Lasties

1 名前:takatomo 投稿日:2006/01/13(金) 23:34
剣と魔法のごちゃごちゃした物語。
石川、道重、田中あたり主役。

よろしければお付き合いくださいませ。
2 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:36
雨の夜だった。
奇しくも150年前の始まりと同じ雨だった。
昼に降り始めたそれは止む気配を見せるどころか、寧ろ勢いを増すばかりだった。
闇夜を切り裂く光が走り、次いで轟音が響く。
それは、これからこの世界で起こることを予告しているものであるかのように、激しく、激しく鳴り響いた。

『石川さん』

蝋燭の光が揺らめく寝室で、れいなは声を掛けた。
その声は空気を揺らすことなく、直接梨華の頭に届く。

「ん、どしたの、れいな」

読みかけの本をベッドに伏せ、軽い感じで梨華は答えた。

『圭織さんの所へ、お願いします』
「……いいけど」

しぶしぶ梨華は立ち上がる。
どこか神妙なれいなの雰囲気を感じ取れないのは仕方ない。
まだ、梨華とれいなが知り合ってから数日しか経っていないのだ。
それに、梨華にはれいなの声しか聞こえない。
姿を見ることは出来ないのだ。
れいなはそんな自分を「時を統べしもの」と最初に言った。
その言葉を梨華は知っていた。
3 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:36

この世の英知を諳んじるもの。
予言を残したり、災いから人々を救ったり。
神の代行者とも言われ、数々のサーガが世界中に広まっている。
そんな存在。

みんなが言ってるようなものじゃありません、と最初にれいなは告げた。
「私はだたの精霊です」と彼女は続けた。
精霊と会話をすることは、梨華にはできない。
精霊師であり、火の精霊を扱うことのできる梨華ではあるが、それはできなかった。
いや、それは世界中の精霊師が不可能なことですらあった。

精霊の力を借り、人間では不可能な力を生み出す。
それが精霊術であり、それを行うのが精霊師。
彼らは須らく宝石のついた指輪を身に着けている。
なぜなら、宝石というものが精霊の力を媒介する唯一のものだからだ。

もちろん梨華も肌身離さず身につけているものがある。
20歳の誕生日に圭織から授かったガーネットの指輪。
自身の誕生石でもあるそれを身につけたと同時に、梨華はれいなと出会った。
4 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:37
小さな頃から話は聞いていた。
圭織が自分に話してくれたのだ。

みんなは交信してるっていうけれど、圭織は神様と話をすることができるの。
これは20歳になったら、梨華のものになるのよ。
それがモーニング公国に代々伝わる力なの。と。

そう、その言葉どおりにれいなは梨華の元にやってきた。
最初は、神様というからヨボヨボのおじいちゃんを想像していた梨華にとって、声変わりを済ませたくらいのれいなの声は驚きだった。

部屋を出て、廊下を歩く。
雨の音は屋根をつたい、廊下中に響いている。
街の皆は大丈夫なんだろうかと梨華は心配する。
この辺りはまだ高台になっているから大丈夫かもしれないが、少し離れたところに流れる川が氾濫するかもしれないと、梨華は考えた。

『大丈夫。上流は降ってないみたいですから』

梨華の心の動きを読んで、れいなは言った。
精霊である彼女は、他の精霊ともその気になれば話すことができるから。
それくらいの情報を得るくらい、城の中にいても簡単なことだった。
5 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:37
「ありがと」

梨華は短く言った。
丁度、圭織の部屋にたどり着いたからだ。
一瞬、躊躇してから扉をノックする。
木の乾いた音が響く。
雨の音で聞こえないのではという梨華の危惧は、中からの「入って」という声で消えた。

「あの、れいなが……」

部屋に入ると同時に、なぜか梨華は申し訳なさそうに言った。
圭織は口元にかすかに笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。

