依存症

1 名前:ゆら 投稿日:2006/01/20(金) 23:20
アンリアル学園物。
甘さひかえめ
吉澤さん絡みです。
2 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:21
東の空を見る。
本当にゆっくり昇る朝日に、あたしはゆっくりと目を細めた。
少し肌寒い朝。羽織るニット。
つぶれて曲がった煙草に無理やり火をつけた。

「ねぇ、あたしと付き合わない?」

事を終えた女はみんなそう言う。
あたしは上の空でベットに背中を向けていた。
「うん。いいよ。」
フーッとゆっくり煙を吐いてからあたしはそう答えた。
散らばった服を雑に着ながら上の空な返事。
シャツに袖を通したはいいけど、寝不足の気だるさでボタンをうまく留められない。

そんなあたしの首に手を回して無言で要求してくる。
こっちは今眠いんだってば。
近距離で見つめられるけど、あたしは顔をそらした。
まぁ、強引な女は好きだけど。痛いのはイヤ。
3 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:21

「でも、よっすぃー付き合ってる子何人もいるんでしょ?」
首を指先でなでながら彼女はあたしにそう尋ねる。
聞いてどうするんだ。あたしはいつも思う。
「あたし誰とも付き合ってないよ。」
とぼけ笑いでそういうと、口を尖らせてこっちを見てくる。
「うそだー!手当たり次第抱いてない?!」
「ひどい言いがかりだな。」
手当たり次第って・・・だったらアンタもそういうことになるよ?
くすくすと笑いながらあたしは着替えを続けていた。

「ホントにあたしだけ?」
「ホントだよ。」
「ウソっぽい」
「じゃぁウソ。」
面白がってあたしはその度にくすくす笑う。
女の疑う視線にあたしは同様したりしない。
慣れてるから。


「じゃぁあたしをよっすぃーの一番にしてよ。」
あたしの余裕な態度に、急に目つきが変わる。
「うん、いいよ。」
そんなこと気にせずにあたしは口調も変えずニコニコ。
この笑顔でみんなもう何も言えなくなる。
こうやってはぐらかすのは得意だ。

一体あたしには1番が何人いるんだっての。
4 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:21

彼女を駅まで送ると、あたしはもう一度自分の部屋に戻った。
乱されたシーツ、貸したジャージ。
それでも忘れ物は絶対させないのだ。つまり証拠隠滅。

あたしはすぐに白い壁に囲まれてシャワーを浴びた。
このときだけが唯一自分を許せる時で、全てを洗い流す瞬間になるのだ。
髪を乾かして制服に着替えて持ち物準備して・・・・あれ?携帯がない。

おかしいなぁ。
ポケットやテーブルの下を何度も探したけど見つからない。
数時間前には見たから、部屋にあることは間違いないハズ。
まぁ、一日くらいなくてもなんとかなるか。

よし、一個早い電車に乗れそう。
あたしは家を出て乗って駅に向かった。
学校までの約1時間、あたしは電車に揺られながらぐっすりと眠りにつく。

これがあたしの一日の終わり。いや、始まりだ。

・・・・
5 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:22

高校に入学してから、あたしは親に与えられたマンションで一人暮らしを始めた。
なんでいきなり、と思ったけど多分親たち忙しいし、ジャマだったんだろうな。

母が11代目の女将をつとめる老舗旅館のひとり娘として生まれ、父はというと大企業の社長で数年前から海外で仕事をしている。
去年、2つ離れた弟も父のいる台湾へ飛んだ。つまり弟が父の跡を継ぎ、あたしが母の跡を継ぐらしい。
だからあたしも小さいころから旅館の跡取りとして大事に大事に・・・・・・と言いたい所だけど。

実際、父も母も放任主義であたしのことなんてどうでもいいらしい。
跡取りになってくれさえくれれば、金だっていくらだって使ってもいい。
まぁ、あたしが遊びに使うお金なんて吉澤家にとったら痛くもかゆくもないんだろうけど。
これだけ環境がそろっていれば、そりゃぁ生まれて一度も金には困ったことはない。

さらに、母親似の整った顔立ちと父親似の長身はどうも目立つらしく・・・

6 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:22

「あー!よっすぃーだぁ!」
電車を降りた途端、通学路ではあたしを見かければみんなベタベタくっついてくる。
「おはよー。朝からテンション高いね。」
適当に愛想をふりまいてあたしはそのまま歩き続ける。
いきなり手作りクッキーを渡してくる子やラブレター突きつけてくる子・・・
頼むから通してくれよ。遅刻したらどーすんだよ。

それでもあたしは自分の女癖の悪さにはもう開き直ることにしたのだ。
楽だし、はちゃめちゃできるからね。っていっても無茶なことはしないけどさ。
それにしても・・・眠いなぁ。
7 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:22


空は冬晴れ。あんなに暑いと騒がれた今年の夏。
まるで京都の盆地のような1年だった。
高校生活は本当に早い。こないだ入学したかと思えば、あっという間に2年生だ。
後輩が入ってくるなんてなんか変な感じ。
こんな気分のまま気がついたら卒業、って感じなのかな。

高校を卒業したら京都に行って母の旅館を継ぐための修行をしなきゃいけないらしい。
めんどくさいなぁ、とか思うけど、これだけ自由にやらせてもらってるからにはそれくらいしなきゃな。

正門をくぐるなり、クラウンに乗って真横を通る女の人が窓をあけて手を振ってきた。
「中澤先生、おはようございます。」
「おーおはよう。あんた全国模試の結果見てみ?玄関に貼ってあるから。」
ニシシ、と笑ってそのまま手を振って駐車場に入っていった。
生物担当の中澤裕子。私服は30には見えないし、ましてや白衣着てる時はどうみても・・・・AV女優だ。
こんなこと言ったら殺されるけど。

全国模試の結果って、先月受けたあのナントカゼミナールのやつか。
っていうかあたし進学しないし、あんまり興味ないんだけどな。
8 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:22

とりあえず靴を履き替えると、玄関には人がパラパラと集まり始めていた。
あたしがそれを見る前、突然歓声があがった。

「あー!!よっすぃー、ちょっと見てよ!すごいよ!」
あたしからしたら見知らぬ女の子たちが腕をグイグイ引っ張ってあたしを連れて行った。
いててて、とあたしが近づくとみんな道をあけてくれた。あ、どーもどーも。

1位 吉澤ひとみ

「あ、まじで?」
思わぬ結果にあたしはそう言った。
そしてなぜか拍手の嵐。いやいや、そこなんで泣いてるのさ。
「すごいねー、よっすぃーなんでもできすぎ!!」
「惚れるわ〜やっぱりみんなのアイドルだねぇ」
「今度勉強教えてね!」
コラコラ、そんなに騒ぐんじゃないよ。
それにしてもあたしもこの結果には少し驚いていた。

それは先月の頭に起きた出来事が原因だった。
9 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:22


・・・


『ちょっと吉澤顔貸しぃや。』
睨みを聞かせた中澤先生に呼ばれたのは、悪魔の部屋・生徒指導質。
あたし何かしたっけ?どれのことだ?
困ったな、思い当たる節が多すぎる。

なんすか、とあたしは俯いたままそう聞いた。
『アホ!あんた昨日の放課後、屋上で女とたわむれてたやろ!』
いきなり怒鳴りだす先生。
昨日の放課後・・・・・えーと・・・・
あたしは一生懸命記憶の糸をたどった。

『あぁ、確か昼寝してたら7組のナントカちゃん・・えーっとなんだっけな。その子がいきなりチューしてきて・・・・』
アホーッ!!と再び怒鳴りをちらされた。
『そのあと色々しただけですけど、何か?』
表情を変えずにあたしがそう尋ねると、先生はわなわなしながら事情を説明し始めた。

『下校時刻過ぎてたやろ?あのあとセコムの人来て大変やったんやで!』
『え、うちの学校セコム入ってたんですか?』
のん気に言うあたしに先生がさらに怒ったのは言うまでもないんだけど・・・・。


・・・

まぁそのせいで罰としていつも面倒くさくてサボっていた全国模試を受けさせられたわけです。
テキトーに大学名とか書いて、テキトーに受けたつもり。
だったんだけど・・・・。
10 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:22


「それで1位取るのは超人だよ、よしこ。」
教室で笑いながらそう言う彼女。
「ごっちんもちゃっかり上位入ってるとこ笑えるけどね。」
あたしはそう言いながらナントカゼミナール会長さんからの手紙をゴミ箱に投げた。

ごっちん、と呼んでいるこのちょっと抜けた子は、後藤真希。同じく1年生。
唯一あたしと友達として仲良くしてくれるとってもいいやつ。
っていってもすげー美少女だしモテるんだよ?
それでもあたしがごっちんに手を出さないのは、ごっちんがそういう目であたしを見てないのを知ってるから。
11 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:22

「それにしても眠そうだね。昨日も女連れ込んでたの?」
先生が入ってきて授業が始まっても、隣の席のごっちんは面白がってそういうことを聞いてくる。
「連れ込んだって言うな。夜中勝手に来た。名前知らんけど多分3年生。」
教科書を広げるフリをしながら淡々というあたしにごっちんはクスクス笑っていた。
何がおかしいんだっての。まったく。昨日は本当に大変だったんだから。

「バイト終わって家に帰ったらさ、その人部屋の前で座り込んでたんだよ。まじ焦った。」
「へぇ。オノとか持ってなかった?」
持ってねぇから、とあたしはツッコむ。
裏切っても裏切っても、あたしは女に恨まれたことはないんだから。

「誰?って聞いたらその人なんて答えたと思う?」
「さぁ。」
考えろよ少しは!って思ったけどあたしはそのまま続けた。

「それがさぁ・・・・」
12 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:23


『あのー、泊めてくれませんか?』

そう、夕べの女は突然そう言ったのだ。
今まで色んな女の子に色んな方法で近寄られてきたけど、このパターンは初めてだ。・
『いいけど。いつから居たの?』
あたしはカギを開けながらそう聞いた。
『秘密。』
一瞬、は?と思ったけどあたしはふーんと返事をした。

うちの学校の制服を着てたけど、今までこの人に告られた覚えないしな・・・。
告ってきた子の顔なんて忘れちゃうけど、このスッゲー金髪だったら覚えてるハズだもん。
一体、なんなんだ?この人は。
13 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:23

「で、そのまま抱いちゃったんだ?」
あたしのプチ回想を聞いた直後、ごっちんは率直にそう聞いてきた。
「それ以外やることないじゃん。」
泊めてくれってことはそういうことでしょ、とあたしは説明した。
あんまり自分の家には女の子入れたくないんだけど、さすがに寒そうだったし。

ごっちんの職務質問が終わると、あたしは机に顔を伏せて眠った。
あぁ、だるい。

それにしても夕べの金髪の女、なんでいきなり来たんだろう。

それにしてもちっこい体してたな。
14 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:23


・・・

15 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:23

昼まで寝つくそうと思ってたけど、二時間目は最悪にも中澤先生の授業だった。
全国模試の結果で機嫌はいいだろうけど、さすがに朝っぱらからパンチはくらいたくない。

「ってわけで素直に保健室で寝ることにします。」
「はいはい、いってらっしゃい。」
ごっちんは呆れて手を振った。
さて、これで今日は寝不足解消するとしよう・・・

「あ、よしこ。」

突然ごっちんはあたしを呼び止めた。
「何。どうしたの?」
「あ、あのさ・・・あたし」
そこまで言いかけると、ごっちんは困ったように黙ってしまった。
深刻な話?なんだろう。

「市井さんのこと?」
あたしがそう聞くと、一瞬肩をびくっとさせた。
図星なんだろうけどそれ以上は何も言わない。
あたしはとりあえずごっちんの肩をポンッと叩いた。
「話せそうな時話してよ。いつでも聞くから。」
そう言うとごっちんは少し笑ってうなづいた。

「ありがとう。そうする。」
ごっちんの言葉に、あたしも頷いて教室を出た。
16 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:23

実は、ごっちんには付き合っている人がいる。
でもそれがかなりワケアリ。
うちの学校の市井紗耶香っていう2年生なんだけど、彼女持ちなんだよね。

つまり、ごっちんとは浮気関係なのだ。
確か彼女も矢口サンとかいう2年生らしい。顔は分からないけど。
入学してごっちんが市井さんに一目惚れして告ったら彼女いること分かって、
それでも2番目ならいいよ、なんて言われてごっちんは流されてしまったというわけ。

実際市井さんと矢口さんは入学当初から付き合ってるからもう2年近くだよね。長いなぁ・・・。
矢口さんへの愛情が薄れていたわけではないんだろうけど
やっぱりごっちん入学したころから可愛いって騒がれてたし。
そんな子に告られたら2番目にだってしたくなる。

それでもごっちんはやっぱり本気で好きだから、色々悩んでるみたいなんだよね・・・。
17 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:23


