光と闇
- 1 名前:Liar 投稿日:2006/01/22(日) 11:46
- はじめまして。Liarと申します。
今まで読者側でしたが色々な作品を見るたびに書いてみたくなりました。
文章表現が分からないところもあると思いますが、頑張りたいと
おもっております。ゆっくり地道にかいていこうかと思っています。
カップリングはいしごまです。
すこし、シリアス系になるかもしれません。
それではよろしくお願いします。
- 2 名前:プロローグ 投稿日:2006/01/22(日) 12:13
-
『夕日が沈む』
日が沈み夜になり、また朝になる。当たり前の毎日。
闇の世界にもいつかは光が差す。そう思っていた。いや、そう思いたかった。
平凡な私に希望をくれたのはあなた。絶望をくれたのもあなた。私は生きるという意味に
疑問を感じてしまっている。
この痛みは幻想であって欲しかった。
これが犠牲というならば、何を変わりに手に入れることが出来るというのか…。
どんなに望んでも、もう二度と手に入らない。失ったものの大きさは計り知れない…。
あなたが残したものにあなたの温もりが残っていて張り裂けそうな胸を抱いて泣きじゃくる私。
笑いたかった…。笑いあいたかった…。
ずっと歩いてきたのに私自身が止まってしまっていたんだ。
やり直せたら、どんなにいいか。砂のように崩れ去り、時だけが進むこの現実を見る事すらできなかった。
解放されることを望んでいるのか、望んでいないのか…。
この重荷は私には重すぎた。
この悪夢から早く目覚めたい…。
怖くて怖くて・…。どうしようもない。
この声が君に届けばいい。この悲痛ともいえる叫びがあなたの胸へ響けばいい。
私一人じゃ生きることが出来ない。あなた無しじゃ…。
あなたを傷つけてしまったことに後悔しているんだ。分かってる。私だって。
あなたの横顔を見ていたかった。
あなたのことを分かっていたのは誰よりも私だったのに…。
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2006/01/22(日) 12:30
-
『夜になる』
夜は怖い。とてつもなく怖い。
あなたがいなくなっていく衝動を思い出すから。
夜は太陽の光が届かないから暗いわけじゃないんだ…。
幸せな人には、夜にでも光はある。 それは、夜とはいわない。
本当に暗いのは私の心の中だったんだ。
だから、周りが暗い…。つまり、そういうこと。
震えている私の体。寒さから…??わからない。
あなたは一体何を望んでいたの??私は一体何を望んでいるの??
私達の答えはただ一つ。
「あなた」という存在。
ずっと前から分かっていたのに。それが今はかなわぬ夢となってしまった。
あなたは私の運命を変えた。私はあなたの運命を変えることが出来なかった。
難しく考えないで本能のままに動けばよかった…。
あなたは「あなたひとり 置き去りにはしないから」と言った。
私はその言葉にどんな表情をあなたに見せたのだろう。
あなたは私の表情をどんな風に感じたのだろう。
私は愚かだった…。あなたを受け止めることが出来なかった。
あなたという過去と私という未来。
一見別の世界にいる私達だけど、立っている場所は同じなんだ。
あなたは私のすぐそばにいた。だけど、私はあなたを信じることが出来なかった。
- 4 名前:プロローグ 投稿日:2006/01/22(日) 12:41
-
『朝になる』
朝になると、いないと分かっていても期待してしまう。あなたを、探さずにはいられない。
もちろん、結果はわかっている。いないということを。
もっとも、あなたがいれば、探すこともしないだろうが。
いないということを再び分かるとそのたびに頬に涙が伝う。
あなたがいないということを信じたくないけれど、それが現実。
そんな時、私の隣にあなたがいて私に問い掛ける。
「どうしたの・・・?」
わたしはあなたを抱きしめ苦しさのあまりに嗚咽をたてて大声で泣きじゃくる。
あなたはそんなわたしを優しく抱きしめてくれる。
それが永遠であればいい。あなたとの子の時間が永遠であればいいと思ってしまう。
気がつく頃にはあなたはいない・・・。
その時の悲しさはどんなものにもかえられない。
楽になりたい…。逃げ出したい…。
あなたがいない世界など無に等しい。
「私は、なぜ生きる??」……分からない。
「あなたは、なぜいなくなった??」……分からない。
わからないのではなく、分かろうとしていないだけなのかもしれない。
- 5 名前:プロローグ 投稿日:2006/01/22(日) 12:42
-
『悲しい思い』
今を生きなくてはいけないのだと思う…。
そうあなたに言われたから…。
- 6 名前:登場人物 投稿日:2006/01/22(日) 13:10
-
後藤真希
高校2年生
悲しい過去を背負う少女。悲しすぎる過去を忘れることが出来なく
人付き合いが上手く出来ない。話すことすら閉ざそうとしている。
現在は1人暮らしで、母方の姉夫婦の娘の藤本美貴とは少しながら
接点がある。自分が生きている意味に疑問を感じている。
石川梨華
高校3年生
あることから後藤と知り合いになる。1人暮らしで昔から普通の
人生をおくってきた。1人暮らしで同じ学年の藤本美貴と友達
になる。これから自分の人生が変わっていくことを知らずに…
藤本美貴
高校3年生
石川と同じ学校の同じクラス。自分の母親の妹夫婦の娘の後藤真希
とただ一人接点がある少女。真希の悲しい過去もしっている。
性格は気の強いところがある。
矢口真里
石川のクラスの担任の先生。何かと相談に乗ってくれる先生で生徒
からも人気が高い。石川とも仲がいい。担当教科は国語。
中澤裕子
真希が通う病院の先生。
紺野あさ美
高橋愛
小川麻琴
高校1年生
石川や、後藤、藤本と同じ学校の1年生。全員、先輩という存在に
憧れを持っている。
- 7 名前:Liar 投稿日:2006/01/22(日) 15:22
- また、この季節がやってきた。
この学校に入ってから3度目の季節。外では新入生が、新しい校舎と新しい友達に
期待を膨らませてキャアキャアと騒いでいる。
私の2年前の姿―
懐かしさとともにこの陽気な雰囲気に飲まれながら授業をウトウトと聞いている。
教室の窓から見慣れた風景が春という衣替えをして色気づいている。
そう、また同じ季節に―
生まれてから転勤もなく、ずっとこの街ですごしてきた。
それほど大きくもないこの町では、通りかかる人のの内の何人かは見覚えのある顔だ。
この学校も何かと伝統的で創立70周年をこえたばかりだ。
私が中学高校とエレベーター式のこの学校を選んだ理由は
友達がいくからとか、制服が可愛いからとか、そこらへんにいる女の子の理由と
大して変わらなかった。
中学生の頃はテニスに夢中で何もかも見えなかった。友達同士の喧嘩や、嫉妬もなく、
楽しい学校生活を送っていた。
受験もないこの学校なので、皆毎日を楽しんでいた。私もそうだった。
- 8 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 15:53
- 高校に入ると、テニス部という体育系の部活で汗をかくのが面倒になり、あっさり止めてしまった。
まぁ、女子高ならではの雰囲気もあった。男子生徒がいないので、
先輩を好きになったり、憧れたりというのは日常茶飯事で、告白というものもしょっちゅうなのだ。
最初、抵抗があったものの、それが普通ということが分かり特にどうということもなくなった。
私も先輩からよく呼び出されて告白されたが興味がなく、丁寧にお断りをしていた。
私が高校2年生になると、はじめて後輩というものができたが部活にも入っていなかったのもあり、
親しい後輩が出来るわけでもなかった。
友達がいなかったわけではなかったので、休日には友達と遊びに行ったり家でのんびりすごしていた。
ただ、生まれてきて生きているような、心のどこかが違う世界にあるような…。
青春するわけでもなく、ただ普通に過ごしていた。
高校3年生になった今、いよいよ将来の事について考えなくてはならないのにもかかわらず、
何も考えることなくただボーっと窓を見ているだけの自分に嫌気がさしていた。
私は自分の感情をうまく表現できない。まぁ、簡単にいえば喜怒哀楽をあまり持っていないと
いった方がいいのか・・・。
何かを見て必要以上に喜んだり、本気で怒ったり、つられ泣きをしたり、心のそこから楽しんだり
というのが私には考えられなかった。
『人はみないつかは死ぬのになぜ、それに涙しなければならないのか…。』
そんなことばかり考えていた。
- 9 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 15:53
- 友達は皆、青春真っ盛りという中で私はこんな思いを一人、考えているのだから、
友達と気が合わないと思う時もあった。
でも、それでもよかった。いや、そっちの方がいい。
私の考えてることをすべて他人に知られたくない。私を知っているのは私一人。
私は他の人よりも大人なんだって思いたかっただけというのも事実ではあったけど。
カッコよくなりたかった。高校もつまらないし…。
早く大人になりたい!
そう思って、高校1年生になる時に親に向かって
「1人暮らしがしたいんだけど。」
ってたのんでみた。
まぁ、普通の親なら絶対に反対するだろうけど、私の親は反対もせずに
学校まで歩いて30分程度のところにある大きなマンションを借りてくれた。
今思えば、少しは親に反対されたかったのかもしれない。
あまりに私に関心がない感じで少し寂しかったけど・・・。大人になる為の第一歩だし。
まぁ、いいんだけどね…。
こんな風に思ってしまう自分に少し泣けてきた・…。
でも、どんな辛いことがあってもまた、訪れる春には希望がある感じで
この季節は嫌いじゃないんだよね・…。
そんなことを考えていた。
- 10 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 16:08
- 「梨華ちゃん!授業中だぞ!参加しろ!!」
突然大きな声で怒鳴られたもんだから、ビックリとして顔を上げたら
周りの生徒がクスクスと笑っていた。
私に怒鳴った人はこのクラスの担任の矢口先生こと矢口真里。身長が150cmも
ない上に、年も私達と大して変わらないので
みんな、矢口先生のことを“やぐっつぁん”とか“矢口”って呼び捨てにしてる人もいる。
私はちなみに矢口先生って呼んでるんだけども。
一応先生だしね。先生くらいは付けておこうと思って。
矢口先生も生徒のことを呼び捨てに呼ぶし、平気でちゃん付けでよぶ。
この先生とは皆、仲がいい。時々生徒と本気で喧嘩してる時もあるし。
まぁ、いつものことなんだけどね。
仲がいいため、相談相手にもなってくれる。私もよく相談しに行く。
頼れるちっちゃなお姉さんって感じかな…。
- 11 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 16:13
- 「梨華ちゃん!誰と更新してんだよ!矢口の授業くらい聞こうよ〜。」
「はい・…。すみません…。」
再びふざけた口調で私に注意する矢口先生に真面目に答えた私の返答を聞いて、
何が面白いのか、クラス中が大笑いとなった。
少しばかり恥ずかしさを覚えながらクラスをみわたすと隣に座っている彼女だけは
こっちを見てニヤッて笑った。
- 12 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 18:25
- 彼女の名前は藤本美貴。
彼女とは2年生の頃から仲が良く私にとって唯一、気が許せる相手だった。
「何やってんのさ、梨華ちゃん…。寝不足?」
「ううん。ちょっと考え事してただけ。」
「考え事??」
「うん。なんか、また、この季節が来たなぁ〜って。」
「はぁ??何いってんの??まぁ、いつものことだけどね。」
「ちょっと、美貴ちゃん??なんかいった??」
「いや、なんでもない。あ、今日行くから。梨華ちゃん家。いいよね?」
ぁあ、そういえば、今日は美貴ちゃんが私の家に行きたいっていってたっけ・・。
なんか、私の部屋が見たいとか何とかで…。
今日は初めて自分の家に友達を招待するんだよね…。
なんだか、うれしくない??親友っぽくってさ。
「うん、いいよ。まっすぐ来るの??あ、でも服、持ってないよね。」
「まっすぐ行く。なんか、家にかえるの面度いし。服は梨華ちゃんのかりるから。」
「OK!わかった。じゃ、一緒に帰ろうね。」
「わかってるって。じゃ、そういうことで…。」
「あ、ちなみに私の部屋汚いから・…。」
「知ってる!美貴が掃除してあげるよ!」
知ってるって・…。まぁ、いいけどね。
美貴ちゃんはすごくカッコいいし、可愛い。後輩からの人気もすごくてよく告白されている。
何でも、後輩の間ではファンクラブまであるらしくて・…。
美貴ちゃんは誰とも付き合ってない。理由は興味がないとか。
まぁ、本当はどうなのかは定かじゃないけど。
美貴ちゃんと仲いいのは私ぐらいで…。他の人とはほとんど喋らない。
美貴ちゃんと友達になりたいって思う人が結構多いんだけど、本人はあまり友達をつくらないみたい。
なんで、私と友達になったのかを前に聞いてみたら、
『興味と好奇心。女の子って感じだったしね。
でも、1番は考え方が美貴と似てたからかな…。』
っとかっていってたっけ…。なんだか見透かされてるのかもしれない。
そういうところはすごいと思う。
- 13 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 19:30
- そんなことを話しているうちに、チャイムが鳴る。
私は鞄に道具をしまっていたら後ろからおもいっきり抱きしめられた。
「梨華ちゃん、行こう!」
なんだ…。美貴ちゃんも案外楽しみにしてるんだね。そう分かったら、嬉しさでいっぱいになった。
家までの道のりを2人で並んで歩く。私の家は1人暮らしでは十分すぎるほどの広さの2LDKで、
景色のいい南向きのマンションだ。これを機に、もっと美貴ちゃんと仲良く慣れたらいいな…。
そんなことを思いながら私のマンションへ向かう私達。
その間も、おしゃべりが尽きることはなかった。
「今日の矢口先生にはびっくりしたよぉ・・。」
「あ〜。でも、梨華ちゃんが馬鹿な妄想をしてるからでしょ??」
「馬鹿じゃないよ!本当にね、いろんなこと考えてたんだよ!たとえば、高校生になって…。」
「あぁ〜!!いいってば。聞くのめんどくさい。梨華ちゃんは話長いんだもん。
しかも、声が高すぎて聞き取りづらいし。あと、黒いし。」
「黒いのは関係ないじゃん!」
「あはは・…。まぁ、いいじゃん!」
そんなたわいもない会話をしてるうちに私の住んでいるマンションについた。
私はまるで遊園地に行く小学生のような気持ちで自慢げに美貴ちゃんに
指を指して自分のマンションを示した。
「ココだよ!」
- 14 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 19:32
- そう言った瞬間、美貴ちゃんの顔が一瞬、凍りついたように見えた…。
以外とでもいうような、驚きと悲しみが混じったようなそんな表情を見せた。
今まで、私が見たこともないような・…。
「…ぇえ?ここ??」
「うん。ココだけど、どうかした??しってるの??」
「・…。い、いや…。知らないけど…。」
「じゃ、入ろう??」
「う、うん…。」
どうしたんだろう…。美貴ちゃん。
気のせいじゃないよね。明らかに動揺してた。
今だって冷や汗かいてるし、目がうつろになってる…。具合でも悪いのかな…。
私の部屋は701号室。だから、すこし嫌がってる美貴ちゃんの手を引いてエレベータに乗り込んで
7階のボタンを押した。その時美貴ちゃんが焦ったように私に問い掛けた。
「ま、まって!梨華ちゃん、梨華ちゃんの部屋って7階なの…??」
「う、うん…。701号室だけど…。ど、どうしたの??なんかあった??」
「い、いや…。なんでもない…。」
「美貴ちゃん、さっきからおかしいよ??何かあった??帰る??」
「だ、大丈夫だから・…。ちょっとびっくりしただけ。」
そんな風にはみえない。あきらかにおかしい。いつも、落ち着き払っている美貴ちゃんが
どうしちゃったんだろ・・。
必死で否定する美貴ちゃんに無理やり聞くことも出来ずにそのままエレベーターで7階まで昇った。
- 15 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 19:32
- 部屋に入って少し落ち着きを戻した美貴ちゃんはいつもどうりに戻った。だけど、
今日は泊まらないことにしたそうだ。彼女自身がそういってきたし、
私も、少し美貴ちゃんの様子が心配だったから、引止めはしなかった。
少しの間、遊んでいくという事で話がまとまった。
そして、また2人の女の子の間に会話が戻った。
しばらく談笑していると、
「あ、梨華ちゃん、トイレ借りるから。」
「分かった・…。」
そう言って彼女はトイレの方へと歩いていった。
・…あれ・…。そういえば、美貴ちゃんって私の家に来たことなかったんだよね…??
しばらくしてからトイレからでてきた彼女に今、疑問に感じたことを聞いてみた。
「…美貴ちゃんさ、私の家に来たの初めてだよね・…??」
「う、うん。そうだけど…??」
「…じゃあ、なんで、トイレの場所分かるの?」
その質問に彼女は固まった。明らかに困ってる。そのうえ、顔が青ざめている。
オカシイ…。
何か隠してる??
「あ、そ、それはなんとなくだから。そう、なんとなく。よくあるじゃん!そういうの。」
「ふ〜ん…。美貴ちゃんさ、私になんか隠してない??」
「ぇえ??な、なにもかくしてないよ!」
「そっか…。」
「じゃ、美貴帰るね!!バイバイ!!送らなくてもいいから!明日学校で!!」
「あ、うん…。」
そう言って一目散に帰っていった。なんだろう…。今の。でも、変に問い詰めて
仲が悪くなったらやだから明日は聞かないでおこう…。
何かあるのかな…。このマンション…。
そんな疑問を感じてはいたものの、どんなに考えても解決にはいたらず、
その日は考えることをやめにした。
- 16 名前:第1話 投稿日:2006/01/22(日) 19:33
-
- 17 名前:Liar 投稿日:2006/01/22(日) 19:36
- ハイ…。少し書くのに時間がかかってしまいましたが
『第1話』は終了です。
これからも、頑張って書いていきたいと思います。
感想をもらえたら幸いです。
失礼いたしました。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/23(月) 08:13
- 続き期待♪
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/23(月) 16:53
- いしごま!
続き待ってます。
- 20 名前:第2話 投稿日:2006/01/23(月) 20:52
- 次の朝、私は少し早起きをした。
理由はよく分からないけど、何だか寝付けなかった。寝ぼけたまま、
いつものようにパンを食べ、いつものように髪をとかし、いつものように制服に着替えた。
その頃には頭がさえてきたのか昨日の事が頭によぎる…。
『美貴ちゃん…。』
考えれば考えるほど疑問が増える。
だけど、いつまでも疑問を持っていても仕方がないのでとにかく学校に行くことにした。
「いってきます。」
誰もいない部屋にそうつげる。
そう、これがいつもの日課。
私は幼い頃から家にいるときは必ず口にした言葉が身に染み付いている。
何も変わらないはずの日常が、昨日の彼女の様子で心にひっかかっている。
なんだか不思議な感覚を覚えながらも無造作に鍵をかけ、制服のポッケにしまおうとした…。
チャリン、チャリン−・・・・・
「―-あ・・・。」
しまおうとした鍵がポッケから滑り落ち、床に落ちた。
「――・・・・・・。」
それにはお気に入りのキーホルダーがついているわけでもなく、小学生じみたものがついている。
特に気に入っているわけでもなく、ただなんとなくつけていたものに目をやり、
しばらく声を失う・・・。
私の鍵は真向かいの702号室の前に落ちている。
ここのマンションは1つの階に2つの部屋しかない造りになっている。
私は何気なく拾いにいった。
鍵を拾い、顔を上げると表札が目に入った。
『後藤』
表札にはそう書かれていた。
- 21 名前:第2話 投稿日:2006/01/23(月) 20:56
- 「…後藤って人がすんでいるんだ。知らなかった…。」
そういえば、ここにはもう、2年近く住んでいるのに他の階の住人はともかく
同じ階の住人を知らないというのもおかしなものだ。
だが、私は特に気にすることもなくエレベーターに乗り込んだ。
- 22 名前:第2話 投稿日:2006/01/23(月) 20:59
-
- 23 名前:モノローグ 投稿日:2006/01/23(月) 21:32
-
『切っ掛け』
あれは、偶然だったんだ。本当に。
でも、私は偶然では無かったような気がしたんだよ。
運命という言葉が似つかわしい。
あなたに会う運命で…。私とあなたは常に一つだったんだよね。
時間はとても残酷で…。経つにつれて深まっていく傷を、一人で舐めている私…。
私は今も独占欲に溺れているんだ…。かなわぬ欲望に溺れているんだ…。
あなたはいつから気がついていた??
私はきっと生まれる前からあなたと道を共にする事に気がついていた。
鏡の前に立てないあなたを抱きしめた事もあったよね…。
あなたは震えていたから、そうせずに入られなかったんだよ。
あなたは全てのものに否定しつづけた。自分を守る為に。心を傷つけない為に。
溢れているこの感情をどこにあてればいいの…??
今のあなたは受け止める事が出来ないかもしれない。私自身、計り知れないから…。
もう、戻る事が出来ない…。過去は過去。今は今なんだから。
分かってる。分かってるつもり。でも、そんなことに納得できるのなら今の私は私ではない。
あなたはどこに行ってしまったの…?
私をなぜ、おいていってしまったの…?
助けて…。 何を?
私を…。 何故?
怖いから…。 どうしたいの?
あなたが戻ってきて欲しい…。 何処に?
この胸に…。 いつまでも?
いつまでも…。 永遠に?
永遠に……。
愚問だ・…。
- 24 名前:モノローグ 投稿日:2006/01/23(月) 21:32
-
- 25 名前:第2話 投稿日:2006/01/23(月) 22:09
- 1階につき、マンションを出る。
『−8:00−…』
私の時計がそう示していた。
少し間に合わないかもしれないという不安から私の足は自然と小走りになる。
『美貴ちゃんは何で私の家をこばんでいたんだろう…。』
『私が7階に住んでいる事にも驚いていたっけ…。』
『7階…ななかい…ナナカイ……。』
走りながらもいろんな考えが頭によぎる。ふと朝の光景を思い出す。
『702号室に住む後藤という人物…。』
−あれ・…??
もしかして後藤という人がいるからだったのかな??
ただの偶然??
でも、確かに7階に反応していたよね、美貴ちゃんは…。
絶対何かを隠しているのは事実。
何で隠す必要があるんだろう…。私に話せない話なのかな…。
何かを考えていると、時間がすぎるのが早いもので、気がつけば学校の目の前にいた。
『−8:20−…』
よかった、間に合った…。
いつも、早めに学校にくる私はいそいで教室に駆け込んだ。
すると隣の彼女が話し掛けてきた。
「どうしたの?今日はやけに遅かったね〜。」
「あ、うん…。」
「また、寝坊〜?」
「いや、ちがうよ。」
「そ。ならいいんだけど…。」
そういう彼女はいつもの違っていたって普通。
そんな彼女が余計怪しく感じて、ずっと心にひっかかっていた疑問をぶつけてみる事にした。
「あのさ、美貴ちゃん。」
「ん?なに?」
「昨日の事なんだけどね…。」
「あ、昨日はごめん。ちょっと用事を思い出してさ。」
「いや、そうじゃなくてね、私に隠してること無いよね…??」
「はぁ?またその話??だから、無いって!」
「あのさ・…。じゃぁ…。」
「何、何〜?どうぞぉ〜?」
私はなぜか緊張しながら言ってみた。
- 26 名前:第2話 投稿日:2006/01/23(月) 22:10
- 「7階の後藤って人のこと知ってる…??」
あ…。まただ。美貴ちゃんの顔が青ざめていく。冷や汗も出てきてるようだ。
あぁ、そうか。ここが原因だったんだ…。
「…ぇえ??し、知らないよ?だれ?そのひと。」
「あ、うん。同じ階の702号室の後藤って人なんだけどね、
私、今日はじめて後藤って人がすんでることを知ったんだ。」
「ヘぇ…。そうなんだ。」
「それで、美貴ちゃん、昨日7階って聞いたときに動揺してたから何か関係あるのかなって。」
「し、知るわけ無いじゃん。美貴は昨日初めて梨華ちゃんの家にいったんだよ?
なのに、何でしってんのさ。関係無いよ!」
「そう、だよね…。そうだよね。」
そうなんだよね。美貴ちゃんは昨日初めて私の家にきた。それはまぎれもない事実。
でも、後藤って人と知り合いなのかな…??
昔の彼氏とか??
でも、私が質問した時に少し声をあげて否定した様子から
美貴ちゃんと、その『後藤』って人は
少し関連してるのは間違いない。そんな気がした。
ガラガラガラ―。
その音と共に矢口先生が教室に入ってきた。
「はい、はい!いつまでお喋りしてんのさ〜!ホームルーム始めるよ!」
その日の授業はまったく耳に入ってこなかった。
そに間、ずっと窓を見ていた。
景色を見ていたわけじゃない。ただ、見ていただけ…。
他人から見たらそれは少し滑稽だったのかもしれない。
それでも、かまわなかった…。
- 27 名前:第2話 投稿日:2006/01/23(月) 22:11
-
- 28 名前:Liar 投稿日:2006/01/23(月) 22:16
- ≫18
ありがとうございます。感想をいただけて
嬉しい限りです。始めてもらった感想に
嬉しさがこみ上げております。
これからも頑張っていくので応援、よろしくお願いします。
- 29 名前:Liar 投稿日:2006/01/23(月) 22:18
- ≫19
ありがとうございます。
私はいしごまが好きなので
いい雰囲気を出せるように
これからも頑張っていきたいです。
- 30 名前:Liar 投稿日:2006/01/23(月) 22:25
- 第2話が終わりました。
途中で『モノローグ』というものを入れているのですが、このようなものが今後もチョクチョク出てくる予定です。
物語自体はあまりまだ進行してはいませんが
『プロローグ』や『モノローグ』を書いている限りでは
かなり重い雰囲気になってしまうかもしれません。(ちなみに石川さんの視点で書いております。)
これからも地道に頑張っていきたいと思います。
思ったこと、疑問点、感想がありましたらどんどん書いてください。
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/23(月) 22:54
- プロローグとか内容がちょっと
わかりずらいけど、話はかなり
面白そうなんで頑張って下さい(^O^)
- 32 名前:Liar 投稿日:2006/01/23(月) 23:42
- ≫31
そうですか…。なにぶん、文章力が足りないもんで…。
今の段階では少し先が見えなくて分からない感じはするかもしれません。
私もいろいろ、工夫をしていきたいと思います。
レス、ありがとうございました。がんばります!
- 33 名前:Liar 投稿日:2006/01/24(火) 16:11
- 少し、説明させてください…。
まず、『モノローグ』や『プロローグ』の件なのですが、
この小説は、石川さんが現在から過去を振り返っているという物語設定になっていまして、
モノローグ、プロローグは過去の話をしている間に現代の思いが途中途中で入ってるものです。
そして、石川さんが視点で多分、最後がHappyEndに終わらない感じなので暗めの心理になっています。
分かりづらくてすみませんでした。
読んでくださっている方、ありがとうございます。これからも頑張ります。
- 34 名前:Liar 投稿日:2006/01/26(木) 18:10
- その日の放課後―
美貴ちゃんと帰る気がせず、一人でボーっとしながら玄関に向かった私。
おもむろにロッカーから靴を取り出すと1枚の封筒がヒラヒラとまいおちた。
「……?」
とくに名前は記入されておらず、不思議と思った私は封筒を開いた。
『体育館の裏で待ってます。』
そう一言、女の子らしい字で書き記されていた。
何のことだかさっぱり分からない……というわけでもない。
きっと、告白かそんなところだろう。こんな事は一度や二度ではない。
美貴ちゃんと仲いい私を憎む為のものもあるけど、この丸字にかぎってそんなこともないのでは…。
そんな思考を働かせながら体育館の裏へ向かった。
「…うん。やっぱりか…。」
そんな独り言は自分の予感が見事的中したことから口にでたもので…。
指定された場所に近づくにつれて見えてくるのは3人の人影。
1人は手紙を書いた張本人と思われる人物で、1人前に出て頬を染めている。
他の2人はその友達なのか…。一生懸命、応援文句を並べているようだ。
しばらくして私が近づいてくるのに気がついたのか、
大声で
「来たよ!!石川先輩が!」
と声をたからかにあげる。
そんなの、見れば分かるものなのにそんなところにも後輩のほほえましさが感じられる。
「い、石川梨華先輩!」
「は、ハイ…。」
勢いよくフルネームで呼ばれたもんだから私の声までうわずってしまった。
「あ、あの、て、手紙読んでくださってありがとうございました!」
「あぁ、うん…。」
- 35 名前:第3話 投稿日:2006/01/26(木) 18:10
- りんごのように顔を真っ赤に染めて言う彼女にこっちまで緊張してしまう…。
きっと、彼女は私と比べ物になんないくらい緊張してるんだろうな…。
と思った私はこっちから話を聞き出すことにする。
「あ、そういえばあなたのお名前は?」
「高橋 愛といいます!1年B組です!」
「うん。高橋さんね、ヨロシクね。ところで今日は何のようかな…?」
分かっていても聞かなければいけないのは結構辛いものだな…。
彼女は高橋愛というらしい。
私の後輩に当たる1ねB組の子。
見た目は正直とても可愛い。
女の私から見ても魅力的で1年生なのにきれいなボディーラインをしている。
まぁ、まず1年の中でもトップクラスに入る美人なのかもしれない。
そういえば、私のクラスの友達に、
「1年の高橋って子、マジで可愛いんだけど。付き合いたぁ〜い!」
なんて言っていた子もいたっけ…。
あぁ、この子がそうだったんだ。
うん。確かに可愛い。きっと、性格もいいんじゃないのかな。
これほどはっきりと喋っていて、好きって気持ちがすごく伝わってくる気がする。
「あ、あの…。えっと…。今日は石川先輩に言いたいことがあって…。」
「う、うん。」
「あ、あの…。」
高橋さんの友達と思われる2人のが頑張れと応援している。
彼女は大きく息を吸うと大声で思いを告げた。
- 36 名前:第3話 投稿日:2006/01/26(木) 18:32
- 「この高校に入ってから、初めて先輩を見たときに一目惚れしてしましました!大好きなんです!私と付き合ってください!」
そう言い終わった彼女は、思いを伝えた満足感と私返事を心配する気持ちが入り組んだような複雑な顔をしていた。
今にも泣き出しそうだ。
私は女の子同士の恋愛にはとくに興味はない。
かといって男の人と付き合う気なんてさらさらない。
でも、私は彼女をきっぱりと振るのも心苦しいので返事に躊躇っていた。
『このまま付き合ってしまうのは駄目なのだろうか、私の中で…。』
そんな思いもある。
この子は本当に可愛い。このこと一緒にいるだけで、きっと私の気持ちも穏やかになるだろうし、
たとえ、付き合わなくても、遊びとしてはいいのかもしれない。
でも、付き合うとなればキスやそれ以上の事も求めてくるだろう。
私は好きでもない相手にそんなことが出来るほどうえてはいなかった。
そういうことをしない付き合いもある。
でも、私はきっと愛していないという名目から彼女をさらに傷つけるだろう。
そんな風に女の子の気持ちをもてあそぶ事なんて私には、とうてい無理だ…。
少し時間をおいて、ゆっくりと私の気持ちを彼女に伝えた。
「高橋さん。あなたの気持ちは私にすごく伝わったよ。ありがとう。こんな私を好きになってくれて。
だけど今は誰とも付き合う気はないの。それが例えどんな人でも。本当に、ごめんね…。」
その言葉を聞いた途端、彼女の顔は曇っていき、しだいに涙が溢れてきている。
「お願いです…。好きなんです。今はお試しでもいいですから…。」
「本当にごめん。お試しとか、女の子の気持ちをもてあそぶような事はしたくないの。わかってね…。」
「……。」
悲しさのあまりに顔も上げることが出来ない状態でいる彼女。
本当に申し訳ないことをした…。こうやって、私は何度もいろんな女の子の淡い気持ちを潰していったのかもしれない。
私は何もする事ができず、ただ、見守る事しか出来なかった。
- 37 名前:第3話 投稿日:2006/01/26(木) 19:09
- すると、いままで黙って私達の様子をかげながら見ていた2人の女の子達が
涙を浮かべながら高橋さんの近くに寄り添った。
そして、一人が私に話し掛けてきた。
「私は愛ちゃんの友達の小川麻琴といいます。あの、愛ちゃんは本当にいい子で石川先輩の事が
大好きなんです。石川先輩のことを話す時なんかも嬉しそうな顔でいっつも話してくるんです。
ですから、お願いです。もう一度、考え直してください!お願いします!」
そして、もう一人。この子は、まるで自分が振られたように泣いている。
「わ、私、紺野あさ美、ヒック、と、いい、言うんですけど…。ヒック 私、からも ヒック
お、お願いで、す。…ぅう…。」
この2人は本当に高橋さんのことを思っているんだな…。
私までなきそうになってくる。
やっぱり、この告白は聞かなきゃよかった…。無視して帰ればよかった…。
でも、なおさら、付き合うわけにはいかなかった…。
「…本当にごめん。あなたが好きになる相手が私じゃなければ良かったのにね。本当にごめんなさい。
でも、あなたのことが嫌いというわけではないの。それだけは分かって。
私はあなたたちが思ってるほどいい先輩ではないんだよ…。
でも、あなたを傷つけるわけにはいかないの。そんなことを私はしてはいけない。
だから、付き合うことが出来ない…。分かって…。」
「で、でも…。」
小川さんがかわりに答える。
「…。もう、いいよ、まこっちゃん…。い、石川先輩、私の気持ちを聞いてくださってありがとうございました。
あと、ちゃんと振っていただいて…。それだけで、私は満足です…。」
そう、高橋が今の彼女の精一杯の笑顔で答えた。
- 38 名前:第3話 投稿日:2006/01/26(木) 19:09
- 「本当にごめん…。」
「もう、謝らないで下さい。大丈夫です…。」
「うん…。」
「あと、さっき、先輩が『私はいい先輩じゃない』とか言ってましたけど、
そんなことないです。私の中では1番いい先輩です。私のことを思って振ってくれたんだから…。
それだけで十分です・・・。」
この子は強い。本当に強い。
私にはない力を持ってる。こんな力、私も欲しかった…。
こんなにも彼女を傷つけてしまった私が憎らしくなってくる。
「本当にいいの…?」
紺野さんがたずねると、高橋さんは
「うん。しょうがないもの。また、石川先輩に振り向いてもらえるまで頑張るから。いいですよね?先輩。」
「うん。もちろん…。」
「ありがとうございました。
あ、あと、本当にいきなりなんですけど、私と友達になっていただけませんか…?憧れていたっていうのもあって…。」
高橋さんが私にそういうとそれに付け出すように小川さんと紺野さんが
「あ、私も!」
「あの…。私もお願いします・…。」
私はこんなにいい後輩がこんな事を言ってくるもんだから
すごく嬉しくて、すぐに
「もちろん!こんな私でよかったら…。
じゃあ、改めまして・…。3年A組の石川梨華です。高橋さん、小川さん、紺野さん、これからヨロシクね。」
「「「はい!よろしくお願いします!」」」
私にはちゃんとした仲のいい後輩が1人もいなかったのでこんな形でも、ちゃんとした後輩が出来たことがとても嬉しかった。
一人っ子の私にとって何だかくすぐったい感じ。
- 39 名前:第3話 投稿日:2006/01/26(木) 19:30
- その日の帰りは、私、高橋さん、紺野さん、小川さんの4人で帰ることにした。
本当に妹みたいに人懐っこい3人で、さっきの告白はウソだったみたいな感じ。
みんなで、いろんなおしゃべりをしながら帰った。
私がはじめて聞くこともあったし、意外な事も沢山あった。
「それにしても、石川先輩って美人ですよね〜…。惚れ惚れしちゃいます。」
「何言ってるの・・・。高橋さんだってすごく可愛いじゃない…。もてるんじゃない?」
「いや、全然…。」
「何言ってるのさ、愛ちゃん。めっちゃ告白されてたじゃん。この前。ねぇ〜、あさ美ちゃん!」
「うん…。あれはすごかったネェ〜…。」
「そうなの?へぇ〜。すごいね〜…。」
やっぱりね・・。可愛いものね。高橋さんは…。
「石川先輩だっていっぱい告白されてるじゃないですか。」
「え?そんなことないよ。」
「え?それはないですよ!だって、ファンクラブもあるくらいだし…。」
「・……?なんのこと?」
ファンクラブ…??なんのことだろう…。
「え?しらないんですか?高校にもあるし、中学にもあるんですよ。」
「知らなかった・…。美貴ちゃんのはしってたけど…。」
「あ、それは、まこっちゃんが入ってますよ。そのファンクラブに。」
高橋さんが小川さんのほうを見ると、
まってましたと言わんばかりに、小川さんがハキハキしながら話し始めた。
「はい!入ってます!中学の頃から入ってるんです!写真とかも売ってる人もいるんですよ。私も何枚か持ってます!
