今宵あなたと、この木の下で

1 名前:Rink 投稿日:2005/12/24(土) 23:12
緑板 『くじらと人魚』スレ内 『今宵あなたと、この木の下で』
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1134400960/

続きです

いしよしです。よろしくお願いします



赤板 『ライン』
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/red/1132757791/

続き 緑板 『LINE』 『CROSS』
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/green/1133712122/

緑板 『くじらと人魚』
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/green/1133712122/

風板 『くじらと人魚』 続き  『LOOP』 『歪んだ太陽』
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1134400960/

作者サイト『いしよしManiac』
ttp://maniac.himegimi.jp/

2 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:14

3 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:15


ナイター終了ギリギリまで滑って、寄宿舎に戻る
中に入ると食堂の方が騒がしい

そういや圭ちゃんがパーティするって言ってたなぁ

「よしこー!遅いぞー!」

食堂の入り口からごっちんが顔を出した

「ごめんごめん」
「早く着替えといでー」
「はいよー」

ばふばふと雪を落として部屋に入った

ジャケットやらゴーグルやらを暖房の上に置いて
窓の外を見る
12月には珍しく、雪がやんでいた


はぁ・・・真剣にねぇ・・・


山崎があんなこと言ってくるなんて珍しいな
普通ならさ、キモがるんだろうけどさ
でも、やっぱアイツの気持ちは本物だったんだろうな
今もまだ、好きなのかもしれない・・・


ウチはジャージに着替えて部屋を出た

4 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:17
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
5 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:17

「はーい、みんなグラスもった〜〜?」

「「「「「おーーーー!!!」」」」」


食堂でみんながグラスを持って立ち上がる


「んじゃ、まだ25日になってないけど、乾杯しまーす」


「ではでは、メリークリスマス!かんぱーーい!」

「「「「「「かんぱーーーい!!」」」」」」

それぞれ近くにいた人たちとグラスを交わす

「さぁ食えぇぇぇ!!」
6 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:18

圭ちゃんの号令とともに、ヤローはご飯にがっつきだした
こえぇって・・・
みんな昼食を抜いて我慢してたらしい。
そりゃもう、凄まじい食べっぷりで見てるほうは惚れ惚れするくらい
そんなウチを後ろから声かける人。

「ひとみちゃん、食べないの?」

ふーりーむけばそこに〜って・・・梨華ちゃん

「ああ、ああ・・・た、べます」

山崎にしろ、ごっちんにしろ
あんな事言ってくるから、妙に意識しちゃっう。
梨華ちゃんはチキンやポテトを乗せた皿をウチに渡してくれた

「こ、こんなに食べれないって」
「一緒にたべよ?」

あ、あああ・・・またあの笑顔ですよ
さっきからものすごい
ドキドキドキドキドキドキドキドキしてるんですけど
気のせいにしたいんだけど、そうもさせてくれなくて。

「う、うん・・・」

ウチと梨華ちゃんは窓側テーブルに
向かい合って座った
7 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:18

「ん〜、おいしっ」
「そうだ、ね」
「ひとみちゃん、食べてる?」
「ああ、うん、た、べてるよ?」

どもりすぎだってば泣

っていうかさっきからものすごい視線感じてるんですけど・・・

横目で食堂中央の方を見ると
ヤローたち&ごっちん、その他複数女子がウチらの方を見てた

「な、なんだよ!」

「「「「「なんでもありませ〜ん?」」」」」

「あーんとかしてやれば?梨華ちゃん!」
「そうそう!あーんしろ!あーんしろ!」
「「「「あーんしろ!あーんしろ!」」」」

だれだ?宴会部長してるやつは!

「そ、んなぁ・・・」

梨華ちゃんはチキンに刺したフォークを置いて、下を向いた

「おまえらうっさい!!」
「「「怒っちゃいや〜ん!」」」

誰の真似だよ、キモいなぁ!

「はいはい、君達、ケーキもあるから酒飲み過ぎないようにね!」

「「「「「おーーーー!!」」」」」

8 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:19
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
9 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:21

軽くほろ酔いになったところで、ウチは部屋に戻った
ヤローたちはまたあそこから忘年会に切り替わってる
圭ちゃんが主体だから、朝まで続くぞ?ありゃ。
明日の朝ご飯、あるのかな・・・

部屋の窓を開けて外を見ると
満点の星空が目の前に広がっていた

東京に居たら、こんな空見ることないもんな・・・


 キィッ

ふと横を見ると隣の窓も開いて、身体を乗り出している梨華ちゃんが居た

「あ。ひとみちゃん・・・」
「お、おっす・・・」

彼女はウチに笑顔を一瞬だけ見せて、どこか落ち着き無い感じで
山の頂上を見上げた

「どうした?」
「ううん・・・」
「・・・ん?」
「・・・・・」

下唇をかんで、眉毛を垂れ下げる
10 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:21

「どうしたの」
「・・・携帯」
「え?」
「カフェにおいて来ちゃった・・・」
「はぁ!?」
「・・・探しても、無いの・・・」

あーああ、バカはっけーん
クリスマスイブにバカ発見しましたー

「明日まで待てば〜?」

すげー、ウチ冷たい?極悪非道の吉澤って名前ついちゃうかな

「・・・うん・・・」

案の定梨華ちゃんは俯いた
あああああ、泣きそう?泣くの?泣かないで!!
ごめんって!うちがわるかったって!申し訳ないってば!
11 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:21


「・・・着替え終わったら、ロビー来て」
「え?」
「取りに行くでしょ?」
「・・・え、でも・・・」
「モービル乗っけたげるから」
「・・・うん!!」

梨華ちゃんは嬉しそうに頷いて窓を閉めた。


はぁ・・・とんだマドンナだよ

ウチはさっさと着替えを済ませて食堂に戻った
12 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:23
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
13 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:24

食堂に入ると忘年会から新年会に変わってた

「山崎ぃ?」

「おお?よしざぁ〜?どした、そんな格好で」
「もうナイター終わったぞぉ〜?」

へべれけになってる山崎他多数

「よしこ、またすべりにいくのぉ〜?」
「違うよ!ちょっと、山崎。モービルの鍵貸して」

「ん〜、ああ、ほい!」

 チャリンッ

ウチはキーをくるくる回しながら宴会の首謀者圭ちゃんを探し出す

「ああ、それと、圭ちゃん、カフェのキーも」
「え?」

「吉澤、どこ行くの・・・?」

14 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:24

食堂の中が静まり返って
全員が固まる

「え?カフェだよ」

「よしこ、なにしに?」
「忘れ物取りに」

みんながウチのほうを一斉に見る

「アンタ一人で?」
「い、いいえ?」

座ってた人間は立ち上がって、ウチのほうに迫ってきた

「「「「「「誰と!!!」」」」」」

「り、かちゃんと?」

15 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:25


「「「「「おおおおおおおおお!!!!!」」」」」」

食堂中が一斉に沸き立つ

な、なんだよ!なにが「おおお!」なんだよ!

半分以上はおめでとうなんていいながら
もう半分は泣き崩れてるヤローたち
せっかく酒我慢してたのによー、とか言ってる

「ちょっと、何の事だよ!!」

「「「「「おめでとう!!!」」」」」
「ちきしょーーー!くっそぉぉ!」
「ああああ、吉澤ぁぁぁぁ!!」

おい・・・うわんうわん言いながら泣き出してるやつもいるぞ?
もう訳わかんないってば!!

16 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:26

「吉澤?」

そういうと圭ちゃんは小さな箱の入った袋を渡してくれた

「な、なんすか、これ」
「ケーキ」
「さっき食べましたけど?」
「いいから持って行きな!カフェのコーヒー飲んでいいから!」

ちょっと!めちゃ至近距離なんですけど!
近い、近い!!怖いんすけど!

「ほら、キーだよ」
「あ、ありがとう、ございます?」

号泣してたり、両手上げて大喜びしてたりする
ヤローに囲まれたごっちんがウチを見た

「あ、よしこ、状況飲みこめてない?」
「まったく!!」
「そっかぁ、よしこは今年初だもんね?ここ」
「ええ、それがなにか?」

「よしわかった!じゃあ皆さん、ご唱和おねがいしまぁっす〜」
「「「「「「「へーーーい」」」」」」」

17 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:26

ヤローたちは泣いてたり騒いでたりを一旦止めて
手をお腹の前で組み合わせる。ほら合唱の時みたいにさ。
なにここ、しかもなに?この絵面・・・だいぶキモイんですけど

ごっちんはイスの上に立ち上がって
まるで指揮者のように腕を振り上げた



「さん、はい!」


「「「「「「♪こ〜よいぃ〜、あな〜たと〜〜この木の〜したぁぁ〜〜でぇぇぇ〜」」」」」」


何の歌だよ!!全員で年末第九の大合唱並に揃ってる


「「「「「「ち〜〜〜かい〜〜〜〜〜ますぅぅぅ〜〜〜」」」」」」


「「「「「「「「ヒュ〜〜〜〜〜!!!」」」」」」」」

みんなまた一斉に歓声を上げた

「それでは、よしこ?」

「「「「「「「「行ってらっしゃ〜〜〜〜い!!!」」」」」」」」

わーっと沸き立って拍手が起こった。
感動した、俺感動したよ!っていいながら泣いてるヤツもいるし・・・。
だから、なんだっての・・・説明しろよ、誰か

18 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:27

ウチは訳がわからない状態で食堂を出ようとしたら
後ろからガシッ!と首根っこを捕まれた

い、痛い・・・痛いです。ミシミシいってますから
だ、誰ですか、こんな怪力

「よーしーざーわ?」

あ、ああ、お圭さん・・・

「な、なんでっしゃろ」

「絶対10分以内に上に上がりなよ?」
「じゅ、十分!?」
「そう、何が何でも・・・いい?」
「な、なんで、デスカ?」

「いいから黙って言う事聞きな」

すんげー怖い、マジ怖い!
真冬に怪談ですよ、お岩さん。一枚、二枚、もう怖い・・・

19 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:28

「よしこ!」
「な、なに!?」

首を捕まれたままで振り返る

「カフェの横の木。そこに箱あるから開けてみて」

ごっちんは満面の笑みで答えてくれた

「木!?箱!?」

確かにカフェの横にはデカイ一本の杉だかもみだか白樺だかの木がある

「うん。あけるんだよ!?絶対あけるんだよ!」
「わ、わかった・・・」

20 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:28

「よしこ!!!」

ウチは外に出ようとすると、ごっちんがまた呼び止める

「なに!!?」


「好きなんだろ!?」
「・・・は!?」

「言っちゃえよ!」
「何を!!」

「まず言っちゃえ!!」
「だからなにがだよ!」

「マドンナ逃がすなよ!」

「「「「「グッラック!!」」」」

あの、皆さん、何か仕組んでらっしゃいます?
なんでそんなに揃ってんの。前説とか誰か居んの?ねぇ。

「ほら、行って来い!!」

圭ちゃんはウチの背中をドンッと押して食堂の外に追いやった


中からは気をつけろよーとか
キスでもしろーとか色々声が聞こえてきたけど
もう頭の中が混乱して何の事かサッパリ分からない

キーと袋を握り締めてロビーに向かった

21 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:30

ロビーのソファには、ウェアに着替えた梨華ちゃんがちょこんと座ってた

「ごめん、お待たせ」
「あ、ううん・・・」

梨華ちゃんの頬はほんのり赤い

ロビーの壁掛け時計を見ると、あと20分で日が変わる
日が変わらないうちに上に行けって事なのか・・・

「とりあえず、いこうか・・・」
「うん・・・」

22 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:30

外に出ると、ちらほらと雪が降ってきた

「さむぅぅぅぅ!!!」
「ごめんね・・・」
「いいよ・・・コレ持っててくれる?」

ウチは梨華ちゃんにケーキの箱を渡すとモービルに鍵を差し込む
梨華ちゃんはちゃっかり指定席の後部座席に座る

「これ、なに?」
「ケーキ」
「だれ、から?」
「圭ちゃん」

「そ、そう・・・」

梨華ちゃんは袋を両手で持つと顔を赤くして俯いた
この様子じゃ梨華ちゃんも何か知ってるんだな?

もう、追求はあと。とりあえずウチは上に行かないと
あの、お岩改めお圭さんに、呪い殺される

「んじゃ、しっかりつかまっててね」
「うん」

  バルルルルルルッ!!

エンジンをふかすと、梨華ちゃんは袋を腕にかけて
しっかりしがみついてきた



照明もついていない真っ暗なゲレンデを
山頂に向かって一台のモービルが走り出した

23 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:31
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
24 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:32

「うぉぉぉ、こぇぇぇぇ!!」

何回もモービルには乗ったけど
さすがにライトのついていないゲレンデを走るのは怖い
いくら慣れた場所でも、モービルの照明だけじゃ怖すぎる。
でも、なんとしてでも上に行かないと、ウチは殺される殺される・・・




 バルルルルル〜〜〜ッ   カチャッ

普段なら20分かかるところを、猛スピードで10分で到着
これマジで新記録じゃない?こんなロングコース10分だなんてさ
とりあえずウチはあのお岩・圭さんに殺されずに済んだってわけか

カフェの前にモービルを止めて、裏口をキーで開ける

 パチッ

「どの辺に置いたの?」
「探してみる・・・」

「鳴らそうか?」

「あ、うん・・・」

手袋をカウンターの上に投げて携帯を取り出す
メモリーから梨華ちゃんを選んで発信。


 ♪王子さま〜と雪のよる〜


カウンターの下のほうで着うたが鳴った

25 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:32

「あったぁ・・・」

梨華ちゃんはほっとしたのか、携帯を胸の前で握り締めてる
その顔は本当に安心していて
なんか、その・・・なんていうんだろ、この気持ち

「そ、そう・・・良かったね」

またドキドキが復活してきた
え、ええっと、えええっと

梨華ちゃんは携帯をポケットにしまうと
俯いて、モジモジし始めた
またモジモジ?モジ男?

「あ、ああ、そ、そうだ。それ、ケーキ、保田さんが食べろって・・・」
「あ、うん・・・そう、だね・・・」

腕から袋を取って、カウンターの上に置いた

「ねぇ、ひとみちゃん・・・」
「な、なに・・・?」

梨華ちゃんは入り口近くに居たウチに近寄ってくる

「あの、ね・・・」
「あ、うん・・・」

彼女がウチのジャケットを指でつまんで
ウチを上目遣いで見上げる

なんか、こう言うシチュエーション、何度かあったよな・・・
彼女がウチのジャケットを摘まんで
ちょっと何かを言いたそうにしてるって。
26 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:34

今まであったいろんな事が甦る

まずは熱出してぶっ倒れた事件
寄宿舎にある大浴場の露天風呂ではしゃぎ過ぎてのぼせて倒れた事件
先週、ここのスキー場の祭りでもあるゲレンデ花火シュプールを
二人で見に行って、綺麗だね。って、君の方が綺麗だよ?事件
これ事件か?いや、思い出だろ。それにそんなこと言ってないし・・・

あとは、あとは・・・

まだここに来て、1ヶ月ちょっとだけど
ウチ、梨華ちゃんの色んな顔見てる
笑ったり、泣いたり、ちょっと拗ねたり、今みたいに安心したり
幸せそうな顔を見たり・・・

すんげー・・・見てる
しかも、それを・・・誰よりもそばで
いつも彼女はウチの近くに居てた
それは多分、彼女が意識的に来てたってのもあるのかもしれないけど
ウチは、多分・・・無意識に彼女のそばに居てたのかもしれない

27 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:35

なんか、他のヤローが梨華ちゃんにちょっかい出してるのを見ると
どうでもいいよって思いながら、内心ムカついてた
それに、もし誰かが本気で言いよって、付き合ったらって考えて
なんか・・・そういうの、イヤで。
山崎が好きなんだろうってのもどこかで気づいてたし
ロッカーから出てきた彼女と顔を合わせたとき
居辛くなって、ウチは目をそらせてその場を去った

そのあと、すごく、悔しくて悲しくて、切なかった


そうだよ・・・そうだ
思い出したよ

彼女の視線にも、気づいてたのかもしれない

ウチは見て見ぬフリをしてた

バカらしい、ウチは山に来て滑りたいだけだって
言い聞かせてた、のかな・・・

28 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:37


 “好きなんだろ!?言っちゃえよ!”


 “お前も、ちょっと真剣に考えてやれよ”




・・・そうだね・・・周りは気づいてたんだね


29 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:37

「あ、のさ」
「なぁに?」

ウチは梨華ちゃんと向かい合う
梨華ちゃんは俯いて、でも上目遣いのウルウル目で見つめてくる

「あの・・・」

「・・・・・その、言葉・・・聞きたくない」

「え!?」

「今、ココじゃ、聞きたく、ないの・・・」

あんれ〜!?出鼻くじかれたんですけど。
しかも早くも玉砕?気づいてまだ1分も経ってないんすけど・・・

30 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:38

「まだ、待って・・・」

「あ、そ、そうね・・・」

「あ!そうじゃなくて!!あ、あの・・・その・・・」

梨華ちゃんはかなり焦りながらウチが勘違いしてると思ったのか
訂正しようとしてた。

いや、もういいんですよ?そんな焦んなくたって
えへへ〜い!クリスマスに玉砕だぁ〜よこれ。
麓帰ったら、ごっちん慰めてくれるかなぁ

31 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:38

そういや、なんか大事な事忘れてる・・・





´ Д `)







`.∀´)





はぅぅぅう!!!!



「梨華ちゃん!!今何時!?」
「え!?」
「時間!!」

「え、えっと、11時、54分」
「そ、外行こ!!!」

腕時計を見てた梨華ちゃんの手を掴んで、慌てて外に飛び出した

32 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:39
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
33 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:40

「ええええっとぉ?木の横の箱?」
「え!?」

梨華ちゃんは驚いたようにウチの後ろで声をあげる
ウチは圧雪されてない雪の上を這うように歩く

「な、なに?」
「ひとみちゃん、それ、どこで聞いたの?」
「ああ、さっきごっちんが言ってたの。絶対開けろって」
「そ、そうなん、だ」

また梨華ちゃんは少し俯いて、モジモジモジ男になった
もー、モジ男はいいから、箱見つけるの手伝ってよ、ねぇ?
34 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:41

「多分、こっち・・・」
「あ、そうなの?」

梨華ちゃんが指差す方を探してみる。
暗くて何にも見えやしない


木の根元に行くと、ウチの目線の高さに小さなノブつきの鉄の箱が立っていた
なにこれ、百葉箱?こんなところで気象観測?
ごっちんはウチに温度と湿度を見てこいって言ってるわけ?

ノブハンドルを持って反時計回りに捻る

「な、なんだよこれ、固いぃぃぃ、ぎぎぎ!!」

ギシギシと音を立てながら、ハンドルはゆっくり回っていく
梨華ちゃんはウチのそばでその様子をハラハラしながら見てた

35 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:42

 ギィィィ  ガチャッ

やっと開いたよ・・・
錆びついてたのかな

中を覗くと板のようなものが入ってた。
なんじゃこれ・・・。
手を突っ込んで、板を取る

「お、重っ!!!」

石版か?取り出して見ると、なにやら文字が彫られてる
けど暗くて分からない

「見えないね・・・」
「モービルの照明つけるよ」

ウチと梨華ちゃんはモービルの前に行って
ライトをつけたその明かりで石版を見た

36 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:43



「あ、ああ・・・あは、あはは・・・」



な、なるほど、ね・・・



梨華ちゃんを横目で見ると
上目遣いの涙目でまたウチを見る

もう、はぁ・・・分かったよ

「ふぅ・・・オッケー」

「・・・いい、の?」

「なにが?」

「・・・これ・・・」

ウチは小さく息を吐いて、梨華ちゃんのほうを見た
もう泣き出し5秒前になってる彼女
ウチはちょっとテレくさくて鼻の頭を掻いた


「・・・まぁ・・・ね・・・ほら、行こ?」

モービルのエンジンを切ると
彼女の手を取って、また木の方に向かった

37 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:54
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
38 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:56


しんと静まり返った山
左側に立つ彼女の頭越しに見えた空は
満天の星が輝いていた

チラホラ降っていた雪が、ウチの肩に落ちる
綺麗な六角形の雪の結晶


そうか・・・ホワイトクリスマスだね


木を見上げながら、ウチは梨華ちゃんに話し掛ける



「今、何時?」
「もうすぐ・・・12時」

「おっけ」
「・・・」

「じゃ、始めよっか」
「うん・・・」


39 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:57



石版を左手の上に置く

梨華ちゃんが石版の上から右手を置く





「ふぅ・・・」


大きな息をついて、ウチは息を深く吸い込んだ


40 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:57


「吉澤ひとみ」

「石川梨華」





「「今宵、あなたと、この木の下で」」



「「いつまでも変わらぬ愛を」」



「「誓います」」


41 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:58


「石川梨華さん」

「はい・・・」


「・・・好きです。・・・ウチと、付き合ってください」

「・・・はい」



「・・・よし、ざわ・・・ウグッ・・・ひとみ、さ、グスッ」

「はい・・・」

「す、きです。グスッ。わたし、と、グスッ、つき、あって、く、ださい」

「はい・・・」

42 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:58


「「聖なる夜、わたしたちは」」



「「永遠に」」



「「変わらぬ愛を」」



「「誓います」」


43 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:59

「グスッ、グズッ・・・ひとみ、ちゃん・・・」

「梨華ちゃん・・・」

「グスッ、ほんと、に、いいの?」

「・・もちろん」

ウチは、今まで誰にも見せた事が無いくらい
柔らかく、笑ったと思う

だって、梨華ちゃんが
泣きながら、でも本当に嬉しそうに、幸せそうに、笑ったから

玉砕したと思ってたけど、ただのウチの勘違い。
早くも復活、その上・・・ねぇ?

44 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/24(土) 23:59


「梨華ちゃん・・・」

「な、に?ひとみ、ちゃ」


ウチは右手で彼女の顔を引き寄せて


 「・・・好き・・・」


 「・・・わたしも・・・」



目を閉じて、唇を重ねた


45 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:00


  バンッ!!


眩しくて目を開くと
目の前の大きな木に明かりが灯った




「・・・ぅゎ・・・すっげ・・・」

「・・・ぁぁぁ・・・」




ウチと梨華ちゃんは木を見上げる

20m以上はある木のてっぺんから下まで
吊り下げられたイルミネーション。
その明かりはとっても綺麗で
まるでクリスマスツリーを見てるようだった

46 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:02

「っていうか、ツリーか・・・」
「そう、だね・・・」

横を見ると梨華ちゃんは手を口に当てて
本当に感動してた


ウチは石版を右手に持ち替えると
梨華ちゃんの手をそっと繋いだ

「Merry Christmas 梨華ちゃん」
「Merry Christmas ひとみちゃん」

「・・・これから、よろしくです」
「こちらこそ、よろしくね?」

ペコッとお辞儀をして、顔を上げると
キラキラと光るライトで、ウチらの顔もようやく見えた
かなり真っ赤です、二人とも。

また木を見上げる

確かにこれは、すごいな・・・
クリスマスなんてって思ってたけど・・・

感動した。

47 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:02

はぁー、ちっきしょーめ・・・
すっかりやられたって訳か・・・


「はぁぁ」
「どうしたの?ひとみちゃん」
「ええ?」

ウチは口を歪ませる

「だってさ?」
「うん・・・」
「梨華ちゃん知ってたんでしょ?」
「・・・うん」
「なーんか、騙し食らった気分!」
「フフッ!」
「まぁ、いいけどさ?」

梨華ちゃんはまた優しく笑った

「さーて、ケーキでも食べますか」
「うん!!」

梨華ちゃんはウチの手を握った
ウチはその手をぎゅっと握り返して、カフェに戻っていった

48 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:03
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
49 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:03

「いやぁ、ハタから見ても、いいもんだねぇ・・・」
「そうだなぁ・・・」
「山崎、来年は頑張れよ!にしし!」


どうも、また今年もマドンナから選ばれず
寒空の中、木を見上げる山崎です。


ココで皆さんに解説しましょう

この聖なる夜に行われる毎年恒例のこの行事。
名づけて『保田山スキー場、サンタクロース大作戦。』
これはこの寄宿舎、そしてこのスキー場の経営者でもある
保田さんのお父さんが考え出されたことでして
スキー客ばかりにロマンティックな夜を過ごさせるのもどうなのかと
もう15年以上前から行われていることです

寄宿舎の中に居る女性から毎年マドンナを一人上げ
その人は去年のマドンナから事の流れを説明されます
マドンナは24日までに男性を一人選び
そしてカフェに行こうと誘います。
まぁマドンナですから?誘いを断るやつなんているわけもなく。

そして、木のふもとにある小箱の中から石版を取り出し
あとはあの二人が行った事をするのです。
もちろんキスまでね?

石版にはこう書かれているらしいです(後藤談)

50 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:04

┌                             ┐

   今宵聖なる夜、この木の元に来た選ばれし恋人たちへ
        二人の愛が永遠の物となるよう
         この木に誓いをたてましょう


   木を見上げながら、男性の左手の上にこの石版を置き
   石版を挟むように女性が右手を置きます

   そしてまず男性が名前をいい、続いて女性の名前。
   その後この言葉を二人で言いましょう

 
     “                 ”
       今宵、あなたと、この木の下で

        いつまでも変わらぬ愛を

            誓います



    そしてその後
    男性が女性の名前を呼び
    愛の誓いをします

    つづいて女性が男性の名前を呼び
    同じく愛の誓いをします

    次にまた声を揃えてこう言ってください
 


        “ 聖なる夜、わたしたちは ”

              永遠に

             変わらぬ愛を

              誓います


     最後に、口づけを交わせば
     あなたたちの愛は、永遠に続くでしょう   


     最高のプレゼントを、二人に
     この雪降る丘で
                  Merry Christmas!!


└                             ┘

51 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:05

ロマンティックでしょ?
保田さんのお父さんが考え出されたことなのですが
それは保田さんのお父さんが奥様にあの木の下で
プロポーズをした事がきっかけで始まりました。

保田さんの奥様もリゾバに来ていて
あのカフェに忘れ物をしたからと取りに行き
保田さんのお父さんはその前から好きだった奥様に告白をし
そして、3年間の交際を経て、プロポーズをまたあそこでしたそうです。

いやぁ、とてもいい話ですねぇ。
あの木に電飾を灯す事を考え出したのも
保田さんご夫妻でして。カッコいい話です。

俺はこのバイトをもう3シーズン目に突入ですが
いまだ誰からもお声がかかることもなく・・・
そして今、後藤とこうやって、後から奴らを追いかけて
吉澤の知らないルートで先回りをし
スイッチ係をしてるわけなんですよ・・・マジ寒い・・・

ここに来てるヤローたちはある意味それが狙いだったりもします
だから去年と変わらない顔ぶれで
あいのりバスにいつまでも乗りつづけてるやつみたいな人も中にはいます
もういい加減降りろよ・・・

52 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:07

「山崎ぃ〜。かわいそうにねぇ?」
「後藤、お前が言うな・・・」

笑いながら俺の肩をバッシバシ叩く
去年のマドンナは何を隠そう、この後藤。

「っていうかさぁ、2年連続かよ・・・」
「なにが」
「ヤローが選ばれなかったのって」
「しゃーない、しゃーない!だってここのヤローもっさいんだもん」
「も、もさいってなんだよ!」
「あはは!」

後藤は梨華ちゃんをマドンナに選び
その後梨華ちゃんに事の流れを説明したんです

俺は選ばれたかったって事と
選ばれないだろうって言う諦めもあったから
告白したんです・・・まあ案の定選ばれないわけで

マドンナは24日ギリギリまで誰をあの木の元に呼ぶか分からないから
だから酒を控えるやつがいたんですよ

53 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:08

昨年結ばれた二人は、次の年のカップルの祝いを
裏からコッソリ見守るのですよ。
電気つけたり、あと、まぁ最後の、ね?

「っていうかさぁ?」
「なに」
「お前、相方は?これ、俺の役目じゃないじゃん」
「ああ、就職活動中だから、今年はパスなんだ」
「いいのかよ、ほったらかしで」
「いいも〜ん!永遠の愛は誓ってるし♪まだまだラブラブだよぉ?」
「へーへー、それは良かったね」
「まぁ、来年に賭けようぜ!山崎ぃ!」
「うっさい!」


「俺の恋人は山だけだぁぁ!!」

54 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:10
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
55 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:11

梨華ちゃんから事の真相を全て聞いた。

梨華ちゃんがマドンナって言われてるのも
ホントにマドンナだったからなわけで・・・

「はぁぁ〜」
「ひとみちゃん、さっきからため息ばっかり」

カフェに戻ったウチらはケーキを食べる事にした
傍らに置いてる石版をマジマジと明かりのしたで読む。
はぁ・・・なんだかなぁ?


サイフォンのコーヒーがゆっくりおりて
梨華ちゃんはバーナーの火を止める

ケーキをお皿に盛って、コーヒーを出してくれた

「いやぁ、だってさぁ・・・なんかさ」
「なに?」

「ロマンティックなんだけどさ」
「うん」
「なんていうか・・・」
「なあに?」

目の前に置かれたちょっと形が崩れたブッシュドノエル。
梨華ちゃんはカウンターの中から出てきて、ウチの横に座った

56 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:12

「別に!?乗せられて?あれをやったわけじゃないんだよ?」
「あ、うん・・・」
「ちゃんとさ、梨華ちゃんの思いはあったし・・・って・・ああ・・・」

墓穴掘っちゃった?かなり恥ずかしいんですけど

「うん・・・知ってたよ?」

左でにっこり微笑む梨華ちゃんは
フォークでケーキを切って口元に持って来てくれた

「あーん」

あああ〜!?

「あーんして?」
「はぁぁ・・・」

ん?首を傾げて手を添えながらケーキを持って来てくれるその顔は
本当に幸せそうだ

「ん、あ、あーん」
「はい、どうぞ♪」

57 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:12

「おいし?」
「う、うん・・・おいしい・・・」
「よかったぁ」

もしかして・・・これってさ
ちょっといびつな感じのこの丸太ってさ・・・

「もしか、して・・・これ、さ?」
「うん!焼いたの、自分で。真希ちゃんに教えてもらいながらだけどね」
「はぁぁぁぁ・・・」

ウチは頭を抱えるように俯いた
そういや昨日の夜、キッチンの方がなんか騒がしかったんだよな


「ひ、ひとみちゃん?ねぇ、どうしたの?」

くっそぉ・・・

「ねぇ、ひとみちゃん!ひとみちゃんってばぁ!」


わかった・・・なんでこんな気分なのか

ガバッと顔を上げると、梨華ちゃんはウチの肩を揺すっていた手を止めた
ウチは向かい合うようにイスを回して座りなおす

58 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:14



「幸せ」


「・・・え?」

「あんなヤローたちだけど、楽しい奴らでさ、チキン食べたしさ」
「うん」

「恋人も、出来てさ、手作りケーキでお祝いしてさ」
「うん・・・」

「あーんとかしてもらえて・・・」
「う、ん・・・」


「なにより、梨華ちゃんと、一緒に居て、梨華ちゃんに選んでもらえて、あの、その」
「うん」


「あの木の下で誓った事が・・・幸せ」
「うん・・・」

「最高のプレゼント」

「わたしも・・・ひとみちゃんと、出会えたことが
 最高のクリスマスプレゼントだよ?」

「うん・・・そっか・・・ん・・・」

梨華ちゃんはにっこり微笑んでくれた

59 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:15

梨華ちゃんがここに来た時言ったセリフの意味が分かった
ココではイヤってのは
あの木の下で誓って欲しかったからなんだろうな・・・

ウチは気持ちに気づいたばっかで
あんな大掛かりな誓いだったけど
・・・なんか、ねぇ?まぁ、クリスマスだし。

ウチの目の前には、微笑んだと思ったらまたポロポロ泣いてる
こんな可愛い子が居るわけで。嬉し涙ポロリってやつですね?

何でも許せちゃうよな。最高のプレゼント貰えたし。
感謝しなくちゃ。

60 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:16

「ねぇ?」

泣き止んだ梨華ちゃんにケーキを食べながらウチが聞く

「ん?なあに?」
「あのーさ、その・・・いつから?」
「え?」

梨華ちゃんはマグを両手で持ちながらウチを見て来る
ストーブが赤々と着き出した

「あーのさ・・・その・・・気づいたのって・・・」
「好きってこと?」

「そ、そう・・・」

イスをちょっと回転させて、ウチに向かい合う
ウチより少しだけ下の目線
上目遣いで見られると、たまったもんじゃないですよこれ。

くっそぉぉ、こんな顔されたら・・・
可愛すぎ!反則反則!

61 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:16

「会った時から」
「ええ!?」

それって言うところの、惚れひとめ?ヒトメボルェィ?

「それに・・・倒れた日あったじゃない?」
「う、うん・・・」
「あの時、はっきり気づいた」
「す、きって?」
「うん!」

顔が赤かったのは、熱のせいだけじゃなかったのね

「そ、そか」

「ひとみちゃんは?」

「ウチは・・・さ、っき、このカフェでです」
「フフフッ、知ってる」

「すんません、遅くて・・・」
「ううん、いいんだ」

「え?」

「同じ気持ちになれたもん」

62 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:17

ねっ?と笑顔をくれる梨華ちゃん


恋人がサンタクロースって歌あるけど
彼女は、なんだろう・・・サンタじゃないし、トナカイでもないし
大きなプレゼントの箱でもないし・・・

ん〜〜、とウチが考え込んでると

「どうしたの?ひとみちゃん」

ウチの顔を覗き込んでくる。


うん・・・まぁ、クリスマスだし
恥ずかしい事も言っても、いい、かな?

63 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:17

「天使、かな〜?」
「え?なにが?」

「・・・梨華ちゃんが」
「・・・え・・・?」

ウチの顔は多分すんごい赤いと思う

赤鼻のトナカイどころの騒ぎじゃない
サンタさん良かったね?ウチの顔だったら夜道は安全だよ?
遠くまで見渡せるハイビームクラスの赤さだから。


二人で赤くなったまま、ケーキを食べた

64 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:18



 シャンシャンシャンシャン・・・




「「え・・・??」」


どこからか鈴の音が聞こえてきた

65 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:18

「ね、ぇ・・・今さ・・・」
「ひとみちゃん、聞こえた?」
「うん・・・」
「はぁ・・そっかぁ」

「どうしたの?」

「真希ちゃんが教えてくれたの」
「なんて?」

「もし、山頂で、鈴の音を聞いたら」
「聞いたら?」



「・・・最高の二人になるんだって」

「最高の・・・」

「うん・・・」


最高の二人か・・・
なんか照れくさくなって、また鼻の頭をぽりぽり掻いた

66 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:19



 Merry Christmas、ひとみちゃん

 Merry Christmas、梨華ちゃん


 これから、よろしくね

 こちらこそ、よろしく




   チュッ♪


67 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:20

68 名前:今宵あなたと、この木の下で 投稿日:2005/12/25(日) 00:24



『今宵あなたと、この木の下で』


 すべての人に  Merry Christmas♪


(#´▽`)〜`O) <おしまい

69 名前:Rink 投稿日:2005/12/25(日) 00:24
更新終了です!
70 名前:Rink 投稿日:2005/12/25(日) 00:24
レスポンス

>名無読者様
こんなんなりました〜!
甘いというか幸せ一杯ですかね?

(#´▽`)〜`O) <メリークリスマス♪

>774飼育様
こんな感じでいかがでしょうか?
おひまな時にでもサイトのほうにも遊びにいらしてください!

(#´▽`)〜`O) <メリークリスマス♪
71 名前:Rink 投稿日:2005/12/25(日) 00:25

今回の更新は>>2-68です

時間を合わせたくて、今回1番ピリピリした更新でしたww
でもピッタリ0:00になったのでよかったです
(その後回線切れたけど汗)


たくさんのメリクリメッセージありがとうございました!
Rinkにとっていしよしが最高のプレゼント。
そして皆様からのメッセージが最上のプレゼント。


それでは皆様 Merry Christmas☆
72 名前: 投稿日:2005/12/25(日) 00:28
最高でございます。
いいですね〜〜いいですよ〜〜
すばらしいクリスマスです。
いいプレゼントいただきました。
73 名前:名無読者 投稿日:2005/12/25(日) 00:29
更新お疲れ様でした。

時間進行がお話とリンクしてて、
もの凄い演出で感動しました・゚・(ノД`)・゚・

最高のクリスマスプレゼント、ありがとうございました!
74 名前:774飼育 投稿日:2005/12/25(日) 00:30
更新乙です
このお話もいいですねぇ・・・
作者さんのサイト行ってみましたよ
いろんなこと楽しみにしてます
メリークリスマス!!
75 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 00:30
リアルタイムで読めて最高でした
素敵なプレゼント、ありがとうございます
やっぱりいしよしはラブラブが一番!
76 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 00:55
作者さんありがとう(T_T)すげーシアワセな気持ちになれました。
77 名前:Rink 投稿日:2005/12/25(日) 01:24
すいません、クリスマスなのに誤字発見・・・
石版じゃなくて石盤だし・・・もうなんでもいいや、このさい(投げやり
クリスマスだから許してくださいww メリクリ♪

作者談その2

こんなこと言うとバカにされるかもしれないのですが
作者は幼少時、寝付こうとしたときに鈴の音を聴いたことがありました
サンタさんっているんですよー?

お次は
『今宵あなたと、雪降る丘で』
多分石川さん視点で、あと後藤さんのストーリーも考えております
やっぱり後藤さんと絡ませるのって、今更だけどあの人かなぁ・・・?
どうでしょ?ご意見頂戴したいです!
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 01:49
僕はあの方が一番しっくりくるなぁ。
スノボめっちゃ上手そうですしw
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 01:50
あげちゃった・・・・・申し訳ないですorz
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 01:53
幸せな気持ちになりました!保田山行きてー!w
梨華ちゃん視点も楽しみですが、ごっちんストーリーもあるのですか?!
是非読みたいです!!!
81 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 01:59
作者さんクリスマスプレゼントありがとうございます!!
ごとーさんの相手はやっぱあの人ですかね
甘えたなごとーさんも見てみたいですしw
82 名前:名無し読み手 投稿日:2005/12/25(日) 07:13
時間確認しながら改めて読んだらすげええ!って早朝から思いました。
いやはや脱帽です。
そう細かいところまで作品を作りこんでいく姿勢がたまらなく好きです。
メリークリスマス☆
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 09:14
やばいです。萌ました
作者さま最高のプレゼントありがとうございます
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/26(月) 09:52
甘甘ないしよしはやっぱりいいですね〜
ごっちんの相手にぷくぷくほっぺのあの子は?
マドンナなのに男役みたいな
85 名前:あいわい 投稿日:2005/12/26(月) 19:11
ハァァァン!って感じです!(何
Rink様はもう私の神様です…!素敵なプレゼントをありがとうございます!
梨華ちゃん視点、ごっちん話も楽しみにしてますよー!
86 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 22:56

87 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 22:57

「ってなわけ」
「そ、そんな!どうしてわたしなの??」



ココは保田山スキー場のスタッフが泊まっている宿舎の食堂。
今シーズンも同じ顔ぶれが8割
残りは新しく来た子達。
あたしは去年ここにバイトに来て
今年も引き続きバイトに来たの。まあそれには深いわけがある

目の前で顔を真っ赤にして俯いてる人
名前は石川梨華ちゃん


なんで真っ赤になったかというと
この保田山スキー場・従業員宿舎恒例
『サンタクロース大作戦』の詳細を聞かされたから。

なんか梨華ちゃん見てると、去年の自分を思い出すなぁ・・・

88 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 22:58
−+−+−+−+−+−+−+−+−
89 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 22:58

去年の今ごろ、同じようにあたしは
休みの日の昼間、食堂に呼ばれた
目の前に座るのは、ゴンドラ中間駅横のカフェで働く飯田さん

「ってことなの。わかる?」
「え!?で、でも・・・」

いきなりマドンナって言われるんだよ?それどうなの

「一応投票みたいな感じでもあったんだけどね。最後はカオリの直感で決めたの」
「そ、そうですか・・・」

90 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 22:59

リゾバに来て2週間が経った、12月の初め。
12月の大きなイベントと言えば
もうすぐあるスキー場感謝祭の花火シュプールと
月末の、クリスマス・・・
そのクリスマスまでに、一人決めろと言うんだから

「後藤は気になる男の子とかいる?」
「・・・・・」

あたしは俯いて思い出していた。
今日は山の上で多分コーヒーを煎れてる人のこと
91 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:00

「・・・あの」
「なあに?」

顔を上げると、綺麗な顔で柔らかく笑う飯田さんが居た

「・・・それって、男じゃないとダメですか?」
「・・・え?」

飯田さんの顔が曇った
そりゃそうだよ。だって、いきなり言い出しちゃったんだから

「・・・ん〜〜。そうだね。カオリとしてはいいと思うんだけど」
「・・・けど?」
「まぁ、ここの男連中がなんて言うかなぁ?」

92 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:00


そう言いながら目の前にあったコーヒーに口を付ける飯田さん
飯田さんは本当にマドンナって言葉が似合うと思う
わたしが何で選ばれたのかなんて、分からない
同じストレートロングの髪なのに、何でこうも違うんだろう

「・・・飯田さん、彼氏、は?」
「ああ、今ゴンドラの降り場に居るよ?」
「やっぱり、誓いの木のおかげですか?」
「ん〜、そうかもね。普通リゾバで知り合った人となら
 シーズンオフになったら会えないでしょ?」
「はい」
「でも・・・カオリと彼は東京と大阪で遠距離だけど、別れようなんて話一切出たこと無いよ?」

やっぱり、誓いの木は・・・本物なんだ
だったら尚更、あの人を選びたい


「飯田さん、お願いです!」
「ん〜〜・・・その人は、誰なの?」

「・・・・・」

93 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:01
−+−+−+−+−+−+−+−+−
94 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:02

「ねぇ、梨華ちゃん?」
「ふぇ!?」

梨華ちゃんは驚いて顔を上げる。
あーあー、泣きそうな顔になっちゃって

「梨華ちゃん、気になる人って、今いる?」
「え、ええ!?」

こりゃ居るんだな?誰だろ。
モテナイ君たち、やっと脱出できる可能性が出てきた?
あいのりバスじゃなくって、保田荘ジンクス今年は打ち破られるのか?

95 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:02

寄宿舎改め保田荘ジンクスとは
山に篭るために、このスキー場に毎年リゾバに来るヤローたちは
このサンタクロース大作戦を期待してないわけじゃない
むしろ今年こそはマドンナをゲットして帰る!そして二度とココには来ない!
って言ってる奴らばっかなんだけど
大抵、引き続きでここに来る奴らは選ばれず
新しく来た人が選ばれるらしい

飯田さんの時だってそうだったし
あたしの時もそうだった

さーて、梨華ちゃんは誰が気になるのかな?
噂じゃ、山崎あたりらしいんだけど・・・

96 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:03

「・・・真希ちゃん・・・」
「ん?なに?」

梨華ちゃんはクッと顔を上げた
目に一杯涙を溜めて、顔を真っ赤にしながら
歯を食いしばるようにして、眉間に皺を寄せてる

こ、こわいよ。もっと普通の顔してよ

「そ、の、相手・・・って・・・」
「うん」

ま、まさか・・・
この展開ってさ、あたしの時と同じ?

97 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:04

「お、とこの、人じゃ、なきゃ、だめ?」

キタ!やっぱり。
はい、男陣、ざーんねーん賞!
あーあ、今年もダメでしたねぇ、山崎君。ププッ

あたしはニヤニヤしながら梨華ちゃんを見たもんだから
梨華ちゃんは泣き出してしまった

「あーーあーー!泣かないで!そう言う意味じゃないんだって」
「ううう、っぐぅ、うぐっ」
「ご、ごめんってば!」

とりあえず梨華ちゃんが泣き止むまであたしはひたすら謝りつづけた

98 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:05

「落ち着いた?」
「う、うぐっ・・・うん・・・」

はぁ・・・厄介なマドンナだねぇ
コーヒーをズズッとすする


「男の人じゃなきゃいけないかどうかだよね」


去年の飯田さんもこんな気分だったのかなぁ

でもね、梨華ちゃん
大丈夫だよ?
あたしが先陣切っちゃったから


言い出すことに勇気いるよね、わかるよ
あたしも勇気いったもん
それに、この後の事や、イブ当日だって・・・

99 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:06


「んで、誰なの?」
「ふぇ!?」
「だって聞かないとさ、こっちだって準備あるし」

ただ聞きたいだけなんだけどね

「・・・・・」

梨華ちゃんは下唇をグッと噛み締めて
あたしを真っ直ぐ見つめてきた

おー、いい目。
本気なんだね、分かるよ

まぁ、大体検討ついてるけどね?

100 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:07



「・・・ううっ・・・ひと、みちゃん」



はい、キタ!
あたしはまた予感的中させてしまいニヤニヤしてしまった

「そっか、よしこかぁー」
「う、うう・・・」

「・・・梨華ちゃん?」
「な、あに?」

また泣きそうな梨華ちゃんをみつめる

「大丈夫だよ?」
「・・・へ?」

「あたしの恋人のプリクラ見せたげるよ」

そう言って、携帯を取り出して電源をオフにすると
充電池カバーを外して梨華ちゃんに渡した


101 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:07


「・・・え・・・?」
「あたしが去年選んだ人。今年は就活で来てないけどね」

「こ、こ、これって・・・」

「あたしも、去年梨華ちゃんと同じ事言ったの」

にっこり笑うと
梨華ちゃんは目を見開いてカバーとあたしを交互に見た


「しかも今もラブラブだよぉ?」
「そ、そうなの?」
「うん!」

大きく頷くと、肩に入っていた力が抜けて
梨華ちゃんはまた目から涙をこぼした

多分、色んな思いが報われたんだと思う

でもね、梨華ちゃん。まだ何も始まってないからね?
これから梨華ちゃんが色々頑張らなくちゃいけないよ?


「・・・頑張れる?」
「・・・うん」

「よっし!じゃぁ今年はよしこに決定だ!」
「ま、真希ちゃん!そんな大きな声で!」
「ああ、ごめんごめん」

102 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:08
−+−+−+−+−+−+−+−+−
103 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:09


「それで、誰なの」
「・・・・・カフェで一緒の・・・」

「ああああ・・・」

飯田さんは検討がついたのか
口をあんぐりあけて、なるほどねと呟いた

「・・・そっかぁ・・・今年も山男たちは敗北かぁー」
「へ?」
「いやいや、なんでもないよ?
 まぁ後藤があの子を選ぶ理由も分からなくもないけどね」

またにっこり微笑んでコーヒーに口を付ける

「すいま、せん・・・」
「いいのいいの!恋愛に性別なんて関係ないんだし!」

飯田さんはカップを置くと髪を耳にかけながら
あたしを見つめた

104 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:10

「後藤?」
「はい」
「・・・頑張れる?」

あたしは手をギュッと膝の上で握り締めた

飯田さんは多分
あたしの心の奥を見てる
目から、じっと奥を見て

簡単に諦めたり、勢いだけじゃない?って聞いてるんだと思った


「はい、頑張ります」
「オッケー!じゃぁ、決定だね?」

飯田さんはまたにっこり笑ってくれた。
この人のこの笑顔を独り占めしてる彼氏は
本当に羨ましいって思った

105 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:10
−+−+−+−+−+−+−+−+−
106 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:11

「まー、梨華ちゃんがよしこを好きになるのも分かる気がするよー」

あたしは頭の後ろで手を組んで
イスにグッと持たれながら、雪が降るゲレンデを見た

「え、え!?どう、して?」

「だーってアイツ男前じゃん?」
「・・・うん・・・」

「あたしが梨華ちゃんの立場だったら絶対選んでると思うよー」
「え!?」

「あー、そう言う意味じゃないって。
 よしこの事は好きだけど友達としてだから安心しなよ」

梨華ちゃんは一瞬焦った顔をしてたけど
ホッとして、紅茶に口をつけた
まぁまぁ、そんなに自信ないの?
大丈夫だって。誓いの木は本物だよ?

まぁ、あのバカよしこがあそこに行くか
それだけが問題だけど・・・
「明日にすれば〜?」とか冷たく言い放ちそうだし・・・
そこは梨華ちゃんが本領発揮しないとね?