保健室に入ると、珍しく先生は不在だった。
よし、これで思う存分眠れるぞ。
あたしは早速いつものベットのカーテンをシャッ開けた。
よいしょ、と腰掛けたその時・・・

「いってぇな!」
突然ガバッと布団が剥がれ、あたしは思わず立ち上がった。
「あぁ、ごめん。」
あたしが謝ると、布団から女の子が顔を出した。
おぉ、可愛い。・・・じゃなくて。

「寝るなら他のベットで寝てよ。」
彼女は機嫌悪そうにそう言いつけてきた。
目つきは悪いけど、相当カワイイ。
というか美人。
んん、結構タイプかも・・・・・。

「でもあたしそのベット愛用してるから使いたいんだけど。」
譲って?とあたしは笑ってそう言った。
「やだよ。美貴が先に寝てたんだから。」
ほぉ、美貴っていうんだ。
しかもあたしが頼んでここまで強気な子初めて見た気がする。
18 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:23

「じゃぁ一緒に寝る?」
笑顔でそう言ってあたしはベットに入ろうとした。
その時・・
「ふざけんな!」
パンッ

「痛ぇっ」
え、何。あたし今この女に殴られた?しかも平手で?しかも思いっきり?
思わぬ反応にあたしは少し驚いて身を引いた。
女に叩かれたのは初めてだった。
なんなんだこの子・・・。
「早く出てってよ。」
再び睨みをきかせた彼女に、あたしはハイ、と返事をした。

「覚えとくよ。美貴ちゃん。」
「死ねっ」
あたしの言葉にも笑顔にも動じず、そのまま布団をかぶって寝てしまった。
・・・ちょっと面白いかも。
19 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:24

といってもベットを奪われたあたしは他のベットで寝る気にもなれなかった。
しょうがない、中庭で昼寝でもしよっかな・・・。
そう思ってとりあえず保健室を出ようとしたその時・・・

ガラッとドアが開いて、金髪の女の子が入ってきた。
よく見たら夕べのあの子だ。
「やっほ〜。何、よっすぃーもサボり?」
嬉しそうにくっついてくる彼女。
「うん、そう。」
もしかして本当に彼女になれたと思ってるのかな?この人。
あたしは早く話を巻き上げて保健室を出たかった。

そう思った時、彼女はポケットから携帯を取り出した。
なんか見覚えが・・・・
「じゃーん、これなーんだ?」
嬉しそうに見せびらかしてくる。
「あたしの携帯。持ってたの?」
いつの間に、とあたしは少し関心した。
完全オートロックしてあるから中身は見られないけど。

彼女は快く携帯をあたしに手渡してくれた。
「ありがとう。それじゃぁ。」
「待って。」
保健室を去ろうとしたとき、彼女はあたしの腕をつかんだ。
そして、そのまま背伸びをしてキスをした。

ん、なんだイキナリ。と思いつつもあたしは長いキスを返した。
まったくもって不思議だ。この人。
20 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:24

唇を離すと、彼女は少し俯いてからあたしを見上げた。
「ねぇ、これからも会ってくれないかな?」
彼女はそう言って携帯の番号を渡してきた。
「いいけど。」
その紙を受け取ってあたしはそう答えた。
あたしは何度も同じ女と会うことは滅多にしない。
面倒くさいし、本気にするから。

「あたし付き合ってる人いるんだ。だから秘密で、ね?」
少しバツが悪そうにその人は笑った。
「うん。分かった。」
付き合ってる人がいるのにあたしに近づいてくる人は今まで居なかった。
大体みんなあたししか見えてないって人ばっかりだし。
でもやっぱこの人・・・・変わってる。

だって、昨日抱いたあと泣いてた。

「じゃぁそろそろあたし行くね。」
そう言ってあたしは番号の書かれた紙を片手に手を振った。
「うん。あ!名前言ってなかったね。」
「あぁ、そうだ。」
金髪のちっこい彼女の名前。
あたしはそれを聞いた瞬間少し、体が震えた。


「矢口真里。よろしくね!」



矢口・・・・?
矢口って、もしかして・・・。
21 名前:      投稿日:2006/01/20(金) 23:24


あたしが去る前に彼女は保健室を出て行った。
矢口真里・・・。
付き合ってる人いるって言ってたし、間違いないだろうな。

市井さんの彼女だ。ごっちんの浮気相手の彼女。
あたしにとったら、親友の浮気相手の彼女と浮気ってことか・・・。
世の中って結構狭いよね。

あたしが矢口さんとこれからも会うってことが
ごっちんにとって吉と出るか凶と出るか・・・だよね。

なんか難しいことになってきた。
22 名前:ゆら 投稿日:2006/01/20(金) 23:24
初めまして。吉澤さん主役でやっていきますので応援どうぞよろしくです。
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/21(土) 19:14
イイ感じですねぇ。
次も期待してます。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/23(月) 22:37
ヤバイっす!!良すぎです☆
がんばってください。
25 名前:     投稿日:2006/01/24(火) 21:50

矢口さんの電話番号を携帯の登録して、あたしは保健室を出た。
どうでもいいけど今の会話、美貴ちゃんに聞かれたかな。
・・・まぁ変なこと企むようなタイプじゃなさそうだから大丈夫か。

それにしても、どうしよう。暇だ。
授業サボったはいいけど、保健室で寝る以外のパターンは考えてなかった。
かといって授業に戻るのもなぁ・・・・
普段だったら煙草の一服もしたいもんだけど、学校ではさすがにな。
くだらんことで停学くらいたくないから、持ち歩いてすらない。
26 名前:     投稿日:2006/01/24(火) 21:50

「やべぇ、暇すぎる。」
思わずそうボヤいたその時、クスクスっと笑い声が聞こえた。
あたしが振り向くとそこには矢口さんが。
む、いつからいたんだ?

「まだいるかなぁって来てみた。暇そうだね?」
キャハハッと笑いながらあたしの腹をべしべしっと叩いてきた。
痛いってば。
「矢口さんは何してんの?」
「こら、何タメ語使ってんだよ!」
「・・・・。」
突然のダメ出しにあたしは一瞬困った。
いきなりなんなんだ一体。

「屋上いかない?オイラの1番落ち着く場所なの。」
「オイラが言うなら間違いないっすね。」
バカにしてんのぉ?と聞いてきたけどあえて否定しなかった。
オイラって今時いないっしょ・・・。
27 名前:     投稿日:2006/01/24(火) 21:51

あたしは矢口さんに連れられて旧校舎の屋上に来た。
「ここよく来るんだ〜。」
「ひとりで?」
「うん!ってかタメ語使うなぁ!」
そう言ってあたしを怒りながら地べたに座った。
あたしもとりあえず矢口さんの隣に腰を下ろす。
座ってもちっこいなぁ・・・ミクロだ。

「昨日とはずいぶんキャラ違う・・・違いますね。」
少しわざとらしく言い直すと、矢口さんはヨシヨシと笑った。
「そう?学校ではこんなキャラで通ってるよ。」
ふーんとあたしはそのまま空を見上げた。
視界のほとんどが空。
まるで大自然の中にいるみたい。

少し間をおくと、矢口さんは話し出した。
「ねぇ。やっぱり抱いた女の子たちは、よっすぃーと付き合いたがるの?」
何のためらいもなく矢口さんはあたしにそう聞いた。
いきなり何を言い出すのかと思えば・・・・。
あたしはなんでそんな質問をするのかよく分からなかった。
「大抵の子はそうですね。でも、順番が違いますよね。」
あたしがそう言うと、矢口さんはキャハハっと笑った。
よく笑う人だな。
28 名前:     投稿日:2006/01/24(火) 21:51

「よっすぃーがいうと説得力ないよ〜。」
「確かに。」
あたしはこうして人と話すとき、深く考えないことにしてる。
だって、考えても意味がないから。
それを言ったってどうしようもないしさ。

たとえば、矢口さんがこうやって明るく振舞ってるのもなんだか見てて空しい。
昨日の夜、事を終えた彼女は泣いていた。
本当にあたしに抱かれたかったわけじゃないんだ。
本当は、悲しいんだ。
けど、あたしには関係ないし。

「なんで昨日はタメ語だったのに、今日はだめなんですか?」
あたしはくだらない疑問を投げかけた。
昨日は会った瞬間から駅に送るまでずっとタメ語だった気がするんですけど・・・・。

「や、学校だと紗耶香いるからさ・・・タメ語だとどういう関係?!みたいになるじゃん?」
少しバツが悪そうな表情で矢口さんはそう言った。

紗耶香

やっぱり市井さんの彼女がこの人なんだ。
「そっか、分かったよ。」
「ありがとう。って早速タメ語かよ!」
「・・あ、つい。」
相変わらずキャハハ、と笑う矢口さんの笑顔にはどこか悲しさがあった。
あぁ、この人本当に市井さんのこと好きなんだな。って思った。
なんか、かわいそう。
29 名前:     投稿日:2006/01/24(火) 21:51

ごっちんと市井さんが浮気してるってことは知らないんだよね。
知ったらどう思うんだろう。
矢口さん、泣きそう。弱いから。

「そういえばさっき一方的に電話番号教えてきましたけど、あたしの知らなくていいんですか?」
さっき矢口さんからもらった紙きれを見せてあたしはそう言った。
あー!!そっか!と慌てて携帯を出す矢口さん。

「待っててもよっすぃーは電話なんかしてくれないもんねぇ〜〜〜。」
「はい。そうとう気が向かない限りしないですね。」
「否定しろよっ」
両手に携帯を持って番号を登録しながらノリツッコミ。
あたしも思わずクスクスっと笑った。

「あ、今笑った?」
突然携帯を打つ手を止めて矢口さんは顔をあげた。
「え。」
笑ったことがそんなに珍しいのか?
あたしだって笑うんだぞ。
ほら、例えば・・・えーと・・・うーん・・・
あたし笑ってるっけ。
30 名前:     投稿日:2006/01/24(火) 21:51


「ふふ、レアなもん見ちゃった♪」
「なにが・・・。」
「ね、もっかい笑って?」
「お金取りますよ。」
「いくら?」
「や、冗談ですってば・・――」

あたしはそのまま矢口さんにキスをした。
だって、このまま話してたらおかしくて笑っちゃいそうだったから。
もっかい笑ったら、もっかい矢口さんにからかわれるから。
ただ、照れ隠しで、キスしただけ。
31 名前:     投稿日:2006/01/24(火) 21:51

それ以上は特に何もなかったけど、チャイムがなるまであたしたちは一緒に居た。
くだらない会話をしながら時々空を見上げたりして。

そうだ、明日こそは保健室で寝よう。
あたし単位取れるのか?成績いいから大丈夫だよね?
っていうか親が金でなんとかしてくれるはず。ありがとう母ちゃん、父ちゃん。
大丈夫。あんたたちがあたしを跡継ぎ以外のなんとも思ってないように
あたしもあんたたちはお金くれる人ぐらいにしか思ってないから。
相思相愛だよ。うん。

「矢口さん?」
あたしが考え事をしている間に隣にいる矢口さんはいつの間にか眠っていた。
寝そべって目をつぶってすーすーと寝息を立てて。
まつげ長っ。


「・・・どうでもいいんすけど、この季節に屋外でサボるのって寒くないですか?」
あたしは目を覚まさない彼女に向かって問いかけた。
今、2月だよ?
矢口さんってばとんでもないところに連れてくるんだから。
まぁ、いいけど。
暇はつぶせたから。
・・・ってかほんと、寒ぅ・・・
32 名前:ゆら 投稿日:2006/01/24(火) 21:53
>23
初レス・・・。ありがとうございます。

>24
頑張ります。
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/01(水) 18:50
いつもは「いしよし」以外は読まないのですが。。。
面白いです。
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/01(水) 19:03
あげてしまいました。
ごめんなさい。
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/03(金) 22:15
良作発見!イイ具合にどろどろしそう。期待してます。
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/22(水) 00:05
おもしろい・・
この先どうなるのやら
37 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:18

「ぶえっくしっっ」

人気者らしくないあたしのくしゃみに、教室中が注目した。
見んなよ。お姫様だってオナラすんだからあたしだってこういうくしゃみすんだよ。

「風邪?」
「や、違う。」

ごっちんの心配そうな表情に即そう答えた。
矢口さんが屋上なんかに連れ出すから、2時間近く冬風を浴びるハメになったんだ。
だいたいその前に保健室使えなかったからなんだけど。。

「そういえばさ、美貴って名前の子、うちの学年にいる?」
「ミキ?」
38 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:19


保健室という言葉に連想してあたしは彼女を思い出してふとその名前を出した。
あの目つきワリーけどすっげぇ美人で凶暴なあの女。

「そう。名字分からないけど今日保健室で会ったんだ。」
「げ。保健室で女抱いたの?」
「ちっげーよ。抱くスキすらなく殴られた。」
「激しいのが好きな子なのかしら。」
「もういい。で、知らない?」
「知ってるよ。」
「知ってんのかよ!」

