――ヒミツの恋の育て方 4――
- 1 名前:Kai 投稿日:2005/12/14(水) 21:51
- 思いがけず長く続いてしまってます。まさか、こんなになるとは。
ヒミツの恋の育て方これにてラストになるかと思います。(多分)
初めて目を通す方は、おもいきり成人向けですのでお気をつけくだ
さい。
それでは、ヒミツの恋の育て方 3の続きから。
- 2 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2005/12/14(水) 21:53
- 「フッ。そんなにおいしいの?」
「………ん。」
舌がかき回されるたびに二人分の唾液が口の中に溜まる。
ゴクゴクと乾いた喉を潤すかのように飲み込むアタシを見下ろしな
がら彼女は満足そうに微笑んだ。
前髪をカシカシと撫でられる。
オイラは、幼稚園児にでもなったみたいにコクンと素直に頷く。
「もっと欲しい?」
「…ん。もっとォ。」
ちょうだいと口を大きく開いた。
艶々のリップ。セクシーな口元から、たらりと流れ込む透明な液。
それが、たとえ彼女の唾液だとしても、ジュースみたいに甘く感じ
るから不思議だった。
「さぁて。どうしようかなぁ?」
キラリと光る眼光に、ドクンと心臓が鳴る。
「フッ。どうしようかなぁ、矢口?」
同じ言葉を二度言われて、身体がぶるると震える。
それが、いつもとは違う。彼女が言う「お仕置き」なんだと分かっ
て、脚の間がチリチリと焼かれる感覚に我慢できなくなった。
怖いけど、この溜まった熱を放してくれるのならば、なにされても
かまわない。
たとえ、どんなに意地悪されても……アナタにされるのであらば、
ぜんぜん厭じゃない。
だから、いっぱい可愛がって……。
そして、いっぱい、キスをして…。
無意識のままそう懇願したのはアタシ。
でも、後で、そのことを死ぬほど後悔した―――。
- 3 名前:Kai 投稿日:2005/12/14(水) 21:58
- 本日の更新は以上です。
あれ?
なんか、思い切り容量勘違いして、またしてもこんな中途半端な感
じになっちゃいましたが、読みにくくなってホントすいませんです。
んで、4集目になっちゃいました!
ということで、まだまだ、このお話続きます。
- 4 名前:Kai 投稿日:2005/12/14(水) 21:59
- >383さん…お待たせしました。ようやくこっちに本腰を入れら
れそうです。
>384さん…本日も濃厚だったかしら?((●´д`))
最近は、めっきり大人っぽくなっちゃった矢口ですが、10代の
頃の元気な感じをできるだけ忠実に描きたいなって思ってます。
>ゆちぃさん。わーい。ゆちぃさんだ。d(≧∀≦*)ww
また読んでいただいてうれしいっスね。なちごまのあの終わり方は
最初から決めていて、ナッちゃん出したかったんだけどねぇ。
やぐちゅーは相変わらずな路線ですが、ヨロシクです。
>386さん…ヤタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
>387さん…ありがとうです。今日もご期待に添えたかしら?
>388さん…わざわざどうもでした。
- 5 名前:Kai 投稿日:2005/12/14(水) 22:03
- 休みボケしすぎて、うっかりなアタシは置いといて。
また、こんなん描いてるよって感じな展開なんですがぁ…。
12月は仕事が忙しくて、なかなか更新できず、しかしまた、エロ
で年をまたぐようなことはしたくないので…。((((>_<))))
年内になんとかもう一度更新できたらなと思ってます。
感想とかいただけたら、眠くても張り切っちゃおうかと。では。
- 6 名前:ゆちぃ。 投稿日:2005/12/15(木) 00:03
- わーい♪歓迎されてるw
更新お疲れ様でした。
相変わらず、いいとこで止めますねぇ。。。
かわいい裕ちゃんもいいけど、やっぱいじわる裕ちゃんはたまらないっすw
年内にもう一度!?!?
ほんとに期待大っ!!なかんじで待ってますね☆
- 7 名前:名無し 投稿日:2005/12/20(火) 02:01
- やっぱりやぐちゅーいいですねぇ。
のんびり待ってます・・・・が年内・・・・だいぶ期待してます♪
- 8 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/31(土) 23:41
- 年明けまで後少し。
気長に待ってます。
- 9 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 14:45
-
「――――ほなら、覚悟しいや。」
アタシの顎をギュって掴みながら、裕子が言った。
言いながら、唇の端をクイっと持ち上げる様もなんかカッコよくて…。
思わず、ポーっと見蕩れちゃう。なんだか、すっかりこの人に溺れ
ている気がするよ。
でも裕ちゃん、それ極妻じゃないんだからさぁー。
お腹の中で、くっくっと苦笑した。
まぁ、アナタの場合、それに近いものはあるけどねぇ。
あっという間に組み敷かれたベットの上で、上からのっしりと乗ら
れると、身動きが取れなくなった。
間を空けずに唇を塞がれて、舌を吸われて、舐めつくされる。
角度を変えてからも、深く深く…奥のほうまで。彼女に触られる場
所がなくなるほど、裕子のなまめかしい舌が口の中で蠢いた。
「もっと、口開けぇ…」
「…んっ、はあぁ……。」
「ベロもや。もっとォ……。」
唇が塞がれてからだいぶ経つのに、彼女はまったくヤメル気がない。
息ができなくて苦しくて…。まだする気なのかようと泣きそうにな
りながらも、言われたとおりに唇をほどいた。
人のものが自分の口の中にあるというのはすごく違和感があって。
だけど、次第にそんなのも感じなくなるほどどうでもよくなる。
感じる場所を隅から隅まで探られて、より敏感に反応したスポット
には念入りに攻められた。声にならないうめき声が自分の耳にダイ
レクトに響いてくる。彼女から流れ込んでくる唾液を夢中ですすって。
だんだん舌が痺れて麻痺してきた。頭もポーっとなる。
なんか、すごいキス。こんなキス知らない。どこに隠し持っていたんだよう。
おずおずと舌を差し出すと、はむっと軽く齧られた。
背中がビクンと仰け反る。
呼吸が上ずって、息継ぎのしかたも忘れるくらい体がおかしくなっ
てしまっていた。もう、このまま続けられたら死んじゃいそう…。
くらくらと眩暈がするよ。すぐにだらんと力を無くしてしまう。
- 10 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 14:47
- なのに今度は彼女の口の中に招かれて、さんざんに洗礼を受けると、
なにがどうなのかも分からなくなった。
「アンタが悪いんやでぇ。アタシを煽るから…。」
そう言ってくっついたままの唇が、笑ったような気がした。
「ふっ。………だいじょうぶかぁ?」
ようやく唇を離すと、彼女は、やさしくそう言って顔を覗き込んでくる。
揶揄うような声色は、甘い吐息になって頬に滑り落ちた。息もぜいぜ
いになりながら、ちいさく頷く。ぜんぜん大丈夫じゃないけど…。
自分は、こんななのに裕子はぜんぜん平気そうで、それがまた負
けているような気がして悔しくなった。
休日は、たいてい眼鏡か、裸眼でいることの多い彼女だけど。
今日は、帰宅から即効ベットへ直行だったから、いつものブルーの
カラコンだった。あぁ、この目に見つめられるとヤバイんだよねオイラ。
ドキドキが三割り増しになる気がするよ。だって、色っぽいんだもん
その眼。
なんかさ、コーヒーのCMとかに出てるあのハリウッド女優にちょ
っと似てない?
…って、なっちたちに言ったらみんな「はぁ??」って感じだったけど。
裕ちゃんって、もう少し大人になったらあんないい女になるのかなぁ
って、見るたびにドキドキするんだ。
最近、学校でしなくなったから、この顔みながらするのはホント久し
ぶりだった。なんか、別人みたいで緊張しちゃうな…。
オイラがそんなふうに思っているなんて露も知らない彼女は、ジッ
とアタシの顔を見つめてくる。
その焼けるような眼差しから逃れるように窓の外に視線を向けた。
知らない間に、あたりは真っ黒な夜空に様変わりしていた。
カーテンの隙間から差し込むまん丸い月がぽっかりと浮かんでいる。
少しだけ開けておいた網戸の隙間からスーと海風が迷い込んだ。
それが、火照った身体にちょうどいい心地よさを与えてくれる。
- 11 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 14:50
- 裕子の手が、そっと頬に触れた。
やさしい触り方。冷たくて気持ちいい。その手が、だんだんと降り
ていくのを、オイラは、黙って視線で追いかけた。
その瞬間、彼女が、ちいさく苦笑するのがわかった。
なにを見て笑われたのかが分かるから、オイラは、さっと顔を赤くする。
中途半端に脱いだままの格好に、さきほどの痴態を思い起こさせた。
すごい恥ずかしいよ。
これならば、いっそのこと全部脱いでしまったほうがまだマシだと
思うけど、もちろんそんなことは口が裂けても言えるはずがなかった。
そうして、意地悪な彼女は、自分の所業をわざわざ思い出させるかの
ように、その状態のまま行為に及んだ。
無意識のうちにこすり合わせた脚の間のものが、ジュっと焼け付く
ように熱を帯びていた。
低く甘く耳元に囁かれた彼女のきめ台詞を思い起こせば、これから
どんなことが起こるのかと、不安以上にドキドキと期待に胸を膨らます。
屈んだ瞬間、頬にやわらかい髪が落ちてくる。
至近距離で見つめあう二人。うれしそうに細められた濡れたブルーの瞳。
見ていられなくて、彼女の首筋にしがみ付きながら。オイラは、ふと
思い出していた。
そう、初めて人と身体をあわせたあの日のことを―――。
- 12 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 14:52
- 中学生のまだ子供でしかなかったあの頃の自分。
外見も中身も今いまとたいして変わっていないけど、精一杯背伸び
してた。
彼は、自分から告白して、付き合うことになったはじめての人だった。
部屋にお呼ばれして、当たり障りのない会話を楽しみながら、あた
り前のように口付けを交わすと、当たり前のようにベットへ押し倒された。
あれは、夏のひどく暑い日だった。
心の準備はしていたものの、期待よりも未知の世界への恐怖のほう
が大きくて。
友達や雑誌でそこそこ得ていた知識は、実際のところなんの役にも
立たなかった。想像してたものとは、まるで違っていたからだ。
なにがなんだか分からないうちに終わってしまってた。
あっという間のジェットコースターのようだった。
頭が真っ白になりながらも、アタシの上で獰猛に動く逞しい背中を
ただただ、夢中でしがみついていたのを覚えている。ポタポタと上
から落ちてくる汗。太い指先が乱暴にアタシの内側に触れてくる。
シーツが、血で真っ赤に染まる。
終わったあとは、気持ちよさよりも残された痛みのほうが大きくて。
疲労感でいっぱいだった。みんなが言うほど、その行為のなにがい
いのかさっぱりわからなかった。
それでも、好きな人に抱かれた喜びにこっそりと涙したあの日――。
なんか、裕子とするとき、ときどき思い出すんだよなぁ…。
あの、なんとも言えない切迫した感じが、ちょっと似ている気がするんだ。
って、…変だよね。
だって、彼とアナタとでは、なにもかもが違いすぎるのに……。
愛撫されるたびに、やわらかい髪が何度も頬を撫でるのがくすぐっ
たくて…。こんな些細な喜びを知ったのもアナタが初めてなんだよ?
首筋から漂う甘い匂い。なめらかな所作。抱き合うと意外に高い体温。
身体を合わせるたびに、こうして、初めての喜びをいっぱい積み重
ねていくの。
- 13 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 14:55
- 今ならわかる。あの頃の自分は、幼すぎたのだと。恋をしている自
分に恋をしていただけだった…。
セックスをしたらば大人になれるのだと思いこんで、いい気になっ
ていたけど、その考えは間違いだった。彼と別れてから、なにもか
もがうまくいかなくなって、生きてることがどうでもよくなって。
そのくせ、死ぬほどの勇気もなくて、自堕落でどうしようもない生活
を続けた。
軽はずみだったあの頃の自分の行動をいまは、ひどく恥じている。
でも、そんなバカな自分がいなかったら、こうして裕ちゃんと抱き
合っていることもなかったんだと思うと、複雑な気持ちにもなった。
ただ、キレイな身体で、アナタに抱かれたかっただけ…。
過去を思い返すたびに、こんな身体を触れさせてしまって…と、い
つも申し訳なく思うんだよ。
でもね、いまは、胸を張ってこの人が好きだって云えるから。
だって、触られる前からオイラの身体はこんなふうになっちゃうんだ。
期待してさ。こんなの初めてだ。なんか、恥ずかしいって…。
上からジッと見つめられるとどうしようもなく息が苦しくなった。
ホントにホントに好きなんだ。そう思う。
だって、数えきれないほどにキスしたはずなのに、アナタに身体を
見られるたびにいろんなところが燃えるように熱くなる。
だから、聞き分けのない子供のようなふりをして、彼女の胸でイヤ
イヤと甘えたくなる。
するたびに、なんだか、自分が、ぜんぜん別の人格になっていて。
やらしい声が耳に届くたびに、恥ずかしくて目を伏せる。
だって、こんなのオイラのキャラじゃないんだもん。
きっと、裕子もおかしいと思ってるって…。
「んっ、……あぁん、…ぃゃぁ……あ……。」
声を出したくなくて、唇をきつく結んでいても、どうしても喉の奥
から喘ぎ声が洩れてきちゃう。
自分じゃないような甲高い声が脳にこだまするたびに、ひどくうろ
たえた。どう考えても、心と裏腹な呟きが紡ぎだされるのに、見下
ろす彼女の腹筋がくつくつと甘く震えている。
- 14 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 14:57
- 「あぁっ、ん……やぁぁ。」
指の動きが緩慢になった。
思わず身体がくねくねと捩る。
「くくっ。いやなん? いやなんやったらもう止めちゃおうかなぁ…。」
「ああぁぁ…、やあッ!!!」
アタシは別にええでぇ。と。
したり顔で上から覗き込んでくるのに、触れられたままのほっぺを
プルプルいわせながら、縋るように見上げた。
なんで、そんなこと言うのォ?
知ってるくせに。そんなことぜんぜん思ってないの…。
それなのに、口癖のようにどうしても出ちゃう……。
こればかりは、わかっているけど、止められないんだ。
でも、ホントに胸の粒を弄っていた手が止められると、もっとはし
たない声が出た。
やだやだ。やめちゃやだって。
そんなコドモのような矢口の反応に、裕子が微苦笑する。
頭がカーっと熱くなる。だけど、そんなのにも構っちゃいられなかった。
途中で止められるのは辛いだけだ。
今朝から、さんざんやられてきた身だから余計に……。
「ああ、やぁ、ね、おねが…ぃ……ゆうちゃ……ッ!!!」
「ふふっ。…なん?」
意地悪な口元の笑み。そんなアタシを愉しむかのように見つめてく
る青い瞳。
片側だけ中途半端に放り出されたそれが、ピンと勃ちあがっている。
それを見ちゃうともう耐え切れなくて、ベットのスプリングに腰が
跳ね上がった。それをまた面白そうに眺めている意地の悪い人。
始まる前の宣誓のとおり、今日の裕子は、最初から意地悪モードだ。
そんなに焦らされたら辛いだけなのに、面白がってそういうことす
るんだからな。
一人で舞い上がって、こんなふうになってしまっているのが恥ずか
しい。いつもだったら、キャンキャン吼えまくるところだけど、そ
んな余裕もなかった。いまは、一刻も早くこの状況をなんとかして
欲しくて…。それをしてくれるのは……この人しかいないんだ。
- 15 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:00
- 「やっ、ねぇ、ゆうちゃぁん?」
「……なんよ?」
「もうっ、だからぁ………。」
「だから…?」
鸚鵡返しは、何度となくされてきた裕子の得意中の得意技だった。
こうしながら、無理やり恥ずかしいことを言わせようとしているの。
あぁ最悪。なんで、いつもこうなんだろう…。
いままで厭というほどやられてきた自分には、ここでホントに言わ
なければしてくれないというこの人の非情さも同時にわかってしま
っていた。言うのは、恥ずかしいけど、言わなきゃしてくれない。
究極の二者択一だった。
顔が、これでもかというほど熱くなる。
それでも、どうして言いたくなくて渋っていると、やさしく前髪を
払われて…。
「……ん? どうした?」
みっともなく泣きそうな顔をジッと覗き込まれると口がへにゃんと
歪んだ。それを面白そうに眺めながらくくくと笑う人。あぁ意地悪だ。
だけど、この顔、めちゃ好きなんだよなぁ。思わず見蕩れてしまう。
こういうときの裕子は、めちゃくちゃ色っぽい顔をするから。
こんな人が自分を見てくれているだなんて…そう思うだけで余計に
恥ずかしくなってしまって、もう目が見れなくなる。
ふいと顔を背けると、顎を捕まれていた指にぐいっと元に戻された。
瞬きもさせてもらえないほどに、顔が近づいた。
そのままキレイなピンク色の親指が、言葉を紡ぎださせようとアタ
シの唇を優しく撫でる。
「……ん。」
固い爪をはむっと咥える。
彼女の意図を察して舌を大きく出すと、子猫みたいに夢中で舐めあげた。
ホントにペットでも眺めるかのようにうれしそうに目を細める恋人
の顔に、ドクンと胸の鐘がなる。
「でも、矢口、や、なんやろォ?」
「…ち、ちがうよォ。」
そうじゃない。そんなつもりで言ったわけじゃないの…。
それだって、分かってるくせにぃ。
笑いながら言ってるってことは、やっぱり本気じゃないってことだ。
ただ、恥ずかしがらせたいだけで…。おねだりさせたいだけなんだ…。
もう、お前の魂胆はみえみえなんだよ!
「アンタが、いま、いやや、ゆーたんやんかぁ…」
「そ、れは……ちがうってばぁ。んもう、ちがうからぁ…。」
- 16 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:02
- しつこいって。そんなに苛めんなよ。
普通に愛して欲しいのに…どうして、こういうことばっか言わせよ
うとするんだよう。いつもいつもいつも……あああぁ。くっそォ。
それでも我慢できそうになくて、それは、アナタがそばにいるから
余計に…。結局は裕子の思いどおりになってしまうから情けない。
最初はどんなに抵抗しても、目先の快楽に負けてしまうのが常だった。
喉がぶるっと震えた。
「……お、ねがぁい……。」
「………ん〜?」
「…ゆうちゃぁん……してよォ…。」
彼女の長い指が、うっすらと雫のついた目元をそっと拭うように撫でた。
オイラのそんな掠れ声に、裕子の顔が甘く蕩けた。
百歩譲って、恥ずかしい言葉を素直に口にしたのに。
まだ意地悪は止まらないんだ。唇の端をわずかに上げて、余裕たっ
ぷりにニヤリと不適に微笑んだ。まだ、なんかさせる気満々の顔。
あぁ、ほんとに……。
「ふ〜ん。…で、なにをォ?」
くっそォ。お腹のなかでバタンバタンと地団駄を踏んでいる。
これも、今日じゃなければまだ許せる範囲だけど…。
もう、我慢できない。やめてよ、そういうの…もう、いい加減にして。
「……もう、だから、さっきみたいに……。」
「さっきぃ? さっきってなんのことや。矢口な、人に物を頼む
ときは、ちゃんとどうして欲しいのか、言わな伝わらんやんかぁ……。」
「…………ううっ。」
裕子は、さらに無慈悲にそう言ってのけた。
ちくしょう。なんだってんだッ!
こっちが下手に出ればいい気になりやがって。
あまりの言い草に悔しくて歯噛みする。…けれど、どう考えても立
場が悪いのは、自分のほうだった。
裕子は、別にこのまましなくても平気なんだろうけど、オイラはもう
限界寸前。爆発寸前。
潤んだ瞳を瞬いて、また泣き出しそうになった睫を慌てて伏せた。
朝から散々焦らされまくって、しまいには自分で自分を慰めたりも
したけど、結局は最後まではイけなかった。身体がもう、許容量を
超えていた。
- 17 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:05
- 「やぁ、やだやだ、もォ、早く触ってよォ……。」
スーパーのお菓子の前でおねだりするコドモのように、脚をバタバ
タさせて懇願する。堪えきれない涙もいっしょに滲み出た。
そんな姿に、目の前の人は、微苦笑しながらも非情にも言い放つ。
「だから、どこを、て?」
くくっと鼻をならして、矢口の様子を面白そうに見つめてくる深い海の色。
なんで、この人は、こんなに余裕しゃくしゃくなんだろう。
こっちは、それどころじゃないのに。疼いたそこが悲鳴を上げている。
「ちゃんと言わなぁ、わっかりません〜。」
おちゃらけた様子に無性に腹が立ってきた。
もう、もう、なんなの。我慢できないって言ってんじゃん。いい加減
にしてよォ〜!!!
「んじゃ、もういい!」プィと背を向けたいところだけど、実際に
したのは、まったく反対の行動だった。
どうにも我慢できずに、彼女の望むとおりの言葉を口にする。
不貞腐れた顔をしたまま、アタシの唇から紡ぎだされた3文字に目の
前の顔が、これでもかというほどニヤけた。
あぁ、もうホントやだよ。この、スケベオヤジめ!!
普段のやさしい表情が一転、こういうときだけに滲んでくる艶っぽ
い表情にドキドキしちゃってる自分にも腹が立った。
それでも、今日の裕子の言葉責めには容赦がなかった。
嫌みったらしくネチネチと言う。
「ふ〜ん。チクビ触って欲しいねや? 触るだけでええん?」
「あっ、やあぁ………。」
「んじゃ、どうされたいん?」
下向きになったアタシの顎をくいっと持ち上げて、自分はこてんと
首を曲げて可愛く問うた。
あぁん、もう!!
もうこれ以上、焦らされたら狂ってしまう。
泣きそうに顔を歪ませながら、背中をわずかに持ち上げた。
- 18 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:07
- 「……チュゥもしてほし…ぃ…。」
「ふふっ。チュゥって、ここにぃ?」
「う、うん…。」
改めて言い返されると、自分がした発言に恥ずかしくなる。
なにが、「チュウ」だよ!! どの面下げて、そんなことを…。
ガーって、一気に顔が赤く染まる。
でも、ちゃんと言わないとホントにそのままなことも分かってるから。
あまりに焦らされ続けて、自分が自分じゃなくなってきている。
矢口の頭の回線のなにかがぶっ壊れてしまった。
なんでもいいから、早く触れて欲しくて堪らない。
この疼きを、アナタの指でいっぱいに満たして欲しい――。
裕子は、その反応に至極満足したのか。
ますますヤニが下がって、視線がそのまま、すでに屹立しているピ
ンク色の部分に向けられた。
つられるように視線を向けると、そのすっかり恥ずかしい状態にオ
イラは、顔をポッと染めながらも神妙に頷いた。
「ここ?」
すごい勃ってる。
恥ずかしいって。
「…う、うん。」
「矢口、ここをアタシに、舐めて欲しいねや?」
「………ん。」
頷きながら、まるで誘うように自然と背中が浮いた。
素直なその反応に、裕子がクスリと微笑する。
これ以上ないほど上がりすぎた体温。体温計を口の中に差し込んだ
ら間違いなく壊れちゃうだろう。
「フッ。やっぱりえっちな子やねぇ、…アタシに、おっぱい舐めろ
って言うてんのォ?」
「………うっ。」
わざわざそんなふうに言わなくたっていつも勝手にしてることじゃんかぁ。
それでも、改めてそう言われてしまうと、なにかとんでもないことを
おねだりしているような気になって、シーツを掴んだ手をモジモジする。
「んじゃ、かわいく“裕ちゃん舐めて”って言ってみぃ?」
うっ、くそエロオヤジめ。
なんで、そんなに意地悪ばっか思いつくんだよう。性格悪いんだからな。
睫の触れるくらい近くで、顔を覗き込まれて、もう、逃げ場所はな
かった。
- 19 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:10
- 「ほぅら、早く、なんていうん?」
目を細く眇めながら、イヤラシイ瞳を向けてくる。
「…裕ちゃん、舐めて……。」
うろうろと視線を彷徨わせながら。
ちょっと棒読みだったけど、彼女は、それに満足したようにアタシ
の髪をくしゃりと掻き混ぜた。
「たくっ、しゃぁないな。ほら、ジッとしときよ!」
「はぁぁっ」と、わざわざため息まで込めてまで、恩着せがましく
言うと。じわじわと彼女の唇が近づいてくる。
間を持たせるようなゆっくりとした動作に焦れながらも、期待に胸
をバクバクと膨らます。
先に触れたのは指だった。ころりとしたちいさなそれを丸く転がさ
れた瞬間、感電したかのように背骨にビリリと電気が走った。
見下ろしてくる人が、おもしろそうにお腹を揺らすのが振動で伝わ
ってくる。
今度は、ジッと目を見つめられながら、膨張した反対のそれを赤い
口の中に迎えられる。絶妙なさじ加減で舌で押しつぶしながら、反
対は、指で摘み、軽く捻られる。
両方からいっぺんにおとずれる急激な刺激に、ベットの上で何度も
バウンドする。
取れちゃいそうなくらい激しくされる執拗さに、感覚が麻痺して、
痛いのか、気持ちいいのかわからなくなる。
10本の足の指が変な風に折れ曲がった。
滑らかな舌の感触。裕子の口の愛撫はひどくやさしい。温かくて、
尖ったそこが、一瞬にして蕩けそうになる。
「あぁ、う…んんっ……ゆうちゃ…。」
「キモチぃん?」
「うひっ、ああぁぁぁ……ん……。」
やだもう、咥えたまましゃべんなよう。
繰り返し熱を与える愛撫に、声にならなくてコクコクと返事した。
脳天を刺激するような鋭い快感に、身体が勝手にうねり狂う。
ヤバイ。キモチよすぎて、これだけでイっちゃいそうだ。
こんなところで、あっけなく終わりたくない気持ちと、我慢できな
い気持ちが、絶えずせめぎあいにあって。
下のほうにも触れて欲しくて思わず、クイクイっと腰を押し付けちゃう。
そんな矢口の猥らな動きに気づいたのか、チクビを口の中でいたぶ
りながらその唇の端がニヤリと持ち上がった。裕子は黙ってそのま
ま続ける。
- 20 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:14
- 「コォラ、だめやて、矢口、目ぇ瞑るなッ!」
「…やっ、でも、だって……。」
見てると余計にヤバイんだもん。
それでも彼女の声にならって恐る恐る視線を向けると、ちょうど前
歯でチクビの先を齧っているところだった。チュウと音が立つくらい
吸引されて、そこが伸び伸びしなる。
「…んっ、…あぁん、やだぁぁ……。」
「フッ。アタシにこんなことさせて、やらしいなぁ矢口は…。」
裕子の愛撫には容赦がなかった。
焦らされ続けたぶんだけ、体の内側に訪れるその反動は大きかった。
あまりの激しさに呼吸するのさえ苦しくなって、どうにか封じさせ
ようとその手に手をやるのだけど、それも、どうみても、添えてい
るだけのようにしかみえない。
それどころか、まるで、もっとしてくれとでも言わんばかりに上か
らギュって、押さえ込む始末で…。
そんな過敏に反応するのに彼女は、愉快そうにクスクスと笑った。
間近で目が合って、カーってする。
恥ずかしくなっちゃっている顔をジッと見つめられるのは厭で、慌て
て視線を逸らした。裕子の叱咤が飛んでくる。
なんべん抱かれても最初のときと、この恥ずかしさは変わらない。
いや、慣れてきたぶんだけ、余計に照れくさくなった。
なんかこういうの世の夫婦たちはどうしてんのかと思っちゃうよ。
食事をしたり、テレビを見ながら談笑したりした後に、夜にはこん
なことやりながら、でも、どうやったら平然と何事もなく生活して
いられてるんだろうって。
オイラには耐えられない。いつもそのことばかり考えちゃう。
彼女の唇をみるたびに。手を繋ぐたびに。この人にキスされたこと
を、触れられたことを思い出す。
一日中、そんなことばかり考えてるオイラって、どっかおかしいのかな?
でも、こういう感情は、生まれて初めてなんだ。
いままで、何度となくしたのに、どんなに時間を掛けても慣れない。
この人とそういうことするようになって、自分の身体の変化を知った。
いままで付き合った彼氏とや、いかがわしいバイトをしていたとき
も自分は、セックスには慣れているものだと思い込んでいたけど、
それは、ぜんぜん違っていた。
- 21 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:17
- 本気で感じるというのはどういうことなのか。
愛情が込められるだけで、精神的にだけでもイけるんだってことを
この身体に徹底的に教え込まれた。
裕子の愛情は、今までしてきた相手の中の誰よりも大きくて、そし
て、激しかった。
それが、ある一定のボーダーラインを超えたとき、アタシの中の想い
が一気に爆発するのを感じる。
もう自分がなにをしているのか、なにを口走ってくるのか分からない。
「あぁん、やぁだ…。ゆうちゃ、いやぁ、いやぁ…。」
脚をバタバタさせながら叫んでいた。
「あん? なんよもう、どうしたん…?」
「…やだ、怖い…おねがい…そんなにしないでよォ…ひくっ……」
しつこいぐらいに弄られていた指の動きがピタリと止まる。
ハァと、これみよがしの溜息付きで。
「だからもう、どっちやねんな。やれ言うたり、止めろ言うたり…
アンタ、今度それ言うんやったら、ほんまに止めちゃうでぇ?」
「やぁ、でも、だってぇ……。」
そんなに胸ばかりされたらキモチよすぎて苦しいよ。
快感がそこばかりに集中して、身体の中がおかしくなった。
頭がなにも考えられなくなって、どっかに飛んで行っちゃいそうで
それがすごく怖くて…。
やれやれと呆れた声を出すも、そのキモチが伝わったのか無意識に
手を繋いでくれる。
口調では容赦ないくせに、そのさりげない彼女のやさしさが大好き
だった。
「もう、ええのん?」
「……う、うん。」
それでも、まだ怯えるような態度に彼女はクスリと微笑して赤く腫
れ上がった耳たぶを甘噛みする。
そのまま丹念に舐めながら首筋、肩へと移動する。
また胸のほうへ行くのかと思った唇は、いつの間にか、バンザイさ
せられていた腋のほうへと方向転換した。
チロチロと舌先で敏感な部分をくすぐられて、オイラは溜まらずに
ビョンと跳ね上がる。
「もう、あかんてば。ほら、ジッとしとき!」
くっくっと笑いながら掴まれたままの片手を思い切り上に伸ばされた。
思いもよらないことをされて戸惑った。無駄毛の処理はいつもして
るし、腋は薄いほうだから心配ないと思うけど…。って、そういうこ
とじゃねーよ。
- 22 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:19
- シャワーを浴びてない身体は、きっと汗臭いに違いなかった。
たとえキレイなときでもそんなところを舐められるなんて耐え難い
ことなのに。
いやいやと大げさに首を振ると、彼女は、ムキになって舌で舐めよ
うとする。まるで、わざと反応を出させるかのように。
「フッ。ちょっと酸っぱい匂いすんなぁ…。」
「あふっ。あひゃ、や、やあぁ…。やだってぇッ!」
言いながらスーと鼻を鳴らされて、身体を捻って本気で嫌がる。
か、嗅ぐなよう。そんなとこォ。それに、改まってそんなふうに言
われたら恥ずかしいぃ。
聞こえてきた彼女の意地の悪い言葉に、泣きそうになった。
仕事柄いろんなフェチの人に出会ったけど、腋の下なんてそんな場
所は、いままでされたことがなかった。
皮膚の薄いところはそれでなくたって敏感なのに。ただでさえ、く
すぐったがりな自分は、その行為に耐え切れなくて……本気で嫌がった。
それなのに、裕子は執拗に攻めてくる。
普段の自分ならば彼女と腕相撲しても勝てる気がするけど。こうい
うときの裕子はなぜかバカ力で、ビクともしない。
彼女自身も、矢口が過敏に反応する場所を探り当てたみたいにその
瞳がキラキラと輝いていた。
そんな格闘がしばらく続いた。
「もう、ゆうちゃ、やだやだやだ…やだってばっ!!」
「ちょ、こら、逃げるなッ!!」
狭いベットの上で、ギシギシ云わせながらのた打ち回った。壁際ま
で追い詰められると、咄嗟によけようとして、彼女の頬に振り翳し
た手が当たってしまう。
「あっ。」
「…いて。」
お互いの動きがピタリと止まった。
そんなに強く当たった感じはしなかったけど、申し訳なさにオイラは
慌てて起き上がった。
- 23 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:21
- 「うわあっ! ご、ごめん。裕ちゃん、だいじょうぶぅ?」
「あたたた……。もうー、痛いやんかぁ矢口ぃ……。」
なにすんねんなと言いながら、大げさに頬を擦っている。
ごめんなさい。……でもォ、今のは、裕子がぁぁ…。
一応は謝ってはみたものの、やっぱり、オイラは悪くない…よね?
裕子が厭だって言ってるのにムキになってするからじゃんかぁ。
それでも、キレイな顔に傷が付いたら大変だと注意深く覗きこむ。
と、悪戯を思いついたコドモのようにキラリと目を輝かせて、彼女
は、ベットから立ち上がった。
そのまま壁に掛けてあったアタシのセーラー服から赤いタイをスル
ルと抜き取ると、暑かったのか自分のスーツを脱ぎ捨てて白いタン
クトップ姿になった。
そういえば、自分だけ裸になっていたといまさらのように気が付いて。
遅ればせながら思い起こした羞恥心にポッと頬を染める。
と、その間に戻ってきた彼女が、矢口の両手を一纏めにすると、グル
グルと強引に纏め上げた。見事な早業に、呆然とする。
「……エッ!!?」
さっきまでの快楽の余韻で、霞みかけていた脳では、咄嗟のことに
状況が掴めない。
彼女は「ん?」と首を傾けるも、その目は明らかに笑っていた。
「…裕ちゃん?」
――これはなに? どういうつもりですか?
「……なんべん言うても、アンタが言うこと聞かんからな。」
まるでこっちが悪かったかのように、こともなげに言ってのけた。
きつく纏められた両手は、御へその上でそのまま自由を失った。
そうして、ようやくことの状況が読めてきて本気でパニくった。
「な、な、なんっ、なんでだよ。こんなのはやだよォ、外してッ!!」
「あーもう、うるさいて。犬やないねんからそんなにキャンキャン
吼えるねや。ご近所さんに迷惑やろう…。」
「…でも、や、やだよっ やだってば。ゆうちゃ……!!」
力任せに外そうとする。と、思いのほか固く結ばれたそれは、いう
ことを聞いてくれず、暴れたせいで、余計にきつく結ばれてしまう。
- 24 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:24
- 「なっ、ちょ、やだ、外せってばっ、裕子!!」
こういうのは厭だよ。
普通に抱き合って、愛し合いたいのにこんなふうに一方的なんて…。
しかも今日の裕子は、なんだか容赦がなかった。
自分が、またとんでもないことをやらされるんじゃないかって不安
にもなる。
海から釣りあがったばかりの魚のようにベットの上で暴れ狂うオイ
ラの肩を押さえ込みながら、低く囁くように彼女が言った。
「フッ…。アンタさ、まだ自分の置かれた立場が分かってないよう
やね?」
「……なっ、なにがだよ?」
長くてキレイな人差し指にコツンとおでこの中心を突付かれて、そ
のままバタンと枕に倒された。
妖しい笑みを絶えながら、裕子がお腹の上に乗ってくる。
ほどよい重み。てか、スカートからパンツみえてるってばぁ!
「最初に、今日はお仕置きやって言うたやん。お仕置き言うたら、
罰やで。アタシのベットでイケナイことしてたアンタには、そんな
ん言う資格なんてないの。分かる?」
「…………―――。」
ニタニタしながら言われたその言葉に、サッと顔色を変える。
さっき見られた恥ずかしい姿をふたたび思いかえして、全身が、カー
と熱くなった。
そういえば、このベットで一人えっちしたところを帰ってきたこの人
に見られたんだった…。そして、お仕置きだって言われて…。
別に忘れていたわけじゃないけど、思い出したくないことは、頭の
隅のほうへこっそり封印してた。
だから、そんなふうに改めて彼女の口から言われてしまったら、本
当に身の置き場がなくなった。
一瞬にして、しゅんとうな垂れる。その反応に裕子がクスクスと笑う。
でも、あれだって、元をたたせば裕子が電車で痴漢したからで。
だから、「我慢できなくて一人えっちしてました」なんて大きな声
では云えないことぐらい分かっているけど…。
それでも、オイラだけが悪者っていうのはヒドクないか?
頭の中で、釈然としないいろんな想いがぐるぐるとループする。
しかも、彼女に貼りついた笑みには、なにかとんでもないことを企
んでそうで、それが、ひどく落ち着かないキモチにさせられた。
その表情をジッと伺いながら、熱の籠もった脚をモジモジさせる。
- 25 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:27
- 「フフッ。…なぁ、なにを想像してるん?」
二本の指に顎をグイっと掴まれて。
頭の中のことを読み取られたようで、バッと顔を背けた。
「………べ、べつに。……ッあ……やあぁぁ!!」
その隙をつくように。
中途半端に膝のあたりに収まったままだった下着を軽やかに脱が
されてしまう。そのまま膝をぐいっと広げられる。
脚を閉じれないように、裕子が、その間に入ってきた。
「………っ、あぁぁ、…」
冷たい手のひらに内腿の敏感なあたりをサワサワと撫でられて、き
わどい場所を行ったり来たりを繰り返すたびによがりとしか言えな
い悲鳴が零れた。
「……ぃゃ…ぁ、いぅ…………うわああぁぁああ。」
わざと掠めたかのように膨張したそこに触れた瞬間、たまらずに甲
高い嬌声を放ってしまう。裕子が、慌てて手のひらで口を塞いだ。
「くくっ。だから、あかんてば。もう。あっちゃんに聞こえちゃう
やろォ…。」
困ったような声。
それでいて、笑いが籠もっていることもちゃんと見抜いている。
いったい、誰のせいだようと文句のひとつも言いたいころだけど、
壁の薄いこのアパートの状況を誰よりも知っているアタシは、慌てて
唇をかみ締めた。
そのとき、お隣から、ガタンと音が鳴った気がした。パタパタと床
を歩くスリッパの音まで鮮明に聞こえてくるようで。
さっきまでぜんぜん気にしてもいなかったことを過敏に反応する。
そう、彼女が言うあっちゃんこと稲葉貴子さんはここのお隣さんで、
実はウチの学校の保健医でもあり、彼女の親友でもあるのだけれど。
私たちのただならぬカンケイを知っている数少ない人の中一人だった。
だからって、こんな声、人様に聞かれたいことじゃないよ…。
御へそのうえで、ひとつに括られたままの拳をギュってした。
「さてと、じゃぁ、見せてもらおうかなあ?」
「……へ?」
急に標準語で話すから、思わず間抜けな声がでた。
この状況で、なにが、「じゃぁ」なのかよく分からない。
でも、次の彼女の言葉を聴いた瞬間、ビクンと身体が慄いた。
「では、まずは、アンタのその恥ずかしい場所を、裕ちゃんに、よ
く見せてみぃ?」
- 26 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:30
- やさしい口調だけれど、そこには有無を言わせない雰囲気があって。
それが『第一の指令だ!』とでも云うように彼女は、そうこともな
げに言ってのけた。
しかも、「まず」って、これから先にもなにかが起こるような意味
深な言葉尻だ。
そんなことしたくないと縋るようなキモチでおずおずと見上げると、
やけに愉し気な彼女の表情に泣きそうになった。
だって、こういう顔のときの裕子の命令は絶対だから―――。
アタシたちは、恋人同士だけど、とりわけそういうことになるとき
の主従関係というものが、いつの間にか確立してあった。
オイラも裕子に出会う前は男の子と付き合っていたわけで。
その頃の自分はというと、すべてを彼に委ねていた。自分のほうか
ら、なにかしてあげようなんてまるで思わなかった。彼女だって、
聞いたわけじゃないけど、きっと、そうだったのだと思う。
最初からオンナの子しか好きになれない人たちとは違って。
いままでなんの迷いもなく男の子と付き合ってきたアタシたちだけど。
はじめから戸惑うこともなかった。
こんなふうにいつもいつも裕子が主導権を取るわけじゃもちろんないし。
オイラのほうが、裕ちゃんにすることもある…。
10の年の差はあるけど、経験値ではぜんぜん負ける気はしないし。
(なんて大きな声じゃ言えないけどね…)それに、腕力だって、チビ
だけど五分五分ってところだろう。
ただ、ことセックスに関しては、彼女のほうが“してあげたい”側
の人で、自分は、“されたい”願望のほうが強かったってだけの話だ。
その点に関しては、二人はパズルのピースのように初めからガチして
いた。そう考えると、自分たちは、相性はいいほうなのかもしれな
いとさえ思えてきて、ちょっとばかりうれしくなった。
ただ、彼女の行為に関しては、ときどき度が過ぎることがあるとい
う難点も否めなく。
暴走族で番を張っていた時代の名残なのか、根っからなのかは知ら
ないとけど、たびたび、こういう意地悪を仕掛けてくるから、こっ
ちとしては堪らないよ。
その鋭い瞳で睨みを利かされたら、云うことをきかざるを得なくなるんだ。
- 27 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:33
- 確かにさっきまでそこにあったはずの羽毛布団がいつの間にか、フ
ローリングに除けられていた。
二人も乗れば十分すぎるくらいのセミダブルベット。
ギュっと爪を立てると、薄いブルーのシーツに波風ができあがる。
真正面からやさしい牙を持つ猛獣に睨み付けられると、バカみたいに
そのまま硬直した。
「ほら、早くしぃよ!」
ピシャリと言われて、「ひぃ」と息を詰めながらも、ちいさく首を振る。
なんで、オイラが、そんなことしなくちゃいけないんだよう…。
無言のまま言い返す。恐怖で声にはならない。
だいたいさ、罰って裕子は言うけど、オイラは別にそんなに悪いこ
とをしたわけじゃないじゃんかぁ…。
ちょっと、一人えっちしてたってだけで…そこまでさせられる云わ
れはないよ。
そう改めて考えてみると、彼女の部屋で、彼女のパジャマの匂いを
嗅ぎながら、彼女にされている妄想に耽っていたアタシは、やっぱ
り彼女の言うとおり悪い子なのかもしれないと…はたと思い直す。
そんなふうに心が葛藤している間でも、裕子の声には容赦がなかった。
「ふ〜ん。できひんなら、脚も縛るしかないかなぁ………。」
「なっ……!!」
探偵さんのようにフムフムと顎をさすりながら呟いたその言葉に、
ジリジリとお尻を伝って移動する。
あまりのことになにも言い返せなくて、口をパクパクさせながら見
上げると、彼女の顔には、にやりと定番の人の悪い笑みを浮かべていた。
裕子のことだから、ホントにやりそうなところがひどく恐ろしい。
すでに手も自由が効かなければ、そんなことまでされちゃったらそ
こでもはやアウトだ。そのまま、やりたい放題されちゃうなんてま
っぴらごめんだよ。
オイラは、泣きそうになりながらも、ピタリと閉じてあった膝頭同
士をおずおずと引き離した。
「ふふっ。そうそう、素直がイチバンやでぇ。矢口。」
やさしい声。なのに、次には鋭い声が矢のように降ってくる。
「もう、それじゃ、ぜんぜん見えへんて。もっと大きく開きぃや。」
「………ひぅ…ッ……。」
有無を言わせない圧倒的な雰囲気に一気に呑まれた。
言われた通りに、ゆっくりと膝を立ててじわじわと開け放す。
裕子の視線が、じっとそこに向かう。
- 28 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:37
- 「やぁっ!!」
「…もォ、あかんて、手で隠したら意味ないやろォ……。」
それでも、無意識のうちに見えないように両手を翳すと、それも、
どけろと冷酷な支配者は言ってのけた。
羞恥の業火に身も心も焼かれる。
悔しさと恥ずかしさがない交ぜになって、オイラは頑なに目を閉じた。
それでも、強く言われば立場は弱かった。
翳していた手を除けると、屈んだ彼女が近づいてくるのが気配でわ
かる。濡れてビショビショになったところを知られちゃう。
「…あぁぁ……やんっ…。」
たまらずに自分も知らない甘ったるい声を上げてしまう。
裕子が、顔を上げて笑った。
「フッ。どうしたん? まだ、なにもしてへんでぇ?」
なに可愛い声だしてんの…と、脚の間から矢口の顔を覗き込むよう
に、裕子が、クスリと微苦笑した。
こんなふうに一方的に熱くさせられて、一方的に裸にされて、こん
な恥ずかしい場所をこんな近くて見られてしまって…。
いま、そこがどんな状態なのか自分が一番わかっているだけにひどく
恥ずかしかった。
たったこれだけのことで、滝のように蜜を垂れ流していた。
何度も何度も脚を閉じたい衝動に駆られた。下唇に前歯が突き刺さる。
だって、裕子は分かってないんだ。
こういう行為が、どれだけ残酷で、辛いことなのか。
恋人に…、好きな人に、こんなことまで強いられて。
煌々とした灯りのもとで、一番見られたくない場所を見せなければ
いけないという状況が普通じゃない感情を芽生えさせた。
身体が、異常に熱くなって。
ちょっとでも触ったらジュっと火傷してしまいそうだ。
次第に眼がウルウルしだす。次に恥ずかしい言葉を言われたら溜ま
った涙が零れちゃう。そんなアタシの恥ずかしがる顔をこれみよが
しに眺めながら、哂っている人がひどく憎らしくて、奥歯を噛み締めた。
「めっちゃ可愛いでぇ、矢口…。」
「やぁぁ……。」
卑猥に聞こえるほめ言葉。どこを見ながら言ってるのか分かるから
いやいやとかぶりを振る。
- 29 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:40
- ちらりと視界に映った彼女は、興奮で顔を赤らめていた。
額に大粒の汗を掻きながら、アタシのそこにねっとりと視線を送る。
にやりと上げた口角。うれしそうに蕩ける青い瞳。
それは、抵抗を封じて、これから思う存分苛められることを心底喜
んでいるような微笑だった。
それが、わかっていても、どうすることもできない不甲斐ない自分。
「…ゆう…ちゃ…ん…。」
「ん〜?」
見ることに夢中な彼女は、おざなりに返事をする。
思わず脚を閉じたくなって、でも、ギリギリのところで思い留めた。
「…お願い………そんなに、近くで見ないで……よォ…。」
震える声で、弱々しく懇願した。
無理だとわかっていても。そういう発言自体が彼女を余計に喜ばせ
ていると知りつつも、どうにも我慢がならなかった。
だいたい裕子だって、そこに深く興味があるわけでもなく、単にア
タシに恥ずかしがらせたいのが魂胆なんだというのも承知してる。
案の定、ニヤケた顔が向けられた。火照った頬。喜んでいると思わ
れたくなくて、慌ててそっぽを向く。
下から「くくっ」と、またあざ笑うような声が聞こえてきた。
「なぁ、これ、もうすっごいで。自分で弄って、こんなにしてたん?」
見ているだけでは終わらなかった。
固い爪先が、敏感な皮膚に触れてきた。
そのまま思い切り両側に披かれる。無抵抗のまま曝け出された粘膜。
ビクンと腰が慄いた。
やわらかい場所がめいいっぱい押し広げられて。耐え切れず中から、
ツーと何かが滴り落ちた。
いやだよ、こんなの恥ずかしいよォ…。
- 30 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:42
- 「あぁ、もう、シーツ汚れちゃうやろ?」
「……うぅっ。……ッくふ……。」
「すごいなぁ…。ここ。ほら、めっさ膨らんでる。」
また、さっきの悪戯を戒めるように聞かされた言葉に、頼り無くぶ
るると首を振る。
それにしても、こんなときの彼女は、よくも饒舌なれるものだと思う。
アタシが、いま一番されたくないことを、言われたくないことを間
一髪に入れてくるんだ。
普段はうるさいと言われるくらいの自分のほうが、無口になってる。
「なぁ、さっきは、どんなことしてたん?」
「あっ、やあぁ……。」
脚の間で、頬杖をついたまま尋ねてくるのに。
堪らなくて膝頭ゴチンとぶつかった。
それでも、ピシャリと内腿を叩かれて、渋々と元通りにする。
ベットの中央で、脚を大きく披かされて覗き込まれている自分の姿が、
なんだか小学生のときにやった蛙の解剖のようで。
実際に彼女は興味津々にアタシの性器を弄って、詰って、玩んだ。
いつもはひっそりと閉じている場所も無理矢理に披かされて、その
キレイな青い瞳の中に十分に映し出された。
触られなくても、濡れていくさまに興味深げに妖しい微笑を浮かべ
ながら…。
「なぁ、矢口は、なにを想像してすんのん…?」
「…ぃゃ……。」
ちいさく首を振る。
どうせ知ってるくせに。その顔は…。
アナタを思いながらしてたって…。顔が熱くて堪らない。
しばらくは、ネチネチと繰り返し問われ続けた。
「たしか、ここに指挿れてたよなぁ…。」
そう言って、ズプリと右手の中指を突き入れられる。
あまりの突然の衝撃に、大きく目を見開いた。
異物が混入しても痛みは、まったく感じなかった。
粘膜にはおびただしいほどの液でいっぱいになっており、その滑り
を円滑にしてくれている。
でも、裕子は決して、全部を挿れようとはしなかった。
第一関節までを抜き差しを繰り返し、雨降りのあとにできた水溜りで
で遊ぶ子供のように、アタシのそこでピチャピチャと水遊びを繰
り広げた。
- 31 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:45
- まだ焦らそうとしてた。もう、なんで、そんなに性格が悪いんだよう。
しだいに香り立つその匂いに、どこか生臭いような臭気を感じて、
サッと羞恥に頬を染めた。
「…ゆうちゃ、もう、許してよォ……。」
負けでもいいから、早く降参にしたかった。
出てきた声は涙交じりの情けない声。
こうして見られるたけで、いつまで経っても中途半端でなにもして
くれない。いやだよ、こんなの…辛いだけ、酷い、酷すぎるよォ。
もっと触れて、わけもわかんなくなるくらいに弄って欲しいのに。
途中でほったらかしにされたままのチクビが、パンパンに張っている。
その間にも、脚の間のものは、蜜を絶やさなく溢れ出して。
彼女の目の前で恥ずかしい醜態を晒す。もう、いい加減に限界だった。
親指で、膨らんだものを弄られたのが、その感情にとどめを刺した。
「…やあぁ。もうだめ。我慢できない。…してよォ…もっと……。」
嗚咽の混じる声で、叫ぶようにそう言い放った。
お隣に聞かれてしまっていても、手遅れだ。
でも、彼女は詰ることも、揶揄ることもせずに、たんたんと聞いてくる。
「だったら、どうして欲しいんよォ…?」
「触ってほし…。いっぱい。お願い…早く…ぅ…。」
「なん? いま触ってるやろォ?」
「やだ。そんなんじゃ足りない…もっとォ…。」
頭が混乱して、自分がなにを言っているのかわからない。
でも、彼女の声だけはなぜか鮮明に聞こえてきて…。
会話が成り立っているところをみると、言葉は通じているらしいと
悟るのがやっとだった。
「もォ〜、せっかくいいところやったのに、矢口は欲張りやなぁ。
……んで、どこに欲しいん?」
「ココ。もう意地悪はやだよ。ゆうちゃ、してよ、はやく……。
- 32 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:47
- あられもなく脚を大股開きにして、彼女の手を誘導する。
そんな恥ずかしい姿をじっと見ながら、裕子がクスリと微苦笑する。
早く早くと相変わらず急つくアタシに、「もォ〜、これじゃぜんぜ
んお仕置きにならないやん」とこれみよがしにやれやれとため息を
ついた。
そうして、よいしょと立ち上がる気配に、バクバクと一気に胸が高鳴った。
耳たぶを軽く唇で挟まれて、首筋を舐め上げる。やだ。そんなこと
はいいから早く、もっと。
「やぁ、ゆうちゃんってば!!…ひっ、ああぁ……ああん……。」
チクビに落ちてくると思わす大きな嬌声が零れた。
壁から漏れてしまっているかもしれないのに、彼女は、アタシの口
を塞ごうとはしなかった。
内腿の敏感な部分を往復するだけで、脚の間からとめどなく蜜が滴
り落ちる。
「フフッ。……まだ、触ってへんでぇ?」
キスをしながら、そのことに気づいた彼女に微笑されても、すでに
アタシの耳には届いてこない。
その手が欲しくて欲しくて堪らなくて、淫らに腰をくねくね揺らし
ながらおねだりしちゃう。裕子がくつくつと笑う。
わざとというように、屹立した突起に掠めた瞬間、爆発しそうになった。
「……ゆう、ゆうちゃ、ゆう……やだよォ…して、してって…。」
「ん〜〜。」
「…ひ、ひどい、ゆうちゃ、意地悪ばっか、しない、でよォ……。」
「人聞き悪いなぁ。意地悪なんてしてへんやろ〜。」
「…し、してるよう! あぁ、もォ、やだぁ…。やだぁぁ……。」
「わーったて。もう、わかったからそんな顔すんなや矢口ぃ。もう、
アタシその顔にめっちゃ弱いねんて。意地悪せぇへんからな。ちゃ
んと触ったるから、泣くねや、矢口ぃ?」
いつの間にか、滴り落ちていた頬を手のひらで拭われて。
喉の奥で、くくっと哂いながらも足首を掴まれた。
そのまま、ぐいっと両手で二本の脚を持ち上げる。
彼女の目の前に、恥ずかしい場所が大きく晒される。
- 33 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:49
-
「ここを、どうされたいんやって?」
それでも、相変わらずに意地の悪い質問が。
もう、わかってるくせに。なにをされたいのか言わなくても、十分に…。
脚の間から見えた彼女の瞳には、今までにはない危険な色が混じっていた。
欲情の孕んだ熱っぽい表情。アタシを見ながら、感じてくれている?
