(月) 15:25
- 今日はここ迄、ぐだぐだですみませんでした
- 502 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 19:54
- 激しく矢口さん不足
もう二ヶ月・・・・・その間帰って来たのはたった1回
その間だって、近くにいるウチを無視してずっと勉強してた
久しぶりの手料理は、ちゃんと作ってくれたけど、一泊もせすに夜帰って行った
前みたく、辞書とかを片手に・・・・
それでも解らないのはウチに聞いて来たりして
・・・・まぁ、その時はもうウチも解らない事ばかりで情けなかったけど
どの食品とどの食品を合わせて、どんな成分の栄養素が壊れるかとか、
成分の名前がウチにも馴染みのないものばかりで訳が解らなかった
どうやら本気で勉強してるみたい
週に何回か日記みたいなメールをくれるけど、
毎日楽しいよ・・・という事ばかり並んでる
グループに別れて勉強してるけど、たのみのごっちんとは別のグループみたいだからちょっと心配
それよりなにより、一番心配なのは、自分の毎日
帰って来ても誰もいないし・・・・・おいしい食事だってない
- 503 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 19:57
- そう、何より食欲がない
客と食事に行っても、矢口さんの愛情たっぷりの食事にはかなわないと、
一口食べるともう食べる気がしない・・・・けどしょうがなく胃に詰め込む
声が聞きたくても電話できる時間帯には、矢口さんの携帯は部屋に置きっぱで繋がらないし、
矢口さんが自由になる時間にはウチは寝てるか仕事の真っ只中なのを知ってるのか掛けて来ない
ひたすら時間差のメールのやりとりを毎日楽しみにしている位
前は、必ず控え室に置いてたプライベート用だけど、
今は仕事用と二つポケットにしのばせている・・・・
スキを見てはメールをチェック出来るように
だいたい接客中にかかってくるからすぐ返事は返せないし、
寝てるかもしれないからと昼起きてからにするようにしてる
内容によってにやにやしてるウチにだいたいいちーさんが突っ込んで来る
絵梨香さんはウエイターの利点を生かして
カウンターに隠れてメールが来たらすぐに返したりしてるのをたまに見る
内容的には、解らない言葉とかの質問が多いみたいだけどね、ウチと違って・・・・へへん
ウチには、早く会いたいとか、ちゃんと食べてる?とか、ちゃんと入ってるもん
- 504 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:01
- そしてもう一つ・・・・睡眠不足・・・・・
矢口さんを抱き締めて寝ないから・・・・眠りが浅くてよく夢を見る・・・・・
あまり憶えてないけど、あまりいい夢じゃない
だからなのか・・・・・誰も抱く気がおきずに
・・・・最近は体調不良を訴えて誘いを断る事が多い
その代わり朝方帰って来て、家で一人で飲むようになった
いつもしてるチョーカーを触ったり・・・・
使い終わった矢口さんのドリルなんかを眺めながら
ちびちび飲むのが日課になってしまった
金曜日には必ず今週は帰ってこれますか?のメールを打ち
今迄100%月曜のテストの為に勉強しないと皆に迷惑がかかるから帰れそうにない・・・と返って来る
一月前にごっちんにメールを入れた事があった・・・・あんまり会いたくて
そしたら ゴトーも美貴になかなか会えないんだ・・・・って、
どうやら普通の学力でも必死に勉強しないとついてけないみたい
だから、土日には、寂しくてついつい美貴の店に足を運んでしまう
別に手伝う訳じゃないんだけど・・・・・
寂しい思いを共有してる仲間だとウチも認めてしまったようだ
今迄何回かごっちんが一緒に来た事があり、
矢口さんはと聞くと、部屋で紺野という隣人と勉強してると聞く
あっつあつの二人に割り込んで、どんな様子か聞くけど、
邪魔すんなオーラがごっちんが発せられ、空気を読んでとぼとぼと家路につく
そんな気持ちで帰っても、あの笑顔で迎えてくれる矢口さんはいない
- 505 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:04
- 声が聞きたい・・・・・
会いたい・・・・・・
そればかり毎日考えている
周りから、顔色悪いとか・・・・痩せたとか言われ始めると、
仕事に厳しい市井さんから叱られる
「いい加減にしろよ、矢口が出てったからって、居場所だって解ってるし、ちゃんと帰って来るんだろ、しっかりしろよっ」
「すみません」
絵梨香さんの哀れんでる目さえ苛つく
自分はかたっぱしからオーディションを受けて、
ちょこちょこ仕事も入ったりしてるようだし
・・・・・ウチをライバル視しているから余計むかつく
成長しない自分に苛ついてるだけかもしれない
いや・・・・でもまだ娘はあげれません
娘はまだパパが大好きなんですから
- 506 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:06
- そんな頃、接客中に長く右ポッケの携帯が震えてる
電話だっ・・・
矢口さんかもしれないとお客様の前に関わらず取り出した画面にはごっちんの文字
咄嗟に何かあったのか聞くと、どうやら矢口さんが少し落ち込んでるようだ
いてもたってもいられず、お客さんに両親が事故に会ったと嘘をつき、
店長にも嘘をついて店を飛び出して車を飛ばした
30分もすればあの学校の敷地前に着き、ごっちんに電話を入れる
『はやっ・・・・もう着いたの?
でもよしこが直接やぐっつぁんに電話してあげて、きっと飛び出して来るよ』
「うん」
いいんだろうか・・・・電話しても
一瞬迷うけど、もうどうしても矢口さんの顔を見たくて・・・・
会いたくてすぐに電話した
『よっすぃ』
すぐに出てくれる・・・・待ってくれてたみたいに
「はい・・・・・やっと声が聞けた」
『う・・・うん・・・・おいらも・・・・
おいらも声が聞きたくてね・・・・ずっと電話の中のよっすぃ見てた』
「電話してくれればいいのに・・・」
『出来ないよ・・・・・もっと会いたくなるもん』
それに仕事中でしょって・・・・・
- 507 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:08
- 「今・・・・外見れます?門の所」
『え?』
「外・・・・ちょっと出て来てもらえます?」
左から二番目のドアがそっと開くと私は手を振る・・・・
車のライトを点けたままだから私って解るはず
すると、プツッと電話が切れて一度ドアが閉まりかけるとすぐに小さな体が飛び出して来る
なつかしい感じ
バンッとドアが閉まっている・・・・それにしても早い早い
「よっすぃ〜っ」
懐かしい笑顔がみるみる近づいて来て、
暗証番号で門をもどかしそうに開けると、思いっきり抱きつかれた
「元気でしたか?矢口さんが帰って来てくれないから来ちゃいました」
「・・・・・・・・よっすぃ〜」
きゅっと抱きついて来るのでぎゅっと抱き締める
- 508 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:09
- しばらく矢口さんの体を実感してると、もぞもぞと動き出す
「仕事中じゃないの?」
「まぁ・・・・ちょっと両親を事故にさせちゃったけど・・・・会いたくて」
親なんてもう何年も顔見てません
「ダメだよ、そんな事しちゃ」
口では言いながらも嬉しそう
じっくり顔を見る・・・・車の灯りで少しかげりはあるけど
「少し痩せました?」
「どうだろ・・・わかんない・・・・でも元気だよ」
落ち込んでるって何があったんです?
「つらかったら・・・・やめてもいんですよ・・・・・」
ハッと顔を上げて首を振る
「つらくないよ、おいら・・・・大丈夫」
「ならいいですけど・・・・まだ大変なんですか?授業」
メールでは大変だけど楽しいとばかり書いてあるけど
- 509 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:14
- 「・・・・おいらね・・・・一人で迷惑かけてるの・・・・」
「迷惑?」
笑顔が曇る・・・・やっぱ落ち込んでるんだ
「ううんっ・・・・大丈夫、明日ね、おいらがテストに合格すれば次に進めるの、
だから今から勉強するねっ、よっすぃのおかげで元気出たから」
ゆるりと寮に帰ろうとする矢口さんの手を咄嗟に掴んだ
ちっちゃなちっちゃな手
「頑張って下さい」
帰って来て下さい・・・・
そう言いたいのに・・・・言えなかった
「うんっ、ありがとよっすぃ・・・・ほんと・・・・ありがとう」
また暗証番号を入れて門を開けて中に入っていく背中を見てると、
寮の廊下に数人の人が見ているのに矢口さんが気付いた
「ありゃっ、見られてたみたいっ、よっすぃありがと、もう大丈夫だから早く仕事に戻って」
「はい・・・」
暗闇にうっすらと手を振ってる矢口さんが見えて、
私は携帯を出してごっちんに電話する・・・・・廊下の人影の一人はごっちんだと思ったから
- 510 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:16
- 『どうだった?』
「うん・・・・へこんでるね・・・・・でも頑張るって」
『あ、帰って来た、照れくさそうに笑ってるよ』
三階にたどり着いた矢口さんは、
廊下にいる何人かに何か答えながら電話中のごっちんに近づいてる
「じゃあ矢口さんをよろしくね」
という私に向かって二人で手を振ってくれた
『解ってるよ、やぐっつあん、よしこ帰るって』
ごっちんの受話器に背伸びして、気をつけてね〜って聞こえてくる
もう一度手を振って車に乗り込んで出発しようとしたら、
寮の矢口さんの部屋に三人入っていくのが見えた
そして、2階にいるひとの一人・・・
多分男だろう・・・・いつまでもウチを見てた
帰り道は、もっと寂しさが増した気がした
そして気付く・・・・ウチは矢口さんを好きなんじゃないだろうかって
抱き締めて・・・・キスして・・・・・
矢口さんにそういう事をしたいんだって
- 511 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:17
-
- 512 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:20
- やっと明日から実習の授業に入れるようになった
今日、一限目でのテストでやぐっつぁんがついに合格したから
テスト問題は、毎回違うので、ウチらもどんどん詳しくなるし、
確かに学んだと言える位同じ様な形態の問題が次から次へと作られる
先生達も大変だなぁ・・・とか思うけど、
毎年だから結構問題のストックがあるのかもしれないと皆で言っていた
今考えると、ずっと同じような問題を繰り返してるから、着実に身についた事は確かだと思った
やぐっつぁんは、よしこに会った後、めちゃくちゃ元気になって
ゴトーと紺野を巻き込んで夜中過ぎ迄大勉強大会を繰り広げた
あまりに激しくやぐっつぁんがドアから出たもんだから、
寮が揺れて、何ごとかと麻生や紺野・・・・それに何か裏がありそうな女、千里が部屋から出て来た
普段ここを抜け出す時も、静かに出てくのが当たり前だったから、
あまりの振動と、走りっぷりに寮中に響き渡ったのは思わず何があったのかと口々に呟く
「あれ、矢口彼氏いんだね」
ギャル麻生が必死に相手の顔を確認しようと目を凝らしている
スーツ姿に金髪・・・・男に見えなくない・・・
ってか、見えるよ・・・よしこ
- 513 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:23
- めいっぱい走ってもどかしそうに門を開けて抱きついてるやぐっつあんを見て
「あ〜あ、ウチも彼に会いたくなっちゃった・・・・電話し〜よおっ」
麻生はつまらなそうに部屋に入って行った
こいつはどんなにテストに合格しなくても彼に会いに行くというなかなか肝の座った奴
やぐっつぁんと点数はよくはりあってるのに大したもんだね
その向こう側には、静かに千里がやぐっつぁんの様子を見ては下の階を見てた
ゴトーも見るけど、柵に手をついてる野郎が三人、内二人は仁と忠明なのは声で解った
「やるじゃん矢口」
「なんかチャラい奴じゃん、ホスト系?」
「矢口普通にかわいいからな、でも相手あんななら騙されてんじゃね〜の?」
「んじゃかわいそうだから俺、今度誘ってみよっかな」
おっ、やるか、俺も誘ってみよ・・・・なんて言い合ってるけど、
あんたら彼女いるんでしょ、よく言ってるじゃん
紺野の恥ずかしがり方が面白くて、よく目の前で卑猥な事言って喜んでんじゃんか
- 514 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:27
- やぐっつあんがこっちに帰って来る頃には、
二人も彼女に電話しよ〜って入って行ったみたい
よしこから電話が入って話してる間に喜んで帰って来たやぐっつあんは
千里ににこっと笑いかけてそばを通ると、ゴトーに喜びを伝えてくる
やぐっつぁんをよろしくと言っているよしこに二人で手を振ると、よしこは車に乗り込んだ
なのに千里はずっと下の様子を見て動かない
ほんとこの人謎の人物だね〜
やぐっつあんがはりきって勉強教えてって
隣でずっと見てた紺野とゴトーを部屋に入れてくれた
さっき迄入れたくなかったくせに・・・・
でも良かった・・・・元気になって、すっかりさっきの事を忘れ去ったみたい
それからみっちり復習を繰り返して、
やぐっつあんが勘違いしがちな、
よく間違う問題を中心にどうやったら覚えられるか紺野と頭を捻ったりした
おかげでテストは合格
みんなも同じテストをして全員合格だったので、みんな本当に嬉しそうだった
- 515 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:28
- ちなみに最下位は千里と仁だった・・・・
やったねやぐっつあん、よしこ効果かな下に5人もいる
ゴトーはいつも真ん中位
毎回点数が張り出されるから最初は嫌だったけど、
なんだかそれにも慣れて、結構励みになってる奴もいるみたい
一時間目に受けて、もう夜に発表される
一日中ドキドキしてたやぐっつぁんは、ゴトーと紺野に抱きついて大喜びし、
授業が終わるとすぐによしこに電話すると言って出てった
「良かったです、矢口さん」
「うん、紺野が根気強く教えてくれたからだよ、でもまだまだ先は長いね」
そうですね・・・と、俯いて話す紺野
まだまだカリキュラムの1割を消化したに過ぎない
実習が丸々残ってるし、学科もまだまだ残ってる
- 516 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:31
- 久しぶりにすがすがしい気分で寮に戻る廊下に、
瑠依が窓際に背をもたれさせて立ってゴトーを睨んでた
じっと見てるもんだから
「何?」
「いや・・・良かったな」
「ああ・・・うん」
フッと笑って
「昨日の・・・・矢口の彼氏?」
珍しい・・・・瑠依が人の事に関心を示すなんて
「ん〜、今の所片思い中かな」
絵梨香には悪いけどゴトーは両思いだと思ってる
「へぇ」
にやっと笑って瑠依はポケットに手を入れてだらだらと帰って行った
紺野と目を合わせて首を捻る
その後紺野が寂しそうに言い始める
「片思い・・・・ですか・・・・いいですね、そんな相手がいるって」
「紺野はいないの?好きな人」
「はい・・・・・私は・・・・・」
顔を染めてるし・・・・・
まぁいつもか・・・・・もしかして誰か好きになっちゃった?
まさか瑠依に?
・・・確かにイケメンだし、硬派で女には優しい感じはする
そして、瑠依はどうやらやぐっつぁんに・・・・・
どうする?よしこ・・・・ライバルがまた出現かもよ・・・・
絵梨香と違って相手は男・・・・やばくない?
- 517 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:31
-
- 518 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:33
- 矢口さんから、一週間に一度位メールが入る
元気?とか・・・・オーディションはどう?・・・・
とか私の情報ばかりを聞きたがる
私は矢口さんを見習って、また頑張ってオーディションを受け始めた
前と違う事・・・・・
少し自分に自信を持って挑む事にしてる
そのせいか、ちっちゃい雑誌の仕事だけど、
モデルとして少しは活動でき始めてる気がした
この前喧嘩して帰ってもらった両親に、
載った雑誌を贈って本気だって少し解ってもらえたし
容姿では他に適わなくても私にしか出来ない私の着こなしがあるって
なんだか思えるようになったから今楽しくて仕方がない
あれから一度も矢口さんには会ってないけど、
ひとみさんも会っていないみたいなので今の所それほど焦らない
だって、日に日にひとみさんの様子が可笑しくなって行ってたから
あれだけ派手に遊んでいたお客さんとの仕事も、
すっかりなりを潜めて、しょんぼりと家に帰ってるのが少しかわいそうになってしまう
もしかしたら、むしろひとみさんの方が弱い人なのかもしれない
- 519 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:36
- 相変わらずの人気だけど、
真希さんの穴を埋めたのは紗耶香さんと
・・・・大型新人の舞さんだった
女性っぽいルックスとはウラハラに結構男前な性格で、
面白い事が次から次に出て来る頭の回転の速い人
いつも舞さんの周りにはお客の笑い声が響いている
ひとみさんは、前のような輝きをすっかり失って、お客に心配迄されてしまう有様
ヘタレなんだ・・・・・って解ると、
なんだか私にも希望が持てる気がした
まぁ・・・・当の矢口さんは相変わらずひとみさん大好きみたいだけど
私は、矢口さんが一生懸命頑張って調理師の免許を取って、
どこかのレストランできちんと働く日をちゃんと応援してあげられる
ひとみさんは、絶対、無理なら帰って来て欲しい位に思ってるはず
そんなんじゃ矢口さんはこれから成長出来ない事に気付いた
いくらお互いに好きでも・・・・・
いずれ大きな壁にぶち当たってしまう
それにひとみさんが気付かない限り
・・・・・まだまだ私にもチャンスはある
だから、私は一人で頑張ってモデルになる夢を叶えようと思う
- 520 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:41
-
- 521 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:43
- あれから、瑠依がやけにやぐっつぁんのそばにいる気がする
朝昼晩の食事の準備の際にも、そばで色々作業している
始まった実習での基本的な包丁の使い方の授業では、
女の方が確かに包丁使いに慣れてるけど、男は半分はあまり覚束ない手さばきの為、
出来る人がついたりして練習している
別に誰が誰を教えるか先生が決めた訳でもなく、なんとなく決まった感じ
なのに自ら瑠依は使えるくせにやぐっつあんに教えてくれと言って近づいて行った
今迄憮然とした表情ばかりだった瑠依が、
なんだか楽しげに見えるのは・・・・
きっとやぐっつあんの屈託ない笑いと、親身な教え方にあるのだろう
寮にはキッチンがついていないし、しかも刃物は持ち込んではいけない
そのかわり木で出来た包丁そっくりの奴を配布して、使い方に慣れろというやり方
自由な学校だけど、事件にだけは神経質なようだ
- 522 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:48
- 実習室は、授業後夜10時位迄は開いてるけど、
時間になると警備員が来て閉鎖されて入れないし、
じゃあどこで練習するんだよ・・・・と皆で話していたら
ここから山の方に行った森の中の場所に、一軒の空家があるという
それじゃ不法侵入じゃんと、みんなで突っ込んでたら、
別にどこの不動産にも登録されてなく、出入りも自由な結構なボロ家だという
どうしてそれを知ったかというと、
紺野の部屋のタンスの裏に張り付けてあった手紙と地図が見つかったから
先輩達も代々そこで包丁さばきの練習をしたり、夜食を作ったり、
みんなで集う場所として使用されていたと書いてある
半信半疑でその日みんなで行ってみようと夜懐中電灯を持っていくと
確かに周りに民家はなくボロ家だけど、中は結構綺麗
台所なんてぴかぴかに磨かれて、
きっと私達もここを見つけるだろうと先輩達が置いて行った様々な包丁や寸胴が隠されていた
ちゃんと磨きこまれてる道具が、
きちんと調理師になって卒業してったんだろうなぁという印象を与える
出刃包丁から刺身包丁、中華包丁等、高そうな包丁が綺麗に布に巻かれてしまってある
カセットコンロが四つもあるし、水道は井戸水なんだろう、ちゃんと出て来る
掃除用具入れのような場所には、
ランプと大きな懐中電灯の設置型のようなものがあって、なるほどねと思わせた
- 523 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:50
- へぇ〜、と早速ランプを点けてみる、部屋の全貌が見えて、
ランプを掛ける場所があったり、食材を入れるクーラーボックスも置いてあったり
先輩達がここで色々作った光景が目に浮んだ
「なんか・・・・・よくねぇ?」
「隠れ家って感じじゃん」
「うん・・・・・ここに何か買って来てさ、練習すればいんじゃん」
「道具も揃ってるしさ、あ、これ見て」
二部屋しかないこのボロ家の畳の部屋に上がり込んでた何人かの中で
壁に薄汚れた大きな模造紙が貼られてるのに麻生が気付く
”後輩につぐ・・・・ここで犯罪してテレビとかに出ちゃった奴は、俺達がぶち殺す”
一瞬の静寂の後、大爆笑が起こる
ばっかじゃね〜のってひとたか笑った後
「イカれてるね、先輩達って」
「ほんと、頭悪そ〜だよね」
「でもさ、裕ちゃんの生徒っぽいよね、こんなの書くなんて」
ほんっとこの学校って変な学校だよなと誰か言い始めて、
今迄の鬱憤を晴らすかのようにここで皆で大文句大会
すると、入学して以来、
初めての全員集合で会話が弾んだ事にみんな気付いて一瞬間があく
- 524 名前:第三章 投稿日:2006/01/03(火) 20:52
- 「こうやって先輩達・・・・・協力しあって卒業したんだろうね・・・・きっと」
ゴトーが言うと、皆頷く
「紺野っ、何でもっと早く手紙見つけなかったんだよ」
「え・・・だって・・・・」
笑いながら皆がそうだそうだとか言ったりして、紺野は口をぱくぱくさせていた
「嘘だよ、良かったよ、早めに気付いてくれて・・・・
ってか入学した当初じゃこんなにはならなかったんじゃん?」
「そうだな・・・・・一応苦労した後見つかったから、
こうやって皆一緒の文句が言えるんだし、丁度良かったじゃん」
うんうんうんと、皆納得
「そうと決まったらさ、何か足りないもん調べてさ、今日の所は帰るとしますか」
「何仕切ってんだよゴトー」
「ん?なんとなく」
なんて笑いも起こって悪くない・・・・
謎の人物千里も瑠依もなんだか微笑んでるし
やぐっつあんも、よしこと暮らしてた時のように穏やかな、かわいい本当の笑顔をしてた
- 525 名前:*** 投稿日:2006/01/03(火) 20:53
- 本日はここ迄
- 526 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:31
- あっという間にもうすぐお盆休みがやって来る
町に人がいなくなる為に、私達の店もお盆は休み
だから矢口さんが帰って来たらゆっくり二人で過ごせる
お母さんや亜依ちゃんのお墓参りにも行きたいし
ってか・・・・あの夜に押しかけてから数週間・・・めちゃくちゃ長かった
それからも一度もここに帰って来てはくれなかったし
だけど、あの日の次の日、嬉しそうな声で仕事中に電話が掛かってきた
接客中にもかかわらずすぐに電話に出ると
『よっすぃ〜っ、よっすぃ〜のおかげでテスト合格したよっおいら』
出たらいきなりの言葉に思わず顔が緩む
「良かったっすねっ、頑張ったからですよ、矢口さんが」
『ううん、ごっつぁんとね、紺ちゃんが一生懸命教えてくれたしね、
あのね・・・・あのね・・・・うん・・・・・あの・・・・』
どんどんトーンダウンしていく矢口さん
- 527 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:33
- 「どうしたんです?」
たまらずに聞いてしまった
『うん・・・・お・・・・おいらもっと頑張るからっ・・・・
とにかくありがとっよっすぃ、あ、ごめんね仕事中、じゃあっ』
プツッと切られる・・・・
受話器を見つめる私の視線の中には、二人の笑顔
「子犬ちゃん?」
結婚してから初めて店に来てくれたアヤカが聞いて来る
「あ・・・うん」
「出てっちゃったんだって?」
グラスを傾けながらも意味ありげな笑み
「・・・・・4月には帰って来るけど・・・・何?気になる?」
- 528 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:36
- 「そりゃね・・・・・あの後子犬ちゃんにちゃんとフォローした?」
「フォローって?」
「ちゃんと愛してあげたかって事」
一瞬そんな事をしているウチらを想像して
「んな訳ないじゃん」
マジな声色で言ってしまってから、あっ、と思ってしまった
「えっ・・・・・まじ?」
もの凄く驚くアヤカ
「この前高校生のバージン迄平気で奪ったひとみが?半年近くも一緒に暮らした子と何も?」
「同居してただけって言ったじゃん」
真顔でウチの顔を眺める人妻
- 529 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:38
- 「本気?」
心の内を探られるようにじーっと見られてから聞かれる
そう・・・なるのかな・・・
だとしたら?好きって事?
だったら好きと聞かれたら?
まさか・・・・・ってほんとは言わないといけないのに
ウチはホストの仕事を忘れて思わず頷いてしまった
そしてウチの口から出た言葉
「・・・・・・多分・・・・・好きだと思う」
「だと思う?」
「・・・・好き」
口に出した途端、何かが弾けた
胸がキュッと捕まれた感じで苦しくなり・・・・矢口さんの笑顔が浮ぶ
胸の中に広がる温かい感情に認めるしかなかった
- 530 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:40
- 目を見開いたまま、アヤカはウチの顔を見続けて
「じゃあ・・・・ホストはやめる?」
もし・・・・・付き合ったらもうお客とは寝れなくなるのかな
初めて知る感情に、うまく対処出来ずにいる自分
気付かないふりして今までどおりの仕事をする事が出来るだろうか
「やめたら何が残る?」
最近ずっと心の端にひっかかってる事を気がつくと口にしてた
しばらく見つめあう二人
「そうね・・・・・案外ヘタレな情けない少女」
やっぱり・・・・・
自分でも解ってて・・・・・それでも人に言われるとへこむ
- 531 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:41
-
「だけど・・・・・あの子犬が残るんじゃない?」
それ以外・・・・何もかも失うって事?今の裕福な生活も贅沢な環境も
優しく微笑むアヤカ
「なら私も新しい誰か見つけないと」
「もう指名してくれないって訳?」
「ふふ・・・・客としては、この一瞬を夢見て高いお金を払いに来るのよ・・・・
誰かに心を奪われた府抜けた人になんて払わないわ」
全く持ってその通り・・・・・
そんなのウチが一番解ってたはずなのに
- 532 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:44
- その日結局、
アヤカはウチにやって来て・・・・激しくウチを抱いてから帰って行った
矢口さんが出てってしばらくしてから誰も抱く気が起きなくなってしまった自分だったけど
誰かを満足させる為にする行為でなく、
矢口さんの事を知ってくれてるアヤカだからつい甘えてしまったんだろう
ホストとしては失格
そしてアヤカはいつも抱かれてるから抱きたいと言ってウチを攻め続けた
抱かれてて・・・・浮ぶのは矢口さんの喘いでる顔
見た事がないんだから・・・・
想像でしかない自分を振り返るとあまりにキショかった
もしかしたら次に会う時・・・・我慢出来ないかもしれない
突然自覚した自分の気持ちは、すぐに体温を求める自分を目覚めさせる
それからの日々は、アヤカに目覚めさせられた人肌の温もりの気持ちよさを思い出し誰かを求めてるけど
・・・・やっぱりもう誰の事も抱く気は起きない
矢口さんが欲しい・・・・・そう思った
- 533 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:45
-
- 534 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:50
- 二年制度の人達は25日位の夏休みがあり調理場が結構自由に使え出したり、
学校も休みなのでやぐっつあんのバイトも休みだったりするけど、
私達寮生には5日しかない
やっと訪れた連休に、遠方の生徒は早々に帰っていき、
実家や彼女、彼氏に用事がある人も次々と寮から一時帰宅してった
もちろんゴトーも美貴の待つマンションへまっしぐら
と・・・・思いきや・・・・
休み明けの課題でやぐっつぁんと紺野が悩んじゃって、
秘密のアジトでメニュー考案中
実習が入って来たら、これがまた扱った事の無い食材やらいきなり調理させようとしやがって
イセエビやら、あわびやら・・・・
大体食べた事もないのにっ・・・・ってほとんどみんなそんな状態だった
最初は和食の基本から入りだした実習しかしてないのに、
いきなり休み中にイセエビと夏の食材を使って創作料理を完成させて来いとの課題が出た
紺野は家に帰らないから寮にいますという事だし、
やぐっつあんは色々世話になった紺野と一緒に課題を考えようって事みたい
一応三人組のゴトーはリーダーみたいなもんだし・・・・
自分で勝手に思ってるだけだけどこの二人をほおって自分だけ帰るなんて事が出来ないでいる
- 535 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:52
- 休みに入って二日目・・・・
寮に残ってるのは、ウチら三人と・・・・謎の人物数名
最年長の川辺さんも、帰る家がないからと残ってたけど、
部屋でなんだか課題のプランを練りたいからと連絡はしないでくれと言われた
夏の野菜をとりあえず一杯買って来て、アジトで色々作ってみた・・・
あまり知識がないからか、まぁ出来る作品は文句なくおいしいんだけど、平凡な気がした
こういう課題はこれから随時出され、やっぱり不合格者が出れば、
次のステップに進めないシステム
だけど勉強よりもずっといいので、皆休み前に気合が入っていた
昨日迄は自分達の知識で一日頑張ってみたから、
今日は資料室に行って、いろんな料理のサンプルや、
有名なレストランのシェフの作品集なんかを借りてきてアジトへ向かった
ドアを開けようとすると、中から人の声がして三人は目を合わせる
「だからこの前から何なんだよお前」
揉めてる感じがその声から察せられて、ドアをあける事が出来なかった
- 536 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:55
- 「なんだか信じられないんだもの・・・・
あの横浜のドラゴン瑠依がここで料理人目指してるなんて」
横浜のドラゴン瑠依?
なんじゃそら・・・・・
と突っ込みそうになって隣を見たらやぐっつあんも紺野も?の顔をしてた
「俺だって誘惑の千里がここにいるなんて思わなかったけどな」
トントンとまな板で何かを切る音は聞こえる
おいおい・・・
「もう昔の話よ・・・・その名前では呼ばないで」
「だからさわんなっ・・・・俺は今メニュー考えてんだ」
何?誘惑の千里って・・・・ってか・・・・何?・・・・二人で何やってんの?
「誰も近寄れない冷酷な男なのに、どうやら何か様子が可笑しいもんだから」
「誘ってんのか?」
誘ってる?誘惑の千里?