世界史のおじーちゃん先生だし問題ないけど、妙に周りの目線が厳しい。
ま、あたしのこういうとこ知っててみんな寄ってきてくれるんだけど。
39 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:19

「って言っても顔と名前くらいしか知らないよ。」
「ナニ美貴ちゃん?」
「藤本美貴ちゃん。」
「ふーん。」
「狙ってんの?」
「や、あたしは常に受身だから。」
「よしこのことキライなんて珍しい子だね。」
「でしょ。」

よく考えたら、じゃぁなんで名字聞いてんだと思ってあたしは会話をやめた。
そんなことよりあたしと今関わりが深いのは矢口さんのことだ。

”昨日抱いたって話したあの女、市井さんの恋人だってさ。”

なんて・・・・ごっちんが知ったらどう思うだろう。
泣くかな。いや、泣かないな。
怒る?いや、分からない。

むしろ喜ぶんじゃないか?
だってこれを機に市井さんと矢口さんが別れちゃえばいいのにってね。
でもそれはない。
だって矢口さんは市井さんのこと大好きだもん。

あたしは3人、いや4人の修羅場を想像して少し身震いをした。
40 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:19

その日の放課後、ごっちんの家に行くことになって2人で帰った。
玄関でローファーに履き替えていると、ちょうど目の前を背の高い人が通り過ぎた。

市井さんだ。

「・・・。」
ごっちんと目が合っても、お互いすぐに逸らしていた。
学校では全く他人のフリをする、って決めてるらしい。
そりゃぁそうでもしなきゃ矢口さんにバレちゃうしね。

「ごっちん行こう。」
「うん・・・。」
どことなく元気のない彼女の右手を引いて、あたしは歩き出した。

市井さんの艶のある短い黒髪。
どこか惹かれる背筋を伸ばして歩く背中。
ごっちんはこの人に夢中なんだ。そう、市井さんしか見えてない。

どうしてだろう。
あたしに抱かれてきた女の子たちも、本当にあたししか見ていなかった。
あたしにとったらたくさんのうちの一人なのに。

一方的な恋愛なんて、恋でも愛でもない。
ごっちんには悪いけど、正直くだらない。
41 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:19

ごっちんの家は学校の近くにある。
あたしたちはいつもの駅とは反対方向に歩き出した。
高校に入ってから何度かごっちんの家には行ったけど、超平穏な家庭って感じ。

お母さんがいて、あらひとみちゃん、いらっしゃい。って出迎えてくれる。
たまに部屋にケーキと紅茶を持ってきてくれる。
夕方になると弟が帰ってきて、兄弟げんかとかしたりして。
ごっちんはこんなの普通だよ、っていうけど・・まぁそのとおりだよな。
大体うちの家庭がおかしいんだ。
小さいころからお金と自由だけを与えられて育てられてきたあたしには遠い世界。

「あー、今日お母さんいないや。」

家について靴を脱ぐと、ごっちんはそうつぶやいた。
スーパーの買い出しにでも行ってるらしい。これまた普通らしい。

「先部屋入ってて。」
「うん、分かった。」
「コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コーヒー。」
「ブラックだよね。」
「甘党だって知ってるでしょ。」

いつもの調子で会話をして、あたしは先に二階のごっちんの部屋に入った。
ごっちんの部屋には大好きな空の写真がいっぱい貼ってある。
曇りや晴れの表情を見せるさまざまな空が広がる。
42 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:20


あたしの部屋も改造しよっかな。
黒と白にまとめた自分の部屋を思い出してため息をついた。
天井に貼られたカート・コバーンのポスターを見つめながらあたしはいつも眠りにつく。
彼が唯一、夜のあたしを知っている。

「おまたせぇ。」

クッキーとコーヒーをテーブルに置いてごっちんも座った。
二段に詰まれた角砂糖を全部入れると、甘党だねぇと呆れて笑うごっちん。
見た目とは裏腹にあまり砂糖を入れずに紅茶を口に含む彼女を少し不思議そうに見た。

”今日うち来ない?”
さっきごっちんが言った言葉だ。
突然誘うことなんてよっぽどのことがない限りないのに。
よっぽどのことがあったんだろな。

「ごっちん。」
「んー?」
「市井さんとどうなの?」
「どうって?変わらないよ、ぜんぜん変わらない。」

ぜんぜん、と強調するようにごっちんはそう言った。
あとでそれがおかしかったのか、少し苦笑いをしてあたしを見た。
あたしもこういう反応はうまくできなくて、黙ってしまった。
43 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:20


「叶わない恋ってさ、叶わないからやめられないんだよね。」

意味深にごっちんはそう言った。
かなわないこいはかなわないから・・・ん、よく分からない。

「叶わないって決まってんの?」
「決まってるよ。」
「なんで。」
「だって市井ちゃんはごとーと浮気してんの。本気してない。」

少し低めの声でそう言った彼女の言葉を、あたしは飲み込めずにいた。
浮気である限り本気にはなれない。
それは分かる気がする。

「人は本気で愛してる人が居るから、浮気できるのよ。」
「それって、矢口さんのこと?」
「他に誰がいるのよ。」
「・・うん。」

じゃぁやめちゃえば?

あたしがずっと、この言葉を踏みとどまっているのはどうしてだろう。
哀れなごっちんを見ていたいから?
それとも本当に愛があれば、略奪もできるってことを証明させたいから?
44 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:20


「順番間違っちゃったもんね。」
「よしこに言われたくないっ。」
「確かに。」
「もー、ごとーどうしたらいいのかな?」
「どうしたいの?ごっちんは。」

コーヒーをスプーンでかき混ぜながら、あたしはごっちんの反応を待った。
目を合わせた瞬間、彼女の表情はいつもと違っていた。


「欲しいの。」

言葉を発したごっちんは、思ったより強い目をしていた。
笑ってない。でも無表情とはいえない複雑な目。



「市井ちゃんが欲しいの。」

45 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:20

あたしは動かしていた右手を一瞬止めて、ごっちんから目を離した。
そしてすぐにカチャカチャと音を立ててまた混ぜ始めた。
気まずい空気が妙に嫌だった。

こういうときはどういう風にすればいいんだっけ。

「よしこだったらどうする?」

あたしが何かを言う前にごっちんはそう言った。

「あたし?」
「うん。」

そんなこと考えたこともないしどうでもいいのに。
っていうか、あたしに聞いて解決する問題じゃないって。

「ごめん、分からないや。」
「あっそ。」
「でも、欲しいモノがあったら手に入れるよ。どんな方法でもね。」
「それが卑怯でも?」
「あぁ。でも恋愛じゃそこまでしないかな。」
「なんで?」
「あとで面倒になるから。」
「・・・出た、面倒くさがりや。」

出た、ってなんだよ。
あたしは面倒なことが嫌いなだけ。

「恋愛だって、所詮は恋愛ごっこに過ぎないんだから。人間はみんな自分が1番かわいいんだ。」

あたしの言葉に、冷たい人間だね、とごっちんはそんな目をしていた。
でもあたしたちはお互いに距離を置いて仲良くしてるからそんなことは口に出さない。
46 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:21


間もなくごっちんも落ち着いたようにコーヒーを口に含んだ。

「や、それあたしのだから。」
お構い無しに人のコーヒーを嬉しそうに飲む彼女。
ま、これがいつものごっちんだからいいんだと思うけど。
あたしはしょうがなくもう片方のコーヒーにもう一度砂糖を入れて混ぜた。

しばらくしてポケットを探るあたしを見て、ごっちんは引き出しから煙草を出してあたしに投げた。
あたしが彼女の家に来るときわざと忘れていく。
というか学校に煙草を持ち歩かないあたしは、自分の家とごっちんの家に常備している。

「さんきゅー。あれ?減ってない?」
「ばか。」
「冗談だよ。市井さん煙草キライだもんね。」

前に市井さんの家に行った時、そんな話を聞いたらしい。
ごっちんから聞く限り市井さんって激しそうだし、煙草なんか吸ったら体力もたなくなっちゃうか。
あたしも人のこと言えないけど。

窓際に座ってあたしは煙草に火をつけた。
制服で吸う時はなんだかいきがってるようであまり好まない。
あくまでも場の空気をいつもどおりに戻したかったまでの行動に、あたしは少し後悔した。

「おいしい?」
「不味いよ。」
「じゃぁ吸うのやめなよ。」
「明日からやめるよ。」
「あっそ。明日バイト?」
「うん。」
「よしこってさぁ・・・」

ごっちんが少し間をおいて、あたしは窓の外に煙を吐き出してから振り返った。
47 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:21

「なに。」
「思ったんだけどさ、なんでバイトしてんの?」
「なんでって?」
「だって仕送りあるんでしょ?しかも莫大な金額で・・・」
「あぁ。けどそれとは別にちょっと貯金したくてね。」
「ふーん。」

あたしの意味ありげな言葉にもごっちんはそれ以上聞かなかった。
煙草の火を携帯灰皿に押し付け、窓を閉めた。
外の乾いた音が遮断されて、なんとなく引き締まるように感じた。

何の躊躇いもなく、ごっちんは制服をポンポンと脱ぎ捨てて部屋着に着替え始めた。
ごっちんがスタイルいいのは知ってたけど、改めてみると・・・

「何、見ないで。」
「じゃぁ少しは隠そうとしろよ。」
「別にあたしの体見たって興奮しないでしょうが。」
「なんだそりゃ。するよ、実際今スタイルいいなぁって思ってたし。」
「はいはい。市井ちゃんに言われたいよぉ、そういうのは」
「ごっちん・・」
「あーもう、市井ちゃんの話はやめようっと。」
「ごっちんってば。」

「コーヒー」

無理やり話を変えるように、ごっちんは白いカップを指差した。

「冷めないうちに飲めば?」
48 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:21


それっきり市井さんの話になることはなかった。
結局ごっちんは大事なことをあたしに話さない。
まぁ別に話して欲しいわけじゃないし面倒になることはイヤだけど。
グチを言うならやめちゃえばいいのに。
面倒くさいなら、全部やめちゃえばいいのに。

あたしみたいに全てを中途半端にやって、楽しいとか気持ちいいとかだけを毎日の支えにすりゃぁいいのに。
今日は今日で明日は明日なんだよ。
あたしの中には昨日や過去は一切ないんだ。

そういう生き方が、1番楽なのに。

みんなバカだな。
49 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:21


いつものくだらない話に戻ったころ、あたしの携帯が高鳴りした。
電話だと分かったとたんにあたしは席を立った。

「ちょっとごめんね。」

ごっちんにそう言って部屋を出て携帯の画面を見た。

「もしもし。」





『よっすぃ・・』


50 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:21


まるで糸が切れた瞬間のような弱弱しい声に、あたしは思わずもう一度携帯を耳にあてた。
矢口さんは黙ってしまった。
けど、かすかに鼻をすするような音がするのは確かだ。

「矢口さん?」

あたしの問い掛けにただ電話の向こうで泣きながら何も話さなかった。
何かあったんだとはすぐ分かったけど、今聞いてもしょうがないことも気づいた。


「玄関のオートロック、あたしの携帯番号の下四桁で解けるんで。」

『・・・え?』
「先入ってて下さい。」
『なんでよっすぃーんちの前いるって分かったの?』

「や、どうせ薄着して来てインターホン押したはいいけど留守で、しょうがないから外で鼻水垂らしてながら電話してきてるのが想像できるんで。」

『・・・バレバレかよぉ。でも鼻水は出てないもん。』
「そうですか。じゃぁ、すぐ帰るんで。」

あたしはそう言ってすぐに携帯を切って部屋に戻った。
ごっちんは会話が聞こえたのかそれとも雰囲気で悟ったのか、もうコーヒーを片付けていた。

「女遊びは程々にね。」
「なんだそりゃ。」
「行ってらっしゃい。」
「ごっちん。」

荷物を持って部屋を出る瞬間、あたしは一瞬ためらいながらも名前を呼んだ。

「あんま話聞いてあげられなくてごめんね。」

市井さんの話はするなって言われたばかりなのにあたしは最後にそう言った。
ごっちんは一瞬下を向いて怒ったように見えたけど、すぐに顔をあげた。

「ありがとう。」
51 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:22


後藤家を出るなりあたしはタクシーを拾った。
さっき持ってかえってきた煙草を車内で吸いながら頭の中をリセットしていた。
制服姿の女の子のあまりにも堂々とした出来事に運転手さんも一瞬驚きながらもそのまま車を進めた。