なんだか、うれしいのか、恥ずかしいのかわからなくなる。
「やぁっ、触って……ほし……ぃ、いっぱ……いして……。」
「いっぱい?…どこを、教えて?」
「………やぁ……もォ……ここ……。」
自分で触れたところは、さっきしたときよりも格段に膨らんでいた。
驚いて、咄嗟に手を離した。
その反応をみながら彼女がクスリと微笑する。
固い爪で弾かれて、お尻がピクンと跳ねた。
ゾクゾクと肌がざわめく。
電車の中でされたみたいに、そこだけを重点的に弄られると、溺れ
るような快感に、両手のまま慌てて彼女の肩にしがみついた。
「すごい、でかぁなってるなぁ。こうされんのがキモチぃん?」
「…ン。すごい……あぁ…。」
「フッ。今度は素直やね……」
「…ひゃぁ!!」
恥ずかしい声が止まらないよ。
自分でするよりも、やっぱり裕子にされたほうがぜんぜん気持ちいい。
裕子って、なんでこんなに上手いんだろう。
触られているのは、自分の身体のはずなのに、彼女のほうが詳しいな
んて、なんかちょっと納得いかない。
これじゃ、もう、一生一人えっちなんか出来ないって。
この責任ちゃんと取ってよね、裕子。
- 34 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:52
- 「なぁなぁ、そろそろ舐められたくなってきたんとちゃう?」
耳元に妖しくも甘く囁かれて、唇に歯を当てながらも小さく頷いた。
「だったら、ちゃんとお願いしてみせて?」
「ぃやあぁ……。」
それでも、ようやく思い起こした羞恥心に、ちいさく首を振る。
けれど、今日の裕子には、容赦がなかった。
「あかんって。ちゃんとおねだりせんと、もう止めちゃうでぇ?」
ここへきても専売特許のその言葉を聞かされて、なにがなんだか分
からなくなって、頬に、ツーと涙が滴り落ちた。
高ぶる体温。子供の頃に高熱をだしたときみたいに泣き喚く。
「あっん、…やだぁ……おねがい……ゆうちゃ……めて……。」
そんな無慈悲な声に悶えながらも、耐え切れずに口にする。さんざ
ん泣き続けたあえぎ声のせいで、声が掠れてうまく出ない。
もう一度というように、頬をやさしく撫でられ促されて、オイラは
たがが外れたように大声で叫んでいた。
「…うぁあぁん。して。してってばぁ、ゆうちゃん、……ここ、舐
めて…ッ……。」
「フッ。しゃぁないなぁ……。」
じたばたともがきながら、捕まえた彼女の背中にはじっとりと汗が
張り付いていた。
おねだりの声を聞けてやけにうれしそうに、グイッとアタシの脚を
抱え込む裕子。その両膝が耳を塞ぐように傍にやってきた。
それが、ちょうどオムツを取り替えるときの赤ちゃんがするポーズ
のようで、あまりの羞恥に両腕で顔を隠した。脚はバタバタと空振り
する。
目を開けると彼女の顔があまりにも近くて、恥ずかしさに両腕で見
えないようにするのに、顔を隠したらだめだと無情にも要求されて。
赤い布に括られた両手は、バンザイのポーズとなった。
- 35 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:55
- 恥ずかしい格好がひどく辛くて、涙が溢れ出る。それなのに勝手に
高ぶっていく感情をもうごまかせそうになくて…。
飢えて干からびた身体を早く何とかして欲しかった。
それでも、すぐにそこに触れてくれないところが、どこまでも裕子
らしかった。
持ち上げた足首から、膝の裏、内腿とチロチロとくすぐるようにし
ながら撫でられて甲高い悲鳴が口から零れ出る。
「…ひっ、あ、あぁん、や、だよ。焦ら、さないでぇ……。」
言いつけを守れずに彼女の頭を掻き抱くと。それにも飽き足らずに、
彼女の口に押し付けるように腰が勝手に持ち上がった。
そんなアタシの反応に、裕子は微苦笑する。
「……ホンマに矢口は悪い子やね? こんなんしてもうて…」
言いながらぺチンとお尻を叩かれた。それさえも、感じやすくなっ
てしまった身体には甘い愛撫でしかなかった。
腰を持ち上げて、開いたあそこを見せ付ける。
彼女からの愛撫を待ちくたびれたそこは、ドロドロに蕩けきっていた。
そうして、ようやく舌先が、震えるアタシのそこを舐め上げる。
指先で薄い陰毛を絡ませるような悪戯を仕掛けながら、やわらかい
皮膚を丹念に舐め、甘皮の剥けてしまった突起を飴玉を転がすよう
に。時にきつく吸われ、軽く齧られると、なんとも言えない刺激に
お尻がのた打ち回った。逃げれないようにきつくお尻を掴む彼女。
舌が粘膜を抉った瞬間、目の前が、チカチカした。
限界のボーダーラインは、あっという間にすぐそこまで来ていた。
「ああああぁぁ……もうだめ………い…くぅ……いっちゃう…!!!」
大声を発しながらガクンと力が抜けた。あっけなくッてしまっても
その唇が、その場所から離れることはなかった。
お尻を高く持ち上げられた状態のまま、道を辿るように徐々に下に降り
てくる。敏感な皮膚に置かれたままの親指同士が両側に開かれる。
粘膜を指先で大きく曝け出される。愛液まみれのそれをジュジュジュ
と吸い込みながら、丸めたピンク色の舌先がねめりと中へ入ってきた。
- 36 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 15:57
- 「あぁあぁ………っ、……ぃゃぁっ……。」
あまりの衝撃に耐え切れずに、甘い吐息が零れ落ちた。
つんつんと尿道を突付きながら、奥へと徐々に侵入してくるそれ。
ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が、脳まで響くように届いた。
すっかり慣らされた身体は、彼女をなんなく受け入れ、悦び狂う。
変な体制を強いられて、あえぐたびに腹筋がやたら苦しくても。
強引で、やさしい彼女の愛撫を前にしては、どうでもよくなった。
「んんっ!!」
奥のほうまで舌が入ってくる感触に、思わず膝で彼女の首を締め付
けてしまう。
それでもかまわずに彼女は、下の唇でねっとりと、さきほどのよう
なディープなキスを繰り広げた。
もっと感じるところにも欲しくて、はしたなく腰を揺らす。
達したばかりの身体は、さっきよりもひどく敏感になっていた。
息が乱れて、呼吸も荒く乱れる。身体が焼けるように熱かった。
腰を卑猥に揺らせながら、夢中で得られる快感を貪った。
すでに次の大波が押し寄せてきていた。
「んっ、ああぁ…あん、い、くぅ、……いく、いっ、ちゃ……あぁ、
やあぁぁぁぁぁ………!!」
同時に指先で突起を弄られて、いっぺんに身体の中を電気が駆け巡る。
彼女の頭を抱え込みながら、オイラは、ぐったりと尽き果てた。
濡れたシーツに身体を預けながら、まだ下のほうでなにかしている
彼女に、もう反応らしい反応をみせられない。頭が朦朧とする。
なんだか遠くのほうで、ぴちゃぴちゃと、雨音にも似た音がしていた。
目を閉じたまま大きく深呼吸を繰り返していると、ピタピタと頬を
撫でられて、渋々と重くなった瞼を開けた。
「あっ、ゆう……ちゃ……。」
かすれ声で呟いたとたん目の前の人が汗だくになりながらにんまり
と口元を緩めた。
そうして、濡れたアタシの唇を数回やさしくなぞると、視線だけで
口を開けろと命令してきた。
ボーとしままさっきキスされたときのように無意識のうちに従うと、
上からたらりと唾液が零れてくる。
白く濁ったそれは独特の味を持ち、すぐにそれが自分が下から出し
たものなのだと知らされた。
- 37 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:00
- 「んんっ!!」
驚いて、バッと目を見開く。
咄嗟に吐き出したくても、彼女は妖しく笑ったまま逃げられないよ
うに片手で顎を捕まえている。
口の中に溜まったものをどうしたらいいのかオロオロする。
その不快さに耐え切れずに、たっぷりの唾液といっしょにゴクンと
飲み干した。
おいしくない。こんな汚いところを舐めてなんておねだりしていたなんて。
そう思うと居た堪れなくなって彼女の目が見れなくなる。また涙が
ツーと滴り落ちた。
そんな矢口の様子を目を妖しく眇めながら覗いていた彼女が、喉仏の
動いたのを見計らったように甘い口付けを落としてきた。
「…あんっ、んんっ……ッ……。」
そのまま唇をふさがれた。
舌が、口の中をやさしく蠢く。
味が彼女のほうに移っちゃうのが厭で、イヤイヤと首を振る。
それでも、激しくベロを掻き回されて、絡め取られて、息ができな
いくらいにすべてを奪い取られた。
苦かった口の中が甘いシロップに変わる。
気が遠くなるくらいあまりに長い口付けに徐々に意識が朦朧となった。
今日は、アナタのせいで、朝からとても忙しない一日で。
その途中には、とんでもない姿を見られちゃったりもしたけど。
ようやくお腹いっぱいママのおっぱいをもらえた赤ん坊のように。
十分なくらいになるまで満たされた身体は、満足するように恋人の
やさしい胸のなかでスヤスヤとシアワセな眠りについた。
「あん? ちょ、こォら待ちぃ。寝んなや矢口。夜は、これからやでぇ…。」
クスクスと笑いながら、熱くなった耳たぶをびよんと引っ張られた
ような気がしたけど。重なってしまった瞼は、もう思い通りにはな
らない。
「おーい。また置いてきぼりかーい。」
裕子のクスクスと笑う声が、遠くのほうで聞こえていた。
◇ ◇ ◇ ◇
- 38 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:02
- 「へっ、ぐしゅっ、……。」
ううっ。なんか寒いよォ。
夏の終わりかけの晩は、なにか掛けていないとさすがに肌寒く感じる
ようになった。
寝相が悪くて、またタオルケットを蹴飛ばしちゃったのかなぁと思い
ながら腕を伸ばす。
あれ、なんか動けないぞ。
ん?? なんだ、これ、金縛りかぁ?
それでも、どうしようもない眠たさには勝てずに、そのままにした。
だんだん、それにも耐え切れなくなって…、しかたなく目を覚ます
とあたりは暗闇だった。
まだ、夢でもみているのかと、もう一度眠りも決め込もうとして、
ようやくその異変に気がついた。
早起きは苦手だけど、寝覚めはわりといいほうだと思う。
だから、すぐにさきほどの出来事を思い出すことができた。
散々にいろんなことをさせられて、泣いて、叫んで、自分がなにを
したのかまではさすがに覚えてはないけど…。なんかとんでもない
ことねだったような厭な記憶が残った。
お酒は呑めないから経験がないけど、よく酔っ払うと記憶を無くす
人がするというあの感じは、こういうことを云うのかもしれないと
思った。
痛みはないけれど、久しぶりだったせいもあってか、普段使わない
ところの筋肉が張って痛かった。
いつの間にか疲れ果てて眠ってしまっていたようだ。
ずっと、やさしく髪を撫でられていたような感触は覚えている。
ぐっすりと眠ってた気になっていたけど、本当はそんなに経ってい
ないのかもしれない。
だって、まだ、指が痺れてる。いろんなところがジンジンしてる。、
- 39 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:05
- 身体に不快な感触は残っていないから、きっと彼女が拭ってくれたの
だろう。イッた後は、どうしようもなく眠たくなってしまうのは、
いつものことだった。そのことを、彼女に、さんざん揶揄い混じり
に苛められたりしたから…。やばっ、またやっちゃったみたいだ。
でも、こればかりは、直したくてもどうしようもなかった。
眠っている間に、身体を隅々までキレイにしてもらっていたなんて
考えるとかなりこっぱずかしいけど。終わったあとには、こうして
甘やかしてくれるやさしい恋人のことを実はかなり気に入っている。
行為自体は無情なくせに、そういうところはやさしいんだよなぁ…。
裕子って…。変なの。
それしにても、しばらく目を開けているのに、まだ暗闇はとけない。
おかしい。オイラ、やっぱ寝ぼけているのかなぁ……?
「……ゆうちゃん…?」
でも、そこは夢の中というよりは確かに人の気配があって、現実の
世界なんだと実感する。
――起きているのに、なんで、なにも見えないんだ?
いや…というより、なにかに視界を覆われているような気がした。
この感触はなんなんだろう。アイマスクのようなやわらかい生地。
慌てて外そうとして、手が動けないことにもようやく気が付いた。
そういえばさっきまで…と、悪戯に両手を拘束されたあの出来事を
思い起こして、カーっと顔を赤らめる。
でも、すぐにあれっと首を傾げた。
なんとなく両手を括られている感じじゃなかったから。
動かない腕を懸命に揺すられるたびに脚が外側へと広がるのは一体…
なぜ?
「………えっ?」
なんだこれ…。絶対におかしいって。
たぶん、手と脚が同じ物に括られている感じがする。
そういえば、皮膚に冷たい感触。動かすたびにカシャカシャと音が
なった。
これは、きっと、手錠のようなものだと思う…。
そう、手錠に、手と足を括られているんだ。
- 40 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:08
- ――手錠???
アイマスクに手錠。
なんでそんなものが……?
この部屋にそんなのあったっけ?
咄嗟に恋人のことを思い浮かべる。面白いこと、ことさらえっちな
遊びに関しては貧欲な彼女のことだから、それが、あってもぜんぜん
不思議はなかった。
だんだんとことの状況が読めてきて、サッーと顔色が青ざめた。
寝ている間に、どうして、こんなことになっているのか。
誰がこんなことをしたのか――。
「…………裕子?」
こんなバカなことする人など、他には思い当たらない。
じゃ、これもすべてあの人の仕業なの…? てか、なんで……?
わけがわからなくて、くたくたに疲れきった身体では、思考もうま
くは回ってはくれない。
ならば、本人に聞くのが一番だと名前を呼んでも、返事はなかった。
視界が遮られると、聴覚と嗅覚が過敏に反応するようになる。
間近に感じる荒い呼吸の音や、動くたびにキシキシと軋むベットの
スプリングの音。すうっと息を吸い込むと、フレグランスの香りも
彼女のお気に入りで、いつも使っているものだった。
だから、この部屋に裕ちゃんがいるのは間違いないと、少し安心する。
よくよく耳を澄ませば、なにかジィ……という機械音が聞こえてきた。
それが、なんの音なのか分からずに、無性に気になった。
しばらく彼女の名前を呼び続けたけど、いくら待っても応答がない
のに痺れて、押し黙る。
一分が経ち、二分が経ち、三分くらいが経った頃には、どうしようも
なく不安に襲われた。
無音なのが余計に恐怖を煽った。
窓から吹き込んでくる風の音。ベットが軋む音に、どっからするの
だとつい過敏に反応してしまう。
そして、近づく甘い匂い。彼女がすぐ傍まできていることがわかって。
またしてもジッ…と何の音だろう。ねぇ、裕子、なにしてんの?
背中に感じるシーツの感触から、オイラがベットの上に寝かせられ
ているのは間違いと思う。さっきまで中途半端に残ってた衣服はす
べてはぎ取られて、両脚は立てるようにしてシーツについているみたい。手は、
足首と手錠で括られたまま。
- 41 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:10
- えっ?!! …ってことは無防備に脚の間を曝け出してるってこと
になるじゃんかぁ…!!
慌てて、ひた隠そうとするとなぜだか言うことはきかなくて、動か
そうとするたびに意思とはカンケイなしに外側へと開いていった。
その無情さに、ギュっと唇をかみ締めた。
「やあぁ。ゆうちゃん? …なにこれ、ヤダよ。なんか言って…?」
相変わらず返事はなかった。
変わりに、くくくとお腹の底から嘲笑うような声がした。
やっぱり、そこにいるんだ。
「裕子、裕子、裕ちゃんてばっ!!」
「――――――……。」
脚をじたばた踏んで暴れてみる。と、どんどん脚が広がっていって
慌てて閉じた。また、彼女の笑い声が、くつくつと響く。
やだ。こんなのないよ。なんで、なにも言ってくれないんだよう。
「ちょ、やだやだ!! 目隠し取って、なんでこんなことするの?
裕ちゃんてばぁっ!!」
「だから、うるさいて。猿轡もすんで、もう……。」
耐え切れなくなって、大声で叫ぶと。
手のひらで唇を覆われて言われた言葉にギョっとする。
「でも、だって…。てか、なんで……!」
こんなことするんだよう…と、唇を尖らせた。
すると、彼女は、思いもよらないことをしらっと言ってのけたんだ。
「さっきのはぜんぜんお仕置きにならんかったからなぁ…。こうで
もせんとアンタ、言うこと効かんやろ?」
そのおぞましさ言葉に、さすがにギョッとする。
この人は、あれだけしたのでは飽き足らずに、まだなにかとんでも
ないことを仕掛けようとしているのか。
- 42 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:13
- そういえば、この人は美人教師のくせに、面白いこと、ことさらえ
っちな遊びに関しては、こっちが感心するくらいに探究心の強い人
なのだった。
だいたい、自分の受け持つ生徒相手に痴漢をやらかすような教師な
ど世界中のどこを探してもいないだろう。
こいつに憧れてる岡女の生徒に声を大にして言いたい気分だ。
いつもいつもそんな人につき合わされ続けるオイラの身にもなって
くれよォ〜。
それでも、裕子が相手にするのはオイラだけで。こんなバカなこと
しちゃうのもオイラにだけだ。優越感にも似た感情がフツフツと芽生える。
それにしても、なんつー言い草なんだか……。ふぅ。
今朝の自分の行動はすっかり棚に上げちゃって。ホント、いい加減に
してほしいよと怒りたいのに、怒らせたらもっと怖いことになること
も重々承知していた。
「さっきは、すっかりアンタのペースに巻き込まれてもうたからな。
リベンヂや!!」
「はあぁ?!!」
なんだよそれは……。
相変わらずの裕子節炸裂で呆れかえる。なんかその言い分だとまる
で、こっちが全部悪いみたいに聞こえるじゃんかッ。
ふざけんな!って言い返したいのに、この格好では、さすがに迫力も
も出そうになかった。
それから、また、無言攻撃が始まった。
シーンと静まり返る室内が、ひどく落ち着かない。
なにか、音がなるたびに身体がビクッて反応する。
ベットが軋んで、彼女が足元のほうへ移るような気配があった。
視界が遮られるというのは、なにをされているのかわからないとい
う恐怖感がある。
もしかしたら、自分の恥ずかしい部分を間近で見られているんじゃ
ないかって猜疑心に、堪らずに歯軋りをする。
せめてこの手錠はなんとかならないものかと動かすけど、キシキシと
手首が痛んだだけで、そのたびに脚が広がってしまうという非情なる
悪循環。
だったら、膝を擦り合わせたらこれで見えないだろうと思ってする
けど、下から覗けば、ばっちり見えてしまうということにすぐに気
づいて愕然とする。
こんなのやだ。もう絶えられないよ。
- 43 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:15
- 「…ゆ、ゆうちゃん?」
「……ん〜?」
「ねぇ、なにしてんの、ヤダよ、お願い、目隠し取ってよォ?」
「…ん〜〜?」
手錠も取ってくれと言いたいところだけど、どうせ言うことは聞い
てくれないのは分かっているからそこは百歩譲って。
「ゆうちゃん、お願い。暗いの怖いのォ。ねぇ、裕ちゃぁん…。」
喉の奥に隠し持っていた、とびきり甘えた声をだしてみた。
もちろん、この声に、ヤツが弱いのも承知済みだ。
ほら、早く、引っかかりやがれって祈るような気持ちになる。
「ねぇ、ゆうちゃぁん。なんでも言うこと聞くからぁ……お願いだ
よォ……」
駄目押しに唇を尖らせて可愛いこぶってみたけれど、なんの反応も
なし。くっそ、ダメかぁ。
だからって、彼女の気が済むまでさせるなんて気には決してならない。
眼は見えないけど、雰囲気でなにか、ジッと身体を見られている感じ
は確かにあって、それがひどく落ち着かなかった。
やだやだ。こんなの。このままじゃ埒が明かないって。
だから、オイラは最後の手段にでた。
「もういい。わかったよ。だったら、大声出す。あっちゃんに助けて
〜って言うよ…?」
彼女がこの部屋の合鍵を持っている話を聞いたのはつい先日のことだ。
鍵を渡したのは、緊急時のためだとは言ってたけど、そのことが、
ひどくうらやましくて、ひがんだりもしたからよく覚えていた。
そういえば、前にも、裕ちゃんに意地悪されたらアタシを呼べって
冗談で言われたこともあった。
でも、本当にそんなことになったら、そうされて困るのは、むしろ
自分の方だった。この格好を見られちゃうことになるし…。
そんなの死んでも厭だ。それでも、これは、賭け。
もう、こんな状況は限界だった。
ホントにやる気はないけど、いいのかよ。
芝居かけておおげさに、スーと大きく息を吸い込む、と。
すぐに、やわらかい手のひらに口元を覆われた。
- 44 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:19
- 「あー、もう、やめぃ。わーったから。しゃぁないな。」
やれやれと言いながらそのまま、片手でアイマスクを外してくれた。
ようやく視界が開ける。
煌々とした蛍光灯の眩しさに慣れるまで、しばらくは、目がシバシバした。
さっきは、夢中でそこまで気が回らなかったけれど、こんな明るい
ところであんな淫ら行為に耽っていたのかと思うと改めてゾッとする。
徐々に目が慣れてくると、自分のさせられた姿が浮き彫りになる。
想像通り、手首と足首には手錠がはめられていた。それもドンキー
とかに売っていそうなちゃちぃおもちゃのヤツ。だったら取れそう
だと思ってガシガシするけど、ビクともしない。脚がまた広がって
いってオイラは、慌てて手を離した。
それよりもなによりも驚いたのは、彼女が右手に抱えているものだった。
さっきの厭な音の元凶。ついこないだ商店街の福引で当たったのだと
大騒ぎした最新式のハンディカム。赤ランプが付いているということ
は、撮影中ってこと…?
「ちょ、おま、な、な、なに、撮ってんだよう!!!」
丸いレンズがジッ…と、不気味にこっちを伺っている。
彼女の方へ向いている四角い窓の中には被写体のオイラの姿が映っ
ていることだろう。そう、手錠に繋がれた裸の少女の姿が…。
あまりのことに、顔を真っ赤染めてしばらくは絶句した。
だって、目隠しされていたときも撮られていたってことでしょ?
もしかしたら、寝ている間にもされてた可能性もありうるよ。
裕子にはいままで散々されて泣かされてきたけど、いくらなんでも
これはないだろう。酷い。酷いって。酷すぎるよォ。
そんなことになっていたのに気づかずにすっかり彼女に身を預けて
シアワセに眠りこけていた自分が、憐れに思った。
こんなのは許せない。怒りで、目の前が見えなくなる。唇がふるる
と震えてくる。
「ばかっ、やめろってば!!」
自分に向いてくるカメラを追っ払いたいところだけど、生憎、手が
動かせない。オイラは、悔しくてギシギシと歯軋りする。
いくら恋人だからって、やっていいことと悪いことがある。
本人に無断で裸の姿をビデオに撮るなんて、こんなのは、反則だ。
握り締めた拳がブルブルと震えている。
- 45 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:21
- 「やめてってば、裕子、なにしてんだよ!」
「あは。もう、そんな怖い顔すんねや。いやな、ちょっとそこにあ
ったから、ちゃんと撮れんのかどうか試してみようかと思って…。」
なにそれ。
だったら、普通にそう言って撮ればいいだろう。なにも裸にして、
縛る必要なんてどこにもないじゃんッ。
あまりに呑気な言い草にさすがにカチンとくる。
「ふっざけんなって!……てか、なんで、勝手に服、脱がしてん
だよう。あ、バカ、撮るなって……!!」
言いたいことはたくさんあるのに、あまりに頭に血が上りすぎちゃ
って、うまく言葉にはならない。
そんな彼女は、悪びれもせず悪戯が見つかっちゃった子供のように
あははと苦笑いを決め込みながらおでこをポリポリと掻いた。
きっと裕子自身はそんなに悪いことしているとは思っていないんだ。
オイラがいま、どんなに悲しい気持ちになってるかもぜんぜん分かっ
てない。
その態度に、悔しくて涙がでるくらい腹が立った。
でも、その後に言われた呑気な言葉に、今度は、ぐうの音もでなくなる。
オイラは、そのまま大きく項垂れた。
「ちょ、それより聞いてよ、矢口。アタシなぁ、おもろいこと思い
ついたんよォ…♪」
すっごく聞きたくないって。
だって、アナタが考えることなんて、どうせろくでもないことに決
まってるんだから。
なのに、耳を塞げないことをいいことに彼女はベラベラと語りだす。
「なぁなぁ、ちょ、聞いてるかぁ? アタシな、これで、えっちビ
デオ作ってみようと思うねんよォ、矢口、どう思う?」
「…………。」
はは…。あまりのことに声もでねーよ。
今ここで手が動かせていたらば、そのすっからかんの頭をスリッパ
で、カチ割っているところだ。
つか、なにを考えているんだ、お前はよう……!!
- 46 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/17(火) 16:24
- 裕ちゃんって、ホントにいい加減にまじめになってよね。
アナタ教育者だよ? センセイだよ? いつでも、生徒の見本にな
らなきゃいけないって、岡村センセイに口をすっぱくして言われて
るんだろ。
なんで、こんな人が教壇に立って、えらそうにできるんだろう。
世の中、ぜったいに間違ってるって。
バカは死んでも直らないっていうけど、あれホントだよな。
そういえば、バカにつける薬はないっていうのもあるなぁ。
裕ちゃんて、もしかして、一生こんなんなのかな。それは、ヤダなぁ…。
オイラ、ちょっと将来のことを考えちゃうよ…。
自作でえっちビデオを作ろうと、鼻息を荒げて息巻く恋人に。
聞いてはないけど、(つか、聞きたくもないってそんなの…)その被写
体はもちろん……なんだろうな。はあぁぁ。大きなため息も零れちゃう。
なのにこの状況では逃げ出すことも、抗うこともできない。
アナタのせいで、くたくたなのに。まだ、なにか起こるのかと思うと、
力なくうな垂れた。
嘘でしょ。誰か、嘘だと云ってよォ〜!!
叫びたいのに声を涸らして音にもならない。
そうしてこのまま無情にも、アホな彼女の餌食に成り果てるのである。
- 47 名前:Kai 投稿日:2006/01/17(火) 16:25
- 本日の更新は以上です。
- 48 名前:Kai 投稿日:2006/01/17(火) 16:26
-
>ゆちぃさん…なんか今年も相変わらずの内容で、申し訳…。(r
鬼畜な姐さん、というよりも、可愛い矢口が描きたいだけだったり…。
>7さん…やぐちゅーって、もう、どうなんでしょうねぇ〜。
そんなの描いてるの自分だけだったり…。ま、それしか描けないんです
けどねぇ。(ノ∀`)ァチャチャー。
>8さん…たいへん申し訳…ぜんぜん公約を果たせませんでした。
待っていてくださったのであれば、ホントごめんなさい。
だいぶ遅れて大量アップで、ここはどうかお赦しを…。_| ̄|○
- 49 名前:Kai 投稿日:2006/01/17(火) 16:27
- というわけで、今年も思い切りエロで年を跨いでしまいましたが。
ま、スレも跨いでるくらいだから、これも自分らしいかなぁ、と。
出来ないもんは、云わないようにと反省しております。。。(-∀-*)
次回の話はあまりにバカらしいので書き上げてからやめようと思って
いたものなのですが、スレを埋めるために載せてみようと…。
裕ちゃんが、どんどんアホになっていく〜。( ̄Д ̄)vwwなぜなんだ。
- 50 名前:ほっとレモン 投稿日:2006/01/19(木) 01:31
- やぐちゅー最高です!!
一気に読ませていただきました。
姐さんに惚れてる矢口がかわいすぎ♪
やぐちゅーがすっかり少なくなり寂しい限りですが、
Kaiさん頑張ってください!!
- 51 名前:minimamu。 投稿日:2006/01/21(土) 00:50
- やぐちゅう万歳! むっちゃカワイイ♪
Kaiさんの書く やぐちゅうが大・大・大好きで〜す。(もち、なちごまも)
交信♪交信♪ 首を長く 麒麟になりながら待ってますw
- 52 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 02:04
- 更新お疲れ様です。
やっぱりやぐちゅーはいいですね。
この間のハロプロやねん!で矢口さんが中澤さんの話をしていてよかったです♪
- 53 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 14:50
- とても尋常じゃない恋人の笑顔を見つめて、ゾゾッと背筋を這うよ
うに寒気がした。
でも、実際の身体のほうは、それとは反対に焼けるように熱くなっている。
手首と足首を繋ぐ銀色の輪っかが灯りにキラリと反射にして、不気味
に光った。
テレビの刑事ドラマでみるものよりは、ちゃちくて、そのくせ頑丈で、
動かしてもビクともしない。こんなものオモチャで売り出していいの
かよと、誰に向かって言っていいのか分からない思いが胸をつく。
これから、起こるであろうことを予感して、サーっと顔が青褪めた。
「やめてったら!!」
「やめなーい…。」
「外せッ!!!」
「外すわけないやろがぁ……。」
悲痛なオイラ叫び声とは打って変わって、裕子の返答は相変わらず
呑気なものだった。
「ちくしょー、なに考えてんだよォ、バカ裕子〜〜ォ!!!」
「クッ。威勢がええなぁ…。でも、バカはやめぃ…。」
「バカにバカっつってなにが悪いんだよう。そんなことしようとす
るなんてホントバカじゃん裕子って…。バカバカバカバカバーカ、
バーカッ。オイ、そこのバカ裕子ォ、早くこれを解けってのッ!!」
「ちょ、コラ、いま何回バカバカ言うた? アンタは、知らんよう
やけどな、東京弁って、語調がきっついねんでぇ…。」
そんなにバカバカ言われたらいくら裕ちゃんでも傷つくわぁ…って、
呑気に言ってのけるこんなバカに付き合っている自分もだんだんバ
カバカしくなってきて…。ハァ…。ホントに疲れる。
だけど、彼女の思い通りになんて絶対にさせられないんだから。
なにせ、このままじゃ自分の身が危ういのだ……。
「つぅか、えっちビデオって、そんなもの作ってどうする気だよう!」
「あん〜? どうするもなにも後で観るに決まってるやん。……あぁ、
だいじょうぶやて。売り出す気なんてさらさらないしぃ…。」
「…あぅ、あっ、あ、あったり前だぁーッ!!」
心配すんな、とガシガシと頭を撫でられて、振りほどくようにブルル
と激しく首を振った。同時にガシャガシャと手錠の音も鳴り響く。
だから、そんなこと聞いてるんじゃねーんだよッ!
どうしてそんなものを作る必要があるんだってハナシだろ!!
- 54 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 14:53
- 「だからな、こないだ福引でぇ…。」
「知ってるって。そういうことじゃねーつってんだろッ!」
裕子ってば、オイラを怒らす天才だよね?
だいたい撮影がしたいなら、別にフツウにしてるところを撮ればい
いことだ。
今度どこかに行ったときとかさぁ…。なにも、縛って裸にする必要
なんてどこにもない。そうやって、屁理屈ばっか言ってんなよな。
なにが、えっちビデオだよ、バーカ!!
「エーッ。だってそういうのも、なんかおもろいやんかぁ……。」
オイラは、絶句した。
信じられないよ、このオンナ。いったい、なにを考えてんだよう!
これが、大人の科白かってぇのッ!
あのさ、前からずっと思ってたけど、おもろいからで、すべてを片
付けようとすんのいい加減やめろよな。
裕子ってなんでもかんでもそういうふうに言うけど、ひょとして関
西人って、みんなそうなわけ…?
だから、オイラたちの会話ってときどき噛みあわないのか?
――いや、きっと違うだろう…。この人だけが特別バカなんだ。
そんな人にほだされて、いつもいいように言いなりにされて。
でも、これ以上は、絶対お前の好き勝手になんてさせたりしないん
だからな!
そうは思いたいけど、実際は、さっきよりもますます悪い状況だった。
手も脚も動かせないなんて…。あぁ、どうすればいいんだようー。
おもちゃのくせに、と力任せにガシガシと動かすと、脚が勝手に開
いていく。もがけばもがくほどに意思とは反対に脚が開いていって
オイラは、その無情さにこっそり涙した。
まさか、すっかり寝こけている間にこんなことになっていたなんて。
ちくしょう。バカ裕子めッ!!
だけど、いつまでもそう嘆いてばかりもいられなかった。
ただでさえこんな格好を彼女に見つめられるだけで恥ずかしいのに、
そんなものが映像に残る…なんて考えると、背筋がゾッとする。
なんとか阻止しなければと思うのに、あまりに想定外のことに脳回
線が遮断されてしまっていて、なんにも思い浮かばない。
あげく、「アンタの真似っ子して、オカズにさせてもらおうかなぁ…」
なんてのほほ〜んと言わた日にはカーっとなって、「あうあう」とp
オットセイみたいにうめき声しかあげられなかった。
- 55 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 14:55
- その間にもレンズは、不気味にこっちをジッと窺っていた。
最新式のそれは、高性能で高画質で。初心者が撮ってもブレないっ
てのが売りらしい。……こっちとしたら、ホントハタ迷惑なハナシだ。
素人が、えっちビデオなんか作るなんて…。だからこそ余計に怖い
ってんだよォ。
だって、ラブホとかで観れるヤツみたいに当たり前だけどモザイク
処理なんて、裕子に出来っこないんだし……ゲゲッ、てことはさ…。
ますます顔が、青褪める。
このままじゃ、大変なことになる…。
マジで、ヤバイじゃんよォ、オイラ。
「裕ちゃん、ホント怒るよ。やめてって、いい加減にしてよッ!」
怒りよりも、なんだか悲しくなってきた。
裕子っていつもそうだけど、なんかオイラをオモチャ扱いしてない…?
なんでも言うこと利くと思って、そういう無理難題ばかり吹っ掛け
てきてさ。
たぶんそれは、矢口のほうが彼女に惚れていることを知っているから。
どんなに無理なお願いでも最終的には聞き入れちゃうことを、彼女
自身が、よくわきまえていて、それを利用してつけ込んでいるから
なんだ。そう考えると、ますます悲しくなってきた。
うっすらと涙の膜ができあがる。
泣きたくなんてない。泣いたからって、やめてくれるような人じゃ
ないし、こんなバカな人のために泣くなんて、そんなの涙がもった
いないもん。奥歯をキシリと噛んで、ギッと彼女を睨みつける。
「もう、そんな怖い顔すんなやぁ。ええやんかぁアンタも愉しめば。
「やだって、言ってるじゃん…。」
声は、思いのほかちいさく沈んだ。
オイラがいま、どんなに悲しい思いをしているかなんて、きっと、
裕子には一生、伝わらないよ。
鼻の奥が、ツンてなる。
- 56 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 14:58
- 「なぁ、なんで、そんなに嫌がるの…?」
「なんでって……。」
とびきりやさしい声が降ってくる。
ぴたりと頬を撫でられて、身体がビクンてしなった。
裕子の冷たい手のひらの感触が気持ちいぃ。もっと触っててほしいと、
心とは裏腹にそう思う。
「さっきも言ったけど、別に売る目的なわけやないんやし、どうせ
アタシしか観ぃひんよ。だったらええやろ?」
「………やだよ。」
プぃと顔を背ける。
裕子は、やっぱりなにも分かってない。
人が見るとか、そんなのは別にどうでもいいんだ。(いやいや、ぜん
ぜんどうでもよくはないけどさ…。)
オイラは、裕子にそれを見られるのが、なによりも一番恥ずかしい
ことなのに。
だって、彼女にされているときの自分の姿なんて、自分ではわからない。
さっきみたいにきっと恥ずかしいこともいっぱい言っちゃってると思う。
想像よりも、もっとすごいこと、しちゃってるのかもしれない。
ただでさえ自分がどうなっちゃってるのか分からなくて怖いのに、
そういうのを映像で残すなんて…。それを後で、アナタに観られち
ゃうなんて、そんなのは死んでも厭なんだよ。
どうして、裕子には、分からないんだよう。
「裕ちゃんこそ、なんで、そんなこと、しようと、するのォ…?」
涙が喉の奥からせりあがって、声が途切れ途切れになった。
彼女が、くすっと目を細める。胸が、ドクンと揺れた。
こんなときにずるいよォ。そんな色っぽい顔して……。
脈拍が上がる。やだ、ドキドキさせないで。
「ほんとのこと言うとな……。」
彼女は、アタシの頬に手のひらを置いたまま静かにしゃべりだす。
冷たかったそれが、だんだん熱を帯びていくことを彼女自身も気づ
いているはずだった。
- 57 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:01
- 「…アンタのしてるときの顔がめちゃ可愛くて、残しておきたいな
ぁって、ずっと思うててんよォ。ほら、今みたいな顔…。」
「………え?」
大きな眼でジッと見上げると、彼女がくすっと笑んだ。
自分が、いまどんな顔しているのかなんて、そんなの見えないんだ
から分からないよ。
裕子には、どう映ってみえるのだろう。
なんだか、すごく気になった。
「なぁ、矢口、アタシのことめっちゃ好きやろ……?」
「………ン。」
それをいま認めるのは悔しくて、だけど、本当のことだから嘘はつ
けない。
目は逸らしながら、ちいさく頷くと彼女はくすくすと微笑んだ。
やさしい笑顔に胸のあたりがキュンて痛くなる。
「ありがとォ。…アタシも、矢口のそういうところが好きやで。」
「……えっ?」
ねぇ、いま、好きって言ってくれたの?
裕子って、たまに冗談ぽくは言うけど、こういうふうに改まって言
ってくれることって、実は少なかったりする。
今の言葉は、すごく心臓にビリリっときた。
そういうところが好きやって…。
アナタと付き合うようになってだいぶ関西弁にも慣れてきたけど、
好きって言葉が、今までとは、ぜんぜん違う響きに聞こえる。
特別な言葉を貰えた気がして、なんかすごくうれしくて、シアワセ
で、ドキドキするよ。
「アタシが触れただけで、そんなシアワセそうな顔する。そういうの
見てるとこの辺がたまんなくなる。」
そう言って、痛そうに眉間を寄せたまま、胸のあたりを押さえ込んだ。
- 58 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:04
- 「だから、ときどきあまりに可愛すぎて、苛めたくなっちゃうんや
けどな…。」
「――ときどきぃ?」
じゃないじゃんかぁ…と、ぷうと頬を膨らますと彼女は苦笑した。
さっきの呑気な口調とは打って変わって、急にしんみり語りだすか
らいつもの調子がつかめなくて。
その間にも、裕子のすべすべの手のひらが赤く実のなった耳たぶを
撫でた。くすぐったくて、首をすくめる。
彼女が、うれしげに目を細める。
「―――なぁ、あかん?」
「…………やだよ。」
それでも、さっきよりはいくらか語尾が弱まった。
なのに、彼女はアタシを抱きしめて首筋に甘い吐息を吹きかけて。
そんなふうにされたら、また変な気分になるじゃん。
やめて、って言いたいのに、声が出ない。
彼女のペースに乗せられたら大変なことになるんだぞと肝に銘じる
けど…。
「ぜったいに誰にも見せへんから、なぁ、ええやろ?」
「………やだ。」
今度は、後ろに回ってきて、ぴたりと身体を寄せてくる。
背中に膨らみを感じて、ドキドキしちゃってるのを気取られないよう
に必死で押し隠した。
なのに、背中から伝わってくる早い鼓動に、こっちまでつられてし
まいそうになる。
これって、裕子の音? すごいよ。どうして、そんなドクドクさせ
てるの…。無造作にベットに置かれたカメラは、オイラの足の指あ
たりを映し出していた。
「そんなん意地悪言うなやぁ。ほら、聞こえるやろ?…裕ちゃんの
心臓の音。もう、こんなんや。ここまできて止められへんでぇ…?」
「ず、ずるいよ、そんなふうに言うのは……。」
「ずるくてもええ。なっ、矢口、一生のお願いやから…ええやろ?」
「って、何回、一生のお願い使ってんだ!」
- 59 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:06
- こんなふうにポンポン言い合えるのが、普段のアタシたちの会話だった。
だけど、今日のそれには、微妙に甘さが含んでいて。
だんだん彼女の勢いに押されている自分を感じていた。
ヤバイヤバイ。このままじゃ、絶対彼女のペースに飲み込まれるぞ。
「ククッ。もう、矢口は、そんな可愛ええ顔してぇ……誘ってんのォ?」
「なっ、誘ってなんかねーって。オイラは怒ってんだ。もう、可愛
くなんてないのォ!」
ツンツンと頬を突付かれるのを、ぶるっと首を振って訴える。
なんで、オイラの気持ちがわかんないんだよォ。もう!!
「めっちゃ気持ちよくしたるからぁ…。なっ?」
「やぁ、……ッ、あっ、……。」
強引に後ろに顔を向けさせられて、抵抗する間もなく唇を塞がれた。
あっという間に、艶かしい舌が口の中に入ってくる。
敏感な部分をなぞられて、舌をレロリと舐められた。触れないとこ
ろがないくらい口の中を縦横無尽に動き回る。
激しい口付けに、身体の芯が熱くなる。
最後に、チュって音が立つくらい唇を吸われてから、彼女の匂いが
離れていく。
裕ちゃんのキスは、麻薬だ。
一度してしまったら、次が欲しくて欲しくて堪らなくなる。
もっと欲しい。やめちゃ、やだ。
縋るような目で見上げると、赤い唇を潤ませた彼女がにんまりと微笑
んだ。
「ほら、……して欲しくなってきた…。」
「………ちがッ!」
「矢口、目がとろんとして、えっちな顔になってんで…?」
「……ぃゃぁ…。」
ギュっと首に腕を巻きつかれて、甘い声を耳元で吹き込まれた。
どんどん声がちいさくなる。いつの間にか彼女のペースに巻き込まれ
ている。
ヤバイって、頭の奥で警告を鳴らすけど、今のオイラにはどうする
こともできなかった。
だいたい、こうと決めたときの裕子は、無理示威にでも意思を押し
通そうとする強引なところがあって。普段は、なあなあなくせに…
こんなときばかり。
このままいくと、彼女の悪の手に堕ちてしまうことになるのは目に
見えていた。自分のことだけによくわかるよ。
- 60 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:09
- いくら歯向かったところで、彼女が、このまま諦めるとは到底思えない。
むしろ、焦らしすぎてぶちギレて、なにされるのか分からなくなる
ほうがよっぽど恐ろしかった。
そのときに、手錠があっては、抵抗だってできないだろう…。
ヤリたい放題されちゃうに決まってる。
どうせヤラレちゃう運命ならば、被害を最小限にくい止めるほうが
利口かもしれないとだんだん思うようになっていた。
なんか、すっかり彼女に感化されてるなぁと思わなくもないけど…。
背に腹は変えられないって。
「もう分かったよ…。するから。だったら、手錠外して…?」
「それは、ダメやよ。どうせアンタ、逃げる気やろ…?」
ふぅとため息をつきながら提示した言葉をあっさりと覆された。
んだよ、その言い方は…。こんな犯罪まがいなことをしているくせ
に、なんで、そんなにエラソーなんだ!
なんか、あったまくんな…。
「どこに逃げるっつーんだよ! 外してくれないなら絶対しないからね!」
ギッと睨み付ける。
隙あらばそのつもりだったのだけど、ま、この調子じゃきっと無理
だろうなぁ…。ちくしょー。
「だいたいさ、そんなものどうしたわけ…?」
なんでおもちゃの手錠なんか買ってんだよ。
いい年して。
「ん? てか、他にもいっぱいあんで。ほら……。」
喜々としながら彼女はクローゼットの中から黄色い袋を取り出した。
案の定、有名な激安ショップのロゴ入りの。広げたビニール袋を渋
々覗くと中には、口にだしてはとても言いたくないようなものばかり
がゴロゴロと詰まっていた。
「………ハァァ。」
クラクラと眩暈がする。
重いため息が、自然と口から零れた。
呆れた。バカだバカだとは思ってたけど、ここまでバカだったなんて。
- 61 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:12
- 「ハァ…。なに考えてんの、裕子…。」
「ん? なによ?」
「アンタ、教師じゃん。そんなもの買ってるとこ誰かに見られたら
どうする気だーッ!!」
「エーッ。そんなん別にええやんか。プライベートの時間になにし
ようと、関係ないで。だいたいセンセーが大人のおもちゃ買ってな
にが悪いんよォ…。」
「大人のおもちゃとか言うな、バカッ!!」
殴りたい。殴りたいのに手が動かせないのが悔しい。
怒りの玉が、どこにも吐き出せずにお腹の辺りをグルグルしてる。
裕子って、ホント信じらんないよ!
オイラが言いたいのは、そんなものをレジに持っていったアンタの
神経だ。
ちょっとさぁ、自分の顔とかそういうの自覚してる…?
アナタみたいな美人が、えっちなグッズをゴロゴロと籠に入れて持
っていったら、レジの人は、いったいどう思ったんだろうね…。
以前、そういうバイトしてたときになんべんも出合ったそれたち。
なのに、オイラのほうが赤面していて、彼女のほうはしらっとして
いるなんて…。
これが、大人とコドモの違いなのだろうか?
いや、違うって。裕子だけが特殊なんだ。女のくせにこんなもの平
然と買えるのなんて、きっと、こいつだけだよ……。
そういえば、今朝も、コンビニで下着を買ってもらったとき、平然
としてたよなァ。オイラだったら、コンビニで下着を買うなんてこと
きっと、恥ずかしくてできないよ。
初めて逢ったときは、こんな人だとは思わなかった。大人で、色っ
ぽくて、颯爽とした格好いい女子大生って感じだった。
なのに、いまはこれだよ…。手錠に、ローターに…ets はあぁ。
ねぇ、裕ちゃん、どこで道を外しちゃったの…?
オイラの一目惚れを返してくれって感じだよォ。
だけど、こんな人でも愛しちゃってんだよなァって…。
そんな思いを抱くなんてオイラもそうとうバカじゃん…?
「裕ちゃんさ、もうちょっと自分のこと自覚したほうがいいよ?」
「はあぁ? なんやそら。」
オイラの忠告なんてまったく取り入れない呑気な人に、ガックリとい
肩を下ろして、もう一度盛大なため息を送った。
なのに……。
- 62 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:14
- 「あぁんもう、あかんて矢口。そんな可愛い顔すんなや…。また泣
かせたなるやんかぁ…。」
「〜〜〜ぐああぁぁ。」
ちょんと鼻先を突付かれて、もう我慢できずに飛び掛る。
けど、手錠で繋がれた状態だったと忘れていた。
身体は、ばたんとベットに突っ伏しただけだった。打った鼻が痛いよ。
そんなオイラを見下ろしながら、裕子がお腹を丸めてくくくっと苦笑する。
オイラは、悔しさに歯噛みしながら、目の前の人をギロリと睨み付けた。
こんなに泣いて嫌がっているのにも関わらず、どうしても撮るんだ
と言って効かない年上の恋人…。
この絶叫が、喘ぎ声に変わるのも時間の問題だと思っているんだろうな。
でも、まさか、そこに、あんな深い意味があったなんて…。
そのときのオイラには、知る由もなかった―――。
◇ ◇ ◇ ◇
- 63 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:16
- 「絶対に、逃げないか?」
「……ン。」
「おとなしく言うこと聞くんやで…?」
「……ン。」
なんで、お前にそんな命令されなくちゃいけないんだよう。
心の中でそう毒つきながら、だけど、いまは神妙に頷いておく。
スカートのポッケから、ちゃちい鍵を取り出すとおもちゃのくせし
て意外に本物志向な手錠がかちゃりと外れた。
ずっと変な体制を強いられさせられていたせいか、変なところの関
節が痛かった。
体育の準備体操みたいに手をプラプラさせながら、首をコキコキ回す。
裕子がオイラから視線を外した瞬間、彼女に向かって突進した。
油断しているところを、一気にカメラを掻っ攫う計画だった。…な
のに、意外にすばしっこい彼女に、あっさりとかわされた。
そのうえ、オイラの腰の上に跨ってきて、いくら暴れてもぜんぜん
ビクともしない。
白いスカートの間から、セクシーな黒いパンツが丸見えになってる。
「フフッ。なにしてんの!」
「……うっ、くっそ、離せッ!!」
くっくっと妖しく笑った彼女が、オイラの顎を捕まえたまま見下ろ
していた。
空いた手の一番長い指には、さきほどの手錠がくるくると回っている。
裕子、ミニスカポリスみたい。
…って、なんで犯罪者のお前のほうが取り締まってるんだよう。
「どうせそんなこったろうと思ったわ。アンタのやることなんてす
べてお見通しやでぇ。」
「………んんっ!!」
どこかで聞いたことのあるような陳腐な科白――。
「それにしても、アタシに歯向かうなんていい度胸やね、矢口は。」
「………うぅ。」
悔しい…。
腰を捻ってなんとか逃げようとしたけど、上からがっしりと押さえ
込まれているから、まったく歯が立たない。
顎を掴んでいた手が徐々に下りてきて、チクビをギュって抓った。
あまりの痛さに「ひぃ」と悲鳴を上げる。
- 64 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:19
- 「い、い、痛い、痛いよ、ゆうちゃん。痛ぁいぃぃ!!」
「痛いことしてんねんから、当たり前やろォ〜?」
ますます引張って、ギュウって音が立つくらい捩られた。
見ると、ピンク色のそれが、伸び伸びになってる。
「やあッ、やだぁ。痛いよ。そんなにしたら、取れちゃう〜。やめ
てッ!!」
脚をバタバタするのに、一向にやめてくれない。
まるで戒めるように乱暴に、その先端部分を親指で捩じ伏せた。
敏感なそこは、すぐに固さを持ち始める。
絶妙な加減で、力を込めたり緩めたりするのに、次第に腰が甘く震える。
さっきまで本気で嫌がっていたはずなのに、いつの間にか、彼女の
指の動きに身体の一部分が反応してしまっていた。
脚の間がひどく熱くなっている。
「やめてちゃうやろ? 悪いことしたらなんて言うんやったっけ…?」
裕子が、ニヤリとしたままやさしく頬を撫でた。
オイラは、悔しくて、ブンブンと首を振る。
だって、オイラ悪くないもん。悪いのはぜんぶ裕子じゃん。
「ふ〜ん。云えないの…?」
その瞬間、むぎゅうって捩った。
弱い箇所を激しく蹂躙されて、脚がバタバタと暴れ狂う。
激痛が、全身を蝕んだ。
「やだぁ。痛い、痛いよ、…ごめ、ごめ、ごめんなさい……。」
「聞こえへん。もっと大きい声で…。」
なんで、オイラが…。
だけど、痛みには耐えられなかった。
「ゆう、ゆうちゃん、ごめんなさい……。」
悔しい。屈辱だ。
涙が出そうになって、でもギリギリのところで押し留めた。
彼女は、そんなオイラをニタリ顔のまま見下ろして、今度はやさし
く愛撫する。
痛みも遠のいて、その絶妙な指先の感触にだんだん気持ちよくなっていく。
内腿を擦り合わせて凌いでいると、それに気づいた彼女が苦笑した。
散々乳首をいたぶっていた指が、今度は、下の方へずれていく。
わき腹から、骨盤を渡って、太股から内腿をさわさわと撫でる。
その手が、迷うこともなくその場所に到達したとき、大きな嬌声が
溢れた。
- 65 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:22
- 「はぁん、……やあぁ、やだぁ…ッ…。」
指が内側に触れる。
くちゅっ、と音が鳴る。
「クッ。なにこれ。もうこんなに濡らしてんのォ? インランやな
ぁ矢口は…。」
酷い言葉。だけど、ホントのことだけになにも言い返せない。
激しく首を振ると、堪えきれずに目のふちに溜まってた涙が、ツーと
頬を伝った。
彼女は、優しげに目を細めて、唇でそれを啜ってくれる。
熱い舌が、何度も頬を往復する。ぶるると身震いした。
「気持ちよくしてあげようとしてんのに、なんで泣くんかなぁ…」
彼女は困ったようにそう言って、汗で張り付いたアタシの前髪を払
った。そのまま、おでこにチュってキスをする。
おかげで、壊れたようにあふれ出る涙がぴたりと止まった。
馬鹿みたいにきょとんとしながら、上に跨る彼女をみた。
「やさしくしてあげたいのに、どうやら矢口は意地悪されたいみた
いやね…?」
「ち、ちがうよッ!!」
「そんなに苛められたいんやったら、それ系のグッズもいっぱいあ
んでぇ? 矢口は、どれが好きかなぁ…」
「やーッ、やだぁ!!」
さきほどの黄色いビニール袋をベットの上にぶちまけられて、オイ
ラは、サーっと顔色を変える。
「残念ながらムチや蝋燭はないけど。ほら、こんなんはどう?」
云いながら、グロテスクなイボのついた電動のおもちゃを動かした。
ウィーンウィーンと目の前で不気味に踊ってる。
「それとも、カラフルなこれにする? 安かったからいっぱい買って
きてん。これ、矢口のそこに全部入れたら、アンタ、どうなっちゃう
んやろねぇ……。」
「……ッ…」
口の端をにやりと持ち上げて、遠くのほうを見つめる彼女の目は本
気だ。オイラには、分かる。
脅しでもなんでもなく、この人は本当にしようとしているんだって。
どうやら、さっきの抵抗で、彼女を怒らせてしまったらしい。
そんな怯えた表情を、カメラがバッチリ映し出していた。
苦虫を噛んだような顔で、それに目を向けると、彼女は微苦笑する。
- 66 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:24
- 「…なん? 気になるん…?」
「…………。」
撮るなって、言ってもどうせ聞かないんだから言うだけ無駄だ。
それに、アタシが嫌がるそぶりを見て、喜んでいるような気がして
ならないから、絶対に思い通りになんかしたくなかった。
でも…。
「フッ。もうええやんかぁ…。アンタがいくらがんばって抵抗して
も、アタシが、ヤルと決めたらヤルけどなぁ…。」
「――――……!!」
酷い。最初からそのつもりだったんじゃん。
それなのに、なんで、わざわざあんなふうに聞いてくんだよう!
「もう、諦めたら? どうせ、寝てる間にアンタの恥ずかしいとこ
なんて、いっぱい撮っちゃったで…?」
裕子は、そう悪びれもせずへらへらと言ってのけた。
最悪の言葉を聞いて声もでなかった。シーツを掴む手をギュってする。
悔しくて、悲しくて、また涙が滲んでくる。
そんなとき、間の悪いことに場違いなほど軽快なリズムが流れて、
緊迫した空気も、一気に削げた。
どうせ出ない気なのだろと思っていたけど、裕子は、カメラを右手
に大事そう抱えたまま膝立ちで起き上がると、床に落としてあった
鞄から、赤色の携帯電話を取り出した。
「――もっしもーし? あぁ、なんや、あっちゃんか…。」
オイラは、びくっとしながら、彼女ではなく白い壁のほうを見つめる。
電話の相手は、お隣さんだったらしい。
携帯を耳と肩に挟めながら、裕子が、ジッとこっちを見ている。
今が逃げ出す最後のチャンスなのかもと思うのに、オイラは、蛇に
にらまれたかえるのように怖くて一歩も動けなかった。
「あぁ、やっぱ聞こえてた? ごめんなぁ、この子、ちょォ声大きい
ねん。」
「なっ……。」
ば、ばかッ、な、なに云っちゃってんだよう…。
目をパチクリするアタシに、彼女はクスリと微苦笑する。
- 67 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:28
- 「――はぁ? ちゃうわぁボケ。そんな酷いことしてへんて。――
あぁもう、うっさい、ほっとけぇや!」
眉間にシワを寄せて、電話に向かって怒鳴っている。
ここからじゃ相手の声までは聞こえないけど、彼女の返答する内容
から、だいたいなにを聞かれているのか理解した。
壁一枚隔てた先で行われている行為を電話の彼女は、すべてお見通
しなのだろう。
もしかして、こんなやり取りも聞かれていたのかもしれない。
顔が、燃えるように熱く茹る。
なのに、裕子はというと、まったく平然としていて。
そのままベットに攀じ登ると、「よいしょ」と呑気に言いながら膝
立ちの格好のまま戻ってきた。
「って、アンタ、まさか壁にコップ当てて聞いてんちゃうろなぁ〜?」
『――あはっ、バレましたぁ〜?』
裕子が、大仏のように固まるアタシの肩をホールドする。
おかげで、微かに電話の向こうの音が聞こえてきた。
わざとしか思えないほどくっついてくる恋人に、内心おろおろしな
がら耳をダンボする。
「また、アホなことを〜。」
『しょうがないですやん。矢口ったら、可愛い声なんやもん…。』
「――――なっ!!!」
うっそ、聞かれてたの? あの声を? マジでぇ〜。どうすんだよッ。
そんなことを改めて云われてしまって、明日からどんな顔をして遭え
ばいいんだろう。
恥ずかしいって。恥ずかしすぎて、顔がカーっと急激に熱くなる。
もう保健室でサボれないじゃん。
そんなオイラの表情を見ながら、彼女は微苦笑する。
そして、電話を膝の上に置いて、相手に聞こえないように耳元にそ
っと吹きかけられた言葉に、身体がビクンと慄いた。
(なぁ、このまま、あっちゃんにも、アンタの恥ずかしい声聞かせて
あげたら…?)
唇を噛み締めながら、いやいやと首を振る。
これが、彼女流の苛めなのだと分かっても、オイラは本気で抵抗した。
今日の裕子は、ホントウにやりそうで怖かった。
- 68 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:30
- そんなオイラの必死な反応に、彼女は、うれしそうに目を細める。
逃げようとしても逃げる場所なんてどこにもない。
シーツの上で激しく暴れても、彼女の手管からどうせ逃れることは
出来ないんだ。
下手な抵抗は体力を消耗させるだけだった。
それどころか、彼女を喜ばせるだけでしかないのだと、いまさらの
ように気づいた。
もともと、さきほどの行為だけですっかり力の抜けてしまってたのに
この人に立ち向かうなんて無謀すぎることだったんだ。
甘かった自分をひどく反省する。
電話の向こうの声の人を思い出して、なおのことそう実感した。
恋人は昔、大阪で云わずと知れた族の頭を張っていた人なのだった。
伝説の人とまで謳われた、武勇伝のいくつも持ったものすごい人。
きっと何百人、いや何千人というそういう輩をその華奢な身体で一つ
で捩じ伏せてきたんだ。
そんなすごい人に、飛び掛かって歯向かおうとしていたなんて…。
はなっから、勝ち目なんてなかった。
あんなに必死にしてたことは、なんだったんだろうね…。
アタシが、しょぼくれていることに気づいたのか、裕子は片手でぐり
ぐりと頭を撫でてきた。
「なぁ、アンタ、ちょう、みっちゃんと呑みに行ってきたら…?」
『―――はぁ? なんですかぁ、突然に?』
普段、彼女たちは裕ちゃんに対して敬語で話す。
あっちゃんは一つしか離れていないせいか、敬語とタメ語の半々で
話している感じだけど、下の住人のみっちゃん(英語教師)は、完璧
に敬語だった。
「ええから、行ってこいって。アンタがそこにおると、矢口が、気
ぃ使うねんて。」
な、な、なに言ってんだよう、もうッ!!