『私がいったことをそのまま伝えてください』

そう前置きしてかられいなは語った。
梨華にとってのわからない単語が羅列された文章を。
そして、圭織にとって重要な単語が羅列した文章を。

「輝ける闇が、目覚めようとしています」

意識したわけではなかった。
決して事の重大性を理解していたわけではなかった。
ただ、れいなの言い方を真似ただけ。
口に出したというより、言葉を置いたと言う表現が正しいのかもしれない。
水面に波を立てないようにそっと石を沈めるように、梨華はその言葉を置いた。
6 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:38
圭織は明らかに表情を変えた。
20年間、記憶があるときから考えれば17年ほどだろうか。
毎日のように見てきた自分の母親である彼女の表情が、それまでみたことのないものに変わった。
それは恐怖でもなく、怒りでもなく、怯えでもなく。
自分の知らない他人が目の前に現れたようで、梨華はゴクンと唾を飲んだ。

『東の封印が破られています。人為的なものか、それとも自然にかわかりませんが……』
「……」
『石川さん?』
「あ、あぁ……」

れいなの言葉を梨華は続ける。
言葉を放つ度に、疑問や不安が次々と沸いてくる。
だが、説明してくださいと言える雰囲気ではなかったから。
梨華はただただれいなの仲介を行うだけだった。

「……そう」

話が終わった後、圭織はそれだけつぶやいた。
その二文字で流してしまうには、あまりにも事が大きすぎることは、梨華にさえもわかっていた。
7 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:38
雨音が耳に戻ってくる。
耳を覆うほどの雷であるのに、さっきまで聞こえては来なかった。
ついさっきまでこの場だけ空間が切り取られていたかのように。

れいなも圭織も何も言わない。
部屋の空気が沈黙を取り込んでどんどんと重さを増していくように。
体にかかる空気が、ずっしりと梨華にのしかかっていった。

「梨華」
「……はい」

「梨華ちゃん」ではなかった。
公式の場以外では、常に自分をそう呼んでいた母親が。
怒る時ですら、梨華ちゃんと呼んでいた母親が、梨華と呼んだ。

「明日の朝、ここに来て。今日は、ゆっくり休みなさい」

8 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:38


ゆっくり休みなさいと言われて、休めることができるなら世の中もっと上手く回っていくに違いない。
梨華は寝返りを一つうった。
雨音は相変わらず雷を交えて耳に届く上に、あれだけ気になる話をされたのだ。
精霊術でも掛けられない限り、すんなりと寝れるわけがなかった。

れいなは、まだ黙ったままだ。
まだれいなが梨華についてから数日だが、いつもいつも話しかけてくるわけではない。
余りに話しかけてこないから、存在を忘れることすらある。
だが、今の沈黙は梨華にとってすごく気まずいものだった。
聞きたいことは山のようにあるのに聞けない。
自分の心がある程度読めるのなら、察して教えてくれたらいいのに、と梨華は思った。

『話しましょうか?』
「わかってるなら教えてよ!」

声を荒げた。
自然と握られた拳。
稲光がガーネットに反射した。
9 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:39
『石川さんには、覚悟をしてもらわないといけません。
それは、このモーニング公国が代々守ってきた封印なのですから』
「封印」

さっきも聞いたこの単語に、梨華は小さい頃に聞いた話を思い出した。
時を統べしものと力を合わせて、闇を封印した人間の物語。
白く光り輝く槍と、赤く光るガーネットの指輪を使う女性が主人公だったはずだ。
丁度、自分が身に着けているものと同じものだから覚えている。

『今から150年ほど前のことです。輝ける闇がこの世に復活したのは』
「輝ける闇って?」
『闇の精霊です。私たちよりもずっと大きな力を持った精霊。
当時は、一部しか復活していませんでしたが、復活と同時に世界中が闇に包まれました。
輝ける闇の生み出す”闇なるもの”という異形の獣が街を破壊し、殺戮を始め、人間が滅びるのも時間の問題でした。
その時です。私たちがこの国の王の力を借りて、それをもう一度封印しました。
封印だけで、殺すことはできませんでした。でも、もう封印が破られることは無いと思っていました』
「それが、破られたってこと?」
『まだ完全に破られたわけではないです。4本の封印のうち、一つが外れただけで、残りの3つは生きてます。
けれど、1本が外れたのは人為的なものかそれとも偶然か、調べる必要があります。もしも人為的なものなら……』