矢口さんと会うことはごっちんへの裏切りのような気がしていた。
別に直接的な被害はないだろうけど、やっぱり何かおかしいこの関係。

今はごっちんのことは忘れなければならない。
今は矢口さん。
リセットしなきゃ。

家の前についてタクシーをカード払いすると、運転手さんの驚いた顔も無視してさっさとマンションに入った。
エレベーターで自分の階に着いたときには、正直もうごっちんのことはほとんど忘れていた。
それでいい。それでいいんだ。

オートロックを解いて部屋に入ると、そこには意外な光景があった。

「お・か・え・りっ」

出てきたのはさっきとは一変して、いつもの明るい彼女がいた。
勝手に人のエプロンをしてあたしに抱きつく矢口さん。
とりあえず靴を脱いでそれをスルーすると、つまらなそうにリビングまで跡を追ってきた。
52 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:22

「夕飯作ってるの!すごくない?」

「・・・・。」
あまりのテンションの高さにあたしは黙って真顔で彼女を見つめた。
それでも矢口さんは犬みたいにあたしに笑顔を向けてくる。
それがあまりも、空しかった。

「矢口さん、」

「あ!お風呂も入れといたよ!あとねぇ・・・」
「矢口さんってば。」
あたしは無理やり矢口さんの腕を掴んだ。

「用ないなら帰って下さいよ。」
少しきつく言ってしまった。あの電話が演技なら腹が立つし。

「ごめん!よっすぃ、怒った・・・?」
「怒ってない。」
「ほんと・・?」
「矢口さん。」
53 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:22


「何があったんですか。」


あたしがそう言った瞬間、矢口さんは泣きだした。
「・・・・っよっすぃ・・」
小さい体を小刻みに揺らしながら、顔を覆って泣いた。

「最初からそうすればいいのに。」
背の高いあたしにの胸に、小さな矢口さんはすっぽりはまった。
優しく抱きしめた体は震えていて、あたしは少し悲しくなった。

ごめん、ごめんね、と呟く矢口さんが空しくて、あたしは黙ったままいた。
54 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:22




55 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:22


その夜あたしは矢口さんを抱いた。
もう二度目なのに、変わらず事を終えたあと、彼女は眠りながら泣いていた。

横で眠る彼女を気遣いながらも、あたしはお風呂場に向かった。
ぬるくなったお風呂につかる。

・・・これからどうすりゃいいんだ?
なんであたし、親切に世話やいてんだろ。

矢口さんが別に特別でもなんでもない。
今までの女と同じ。ただの寂しい女で、あたしはそれを紛らわす役。

なんかくだらねぇ。
56 名前:ゆら 投稿日:2006/03/05(日) 19:23
題名が名前のままでした、すんません。
あんま気にしないで下さい。

33 〜36さん、どうもありがとうございます。
頑張ります。
57 名前:あお 投稿日:2006/03/07(火) 00:19
>>35のものです。

更新されてて嬉しいです。次の展開が全く読めないので、その分今後が楽しみです。
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/07(金) 06:50
初めまして。
今日一気に読みました。面白いです。
続き楽しみにしてます☆
59 名前:ゆら 投稿日:2006/05/29(月) 22:03
いまさら再開します。のんびりですが、どうぞよろしくです。
60 名前: 投稿日:2006/05/29(月) 23:12
目覚めたら、土曜の朝だった。
黒のタンクトップ姿のままあたしはむくっと起き上がる。
カーテンをあけて部屋に明かりが差し込んだ。

隣には妙にちっこい女が寝ている。
えーっと・・思い出そう。
誰だっけ?

「・・・・。」

そうだ。昨日矢口さんがうちに来て、泣き出して、そのまま・・・。
って今何時だ?
あたしは携帯を取って時間を見ると、昼の12時を過ぎていた。

げ、学校!!

「矢口さん、おきてください。」

必死にあたしは矢口さんを起こした。
あぁ、もう何やってんだうちらは・・

んん、とぐずりながらも矢口さんは目を覚ました。
矢口さんは裸だったので、そのへんにあったパーカーを無理やり着せてあげる。
61 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:12


「んー・・・あ、よっすぃ。おはよう。」
「おはようじゃなくて、もうお昼ですよ。学校終わっちゃいますよ。」
「えー?」

えーじゃないですよ、とあたしはせっせとベッドから降りてワイシャツやらを探し出した。
ただでさえ遅刻多いのに、こんなんじゃ学校クビになっちゃうっつーの。

「ねぇ、よっすぃー?今日土曜日だよ?」
「だからなに・・・ん?土曜?」

あたしはワイシャツを着る手を止めた。
あれ?今日土曜日?
学校休み??



「・・・ふっ」
「・・・あはは。」

思わずあたしたちは2人で顔を見合わせて笑った。
モテモテキャラのあたしがこんなボケするなんて、レアだからね。

あたしは土曜か、なんて思いながらワイシャツを放り投げて代わりにTシャツを着た。
62 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:12

「はい、矢口さんこれ着て下さい。」
「ん、サンキュ。」

彼女にとっては少し大きいけど、なるべく小さめのTシャツを渡した。
適当な格好に着替えて、2人でリビングへ歩く。
まるで同棲カップルだな、これは。

「ねぇねぇ、同棲カップルみたいじゃない?」

あたしがそう思った瞬間、矢口さんはニコニコしながらそう言った。
別に、とあたしはわざとそっけなく言ってコーヒーを入れる。

「甘いの平気ですか?」
「うん!よっすぃーはブラックとか飲みそう。」
「まさか。こう見えても甘党ですよ。」

そういいながら昨日のごっちんの家でのやりとりを思い出す。
複雑な気持ちだった。
ごっちんの浮気相手の彼女と朝ごはんって・・・どうなんだ、これは。
63 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:12


しばらくコーヒーを飲みながら2人は無言でテレビを見ていた。
土曜のお昼なんてぜんぜん楽しい番組やってないのに、なぜかひたすら2人はテレビを見た。
外は晴れて、2月にしては珍しく肌寒い程度の朝だった。

「よっすぃー、今日なんか予定あるの?」
「夕方からバイトです。」
「え?!バイトしてんの?!」

矢口さんは思いっきりびっくりしてそう言った。
あたしは特に慣れた言い方で返事を返す。

「はい。学校の近くのガソリンスタンドで。」
「え〜!こんな高級マンション住んでるし・・・家お金持ちでしょ?」
「まぁ否定はしませんけど。」

あたしがそう言うと、否定しろよ!といつものノリでつっこまれた。
しばらくまた沈黙が続いて、今度はあたしが口を開いた。

「矢口さんは予定あるんですか?」
「ないねぇ、寂しい女だから。」
「じゃぁどっか行きます?散歩とか。」

あたしらしくないけど、なんとなくそう言った。
矢口さんのことだから笑うかな、って思ったけど、なぜか黙ってうつむいた。
64 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13


あたしはすぐに、市井さんのことが頭に浮かんだ。

「そっか、外歩いたら関係バレちゃいますからね。」

気を使うようにあたしが言うと、彼女は首を横に振って否定した。
・・じゃぁなんで??
あたしは意味も分からず、だんだんその意味を知ることすら面倒くさく思えてきた。

その時矢口さんは急にらしくない表情をしてあたしを見たんだ。



「矢口の話、聞いてほしい。」

65 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13


一瞬

いや、一瞬だけだけど、ドキッとした。
何だよ、その目。みたいな。
矢口さんらしくないんだけど、本当の矢口さん。

「いいですよ。」

あたしはそう言ってコーヒーを口に含んだ。
クールぶってるけど、少し気になった。
66 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13


矢口さんはしばらくすると、少しやわらかい表情になった。
あたしはその時、油断したんだ。
どうせまた矢口さんらしく、くだらない話でもしてくれるんだろうって。
でも、彼女から出た言葉は意外だった。


「あたしね、知ってるんだ。真希ちゃんのこと。」


67 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13




68 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13


一瞬、あたしはコーヒーカップを持つ手をとめた。
そして少し考えて、もう一度テーブルに置いた。

「・・・浮気のことですか?」

他にないだろうと思った。
なんで知ってるんだろう、とかそう言う以前の問題で
あたしは矢口さんが今までどうして黙ってたんだろうってことが不思議だった。
知らないと思ってた。見抜けなかった。あたしでさえ。

「そうだよ。よっすぃーも知ってたでしょ?」
「・・はい。でも最初会った時・・矢口さんが家に初めて来たときは知らなかったです。」

「そっか・・・。あの日にあたし、紗耶香が二股かけてるの知ったの。」


あの日の夜中、急に知らない女があたしの家に訪ねてきた。
こっちは眠いのに、なんなんだって思ってた。

あの時、本当はすごく悲しかったんだね。

だから、泣いてたんだ。
69 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13


「保健室で矢口さんの名前を聞いて、ごっちんの言ってた市井さんの彼女だって分かったんです。」

あたしは特に表情も変えずに事情を話した。
うんうん、と矢口さんは頷く。まるでこっちが相談を聞いてもらってるみたい。
こんなときに、矢口さんってやっぱり年上だなって思う。

「じゃぁ、二回目に会った時は、もう知ってたんだよね・・・」

矢口さんは俯いてしまった。
あたしはものすごい罪悪感にさいなまれた。
だってあたし、知ってて矢口さんと再び関係を作ったんだもん。

「・・・すみません。知らないフリなんかして。」

あたしはただ謝るしかなかった。
人に頭を下げるなんて、あたしにとっては奇跡だよ。
でも本当に、あたしは悪いと思ってそう言った。

なのに、あたしが顔を上げたとき飛び込んできたのは、

矢口さんの笑顔だった。
70 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13


「知ってて、あたしに優しくしてくれたんだね。」



「ありがとう。」

71 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13



72 名前:           投稿日:2006/05/29(月) 23:13


その日、あたしのバイトの時間まで矢口さんと2人で一緒に居た。
なんだか、あたしはこの人のことを嫌いじゃないと思い始めてさえいた。

それと同時に、矢口さんは本気で市井さんのことを好きなんだと知った。
だって・・


「それでも、幸せですか?」

矢口さんを駅まで送る途中、あたしはそう聞いた。
ふふ、とおかしそうに笑う彼女。

そして、大きく頷いた。



「だって、あたしが1番愛してる人に、愛されてるから。」


「・・・。」

「今日はありがと。バイバイ。」

呆然とするあたしに、矢口さんは一方的に手を振って歩き出してしまった。
その場にあたしは取り残され、しばらく立ち止まった。

矢口さんは、強いな。

羨ましいな。
73 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:19
土曜、バイトした。

日曜、バイトした。

あたしの土日はあっという間に過ぎて、学校が始まった。
だるい・・だるすぎる。

制服に着替えて、妙に広いリビングでひとり朝ごはんを食べながら、
昨日ここに矢口さんと2人でいたことを思い出していた。

なんだなんだ、この変な感じは。
乱されてるなぁ、あたし。

女はみんな同じ、同じハズなのに。


ごめんね、ごめん、ごっちん。


なぜかあたし、矢口さんの幸せを願ってる。
74 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:20


気だるいままあたしは学校に向かった。
いつもより早い電車に乗り、ヘッドホンを耳にあてた。
大好きなジャズも今日はなんかどーでもよくなる。

妙に気まずいな、矢口さんとごっちんのいる学校。あ、あと市井さんも多少ね。

学校までは7駅。2駅進んだところで、同じ制服の女の子が乗ってきた。
この時間に電車乗る子いるんだ・・・
あたしはその女の子の後姿を見ていた。
あれ?もしや・・

その子が振り向いた瞬間、思わずあたしは声を出した。

「あ!」

バッとヘッドホンを外す。

「あ。」

ミキちゃん。藤本美貴。
まさかこんなところで会うなんて。
75 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:20

「美貴ちゃんじゃん!偶然だね。」
「・・・」
「えぇ、シカト?!」

あたしが近づくと、無視して向こうを向いてしまった。
つくづく嫌われてるなぁ・・あたし。

「あたしこの2つ前の駅なんだ。近いね。」

負けじとニコっと笑ってあたしは話かける。
けど美貴ちゃんは機嫌悪そうにあたしを見るだけ・・・。
なんだよ、ひどいな。

「あんた、誰にでもそうやって話しかけるの?」

突然呆れたように彼女はそう言った。
ほんと、こういうキャラの女の子は初めてだよ。落とし甲斐がある・・・じゃなくて、珍しいよなぁ。

「誰にでもって・・ひどいな。あたし基本的に受身だから。」
「じゃぁ話かけんな。」
「わ、口悪いなぁ。そこも結構ドキッとするけどね。」
「うざい。」

あたしたちはそんなやり取りをしながら、いつの間にか学校のある駅についた。
76 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:20


少し早い電車だから、ほとんどうちの生徒は乗ってなかった。
ほんの数百メートルの通学路を、あたしは美貴ちゃんの隣を歩いた。

「ねぇ、あたしのこと嫌い?」
「うん。」

「なんで?」
「チャラいから。」
「見た目や噂で人を判断しちゃだめだよ。」

あたしがそう言うと、美貴ちゃんはピタッ、と足を止めた。
え、なに。

「保健室でさ、女とキスしてたじゃん。あれ彼女じゃないでしょ?」

あたしはきょとん、とした。
思いもよらない話に少しびっくりした。

「うん、違うよ?」
「そういうのがチャラいって言ってんの。あれ見て噂以上に軽蔑したわ。」

そう言い捨てて、思いっきりあたしを睨んで、彼女はつかつかと先を歩いていってしまった。
えぇ・・・つれねぇ〜・・

まぁいいや。

女の子なんて、他にもたくさんいるし。
77 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:21
学校について、いつもどおりつまらない授業を適当に受けた。
ごっちんとは偶然選択の授業が違ったから、
結局顔を合わせたのはお昼休みだった。

「おはよ〜よしこ。」
「おはよ。お弁当?」
「ううん、学食。買いに行こう。」

なんだ、いつもどおりにできるじゃん。
矢口さんのこと色々あったけど、昨日は昨日。今日は今日。
ごっちんとは普通にしてればいいんだよね。

テーブルに座って、あたしたちはくだらない話をしながらお昼を食べた。

「あ、これから委員会だ。そういえば藤本さんも一緒だよ。」

あたしは朝のことを思い出した。

「まじ?今日その藤本さんと電車で会ったよ。だいぶそっけなくされたけど。」
「嫌われてんね〜。やめときなって。あの子ガード固そうだから。よしこには向いてないよ。」
「だよねぇ。って別に狙ってないから。」

そんな話をしていると、向こうから美貴ちゃんが歩いてきた。
お、とあたしは笑って手を振る。

ん?ん?