あ、愛ちゃんは石川先輩のファンクラブに入ってるんですよ。」
「…そうなんだ…。美貴ちゃんは可愛いし、カッコいいから分かるんだけど、何で私が?」
「可愛いからに決まってるじゃないですか!自覚ないんですか?
石川先輩は可愛すぎて皆、告白するまでの勇気は湧かないんです。」
「…私の写真とかも売ってたりとかするの…?」
「はい!もちろん!藤本先輩は隠し撮りとかしてると、自分から近づいてきてピースしたりするんですけど、
石川さんはなかなか写真が取れないですから結構貴重なんですよぉ〜!」
へぇ〜。なんだか嬉しさ半分、不思議な気分。
- 40 名前:第3話 投稿日:2006/01/26(木) 19:41
- 「小川さんは美貴ちゃんと話したことあるの??」
「いえ!とんでもない…。ファンクラブの中では先輩方が嫌がるといけないので
なるべく内密にやってるんですよ!だから、そんなことなんて出来ません!
そもそも、話し掛ける勇気なんて・…。
「そっか…。あのさ、美貴ちゃんと話してみたくない??」
そういった瞬間、小川さんが固まった。
しばらく目が点になっていたが、言葉の意味を理解したのか
人間に出来る最高の喜びの顔を見せた。
「ぇぇぇええええ!!!!
い、いいんですか!!本当にいいんですか!い、石川先輩、どうなんですか!!」
「ェえ…。い、いいと思うけど…。明日の昼休みに来てくれれば大丈夫だと思うよ…。」
「やったぁ〜!!!」
「よかったね、まこっちゃん!」
紺野さんがやさしくそうほほえんだ。
そんな私達は明日の昼休みに3年A組に来るように伝え、分かれることにした。
「それじゃあ。また明日ね。」
「さようなら!石川先輩!」
「あした、楽しみにしてます!」
「ありがとうございました!」
それぞれ、思い思いの渡れ言葉を口にして3人は私と別れた。
なんだか、やっぱりこういうのは居心地がいい。
新しいことに挑戦したような気分でいっぱいな私は帰りもおもわず笑みがでてくるほどだ。
明日、また学校で会う事がなんだかまちどうしい…。
美貴ちゃんにも言わなきゃね・…。今日のことは…。
- 41 名前:第3話 投稿日:2006/01/26(木) 19:41
-
- 42 名前:Liar 投稿日:2006/01/26(木) 19:43
- はい。第3話が終了しました。
後藤さんが出てくるのはもう少し先になる予定です。
レスをいただけたらうれしいなぁ〜って思っています…。
こんな駄作、読んでくれてる人がいるのでしょうか…。
それでは失礼しました。
- 43 名前:名無しさん 投稿日:2006/01/27(金) 10:54
- 楽しみにしてますよ
作者さんのペースで頑張ってくださいね(^^
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 18:23
- いしごまに飢えてた今日この頃。
すごくおもしろそうな話を発見。
続き、楽しみに待ってますw
- 45 名前:第4話 投稿日:2006/01/28(土) 10:15
- 自分のマンションに付、エレベーターで一気に7階へ。
それまで今日のことで胸がいっぱいだった。
『チン―…』
エレベーターのドアが私に早く下りろといわんばかりに開き、私をせかさせる。
なんだかなんともいえない雰囲気が
私の部屋ではない所から放たれている。
―702号室
それは私が疑惑を感じている部屋のナンバーだった。
再び美紀ちゃんの顔が浮かんでくる。疑惑は積もるばかり。
たとえそれが、彼女がこの部屋について何か隠していまいと
今はこの部屋自体に違和感を覚えている。
私の頭は今日の新しい後輩との出会いと、確実にこの部屋の事でいっぱいで
これ以上何も入ってこない状態にあった。
しかし、いつまでもこの部屋の前で突っ立っているわけにもいかない。
とにかく急いで自分の部屋に急いで駆け込んだ。
『―バタン……カチャ』
なぜかドアを閉めた後に鍵をかけてる自分。
何を恐れているのか。
「……。」
今日は色々あって少し疲れているのではないか。
私はボーとしながら居間に行き、自分の部屋をみわたした後、制服をおもむろに
ソファーの上に脱ぎ捨てお風呂場に向かった。
今日は早く寝よう…。うん。それが良いのかもしれない。
「シャアアァァァァ―…。」
シャワーの音がこの複雑な思いをおさえてくれて、心地よささえ感じる。
いつもより熱いシャワーを浴び終え、食事する気もおきず、そのまま自分の部屋のべットへ沈み込む。
「ハァ…。つかれた…。」
急いで布団にもぐりこみ、眠りにつくことにした。
「
- 46 名前:第4話 投稿日:2006/01/28(土) 10:31
- その日は不思議な夢を見た。
何もない白い世界に私はいた。遠くに1つだけポツンと大きな黒いドアがある。
そのドアには4つの鍵穴がついているようだ。
私はなぜかそのドアにむけて歩き出すことにした。
私の靴音がこの白い世界に響き渡る。
ふと、何かが足元に落ちていたので立ち止まって拾い上げた。
それは黒い鍵だった。
私はそれを握りしめ、また歩き出す。
何処から現れたのか、はたまたずっとそこにいたのか。
美貴ちゃんが無表情で私に何かをさしだした。
それもまた、形は違うが黒い鍵のようだった。
私は1つ目の鍵を握ってる手にこの鍵を握らせる。
再び歩き出した私。
前から小川さん、高橋さん、紺野さんの三人が走ってくる。
昨日のような人懐っこい笑顔は見られない。
この3人も美貴ちゃんと同じように黒い鍵を持っていて私の手の上に落とす。
最後の鍵を持っていたのは矢口先生だった。
彼女1人は私に向かって話しかけてきた。
「さぁ…。いきなさい…。」
私に鍵を渡しニッコリと笑った。
4つの鍵が揃う。
この鍵はとても暖かい。握っているだけで心地よさも覚える。
どんどんと近づくドア。
私は、怖がっているのかもしれない・・。このドアの向こうに…。
やっとたどりつく。
鍵を差し込み、ゆっくりとあけた。
そこは…。
真っ黒な黒の世界だった…。
そんな、変な夢・…。
私は普段、夢を見ない。だから、なおさら不思議に感じたのかもしれない。
- 47 名前:第4話 投稿日:2006/01/28(土) 10:33
-
- 48 名前:Liar 投稿日:2006/01/28(土) 10:36
- ≫43
ありがとうございます!
レスがあると頑張れる気がおきちゃうから不思議です。
ここ最近はけっこうチョクチョクと更新してきたのですが、
これから少し遅れてしまうかもしれません。
でも、放置はしないので頑張りたいと思います。
- 49 名前:Liar 投稿日:2006/01/28(土) 10:37
- ≫44
いやぁ〜!とても嬉しいお言葉ありがとうございます!
ご期待にこたえたらなによりです。
これからも、頑張りたいと思います。
- 50 名前:Liar 投稿日:2006/01/28(土) 10:43
- 短いですが、第4話は完結です。次は第5話!
ここで、私事なのですが…。
実は私は受験生でして…。少し勉強もしなくてはいけないんです…。
前よりは更新の量が減るかもしれません。2月3月は。
週に1回くらいで少ない量しか更新できない時もあるかもしれません。
ただ、放置は絶対にしません。
実を言うと、勉強よりも、こっちをずっと書いていたいぐらいでして…。
それでは、本当に恐縮ですが、ここまで読んでくださった方々に感謝です!
これからも頑張ります!
それでじゃ、失礼させていただきます。
- 51 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 18:19
- とにかく家を出発した。
学校に付、いつものように美貴ちゃんと言葉を交わし授業を受けた。
そして昼休み…。
私は急いで美貴ちゃんを捕まえて席に座らせる。キョトンとしている彼女に昨日あったことを早口で伝えた。
彼女はとくに嫌な顔もしないで嬉しそうにその話を聞いていた。
「へぇ〜。そんなことがあったんだ。やっぱもてるんだね。梨華チャンは。よかったじゃん。」
「後輩が出来た事は嬉しいんだけど、ふられた子が傷つくのを考えると告白受けるのがいやなんだよねぇ…。」
「ん〜。まぁ、そうかもしんないけどしょうがないと思うよ。そういうの。それを踏まえて向こうも来てるんだからさ。」
「うん…。」
やっぱ、美貴ちゃんに話すのが1番いい。彼女はどんなことでもいい方へ持って行く力がある。
私のようにネガティブじゃなくていいな…。
「それはそうと、その高橋って子はファンクラブにも入ってるんだね。熱狂的〜♪」
「あ、そうそう。美貴ちゃんは自分のファンクラブがあるのを知ってたんでしょ?」
「まぁ〜ね。内密っていってるけど、普通にサインとかもらいに来るし写真も取ってくるし。
そりゃ、気づくでしょう。ちなみに、美貴は梨華ちゃんのファンクラブがあることも知ってたよ。」
「ぇえ!?そうなの?でも、サインをねだられたり、後輩から話し掛けられるのは告白の時くらいしかなかったよ?」
やっぱ、美貴ちゃんはもてるんだと確認しながらも、自分自身も知らなかったことを
彼女が知ってることに疑問を抱くのは当たり前だろう。
美貴ちゃんは私の質問に、梨華ちゃんは鈍いんだから…といいながら話し出した。
「だから〜…。それは高橋さんが言ってたとうりなんだよ。近寄りづらいのさ。梨華ちゃんは。
見た目は可愛くて優等生っぽいし、人見知りもするし、女のこっぽすぎるし。
なんかどっちかっていうと、見てるだけで癒されますってタイプなんだよ。」
「…え。そ、そうなんだぁ〜♪」
私は思ってもみなかった彼女の口からの褒め言葉に思わず笑みがこぼれる。
そんな私をみたのか付け出すように言葉を続ける。
- 52 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 18:19
- 「あ、別に褒めてるわけじゃないから。美貴に言わせると、まぁ、見た目は可愛いけど結構男っぽいとこあるし、
声高いし、ボーってしてる事多いし、なんせ、黒いから近寄りたくない存在だけどねぇ〜♪」
「また、黒いっていう・…。」
私が子供のように膨れていると
彼女はまだ、私をからかいたいのか次々と言葉を続ける。
「本当のことじゃん!顔はまだしも腕とか体とか足とか…。日本人じゃないよね!
美貴が男だったら絶対抱きたくないなぁ〜♪」
「いいすぎだよ!そんなことないから!ってか何でしってんのさぁ、そんなこと…。」
「あぁ、体育の時とか着替えてる時にチラッと見えてさ。
ありゃ、ビビリましたよぉ〜。」
私はどんどんと熱くなっていくのがわかる・…。
人が気にしてる事を そう、ぬけぬけと…。
「最悪!もう、知らない!」
「アハハハ!!」
- 53 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 18:30
- そんなことを話していた私たちの会話を遮ったのは昨日の彼女の声だった。
「石川先輩!」
「あ、まってたよ、高橋さんに小川さんに紺野さん!。こっちおいで〜。」
そう、私が答えると3人の後輩が教室に入ってきた。
先頭にいるのは高橋さん。
その次に美貴ちゃんの事が大好きな小川さん。
1番後ろにはなんだかモジモジ恥ずかしそうに入ってきた紺野さんだった。
「あぁ。これ子達がそうなんだ。本当に可愛いじゃん。
付き合っちゃえば良かったのにね〜。こんな子をふるなんて…。」
そんな美貴ちゃんの言葉に高橋さんがピクッて反応している。
私は慌てて、
「あ、あの、えっと。じゃあ紹介するね。彼女は藤本美貴ちゃん。
私と仲良くてちょっとクセのある先輩です。」
「クセってなによ。クセって。ってかそんな小学生じみた紹介なんてやめてよ。」
そんなことを言われたもんだから、シュンとしている私にお構いなしでさっさと自己紹介を始めている。
- 54 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 18:46
- 「初めまして。藤本美貴です。よろしくね。」
彼女はそう一言述べただけ。まぁ、それだけで十分か…。
彼女達は私以上に美貴ちゃんの事を知ってるしね。
美貴ちゃんの自己紹介を聞き終わった3人は緊張でオドオドしていた。
いや、正確には2人。
1人は緊張なんてもんじゃない。感動というのがじかに伝わってくる。
真っ赤にして まぁ、よくそんなに舌が回るというくらいのスピードで
話し始めた。
「あ、あの、私は小川麻琴といいます!この2人と同じクラスでファンクラブにも入ってます。
今日は私なんかと会っていただいて本当にありがとうございました!
私は中学の頃から藤本先輩が大好きで…。いつも見てました!
今なんか鼻血がでそうなくらい興奮しています!
お願いです。召使でも、パシリでも、なんでも結構です。友達になってください!
おねがいします!」
言いきった彼女は息切れ寸前の状態だ。
美貴ちゃんはというと
ビックリした事と少し恥ずかしさが混じった様子だ。
だっていきなり告白に近いものを面と向かって心の準備も出来ずまま言われたもんだから
そりゃ、誰だって…。
小川さんにつられるようにして高橋さんと紺野さんが
「私たちも友達になりたいんです!」
「先輩達はカッコいいからなおさら…。だ、駄目ですか…?」
私たちはお互いの顔を見合った。
私はこの子達の可愛さから美貴ちゃんに微笑みかけると
美貴ちゃんもつられて笑みを浮かべていた。
- 55 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 19:01
- ―よかった。これで大丈夫だよね。
正直心配していなかったというと嘘になる。
もともと美貴ちゃんは友達をあまりつくらない主義で、
後輩なんてもってのほかという感じだった。
でも、心配ないね…。
この私が愛くるしく思えちゃう子達なんだもん。美貴ちゃんも大丈夫…。
彼女は私の思っていたとうり、
「う、うん。いいけど。なんだか楽しそうだし。なんせこの梨華ちゃんが言うくらいだしね。
いい子なんでしょ?なら、問題ないや。うん。よろしくね。」
「美貴ちゃん。大丈夫。この子達は本当にいい子だよ。」
そんな私たちの会話を聞いていた3人は、なんだか顔が赤い。うれしいんだね。
やっぱ、可愛いな・…。後輩って。
私たちは残りの昼休みをこの教室でお昼を食べながら話すことにした。
- 56 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 19:29
- そもそも、後輩が先輩の教室に入ることなんてゆるされていなかったんだけど。
(っというか、そんな人はまずいないけど。)
けど、美貴ちゃんや私は先生の間でも人気があるらしくて、少しぐらいなら悪さをしても見逃してくれる。
美貴ちゃんによるととくに私が先生受けがいいらしいから
そばにいると何かと便利といっていた。
何よそれ・…。
なんに対しても少し鈍いわたしはそんなことにも気がついていなかった。
まぁ、たまにテストの点をおまけしてくれたり
たいした事をしてないのにすごく褒められたり。そんなことはあったけど…。
それが鈍いというらしくて。
まぁ、嫌われてるよりは好かれていた方が断然いいんだけどね。
そんなこともあって別に後輩を自分のクラスに入れても怒られる心配はなかった。
- 57 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 20:14
- 私たちのお昼はコンビニのパン。
私はもっぱら朝、作る時間がないからいっつもパンなだけで…。
高橋さんたちは私たちとは対照的でそれぞれ可愛いお弁当を持っていた。
わたしの隣の彼女が
「ぉお。すごいねぇ。いいなァ〜…。美貴にも頂戴♪」
なんて可愛い笑顔で言うもんだから3人はたくさんのおかずを彼女にあげていた。
わたしもついでにらしく、パンの袋の上には山盛りのおかずが並べられていた。
「いやぁ〜…。ありがとね!」
「いえ・・。たくさん食べてください。藤本先輩の為に作ったようなものですから。
なぁ〜んてがんばってる小川さん。
私たちはたあいもない会話をする。
「それにしても後輩っていいもんだよね。梨華ちゃん。」
「何餌付けされてんのさ。もう…。」
「いいんですよ!石川先輩!」
そうやって美貴ちゃんをかばう小川さんに高橋さんが
嬉しそうに話し掛ける。
「って、まこっちゃん。もう、身内気取り〜?」
「ち、ちがうよぉ〜!」
私が
「ファンクラブもあるんだしね。」
っていうと、
「だよね〜。」
と美貴ちゃんも同意する。
「この学校は美人な人が何人かいるからファンクラブもあるんですよ。
もう、アイドル的な存在なんです。」
って高橋さんがファンクラブというものに付け出しをする。
「へぇ〜。よかったね。梨華ちゃん。うちら美人だってさぁ〜♪」
「あはは…。」
そうなんだ。私はこの学校もう、3年目なのに結構知らないことも多いな…。
でも、私たちのほかにファンクラブがある人っているのかな・・?
- 58 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 20:43
- 「ねぇ、高橋さん。私たち2人以外にファンクラブってあるの?」
「はい。もちろん。あと、もう1人いますよ。」
「へぇ〜。そうなんだ。」
聞いてみようかな…。なんか気になるよね。こういうの。
そこに丁度よく美貴ちゃんが紺野さんに話しかけた。
「紺野さんは誰かのファンクラブにはいってないの?」
すると紺野さんは少し顔を赤らめ、話し始めた。
「あ、いえ…。実はさっき愛ちゃんの話していたラストのもう1人のファンクラブに入ってるんです。」
「そう、そう。あさ美ちゃんはその人のファンクラブに入ってるんだよね。
以外に面食いだよね〜。」
「だよね。まこっちゃんは藤本先輩、私は石川先輩で
ちょうどこの学校の御三家の1人1人のファンクラブに入ってるわけだしね。すごいよね。」
「なにさぁ〜。まこっちゃんも愛ちゃんも…。でも、カッコいいんだよね…。」
へぇ〜。御三家ってのもあるんだ。1人は私。もう1人は美貴ちゃん。後1人は…?
だから、こんな疑問をぶつけてみる事にした。
「高橋さん。で、あともう1人は誰なの?私の知ってる人かな?」
「2年生の人です。2年E組の…。後藤真希先輩です。」
「後藤、真希……?」
「はい。ご存知ありません?この人のファンクラブの人数は多いんですよ。
たしか、高校だけでも50人近くいたと思います。」
「ヘぇ・・…。そんなにきれいな人なんだ…?」
そんな私の質問に紺野さんが
「きれいというかカッコいいんです。ものすごく。
その人が1年生の時は7月ぐらいまで来てたそうなんです。週に2,3回程度だったんですが…。
でも、中旬になったらパタッて来なくなって・・。その時から今まで来ていないんです。
その、わずか4ヶ月間くらいで彼女を好きになった人が多いんですよ。
私は写真を見て好きになったんです。1度も見たことはありませんが…。
だから、余計にアイドルって感じなんです。謎が多いぶん、人気も高いんです。」
へぇ〜。そんな人がいたんだ。しらなかった。
私は美貴ちゃんに知ってた?というように顔を合わせようとした。
- 59 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 20:53
- だけど…。
彼女の目には何にも写っていなかった。
また、あの時の美貴ちゃんになってる・…。顔が…青い・・・。
でもなんで…?
あ…。『後藤』…?後藤真希ってあの『後藤』って人の事?
え、偶然?
でも、この美貴ちゃんの顔・…。
同一人物?
そうなのかな・…。聞いてみよう。じゃないと、ずっと引きずる。
「美貴ちゃん、あのさ・…。」
『キーンコーンカーンコーン―・…。』
なんと間が悪い事だろう。
美貴ちゃんは神にでも救われたようにホッと息をつき、
3人に帰るように言う。
「はい。時間だよ…。早く教室に戻りな。またおいでよ…。バイバイ…。」
彼女の中では不自然がないようにしてるつもりなのだろう・…。
しかし、ここまでぶっきらぼうになっているのを隠そうとしても無駄だった。
― 『後藤』と後藤真希 ―
この人物の疑惑がさらに積もる…。
- 60 名前:第5話 投稿日:2006/01/28(土) 20:53
-
- 61 名前:Liar 投稿日:2006/01/28(土) 20:55
- 5話終了!
結構更新できてよかったです。
この次書くのに時間がかかるかも・…。
精一杯頑張ります!今日は2回更新できてよかった!
いよいよ後藤さんが話にはいってきそうです。
- 62 名前:名無飼育31 投稿日:2006/01/28(土) 21:43
- わざわざ解説ありがとうこざいます(>_<)
どんなキャラのごっちんか楽しみにしてます♪(^O^)
- 63 名前:第6話 投稿日:2006/01/29(日) 18:24
- 3人が帰った後、美貴ちゃんは張り裂けそうな思いでどこか一点と見つめている。
駄目だ。今は聞けない。きっと、何か考えてるんだろう。
また、後で聞いてみよう。
なぜ、ここまで知りたくなるのかは私自身にも分からなかった。
ただ、何かに導かれるように知らなくてはいけない感じがする。
まるで、私に与えられた使命のような…義務のような…。
午後の授業が始まる。
私も隣の彼女も全く授業の内容が耳に入っていないようだ。
もうすこし、後藤真希という人物について知りたくなった私は
さっき、聞いておいた高橋さんのアドレスにメールを打つことにした。
『ごめんね。授業中に。』
しばらくすると高橋さんから返事が来る。
『いえ!全然!光栄ですよ!何か用ですか?』
『後藤真希って人についてもっと知りたいんだけど…。』
『後藤先輩は1年生の7月ごろに不登校になった人ですけど…。』
『あ、うん。他に知ってることとかない?不思議な事とか。』
今は、その人物の事なら何でも知りたかった。
『不思議・…。そういえば、今、後藤先輩がどうしているかを先生方に尋ねても
誰一人として口を割らないんですよ。』
『さっき、7月のごろに来なくなったって行ってたけど、それまでは普通の子だったの?』
『よくは知らないんですが、ほとんど何も喋らない人だったそうです。』
『そう、なんだ。ありがと。じゃあね。』
私は、そう打ち終え、携帯をポケットにしまおうとした。
そのとき、再び高橋さんからメールが来た。
- 64 名前:第6話 投稿日:2006/01/29(日) 18:43
- 『まってください。もう1つだけ…。藤本先輩に聞いてみたらどうですか?』
そこには意外な人物の名前が書き記されていた。
美貴ちゃん…?何で…?
『どうして?』
長々と文を書いて入られなかった。早く答えが届くように。
自分自身、驚きが隠せない。
『えっと…。後藤先輩が学校に来る時は藤本先輩と手を繋いで登校していたそうですよ。』
『・…え??』
驚きがさらに増す。
もう、どういう意味なのか理解できなくなってきた。
『それで、学校中にその2人が付き合ってるって一時期噂になったみたいですよ?』
『知らなかった・…。』
『そうですか。その頃の写真も結構あるみたいですよ。
なんせ、御三家の内の2人だし、なんせ見た目がいいので。』
『そうなんだ…。』
私の知らない事実に唖然とする私。
案外なにも知らない自分に腹立たしさを感じる。
しかし、次の言葉でさらに動揺した・…。
『でも、その写真は少し変わってる所があるんです。』
『どういう意味?』
『2人ともすごく暗いんです。笑ってる顔の写真は1枚もありません。
普通、付き合ってる人と手を繋いで歩くなら嬉しいはずだとおもうんですけど…。』
『ヘぇ…。』
『しかも、どっちかって言うと藤本先輩が後藤先輩の事を引っ張ってるようにも見えるんです。』
『そっか…。ありがとう。』
『いえ。お役に立てたら嬉しいです!』
言葉と言葉の糸が繋がらない…。
なんにせよ、美貴ちゃんがすべて知ってるということなのか…。
隣の彼女はさっきのような青い顔はしていなかったものの、
無表情で何も見つめていなかった・…。
やっぱ、少しだけ・…。聞かないと…。
怒らないでね、美貴ちゃん・…。
- 65 名前:第6話 投稿日:2006/01/29(日) 18:43
-
- 66 名前:Liar 投稿日:2006/01/29(日) 18:48
- ≫62
また読んでいただいて嬉しいです!
こんな作品を・…。面白いといっていただけるように
これからも頑張ります!
- 67 名前:Liar 投稿日:2006/01/29(日) 18:51
- はい。第6話終了!
後藤さんの疑惑が積もるばかり…。
『これから、どうなるんだ!?』
って思っていただけたらうれしいですねぇ〜。
がんばります!
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/29(日) 19:08
- おもしろいです。
ごっちんの過去が気になってしょうがないw
- 69 名前:名無飼育中 投稿日:2006/01/29(日) 19:33
- とてもおもしろいです。
ごっちんが気になる…久しぶりに更新が楽しみな作品です。
頑張ってください!
- 70 名前:Liar 投稿日:2006/01/29(日) 22:52
- ≫68様
後藤さんの過去は
石川さんの未来を握っているのかもしれません。
『面白い』の一言が最高にうれしいです!
- 71 名前:Liar 投稿日:2006/01/29(日) 22:54
- ≫69様
ぅわぁぁあああ!
そ、そんな『久しぶりに更新が楽しみな作品』だなんて…。
本当に読んでいただけるだけでも嬉しい限りなんですよ!
がんばりまっす!
- 72 名前:第7話 投稿日:2006/01/29(日) 23:04
- 「美貴ちゃん…。」
ホームルームが終わり、急いで帰ろうとしている彼女の腕を強引にも掴む。
きっと彼女の事だから私が何を質問してくる事ぐらいわかっていたんだろう。
「ごめん…。帰っていいかな。」
「ううん。だめ。私の質問に答えて欲しいの。」
「ごめん。そんな気分じゃない。」
断りつづける彼女は私をにらみつけた。
あまりの迫力に私の足は動かなくなった。でも、必死にくらいつく。
「今日、聞かないと駄目なの。」
「……。」
黙り込んでしまった彼女。
ついに名前を出すことにした。
「…。ごめんね。あのさ、後藤真希って人は美貴ちゃんとどういう関係なのかな。」
「!!…なにそれ。知らないから!そんな人…。」
「嘘…。」
「何で美貴が嘘なんかつかなきゃなんないのさ。」
「…なんで知ってるのに教えてくれないの?」
「だから…。」
言い訳をしつづける彼女。私はその言い訳を断ち切るための言葉を後につなげた。
「写真。写真があるの。」
「・…写真?」
「そう。あなたと後藤真希が手をつないでいる写真が。」
「…え!」
「高橋さんが言ってた。それがあってもいらないって言うの?