そこまで聞いたときに、梨華はなんとなく理解した。
決して頭の良い方ではないが、少し考えればわかることだ。
10 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:40
『はい、石川さんは私と一緒にそこに行ってください。
封印を守るものとして、石川さんが行かなきゃ駄目なんです』
「ふぅん……」

感慨は無かった。
世界を守る勇者ですと言われたところで、梨華はなんとも思わない。
精霊師としての自分の力は、人よりも少し優れている程度。
統率力も意志の強さもまだまだ圭織には及ばない。
自分の一番の取得は?と尋ねられれば「身分」としか言えないということを、梨華が一番わかっていた。

れいなはその考えを読んだが、何も言わなかった。
生半可な慰めは、余計に落ち込ませるだけなのだ。
れいながいくら贔屓目にみたとしても、精霊師としての梨華は平凡より少し上くらい。
150年前、れいなとともに輝ける闇を封印した彼女には遠く及ばない。
5種の精霊を操り、最強の称号を欲しい侭にしていた稀代の精霊師とは違うのだ。

かといって、体術に秀でているかといえば、そういうわけでは決して無い。
どちらといえば不得手な方だということを、れいなは知っている。
圭織が梨華を宿した瞬間から、れいなは彼女のことを見てきているのだから。
11 名前:1:reincarnation 投稿日:2006/01/13(金) 23:40
ずっと、梨華と話したいと思っていた。
数百年生きるれいなにとって、20年という月日は決して長いものではない。
それでも、れいなは待ち望んでいた。
なぜなら、れいなの大好きだった人に似ているのだから。
梨華という名前も、れいなが圭織に提案したものだ。
だからといって、れいなは梨華と呼ぶことは無かった。
梨華は、梨華であって、自分の大好きな人とは別人なのだから。

「いいけど」

梨華は言っていつの間にか起きていた体をもう一度倒した。
気になることが聞けたからといって、すんなり眠れるかは別の問題。
だが、来るべき冒険に向けてワクワクすることもなかったため、数時間もすると梨華は寝息を立て始めた。

12 名前:takatomo 投稿日:2006/01/13(金) 23:41
>>2-11 まったりとこんな感じでいきます。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/17(火) 00:15
おもしろそうなの発見!
配役も好みだなー更新楽しみにしてまっす
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/18(水) 15:46
おもしろそう
続きに期待してます
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 19:59
おお、前作の続きがついにキタ!!
ずっと待ってました!
続き、期待です
16 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:02
昨夜の雨とは打って変わっての日差しだった。
力強い太陽の光が濡れた地面に反射してキラキラと光る。
まるで光の道だなんて思うわけもなく、梨華はとぼとぼと歩いていた。

前を歩くフリフリのスカートの少女がすごく憎らしく。
裾を踏みつけてやろうかと思うほどだった。

とはいえ、梨華は人に対してすぐに悪意を持つ方ではなかった。
どちらかと言えば、穏やかな方。
それは王女であるがゆえに、必然的に身に付いたことでもあった。
では、なぜ梨華が少女、道重さゆみにここまでの悪意を持つのかと言えば、昨日の朝の出来事まで遡らなければいけなかった。
17 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:03
「おはようございます」

朝早く、挨拶をしながら圭織の部屋に入る梨華が目にしたのは、圭織の横に立つ一人の少女だった。
自分に向かってゆっくりと深い礼をする彼女に、梨華は会釈だけで返した。

「えーと……」

彼女に見覚えはある。
城の警護を担当している兵士。
どのくらいの地位かはわからないが、城内の、特に圭織の周りにいることを何度か見たから、それなりに高い地位なんだろうと思う。
自分と同じくらいか、もっと若いのかもしれない。
二つに縛った髪の毛と、くりくりっとした目が余計に幼さを感じさせるが、それとは対照的な広い肩幅と自分よりも明らかに高い身長。
立っているだけで威圧感すら漂うほどだった。