こっちに歩いてくる・・
78 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:21


「後藤さん。委員会、どこでやるか分かる?」

目の前に来たと思ったら、話しかけた相手はごっちんだった。
ガクッとあたしは肩を落とす。
だからこの子はあたしのこと嫌いなんだっての。

「第二会議室だよ。一緒に行く?」
「うん、行こ。」

「えぇ!ずるい!あたしも行く!」

ノリであたしがそう言うと、美貴ちゃんはまたあの目つきであたしを睨んだ。
ひゃー、こえーこえー。


「じゃぁよしこ、行ってくんね。」

ごっちんもご飯を食べるとそのまま美貴ちゃんと行ってしまった。
なんだよ、みんなしてさぁ。
寂しいじゃんか。
79 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:21


ひとりでご飯を食べ終えると、あたしはひとりで屋上に行った。

あたしはこの屋上がすごい好き。
だって、のびのびしてるし。誰も居ないし。

くーっと伸びをして太陽を見た。
眩しさに少し目を細めると、目線の先にひとりの人が居た。

貯水タンクの裏で煙草を吸う制服姿。
妙にカッコイイじゃんか。

あたしは少しずつ近づいて、その顔を見た。
気配に気づいたのか、その人もふっとこっちを見る。
目が合う。
・・・。


え?



「あ・・・。」
80 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:21


「市井紗耶香。」

思わずフルネームを呼び捨てにした。
彼女はそのままじっとあたしを見る。
なな、なんだよ。

「チクんないでね。」

そう言って笑った。
うわー、カッコイイ。そのせりふ今度言ってみたい。
・・・ってそうじゃなくて。

「じゃぁ一本下さい。」

あたしはそう言って隣にどかっと腰を下ろした。
市井さんは驚きもせずに、ポケットから赤い煙草を差し出した。
ライターも借りて一服。



「後藤の友達でしょ。」

切り出したのは市井さんだった。
妙に冷静。
あたしは吸った煙を黙って吐き出した。

「そうっすよ。ごっちんと一応、付き合ってるんですよね?あと、矢口さん、でしたっけ?彼女。」

嫌味に、そして矢口さんでしたっけ?なんて少しウソを交えてあたしはそう言った。

そうだよ、とそれだけ言って彼女は黙った。
81 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:21


しばらくして、あたしなんでこの人と一緒に煙草吸ってんだろって不思議に思えてきた。
そしてバカバカしく思えてきた。

「後藤、どう思ってる?あたしとの関係。」

思いがけない質問が彼女の口から飛び出た。
あたしは、なんて答えていいのか分からなかった。

一番になりたいらしいですよ、なんて言えないし。
楽しそうですよ、とも言えない。
あたしが黙っていると、クスクスと笑い出した。

この人・・・あたしのことからかってる?

・・許せん!!


「何笑ってんですか。」
「いやいや、別に。」
「ごちそうさまです。」

あたしは妙に居心地が悪くて、煙草を床に押し付けると、早足で屋上を出た。


なんだ、あの人。


ごっちんも矢口さんも、あいつのどこがいいんだ?
82 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22


変な気持ちのままあたしは教室に戻った。
あーあーあーむかつく。あの余裕な表情。なんなんだよ。

さらに驚いたのは、教室に戻った後だった。
ごっちんと、美貴ちゃんが仲よさげに団欒してる。


「あー、ごっちん!いつの間に美貴ちゃんと!」

窓際で話す彼女たちのところにあたしは近づいた。
ごっちんは、はは、と笑ってあたしを見た。

「委員会で仲良くなったんだ。結構気合っちゃってさ。ね、ミキティ。」
「ね。ごっちん。」

なんだそれ!あんなにあたしにはそっけないくせにぃ。

「ってことは美貴ちゃんとあたしも友達ってことだよね?」

にこーっと笑ってあたしは彼女にそう言った。
でももちろん帰ってくるのはあのきつーい目つきなんだけど・・・。
83 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22


今日はなんか気に食わない一日だな。
市井さんって人には軽くからかわれるし、ごっちんと美貴ちゃんはなんか仲良くなってるし。
そう言えば今日矢口さん来てないのかな・・見てないな。

午後の授業をだらだら受けてると、急に携帯がバイブした。

”今日学校休んじゃった↓↓ 暇だからよっすぃーの家遊びに行っていーい? 矢口”

やっぱ休んでたんだ。
サボリ?ずるいな。

”いいですよ。あたしも授業終わったら帰ります。”


そう返事をうって、あたしはそのまま爆睡した。
84 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22



85 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22


目が覚めたとき、教室には誰もいなかった。

「えぇ・・?!」

外は夕暮れ。時間は夕方6時。
完全に寝ちゃってたらしい。
ごっちん、起こしてくれたっていいのに・・薄情モノ!

あ、そうだ。矢口さん家にいるんだっけ。
授業終わったら帰るっていったのに、大寝坊だよ・・。

あたしは荷物を持って誰もいない教室を出た。



廊下を歩いていると、隣のクラスの電気がついていた。
誰かいるのかな?消し忘れ?

ドアを開いて中を見ると、ど真ん中の席にひとり女の子が座っていた。



「・・・美貴ちゃん?」
86 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22


彼女は、一枚の写真を見つめていた。
どこか、寂しそうな目で。

「・・・っ。」

あたしに気が付くと、その写真をカバンの中に急いでしまった。
・・??

「帰らないの?」
「帰るよ。あんたこそ何してんの?」
「え、あたし?5時間目からずーと寝てて今起きた。バカでしょ?」

あはは、と笑うと、美貴ちゃんは黙って荷物をしまい始めた。

「一緒に帰っていい?」
「やだ。」
「えー」
「っていってもどうせ付いてくるんでしょ?」

美貴ちゃんは呆れてそう言った。
意外な反応にあたしは少し驚いていた。

んん、つまりは一緒に帰ってもいいってこと?
87 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22


教室を出る美貴ちゃんの隣で、そのまま一緒に歩いた。
駅までの道のり。そういえば、今日朝も一緒だったよね。


「ねぇ、美貴ちゃんってやや何考えてるか分からんね。」
「よく言われる。」



「ねぇ、そのキツ〜イ目つきはわざと?」
「どうかな。」



「興奮する。」
「死ね。」


そんなやり取りをしながらあたしたちは駅についた。
あたしは少し、さっきの教室での美貴ちゃんの表情が気になってきた。
なんか、泣きそうだったんだもん。
いつもはそんな目つき悪いのにさ、マジで泣きそうな顔してたから。


「ねぇ美貴ちゃん。」
「なによ。」

「なんかあった?」



「・・・。」
88 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22

電車はなかなか来なかった。


「や、言いたくないならいいんだけどさ。」
「・・・・・。」

「さっきの写真、誰の?」
「母親。」
「へぇ・・。」
「もういないけど。」

え・・


あたしは一瞬言葉を失った。

「ごめん。」
「別に。」


美貴ちゃんはそう言って、黙ってさっきの写真をかばんから出した。
そしてあたしに差し出してくれた。
え、なに、なに??
89 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22


そこには幼い美貴ちゃんと、お父さんと、お母さんがいた。

「若いね。美貴ちゃん。」
「それ、5歳のときのだから。」
「へぇ・・・」

「あたしの母親、6歳のとき、死んだの。」
「・・・・。」

あたしは黙って美貴ちゃんの話を聞いた。
なぜ、今彼女があたしに話してくれてるのかは分からなかった。
でも、あたしはバカなりに一生懸命聞いた。

「父親は再婚して、今はあたし、ひとりぐらし。親たち新婚だし。」
「え、どうしてみんなで住まないの?」
「邪魔なのよ。あたしのこと。」


・・・

また、彼女はあの表情をした。
悲しそうな、でも我慢してる。
泣きそうだけど、強がってる。




「美貴ちゃん?」


「・・・・。」


「美貴ちゃん。」

「・・・。」






「美貴。」


90 名前:           投稿日:2006/05/30(火) 00:22


気が付くと、あたしは彼女にキスをしていた。
殴られるかと思った。
でも、一瞬だけ触れた唇を離して、美貴ちゃんはあたしを見ていた。

そして急に鋭い声で話し出す。



「愛そうともしないくせに、愛されることに飢えてる。」

「触れられること拒みながら、触れていたいと願う」

「見せようともしないくせに、隠されることを嫌うの」



そう言って、あたしをもう一度見た。


「あんたとあたし、似てる。」
91 名前:ゆら 投稿日:2006/05/30(火) 00:27
更新終了
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 00:43
更新待ってました━!!!!!&大量お疲れ様です!!!!
終わったかと思ってたんでよかったです(゜∇゜)
これからも頑張ってください
93 名前:ミッチー 投稿日:2006/05/30(火) 04:06
更新お疲れ様デス。。。
待ってました!!続き気になってたんで嬉しいです!
やっぱりオモシロイっす☆
これからも頑張ってくださいね^^
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 10:15
更新お疲れさまです。私も待ってました!
ミキティの最後のセリフがカッコいい!!
すごい引き込まれました。
これからも頑張ってください!
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 23:39
更新お疲れ様です!
ミキティが凄いかっこいいキャラですね
続き楽しみに待ってます!
96 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:29

「・・・・。」

彼女の強い瞳に、あたしは思わず動けなくなった。
今までに体験したことのない感覚で、どうしたらいいか分かんない。

しばらくすると美貴ちゃんが目を離し、何もなかったように向こう側のホームを見ていた。
・・えーどうすりゃいいんだ。
だって、キスしたんだよね、今。
殴られるかと思ったのに、拒否されなかった。

それなのにその直後には理解不能な言葉を並べ、最後には似てる??
あたしと美貴ちゃんが?

どう考えたって違うじゃんか。


「あのさー・・・あたしはどうしたらいいでしょうか。」

あたしは困ったようにそう言って、美貴ちゃんの後姿を見た。
するとすぐに彼女は振り向いた。
97 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:29

「別に。どうもしなくていいよ。」

彼女はそう言ってまた目をそらした。
あたしはまた言葉を探し出す。

「・・それ1番困るんだけどな。」
「・・・・。」

アナウンスが流れて、電車がホームに近づいてきた。

夕方の地下鉄。
空いている車内にあたしたちは乗り込んで、隣同士の席に座った。
言葉はない。

ただの沈黙が、少し気まずくて、少し心地よかった。
98 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:29


あたしの降りる2駅前。
美貴ちゃんの街。

電車が着く直前に、彼女は突然口を開いた。

「あんたんち、桜町?」
「え?」

あたしはいきなりのことに焦った声でそう言う。
この子は本当に言動が読めん・・・

「近所にCD屋とかない?」
「あ、あるよ。行く?」
「うん。」

おおおお??
美貴ちゃんがあたしの誘いに乗ってくれた。
さっきのことといい、どういう風の吹き回しなんだ。

電車はそのまま美貴ちゃんの降りる駅を通り過ぎた。
・・・変な気分。
嬉しいのか、焦ってるのか、自分でもよく分からない。

・・・

「ついでにあたしんちも来る?」
「おのれんちには行かん。」


・・・ガクッ
99 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:30


さくっと冗談も済んだところで、電車はあたしの地元へ着いた。
見慣れた場所なのに。
何人もの女の子とこの駅を降りたのに。
なんか、違うんだよなぁ。

「CD屋はね、そこだよ。」

駅を降りてすぐ、あたしは建物を指差した。
美貴ちゃんはそれを見るなり店に入って、歩き回る。

あたしも最初は頑張って着いていこうとしたんだけど・・・
この子ちょこまかしすぎ!!
しょうがなくあたしは店の外に出て彼女を待つことにした。

ひとりになって、色々考える。
100 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:30


今日の美貴ちゃんの行動。

まったく理解不能な言動。


”愛そうともしないくせに、愛されることに飢えてる。”

”触れられること拒みながら、触れていたいと願う”

”見せようともしないくせに、隠されることを嫌うの”


・・・

「あたしと美貴ちゃんが・・似てる??」


独り言でボソッとあたしがつぶやくと、誰かがポンッと肩に手を置いた。

「おまたせ。」
「うお、美貴ちゃん!」
「ここ結構いいね。また来る。」
「そっか・・気に入ったなら良かった。」
「うん、ありがとう。」

そう言ってあたしたちはそのままもう一度駅の改札まで歩いた。
101 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:30


今度こそバイバイか。
思わぬ一瞬のデートだったけど。

「車に気をつけてね。」
「うん。電車だけどね。」

くだらない挨拶を済ませると、美貴ちゃんは歩き出した。
え、行っちゃうの?
何事もなかったように??