「・…。」
- 73 名前:第7話 投稿日:2006/01/29(日) 23:10
- 私は悲しくなった。
何故ここまでこばむものなのか。私がそんなに信じられないのか。
『親友』
そんな言葉がふと懐かしくなる。
「もう一度聞くよ。美貴ちゃんと後藤真希って人はどんな関係なの…?」
「…知らない。」
私はただ知りたかっただけ。
「なら、702号室の『後藤』って人は?」
「…しらない!」
私はただ知りたかっただけ。
「その2人って同じ人なのかな…?」
「……シラナイ…!!」
そう。私はただ知りたかっただけ。
- 74 名前:第7話 投稿日:2006/01/29(日) 23:21
- だから、彼女の口調の変化に気づかなかったんだ
私の知らないもう1人の彼女がそこにいた。
私はもっと前に気づけばよかった。
彼女は無表情で感情を荒げていた。
「…知ってどうするの?」
思った以上に声が低くなっていた彼女は私以上に冷静だった。
「知りたいの。その人の事を…。」
自分がこれを知って何か変わるわけではない。好奇心がないとは言えなかった。
「人には話したくないことが1つや2つあるんだよ…?」
「で、でも、それで美貴ちゃんが悩んでいるなら力になれるかもしれない…。」
「梨華ちゃんは残酷だね。自分が興味ないことには無関心のクセに
興味を持てばそれを自分で何とかできると思ってる。
でも、それで嫌がる人の事なんて考えやしない。自分さえよければ良いんでしょ…?」
「ちがう!私はそんな風には思ってないよ!?」
「うそだ。美貴には話さなければいけない義務なんてない。」
「だけど…。」
「どうせ、ただの興味なんでしょ?ごめん。そんなことで話すわけにはいかないの。
これは美貴の義務なんだ。」
「…。」
- 75 名前:第7話 投稿日:2006/01/29(日) 23:26
- 反論する言葉が見つからなかった。
たしかにそうだ。気になるから知りたい。
それはただの興味に過ぎない…。
「そんな興味のせいで傷つく人が1人でもいることは事実。
美貴はそれを守らなくてはいけない。
いくら親友でも話すことは出来ない…!!」
そういい終えた彼女は私の手を振りほどき、教室を後にした。
― 彼女の言うとうりかもしれない…。
私は残酷だ。ただの好奇心。自分でも分かってるの。
この好奇心で傷つく人がいることも分かってる。
これほど聞いても教えられない人物なのだからそれなりの事情もあるだろうに・・。
分かってるんだよ…。
でも、なぜ、ここまで知りたいのかは私にもわからないの…。
分からないんだよ、美貴ちゃん・…。
ゆるして…。
- 76 名前:第7話 投稿日:2006/01/29(日) 23:27
-
- 77 名前:Liar 投稿日:2006/01/29(日) 23:28
- ふぅ・・・。
だいぶ更新できました。
だんだん、真相に迫ってきた感じで
私自身、楽しいです♪
- 78 名前:名無しさん 投稿日:2006/01/30(月) 02:11
- いしごま大好きなんですが、
今後どういう展開でいしごまになるのか楽しみです
- 79 名前:第8話 投稿日:2006/01/30(月) 18:02
- 私はいつまでその教室にいたんだろう。
すでに日が沈み始めてる。
なんだか私のよう…。沈みかけてるこの太陽が。
美貴ちゃんの言葉が頭の中で反響する。
『梨華ちゃんは残酷だね…。』
『ただの興味なんでしょ…?』
駄目だ…。またへこんできた。
帰らないと。
でも、足が動いてくれない…。
「梨華ちゃん!どうしたの〜?帰れよぉ〜!」
そんな時、矢口先生が私とは正反対の明るさで教室に入ってきた。
「や、矢口先生…。」
「…。何かあった?相談にならのるよ…?」
この先生はやっぱりすごいな…。一発で私の気持ちを見抜いてしまったらしい。
それほどそういう顔をしてたんだ、私…。
「あ、あの、知りたいことがあるんですけど…。」
「お!いきなりぃ〜?何〜?」
唐突に美貴ちゃんにぶつけた事を矢口先生にもぶつけてしまった。
今の私はそれ以外、何も知りたくはなかった。
「先生…。後藤真希って人、しってますか?」
「…。うん。まぁあ、人並み程度には…。」
「なぜ、先生方はみんな口を割らないんですか?その人について…。」
「いや。そういうわけじゃないんだよね。本当の事を言うと…。
彼女の事についてはみんな何も知らないんだよね。」
矢口先生の顔がだんだん曇ってきている。
あのいつもの顔とは、かけ離れていた。
「ただ、1つ。あんまり首を突っ込まない方がいいかもね…。」
「…どういう意味ですか?」
「いや、別に。」
「先生は何か知っているんですよね…?どうなんですか!?」
「ううん。なにもしらないよ。これは本当。なんなら会いに行ってみれば…?」
「あ、会いにいくって…。」
「矢口も一度、何人かの先生につれてかれて
学校に来るように説得しにいったことがあってさ。
ここの学校、お金を先に全額もらってるからさ。中退できないんだよね。
だから、家には、いったことがあるんだよ。」
「ど、何処ですか…!?」
核心に迫った。私が聞きたかった事…。
―『後藤』と後藤真希の存在…。
- 80 名前:第8話 投稿日:2006/01/30(月) 18:37
- 「あれ?たしか梨華ちゃんのマンションの702号室だったと思うけど…?」
糸が繋がった…!!
まず、1つ。
私の向かいに住んでいる人は後藤真希という人物であることが
ここでハッキリした…。
「そ、そうですか…。」
心なしか達成感が少し芽生えていた。
「でも、何で梨華ちゃんは何でそんなに知りたがるの?」
痛いところをついてくる。私にもわからないことを。
「わ、私わからないんです…。
なぜか名前を聞いただけで知るべき人って思ってしまって…。」
「…そうなんだ。」
「美貴ちゃんにもいろいろ言われて・・・。
でも、どうしても知りたいんです!知らなくてはいけない気がするんです…。」
「人生は天の命によって支配されてるからね・…。」
「え?」
「ん?あぁ、運命って事だよ。梨華ちゃんは宿命論ってどうおもうかな。」
「宿命論?なんですか?」
「運命論とも言うね。一切の出来事はあらかじめ決定されていて、
なるようにしかならない、人間の努力もこれを変更し得ないと見る説の事。どう思う?」
「え、えっと・…。」
いきなり話し始めた矢口先生の顔はなんだかうれしそうだった。
- 81 名前:第8話 投稿日:2006/01/30(月) 18:37
- 「私はね、信じてるんだ。ロマンチックでしょ?
人の人生はこの先の努力でどうにでもなるって言う人が多いかもしれない。
でも、人の出会いってどうだろう。私はそんなありきたりな決定論は信じてないの。」
「人の…出会いですか?」
「うん。生きているなら誰かかしら人に出会うよね。
それが親でも、友達でも。科学的な根拠なんてない。
でも、運命と人の出会いは似ているんだよ。」
「そういうものですか…。」
「あれ。しんじないの?」
「いえ、私もそういうのは結構、好きかもしれません。
ここでこうやって先生と話しているのも運命なのかもしれませんね…。」
「そう。だから行くとこまで行ってみな。
あなたがそう思うならそれは正しいんだから…。」
さすが国語の先生…。
私の考えている事がちっぽけに感じる。
後藤真希という人が私の人生に出てくる運命なら、
彼女の人生にも私が出て来るんだ・…。
そういうことを言いたかったんですよね…?先生。
根拠なんていらない。今は本能のままに行くべきかもね…。
「あ、ありがとうございました…。」
「うん。たまにはいいこと言うでしょ?」
「そうですね!」
「じゃ、気を付けてね。
702号室にあなたと後藤という人を繋ぐ扉がまってるかもしれないよ…。」
「…はい!」
気持ちがやわらいた…。
そう。自分が思うがままに…。
- 82 名前:第8話 投稿日:2006/01/30(月) 18:37
-
- 83 名前:Liar 投稿日:2006/01/30(月) 18:40
- ≫78様
私もいしごま大好きです!
今後、どうなっていくのかは
これから少しづつ始まっていきます。
- 84 名前:Liar 投稿日:2006/01/30(月) 18:46
- はい。おわりました。後藤さんの存在がわかり始めてきました。
なんだか、石川さんが積極的です…。
石川さんが後藤さんを、
そして、後藤さんが石川さんの人生にどのようにかかわってくるのか・…。
運命とはそんなものだと思います。
読んでいたでいてる方々に心から感謝しています。
それでは失礼します。
- 85 名前:名無飼育31 投稿日:2006/01/30(月) 21:27
- やっとごっちんに近づきましたね(^O^)
続きすごい気になります♪
いつも更新はやくお疲れ様です(>_<)
- 86 名前:第9話 投稿日:2006/02/03(金) 16:14
- 教室を後にした私はただひたすら歩いていた。
走ることはない。
期待で胸がいっぱいなのは確かだ。
その一方で怯えている自分もいる。
見知らぬ人に一歩一歩近づいている自分。
走るほど私の心には余裕がなかった。
まるで自分だけの世界。
いつも見ている帰り道の風景が何か細切れのように通り過ぎていく。
現実の世界なんて私には写っていなかった。
あるのは私の運命の人との出会いというものだけ…。
私はただひたすら歩く。
ただ、本能のままに…。
『ドンッ…!』
膝のあたりに何かがあたった。
幼稚園くらいの男の子が私にぶつかったようだ。
― そうか。公園に行くんだな…。
私の立っていたすぐ隣には小さめの公園がある。
そこで何人かの子供が無邪気に遊んでいた。
『…あの子達は何を考えているんだろう…。
あなたたちには数十分後の自分の姿を思い描ける?
私には…出来ない。誰といるか、何をしているか、どんな会話をしているか・…。』
心の中で、そう子供に問い掛けている自分。
『ご、ごめんなさい…。』
ぶつかった少年が私に恐る恐る告げる謝罪の言葉。
そんな彼に私はまともな言葉を返してあげれたのか?
答えはNOだった。
私はただ呆然と男の子をみすえる。
まるで人形のように。
「!…。あ…。」
私の顔をまともに見た彼は泣きだしそうになった。
ごめんね…。子供が嫌いとか、そういうのじゃないの…。
ただ今は私の頭に後藤真希以外の人物を考える余裕はない…。
- 87 名前:第9話 投稿日:2006/02/03(金) 16:24
- 緊張を表す胸の高鳴り。
私は再び歩き出す。一心に。
ドックン… ドックン…
頭に鳴り響く心臓の音。
まるでお化け屋敷に入る前のような感覚。
私の視界がふと開けた。
いつもはただのマンションだったのに、
今日はなぜかそこだけ切り取られているように鮮明に見えた。
周りの色が消えていく…。そこは白と黒の世界だった。
ゆっくりとエレベーターに乗り込む。
『7』という数字を押すのに思わずためらいを感じてしまう。
手の震えが止まらない。怖いわけじゃないんだ・…。分からないんだよ…。
目をつぶる。
勇気を出すために。自分自身に頑張れと心の中で声をあげる。
それに一押しされるようにボタンを…押した。
まるでタイムマシンのよう。
エレベーターという小さな1つの空間が私を未知なる場所へ連れて行く。
昇るまでの時間が永遠になった。
そんな気がした。
『チン― …ガ―― …。』
扉が開く。そこはいつも見ている景色ではなかった。
- 88 名前:Liar 投稿日:2006/02/03(金) 16:26
-
- 89 名前:Liar 投稿日:2006/02/03(金) 16:27
- まだ、第9話はおわりません。
本当に短いんですが、続きは土日に書きます…。
最近忙しいので・…。すみません。
今日のところはここまでです。
- 90 名前:Liar 投稿日:2006/02/03(金) 16:28
- ≫85
少し、またしてスミマセンでした・…。
今後は更新がまちまちになりそうです…。
短いですがこまめに更新していきたいです。
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/03(金) 17:38
- 面白いです。
受験の方もがんばってくださいね。
かく言う私も受験生ですが・・・
- 92 名前:第9話 投稿日:2006/02/03(金) 22:17
- この漠然とした世界に私は一歩足を踏み入れた。
私の前に風が駆け抜けた。
これは、まるで映画のワンシーンで。
まるで、よくある恋愛ドラマの出会いのような。
ただ、確かなのは1つ。
この扉に私の未来があるということ…。
もう私自身では自分をコントロールする事は出来ない。
ロボットのように自然と702号室の前まで歩いていく。
きっ今は無表情に近い顔になっているのだろう。
ここからどうすればいいかなんて誰にも分からないだろう。
それは、私が決める事だから。
指が自然とインターホンにかかる。
そこからは私の出番。
なかなか押すことの出来ない私。
私が決めた事・…。
なのに…なのに…。
押してしまったら必ず私の中で何かが変わるわけで…。
今までの自分が走馬灯のように頭を駆け巡る。
自分の中学校時代、高校時代・…。
でも、ここは私が知らなかった世界。
ずっと探していたものがここにあるのかもしれない。
自分の部屋から最も近かった部屋が今は体から指までの距離が果てしなく遠い。
私の視界に入るものは今はあなただけ。
― いくしかない。じゃなきゃ、絶対に後悔する。
ただ、美貴ちゃんがこばみつづけた事がただ1つ心に残る。
きっと、理由はあるんだとおもう。でも、でも・…。
ゴクッ……。
息を飲み、指に力が入った。
『ピーンポーン―…。』
その音が私の中でこだまする。
心臓の音が頭の中で鳴り響く。全身が心臓のようだ。
しかし、いくらまっても開くことはなかった。
運命とはとても皮肉。
神様は私にまだ会うなとでも言っているかのようだった。
あなたの人生には私がいなかったのか・…。
それとも私の人生にあなたがいなかったのか・…。
そんなはずはない!
でもそれに対してはうなずいている自分がそこにいた。
そう。私はまだ美貴ちゃんの口から何も聞いてなかった。
やっぱり、聞かなくてはいけないのかもしれない…。
- 93 名前:第9話 投稿日:2006/02/03(金) 22:41
- 前に見た不思議な夢を思い出す。
今までに見たことのない不思議な夢。
4つの黒い鍵が1つの扉を開けるものとなる…。
1つ目は偶然という運命で私が手に入れた。
そのときは、まだよく分からなかった。
2つ目は後輩との出会いという運命で手に入れた。
この時から疑問に思いだしたんだっけ…。
3つ目は矢口先生と話すという運命で手に入れた。
このときは核心に迫っていたんだよね…。
あの夢はもう1人手渡してくれる人がいた。
その4人目は美貴ちゃんが持っている。
あなたはそれを手渡してはくれなかった…。
それはあなたの責任の強さからなんだと思う。
でも、手に入れなくてはいけない。
運命というもので手に入れるのではなく、私自身がうばいにいく…。
これは、私から迫るはじめてのものだから…。
必ず…。絶対に・…。
- 94 名前:第9話 投稿日:2006/02/03(金) 22:44
-
- 95 名前:Liar 投稿日:2006/02/03(金) 22:46
- ≫91様
こんなに早く更新していただけて光栄です。
受験、頑張ります。絶対合格目指します!
- 96 名前:Liar 投稿日:2006/02/03(金) 22:50
- はい。一応第9話は完結させました。
なんか、後藤さんと石川さんの出会いを引き伸ばしてばっかですね・…。
スミマセン。次は藤本さんと後藤さんの関係が明らかになりそうです。
今年、私は高校受験なので3月7日がすぎれば、今以上に更新していこうと思います。
それでは失礼させていただきます。
- 97 名前:第10話 投稿日:2006/02/08(水) 21:56
- すぐに自分の家に入り、ドアを閉める。
『バタン…。』
「ハァ、ハァ…。」
息が荒くなっている。私はその場で座り込んでしまった。
ポケットから無造作に携帯を取り出し、迷わず藤本の名前を探す。
そして彼女に電話した…。
『プルルル― …プルルル― …ガチャ』
「もしもし…?美貴ちゃん?」
「……。なんかよう?」
「うちに来て…?」
「…は?」
「今すぐ!!」
「なん…」
『プツッ…。ツーツーツー』
理由なんて話せなかった。話せばまた今日みたくなる…。
そんなことを話している場合じゃない。
彼女がこういって、来てくれる保証なんてない。
だけど…少しだけでも望みがあるなら!!
『親友』なら、きてくれる。そう信じたい。
そうじゃなきゃ・…これまでの努力が無駄になる…。
私はいつも後先を考えない。その場の思いだけで行動してしまう。
これで美貴ちゃんが来なかったらどうするんだろう。なんて考えてもいない…。
ただ来るとひたすら思うだけ。
彼女が来ると信じている時も冷たい玄関のところに座りながらただ願いつづける。
『ドク、ドク、ドク…。』
心臓が早鐘のように鳴っている。
美貴ちゃんだって、私の思っていることを伝えればきっと分かってくれるはず。
『カチ、カチ、カチ・…』
どのくらいの時間がすぎたのだろう。
時計の秒針が頭の中で鳴り響く。
「美貴ちゃん・…。」
ただ、ひたすら願うしかなかった。
- 98 名前:第10話 投稿日:2006/02/08(水) 22:40
- その時
「ピーンポーン― …」
待ち望んでいた音が私に直にとどいた。
そして木魂する。
私は急いで立ち上がり、相手が誰であるかも核心のないままドアを勢いよくこじ開けた。
そこに立っていたのは、もちろん藤本本人だった。
私に急に呼び出されたことで怒っているようだったが、
その顔には確かに母親のような顔もあった。
まるで、悪さをした子供をしかるような母性を感じる…。
私は彼女の手を引き、無言でリビングに連れて行きそこに置いてあるソファーに座らせた。
2人はしばらくの間一言も喋らない。
そんななか、私は何とかして話を切り出した。
「・……。ごめん。」
「…。」
「ゴメンね…。」
「…謝ってばっかじゃん。」
「…うん。」
「わかってるならなんでこんなことするかな・…。」
彼女は怒るのを通り越してあきれていた。
私は他にいうことも出来ず、ひたすら謝りつづけた。
「ごめん…。」
「いいけど…。で。何?何のようなの…?」
いきなり本題に入ってきた彼女にとまどう私。
ただ、突っ立っている私は美貴ちゃんの隣に座る事にした。
『ギシ…』
スプリングがよくきいたソファーがきしむ。
私は彼女の目を見ることが出来なかった。
だから自分の膝を少し抱えてうつむきながら答える事にする。
「今日、帰りに後藤真希の家に行ったよ…。」
「…は?」
「だから、向かいのこの家に行ってきた。」
「…何の事?何度もいうように後藤真希なんて知らないって。そんなこと話すなら帰るから…。」
「じゃあ、ここからは私の独り言。聞かなくてもいいから。」
「…。」
そして私は自分に言い聞かせるように話し出した。
「美貴ちゃんにいわれたこと、すごく悲しかったんだ…。
言われてっていうのもあるんだけど的中してるってもあって…。
私、本当に残酷だよね…。自分でそう思う。いつでも八方美人で…。
結局自分が傷つきたくないから逃げてるだけなんだ…。」
自分の欠点を話すのは以外と簡単。
簡単なだけに本当の自分が見えてきてすごく怖い。
彼女の方はというと聞いているのか聞いていないのかわからないけど何だか神妙な顔をしていた。
- 99 名前:第10話 投稿日:2006/02/08(水) 23:15
- 「矢口先生と話したの…。帰りにね。
矢口先生に自分の運命を信じろって言ってもらったんだ。
私は今までなんに関しても無関心だった。適当にずっと過ごしてきた。
でもね、今回は違うの。何が違うのかは私にもわからない。
なんか、知らなくてはいけない気がして…。
その人がカッコいいからとか美人だからどうこうとかじゃないんだ。
後藤真希という人物にすごく何かを感じた…。」
「…。」
「会う運命というか…。本当によくわからないんだけど…。」
「会う運命か…。」
自然と彼女の口から漏れていた声。
本人もきづいていないらしい。私はただ、自分の思いが伝わるようにはなしつづける。
「どうしても会いたい…。たとえ、美貴ちゃんが何も教えてくれないとしても私はどんな手段を使っても必ず会いに行く。
でも、私は美貴ちゃんの口から聞きたい。
今回の事は迷惑ってわかってるの…!でも、でも!!」
「…今日は美貴からもごめん。」
「え?」
今日の放課後、美貴ちゃんと喧嘩した事を思い出す。
「…少し、言い過ぎたかもしれない。」
「そんなこと・…。」
「本当に…知りたいんだ?」
美貴ちゃんのこの質問にあらためて自分自身に問い掛ける。
本当に知りたいのか?
― どんな事があっても知りたい…。
思いがはっきりとした。
そしてこのとき初めて彼女の目を見た。
- 100 名前:第10話 投稿日:2006/02/08(水) 23:19
- 「…うん。知りたい!」
「絶対に逃げ出さない?」
「うん。」
「…きっと、里香ちゃんの人生を少し狂わせるかもしれないんだよ…。それでもいいの?」
「うん…。かまわない。くるっても、それが私の運命だから…!」
「わかった。」
彼女が私にそう継げた。
話してくれる…。私がずっと知りたかったこと。
最後の鍵をあなたが渡してくれる…。
運命じゃない、私の手に…。
- 101 名前:第10話 投稿日:2006/02/08(水) 23:20
-
- 102 名前:Liar 投稿日:2006/02/08(水) 23:21
- 遅くなってすみませんでした。
第10話完結です!
っていうか100とっぱ!!やったぁ〜!!
これも、読んでくれる皆さんのおかげです。
これからも頑張ります。
- 103 名前:Liar 投稿日:2006/02/08(水) 23:27
- ≫100
間違えました…。
4行目の「里香ちゃん」ではなく、「梨華ちゃん」です。
100なのに!スミマセンでした…。
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/09(木) 18:55
- 面白いです。構成が上手いと思います。読み手に次の展開を楽しみに思わせる力があると思います。
受験もあって大変だと思いますが、頑張ってください。
- 105 名前:第11話 投稿日:2006/02/15(水) 13:30
- 彼女は息をすい、慎重に語りだした。
「後藤真希は…美貴のいとこなんだ。」
「え?」
思いもしなかった言葉に私は驚きを隠せない。
しかし、彼女は淡々と続ける。
「美貴の母親の妹夫婦。学年は1こした。だから小さい頃からずっと一緒に遊んでたんだ。ずっと…。」
彼女は1つ1つ思い出すように語りだす。
その顔はいたって穏やかでさえあった。
「美貴は…彼女の事を『ごっちん』って呼んでた…。」
「ごっちん…?」
「うん。彼女のあだ名。友達からそう呼ばれてたんだってさ…。」
「…。」
「ごっちんは本当に可愛かった。美貴にも、真希にも兄弟がなかったからお互いを兄弟だと思ってずっと一緒にいた。
妹みたく人懐っこくて…。小学校の低学年の頃、美貴は少し冷めた人間だったから友達がずっといなかった。
そんな時、いつもいつも一緒にいてくれた。
ごっちんはどっちかっていうと友達が多くて…。
それが羨ましかった。でも、彼女はそんな私といつも一緒にいてくれた。
すごくやさしくて人のことを考えられる子だった。大好きだったんだ…。」
- 106 名前:第11話 投稿日:2006/02/15(水) 13:30
- 私が聞いていた後藤という人物のイメージとだいぶ違っていた。
そんな様子を見ていたのか悲しげな笑顔を私に向けて再び話し出す。
「そうなんだ。これはあくまでも昔の話…なんだ。」
「そう、なんだ…。」
「中学に行ったら学年が違うからいっつも一緒に遊ぶってわけにはいかなかった。だけど美貴たちの関係はずっとかわらなかったんだ。」
「うん…。いいね、そういうの。」
「梨華ちゃんは人の悲しさって…わかる?」
「…どういう意味?」
突然変な質問をしてきた彼女。
その顔はさっきと一変して冷たい悲しい目をしていた。
「悲しさってどの程度のことを言うと思う?」
「…。」
「ごめん。口足らずだね。訂正する…。悲しい時、人はどんな風になると思う?」
「えっと…泣くとか…?」
私は出来る限りかなしい事を思い出した。
おばあちゃんが死んだとき、友達が転向した時…。
私は常に泣いていたと思ったから。
だけど彼女はその言葉を期待してはいなく、私の言うことを予想していたかのようだった。
ため息をついて首を上げ、悲しそうな顔をする。
「そっか…。そうだよね。そのとうりだと思う。普通の人…ましてや梨華ちゃんなら。」
そう言って立ち上がった。
「…行こうか。」
「え?どこに?」
「702号室に。」
予想外の事に頭がついていかない。
今から会いに行く・…。そう、やっと。ずっと待っていた時。
「で、でも…。いなかったよ?家に、後藤さん…。」
- 107 名前:第11話 投稿日:2006/02/15(水) 13:46
- そんな不安が思わず口から出る。
「大丈夫。絶対にいるから。鍵…持ってるし。」
「あ、そうなんだ…。」
いよいよ現実となる瞬間。
私はソファーから立ち上がった。
そして、ゆっくりと彼女の後をついていって玄関まで行く。
だけど急に美貴ちゃんが止まってしまった。そして私に背を向けたまま話し始めた。
「この前私がここに来た時、確かにごっちんに怯えていた…。嘘ついてごめん。」
「あ、うん…。いいんだ。なんとなく気づいてたし。でも、何で怯えていたの…?」
私が質問した時、彼女の肩が震えていた。子供のように…。
私はゆっくりと近づき後ろから抱きしめてあげた。
とても冷たかった彼女…。
「美貴は…支えてあげられなかった…。」
「…?」
「美貴の力なんかじゃ彼女の悲しみを背負う事が出来なかったんだ…。」
「…。」
「ううん。それも違うのかもしれない。きっと、背負ってしまうのが怖かった。
彼女の辛さは私には重すぎた…。1番残酷なのは…梨華ちゃんじゃない。美貴自身だったんだ…!!」
彼女の体がこわばる。
ふと、抱きしめている私の手に何かが落ちた。
彼女は…泣いていた…。
かける言葉がない。何もいえなかった。
ただ彼女を抱きしめる腕に力を入れた。
「ごめん…もう、大丈夫だから。」
そういって涙を拭う。
― 泣いても良いんだよ…。辛い時は…。
「梨華ちゃんは運命なんだよね?」
「…うん。」
「なら、逃げないで欲しい。私よりずっと強いんだから。」
「わかった…約束するよ。」
「ありがとう…。」
そう言って私たちは玄関を出た。
- 108 名前:第11話 投稿日:2006/02/15(水) 13:50
- 再び例の部屋の前に踊り出る私たち。
2度目なのにもかかわらず、以前緊張しまくっている。
ドックン…ドックン…
別世界へ…。
隣の彼女が思い思いに鍵を取り出し、ゆっくりと鍵穴に差し込む。
そして…ドアを開いた―
そこは、黒の世界だった。
- 109 名前:第11話 投稿日:2006/02/15(水) 13:51
-
- 110 名前:Liar 投稿日:2006/02/15(水) 13:52
- ≫104様
ありがとうございます。
受験…頑張ります!!これからもよろしくお願いします。
- 111 名前:Liar 投稿日:2006/02/15(水) 13:54
- 今週は…スミマセンでした。
実は私立の試験が2つもありまして…。明後日、もう1個の試験です…。
11話、おわりました。いつも短い更新でスミマセン。
土曜日には書き溜めているぶんを大量更新したいと思います。
- 112 名前:名無飼育中 投稿日:2006/02/16(木) 19:18
- 受験大変な中更新ありがとうございます!!
いよいよごっちんが出そうですね☆
楽しみにしてます♪
- 113 名前:Liar 投稿日:2006/02/17(金) 17:55
- 吸い込まれる風。
私の部屋とは対照的な暗さ。
そして玄関に立つ私たち。
そこには女性ものと思われる靴が一足だけ並べられていた。
何か物が置いてあるわけでもなく。
ただ、それだけの世界。
壁が黒いわけでもないのに黒く見えた。
私の目がおかしいのかな…?
私の前にいる美貴ちゃん。
ここでは言葉を交わしてはいけないような雰囲気が漂っていた。
彼女がスッと前に歩いて行く。私はそれに習うようについていくことにする。
この部屋は私の家のように壁紙がはられておらず、コンクリートの壁が剥き出しの状態でいやに冷たかった。
リビングまで来ると彼女は歩くのをとめた。
電気がつけられていないそこは窓にカーテンがすでに閉められている。
闇のような黒いカーテンが…。まだ夕方だというのに。
そして大きな薄型テレビ、ガラスのテーブルが無造作に置いてある。
中央にはひときわ大きい黒いソファーが置いてあった。
この部屋にはまるで生活感がない。
物が少なすぎる…。
私の立っている右側の方にカウンター式のキッチンがあるが冷蔵庫とで小さな食器棚があるのみ。そこには透明のグラスがあっただけだった。
そんな状態な部屋でも実のところ私の想像どうりの部屋だったのかもしれない…。
ただ、ソファーで私たちに背を向けて座っている人物をのぞいては…。
- 114 名前:Liar 投稿日:2006/02/17(金) 21:18
- 美貴ちゃんが私のほうを振り向いてちょっと待っててと合図し、歩いて行く。
彼女はソファーに座っている人物を通り過ぎて窓のところまでいき、少しカーテンを開けた。
薄暗いこの部屋に太陽のオレンジ色の光が差し込む。
そしてゆっくりと振り向いた。
その顔はさっきの怯えた顔ではなく、優しい母親の顔をしていたんだ…。
「…ひさしぶり、ごっちん…。」
「……。」
「元気、してた?」
「……。」
「ごめんね。最近来れなくて…。」
「……。」
絵のように並んだ2人。
全く話すことのない1人に淡々と話すもう1人…。
「太陽の光には…あたらなきゃ駄目だよ。ほら、こんなに綺麗な夕日なんだしさ…。」
「……。」
以前話さない彼女。
人形のように。
「今日はね、友達をつれてきたんだ。石川、梨華って言うんだよ…。」
まるで子供に話し掛けるような口調の彼女の会話に私の名前が入る。
一瞬、どきっとした。
そして近寄ろうと足に力を入れた。
…だけど、人形のようなあなたがゆっくりと首だけ動かして私を見たから動けなくなってしまったんだ…。
- 115 名前:第12話 投稿日:2006/02/17(金) 21:19
-
- 116 名前:モノローグ 投稿日:2006/02/17(金) 21:30
- 『出会い』
あの時のあなたは偽りの仮面を作っていたんだね…。
私はそれを外す事だけに夢中だったんだ。
それがどんなにあなたを傷つけるかも知らずに…。
そう、この時のままのあなたなら、私が外さなければ今のような悲しい現実はなかったんだ…。
でもね、映らなかったあなたの瞳に私が映った時はどんなに嬉しかった事か…。
思わず、泣いてしまったんだよ、本当は。
あなたは私と出会ったこの時のことを覚えてる?
私は一生忘れる事の出来ない思い出となっているんだ。
悲しい目をしていたあなたでさえカッコよく思えてしまったんだ…。
こんなに弱い私でごめんね…。
現実から逃げているのは今の私。
昔のあなたじゃないよ。
今更身にしみても遅いってわかっているの。
かっこ悪いね…私。
でも、あなたと出会ってしまったことは後悔なんてしてないんだよ。
たとえあなたが後悔していようとも。
あなたは今1人じゃないんだよね?大丈夫だよね?
『もう、私は大丈夫だから。心配しなくていいよ。』
なんていう台詞を私はいえないんだ。
あなたが今、幸せで私の前に来て不幸になってしまったとしても私の腕の中に戻ってきて欲しかった…。
これが本音。
私は忘れない。
あなたと出会ったこの日を。
ここから始まるあなたとの運命を…。
- 117 名前:モノローグ 投稿日:2006/02/17(金) 21:30
-
- 118 名前:第12話 投稿日:2006/02/17(金) 21:45
- 肩にかかるくらいの濃いブラウンで上のほうが短いウルフカットのような髪型。
スーっととおった鼻筋。
日に当たっていないせいか、私とは対照的な白い肌、痩せすぎているため首筋まではっきりと見える。
さらに首にはシルバーのリングがとうされたネックレスをしていた。
そして大きな瞳…。
何1つ映されていない目。
ガラスのような目。
もはや、生きているとは言いがたかった。
人形だとしか言い表せない人…。
光がない、この世界全て何1つ映ってはいなかった。
私は歩くどころか動く事すら出来ないでいる。
この目に吸い込まれている…。
悲しい目だった。
というか悲しさを通り越して彼女自身が見えなくなっていた。
寒さのあまり凍りついてしまいそう。
生まれてはじめて感じる新たなる恐怖。まぶたを閉じる事も出来ない。
ずっと会いたかった相手に、今は動く事すら出来ないでいる。
何か話さなくては…とは思っても上手く口が動かない。
しかし、しばらくして彼女はまた前を向いてしまった。
「ごめんね、急につれてきて…。」
美貴ちゃんが言う。
「……。」
「…今日は帰るよ。また、来るから。梨華ちゃんつれてくるからね…。」
そう言って私の手を引き部屋をあとにした。
私たちはさっきいた私の部屋に戻ってきた。
- 119 名前:Liar 投稿日:2006/02/17(金) 21:46
- スミマセン。
また明日書きます。12話の続きです。
- 120 名前:Liar 投稿日:2006/02/17(金) 21:47
- ≫112様
ありがとうございます。
いちお、私立の受験が終わりました。のこりは公立のみ!
また、公立受験が近づいたら更新が遅れます…。スミマセン…。
- 121 名前:Liar 投稿日:2006/02/18(土) 08:23
- 「はい、使ってもいいよ…。」
「…え?」
「涙でてるよ。ふきなよ…。気づいてなかった?」
私は思わず顔に手をやる。
そこではじめて自分が泣いているんだとわかった。
「…いつから…。」
「本当に気がついてなかったんだ…。」
「うん…。」
「ごっちんが梨華ちゃんから目を離したぐらいからだったと思う。ビックリしちゃったよ。」
そっか…。そうだったんだ。
気づかなかった。こんな事ってあるんだね。
拭った涙を見ながら呆然とする私…。
「何で…泣いてるの?うれし泣き?憧れの後藤真希に会えたから?」
「…ちがう。」
「もしかして、怖気づいたとか?」
「ちがうよ…悲しくなったの…。」
「……?」
「あんな目…始めて見た。」
「そっか…。」
「なんで…?」
そんな私の様子を穏やかに寂しそうに見つめている美貴ちゃん。
そして、ゆっくりと話し出す…。
「人はね、悲しすぎると涙さえ出なくなってしまうんだよ。彼女は…ごっちんは、自分の悲しみを誰かにあてるわけではなく、ただ受け止めているだけなんだ…。
それがどんなに苦痛な事か…。いや、泣けないんじゃなくて泣く事を忘れているんだよね…。」
「そ、そんな…。」
涙かとめどなく頬を伝う。
立ったままの私の足元にはそれがまるで砂時計のように溜まりつづける…。
この涙は止まってくれるのかな…?