「そうよ・・・・きっと瑠依の中の子は今頃あの彼の所に戻って抱かれてるんじゃない?」
「・・・・・・・・」
それからガタンッと音がすると、何も聞こえなくなった
- 537 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 22:58
- これは入ったら大変な事になると思い、
二人にはそのままそこにいてとジェスチャーで伝えて横にある開いている窓からそっと覗くと
壁に瑠依を押し付けた千里が、瑠依の股間に顔を寄せていて、
瑠依はそれを冷たい目をしてみていた
これは始まっちゃうな、と引き返そうとしたら、紺野は耳を塞いで座り込んでいた
やぐっつあんは心配そうに紺野の背中を擦ってゴトーに何があるのって目で見てる
するとまたガタンッと中から音が聞こえて
「お前昔と全然変わってねぇじゃね〜か」
「あっ・・・あんっ・・・そう・・・・人なんてそう簡単に変わるもんじゃないわ」
ああ・・・始まっちゃった
「俺の事好きなのか」
「・・はぁん・・・そ・・・そうね・・あんっ、興味があったのよっ・・・・昔から」
「はん・・・・お前みたいな女・・・・俺の周りには腐る程いたよ・・・・ほらっ・・・」
はああんっ・・・ああっ・・・
その後も激しくなっていく千里の声に、早くこの場を離れないとと、
紺野を両脇から抱えようとするけど石のように固まって紺野は動こうとしない
・・・・その上ブルブルと震えてるし
こうなったら力自慢のゴトーとしてはこのまま紺野を抱き上げてくしかないか・・・・
と、やぐっつあんについてくるようにさっきいた所に視線をやったら・・・あれ、いない
やぐっつあんは窓に近づいて背伸びして中を見て固まっていた
- 538 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:01
- 「ほら、入れてって言えよっ」
「はああんっ、ん・・・んっ・・はぁっ」
チッと舌打ちしそうになりながらやぐっつぁんの所に行って中の状況を一応見ると
シャツのはだけて胸が丸出しになって揉まれている千里は、
テーブルでスカートをたくし上げられた足を広げて既に上半身裸の瑠依にアソコをむちゃくちゃに舐められていた
人のエッチなんて見るの初めてだけど、これはちょっと刺激が強い・・・・
ってかやぐっつぁんにこんなの見せちゃいけないと手を引くけど、
やぐっつぁんは真剣な目をしてそれを凝視して動かない
「ほら、欲しいんだろ・・・・言えば入れてやるよ」
「ああんっ・・・くっ・・・入れたい・・ん・・・ああっ・・・入れたいくせに」
「言えよっ・・・・ここでやめてもいんだぜ」
瑠依の顔は恐ろしい程冷静な顔で、少し怖い感じがした
「ああっ・・・もう・・・あああんっ・・・入れてっ・・・・入れてぇ〜っ」
千里が絶叫すると、ムクッと起き上がって
すでにチャックが開けられていた緩んだズボンから出た物を乱暴に入れ込んだ
「あうっん」
瑠依が入れられて口の開いた千里の顔を冷静に見て笑ってる
「お前・・・成長しない女だな」
そう言う瑠依の頭を抱きかかえて、激しく唇を求める千里
だんだん動き出す瑠依の腰
あんっあんっと短い喘ぎ声の千里は限界が近いんじゃないかって恍惚の表情で解る
- 539 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:05
- やぐっつぁんの窓に置いたロックがかかったような手を無理やり離して、
後ろから抱えて紺野のそばに置いたら泣きそうな顔でゴトーを見た
足元には相変わらず震えながら耳を塞いで固まってる紺野
そんな紺野を無理やりお姫様抱きで抱きかかえて、やぐっつぁんに行くよと無言で合図し後をついてこさせる
いくぅっいくぅっという千里のいやらしい声が響き渡った森の中を静かに学校に向かった
声が聞こえなくなって学校が近くなると、ぽつりとやぐっつあんが
「さっきの・・・・何?」
誤魔化そうにも誤魔化せないし
「あれがセックスだよ・・・・」
そしたら紺野は離れた事に気付いたのか、真っ赤になってゴトーから降りて離れた
「すっ・・すみませんでした」
「いいよ、変なの見ちゃったしね・・・・・あいつらのせいで折角試そうと思ったのに試作品作れなかったね」
「・・・・はい」
「ねぇ・・・ごっつあん・・・・あの二人・・・・恋人同士?」
きっとやぐっつあんの中には恋人としかしたらいけない事ってインプットされてて、
だからさっきの状況が飲み込めないんだなぁと思った
「違うよ・・・・多分・・・・これからも」
紺野は真っ赤なまま口を結んでるし・・・・どう説明すればいいのか
「違うのに・・・・セックスしてるの?」
やぐっつぁんの口からセックスなんて聞くと、なんだか罪悪感を感じる
- 540 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:10
- 「ん〜・・・・・人間ってね・・・・三大欲求っつって、
食欲・睡眠欲・性欲っていうのがあってね・・・その・・・
セックスしたがるのを性欲っつーんだけど・・それを求める本能があるの」
だからね、好きでもない人とでもしちゃうの・・・・
よしこみたくそれを仕事にする人もいるし・・・・と最後の言葉は呑み込んだ
何寒い事言ってんだろ、ゴトー・・・・・はぁ・・・恥ずかしい
「おいらしたくない・・・・あんなの」
思わず微笑みたくなる・・・・
まだまだ子供なんだね・・・・やぐっつあんは
「んんん〜っ、まぁ・・・・人それぞれだからね〜、
誰とでもしたがる人はいるし、特に男はね・・・だから危ないって言うでしょ
・・・・それに逆にあんましたくない人もいるかもしれないしね」
「ごっつぁんは?」
なんてストレートな・・・・
まぁ・・・・ホストなんてやってたんだから・・・・
嫌いじゃない・・・・なんてったらやぐっつあんひく?
頼みの紺野は俯いて真っ赤になってるだけだし
ええい、こうなりゃやけだ
「ゴトーは好きかな・・・特に美貴とするのは」
やぐっつあんが えっ ていう顔を一瞬してゴトーを見ると、真っ赤になった
想像しちゃったか・・・・
「ミキティとは恋人同士だもんね・・・・・そっか・・・・あ、
ごっつぁん戻らないの?ミキティ待ってるんじゃない?」
「ん〜、今日はいいよ、明日帰る」
じ〜っとゴトーを見て、にこっと微笑むと
「おいらの事なら大丈夫だよ・・・・いっつもごっつあんに助けてもらってばっかじゃ悪いもんね、
ミキティんとこ行ってあげて」
- 541 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:16
- やぐっつあんは、どうしてかついててあげたくなる・・・・
だけど・・・・あんなに会いたいって思ってるよしこの所にどうして帰らないんだろう
「・・・・・・ねぇ・・・・やぐっつあんはどうして帰らないの?」
とぼとぼと歩きながら俯いて・・・それから一瞬紺野を見ると空を向いて答える
「おいらここで頑張るって決めたもん・・・・だから・・・・
よっすぃんところに行っちゃうと・・・・帰って来た時・・・
会いたいってすごく強く感じちゃうから・・・・」
1回戻った時に・・・・寮に戻るのが寂しくて・・・・・寂しくてしょうがなくなっちゃったし、
この前顔みたらすぐ帰りたくなっちゃったからって
「よしこも寂しいって思ってるんじゃない?」
「うん・・・・でもね・・・いいの、
もう次の恋人さんがいるから・・・・おいら邪魔したくないもん」
「いるの?」
聞いてないし・・・・やぐっつぁんに会いたい会いたいうるさいけどね・・・よしこ
本人には言えないからって、
酔うと朝五時位にゴトーに電話して来て酔っ払った口調で、矢口さん元気?って聞いて来る
こっちはもうカタギの生活してんだし、迷惑だっつーの
ってかだいたい矢口さんには迷惑かけたくないって電話出来ないっつ〜ならゴトーはどうなんだって
ちょっと思い出して腹立ててたら、
その間迷ってたやぐっつあんが貼り付けた笑顔で前を見て言った
「ううん、知らない・・・・・けど、あんなに素敵だったら・・・・・すぐに出来ると思うから」
それに・・・・よっすぃが他の人とあんな事してるの・・・・見たくない
確かに小さくそう言った・・・・成長・・・してんだね、やぐっつあんも
- 542 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:16
- 「言ってみたら?よしこに好きって・・・・そして抱いてって・・・・
1回抱かれちゃえば、ああする事も悪い事じゃないって思うかもよ」
「だい・・・・・てっ」
言ってる意味を理解したのか、
首がもげそうな程やぐっつぁんは真っ赤な顔を横に振って、
ぎゅっと資料を抱き締めたまま足を速めた
「おいらあんなの無理っ、恥ずかしくて」
恋人にもなれないし・・・・と言う
隣で歩いてた紺野も小さくあたしも・・と呟いた
・・・ありゃ紺野も未経験かぁ・・・まぁそうだよね、奥手そうだもん紺野
それにやぐっつあんはネガティブだし
- 543 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:19
- 学校のわき道から車道に出て来て門の所を見ると、一台の見慣れた車
それに寄りかかったイケメンが腕を組んで寮の方を見てた
「あれ?よっすぃ?」
さっき迄落ち込んでたくせに、その姿を見ると嬉しくてしょうがないといった後ろ姿で
しっぽを振りながらたかたかと掛けて行った
よっすぃ〜っなんて声を掛けると、気付いたよしこがこっちを振り返ってやぐっつあんの姿を見て
優しく微笑むのをまじまじと見てしまった・・・・
よしこ・・・・いつのまにそんなに解り易くなっちゃった?
あんなに昔はポーカーフェイスでいろんな人を惑わせてたのに
「あれ、女の人・・・・・ですか?」
隣で紺野が呟く
「え?」
あ、そっか、紺野は彼だって思ってたんだ、よしこの事
タンクトップにジーパンという姿でやぐっつぁんを抱きとめてるよしこには確かに胸があって
「そ・・・・女の人だよ、そしてゴトーの恋人も女・・・・・・
ま、たまたま好きになった人が女だったって事」
すると、その車の助手席がガチャッと開いて、
中から出て来た超不機嫌な美貴がこっちを睨んでて心臓がバクバク言い出す
「美貴」
近づきながら言うと
「ちょっとどういう事?」
怖っ・・・・顔怖いよ、美貴
- 544 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:22
- 隣ではおろおろするやぐっつぁんと、面白そうに見るよしこ
「な・・・何が?」
「休みに入ったんでしょ、それなのにどういう事かって聞いてんのっ」
やばっめっちゃ怒ってる
「あ〜、うん・・・・・課題がね・・・・出ちゃって、
ここのが道具も揃ってて、資料とかあるし・・・・・ちょっと気合入ってるからさ」
「会いたくない訳?」
「会いたいよっ、そりゃ、だけどね」
解ってよ、今やぐっつぁんと一緒に頑張ろうとしてるからさ
「ごめんねミキティ、ごっつぁんおいらが心配で帰らないでくれたんだ、
おいらが落ちこぼれだから」
そんな事をわたわたと言う矢口さんには優しい顔して頭を撫でて、
近寄って来たゴトーの胸倉を掴んで来た
もしかして殴られる?って目を瞑ると、引き寄せられて唇に温かい感触
「待ってたんだから・・・・昨日も・・・・今日も」
目を開けると、
美貴の目が、少し潤んでて素直に言葉が出る
「ごめん」
- 545 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:25
- 目の端に目を見開いてる紺野と、やぐっつあんの顔が見えて、
今のショックな時にこんな事をしてしまったという思いが湧きあがる
「あの・・・・・後藤さんも矢口さんも私の事は気にしないで、帰って下さい」
おどおどと口を開く紺野
「ううんっ、気にしてるんじゃないよおいら・・・・・おいら絶対1回で合格したいから」
「あっ、うんゴトーも」
二人には言ってないけど、実はもう作ろうって思ってる料理のイメージは出来てて、
後は家で試作してみればいいかなって・・・・
だからイメージが出来てない二人に協力したいって思ってて
「ふふ・・・・矢口さん、いいんですよ、寂しい時には素直に寂しいって言って・・・・・
顔にはずっと書いてありましたから、すぐ帰った方がいいです・・・・・後藤さんも」
優しく笑う紺野・・・・ねぇ・・・・紺野は何で帰らないの?
するとやぐっつあんがよしこに振り返って
「・・・・あのね、おいらね」
遮るようによしこが口を開く
「帰りましょうよ・・・・・その・・・・課題、ウチも手伝いますから」
あれあれ・・・よしこ・・・・・ちょっと痩せてない?
やぐっつあんがいなくて食欲が無かったり?
- 546 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:27
- 「・・・・・・じゃあ紺ちゃんも連れて帰ってくれる?」
紺野が え?って顔をして慌ててよしこに手を振ってる
「いいですいいです・・・・私は一人でイメージ作りますから」
色々食べ物の事考えると一人でも平気だしって
やぐっつあんはよしこを上目遣いで見てる
しょうがない・・・という感じで、よしこは頷く
「え・・・っと、紺・・・ちゃん?さん?家に来て下さい」
「いやっ、いいです、その・・・・ほんとに」
「一緒にやろうよぉ・・・・紺ちゃん」
一方やぐっつあんも引き下がらない・・・・・
どうして?よしこと二人きりになりたくないの?
美貴も不思議そうにゴトーを見るし
やぐっつあんの目が必死だから、紺野もゴトーを一度見て来る
「いんじゃない?休みはまだあるし、
課題が出来たら帰ってくれば、それにゴトーも手伝うよ」
「じゃ・・・・・じゃあ・・・あの・・・・紺野あさ美です」
「あ、吉澤ひとみです」
何やってんだか
- 547 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:29
- 「よぉ〜っし、決まった、ごっちんっ、帰る準備して、矢口さんも紺ちゃんも」
そして仕切りだす美貴
三人は、あたふたと荷物をまとめに行く
素直に嬉しいし、やぐっつあんもなんだか嬉しそう
マンションにも下着やら、洋服やらは置いてるから、
それほど荷物のないゴトーは、先に行っておくと二人に声を掛けて車に行った
そして、まだちょっと怒りぎみの美貴に荷物を渡してアジトに行った・・・・
食材を置いたままだからウチらの分だけでも持ってこないと腐っちゃうしと走った
いくらなんでももう終わってるっしょ・・・・
と、覚悟しながら進むと、やはり向こう側からズッタラとやって来る瑠依がいた
「お前も課題か?後藤」
「うん、でもそろそろ帰ろうかと思って食材撤収に来た」
「そうか・・・お前恋人いたっけ、まぁ、たっぷり甘えてこいよ、休みの間」
「うん、瑠依は?」
「俺は帰る場所ないし、ずっといるよ」
「そ、じゃあ」
まさか寮でやりまくり?いやいや・・・・あの敷地内セックスは厳禁のはず、
寮ではまず出来ない・・監視カメラで廊下と階段、入り口は24時間監視されてる
あのアジトでやりまくりかぁ・・・・
なんかやだなぁ・・・・折角いい感じの場所だったのに
- 548 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:31
- ん?瑠依が来たって事は、まさかまだ裸で千里がまどろんでたりして
ドキドキしてアジトに近づくと、ゆらりと千里がドアを開けて目があった
「あれ、どうしたの?後藤さん」
「ああ、これから帰るから食材が腐るといけないんで取りに来た」
「そう・・・・帰るんだ」
「千里は?」
「私も今から帰る・・・・たまには親孝行しないとね」
「じゃあ、またね」
こいつ親いたんだ・・・・・千里がいつもの微笑みを残して去って行くと、
部屋の中はあの匂いとかなくって、いつものアジトになってた
発砲スチロールに入れてた野菜と伊勢海老を三匹入れた奴を持って
ドアをキチンと閉めて帰る
- 549 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:34
- 千里の後ろ姿を見ながら門迄来ると、
やぐっつあんは真っ赤な顔して瑠依と話してる所だった
それ見て、車のトランクに荷物を入れてるよしこがありえない位睨んでる
慌てて千里を追い抜き
「よしこっ、これ入れるスペース作ってね」
と駆け寄ると、瑠依はやぐっつぁんに手をあげて寮に帰って行った
「何、あいつ」
ゴトーに聞いて来るよしこの顔は少し怖い
「何って、瑠依っつって寮の仲間」
よしこが不機嫌そうに笑って
「仲間・・・・ねぇ・・・・・でも矢口さんの顔が赤いんだけど」
「あ・・・・・ああ、それはちょっとね」
千里が丁度横を通ってよしこをまじまじと見てた
よしこも条件反射のようにぺこりと頭を下げる・・・・・客にいそうなタイプだもんね、千里
千里も一言二言やぐっつあんと紺野と話して
入って行ってからトランクを閉めたよしこが
「危ない寮だね、こりゃ」
と、呟いた・・・・・
確かに・・・・・
やぐっつあん一人で入ってたらと思うと連れて帰るって暴れそうな位だろうなぁと、苦笑する
- 550 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:35
- スポーツタイプの車の後ろの席に、小さな体三人を押し込んで、
ゴトーは助手席に入った
「せまぁ〜い」
文句を言う美貴
「早く免許取ってよ、じゃないといつまでもウチが美貴を連れてこないといけないから」
よしこも美貴って呼び捨てにしだしているし・・・・この前気付いてちょっとムカついた
基本的に年上には敬語を使う奴だからその親しさが気に触る
「今仮免だから、もうちょっとかな、取ったらよっちゃんさんドライブつきあってね」
はぁ?
「ちょっと美貴っ、何でゴトーじゃない訳?」
「だってごっちんあんま帰って来てくんないじゃんっ」
「だぁから、美貴が免許取れたらいっつも迎えにきてくれれば帰れるじゃんっ」
「美貴もバイト忙しいから、なかなか来れないもんっ」
- 551 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:38
- これはまずいと改めて気付く・・・・完全に拗ねてる・・・・・
ってか、さっき見た携帯、今日だけで着歴が6件も入ってて、
部屋におきっぱのゴトーは出れる訳もなく気まずい視線を美貴に送るだけ
ふんって車窓から外を見てるし・・・・・・
送られて来たゴトーのマンション
食材は、よしこのマンションに連れて行かれてよしこん家で明日調理する事になってる
残されたのはやや怒り気味の美貴と、気まずいゴトー
「美貴にもう飽きた?」
「まさかっ、会いたかったよ・・・でもやぐっつあんが心配でさ」
ちょっと慌てた感じで言ったら、にこって笑って
「知ってるよ・・・・でもさ、あの二人も背中押してあげないとなかなかね、
特に今よっちゃんさん発情中だから」
「発情中?」
「うるさかったの・・・・今日、もう迎えに行くしかないよねって」
「よしこが?」
あの一匹狼が
「うん、昨日から・・・いや、休みに入る前から、帰って来るのを楽しみに待ってたみたい」
「へぇ〜、ついに気付いたか・・・・あのあほ」
絵梨香・・・・・ちょい分が悪い?
「うん・・・・・卒業したらずっと一緒に暮らそうって言いたいんだってさ、
おっとこ前な顔で言ってた」
そっか・・・・マジなんだ、よしこ
- 552 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:39
- でもなぁ・・・・ちょいタイミングが悪いかも・・・・・
「どしたの?喜ばないの?」
エレベーターに乗りながら不思議顔
「いやぁ、ちょっとね、今日変なの見ちゃったからさ、
やぐっつあんがどんな心境でいるかさ・・・・」
「何何?変なのって」
久しぶりの我家・・・・・開けてからリビングのソファにもたれこんで
はぁ〜っ、やっぱいいねぇ〜と言ったら
「ごっちんっ、変なのって?」
聞きたい美貴は隣に座ってゴトーを揺さぶる
「ふふ、さっき、男と女の寮生がゴトーの前に来たでしょ」
「ああ・・・・なんか危なそうなイケメンと、危なそうな女」
やっぱりそう思う?
- 553 名前:第三章 投稿日:2006/01/06(金) 23:40
- 「あっちにね、ウチら寮生の秘密のアジトがあってね、
この前言ってた奴なんだけどさ、あの二人がそこでエッチしてたの」
「へぇ〜、まぁ、ずっと押し込まれてんじゃ溜まる人もいるよね」
寮内セックス禁止令の事は美貴に言ったら驚いてたし、安心もしてたけど
「それ見てごっちんも発情しちゃったとか」
まあね・・・いやいや、違うでしょ
覆い被さるようにゴトーに身を寄せてくる美貴に、
確かにムラムラしてるのは感じていた
「だめだよ、矢口さん襲っちゃ」
至近距離で睨む美貴に
「んな訳ないじゃん・・・・・それより美貴に発情してんだけど」
それから二人は、真っ暗になる迄互いを貪りあった
- 554 名前:*** 投稿日:2006/01/06(金) 23:40
- 今日はこのへんで
- 555 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:15
- どういう事?
盆休みが始まって、すぐに帰って来てくれるとばっかり思ってた矢口さんが、
どうやらまだ帰れないとメールして来るし
美貴に電話してもごっちんも矢口さんが心配で少し帰るのが遅れると言って怒ってた
待ちきれなくて美貴を誘って寮に乗り込んだけど、
二人共電話にも出やしないし・・・・どこに行ったのか検討もつかないし
途方に暮れてたら背後から矢口さんの声・・・・・
子犬のように本を抱えて走ってくる姿に今迄の苛つきはどこかに行ってしまった
帰る帰らないの押し問答の後、
荷物を整理して出て来た矢口さんの荷物をトランクに入れてると、
すっげー悪そうなイケメンが話し掛けて来る
「矢口、今帰るのか?」
すると一瞬で真っ赤になった矢口さん・・・・・
「う・・・・うん」
ってか、恥らってるし・・・・・・
えっ・・・・・て思った
まさか・・・・こんな奴に惚れちゃった?
しかもそいつ、じゃあなって去り際に、一瞬ウチを見て、にやって笑いやがった
超むかつく・・・・・・
恐れてた事がもしかしたらもう起こってしまったのかって思った
だけど、紺野って子も真っ赤になってて・・・・
二人は恋のライバルなんだろうか・・・・・
まじ?ウチじゃ男には敵わない・・・・・
どうやったって男になんてなれないんだから
- 556 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:17
- ごっちんを家に送ってから、折角家に帰って来たら、
早速ウチが怠っていた掃除やら洗濯やら始めてしまって・・・・紺野さんは夕飯の準備
ウチは放棄・・・・・しかも外出して来てもいいよって言われてしまう始末
ってか・・・食材が何も無いから買い物に行って来てって
・・・・紙に書いてくれた奴を買いに行かされた
その後、めちゃくちゃウマイご飯を食べさせてくれた後は、
二人で寝室に篭って何やら勉強
ちらっと覗いたら、
やっぱり大味だからあえて後藤さんは和食系でくると思うんです・・・・という紺野さんの声
さっぱり入っていけそうもない事で、やっぱり一人でリビングでビールを飲んでる
ごそごそと、大味と見られる伊勢海老が、大きなダンボールの中で動いててうるさい
おがくずに入ってたのがびっくりしたけど・・・・・
「ちぇっ」
とか一人で言ったりして・・・・・すると携帯が鳴る
矢口さんがいない時なら、矢口さんかもと思って急いでみてた画面も、
隣の部屋にいるんだからする訳がない
- 557 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:18
- はぁ〜っとめんどくさくなって見ると、もっと面倒臭い人からだった
『早く出なさいよっ、人が折角かけてんのに』
保田さん・・・・・どうしてあなたはそうなんですか
「すみません」
何故か謝る私
『それでっ、矢口帰って来てる?』
「はい・・・・一応」
『一応って何よっ、一応って』
「今、学校の友達と二人で篭って勉強してますから・・・・」
ウチはまるで一人っきりでいるみたい
『あ、そ、明日もいるわよね、矢口』
「ええ・・・まぁ明々後日迄いると思いますけど」
『解った、明日朝8時に行くから、それと勉強の成果が食べたいから何か夕飯用意してねって矢口に言ってて、なっちも行くから』
「え?保田さん」
一方的に切られて、矢口さんに伝えるとそれはもう喜んで
朝8時?なんでそんな早く・・・・ま、いいか、どうせウチは寝てるし
- 558 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:21
- その日は紺野さんとの二人でウチのベッドで11時には眠ってしまった
夜型のウチは・・・・
いつものように一人でビールを飲んで・・・いつのまにかソファで寝てた
翌日は、寝ているウチを置いて、
朝から保田さん達とお母さんと亜依ちゃんのお墓参りに行ったそうだ
そうだったのか・・・・そんな事なら起こしてくれれば良かったのに・・・と、
昼食を作ってくれる紺野さんに行きたかったのにとぶつぶつとぐちった
二時過ぎに帰ってきた三人、その後ごっちんや美貴迄やって来て超にぎやか
調理師をめざす三人は、その日、自分達の課題の料理を作って食べさせようと
寝室に入って何やら作戦会議
昨日迄悩んでいた紺野さんも、ようやくイメージが固まったとやらで、
三人共協力しあってキッチンで右往左往
昼間っから保田さんはウチに飲ませようとして接近してくるし
なっちは、初めて会う美貴に色々質問をしているし盛り上がってる・・・
なんだか同郷なんだとか
その後出来上がった三人の作品は、三者三様だけど見栄えも味も文句無くすばらしくて、
さすが勉強して来ただけあるなぁってみんなを唸らせた
ごっちんのがやっぱりなんか少し違うと思った、
二人のよりなんか格が違うダイナミックさがある気がした
でも矢口さんの作品も優しい味がして、ウチは一番好きだった
これでも合格するがどうかわからないというのだから、よっぽど厳しい学校なんだろう
- 559 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:23
- 飲めないという紺野さんに警察のくせに無理やり飲ませる保田・安倍コンビ
矢口さんはごっちん美貴コンビに飲まされ、少し飲むとすぐに眠ってしまった
ターゲットを失ったごっちん達は、ウチに絡みだして説教三昧、
おかげで途中から記憶がない
その日は大酒乱大会で、全員リビングでゴロゴロと寝てしまっていた
そして、翌日は昼過ぎになってやっと二日酔いから醒めて歩けるようになった人から帰って行った
安倍さんは、具合悪そうな保田さんに、
仕方ないなぁって顔しながらも嬉しそうに送っていくと告げ、
保田さんも照れたように頷いてた
まさかこの二人・・・・・・・・ま・・・・どうでもいいけど
ごっちん達は、なんだかんだで相性良さそう、仲良く帰っていった
紺野さん・・・・もう年下である事が解って紺野って呼び捨てにしてたけど、
メニューも決まったし、寮で洗濯や掃除したいので帰りますと言ったので
寮に二人で送って行った
- 560 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:25
- やっと二人っきりになれると思ったら、今度は矢口さんの携帯に着信
相手は絵梨香さん・・・・会いたいので家に来ていいですか?
ってどいつもこいつも矢口さん矢口さんって
それから、紺野を送ったときに、あの学校の校長先生に見つかって、
何故か家に来る事になってしまった
裕ちゃん裕ちゃんと慕っている矢口さんと、
まるで子犬を愛するように矢口さんを溺愛する校長
それから家に帰って校長と刺しで飲んでる私は超不機嫌
キッチンで楽しそうに絵梨香さんと矢口さんは料理を作っていた
「ええなぁ・・・矢口かわええなぁ」
そればっかり聞かされるウチ
今日が最後の夜なのに・・・・
まさか、絵梨香さん達泊まってく訳じゃないよね
「よっさん、もうやったんか?」
「何をです」
「何って決まってるやないか、エッチやエッチ」
酔っ払っていやらしい目でウチを見る校長
「んな訳ないじゃないですか」
「ほお〜っ、圭ちゃんからの情報やと、
結構手の早いホストって聞いてるんやけどなぁ〜」
保田さん・・・・いつ私が手が早いのを知らせるような事をしました?
ってか早くないし
- 561 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:27
- 「まぁ?おね〜さんの心をくすぐるルックスはしてんねんけどなぁ〜っ」
酒臭い息を吐き出しながら私の顎の下をくすぐっている校長先生に、
イライラしていた私はつい
「おね〜さん?」
って言ってしまったら
「矢口ぃ〜っ、焼酎持ってきぃ〜っ」
と、耳元で叫ばれてしまった
「なんやわれ、ウチがおね〜さんじゃないとでも?」
方膝を立てられて下から睨まれると、その迫力に負ける
「いえ・・・・・綺麗なおね〜さん・・・・です」
そしたらにこぉ〜っと笑って、
矢口さんがてけてけと持って来た焼酎の一升ビン・・・・昨日保田さんが持って来た奴
・・・・をガシッと掴んでビールが入ってたグラスについでグイッと飲んだ
「わ〜かってるじゃね〜か、よっさん」
怖え〜・・・・・
- 562 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:28
- 「裕ちゃん・・・・・よっすぃ苛めないでね・・・・」
前かがみで校長先生ににこっと笑って言う矢口さんを、
でれでれの顔で抱き寄せて
「苛める訳ないやんかぁ〜っ、矢口ぃ〜っ」
チュッチュッと嫌がる素振りをしながらも、
楽しそうな矢口さんはホッペにキスされている
これは日常茶飯事の出来事?
絵梨香さんが料理を持って来て私の横に来て囁く
「すごい校長先生ですね」
「聞こえてんでぇ〜っ」
矢口さんに逃げられた先生は、絵梨香さんに怖い笑顔を向けていた
- 563 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:30
- さんざん騒いで、脅して、抱きついて、夜中になったら、
「ほらっ、三好っ、帰るで、ウチが送ったる、家はどこや?」
肩を抱いて言う校長
この人のおかげで、まともに矢口さんと話せなかった絵梨香さんは、
悔いが残るように矢口さんに救いの視線を投げかけるけど
「三好ちゃん、これからは時々外に出れると思うから、買い物行ったりしようね」
って見送りの体勢で絵梨香さんの背中を押してる矢口さん
「はい、じゃあ・・・・今日は楽しかったです、またメールします」
「うん、裕ちゃん、絶対三好ちゃんを無事に届けてね」
わぁ〜ってると言いながら携帯で五分でここにきぃと電話で誰かに命令してた
住所も言わないので変だなぁと思って、
矢口さんが一人洗い物をしている時に玄関から出て廊下から下を見た
黒塗りの車が猛スビードで入って来て、
助手席からそれもんの人が降りて後ろのドアを開ける
絵梨香さんが拉致されるかのように乗せられて、車は去って行った
あの校長・・・・・ただもんじゃないんだ
- 564 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:32
- 家に入ると、ここ何日かの騒ぎのせいか、すごく静かに聞こえた
「お風呂先に入って、おいらここ片付けるから」
キッチンからの声に、はいと素直に答えてシャワーを浴びに行く
昨日程は飲まなかったから、ちゃんと意識もあるし
ようやく・・・・ほんとにようやく矢口さんとゆっくり話せるんじゃないかって思って
超不機嫌状態を、シャワーを浴びながらアゲさしていく
暑い中、ふぃ〜っと出ると、エアコンのきいた部屋はもう綺麗に片付いていて
何故か慌てたような矢口さんがソファから立ち上がったら
「おいらも入って来るね、先に寝てていいよ、疲れてるでしょ」
いやいや、ウチはまだ寝る時間じゃないし・・
- 565 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:34
- なんだろ・・・・すごい違和感
ずっとここにいなかったからかな・・・・・
昔みたく安心しきってここにいる感覚が・・・・無くなってしまってる?
ウチに抱きついて子供のように眠ってた矢口さんは・・・・もういないんだろうか
それは・・・・・あの変な男の事・・・・・・好きになっちゃったから?
嫌だ・・・・矢口さんがウチのそばからいなくなるなんて・・・・
ボーッとしてたら、矢口さんがポスッと隣に座ってきた・・・
昔はピタッとくっついてきてたのに、今日は妙に距離がある
「なんか・・・ごめんね、裕ちゃんすっごいいい人なんだよ、あれで」
「あ・・・・・ええ、解ってます」
ウチが不機嫌なのを知ってたのかな
「まだ怒ってる?」
ソファの端っこからこっちを伺ってる
機嫌悪いのは解ってたんですね
「怒ってなんてないですけど・・・・・
折角久しぶりに矢口さんとゆっくり話せるって思ってたから・・・・・」
久しぶりに感じる、この人の空気が懐かしい・・・・・少しの違和感を残してるけど
「・・・・・うん・・・おいらも久しぶりで・・・・なんか・・・・恥ずかしい」
ちょっと肩をすぼめて足をぶらぶらさせて俯く姿がかわいくて・・・
ウチは心臓にじわじわと何かを感じていた
- 566 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:35
- 抱き締めたい・・・・
抱き締めて・・・・ウチだけの矢口さんにしたいって
矢口さんがいるだけで、人の来ないこの部屋が賑やかになってしまう
みんなに好かれている矢口さんを・・・・
ウチはウチだけのものにしたいって強く思う
好きだから
多分ものすごく好き
「あ・・・あのさ、よっすぃ」
「はい?」
「よっすぃ・・・・・は、今・・・・」
美貴が作った指輪を落ち着き無く触って
「やっぱいい、よっすぃはまだ寝れないでしょ、
おいら、すっかり寮の生活に慣れちゃってもう眠いから・・・・先に寝るね
・・・・・ほんと・・・・久しぶりに会えて良かった」
何を聞きたいんだろうか少し顔を赤らめて、
すくっと立ち上がると寝室に向かってしまった
- 567 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:37
- 「どうして帰って来るの遅かったんですか?」
「?」
入り口でドアノブに手を掛けたままこっちを向いて少し困った顔をした
「もうここには戻りたくないですか?」
馬鹿・・・・・何でこんな聞き方・・・・・
さっき迄の苛つきがまだ納まってないんだろうか
いや・・・・・
多分もっと矢口さんと話したいって思ってるから咄嗟に言ったんだと思う
矢口さんは、知らない間にすごく成長して・・・・・
色んな事を学んで・・・・・
その学んだことに・・・・・
あの男との恋愛があるのか・・・・・
ウチはそこを聞きたかった
パチパチとくりくりした瞳を瞬きさせて、
矢口さんはこっちを向いて両手を振った
「ううんっ、戻りたい・・・・・戻りたくて戻りたくて・・・・・・
でも・・・・・だから・・・・・・戻っちゃいけないって思ったの」
「ウチに迷惑だから?まだそんな事考えて?」
唇をぎゅううっと引き締めて、矢口さんは黙ってしまった
- 568 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:40
- 私はゆっくり立ち上がって、矢口さんに近づく
言おう・・・
ちゃんと・・・・・きちんと恋人になってって
だって・・・・矢口さんはウチの事好きですよね
チラッとあの男の顔が頭に浮ぶのを打ち消した
なのに・・・・口から出た言葉は
「それとも誰か好きな人でも出来ました?」
ハッとウチを見上げると首を振った
そしてやっぱり、落ち着き無く指輪を触る
矢口さんの視線は、ウチがつけているチョーカー
・・・もちろん矢口さんからもらったもの
それでも何も言ってくれない矢口さん
みるみる真っ赤になっていく
何を考えているんだろう・・・・・
そうやってかわいく照れているのは、
ウチがそばにいるから?
それともあの男を思い出してるから?