そんなこと、そんなこと、その通りだけに言葉がでない――。
『はあぁ? なんやそれ。むちゃくちゃ言うなぁ、この人……。』
「ええから、行ってきぃって、ほんで2時間くらい帰ってこんで。」
『あはっ。なんやねんな、もォ〜…』
- 69 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:34
- そんな呆れた声を出すも、彼女たちはきっと、その命令に従うのだろう。
昔の忠誠心だかなんだか知らないけど、二人は、普段から裕ちゃんに
対して、一目を置いていた。
裕子も、当たり前のように命令したりする。(自分では自覚がないら
しいが…)
目の前の人が、一体どんな少女時代を送ってきたのか、皆目検討もつ
かないが、彼女たちの反応からして、ものすごい権力者だったのだと
いうことだけは分かった。
って、オイラって、もしかして、とんでもない人と付き合ってたり
する…?
ボーとしていると、頬に冷たい感触を覚えて、ハッとする。
赤い携帯電話が、ぺたりと耳に張り付いていた。
「…エッ?!」
「あっちゃんが、代われて。」
驚いて目を見張る。
いやだと首を振っても、彼女は、笑っているだけでまったく取り合わない。
すると、電話の向こうから、裕ちゃんに負けず劣らず呑気な声が聞こえて
きて。
『――矢口ぃ? もしもーし。……アンタ、だいじょうぶなん?』
「―――――ン。」
やたら大きな声に耳がキンキンする。慌てて携帯を少し離して…。
そのテンションぷりから、あっちゃんはすでに酔っ払っているらし
かった。
だいじょうぶかと尋ねられて、なんと答えていいのか分からずに、
赤面しながらもとりあえず頷いておく。
嘘だよ。ぜんぜん、だいじょうぶじゃないよ。
あっちゃん、お願いだからこの人の暴走を早く止めてよ。
だけど、そんなことをまさか本人を目の前にして、云えるはずがな
かった。
『あははっ。矢口も大変やなぁ。…この人昔から、独裁者やから…。』
「――うっさいわ、アホ!」
なにも言わずともオイラの気持ちが届いたのだろう。あっちゃんが
笑いながら言うと、横から裕子のチャチャが入った。
『クッ。ホンマに苛められてへん? なんなら、あっちゃんがお助
けマンに行ったろかぁ〜…?』
「……ッ…!! うんん。だ、だいじょうぶだよ。」
- 70 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:37
- その瞬間、びっくりして、まじまじと見下ろした。
裕子が、オイラの脚を広げて中のものを弄っていたから…。
って、ちょ、なに考えてんだよ、電話中にぃ〜。
「……ッ、ゃぁ………ッ…。」
(あ、出ちゃうよ、声。)
唇を噛み締めながら、妖しい声がでないように必死で押さえ込む。
(や、やだってば、ホントに聞こえちゃうッ。)
もう、やめてよと目を向けても、彼女はへらへらと笑っているだけ
で、やめるどころか、ますます激しく指を動かした。
「………くふッ、……ぁッ…」
突起をグリグリと押しつぶされる。爪先で擽られて、乱暴に弾かれて。
(やだやだー。そんなことしたら、我慢できないよう。)
空いている片手で、慌てて口を覆う。それでも鼻から吐息が零れていく。
ますます携帯を耳から遠ざけた。
これじゃ、今朝の痴漢のときと一緒だ。
この人は、まだ、オイラを苛めようとしてる。
「…ひ…ッ……ぁゃッ………。」
指の先で固くなった突起をさらに激しく揺さぶった。
あてがわれた指に、グイッと閉じてたものを無理矢理に披かされて。
粘液を絡ませながら、無防備なそれをグリグリと悪戯する。わざと
声を出させようしてるとしか思えない激しさだった。
(あっ、もう、我慢できない。もう、だめぇ…。)
意識が遠のく。
このままじゃ、あっちゃんに聞かれちゃうって…。
電話しながら、なにしてるのかバレちゃうじゃん。
そう瞳で訴えるのに、裕子は、「聞かせてやったら?」って、したり
顔で言ってきて、今度は脚の間に顔を埋めてきた。
オイラは、驚愕の顔で、その人を見下ろした。
突き飛ばしてでも逃げればいい。
いまなら、手も足も自由になって出来るはずなのに、どうして動け
ないんだろう。
こんな一方的なの仕打ちは酷いと思うのに…。
- 71 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:41
- 『しっかし、アンタもえらい人に捕まってもーたね…?』
「………ッ、ぁッ、ぅッ、……ふぇ?」
もう、なにをしゃべってるのかよく分からない。
頭が半分朦朧とする。
裕子が、唇をそこに近づけたまま、オイラのほうをジッと見上げている。
悪戯されている顔をジッと観察されているようで、本気で悲しかった。
『矢口ぃ〜。なんなら、今からでも、あっちゃんに乗り換えるか?
アタシは、裕ちゃんと違って、やさしいでぇ〜。』
どうよ。って…ハァ? なに言っちゃってんのよ〜この人は。
って、もしかして、あっちゃんも、ソッチの人だったりする?
……まさかね。酔っ払って言ってるだけだよね…。
「もう、なに言ってんだよう…やだな…。」
『いやいや、めっちゃ本気やで。矢口なら可愛ええから女の子でも
ぜんぜんオッケ!』
「――ヒィ…ぅ…ッ!!―――」
でも、それが、聞き耳を立てていたこの人の引き金になってしまっ
たなんてことを、酔っ払ってご機嫌なアナタはきっと気づかないんだ。
裕子が、アタシのそこに口付ける。
ぴちゃぴちゃと卑猥な音がしだして、耳を塞ぎたくなる。
じゅるじゅると吸われて、あまりの衝撃にお尻が仰け反った。
やだよ。そんなに音立てたら電話の向こうにも聞こえちゃうッ。
肌が、サーっと粟立った。
気持ちいい。気持ちいけど苦しい。
身体は、もっとォと、腰を卑猥に押し付けてしまう。
(やだぁ。このままだったら、声が出ちゃう。)
あっちゃんになにをされてるのかバレちゃうよォ。
オイラは、懇親の力で、彼女の頭を押さえ込んだ。
裕子は、ひたすら嬲っていた突起からあっさり唇を離すと、手を上げ
て、ホールドアップのポーズを取る。
「………ッ…はぁ…。」
へっ? あ、あれ? もう終わり?
あまりの引き際がいいのにに、拍子抜けするように脚をだらんと投
げだしたまま呆然と彼女をみる。
裕子は、濡れた口元を手の甲で拭うと、なんでもないように笑顔を向けた。
何事もなくすんだと安堵はするものの、急に止められたら、それは、
それで、余計に辛いだけだ。
- 72 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:44
- ブルッと腰に甘い震えを感じて、まだ脚の間に佇む裕子の顔をジッ
と見下ろした。
ニヤリと口角を上げる顔を目にして、弄ばれたんだと思った。
全身が焼けるようにカーッとする。気持ちを弄ぶなんてこんなの酷い。
なんか泣きそうと思ったら、ほんとにツーと涙が零れ落ちた。
裕子は、そのまま、オイラの片膝を軽く持ち上げると、その部分を
興味津々に覗きこんでいる。
ただ、覗いているだけじゃなかった。ビデオカメラがその情景のす
べてを映しだす。
上からだと彼女の方に向いている四角い窓も同時に見えた。
とても口では言い表せないものが、ドアップで映し出されていた。
それは、いままさに、彼女の瞳の中に映っている場所。
オイラは、咄嗟に顔を背ける。きりりと唇を噛む。
『矢口ぃ? うおーい、矢口ぃぃ、聞いてるか―?』
「……う、ん。」
『アタシ、これから出掛けちゃうけど、アンタ、ホンマに平気なん…?」
揶揄っているだけなのかと思っていたら、彼女は本当に心配してく
れているらしい。
変な声いっぱい聞かせて、こんなくだらないことにまで巻き込んで、
申し訳なさでいっぱいになる。
「……ごめんね、あっちゃん。」
らしくなく神妙に謝った。
ホントは助けてって言いたい。言えば、この人なら来てくれるだろう。
けど、助けてもらう=この格好見られちゃうことになるから。
そんなのは、死んでもイヤだった。
このまま、あっちゃんが、呑みに行っちゃったら、さっきみたいな
脅しは使えない。もともと、意味がなかったのかもしれないけど…。
いなくなってくれてホッとする気持ちと、行かないでって気持ちの
半々でグラグラ揺れていた。
『あはっ。ええて。…だいたいアンタが謝ることちゃうやろ?』
「…――――ン。」
- 73 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:46
- そんなやさしい声ださないでよ…。
アナタに縋りつきたくなるから。
でも、あっちゃんは、全部知ってるんだよね?
アタシが、いまどんな格好でいるのか。なにをされてこんな声を出し
していたのか。薄い壁一枚隔てた先で、どんな淫らな行為を行って
いたのか。考えれば考えるほどに居た堪れなさでいっぱいになった。
『矢口ぃ。その人、昔から“どエス”やからな。アンタ、ホンマに
身体気ぃ付けぇよ。…って、矢口に言ってもしゃあないわな。あはっ。
裕ちゃん、聞いてる? ほんまにほどほどにせんと…矢口、壊れちゃ…。』
「チッ。うっさいわ、この酔っ払いがぁ!!」
裕子に携帯を奪われて、そのままブチっと通話ボタンを切られた。
あははっと笑う声が壁の向こうから聞こえて、オイラは、なんとも
いえない気持ちになった。
一気に歯向かう気力も体力も失って、くたぁとベットレストに寄り
かかった。
ねぇ、あっちゃん。
アナタに言われなくても十分分かってる。
この人が、超の付くくらい“エス”な人だってことくらいね……。
オイラは、お腹の中で「ははは…」と彼女の言葉に同調するように
乾いた笑い声を上げた。
「ったく、とんだ邪魔が入ったでぇ……さてと。」
パンて手を叩かれて、それだけのことなのにオイラはビクッと肩を
揺らした。
「んじゃ、そろそろ始めよかぁ…?」
って、変わり身早ぇーな、オイ。
ニヤリとスケベったらしい顔をしながら。
すっかり監督気取りの恋人の絶対命令の口調に、オイラは、ただただ
頭を下げるしかなかったんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
- 74 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:49
- それは、終わりのみえない長い長い拷問のようだった――。
「くっ、すごいええ顔。矢口、かわいいでぇ…。」
「…ッ、もう、やだぁ……。」
いつものオイラなら、とうに達してベットにぐったりしてるところ
なのに、彼女は、なかなか終わらせてくれない。
絶妙な加減でイカせないように、焦らしに焦らしまくった。
少し休みたいと訴えてもぜんぜん休ませてもくれなくて、次の愛撫を
与えられる。喘ぎすぎて腹筋が痛い。喉もカラカラだ。水が欲しい
と懇願してもまったく取り合わなくて、しかたがないから自分の唾
液を飲み込んで、それで凌いだ。
彼女のいいように弄り続けられた下肢は、痛いほどに疼いていた。
もう、気持ちいいのか、苦しいのか分からない。
脚を開きすぎたせいで普段使わないようなところの関節に痛みが走った。
叫びすぎてひり付く喉。
オイラの頭は、酸欠で、すでにオーバーヒート状態だった。
そんな姿を、ジッと見下ろされている。
二つの目だけじゃなく、もう一つの目にも一緒に視姦されていた。
泣きじゃくるオイラの顔に、ズームする。
利き手じゃない手で下半身を弄られてるのに、彼女の愛撫は絶妙で。
こんなの厭なのに喘ぎ声が止まらない。トロトロと中から汁を出し
て、また彼女のキレイな指を汚してしまう…。
「フッ。すごいなぁ。アタシの指、ふやけちゃってるで…。」
ほら見てみ、と、彼女は、オイラとカメラの前に持ってきた。
裕子のいうとおり長湯したときになるみたいにいつもキレイな指が
シワシワになっていた。
それを見せ付けるように指を離せば、ネバネバする液がべっとりとこ
びりついていて。
恥ずかしくて目を伏せる。けど、逸らせてはもらえない。
ハッと、目を開ければ、カメラが、間近に迫ってくる。
こんな顔撮るなんて酷いよ…。滲んだ涙がとめどなく溢れ出す。
そのことに彼女自身も気づいているはずなのに、裕子はすべて無視
し続けた。
それでも、なんとか彼女の手を振り切って、シーツに突っ伏した。
こうすれば、少なくとも、顔を映されることはなくなる。
- 75 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:52
- 青色だったはずのシーツは、汗やら唾液やらなにやらをたっぷりと
含んで、すっかり濃い色に変色していた。
裕子の甘い香りのする枕で、ようやく一息ついていると、さわわと
背中を撫でられて、腰がヒクンとしなった。
落ち着く暇もなく、彼女は、次を仕掛けてくる。
首筋から背骨を通って、骨盤を掴まれると、「うひっ」と思わず飛
び起きた。その隙を狙って、彼女は、オイラの細い腰を抱え込む。
…と。
「……なっ!!」
させられた思わぬ状態に、恥ずかしくてサッと顔を赤らめた。
両膝をベットにつけて、そのまま腕を立てさせられる。と、それは、まるで……。
四つん這いの動物みたいな格好になる。
すっかり体力が消耗して、すでに力の入らない腕が崩れると、お尻
が高々と持ち上げられて、煌々とした灯りの元で、オイラの白いお
尻がぽっかりと照らされた。
頬と一緒に、お尻まで恥ずかしさに紅潮している。
そのまま強引に引き締まった脚を披かされると、割れた部分が、彼女
の目の前に露になった。
「…あぁ…ッ……。」
いやだよ、こんなのはあんまりだ。これじゃぁ、見られたくない場
所まで見られちゃうことになる。オイラは、あまりの屈辱に耐え切
れずにポロポロと、枕に涙を落とした。
「…ヒッ、やっ、見ないで、あっ、バカ、映すなよッ!!」
力の抜けた身体では抵抗のしようがなかった。
彼女が片手で器用にその部分を押し広げると、ツーと内腿を伝って
中からなにかが零れ落ちていく。
「すごッ、めちゃエロい眺め……。」
「ンッ、ぃやぁ!!」
プルプルとお尻を振って視界から逃れようとするのに、そんな姿で
さえ彼女は楽しそうに笑う。
- 76 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:55
- 「フッ。アンタ、この辺ドロドロになってんでぇ…。」
「……ッウッ、…。」
内腿をさわさわと爪で撫でられて、ビクンとお尻が揺れた。
誰のせいだようと言い返したいのに、喉の奥に詰まってなかなか声が
でない。
そこを自分から露呈しているかのようなポーズがあまりに屈辱的で、
情けなかった。
「…あっ、ん……。」
「可愛いなぁ矢口…。」
だめだ。ぜんぜん力が入んない。
下唇をきつく噛みながら、シーツに波をたてる。
「…あっ、やだ、見んなって……。」
「クッ。なん、おいしそうな桃みたいやね。食べちゃおうかなぁ……。」
「ひゃぁう……。」
お尻の皮膚を長い舌を使ってベロベロと舐められた。
奇妙な感触に、のたうち回るけど、腰骨をがっしりと押さえ込まれ
ているからビクともしない。
そんなところを舐められるのって、あまりされたことがなかった。
くすぐったくて。でも、なんか変な感じ。
唇から出てくる声は甘く響いて、気持ちいいことを証明していた。
「ええ声。気持ちいぃんや…?」
もっと声だしぃと催促されて、オイラはぶるると首を振る。
「…もっ、もォ、やだぁ…やめてったらッ…。」
「嘘言いぃ。ぜんぜんやめてちゃうやん。ここは、喜んでんでぇ。
こんなところ舐めらて気持ちいぃってカメラに向かって言ってみぃ?」
「…バカ裕子ォ…ッ、や、やだぁ…。」
このまま、馬のように蹴り倒せば逃れられるかと思うのに、膝がガク
ガクして、そんな力さえ残ってはいなかった。
徐々に、舌で撫でる範囲が広くなって。
巧みな愛撫が、オイラをどんどん昂ぶらせていく。
「ひうっ、か、齧んなよォ……。」
「だって、おいしそうなんやもん。」
薄くしかついていない肉は、それゆえに敏感に反応してしまう。
- 77 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 15:57
- 「ほら、こっち向き。それじゃ、顔が映らないやん。」
「映すなってぇ…。もう、こんなのやだよォ……。」
「やだちゃうのォ。ホンマはこんなんじゃ足りひんのやろ? どう
して欲しい。ちゃんと言い。」
「……ッ!!」
裕子をきつく睨み付けると、目の前にレンズが迫っていた。
こんなこと、悔しくて悲しくて、でも、もう一人の誰かに見られて
いるような気がして、それが余計に興奮を煽っているのも事実だった。
「くっ。そんな顔してぇ。でも、欲しいんやろ? なにが欲しい?
ほら、自分の口でちゃんと言ってごらん。」
「……やだ。そんなの、言えない……。」
欲しい、欲しい、アナタが欲しい。
昂ぶるだけ昂ぶらせて、彼女はぜんぜんしてくれない。
ずっと欲しかった…。アナタのそのキレイな指を、身体の中に埋めて
欲しくて堪らなかった。
頭の中では、そればかりを考えている。
でも、そんなことをどうしたって言えるはずがなかった。
「クフッ。しゃあないな。だったら言わせるまでや。」
すべてお見通しのような顔をされて、彼女がにやりと口角を上げた。
そのまま自分の脚を使って、オイラの開ききった脚をさらに大きく
広げさせた。
もう一人では閉じられなくなった場所が、キレイな瞳の前に晒される。
「こんなにビショんこにして。こんなところにまでやらしい痕もい
っぱい付けて。ほんまに、えっちな子やで……。」
チ、チガウッ! こうなったのはすべて裕子のせいで。
だいたいキスマークだって、アンタが付けたんだろ!!
明日、体育あるのにどうすんだよッ!
様々な文句が頭の中を飛び交うけど、どれもこれも言葉にはならなくて。
口から勝手に零れるのは、とびきり甘い嬌声だけだった。
白いお尻に模様を作るかのように彼女は、チュと、激しく吸い付いた。
人の身体で楽しそう遊んでいる彼女が、心底恨めしい。
早く触ってよ。もう。イカせて欲しい。
なんで、してくれないの…?
こんなのないよ、苦しいよォ、ねぇ、裕ちゃん、早く助けてよォ。
- 78 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:00
- 視線が割れたところに移ったのに気づいて、慌てて手を翳した。
「くくっ。……ほら、手ぇ邪魔やろ。なにしてんのよ…?」
「もお、やだあぁ…ッ!!」
オイラは、ブンブンと首を振った。
やだやだ。こんな汚いとこみないで。
思わず荒げた幼い子供のような声に、彼女は喉の奥でくっくっと笑
って、むずがる子供をあやすように、やさしく髪を撫でつけた。
そのままぐいっと後ろ髪を引張られて、ぺタリと頬がくっついてくる。
裕ちゃんのほっぺ、熱があるみたいにひどく熱いよ。
汗と汗が交じり合う。同調するように心臓の音も早くなる。
なのに、彼女は、そんなオイラと思いとは、まったく反対のことを言う。
「あぁ、なんや、もっと見て欲しいんか? そうか、自分で広げて、
裕ちゃんに見せてくれようとしてんのん?」
「…なっ、ちがっ、……ッ…。」
「それなら、矢口の恥ずかしいとこいっぱいみたるから、自分でしぃや。」
裕子が、笑いながらカメラを構えた。
鼻の下をだらしなく伸ばして。
オイラは、激しく首を振る。絶対やだ。そんなことしたくない。
だけど、そんなことじゃこの人は許してはくれなかった。
「ほォら、早く、見せてよォ〜……。」
「ぃやぁ…やだぁ……映さないでぇ…。」
「もォ。やだちゃうやろ? 自分でせんと、いつまでもこのままや
でぇ〜?」
どっちが恥ずかしいんかなって。
有無を言わせない威圧的な態度にオイラは、成すすべもなかった。
圧倒的な支配力。ぺチンとお尻を軽く叩かれて、強制される。
って、これじゃ、まるでヤクザと一緒じゃんかッ!
裕ちゃん、教師よりもヤクザの姐さんになったほうがよかったんじ
ゃないの?
「ほら、さっさとしいやッ!!」
強く言われると、「ヒィ」とお尻が揺れた。
もうやだよ。なんでこんな目にばかり遭わなければならないんだよ。
なんで、オイラばっかり…。
- 79 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:03
- 両手を後ろに持っていくと、そのままお尻にぺたりとのせた。
彼女の唾液のせいで、滑る。もう一度と目で訴えられて渋々言うことを
聞く。
うわっ、なにこれ、すごく熱くなってる。
恐る恐る指に力を入れる。
唇をきつく噛み締めながら10本の指にすべての力が加わったとき、
いつもはひっそりとした場所が、じわじわと曝け出された。
自分のしている格好があまりに信じがたくて、オイラは、みないよ
うにギュっと目を瞑る。
目のふちに溜まっていた涙が、ポタポタとシーツに滑り落ちた。
こんなことは厭だよ。したくなかったのに。
こんなことさせるなんて裕子、酷い。
そう思っているはずだったのに、そこは、早くも潤みはじめていて。
彼女の目の前で零したら大変だと、どうにか我慢するけど、そんな
意思とは関係なしに溢れ出る蜜が、太ももを辿って滴り落ちていった。
中が焼けるように熱くなってて。
なにか、得たいの知れないむず痒さみたいなのが、オイラを苦しめた。
「クッ、エロぃ身体ッ。」
どこか蔑むような響きに聞こえて、カーっと全身が熱くなる。
自分の痴態を恥じていたはずなのに、彼女の視線を感じて興奮して
しまっていることを、もう否定することはできそうになかった。
たったいま彼女のキレイな瞳に映し出されているその部分は、きっ
と浅ましく口を開けて、アナタに向かって、おねだりをしているの
だろう…。
「あぁ、もッ、やだぁ、ゆうちゃ……ッ…。」
いっぱい泣きすぎて、水分なんてもう涸れてしまったと思っていた
のにまだ新しい涙が頬を伝った。
堪らずに、首を曲げて彼女の顔を見つめる。
裕子は、カメラを覗き込みながら、クスリと微苦笑していた。
もう、だめ。
我慢できない。
早く、このグズグズした下肢をなんとかして欲しかった。
- 80 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:06
- 「うあぁぁん、ゆうちゃ…ッ……。」
「ん〜〜?」
切羽詰った声の自分に比べて、彼女はどこか悠然としていた。
二人の温度差を感じて、ひどく悲しい気持ちになる。
一方的に昂ぶらせて、中途半端にほったらかす彼女が憎いと思った。
だけど、どうしようもなくなったこの身体を、なんとかしてくれる
人は目の前の人だけだから。
裕子は、さきほどの宣言どおり、ただじっと事の成り行きを見守っている。
こうなることが、すべて彼女の筋書き通りのような気がして悔しいよ。
でも、それ以上に、身体が云うことを聞いてくれくなっていた。
「ゆうちゃ、お、ねが…っ、……入れて、指、ここに、欲しい、入れ
てよッ、おねが……ッ……。」
こんな恥ずかしい言葉、普段の自分ならどんなに強いられても絶対
に云わない。無理矢理強制されたわけでもなく自ら進んで発した声に
自分で驚きつつも、唇が止まらなかった。
カメラが、ジッとその表情を捉えている。
そんなのさえ問題にならないほど、もう、身体が熱く疼いて堪らなか
った。
オイラの声を聞いた裕子は、フッと吐息した。
妖しい微笑を浮かべる。でも、動こうとはしない。
「…やだぁ、やあッ、ねぇ、入れて、よォ、ゆう、ちゃ…ッ…。」
「……ん〜? どうしようかなぁ……。」
「…ッ、も、意地悪、すんな、よ…バカァ…ッ…。」
堪えきれずに、涙がシーツに滴り落ちる。
一緒に、鼻水もだらだらと零れた。
「…やっ、おねが、ゆう、ちゃ…ねぇ……。」
震える唇から発したのは、ひどく掠れて、鼻に掛かったような甘っ
たれの声。
そのくせ彼女を見つめる瞳は、どこまでも潤んで揺れている。
瞬きをするたびに、涙が零れ落ちていく。
唇を押し上げて、「ひん」とベソをかく。
そのとき、彼女の瞳の奥の色が変わった気がした。
そのままのしりと背中に乗られて、後ろからギュっと抱きとめられた。
ほどよい重みを受け止めながら、顎を捕まれ、無理矢理首を上に向
けさせられる。
唇が近づいてきて、自分からも赤いそれに近づけるとやわらかい感
触に、呼吸を塞がれた。
- 81 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:08
- 「あっ、んんっ、ゆうちゃ……や、やめちゃ、やだッ!」
唇が離れていきそうな気配に、いやいやと首を振る。
その苦しい体制が、余計に興奮を煽った。
また舌が伸びてきて、口の中を舐められる。
いつもの激しさはない。どこかゆったりとしたくすぐったいような
、切ないようなそんなキス。
「かわええなぁ。矢口…。」
「…ッ……あんッ…。」
真っ赤に熟れた耳たぶのそばで囁かれて、熱っぽい彼女に見つめら
ると堪らなくなる。
ぴたりと背中に胸を押し付けられて、彼女の鼓動が伝わってくる。
同調するようにオイラの心臓も早鐘する。
「アタシが、そんなに欲しいん?」
「…ん。欲しいぃ…欲しいのォ、欲しいよォ……」
まるで幼稚園児みたいに、泣きながらコクンとお辞儀した。
「フッ。じゃあ、入れても痛くなんないように、これに、いっぱい
唾液つけて…舐めて?」
「……ン。」
お利口に頷きながら、口の前に出された二本の指にしゃぶりつく。
なにか厭な匂いがしたような気がしたけど、そこは目を瞑って。
いつの間にか三本に増えていたそれを、口いっぱいに広げて一生懸
命に嘗め尽くした。
指が離れる。その名残のように二人をつなぐ唾液の糸がひどくイヤ
ラシかった。
唾液まみれの指を口から離すと。
「じゃ、入れるとこ、よく見せて?」
彼女は、いちいちちいさい子に話しかけるみたいに言った。
「……ン。」
もう一度、枕に顔を預ける。
後ろに伸ばした手に力を込めて、お尻をくつろげる。
こんなこと、自分からしちゃうなんてホントにどうかしてる。
彼女の目の前に突き出しているポーズがひどく卑猥で、羞恥心を煽った。
それでも、ようやくもらえるうれしさで、頭の中はいっぱいだった。
- 82 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:10
- 「ハァァ。いつ見てもちっさい穴やなぁ…。ホントにこんなところに
入んのォ? くくっ、なん、桜が咲いてるみたいやね。めっちゃキレ
イやで、矢口?」
「…やっ、も、いいから、早く……ッ……。」
「せっかちやなぁ。もう少しくらい愉しませてや。」
「…裕子ッ!!」
自らの手で、下半身を剥きだしで、恋人にジッと視姦される恥辱を
お尻に爪を立てて懸命に堪えた。
震えるその手を離さなかったのは、待ちくたびれたものを貰えると
いう喜びだけだった。
裕子の指があてがわれたのを感じた瞬間、そこに溜まってあった蜜
がとろりと滴り落ちて、またシーツを汚してしまう。
いつもは、ひっそりとしている場所を、これでもかというほど割り
裂いて、彼女を迎えうつ。
「くっ、ふっ………。」
濡れ潤んでいる空洞に左手の人差し指を突き入れられた。
痛みはまったく感じなかった。
指が身体の中に入っているという感触が、まざまざと感じるだけで
裕子のしなやかな指が、ほんの浅い部分を抜き差しする。
まだ焦らされているような気分になって、堪らなかった。
足りない。こんなんじゃ。もっといつもみたいになにも分からなく
なるくらい激しく突いてほしいのに。
無意識に奥まで入れて欲しくて腰を揺すると、すぐさま彼女に指摘
が飛んでくる。
「んも、今日はどうしたん? そんなやらしい動きしてぇ…腰動い
ちゃってんでぇ?」
「…ああぁん…やだぁ…してよ、もっとして……。」
「もっとォ? もう恥ずかしい子やなぁ。…もっと奥まで入れて欲し
いんや?」
「……ン。欲しいのォ…。」
「んじゃ、奥まで入れてって、カメラに向かって可愛く云ってみぃ?」
「………死んじゃえ、バカ裕子ッ!!」
こんなときまで悪ふざけするなよな!
顔がぐちゃぐちゃで、それが、涙なんだかよだれなんだかわからない。
オイラの反応に、彼女はくっくっとうれしそうに笑った。
言葉ではそうなくせに、いざ彼女が指を抜こうとすると膣口を窄め
て逃さないようにする。そうして、またもや彼女の笑みを誘った。
- 83 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:12
- 「すごーい。こっちもパンパンに腫れてんでぇ?」
「…ひやっ、やあぁん……あッ……。」
「くっ。逆さまやとなんか変な感じやなぁ。ほら、手ぇ休めんと、
こっちももっと見えるようにもっと腰上げてみぃ…?」
「…ん。ッ……やあぁんっ……。」
人差し指を中に入れたまま、親指でそこをグリグリする。
過敏な蕾は、ちょっと触れられただけでも大げさに反応した。
すごく熱くなってる。芽吹かせて、怯えるようにピクピクと震えていた。
両方からくる刺激に、ドッと中から蜜が溢れ出た。
裕子はおびただしく垂れ落ちる粘液を指先で絡め取り、その部分に
塗りつぶしていく。激しい揺さぶりに、はしたない声を止めること
が出来ない。
「…ひやっ、やっ、まっ、まって、やだぁ…ゆう、……。」
「もう、そんな声だして。あっちゃん居なくてよかったよなぁ、矢口…?」
なに言ってんだよ。アンタが追い出したくせに。
そう言うと、まるで、こうなることをなにもかも見越して云ってい
るようで、また悔しさに歯噛みした。
自分が、どんだけ声を張り上げているのかを思い知らされたようで、
顔が、ひどく熱くなる。
「んんっ、ひぃぃぃ〜〜ッ…。」
ふいうちで、突起を摘まれて、両指で潰すように強くされると大き
く背中が仰け反った。
針で突付かれたような鋭い痛み、それに勝る快感が背骨に突き抜ける。
太股が痙攣するようにピクピクと震える。
もう力が入らなくて、自分の身体を支えきれずに膝が崩れた。
そのまま彼女の膝の上に横倒れになる。
起き上がることもままならなくて、しばらく、彼女の膝の上で放心した。
「矢口、矢口、おーい、矢口って……。」
ペチペチと頬を叩かれて、ようやく覚醒する。
目を開けるといつの間にか、彼女に後ろから抱っこされている形に
なっていた。
- 84 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:14
- 「裕ちゃん…。」
あれ? オイラ、またイッちゃったの?
潤んだ瞳のまま、彼女のほうへ振り返ると、恋人はチュと、軽く唇を
寄せてきた。
反応らしい反応もみせられない。
「なぁ、前向いてみぃ?」
「…エッ?」
「ええから……。」
甘い声で、命令を下されて。
わけもわからず彼女の言葉に従うと、オイラはビクッと身体を揺らす。
目の前に、女の子が座っていたから――。
汗で濡れた乱れ髪。
おいしそうなりんごのようにふっくらと赤く腫れたほっぺ。
唾液まみれで、だらしなく緩んだ口元。
つぶらな黒目は、どこか焦点が定まっていない。
ツンと、尖りっぱなしの胸の突起。
そして……。
「や、やぁだあぁ……ッ…。」
薄い翳りの下で、息づく淫ら色の性器が、だらだらと汁を垂らしていた。
大きくかぶりを振って、いま見たものを懸命に忘れようとする。
でも、裕子が後ろから押さえ込んで許してはもらえない。
せめて脚だけでも閉じようと思っても、彼女の両足に阻まれてどう
にもならなかった。
「ふ〜ん。もしかして、自分のココ見んの初めてなん…?」
目の前には、全身が映るほどの大きな姿見が掛けられていた。
恥ずかしくて前が見れない。
いやいやとコドモのように首を振る。
「ほら、ちゃんと見ぃよ。恥ずかしくないやろ、自分の身体やでぇ…?」
「…やあぁ…ッ…。」
それは、ぜんぜん違うよ。
これなら、彼女に見せたときのほうがよっぽど恥ずかしくなかった。
変なものを見せられて、おかしなくらい全身が火照っていた。
感情がひどく昂ぶって、涙がポタポタと滴り落ちる。
唇に歯をあてて、湧き上がる羞恥心を懸命に押し殺した。
- 85 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:17
- 「矢口、前見て、ほら、ちゃんと見ぃや?」
「ぜったい、いやッ!!」
「ダメや。目ぇ開けるの。ほら、よく見ぃ…。」
顎を捕まれて、強引に前を向かせられる。
それでも頑なに目を閉じていると、ぺチンと軽く頬を叩かれた。
「矢口ッ!」
裕子の命令は、絶対だった。
いつしか、身体の中にそうするように刷り込まれていた。
オイラは渋々と声に従う。なるだけ下を見ないようにするのに、そ
んな意思とは裏腹に視線はそこへと釘付けになる。
こんなにじっくりと見たのは初めてだった。
こんな形をしているなんて自分のなはずなのに、今まで知らなかった。
無毛に近い陰毛は、ないほうがよっぽどやらしくないんじゃないか
と思えるほど余計に卑猥に映る。
皮もすっかり捲れて、パンパンに膨らみきった粒が顔を出す。
その下で息づく花びらのような場所が濡れほころび、彼女の指を欲し
がるかのようにひくんひくんと口を開いているのが、やたら淫猥だった。
自分の身体に、こんないやらしいものが潜んでいたなんて…。
なんて、イヤラシイ身体なんだろう。いつも揶揄る彼女の言葉が、
今日ばかりは素直に頷けた。
こんなものを裕子に見せていたなんてと思うと、居た堪れなくなった。
なのに、彼女はもっと前に移動しようとする。
抱っこされているから必然的に自分も前に押し出されて、鏡がすぐ
目の前に近づいていた。
「やだよ、ゆうちゃッ……。」
裕子は、オイラに折り重なるような格好のまま、右手にカメラを携
えて、鏡に映る裸体を映している。
「どおや? 自分のここを改めて見た感想は…?」
見たくない。見たくないのに、どうしても視線を外せない。
目が勝手にそこに向かってしまう。
外観は幼いくせに、何人もの人と交わったことのある部分は、そこ
だけ大人になってしまっていて、そのギャップが余計に卑猥に思えた。
- 86 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:19
- 「…えっちやろォ…?」
彼女の声も聞こえないほどに。
軽い酩酊感のなか、オイラの黒目は、その部分ばかりを凝視する。
耳の後ろをぺロリと撫でられて、裕子が、くすっと微苦笑した。
ショックが大きかった。
目を閉じても、見たばかりの恥ずかしい光景が脳裏にこびりついて
離れない。
裕子が腰を大きく突き出した。
釣られるように、オイラの腰だけが前に押し出される。
伸びてきた指がVサインをすると、花びらがめくれて、ピンク色の
部分が露になる。
「ほら、すごいキレイやろ…ずっと見てたいくらいやなぁ…。」
まるで、お花見をしているような呑気な口調。
彼女の指によってくつろげた内部は、おびただしい蜜を溢れ出させ
て、この人からの愛撫をせがんでいるとしか言いようのないような
状態だった。
「ゆうちゃ……」
「…んっ?」
「ゆう、ちゃッ……。」
身体が熱くて。
呼吸が変なふうに乱れる。
ドクドクと心臓が不整脈を打ち始めた。
「…もう…。」
「ん?」
「もう、だめ……。」
「なにがぁ?」
鏡越しの彼女の顔をジッと見つめると、堪えきれずに頬に涙が一筋
滴り落ちた。
「触ってほしぃ、ここ。……もっと、いっぱい、めちゃくちゃにしてよッ……。」
なにも考えられなくなるくらいに。
いい終えると、「ひぃう」と涙が溢れてきた。
自分のイヤラシさを知ってしまって、彼女に懇願するのは、ひどく
申し訳ないような気持ちになった。
そんな姿まで、カメラに映されていたことなんて、もはやどうでもよ
かった。
もうだめだよ。お願い。
焦らさないで。これ以上、焦らされたら、オイラ苦しくて死んじゃうよ。
- 87 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:22
- 「ふぐっ、ッ!!!」
唇を塞がれた。乱暴に舌を絡め取られる。チュって音が立つくらい
吸い付かれて、離れると…。
「たくっ。またアンタは、んなコドモみたいな顔して、んなこと言
いくさって…、とんだ魔性やなぁ…。」
「ふぇ?……ましょーっ、て?」
聞きなれない言葉。でも、自分に掛けられたんだってわかるから、
きょとんとしたまま尋ねる。と、彼女は急に顔を赤らめて怒りを露
にする。
「なんでもない。もう、泣くなや。わかったから。お望みどおりたっ
ぷりとしたるから。」
コラと、言いながらむにゅっと唇を摘まれた。
そのまま、彼女が、覆いかぶさってくる。
背中が軋むほど、ぎゅうって抱きしめられた。
いつも強引で、意地悪で、人の話とかもぜんぜん聞いてくれなくて。
厭なところなんて数えたらきりがないくらいだけど。
本当は、すごくやさしい人だ。
こうして抱きしめられると、大事にされている。愛されているのが
よくわかる。うれしいよ。
唇を吸われて、舌を奥まで差し込まれた。
早急に下に指が含まれても、痛みはまったく感じなかった。
舌で、涙の痕を撫でつけられる。
口を大きく開けて、彼女のベロを迎えうつ。
裕子が、どこに触られても、それは、すべて快感に変わった。
指を奥まで含ませて、もっと欲しいとはしたなくお尻を振って喜び狂う。
なんとか声は、手のひらで押し殺しても下から洩れる音だけは防ぎ
ようがなかった。
この人の愛撫に溺れてしまいそうになる。
「はっ、ふっ、なぁ矢口ぃ、もっとォ?」
「……ン。はぁ、っ、もっとォ。もっとして?」
裕子の声が色っぽく掠れている。
彼女の汗が、目の中に落ちてきて、オイラは激しく瞬きながら懇願
する。
「矢口、……矢口ぃ…、膝抱えて。自分で……できる?」
「……ン。」
力の抜けた腕で、言われたとおり自分の脚を抱えた。
恥ずかしいとか、そんなのを考える余裕もなかった。
- 88 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:26
- 「なぁ…、入るとこ見える?」
「――ン。あぁ、入ってるョ、ゆうちゃ……ッ…。」
「うん。出し入れしてんでぇ? ほら、アタシの指、矢口に呑みこ
まれてる……。」
「……んんっ。はぁっ、気持ちぃぃ……。」
頭がすっかり朦朧としているうちに気がついたら、そこに含んだ指
は、三本に増えていた。
こんなに入れたことって今までになかった。
フツウの人よりは細い裕ちゃんの指だけど、圧迫感はすごくあった。
穴がメリメリと広げられるようで、それでも、痛みは薄く、それよ
りもなによりもすぐに奥まで入れて欲しくて堪らなくなった。
「…平気? 痛ぁない?」
やさしい声が掛かって、オイラは「うん」とちいさく頷いた。
いっぱい酷いことされた。いつも意地悪ばっかで泣かされてばかりだ。
だけど、いま、中を触れている指が精一杯気遣って触れてくれている
ことがわかるから。たとえどんなことをされても、いつだって最後
には、彼女を許してしまう――。
その言葉を受け止めた恋人は、微かに笑って指を動かした。
中を蠢くたびに、グチュグチュと淫猥な音が鳴り響く。
中でバラバラな動きをされると、悲鳴に近い喘ぎ声が溢れ出た。
蜜が掻き回されて、攪拌されて、まるでエスプレッソのように泡だ
っていた。舌先で、首筋を撫でられて、チクビを含まれる。
ビクンと身体がしなる。お尻がキュウって引き締まると彼女の指を
締め付けてしまう。
浅ましく求めて、すっかり節操のなくなった性器がだらだらとシーツを
汚す。
「ハァハァ」とマラソンをしているような荒い二人の呼吸の音だけ
が、部屋の沈黙を支配した。
すぐ目の前に、なにかが迫ってきているのがわかって、もがくように
彼女の首を掻き抱く。
一人で行くのは怖くて、シーツの上で、彼女の手を必死に捜す。
片方だけギュっと握り締められると、オイラは安心して飛び立つこと
ができた。
「…ゆ…うちゃ、もッ、もう……ダメぇ…ダメぇぇ……。」
「…ん。だったらええよ。ほら、イキ?」
獣のように腰が卑猥に動くのを止められない。
声にならない声で、せがんで、与えられた喜びに、中からどっとなに
かが溢れ出た。
お尻が、宙に浮く。
- 89 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:27
-
「……ゃッ、ひん、もっ、イッちゃーーーーーーーーッ!!!!!」
果てる瞬間、ちらりと見た恋人の顔は、なにかに苦しそうに眉を顰め
ていた。
それが、なんなのかはわからなかった。
「ハァ、ハァ、ハァァ……。」
まだ、ピクピクと内腿が震えている。
ゆっくりと指が引き抜かれると、開きっぱなしのそこからだらんと
蜜が滴り落ちた。
「ひゅうひゅう」と何度も大きく深呼吸をする。
呼吸の邪魔にならないように、やさしい口付けが降ってくる。
オイラは、反応らしい反応も見せられぬままに、瞼を落とした。
ようやく与えられた解放感で、頭の中はいっぱいだった。
こんなにも長い間激しくイカされ続けたのは、生まれて初めてのこ
とだった――。
◇ ◇ ◇ ◇
- 90 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:30
- ゆっくりと瞼を開けると、目の前に彼女の顔があった。
コツンて、人差し指でおでこを突付かれて、恋人が呆れたように言う。
「アンタ、すぐ寝るなぁ…。」
髪を撫でて問う呆れ声はどこか甘く掠れていて、怒られたわけじゃ
ないのだとホッとする。
「オイラ、どのくらい寝てた…?」
ひどいかすれ声だ。喉がひりついて、ちょっと痛い。
その原因を思い返すと、とたんに顔を赤らめた。
「ん〜? 20分くらいか…。」
「…ごめん。」
20分もの間、彼女をほったらかしにしていたなんて最低だよ。
でも、恋人は、そんなことは、まったく気にしてないようで。
まぁ、いつものことだと諦めているのかもしれない。
あんなことがあったのに、フツウに会話しているのもなんか変な感じ。
頭の中では、絶えずそのことがグルグルしている。
だけど、裕子が平然としているから、オイラもなるだけ気にしない
ようにと振舞った。
なんか、ものすごい疲労感。
ていうか、裕ちゃん最近、激しすぎない?
いま、思い返してもスゴかった。最後は、身体がバラバラになっちゃ
うかと思ったもん。
ここのところ、終わったあとは、いつもヘロヘロのドロドロだった。
実は、濃厚な口付けの後遺症で、こうして、しゃべるのだって億劫
だったりする。
「それより遅くなっちゃったな。矢口、そろそろ……。」
「…帰らなくちゃ、ダメ?」
送っていくから…と、言おうとする声を遮るように問いかける。
こんな状況で、そんなこと言わないでよ。
帰りたくなんてない。
さっきは、あんなに激しく抱いといて、帰そうとするなんてひどい
とか思っちゃう。
「はぁん?…ダメやろ。だいたい明日、学校やん?」
「ここから行けばいいじゃん…。」
あいにく今日は、制服で来ている。何の問題もなかった。
- 91 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:32
- 「明日の用意とかどうする気や…。」
「そんなのだいじょうぶだよ。教科書なんて全部ロッカーの中だし。」
そう言うと、ゴンという音と同時に、おでこにひりりと痛みが走る。
「アンタ、教師の前でよう言うなぁ……。」
熱を測るみたいにくっつけたまま、「めっ」って、叱られた。
こういうスキンシップは嫌いじゃない。ていうかむしろ大好き。
緩みそうになる唇をなんとか引き締めて、むうと唇を尖らせる。
一日くらいいいじゃん…。ねぇ?
「ったく、明日、ぎょうさん宿題出したろかぁ…。でもダメやよ。
お父さんが心配しはるやろ…ええから、さっさとパンツ穿きぃ。」
「エーッ。だいじょうぶなのにぃ。…んじゃ、なっちん家泊まるって、
電話するなら、いい?」
引き下がれないよ。
いつもだったら、どうせ言っても無駄だってすぐに諦めるけど、今
日だけは、なにがなんでも一緒にいたかった。
どうして、オイラの気持ちわかってくれないんだよう。
もどかしさに、お腹のあたりがぐるぐるする。
「だーめ。一度、そんなことしたら、なぁなぁになってまうやろ?」
「今日だけ…。」
「だめや。早く、起きぃよ。って、あかん、もうこんな時間やん。」
「……エーッ。疲れた。立てないもん。」
あんに、アナタのせいでこんな状態になったんだぞって含みを持た
せて言ったのに。
「クッ。しゃあないな。今日だけは特別に抱っこしてったるから。」
腕を引張られて、ガクっとうだった。
こんなふうに甘やかされるのは、ひどくうれしいくせに、思い通りに
ならないことがそれ以上に悔しかった。
抱きしめられた時間が濃厚であればあるほど、終わった後の彼女との
温度差を感じて、ひとり切なくなるのはいつものことだ。
- 92 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:34
- 別に、裕子が冷たい人なわけじゃない。
終わってから眠りこけてしまっていた間、彼女に、ずっと抱きしめ
られていたんだってことは、あれからずいぶん経ったいまもまだ火
照っている自分の体温からもわかっていた。
さきほどの激しい行為を思い返せば、この人に愛されていないなんて
思うはずがなかった。
けれど、胸の奥ではなにか得体の知れない焦燥感みたいなものが渦
巻いていて、それが、ときどきどうしようもなく不安に駆られる。
「ほら、もう、起きぃ。」
――やだよ。なんで、オイラの気持ち分かってくれないんだよォ。
「あ、そうじゃん。裕子、車、修理出しててないんでしょ…?」
「あっちゃんに借りるし…。」
「えー、でも、あっちゃん、呑みに行っちゃったじゃん…。」
「ん? 合鍵あるからだいじょうぶや。」
なにがなんでも帰そうとするなぁ。
なんとか思いつくまま言葉にするけど、それも、すぐに行き詰った。
「さて行くで。あぁ、お腹も減ったなぁ……。」
起き上がろうとする彼女の腕を掴んだ。
泣きそうになる顔を無理矢理に押さえ込んで、にいと微笑み掛ける。
唇の端がヒクンと引きつったけど、あいにく彼女は気づかなかった。
「帰るから、もうちょっとだけ、こうしてて……。」
なんで、裕ちゃんって、こんなに頑固ジジィみたいなんだろう。
普段が、いい加減だからこそ余計にそう思うよ。
ねぇ、オイラが泊まるのは、そんなに迷惑なの…?
せめて今日だけは離れたくないって思っちゃってるのは、オイラだ
けなんだ…?
二人の気持ちは、そんなに掛け離れているの…?
愛し合ったあとだからこそ、余計に辛かった。
わかってる。ちゃんとわかってるんだよ。
- 93 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:38
- アナタは、オイラのためを思って言ってくれているんだってことは。
それに、なにか問題が起きたとき、責められるのはアタシじゃなく
て、アナタのほうだ。
こんな関係が世間にバレたら、教師であるという倫理を問われるだ
ろうし、いや、こうしていること自体がすでに犯罪行為にあたるの
かもしれない。
裕子が、自分の身の安全のためにそうしていると思っているわけでは
はもちろんないけど…。
早く、大人になりたいよ。
そしたら、堂々とアナタの腕の中にいられるのに。
いつもいつも、こうしてたいって思うわけじゃない。
いつだって、我慢してる。
だけど、少しぐらいは、融通してくれてもいいじゃんか。
せめて今日ぐらいは……。
彼女の細い身体をギュっと抱きしめる。
いつも、やすらぎやぬくもりを与えてくれるやさしい身体。でも、
いまは、どこか寒々しくて、なにかがひどく物足りないような気がした。
そんな心の隙間を埋めるようにもっと強く抱いて、このまま一つに
なっちゃえたらいいのに。
そうしたら、もう離れ離れにならなくてすむのに。
我侭を言いたいわけじゃない。ここで駄々を捏ねたって、強情な彼女
が引き下がるとは思えないし、呆れられて、疎まれたら終わりだ。
なんか、恋愛って難しいね。
好き同士。こんなに気持ちが通い合っていても日本昔ばなしみたい
に「めでたしめでだし」では決して終わらない。
恋が成就しても、またそこから新しい悩みが生まれる。悩んで、苦
しんで、もがいて、いろんな苦痛が待っている。
こんなはずじゃなかったよ。
けど、裕子との物語なら、そう簡単には終わりたくない気持ちもあった。
それに、どんなに苦しくても、彼女とならば乗り越えられるような
気がする。
2年前のあの出逢いが第一章ならば、まだ、物語は第二章が始まった
あたりだ。
そう、だから、これからだよね……。
- 94 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:40
- 「クッ、ちょォ、アンタ、なに、してんの…?」
いつの間に着替えてきたのかTシャツの中に手を入れると、彼女の
背中がビクンとしなった。
そっと、めくるとオイラよりも白い肌が露になる。
ウエストのくびれのラインが、すごくセクシーだ。
あれ、裕子、また痩せた?
おへそのピアスか蛍光灯に反射してキラリと光った。
そんなふうに教師らしいことを言うんだったら、教師のくせにこん
なものしていいのかよと減らず口を叩きたくなる。
頭を擡げて舌を這わすと彼女が、クスクスと笑う。
「コォラ、矢口ぃ!」
怒っているようで、その声はほんのりと甘く掠れた。
どうせ帰らなければならないのなら、もう少しだけ時間を引き延ばし
たかった。
「もォ、なにしてんのよ…。」
「オイラもする。裕子にする。」
カタコトの日本語みたいな口調になってしまう。
「よォ言うわ。ぜんぜん力も入らんくせに…。」
それは事実だった。
起き上がることもままならない。
あれからずいぶんと時間が経ったはずなのに、いまだ指が震えていた。
聞こえないフリをして、鼻先でシャツをめくると、黒いセクシーな
ブラジャーに行き渡る。
裕子の身体は、汗とほこりと、ほんのりと甘い香水が入り混じった
いつもとは違う香りがした。
それが、余計に興奮を煽った。
背中に手を回すと、彼女は無意識に背中を預けてくれる。
震える指先で、ようやくホックを外すとカップからお椀型の胸がポ
ロリと零れでた。
- 95 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:43
- 血管が浮き出るくらいに透き通るような白い胸。
オイラみたいな水着の跡もなかった。
ほんのりと色づく先端には、ピンク色の蕾がひっそりと咲いていて。
こうして自分のと見比べてみても、同じなようで、胸の形って人それ
ぞれなんだなぁって。
オイラのお飾りみたいなチクビと違って、彼女のそれははっきりと形
になっている。
裕子のほうが、ぜんぜん綺麗だよ。
なんか、大人のオンナって感じがする。
「ちょ、くすぐった……。」
裕ちゃんって、されるほうになると、とたんに弱腰になるよね…?
オイラには、あんなに無茶苦茶するくせにさぁ。
思い出すと、自分ばっか乱れさせられてそれが、悔しくて、だから
舌先できつくチュウと吸い付いた。
口の中ですぐに固さを持ち始める。それが、うれしくて、もっとする。
「……ッく、もォ、なにしてんの、矢口?」
「…舐めてんの。」
彼女の甘い吐息が溢れるたびに、オイラの前髪を揺らす。
飴玉を転がすように舌先で擽った。
彼女が、「よしよし」とやさしく後頭部を撫でてくれる。
視線を上げると、まるでお母さんのような慈愛に満ちた満面の笑み
を掛けられた。
胸がきゅんてなる。裕子の乳首は、ほんのりと甘い味がするよ。
「なんか、変な気分…。ゆうちゃんの赤ちゃんになっちゃったみたい…。」
「ははっ。ええで、なり。毎日、おしめ取り替えてやんで…?」
「…アホ!」
思わず歯をあててしまうと、彼女が、痛そうに目を眇めた。
「…ッ、痛いわ、コラ!」
「うっ、ごめん。つい…。」
エー、でも、裕子なんてこんなもんじゃすまないじゃん。
いつも取れちゃうかってくらい執拗にされる。今日だってさ…。
さんざんにされて憐れに赤くなったそれが興奮で勃ちあがっていた。
その周りの皮膚には、彼女が付けたキスマークで花が咲いたみない
にいっぱいだった。
熱いの唇の抱擁を思い返せば、咥えた唇にも思わず力が入る。
- 96 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:45
- 「おっぱいでないねぇ、裕ちゃん…。」
「当たり前やろっ、くふっ。はあぁ…くすぐった…。」
「ちぇー。出たらおもしろいと思ったのにぃ…。」
「なんやそら…。」
舌を大きく突き出して。
レロレロレロ。
「くふっ。ちょ、も、コラコラ赤ちゃん、その舐め方エロいでぇ…?」
後頭部をわさわさと掻き抱かれて、彼女が呻いた。
すごい色っぽい顔に、ドキドキと胸が高鳴る。
裕ちゃんの赤ちゃんになれれば、ずっと一緒にいられるかと一瞬だけ
思ったけど、やっぱりそんなの厭だ。
おっぱいだけじゃ物足りないもん。
もっと、他にもいろんなことしたいし、してほしいから。
恋人でいられてよかったよ…。
この先、いつか、こうして彼女の乳首を吸う子供が現れるのだろうか。
ふと、そんなことを思いたって、ぶるると激しく首を振る。
いや、いや、いやだ。そんなの絶対にいや。
もしも、そんなことになったらば、アタシはきっとその子に対して、
激しく嫉妬してしまうだろう。彼女の愛情を独り占めにするその子
のことを絞め殺しかねないだろう。
自分で自分の考えが恐ろしくて、背筋がゾッとする。
狂おしいほどに、アナタが好きなんだ。
今は無邪気なコドモのようなフリをしているけど。お腹の中では、
そんなどす黒い感情を隠し持っているんだよ?
アナタに知られないように、必死でブレーキを踏んでいるの。
「…ッ、っと。はいはい。もうお終い…。」
「エーッ。なんでだよッ。いいところだったのにぃ…。」
カップに押し戻すと、Tシャツの中に閉まってしまう。
「だって、なんか噛まれそうで怖いんやもん…。」
「それは、裕子だろッ! ねぇ、もっとォ…。」
したいよ、裕ちゃんに。
抱きついたまま、シャツの袖を引張った。
まるで、お母さんに甘えるようにおねだりする。
- 97 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/01/29(日) 16:48
- 「クッ。そうしてると、ホンマに赤ちゃんやね…?」
「……もっとォ、ひっ、ぅンッ!!」
唇を塞がれて、早急に舌が入ってくる。
歯裏や、口の隅々まで犯されて、オイラはくたんと彼女の胸に崩れ
落ちた。
「さぁてと。そろそろ行きまっせぇ…。」
ガシガシと髪を撫でながら、彼女が立ち上がる。
って、切り替え早ぇーよ、裕ちゃん。
もう、そんなキスされたら、立てないよォ〜。
こんなにもシアワセで。
シアワセすぎて怖いって思うのは、シアワセ慣れしてないせいかも
しれない。
だって、オイラの脳内は、大草原をハイジみたいにルンルンしなが
らスキップしてる。
きっと、変な菌が蔓延してるんだ。
高望みはしない。ずっと、このままがいいよ。
くだらないことで喧嘩しては、仲直りのえっちして。
怒ったり、泣いたり、笑ったり。そんなバカみたいなことを二人で
過ごせればいい。それが、オイラの一番のシアワセなんだ。
そう思っていたのに…。裕子も、そう思ってくれていると信じていた
のに…。どうしてあんなことになったのだろう……。
もう二度と遭えないと思ってた人と運命的な再会を果たして浮かれす
ぎていたのかもしれない。
彼女の些細な変調にさえ、気づけなかったのはすべて自分のせいだ
った――。
たとえば、別れ際のキスにしてはやけに濃厚だったりだとか。
ビデオの撮影に、あんな手段を選んでまで固執していたりだとか。
毎回のように、くたくたにされるまで激しく抱かれることも……。
おかしいと思うよりも、たくさん愛されていることのほうがうれし
かった。そんなの言い訳。
まもなく二人の間に嵐が吹き荒れようとしているのに、その予兆に
さえ、オイラは、まったく気づいてはいなかった――――。
- 98 名前:Kai 投稿日:2006/01/29(日) 16:49
- 本日の更新は以上です。
- 99 名前:Kai 投稿日:2006/01/29(日) 16:52
- >ほっとレモンさん…どぅも、お初です。こんなに長いものを読ん
でいただけるだけで…。(;_;) 今までは、中澤→矢口って感じで
やっていたのですが…。今回は矢口が裕ちゃんラブラブなんです。
実は、自分が一番新鮮で、描いてて楽しかったりしてます。(*^∀^*)
>minimamu。さん…今回は、お待たせしないようにと、がんばって
みました。が、内容は相変わらずのエロエロだな…。(^o^;)
ずいぶん肩身が狭くなりましたが、読んでくださる方のためにもが
んばりますよォ。(*^-^)b
>52さん…ハロプロやねんで、なにがあったのか、かなり気にな
ってます。最近、二人のシーンがなかなか見れなくて、妄想がはかど
らなくて実は、困っていたり…。(*>_<*) 限界か…。
- 100 名前:Kai 投稿日:2006/01/29(日) 16:56
- なんとか、昼ドラの前にもう一度更新を…と思ってましたが、どう
にか間に合えてよかったです。
『銭湯の娘?!』……でしたっけ?