「あ、待って!

あたしは気がつくと後姿の彼女の右手を掴んでいた。

「何。」
「あ・・いやー・・あのさ・・」

あたしらしくねぇ。何どもってんだ。
軽く呼吸をして、あたしは掴んだ右手を離した。



「・・美貴ちゃん、あたしのこと好き?」
102 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:30

あたしの質問に、美貴ちゃんは表情ひとつ変えなかった。
まるでこう聞かれるって分かってたかのように。
さっきホームでキスしたときと、同じ感じ。

彼女は一瞬目線だけ下を向け、そしてあたしを見た。


「好き。」


そう言って、じゃぁね、と歩き出した。


「美貴ちゃんっ・・」

あたしは歯痒さのあまりそう言ったけど、彼女は振り向かなかった。

ひとり取り残されたあたしは
彼女の細腕を掴んだ感覚を右手に握った。
103 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:30



104 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:30


夜7時すぎ、やっとあたしは家に帰った。

玄関にある小さいオールスターの靴を見た瞬間、あ!とあたしは声をあげた。
そうだ、矢口さん来てるんだった。

「ただいまー」
「おかえり〜っていうか遅いよ!電話したのにぃ」
「あぁ、すいません。気づかなかったっす。」

あたしは靴を脱いでポンポンと部屋着に着替えた。
リビングのテーブルにはおいしそうな和食がズラリ・・・
あぁ、そっか。作って待っててくれたんだ。

「寄り道したんでしょぉ〜。 ほら、食べよう。」
「寄り道っていうか寄り女? あ、いただきます。」
「矢口より大事な女? どう、味は。」
「女に順位つけたことないんで。 あ、めっちゃうまい。」

骨になった焼き魚。からのお椀。

あたしは火をつけた煙草をくわえて、台所で2人分の洗い物をした。
105 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:30

洗い物を終えてちょうど短くなった煙草を灰皿に押し付けると
急に矢口さんはあたしの背中にピタッとくっついてきた。

「どうしたんすか。」
「ねぇ、ちゅーしていい?」
「今日はダメ。」
「え、なんで?」

あたしはさっきの美貴ちゃんとのキスを思い出していた。
それがどうとか、よく分からない。
でも今は、あのキスの感覚のまま、しばらくいたい。

「今日のキスはもう売り切れちゃった。」
「えっっ?!」

あたしはソファーにどかっと座ると、矢口さんはそのまま隣にちょこんと座る。
106 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:30


「矢口さん、このままあたしと会っててどうする気ですか?」

今まで別に聞こうとも思わなかった。
でもなんだか区切りが欲しかったのだ。

「どうしたの急に・・・」
「矢口さんが好きなのは市井さんでしょ?」
「よっすぃ・・・?」
「だったら・・」

「ハッキリさせた方がいいと思います。本当に好きなら。」


あたしの真剣な顔つきに、矢口さんは一瞬おびえたような顔をした。
嫌われてるんじゃないか、って。そんな表情。
きっと市井さんに対してはこんなに素直に顔に出せないんだろうな。
107 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:31

「市井さんの前では何も知らないフリして笑ってるんでしょ?」
「・・・・。」
「なんでですか?」
「そりゃっ・・好きだし、嫌われたくないから・・」
「そんなのおかしいですよ。」

矢口さんは静かに泣き出してしまった。
あたしはそっと肩を抱いた。



「そうやって泣けばいいのに・・・――」



「泣けばいいのに笑うから、同じ場所から動けないんですよ。」


108 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:31


矢口さんは鼻をすすりながら消えそうな声で話し出した。


「あたし・・どこを目指せば報われる?」

どこまで・・
そんなの答えなんてないのに。

「どこも目指さなくていいんですよ。ただ、自分の気持ち信じてあげないと。」
「・・でも・・」
「ひとりの孤独なんて意味がないんですよ。矢口さんには市井さんがいるじゃないっすか。」


「・・・。」

今日できっと矢口さんは変わる。
あたしはずっと、言えないでいた。
人に何かを教えてあげるなんて、できる人間じゃないって思ってたから。

それでもあたしは、誰かのために何かをしてあげたい。

本当は、何かをしてあげたいの。


求めるだけじゃない。

美貴ちゃんの言っていた言葉が、少し分かった気がしたんだよ。



「もしそれでもいつか、市井さんのこと好きじゃなくなって、ひとりになったら、」




「あたしのとこ、来ていいからさ。」



・・

109 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:31

人の手や肌は暖かくて、あたしはいつもそれに触れたがった。
でも、あたしはきっと心底冷たい人間だから、誰かに触れられるのは嫌いだった。

自分を、誰かに知られたくなかった。


なのに、あたし以外の誰かを知りたくて、知りたくて、しょうがなかった。



あたしは、弱い人間なのかもしれない。

強くなりたい。

弱さを認められる

悲しい時に泣ける

差し伸べられた手に甘えられる

弱音を素直に吐ける

等身大の自分をかわいがってあげられる

包み込まれ包み込んであげられる

愛する人の胸の中、涙を流せる

強い人間になりたいよ。
110 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:31

正直うらやましかった。

矢口さんは愛されてる。市井さんに。

あたしだって色んな人に愛されてきたけど、誰かを愛そうと思ったことは一度もなかった。
だって、無意味だと思ったから。

愛しても、いつか気持ちは冷めるから。

111 名前:          投稿日:2006/06/01(木) 23:31

誰かの幸せを願ったとき、

あたしは孤独を知った。
112 名前:ゆら 投稿日:2006/06/01(木) 23:33
レスくれた方々、感謝感謝でございます。。。。
がんばります
113 名前:名無し飼育 投稿日:2006/06/02(金) 00:28
あー、もう諦めていたので、更新されてて嬉しいです。

また、気長に待ちますね。
114 名前:あお 投稿日:2006/06/03(土) 00:11
作者様、お帰りなさいませ!
文章に切れ味がありますね。心臓鷲掴みされました。次回更新も楽しみにしてます!
115 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/03(土) 08:41
更新おつ疲れ様です!
ミキティがすごい不思議なキャラで
おもしろいです、続きまってます。
116 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/03(土) 10:08
よっすぃーの行動にびっくりしました。
そんなことできたんだー…
117 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 00:41
待ってましたよ
更新されていて嬉しい
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/14(水) 23:03
待ってまーす
119 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:22
その日、矢口さんは家を出て行った。
別に一緒に住んでるわけじゃないのに、妙な空しさがあたしを襲った。
ムダに広い3LDKが、いつもよりもっと広く感じた。
煙草を吸って、少し酒も飲んで、それでも眠れなかった。

矢口さん、市井さんに言えるのかな。
気持ち伝えられるのかな。

あぁ、明日も学校か。どうしたらいいんだ、この空虚感は。

あー・・・あたしじゃないみたい。

120 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:22

ベッドに入るなり、あたしは美貴ちゃんのことを考えていた。
あの細腕を掴んだ右手。
軽く触れただけの唇。

明らかにあたしは戸惑っていた。
他の女の子なんてどんどん食っては捨ててきたのに。
ましてやキスなんて挨拶だったのに。

”好き”

ありえない美貴ちゃんの発言。
逆にその言葉に、何が隠されてるのかを一生懸命探す自分がいた。
あたしが彼女に抱いている感情には、名前が付けられない。

誰か教えて。

好き、だなんて単純な言葉で済まされるなら
とっくに言ってるから。
121 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:22

ろくに睡眠を取れないまま、あたしは目を覚ました。
無意識に、あたしはあくまでも無意識に、昨日と同じ早い電車に乗ることにした。
美貴ちゃんのいる、あの電車に。

昨日と同じ車両に乗り込むと、ヘッドホンを頭につけた彼女が座っていた。
目を閉じたまま腕を組んでいる。
・・・寝てる?

あたしはまだ空いている車内を歩き、美貴ちゃんの隣にそーと座った。

「美貴ちゃーん・・・」

小声で話しかけて、肩を叩いた。
あれ・・無反応?

「美貴ちゃーん」

「・・・」

「美貴ちゃん、美貴ちゃんってば。」

「うるさいなぁ」


そう言ってがばっと急に彼女は顔をあげた。
あたしは思わず驚いて体を横にずらした。
えぇ、起きてたの?!
122 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:22


彼女はあたしのほっぺたをギューッと引っ張ってあたしをこっちに寄せた。

「ほはよー、みきひゃん・・」
「おはよう。」

そう言って今度は勢いよくつまんだほっぺたをはなした。
イテェっつーの。

「美貴ちゃん、Sだったんだね・・。」
「はァ?」
「ベッドの上での美貴ちゃんを想像したらもう・・」
「殺す」
「わーお、激しいのが好きなんだね。あたしは美貴様にならもうどうされても・・」
「死ね。」
「やだ〜美貴を抱く前に死ぬなんてやだ〜」
「もうしゃべんな。」
「・・・」


「しゃべんないから一緒にいていい?」

あたしの殺し文句に美貴ちゃんは黙った。
殺し文句に殺されるような女じゃないのは分かってるんだけど。
それでも彼女は呆れた顔でまた眠りについた。

あたしはただその隣でじっと座っていた。
なんだか、それだけでよかった。
123 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:22

学校の最寄り駅について、あたしたちはだらだらと通学路を並んで歩いた。
この時間はほとんどまだ生徒は居ない。

約束どおりあたしは喋らずにただ一緒に歩いた。
たまに見る彼女の横顔は凛としていて、キレイだった。
黙ってれば可愛いのに。
いつものあの睨みきかせた目つきはもう・・・クワバラクワバラ。

でもたぶん美貴ちゃんは本当はいろんなことを背負ってるんだろうな。
死んだお母さんの話を聞いたときそう思った。
父親のことが嫌いとか、だから自分は邪魔だとか、そんなこと言ってたけど、本当は寂しいんじゃないかって。
あたしは、思ったりするんだよ。

なんかそのギャップにグッときてかどうか分からないけど、
ついついキスしちゃったってわけなんだけどね。別に軽い意味じゃないけど。
殴られること覚悟でやったのにな。
まさかホントにキスしてくれるなんて。


学校に着くと、美貴ちゃんはさっさと上履きに履き替えて階段を上り始めた。
あたしも焦って追いついた。

静けさに包まれた校舎。

「ねぇ美貴ちゃん、やっぱしゃべっていい?」
「やだ。」
「学校、まだ誰もいないね。静かだね。」
「人の話聞けよ。」
「2人っきりだね!ドキドキするよ。」
「もういい、しゃべんな。」

「じゃぁキスしていい?」
124 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:23

階段を上りきって、誰も居ない廊下。

あたしはあの美貴の細腕を優しく引っ張った。
こっちを向かせた目の前の彼女は、真顔であたしを見る。

「美貴。」

そのままそっと触れるだけのキスをした。
顔を離したあとの彼女は、変わらず真顔だった。

何秒たっても、依然変わらず彼女はあたしのことを真っ直ぐ見ていた。
目を逸らせなかった。

「美貴ちゃん、保健室いかない?」
「は?」
「サボろう。」

あたしは半ば強引に美貴を連れて保健室に入った。
先生が今日いないのは知ってたし。
カギを閉めたのは美貴も気づいたかも。

その細腕を誘導して、ベッドに座らせた。
125 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:23


「美貴ちゃん。」

なに?という顔であたしのことをみる彼女。
冷静すぎる美貴に、あたしは少し戸惑いさえ感じた。
それでも目の前に居るこの人を、自分のモノにしたかった。

最初はさっきと同じ、軽く触れるだけのキス。
さっきより長く、何度もキスをした。
拒否られるかも、とかそういう考えはもうあたしの脳裏にはなかった。

キスをしたままあたしは美貴の両肩を軽くトンッと押してベッドに倒した。
その上に覆いかぶさるようにして彼女を見つめた。
126 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:23

何度も、何人も、こんな風にベッドの上で女の子を見てきた。
でもあれは儀式だった。
セックスというただの儀式。
寂しさを紛らわすだけのおまじない。
数時間だけの魔法。

でも今は違った。

あたしはもう、美貴の真っ直ぐな黒い瞳に夢中だった。

あぁ、あたしこの子が好きなんだって。
別に誰かを本気で好きとか思ったことなかったのに。
どうしたんだ、あたし。

もう、どうでもいいや。

キスを繰り返して、舌で唇をなぞって彼女を味わった。
少し無防備な唇の隙間から舌を入れた瞬間、熱い何かを感じた。
やばい、あたしエッチするのにドキドキしてる?