気付いたのは、じりじりと逃げるように体を私から離れるように動いている事
- 569 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:42
- 「矢口さん?」
「ごめんなさいっ」
一気に寝室のドアを開けて、ムアッとした夏の空気が入って来る
閉めようとしたドアを咄嗟に止めて、窓を開けに行った矢口さんを目で追う
夏の空気が締め切ってたもやっとした空気を少し爽やかにしていく
出窓部分に手をついて、向こうを向いて月明かりに照らされている矢口さん
暗闇と光と・・・・その間でなんだか消えてしまいそうに儚い感じ
何があったんですか?
いつのまにか子供のような背中から、少し大人になって・・・・
すっかりウチの知らない矢口さんの後ろ姿になってしまっていた
昨日、保田さんがしきりにあの学校に通わせて良かったと言っていた
そんなにウチは矢口さんをダメにしちゃってましたか?
後ろからのエアコンの涼しさと、前からの自然な風に、気分が悪くなった
- 570 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:44
- もういい・・・・
このまま・・・・
このまま抱いてしまおう
矢口さんだってきっとウチを・・・・
静かに近寄り、後ろから抱き締めると
びくうっとものすごく驚いてしまった
しかも、毛穴が逆立ってしまっている
えっ?これって・・・・もしかして嫌悪感?
一気に抱いてしまおうと思った気持ちが萎える
すぐに体を離すと、逃げるように矢口さんはベッドに座った
「矢口さん?」
泣きそうだった・・・・
今迄この仕事で、恋なんて簡単と思ってたけど
色んな人を、虜にして来た自負もあるけど
ごっちんや・・・・美貴が言うように・・・・・
本当のウチの姿はヘタレなんだって思った
- 571 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:46
- 「だから・・・・やだったの・・・・」
はい?
「こうやって・・・いつもいつも・・・・
よっすぃはおいらに優しくしてくれて・・・・
おいらにここにいてもいんだよって言ってくれて・・・・・」
座ったまま手の指輪をまたせわしなくいじって
不安・・・・・なんですね
ウチといるのが・・・・
ここにいるのが
「でもね、それに甘えないようにしなきゃっ・・・て・・・・
おいらが一人前になる迄・・・・甘えちゃいけないって・・・・・・・
だから・・・だからね、おいらここに戻りたくないんじゃなくって
ここに来たら、もう学校で頑張ったりしたくなくなっちゃいそうで・・・・・
だからなかなかここに戻りたくなかったの・・・・ごめんね」
その言葉の通りの頑張り屋の矢口さんの隣に腰掛ける
「寂しいんです」
不安なら・・・・・私だって不安・・・・・
ホストって仕事以外・・・・・
偽った自分以外・・・・・自信のあるものなんて何もない自分
だったら・・・・・
何もない自分で・・・・・
かっこ悪い自分のまま今の心境を素直に言ってみよう・・・・そう思った
- 572 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:48
- まだいじられている矢口さんの小さな手の指輪のつけてある右手をそっと掴むと、
やっぱりビクッとして怯えられてしまった
何もしません・・・・ってか・・・・
やっぱり出来ませんよ・・・・あなたには
「矢口さんが頑張ってるって・・・・・
帰って来ないのは、頑張って調理師の免許を取ろうって、
勉強してるからだって解ってるけど・・・・・やっぱり寂しいですよ、ウチは」
「おいらも寂しいよ、よっすぃがいないから」
リビングから漏れる明かりで、こっちを向いた矢口さんの不安そうな顔が少し見える
「多分・・・・・矢口さんの寂しさと・・・・・ウチの寂しさは違います」
「?」
首を捻ってるし・・・・
きっとそっちからはウチの表情が見えないんだろう
「ウチは・・・・毎日毎日・・・・矢口さんの笑顔が見たくって・・・・
矢口さんの明るい声が聞きたくって・・・・・
元気に動き回ってる姿が見たくて・・・・・だけどどれも敵わない寂しさです」
「おいらもっ、おいらもそうだよ・・・・よっすぃの声や・・・顔や・・・・」
「ウチは・・・・」
握った手を自分の方に引き寄せると、何するんだろうって顔の矢口さん
矢口さんのつけている指輪にそっと口付ける
「ウチは矢口さんが好きです」
- 573 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:50
- 人生・・・・・初・・・・・告白
だけど・・・・・ピンと来てない風な矢口さん
口を開けたままポーッとウチを見てる
「恋人になって下さい」
しっかりと目を見据えて言った
我ながらよくやったと思う
逆はよくされたっけ・・・・・その時どう思ってた?ウチ・・・・
本気になってんじゃね〜よって・・・・・心の中であざ笑ってた自分
こんなに緊張して・・・・・こんなに不安な気持ちで言ってくれた人達に、
今更ながら悪かったって心で謝る
ホントに何も解ってなかった自分を実感する
「お・・・・・おいらと?」
ハッて感じで聞きなおされる
目がめちゃくちゃ開いてて、それがかわいくてしょうがない
- 574 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:52
- 誰にも見せたくない・・・・
誰にも触らせたくない・・・・・
誰にも・・・・・矢口さんは渡さない
「ハイ・・・・・ウチは矢口さんと恋人になりたいんです」
雰囲気に流されるように
ウチはそのまま右手を引き寄せるようにして矢口さんの肩に手を回し顔を近づける
そうするのが癖になってる自分が悔しい
見開いたままの矢口さんの目
嫌がるかな・・・・・キスしたら
バクバクの心臓に、ちゃんと自分の心が正常なんだと少し安心する
そのままちゃんと唇に到達し、初めて感じる小さな感触に身震いした
「よ・・・よ・・・・よ・・・・・よっすぃ?」
数秒で離した唇から戸惑った声
「嫌・・・・・でしたか?」
光の加減でも解る位真っ赤っ赤になってる矢口さんは
「こ・・・・これって・・・・キス?」
「そうです・・・・一番好きな人にしたいって思いました・・・・」
「い・・・ちばん?」
ウチにもたれかかるようにギュッと袖口を掴んでいる手に力が入ってる
- 575 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:54
- 「だけど・・・・矢口さんが・・・・
もし一番にウチを好きになってくれていなかったとしたら・・・・・
ウチは謝らないといけません・・・・・」
その顔を伺うけど、震える唇からは何も伝えて来ないし・・・
その瞳は不安で揺れてる
そっか・・・・そういう事か・・・・
矢口さんの体を開放し立ち上がる
「すみませんでした・・・・・じゃあ・・・・おやすみなさい」
やっぱ・・・・好きな人・・・・出来てたんだ
がっくりと落ち込んだ自分を見せまいと、
リビングに戻る背中はしゃんとしていたくて背筋を伸ばした
もっと早く・・・・もっと早くこうやってればうまくいったのに・・・・・
矢口さんをウチのそばで籠の鳥のようにしていた時なら
もしかして・・・・いつも優しく支えてる絵梨香さんに・・・・・
いや、あの男に
しまった・・・・・明日からウチらの関係は変わってしまうんだろうか・・・・
浅はかな告白に少し後悔しそうになってる自分
- 576 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:56
- 部屋の入り口に辿りついたとき、
背中にギュッと抱き付いて来た
おなかに回された手がぎゅうっとTシャツを掴んでくしゃくしゃにしてる
「謝っちゃやだっ」
ん?
「おいらっ・・・・おいらはずっと・・・・
拾って貰ってからずうっとずうっと・・・・・
これからもずうっとよっすぃが一番好き
・・・・・大好き」
背中から搾り出すような声が聞こえる
大好き・・・・そう言ってくれたよね・・・・
回された両手に両手を重ねる
「じゃあ・・・・今日からウチら・・・・恋人同士ですか?」
そう・・・・・ホントは知ってたでしょ・・・・
矢口さんの気持ち・・・・・99%は自分に気がある事・・・
ずるいし臆病な自分に苦笑する
「・・・・い・・・いの?おいらで」
そんな状態でも躊躇してしまった告白・・・・・
今更ながらみんなの勇気が今は尊敬出来た
でも良かった・・・・・
まだ遅くなかった・・・・
これで矢口さんはあんな男に興味を持つような事はないはず・・・・・
- 577 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 14:58
- 「矢口さんがいいんです・・・・・だから・・・・・
これからはちょくちょく帰って来て下さい」
そう・・・・・それが一番大事
「・・・うん」
よし・・・・嬉しい・・・・・凄く嬉しい
くるっと振り返って、すこしうるうるした瞳でこっちを見上げてる矢口さんは、
ウチの裾を握る
「じゃあ・・・・・キスしましょうか」
「こ・・・・恋人同士の・・・キス?」
「そうです・・・・・ウチ以外に触れさせてはいけない唇の約束」
唇の・・・約束・・・・と呟いてにこっと笑って見上げた
「おいらよっすぃ以外とはキスしないよ・・・・約束する」
「じゃあ・・・・ウチも」
いいのか?これじゃあ商売あがったり・・・・・・
いや・・・・・いい・・・・・
これで矢口さんがそばにいてくれさえすれば・・・・
- 578 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 15:00
- そっと唇に重ねると、
ウチの袖口をキュッと握って背伸びしていた矢口さん
「かわいいですね・・・・矢口さん」
このまま一気に抱いてしまおう
そう思った瞬間
「じゃあ、こ・・・恋人って事は・・・・・
よっすぃとおいらってセックスするの?」
あんまりストレートでドギマギする・・・・
ってか・・・・意味解ってます?
でも、めちゃくちゃ赤くなってるし・・・・解ってる・・・・のかな
「で・・・・出来れば・・・・・」
こんな答え方でOKなの?
出来ればじゃなくって、したいって言わないといけない?
- 579 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 15:01
- すると矢口さんは体から離れて行った
「・・・・お・・・・おいら無理・・・・・おいらには・・・・・出来ない」
は?
上がったり下がったりするウチの体温と血圧
「そ・・・それって?」
どうすればいいのか解らずにとりあえずそれだけ口にした
「よっすぃは、セックス好きなの?」
ドカーン・・・・・すっごいストレート
「き・・・・・嫌いでは・・・・ないですが・・・・・」
こんな答えでいい?
ってか・・・・・矢口さん・・・・ひいてる?
ダメでした?セックス好きって
「じ・・・・・じゃあ・・・・おいら頑張る・・・」
へ?
お腹に置いた両手をぎゅっと握って目を瞑って立っている
- 580 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 15:03
- セックスがどういう行為をする事なのか・・・・
矢口さんは知ってしまったんだ・・・・・そして、それをいやだと思ってるんだ
敵わない・・・・矢口さんには
ウチはリビングのエアコンを消しに行って電気を消すと、
寝室のエアコンを入れ入り口で不安げに立っている矢口さんを捕まえる
体に触った瞬間、やはりビクッとなって体がきゅっと縮こまった
「何もしませんよ・・・・・矢口さんが嫌がる事はウチはしません・・・・・
だから・・・・今日位・・・・昔のように一緒に眠ってくれませんか?」
固まっていた体の力が抜けていく
「うん」
じゃあ・・・と、先にベッドに登らせて、
タオルケットをお腹に掛けてあげると空気を入れ替える為にあけた窓を閉めてベッドに入る
きゅっと丸まって、隣に入ったウチにひっついてくれば・・・・
とても安心した心持ちになる
「はぁ〜っ、やっぱこうじゃないと・・・・・今日は久しぶりにいい夢見れそうです」
「うん・・・・おいらも」
ちょっと暑いけど・・・・・
こんなの矢口さんがいない寂しさに比べたらへでもない
好き・・・・・・腕の中から小さな声が聞こえる
「私もです、矢口さん」
そう言うと、嬉しそうに体を摺り寄せて来た
- 581 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 15:03
-
- 582 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 15:05
- ありえない
折角矢口さんの話が沢山聞けると思ったのに
校長先生がすごいキャラで、終始矢口さんにべたべたひっついていた
酔っ払ってるのに、やけに鋭くて・・・・
なのに話してくれるのは矢口さんにはピンと来ない卑猥な話ばかり
ひとみさんと私は苦笑するしかない内容も、
矢口さんにはなかなか伝わってなく、
その反応が楽しくて校長先生は更に抱きついていった
もちろんひとみさんの機嫌はすこぶる悪く、ほとんどしゃべらない
だから私一人話しの解る相手として会話させられていた
そしてもっとありえないのは、
そんな学校の先生なのに、
黒塗りの・・・しかもそっち系の人達が迎えに来た
自分の居場所は常にGPS?で把握されてるから近くにいるねんって普通に言ってたけど・・・・
この人は何者なんだか更に怖くなる
- 583 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 15:06
- 「怖がらんでええねんで、これでもこいつらええ奴らやねんから」
「はぁ」
それからは少し真面目な面を見せてくれて
あの学校を出た人達は、それぞれ色んな場所で頑張ってると話し出した
授業が全て連帯責任制だから、最初は喧嘩が絶えないけど、
それでなんだか余計仲間意識が芽生えるのか、
みんな卒業しても時々集まってバカ騒ぎしてるみたいやで
あの学校に入る奴らは皆孤独な奴らばっかりやけど、
決して悪い奴ばっかじゃない、だから仲間っていう存在を知ってしまえば、
努力だって出来る奴らなんやねんと
それにそんな奴しか入れないと語る顔は校長先生の顔だった
- 584 名前:第三章 投稿日:2006/01/07(土) 15:08
- 「安心しました」
と、つい言った一言に、校長先生は
「三好は何がしたいねん」と聞いて来る
どうしようかと思ったけど、
とりあえずモデルで一人前になりたいって言ったら
なんか、矢口とそんな話しとったな、雑誌見せて・・・と笑ってた
「ええなぁ、若いって」
呟く校長先生の顔は幸せそうだった
最後はがんばりやとアパートの前で言われて、
なんだか爽やかな気分になった・・・・・
- 585 名前:*** 投稿日:2006/01/07(土) 15:09
- とりあえずここまでにします
- 586 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 21:15
- もう、毎日、楽しみに読ませてもらってます。
- 587 名前:*** 投稿日:2006/01/09(月) 01:46
- あ、ありがとうございます
- 588 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 01:48
- そしてあっという間に月日は過ぎて、もうすぐお正月
ゴトー達が出された夏休み明けの課題は、
無事全員合格で次のカリキュラムに突入
ごきげんで現れたやぐっつぁんは、
どうやらよしこと恋人同士になれたようだった
それも、よしこから告白されたとの事・・・・あのヘタレがねぇ
絵梨香が心配で電話すると、
最初から諦めてはいましたからと案外さっぱりしたもんだった
その胸のうちはどうか知らないけど、
とにかくやぐっつぁんの幸せそうな顔見れたらそれでいいってさ、泣かすね
全員がバイトとカリキュラムを順調にこなしだすと、
それぞれ土日は自由に過ごす事が出来るようになった
他にもバイトを始める人もいたり、
もちろんゴトーは毎週美貴の所に帰って店を二人でやったり、
一緒にアクセを作ったり
そんな中、紺野だけは家にも帰らず、一人・・・・
いや、瑠依も残ってるし・・・・千里も残ってる
だからアジトで紺野が何か作ろうと思っても、紺野はしばらく行く事が出来ないでいた
- 589 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 01:49
- しかし、瑠依が土日いる奴は、
アジトで食事を作ればいいじゃんと言って、
居残り組はよくアジトに行くようになってからは結構何人かで楽しく過ごせるようになったみたい
多少のしこりは紺野の中に残ってるけど・・・・・
見られたと思っていない二人は、何くわぬ顔でその後も今まで通り過ごしていた
やぐっつあんのそばにやたらといる瑠依は、
少しやぐっつぁんの様子が硬くなった事に違和感を憶えていたようで
「矢口何かあったのか?」と聞いて来た
「恋人が出来て、今幸せみたい、残念だね瑠依」
ちょっと嫌味を込めて言うと、「ふ〜ん」と言って笑ってた
まさかあんたのエッチを目撃してたなんて言えないしね
なのに、それからも瑠依はやたらとやぐっつぁんと組む事が多く、
はじめは意識してしまってたやぐっつあんも、
自分の幸せで、あのショックから立ち直ったのか前の様に話し出した
- 590 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 01:52
- よしこは、あれから店が終わって客と寝るような事を一切しなくなったようだ
指名は確かに減ってしまったみたいだけど、
そのかわり今まで相手してなかった金持ちでない客に誠実に話しを聞いてあげる為、
それ程のダメージはなかったと言ってた
その報告をしてくれた絵梨香
落ち込んでるかと思ったら、ほんとサバサバしていた
まだまだ矢口さんには私が必要みたいだからと
店でのひとみさんのことは私がチェックすると、やぐっつあんの為にけなげに言ってた
そして驚いたのは、
やぐっつあんとはやってもフレンチキス迄しかしていない事
あの鬼畜のよしこが・・・・・って驚くけど
やぐっつあんがどうもエッチする事を怖がってるみたいだから手が出せないみたい
それに・・・・そばにいてくれるだけでいいんだそうだ
・・・・・ごちそう様
ある意味・・・・
二人は、お互いにはじめての恋愛を大切にしているみたい
その証拠によしこは、土曜になると、寝ずに迎えに来て、
日曜の夜遅くに送りにやって来る
・・・・まぁ、ゴトーは金曜日の夜に免許を取った美貴が迎えに来るけど
美貴も、友達と呑みに行ったりして金曜に来れない時は、朝一で来てくれる
そんな時偶然やぐっつあんが飛び出すのを見かける
犬ころのように掛けていくやぐっつぁんを、
幸せそうに抱きとめるよしこに・・・・二人で微笑んでしまった
- 591 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 01:53
- 美貴のアクセサリーは、
絵梨香がつけてちょっとした雑誌に出て以来、売れ行きが好調で、
休みの日に一緒に店にいると、人だかりが出来る程人気がある時がある
だから平日は、お客さんのイメージをデッサンしては、
作品を加工するのが主になって、バイトも減らしたみたい
ゴトーのマンションだから家賃もないし、
なんだかコウルサイマンションの自治会とかも、
美貴の社交性でうまくいってるみたいだし
ゴトーにとっても初めての恋人に、
お互い運命を感じた事に間違いはないねって確信してる
何より、順調なカリキュラムに、
寮のみんなの夢が広がってきている
驚く程自分たちの技術が上がってきてるのを実感してる
それぞれのバイト先で盗んだ技術を、
皆でアジトで持ち寄って創作料理を作ったり、
名店の味を真似てみたり・・・・
仲間・・・って感じがみんなの雰囲気をいい感じにしてた
- 592 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 01:55
- ただ・・・・・
そうなった時にちょっと面倒なのがみんなの恋愛話
男が多いだけに、ウチら女子がターゲットになる事が多い・・・・・
特にゴトーとやぐっつぁんは恋人がいると公言してるから
麻生は聞かれなくてもペラペラ話すもんだからあまりいじられない
素直なやぐっつぁんは、
そんな話になると途端に幸せそうな顔をしてちゃんと答えたりするもんだから大変
ある日なんか、晩ごはんを皆で作ってる時
「うっそまじでまだキスしかしてねーの?」
「その男どっか悪いんじゃねーの?」
「そっち系とか?」
「ぜって〜騙されてるって矢口」
「うんっ、他に女いるな」
そのたんびに、
いないもんっ、おいらだけだもんってムキるもんだから、全員面白がっちゃって
そんな時は、瑠依がだいたい終演させる
・・・・・どうやら相手が女だというのをあの日察してしまったようだ
「ほらっ、口動かしてね〜て手ぇ動かせやっ」
は〜いとだいたいそれで皆作業に戻る
- 593 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 01:57
- 瑠依は軽く千里を無視してるし・・・・
どうやら千里は他の寮生とも何人か寝たという噂がたった
みんな彼女がいる男みたい・・・
という噂だが・・・・・誰かは特定出来てない
前に圭ちゃんとなっちがよしこの家に集合した時
こっそり、横浜のドラゴン瑠依と誘惑の千里の話を聞いてみた
すると二人は知ってると答え、
瑠依は横浜で一番勢力を持つ暴走族の頭をやっていたと聞いた・・・・・
そして千里は、
そんな暴走族の頭を次々に誘惑しては頭を降ろさせる迄骨抜きにする魔性の女
どんなにその正体を知ってても、抜け出せなくなるという事
裕ちゃんにどうして千里を入学させたか聞くと・・・・・
なかなかかわいそうな子やし・・・・自分を変えたがってんねん
・・・・とそれだけ
確かに、学科も実習も真剣にやってるのは確かだった
どうやら家は大層なお金持ちらしく、
結婚させられそうな所を無理やり飛び出して入学したみたい
なのに・・・・・何やってんだか・・・・千里は
- 594 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 01:59
- 一方瑠依は、一度よしこに話し掛けて来たそうだ
送りに来た時に、帰ろうと車に乗り込んだ所で
スッと車の前に立たれてびっくりしたみたい
門からやぐっつあんが部屋に入るのを見届けた後の余韻を楽しんでいる所だから
余計ムカついたって言ってた
何て言われたのか聞くと
「お前女だよな」と聞いて来たみたい
だから?って答えたよしこに、
仕事は?と聞き返して、「言う理由がないから言わない」と車を出そうとしたら
「教えろや」とドスの聞いた声で凄んできたという・・・・・・
しょうがなく、睨みつけてホストと一言言ったら、
鼻で笑ったのでかなり頭に来て外に出ようとしたそうだ
すごい力でドアを開けさせなかった瑠依は
「矢口を騙したらしょうちしねぇからな」とだけ言って去って行ったという
めちゃくちゃ頭に血が上ったよしこはその後すぐゴトーに電話かけて来て、
瑠依って奴がどんな奴か聞いて来た
だから一応、圭ちゃん達に聞いた話を聞かせたら、
もし矢口さんに何かしたらぶっ殺すと言って電話を切られた
- 595 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:01
- ちょっと心配で、翌日やぐっつあんによしこの様子を聞いたら、
別に普通に電話してくれるって言ってた
仕事が終わってマンションに帰ったら
まずやぐっつあんに連絡を入れるようにって約束したみたいで、
朝4時5時とかにやぐっつあんはわざわざ目覚ましをかけてその電話を待って
前の日あった出来事をよしこに報告してから
朝食を作りに調理室にやって来る時間迄長電話して楽しんでいるみたいだった
土日には、二人でスーパーに買い物に行って、
よしこの一週間の食事を作りだめして帰って来るし
まさしくラブラブ状態
瑠依がやぐっつあんの事をどう思ってるかは解らないけど、
どうやらやぐっつぁんの愛にかなりよしこは自信を持ってるみたいで、ムカつく心を静めたみたい
そんなある日、アジトで夜、課題に取り組んでる時、
ゴトーとやぐっつあん・・・・・紺野は遅れて来ると言い、
瑠依が一人いた時があった
そんな時に限って、ゴトーが食材を部屋に忘れてしまって、
部屋に取りに帰る途中、
やぐっつあんと瑠依を二人きりにしてしまった事に気付き戻った時の事
「あいつ優しいのか?」
と、聞こえて来た
- 596 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:03
- 「あいつ?」
「お前の恋人」
「あっ、うんっ、優しいよ」
嬉しそうなやぐっつあんに、やばいんじゃないの?とか思ってると
「女でも?」
少し間が開いてやぐっつぁんの声
「うんっ・・・・・・可笑しい?」
やぐっつあんは、強くなったと思う・・・・・
きっと昔から強かったんだけど・・・・・よしこの愛を確信してから、
もっと貪欲に、身の回りに起こっている全ての出来事を理解するよう努力しはじめた
「おかしかねぇけど・・・・あいつホストだろ・・・・・他にもいるぜ、女」
それを聞いてカッと来た
今迄瑠依は絶対そんな事を言わない奴だって思ってたのに、
それじゃ他の奴と一緒じゃんって
「いないもんっ、よっすぃちゃんと約束したもんっ」
「ありえないよ、俺なら惚れた女に手を出さないなんて考えられない・・・・
惚れた女の心も体も全て自分のものにしたいって思うもんだぜ、普通」
ゴトーはバンッてドアを開けた
- 597 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:04
- 「ごっつあんっ」
驚いたやぐっつあんはゴトーだというのに安心したのか
助けてって感じでゴトーに飛び込んでくるので抱き寄せた
「それって瑠依の持論でしょ、やぐっつあんにはやぐっつあんの持論があるし、
よしこはそれ解って付き合ってんだからあんたが口挟む問題じゃないんじゃない?」
「じゃあ後藤はしたくねぇのかよ、好きな奴と」
「んな事言ってないじゃんっ、あんたみたく誰とでもする奴とは違うんだよっ、やぐつっぁんは」
きっとホストっていう職業に偏見を持たれた事にむかついてたのかもしれない
「ホストだろ、やってなんぼの世界じゃね〜のかよ」
「よしこは違うよっ、やぐっつあんと付き合ってよしこは変わったんだ」
やぐっつあんの頭を撫でながら睨みつけると
「変わる前はどうだった?矢口はきっとホストがどんな職業か知らないんだろ、
そいつの本当の姿を知ったらどう思うか・・・・矢口がちゃんとそれ解ってつきあってりゃ
女が相手だろうと、ホストだろうと何も文句はね〜けど、
そいつ黙ってんだろ、自分が何して来たか・・・そんな奴信じられねんだよ」
- 598 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:06
- ゴトーの頭がプチッと切れる
「やぐっつあんは信じてる・・・・・
あんたがここで千里とした事に比べればぜんぜん信じられるね」
瑠依の今迄の冷静な顔が一瞬驚く
「あんたに比べればホストの方がまだ優しいよ・・・・夢を見せるからね」
固まっていた瑠依が、ふうっと一息ついて
「なるほど・・・・・・まぁ・・・・余計なお世話だったな、ずまん矢口」
沈黙の中、瑠依は片付けを始め、じゃあと言って出てった
「ごっつあん?」
憮然とした表情で突っ立ってたやぐっつあんが口を開く
「どした?」
「ホストって・・・・・お酒を一緒に飲んでおもてなしするお仕事じゃないの?」
やぐっつあんの中でホストという職業はそう理解していたんだね
「ううん、合ってるよ、それで」
間違ってはいない
- 599 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:07
- ホッとするような笑顔だけど・・・・
今回の事はもしかしたら
やぐっつあんの中にある疑問を残したんじゃないだろうかと心配になった
それから紺野もやって来て、試作品を作りあげた時には、
やぐっつあんはいつものやぐっつあんになっていたけど
その日から、瑠依はやぐっつあんにも近づかなくなった
あの事を見られていた事で、気まずいのもあるんだろう
入寮当時の少し壁を作った感じの瑠依に戻った気がした
だから、廊下ですれ違う時に
「もうやぐっつぁんの事はあきらめた?」
と聞くと
「さあ・・・・どうかな」
そう答えた
その顔が、不敵にも見え・・・・寂しげにも見えた
- 600 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:07
-
- 601 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:09
- ついに矢口さんはひとみさんと付き合うようになった
もともと一緒に住んでたんだし・・・・
こうならないのが遅かった位だけど、はっきり恋人という存在になって、
ひとみさんは前よりはっきり矢口さんを大事にするようになった
ひとみさんはお盆休み明けを期に、お客への態度を変えたから
今迄の華やかな雰囲気をガラッと変え・・・・
普段の・・・・そう、そうするのが自然なように、
本当に自然に相手をするようになってしまった
その変化に気付かないはずのないお客は、その訳を聞き、
そして誠実にひとみさんは答えていた
「好きな人が出来ました」
そう言うひとみさんは、私から見てもとてもかわいらしく映った
それが嫌な人は、この店に来るのを去っていき、
それでもいいという人は、挑発的な愛の言葉を言わないひとみさんに新たな魅力を感じて通った
そうする事は、事前にみちよさんや紗耶香さんに相談して、
とりあえずやってみようという事に落ち着いたようだ
矢口さんの事を知ってるだけに、二人も納得せざるを得ない感じ
- 602 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:11
- そして、よく帰って来るようになった矢口さんは、
私を家によく呼んで食事をごちそうしてくれる
はっきり恋人同士になったという二人は、
今迄以上に甘い雰囲気が漂って、
ひとみさんの矢口さんを見る目・・・
矢口さんがひとみさんを見る目がとても熱い事を
最初は直視出来なかったけど、最近はちゃんと応援出来るようになった
矢口さんの体に、この綺麗なひとみさんの唇や、
手が触れていると想像すると、少し胸が痛むけど
それでも矢口さんの幸せそうな顔、
そしてひとみさんが矢口さんを大切にしている事で納得せざるを得ない
告白もしないまま、失恋
初めて女の人に恋心を抱いてしまったけど・・・・・
そう悪くないと今思ってる
矢口さんのおかげで・・・・
自分の夢をもう一度追ってみようと思えたし・・・・・
今少し仕事が順調になって来たからその悔しさも紛らわせる
だって、専属モデル契約をどうやらもらえそうだから
矢口さんはひとみさんにその意味を教えて貰いながらすごく喜んで、
すごいね三好ちゃんと大はしゃぎだった
ひとみさんもおめでとうといってくれて、
自分も頑張らないとと呟いていた
- 603 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:13
- どうやら今の仕事に終止符を打って、
新しい道を探しているみたい
矢口さんに嫌な思いをざせないように、
何か違う仕事をしようと考えてるみたいだった
私も今月でウェイターの仕事を辞めようとしている
この先どうなるかわからないけど、好きな事をやるのには、
若さがあるウチに突っ走って行こうって思えたから
それに・・・・矢口さんとはずっと友達でいられるから
矢口さんを通じて知り合った真希さんの恋人・・・
美貴さんのアクセサリーを私がつけた事で世間が注目された事も少し自信をつけた
まぁ私がつけたからというより、
美貴さんのアクセサリーの元々のセンスが良かったのが目を引いたのだけど
売れ行きも好調のようで、
たまに私に合ったネックレスやらピアスやらをお礼にって矢口さんに渡してくれたりする
矢口さんがひとみさんに感謝の気持ちを伝えたいと
アクセサリーを探し回ってから始まった人の輪
何の役にもたたないと自分に自信を持てなかった矢口さんは、
皆の繋がりに必要な人である事を解ってもらいたい
私もそんな人になれば、誰か愛してくれる人が現れるかな・・・・
- 604 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:15
- そんな風に思い出した年末のある日
私は矢口さんと買い物に出かけてきた
どうもクリスマスにはプレゼントをあげるものと知って、
ひとみさんに何か買いたいと思ってるみたい
今でも大切にしているよくクリスマスのお菓子の入った靴が本当に嬉しかったそうだ
美貴さんのアクセサリーは、
今でもひとみさんの首にいつもつけられていて、
今回は何か違うものをプレゼントしたいみたい
冬だし、手編みのマフラーとかどうです?