でも、サンタクロースは最高のプレゼントをくれるから

107 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:12

あたしはカバーを梨華ちゃんから貰うと
電源をオンにした

 
 新着メール 1件

あれ、誰だろう


 『今年のマドンナは決定しましたか?』

相変わらず短いメールだけど
それでもうれしい。
今朝送ったメールの返信。
就職活動中で東京に居る、あたしの恋人


 『決まったよ〜。超可愛い子。
  見せてあげたいよー』

送信っと。

顔を上げると梨華ちゃんが優しく微笑んでた

「恋人?」
「うん」

やっぱり分かるんだね。
恋する乙女って、やっぱりロマンティックっていうかさ
顔とか、体全体で恋してるんだ!って、分かるみたい。

「どんな人?」
「ん〜、そうだなぁ・・・」

あたしは送信完了を表示する画面の
宛名の名前をじっとみた

108 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:13
−+−+−+−+−+−+−+−+−
109 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:26


飯田さんから作戦の話を聞いて
あたしの熱は更に上がる。

ただでさえウザがられてるけど、もっと纏わりつきたくなる

彼女がナイター終わりまで滑って帰ってくる

あたしはそれに合わせて食堂に向かう
だって、今日はまだ朝ご飯の時しかみてないもん

110 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:27

「ねぇ、ねぇ、いちーちゃん!」
「んだよ、うるさいな」
「これ食べる?」
「いらない。お前が食え」
「えーーー?」
「お前が食えないやつを皿に入れるな!」
「はい、一杯食べないと背伸びないよー?」
「うるさい!気にしてる事を言うな!」
「ごめーん♪」
「お前・・・やけに今日テンション高いな」
「だってさぁ?」
「んだよ」

お箸を咥えながらお茶をポットから注ぐ
いちーちゃん、お行儀悪いよ

111 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:28

「・・・やっといちーちゃん見れるんだもん」
「ブーッ!!」

勢いよくお茶を吹き飛ばす
もう、お行儀とかの問題じゃない

「なにそれ。見れるって・・・」

いちーちゃんは凄く冷たくて、軽蔑した目であたしを見た

「だめ?」
「だめとか・・・キショイってば」
「キショイとか・・・」

112 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:29

傷ついた

知ってるよ・・・
いちーちゃんが、あたしなんてそういう目で見てないことくらい

あたしだって、初めてなんだもん

今まで、ずっと男と付き合ってきたよ
でも、リゾバ前にこっぴどくフラれて
忘れたくて、その街に居たくなくて
今こうやって、あたしのこと誰も知らない場所に来てる

そこでいちーちゃんに会ったの

最初すごくそっけなくて、冷たい人だと思ってた
だけどそうじゃないって気づいたんだ

彼に似てたんじゃない
今まで付き合ってきた人の誰にも似てない
ものすごくサバサバしてて、そういう性格で
でも、なんか、頼りがいあって

時々、甘えさせてくれるいちーちゃんのこと
好きになっちゃったんだもん

113 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:29

「な、なんだよ・・・そんな顔すんなよ」
「・・・傷ついた」
「・・・ごめんって・・・」

ふくれっつらになったあたしの横でいちーちゃんは
そっとお箸を更に伸ばしてきた

「食べてあげるから・・・」

その事で怒ってたんじゃないけど
ものすごく申し訳なさそうにしてるいちーちゃんが可愛くて

もう、許したげる

「んじゃ、これも♪」
「後藤、お前・・・」
「なに」
「いや・・・いいよ」

114 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:30
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
115 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:31

いちーちゃんの事を好きになったきっかけは
ほとんど一目ぼれみたいな感じ。

カフェで働く姿を見てて
横顔のきりっとした人だなって思ってた。
いちーちゃんは山男たちにも負けず、それ以上のカッコよさを
ゲレンデで持ってたから。

カフェが終わって、いちーちゃんはいつも山男たちと一緒に
パークの方に向かう
あたしはアルペンボードだから、仲間には入れなかったけど
遠くからいつも見てた


そしたら、あたしはいちーちゃんのことが大好きで
とっても大切な人なんだ、って
実感しちゃう事が起こったんだ

116 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:32
  *  *  ☆彡  *  *
117 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:32

パークの中にあるハーフパイプに
いつものように入っていく

あたしはパイプのプラットホームでじっと見てた

いちーちゃんは新しいトリックの練習中だって言ってて
今日もそれを練習してた

スピードをつけて壁を上がってくる

いちーちゃんはバックフリップって技をするらしく
それは壁を飛び出た瞬間、縦に後方宙返りする結構ハードな技

118 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:33

わたしのちょうど真横から上がってきて
キレイに宙返りをする

一瞬だけ、顔がこっちに向いた気がした


板の裏を見せていちーちゃんは逆さになっていく
いつもこの瞬間が、スローモーションに見える

雪を少し舞わせて
宙を切るように、重力に逆らって身体を捻る
今日はメットをつけてないから
さらさらの髪が風に舞ってなびいて行った

かっこいいな・・・

119 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:34


だけど

速度が足りなかったのか
踏み切りが悪かったのか



いちーちゃんはまっ逆さまに、そのまま落ちた

120 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:34


 ガツンッ!! ガシャッ!! ザザザザーー ドサッ!!


頭からパイプの中に叩きつけられる

小さい体が、まるで雪の玉みたいにゴロゴロ転がって
パイプのボトムでようやく止まった

「おいおいー、市井ぃ、しっかしろよー」
「早く起きろ〜」
「おいー!早くアウトしろ〜」

周りは冷やかしながらいちーちゃんのミスを笑ってた
でもいちーちゃんは、倒れたままの格好で


「いちーちゃん・・・?」


いちーちゃんは動かなくて


「いちーちゃん!!」

「おい、マジかよ・・・」
「市井!!」

121 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:35

あたしはパイプ内を滑り降りて
傍に駆け寄った
あたしの傍で見ていた子たちも降りてきてた

「いちーちゃん!しっかりして!!」
「後藤!動かすな!!」

あたしがいちーちゃんの身体を揺すろうとしたら
同じカフェで働いてた子に止められた

「だって、いちーちゃんが!!」
「頭打ってんだぞ!おい!レスキュー呼べ!!!」
「いちーーちゃん!!」
「無線機!!無線で呼べ!!」
「市井!しっかりしろ!!」

「いちーちゃん!いちーちゃん!!」

いちーちゃんはぴくりとも動かなくって
周りにドンドン人だかりが出来る
122 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:36

「何でパイプに入るのにメットしてねーんだよ!」
「今日、忘れたって・・・」
「着用義務だろ!!」
「おい、市井!しっかりしろ!!」

頬をパチパチ叩く。でもいちーちゃんは返事をしなくて

「市井!市井!!」
「いちーちゃん!!」
「やばい、外傷ないぞ」
「・・・どう、なるの!?」
「もしかしたら、」
「・・・いやだよ!そんなの!いちーちゃん!!」

いちーちゃんの板を外したり
身体をそっと仰向けにしたりしてたけど
あたしはずっといちーちゃんの名前を叫んでた

「いちーちゃん!いちーーちゃああん!」

123 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:37

5分後、レスキュー隊が来て
いちーちゃんはソリに寝かされ山を下っていった

「あたしも降りる!」
「後藤!お前が行ってもしゃーないだろ!」
「だって、だって!!」


「後藤ォォォォ!乗れェェ!!」

いつの間にかパイプの下に一台のモービルが止まってた
よく見ると山崎だった

あたしは慌てて走って降りる
何度もこけながらパイプ内を下り降りて
山崎の後ろに乗る

124 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:37

「しっかりつかまれよ!飛ばすぞ!」
「うん!」

山崎はフルスロットルで山を下っていく
バウンドしながら、棚になったゲレンデをジャンプしながら
でも怖くなかった

それより動かない意識の無くなったいちーちゃんが
心配で。そっちの方が怖くて
もし、もしこれで・・・


自分の中に沸き立ってくる恐怖を消しながら
山を下った
125 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:38
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
126 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:39

パトロールセンターに着くと
救急車でそのまま近くの病院に搬送されたと聞いた
意識は戻ってないらしい

「病院・・・」
「追いかけるか?」
「行く」
「じゃぁ保田さんに車借りるから、一回宿舎に戻るぞ」
「うん」


宿舎に戻って、靴を履き替えると
山崎がキーを借りてきて、車に乗り込んだ


「いちーちゃん・・・」

俯いて必死で涙を堪えてるあたしの頭を
山崎はそっと撫でてくれた

「大丈夫だって。アイツはあんなんじゃ死なないよ」
「でも、でも・・」
「お前が信じなくてどーすんだよ」
「・・・うっぐぅ」

山崎は病院につくまで、ずっと頭を撫でてくれてた

127 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:39
  *  *  *  *  *
128 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:40


病院に着くと、もう既に救急車からは運び出されてた
病院の緊急入口から中に走って入る

「走らないでください!!」

看護士さんがあたしたちに注意してきたけど
あたしはその人を捕まえて

「い、いちーちゃんは!?」
「は、はい?」
「さっき運ばれてきた人!」
「ああ、この奥ですよ?」

指差された方にまた走っていく
山崎も走ってついてきてくれた


そこは外科の治療室で
ドアを勢いよく開ける

「いちーちゃん!!」

129 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:40

130 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:42


「んおー、ごとー?」

「「え・・・?」」

大きく開け放たれた扉の向こうで

いちーちゃんは

ダサい格好で、あたしを見た
っていうか・・・目だけ動かした


「・・・プッ・・・」

「「あははははははははっ!!!」」

「なんだよ!爆笑すんなよ!ってぇぇ!ててて」


いちーちゃんは治療台に乗せられて
首に大きなギプスをはめられて
頭も上げられない状態で
足をパタパタしながら、あたしたちのほうを見たの

131 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:43


なんか、凄いマヌケで、ダサい


けど・・・よかった・・・




「軽い脳震盪と、鞭打ちですねー」

間延びした先生の声が響く。
気を失ったのは一瞬で
救急車に乗せられたときには回復してたらしい
幸い首の骨も、頭にも異常は無くて
ただ右手の骨を着地の時に骨折したらしく
しばらくは安静にしなさいとの事。

今日はそのまま病院に泊まることになった
132 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:44

「まー、日ごろのトレーニングのおかげだなー」
「何言ってんのよぉ、心配したんだからね!」
「あー、ごめんごめん」

いちーちゃんはプレートの当てられた右手で
頭を撫でてくれた



「後藤、俺車で待ってるからよー」
「あ、山崎?」

病室を出て行こうとする山崎を呼び止めた

「なに?」
「あたし、今日泊まるから、いいよ」
「ご、後藤?」

いちーちゃんは驚いて首を上げようとしたけど
いたた!と言って、またベッドに頭を下ろした

「だって、いちーちゃん何も出来ないでしょ?」
「そうだけど、寝てるだけだしさ」
「いいの!」
「んじゃ、俺帰るぞ?」
「うん。また明日迎えに来てって圭ちゃんに言ってて?」
「あいよー」

133 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:45


  バタンッ


「・・・お前ねぇ。心配してくれるのはありがたいけどさぁ」
「・・・・・」

「大した怪我じゃないんだしさ」
「・・・・・」

「・・・後藤?」
「・・・んっ、ぐすっ」

「な、泣いてんの!?」
「ない、て、ない、もん」


「泣いてんじゃんかよ」
「泣いて、グスッ、ない!」

「ごめんって・・・」
「泣いて、ないもん!」

「悪かったって・・・」
「・・・心配、した、んだから、ねぇ?」

「ごめん」
「無茶、ばっかり、して、グスッ」

「・・・」
「うううっ、いちーちゃんのばかぁぁ!」

134 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:45

あたしが、あたしがどんな思いで居たか
知らないくせに!
あたしが本気で心配したってことも
笑い飛ばすくせに!

こんなに、好きなのに
こんなに、好きだから
涙出るんだよ

いちーちゃんの傍にいたいから

こんなに胸が痛いんだよ


「ごめん・・・」
「死んじゃったら、死んじゃ、たら、グスッ、ごとー、どうして、いいか」

「勝手に殺すなよ・・・」
「ずっと呼んで、んのに、グスッ、いちーちゃ、目覚まさ、ないんだも」


いちーちゃんは頭を頭を撫でながら天井を見つめた

135 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:46


あたしが泣き止んだころ
いちーちゃんはポツリと漏らした


「・・・リップ抜けたらさ・・・後藤いるんだもん・・・」

「へ?」

「なんか、気取られて・・・タイミングミスった」


いちーちゃんは手を止めて
顔をちょっと赤くしたと思ったら
プイッ窓の方を向いた

136 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:48

「・・・キンチョーすんだよ、お前見てっとさ」
「どうして」
「なんか・・・」

いちーちゃんはそっぽ向きながらボソボソ喋ってるけど

「なに?聞こえない」

「だ・・からさ・・・」
「なに?」

「いいとこ、見せないとって・・・思うし」

更に顔を赤くするいちーちゃん
あはっ。耳まで真っ赤だ

やっぱり、あの時目が合ったのは
気のせいじゃなかったんだ

137 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:48

「ねぇ、いちーちゃん?」
「・・・・・」

「いちーちゃんってばぁ」
「なに」

「一緒に寝ていい?」
「はぁ!?ってぇぇ!」

勢いよくこっちを見たいちーちゃんは
首までねじったのか、眉間に皺を寄せて痛がった


「はいはい、もうちょっとだけ、そっち寄ってねー」

覆い被さるようにいちーちゃんの枕をずらす

「ちょ、ちょっと、後藤!?」
「疲れたの」
「なんで後藤が疲れるんだよ!」
「あーあ、心配したなぁぁ」
「ぐっ・・・」

138 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:49

いちーちゃんは大人しくなって、身体を少しだけずらして
端によってくれた
あたしはジャケットを脱いでベッドの横にあったイスにかける

「おじゃましまーす♪」
「うれしそうだな・・・」
「うれしいよ?」

ベッドの入る
いちーちゃんの身体にすりよると
いちーちゃんは目だけ動かしてあたしを見た

「・・・後藤、さ」
「なに?」

「・・・いや、いいや」
「なに」

あたしはいちーちゃんの腕にしがみついた
そしたらまた、涙が溢れてきた

139 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:49

「・・・ちーちゃん」
「なに・・・」

「あん、まり・・・無茶、しな、いでね」
「・・・ん・・・」

「グスッ・・・たし、いちーちゃん、居なくなったら、や、だからね」
「・・・・・ん・・・」

いちーちゃんは左手で、あたしの手をぎゅっと繋いでくれた

「・・・控えめにします」
「うん・・・」

140 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:50

誰かの事でこんなに胸を苦しくさせたことなんてなかった
誰かの事を思って泣いた事なんてなかった
自分以外の誰かを大切に思うことなんて

いちーちゃんが初めてだよ・・・

ねぇ、いちーちゃん

あたし、いちーちゃんのこと
すっごい、すっごい 好き


今はまだ言葉に出来ないから

手を握る強さで、伝えるね

141 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:50
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
142 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:51

次の日、保田さんが迎えにきてくれて
あたしといちーちゃんは宿舎に戻った

いちーちゃんはしばらくの間、店じゃなく
宿舎の食堂を手伝う事になった

「まーったく、アンタちょっとは考えなさいよー!?」

圭ちゃんは呆れ顔で
でもいちーちゃんにやさしかった。

あたしはまた次の日からカフェで働く
山頂と麓じゃ、あまりにも離れすぎてる
早く会いたいよ・・・

143 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:52

いつもならカフェが終わると、ずっと滑ってるんだけど
いちーちゃんが居ないゲレンデは何の魅力も無い
あたしは猛スピードで山を下る

「おーおー、保田山の核弾頭がいるぞ」

そんな事を言われてた
ただでさえ早いアルペンボードのあたしが
更にスピードを増して下っていく姿は
まるでマッハで飛びぬけるミサイルだったらしい
そんなことどうでもいいの!
あたしはいちーちゃんに会いたいの!

ノンストップで滑り降りて
板を投げるようにロッカーにおいて
食堂に上がる

「いちーちゃん!ただいま!!」
「おー、後藤、1番乗りだなー」
「だって、だって!」
「とりあえず着替えといで」
「はぁい♪」

144 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:53

いちーちゃんのギプスは一週間くらいで取れるらしいけど
右の中指の包帯は半月以上外せないらしい

ってことは・・・


「はい、いちーちゃん、あーんして?」
「い、いいって!自分で食べれるから」
「右手骨折してるんでしょ?」
「左手で食べるから」
「いいの!じっとして!はい、あーん」

「・・・んぁ」
「あーん」
「ん・・・」
「おいし?」
「普通のご飯でしょ」
「んも〜、分かってないなぁ?」
「いいから、もういいから!」

145 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:54

真っ赤になってあたしからお箸を取り上げようとする
いちーちゃんを押さえつけて
次々とおかずを口に運んでいく

「そんなことしてたら」
「はい、あーん」
「んぐっ・・・後藤が食べられないでしょ」
「いいの。あーん」
「ん・・・冷めるよ」
「いいの、あーん」
「んぐっ・・・」
「おいし?」
「ん・・・まぁ」

「おいおい、バカップルー?」

山崎が隣に座ってくる

「なにー?」
「や、山崎!!」
「なんだよ、もうバカップルじゃんか。なぁ後藤?」
「うん!はい、いちーちゃん次お味噌汁ね」
「それくらい飲めるって!山崎もちゃかすな!」
「あーはいはい、のろけのろけ」

いちーちゃんは恥ずかしそうにしながらでも
口をあけてくれる
なんかすごく可愛くって
ずっとこうならいいのにって思っちゃった

146 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:55

ご飯も、お風呂も一緒で
恥ずかしいからいい!って言われたんだけど
着替えできないでしょ?髪洗えないでしょ?って言って
いちーちゃんはもう諦めてくれたみたい

カフェにいる以外は、ずっといちゃーちゃんの傍にいた



感謝祭の花火も二人で見に行った

スタッフの子達が花火を両手に持って
ゲレンデを滑り降りてくる

一般のお客さんたちはゲレンデに出てみてるけど
あたしといちーちゃんは二人で
保田荘の屋上から見てた


「・・・綺麗だね」
「ん・・・ちきしょー」
「どうしたの?」
「ホントならあそこ滑るはずだったのになぁ」
「怪我してるんだから、無理に決まってるでしょー?」
「もう治ってるってば」
「はい、無茶言わないのー」
「チェッ・・・」

ゲレンデを見つめるいちーちゃんは
少し拗ねてたけど
でも、すごく優しい目をしていた

147 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:55


ねぇ、いちーちゃん
こんな傍でいちーちゃんを見つめられるなんて
思ってなかったんだよ?
傍にいたいって思ってた
ずっと近くに居たいって・・・
だけど、もっと、もっと
傍にいたい

いちーちゃんのこと、見てたい



あたしの決心は更に強くなる

いちーちゃんに、告白するんだ

絶対あの木の下で誓うんだって

148 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:56
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
149 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:57

いちーちゃんの首のギプスもとれて
右手の包帯も、中指だけになった


明日は、待ちに待ったクリスマスイブ
飯田さんがあたしを食堂に呼んだ

「ねぇ、後藤?」
「はい」

「明日だね」
「はい・・・」

「サヤカは来てくれそう?」
「んー・・・多分、いやって言いそうです」

食堂のキッチンでケーキを作ってる
これも毎年恒例らしい。代々続くブッシュドノエル

いちーちゃんは、山崎達と飲みに行ってるみたい

「なんとしてでも呼ぶんだよー?」
「はい、頑張ります」

「うん。後藤は良く頑張ったよ?」
「そうですか?」
「うん」

飯田さんはにっこり笑った

150 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:58

「そうだ、後藤にいいこと教えてあげるよ」
「なんですか?」
「明日、誓いの木に誓いをした後、あのカフェで鈴の音を聴いたら」

鈴の音?サンタってこと?

「最高の二人になれるんだって」
「へぇー・・・」
「何その気の無い返事」
「だって、鈴って」
「あ、信じてないの?」
「いや、そういうんじゃなくって・・・」
「カオリはそう教えてもらって、鈴の音を聴いたの」
「え!?」
「聞こえたよ?いるんだよ?サンタって」
「サンタ・・・」

サンタなんて信じてる年じゃないけど
なんか、保田山ってそういうのがあってもおかしくないって思える
151 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/27(火) 23:59

「うん。最高の二人だよ?」

「最高の・・・」

「聞けるといいね」

飯田さんは、焼きあがったスポンジを切ってる手を止めて
あたしにウィンクしてくれた


「カオリー?」

キッチンの入り口から飯田さんの彼氏が顔を出した

「なに?」
「明日さぁ・・・」

飯田さんは彼氏の方に行って、何か話してる
そんな2人を見てると、誓いの木は本当にクリスマスプレゼントをくれるんだ
そう思ってしまうほどとっても仲がいい。

明日、いちーちゃんがカフェに一緒にいってくれますように・・・
鈴の音も、聴けますように
そう願いを込めながら、クリームを泡立てた

152 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:00
  *  *  *  *  *  *  *  *
153 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:00

クリスマスイブの夜

カフェにわざと携帯を置いてきた
準備は万端
あとはどうやっていちーちゃんと上に行くか

パーティもそこそこに部屋に戻る

窓をそっと開けると
今日は雪が降っていない

圭ちゃん曰く、クリスマスイブは雪が降らないらしい
日を跨いでクリスマスになるあたりから降ってくる

まさしくホワイトクリスマスになるみたい


はぁ・・・緊張する

154 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:01

  キィ

隣の窓が開いた

「いちーちゃん?」
「ああ、後藤」

「パーティは?」
「んー、みんな本格的に飲みだしたから帰ってきた」

「そっか・・・」

「どした?なんか暗いぞ?」

「そ、そんなこと・・・」

これは切り出すきっかけ?
後藤真希、一世一代の大勝負に出ます!

155 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:02

「どうした」
「・・・いちーちゃん」
「なに」
「・・・カフェに携帯置いてきた」
「はぁ!?」
「無いんだ」
「マジ言ってんの!?」
「マジ・・・」

「明日まで待て・・・ないよな」
「待てない」


胸が高鳴る。締め付けられるように痛む

今まで1ヶ月とちょっと
ずっとこの思い持ちつづけてた
伝えたい。いちーちゃんに伝えたい


だから
いちーちゃん、一緒に・・・

156 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:02

「山崎と行ってくれば?」

はぁ〜〜!?なんでそうなるの!?
あたしはあんぐり口をあけてしまった

「な、んで!?」
「だって寒いじゃん。アイツ飲んでなかったみたいだし
 モービル運転してもらって行ってきなよ」
「やだ!!」
「や、やだって・・・取りに行きたいんでしょ?」
「そうだけど、山崎とはイヤ!」

なんで山崎なの!絶対無理!!
157 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:03

「おい・・・そんなにイヤがらなくても」
「いちーちゃんと行く!」
「なんで私なんだよ」
「いちーちゃんとがいいの!」
「寒いって」
「お願い!」
「やだってば。そういうのは男の仕事」
「お願い!!!」
「あああ!?」
「いちーちゃんとじゃなきゃ、意味ないの!」

勢い余ってこの場で言いそうになったけど
もうどんなことしてでも、首に縄つけてでも上に連れて行くんだから!

「携帯取りに行くのに、意味とかあんの!?」
「あるの!お願いお願いお願いお願いお願いお願い!」
「ああああー、もう分かったよ!早く着替えなよ・・・」
「やったぁぁあ!」
「2分で準備しなよ。ロビーで待ってて」
「わかった!」

なんで私にこだわるの?なんてブツブツいいながら
いちーちゃんは窓を閉めた

158 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:04

あたしはダッシュで着替えるとロビーのソファに座って
いちーちゃんが来るのを待った

食堂の方から声が聞こえる
おおおおーっていう声の後に、泣いてる人がいる
やっぱりなーとか、かんべんしてくれーとか・・・
それに、なんか歌ってる?

飯田さんといちーちゃんの声がかすかに聞こえた

「サヤカ!後藤泣かせたら承知しないからね!!」
「なん、なんだよ!泣かせたらとか!」
「アンタも正直になんなさい!」
「正直って・・・」


もしかして・・・いちーちゃんも・・・?


顔をちょっと赤くしたいちーちゃんが
袋を持って現れた

「なに、それ」
「ケーキだとよ。さっきも食べたのに・・・」
「いいじゃん、いこ?」
「後藤、お前、なんか嬉しそうだな。何企んでんの?」
「なーんにもぉ?はやく行こ?」

159 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:05

モービルを運転するいちーちゃんにしがみ付いて
冷たい風を切って山頂を目指す

凄く真っ暗で、でも空には星が輝いてた

東京に居たらこんな星なんて見えない

いつの間にか、失恋の痛みも忘れていた
多分、消えたんだと思う

あたしの前で寒い寒いっていいながらでも運転する
いちーちゃんが、消してくれたんだ

160 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:06

上を見上げていると
星が一筋の光になった

「うわぁ・・・」
「どうしたー?ごとーー!」
「ながれぼしーーー!!」
「ほしー!?」
「なーーがーーーれーーーぼーーしーー!!」

風に負けないように、大きな声で叫ぶと
ミラー越しに見えたいちーちゃんは少し笑った

161 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:07
  *   *     *   *     *

     *    *     *
162 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:08

モービルがカフェに到着する
あたしといちーちゃんはは中に入っていく

「はぁー、あったのか?」
「ありがと!」

カフェに隠しておいた携帯を取る


「なぁ、後藤?」
「ん?なあに?いちーちゃん」
「お前、さ・・・」
「うん」
「・・・その・・・あの・・・さ」
「なに?」

いちーちゃんはなんかモゾモゾしてる
163 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:09

「す・・・」
「ストップ!!!」
「な、なんだよ・・・」
「いちーちゃん、外行かない?」
「はぁ?」
「外!」
「外??・・・って、ああ!!」
「どうしたの?」
「今何時?」
「えっと・・・12時、十分前」
「後藤!外!外外!!」

いちーちゃんはあたしの腕を掴んで外に連れ出した
164 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:09

「どうしたの、いちーちゃん!」
「なんか箱探せって圭ちゃんに言われたの!
 探さないと呪い殺される」
「呪い殺されるって・・・」

いちーちゃんは、箱を探し出して、扉を開く

「かああったぁぁぁ!!」
「錆びてるの?」
「た、っぶん!!んが!!」

  ガチャンッ

小さな扉が開いた
165 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:11

「ね、ねぇ、何が入ってるの・・・?」
「わっかんない・・・手入れるの凄い怖いんだけど」
「いちーちゃん、取り出してよ・・・」
「・・・ったく・・・重っ!!」


いちーちゃんは中にあった石の板を取り出した
書いている内容は、飯田さんからは知らされていない

ここにくるまでの流れは聞いていたけど
でも、その後の事がわからないから
正直、どんな風になるのかが、分からなくて


「なんか書いてるけど、見えない・・・」
「カフェの窓から明かり差してるよ?そこで見れば」
「そうだね」

いちーちゃんは石の板を持って歩いて行く
あたしは後を追っかける

166 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:12

「・・・・・後藤・・・?」
「なに?」
「・・・仕組んだ?」
「な、にを?」
「お前、知ってたんだろう!」
「知らないよ!!」
「じゃあなんで」

いちーちゃんは、はぁっとため息を吐いた



いちーちゃん、もう認めてよ
知ってたよ?いちーちゃんの気持ち
いちーちゃんが入院した後から
いちーちゃんはすごく優しくなった
無茶もしなくなったし
いつもならあたしを置いていこうと先をスタスタ歩いてたけど
少し待ってくれるようにもなった

167 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:13

あたしが笑うと、いちーちゃんも照れくさそうに笑って
あたしが拗ねると、ごめんって言いながら頭を撫でてくれる

お風呂一緒に入るときはちょっと恥ずかしそうにしてた

同じリフトに乗ると
密閉された空間が居心地悪いのか、落ち着きなくしたり

でも、あたしがいちーちゃん?って呼ぶと
やさしい顔でじっと見つめてくれたりする

ここに来てすぐは
とっても冷たい人なのかなって思ってた
あたしに返してくれる返事も少なくて、そっけなかった
だけど、時々見せてくれる笑顔が可愛くて
ハーフパイプで飛んでる姿がカッコよくて
カフェでお客さんに話し掛ける横顔が凛々しくて

168 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:13

あたしね、言いきれるよ
いちーちゃんがいままで出会ってきた人のだれよりも
いちーちゃんの事を見てるって。
いちーちゃんのいいところも、わるいところも全部
かわいいところも、かっこいいところも
ちょっとダサいところも、全部知ってるって。



木を見上げるいちーちゃんの横顔は
とっても、かっこよかった

ドキドキが止まらなくなる

169 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:14

「それよりさ・・・」
「なに?」

「どっちが男?」
「え?」

「どっちが男なんだよ」
「いちーちゃんでしょ」

「なんで私なんだよ!」
「どう考えてもそうでしょ?」
「どう考えてそうなんだよ!」
「いーから!もう!」


はいはいって言いながら、ちょっと照れて
いちーちゃんは左手の上に石の板を置いた


して、くれるんだ・・・


あたしは迷いなく右手を置く

170 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:14


「市井紗耶香」

「後藤真希」





「「今宵、あなたと、この木の下で」」



「「いつまでも変わらぬ愛を」」



「「誓います」」

171 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:15


「後藤真希、さん」

「はい」


「黙ってたけど・・・好き・・・私と、付き合って」
「うん」


「市井紗耶香さん」

「なんかくすぐったい」

「返事してよー」
「はいはい」


「大好き。あたしと付き合ってください」
「・・・うん」

172 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:16


「「聖なる夜、わたしたちは」」



「「永遠に」」



「「変わらぬ愛を」」



「「誓います」」

173 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:16

もう、ダメ
胸が、張り裂けそうに高鳴ってる


「いちーちゃん!!!」

あたしは思わず抱きついた

「な、なんだよ!!」

「好き!好き!!大好き!!」
「ちょ、ちょっと離れなよ!」
「なんで!?」
「ま、まだ終わってないでしょ!」
「あ、そっか」

あたしはまた右手を石の上に置いた

174 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:17

「後藤?」
「なあに?いちーちゃん」
「・・・んと・・・リゾバ、終わってもさ」
「うん」
「・・・遠距離になるけど」
「中距離だよ」
「そっか・・・」
「ううん、近いよ?いちーちゃんに会いに行くくらいなんともないもん」
「・・・そうだね・・・」
「大丈夫」

「ん・・・後藤?」
「なに?」


「好き」
「あたしも・・・」


目を閉じて、彼女を迎える
いちーちゃんはギュッと手を握って


やさしく、唇に触れた

175 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:18


  パチッ!!


目を開けると、大きなクリスマスツリーが目の前にあった

「すっごぃ・・・」
「うぁ・・・」

はらはらと雪が舞い散る

「すごいね・・・」
「うん・・・」

ホワイトクリスマス・・・
保田山は本当に奇跡をくれる


「・・・いちーちゃん」
「・・・なに?」

「幸せ」

「・・・私も、幸せ」


176 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:18
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
177 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:19

「ったく・・・騙しやがって」
「なんにも騙してないじゃん」

カフェに戻っていちーちゃんに全部を話したら
幸せムードから一転して
いちーちゃんはふてくされちゃった

「ケータイ置いてきたとかさ・・・」
「あはっ」
「あはじゃねぇ!」
「もう、いいから。ほらごとー、ケーキ作ったんだよ?ねぇ、食べて?」
「やっぱり仕組んでんじゃないかよ!!」
「あ、ばれちゃった」
「はぁ・・・もう、いいや・・・」

いちーちゃんはコーヒーを飲みながらケーキを食べてくれる

「おいし?」
「うん、まぁ・・・美味い」
「よかった!」

いちーちゃんは顔を赤くしてケーキをぐさぐさ崩してる
178 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:20

「そういえばね」
「うん、なに」
「飯田さんが、山の上で鈴の音を聞いたら最高の二人になるんだって言ってた」
「鈴ぅ!?そんな子供だましみたいな」
「そんなこと言わなくたっていいでしょ?」
「いまさらサンタなんて居るって信じられる年でも」



  シャンシャンシャンシャンッ



「「・・・ええ!?」」


179 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:21

あたしといちーちゃんは顔を見合わせて
持っていたフォークを投げるように置くと
窓を開けて外を見た

「・・・聞こえた、よね」
「うん・・・聞こえた」

「・・・保田山って、サンタいんの?」
「・・・居ると思う」
「聞こえたもんね・・・」
「うん・・・」


空を見上げると
チラチラ雪が舞い降りてきた

180 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:22

「いちーちゃん」
「ん?」
「メリークリスマス」
「・・・メリークリスマス」

チラッとあたしの方を見て
いちーちゃんは少しだけ考え込むように唇を歪ませた

「どうしたの?」
「あの、さ」
「ん?」
「・・・・・」


 チュッ


「・・・好き」

「うん・・・あたしも、好き」


また窓の外を見る

181 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:23

「・・・あ!!」
「み、た?」
「見た!見た見た!」

「えっと、いちーちゃんがもっとあたしを好きになってくれますように
 好きになってくれますように、好きになってくれますように」

「後藤、もう遅くない?」
「あはっ」

「それに・・・」
「なに?」

「・・・願い、叶ってるから・・・」

「え・・・?」


少し開いた唇を塞ぐように
いちーちゃんはまたキスをしてくれた


「・・・ね・・・?」
「うん・・・」


「んじゃ、もっと好きになってくれますように」
「だからなってるってば!」

「えへへ〜」
「えへへじゃないって・・・」

いちーちゃんは照れくさそうに頭をポリポリ掻いて
あたしの抱き寄せるように肩に腕を回す

182 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:23

「・・・後藤?」
「なに?」

「・・・んと、よろしく」
「うん!こちらこそ、よろしく!」

「・・・ケーキ、食べよっか」
「うん!」


窓を閉めて手を繋ぐ
いちーちゃんとカフェのカウンターでケーキを食べた
とっても甘くて、とっても幸せなケーキの味

一生忘れる事ない、味と思い出
それと、いちーちゃんの笑顔

183 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:24
−+−+−+−+−+−+−+−+−
184 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:25

顔を上げると、梨華ちゃんはまだ眉毛を下げたままだった

「あはっ!梨華ちゃん弱気だねぇ」
「だって・・・」
「だいじょーぶだって!保田山は奇跡が起きるところだから」
「ほんと?」
「うん!信じなさーい!」

「うん・・・」
185 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:27


「さっむぅぅ!あ、ごっちん!」

食堂の入り口を見るとよしこが顔を真っ赤にして
寒そうに入ってきた

ほらね?奇跡の1つめ。
あたしは梨華ちゃんにウィンクした

「あれ、よしこ。もう終わり?」
「上が吹雪きすぎてて早閉め!」
「そうなんだ。山頂そんな吹雪いてんの?」
「うん、前見えなくて死ぬかと思った。コーヒーいれて〜」
「はいはい、座ってなよ」
「ありがとー」

よしこばグローブをはずすと
梨華ちゃんの隣に座った

ん〜、お似合いだなぁ

でも会話が、無い・・・
よしこヘタレすぎだし、梨華ちゃんは引っ込み思案だし・・・
頑張れよー、今年のマドンナ!

大丈夫。クリスマスはみんなにプレゼントをくれるんだから
ねぇ?いちーちゃん?
186 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:28

お湯を沸かして、コーヒーフィルターを用意する
食堂の方から声が聞こえてきた
梨華ちゃんがよしこに何か話し掛けてる
うんうん、いい感じ。

山男、残念だったねぇ
あんな可愛い子はもさい山男には勿体無いよ
幾らナンパしたって梨華ちゃんも揺るがないみたいだし

187 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:31

いちーちゃんは、今年の恋人たちを見守りたかったけど
就職活動して、職を探すほうを選んだ

「後藤と・・・その、一緒に、さ」

二人で暮らしたいから。
そっちを優先したいって、保田さんに言って
今回は不参加になった。

なんか、すごく、うれしい

保田山ってホント最高だね
誓いの木は、本物なんだね
188 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:31

今日の夜、いちーちゃんに電話しよ
声が聞きたくなった
理由なんてそれだけでいいんだもん

こんなに離れてたって
いつでも思い出せるいちーちゃんの笑顔

そうだねっていちーちゃんが言ってくれた気がした



最高のプレゼント

今年も二人に届きますように

189 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:34

   *       *      *   *   *     *

     *   *     *  *   ☆彡   *   *   * 

  *    *   *      *      *       *

     *    *        *
      /\     *  *     *    *   *    *     *  
      /\          *              *       *
      /\
       ||
190 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:34

『今宵あなたと、星降る夜に』


ヽ ^∀^ノ´ Д `)<おしまい♪
191 名前:今宵あなたと、星降る夜に 投稿日:2005/12/28(水) 00:35

192 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 00:35
更新終了です
193 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 00:36
レスポンス

>春様
いえいえ、お粗末さまです
今宵よき日にメリクリ〜

>名無読者様
小ネタ考えるのは得意なのでww
( ^▽^)<メリクリ〜

>774飼育様
サイト訪問ありがとうございます!
( ^▽^)<メリクリ♪

>名無し飼育さん様
(#´▽`)〜`O) <らぶらぶ♪
しかし今年はクリスマス当日
この二人で日跨いでないらしいですね・・・
(;0T〜T)<早く帰ってきてくれぇ〜

>名無飼育さん様
( ^▽^)<石川サンタからプレゼント♪

>名無飼育さん様
あの人になりましたw
でも上手く書けなかった・・・
違和感あったらゴメンナサイ!
194 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 00:36
>名無飼育さん様
( `.∀´)<いらっしゃーい!
作者も保田山行きたいですw

>名無し飼育さん様
もう、ごっちんの相手役の方、かなり大変でした
文献漁るも無理があって・・・汗
満足いただけなかったらごめんなさい!

>名無し読み手様
( ^▽^)<えへへ♪
細かいところにしか目が行かないんです汗
メリクリ♪

>名無飼育さん様
ありがとうございます!
(0^〜^)<めりくり〜っす!

>名無飼育さん様
すいません!あの子じゃなくあの人になりました泣
投票の結果でございます泣
ごまこんは、またいつかの機会にw

>あいわい様
出た!乱れあいわいww
そんな神様だなんて、おおそれおおいorz
195 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 00:38
今回の更新は>>86-191です

AA上手く書けずまたしくじったorz

初めていしよし以外のCPで
しかもかなり難しかったです。
なんせこのCPのリアルを知らないので泣
こんなんじゃねえよ!って思った方ホントゴメンナサイ!!
196 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 00:41
ネタバレ防止にもういっちょ。
ちなみに作者もボーダーでございまして
今回出てきたあの方のような派手な怪我はした事ないですが
一度ワンメイクジャンプ(デカイ山みたいなところをジャンプ)して
トリックは決まったものの顔面から着地。
額を2針ほど縫う怪我をしました(バカ)

さて、次回はやっといしよしに戻ります

『今宵あなたと、雪振る丘で』です〜
197 名前: 投稿日:2005/12/28(水) 00:43
リアルタイムで読みました。
( `.∀´)お前なんで毎日こんな時間まで起きているんだ。

いや...最近の楽しみなので...
山崎君は2年連続かわいそうですね。
りかちゃんVER.も楽しみにしてます〜〜
198 名前:7&Y 投稿日:2005/12/28(水) 00:47
ご無沙汰しております〜やっと追いついたぁ!
今回も更新乙でした!リアルタイムやったね!!
このCP初だそうですが十分上手いすよ…これぞ!!という感じがしますw
とにもかくにもかっけーんですよ、彼女は。
甘えたな後藤さんも可愛かったです(#´Д`)
ありがとーごじゃいました♪
199 名前:名無読者 投稿日:2005/12/28(水) 09:48
更新お疲れ様でした。
このCP読んだの久しぶりでしたが、
ぴったりハマってて良かったですよ!
次回のいしよし、楽しみに待ってます♪
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 12:32
更新キテター乙です
作者さんボーダーですか!かっけー!!
自分は1回しかやったことなくてまだまだです…
ごとーさんかわいいかったですよ♪全然違和感なかったです!
次回のいしよしも楽しみで〜す
201 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 12:33
いしよしいしよし
楽しみです〜
202 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:27

203 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:49

「ほら、もうちょっと、体ひねって〜〜」

「きゃーーーーー!!」


  ドサッ!!



「いったぁぁいい」
「あーあー」
204 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:50

ひとみちゃんが少し離れた所から
笑いながら走ってくる


今日はクリスマスも明けて、年末までもう少しな平日。

ここは保田山スキー場の宿舎前の広場。
わたしはひとみちゃんにスノーボードを教えてもらってるところ

205 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:50

「大丈夫?」
「ううぅぅぅ」

痛いけど、怖いほうが勝ってる

「どうする?やめる?」

でも負けず嫌いな性格だから、こんなところで投げ出したくない!

「まだ、するもん!」
「おっけー」

そう言ってひとみちゃんはわたしを置いてまた少し斜面を歩いていった

「はい、ここまで来て、ウチの腕掴むように体捻るんだよー」

206 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:51
−+−+−+−+−+−+−+−+−
207 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:52

クリスマスにかけてのあの夜。
わたしはひとみちゃんを木の下に誘った。
ひとみちゃんは、クリスマスのイベントの内容を知らなかったようで
本当に忘れ物を取りに行くと思ってたみたい

「まーさかなぁ・・・」
「なあに?」

ひとみちゃんは照れながらフォークでケーキをつついてる

「だって・・・マジで山崎だと思ったんだもん」
「・・・山崎君は・・・断ったの」
「ん・・・」
「だって・・・ひとみちゃん以外の人は考えられなかったの」

そういうとひとみちゃんは真っ赤になってケーキをパクっと食べた

208 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:52
  *  *  *  *  *  *  *
209 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:53

保田山スキー場のバイトに行こうと思ったのは
リゾートバイトを一度経験したかったのわたしは横浜に住んでいて
雪が降ることがめったになくって
今年は20代初のクリスマスを迎える
だから、ホワイトクリスマスを経験したかったの

友達を誘ったけど、みんな予定があったり
一人身じゃないんだから無理だよーと言われたり

一人身で悪かったね・・・
どうせ、高校卒業してからずっといませんよーだ!
210 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:54

11月の終わりごろ
まだスキー場がオープンするまえにわたしは保田山にきた
入舎式と、カフェの研修があったから。
研修って言っても、たいしたことじゃないよと
保田さんは言ってくれた

それにしても男の人の数のわりに
女の子が少ない・・・
わたしは友達ができるかどうかが凄く不安で
それを見てさらに幸先が不安になってきた
211 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:55

保田さんは部屋割りを教えてくれる

わたしは荷物を抱えて振り当てられた部屋に行く
奥から二番目のゲレンデ側

結構多くなっちゃった荷物を引きずるように持っていくと
一番奥の部屋の人が、部屋に入るところだった

212 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:56

あ・・・

こんなことって、あっていいのか、な・・・




「あ、あの!!」

ドアを開けて入っていこうとするその人を呼び止めた
一旦隠れていた姿がまた現れる

「あ、あの、わたし石川梨華っていいます!!」

ふかぶかとお辞儀をすると
わたしの頭の上から声が降ってきた

「ああ、吉澤ひとみ。よろしく」

  バタンッ

すっごい・・・クールな人
声とか、雰囲気とか、見た目も・・・

白のダウンジャケットと黒のパンツ
黒いハット被ってる姿
身長が高くて、ハスキーな声で・・・

213 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:57

吉澤、ひとみ
吉澤ひとみ・・・

わたしは彼女の名前を忘れないように
何度も何度も心の中で呟いた

214 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 22:59

「あっは〜、よしこは相変わらずクールだねぇー」

振り返ると、私の部屋の斜め前の女の子が
ふにゃっと笑いながら部屋から顔を出してた

「あ、えっと。石川」
「梨華ちゃんでしょ?さっき聞いたよ」
「すいません・・・」
「あたしは、後藤真希。今年で二年目。よろしくね!」

髪が長くて綺麗で、大人っぽい人
わたしより年上なのかな・・・


「梨華ちゃん、すべりに行かない?」
「え、ええ!?早速!?」
「うん、山頂は最高に積もってていい雪らしいよ?」
「で、も・・・」
「ほらほら、初すべりは保田荘の人間って決まってるんだから!!」

真希ちゃんはわたしを部屋に押し入れて
着替えたら呼びに来てねと言ってきた
215 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:01

展開が早すぎてついていけないけど
でも、滑んなきゃ損だ!
わたしは荷物の整理を後回しにして
持ってきたウェアを出して早速着替える

窓から見る麓のゲレンデはまだ所々地面が見えていたけど
山頂を見上げるとしっかり白くなってる

ここのスキー場は穴場スポットらしく
ゲレンデ状況、雪質、ホテル全てがいいから
最近は徐々にお客さんも増えているんだとか。

着替えを済ませて窓を開けて外を見ると
隣の窓が開いた

  キィ

「あ・・・」

横を見ると、吉澤さんが煙草を燻らせながら山頂を見てる

216 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:01


「・・あの・・・」

ゆっくり顔がこっちに向く


ああ・・・やっぱり、そうなのかな・・・


「滑りに、行きませんか?」

「行くの?」
「はい・・・誘われたんで」
「誰に?」
「あ、えっと、後藤さん」
「あー・・・んー・・・」

彼女は煙草を持つ手だけ中に一瞬入れて
また外に出した

217 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:02

 ドンドンッ!

「あ、ちょっとまって」

吉澤さんが部屋の中に入っていく
廊下のほうから真希ちゃんの声が聞こえてきた

「今からっすか〜?!」
「よしこも若いんだからさっさと着替える!」
「年は関係ないっすよ」
「いーから!ほい!!またあとで〜」
「ごっちん、わかんないって・・・」

 バタンッ

後藤さんってホント強引っていうか
でもそんなところが彼女のとりえなのかもしれない

吉澤さんが窓から少しだけ身体を出した

「お供します」
「あ、はい!!」

 キィッ パタン

彼女は少し頭を下げて中に入っていった

218 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:03


やっぱり、そうだ・・・
そうなんだ・・・


見つけた

わたしの、王子様

219 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:03
−+−+−+−+−+−+−+−+−
220 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:04

「体、ひね、るって、どうすれば、いいのぉ〜!??」

「ほら!ウチの腕つかみに来る!」

「つ、かみに行ってるよぉぉ!!」


  ドサッ!!

わたしの板は雪に引っかかって顔から転んだ

「あああ、大丈夫!?梨華ちゃん!!」

ひとみちゃんが慌てて走ってきてくれる

「ふぇぇえ」

スノーボード簡単だから大丈夫だって!
って言ってたのってどこのだれよぉ!

痛いし、思うように行かないし・・・

でも、ひとみちゃんが教えてくれるし
「ひとみちゃんの教え方はぴか一だ!」って
真希ちゃんも言ってたから、頑張れるんだけど・・・
221 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:05

「ん〜〜、やっぱ斜面が緩いとだめかなぁ」
「え!?」

わたしは顔を上げてひとみちゃんを見た
ひとみちゃんの視線の先を追うと・・・
り、リフト乗り場・・・

「やだやだやだ!まだだめだよ!怖いよ!」
「だーいじょうぶだって」

意外とひとみちゃんってスパルタ系なの?
可愛い顔して、カッコいい顔して
綺麗な顔して、恐ろしいこと言うんだから!

「だ、だって、スケーティングだって出来てないもん!」
「慣れ慣れ!」
「だーーーってぇぇ!」
「よし、じゃぁ板外してリフト乗り場まで上がっていこー!」

ひとみちゃんは自分の板を取りに走って保田荘の入り口までいく

「お、鬼ぃぃ!!」

ちょっとルンルンしてる彼女の背中に向かって叫んだ

222 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:07

「ん〜?何か言った?」

可愛い笑顔をこっちに向けてくれる
ほんと嬉しそう・・・
そんな笑顔見せられたら断れないじゃん

「みゅぅぅぅ・・・なんでも、ないよぉ」

板を抱えながら戻ってくる姿は、とっても様になってる

「板外せた?」
「ん、んん・・・はい」
「持ったげるよ、ちょうだい」
「いいよ、持つよ」
「いいの、貸して?」

ひとみちゃんはわたしの板を取ると、2枚裏同士を重ねて右手で持った

「お、重くないの?」
「へーきへーき」

どうしてそんな・・・
胸がキューンッなるようなこと、してくれるのぉ?
かっこいいなぁ・・・
肌の白い彼女は、少しずつだけど雪焼けしてきた
だけどまだ透けるような色の肌

そのホッペと鼻は真っ赤になってた

そりゃそうだよね。ひとみちゃんは板もつけずに
わたしにつきっきりで教えてくれてたんだから

223 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:08

「ねぇ、梨華ちゃん」

リフト乗り場までの斜面を上ってると
板を抱えなおして、前を見ながら話し掛けてきた

「ん?なあに?」

少し高い彼女の目線
見上げるように彼女をみつめる

「・・・手」
「え?」
「左手、バランス取って、ほしいんだな」

バランス・・・?
あ・・・うん・・・


わたしはグローブの上から彼女の手を掴んだ
手の温度は分からないし、手の感触なんて伝わらなかったけど
でも暖かかった
224 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:08
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225 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:09

着替えも終わって準備万端!
後藤さんの部屋をノックする

「はぁぁ〜〜い〜〜〜」
「あ、あの、石川です」
「あ、どうぞ〜〜」


 ガチャッ

「ご、後藤さん!!!」
「んあ?」

部屋の扉を開けると
ちょうど彼女がタイツをはくところで
パンツ、パンツが!!

「あは〜!そんな驚かなくてもぉ」
「お、おど、おどろきますよ!」
「んじゃ部屋入ってそのドア閉めて?恥ずかしいから」
「ああ、ごめんなさい!」

わたしは慌てて後ろ手にドアを閉めた
中に入るともうすでに部屋が整頓されていて
とてもシンプルで、綺麗な部屋だった
226 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:11

「ベッドの上にでも座っていいよ〜」

わたしはベッドの端に腰をかける

「梨華ちゃんってさ、今年初だよね?」

後藤さんは着替えながら話し掛ける

「あ、はい・・・」
「あー、そんな固くなくていいよ!これから働く仲間なんだから!」
「あ、で、でも」
「いいーから。あたしももう梨華ちゃんとか言っちゃってるしー」

にししと笑いながら、ウェアの濃紺のパンツを穿く

「あれ・・・後藤さんは」
「真希」
「え!?」
「真希って呼んでよ」
「あ、え、でも」
「いーからいーから」

鞄の中からゴーグルやグローブを出してくる

「あ、えっと、ま、きちゃんは」
「そーそー。それでおっけー。んで?」
「あ、あの。スキーなの?」
「ううん。あたしはボードだよ?」
「そう、なんだ」

それにしても、スノーボードのウェアみたいにラフじゃなくって
結構タイトなパンツを穿いてる

227 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:13

「あたしはよしこみたいなフリーライドじゃなくってアルペンだからねー」

フリーライド?アルペン??