なんか、チャキチャキな感じの番宣だったので、実は、かなり楽し
みなんですが、この調子で執筆意欲も沸いてくれれば…と。
毎日、悶絶しそうです。ま、銭湯だからって裸のシーンはないんで
しょうがぁ…。(´∀`;)зЗ
ストーリーのほうは、徐々にですが進んでいきます。…って、出会
ってから、まだ数ヶ月しか経ってないんですよねぇ…これ。
濃すぎやな…。(・。・;)
- 101 名前:minimamu。 投稿日:2006/01/30(月) 22:43
- 更新、超まってました。お疲れ様です!
中澤さん どうしたんでしょう・・・そして、矢口さんはどうなるんでしょう。。。
なんだか、中澤さんの心境が「恋の記憶」みたいになりそうで(T_T)
うっひぉ〜今後も目が離せない二人ですね。続きが気にな♪
- 102 名前:ほっとレモン 投稿日:2006/01/31(火) 21:36
- 更新待ってましたー!!
ありがとう&お疲れさまです。
「銭湯の娘?!」もガッツリ見ました(^^)v
なかなかハマり役な感じで毎日の楽しみができましたよ。
(どんな感じか不明ですが入浴シーン有りらしいっす)
ラブラブな二人最高に満足♪
でも中澤姐さんに何が起こるんでしょう(>_<)
今後の更新も楽しみに待ってます。
- 103 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/01(水) 02:09
- 更新お疲れ様です。
何かが起こりそうな感じですね…。心配です。
ハロプロやねん!では、『ハロプロNo.1』というコーナーで
子供っぽい人は?というお題で中澤さんの名前をあげていましたよ。
犬とじゃれている時とか、好き嫌いが多いところ、
あと、ちょっとお酒が入ると甘えんぼになるみたいで、
『やぁぐちぃ〜♪』『わたし、酔っちゃったんだよ〜♪』
みたいなときがあるみたいですよ。
心を許してくれてるから見せてくれると思うんだけど
あまりいろんな人に見せないほうがいい気がする、と言ってました。
「可愛いんですけどね、すごい」って言葉がよかったです(笑)
- 104 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:19
- それが、他人の車だからだろうか。
いつもの空気とは、なにかが微妙に違って、ひどく落ち着かなかった。
嗅ぎなれないエタニティ。広々とした座席。すわり心地のいいクッ
ション。
…のわりに、アクセルを吹かすたびに「ブロォォォォ……」と、も
のすごい音がして…。
とりとめのない会話を交わしながら、でも、オイラの身体は、まだ
熱が取れていなかった。激しく愛し合ったあとの余韻が、いまも熾
き火となって、身体の奥で燻っている――。
軽やかなハンドル捌きで、国道に入った。
運転する恋人を見るのが好きだった。
ハンドルを持つキレイな手の節だとか、真剣な横顔のラインだとか。
普段はなかなかみれない場所を眺めているだけでもシアワセな気持ち
になれた。
たまにしか、こっちを見てくれないのが玉に瑕だけどねぇ…。
お台場のそれよりも一周り大きな巨大観覧車の幻想的な世界が広が
っている。真っ黒な海。見慣れた景色。
楽しかった夢の時間が、まもなく終わりを告げようとしていた――。
きっとシンデレラもこんな切ない気持ちだったんだね。
もっと一緒にいたい。ずっとアナタの傍にいたい。
「帰りたくないよ…」何度となく湧き上がるその気持ちを唾と一緒
にゴクンと飲み込んだ。
学校に行けば毎日でも、顔を合わせられるのに……こんな乙女みた
いなことばかり思っている自分がなんだかおかしかった。
だいたい、オイラって、こんなキャラだったっけ?
なにが、シンデレラだよッ!
自分で自分にツッコミを入れる。
恋をすると、誰でも変わる。
自分も、裕子と出逢ってちょっとづつ変わっていってるのかもしれない。
彼女色に染まっていくのは、うれしいような恥ずかしいような気分。
でも、なんか、レンアイしてるって感じ…?
- 105 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:22
- ねぇ、次は、いつ逢える…? いつキスできる…?
そんなこと聞くと、不倫してる上司とOLみたいでなんかイヤ。
ま、不倫じゃなくても、禁断の恋という意味ではいっしょだけどさ
…と自嘲気味に笑う。
いつになったら、堂々と青空の下を手を繋いで歩けるんだろうね。
「ねぇ、ゆう………ヒャッ!!」
突然、光が、ぶわっと迫ってきた。
瞬いて、一瞬、なにが起きたのか分からなくなる。
急ブレーキのものすごい音。爆音。そして奇声。
「危なッ! なにしとんじゃ、このガキャ!!」
恋人の雄たけびと同時に、車体がぶれて、ゴチンとガラスに頭をブ
ツけた。目の前にキラキラと星が瞬く。
車が、ものすごい音をあげて急停車する。
「なんだ、なんだ??」と、ようやく目を開けると…。
何台ものバイクの集団が、ビュンビュンと反対車線を猛スピードで
通りすぎて行った。
オイラは、ぽっかりと口を開けたまま、その列を見送った。
「……あっ…。」
見知った顔がそこにあった。大谷ちゃんだ。
その細い腰に、落ちないように必死でしがみついているのが、たぶ
ん柴っちゃん…?
「………あ。」
あ、あの一際ど派手な装飾のあれは、斉藤さんのバイクじゃん!
彼女自慢のオスカルみたいな金髪が、暴風に暴れ狂っていた。
耳がつんざけるような凄い音。
派手な衣装に身に纏った集団が、蛇行運転をしながら、あたりを威
嚇しまくる。鉄パイプを道路に当てて、火花を散らして。
その後ろには、何台ものパトカーが、サイレンを鳴らしながら列を
繋げていた。
心臓の奥に、ドクドクと響かす。
あの中に居るときには、そんなに感じなかったけど、外からこうして
みると少し恐怖を感じた。
でも、久しぶりにみた彼女たちの姿に、胸が沸き踊る。
- 106 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:25
- 二年前のあの日――。
裕ちゃんとの別れがひどく苦しくて、どうしようもなく寂しくて、
夜の街を彷徨うようにして歩いていたとき、偶然に、彼女たちと
知り合った。
当時から、お互いとも教師や警察には疎まれるような存在だったけ
れど、やってることは、おもしろいくらいに真逆だった。
暴行、傷害、迷惑防止条例の犯罪オンパレードの彼女たちに比べて、
オイラは主に夜の徘徊で補導程度だ。ま、売春がなくてよかったの
かなぁと思うべきか。
ちょっと前までだったら、あんな人たちとなんて、死んでも関わり
あいたくないとさえ思っていたはずなのに、偶然に斎藤さんに声を
掛けられて、そのまま、なんとなく懐くようになった。
あの集団に入らないかと誘われたこともあったけど、それは、今も曖
昧に断り続けている。
裕ちゃんと運命の再会した日に、斎藤さんに告られたことは記憶に
新しい。寝耳に水もいいところで、それよりも斎藤さんが、ソッチ
側の人間だったことに心底驚いたもんだった。
オイラなんかのどこがよかったのだろう…。
彼女の趣味がいまいち分からないけど、人に好かれているのは、やっ
ぱりうれしくて、はっきりと拒絶の言葉は出来なかった。
そういや、学校では、あまり斎藤を見かけなくなったな…。
メールもこないし…。
もともと、学校になんて頻繁に顔を出す人じゃなかったけど、もし
かしたら避けられているのかもしれないと思った。
でも、それは、あんなことをしたんだから、当然のことで。
今の今まで、裕ちゃんとのことで頭がいっぱいで、斎藤さんのこと
なんて、すっかり忘れていた。オイラってば、なんてヤツだよ。
でも、相変わらず元気そうで、ホッとした…。
- 107 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:28
-
♪…パラパララッ……パラパラパララ…♪♪
祭囃子みたいな音と爆音を撒き散らしながら、派手な集団があっと
いう間に闇の中へと消えていく――。
行き場所は、恋人の家のすぐ近くの、水族館も隣接する大きな公園だ。
走りの締めに、そこに集まるのが彼女たちの通例だった。
「矢口、大丈夫かぁ? どっか痛くしなかった…?」
「…ン。平気。」
シートベルトのありがたみを初めて知ったよ。ちょっと締め付けられてうえっ
て「うえっ」て、なったけど…。
おでこを擦っていると、彼女の手のひらが伸びてくる。
ジッと覗き込まれて、その青い目が剣呑に尖った。
「たくっ、アイツらホンマに…。一般市民には迷惑かけないのが常
識やろがぁ……。」
彼女の話によると、一台のバイクが、斜線をはみ出して走行してき
たのだそうだ。
それを避けようとして、こうなった…と。
おでこをブツけたくらいで、他はなにごともなく済んだのは、さす
がの運転テクというべきなんだろうな。
道路も空いててよかった…。
「あぁ、ちょっと赤くなってんなぁ…。冷やしたほうがええかな…?」
国道357号は、ひたすらまっすぐな湾岸道路だ。
おでこを触る彼女の冷たい手のひらが気持ちよくて、首を竦めなが
ら、「んん。」とちいさく首を振った。
こうして、ずっと触っていてほしいけど、でも、道路の真ん中じゃ
そうもいかない。
「だいじょうぶ。」
「ホンマにぃ?……はあぁ。…たくっ!!」
バックミラーを睨み付けるその目は、どこか懐かしそうにしている
ようにも思えた。
そう、裕子も昔はあぁだったんだよね…?
アタシたちが出会う前の恋人の姿が、彼女たちの姿とだぶった。
…なんて。もちろん、その頃の裕子の姿なんてオイラは知らないし、
あっちゃんから見せてもらった写真で見ただけだけどね。
あーあー、でも遭いたかったなぁ、その頃の裕ちゃんに…。
- 108 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:30
- 「いまの斎藤さんたちだった…ね……。」
車が静かに発車する。
「…あぁ。最近のヤツらはほんまに、………明日、文句言ったろ。」
「そだね。…んでも、きっと学校来てないと思うよ…?」
「あんなことしてるから、朝起きられへんねんやんかぁ……。」
呆れたような声。
でも、その目は、やはり遠くを見つめている。
「……懐かしい?」
「エッ?……クッ、まあな。」
一瞬、驚いたふうに目を丸くしてオイラを見ると、口元を曲げて
にやりと笑む。
おおげさにも取れる仕草が、ちょっと悪い俳優さんみたいで、なんか
カッコよかった。
「でも、裕ちゃんなんてあんなもんじゃなかったんでしょ? あっ
ちゃん言ってたよ。」
「チッ。余計なことを……。」
「ねぇ、喧嘩とかも、いっぱいしたの…?」
「ククッ。そら、まぁ、毎日喧嘩やらなにやらで…。」
そう言いながら、また遠い目をする。
その横顔をみながら、オイラは、きゅっと眉根を寄せた。
アナタの過去にアタシは、存在してない。
そんなのにまで嫉妬しちゃってる自分のバカさ加減にはほとほと呆
れるけど。でも…寂しい気持ちが治まらなかった。
「裕ちゃんって、すごい喧嘩強いんだってね。他校の不良が毎日校
門前で待ってるってハナシ、あれ、ホント? ビーバップみたいじ
ゃん!」
泣きそうな気持ちを押し隠すように、わざと明るく触れてみた。
裕子は、困ったようにチラリとこっちを見て…。
- 109 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:33
- 「アンタ、なにアイツらに入れ知恵されてんのォ? ま、ホンマの
ハナシやけど、さ…。」
そうして、オイラの髪をクシャッと撫でる。
いま穏やかに笑みを浮かべる女性とは、まるで想像がつかない世界だ。
でも、その頃に出逢っていたらアタシは間違いなくアナタに惚れて
しまっていただろう。
危険なオトコが好きだという女の子は多いと聞くが、危険を孕んだ
オンナを好きだと思う女の子だってきっとたくさんいるよ。
あのことを聞きたくて堪らなくなったけど、それは、どうにか我慢
した――。
もともと、保健室は常連だった。
大阪弁のおもろい保健校医は、根っから気さくな性格で、誰からも
慕われていた。
センセイと名の付くものは超苦手部類だったはずのオイラでさえ、
彼女にだけは、よく懐いた。
でも、アタシの場合はみんなとはちょっと違っていた。
彼女の方言が、その頃、恋しかった人を思い起こさせて、だから、
寂しくなったりしたら、あの人を思い出すように、出向いていたの
が本音だった…。ま、おもにサボりにだけどさ。
でもまさか、似ているどころか彼女の親友だったなんて…。
そんな嘘みたいなオチありかよう!
もっと、いろいろ話していれば、もう少し早く出会えたかもしれない…
そう思うと、ちょっと複雑だった。
裕ちゃんと付き合うようになってから、必然的にあっちゃんや、み
っちゃんとも、よく話すようになった。
親友の恋人が、生徒で、しかも女の子にも関わらず、彼女たちは、
フツウに仲良くしてくれていた。
二人の口から聞く、恋人の昔の姿は、まるで漫画の世界を見ている
ようで、とても興味深かった。
『アンタ、凄いなんてもんやないでぇ…。毎日、血が流れない日な
んてないんやから…。なぁ矢口、裕ちゃんの背中の疵みたことある…?』
「へ? あぁ……うん。」
そんなに凄かったのか…と聞くと、彼女たちは、興奮したように顔を
赤らめて、総長の武勇伝とやらを次々に披露した。
- 110 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:37
- 裕子の染みひとつないべすべでキレイな白肌には、一筋のピンク色
の縫い目があった。こんもりと盛り上がったそれが、ずっと気にな
らないわけじゃなかったけど、なんか痛々しくて、どうして出来た
のかとは触れられなかった。
『キャァ!!…うっそ、やあだぁ。なんで矢口が、そんなところの疵
知ってんのォ。なんか、やらしぃ〜。』
あっちゃんが、唇に両手を当てて、昔のアイドルみたいな素振りをする。
って、誰の真似だよ、それ。もうキツイよ、あっちゃんがやるとォ。
「うっ…。アーッ、もう、いいじゃんかッ、…それで?」
『…あぁ。あんときは酷かった。西高のヤツらやったか? 裕ちゃ
ん一人をとり囲んでな、10人くらいやったっけ?』
『――いや、20はいたんちゃいます?』
興奮するあっちゃんに、冷静な顔で、みっちゃんが口添えする。
こうしてみると、あっちゃんはともかく、みっちゃんまでそういう
グループに入っていただなんて、普段のまじめな授業風景を見てい
るだけに、余計に信じられなかった。
だって、こんなに清楚なインテリお嬢さんって感じなのに……。
あっちゃん曰く、「みちよみたいなのがキレたらなにするかわからん
くて、一番怖いんやで」…らしいけどね。
斎藤さんのチームでも、とりわけ一番真面目そうな村田さんが2
だっていうから、それも頷けるか…。
「それで?」
『あぁ…。あの頃はな、いろんなヤツがおったで。非行の全盛期み
たいな時代やからね。関西は、こっちに比べてそら派手なもんやった…。
そうそう、“髪切り”ちゅーのが一時期流行ってな…。」
「なにそれ??」
『…喧嘩や喧嘩! 喧嘩で負けたら、髪を切るってルール。もちろん、
勝ったヤツが、負けたヤツにな。そら屈辱やでぇ…。髪は女の命ち
ゅーくらいやしぃ……。』
「……髪切りデスマッチ?」
『クッ…。そうそう。オンナのやることはえげつないからなぁ…。』
うげぇと顔を顰める。
なんのためにそこまでするんだと聞くと、彼女は、「地位と名誉の
ためや」と、まるで、政治家みたいなことをさらりと言う。
- 111 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:40
- 『その頃、関西レディースの間じゃ、裕ちゃんダントツやった。そら
もう毎日にように次から次へと………な?』
『一人ずつ相手にしてってもキリないねんて。大概、そのチームの
番やってるヤツとタイマンはるんやけど、そいつらがまた…しょう
もなくて…。』
みっちゃんが、苦虫を噛み潰した顔をする。
「しょうもな…?」
『弱いヤツほどいきがるんや。あっちから、吹っかけてきたけど、
タイマンどころか、全員で掛かっても歯が立たなかったで…。』
それって、1対20ってこと?
すげぇ〜よ。
『まぁな、裕ちゃんは、そこらへんの雑魚なんて相手にならなかっ
た。それはええねんけど…。そいつらが、タチ悪くてな。…その族
のバックにオトコが居たんよ、しかも、それが、“ヤー”やんたんや…。』
「ヤー、ってなに?」
掛け声みたいに言う彼女の言葉に首を傾げて。
両手を前に出して、『ヤーッ』と往年のギャグをかますと…。
『クッ。なんで、そこでダチョウやねんな。ヤー言うたら、ヤー公のこと
やろがぁ…。』
すかさず突っ込みを入れてくるあっちゃんは、自分の頬に爪で線を
ツーと入れた。
オイラは、目を丸くしながら、初めて聞くそのハナシに身を乗り出した。
『裕ちゃん敵なしやったから、その女のこと坊主にしてくさったら、
後で、そのオンナのオトコやっちゅうヤー公がでばってきて……。』
『ほんまに、女の喧嘩に男が口だすなって…。ま、ヤクザ言うても
どうせ下っぱのチンピラ風情やろうけど…』
喧嘩のハナシになると、人を変えて、バーバーとしゃべりだす二人
が、なんかおかしくて。
ちなみに坊主というのは、ほんとに坊主にするわけじゃなく、髪を
切られたということなのだそうだ。
って、専門用語なんて、わかんねーよ。もう、ホントに丸めるのか
と思ってびっくりしたじゃん。
- 112 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:42
- 『でも、あんときは、ホンマに大変やった…。』
そう、昔話をしみじみと語る保健医と英語教師を前にオイラは、す
っかり絶句する。
裕子は、「おぉ、てめぇか、俺の女に手ぇ出したアマは…なにしと
んじゃワレ!!」と乗り込んできたそのバリバリヤクザとタイマン
を張ったのだそうだ。と聞いて、さらに、絶句。
しかも、その喧嘩は五分五分だったらしい。
…って、どんだけ強いんだよ、裕子。
が、ヤクザは腐ってもヤクザで…。女にヤラレタなんてことになっ
たらそれこそ示しが付かない。終いには刃物を持ち出されて、背中
をざっくりとヤラレタのが、そのときの疵らしい。
「30針くらい縫うたって…。」
「フツーの人やったら死んでるね…。血もドバッと出たし…」
二人の声に、オイラは、うげぇと思わず眉をしかめる。
どれだけ痛かったのだろう…って。歯医者の麻酔でさえ泣きそうに
なるオイラには、想像もつかないよ。
でも、女の大切な身体にそんな疵を負わせるなんて、最低な男だ。
「……ひどいっ。」
なんなんだよ、人の大事な物に。
悔しくて、膝の上でギュっと両手を握り締めた。
『あぁ酷いもんやったで…。まぁ、でも、裕ちゃんも相当やり返し
たしな。噂じゃ、あの人、いまだに右脚引きずってるらしいでぇ…。
そんで、ヤクザも廃業?』
『…らしいですね。複雑骨折もいいとこでしたもんね…。骨ぐしゃ
ぐしゃやったって…?」
「……………。」
なんて言っていいのか。うまい言葉が見つからないよ。
裕子って…裕子って………一体、なにもの???
- 113 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:45
- 『ちょォちょォ、それがさ…、話はそれだけで終わらんねんて。
そっからがまた変でなァ…。男相手にこんだけやれんのは、たいした
タマやって…。そいつの兄貴分に、裕ちゃん、すっかり見初められて
しもうて。何度いやや言うても、ヤクザやから、とにかくシツコイ
ねんて。』
『あぁ…。そんなこともありましたね。姐さんへた打ったら、今頃
ヤクザの姐さんになってたんとちゃいますか、くく。』
似合いすぎやわって、おだやかな顔をして笑う英語教師には、目の
前の少女の瞳の奥が、嫉妬の炎でメラメラとなっているなんて、気づ
かないんだ。
それから、そのヤクザとのハナシはどうなったかというと、結局、
すぐ後に、組同士の抗争を起こしたとかで、今は刑務所に入ってい
るらしい。
それって、出てきたら大変じゃんか!と詰め寄ると、当分は出てこ
れないのだと聞いて、心底ホッとする。
「そんなのぜんぜん知らなかった……。」
フツウじゃないとは思っていたけど、あの人にそんな過去があった
なんて…。
その衝撃は大きかった。
『当たり前やろ。裕ちゃんがそんなん矢口に言うはずないやんか…。』
「ま、そうだけどォ。」
でも、みんなが知っていることを自分だけが知らないなんて…。
その当時に出逢ってなかったのだから当然だけど、でも、なんか悔
しいよ。
「ハァァ。…にしても凄い世界だよね…。あ、でも、裕ちゃんてバ
イクの免許持ってたんだ…?」
二人が、沈むオイラをジッと見ていることに気づいて、明るい声で
言ってみた。
知らなかったよ。としみじみと呟くアタシに、二人は目を合わせて
ちいさく苦笑する。
- 114 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:49
- 『…クッ。矢口あのな、別に免許がなくたって、単車には乗れんね
んでぇ…?』
あっちゃんが、コドモにするみたいにヨシヨシとオイラの頭を撫でた。
『んな悪いこと教えたら、また姐さんに怒られますよ〜。』
あっちゃんの袖を引張って窘めるみっちゃんもその口元は笑ってる。
そりゃそうだよな。
人の迷惑なんて顧みず好き勝手に大騒ぎしている暴走族が、国家認証
の試験なんて受けるはずがないもんね。
「でも、裕ちゃんバイク乗れるんでしょ…?」
『当たり前やん。単車にも乗れない族なんかおるかいや。裕ちゃんの
マシンなんてすっごいもんやで。紫の特攻服風になびかせて、そら
みんなの憧れやった……。』
そう言って、手を前に組みながら乙女のような遠い目をする。
想像しただけでも、みんなが憧れちゃう気持ちはわかった。
裕子には、そういう人を惹きつけるなにかがあった。
でも、いまはオイラのだぞう。と、ちょっとムッとする。
アタシタチの関係を知っている人は、数少ない。
あっちゃんやみっちゃんと裕ちゃんの話しができるのは、いまの自分
にはとても貴重なことだった。
なっちたちもふたりのことは知っているけど、同い年であるせいか、
ここまで、心を開けない。
あっちゃんたちの前になると、どこか甘えた口調になっている自分
がいるけど。
でも、こんなふうに自分たちのことを分かってくれる人が傍にいる
ということは、とても大きなことだった。
「ふ〜ん。そうなんだ。裕ちゃんね、オイラにもう乗るなって云う
んだよ。自分では、そんなに乗ってたのにズルイよォ。オイラ、バ
イク好きなのにぃ…。オイラも、裕ちゃんのバイクの後ろに乗りたい
なァ……」
それは、なんの他意もない言葉だった。
裕ちゃんに、斎藤さんのことを指摘されてからは、もう乗ってない。
なんで彼女がそこまで拘るのか分からないまま、恋人の言葉に従って
いた。
- 115 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:51
- バイクに乗るのが好きだ。
だから、斎藤さんたちとつるんでいたというのも大きくあった。
皮膚が焼けるくらい猛スピードで風を切るときのあの爽快感は、た
まらないものがある。
厭なことも風に飛ばされてすべて忘れられた。
自分でも運転してみたいけど、どうせ脚が届かないだろうしぃ…。
お金も掛かりそうで、いまのオイラには到底無理。原付くらいなら
とは思うけど、どうもあれを乗っちゃうとなんかなぁ……。
裕ちゃんの背中にしがみついて、あの心地よさを味わえたら。
そしたら、気分だけでもあの頃の彼女に遭えるだろうか…って。
そんなことを思っただけだったのに……。
『矢口、それ、絶対に裕ちゃんに言ったらあかんで…?』
「…へっ?」
さっきまでヘラヘラ笑ってたあっちゃんが、急にマジになる。
でも、なんのこと?
みっちゃんのほうへ振り向くと、彼女も同じように顔を顰めていた。
『姐さんの前で、単車のハナシとか、今みたいにキラキラした目で
バイクに乗せて? とか、絶対に言うたらあかん。』
「えっ、どうして…?」
みっちゃんにまで念を押されて、堪らずに唇を尖らせる。
なんで、急にそんなこと言うのさぁ…。二人とも…。
『…ええから。それが、矢口のためでもあるんや。裕ちゃんの前で
は、単車のハナシは禁句や。絶対に、それだけは言わんときぃ…。』
「あっちゃん……。」
裕子になにが遭ったのか。
それは、いまはバイクに乗らなくなったことと関係しているのだろうか?
だから、オイラにも…?
つーか、それが、自分の為でもあるっていったいどういうこと?
いつになく険しい表情を前にしては、それ以上は、聞けなかった。
裕ちゃんには、なにか大きなヒミツがある――。
それは、初めからずっと感じていたことだった。
- 116 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:53
- 恋人のことならば、なんでも知りたいと思うのが、フツウの感情だろう。
だから、こうしてたびたび本人には内緒で、昔の話を聞かせてもらっ
ていた。
そこに、なにがあるのだろうかと、ますます気になった…。
こんなふうに気にしたまま過ごすなんて、オイラの性に合わない。
でも、それを聞かないのは、聞いてなにかが変わってしまうのが怖
いからだった。
たぶん、その背後には、あの女の子の影があるのだと思う。
オイラに遠慮しているふうで、なにも云おうとしない彼女たちの反
応をみてもそう思う。
お腹の中を渦巻くそんな不透明でモヤモヤの感情に、なんだかひど
く苛立った。
他の人を見ないで。
ずっとアタシだけを見ててよ――。
- 117 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:56
- 「お嬢さん、着きましたで…?」
変な関西弁で、前を向き通しだった彼女が久しぶりにオイラをみた。
大地震が来たらば、間違いなく一発で倒壊しそうな古ぼけたアパートの
前に、いつのまにか横付けされていた。
エーッ、って、まだ0時まで、2時間もあるのにもうお終いなの…?
「なんや、えらいおとなしいと思ったら寝てたんかいな…。」
「寝てないよッ!」
よく寝る子やなぁ…。寝る子は育つちゅーけど嘘かいなぁ…。
そんな大きな独り言に、がうっと噛み付いた。
なんかいろいろ考え事をしているうちに、あっという間に着いちゃ
っていた。
彼女の街から、川崎のここまでは、夜ならば30分で着いてしまう。
ちぇー。もっと、遠くに住んでたらよかったのにな…。
「ずいぶん遅くなっちゃったな。平気か…?」
「だいじょうぶだよ。ていうか、まだ10時だよ? いまどきの高
校生なんて、もっと遅くまで遊んでるって…。」
むすっとしたままそう言うと、裕子は、「メッ」て睨み付けてくる。
「他人は他人やろが…。みんながそうだから…ちゅーのは違うやろ?」
「そ……だけど。」
“もっとアナタと一緒にいたい”
そう言いたいだけなのに、裕子は、ちっともオイラの気持ちを分かって
くれない。
なんで、いつもそうなの?
なんで、そんなに褪めてるの?
裕ちゃんだって、一応はオンナなんだから、恋する女の子の気持ち
くらい分かってくれてもよさそうなのに…。
アナタにそういうふうに言われるたびに、自分がまだ高校生の子供
でしかないんだって思い知らされるようで辛いんだもん。
あんなに激しく抱いといてさ…。
帰りたくないよ。もっと一緒にいたい。
好きだから…。あなたが、大好きだから…。
こんな気持ちになるのは、アナタにだけなんだ。
お願いだから気づいてよ、少しくらい…。
それとも、こういう気持ちをオイラが持っていること自体、アナタ
にとっては重荷なの…?
- 118 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 20:58
- あんなに熱く抱き合ったのに、終わったあとは、いつもこんな飢餓
感に襲われる。裕子が、なに考えてんのか分からなくて、不安で。
お腹の底で愚図つくどうしようもない感情をぶちまけたくなる。
だけどそんなことをしたら、それこそ、うざがられるのは目に見えて
いるから。苦い思いをゴクンと嚥下した。
こんな気まずい形のまま別れたくはなかった。
彼女の仕事が忙しくて、次にいつ遭えるのかさえ分からないから余計に。
「裕ちゃん…。」
「ん〜?」
「チュウして……?」
「へっ…??」
なにか慌てたようにバタバタしながら、彼女がジッとこっちを伺っ
ている。
私たちにはいつだって好奇な人目があるから、なるだけ外ではそうい
う行為を控えていた。そうお願いしたのはむしろ自分のほうだった。
それに、さっき彼女の部屋の玄関の前で、たっぷりとお別れの濃厚
なチュウを交わしたばかりなのに…。
「…どうしたん?」
嫌がっているような顔じゃなかった。
急にこんなことを言い出したから、戸惑っているだけなのだと思う。
たしかに、オイラのキャラじゃなかったね。
でも、そんなのを恥ずかしいと思う気持ちもなくなっていた。
「…別にぃ。急にしたくなっちゃったんだもん。いいでしょ。」
チュっとしてくれるだけで満足するのに、なかなかくれないから、
拗ねたような口調になった。
- 119 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 21:00
- 「ダメなんだったら、…ッ…んぁっ!!」
もういいよ…言いかけた声ごとそのまま塞がれた。
軽いキスをおねだりしたつもりだったのに、彼女に与えられたのは
とびきり濃縮された凄いものだった。
舌先を吸われ、甘噛みされて、ぴちゃぴちゃと濡れた音が、狭い車内
にこだまする。
頬に添えられた指先が熱く焼けた耳たぶをくすぐる。そのまま耳の
中に入れられて、背筋がゾクリとした感覚が這い登る。
息が上がる。荒れたような鼻息が彼女の頬にあたる。恥ずかしいって。
本能的にこれ以上は…と、逃げようとする身体は、首に当てらた手
のひらに阻まれて適わなかった。
ベロをすべてを飲み込まれちゃうようなそんな凄いキスだった。
全身が痺れるような長い長い口付けからようやく解放されると、オイ
ラは忘れかけてた呼吸を繰り返した。
ジッと見つめてくる瞳が、焼けるように熱い。
一度は逸らしかけて、でもすぐに戻した。
裕子が、クスリと笑う。
「アンタ、末恐ろしいな……。」
「な、なに…がぁ…?」
唇を手で押さえながら、とろんとした目で彼女を見上げる。
気を張っていなかったら、崩れちゃいそう。
脚の間が、ジンジンしてる。
こんな激しいのは想定外で、触れた場所を手で覆う。濡れた感触。
まだ彼女の唾液が、唇に付いていた。なんか生々しいよ。
「コォラ! その目やめぃ。たくっ、この、小悪魔がぁ…。」
おでこをぺチンとやられて、彼女が、なにを怒っているのか分からない。
“魔性”だとか“悪魔”だとかさんざんな言われかたけど、それっ
て、どういう意味なの…?
それでも、いま、彼女を見つめる目がどれだけ潤んでいるのかが、
分かるから、それを指摘されたようで羞恥心に頬を熱くする。
「着いたで? それとも、まだ足りひんのん?」
「た、足りた。十分です…。」
これ以上されたら、自分がどうなっちゃうか分からない。
慌てたように両手でブルブルすると、彼女がフッと吐息で微笑んだ。
ドアを開けて、重い腰を持ち上げる。
- 120 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 21:03
- 「……ヤグチ?」
「えっ……?」
左足がアスファルトを踏んだとき、甘い声に呼ばれて振り返った。
細い腕が首に回ってきて、引き寄せられる。
彼女の胸に、おでこがゴチンてなる。
甘い匂い。ドキドキの心音。聞いてるのが恥ずかしくて顔を赤くする。
「好きや。」
意外な告白は、頭の上から聞こえてきた。
腕が緩んで顔を上げた瞬間、チュって、音がたつくらいおでこにキス
された。
たったそれだけなのに、オイラは、ボッと火がついたみたいに熱くなる。
唇の激しいキスよりも、おでこのキスのほうがドキドキしてる自分
も変だなと思いながら、車から降りて風にあたってからも火照った
顔が、治まらなかった。
本日二度目の愛の告白。
なんか、サービスよさげじゃない。どうしたのよ…?
「痛かったらちゃんと冷やしぃよ…。」
「……へっ??」
声が、微妙に裏返った。
いまキスされたところをトントンと指差されて、また心臓が跳ね上がる。
でも、さっきブツけたことを思い出して、うん。と視線だけで頷いた。
「あ、ありがと裕ちゃん、んと、おやすみ。」
「…ん。おやすみぃ。また明日な。」
どぎまぎしながら送ってくれたお礼を言うと、彼女が、そう言って
くしゃりと髪を撫でた。
送ってくれたときには、いつもそうする。
ちょっとコドモ扱いされているみたいで、どうかと思うんだけど、
実は、結構うれしかったりして…。
「じゃな。……歯ぁ磨いて寝るんやで?」
「うるさいよ、もう!」
そして、こういう軽口を叩くのも忘れない。
今度は、笑顔で手を振った。
ハザードランプを点滅させて、走りすぎていく赤いMRUを見ながら、
胸が、ギュウって苦しくなった。
- 121 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 21:05
- それは、もうトラウマのようなものだ。
こうして、彼女の背中を見つめるたびに思い出す。
裕ちゃんとホテルで別れた雪の日のことを――。
あのときの後悔と寂しさは、いまでも脳裏に焼きついて離れない。
すごく寒い寒い朝だった。
――いま、別れてしまったら、あのときのようにもう二度と遭えな
いんじゃないか。
こんなふうに思うのはおかしいって分かっているのに、彼女の背中
を見つめるたびにどうしようもなく不安感に襲われる。
今日は、あの日とは違うんだって、自分に何度も言い聞かせるのだけど…。
身体の力が抜けて、ずるずるとアスファルトにしゃがみこみそうになる。
あぁ、置いてかないで。行っちゃヤダよ。オイラを一人にしないで。
同じようなことを、以前にも味わったせいかもしれない。それが尾を
引いて、いまだにこんなコドモじみた感情に苛まれるんだ。
裕子は、お母さんじゃないのに…。
「また明日」と言った。そう「また」があるんだよね。
明日も会える。明日だけじゃない、明後日も、その先もずっと…。
それに、いまは、あのときみたいに一夜限りの相手じゃないんだ。
れっきとした恋人で。たったいまキスだってした…。それも、すっ
ごいやつ。まだ、唇に、そのぬくもりが残っている。
それに、「好き」って。
「ゆうちゃ……。」
彼女のことを思えば思うほど、今すぐにでも逢いたくてたまらなくなる。
ついさっきまで、一緒に居たことが夢の出来事のように思えてくる。
手を振りながら、涙が、すぐそこまでこみ上げてきた。
こんな弱い自分は嫌いだ。
好きなのに別れなくちゃならないこの時間が、なによりも一番嫌いだ。
なのに、ものすごい爆音を響かせて、彼女去り方は、近所迷惑も甚
だしかった。
そのせいで、近所の犬が吼えまくって、ますます焦った。
もう、あっちゃんは…。
教師のくせに改造車なんか乗ってんなよな。
カッコのつかない思いに苦笑いしながら、オイラは、肉眼で見えな
くなるまでひたすら手を振り続けた。
- 122 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 21:08
- 「ちぇー。行っちゃった…。」
別に、悲しいことじゃない。
辛いわけでもないのに、いま別れたばかりの人の顔を思い出すと、
堪えていた涙が、またあふれ出そうになる。
こんなところで恋人を思ってこっそり涙するなんて、それこそ、オ
イラのキャラじゃないのに…。
だから、わざと声に出して、そんなふうに明るく悪態ついた。
身体は、疲労感でいっぱいだった。
あちこちに裕子が付けた痕が残っている。彼女の匂いもそのままだ。
思い出すのは恥ずかしいことだらけだけど、なんかものすごくシアワセ。
つーか、さっきから気になってたんだけど、オイラってば、なんか
大事なこと忘れてない?
「あーーッ!!」
ビデオ捨てるの忘れてたじゃん。
思い出すのも忌々しいあのときのこと。
終わったら取り返して破って捨てればいいやと思っていたのに、う
っかり寝こけちゃったおかげで、すっかり忘れてた。
あんなものが、あの人の手にあるなんて…。
なにに使われるか分かるだけに、顔を青褪める。
いろんな感情で、ぐしゃぐしゃに髪を掻き回す。
それにしても…。
あんなことがあったのに、結局は、いつもの通りだった。
相変わらずの恋人の頑固親父さには心底呆れかえる思いだ。
でも、裕子はきっと、ずっとこのままなのだろう…。
自分には超甘々で、他人にはことさら厳しくて…。
たくっ、ホント、いい性格してるよッ!
あー、てことは、オイラが卒業するまで、お泊りは禁止ってことォ?
「んだそれ、最悪じゃんかッ!」
あの頑固ジジイをなんとかしなければとは思うけど、いい案なんて
浮かばない。
浮かぶのは、たったいま別れたばかりの恋人の顔ばかりだ。
それでも、身体がじゅうぶん満たされると心も軽やかになっていた。
いつもは億劫でしかない4階までの道のりが、今日は、駆け足で登
れそうなほどに…。
- 123 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/05(日) 21:10
- カバンから携帯を取り出して、彼女宛にメールを打つ。
慣れた手つきでボタン操作していると、オイラは「ひうっ」と息を
呑んだ。
薄暗い蛍光灯の下に、ぬぼっと突っ立っている人がいたから。
お化けがでたのだと思った。って、まだ10時だぞ? 出てくるの
ちょっと早すぎじゃない…?
脚をみるとちゃんと二本足が、アスファルトを踏んでいた。
はあぁ。んだよ! 幽霊かと思ったじゃん、ヤメロよな〜。
オイラは、マジマジとその少女の顔を見つめた。
気の強そうな目元。色白の肌。手足が長くてスタイルも何気によさげ。
見た感じ大人っぽいから、年上だろうか。
つーか、なに、さっきから、ジロジロみてんだよ。ガンつけてんのかッ!
上から下まで値踏みするオイラに、彼女は、ふわっと微笑んだ。
なんかこの笑顔って、どこかで見覚えのあるような……。
うう〜っ、…誰だっけ? 思い出せない…。
あぁーーッ!!!
「……ウ、ウソっ、アンタ、もしかして、美貴ぃ?」
「うん。……久しぶりぃ。元気そうだね、お姉ちゃん。」
最後に別れたときには、ランドセルを背負っていたはずの妹が、に
っこりと微笑んで、いまは、すっかりオイラを見下ろしていた――。
- 124 名前:Kai 投稿日:2006/02/05(日) 21:11
- 本日の更新は以上です。
- 125 名前:Kai 投稿日:2006/02/05(日) 21:13
- >minimamu。さん…超待っててもらったって、なんかうれしいです。
「恋の記憶」か…。えっと、どんな歌だっけ…。(・。・;)ォィ。
当初はシリアス路線を狙ってたのに、だいぶズレちゃって…。
続きを楽しみにしててくださいませ…とか言ってみる。(*^-^)b
>ほっとレモンさん…入浴シーンありましたね。(*´д`*)ハァハァ。
「時間ですよ」みたいなの(古すぎ)想像してたけどぜんぜん違ってた。
銭湯なのに裸のシーンあんまないな。昼だからか…。<見るとこ違う。
中澤さんは、なんかすごい過去をお持ちのようです…。(@_@;)
>103さん…情報ありがとうございます。一人想像して悶えちゃい
ました。なんか、それって結構家に行ってるみたいな言い方ですよねぇ〜。
妄想が膨らんで、こんだけで短編ができちゃいそうな感じですョ。
- 126 名前:Kai 投稿日:2006/02/05(日) 21:15
- いつもよりは更新量少なめですが、こんなふうに定期的にできれば
いいなと思いつつ、次回はまだ未定です。(-"-;)
始まりましたね昼ドラ。思ったよりもすごい面白くて、ユメちゃんに、
毎日、やられちゃってるのですが…。うぅ。ホント可愛いよォ…。
ユメちゃんは、ここのヤグチとイメージがぴったりです。
おかげで妄想が弾む弾む。(*^∀^*)
本編では新たなキャラが登場です。どういう展開になるかはお楽しみ
にってことで。
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/06(月) 02:57
- 待ってましたぁーー、ゆうちゃんの”やんちゃ時代”!!恐れ入りました!!!
私もこの頃のゆうちゃんに逢いたいです。ヤグチの気持ちわかるっっ!!
この人が実は教師だったという事実をすっかり忘れている今日この頃です。
- 128 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/08(水) 16:17
- 更新お疲れ様です。
新キャラも登場でますます目が離せませんね!
中澤さんの過去も気になります。
余談ですけど、中澤さんの舞台を矢口さんが見に行ったみたいで、
カーテンコールで矢口さんが手を振ったら中澤さんが気づいたみたいで
お互いに投げキッスをしていたそうですよ。
- 129 名前:ほっとレモン 投稿日:2006/02/08(水) 22:52
- Kaiさん、更新ありがとうございます!!
中澤さんの過去がこれからの展開に関係してる
んですよね・・・?
あーーー次回が気になる!!
- 130 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:27
- 「へへ。…来ちゃった。」
自分で言いながら、ブッと噴出す。
ドラマみたいな陳腐な科白を言ってみたものの、頭はボサボサだし、
顔はぐちゃぐちゃもいいとこ。これじゃ、ぜんぜんキマらないって。
ま、そんなお相手も、缶ビール片手にノーメークだし、その広めの
おでこには、定番の怒りマーク付きだ。
あは…。やっぱ、あぁいうのは、女優さんだからできるんだね。
「アンタな、……。」
「あーよかった。裕子、ネグリジェとかだったらどうしようかと思
っちゃった…。」
初めてみるパジャマ姿。
ちょっとクタクタだけどシンプルなグレー色は、彼女によく合っていた。
暑かったのか前ボタンが二つほど外れていて、ほっそりとした鎖骨が
覗いている。
ビールで火照ったピンク色の肌は、どこか色香を感じた――。
「んも、なにしてんッ!」
裕子が、怒るのも無理はない。
わざわざ送り届けたヤツが、舞い戻って来ちゃったんだから…。
これじゃ、完璧、犬だよな…。あはっ。
あー、オイラってば、やっぱり前世、犬だったのかなぁ。
って、動物かよッ!
- 131 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:30
- 「クシュ。ねぇ、寒いョ。おうちに入れてくれないの…?」
「矢口ッ!!」
「いいもーん。勝手に入っちゃうから…。」
壁と腕でできたアーチをするっと摺り抜ける。
そのまま部屋に入ると、食べ終えたカレー皿と、空のビールが3つ
ほど転がっていた。
つけっぱなしのテレビから、オイラも好きなバラエティ番組が流れ
ている。
さっきまでの汚れたシーツは、すっかり変えられていて、新しいも
のになっていた。
確かにあったはずのオイラの気配が、すっかり薄れてしまっている
のが、なんだか無性に寂しかった。
「コラ! 矢口って………。」
「カレー、おいしかったでしょ…?」
ドアの前に、呆れ顔で突っ立っている彼女に声を掛ける。
「エーっ、おいしくなかった? もっと辛いほうがよかった…?」
「―――――おいしかったョ。つーか、あのな…。」
「あれ、隠し味になに入ってると思う…?」
「知らんわ。」
空き缶をゴミ箱に処理して。
汚れた食器をシンクに運ぶと、水に漬けながらスポンジをぱふぱふする。
「――――はあぁ。」
背中のほうから聞こえてくるこれみよがしな大きなため息。
んだよッ。なにも、そんな声ださなくてもいいじゃんか…。
聞こえないフリをして、もう一度問いかける。
- 132 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:32
- 「ねぇ裕子ォ、なんだと思う…?」
「――知らんて。矢口、そんなんせんでええから、ちょォ、そこ座り…。」
静かに言われて、ビクッと肩が揺れた。
怒っているとき特有の声音だった。
ジッと見上げる。恋人の瞳に中に自分の姿が映っているのかと思う
となんかうれしい。
たとえ、それが、怒られていたとしても……。
「アンタ、なにヘラヘラ笑ってんのよォ…なん……。」
「あー、オイラもカレー食べよっかなぁ。つまみ食いしかしてない
から、お腹減っちゃったョ…。」
彼女の声を遮るようにおちゃらけて言って、ぺロッと舌をだす。
ガスコンロを着火しようとして、その手を止められた。
重なるやわらかい温もりにオイラは、下を向いたまま奥歯をギュって、
噛み締める。
「送ってあげられないから、タクシーで帰り…。」
そう言って、カバンをガサゴソしながら財布を取り出す音がする。
目の前にピラピラと福沢諭吉を突きつけられて、オイラは、込み上
げてくる涙を懸命に堪えた。
- 133 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:33
- 「ほら。」
「………。」
「ん。返さなくていいから…。」
「やだ。」
「やだちゃう。」
「――帰りたくない。」
「だめや。」
「今日は、泊まる。」
「…あかん。」
「ぜったいに泊まる。」
「ええ加減にせぇ!!」
ピシャリと云われて、目の前の人をギッと睨み付ける。
「な、なんで…。裕子まで、オイラを邪魔者扱いすんなよなッ!!」
声を張り上げた瞬間、パタパタと涙が頬を伝った。
ヒクヒクと震える横隔膜。
しゃっくりのようなものが止まらない。
一度、それを出してしまったら、もう止めることは不可能だった。
涙が、噴水のように溢れ出す。
「や、矢口?――ど、どうしたん?」
慌てたようにジッと覗き込んでくる彼女の顔がよく見えない。
「矢口ぃ?――どうした? お父さんになんか言われた…?」
「――――…ひっぅ。」
声にならなくて。
仕方なく首を振る。
- 134 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:36
- 「じゃ、どうした? なにがあったんや?」
「………。」
「もォ、云ってくれな分からんやんか、お家でなんかあったんやろ…?」
「…ひっ、うっ、……。」
さっきまで怒っていたはずの彼女が、今度は、幼稚園の保母さんの
ように泣いているアタシをあやしはじめた。
「なぁ、矢口て…どうしたん?」
そう、やさしく問われて、耐え切れずその胸に縋りついた。
スーって息を吸い込むと、さっきまでとは違うお酒の匂いがして。
でも、この匂い好き。裕ちゃん身体。オイラが一番安らげる場所。
「ッ、ひぅ、うッ、ゆう、うわ〜〜〜っん。」
その温もりに安心したのか、タクシーの中でもずっと押さえ込んで
いたものが、堪えきれなくなった。
裕子は、驚いた顔をするも、すぐにアタシをきつく抱きしめて、子
供の頃にお母さんがしてくれたみたいに、背中をトントンする。
でも、それが余計に涙を誘っているということに、アナタは、全く
気づかないんだ…。
なんで、泣いているのか自分でもよく分からなかった。
ただ、涙がこんなに出るということは、悲しいことなんだと思った。
そういえば、前にも似たようなことがあった。
そう、裕ちゃんと出会ったあの日――。
ずっと心に鬱屈していたものをすべて吐き出したら、途端に涙が溢れた。
第一印象では怖いと思っていたこの人のやさしさに直に触れて、オ
ンナの人の胸がこんなにも温かいところだったと初めて知った。
裕子の胸の温もりは、あのときと同じ。
弱虫なアタシを、いつだって広い心で受け止めてくれる。
そう、オイラの帰れる場所はここだけなんだ――。
◇ ◇ ◇ ◇
- 135 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:38
- 「……ご、ごめん。」
洟を「ズズッ」と啜りながら、顔を上げた。
さっきよりも近い位置に彼女の顔があった。顔が燃えるように熱くなる。
我を忘れて、気づいたらこんな状態になっていた…。
着替えたばかりの裕子のパジャマが、オイラの涙を吸い込んで黒く
染みになってる。
決まりの悪さに混乱しながら、オイラは、どこを見たらいいのかわ
からずに、瞳をうろうろさせる。泣きすぎて眩暈がした。
すると、彼女が、一瞬だけ、天井を向いて、それから、オイラの顔
をジッと見つめながら…。
「あっ、そういえば、あんときも、矢口、こんなふうに泣いてたよ
な…?」
アタシが泣きながらあの日のことを思い出したように彼女もまた、
あの頃のふたりの思い出にタイムスリップしてる。
あぁ、恥ずかしいって。
オイラってば、あれから2年も経ったというのに、ぜんぜん成長し
てないの?
きっと、呆れているに違いない。
早くアナタに近づきたいと思って精一杯大人のフリをした。
早く一人前の大人になって、アナタの横にいられる相応しい人間で
ありたいと思っていた。
なのに、どうしてだか、いつも逆のことばかりしてしまう。
彼女の胸でワンワン泣いたことを思い返せば、羞恥心で耳を赤くする。
「…ごめん。」
なんだか、もう情けなくて。
居た堪れなかった。
だから、もう一度、謝った。
- 136 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:40
- 「なんで謝んねんな。それよりも、もうええん? もっと泣いても
ええんやで?」
なんで、そんなにやさしくするんだよう。
必死で堪えてるのに、またダメになるじゃんか。
裕子のパジャマの袖で濡れた洟を拭われて。
「ほら、溜め込むな。泣きたいときは、泣いちゃい…」耳元で、や
さしくそう諭されると、オイラの涙腺はぶっ壊れてしまう。
とめどなく溢れ出る涙の列。
狂ったように泣き叫ぶオイラに、裕子は、背中を摩りながら、ずっ
と抱きしめていてくれたんだ――。
ようやく落ち着きを取り戻すと、彼女にソファに座れと促された。
ふたり掛けのちいさなそれに並んで腰を落ち着けると、裕子が、オイ
ラの髪をガシガシと掻き回す。
「喉、渇いたやろ? なんか飲むか…?」
そう言って、立ち上がろうとする彼女の袖を掴んだ。
行っちゃ、やだ。ここにいてよ。
あれだけの水分を放出したら喉もカラカラだったけど、ちょっとで
も離れてしまうのがひどく寂しかった。
無意識に赤ちゃんがするみたいな仕草に、彼女は笑わずにアタシの
頭をギュっとかき抱いた。
「なぁ、聞いてもええ…?」
つむじにチュってされてから、遠慮がちの声が、頭の上から降ってきた。
その声音には、「云いたくないんだったら、云わなくてもいいけど」
と、いう彼女らしい思いが含んでいるのにも気づいた。
ねぇ、どうして、アナタはそんなにやさしいの?
オイラは、いつも甘えてばかりだね。
与えられるだけで、裕子になにもしてあげられていない。
なんか違う意味で、悲しくなってきた…。
- 137 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:42
- このハナシをしたら、呆れないだろうか。
高二にもなって、中学の自分と変わらないなんてがっかりしないだ
ろうか。
いろんな思いが胸の奥を複雑に交差した。
でも、胸の裡に留めておくにはさすがに息苦しかった。
「美貴がぁ…、さっき、妹が、来てたんだ……。」
「へっ?」
思いがけない言葉だったのだろう。
美人台無しなアホ面を向けられて、オイラは、ほんの少しだけ笑顔
に戻った。
「帰ったら、妹が、階段のところに居て……。」
震える涙声。
ずずっと洟を啜りながら、彼女を見上げた。
右手は、ずっと繋いだままで。
◇ ◇ ◇ ◇
- 138 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:44
- 『う、うっそ! アンタ、もしかして、美貴ぃ?』
『うん。久しぶり。元気そうだね、お姉ちゃん。』
それは、数年ぶりにみる妹の姿だった。
アタシたち姉妹は、親の離婚が決まったときに離れ離れにされた。
妹は、お母さんに付いて母親の実家がある東京に引っ越していった。
アタシは、お父さんといまだに生まれ育ったこの公団で暮らしている。
それにしても…。
もともと似てない姉妹だとさんざん云われてたけど、ここまで似て
なかったとはな…。
『あはっ。やっぱ、お姉ちゃんあんまし、成長してないねぇ? す
ぐに分かったよ。』
『…(ムカッ)』
外見は、ずいぶん大人っぽくなったけど、中身はあんま変わらない
ようだ。
歯に衣着せぬもの言いは、悪気はないのだか、人を陥れるには十分
だった。
おもいきり、妹の成長振りを当てられたからこそ余計に腹立たしく
感じた。
もともと小4で身長は抜かされてたけど、こんなにも差がつくなんて…。
こんなふうに威圧的に見下ろされると、なんか悲しいを通り越して
だんだんムカついてくる。
なんで、同じ姉妹で、こんなに違いがでるんだようって…。
いつだって、姉に見られるのは美貴のほうだった
オイラが、お母さんのお腹の中に残していった養分をコイツは、ぜ
んぶ吸い取って大きくなったんだ。
てか、成長しすぎだろ!
お前、いくつだよッ! どうみても大学生じゃん!
- 139 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:47
- 『あー、でも、ここは、ずいぶんボロっちくなったね。』
懐かしそうにおんぼろアパートを見上げて言う。
たしかに、築うん十年という代物は、いつ壊れてもおかしくはなかった。
お父さんの仕事がうまくいってたときは、ここでみんなで暮らして
いた。
あれからもずっと住み続けている自分には、いまいちピントこない
けど、久しぶりに帰ってきた美貴には、そう映るんだろうと思った。
『で? どうしたんだよ、今日は…。親父に会いに来たのかぁ…?』
珍しいとでも言いたげに目を向けると、彼女は、そのむき卵のよう
なつるんとしたキレイなおでこに眉根を寄せた。
『うん。ま。ちょっと大事な話があってさ…。お父さんにはもう話
してきた。お姉ちゃんにも会いたくて、ずっと待ってたんだけど……。
ちょうど帰るところだったんだ。すれ違いにならなくてよかったョ。』
外見は、ずいぶん大人びたけど、声は、あの頃のままだ。
懐かしさに思わず頬が緩む。
『あぁ…。ごめん、今日は、ちょっと遅くなっちゃって…。』
『そんなのいいってば、急に来たんだし。……てか、さっきの人、
誰よ? お姉ちゃんの…彼氏、じゃなくて、彼女…とかぁ?』
『…ゲッ!』
見られてないことを祈ったけど、やっぱ見られてたか…。
暗かったからバレてないと思ったんだけどな…。
『は、はあぁ? な、なぁに言ってんだよ。友だちだよ、お友だち!』
『…にしちゃ、ずいぶん年上だったじゃん。つーかさ、おもいきし
ベロチューかましといて、その言い訳はちょい苦しいよ。』
『………――うはっ。』
ベロチューって。
そこまで見てたんかーいッ!
やっぱ、お外でチュウは危険すぎるって。
つーか、久しぶりに遭った妹にそんなの見られてたなんて姉として
どうなのよ…? うぅ〜、恥ずかし過ぎる〜。
- 140 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:49
- 『――アンタ、い、いつから、そこに…?』
『ちょうど車が止まったとこから。“あ、お姉ちゃんだ!”と思った
ら、いきなしチュウするんだもん、びっくりしちゃった…。』
そんなとこからから…。
そら、びっくりもするわなぁ…。
久しぶりに見た姉が、女の人とブチュ〜としてたら…。
『あ、あれは…その、あの、なんだ……。』
巧い言い訳が思いつかない。頭がパニックに陥った。
裕ちゃん、どうすんだよ、もォ〜〜、あれほど外では…って言ったのに。
…って、今日のは、オイラからおねだりしたんだっけか……。
『んねぇ、やっぱ、あの人って、“カノジョ”なんでしょ…?』
『…いや、だから、それは、その……』
妹の発音も、いまどきふうに語尾が上がっていた。
さっきも、ベロチューとか言ったり…、別れたころには、そんな言
葉使ってなかったから(当たり前だけど…)大人になったんだなぁって。
オイラは、どう言っていいのか戸惑いながら、そのままギュっと唇
を噛んだ。
『ねぇ、そうなんでしょ? …もう、なんで隠すのさぁ。別に、い
いじゃん。超、キレイな人だったしぃ…。』
『………。』
そいういう問題か…?