絶対喜ぶと思って提案してみると、編み方を知らないと言うので、
教えますと言うと色々毛糸選びに悩んでようやく購入し私の部屋にやって来た
しげしげと編物の本を見ながら悪戦苦闘
ちっちゃな手で持ちなれない編み棒を不器用に動かして、
んしょんしょ言ってる
ゆるいメリアス編みなら簡単だろうと力加減を教えるんだけどなかなか目が揃わない
- 605 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:17
- 「三好ちゃんは、好きな人とかいないの?」
油断してたのにイキナリの言葉に心臓が跳ね上がった
「ええっ、あ・・・・何です?いきなり」
「だっていっつもおいらのばっかり付き合ってもらったり話聞いてもらったりしてるもん、
おいらも三好ちゃんの手助けしたい」
肩が凝ったのか、首をコキコキ言わせながらにこにこして聞いて来た
本気で言ってるんだろうか・・・・・
ふふ、本気ですね・・・・・いつも矢口さんは裏表はない
・・・・・相手の事を思って我慢する癖はあるけど
「ねぇ・・・・三好ちゃん?」
「あ・・・はい・・・・そうですね・・・・・好きな人・・・・いたんですけど・・・・・
その人には素敵な恋人が出来てしまったんです・・・・・
だから・・・・・しばらくは仕事を一生懸命頑張ろうって思って」
「そっか・・・・・その人に告白とかしたの?」
もちろん首を振る
「どうして?三好ちゃんかわいいし優しいしとっても素敵なのに」
なんて嬉しいことを・・・・
でもちょっと今は辛いですよ・・・その無邪気さが
- 606 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 02:20
- 「その人が・・・・・本当にその恋人を好きなのが解るから・・・・」
思わず真面目に言ってしまったら・・・・
矢口さんに気まずそうな顔して
「ごめんね・・・・力になれなくて」
と言われてしまった
くすっと笑ってしまった
「どうして謝るんです?矢口さんは何も悪くないでしょ」
「だって・・・・・三好ちゃんがそんな辛い思いしてるのに・・・・・
おいらはいっつも三好ちゃんに力になってもらってるのに・・・・・」
そんな事ないですよ
「ふふ・・・・・矢口さんと私は友達ですよね」
ちょっと目をしばつかせて、にっこり笑うと照れ臭そうに頷いた
「・・・・・・うん」
「だったら当然ですよ、私が友達の恋がうまくいくように思うのは・・・・
だから矢口さんがひとみさんとうまくいっててくれると、私も嬉しいんです」
編んでる編み棒をバンッとこたつに置いて私の手を掴んだ
「おいら三好ちゃんの為なら何でもするよっ、友達だもんっ、
だから好きな人がいたらちゃんと教えてねっ、
おいら何も出来ないけど、協力するから」
真剣に私の事を思ってくれる眼差しに
「はい」
ちゃんと矢口さんの目を見て言えた
あなたの事・・・・・
ちゃんと友達と見るように頑張ります・・・・・コレから少しずつ
- 607 名前:*** 投稿日:2006/01/09(月) 02:20
- 今日はこの辺で
- 608 名前:名無し読者 投稿日:2006/01/09(月) 08:40
- いつも固唾を飲んで成長する矢口さんを見守っています。
- 609 名前:*** 投稿日:2006/01/09(月) 13:03
- あの・・・見守って下さい
ついでに成長する矢口さんと違って、成長しない文章力の作者の事も・・・
- 610 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:07
- 限界かもしれない
正直・・・・・・生き地獄のようだ
毎日矢口さんの声が聞けて、
週に一度は矢口さんと二人きりの時間が過ごせて・・・・・
おいしい手料理も食べれて
会える時は幸せだと思うし、
帰って来たら電話で矢口さんに昨日あった出来事を教えて貰うのも楽しかった
だけど・・・・・
20年間のいい加減な生き方を正すのは正直しんどいのも一つの限界の理由
ウチは今迄の生き方を改めようと、今迄指名してくれた沢山のお客さんに、
出来るだけ誠実に真実を話した
だけど、店で会ってただけのお客は、
恋人が出来たらつまんないと、他の店へ行ってしまい・・・・
まぁ・・・・それはある程度覚悟していたけど
一番こたえるのは、コアな固定客が、
別れ話のような話をするホテルの一室とかで泣き出してしまったり・・・・
水を掛けられたり
特に睦美さんとかは、クリスマスを今年も一緒に過ごしましょうと、
矢口さんという恋人が出来たからと断っていたのにもかかわらず、
少し話しをしましょうと言われたホテルでいきなり裸になられて、
愛してるって言ったわよね・・・・・と唇を奪われそうになってしまった
- 611 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:09
- はっきり言って抱きたかった・・・・・・
ウチはいつも・・・・いつ会っても矢口さんを抱きたくて・・・・・
もっとキスしたくてたまらなかったから
人の肌のぬくもりを感じたくて、
ついふらふらと誰かを抱いてしまいそうになってるのに、
こんな風に裸になられたりしたら・・・・・
だけど、ウチは約束した・・・・・
もう誰にもこの唇は触れさせないって
だから必死で睦美さんの体を服で隠して
「本当にごめんなさい・・・・・他の人を探して下さい」
「嫌っ、ひとみがいいのっ・・・・・・ひとみじゃないとダメなのぉ」
私のズボンをズリズリと睦美さんの手が滑って降りていく
「すみません」
「何が欲しい?何でも買ってあげるわ・・・・・マンションでも、店でも」
私は首を振る
「・・・・大切にしたい人がいるんです・・・・・
お金じゃ・・・・買えないんです・・・・・・・
睦美さんにとっての隆文君のように」
泣きじゃくる彼女を置いて帰った日は、
矢口さんの声を聞いて涙が出そうになった
- 612 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:13
- 何を捨ててでも・・・・・
矢口さんを愛してしまっている自分に感動すら覚えた
だからもう限界
無邪気な顔で無防備にウチの腕の中で眠る矢口さんを・・・・
無理やり犯してしまいそう
キスだって・・・・
もっとねっとりと矢口さんの舌を堪能したいのに・・・・・
すっかり矢口さんはフレンチキスで満足してるし
葛藤する日々は、私を変態にしていってるみたいで、
おかしくなってしまいそうで怖かった
よこしまな考えをしているウチに、
何の邪気もない矢口さんが100%ウチを信頼してくれるのが嬉しくもあり
・・・・・苦しくもある
ウチはそんなに矢口さんが思うような優しい人物ではない
この前、あの寮で矢口さんを送って帰ろうとした時に、
あの瑠依とかいう男が近づいて来てウチを馬鹿にして去って行った時は、
マジで殺したいって思ってしまう程私はイカれてた
あいつが寮のフェロモン系の女とヤッてるのを見たせいで、
矢口さんはエッチを怖いと思い出してしまったんだし、
何よりあの瑠依って奴は絶対矢口さん狙いだから
脅し文句を言って去って行くあいつに、
一瞬怖かった自分もいたし・・・・・少し女だったんだって悔しくもある
矢口さんを守るのはウチでありたいのに・・・・・・
矢口さんを壊したいって思うのもウチだった
腕の中の矢口さんの体を覆っている布なんていらない、
生まれたままのお互いの肌を摺り寄せた方が今の何倍も温かいのにと
- 613 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:14
- そんなウチの事を解ってくれるのは、やっぱりごっちんで
「ヤッちゃえば?きっとよしこにならやぐっつあん大丈夫だって
・・・・・・じゃないとよしこ限界でしょ」
「・・・・・・・はぁ〜・・・・・・・解っちゃった?・・・・・・
でも・・・・・手ぇ出せないんだぁ・・・・・・どうしても」
毎週思う存分やってるごっちん達にはこの気持ちわからないよね
・・・・・と愚痴ると
「そうでもないよ・・・・美貴って人気あるから飲み会多いし・・・・・
お互い生理の時は出来ないし」
それでも・・・・・
うまく行ってるごっちんの顔は幸せそうだったので悔しいやら・・・・嬉しいやら
あ、でも生理の時はお風呂でしちゃったっけ・・・・
と言ったごっちんには拳を震わせてしまった
- 614 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:17
- そしてもう一人・・・・
友達でもあり・・・・・ウチの体の隅々まで知っているアヤカ
「ひとみみたいな野獣が、そんなにセックス我慢出来る訳ないわよね・・・・
久しぶりに私がしてあげてもいいわよ」
なんて、くすって笑ってるし
自分は旦那に結構愛されて満足してるみたいだし・・・・
相手を自分の好きなテクニックに調教していけば、結構楽しめるものよ
・・・・・というアヤカは結構恐ろしい
でも・・・・・アヤカのあの時の顔を思い出して、
アヤカにされている時の気持ち良さを思い出して、
お願いしようかな・・・・と思ってしまった
ふらふらと甘い蜜に吸い寄せられる馬鹿な男よりウチはたちが悪い
もうすぐクリスマスがやって来る・・・・・
ベッドの枕もとの上には、矢口さんがまだ宝物だというおもちゃの靴
たまに埃被ってるとか言ってふきふきしてる
なのにそんな時だって、野獣なウチは矢口さんを押し倒して・・・・・
いろんな場所を嘗め回して・・・・・・なんて最低な事を考えてしまってる
だめだ・・・・・これはもう犯罪者になってしまうかもしれない
- 615 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:20
- ついにクリスマスが近くなったある日
アヤカがこの日なら旦那がいないからいいわよと言ってくれた日に、
矢口さんが絵梨香さんと買い物に行くと言って出かけてくれたから電話を掛けてしまっていた
今から?そうね相手してあげてもいいわよ・・・と、
アヤカの旦那は本当に出張してるそうだ・・・・本当はどうだかと言ってたけど
晩御飯も食べて来るから少し遅くなるねと言われてたから油断してたのもあるかもしれない
「無理なのよ、ひとみがこの体質を変えるなんて」
呼び出されたアヤカは、ウチの部屋に来るなり唇を奪ってきた
久しぶりに濃厚なキス
しびれるような感覚に、私の本能が目覚めて
シャワーを待つのももどかしいと二人でシャワーを浴びて求め合う
満たされていく体
- 616 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:21
- その後、さんざんベッドでアヤカを突き上げて・・・・・・喘がされた
毎週矢口さんを抱き締めて寝てるこのベッドで・・・・・他の人を抱いてしまった
すっかり暗くなった部屋で、
腕枕しながらゆっくり罪悪感が襲ってくるのを感じていると、
それさえもお見通しなアヤカが
「後悔するくらいなら、最初からあの子を飼わなきゃ良かったじゃない」
「後悔?」
ウチは矢口さんと恋人になった事を後悔してる?
そんな事はない・・・・・・ウチは矢口さんが好きで・・・・好きすぎて・・・・
後悔してるのは今の状況
「傷つけるのが怖いんでしょ・・・・・それなのに体は欲しいし・・・・・」
・・・・・ほんと・・・・・最低だね・・・ヘタレすぎて
「ほんとに抜けれると思える?この世界から・・・・」
「・・・・・抜けたい・・・・とは思ってる」
「こんな事してるのに?」
「・・・・・・・そう・・・・・だよね」
話にならない・・・・・
- 617 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:23
- 「落ち込まないでよ」
きゅっと抱きついてくる
「アヤカは・・・・・・どうしてウチと寝るの?」
悩ましい視線をすうっと閉じて
「好きって言ったらどうするの?」
「結婚してるのに?」
「結婚は好きじゃない人とでも出来るものよ・・・
それを我慢出来るのは、ひとみみたいな人がいたから・・・・・・」
何?アヤカってマジなの?ウチの事
「あの子に見せるような目で私を見てくれれば・・・・
結婚なんてしなかったわ・・・・きっと」
「アヤカ」
そこにバタンッという玄関の音が響く
- 618 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:26
- えっ・・・・まだ夕方・・・・・遅くなるって
「よっすぃ〜っ」
洋服を探そうにも、全部風呂場にあり、
アヤカは布団の中に潜り込んで、
咄嗟にそこにあったシャツを羽織って座った所で矢口さんが覗いてきた
「あれ、気分悪いの?」
「あぁ・・・・いえ、大丈夫です」
これ以上ない位心臓が跳ね上がってる
矢口さんは何かを感じたように玄関の方を一度ゆっくり見た
「・・・・誰か・・・・・来てるの?」
バクバクと心臓が爆発しそうだった
何も答えない私の横らへんに一瞬視線をやると
「あ、忘れ物、慌てて帰って来たから大事なもの買い忘れた、
おいらちょっと買って来るね」
と、いつもの口調で笑って、また矢口さんは出て行った
張り付いた笑顔と、傷ついた横顔を残して
- 619 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:29
- 「・・・・・・・・絶対・・・・・気付かれた・・・よね」
呆然と口から出た・・・・
アヤカに言う訳でも・・・・誰に聞くでもなく
シャツの胸元は、一つのボタンも閉められていない上に
頭はぐちゃぐちゃ・・・・・
どうみても・・・・隣には人がいると解る盛り上がり
玄関にはきっとアヤカの靴があって・・・・・
風呂場は洋服がめちゃくちゃに散らばってるだろう
「追いかけなさい・・・・ひとみ」
そう言ったのはアヤカだった
布団を胸元にやって身を起こすと、
ウチの頬を触った
「泣く程あの子を失いたくないんでしょ・・・
だったら、あの子を追いかけて・・・・・ちゃんと説明しなさい」
泣く?言われて頬を撫でると、確かに濡れている
ウチはどういう心境か自分でわからないままこみ上げて来た何かにウウッと顔を覆った
口から何かが出てしまいそう
自分の弱さと・・・・・
汚さに、自分で吐いてしまいそうだった
- 620 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:31
- 傷つけた・・・・
体だけの事で・・・・・・
自分の欲求をきちんと処理出来なかった事で・・・・・
大切な矢口さんを傷つけてしまった
人前で泣くのは・・・・いや・・・・多分人生で一番泣いた
アヤカはウチが落ち着く迄ずっと背中をさすってくれ・・・・・
落ち着くと、本当にさよならねと言って帰って行った
何か手伝えるような事があったら言ってと優しい言葉を残して
それから・・・
一時間たっても二時間たっても矢口さんは戻ってこなかった
携帯は切られてて・・・・・・
私は膝を抱えてソファで丸くなるしかなかった
気がつくと爪を噛んでて・・・・・昔親によく怒られた事を思い出す
まったくあんたって子はっ
よく怒られた
我慢する事をあまりしないウチに飽きれて・・・・・
よく押入れに閉じ込められた時・・・・・
こうやって爪を噛んで・・・・・そしてまた怒られた
体ばかり成長して・・・・何も成長出来てない
- 621 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:32
- 携帯が鳴った
飛びつくように出ると矢口さんだった
「あ、よっすぃ・・・ごめんね・・・・遅くなって」
「いえっ・・・あのっ」
「スーパー臨時休業で、何も買えなくって・・・・・ごめんね・・・・・
それに・・・・もう遅くなっちゃったから・・・・このまま寮に帰るね」
今は顔も見たくない・・・って感じ?
「どこにいるんです?」
途端にゴオオオっていう電車の入る音
「駅・・・・また来週迎えに来てね」
「待って矢口さんっ、少し話しをしませんかっ」
「は・・・・なし?」
「はい、会って話しましょう・・・帰って来て下さい、いや、すぐ迎えに行きます」
「おっ・・・おいらよっすいの恋人じゃ・・・・なくなっちゃう?」
そんな事言わないで
- 622 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:34
- 「そんな事はないですっ、そんな訳ありませんっ、
それをちゃんと・・・ちゃんと話しましょう」
「じゃあ・・・・今迄とおんなじでしょ・・・・
だったら・・・・いい・・・・それでいい」
「あのっ、だから」
「来週また楽しみにしてるっ、よっすぃに会えるの、お仕事頑張ってね」
「矢口さんっ」
切られた・・・・・すぐに掛け直したら・・・・もう通じなかった
部屋を飛び出して車に乗って寮へと急いだ
何をどう説明すれば、矢口さんに解ってもらえるんだろう
ウチはこんなにいい加減で
ウチはこんなに情けない奴で
矢口さんとセックス出来ないからって・・・・・
他の人と簡単に寝ちゃうような奴だって
- 623 名前:第三章 投稿日:2006/01/09(月) 13:37
- そう言って・・・・・どうするんだろう
そして・・・・・
今迄そうやって寝たりして金を稼いでいた自分を・・・・・
矢口さんは理解出来るだろうか
寮迄の道を飛ばしながら・・・・・そんな事を考えて
ハンドルを急にきって誰も入らないような山道に入って車を止めた
言ってしまったら・・・・・
矢口さんが永久にウチの手の中からいなくなってしまいそうだった
いっつもウチを優しいって思ってて
かっこいいと言ってくれて
そんな奴私の体の中にいやしないのに
クラクションを鳴らしながら大きな声で叫んだ
- 624 名前:*** 投稿日:2006/01/09(月) 13:38
- 気が付くと本日二度目の更新
とりあえずここ迄
- 625 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/09(月) 15:00
- 切ないですね
- 626 名前:名無し7 投稿日:2006/01/09(月) 20:35
- んー…胸らへんが苦しいです
結構前からですがこっそり見守ってましたよ
次回更新も楽しみにしております
- 627 名前:*** 投稿日:2006/01/11(水) 20:37
- ど、どもっす
これからもこっそり見守って下さい
- 628 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 20:39
- 「ごっちん」
死にそうな声でよしこが電話を掛けてきた
美貴との別れを惜しんで最後の1回をしようとしていた矢先だったので
ちょっと迷惑そうに出たんだけど
「どしたの、そんな情けない声して」
「・・・・・やっちゃった」
「はい?ああ、おめでとう、やっとやれたんだ、どうだった?やぐっつあん」
「ちがっ、やってたのはウチとアヤカ・・・・・それ見られた」
「はぁっ?」
その後、美貴も一緒になってさんざん電話でよしこを説教した
けど、よしこがちょっと泣き声だったのに気がついたから・・・・・
きっとやぐっつあんが欲しくてたまらなかったんだろうなぁって同情して電話を切った
だから、やぐっつあんの事はウチが様子見るから、
よしこは今迄通りっていわれたんだし、今迄通りしたら?
そういうと、情けない声でお願いしますと言っていた
- 629 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 20:42
- 「馬鹿だよねぇ・・・よっちゃんさん」
「うん・・・・あんなに馬鹿って思わなかったけど」
「はぁ・・・・しょうがない・・・・モ1回したかったけど、
寮に帰ってやぐっつあんの様子見るわ」
苦笑いするウチら、そんな中
「ごっちんはもう前の仕事の人とは・・・」
小さく呟かれる
「何言っちゃってんの?ゴトーは美貴だけだよ、ちゃんと言い切れる」
ちょっと怒った感じでいると、美貴は気まずそうに頭を下げた
「・・・・・・ごめん」
「じゃあキスして」
「うん」
しばらくキスしてから、じゃあ送るねと美貴は車のキーを取った
- 630 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 20:44
- さんざん車の中で、あの野獣というか駄犬というか・・・・
よしこの話をして寮に着くと、やぐつつぁんが部屋にいる事が解る
ノックすると、笑顔で出て来る
「今帰って来たの?ごっつぁん」
「うん、ね・・・・ちょっと入っていい?」
「あ・・・・うん」
ちょっと嫌そう・・・・ってか・・・・一人になりたいって感じ?
入り込んだシンプルなやぐっつあんの部屋
いまだに荷物はほとんど無い
よしこが色々買おうともちかけても、おいらのお金じゃないし、
自分でちゃんと稼げるようになってから色々揃えるねとガンとして聞き入れなかったもんね
でもテーブルの上には、編み始めたばかりのマフラー・・・・
クリスマスプレゼントか・・・
それと携帯がポツンと置いてあった
- 631 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 20:46
- 良く見ると電源切られてるし
「あれ、電源入ってないじゃん」
わざと言ってみる
「あ、・・・・・・うん」
ベッドに腰掛けたやぐっつあんの隣にゴトーも座る
「珍しいね、暇さえあればよしこの顔見てたのに」
よしこの名前が出た途端、
やぐっつぁんの目にはうるうると涙が溜まっていった
「ど、どうしたのやぐっつあん」
「何でもないっ」
ゴトーの声にキュッと唇を噛み締めてぐいっと袖で涙を拭いていた
「何でもないじゃないでしょ、どうして泣いてるの?」
ふるふると首を振って、にこっと笑ってるのが痛々しい
「よっすぃから電話があったんでしょ?」
もうすっかり普通の人の感覚と変わらないやぐっつぁんは、
女性の顔になっていた
- 632 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 20:48
- ゴトーは頷いて肩に手を回した
「どうして会ってあげなかったの?」
「・・・・・・泣いちゃいそうだったから」
「泣いちゃえばいいじゃない・・・・恋人同士なんだし」
「でも・・・・・泣いちゃったら可笑しいって言われない?」
その発想がまだゴトーには解らない
「言われないよっ、泣いて当然怒って当然」
すると、いつも落ち込んだり迷ったりした時見せる癖
指輪を触りながら俯いて
「おいらよっすぃのそばにいたいの」
「いればいいじゃん、恋人なんだし」
「・・・・・でも・・・・おいら達結婚出来る訳じゃないし・・・・・それに・・・・」
そんな事迄考えられるようになったんだ・・・・やぐっつあん
- 633 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 20:50
- 「茜ちゃんって女の子がいるの」
何故か話がそこに飛んでしまったけど、静かに話しを聞く
茜ちゃんという子は、やぐっつぁんがバイトに行ってる小学校で、
よく授業をサボって一人で校舎の裏にいる子みたい
何度か挨拶をするウチに、
人懐っこいやぐっつぁんはその子と話をするようになったみたいだけど
一緒に行ってる紺野がそばに行くと、逃げるように茜ちゃんは去って行くと、
よく紺野が悲しんでいた
「その子の両親がね、毎日喧嘩してるんだって・・・・・
お父さんに女の人がいるみたいで・・・・・
それでいつもお母さん泣いてて・・・・
そしたら離婚する事になっちゃったみたい」
「まぁ・・・・そんな事もあるだろうね」
ってかよくある事
- 634 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 20:54
- 「結婚ってすきな人同士がするんでしょ、
だから可笑しいよねって茜ちゃんと言ってて・・・・・・
でもずっと茜ちゃんがいい子にしてればその内仲良くなるって思って
勉強もちゃんとして、お手伝いもして・・・・・・
なのに離婚しちゃったから・・・って、もういい子にするのやめたんだって」
「で、やぐっつあんはその茜ちゃんに何て言ってあげたの?」
ん〜って首を傾けて
「よく解らなかったから、じゃあ一緒にバイトしよって片付け手伝ってもらおうかと思ったら、
おばちゃん達に怒られた」
「あはっ、そりゃそーだ」
「でもその後ね、皆で茜ちゃんにまたおいでって言ってくれてね、
授業サボってはダメだけど、終わったらおいで、お茶でも出すよって、
今はおいらのバイト終わり位にお茶しに来る」
みんなでわいわいお茶してたら、そのうち友達連れて来るようになって・・・・
おばちゃん達も嬉しそうだし
「じゃあ、またいい子になったんだ、茜ちゃん」
「うん、おばちゃん達がね、茜ちゃんがいい子だったから、
離婚迄時間がかかったのかもしれないし、
悪い子だったらもっと前に別れてたかもしれないって・・・・・
それに、別れたからって茜ちゃんにとってはお父さんもお母さんも何も変わらないでしょって」
指輪をさすりながら続ける
「でもね、ごっちんが前に言ったでしょ・・・・人間には三大欲求があるって」
げっ、それ憶えてるんだ・・・
- 635 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 20:56
- 「ああ・・・言ったね」
「おいらご飯食べるの止められないし、寝ないのも耐えられないし、
それと同じ位止められないんでしょ、セックスって」
「ん〜、まぁ、そんな事もないと思うけど」
「おいらはしなくてもいいけど・・・・・・
よっすぃ・・・・嫌いじゃないって言ったもん・・・・・・
だったら・・・・・よっすぃがお仕事でそういう事してるのは、
おいらが何か言うべき事じゃないもん」
ん?
仕事で?
「仕事・・・って」
「ホストって・・・・そういうお仕事なんでしょ」
やぐっつあん
理解してたんだね、そういう事
- 636 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:01
- 「みんながみんなそうじゃないよ、色んな事があったりして落ち込んだりした人を
少しでも楽しくさせようとして一緒にお酒飲んだりするのがホストだよ、
やり方は人それぞれ、それに、よしこは約束したんでしょ、
もうやぐっつぁん以外にキスしたりしないって」
唇をキュッと引き締めて小さく頷く
「だったら約束を破ったよしこを怒っていいし、
もうしないでって言ってもいいと思うけどな」
「でも・・・・・・茜ちゃんのお父さんにお母さんが泣いたりしたから
・・・・・二人は別れちゃったんでしょ・・・・・・
おいらはね・・・よっすぃのそばにいたいんだもん」
やぐっつぁん
「違うよ、やぐっつぁん・・・・・悪いのは茜ちゃんのお父さんだよ・・・・・
好きな人が他の人とするのは、誰でも嫌だって思うんだよ・・・・
悪いのはお父さん・・・・・そしてよしこ」
うるうるとさせた目から、また涙が溢れ出す
「でも・・・おいらよっすぃが好き・・・・大好き」
それだけ言うと、両手で顔を覆って泣き出してしまった
- 637 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:04
- その後ぽつりぽつりと今迄の胸のうちを語りだした
みんながいつもやぐっつぁんを茶化していた事、
結構やぐっつあんは気にしてて
もしかしたら、ほんとは他にも付き合ってる恋人がいるかもしれないって・・・
ウチの店でバイトしてた時も、どうして一緒に帰らないで
お客さんと出てってたのかもうっすら解りだした頃だったみたい
自分に電話してくれる朝・・・・
本当は違う場所で誰か他の人といるのかもしれないって考えると・・・・・
たまらなく自分が嫌になったりして
今迄の出来事の中で、後から色々な知識を理解していくウチに、
吉澤ひとみという少女が、解らない事もあったという
たまに、つらそうに自分の顔を見てるよしこがいて、
もしかしてもう自分みたいな面倒な子は嫌いになっちゃうんじゃないだろうかって
他の仲間も、しょっちゅう彼女とかと喧嘩して・・・・・
なかには別れたり・・・・・・恋愛って永遠のものじゃないって解ったから
いつかはよしこが離れていってしまうかもしれないって・・・・
最近不安だったようだ
にこにこといつも幸せそうに笑ってたやぐっつぁんに、
そんな不安があったなんてウチはもとより、よしこだって知らなかっただろう
昔から、自分のつらい事を隠して生きて来たやぐっつぁんだから、
ウチらに見破れないのも仕方ないのかな・・・
- 638 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:06
- でもだめだよ・・・・・
恋愛ってそんなにお互い我慢してするもんじゃない・・・・・
わがままがいいっていうんじゃなくて・・・・
もっとお互いが言いたい事を言い合って喧嘩して・・・・
そしてお互いを理解してくのが恋愛でしょ
ゴトーも今美貴と勉強してる最中だけどさ
初めてちゃんと美貴と付き合って・・・・
今までしていた恋愛と思ってた出来事が全て絵空事だと解ってきてる
自分だけでなく、若いと恋愛に色んな理想と現実があって、
うまく自分を調整出来なくなって・・・・
それでいいんだよ・・・それで
それにもうやぐっつあんは
自分が特別な環境で育ったっていう事を忘れないといけない・・・・・
今そうやって泣いている姿は、間違いなく普通の女の子だから
ゴトーはその生活をした事ないから、
そんなえらそうな事言えないのかもしれないけど、
それはそれとして思い出として生かして・・・・
今のやぐっつあんは誰に劣る事のない普通の子だから
- 639 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:08
- 「ね、やぐっつあん」
ん?と顔をあげる・・・真っ赤な目で少し笑みを浮かべて
「よしこの事好きなら・・・・・
よしこの唇をもっと知りたいって思わない?よしこの肌が・・・・
どんな暖かさをしてるのか・・・・・知ってみたくない?」
前に美貴が言ってた事・・・・
「あたた・・・かさ」
「そうだよ・・・・セックスって・・・・瑠依達がやってたみたく、
破滅的な快楽を求めるのもあるけど・・・・・・
本来はもっと・・・・・心が暖かくなるようなもの」
何か考えてる風なやぐっつぁん
「恋人同士が、ううん、夫婦だったり、お互い愛し合ってる者同士が、
お互いに必要だよってお互いの恥ずかしい所も全て見せてお互いを理解していく事だもの」
「お互いに・・・・・・・・・
おいらに・・・・・出来る?」
ゴトーは頷く
「出来るさ〜、ってか・・・・・よしこ・・・・
やぐっつあんとしたくてしたくて・・・・・
でもやぐっつあんがしたくないって言ってるから・・・・
そんなやぐっつぁんを傷つけたくなくて
だから馬鹿なよしこはふらふらって他の人を求めちゃったんだから」
首を捻ってん〜って唸ってる
- 640 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:10
- 「よしこが信じられない?」
「?」
「よしこがもう自分を好きじゃないって思う?」
「・・・・・」
「今迄やぐっつあんにしてくれた沢山の優しさが、
偽者だったって思っちゃった?」
そこでやぐっつぁんは首を振る
「よっすぃは本当にずっと・・・・ずっと優しくしてくれたよ」
「じゃあ、それでいいじゃん・・・・よしこはやぐっつあんの事、
絶対大切だし・・・・大好きって思ってるよ」
真っ赤な目をこっちに向けてうんって笑って頷く
「じゃあ、ほら、よしこに声・・・・もっと聞かせてやりな、
電話が通じないからゴトーに掛けて来たんだよ・・・・やぐっつあんが心配で」
電源の切れた携帯を渡すと、両手で持って胸の所で一度抱き締める
それからゆっくり目を瞑って電源を入れた
しばらくすると、やぐっつあんとよしこが照れくさそうに二人で映ってる待受画面になる
真一文字に唇を結んだやぐっつあんが、その画面を見ている
- 641 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:12
- 画面によっすぃと突然現れた
「あ、よしこだ」
顔を見合わせる
「ほら、出なさい、ゴトーは部屋に戻ってもう休むから」
捨てられた子犬のようにこっちを見てるやぐっつぁんに手を振るとドアを出た
そしたら、門の所にはりついて電話してるよしこを見つける
結局来てるんだ・・・・やぐっつあん、早く出てやりな
よしこにも手を振って、ゴトーは自分の部屋に戻って美貴に電話する
「どう?矢口さん」
「うん・・・・・ショックは・・・・大きいみたい・・・・・
よしこが誰かと寝てたのを見たのより・・・・・
自分がよしこと離れないといけない事が不安でしょうがないみたい」
「・・・・ほんとに好きなんだね・・・・よっちゃんの事」
「うん・・・・そしてよしこも・・・・・
今門の所に来て張り付いてる・・・電話でコールしながら」
「じゃあ大丈夫だね・・・・まったく、
美貴のごっちんをいつもいつも振り回すカップルなんだから、あの二人は」
「ほんと、手に余るよね」
そこまで話した所で、隣のドアが開く音がした
- 642 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:13
-
- 643 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:15
- 藁をも掴む気持ちでごっちんに助けを求めた
もちろんごっちん、そして一緒にいた美貴にもめちゃくちゃ叱られた
言われてたら再び自分が悔しくて鼻にツンとしたものが降りてきてうまく話せなくなる
それを聞いてかごっちんが優しく自分が様子を見て来るからと言ってくれた
少しホッとしてるけど、携帯を持ってた手が震えてるのに気付き
助手席に投げ出すとシートにもたれこんだ
真っ暗な夜空に少し雲がかかった月を見ながら呆然と時を過ごす
それからしばらく山の中で自分の馬鹿さ加減を呪っていたけど
ここでぐずぐずしててもしょうがない事に気付き
とりあえず寮に行く事にした
祈るような気持ちで矢口さんの部屋を見つめながら
繰り返し繰り返しリダイヤルを押して電話を繋げようとする
今日会わないと・・・・・今会わないと絶対後悔する
- 644 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:17
- すると、さっき迄コールセンターのお姉さんとばかり会話してたのに、
いきなりコールしだす
ごっちんらしき人影が、矢口さんの部屋から出て来て手を振るのが解った
何を話してくれたんだろう・・・・・でもちっとも出てくれない
そしてついに
「よっすぃ」
出てくれた
「よかった・・・矢口さん・・・・会いたいんです・・・・
今すぐ、門の所迄来てますから出て来てください」
返事はない・・・・・そのまま沈黙が続く
「あの・・・・矢口さん?」
恐る恐る声を出すと
「今・・・・行くね」
やがて開いたドアから出て来たのは、小さな影
だけど、今迄こんな風に会いに来たら、
必ず子犬のように掛けて来た矢口さんが、今日はとぼとぼと歩いてやって来る
- 645 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:19
- 暗い場所を黒い影が近づいて来て・・・・
やがて顔が見えるようになると、瞼が腫れているのが解る
泣かせてしまった
そうだよね・・・・・キスだって他の人としないって約束したのに・・・・・
ウチと矢口さんの家でエッチしちゃってんだもん
ピポピポといつものように門を開けて出て来ると私の前に立って俯いてしまった
「と・・・・とりあえず、寒いでしょ、車に入って下さい」
ちゃんと助手席に座ってくれる
運転席に座ると、何から切り出そうかとハンドルの下の方をいじる
「ごめんね」
言ったのはウチの口ではなく、矢口さんだった
「どっ、どうしてっ、ウチが謝るんですよ、この場合」
「お・・・・おいらね・・・・・よっすぃが・・・・よっすぃの事が好きなの」
え?
展開がつかめずにハンドルに右手を置いて矢口さんを覗き込むようにして耳を傾ける
- 646 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:21
- 「よっすぃさえよければ・・・・・おいらにセックスして」
「い・・・いや・・・・その・・・・・あの・・・・」
これはやけっぱち?
ごっちん何言ったの?
「・・・・・・お・・・・お仕事としてでもいいよ・・・・」
その一言についカッとくる
そして瞬間に解る・・・
矢口さんはウチが今迄して来た事をもう解ってるって
「それは出来ませんっ、ウチは・・・矢口さんとは恋人のはずでしょうっ、
それにもう仕事で誰かと寝たりしてません」
今日寝てる癖に・・・・どの口がそんな事を言うのか・・・・・
ほとほと自分の馬鹿さに呆れた
ウチがいい加減だと言う事を理解できている矢口さんは、
ウチをどうする?好きって言うけど・・・・無理してない?