「あ、わかんないか。梨華ちゃんはスキーなんだよね?」
「は、はい・・・」
「歴どれくらい?」
「えっと・・・」

わたしは膝の上に置いてた手で
指折り数えてみた

「19、18、17・・・6年です」
「結構長いねぇー。んじゃもうガンガン滑れるんだ」
「あ、でも、普通です、から」
「ぱられる〜とかできんの?」

真希ちゃんは絨毯の上でスキーで滑るマネをする
なんか、お茶目だなぁ

「あ、ええ、一応」
「ひゃぁー、すごいねー。あたしはもうボーゲンで断念したよ」
「ごと、真希ちゃんもスキーからだったの?」
「うん。修学旅行でしてからもうだめだーって」
「そうなんだ・・・」
「アルペンっていうのは、そうだなぁ・・・スキーで言うと滑降ってわかる?」
「滑降?」
「そうそう。オリンピックでやってるじゃん。回転とか大回転とか」
「あ、はい」
「あんな感じで、スピード求める系かな」
「そう、なんだ」
「よしこはフリーライドだからハーフパイプ・・・
 ん〜〜ちょっと違うけどモーグルみたいなもん?」
「なるほど・・・」

228 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:13

板の形や、靴の種類も違うんだよーと教えてくれた
ところで真希ちゃんはいくつなんだろ・・・

「あたし?今年で20だよー」
「え!?同い年??」
「あ、そうなの?梨華ちゃん誕生日は?」
「1月です」
「1月で20?」
「ううん、21」
「じゃあ一個上だ」

ニコッと笑う彼女。
年下、だったんだ・・・
大人っぽい雰囲気だから、絶対上だと思ったのに

229 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:14

「あは〜、そんなことないよぉ?よしこも確かあたしとおないだったかなぁ」
「え!?よしこ、って吉澤さん?」
「そそー。よしこああ見えてもガキだよー?」
「え・・・?」
「あれは絶対人見知りだからだね。あたしは断言する」
「どうして、そんな」
「まー、去年とある人から交信術を・・・」
「え?交信?」
「あー、いやいや、なんでもないよ!」

人見知りだって言いながら
後藤さんとはとっても仲がいいみたい

「吉澤さんも、去年来てたんですか?」
「ううん、あいつも今年初だよ?」
「え!?・・・じゃぁ」
「来る時ね、飛行機も電車もバスも全部一緒だったの」
「あー・・・それで・・・」
「うん。バスに乗ったときにもしかしてと思って声かけたら
 保田山っすって言うんだ。何々っすって!爆笑しちゃったよ」
「そう、なんだ・・・」

それでよしことかごっちんとか言い合ってたんだ・・・

なんか、出遅れた感じがして
胸が・・・痛んだ

230 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:15


 トントンッ

後藤さんの部屋のドアがノックされる

「はーいー、だーーれーー」
「吉澤っす」
「どうぞー」

扉を開くとそこに
真っ黒のウェアと、赤のメットをあみだに被った彼女が立っていた

かっこ、いい・・・


全身真っ黒で、ラフな感じには見えないウェア
肩と胸元、それに腕は腕章のようにオレンジでラインが入っていた

「おおー、よしこ、なかなかクールだねぇ」
「なんすか。クールって」
「まーまーいいからいいから」

231 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:16

わたしのウェアは、パンツがピンクで、上が白
白は汚れるからやめとけって言われたけど
袖口にうさちゃんのロゴプリントが入ってたから
可愛くってそれにしたの
グローブもうさちゃんプリントが入ってる

吉澤さんがわたしを見下ろすように見てきた

「・・・プッ」
「な、なんですかぁ」
「・・・ガキ」

むぅぅ!!失礼だよ、この人!

「こらこら、よしこ〜?失礼じゃないか〜?」

そうだそうだ!

「す、すいません・・・」

頬を赤くして、ばつ悪そうに
ペコッとお辞儀をする彼女はなんだか可愛かった。

232 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:17

 カチッ シュボッ

「ふぅ〜〜、着替えの後の一本は美味い!」
「あの・・・ごっちん、くつろいでないで・・・」
「なに!」
「あ、いえ・・・」

真希ちゃんも煙草吸うんだ
たしか吉澤さんも・・・

「梨華ちゃん煙くない?大丈夫?」
「あ、はい。慣れてます」
「吸わないの?」
「あ、うん・・・」
「喫煙者は肩身せまいねぇ?よしこ」
「そんな、べつに・・・」

後藤さんは煙草を咥えて少し窓を開けた
11月だけど、もう保田山は雪に覆われてる
保田さんが言うには、あと一週間もすれば、全てのコースが滑走可能になるだろうって。

今もチラホラ雪が降り出した

233 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:17
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
234 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:18

ロッカーで靴を履き、板を手にする

「なんで二人は保田山にきたの?」
「え?」

「よしこは?」
「ウチは・・・山に篭りたくて」
「あんたここの山男みたいな事言うんだね」
「え?」
「あいつらだよ、あいつら」

そういって後藤さんはロッカーの奥で群がる男の人たちを指した

「上手く、なりたいんで。それだけです」
「そうなんだー。梨華ちゃんは?」
「わ、わたし、は・・・」

ホワイトクリスマスが見たいだなんて、馬鹿げてるから・・・

235 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:19

「あーれれれ?俯いちゃったよ?赤くなってるしぃ〜」

真希ちゃんはわたしの座っているベンチにぴょんと座って
擦り寄るようにぐいぐい押してきた

「もしかして、ひょっとして出会いとか求めちゃったりしてますぅ〜?」
「そ、そんな!!」

ちらっと吉澤さんのほうを見ると
我関せずって感じで、手首や足のストレッチをしてる

「おーやおやおや〜?」
「真希ちゃん!なんでもないってばぁ!」

「あはは〜、まあいいんじゃないの?出会いも大切!」
「そんなぁぁ」

「さーて、パス券も貰ったし。ゴンドラでカフェの下見かねて上まで行きますかー」
「うん」
「はいよー」

236 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:19
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237 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:20

「さぁ、板つけて」
「ひとみちゃぁん・・・」
「ん?どした?」

板を置いて、ひとみちゃんは左足をバインディングに装着する

「ホントに、行くのぉ?」
「行くよ!」

そう言ってリフト乗り場の奥を見る
今日は丁度年末前の平日でもあるから
比較的お客さんが少ない

「これは・・・時計回りだから・・・」

わたしが板をつけていると
ひとみちゃんはリフトを見てなにやら考えていた

「ほんとに、ほんとに大丈夫?」
「だーいじょうぶだってぇ。もし危険感じたら板外してそりにして降りればいいから」
「それも、いやだな・・・それよりリフト降りれないよぉ!」
「いーから、いーから!ほい行くよ〜」

238 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:21

パスを見せて奥に進んでいく
乗りたくないけど、乗りたくないけど
今日に限って待ちがないのぉ!

「梨華ちゃん、こっち行ってなね」
「え?」

ひとみちゃんは板を器用に動かして右により
わたしをリフトの外側に並ばせた

「どうして?」
「降りやすいから」
「降りやすい?」
「内側だと立ってすぐ降りなきゃいけないっしょ?」

内輪差がどうのってひとみちゃんは言ってたけど
もうそんなどころじゃない

だって板が離れないんだよ?
スキーみたいに片足ずつに板が付いてないんだよ!?
こわい、こわいよぉぉ!

239 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:21

「おーおー、お前らデートかよー」
「うるさいなぁ・・・お願いしまーす」

宿舎の男の子がほうきで冷やかしてくる
わたしは余裕がなくって、声も掛けられない

「あらら、マドンナ初乗車?」
「うん、スピード緩めてあげて」
「おいよー」


『 - ピンポーン - お進みください 』


通常よりもゆっくりリフトが向かってくる
ひとみちゃんがわたしの前に立って両手を取ってくれる

「はい、梨華ちゃん、ゆっくり腰おろして?」
「う、うん・・・」

なんとか座る事が出来たけど
ひとみちゃんはリフトに押されながらどんどん進んでいく

「ひ、ひとみちゃん、座って!!」
「大丈夫だって」

リフトが乗り場から進みだす直前に
ひとみちゃんはやっと座ってくれた


 「いってらっしゃ〜〜〜い!!」
240 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:22
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
241 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:23

「いやぁ、きもちいいねぇ〜」
「こわいよぉ・・・」
「まだ言ってる・・・大丈夫だって。ウチのこと信じてないな?」
「そんなこと、ないけどぉ」
「ここのリフト降り場は平坦だし、心配しなくていいよ」
「で、でもぉ・・・」
「はいはい」

ひとみちゃんはちょっと呆れ気味に苦笑した


ガタガタッと揺れながらリフトが山を上っていく


「ひとみちゃんは、いつからスノーボード始めたの?」
「ん〜〜、確か7年前かな」
「そんな前から?」
「そだよー。結構古株」
「それであんなに上手いんだ・・・」
「そんなこと無いって」

242 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:24
−+−+−+−+−+−+−+−+−
243 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:25

「よしこはさぁ〜、パイプだよね?」

ゴンドラに乗り込んで山頂を目指す
宿舎のみんなはもうすでに上に向かったみたい

「はい」
「はいって・・・固いなぁ、もう」
「あ、え、いえ」

6人乗りのゴンドラに向かい合って座る
私の隣には真希ちゃんがいて
進行方向と逆向きに、吉澤さんが座ってる

少し首を後ろに向けて、山を上っているその先を見てる

あごのラインが・・・綺麗で
長い睫、大きな瞳、すっと伸びた首筋・・・
244 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:26

「・・・ちゃん・・・・梨華ちゃん?」
「ふぇ!?」
「あはは〜、どこみてたの?」
「あ、ああ・・・ご、ごめんなさい」

わたしの声で吉澤さんも振り向いた
はずかしいよぉ・・・

吉澤さんは、付き合ってる人とか、いるのかな・・・

「ねぇ、よしこって東京だよね?」
「え?あ、うん」
「梨華ちゃんは?」
「えっと、横浜、です」
「お〜〜、とっかい〜!」
「真希ちゃんは?」
「あたしも東京だけど、田舎なんだよねー」

さっきから、真希ちゃんばっかり喋ってる
彼女は場を和ましてくれてるんだ

245 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:27

「あ、あの!」
「どしたの?」
「えっと・・・その・・・楽しみ、ですね」
「え?」

何を話して言いか分からないまま、声を出したけど
そんなことしか言えなかったから、わたしは思わず俯いてしまった

「・・・フッ」

吉澤さんが、少しだけ笑った


あ・・・もう、だめだよぉ・・・


わたし、変なのかな
あなたは女の子で
しかも今さっき会ったばかりなのに
こんなに胸をときめかせている


吉澤さんに、もし、恋人がいたら・・・

それだけで、胸は痛んでしまいそう

246 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:30

「ねぇ、よしこ〜」
「なんすか」
「よしこってさぁ?男っぽいけどさ、恋人とかいんの?」

真希ちゃん!!そんないきなり!
でも、聞きたかったことだから・・・
だけど、聞きたくない・・・

「恋人っすか?」


彼女はちょっと頬を赤らめた

ああ・・・居るんだ・・・

247 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:31

「おいおい〜〜?その反応は、居るのかぁ?」
「居ないっすよ!」
「えええ??」
「居ないってば」

「じゃ、なんで赤くなるんだよ」

「・・・その、手の話は、苦手で・・・」


彼女はちょっと口を歪ませて外を見た

居ないんだぁ・・・
それに、とっても、シャイなんだ・・・


「ねぇ、梨華ちゃんは?」

後藤さんが嬉しそうに話し掛けてくる
吉澤さんはこっちを見た

「い、いないです」
「あららら、赤くなって」

真っ直ぐわたしを見つめる大きな目
吸い込まれそうになるほどの黒さ



好きな人は、居ます・・・

目の前の・・・あなたです

248 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:31
−+−+−+−+−+−+−+−+−
249 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:32
「さーて、降りるよー」

リフトが降り場に入っていく
降り場の中には、宿舎のスタッフの子が居なくて
速度を緩めずに、下車位置に来る

「ひ、ひ、ひとみちゃぁぁん!!」

ひとみちゃんはわたしに向き合うように座りなおした

「ほら、立って?」
「無理無理無理無理!!」

「んも〜〜」

ひとみちゃんはちょっと苦笑しながら先に立った

250 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:33

「ほら、つかまって?」

わたしに腕を伸ばしてくる

「首にしがみ付いていいから」
「え。ええ?」
「ほら、早くしないとまた降りることになるよ?」
「あああ!」

ひとみちゃんは身体を屈めてわたしを迎えるように
抱きしめてくれる

「足、膝曲げて、板つっかからないようにしてね」
「え、ええ!?」

グイッと抱きしめて抱き上げると
ひとみちゃんはバインディングのついていない右足を板に乗せて
スーーッと滑り降りた

近いし、抱きしめられてるし、恥ずかしいし
でも、でも・・・なんか幸せで・・・

251 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:33

「よいしょー、ついたついた」

ちょっとよろめいたけど、こけずに滑る
リフト降り場を少し行ったところでわたしをそっと下ろしてくれた

「ひとみちゃん、器用だね・・・」
「あー、あんな事したの初めてだよ。ウチグーフィー苦手だし」
「ぐーふぃー?」
「右足前ってこと」

ひとみちゃんは左足が前に来る、レギュラースタンス。
でも、降りるときはバインディングもつけずに
わたしを下ろすために、無理したんだ

「ごめんね・・・」
「ん?なにが?」
「・・・・・」
「気にしなくていいよ。・・・梨華ちゃん抱きしめられたし・・・」
「え・・・?」

俯いていた顔を上げると、ひとみちゃんは真っ赤になって顔をそらせた

「ほら、いくよ!」
「あ、うん!」

252 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:34


ひとみちゃんは、大丈夫かぁ?なんていいながら
斜面のちょっと下まで走っていった

「さぁ、ばっちこーーい!」

わたしはプルプルしながら立ち上がる
へっぴり腰でとってもマヌケだけど・・・

板をズズッとずらして、滑らせた

「そーーーそーーーそのままーーー!」


ひとみちゃんに向かって板がスピードを上げる

「無理ぃぃぃ!無理だよぉぉ!!」

「だいじょーぶ!ほら、腕つかみにくるーー!!」
253 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:35

保田山はコースに富んでいて
わたしたちが来たのは、子供・初心者用のゲレンデ
スキーなら、こんなにてこずる事なんてないのに
もう、本当に怖い。
だって地面が近いんだもん!

邪魔にならないところまで、なんとか板を動かしてゲレンデの端で座る

「よーっしゃ、じゃぁさっき下でやった事をしよっか」

ひとみちゃんは板を外してわたしの傍に膝をつく

「ウチが、ここにいるから・・・」

指で雪の上に絵を描いてくれる
その目がとってもキラキラしてて、じっと見つめてしまった

「梨華ちゃんは、こっから、こーゆー風に曲がって来るんだよ?」
「・・・・・」
「梨華ちゃん?」
「ああ、あ、うん!」

254 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:40

ひとみちゃんはわたしに向かって腕を伸ばしてくる
その手を掴むように、身体を捻らせれば曲がるらしいんだけど
身体を置いてズンズン進む板についていけなくて

「きゃぁぁ!!」

  ベシャッ!

「おお、派手に行ったね。だいじょぶーー?」
「ううぐっ・・・」
「あーあー、雪いっぱいつけちゃって」

ひとみちゃんはグローブを取って、顔についた雪を払ってくれた

「がんばっていこー!」

またテクテクと歩いて行く

「滑ってきてごらーん?」

座っていた身体をそっと立ち上がらせた

「さぁこーーーい!!」

ひとみちゃんはぶんぶん腕を振りながらわたしに笑いかけてくる
ゲレンデの下で、止まる練習はしたけど
こんな斜面じゃ無理かもしれない、って状況が本当に怖くて

でも、ひとみちゃんのところに行きたいから
板を滑らせた
255 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:40

「そーーーそーーー、板真っ直ぐにしてーーー。右足のつま先に力いれる〜〜!」

「うう、きゃぁぁぁ!!!」

「おお!!曲がれた?」

わたしはひとみちゃんの少し下の方で
なんと曲がって止まれたの!!

「おおお!!やったね!!」

ひとみちゃんは本当に嬉しそうに拍手してくれた
わたしの後ろに回って谷側に立つ

「止まった・・・曲がれた?」
「うん。キレイに曲がれたよ?」
「やったぁぁ!!」
256 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:41

両手を上げて喜んでると、バランスを崩して
体が後ろに倒れて行った

「うぁ、あぶね!」
「ひゃぁぁ!!」


  ガチャンッ!! ドシャッ 


「いでで・・・」

ひとみちゃんはわたしをかばうように後ろに転んだの
わたしの身体は、彼女の足の間にすっぽり入って
胸の中にいる
257 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:42

「ひ、ひとみちゃん!ごめん!大丈夫?」
「梨華ちゃん、痛かった?」
「わたしは、大丈夫。ひとみちゃんは!?」
「だいじょぶだよー」

身体を包み込むようにして、雪の上に仰向けになってくれてる彼女
首を少しだけ捻って上を見ると、笑顔のひとみちゃんが居た


「今のが逆エッジ。気をつけるんだよ?」
「うん」
「頭打ったら下手したら死ぬからねぇ」
「ええ!?」
「だいじょぶ。誰もが一回は通る道だから」

白い歯を見せて笑うひとみちゃんの顔は
ほんとにキラキラしてた


こんな間近であなたを見つめられるなんて・・・


ゲレンデは雪が降っているのに
何故か暖かく感じた

258 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2005/12/28(水) 23:43

259 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 23:44
更新終了です
260 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 23:45
レスポンス

>春様

山崎君は多分本当のサンタクロースなんじゃないかと
作者かいてて思いましたよw
山崎Ver.も書こうかな・・・不憫でならない泣
山崎)<俺に幸せをくれ〜〜!

>7&Y様
あら7&Y様!(・∀・)ニヤニヤ
もう、もう、おめでたいw

違和感無かったですか?よかったです
かなり気を使いましたよ。
男前過ぎか?とおもったりとか。
でも喜んでいただけてよかったです!

>名無読者様
Rink自身もこのCP久々でして・・・
まさか自分が書くなんて思ってもいませんでしたw

>名無飼育さん様
ええ、へっぽこボーダーなんですよ泣
もう2年くらい行けてないですけどもw

違和感なくてよかったです
それにしてもごとーさんの相手、男前ですねw

>名無飼育さん様
だしますだしますww
いしよしだしますよ〜
261 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 23:48
今回の更新は>>202-258です

>>252>>253入れ替えて読んでください
すいません、またミスしました泣

『今宵あなたと、雪降る丘で』は石川さん視点です。
んでもって、現在と回想シーンが入り乱れますが
-+-+-+-+-この線で区切りです。

んでもって、マッタリ甘甘感じでいきまーす
( ^▽^)^〜^0) <保田山寒くたって二人寄り添いあったかい♪
262 名前:Rink 投稿日:2005/12/28(水) 23:49
作者談

いやぁ、ゲレンデデートいいですねぇ
考えただけでも萌え萌えでございますよ
あれやこれやとさせるつもりなのでお楽しみに〜

吉澤さんと石川さんに
ゲレンデデートをほんとにしてもらいたいんですけど…
263 名前:名無読者 投稿日:2005/12/28(水) 23:54
更新お疲れ様でした。
いしよし熱で保田山、雪崩を起こさないといいんですがw
次回更新も楽しみにしてます!
264 名前:7&Y 投稿日:2005/12/28(水) 23:58
更新乙です
いやいやお世話になりましたです(汗
( ^▽^)^〜^0) ニヤニヤ

いしよしゲレンデデートいいですね〜
遭遇してこっそり後をつけたい。
そんでもって木の影から現場を目撃したい。
現場って?そりゃ奥さん、イロイロですよ

…ストーカーっぽいわぁ;ゴメンナサイ
265 名前: 投稿日:2005/12/29(木) 00:04
更新お疲れ様です。
甘い感じの二人に萌えてます。

「まー、去年とある人から交信術を・・・」
この台詞にすごく笑いました。
やっぱ( ゜皿゜) この人からですかね。
( ´ Д `)いろいろあるぽ
266 名前:gung 投稿日:2005/12/29(木) 01:00
ゲレンデで戯れるいしよしを見てたら
すんごい雪山に行きたくなりました…w(爆)
267 名前:名無 投稿日:2005/12/29(木) 01:17
更新お疲れ様です。
ゲレンデが似合う2人ですね^^
ぜひ見てみたいですw
もう2人の世界ですねぇ〜
268 名前:あいわい 投稿日:2005/12/29(木) 09:03
うひゃぁぁぁああぁぁ!油断してたらいちごまといしよしきてたー!!!
ごとーさん、キャワです…(*´Д`)
Rink様は人物の心理を描くのが上手ですよね!切なさとか悲しさとか、嬉しさとかがすごくストレートに心に響いてきます。
次回更新も楽しみにしてます!
269 名前:Rink 投稿日:2005/12/31(土) 16:53
作者です

今宵あなたとシリーズ完結したいのですが
なんせ年の瀬、年末年始でちょっと忙しく
次の更新は年明けて3が日後くらいにしようとおもってます!
お待たせしている方いらっしゃいましたらすいませんm(_ _)m ペコリッ

年明けパワーアップして戻ってきますです!

それでは良いお年を
そして紅白&年始のハロー楽しんでくださいませ〜!
270 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 18:54
−+−+−+−+−+−+−+−+−
271 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 18:55


「おおおーっしゃぁー、ついたぁぁぁ〜」

ゴンドラを降りると、山頂はすっかり雪に覆われていた

「さっむぅ・・・」

板を持って、ゴンドラ駅の階段を下りる

スキー場案内の看板前で、板を置くと
後藤さんは少し顔を上げて指差した

「このリフトの先の、あの小屋見える?」
「あ、はい」
「あそこがあたしたちが働くカフェね」
「1番上なんですね」
「そーそー。その方が帰り滑ってこれるでしょ?」
「確かに・・・」
「それに体力ある若者が上にしないとねー・・・ってよしこ聞いてる?」
「ああ!?あ、はい」

吉澤さんは、ゲレンデの端の方をずっと見てた顔を
あわててこっちに向けた

272 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 18:56

「パイプ気になんの?」
「あ、まぁ・・・」
「いっといでよ」
「え?」

そう言う彼女の目はとてもキラキラしてる

「いいん、ですか?」
「うん、あんま無茶だけしなければねー」
「じゃ、じゃぁ・・・」

「梨華ちゃん、あたしたちも見に行かない?」
「え?」
「よしこがどんなトリックするか」
「え、あ、でも」

吉澤さんはもう板をつけて滑り出した
ゴンドラ駅の少し上のほうにある、雪の壁・・・
あんなところ、吉澤さん入っていくの??

「さぁー、いくよ〜!」
「あ、待って!!」

273 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 18:56
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
274 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 18:57

はじめて間近で見るハーフパイプ・・・
テレビでオリンピックの競技として見た事はあったけど
こうやって上に立つとその大きさに驚く

「ここのパイプは日本でも有数のデカさらしいんだー」
「へぇ・・・そう、なんだ」

そんなところを吉澤さんは飛ぶの??

パイプの真中辺りの邪魔にならない位置に上がる
もう何人もジャンプしたり、回転したりしてる
すごいな・・・

275 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 18:58

「あ、よしこの番みたい」
「え!?」

真希ちゃんの声で上を見ると
赤いヘルメットの吉澤さんが手を上げて中に入っていった

最初は小さくジャンプしてたけど
スピードをどんどん上げて、身体を捻らせ、板を回転させる

「おおお、よしこ凄いなぁ」
「後藤、あれ誰?」
「あ、よしこ。」
「よしこ??」

真希ちゃんは下から板を下げて上がってきた男の子と話してる

「今年初の女の子だよ」
「女!?」
「うん」
「すっげ、ジャンプ」

雪を切る音が近づいてくる
何故かわたしの胸も高鳴ってくる

わたしたちが見てる少し下から彼女は壁を上ってきた

「フォーーーー!!」
「すっげぇ!」

周りの男の子たちも、声をあげる

「It's cooooool!!!!」
「イェーーーーー!!」

吉澤さんはパイプを横切りながら少し手を上げた

276 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 18:59


「かっこいい・・・」


「なかなかよしこカッコいいなぁ」
「おお?後藤、お前は去年終わっただろ」
「いちーちゃんには負けるけどね〜」
「あー、はいはい」

彼女がパイプを滑り終えてまた少し手を上げた

「梨華ちゃん、降りよっか」
「・・・・・」
「・・・梨華ちゃん?」
「あ!?え??」
「どーしたの?ボーっとしちゃって」
「あ、ご、ごめんなさい」
「よしこ待ってるみたいだし。いこ!」
「うん」

わたしたちはパイプから降りて、板をつけて
吉澤さんの居るところまで降りていった

277 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 18:59


  シューーーーッ ザザッ!!

「よしこ、すごいね!あんた!」
「え、あ、まぁ・・・」

吉澤さんは少し顔を赤くして
雪なんてついてないのに、払うフリをした

「梨華ちゃんなんて目がハートになってんの〜」
「ま、ま真希ちゃん!!」

何でそんなこと言うの!?
わたしは慌てて真希ちゃんを止めるけど
もう恥ずかしくて、顔上げれないよぉ〜

「あ、ああ・・・ありがと」

吉澤さんがポソっともらした

「じゃー、降りるかー」
「おう」

真希ちゃんと吉澤さんが先に滑り出す

わたしはしばらくボーっとその背中を見つづけた


王子様・・・かっこよすぎだよぉ

278 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:00
−+−+−+−+−+−+−+−+−
279 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:02

「さーて、梨華ちゃん、次いってみようかー?」
「うう・・・」

ひとみちゃんの胸の中から起き上がって
わたしはまた滑り出す
もうちょっと幸せ噛み締めたかったなぁ・・・


「ほーい!次は右のかかとに力いれるんだよー!」

今度はバックサイドターンというのをするらしいんだけど
背中が谷のほうに向いてて何も見えなくて
ほんとにこわいんだよぉ!

「イスに座るような感じで、腰おろして〜〜〜!」

ひとみちゃんの声がゲレンデにこだまする

「そーそのままーーー!かかとに力入れる〜〜〜!」

かかとって、かかとってぇぇ!!

280 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:03

  ドシャッ!!

「あら、また激しくしりもちを・・・」

ひとみちゃんの傍でわたしは
思いっきりしりもちついてしまった

「いったぁぁ・・・」

もう半泣きどころじゃないよぉ

「手首ついたけど、大丈夫?」
「ううう、いたいぃぃ」

ひとみちゃんはわたしに視線を合わせるようにしゃがみ込んで
頭を撫でてくれる

「よしよし・・・もうちょっとでターンできそうだからがんばろうね」
「うううううぅぅ」

痛いけど、怖いけど
わたしはすぐに立ち上がった

「うん、えらいぞー」

絶対辞めない!
ひとみちゃんと一緒に滑りたいもん!

「頑張れ頑張れ!コレ降りたらお昼にしようねー」
「うん」

281 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:04

お昼ご飯と言う言葉と、頭を撫でてもらえた嬉しさから
俄然やる気を出した

「よーっしゃー、さぁこーい!」

「うううううう!!」

 ガガガッ  ズルズルッ

「おおお!出来た出来た!」

  ドシャッ

「ああ、あははは!」
「ターンできた!?」
「出来てるよー。背中向いてたのがウチのほう向けてるじゃん」
「やったぁぁぁ・・・」
「あとは連続でさっきのと繰り返せばターンできるようになるよー」
「ふみゅぅぅぅぅ・・・」

わたしは安心からと痛さからと
ひとみちゃんの優しい笑顔で、情けない声を出しちゃった

そしたらひとみちゃんがまたしゃがみ込んで目線を合わせて
頭を撫でてくれた
なんか、くすぐったいよぉ

282 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:08

「ターンできたから・・・」
「ん?」

ひとみちゃんはちょっと俯いたと思ったら
急に顔を上げた



  チュッ



「・・・ごほうび」


雪で冷たくなった顔がいっきに熱くなる
ひとみちゃんが照れくさそうにまた俯いた

283 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:09

人が居るけど
街のように近くなくって
遠くの方でポツポツいるくらい

こんな広いゲレンデに2人きりで
雪が降る中での、大好きな人からのキス


「・・・梨華頑張る!!」
「おお!?」

いきなり立ち上がったからひとみちゃんは驚いてたけど
キスで頑張れる!

「もっとごほうびもらえるように、がんばる!!」
「あっはは!んじゃー、下までもうちょっとだからノンストップで行ってみようか」
「うん!!」

284 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:10
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
285 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:12

  シャァァァァッ   ドシャッ

スキーなら5分もかからないゲレンデを
1時間以上もかけてしまった
何度もこけて、何度も起き上がって
それを繰り返して・・・

だけど、ひとみちゃんのほうがもっと大変だと思う

板を履いてはまた脱いで
わたしがターンをマスター出来るように
何度も大きな声で教えてくれたんだもん

だけどそのおかげで、不恰好だけど何とか曲がれるようにはなった

「やっぱりひとみちゃんのおかげだなぁ」
「ん〜?なにが?」
「教え方うまいんだね」
「そうかなぁ〜」

286 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:12

ひとみちゃんはゲレンデの上のほうを見てる

「・・・ひとみちゃん?滑ってきていいよ?」
「え!?」

わたしを見下ろすように見つめる
ちょっとだけうれしそう

「だって、ひとみちゃん今日一回も滑ってないでしょ?」
「でも、いいよ。待たせるの悪いし」
「いいよ。わたしそこのソリで遊んでるから」
「えええ?梨華ちゃん・・・ソリって」
「いいの!いってらっしゃーい!」

板を外して立ち上がると
ひとみちゃんの背中をグイッと押した

んじゃぁ、お言葉に甘えて一本だけと
ひとみちゃんは滑り出した

滑ってるところが見たいって言うのもあったんだぁ
ホントに、かっこいいんだもん

287 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:13

わたしは保田荘の入り口の前に板を立てる

この板も、靴も
保田荘に置かれていた、誰かのものらしい
いつも板を寄付してそのまま帰っていくスタッフさんのらしい

昨日ひとみちゃんはわたしにスノーボードしようって言ってくれて
わたしは、怖かったけど、でもやってみたいって行ったら
夜にこの板にワックスをかけてくれてた

みんなが寝静まった頃
そっと起きてロッカーに行ってたのを
トイレに行く時に見たんだ

靴も丁寧に拭いて、中を乾かして。

どうして、なんでそんなに、優しいんだろう

ワックスをかけている時の目は、とっても凛々しくって
靴を丁寧に拭いているその顔は笑顔だった


それに、こけても痛くないようにって
ホテルの中にあるスポーツショップに
サポーターを買いについて行ってくれた
ちょっとしたデートみたいで、すごく楽しくって


「・・・うれしいなぁ」

わたし、ひとみちゃんに思われてるんだぁ


わたしは雪を集めて丸くまとめる
ひとみちゃんが帰ってきたら見せようっと

288 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:14

少ししたら、ゲレンデの中央から滑り降りてくるひとみちゃんを見つけた
どんなに離れてても、分かるんだね
彼女は時々ジャンプしながら、回転をして
本当に自由気ままに滑ってる

あんなカッコいい姿見たら、声とかかけられちゃうよぉ


  シャーーーーッ  ザザッ!!

雪を舞わせて、少し離れたところで止まった

「ただいまぁ〜」

ひとみちゃんはゴーグルを外して
笑顔を見せてくれる

289 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:14

「おかえり〜」
「あれ?ソリは?」
「コレ作ってたの」

なになに?と板を外してよってきて
しゃがみ込んだ

「うさちゃん」
「あっは!かわいー」

ひとみちゃんはグローブを外して
ウサギのホッペをつんつんつついてる

「ねぇ、梨華ちゃん」
「なあに?」

すごく至近距離でひとみちゃんはわたしを見つめる
もしかして、これって・・・

「あの、さ」
「なあに・・・?」

キス・・・かな・・・

ひとみちゃんと居ると
どうしても、胸の高鳴りが押さえられない
わたしは胸の前で手を組んだ

290 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:15





「ソリしない?」

え!?

「ソリ!しようよ!」

あ、ソリ・・・そうね・・・

ひとみちゃんはうれしそうにそりを掴んで
わたしの手を引いて少しゲレンデを上がった

なーんか、こどもみたいでかわいいなぁ

手を握られてまたドキドキしちゃった

291 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:16

「よっしゃ!こっから保田荘のロッカーまで直行だぁ!」
「危ないってばぁ」
「はい、梨華ちゃん、前乗って」
「う、うん」
「押さえてるから大丈夫だよ」

恐る恐るわたしはひとみちゃんの足の間に入ると
ひとみちゃんが腕を回して、わたしの前で紐を掴んだ

「んじゃー、いっきまーーーっす!」

 グイッ  ズズズズザザーーー

「は、早いよぉぉ!」
「あっははは!ほら、いけぇぇぇ!」

ひとみちゃんは足で雪をけってスピードを出してくる
回された腕の力と、背中から伝わる温度
耳元で聞こえる声
速度を増すソリのせいで
もう、ドキドキが止まらない

「きゃーーーーー!!」
「うっはーーー!」
「あ、ひとみちゃん!前!前ぇぇぇ!」
「えええ!!無理!!うぁぁぁ!!」

わたしたちは保田荘の入り口から大きく外れて
除雪して降り積もった柔らかい山に向かって突っ込んでいった

292 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:20

「きゃぁぁぁぁ!!」
「うぁぁああ!!」


  バシャンッ!! ドサッ!!! 


ソリから落ちて、二人とも転がるように雪の山につっこむ


目を開けると
ひとみちゃんの顔が目の前にあった

「・・・ぷっ」
「フフッ・・・」
「ふはは!」
「「あははははは!!」」

どんなにとっさの時でも、ひとみちゃんはわたしを
抱きしめてかばってくれてる
なんだか、うれしくて、おかしくなっちゃってずっと雪の中で笑いあった


「ははは、はーーあぁ。梨華ちゃん、大丈夫?」
「ひとみちゃんは?」
「だいじょーぶだよ」
「もぅ、スピード速すぎだよぉ」
「ごめんごめん、なんか楽しくって」

293 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:23

ひとみちゃんは雪山から這うように起き上がると
わたしに手を差し伸べてくれた

黒いウェアが真っ白になるほど雪がついてる

「ほい、起きれる?」

あんなにスピード出してぇ・・・もう!

 グイッ!

「うぁあ!」

わたしはひとみちゃんの腕を掴んでひっぱって
雪山の中にダイブさせた

 ボフッ!

「んがっ!・・・梨華ちゃん、なにす」


  チュッ


「お返し」
「・・・な、なんのさ・・・」
「ぎゅってしてくれたから」
「ああ、でも、なんか・・・そんなお返しなんて・・・」
「でも・・・したかったんだもん」
「そっか・・・そうだ、さっきのごほうび忘れてた」


  チュッ


「・・・ねぇ、ひとみちゃん」
「なに?」

雪の中で
誰も見えない白い世界で
ひとみちゃんの睫にかかった雪がゆっくりと溶ける

294 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:24

「もう、ごほうび、終わり?」
「・・・フッ」

舞い落ちる雪のように優しく笑うと
顔を近づけてきた

わたしは少し赤くなった手を彼女の頬に当てると
冷たそうに目を細めて

唇を落としてくれた


「さって・・・お昼にしよっか」
「うん!」

295 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:26
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
296 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:31

保田荘の食堂に入ると、保田さんが煙草をふかしながら新聞を読んでいた

「あ、圭ちゃん」
「おー、おかえり」
「ただいまです」
「アンタたち、お昼食べた?」
「まだー」
「んじゃ、なんか作ったげるよ」

「あ!保田さん!」

イスから立ち上がった保田さんは振り返って
ん?って言う顔をする

297 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:32

「わたし作ります」
「まじで?」

隣でひとみちゃんが驚いてる
だって、いつも保田さんに作ってもらってるんだもん
お返しできる時にしなくちゃ
それに、ひとみちゃんに、食べてもらいたいから・・・

「んじゃ、お願いしようかな」
「はい!」
「冷蔵庫のもの、好きに使ってくれていいからねー」
「あ、はーい。ひとみちゃん、何食べたい?」
「ん〜〜」
「何でも言って?」

こう見えても、ずっと家のご飯作ってたから
料理は得意なんだよ?

「オムライス」
「オムライス?」
「うん!」
「分かった。じゃぁ、ちょっと待っててね?」
「はーい」

ひとみちゃんはうれしそうに
いつもの席についた

298 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:32

わたしはジャケットをイスにかけてキッチンに入る

ひとみちゃんは体が細い割りにはたくさん食べる
多分筋肉ついてるからなんだと思うし
それに、男の人に負けないくらいのジャンプをするんだもん

手を洗って、野菜を適当に冷蔵庫から取り出し
細かく切り始める。
ん〜、保田さんの分もだから・・・ご飯はこれくらいかな?

「石川、何か手伝う事ある?」
「あ、保田さん。いえ、大丈夫です」
「うん・・・んじゃサラダでも作るかなー」

保田さんは野菜から野菜を取り出して
水洗いを始めた

299 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:33

「ねぇ、石川」
「はい?」
「よく頑張ったね」
「へ??」

わたしは手を止めて保田さんを見ると
彼女は顔をキッチンの扉の方に向けて
クイッと顎を動かした

「あいつ」

扉からはゲレンデを見つめながら
イスにもたれてバランスをとってるひとみちゃんが見えた

「あ、え・・・えへっ」
「まぁ、あいつに惚れるのも分かる気がするよ。
 男気あるし、ここの女の子からも結構好きって言ってる子居るみたいだし」
「へええ!?」
「カッコいいってね」

そうなんだ・・・知らなかった
わたしはフライパンにかけた手を止めてしまった

「でもま、安心しなよ。あいつもアンタにベタ惚れっぽいし」
「そう、ですか?」
「だって、アンタと一緒に居るときのあいつのだらしない顔ったら・・・」
「だらしないって」
「ハハハッ!アンタにしか見せてない顔ってあるでしょ?」

300 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:34

ひとみちゃんは普段、とってもクールで
あまり笑わなくて、そっけない感じがする
初めて会った時のように、ぶっきらぼうで

でもそれは照れ屋さんだからって事も分かってきた

二人で居ると、とっても甘えん坊になる
かわいい笑顔を見せてくれるし
ハスキーな声で名前を呼んでくれる


「はい・・・あります」
「黙ってりゃかっこいいヤツなんだろうけどねぇ。みんな騙されてんだよね」


 ガタガタッ、ドシンッ!!


食堂の方から大きな音がした
見てみると、バランスを崩したのか座っていたイスが倒れて
あたふたしてるひとみちゃんが見えた

かわいいなぁ、もう

「はぁ・・・馬鹿だね、あいつは」
「フフッ。かわいいから、いいんです」

301 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:34
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
302 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:35

「石川・・・さすがにそれは・・・」
「だめですか?」
「ダメじゃないけど・・・食べる前からおなかいっぱい」
「えへへッ」
「あたしは部屋で食べるから、勝手にしてくださいな」

保田さんはオムライスとサラダを持って
キッチンを出て行った

「ん〜、いい匂い」

オムライスと保田さんが作ってくれたサラダが出来た頃
ひとみちゃんは待ちきれないのか食堂のドア越しにこちらをうかがってきた

「あ、ひとみちゃん。これ持って行ってもらっていい?」
「おっけー」

サラダとフォークを手渡す

わたしはトレーにオムライスとお茶を乗せて
ひとみちゃんの待つ席に急ぐ

303 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:36

「はーい、おまたせ」
「うゎ・・・お・・・す、ごいね・・・」

ケチャップでハート書いちゃった♪
ひとみちゃんの隣に座ってスプーンを渡す

「食べるの勿体無いな・・・」
「いいの!食べよ?」
「おぅ!じゃぁ」

「「いただきまーす!!」」

ひとみちゃんがスプーンでオムライスをすくって
それを頬張った
ひとみちゃんはホント美味しそうにご飯を食べてくれる
それ見てるだけでわたしはうれしくなっちゃう

「んぐっんも、んまい」
「ほんと〜!?よかったぁ」
「梨華ちゃんも食べなよ」
「うん!いただきまぁす」

美味しく出来てよかったぁ
ちょっとたまごが破れて、見た目が悪くなったけど
でもひとみちゃんは、美味しい美味しいって言って食べてくれる
ほんと、嬉しい!

304 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:37

「ああ、ねぇ!」

奥のほうから保田さんが顔を出した

「なんふふぁ?」
「ひとみちゃん、ご飯口に入ってるんだからぁ」
「あーはいはい、バカップル。プリン食べる?」
「「食べます!!」」
「冷蔵庫の端にプリンあるから食べていいよー」
「んぐっ、まじっすか!」
「1個しかないから分けて食べるんだよー」
「「ありがとうございます!」」

また保田さんは奥の部屋に入っていった

「バカップルだって」
「んぐっ・・・ん、まぁ、ね・・・」

ひとみちゃんは顔をちょっと赤らめて
ご飯を食べつづけた

305 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:37
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
306 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:39

「ふぅ〜、おなかいっぱい。ごちそーさまでした!」
「いえいえ」

ひとみちゃんは1人前以上あるおっきなオムライスを平らげて
とっても満足そうな笑顔をくれた

「コーヒーいれてくるよー」

ひとみちゃんは、私の分のお皿も重ねてキッチンに向かった

「あ、いいよ!洗うよ」
「いいのいいの。梨華ちゃんは座ってて〜」

ひとみちゃん、走り回って疲れてるはずなのに・・・
鼻歌歌いながら食器を洗ってる

コーヒー飲めないんだけど、今日はちょっと大人になろうっと


ひとみちゃんの優しさや、笑顔って
保田山だからじゃないと思う
多分、街に居ても、どこに居ても変わらない
彼女のあったかさなんだろうな・・・

わたしは雪が少しやんだゲレンデを見つめた

307 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:39
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308 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:40

スキー場がオープンして、カフェの営業も始まった
最初は戸惑ったけど
だけど、だんだんと慣れ始める

ひとみちゃんはサイフォンでコーヒーを入れて
わたしはその姿を見るたびに、胸を高鳴らせていた

ゲレンデを縦横無尽に走る彼女の姿がカッコいいっていう声は
他の女の子たちからも出てたし
男の子からも「あいつを女にするのは勿体無いくらいだ」なんて
みんなからの人気を得て憧れになってた


なぜかそんな声を聞くたびに
胸が苦しくなったの

なんだか、遠い存在みたいで
わたしなんて、見てくれてないって・・・
でも、いつか、いつかあなたの目に映りたい
だからいつもわたしは彼女を見つめていた

309 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:41


ある日の晩、わたしは食堂にジュースを買いに行こうとしたら
扉の前に張り紙がしてある

『女子立ち入り禁止!!絶対あけちゃだめだよ〜』

これ、後藤さんの字?
中ではなにやら歓声や、感嘆の声が聞こえてくる
どうしよっかな・・・入っちゃダメって書いてるし


310 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:41

「・・・どうしたの?」

わたしはびっくりして、声のほうを見たら
ひとみちゃんが立ってた

「中、入っちゃだめって・・・」
「ああー、なんかやってんのかな・・・」
「ん、そうみたい・・・」
「中に用あんの?」

ひとみちゃんを見ると
ポケットに手を突っ込んで目だけ動かした

「えっと、喉渇いたから・・・」
「あー、そうなんだ・・・」

ひとみちゃんは口をちょっと歪ませて何か考え事をしてる

ねえ、そんな顔しないで
色んなあなたを知っていくと、わたしは胸がドキドキするから・・・

311 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:42

「・・・コンビニ、行く?」
「へ!?」

思ってもいなかった言葉を聞いてわたしは声をあげた
だって、それって・・・

「ウチも煙草買いたかったし」
「いい、の?」
「ん・・・着替えたら、ロビー来て」
「・・・うん!!」


言葉がすごく少ないけど
でも、彼女の優しさを感じたの

夜だし、危ないし
って、ちょっと俯いた顔が言ってくれてるような気がした

312 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:43

わたしは着替えに部屋に戻る
コンビニまでの距離なんてほんとちょっとだけど
でも、でもうれしくって。
鏡で髪をチェックして部屋を出た

ロビーに行くと彼女がソファに座ってた
いつも着てるダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで
大きなあくびをかみ殺してる
フフッ・・・かわいっ

「ごめんね?」
「あぁ・・・いこっか」
「うん!」

313 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:45


おみやげやさんの並ぶ道を二人で歩く
夜はとっても寒くて、昼間に少し溶けた雪が凍ってつるつる滑る

ひとみちゃんはてくてくと少し前を歩く
なんか・・・おっきな背中がたくましくて
思わず飛びつきたくなったけど
だめだめ!そんなことしちゃだめ!
だって、ひとみちゃんは・・・大切な仲間だもの・・・

314 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:45

コンビニについて、ジュースを買う
ひとみちゃんは雑誌コーナーで立ち読みしてた

「おまたせ」
「もういいの?」
「うん」
「じゃ、もどろっか」


コンビニを出て、また道を戻る
あれ?そういえばひとみちゃん、ずっと雑誌読んでたよね・・・

「ひとみちゃん、煙草は?」
「ああ、あ・・・いいや」
「忘れたの?買いに戻ろ?」
「いい・・・まだ、あるし」
「え・・・?」

それって、さぁ・・・
ひとみちゃん・・・
315 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:46

わたしは少し勇気を出して
彼女のジャケットの袖を少しつまんだ

「あ、ごめん」

何がごめんなんだろう・・・
彼女が少し顔を向けてくれる

歩く速度で分かった
ゆっくり、歩いてくれてる・・・


わたしは左手で袋を持って
さっきよりほんの少し、力を加えてつまんだ

どうして、そんな、優しいんだろう
ねぇ、でもそれってわたしだけじゃないよね・・・

みんなに、なんだよね・・・


チクリと胸が痛む
悲しくなってわたしは俯いてしまった

316 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:47

  ツルッ!

「きゃぁぁ!」
「おお!」

凍った道に足を取られて
わたしはしりもちをつきそうになったところを
ひとみちゃんがポケットに入れていた腕をさっと抜いて
がしっと受け止めてくれた

「大丈夫?」
「あ、あ・・・うん・・・」

滑った恥ずかしさと、腕をつかまれて
もう、顔見れないよぉ

317 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:47

そっと立ち上がらせてくれたひとみちゃんは
やっぱりポーカーフェイスで

「あぶなっかしいな・・・」
「ごめんなさい・・・」
「・・・掴んでなよ」
「ふぇ!?」
「また、こけそうだし・・・」

顔を上げると彼女が少し笑ってた
ポケットに突っ込まれた左腕は
身体と少しだけ隙間が出来ていた


・・・腕、掴むね?

雪がしんしんと降り行く中
ちょっとした、幸せになりました

318 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:48
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
319 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:49

保田荘に戻ると玄関で雪を振り払う

食堂からは、中の会議が終わったのか男の子たちがぞろぞろと出てきた


「おおー、吉澤!」
「ん?ああ、山崎。なに?」

靴を脱いで中に上がる

「これ、昼間のビデオ。パソコンで落としたからさ。見ろよ」
「DVD?ウチパソコン持ってないよ?」
「女の方のテレビで見れんだろ」
「あ、そうなの?んじゃ見るよ」
「いつでもいいぞー」
「ありがと」

彼女は男の子たちとすっかり打ち解けてる
ちょっと楽しそうに笑顔を交わしながら。
そんな姿を見て、また少し胸が痛んだ

320 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:51

それより、さっきから男の子たちの視線を感じる
な、なんだろう・・・ひとみちゃんと一緒に居たのがまずかったのかな

男の子たちの波と一緒に
ひとみちゃんが部屋に戻ろうとする

「あ、ひ、ひとみちゃん!!」

わたしは大きな声で彼女を呼び止めると
そこに居た全員が一斉にこっちを見た
な、なによぉ・・・なんでみんな見るのよぉ

「なに?」
「あ、あの、ありがとう」

袋をちょっとだけ上げると
彼女は口を上げて少しだけ笑って部屋に戻っていった

321 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:52

笑った・・・
ゴンドラの中で見たあの笑顔と一緒・・・

わたしに向けてくれたのが、嬉しかった



「おいおい、お前抜け駆けかぁ〜?」
「なに、抜け駆けって」

「りっかちゃーん!」
「俺と一緒に今度滑ろうねぇ〜」

男の子たちに混ざって、彼女は部屋に戻っていった

322 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:52


誰も居なくなった食堂前


 “どうしたの?”

 “大丈夫?”

 “・・・掴んでなよ”


今日彼女と話した会話を思い出して
何度も心の中で繰り返す


数えるほどしかない彼女との会話
それでもいつでも思い出せる


それに、彼女のちょっとした表情の差を見たくて
わたしは、緊張も乗り越えて話し掛ける


323 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:53

彼女より少し早くに食堂に行って
彼女がいつも座る近くに座る

1つ開いた席でも
ドキドキが日を増すごとに増えていく

わたしがちょっとしたことで彼女の名前を呼ぶたびに
目の中のやさしさも増えてる気がする

全部、全部
気のせいだったとしても
いいの・・・
思いなんて、告げられない事
分かってるから・・・

見てるだけで、いいって
思ったから

324 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:53
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
325 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:54

夜中にトイレに行きたくて
寒い廊下を歩いてると

テレビの置いてあるフリースペースの方から光が見えた
こんな夜中なのに、誰か起きてるのかな・・・?


近づいてみてみると
ひとみちゃんがソファで横になってた

そういえば、DVDを見るとか言ってたっけ

326 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:55

ソファの前にあるテーブルには
紙が散乱してた。
殴り書きで、何か書かれてる
ジャンプしてる絵も書かれてた

熱心なんだね、ひとみちゃん

前に回りこんで
しゃがみ込んで彼女の眠る顔を見つめる


睫長い・・・お肌綺麗だなぁ

て、照れる・・・
これじゃ怪しい人じゃん!
わたしは音を立てないように、そっと立ち上がってトイレに行った


あんな可愛い寝顔を、見たのってわたしだけ・・・?
なんかまた特別が1つ増える

327 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:56

トイレから戻ると、彼女はまだ眠っていた
本格的に眠ってるみたい

こんなところで寝ちゃ風邪ひいちゃうよぉ?
でも、起こすのも悪いし・・・

わたしはそっと部屋に戻って毛布を抱えて戻ってきた


起こさないように毛布をかける

TVとDVDデッキの電源を落として
テーブルの上の紙をまとめる

328 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:57

「ん・・・んっ・・・」

ああ、起こしちゃった・・・?

振り向くと
目をうっすら開けて、こっちを見てるひとみちゃん

「ごめん、起こしちゃった?」
「ん〜、んん・・・」

「部屋、もどる?」
「ん〜・・・もちょっと・・・」

かわいいっ。寝ぼけちゃって。
またひとみちゃんは目を閉じた

329 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:58

ひとみちゃんに毛布をかけちゃったから
わたしが、寝れない?