「道重さゆみです。この度、王女様の旅に同行させていただく事になりました」

再び一礼をしてさゆみは言う。
はきはきとした声だけれど、うるさいと言うわけでもない。聞き取りやすい声だった。
旅と言う言葉に、れいなとの昨夜の会話を思い出した。
圭織に視線を向けると、にっこりと口元を緩めた。
れいなが昨夜のうちに梨華に全てを話しているだろうという、圭織の予測が当たった形。
18 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:03
梨華はそれに対して何かを言うわけでもなく。
「よろしく」とさゆみに言った。

「馬車の手配はさゆに任せています。まとまったお金も彼女に渡しています」

圭織の言葉にさゆみは笑顔で頷いた。

「わかりました」

何がわかったのか何がわかってないのか梨華にはわからない。
いきなり城から出て行く事になって、それに対する母の態度がどこか事務的で。
朝起きて、ここにくるまで少しは感傷的になるのかなと思っていた自分が、少しバカらしくなってきたから。

「後のことはれいなに任せます。さゆは梨華ちゃんを守ってあげて」
「はい、命に代えても」
『わかりました』

二人の声が聞こえる。
自分は何なんだろう、と梨華は考えた。
19 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:04
自分が王女だからというだけで、行く事になる。
私の力なんて問題にならない。
警護は道重って子で、必要な知識はれいなが持ってる。
私はただの器。飾りなの。
私の価値は何?王女だから?
お母様の子どもだから?お母様が女王だから?

『石川さん』

流れ込んでくる思考に耐え切れず、れいなは呼びかけた。
けれども、梨華は返事をしようとしない。
視線はぼーっと圭織の方を向いているだけ。
圭織とさゆみの会話なんてこれっぽっちも聞いていなかった。

『石川さん』

再度呼びかける。「何?」と今度は返答があった。
20 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:04
『石川さん、圭織さんが何も思って無いと思いますか?自分の一人娘を旅に出すなんて……それに……』
「それに?」
『場合によっては、封印に行くだけで済まないかも知れません。もっと、もっと大変な旅になるかもしれません』
「私は関係ない。私は存在するだけでいいんでしょ!後は道重って子とれいながやる。私には何も出来ない。
精霊術もそんなに使えないし、剣も扱えない。王女だから、王女だからって……そんなの道重って子が王女やればいいじゃん!」

思わず梨華は口に出していた。
それとともに、怒りの力が精霊を呼んだ。
梨華が扱うのは火の精霊。
精霊の中でも特に気の荒い彼らを使うには、気をしっかり持っていなければいけない。
さもなくば、術者の力を勝手に借りて思い思いに暴れまわるのだから。

部屋にいくつもの火種がまきおこる。
さゆみはそっと圭織の前に立った。
圭織の前だからと、部屋に入った時に剣を置いたことを悔やむ。
さゆみは精霊師ではない。だから武器がいるのだ。
ただし、並みの武器では精霊の前にはなす術もないのだが……
21 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:05

『石川さん、落ち着いてください』
「駄目!全然抑えられない」

梨華は梨華でパニックに陥っていた。
自分の体から放たれる力がどんどんどんどん大きくなっていく。
自分が風船になって、どんどん空気を送り込まれているような恐怖。
そして、その恐怖が余計に冷静さを失わせる。

さゆみは、圭織めがけて飛んでくる火を払いのける。
ジュッと袖のこげる音がしたが、気にしている場合ではなかった。

「女王様、逃げてください」

叫ぶさゆみに、圭織は動こうとはしなかった。
火が床を走る。
さゆみたちを囲むように燃え上がる炎。
22 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:06
『ごめんなさい』

さすがにこれ以上、梨華を暴走させておくのは危険と判断したれいなは自身の力を使う。
小さな光が梨華の両の掌から放たれると、部屋の炎は瞬時に消えた。
同時に、カクンと折れる梨華の両膝。
そのまま倒れそうになるのを、さゆみが走って受け止めた。