「ウチはほんとは矢口さんとしかセックスなんてしたくありません」
どうしてこんな会話・・・・・
違う・・・・確かにエッチの事を話すんだけど・・・・
ウチが伝えに来たのはもっと大切な事だろっ
- 647 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:23
- 「・・・・・ごめんね・・・・おいらが嫌って言ったからでしょ」
「いいんですっ、それでいい・・・・
矢口さんが嫌がる事をウチはする事は出来ないんだから・・・・・
ウチが馬鹿なだけです・・・」
「でも・・・・・したかったんだよね・・・・・よっすぃは」
そこ迄解って・・・・・
「はい・・・・矢口さんが好きだから・・・・矢口さんの事が大切だから、
大好きだから・・・・・好きすぎて矢口さんの嫌がる事は出来ないって思いました
・・・・・ほんとはしたいくせに」
伝われ・・・伝わってくれ
「うん」
「ほんとは矢口さんを知りたくて・・・・
矢口さんをもっともっと抱き締めたくて仕方ないのに・・・・
どうしても出来なかった・・・・・嫌われたくなかった・・・・
あなたが大切すぎて」
伝われ・・・・ウチの気持ち
「ありがとう・・・・よっすぃ」
伝わった?
矢口さんはこっちを見て恥ずかしそうに微笑んでくれてる・・・・
ウチが必死な顔してるの解ってます?
私は矢口さんが好きなんです・・・・
- 648 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:26
- 「だからすみませんでした・・・・・
本当に・・・・・すみませんでした」
優しい顔で首を振ってくれて、
それからしばらく何かを考え込むように、いつもの指輪をいじっていた
「お・・・・おいらね・・・・・おいら・・・・・・よっすぃの恋人でいたい」
いて下さい・・・・ほんとに
「恋人です・・・・・ウチは矢口さんのもので・・・・
矢口さんは、ウチのものでいて欲しいです」
落ち着き無く指輪をいじってる両手を右手でそっと掴む
「うん・・・・・ありがとう」
間違ってますよ・・・・ありがとうは私が言うセリフです・・・
そしてごめんなさいも
泣かせてしまった晴れぼったい目にキスする
「ごめんなさい・・・・泣かせてしまって」
「ううん・・・・おいらが勝手に泣いちゃっただけ・・・・・気にしないで」
笑って肩をすくめてる・・・・なんていじらしい
「矢口さんの泣き顔なんて・・・・見たくないのに・・・・・
ほんとに・・・ごめんなさい」
- 649 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:27
- 掴んでいた右手を取って、指輪にキスした
告白した時と変わらず、あなたを大好きだという気持ちで
ゆっくりと手を下ろして、視線をゆっくり矢口さんに上げると・・・・
矢口さんも同じように指から視線をウチに合わせた
「おいら・・・・よっすぃがね・・・」
そこで一度唇を結んで言いよどむ
「はい」
視線を合わせてずっと言いよどんでる
言いにくい事なんですね
「よっすぃが・・・・お仕事でも他の人と・・・・
セックスするのは・・・・嫌なの・・・・・ごめんなさい」
ちっちゃな声でしっかりとウチの目を見て言ってから、すまなさそうに俯いた
ああ・・・・またかわいらしい事を・・・・
「当然です・・・・・ウチだって・・・・矢口さんが他の誰かとするなんて、
考えるだけで相手を殴りたくなります・・・・・
だから・・・・・ほんとにごめんなさい」
「ううん・・・・ごめんね」
謝らないで・・・こっちがつらいから
- 650 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:29
- それに、月明かりと照明の中、複雑な顔をして・・・・
それでも尚ウチを求めている目をして見てる矢口さんに、私は溜まらずに言った
「キス・・・していいですか?」
少し・・・・
少しでもいいから、あなたの感触を自分に残したい
今日アヤカとしてしまった過ちの感触でなく、小さな唇の感触を・・・
そして自分の唇の感触を矢口さんに・・・・・そして気持ちを伝えたい
返事も待たずに私は覆い被さって唇を奪った
そして、初めて舌を入れてみる・・・というか
・・・・いれずにいられなかった
驚いて逃げる舌に、一度唇を離して
「好きです」
至近距離で目を合わせて心を込めて言うと、再びうるうると目が潤みだす
ゆっくりゆっくり・・・・上唇を挟み、下唇を挟み・・・・・
唇の隙間をゆっくりとあけさせて舌を入れていった
- 651 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:31
- んっ・・・ん・んん・・
矢口さんの苦しそうな声がどんどん大きくなる
思わず唇を離すと
はぁっはあっと深呼吸してウチを見上げていた
「く・・・・苦しかったですか?」
「・・・・うん・・・・」
「すみません・・・・」
呼吸の仕方が解らないんですね・・・・フレンチキスしか知らないからね
「ううん・・・・・おいらが何も知らないから」
「誰も正しいキスなんて知りません・・・・
ただ・・・思いを伝えたかったんです・・・矢口さんが好きだって事を」
こう言うとちょっと俯いて、少し笑みを浮かべて小さく呟く
「・・・・もっかい・・・・して」
元々近かった距離をすぐにゼロにする
矢口さんはさっきと違って、
ウチの舌に自分の舌をひっつけて積極的にウチの真似をするようにキスしてくれた
- 652 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:33
- そう・・・・これ・・・・
いや・・・・この唇が矢口さんだというだけで、ウチのボルテージは急に上昇し、
こんな場所なのに矢口さんのシートを倒して覆い被さってしまった
さっきこの口が、矢口さんの事を無理にセックスしなくていいって言ってた癖に・・・・
もう我慢出来ないなんて・・・・・
着ているダッフルコートの中のセーターの上から矢口さんの胸を初めて触った
瞬間びくっ!!!ってびっくりした矢口さんの体で我に帰る
上から見る矢口さんの顔は、ちょっと戸惑っていた
・・・・だめか
そりゃそうだ・・・・なんてったって矢口さんはこんなの始めてで・・・・
それにここは車の中で・・・しかも誰が見てるか解らない寮の前だし
「すみ・・・・ません」
何度目のすいませんだろう・・・・自分の動物的な性癖が後悔を呼び寄せる
- 653 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:35
- シートを元に戻したら、俯いて首を縮めて固まってる矢口さん
「ほんと・・・・・すみません・・・・
ウチ・・・・馬鹿ですよね・・・・ほんとに・・・・・」
乱れた髪の毛を整えて、矢口さんの髪の毛も整える
上目遣いにウチを見て、唇を真一文字にして
「ううん・・・・おいらが・・・・あの・・・
ごめんなさい・・・・・なんでだろ・・・おいらよっすぃが大好きなのに」
怖かったんだ・・・・申し訳なくて抱き寄せる
「いいんです・・・・無理しなくて・・・・
ホント・・・・すみませんでした、
さぁ・・・明日からまた勉強頑張って下さい」
「う・・・ん」
「今度こそ本当に約束しますから・・・・・
仕事でも絶対に誰かに触れたりしません」
じいっと黒目がちな目を覗き込む
揺れている瞳がゆっくりと三日月に変わって
「よっすぃ・・・・大好き」
「ウチもです」
ゆっくりとチュッとキスしてまた抱き締めた
- 654 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:36
- これで明日からまた元通り・・・・
ウチらは仲のいい恋人同士になれるかな
名残惜しそうに矢口さんは車を出て、門から入っていく
そしていつものように自分の部屋の前で私の方へ手を振ってから、
中に入って行った
大丈夫だったろうか・・・・ウチの欲望を見せてしまって
少し怖がってたけど・・・・
でも・・・一生懸命キスは答えてくれた
かわいらしい口を思い出して・・・・
ああ・・・やっぱ抱きたいと思った
来週はクリスマス・・・・無理はよくないけど・・・・・
出来れば抱かせてもらいたい・・・
もっとあの唇を堪能して・・・抱き寄せて
ウチはこんなに汚くて・・・・ほんと・・・・
みんなが言う通り・・・・野獣のようだ
はぁ・・・・・ため息をつく
矢口さんの中のウチは・・・・・どういう変化をしたんだろうか
- 655 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:37
-
- 656 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:39
- やぐっつあんが隣に帰って来た時にはもう美貴との電話は終わってた
さっきちょっと心配でちらっと見に外に出たら、
あの馬鹿あんな所に止めた車の中でやぐつつあんに覆い被さって
もしかしてあそこでやぐっつあんのバージンを・・・・
と、ちょっと心配になって見てたら、ちゃんと起こしてた
至近距離で何か話して、キスしてたから、ゴトーは部屋に戻る
仲直り出来たのかな・・・・・ってか、最初から喧嘩もしてないし
もし、ウチがよしこの彼女だったら、
速攻よしこを殴って・・・・謝らせて・・・・・
しばらく口聞いてあげないかもしれないのに
やぐっつあんはほんとに優しい
静かに上がってきたやぐっつあんは、隣に一度入ったけど、
すぐにまたドアが開いてゴトーの部屋をノックして来た
「どうした?やぐっつあん」
ってか・・・・・また泣きそうになってるし
- 657 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:41
- 中に入れて、カセットコンロでお湯を沸かして紅茶を入れてあげた
「で、仲直り出来た?」
「う・・・・ん・・・・でもさ、おいらダメだね」
「何が?」
「さっき・・・・・ちょっとだけよっすぃを怖いっ・・・て思っちゃったの」
あ、好きなんだよっ、ものすごく・・・・ものすごく大好きなのに・・・・
胸に手が触れてきたらね・・・・なんか・・・・怖くなって・・・としょんぼりしてる
あの馬鹿・・・・興奮しちゃって
手ぇ出せないとか言ってたくせに
「しょうがないよ・・・・だって初めてなんだもん・・・・・・
女の子は絶対最初は怖いんだもん・・・・・やぐっつあんだけじゃないよ」
「ほんと?」
「うん、ゴトーもいっちばん最初は怖かったなぁ・・・・・それに相手は男の人だったし」
- 658 名前:第三章 投稿日:2006/01/11(水) 21:43
- 「・・・・・ごっつあんも・・・・怖かったんだ」
ほっとしたのか、やぐっつあんの顔は徐々に笑みを取り戻していく
「そ・・・元気出た?」
こくんと頷くとえへへと照れ臭そうに笑い出した
「恋愛って大変だね・・・・・おいら毎日毎日ドキドキして・・・・
苦しくて・・・・・楽しくて・・・・・
でもよっすぃにあえて良かったってほんとに思う・・・・・・
それとごっつぁんにも・・・・みんなにも」
青春・・・・してんだね、みんなより少し遅れた
そうだね・・・・私達が昔悩んだ・・・・・
今となっては何で悩んでたのかも解らない位の事で毎日悩んでた事・・・・・
今やぐっつあんは経験してるんだね
やぐっつあんの頭を撫でてあげると、嬉しそうなやぐっつあん
うん・・・・
一件落着だね・・・・
馬鹿よしこのおイタの事も
- 659 名前:*** 投稿日:2006/01/11(水) 21:43
- 本日はここ迄
- 660 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/12(木) 01:29
- ごっちんのキャラ良い^^
- 661 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/12(木) 03:20
- 矢口さん可愛いです
- 662 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/12(木) 05:24
- 今日初めて読みました
一気読み
愛あるお話やなーと思いました みんな必死で生きてんだなーって
- 663 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/12(木) 08:45
- 恋愛というものが丁寧に描かれてあってすごく良いです
- 664 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/12(木) 12:15
- ごっちんの言うとおり矢口さんがやっと等身大の女の子になった気がします
矢口さんがかつての自分の姿に重なってとても共感します
初めて触れ合うまでのことって一生忘れられない出来事だと思うのでよっすぃには先を急ぎすぎないようにと願ってます
- 665 名前:*** 投稿日:2006/01/12(木) 23:07
- あの・・・ありがとうございます
一人一人が生きたキャラになってくれてればと祈ってます
そして、色んな人がいる分
色んな形の恋愛があるという感じにしたかったので
色んな読み方をして頂けたらとても嬉しいです
ただ・・・希望はあれど、文章力とこれからの展開が問題・・・
- 666 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:10
- あれから一週間
ウチは店長に、この仕事以外の就職先を知らないかと聞いてみた
悪いけど、この界隈の世界しか知り合いもいないし、
お前の方がお客と親身なんだからどこか協力してもらえばと言われる
「店ひらきゃいいじゃん、お前が」
という市井さんの言葉にハッと思った
矢口さんが調理師の免許を取れば、自分で店を開く手もあるなと
お金は沢山ある、店を構えるだけの資金はきっとあると思う
お客さんに、レストランやホテルの経営者の奥様もいるので
その辺りを聞いてみる
あたればでかいけど、ダメな時は全くダメだという・・・・
それより何より、地道な生活がウチに似合わないととりあってくれなかったけど
まぁ、作るひとの技術や味もあるけど、店のトータルでの雰囲気作りや、
客のターゲットをちゃんとしぼったきちんとした店、
店員の考え方にキチンとした意識のある人が成功するとの事
でもそれもいいかも・・・・・
ちっちゃな店で・・・二人でいつも一緒に働けて
- 667 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:12
- 今の所、指名の数は激減したけど、
それでもウチを気に入ってくれるお客はいてそれなりに収入はある
その日迄出来るだけお客を喜ばせられるように・・・・
そして、相手を本気にさせるような事も言わないように過ごせばいいし
明日のクリスマスイブの日、矢口さんが来たら話そう
家に帰って電話した時、前迄は楽しそうに前日の授業や、
バイト先の学校で子供達と仲良くなった事とか話してくれてたけど
この一週間は、少し照れた感じでおとなしかった・・・・沈黙が続いたし
ほんとの私はあまり話しは上手じゃなく、いつも聞き手になってた事に気付く
あんなとこ見られたし・・・・・
多分矢口さんの中の傷は大きくて・・・・
まだまだ前のような二人に戻るのは時間がかかるかも
自分の不安な気持ちを押し付けるように興奮してあんなキスしちゃったし・・・・
まぁ、電話したら嬉しそうに出てくれるし・・・・
このままゆっくり前の元気な矢口さんに戻ってくれれば・・・・
だから、明日その話をして、
二人でずっと一緒に暮らしましょうと伝えれば、
少しは元気になってくれるかな
- 668 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:15
- いつものように仕事が終わったら
シャワーを浴びたり軽く食事して寝ずに朝を過ごし、
矢口さんを迎えに行こう連絡を入れたら、
少し用事があるから自分で帰って来ると言われてしまった
仕方ないので、寂しくベッドに入って眠った
もしかしたら起きたら矢口さんがもう部屋にいたりして・・・・
なんて期待はみごとに裏切られ
夕方になっても帰って来る事はなかった
「どうして?」
誰もいないのに、一人呟く
何でかえってこない訳?
待ちきれずについに電話を手にした
だって・・・・
たまにはと思ってレストランだって予約してるし・・・
プレゼントだって・・・・・
どんなタイミングで渡して・・・・とか・・・・
一応考えちゃったりしちゃってるのに
- 669 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:16
- いつもは2コールもすれば出てくれるのに、今日はなかなか出てくれない
「矢口さん?」
やっと出てくれても何も言ってくれないので名前を呼んだ
「よっすぃ〜」
何故か泣きそうな声
「どうしたんです?何かあったんですか?」
「・・・・・・・・ううん・・・」
絶対何かあった
「今寮ですか?」
もう車のキーを取って出ようとしていた
「・・・・・・・ううん」
えっ・・・寮じゃない?どういう事?
「・・・・・明日・・・・・帰るね」
「えええええっ・・・・だって・・・・」
まさかの展開にウチはいきり立つ
「ごめんね」
しゅんとした感じだし、どうして来れないのか解らない
- 670 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:18
- 怒っている感情をぶつけてしまいそうだけど、
それをどうすれば抑えられるか解らなくてどもる
「あっ・・・あっ・・・・あのっ・・・今日が何の日か知ってます?」
クリスマスイブは・・・・
いつも誰かお客さんと過ごす為に店には出なかったけど・・・・・
今年は、そんな大口のお客がウチには指名が入らない為に店に出ないといけない
だからこそ・・・・少し早めにレストランを予約してたのに
「クリ・・・スマスでしょ」
解ってるじゃないですか、
この日は恋人同士にとって少し特別な一日だって事・・・・
ちゃんと知ってるんでしょ
「だったら・・・早く顔見せて下さい」
「でも・・・・」
後ろからその時声が聞こえた
もう行った方がいいですって・・・という女の人の声
- 671 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:19
- この声・・・
どこかで聞いた
絵梨香さんっ?
「どうして絵梨香さんの所に行くんです?」
ついに怒った口調になってしまった
「あ・・・あの」
言いよどむ矢口さんにもう聞きたくないとつい発作的に口から出た言葉
「もういいですっ」
やってしまった・・・・・
頭をバリバリと掻いて持っていたキーを投げつける
- 672 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:21
- 解ってる・・・
何か訳があるの
でもよりによって、前から矢口さんに気のある絵梨香さんの所に行かなくても
それもクリスマスという今日みたいな日に
はぁ〜っ・・・・
大きなため息をつく
また泣かせちゃったかも・・・・・
ウチを怒らせたっ・・・て
解ってるのに・・・・
ウチと違って矢口さんは誰かと浮気なんて出来ない事
後何時間かすれば、絵梨香さんと会えるし・・・・
その時にでも様子を聞こう
今、慌てて矢口さんに電話しても、
余計キツい事を言ってしまうかもしれないし
くそっ、まさか矢口さんを抱き締めて慰めたりしてるんだろうか
- 673 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:21
-
- 674 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:24
- 責任を感じてしまう
軽い気持ちで手編みのマフラーにしたら?と言ったばっかりに・・・・
こんな事になるなんて
昼前に泣きそうな顔で現れた矢口さん
網みかけのマフラーを差し出して、
どうしても綺麗に出来ないの・・・・とへの字口
でもいいんですか?今日はクリスマスイブですよ、
きっと待ってますよひとみさん・・・という私に
これが出来上がらないと行けないという矢口さん
そんなに悪くないのに、完璧主義なんだぁ・・・
と思いながらも不揃いな目のマフラーをどうしようかと相談してくる
途中何度も何度も解いては編みなおして・・・・
少しよたってしまった毛糸
うまくひっかける事も出来なくて、新しい毛糸で編みなおしたという
ようやく八割出来ている所で、
最初の方の目が飛んでいるのに気付いた矢口さんは、
慌てて私の所にやってきたという訳
これ位なら平気ですよ、と、応急処置してあげるけど、
なんだか納得いかないみたい
「いいんですよ、心がこもってれば、それより早く行ってあげないと」
うん・・・・お仕事の前に渡したいとせっせと編んでいる
- 675 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:26
- すっかり日も暮れた頃に、
ひとみさんから電話が掛かってくるけど出ようとしない
「ほら、早く来て欲しいって電話でしょ」
「うん・・・・・」
どうしたんだろ、元気がない
確かに出来上がらなくて泣きそうだったけど・・・・
大好きなひとみさんからの電話なのに
諦めたように電話に出た涙声の矢口さんは、
しばらくひとみさんとの会話をつらそうにして、
今日は行けないと言ったのには驚いた
きっとひとみさんは、今日を楽しみにしてて、
何か特別なプレゼントとか計画とかたてていたのかもしれない
会話を続けてる矢口さんに、私は声を掛けてしまった
「早く行ってあげて下さい」
その後、矢口さんは渋い顔をして目を閉じた
携帯が耳から離れていって、ゆっくりと笑う
「切られちゃった」
とうとうその目からぽろぽろと涙が出て来て、
笑いながらぐすぐすと泣き出す
- 676 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:27
- どうしよう・・・・
ウチがマフラーなんて編んでみたらなんて言ってしまったから
「ごめんなさいっ、ウチがマフラーなんて言ったから」
「ううんっ」
うぐっうぐっと首を振る
ちがうの・・・ちがうのと嗚咽しながらそう言う
「だって、もっと違うのをプレゼントにしてたらこんな事に」
ちがっ・・・違うのっ・・・おいらが悪いのと嗚咽する
やっと落ち着いてしょんぼりした矢口さんはぽつぽつと心境を語り始めた
先週私とご飯を食べようとしてたけど、
少しでも長くひとみさんといたいんじゃないかと思って食べずに帰らせた
その後にまさかそんな事があったなんて、夢にも思わなかったけど
- 677 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:28
- 帰ったら、ひとみさんが裸にシャツをはおった姿で呆然とベッドに座ってて、
その隣に長い髪の毛の女の人が見えたという
その時の矢口さんの驚きが伝わってくる
ひとみさんは必死で謝ってくるし、
自分もひとみさんが大好きだから・・・
これからも恋人同士でいられる事になって嬉しかったけど
いざ、今日ひとみさんの家に行くと考えた時に、
もしまた誰か他の人がいたらどうしようって怖くなってしまったみたいだ
自分にはひとみさん以外いないから・・・・
絶対に嫌いになんてなれないのに
でも、その時のひとみさんの顔と・・・・
その人の影がトラウマのように矢口さんに残ってるみたい
どうしてそんな事をと怒る私にも、
矢口さんは、自分がセックスするのが怖いから
ひとみさんが我慢できなくなったみたいと、真希さんからの情報を話してくれた
- 678 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:32
- 「おいら・・・・よっすぃに悪い事をしてたんだよね・・・・
おいらはよっすぃと恋人になれて浮かれてたのに・・・・」
まさか・・・・矢口さん
「裕ちゃんがね、就職先を探してくれてるんだ・・・・
もちろん寮の人全員にだけど」
中澤さん・・・・謎の人物だけど確かに良さそうな人だった
「このままお別れした方が・・・・よっすぃの為かなぁ・・・って・・・」
離れたくないけど・・・
やっぱりおいらみたいな子じゃよっすぃに吊り合わないし・・・と
この前どうやら少し体を触られたらしいけど・・・・
その時に大好きであるはずのひとみさんを怖いって思って、
ひとみさんも自分に悪いって思って謝ってきたそうだ
でもそれって、
本当は矢口さんがひとみさんを苦しめているんじゃないかって気付いて
ずっと恋人でいて欲しいって言われても・・・・
自信がもてなくなってしまって
真希さんから色々励まされて、一度は元気が出たけど、
次の日からちゃんと電話してくれるひとみさんの声が、いつもと違って聞こえて
優しい事を言われる程、
なんだかつらくなってしまう自分がよく解らなくなってしまった
家族だけで住んでいたときには考えもしなかった事だから・・・・
- 679 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:34
- いつのまにか矢口さんは色んな事を理解して・・・・・
だからこそ色々悩んでしまった
それにきっとまだ自分が特殊な環境で育ったという事に
コンプレックスが残ってるんですね
だけど・・・・それじゃ誰とでも同じでしょ
「矢口さん・・・・・矢口さんはひとみさんを信じてないんですね」
えっという顔をして涙に濡れた顔を向ける
「別れるにしても、ちゃんと自分の気持ちを言って、
ひとみさんの気持ちを聞いてからじゃないと相手も自分も傷つくだけですよ」
そう言われて、しゅんと俯く
それを構わず
「矢口さんの事を誰よりも好きなのはひとみさんだとどうして信じてあげないんです?
そんなに素敵だと思ってるひとみさんが好きな自分を・・・
どうしてもっと好きになってあげないんですか」
じっと私の言葉に耳を傾けているのが解る
- 680 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:37
- 「いつまでもそんなだと・・・・・・
ほんとにひとみさんは他の誰かのものになっちゃいますよ」
泣きっつらに蜂・・・・・ごめんなさい矢口さん
俯いたままの矢口さんの口から、
小さく、やっぱりやだよぉ・・・そんなの・・・と聞こえた
「だったら、ずっと恋人でいて欲しいって言ってくれたひとみさんの事、
ちゃんと信じてあげましょう」
私って馬鹿だよね
恋敵のピンチを救うような事言って
こくりと頷いた矢口さんは、
私が仕事に行く迄の間に無言でマフラーを編んで、
ほとんど出来上がりという形迄になった
その間、始まりの端っこを私が処理してあげると、ほぼ出来上がりに近い形・・・・
それを自分に巻いてなんとなく納得いかなさそうな顔で首を傾けていた
「かわいいですよ、色もひとみさんっぽいし、
なんてったって心が篭ってますからきっと喜びます」
迷いに迷って選んだ濃い青・・・・・
ちょっと躊躇しながらうんっと頷くけど
「でも・・・よっすぃ怒らせちゃったし」
ん〜・・・綺麗に袋になおしている矢口さんを見ながら唸る
- 681 名前:第三章 投稿日:2006/01/12(木) 23:39
- 「じゃあ、店に一緒に行きます?」
久しぶりに皆も会いたいだろうし、
まぁ紗耶香さんや舞さん等の主力はいないだろうけど
矢口さんは首を振った
「余計怒られそうな気がするから・・・・寮に帰るね」
そうかな・・・・・
今、多分ひとみさん後悔してるはず・・・・・・
それとも一人で家で泣いちゃいたい?
ん〜、そろそろ仕事に行く時間、
矢口さんはしょんぼりと帰宅する準備をした
「三好ちゃん、色々ありがとう、また甘えにきていい?」
甘えてくれてたんだ・・・・と、少し嬉しい
「もちろん、あ、そっちの端っこ迄出来たらいつでもいいので来て下さい、
それと矢口さんは文句なくひとみさんの恋人ですから、それ忘れちゃだめですよ」
照れくさそうに頭を傾けて髪をいじると小さく頷いた
さあ・・・・・今度はひとみさん
・・・・どうしてくれようか
こんな風に、恋敵のフォローをしまくってる私・・・・・
でもなんだかすがすがしい
なんだか、昔のもどかしい恋愛をしているかわいらしい二人に
本当にうまくいって欲しいから
- 682 名前:*** 投稿日:2006/01/12(木) 23:39
- 今日はこのへんで
- 683 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:39
- 苛付く気持ちで店に行く
もしかしたら家に駆け込んで来るかもしれない
という期待もみごとに裏切られ・・・絵梨香さんがいたという事は、
一緒に店に連れてきてくれてるかもしれないという願いも敵わなかった
迎えてくれたのは、絵梨香さんの刺す様な視線
「何ですか?」
思わず控え室で睨むと、他のホストがそのウチの声を聞いてから
「クリスマスイブにここにいるからって機嫌悪いのか?」
と、茶々が入り余計に苛立たせる
ここ最近のウチの変化で、今迄ウチより目立たなかった先輩ホスト達が
落ちぶれていったウチに少し今迄の鬱憤を晴らすような事をちくちくと言い出してた頃だった
そんなに先輩達を見下してたつもりはなかったんだけど、
矢口さんという大切にしたい人が出来てからのホスト吉澤は、
はっきり言って普通のホストでしかない
- 684 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:41
- それを見て先輩達がここぞとばかりに今迄の悔しさを晴らすのも解るけど、
そこで何も思わずにいわれたのは、矢口さんの存在
毎日電話でしか話せないもどかしい関係でも、
週末には自分に向かってたかたかと走って来るかわいいあの姿があったから
クリスマスイブの店は特別仕様
来てくれるお客様全員に楽しんで帰ってもらわないといけないと
店の中をクリスマスにして盛り上げる
毎年、この空間にいなかったウチは、
盛り上がりすぎな店内でそのテンションについていけないと、
控え室に戻る事も多かった
もう朝も近い頃、異様な盛り上がりの店内は、
ウチが抜けても解らない位で、
電話を見つめて矢口さんに電話しようかどう悩む私には、
店内の喧騒が少し鬱陶しいと感じた
ポツンと一人控え室に佇む私の所に、
一瞬ドアの開き店内の音がより大きく響くと絵梨香さんが入って来た
再び閉じられて少し小さくなった店内の音だけが響く時間が過ぎていく
「私・・・矢口さんの事好きでした」
睨み合ってた時間を崩したのは絵梨香さん
知ってるよ、そんなのと無視するように再び携帯を見つめた
- 685 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:43
- 「知ってますか?」
はん?何を?
「いっつも矢口さんがひとみさんの事ばかり考えてるの」
そりゃ・・・・矢口さんはウチが好きだからね
ウチだってそうだし
「当然・・・ですか・・・・じゃあその考えてる事が
いつも楽しい事ばっかりじゃないって事は?」
店の喧騒がうっすらと響く中、ウチはいつもしているチョーカーを触り、
携帯をポケットにしまった
「何か言ってました?矢口さん」
心を許してる絵梨香さんには・・・
「別れようかなって言ってましたよ」
「えっ」
それだけは考えられなかった自分は、本気で驚く
- 686 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:47
- にやりと笑った絵梨香さんに、はめられたと苛付く
なんだ・・・
そんな事矢口さんが言うはずはない・・・
なんだかんだ言っても・・・
抱かせてくれなくても矢口さんにはウチしかいない・・・はず
「やっと私の方を向いてもらえる時がやって来ました」
昔はその気持ちを知ってても言えなかった絵梨香さんに堂々と宣言される程、
ウチは落ちぶれてしまったって事に苦笑する
「・・・・まぁ頑張って下さい」
言い争う気力が今ないので、立ち上がってフロアに戻ろうと絵梨香さんに近づく
だいたい・・・・矢口さんがウチ以外の人を好きになるはずもないし
「知ってますか?」
ドア近くにいる絵梨香さんの横をすり抜けようとした時に睨みつけられた
で?だから何を?
「ひとみさんが沢山もらった誕生日プレゼントを切ない目で見てた事」
ウチの誕生日プレゼント?
「高そうな奴がぜんっぜん大切にされてない感じでクローゼットに入ってましたけど、
それを見てどれだけ矢口さんが傷ついたか知ってますか?」
いつ?・・・・・
クローゼット・・・・・
確かにあるけど・・・・・・
あ、昔・・・・・クリーニングを出してもらった時?