ん〜。どうしよっかな

またひとみちゃんの前にしゃがみこんで
顔を見つめた

口元まで毛布を引き揚げてもぞもぞ動くひとみちゃんは
冬眠前のくまさんみたいで、かわいかった


「んっ・・・」

パチッと目が開いた

「あっ、ご、ごめん!」
「・・・毛布、これ・・・寝れないよね・・・」

寝ぼけてて、ただでさえ言葉の少ないひとみちゃんの言葉が
イマイチ理解出来なくって・・・

彼女は身体をズルズルとずらして
一人分のスペースを空けてくれた

330 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:58

「え・・・?」
「ん・・・」

座れって事・・・?

「ん・・・」

座っちゃうよ・・・?

ソファに腰をかけると
彼女の暖かさが伝わってきた


「ん・・・」

ひ、ひとみちゃん!!
彼女は何を思ったのかわたしの太ももの上に頭を乗せてきた
ひ、膝枕だよぉぉ!

331 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 19:59

「ん〜〜・・・」

ひとみちゃんはわたしのことなんて気にせずに
毛布をもぞもぞと引き揚げて
頭をすっぽり覆うようにかぶりなおした

「ひとみちゃん・・・足、かかってないよ?」
「ん〜・・・」

わたしの膝にかかるようにかけなおすと動きが止まった

もう・・・だめだよ・・・

せっかく、決心したのに
また揺らいじゃう

332 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 20:00

毛布から少しだけ見える指先を
少しだけ、ゆびを絡めるように持った

こんなちょっとのことに、いっぱい勇気がいる
ドキドキが止まらなくて
またわたしは顔を上気させる

すると、ひとみちゃんが指を握り締めてきた
多分、無意識なんだろうと思う
でも、わたしはそれだけで嬉しくて
胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなる


ねぇ、ひとみちゃん
今あなたの顔が見えないけど
とっても幸せそうに眠ってるひとみちゃん

わたしの心を急かすような事をしないでよ

憧れだって思わせてよ


涙が溢れてきて
少しだけ泣いた

333 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 20:01




「ん。んん・・・?」

あれ、いつのまに寝ちゃったんだろう
それにしても、さっきと景色が違う
テレビが横向いてる?

334 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 20:01

「・・・部屋、もどる?」

顔を少し上げると、ソファの肘掛に頬杖をついてるひとみちゃんがいた

ってことは、これ、ひとみちゃんの膝の上??

「あ。えっと・・・」

毛布を身体にかけてくれていて
さっきとは反対になってた

そっか・・・これは夢なんだ
うん、そうだよ

だから、もう少しだけ、続きを見させて

335 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 20:02

「もうちょっと・・・」
「ん・・・わかった」

ひとみちゃんは静かに瞼を閉じて
ゆっくり呼吸をした


こんな安心して寝たのは、いつぶりだろう

ひとみちゃんの膝から感じる暖かさを
もっと噛み締めよう・・・

336 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/03(火) 20:03

337 名前:Rink 投稿日:2006/01/03(火) 20:03
更新終了です
338 名前:Rink 投稿日:2006/01/03(火) 20:04
レスポンス

>名無読者様
三( ^▽^)^〜^0) <なだれがきてもヘッチャラ〜

>7&Y様
いえいえ、同じく。
カメラ小僧に変身ですよw

>春様
( ゜皿゜) このかたは譬えどこに居ても交信を・・・w
( ´ Д `)<んぁ〜、交信術ゲットしたぜ〜

>gung様
(0^〜^)<あははは〜!
( ^▽^)<ひとみちゃぁ〜ん、まってよぉ〜!
どこに居てもバカップルは大発揮ですよねぇ
作者も行きたくなりました

>名無様
( ^▽^)<どこにいてもらぶらぶなの♪
目も当てられないっすw

>あいわい様
いえいえ、まだまだでございます泣
今年こそはもっと頑張りたいと思います
339 名前:Rink 投稿日:2006/01/03(火) 20:07
今回の更新分は>>270-336でございます
ちょっと中途半端なところで切っちゃいました汗

皆様、新年明けましておめでとう御座います
今年もいしよし、よろしくおねがいします
( ^▽^)^〜^0)<ことよろ〜♪

作者、新年早々風邪ひきまして(遊びすぎた。アフォです
今も本調子じゃないものの、交信・更新しておるしだいです
この際交信でもいいんですが・・・汗
おかゆ食べて乗り切るぞぃ!
340 名前:名無読者 投稿日:2006/01/03(火) 22:33
更新お疲れ様でした
体調の悪い時は無理なさらないで下さいね

甘々いしよしを薬代わりに、養生して下さい!
341 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/03(火) 23:22
はぁ・・・・(´д`*)
342 名前: 投稿日:2006/01/04(水) 21:01
優しいひとみちゃん〜〜〜
冬なのに暖かいです。
343 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:24
−+−+−+−+−+−+−+−+−
344 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:25

「はい、おまち〜」

ひとみちゃんはトレーの上からカップをわたしのまえに置いてくれた

「あ、れ?」
「ん?どしたぁ?」

紅茶・・・?
ひとみちゃんのカップにはコーヒーが入ってる

「これ・・・」
「ああ、梨華ちゃんコーヒー飲めないっしょ?」

イスを引いてわたしの隣に座ると
優しく笑いかけてくれた

345 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:26

こんなところにまで気が利く彼女
わたしがコーヒーを飲めないのを知ってくれてたこと
嬉しくって、もう、泣きそうだよぉ

「プリンたべよーぜぃ!おいしそうだよ?」
「うん」

ぺリッと蓋をめくると
おいしそうに表面がちょっと焦げてる、焼きプリンだった


「ひとみちゃん、貸して?」
「ん?はい」

わたしはプリンとスプーンをうけとると
一口すくって、フーフーとコーヒーを冷ましてるひとみちゃんのほうに持っていった

「はい、あーんして?」
「あ、あああ・・・」
「ん?」
「んじゃ・・・あー」
「はい♪」

346 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:27

「んぐっ・・・ん、んまい」
「ほんと?」
「うん・・・あ、の、かして」
「え?」

ひとみちゃんはわたしからプリンを受け取って
一口すうくと口元に持って来てくれた

「はい、あー」
「あ〜ん」
「んっ」

まさか、やってくれるなんて思ってなかったから
すっごい幸せになっちゃった
プリンが更に甘く感じる

「おいひっ」
「保田さんに感謝しないとね」
「うん、そうだね」

347 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:28

「ひとみちゃん、煙草吸う?」
「あ、うん・・・」

なれた手つきで煙草を取り出して火をつける
彼女はジッポライターで、オイルからはいい香りがする
結構使い込んでいるものみたい

「ひとみちゃん、ライターいい匂いするね」
「ああ、香水入れてるから」
「ええ?香水??」
「うん。つけたとき香るでしょ」
「うん・・・身体にいいの?」
「いやぁ。すでに煙草で体悪くしてると思うし」

そういうひとみちゃんは少し苦笑いした

348 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:28

煙草を吸う人は、あまり好きじゃなかった
マナー悪いし、匂いがキツくて・・・

だけど、何故か彼女が吸うのは許せたの
カッコいいし、ポイ捨てなんて絶対しない
苦い香りも、甘く感じたのは香水のせいだったんだ

349 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:29
−+−+−+−+−+−+−+−+−
350 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:29

わたしは彼女の事を名前で呼ぶようになった
周りがそう呼んでるからって言うのもあったけど
彼女はわたしを何故かマドンナって呼ぶ

それも多分、周りの男の子たちがそう言うからなんだと思った
でも、マドンナなんて・・・

ひとみちゃんに言われるたび
いつも恥ずかしくて俯いてた

351 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:31

 カキンッ シュボッ


「はぁぁ・・・」
「山頂の煙草ほどうまいものはないねぇぇ〜!」
「ごっちん、そればっかだね」

今日も店が終わり、いつものように滑り降りる
だけど今日は、ゲレンデのコースの見回りもかねて
パトロール隊になった

「あーあー、ごとーだよーごとーだよー、聞こえますか、どうぞ?」

 ピー ザザッ

  『こちら、第三クワッドの寺田。聞こえるよ、どうぞ』

真希ちゃんはトランシーバーの調子を確認してる
わたしとひとみちゃん、そして真希ちゃんの3人で
カフェから降りるコースで
危ないところはないか
オフピステに入らないように竹柵はちゃんと刺さっているかを確認しながら滑り降りる

352 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:32
保田山のスタッフはみんなで協力し合いながら
ゲレンデを安全で楽しいものにしていく

今日はゆっくりひとみちゃんと一緒に滑れる日!
朝から凄くうれしくって楽しみにしてたの

「そっれにしても、今日は風キッツいねぇ」
「さっびぃぃぃ!!」
「リフト下とかに帽子とか落ちまくりらしいよ?」
「まじかー、そりゃ大変だ」

びゅぅぅぅ!と雪を舞わせながら風が吹き抜ける
わたしは帽子が飛ばないように被りなおそうと
ストックを持った手で、帽子を脱いだ

353 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:32


「あ!!」
「「え??」」

 ビュゥゥッ!!

「帽子ぃぃ!!」


帽子は風に飛ばされて、ゴンドラ下のオフピステに落ちていった

354 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:33

「ありゃりゃ。帽子飛ばされちゃった?」
「うん・・・」
「マドンナ’s、帽子イン風〜」
「あははは!何その英語」


お気に入りだったのに・・・
でも、仕方ないね・・・
危なくて取りにいけないもん

355 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:34

「・・・ごっちん、レシーバー貸して?」
「え?いいけど。どうすんの?」

「取りに行く」

「「え!?」」
「いいよ!ひとみちゃん!」

ひとみちゃんは煙草を灰皿に入れると板を履いて
ジャケットのジッパーをあごまでしっかり上げた

356 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:35

「ごっちん、地図ある?」
「ああ、あるよ」
「ひとみちゃん、いいってばぁ」

二人はわたしを無視して話を進めてる
だめだよ!危ないよぉ!
帽子なんかよりひとみちゃんのほうが心配だよぉ!

「えっと、今ゴンドラ駅降りて・・・ここだから」
「うん」
「ねぇ、ひとみちゃん、いいってばぁ」
「ココから降りて・・・この辺は真っ直ぐそのままで降りて」
「うん」
「ね、ねぇってばぁぁ」
「そんで、この辺りに一本デカイ木があるんだ」
「でかい?わかる?」
「わかるわかる。それ見えたら右に右に上がってきて」
「真希ちゃんもぉ・・・ひとみちゃぁぁん!」
「したら、中間駅のちょい上の、第5ゲレンデ辺りに出るよ」
「ラジャー」

ひとみちゃんは真希ちゃんから地図とレシーバーを受け取る

「えーっと、レシーバー吉澤に変わりましたー。聞こえますか?どぞ」

  『おお、吉澤、どうした?どうぞ?』

「今からゴンドラ下のオフ入りますー、どうぞ」

  『お前がオフ入んの?大丈夫?どうぞ』

「寺田ぁ〜なめんじゃないよぉ?」

  『別になめてないけどさー。積もってるし大丈夫だろうと思うけど
   とりあえず埋まらないように気をつけろよー。どうぞ』

「了解」

357 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:37

「さて、じゃぁ見回りよろちこ〜」
「あいよー」
「ひとみちゃぁぁん」
「大丈夫だって。んじゃ、いってきまっす」


  ザザッ シューーッ!


ひとみちゃんはアッと言うまに谷のほうに入っていって
姿を消した


「ひとみちゃ・・・」

わたしが帽子を取ったりしなければ・・・

「梨華ちゃん、大丈夫だよ。よしこはオフピステ慣れてるから」
「で、でもぉ」
「先回りして待ってようよ」
「うん・・・」

358 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:39
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
359 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:40

5分ほど滑り降りて
ひとみちゃんが出てくるはずってポイントにたどり着いた

「前に一回あそこ滑ってるし、よしこはヘマしないって」
「でも、でもぉ・・・」
「もー、よしこを信じなさいってば!」


ひとみちゃんになんて謝ればいいのか


一秒一秒が長く感じる
不安で胸がドキドキ言ってる
お願い。お願いです
彼女が無事に帰ってきますように

360 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:41

「おっや〜?よしこおっそいねぇ」
「んん・・・」

わたしは
自分の顔が青ざめていくのが分かった
指先が冷たくなっていくのは
寒さからじゃない
頬に温度がなくなっていくのは
風が冷たいからじゃない・・・


おねがい・・・おねがいします

361 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:41

「お・・・来たかな?」

ゲレンデの端に立っていたわたしたちの背後で
木が揺れる音がする


 シュッ  シュッ  シュッ

「来たっぽい?」


362 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:42

  ザッ!!  ボハッ!!


「ヒャッホ〜〜!!」

わたしたちの目の前を
真っ白になった物体が高く飛びながら
横切って雪を散らせていった


「うぁ!!よしこ、ジャンプすんなってば!」

  ジャシュッ〜〜!!

「ふへぇ〜い、ただいもわ」

身体を捻らせて彼女がブレーキをかける
まるで映画のワンシーンのようにカッコいい・・・
ひとみちゃんの真っ黒のウェアが全身白くなってた
363 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:42

「どうだった?」
「ん、はぁ、はぁ〜〜。さびぃっ。
 見回り完了。ウサギの足跡のみっすー。あと狐のンコくらいかな」
「ほ〜ほ〜、ゴンタ君ですね?」
「誰だよゴンタってー」

冗談を言い合ってるひとみちゃん
わたしは、無事に帰ってきてくれてホッとして涙が零れた

364 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:43

「あ、そうだった」

ひとみちゃんはグローブとメットを外してわたしの前でお辞儀をした

「ほい、どうぞ」


目の前にはわたしが飛ばしてしまったハットがあった

そっと手を伸ばして受け取ると
ひとみちゃんが手ぐしで髪を整えた


「ごめん、なさい・・・」
「いいよ。見回りかねてだったし・・・」
「危ないところに、行かせちゃって・・・」
「いいって・・・」
365 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:47

ひとみちゃんは目線をちょっとずらして
雪をはらいながらぼそっとつぶやいた


「それ・・・気に入ってるって、言ってたじゃん」



覚えてて、くれたの・・・?

ゴンドラの中でいつか話してたこと
彼女はちゃかして
「えー?ピンクだしさ〜」なんて言ってたけど

366 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:47

「んも〜、よしこったら男前なんだからぁ、このこの!」
「いだだ!つつくなって」

「アンタが男だったら間違いなく胸ズキューンだよぉ〜」
「なんだよ、それ」
「ねぇ、梨華ちゃん?・・・梨華ちゃん・・・」


真希ちゃんがわたしを見て固まった

だってわたしは涙をぼろぼろこぼしていたから


「梨華ちゃん・・・」
「ごめ、ぐっ、ごめん、なさ・・・」
「どうしたの・・・?」
「あん、しん、して・・・ぐすっ、ごめんなさい」

367 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:48

涙なんて見せるつもりなかったのに
安心したのと、嬉しさでどんどん溢れてくる
ひとみちゃんにこんな姿見せたくないのに
ううう、早く止まってよぉ


  ポフッ

俯いていた顔を上げると、寒さでほっぺたと鼻が真っ赤になった
ひとみちゃんが、頭を撫でてくれた

「ふぇ・・・ひとみ、ちゃ・・・ごめん・・・ありが、と」
「ん・・・」

ひとみちゃんは小さく頷いた
言葉は無かったけれど、いいんだよ?って
大きな目が言ってくれてた

368 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:49


369 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:50


「んじゃー、おりますか?」
「おー」

わたしが泣き止んだ頃、真希ちゃんが笑いかけてくれた
いきなり泣き出した事は何も言わず
ひとみちゃんもずっと頭を撫でてくれてて

ごめんなさい・・・
ありがとう。

370 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:51

もし、わたしがひとみちゃんに
自分の気持ちを打ち明けたら

たぶん、もうあの笑顔は見れない
そうどこかで思った


たとえ彼女に恋人がいなくたって
そのポジションに自分が入れるだなんて
思ってもいない


いつか・・・
そう、この保田荘を去るときに
ずっと好きでした。そう伝えようって心に決めたの


いつも、ひとみちゃんを見つづけて
見ているだけの恋だなんて、昔バカにしてたけど
今なら分かる気がします

371 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/04(水) 23:52

372 名前:Rink 投稿日:2006/01/04(水) 23:52
更新終了です
373 名前:Rink 投稿日:2006/01/04(水) 23:53
レスポンス

>名無読者様
アザッス!
( ^▽^)<お注射ぁ〜!

>名無飼育さん様
( ^▽^)<らぶらぶ♪

>春様
(0^〜^)<あっちいくさせちゃった♪
梨華ちゃんにだけは優しいみたいですw
374 名前:Rink 投稿日:2006/01/04(水) 23:54
今回の更新分は>>343-371でございます

昔のいしよし祭りの映像やら音源やら画像を見直したりしてたのですが
いやぁ、やっぱりいしよしっていいですよねぇ

( ^▽^)^〜^0) ラブラブ♪
375 名前:7&Y 投稿日:2006/01/05(木) 00:41
うわーい、一番乗り!!
みんなお正月で忙しいのかな…?
可愛いでっす、いしかーさん。なんちゅうか乙女ですね
この先も楽しみにしてます……2ヵ月後にw
それでは身体にお気をつけて、頑張ってくださいね〜
376 名前:774飼育 投稿日:2006/01/05(木) 00:55
明けましておめでとうございます作者様(遅w
今年も、「うあぁぁぁ」とか叫びながら作者様の
小説を読んでいきたいと思います
ことしもよろしくおねがいします!!
377 名前:あいわい 投稿日:2006/01/05(木) 09:01
ひょぁぁぁぁああ!
明けすぎましたがおめでとうございますRink様!
紅白見ましたか!?よっちゃんがとてもエロ…げふんげふん、カッコよくてどうにかなりそうでしたw
今年もRink様の小説で『乱れあいわい』を爆発させようかとw(やめれ
身体には十分お気をつけて下さいね!
378 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:46

379 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:50

「んっ・・・んんっ・・・朝・・・」


今日はひとみちゃんとカフェでホールが出来る日
こんなことはめったにない。
たいていみんなバラバラの持ち場につくから。
だから今日はとっても楽しみにしてたの!


だけど、なんだか身体が熱っぽくてだるい
朝ご飯もいつもよりお箸が進まない
真希ちゃんはゴンドラで上に上がる時に大丈夫?って声をかけてくれた
ひとみちゃんは相変わらず外を眺めてる

「うん、大丈夫」

だって、ひとみちゃんと一緒に働けるんだもん!
風邪かもしれないけれど、でも平気!!


だと、おもったんだけど・・・

380 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:51


 ガチャーンッ!  ドサッ

お客さんからの下げものをキッチンに運ぼうとして
トレーを置いた瞬間、わたしはしゃがみ込んだ


「梨華ちゃん!?」

なんとか立ち上がろうと、ドアの淵を持って体を起こそうとするんだけど
体に力が入らない


「どうしたの?」

ひとみちゃんがこっちの様子を伺いにきた
やだよぉ、はずかしいよぉ


「梨華ちゃんが!」
「え、ちょ、ちょっと!」

ひとみちゃんの顔が焦って駆け寄ってくる
しゃがみ込んでるわたしの肩にそっと手を置いて

「どうしたの!?」

すごく心配そうな顔をしてくれる
不謹慎だけど、こんな間近で顔を見れて
しかも初めて見せてくれる表情
初めて感情を出してくれてることにうれしくなった

381 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:52


「・・・ん、ちょ、っと・・・熱・・・」

ひとみちゃんは肩に置いてた手で
わたしの前髪をかきあげながら、おでこに手を置く
そんなことしたら、もっと熱出ちゃうよぉ

わたしの顔はたぶんまた赤くなってしまって
恥ずかしくって俯いた

「よしこ・・・どうしよう」

真希ちゃん、ひとみちゃん。もう、大丈夫だよ?
そう言おうと顔を上げた時

「・・・分かった、ちょっと待ってて!」
「ど、どこいくの!」

ひとみちゃんはエプロンを外して、店の裏に走った

「よしこ!どこ行くの!」
「リフト乗り場!!」


  バンッ!ガチャン!


え、えっ・・・!?
わたしは、彼女の行動の早さについていけず戸惑ってばかりだった

「梨華ちゃん、とりあえず奥のイスにすわろっか。立てる?」
「ん、だい、じょうぶ」

真希ちゃんに身体を支えてもらって
奥の事務所のイスに座った

382 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:53

「朝から熱あったの?」
「ん・・・ちょっとだけ、あったと思う」

真希ちゃんは水を手渡してくれて
わたしと目線をあわすようにしゃがみ込んでくれた

「熱あるときは、休んでいいんだよ?」
「・・・ん、でも・・・」
「でも?」
「・・・ひとみ、ちゃんと・・・」


熱が出た原因は、分かってた
お風呂の後髪を乾かさずに、コンビニに買い物に行ってしまったこと
でも、それだけじゃない。
昨日、真希ちゃんから保田山のサンタクロース作戦の話を聞いたから。

383 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:53
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
384 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:54

「ってなわけ」
「そ、その話は素敵だと思うけど、どうして・・・」
「今年のマドンナは梨華ちゃんに決定したから!」
「そ、そんなぁ・・・」
「ヤローたちからの推薦。ダントツトップだったよぉ」
「で、でも、そんな!」
「もう変えられないよ〜ん。決定しちゃったもん♪」

真希ちゃんはとっても嬉しそうに話してるけど
わたしはそんな・・・
告白するだなんて、そんな・・・

385 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:54

「ねぇ、梨華ちゃん?」
「ふぇ!?」
「梨華ちゃん、気になる人って、今いる?」
「え、ええ!?」

気になる人は・・・いるけど・・・
でも、告白なんてしようなんて、思ってもいなかったし
それに、それに・・・

「どーしたの、そんな思いつめた顔しちゃって」
「ふぇ!?」

「あ、梨華ちゃん。もしかしてさぁ、叶わないかも?とか思ってる?」
「え・・・?」

俯いた顔を上げると、真希ちゃんは
自信に満ちた笑顔を向けてくれた


「保田山はねぇ、奇跡をくれるから!」

386 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:55


奇跡・・・
それは、こんなわたしにでもくれるの?



「・・・真希ちゃん・・・」
「ん?なあに?」

「そ、の、相手・・・って・・・」
「うん」



聞かなきゃ、何も始まらない
もしかしたら、保田山始まって以来かもしれない

だって、わたしは・・・
ひとみちゃんしか、考えられないから


「お、とこの、人じゃ、なきゃ、だめ?」


ぐっと唇を噛み締めて
目の前の真希ちゃんを見据えた。
真希ちゃんは一瞬驚いた顔をしたけど
にやっと笑って何か言いたそうな顔をした

387 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:56

やっぱり・・・だめ、なのかな
そう思った瞬間、涙が溢れてきた

そりゃそうだよね
真希ちゃんはもしかしたら、わたしのことを気持ち悪いって思ったかもしれない

真希ちゃんは必死で私を慰めてくれてるけれど
だけど涙が止まらなくって

ごめんなさい・・・

388 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:56

わたしが落ち着いたころ
真希ちゃんはちょっと息を吐きながらわたしに聞いてきた

「んで、誰なの?」
「ふぇ!?」
「だって聞かないとさ、こっちだって準備あるし」

それって、それって
好きな人を言わなきゃいけないってことだよね
真希ちゃん、なんだか嬉しそうじゃない?


 真希ちゃんに言えないくらいなら
 多分、本人にも言えないんじゃない?


自分の中で誰かが囁いた気がした
自分の気持ちを試すわけじゃないけど
言えば気持ちって更に強くなるって
昔誰かが言ってた

彼女の、不意に見せる笑顔が過ぎった
あなたへの気持ちは、本物だって、思いたい・・・

389 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:57



「・・・ううっ・・・ひと、みちゃん」


胸が大きく跳ねた


「そっか、よしこかぁー」
「う、うう・・・」


真希ちゃんはどこか納得したように
わたしを見つめてきた

ひとみちゃんって言った瞬間
心の中がすーっとして・・・
多分、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない
本当は、見つめるだけなんて、いやだったのかもしれない

だって
だって、この思いは
そんな簡単なものじゃなくって

簡単に消せるようなものじゃなかったから・・・

390 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:57
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
391 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:58

「それで、熱出ちゃったの?」
「た、ぶん・・・」
「まぁったく・・・」

真希ちゃんはちょっと呆れて苦笑してた
ごめんなさい。そんなことで熱を上げちゃったりして

真希ちゃんはお客さんの会計があったらしく
店のレジの方に行った

392 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:58

裏口の方から、バタバタと誰かが走ってくる音がする

 バンッ!

扉の方を見ると、険しい顔をしたひとみちゃんが
息も絶え絶えで、店の中に入ってきた

「大丈夫?」

声に気づいたのか、真希ちゃんが駆け寄ってくる
ひとみちゃんに触れられて、ひとみちゃんと目が合って
もっと熱が上がっちゃうよぉ

「よしこ、どこ行ってたの」
「山崎にモービル借りてきたから、今から降りる」
「今から!?」
「ごめん、ごっちん。ちょっとの間だけ店回しといて」
「それはいいけど」

熱のせいじゃなく、ひとみちゃんの声や温度のせいで
意識が遠のきそう・・・

393 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 00:59

「ねぇ、大丈夫?動ける?」
「・・・うん・・・」

ひとみちゃんはわたしのジャケットをかけて
腕まで通してくれた
それだけで、なんだか嬉しくて
でも恥ずかしくて・・・
そしたらひとみちゃんのマフラーを巻いてくれたの
ふわっと香る、彼女の香り。
いつもつけてる、香水の香りがわたしの鼻をくすぐる

「ほら、しっかり、つか、まって!」

ひゃぁぁ!
ひとみちゃんに抱きかかえられちゃってるよぉ

ごめんね、ひとみちゃん
本当に不謹慎だと思ってる
だけど、あなたに抱きかかえられて
この上なく幸せ噛み締めちゃってます

394 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:00

ひとみちゃんは、わたしをスノーモービルの後ろに乗せて
吹雪の中を運転していく
彼女の背中に顔を埋めて、雪が襲ってくるのをよけながら
ゲレンデを下っていった
ミラーに見える彼女の顔は、とても寒そうで、必死で

わたしは嬉しくて、でも心が痛んで・・・



ねぇ、知らないでしょ?

あなたの背中で少しだけ泣いたんだ

もう、コレだけで充分だって・・・思えたから

395 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:01

宿舎につくと、彼女は少しよろめきながら
わたしをおんぶして階段を上がっていく

ねぇ、どうして、そこまでしてくれるの?
期待しちゃいけないの、分かってる
だけど期待しちゃうよぉ・・・


ロビーにつくと、わたしの靴を脱がして
部屋までお姫様抱っこしてくれた

もっと熱が上がる。
風邪の熱じゃない、ひとみちゃんに対する熱。
もう、どうして・・・

わたしは必死で熱を抑えようとしてる
だけど、彼女はいとも簡単にそれを跳ね除ける

396 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:02

わたしをベッドに寝かすと

「また後で来るから」

そう言って部屋を出て行った。

まだ少しだけあなたとの時間が持てる

ひとみちゃんが戻ってくる前に着替えなきゃ
ちょっとよろめきながら、部屋着に着替えて、暖房をつける。

窓から差し込む雪の明るさは
まるで晴れてるんじゃないかってくらい。
ひとみちゃんは、自分のジャケットをわたしにかけて
セーターがびっしょりになっても構わずに
わたしを気遣ってくれた

397 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:03

  トントンッ

「はい・・・」

ひとみちゃんが扉から少し顔を中に入れる

「着替えた?」
「ん・・・」

彼女の手には洗面器とタオル、そして小さな木の箱があった
ベッドの横にドカッと座り込んで、箱の中から体温計を出す

「とりあえず熱測って」
「うん・・・」

デジタルの体温計を手渡してくれる
彼女は本当に、わたしのことだけを考えてくれてるのか
自分のセーターが濡れていることも忘れてるみたいで・・・

「ひとみちゃんが、風邪引いちゃうかも・・・って・・・」

その言葉で気づいたみたい。
彼女は「ああ」と声を漏らして濡れていたセーターを
煩わしそうに脱ぎ捨てた

Tシャツ一枚になって、白い肌が露になる
綺麗な首筋と、少し締まった腕
わたしは布団から少しだけ顔を出して、彼女に見惚れていた

すると、またどこかで声がする

398 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:03



  ねぇ、梨華・・・もう、みと



399 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:04

 ピピピッ

体温計をそっと抜くと、デジタルがわたしの体温を表記していた
だけどコレは多分、風邪の熱じゃない

「・・・8度、さん、ぶ」

ひとみちゃんはギョッとしてわたしを凝視したかと思うと
呆れたようにため息をついた

そんな顔も初めてみる・・・
どんどんわたしのなかのアルバムに、彼女の写真が増えていく

「もう、熱あるんだったら、休みなよ」
「だって・・・」
「なに・・・」
「・・・今日は、出たかったんだもん・・・」

熱のせいにしてしまおう
全部、素直に言ったって
熱でボケてたことにしちゃっても、大丈夫な気がしたから。

400 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:05

するとひとみちゃんは
何かを納得したかのように「あぁ〜」と呟いた


「好きなヤローと働きたいのは分かるけどさ」


あ・・・え・・・?
もしかして、ばれてたの・・・?

「え、違うの?」
「・・・・・」

わたしは何もいえなくなった
たぶん、ひとみちゃんは誤解をしてる。

だけど、言葉は合ってる


ひとみちゃんと働きたかったの
ひとみちゃんと一緒に居たかったの
すこしでもあなたに触れていたくて
すこしでもあなたの傍にいたくて

401 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:05

時々、おでこのタオルを取って氷水につけると
またおでこに当ててくれる

しばらくすると保田さんがおかゆを持って来てくれた
食欲なんて無かったけど
ひとみちゃんが無理にでも食べろって言うから、頑張って食べた

薬を飲んでまたベッドに横になると
ひとみちゃんが布団の上から、わたしのおなかをトントンッと
ゆっくりとしたリズムを打ってくれる
まるで赤ちゃんをあやすように。

薬と、ひとみちゃんの手のリズムのおかげで
すぅっと眠りに引き込まれていった

402 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:07



どこかで、声がする





  ねぇ、梨華・・・



さっきの続き



  もう、認めちゃいなよ・・・



なにを?


  彼女が好きだって。



好き・・・だよ・・・


  ううん、見てるだけでいいだなんて・・・
  そんなの、だめだよ

403 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:07


だって・・・


  大丈夫
  彼女はみんなに優しいわけじゃないから



どうして・・・?
そんなこと言いきれるの?


  彼女見たでしょ?
  いつだって、そばで見てるでしょ?


そう、だけど・・・
でも、だからって、彼女がわたしを好きになるだなんて
  

  大丈夫
  1番そばにいるのは誰か・・・思い出してみてよ



1番・・・そばに・・・





  ウチじゃない?


404 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:08

声の主が姿をあらわした

それは、今まで見たこともないくらい
幸せそうな笑顔のひとみちゃんだった


「ひとみ、ちゃん・・・」

「ん? なあに?」


「ひと、みちゃぁ・・・グスッ」
「なあに?梨華ちゃん」

ひとみちゃんが、にこやかに近づいてくる

「わたし、わたし・・・」

「ん?」

「ひ、とみ・・・グスッ、ちゃんが」

俯いていた顔を上げると涙が零れた
彼女はわたしの唇に人差し指を当てて、首を横に振る

「シーッ」
「・・・んっ」
405 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:09

こんな至近距離で彼女を見たのは初めて
人差し指一本分の距離しかないんだもの・・・

ひとみちゃんは指をそっと引き抜いて

その差を、埋めるように
顔を近づけてきた


うっすらと開かれた口から漏れるように
息がかかる

406 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:10


ねぇ、ひとみちゃん・・・

わたし、あなたが好き

だれよりも、どこにいても
あなたが大好き



もう、思うだけだなんて言ったりしない
もう、叶わなくてもいいなんて言ったりしない

保田山の奇跡を信じたい

クリスマスのプレゼント
保田山にいるサンタさんにお願いするよ

他のなんにもいらないから・・・

ひとみちゃんに気持ちを打ち明けられる
その時間を下さい・・・


407 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:12
  *  *  *  *  *  *  *
408 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:13

  
目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた
身体を少し起こすと、おかゆの入ってたおなべもなくなっていた
ひとみちゃんが持って行ってくれたのかな

おでこに手を当てると、温度の無くなったタオルがあった
昼間よりは熱が下がってるみたい


唇を指でなぞる
夢の中で彼女がわたしにキスをしたのか
思い出せない

ひとみちゃんの笑顔
あの笑顔を見るときが、いつか来るのかな・・・


わたしはセーターを肩にかけて、部屋を出た

409 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:14

廊下に出て歩いて行くと食堂の方から彼女が現れた

「・・・あ・・・」

ひとみちゃんだぁって、うれしくなったのも束の間
すごく、睨まれてる気がする・・・

「なに」

とってもぶっきらぼうでわたしに返してくれる
やっぱり、あれは夢だったんだよ
だって、彼女があんな笑顔を見せてくれるはずないもの
迷惑かけて、ひとみちゃんまで風邪引きそうにさせちゃって・・・

「・・・ありがと」
「別に」
「・・・怒ってる・・・?」
「別に」

理想と現実のギャップがあまりにも大きすぎて
心が締め付けられる
分かってた。
分かってたけど、まだわたしには勇気がなくって

410 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:14

「・・・ごめんなさい」
「いいよ」
「・・・・・」

ついには涙が溢れ出てきた
ごめんなさい、こんなことで泣きたくないのに
だけど、涙が止まらない

「ちょ、ちょっと!なんで?」
「だって・・・ひとみ、ちゃん、おこ、ってるから」

すごいわがままだよね。自分でも思うの
でも、でも・・・
好きすぎるからって言葉で全部表せちゃうくらいに
あなたのことが好きなの

411 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:15

「いや、あの、その、怒ってないし」
「怒ってるよぉ・・・」
「怒ってないってば・・・」

ひとみちゃんはおろおろしながら近づいてくれた
普段のクールな顔はどこに行ったんだろうって思うくらい。
わたしがさせてるのに・・・

「ほんと・・・?」
「・・・ん」

わたしはひとみちゃんを見上げると
眉毛を下げて、困り顔の彼女が居た
なんだか、またちょっとうれしくなる

412 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:15

「熱、ひいたの?」
「ん・・・昼間よりは、マシになった」

ひとみちゃんがおでこに手を当ててくれる
やっと下がった熱も、また上がりそうだよ・・・

彼女の手を掴んで、きゅっと握った


少しだけ、大胆になろう
少しだけ、甘えよう

ひとみちゃんは、そうされると、ちょっと困りながらでも
答えてくれるから

413 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:16

わたしが思っていたひとみちゃんという像は
ほんの少しだけ違っていたみたい

クールで、言葉が少なくて、あんまり笑ったりしなくて・・・
そう思ってたけど
でも、本当は
ぶっきらぼうで、照れ屋さんで、ときどきドジしちゃって
子供みたいにはしゃいだりするけど、大人っぽく優しい、さりげなく気遣いが出来る
笑顔が素敵な人。

だけど、笑顔はわたしには向けられた事がない
大抵、真希ちゃんと話しているときに見られる

いつも彼女を見てる
だけど、あの夢でみたような笑顔はまだ見たことがない

414 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/06(金) 01:16

415 名前:Rink 投稿日:2006/01/06(金) 01:16
更新終了です
416 名前:Rink 投稿日:2006/01/06(金) 01:17
レスポンス

>7&Y様
いらっさいませ〜w
乙女ですよねぇ。石川さん。
作者には無い心境なのでかなり苦労しますよw
2ヵ月後楽しみにしてますよ〜!お元気でお帰りくださいませ!!
待ってますー!

>774飼育様
あけましたおめでとうございますw
今年もなにとぞよろしくおねがいしますm(_ _)m ペコリッ
奇声もよろしくですw

>あいわい様

新年一発目の乱れあいわいありがとうございますw
紅白は動画としてはまだ見てないんですよねぇ
吉澤さんよりも石川さんのあの足に釘付けですがw
(;T▽T)<エロいよ!
今年もよろしくお願いします
417 名前:Rink 投稿日:2006/01/06(金) 01:18
今回の更新分は>>378-414です

なーんでこう筆がはかどらないのか考えたら
回想シーンと石川さんの片思いだからなんですかねぇ・・・
ああ、はやく甘いのを書きたいのに、ジレンマジレンマイライラ
418 名前:774飼育 投稿日:2006/01/06(金) 01:18
更新お疲れ様です
久しぶりにリアルタイムで見れました
いいですねぇヤッパリ作者様の作品は
実は何度も読み返したりしてます
次回更新も待ってますよ
それでは・・・
419 名前: 投稿日:2006/01/06(金) 22:19
更新お疲れ様です。
片思いは辛いけど幸せな未来が待っているぜ〜〜
梨華ちゃん頑張れ〜〜〜
作者さん次回も楽しみにしています。
梨華ちゃんみたいに風邪を引かないように気をつけましょう〜〜
420 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 00:51
やっぱいしよしが好きやわ
読める幸せを噛み締めとります
421 名前:名無し読み手 投稿日:2006/01/07(土) 00:51
自分はこういうプロセス部分も好きですよ〜
もちろん甘いのは大好物ですがw
更新お疲れ様です。。。
422 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:16

423 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:17
風邪が治って、カフェでまた働き出したある日

「あの、マドンナ・・・?」
「あ、え?」

夜ご飯を食べ終わって食堂を出ようとした時に声をかけられた
山崎、君・・・

「あの、さ・・・ちょっと時間くれないかな」
「あ、うん・・・」
「ロッカー、来てくれる?」
「うん・・・」

山崎君は、とても真剣な顔で、わたしにそう言うと
食堂を出て行った

何の話なんだろう・・・
424 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:17


「あ、のさ・・・」

ロッカーの乾燥スペース
大きなストーブの周りに置いてあるベンチの背もたれに
山崎君は腰をおろす

丁度目線が同じくらい


ううん・・・ひとみちゃんと、同じくらいだ

425 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:18

「俺、さ・・・マド・・・石川さんのこと」
「うん・・・」


これって、まさか・・・


「好き、なんだ・・・」


や、っぱり・・・

426 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:18

「俺、真剣なんだ・・・」

彼の目からはその言葉が嘘じゃないって、伝わってくる
だけど、だけど・・・
わたしは俯いてしまった

「だから・・・その・・・」



「・・・ごめんなさい」

気持ちには、こたえられない

427 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:19

「・・・どう、して・・・」
「どうしてって・・・」

わたしは俯いた顔を少しだけ上げる
山崎君はとても苦しそうに顔をゆがめていた

「・・・石川さんの、気持ち、聴きたいんだ・・・」
「・・・・・」
「そうじゃないと、俺、諦めきれない、から」

彼はわたしの腕を掴む。少し痛いくらいに。

そう、だね・・・
わたしがもし山崎君の立場だったら・・・
同じこと、言うもの

428 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:21

「・・・どうして・・・?」


「・・・・・好きな人が、いるんです」


「そ・・・っか・・・」



力なく腕を掴んでいた手を下ろしていった

ごめんなさい・・・


「そっか・・・」
「ごめん、なさい」
「い、いや、いいよ・・・謝らないで」
「・・・・・」
「俺、気持ち言えただけで、すっきりしてんだ・・・」

何も言えなくなって、また俯いてしまった

429 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:21

「なんとなく、気づいてたし・・・」
「・・・へ?」
「いや、いいよ・・・ありがとう。時間取らせちゃって・・・」

山崎君は俯いて、小さくため息を漏らした
もう行ってくれっていう合図のように。



わたしはそっとその場を後にした


ごめんなさい。
だけど、ひとみちゃんが好きな気持ちは・・・
揺るがないの

たとえ、どんなことがあっても

430 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:22

  ドンッ


「ふぇ!?」
「あ・・・」

ロッカーを慌てて飛び出したら、そこには

「ひとみちゃん・・・」
「あ、ああ・・・」

彼女はどこかばつが悪そうに
苦虫を潰したような顔をした

もしかして、見られてた?

431 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:22

「あ、あの、ひとみちゃ・・・」

わたしが彼女の袖を掴もうと手を出したら
ひとみちゃんは背を向けて、歩いていった

とても、辛そうに顔をしかめて
泣き出しそうになりながら。


ひとみちゃん・・・

432 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:23

疑問と、期待が溢れてくる
もしかしたら、山崎君のこと・・・?
それとも、万が一で、わたしのこと・・・?

分からない・・・

でも、どっちかじゃなきゃ
あんな苦しそうな顔なんてしない

433 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:23
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
434 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:24

「どう、おもう?」
「ん〜〜〜、どうだろう・・・」

わたしは週に一度のサンタクロース会議と称して
真希ちゃんとカフェの仕事が休みの日にこうやって食堂で話してる

「そう、思いたいっていうのも、あるんだけど・・・」
「あはっ!正直だねぇ、梨華ちゃん」
「だ、だってぇ・・・」

435 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:25

山崎君が告白をしてくれた日から
ひとみちゃんの態度が変わった

良く言えば意識してる
悪く言えばよそよそしい・・・

反対にわたしは自分でも驚くくらい
吹っ切れたと言うか、ひとみちゃんのそんな態度を
ちょっとだけ楽しんでる部分がある

でも、ホントちょっとだけだよ?
だって、ドキドキは変わらないもの。

436 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:25

「まーったく、山崎も抜け駆けしてさぁ〜?」
「抜け駆けだなんて・・・」
「だーってそうじゃんよ。先手打つってやつでしょ?男のクセに」
「そんな・・・」

真希ちゃんは頭の後ろで手を組んで
身体をぐっと反らせた

「それよりさぁ、どうやって呼び出すとか決めた?」
「ん〜・・・やっぱり、真希ちゃんと同じ方法かなぁ」
「そうだねぇ・・・でもあのよしこが行ってくれるかどうかが問題なんだよね」
「うん・・・」
「あいつのことだから「明日まで待てば〜?」とかあしらいそうだし」
「う、うう・・・」

437 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:25

「そこは梨華ちゃんの頑張りどころだね」

真希ちゃんはガタッとイスを元に戻して
机に乗り出すように身体を立て直した

「うん・・・」
「大丈夫!」
「うん!」

大丈夫って言葉が、今まで大丈夫じゃないかもってずっと思ってた
だけど、これほど力強い言葉なんだって今改めて分かる気がする

  
  大丈夫
  1番そばにいるのは誰か・・・思い出してみてよ


うん・・・
わたしの1番そばに居るのは、ひとみちゃんだね

438 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:26

「そういえばさ、今日の夜、花火大会じゃん?」
「あ、そうだね」
「あたしは滑るけどさ、梨華ちゃんは見てるでしょ?」
「うん」
「いいところあるからさ、よしこ誘ってそこ行ってみれば?」
「いいところ?」
「うん」

439 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:26
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
440 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:27

夜になって
すべりに行く人たちは夕食を早くに済ませ、山頂に上がっていった

わたしはひとみちゃんの姿を探しているんだけど
どこにも見当たらなくって・・・

どうしたんだろう、どこに行ったのかな・・・

食堂で会ったら声をかけようと思ったんだけど
いつまでたっても来ない


「・・・一緒に見れないのかなぁ・・・」


肩を落としながら部屋に帰る
大きな窓を開けると
すっかり暗くなったゲレンデの上のほうに明かりがいくつか灯っていた
真希ちゃんはあの中にいるんだろうな

ひとみちゃんも滑りに行ってるの?
まさか・・・
真希ちゃんは必死で阻止するから大丈夫だよって言ってくれてたけど

441 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:28

  キィッ

隣の窓が開いて、白い息と共に煙を吐き出すひとみちゃんの姿が現れた

あぁ・・・ひとみちゃん・・・


「あ、おぅ・・・」

いつもこうやって、ちょっと伏せ目がちで挨拶をしてくれる
まるで男の子みたいに
やっと会えた嬉しさと、気恥ずかしさでわたしも照れちゃった

442 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:28

「ひとみちゃん、ご飯食べに来なかったね?」
「あ・・・ああ・・・ちょっとね」
「具合悪いの?」
「いや、そうじゃないんだけど」
「そっか・・・」

わたしから目をそらしてゲレンデの方に向き直る
その顔はやっぱり凛々しくて・・・
わたし、ひとみちゃんのことが好きだぁって思っちゃうんだ

横顔をずっと見てたくて、声をかけるのを躊躇ってしまう


ずっと見ていたい

だけど、欲を言うなら
あなたのその視線の中に入りたい・・・

443 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:29

「・・・ん?どしたの」

ひとみちゃんはわたしの視線に気づいて
こっちを見つめた

「・・・あ・・・」

頑張れ梨華!見惚れてる場合じゃないよぉ
勇気出すんだ!

444 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:30

「あ、あの」
「ん?」

今日は、何故かあなたが優しく見える
いつものぶっきらぼうな態度じゃなくって

「ま、真希ちゃんに」
「うん」

それは花火のおかげなのかな
それとも、寒さのおかげなのかな

「いい場所、教えてもらったから」
「場所?」

外に出していた手を部屋の中に引いて
ひとみちゃんは煙草を消した

「う、うん・・・」
「・・・?」

445 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:30


 ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ


痛い・・・胸が痛いくらい脈打ってる・・・
どうしてこんなに苦しくなるんだろう
見に行かない?って言うだけなのに

それは多分『一緒に』だとか『二人で』だからなんだ・・・

ひとみちゃんと行きたいから
ひとみちゃんだから


「・・・い、い、っしょに・・・行きませんか・・・?」


顔を上げられない
怖い・・・断られちゃったら・・・

446 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:31


「フッ」


ひとみちゃんが小さく笑った
それは多分、よく聴かなきゃ分からないくらい
ホント小さな声。

だけど、わたしには、はっきり聞こえたの

「ふぇ?」
「改まっちゃって」

顔を上げると、ひとみちゃんは優しく笑いかけてくれてた

あの夢の笑顔にとっても近い

「いいよ」
「へ??」
「いい場所、連れてってくれるんでしょ?」
「あ、う、うん!あの、そこ、寒いんだ」
「外?」
「うん」
「分かった。じゃあ、着替えたら部屋行くよ」

「うん!!」

447 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:32

  キィッ パタンッ


やったぁぁぁ!!
ひとみちゃんが一緒に見てくれるって!
しかも秘密の場所にも行ってくれるって!!
やったぁぁ!

でも喜んでばっかりいられない!
早く着替えないとひとみちゃんが来ちゃう!

わたしは慌てて着替える
着替えを終えて髪をチェック。
うん、大丈夫。

448 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:32

 トントンッ

「は、はーーい!」

 ガチャッ

「着替えた?」
「あ、うん・・・」

さっきまでの勢いも、ひとみちゃんを見たら
一気にどっか飛んでっちゃう
今日だって、いつだって、この瞳に吸い込まれそうになる

449 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:33


「・・・梨華ちゃん?」
「ふぇ!?」

名前で呼ばれた・・・

「んで、どこなの?」
「あ、う、うん。あの、外なんだけど・・・」



ボーっとしてる場合じゃないけど
でも、その・・・
ひとみちゃんはわたしの心を奪っていく
それもとってもタイミングよく。

これじゃ、いくらあっても足りないよぉ

450 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:33

わたしは真希ちゃんに教えてもらった保田荘の外にある非常階段をのぼっていく
ひとみちゃんはこんなところあったんだなんて言いながらわたしの後をついてくる

「ここ、なんだけど・・・」
「んー・・・梨華ちゃん手届く?」

屋上に上る最後の階段は地上から少し離れていて
ハシゴのようになっていた

ひとみちゃんはジャケットの裾を伸ばして
ハシゴの雪を落としてくれる
わたしは腕を伸ばしてみたけど、手の先がかするくらいで

451 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:34

「ん〜・・・んしょっ!」
「届かないか・・・おっけ」

そういうとひとみちゃんは少ししゃがんで
わたしの太もも辺りに腕を回してきたの

「ひ、ひとみちゃん!??」
「上げるから、しっかりつかまってて」
「ふぇ!?」
「だって、じゃないと上にいけないよ?」
「そう、だけど・・・」

わたしはおずおずとひとみちゃんの肩に腕を回して
ぎゅっと抱きついた

452 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:34

「いい?」
「う、うん」

密着してるよぉぉ!
ジャケット越しでもひとみちゃんの肩の大きさが分かる

「んしょっ!!」
「わぁぁ」

わたしはひとみちゃんに抱き上げられた
目の前には、さっきはあれほど遠かったハシゴがある

「早く持ってくれぇ」
「ご、ごめん!!」

雪が積もるハシゴを掴んで数段上がる

「手、離すよ?」
「う、うん・・・」

453 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:35

わたしは何もせずに楽々と上にあがることができた
だけど、ひとみちゃんはどうやってあがってくるんだろう

「ねぇーーー!」

上に上がりきって、下を覗くように顔だけ向ける

「なに?」

彼女はわたしのほうを見上げた
白い息が上がってくる

「ひとみちゃんは、どうやって上がってくるの??」
「あー・・・よいしょっ!!」

彼女は雪が降り積もる階段の踊り場の上でジャンプして
ハシゴにしがみ付いた
454 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:36

「あ、上がれる?」
「ん〜〜、ぐぐぐっ」

懸垂するように腕をギュッとひきよせて
足をかける

「すっごい・・・」
「んっぐぅぅぅ」

軽々とハシゴを上り終えた
すごいなぁ・・・ホントにカッコいい

「よいしょっと」
「ありがとう」
「どういたしまして」

ポンポンッとジャケットと手に付いた雪を払うと
彼女は微笑んでくれた

455 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:36

「うぉー。一望だね」
「うん・・・真希ちゃんが誰も居ないし、綺麗だからいいよーって」
「そっかー」

屋上を横切ってゲレンデに一番近いところまで歩いて行く
誰も上がっていないから、二人だけの足跡が残る

雪がちらちらと降り出し始めた

456 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:37

「お、始まるかな?」
「うん・・・」

ゲレンデを見ると、赤や緑の花火を持ったスキーヤーが何人も列をなして降りてくる


「・・・綺麗・・・」
「・・・うん・・」


わたしとひとみちゃんはゲレンデに見入った


真希ちゃん、ありがとう
真希ちゃんが教えてくれた秘密の場所に今
ひとみちゃんと一緒に居るよ?