でも、私を見据えている彼女はもう、それを受けとめているようで。
弱い私のように泣いてなんかいなかった。
「梨華ちゃんのその涙は綺麗だよ。人の気持ちがわかっての上での涙だもんね…。」
「な、なら何で彼女は泣く事ができないの…?!私の…涙は…何…?」
「なら、何故泣いているの?」
「わからない…。泣きたくなんかないのに!!泣いてしまったら…泣けない彼女がよけい惨めになるだけってわかっているのに…!!」
- 122 名前:Liar 投稿日:2006/02/18(土) 08:49
- ただ叫びつづけながら泣きつづける。
そんな私を彼女はゆっくりと抱きしめてきた。
「さっきさ、私が泣いてとき抱きしめてくれたじゃん?そのお返し…。大丈夫だよ…。梨華ちゃんは心が綺麗なだけだから…。」
「ぅう…ぅうう…。」
大きな彼女の肩に顔をうずめながら泣くしかなかった。
胸が苦しく定期が上手くすえなかった…。
「ごっちんはさ…人と会話できないんだよね、今は。」
「……。」
「彼女が高校1年生の頃の夏ぐらいからずっとね…。」
「病気…?」
「う…ん。そうなんだけどさ、ちょっとニュアンスがちがうのかもしれない。本当に話せない時期もあった。
でも、きっと今は話そうとしないだけなんだ。まぁ、それを病気っていうのかもしれないけど…。」
「話せるのにって事…?」
「ううん。それはよく分からない。本当に話せない時期は一生懸命口を動かしてたんだけどさ、声が出なくて…。
だけど、今は口すらも動かさなくなってきている。」
「そうなんだ…。」
私を抱きしめていた彼女の腕がほどかれる。
彼女の優しさから来る温もりが暖かかった。
私の身体に残る彼女の体温に寂しさを感じる。
「じゃあ…今日は帰るね…。」
「え…。」
「美貴が話せる事は話したよ。運命の人なんでしょ?あとは自分で確かめな…。」
「…うん。」
「大丈夫。梨華ちゃんは大丈夫だよ。」
「わかった…。」
「じぁあ、また明日学校で…。」
- 123 名前:第12話 投稿日:2006/02/18(土) 08:50
- そう言って彼女は帰っていった。
1人のこされた私はなんだか嫌に寒々しかった。
涙が乾いた跡が顔に残る。
あっという間の出来事で現実味がわかない。
私の脳裏によぎるのは今日であった人物の悲痛の目だけ…。
これが私の知りたかったこと…?
本当にそうだったの…?
私はこれからどうするんだろう。
どうすればいいんだろう…。
どうしても知りたかった彼女を見てしまった私は次に何をすればいいかなんか考えてもいなかった。
あの整った顔の裏には何が隠されているのだろう。
あの部屋はまるであなたのようだった。
何もない…何もなかった。
本当に、あなたの運命という物語の中に私は登場するの…?
まるで無関心なあなた…。
ただ、一目見ただけなのに…はなれたくないと思った。
大人の仮面をかぶった子供がそこにいたんだよね…。
私は何を思う…?何を運命といって近づけばいいの?
答えなんて…わからない…。
- 124 名前:第12話 投稿日:2006/02/18(土) 09:09
-
- 125 名前:第13話 投稿日:2006/02/18(土) 09:31
- あくる日、普段どおりに学校にいく。
教室に足を踏み入れると、
「おはよう梨華。」
「おはよ〜!」
とむらむらに友達が私に挨拶をしてくる。
それが私にはとても滑稽で…。
おもわず悲しみの果ての彼女と比べてしまう。
こんなにも人間らしい人間がいる。
…いや、もしかしたらこっちの方が人形なのかもしれない。
ありきたりの毎日を普通に過ごす彼女達は自分で作り出した人形そのものなんじゃないのか…。
ならば、私も同じ人形だったんだ。
なんだか…悲しい現実の世界だったんだ、こっちは…。
なのに、私はこんな状態で出会ってしまった。
彼女が人形のようだって思ってしまった…。
なんて事をしたんだろう…。
ふとわれに戻ると美貴ちゃんが私のほうを見ていた。
― あぁ、彼女は例外だ。ちゃんと自分の思いを突き通しているから…。
後藤真希という人物の見た目だけじゃなくなかみを知ろうとしていたから…。
「おはよ。」
いつもと変わらない口調の彼女に少し戸惑ってしまう。
昨日の事がまるでなかったように…。
「お、おはよう…。」
「座れば?」
「うん…。」
そういわれたので私は自分の席にやっとの思いで座った。
- 126 名前:第13話 投稿日:2006/02/18(土) 09:39
- 回りを見渡すと人間らしくない人間がみな笑顔で笑っていた。
同じ顔の笑顔。
身から出た錆のような…汚い笑顔で。
人間とはとても息苦しい生き物だったんだ。
受ける必要のない授業が淡々とすぎていく。
そして昼休みになった。
美貴ちゃんはご飯を一緒に食べよう、と誘ってくれたけどそんな気にはなれず一人、誰もいない屋上にいく。
そこはまるで私のようなくらい空に一番近い場所で…
逆に私の気持ちが滅入ってしまう所でもあった。
ゆっくりとそこに横になり、思わず目を瞑る。
一体私はどうすれば…?
答えが欲しい…。
惨めになってくる。ぎゅっとこぶしに力が入った。
- 127 名前:第13話 投稿日:2006/02/18(土) 09:47
- 一目見ただけのあの顔がこんなにも私を締め付けるなんて思いもしなかった。
あの子はずっと一人だったんだ…。
私を見てどう思ったんだろう…。
次から次へと疑問が湧いてくるのに何一つ答えが分からなかった。
同じ道をたどるはずなのに…遠ざかってしまったのかもしれない。
私は…どのくらいそこで横になっていたんだろう…。
ゆっくりとすぎる時間。
賑やかな声が響き渡る。
もう、5月になった。新入生が入学してから約1ヶ月がすぎている。
若葉の匂いが風と共にやってくる…。
屋上で1人、この匂いを感じていた。私の気持ちとは裏腹に…。
- 128 名前:第13話 投稿日:2006/02/18(土) 10:10
- 「おなか、減らないの?」
懐かしい声が上から聞こえた。
ゆっくりと目を開けるとそこには矢口先生が立っていた。
「梨華ちゃんは細いから平気か…。でも、こんな美人が屋上でねっころがってるなんて以外だよ。」
「……。」
「いやさ、梨華ちゃんのイメージはお尻が汚れないようにわざわざハンカチひいて座ってるイメージだからさ。お嬢様って感じのね。」
「……。」
いつからそこにいたんだろう。
全く気がつかなかった。そんな様子を察してか
「あぁ、さっき来たばっか。なんとなくここにいる気がして。教室も見てきたんだけどさ。」
「……。」
「でも、ここいいよね…。」
正直誰とも話したくなかった。
私は失礼かと思い、ゆっくりと上半身を起こして座りなおした。
その横に矢口先生も座ってきた。2人してこの町を見渡す。
「案外、せまいよね。この町。」
「…そうですね。」
「実際、そこにいるとわからないのに上から見下ろすとちっぽけなんだよね…。
そういうもの、結構あると思わない?」
「……。」
「でも、梨華ちゃんはちょっと上から見ることを忘れているのかもね。その場にいてその存在の大きさにびびってるんじゃない?」
「何のこと…ですか?」
「イメージと違った?」
「え?」
「いや、ほらさ。後藤真希が。」
「…わかってたんですね。」
「そりゃわかるでしょ。ここまでわかりやすい人もいないよ?」
「……。」
「あぁ、ごめんごめん。すごい美人だよね。あの子。カッコいいし。羨ましいよねぇ…。
って、梨華ちゃんも十分美人さんだったじゃん!あたし1人の思いよがりか…。」
- 129 名前:第13話 投稿日:2006/02/18(土) 10:24
- 「私、どうしたらいいかわからなくなってしまって…。」
「へぇ?運命じゃなかったの?」
「かも知れません…。」
いつになく弱気な私。
美貴ちゃんを裏切ってしまうかもしれない。逃げているんだよね…。
「そんな簡単に諦めてしまうんだね…。」
「とても…悲しい目をしていたんです。彼女。その目が…あまりに残酷で…。次にどうすればいいかなんてわからなくなってしまって…。」
「やっぱ運命なんだと思うけどな。矢口は。だって興味を持ってるんでしょ?
その目に。それだけでいいんだよ。だって一目見ただけの相手にそこまで引き込まれるのって普通じゃ考えらんないよ。」
「……。」
「諦めるなんて、ゆるさない。その目がどうしたの?もし、関わったら自分も不幸になるからやめるって思ったの?」
「ちがいます!」
「どうしてって思ったんでしょ?なぜ、そんな目をしてるのって思ったんでしょ?」
「はい…。」
「それで十分じゃん!何で後先を考えるの?彼女はきっと、辛いはずだよ?梨華ちゃん以上に。
なら、それをどうしてあげるかなんてわかりきってることじゃん!」
「……。」
「助けてあげなよ。もし、今そんな気持ちが持てなくてもとにかく傍にいてやりなよ。
相手を知ってやりなよ。何で見た目で決め付けるの?そんなことも出来ないの?」
「……。」
- 130 名前:第13話 投稿日:2006/02/18(土) 10:28
- いつの間にか熱くなって私に話していた矢口先生。
私のことをよく分かってくれている…。
「矢口先生は…私がピンチの時に来てくれるヒーローみたいですね…。」
「…そんな良いもんじゃないけどね。」
「いえ…。ありがとうございました。」
「ごめんね、なんかおせっかい働いちゃって…。」
「……。」
「もう、予鈴なるよ。もどりな。」
「あ、はい。私…。頑張りますから・…。」
そう言って私は屋上をあとにした。
- 131 名前:第13話 投稿日:2006/02/18(土) 10:30
- ― 屋上に残った矢口は1人呟く…。
「梨華ちゃんに…何とかして後藤を助けてもらわないと…。
あの子、いついなくなるかわかんないからさ…。頼むよ、梨華ちゃん。」
- 132 名前:第13話 投稿日:2006/02/18(土) 10:30
-
- 133 名前:Liar 投稿日:2006/02/18(土) 10:34
- 13話終わりました。
なんか、文章力が足りなくていまいち伝える事が出来ない自分に腹立たしさが…。
少しづつですが石川さんは後藤さんに、後藤さんは石川さんに近づいていっています。
レスを励みにがんばっています!
楽しみに待っていてくれる人がいればいいのですが…。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/18(土) 22:29
- >>110
>>104です。忙しい中での更新お疲れさまです。
少しずつ話が動いてきましたね。梨華ちゃんには是非とも頑張ってほしいものです。
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/21(火) 18:11
- 今日発見して一気に読ませていただきました
瞬く間に話の中に引き込まれ先が先がと続きがとても気になります
受験大変でしょうが頑張ってください
次の更新も楽しみにしてます
- 136 名前:第14話 投稿日:2006/02/25(土) 22:33
- そのまま午後の授業が始まる。
チラッと私のほうを見ている美貴ちゃん。心配そうに見つめている。
大丈夫だよ…。
私、逃げないからね。
そしていつの間にか終わる授業。
最近、あまり授業を聞いていない。でも、今の私にはどうでもよかったことで。
美貴ちゃんを捕まえて自分が感じたままに伝える。
「今日もう一度、後藤さんの家に行きたい…。」
「…きっと、また梨華ちゃんが苦しむだけだよ?」
「それでもいい。逃げないって、決めたから。」
「わかった。なら先に玄関にいってるから…。」
そう言って教室を出て行った。
それと入れ違いのように紺野さんが私の前に現れた。
「石川先輩…。」
「どうしたの…?」
「あ、あの…。」
「ごめん。あんまり時間が無いんだ。だからまた今度ね。」
「えっと…あ、愛ちゃんから聞いてこれもってきたんです!」
そう言って彼女はポケットから1枚の写真をとりだした。
それは、後藤真希が1人屋上で座ってどこか遠くを見ている写真だった。
「こ、これ…。」
「石川先輩が後藤先輩の事を知りたがってるって聞いて持ってきたんです。
これ、すごく貴重な写真で…。こんなにも綺麗に写っているのはこの写真ぐらいで…。」
確かにそうだ。
まるでプロが取ったような絵になっている写真。私の知っている彼女と同じ人物ではあるが今とは似ても似つかないようだった。
このころのほうがまだ肌の血色がよく、そこまで白くはない。
制服も着ている。
ただ、違う点が2つ…。
1つは首からあのネックレスはかけられていない。
もう1つは…彼女の目だった。
確かに何か寂しげではあったが今のように思わず泣きたくなるような目はしていなかった。
- 137 名前:第14話 投稿日:2006/02/25(土) 22:43
- 「ありがとう…。」
「あ、いえ。綺麗ですよね…後藤先輩。それじゃ、失礼しました…。」
彼女は出ていった。私は1人、写真を見つめる。
本当に綺麗で…思わず胸が熱くなる。
こんな人がいたらモテルのは当たり前だろう。
これで私より1つ下なんて…。
なくさないようにしっかりとポケットにしまう。
玄関には先に靴をはいた美貴ちゃんがまっていた。
「いこっか。」
「うん…。」
何も会話を交わさないままマンションにたどりつく。
― 絶対に…逃げないよ…。
そう心に誓い、エレベーターで7階まで。たどりつくと彼女は鍵をまわす。
再び訪れたこの部屋…。
そこは前と同じ、別世界だったんだ…。
- 138 名前:第14話 投稿日:2006/02/25(土) 22:52
- 2人はリビングまで行く。
昨日と同様、彼女はソファーに座っていた。
そしてミネラルウォーターをコップについで口に注いでいた。
「ごっちん…。」
「……。」
以前話さない。
この部屋はやはり、カーテンが閉められたままでとても寂しげで…。
今度こそ話しかけると心に誓っていた私は緊張しながらも話すことにする。
「あ、あの…はじめまして。私は美貴ちゃんの友達の石川梨華っていいます…。」
いつもより1オクターブ高くなって震えている声で、そう一言口から漏らす。
私がいるという事に気づいた彼女は昨日と同じように私のほうへ振り返った。
昨日と全く同じ顔…。
今日もらった写真とは明らかに別人だった。
- 139 名前:第14話 投稿日:2006/02/25(土) 23:09
- 「あのさ、ごっちんと友達になれると思って美貴がつれてきたんだ。」
「……。」
慌てて美貴ちゃんが付け出す。
するとゆっくり立ち上がった…。
黒の少し破れたパンツに白のロゴTシャツには『Iam full of revenge.(私は復讐の鬼だ)』とかかれていて、
その上から黒のジップパーカーを彼女は羽織っていた。
彼女のカッコよさがより引き立つ。
ただ、コップを持っている手が白魚のようだった…。
その時目つきが少し変わった、そんな気がした。
「あぶない!!!」
美貴ちゃんが急に叫び私の手を勢いよく引く。
次の瞬間、
『ガシャン…!!』
私の立っていたすぐ後ろの壁に彼女が持っていたコップが粉々になっていた。
何が起こったのか理解できない…。
ただ、私の少し前に立っている後藤真希が私に向かってコップを投げた。
割れたコップの破片が跳ね返り、私の右の頬をかすめ、うっすらと血がにじんできた。
そんな事実が突きつけられた。
今起こったことがまるで写真のようで…。ただ、頬をいためる傷だけが本物だった…。
彼女は…叱りに満ちていた。
一言も言葉を発しないままに。
「だ、大丈夫?!」
美貴ちゃんが私に駆け寄る。
「う、うん…。」
なぜ、こんな事が起こったのか…。血が床に滴り落ちる。
- 140 名前:第14話 投稿日:2006/02/25(土) 23:29
- この傷を作った本人は、すぐにいつもの顔に戻りソファーに腰をかける。
― どういうこと??
「ごっちん!!…ごめん。今日は帰るね…。梨華ちゃん、行こ。早く!」
そういった彼女は私の手をひいて部屋をあとにした。
ただ1つ気がかりな事が…。
ソファーに再び座る時の彼女の顔は…今までに無い悲しみをおおっていたという事だけ…。
「美貴のせいだ…ごめんね、傷がついちゃったね。」
部屋から出ると美貴ちゃんがひたすら私に謝りつづけていた。
にぶい痛みが頬から伝わってくる。ずいぶんと深くきれたんだ…。
手で拭った血が生々しかった。この人間の体温は彼女には無いんだ…。
静脈血の黒々しい赤が嫌に冷たい。
きっと、この傷は残る…。
「大丈夫だよ。美貴ちゃんのせいじゃ…ないから。」
「で、でも…。」
「私は…わからないけど、この傷がいやじゃないの。なんだか繋がりが出来た気がしてね…。」
「……。」
「私の中じゃ、どこか彼女が夢の中の人物だった。
だからこれで彼女の存在がしっかりとしたし、私自身、傷を負った事で彼女を…感じれるんだ…。」
本当にそうおもっている。
私って変なのかな。でも、この傷は嫌じゃない。
どんな傷をつけられてもいい、ちゃんと彼女の存在が私の中で欲しかった。
多分、この傷は一生のこるだろう。それでもよかった。
私の中で彼女がいたって言いたかったから…。
「梨華ちゃんは…変わってるよ。」
「うん…そうだね。」
「今更ひきかえせなくなってるんだよ?」
「それでいい。」
「そうだね…。」
「あのさ、私に…後藤さんの家の鍵を…かしてくれないかな?」
「え?」
「止めれないの。私でも、この思いは。逃げないって決めたし…。」
「……。」
- 141 名前:第14話 投稿日:2006/02/25(土) 23:39
- 「もっともっと知りたい。もっともっと彼女を見てみたいの!!」
「……。」
「きっとさ、こんな風に傷つく事もあるかもしれない。でも、本当に…お願い。」
「…こんなもんじゃすまないかもしれないよ。」
「それでもいい!」
「…いいよ。これ、あげる。」
そう言って彼女は鍵を私に手渡した。
「え?でも美貴ちゃん?くれるの…?」
「うん。私はまだ持ってるから。」
「そう、だよね。」
「ただ、ごっちんの前には自分を作らないで。“イイヒト”でいないで。」
「……。」
「本心で、ぶつかってみてよ。」
「うん…。」
「ごっちんは…色々ある人だから。まぁ、そのうちわかると思うけど。」
「…?」
「いいよね。それじゃ…。」
「ごめん。何回も。」
「ううん。美貴も梨華ちゃんの思いを聞けたからいいよ。」
「うん…。」
「じゃあね。」
- 142 名前:第14話 投稿日:2006/02/25(土) 23:56
- そう言ってエレベーターで帰っていった。
私は今日の帰りにもらった写真をポケットから取り出す。
それを見つめながら自分の家に入るりゆっくりとソファーに沈む。
『カタッ…』
自分の机の上においてあった写真たてにその写真を入れて静かにソファーの前の丸机においた。
私のこの場所に彼女がいる。
それだけで胸が少し熱くなる。
頬の傷も嬉しいのが事実。
そんな思いを胸に秘めながらただ写真を見つめる。
彼女が投げた、彼女が触った、彼女が口をつけたコップの破片が私の肉体を切り刻んだ。
あのガラスの破片に彼女を感じ、この傷があって欲しいものへと変化する。
わからない…私は何を考えているのか。
何の意味も無いガラスのコップが彼女が使ったという事実だけで意味を与えている。
― でも、これは私一人の考えてる思いで…。
心にひっかかる事が1つ。
あの時の彼女の今までに無い悲しみの目。
自分がやった事と思いが違っていたような…誰も信じていないようなあの目。
強いと思っていた彼女に弱さを感じる。
一人で泣いている、そんな気がしてならない。傍にいたいと思った。わけを知りたいと思った。
私はなんだか落ち着かないので温かい紅茶を口に運ぶ事にする。
体に染み渡る暖かさ。
「おいしぃ…。」
自然と漏れる声。
なんだかこうやって落ち着くのも久しぶりだ。
前には、よくこうやって紅茶を飲んでいたのにな…。
傷が再び疼くしばらくの間、どんどんと冷めていく紅茶を見つめていた…。
- 143 名前:Liar 投稿日:2006/02/25(土) 23:59
- ≫134様
ありがとうございます。
続けて読んでいただいて光栄です!
読んでいて、もっと読みたいと思わせれるような
作品にしていきたいと思っております。
頑張りますのでこれからもよろしくおねがいします。
- 144 名前:Liar 投稿日:2006/02/26(日) 00:02
- ≫135様
発見していただいた上に読んでいただいてありがとうございます。
すこしずつ、絡んできました。(後藤さんと石川さんが)
頑張りますので引き続き読んでいただけたらとおもっております。
あと、受験、頑張ります!
- 145 名前:Liar 投稿日:2006/02/26(日) 00:05
- 14話終了です。
本当に更新が遅くてすみません…。
受験、受験といいわけがましくて…。
楽しみに待っていただいている方々に申し訳なく思っております。
3月7日が入試なので、それが終われば…。
頑張っていきたいと思いますので宜しくお願いします。
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/26(日) 19:44
- 更新お疲れ様です。初めて書き込ませて頂きます。
梨華ちゃんとごっちんの向かい合った時の
このなんとも言えない息苦しさ。
ちょっとした変化が気になって、引きずり込まれる
ようにいつの間にかこの世界に浸っています。
じっくりと読ませて頂いていますので
頑張って下さいね。
あと受験も頑張って!結構ダウナー系の作品だと思うので
ご自身が精神的に滅入らないよう気を付けて。w
次回の更新も楽しみに待っています♪
- 147 名前:第15話 投稿日:2006/03/07(火) 19:24
- まるで冒険もののゲームで強力な武器を手に入れたようにこの鍵は私を勇気付けてくれる。
この武器が私の思いを更に強めることになった。
次の日からほぼ毎日、後藤真希の家に行く事になる。
どんなに邪険に扱われてもそれ以上に強い思いが私にはあったから…。
- 148 名前:第15話 投稿日:2006/03/07(火) 20:27
- もう6月になった。
4月の春気分も冷め、少しずつ暑い日が続くようになる。
ただこの時期は日本全体が露の時期に突入するため毎日がじとじとした日を送らなければならなかった。
どんな社会人でも会社に行く時は鞄の中に折りたたみ式の傘を入れている状態だった。
雨が降れば人々は急ぎ足になり、この早く感じる時間がさらに早く感じさせることになる。
そんな雨のある日。
私は一人で彼女の部屋を訪れる事になる。
学校帰り、一人で傘を差しながら急ぎ足手向かう。髪がぬれるのも気にせず、ただ一心に。
3度目の彼女の部屋にはソファーにいる人物がいつものように私に背を向けて座っていた。
ゆっくりと近づくが気づく気配が無い。
『ピキッ…』
足元で何かを踏んだ。
それは昨日のガラスコップが割れたものだった。
あの時の様子がフラッシュバックの様のように思い出す。
― 音とともに彼女の目が暗くなる。そしてこの傷跡…。
彼女の顔がみたい。
一歩ずつ近づいていく。今まで以上に近くなる。
それでも一歩づつゆっくりと…。
いよいよ手が届くところまでの距離になった。
彼女は……寝ていた。
口からもれると息…。なぜかドキドキしてしまう。
でも、それはけして気持ちよさそうに寝ているわけではなく、ただ目を瞑っているだけに見えた。
- 149 名前:第15話 投稿日:2006/03/07(火) 20:56
- 顎から首までのラインが綺麗すぎて…。さわってみたいと思ってしまう。
彼女が中央に腰をかけている大きな黒いソファーにいっしょに座る勇気がなく、ただ近くに立っているしか出来ない。
知りたいと思えば思うほど遠くなっていくような…。
ただ、ただ見つめる事しか出来ない。
寝てはいるんだろうな。だって、こんなにもしっかりと目を瞑っているんだもの。
だけど何か無理やり瞑らされているような不自然な眠り。
暗いこの部屋でもわかる彼女の顔の青さに心配する。
ずっとこのまま時間が続けば良い。この心地よい時を…。
だけどそんなわけにもいかず。
しばらくするとゆっくりと彼女は目を開いた。
「!!」
あまりのことに驚いてしまう。
また、怒るのではないかと。彼女に私の存在を否定されたくは無い…。
「!……」
彼女は私の思っていた通り驚き、怒りに満ちた目をした。
しかし、私の頬に目をやるとしばらく見つめていた。
「あ…これは…」
私は思わず頬の傷に手をやる。
傷をつけてしまったのが自分だとわかったのか、彼女はそれ以上何もしてこなかった。
私の目を見つめるわけでもなく顔をうつむかせて…。
「ご、後藤さん…。今日は私1人できたんです」
「…」
「いきなりですみません…」
「…」
「あなたと話がしたくて。め、迷惑ですか?」
「…」
「なんで、喋って…くれないんですか…」
「…」
どんなに私が話し掛けても無駄だった。まるで私がいないかのように振舞われる。
その行為が私にさらに話し掛けたいという思いを強くさせる。
しかし、一言も交わすことの無い会話。
ザアァァァァ…
外の雨の音が大きく聞こえる。私の心も土砂降りになっていた。
- 150 名前:第15話 投稿日:2006/03/07(火) 21:00
- しばらくたたずんでいても一向に変化がない事がわかったので、今日はそこで帰ることにした。
「後藤さん…また来ます。あと、片付けとか無いと危ないですよ…?」
それはガラスの破片の事。
彼女の足は裸足だったのでそう思った。
でも動く様子が無いのでそのまま、ほおっておくことにした。
寂しい思いを心に残しながら。
- 151 名前:第15話 投稿日:2006/03/07(火) 21:20
- 部屋に一人のこされた後藤。
彼女が去った後も、ただ何処かをみてボーっとしている。
彼女はゆっくりと立ち上がり、窓の所までいく。
カーテンを開けるとそこは薄暗い、自分の住んでいる町が見えた。
「……」
いまだに雨が降り続く。
後藤はそれを確認したのか、ガラスの破片のところまで歩いて行く。
そしてしゃがんだ。
そこは、自分が投げたガラスの破片と、それで切れてしまった彼女のほおの傷から出た乾いた血が2,3滴、残されていた。
「…」
それをゆっくりと見つめる後藤。
そしてゆっくりと手を伸ばして触れる…。
すでに黒ずんだ血。
口がきつく閉じられる。
後藤は立ち上がりソファーに腰掛ける。
そして再び眠りにつく。
外の雨はすでに上がっていたが、雲がさらに覆い被さる事になっていた。
- 152 名前:第16話 投稿日:2006/03/07(火) 21:56
- 私は次の日も彼女の家に訪れていた。
彼女はソファーに座ってMDコンポから流れてくる音楽を聴いている。
曲は私の知らない女性のボーカリストがまるで叫ぶように歌っていた。
こんな曲を聴くんだね…。
すこし、また彼女の事がわかったようで嬉しかった。
「後藤さん…。こんにちは」
「…」
「あ、あの、いい曲ですね」
「…」
「こんな曲が好きなんですか?」
「…」
なんだか独り言のようになっていた。
少しため息をついてあたりを見渡すと、いまだに割れたコップの後始末がされていなかった。
「後藤さん…ここ、掃除しますね?」
そういい、おちているガラスの破片を1ずつゴミ箱に入れていく。
『カチャ…カチャ…』
少しでも長くそこにいたかった。だから、ゆっくりと体を動かす。
掃除も終わったので再び話すことにする。
「あ、あの私、あんまり外国の曲は聞かないんですけど1つだけすごく好きなグループがいて…かっこいいんです。今度持ってきますね」
相手を伺うように話す私。
彼女にとくに変化は見られない。それでもいい。
根気強く話し掛ければきっとわかってくれる。そんな根拠も無い思いを信じていた。
「最近…雨ばかりですよね」
「…」
「外に行ったりするんですか?」
「…」
「私はあんまり外の世界が好きではないんです。時々、目を背けたくなるような。
学校に行っている意味もわからなくなってきて…3年なのにですよね。私…」
これは後藤さんに向かって語っているはずなのにいつも間にか自分自身に語っている事に気がつく。
私は…何のために生まれてきて、何のために生きていくのだろう…。
- 153 名前:第16話 投稿日:2006/03/07(火) 22:22
- 当たり前な事に何1つと答える事ができなかった。
言葉が詰まってしまう。
やばい…泣きそう。
私は…本当に必要な人物だった?私がいなくてもとくに変化は無かったのでは?
でも、そんな暗闇の中に後藤真希という新たな光が見えてきた。
こんなにも頑張っている自分。
必死に努力している自分。
何でなのかはわからない。
前に矢口先生がいっていたように天が決めたように進んでいる道のようで。
きっとこのために生まれてきたような…。
もし、この存在がなくなってしまったら私はいったい…。
いつの間にか涙が一滴、滴り降りていた。
おどろいたのは私だけではなく。
目の前には彼女もまた私の涙に視線を落としていた。
無表情で私の顔を見つめる。何を考えているのかなんてわからない。
「ご、ごめんなさい…」
思わず謝ってしまう。もう、自分が分からなくなっていて…。
見失ってしまいそうで、どこか不安だった。
それでも後藤という人の近くに居たくて。だから、私を見つけられそうで…。
なんだか、気持ちが悪かった。
また、泣けない彼女の前で泣いてしまった。
私はいたたりもなくなってしまって、部屋を飛び出した。
自分の部屋に入り一生懸命涙を拭う。
考えれば考えるほど深みにはまっている気がしてしまって。
みたくも無いTVをつける。
下手な歌手の歌番組、馬鹿な政治家の政治討論、みた事も無いアニメ…。
何1つ私の気持ちをはらしてくれるものは見つからなかった。
私は机にうつむせになって浅い眠りに入った。
- 154 名前:第16話 投稿日:2006/03/07(火) 22:24
-
- 155 名前:第16話 投稿日:2006/03/07(火) 22:32
- また夢をみる。前の夢の続きの夢。
私は扉にはいったがそこがあまりに暗くて歩くことすらままならずにいた。
その奥にはさらに暗い部分があってそこは何か見えないように煙がかっていた。
まるでガラスのような繊細な塊がそこにはある、そんな気がする。
その大きさに私は墓前とたたずんでしまう。
同じ場所にいたくないのに、歩くことすら上手くいかずにいる。一体…ここは?
- 156 名前:第16話 投稿日:2006/03/07(火) 22:33
-
- 157 名前:Liar 投稿日:2006/03/07(火) 22:39
- ≫146様
初めてのレスですか!ありがとうございます。しかもわざわざ長い文章まで書き込んでくださって…。
あんまり文章表現が上手くなくて、その2人の切羽詰った感じをだそうにもなかなか…。
でも、『引きずり込まれる』といってもらえて光栄です!
これからも頑張りますね。
- 158 名前:Liar 投稿日:2006/03/07(火) 22:46
- 第15話と16話が終わりました。
石川さんは結構積極的ですね。後藤さんと会う回数も多くなってきていて…。
まだ、後藤さんはしばらく話せない様子です。(まぁ、いつかは…。)
っというか、受験終わりましたぁ〜!!
よかった!本当に。頑張りました。あとは結果を待つのみです。
皆さんのおかげです。本当に応援ありがとうございました。
これからも小説の方も頑張っていきたいです。宜しくお願いします。
- 159 名前:あお 投稿日:2006/03/08(水) 11:42
- >>143
>>134の者です。
作者様、受験お疲れ様です。執筆活動との両立、大変だったでしょう。本当にお疲れさまです。
今後も期待しています。
- 160 名前:第17話 投稿日:2006/03/08(水) 12:56
- 週末の金曜日も後藤の家に行く。
手には私の好きなアーティストのMD。
受け取ってくれなくてもいいから、渡すだけ渡したい。
部屋にいくと彼女はまたミネラルウォーターを飲んでいた。
背筋がゾクッとする。
顔の傷が疼く。
また、私に向かって投げられるのではないのか…。
「後藤さん…」
「…」
「MD持ってきたんですけど…」
彼女はコップを口につけて机の上におき、そっぽを向く。
「これ、おいと来ますから気が向いたら…聞いてください」
「…」
もし、私が彼女の立場ならこんなに毎日来られるのは嫌なのかもしれない。
でも、傍にいたい…。
「本当にすみません。今日は帰ります…」
気持ちとは裏腹に出てくる声になんだか腹立たしさが芽生える。
そのまま自分の家に行き制服を脱いで楽なジャージに着替えた。
「はぁ…駄目じゃん、私…」
自分の勇気の無さに落ち込んでしまう。
― ブルルル…ブルルル…
携帯のバイブが突然なった。
メール…?