「ありがと……」

朦朧とする意識の中、梨華は呟く。
肩をかりて立つが、全身を包む疲労感から呼吸を荒げずにはいれなかった。

「もう今日は休みなさい」

圭織の言葉を最後に、梨華の意識は一度途絶える。
梨華を背負うさゆみに圭織は「よろしく」とだけ告げた。

それはさゆみに言ったのではないことは、れいなはわかっていた。
けれども、どうすればいいのか、れいなにも判りかねていた。
23 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:06


梨華が目を覚ましたのは日が傾きかけたことだった。
意識の流れでれいなはそれを感じ取るが、何も言わなかった。
言えなかった。
150年前、自分が輝ける闇の復活を止めようとした時のことを考えた。
あの時は理由なんてなかった。
当時のモーニング公国の王は、何も聞かずに私の力になってくれた。
それは、闇なるものという脅威が実際に目の前に現れて。
世界が闇に包まれた時だからこそだったのかもしれない。
それに、あの人には力があった。

石川さんには何も無い。
危機感も力も何も無い。
それは悪いことじゃない。
危機感を持ってからだと遅いから、それより先にこうして動こうとしているんだ。
24 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:07
「輝ける…闇、だっけ?その時れいなと一緒だった人ってどうだったの?」

自分の気持ちを見透したような梨華の言葉に、れいなは思わず言葉に詰まった。
自分の考えが梨華には読めないということは十分わかっている。
アイコンタクトやジェスチャーですら梨華との間で出来ないのだ。
普通の人よりもよっぽど心が読みにくいはずだった。

『……強い人でした。力があったってわけではないです。確かに、精霊師としての力はすごいものがありましたけど……』

言葉を選びながら、れいなは話し始めた。

『負けず嫌いで、口うるさくて。だけど、すごく優しい人でした』

自分が出会ったときのこと、一緒に輝ける闇と戦ったときのこと。
輝ける闇との戦いの中で、同じ時を統べしものの仲間をを失ったけど、彼女が引っ張ってくれたから最後まで戦えた。
戦いの後、モーニング公国の王女となった時のこと。子どもに私を託したときのこと。
25 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:08
次々と思い出す出来事は、どれもこれも色あせていなくて。
自分も人間と同じように忘れられる生き物だったらと思うことがある。
だけど、その寂しさを思い出させない出来事が、彼女の子ども達と一緒にいるとたくさんあった。
圭織さんと一緒にいたときもそう。たぶん、これから石川さんと過ごしていてもそうだと思う。

「ふぅん」

梨華はそう短く言った。
それが何を意図しているのか、れいなにはわからなかったが、確かな迷いだけは梨華の心からわかった。

「れいなは、自分の運命を呪ったことは無いの?」
『どうしてですか?』
「だって、誰にも触れることもできないし、ご飯も食べられない。私が動かないとどこにもいけない」
『ああ……だけど、仕方ないです。時を統べしものは私だけですし……私がやらなきゃいけないことですから。
逆に、石川さんに悪いなと思います。ずっと私みたいなのが付いているんですから』
「そんなこと……ないよ」

気を使ってくれているのは、心の動きの読めるれいなには丸わかりだった。
26 名前:2:the first contact 投稿日:2006/02/05(日) 00:08
「自分がやらなきゃいけないこと、か」
『そうです。代わってもらえる人はいないんです』
「それ、私に言ってる?」
『そうですね……石川さんが望む望まないに関わらず、それが事実なんです』
「どうして私なんだろう」
『圭織さんのお腹の中にいる時点で、いえ、150年も前から決まっていることなんです』
「そっか……」

諦めるような梨華の言葉に、れいなはドキッとした。
強く言い過ぎたのかもしれない。
けれど、れいなも梨華を扱いかねていた。
救世主だの、勇者だのともてはやしたところで梨華の気持ちが動かないことはわかっているから。
かといって、同情するのも違うとれいなは思っていた。
その結果が中途半端な形。
半ば命令に近いような形になってしまっていた。