457 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:37

頂上の方で、大きな大輪の打ち上げ花火が上がる

「うぉー、すっげぇ・・・綺麗・・・」

右側にいるひとみちゃんのほうを見ると
彼女の顔が、花火の色に染まっていた


「ん?どしたの?」
「あ、ああ・・・」

わたしは無意識に彼女のジャケットの裾をつまんでいたみたい

「な、なんでも、ない・・・」
「そう」

彼女はまた向き直って、花火を見つめていた
大きな瞳の中に、キラキラと色とりどりの光が差し込む

458 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:38

ねぇ、よくね?
綺麗な夜景とかを見て、きみのほうが綺麗だよ?って言う
くさいセリフを男の人が言うじゃない?



あれ、わたしが言ってもいいかなぁ

ひとみちゃんのほうが

綺麗だよ?

459 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/09(月) 03:39

460 名前:Rink 投稿日:2006/01/09(月) 03:40
更新終了です
461 名前:Rink 投稿日:2006/01/09(月) 03:40
レスポンス


>774飼育様
いえいえ、もうもう、そんなそんな照
ありがとうございます

>春様
石川さん風邪っぴきなんですか??そりゃ大変だ
(0^〜^)<ウチが治すぜ!
( ^▽^)<愛の力で!

>名無飼育さん様
いしよし、いいですよね
作者もなんだかんだ言って結局はいしよしに戻ってきましたw

>名無し読み手様
そう言っていただけると作者も救われます涙
次の作品がもう構想立ってるので早く終わらせたいんですけどもねぇ〜
462 名前:Rink 投稿日:2006/01/09(月) 03:41
今回の更新分は>>422-459です

酔っ払いで更新するとエライ事になりまするな汗
しかもこんな時間だし汗汗

そろそろ後半です
463 名前:あいわい 投稿日:2006/01/09(月) 11:35
更新お疲れ様です!石川さんの心理描写に何かすごく心を掴まれました…!読んでいるこっちまで切なくなってきて、胸が苦しいぃぃぃぃぃっといった感じです。
さぁいよいよ後半戦!梨華ちゃんはどんなプレーを見せるのか!?(どうした
狙うはゴォォォォォォォル!!!!
……最早意味不明すぎてすいませんorz
464 名前:名無し読み手 投稿日:2006/01/10(火) 01:52
やっぱこうお互いの心情がわかるとより楽しめますね。
こっち読んで、前のを読み返したりと二度おいしい。
そんなの好きです。
お疲れ様です。
465 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/11(水) 00:08
あーもう、イイ!!
作者さんこれからも頑張ってください^^
466 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:23

467 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:24

クリスマスイブ直前。
もう告白の日はそこまで迫っている
わたしのひとみちゃんに対する気持ちはもう最高潮になっていて
毎日がドキドキの連続。


「・・・どうか、どうかわたしに勇気を下さい」

店が終わって、みんなゲレンデを降りていくけど
わたしは店の裏にある大きな木にお願いをこうやってしている
木の下には、ひとみちゃんと一緒に開けるだろう
小さな箱が雪をかぶって立っていた
それを見つめながら、わたしは毎日毎日お祈りをする。


奇跡を起こしてください

お願いします。保田山の神様、サンタさん。
どうかわたしに勇気を・・・

468 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:26


「そんな、緊張しなくたって大丈夫だってぇ」


とうとう明日がイブ。
今日はみんなが出払った食堂の厨房で
わたしと真希ちゃんとでケーキを作る事になった

保田荘伝統のブッシュドノエルらしく
レシピも何度も使っているから、ちょっとボロボロになっていた
469 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:27

「いやぁ、去年思い出すなぁ〜」
「去年?真希ちゃんがマドンナだったとき?」
「そうそう。あたしなんてさ、ホント強引に連れてっちゃったからさー」

顔をふにゃりと緩めて笑顔を見せてくれる真希ちゃんは
去年の事を思い出しているのか顔がちょっと赤くなっていた

「どんな気分だったの?」
「ん〜、そりゃぁ、緊張したけど・・・でもさ、好きって気持ちのほうが強いからさー」
「うん・・・」
「何が何でも上に連れてかないとー!って気持ちだったねー」
「そっか・・・」
「よしこはその点大丈夫だよ。なんだかんだ言っても上言ってくれるから!」
「そうかなぁ・・・」
「そうだって。大丈夫!」
「うん」

生地をボールの中でカシャカシャとかき混ぜる
一つ一つ丁寧に形にしていく
470 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:28

「あーそうだ、梨華ちゃんにいいことおしえてあげるよ」
「ん?なに?」

わたしは手を止めて真希ちゃんの方を見た

「保田山の奇跡」
「うん?」
「山頂でね、サンタの鈴の音を聞くと、最高の二人になるんだよ?」
「サンタの、鈴の音?」
「そう。あたしも聞いたんだけどね」
「えええ??そうなの?」
「うん!だから今も別れてないしねー」
「そう、なんだ・・・」
「保田山で付き合った二人は永遠だからさー」

真希ちゃんはちょっと照れながらまた作業を始めた

471 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:29

・・・永遠・・・

それって、わたしにも言い当てはまる?
サンタが居るのかどうか
ちょっと子供っぽいのかもしれないけれど
ここなら、何でも信じられそうな気がするの


このケーキをひとみちゃんと一緒に食べられますように
そして、二人でサンタの鈴の音を聞けますように

ひとつひとつ願いを込めながらケーキを作りこんでいく

こんな丁寧に思いを重ねていくことなんて
今まで無かった気がする

なんとなく好きになって、なんとなく付き合って・・・
思いがそこにはあったんだろうけど
だけどいつもどこかで冷めてたのかもしれない

一目ぼれも初めてだし
女の子を・・・好きになるのも、初めて。

472 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:30

もしね・・・告白をして、だめでも
ひとみちゃんに言いたいことがあるんだ

わたしを、強くさせてくれて、ありがとう

思うだけじゃなくて、伝えたいって思えたの
笑顔を見るだけで今日も頑張ろうって思えたの
あなたは何もしていないって言うかもしれない

だけど・・・それでも言いたいの

ありがとう  って。

473 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:31



474 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:32


イブ当日の朝。

今日は突き抜けるように晴れ渡っている
念願のホワイトクリスマスにはなるらしいけれど

今年は、色んな意味で特別なクリスマスになりそう。
もう、ドキドキで手が震えてる

475 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:33

わたしは少し早く食堂に向かう
ひとみちゃんたちが来る前に、いつもの席に座ってゆっくりと朝食を食べる

男の子たちは、どこか落ち着かない感じに見えた

アンタからの声がかかるようにだろうけど、ご愁傷様って
保田さんは言ってた

確かに、いつもよりみんな声をかけてくれるし
じーっと見つめてきたりしてる・・・
もう、見られることが恥ずかしくってご飯も食べられないよ

そこにひとみちゃんと真希ちゃんがいつものように楽しそうに座ってきた


真希ちゃんはわたしに気づいてくれて
目で合図をしてくれた。
だけど、ひとみちゃんはちらりともこちらを見ずにご飯を食べつづけてる

いつもの事だから慣れっこだけど・・・
今日はわたし頑張っちゃうもん
ひとみちゃんにいっぱい話し掛けようって決めたんだ!

少しくらい、アピールしなくっちゃ。
今日上に誘うんだもん。

476 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:34
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
477 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:35

一日の時間が今日はとっても長く感じる
朝からずっとドキドキしてて
ひとみちゃんに話し掛けるたびに声が震える

それも今日で終わり・・・


どんな風に転ぶかなんて、分からない・・・
でも、でも、信じる事にしたんだ

ひとみちゃんは絶対一緒にまたココに来てくれる
一緒にケーキも食べられる
うん、大丈夫!

478 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:36

今日はクリスマスパーティがあるから、店を終えて
早く降りることにしたの
保田さんのお手伝いもしたかったから。

店を終えて外で板を履いてると
真希ちゃんが中々誘い出さないわたしにきっかけをくれた

「圭ちゃんがクリスマスパーティ開いてくれるんだって」
「へぇぇ」

ひとみちゃんはあんまり関心が無いみたいで
煙草に火をつけてふーっと煙を吐き出した

そんなわたしはじっと見惚れてしまって
話し出すのも忘れちゃってて・・・

「梨華ちゃんも来るでしょ?」
「え!?」
「パーティ」

真希ちゃんはわたしにウィンクをして笑顔で返してくれる
ごめんね、ぼーっとしちゃって。
わたしがひとみちゃん誘わなくっちゃ

「あ、え、うん・・・」

ひとみちゃんも早く帰ってきてねって言おうとしたら
ひとみちゃんは驚く事を言ってきたの

479 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:37

「山崎とどっか行くんだから、そんな無理に誘ってあげんなってば」

「「え!?」」


多分、ひとみちゃんは本心で言ったんだと思う
だって・・・あの現場を見た人だから・・・

「あれ・・・違うの?」

「な、な、んで、山崎君・・・」
「ああ、違ったのか」


ひとみちゃんはちょっと呆れた、淋しそうな顔をしてた
でもそれはほんの一瞬で、またすぐにもとに戻る

山崎君じゃないよ・・・ねぇ
ひとみちゃん

ひとみちゃんなんだよ・・・?

ひとみちゃんから他の人の名前を出されて
胸がチクリと痛んだ

480 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:38

そりゃそうだよ・・・
ひとみちゃんは、わたしのことなんて恋愛対象じゃないんだもん
山崎君のことが好きだろうって思っちゃうのが普通だよね

・・・でも、でも・・・

真希ちゃんはわたしの落ち込んでいる姿に気づいたのか
ひとみちゃんを見て呆れた顔でため息をついた

「はぁぁ・・・乙女になりなさい」
「なんでため息?ねぇ、なんで乙女?何が関係して」
「じゃぁね〜」

板をつけて、颯爽と滑っていく

481 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:38

取り残されたわたしとひとみちゃん
一緒に滑りなさいって言われても・・・
滑りたいけど


「あ、のさ」
「え!?」

ひとみちゃんのほうに顔を向けると
わたしに目をあわさずに声をかけてくれた

「滑る?」

それって、誘ってくれてるってこと・・・?
で、でも、無理だよ!

「・・・あ、ううん、降りるよ」
「そう・・・」
「ん・・・」

ひとみちゃんはあっさりしてるから
それ以上誘ってこなかった

勿体無いことしちゃったかもしれないな・・・
もう今後誘ってくれないかもしれないのに

482 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:39

「梨華ちゃんもさ、ボードにすればいいのに」
「ふぇ!?」
「ふぇ?って・・・」

急にそんなこといわれたら
誰だって変な声出ちゃうよぉ!
だって、大好きな人だもん・・・

「あ、あ、でも・・・怖いし」

だけど、ひとみちゃんとなら・・・楽しいかもしれない

「そう?慣れたら簡単だよ?」
「でも・・・危なそうだし」

ひとみちゃんに支えてもらえたら・・・キャッ!

「危なくないって」
「・・・教えてもらう人、居ないし・・・」

ひとみちゃんに、教えてもらえたら、上手くなるかもしれない
リフトで手とか繋いで・・・隠れてキスとか・・・

キャーーーー!わたしってエッチ!?

483 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:39

「ウチが教えるよ?」



ウチが教える・・・よ?



「ええ!?」



ま、まさかそんなことってあっていいの?
ひとみちゃんが教えてくれるって今言ったよね?
ひとみちゃんに、ひとみちゃんが、ひとみちゃんって


「なに、いやなの?」
「ああ、いえ、そんな、そんな!」
「ま、気が向いたらでいいよ」
「う、うん・・・」


パニックになってでもうれしくって・・・
ひとみちゃんは、保田荘のみんなが教えてって言ってくるから
仕方無しに教えるけど
でも自分からは面倒だから言わないって
前に言ってた事があったことを知ってるから
うれしくって・・・

もぅ・・・ひとみちゃん・・・

わたしも、モジモジだけしてるんじゃなくって
彼女にいっぱい元気を貰ってるんだからお返ししなくっちゃ

484 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:41

「ひとみちゃんって、カッコいいよね」
「はぁ!?」

ひとみちゃんは大きな声で驚いた声を出した

「なにが?」
「滑ってるところ・・・あの、あれ、なんだっけ」
「ああ、ハーフパイプ?」
「そう、それとか、してるところ」

本当にカッコいいの。みんな言ってる。
どれだけ男の子たちが上手くたって
どれだけ小さな姿でもわたしの目はちゃんと、ひとみちゃんを捕らえる
彼女が壁から飛び出しては回転をしたり
大きくジャンプしたりしてるのを
いつも遠くからだけど見てるんだぁ


だけど、ひとみちゃんはわたしのドキドキをいつも消していく


「まだまだだよ。山崎の方が上手いもん」


また・・・だ・・・
悔しくって・・・ちょっと俯いてしまった


「山崎・・・君・・・」
「そうそ。ヤローのほうがやっぱ上手いよ」
「・・・そう・・・」

485 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:42

もう・・・ひとみちゃんの、バカ・・・

思った。
ひとみちゃんって、鈍感なんだ・・・
周りの人には本当によく気がつくし、細かい優しさをくれるのに
自分の事になると途端に鈍感になる

ひとみちゃんだって、ほんとうは気持ちを持ってるかもしれない
そう真希ちゃんが言ってた事を思い出した
気づかないフリしてるだけかもよ?
梨華ちゃんが時々一歩前に出たら答えてくれるから
ヘタレなんだよ、アイツ。って。

いいよ?それじゃぁ。
わたしが気づかせてあげるもん
あと数時間後、またこの場所に来たいから


「・・・そう、かな・・・」
「なに」
「ひとみちゃんのほうが、かっこいいよ?」


わたしはひとみちゃんに飛び切りの笑顔で返した
だっーってぇ、本当に誰よりもカッコいいんだもん!
わたしの王子様なんだもん!

ねぇ、気づいて?王子様。
わたしはここにいるよ?

486 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:42

「先に戻ってるね?」
「あ、はい・・・」


わたしは変わらず笑顔を向けると
ひとみちゃんは顔を赤くして
まるで中学生の男の子みたいにモジモジしていた

かわいい・・・
初めて見た。ひとみちゃんのあんな顔


そっかぁ。やっぱりわたしが一歩出ればちゃんと返してくれるんだ
真希ちゃんの言う通りなのかもしれない

期待して、いいかも、しれない・・・


わたしはひとみちゃんの視線を背中に感じながらカフェを降りた


うまくいくかもしれない
もうわたしの心の中で迷いなんてなかった

分からないよ、先の事なんて・・・
だけど、だけど、うまくいく予感がするの
根拠なんてない・・・
だけど、だけど、彼女の笑顔が見れそうな
そんな気がして仕方が無かったから

487 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:43
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
488 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:43

みんなより一足先におりて
わたしは着替えを済ますと、厨房で忙しそうにしていた保田さんのお手伝いをする

「助かったよぉ、ありがとうね」
「いいんです!いつも保田さんにしてもらってばかりだし」
「でも、いいの?アンタ今日でしょ?」
「はい。大丈夫です!」
「そっか・・・朝は結構迷いがあったみたいだけど・・・なんかいいことあった?」
「え?そうですか?」
「うん、顔がすっきりしてる」

保田さんは優しい笑顔を向けてくれた
わたしってそんな単純なのかなぁ

「ん〜、いい事・・・はい、ありました」
「そっか。頑張んなね」
「はい!」

489 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:44


490 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:45

携帯もカフェに置いてきた
ケーキもバッチリ冷蔵庫の中に入ってる
あとはひとみちゃんに声をかけるだけ

パーティの準備がほぼ終わって
後は宿舎のみんなが帰ってくるのを待つだけ

真希ちゃんも降りてきて、わたしに声をかけてくれる

「梨華ちゃん、がんばるんだよー」
「うん」

ある程度の子はもうわたしが誰を選ぶかってのが分かってるみたいで
みんな頑張れって言ってくれる

みんな本当に優しい人たちばかり



まだ滑ってる男の子たちと本人だけがまだ気づいていなくって・・・
ひとみちゃんなんて、サンタクロース作戦のことさえ知らなさそうだし
問題はそれだよねーってみんな口々に言ってる

それでもいいの!
わたし今まで出したことの無い勇気いっぱい出してきたもん
それに、今までもらった事の無い優しさもいっぱいもらったもん
だから、うまくいく気がするんだ

491 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:45

「それにしても、アイツおっそいなぁ〜」

真希ちゃんは食堂の入り口からずっと外を見てる
ひとみちゃんは終了ギリギリまで滑ってるから
いつものことなんだけど
今日は早く帰ってきてって・・・言ったのに

「あ、帰ってきたみたい」

その声に胸がドキンッと大きく高鳴った

「よしこー!遅いぞー!」

遠くの方でひとみちゃんが謝ってる声がする

「早く着替えといでー」
「はいよー」

パタパタと何人かの足音が通り過ぎた
食堂の扉から少しだけ
ヘルメットを取って、髪を掻き揚げるひとみちゃんが見えた

ドキドキが止まらない
もう治まってほしいのに、更に強く胸を打つ
手もずっと震えていて
多分わたしは情けない顔をしてたんだと思う

492 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:46

「あはっ!梨華ちゃん、泣きそうになってるよ?」
「う、うん・・・」
「とりあえずさ、パーッとパーティしようよ」
「そう、だね」
「ほら、おいしそうなごちそういっぱいだしさ!」
「・・・うん!」

真希ちゃんはほんと強い味方。
去年、真希ちゃんもこんな気分だったんだろう
わたしの横でずっと面白い話をしては、和ませてくれてる

ありがとう、真希ちゃん


「石川?」
「あ、はい」

後ろから保田さんに声をかけられた
保田さんはしゃがんで声を潜める

「ケーキさ、あたしから渡すから」
「あ、はい」
「あはー!今年も圭ちゃんの呪いが炸裂するんだね?」
「そうよ!毎年毎年こんな役ばっかり、ほんとに」
「まーまー。保田荘の歴代カップルの幸せを願ってさ?」
「分かってるけど」
「すいません・・・」
「なんで石川が謝るのよ!いいのよ、これくらい」

保田さんはにっこり笑ってくれた

493 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:47

全員が揃って少し遅い夕食をかねたクリスマスパーティ
お昼を抜いて我慢してた子も居るみたいで
みんなたくさん食べてくれてる

「石川?」

料理の置かれたテーブルには、男の子たちが群がってて
なかなか取れないでいると、保田さんが人の上から
料理の乗ったお皿をわたしてくれた

「一緒に食べな」

ひとみちゃんと、一緒に・・・

「ありがとうございます」

たくさんの料理と二本フォークが刺さったお皿
それを持って、ひとみちゃんのそばに駆け寄る

ひとみちゃんはグラスを持って、大きな窓から外を見ていた

494 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:48

ひとみちゃんに声をかける前
いつも深呼吸するクセ。
フフッ、治らないやぁ


「ひとみちゃん、食べないの?」

後ろから声をかけると、ビクッと身体を揺らしてわたしを見下ろす
いつもの視線、いつもの目の高さ

だけど、ちょっと違ったのは、ひとみちゃんの顔の色
顔、ちょっと赤い・・・?

「ああ、ああ・・・た、べます」

フフッ、かわいぃ〜!

「こ、こんなに食べれないって」
「一緒にたべよ?」
「う、うん・・・」

また顔を赤くするひとみちゃん
わたしのほうがお姉さんなんだから、ちょっとはリードしなくっちゃね

二人で窓側のテーブルに向かい合って座る

495 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:49

「ん〜、おいしっ」
「そうだ、ね」
「ひとみちゃん、食べてる?」
「ああ、うん、た、べてるよ?」

あ、ひとみちゃんが今食べたのってね、わたしが作ったんだよ?
ねぇ、おいしい?とか聞いちゃいたいけど
言ってもいいのかなぁ?

あーんして?とか・・・したいけど
それは・・・我慢するね


ひとみちゃんは何かに気づいたのか口に入れかけていた野菜をそのままに
視線を横に向けた
わたしもそれにつられて横を見ると、宿舎のみんながこっちを見てる
な、なに?みんなして・・・


「な、なんだよ!」

ひとみちゃんは照れ隠しなのか大きな声を出す

「「「「「なんでもありませ〜ん?」」」」」

みんなどこかわたしたちの様子を喜んでるみたいで
声が揃ってる

「あーんとかしてやれば?梨華ちゃん!」

だ、だあれ?そんなこと言うのぉ
恥ずかしいよぉ・・・

「そうそう!あーんしろ!あーんしろ!」
「「「「あーんしろ!あーんしろ!」」」」

「そ、んなぁ・・・」

わたしは思わず下を向いてしまった
だって、そんな・・・思ってたけど
みんなの前とかじゃ出来ないし・・・したくないよ

「おまえらうっさい!!」

ひとみちゃんが冷やかしを一喝したけれど
みんなはそれで止まる事も無くって・・・


だけど
普通なら・・・多分こんなんじゃないんだと思う

みんな、暖かい人たちだからそうやって冷やかしてでも見守ってくれてる
パーティが始まる前に、みんな言ってくれたもん・・・
頑張ってねって。

496 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:50

ひとみちゃんは料理を食べ終わると
男の子たちや、保田さんと話しをしてた
わたしはその姿をずっと目で追いかける


いつ、いつ誘い出せばいいんだろう
時間はもう迫ってる
あと、1時間・・・

ねぇ、誰か時間を止めてよ
お願い、幾ら時間があっても足りない

さっきまではあれほど頑張れるって思ってたけど
言えるって思ってたけど

苦しいよ
まだ何も言ってないのに、涙が出そうだよ
手が震えて・・・もう、もう・・・

497 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:51

「梨華ちゃん?」
「ふぇ!?」
「どうしたのぉ、泣いちゃってさぁ・・・」

真希ちゃんがわたしの席の横でしゃがみ込んでくれた

「だ、だってぇ・・・」
「大丈夫だよ?ほら、笑顔」
「う、うん・・・」
「クリスマスの笑顔はみんなを幸せにするんだってさ」
「クリスマスの、笑顔?」

わたしはセーターの袖口で涙を拭う
真希ちゃんは変わらず笑顔で続けてくれた

「そう。みんなサンタさんとか、イルミネーション見ると笑顔になるでしょ?
 優しい気持ちになれるでしょ?」
「うん・・・」
「梨華ちゃんの笑顔も、誰かを幸せにするよ?」
「そう、かな・・・」
「うん!大丈夫!・・・ああ、よしこ出て行っちゃうよ?」
「ええ!?」
「追いかけなよ」
「う、うん!」

ガタッとイスから立ち上がって、ひとみちゃんの後を追う

「梨華ちゃん!」
「ふぇ!?」

食堂から出ようとしたとき、真希ちゃんが後ろから私を呼び止めた

「大丈夫だよ!」

「「「頑張れ!!」」」

女の子たちがみんなわたしに笑顔をくれた
みんな、ありがとう・・・

「・・・うん!」

498 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:52
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
499 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:53

部屋の前の廊下に走っていくと
ひとみちゃんの部屋の扉が閉まるところだった

部屋に訪れて言うべきか・・・どうしよう
とりあえずわたしも自分の部屋の中に入る

彼女のクセ
それは幾ら寒くても部屋の窓を開けて煙草を吸う

 キィッ

隣の窓が開く音がした
これって、チャンスかもしれない
誘う時は、2人きりのときがいいって思ったから・・・


 キィッ

ちょっとすべりの悪い窓を開けると、彼女が窓から身体を乗り出して
雪山を見るように煙草を吸っていた

「あ。ひとみちゃん・・・」
「お、おっす・・・」

会話が続かない・・・
だけど、だけど・・・
言わなくちゃ、何も始まらない

500 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:53

「どうした?」
「ううん・・・」
「・・・ん?」
「・・・・・」

ひとみちゃんはわたしに気遣って話し掛けてくれる


出会った頃とは全然違う
声のトーンも優しく感じるのは
気のせいなんかじゃないって思うの


  “梨華ちゃん、頑張れる?”

一番初め、真希ちゃんに言われた言葉を思い出した

うん・・・大丈夫!
この日のために、何度も練習したもの。

石川梨華、頑張ります!

501 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:54

「どうしたの」
「・・・携帯」
「え?」

思わず声が震えちゃう
ひとみちゃんの顔がまともに見れなくって

「カフェにおいて来ちゃった・・・」
「はぁ!?」
「・・・探しても、無いの・・・」

ひとみちゃんは本当に呆れた声を出した

そりゃそうだよね・・・
ひとみちゃんからしたら、クリスマスイブにおバカな子って
思ってるのかもしれない

502 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:55

でも、でも、違うんだよぉ
本当はそうじゃなくって・・・

一緒に、行きたいの
カフェじゃなくって

木の下に、あなたと

一緒に行きたいの・・・

だから・・・


  大丈夫
  1番そばにいるのは誰か・・・思い出してみてよ


もっと、そばにいたい
ひとみちゃんの隣に・・・
心の隣にいたいの


だから・・・


503 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:55


「明日まで待てば〜?」



ああぁ・・・やっぱり・・・

ねぇ、真希ちゃん・・・
真希ちゃんの予想的中だよ
ひとみちゃんは予想通りの事を言った

なんか、緊張と淋しさの限界で
わたしは思わず泣き出しそうになった

ねぇ、ひとみちゃん・・・

504 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:56

諦めたくないけど
でも、そんなふうに言われちゃったら
もう、何も言えなくなる・・・

「・・・うん・・・」

わたしは俯いて、自分の手ばっかり見て
涙を必死で堪えた
ひとみちゃんが小さくため息をついたのが聞こえた


「・・・着替え終わったら、ロビー来て」


え・・・?
聞き間違い・・・?


「え?」
「取りに行くでしょ?」


うそ、じゃないよね?
取り消しとか、そんなの、ない、よね?


「・・・え、でも・・・」
「モービル乗っけたげるから」


もう、うれしすぎ・・・


「・・・うん!!」



わたしはひとみちゃんに笑顔を見せられたと思う
ひとみちゃんの顔は呆れてたけど

ごめんね
ひとみちゃんを騙しちゃうけど・・・
だけど、だけど・・・



まず、第一段階はクリアだぁ


505 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:56

急いで着替えるけれど
慌てすぎちゃって、パンツに足が通らない

「んっ!あ、わ!っきゃぁぁ!」

 ボフッ!

ベッドに突っ伏すように倒れこんじゃった

「フフッ・・・フハハッ!」

まだ告白してないのに
でも、うれしくなってついつい笑みをこぼしてしまった

「だめだぁ、こんなことしてる場合じゃないよぉ!」

わたしはベッドから起き上がってジャケットとマフラーと掴んで
ロビーに向かった

506 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:57

ひとみちゃんはもう部屋を出たのかな
食堂前を通り過ぎると擦りガラス越しに
ひとみちゃんが立っているのが見えた

中からひとみちゃんの大きな声と
それをかき消すくらいのみんなの声が聞こえる
何が行われてるんだろう・・・


わたしはロビーのソファに座ってひとみちゃんが来るのを待った

時計は11時40分前
間に合うかな・・・

もう緊張を通り越してさっきからずっと口元が緩みっぱなし
だめだ。こんなんじゃおかしな子って思われちゃう

507 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:58

 ガチャッ

食堂の扉が開く音がした

中からたくさんの人たちの声と
真希ちゃんらしき人がひとみちゃんを呼び止める声がした


「好きなんだろ!?」
「・・・は!?」

「言っちゃえよ!」
「何を!!」

「まず言っちゃえ!!」
「だからなにがだよ!」


好き・・・?
ひとみちゃんが・・・?
まさか・・・そんな・・・


ひとみちゃんは小さな袋を手に
ロビーにやってきた

「ごめん、お待たせ」
「あ、ううん・・・」
「とりあえず、いこうか・・・」
「うん・・・」

靴を履いて、彼女の後を追う
ひとみちゃんは、何の事だかサッパリって感じで
時々首を傾げて何かを考えてるみたいだったけど
その顔はちょっと赤くなっていた

508 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:58


509 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 19:59

ひとみちゃんの背中にしがみ付いて
真っ暗なゲレンデをあがっていく

わたしの腕にはひとみちゃんのために作ったケーキがある
保田さん、渡してくれたんだ
真希ちゃんは、わたしを最後まで応援してくれてた

ううん、保田荘のみんなが応援してくれてる


頑張れる。
うん、頑張れる


空には満天の星が輝いていた



保田山のサンタさん
最後まで頑張ります
だから、わたしに勇気を下さい

そして・・・ひとみちゃんが・・・

510 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:00


  バルルルルル〜〜〜ッ   カチャッ

ひとみちゃんが飛ばしてくれたおかげで
日が変わる10分前に到着した
慣れた手つきで鍵を開けて電気をつけてくれた

 パチッ

「どの辺に置いたの?」
「探してみる・・・」

本当は分かってるの
カウンターの下に置いたんだ
だけど、怪しまれないようにあっちこっちを探すフリをする

「鳴らそうか?」
「あ、うん・・・」

ひとみちゃんがジャケットから携帯を出して
わたしにコールしてくれる

しばらく経つと、携帯がカウンター下でわたしを呼んだ


 ♪王子さま〜と雪のよる〜



この歌ね、この日のためにダウンロードしたんだ
クリスマスの歌
わたしの王子様は、カッコいいけれど

511 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:02

「あったぁ・・・」
「そ、そう・・・良かったね」

「あ、ああ、そ、そうだ。それ、ケーキ、保田さんが食べろって・・・」
「あ、うん・・・そう、だね・・・」

わたしは腕から袋を取って、カウンターの上に置いた


「ねぇ、ひとみちゃん・・・」
「な、なに・・・?」

ひとみちゃんはさっきからずっと入り口近くに居て
入ってこようとしない

だから、近くに寄った
だって、そんな距離さえももどかしいんだもん

「あの、ね・・・」
「あ、うん・・・」

無意識にしてしまうクセ
ひとみちゃんのジャケットを指でつまんで
わたしは彼女を見つめた

ひとみちゃんはわたしをじっとみつめてくれる
今までそんな事なかったから
いつも以上にドキドキが止まらない

ひとみちゃんが緊張の面持ちになる
何か言いたそうに、時々口をうっすら開けてはまた閉じて
それの繰り返し

ひとみちゃんは、何かを言いたそうにしてる
目はじっと潤んで、頬が赤くなって

だけどそれはわたしも一緒
耳まで熱くなってくのが分かる
わたしの胸の音が聞こえるんじゃないかってくらい
静まり返るカフェの中

512 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:03

「あ、のさ」

ゴクッと息を飲んで、ひとみちゃんは言葉を出した

「なぁに?」

意を決した目
ねぇ、ひとみちゃん
期待、しちゃうよ・・・?
いいの?ねぇ・・・

「あの・・・」

でも、だめ
ココで言わないで

ひとみちゃんと、木の下で誓いたいの

513 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:04

わたしは摘んでいたジャケットを
手でしっかりと握りなおした

「まだ、待って・・・」

俯いていた顔をあげると
ひとみちゃんは目を見開いて口をぽかんと開けていた
あ、違うの!ひとみちゃん勘違いしないで!

ひとみちゃんの事を好きじゃないとかじゃなくって
好き!大好きだよ!?
でも、ここじゃなくって、その、あの


「あ、そ、そうね・・・」
「あ!そうじゃなくて!!あ、あの・・・その・・・」

違うよぉ・・・そうじゃないの・・・

ひとみちゃんはガックリと肩を落としてしまった
違うんだってばぁ・・・

514 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:05

かと思うと、何かを思い出したのかバッと顔を上げた
その顔はかなり必死で。
ひ、ひとみちゃん?

「梨華ちゃん!!今何時!?」
「え!?」
「時間!!」

わたしは左手首にしていた腕時計で時間を確認する

「え、えっと、11時、54分」
「そ、外行こ!!!」


慌てふためいたひとみちゃんは
わたしの手を掴んで外に飛び出した

ひとみちゃんと初めて手を繋ぐ
もぅぅう!また心臓が高鳴っちゃうよぉ

ひとみちゃんの手は少しひんやりして
わたしより大きくて、優しかった

幸せって、こういうこと言うのかな・・・

ひとみちゃんはそんなわたしの気持ちなんて知らずに
木の下に一直線した。

515 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:07


516 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:08

「ええええっとぉ?木の横の箱?」
「え!?」

どうして、木の箱の事知ってるの?
もしかして・・・

「な、なに?」
「ひとみちゃん、それ、どこで聞いたの?」
「ああ、さっきごっちんが言ってたの。絶対開けろって」
「そ、そうなん、だ」

やっぱり・・・
真希ちゃんの笑顔が過ぎる
ありがとう・・・

ひとみちゃんは木の箱とは全く反対の方を探していて
どんどん奥に入って新雪で身体が埋まっていってる

「多分、こっち・・・」
「あ、そうなの?」

え?っていう顔をしたけど
身体を反転させて雪を掻き分けるように前に進むひとみちゃん
木の根元に行くと、ひとみちゃんが
これかぁって言いながら扉のノブに手をかける
わたしもそばにかけよった

517 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:09

「な、なんだよこれ、固いぃぃぃ、ぎぎぎ!!」

ノブが錆びついているのか、中々回ってくれない
ギシギシと軋む音が辺りに響き渡る

  ギィィッ、ガシャンッ


やっと扉が開いた
中には何かが入ってるみたいだけど
わたしは背伸びをしても何も見えなくって
ひとみちゃんが手を伸ばして中のものを取ってくれる


この後の事は、分からないんだ
とりあえず二人で箱を開けなさいってそれしか聞かされてないから
中に何が入っていて
この後、どんな風に誓いをするのか・・・

518 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:09

「お、重っ!!!」

箱の中から1枚の板のようなものを取り出した
片手で持っていたひとみちゃんが落としそうになった板を
慌てて両手で受け取る

その板は字が彫られてるみたいだけど、暗くて見えなくって

「見えないね・・・」
「モービルの照明つけるよ」

サクサクと雪の上を歩いて
店の前に横付けされたモービルの前に行く


  カチッ  バルルルルッ


眩しいくらいのライトがつくと
ひとみちゃんとわたしは石の板を覗き込んだ

519 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:10


あぁ・・・
そっか・・・誓い・・・

言葉・・・

わたしの言いたかったことが、全て書かれてあった


もう、涙が出そうで
我慢できない

ねぇ、ひとみちゃん

わたし、わたしね
ずっと言いたかったんだ

今でもすごく胸が苦しくて
あなたがもし、断ったらどうしようって
この期に及んでもまだビクビクしてるの


でも
ひとみちゃんのそばに
1番近くに居て、ひとみちゃんを見て来た
自信あるんだ

ひとみちゃんが変わったって。
自惚れなんかじゃなく
盲目なんかじゃなく

わたしを見つめてくれる目は
優しくなっていってた事。

ぶっきらぼうでもさりげない気遣いをしてくれてることも

それはわたしにだけって・・・

520 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:11


「あ、ああ・・・あは、あはは・・・」


ひとみちゃんは全てを察知したように笑った
ごめんなさい
騙す結果になっちゃったけど・・・

だけど、だけど・・・


もし、誓いを断られても
わたし、ひとみちゃんに気持ち伝えたい

あなたを好きなのって・・・

名前を呼ぼうと息を吸い込んだら
ひとみちゃんがやんわり笑ってくれた

521 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:12


「ふぅ・・・オッケー」




・・・へ・・・?
オッケーって・・・
それって・・・それって、さぁ


「・・・いい、の?」


声が詰まってちゃんと言葉にならない


「なにが?」
「・・・これ・・・」


わたしは震える指でひとみちゃんの持つ石の板を指した

それって、そういうことだって思っていいの?


「・・・まぁ・・・ね・・・ほら、行こ?」


ひとみちゃんはエンジンを止めると
わたしの手を握って、ゆっくりと木の下に向かった

その手はさっきより熱くなってる

まだ泣いちゃだめ
でも、もう・・・

ひとみちゃんに分からないように深呼吸をした


522 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:13


523 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:14

静まり返った山頂

雪がパラパラと舞いだした
ひとみちゃんのジャケットの上には
教科書でしか見たことのなかった六角形の綺麗な結晶が落ちていた


ホワイトクリスマス・・・


夢が1つ叶った・・・
そして、もう一つの夢に向かって
今ひとみちゃんとわたしは木の下に立ってる

まだ信じられないけれど
ドキドキしていた胸の音は
静かに響くように聞こえなくなっていった

わたしの耳に届くのは
隣で木を見上げる、ひとみちゃんの声
大好きなひとみちゃんの声だけ

524 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:15

「今、何時?」
「もうすぐ・・・12時」

「おっけ」

息を飲んで、続きを待つ
目をぎゅっとつぶって、準備を整える

まだ泣いちゃだめ


「じゃ、始めよっか」
「うん・・・」


噛み締めるように、頷いた



ひとみちゃんは左手の上に石の板を置く
まるで結婚式の聖書みたい
わたしはひんやりとする石版の上に右手を置いた



「ふぅ・・・」


大きな息をついて、小さな声で
うんっとうなづくひとみちゃん

わたしも息を吸い込んだ


525 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:16


「吉澤ひとみ」

「石川梨華」





「「今宵、あなたと、この木の下で」」



「「いつまでも変わらぬ愛を」」



「「誓います」」




まだ、だめだよ
お願い、まだ流れないで



「石川梨華さん」

「はい・・・」


「・・・好きです。・・・ウチと、付き合ってください」

「・・・はい」


526 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:17


ごめんなさい・・・
誓いが終わるのを我慢できない
もう、涙が止まらない

ひとみちゃんに続いて言葉を言いたいのに
涙が邪魔をして、声が上手く出せない


「・・・よし、ざわ・・・ウグッ・・・ひとみ、さ、グスッ」

「はい・・・」

「す、きです。グスッ。わたし、と、グスッ、つき、あって、く、ださい」

「はい・・・」



ひとみちゃん
ひとみちゃん
大好き
大好きだよ 


夢が叶った・・・
ひとみちゃん・・・





「「聖なる夜、わたしたちは」」



「「永遠に」」



「「変わらぬ愛を」」



「「誓います」」



527 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:18

「グスッ、グズッ・・・ひとみ、ちゃん・・・」


わたしは彼女を見上げる
涙で滲んで、ひとみちゃんの顔が見えない

「梨華ちゃん・・・」

今までにない柔らかい声でわたしの名前を呼んでくれる


「グスッ、ほんと、に、いいの?」


ひとみちゃんも女の子だよ?
ひとみちゃん、ねぇ、ひとみちゃん


「・・もちろん」


震えるわたしに
ひとみちゃんは今まで見たことの無い
本当に柔らかい笑顔を見せてくれた


あの、夢で見た笑顔と同じだぁ・・・


叶った・・・
伝わった・・・


涙があとからあとから溢れてくる

だけど、わたしもひとみちゃんに笑顔を返せたはず
ひとみちゃんが嬉しそうに歯を見せて笑ってくれたから

528 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:19

ありがとう
ありがとう、ひとみちゃん

ダメだって思ってたことも
だけど誰よりも好きって気持ちも
ひとみちゃんのおかげで、全部報われたよ?


ここに来てからの一ヶ月ちょっとが一気に駆け巡る

辛くなかったっていったら嘘になる
胸を痛ませた日が無かったわけじゃない

真希ちゃんを羨ましがったり
他の子たちにちょっとだけやきもち妬いちゃったりもした

でも、誰よりも傍に居たい
傍に居ようって決めたの

ひとみちゃん気づいてもらいたくて
ずっと見つめてた
ひとみちゃんの中に映りたくて
いつも傍にいた


ひとみちゃんの笑顔で
わたしだけに向けられている暖かさで
いま、全部癒されたの
包まれるように、染み込んで広がって

暖かくなっていったの


ひとみちゃんは、王子様じゃなくって

わたしだけのひとみちゃんだぁって
思っても、いい?

529 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:20

「梨華ちゃん・・・」
「な、に?ひとみ、ちゃ」

もう返事もちゃんと出来ないほど
涙が溢れてた

ひとみちゃんはやんわり笑ったまま
わたしの顔を引き寄せてくれる



「・・・好き・・・」


夢の続き
だけど夢じゃない



「・・・わたしも・・・」



目を閉じると、静かに降って来る雪のように
ひとみちゃんはわたしに優しく唇を重ねた


530 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:21


  バンッ!!


目の隙間から入り込んでくる明かりに驚いて唇を離すと
大きな木に明かりが灯っていた


「・・・ぅゎ・・・すっげ・・・」

「・・・ぁぁぁ・・・」



すごい、綺麗・・・
こんな大きなイルミネーション、いままで見たことがなかった

クリスマス、ツリーだね・・・


「っていうか、ツリーか・・・」
「そう、だね・・・」


保田山は奇跡をくれる
本当だね

今、心からそう思うよ

531 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:21

口にあてていた手を下ろすと
ひとみちゃんはわたしの左手を握ってくれた


「Merry Christmas 梨華ちゃん」


ひとみちゃんがはにかんでくれた
わたしだけに向けられている笑顔


「Merry Christmas ひとみちゃん」

「・・・これから、よろしくです」
「こちらこそ、よろしくね?」

なんだか急に照れくさくなって、お辞儀をした
二人とも顔が真っ赤になっちゃってた


またツリーを見上げる

真っ暗な空に輝く
天まで届きそうな大きな木から
降り注ぐ光と雪



わたしね
いいきれることまた一つで増えたよ?

最高のクリスマスを迎えてるのは
ひとみちゃんとわたしだぁって!
世界で一番、幸せを感じてるのはわたしたちだってね

532 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:22


「はぁぁ」


肩に徐々に降り積もっていく雪がパサッと落ちる音がした
ひとみちゃんは呆れるようにうな垂れてため息をついた


「どうしたの?ひとみちゃん」
「ええ?」

どこか悔しそうに口を歪ませている

「だってさ?」
「うん・・・」
「梨華ちゃん知ってたんでしょ?」

そうだね・・・フフッ
ごめんね?ひとみちゃん

「・・・うん」
「なーんか、騙し食らった気分!」
「フフッ!」
「まぁ、いいけどさ?」

ひとみちゃんは歪ませた口を戻して
フッと笑った

「さーて、ケーキでも食べますか」
「うん!!」

今度はわたしから手を握る
包み込むように握り返してくれたひとみちゃん


騙しちゃったこと謝るね
お詫びにわたしがコーヒーを入れるからね?

533 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:22


534 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:23

「だーって、さぁ・・・」

カフェに入って、ケーキを食べながら
ひとみちゃんはまだ納得いかないのか、唇をむーっと突き出してる

わたしがこんなこと言っちゃいけないんだけど
かわいいなぁ、もう・・・

「だってなあに?」
「ウチだけ知らなかったってことでしょ?」
「ん〜、そう、だね」
「そう言うのがあるなら、言ってくれればいいのにさ〜」
「ごめんね?」
「いや、梨華ちゃんが謝ることでもないし、さ・・・」

まぁいいけどって言いながら何とか納得しようと
ひとみちゃんはフォークでグサッとケーキを突き刺す

サンタさんの鈴の音も聞こえたし
ひとみちゃん、クリスマスだから許して?


「はーーぁ、帰ったらまた冷やかし食らうんだろうなぁ」
「冷やかしだなんてぇ・・・もう、ひとみちゃん」
「おちょくり?」
「みんな見守ってくれてるよ?」
「そう、かなぁ・・・そう、だなぁ・・・」
「ね?もうそんな拗ねないで?」
「分かったよぅ・・・」

ひとみちゃんって意外と子供っぽんだね
意外な一面見れてうれしい!

ねぇ、わたしの知らないひとみちゃんがまだまだあるんでしょ?
いっぱいいーっぱい見せてね?
これからもずっと、傍に居るから

535 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:26

サンタさん、ありがとう

最高のプレゼント


ひとみちゃん、ありがとう

大好きだよ



 チュッ


彼女の頬にキスをすると
ひとみちゃんは驚いた顔をした

「うっ・・・」
「クリスマス、プレゼント」

「あ、ありがとう・・・ウチからも・・・」
「え?」


ひとみちゃんはわたしの唇に
プレゼントをくれた


「プレゼント・・・です」
「・・・うんっ!」

536 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:27
−+−+−+−+−+−+−+−+−
537 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:41

「さーーってぇ、今度はもう一本上まで行きますかー?」
「だーめだよぉ!危ないもん!」
「大丈夫だって。第7ゲレンデは迂回コース行けばいいじゃん」


お昼ご飯を食べて、少し休憩した後
わたしとひとみちゃんはリフトを一本乗り継いで
次のロングコースのリフトに乗るかどうかを決めていたんだけど
第7ゲレンデは少し急勾配なところもあって
今の自分じゃ絶対無理!って言ってるのに
ひとみちゃんはどうしても上に連れて行きたいみたいで

ほんとにスパルタなんだからぁ!

538 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:43

「はい、レッツゴー!」

右手を上げて、意気揚揚と滑り出した

「ま、待ってよぉ!」


 『 -ピンポーン- お進み下さい 』

さっきよりは慣れたとはいえ、それでもまだリフトは緊張する

「はい、ゆっくり腰おろしてねー」
「う、うん」

ひとみちゃんに手を引かれながらなんとかリフトに乗ることが出来た

ひとみちゃんが座るとゆっくりフードが降りてきて
リフトは勢いをつけて上にあがりはじめた

539 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:45

「はぁぁ、緊張する・・・」

足元でビューッと風が吹く

「大丈夫だってぇ。梨華ちゃんターン出来てるんだしさ」
「そう、だけどぉ」

4人乗りのリフトに、真中に寄り添うように座る

今までなら一つ空いていた席も
今じゃこんなに近いの


「ご褒美が待ってるから、頑張れ頑張れ」
「ご褒美?」
「そう。帰ったらマッサージしてあげっから」
「ん〜〜」
「あれ?それだけじゃ足りない?」
「んーーー・・・さっきのもつけて?」
「さっき・・・?」

ひとみちゃんはゴーグルを上に上げて何かを思い出すように目線をそらせた

「・・・あ・・」
「・・・うん・・・」
「オッケー、いいよ?」

目を細めて笑うひとみちゃん
顔が少し赤くなってたけど、でも、うれしそう

540 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:46


「・・・まぁ、ごほうびじゃなくても、いい、けど」
「え?」

距離が縮まって、唇が重なる


「・・・いつも、したい、し・・・」
「・・・わたしも」

「アハハッ」
「フフッ」

照れながら、何度も何度もキスした

「フードつきの、リフト乗りたかったんだもん・・・」
「え??」
「梨華ちゃん上に行くの嫌がってんの、分かってたけど、さ」
「うん・・・」

それって、隠れてするために?
ひとみちゃんはほっぺたをポリポリかく真似をする
ひとみちゃんったら、かわいいんだから、もう

「いつでもして?」

 チュッ

「う、うん」


何回目かのキスでリフトが降り場に到着した


541 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:47

「今度は一人で降りてみる」
「うん。足乗っけて真っ直ぐ立ってれば大丈夫だからね?」
「わ、わかった・・・」

甘いムードも一転、わたしに緊張が走る

すくっと立ち上がって
ひとみちゃんの言われたとおり、足を板に乗せる

「そーそー、そのままなんにもしなくてもリフトが押してくれるから」
「う、うううう!」
「だいじょーぶだいじょーぶ」

シャーッと板が滑って、リフト降り場を抜けて外に出た

「や、ったぁ・・・」
「おーーー、出来た出来た」

ひとみちゃんがわたしの頭を撫でてくれる
なんだかくすぐったくって、目を細めて笑顔を返した

「ねぇひとみちゃん?」
「ん?なあに?」
「ごほうびはぁ?」

ひとみちゃんはうっ!と固まってる
照れ屋さんなの知ってるから、ちょっとこうやってイジワルしたくなるんだ

「・・・とりあえず、端にいこっか。ここじゃ邪魔になるからね」
「うん」

542 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:48

わたしは板をつけるために腰をおろすと
ひとみちゃんは前に回りこんで膝をつく

辺りに人が居るのが気になるのか、キョロキョロしちゃって。
んもぅ、ほんと可愛いんだから・・・
いいよ?ひとみちゃん。
人が居るから出来ないもんね。
二人っきりの時にいっぱいして?


バインディングをつけてるわたしに影が覆う

「へ?」

顔を上げるとひとみちゃんは
一瞬だけ唇をつけて、バッと離れた

「ご、ご褒美」

もう、慌てちゃってるその顔が面白くって
キスしてもらった嬉しさよりもそっちの方が勝ってるから
思わず噴出しちゃった




「な、なんだよ」
「可愛いなと思って♪」
「むっ・・・もう、置いてくぞー?」
「やだやだ!だめだよぉ」

「冗談だよ!履けた?」
「うん」

ひとみちゃんはわたしの腕を持って身体を起こしてくれた

「んじゃー、ウチが滑るから、ゆっくり後ついておいでね?」
「う、うん・・・」
「ゆっくり行くからー」


ひとみちゃんが斜面を滑り降りていく
綺麗なターンをしながら
だけどわたしにわかりやすいように手でバランスを取ってる

その後を追うように、わたしも滑り降りる
決してカッコよくはないけれど、何とかターンは出来てる

543 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:49

  シャーーッ  シュシャッ

「おお、こけずに止まれるようになったね」
「ひとみちゃんのおかげ!ありがとう」
「いえいえー」

そういうとひとみちゃんは板を取り外した

「ん?降りないの?」
「梨華ちゃん、雪合戦しない?」
「え?」
「ほら!」

 バシャンッ!

「きゃぁ!冷たいよぉ!」
「ほら、次いくぞー!」
「やだ、まって!まだ板外してないもん!」
「あははは!」

板を外して、ゲレンデの端に滑らないように置くと
わたしとひとみちゃんの二人で雪合戦をしはじめた

544 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:49

「雪固まらないからなぁ」

  バシャッ!