送信主は美貴ちゃんだった。
『どう?いい感じ?』
画面にはそう一言、書き記されているだけでだった。
シンプルなのにどこか温かみがある。そんな美貴ちゃんがとても好きで…。
『全然…。進歩無しだよ…』
と送る。一生懸命なのに空回りな私。どうしたらいいんだろ…。
『大丈夫だよ。焦んなくてもさ。きっと…口は開くから』
『美貴ちゃんの前じゃ、喋ったりするの?』
『時々、少しだけね…』
そうなんだ…。
やっぱりいとこだから?それとも、信じている相手だから?
どんどん落ち込んでいく…。
- 161 名前:第17話 投稿日:2006/03/09(木) 18:17
- 『なんか、落ち込む…』
『明日さ、美貴も行くから』
あ、美貴ちゃんもくるんだ。そっちの方が良いかもしれないな。
この変化の無い毎日じゃ駄目だよね…。
『明日は土曜日だよね?何時ごろ来るの?』
『あ、っていうか買い物してから行くから。一緒にいこ。ごっちんの食事を買いに行かなくちゃいけなくてさ』
『え?』
『ごっちんは、あんまり外に出たがらないからさ。食べ物を買うときって人と話さなくちゃいけないじゃん?それがね…』
『あぁ、そっか』
『昼ごろ行くから。一緒にいこうね』
『わかった。それじゃあね』
『うん、明日』
そう、約束を交わす。美貴ちゃんと一緒ならもっと強気でいられるかもしれない。
明日こそ…。
- 162 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 22:48
- 土曜日の昼、いつもより少し起きたので早く準備する。
美貴ちゃんとは近くのスーパーで待ち合わせだったので急いで向かうことにした。
スーパーにつくと美貴ちゃんはまだ来ていなかった。
しばらくまっていると後ろから美貴ちゃんがやってきた。
「お待たせ!梨花ちゃん」
「あ、大丈夫だよ」
「さ、いこっか」
「うん」
女子高生が2人、スーパーで土曜日の昼から買い物。
それはとてもおかしな光景だっただろう。
私は美貴ちゃんの後をついていくように食品売り場に行く。
「後藤さんに何を買うの?」
「ン〜?あぁ、パンだよ」
「そうなの?」
「うん」
そう言ってパン売り場まで私をひっぱっていくとと彼女はとくに選ぶ事もなく、150円くらいのパンを15個ぐらいカートの中に入れた。
「多くない?これ、2日分?」
「ううん。一週間分」
「え…」
それにしては少なすぎる。
一日の食事がたった2つのパンだけ?
「ごっちんは少食だからこれだけで良いんだ。あんまり多くかうと食べないで捨てちゃうからさ」
「そしたらお弁当の方がいいんじゃない?体に悪いよ、これじゃ…」
「手を込んだものが嫌なんだって。パンが好きなんだと思うけど…」
「そっか…それじゃ痩せるのも無理ないね」
「うん…。えっと、後は水だ」
「水?」
あぁ、そう言えば彼女はいつもミネラルウォーターを飲んでいたな。
あの綺麗な喉をとおっていく液体が音を鳴らして流れていく…そんな光景が私の頭に鮮明に残っていた。
「2リットルのやつ、3本。梨華ちゃん持ってきて!」
「うん」
美貴ちゃんにこきを使われながらも水を持ってくる。
「これでお終い」
「……」
「いこっか」
「あ、うん」
水2リットルを3本はとても重い。
必死になって運びながらも後藤の家に行く。
7階につく頃にはすっかり息が上がっていた。
「梨華ちゃん、お疲れ様♪」
「って美貴ちゃん、私に全部もたせておきながら…」
「梨華ちゃんはテニスやってたじゃん!余裕でしょ?」
「もう、3年も前の話だよぉ…」
- 163 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:08
- 「まぁ良いじゃん。文句いわないの!」
「うぅ…ン…」
「梨華ちゃん、かわいいね!」
「なにさ、こういう時だけ…」
「あはは!」
美貴ちゃんと私は笑いながら702号室に入った。
それまで笑っていたはずなのに、いきなり緊張してしまう。
それは美貴ちゃんも同じだったようで。2人してピシってなっている。
美貴ちゃんが私の持っている荷物を持って、スッと歩いていった。
彼女も多少、顔を引きつりながらだけど。
美貴ちゃんの気配に気がついたのか、振り返る後藤さん。
明らかに私といる時よりも穏やかな顔をしている。
「ごっちん、買って来たよ。水とパン」
「……」
「水、もしかしてもう無かった?」
「…」
「そっか、なら丁度よかったね。パンは適当に買ってきたから」
やっぱり慣れているようで2人はどこか通じ合っていた。
後藤さんの1番の理解者は美貴ちゃんで。
それを超える事はできない。
私も彼女と話したかった。
だけど私といる時には見せない美麗な顔をしていたからしばらくみていたくて話し掛けれなくなってしまった。
「あと、お金はいいから。美貴が自分で買ってきたやつだし」
「…」
「他に欲しいものとかあったら言ってよ?」
「…」
「あとさ…梨華ちゃんのことなんだけど。梨華ちゃんこっち来て」
そういわれたので私はゆっくりと美貴ちゃんの隣に足を運ぶ。
- 164 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:21
- 「美貴のさ、いい友達。少しウザいけど。同い年で同じクラスだよ。だからごっちんの一つ上だね。…なんか、ちゃんと紹介できてなかったじゃん?この前」
「…」
「こっちはごっちん。美貴のいとこ。同じ高校だよ。まぁ、こんな紹介で良いよね」
「あ、ありがとう。美貴ちゃん」
「ん。いいけどね」
「ごっちん…そういえば、最近外でてる?」
「…」
「でなよ。気持ちいいよ。こんな部屋だけじゃなくてさ」
「…」
「気が向いたら…ね」
やっぱりどこか落ち着いているように見える。
美貴ちゃんには怒ったりしないのかな?
私が喋ったらこの雰囲気が壊れてしまいそうで言葉が口から出てこなかった。
「梨華ちゃん、せっかくきたんだからなんかしゃべりなよ」
私から喋らなくてはいけないのに、美貴ちゃんに助け舟を出してもらっている。
「あ、あの!この前は…すみませんでした」
「…」
「なんか急に来たのに、でしゃばった真似して…」
「…」
「私の渡したMD、聞いてくれましたか?」
「…」
「そうですよね…。つまらいですよね」
私はとにかく必死だった。
話そうと、話そうと、必死だったからどんな些細な事でも話そうとしてしまった。
だからよけいな事まで聞いてしまったんだ…。
- 165 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:31
- 「…そのネックレスのリング、綺麗ですね。何処で買ったんですか…?」
「!…」
「り、梨華ちゃん!」
「え…?」
後藤さんは、ネックレスに手をかけて握り締め、震えていた…。
そして、自分を守るように体を自分で抱きしめていた。
「ごっちん、大丈夫だよ!大丈夫だからね…美貴がいるよ」
そういって美貴ちゃんは彼女を抱きしめる。
それは私から見ても強すぎるほど強くて。
でも彼女はそれを抱きしめ返す事なんてしなかった。
その行為は彼女には…無力だった。
「ご、ごめんなさい…」
私は謝り、その場にいることができず急いで部屋をあとにした。
- 166 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:31
-
- 167 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:38
- ガチャン…バタン!
急いで閉められたドア。
後藤の体をただひたすら抱きしめている藤本はそのドアを見つめていた。
― 梨華ちゃんには…美貴の口からじゃ言えない。
痩せすぎて震えている体をただ強く抱きしめているしかなかった。
下手な励ましの言葉なんかかけられなかった。
『ずっと一緒にいるから』
そんなできすぎた言葉なんか簡単に口にできなかった。
もし、この言葉を言えば1分たりとも彼女の傍を離れる事ができなくなる。
私には…そんな勇気が無かった。
抱きしめている腕でさえほどかなくてはいけないような気がする。
彼女を簡単に抱きしめてはいけないのに…。
でも、震えている彼女はけして私を抱きしめ返そうとはせずにただ自分を抱きしめている。
1番わかっているのは彼女なのかもしれない…。
- 168 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:39
-
- 169 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:48
- ドアがしまる。
美貴ちゃんを残して出てきてしまった。
私があんなふうにさせたのに、なんて無責任な。
私が行くことで彼女は嫌がっている。それ以上に明らかに悪い方向へ進んでいる…。
運命なんて言って、むやみに近づいてしまった。
私の道は…果てしなく遠くて迷っているのかもしれない。
こんなにも私は弱かった。
近づくには早すぎた…?
でも私の思いは止められなくて溢れてきているの。
私の頬に傷を作ったように、私もまた彼女の中に何かを残したい…?
そうすれば、あなたの中に私の存在が残るのかな…?
この強すぎる思いが怖い。
私って変なのかな?重すぎるのかな?
でも、彼女とはただの友達だけの関係にはしたくないの…。
何を望んでいる?答えが無い…。
しいて言えば、彼女が欲しい…。
こんな強すぎる思いを誰か笑ってよ。
- 170 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:52
- その日は昼から何も口にしてはいなかったけど、おなかが減る事なんてなかった。
私が隣の部屋から出てきて1時間後ぐらいに美貴ちゃんも帰ったようだった。
もう、何もする気がおきず、ただひたすら自分のベットに顔を押し当てる。
何も考えないように。
日に日に私の中で後藤真希の占める割合が大きくなってきている。
どうする事もできない?
私はいつの間にか眠りについていた。
- 171 名前:第17話 投稿日:2006/03/10(金) 23:59
-
- 172 名前:第18話 投稿日:2006/03/11(土) 00:06
- 日曜日…その日は後藤真希の新たな一面を目撃する日になった。
- 173 名前:第18話 投稿日:2006/03/11(土) 00:30
- 私が起きたのは正午を通り越した頃の時間。
久しぶりにゆっくりと眠る事ができたがその反面、どこか体中がいたんでいた。
外は晴天で、鳥の鳴き声が嫌にうるさかった。
ベットから体を動かし、何とか立ち上がる。
頭がボーっとするのでシャワーを浴びる事にした。
洗面場に向かい、服を脱ぎとる。
寝ぼけて履いたが、体を鏡で映す。
そこには寝起きで髪がぼさぼさな女性が一人、こちらを除かしていた。
肌は、健康的な色をしていて、後藤真希のように肩は細くなかった。
私はそのままシャワー室に入り、熱い水を顔にかける。
ゆっくりと丁寧に…。
シャワーを浴び終えた私は遅めの昼食を取る。
トーストと目玉焼き。料理が苦手な私は自分に
『寝起きだから』
と嘘をつき、だまってそれを口にした。
今日は…どうしようか。
彼女の家に行こうか…。
昨日の事が頭によぎる。ネガティブな私はさらに追い討ちを欠けるように私に問い掛ける。
あなたが彼女を傷つけているのではないの?
何故近づくの?
そんなの…私にだってわからない。
私はあなたに何をしてしまったのかな。
あなたは私を必要ではないと思っているのかな。
なんに向かってあなたはそんなに辛さを覚えているのかな…?
今日は行くのは止めよう…。
いつの間にか、そう決断していた。
これは多分、逃げてるだけで。彼女に向き合えない自分が嫌で。
でも、どうする事もできなくて。
今日一日だけは別のことを考えたかった。
― 買い物でも行こうかな…。
久しぶりの買い物。実はおしゃれが好きな私。
きっとそれなら私の思考にも彼女は入ってこない、そう願いたい。
私は一刻も早くここからでたくて急いで身支度をする。
自分の中でもおしゃれだと思う服を着て、化粧をして、携帯を持って出かける。
そうすれば…。
エレベーターに乗り込む前は目を積むって通り過ぎた。
- 174 名前:第18話 投稿日:2006/03/11(土) 00:41
- 考えないように、考えないように…。
まるで唱えるように言いつづける。
若者が集う町はここから地下鉄で三駅ほどのところ。
別に1人の買い物だって女子高生なら変じゃない。
私は逃げるようにショッピングモールに足を踏み入れた。
そこは昼真っから人通りがよくて。
男女のラブラブカップル、いきがった中学生、どこかに行くおじいさん…。
いつも行っていたはずなのにまるで違う雰囲気のところだった。
いつもどうりの行きつけのショップに行き、アクセサリーを見て、有名ブランドの店に顔を出して一通り目を通す。
私は今更ながら財布を持ってきていないことに気がついた。
でも、買いたいものがとくに無かったので支障はなかった。
私がここに来た理由はつかぬ間の休息。
私の頭の中は彼女で埋まってしまっている。それを休ませる為に…今だけは。
でもそんなことなんてできなかった。
逆にこの人の多さにめいってしまう。
そして傍にいないほど気になっている自分がそこにいた。
たった数時間しかいないのに繰るときよりも、疲れてしまっていた。
いつの間にか歩くことすら忘れてしまっていた私の足。
なんだかむなしくなってきた。
帰ろうかな…。
その時、
- 175 名前:第18話 投稿日:2006/03/11(土) 00:52
- 「ねぇ、今暇?オレも暇なんだけどさ。キミ、何歳?」
いまどきの男が私に話しかけてきた。
最初は無視していたものの、しつこく聞いてくるので答える事にする。
「17歳ですけど…」
「マジで?オレ19歳。あのさ、今何してんの?」
「…あなたに関係あるんですか?」
「ごめんごめん。どうでもいいよね。あのさ、もし暇なら一緒にメシでもいかね?」
「…結構です」
「そんなこといわずにさ、ってかこんな可愛いこに出会えるなんて思ってもみなくてさ。ね、お願い…!」
「私、お金持ってないんですけど」
「全然問題ない!オレ、あるから。これって運命じゃね?」
「すみません、結構です…」
「なぁ、頼むよ。こんな運命、俺の中じゃ一生に一度なんだ。二度と無いチャンスを物にしたいんだけど…駄目?」
私は彼が口にする『運命』という言葉にゆれていた。
…もしかしてこれも運命だった?
こうなるって決められていた?
これも人との出会いなの?
彼の中に私という人物がでてきているの?
分からない…。
今は、後藤さんとの運命に疑問を感じてしまっている。
その答えが見つかればいいと思っていた。
運命ってものがあるのか、もしこの人といったらハッキリするの?
…聞くだけの価値はあるのかもしれない。
- 176 名前:146です 投稿日:2006/03/11(土) 15:41
- うわっ、いっぱい更新されてる!
作者様、受験お疲れ様でした!良い結果が得られる事を祈ってます。
引き続き楽しみに読ませて頂きまっす♪
って、梨華ちゃん!? 血迷っちゃダメだ〜!!(汗
- 177 名前:Liar 投稿日:2006/03/17(金) 14:07
- 受験のほう受かりました!!よかった・・・。
本当に皆さんのおかげです。ありがとうございました。
本当に申し訳ないのですが、引越しをすることになりまして、
しばらくパソコンがつなげません。
3月の終りごろには沢山更新したいと思います。
いろいろとすみませんでした。
- 178 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/18(土) 21:07
- 合格オメデトウございます。
次回の更新楽しみにしております。
- 179 名前:146 投稿日:2006/03/20(月) 21:27
- 合格おめでとうございます♪
…と、思ったら次は引っ越しですか!?大変ですね。w
環境が整うまで気長に楽しみに待っています。
- 180 名前:第18話 投稿日:2006/03/27(月) 16:44
- 「あ、あの…食事だけなら」
「マジで?やった!運命だよね、俺ら」
軽々しく簡単に口にする彼の言葉に少し困惑する。
こんな運命もあるの?
私は彼に連れられて、若い人がよく利用するファーストフード店に足を運んだ。
彼の顔はけしてカッコ悪くない。むしろカッコいい分類に入る。
学校にもよくいる不良っぽくてモテル人…そんな感じ。
髪も茶髪で服装はダボダボ系。自分でカッコいいと思ってるのかな…?
彼はとても手馴れた手つきで、その上紳士的に装っている。
時々、軽くボディータッチなんかもしてくる。
顔がいやにニヤけていて少し気持ちが悪い。
椅子までしっかりと自分で引いて、私に座りやすくしてくれる。
メニューだって私のを聞いて、わざわざ自分ですべて頼んでくれる。
ときどき、私のほうをじっと見つめてきたり、髪をかき上げたり、人目を気にしたり…。
「あのさ、ところで名前なんていうの?俺は佐々木」
「石川…です」
「石川さん?そ。んじゃさ、石川さんこれからどうする?」
「え?」
「食べた後」
「え、いや…」
「本当に可愛いね。マジで惚れるかも…」
私のことをべた褒めする彼。たやすく言葉を並べる。
私は…あなたの容姿に引かれたわけでもないのに…。
「まぁ、ゆっくりしてから話そ。こんな運命、そうそう逃げねぇ〜よ!」
私は今まで何度もナンパされてきたけど、今日みたくノコノコとついてきたことなんて一度もなかった。
でも、それは運命の言葉を知りたかったから。
しばらくすると、彼の頼んだアイスコーヒーと私の頼んだレモンティーがテーブルに運ばれてきた。
それからというもの私は彼の自慢話に付き合わされて、なかなかレモンティーに手をつけることができなかった。
自分が空手をやっていたこと、知り合いに芸能人がいること、喧嘩が強いこと、友達思いであること…。
でも、どの話にも私の知りたかった話なんか、ひとかけらも入っていなかった。
- 181 名前:第18話 投稿日:2006/03/27(月) 17:22
- 「…ところで、石川さんのことも少し聞かせてくれない?」
「私、ですか?」
「うん」
「私は…」
「いや、無理に話さなくてもいいよ。別に特に興味ないし。ってか、俺はマジで運命と思ってるからそんなのどうでもいいんだ」
「運命…」
「うん。あ、そんなの興味なかった?」
「いえ…」
「だろ?俺も案外好き。そういうの。ってか、俺の運命論聞きたくねぇ?ロマンチックだし」
「…はい」
「やっぱり?俺ね、石川さんとは本当に運命だと思ってんの。だってさ、俺が石川さんに話しかける確立なんて65億分の1だよ?
その場所がこの町で。見た瞬間すぐ思った。あぁ、この子だって」
「…いわゆる見た目ってことですよね?」
「案外鋭いね。でも、誰でも最初は見た目じゃん。そんな出会いでもよくない?俺は、見た目で好きになって何が悪いのって気はするけど」
「……」
「まぁ、そん次に性格も知るけどさ。でも、知るのってかったるくない?だから俺は見た目っていう運命にかけてるの」
…何いってるんだろう。
そんなのも運命って言うのかな。
少なくても私と後藤さんとの出会いは見た目なんかじゃなかった。
こんな答え、望んでなかった…。
「そうなんですか…」
「石川さんは俺の人生の中でも一番ダントツ。今まで付き合ってきた女なんてそん時は好きだったけどさ、やっぱもっと可愛い請って思うじゃん。
そしたら前に付き合っていた女がみんな芋みたく思えるんだよね。だから今石川さんに会って、何で今までこの人に出会わなかったのかなって正直思う。」
「…」
「今まで俺が突っ込んできた女が馬鹿みたいだよ。マジで好きなんだけど。可愛すぎ」
「…」
この人何?
私に告白してきた女の子たちはみんな、それなりのリスクをおって振られるのも覚悟で私にぶつかってくる。
そんな女の子たちを全員敵にまわした…この男。
過去の自分を貶してまで這い上がろうとは思わない。
こんな人間もいるの?
『俺が突っ込んできた女』…?
そのときの女性の気持ちをわかっているの?
きっと、生きてきた中で一番うれしい瞬間かもしれないのに…。
好きな人の腕に抱かれる幸せを…。
- 182 名前:第18話 投稿日:2006/03/27(月) 17:42
- 「出会っていきなりなんだけど、俺と付き合ってくれない?」
「…え?」
「もう、とまんないのさ。この思いっつうか」
「…もし、付き合ったら私をどうするんですか?」
「え?どうするって?SEXしてほしいの?俺は付き合った女とはその日にSEXするって決めてるからたぶんそのままラブホ直行だけど?え?いく?」
「…あなたはSEXをどう思っているんですか?」
「超気持ちいいこと。違うの?」
「愛し合うって気持ちはないんですか?!」
「そんなこと考えてやってるやつなんかいねぇよ。もしかして石川さんて処女?うわっうばいてぇんだけど!」
…もうこれ以上聞く意味すらもない。というか、聞きたくもない。
「…失礼します」
そういって私は席を立った。
「はぁ?おい、ちょっと待てよ!」
彼の強い力で私の腕をつかむ。
グイッと引っ張られて私は前に進むことができなくなっている。
「あんたさ、SEXに意味があると思ってるの?」
「思ってます!」
「ねぇよ。悪いけど。男はやりたくなったらやんだよ。ってか、何だよ。ここまで期待させといて」
「…」
「マジで犯してやろうか?」
「!…警察呼びますよ…」
「この俺が警察ごときでビビルと思ってんの?」
「…」
私はポケットから携帯を取り出して番号を押し始める。
男はさすがにやばいと思ったのか、
「ッチ。ってかマジでしらけた。うぜぇ」
といって、店を後にした。私は本気で警察を呼ぶ気なんてなかった。
彼があきらめると確信していたから。
運命を知るどころかそんな現実を知ってさらにめいってしまう。
もう、その町で服を買う気にはなれなかった。
- 183 名前:第18話 投稿日:2006/03/27(月) 18:08
- 時計はすでに午後7時を回っていた。
外はすっかり暗くなっている。
私は必死で帰ろうとしたが、なぜか足がうまく動いてくれず本当にゆっくりと時間をかけて帰っていた。
自分の町の駅で降り、自分の家までの道のりを歩いていく。
日曜日の7時といえば当然どんなところにも活気が続いている時間帯なのに、未だに人一人会うことがない。
まるで私を避けているかのように、逆にだれかに導かれているかのように、街灯の光が私の道を作ってくれている。
夜の学校のそばを通り抜けて私の家へ。
しばらく歩くといつもの近くの公園に差し掛かった。
普段なら特に気にかけることなく通り過ぎるのだがこの日だけは違った。
このモヤモヤした気持ちのまま家には帰りたくなかったので、公園によっていくことにした。
いや、寄らなくてはいけない何かがあったようにも思える…。
後援はけして広くはない。
ブランコと滑り台、砂場と鉄棒が一つずつ。そして大きな木が何本か。
その下には古びれたベンチが2つほど並べられていた。
そこにはこの月明かりの下で誰かが座っていた。
上下黒の服を着ていて、上着のポケットに両手を突っ込んでいる。
何かをしているわけでもなく、月明かりの下でひたすら自分を照らしているものを見ていた。
ひきつけられる何か。
いつの間にか、公園の中に足を踏み入れていた。一歩ずつ。
その人物は…後藤だった。
「後藤さん…」
独り言のようにつぶやく。居るはずのない彼女。
忘れもしないあの綺麗な横顔。そして悲しいあの目…。
彼女のものだからこそ覚えていて彼女だから胸が痛くなる。
私の今立っている場所はちょうど木の陰になっていて彼女からは見えない。
だから、ずっと見てもいいのかもしれないと思ってしまう。
「ニャ〜ン…」
その時、座っている彼女のベンチの後ろから泣き声がした。猫?
そこには目を光らした子猫が1匹いた。猫は何もかまわず後藤の足元に寄ってくる。
そして足に体を摺り寄せている。よほど寂しいのか、人間になれているのか。
彼女は子猫をずっと見つめていた。あの冷静な目で。そしてゆっくりと手で猫の頭をなで始める。
私はその光景に目を疑った。
あの後藤さんが…。
- 184 名前:第18話 投稿日:2006/03/27(月) 18:22
- あの冷酷の彼女が…。
子猫は首輪をしていない。きっと捨てられたのだろう。
そんな子猫に気を許す彼女。
私はそれをただみているしかなかった。
私にはない、猫の持っているものってなんだろう…。
私は人間で物事を頭で考える。でも、動物は自分の本能で行動する。それが1番の…理由なんだ。
猫にすら嫉妬してしまっている自分が怖い。
6月だというのに後ろから冷たい風が吹いた。私のむき出しになっている肩が身震いをした。
ここにいる彼女は私のまだ知らない彼女で新しい面を知れた。その反面、戸惑っているのも事実。
気がついたころにはその公園を遠ざかっていた。
家に帰った私は椅子に座り思ったままの気持ちを一言、藤本宛にメールを送る。
『本能のままに動くことなんて人間にはできないんじゃないかな…』
そしてそのまま、眠りについた。
- 185 名前:第18話 投稿日:2006/03/27(月) 18:25
- そのころ藤本はメールを見ていた。
すぐにでも『大丈夫だから』と送るつもりだったのだが、携帯の前で指が止まってしまった。
たしかにそうだ。
人間は考える力があるのだから自分の考えたとおりに行動するのは無理なのかもしれない。
人間はそんなに強くない。それを私はごっちんをみて間の渡りにしてきた。
結局なにも返事を返すことができなかった。
- 186 名前:第18話 投稿日:2006/03/27(月) 18:27
-
- 187 名前:モノローグ 投稿日:2006/03/27(月) 18:41
- 『本能のままに』
あなたはまるで狼のようだった。
見た目は犬である私の憧れで。だけど、心はとても冷酷だった。
だから、誰かに聞こえるように叫ぶのではなく聞こえない声で自分自身にほえていた。
月に向かってほえていたのは月が自分から光りだす星ではなかったから。
私のように強制された動物ではなく自分の道をただひたすら歩いていた。
― だけど、この国の狼は絶滅してしまった。
この時のあなたはけして優しい目をしていたわけではなかったけれど、いつもとは違ったんだよ。
自分でも気がついていた?
月明かりにあなたのリングが光っていたんだ。
あなたはそれをも緩やかに見ていたっけ。
狼を絶滅させたのは人間で。
私は人間になんかなりたくはなかった。あなたにとって私は何だった?
いつか枯れてしまう花になんかなりたくはないけれど、
あなたがもし草原を4本足で駆け抜けている時にあなたの足で踏みつけられて散るのなら私はむしろ花になりたかった。
本気でそう思うよ。
あなたのためなら何だってしてあげたかった。
私の命と引き換えでも…。
それが本能なんだと思う。今ならそう思える。
- 188 名前:モノローグ 投稿日:2006/03/27(月) 18:41
-
- 189 名前:Liar 投稿日:2006/03/27(月) 18:45
- 》176様
受験、受かりました!いい結果が報告できてうれしいです。
いつもありがとうございます。
最近、いろいろ忙しくて更新が遅れてすみませんでした…。
- 190 名前:Liar 投稿日:2006/03/27(月) 18:46
- 》178様
ありがとうございます!本当によかったです。
あと、待っていてくださってありがとうございました!
- 191 名前:Liar 投稿日:2006/03/27(月) 18:48
- 》179様
家にはたくさんのダンボールが詰まれて降ります…。
引越しも終わってよかった!
受験も終わって、やっと一段落ついた気分です。
これからもがんばります!
- 192 名前:Liar 投稿日:2006/03/27(月) 18:51
- ほんとうにすみませんでした!
ここ、1ヶ月くらいなかなかパソコンにすら手を触れることができず・・・。
第18話終了です。
なんだか、ダラダラしてますかね?
なかなか話の進展がなくてイライラしていらっしゃることと思います。
でも、がんばって書いていきます!
なにかご指摘があったら遠慮せずにいって下さい。
長編になってしまいそうです…。
- 193 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 09:30
- 次の日私は再びいつもの学校生活に戻った。
学校に行く意味がわからなかったけど、今まで無断に休んだことのない私にとって休むことは少し気が引けた。
いつもどおりのこの雰囲気が前は少し嫌ではあったけど、今はなぜかホッとする。
昼休み、私は1年B組に訪れていた。
「紺野さん…」
一人の女性を呼び出し、人が居ない屋上へと連れ出した。
彼女はまだ私に緊張しているようでなかなか目をあわしてはくれない。
赤くなった顔も、あどけなくてとても可愛かった。
「紺野さん」
「は、はい!」
少し上ずった声が返ってくる。
私はなるべく優しく彼女に話しかけることにする。
「この前の…写真、ありがとう」
「あ…いえ、いいんですよ」
「すごく、大切にしてるから」
「…はい」
「あのさ、紺野さんは…今後藤さんがどうしているのか知ってるの?」
「いえ…知りません」
「そっか…」
「石川先輩…何か知ってるんですか?」
一瞬ドキッとしてしまう。
勘のいい彼女に私の顔が強張っていることはばればれで…。
「え…?何も知らないけど」
「本当ですか?今、後藤先輩はどうしているんですか?!」
「本当に…知らないよ…」
「…」
紺野さんはいつの間にか叫んでいた自分にハッとし、黙りこくってしまう。
「す、すみません…」
「ううん…。私もごめん」
「知ってるわけないですよね。私でさえ知らないのに…」
「うん…」
彼女の思いが痛いくらい伝わってくる。
彼女はたんにすごく憧れていて。あいたいっていう気持ちも当然あって。
私は…彼女に何を聞くために呼び出したんだろう。
きっと、独占欲…なんだ。
そう言わなくては嘘になる。
後藤さんを知っているのが私一人であるって事を自覚したかったんだ。
…なんて醜いんだろう…。
純粋な心が少しもない。
「…ごめんね、紺野さん。もう、戻ろうか」
「あ、あの…一つ聞いていいですか?」
「…いいけど」
彼女は大きくて吸い込まれるような真っ直ぐな瞳で私を見てくる。
心が見透かれそうな…。
「石川先輩は何で後藤先輩のことを知りたがるんですか?」
「…そんなことないよ」
「嘘です!だって、愛ちゃんにも聞いていたしあの写真を本当に嬉しそうに受け取っていたじゃないですか…」
「…」
「先輩は後藤先輩の何が知りたいんですか?」
「…」
何も言えなかった。言うことができなかった。
だって私にもわからないから。
「ごめん…わからないの…」
「え?」
「私にも、よく…」
「そうですか…ならいいです」
「…うん」
風が吹いた。
穏やかな風が後ろから。
私はゆっくりと振り向き、この町を上から眺める。
私の立っている場所は…ちっぽけだった。
- 194 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 09:48
- 「石川先輩…?」
「あ、ごめんね。行こうか」
「今の先輩、少し後藤先輩に似てました…」
「え?」
「あの写真の目と少しだけど…」
「そっか…」
「なんでもないんです。行きましょうか」
「うん…」
教室に戻ると美貴ちゃんが怒った顔で私を睨んできた。
「どこに行っていたの?また、おいてけぼり?」
「ご、ごめん!美貴ちゃん」
「いいけどさ」
「今から一緒にご飯食べよ?」
「もう、食べた」
「そ、そっか。…ごめん!」
「もういいよ。別にさ」
「うぅ…」
ふと美貴ちゃんが何かを思い出したかのように話しかけてきた。
「あ、昨日のメール返せなくてごめん…」
「…何のこと?」
「忘れているならいいけどね」
「……」
「本能のままに生きれないこともあるよ。でも、人間だって動物だもの。
自分が考えている事が本能であったりするんじゃないかな。一番いい考えだって歩み出せるよ…」
「…」
「これが、答え。美貴なりのね。ごめん、なんか押し付けといて…」
「え、いや…」
「美貴、早退する。なんかめんどくさいや。じゃあね」
「ぇえ?まって、美貴ちゃん!」
彼女はさっさと鞄を持って教室を出て行ってしまった。
彼女が今話していたメールのことは実は忘れてなんかいなかった。
ただ、自分でがんばるって言っておきながらあんな言葉を送ってしまった、自分自身の弱さを忘れたくて黙っていた。
彼女の考え…。とてもためになる。
私が頑張らなくては誰があの未知の彼女を引き出すことができる?