- 687 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:49
- 「せっかく自分で稼いだお金全部はたいて感謝の気持ちを伝えたいって
一生懸命似合うアクセサリーを選んで、
もしかしたらそのクローゼットに同じように詰め込まれて
しまうかもしれないって考えてしまった時の矢口さんの不安や怖さを知ってますか?」
・・・・・知らないよ・・・・そんなの
「藤本さんの店で見つけたそのチョーカーと同じデザインの指輪をつけたら、
ひとみさんの恋人に怒られるんじゃないかって怯えてたのを知ってますか?」
・・・・・・・・
怒りに満ちた絵梨香さんの目がすぐそばにある
「じゃあ・・・・・今日ひとみさんの部屋に行ったら・・・・
また女の人がいたらどうしようって怖くなってるのは?」
えっ・・・と心臓が止まった・・・・・
ウチがしてしまった過ちは、矢口さんにどう理解されたのか解らなかったのに、
その現実を突きつけられた
そして
「別れた方があなたの為だと言ってたのは本当ですよ」
- 688 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:50
- それから何も言わなくなった絵梨香さんは
「最低です」
きつく睨んで一言言って先に去って行った
視線の先のごみ箱を見ながら笑う
「それは知ってるよ・・・・十分に」
あの日、仲直り出来たと思ってるのは自分だけだった
確かにあの日以前のような、
屈託のなさは影を潜めてしまっていたけど、
時期に元に戻ってくれるとふんでいた
だけど・・・・もうだめかもしれないと思ってしまった
- 689 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:50
-
- 690 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:52
- どうしてこの人がここにいるんだろう
今日はクリスマスイブなのに
アジトでいつも休みになると食事を作ってる瑠依さんと、
千里さんと私・・・・・
いつもは後、二・三人位暇な人がいて一緒に作るんだけど、
クリスマスイブだからか見栄なのか他の人はほとんどデート・・・・
千里さんもいないし・・・・・
でも瑠依さんもいるとは思わなかったし・・・・・
それより何より・・・・・矢口さんがここにいるのがめちゃくちゃ不思議
いつも休日になると、朝からお迎えが来て、
あのかっこいい彼女さんが大事そうに持って帰って行くのに
何故そのらぶらぶな矢口さんが、クリスマスイブという日をここで過ごしているのか
「それ、どこで使うの?」
私の持ってる子エビを見て矢口さんが微笑む
「あ、カルシウム取ろうと思って餃子の中に入れてみようかなって」
瑠依さんは、どうやら棒棒鶏を作ろうとしてたみたいだから、
私も中華にしようと餃子を普通じゃない感じにしたかった
おいらも作ると明るく私に言うけれど、
こんなとこにいていいのかなってほんとに思う
- 691 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:54
- 平日はみんなで相談してメニューを決めてるし、
日ごろの勉強の成果を見せないといけないから、
栄養素やカロリーを計算して食べたい物を食べれる訳ではなかった
だから休日の居残り組みは、自分の食べたい物を作る事にしてる
だいたいいつもいる瑠依さんが作るものに合わせたり、
本当に自分の食べたかった物を作ったりするけど、今日は合わせてみた
私は餃子と中華スープ・・・・
だいたい瑠依さんは私と少し交換してくれたりするし
あんな所を見たり、いつもは怖そうにしてるけど、
毎週一緒に食事を作るから、結構優しい人だという事に気付いた
矢口さんは私達が中華だからエビチリを作ろうとしてるみたい
「クリスマスイブに中華って変ですよね」
私が言うと二人は笑う
「まぁな・・・・俺はひねくれものだからさ・・・・
でも何で矢口は今日ここにいるんだよ、あいつの所には行かなくていいのか?」
「あ〜、うん、仕事だし・・・・
寂しいから寮の方がいいかなって・・・・紺ちゃんいるし」
そっか・・・・吉澤さんはホストだもんね、
夜に働いてる人の彼女には少し寂しいのか
せっかくの土曜日のイブだけど
- 692 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:56
- 私達はそれなりに授業で色々実習して、
そこそこ何でも作れるようになっていたので調理も早い
すぐに出来上がると、三人で出来た物を交換して、
ご飯をよそっていただきますをする
「瑠依さんのおいしい、これ何が入ってるんですか?」
一般的な作り方に、一工夫加えるのが瑠依さん・・・・
だいたい一口食べるとそう聞いてしまう
言葉すくなに返事してくれて、私の餃子やスープにも批評してくれる
矢口さんはだいたい皆の作った奴をおいしいおいしいと食べるもんだから、
みんながあてにしていない
今日も、おいしいね〜と笑ってくれる・・・・
でもその笑顔に嘘はないので、いつも嬉しくなる
やっぱり食べるのが大好きな私は、この瞬間が一番幸せ
「どうして紺ちゃんは家に帰らないの?」
突然矢口さんが聞いて来る
今迄、後藤さんも矢口さんも、そのことに触れて来る事はなかったのに
- 693 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:57
- すまなそうに聞いて来るから、くすっと笑って
「家には誰もいませんから」
「どうして?」
「家族はいなくなりましたから・・・・だから帰りません」
「そっか・・・・ごめんね、変な事聞いて」
「いえ、いいんです」
悪いと思ったのか、違う話を振ってきた
「紺ちゃんは将来どんな所で働きたいの?」
最近は卒業も近いという事で、そんな話題になる事が多い
すでにバイトでみんな色んなレストラン等に修行に出てるから、
それなりにどんなシェフになりたいかなんて具体的なビジョンも出来てるみたいだし
裕ちゃんさんが、色んな就職先を探してくれるから、自然とそんな話題になる
「私は・・・店を・・・・開こうと思ってます」
「「店?」」
瑠依さんと矢口さんの声がダブる
- 694 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 00:59
- そう・・・・
笑われそうで今迄誰にも言えなかったけど・・・・・
私にはレストラン・・・というより食堂を開いていたおばあちゃんがいた
私の両親もそこで働いてたんだけど、
私が小さい時にお父さんが事故で死んで、しばらくしたらあの男がやって来た
お母さんに優しく取り入って近づいて来たあの男・・・・・
始めは優しくて、おばあちゃんも私も再婚に反対しなかったんだけど、
一年たって再婚した途端に、おばあちゃんの店を狙ってるんだと二人で気付いた
お母さんだけはそれに気付かずに、新しいお父さんを信じていたけど
おばあちゃんの店は、駅の近くにあってしかも高い土地・・・・
売ればかなりの値段になるみたい
おばあちゃんの作るハヤシライスが大好きで、メンチカツが大好きで・・・
その目玉商品が名物のそのおばあちゃんの店は
細々と常連さんや近所の人に愛されたお店だった
今時こんな店ははやらないと言って、
お母さんをたきつけてレストランにしようともちかけた新しい父親は、
反対するおばあちゃんをどうにかしようと私をとりこもうとした
絶対に嫌だと断り続ける私を、
その新しい父親は疎ましいと思ったのか腹をたてたのか、
私の体を目当てに襲って来た
必死で逃げた私は、おばあちゃんの所に逃げ込んで、
私の洋服の乱れから事情を察してくれて父親を追い出した
それを不服に思ったお母さんは、出てった父親を探して、その後お酒に走った
私が中学二年の時だった
- 695 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:01
- おばあちゃんの働いた食堂の売上は、
お母さんのお酒に消えて行き、母さんは部屋に男を連れ込むようになった
私は毎晩、お母さんのあの時の声を聞かないように布団にもぐって過ごした
そして、お母さんが病気で死んで・・・・
おばあちゃんはお母さんに悪い事をしたと毎日ふさぎこんでしまって・・・・
私がこの道を選んだのは、
そんな時も、私が作ったご飯をおいしいと笑ってくれるおばあちゃんがいて・・・・・
どんなにつらい時にもおいしい物を食べればちょっと幸せを感じれる事を知ったから
一人で働くようになったおばあちゃんを手伝う為に、高校には行かなかった
なんとか細々と二人で暮らしていた食堂も、
ついにこの前おばあちゃんが死んでしまってその幕を降ろした
前のお父さんの生命保険と、おばあちゃんの生命保険・・・・
それに私の為におばあちゃんが一生懸命溜めてくれたお金で、
なんとか土地と店の相続税を払う事が出来て
だから私はそこで店を再開する事を夢に今迄生きて来た
- 696 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:03
- 店を開く為には、資格や免許が必要だから・・・・
と気付いた時には、学校に行くお金もなく、
学歴も無い事から絶望感にさいなまれてる時に、
近所のおばあちゃんにこの学校を教えて貰った
すがるような気持ちで裕ちゃんさんにお願いしたら、
あっさりいいよと言われた
今は寂しくシャッターを下ろしているあの家を、
元のように近所の人達が集う店にしたいと思ってる
時間はかかると思うけど、
それまではあの土地と店を誰かに取られないように頑張らないといけないから、
今の学校のバイトの他に、土日の昼間はもう一つバイト先を見つけた
この学校の授業料は、学校のバイトで強制返却される分と
自分にくれる分も出来るだけ多く返金していきたい
だから・・・・恋なんてしてる暇は私には無い
時々おばあちゃんのメンチカツを思い出して、
自分で作ってみるけど・・・・・おばあちゃんのあの味はなかなか出来ない
こんな事、矢口さんにはとうてい話す事は出来ないけどと、
少し回想に浸っていたら
「すごいねぇ・・・・紺ちゃん」
キラキラした目で矢口さんがこっちを見てた
- 697 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:04
- 「え?何がですか?」
「だって、おいら自分で店を持ちたいなんて考えた事ないもん・・・・
お金だってないし・・・・なんか難しそうだし」
授業で苦手でしたね、そういう経営学
「多かれ少なかれ、シェフをする人にとって自分の店を持つのは夢だと思うぜ、
俺だってそうだし」
「へぇ〜っ、そっかぁ・・・・おいらは、どこで働いても、
自分の作った食べものをおいしいって言ってくれる場所があればそれでいい」
「ふっ矢口らしいな」
瑠依さんは、矢口さんを見るときすごく優しい目をしてる・・・・
本人が気付いてるかどうかは知らないけど
「瑠依さんはどうしてこの道を選んだんです?」
つい聞いてしまった
「まぁ・・・・・矢口と同じようなもんだ・・・・・
俺にはこんなこと位しかとりえがなかったから」
ずっと一人で暮らしてたし・・・・・と、少し寂しそう
- 698 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:06
- 「両親はいないんですか?」
思い切って聞いてみる・・・・
いつもは何でか聞けないけど、矢口さんと三人だから何となく聞けた
「いないよ、そんなん・・・・顔も知らないし」
少なくとも、この寮に入ってる人達はそんな訳有りの人達ばかり
二年制の方はめちゃくちゃお坊ちゃまっぼい人ばかりだけど
とりあえず、教師の人達が一流の人達ばかりだから、
この学校は人気があるのだそうだ
寮生を教える教師は、本物のやくざさんみたいな人達ばっかりだけど・・・
それでも技術はすごい物を持っている人達ばかり
「この三人はみんな親がいないんだね」
明るく矢口さんは言う
矢口さんのお父さんはどうやらもう一生世間に出てくる事はないみたい・・・・
そのうち会いに行きたいと笑ってたけど
「だな・・・・まぁ・・・・そんなの関係ないけどな、俺達の目標にはさ」
- 699 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:08
- そう・・・・・
自分の力のみで生きていこうとする人達が集まってる
口が悪かったり、少し意地悪だったりするけど、
なんだかんだ言って私達は皆で力をあわせる事が心地いい事を知ってしまった
私達は仲間だって思えてきてるし、これから色んな事があっても、
みんなで色々相談したり出来そうで良かったなぁと思う
瑠依さんの所には、時々騒音を響かせる人達がやって来て、
その度に瑠依さんは怒って帰らせるというのを何度か見た
窓を開けてその声を聞いてると、何やら戻って来てという声
どうやら瑠依さんがいないと、あの集団がまとまらないって
すごい人なんだぁ・・・・と、思うのに、昼のバイトの時には、
町のちっちゃな食堂で老夫婦の下で働いている
ちょっと聞いた所によると、そこの老夫婦は、
いつもこの学園から来るバイトの人に経営やら仕込みやら
すべて惜しげもなく教えてくれるみたい
腕に自信のある人達には物足りないバイト先だけど、
瑠依さんはそんな老夫婦にかなり優しくしてて、
今では瑠依さんがいないと昼は回らない位だそうだ
そのギャップが瑠依さんがとても素敵な人だというのを印象づけた
- 700 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:10
- 皆のバイト先は、町で困った人達の為に安くで雇える即戦力をという事で、
この学園の寮生は毎年かなり大歓迎を受ける
一部のホテルや、高級料亭、レストランの下働きに行ける人はラッキーだけど、
瑠依さんみたく街の小さな食堂や、私達みたいに小学校の給食センターとかは
かなり技術的に差が出る。
だけど、その時に培われる能力という点でいえばどちらが得かは解らない・・・
それにそれぞれ学んだ事は私達の食事を作る時に色々伝授されたりするし
二年制の人達に比べて、腕は私達の方が上なんじゃないだろうかとも思えた
「瑠依の目標って何?」
矢口さんが聞くと、ちょっと恥ずかしそうに
「誰もがうまいって言えるような店かな・・・・・だから、
今バイトに行ってる富田食堂みたいな店でもいい、
そこを惚れた女と一緒に出来れば最高だけどな」
熱い視線が矢口さんに注がれているのに、矢口さんは気付かないで、
へぇ〜っ素敵だね〜って微笑んでる
「まだまだ先の話だけどな、修行もまだまだ必要だし、
一度は有名日本料理店みたいなとこにも勤めてみたいしな」
「そうですねぇ、ここまで日本料理とか本格的に習ったら、
やっぱそれを一度は生かしてみたいですね」
瑠依さんは優しく微笑んでくれた
- 701 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:11
- 「まぁ、今言った事は、誰にも言うなよ、
皆にはそんな普通っぽい事を夢見てるなんて思われたくないからさ」
「どうしてです?いいじゃないですか、みんなと同じような夢持っても」
「うんうん・・・素敵だよ、瑠依」
「馬鹿っ、絶対しゃべんなよ、もし皆にバレたらひでぇ目に合わせるからな」
そう言いながらも真っ赤になって食べ終わった食器を流しに持っていった
「照れてるね」
「はい、かわいい所あるんですね」
「うっせぇっ」
矢口さんとにししと笑いあった
こんなクリスマスイブもいいかもしれない・・・・・
でも、その後現実に戻るように矢口さんはちょっと切ない笑顔で片付けを始めた
- 702 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:13
- 三人でアジトから部屋に戻る道で聞いてみる
「今からでも吉澤さんの所に行ったらどうですか?」
「なんなら送ろうか?バイクで」
瑠依さんも言ってくれてる・・・・矢口さんの事好きな癖に
「ううん、まだマフラーが編み終わらないから・・・・今から仕上げる」
「そっか、プレゼントマフラーなんですね、すごいなぁ」
「でもね、すっごいへたくそで・・・・
でも他のプレゼント買えるようなお金もないし・・・・・
きっとよっすぃ沢山素敵なのもらってるし」
ホストですもんね・・・・お金持ちですね
- 703 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 01:14
- 「いいじゃんか、好きな奴が一生懸命作ったのは
たとえ結果がどうでも嬉しいんじゃね〜のか?」
「ほんと?」
つつっと瑠依さんに寄って見上げると、照れた感じで頷いていた
「じゃあ・・・頑張ろっ」
小さく矢口さんは呟いた
瑠依さんが優しい顔で矢口さんの頭を撫でてあげてた
言わないつもりかな・・・瑠依さんは
矢口さんはきっと気付かないよ、かなり鈍そうだし・・・・・
まぁ・・・・吉澤さんの気持ちも今いち解ってないみたいだし・・・・
きっと大変だと思う
こんなに純粋でかわいらしい人はなかなかいないだろうし・・・・・
瑠依さんが好きになる気持ちも解るかな
吉澤さんも素敵だけど、やっぱり女の人だし・・・・・
でも矢口さん・・・・
ほんとに吉澤さんの事になると目の色が変わるしなぁ・・・・・
もう大好きってのが体から溢れてる感じだから、瑠依さんも言える訳ないよね
- 704 名前:*** 投稿日:2006/01/14(土) 01:15
- 今日はここ迄
- 705 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 14:38
- クリスマスイブが開けた朝・・・・
私は勇気をふりしぼって電話をかける
もちろん相手は矢口さん
昨日、少し怒った感じで切ってしまった電話の後だし・・・・
絵梨香さんの一言が胸に刺さってて、うまく話せそうにない
「よっすぃ?」
すぐに出てくれたから、きっと待っててくれたんだと少し嬉しい・・・
でもちょっと戸惑いの声
「はい・・・・」
いきなり何て言えばいいのか解らない
「昨日は・・・ごめんね」
また先に謝られてしまう
「いえ・・・・こちらこそ・・・・すみませんでした・・・つい」
しかも何を言おうとするのか自分でも解らない・・・つい・・・何?
「・・・・・今日・・・・行ってもいい?」
来てくれるんだ
「もちろんです・・・・じゃあ・・・・今から迎えに行きますね」
「うん・・・・気をつけてね」
- 706 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 14:43
- 仕事終わりでお客さんとコーヒーを飲んだ後で、
車に乗ったままだったから、すぐに出かける
いつものように門の前に来たら、
矢口さんは部屋の前で車が来るのを待ってて、
車が見えると手を振って走って来てくれた
車から降りた私に、飛びついて来て
「ごめんねっ、よっすい・・・おいら・・・おいらがっ」
何を言いたいのか解らないけど、
とにかくいきなりの別れはなさそうだったので、早く連れて帰ろう
「とにかく、乗って下さい、寒いし、ね」
「うん」
唇を噛み締めた矢口さんはそれから何も言わなかった
紙袋を持ってる手にぎゅっと力を込めて助手席に佇んでいる
とりあえず言わないといけない・・・・
まずこれを・・・・でもなかなか言えず、
とうとうマンションに着いてしまった
「あの・・・・ウチは別れたくないですよ」
ビクッとしてこっちを見た
そして、ウチの本心を探るような目でちらちらとこっちを見てる
- 707 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 14:53
- 駐車場についてから車をバックで入れるとエンジンを止めて言った
「ウチは矢口さんが好きですから」
そう・・・・・
伝えたい事はこれだけ・・・・・
矢口さんが怖がってる事を知っても、
ウチの知らない所で何か傷ついてる事があっても・・・・
ウチがこう思えば・・・・きっと笑ってくれる
じっと矢口さんを見たら、ゆっくりと矢口さんは微笑んで頷いてくれた
「おいらも」
ほら・・・・
もうこれでわだかまりは無くなった
いくら一人でぐちぐち考えても・・・・
こうやって会って・・・・好きだって伝えるだけで幸せになれる
だから矢口さんを自分から離したくない・・・・・うん
これでいい
- 708 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 14:55
- いつものように、
ウチはシャワー浴びて来ますと浴室に入る
そして出たらもう、おいしいご飯が出来てて、
テーブルで矢口さんがテレビを見て笑ってるはず
深呼吸して、バスタオルを被ってドアから出ると、
本当に現実にそれがあった
「昨日紺ちゃん達と中華作っておいしかったから
エビチリと餃子と棒棒鶏持って来たの」
と、こっちを向いて笑ってる
うん・・・・
これでいい、これでこそいつもの私達
「へぇ〜っ、どれどれ、でもクリスマスイブに中華ってのもすごいですね」
「うん、瑠依が食べたかったみたい、だから紺ちゃんも合わせたんだって」
あいつかぁ・・・・嫌な名前を聞いてしまった
だけど何もないから矢口さんはこうやって話してくれるんだろうし
- 709 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 14:56
- 「ん、おいしい」
ほかほかごはんにこれはかなりうまい
「ほんと、上手になりましたねぇ」
「うん、魚だって裁けるし、かつらむきだって出来るんだよ」
いい調子、前の矢口さんに近い感覚だ
この調子で、昨日思った事を言ってみよう
「昨日伝えようと思ってたんですけど・・・・・」
そう言うと、少し怯えた表情をする
「うん・・・何?」
ごくりと生唾を飲んでる
「将来矢口さんと一緒に・・・・店を開けたらって考えてます」
「・・・・・・・え?」
パチパチと目を瞬かせて口を開けている
- 710 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 14:58
- 「ウチがホストなんてやってるから矢口さんを傷つけるし、
でも、自分には何も出来る事はありません・・・・
だから、矢口さんが作るおいしいご飯を、他の人にも食べさせてあげたらって
その為の手伝いを私が出来ればって思ってます」
「・・・だっ・・・・て」
「難しい問題は色々あると思いますけど・・・・
二人で協力してその目標に向かうってのは、
悪くないと思うんですけど・・・・だめですか?」
これでもかと首を横に振ってる
「だっっっダメじゃないっ・・・・」
箸を握ってる私に跳びついて来た
「あっ、危ないっす・・・箸・箸」
無言でぎゅうううっと抱きついていた
そして耳元で
「嬉しい」
と囁かれると、自分も小さな体をそっと抱き寄せた
- 711 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 14:59
- 「昨日・・・・一緒にレストランに食事に行こうと思って予約してたんですよ」
優しく言ってみる
「ごめんなさい」
「ううん・・いいんです・・・」
そしたら私の腕を振り解いてたたっと、
入り口辺りに置いてた紙袋を取りに行って、中から恥ずかしそうに取り出した
「これがね・・・・どうしても昨日出来上がらなかったの」
それは濃い青の手編みのマフラー
「端っこもまだ三好ちゃんにやってもらってないし・・・
未完成だけど・・・・どうしても昨日迄に終わらなかったから」
ああ・・・・そういう事だったんだ
- 712 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:00
- そうだよ・・・・
矢口さんはこういう人だ・・・・・
だから私はそばにいてほしくて・・・・・
別にエッチなんてしてもしなくてもいいと思えた
好きすぎて・・・・
体が欲しいと思ってしまって見失いそうになってたけど
「ありがとうございます・・・すっごく嬉しいです・・・ほんと・・・・」
「あ・・・あんまりね・・・上手じゃないから恥ずかしいんだけど」
私の隣に腰掛けて俯きながら話す
「すごく・・・あったかいですよ、嬉しいです」
「へへへ」
肩をすぼめて照れてる仕草がかわいくて、キスしたくて溜まらない
いやいや・・・だめだめ、すぐにそんな風に考えちゃ
今えびチリとか食べてるし・・・・うん、だめ
今はこのおいしいご飯を食べる・・・・そう、それ
- 713 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:02
- 確かにちょっと不揃いの感じのするマフラーを巻いてご飯の続きを再開
暖房が効き始めたとはいえ、まだ寒いこの部屋で私は温もりに包まれた
矢口さんも遅れて朝食を食べ始める
朝からえびちりとか大丈夫?とか思うけど、にこにこ食べてるし大丈夫みたい
矢口さんが食事の片付けをしている間に、
歯磨きとか寝る準備をしてビデオチェックしてると、うとうとと眠くなってくる
セールストークを封印してから、
余計雑誌やテレビのチェックはより一層きちんとして、
最近はニュースや経済にも少し頭を使わないと話題を探すのが大変だからね
ちゃんとしないと・・・・
でもああ・・・眠くなって来た・・・・
ベッドに行ってまた矢口さんとしばしのお別れ・・・
と思ったけど、昨日今日の心労からか、そのまま眠りそう
きっと私が寝てる間にまた矢口さんは一人でこの部屋を片付けたり、
洗濯してくれたり・・・・そんな事いいのに・・・・
私の隣にいてくれればと思ったり
ちょろちょろと動き回るのを想像しながら、そのまま意識を失いそう
- 714 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:04
- ああ・・・・今日までがクリスマスなのに・・・・・
まぁいいか、今日は休みだし、起きたらどこか食事にでも連れて行ってあげよう
よっすぃ〜、ここで寝ちゃうと風邪ひいちゃうよ
ぼんやりとした意識の中に聞こえてる
「ん・・・・」
返事のようなものをした気はした
音も色も無い世界で、ふわっと体が温かくなった気がする
矢口さんが布団をかけてくれたのかもしれない
ああ・・・・気持ちいい
一人じゃないってやっぱりいいかも
ううん、矢口さんだと思うからいいのかも
薄れ行く意識の中、唇に暖かな感触がしたような気がした
- 715 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:05
- すっかり眠ってしまったと解り、起きた時には昼過ぎ
そして、私がもたれているソファでやっぱり布団がかけられて・・・・
でもなんだか体にのしかかってくる心地いい重さ
視線の先には矢口さんが私にもたれて眠っていた
一緒の布団に入って
その顔は、昔見たような安心しきった顔
変わらずに私の事を思ってくれているんだって思えた
矢口さんがふっと目を開けて行くと私と目が合う
「あっ・・・・ごめんなさい」
挨拶より先に謝られる
「ふふ・・・・何で謝ってるんです?」
「・・・・・・・ここで寝ちゃって」
ぎゅっと抱き寄せた
- 716 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:07
- 「おはようございます」
腕の中の戸惑った顔に言うと、照れた顔で笑ってくれた
「おはよう」
自然に顔を近づけ口付けると、赤くなる
私の背中に手を回して体を預けてくるからかわいくて仕方がない
矢口さんの髪の毛にキスして、
その小さな体の感触を確かめるように背中を撫でる
「早く帰ってこないかなぁ・・・・待ち遠しいです・・・・矢口さんが卒業するの」
「ほんと?」
「ほんとですって・・・・まじで毎日寂しいですから・・・・
こうやって目が覚めたら矢口さんがいる毎日であって欲しいです」
照れた顔を私の胸元に埋めて回された手に力が入った
「うん・・・・・おいらも」
「前はそれが当たり前だったのに・・・・でも、
矢口さんが成長する為ですもんね・・・もう少し我慢しないと」
人よりめいっぱい頑張ってる矢口さんに
私の欲望と我侭の為に苦しんで欲しくはない
- 717 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:08
- 色々考えていると、小さく声が聞こえた
「好き」
いきなりだった
「おいらね・・・よっすぃが・・・・よっすぃの事がものすごく好きなの」
追い詰められたような表情でそう呟く
絵梨香さんが言ってた
いつも楽しい事ばかり考えてくれてる訳じゃないと
だから矢口さんはいつも私が離れていく事に不安を覚えているんだという事
そして私に触れられるのを怖いと思ってしまってる
私が情けないばっかりに不安にさせて
- 718 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:10
- 「クリスマス」
私の言葉に、切羽詰った表情でじっと私を見てた矢口さんがきょとんとする
「出かける準備して・・・・昨日出来なかったクリスマスを、
もう一度やり直しましょう」
にこおっと矢口さんが嬉しそうな顔をして勢い良く頷く
私達は、二人で手を繋いで町に買い物に出かける
お互いに洋服をコーディネートしあったり、クレープを食べたり
こんな風にスーパーの買い物や寮の行き来以外二人きりで出かけたのは初めてで・・・・
それは、今迄に経験した事がない位浮かれた気分で過ごせた
町はクリスマスから徐々に正月色に変わってて少し滑稽だ・・・・
それにイブと違って今日はどこでも開いてるはず、
だからどこに食事に行こうかと尋ねると
もじもじとしたいつもの様子で上目使いに口を開く
「・・・じゃあね・・・・行ってみたい店があるの」
戸惑いながら言う店は、かなり高いと有名な日本料理の店
料理を勉強する矢口さん達にとって、憧れのような店らしい
しかし、お金が高いという事で、
矢口さんはやっぱいい、と別の場所を考え出す
さすがに料理の学校に行ってるだけあって、
色んなおいしい店の情報はすごいみたい
「大丈夫です、そこ行きましょう」
すぐに電話番号を調べて予約を入れると、
その時間になる迄またショッピングを楽しむ
- 719 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:12
- ずっと小さな手を握って
はぐれないように
そして時々顔を見ては微笑み会って
矢口さんがくれたマフラーは、
私の体をしっかりと温めてくれて、
心は矢口さんが楽しそうにしている顔で温かい
ウチはポケットにそっとクリスマスプレゼントに渡そうと思ってたピアスを忍ばせていた
矢口さんの耳にはまだ穴が開いてないけど・・・・
自分の体に傷つける事を嫌がらなければ、
これから自分を綺麗に見せる為の一つのアイテムにしてもらいたいって願い
どうやら指輪は、調理師にはなかなかする事の出来ないものらしいので、
あの指輪だってウチに会う時にする位だという
でも普通の生活を手に入れた矢口さんには、
もっとおしゃれや楽しい事を知って欲しいと思ってる
雑貨屋さんで、色々なものを手にしては、
ウチにかわいいと言って見せる姿がとてもかわいくて、
全部買ってあげたくなってしまう
買いましょうかというと、ううん、いいと言って笑う
色んなのを見ながら、想像するのが楽しいだけだと
その顔は決して無理しているようには見えず、本当に楽しそうだった
- 720 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:14
- そんな姿を見て、私はまた反省する
ただ、好きだからその体に触れたい・・・・
その体を自分だけのものにしたいという自分のエゴを
ゆっくりゆっくり
矢口さんが色んな事を上手に出来るように
そして色んなことを理解し
それでも私を好きだと言ってくれる迄
・・・・・私は矢口さんに触れてはいけない
心底そう思った
そして、矢口さんを不安にさせるような事がないように・・・・・
私はちゃんと口に出して、色々な事を伝えていかないといけない
今迄私がしてきた恋愛のようなものと同じでは、
きっと矢口さんは傷ついてしまうだろうから
ゲームのように相手の思ってる事を読んで、
勝負するみたいに相手の心をくすぐってはダメだという事
そんな事をした経験はないから・・・・
いつだって相手と勝負するみたく接してばかりで、やり方は解らないけど
私も一緒にゆっくりゆっくりやり方を探そう
こうやって手を繋いで
- 721 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:16
- 時間になると、車でその店に向かった
日本料理の店というか・・・・
そこはテレビで政治家が談合に使いそうな料亭だった
ウチらが余りに若いし、カジュアルな格好をしている為に、
さりげなく大丈夫かどうか探りを入れられているのが解る
矢口さんが店構えに圧倒されて、
キョロキョロと周りを見ている間に女将さんに財布の中身を見せる
「大変失礼致しました、どうぞ、もう準備できております」
悪いけど、ウチの財布の中にはいつも十万は入ってる
いきなりだったから、こんな格好で来てしまったウチらが悪いと言われればそれまでだけど
部屋に通されてからも、私達を探るような視線を、
張り付いた笑顔で隠しているのが不愉快だと思ってしまった
高そうな机に、これでもかと広げられた数々の料理に、
矢口さんはひたすら目を輝かせた
- 722 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:17
- ごっつぁん達にも見せてあげたいなぁ・・・と呟く矢口さんに
「ここ、カメラとか無いですよね」
女将さんに聞くと
「買いに行かせましょうか?コンビニがすぐそこですので」
と、笑顔で言われた
矢口さんが、ウチにそんな事していいの?という視線を投げかけてくる
「お願いします・・・彼女、今料理の勉強中なんです」
そう言うと、
「そうですかぁ、ウチの料理はどこにも負けないと自負しておりますので、
楽しんで行って下さい、では買ってまいりますね」
おしぼりを渡すと飲み物を聞いてから部屋の障子を静かに閉めて行った
- 723 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:19
- 「わぁ、すごい、どうやったらこんな風にカット出来るんだろ」
きらきらした目で一通り料理を眺めると、
鞄から手帳を取り出して、色々書き出した
そんな所を見ると、本当に今あの学校で頑張ってるんだなって思えて、
しばらく必死に書いている矢口さんを眺めていた
やがて、先ほどの女将さんが失礼します
と汁物と頼んだお茶とカメラを持ってやって来る
そして、料理の事をあれこれ質問しては、メモに書き込んでいた
「すごく熱心なんですね、どちらで勉強を?」
「中澤料理専門学校です」
すると驚いたように女将さんは笑い
「そうなんですかぁ、ここの板前にもそこの卒業生が修行してます、
とても熱心に働いてくれてますよ」
その顔に、もう張り付いた笑顔はなかった
どうやら本物のお客だとわかったようだ
だけど失礼だよね・・・・まじで
- 724 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:20
- ごゆっくりと出てった女将さんを矢口さんはにこにこと見送った後は
嬉しそうにウチがインスタントカメラの袋を開けるのを見て驚いて
それからは、一つ一つの料理を写真をどうやって収めようかと熱中してる
「あっ・・・ごめん、よっすぃは先に食べてて、せっかくのお吸い物が冷めちゃう」
じゃあ、と先に箸をつけだすと、
それは切る時の速さが難しいとか、手を出す皿にコメントをつけてくれた
その顔がちょっと誇らしげで、輝いて見える
食べはじめると、うんうんと頷いて
こういう味かぁ、と言いながらメモに記している
ポケットにしまってあるピアスを渡すような雰囲気じゃないね
それからはなるだけ矢口さんの邪魔にならないように、静かに料理を食べた
でも、ウチにとっては、
矢口さんが作ってくれた料理の方が数倍美味しいと思えるのは、ただの贔屓目なんだろうか
- 725 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:23
- すっかり、食べ終わって、勘定をする為にトイレに行くと言って席を立った
さっきの女将さんが対応してくれて、
私の渡したお金のおつりをくれる時に
「先ほどは本当に失礼致しました、
こんな場所になかなかお客様のようなお若い方はいらっしゃいませんし、
色んな事件とかありますので私達も難しい所なんですが」
つい先日も、お金はあるからとウチで食事した若い方が
振り込め詐欺の一団だったと聞き