「もう!かけるもん!!」

  バシャバシャバシャッ!

「うわ!こら!それ反則!」
「いいんだもん!ほらぁ!!」

  バシャッ!バシャッ!

「つ、つめてぇぇぇ!」
「あはははは!」
「ちっきしょーー!」
「アハハハッ!」
「どうだ!それ!!」
「キャァ!冷たいよぉ!よーーーっし」

わたしは雪の塊をひとみちゃん目掛けて投げた

「うあ!!それはデカイから!!」

 バシャンッ!!

見事ひとみちゃんに命中!
ひとみちゃんはやられたーなんていいながら後ろに倒れこんだ  

わたしはひとみちゃんに駆け寄って、隣に飛び込んで寝そべる

545 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:50

「中にまで入ったしー」
「ごめんね?」
「梨華ちゃんどんなことにでも負けず嫌いだよねぇ」
「そんなことないよ?」
「そーかなー??」
「フフフッ」

二人で空を見上げながらゲレンデに寝っ転がる
背中から雪の冷たさが伝わってくる
ひとみちゃんはわたしの首の下に腕を回してくれた

この場所って、確か・・・


「ねぇ、梨華ちゃん」
「なあに?」
「ここ、覚えてる?」

やっぱり・・・

546 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 20:53
−+−+−+−+−+−+−+−+−
547 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:01

ケーキを食べ終えて、そろそろ帰ろうってひとみちゃんが言ってくれたので
ストーブを消して、食器を洗う

色んな思い出が今日一日でたくさん出来たカフェ
ありがとうって言いながら電気を消して後にした



「帰りはゆっくりかえろっか」
「うん」

行きは急ぎすぎて、危なかったから
そう言いながらひとみちゃんはゆっくりモービルを運転してくれる

相変わらず満天の星空
上を見上げると星と思ったら雪がいくつも降り注いできた

548 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:01

  ブロロロロロッ   キキーッ


「え?」

「ちょっと、星見ようよ」

ひとみちゃんはゲレンデにモービルを止めるとエンジンを切った
座席を降りて
ゲレンデに仰向けになって寝っ転がる

 サクッ サクッ

ひとみちゃんの隣に座って、わたしも仰向けになった


「綺麗・・・」
「ん・・・東京じゃこんな空見れないから・・・」
「そうだね・・・」

ひとみちゃんの右手を繋ぐと
雪につかないように、わたしの手を上にして握り返してくれた

549 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:02

「ねぇ、梨華ちゃん」
「ん?なあに?」

顔をひとみちゃんの方に向ける
白い息を吐き出して、頬が少し赤くなったひとみちゃんは
空を見つめていた


「ウチ、さ・・・不器用だよ?」
「うん・・・知ってる」
「ウチ、けっこーダサいよ?」
「知ってる」
「ウチ、かなりガキだよ?」

ひとみちゃんが言おうとしてることが分かった

「全部知ってるよ?」
「うっ・・・」
「全部含めて大好きだよ?ひとみちゃんのこと」
「・・・ほんと?」

わたしのほうに顔を向けてくれた
その目は、星よりも輝いてた

「うん・・・」
「そっか・・・」
「わたしだって・・・可愛くないし」
「そんなことない」
「すぐネガティブになるし」
「そんなことないよ」
「それに、それに・・・」

550 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:02

「梨華ちゃん」
「ぅん?」

ひとみちゃんはおでこをくっつけて
唇までつきそうなくらい、わたしを引き寄せた

「1番、傍に居させて」
「うん・・・わたしも、傍にいさせて」
「うん・・・」

夢と同じ距離・・・
だけど、夢じゃないんだよね

「・・・ひとみちゃん」
「なに?」
「ひとみちゃんが、好き」
「うん・・・ウチも」

ゆっくり唇が近づく
あの続き・・・


 チュッ


今度はちゃんと温度を感じた
ひとみちゃんの暖かさが伝わった


「フフッ・・・」
「ふははっ」

「ほっぺた冷たくない?」
「つめたい、かな・・・」  
「フフッ。そろそろ行く?」
「そうだね」

551 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:03
−+−+−+−+−+−+−+−+−
552 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:03

「あの時もここだったよね」
「そうだね・・・同じ景色だね」
「うん・・・」
「ねぇ、梨華ちゃん」
「なあに?ひとみちゃん」

わたしを見つめてくれるひとみちゃん


うん・・・わたしも、したい


  チュッ


言葉が無くても、目を見ればわかる。伝わってくる。
ひとみちゃんと性格は反対だけど
でもちゃんと繋がってる気がしたの


はらはらと雪が舞い降りてきた


553 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:04

「ねぇひとみちゃん」
「なあに?梨華ちゃん」


「・・・大好き」
「ウチも、大好き」

「うん」
「うん・・・」


ゲレンデに流れる音楽がこだまになって響く
上から降りてくるスキーヤーが雪を切る音を聞きながら
目を閉じた


重なった手の温度で
雪がゆっくりと溶けていく

頬に落ちる雪もすぐに形を消していく

ひとみちゃんは、わたしの心を熱くする
降り積もる雪もすぐに溶けちゃうくらい

わたしはひとみちゃんを熱くさせられてるかな?


閉じていた瞼がうっすら開く

「フフッ・・・そんなじっと見ないでよ」
「だぁって・・・」
「なに・・・」
「ひとみちゃん、綺麗なんだもん」
「ぶっ!き、綺麗って・・・」
「フフッ」


554 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:05

風の音の合間から、音楽が聞こえてきた

「あ・・・この歌」
「ん?歌?」
「・・・雪の華」
「ああ、いいよね、この歌」
「うん・・・」



      “甘えとか弱さじゃない ただ君を愛してる”


  “ 君がいるとどんなことでも 乗り切れるような気持ちになってる ”




実はね、ずっと聞いてた歌なんだ
悲しくなったり、嬉しくなったりを全部この歌が励ましてくれたの

だから、思い出しちゃって

555 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:05

「ど、どうしたの?梨華ちゃん」
「ふぇ?」

わたしは思い出して泣いてたみたい

「寒い?おなかいたい?」

ひとみちゃんはオロオロする
いつもクールな姿からは想像出来ない位

前にもわたしが突然泣き出しちゃって
こんな風にオロオロした事があった

涙が治まったあと、ひとみちゃんは

 「だって・・・好きだから、さぁ」

ってテレながら言ってくれたの

ごめんね、違うの。
悲しいんじゃないよ?おなか痛いでもないの

ひとみちゃんが好きすぎて
うれしいから、涙が出るの

556 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:07

「り、梨華ちゃん・・・」
「・・・グスッ、ひとみちゃんが、大好き」

「う、うん・・・」


「幸せで・・・涙って、出る、グスッ、んだね」



ひとみちゃんは分かってくれたのか
わたしをギュッと引き寄せて強く抱きしめてくれた

言葉じゃなく、態度で示してくれる

わたしね、ひとみちゃんの少しの変化も
全部気づけるようになりたい
もっとひとみちゃんを知りたい


「もっと、近くに居させて」
「・・・うん・・・ウチも、梨華ちゃんの近くに居たい」
「うん・・・」

557 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:09

「梨華・・・」


へ・・・?

ひとみちゃんの胸から、顔をスポッと出すと
じっと見つめていた目がやんわりと優しくなった


「ひ、とみちゃん・・・」


「・・・なんか・・・表されない・・・」
「な、にを?」

「気持ち・・・好きとか、じゃぁ・・・おさまんない」
「・・・グスッ・・・あた、しも」

また涙が零れてきた

「フフッ・・・泣き虫だなぁ」
「だぁってぇ・・・」

ひとみちゃんはわたしの瞼にキスをくれる
頬にも、鼻にも

ここがゲレンデだって事を忘れるくらい
何度も何度も・・・

558 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:12

「・・・梨華?」
「なあに?ひとみちゃん」


ひとみちゃんはわたしの耳に唇を寄せて
いつも以上にハスキーな声で囁いてくれた




「・・・うん・・・わたしも・・・」

559 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:14

世界一 幸せだよ

うん わたしもだよ?

保田山って、ホントさいこー!

フフッ・・・そうだね!


ねぇひとみちゃん?

ん?なあに?梨華ちゃん

二人でさぁ、もっと幸せになろう?

そうだね

ひとみちゃんとなら、なれそうな気がする

ウチも、梨華ちゃんとならなれる気がする


まだまだこれからいーーーっぱい楽しい事待ってるね

うん!そうだね


あ、そうだ。今度カラオケでさ、この曲歌ってよ

え〜〜?やだよぉ

どうして?

だって、わたしへたっぴだもん・・・

いいじゃん、そんなの

やだよぉ・・・

だって、この曲ウチと梨華ちゃんみたいじゃない?

・・・うん・・・

でしょ?

わかった・・・練習するよ

やった!梨華ちゃんさっすがぁ!

560 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:15

「ねぇ、ひとみちゃん?」
「ん?なあに?」

わたしが1番近くで見たかったあなたの笑顔
こんなにも傍で見てる


「梨華って、呼んで・・・?」

「あ・・・う・・・え?」

「だめ?」

ちょっとだけ、おねだり

ひとみちゃんは照れながらでも、時間がかかっても答えてくれるから
わたしはじっとひとみちゃんを見つめて待ってるの


「梨華・・・」

「ん・・・」




   愛してる

   わたしも、愛してるよ



561 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:15


562 名前:今宵あなたと、雪降る丘で 投稿日:2006/01/11(水) 21:16
『今宵あなたと、雪降る丘で』


(#´▽`)〜`O)<おわり♪
563 名前:Rink 投稿日:2006/01/11(水) 21:19
更新終了!アンド完結でございます
564 名前:Rink 投稿日:2006/01/11(水) 21:20
レスポンス


>あいわい様
いやいや、もうもうそんなw
石川さんは乙女ですからねぇ〜。結構難しいんですよ
作者が乙女じゃないんで汗
( ^▽^)<ひとみちゃんにゴ〜ル♪

>名無し読み手様
ひつまぶしRinkと呼んでくださいww
(0^〜^)<3杯美味しい

>名無飼育さん様
アザッス!!
565 名前:Rink 投稿日:2006/01/11(水) 21:22
今回の更新は>>466-562です

長かった・・・
石川さん視点のほうがメインっぽくなっちゃってますがw
最後までちゃんと書き上げる事が出来てよかったです

『今宵あなたと』シリーズはとりあえず今回で終了。
でもちょこちょこっとサイトに番外編でも書こうかなーと構想中です

566 名前: 投稿日:2006/01/11(水) 21:36
更新お疲れ様です。
読みながらやっぱり1444はいいなって思いました。
何かクリスマスに戻りたいですね。
甘い〜〜甘い〜〜二人最高です
567 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/11(水) 23:14
あーいいなぁこの二人。
吉くんのギャップに女の子はやられるんですね…w
568 名前:名無し読み手 投稿日:2006/01/12(木) 00:46
大量更新乙です!
いやぁ癒される。
今日は嫌なことあったんですがこの作品のおかげで癒されました。
私事で、すいません。
次の作品も楽しみにしてます。
569 名前:名無読者 投稿日:2006/01/12(木) 14:12
完結お疲れ様でした。

ニヤニヤしたり、涙が出たり、
百面相しながら読ませていただきました。

次回作が読めるのを楽しみに待ってます!
570 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:25

571 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:25



鬱陶しいと思われるのがイヤで
そっと自分から席を立った

何度も訪れた、あなたの家の
二人で選んだラブソファ


572 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:26



あなたからの言葉はいつもない
わたしがいつも言ってた

好きだと言う事も
愛してると言う事も
キスだって、ベッドだって
わたしからだった



573 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:26



一人相撲を取っていたって
恋愛は成り立たない事くらい
あなたも知ってるでしょ?


それでも肝心な言葉は押し殺していた



わたしもあなたもズルイ



574 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:27



ただ傷つきなくて
ただ怯えているだけで

本心なんて見つからなかった
見つけようとしていたけれど

怖かった



575 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:27


結局、キレイ事だったんだ
お互いが勝手に作ったキャラにがんじがらめにされて

うわべだけだったんだ


576 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:28





「梨華ちゃん・・・」



わたしが去ろうとするとあなたは初めて呼び止めた

ねぇ、お願いだから
こんな時に呼び止めたりしないでよ

わたしはあなたのことがまだ好きで
これからもずっと、あなただけって思ってる
なんとか気づかれないように
そっと蓋をしようとしてるのに



577 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:28




「梨華ちゃん・・・」



ねぇ、お願いだよ
手なんて引いたりしないで

もう終わらせたい
傷付け合ったりしてないけれど
だけど沈黙に耐え切れない
苦しい毎日はもう終わりにしたいのに



578 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:29






「・・・なに・・・?」



あなたの顔を見ずに背中越しに答えた
だって、顔見たら
決心が鈍りそうだから

顔なんて見せられない

涙でぐちゃぐちゃになった顔なんて見せられない


579 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:29



泣いてるのをばれないように、声を抑えて話してるのを
ばらしたくない
見つけられたくない


本当のわたしを、見つけたりしないで
もう、その手を離してよ



580 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:30



「ねぇ、梨華ちゃん・・・」

「・・・なに」












「・・・行かないで・・・」



581 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:31



その時、気づいたの

あなたも泣いてたこと

手が震えていたこと



582 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:31









「・・・ごめん」







見つけないで
わたしを見つめたりしないで

これ以上、苦しめないで

これ以上、好きにさせないでよ


583 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:31









584 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:32





「ごめん・・・ごめんね・・・」

「ウチこそ、ごめ・・・」




わたしは振り返って、小さくなったあなたを抱きしめた
キツく、キツく

消えそうな声で、ずっと謝りつづけるあなたを
痛いくらいに抱きしめた


585 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:33


「ウチが・・・ちゃんと、言わ、ないから・・・」
「ちがう・・・わたしが、求め過ぎ、てただけ」

「梨華ちゃんは、悪くないよ」
「よっちゃんも、悪くない」


586 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:33



その後会話は無くなった

なにも悪くない
お互い悪くない

ただすれ違っていただけ
ただ見つけられなかっただけ


  わたしばかりって思ってた
  ウチが言わなきゃって思ってた


何も悪くない

ほらちゃんと、見つかったもの


587 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:34



二人とも、危うくすれ違うところだったね
入れ違うところだったね


あなたはちゃんと言ってくれた
最後の最後に、ちゃんと繋ぎとめてくれた


わたしもちゃんと言えた
最後の最後に、ちゃんと伝えられた



ううん
最後なんかじゃないね


これが始まりなんだもの


588 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:34


「梨華ちゃん・・・」
「なあに?」


顔を埋めたあなたのくぐもった声が胸を伝って聞こえる



「・・・ありがとう」

「ううん・・・」

「・・・ずっと、好きだよ」

「わたしも」



今までの辛かったことが全て消えていく

二人の間にあった霧が、風に乗って消えていくように

いまあなたの姿がはっきりと見えた


589 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:35


「ちゃんと・・・言えるように、頑張るから・・・」
「いいよぉ・・・」
「だめだよ・・・」
「いいの・・・無理させちゃうもん」
「そんなことない・・・いい訳したくないんだ」


胸から顔を上げて、わたしを見つめてくれる
痛いくらい真っ直ぐ向けられた視線


「いい訳?」

「・・・もう、ヘタレだから、とか・・・言葉伝えるの下手だからとか・・・
 そんなの、いい訳にしたくない」


590 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:36







「もう・・・離れるのは、イヤだから」



今度はわたしが引き寄せられて、抱きしめられる
キツく、キツく

あなたのシャツを濡らしていく
溢れ出す涙を止められない


優しく頭を撫でてくれる、変わらない仕草

いつもあなたにこうやって慰められていたね
いつもこうやって抱きしめられてた


591 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:37



「わたしも・・・離れたくない・・・もう、離さないで」

「うん・・・」



592 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:37



あれほど欲しがった言葉を
今は不要と思ってしまう

わたしは


わがままですか

自分勝手ですか




だけど もう、要らない


あなたの温もりを

あなたの優しさを


見つけられたから



593 名前:hide-and-seek 投稿日:2006/01/13(金) 06:38



『hide-and-seek』


 (#´▽`)〜`0)<おしまい


594 名前:Rink 投稿日:2006/01/13(金) 06:39
更新終了です
595 名前:Rink 投稿日:2006/01/13(金) 06:40
レスポンス


>春様
年明け前に終わるはずが・・・
実は年越しの話も考えてるんですがねぇ
( ^▽^)<クリスマス、それはわたしたちのための物・・・
(0^〜^)<違うと思うよ・・・

>名無飼育さん

(0^〜^)<ジゴロで〜っす!
(;T▽T)<わたしだけにしてよぉ!

>名無し読み手様
癒されましたか?そりゃ良かったっすw
( ^▽^)^〜^0)<あなたの心を癒します〜!

>名無読者様
アザッス!
いしよし読むとどうも顔が緩んで仕方ないんですよね
作者も同意ですw
596 名前:Rink 投稿日:2006/01/13(金) 06:41
今回の更新は>>570-593です

どうして石川さん視点だとこう、痛い系なんだろうか・・・
(;T▽T)<幸薄いんです・・・
次は頑張って石川さんの超おバカなのを書こうかなぁ
597 名前:名無読者 投稿日:2006/01/13(金) 13:42
更新お疲れさまでした。
昼間っから号泣ですが何か?w

次回作も楽しみにしてますね♪
598 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/14(土) 02:05
んにゃー今回も良かったぁ(^^*)
超おバカな石川さん楽しみにしてます☆
超おバカな吉澤くんも見てみたかったり…
599 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:11


600 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:13



午前0時を過ぎたら、一番に届けよう
“お誕生日おめでとう”



601 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:14

この歌、大好きなんだ
だって年に一度しかないから。
彼女はいつかのわたしの誕生日の日に
そう言ってくれた

仕事で会えない日は電話で歌ってくれたり
メールでこの歌詞を送ってくれた

去年だって、恥ずかしそうに本当にちょっとだったけれど
歌ってくれた

602 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:14

今年はどうなの・・・?




時計は2時を回ってる
2時間経ってる、わたしの21歳・・・

はぁ・・・そんなものなのか・・・
だってお互い忙しいって言葉が口癖になってたもんね

603 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:19

わたしは携帯を開いてメールを読み直した

1番最初に着たのは柴ちゃん
三好ちゃんも岡田ちゃんもくれた
麻琴やののや、さゆやえりだって
みんなお誕生日おめでとうってお祝いメールや電話をくれた






だけど

うれしい、んだけど

足りない・・・



あのバカオヤジは何してるんだよぉぉぉ!!!

私生活にまで一徹出さなくていいんだよぉぉ!!

604 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:19


「はぁ・・・」


もう寝よう
だって来るなんて一言も行ってないし
明日はフットサルあるし



( `.∀´)<21からは転がるように時間が進むわYO!

ってケメちゃん言ってたし。
お肌にもよくない。


605 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:20

わたしは部屋の電気を消して、ベッドルームに移動しようと
廊下に出たら


 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン、ピンポーーン!


けたたましくドアベルが鳴り響いた。

しかもマンションの入り口ではなくドア前のベル。
うるさいよぉ!誰よ!こんな夜中に!!


って、一人しか居ないよね
しかもこんな鳴らし方するのって

覗き穴から外を見ると、変顔をしたよっすぃーが立っていた



『むにゅ〜〜』



・・・正真正銘のアフォだわ・・・

606 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:21

 ドンドンドンドンドンッ!


「いーーーしーーーか〜〜わ〜〜ぁ〜〜〜?!あーーけろーーー!」


ドアを乱暴に叩かれてビクッと身体が離れた
うるさいよ!ちょっと!
今何時だと思ってるの!?

607 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:21

 ガチャッ!

「ちょ、ちょっとよっすぃー!静かにしてよ!」

わたしは声を殺しながら、よっすぃーを諭す

「うぃ〜〜〜うげぇーーー」

よっすぃーはドアを強引に開けて、玄関に上がりこむと
わたしに寄りかかるように倒れこんできた
肩に顔を埋めて、ぐったりしてる


うっ・・・すごいお酒臭い!!

608 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:22

「ちょ、ちょっとよっちゃん、飲んでるの!?」
「んがぁ〜〜、ごっつぃんと飲んできましたぁ〜ううひひひひ!!」
「どれくらい?」
「ん〜〜、こんくらい!?あっはははは!」

人差し指と親指で“ちょっと”とかやってるけど、そんなちょっとじゃないでしょ!?

耳元にかかる息がいつも以上に熱い
だけど臭いし、なにしろ重い・・・
全体重かけられちゃって・・・もう、いや・・・


「ねぇ、とりあえずあがりなよぉ」
「おっらまひまっぷ〜〜」


どうしてこう無茶な飲み方するの??
飲めないお酒無理に飲んだんでしょ
勧められるまま、断れずに飲みつづけたんでしょ
お願いだから身体を壊すような事とかやめてよね・・・

609 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:23

靴を脱いだよっすぃーを抱きかかえながら
リビングのソファに寝かせる

 ドサッ

「よっすぃー?ねぇ、よっすぃー?」
「うっひぃぃ〜〜」

ペチペチとほっぺたを叩いたけれど反応が薄い
だめだ・・・完璧酔っ払ってる

どうして自分の誕生日に酔っ払いの介抱なんてしなきゃなんないのよぉ

一徹以上にタチの悪い彼女と
トメ子以上に幸薄い、今のわたし・・・

610 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:24

頭では呆れてたけれど
身体が勝手に世話を焼こうとする
キッチンに行って、氷とミネラルウォーターの入ったグラスと
濡れタオルを用意してまたリビングに戻る


「よっすぃー!ほら!から、だ、あー、げてっ!!!」

彼女の着ていたジャケットを脱がせようと身体からひっぺがすけれど
ピクリとも動かない
もう、水揚げされたマグロみたいで

嫌・・・
この人、誰よ・・・


わたしの恋人でした・・・
こんな時って、何涙ポロリなんだろう

611 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:24

「んっぐぅ〜〜〜っふはぁ〜」

ゴロンと反転させた身体から何とかジャケットを抜き取って
首に巻かれたマフラーもするりと解く
おしりの下敷きにされたヒップバックは、抜く事さえ出来ないから放置。

マフラーを取った首筋。
普段白い肌が、今日は真っ赤になってた

はぁ・・・

612 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:25


テーブルに置かれたグラスに水滴が付きだす

肌を少しだけタオルで抑える
早く熱が冷めるように・・・
おでこ、頬、喉・・・

よっすぃーは冷てぇ!って最初暴れてたけれど
しばらくすると大人しくなって
すーすーと寝息を吐き出してる


ちょ、ちょっとぉ・・・
何しにきたのよぉ!絡みに来ただけ!?

もう、情けなくって、ため息しか出ない

613 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:25

酔いつぶれた彼女をソファにおいて
一瞥しながらジャケットとマフラーをかけるために廊下のクローゼットに向かった


 ♪お〜お〜さ〜か、こいのうた〜〜


ベッドルームから、かすかに携帯が鳴ってるのが聞こえた

大阪恋の歌って、歌詞が切なくなるけど
だけどよっちゃんはPV撮影のときコッソリ行ってくれたの


「あたしたちはさ、離れるけど、離れないよね」


一瞬聞き間違い?と思って彼女を見上げたら
頬が赤くなってた

いつまでもわたしに対しての言葉は少ないけれど
それでもそうやって言ってくれる彼女が可愛くって
PV撮影の合間
一番にわたしの身体に抱きつきにきてくれる彼女が愛しくって



今じゃリビングで解体間際のマグロになってるけれど・・・

614 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:26

ベッドルームに入って携帯を開いて見ると

ごっつぁん?


  Pi

「はい、もしもし?」
「梨華ちゃ〜ん?メリクリーーー!」
「え!?」
「あは〜〜!はっぴばーすでぇぇぇぇえ!いぇい!」
「あ、ありがとう・・・」

ごっつぁんも相当飲んでるのか、ロレツがあんまり回ってない

「21歳ですねぇ〜、抱負なんぞやおせーてくーーらは〜い!」

ごっつぁんって飲むとテンションさらに上がるんだね
でも今日の上がり方はおかしすぎない?
声が1オクターブ以上高い。耳、痛い痛い!

「抱負ぅ??」
「あは〜、なうほど〜」
「まだ何にも言ってないよ!」
「わーった、わーったぁ!」

酔っ払い二人・・・もう嫌ぁ!

615 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:27

「それよかさぁ?よしこそっちちゃんと行ったぁ?」

「え?よっすぃー?あ、うん・・・」
「なら良かったよー」

ごっつぁんは急にもとの声に戻って
ちょっとホッとしたように続ける
何が良かったんだろう・・・

616 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:28

「今日さぁ?梨華ちゃんの誕生日じゃない?」
「う、うん」
「んでさぁ、よしこいつになくキンチョーしちゃってて」
「き、緊張!?」
「うん。そんで『飲まなきゃやってられないから付き合って!』って言われたわけよ〜」
「へ、へぇ・・・」

どうしてそこでごっつぁんが出てくるかな?よっすぃー・・・

「そんで付き合ってたんだけど、まぁ、許してやってよ」
「いや、別にそんな許すとか」
「なんか見てたら昔のよしこ思い出しちゃったよ」
「昔?」
「二人が付き合いだす前のよしこってあんな感じだったし〜」
「へ??」
「どうしようどうしようどうしようどうしよう、ごっちんどーしよーー!って言いながら
 頭抱えて突っ伏してんの。あは〜、うける!」

よっすぃーは何をそんなにオロオロしてるんだろう・・・

617 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:30

「理由はわかんないけどさぁ。よしこ寝てんの?」
「う、うん・・・」
「バカよしこ・・・叩き起こしていいからね!」
「や、それは・・・」
「だーって誕生日の夜って激しく燃え上がるでしょ?あっは〜」
「ご、ごっつぁん!」
「んじゃぁ、明日に響かないように激しくね〜」

 Pi  ツーッ、ツーッ、ツーッ

無機質な音が耳に聞こえてきた


明日に響かないように激しくって・・・矛盾しすぎじゃない?


電話を切ると待ち受け画面に切り替わった
卒業してすぐに撮った二人の顔アップ。
普段じゃ絶対にこんなに近づかないってほどピッタリしてる

はぁ・・・

618 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:31


619 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:31

よっすぃーは勘違いしてしまって
ごめんね。気持ち悪いよねって言いながら
震える手でわたしの頭をずっと撫でてくれていた

違うの、違うんだよぉ
声が出ないから、首を振るしか出来なくて

頭におかれていた手を取って
ぎゅっと握り締めた


「わたし、も・・・好き、だったの・・・」


やっと言えたのが、涙がおさまったその後。

620 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:33

よっすぃーがわたしと付き合うことになったのは
娘。に入ってまもなくのこと。
誰も居なくなった楽屋に残って、彼女は俯きながら
下唇をグッと噛み締めて、何かを堪えるように
搾り出すように

「・・・う、ち・・・梨華ちゃんが、す・・・き・・・」

って言ってくれた

わたしは自分の気持ちに気づいていながら
でもずっと胸に秘めておくつもりだったから

うれしくて、うれしくて・・・
その後ずっとずっと泣きつづけてた

621 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:33

わたしたちはその日から
メンバー・友達から恋人という形になった

もちろん仕事中は出さないように心がけていたけれど
わたしの前では甘えっ子になるよっすぃー。

だめだよぉって制してたんだけど、でも可愛くて
少しだけ許してた

622 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:34


623 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:35

でも、ある日事務所の人に2人呼び出されて

「あんまり露骨に出すんじゃない」

そう言われた
小出しにしていけって。

小出しってどうやってするのよぉ

「・・・控えろってことだよね」
「そうだね・・・」

事務所の長い廊下を歩きながらポツリとよっすぃーは漏らした
なんか、切なそうにまた下唇を噛み締めて。

624 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:36

よっすぃーとわたしってやっぱりどこかで繋がってるみたい
彼女が次に言わんとすることが分かったの


『・・・そんなことで別れたくない』


どんな些細な事にでも躓きそうになっていた二人

周りに言えるわけもなく、公になんてもっと出来ない
だから、控える事が原因になって

二人がだんだん離れるかもしれない・・・

そう直感で思ったんだ
わたしも、よっすぃーも。


だけどそれはほんの瞬間だけ。

625 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:36

「うん・・・」

小さく、だけど強く頷いて
よっすぃーの左手の指を握った

「うん・・・」

手を繋ぎなおして、ぎゅっと握り締めてくれるその力強さは
今まで感じた事の無い安堵感と信頼と愛があった

この手が守ってくれる
この手を守りたい



わたしたちが少し絡みを露出すれば
ファンの人が喜ぶ
それを知って、事務所はそれさえも売上に繋げようとしてる事くらい
分かっていた

難しいね。
色々考えちゃうよ
だって二人はごく自然な事をしているだけなのに
作為的に持っていけだなんて

626 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:38

「まぁ、いいんじゃないの?」

気にしなくていい。考え込まなくていい
だって考え出したら梨華ちゃんネガティブ街道まっしぐらだから。

苦笑しながら彼女はわたしに言ってくれた
彼女なりの受けとめ方
彼女しか出来ない、わたしの支え方で。


初めは“冷たいよ!”って不満が募ってた

だけど「じゃぁいい案浮かぶ?」って切り替えされたとき
何も言えなかった
悔しくて泣いたときもあった

だけどその後必ず抱きしめてくれるその熱で
わたしの独り善がりだってことに気づいたんだ

よっすぃーはわたし以上に考えてくれていたこと
少し震える瞳と、身体が軋むくらい抱きしめてくれる腕の力は
数を増すごとに強くなっていったから


 大丈夫 大丈夫
 ウチがいるじゃない


うん・・・そうだね

周りが見えなくなってしまうわたしの悪い癖
考え込んだっていい事は出ないんだよって事も
こんなに傍にいるじゃないって事も

あなたはいつも抱きしめながら教えてくれた

627 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:39


 ぶつかった時考えよう
 先を見渡しながら、今をいこう



わたしは誰かに相談しなきゃやっていけない人
よっすぃーは誰にも相談せずに決める人
わたしより彼女の方が苦しんでるのかもしれない

だけどよっすぃーは
ウンザリした顔なんて一度だってしたことない
広くて大きな愛をいつだってくれてる

性別も、年齢も、全てを越えて
繋がってるんだって思える

628 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:40



「・・・わたしのほうが年上なんだけどなぁ・・・」


照明の消えた画面を少し指で撫でる


「はぁ・・・」


自分にため息が一つ出た

ベッドに携帯をポンッと投げて、毛布を抱えると
寝入っているだろうマグロの居るリビングに戻った

629 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:40


  ガチャッ

「・・・あれ?」

リビングに戻ると、よっすぃーは起き上がっていた
というより、ソファの上で正座してる

「あ・・・うっす」

いきなり素に戻られても、こっちの対応の仕方が・・・

「酔い、マシになった?」

毛布でよっすぃーを包むようにかける
わたしは隣に座って彼女と向かい合う
顔はさっきより赤みが引いていたけれど、目はまだ少し潤んでいた

630 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:41

「水、ありがと」
「あ、うん」

テーブルに置かれたグラスが空になっている

「まだ飲む?」
「いや、いいわ」
「そう・・・」

いつもより少し高い目線
意を決した強い意志を放ってる

な、なに言われるんだろう・・・

631 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:42

よっすぃーとしばらく見詰め合ってると
その顔が少し歪んだ

下唇をグッと噛み締めて


・・・あの時と、同じ



「な、なに・・・?」




 ガサガサッ

よっすぃーはヒップバックから何かを取り出した

632 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:42

「・・・ん」

目の前に差し出されたのは
お尻に敷かれていた鞄のせいで少し皺になったラッピングの
ピンクのリボンがかかった小さな四角い箱だった

「え?」
「誕生日、おめでとう・・・1番に届けられなくて、ごめん」




申し訳なさそうに眉を下げてわたしを見つめる
もう・・・


許しちゃうしかないじゃない・・・
そんな捨て犬みたいな目で見られたら

箱を持つ手が震えてたんじゃ
もう・・・抱きしめたくなっちゃうじゃない

633 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:43

「うぁ!」

わたしはよっすぃーの手から箱を受け取ると
腕を強く引き寄せて
毛布の隙間に腕を差し込んで
彼女をまるごと抱きしめた

「いいよぉ・・・うれしいもん・・・」
「ん・・・」

緊張をかき消すために、お酒の力を借りたんでしょ?
大人の仲間入りしたからって、そんな事しなくていいのに

634 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:43

腕を解いて、さっき座ってた位置よりも近づく

「開けてもいい?」
「どうぞ」

リボンとラッピングを解く
結構重い・・・なんだろう

包みを開けると
ピンクと白かわいい宝箱だった

「かわいい・・・」
「ん・・・」

635 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:44


 ♪人生って、すばらしい・・・

箱を開けると懐かしい音の感じの
聞きなれたメロディが流れてきた


「あ・・・い、I wish・・・」
「うん・・・」
「探してくれたの?」
「・・・まぁ・・・」

箱の右半分がオルゴールになっていて
左は内蓋がついていた
指でつまみを開けると、中には2本の鍵が入っていた
オープンハートになった、アンティーク調の鍵が付いたネックレスと
もう一つはどこかの家のキー・・・


「どっかの国で、21歳の誕生日に鍵をプレゼントする風習があるんだって」
「へぇ・・・そう、なんだ」
「大人の仲間入りだから、だって・・・」
「そうなんだ・・・」
「うん・・・だから・・・」

636 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:44

わたしは流れるメロディに耳を傾けながら
込み上げてくる嬉しさで口元が緩んできちゃうのを
かみ殺すように俯いた

一つ年上になったわたしへ
一つ年下のよっすぃーから
大人への証しを貰うだなんて・・・エヘヘッ

637 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:45

「ねぇ、つけて?」
「へ!?」
「これ・・・よっすぃーにつけてもらいたいの」

わたしはネックレスを手に乗せて、差し出した

「・・・うん」

箱を閉じて、膝の上に置く
よっすぃーは正座していた足を崩して
わたしの首筋に腕を通すと
抱き寄せるように、ネックレスをつけてくれた

チェーンの冷たさがじかに伝わる

わたしの髪さえも、彼女を離したくないって言ってるように
よっすぃーの腕に絡み付いて、流れ落ちた


「うん・・・似合ってる」
「ほんと?よかったぁ」
「フフッ」


やっと彼女の顔から笑みがこぼれた
わたしもつられて笑顔になる

いつだって変わらないこのタイミング
ずっと好きだって言える、この空間
二人だけの、甘い時間がわたしの胸をくすぐっていく

638 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:46

「ねぇ、ひとみちゃん?」
「ん?なに?」

今日は少し甘えよう。
名前を呼びたい日もあるから

「もう一つの鍵って、なんの鍵?」

「ああ・・それ・・・」


彼女は甘い顔から一転、またぐっと堪えるように下唇を噛み締めた

この鍵が、彼女の決心なんだね・・・


なあに?
少しの間だけだけど、お姉さんになったわたしが聞くよ?
どんなことだって、受け止めるよ?

639 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:47



「・・・家」

「家?」

「マンション、借りたから」
「・・・へ!?」


「二人で、住む、の」

「あ・・・」

640 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:48

いつだったか
二人で夢の話をしてた

いつかわたしと二人で住みたいね
だけどいつになるか分かんないねって

笑いあってた


「・・・もう、ウチも20になったしさ・・・」
「んっ・・・」


子供のような夢だと笑い飛ばされる事が嫌で
誰にも言ってなかった

本当に大切にしたい思いだから
あなたと二人の夢だから

誰にも壊されたくなくて

641 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:49

「事務所には・・・内緒に、出来てると思う」
「・・・グスッ・・・」

本当は、内緒になんてしたくないって
あなたは言ってくれてる

膝の上でキツく握り締められてる拳が震えてるから

本当は、もっと愛したいんだよ
今はまだ決められた枠の中だけど
それでもめいいっぱいあなたを愛したいんだって

引き寄せられて、また強くなった抱きしめる力が言ってくれてる

642 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:49

「けど・・・多分、すぐ、知られると、思うけど」


「ウチ、梨華ちゃんと、居たいから・・・」


「あんま、仕事かぶんないし・・・なんか、そういうの、もう耐えられなくって」


「絶対、収録中に爆発しそうで、抱きついちゃいそうだしさ・・・ハハッ」


「だから・・・」


「ウチと一緒に、暮らして欲しい、です」



「・・・うん・・・うん、うん」

首をコクコクと振ると、彼女の肩にポタポタと涙が零れ落ちた

643 名前:HAPPY? 投稿日:2006/01/19(木) 00:50

「わ、わ、たし・・・グスッ、ヒッ、ヒック」

「だめだよ・・・無理に喋っちゃ・・・」

ひとみちゃんは前にわたしが泣きながら無理に喋って
過呼吸を起こした事を心配してくれてる

頭に手を回して、背中をやさしく上下に撫でてくれる


「っぐっ、ヒッ、ヒック・・・わたしも」
「もう・・・強情なんだから・・・」

フフッと笑って漏れた息が耳元をくすぐった

「わた、しも・・・ひとみちゃ、んと、ヒック、い、グスッ、たい」
「うん・・・」

644 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:51

「ずっ、グスッ、と、ヒック・・・んぐぅぅ!ずっと、居たいよぉ!!」
「うん」


また力が強くなる

もう、身体が折れてもいい
もっと強く抱きしめて

涙も止まってよぉ!!

言葉が出ない代わりに、彼女の背中を抱きしめる

宝箱が膝から転がるように絨毯の上に落ちて
蓋の開いた箱からは、曲の続きが始まった



「うん・・・居よ・・・ずっと」
「うん、うん・・・っぐっ」



お姉さん宣言もアッサリ終了しちゃう
彼女がわたしに向けてくれる
強い思い、深い愛

645 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:52

ケーキもお花もないけれど
ひとみちゃんが居てくれるだけで
それだけでいい


いつもは恥ずかしくて素直に表せないけど
パパとママに電話しよう

産んでくれてありがとう
わたし、幸せだよ?って。

646 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:52

パパとママの間に生まれて
二人の惜しみない愛情を受けて育ったこと

それに

ひとみちゃんと出会えたあのころが
ひとみちゃんと抱きしめあってる今が

そして
二人で歩いて行くこれからが

もっと、きっと
誰よりも幸せになっていくって
自信を持って言えるから

647 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:53

ひとみちゃんは抱きしめていたわたしから少し離れると


「21歳、誕生日おめでとう、梨華ちゃん」
「ありがとう、ひとみちゃん」


また隙間を埋めるように、キスが降りてきた

もう何百回、何千回、何万回目だろう
優しくて包み込まれて、隅々まで広がっていくようなキス

21歳になって、初めてのキス

今日は少しアルコールの味がするけれど
でも変わらない、ひとみちゃんのキス

648 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:54

「・・・んぅ・・・」
「んっ・・・はぁ・・・」
「・・・フフッ」
「ん?どうした?」

息がかかる距離で見詰め合う
首に回した手を肩から鎖骨に流すように触れる

「大好き」
「んっ・・・ウチも」

今度はわたしから
21歳になって初めてするキス

「んくっ・・・」


初めてしたときは、たどたどしくって
お互いが探りながらしていたキスも
今じゃ酔わされるようになって


「んっ・・・」

わたしもひとみちゃんを酔わせる事出来てる?
お酒なんかじゃなくって
わたしのキスに酔って・・・

649 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:55

「・・・んっふぅ・・・」
「んぅ・・・」

絡み合っていた舌をほどいて
1oだけ隙間を空けたあなたとの間隔から
漏らすように話し掛ける


「・・・ねぇ、ひとみちゃん」
「なに?」

「このネックレスって、何かの鍵なの?」
「ああ・・・」

わたしの腰に回されていたひとみちゃんの腕が
急に離れて少し寂しくなった

ひとみちゃんはパーカーのジッパーを少しだけ開くと
中に着ていたTシャツの首元を乱暴にグッと引っ張った


「あ・・・」

白い喉元には、ひとみちゃんには少し不似合いな
大き目のカデナがぶら下がっていた
わたしの喉元にある鍵と同じアンティークな感じで
少し古ぼけているけれど、存在感がある南京錠

650 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:56

「・・・あの漫画みたいって言うなよ」
「え?」
「・・・言われんの嫌だったんだけど・・・」
「一緒って?」
「ん・・・でも、あの話出る前からずっと考えてた事だったんだもん・・・」

ひとみちゃんはいつになく子どもっぽい顔をする
ほっぺたを少し膨らませて、口をむーっと突き出して・・・

「ずっと?」
「ん・・・ずっと・・・」
「いつから?」

「・・・付き合って、すぐ、くらいから・・・」


 梨華ちゃんの21の誕生日には、鍵をプレゼントしようって
 ずっと考えてたんだ・・・


言葉の続きを視線から受け取った

うれしいなぁ・・・
そんな前から考えてくれてたんだ
長年の思いだったから、緊張もしてたんだね

「フフッ・・・思わないよ?」
「ほんとに?」
「うん。ひとみちゃんが考えてくれてた事なんでしょ?」
「うん・・・」
「わたしのために」
「・・・ん・・・うん・・・」

651 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:57

ひとみちゃんの鎖骨にかかるチェーンを指でなぞる

「ねぇ・・・」
「なに?」


わたしはひとみちゃんにまた近づいて唇を重ねる

左手でカデナを探して、自分の首にかかった鍵で
ひとみちゃんの錠を開けた


  カチャッ

「んっ・・・梨華ちゃん・・・」
「ほんとだ。この鍵で開くんだね」
「だから言ってんじゃん・・・」
「そっか・・・わたししか外せないんだね」

チェーンにぶらりと下がったカデナを手に乗せるようにして
見つめていると
ひとみちゃんがわたしのその手を取った

「そうだよ・・・」
「・・・外さなくてもいい?」
「もちろん・・・」


 カチャリッ

両手で鍵をかける

「なんか・・・犬みたい」
「んだよ、犬って・・・」
「よしよし♪いい子ですねぇ〜」

ぶーっと拗ねる頭を撫でると
くすぐったそうに目を細めた

652 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:57


 カデナってね、つながりって意味なんだって

 つながり?

 そう

 繋ぎとめておくもの・・・

 まぁ、そんな事しなくたって、ウチは梨華ちゃんのものだけど

 フフッ・・・つながりかぁ

 うん・・・

 わたしたち、繋がってるんだもんね?


 ・・・フッ・・・そうだよ?



 わたししか、外せないのかぁ
 
 うん。どうして?

 ・・・なんか、特別って感じ

 特別?

 だって、ずっとつけてるってことでしょ?

 うん

 フフフッ・・・なんか、傍にいつも居るって感じがするから

 フッ・・・


653 名前:HAPPY 投稿日:2006/01/19(木) 00:58

ひとみちゃんの21歳の誕生日が
あと少しでくるけれど
その時もわたしが鍵を探すね

ひとみちゃんがコレを見つけるために
すごく探してくれたの分かるから

ひとみちゃんの鍵でしか外せないカデナを
わたしにかけて

654 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 00:59

「ねぇ、ひとみちゃん?」
「なに?」

「歌ってくれないの?」
「ん〜・・・ちょっとだけでいい?」
「フフッ。うん!」


ひとみちゃんは、もう夜中だからと小さな声だったけど
いつものように優しい声でわたしだけのために歌ってくれた

655 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:00

「梨華ちゃん、誕生日おめでとう」
「ありがとう、ひとみちゃん」

  チュッ

「ねぇ、梨華ちゃん」
「なあに?」
「21歳初めての夜だからさ・・・」
「ん?」

覗き込むように顔を見ると
お酒でではない赤い顔と潤んだ瞳があった

「・・・その・・・んーと」
「明日大会だよ?」
「う、うん・・・」
「お酒もいっぱい飲んでさぁ?」
「ごめんなさい・・・」
「ちゃんと体調管理しなくちゃだめでしょ?キャプテン」
「・・・申し訳ないです」

こんなところでお姉さんっぷりを発揮したって仕方ないんだけどね
フフッ。ひとみちゃんったらすっかり縮こまっちゃって

もう、かわいいなぁ


 チュッ

「ふぇ?」

わたしはひとみちゃんの頬に手を当ててキスをした

「・・・いいよ?」
「え・・・」
「わたしがしてあげる」
「あ、いや、それは」

ひとみちゃんを倒すようにソファに押さえつけた

「あ、あの、ねぇ、梨華ちゃん!」
「なあに?」
「いや、その、あの」
「もう、黙ってよぉ」

わたしはひとみちゃんにキスの雨を降らせる
いつだってしてもらってばっかりじゃヤなんだもん

656 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:01

最初は抵抗していた彼女の手も
次第に大人しくなって、背中から腰を撫でるように抱きしめてくれる

ああ・・・それだめだよ

脇腹をくすぐるように、撫で上げられる
パジャマ越しでも伝わる、指の刺激
快感に耐えるようにぎゅっと目を閉じた

ひとみ、ちゃん・・・だめ、だって・・・

主導権を握ったはずが、いつの間にか形成を逆転されてる
差し出していた舌も、絡めとられて喉の奥まで届きそうなほどに
焼け尽くしていくような情熱的なキスになる

「ん、っふぅ!」
「んん・・・」

静まりかえる部屋に、ピチャピチャと音が響く
頭の芯がぼーっとしてくる
身体が熱くなって、溢れ出すのが分かった

657 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:02

「んぁ・・・はぁ・・・」

うっすら開けた目には、今にも燃え上がりそうな
真っ直ぐ向けられたひとみちゃんの目があった

ひとみちゃんは身体を引き起こして
向かい合って、またキスをくれる

貪るように、激しく

ひとみちゃんはわたしの髪を掻き乱す
わたしはひとみちゃんの背中にしがみ付く


「んんぁ、ねぇ、ひとみちゃん・・・」
「なに?」
「ベッド・・・いこ?」
「うん・・・」

肌を触られたわけじゃないの、腰がカクカクと震えてた
いつもひとみちゃんのキスに酔わされて溶かされる

お姉さんには、まだまだなれないみたい・・・

658 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:03

ソファの下に落ちていたキーを取って箱の中に大切に仕舞う
そっとガラスのテーブルの上に置くと
ひとみちゃんは立ち上がって、わたしを抱きかかえてくれた

「ひゃぁ!」
「さぁ、参りましょうか?お姫様」
「んっ・・・」

時々見せてくれるカッコよくて、大人っぽい顔
わたしは恥ずかしくなって首筋に捕まって顔を埋めた

659 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:03





「ねぇ梨華ちゃん?」
「なあに?」

わたしをまるで壊れ物を扱うかのように
そっとベッドに降ろしながら
ひとみちゃんは尋ねてくる

「止まんないかも・・・」
「・・・・・うん・・・わたしも」

660 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:04





661 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:04

わたしの上で、少し大きめのカデナが揺れている

「んっ、っくぅ・・・んぁ」

首の横に流れたキーが、彼女に火をつけられた身体から
温度を受け取って熱くなっていくのが分かる

「んっ、ひゃぁ!」
「ぁぁあ・・・梨華・・・」

「ひ、とみ、ちゃ・・んっくぅう!んぁぁ!」

662 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:05

シーツにしがみ付いていた手を
チェーンの隙間から喉元に滑らせて
顎を伝って、唇に触れる


「ん、っぐぅ」

ひとみちゃんはわたしの指を咥えて
舌でねぶってくれる

もうどこに触れられても、何をされても
わたしの口からは言葉じゃなく、音しか零れなくって

限界が、近い


だめ・・・飛んじゃいそう

663 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:06

「んんぁぁあ!ひと、みちゃ!」
「はぁ・・・梨華ぁ・・」

ベッドでは呼び捨てられるそれも
わたしを痺れさせて、溶かしていく

指に絡みつく舌の熱さと、間隔が細かくなる息
ひとみちゃんも・・・


「んっくぅぅ!あああ!やぁぁ!!」
「ん、ふぁ、ああ、あああ」


ちゅぷっと音を立てて、口から指を引き抜くと
首筋にしがみ付いて、引き寄せる

もっと、ねぇもっと強く抱きしめて
あなたの身体の重みで、感じさせて


「んぁあ!はぁ!んっくぅぅううう!」
「んはああっ」

「ん、あ、はぁ、ああ、ああ、も、もう、だ、めぇ」
「梨華、梨華ぁ・・・り、かぁ」



「っちゃうぅぅうう!!」


664 名前:HAPPY♪ 投稿日:2006/01/19(木) 01:07





665 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:07

 ピーーーッ!


「「「おっしゃぁぁぁぁ!!」」」

「3得点目!!」
「今日はよっすぃー調子いいねぇ!」


「それに比べて・・・梨華ちゃん、今日どうしたの」
「あ。いや・・・ちょっと・・・」
「ギックリ腰?」
「あ、え、あはは・・・」

わたしは腰を撫でながら苦笑いで返した

666 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:08

昨日、結局やっぱりよっすぃーは止まらなくって
わたしも止めないでって言っちゃったから
その、たくさん・・・イッちゃったわけで・・・

朝、ベッドから起き上がることも出来ないくらい
腰が立たなくって


ごめんなさい・・・21歳になったばっかりなのに
よっすぃーには体調管理しなさいって言ったのに


二人でアシストしてゴール決めようねって
言ってたのに・・・
梨華ちゃんがバースデーゴール決めれるように
アシストするからねって言ってくれてたのに・・・


情けないよぉ・・・

667 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:09

俯いていた顔をコートに向けると
よっすぃーがわたしのほうに笑顔を向けてくれた

その右手はユニフォームの上から胸元を掴むようにしてる


手の中には、カデナが握られているんだ・・・


わたしも同じように胸元をぎゅっと掴んで
鍵を握り締めた


うん・・・


この調子じゃ今日は試合に出られないかもしれないけれど
よっすぃーが頑張ってるんだもん

668 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:09

「よっすぃー、その調子!!!」


彼女はわたしに向かって、親指をグッと立てて
サインをくれた

 任せとけって!

そう言ってくれてるみたいに

そして、ポジションに戻る瞬間
わたししか気づいてなかっただろうけど
ウィンクをくれた

 ウチら二人分のゴールだから!