いつだって私は弱い。人間は弱い。
生き抜くことをやめたくなることもある。
だけど、後藤真希の存在があるからこそ私は頑張りたい、あきらめたくない。
私が私らしくあるために彼女が笑ってくれるまで、頑張りたいって思っているんだ…。
- 195 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 09:48
-
- 196 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 10:33
- そのころ藤本は学校から少し離れた小さなカフェに足を運んでいた。
学校を早退したのもそのためで、目的の場所へと足をいそめる。
今、少し石川と会話しづらいのも事実で。
いろいろな思いとともに思考をはりめぐらせていた。
カフェについた藤本は店内をぐるりと見渡す。
少しすると店員が
「お一人様ですか?ならカウンター席へどうぞ」
と案内しようとしてきた。
「あ、すみません。待ち合わせをしているんで」
藤本は焦りながら早口でそう伝え、スタスタとボックス席へと歩き腰を下ろした。
コーヒーを一つ注文し、一息する。
「まだ、来てないか…」
独り言をポツリとつぶやく。
店内はガラーンしていて客は一人もいなかった。
何ではやらないのかな…
藤本はそう一人で考えながらコーヒーに口をつける。
味は確かだ。
まぁ、ここの店は大きなとおりに面している訳でもなく見た目も地味だからなんだと、一人で勝手に解釈していた。
しばらくたったころ
「いらっしゃいませー」
入り口のほうでほかの客に挨拶している店員の声が聞こえてきた。
店に入ってきた人物は真っ直ぐと藤本の席へ歩いてきてドカッと座った。
「悪い。待たせたなぁ」
その人物は関西弁で目の前にいる彼女に謝る。
かけていたサングラスを取り明るめの茶色に染めた髪を書き上げて笑顔を見せている女性は店員に
「うちもコーヒーで」
と告げ再び座りなおす。
その様子をずっと見つめていた藤本は、落ち着いたところを見計らって口を開いた。
「中澤さん、すみません。いつもこんな時間に…」
「ホンマやで。ここのコーヒーが美味いから来てるものの…」
「すみません…」
「ところであんた、この時間は学校やろ?サボりか?」
「…はい」
「いつも抜け出して大丈夫なんか?あんたもう高3やろ?単位もらえなかったらシャレになんないで。ホンマニに」
「はぁ…」
「まぁ、ええけど」
コトッ…
目の前にコーヒーが運ばれてきたのでその女性はそのまま口にする。
「…ふう。今は休憩もらってきてるからな。もう少ししたら帰るで」
「はい。えっと…持ってきてくれましたよね?」
「あぁ。まぁそう焦らんくても。コーヒーいっぱい飲むぐらいの時間はあるで」
「えっと…」
「ったく…コレやろ?あんたのお望みの物は」
そういって大きな白いビニール袋を机の上においた。
「いつも、すみませんでした」
「藤本、わかってると思うがな…こういう事はあかんのよ。いっつも言ってるやろ?
本人つれて病院来ないと薬は普通渡せん物なんよ。しかも、こんなに沢山の量をな…」
「中澤さん…今はまだ外に出れそうにないんです」
「わかってるけどな…次こそは引っ張ってきてもええからつれてきなあかんよ」
「はい…」
- 197 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 11:14
- 「えっとな…今回は2種類いれてるから。両方、ベンゾジアゼピン系っちゅう薬や。
一種類目は短時間作用型のリスミー、もう一種類は長時間作用型のソメリン。睡眠薬やから大量に服用せんように後藤に伝えてくれや」
「…わかりました」
「ちゃんと言っといてくれな。じゃなきゃバレたらやばいねん。薬をあげたことが。クビなったら…」
「わかりました。…じゃあ、美貴は渡してくるんで。そろそろ失礼します」
「ちょい待ち!わざわざ仕事抜け出してきてんやから少しは話しせえへん?
一応、後藤の担当医なんやから。あんたにもそれを話す義務はあるで」
「…」
「最近どうなん?様子は」
「得に変化は…」
「そうか…長いな。あんたとは結構話すんか?」
「いえ、そこまでは…」
「食べ物はちゃんと食ってるか?」
「いえ…」
「顔色はどうやった?」
「いつも青いです。結構やばめに」
「目はどうや。前と変わったか?」
「変わらずにいつも寂しそうですね」
「そういう事を聞いてるんやない。充血してないかとか、隈があるとか…あと、唇の色とかは?」
「充血はしてますね。あと、かなり隈はひどいと思います。唇の色は白いです」
「そうか…前と大して変わってないんか」
「はい…」
中澤は胸ポケットから手帳を取り出し今のことをメモした。
そこにはほかにも後藤についてのことが沢山書き記されていた。
「外には出てへんのやろ?」
「はい…」
「はぁ…重症やな。まぁ、とにかく今度つれてこいや。見てみんと何にもわからへんからな」
「わかりました」
「あと…後藤になんかあったらすぐ連絡せえや。うちの携帯でいい。番号知ってたよな?」
「はい、わかりました」
「何度も言うけど、つれてこい。ええな?」
「…」
「もう、ええで。すまんな。藤本、あんたくらいしかおらへんから」
「いえ。それじゃ、失礼します」
「あぁ。うちはこのコーヒー飲んでから出るから。あと、ここも払っとくわ」
「ありがとうござういます」
「よろしく伝えてな」
藤本はビニール袋を手に持ってそこの店を後にした。
中澤は一人、さめたコーヒーを口に運んだ。
そして、窓から見える青空を見上げてポツリと独り言を言った。
「藤本、あんたも十分無愛想やで。お前と後藤はどこかにてるんかもなぁ…」
中澤はしばらく空を見上げていた。
- 198 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 11:14
-
- 199 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 11:15
- 藤本はその帰り、後藤の家へと足を運んだ。
そして薬の入った袋を置き、そのまま無言で帰っていった。
- 200 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 11:16
-
- 201 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 11:35
- 数時間後にそこには石川が訪れていた。
ずっと昨日の事が気になって考えたまま授業を終わらせかえってきた。
後藤の家の鍵を回し、中へと入る。
そこは何故かソファーにはいつもいるはずの人物の姿が見えず、冷たいこの部屋を悲しませていた。
「ご、後藤さん…」
あたりを見渡してもいる気配がない。
「後藤さーん…」
玄関には確かに彼女の靴があった。
この部屋にいるのは間違いないのだが…。
石川はリビングの左隣の個室のドアが少し開いているのに気がついた。
ゆっくりと近づいていってそのドアを開けた。
キィ―ッ…
音とともに部屋があらわになる。
フローリングの床下に大きなベットが1つ。床には白いビニール袋があり、その中から薬がいくつか飛び出していた。
そしてベットの上には後藤本人がうつむせになって寝ていた。
壁には私が通っている学校の制服がかけられていた。
もう、だいぶ使っていないのか埃をかぶっている。
「あぁ、やっぱりうちの学校の生徒だったんだ…」
ベットで寝ている彼女はというと、前にソファーで寝ていたように不自然な眠りをしている。
苦しそうな表情を浮かべたまま白い肌がとても冷たい。
私は薬へと目をやる。
薬の入っている袋の中には説明書もはいっていた。
そこからこれが『リスミー』『ソメリン』という薬であること、両方ともベンゾジアゼピン系という睡眠薬であることがわかった。
この不自然な眠りはきっとこのせいで。
眠れないのに科学的なもので無理やり眠らさせられたんだ…。
こんな彼女のことを…私は何が知りたいのだろう。
今日、紺野が言っていたことが蘇る。
私は…この人の人生そのものを知りたいんじゃないのかな…?
すべてを知りたくて。でも、知ってどうするかなんて事はわからない。
美貴ちゃんはこんな私になんて言ってくれるかな。
優しく笑って
『それが人間の本能なんだよ』
っていってくれればいい…。
- 202 名前:第19話 投稿日:2006/03/28(火) 11:35
-
- 203 名前:Liar 投稿日:2006/03/28(火) 11:37
- 第19話終了です。
本当に少しずつですが後藤さんの人物像が出てきました。
今は春休みなので沢山更新できたらなっておもいます。
これからも頑張りたいと思います。
こんな駄作でよかったらお付き合いください。
- 204 名前:第20話 投稿日:2006/03/29(水) 14:04
- もう、後藤に出会ってから1週間ほどが過ぎていた。
毎日毎日こりもせず私は彼女の家に訪れる。
制服を発見してから一夜明けた今日もこの家に訪れていた。
いつもどうりソファーに座っている後藤を確認でき、ホッとする。
彼女はボーっとどこかを見つめていた。
机の上にはリスミーの薬が入ったヒートが何枚かおかれていた。
彼女はしばらくすると徐にそれに手をつけた。
― プチッ…カラン…プチッカラン…プチッ…カラン…
何粒か机の上に落とされていく。
それをいっぺんに彼女は口へほおりこんだ。
ゴクッ…
喉を通る音が聞こえた。
「ご、後藤さん!そんなに飲んで大丈夫なんですか?」
「…」
いつのまにか声を荒げる。大丈夫なはずがない。
あんな量をいっぺんに飲んでしまったら駄目に決まっている。
薬に関してはまったくの素人である私にも分かる事で。彼女の目の下の隈が気になって。
「駄目です…そんなに飲んじゃ…」
私がいくら言っても無反応な彼女に少々苛立ちを覚えた私は、彼女の傍に駈け寄り肩をグラグラと揺すった。
「後藤さん!?聞いてるんですか?後藤さん!」
彼女はゆっくりと此方を向いた。
整然と冷めた目で私を見据えて立ち上がる。
そして手を少し振り上げた。
と次の瞬間…
バンッ……!!
私の頬めがけて当てられた手が彼女のものであることが分かった。
思わずよろめいてしまうほど、それは強く。
目に涙があふれる。
だけど、もう彼女の前では泣かない決めていたので必死に堪えた。
私はただ彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。
「後藤さん…」
「…」
彼女は力が抜けた顔をしている。
とても、疲れているんだ。
殴られたところが熱を持つ。
「後藤さん…私はいったい何時になったら話すことができるんですか…?」
「…」
「こんな傷、痛くなんかないんです…あなたの心の傷に比べたら…きっと」
「…」
「私はここに居たら駄目なんですか…?」
「…」
「この前、公園に居ましたよね?」
「…」
「見たんです。あの時…あなたは今よりも穏やかだった…」
「…」
「私が子猫のようにあなたに接したら同じようにしてくれるんですか?」
「…」
「私は…どうすればいいんですか?」
「…」
「…帰ります」
私は自分の疑問を彼女にぶつけていた。
赤くなった部分を手で押さえる。その日はいつもより少し涼しい日だった。
私は覚えているんだよ…?
- 205 名前:第20話 投稿日:2006/03/29(水) 14:06
-
- 206 名前:モノローグ 投稿日:2006/03/29(水) 14:18
- 『口を閉ざす意味』
人間はなぜ口というものを持って生まれてきたのか。
人を罵り、不幸へと追いやり、平気で嘘をつく口をなぜ待たせたのか。
どんな嘘だとしても、1番速い気持ちを伝える表現ではあるだろう。
あなたが口を閉ざしていた事をいいことに私はあなたに話し続けた。
何があった?
そんな疑問を一言発せられるほど簡単なことではなかった。
人を作り出している心を作っている大きな歯車といってもいい口が閉ざされたら、あなたは形を変えて此方へ来てくれた?
言葉を失ったあなたは他人の言葉に惑わされても此方へ来てくれた?
もし、私があなたなら逃げ出していた。
逃げ出す意味も分からずにね。
助けてって素直にいえないあなたが可哀想で泣けてくる。
今まで誰に優しくされてきた?
それはあなたに意味のあるものだった?
口を閉ざしてあなたは何を見ているの?
その瞳には私が映っている?
私とあなたが2人で共に歩んでいる未来が映っている?
私には目を瞑れば映るのにあなたは映っていなかったようだね。
それは私のせいだったんだよ。
見捨てたつもりなんてなかったのにあなたは私に何を感じて接していた?
もっと、殴ってくれてよかったんだよ?
あなたにならいくらでも…
- 207 名前:モノローグ 投稿日:2006/03/29(水) 14:18
-
- 208 名前:第20章 投稿日:2006/03/30(木) 11:01
- その日の夜、私は家でくつろいでいると携帯が鳴った。
『今から会おう。8時に近くの公園で待ってる』
そう美貴ちゃんからメールが来ていた。
「なんだろう…」
時計を見てみると7時45分ごろ。
「ってやば…いそがなきゃ」
下穿きなれたジーパンに着替え、上から1枚のパーカーを羽織って出かける。
公園にはすでに美貴ちゃんがブランコに乗って待っていた。
「こんばんは」
「あぁ、うん…」
「座りなよ」
「…」
私は素直に彼女の隣のブランコに座る。隣の彼女は小さくブランコをこぐ。
「美貴ちゃん、こんな時間にどうしたの?」
「…またか」
「?何が…」
「痛かったよね?」
「え?」
「ごっちんだよね、それ」
そういって彼女は私の頬に指を指す。
「…あぁ。うん…」
「ちゃんと冷やさないとさ」
「うん」
「でも、ちょっと不思議かも」
「何が?」
「彼女がそんなに怒ることが。殴ったりしたことあんまり最近なかったからさ。まぁ、梨華ちゃん意外って事ね」
「…」
「良い事なのか、悪い事なのか分からないけどさ」
「…美貴ちゃん、なんで私をここに呼び出したの?」
「…」
「美貴ちゃん?」
彼女は空を見上げた。そしてゆっくりと話す。
「これはあくまでも頼まれたことだから」
「?」
「伝えてって言われたことだからね?」
「…うん」
「梨華ちゃんに来てほしくないんだって。ごっちんが…」
「え?…」
「今日ね、メールが来たんだ。ごっちんから」
「…」
「梨華ちゃんのことだから、うざくしてたんでしょ?」
「うん…ってか、かなり」
「だよね。美貴はだから梨華ちゃんに頼んだんだよ」
「そうなの?」
「うん。このままじゃまずいって思って。なんか変化があったほうが良いかなって」
「…でも逆効果だったね」
「ううん。むしろよかった。やっぱすごいよ梨華ちゃんは」
「何で…?」
「いろんな意味で変化はあったと思うし」
「私…どうしたらいいの?嫌がってるんだよね、後藤さんは」
「美貴にはよく分からない。…でも梨華ちゃんはやめないでしょ?行くの」
「…うん。そんなこと言われても無理だと思う」
「だよね…」
「…」
「いちお、伝えろって事だったから伝えただけ。そんなに気にしなくても大丈夫だと思うけど…」
「うん…」
「ただね、あんまりしつこくしたら危ないよ?また傷つくっちゃうかもだし」
「分かってる…」
美貴ちゃんは急に立ち上がった。
「さてと…帰るかな…」
「もう?」
「うん。親うるさいんだよね。コンビニ行ってくるって言ってたからさ」
「そっか…」
「あんまりさ、毎日は行かないほうが良いんじゃないかな?」
「そう?…」
「うん。それだったら美貴もうざいと思うよ」
「…」
「じゃあね」
「あ、うん…」
そのまま彼女は闇へと姿をくらましていった。
私はしばらくの間、それをみていた。
空にはいくつかの星が瞬く。その中には見たことがある形を作っている星座もあった。
見上げればそこにある星がとても居心地がよいものだった。
少し早く走りすぎたのかもしれない。
私はもっともっと彼女を知りたくて求めすぎている。
彼女の中でもちゃんと時間はあるわけで。私のペースにあわせては駄目なんだ。
なぜか分からないけど私は焦っている。
心が彼女に会うだびにドキドキして止まない。
もっと慎重にしなくては…。
でも…!!
見れば見るほど切なくなって泣きたくなるんだ。
会えば会うほど胸が締め付けられるんだ。
これって変なのかな…?
よく分からないよ…。
もういまさら引き返す事なんかできないんだ。それは分かってる。
だって私の心がそう望んでるんだもの…。
- 209 名前:第20章 投稿日:2006/03/30(木) 11:02
-
- 210 名前:Liar 投稿日:2006/03/30(木) 11:03
- 第20章終了。
こんな作品読んでる人が…いるのでしょうか…?
いたらレスほしいです。
これからもがんばります。
今日はここまで…。
- 211 名前:名無し 投稿日:2006/03/30(木) 20:15
- ごっちんの過去がきになります。
楽しみにしています!!!
- 212 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/30(木) 22:50
- 読んでるよー
後藤の謎がなかなか明かされないので
かたずをのんで見守っております
- 213 名前:146 投稿日:2006/03/30(木) 23:07
- 読んでますよ〜!って久し振りに来たら更新2回も!!w (ノ∀`)
ほんの少しですがごっちんに影響しつつある梨華ちゃんが
次にどんな行動にでるのか楽しみです。
- 214 名前:第20章 投稿日:2006/03/31(金) 11:22
- 学校もだんだんと忙しくなってきた。
私は毎日とはいかないが、週3回の割合で彼女の家に訪れていた。
でも得に進展は無く。
だいたい寝てるかボーっとしているか水を飲んでいるかのどれかだった。
起きている時もそうだが寝ている時も私は彼女に話しかけた。
話さない事は分かっている。それでもいい。
一緒に過ごしている時間が嬉しかったから。
学校であった事、自分の事。とにかくいろんな事を話した。
そんな私でも1つだけ守っている事がある。
いや、守らなくてはいけない事、とでも言おうか。
それは彼女について聞かないこと。
それを極端に嫌うので私もそれについては触れなかった。
学校にいる時だって自分の家にいる時だって常に考えてしまう。
たまに邪険に扱われることもある。それでもよかった。
もっともっと傍にいたかった。彼女のことが知りたくてしょうがない。必要とされたい。
そんな異常とでもいう独占欲に取り付かれていた。
そんな生活を1ヶ月以上は続けていた。
すでに日課的になっていて。
一向に話さない彼女の傍にいたいという気持ちが私の中にあって。
とても強い思いになっていて…。
美貴ちゃんの代わりに買い物に行く。
自分の家に帰ったら紺野からもらった写真を見る。
彼女のことを考えて眠り、彼女のことを考えてご飯を食べ、彼女のことを考えてすごしていた。
日に日に強くなる思いを素直に見つめることすらできないんだ。
本心のままに生きるって決めたから考える前にまず行動したかった。
もう、何だって良い、もっともっと…。
美貴ちゃんに呆れられ、後輩からは不思議がられ、矢口先生からは興味を持たれ…。
そこまで私は変だった。
変だって言うしかないんだ、この感情は…。
- 215 名前:第21章 投稿日:2006/03/31(金) 11:24
-
- 216 名前:第21章 投稿日:2006/03/31(金) 11:43
- 最近、彼女のことを考えている時間が長い。
1日の中で私の頭の中では彼女で埋め尽くされている方がはるかに長い。
時々、胸が熱くなって、苦しくなる。これっていったい?
純粋にもっと傍にいたい、もっと必要とされたいって思う。
彼女の顔が見たくて…。
あの目、あの鼻、あの口、あの手。すべてが私をときめかせる。
一緒にいたくてしかたが無い。何かが溢れてきてしまっているんだよ…。
彼女を見れば見るほど切なくなって、泣きたくなる。
彼女の見ているものすべてを見たい。彼女が感じているものすべて感じたい。
他の誰でもない、あなただから嬉しいし胸が痛いんだよ?
いつも、普通の振りをしているけど会うたびに内心やばいんだ。呼吸が乱れるし、頬が赤くなる事もある。
私は…絶対おかしい。
だって後藤さんが美貴ちゃんと会っているってだけの事実で顔が引きつり気になってしまう。
何かを通り越してしまっている思いが私を取り巻いている。
顔が見たいけど長くは見ていられない。まともに直視もできない。
彼女の傍によると動機が早くなる。
不思議な人で。気になって。眼が離せなくて…。
この思いっていったい何なのかな。私には分からないよ。
彼女に会えば会うほどそうなって…。
話を聴いてあげたいのに話してくれない彼女に苛立ちともう1つの別の感情がある。
これって何の感情なのかな。ただの興味じゃないんだよ。
きっと、これって…。
ううん、ちがう。そんなわけない。だって私は女性で、あなたも女性。
でもそんなの関係ないのかもね。女、男とかじゃなくて、次元を超えた何かが私とあなたを結んでいたんだよね…?
- 217 名前:第21章 投稿日:2006/03/31(金) 12:22
-
- 218 名前:モノローグ 投稿日:2006/03/31(金) 12:49
- 『新しい感情』
私の事を悲しげな瞳で壊れそうに消えそうに見ないで。
それはただ私の気持ちを高ぶかせるだけなの…。
あなたを傷つけといていまさら何を言っているんだろうね。
確かに矛盾しているんだ。
伝えたい言葉をなかなか口に出せなくて出会えなければよかったと思うくらい苦しい時もあるんだよ。
もっと私が大きな人間なら、あなたを丸ごと抱きしめれたのにね。
今だって変わらないんだよ、この気持ち。
逆にあなたの姿が無いほうが積もるんだ…。
この頃、よくあなたの夢を見ていた。今だってみている。
何時だって暗く遠い所にいるあなたは最後の最後まで私の所に来て抱きしめてくれなかった。
簡単に口にできる思いでもなくて、口にしたくない。
あなたには手が届かなかった。
私の中に消えない痛みとして刻まれているんだよ、あなたとの思い出が。
あなたは一人でどこに行っていたの?
そして、どこに行くの?
少しの事なのに私は怯える。
だって弱いから。
怖いよ…
もし、あなたが居なくなることを考えたら。
それが現実なら夢を私は望む。
たとえ、その中であなたが私を殺そうとしてもかまわないの。
美しさの前で死ぬのが私の本望だから。あなたは冷たすぎるほど美しいもの。
この頃の私はあなたの事よりも自分の感情だけで動いていた。
それが一番良いと信じていたから。でも、そんなに甘い話じゃなかったんだよね。
あなたとの出会いは恋愛ドラマのような結末を迎えるものではなかったんだ。
― だって私は今、夢を望んでいるから…。
- 219 名前:モノローグ 投稿日:2006/03/31(金) 12:49
-
- 220 名前:Liar 投稿日:2006/03/31(金) 12:52
- 211》名無し様
ありがとうございます!
そう言ってもらえるとうれしいです。
後藤さんの過去はどんなものなんでしょうね〜。
結構後に出てくる予定です。
- 221 名前:Liar 投稿日:2006/03/31(金) 12:54
- 212》名無飼育さん様
ありがとうございます。
後藤さんの謎は結構引っ張ってしまいそうです。
マターリとお付き合いください。
- 222 名前:Liar 投稿日:2006/03/31(金) 12:56
- 213》146様
本当にいつもありがとうございます。
少しですが石川さんの心にも変化があらわれてきました。
これが後藤さんにどう影響していくのかは…。
これからもがんばりますのでお付き合いください。
- 223 名前:Liar 投稿日:2006/03/31(金) 12:59
- 本当に少しですが更新しました。続きは明日にでも…。
モノローグが分かりにくいですね…。
すみません。いろいろがんばりたいと思います。
それでは失礼しました。
- 224 名前:146 投稿日:2006/04/03(月) 12:58
- >モノローグが分かりにくいですね…。
確かに梨華ちゃんとも見えるしごっちんとも
ミキティという風にも見えますけど、
あれやこれやと色々想像しながら読ませて
もらったのでこれはこれで雰囲気持ってて
いいんじゃないでしょうか?
続きを楽しみにしています!
- 225 名前:Liar 投稿日:2006/04/04(火) 21:15
- 彼女の声が聞きたいと思っていた。
それが実現したのは彼女のことを知って絡まる3ヶ月が過ぎた頃の7月のある日だった。
学校ではテストもあって色々ばたばたしている時期。
私は結構頭が良い方だったから得に心配はしていなかったけど、美貴ちゃんが類もみないほどあたふたしていて正直驚いた。
最初はどうでもいい風にあしらっていたのに私と一緒に進路について話していたら自分のやばさに気がついたらしく。
最近はよく私の家に来て勉強している。
それには理由があって。
それは彼女がまったく基本を理解していないということだ。
基本を勉強したくても自分の家にもう高校1年生の頃の教科書が無いということで、
わざわざ私の家に転がり込んでいるというわけだ。
彼女は遅くまで居ることも珍しくなかった。
私は親が心配していないのかと聞いても大丈夫と少し口を濁して言うだけだった。
あまり親とうまくいっていないのかもしれないと勝手に解釈した私はそれ以上しつこく問い詰めることはしなかった。
テスト直前に迫った日曜日に今日も一人で後藤さんの家に訪れていた。
勉強も確かにしなくてはいけなかったけれども、息抜きと自分に言いながらも本当は彼女に会いたさのあまりにそこにいた。
いつものようにソファーに座っていたが今日はなんだか顔が穏やかに見えた。
- 226 名前:Liar 投稿日:2006/04/04(火) 21:32
- ドクンッ…
心臓が鳴る。
言葉がいつものように発せれなくて。息が詰まる。
「なんで、ここに来たの…?」
突然、私ではない誰かが声を出した。
私よりも幾分も低い少しハスキーで居心地が良いのにどこか冷たい声…。
それはまぎれも無く、彼女から漏れた言葉だった。
「え…?!」
彼女が始めて私に口を開いた。
その口から言葉が漏れた。
しばらく私はその事実が飲み込めなくて呆然としていた。
あわてて言葉を返すことを思い出し早口で話そうとする。
「あ、えっと、わ、私…後藤さんに会いたくて…ここに来ました…」
次の言葉をひたすら待つ。
2、3分たってから後藤は再び口をあけた。
「…なぜ?」
たった2つの文字であるのにとても意味深く、私は何も答えれなくなる。
あそこまでずうずうしかった私はここまで悩んでいる。
この日をどのくらい心待ちにしていただろう。
毎日のように彼女のことを考えていた。
そして毎日のように話しかけた。それがやっと報われた気がする。
なのに私はこの質問に答えれなくなっている。
「ご、後藤さん…」
彼女はそれ以上何も話してくれなかった。
胸が痛い。
目の前の人を抱きしめたくなる。
その不思議な衝動に堪えながらその日は家を後にした。
- 227 名前:第21章 投稿日:2006/04/17(月) 23:04
- 次の日、私は学校で美貴ちゃんに昨日あった事をなるべく細かく興奮気味に話した。
「…マジで言ってんの…?」
「う、うん…もう私嬉しくて」
「…」
「美貴ちゃん?これっていいことじゃないの?」
少し唖然とする彼女に不安になる。
でも彼女はフッと笑顔を浮かべてやさしそうに語りだす。
「…いやね、意外だなってさ」
「え…?」
「こんなに早く反応を見せるなんてね。ある意味おもしろいよ…」
「どういう意味?」
「美貴だって話してくれるまですごい時間かかったんだけどさ。彼女は思ってることを口にできなかったからね。すごいよ」
「そうなの?」
「しかも、梨華ちゃんみたいのが…」
「…どういう意味よ…」
「いかにも女の子らしいのにね。本当に何でだろう…」
「…」
「梨華ちゃんの粘り勝ちってことかな」
「本当?よかった」
彼女は一息おいて私の眼をマジマジと見つめてきた。
「んで、梨華ちゃんはなんて答えれなかったの?」
「な、なんのこと?」
「ごっちんの質問にさ」
「あ…本当はね、後藤さんに会いたかった理由は興味があったからって答えようとしたの」
「うん。で?」
「でも、何で興味を持ったのかって聞かれたら答えれなくなりそうだったから…」
「…そっか」
「うん…」
「その質問に答えてあげれたら良いね…」
まるで母親のような眼差しで見つめてくる。
彼女はきっと良い母親になるに違いない。
「あのさ、これからもよろしくね…」
再び口を開いたのは美貴ちゃんだ。
「え?」
「ごっちんがこんな反応見せるなんて思ってなかった。最近美貴にもあまりしゃべってくれなかったんだ。まぁ、前からだけどね。だから…」
「うん…。大丈夫だよ、私は。その…つもりだから」
「ありがと」
心底嬉しそうな顔で私に見せた顔に私もつられてしまった。
彼女と後藤さんは、いとこという以上に何か特別なものでつながっているような気がした。
心が少し沈んだのは、きっと気のせいだろう。
- 228 名前:第21章 投稿日:2006/04/17(月) 23:28
- その2,3日後にテストがあった。
結果は思いのほか悪かった。
彼女のことばかり考えていて最後の追い込みができなかったからだろう。
結果が返ってきたときはさすがに驚いたが、しょうがないと自分で言い訳ををしてテストのことは忘れることにした。
それよりもはるかに例の彼女のことが気になって仕方が無かった。
テストの関係で一週間あまりいけなかったせいもあるのだろう。
この日、いつもより早く足を動かして学校から家へと帰宅した。
わざわざ家で着替えている暇も無く。
征服のままで彼女の部屋へと飛び込んだ。
いつもより息が上がっている私を凝視するように彼女は見つめていた。
「…また…来た…」
独り言かのように小さく口を動かしたのを私は見逃さなかった。
この前のことが嘘ではなかったのだ。
これまで以上に沢山話したくなった。そのほうがいいと私も思った。
「あの、最近…テストがあって…なかなか来れなかったんです。すみません…」
「…」
「暑いですよね、今日。なんか汗かいちゃいました…」
「…」
私は汗をぬぐった。
外は暑いのにこの部屋はクーラーがとても効いていて少し寒いぐらいだった。
「…あんた…何歳?」
いきなりの質問にハッとした。が、冷静に答える。
「…17歳です。後藤さんもですよね…?」
「…同い年?」
「あ、いや私は早生まれなんです。学年は1個上なんですけど…」
「…年上…?」
「は、はい」
なぜこんな質問をしてきたかという事は次の言葉で明らかとなった。
「…なら、なんで敬語使ってんの?」
「え…?」
「…」
「えっと、あの…タメ口聞いたら嫌がる気がして…」
「…別に…」
「そ、そうですか?ならタメ口してもいいんですか?」
「…」
- 229 名前:第21章 投稿日:2006/04/17(月) 23:38
- ― このとき私はある発見をした。
彼女は私の質問に対して答えるときに黙ってしまう。
それは『NO』ではなく『YES』であること。
そしてもう一つ…。
とても大切な事。
こんな少しの会話でも分かってしまうほど私は彼女をみていた。
それは彼女が答えなければいけない質問を私がなるべくしてはいけないということ。
彼女は自分の中に入ってくることを嫌う。
それに無理やり入ってはいけない気がした…。
- 230 名前:第21章 投稿日:2006/04/17(月) 23:58
- 「…なら私はあなたをなんて呼べば良い?」
「…?」
「後藤さんって呼ばれるのが嫌なんだよね…?」
「…」
「何と呼べば良い?」
「…別に…」
「な、なら真紀ちゃんは…?」
「!!…」
彼女の動向がカッと開き一瞬のうちにして顔が真っ青になった。
え……?!
「す、すみません!えっと、えっと…」
「…」
「あ、あの…」
「…その…呼び方は…やめて…」
「…」
「…」
何かとてつもなくいけないことをしてしまった気がした。
どうしてこんなにも反応したのかわからなかった。
でも、謝らずにはいられなかった。
「ごめん…ごめんね…」
「…」
「あのさ、美貴ちゃんと同じ呼び方で良い?」
「…」
「ごっちんって呼ぶよ?」
「…」
実を言うと美貴ちゃんが彼女のことをごっちんとよんでいたことをうらやましく思っていた。
親しみやすいそのあだ名を呼んでみたかったんだ。
「ごっちんは…美貴ちゃんと仲がいいんだね…」
「…」
「誰がつけたの?このあだ名」
「…美貴」
「そうなんだ…」
彼女は急に立ち上がった。
そして私のほうを見向きもせずに自分の部屋に入り、しばらくしてから大きめの白いビニール袋を手にさげてもどってきた。
それをおもむろに机の上におき、自分も再び座った。
そしていつものように薬の入ったヒートをとりだして5、6粒机の上に落としていった。
「お水、とってこようか?」
「…」
「とってくるね…」
私はキッチンへと向かい大きな冷蔵庫の扉を開ける。
そこには2?の水が10本ほどおさめられていた。
その中からのみかけであるペットボトルをつかみコップにつぐ。
それを彼女に渡すと薬を放り込み、一気に水で流し込んだ。
「…ごっちん」
まだ違和感のある呼び名を口にする。
この薬を飲んだのならそろそろ仮眠をとるのだろうと思ったので私はそのまま帰ることにした。
- 231 名前:第21章 投稿日:2006/04/18(火) 00:00
-
- 232 名前:第21章 投稿日:2006/04/18(火) 00:04
- 一人残された後藤。
しばらくして薬が効いてきたのか急激に眠気に襲われる。
後藤はすこし顔をゆがめ、胸を押さえつけてユラユラと立ち上がった。
そしてそのまま自分のベットへと滑り落ち、ゆっくりと眼を瞑る。
久しぶりによばれた真希という呼び方にひどく吐き気を覚えた。
だんだんと目の前が白くなっていく。
気づいたときにはすでに気を失っていた。
- 233 名前:第21章 投稿日:2006/04/18(火) 00:04
-
- 234 名前:Liar 投稿日:2006/04/18(火) 00:07
- すみません。これで21章完結です。
2週間近く間が開いてしまいました…。本当にすみませんでした。
入学式と、テスト、研修におわれなかなかパソコンに手をつけることすらできませんでした。
まっていた方、申し訳ありません。
マターリと書いていこうと思うのでお付き合いのほうよろしくお願いします。
- 235 名前:146 投稿日:2006/04/19(水) 01:31
- 春先ですからお忙しいだろうと思ってマッタリ待ってたんで
全然大丈夫ですよ!じっくりと楽しませて頂いてます。
ごっちんがついに梨華ちゃんとコミュニケーションを
取りましたね!ただそれだけの事なのになんだろう
この達成感は。w
でも話が展開すればするほど、この物語の冒頭の始まりが
ずっと擡げていく感じです。あぁ、ものすごい葛藤!(苦笑)
- 236 名前:名無飼育 投稿日:2006/05/16(火) 02:02
- 待ってますよ!頑張って!!