あたしは夢中になって美貴の舌に自分の舌を絡めた。
離した時糸がひいているただそれだけでも体中が熱くなった。

理性が負けているのが手に取るようにわかる。
乱暴にならないように必死に自分を抑えながら、優しく首筋をなめた。
少し体をうねらせた彼女を見て、それだけであたしの興奮は絶頂だった。

ワイシャツのボタンに手をかけたとき、美貴は突然右手であたしの頬をなでた。

「ん・・?」
127 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:23

一瞬あたしは動きを止め、とろんとした目で美貴を見た。

「あたしを抱いたら、それで満足?」

低く、歯切れのいい彼女のそのせりふに、あたしはピタリと視線を止めた。
彼女はそれでも喋り続けた。

「美貴を知りたい。もっともっと、知りたい。」
「知りたい?」
「そう。美貴が何を考えてるのか、どういう風に生きてるのか。見てみたい。」

「贅沢よ。」
「・・え?」


逸らされない目は少し泣きそうに見えた。
あたしはおびえて手をかけたワイシャツを離した。

「抱きたいなら抱いて。でもあたしを探らないで。知ろうとしないで。」

「どうして・・」
128 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:23


「あたしは美貴のことが・・」

美貴は言葉を言いかけたあたしの口を抑えた。





「アンタがそれでもまだ欲しがるなら、この声も指も髪もすべてあげるから」



「お願い、ひとりにして。」





129 名前:          投稿日:2006/06/17(土) 19:23
・・・・




美貴・・

どうして影を恐れるの。

光を浴びてる証なのに――
130 名前:ゆら 投稿日:2006/06/17(土) 19:24
なんでochiになってたんだ・・???

更新終了です。みなさんコメントほんと嬉しいです。どうもありがとう。
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/18(日) 00:17
おぉー!!!更新お疲れ様です!!ミキティなんかありますねぇ……みきよし幸せになれ…!!
132 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/06/18(日) 10:59
美貴ちゃんの台詞にドキッとしました。にているようだけどま逆の二人なんですかね?
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/19(月) 00:23
更新お疲れ様です
これからの展開が非常に楽しみです∩゚∀゚∩
134 名前:あお 投稿日:2006/06/19(月) 02:42
いやー、この緊張感のある空気、たまんねーっす!
135 名前: 投稿日:2006/06/28(水) 22:10

あたしの長く垂れ下がった前髪のすきまから見える美貴は、怖いほど綺麗だった。

いったんワイシャツに手をかけた右手を離して、あたしはベッドから降りた。
そして美貴の細い腕を引っ張ってゆっくりと座らせる。
無言のまま、そして目も合わさずに外れたボタンを丁寧に留めなおした。

「どうしたの?」

美貴はその光景を見ながらそう聞いた。

「やめた。」

それだけ言ってあたしは、彼女の乱れた制服をなおして、髪を整えた。
ベッドに座った美貴。


「中身のないセックスなんて嫌だ。」

床にあぐらを書いてそれを見上げるあたし。

「他の女とする時だって中身ないでしょ。」
「美貴は他の女と違う。」
「どこが?」

怒ってるのか、どすの聞いた声で美貴はそう言う。
はぁ、とため息をついてあたしは立ち上がった。
136 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:11

「あたしは美貴が好き。」
「・・・・。」
「美貴があたしのこと好きになってくれるまで待つから。」

あたしの言葉に、美貴は頭をかいて困ったような顔をした。
そして呆れた表情であたしを見る。

「いや、あたしはそういう気ぜんぜん―――・・」
「それまで付きまとうから。よろしく。」
「はぁ?」

じゃ、と手を振ってあたしは保健室をあとにした。
ずかずかと歩いて教室に向かっていった。
137 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:11


さっきはほとんど人がいなかったのに、ちょうど一時間目が始まるところで廊下は騒がしかった。
あーあちぃ。
あちぃよ。

顔があちぃよー。

あたしは教室の前で足を止めて、両手で顔を覆った。

「あ〜〜〜〜やべぇよ〜〜」
「何が?」


目の前には親友の姿が。
ごっちぃーん・・・と泣きつくけど、簡単に交わされてしまった。
ぐすん。

「はよ座らんかい。」

中澤先生に頭を叩かれてあたしはしぶしぶ席に着いた。
隣に座ったごっちんは、明らかにうなだれてるあたしを少し楽しそうに見ていた。
てめぇ、何笑ってんだよ。
人事だと思ってさぁ・・・・

138 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:11


「で、どうしたの。」

教科書を開くなりごっちんは呆れた顔で聞いてきた。
はぁ・・とため息をつくだけのあたしは何も言えないでいた。
だってバカみたいじゃん。
こんなに悩むことなんて、めったにないんだから。

「あたし、好きかも。ってか、好き。」
「ミキティ?」
「以外にいないでしょ。」
「完全な片思いだね。」
「・・・・ぐすん。」

カツカツとチョークの音が無常にもあたしを焦らせる。
好きというのは怖い。
気づいたときが1番怖い。

「本気で?」
「本気だよ。」
「よしこ今まで女なんて使い捨てコンタクトレンズだとか言ってたじゃん。」
「使い捨てティッシュね。」
「あぁ、それそれ。」
139 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:11

あたしは机に突っ伏せてため息をついた。
やめてよ、うつるでしょ。とかごっちんが怒ってたけど。

「ねぇ。どうすりゃいーかなぁ、あたし。」

女なんて放っといても寄ってくるし、食うだけ食って捨てるみたいな存在だった。
かといって別にいなくてもよかった。
あたしは、ひとりで良かった。

でも今はあの瞳に夢中になっている自分がいた。

なんにも興味ないみたいな顔していつもツーンとしてさ。
なのに、ふとした瞬間に笑ったり、怒ったり。

そして時々すごく、悲しい顔をするんだ。


「・・・相手も自分のこと好きになってくれるって、難しいことなのよ。」

突然、ごっちんは斜め上をみてそう言った。
いつもより低い声でそんなこと言うから、あたしもすぐには返事を返せなかった。
・・そっか。ごっちんもそうだもんね。
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:11


相手も自分のことを好きになってくれるって、難しい・・・か。


人の気持ちなんてすぐ変わっちゃうから、
市井さんなんかやめちゃえって、いつもごっちんに対してそう思ってた。

思えば思うほど辛いだけだから、やめちゃえばいいのにって。
矢口さんに対してもいつもあたしはそう思ってた。

なのに今、あたしは彼女らと同じように
人を好きになってしまった。

美貴を

好きなんだ、あたしは。

・・・
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:11

ぼけーっとしたまま授業は終わってしまった。
あたしがカバンを引きずるようにダラダラ歩いてると、いつものように女の子たちがよってくる。

「ねぇー、よっすぃー元気ないよ?!」
「んー。鬱なのさオイラは。」
「じゃぁあたしが癒してあげる〜!」
「まじ?」
「まじまじ!今日よっすぃーんち行っていい?」

今夜のお誘い。
いつも通りあたしは返事をしてしまいそうだったその時。

前を通り過ぎた女の子がひとり。
あ。

「美貴ちゃん!」


あたしが思わず名前を呼ぶと、彼女は何?と言う目であたしの顔を見た。
そしてそのまま女の子と絡み合っている腕を流すように見た。

「楽しそうだね。」

・・・う?!
美貴ちゃんはそう言ってスタスタと歩いていってしまった。
ちょ、何?!
あたしは咄嗟に腕を絡めてる女の子をどけて謝った。

「ごめん、今日やっぱ無理!」
「えー、なに、あんな女がいいのぉ?」

ぶーぶー文句を言う彼女を無視して、あたしは美貴を追っていた。
142 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:11

これじゃぁ結局あたしのイメージ悪くなるじゃん!
美貴のこと待ってるって意味、誰でもいいって意味じゃないのに・・・。

あたしは玄関にいる美貴を追い越して通せんぼした。
はぁはぁ、と息を切らすあたしに美貴は呆れた顔で見ていた。

「ちょっ・・、美貴ちゃん、今のは違うって!誤解!」
「は?」
「彼女とかそんなんじゃないから。」
「何のこと?別にどうでもいいから。」
「美貴がよくてもあたしがよくない!」

面倒くさそうに彼女はあたしの伸ばして腕を見ていた。

「あのさ、別にあたしはアンタの彼女でもなんでも・・―」
「吉澤ひとみ」
「・・は?」



「吉澤ひとみ。あたしの名前。覚えて欲しい。」

息を整えて、しっかりと美貴の目をみてそう言った。
予想外のあたしの言葉に美貴はきょとんとしていた。
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:12


「よっすぃーとか、吉澤とか、なんでもいいから。覚えといて。」

必死なあたしを見て、美貴は依然きょとんとしたまま。
あたしもどうしていいか分からずだんだん首を傾ける。
なになに、今度は何を考えてるの?
美貴??




「・・・ふっ、ばーか。」


「へ?」

美貴は、そう言って笑った。
くだらないって、あたしのことを笑った。
優しく目じりが下がって、見えた白い歯。

あたしは、見惚れてしまった。


144 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:12


「知ってるよ。名前くらい。ばか。」
「え、まじ。」

クスクス笑いながらあたしのことを見る彼女。
あたしもだんだんおかしくなって笑った。

美貴はすでに履き替えたローファーのかかとを直して、背中を向けた。
そしてスタスタと歩き出す。
え、え、まって。


「美貴・・?」


呆然としているあたしに、逆光の光を浴びた美貴は振り向いた。
まぶしくて見えない・・――。





「ばいばい、よっちゃん。」
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:12




”よっちゃん”





初めてそう呼ばれた。
美貴に、名前を呼ばれた。

ばかみたいに、心臓がばくばくするよ。
ドキドキが止まらなくて、もう美貴の笑顔が消えなくて、

どうにかなっちゃいそうだよ。


――あなたと私はやっぱり違う

あたしははいつだって
美貴との違いに戸惑っていたけれど

・・当たり前だよ。



同じだったら惹き合わなかった。
146 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:12


嬉しくて思わず下駄箱に座り込んで喜んでいると、
トントン、と肩を叩かれた。

「?」

にやけっぱなしで見上げると、そこには余裕な笑顔を浮かべたアイツがいた。


「いち・・・」
「ねぇ、あんたさぁ」





「矢口と会ってるの?」



・・・

147 名前:ゆら 投稿日:2006/06/28(水) 22:13
更新終了。
名無しのままになってまいました。申し訳ない。気にしないで下さい。
みなさんいつもいつもレスくれて、とってもうれしいです。
どうもありがとう。
がんばります。
148 名前:rero 投稿日:2006/06/29(木) 18:50
やば…
いい展開だ

どろどろ小説ばんざーぃ
149 名前:ゆら 投稿日:2006/06/30(金) 23:30
sageてね。レスどうもありがとう。
季節が思いっきり現在とずれてますが気にせずに。
150 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:30


一瞬背中の真ん中辺りに何かがゾゾッと走った。

なぜ市井さんが知ってる?
それともあたしを試してる?
矢口さんが言った?
それとも言わせた?