「朝まで一人で考えさせて」

梨華は言った。
27 名前:takatomo 投稿日:2006/02/05(日) 00:11
>>16-26 更新終了です。


>>13 ようやく主役揃い踏みです。他にも色々と出てくる予定です。

>>14 ありがとうございます。期待に答えられるようにがんばります。

>>15 長々とお待たせしてすいません。引継ぎ箇所は少ないですが、楽しんでいただけるとうれしいです。
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/05(日) 03:50
自分の好きな種類のお話なので更新が楽しみです
よければ、前作と言うのも教えてください
29 名前:初心者 投稿日:2006/02/05(日) 17:26
読ませていただきました
面白いです あと自分も前作を教えてほしいです
次回更新楽しみに待ってます
30 名前:takatomo 投稿日:2006/02/06(月) 00:34
>>28-29
レス返しは次回更新させていただきますが、とりあえず前作を貼っときます。
作中の150年前に値するお話です。

第一部 ttp://mseek.xrea.jp/red/1046957710.html セバータイズ
第二部 ttp://mseek.xrea.jp/red/1071995888.html レッドタイズ

読まなくてもこのお話はわかるように書いています。

更新がまたーりしてるので、その間の暇つぶしにでもしていただけると。
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/14(火) 03:46
待ち遠しい…
32 名前:2:the first contact 投稿日:2006/04/01(土) 00:19


夢を見た。

はるか上空から、大地を見下ろしている自分。
空を飛ぶことなんて梨華にはできないから、それが本当に自分のいる城かどうかはわからない。
流れる川、見覚えのある門、背後に立つ崖。
それらの状況から、そうだといえるだけのこと。

見下ろした大地は、広く。
でも、どこか違和感をぬぐえなかった。
それが、誰一人存在していないからということに気づいたのは、少ししてから。
どうして?と疑問が沸くのと同時に、グングンと城が大きくなっていく。
落ちているとわかったのは、地面に両足が着いてからのことだった。

「ここは?」

口に出す。
おかしなことだと、梨華は自嘲した。
ここがどこかなんて、わかってる。
この中庭は、小さな頃から自分がずっと遊んでいたところ。
お昼を過ぎると伸びてくる鐘塔の影。
四季折々に咲いている花。
紅い花が咲いているから、秋だということがわかる。
33 名前:2:the first contact 投稿日:2006/04/01(土) 00:20

秋……

夢であることは、もう梨華にはわかり始めているから、現実には春であることとの相違を疑問には思わなかった。

ギィと扉が開く。
咄嗟に隠れようとしたが、周りには隠れるようなところも無い。

結局、一歩も動けないまま。
目の前に現れた少女とばっちり目があった。
自分よりも明らかに小さな少女。
ドレスというよりも、シスター服。
真っ白でさえなければ、まさしくそうだった。

黄色い花飾りを頭につけているが、目つきは鋭く、肉食獣を思わせた。
ただ、その瞳は目を合わせているだけで、何か吸い取られそうに深く。
じぃっと見られている間、梨華は一歩も動けなかった。
34 名前:2:the first contact 投稿日:2006/04/01(土) 00:20
ふわりと、風が二人の間を通り抜ける。
梨華の前髪がはらりと上がり、元に戻った瞬間、突如として世界が暗転した。

月明かり1つすらない真っ暗闇。
にもかかわらず、暗闇の中、少女の姿がはっきりと見えた。
まるで、そこだけ切り取られたかのように。

少女の視線が上を向いていることに気づき、梨華も見上げる。
真っ暗闇に、更に段階があるのだと梨華は感じた。
まるで、太陽が光を放つかのように。

深い闇が、闇を放っていた。

ごくんと、口に溜まる唾を嚥下する。
それは、強大な恐怖だった。
この場にいるだけで、こみ上げてくる恐怖。

夢ならば、早く覚めてしまえと思う。
けれども、足元をがっちりとつかまれたかのように、夢からは抜け出せなかった。
35 名前:2:the first contact 投稿日:2006/04/01(土) 00:20
闇が迫ってくる。
暗闇の中、更に暗い触手が伸びてくる。
まるで、光を求めるかのように。
そう、梨華の体も光っていた。
少女と同じように、暗闇の中、自分の手足が見えていたのだ。
触手が近づいてくる。
決して速い速度ではないが、それが余計に恐怖心を駆り立てた。