- 237 名前:第22章 投稿日:2006/05/19(金) 19:23
- ジージー……
激しくせみが鳴いている。
春の陽気はまったく感じさせない力強い季節がいよいよ到来した。
木の緑はいっそう目立ち、歩く人も薄着になって外を歩いている。
今年は『クールビズ』というものが流行っているらしい。
地球温暖化のためにクーラーをなるべく使わず、涼しい格好をしようというコンセプトのもとで行っているそうだ。
ほかにも打ち水など、去年に比べ見た目からもより涼しげな雰囲気ではあった。
ここは、けして都会ではないのであちこちに自然があふれ、子供たちも家でゲームばかりやっているわけではなく、割と外で遊んでいるようだ。
だが私が子供の頃に比べては少なくなっていた。
私の子供の頃はよく外で遊ぶ子供だった。
周りの女の子たちは家の中でお人形さんごっこをしているのにもかかわらず1人で男子に混じって鬼ごっこなどをしたこともある。
まぁ、そのおかげでこの黒い肌を手に入れたといっても過言ではない。
毎回来るこの暑さ…。
毎回違う思い出がある。
肌に照りつける太陽の光が懐かしい。
そう、夏が来たのだ。
しかも1年で最も暑い8月が今日からスタートした。
私は今日から夏休みに入っていた。私は高校3年生で。この夏が勝負といわれていた。
美貴ちゃんは自分が今からどうがんばっても大学にはいけないと思ったらしく、専門学校に行くことにしたらしい。
私はというと、この前親と電話で進路について話をした。
最初は穏やかなムードだったが今回のテストの結果を話したとたん、父は怒り出し、母は不安がった。
なりたいものなんて決まっていなかった私は父親に昔から
『なりたいものが今なければ、とりあえず良い大学に入っておけ。そうすればやりたい仕事が見つかったときにそれをやることができる可能性が大きいから』
といわれてきた。
まったく持ってその通りだと思う。
しかし、最近は勉強なんて二の次になってしまっている。
両親には今回は調子が悪かったと何とかごまかしてのその場をやり過ごした。
進路も確かに大切だ。
でも、それ以上に私の今やっていることのほうが大切だと思った。
テストが終わってごっちんと呼ぶようになったあの日から何日かの割合で彼女の家に訪れていた。
訪れる度に、少しずつではあるが話してくれていた。
無表情であの悲しい眼をしていたことには変わらなかったけど、進歩していると私なりに感じていた。
- 238 名前:第22章 投稿日:2006/05/19(金) 20:39
- そしてこの日も私は彼女の家にいた。
時間帯は午前10時ごろ。
彼女はさも今起きたかのようにボヤ〜とソファーに座ってウトウトしていた。
「ご、ごっちん…おはよう…」
未だにぎこちないが何とかあだ名を口にする。
返事が無い。
ソファーのところまで行ってみると案の定、2度目の就寝についていた。
「ごっちん!おきてぇ!朝だよ」
「…ん…」
「ごっちん!」
「んん…」
彼女が眉間にしわを寄せ、ゆっくりと眼を開いた。
「…?」
「お、おはよう…」
「…?」
彼女は何故かとても不思議そうな表情を浮かべている。
「どうかした…?」
「何で…いる?」
「えぇ?」
「今…」
あぁ、そうか。
私は今まで午前中にこの家に訪れたことが無い。
ましてや今日は普段なら平日。それに対して疑問が生じたのだろう。
そう思った私はすかさず答えることにした。
「あ、今日から夏休みなの」
「…あぁ」
「だから、今まで以上にいっぱい来るからね」
「…マジ?」
「うん。だ、だめかな…?」
「別に…」
「そう?ならいいんだ。そうだ、ご飯食べた?」
「…」
「まだだよね。どうする?やっぱり、パンかな…」
「…」
「う〜ん。今日はそれしかないからパンでね…」
「…パンしか食べない」
「…少しでいいから今度別のもの食べようよ…」
「…」
「…」
私は冷蔵庫から菓子パンを取り出し彼女に渡した。
ゆっくりと口に運んでいたが、それで精一杯という感じ。
いろんなものを食べないとやばい気がする。それくらい彼女のからだは細かった。
「お水、飲む?」
「…ん」
「ちょっと待ってて。今とってくるから」
ペットボトルから水を注ぎ彼女に渡す。
それを受け取り喉に通した。
彼女の綺麗な喉…触りたくなる…顔に…熱が…
「?…なんで顔が赤いの?」
「え、ぇえ?えっと、その!…」
いきなり指摘されて思わずあたふたしてしまった。
ど、どうしよう…
「あ、あの、もう夏だから…あ!こ、ここはクーラー効いてるよね、えっと…」
「…?」
「な、なんでもないです!」
「…」
「あ、あの…今日良い天気だね…」
無理やり話をずらそうとしているのはきっとバレバレだろう。
「…」
「外、行かない…?」
「…行かない…」
「…」
「…」
「そっか…」
彼女はまだ私を警戒しているようで、やはりなかなか私の中には入ってこようとしなかった。
クーラーの効きすぎた部屋の中で私はブルッとふるえた。
外は太陽の真下であるのに、ここはカーテンを閉めきった夜の世界。
彼女の冷たさが体に染み込んでいきそうになるのを肌に感じていた…。
- 239 名前:第22章 投稿日:2006/05/20(土) 08:54
- 私は次の日から毎日彼女の家へ訪れた。
毎日、たわいも無い会話を交わす。それまでほとんど無言だった彼女が少しずつ話すようになっていく。
それはまるで子供の成長のようで…。
言葉を知らないあなたに必死と教えたんだ。
ごっちんもそれなりに答えてくれた。
「あんた」が「石川さん」に代わったとき、本当に嬉しかったんだよ。
ごっちんに呼ばれた名前が私のものでよかったって本気で思ったんだ。
彼女は確実に変わっていった。
それでも、彼女の顔に表情は表れなかった。
何年もの間、忘れているものを取り戻すことはそう簡単ではない。
ましてや、なくことも笑うことも喜ぶことも、ありとあらえる感情を自ら閉ざそうとしていた彼女に表情を作れというほうが無謀だと思う。
どんなに私と話してくれるようになったからといって彼女の瞳に私が写ることは無かった。
何か広い全体の世界を客観的に見ているような、遠い眼をしていたから…。
それでも良かったんだ。
少しでも彼女と話し、傍に入れたから。
これはあくまで私の感情。
ごっちんのために話す…というのもあるけれど、本音は私のためなのだ。
彼女の傍にいたいと望んでいるのは他の誰でもない、私なのだ。
これは同情ではなく、欲望…。とても醜い欲望…。
これを恋といっていいのか分からない。いったい何の感情なのか。
ただいえるのは、私は彼女を欲している。
誰よりも1番に…。
そういうことなのだ…。
美貴ちゃんはというと、夏休みが始まって2,3日後に現れた。
いつものようにミネラルウォーターとパンを抱えて。
そしてごっちんを囲んでいろんな話を話す。
ただ、ごっちんは黙って聞いているだけだが…。
これが私のライフスタイルとなっていた。
彼女と過ごす毎日がもう当たり前のようになっていて。生活の一部となっていた。
- 240 名前:第22章 投稿日:2006/05/20(土) 08:54
-
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 22:04
- まだ途中っぽいですが22章は完結でしょうか?
続きが気になります。楽しみにしています。
- 242 名前:第23章 投稿日:2006/05/31(水) 00:26
- ― そんなこんなで一週間がたっていた。
私はこの日もいつも通りごっちんの家に行っていた。
訪れた時間帯は午後6時ごろ。
なぜそんな時間かというと、昼ごろはまだ彼女は起きていないからだ。
本人の力で眠っていないため、薬が切れる頃に私は訪れることにしている。
一日の半分は寝ている彼女。
尋常じゃない体の細さと目の下の隈…。これをみてうまく寝れていないんだと分かる。
今日の彼女はいつもどおりソファーに座ってテレビを見ていた…。
「ごっちん…」
「…何?」
「こんばんは…」
「…?」
「あ、いや…得になんでもないの」
「…」
何もかわらない。
彼女はソファーに座りながら私の質問や話に時々返事をする。
きっと何か行動を起こさない限り、ずっとこのままなのだろう。
それではやっぱり駄目なんだ。
何かを変えるために何が必要?
今を変えるには何をすれば…?
それは彼女に何らかの刺激を与えること。
そう、やはり家から出すことなんだと思う。
その時、私はふと6月のあの日のことを思い出した。
それは一度だけみた公園での彼女…。今、思えば見間違いだったのかもしれない。
彼女であると思ったのは、あそこに居た時の雰囲気だけだ。
公園で彼女を見かけた前の日、確か私はごっちんのネックレスについて触れた気がする。
それが理由なのかどうかは分からないが、そのことが彼女を刺激したといってもよさそうだ。
この閉めきった空間にいてはいけないんだ。
きっと彼女は自分と家とを同位しているのではないのか?
自ら閉ざしているカーテン、いつも暗い部屋、剥き出したコンクリートの壁、大量の薬…。
自分自身の殻に閉じこもっている彼女にこの部屋は似ているような気がした。
彼女を変えるためにはこの部屋から出すことに意味があると思う。
たんに外に出るのではなく、彼女の心から一歩引き出すことをも指しているのでは…。
そう考え付いた私は彼女に外に出るように説得することを試みた。
「ごっちん…」
「…何?」
「今日は綺麗な夕日だったよね」
「…知らない」
「私ね、夜って案外好きなんだ。なんか、自分自身を持っているような気分になるの…」
「…」
「一人で散歩とかもよくするの。携帯片手に持ってパーカーに手を突っ込んでね」
「…へぇ」
「私は結構男っぽいところもあるんだよ」
「…」
「ごっちんはそういうの似合いそうだよね」
「…何が言いたいの?」
そう付け込まれた。
やはり少し遠回り過ぎたか?
遠回りにいう必要は無いじゃないか。何に怯えているのだろう…。
結論から言わなければ…。
「あのさ、外にでてみない…?」
「…?」
「夜の外にさ。人だってあんまりいないし…」
「…無理」
静かにそう一言返してきた。
私はなぜかその言葉に安心感を抱いてしまっていた。
私の中で彼女のイメージを作ってしまっていて、そう簡単に外には出てほしくは無かったというのが心のどこかにあったのだ。
だけど、何かを起こさなければいけないのには変わりない。
ここで引き下がるわけには行かないんだ。
「ご、ごっちん…」
「…行かないから」
「…」
「ねぇ、石川さんは何でそんなことを言う…?」
「えっと…外に出てほしいから…」
「…なんで?」
「ぅんと…」
「…」
「あのね、少しでも…あなたに関わっていたいっていうのが本音なのかもしれない…」
本音だった。まぎれも無い、私自身の気持ちだった。
「…あなたに観照される筋合いはない…」
「そ、そうだよね…」
「…」
「ごめんなさい…」
私はそれ以上言葉を失ってしまった。
何かを否定された気がした。
しばらく黙っていると彼女のほうから口を開き始めた。
- 243 名前:Liar 投稿日:2006/05/31(水) 00:47
- すみません…
最近随分更新がご無沙汰気味で…。
言い訳はしません。ただ、放置はしません。
じっくりマッタリ、いい作品を作っていきますんで、ご理解を…。
第23章はまだ続きがあります。近いうちに更新します。
それでは失礼しました。
- 244 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 19:51
- 再開されてホッとしています。w
序文からこの物語の最後が気になって仕方がないので
なんとか最後まで、ゆっくりペースでも結構なんで
頑張って書き上げて欲しいと願っています。
- 245 名前:第23章 投稿日:2006/06/04(日) 13:05
- 「石川さんってずっと暇なの…?」
「う、うん」
「…そう」
「何で?」
「いっつももここにいるじゃん…」
「そういえば…そうかもね」
「…」
なんでこんな事を聞いてきたのかよく分からなかったが、彼女がここから出る方法を必死に考える事のほうが先決だ。
「あ、あのね、公園じゃなくてもいいんだよ?どこか行きたい所とかない…?」
「…無い」
「私の家は…」
「…家?」
「うん。私の家は701号室なの。知ってた?」
「…え?」
「だからごっちんの家の目の前の部屋なんだ…」
「…石川ってその石川だったんだ」
「う、うん…」
しばらく彼女は俯き、ゆっくりと私のほうを見てこう尋ねてきた。
「ねぇ、石川さん…」
「何?」
「家はその人を表すってよく言う…アタシの家はどんな風…?」
「え…?」
「…この暗闇をどう感じている?」
「…えっと…」
彼女の目が悲しみと苦しみを帯びた。
これは私に対して言っている質問ではなく、きっと自分自身に言っているのだ。
そしてその質問の答えもきっと知っている。だからこそ私に聞いているんだ。
それに答えてあげていいのか分からない。
もし、彼女自身の答えと違っていたらさらに混乱することになる。
どうすれば…?
「私に答える資格は無いと思う…どんな答えを出しても、きっとあなたは違うと思うはず。私には答えが無い。答える意味も無い…と思うんだ」
「…」
「ご、ごめんなさい…」
「石川さんって…案外頭いいんだ…。美貴と似てる」
「…え?」
「あたしは…自分の答えを持っている。それをどう感じようと石川さんの勝手だから」
「…」
そう言った彼女は私の目を見つめた。
動けなくなる。変な緊張感が漂っている。
「ごっちん…」
「…」
「…私の家に来ない?」
「…」
「さっき、ごっちんが言った通りだと思う。家はその人を表すものだと思う。というか、なんとなく似るものなんだと思う。ごっちんの家に始めてきた時、私はイメージ通りだった。
それは自分じゃ分からない。私も自分の家の事はよく分からない。答えを求めているのなら私の家に来てみたらいいんじゃないかなって思うよ…。単に家に来てほしいって私が思ってるだけなんだけどね」
「…」
「ごめん。うまく言えないな…」
改めて見返した彼女。
とても綺麗な瞳をしているのに深く色々な感情が入り混じっていた。
今、何を感じ、何を思い、何をしたいって思っているのか…。
ごっちんは外に行くことを拒否した。
だけどまだ私の家に来ることを拒否したわけではない。その小さな望みに懸けていた。
彼女は小さなため息をついた。
「…それで何か変わるの?」
「…行く価値はあると思うよ…」
「…」
「無理時はしない。来たくなければ来なくてもいいの」
「…行く…から」
彼女は軽く返事をした。
- 246 名前:第23章 投稿日:2006/06/04(日) 15:09
- 来ることを望んではいたがまさか本当に来てくれるとは思ってもみなかったので胸が躍るような気持ちでいっぱいだった。
きっとこの時の私は嬉しさが心のそこから滲み出ていたんだろうな…彼女とは裏腹に。
「…何時行っていいの?」
「私はいつでもいいよ?」
「…今日は?」
「…え?う、うん。もちろんいいよ!」
私はできるだけ急いで返事をした。
彼女が準備をするのを待つことにする。
準備といっても、そこらへんの女子高生が街に出かけるように、化粧をしたり、服を選んだりはしない。
そんなことをする意味すらないのだろう。それでも良かった。
たとえ、私の家に来るのに胸を膨らませて何かを選んだりしなくてもいい、来てくれる事実さえはっきりしているんだから。
彼女は自分の部屋から薬を持ってきた。
それを服のポケットに入れ込んだ。そして私を見た。
「あ、いこっか…」
「…」
さっきまであんだけ言葉を交わしていたのに今は一言も交わさない。
彼女はゆっくりと玄関まで行き、腰を下ろして靴を履いた。
彼女の靴は黒いスニーカー。
そして私の靴はちょうど白いスニーカーだった。
なんという対照的な靴だろう…。思わず、笑みすらもこぼれてしまうほどそれが滑稽だった。
彼女の家を出て、マンションの廊下に出たとき、外はすでに真っ暗で、電気すらも点いていないこの廊下に不気味さが漂っていた。
正確な時間帯は午後8時前くらいだったと思う。
彼女はなぜか私の行動を凝視してきたので緊張感が終始あった。
彼女と私は家の前まで来た。
私は鍵に手を懸けてドアノブに差し込んだ。
― ガチャッ…
ドアが開いた。そして私は玄関の電気をつけた。
私が先に靴を脱ぎ、中に入っていく。
彼女はゆっくりの私の家を見渡しながら私のあとについてきた。
そしてやっと重い口を開いた。
「…へぇ」
「…私の部屋、どうかな…」
「…ピンクばっか」
「…いいじゃない。ピンクが好きなの。ごっちんだって黒が好きでしょ?」
「…なんで?」
「え?あぁ、だって服とか部屋とか黒っぽいものばっかりじゃない…」
私はそう言いながら彼女をリビングルームまで案内した。
彼女は何かに戸惑いながらもゆっくりと答えていた。
そんな彼女をソファーに座らせ、私は冷蔵庫に飲み物をとりに行った。
「…」
「自覚ないの?何の色が好きとか…」
「…好きってわけじゃない」
「え?何?」
ボソッとつぶやいたのが聞こえた。
ペットボトルを取り出し、中身のお茶をグラスについで彼女の元に戻った。
「何か行った?」
「…好きとかじゃないんだと思う」
「何が?」
「…色のついたものを持つ資格が無いから…」
「…え?どう、どういう意味?」
「…なんでもない」
「えぇ?…そ、そう…ならいいんだ」
なぜかここは突っ込んで聞いてはいけない気がしたのであえて聞かないことにした。
手に持っていたグラスを片方彼女の座っているソファーの前におく。
そして、もう片方のグラスを手に私は彼女に話しかけた。
「あのさ…お腹減ってない?」
「別に…」
「こう見えても料理好きなんだ。得意なんだよ?」
「…いらない」
- 247 名前:第23章 投稿日:2006/06/07(水) 14:30
- 「ううん。駄目。食べよ?」
「いらない…」
「…食べて」
「…食べたくない」
「…」
「…」
「ごっちん、ちょっとテレビでも見てて。あなたがお腹減っていなくても私が減っているの」
「…」
そう言ってリモコンを渡した。
彼女はそれをしばらく見つめた後、電源を入れた。NHKのニュース番組を見ることにしたらしい。
私はそれを確認し、キッチンへと移動する。
そして一番奥に置いてある大き目の冷蔵庫の扉を開いた。
中には玉ネギ、ひき肉、にんじん、それと卵がいくつか入っていて他に使えそうなのは調味料ぐらいのものだった。
炊飯器も一応除いてみた。こちらは大丈夫だ。
「よっし…オムライスでも作ろうかな」
彼女には暖かいものを食べさせてあげたい。
ちゃんとご飯の温かさと優しさを伝えてあげたい。
普段は一人分しか作らないのでもっと簡単にチャーハンなどで済ましてしまうのだが今日に限ってそんなことはできない。
おいしいって言ってほしい。無謀かもしれないけど、全部美味しく平らげて欲しい。
そんなことを考えながら丹念に作り上げる。
玉ネギをみじん切りにして、フライパンに油をひいてお肉をいためる。
いため終わったら玉ネギを入れて狐色になるまでいためて…そこでご飯を2膳ばかし入れる。
このときにバターを一緒に加えていためると香りが良くなるんだ…そしてケチャップを入れて味を調えて中身は完成…。
フワフワなオムライスを作りたい。優しいお母さんの味の…。
オムライスにはちょっとした思い出がある。
私が小さい頃はよく泣く女の子だった。
そんな時、お母さんは必ずこのオムライスを作ってくれた。
慰めもせずにオムライスを作ってくれた…。
それを食べたらいつも泣き止んでいた。
中学のとき、テニスの試合に負けたときも夜ご飯はいつもオムライスだった。
いつまでも子ども扱いしている母親にも感じたけど食べると不思議に悔しい気持ちが頑張れる気持ちへと変わっていった。
そんな不思議なオムライス…。
私には作れない不思議なオムライス…。
いつもより多めの卵でフライパンに流し込む。
流し込んだら軽くかき混ぜて空気を入れる。そうするとフワフワになるんだ…。
半熟の状態でお皿の上に盛ったご飯の上に卵を乗せる。
崩れないように慎重に…。
そしてケチャップでデコレーション。
2つともうまくできた。ここまでうまくできたのは初めてかもしれない。
その2つのお皿を持って彼女が座っているソファーの前の机の上に並べた。
「できたよ。食べようか…」
「…いらない」
「美味しいよ?お腹減ってるでしょ?」
「…」
「大丈夫。食事には何も害は無いから」
「…」
「こんなに美味しそうなのに…」
私は先に彼女に食べて見せた。
そして飛び切り美味しい顔をした。
動物の赤ちゃんは親の行動を真似するらしい。
親が食べたものを見てそれを真似するらしい。
そうやって物事を覚えていく…。
彼女がけして赤ん坊では無いにしてもこれにはきっと意味があるのだと思った。
私の顔を見た彼女は少し戸惑った顔をした。
そのうちゆっくりと自分の目の前にあるオムライスに手をつけた。
そして口に運んだ。
「…おいしい…」
「でしょ?お母さんの味なんだ。だから、美味しいんだよ」
「…」
彼女の顔が強張った。
その理由はこの時は分からなかった。
このオムライスは本当に美味しい。お母さんの味にそっくりだ。
今まで何度も作ってきたけどこんな味にはならなかった。
何故なのか分からないままだった…だけどやっと分かった気がする。
味の秘密が。
そう…愛情なのだ。
愛情という美味しさなのだ。
信じられないかもしれないが、愛情によって確かに味は変わるんだと思う。
というか、食べる人間側の味覚が変わるんだ…。
一生懸命作ってくれた味が伝わればその気持ちは必ず伝わる。
それが本当の美味しさなんだ…。
彼女にもきっと伝わった…。それが嬉しくてしょうがない…。
だが、そのほほえましい雰囲気は一瞬にして奪われてしまった。
彼女の顔に気がつかなかった私が悪かった…。
- 248 名前:第23章 投稿日:2006/06/07(水) 15:11
- 彼女の顔が強張ったままだった。
その動きは一瞬で、写真で連写している様な細切れな断片でしかなかったんだ。
ただ、眼だけが何かを訴えていた。
いや、そう思うのは私だけかもしれない。
実際は何も映されていなかった。
彼女は一口しか食べていないオムライスを皿ごと持ち上げてキッチンまで行き、流し場の前で止まった。
「ご、ごっちん…?どうしたの?」
私は何をするのかも分からず彼女の後を追った。
手にはまだオムライスを持っている。
「ねぇ、ごっちん…?」
私のほうをゆっくりと見つめてきた彼女。
あなたは何を考えていたの…?
私が見ているのを確認したのかどうか分からない。
彼女が私を見つめた理由がそうだと思った。
私にはそう見えた。
彼女はゆっくりと皿ごと持ち上げた。
頭の高さまで持ち上げた…。
な、何をするんだろう…。
ガシャンッッ……!!!
次の瞬間には流し台に粉々になっている白い皿と、まだ暖かかったオムライスがぐちゃぐちゃになっていた。
理由なんて分からない。
彼女の目には何も映っていなかったから。
何が起こったのか、彼女はいったい何をしたのか…。
彼女の顔からは何一つ分かることなんてなかった。
私たちは無言になる。
ならざるおえなかった。
私に見えているのは彼女の無表情な顔、聞こえているのはつけっぱなしのテレビのニュースだけだった。
「ごっちん…?何をしているの…?」
私自身、何を言っているのかも分からない。
彼女は何も答えない。私の瞳をただ見つめている。
「ねぇ、ごっちん…?何をしたの?」
だんだんとはっきりしてくる記憶。
彼女は私の作ったオムライスを流し台に捨てた。
そんな事実が私に突きつけられた。
私は以上に興奮していた。
どういう意味か分からない。
「ねぇ、答えてよ…何をしたの…?」
「…」
「何をしたの…?」
「…」
怒る気力すら出てこない。
悲しむ力さえ出てこない。
ただ、わからない事だらけだ。
理由が知りたかった。理由が分かりたかった。
「ごっちん…ねぇ、答えてよ…!何でこんなことをしたの…?捨てなくてもよかったじゃない…!」
彼女のことを思って作った。
彼女のために頑張った。
そんな自分を汚された気がした。
- 249 名前:第23章 投稿日:2006/06/07(水) 15:46
- 彼女の目は以前として暗かった。
彼女は私から目をそらさない。私もそらさない。
軽く睨みつける形になっている。
「私は…怒ってない…理由が知りたいの…なんでこんなことをしたのか…理由を…」
「…」
どのくらい時間がたっただろう。
しばらくして彼女は目をそらした。そしてやっと口を開いた。
「…いらなかったから」
「…なんで?」
「…言ったじゃん。食べたくないって」
「…なんで…」
「アタシに食べる意味もなかった…」
穿き捨てるように呟いた。
「…嘘…つかないでよ…」
「…嘘じゃない」
「嘘だよ。じゃあ、何故最初食べようとしたの?」
「…」
「なんで美味しいって口にしたの?」
「…」
「嘘をつかないで…」
「…」
「私、何かした?いけないことでもした…?」
「…」
「ごっちん…」
「思い出したくないこと思い出した…それだけ」
「…ごめん…私のせいだよね…何を思い出したの…?」
「…」
「何故、オムライスを捨てるときに私に見せるように捨てたの…?」
「…何故話さなきゃならないの?」
「…ごめんなさい…」
私たちは再び無言になった。
その時テレビのニュースキャスターが興奮気味で速報を伝えているのが耳に入ってきた。
『速報です!ただいま入ってきたニュースですが、先日、○○県××市で村田拓馬さん(47)とその妻、村田藤子さん(45)が殺された事件で
その息子の村田一郎容疑者(21)を殺人の疑いで逮捕しました。
この事件は今月の2日に起きた事件で自宅にいた父親と母親を村田一郎容疑者が夜中に包丁で刺し、逃亡しました。
2人とも出血多量で死亡、その次の日から2日ほど会社に出勤しないのを不振に思い、警察に通報したところで2人が死亡しているのが発見されました。
警察は殺人と見て犯人の行方を捜していたところ、何人かの目撃証言から犯人を割り出し、今日の午後8時ごろに逮捕しました。
一郎容疑者は容疑を認めているようで、現在警察で取り調べに応じているもようです。
犯人の動機は親が自分に振るっていた暴力とみられていて…』
- 250 名前:Liar 投稿日:2006/06/07(水) 16:12
- 》146様
本当にいつもありがとうございます…。
続けて読んでもらえるなんてこんな嬉しいことはありません。
更新がまちまちでいっつも『早くしろよ…』って思われているのも
承知しております。暖かい言葉をありがとうございます。
いつも、励みにしてますんで!
これからも頑張っていこうと思います。
- 251 名前:Liar 投稿日:2006/06/07(水) 16:14
- 》236、241、244 名無飼育さん様
いつもありがとうございます。
こんな作者でいつも申し訳ありません。これからも頑張っていきますので
よろしくお願いします。
- 252 名前:Liar 投稿日:2006/06/07(水) 16:18
- はい…第23章はまだ続きがあるんですがひとまず終了です。
いっつも更新があやふやですみません。更新速度も早くしないと…。
まだまだ長い小説になりそうです。話の内容的には3倍近くなりそうです。
マッタリとお付き合いください…。
- 253 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/09(金) 19:30
- 少しごっちんのキズが垣間見えましたね。
気長に楽しませて頂きます。頑張って下さい。
- 254 名前:第23章 投稿日:2006/06/24(土) 15:32
- 一見どこにでもあるような速報ニュース。
最近の世の中はこんなことがありふれている。
近年、子供が起こす犯罪が激増している。
それは、この進化しすぎた現代社会の現われだとも言えるだろう。
21歳という若さで起こした犯罪だってほんのまだ子供が起こした犯罪だ。
何も知らない子供が感情のままに行動した結果がこれだ。
感情すらも抑えることができなかったこの容疑者はまだまだ大人になりきれなかった少年なんだ…。
今は目の前にいる彼女との問題が頭から遠ざかっていっている。
というよりも、あまり考えたくは無い。
彼女が今起こした行動に理由なんて聞いても意味が無いような気がしていた。
彼女もまた、感情に左右されてしまっただけの事だから。
だから、こんな偏屈なニュースにも少しばかり色々と考えてしまっているんだ。
もう、別にいい…。
たかがオムライス。
私が怒るほどの問題ではない。
あまりに急接近しようとしすぎた私が悪かった。
わたしも感情に左右されている証拠だ。
だから、彼女のことも許してあげないと…。
そんなことを考えていた。
少しばかり前にテレビの方向へ向けていた自分の顔を彼女の方向へと再び戻す…彼女は私をその間も見据えていただろう…そう思っていた。
でも、彼女の様子はちがっていた。
彼女は深い眼差しでテレビを見つめていた。
そして、まるで私なんか居ないかのようにテレビの方へと近づいていく。
何かに引き寄せられるように。
そして、そのニュースが終わるとテレビを消した。
「…ねぇ…どう思う?この事件について…」
この沈黙を割ったのは彼女のほうだった。
「…え?」
「…どうおもった?何を感じた?」
彼女の不思議な質問。何を考えているのかわからない。
さっきの事はもう彼女の頭の中には無いんだ…。
でも、彼女が聞きたいんなら答えてあげなければならない気がする。
彼女だって、何も知らない子供だから…。
私の感じた事をしっかりと伝えてあげることにした。
「…なんで、今まで育ててくれた親を自分の手で殺す必要があるのか理解に苦しむ…。
ましてや、21歳にもなって自分の感情すらも抑えられないなんてっておもった…」
「…」
「…この容疑者だってここまで育ててもらった立場なのに何故こういう事をするのかな…」
「…」
「…我慢しなければならないときだってあるじゃない…たった1度しかない命をなぜ他人に殺められる必要があるのかな…。
殺された夫婦にも幸せがあったのに」
「…」
「私は、どんなことがあっても人の命を脅かす行為はよくないと思う。それが今私が感じたこと…」
「…」
これは本当に本音なのだろうか。一般論に過ぎないような気がする。
前の私なら、絶対こうは答えないと思う。
少年の立場をきっと肯定する立場でいただろう。
でも、この時はなぜかこの一般論が正しいと確信していた。
- 255 名前:第23章 投稿日:2006/06/24(土) 17:32
- 「…あんたさ、それが正しいと思ってるの…?」
「…え?」
「…それが真実だと思ってるの?」
「…ごっちん?」
「…この容疑者が、20年間も暴力に我慢してたかもしれないとかって考えた事無いの…?」
「…そ、それは…」
「あんたは、幸せな人生を辿ってきたかもしれない。でも、この人は違った…」
「…」
「自分が言ってる事が正しいって思ってんの…?」
「そんなこと…」
「もしかしたら、この人は犬のように扱われてきたかもしれない…。
1番信用していた人から暴力を受けてきたのかもしれない…」
「…」
「毎日死ぬ思いで生きてきたのかもしれない…。
あんたは何か知っているの…?こういう人の気持ちが」
「…ごっちん?ど、どうしたの…?」
「親の顔色を伺いながら生きてきたかもしれない…そんな人が現実にいるのにそういう風に言えるの…?」
「…私は…たんにそう思っただけだよ…」
「食わせるだけ食わせといて、自分の都合が悪いときに暴力を振るう…それで育てたって言えるの…?」
「…でも…!そこには愛情があったかもしれない…」
「本当にそう思ってるの?そんな親に最後まで信じていた子供はどうなる?いつかはこういう結果になるんじゃないの…?」
「全てが全て、そういう風な親なわけじゃない…。私の出した答えは一般論だよ…あなたはそう思わないの?」
「…現代の子供は気が狂っているってテレビで散々子供を否定している学者の言う一般論が正しいの?アタシはそう思わない…」
いつの間にか討論のような形になっていた。
彼女は私の目をけして見ようとはしない。
そして普段ではけして見せようとしない一面を見せている。
こんなに話している姿を始めてみた。
あなたは…いったいどうしたの?