 
頼もしいなぁ

669 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:10

ねぇ、みんな
よっすぃーかっこいいでしょ?

わたしの旦那様、かっこいいでしょ?

でも、わたしの旦那様だから
あんまり惚れちゃだめだからね

670 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:12

「梨華ちゃん、どうしたの?顔赤いよ?熱?」
「あ、え!?」

よっすぃーを見つめて一人でニヤニヤしてしまって
顔が真っ赤になってたみたい
ダメダメ!真剣に見ないと!
わたしは自分の頬をパシッと叩いた

「だ、大丈夫!」
「それならいいんだけど・・・」


ボールを蹴るよっすぃーを目で追う
ゲームの運びも勿論気になってるけど
ごめんなさい!
今日だけ・・・よっすぃーを目で追わせてください

671 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:12

たくさんのプレゼントをよっすぃーから貰って
たくさんの愛に包まれて

いつまでも、これからも幸せで・・・


わたしもよっすぃーにたくさんの愛を、幸せをあげたい

せめて、よっすぃーの誕生日が来るまでは
お姉さんで居られるように頑張るね

鍵をぎゅっと握り締めて
コートで汗を輝かせながら走っている
よっすぃーにエールを送った



頑張れ!キャプテン!



そして・・・



ずっと、ずっと 愛してるよ
ひとみちゃん

672 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:13





それにしても、腰をどうにかしたいよぉ・・・


もっとDEF.DIVAのダンスで鍛えなきゃ



673 名前:ハッピー! 投稿日:2006/01/19(木) 01:14




『ハッピー!』

( ^▽^)^〜^0) <おしまい♪

674 名前:Rink 投稿日:2006/01/19(木) 01:15
石川梨華さん、聖誕祭短編
更新終了です
675 名前:Rink 投稿日:2006/01/19(木) 01:16
レスポンニュ

>名無読者様
アザッス!号泣させて申し訳w
( ^▽^)<ハンケチどうぞ〜

>名無飼育さん様
次回はおバカというか・・・
おバカですねぇww
(0^〜^)<アフォでぇ〜っす
アザッス!
676 名前:774飼育 投稿日:2006/01/19(木) 01:17
リアルタイムです 作者さんのHPで
今日の深夜更新というのを見て楽しみにしてました
いやぁヤッパリ作者さんの作品はいいですねぇ・・・
思わず一人でニヤニヤしてしまいましたよ
更新お疲れ様でした
677 名前:まゆっぽ 投稿日:2006/01/19(木) 01:18
梨華ちゃん☆誕生日おめでとう!もう、21歳かぁ…。
今頃、よっちゃんと熱い夜を(0^〜^)<ニヤニヤ…。
Rinkさん、甘い夜をありがとう( ^▽^)
初カキコでした。
678 名前:Rink 投稿日:2006/01/19(木) 01:18
今回の更新は>>599-673です!

聖誕祭なのにミスしてしまいました・・・orz
>>619>>620は入れ替えてください・・・orz

石川さん誕生日おめでとうございま〜っす!


久しぶりの更新のせいか、心臓が痛い気が・・・
甘いのを書くと動悸がするってことか?汗

次回は聖誕祭の余韻がさめた頃
中〜長編を一本上げたいと思います。
679 名前:名無読者 投稿日:2006/01/19(木) 01:20
更新お疲れ様でした。

聖誕祭に相応しい素敵な作品でした!
梨華ちゃんにとって、ハッピーな一年になりますように♪
680 名前:名無 投稿日:2006/01/19(木) 01:27
更新お疲れ様です。
読むの楽しみにしてました^^
梨華ちゃんお誕生日おめでとう!!


681 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 10:51
今日梨華ちゃんがゴール決めますように(^_^)

余計なことかもしれませんが
「ねぶる」って、関西弁じゃないですか?
682 名前:Rink 投稿日:2006/01/22(日) 12:17
長編前に、短編を数本
683 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:18


684 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:19

日本語以外の言葉を知れたら、楽しいだろうなって思うの

英語でも、フランス語でも・・・
世界が広がる気がする




だけど、本当の理由はそうじゃなくって・・・

685 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:19

日本語以外の言葉を知りたいって思うの

だって、電車の中でこうやって綴っているのを
目の前に立ってる人に覗き込まれたって
多分分からないでしょ?

日記にしたって、詩にしたって
他の人には知られたくないことがあるから

686 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:20

洋楽を聞いて
英語に慣れていこうと 頑張ってみるけれど

でもやっぱり 綺麗な歌声は
私の頭じゃ
『音』でしか認識してくれない

もうちょっとマジメに授業聞いてればよかったなぁ

687 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:22

  ピッ

MDの停止ボタンを押す
電車はもう少しで私を目的の場所に連れていってくれる

足が勝手に乗り換えの駅で降りて
乗りなれた地下鉄の改札へと向かう

久しぶりの独特の車内のにおい
もうずっと使っていなかった路線
学生時代の通学列車だったから

688 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:22

まさか卒業してからも頻繁に会うだなんて思ってなかったよ
まさか私が、あなたの恋人になるだなんてことも

フフッ

込み上げてきた思い出し笑いを手帳で隠すようにした

689 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:24







690 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:25

あれは大学のフットサルサークルの
新人歓迎会の時の事

大学の近くの河川敷で飲み会を開いたの
桜が綺麗なときだった



女の子だけのフットサルだったから
和気藹々として、イッキなんてのも無理にさせたりしなかった



でもあなたが急に立ち上がって

「吉澤景気付けに、一気いきまーーーーす!!」

とか言い出しちゃってさぁ

691 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:25

彼女の名前は、私の一つ後輩の吉澤ひとみ

彼女はもともとの運動神経の良さから
弱小だったフットサルチームを強くさせて
ムードメーカー的存在になった


今年からチームを引っ張るキャプテンにも任命されて
これから彼女に全てを託される

692 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:26

彼女が入ってきたときの事を
今でも鮮明に覚えてる

ちょっと俯きながら

「あの、入りたいんすけど・・・」


彼女がはじめてゴールに向かってキックする姿の勇ましさ

その後照れくさそうにする顔

キラキラした顔でコートを駆け回る

初めて出た試合の後
誰にも見えないところで
歯を食いしばりながら「悔しい」って言いながら泣いてたのを
なぐさめた事もあった

693 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:27

彼女の姿を見るたび
私は心が弾んでいった

サークル以外でも、キャンパス内で見かけたら
もちろん声をかけたりしてた


時々同じ学科の子なのか
楽しそうに笑いあいながら歩く姿を見て

なぜか・・・胸をいためてた



憧れなのかな
彼女に対する、憧れ・・・

694 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:28

「あのさぁ、それって完璧恋じゃん」

フットサルの練習前
まだ彼女が来てない時に、いつも美貴ちゃんに話を聞いてもらってた

「こ、恋って!!」
「だーって刺さるんでしょ?見てたら」
「う、うん・・・」
「なに、なんかあんの?」
「そうじゃなくって・・・だってひとみちゃん」
「女だからとか言いたいわけ?」

わたしは前屈しながら小さくため息をついた

695 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:29

「くっだんない!」
「く、くだらないってなによぉ!」

「梨華ちゃんの話ずっと聞いてたけどさ?なんで気づかないかな?」
「だ、だって」

「なに!?」
「こ、怖いです、美貴様・・・」
「ああ!?」

「恋だなんて・・・」

考えた事無かったし・・・

696 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:29

「じゃあ、今からそういう目で見ればいいじゃん」
「そう言う目って」

「なんか我慢してるようにしか見えないわけ。美貴が梨華ちゃん見てると」
「我慢って、そんな・・・」

「大丈夫、自信持ちなよ。案外受け入れてくれるって」
「そう、かなぁ・・・」

「だーってよっちゃん見てたら、梨華ちゃんと話してるときが1番うれしそうだよ?」
「え!?」

697 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:30

「あ、ほら来たよ?」

「おはよーございまーす」

「「「おはよーーー」」」

体育館の入り口を見ると
今日も爽やかに彼女は挨拶をしながら入ってきた


「おはよう、梨華ちゃん!」

キラキラとした笑顔
私だけに向けられてる、笑顔・・・?

「ん?どうした?」
「あ、う、ううん・・・」

698 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:31


この笑顔を見たときから

私は彼女に恋をしてるんだって

気づいたの・・・


699 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:31





700 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:32

惚れ惚れするようなイッキの後
みんなからの拍手喝采で気をよくしたのか
また何杯もイッキをして・・・


しばらくしたら酔いが回ってきたからなのか
フラフラになっていたの
大丈夫?って言ったら

「らいりょーぶれぇっす!」

ロレツも回ってない状態で
とんだキャプテンだなぁって思ってたんだ

701 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:32

その後買出しに行って帰ってきた私と柴ちゃんは
土手沿いの道を歩いてると
私たちが宴会をしてる方角から
誰か数人が走ってきたのが見えた


叫び声とも歓喜の声とも言える
雄叫びを発しながら・・・


あ、あ、れって・・・ひとみちゃん??

702 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:33

「うっはああああ!!フォーーーー!!!」

走ってくるスピードたるや
酔ってるにも関わらずドンドン私たちの方に近づいてきて

「ちょ、ちょっと!よっすぃー!!待ってぇぇ」

スピードじゃ、誰にも負けないあさみちゃんですら
追いつけてない

私たちの前にたどり着くと
ピタッと足を止めて
ひとみちゃんは敬礼した

「よしざわ、荷物おもひいらひまぁっす! グフッ」
「あ、や、いいよ!」
「いいんれす!!」

「のの・・・?」

口調がののになってるけど
そんなの今触れてられない!
顔が真っ赤になって、これって完璧急性のアル中だよね

703 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:35

私と柴ちゃんの手から荷物をぶんどると
テクテク歩き出した

「ひ、ひとみちゃん、だいじょ」

彼女の肩に手を置こうとしたら
少し先を歩いていた彼女は急に振り返った

「りかひゃん!」
「な、なに!?」
「泳ぎまひょう!!」

「「「はぁぁ!???」」」


  ドサッ、バサッ   グイッ!!


「きゃ、きゃぁぁぁ!!」

両手の荷物を道に置いたと思ったら
彼女は私を抱きかかえて
川に向かう階段をダッシュで降り始めた

704 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:37

  ダダダダダダダッ

「ちょ、ちょっと!ひとみちゃん!無理!無理だって!!」
「冷たくないから、大丈夫だっ、て!グフッ」

「グフッて言ったじゃない!酔ってるのに泳いだりしちゃだめだよ!」
「だいじょ、ウプッ、ぶだって!」

「ちょっと!吐きそうになってんじゃん!もういいから、ね!?」
「もったいないから吐かない!」

「何言ってんの!?降ろして!降ろしてってば!!」
「泳げないの!?大丈夫!あたしと一緒だから!」

「そんなの関係ないってば!!だめだよ!コレ買ったばっかりのシャツなんだし!」
「またあたしが買うから!」

「なんでよぉ!なんで泳がなくちゃいけないのよぉ!!」

「おいで!泳ごう!!!」

「意味わかんなぃいいい!」

705 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:39

さっきまでのロレツ回ってなかったひとみちゃんはどこへやら
川の淵まで来ると、私を降ろして
手をぎゅっと握った


「な、なによ!なんなのよ!ねぇ、無理だってば!」
「無理じゃないって!」

「っていうかなんで川なの!?」

「好きなの!」

「・・・はぁ!?」

「好きなんだ!!」


「え、ええ?」








「フットサル!!!」

706 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:41


  グイッ!!

私の腰にまるでタックルするように腕を回した彼女は
満面の笑みを浮かべた

「意味わか、ちょ、ちょっ、やだぁぁぁぁぁ!!!」




  ドッボーーーンッ!!




  ブクブクッ ボコボコボコ


冷たいぃぃぃ!!!

幾ら暖かくなってきたからとはいえ
水温はまだ冷たくって
お酒であったまった私の身体をぐんぐん冷たくしていく

ああ、もう、全身ずぶ濡れ
救いようが無いくらい私の服は
川の水を吸い込んでいく

707 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:42

  ザパァッ!!


「梨華ちゃん!!よっすぃー!大丈夫!!?」

あさみちゃんが私たちに向かって叫んでる
他の子達も駆け寄ってきてくれたけど
その顔は暗闇でもわかる


笑ってるし・・・

「あっははははは!おっかしぃぃ!!」
「美貴ちゃん、ウケすぎだっ、てば、あははは!」
「あっははは!だっさい!!」

みんな笑ってる・・・


「もぅぅ!笑い事じゃないよぉ!!」


水面をバシャンと怒り任せに叩いたら
跳ね上がった水が顔にかかった

隣じゃ酔いが冷めたのかひとみちゃんが真顔になってる

708 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:44

「もう、何すんのよ!!」
「ご、ごめん・・・」

「ごめんじゃないよ!!どうすんのよ!帰れないじゃん!」
「ご、ごめんってば・・・だって・・・」

「だってなによ!!」







「・・・好きなんだ」

水の中で胸の辺りまで浸かりながら彼女は俯いてポツリと漏らした

「知ってるよ!フットサル好きなんでしょ!」
「あ、いや・・・」

「それと私を水没させたのと何が関係してるのよ!」


私は怒りが収まらなくって
立ち上がりながら、太ももまである水を足で蹴り散らす

ザバッと川から立ち上がって
ボトボトになった髪をかき上げながら
ひとみちゃんは真っ直ぐ私を見つめた

709 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:45

「好きなんです!!!」
「だから知ってるってば!!」

「違う!!」




「・・・え?」



ひとみちゃんが初めて大きな声を出した
笑っていた子達も、止まって私たちを見つめる

ひとみちゃんはゴクッと息を飲んだ
その白い喉が綺麗だなって、思っちゃった

710 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:46






「梨華ちゃんのこと、好き、なんです」





711 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:47

「ずっと、ずっと・・・梨華ちゃんのこと見てた
 試合も、練習も、1番傍で見てたって、言い切れる・・・」


ひとみちゃんは今年で大学3年で私は来年卒業する
就職活動で、もうほとんどサークルには顔を出せない

コレで最後の飲み会って言ってもいいかもしれない
後は卒業後の追いコンくらいだから・・・



「3年間、見てきた・・・フットサルも・・・梨華ちゃんの事も」

それって、さぁ・・・

712 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:47

「り、梨華ちゃんのこと、好きなんです!!」




「・・・だ、え、っと・・・」

713 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:48

「梨華ちゃん、どうすんのーーー!?」

美貴ちゃんが川べりから私を見つめて叫ぶ
どうすんのって、どうすんのよぉ

「ちゃんと答えてあげなよーー」

みんなニヤニヤしながらこっちを見てる

「気づいてないの、お互いだから」
「早く言えーー!この鈍感同士!!」

714 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:49

彼女は目を伏せて、何かを我慢してる
私の答えを待ってるんだ


「石川ぁぁぁぁ!根性見せろーーー!」

「あ、の、その・・・」

「梨華ちゃーん!言えよぉ!!」

「あ、だ・・・えっと・・・」

「いーしかわ!いーしかわ!」
「ホイッ!」
「「いーしかわ!」」
「ホイッ!」
「「「いーしかわっ!」」」
「ホイッ」
「「「「いーしかわっ!」」」」

「もうみんな黙って!!!」

辺りがシーンと静まりかえる
遠くの方で救急車のサイレンが鳴ってる
でも私には心臓の音しか聞こえなくって

715 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:51


「・・・乗せられたわけじゃないから」

「・・・え?」

ひとみちゃんは顔を上げて目を見開いた
ポタポタと髪から滴が垂れる

「・・・乗せられて言うんじゃないよ」

「う、うん・・・」





「・・・私も、好き・・・」

716 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:51




「「「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」」」



ひとみちゃんは左手をバッとみんなの方に向けて
まだ騒ぐなと制止した

「ど、ど、どっち・・・」
717 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:52








「・・・フットサル」


ひとみちゃんの顔の色が
一気に暗くなって、上げていた手をガクッと下ろした

「はぁぁぁぁ!???」

美貴ちゃんが大きな声で
まるでふざけんなと言いたいような声を上げる


「でも!!!」

また静まりかえる

718 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:53




「でも・・・ひ、グスッ、ひ、ひとみちゃんの、方が
 グスッ、うっぐっ、・・・好、き・・・」



「「「「「「「うおおおおおお!!!!」」」」」」」

「おめでとーーー!」
「よっちゃんおめでとーーー!」

みんな口々におめでとうって言いながら拍手してる
美貴ちゃんは「遅いよ」なんて言いながらちょっと呆れた目をしてた
ごめんね・・・鈍感で・・・

719 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:53

「みんな、行け行けぇぇぇぇ!!」

誰かの合図と共に
水面ギリギリの階段に立っていたみんなが
一斉に飛び込んできた

  ドボーンッ!ドボーンッ
  ドボーンッ、バッシャーン!

「あははははは!」
「っつめったーーい!!」
「寒い!寒すぎ!!」
「あっはははは!」
「ちょ、ちょっと美貴ちゃん!」
「オラァ!!」

 ドッポーッン!

「よしこも、いけーーー!!」
「うぁぁぁぁ!」

 ザバァーーーンッ!!

「「あははははは!!」」
「あっははは!!」

720 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:54







721 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:55
「ックシュッ!!!」
「ぶぇーーっくしゅ!!」
722 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:55

「寒い・・・」
「ちょっとストーブ取らないでよ・・・」
「うるさいなぁ・・・毛布もう無いの?」
「ないね・・・」


その後みんな、ずぶ濡れになりながら
サークルで借りている部屋に戻った

とりあえず持って来ていた練習用のジャージに着替えたけれど
みんな下着は・・・濡れたままだよね

723 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:56

「ほんっと、やーっとだし」

美貴ちゃんは呆れていた顔のまま
毛布みのむし状態で私に話し掛けた

「「ごめんなさい・・・」」

美貴ちゃんは私とひとみちゃんの
両方から相談されていたみたい

724 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:57

「まぁいいけどさ。これで美貴の肩の荷もおりたよ」

「「すいません・・・」」

「ちょーっと、スイマセンじゃないでしょー?」

「「・・・・・」」


二人は一つの毛布でいいでしょと言われて
私とひとみちゃんは身体を寄せ合って包まっている

至近距離で見詰め合った私たちは


「「・・・ありがとう」」


「そうそ、それでいいんだよ」

嬉しそうに美貴ちゃんが笑った

725 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:57

「さーて、そろそろ帰らないと終電なくなるよ」
「あ、やっばー!」
「ウチ来る?」
「ひとみん、いいの?」
「あゆみの寝る場所くらいあるでしょ」
「やったー!」

みんなそれぞれベンチから立ち上がって帰る準備をし始めた

726 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:58

「二人に忠告ね」

美貴ちゃんがにらみを聞かせて
まだ動けていない私たちに上から強い口調で言ってくる
な、なに・・・だからそれ、怖いんだって・・・

動けない理由は・・・


「サークル内ではいちゃこかないこと!」
「いちゃこかないこと〜〜!」

みんなニヤニヤしながら私たちを見てる

毛布の中でつながれた手を
ちょっとだけ緩めようとしたら
ひとみちゃんがぎゅっと繋ぎなおした


「わかった!?」

「「・・・はい・・・」」


ちょっと、無理かも、ね


繋がれた手は、ずっと暖かかった

727 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 12:59





728 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:00

「ごめーん、遅くなって!」

あれから私は卒業して、就職をした
彼女も就職して、社会人1年生
私のほうが少し先輩

同じところに就職したいと彼女は言ってたけれど
ひとみちゃんならもっといいところ行けるからって
プッシュしたの


彼女はフットサルのチームがある企業に就職して
今でもまだ続けてる
729 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:01

「ううん、いいよ!いこっか!」
「うん」


待ち合わせは、大学の最寄駅

今日は付き合いだして2年記念日

だから私と彼女は、どちらが言い出したわけでもなく
あの川へとやってきた
去年もこうやって二人で歩いたなぁ

730 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:02

「ん?どうしたの?」
「ううん。去年のこと思い出してたの」

「ここにきたこと?」
「そう」

「一昨年のことも、思い出してた」
「・・・恥ずかしいから、よしてよ・・・」

「だーって、ひとみちゃん飛び込むんだもん」
「ごめんなさい、ガキでした」
「フフッ」

彼女が私を連れて飛び込んでくれなかったら
今は彼女の隣に居なかった
うれしいと言えば、うれしいんだけど・・・
731 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:02
「ねぇ、ひとみちゃん?」
「ん?なに?」

ポカポカとする陽射しは
まるで彼女の心みたいに暖かい

「どうして飛び込んだの?」
「うっ・・・」

「飛び込まなくてもよかったのにさぁ?」
「そ、そうなんだけど」

「酔った勢い?」
「そうじゃ、ないんだよ・・・」

「なに?」
732 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:03
「昔・・・まだあたしも梨華ちゃんも入学してないときに
 実際いたらしいんだ」
「なにが?」

「飛び込んで、告白した人」
「え!?」

「この川に飛び込んで告白したら、願いが叶うって・・・」
「そ、そう・・・」

「なんか、伝統行事らしくって・・・ミキティが教えてくれた」
「あ、そ、そう・・・」


少し触れた指先を絡めるように握る
恥ずかしくて顔は見れなかったけど

ひとみちゃんもきっと照れてるだろうって思ったの

「ヘヘッ」
「フフッ」
733 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:04
「また飛び込んでみる?」
「もうやだぁ!」
「あははは!冗談だよ!」
「もー!」
「フッ」


川沿いの桜が風に乗って散り始めてる



「ねぇ梨華ちゃん」
「ん?なあに?」


「・・・また来年も、来ようね」

734 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:05


英語を勉強したいって思ってた
日本語以外を知れば、他の人には気持ちを知られないから
だけど・・・


「うん!」
「フフッ」

「ねぇひとみちゃん?」
「ん?なあに?」

735 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:05


「大好き」


1番伝えたい言葉は、やっぱりこの言葉

1番伝わる言葉は、言葉なんだ


「あたしも、大好き」


ひとみちゃんの声で、言葉を
ずっと聞かせてね

736 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:06








737 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:07

『ことば』

( ^▽^)^〜^0) <おしまい♪

738 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:07
更新終了です
739 名前:ことば 投稿日:2006/01/22(日) 13:08
レスポンス

>774飼育様
ニヤニヤしっぱなしでしたか?w
アザッス!!
774飼育さんの言葉はいつも励みになります
そんでもって7777おめっとさんでしたw

>まゆっぽ様
アザッス!
石川さん、おめでとー!

>名無読者様
アザッス!
石川さん、おめでとー!

>名無様
あら、うれしいじゃないのぉ?
(;^▽^)<ヤススみたい・・・
石川さん、おめでとー!

>名無飼育さん様
結果は残念でしたが
いしよしゴールがあったのでよかったかなとw

ねぶる関西弁でした・・・
申し訳申し訳申し訳orz
舐めるよりエロいから使ってやれと使ってみたら・・・
申し訳なかったす
ありがとうございます〜!
740 名前:Rink 投稿日:2006/01/22(日) 13:10
上記2つ作者です。申し訳orz

今回の更新は>>682-737です

おめでとーおめでとー連呼していると
「ごきげんよう」の当たり目みたい・・・汗
( ^▽^)<おめでとー、おめでとー!ww

そして今回も本当はふとさるの話を出すつもりは無かったのですが・・・
勢いって怖いです
741 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/23(月) 00:15
更新乙です
フットサルをしている彼女たちはこういう学生生活を感じているんでしょうかね
次作も楽しみにしています
742 名前:名無し読み手 投稿日:2006/01/23(月) 00:17
自分も川に飛び込んで告白しようかなってw
まさかしませんけど。。。
でも、そう思えるくらい素敵な作品だなって思いました。
743 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/23(月) 00:42
更新お疲れ様です。
初めまして、Rink様の作品はたくさん読んでいたのですが
今までROMってた者です
作者様の作品にはいつも心を和ませていただいております。
皆が一斉に飛び込むシーン、個人的にかなり好きです
次作の方も、陰ながら期待、そして応援させていただきます。


744 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:36







745 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:37


「はじめまして。吉澤です」



今でもはっきり覚えてる
あなたの、表情、声、ぜんぶ


746 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:38







 『 恋人 』






747 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:39

「あ〜、ずっと喋ってるけどネタ尽きないよねぇ」
「ほ〜んと!柴ちゃんとお話してるのって時間忘れちゃうもん」


週末の午後。
外は曇り空で、道行く人たちは寒そうに
口元のマフラーを手で押さえてる


わたしと柴ちゃんはカフェで尽きないお話に花を咲かせていた
会社のグチ、お互いが知らない友人の話、家族の事や、映画や買い物・・・

本当にずっと話してる
なんだろうねっていつも言うんだけど
そんなこと本当は気に止めたりしない

柴ちゃんは気兼ねなく何でも話せる人

柴ちゃんも何だって話してくれる

これってクサイ台詞、『親友』
恥ずかしいからそんなこと言わないけどね

748 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:41
「柴ちゃん、恋人とはうまくいってるの?」
「もっちろん!・・・と思うんだけど、ね」

柴ちゃんの恋人は、2つ年下で
仕事が忙しい人らしい
寂しがり屋の柴ちゃんからすれば

「不満はないんだよ・・・でも、不安、かな」
「そうなんだ」

やっぱり一人で居る時間が多いと
寂しくなるのは当然だよね
顔はいいし、優しいし、満たされてるんだけど
それってわがままかなあなんて微笑む


「そういう梨華ちゃんはどうなのよぉ」
「あたしは・・・」


付き合ってる人は、居たけど・・・

いつの間にか、身体だけの関係になって
いつの間にか、別れた
周りから聞いた話じゃ
わたし以外にもそういう人が居たらしい
1人じゃなくって・・・何人も

それって付き合ってたって言うのかな・・・
相手からすれば
ただのセックスフレンドだったのかもしれない
749 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:42

「この様子じゃまだ居ないんだね?」
「ん〜〜、そうだね」
「出会い求めてる〜?」

柴ちゃんは眉をひそめて顔を覗き込んできた
わたしは俯いていたみたい

「あ、ん〜〜、忙しいし」
「それいい訳でしょ?」
「そ、んなこと」
「だめだめ、自ら求めなきゃぁ。ゴー!」
「ゴーって、言われても」

風が強く吹いたせいか
カフェの大きな窓をガタガタと揺らした
750 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:43

「そうだ。今日ね飲み会誘われてるんだ。梨華ちゃんも行かない?」
「え!?」
「いいじゃん、一人くらい増えたって大丈夫だって」
「そ、そんな急だし!しかも初対面じゃない!」
「だーいじょうぶ、だーいじょうぶ!!」

柴ちゃんは嬉しそうに、携帯を取り出した
何でも思いついたら即行動しなきゃ!なんて言いながら
携帯をいじってる



「・・・あー、もしもし?今大丈夫?・・・うん」

やっぱり恋人と話すときは
みんな声が甘くなる
柴ちゃんだって微笑がいつもの3割増しだもの

「今日の飲み会さ、一人増えてもいい?」
「ちょっと、ねぇ、柴ちゃんってばぁ!」
「うん・・・友達」
「ね、ねぇって」
「あ!ホント?やったぁ!・・・うん、うん・・・はーい」

751 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:44

携帯を閉じると嬉しそうに顔を上げた

「いいってさ!多い方が楽しいしって」
「もー!どうしてそうなるかなぁ」
「いーじゃん、顔は見たことあるでしょ?」
「でもプリクラだし!」
「向こうだってあたしが梨華ちゃんの話してるから会いたがってるんだよ?」
「で、でもさぁ・・・」

もう決定した事ですからねー
って、ホントにうれしそうにしてる
友達を紹介できるから嬉しいんだろうけど
それは分かるんだけどさぁ

緊張するじゃん・・・

「だーいじょうぶだって!あの人の職場、女多いし」
「そうかもしれないけど・・・」
「そこで梨華ちゃんの新しい出会い見つけてみたら〜?」

752 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:45







  わたしを罰してください


  誰にも言えない罪を犯した


  愚かなわたしに







753 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:46

柴ちゃんも、わたしも
女性を愛する人

柴ちゃんは男性も愛せる人
今の恋人は、女性


わたしは違う

女性しか、愛せない



人によっては、病気だと言う

人によっては、奇妙な目で見てくる


わたしはただ、生きていて
わたしはただ
人を愛していると言うだけなのに・・・

754 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:47

わたしが柴ちゃんと出会ったのは
そういう人たちが集まるお店
たまたま一人で来ていたもの同士で
声をかけてくれたのが柴ちゃん

そこから本当に何でも話せるようになるまでに
時間はかからなかった


業界と言われるそっちの世界の人は
やっぱりひた隠しにしてる

自分もそう

たとえ番号交換をしたところで
深く仲良くなる事はまず無い

あったとしても、恋愛対象
シたいと思う人だからか・・・


だから柴ちゃんとの関係は稀だと思うし
大切にしたいって思う
755 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:47

そして世界は狭いから
どこで誰が繋がっているのか分からない

もうわたしはしばらくその世界に顔を出していない


過去の傷が癒えていないっていうのもあるから


怖いんだ

もう、傷つくのがいやなんだ

756 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:48

その世界に居る事は
水を得た魚のように
気兼ねなく、「彼女」と言う言葉を出せる

だけど
入り浸りすぎれば
ぬるま湯につかってふやけてしまう



この年になって
恋ってなんだろうなんて時々考えちゃう

胸を焦がすような
恋がしたいなぁ

757 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:49








  これは 恋というのでしょうか




  胸が苦しい それが全て恋なのでしょうか




  わたしの心は 焦がすどころか



  燃え尽きてしまいそうなんです








758 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:50

「はぁ・・・」
「なに、そんなにヤなの〜?」

わたしと柴ちゃんはカフェを出て
飲み会の場所へと移動する事にした

「あ、いや、そうじゃないんだ」
「まーったく、こっちがせっかく誘ってるっていうのにさ」
「だから違うってば」
「ほんとにぃ?」
「ホントホント!」

わたしは声のトーンをあげた

昔の事を思い出して暗くなってたなんて言ったら
いつまで引きずってんだ!って、また叱られちゃうから


「なんかさ、出会いあるかもしんないじゃん」
「ん、ん〜」
「恋愛じゃなくっても、友達探しだと思ってさ?」
「うん・・・」
「ほら、梨華ちゃん友達少ないじゃん?」
「そーいう柴ちゃんだってそうじゃん!」
「似たもの同士か。アハハハッ!」
「そうだね、フフッ」

759 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:50

着いた先は
個室になってるちょっとオシャレな居酒屋だった


「はーろ〜〜!」
「おーーー!あゆみんいらっしゃーい!!」

柴ちゃんは彼女の職場の飲み会に何度も顔を出しているらしく
みんなに覚えられてる

それは彼女との仲が公認ってこと

ほんと羨ましいかぎりだよ

不安があるという彼女にちょっとだけ
ジェラシーを覚えた事もあった

だけど、「幸せだからだよ」って言ってあげると
そしたら嬉しそうに顔を緩める

そんな柴ちゃんを見てるだけで
わたしも幸せになれそうだったから

760 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:51

「お!友達?」
「うん、そう。」
「あ、い、石川梨華です」
「石川ちゃんかぁ、まあ座って座って!」

8人テーブルに1つだけ席が開いている
多分、柴ちゃんの恋人がまだ来ていないみたいだから
そこに座るのだと思う

わたしのはす向かい


「リーダーおっそいなぁ」
「仕事押してるっていってたよ?」
「まーじで!?今日はおごりだねー」
「あはは!勝手に言ってやがる!」
「リーダー来たら言えないくせにさ」

リーダーと呼ばれていた理由なんて
気にしなかった

みんなに慕われてるんだろう
この場所に居なくても、みんなが笑顔になってるから

いい彼女じゃない
ね、柴ちゃん?

761 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:52

「ん?どうしたの?」
「ん?ううん」

わたしは笑顔のまま首を横に振った
なんだか嬉しくって
自分の事のように、嬉しかったの


柴ちゃんがいつも笑顔で居てくれて
ちょっと不安になりながら
ときどきその人とケンカなんかして
わたしにグチを言ってきたりしたとしても
ずっと一緒にいられそうなんじゃない?

だって、柴ちゃんも
もうすぐ来る恋人の事を思って
ちょっと気持ちが跳ねたのが
隣にいて分かったから

762 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:52

「ごめーん!」

「おっそいっすよ!リーダー!!」
「ごめんごめん、ちょっと押してたんだって」

黒くて細いシルエットのロングコートに身を包んだ人が
謝りながら部屋に入ってきた
マフラーを巻いているせいか声が篭ってたけれど
目は嬉しそうに笑っていた

あー、この人が柴ちゃんの恋人なんだぁ

寒かったせいか頬が少し赤い

763 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:53


「んじゃぁ全員揃ったし、みんな飲み物頼もうっか」

「梨華ちゃん、何飲む?」
「あ、う、うん」

柴ちゃんが見せてくれたメニューを覗き込む

その奥には
マフラーを取ってコートをかける後姿


「ん〜・・・カシスオレンジかなぁ」
「おっけー」

メニューをサッと目の前から引かれる




視界の開いたその先に



わたしは

764 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:54

「あ、ひとみ、紹介するよ」

「梨華ちゃん、でしょ?」
「ああー、もう分かったのかぁ」
「そりゃあ分かるよ。あれだけ話に出て来るんだもん」

笑いながら柴ちゃんと話す
優しく、響くような声


彼女の視線がわたしをとらえる


「はじめまして。吉澤です。よろしくね?梨華ちゃん」


右手をそっと差し出してくれた
白くて細い指
すっと伸びた長い腕
黒くて大きな瞳

わたしは吸い込まれていった

765 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:54

「あ、ああ、は、じめまして!石川です」

慌てて手を差し出すと
柔らかく握ってくれた

「あははっ!梨華ちゃんって呼んでもいい?なんかそっちになれちゃってて」
「あ、は、はい」
「ウチのことも適当に呼んでくれていいからね」

適当って言われても・・・

「じゃ、じゃぁ・・・リーダーさん」
「・・・プッ。あはははは!やっぱあゆみの言う通り面白いね!」

顔がくしゃっとなって、無邪気な笑顔を見せた

「ちょっとひとみぃ!それじゃあたしが普段変な事言ってるみたいじゃん!」
「そかそか。ごめんね、梨華ちゃん。そうじゃないんだよ?」
「あ、い、はぁ・・・」

766 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:55





  


  後悔って


  しなかった事を悔やむ



  わたしは どちらの後悔をしてるんだろう



  してしまったことを・・・悔やんでるのか



  だけど、しなかった後悔というんだったら




  『会わなきゃよかった』  








767 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:56

料理が運ばれて、お酒も進んで
みんな楽しそうに話をしてる

とても気さくな人たちで
自分もこんな職場で働ければいいなと思った

会話も振ってくれる、気配りができる人たち・・・



羨ましいと思うと同時に
世界が遠のく気がした


柴ちゃんとの間に、見えない線がうっすら見えた

柴ちゃんとだけじゃなくって・・・

わたし一人を、遮る
結界のようなものが
    
768 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:57


「梨華ちゃんはさ、どこに住んでるだったっけ?」
「え!?」

吉澤さんが話し掛けてくれる

「え、えっと、横須賀です」
「おお!かっこいいね」
「そ、そうですか?」
「ん〜、なんか横浜とか横須賀とか好きだよ」

「でも・・・わたしの住んでるところは田舎ですし」

「あははっ!そかそか」
「はい・・・」

「ああ、そうだ。気使わなくていいよ?」
「え?」
「お酒の席だしさ」
「・・・え?」


「言葉」


まぁ、初対面だから仕方ないかって
苦笑いをしながらグラスのお酒を仰ぐ

769 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:58

彼女は回りの話に入り込むフリをして
実はそれはフリだけ

「何飲む〜?」

なんてグラスの空きを目の端でちゃんと見てる


さっきのわたしにかけてくれた会話も
わたしの落ちた視線に気づいてくれたからなのかもしれない

優しいとはまた違う

心配りを出来る人
しかも、ごくごく自然に


それは時に

人を惑わせる

770 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:59

席替えターイム!なんて言った誰かの一言で
席が入れ替わる

吉澤さんはそんな姿をニコニコ見ていた

「ほら梨華ちゃんも動く!」
「え、ええ!?」

柴ちゃんに無理矢理立たされ
開いていた吉澤さんの隣に座った


「し、失礼します・・・」
「はい、どうぞ」

にっこり微笑んで会釈をする
わたしと言えばぎこちなくってまるでぜんまい仕掛けのおもちゃみたいに
カクカクと頭を下げた

「フフッ。梨華ちゃんもうそろそろ緊張ほぐしてよ」
「え、あ、え・・・」
「そんなにウチの顔怖い?」

ぐっと近づけるその顔は
白い頬がほんのりお酒で赤くなっていた

「あ、そ、そうじゃなくって・・・」

至近距離で見つめられて
思わず仰け反った

「あはは!もー、ほんとからかい甲斐あるね」

どこか困ったように眉を上げてフフッ笑った
わたしはじっと見つめるしか出来なくて

771 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 21:59

「あゆみがね、いつも言ってるんだ」

長いテーブルの対角線上に座る
こちらの声なんて聞こえてないだろう柴ちゃんを見ながら
彼女は続けた

「梨華ちゃんって、素直でいい子なんだよーって」
「そ、そうなんですか?」
「あ、ほらまた」

「あ・・・そう、なの?」
「あはは!そうそう。・・・ニコニコしながら嬉しそうに話してくれるの」
「そう、なんだ・・・」

「ウチさ・・・」


グラスを傾けながら
ゆっくり話し出す

772 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 22:00

「ほら、仕事が忙しいから、中々構ってあげられないんだ
 だから梨華ちゃんがあいつの友達で居てくれて
 すごくよかったって思うの」

「それは、わたしも・・・」

「最初はね、なんだよ、そんないつも居るんなら付き合えばいいじゃん!って」
「え!?」
「おかしいでしょ。梨華ちゃんにやきもち焼いてた」
「そんな・・・柴ちゃんとは友達、だから」
「うん。今日会って、二人見てたらちゃんと、分かったよ」
「はぁ・・・よかった」
「ハハッ!なんか姉妹みたいって」
「姉妹ですかぁ?」
「だって、そんな感じじゃない?」
「確かに・・・でも、柴ちゃんには本当にお世話になってます」

わたしはペコッと頭をさげた

うれしくなったのは、柴ちゃんとの関係をわかってもらえた
それだけじゃない


気づくに、時間はかからなかった
悲しいけれど

773 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 22:01

  






  涙なんて不毛だと 昔誰かが言ってました



  確かにそうかもしれません



  この涙は 誰のためのものなのか


  なぜ流れるのかさえ 分からないから


  一つだけ、はっきりしていることは



  

 
  あなたのことだということです









774 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 22:02




「今日はありがとう」

店を出てみんなが帰っていき
3人で駅まで向かう中、吉澤さんはわたしにそう言ってくれた

「あ、いえ。わたしも楽しかった」
「そう?良かった」

「あたしもホントよかったよー」
「なんで」
「だーってひとみずっと疑ってたじゃん」
「別に?」
「あーそーですか、へー、そーですか?」
「んだよ!」
「あははは!!」

楽しそうにじゃれあう2人を見て
こっちまで嬉しくなってきた

けど この言い表せない
苦しいような、切ないような

置いてけぼりみたいな感覚
775 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 22:04

「じゃぁ、梨華ちゃんまた電話するよ!」
「あ、うん!」
「今日はありがとうね」
「こちらこそ、ありがとう」


改札まで見送りに来てくれた二人に背を向けて
ホームに向かった


振り返ると、柴ちゃんは彼女に寄り添うように
もと来た道を戻っていった

776 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 22:05








  わたしは クリスチャンじゃない


  だけど いけないことだというのは 分かってる




  消さなければいけないと思えば思うほど


  茨が身体中に巻きついて


  わたしの肌を突き抜けて 心まで達する




  胸を焦がす人





  友達 の 恋人








777 名前:恋人 投稿日:2006/01/26(木) 22:05






778 名前:Rink 投稿日:2006/01/26(木) 22:11
更新終了です。
779 名前:Rink 投稿日:2006/01/26(木) 22:12
レスポンス

>名無飼育さん様
汗臭いというか、泥臭いというか
フットサルを見てるとそんな気がします
青春ってやつですかね〜

>名無し読み手様
( ^▽^)<風邪ひくよぉ〜?
(0^〜^)<風邪ひいたよぉー
らしいですw

>名無飼育さん様
初レスありがとうございます
一斉に飛び込むところ、何故かこう青臭いというか
若さ溢れる感じですかねー
フットサルは彼女達の青春時代って気がして
青っぽくなってしまいましたw
780 名前:Rink 投稿日:2006/01/26(木) 22:13
今回の更新は>>744-777です

ちょっと少なめですか?
作者は結構おなかいっぱいですw
なんせ初の痛い系ですから汗
781 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/26(木) 23:41
更新ありがとうございます
友達の恋人ですか
なかなかきつい設定ですが楽しみにしてます
782 名前:774飼育 投稿日:2006/01/27(金) 00:28
せつないですねぇ
これで少なめと感じている作者さんは
やはりすごいとしかいい様が・・・
更新お疲れ様でした
783 名前:名無し読み手 投稿日:2006/01/27(金) 00:50
読んでウヒョって思いました。
続きが楽しみです。。。
更新お疲れ様です。
784 名前:名無 投稿日:2006/01/27(金) 01:01
更新お疲れ様です。
まだ始まったばかりなのに、
梨華ちゃんの苦しく切ない感じがすごい伝わってきました;;
今後も目が放せません!




785 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:04








786 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:05

はぁ・・・
最悪だね、わたし

こんな気持ち早く消さなきゃ
だって、柴ちゃんとの関係は壊したくないもの
一時の揺らぎだったんだよ



だけど、そう思ってもう一週間が経った

仕事帰り、トボトボと道を行く
行き交う人はみんな足早にどこかに向かっているけど
わたしが行く場所は、特に無い
だから急ぐ事も無いし、走らなくてもいい

787 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:05

「はぁ・・・忘れる、かぁ・・・」


ふと目を留めたのは、キレイに磨かれたウィンドウ越しに
きらきらと輝くリングだった


「かわいい・・・」


結婚が幸せというなら
わたしは幸せになれないのだろうか

だって、籍は入れられないもの


たとえ、どんなに愛してる人でも

788 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:06

リングから目をそらすと
あの優しい笑顔が頭の中を過ぎった


どうして、思い出すんだろう

たった数時間しか一緒に居なかったのに
もう一週間も経っているのに

鮮明に思い出せる

人って凄いんだね
僅かの時間でも全てを覚えようとする
動き、言葉、声・・・

これじゃ女子高生が恋してるみたいじゃん


だめだめ



わたしもいつか恋人が出来たら
4人でデートとかしてさ・・・

何でも言えるようになったら
酔っ払った勢いで言おう

昔好きだったんだよーって・・・



フフッ

それがいい・・・

789 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:06

顔をふと上げて小さなため息を漏らす

後ろを行き交う人のぼんやりとした姿が映りこんできた


こんなに輝いてるのに
誰一人足を止めないんだね・・・










え・・・?


ガラスの端に映ったのは

見間違えるはず無い



わたしは振り返って、姿を確認する
やっぱり


吉澤さん


790 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:07

わたしが躊躇っている間に、彼女はスタスタと歩いていってしまう
黒のロングコートの足元が、風でひらひらと揺れて


偶然って怖い
だけど、心は素直に反応する




「あ、あ・・・り、リーダーさん!!」


10mほど先に居た彼女は、振り返って確認する
眉をひそめて、あたりを見渡してる


「リーダーさん!!」
「ん?・・・あ、ああ!梨華ちゃん!」


駆け寄ってきたわたしの姿を見て
険しかった顔が一気に晴れた
791 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:08

「偶然!」
「仕事の帰りなんです」
「そかそか。・・・ん〜〜、梨華ちゃん今から時間ある?」
「え?」
「実はさ、食事の予定がキャンセルになっちゃって。
 ウチ、このあとロンリネスなんだよね」

少しおどけた表情でそういうあなた
寂しいよーなんて言ってても本心じゃないのが
笑顔を見て分かった

この人は突然のキャンセルをされても
多分「自分のせいだから、仕方ないか」って言う人なのかもしれない

「そうなんですか?」
「そー、だからさ、よかったら一緒にご飯でもどう?」
「あ、でも・・・」
「ん?」


柴ちゃんの居ないところでは・・・
誤解招いちゃうし

「もしかしてあゆみのこと気にしてる?」
「え!?」

  ♪♪♪

「あ、ちょっとごめんね」

吉澤さんは鞄の中から携帯を取り出して
誰かと話をしだした

792 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:08

「あ、うん・・・あのさ、今ばったり梨華ちゃんと会ったんだ」

電話の相手は、柴ちゃん?

「まじで?オッケー、分かった」


 ピッ

携帯の画面から顔を上げると
吉澤さんは柔らかく微笑んだ


「うち行こうっか」

思ってもみなかった言葉
家なんて、急すぎるし
それに、それに


「あゆみがうちにおいでって。ご飯あるからだってさ」
「あ、そっか・・・」

二人は一緒に住んでるんだったんだ

793 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:09

「それとも2人っきりの方がよかった?フフッ」


  ドキンッ


そんな・・・冗談でも、言わないでほしいよ



柴ちゃんに悪いから なのか

図星だから  なのか

794 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:10






「ただいまー」

二人が住んでいるマンションはとても広い

「まー、二人で住んでるっていうよりあいつが転がり込んできたんだけどねー」

「もともとは一人だったの?」
「うん」

こんな広い家を借りれる彼女
何の仕事してるんだろう
リビングの方からなにやら声が聞こえてきた

「お〜!?なんでお前らいるんだよー」
「いいじゃないっすかー!」
「ご飯は多い方がいいでしょ?」

吉澤さんの背中で中の様子が見えなかったけど
視界の先にはこの間の飲み会であった人たちが何人か座ってた
795 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:11

「あ!石川ちゃーん!いらっしゃい」
「いらっしゃいってお前の家じゃないだろ」
「もう家みたいなもんじゃないっすか」

「お、おじゃまします」

「あ、梨華ちゃん、コートかして?かけとくよ」
「あ、ありがとうございます」

リビングの手前にあるクローゼットを開くと
たくさんの服がかかってた
わたしでも分かる、ブランド物のスーツやコートが・・・

「あんまり気にしないでね」

となりでわたしのコートを受け取った吉澤さんが小さくもらす

「え?」
「あいつら。いつもいるんだ。タダ飯ありつけると思ってさ」
「そ、そうなんですか」
「まー、二人でのご飯はまた今度ってことで」

吉澤さんはわたしにウィンクをすると
クローゼットの扉を閉めた



  ドキンッ


胸が高鳴る

796 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:11

「あれ、あゆみは?」
「なんか急に出かけなくちゃいけなくなったとか言ってましたよ」
「まじで?これ食っていいのかな」
「あ、気にしないでって」
「あ、そう。んじゃ食べようか」
「わーい!鍋ぇ〜!」

会話は遠くで聞こえるけれど
わたしにはあの人の声しか聞こえない

いけないと分かっているけれど
だけど、だけど・・・


「梨華ちゃん?」

クローゼットの前で動けずに居るわたしを
吉澤さんが呼ぶ


「どうしたの?こっちおいでよ」
「あ、は、はい」
797 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:12



  似てるところがある


  笑いのツボとか、服のセンスとか


  ホント気が合うよね



  そう言ってたよね




  でも、好きな人まで、同じだなんて・・・



  大丈夫だよ



  わたしは、そんなこと、しないから



798 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:13





「じゃぁ、帰ります〜〜」

ご飯が終わって、吉澤さんの仕事仲間の人が次々と帰っていく

わたしはというと、すっかり酔っ払ってしまって
リビングのソファでくったりしていた





「梨華ちゃん、大丈夫?」

うつらうつらしていたのか
目を開けると吉澤さんの心配そうな顔が見えた

「あ、は、はい・・・」
「ほい、お水。飲める?」

体を起こして、両手で受け取る

「だいぶ飲んでたもんねぇ」
「そうです、ね・・・」
「フフッ・・・また言葉」
「あ、ああ・・・」

年下なのに、どうしてこう慣れないんだろう
それは多分、吉澤さんから放たれている
オーラみたいなものがあるから・・・


それに、言葉を崩してしまえば
もう全てが流れていきそうで、怖かった・・・
だから、最後の砦として、意識的にしてたのかもしれない
799 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:14

「何か嫌な事でもあった?」

彼女が隣にドカッと座る

「ふぇ?」
「なんかさ・・・梨華ちゃんやけ酒っぽく見えたし」
「そ、そんな・・・」

グラスの水を口に含むと
冷たい液体がのどをすっと通っていった

「あゆみにも、言えない事だったりする?」




うん・・・言えないこと


「ウチだったら、言える?」



あなたが、好きだってことを・・・?


「リーダーさん、に、ですか?」


言えば、どれほど楽になるだろう

だけど、それ以上にわたしは
背負う事になる
捨てる事になる

800 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:14

「そう・・・」

あなたは相変わらず優しい笑顔でわたしをみつめる

その笑顔が、どれほどわたしを苦しめているのか
あなたは知らないでしょ?

でも、憎んだりしないよ
悔しいなんて思ったりしない


「フフッ」
「なに?どうした?」

「恋、してるんです」
「おお」

「片思いです」
「・・・・・」

「多分、消さなきゃいけない、思い」
「・・・どうして・・・?」

「相手が、いるから」
「そう、なんだ・・・」

ほぅと息を吐くあなた

やっぱりあなたは優しい人なんだね

わたしの事を少しだけでも思ってくれてるのが
「やりきれないね」って言いたそうな顔で伝わったもの


「でも、いいんです・・・」
「どうして?」

「その人といると、その二人を見てると、わたしも幸せになれるから」
「・・・・・」


「幸せに、なってほしい・・・わたしの分まで」


「梨華ちゃんは、幸せにはならないの?」
「・・・そういう人が、現れたら・・・」


「現れるよ」

801 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:15



  待っていれば、現れますか・・・?