来る。

そう思ったとき、目の前を光が走った。
ジュッと焦げるような音がして、闇が退く。
真っ黒なカーテンが切り裂かれたように目の前に光が斜めに走っていた。

「その人は、関係ない。貴方の目的は私でしょう」

きっぱりとした声で、少女は言った。

「輝ける闇……今度は絶対に逃がさない」

少女の右手に光が灯る。
それが上空へと放たれると、眩いばかりの光が梨華の目の前に広がった。
36 名前:2:the first contact 投稿日:2006/04/01(土) 00:20
目が開く。
カーテンの間から差し込む光は、梨華の顔を照らしていた。

「夢……」

見慣れた部屋を見渡して、呟く。
夢だとはわかっていた。
でも……

『おはようございます』
「お、おはよう」

れいなの声を聞き、昨夜のことを思い出す。
それと同時に、梨華の中に疑心が生まれた。

「さっきの夢はれいなの仕業?」
『夢?どんな夢ですか?』
「……いい。なんでもない」

シラを切るとかいう芸当はできないと梨華は思っている。
できないじゃなくて、性格的に「しない」の方が正しいのかもしれないが。
37 名前:2:the first contact 投稿日:2006/04/01(土) 00:21
着替えを済ませ、圭織の元へと向かう。
れいなは、梨華に尋ねなかった。
梨華も、答えを言わなかった。

廊下ですれ違う人と挨拶を交わす。
その様は、まさしく王族とあるべきものの姿であって。
梨華自身が、コンプレックスを持っている身分に対する気品というものは十分すぎるほどに梨華には備わっていた。
街の人、10人にドレスを着せ、その中に梨華を並べてもすぐにわかるに違いない。
それほどまでに、確固たるものを、梨華は備えていた。

扉の前に立つ。
一度小さく息を吐き、拳を握ってノックした。

「梨華、入って」

中からの声。
中に入れば何もかもが昨日と同じ。
焦げ付いた絨毯やカーテンが嘘のように新しいものに替わっている。
もちろん、圭織の隣にはさゆみが跪いていた。
38 名前:2:the first contact 投稿日:2006/04/01(土) 00:21
「梨華、行ってくれるわね?」

さゆみが思わず顔を上げるほどに、前置きも無く告げられた言葉は、それだった。
懇願ではなく断固たる命令。
もちろん、梨華もそれは理解してきた。
伊達に20年も親子をやっていない。
れいなの言ったことと同じこと。

これは、自分に与えられた運命だ。
だから、従うしかない。

諦め。
そこに存在するのは諦め。
自分を納得させる理由をいくら考えようとしても。
それは虚しいだけなのだ。
39 名前:2:the first contact 投稿日:2006/04/01(土) 00:21
「わかりました」

抑揚のひとつも無い声。
れいなの入れ物でいい。
さゆみの足手まといでもいい。

自分にしかできないこと。
自分がやらなければいけないこと。

だから、仕方ないことなのだ。

『本当にいいんですか?』

れいなは、自分の問いかけが残酷であることを感じていた。
けれども、言わずにはいれなかった。
梨華の心が読めてしまうからこそ……

梨華は答えない。
代わりにさゆみに告げた。

「食事を取ったらすぐに出発します。準備は全て任せます」と。
気品のある王女としての声で、そう言った。
40 名前:takatomo 投稿日:2006/04/01(土) 00:25
>>32-39 更新終了
遅すぎてお詫びの言葉もございません。


>>28 ファンタジーって少ないですよね。もっと増えてくれるとうれしいのですが…

>>29 更新遅くて申し訳ないです。次こそは早く……

>>31 これからはもう少し早くするつもりなので、よろしくです
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 18:16
更新来てる!
楽しみに、まったり待ってます。
42 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/19(水) 01:47
梨華ちゃんの出発を楽しみに待っています!w
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/01(木) 14:25
更新が再開されるまで落としておきます。
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/17(木) 21:45
待ってます
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/04(水) 01:15
待ってます

Converted by dat2html.pl v0.2