大変ショックを受けまして申し訳ありませんでしたと
そういう事だったのか・・・・・
よほどショックだったんだろう、
ここの料理を楽しみに来てくれる客がそんな人だった事が・・・・
その後、それでもお客様に先ほどのような失礼は許されませんねと笑っていた
「いえ・・・・急に決まった事で
こんな服装で来てしまった私達が悪いんです、気にしないで下さい」
「お連れの方、いい料理人になれますね、いい目をしておられましたから」
そう笑う顔は、本当に心のこもった優しい笑顔だった
「はい、私もそう思います」
あの学校の卒業生の方はみんなそういう目をしているんでしょうかね、
とてもいい学校なんでしょうねと言ってくれた
- 726 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:25
- 部屋に戻ると、どうやら矢口さんはごっちんと電話で話してるみたいだった
「あ、よっすぃ帰って来た、んじゃ写真出来たら見せるからね、バイバイ」
そんな姿を見ると、本当に普通の女性になったんだなぁ・・・と思った
「ごっちんですか?」
「うん、ここに連れて来てもらった事言ったら羨ましがられた」
かわい〜、自慢したかったんだ
「喜んでもらえて良かった、じゃあ帰りましょうか」
「うんっ」
女将さんと数人の仲居さんが深々と頭を下げてくれて、
矢口さんは恐縮したように私についてきて店を出た
駐車場の車に乗り込むと
「写真、すぐ現像してもらえる所にもって行きましょうか」
「そんな所あるの?うんっ、行くっ」
とっても嬉しそうな矢口さんを見れて満足だったから、
プレゼントを渡せなかった事もまぁいいかと思えた
- 727 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:28
- そこの近所の写真屋さんに持っていく、
小一時間で出来上がるという事で、
その辺でコーヒーでも飲みましょうと誘った
喫茶店に入って、注文を済ますと矢口さんが深々と頭を下げた
「よっすぃ本当にありがとう・・・・あんまり嬉しくて、
お礼言ってなかったね・・・・それに高かったんでしょ、おいらも払うよ」
バイト代も電話代や食材と後ほとんどは学費の返済にあてている矢口さんに、
そんなお金が無い事は百も承知だ
「いいんです、私からのクリスマスプレゼントと思ってもらえれば」
「だって・・・・おいらいっつもよっすぃに色んな事してもらってるし」
「良かったですよ、私は矢口さんが楽しそうな姿を見れて得したんですから」
ちょっと遠慮したような笑顔で見上げて水の入ったコップをいじってる
「寮の仲間もね・・・・みんな真剣にこれからの事考えたり、夢持ってたりするんだ・・・・
おいら・・・・みんなみたくお店持ったり、一流のお店で働きたいなんて思ったりしなかったし
だいたいおいらにはとうてい無理だなぁって思ってたら・・・
よっすぃがおいらと店を持ちたいって言ってくれて・・・・もう信じられなくって・・・・・
だからね・・いっつもおいらの嬉しい事してくれるよっすぃの為においらが出来る事・・・・
よっすぃにおいらがしてあげられる事があったら言ってほしいの」
その目は真剣で、本当に私の為に何かしたいって訴えかけていた
- 728 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:30
- 私は笑って一息つくと
「そばにいて下さい・・・・それだけでウチは嬉しいですから」
辛辣な表情で私を見ていた矢口さんが、唇を噛み締めて俯いた
「・・・・ありがとうよっすぃ」
呟いた後、コーヒーが運ばれてきて、矢口さんにはフルーツパフェがやってくる
矢口さんは食べたことがないパフェを一度食べてみたいと
はにかんで笑ったからそれを注文した・・・・へへっと恥ずかしそうに食べ出す
「今食べてお腹一杯だから食べきれないね、一緒に食べようよ」
恥ずかしがりやなのに、
私に向かってプルプルとクリームのついたいちごを差し出した
「はい、あ〜ん」
そう言う矢口さんの顔は真剣で、恥ずかしい事をしているという意識はない
少し周りの視線が気になるけど、
気にしないようにしながら口を開けてそのいちごを口に入れてもらった
「おいしいです」
ふふっと笑う矢口さんは幸せそうで、何よりかわいい
- 729 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:31
- 「次は何がいい?」
「矢口さんが食べきれなかったのだけいただきますから、好きなだけ食べて下さい」
にこっと笑って頷くと食べ始めた
「甘くておいしいね〜」と
一生懸命頬張る姿が、子供みたいで思わず微笑んでしまった
半分食べた所で少しペースダウンするので、もうお腹一杯なんだろうと
「良かったら、後は私に食べさせて下さい」
私もお腹一杯だったけど、矢口さんが食べ切れなかった分を全部食べた
それを矢口さんはにこにこして両手で頬杖して眺めていた
- 730 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:33
- たわいのない話しをしながら時間もたって
写真が出来たかもとお店に行って受け取ったら寮に送って行き、
一番大事な事を聞く
「お正月休みは戻ってこれるんでしょ」
「うん、29日には戻れると思う、多分課題が出るだろうから・・・
そうだ、あのね・・・・あの・・・・」
しゃべりだして思い出したのかいきなり言いづらそうに俯く
「いいですよ、紺野でしょ、連れて来て下さい、私はかまいませんから」
矢口さんの言いそうな事ならもう解る
そして、何も言わなくても言いたい事を察して貰った矢口さんは満面の笑みで頷いた
「すごいねぇ、よっすぃって超能力使える?」
「解りますよ、もう一年も一緒にいるんだから」
照れ臭そうに笑って写真を眺めていた
そう・・・・
運命のあの日から一年が過ぎて・・・・・
ウチはこんなに変わってしまった
- 731 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:34
- 寮についてしまったら、名残惜しそうに矢口さんが呟く
「楽しかったなぁ・・・ほんと、ありがと、よっすい」
「じゃあまた29日の朝、迎えに来ますね」
やんわりと照れくさそうに頷く
「うん・・・待ってる」
どうしようかな・・・・
キス・・・・したいけど・・・・
ちゃんと応えてくれるんだけど・・・・・
少し迷ってると、矢口さんは下を向いてちらちらと私を見ていた
「きょ・・・今日は」
車のドアを少し開けて言い出す
「あの・・・・・キス・・・してくれないの?」
暗いからあんまり解らないけど、ものすごく恥ずかしそうに言ったので
いつものように肩を抱き寄せてチュッとキスした
- 732 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:36
- 「じゃあ・・・・おやすみなさい」
至近距離でそう言ったら今度は矢口さんがキスして来た
しかも長く押し付けてくるだけのキス・・・・
ああ、キスの仕方が解らないんですね・・・・・
それよりウチとちゃんとキスしたいって思ってくれたんだと思って嬉しくて吸い付く
・・・ん・・・・チュ・・・・ん
このまま抱けたらと思わない訳じゃない・・・
だけど、怖いと思わせたまま無理に抱いても私達にいい事はない・・だから
キスする事には大分慣れてくれた矢口さんとのキスを十分に味わう
その小さな唇を堪能して唇を離すとトロンとした顔で矢口さんは私の顔を見た
恥ずかしげに笑って
「おやすみ」
と言って車から出た矢口さんの顔が、なんだかいつもより大人びて見えた
- 733 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:36
-
- 734 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:39
- 初めての美貴とのクリスマスを存分に楽しんだ後、寮に戻るか、
まだ美貴とイチャイチャしようか迷ってる時にやぐっつぁんから電話がかかってくる
どうやら日本料理で有名なみんなで行ってみたいと言っている店に
よしこが連れてってくれたらしい
うちらもいつか行こうとしてたけど、
クリスマスに日本料理ってのもね〜と、フレンチの店に行った
美貴がゴトーの為に、おいしいと評判の店を調べてくれたから
フランスで修行したシェフが作ったとあって、日本の人が作るより濃い目の味付け
確かな技術と経験が裏付ける納得の味だった
美貴は、あんまりよくわかんないけど、
ごっちんが作ってくれるのの方がおいしいって思うけどな・・・と嬉しい事を言ってくれる
昼間は、主に注文を受けたアクセを作るのを手伝う事が多くなった二人の時間
何より、楽しそうにああでもないこうでもないとデザインに悩んでる美貴に、
愛しいものを感じないわけにはいかなかった
いつか美貴と二人、美貴の作ったアクセを置いた店を開けたらって本気で思う
卒業迄後三ヶ月になって、より授業内容は濃く、難しくなっていったから
頻繁な筆記試験や、技術試験も、
みんなで協力して早めにパス出来るようになりカリキュラムは最初の遅れを取り戻していた
- 735 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:41
- 自然に話題はみんな卒業してからどうしたいかという事が多くなる
自分の店なんて、まだ夢の段階でしかないけど、
それぞれみんな行きたい道は違って、そのまま留学したいという組もいるし、
今行ってるホテルの下働きのように修行していきたい人
家業を継ぐ人もいるだろうし、そんな中で何の後ろ盾もなく、
つてもないウチらは、日々まだ見ぬ人の喜んだ顔を見る為に技術を学ぶ
家庭で作ったら赤字になってしまうような食材の調理法や、
世間の人は知らない人の使うスパイスや、調味料を知る
寮に戻ったら、すぐにやぐっつぁんがやって来た
紺野と一緒にやって来て、興奮ぎみに写真を見せてくれる
ゴトーも思わず見入ってしまった
繊細な包丁使いで作られた小皿の中の芸術品
じっくり説明してくれようとするやぐっつぁんに待ってと言って、
先にシャワーを浴びさせて貰う
その間やぐっつぁんはむずむずする気持ちを抑えて紺野と将来の事なんか話していたみたい
正月には紺野がまたよしこの家におじゃまして課題に取り組んだりするんだって
- 736 名前:第三章 投稿日:2006/01/14(土) 15:43
- 頭を拭きながらゴトーも行くと言って、
頭ではよしこがまた邪魔すんなって怒りそうだなぁなんて想像してみた
それからやぐっつぁんがメモしてきたのを見ながら、
明日から早速アジトで同じように作ってみようと言って二人は帰って行った
どうやらやぐっつぁんと紺野は、日本料理に興味があるみたい
ゴトーは今中華料理の下働きのバイトしてたりするけど、
どっちかというとフレンチというか洋食の方へと進みたいと思ってる
中華は中華で色んな食材をダイナミックに調理したり
じっくり時間をかけたりと色々面白いけど、
なんとなくフレンチの方がゴトーに合ってるかなって
美貴もそっちのがいいよって言ってくれるし、
裕ちゃんの探してくれた就職先もフレンチの店にしようってあたってもらってる
ホストしてたゴトーが、まさかこんなにコツコツした職業を選ぶとは・・・・
きっと収入だってホストやってた時には到底及ばない金額しかもらえないだろう
だけど、美貴さえそばにいれば、
なんかずっとゴトーは笑ってられるような気がしたから
- 737 名前:*** 投稿日:2006/01/14(土) 15:44
- 本日はこのへんで
- 738 名前:名無し7 投稿日:2006/01/14(土) 17:58
- 更新お疲れ様です
やっと一段落というか、矢口さんとよっすぃが元通りになれて良かったなと
未来の夢は広がるばかりですね
- 739 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/15(日) 01:10
- やぐよしの2人が幸せそうでなによりです
- 740 名前:*** 投稿日:2006/01/15(日) 21:06
- いつもこっそり見守ってくれる名無し7さん と 739:名無飼育さん
ありがとうございます
なんとか幸せになってくれた二人をこれからも見守ってやって下さい
- 741 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:10
- 正月がやって来た
ってか・・・・・予想してたとはいえ
矢口さんが帰って来ると知ってれば
やってくるのは、保田・安倍さんコンビに、ごっちんと美貴コンビ
それに、あんな事をウチに言い捨てたくせに
にこにこといつもの笑顔で家にやって来た絵梨香さん
矢口さんは嬉しそうにウチにくれたマフラーの処理を頼んでるし
一応ウチもお礼を言わないといけないといけないみたいだし
あのウチを最低と言って罵ったクリスマスイブの日からは、
全く普段通りの絵梨香さんだったのも驚いたけど、普通に彼女もやって来た
そして、みんなが集まった大晦日の日
思いつきのごっちんがとんでもない事を言い出した
- 742 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:12
- 何故か酔った紺野が言い出した、おばあちゃんのお店の話から
「よしっ、そこで店開こう」
ごっちんが言い出す
みんな飲んでいたから気が大きくなっていたのか、いいじゃんとノリだして
なんだかみんな一致団結
最後はありがとうございます、皆さん・・・
と拳を握り締めて立ち上がった酔っ払い紺野に拍手して終わるという
奇妙な年明けとなってしまった
そりゃ、将来矢口さんと二人で店が出来たらとか考えてたけど、
まさか思いつきでそんな事をしようなんて誰が本気で考えよう
- 743 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:14
- 夏は雑魚寝で良かったこの部屋でも、
冬の時期はやばいという事で、保田さんに布団を買って来いと買い物に行かされ
寝室のベッドの横に二つ布団を敷いて、
掛け布団はもう一枚買い
そこに多い時は六人で寝るという状態でみんな泊まっていった
その光景は、ベットの上から見てテレビでよくある貧乏大家族SPを思い出した
ウチのベッドを見て、矢口さんの顔色が変わるかどうか
さりげなくチェックしてみたけど・・・いつもと変わりはなさそうでホッとした
矢口さんが来てから、ほんとにこの家は変わってしまった
でも一番変わったのはウチかもしれない
前はこんなに人が集まる事に嫌悪感さえ抱いていたウチが、
なんだか楽しく過ごせるようになってしまっていたから
三人も調理師の資格をめざす人がいれば、
毎日おいしい物が食卓に並んでなかなか保田さん達も帰ろうとしないし
昼から酒びたりだし
そうそう、またあの校長先生までやって来て、
保田さんと意気投合して、なんと事務長の稲葉さんという人迄やって来てた
- 744 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:15
- めちゃくちゃうるさい家で、ウチらは笑い転げた毎日を過ごす
みんなで買い物に行ったり、掃除したり、初詣に出かけたり
だから、この家でやっと二人きりになれたのは、
正月過ぎの明日からまた日常が始まるという時だけ
ほとんど二人で掃除したり、
矢口さんは数日分の料理を作り置きする為に調理して終わったけど
今日からウチも店に出ないといけないから、
少し早めに矢口さんが食事を作ってくれて、送って行かないといけなかった
さぁ今から送りますよっていう時・・・
後ろから矢口さんがキュッと抱き付いて来た
「どうしました?」
靴に片方の足を入れかけた時の事だったんで少し驚く
「だって・・・・折角二人きりになれたと思ったら・・・・もうお別れなんだもん」
二人きりになりたいって矢口さんも思っててくれた事が嬉しい
- 745 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:17
- 「そうですね・・・・矢口さんがここに帰って来ると、
みんな嬉しくて集まって来ちゃうからしょうがないですけど」
ポンポンと回された手を叩く
「来週は・・・・二人でまたどっか行きたいね」
お腹に回された手に力がこもった
「そうですね、またデートしましょうか」
こつんと矢口さんの額がウチの背中に当たる
帰りたくないなぁ・・・・そう呟きが聞こえた
「じゃあ帰らないで下さい」
振り返って矢口さんの肩を掴んだ
- 746 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:20
- 揺れる瞳が、戸惑いを見せ、
そして引き結ばれた口元がゆっくりとため息をつく
「ごめんね、ちょっと言ってみただけ」
掴んだ手を離し、私も息を吐く
「・・・解ってます、また来週楽しみにしてます」
そう言って軽く抱き締めて唇を合わせた矢口さんは、
どんどん大人のキスになってる気がした
少女だったキスが、大人の女のキスへと変化したように思えて、
時間がないにもかかわらず、思わずそのまま抱いてしまいたい欲望が顔を出す
私の背中に回す手も、唇を合わせた所から漏れる小さな声も・・・・・
矢口さんはどんどん成長して、
もう性的な色んな事を理解してしまったんじゃないかと思えた
ぐっと我慢して、抱き寄せて言う
「頑張って来て下さいね、試験」
どうやら年明け早々また筆記試験があるらしいから、
苦手な矢口さんは紺野と一生懸命勉強してた
「うん、頑張るね」
このまま卒業まで
このもどかしい気持ちのまま過ごして行かないといけないのかと思うと苦しいけど、
保田さんからもやっと褒められ
矢口さんをウチのそばに置いておいてもいいという許可をもらえたから
ウチも頑張ろうと思う
冗談なのか今一解らないけど中澤さんも、
あんたらなら店もてるでと言ってくれたし、
これから私達が頑張らないと行けないんだって・・思えるようにならないと
- 747 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:23
- その数日後、何故か中澤さんから私の携帯に電話がある
昼間に暇なら学校に来て欲しいと
矢口さんに話すと、おいらも呼ばれたと言い、
少し早く矢口さんに会える事にも嬉しくいそいそと出かけて行く
するとすでに小さな会議室みたいな場所で
紺野と中澤さん、稲葉さんに美貴迄いた
「これで全員揃ったな、あ、後藤はバイトやからここには来れんけど
藤本が責任持って伝えてくれるっつ〜んでこれで全員集合にしといてや」
そんな事を聞きながら、開いている矢口さんの隣に腰掛けると、
にこっと矢口さんが微笑んだ
「この前の話やけど、ちょっと詰めてみようか思うねん」
「酔ってなかったんですね、中澤さん」
すかさず美貴が突っ込む
「あんなんで酔うかいっ」
それから紺野の家で店を開く場合の建物の改装費用や、
開業する為にどれだけの資格や検査を通らないといけないのか教えてくれた
ウチとごっちんのマンションを売ってしまえば借金を背負わなくてもいいんじゃないかという話
一番高い土地が紺野のものだから、後は建物と設備だけ・・・・
ようは、全員がどれだけリスクを負う覚悟があるかという事を言いたかったようだ
- 748 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:25
- 美貴が最後に聞く
「中澤さんは成功すると思いますか?」
「さぁな、それはやってみんと解らんやん」
「人事ですね」
「当たり前やん、人事やもん」
全員が苦笑する中、またしても美貴
「今迄見て来た中で成功する確率はどれくらいですか?」
「せやなぁ、半々かなぁ、まぁ失敗した奴もおるけど、
一から出直す言うて頑張ってる奴らばっかやしな、全員成功でええんちゃう?」
「それはまた随分いい加減な」
「そりゃ、ウチの人生やないさかい、あんたらの人生を成功に導くか、
失敗させてまうかはあんたらの力や、ウチらは知ってる事を教えるだけ」
でも、土地もってるのは大きいで、リスクがそれだけ減るさかいな・・・・・
あんたらが金持ちなんも他の人たちじゃ考えられへん贅沢や・・・と
なるほど、それは納得
- 749 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:26
- 「じゃあさ、よっちゃんさん、帰りにその紺ちゃんの店見に行ってみよ」
「うん、そうだね、場所教えてもらえる?」
美貴は8割がたやる気になってるっぽい
美貴もごっちんも、金儲けの店はする気はないみたい・・・・
二人でずっと暮らせる位でいいんだって・・・・まぁ・・・・ウチもそうかな
教えてもらってる間、何故か矢口さんは不安そうな顔をしてた
授業に行かないといけない矢口さんがウチらを見送りに玄関迄来ると
「おいらね・・・・お店はやってみたいけど・・・・・
よっすぃに借金させたくない」
なるほどね、そこを心配してた訳だ
いくらウチらが金持ちでも、
これから5人が生活出来る程度の稼ぎがずっと続くのは
余程のアイデアと腕がないと続かない・・・・
かさむのは借金だけというのが一般的
「解ってます、心配しないで下さい、後はウチらで色々考えてみますから」
ポンポンと頭を撫でて、美貴と帰る
- 750 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:28
- 美貴の車で一応見に行く事にした
そういえば初めて美貴の運転する車に乗るけど大丈夫かなぁ
心配をよそに、ナビの私の言葉通りに快調に紺野の店のあった場所に着いた
「いい場所じゃん」
美貴の言葉通り、駅も見えるし、大きなデパートも近くにあり、
人通りも多い場所にその建物はあった
周りが近代的に作られているのに、
そこだけレトロな古い雰囲気をかもしだしていた
「周りに合わせて改装すれば、客入るんじゃない?」
この建物壊すよりリフォームだよね、お金考えると
「確かに、でも、一つ問題があるんだよね」
何だろう
- 751 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:32
- 「ごっちんがやりたい店は多分フレンチのような洋食系の店だと思うんだ、
美貴のアクセを脇に展示させるような・・・・
だけど矢口さんはきっと和食系でしょ」
「うん、日本料理に興味があるみたい」
最近作ってくれるのはもっぱら和食が多い・・・特に魚料理
海の近くに住んでたから馴染んでるのかもしれないし
「だしょっ、だったら一緒に店やるのって難しくない?」
「確かに」
「ごっちんの思いつきが、どこまでイメージされてるのか知らないけど、
二人のどちらかが妥協するような店ならやらない方がいいと美貴は思う」
ふむ・・・・・確かにそう思う・・・・・
まだウチらは若いし、そんなに焦る必要もない訳だから
「ウチも美貴に賛成、若いんだし、これが最終チャンスな訳でもないし、
紺野もこの先いつかって思ってるみたいだし」
「でもね、やるなら若いうちって考え方もあるよ、
とにかく序々にイメージを固めていってみようよ、
お互いのパートナーとさ、それと地主さんともね」
「パートナー・・・・ね」
イメージっつわれても、
ウチは矢口さんとのんびり笑っていられればそれでいいからなぁ
- 752 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 21:35
- 車に寄りかかった女が二人、こんな所にいれば、
ナンパのたぐいが寄って来る
美貴がそんなのを一撃するので楽だけど
携帯のカメラで何枚か取って、車に乗り込んだ
「そういえば、まだやってないんだってね、矢口さんと」
さんざん矢口さんと紺野と美貴が寝てから中澤さんと稲葉さんに白状させられて、
思い切り笑われたからね
「え?ああ、うん」
「ふぅ〜ん、まぁ、だから浮気するんだろうしね」
ぐさっ・・・・相変わらずストレートだね
「もうしないし・・・・だからホストやめようって思ったし」
「ん〜、なるほど・・・・でもさっさとやっちゃえばいいじゃん、好き同士なんだから」
出来れば苦労しませんから
- 753 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:15
- 「最近の矢口さん見ると、大丈夫な気ぃするよ、美貴」
美貴の顔にはもうからかっている感じはない
「そうかなぁ」
「うん、大分大人になってる・・・この前の正月にしても、すごい普通になってさ・・・・
まぁ、昔の何も知らない子供みたいな矢口さんもかわいいって思うけどさ」
やっぱり?そうなんだよねぇ・・・・
確かに昔はめちゃくちゃ守ってあげたくていっつもついててやらなきゃって思ってたっけ
「うん、ほんと成長しちゃったね〜」
しみじみしてしまう
「よっちゃんさんのおかげだよ、だからいんじゃない?矢口さんの全てを奪っても」
奪うって・・・・・まぁ・・・・そうだけどさ
でもさ・・・・一時期発情したオス猫のように欲しいって思ってたけど
あんな事もして・・・・矢口さんを傷つけて・・・・
矢口さんを怖がらせて迄そんな事する必要もないのかなって・・・
本当にそう思え出したからさ
- 754 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:19
- ウチには矢口さんの体が必要なんじゃなくって・・・・・
矢口さんが必要だってきちんと思え出したから
「なんかさぁ・・・・
よっちゃんさんも成長したよね・・・・矢口さんのおかげでさ」
「どんだけ前のウチを知ってんのさ、美貴は」
「色々聞いたよ、ごっちんからさ、鬼畜みたいなよっちゃんさんの事」
「き・・・鬼畜?」
人聞き悪すぎるから、ごっちん
「めちゃくちゃ中学から女泣かせてたんでしょ」
そりゃ・・・・・・確かに毎日違う人と寝てたりしたしね・・・・
泣いちゃう女は結構見たかな・・・いやいや・・・ごっちんのが負けないでしょ
「んな事ないよ、ごっちんのがすごかった」
ウチは男より女のが多かったけど、ごっちんは男の方が多かったもんね、
あの仕事になってから女と寝出したけど
- 755 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:45
- 今迄快調にウチを言いこめてた美貴が、
えっと固まった表情で運転していた
もしかして知らなかった?
ウチの過去をバラされてるからお返しに言っただけだけど
ウチはよくてもごっちんが鬼畜じゃショックってか
「美貴?」
「あ、うん、まぁ・・・・よっちゃんの親友だから・・・・
そうなんだろうとは思ってたけど」
美貴が諦めたようにくすっと鼻で笑った
「どうゆん?それ」
ウチも同じように笑ってみる
「美貴さ・・・・結構真面目だったんだよね、学生ん時」
「へぇ」
これはまた珍しいトーンで話し出す
- 756 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:48
- 「人並みに色んな恋して、傷ついて・・・・・だから、
同じように恋に傷ついてる人を慰めたくてアクセサリーを作り始めたの」
美貴も結構男泣かせてそうな感じだけどね
「へぇ・・・・初耳」
それこそ、よっちゃんさん達の逆、鬼畜にひっかかって泣かされた方・・・
と寂しげな視線を浴びせてきた
え?
真面目に勉強して、そのままいけばいい大学行けたんだけどね・・・・・・・
そんな事もあってなんとなく・・・・
いきなり貯金通帳握り締めて北海道から出てきちゃった・・・・
普通で真面目な人生が嫌になって
出て来てからは、そんな夢みたいな事や綺麗ごとばっか言ってられなかったけどね
美貴もごっちんたちの事言えた義理じゃないし・・・・
そう言う美貴の横顔は、
いつものあっけらかんとした明るい顔と違って少し影がある気がする
ごっちんも・・・・もちろんウチも知らない美貴がきっといたんだと思う
- 757 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:50
- 詳しくは聞かない・・・・
ウチだってあんまり昔の話は聞かれたくないし・・・・だから
「これ・・・・・気に入ってるよ、なんかいいよね」
いつも肌身離さず付けてるチョーカーを指で引っ掛けて言うと、
美貴は顔を綻ばせた
「矢口さんなにげにセンスあるよね、ふらふらってやって来て、
一目でそれって決めてたもん」
「この前買い物行ったら、矢口さん服のセンスもいんだよね、
なんか・・・まぁ、サイズがないけどね」
「あははっ、解るっ、そんな感じするね、でもかわいいね〜、
子供服のがピッタリなんじゃないの?」
「言ってやろ〜、矢口さんに、もう美貴と口聞かないかもよ」
「うっそ、やめてそれ、美貴マジで矢口さん大好きだから」
例えそれが恋愛感情ではないと解ってても、なんだか不安になる
- 758 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:52
- そんな気持ちを読まれたのか
「ほんっと自分勝手だよね〜、自分は平気で浮気しといて、
美貴が矢口さん好きって言うとすぐ機嫌悪くなるんだから」
「み・・・美貴」
ひどいでしょ・・・反省してんだし
「あ・・・・・・・・ごめん、デリカシーなさすぎるよね」
「・・・ううん、まぁ・・・・ほんとの事だし・・・・」
「反省してんだ・・・・」
もう大反省ですよ・・・・まじ
あの時の矢口さんの無理した笑顔と、傷ついた横顔が忘れられない
体の奥底に迄後悔という感情が支配して、
情けない自分に涙したあの時はもう二度と味わいたくない
大きく頷くと、美貴はくすっと笑う
「普通のカップルだったら修羅場なんだろうけど、
良かったね、矢口さんが優しくて」
「まぁ・・・・・だからさ、矢口さんとはゆっくり歩いて行く事にしてるから・・・・・
美貴もさ・・・見守っててよ、ウチらの事、もどかしいとは思うだろうけどさ」
丁度、学校の駐車場に着いて美貴はうん、ごめんね、
傷に塩塗ってしまってと笑ってた
それもいいね、のんびり仲良く・・・と言う美貴を残して車を降りた
鬼畜・・・・・ね
ごっちんどういう説明してんだよ
- 759 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:52
-
- 760 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:54
- 美貴達が昼間ここに来たようで、
紺野から何が話されたのかを授業が終わった後聞いた
それに美貴から写メールとムービーが来てて、
紺野のおばあちゃんの店・・・ちがった、もう紺野の名義なんだよね
見せて貰った店は、古い建物で、周りからは浮いてるけど、
どうやら立地条件は良さそう
「で、紺野は、やっぱりおばあちゃん達がしてたような定食屋がしたいの?」
「そうですねぇ、あれから考えたんですけど、私は別にこだわりはありません、
出来れば昔みたいに近所の人たちが
気軽に集まってこれるような場所が出来ればいいなぁって思う位です」
なるほどね、紺野にとってはあの思い出の場所でやる事に意義がある訳だ
「やぐっつぁんは?」
「・・・・・・おいら・・・・まだいい・・・・
お店なんて・・・・まだまだずぅ〜っと先でいい」
あれれ?この前は喜んでたのに・・・ってか昨日迄喜んでたのに
- 761 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:56
- それを見て紺野も
「そうですね、まだ先でいいですね、いつかはやりたいけど、
まだまだ修行が足りないし・・・・・その前に資格が取れるかどうかですからね」
「何言ってんのっ、二人共、やるなら若いうちの方が、
失敗しても立ち直れるんだよ」
失敗してから、みんなで借金返しながら働くのも楽しいかもしれないじゃん
と、やぐっつあんの前では冗談でも言えなかった
ゴトーはもともと、いきあたりばったりの人生だったから、
別に借金背負っても平気だし、人の迷惑だってあんまり気にするタイプじゃない
かたや人に迷惑を掛けるのをものすごく嫌がるやぐっつぁんにしたら、
リスクの大きいこの話はあんまり賛成出来ないのかもしれない
- 762 名前:第三章 投稿日:2006/01/15(日) 22:57
- 自分だけが借金を背負うのはきっとかまわないんだろうけど、
愛するよしこにこれ以上迷惑を掛けたくないと強く思ってるやぐっつあんだからね
「焦る事はないと思うんです、まずは資格を取って・・・・腕を磨かないと」
「んじゃさ、これから毎日アジトで夜作品作ろうか、
小皿に一品ずつ作って品評しあうってのは?」
「いいですねぇ、材料は、自分達で調達して」
今でも少しずつ買って来ては作ったりしてるけどね・・・
だから同じ材料を使ってどうするかを競う事にした
店の事は、美貴とよしこと裕ちゃんに相談しながら少しずつ進めていけばいいし
焦る事はないけど、近い将来ちゃんと美貴と店を持ちたい
雨曝し、日曝しの中で、自慢の子供達を売ってる美貴に、
もっときちんと屋根のついた所で売ってもらいたいから
- 763 名前:*** 投稿日:2006/01/15(日) 22:58
- 今日はこのへんで・・・非常に機械の調子が悪いです・・
- 764 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/16(月) 00:14
- おー!夢が現実味を帯びてきましたね。
ワクワクしながら続きを待ちます。頑張ってください。
- 765 名前:*** 投稿日:2006/01/17(火) 21:50
- いつもありがとうございます
とても励みになります
- 766 名前:第三章 投稿日:2006/01/17(火) 21:53
- どうやらあのクリスマスイブでの私の一言は、
ひとみさんにとっていい薬になったようだ
店でも私は普通に接する
私がひとみさんの家に矢口さんに会いに行って
なんだか知らない間に、宴会に参加させられて泊まらされた年末
矢口さんと紺野さんが部屋で勉強してる間に、
私とひとみさん・真希さんと美貴さんがリビングでまったりしてた
「ごっちんは勉強しなくていいの?」
とぽつりと聞くひとみさんに
「ゴトーは優秀だからね、最近は筆記のコツとかも解ってきたからさ、
楽勝、やっぱ料理好きみたい」
なんて美貴さんと微笑み合ってるのを見てちょっと羨ましそうにしてると
「ねぇ、三好ちゃんはさ、モデルも順調になって来たじゃん、
あの店のバイトはやめるの?」
美貴さんが聞いて来る
「そうですね、でも、やっぱりやめると生活も苦しくなるから、
しばらく体はきついけど二足のわらじを履いてみようと思います」
- 767 名前:第三章 投稿日:2006/01/17(火) 21:56
- おかげで今、モデルの方は順調に仕事の依頼が来るし、
専属契約の話しは決定し、事務所も正式に採用してくれそうだ
でもウェィターの方が代わりの人がいなくて、
もうしばらくいて欲しいと頼まれもう少し雇ってもらう事になったから
「そっか、結構人気出てんでしょ、ウチに来るお客さん言ってたもん、
友達なんですかぁ?いいなぁって」
ええっ、そんな事が?でも嬉しい、少し変な気分だけど
「すっかり芸能人みたいじゃん、絵梨香」
「もうっ、真希さん迄」
そんな私達の会話にも耳だけを傾けて、
ひたすらテレビを見たままリラックスしてるひとみさん
夕方も近くなると、真希さん達は、
保田さん達が一仕事を終えてまたやって来るというのを聞いて
来る前に帰らなきゃね、大晦日にまた来るからと帰ってしまった
今日は久しぶりに二人きりで過ごしたいみたい
真希さんの腕にからまるようにして去って行く二人の姿はなんとなくエロい
- 768 名前:第三章 投稿日:2006/01/17(火) 21:58
- だから気がつくと二人きり
長い沈黙
テレビを静かに二人で見てると、
「渡さないから」
ふいにひとみさんが言い始めたのでひとみさんを見ると、
今迄のようにリラックスした体勢で私を見ずに言っていた
だけど、口元がさっきと違って微妙に力が込められていて
意思を感じてしまう
でも少し嬉しい・・・
本当に矢口さんを大切にしてくれてるんだなぁって
- 769 名前:第三章 投稿日:2006/01/17(火) 21:59
- そこにタイミング良く?保田さん達がやって来て
また騒がしくなった
しかも、正月過ぎ迄ここで過ごす為に大きな荷物を抱えて
必死に自分の家はどうしたんですとひとみさんが呆れたように言うと
「だから今日必死で掃除してから来たんじゃないっ」
と、怒られていた
というかあんまり意味が解らないので
ひとみさんは苦笑してるだけだった
- 770 名前:第三章 投稿日:2006/01/17(火) 22:03
- そういう私は、正月位は実家に帰って来なさいという両親が