  わたしの中の天秤は



  比重がどちらに向いてるのか



  もう 分かってしまった





  生まれ変われば


  あなたと一緒に 幸せになれますか・・・?



802 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:17

「フフッ・・・そっか・・・」



わたしはグラスをテーブルに置いた

思いに気づいた瞬間
わたしの恋は終わった

人の恋人を
親友の恋人を好きになるだなんて

はじめっから結末がわかってるじゃない



勝ち目、ないよ

803 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:18



「ねぇ、あゆみに言えないことだったの?」
「え?」

「恋の話って、しそうなの、に・・・」



そう言って彼女は口をつぐんだ

何かに気づいたように、少しだけ目が揺らぐ






「泣かないで・・・」

気がついたのは、わたしが涙をこぼしたからだったんだ
お願い、止まって・・・

「そう、か・・・」

彼女がそっとわたしの頬に触れる
涙の後を、指で拭う

そんな優しくしないでよ

あなたは柴ちゃんの涙を拭う人なんだよ?
わたしのこんな汚れた涙なんて拭っちゃいけないんだよ


「ごめんなさい・・・」


わたしの口からは謝罪の言葉しか出てこない
誰に対する謝罪なのか・・・


「・・・・・」

「ごめん、なさい」

「・・・ううん」

804 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:19


 グイッ

強く引き寄せられて
わたしはあなたの胸の中に飛び込んだ

だめ、だってば・・・


「・・・これくらいしか、してあげられない」

「・・・っぐっ、ううっ」


優しさって
時々人を傷つける

この人は、笑顔で人を殺してしまうんだ


だけど、いいよ

あなたの笑顔なら、殺されてもいい

805 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:20


「もっと、早くに・・・もっと遅くに、出会えばよかったのかな・・・」


涙がおさまった頃、あなたはポツリと漏らした

「え・・・?」
「あ、そのままで、聞いてて」

顔を上げようとしたけれど
あなたに制止され、わたしは静かに上下するあなたの胸の中で
響くように伝わる声を聞いた

「・・・正直・・・ウチも・・・ちょっと揺らいでた」


そ、んなこと・・・言わないで


「あゆみから梨華ちゃんの話聞くたびにね・・・」


お願い、お願いだよ
消せると思ったんだから
このまま、あなたに抱きしめられてる事が
最後のプレゼントだと思えたんだから

806 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:21


「惹かれてった・・・」


「でも・・・あゆみの友達だし・・・」


「あゆみのことは・・・好きだけど・・・恋じゃ、ない」
「・・・じゃぁ、何なんですか?」

「分からない・・・もう、ずっと居るから」
「家族・・・?」

「かも、しれないね・・・最後にシたのも、もう、覚えてない」
「・・・・・」


「あ、だからって、梨華ちゃんとヤりたいだけってんじゃないんだよ!?」


あなたは焦ったように言葉をまくし立てた

「フフッ・・・」
「な、なんだよ・・・」

クックッと笑いが止まらなくなった
なんだか、おかしくって

「だって、リーダーさん、焦ってるんだもん」
「そ、そりゃ、あ、ん〜〜」

「フフフッ。おかしい・・・」
「ん・・・おかしいね・・・おかしい、よね」

807 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:22

同じ思いを持ちながら
遂げる事が出来ない

だけどあなたは、消えかけたわたしの火を
焚きつける


「・・・梨華ちゃんの・・・気持ち聞いたら・・・」
「・・・聞いたら・・・?」

「・・・いや・・・なんでもないよ」
「うそ」

「・・・フッ・・・ウチ、ずるいから」
「・・・そう、ですね・・・でも、わたしもズルイです」

「そっか・・・」
「はい・・・」



わたしを苦しめると分かったから
言わなかったあなた

抱きしめる手の強さで、伝わったよ

808 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:22

「どうして、なんだろうね・・・」
「どうして・・・?」

「タイミングなのかな」
「・・・この時代、だからですよ」

「・・・この時代?」
「そう・・・」

「次は・・・出会えますよ・・・」
「・・・来世?」

「そう・・・」
「・・・フッ・・・気の遠い話だね」

「そうです、か?」
「うん」

「待てますよ。わたしは・・・」
「そっか・・・」

わたしとあなたの会話は
まるで、映画でも見ているように
他人事の会話になっていた

どちらも、分かってるから

一線を越えるられない事が
越えちゃいけないことが

809 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:23

「・・・・くるしく、ない?」

それは抱きしめられている事?

「気持ち」
「・・・分かりません」

「そう・・・」
「リーダーさん、は?」


わたしは顔を上げて吉澤さんを見た
少しだけ歪んだ眉
堪えるように、目をぎゅっと閉じてる


辛い、んだ・・・



「辛い?」
「ウチは・・・梨華ちゃんほど、大人じゃ、ない」

「わたしも、大人じゃないです」
「そう・・・?」

「ズルイだけ・・・傷つきたくない、だけ・・・」


だって、消せないから
あなたに抱きしめられて、罪悪感を感じながら
でも、嬉しいと思ってる



「そっか・・・」


進展もしない
だからといって終わりが見えるわけじゃない
果てない会話

いつのまにか、あなたの暖かさで
わたしは眠りについてしまった

810 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 09:24






811 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 09:25
生き急ぐように更新終了w
812 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 09:25
レスポンス
813 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 09:26

>名無飼育さん様
こちらこそ読んで頂いてありがとうございます
そんな感じですw

>774飼育様
数だけを見ると、今までで最少かなと思いまして
けど内容が濃いので、ゲップがw

>名無し読み手様
ウヒョ?
それは喜びなのか驚きなのか気になりますw

>名無様
重いので短編です
いやぁ、苦しいですね
(;T▽T)<あたしが苦しいんだよぉ

レスポンスって書いただけであげてしまった・・・_| ̄|○
814 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 09:27
今回の更新は>>785-810です
夕方にもう一回更新して、夜に最後の更新をするつもりです

生き急ぎすぎでしょうかねー汗
815 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 14:52
更新乙です!
Rinkさんのレス進行は、私にとってはとても心地いいです。
これからも、Rinkさんのペースで楽しませて下さい!
816 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 16:53






817 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 16:53

「ただいまー」

「しーっ」


あゆみがしばらくして帰ってきた
遅かったけど、とりとめて気にするような
関係じゃ、もうない

「どうしたの?」

目で自分の胸の中で眠る彼女を示す

「ああ、梨華ちゃん、寝ちゃったんだ」
「ん・・・なんか、辛い事あったみたい」

あゆみがヤキモチをやくかもしれない
友人が自分の胸で眠ってるんだから

でも、焦って引き離したところで
更に気まずい空気が流れるのは分かってる
別に後ろめたい事をしてるわけじゃない

この状態だけを見ればの話だけど・・・

818 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 16:54

「もうちょっとしたら起こすから、ベッドに運ぶよ」
「うん」

彼女を起こさないようにそっと抱えて
ベッドルームに運んだ


 バタンッ

足で扉を閉めて
広いベッドの真中に彼女を寝かせた

至近距離で見る彼女の顔
辛そうに眉間に皺を寄せて

そうさせてるのは自分だということ

そして開放させる事も、斬り捨てろという事も
していない、自分
819 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 16:55

「んっ・・・」
「ごめん、起こした?」

身体から腕を抜こうとすると
彼女が首に手を回してぐっと引き寄せる


「うぁ!」

慌てて彼女の顔の横に手をついて距離をとった
絡みつく視線
目に一杯涙を溜めてる弱々しいはずの視線が
鋭く突き刺さる


「・・・ねぇ・・・」

「なに」

声を潜めて彼女に返す
壁一枚隔てた向こうにはあゆみが居るから
820 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 16:56




「・・・好き」


 ドクンッ


まさか、言われるなんて思ってなかった
彼女は、決意したのかもしれない


「・・・だめ、だよ」
「どうして?」


あゆみに悪いから・・・?
それとも、傷つけてしまう事が分かってるから・・・?


いや・・・傷つくのが、怖いから


821 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 16:58



いつの間に、彼女に惹かれたのかなんて
もう覚えてない

だけど、あゆみの会話から彼女の名前が出るたびに
心がザワザワと音を立てていた

彼女に会いたがったのは
あゆみは友達の関係を証明したかったからと
思ってくれていた

あゆみにそのままで居てほしいと願いながら
本当の理由は隠して

ずるい、自分


あゆみのことが嫌いになったんじゃない
そこには変わらず愛がある

だけど


胸を騒がせるのは・・・


答えなどもうとっくに出ている・・・

822 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 16:59

「分からない」
「・・・わたしも、わからない」

「え?」
「どうして、言っちゃったのか」


ウチが、ハッキリしないからだね

反していることを分かりきってる二人
越えてしまえば
元には戻れない事を知っているもの同士


だけど、誰に咎められる・・・?

この感情を居直りだと思われようとも
禁忌を犯していることだと言う事も
分かり合っているのだから・・・

隠し通せば・・・



なんて、ずるがしこい考えなのか

823 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 16:59

「ねぇ・・・」
「なに?」


さっきから変わらずの体勢で
彼女は問い掛ける

言葉は無くても・・・目が訴える


そうだね

あなたにばかり、誘わせちゃいけないね







「・・・3日後、台場のホテルにいるから・・・」


「・・・え・・・?」






「決めて」



くるか、こないかを


それだけでいい

824 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 17:00

「・・・分かった」

「・・・もうちょっとお休み。起こしてあげるから」

「うん・・・」


頬に手をそっと当てると
小さな彼女の手が重なった





罪を被るのは、自分だけでいい


自分が言ったのだから

彼女は何も悪くない


825 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 17:02








826 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 17:03

3日後

とあるホテルの一室
ライトアップされたブリッジを見ながら
さっきまでしていた仕事の熱を冷ますために窓を開けて外に出た

仕事仲間と集まって、月に一度こうしてホテルの一室で
なんだかんだと話し合う

その後は決まって朝までいるんだけど

いつもならば、一人か・・・
昔ならあゆみが来ていた



『夜9時に電話ください』

彼女にメールを送った
こんな夜中に来れるわけが無い

フッ・・・それならそれでいい

諦めがつく

827 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 17:04

「・・・もうすぐ9時か・・・」


置いたままの携帯。鳴るはずは無いと分かっていても
どこかでそわそわしてる

「フッ・・・」


こんな気持ち、まだ持ってたんだな
誰かを待つ、ただ純粋な気持ち
声を聴きたいといただそれだけの・・・

断られても、それでもあなたの声が聴きたい




  ♪♪♪

え・・・
まさか・・・


ソファでグッタリしてた身体が
電子音だけで飛び起きた

携帯を見ると
あの人の名前が表示されていた

828 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 17:05


 ピッ


「・・・もしもし」
『もしもし』

何を言えばいいんだろう
まさかかかってくるなんて思わなかったから
言葉が出てこない

『どこに、行けばいいですか?』
「ああ・・・今どこ?」

彼女は家のある横須賀ではなく、都心にいるらしい
ずっとどこかで時間を潰していたのだろうか・・・
ホテルの場所を言うと

『今から、行きます』
「・・・ああ、わかった」


胸が急かすように早くなる

おちつけ
まだ何かが始まると決まったわけじゃない
終わりがくるかもしれないのだから


そう、どのみち、これで終わりなんだ

829 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 17:05

  ♪♪♪

「もしもし?」
『あの、着きました』
「んじゃぁ・・・」

自分の居る部屋番号を言うと
今から行きます。それだけ言って電話が切れた




 ピンポーン

「はい」

 ガチャッ

彼女はコートを腕にかけ、俯いていた
830 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 17:06


「・・・入る?」
「・・・はい」

「コート、預かるよ」
「・・・・・」

手を差し出すと、ぎゅっと手を握って
コートを手放そうとしなかった



なるほど・・・











「お別れを・・・言いに来ました」

831 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 17:07







832 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 17:08
生き急ぎ系、更新終了です
833 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 17:11
レスポンス

>名無飼育さん様
急いだり緩めたり、なんともこうラマーズ法な更新で
申し訳ないですたいw


今回の更新は>>816-831です
それにしても21時が夜中なわけがないのに・・・
ミスりましたすいませんm(_ _)m

今日の深夜で今回の『恋人』終了となります
エロります。
834 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 17:18
2回目の更新乙です!
じゃあ「ヒッヒッフー」しながら
更新を楽しみに待ってますw
835 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 19:02
更新お疲れ様です。
ペースがはやくてうれしいです。
なかなか、大変な展開ですね。
二人がどうなるのかを、見守りたいと思います。
836 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2006/01/27(金) 19:03
更新ご苦労さまです。
生き急ぐも何も、それがRinkさんのペースじゃないですかw
付いていきますとも!
夜中の更新で萌え転がらせて頂きますw(宣言

837 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:03








838 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:08





「お別れを・・・言いに来ました」





839 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:09


「・・・そう・・・じゃぁ、一杯付き合ってよ」


グラスを取り出してウィスキーのボトルを空けようと引出しを開ける






「・・・もう、柴ちゃんとも、会わない」





「え?」

彼女は真っ直ぐウチを見つめる

840 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:09

「どう、して・・・」

「柴ちゃんのことが好き。唯一の親友って言える人」
「じゃ、あ、なんで」
「だけど、リーダーさんのことも、好きだから・・・」

「だったら、そんな」

「親友を裏切ったから・・・こうして二人で会うのも・・・」
「だからって、そんな」


「リーダーさんを好きなのに、柴ちゃんと親友でいられない
 柴ちゃんに嘘をつきながら、リーダーさんの事を思うのが辛い」



「だから・・・終わりに、します」


グラスをテーブルの上に置く

「そう・・・」

841 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:11

「最後に・・・お願いがあるんです」
「なに・・・?」



「わたしに、勇気をください」
「勇気・・・?」

「一人で、生きていく、勇気」
「どうして!」



「・・・もう、自分の中のタブーを犯したから
 わたし、決めたんです・・・」



「もう、誰も愛さないって・・・」

842 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:12







「だから・・・」








「・・・抱いてください」





843 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:13


そんな・・・残酷だよ





「お願い・・・分かっています。だけど、勇気がほしいんです」




「もう、それだけで、乗り越えられるから・・・」




取り乱すことなく、落ち着いて話す彼女
潤んだ目から零れ落ち、静かに熱いものを伝った




彼女の涙を指で拭う





「・・・わかった」



844 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:13




「一日だけ・・・恋人同士になろう」





「はい・・・」




845 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:15


彼女の腕を引いて、強く抱きしめる
パサッと足元にコートが落ちた


「はぁ・・・」
「どうしたんですか・・・?」


胸の中に居る彼女の声がくすぐったい
肩に顔を埋めて息を吸い込むと、甘い香りが広がった

「やっぱり、大人だね」
「そんなこと、ないです・・・」

「そうだ・・・恋人同士なんだから、『リーダーさん』は無しだよ?」
「はい・・・」

「それも」
「・・・うん・・・」


846 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:15


彼女を抱きかかえ、ベッドルームに移動する

カーテンが開かれ、夜景が真っ暗な部屋に浮かび上がっていた


「きれい・・・」

「フフッ・・・」
「なあに?」

「クサイこと言っていい?」
「うん・・・」

首にしがみ付いていた彼女は
ウチを見上げるように、顔を少し上げた

「梨華のほうが、きれいだよ」
「はずかしいよぉ・・・」

耳元で囁くとまたぎゅっとしがみ付いて顔を隠した

「ねぇ、顔上げてよ」
「やだ・・・」
「キスしたい」

「・・・うん・・・」


847 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:16

彼女をベッドにそっと寝かせながらキスをする

心が震える

触れるだけの幼いキスなのに
こんなにもドキドキするなんて

「・・・なんか、ガキみたい」
「なに、が・・・?」

キスの合間にポツリともらすと
吐息交じりであなたは答えてくれた

「ドキドキ、してるんだ」
「・・・わたしも、だよ・・・聞いて?」


胸に耳を当てると、彼女の生きている証しが強く聞こえてきた

「ほんとだ・・・」

「リーダーさんに、恋してるから・・・」
「こら」

「・・・ひ、とみに・・・恋してるから」
「ウチも・・・梨華に、恋してる」





「ううん・・・愛してる」

「・・・うん・・・わたしも、ひとみのこと、愛してる」


848 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:17


服が肌を擦れてベッドの下に落ちる

まるで初めてする時のように、彼女の胸に顔を埋めては
ため息とも吐息とも思える息を吐きながら
一つ一つ確かめて

なんども、口づけをする

甘く、熱く絡み合う

髪を撫でて、首筋、鎖骨、肩に滑らせて


ベッドサイドのぼんやりとつく明かりが
彼女の顔を照らした


フフッ・・・お互い、初恋で
初めてなんだね

849 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:18

「梨華・・・顔見せてよ」
「やだ・・・はずかしっ、んっ!」

「ねぇ・・・」
「んっ、あ・・・はぁ・・・」



裸がこんなにも気持ちいいだなんて
初めて知ったよ



「ひと、み・・・んっ、っくぅ!」
「はぁ・・・梨華・・・・」



たった3文字なのに
名前を呼ぶだけでこんなに胸が締め付けられるだなんて
初めて知ったの



850 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:19

「もし・・・」
「も、し?」

お互いの息が、熱くなってもう言葉にもならないけど
合間から、聞き返す

「生まれ変わっても・・・探し出すから」
「うん・・・っくぅ!」

「今度は、恋人に、んっ、なろ・・・」
「う、んっ・・・わたし、も、探す、か・・・らぁ・・・」


「んぁ、梨華ぁ・・・」
「んんっ、はぁ、ひ、とみぃ!!んぁあ!」

「爪、立てていいよ」
「んぁ、はぁ、だ、めぇ、だよぉ」

「いいから・・・」
「だ、って・・・」


「忘れて・・・」


「んっくぅぅ!!」

痛いほど食い込む爪が
言葉とはうらはらに、もっともっととせがんでくる


851 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:20

「んっぐぅ!ふぅ、んんぁ!」
「梨華、梨華ぁ・・・」


「ひと、み・・・んんんんっ!」
「りか・・・りかぁ・・・んぁ・・・」



「い、っちゃう、っちゃうう」
「んぁああ」





「んやぁあああああ!!」



852 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:21


時間も忘れて、何度も抱き合った
キスする合間、息をする事さえも煩わしくなる

抱きしめあって、見詰め合って
またキスをする


肌の熱さ、髪の柔らかさを
何度も確認して

惜しむように



853 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:22







「このまま、時間が止まればいいのに」
「そうだね・・・」


あなたがわたしをキツく抱きしめながら
少しだけ髪を息で揺らす


「まだ、する?」
「んん・・・このまま・・・」

「うん・・・」



ふわふわとした感覚に包まれて
あなたの暖かさにくるまれて
まどろみたい

このまま、ずっと・・・







だけど、明けない夜はない



854 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:22








855 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:23





「・・・ありがとう」
「こっちこそ・・・」

「勇気もらえた」
「うん・・・ウチも」

「じゃぁ・・・さよなら」
「・・・またね」




もう二度と会うことはないけれど
今度会う時は、恋人同士で会おう

何世紀先でも

わたしはあなたと出会う


それだけで、わたしは元気になれるから

856 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:24


わたしはこの街から離れる事を告げるため
柴ちゃんに会った

本当の事を言うつもりはない
ただ少し実家に戻るから、しばらくは会えないと
ソレだけを告げるために


「そっか・・・家が大変じゃ仕方ないよね」
「うん・・・ごめんね」

「でもさぁ、しばらくしたらまた帰ってくるんでしょ?」
「ん〜、いつとは言えないけどね・・・」


そう、いつとは、言えない・・・

857 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:25

「ひとみも会いたがったんじゃないかなぁ」
「フフッ、だといいね」

「結構気にいってたと思うしさー」
「え?」

「梨華ちゃんのこと」
「そうなんだ・・・いいの?そんな事言ってて」

「あー、別に。ひとみが浮気とかするようなガラじゃないだろうし」


浮気・・・
どこまでが浮気なんだろう

本気になってしまえば・・・浮気は浮気じゃない

858 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:26

「もし、もしよ?あたしの親友となんてさー?」


余裕・・・


初めて本気で憎いと思ったかもしれない


愛情の背中合わせの憎悪

だけどあなたは何も悪くない
お門違いな感情


「ひとみって優しいけど、ヘタレだしさー?」


だめだ・・・よくない事ばかりが思い浮かぶ

でもさ・・・あんな素敵な彼女がいるんだよ?柴ちゃんには



もっと大切にしてあげて

わたしの分まで


「そう?」
「うん、結構ねー」
「そうなんだ・・・」

859 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:27


「ん?どうした?」


俯いていた顔を真っ直ぐ柴ちゃんに向けた




わたし・・・









「寝たよ?」



「・・・え?」










「ひとみと」



860 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:29

柴ちゃんの顔からサッと血の気が引くのが分かった
うっすら開いた口が何かを言いたそうにしてる

けれど言葉が出てこないのか
息を小さく吸い込んでる



わたしは口の端を少しだけ上げて
ニヤリと

笑った




心の中で悪魔が笑うように

861 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:31






「・・・なーんて、言ったらどうすんのぉ?」
「ふ、え!?」

「冗談だよ!なんでリーダーさんと寝なくちゃいけないの」
「え、ええ?」

「柴ちゃん、贅沢だよぉ?ほんと。余裕かましすぎ!」
「あ、え・・・えええ!?」

「嘘だよ?」
「・・・じょ、冗談きついよぉ!!」

「フフッ、ごめんね?」


これくらい、いいかな
だって、アナタが本当に羨ましかったの

お願いだから、わたしの分まで愛してあげてよ


「じゃぁ、そろそろ行くね」
「あ、うん。またね!」


「バイバイ」


862 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:31


もう、たぶん、会わないと思うから
バイバイって言った
あなたにも、あの人にも


わたし、忘れないよ
たった1日だけ恋人で居られたあの時間

あなたがとても情熱的だったこと
あなたをとても愛しくて、恋しくて
本気で愛していたから






いつまでも、忘れない


わたしの恋人

863 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 22:32










864 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:04





  バンッ!!




「やだぁぁぁぁ!!」



「ちょ、ちょっと、梨華ちゃん落ち着いてよ」
「落ち着いてられる!?」

「いや、仕方ないじゃん・・・」
「仕方ないとか言っても嫌だよ!こんな役!!」

865 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:05


なんで梨華ちゃんがこんなにご立腹なのか


新しく始まる新ドラマの台本を渡されて
役作りがどうのとかよりも
自分の中で許せない浮気を堂々としてるから・・・らしくって・・・

台本をバサバサ上下に振ったり、終いには投げつけたりしてる

「やだやだ!!だって柴ちゃんの恋人とっちゃうんだよ!?」
「あ、だから、ドラマだし」

「それにどーしてひとみちゃんが柴ちゃんと付き合うのよぉ!」
「分かりやすくするために当てはめただけじゃん」

「ドラマでも、嘘っこでも、だめなもんはだめ!!」
「ダメって言われても仕方ないでしょ?お仕事だよ?」

「でもぉ・・・」



はぁ・・・ホントに困った子だ

866 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:06

しばらくブツブツ言ってたけど
あたしが紅茶でもいれようとキッチンに立ったら
ちょっとおさまったみたいで
今度はグズグズすすり泣く声が聞こえる


「どしたぁ?」
「だってぇ・・・」

許せないんだね・・・感情移入する子だからなぁ、梨華ちゃんは
キッチンから紅茶のポットとティーカップをトレーに乗せて運んでくると
ティッシュを掴んでは目と鼻を拭ってる

あたしは隣に座って、ぎゅっと抱きしめた


「よしよし・・・」

「辛いよぉ・・・」

「誰が?」
「・・・みんな・・・」

そうだね・・・終わりが、無いものね

「結ばれ、グスッ、無いんだもの・・・」
「そうだけど・・・」
「グスッ、いやだよぉ、一日だけ、んぐっ、なんてぇ」


あのぉ、石川さん?
あたしたちの関係が一日なんじゃないんだからさ
ちょっと落ち着いて?もとの世界戻ってきてくれないかな?

867 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:09

「や、梨華ちゃん、あのさ・・・」
「分かってる!・・・分かってるけどぉ」

「ん・・・」

まぁ、もう、好きなだけ泣きなよ
あたしはずっと居るから


それにしても事務所もこんな仕事取ってこなくたっていいと思うんだけど
どうしたんだろう、何を解禁させたかったんだ?
よく分からないや・・・

いくらあたしたちの事が公になったからって
こんな風にしなくてもいいと思うんだけど

別れろとかいう仕事でのアピールじゃないだろうな・・・

868 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:10


「ねぇ・・・ひとみちゃん」
「なあに?」

胸に埋めた彼女の顔がヒョコッと姿をあらわす
もう何度も見ているはずなのに上目遣いには弱いらしくって
ついつい顔がほころんでしまう

「もしね・・・こんな状況に立ったら、どうする?」
「どうするって・・・」

「わたしがさ、誰かと付き合ってて・・・」
「あたしが梨華ちゃんを好きになったら?」

「うん・・・」


この涙を止めるには・・・ごまかしはきかないってわけか





「掻っ攫う」

「ふぇ??」

「ふぇ?じゃなくって・・・掻っ攫うっつってんの!!」


あたしは恥ずかしくて
ギューッと梨華ちゃんを抱きしめた

869 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:11


ひとみちゃんがそんな事言ってくれると思ってなかった。
突然だったし・・・それにいつも以上に強く抱きしめられて

照れながら、でも、彼女の本当の気持ちだって伝わった



「フフッ・・・」
「んだよ・・・」

「うれしいの」
「あっそ」

そーっけないんだぁ
でも知ってるよ?本当に本当に恥ずかしいんでしょ?


870 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:11


 チュッ

「!!!」

「エヘヘッ。お礼だよ」
「な、なんの、お礼だよ・・・」

「ん?・・・ひとみちゃんがあたしのこと
 と―っても好きだって事知れたお礼」
「いつだって、言ってんじゃん・・・」

「言われてませんーだ!」
「言ってるっつの!」

「んじゃぁ、もう一回聞かせて?」
「なにを」

「さっきの言葉」
「・・・・・」

んっぐぅなんて言葉に詰まってる
ほーんとひとみちゃんって純粋で、とってもシャイなんだから

ひとみちゃんの腕をほどいて、今度はわたしが抱きしめる

「ひとみちゃんが言えるときでいいから・・・言ってね」
「・・・ん・・・」

「いつでもいいよぉ?」
「チッ・・・」

「フフッ」
「フッ・・・」

871 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:12

「あたしたちってさ、恋人同士じゃん?」
「な、なに、いきなり」

「答えてよぉ」
「そ、うだよ?」

「でも愛し合ってるよね?」
「ん。うん・・・」

「愛人って言うと違う意味になっちゃうじゃん?」
「うん・・・」

「なんて言えばいいんだろう・・・」
「ん〜〜〜」


「・・・やっぱ恋人なのか」
「そうだね」

872 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:13

「こうすれば?」
「え?」

「生まれ変わっても、また出会える恋人同士」

「・・・やぁだぁ」

「だってあたしたち昔会ってたんでしょ?」
「って占いに出てたよね」

「ずっと一緒とか、言わなくても、嫌でも梨華ちゃんとは出会うんだよ」
「嫌でもって・・・もぅ・・・」


「なんで拗ねるかな・・・気づけよな・・・」
「言って欲しいの!」



「・・・・・梨華ちゃん、とは、運命・・・だから・・・」
「・・・うん!!」


「運命の、恋人・・・素敵・・・」
「分かった分かった!照れるからもういいって!」

873 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:13


昔出会っていたその時の記憶は
今は覚えてるわけもなく・・・

でも
たとえ、ひとみちゃんの事を忘れていたとしても
またあなたと出会って同じ事を言うと思うの


運命の恋人って・・・






また、抱きしめて


そして、いつも抱きしめていて



874 名前:恋人 投稿日:2006/01/27(金) 23:14





『運命の恋人』

(#´▽`)´〜`0) <おしまし♪


875 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 23:15
更新終了&完結です
876 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 23:16
レスポンス

>名無飼育さん様
( ^▽^)<ご出産おめでとうございまぁっす!
(0^〜^)<立派な男の子ですよぉ〜
というわけでおめでとうございますw

>名無飼育さん様
こんな感じになりました
丸め込み感たっぷりで本当に申し訳ないですw

>孤独なカウボーイ
いやぁ、なんか人より心拍数が早い気がして
早死に死ぬんでないかと心配でw
萌え転がれましたでしょうか?
ありがとうございます
877 名前:Rink 投稿日:2006/01/27(金) 23:19

今回の更新は>>837-874です

あえてタイムラグをつけて色っぽいじれったい感じにしてみましたw
イライラ感募りまくりでごめんなさいw
狙いなんです、狙い!


今回の更新で、Rinkはしばらくお休みします
大体1ヶ月位だとおもいます。
次はまた別スレを立てて、そこで長編を二本程上げたいと思います
新スレ告知はここでさせていただきたいと思います

読んで頂いてくださった読者の皆様
本当にありがとうございました
また、さっくり現れますのでその時は何卒よろしくお願いします

               Rink 

878 名前:ソウ 投稿日:2006/01/27(金) 23:21
ううっ・・・何だか最近の自分の身に起こった出来事とシンクロしちゃった(/TДT)/あうぅ・・・・
879 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 23:42
3回目の更新&完結、乙です!
いやぁ、ありがとうございます!w
感想としては、「玉のような子」を生んだような
スッキリした気持ちでありますw(生んだ事ないけどw)

これからも楽しみにしていますねっ!
880 名前:愛虎 投稿日:2006/01/27(金) 23:46
更新お疲れ様でした。
ネタばれしそうなので一言「おもしろかった!!」
1ヶ月ゆっくり休んでください。そして、また、
素敵な作品を読ませてくださいね。待ってます。
881 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 23:56
完結お疲れ様です

作者さんのサイトに先に結末書かれていたのには正直萎えました
それがなければもっと楽しめた気がします

882 名前:774飼育 投稿日:2006/01/28(土) 00:16
更新疲れ様でした
そんなオチだったとは
流石に予想が付かなかった・・・
まぁ1ヵ月お休みされるというので
十分お休みになってください
883 名前:名無 投稿日:2006/01/28(土) 04:26
更新・完結お疲れ様です。
短編だったんですね〜^^
ドキッとするところ多かったですw
また長編も楽しみに待ってます☆


884 名前:名無読者 投稿日:2006/01/28(土) 14:18
更新お疲れ様でした。

リフレッシュされて戻って来られるのを待ってます!
こちらも気分一新しておきますw
885 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:15







886 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:16


ありがとう

ごめんなさい


すき

だいすき

あいしてる



5文字以内の言葉を口にする事が
どれほど勇気がいって
どれほど心が苦しくなるか

あなたと居て
初めて知りました



ありがとう

ごめんなさい


すき

だいすき

あいしてる


とてもシンプルな言葉が
これほど幸せで
これほど強くて優しいのか

あなたと居て
初めて知りました


887 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:16


「ねぇ、よっすぃー」
「ん?なに?」

あなたは最近、梨華ちゃんと呼ぶ
わたしは昔ひとみちゃんと呼んでいたけれど
よっすぃーが定着してしまったせいもあって
照れて呼べなくなった


あなたの名前
あなたを表す、この世にたった一つしかない
あなたの名前なのに




「ねぇ、梨華ちゃん」
「ん?なあに?」

あなたはずっと、よっすぃーと呼ぶ
あたしは昔石川と呼んでいたけれど
やっぱり梨華ちゃんは梨華ちゃんだと思うから
この呼び方に戻した


あなたの名前
あなたを表す、この世にたった一つしかない
あなたの名前だから

888 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:17

「ラジオでも言ってたけどさぁ、なんでひとみちゃんじゃなくなったの?」
「ん・・・だってぇ」
「なに?聞きたい!そこんとこ詳しく!」
「ちょ、ちょっと、よっすぃー、近いから」

「ねぇ、なんでよ」
「なんでって・・・だって・・・クセ、みたいなかんじ?」
「くせぇ〜?」
「そんな顔しかめなくたって・・・だって、みんな呼んでるし」
「みんな呼んでるからってさぁ?んじゃみんなが死ぬって言ったら死ぬの?え?」
「そんな小学生みたいな事言わないの!」
「んだよ・・・ちぇっ」

889 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:18


リーダーをする事
リーダーである事
お互い違うグループだけれど、同じポジションで
それなりに悩みを抱えてる

必ず評価はされる
数字が全てだと言われる
結果で自分たちを見定められる

それはいつだって同じ
誰が居て、誰が抜けたとしても
変わらないこと


だけどそんな事を表に出すことは
絶対にしちゃいけない
笑顔をいつもキープして、体調管理だってしっかりやって
モーニング娘。の吉澤ひとみ
美勇伝の石川梨華
という、キャラを作る


ときどき・・・
疲れることだってある

890 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:18

「ふぅ・・・」

彼女はソファにグッタリもたれるように座り込んだ
疲れてるのはみんないっしょだけど
この人は抱え込むタイプだから余計に辛いんだと思う

「ねぇ、よっすぃー?」
「ああ?」

腕で顔を隠すように乗せたまま、だらしなく返事した
こんな姿はわたしにしか見せないんじゃないかな

『天才的にかわいい』
オーディションでそう言われていた彼女
だけど、実はカッコいい王子様キャラだった彼女

でも、本当の本当は
ガラスの心で、純粋で、繊細で
いつも不安なんじゃないかって思うほど、奥底で何かに怯えてる


わたしはぎゅっと彼女を抱きしめる

「んぁ?どしたぁ」

どうした?だなんて・・・
それはこっちの台詞なのに、こんなときまであなたは人を思う
馬鹿がつくほど優しい人

「んん、なんでも、ないよ?」
「なんでもないぃ?」
「うん、なんでもない」

胸からすぽっと顔を出して
わたしをじっとみつめてくる

大きな瞳はいつも潤んでいて
その奥ではいつも震えているのに
わたしにさえも、入れないテリトリーのようななにかがある

891 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:19


「あっうぃ〜〜〜〜ん!」

そして、本当に馬鹿だったりする・・・
変顔しなくていいの!

シリアスな空気が好きじゃないのも分かってる

「んもう」
「あはははは!怒った怒った!」
「どうしてそんな顔するかなぁ〜!」
「だーってさぁ?」
「なによぉ」
「梨華ちゃん、笑ってるほうがかわいいんだもん」
「・・・照れるじゃん」

バッと身体を離すと
逃がすもんかと腕を掴んできた

「もうちょっと」
「え?」
「もう、ちょっと・・・」
「うん・・・」

腕を引かれて、今度はわたしが抱きしめられる
その力は優しいのに、何故か心が痛む

892 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:20

「ねぇ、よっすぃー?」
「ん?なに?」
「・・・ねぇ、ひとみ、ちゃん」
「うぅわ!いいってば」
「なんでよぉ!」
「だってコントみたいって自分で言ってたじゃん」

気にしてたんだね・・・ごめんね

「呼びたい・・・みんなの前じゃ、言えない、けど・・・」
「どして?」

じっと顔を覗き込まれる
その顔はいつも穏やかで、わたしの心を溶かしていく
どんな些細な事でも気づいてくれるあなた

よく、鈍感だとか、ヘタレだとか言われてるけれど
そうじゃないってわたしが1番知ってるの

彼女は気づいてる
相手の気持ちを。
分かりすぎるくらい受け取っちゃうから
だから結局何も言えなくなる
傷つけてしまうんじゃないか、自分は言える立場じゃないんじゃないか

そうやって、自分を足止めさせてることを
わたしが1番よく知ってる

893 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:21


「みんなが、呼ぶじゃん・・・」
「あっははは!なーんだ、そんなこと」

ほら、やっぱりねって顔をする
わたしがヤキモチ妬きで、独占欲が強い事を
知ってくれてるから
だから、今も、今までも
強要しなかった

「そんなことってさぁ・・・?」
「なあに?」

さっきよりも穏やかな顔になる
人はそれをデレデレだって言うけれど
いいじゃん。
わたしにしかこの人をデレデレさせること出来ないんだし
わたしだから出来ることなんだもん。


「大事だもん・・・独り占め、したいもん・・・」
「フフッ・・・もうしてるよ?」
「・・・もっと、したいの」
「もっと?」
「うん・・・もっと、頼って欲しい、もっと、言って欲しい」

894 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:22







895 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:23


『お姉さんだから』

そう言う彼女は、責任感が強く芯を持っている
真っ直ぐで、直球しか投げられない

泣いていることはしょっちゅうだった
だけど負けず嫌いだから、絶対負けないって気持ちが彼女を強くした

あたしはどっちかっていうと
「いいや、もう」って思うタイプなのかもしれない
本当は心の底で、悔しくて、腹が立って
でもそれを上手く表現出来ない

だから彼女が羨ましいと思う

泣いて笑って怒って拗ねて
時々力みすぎてから回りするけれど
全部をストレートに表現できる彼女の事が



今はフットサルをして、昔を思い出すような事をしている
たった数十分の間に結果が全て出る
それなりにちやほやされて、縛りのキツイ日常にも慣れて
いつのまにか温いと感じていた生活を
少し変えてくれた

瞬時に決断を自分で下す
スリリングでとても楽しい

けれど・・・
責任あるポジションについた自分は
楽しいだけじゃない事も抱える

896 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:24

「ねぇ?」
「・・・ん?」

長くなった髪を撫でていた手を止めると
目じりを情けなく下げる彼女に気づいた

情けない顔するんじゃないよ

・・・って、あたしがさせてるのか


「考え事してた?」
「ん、ちょっとね」
「何考えてた?」
「・・・いろいろ」
「聞かせて?」
「言うほどのもんじゃないよ」
「いいの、聞きたい」
「ん〜・・・大変だなぁと思って」 
「なにが?」
「これから・・・と、今か」
「これからと、今」
「うん」


その先の事は言わなくても分かってくれてる
自分が抱え込んでしまう人間だと言う事も

甘えだと言われると、それまでだけど

言えない言葉を無理に引き出そうとしない
それが彼女の優しさだと思う


それに、自分よりも彼女の方が辛い状況なのかもしれない
だから自分はそっちを優先する


だって・・・

いつかボキッと折れるんじゃないかって思うから

こんな細い身体で
こんな小さな身体で

全てを受け止めようとしてるんだから


897 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:24

「ねぇ、ひとみちゃん?」
「ん・・・なんか痒い」
「もー、いいからぁ」
「ごめんごめん」

手をぎゅっと握ってお互いの温度を確かめる
こんなにそばに居るのに
息がかかる距離なのに
それだけで嬉しくなって、胸がチクリと痛む

「全部、吐き出していいんだよ?」
「え?」
「辛い時は辛いって、苦しいときは苦しいって・・・」
「ん・・・」
「言っていいんだよ?」


「出して、いいんだよ?」


「欲しがって?・・・少しずつでいいから・・・」



898 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:26



どうやってあなたに伝えよう

ねぇ、この気持ち


恋の歌は山ほどある
その中によく似た歌詞だってたくさんある

当たり前すぎて、平凡すぎて
鼻で笑ってたことあった

だけど、憧れてた


歌だったら、言えるのに
歌なら、歌えるのに


人には簡単に「言えよ」って言えるのに
自分の事になると臆病になる

あなたに気持ちを伝えるだけなのに
1番伝えたい人に言うのが
これほど勇気がいるだなんて


899 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:27



「・・・ねぇ、梨華ちゃん」

「ん?なあに?」




「好きだよ」



「・・・どんなことあっても、変わらない」


900 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:27


「ん・・・」
「まぁた、泣くぅー」
「ごめ・・・グズッ・・・ごめ」
「フフッ・・・いいよ」

「わた、しも、グスッ・・・ひと、みちゃんが、大好き」


大、付けられちゃったよ
ハハッ


「泣いちゃ、言えなく、なるって、グスッ、分かってる、のに」
「ん〜?」
「ごめん、ね」
「ううん・・・こっちこそ、ごめんね。いつも不安にさせて」
「ううん、いい・・・グスッ」


「・・・ありがとう」
「ありがと」


901 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:28


ちゃんと言えるから
時間はかかっても
たとえこの小さな箱の中だけの世界だとしても
あなたと出会って
あなたと惹かれあって
それを偶然というのか
運命というのか

今はまだ分からなくても

1番伝えたい言葉を
声にして言えるから


902 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:28

「・・・梨華ちゃん」
「なに?ひとみちゃん」

「・・・・・」
「まだ痒い?」
「・・・慣れた」
「フフッ」

「ひとみちゃん」
「なに?」
「ひとみちゃん」
「なに」
「ひとみちゃん」
「だからなに!」

「今までの分言うのー」
「まとめて言うなよ」
「いいじゃん。我慢してた事がなんかさ・・・」
「なに?」

むーっと突き出された唇
悔しかったんだね?



  チュッ


「ん!!」
「かわいい、その口」
「んもぅ・・・」

照れる顔も拗ねた顔も、怒った顔も好き
本番中なのにあたしに必死になろうとしてる
真っ直ぐな彼女の思い
恥ずかしいけど、好き

その後必ずする、切なそうな顔も
不謹慎だけど、好き

903 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:29



  チュッ

「ん!?」
「おかえし〜!」
「んだよ・・・」

余裕ぶった笑みも、凛々しい横顔も好き
オフの時、とろっとろに溶けきったわたしにしか見せない
甘くて柔らかなあなたの思い
くすぐったいけど、好き

その後必ずする、気を使ったアホ顔も
呆れちゃうけど、好き

904 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:30


仲間で、ライバルで、繋がりあっていて

恋人で、最愛の人で



全部まとめて言える言葉ってないのかな



ひとつひとつが積み重なって
大きなものになることを
いっこいっこ説明してたら
いくら時間があっても足りないよ

あなたがどれだけ大切か
あなたをどれほど思っているか


時間かかってもいいよ

あなたはそう言うかもしれないけれど

905 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:30




「「・・・・・」」

「何考えてた?」
「ん・・・」









「「   あいしてる   」」





ハハッ!同じ事考えてたんだ
そうみたい。フフッ


906 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:31

「じゃぁ、愛の確認でもしますかぁ?」
「そんなの確認しなくてもいつでもしてよ!」
「うわぉ!・・・いつでも、って」
「腰は強くなったんだから!」
「もう、リアルだから!!」
「だぁって、ひとみちゃんあれ見てテレビにかぶりついてたじゃん」
「だって、エロいじゃん!!」
「エロって仕方ないでしょ!自分だって開脚してるくせに」
「わーー!言うな言うな!!」
「「アハハハッ!!」」





  バタンッ



ここからは内緒♪



907 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:31








908 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:32


  キィ・・・




「梨華、ちゃ・・・確かに、腰、つよ」
「でしょぉ?」
「んっぐっ・・・うわ・・・」
「んぁ・・・はぁ・・・」

「エロいっ、っく」
「もぅ・・・」
「こ、こ、腰、ってか、動き、エロ、ぐふっ!」
「ひとみちゃん・・・もぅ」

「梨華ちゃん、最近、んっ、色っぽいし、ふぁ、エロっぽ、んだ、よ」
「はぁ、んっ、エロっぽいって、なによぉ」
「だって、心配じゃん」

「・・・ひとみちゃんが、綺麗にしてくれるんだよ?」

「・・・あたし、なの?」
「そうだよぉ?」

「・・・それは困った」
「困らないで、いいよ」

「どうして」


「ひとみちゃんしか居ないから」
「ん?」


「わたしのこと、独占できる人」




「独り占め、していい?」


「いいよ・・・して?」


909 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:33



もうとっくに、なってるよ

なにが?


梨華ちゃんの、奴隷?




わたしもなってるよ

なにに?


ひとみちゃんの、奴隷・・・




なんか・・・やだ
やだね・・・

じゃあどうがいいのさ
・・・困ったね

ほんと、困った


もういいよ!ねぇ、しよ?
うん・・・



910 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:34


「もっと、して」
「もっとって・・・つ、つよっ、ぅあぁ」

「ねぇ、ひとみちゃ・・・んはぁ!」
「梨華、ちゃ・・・んん!」

「ひとみ、ちゃん、んぁ!んぁ、しか見れ、ないんだ、よぉ?」
「んっ・・・し、ってる・・・あああ」

「んっくぅぅう」
「あたしも、梨華ちゃん、しか、見せれない」

「んっ・・しって、る、っふぅぅ!」
「うん・・・んっくぅ」



かさなって
とけあって
まざりあって

温度がひとつになる

顔も、身体も、声も、言葉も、心も、温度も

ぜんぶぜんぶぜーーーんぶ



あなたのもの

わたしのもの


911 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:35



「梨華ちゃ・・・んっくぅ、んぁ!ああ、んっ、あいし、てる」

「ひと、みちゃ、んぁ!んひゃぁ!あい、してる、よぉ」




抱きしめて キスをかわして
抱き合って 求め合って
呼び合って



もう いいよ

全部がどうなっても


色々考えたって
答えなんて出ないから


912 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:36


あなたがいればそれでいい

あなたの思いが伝わって受け取れる
自分が居ればそれでいい



あなたと歩いていける未来があるから



幸せじゃん


913 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:36



「ほんと、強すぎ・・・」
「んぁ、はぁ・・・はぁ・・・で、しょ?」

「梨華ちゃんだけ、おかしいもん」
「なにが、よぉ!」

「腰」
「ちょっとぉ!」

「あのグラインド加減は・・・」
「思い出さなくていいよぉ!」

「あたしのために鍛えたんでしょ?」
「ば、ばかぁ!」

「ハハッ!」
「もぅ・・・」


「フフッ、かわいい」
「もっと言って?」


「かわいいよ、梨華ちゃん」
「もっとぉ」

「世界で一番かわいい」
「世界ぃ?」

「・・・宇宙一」
「ウフッ、フフフッ」











「きもい」

「もーーーーーーーー!!!」


914 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:37



「宇宙一、銀河一、愛してる」


「でっかぁぁい!フフッ♪」


「ちっちゃな銀河系だなぁ、おい」
「もう、いちいちそういうこと言わなくていいの!」
「へーい」

「銀河一、愛してるよ」
「うん」

「あいらーびゅー、あいにーじゅー、あいうぉんちゅー」
「もー、ムード台無し・・・」



「んじゃぁ、もう一回ムードあること、する?」

「・・・うん」


915 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:38



ありがとう

ごめんなさい


すき

だいすき

あいしてる



あなたに 伝えたい
あなただから 言いたいと思う


誰よりも先に
どんな場所に居ても、駆けつけて



1番そばにいるからこそ






  あいしてる




916 名前:ひとりじめ 投稿日:2006/01/29(日) 09:38


『ひとりじめ』


(*´▽`)´〜`0)<おしまい♪



917 名前:Rink 投稿日:2006/01/29(日) 09:40
更新終了です
918 名前:Rink 投稿日:2006/01/29(日) 09:41
レスポンス


>ソウ様
(0^〜^)<ハンケチどぞ!
泣かないでください・・・幸せはすぐそこにありますよ
( ~▽~)<幸せ探しにいきませんかぁ・・・?

>名無飼育さん様
(0^〜^)<ゆでたまごのような子?
( ^▽^)<玉のような子だってば!
ありがとうございます

>愛虎様
長期休暇中に雪山にでも行ってこようかと思ってますw
面白いネタ引っさげてまた帰ってまいります
ありがとうございます

>名無飼育さん様
作者として、あるまじき行為をしたことを
ここでお詫び申し上げます
本当に申し訳有りませんでした
日々勉強、日々精進の精神で、リセットして帰ってきますので
そのときはよろしくお願いします
ありがとうございます

>774飼育様
ええ、そんなかんじで。
作者自身も予想つきませんでしたww
ありがとうございます

>名無様
そうなんです、短編だったんですよ
次回は長編になると思います(多分・・・)
よろしくお願いします

>名無読者様
心機一転して帰ってまいります。
ありがとうございます
919 名前:Rink 投稿日:2006/01/29(日) 09:46
今回の更新は>>885-916です
前のレスで孤独なカウボーイさんの敬称つけ忘れ申し訳ありませんでした
申し訳ないです本当に本当に本当に反省。

前回、最後にするといいつつも
また上げてしまいました
前作品が、誤字が多かった事、消化不良起こしそうな内容だった事
スレを消化しかったと言う事も有り、今回一本上げました

そして朝からエロ満開でしたよほぉ?
( ^▽^)<節操なし!
(0^〜^)<一花咲かせましょうぅ〜!

『気まぐれ更新』
これがRinkの道なのだと思い返しましたw

ということで、しばらく休憩!


( ^▽^)^〜^0) <また会う日まで〜〜♪


920 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/29(日) 21:49
ひとりじめっていう言葉がとても色っぽく感じられます
次作楽しみにお待ちしてます
921 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/07(火) 23:24
いしよしいしよし♪
復活の日を心待ちにしております^^
922 名前:Rink 投稿日:2006/02/10(金) 23:02
レスポンス

>名無飼育さん様
ありがとうございます
あとから思えば美勇伝の中に同じタイトルがあったことを知りorz
まだまだ精進の身、お許しくださいw

>名無飼育さん様
そろそろ復帰?(早っ!
PCが使える環境になりそうなので
近々あげたいなとはおもっております


次の板は初心に帰るという意味で
赤か白になると思いますです。よろしくお願いします
923 名前:Rink 投稿日:2006/02/10(金) 23:03
上げてしまった・・・申し訳ないです
924 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/08(水) 19:23
板が結合しちゃっていまいちよく分からんのだが…
新スレたってないよね??待ってますよ〜作者さん!!
925 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/11(土) 11:26
自分も捜してます(涙
新スレ知ってる方いらしたら教えてください。(TДT)
926 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/11(土) 17:54
>>925
新スレはまだ立ってませんよ。
Rinkさんの日記にも書いてありますけど、
4月になるようです。
それまで待ちましょう。
927 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/15(水) 16:52
そうなんですかぁ。
教えてくれてありがとうございます。^^
928 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/15(水) 18:50
ハァ… だからageない様にね。
929 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/15(水) 20:18

930 名前:Rink 投稿日:2006/04/07(金) 21:02
新スレです

ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1144411305/l50

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