『なんで隠すのォ? あぁ、お父さんには内緒なんだ…。』
『……ちょ、お前、親父に言うなよッ!』
『言わないって。言わないけどォ、じゃ、やっぱそうなんだ…?』
『う。………まぁ。』
うぇ〜ん。白状させられちゃったよォ〜。
そういえば、昔からこんな感じで、なんでも強引だったな。
アンタ、やっぱ性格変わってないって。
- 141 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:51
- 『へ〜。超キレイな人だよね?…んで、何してる人…?』
『つーかさ、アンタ、他に言うこととかないわけ…?』
なんで、姉の恋人が“オンナの人”だってわかったのに、そんなに
平然としていられるんだよ。
もっと驚くとかなんかしろよ。
『ふへ? なんのこと?……あぁ、“オンナ”だからってこと?
そんなの別に驚かないよォ。いまどき“オンナの恋人”が居たって
フツーじゃん?』
『――…フツー?』
声が裏返った。
は? フツウか?
フツウでいいのか…?
いまどきは、そうなのか?
『だって、美貴んとこも女子中だけど、オンナの先輩と付き合って
る友達って、けっこういるよ。』
『へ〜。』
でも、それは、確かに…。
オイラの周りにも見渡せば、それらしき人ばかりだ。
なっちにごっつぁん。斎藤さんに…。あっちゃんは、ほんとのとこ
ろはどうか分からないけど…。裕ちゃんに憧れ以上の感情を持って
いることは、確かだ。
クラスのヤツらだって、偏見を持っている人はほとんどいない。
それどころか、女の子と付き合うのなんておしゃれ〜だとか、なん
か勘違い発言してるバカなヤツらだっていた。
『美貴も部活の後輩から告られたことあるしぃ…。』
『ふ〜ん。……部活ってなにしてんの?』
『フットサル。』
『はあ? なにそれ?』
聞くと、サッカーの縮小版だと教えてくれた。
サッカーならごっつぁんや、よっすぃがしてるのは知ってるけど。
いまどきは、そんな部活があるんだ。時代は変わったもんだよな。
つーか、なに和んでんのよ…?
変じゃん。数年ぶりに遭ったのに、こんな会話しているなんてさ…。
- 142 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:52
- 『ねぇ、あの人、なにしてる人? どこで知り合ったの? いくつ?』
妹は、なぜだか興味津々に聞いてくる。
あいにくだが、裕子のことは、答えられないことばかりだった。
『つーか、久しぶりに遭ったのに、なんでこんなところで、“コイ
バナ”とかしてんだよ。アンタ、なにしに来たわけ? 大事なハナ
シってなんだよ。』
美貴の身体がビクッとしなる。
硬いその表情を見て、オイラは、変な胸騒ぎを感じた。
ドクンドクンと心臓の音なる。
『実は、お母さんが………。』
◇ ◇ ◇ ◇
- 143 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:55
- 「ハ?……妹ォ〜?」
「うん。」
泣きすぎてしゃべるのが億劫だ。
ゴクンと唾を飲み込むと風邪をひいたときみたいに喉がひりついていた。
「アンタの妹さんって、ずっと離れて暮らしてるていう、あの…?」
裕子は、素っ頓狂な声をだす。
そういえば、この話は、あのとき裕子にしてたんだよね。
なにを言ったのかまでは、覚えてはいないけど…。
「…うん。なんか話があるってウチに来てたみたいで…。あっ、それ
より裕子、さっき、チュウしてるとこ美貴に見られちゃてたよォ〜。」
「ゲッ! うっそ…、なん、それ、だいじょうぶなん?」
驚いたように目を見開きながら、両手を上げて手のひらを見せ付ける。
大げさともいえるその仕草がなんか可愛いらしくて、やっと笑みが
溢れた。
「う〜ん。なんかよくわかんないけど、だいじょうぶみたい。」
「…はぁ? みたい、ってなんやねんな。」
その辺に関しては、昔から、ぶっとんだ妹だったからなぁ…。
いまは、ぶっとんでくれていてよかったと思うべきか。
もォ、わかんないよ。最近の中学生の考えていることは……。
今度、絶対に紹介してくれ…と、念を押されて云われたけど、それ
だけは黙っておく。
「そんで?」
「……ン。」
考えると、とたんに口が重たくなった。
手のひらを膝の上でギュって握り締めると、ふわっと彼女のやわら
かい感触がそれを包みこんだ。
見上げると、やさしい微笑みを掛けられる。
凍りついた心が、裕子の温もりに解凍されていく。
「―――お母さんがね…。」
- 144 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 15:58
- 言いながら、久しぶりにこの名前を呼んだなって思った。
両親が離婚してからは、一度も遭ってない。
川崎と東京なんてそんなに離れていないんだから、遭おうと思えば、
いくらだって遭えたはずなのに、アタシは頑なにそれを拒んだ。
母親のほうも、なんの連絡も寄越さなかったからおあいこだ。
別れたからって、親子は親子だと思いたかったけど、彼女にとっては、
違かったみたいだ。
それを思うと、いまでも複雑な心境だった――。
――妹のどこか沈んだような声を聞いて、心臓が早鐘した。
『お母さんが……』
一番最悪なことを予期していただけに、彼女の声は、意外だった。
『お母さんが、今度、――再婚するんだ…。』
『…へっ?』
再婚…?
なんだ死んだんじゃないんだ…。ホッとすると同時に肩ががくっと
うだった。
妹の言葉を頭の中で反芻すると、途端に目の前が暗くなる。
再婚……。
『だからね、アタシ、今度から藤本美貴になるの…。』
妹の声が、脳まで届かない。
頭の中をうわんうわんと唸っている。
『って、もう、ちょっとォ、お姉ちゃんてば、聞いてる…?』
『……あぁ。聞いてるよ。そっか、そうなんだ。あの人、まだ若い
もんなぁ…。』
再婚…?
お母さんが、再婚だって…。
『うん。アタシも聞いたときはビックリしちゃったんだけど…。赤ち
ゃん出来ちゃったっていうし…。いい人そうだから反対する理由も
見当たらないし…。』
『……えっ?』
- 145 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:00
- 呆然とするオイラに、妹はさらに追い討ちをかけるようなことを言う。
赤ちゃん……?
なにそれ…嘘だろ…。
『そうなの…。アタシ、この年でお姉ちゃんになるんだってさ。ま、
それもちょっと楽しみでもあるんだけどね…』
『そう。そっか…。そうなんだ。よかったな。』
『うん。………って、お姉ちゃん、ホントにそう思ってる…?』
美貴が、眦を寄せて、ジッと顔を覗き込んでくる。
オイラは、悟られないように無理矢理に笑みを取り繕った。
『なんで? 思ってるよ…。つか、オイラには、もう関係ないし…。』
そっけなく答えると、妹がワーワー言ってくる。
『エーッ、なんでよ? お母さんの子供だったらお姉ちゃんの妹で
もあんじゃんよォ…!』
お母さんが、再婚する。
そして、お腹には、赤ちゃんがいる。
なんだよそれ。そんなのありかよ。
胸の中が嵐が吹き荒れる。こんな思いを妹にだけは死んでも知られ
たくなかった。
オイラは、必死で誤魔化した。
『つーか、なんで“妹”限定なんだよ! 男かもしんないじゃん!』
『あはっ。そうなんだけどね。でも、美貴、どうせなら“妹”が欲
しいんだぁ…。』
どこにでもいるごくありふれたシアワセな家族だった。
それが、突発性の雪崩が起きたように、一気に崩壊した。
ひとたまりもなかった。
アタシの時間はあのときに、止まったままだ。
- 146 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:02
- 『サザエさんチみたいでいいじゃん。んじゃ名前もいっそのこと、
“ワカメちゃん”にしたら…?』
『ははっ、男なら“カツヲくん”って? エー、やだよ、可哀想じゃん。』
それ、苛められたらどうするの!と、ケタケタ笑う妹に同調する。
オイラってばすごい、こんなときなのに笑っていられる。
女優とかできるかもしれない。
でも、そろそろ限界かも…。
視界が揺らぎはじめていた。
『はぁ。つか、お前、今何時だと思ってんだよ。早く帰れよ、危な
いぞ!』
わざとらしく腕時計を見ながら、そう言った。
『うわっ、ホントだヤバイ。んじゃ、そろそろ帰るよ。……あ、ねぇ、
お姉ちゃん、また遊びに来てもいい…?』
『いいけど…。今度は連絡してから来いよ。』
妹がうれしそうにポッケから最新機種の携帯を取り出した。
中身は変わってなくても、時間は刻々と過ぎていってるんだって思った。
取り残されているのは、オイラだけだ。
なんかバカみたい…。
駅まで並んで歩く。
やっぱり歩幅が違って、ちょっとだけムカついた。
ほんとは、一刻も早くこの場を立ち去りたかったのだけど、一応、
中学生の妹をこんな夜更けに一人で歩かせるのは忍びなかった。
『でも、よかった…。お姉ちゃん、どう思うかってちょっと心配だ
ったんだ…』
『…なんで?』
『ん? なんか怒るかなとか、思って……。』
怒るなんて感情ではなかった。
怒りというよりは悲しみのほうが大きい。
でも、お前は、そんなの知らなくていいよ。
『怒るはずないじゃん。よかったなって思ってるよ。おめでと。』
しらじらしい。
思ってもいないことが、するりと口から溢れてる。
- 147 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:04
- 『つーか、それさ、お母さんに言ってあげてよ。いつもお姉ちゃんの
ハナシしてたんだから…、お母さん、すっごい喜ぶよ。』
『………そだな。』
それだけは、絶対にないと思うけどね…。心のなかで低く呟いた。
妹を駅まで送った帰り道、オイラは、どこか地に脚がついていなかった。
気付いたら、ちょうど客を降ろしたばかりの黄色いタクシーに飛び
乗っていた。
ずいぶん若いうちに結婚したという母は、まだ30代後半だ。
とびきり美人で、明るくて、近所でも有名な人だった。
オイラだって、鮮明に覚えている。
笑うと少女みたいに可愛くなる顔。オイラの響く笑い声はお母さん
譲りだとも云われた。
料理が上手で、いつもエプロンをしているイメージが強かった。
アタシのなかであの母親像は、いつまで経ってもあのときのままだ。
だから、こんな展開は、予測すらしていなかった。
ずっと離れて暮らしていたのに…。そんなのいまさらなのに…。
なんで、こんなに胸がチクチクするのか、自分の感情なのによくわ
からない。
ただ、いまは、あの人の顔が見たくて。
あの人の温かい腕のなかに抱きしめられたくて。
頭の中は、それだけだった―――。
◇ ◇ ◇ ◇
- 148 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:06
- 「そっか…。再婚かぁ……。」
はあぁ…。
って、ため息が聞こえてきた。
それは、どこか安心したような響きにも取れた。
裕ちゃんも、最悪の事態を想像したに違いない。
きっと、オイラの顔が悲壮だったから。
「…ん。なんかね、オイラ、親ってずっと親なんだって思ってた。
親がレンアイするのとかって、なんか信じられないとか思っちゃって
て…。」
「せやなぁ…。」
いまは、こうして気持ちをわかってくれる人が傍にいる。
それだけが救いだった。
「赤ちゃんできたって…。なんか生々しくて。それに……。」
「…それに?」
「もう、お母さんは、帰ってこないんだなって…。」
掴まる手をギュってする。
こんな子供じみた気持ち、ホントは晒したくない。
でも、嵐を鎮めるには、それしかなかった。
「なぁ、聞いてもいいんかな? アンタの親って……。」
「…ン。てか、裕ちゃんにどこまでハナシたんだっけ?…… ウチさ、
ちっちゃな設計事務所みたいなのやってたんだ。お父さんが社長で、
お母さんが経理みたいなのやってて、従業員とかも3人くらいのほ
んとにちっちゃいのだったんだけど…。あるときね、受注していた
親会社のその上の会社が、テレビに騒がれるような事件を起こした
んだ。……なんか汚職みたいなの? そしたら、仕事をもらってた
会社もすぐに倒産して、気づいたら、お父さんすごい借金背負ってた…。」
「……そうか。」
- 149 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:08
- 台風のようにあっという間の出来事だった。
借金取りが毎日のように現れて。アパートの前で、“金返せ”と大
騒ぎを繰り返した。
毎日のように交わしていた笑い声は、瞬く間に消えていった。
金策に走り回るお父さん。一日中家にいるお母さんは、ノイローゼ
気味だった。
「ねぇ、裕ちゃん、知ってる? 電気と水道とガスって、どれが一
番先に止められるか…。」
あの頃の生活は、酷かった。
給食費でさえ払えるような状態ではなかった。
お金がないというのは、心まで貧しくする。
「そら、水道やろ?」
「うん。つか、なんでそんなこと知ってんのさ?」
つまんないと唇を尖らせると、彼女は目を細めながらオイラの頭を
グリグリする。
「ガスや電気は止められてもそんなにあれやけど、水だけはないと
生きてられへんからね…。」
「そうなんだってね。…よくさ、ドラマとかでおっかない借金取り
って出てくるじゃん。チンピラみたいなの? あれって、ホントに
居るんだよ。超笑えた!」
離婚するというのは、苦渋の選択だったと聞いた。
起きたことがあまりに突然のことすぎて、ふたりも予期していなかっ
たんだと思う。
お父さんもお母さんもひどく痩せて、ボロボロだった。
あのときは、あぁするしかなかったんだ。
じゃなかったら、きっと一家心中とかしてたに違いない。
- 150 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:10
- 『真里、お母さんたち離婚することになったの。アナタは、どうする?』
昔、ちっちゃかった頃、「お父さんとお母さんどっちが好き?」
って。たぶんそんなに悪気もなく、くだらない質問だったと思うけど、
そう問われたときのことを思い出した。
お父さんとお母さんのどちらかを子供に選ばせるなんて、なんて残
酷なんことをするんだろう。そんなのどっちかになんて選べるはず
がないのに。
子供の気持ちをわかっててやってるのだろうか…って、内心は、憤慨
した。
大のお母さん子でもあった妹が、迷わずお母さんの手を取った。
そのときの、お父さんの寂しそうな顔をみたら、言い出せなかった。
その後で、どんな苦労が待ってたとしてもお母さんのすべすべした
やさしい手を取ることはできなかった。
「お母さんと別れてから、お父さんいっぱい働いてた。オイラのた
めにもがんばるからって、朝から晩まで、ほとんど寝ないで、真っ
黒になって…。」
「…そうか。」
「でも、あのうちでオイラ、ずっとひとりぼっちだった…。学校に
も通えなくなって、借金取りに脅かされてひたすら小さくなって。
毎日、ポストばかり見ていたよ…。」
そういいながら、遠くをみる。
痛い思い出だ。
「――ポスト?」
「うん。お母さんから手紙とか来るんじゃないかって、一日に、何回
も覗いてた。電話とか引いてなかったからね。」
「…………。」
- 151 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:12
- 郵便屋さんのバイクの音がすると、わざわざ下まで確認しに行ってた。
なのに、いくら待っても来なかった。
こっちから手紙を出したかったけど、お母さんを選ばなかったとい
う負い目があるからどうしてもできなかった。
それから、音信不通になった。
お母さんに見捨てられたんだと悟ったのは、もう少ししてからだ。
その事実を認めるのが辛くて苦しくて、逃げるように夜の街を徘徊
するようになった。
夜になれば、人がたくさんいる。街もむやみやたらに明るい。
似たような境遇の友達も、うじゃうじゃいた。寂しいのはひとりじゃ
ないんだってそう思えた。
浴びるようにお酒を呑んで、慣れないタバコを吹かして、たまに知
らない男とセックスして…。でも、なにをしてても、からっぽな心を
埋めることはできなかった。
ずっとこんなんならば、いっそのこと死んじゃいたいとまで思った
のに、人間っておかしなもので、お腹は空くし、寒いと暖かいとこ
ろに行きたくなる。身体のほうが、死ぬのを拒んでいた。
だったら、どうにでもなれと開き直った。そんなときに男の人に声
を掛けられて、あの仕事を斡旋されたんだ…。
「お金のせいで、こうなったんだと思うと、あんな汚いことしても
平気だったよ。お父さんなんて朝から晩まで働いてもぜんぜん楽に
なれないのに、一方では、娘みたいな年の子供とヤッて、大枚叩い
てるバカなヤツらもいるんだ…。」
「………。」
「しょせん世の中はお金を持っているヤツの勝ちなんだって…。も
う、どうでもよかった。あぁいうのって人間の本性とか出るじゃん。
いろんなことやらされたけど、下で、オヤジの顔、見上げながらせ
せら笑ってた。」
みんなバカみたいだよ。
こんな摩擦を繰り返すだけの行為にそんなに必死になっちゃってさ。
みっともない姿を晒して、臭い息吐いて。汗だくになって…。
これじゃ、道端でヤッてる犬といっしょじゃないか……。
- 152 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:15
- 「でも、そんなときに、裕ちゃんと逢ったんだ…。」
「矢口……」
ジッとアタシの顔を見ていることがわかっても、彼女のほうへは向け
なかった。
こんなこと、聞きたくないのかもしれない。
オイラだって言いたくなかった。
それでも、唇が勝手に動いてしまったあとだった。
「最初はさ、オンナの人だったから、すっごい驚いたんだけどォ。
裕ちゃんにやさしくされて、オイラ…これじゃぁダメだって思ったんだ。
こんなこと早くやめなくちゃって…。自分のしてることが恥ずかし
かったョ。裕ちゃん、こんなアタシなのにすごくやさしく抱いてく
れた…。」
そんなのは今までになかったから。
みんなオイラなんかぜんぜん見てない。きっと性能のいいダッチワ
イフかなにかだと思っているんだ。
人の温かさや、やさしさを教えてくれたのはアナタだけだった。
そして、いっぱい感じることを教えてくれた。
アナタにジッと身体を見られるのがものすごく恥ずかしくて、でも、
ものすごく気持ちよくて。
初めて、女の子になれた…。
「あれは、一目惚れだったよ。……ま、朝になったら即効で振られ
ちゃったんだけどねぇ…。」
人生初の最短時間の振られ方だったョ。
と笑いながら言ったら。
「ごめん。ごめんなぁ…。そんなんやって知らなかったんや…。」
バツが悪そうに眉を寄せて、抱きしめる腕がさらに強くなった。
- 153 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:18
- 「いいんだ…。」
そんなふうに謝らなくて…。
だって、当たり前だよ。
なにも言ってないのに、そんなの初めて遭った人が知るはずがない。
一人で勝手に傷ついて、でも、それは自業自得。裕子は少しも悪く
ない。
ただ、ただね…。
「もう少し早く、アナタに出逢いたかった……。」
ポツリと本心を口にすると、睫の間に燻っていた滴が転がった。
そうしたら、まだキレイな身体のままアナタに抱かれられたのに…。
もう少し違った人生が送れたかもしれないのに…。
ゴメンなさい…。裕子、ゴメンなさい…。
「矢口……。」
「ねぇ、裕ちゃん、覚えてる? 別れる朝に言ったんだ。“あんま
りがんばりなや”って…?」
「………ン。覚えてるよ。」
よしよしと頭を撫でられた。
やさしく髪を梳く手が温かくて、目を閉じると彼女の胸に引き寄せ
られる。
「いつも辛くなったらあの言葉思い出してた。あれから、ちゃんと
学校にも通って、死ぬほど受験勉強もして、逃げ出そうと思ったこと
もいっぱいあったけど、がんばったョ。そして、岡女に受かった…。」
「そうか…。」
「うん…。そんで、いっぱい神様にお願いしたら、こうして裕ちゃ
んとも出逢えた…。」
「………ン。」
裕子は、いままでみたことがないほどやさしい顔で笑ってくれた。
彼女の胸から聞こえてくる心音。
規則正しいそれをBGMにオイラは、訥々と言葉を続ける。
「だからね、お母さんのこともあぁして願えば会えるんじゃないかって…。
あそこに住んでたら、いつか、お母さんが戻ってきてくれるんじゃ
ないかって…。」
お父さんの借金がなくなったら…。
家族が元通りになるんじゃないかって…。
- 154 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:21
- 「矢口……。」
「ずっと、そう思っていたんだ…。」
恋人の胸の中でつむがれた言葉は、ひどく掠れていた。
自分が、お父さんとずっと一緒にいたら、お母さんが戻ってきやす
いんじゃないかと思ってそうしていたこともあった。
なのに、お母さんにはこれから新しい家族ができる。
オイラの居場所なんてどこにもなかった。
アタシの代わりは、お母さんのお腹の中にいる。
お母さんにとって、オイラは、とっくに娘じゃなくなっていたんだ。
どうでもよかったんだ…。そういうことだよ。
「ねぇ、オイラ、バカみたい? いい年して、お母さんが恋しくて…。」
こんなのカッコ悪いよ…と眉を顰めると、彼女は、背中をトントンと
叩いた。
「んなことない。そんなふうに思うなや…。」
「……ン。」
裕子ならそう言ってくれると思ってた。
どこまでもやさしい人だから。オイラの味方はこの人だけ…。
裕子がいてくれたら、もう寂しくない。
お母さんなんて、いらないよ……。
「美貴と別れたあと、どうしても裕ちゃんに逢いたくなった。それに、
あのときみたいなお父さんの寂しい顔みたくなかったんだ…。」
だから、タクシーを飛ばしてここへ来た。
怒られるのも承知で、どうしてもこの胸に飛び込みたかった。
「そうか……。」
「………ン。」
もう、こんなことで自棄を起こしたりしない。
いま、アタシには裕子がいてくれる。
こうして抱きしめてくれる温かい腕がある。
やさしい匂いに包まれて、涙がこみ上げてくるのを必死で我慢した。
なのに、恋人が、アタシの背中に向かって言う。
- 155 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:23
- 「…でもな矢口、一つだけ言わせて。アンタはきっと誤解してる。
お母さんのこと…。お母さんもアンタといっしょで怖かったんや。
手紙とか出したかったけど、怖くてどうしても出来なかったんや。
アタシはそう思うで…。」
「どうして…?」
お母さんが怖かった? なにを?
そんなこと考えもしなかったよ。
「アンタは、母親に捨てられたと思ったかもしれないけど、お母さん
だって、そう思ったのかもしれないやん…。ずっと“親”やってても、
ベテランなわけやないんや。みんな初めて子供を持って、おっかな
びっくり育ててるんや。お母さんだって、フツウの人間なんやで。」
それは、そうかも知れないと思った。
いままで自分の感情ばかりだった。
遭いに来てくれない母親を憎んで、そのあげく自暴自棄になって、
変なバイトまでして。
それもこれもこうなってしまった運命を呪った。
でも、それは違うのかもしれない。
いままで、お母さんの気持ちなんてこれっぽっちも考えてもいなかった。
「なぁ、今度さ、お母さんに逢いに行ってきてみぃ? たぶん、こ
うやってアンタのこと抱きしめてくれるから…。そしたら、わかる
から…。」
「……うん。」
ちいさく頷きながら、首筋に顔を埋める。
初めて逢ったときにも同じことを思った。
裕子の甘い体臭はお母さんの匂いを思わせる。
彼女の言葉で、喉の辺りにずっと痞えていたものがストンと落ちていた。
考え方を変えるだけで、こんなにも心が楽になれるんだ。
裕子は、やっぱりスゴイよ。
説法とかしたほうがいいんじゃないの…?
だって、細木数子よりも納得したもん。
また、彼女の胸を濡らしてしまっていた――。
◇ ◇ ◇ ◇
- 156 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:25
- 「んじゃ、矢口、おやすみぃ…。」
「えっ? あれ? もう寝ちゃうの? やだ一人にすんなよ。ねぇ、
しないの? しようよォ、えっちぃ…」
裕子の口の中は、苦いお酒の味がした。
おやすみのキスにしては、またしても濃厚な口付けを交わして、ベ
ットに横になってしまった恋人の腕を取った。
いっぱいいろんなことがありすぎて、興奮しすぎて眠れそうにない。
さっきまでは、どうみてもそういうムードで。
こんなときこそは…って、はりきって待ち構えていただけに彼女の取
った行動に拍子抜けする。
「なんで? さっき、いっぱいしたったやろ…?」
「エーッ!!」
あれはあれじゃん。違うじゃん。
こんなに胸を高鳴らせて、ちょっとやそっとじゃ収まらないよ。
『したい』…という欲望が抑えられそうになかった。
「やだ。寝んなよ、しよっ。ねぇ裕子、オイラをめちゃくちゃにして
よォ〜…。」
おねだりするみたいにぶんぶんと腕を引張った。
こんなときこそ、燻った熱を発散させてすっきりして眠りたかった。
そう思っていたのに、彼女は、どこまでもつれない。
片目だけ開けて、ジッとオイラを見上げてくる。
「……今日は十分やわ。また今度な…アタシもう眠いねんて…。」
枕に頭を預けてしまう。
- 157 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:27
- 「エーっ、そんなぁ…。んじゃ、いい。オイラが裕子をめちゃくち
ゃにするからッ…!!」
裕子の上に跨った。
「はあぁ……。めちゃくちゃてな…、アンタ、それ意味わかってて
言ってんのォ?」
「んだよ!」
ムッてアヒルみたいに唇を尖らせると、その先をむにゅって抓まれた。
「子供みたいな顔して、そんなん言うてからに。どうせアタシが本
気だしたらビービー泣いちゃうくせに……。」
「むっ。ビービーなんて泣かねーて!」
「ふん。そんな口叩いてええんかな。んなことばっか言うてると、
また、お仕置きすんで、コラッ!」
「うっ……。」
それは、ヤダ。
さっきまでの勢いが、風船みたいにしゅんて萎んだ。
「ほら、おいで。今日は特別に腕枕したるから……。」
腕を伸ばされて、むぅとしたままその手を取った。
彼女の匂いのするシーツに包まれる。
細いそれに頭を預けると、なんともいえない気持ちになった。
「ゴツゴツしてて、なんか寝心地悪りぃ……。」
「文句言うならやめんで、もうっ!!」
「あだ! う、うそです。ごめんなさい。」
でこピンされて、そのまま腕の中に包まれた。
こんなふうにされたら違った意味で眠れそうにないよ。
なんかものすごく照れくさくて、でも死ぬほどシアワセで…。
ちぇ。
えっちしたかったんだけどな…。でも、こういうのもたまにはいい
かもね…。
そういえば、初めて遭ったあのときも、こうして朝まで腕枕をして
てくれたよね…?
- 158 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:30
- 絶対に眠れそうにないと思っていたのに、温かい腕の中に包まれて
いると、すぐに睡魔が襲ってきた。
今日ほど感情の起伏の忙しい一日はなかった。
ウトウトしかけながら、でも、これだけはどうしても言っときたかった。
「ねぇ、裕ちゃん……。」
「ん〜?」
聞こえてくる恋人の声もどこかぼんやりとしてる。
「今日は、いろいろ聞いてくれてありがと。オイラさ、裕子がいな
かったら、また、どうしようもなくなってたと思うんだ…。」
自棄を起こしていたに違いなかった。
いま、あんな話を聞いても、こんなふうな穏やかな気持ちになれるの
は、すべてアナタのおかげだから。
「でも、裕ちゃんがいてくれたから、ちょっとは強くなれたみたい…。
今度、お母さんに会ってくるよ。自分の口で“おめでとう”って、
言ってくる…。」
「……そうか。」
目が見開く。薄い色素の茶色い瞳がやさしく揺れた。
「…ン。だからさ、これからもずっと傍にいてほしい。どんなこと
があってもオイラを見捨てたりしないで…。大好きなんだ…」
なにを甘ったるい乙女みたいなこと言ってるのだろう。
なんか、これプロポーズしてるみたいじゃない?
胸がドキドキして、くっつかってるから聞かれちゃうんじゃないか
って不安になった。
でも、それは本心だから…。ずっと聞いて欲しかった。
裕子がそばにいてくれなくちゃオイラは、きっとダメになる。
これから、アナタに近づけるような大人になるから。がんばるから。
その成長を見守っていてほしい。
- 159 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/02/12(日) 16:31
- 「あぁ…ずっと傍にいるから。ほら、もう安心して眠り…。」
小指の変わりにギュって手を繋がれて、やさしく耳元で囁かれた。
「……ン。おやすみぃ…。」
その言葉を聞いて、オイラは、頷きながらあっという間に意識が
遠のいた。
だから、その後の彼女の囁きなんて聞こえていなかった。
「……ごめんな、矢口…ごめんなぁ。」
すでに、シアワセな夢の世界へ旅立ったあとだったから――。
- 160 名前:Kai 投稿日:2006/02/12(日) 16:32
- 本日の更新は以上です。
- 161 名前:Kai 投稿日:2006/02/12(日) 16:34
- >127さん…私も、この人が教師だったことをうっかり忘れそう
になってます…。(-∀-*)
でも、こんなセンセイが女子高にいたら、間違いなくバレンタインは
どっさりだったと思われ…。☆°(´∀`*)。
>128さん…なんだかみなさまにはいつもゴチになっちゃって。(*>_<*)
それ、お互いに投げキッスつーのがミソですね。人前でイチャコラ
は、相変わらず健在なのか…? 新キャラはミキティ様でした。
…って、よく知らないからこんなしゃべりでよかったのかな…。(-"-;)
>ほっとレモンさん…着々とラストまで走っています。過去は…、
この方、すごいのをお持ちのようなので…。ま、その辺も描きたか
ったんだけど、また長くなりそうなので、どうなるかは未定ですが。
最後までお付き合いくださればうれしいです。(・∀・)!!
- 162 名前:Kai 投稿日:2006/02/12(日) 16:37
- 毎日、なんとなく過ごしていると、思いがけないことが多々あるもので。
ミニモ二の彼女のイメージが強烈なインパクトだったために、かなり
の衝撃でした。一般的に考えたらごくありふれたことで、学校で言え
ば停学なのかと思いますが、いまの彼女には酷な代償になったのかも
しれませんね…。
なんとなく、久ぶりに裕ちゃんが卒業したライブのDVDを観ました。
懐かしい顔ぶれが…。卒業を繰り返しているうちに、ちゃんと叱って
あげられる大人がいなくなっちゃってたのかなぁ…て。悲しいことです…。
つーことで、今回は、ちらっと矢口の過去のあたりを…。ずいぶんと
長いお話しになってしまって忘れられてたかもですが…、こんな
ストーリーでした。
ところで、ごっちんは大丈夫なのか…?(;ω;)
ドラマが、めっさ愉しみです。
でも、『指』って…。『指』って、なんかやらし気じゃないの?!
そう思うのは、アタシだけ……?!。・゚・(ノ∀`)σ・゚・。(ニガw
- 163 名前:ゆっち 投稿日:2006/02/12(日) 23:38
- 更新お疲れ様です。
それから、お久しぶりです・・・
前回感想書かせてもらった時からは、随分話が展開してる!!w
新キャラが出てきたり・・・。
ていうか、新スレおめでとうございます。
鬼畜な裕子さんから、今日はなんか優しい裕ちゃんで、、
まぁ、どっちも好みです(爆。
気になりポイントが満載なんで、ほんとに次には期待ですね。
なんで裕ちゃん謝ってるの!?とか。
まぁ、そんなこんなで、長くなりましたが・・・
次もこっそり覗かせていただきますw
- 164 名前:ゆちぃ。 投稿日:2006/02/12(日) 23:39
- うっかり名前を間違えたりもします・・。
ゆっちと言いつつ、ゆちぃでした。
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/16(木) 23:30
- 中澤センセーと斉藤さんのバイクレースが見てみたいです。
中澤センセーの、”現役時代”から劣ってないであろうテクを是非、
披露していただける機会のあることを!1
- 166 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/19(日) 01:50
- 更新お疲れ様です。
なんだかここの矢口さんが泣いていると
思わずもらい泣きしそうになる自分がいます(笑)
Kaiさんの書く文章スキです。
- 167 名前:ほっとレモン 投稿日:2006/02/23(木) 00:28
- 更新ありがとうございます!
やっぱ矢口さんに優しい中澤姐さんは最高にイイ!!
これからの更新も楽しみに待ってます。
矢口さん新たにドラマ出演決まったみたいですね。
また楽しみが増える〜♪
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/15(水) 12:32
- 再びここで裕ちゃんに会えるのを毎日楽しみにしております
作者サマの描く裕子サマが大好き!
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/04(火) 01:00
- 続きが気になって気になって・・・
- 170 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:26
- とうとうカレンダーが、最後の一枚になった。
途端に、肌寒さを感じる日が多くなったように思うのは、気のせいばかりでは
ないと思う。おかげで毎朝、布団から這い出るのも一苦労だ。
以前のオイラだったら間違いなく「ま、いっか…」なんて言いながら惰眠を貪
ってたろうが。
今年のオイラは、違うのサ!
「あ〜ん。ぜんぜんわかんないよォ。ねェ、裕ちゃんヒントちょうだい…。」
言いながら、顔の前で、パチンと両手を合わせる。
なんのつもりだよ。教師(女)に、鼻にかかった甘えた声出してんじゃねーつーの。
キミは知らないかも…だけど、ヤツは、そいういうのに弱いんだよ。
ほーら、見てみろ。鼻の下伸びてきてんじゃんッ。
「なにが、ちょうだいや。昨日もやったろーが。あかん、ちょっとは自分で考えー。」
「エーッ、裕ちゃんの意地悪ぅ〜。さっきから考えてるのにぃ〜。…ていうか、
昨日、こんなのやったっけ?」
声を聞いてるだけで、キッーって雄たけびしたい気分だ。
こんなの見るために早起きしたんじゃねーぞ。おい。
「やったで。ってコラコラ…聞いてなかったんかい!」
「ごめーん。でも、いくら考えてもわかんないよォ。ねぇ、ヒントちょうだいよぉ〜!」
教壇の前で、バタバタと地団駄。
そこまでしてくれたら、いっそすがすがしいな。
きっと、自分が世界一可愛いオンナだって思ってるからそんなことできるんだ。
媚びるというものが、オンナがオンナに対しても使えるものなんて知らなかったよ。
「たくもー、しゃあないなぁ…。」
カーッ!
可愛い子にはとことん甘いんだからな。
この、スケベ教師め!
アホらしい。やってらんない。
ポンとシャーペンを投げ捨てた。
- 171 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:30
- 岡女は、新設校なだけあって、教師の平均年齢もグッと低かった。
そういえば、2年の担任なんて、ほとんどが独身教師だ。
保健校医のあっちゃんは、ユーモア溢れる人気のセンセイだ。
身体の悩みだけじゃなく、恋の相談にでもなんでも乗ってくれる。保健室は、
いつ行っても人だかりだった。
隣のクラスの担任で、英語を受け持っているみっちゃんは、ふわっとしていて
清楚な感じ?性格も見た目どおりに温厚で、わりと話せるお姉さんタイプだ。
そして、裕ちゃんはというと、3人のなかでは、一番、取っ付きにくいタイプ
だと思う。人を寄せ付けない独特のオーラを放っていて、それは、本人曰く、
人見知りだかららしいのだけど…。でも、怖いと感じるのは最初だけで、慣れ
てくると話しやすいと評判だ。怒るときはビシッと言うし、言いたいこともズ
バズバ言うけど裏表がないぶん、そのさっぱりした性格に好感を持たれるようだった。
個性は違えど、3人とも独身の美人教師。
けど、この中で、誰が一番モテルかと言ったら、それは、恋人の目を抜きにして
も、裕ちゃんなんだろう…と想像する。
男の人にもだけど、彼女は、女の子にやたらモテル女だった。
でも、それよく分かる。
おおよそ教師らしくない身の振る舞い。学校という枠にはまらない自由奔放さと
魅惑的な容姿。ちょっぴり孕む危険な匂い…そんな彼女は、まだ子供でしかない
自分たちから見れば、ひどく眩しい存在だった。
女子高で…しかも、お台場で唯一の学校ともなれば、家と学校を往復している
限りでは、男の子と出逢うチャンスに乏しい。
合コンに精を出しているのは、実はごく一部の少女たちだけで、あとは、毎日
を淡々と過ごしているだけだ。
それならば、「女の人だけど…まっ、いいか…」なんて気になる子がいないと
も限らない。実際、そんな感じのカップルが、ウチの高校でも存在してた。
憧れから恋に変わるなんてことは、実は、女子高ではありがちなことなのだ。
ましてや、彼女が、そういうのにアバウトな人ならば、オイラの心配の種は増え
るばかりだった。
- 172 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:33
- 夏の頃は、明るめな色を好んで着ていた彼女も、季節が変わるごとにそれ相応に
落ち着いた色合いに変えていた。
はうっ。
つーか、なんでも似合ちゃうんだよね、裕子って…。
今日みたいなカチっとしたスーツでも。ジーンズみたいなカジュアルでも…。
一年中ジャージで通している担任のように服装に気を使う教師は少ないなか、
彼女は、おもいきりおしゃれを愉しんでいる。カラコン、ネイル、ウィッグ…ets.
つーか、やりすぎッ!
そういうところも、アタシたちを虜にする一因なのかもしれない。
おかげで、眠たい目をゴシゴシ擦って、今日も、せっせと学校に来た。
なのに、朝から、こんなの見せられて。くっそぉ〜。
厭なのに、教科書なんかそっちのけで、どうしても目で追っちゃう。
だって、すっごいいい女なんだもん、しょうがないって…。
今日はグレーの大人っぽいスーツに、同色のタイトなスカートの組み合わせだった。
暖房効きすぎているせいか、真っ白いシャツを胸元まで大きく肌蹴ている。
やわらかく膨らんだ白い谷間が屈んだらポロンと零れそうで。
つーか、さっきから、なにやってんだオイラ?
「んじゃ、次の問題。……さぁて、誰にしようかなぁ〜……。」
腰に手を当てがいながら、謳うように節を付けて言う。
そんな教師の声に、みんな亀のようにのっそりと首を縮めた。
それを見た彼女が、くっくっと嬉しげに笑う。
裕ちゃんって、ホント教えるの好きなんだろうなぁ…。
教壇に立っているときが、いちばん、生き生きしてるもんね。
フツウは、年上の恋人と付き合ったとしても職場の姿までは見れないものだ。
恋人の職く姿をこうして間近で見れちゃうのは、実は特権なのかもしれない…。
いまだけは、みんなの中澤先生。
でも、ホントはオイラのなんだぞ。って、心の中で呟いた。
なにも知らないクラスメイトにまで嫉妬心を感じてしまう自分の狭量さには恥ず
かしくなるけど、こればかりは抑えられるようなものではなかった。
頬杖ついてジッ…と見ていると、ふいに目があった。
オイラは、ハッと顔を上げる。
でも、すぐに逸らされて、無表情のまま形のいい唇は、何事もなかったように
別の少女の名を告げた。
- 173 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:35
- (ムムーッ。)
なんだよなんだよ。無視しなくたっていいじゃんかよう!
別に当てられたかったわけじゃないけど、その唇で、他の子の名前を呼ばれる
のは、なんかおもしろくない。
ちょっとでもニコって笑いかけてくれたら、オイラは、それだけで満足するのにぃ。
ホントは、ちいさな箱の中に閉まっておきたい。
子供の頃、大切なお人形をそうしていたように、誰にも見せずに、誰にも触れ
させずに机の一番奥の引き出しの中に、そっと…。
それくらいオイラにとってアナタは宝物なんだよ。
こんなことばかり思ってる自分が、ときどき怖くなる。
オイラって、別れ話とかされたらストーカーになるタイプかも…?
最近、ますます色っぽくなった年上の恋人。
恋人がキレイになっていくのはうれしいことのはずなのに。
どうしたって素直には喜べない。
これ以上目立って、他の人に取られちゃうのは困るからだ。
学校なんて、いつ、どこで誰が狙いをつけるかわからない。それは、自分に自
信がないという裏返しであることも分かっている…。
ずっと好きでいてもらえる自信なんてないよ。人の気持ちは日々移ろいでいく。
彼女の気持ちを信じていないわけじゃないけど、それは、拙い経験から学んだ
ことだった。
だから、せめて人目に付かないように地味にひっそりとしていて欲しいのに、
それをあの人にねだるのは無理な注文だった。
そんな恋人の顔をジッとみながら、ちいさく嘆息する。
恋に悩みはつきない。そう、最近のもう一つの悩みと云えば…。
12月と言えば、待ちに待ったクリスマスシーズン到来だ。
暦が変わったとたん街が一斉に騒ぎ始めた。
やたらと緑と赤と白が目に付くようになり、ケンタッキーのおじさんや、不二家
のペコちゃんも早々に衣替えされた。
この時期は、みんながみんなどこか浮き足立っているような気がする。
いままでだったら、「ケッ、くだらね。」と鼻についたことが、恋人ができると
こうも変われるものかと自分のことながらが呆れてしまうほどにすっかり踊らされていた。
裕ちゃんと迎える初めてのクリスマス。
ただのクリスマスじゃないよ。初めて出遭ったあの日からちょうど二年目になる
大切な記日でもあった。
- 174 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:38
- 問題は、プレゼントだ。
なにか気の利いたスペシャルなものを用意したいのだけど、なにを買っていいのか分かん
なくて。だいたい、裕子が欲しいものってなんだろう…。
同世代の女の子が喜ぶものなら、まぁ、それなりに見当がつくけど、大人の女性が貰って
うれしいものってなぁ…。
やっぱ、クリスマスっつったら定番の“水色の箱のヤツ”かと思うんだけど、最近バイト辞
めてしまってお金のほうが乏しかった。
他のアクセならと…ドンキ覗いてお手ごろなの見つけたけど、裕ちゃんに安物なんて似合わ
ない気がして……。
お金が掛からなくて、喜んでもらえるもの…ってなんかないかな?
ん〜〜。それこそ定番だけど、マフラーとか編む…?
そりゃ一番安上がりだろうけど絶対無理だって。そもそもオイラの芸当じゃないし、
どうせ今からじゃ間に合わないよ。
つーか、裕子に喜ばれるどころか、「ヤグチがこれを!」って、大受けされそうだっての!
じゃ、いっそのこと裸でリボン付けて、「アタシがプレゼント」とか?
イチバン喜ばれそうだけど、そんなの寒いし、オイラがやりたくない!
うがーっ。
マジでどうしよう…。
大人の恋人を持つと、悩みは尽きないものだ。
あぁ、こんなの初めてだよ。
でも、この苦しみはぜんぜん苦痛じゃなくて、むしろすっごく楽しい。
裕子のことをあれこれ考えるのは、ぜんぜん厭じゃない。
それに、クリスマスが終われば、来月にはオイラの誕生日が来る。
その後は、バレンタインと…イベントも目白押しだ。
裕子と合えなかった2年間を取り戻すためにも、そういうベタなものでもめいいっぱい楽
しんじゃいたいと思っている。
しばらくボーっと見蕩れていると、目の前にひらひらとなっちが手を翳してきた。
ピンク色の艶々した可愛い唇が「やぐち、やぐち」と唱えている。
ハッと正気に戻ると、…みんなが、一斉にこっちをみているのに気づいた。
な……なに? うわっ、やべぇ。
もしかして、オイラ、寝惚けてなんか言っちゃった??
- 175 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:40
- 「おいコラ! 起きているんか、そこのちっちゃいの…!」
「………。」
今の今まで、頭の中で思い浮かべていた顔が、目の前に、でんと立ちはだかった。
思わず「ワッ!」と仰け反ると、教師が、腰骨に手をあてがいながら、呆れたよう
に肩を竦める。
「なんやねんな、その反応は、失礼なやっちゃなぁ〜。」
「あ………あうあう。」
「って、オットセイかい! アンタ、器用やな。目ぇ開けたまま寝てんのォ?」
「……い、いや、その…ぉ…。」
「アタシの授業に居眠りこくなんて、ずいぶんええ度胸やないの、ヤグチさん?」
「ね、寝てな、い……です…。」
目を見ずにボソッと呟く。
寝てたわけじゃない。ちょっと考え事してただけで…。
そりゃ、なにを考えていたのかは、本人を前に言えないけどさ…。
「フン。まぁええわ。――ちゅーか、前から思ってたやけど、アンタって、なんでいつも
そんな隅っこにおるん?」
「……へっ?」
今度はなんだ…?
「んな、ちっちゃいのに、黒板見えるんかぁ…?」
「んなっ! み、見えるよ!」
イチバンちっこいくせに、なんでイチバン後ろにおるねん。
素朴な疑問だと言ってくる教師に、バンと机を叩いて反撃する。
なにそれ、超失礼じゃん。
だいたい見えなかったら立ち上がればいいし、そもそも、そこまでするほど授業に熱心じ
ゃない……とは、一応、教師の手前なので云えなかった…けど。
「そうかぁ〜? なんならカオリの席と交換してもらったら…?」
あれはあれで、でかくて邪魔やねん…と、これまた失礼なことをぶつくさ言う。
そんなボヤキまでは聞こえなかったのか、中央の2列目に陣取っている背の高い少
女がこっちを見ながらひらひらと手を振っていた。
- 176 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:42
- 「いい。いいです。いいって。オイラ目ぇいいし、チョー見えてるもん…。」
あんなところに行ったら、それこそアナタを凝視してしまって授業にならないよ!
「ふ〜ん。そんならええけどな。ちっちゃいから大変やなぁ思うて…。」
「だいじょうぶだよ。……つーか、さっきから、ちっちゃいちっちゃい言うなッ!」
バンて、もう一度立ち上がる。
人が気にしてることを連発しやがって。
そんなアタシたちのやりとりに、周りがドッと沸いた。
これはもう、数学授業の名物と化している恒例の儀式だ。
裕ちゃんは反応がおもろいとかなんとか言ってしょっちゅうオイラを揶揄って遊んでいる。
人の気も知らないでなんてやつ!
みんなすげぇ笑ってるけど、実はアタシタチが付き合ってるだなんて誰も思わない
んだろうなぁ…。
そう思うと、ちょっと悔しかった。
「んじゃ、悪いけどちょっと取ってくるから自習しといて…。」
今度は、クラスに聞こえるように振り返って言い放つ。
ついでのように腕を取られて、オイラは、目の前の教師の横顔をジッと見上げた。
「騒ぐんやないで。怒られるのアタシなんやからな…。はあぁ…。こないだも、
岡村センセイにこっぴどく叱られてぇ、なんで、アタシが…。帰ってきたら続き
指すからな。予習しとき!」
「は〜い」
よい子のお返事。
教師は、「はあぁ」と気の抜けたように肩を竦める。
「まあええわ。ほら、ヤグチ、なにしてんのよ、はよ立ち!」
「なっ、立ってるっ!」
お決まり文句に、またどっと笑いが起こる。
もういいよ。人で遊ぶな!!
「あぁ、そうか、ちっちゃいからわからへんかった。んじゃ、行くで!」
「ハッ…??」
行くで…って。
急になんのことだよ…。
首を傾げながら目を向けると、彼女は呆れたように肩で息をついた。
- 177 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:47
- 「アンタ、やっぱり寝てたんやな…。ちょォ、プリント置き忘れしたから職員室に取りに
行くの付き合えって、いまさっき言うたばっかりやん…。」
「え、ええぇ〜。またかよう〜!!」
な〜んちゃって…。
うまく演技できていただろうか。
たびたび、ふいうちで、こんなことをされる。
たくもー、ホント心臓に悪いんだからな。前もって教えてくれたら、身構えられるのに…
って、いつも言うけど、やっぱ、オイラにそれは無理かもね。絶対、キョドっちゃうって。
このクラスの数学係りに任命されてから、まさか、こんな得点がついてくるなんて思いも
よらなかった。くじ引きで決まったときには、なんという幸運かと神様に十字架を切った
くらいなのに、それもこれも、この人の悪巧みだと知ったときにさ…。はあぁ…。
自由人と言ったら聞こえはいいけど、こんな人を教師にしちゃって、大問題だよ。
「コラコラ、んな可愛い顔して文句言わないのォ〜。」
「…たくっ、なんでオイラばっか使われなきゃなんないのォ! んなの、一人で行けよなッ!」
心臓がドクドクとなっている。
顔が、どうしようもなく緩んじゃいそう。
自習と聞いて喜んでいる大半のクラスメイトは気づいていないだろうけど、少なくとも
そこの3人は、めっちゃ怪しんでいるんだろうなぁ…。
圭ちゃんの顔なんて、怖くてまともに見れないもんね。
こういうことが度重なるたびに、二人の関係を知っている友人たちは、困ったもんだと
呆れ返っている。
二人が、プリントを取りに行くだけで、済まないの知っているようだ。
つか、あれじゃバレバレだよな? 裕ちゃんは、気づいてないみたいだけど…。
あーあー、また圭ちゃんにどやされるよ。圭ちゃん怒ると鬼婆みたいに怖いから…。
つーか、なんでオイラばっかに怒られなくちゃいけないの? 悪いの全部裕子じゃん!
オイラは、悪くないもんッ。
まぁ、言われるままホイホイ付いて行く自分は、共犯者なのかもしれないけどさ…。
彼女の手に無理矢理引張られると、ガタンと大きく椅子がなった。
“あーもう、超面倒くさい!”という顔を必死で装いながら。
廊下に一歩出ると、空気がヒンヤリしていて、思わずぶるると身震いする。
「センセイ、ごゆっくり〜♪」
ドアを閉める前に、一人の生徒が言い放った声に、オイラのほうがドキリとする。
でも、あしらうのはこの人のほうが一枚上手だった。
平然と前を見据えて。
「あー、はいはい。……そうや、お菓子も絶対あかんでェ! 食べても匂いでわかるからなぁ。
だいたい、アンタら冬やからって油断しすぎや。ちょォ最近肥えてきてんで。少しは、
ダイエットせぇ!」
「ひどっ!」
- 178 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:53
- 相変わらず、一言多い教師に半年も付き合っていると、みんなもだいぶ慣れてきていた。
まぁ、悪意がないって分かっているからこんなふうに笑っていられるのだろうけど。
最後にきつく睨みをきかせて、教師が後ろ手に教室の扉を閉めたとたん、ワーと歓声があ
がった。そういうところは、ウチのクラスって、ホント小学生と変わらない。
もうすぐ期末試験だっていうのに、きっとまじめに自習するヤツなんて一人もいないんだ。
テスト勉強なんて、一日前にやれば十分。赤点さえ取らなければOKだ。
岡女の偏差値を低空飛行にさせているのは、2−Cだという噂は、あながち嘘ではないと思う。
そんな声に、横にいる美人教師は諦めたように大きく嘆息する。
「なんやあら、アタシはいつから小学生を教えてたんや…。」
閉めた扉の前で「はう」と深いため息。
オイラは、その背中をポンポンと摩る。
そうは言うけど自分だってとても褒められる行動ではないから、それ以上、強くは云えな
いのだろうと想像すると、なんだかおかしかった。
苦笑しながら、その背中をてくてくと付いていく。
シーンと静まり返る長い廊下は、教室との温度差に余計に肌寒く感じた。
今年は、夏からいきなり秋を飛び越えて冬がやってきてしまった感じだ。
「さむっ。」
しゃべらないのも気詰まりで。
でも、口にするとホントウに寒くなったような気がして腕を摩る。
他のクラスでも、もちろん授業中だった。
みっちゃんの流暢な英文を読み上げる声が、教室の外まで洩れていた。
続けて、生徒たちが、バラバラに繰り返す。微妙な発音。
コツコツと彼女のヒールを打つ音だけがやけに大きく響いた。
それに被さるように、キュッ、キュッと上履きがなる。
それだけでも、ふたりの只ならぬ関係性が、十分に物語っていた。
これから、起こるであろうことに期待が胸を熱くする。
だって、久しぶり。
つーか、今日のパンツって、だいじょうぶだっけ?
冬だからって、無駄毛の処理を怠ってなくてよかった。
別に、いつもいつも、そういうことばかりしているわけじゃないけど考えちゃう…。
さっき、椅子に座りながらやきもきしていたのがまるで嘘のようだ。
なんか、緩んだ頬が締まり無くなって。
パンパンと叩く。ムギュと恒って戒めても、こうなってしまったらもう治らない。
どうしようもなくふわふわと甘い感覚のまま、夢遊病者のようにオイラは、彼女の華奢な
背中を追って行ったんだ。
- 179 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 21:57
- ◇ ◇ ◇ ◇
東京にしては桁外れにバカデカイ校舎。ハイテクな設備。
世間では、少子化の影響で、廃校や合併が相次いでいるというのに、いまどきこんなの建
てちゃってさ…。
おかげで、どこの高校でも受け入れてもらえなかったのだけが必然的に寄せ集まった。
そうして、都内一のおバカ女子高が誕生した。
まだ創立一桁である我校は、数年前まで通っていた中学校に比べたら雲泥の差だった。
真っ白に統一された清潔な校舎。臨海都市に建てられたにふさわしい近代的なモダンな造り。
月に一度くらい病院と勘違いしてやってくるおばあちゃんがいたりして…。
教室と職員室や音楽室などの特別教室は別棟に別れていた。
それを繋ぐ廊下があり、校舎はちょうど丸みを帯びたような“□の字”の体形になっている。
その真ん中には、園芸部が管理する花壇があって、東京にいても季節ごとの様々な花を観
察することができた。ちょっと小洒落たふうのカフェちっくなテラスもありぃと、いかにも、
いまどきの女の子が好むような内装だ。以前は近所のテレビ局で取りただされたこともある
ほどの人気の学校だった。実際に、ここが学校という感じは、一年以上通っていてもあまり
しない。
校舎がこれだけ広いと、死角になる場所は多々あるもので。
2階の一番奥まった場所にある視聴覚室は、映画をみたりなどができる広い多目的な教室
なのだけど、めったなことで使うことはなかった。
その隣にある放送室も、お昼どき意外は、ほとんど人が立ち寄ることはない。
よって、用もなければ、わざわざこんなところのトイレに来るやつはいないのだ。
いまどきのトイレは、デパートみたいに煙を感知しただけで、火災報知器がなる仕組みらし
いから昔のドラマにあるような不良少女が、こっそり隠れタバコをすなんてこともなかった。
そもそも、隠れ家的なこの場所を見つけたのも彼女だ。
職員室の真上に位置するこのトイレ。
和式の個室が4つ、洋式の個室が4つ。教室棟のトイレに比べると、さすがにこじんまりしてる。
恋人がキョロキョロと人がいないかを確認する。
一番最奥の西日差し込む個室にふたりで入ると、彼女が、後ろ手にガチャリと鍵を閉めた。
真ん中にでんと場所を取る便座が邪魔をして、ふたりはぴたりと寄り添うしかなくなる。
やっと二人っきりになれたと思ったら、急に変なふうに鼓動が高まる。
それを気取られないように。
「信じらんねぇ、この不良教師め……。」
どこにプリントを忘れてきたんだかね〜…。
横を向きながら、ボソッと呟くと、目の前で苦笑している教師がすかさず反撃してきた。
- 180 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:01
- 「フフッ。…なに言うてんのよォ、そっちが、先に誘惑してきたんやろが〜?」
「なっ……、んなのしてねーてッ!」
濡れ衣だ!
オイラじゃねー。
先に、誘ってきたのはそっちじゃん!
「いいや、してたね。授業中、アンタ、ずっと、エロ目使ってたやんっ…?」
「………うっ。」
聞き捨てならないと抗議すると、こうして、あっという間に糾弾される。
つーか、エロ目って、どんな目だよ!
そんなの使っていた覚えはないけど、アナタのことをジッと見ていたのは確かだった。
でも、えっちなことしたいなぁ…と思って見てたわけじゃないよ!
まぁ、キスぐらいは…とは思ってたけど…それって、エロ目使ってたことになるのかなぁ〜。
エーっ! んじゃ、やっぱオイラが悪いの?
でも、そんな色っぽいカッコされたら誰だってムラムラくんじゃん。
しょがないじゃんよォ〜。オイラ、若いんだしぃ…。って、あれ?