頭によぎる予感をあたしは駆け巡らせていた。
たしか前もそうだった。
あたしがこの人の返事に困っていると必ずケタケタと笑いだすんだ。

「はは、何ビビってんの。別に会ってる事は知ってたから。」
「・・そうっすか。」
「んでさ、後藤はそれ知ってる?」

まるでマニュアルを見ているように質問をする市井さん。
やっぱこの人苦手だ、と思いながらあたしは立ち上がった。
少し目線の高い彼女を見上げる。

「ごっちんは、知りません。」
「そりゃそうだよね。」
「・・・・・。」
「何?なんか言いたそうだね。」
「別に。」

クスクスとまた市井さんは笑い出した。
何を考えてるのかまったく読めない・・。
なんなんだコイツ。
151 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:30


「抱いたら分かるんだよ。あぁ、こいつ他の人と寝たなって。」
「へぇ。さすが。」
「んで、服も香水のにおい微妙に違ったし。」
「ほぉ。」
「ポールスミス。こんな珍しい香水付けてる人、会ったことないからさ。」
「なるほど。」

「こないだ屋上で吉澤に会うまではね。」

急に真顔になって市井さんはそう言った。
怖いとかそういうんじゃなくて、あたしはこの自由自在に揺れるこの人の脳みそが読めなかった。

「ご名答。怒らないんですか?あたしのこと。」

あたしは率直にそう言った。

この人の目的は矢口さんの浮気相手を探してるわけじゃない。
152 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:30


「矢口はあたししか好きじゃないんだよ。」
「自身満々ですね。」
「だから浮気するってことはそれなりの理由があるってことじゃん?」
「例えば?」

あたしはニヤッと笑った。
市井さんも少しまずそうに笑う。l



「あいつ・・あたしと後藤の関係、知ってるかも。」


市井さん、ご名答ですよ。
あたしは心の中でそう思った。
けど正直笑えないけどね。どうなるんだろうこれから。

「それはどうだか分からないですけど、あたしはもう矢口さんとは会わないって決めたんで。」
「なんで?」
「本気で好きな子出来たから。」
153 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:31


市井さんはちゃかすかと思ったけど、少し驚いた顔をして、
一瞬悲しそうな顔をしたかと思うと弱弱しく笑った。

「羨ましいよ。それが普通だもんな。」
「・・・え?」
「あたし、何やってんだろ。どっちも傷つけてる。」
「・・・・。」
「わりぃわりぃ。じゃぁそれだけだから。」

市井さんはそう言ってあたしに背中を向けて歩いていった。
あたしはその背中を数秒見つめて考えた。
あの2人は、どうしてこの人のことがあんなにも好きなんだろうって。
・・あたしには分からない。



「市井さん。」

あたしの声に彼女はぴたりと足を止めた。
そして真顔のまま振り向く。



「もし2人を傷つけたら、あたしがもらいますから。」


「2人とも。」


あたしの言葉に市井さんはどんな表情をしただろう。
そんなの見る暇もなく、興味もなかった。
だからあたしは背を向けて歩き出していた。
154 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:31

ちょっとやりすぎたかなぁ。

脅しのつもりだったけど。市井さんたぶん本気に捕らえてそう。
矢口さんもごっちんも、あたしにとっては大事な人だから。
傷つけるのはマジでやめてほしい。

市井さんの相手が美貴ちゃんじゃなくてよかった、なんてあたしは心底そんなことを思っていた。
155 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:31

その夜、矢口さんが家にたずねて来た。

「どうしたんですか。」
「うん、ちょっと話したくて・・。」
「部屋汚いんで、外でいいですか?」

くだらないウソをついてあたしは矢口さんを近くの公園へ案内した。
部屋はいつもきれいだけどね。
あたしはもう、女の子を家に上げないと決めたのさ。

自販機で買ったあったかいお茶を手渡すと、矢口さんはありがと、と白い息を吐いていた。


「2月ももう終わるのに、まだ全然寒いね。」

矢口さんはいつもより落ち着いた声でそう言った。
あたしも、はい、と頷いてお茶を飲んだ。


「で、どうしたんですか。今日は。」
156 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:31


話を切り出したのは以外にもすぐだった。

「あたし、紗耶香と別れようかなぁって。」
「・・・なんでですか?」

うーん、と少しばつが悪そうに笑う彼女は、悲しそうだった。
愛されないことに疲れてしまったように。
でもそれは違うんだよ、矢口さん。

「あたしが辛いだけだし。真希ちゃんと関係切ったとしても、続けるの不安だし・・。」
「逃げるんですか?」

「そう。」
「え?」

矢口さんの意外な返事にあたしは思わず聞き返してしまった。
逃げるなんて認めたくない矢口さんが。
逃げてるわけじゃない!とか言うかと思ったのに・・。


「このままじゃ紗耶香に何もいえない自分を、どんどん嫌いになっちゃう。」

「だから、あたしは自分を好きになれる安心できる場所に行く。」

「それは逃げかもしれないけど、それでもいいって思えるんだ。」


157 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:31

あぁ、矢口さんは強くなったんだな。
あたしは少し胸が痛かった。

こんな風にさせてしまったのはあたしなんじゃないかって。
強くなくていいのに。
女の子は弱くて、悲しかったらすぐ泣いて、
一番になりたい、って市井さんに言えたかもしれないのに。

あたしが強がり方を教えてしまったのかもしれない。



「ねぇ、よっすぃー。」
「はい」



「矢口と付き合おうよ。」

158 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:31


・・・。


そんな展開だったか。
確かにあたしはそう言ったかもしれない。

”いつか、市井さんのこと好きじゃなくなって、ひとりになったらあたしのとこ、来ていいから”

なんて。
子供染みたキザな台詞。
初めて後悔した。今まではウソなんていくらでもついてきたのに。
お前が一番だよ、とか。大好きだよ、とか。


「矢口さん、あたし今好きな子できたんです。」
「え?」

「藤本美貴。あたし、初めてこの子に会ってマジメに人好きになれたんです。」

自分勝手かもしれない。
前に言った言葉なんて撤回できるほど軽い話じゃない。
でもあたしは今矢口さんを支えてあげることはできない。
美貴が、あたしを軽くしてるから。

今は、そっちに向かって飛びたい。
真っ直ぐ。


「そっかぁ・・良かったね。よっすぃ。」


矢口さんは、泣きながら笑っていた。

159 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:31


どんなに辛くても、矢口さんは思われてるから。

慰めでもなんでもなくて、市井さんは矢口さんのこと大事に思ってるから。

あたしが保障する。


ごっちんから奪えばいいじゃないですか。
好きだから、市井さんの1番にしてって言えばいいじゃないですか。

そうやって、市井さんの前では素直に泣けばいいんですよ。

そんな矢口さんの姿見たら、市井さんだってキューンと来ちゃうから。
あぁ、やっぱあたしには矢口しかいないんだって、思ってくれるから。

勇気だしてください。負けないで。



・・・

あたしはそんなことを矢口さんに伝えた。
伝わっただろうか?

ずっと言えなくてごめんなさい。

あたしは矢口さんが羨ましかったんだよ。
でも今は一緒。
好きな人に、好きになって欲しい。
ただそれだけ。単純だけど、それが人を好きってこと。

ですよね?矢口さん。
160 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:32


161 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:32

あれから何日か経った。
テスト休みとかなんとか記念日とかで、久々の学校。
矢口さんとも、市井さんとも、ごっちんとも顔を合わすことはなかった。
どうなったのかな、あれから。

っていうか、美貴ちゃん来てないじゃん。
え、休み??

うわー学校きた意味ねぇ。

そんなことを思いながら久々の学校で女の子に囲まれてあたしは今日もヘラヘラしていた。
でもだんだんうるさいなって思ってきて
結局あたしは今日もキィキィいってます。

美貴がいないので授業やる気なくしたあたしは、女の子たちを流してあたしは中庭でひとりボーッとしていた。

あー平和だぁ。実に平和。
美貴に会いたいなぁ。今日サボりかなぁ?
なんでいないんだよぉ。


「よっすぃー。」

遠くからあたしを呼ぶ声がした。
あ、矢口さんだ。
なんか、元気そう。ちょっとだけど。


「どうしたんですか。」

少し明るく感じる矢口さんの笑顔。
あたしの腰掛けたベンチに無理やり隣に座った。
162 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:32


「紗耶香に言ったんだー。真希ちゃんのことも知ってるよって。」
「マジっすか?!」
「うん。そしたらビックリした。謝ってきたよ。」
「へぇ・・・あの人が・・・意外すぎる。」

あの絶対頭下げなさそうな市井さんがねぇ・・。

「え、よっすぃー紗耶香と喋ったことないでしょ?」
「え?!あ、はい。ないですよ。まさかまさか。」

あやうくバレるとこだった、。
内緒で二度も市井さんと話しただなんていまさら言えない。
163 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:32

「真希ちゃんとは関係切ったみたい。」
「そうっすか・・・。」

ごっちん・・振られたんだ。あたしは急にごっちんのことが心配になった。
まぁ、いつかはこうなると思ってたけど。

「うちら、やり直せそうだよ。ゆっくりだけど。」
「素直になれたんですね。」
「うん。よっすぃーのおかげだよ。ありがとう。」

別に、とあたしは下を向いた。
お礼を言われるのはどうも苦手だ。慣れてないからかもしれないけど。

「藤本美貴ちゃん、どんな子なの?」
「ありえないくらイイ女でございます。」
「アハハ」

矢口さんの笑い声を久しぶりに聞いた気がした。一緒に出る白い息がなんだか季節を感じます。
もうすぐあたしも2年生か。変な感じ。

164 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:32


「さみしい?美貴ちゃんいなくて。」

あたしの表情がそんな感じしたのか、矢口さんはからかうようにして聞いてきた。

「そうっすね。」
「好きなんだね、美貴ちゃんのこと。」
「うーん・・・なんていうか、人を好きとか好きじゃないとか。そんな単純なんじゃなくて・・」



「ただ美貴といると幸せで、暖かくて、時間が止まればいいのにって思うんです。」

なんてクサイせりふだろう。
あたしは非常に恥ずかしかった。でも矢口さんは笑わず聞いてくれた。


「じゃぁ今矢口といるときも、時間が止まればいいのにって思ってる?」
「いや、早く帰りたいって思ってます。寒いし。」

バカ正直!と一発殴られた。
でも嬉しそう。矢口さん。

ホント、おめでとう。
市井さんと仲良くやってね。あんなやつあたしは嫌いだけど・・・。
まぁ、人それぞれですから。


165 名前:            投稿日:2006/06/30(金) 23:32

遅刻して教室に戻ると、ごっちんの姿がなかった。

え、休み?
もしかして振られたから・・・。

っつーかそうだよね。そりゃそうだ。
学校には市井さんも矢口さんもいるんだから。

あたしは急いでメールを打ったけど、返ってくることはなかった。
帰りに家寄ってみようっと。
心配だな・・。泣いてないかな。ごっちん。


はぁ・・・美貴もいないし今日はつまんないな。
166 名前:ゆら 投稿日:2006/06/30(金) 23:33
更新しゅうりょ
167 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/01(土) 04:54
更新乙です。
いない二人が心配です・・・
168 名前:rero 投稿日:2006/07/09(日) 19:57
めちゃくちゃ待ってます!!
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/22(土) 15:00
凄く良いです!
思わず読み入りました。
更新期待してます!
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/22(土) 18:58
>168 >169
sageて欲しいと言う、作者様の希望には従いましょう
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/22(土) 18:59
下げます
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/06(日) 00:55
待ってます
173 名前:sage 投稿日:2006/08/16(水) 06:33
続きが気になります〜
待ってますよ!
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/16(水) 06:33
続きが気になります〜
待ってますよ!
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/16(水) 10:44
>>173
sageレスの仕方ぐらいは小説板自治スレ(初心者案内)か
FAQを読んで理解してからするようにしましょう。

とりあえず落としておきます。
176 名前:あお 投稿日:2006/08/17(木) 18:08
ochiてたんで、更新に気付かず。
久々に読みましたが、やはり良いですね。今の自分とリンクして、何だか胸が痛くなりました。
177 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/03(日) 07:28
まってますよお
178 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/09/24(日) 17:16
ずっと待ってます
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/08(日) 04:01
まってますよ
180 名前:ゆら 投稿日:2006/11/13(月) 16:58
生存報告します。

待っていてくれた方々、申し訳なかったです。

もうすぐ更新します。
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/13(月) 19:28
作者さん来たー!
続き楽しみにしてます。
182 名前:グリーン 投稿日:2006/11/29(水) 23:01
wktkして待ってます
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/07(木) 06:34
期待してます
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/07(木) 21:12
待ってます
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/18(月) 02:37
作者さん頑張って!
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 23:10
頑張って
187 名前:sage 投稿日:2007/03/25(日) 05:57
イッキ読みしました。
面白かったです。
続き楽しみにしています☆
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/25(日) 23:13
まじ更新期待したのに…
あげないで
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/25(日) 23:49
真希ちゃんと市井ちゃんくっつけてあげて(涙
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/25(月) 02:16
すんごい続き読みたいっす
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/01(水) 03:05
ho
192 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/10(金) 15:45
待ってます
193 名前:sage 投稿日:2007/09/01(土) 08:32
ツンデレ美貴ちゃんが可愛すぎ
194 名前:ななっすぃ〜 投稿日:2007/09/01(土) 12:09
orz
195 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 21:05
>>193
sageはメール欄ですよ
落とします
196 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/20(木) 22:41
ごっちんがかわいそう
矢口なんてどーでもいいのに
197 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/15(月) 20:54
おいおい。
もうダメかなぁ待ってるよ

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