飛行機のチケットを送ってくれたので明日帰らないといけない
今回は中澤さんにも邪魔されず、
昨日二人っきりで隣の部屋に入って
ひとみさんのマフラーの端っこの処理しながら色々しゃべれたし
今日もご飯をご馳走になったら帰るけど
年明けにまたここに来て矢口さんと初詣に行く約束をしたので満足だった
私がにこにこしてるのがよほど気に入らなかったんだろう
ってか、本当は二人きりで過ごしたいのかもしれない
何故かここに皆集まってしまうのは、
矢口さんにひきつけられるからだけど
そんな矢口さんの事、不安に思うひとみさんの事・・・・
私はなんとなく人間味があって前よりも好きになってる
渡さないと私に言うのも、
その前にずっとどうやって言おうか悩んでいたんだろう
怖くて近寄れない感じのひとみさんが、
少しかわいく見えてしまい、
だからこそ矢口さんと幸せになってもらえたらと願う
- 771 名前:第三章 投稿日:2006/01/17(火) 22:04
- 保田さん達がここに来るのは、矢口さんに会いに来るのもあるけど
ひとみさんの成長を見極めに来た事であるのは、本人が私だけに話してくれた
普通の恋人同士とはちょっと違った二人が、
ずっと長くいられるように少し見守るだけだから、
あの二人が落ち着けばこんなに邪魔しには来ないわ
と、キツめの顔を優しげに笑わせていた
もどかしくも、矢口さんとひとみさんは
ゆっくりと愛を育んでいくんだろう
正月には新しい店をみんなで出そうと一致団結してたから
ますます二人の絆は強くなるだろうし
私も、そろそろ新しい恋でも探そうかな・・・・
- 772 名前:*** 投稿日:2006/01/17(火) 22:05
- ちょこっと更新ですみませんが、今日はここ迄です
- 773 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/18(水) 14:57
- 続き楽しみにしてます
- 774 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:18
- 矢口さんの誕生日がやって来た
本人は知らなかったみたいで、
おぼろげな記憶で多分1月生まれだという事だろうというのを
保田さん達が教えてくれた
その日は、あいにく平日で、仕事も入っていたので、
朝電話してる時におめでとうと心を込めて伝えた
今週末、ゆっくりお祝いしましょう
どこか行きたい店はないですか?と行っておいた
その時に、クリスマスに渡せなかったピアスをあげようと思う
ピアッサーも買ってあるし、消毒液だって準備してる
開けさせる気でいるけど、彼女が怖いって思えばその時また考えよう
包丁セットとかがいいのかなって思ったりするけど、
それは卒業した時にでも送ろうかって考えるし
だいたい誰かに何かをあげるというだけでこんなに迷った事はなかった
相手が喜んでくれるかどうか・・・・
それがこんなに怖いなんて
- 775 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:20
- そして、待ち望んだ土曜日の朝、今から行きますと電話すると、
待ち構えたようにうん、気をつけてといつものセリフ
到着したら、すでに門の外で待っていた
「寒いのにすみません、さあ乗って下さい」
窓を開けて言うと、頷いて乗り込んでくる
「待ちきれなかったの・・・・」
そんなセリフが何故かすまなさそうに呟かれる
「ウチもですよ、そんな事なら朝早いから信号無視でもして
もっと速く来れば良かったなぁ」
冗談で言うと
「ダメダメっ、そんな危ない事しないでっ、おいら部屋でちゃんと待つからっ」
必死にそんな言葉を言って左手を掴んでくる
「冗談ですよ、でも寒いし、変な奴がいるかもしれないから、
部屋で待ってて下さい」
恥ずかしそうにうんと頷く
- 776 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:23
- 「あ、ちゃんと顔見て言いたいんで、
おめでとうございます、22歳ですね」
丁度信号で止まったから
「うん、ありがとう・・・・
でもこんな子供みたいな22歳っておいら位だよねきっと」
寮にいるみんなから、いっつも馬鹿にされるし
「そんな事ないでしょ、十分素敵ですよ、矢口さんは」
これは決してホストのウチの言葉ではない
だけど、こういう事を言う度に、
矢口さんがホストだからこんな事を言うと思ったらどうしよう・・・・
なんて、普通の人が考えそうな事を勘ぐってしまった
保田さんが少し心配する様に、
まだウチが矢口さんを、何も知らないと思って騙すように・・・
自分の所有物のように扱ってしまわない様にはどうすればいいのか
仕事しながら、お客様に色々相談させてもらったりする様になった
- 777 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:26
- 大切な人が出来たからと、
私の元を去って行った金払いのいい人たちとは違って
コツコツ稼いだお金で、自分へのご褒美にと店にやって来るお客さんからの指名が増えた
そんな人たちは、お互いに楽しく過ごすのを望んでいるか、
自分の悩み相談、ウチの悩みを聞いたりする事で自分の欲求を満たしていく人も多い
どんなお客でも、ウチはなるだけ気持ち良く帰って欲しいと接する
例え金払いは良くなくても
お店からの給料は、一時期落ち込んだが
そんなこんなで前より少し落ちるレベル位迄回復した
当たり前だけど、それ以外の収入は今は無い
アヤカでさえ、今はウチでなく舞さんを指名し、
そのついでにウチの様子を伺ってくる位
あの日のウチがあんまりかわいそうで、心配してくれてるようだ
まぁ、まだ二人は体は合わせていないみたいだけど、
どうやら気が合うみたい
- 778 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:30
- 矢口さんが、助手席で恥ずかしそうに窓の外を眺めてる
毎日電話で話しているから、
どうやって過ごしているのかはだいたい解るけど
ほんとの所、あの瑠依って男が
まだ矢口さんを狙っているんではないかと思う話題がたまにある
・・・しかも本人に自覚はない
昔少しひどい事をされたり、変な所を見たりしたけど、
なんだかとても男っぽい優しい男みたいだから・・・・結構不安
あの夜
ウチに騙したら承知しないからと言った怖い位真剣な眼差しと力強さに、
負けてしまいやしないかと・・・・
ウチは毎日沢山の女に囲まれてるけど、矢口さんは逆に男達に囲まれている
話に出て来る仲間達は、一癖も二癖もあるけど、仲間思いのいい奴らみたいだし
ごっちんの話では、いつも瑠依って奴が矢口さんを守っているみたいだから
- 779 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:32
- 「明日、どこに食事に行きたいか決まりました?」
信号が変わり景色の流れ出した窓の外から私に視線を移してくる
「でもこの前もすっごい高い所に連れてってもらってるから、
今度はおいらがよっすぃの食べたいのを作りたい」
「またそんな事言ってるんですか?ウチは矢口さんと店を開く為に、
色んな店に矢口さんと行って勉強したいなって美貴とも言ってるんですよ」
「・・・・・うん、でもおいらよっすぃに無理させたくないから」
いつまでも遠慮してしまってる矢口さんに、少々不満だ
「あの、とりあえずですね、美貴と言ってるのは、
矢口さんはどんな店にしたいかをちゃんと明確ににさせる事から始めようって言ってます
どうやらごっちんは、フレンチというか洋食をしたいって思ってるみたいだし、
美貴の店も一緒にする事を考えてるみたいだから」
「お・・・おいらはね、よっすぃがいればそれでいいから」
思わずガクッとなりそうだけど、かわいらしいと思わずにいられない
「それは嬉しいですけど、やっぱり一緒にやるからには、
後悔したくないじゃないですか、だからですね、
思ってる事は我慢しないでちゃんと言って下さい」
うん、と戸惑った感じのうちにマンションについた
- 780 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:34
- いつものようにシャワーを浴びている間に、
矢口さんがご飯を作ってくれる
一週間で、作り溜めしておいてくれた物を食べ尽くし、
余った食材と、電話でついでにでも買っておいてと頼まれていた物だけで作ってくれるご飯
最近では、ごっちん達と一緒に作ったのを持ち帰って来てくれる事もある
今日は筑前煮が準備されているはず、昨日作った作品らしい
昨日の朝の電話でそれを作ろうかと思ってると言ってたから
髪をざっとかわかしてリビングに戻ると、想像してたのとはちっと違って
筑前煮の材料に白身魚が入って、洋風に仕上げられていた
うまそ〜っと炊きたてのご飯を手に持ってまず牛蒡に手を出すと
見た目と違ってなんだか辛めになっていた
「あっ、辛いんですね、んっ、うまっ、これご飯に合いますね、洋風なのにっ」
「うん、少し辛いかなって思って甘めのニンジンスープを付けてみたの」
「いいっす、うまいっすよ、まじで」
酒にも合いそう・・・・そうだなぁ・・・・白ワイン・・・・
うん、白ワインに合いそう
満足そうに笑って矢口さんが見てる
- 781 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:37
- 少し遅れて矢口さんも食べ出した
やっぱ一日たつとちょっと味が違うなぁなんて言いながら
その後食事が終わり少しビデオをチェックしてると、
片付けが終わった矢口さんがやって来た
少し前から距離を置いて座ってくるのも、なんだかもどかしいんだよね
でもしょうがないか・・・ウチを怖いって思ってるんだし
そこで準備していた物をソファの影から出す
「これ、誕生日プレゼントです・・・・」
ムードも演出も何もない渡し方になっちゃったけど・・・
でもやっと渡せたピアスに、矢口さんはまたうるうるした目をして喜んでくれた
小さな入れ物を大事に胸に持っていって
「ありがとう、よっすぃ」
と、早速中を開けて自分の耳にかざして照れ臭そうにどう?と聞いてくる
「うん、かわいいです、耳、痛くしちゃうけど大丈夫ですか?」
う・・・・と、固まってしまったので
「じゃあ、決心出来たら言って下さいね」
「ううん、大丈夫だよ」
すまなそうに言うから、無理しないでと頭を撫でた
- 782 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:38
- そのまま眠くなる迄、ざっとドラマの展開を見ながら矢口さんと会話する
「この人なかなか好きって言えないんだね」
「そうですね、うかうかしてるとあの隣の人に取られちゃいますね」
うん、なんて言いながら
さぁ、そろそろ眠ろうとあくびしながらベッドルームに向かうと、
矢口さんもついてきた
「あれ、どうしました?」
「おいらも一緒に寝ていい?」
その上目遣いは反則ですよ
寮にいっちゃって寂しかった一人寝にも慣れ、
帰って来たとしても眠い時間が違う私たちは今なかなか一緒に眠る事はない
「もちろんいいですよ、んじゃ一緒に寝ましょうか、
22歳になって始めての矢口さんと」
嬉しそうに一緒にベッドに入るとくっついて来た
- 783 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:40
- 昔のように抱き寄せて、チュっとキスを交わして目を閉じた
誘惑の甘い蜜に負けないように温かさだけを感じながら寝てしまおう
そして・・・・・
すっかり温かさに安心して眠って久しぶりに超気持ち良く意識が戻り始めたら
腕に昔よく感じていた重さがあって、矢口さんがここにいるんだって解る
だけど起こさないようにしないとね、と目をゆっくり開けると
腕の中でうるうるした目をさせて矢口さんが私の事を見ていた
- 784 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:42
- 「どっ、どうしたんです?」
驚いて少し身を起したウチにきゅっとだきついて、私の鎖骨に額をつけた
やんわりと抱き寄せて
「大丈夫ですって、店の事ならゆっくり焦らずに美貴達と話し合っていきますから」
不安なのかな・・・・矢口さんにとって借金とか経験もないだろうし、
でも何もない所で生きてこれた矢口さんでしょ、一緒にやれば何でも出来ますって
「違うのっ、店の事じゃないの」
言い放って私の唇に自分の唇を押し付けて来た
しかも自分から舌を入れてくる
もちろん条件反射的にそれに応えるけど、
寝起きの上、どうして矢口さんがこんなキスしてくるのかが解らずに問い掛ける
「矢口さん?」
勘弁して下さい、ただでさえこんなベッドの中で抱き締めちゃってるんですから
知りませんよ・・・・鬼畜吉澤が出て来ても
- 785 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:43
- なのに何も言わずにまたキスしてくる
やばい・・・
まじで我慢出来なくなっちゃう・・・・
ここは引き剥がして一呼吸おかないと
ぐいっと肩を持って矢口さんを離すと、
真っ赤になってうるうるした視線を伏せた
「どうしたんです?何かありました?」
「・・・・・いて」
え?何ですか?
何て言ったか解らず目をぱちぱちさせていると
「抱いて」
ええっ
辛辣な目でうるうると見上げて来た
「い・・・いや・・・・その・・・・あの・・・」
なんですと?
- 786 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:47
- 心拍数がかなり上昇してる
こんなにドキドキした事がないくらい
見上げられた顔がかわいくて、愛おしくて・・・・・
意識が飛びそうになるのをグッと抑え首を振る
「どうして?」
伏せられたまま矢口さんが呟く
「いや・・・・その・・・・怖いんですよね」
するとハッとしたように顔を上げて、それから笑った
「怖くないよ、おいらもう・・・・だから・・・・お願い」
掴んでいた肩の手をはずしてウチの腕の中にすり寄って来る
- 787 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:50
- だけど、その体は少し震えてて無理してるのが解る
「いいんですよ・・・ウチ待ってますから・・・・
矢口さんが怖くなくなる迄・・・・ゆっくりいきましょう」
そっと抱き寄せると、ウチのパジャマの襟首の鎖骨近くに唇を寄せてから、
首とか頬とかにやんわりとキスしてウチの唇を奪ってくる
どうしてそんな無理を・・・・だってウチは、
そんな事迄されて我慢出来る程大人じゃないのに
「怖くない・・・・おいらが怖いのは
よっすぃがおいらのそばからいなくなっちゃう事」
超至近距離でうるうるした真剣な眼差しで呟く矢口さんに、
ウチの理性の箍がはずれた
一気に矢口さんをひっくり返し、覆い被さって唇を奪う
いいのか?
一瞬頭に声が響き、とりあえず優しく矢口さんの頭から腕へと手を滑らせながら、
手を絡ませ耳や首筋に唇を寄せた
くすぐったいのかきゅっと縮まる
「くすぐったいですか?」
耳元で囁くと、幾分緊張した感じでこっちを見上げて頷いた
- 788 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:51
- ゆっくりと矢口さんの着ているセーターの裾からお腹に手を入れると、
ウチの手が冷たいのか少し体をくねらせる
大丈夫かな・・・このまま続けて
矢口さんの表情を伺いながら、一気に頭に血液が上がった感情を必死に抑える
ぎゅっと瞑られた瞳と、体中に力が入っているのを見ると、
すごく悪い事をしている気になってくる
だから、セーターから手を抜いて再び頭を撫でてその額にキスをする
「どうしてやめちゃうの?」
「やっぱり怖いんでしょ・・・いいんですよまじで・・・・・
それにウチは矢口さんから離れませんからゆっくりで」
うるっとした目で少し考えているように口を薄く開けていた矢口さんは、
キュッと唇を一文字に引き結んで起き上がると
着ていたセーターを脱いで、ズボンも脱いで下着に手を掛けた
- 789 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:53
- あっけに取られていたウチは、
慌てて矢口さんを引き倒して布団を掛けてあげる
「どうしてそんなに無理するんですっ」
「おいらよっすぃの物になりたいのっ」
布団の上から押さえつけたウチを目だけ出してうるうるさせて見上げて来る
「ウチは、セックスがしたくて矢口さんといる訳じゃありません・・・・
セックスしたからって、矢口さんがウチのものになったとも考えませんし、
あの・・・・・・もしかしてこのベッドにいる事で矢口さんを追い詰めてるのかもしれないけど
ウチは矢口さんの中身が、矢口さん自身の事を必要だし・・・・
大切だと思ってます・・・・だからこんな風に無理しないで下さい」
矢口さんを・・・・・そこ迄追い詰めてしまったのは私
だってもしかしたらこのベッドにいたアヤカの影に怯えてるのかもしれない
ウチだけが・・・・・・
ウチだけがもうあの出来事を過去にしてしまってたのかもしれない
- 790 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:55
- とうとう泣いて布団に顔を隠してしまった矢口さんの頭のてっぺんを眺める
どうすればいい?
矢口さんをどうすれば解放してあげられる?
ウチが矢口さんを大切だって思う気持ちを・・・・・
どうやったら伝えきる事が出来る?
そうですね・・・・・勇気を出してくれた矢口さん
それに応えるには、出来るだけ優しく・・・・・
抱いてあげる事だけかもしれない
私の鬼畜と言われた吉澤ひとみの本心はもちろん抱きたいんだから
半分布団から出て寒々とした空気の中、
私はパジャマを脱いで下着も外した
再び温もりの中に入り、丸まってる矢口さんをそっと捕まえて抱き締めると・・・・・
矢口さんと初めて肌が触れ合う
理性が一気に吹き飛びそうになる
- 791 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:57
- 気持ち・・・・いい
矢口さんの体を引き寄せて、泣いてる顔を自分に引き寄せるとキスした
「好きです・・・矢口さん」
至近距離でそう言うと、涙を流しながらキスしてくる
小さな肩・・・・直接触れ合うと、余計小さく、頼りなさげだ
そう広くない矢口さんの背中に冷たいウチの手を這わせる間、
ずっと矢口さんの唇を貪る
ブラのホックを外すと、ちょっと矢口さんがピクッとしたけど、
そのままその体を撫で回し肩紐をはずすと外に放り投げた
漸く唇を離すと
「じゃあ・・・・私のものになって下さいね」
これでいいのだろうか・・・・だけどもうウチは止まりきる自信がない
とろんとした赤い目を閉じると、うんと頷いて微笑んだ
再び首筋に吸い付く
矢口さんの少し高い体温がたまらなく気持ちいい
- 792 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 00:58
- そのまま布団の中にもぐりこんで
矢口さんのかわいらしい胸のふくらみに手をやり、
既に固くなっている蕾を口に含む
寒いから?それとも感じてくれてるから?なんて浅はかな詮索
途端抱き締められたウチの頭
さもすれば快楽の波に飲み込まれてしまいそうになるのを、
深呼吸しながらゆっくりゆっくり矢口さんの体を堪能する
布団の外から小さくよっすぃ〜と声が聞こえると慌てて布団から顔を出した
「怖いですか?」
心配で聞いたら矢口さんは首を振っていた
「ううん・・・・・なんか・・・変なの・・・・」
「変?」
その顔は真っ赤で、さっきの涙のせいで目も真っ赤で・・・・
「・・・・なんか・・・熱い」
きっとウチはにやっと笑っていただろう・・・・
再び潜り込んでわき腹に手を這わせて、再び胸の頂きを弄んだ
「いいんです・・・ウチも熱いです・・・・」
矢口さんの体が、さっき迄のぎこちない固さでなく、
幾分リラックスした感じになった
- 793 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:00
- 体中にウチはキスしまくる
愛しい気持ちで一杯になりながら、
押し寄せる興奮の波を抑えながら優しく・・・・優しく触れていく
ウチの手の冷たさもすっかり矢口さんの肌に馴染んで暖かくなっていた
とうとうゆっくりとショーツの上から矢口さんの中心に手を伸ばすと、
あっという声が聞こえて体を動かされた
昔のウチなら、大丈夫、怖くないよ・・
なんて言いながら強引に足の間に入れ込むところだけど
もう一度顔を出して矢口さんの顔を伺う
真っ赤っ赤な矢口さんの顔、ぎゅっと瞑られた目と、引き結ばれた唇
「矢口さん?」
優しく言うと、ゆっくりと目を開けた
「ウチ矢口さんが好きです・・・・だから・・・・矢口さんの全てを知りたい」
言った・・・
仕事モードならまだ平気だけど・・・・
やっぱこれが本心ってめちゃくちゃ恥ずい
でも矢口さんは自分の胸の前で手を組んで祈るようにして微笑んだ
- 794 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:02
- 「うん・・・・して・・・おいらもよっすぃが知りたい」
もっともっと・・・・という口をウチは少し乱暴に塞いだ
とろけそうな視線で今迄見た事のない大人っぽい矢口さんの表情で言われたから
セーブしてセーブしていた感情が一気に爆発した
ショーツを剥ぎ取り、布団の中の暗闇で矢口さんの足を開かせて間に顔を埋めた
「ああっ、よっすぃ〜っ、そんなっ」
開かせた太ももや脛を撫でながら中心に舌をすべらすと
そんな声がうっすらと聞こえた
既にウチの体は火照りまくって鬼畜と呼ばれた自分が完全に顔を出してる
ちゃんと濡れている場所に後押しされるように、
しばらくそこを堪能すると明らかに矢口さんの口から漏れる声が変わって来た
ああっ・・・そんなとこっ・・・だめっ・・・あっ・・・あんっ
どんどん淫らな音が響き
布団の外からは、かわいらい声と戸惑った声が聞こえる
よっ・・・・よっすぃ〜っ・・・変っ・・・・変になるぅ〜
執拗に舐めるウチは、もう我を忘れていた
- 795 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:04
- 時折耐え切れなくてウチの頭を締め付ける足を力づくで広げてさらに舐め続けた
ああっ・・・矢口さんっ・・・
矢口さんっ
緊張した足が急に生気を失った・・・・
まだ何も入れてないのに・・・・
イッた感じはしない・・・
でも急にウチを不安にさせてもそもそと這い上がり
首の後ろに片手を入れて抱き寄せた
腕の中にいる赤くなった顔は、はぁはぁと息を切らせてウチを見上げて来る
「よっすい〜っ、おいらよっすぃのものになれてる?」
ふぅ・・・・・・どうしてそんなにかわいいんです?
「はい・・・・矢口さんはウチのものです・・・・・
誰も・・・・誰にももう触らせません」
にこっと笑って頷くとウチにしがみつく
そう・・・・もうこの体にはウチ以外の人は触らせない・・・・絶対に
再び唇を奪う
もう躊躇しない・・・・矢口さんは私だけのもの・・・・
この体は私だけが触れればいい
- 796 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:05
- キスの温度を上げていくと、
矢口さんの方から積極的に舌をからませてくる
もう胸を触っても怯えた感じはない
全身を撫でながら矢口さんの耳に囁く
「愛してます」
バッとウチを見て、また嬉しそうに微笑んだ
「おいらも」
唇を合わせながら手をさっき潤ませた場所へと進めて再び触ると
んんっ・・・あ・・・よっ・・・・・ああっ・・・
その後の刺激にはっきりと色のある声に変わる
「いいですよ・・・・もっと・・・もっと声を聞かせて下さい」
首筋に舌を這わせながら言うと
「はっ・・恥ずかしいよぉ」
いやいやしている
- 797 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:07
- 「愛してるから・・・・誰にも見せない矢口さんの色んな表情や・・・
声が聞きたいんです」
顎あたりにキスしながら言うと
「じゃあ・・・よっすぃのも聞かせて」
ええっ・・・・そうはいきません
ウチは手の動きを早めた
濡れそぼっているソコを小刻みに刺激して、矢口さんの耳にも舌をねじ込む
ああっ・・・よっ・・よっすい
言いながらも首に回した手を強めて来るので、
一気に矢口さんの中に中指を入れると
「ああっ・・・・はっ・・・入って来たぁ〜っ」
小さいうえにぎゅうっと締め付けられた指は動く事が出来ない
- 798 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:08
- 「初めて・・・矢口さんの秘密の場所に入ったのは誰ですか?」
いつからウチはこんなヘンタイじみた事を口走るようになったんだろう
入れますよ・・とか・・・入れて欲しい時は言って下さい・・・・
まだ入れませんよ、その口が言う迄・・・とか・・・・
さんざん言ってきたけど、まさか愛する人に迄・・・
ごっちん・・・・美貴
正解だよ、鬼畜
感じてる人の顔を見てせせら笑うように言っていたセリフが、
今は本気で変態じみてる
捨てられた子犬のような目で荒げた呼吸を整えながら至近距離で言ってくれる
「よっ・・・・・すい」
「そうです・・・・もう誰もここに入れたらダメですよ」
ウチの願い
- 799 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:09
- いつだって、自分が誰かのものになるなんて思いもしなかったけど
子供じみた独占欲がこれでもかと顔を出す
「よっすぃ以外無理っ」
回された手に力が入って、矢口さんが積極的にキスしてくる
その頃には締め付けられていた指が緩められてて、内壁をさする事が出来た
んんっ・・・んっ
何かを感じたんだろう
口を離そうとする矢口さんを離さないで逃げる舌を追いかけ、
指をもう一本入れる
んっ・・・・・・
「痛いですか?」
絡めた舌を解いて優しく聞くと、矢口さんは小さく首を振った
- 800 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:11
- 私の指を受け入れ出した矢口さんは私の胸に顔を埋めて抱きついて来る
広げられた足の間に入れた指を優しく動かすと
ああっ・・・んっ・・・はぁっはあっ
矢口さんの頭を抱え込んで頬や頭や耳や首筋を
せわしなくキスして指を動かし続けた
色のついた吐息が耳元で聞こえて溜まらない気分になる
「よっすぃ〜っ・・・な・・・何か出ちゃう」
「いいです・・・・開放して下さい・・・・自分を・・・・」
うっすらと目を開けてウチの顔を見ながら苦しそうにしている
苦しい?いや・・・・これは快楽を少し知った顔
動かしている手をこれでもかと早めると
あっと短く言って今度こそだらんともたれかかってくる
- 801 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:12
- イケたんだ・・・・
初めての矢口さんの確かな感触に満足してるウチがいた
ウチの素肌にハァハァと矢口さんの息が掛かってる
矢口さんの中からウチの指を出すと、
んんっと矢口さんがウチを見上げた
出した指をウチが舐めると、
それを辞めさせようと矢口さんがウチの手を掴む
「ダメだよ」
「どうしてです?」
「なんか・・・・・やだ」
片手で支えた状態の頭を引き寄せる
目の前でウチは舌を出して指を舐めてみせる
それを見て更に真っ赤になって俯いた
いつからこんなウチになったんだろ・・・・
ってか・・・・・これが本当のウチだから
- 802 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:14
- いくら矢口さんを大事だって思って
その体を触るのを怖いって思ってたくせに
自分の心を伝えるはずがこんな変態じみた行為になってるし・・・・
結局ウチはウチでしかない
滴るように垂れていた蜜を舐めていると、
俯いてた矢口さんがゆっくりウチの体に密着してウチの胸の中に納まってしまった
「矢口さん?」
矢口さんは目を閉じてウチにしっかりと密着してた・・・・・
ウチが支えてる片手で包まれて
たまらなく愛おしい、もう一度矢口さんに顔を近づけると
「よっすぃって・・・・」
「ん?」
ふいに小声で呟いた
- 803 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:15
- 至近距離でゆっくり目を開けると
「一杯こんな事したの?」
悲しそうな目
一瞬で凍りつく・・・・・
確かに・・・・・数え切れない人と・・・・したけど
ウチが慌ててるのが解るのか
「ごめんね・・・・こんな事言って・・・・」
「い・・・・え」
そんなウチを見て、矢口さんは唇を噛み締めると
「もうおいらだけのよっすぃで・・・・いんだよね」
ウチの事を信じようとしてくれている強い視線
「はい・・・・いいです」
にっ・・・と笑って
じゃあいい・・とばかりに俯いてぎゅっとしがみついて来た
「嬉しい・・・・それにこうやって肌が触れ合うと・・・・・なんか気持ちいいね」
「大好きな人の肌は・・・・やっぱり違いますね・・・・・
とても温かい気持ちになります・・・・・もう誰ともこんな事とかしませんから・・・・安心して下さい」
こくんと頷く
- 804 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:16
- 「今度はおいらがしてみてもいい?」
ふっ
こんな時でも頑張り屋さん
「いいですよ」
矢口さんを抱えるように仰向けになり、
矢口さんがどう愛してくれるのかを待つ
照れ臭そうな矢口さんは、やり方が解らないのか、
戸惑いがちに唇をウチの肌に落としてくるからくすぐったい
矢口さんの手を自分の胸に誘い
「大丈夫・・・・好きに触って下さい」
「うん」
くすぐったいような、それでいて矢口さんの一生懸命の愛撫に、
自然とウチの体は温かくなっていった
子犬が舐めるような舌使いで、ゆっくりとウチは上り詰めていく
- 805 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:17
- 夕方迄、二人で愛を確かめ合ってたら、
仕事の時間になってるかもしれないと気がついた
愛される事に、喜びを覚えた矢口さんは、
どんどん色っぽい声と表情をしていってウチを夢中にさせていたから解らなかった
「もっと矢口さんとこうしてたいけど・・・・一度仕事に行かないと」
「うん・・・・・・じゃあ、部屋の片付けとか、洗濯とかしとくね」
「そんな事より、明日どこの店に食事に行きたいか考えておいて下さい」
「うん」
幸せそうな顔に、名残惜しむようにねっちりとしたキスをしてベッドを出た
もう少しすれば、こうやって当たり前に過ごせる日々がやってくるんだ
背中に熱い視線を感じながら洋服を身につけるのも当たり前にやって来る
だから・・・・・
店・・・・・まじで頑張ってみようかな
- 806 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:17
-
- 807 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:19
- 「最近よく見かけるよね」
撮影が終わって控え室で着替えを済ませて帰る準備をしてる時
そんな声がして振り返ると、事務所の大先輩・・・・・
というか、私の事務所の一押しモデルの石川さんが立っていた
「あ・・・・お蔭様で仕事を頂けてますから」
緊張しながら答えたのが可笑しかったのか、くすっと笑われた
「あなたって、女の人のホストクラブでバイトしてるんでしょ」
えっ・・・・・・何かと思ったら・・・・もしかして怒られるんだろうか
でもその後の言葉は違っていた
今日私を連れて行ってくれないかしら・・・・だった
だから、仕方なく・・・・待ち合わせを決めた
- 808 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:21
- 石川さんは、子供の頃からこの世界にいて、
ご両親も大手企業の社長を勤めているようで家柄容姿共に、
この世界ではトップクラスだといってもいい
ギャラだって私より何倍も高いはず
そんな人がどうして・・・・・・
確かにモデルの世界・・・
そんな人が多いとは聞くけど
石川さんも?・・・・・・・・もってのは変か・・・・・
私は別に女の人が好きな訳じゃないし・・・・矢口さんが好きなだけだった
矢口さんの誕生日後、初めて今日ひとみさんと会えたはず・・・・・
どんな祝福の言葉を掛けて貰ったんだろうか
・・・・・私も一応電話したけどね
店で開店準備をしていると、
満ち足りた顔をしたひとみさんが入って来る
明らかな変化に、紗耶香さんが突っ込む程
矢口さんとの仲が順調だというのが一目で解った
- 809 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:23
- そんな視線に気がついたのか、
私を見て勝ち誇ったように一瞬笑って近づいて来た
「絵梨香さん・・・・・ウチ、矢口さんと絶対店持ちますから」
決意に満ちた顔
そう言って控え室に去って行こうとするひとみさんに慌てて声を掛けた
「あの・・・・・昼間の仕事の先輩が・・・・・・
ここに来たいっていうんです・・・・・ひとみさん迎えに行ってもらえますか?」
振り返ると・・・・・不思議そうな顔をして
「新規・・・・紹介してくれるんですか?ウチに」
「はい・・・・・ひとみさんが・・・・・適任かと・・・・」
へぇ・・・・・解りました・・・・と
唇を噛み締めて控え室に入って行った
- 810 名前:第三章 投稿日:2006/01/20(金) 01:23
- その後待ち合わせ時間になり、
ひとみさんと一緒に店から五分位の待ち合わせ場所に着くと、
石川さんは満足そうにひとみさんを上から下迄見て華の様に微笑んだ
ひとみさんの喉がごくりと鳴るのが解った
嫌な予感がした
まさか・・・・ひとみさん
「絵梨香さんのご紹介の方というのはあなたですか?」
「ええ」
久しぶりに見たひとみさんの完璧なオーラをまとった姿だった
- 811 名前:*** 投稿日:2006/01/20(金) 01:28
- なんとか矢口さんの誕生日に更新出来ました
狙った訳ではないのですが、偶然にも時期が合ったようで少し嬉しい
しかし、致命的なミス・・・・年齢がどうしても一歳合わなかった
しかも酔いながらの更新の為、少し不安・・・
後で見返すと誤字や変な改行とかになっててヘコみますから・・・
が、気にせず進ませていただきます
- 812 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/20(金) 04:46
- すごくドキドキしました
そして新たな登場人物にハラハラしてこれからも目が離せません
- 813 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/20(金) 15:00
- 矢口さんのお誕生日に更新してくれてありがとうございます。
余韻に浸る間もなく胸騒ぎが・・・。よっすぃはちょっとズルイ。
でも、でも見守っています。
- 814 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/21(土) 01:18
- おぉ!続き気になります!!
今後の展開が楽しみです。
- 815 名前:拓 投稿日:2006/01/22(日) 15:29
- いつも見守ってくれている812〜814:名無飼育さん
ありがとうございます。
まだまだ子供な矢口さんと、ヘタレでズルいよっすぃをこれからも見守って下さい
この続きは、大変生意気なのですが新しいスレを作成したいと思います
本当はこのスレで完結出来るはずだったのですが
大方の構想の中で、結構ちゃんとした文章にすると悩む部分が出てきてしまい
力不足と反省するばかりです
後少し第三章を続けさせてもらうと、次の章で終われる?か心配です
ざっと決めている展開を変更しようかどうか迷う所ですが
なんとか完結目指したいと思いますので今しばらく駄作にお付き合い下さい
ちなみに、恥ずかしながら新スレ用にHNをつけてしまいましたm(__)m
次スレ
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