口ごもったオイラに、彼女は、「ふふん」と勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
ちくしょー。また、負けた。
でも、やっぱり、近くで見てもすっげぇいいオンナ。
恋人だけど…いつだってそう思うよ。
ホントにホントにオイラ、この人と付き合ってんだよね? って、何度でも確認したくな
るくらい自分にとっては信じられないことなのだ。
心臓がばくばく言って破裂しそう。半年も付き合って、まだこんな反応なのも変だと思うけど。
好きすぎて、オイラの頭がおかしいんだ…。
こんなのぜったいこの女にだけは知られたくない。
だって、裕子を見ながらドキドキしてるのバレタラ、めちゃくちゃ揶揄われるに決まってるもん。
「久しぶりやな…。」
「なにが…?」
数学教師の仮面が外れると恋人の顔になった。
照れくささも相まって、どう対応していいの戸惑い思わず仏頂面になる。
真っ赤な目を潤ませて、彼女を睨みながら、唇が尖っていくのに気づいた。
「ん? ヤグチとこうすんの……。」
なのに、そっちだけ素直になっちゃってさ…。
これじゃ、精一杯強がっているオイラが、バカみたいじゃんかッ。
もう、顔が近すぎるって。こんなに近いと恥ずかしくてまともに見れない。
でも、人差し指に、クイッと顎を持ち上げられて、逸らせてもらえなくなる。
いまのオイラの心境も見透かしたように、うれしそうに口の端を持ち上げながら、艶々の
赤いルージュが迫ってきた。
- 181 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:04
- 薄い肉厚。綺麗に塗られたグロス。授業始まる前から、ずっと思ってた。
魅惑的なそれとキスしたいって。
暴れる心臓を宥め、ようやくその想いが叶うんだと睫を重ねると、息も掛かる距離で彼女は
その動きをピタリと止めた。
あれ…??
裕子? 裕ちゃん??
どうしたの?
薄く目を開けると、恋人が、困ったように苦笑してみせた。
「あかんは…、ポーチ持ってくんの忘れてもた…。ってことで、今日は、キスなしやな…。」
口紅がないとキスは出来ないと軽い口調で言ってのける。
すっかりその気になっていたオイラは、思わず声を荒げた。
「ええぇ〜!!」
「わあっ、ちょ、コラて、大きい声だすなや。んも、見つかったら大変やろっ!」
「なにしてんねん」と低くメッて睨まれて。
手のひらに、むにゅうと口を押さえつけられる。
軽くあしらうような仕草に、オイラは、きりりと歯噛みした。
でも、そういうふうに言われちゃうと余計にしたくなるものだ。
そう思えば思うほど我慢できなくなる。ものすごくキスしたい…。
めっちゃ、裕ちゃんとチュウしたいよ。
ねぇ、したい、超したい、したーいしたーい。
お腹の中で、淫らな欲望が、むくむくと募らせた。
でも、こうまでなったら軽いチュウだけじゃきっと物足りないだろう。一度してしまった
ら、それこそもっとしたくて堪らなくなるに決まってる。色っぽい恋人を前に、そんな我慢
が出来るとは到底思えなかった。
じゃ、やっぱり我慢するしかないのか。
ちぇー。いつも用意周到なくせに、なんでこんなときに忘れてくるんだよう!
ひどくがっかりしているオイラに苦笑した彼女は、一瞬だけ顔を上に向けて、それから
にやりと微笑んで見下ろしてきた。
喩えるならば、悪巧みを思いついた悪代官みたいな顔…?
「んじゃさ、矢口、あ〜して…?」
「…へっ?」
顔とは裏腹の甘い声音。
「あ〜」て、言いながら、自分も大きく口を開けた。
な、なんなんだよ。急に歯医者さんみたいなことするなよ!
戸惑いつつも艶かしい恋人の口の中を見ながら、オイラも真似をして大きく口を開いた。
「ん。べーて…?」
「………うっ。」
- 182 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:08
- どうでもいいけど、どうして、擬音で話すの〜!
オイラは小学生じゃないやい。
唾液で濡れた裕子のピンク色の舌が突き出された。
急に恥ずかしくなって下を向く。
でも、顎に掴まれていた指に元通りにされる。
指先で、『早く…』と催促された。
「ん。ほらぁ……。」
「…っ…。」
猫をあやすかのように喉仏をゴロゴロされた。
頬を擽る甘い声音がくすぐったいよ。
左手が首の後ろにやってきて、右手が、頬をやさしく包みこむ。
それでも、まだ躊躇していると、
「んも、早く…ッ…。」
「…っ。」
低めの色っぽい声で、せっつかれて、仕方なくおずおずと舌を出した。
あー、もう、こんな顔見られんの、チョー恥ずかしいって。
「……もっとや、もっと、ベーってだしてみぃ…?」
相変わらず子供みたいな言い草にムカッとしながらも、言われたとおりに意地になって大きく
伸ばす。なんか、ストーンズのロゴみたい?
それを見ながらスケベったらしい顔で、にやりと微笑む年上の恋人。
甘い匂いが、徐々に近づく。
犬のように大きく垂れ下がった舌に、ぱくっと噛み付いてきた。
思わず背中がビクンてしなる。
いきなり舌を舐められたのは初めてのことだった。一瞬、何が起きたのか分からなくて
でも、その行動が、唇を付けないようにしているのだと後で気づいても、どうしたらい
いのか頭がひどく混乱してた。
驚きすぎて目は開ききったまま閉じることを忘れてしまった。裕子の赤いベロがオイラの
ベロと、唾液を混じあわせ、淫らにレロレロとディープなキスしていた。
キス…。これって、キスなんだよね?
裕ちゃんとキスしてる。
そう、さっきまで教壇に立っていたあの教師と、だ。
舌を舌先でくすぐられて、背筋がぞわっとなる。
引張られて、齧られて、トイレの壁に押しつけられたまま何度も絡め取られる。
ぴちゃぴちゃとやたら卑猥な音が、オイラの甘い息と二重奏になって余計に興奮を煽った。
「やん、っ、あっ、んっ」
初めての経験に瞳がじんわりと潤みだす。
だって、スゴイよ、これ。
なんか、えっちぃよ、裕ちゃん。
全校生徒がみんなは机に向かって勉強しているのに、アタシたちは、こんな場所で、こんな
淫らな行為に耽っているんだ。
そんな背徳感もスパイスに加わり、ますます胸を高ならせた。
「…んっ、やぁ……ッ…。」
「したかったんやろ? 気持ちいい?」
「…っ、しやべんな…ッ、あっ、やっ、んんっ!!」
飲み込みきれずに唾液が、だらだらと垂れていく。
- 183 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:12
- 「っ、んか、やらしいっ、てッ…これ…。」
「……せやなぁ。でも、ええやろ?」
「…んっ、ちょっ、まっ…!」
ストップの声もピチャピチャという淫らな音に掻き消されてしまう。
裕子の動きも大胆になる。今度は、歯や、歯茎、舌の裏側も、口の奥まで余すところなく
嘗め尽くされた。
ぬめぬめと粘膜同士が擦れあう感触を十分に堪能する。
二人分の唾液が、顎を伝ってポタポタと下に落ちていく。
あまりの執拗さに、息苦しくなってオイラは、舌を引っ込めようと試みる。
けど、それさえも許されない。
さらにひどく噛み付くようにされて、激しく唸りながら泣きそうに首を振り続けた。
「はぁ、んくっ、はぁぁ……。」
声にならない声が、口の端から洩れていく。
普段じゃないキスをしているだけで、身体は異常なくらい興奮してた。
膝がガクガクする。立っていられないよ。
下着のあの部分が、すでに湿ってきているのがわかった。
たったこれだけで、オイラの身体はこんなにも熱くなってしまってた…。
苦しい…。
もう、だめ…倒れちゃう。
急に力が抜けて、くたんと彼女の胸に凭れ掛かった。
彼女のスーツにしがみつく。
そのやわらかい胸から、ふわりと定番の甘い香水と、僅かに石灰の匂いがした。
マラソンを終えたときみたいにぜいぜい言いながら目を開けると、裕子は、息一つ乱さずに
ヘラヘラと笑っていた。
あんなキスしといて、自分だけがヘロヘロになっているのに、裕子はぜんぜんへっちゃら
みたいなのが、負けているみたいでなんか悔しかった。
キスに勝ちも負けもないんだろうけど…。こんなキスしておいてなんで、アナタは
平気でいられるの?
潤んだ瞳で、もう一度恋人を見つめる。
テラテラと赤く淫らに濡れぼそっているそこにどうしても視線が向く。
濡らしたのは、アタシだ。
裕ちゃんのキスは麻薬と同じ。
さすがの自分も、それだけは手をだしたことがなかったけど、目が眩むほど眩しくて
何度でも欲しくて堪らなくなる。ひどい喉の渇き、小刻みに指先が震えてくる。
キスの禁断症状だ。
あぁ、もっと、もっと。こんなんじゃ足りない。もう我慢できない。
彼女が色っぽく口の周りについた唾液を舐めた瞬間、抑え込んでいた感情が一気に爆発した。
- 184 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:15
- 踵を上げて、ちょっとだけ背伸びする。
華奢な両肩に手を掛けて、顔を寄せていく。
一瞬、驚いたような恋人と目が合ったけど無視する。
ジッと見つめたまま、狙いを定めて徐々に距離を縮めていく。
軽く薄い唇が触れ合う。
でも、足りない。もう一度。
啄ばむように…。くっつけて離して、また吸い込まれるように形のいい唇を押しつぶす。
うわっ、なんか、すげェ気持ちいいかも…。
ぷにぷにしたやわらかい弾力。
口紅の独特の甘い香り。
それをもっと感じたくて舌先でソロソロとなぞった。
淡い鼻息が間近に聞こえる。アタシを抱きしめる手が強くなる。足りない、もっと。
すっかり自分の行動に酔いしれていると、ちいさく「ヤグチ」と赤い唇に呼ばれて、ゆっく
りと瞼を開けた。
ガラス玉のようなキレイな瞳が、ジッとこっちを覗っていた。
青に近いグレー。近くで見ると不思議な色合いに見蕩れてしまう。
付き合いはじめて半年もなるのに、いまだにこの瞳をみるとたまらなくクラクラする。
胸のドキドキは、収まることを知らない。
なんで、こんなに好きなんだろう…。そんなの自分でも分からない。
でも、ヤバイくらい好きなんだ。
窘めようとする手を振り払って、強引に口の中に舌を差し入れた。
やだ。止めたくない。足りない。もっとしたい。欲しい。アナタからもして?
触れるだけのキスじゃ収まらない。
早くその気になってよ……。唾液を摂取するくらい激しくアナタが欲しかった。
「ンンッ、…ちょォ、だから、あかんて、コラ!」
「……ゆう、ちゃん、ゆう、ちゃんの口の中、すごい熱い、よ…」
「もォ、…やらしいこと言いなや。あッ、…かん、て、ヤグチ、口紅………。」
だいじょうぶだよ。
なんて保障はどこにもないけどさ。と、心の中だけで呟く。
彼女のような技巧もなにもなく、ただひたすらに口の中で舌を動かしていると。
お返しのように彼女のなめらかな舌が、坑内に入ってきた。
思うままに口の中を蹂躙された。
感じる他人の温度。すっかり覚えた恋人の唾液の味。
キスが、どんどん濃厚になっていく。
眩暈がするようなすっごい口付けの応酬に、あっさり主導権を奪われていた。
唾液を交じあわせて、ジューズみたいにゴクゴクと飲み込む。
こんなことをするたびに、とてもいけないことをしているようなそんな気分にさせられる。
- 185 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:19
- 教師と生徒というアタシタチのカンケイ。
それに加えて女同士という二重の禁断の恋だ。
ホントウならば、もっと後ろ暗さのようなものを感じなければいけないのかもしれない。
アタシタチみたいなのは、もっとひっそりと慎ましやかにレンアイしていなくては…。
だけど、そんなの性に合わない。人目を忍んでこそこそなんてウチらのガラじゃない。
アタシたちは、このヒミツの恋をおもいきり愉しんでいた。
不良教師に不良少女か…。
なかなかいい組み合わせなんじゃん…?
いけない教師の顔をジッとみる。
唇を押しつけても、彼女は、もう怒らなかった。
多少、口紅が剥がれたところで、まさかアタシたちがキスしてきた…なんて誰も思わない
だろうと思ったのかもしれない。
あぁ、知らないって、幸せだよね?
いるんだよ、裕子。いま、アタシたちがなにしてるか呆れている人たちが。
そんなの言わないけど…。
だって、いまさら、教師面されても困るしね。
「……脱いで?」
唇がようやく離れると、唐突に彼女が言ってきた。
オイラは、上ずった呼吸を取り戻すのに必死で、その意味がすぐには理解できなかった。
だから、もう一度聞き返した。
「…へっ?」
「クッ。アンタ、“へ”が多いなぁ…。ほら、一人で出来るやろ? 自分で脱いで…?」
腕組みしながら、えらそうに命令してくる教師の声に、カーっと首が熱くなる。
つーか、どうしていつもそんな幼稚園児に話しかけるみたいな口調にするんだよう!
いつも文句言うけどぜんぜん改めてくれない。へたしたら、赤ちゃん言葉を使われる始末…。
そのくせ、言ってることはかなり際どくって…。
そう思いながら、今日はスルんだなって思った。
圭ちゃんは眉を顰めるけど、いつもいつも授業を抜け出してえっちなことばかりして
いるわけじゃない。
キスだけで終わることもあれば、いくところまでいっちゃうときもあるけど。
それを決めるのは裕子で、彼女のその日の気分に、オイラはいつだって振り回されている。
でも、オイラは、なんだってして欲しいと思ってる。
学校でスルのはキライじゃない。
むしろ、スキなのかも。
落ち着かないし、ちゃんと抱き合えないのは不満だけど、教師している裕ちゃんとこういう
ことするとなんかいつもより余計に感じちゃったりする。
それは、優越感に浸れるからだ。
35人の中のオイラじゃなく、矢口真里を中澤裕子が見てくれるというのが。
いつだって特別扱いされたい。
オイラは、お前らとは違うんだぞって思っていたい。
なにも、授業中に抜け出してまですることもないじゃんかとは思わなくもないけどね…。
- 186 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:23
- 「早くしいよ!」
「…………。」
「フン。出来ないの、ヤグチ?」
「で、できるよ…。」
ムッとしながらなにか言いたげに見上げると、時間がないのだと急つかれて、それにつら
れるようにオイラは、慌てた手つきでタイに手を掛けた。
キスの後遺症なのか、なんだか催眠術にかけられたみたいに従ってしまっている。
でも、その上から手のひらをギュって包まれて見上げると、彼女は、口の端を持ち上げて
ちいさく首を振った。
「…だから、そんな順序辿ってるような時間はないねんて。下だけでええから…。」
顔がこれでもかと熱く茹だった。
そんな直接的な言葉使うなよッ!
それでも、しばらく躊躇していると、カンカンと焦れたようにヒールを鳴らす。
「なん、もう、早くし…。」
ついでに、わざとらしく腕時計にチラッと目をやる仕草。
時間がないのは、わかってる。
あまり帰りが遅いと喜ばれるとは思うけど、怪しまれる確立も大だ。
でも……やっぱ恥ずかしいよ。
「う、や、あの、ねェ、…このまま…でも?」
「ふ〜ん。ま、アタシは、どっちでもええけど…。汚れたらいややないの…?」
上目遣いでちょっとばかりの反論も、あっさりと覆された。
確かに…彼女の言うとおりだ。
ただでさえ人よりも長いスカートで、こんな不衛生な場所でそういう行為を及びたくはなかった。
唇をきつく噛みしめながら、後ろ手にホックを外した。
チャックを下ろすと、ストンとスカートが落ちそうになる。
彼女の手を借りてバンザイすると、それを上から取り去ったくれた。
裕子が、それをフックに掛けると、間抜けな格好になり果てた。
上だけセーラー服で、下だけパンツ…。
うっ…、なんていうか、かなりバカっぽい…?
あまりのことに膝をつき合わせて、モジモジする。
なのに、彼女の声は容赦がなかった。
「これもや……。」
腰骨のゴムをパチンと弾かれて短く告げられた言葉に、今度こそ泣きたくなった。
「やだぁっ……。」
家でならまだしも、こんなフツウじゃない場所でそんな格好はしたくない。
日差しが入って明るいし、誰がいつ、ここに入ってくるか分からない…。
なにより、そこに裕子がいる。絶対やだよ。
だけど、女王様は相変わらず有無を言わせない。
「ええけど。換え持ってきたん?」
「うぅっ……。」
さらっと前髪を持ち上げて、「アタシは知らんでぇ」と得意そうに口の端を持ち上げながら。
意地の悪いことを言うときのこの人の顔が、一番美しいと感じてしまうオイラは、
どこか病んでいるのだろうか…。
アタシが濡れやすい体質であるということは、誰よりもこの恋人が一番よく知っていた。
いつかみたいに、コンビニで買うわけにもいかない。
この先、この下着のままでずっと過ごさなければいけないことを考えると、彼女の言葉に
従うしかなかった。
- 187 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:25
- 彼女の肩を借りながら下だけ全部脱ぎ捨てた。下着まで取り払われると、どうしようもな
い羞恥心に襲われる。
だから、恋人の視線から遮るように、そこに両手を翳した。
裕子は、そんなオイラの姿をジッと見下ろしながら。
にやっと、また人の悪い笑みを浮かべる。今の顔を喩えるならば、スケベったらしい顔で、
OLのケツを眺めるセクハラ上司…てところか。
けれど、そんなささやかな抵抗は、欲望の前では霧散する。
「なぁ、そんなにガチガチにならんと、ほら、もっと脚開いて…?」
「…………。」
あぁ…。どうしていちいち、そうやって命令するんだろう。
いつも思うよ。
黙ってやってくれれば恥ずかしさも半減するのに…って。
でも、知っている。
彼女は、わざとそうしてるんだって。
アタシを恥ずかしがらせるのが目的なんだって。ちくしょー。そう、心の中で悪態をつき
ながら、性能の悪いロボットのように従った。
じりじりと言われたとおり脚を開け離す。肌寒さにぶるっとする。
「だから、それじゃ、触れないやろ? もっとや…。」
「……うぅ…。」
「ヤグチ、できないの? たく、しゃぁないなぁ…。んじゃ、ここに脚乗っけてみぃ…?」
今度は、蓋を下ろした便座に片足を乗っけろと命令してくる。
オイラの瞳は、あと一歩で水滴が溢れそうなほど溜まっていた。
やだよ、そんなの恥ずかしい。
躊躇していると、パチンと太腿を叩かれて彼女の叱咤が飛んでくる。
いくら早くと急かされても、固まってしまった体が思うように動いてくれない。
「フン。いやならええよ。んじゃ、このまま帰ろか…?」
焦れた彼女は、冷たく言い放った。
顔を上げると、「アタシは、別に困らないで…」と妖しく讃える笑みに、オイラは悔しく
てギュっと歯噛みした。
確かに裕子は、ここで止めてもどっちでもいいのかもしれないけど。
オイラは違う。キスだけですっかりその気になってしまっていた身体は次の愛撫を性急に
求めている。
なにも言い返せずに、彼女に従うしかないのが悔しい。
唇をきつく噛み締めたまま、じわじわと言われたとおりに脚を開け放す。
片足を便座に乗っけると、ひどく落ち着かない気持ちにさせられた。
それでも、あの場所が、彼女の位置から見えないのが、せめてもの救いだった。
頬が痛いほど赤らむ。涙腺も緩んでくる。
――そこに触れられたのは、いきなりだった。
- 188 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:29
- 「ぁッん。……ちょッ、冷た…ッ…ぃ…。」
突然触れらてきた冷たい指先に、感電したみたいにぶるっと飛び上がった。
放熱するほどの体温にその冷たい温度差に身体が対応しきれなかった。
「あぁ…。冷たかったか? ごめんなぁ…さっき、手ぇ洗ったから…。」
「だって、チョーク付いた手で体内に触れたら危ないやろ」と耳元で唆されて、耳たぶご
と、ぶわっと熱くなる。
もう、なんで…そんなあからさまなことばっか言うんだよ。
今日は、“入れる”こと前提みたいな…。
なんだよ、さっきは、オイラが誘惑したせいみたいなこと言ってたくせにさ…。
ヤメルみたいなこと言って、裕子だって、その気だったんじゃん。
いつの間に、手を洗っていたのか、ぜんぜん気づかなかった。
そんな余裕もなかったのかと思うと情けなかった。
「……触る気まんまんじゃんか…。」
彼女を見ぬままぼそっと呟くと、それを聞きとめた教師が、にたりと片頬を上げる。
「そっちこそ。クッ。ほら、どうしたん? ここは、触られる気ままんみたいやけどォ〜…?」
「あぁ、んぁ、……やあぁん…。」
指が直に触れてきて、クチュと淫らな音が静かなトイレに鳴り響く。
弁の立つ裕子に何を言っても、どうせ適わない。
何倍もの威力で、こんなふうに一息に糾弾されるのがオチだった。
しかも、アタシのその発言が彼女の意地悪に拍車をさせたようだった。
「なぁ、授業中、あんなに見つめてきて、ずっと、こうされたかったんやろ…?」
「ちが…ッ…。」
「ヤラシイ子ォ…。触られる前からこんなにしちゃって…。」
「やっ、ちがっ、ちがうよッ…。」
これは、裕子がキスしたからで…。
でも、その言い訳は、声ごと奪われた。
チュってキスされて、彼女の舌が、アタシの舌を絡め取る。
下唇に歯をあてると、びよんて引張った。
ちくりとした痛みに目を細める。
「なぁ…。さっきはエロ目使って、なに想像してたん?」
「……ッ!…あッ…んんっ!!」
「えっちなこと考えてたんやろ…なぁ?」
「してな…。そんな、こと、してな…ッ…。」
「うそつきなや。なぁ……ヤグチぃ…アタシになにされたかったん?」
やだってば。ちょ、耳元で、んな色っぽい声だしてしゃべんなよォ。
ゾクゾクする〜。
彼女がしゃべるたびに、変なところを擽られて、腰が淫らに動いた。
「なぁ、なぁ…。」
「あっ、もっ、バカっ、しつこいって。あっ、やぁん――っ!!!」
「ククッ。あららら、どうしたん、もう、入っちゃったで…? まだ、なんもしてないの
になぁ…。」
指が、身体の奥に入ってくる。
いつもの散々胸の粒を弄られたり、一番敏感なアレを苛められたりという行為は一切省かれ
て、ホントにいきなり突きたてられた。
慣らす前に指を入れられても、痛みはまったく感じなかった。
その理由は、彼女に教えられる。
- 189 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:32
- 「なにこれ、ヌルヌルやん〜。」
「ううっ、ヤダぁ………。」
「ヤダちゃうで。すっごい熱っいわ、アンタん中……。」
片足だけでの行為が、いつものそれとは違って。
ちゃんと踏ん張っていないと、ヘナヘナと崩れちゃいそうになる。
裕子の指が一往復するたびに、ぴちゃぴちゃと淫らな音が鳴り響く。
目の前が赤く染まって、頬が焼けるように熱かった。
体内に収まる裕ちゃんの人差し指。
さきほどの冷たさは一切感じなかった。むしろ、熱い固まりを押し付けられているようで、
火傷しそうなほどの熱を感じた。
「すごいなぁ、ほら、グチュグチュ言うてんで…聞こえる?」
「…ッ、はぁ…やっ、ゆうこ、もう、しゃべ、んないで……ッ…。」
「ククッ。びちゃびちゃやん。ほらぁ、みてみぃ、パンツ脱いどいて正解やったやろがぁ…?」
「ッんも、うっさいッ!」
「アタシの言うこと聞いてよかったやろ」としたり顔で覗き込まれて、ムッと顔を顰める。
意地悪を言うたびに、生温かい吐息が頬に触れてくるのが、ひどく恥ずかしい。
震える睫。ほんの数センチ先にある恋人の顔。興奮しきっている顔を、間近で覗き込まれ
ているようで、身体を見られたときに感じる恥ずかしさとはまた違った羞恥心に頬を燃え
上がらせた。
「なんこれ、今日は、一段とすごいやん。まだどこも触ってないのになぁ…」
なのに、煽るように絶えず耳元に吹きかけてくる。
どうして、この人は、こんなに意地が悪いんだろう…。このいじめっ子がッ!
「クッ、なぁ、ヤグチ、ほら、聞こえる? エロい音…。」
「やぁだっ、裕子、んも、しゃべん、なよっ、…ッゃぁ…だめ、そんなに、激しく、しな
いでぇ…。」
身体を捩って抵抗しても、狭い個室だ。動けるスペースなんてたかが知れていた。
あっという間に細い腕の中に抱き込まれて、指をもう一本突き立てられる。
圧迫感がさらに増す。
「ああぁ〜ん…。ダメそんな、いやっ……。」
「ん〜? いややないやん。激しいほうが気持ちええんやろォ〜?」
「あぁ…。ひゃ、気持ちいい…けど、…だめッ…だよ…だめだったらっ。」
あっけなく力が抜けてしまって、慌てて彼女の細腕にしがみ付く。
いつもよりも高速で官能が訪れ、止められない喘ぎ声がトイレの個室のドアを甘く震わせていた。
「えっちな子やなぁ。学校のトイレでこんなんさせて…。」
「いやっ、……そんなの、言わ、…ない…でよッ…。」
「授業中なのに、先生の指、こんなところに入れられちゃって、なに、感じてんのよ?」
「……あんっ、ちょ、やだ、オイラじゃない…裕子ッ、んあぁ〜〜……。」
言葉を言わせまいと、指が、激しく抽挿を繰り返す。
中で粟立てるように、激しく。
頭のなかが、そのことばかりでいっぱいになってくる。
- 190 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:36
- 「ほらぁ、そんな大きい声出したら聞こえちゃうで?」
「下は職員室やからビックリして誰か先生来ちゃうで」と揶揄われて、本気で泣きたくなった。
声を出すなというくせに、指は、よりいっそう激しさを増す。矛盾をつく余裕なんてない。
「すごいなぁ。最近、また感度上がったかな、ヤグチ…?」
「し、しらないッ。……んも、そういうことばっか言うなって!」
普段はそんなに口がうまくないくせに、どうしてこういうときだけ饒舌になるのだろう。
触られて、聴覚からも苛められて、こみ上げる羞恥心にきつく唇を噛み締める。
自分でも身体が変わったことに気づいていた。
なんか彼女の愛撫に慣れるように、日ごとに過敏になっているような気がする。
するたびに、この行為が好きになる。
もう一つの手のひらが、さわさわとお尻のほうを撫でていた。
マッサージするにしては、激しく揉みこまれて、掴まれて、悲鳴を上げながら、オイラは、
ようやくそのことに気づいて、思わず間抜けな声をあげた。
「ひゃっ、あれ、ね、そこ、間違ってるョ…。」
「ん〜? なにがぁ?」
「あんっ、ちょ、裕ちゃんッ! そこ違う、違うってば。」
激しく揺さぶる手首を掴むけれど、彼女は、なかなかその動きを止めてくれない。
てっきり、穴を間違えたのだと思ったそれは、次の瞬間、彼女の思惑通りなのだと
知り唖然となる。
「なぁヤグチ、なんかこっちですんのもええらしいで…?」
は???
えっ??!
な、なに言ってんの、裕子?
言いたい言葉が、喉の奥で詰まった。
裕子のもう一本の人差し指が、後ろの穴を擽っていたから。
その瞬間、かえるのようにぴょんと飛んだ。
そんな場所、人に触れられたことなんてない。
そもそも、用を足すとき意外、自分でさえ、そんなところに触れたことはなかった。
なんかとんでもないことをされそうな予感に、サーっと顔が青褪める。
「ちょ、ちょと待って。えっ、やだ、つーか、裕子、どこ、触ってんのッ!!」
「ん? お尻やん。気持ちよくない…?」
「よ、よくない! なに、ちょ、や、やだ、やめてよッ、汚いってばッ!」
オイラの反論なんてお構いなしにお尻の皺を撫でるように、爪先で引っ掛ける。
あぁん、うそ。やだやだー。
マジで冗談じゃないよ。そんなところは絶対にイヤだ。
お尻を揺り動かして、その手からなんとか逃れようとする。
けど…。
- 191 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:39
- 「ほら、ジッとし。…だいじょうぶやて。アンタに汚いところなんてない…。」
うれしいのか、恥ずかしいのか分からない言葉を掛けられて、「ふえん」と泣きたくなった。
「ええからリラックスし…?」
こんなにも嫌がっているのに、彼女は一向に止めようとしない。
オイラの気持ちを無視しないで。
また、いつものようにおもちゃにされちゃうのかと思ったら黙っていられなかった。
「あ、あん、やだ、そこはダメ。ダメだって。てか、裕子、…なにする気だよッ!」
「ん〜? 今日は、ちょっと、ここに入れてみようかと……。」
「う、うそォっ!」
「試してみたら、結構ええかもしれへんやんか…。」
裕子が、また新たな世界を開拓しようとしている。
この人はどこまで探究心が強い人なのだろう…。て、オイラは、実験台じゃないやい!
もう、そんなことしなくていいのにぃ。
いつもので、十分なのにぃ…。
「いい。いいです。そんなことしなくてもわかるから!」
「ん〜。あかんでヤグチ。食わず嫌いは…。結構病みつきになる人おるって言うしなぁ〜」
「って、何処情報だよ、それ!」
そんなやり取りの間も、決して悪戯な指を止めることはしなかった。
「やだ、やだ、ホントやだって。ひゃ、うそ、…ひあぁああぁ…!!」
なんともいえない声が溢れた。
後ろのほうを悪戯していた指先が、ちょっとだけ中に入ってきたのだ。
それでも、前の場所とは違って、感じる異物感に無意識に押し返してしまう。
「んも、だめやん。なにしてんのヤグチ、そんじゃ入らへんョ。ほら、もっと、力抜き…?」
「や、やだって、言ってるじゃん。そこは、やだぁ…、もうやんなたらっ!」
「ええから、ええから……。」
ええからって、さっきから、なにが「ええから」なの?
裕子は「ええから」でも、オイラは、ぜんぜん「ええから」じゃないよ!
いままでも裕子に付き合って、いろんなことさせられた。
たいていのことは許してきたけど、それだけは、ホントにイヤだ。
そんなところは、絶対に汚いし、彼女のキレイな指で触れて欲しくなんてない。
「やだぁ。やめぇ…。入れちゃ、やだ、って……。」
いくらぐずっても、年上の恋人はヘラヘラ笑っているだけでまったく取り合わない。
実際、オイラがどんなに抵抗したところで、一度こうなってしまったこの人を誰も止める
ことが出来ないことも、自分自身が一番よくわかっていた。
だからって、こればかりは見逃せないから…。
「い…やぁ…い…やぁ…お…願…ッ…、しない…で…ッ…。」
ぐずぐずと洟を鳴らす。
このさい、泣き落としでもなんでもよかった。
直ちにこの行為を止めさせれば。
演技でもなく、自然と涙が零れたいた。こんなのは絶対にイヤだ。
アタシの好きなこの手を汚したくなかった。
手フェチってほどではないが、人の手をみるのが昔から好きだった。
手は、その人の人柄をよく表していると思う。
白くて、長くて、やわらかくて、温かくて、やさしい裕ちゃんの手。
それをいま、自分が汚しているのかと思ったら、ぶわっと涙が溢れた。
- 192 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:43
- 「やぁ、やーめてよ……っ」
オイラが、こんなにお願いしているのに、裕子はまったく懲りずにその悪戯を繰り返す。
ヤグチが、口だけで、なにも出来ないのを知っているんだ。
ぴたりと重なり合う胸から、彼女の心臓の音が聞こえてきた。
ひどく高い体温。荒い息が頬を擽る。
もしかして、苛めながら、感じてるの…?
なんかもう、うれしいのか悲しいのか分からなくなる。
一刻も早く逃げ出したいのに、アソコに入れられたままの指が、ピンで留められた標本の
蝶のように動けなくさせた。
そこからひっきりなしに溢れ出る蜜が、内腿を伝って、靴下のほうまで滴っているのがわかる。
揉み解すようにお尻の穴をマッサージされて、羞恥心にきつく唇を結んだ。
「ほら、力抜きって、そんなんじゃ入らへんやろォ……。」
「い、や、だ、そんなのっ、入らない。……できな……いよ、もうやあぁ……。」
前の部分とは違って、濡れないその場所に、彼女は悪戦苦闘しているようだった。
それで諦めてくれればいいのに、ムキになって押し入れようとするから悲鳴が溢れる。
前の部分からは、おびただしいほど大量に蜜を捻出している。
それを指先に絡め取られて、グリグリと押してくる。
オイラは、必死で息張って拒むけれど、間もなく決壊されるのが近いことも同時に気づいて
いた。
どうして、そんなことするの?
おかしよ裕ちゃん。最近、変なことばっかしようとする。
オイラは、フツウに愛し合いたいのに。フツウのセックスがしたいのに。
ひどく泣かせようとしたり、嫌がることばかりしようとするのは、なぜなの?
「ゆうちゃ、おねが……おねがい…あぁっ、やぁッ…。」
もう、お願いだから、そんなことしないで?
彼女の額には、冬なのにも関わらず、玉のような汗が張り付いていた。
オイラもこんな格好しているのに、肌寒さを感じたのは最初だけだった。
ぴたりと寄り添って、二人の体温が呼応する。
「くうっ、ほら、入る……。」
「うっ、やっ、うわぁァァ……ッ…。」
異物が、メリメリとちいさな穴の中に侵入してくる。
出るだけの一方通行の場所なはずなのに、抗うように体内に収まった。
すごく変な感じがした。
昔、子供の頃にお母さんに座薬を入れられたことを思い出す。
「…痛ァない?」
「………んん。」
やさしい声音に、なみだ目のまま子供のように無意識に頷いていた。
するまでの恐怖は、入ってしまえば、あっけなくなくなっていた。
思ったほどの痛みも感じなかった。それよりも、なんかものすごく変な感じがする…。
そんなつもりは毛頭ないのに、ものすごい力で、彼女の指を締め付けてしまう。
「んぐ、い、痛い。痛いてヤグチ、ちょ、そんなに締め付けたら、アタシが痛いってば。
ほら、深呼吸して…?」
「やぁだ……っ!」
「やだちゃうよ。ヤグチも痛いのイヤやろ…ほら!」
「うっ、もう、………いっ、ふっ、はぁ、ふぅ〜、はぁ〜、ふぅ〜……。」
言われたとおりに深呼吸を繰り返す。
何度かそうしているうちにようやく落ち着きを取り戻すと、自分の置かれた立場を思い返
して、きつく唇を噛み締めた。
苦しい。こんなの辛いよ。また涙がぶわっと溢れそうになる。
痛みからじゃなかった…。
こんなことまでしてしまったという罪悪感に似た感情が脳を支配する。
お尻に指が入っちゃってる。
汚いのに。脚がぶるぶると痙攣するのが止まらない。
でも、目の前の恋人の顔は、そんなオイラのことなんてぜんぜん見てはいなかった。
- 193 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:49
- 「フッ。すごいなぁ、ヤグチ、両方の穴に指、入っちゃってるで?」
そんなふうに揶揄ってくる。
「や………だぁ………。」
「やだでも、もう入っちゃってるしぃ…。」
「…ふえ。あ…やあぁ………うそ、ぜんぶはいってるの………?」
「う〜ん。もうちょいで入る…。――ほら、ぜんぶ入ったョ。なぁ、奥まで、感じる?」
「なっ、…うそォ……うそォ…。」
あんなところに、裕ちゃんの指が、スッポリ入ってるの?
「ふふっ。うそやないよ。お尻にもあそこにもアタシの指が入っちゃってるでぇ。」
「やだぁ。言うなよっ!」
泣きそうになりながら、そんなこと言わないでと激しく首を振る。
身体が、異常に熱い。苦しいよ。なんだよこれ、こんなの知らない。やだ、怖い。
「うわ、痛い、いたたた。こっちはめっちゃきついなぁ…。」
「やっ、もう、そういうこと言うなったら…ッ…。」
オイラはお尻を激しく揺らして、そのたまらない思いを必死で呑みこんだ。
裕ちゃんの綺麗な指が、アタシの体内に二本も入ってしまっているんだ。
腰を動かすたびに薄い壁を隔てて、それが擦れあう感触は、いままで感じたことのない
ような強烈なものだった。
「もうヤダ。だめだよ、抜いて、おねがい、抜いてよォ…。」
感じ始めている身体とは裏腹な言葉が口から零れた。
「ん〜。でも、さっきは、痛くない言うたやん?」
「…じゃ、なくて、そこは、汚い…からぁ……。」
その部分が、行為に使える場所だということは、もちろん知っている。
そこでするのがスキな変態オヤジがいたことも思い出す。
あのときは、痛いのが怖くて、どんなにお金がよくても断っていたけど―。
変態は、オヤジだけじゃないんだ……。
だからって、快感を追い求めていく気にはどうしてもなれない。
場所が場所だけに、排泄をするためのものという意識が強かった。
「汚くなんてないョ。ここだって、アンタの身体の一部やでぇ?」
「やっ、汚いよッ!」
なに言ってるんだ!
そんなところに触れて病気にでもなったら、どうするんだよ。
オイラの大切な手を自分で汚してしまうのが忍びなかった。
どうして、オイラの気持ちわかってくれないの?
それでも、饒舌な彼女に掛かれば、いつものようの簡単に丸め込まれてしまう。
「ヤグチは汚くないョ。こんなにキレイな身体やん。なぁ、ここを触れさせたの
ってアタシにだけやろ?」
「………。」
「なぁ、違うん?」
征服しているのはアナタのほうなのに、眉を八の字にして歪ませている。
なんで…?
急に、どうして、そんな悲しそうな顔しているの…?
「あ、あ、あ、当たり前だろっ!」
そんなことしようとするのお前くらいしかいないつーの!
睨み付けると、どくんて胸の鐘が鳴る。
そんなオイラを眉間に皺を寄せて、どこか辛そうに目を細めて見ていた。
悲しそうな笑みだった。
それで、ようやくわかったんだ…。
オイラが嫌がるの分かってても、どうして、こんなことをしてきたのか。
そう、彼女は、あのときのアタシの告白を気にしてくれていたんだって――。
- 194 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:52
- ずいぶん前に妹が、遭いに来たことがあった。
それは、お母さんが再婚するのだということを報告するためだった。
母親の再婚話は、正直言ってショックだった。
両親は嫌いで別れたんじゃないって思っていたから、いつか、元の家族に戻れるんじゃな
いかってずっと思っていた。
でもあの日、それが、自分だけが描いていた夢物語だったと知った。
母親に捨てられたという事実だけが、その後に虚しく残った。
あのあと、どうしようもない切なさから裕子に逢いに行って。
彼女に抱きしめられながら過去のすべてを洗いざらい話した。
身体を売っていたことも。なにを思いながら、そうしていたのかを裕子は、黙って聞いて
くれていたけど…。
「ゆう、ちゃん……。」
「アンタは、キレイや。こんなにキレイな身体。アタシがなによりも夢中になるくらいにな…。」
「……ゆうちゃん。」
「なぁ、言うとくけど、アンタにだけやで、アタシが、こんなことまでしたくなんの…。」
「………。」
「めちゃキレイや、汚いところなんてどっこもない…キレイやキレイや…。」
そう耳元に囁かれて、胸がきゅって痛くなる。
「なぁ、アタシだけやな、ここに触れたのは…?」
「……うん。」
もう一度確認するようにされて、オイラはその目を見ながらちいさく頷いていた。
裕ちゃんが初めてだよ…。
堪らなくなって、彼女の白い首筋にしがみ付く。
あの告白をしてからも、裕子は、それについてはなにも触れてこなかった。
でも、気づいていたんだね。
オイラのほうが、そのことをずっと気にしていたのを。
身売りをしていた身体をアナタに触れさせることに申し訳なさを思っていた。
アナタが初めての人だったら、どんなによかったことかと思っていた。
だけど、どうしたって過去の自分を取り消すことなんてできない。いまさら、後悔したっ
て手遅れだ。
それがわかって、きっと、こんなことをしてきたんだ――。
それに、そこには、ちょっとばかり見えない相手に対する嫉妬心みたいなものが感じ取れる
からどうしようもなくうれしくなっちゃう。
セックスをするのは、アナタが初めてではないけれど。
そこを使うのは裕子が、初めてだよ?
気持ちが解けてくると、自然と身体のほうもやわらかくなっていった。
ついでのようにお尻の窄みを緩めてしまって、彼女の指を奥のほうへ招き入れてしまう。
ジッと見つめあう瞳が大きく膨らむ。恋人が、それに気づいてくすっと笑う。
- 195 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 22:56
- 「……動かしてみても平気か…?」
「…ン。―――でも、怖いョ。ぜったい痛くしないでェ?」
変な場所を刺激されて、尋常ではないほど身体が昂ぶっていた。
こんなの知らない、やっぱり怖い。やだ。助けてよ、裕ちゃん。
拗ねたときのように唇をへの字に曲げる。
それをくすっと笑いながら、チュって小鳥のように啄ばんだ。
「わかってる…。ちゅーか、いままでだって気持ちいいことしかしたことないやろ?」
淫らさを含んだ甘い声に、頬が燃えるように熱くなる。
得意そうに言い放つその顔が、ひどくカッコいいと思った。
この顔がみれるのはアタシだけ。裕ちゃんは、オイラのだ。
なにかを答える前に唇を奪われて、舌をきつく吸われる頃には、なにも考えられなくなる。
お尻に入った指をゆっくりと上下されて、ちょっとの痛みを感じながら自分の息が徐々に
荒くなっていくのをどこか遠くのほうで聞いていた。
「は…ッ、ふぁっ、……あっ…。」
腰が淫らに旋回する。体内に埋まる彼女の指を追い、感じる部分に自然と擦り付けてしまう。
恥ずかしいほど大きく脚を開いた格好のまま、彼女が与えてくれる快楽だけを追い求める。
「ほら、気持ちよくなってきた…?」
それにすぐに気づいた裕子は、揶揄るように言ってきた。
「…あっ、はっ、なにこれ、勝手に、怖い……やだよォ…。」
一往復するたびに彼女の指に慣らされて、その部分が徐々に性器になっていくようだった。
前の指も同時に抜き差しされると、初めて起こる快感が怖くて、涙が果てしなく溢れ出る。
呼吸が乱れる。下腹部の痙攣が止まらない。
「ひィ! やっ、やぁ、やぁぁ……ゆうちゃ、怖いよッ…。」
「怖くないよ。アタシや、アタシがしてるんやで。ヤグチ、ちゃんと目ぇ開けて見て…?」
そんなの恥ずかしい。聞けない。
いやいやと首を振りながら、スーツにギュとしがみつく。
じゃないと、ちゃんと立っていられそうになかった。
彼女の肩に涎の染みが、じわじわと広がっていく。
お尻の入る指は、ゆっくりと探るように緩慢に動いていた。
前に入る指は、逆に激しく揺すぶられる。
ついでのように親指で、膨らんだ突起を悪戯されると、耐え切れずに腰が淫らに動き回った。
「やあぁ、そんなにいっぱい、苦しい…やめて、あぁ、そんなにしたら、だめッ……」
いろんな場所から同時に与えられる快感に、慣れない体は切れ切れの悲鳴を上げる。
両手で口を抑えつけられても、そのわずかな隙間からひっきりなしに零れていく。
彼女の指に煽られるように、腰が前後に激しく動き始めた。
「あぁ! やだ、なにこれなに、やっ、とまんない、恥ずかしい…よッ…。」
「くっ、ヤグチ、かわいいで。ヤグチ、ヤグチ…。」
彼女が、何度もアタシの名を呼ぶ。
チュって、唇に吸いつかれて、ジッと顔を見られているのに気づいた。
オイラは、いやいやと首を振る。
やだったら、こんな恥ずかしい顔、見ないでよ。
それでも、犬の交尾シーンみたいに淫らに動く腰をどうしても止めることができない。
見ないで欲しいのに、至近距離で覗き込まれて、胸が潰れて死んじゃいそうになった。
- 196 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:00
- 「ふぁ!……すごっ、なに、これ……ッ…。」
奥にあてがわれた指で、中をめちゃくちゃにかき回された。
あまりに激しい抽挿に、たがが外れたように意味不明な言葉が溢れ出る。
早く解放されたいと、また腰が激しく揺れ始める。
「ああぁ…いっ、……くっ、も、だめ…ッ…。」
「は? もうイクん?……これも、気持ちいいの、ヤグチ?」
「気持ちいいッ。あ、やっ、もォ、だめだって、あぁ、あっ、イク、イッちゃうッ……。」
「はは。イクイクって、いったいどこ行く気やねん…。まだや、まだイッたらだめ…。」
そんな意地悪を言いながら、指を抜こうとする。
オイラは、それを追いすがるようにはしたなく腰を揺らした。
逃げまどう指を追い求めると淫猥なダンスしているようだった。彼女がくつくつと
笑う声が遠くのほうで聞こえてくる。
恥ずかしい。こんなときに悪戯を仕掛けてくるなんて酷い。
でも、なにも言い返せなかった。
容赦なく突き上げられて、さらに奥を探られるとそればかりに意識が集中する。
「ああぁぁ……あぁああッ、もう…。」
「まだやで。まだだめや……。アンタは我慢が足らん。ちょっとは辛抱しぃよ…。」
「あぁ、なんで…だめっ。イクもん…イッちゃう……ゆうちゃ、イクぅ―――……ッ!!!」
足の指が攣りそうなほど反りかえる。下の階にまで聞こえてしまいそうなほどの一際高ま
った悲鳴。
彼女は、唇を塞いでその声を食い止めた。
そのまま、温かい息が送り込まれる。
肺がヒューヒュー言っている。
気づいたら、あっという間に、その腕の中に堕ちていた。
自分でも驚くほどの早業だった。そこからポンプのように快感が一気に吹き上っていく感じ。
ようやく終えたのだと大きく息を吐いた。
彼女の指を含みながら、まだ、プルプルと痙攣している太股。
ゆっくりと指が引き抜かれると、内腿に、ツーと水滴が滴り落ちていく。
おそるおそる濡れた瞼を開けると、彼女がにっこりと微笑みかけてくる。
散々泣いて、腫れぼったくなった瞼にチュってされる。
まだホカホカと熱の残る指で頬を撫でられて、急に、忘れかけていた羞恥心がよみがえった。
また、学校でヤッちゃった。
なにか言わなきゃと頭のなかで考えて、どれもこれも言葉にならずに喉の奥で押し留まった。
最初に声を発したのは彼女だった。
「てか、早すぎやッ!」
くすっと笑われたまま、鼻先を「あぐぅ」と齧られた。
オイラは、赤く染まった頬を両手で押さえながら、唇を噛み締める。
確かに、その通りだっただけになにも言い返せない。
ずいぶん長いことされていたようだったけど、時間をみれば、あっという間だった。
「ふふ。最短記録やったな、矢口? おめでとうさん。」
「う、うるさいな!」
振り上げた猫パンチは威力を失って、彼女の胸の前でヘナヘナと崩れ落ちた。
強すぎた快楽にまだついていかれない身体は、歯向かう気力さえも奪い取られた。
「あははっ。しっかし、アンタやからできるんやで。授業中にこんなこと…。」
「………。」
そういえば、授業中なんだよね?
なにやってんだ、オイラ…。
「あかんていつも言うてるやろ。そういうときはな、九九を唱えるんや。七の段。分かる?」
「………う。」
バカにされているのかなんなのかわかんない言葉を掛けられても、悔しいけれどなにも言
い返せない。
自分がもしも男の子だったら、早すぎるというのは屈辱的な言葉には違いないだろうが、
それが、女の子の場合はどうなんだろうね…。
- 197 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:04
- 感度がいいと喜んでいいのか。
それとも、根性なしだと落ち込まなければいけないのか、なんか複雑だよ…。
ま、裕子が、笑っているから、それも“よし”ということなのかな…?
なんだかんだと結局はいいようにされてしまって。
終えたら言おうとしてた山ほどあったはずの文句も子供にするようにパンツを穿かされて
いるうちにもうなにも言えなくなった。
気だるい様子で乱した髪を整えて、トイレの鏡の前に立つ。
その顔が異常に赤らんでいることに気づいた。
目もうるうるだ。唇もひどく腫れている。
彼女の言うイヤラシイ空気をプンプンに漂わせていた。
これじゃ、圭ちゃんたちじゃなくても、なにをしていたのかバレバレだって…。
なのに教師ときたら、来たとき同様のポーカーフェイスで。
隣で、鼻歌交じりに手を洗っている。
オイラをこんなにさせといてさ。
ちくしょー。またやりたい放題されちゃったじゃんッ。
それにしても、裕子って、ホントに凄い人だ。
オイラがずっとウジウジと悩んでいたことを、こんなふうにあっさりと解決させちゃうなんて。
お尻一つでそうなったのかと思うと、“さすがにそれってどうなのよ?”って感じだけど…。
ずっと心の奥底に沈んでいた重たかったはずの枷がようやく外れて、ひどく楽になったこと
だけは確かだった。
つーか、そんな初体験の思い出の場所が学校のトイレなんて…。
いかにもなアナタらしさに、もう笑うしかなかった。
「ゆうちゃん……。」
裕子のそういうところすごく好きだよ。
続けようとした言葉は、唾液と一緒に飲み込んだ。
こんなに勝手されて悔しいから教えてあげなーい。
飲み込んだ口の中が、なんだか甘い蜜の味がする。
「ん? さて、そろそろ行くか?」
「………ン。」
チュ。
ちょんちょんと曲がったタイを直され。
啄ばむような音が立つと同時に右頬がぶわんと腫れた。
オイラは、彼女をジッとみる。その顔に思わず苦笑い。
ひょうひょうとした瞳の奥に顰めていたものが、なんだかみえてしまった気がした。
こんなんじゃ足りないよね?
せめてもと口付けをせがみたかったけど、それもなんとか我慢する。
いま、唇にされたら、お互いまた止まらなくなっちゃうのが分かるから。
彼女がドアを開ける。
ぶわっと冷気が全身を纏った。でも、火照りすぎているくらいだったからちょうどいい。
ちょっとでも触れていたくて、手を繋ぐ代わりに、袖を掴んだ。
さて、この教師が生徒の前でどういう態度を取るのか見物だね。
そんなことを内心思いながら…。
- 198 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:09
- ◇ ◇ ◇ ◇
あまり聞き慣れないピアノ音にぼんやりと瞼を開けた。
目を覚ますと、色褪せた自分の部屋ではない天井に気づいた。
恋人の部屋のそれだとすぐに思い直して、ホッと息をつく。
暖かな毛布に包まれながら、こうして目を覚ますことも多くなったように思う。
あまりに激しい行為に、最後は、気絶してしまうこともしばしばだった。
はあぁ。
なんか、すごいんだよなぁ、近頃の裕子って…。
どうしちゃったんだろう…。もしかして、発情期とか…?
なんか、遭うたびにそればっかしているような気がする。
今日も、玄関をくぐってそうそう、ベットへ引き摺られた。
昼間っからカーテンも引かずにヤリっぱなし。オイオイ思春期の男子じゃないんだからさー。
そうはいうけど、オイラもえっちはキライじゃないし、裕子から激しく求められるのも結
構うれしがったりしていたのだけど…。
起きれなくなるまでするのは、やっぱ、やりすぎだと思うぞ!
乱れたシーツが、さきほどの惨状を物語っていた。
空いた枕に恋人の残り香があって、思わずスーと吸い込んだ。
いっぱい愛されたばかりの身体は、まだ、その余韻が充分に残っている。
風邪の引き始めのような熱っぽさに似た気だるさが全身を包みこむ。
ふと、皮膚にチリチリと痛みを覚えた。
また、キスマークを付けられたらしい…。
何度注意しても止めてくれない。それどころか、ますます執拗に付けるようになった。
かろうじて見えないところにだけど、体育のときの着替えとかホント、ヤバイんだって。
それも、危うい場所に集中しているような気がするからだんだん怒る気力も失せてくる。
つーか、フツウ、こういうのって、そっちが気にするんじゃないの…?
最近、ホント変なんだよなぁ。
前は、もうちょっとクールな感じだった気がする。
こんなにベタベタするような人じゃなかった。
どっちの裕子が好きかと言ったら、そりゃ両方だけどさ。
静かなクラシックに、ときおりパチンパチンと奇妙な音が重なる。
なにかな?と音の鳴るほうへ顔を向けると、ソファに座りながら背中を丸めている恋人の
姿があった。
どこか甘い旋律は、戦地へ向かう恋人を想う悲しい曲なんやでと前に教えてくれたのを思い出す。
てか、なんて曲名だったっけ?
こないだ聞いたばかりだけど忘れちゃった…。
彼女が、最近よく聴いているの知っている。着メロも確かそうだ…。
その背中が、なんだかひどく寂しそうで…思わず立ち上がった。
重たい身体を引きずって、後ろからふわっと抱きしめる。
「うわっ! ちょ、いきなりなんよ、危ないやんかっ!」
「ごめん…。」
だって、そんなことしてるなんて知らなかったんだもん。
彼女は、新聞を広げながら“パチンパチン”と、足の指の爪を切っていた。
期末試験もなんとか赤点をクリアしたあとは、冬休みを待つだけだ。
彼女の採点も終わって、ようやく二人きりに過ごせるようになれた日曜日の午後。
こういう姿を見れるのは、ちょっとうれしい。
- 199 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:12
- シャワーを浴びたばかりなのか、濡れぼそった髪からポタポタと滴が零れていた。
息を吸い込むとふんわりと漂うローズヒップの淡い香り。
思わず噛み付きたくなるような白い首筋。
あんなに散々したのに、まだ、この人を求めたくて堪らなくなる。
あはっ。これじゃ、オイラのほうが重症だよ。
来るときは、あんなにお天気だった空も、今は、すっかり白みかかっていた。
つーか、何時間ヤッてたんだ、まったく…。
最近は、外出することも少なくなった。
以前は、遠方でもよくいろんなところに連れて行ってくれた。
運転の好きな彼女には、そういうのは苦ではないらしく…。
ウチの生徒が絶対に行かないような遠くの遊園地や水族館、温泉デートもした。
おかげさまで、まったく卑屈になる必要もなくここまできてしまっていた。
『ねぇ、どこか連れてって…。』
そう甘えた声でねだったら、また連れて行ってくれるだろうか。
でも、最近、なにかと忙しい彼女を労わりたい気持ちも強かった。
その割りに、もっと疲れるようなことしちゃってるんだけどね…。
ふたりでいられれば、場所なんてどこでもいいよ…。
裕ちゃんが、こうしていてくれれば、オイラはなんだって……。
ガシガシと伸びてきた手に頭を撫でられて、胸がきゅうと甘く痺れた。
あぁ、もう大好き。アナタが、そこにいるだけでオイラはシアワセなんだよ。
「もう、なんで起こしてくれなかったのォ? 起こしてくれればよかったのにぃ…。」
勝手に寝てしまった自分のことは棚に上げて、えっちの後はどうしようもなく甘えたくなる。
後ろからギュっとしたままひんやりとした耳が、頬に掠れてビクンとする。
寝てしまったら、そのぶん、彼女といる時間は減るわけで。
ただでさえ、なかなか逢えないんだから、いまは、一分一秒でも貴重だった。
「ん〜? 気持ちよさそうに眠ってたから…。それに、疲れさせちゃったのアタシやし…?」
くっくっと笑いながら、薄乾きの前髪を払った。
なんだよー、分かってんじゃん。
だったら、あんなにするなよな!
だいぶ時間が経ったはずなのに、まだ脚の間がジンジンしている。
さっき悪戯に入れられたローターが、まだ、中に挟まっている感じがした…。
「フ〜ン。なにそれ、何気に自慢…?」
あぁ、どうしてオイラってこういう可愛くない言い方しか出来ないんだろうね。
もっと素直に甘えたいのに、羞恥心が邪魔をしていつまで経ってもこんな調子。
でも、彼女のほうが、さらに一枚上手だった。
「くくっ。せやなぁ〜。アンタにそんなに気持ちよさそうな顔ばかりされると、結構、自信
つくなぁ〜。」
アタシってば、なにげにテクニシャン?
得意げにそう言ってケラケラとせせら笑う。
んげっ。やぶへび?
あー、もういいよ。こんな会話、素でするのなんて恥ずかしすぎるってば。
頬と頬が擦れあって、ヒンヤリとした感触が心地よかった。
裕ちゃんの肌、すごいスベスベだよ。
こういうときに、恋人は女の人なんだと実感する。
- 200 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:15
- 「てか熱っ! ちょ、アンタ熱くない…? 熱でもあるんちゃうかぁ?」
「ムッ。どーせ、子供体温とか思ってるんでしょ…?」
「そんなん思ってへんて…。」
くすっと笑いながら、髪をくしゃりと撫で回す。
お互いさっきの激しい行為の余韻を胸に秘めながら、白々しくこんな会話をしているのが
なんだかおかしかった。
至近距離にある恋人の顔が、まともには見れなくて。
半年も付き合って、あんなことは散々できるのに、なんでだよって感じだけど。
「あー、それより、裕ちゃん、オイラの服どこ…?」
「あん? あぁ…、ただいま洗濯中です〜。」
ついでに洗っといたでと言いながら、乾燥機の機械音がなるほうへ顎を差した。
「えっ、パンツは?」
「……ん。」
無言のまままた顎を突きつけられて、一緒に回っていると促された。
恋人暦は順調に伸びていってるけど、下着を勝手に洗われるのは、まだちょっと抵抗があるよ。
なんて言ったらこの恋人に、手を叩いて大笑いされそうだけど…。
つーか、パンツなくてどうすんのよ。
「ねぇ、んじゃ、オイラにもローブ貸して?」
一人だけマッパのままいるなんてそれこそ恥ずかしいって。
そう言って、見当たらないいつものそれをどこにあるのかと尋ねると、最後の小指の爪をパ
チリと切り終えた彼女がにやっと笑む。
うわっ。
なんか、久しぶりにすっごく厭な予感する。
たいてい、こういうときのオイラの勘って当たるんだよなァ…。
「ええやん。そのままでも…。」
「やだよ、アホっ!」
ぺチンと軽く後頭部を叩く。
もう、なに言ってんのォ〜。
「だいじょうぶやて、ほら、温度も上げてやるし…。」
そう言いながら、「ピピ」っとエアコンのリモコン操作をした。
「なっ、バ、バカ言ってんじゃねー。この変態教師がッ!」
「フフン…。」
「…て。ちょ、裕ちゃん、本気じゃないでしょ? もう、どこ? オイラ、風邪引いちゃう
じゃんよォ…。」
そんなの冗談じゃないよ。
さっきも、喉が渇いたからとキッチンに立ったら、そのままそこでヤラレたんだ。
その前は、シャワーを浴びようとしたら、バスルームで悪戯された…。
このまま裸でいたらば、なにされるのかわからないって。
いくらオイラが若くたって、こう度重なればヘトヘトだった。
- 201 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:19
- 絶倫エロジジィになんてそうそう構っていられない。
オイラは、それを探そうと立ち上がろうとすると後ろ手を取られて、そのままソファに押
し倒された。にやけた恋人が、上に圧し掛かってくる。
「う、うっそォ〜ん。む、むりむりぃ〜。ちょォ、も、やだってばぁ…。」
「ん〜? なに言うてんの、まだまだイケルやろ? 若いんやし。」
お手上げのポーズを取るアタシに彼女はクスリと笑む。
だから、若いとかそういう問題じゃないんだって。物には限度というものがぁ…。
「あぁん、もッ、ゆうちゃん、おかしいよッ! 最近、こんなのばっかじゃん!」
「だって、したいんやもーん。」
「やもーん」って、それヤメレ。お前は可愛いんだつーの!
そんな直接的な言葉になにも言えなくなる。
恋人にそう言われてうれしくないはずがなかった…。
でも、さすがにこれ以上は、もう絶対無理だ。明日、立てなくなっちゃうよォ〜。
「あははっ。うそやて。さすがにな、これ以上は、アタシの体力が持ちませ〜ん。」
噛み付くように唇にキスされてから、立ち上がった彼女が、ガラリとクローゼットを開ける。
押し倒されたソファの上で呆然とするオイラの頭上にふわりとバスローブが落ちてきて、
揶揄れたことをようやく悟る。
くっそーと思いながらも、ふわりと笑う彼女になにも言い返せなかった。
なんか、その笑顔をみて、ふと思ってしまったから。
もしかしたら、いま、この瞬間が、一生のうちでイチバン幸せなときなんじゃな
いかって。
こんなこと言ったら、それこそ、この人に大笑いされそうだから言わないけど。
幸せすぎて、泣きたくなるくらい胸が熱くなることあるんだね。
ねぇ、オイラね、こんなに人を好きになったことってないんだよ。
どうやったら、この気持ちがアナタに伝わるのかな…。
ローブを着込みながら起き上がる。
裕子が、どすんと横にやってくる。
なんとなく気まずい沈黙。どちらかが口を開くより先に主張してきたのはオイラのお腹の
虫だった。
きゅるるるる〜。
見事なほどの鳴きっぷりに、裕子はぶはっと噴出した。
「あぁ…。そういえば食べてなかったな…。なんか食べる? あぁでも、ここんと
こ買い物してないから、なんもないでぇ〜。どうしよう……食べに行くか?」
「だるい……。」
せっかくお外へ出るチャンスだったのに。
口から零れた本音に、彼女は微苦笑しながら、オイラの頭をわしゃわしゃと撫でた。
って、笑ってんなよな! 人が立てないくらい散々めちゃくちゃにしといて。
- 202 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:23
- 「ん〜。じゃ、なにか出前でも頼むか? ……えっと、ピザに、ラーメン、うどんそば、
中華に、釜飯?…なに、釜飯なんか宅配してくれんの、すごいなぁ〜釜ごと?
ほら、なんでもあるでぇ。ヤグチの好きなの選びぃ…。」
「ん〜と、……じゃ、ピザでいいや。」
出前ストックしてあるチラシを読み上げる彼女の背中に向かって、そう告げた。
デリバリーが来るまでの間、ソファに並んで凭れながら、静かな音楽をたたずんだ。
クラシックなんて、自分には、死ぬまで縁がないものだとばかり思っていたけど、恋人が好
きだというだけで、こんなにもいいものだと思ってしまってる自分は、少し現金じゃないか
と思った。
「なんて曲?」って聞いて、「前にも言ったやろ」って苦笑される。
彼女から聞かされた難しい曲名を英語の授業のときみたいに何度もリピートする。
目を瞑りながら、バイオリンの独奏に聞き惚れていたとき、恋人が唐突に言ってきた。
「うわっ、ちょ、なにこれ、アンタの足の指って、おもろい形してるなぁ…。」
ソファに体育座りのまま無意識のうちにリズムをとっていた足の指に視線をあてる。
「くくっ。ほら、小指。すごいちっちゃない? 爪ないでェ?」
「……あ、あるってば!」
なんか恥ずかいところを見られた気がして、隠すように足を引くと彼女に強引に捕えられる。
「だーめ、隠しちゃ。めちゃ可愛いー。やっぱ、こういうところもちっちゃいんやな…?」
こういうところもって、それ、どういう意味だよ!
どーせ、おいらは、どこもかしこもちっちゃいさ!
でも、「赤ちゃんみたいやん」と手放しで喜ぶ恋人を前に、どういう顔をしていいのか分か
らなくなった。
つーか、なんで、足の指なんかに、こんなに食いつきがいいんだ?
「あー、伸びてるなぁ。よしよし、んじゃ裕ちゃんが切ったる。ほら、あんよ貸し?」
「エッ!!? いい、いいって。いいよォ〜。」
「ええから、ええから、そう遠慮せんとォ〜…。」
そう言って、自分の膝の上にオイラの足を乗っけると、さっきまで使用していた爪切りを
取り出した。
だから、遠慮とかそういう問題じゃないのにぃ〜。
見ると、確かに伸びていた。
手は、裕ちゃんの身体を疵つけたら大変だからと、こまめに切るようにはしているけど。
脚は、なんかやりずらいし、面倒だからいつも後回しにしていた。
パチンパチンと楽しそうに足の爪を切る恋人。
いつも思うけど、裕ちゃんって意外にお母さんとか向いていると思うよ。
足首のあたりを抱えられてされるのが、くすぐったくて堪らなかった。
10本すべて、切り終えると満足そうに足の指をジッと見つめる。
ちゃんと鑢までかけてくれちゃって、なにげに、サービス満点じゃない?
もしかして、これって無茶しちゃった罪滅ぼしのつもりなのかなのかなぁ…って。
そのまま、おもむろに口の中に含まれてオイラはびっくり仰天する。
- 203 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:26
- 「なっ、ちょ、ゆうッ!!」
ア、アンタ、なにしてんだよ!
裕子の綺麗な口の中に、すっぽり自分の足が収まっていた。
あまりにすごい光景に、しばし呆然となった。
でも、ペロペロと舐められてそのくすぐったさに身体を捩って抵抗した。
「ちょ、やだってッ!!」
「……ッ、ん、こういうの気持ちよくない…?」
「ない! ぜんぜん気持ちよくなんかないったら…あぁッ…。」
ブンブンと首を振る。
それでも、おかまいなしに足の指をしゃぶりつく。
「やっ、ちょ、そこ、汚い。やだっ、汚いってばっ!」
「……汚くなんかないって。なんべん言えばわかるんよ…。」
指に飽き足らず、今度は指と指の股に舌を這わせた。
ゾゾゾ…と背筋に大嫌いな毛虫が這い上がる感触に全身に悪寒が走った。
オイラはむずがるようになんべんも身体を使って必死で抵抗する。
なんだか身体の内側がおかしなことになっているのに気づいた。
うわっ、なにこれ、なんで?
足を舐められただけなのに、オイラったらなに感じてんのよ。
こんなところを舐められて感じてきてしまっている自分の身体が信じがたくて、裕子に知ら
れたくなくて、思わず脚の間に手を当てた。
彼女が、それに気づいてニヤリと笑む。
「ん〜? こっちも気持ちよくなってきちゃったん…?」
「ち、……ちがっ!」
そんなことしたら、わざわざ恋人に教えているもんだと気づいたけど、すでに後の祭りだ。
はあぁ。オイラってば、チョーバカじゃない?
「嘘言いー。ほら、ここが疼くんやろ…?」
「やっ、だめっ!」
手を伸ばしてバスローブのすそを肌蹴られる。
下着を着けていない場所が彼女の目の前に晒される。
「みないで」とオイラは、慌てて両手でギュってその視線から食い止めた。
指先に、粘っこい液がこびり付くのがわかって、奥歯を噛み締める。
「クッ。アンタぜんぜんわかってへんな。そんなふうにするからアタシが、無理矢理どかし
たくなるんやん……。」
自分からそうやって煽ってるんやと教えられて、カーっと全身が熱くなる。
だって、知らなかったんだ。
こんな場所が、性感帯であったなんて。
裕ちゃんは知ってたの?
どうして裕子は、自分でも知らなかった感じる秘密の在り処をこんなにも容易く見つけ出
すことが出来るのだろう。
オイラの身体なのに…。
彼女のひょんな悪戯のせいで、すっかり熱を持ってしまった性器。
脚を閉じようにも、恋人の脚に阻まれて適わない。
右足を舐められたまま、もう一方は、だらんと、力なくソファの下に落ちていた。
裕子の熱い眼差しは、指を舐めながらヒクヒクと蠢くそのイヤラシイ場所に降り注いでいる。
耐え難くて手を翳そうとするとぴしゃりと跳ね除けられて。
かと言って、触れてはくれず、ただジッと見ているだけ…。
「ヤグチは、足舐められているだけでも感じちゃうんやね…?」
「…そ、そんなの……そんなふうに言わないで…よッ!」
図星を言い当てられて、カーと顔が赤らいだ。
でも、その言い方だと、なんかとんでもなく変態みたいだ。
いや、変態だよ。足の指舐められて、こんなになってるだなんてさ。
- 204 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:30
- 「ククッ。ええなぁ…。いっぱい感じる場所があって…。」
「やだぁ…。恥ずかしいことばっか言うなって…ッ…。」
彼女の指先が、ツーと太股に伸びてくる。
さっきの名残のせいなのか、それともアナタに見つめられているせいなのか。
なにもされていないのに、貝のようにぱっくりと開いてしまってるのわかる。
これじゃ、まるで、アナタのことを誘っているみたいだ…。
突き飛ばして逃げ出すこともできず、悪戯に弄ばれても拒むこともできない。
アナタに触れられれば、それだけで、すべてが快感に変わる。
頭の中が煮えたように熱くて、思考回路がだんだん麻痺してくる。
「ねぇ……。」
「ん―――?」
ちらっと時計を見れば、まだ、ほんの夕刻の時間だった。
窓の外は、充分に明るかった。
それなのに、こんな場所で、関節が外れそうなほど脚を大きく開かされていた。
足の指を一本一本丹念にむしゃぶりながら、妖しげな眼差しだけを向ける琥珀色の瞳。
「ねぇ、ゆうちゃ、おねがい……。」
甘えた声で。言いながら、今日、なんべんこうしておねだりしたことだろうって考える。
こうなるまで与えてくれない彼女の残酷さが、憎らしかった。
どう足掻いても、自分のほうが先に快楽に負けてしまうのが悔しかった。
裕子は、にやりと意地悪に微笑んで、「なに?」と、可愛く首を傾けてくる。
自分から負けを認める言葉なんて、絶対に言いたくないのに。
でも、それをしなければ、なにもしてくれない非情な人なのだ。
外気に触れてひやっとしてた場所は、あっという間にどろどろに蕩け出した。
それも知られてしまっているのかと思ったら、いっそ開き直れるような気分だった。
こうなってしまったら、もう、いくところまでいかなければ気がすまない。
そういう身体にさせたのは、アナタだ。
言葉を促すように、内腿の際どいところを行ったり来たりする爪先に、ガクガクと膝を震わす。
四肢をバタつかせて、とうとう、その言葉を言い放った。
「ねぇ……触ってョ?」
「ん?」
勇気を振り絞って言ったのに、彼女の返答はどこまでもすげない。
聞こえなかった…もう一度と言葉を促す素振りに、オイラは、ギュっと眉根を寄せる。
赤みの増した頬は痛いくらい腫れていた。
自分が、こんなえっちな身体にさせといて酷い。
「やっ、も、苛めんなよ。ゆうちゃん、ここ、して欲しい……。」
泣きそうな瞳を瞬かせて、ココと言いながら触れて欲しい場所を指差した。
言いながら、羞恥心にぶわっと全身が火傷する。
ぎゅうって目を瞑る。恥ずかしいよ、こんなの。
「はああぁ…。」
目の前で、大きく息を吐く音がした。
変なことを言って、呆れられたのかとおそるおそる顔を上げると、彼女は、もう一度
「フッ」と大きなため息を零しながら、にたりと残酷に微笑んだ。
口の中から、親指を離すとツーと透明な糸の橋が二人を繋いでいた。
- 205 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:33
- それを見ながら、ハッとする。
変わったのは、むしろ自分のほうなんじゃないのかって。
こんなことばかりするのは裕ちゃんがえっちだからいけないんだってずっと、彼女のせいに
ばかりしていたけれど、それは、間違いなのかもしれない。
オイラが、気づかないまま彼女を誘発していたのだとしたら……。
こんなに淫らな格好をして。こんなふうにいやらしくおねだりなんかして恥ずかしいよ。
気づかなければよかった。
気づかすようなことばかりして酷いと思う。
すっかり変わり果ててしまった自分の身体が怖くなる…。
そのうち愛想を尽かしてしまわないだろうか…って。
それでも、熱を上げてしまった身体はすでに許容範囲の臨界点を超えてしまっていた。
同時に、もうこれ以上は無理だ。明日、立てなくなってしまうかもしれないぞと警告もして
いた。
そんな感情が絶えずせめぎあいになって、でも、結論は明白だった。
そこにあるのならば、目の前の唇を求めたい。
それもデリバリーが来るまでの制限時間内だ。
グルグルとこんなふうに考え込むことも出来なくなるくらい熱くして欲しくて堪らなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
- 206 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:36
- 「なんか、今日、雪の匂いがする〜。」
体育の時間。二人で組んでストレッチをしていると、親友が、空を見上げながら唐突に言
ってきた。
「はぁ? なに言ってんだ。東京じゃ、12月は、まだまだ雪なんて降らないんだよ?」
アナタの生まれ育った街は、もうとっくに降っているのかもしれないけどさ。
関東地方で雪が降るのは、稀なことだ。シーズンを通しても4、5回ってところだろう。
「エー。でも、なんか匂うよ。(クンクン) うん。ほら、絶対、そうだって…。」
「犬かよッ!」
雪の匂いって、どんな匂いだ!
思わず真似をして、鼻をクンクンするけど、海から流れてくる潮の匂いと車の排気の匂い
がするだけで、そんな気配は、まったく感じられなかった。
まぁ、確かに天気予報ではこれから崩れるみたいなこと言ってたけど、でも、雪になると
までは言ってなかった。
でも、オイラはハタと思い直す。
そういえば、12月なのに雪が降った年があったと。
一昨年の12月24日。
そう、あの人と、出逢った日だ――。
思い出すだけで、どうもにやけてしまう。冗談のような勘違い。
裕子って、しっかりしているようで意外に抜けてるんだよなぁ…。間違えるか、フツー。
あれはあれで、自分では、ドラマチックな出逢い方だと思うんだけど、決して人に云える
ものではなかった。
ふつふつとこみ上げてくるものをなんとか抑え込む。親友が不気味そうにオイラの横顔を
ジッと見つめていた。
そっか。あれから、2年も経ったんだ。
時間の経過は恐ろしく早い。あの頃の裕ちゃんは、若かったけど、まだ女子大生
っぽくて可愛かった。
オイラは、少しは成長したかな? ま、身長は変わってないけどさ…。
その爆弾は、意外な人物から降って落とされた――。
- 207 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:45
- 音楽室掃除の帰り道。
長い廊下の向こうから、かなり胡散臭い人物が歩いてきた。
特徴のありすぎるくらいの二人だ。お互いその存在に気づいて、ハッと息を呑む。
今では珍しい錆付いたような黄色に近い金髪が、歩くたびにふわふわと揺れている。
制服を着ていなかったら、とても高校生には思えない容姿だ。
長いスカートをバサバサさせながら風を切って歩くのも相変わらず変わらない…。
徐々に距離が縮まって…。不安や戸惑いのほうが大きくなる。
ど、どうしよう…。
なんか言わなきゃ。でも、なんて言う?
ずいぶんと話をしていなかったことに、いまさらのように気づいた。
そうこうしているうちに目の前に迫って来る。心臓が変なふうに乱れた。
先に声を掛けてきたのは、彼女のほうからだった――。
「よォ! 久しぶりじゃん。元気なのかよ、アンタ!」
「う…うん。斎藤さんも…元気そうだね? なぁんだ…。ぜんぜん来ないから学校退めち
ゃったのかと思ったョ…」
ひどく懐かしい声音に、ふっと気が緩んだ。
思わず、以前のように軽口を叩いていてしまっていたくらい。
そんなことをしていい相手でないのは、アタシたちの光景をギョっとした様子で見ていく
クラスメイトの顔を見ただけでもわかっていることなのに…。
一時期、彼女――斎藤さんとはとても仲良くしてもらっていた。
彼女は、見た目どおり暴走族のリーダーで。湾岸一体をしきっている岡女で知らないひと
はいないほどの有名人だった。
以前、夜道をウロウロしていたところで声を掛けられて、なぜだか、そのまま気に入られて。
でも、暴走族に入れてもらったわけではなかった。
バイクで、学校の送り迎えをしてもらったり、なんかむしゃくしゃすると言っては、
呼び出して、後ろに乗せてもらったりしていた。
彼女が、相当な権力者だっていうことは分かってたけど。
そういや、チームのナンバー2の村田さんも、「ボスにあんなことさせんの矢口くらい
だよ」と、呆れ声なのか羨望の声なのか言われたこともあった。
でもそれは、後輩を可愛がるとか、ペットを可愛がるとかありがちなものだと思っていた。
それが、自分の独りよがりな思い込みだったことを知ったときにはひどく焦ったものだ。
じめじめした梅雨の季節。定番の校舎の裏側でアタシは、彼女に告られた。
女の子に告られたのも生まれて初めてのことだった。
そういう意味で、オイラを見てくれていたなんて、まるで思いもよらなかったから心底驚いた。
いまも気まずいのは、それをなんとなく流してしまったせいだった。
あんなに可愛がってもらっていたのに、そのことがきっかけで疎遠になってしまった。
あの告白を聞いてから、普段どおり振舞うことがどうしても出来ずに、遭えば目を逸らして
今までのように、帰りに「送ってくれ」というメールも出せなくなった。
オイラが避けているのに気づいたのか、あっちからもすぐに連絡が途絶えた。
もともと学校には、そんなに頻繁に来るような人じゃなかったし、学年も違えば、すれ違
うこともめったにない。そんなふうに、ギクシャクしたままこんなにも時間が経過してし
まっていた。
でも、ホントウのところは、斎藤さんに告られたその日に裕ちゃんと出逢ってしまって、
それどころではなくなったという酷い話なのだけど…。
改めて思うと、オイラってば、なんて酷い女なんだろう。最低じゃんか。
「あぁ…。このままだったら、そうなるって、いま担任に言われてきたとこだ…。」
「フッ。そっか大変だね。」
なんで、そんなふうに笑って話してくれるのかわかんない。
オイラ、酷いことしたのに…。
それとも、忘れちゃったのかな?
忘れていてほしいよ。オイラのことなんて。
- 208 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:49
- 「――ヤグチは…?」
「オイラは、斎藤さんと違って真面目だもーん。」
「クッ…。よく言うよ。前なんか、人をさんざん足代わりに使ってたくせにさ。」
「…………。」
オイラの顔が強張ったのに気づいたのか、彼女は、気まずそうに視線を逸らした。
でも、すぐにアタシをジッと見つめてくる。
射抜くような強い瞳が、次の瞬間、「ふっ」と力を抜いた。
気まずくて、今度はオイラが目を背ける。
あのことをずっと謝りたかった。
でも、そんなのいまさらのような気もする。
このまま別れて、うだうだと考えるのもなんかイヤだった。
「なぁ、せっかくこうして遭ったんだし、ちょっと話さない…?」
だから、彼女から、こう言ってくれたときは、心底ホッとした。
「………あぁ、うん。そだね。…なっち、ごめん。今日は、先帰って。」
「――うん、わかった…。バイバイ矢口。」
「ばいばい。」
斎藤さんには、ぺこんとちいさくお辞儀してから上履きを鳴らして早足で掛けていく。
ちょっとなにか言いたげな視線に気づいたけど黙止した。
なっちは、人の悪口とかいう子じゃないけど。
でも、みんなが、斎藤さんたちのことをよく思っていないのは知っている。
オイラだって、知り合う前までは、絶対にお近づきにはなりたくない人達だった。
確かに、悪いこともいっぱいしてるし、世間に迷惑ばかり掛けているのは否定できないけど
彼女たちの荒っぽさを、オイラは、嫌いじゃなかった。
あの中にいると、なんとなく落ち着く自分も感じていた。
それが、なんでなのかは自分でもよくわかんないんだけど…。
連れ立って歩いているだけなのに、やたらと視線を感じる。それは、いまに始まったこと
ではない。彼女はそんなのへっちゃらのように悠然と前を見据えていた。
そういうところが凛としていてカッコいいんだよなぁ〜。誰かに似てない?
連れてこられたのは、いつもの空き教室だった。――別名、喫煙ルーム?
さっきほどドキドキは収まったけど、それでも、二人きりというのはどこか落ち着かなかった。
ガラガラと椅子を引かれて、『座ったら』と促されただけなのに肩がビクッて上がる。
手のひらは、汗でぐっしょりだ。
それを気取られないようにと、小さく深呼吸を繰り返した。
空き教室は、普段ほとんど使われていないせいか、ひどく誇りっぽい匂いが立ち込めていた。
暖房がないせいで、肌寒さに思わず身震いする。
沈黙が厭で、思いつくままなにか口にしてた。
「…ずっと、学校来てなかったの?」
「あ? あぁ…まぁな。つっても、もともと、そんなに来てなかったしぃ……。」
「そんなことだから、ダブっちゃうんじゃんよォ〜!…って、あっ、ごめん…。」
失言だったかと慌てて口を塞ぐ。なんで、オイラって、こう、一言多いんだろうね。
でも、彼女は、怒るふうでもなく、むしろおかしそうに目を眇めていた。
「アンタって、ちっとも変わってないねぇ〜。」
「ちぇー。どうせチビだって言いたいんでしょ…?」
好きで小さいんじゃないやい!
あれ? でもなんか、こういうやりとりひどく懐かしい。
なんか昔に戻ったみたいだ。
斎藤さんといると、なんか子供じみた口調になってしまうのはなぜだろう。
友達の前でも、斎藤さんの仲間の前でだって、ぜんぜんそんなふうじゃないのに。
きっとアタシは、自分を甘やかす年上のお姉さんというものに、弱いんだ。
- 209 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:53
- 「クッ…。んなこと、誰も言ってないだろ…。」
「ふーん。でも、オイラまだ諦めてないよ。だって、成長期はこれからじゃん! こっから
伸びて、170くらいになってるかもしんないよォ?」
チビで困ったことはさほどないが、カオリみたいにスタイルっがよければ、いろんな服が
愉しめそうだなとは思う。そういう意味では、自分はちょっと損してるのかもしれない。
だいたい高2なんだし、まだまだこれからじゃんか。
カオリだって、「今日も、なんか関節痛いんだよね〜」ってしょっちゅう言ってる。
オイラにだって、遅ればせながら、成長期がやってくるかもしんないじゃんよォ。
諦めるにはまだ早いって。
胸を張ってそう言うと、「あはは」と豪快に笑いながら、くしゃりと髪を撫でられた。
懐かしい触り方だと思った。
みんな、この人を怖いっていうけど、斎藤さんのこんな一面を垣間見るとき、オイラはどう
しようもなくうれしくなる。あの頃は、オイラにだけ打ち解けてくれるんだって思って、そ
れがうれしかった。
斎藤さんは、裕ちゃんとは、また違った包容力を持っている。
そういうところにもすごく惹かれた。
チームのリーダーを張るくらいの人は、やっぱ、器の大きさからして違うのかもしれないね。
斎藤さんとしゃべりながら、頭の中ではどうしても裕ちゃんと比べちゃってる。
なんて失礼なヤツなんだろう、オイラって。
仮にも、以前、好きだと告ってくれた相手に対して…。
でも、あれからずいぶんと経ってるし。
オイラのことなんて、とっくに好きじゃなくなってるよね?
前みたいな付き合いが出来たらいいなぁ〜。勝手な言い分かもしれないけど、彼女たち
と付き合うのもすごく居心地がよかった。このまま、疎遠になってしまうのはちょっと寂しい。
「アタシ、ずっと避けられてんのかと思ってた…。」
「……へっ。」
歯先にタバコを燻らせながら、煙に巻かれるようにらしくないような声で言う。
「なぁ、アタシが、あんとき、あんなこと言ったからだろ…?」
「さ、斎藤さん……?」
「だから、連絡くれなかったんだろ?」
「………。」
「ごめん…。ホントごめん。あんときさ、どうしようもなくアンタが可愛くて、あんなこ
と言っちゃったんだ。アンタの気持ちも考えずにさ。…でも、アタシは後悔なんかしてないよ。
好きだったんだ…。すげぇ。ただ、アンタを困らせる気はなかった…。」
やめてよ。どうして謝るの?
悪いのは、あたしだよ?
好意をもってくれた人に酷い仕打ちをした。
先に謝られてしまって、どうしていいのか分からない。だって、謝るのはこっちのほうだ。
「こ、困るだなんて……。急だったから、どうしていいか分からなくて、その、ごめん…。」
斎藤さんの口から「ごめん」とか言われるのが、とんでもないことをさせてしまったよう
な気になって、ひどくやるせなかった。
「謝るなって…。でも、こうしてまた話せるとは思ってなかったからなんかうれしいよ。」
「………。」
「そっか…。もう一年ダブったら、同級生になれんのか、それもいいかもな…。」
「…は??」
な、なに言ってんの、それじゃまるで…。
- 210 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/11(火) 23:58
- 「クッ…。アタシって、相当、諦め悪いみたいだ…。」
バサリと前髪をかき上げると、ふわりと甘い匂いがした。
「えっと、あの、………そ、それって。」
どういう意味ですか…?
見上げると、長い髪の隙間から見える耳たぶが、ぶわっと真っ赤になっているのに気づいた。
オイラのほうが、どうしようもなくオタオタする。
目の前にいるのは暴走族のリーダーじゃない。どこにでもいるごくフツウの女の子だ。
そんなことに、いまさらのように気づいた。
この先の言葉を聞いちゃいけないような、聞きたいようなそんな気分にさせられる。
でも、心の準備もままならないまま、こちらの気持ちなんかお構いなしに降ってきた。
「あー、アタシさ、なんかまだ、アンタのこと好きみたいだわ…。」
「………。」
ドクンと心臓が、音を立てた。
黙ったまま、呆然と彼女を見上げると。
ジッと窺うように覗き込んでくる茶色い瞳が不安そうに揺れる。
「なぁ、また困らせてるか……?」
「う…んん……。そんなことはない。けど…なんで、オイラなのか…。どこがいいのか
わかんないから…。」
謙遜でもなんでもなかった。
特に特徴のない自分が、どうして、アナタみたいな人のお眼鏡にかなうのかが、どうして
も理解できなかった。
みんなから恋焦がれられて、引く手数多なはずのアナタなのに…。
女の子が好きだからって、そんなに相手には不自由しないだろうに。
「なぁ、人を好きになんのに、そんなに理由って必要か? アンタが、アンタだから
いいんだよ。理由なんて、そんなのアタシにだってわかんないって。アンタが笑って
るとうれしくなる。アンタが泣きそうになると抱きしめたくなる。ただ、どうしよう
もなく好きだってことだ…。」
こんな直接的な愛の告白を受けたことなかった。
いつだって、自分から好きになるほうで。想われるより想う恋愛のほうが多かった。
すごくうれしい、うれしいけど、やっぱり困る。
だって、アタシには、好きな人がいる。
いまは、あの人のことしか考えられない。
告られること自体経験が少ないのだから、振ったことももちろんなかった。
こういう場合は、どう言ったらいいのだろうって考える。
相手をなるだけ傷つけないように。でも、あのときのようにうやむやのまま逃げたくはな
かった。
そんなの、二度も告白してくれた相手に対して失礼だ。
「…あの……ごめん。その…オイラさ、好きな人が…できたんだ。」
直球勝負の彼女には、直球で返すのが誠意だと思った。
相手の気持ちを拒むのに、傷つけないもなにもないのだろうと、それも勝手な思い込みだけど。
ただ、それが、恋人だとはどうしても言えなかった。
だからって嘘をついたわけじゃない。
念願かなって“彼女の座”を射止めたけれど、恋人と同時に“好きな人”でもあるのだから。
恋人だからって、好きな人じゃなくなるわけじゃない。
都合のいい解釈だけど、そう、何度も自分に言い聞かせる。
うそは付きたくなくなかった。誤魔化したくない。ただ、それが誰かと聞かれるのだけは、
どうしても避けたかった…。アタシの都合でバラしていいことじゃない。
- 211 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/12(水) 00:01
- 「―――“できた”ってことは、あの想いの人のことじゃないよな?」
「………う、うん。」
ちょっと戸惑ったのは、斎藤さんが知っている“あの想いの人”とその人が同一人物だからだ。
二度も捨て身で告白してくれているのに、こんなときでも自分の保身のことばかり。
オイラって、とことん最低なヤツ…。
落ち込みそうになる…。
でも、裕ちゃんとのことは、人に簡単に言っていいことじゃないんだと言い聞かせる。
「…ごめん。斎藤さん…。ごめん。オイラ、オイラさ…。」
「あぁ、いいって。しょうがないよ。…つうか、頼むから泣かないでよ。アンタに泣かれ
るの……。」
「アタシ弱いんだよ、困ったな…」と言いながら、ギュって抱きしめられた。
トントンとひくつく背中をお母さんのようにやさしく摩る。
顔を押し付けた彼女の意外に豊かな胸から、タバコと香水の入り混じった匂いがした。
でも、不思議と安らげる場所。女の人の胸は、そういうものなのかもしれない。
頬にあたる膨らみにトキメキはしなかった。
やっぱり、オイラの好きな人は、あの人だけなんだ…。
早くそのことを伝えていればよかった…。
そしたら、斎藤さんにだって、今頃オイラなんか目じゃないくらい可愛い恋人が
出来てたかもしれないのに。
青春の一番貴重な時期に、まわり道をさせてしまったようでホントウに申し訳なく思う。
気持ちを汲んで上げられないのに、こんなふうに慰めてくれるこの人のやさしさに、堪え
きれずに涙がポトリと滴り落ちた。
細い背中に腕を通して、ギュってする。
「ごめんなさい…。」
なのに、また、裕ちゃんのことが頭のでグルグルする。あぁ、もうヤダ、オイラって、最低…。
「中澤……。」
「―――えっ?」
後頭部あたりに聞こえてきた声に、体がピキンと固まった。
もしかして、また、勝手に口走っちゃったんじゃないかって不安になる。
でも、違ったみたい。
「好きな人って、もしかして、中澤――?」
「―――――。」
抱きしめる腕をとく。
オイラは、ジッとその人を見上げた。
「……ど、どうして?」
十分の間を空けて出てきた声は、風邪を引いたときみたいにひどくしゃがれていた。
「だって…。アンタが言ってた人に、アイツって、そっくりじゃん。あんなふうに何年も
想い続けた人のこと忘れられる相手が現れたってことだろ? てっきりそうなのかと思っ
て…。」
「――――。」
言い当てられてビックリしたけど、なっちたちのようにその二人が同一人物だとはバレてい
ないみたいだった。
ふつうは、そんな夢見たいなことが起こるとは思わないよね…?
ホッとしていいのか、バレてしまったほうがよかったと思ったのか今の感情がよくわかんない。
それでも、ジッ…と覗ってくる瞳に、オイラは、ちいさく頷いた。
もう、この人にだけは、どうしても嘘はつきたくなかった。
言いふらすような人じゃないことも知っている。
- 212 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/12(水) 00:06
- 「やっぱりな…。なんか、アンタの目がアイツに向かってたのがずっと気になってたんだ。
そっか…。どのみちアタシじゃダメだったか……。」
「あ、あの、斎藤さん…?」
「まぁ、他のヤツとかだったら、諦めつかなかったと思うけど。中澤だったら、いいわ。
さすがのアタシでも……」
「………。」
負けたわ。
あははと笑いながらそのまま押し黙ってしまった彼女に、どう声を掛けていいのか分からな
かった。斎藤さんたちが、裕ちゃんのことを一目置いているのは知っている。
裕ちゃんは、彼女たちにとって、それくらい憧れてやまないすごい人なのだ。
どうして、そんな凄い人が、オイラなんかと付き合ってくれているんだろう。
考えれば考えるほど分からなくなり、不安のループに嵌ってしまう。
「――で?」
「へっ?」
「それで、中澤に告ってみたわけ…?」
「――――。」
こんな角度で、裕ちゃん意外の女の人を見上げるのも初めてだった。
みんなこの人が、怖いと言うけれど、オイラには、最初からそんなふうには思えなかった。
でも、それは、自分だけ特別視してくれていたからなのだと、いまさらのように知った気がした。
「もの好きだね。アンタの片思い。ま〜た、そうやって想い続けてるつもりかよ?
試しに告ってみりゃいいじゃんか。それで、案外、うまくいくかもよ? アイツ、
アンタのことめちゃくちゃ可愛がってるみたいだし…。」
どういう反応したらいいんだろう。
ひどく息が詰まる。
これ以上、嘘をつきたくないから、なにも答えれないでいると、それを戸惑いと解釈した
のか、彼女にはめずらしく饒舌になっている。
「――あぁ、先公だからつーなら平気だって。だいたいアイツは、そんなの気にするような
タマじゃないよ。ヤグチなら、絶対だいじょうぶだ。…あぁ、そっか。女だから心配してん
のか? でも、そんだけ可愛いんだし、イケるって…絶対。」
「なに、なんで、そんな…。」
どうしてそんなふうに言うの…?
無言のまま新しいタバコに火をつける。
チャカチャカと何度も百円ライターを回すけど、一向に煙が立ち昇る気配はなかった。
見上げると、彼女の瞳は少し赤らんでいるようだった。
見ちゃいけなかったような気がして、慌てて逸らした。
ううっ…胸が痛いよ。恋の痛みは痛いほど知っている。
好きになった人に後ろを向かれるのがどんなに切ないことか…。悲しいことか…。
ねぇ、裕ちゃんなら、こういうとき、どうするの?
きっと、もっと上手に振ってあげられるよね。
「……ごめん。半分はうまくいって欲しいと思って言ったけど、半分は、もし振られたら、
まだアタシにも、チャンスあるかなぁって思った…。こんなの最低だよな、アタシ…。」
「…うんん。」
ようやく煙をスーと吸い込んで、思い切り吐き出した。
彼女の想いが、素直にうれしかった。
そんなことを正直に言ってしまうところも好きだと思った。
「こんなアタシだけどさ、でも、アンタに笑ってほしいと思うのもホントなんだョ…。」
「…ん。ありがと。」
みんなに“ボス”と言われて慕われている。
何百人というチームを従えて、トップに君臨する。
並大抵の精神力じゃなきゃ、そんなのやっていけないと思う。
そんな人が、こんなふうに自分にだけ気弱な少女の一面を見せられると、どうしようもな
く切なくなった。
もしも…、あのとき、裕ちゃんに出逢わなかったら。
アタシは、この人を好きになっていたかもしれない。
裕ちゃんに、どこか似ているこの人のことを…。
- 213 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/12(水) 00:10
- でも、アタシは、あの日、裕ちゃんに出会ってしまった。
どんなに胸が痛んでも、苦しくても、オイラは、あの人の手を取る。
それに、似ているから好きになるだなんて、そんなのは相手に対して失礼だよ。
だから、ごめんね、斎藤さん…ごめんね。
もう一度謝ろうとして、顔を上げると、ガラリと扉が開いたことに気づいた。
以前にも増して嘘みたいな頭をした大谷ちゃんが、ドアの前で固まっていた。
「あ……、すいません。失礼しましたー!」
そう言ってドアを閉めようとするのを斎藤さんが、制止する。
「あぁ、いいって。いいから入ってきな…雅恵、一人か…?」
「はぁ…はい。あのォ、でもォ、いいんスか?」
どこか焦点が定まっていない。ひどく焦った様子。
あの位置からだと、抱き合ってるように見えたのかもしれない…。ようにじゃなく
抱き合っていた。ただならぬ空気も醸し出していただろう…。
そりゃ、驚くなって言うほうが無理なハナシだ…。
なのに一切、弁解しない斎藤さんに、オイラのほうがオロオロしてしまう。
「あぁ…。なんでもねーって。いいから、入んな…。」
「は…はぁ。……んじゃ、お邪魔しまっス。……あぁ、やぐっちゃんじゃん、久しぶりだね。」
「…ひ、ひさしぶりぃ。」
引きつった顔に、つられるように口の端をピクピクさせてしまう。
はう。つーか、今回のもすっごいねぇ。
前髪ピンク色だ。なんか鶏冠みたいじゃん?
昔から髪の色を変えるのが、この人の趣味みたいなものだった。
細身な身体にダボダボのロングスカートに、ピンクの頭か。
彼女の風情は、チンピラ男か、売れないロッカーみたいで、ちょっと笑える。
大谷ちゃんは、当たり前のようにポッケに忍ばせていたセブンスターを取り出した。
火を燻らすと先端がオレンジ色に染まって思わず目を奪われる。
二人ともおいしそうに煙を肺に流し込む。オイラは、体質的に合わないとわかってからは、
もうそれに手を出すこともないけど、こんなとき、仲間に入れないのは、ちょっと寂しい
ような気がした。
「……はあぁぁ…。」
深く煙を吐きだしながらやたら大きなため息。
「どうした?」と斎藤さんが目を配ると、彼女は、ワーワーと不満の丈を漏らし始めた。
「いや、いま矢部に、このままだったら、留年やって言われたんですよ…。」
プッと思わず噴出しちゃって、慌てて両手で塞いだ。
だって、どこかで聞いた科白だったから――。
斎藤さんは、不愉快そうに眉を顰めて、小さくなったタバコを床に揉み消した。
- 214 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/12(水) 00:12
- 「なんか冬休みに毎日補習に来ないといけないみたいで…。テストも受けてなかった
から、追試だって。しかも赤点取ったら、そんだけでアウトだって…。あぁー、もう、
めんどくせーから、退めちゃおっかなぁ…」
「エーっ、退めちゃうの?」
「う〜ん。アタシは、別に退めてもいいと思ってんだけど。親父がうっさいんだよね。
いまどき、高校ぐらい出とけっつってさ。」
「高い学費がもったいねーからなにがなんでも卒業しろ」と言われたと頭を抱えながら、
斎藤さんが新しいタバコを咥えると、すかさず百円ライターで、サッと火を灯した。
そのやりとりが、売れないホストと、銀座のママみたいで、やっぱりおかしかった。
不良なのに、ある意味一般人より縦社会がきっちりしているなんて考えると、ちょっと笑
えてくる。
二人分の煙で、あっという間に教室が白く濁った。
大谷ちゃんが来てくれたおかげで、場の空気が和んでどこかホッとしてる。
斎藤さんもそう思ってるかもしれない。
でも、大谷ちゃんの呑気な声音に、二人は一瞬にして凍りついた。
「あぁ、それはそうと、中澤…のはなし、聞きました…?」
「…え?!」
ビクンと二人の肩が同時に揺れたことに、彼女はまったく気づいていないようだった。
斎藤さんと視線を交わす。オイラは、慌てて逸らした。
「ま、雅恵、中澤…が、中澤が、どうかしたのか…?」
いつになく取り乱しているリーダーに、大谷ちゃんは、目を丸くしている。
でも、すぐに気を取り直して淡々と告げた。
「いやぁ、それが、いまさっき、職員室で話してるの聞いちゃったんですけどね。なんか、
中澤、ココ辞めるらしいですよ。……辞めて、どっか行くとかって…。」
「!!!!!!」
なんか、信じられないことを聞いた気がした。
耳が、その事実を受け付けられなかった。
頭の中が真っ白になって…。しだいに視界がぼやけてくる。
ハイ?
イマ、ナンテイッタノ…?
- 215 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/12(水) 00:15
- 「あぁっん? お前、辞めるって、なに言ってんだ? んなのどうせガセだろ?
だいたいアイツ、来たばっかじゃんか。しかも、こんな半端な時期に…なんで…。」
斎藤さんが、チラチラとオイラに目配せする。
そんなのにも気づかずに、おいらは、口をぽかんと開けたまま、彼女の声だけが脳を反芻する。
「さぁ…。そこまでは知らないですけど。でもホントのことらしいですって。だいたい本人
が言ってたんスからガセなんかじゃありませんよ…!」
立ち上がった拍子に、ガタンと椅子が倒れた。
気にも留めずに、オイラは、無我夢中で駆け出した。
「ちょ、ヤグチ!」と、斎藤さんの引き止める声がしたけど、飛び出した後だった。
そんなの嘘だ。
信じない。
裕ちゃんが、この学校を辞めちゃうなんて。
そんなの聞いてない。
嘘だ。これは、なにかの間違いだ。
オイラに、黙って、彼女がここを辞めるなんて、そんなことありえないよ。
「裕ちゃん…ッ!!」
勢いよく職員室の扉を開けると、大声を張り上げた。
教師が、ギョっとしたように一斉にこっちをみる。
放課後の職員室は、部活指導の前のセンセイと、掃除を終えた生徒たちでごちゃごちゃしていた。
でも、オイラの視線のレーダーは、ただ一人だけを捜し求めた。
「コラー! いきなり、なんやねんお前はー。だいたい、センセイをちゃんづけで呼ぶ
ヤツがあるかーッ!」
「うっさい!!」
担任が、ギャーギャー言ってくるのを一言で糾弾した。
そんなのに構ってられなかった。
「裕ちゃん、裕ちゃん…。裕ちゃん…ッ!!」
いやだ。いやだ。
ねぇ、うそだと言ってよ。
ねぇ、なんかの冗談だって言って。
やだよ、そんなの。やだっ!
- 216 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/12(水) 00:17
- 「あーもう、なんやねんな一人で大騒ぎして。……どうしたん?」
驚いたように目を丸くしながら、裕子が、ツカツカとオイラのほうへ歩み寄る。
普段となんら変わらない様子に、ほんの少しだけ気持ちも浮上してくる。
大谷ちゃんの早合点であってほしいよ。
でも、彼女は、本人が言ってたと言った。崇拝したいる人の声を聞き間違えたりする
ものだろうか。
じゃ、やっぱ、ホントウなの…?
裕ちゃん、オイラを置いて、どっか行っちゃうの…?
いやだ、いやだったら、そんなの間違いだって言って…。
“アンタを置いて、どっか行くはずないやんけ”って、笑いながら大阪弁で言ってよォ。
「どうした?」と窺うような青い相貌。
聞くのが怖くて、声がなかなか出てこない。脚もブルブル震えている。
背中には、厭な汗がじとりと吹き出ていた。
彼女の顔をみたら、ずっと堪えていたものが我慢できずにツーと滴り落ちた。
「ちょ、おい、ど、どうしたんや、…なんやねんな…お前…。」
それを横でみていた岡村先生が、ギョっとした声で言う。
オイラが涙を流すなんて、ありえないと思ったのかもしれない。
驚いた顔をした彼女の顔も、波の中でしだいに揺らめぎ始める。
「ゆう、ちゃぁん……。」
- 217 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/04/12(水) 00:19
- ヒクヒクと震える横隔膜。
喉が大きく引きつって、涙がとめどなく溢れ出る。
みんなが、ギョッと自分を見ていることに気づいた。
それでも、流れだしてしまった涙は、もう止まってはくれない。
彼女の背中越しの窓の外をみる。
オイラの涙に後押しされたように、雨がポツポツと降り出してきた――。
きっと、いままでが幸せすぎたんだ。
だから、神様が、またこんな意地悪をした。
ちくしょー。オイラが、なにをしたって言うんだよ。
ちくしょー。人を愛しただけじゃないかよ…。
お前なんか嫌いだ。
どうして、オイラだけが、こんな目にばっか遭うんだ。どうして…。
たとえ離れる運命だったとしても、もう少しくらい、夢を見せてくれてもいいじゃないか。
お前なんか、嫌いだ。大嫌いだー。バカヤロー。
夕方から降り始めた雨は、夜には雪へと変わっていった―――。
- 218 名前:Kai 投稿日:2006/04/12(水) 00:20
- 本日の更新は以上です。
- 219 名前:Kai 投稿日:2006/04/12(水) 00:23
- >ゆちぃさん…お久しぶりでございます。なかなか進展せずに、相変わらずの内容です。
「裕ちゃんは、人として欠陥があるけど、そういうところもなんか好き」いつかのヤグチ
の言葉。裕ちゃんは、いろんな面があると思うのです。そういうところに私もすごく惹か
れます。
>165さん…斎藤さん出演はどうだろうと言う感じですが、昔の裕ちゃんの話は考えて
あったりはします。私もバイクに乗るので、そこは描いてみたかったです。w
バリバリヤンキー伝説みたいなの?(ニガw
>166さん…なによりもうれしいお言葉です。下手くそな文章ですが、そう思ってくだ
さる人がいると思うだけで、これからも続けていきたいと思えてきます。
>ほっとレモンさん…そういえば、あっという間に昼ドラが終わってしまいましたね。楽し
いドラマでした。そして、新たなドラマもすごく楽しみです。でも、ギャルって…。
この話の二人の今後も楽しみにしててください。(暗い内容かも…ですが…)
>168さん…更新さぼってしまってすみません。ちょっとフュギアなんかに嵌り、
おもいきり、シーxミキに浮気中でした。旬だったもので、いましかないと描いてました(-∀-*)ォィ。
年の差カップルが大好物です。魅力的な年上の人をもっとうまく描けたらなといつも試行
錯誤しております。
>169さん…うわっ、すいません。でも、ありがとうございます。m(__)m
やぐちゅーですね。はい。これからは、心を入れ替えてがんばります。(*>_<*)
今後ともどぞヨロシクお願いします。
- 220 名前:Kai 投稿日:2006/04/12(水) 00:24
- というわけで、すごく長くなってしまいましたが続きです。
ノロノロと進んでおりますが、単にアタシが、この話を終わりにしたく
なかっただけだったりして…。(´∀`;)зЗ
まだまだ、先が見えませんが…。
次こそは、ちょっとした展開になるかもと。
- 221 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/12(水) 01:37
- きゃ〜、大量更新ありがとうございます!毎日毎日、更新状況をチェックしてました!
急かしてるわけじゃないですよ!ずっと心待ちにしてたことをひとことお伝えしたくて。
やぁ〜、次の展開、ますます気になります。
- 222 名前:ほっとレモン 投稿日:2006/04/12(水) 19:51
- Kaiさん待ってましたーーーー!!
更新チェックしておりました。
大量更新、お腹イッパイになりましたよ♪
しかし・・・中澤ねえさんは愛しの矢口さんを
置いて去っていくのですか(ToT)
ますます今後の展開が気になります。
改めて『やぐちゅー』が最高だーー!と実感しました。
- 223 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/15(土) 18:14
- マジ次が気になるよ・・・
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/17(月) 11:56
- やぐちさん・・・幸せになって^^
Kaiさんのなちごまを楽しみにしています。この話とは別に書く
といってましたよね〜。いや、ここのなちごまでハマってしまい
期待しています。
- 225 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 12:38
- 容赦なく降りはじめた雨が、激しく窓ガラスを叩いている――。
やわらかい彼女の手に引きずられるように無意識にトボトボと足を動かした。
バックには、ドナドナが流れているような暗く沈んだ気分。バタンと扉を開ける
音がする。夕刻の薄暗い室内にパチリと電気が点いた。
久しぶりに来た部屋は、相変わらず雑然と物が置かれていた。
職員室で人目も憚らず大泣きしたアタシの背をやんわりと押して、連れて来ら
れたのは数学準備室だった。
扉の前で、俯いたまま立ちつくすオイラを彼女が、強引に腕を引っ張った。
ねずみ色の椅子をガラガラと引くと、いつも愛用している自分のそれに座れと顎を
しゃくる。
オイラは、恋人の言うなりに、そのままどすんと着地した。
裕子は、すでに帰宅したらしい男性教諭の椅子を無断で拝借する。
目の前に大好きな恋人がいるはずなのに、気分はそぞろだった。
これから、聞かなければいけないことが、ひどく気重で……。
だいたい、なにから聞けばいいわけ…?
ことの真相を聞いてしまえば、なんだか、それが現実になってしまうような不安感
に襲われ、入ったばかりのドアを開けて、今すぐにでも逃げ出したい衝動に何度も
駆られた。でも、逃げるわけにはいかない…。
逃げ帰ったところで、この胸に居つく不安感が取り除けるものでないのが分かって
いるから…。
「なぁ、どうしたん…?」
俯くアタシを横から覗き込むようにして、何度目だかわからないやさしい声音が耳
を擽った。こんなときでも、裕ちゃんの態度はいつもと変わらない。
やさしいやさしい裕ちゃん。
オイラは、そんなアナタにいつも甘えてるんだなって思った。
ゆっくりと首を傾ける。
- 226 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 12:42
- 「ご、ごめんなさい……」
か細い声で呟くと、「ん?」と、鼻に掛かったような短い声が返ってきた。
泣きすぎて、へにゃんと口の端が下がる。喉も、こころなしか痛かった。
彼女の前だと、どうしてだか子供っぽくなってしまう。大人になりたいって、
もっと、裕子に相応しい恋人になりたいって思っているのに…。
「ご、ごめんなさい…。職員室であんな……。」
「あぁ…平気やよ…たぶん。あっちゃんに巧くフォローしとくように言うといたし、
そんなんはええけど、なぁ、どうしたん?」
ポスンと頭にせられた手で、髪をグリグリされた。
甘やかすようにその手が、ゆっくり降りてきて耳たぶをくすぐる。
あんな場所で、しかも彼女の同僚たちがわんさといる職員室であれほどの騒ぎを起
こせば、どうなるのかなんて、普段の自分なら分かりきっていたはずなのに。
せっかく秘密にしてきたこの恋が、これで、公になってしまったんじゃないかと
いまさらのように自分のしでかしたことの大きさに顔を青褪める。
でも、年上の恋人は、そんなことはぜんぜん大丈夫だから気にするなと言って笑う。
裕ちゃんが、笑っている。
まるで、なにもなかったように…。以前のまま。
もし、あの話がホントウならば、オイラの前で、こんなふうに笑えるはずがないよね?
じゃ、やっぱりデマなんだろうか。
きっと、そうなのだ。この笑顔、そうに違いない。そっかなんだぁ…。
なにやってんだろう、オイラは…。
彼女になにも聞いてもいないうちから、こんなふうに一人で落ち込んだりして…。
人前で泣いたりしてさ…。バッカみたいだ。
でも、逢いに来てよかった…。
裕子の笑顔につられるようにどんどん気持ちも浮上してくる。
だから、勇気を振り絞って、もう一度、顔をあげる。
裕ちゃんの笑顔が目の前にせまっていた。そのまま指先で洟を弾かれて、くつくつ
と笑う恋人に胸がキュンて音をあげたのを聞いた。
- 227 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 12:45
- 「あーあ、もう、そんなに泣いたら明日学校来れなくなっちゃうで?」
「……う、うん。」
「泣き虫なんやから…ほんまにこの子は…。」
頬を撫でていた親指で、涙の痕を拭う仕草にくすぐったくて思わず肩をすくめる。
そんなやりとりに、もしかして、オイラが甘えているんじゃなくて裕ちゃんが、
オイラを甘やかしているんじゃないかってそんな気さえしてくる。
アナタがアタシをとても大切に思ってくれていることは十分わかっているつもりだ。
それなのに、ちょっとでも疑ったりしてしまって、本当に申し訳なく思った。
「あの、ね、……裕ちゃん?」
「ん?」
泣きすぎて、喉がイガイガしてうまくしゃべれない。
「エヘン」と大きく咳払いして、一気に捲くし立てた。
「裕ちゃんッ、あの、この学校辞めちゃわないよね? 裕ちゃん、オイラを置いて
どこへも行かないよね…?」
この機会を逃したらなんだかもう聞けないような気がして、オイラは、勢いのまま
息継ぎも忘れる速さで口にする。
遊園地で迷子になった子供のように必死な形相で袖をわし掴む様子に恋人は、青い
目をさらに丸くして。
「はあぁ〜?…辞めるて?……なんやそれ。」
口をぽかりと開けて固まった。
- 228 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 12:49
- ふう。
肩で大きく息をつく。
なァんだ…。
やっぱりデマかよ。
どうせそんなこったろうとは思ってた。
だいたい裕ちゃんがオイラをおいてどっかに行くなんてことあるわけがないじゃん。
それに、教師は彼女の天職だ。
就職難のこの時期にいくら変わり者の恋人だからって、そう簡単にやっと就けた
はずの職を放棄するはずがなかった。
冷静になって考えれば考えるほど不安になっていたことがバカらしく思えてくる。
「さっき、大谷ちゃんが、職員室で聞いたって言ってたんだ…。なんだ、間違いだ
ったのかぁ…。もう、なんだよォ。でも、誰と間違ったんだろうね…。」
バカだオイラ。
バカっていうか超バカじゃん?
勘違いでなに泣いてんだよ、うわっ、恥ずかしいって。
明日から職員室には行けないな。つうか、担任の岡村センセイになんて言い訳しよう。
天敵に泣いている姿を見られた。
屈辱。けどいまは、そんなのはどうでもいいと思えてくるほどホッとしていた。
「あはは…。どっからそういう話になったんや。んも、そんなはずないやんか…。」
「……そ、そ、だよね? あははは。はあぁ〜。んだよ、もォ大谷ちゃんは……。」
たくっ!
それもこれもみんなピンクの鶏冠頭のでいだ!
紛らわしい間違いしやがってさ。許せないよ。後で斎藤さんに言ってシメテもらおう。
心臓が潰れて死にそうだったオイラの数分間を反せって感じだよ。たく、ほんと心
臓に悪いなぁ…。絶対10年は寿命が縮まったって。
オイラ、こうみえて気がちっちゃいんだから、ヤメテくれよ〜〜!
フッと大きく息を吐いて、肩を撫で下ろした瞬間、聞こえてきた恋人の声に、
オイラは、そのまま奈落の底へまっ逆さまに突き落とされた。
「辞めへんわ…。ちょっと留学するだけやで…。」
「そうだよねぇ。―――は、はあァ??!」
いったん、落ち着いてきた心臓の音が、取り戻すようにまた激しく波打ってくる。
えっ? いま、なんて言ったの??
- 229 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 12:53
- 「りゅ、りゅーが…く……?」
確認するようにゆっくりと問いかけると、彼女は、邪魔くさそうに伸びた前髪を
ガシガシと掻き混ぜた。
「そうや……。」
「………」
えっとォ、ん〜とォ、留学ってなんだっけ…?
頭が混乱している状況では、咄嗟に思い浮かばない。
留学、留学…あぁ、留学って言ったら、確か、外国に勉強をしに行くことだ。
毎年、ウチの高校でも、交換留学と言って、アメリカやドイツにある姉妹校に
選ばれた何人かを留学させる制度を採っていた。逆に向こうから日本にやって
くるパターンもある。
そういえば、隣のクラスにいた金髪で似合わないセーラー服をきた外人さんが
いつの間にか見なくなったけど、もう、彼女たちは帰国しちゃったのだろうか?
でも、それは生徒間の話であって教師が…なんていうのは聞いたことがない。
彼女の答えがどういうことなのか分からなくて、ただ胸だけがざわざわとどうしよう
もなく騒いだ。
辞めるじゃなくて、留学…。
それって、どのみちここから居なくなるってことなんじゃないの…?
すっかり放心するオイラに、裕子は、足で椅子の車輪をコロコロと転がせて、
オイラと正面に膝をつき合わせきた。
おそるおそる見上げると、ここ久しく見覚えのない、まじめな顔をして、ジッと
見据えてくる。
この赤い唇からなにかまたとんでもないことを言われそうな予感に、口の内側に
歯を当てて、再び落ちてきそうな涙を懸命に堪えた。
「ええ機会やから言うわな…。」
そんな前置きの言葉がひどく怖くて、咄嗟に両手で耳を塞ぎたくなった。
でもそれは、彼女に両手を握られているから適わない。
唇をきつく噛み締めながら、折り重なる4つの手を見つめた。
- 230 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 12:57
- 「実はな、アタシ、今度、数学の勉強をしに行くことになってんよ……。」
「………勉強ォ?!!」
意外な言葉に思わず聞き返す。
センセイになれたのに、なんで勉強なんかしなくちゃいけないんだよ?
復唱すると、「そうや」と真剣な顔つきで頷きながら、裕子は、小学生にでも問い
かけるように懇切丁寧にこれまでのことを語りだす。
オイラは、目を見ぬまま、その声だけをジッと聞いていた。
「あぁ…。数学は日々進化しているからな。センセイでも勉強することはいっぱい
あるんやで。勉強いうか、今回のは、お偉いさんの研究発表を手伝いしに行くん
やけどな。現役の数学教師が、日本で3人選ばれることになってん。アタシは、
ある人に推薦されたんや…。だから、名誉なことやねんでぇ……。」
「…そう。」
そうなんだ…。
うれしそうに言ってのける恋人に、どういう顔していいのか分からなかった。
日本で3人なんて、よく分からないけどそれは凄いことだ。
恋人としては喜んであげなければいけないことなのだと思った。
でも、どうしたって“よかったね、おめでとう”なんて言葉掛けて上げられない。
最初は、得意そうに笑っていた彼女もオイラの悲壮な顔色をみて思い直したのか、
神妙な顔付きに戻った。
重たい沈黙が続く。
彼女が耐え切れないように言葉を続ける。
「…正式に決定するまではアンタには言わんとこう思って、こんな形になっちゃ
ったんやけどな…。ごめんなヤグチ…。ちょっと急やったよな。驚いたか…?」
フッ。なんだよそれ。驚いたよ。
驚くに決まってるじゃんか。
まったく簡単に言ってくれるよね…。
突然そんなことを告げられて、オイラはどうしたらいいわけ?
留学だって?
裕ちゃんが、そんなことを考えていただなんてぜんぜん知らなかった。
オイラが、バカみたいにクリスマスのことや誕生日のことをあれこれ考えていた
とき、アナタは、そんなことを思っていたのかと思うと、なんかアホらしくなる…。
そんな大事なことを教えてもらえなくて、オイラって、ホントに裕子のカノジョな
のかな? もう自信なくすよ…。
- 231 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:01
- 「んで、どこへ行くの…?」
彼女はそれっきりなにも言ってくれなくて、それが死ぬほど怖くて…。
沈黙に耐え切れずに震える声でなるだけ明るめに口にすると、裕子は、ふいと
窓の外に目を向けた。
釣られるように視線の先を追うと、オイラの今の心境でも現すかのように雨が
しとしとと降り続いてた。
暖房の付けていない部屋は、ひどく寒々しかった。二人とも暖房を点けること
さえ忘れてしまっていた。
ぶるると全身が震える。でも、この身体の底からくる震えは寒いせいだけじゃ
ないと思った。
色とりどりの傘をさした生徒の姿を眺めながら、ぼそっと「フィラデルフィアや」
と告げられて、頭のなかにはクエスチョンマークでいっぱいになる。
「フィ、フィラ……。ふ〜ん。それってなに県?」
復唱しようとして舌を噛みそうになり、泣きそうになりながらも尋ねる。
「クッ…。どんなハイカラな町名やねんな…。アメリカやん。アメリカ合衆国や!」
間一髪でツッコンでくる恋人に、今度こそ瞳の中の水分が上昇する。
アメリカだって? フィ、フィラ、フィッ…超いい辛い名前。つーか、どこだよ、それ。
ぜんぜんわかんねーよ!
オイラがわかんないような場所に行っちゃうのかよ。
アメリカって、どんだけ遠いんだよ。
どう考えても、ちょっと会いたいからって会えるような距離じゃないじゃんかッ。
留学と聞いた時点で日本ではないのだと分かっても、その途方もない距離に頭がまっ
白になった。
「それで、い、いつから…?」
「ん? ちょっと急なんやけど24日に経つことになってん…。飛行機も手配して
ある…。」
「フッ…。そうなんだ…。じゃ、あと10日もないじゃん…。」
なにもかもが決定事項なんだね。
オイラが、いくら阻止しようとしても彼女のなかでは、もう決まってしまったこと
なのだ。
反対もさせてもらえなくて、でも、それを見越して黙っていたのかって思ったら、
悲しくて涙も止まってしまっていた。
- 232 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:04
- はは。しかも24日だってさ…。
よりによって、クリスマスイブに日本を経つなよな…。
人が、どんな想いでこの日を待ち望んでいたか……。考えると泣けてくる。
つーか、この日って、なんか、オイラに恨みでもあんのかよ!
昔、元カレの浮気現場に遭遇したのもクリスマスの日だった。
親が離婚した日もそうだ。
二年前は、裕ちゃんには出遭って、でも、翌日には、あっさり振られた。
ここまでくれば、絶対なにかあるんだクリスマスには…きっと、そうに違いない。
せめて今年こそは、二人っきりで愉しいクリスマスが迎えられると思っていたのに
それもこれもすべてパーになった。しかも、今までで一番最悪な結末で……。
つい最近まで、プレゼントはなににするかあれこれ悩んでたのが、うそのよう…。
そういえば、裕ちゃんは、そういうのにぜんぜん興味のない人だった。
二年前に出遭ったときだって、街やテレビであんなに大騒ぎしているのに、
その日がクリスマスだってことにもまったく気づいていなかった。
そんな女の子もいるんだって笑ったからよく覚えている。
裕ちゃんは、あの頃から変わらない。
きっと、来月がオイラの誕生日だってことも知らないよ。
言ってないもん、知るはずないっか…。
一人で浮かれて、舞い上がって、レンアイしてる気になって、オイラバッカみたいだ。
つーか、オイラたちって、ホントに付き合ってるのかな?
なんか、もう、すべてがまやかしのように思えてくるよ。
「………んで、いつまで?」
もう、そろそろ限界。
薄汚い床の木目を数えながら、一番聞くのが怖いことをなんでもないように尋ねた。
震える指先を膝の上で抱き合わせ、死刑の宣告を聞くかのように唇を噛み締めて。
でも、いくら待っても返事は、返ってこなかった。
恐々と顔をあげると、裕子は、困ったようにへにゃりと眉を下げている。
躊躇うように目の前に出された人差し指に、オイラはごくんと音が立つくらい
口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。
「はぁ…。一週間かぁ……。」
「って、コラ。……海外旅行ちゃうねんぞ。」
このときまでは、まだ笑いを取る余裕があった。
だから、そんな冗談も言うことができた。
- 233 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:08
- 「フッ。じゃ、……一ヶ月?」
「―――………。」
無言のまま、悲しげに眉を寄せた顔をみて、瞬く間に水分が溜まっていくのが
分かった。
戸惑いながら首をちいさく振る仕草を見てしまうと、ワーと全身の血液が騒ぎ出す。
堪えきれなくなったものが頬を濡らしていく。
それを見られたくなくて、バッと俯いたままそこに両手をあてがう。
はは。い、一年って…。
そんなにもかよ。嘘だろ!
急にそんなこと言われて、オイラにどうしろっつーんだよ。
裕子が、アメリカに留学する。一年間も…。
そんな事実が、高波のように何度も胸に押し寄せては引いていく。
無理だよ。待てないって。
だって、一年って、どんだけ長いと思ってんだ。
その半端じゃない長さの苦しみをオイラは、一度経験しているから…。
大好きな人と別れたホテルから、アナタに出遭うまでの一年半は、たった16年
しか生きていなかった一生のうちで、なによりも長く感じられた。
でも、あれは、ホントウに遭えるかどうかも分からない人を思い続けた一年半だった。
あのときといまとでは状況がまるで違う。
ふたりでいる喜びを知ってしまったいま、また離れ離れにならなければならない
時間が、自分に取っていったいどれほどの苦痛を強いられるかは、経験しなく
ともわかってしまっていた。
涙がとめどなく溢れ出す。
自分の意思では、もう、どうすることもできなかった。
昂ぶる感情を抑えるブレーキが利かない。
だから、頭に浮かんだ言葉が、そのまま口をついて出てきた。
「やだよ! やだ。やだやだ。そんなの絶対やだッ! 酷いよ裕ちゃん…。一年
もなんて、そんなに待てない。……やだったら、絶対にやだっ!」
足と手と頭を同時にブンブンと振り回した。
癇癪を起こす子供のように。こうすることが、子供の我儘と捉えられてももういいよ。
だってオイラ子供だもん。好きな人と離れ離れになんなくちゃいけなくて、恋人の
将来を思って、耐え忍ぶカノジョなんてそんな役回りなんかできるはずがなかった。
- 234 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:11
- なにをどう思われてもいいから、ウソだと言って。撤回してよ。
「ちょ、ほら、落ち着きて、ヤグチ……」
「やだ、やだっ。やだよっ、裕子ッ!!」
「ほらもう、泣きなや…、ヤグチ、ちょ、痛い、ヤグチ、落ち着きなさい!」
バシッと両肩を叩かれる。
それに、ハッとして、ゆっくりと彼女を見上げる。
裕子が、痛いものでもみるように目を眇めていた。
オイラは、今日一日噛みすぎてすっかり腫れてしまった下唇をきつく噛み締めた。
「な、なんで、こんなときに落ち着いてなんかいられないよ。そ、そんな大事な
ことどーして言ってくれなかったんだよ。ぜんぶ、一人で決めちゃってさ、オイ
ラって、裕子のカノジョじゃないわけ?…そんなこと急に言われて、はい、そう
ですか、なんて言えるとでも思ってたのかよ。…そんなこと、そんなこと……
言えるはずないじゃんかッ!」
一気に捲くし立てて、ひうっと大きく息を吸い込んだ。
「せ………せやな。ごめん。」
「ご、ごめん…じゃないよッ! ごめん、じゃ……。」
しゃっくりのようにひくつく背中を摩ってくる手を振り払うよに激しく身体を
捩って抵抗した。
オイラの気持ちなんてなにも分かっていないくせに、そんなふうに簡単に謝った
りしないでよ。
それとも、裕子にとってオイラは、その程度の相手だったってことなの?
ふたりの心の距離は、そんなに離れていた?
アタシたちは、相思相愛で、レンアイをしている気になっていたけど。それは、
オイラの勝手な独りよがりだったの?
そんなの、そんなの、バカみたいじゃんかよ、オイラ。
もう、頭が混乱して、なにがなんだかわからなくなる。
突然こんなことになってしまって、心臓が異常なほどに昂ぶっていた。
決壊が崩れて、自分が、もうなにを言ってるのかさえ分からない。
いままで、お腹の中に貯めていた不平不満が一気に爆発する。
「裕ちゃんは、いつだってそうだ。オイラの気持ちなんかぜんぜん分かってくれ
ない。オイラのことなんて、どうでもいいと思ってるんだ…。どうせそうなんだろ…!」
「ハァ? なんでそうなるん。そんなことないって…。」
「そんなことあるだろッ! もう別れたいんだろ! オイラが邪魔だったんだ!
だから、そんな知らない遠いとこ行くんだ…オイラを置いて…。」
- 235 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:15
- 自分で言った自分の言葉に、ひどく怖くなって息を呑み込んだ。
置いて…いかれるの? 裕子にもまた…。
目をギュと瞑って思い出すのは、母の華奢な背中だった。
妹の小さな手をきつく握り締めて、一度も振り返らずに歩いて行ったあの日に帰る。
大好きだったお母さんの背中を追いかけることもしなかった。いや、出来なかった…。
呆然とちいさくなる母の背中を眺めていた。
あのあと、遭えなかった日々を自分は知っているから。離れ離れになる距離は、
二人の間に大きな溝を作る。
いまどんなに奇麗事を言ったって、距離があれば、それだけ気持ちも遠のくの
が目に見えていた。
逢いたいときに簡単には逢えない。彼女が辛いとき傍にもいてあげられない。
アタシが寂しいとき、恋人は海を隔てた向こうにいる…。
まだ、もう少し自分が大人だったら、ちょっとは自信がもてていたかもしれない。
彼女の未来を喜んであげれたかもしれない。
でも、アタシは、16歳の小娘で、親の庇護の中で生活をしている。お金も持
っていなければ、彼女に付いて知らない土地に行けるような度胸もなかった。
だから、裕子の声は、すべて絶望の道へと繋がっていた。
「嘘つきッ!」
ドンと、拳で胸突いた。
嘘つき! アタシを置いてかないっていったくせに。
どこにもいかないっていったくせに。傍にいるって言ったくせに。
調子のいいことを言って騙したんだ。
自分だって、お母さんと同じことをするくせに…。
もう、裕子の言葉なんてどれも信じられないよ…。
「ちょ、ヤグチ……。」
「裕子の嘘つき…!ずっと一緒って言ったよ…。オイラの傍にいるって…。
ウソついたんだ。だましたんだ…。そんなの、ひどい…ひどいよ裕ちゃ……。」
「……。ヤグチ、分かったからちょォ、落ち着きぃて。落ち着いて、ちゃんと
ハナシしよ、なっ?」
そう言って、泣いている子供をあやすようにポンポンと背中を叩く手をバシッと
払いのける。首が取れちゃいそうなほど、いやいやと乱暴に振る。
「いやっ! ハナシっていまさら、なんなんだよッ! ずっとハナシてくれなかっ
たのそっちじゃんか! いまさらそんなふうに言うなんて…。なんなんだよ、もう
いいよッ!!」
「は?…もういいってなんよ? それより、少し声が大きいから。ここじゃなんや
し、車行こう、なっ? アタシも、もう帰れるし…。今日は家まで送ってくから…。」
- 236 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:19
- ガシガシと頭を撫でられて、癇癪を起こした子供を宥めるようにされる。
オイラは首を激しく振って抵抗する。そんな子供だましに懐柔なんてされない
んだからな。言いくるめようとしたって無駄なんだから……。
泣いて駄々を捏ねてみたって、「じゃ、ヤメルわ…」という言葉は聞こえてこない。
裕子の固い決心が感じ取れて、どうしようもなくやるせなかった。
もう、聞けることをなくなってしまった。言いたいことも言い尽くした。
なにをどうハナシても、裕子に変える意思がないのならいまさら話すこともなかった。
というより、こんなハナシもうしたくなかった。これ以上、惨めな自分の姿を晒す
のも厭だった。
一分一秒でも、アナタの傍に居たくなくて。
恋人に対して、こんな気持ちになるのは初めてで、そんな自分の気持ちが信じられ
ずに、そのことが、ひどく悲しい。
胸が痛いよ、苦しいよ。
「もう知らない。い、行けよ、オイラなんて置いて、勝手にどこへでも行っち
まえ、バカ裕子ッ!!」
「あっ、…ちょ、待ちてッ!!」
宥めようとする彼女の手を思い切り振り払って、飛び出した。
ドアをバシッと閉めると、思いがけずその音の大きさにオイラのほうがビクッてなる。
それでも、廊下を走り抜けて、コーナーを曲がったとたん、足が縺れてズテンと
転んだ。踵を踏み潰した上履きが、あらぬ方向にすっ飛んでいく。
シリアスな場面でこんなコントみたいなことが起きて、それが、なんだかおかし
くてうな垂れたままふつふつと笑いがこみ上げてくる。
「いてぇ……。」
膝を擦りむいてしまった。血が出てる。
「いてぇよ……。」
こんなこと小学生のとき以来だ。
バっカみたいオイラ。なにやってんだよいい年こいて。
「超カッコ悪りぃ。しかも、追いかけてもこねーし……。」
ドラマのように、恋人が追いかけて抱きしめてくるのを想像したけど無駄だった。
当然だ。アタシたちは女優じゃないフツウの高校教師と生徒なのだから。
どうして、こんなことになっちゃったんだろう…。
アタシをスキだと言ったあの瞳も、アタシを抱いたやさしい唇も、指も、なにもか
もが、幻だったように思えてくる。
しまいには、裕子と再び出会えた半年間が、オイラの夢だったんじゃないかって、
そんな気さえしてきて。
オイラは、ズキズキ痛む膝を抱えながらその場に蹲った。
痛むのが、膝なのか頭なのか胸なのかどこなのか分からないまま、彼女のことを
想いしゃくりあげて泣いた……。
- 237 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:22
- ◇ ◇ ◇ ◇
自慢じゃないけど、オイラの寝起きは最悪と言っていい。
起こしてくれる親がいないかったからさなんて…甘えは言い訳にしかならないけど。
毎朝、目覚まし3つと、携帯もアラームまで使って、やっとこ起きるって感じだ。
「ん、ンンッ………ッ?」
胃のあたりにどっしりと重たさを感じて、ようやく覚醒する。
でも、まだ重なっていたいらしい瞼は、なかなか言うことを聞いてはくれず、
夢の中に片足がまだ浸かっているって感じだ。
それでも、なんとか意識を取り戻して、ようやく瞼が開くと。
「ううっ、まぶしッ!」
手の甲を目の前にあてる。天井に掛かる銀色の球体に気づいた。なんだありゃ?
すぐにカラオケ屋にあるようなミラーボールだとわかって、オイラは、ますます
首を傾ける。
なんで、そんなものがこんなところにあるんだろう…。
つーか、どこなんだよ、ここは?
まるで見覚えのない天井だった。
寝起きで、エンジンの掛からない頭をなんとか駆動させようとする。
金縛りにでもあったようになぜだか動かない身体を「よいしょ」と右に寝返りを
打つと、その部屋の内装にますます頭が混乱してくる。
趣味の悪い紫色の壁紙。端のほうがペロンと捲れ上がって余計にみすぼらしかった。
太陽のあたらない薄暗い部屋は、そこはかとなく饐えたような厭な匂いがした。
ズキズキする頭で考えるのも億劫で、ここがどこなのかは、隣に眠る恋人にでも
聞けば分かるだろうと、お腹に乗っかる邪魔な脚を持ち上げて、振り返ると、
オイラは、「うげぇ」と驚愕する。
(ええっとォ、あのォ、――どちらさまですか?)
- 238 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:29
- 根元部分が黒く、それ以外は錆びたような金髪は枝毛や切れ毛でかなりの傷みよう
だった。恋人とは明らかに違う髪の色に一瞬にして凍りつく。
抱き枕にでもするように腰に巻きつく腕の感触も知っているそれより、やや、
ふっくらしていた。胸が触る感じから女の子なのは一目瞭然。けれど、この場合、
女の子でヨカッタとホッとしていいのか、悪いのか、咄嗟の判断が付かなかった。
おそるおそる隣に眠る人の顔を上から覗き込んで、「はうっ」と息を飲み込んだ。
「……さ、さ、さ、さ、斎藤さん?!!」
なんで、斎藤さんが、オイラのベットにいるんだよう〜!!
つーか、このベットはオイラのじゃないや。
エーッ、なんなのこれ。マジでどういうこと??
とりあえず古典的だけど自分のほっぺたを抓ってみる。
あぁ、すげぇ痛いよ。そういう夢ってことはないか?
だって、それくらい信じられないことなんだ…。
あまりのことに、さっきまでの眠気もすっかり失せていた。
「………う、っん…。」
オイラの素っ頓狂な声に反応するかのように腰の辺りで低いうめき声があがった。
両手で口を押さえて息を殺して、どうにかその場を凌いだ。
すぐにスピスピと安らかな寝息が聞こえてくるのに。「はあぁ…」と、肩を撫で
下ろす。
なんで、オイラ、斎藤さんと寝てんだろう…。いったい、どういうことなんだ?
つーか、ここは、どこなんだよう〜〜ッ!!
何度も思い出そうと頭を捻るけど、記憶喪失にでもあったかのように真っ白だった。
キョロキョロとあたりを見渡して、とりあえず自分の居場所だけでもと確認する。
そして、オイラは、再び「うげぇ」と仰け反った。
「ハハ。回転ベットって、いまどき……。」
こんなところにあったんだ…。感嘆の続きの声は、大きなため息と一緒に消え
ていった。六畳もないような狭い室内。その部屋に入る目的を現すかのように
部屋の中央にはどでーんと丸いベットが置かれている。
頭上には、なにやらスイッチらしきものがいくつも色分けされてあった。
想像するに、照明やら、回転やらをお楽しみするスイッチなのだろうな…。
興味本位で触りたくなったけど、眠っている彼女が起こしてしまいそうな気がして、
慌てて伸ばした手を引っ込めた。
ヤニで黄ばんだようクリーム色の受話器。
あまり掃除の形跡がなく、何人もの垢といろんな液が染み付いているであろう
それに触るのも躊躇われて、うげぇと顔を顰める。
埃の被ったような薄汚れたネピアのテッシュの横には、封の切られていないコ
ンドームが2つばかり折り重なってあって。これが、決定打となった。
オイラは、力なくがっくりと肩を落とした。
- 239 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:33
- 「なんで、斎藤さんとラブホテル……。」
ぼそっと呟いた声は、空気へと変わる。
どうして、こんな場所にいるのか。
彼女が起きる前になんとか思い出せねばと頭をうねるけど、なにも浮かんでこない。
イライラしながら髪をかき乱す。
ふと、隅っこのほうに置かれた応接セットに目をやった。ちいさな丸型のガラステ
ーブルの上に、潰した缶ビールの空き缶がゴロゴロと転がっている。そして、
ようやく、この胸のムカムカやらズキズキ疼く頭の原因が、二日酔いのせいに
よるものだと納得した。
お酒は飲めなくはないけど、ビールの苦味がちょっと苦手で。飲めてもチビチビ
舐める程度だ。ビールよりジュースのほうがいいって言ったら、あの恋人にお子
様扱いされそうだけど…。
呑めないはずなのに、あれを自分が飲んだのかと思ったら、どおりでこうなるはず
だと、余計に頭がズキズキしだした。
それよりもなによりも、一刻も早く確認しなければならないことがあった。
丸型の布団…(これってオートクチュールなのかな?)とかどうでもいいことを
思いながら、掛けてある布団をそろりとめくる。
二人とも上半身が裸であることに、再びギョと目を剥く。
(マ、マジでぇ〜!)
あたりを見回すと、ブラと靴下がベットの下に点在していた。
でも、暑かったから自分で脱いだのかもしれないし…。って、今は冬じゃん…。
ますます厭な予感が襲う。
いま一度、大きく息を吸い込み、もう一度布団を捲る。下着を穿いていたことに
心底ホッとした。
(ふう。よかった……。)
って、油断している場合かよ!
だいたい終わってから自分で穿いたのかもしれないじゃないか。
ゴクンて音が立つくらい生唾を飲み込む。
したかどうかなんて普通はわかりそうなものだけど、まったくそんな感じはなかった。
でも、ないときっぱりと言い切れるほどの確証も持てない。
そっと下着のゴムの中に手を伸ばそうとして、ゴロンと寝返りを打ってきた少女に、
だるまさんが転んだをしたときのように身体がピキンと固まった。
スヤスヤと寝息が聞こえてくるまで、息を殺して、そんな彼女の寝顔をジッと見つめる。
うわっ。なんか別人みたいだ。お化粧を取るとこんなに幼くなっちゃうんだ…。
いつもこってりしているから初めて知った。結構、可愛いかも……?
しないほうがいいのに…なんて言葉は、本人を前にしては決して言えないけれど。
意外に豊満な胸をまったく隠しもせず(寝てるんだから当たり前だけど…)こっち
のほうが、目のやり場に困ってウロウロと泳がせる。
- 240 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:36
- 「はうっ、痛ぁいっ!」
あ〜ん、んも頭痛いよォ〜。ズキズキするぅ〜。
二日酔いで記憶がなくなるというよく聞く状況はこういうのを言うんだと、実
証してしまった。
つーか、二日酔いになるまで呑んだなんて初めてだよ。
とりあえずは、身体の上から下までチェックすることにする。
鬱血の痕跡は見られなかったけれど、自分が彼女にしてしまったという恐ろしい
可能性も無きにしもあらずだから、「ごめん」と手を合わせながらももう一度
裸の彼女を見つめた。
恋人意外の女の子の裸をこんなふうにじっくり見るのも初めてだった。
寝ている人に対して、こんなことをするのは、なにかとてもイケナイことをして
いるような後ろめたさも手伝って、なるだけ見ないように薄目にしながら…。
白い肌に無数の引っかき傷があることに気づいて、「あうっ」と頭を抱えこむ。
(これって、もしかして、オイラが付けちゃった痕なのかな…? マジぃ?)
でも、毎日のように喧嘩やらなにやらで疵だらけの彼女のことだから、そうだとも
言い切れない。
だいたい女の子同士なんだし…ありえないと当たり前のように言えないのは、
彼女が、自分に二度も告白をしてきた相手で、そういう意味で、彼女に好かれて
いることを知っているからだった。
(ど、どうしよう〜、てか、なにやってんだよう…。)
酔っ払って、女の子とヤッちゃったなんて、そんな洒落にもならないことを。
しかも、相手が斎藤さんだなんて、行きずりの相手よりタチが悪いって…。
なんでこういうことになったのだろうかと、記憶の道順を辿るように必死で思い
出そうとする。
えっと…。
昨日って、どうしたんだっけ?
- 241 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:39
- 昨日…昨日は、なんだかひどくむしゃくしゃするから久し振りにバイクに乗せて
もらいたくて斎藤さんを呼び出したんだった。
ひどいどしゃぶりで、顔に槍が刺さったみたいに痛かったの覚えている。
斎藤さんに借りたスカジャンの中までびしょ濡れになった。
それから、彼女達がいつも走りの締めに集まる公園でビールを買って呑んで、騒いで。
そのうち雨が雪に変わってきて、どうするかって話になったんだ…。
そんで、それからは…えっと、どうしたんだっけ…?
その後のことは、いくら思い出そうとしてもまるで覚えていなかった
でも、ここにいるということで、だいたいの想像がつく。
「はうっ……いっ…。」
あん、もう、なんだよ、これ〜。
頭痛いよ〜ォ。
でも、どうして斎藤さんなんだろう。
彼女とは、ずっと遭っていなかったはずなのに。
一つ一つ記憶を辿っていく。
それも、徐々に記憶の断片が明らかになってきて。
そうして、一番忘れたかった厭なことをようやく思い出した途端、胸を抉り取
ったみたいにズキズキと痛みだした。
あれは、夢じゃないないんだ。
現実のことなんだね…。あぁ、夢であったらどんなにかよかったのに。
ことの真相はきっとこうだ。
昨日、久しぶりに廊下でばったり遭った斎藤さんに誘われて空き教室で話をした。
そこへ、彼女の後輩の大谷ちゃんがやってきて、裕ちゃんの話をしてきたんだ。
そのことは、寝耳に水もいいところで、オイラは、血相を変えて職員室に居た
彼女に真相を問いただした。
「………。」
その後のことは、もう、思い出したくもない…。
出てきそうになる涙をギュと奥歯を噛み締めてどうにか我慢する。
- 242 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:43
- あれから、彼女の制止する声も無視して教室を飛び出した。
雨の降る中、傘もささずに街を彷徨った。
それでも、一人でいるのがどうにも耐えられなくて、かと言って、なっちやカオ
に心配を掛けたくなかったし、圭ちゃんに怒られるのもゴメンだった。甘えだと
分かっていても、そのときは、あの人の顔しか思い浮かばなかった。
携帯で、バイクに乗せてくれと懇願したら、斎藤さんはひどくビックリしてたけど、
快くOKしてくれた。大雨だったのに…。
呑みたい気分だと言えば、お酒にも付き合ってくれて、二人で公園でドンちゃん
騒ぎした。呑めもしないくせに、バカみたにガバガバ煽って。
お酒に逃げれば、厭なこともすべて忘れられるかと思ったのに。
でも、結局はそんなことをしてもなんの意味もなかったよ…。忘れられたのは一時
だけで、こうして起きてみれば、なにも変わらないという現状と重いしこりだけが
後に残った。
しかも二日酔いというオマケつき。最悪…。
それよりも、自棄になって、斎藤さんとヤッちゃったりしてたらと思うと…。
オイラは、回らなくなった頭をガシガシとかき乱した。
「サイテー……。」
誰にともなしに呟く。
やっぱ、ヤッちゃったんだよね?
こういう場所に来て、上半身裸になっていて、しかも、その相手が斎藤さんならば、
失礼ながらこの状況でなにもことが起こらないなんて、どう考えても思えない…。
「………はあぁ。」
ずっと、こんなことなかったのにな。久しぶりにお酒なんか飲んで昔の悪い癖が
出ちゃったのかな。
裕子と出会う前、あの仕事をするちょっと前までのアタシの生活は酷く荒んでいた。
独りぼっちの家にどうしても帰りたくなくて、夜通し遊び歩いていた。その日の寝
床を求めるように知らない男と身体を重ねたりもした。罪悪感なんて、これっぽっ
ちもなかった。
裕ちゃんには、死んでも言えないことをいっぱいした。
よく病気をもらわなかったと、ラッキーと思うくらい……。
でも、裕子と出会って、オイラの生活は180度変わったんだ。
彼女に遭いたいがために毎朝眠たい目を擦って学校に行って…。
もう、絶対にあんなことしたくないって思った。裕ちゃんの恋人として見合うため
にも真面目になるって誓ったのに。
いくら酔っ払って、見境がなかったとはいえショックだ……。
- 243 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:48
- 「なにが、サイテーなんだ…?」
「うわわああああああ……。」
背中越しに声がして、オイラはかえるのようにぴょこんとジャンプする。
「なに、そんなに驚いてんだよ…!」
「い、いや…なんでも……。」
はあぁ。驚くよ〜。
寝てたと思ってた人に、急に後ろから声掛けられたらさ…。
つーか、いつから、起きてたの…?
「…んん〜〜っ。はあぁ、ねむっ、なぁ、ヤグチ、いま何時?」
「ふえっ? あぁ、んと、11時20分って、うえっっ!!?」
学校とっくに始まっちゃってるじゃん…。
早く行かないと…と言いかけて、ボスンとヤニ臭さの残る枕に突っ伏した。
どうせ今から行ったって、すぐに帰るようだ。
それに、あんなことがあったあとで、裕子の顔をみたくなかった。
遭いたくない。どんな顔して遭えるんだか…。
いや遭いづらい理由は、もう一つあるんだけどね…。
どうしよう…。斎藤さんのことだ。
こんなの浮気もいいところじゃんか。ていうか、これが浮気じゃなくてなんなんだ?
別の女の子と超妖しげなラブホテルに裸同然でいるんだから…。
裕子の浮気のほうをあんなに心配していたのに、自分のほうがそんなことする
だなんて…。
彼女に顔向けできない…。と、思って、また唇を噛み締める。
裕ちゃんは、オイラが浮気したところで、きっとなんとも思わないよ。
どうせオイラを置いて、遠いところに行っちゃっても平気なんだからさ…。
離れ離れになったら、相手が浮気していようと、責めることもできないんだし。
アメリカになら、裕子好みの青い目をした金髪少女なんて五万といるだろう。
フッ。よかったじゃん…。オイラの目が届かないんだから、浮気なんてし放題だ。
忘れようとしても、浮かんでくるのは彼女のことばかり。涙がこみ上げてくるのを
抑えることができない。斎藤さんに見られたくなくてぷいと横を向く。
それにしても、学校をサボったのなんて久しぶりだった。
昔は常習者でしょっちゅうやってた。担任の岡村センセイや、圭ちゃんをやき
もきさせていたけど。裕子と出会ってからは、自分でも驚くくらい真面目に登校
してた。
風邪引いても彼女の授業だけは聞きに行っていたくらいだったのに…。
今頃、裕ちゃん、変に思ってるかな…?
- 244 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:51
- 「…………はあぁ。」
あぁ、もう、どうしてだろう。
あの人のことは考えたくないのに、忘れたいのになぜだか頭に浮かんできちゃう。
そのたびに胸がギュって痛くなって、死んじゃいたくなる。
「おい、さっきから、なに、でかいため息ついてんだよ? 二日酔いはだいじょう
ぶかァ? 頭とか痛くない?」
「…すっごい痛いよォ〜。ぜんぜんだいじょうぶじゃない…。」
顔面蒼白で彼女をみつめる。
気持ち悪い。頭が痛いズキズキする。そう思うだけで吐きそうだ。
「たくっ、呑めないくせに呑みすぎるから…。いっとくけど、アタシは、何べん
も止めたからな…。」
「……う、うん。」
うっすらとだけど覚えてる。彼女の口ぶりからそうとう絡んでしまったようだ。
これが、絡み酒ってヤツ? オイラって、呑むとそうなっちゃう人なのかなぁ。
はう…。もう、最低じゃんか。
「あんだけ呑んだら、そら二日酔いになるわ…。」
「…………うん。」
やれやれと言ったような呟き。
あんだけって、思わせぶりな言い回しだ。いったいどんだけ呑んだんだろうと
不安になる。
それを考えるだけで頭が痛くなってきて、こめかみのあたりをギュて押さえた。
「なんか辛そうだな。あぁ、そういうときは、向かい酒がいいんだ。ビールまだ
冷えてるのあるかなぁ〜?」
「あう〜。いい、いいよ。もう、無理です…。」
ベットから起き上がろうとする腕を慌てて掴んだ。
ショック療法だかなんだかしんないけど。
これ以上呑んだら、オイラ、ぜったいゲロ吐いちゃうって。
いまだって、「うぷうぷ」して危ないんだからさ…。
「んじゃ、先にシャワーでも浴びてたら。頭、すっきりするぞ…。」
「…うっ、うん。ていうか、あのさ、………その…。」
その前に、ちゃんと確認しとかねば。…はぁ。つーか、なにから言えばいいんだよ。
聞きたいことが満載でどれから話していいのか分からない。
- 245 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:54
- 「くあ〜〜〜ッ。ん?…なに?」
そんなオイラとは正反対で、彼女は、呑気に両手を伸ばして大あくびする。
どうして、こんな状況で、そんなふうにフツウにしていられるんだろう。
それって、やっぱ、昨日の一部始終を覚えているからなんだよね…?
ますます厭な予感が募った。
このまま、聞かないで脱兎のごとく逃げてしまいたくなる。
「うん。あの………。」
「はぁん。もしかして、なにも覚えてないとか言うなよ…?」
「あう……。」
先手を取られてしまう。
オイラは、思わず息を呑む。
まさにその通り、図星です。
「うっそ〜、マジ? ぜんぜん覚えてねーの?」
「うっ、あの、断片的にしか…。」
そのオイラの様子をみて、彼女は、分かりやすいくらいにがっくりと肩を落とした。
とたんにサーと顔が青褪める。ちょ、オイラったら、いったいなにしたんだよォ〜!
なんか聞くの超怖いんですけど…。
「それって、ここに来たこともか…?」
「う……うん。」
「どこまで覚えてるんだ…?」
「あ、んと…。バイクに乗せてもらって、焚き火しながら臨海公園でビール飲んだ
のはなんとなくだけど覚えてる…。」
「はあぁ…。なんとなくって…。それから…?」
「あ…そう。パトカーと追いかけっこして…。」
「あぁ…それは、その前だな…。」
「雪が降って来ちゃって……すっごい寒くてさ…。」
それで、そのあと、どうしたんだっけ?
その先は、いくら考えても思い出せなかった。
「ああ…。雪降って来て、すげぇ寒いから、アタシが、んじゃそろそろ帰るべっつ
たら、アンタ、帰りたくない絶対に厭だって泣き喚いて、駄々捏ねまくって、でも、
びしょ濡れだし店なんか入れてもらえないよっつたら、どうしても今日は帰りたく
ないんだって足バタバタさせて、んじゃ、しゃあないからウチ来るかっつたら、
遠いから厭だとか抜かして、じゃーどーしたいんだよって聞いたら、ホテル行こ
っかって、誘ってきたのはいっとくけどアンタのほうだからね…。」
「……………。」
息継ぎもままらない間に、一気にことの真相を聞かされて。
すっかり悪酔いも醒めてくる。
オイラは、彼女の顔が見れなくて、掛け布団をギュって掴んだ。
- 246 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 13:58
- 「一応、アタシは、拒んだから…。」
「……ん。」
分かってます。
きっと、オイラが、無理矢理連れて行けとかなんとか喚いたんだ。
言われて、うっすらとだけどなんとなく思い出した。
だったら、彼女にヤラれてしまったとしてもしょうがなかった。
たとえお酒で見境いがなくなっていたとても、それだって事実上は合意の上だろう。
文句を言える立場じゃないも分かってる。
って、まだ、そこまでは聞いていないけどさ…。
肝心なところを言ってくれない。
でも、聞くのは怖い。浮気したことが現実になってしまったらと思うと…裕子に
申し訳がたたなくて…。
だからって、聞かないままなにもなかったことになんて、自分としては、どん
なにかそうしたいけど、できないことを重々承知している。
一時の気の迷いだからっと言ったって、斎藤さんの気持ちを知っているわけだから、
うやむやに逃げるなんてそんな最低なことしたくなかった。
「ハァ…。まさかと思うけど、あれも覚えてないのか言うなよ?」
「……あう。」
「あれ」と含みを持っていうのに、心臓が破裂しそうになる。
そのまさかです。ぜんぜん覚えてません。
そこだけ、どうしても思い出せないんだよ。
ただ、やわらかい腕にしがみついて離さなかったのはなんとなくだけど覚えてる。
てことは、やっぱりそういうことなの…?
「はあぁ…。悪い、ヤグチ、タバコ取って?」
「え?……あ、はい。」
手を伸ばして、空き缶がゴロゴロするテーブルから、潰れた箱のセブンスターと百
円ライターと、ちいさな灰皿を一緒に手渡した。
チャカチャカ言わせながら、なかなか火のつかないライターを操る。
シュボとようやく火が上がると、薄暗い部屋に斎藤さんのノーメークの顔がぼ
んやりと浮かび上がった。
「はあぁ………。」
二度目の重いため息とともに白い煙を大きく吹かれて、オイラは、ベットの中で
ますますちいちゃく縮こまる。
「アタシは、やめとこうっつたんだ……。」
低く呟かれて、紫煙が広がるのをジッとみた。
彼女は、寝癖の凄い後頭部あたりを邪魔くさのそうにガシガシと払って、歯先で
フィルターの先を噛みしめた。
知らない香水の香り。苦いたばこの匂い。馴染めない女の匂いに、噎せ返りそう
になる。
- 247 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 14:02
- 「でも、いいから抱いてって言われて…。」
「…………。」
「もう、どうでもいいからめちゃくちゃに抱いてって…すっげぇ殺し文句…。」
「……ああぁ…。」
オイラの顔に掛からないように、左を向いたまま細い息を吐いて、遠い先を眺める
斎藤さんに、オイラは、居た堪れなくて、バッて頭を下ろした。
気持ちを向けてくれている人に対して、なんという仕打ちなのだろう…。
逆の立場で考えたら、オイラは、とんでもなく失礼なことをしたんだと思った。
「でも、好きなヤツいるんだろ…アンタお酒に酔ってるだけだから、ってなんとか
宥めようとしたのに、アンタ、いきなり脱ぎだしてさ、アタシの手を胸にあてて、
自分から色っぽく誘ってきたよ…」
「………うそォ〜。(マ〜ジ〜でぇ〜〜!!!)」
「ウソなもんか。マジもマジ大マジだよ。はあぁ…。」
彼女は、これ見よがしに、大きく煙を吐き出した。
灰になった部分を、灰皿の上にチョンチョンと落とす。
でも、ホントにホントにオイラが、そんなことしたの…?
なんなのそれ、だいだいオイラ、そんなお色気キャラじゃないよォ〜。
裕子にだって、したこともないのにぃ〜。
あぁ、お酒って、やっぱ怖い。もう、絶対呑まないと固く心に誓う。
「やめろって、さすがにな拒んだんだけど、アンタ、アタシの服脱がし始めてさ…。」
「うわわっ! もういい。十分。もう、それ以上言わなくていいから…」
それ以上のことを聞きたくなくて慌てて両耳を塞ぐ。
オイラって、魔性の女じゃん?
裕子がよく言うのこれで分かった気がする。
昼ドラのオンナ?
「なんだよ。こっからがいいとこなのに……。」
「そ、そんな……。」
「アタシのことベットに押し倒して、あの人のこと忘れさせてって言いながら、
唇奪ってきた…。」
「わわっ!」
両手で耳をギュって押さえたはずなのに簡単に洩れ聞こえてくる。
つーか、恥ずかしすぎる。それに、なんかキザすぎ!
でもそれ、オイラじゃないから…。
オイラだけど、違う自分だから…。
「アンタ、顔に似合わずすごいキスするんだな…ちょっとビビったよ…。」
「あううぅ…。」
もう、勘弁してください。
ホントにごめんなさい…。出来心でした。どうか許してください…。
「それから、アタシの上に乗っかってきてヤグチ、すごい大胆だった…。――
つーのは、昨日やってたエロビデオの話だけどな。あはは。」
「あはっ。………ハァア??!」
- 248 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 14:06
- ハの形のまま開いた口がぽっかりと固まった。
顔を上げると、斎藤さんは、定番の人悪い顔を浮かべてタバコを口の端に咥え
ながら背中を丸めてくつくつと笑っている。
ハイィ? ちょっと、なによ、それ、どういうこと?
「…タイトルは、たしか“家庭教師にトライ”だったか?」
「………ハ?」
「いやさ、ラクビー部の少年がさ、美人カテキョに迫るつー設定で…結構、よか
ったわ。」
ラクビー部だから、トライだって?
んなことは、どうでもいいっつーの!
なんだよそれ。オイラは、ガックリと肩を下ろす。
真面目な話してたんじゃねーのかよう!
アンタ、さっきから、なんの話してるんだ!!
「ははは。今のは冗談だって。心配しなくてもなんもねーって。ただ一緒に寝
ただけ。だいたい、身体に聞けば分かんだろォ?」
「えええっ!!」
わざと柄悪くみせるかのように。
フィルターを口の端で咥えながら、くいっと頬を持ち上げる。
仁侠映画のヤクザも真っ青なその仕草がちょっとだけカッコよく思えて、怒る
のも忘れて見蕩れてしまっていた。
「あははっ。ちょっと揶揄って遊んでみただけ…。まんまと引っかかったな……」
「ちょ、ちょっとォ、なんだよそれ!!」
ドンて彼女の華奢な肩を弾く。
ひっでぇ。オイラ、ホントにしちゃったんだと思って、超ビビったんだからね!
ぶう、と膨らませた頬を爪先で面白そうに、突付く人。
プシューと音を立てて、風船のように萎んでいった。
「ククッ。アンタって、お酒飲むと幼児退行するみたいだね。アタシだったから
まだよかったようなものの、他のヤツの前で、あんま呑まないほうがいいかもな…。」
顔を傾けながら、深く煙を吐き出した。
悔しいけれど、その言葉だけは肝に命じておく。
「怒った? そんな怒るなって。でも、半分はホントだからな。抱いてって、失恋
したから、彼女のこと忘れさせてって、アタシの上に乗っかってきたまでは…。」
「う〜〜ッ。」
「アタシも、据え膳だしさ、酔っ払って分けわかなくなってるみたいだったから、
食っちゃってもいいかなってちょっと思ったんだけどさ。―――さすがに、それ
は出来なかったよ…。」
「……え、斎藤さん?」
前髪をかき上げるたびに、タバコに混じって、ふわんと甘い匂いがする。
それが、なんの匂いなのだろうかとさっきからずっと気になっていた。
- 249 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 14:09
- 「昼間はあんなこと言ったけどさ、アンタ、ホントは、中澤と付き合ってたんだね…?」
「ええっ?!!」
どうして、それを…。
…知っているの?
「ヤグチ、言ってたよ。泣きながら、うわごとのように裕ちゃん、裕ちゃんって…。
それって、中澤のことだろ? 中澤裕子……。」
「あ………。」
ビクンと肩が揺れる。
アタシのその反応で確信したのか、彼女は、短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
「呑んで騒いで、誰に振られたんだって聞いても絶対に口割らなかったのに、
アタシの腕に抱かれながら、無意識に呼んでた。赤ちゃんみたいにアタシの肩に
しがみついて、離さないで、何度も何度もアイツの名前を……。」
「………。」
「それをみたら、もう、そんな気にはなれなかったよ…。」
「…ごめんなさい。」
また、甘えてしまった。
そして、彼女を傷つけた。
オイラは、どうしてこうなんだろう。
いつも、人をこんなふうに巻き込んで。最低。
「そのうち寝ちゃってた…。アタシを置いてな。アンタが、こんなに近くにいる
のに、なにも出来ないでエロビデオしか見れなかったのが悔しかったから、いま
のはちょっとした仕返しのつもりだ…。はは。ビックリした?」
「……うん。」
怒りたかったはずなのに、もう、なにも言えなかった。
ずっと抱きしめてくれていた腕を思い出したから…。
彼女が、どんな気持ちでそうしてくれていたのかを思うと、胸がひどく痛んだ。
ごめんなさい…。ホントウに…。
「中澤、アメリカ行くって?」
「…………うん。」
「あの噂、マジなんだ?」
「………みたい。」
どこから聞いたのか、でも、彼女の情報網の凄さは知っている。
そんなふうに再び現実を突きつけられると、まだ、ぜんぜん癒えていない瘡蓋が剥
がれて心がズキズキと痛んだ。
「んで、…別れようって言われたわけ?」
「う……ううん。そこまでは…。聞く前に逃げちゃったし…。」
昨日は、聞けなかったことを。
言いにくそうに、でもはっきりと尋ねてくる声に、蚊の泣くような小さな声で答えた。
そこまでは言われていないけど、でも、それと同じことだよ。
- 250 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 14:12
- 「どうせ無理だからさ……。」
ぼそりと恋人の前でもひた隠しておいた弱音が零れる。
だって、離れ離れになれば、きっとダメになる。
彼女を一年間も待てる自信はなかった。
好きだから。めちゃくちゃ大好きだから、そんなに離れるのは地獄だ。
それに、彼女の気持ちが離れちゃうほうがもっと怖かった…。
今だって不安だらけなのに…。やっぱり、アメリカなんて遠すぎるんだよ。
ホントは、信じたい、待ちたいと思うけど、アタシになんの相談もしないで、
そんな大事なことを簡単に決めちゃう人なのだ。
あれで、余計に自信が持てなくなった。
人前で泣きたくないのに、勝手に涙が溢れてきちゃう。
なんとか堪えようと両手をあてがうけど、意味はなかった。
あんなに泣いても、まだ泣けるんだ。
裕ちゃんがアメリカに行っちゃったら、オイラ、どうなっちゃうんだろうね?
想像しただけで、怖いよ。
怖いから、彼女の前からああして逃げ出すしかなかった…。
「ヤグチ……。」
慰めの言葉は、なかった。
震える肩にそっと腕をまわして、怯える身体をやさしく包みこむ。
覚えている。この温もり、このやさしさを。
いま一人じゃないことがひどく心強かった。一人でいたら、死んじゃいたくなって
いたかもしれないから……。
「ごめん……。」
また、アナタに甘えてしまっている。
付き合ってないと騙していたのに、どうして、そんなにやさしくしてくれるの?
アナタが、そういうことするから、ついつい頼っちゃうんだよと、責任転嫁した
くなる。頬に触れてくる彼女の指に、熱い雫が滴り落ちた。
「あぁ…。頼むからもう泣くなよ、ヤグチ。アンタが泣いてるとこみると、こっ
ちまで泣きたくなるんだ…。」
「ごめ……、でも、止まんなくて…。」
「フッ。そんなにアイツが好きなの……?」
「…ん。好きぃ。」
今でも好きだ、大好きだよ。
どんなことがあっても、あの人を嫌いになることはない。
一生そうなんだと思う。
人をこんなにも愛したのははじめてのことなんだ。
「遠くに行っちゃうのに……?」
「……ん。」
それでもだ…。
- 251 名前:ヒミツの恋の育て方 投稿日:2006/05/08(月) 14:20
- きっとアタシは、彼女が知らない街に行ってしまっても、あの人のこと想って
ひっそりと生きていくんだなって思った。一年半前、彼女と別れたホテルの日から、
自分がそうしてきたように…。
そして、そのことをずっと見てきた斎藤さんは、こんな自分に呆れているのだろう。
半年前にも同じように慰められたような覚えがある。オイラって、身長だけじゃなく
心のほうもぜんぜん成長してないのかも…。
腕の中で子供のように掻き抱くオイラの手を緩めて、顔を上げさせる。
アタシの泣き顔をジッと見ながらフッと肩の力を抜いたのが分かった。彼女は
ため息を吐き出すかのようにちいさく零した。
「……すごい妬ける。でも、アンタのその気持ちもわかるかも。――ーアイツって、
なんかちょっと、カッコいいもんなァ……。」
完敗だよ…と言って、白旗を振るように、ちいさく両手を挙げた。
女性の美を言葉で表現するとき。
綺麗だとか、可愛いだとか褒め言葉は他にもたくさんあるだろうけど。
裕ちゃんの場合は、なぜか、“カッコいい”がつくのだ。
外見だけ見れば、ひどく女らしくて、そういう言葉は適切でないと思うのに…。
彼女が醸し出す独特の雰囲気が、人を魅了してやまない。
斎藤さんのような人でもそう思うのならば、きっと、アメリカ人にだって、モテ
モテに違いない。
恋人のことを思い出したら、またぶわっと涙が溢れてくる。
それを止めたくて、やわらかい胸にギュウと押し付ける。
しばらく斎藤さんの胸を借りて泣いていると、彼女は上からぼそっと呟いた。
「…なァ、ヤグチ、そろそろ離れてくんない? 勃ちゃいそうだ……。」
「ふえっ……?」
ため息と一緒に吐き出された言葉が耳に入ってくるなり、オイラはバッと身体を
離した。
それに苦笑しながら、子供にするように頭を撫で撫でされる。
「たく、んな顔すんなって。とりあえず、このままじゃアタシがヤバそうだから、
なんか着ない?」
手のひらに涙を拭われて。
そんな彼女の提案に、ふつふつと笑いがこみ上げてくる。
アタシにだけは、いつだって、やさしい斎藤さん…。
笑わせてくれてありがとう。おかげで涙も止まったよ。
どうして、アナタが恋人じゃなかったんだろうと考えて、思考はそのまま行き詰った。
- 252 名前:Kai 投稿日:2006/05/08(月) 14:20
- 本日の更新は以上です。
- 253 名前:Kai 投稿日:2006/05/08(月) 14:21
- >221さん…待ってくださる人がいるというのはうれしいことです。急かさ
れるくらいがアタシにはちょうどいい感じなので、どうぞお気になさらずに。
>ほっとレモンさん…ずっとグダグダしていましたが、ようやく二人が動き出し、
なんとか終わりが見えてまいりました。今後、どうなるかはお楽しみに…。
>223さん…ありがとうございます。お待たせしました。
>224さん…なちごまか…。忘れてたわけではありませんよ。ていうか、短編が
何本か出来てたりしますが、なにぶん上げる場所がなくて…。新しいスレを立て
るほどもないので、これが終わるまでもうちょっとだけお待ちくださいませ。
- 254 名前:Kai 投稿日:2006/05/08(月) 14:25
- GW中にもうちょっと進みたかったんですけど、いろいろやっているうちにあっと
いう間に終わってしまいました。
アタシがグダグダやってるうちに、娘。さんはどんどん変わっていきますねぇ〜。
このお話にはあまり関係がないのですが、作家さんのお気持ちお察しします。
お二人には、別の世界に旅立っても、幸いであって欲しいですね…。
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/09(火) 01:06
- 更新待ってましたーーー!!お疲れ様です!予想外の展開にビックリ!
誰にも相談せずに自分のことは自分で決めるーーー実際の裕ちゃんもそんなポリシーの持ち主ですよね。誰も頼らずって感じで。
それよりなにより、なんとか終わりが・・・って、終わっちゃうんですかー!?
めっちゃショックですぅ・・・。
- 256 名前:ほっとレモン 投稿日:2006/05/21(日) 14:51
- 更新ありがとうございます。
姐さんの留学、痛いっす!!
やぐっちゃんどうなるんだーー!?
この二人のお話が終わりに近づいているのが
寂しいですが、ハッピーエンドであることを祈ってます。
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/05(水) 00:49
- 続きが気になりますー。
- 258 名前:名無し読者 投稿日:2006/07/12(水) 14:41
- もうそろそろ・・・・七夕も過ぎたことですし。
二人の逢瀬(古い)
待ってます。
- 259 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/24(月) 00:57
- 中澤姐さんとやぐちはどうなるんだー!!
続きが大変気になります。
待ってますよ〜!!!!
- 260 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/24(月) 02:21
- 一応、下げます
- 261 名前:sage 投稿日:2006/07/24(月) 21:29
- 待ってます
- 262 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/24(月) 21:31
- ↑まちがえたーー!
改めて、待ってます・・・。
- 263 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/24(月) 22:56
-
- 264 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/11(金) 00:16
- 待ってます。
整理が始まるみたいです。生存報告だけでもお願いします。
- 265 名前:つかさ 投稿日:2006/08/14(月) 20:04
- 待ってます。
どれだけやぐちゅーが少なくなろうが。
やぐちゅーのオアシスでいてください(ぺこり)
- 266 名前:Kai 投稿日:2006/08/15(火) 17:38
- 管理人さま、保全します。
レスありがとうございました。諸事情により更新がだいぶ遅れて申し訳ありません。
でも、待ってくれている人がたくさんいてすごくうれしかったです。(;_;)
必ず更新しますので、どうか、もうしばらくだけお待ちください。
- 267 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/23(土) 16:04
- 待ってま〜す☆
- 268 名前:名無し読者 投稿日:2006/10/08(日) 10:40
- いつまでも待ってます。
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/29(水) 00:35
- 1から読み返しました。
続きが気になりつつ、楽しみに待ってます。
- 270 名前:マコト 投稿日:2006/12/03(日) 20:16
- Kaiさんお久しぶりです。
ずっとROMってた自分が言うのもなんですが、
Kaiさんの書くやぐちゅーがまた読める日を心待ちにしています。
待ち続けますので、頑張ってください
- 271 名前:つかさ 投稿日:2006/12/03(日) 22:19
- マコトさんの書き込み読み。
自分も待ってます。
生みの苦しみやとか現実世界とかいっぱいあるってわかってても。
Kaiさんの書くやぐちゅーが大好きなんで。
時間かかっても構わないんでお願いします。
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/30(金) 06:21
- お願いします
- 273 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/30(金) 06:24
- すいません。
- 274 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/30(金) 07:46
- 堕ちろ、嫌愚痴。
- 275 名前:asu 投稿日:2007/12/05(水) 22:22
- 待ってます。
- 276 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/06(木) 01:00
- ageれば書いてくれる作者様なら、待たなくても更新してくれるっしょ?
とりあえず、保全はsageようや。
- 277 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 00:44
- 更新されるのを楽しみにしている一人です。
週末にログ整理があるようなので、作者様の生存報告だけでもお知らせ頂ければなぁ
と思い、書き込んでいる次第です。
自分はやぐちゅーが好きでこの作品が好きなので、ラストまで読み続けたいです。
このままお蔵入りするにはもったいない作品だと思っていますので。」
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