- 256 名前:第23章 投稿日:2006/06/24(土) 17:59
- 「…私はそうは思わない。どんなときでも一度は愛したときがあったはず。
どんな人にでも愛される資格はあるんだよ?」
「…居場所が無いのに必死で頑張っいる子供もいる。精神を脅かす存在がいるなら…そいつはイラナイヤツ…」
「…違うよ!!どんな人にも死んだら悲しむ人がいる。
イラナイヤツなんて一人もいない!なんでそうやって思うの?…ねぇ、何があったの?」
「…子供は自分が悪くなくても何かあったらすべて自分のせいだと感じる。
それがたとえ殺しであっても…綺麗ごとばかり言ってられる世の中じゃない…」
「ねぇ、なにがあったの??ごっちん!…どうしたの?」
「…イラナイヤツばかりの世の中で、イラナイヤツを殺して何が悪い!!」
彼女は一変した。
荒れ狂うように叫び始めた。
何かに向かって悲痛な叫びを上げていた。
彼女の声が響き渡る。
でも、彼女はけして泣いていない。
あの眼のままで、あの悲しい眼のままで声を上げているだけ。
何があったの…?
ねぇ、あなたには何があったの…?
「イラナイヤツがいるとイルヤツがいなくなる。なら、削除しなきゃいけない!それは、間違っていないじゃない!!」
「ごっちん!!違う…違うよ!…何があったの…あなたは何にそんなに怯えている…?」
「大人なんて誰も助けてくれない。助けてくれる振りをして、実際何もしない。
助けた振りをして自分に酔っているだけ。そんなヤツはイラナイ…アタシは間違っていない…」
「…」
「…そんな奴らがいるから子供は非行に走る。自殺する。人を殺す…。
そんな子供を作ったのは大人なのに、何故が子供を否定する…?」
「…」
「なぜ、信じていた親までが子供を裏切る…?」
「…」
私は何も答えてあげることができなかった。
彼女の質問に答えがあるとは思えなかった。
私よりも少し背丈が大きい彼女なのに、彼女は私よりも小さく子供だった。
彼女は私に何も質問していない。
世の中全てに対してぶつけている。
そして自分にも…。
時間が流れている…。
空気が体に触れている…。
普通のことが全て居心地が悪かった。心が痛かった。
- 257 名前:第23章 投稿日:2006/06/24(土) 18:28
- 「…許される悪が許されなくなっている…。
ちゃんとした理由を聞きもせずに何故大人と同じ罰をくらっている?アタシには…理解できない…」
「…」
「なぜ、人間が人間に罰を与えるの?犠牲者のほとんどは子供ばかりなのに…!」
「…」
「だから、アタシは逃げることは悪い事だとは思わない…。
自殺だって一つの逃げ道だ…。死んだら終わりって言うけれど、死ぬまでが地獄だったんだから終わりじゃない…」
『…ねぇ、どうして…』
私は心の中で一人叫ぶ。
彼女は私にお構いなしに坦々と言葉を並べる。
「だから、人を殺すのも悪いことじゃない…!
自分を散々痛めつけてきた相手にならそれは他人には悪だけど自分には正義だ…」
『…どうしてそんなに貴方は苦しんでいるの…?』
私は一人で質問する…。答えてくれない質問を…心の中で締め付ける。
「…助けてって頼んだら助けてくれた?…なんで嘘をついていた…?」
「…ごっちん…」
彼女はうなだれる。
苦しみを吐き出す。
でも、私は傍によって慰めることができなかった。
慰める言葉が見つからなかった。
見つかったとしても、それが彼女の胸に届くとは思えなかった…。
どうして苦しんでいるの?
どうしてそんな道を歩んできたの?
どうして貴方はここに存在しているの?
誰に…傷つけられて生きてきたの?
貴方の…全てが…知りたかった…。
私の知らないところで傷ついている過去に嫉妬した…。
それほどにまで彼女に欲していた。
- 258 名前:第23章 投稿日:2006/06/24(土) 18:48
- 「苦しみを受けるなら、私はこの世の中にいないほうが良かった…そこまでして生きるのを望んだわけじゃなかった…」
「…貴方は生きるべき人間だよ…!そういう風に…思わないで…」
「あんたに何が分かる…。アタシは、いてはいけない人間だったのに…ここまで成長してしまった。
もっと幼い時に命を絶っていたらこんな事にはならなかった…」
「貴方は必要な人間だよ…現に私が必要としている…!」
「あんたは私に興味を持っただけ…私がこんな風に生きているのに興味を持っただけ…」
「ちがうよ!!貴方と私は運命だった…」
「…運命?なら、私が苦しみを受けているのも運命なの…?」
「…ち、ちがう…何があったか知らないけど、貴方は悪くない…」
「癒える事の無い傷と、痛みを背負ったまま生きることを望むほどアタシは強くない…!!」
「…ごっちん…」
ねぇ…本当に何があったの?
誰でもいいから…誰か教えて…。
その暗さの奥にある本当の貴方を…。
- 259 名前:第23章 投稿日:2006/06/24(土) 18:49
-
- 260 名前:モノローグ 投稿日:2006/06/24(土) 19:12
- 『痛み』
あんなにも心に誓っていたのに彼女を傷つけてしまった。
なのに、話した事の喜びのほうが大きくて気づかなかった。
貴方の質問には何一つとして応える事ができなくてごめんね。
貴方が始めて見せた弱さであり、その相手が私であったのにもかかわらずにね…。
この頃の私は貴方のことを包み込めるほど器は大きくなかった。
今だってそう。
どんな人だって貴方は満足なんてしない。
このときの私は何をしてあげれた?
弱いって思った。貴方のことを。
でも、大きな間違いだった。
貴方はどんな人よりも強かったよね。
この時どうすればよかったのかっていつも後悔しているんだよ。
ただ、だまって温もりを与えて入ればよかった?
何も分からないんだ。
私の感情を全て捨てて貴方のためだけに捧げてあげればよかったね。
私は貴方が欲しかった。
どうしても手に入れたかった。
独り占めしたかった。
いまでも、この胸に貴方の姿を願わない日は無いんだよ。
何度でも何度でも心で呼んだりもしているんだよ。
貴方が過去に受けた傷口は深すぎたんだね。
私では埋められなかった。
そして貴方の犯した過ちもまた、深すぎて埋められなかった。
苦しくても悲しくても貴方がいればよかった。
こんな私の元にいてくれればよかったのに…。
なんて贅沢なんだろう…。
だから、私はこんな痛みを受けたんだ。
神様からの仕打ちなんだね…。
でもね、神様。
あまりにも痛すぎる仕打ちだよ…。
私には、耐えることができません…。
- 261 名前:モノローグ 投稿日:2006/06/24(土) 19:12
-
- 262 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/02(日) 16:31
- 近付いたと思ったらスレ違い…
二人は一体どうなっていくんでしょう?
続き楽しみにしてます。頑張って。
- 263 名前:第23章 投稿日:2006/07/02(日) 22:08
- 彼女は依然として自問自答を繰り返している。
今までの思いを全て口から吐き出すかのように、一心不乱になって自分自身に伝えようとしている。
彼女の中の疑問は私に対してのものではなかった。
応えてあげたかったけど応えられるものではけしてなかった。
そんなことは初めからわかっていた。
彼女にはもう私が映っていない。
彼女に映っているのは私の家のフローリングの床だけだ。
そんな様子をずっと見ているしかなかった。
見ていれば見ているほどに、私の中で何かがゆっくりと消えていく。
誰かに握りつぶされているような感覚に陥った。
苦しくて息ができなくなりそうだ。
今まで感じていたさまざまな疑問と共に別の神経が緩められていく。
その神経は私の目へと繋がっている物だった。
今まで必死に耐えていたものが緩められた拍子に留め止めも無く溢れてくる。
悲しみという言葉で現してよいのかどうか分からなくなるくらいその感情は極端な暗さを解き放っていた。
まるで洪水…。
溢れ出した物は私の中にあった最後の砦を破り、涙となって流れ落ちていた…。
肩が微かに震えている。
寒いわけじゃない。
彼女に起こった現実の怖さと自分の情けなさからによる物だと思う。
声も出なかった。
ただ、眼を開きながら私の眼は彼女を捉えた状態。
見るものは彼女だけ。
逸らしたいわけではないのだが、逸らす事ができない。
まるで誰も見ないかのように、誰も見えないかのように私の目は開いたままだった。
彼女の目もまた、同じだった。
私は…泣いていた…。
ただ、泣くしかなかった…。
- 264 名前:第23章 投稿日:2006/07/02(日) 22:43
- 彼女の苦しみは更に加速する。
その速さは誰にも追いつけない。
積もりに積もった何かの蓄積が崩れようとしていた。
憎しみと怒りと共に…。
「アタシは…いったい誰…?」
「…」
「だれか大丈夫だって手を握ってくれた事があった…?」
「…」
「アタシの行き着く場所ってどこ…?」
「…」
「誰に言われて行かなきゃならないの…?」
「…」
「私の名前を呼んでくれた…?」
「…」
「誰が近づこうとしてくれた…?」
「…」
「それは本当の気持ちだった…?」
「…」
「…嘘つきだらけの…ヨノナカダ…」
「…ごっちん…」
愛されることを誰よりも望んでいたのはあなただったのにね…。
貴方の過去にもっと私が早くいればよかったんだね…。
だけど…こんなあなたを私は全て受け止められる…?
『大丈夫』っていえないのが悔しいよ…ごっちん…。
「生きているから知っていく…生きているから忘れていく…生きているから傷つけられる…生きているから殺される…」
「…ねぇ、そんな事を何時から…考え始めた…?」
「いつか終わるなら始める意味なんて無い…」
「…助けてっていってよかったんだよ…貴方は誰よりも…」
「汚れているものを誰が綺麗にするの…?誰も綺麗にしようとはしない…意味が無いから
「…もう…話さなくていいんだよ…」
私は聞きたくなかった。
彼女の苦しみを聞くほど強くは無かった。
「何で…アタシはここにいるの…!」
「お願い…話さないで…もう、大丈夫だから…!」
「生きる意味は誰から学ぶの…!」
「ごっちん!…お願い…もういいんだよ…」
「…もう…何もシタクナイ…」
「…私は…聞きたくないよ…そんな言葉は…」
「なんでアタシが…?なんでこのアタシが…!!」
「キキタクナイ…!!ヤメテ…もう…いや…ごっちん…」
私の涙は止まらない。止まる様子もない。
「…アタシハ…ダレ…?」
私は耳をふさいだ。
聞きたくなかった。
彼女にも悪いと思った。
でも、聞きたくなかった。
私の心が壊れる音がした。
もたなかった。
時間切れだった。
私も気が狂いそうだった…。
- 265 名前:第23章 投稿日:2006/07/02(日) 23:32
- 彼女はその場に跪いた。
足に力が入らなくなったのだろう。
ガクッと床に落ちた。
私はその様子を見て、彼女にゆっくりと近づいた。
一歩…また一歩と…。
彼女との距離がだんだんと狭まっていく。
彼女との距離がゼロに等しくなろうとしていた。
そして私は彼女の首にゆっくりと手を回した。
「…ごっちん…私が…いるから…」
「…?」
彼女はそこで私の存在にはじめて気づいたかのようで後ろに下がろうとする。
でも、私はそれを逃がさない。
腕の力を強くして私たちの距離をゼロにした。
彼女は驚いて眼を私に合わせる。
「私が…貴方を助ける…私が必要としているのは…貴方なの…生きている意味が無いなんて言わないでよぉ…!」
「…」
「どうして…?ねぇ、どうして…私は貴方にもっと早く…出会えることができなかったのよぉ…」
「…」
「助けたいの…あなたを…逃げないで…生きることから…」
「…」
「何も分かってないかもしれない!!…でも、貴方にいなくなってしまったら困るの…いやだよ…」
「…」
「私には…必要なの…あなたの存在がぁ!!」
「…」
私のほうが息が上がっていて肩が上下していた。
「い…やだ…よぉ…いなくならないで…」
「…」
「…ヒック…ゥウッ…ヮァアアァアア!!」
「…」
「…ウゥワァアア…!ヒック…ック…」
彼女の呼吸が嫌に寂しげで泣かずにはいられなかった。
彼女の肩に顔をつけて声を上げて泣いた。
彼女の服が涙で濡れていく…。
彼女の寂しさを分かってあげるための行動だったのに私のほうが大声で泣いてしまった。
彼女の髪に手を絡ませて握り締める。
痛すぎるほど強く強く抱きしめた。
でも、彼女は抱きしめ返してはこなかった。
私は彼女の顔は見ていなかったけど、きっと不思議がっていたんだと思う。
私のこの行動に。
あなたは何も考えてはいなかったんだと思う。
他の人なら『同情』『嬉しさ』『悲しみ』など様々な感情で私を捉えるだろうが、
彼女は何も考えてはいなかったんだ…。
きっとそんな気がする。
そんな身勝手な行動に私はでたのに、あなたは抵抗はしてこなかった。
現実だけを見据えていた…。
- 266 名前:第23章 投稿日:2006/07/02(日) 23:34
-
- 267 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/09(日) 13:50
- 何も語らなくなったごっちんは感情をあらわにする
梨華ちゃんを見て何を思うんだろう…。
- 268 名前:第23章 投稿日:2006/07/09(日) 22:46
- …気付いた時には彼女はアタシの胸で泣いていた。
あまりにも激しく…そして美しく。
何故泣いているのか分からなかった。
抱きしめられたとき、昔の記憶から拒否反応で振り払おうとした。
だけど、意外なほど強い力で振り切れなかった。
そのうちアタシも抵抗するのをやめた。
このままでもいいと思った。
アタシは…いったいどうしてしまったんだろう。
こんなに話したのは初めてかもしれない。
理由はわからない。
でも、きっかけは彼女の作ったオムライスだった。
彼女が口にした、『母親の味』というものに自分でも異常に反応していた。
そこから先は自分の理性ではなかった。
まるで、心の中から眼というテレビ画面を観ているような感覚だった。
次から次へと生まれる疑問に何か答えはあったのだろうか?
答えなど最初からない。
アタシが3年間もの間見つけようとしてきたが見つからなかった疑問に答えなどあるはずがなかった。
いや、正確には2年間か…。
1年間ぐらいは考えようともしなかった。
考える意味すらも、もう無かった。
なのに今になって蒸し返えされた記憶…。
正気で入られなかった。
本当に…どうなってしまっていたんだろうか…。
どうなるのか…。
彼女はいったいダレなのか…。
何故あんなにも泣いていたのだろうか…。
あんな身勝手な彼女の行動になぜ気を許したのだろうか…。
アタシには感情でこれを表現できたのだろうか…。
何もかもが疑問だった。
ただ…分かることは…。
アタシはおかしくなっている…前よりも確実に…しかも彼女のせいで。
- 269 名前:第23章 投稿日:2006/07/09(日) 22:46
-
- 270 名前:第23章 投稿日:2006/07/09(日) 23:27
- 何時までそうしていただろうか…。
彼女が私の腕の中にある…そんな嬉しい事実が今は少し意味が違う。
後ろに回している手に彼女の短い髪の毛が触れている。
意外と柔らかな彼女の髪…。
いったい何処のシャンプー使っているのかな…。
彼女が付けている香水の匂いがうっすらと首元からする。
ただ、泣いた後なのでさすがにそれが男物なのか、女物なのか、何のブランドなのかは分からない。
香水には少しばかり自身があるのに…っと心の中で呟いた。
なぜかこの状況のことを考える余裕がなかった。
考えてしまったらあれやこれやと色々な事を考えてしまってパニックになるのはみえみえだから…。
私はずっとこのまま抱きしめているつもりだった。
彼女の寂しさをこんな程度で埋められるとは思っていなかったけど何かしていたかった。
私自身、さっきよりも落ち着いている。
もう、涙は出ていない。
さすがに泣きつかれた。
私は彼女の胸で少しばかり安心していた。
泣いているときの興奮状態はだんだんと薄らいできた。
その代わりに今の状況に安心さと興奮さが芽生えてきた。
かりにも、腕の中にいる人物は最近私が見るだけで胸が痛くなってしまうほど欲している相手で、抱きしめている腕に鳥肌が立ってきているのも事実。
これ以上の何かをしたいと望んでいるわけではないけれど、彼女の中に入ってしまいたいという意味の分からない衝動に襲われていた。
簡単に言えば今の状況よりも更に彼女に近づきたいと思っていた。
でも、私にはそんな勇気が無くて…もどかしさと共に腕の力も強めることがすらできなかった。
何かをして今の状況を奪われたくなかったからこれでいいと思っていた。
手に汗をかいている…。
しばらくすると彼女の体重が徐々に私に傾いてきた。
いきなりのことでわけも分からず心臓がいきなり早鐘のように鳴り始める。
「えっ…えっ!」
「…」
最終的には私が彼女を支えている状態になった。
ど、どういうこと…?
顔を真っ赤にしながらおもわず彼女の顔を覗き込んだ。
…彼女は…寝ていた…。
「…なぁんだ…そういうオチですか…ごっちん…」
とポツリ独り言までぼやいてしまう。
「ごっちん…ごっちん!起きて!」
起こさなければベットで寝てもらえない。
こんな所で寝たら風邪を引く…そう思って彼女を起こそうとする。
この時は、彼女が起きてしまったら微妙に気まずい雰囲気になることだろうという事はまったく頭に無かったが…。
「…しょうがないなぁ…」
彼女はおきなかった。
無理に起こしてしまうのも気が引けたので、近くのソファーに寝てもらうことにした。
寝ている彼女の脇に手を回し、持ち上げた。
きっと重くて持ち上がんないのではと思っていたけれど、そんなことは無くいとも簡単に移動が完了した。
それほどにまで彼女は痩せ衰えていたから…。
私は彼女の横になっているソファーの端っこに腰をかけて寝ることにした。
「…ごっちん…」
寝ている彼女の名前を呼ぶ。
そして彼女の手を私のほうから握った。指と指を絡めた…。
同じ夢が見れますようにと…願いをこめながら…。
- 271 名前:第23章 投稿日:2006/07/09(日) 23:28
-
- 272 名前:第23章 投稿日:2006/07/25(火) 20:38
- 気付いたときは私は夢の中にいた。
そう、あの不思議な夢の世界に。
もう、3回目くらいだろうか…。
得に見ようと意識しているわけでもないのだが毎回、前の夢の続きになっている。
夢の中なのだから私の思うように進めない。
ただ、テレビでも見るような感覚で客観的な状態になるのだ。
夢の中の私は意味の分からない行動をとっていた。
― あの黒い扉に入り、佇んでいる私。
目の前には黒い物体があり、煙でそれを隠している。
しばらく見つめていると徐々にその煙が消えていった…。
そこにあったのはガラスのような壊れやすそうな塊だった。
触ったら壊れてしまいそうで、だけどとても触りたくなった。
ゆっくりとそれに手を伸ばす。
ためらいもあるが震えながらもゆっくりと触れた…。
…ガシャンッ…
小さな音を立てて消えた。
それだけだった。
私はもっと何かを期待していた。
何かが起こる…そう考えていたのに。
ただ、割れただけだった。
その破片は静かに足元に落ちていき、消えた。
ただ、それだけのことだったのに意味も分からない恐怖が私を襲った。
…ドックン…ドックン…
心臓が高鳴り始める。
いったい、何を意味しているのだろうか…。
- 273 名前:第23章 投稿日:2006/07/25(火) 20:39
-
- 274 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 00:11
- 何時まで眠っていたのだろう…。
カーテンの隙間から垣間見える太陽の光がぼやけて視界に入った。
ソファーにもたれかかって寝ていたせいか、首が痛い。
私は首を個きっと鳴らせる。
時計の針は既に午後2時をまわっていた。
目の前のソファーで寝ている彼女はまるで死んでいるように、ピクリとも動かない。
体を少し丸めて横たわっている。
昨日の出来事が断片的に頭に残っている。
夢のような出来事だった気がするのだが間違いない現実だった。
だが、今目の前にいる彼女の顔を見る限り、やはり夢だったのではと思わずにいられない。
これが、彼女の本当の姿…?
まるで子供のような可愛い顔で眠るあなた。
いつも私を捉えているあの眼が今は閉ざされているからこう感じるのかも知れない…。
私はしばらくの間、そこから眼を離せずにいた。
― グ〜…
拍子をつかれたかのように私のお腹が鳴った。
思わず赤面してしまう。
「き、聞かれた…?」
「…」
彼女は已然として寝ているまま。
ホッと胸をなでおろす。
そういえば、12時間以上も眠っていたし昨日のオムライスはあまり食べていなかった。
どうりでお腹がすく訳だ。
ゆっくりと思い体を立たせる。
テーブルの上には私が昨日食べ残したオムライスが乗っかっていた。
胸が詰まる…。
「…」
言葉を失ってしまった。
私はそのお皿を持ち上げ台所に行き、それを残飯入れに捨てた。
台所の流しには昨日彼女が割った皿とオムライスとがまるで1つの固まりかのようになって、
未だに残っていた。
私は無言でそれを片付けた。
「…」
あんなに泣いたのは何年ぶりか…。
ましてや声を上げて泣くなんて。
私はしばらくそこに佇んでいる他なかった。
- 275 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 00:47
- 「…ん〜…」
「…?」
ふと間延びした声が聞こえた。
思わずリビングを見てみると、彼女が上半身を起こして眼をこすっていた。
「ぁ…お、おきたんだ…」
「…」
「おはよう…ごっちん…」
「…ん」
「顔洗ってきなよ。朝ごはんにパン用意しておくから。場所分かるよね?」
「…ん」
ゆっくりと彼女は立ち上がり洗面所に向かっていった。
不自然に声が上ずってしまった。
変に取られたくない。
眉間に思わず皺がよる。
一瞬手が止まったが、かまわず朝ごはんの準備に取り掛かかった。
食パンをトースターに2枚セットし、その簡に牛乳とジャムとマーガリンを取り出した。
「…ぁ…」
「…」
顔を洗い終わった彼女とバッチリ目が合ってしまった。
しばし2人は硬直する…。
先に目をそらしたのはごっちんの方だった。
そしてさっさとトースターパンを取り出して1人で食べ始めてしまった。
私もあわてて席につき、向かい合って食事を共にした。
何か話すきっかけが作れずにいる。
恥ずかしいのと昨日の事があったからだ。
結局何も話せないまま食事は終わった。
食事を済ませた私たちは2人でテレビを眺めた。
別にソファーに2人で腰掛けているわけではない。
彼女はソファーの1番端っこに、私はもう片方の端にお尻を地面につけてよっかかって座った。
得に何もすることがなかったので、何時間もそのままだった。
- 276 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 14:16
- テレビには今人気が鰻登りの芸人が昼真っからギャーギャーと騒ぎ立てている。
何も面白くない。
でも、チャンネルすら変える気にもなれない。
ただ、画像に映るものを眺めているだけだった。
同じチャンネルで4つぐらいの番組が終わった。
私たちの間には已然として会話が無い。
少し目が疲れてきたので時計に目をやった。
午後7時…。
馬鹿だなぁ…何しているんだろうか。
こんなことをするために彼女を部屋に呼んだわけではない。
何か聞き出したい気持ちは山々なのに、彼女の横顔を見るたびに言葉を飲み込んでしまう。
プチッ―…
何かが消える音がした。
テレビには何も映っていない。
さすがに疲れたのか、ごっちんは目頭を押さえて目を瞑っている。
「…疲れたね…ごっちん」
「…」
「テレビ好き…?」
「…いや」
「…そっか…」
「…石川さんは…?」
「私もね、あんまり好きじゃない…」
「…」
目を瞑りながら私の言葉に返答してくれる。
良かった…話してくれないわけじゃなかったんだ。
「ごっちん…あのさ、聞きたいことがあるんだ…」
「…何?」
「何で…何で学校に行かないの?」
「…」
「学校は面白いよ…?ごっちんはまだ2年生だし、これからでも…」
「…意味なんてあるの…?」
「…え?」
「学校に行く意味なんてあるの?」
「…なりたいものになるためにはそれなりの勉強が必要じゃない…」
「なら、なおさらだから…」
なおさら…?
どういう意味だろうか。
彼女に必要がない…?
「どういう意味?」
「なりたいものなんて考えたこと無い…っていうか無いから」
「…今から考えていけばいいんじゃないの?」
「なりたいものは何時なれるの…?」
「それなりの勉強の課程を終了したら…だと思う…決まってることじゃないけどね」
「私は…その頃にはきっと…生きては…いな…い…と思うから…」
「え?今なんていったの…?」
「…」
「ご、ごっちん…?」
短い沈黙が私たちの間を駆け巡った。
彼女を見つめる私と私と目を合わせないあなた。
そんな中、彼女が質問してきた。
妙な質問。それは今まで私が考えたこともなかったものだった。
「石川さんは…なんで生きているの?」
- 277 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 14:48
- 「い、生きている理由…?」
「そう…自然学的にってわけじゃなくて社会的に…」
「社会的?」
「意味…わからない…?」
「私の生きている価値ってこと…?」
「うん…。あなたはいなくてはいけない人間なのか、そうではないのか。それは生きてるって言えるのかって事…」
「それと私の質問とどういう関係があるの?」
「あなたは…何故高校に行っているのかって事だよ…」
「い、意味が…わから…」
「…わからないの?高校に行かされている分際なのか、自分の意思で行っているのか…。どっち?」
「か、考えたことも無かった…」
「…」
本当に考えたことも無かった。
高校なんていって当たり前の時代になっている。
いっていない人間は軽蔑されがちだ。
だが、よく考えてみたら生かされている人間が学校に行っていても行っていない人間とあまり意味が無いのではないか。
私は…どっち?
「わ、私は…高校に行っている意味を考えたことなんてなかった…」
「…」
「なりたいものなんて別に無いし、高校にいかないと自分のためというよりも人の目のためだったのかもしれない…」
「なら…あなたに学校に行けといわれる筋合いは無い…」
「…そうだね」
「…もういい?
「あ、あの!美貴ちゃんは…学校に行けって言わないの…?」
「…いわない。そんな無責任なヤツじゃない…分かってるでしょ?美貴の友達なら」
「…」
私は一言も言葉を返すことができなくなってしまった。
彼女のほうが私よりも格段といろんな事を考えている。
私がとやかく言うことでは…なかった…?
- 278 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 15:53
- それでも私は喰らいつく。
私のため?
彼女のため?
まったく分からない。
でも、喰らいつくしかない。
理由なんていらない…。
そう、だって信じなきゃ誰が信じてくれるって言うの?
丸め込まれちゃ駄目なんだ…!
「ねぇ…外はいいんじゃない?…行こうよ…外」
「…行かない」
「ねぇ…行こう…?何で行かないの?」
「行く意味なんて…」
「あるよ…!!なんで理由が必要なわけ?!理由なんて…いいじゃない…」
「…」
「貴方は生きているんだよ…。何で無駄にするの…理由付けて現実を見てないだけだよ…」
「…!」
彼女は今の私の言葉に顔をしかめた。
そこで初めて私の顔を見た。
貴方の目はいったい何処にあるの…?
その目の奥には何が隠されているの…?
「大丈夫だから…前みたいに公園に行こうよ…前にも言ったでしょ?私、見たんだよ?あなたが…」
「…わかった」
「ぇ…え?」
「行けば…いいんでしょ?」
「う、うん…」
「今から…行こう」
「分かった…ごっちん…ありがとう…」
「なんであんたに…礼なんか…」
ばつ悪そうな顔を見せるごっちん…。
これで…また1つ、変わるのかな…。
私も貴方も。
- 279 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 16:04
-
- 280 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 17:42
- ― ジージージー…
夜の夏空にセミの声が響き渡る。
けして嫌な音ではなく、心地よささえも感じる。
天気は晴れ。
昼間の暑さも嘘かのように今は風が吹いている。
夏の星座が夜空を彩っている。
この星は私を応援してくれてるような気持ちにさえなる。
なぜか…心が穏やかだった。
公園までの短い道のりをトボトボと私たちは歩く。
半歩ぐらい前を彼女は歩く。
人一人いない。
街灯は私たちの道を照らすスポット、歩道の木はまるで映画のような趣さがあった。
まもなく公園に着いた。
誰もいない。
こんな小さな公園に夜遅く訪れる人なんてまずいないだろう。
外にいる彼女があまりにも不自然で。
私のほうが動揺してしまう。
公園の入り口でしばらくの間佇んでいた。
ニャ〜ン…
耳を澄ましてやっと聞こえるほどの小さな鳴き声がした。
隣の彼女はスッと公園の中央へ歩き出していった。
そこには小さな子猫が待っていた。
彼女が近くに来ると体を引っ付けて小さく鳴いている。
彼女の横顔がとても穏やかなものになっていた。
私はそれにつられるように近づいた。
…フゥッ〜ニャッ…!!
子猫は私に気がつき、目を光らせ威嚇をするとどこかに逃げていってしまった。
その様子を目で追っていたごっちん…。
私たちは無言で同じベンチに座る。
この穏やかとも言える状態だからなのか彼女が積極的に私に話しかけてきた。
「…アイツね、捨て猫なんだ。1年ぐらい前から時々見かけた」
「かわいいね…」
「…アタシと似ててさ…1人なんだ」
「…案外外に出たりもするんだ…」
「…うん…公園とか、病院とかね…」
「病院?病院にいっているの?」
「…ぅ…まぁ」
「何かの病気に掛かってるの?」
そういえば、彼女の部屋で見つけた薬の束を思い出す。
確か睡眠薬…。
だけど、彼女はそれについてはまったく触れず、言葉を少しはぐらかした。
「…いや…美貴がいけって言うからいっているだけ」
「…美貴ちゃんが…」
私は美貴ちゃんの大きさを改めて知った。
彼女の中ではやはり1番の存在なんだ。
「最近行ってないんだけどね…病院すらも…」
「最近外には出てた?」
「…石川さんに見られたあの6月が最後だったと思う」
「…病院には?」
「半年近くは行ってない…」
「どのくらいの割合で行かなきゃ行けないの?」
「1、2週間に1回…」
「だ、だめじゃない…」
「…」
「今度、私も一緒にいってあげるからさ。行こうね…?」
「うん…わかった」
「え…?」
「…何?」
「い、いや…なんでもない…」
このときの彼女はいやに素直だった。
彼女の素直な返答に正直驚いた。
それと同時に嬉しさがこみ上げてきた。
- 281 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 17:52
- でも、一つ疑問に思ったことがあった。
ただ、眠れないだけであんなに大量の睡眠薬をもらうのか?
ただそれだけの病気で彼女はあそこまで痩せてしまうのか?
何かを隠していそうで恐い。
私の知らない何かを隠していそうで恐い。
― ザアアァァァァッッ……
強い風が勢いよく吹いた。
木々が揺れている。
髪の毛が乱れそうになるので少し押さえつけた。
彼女のほうを見てみるとタンクトップを着ていたので肩のほうが少し捲れて彼女の鎖骨がくっきりと見えた。
思わず顔が赤くなってしまう。
目をそらさなきゃと思うものの目はそこを追っていた。
しかし、大きく捲れれば捲れるほど鎖骨のしたのあたりにある大きな縫い傷があらわになった。
あまりの痛々しさに言葉を失ってしまう。
彼女は何事もなかったかのように服を調えた。
あの傷は…いったいなんだったのだろうか。
- 282 名前:第24章 投稿日:2006/08/20(日) 17:52
-
- 283 名前:Liar 投稿日:2006/08/20(日) 18:11
- ぎゃ〜…!!
す、すみません…1ヶ月もあいてしまった…。
なかなか難しい表現が多くなってしまって行き詰ってしまっていました…。
こんな駄作を読んでくれていた方々!!
申し訳ないです!
これからはなるべく1ヶ月に3〜4更新はしていきたいです!
すみませんでしたぁ〜…。
ageて自分にプレッシャーをかけます…。
( `.∀´)放置はダメよ!
分かっています…(泣)保田さん…。
っていうか、この物語に出てこないのでは…?(笑)
- 284 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/21(月) 11:19
- 更新お疲れさまです。
いつ読んでもこの物語に引き込まれてしまいます。
次回更新楽しみにしています!
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/24(木) 12:08
- 更新お疲れ様です。今までに無くごっちんが多弁でしたね。
少しづつ二人の時間が動きだしているのでしょうか。
続き楽しみにしているので頑張って下さい。
あと、ひとつお伺いしたいのですが、作者さんはレス返されていませんが
レスを挟まないでいて欲しいという事なのでしょうか?
もしそうであれば邪魔はしたく無いのでご返答願います。
- 286 名前:Liar 投稿日:2006/08/24(木) 13:44
- うわぁ〜!!レスがきている!嬉しい限りです!
》284 名無飼育さん
有難うございます!本当にいつも更新が遅くてすみません。
引き込まれるなんて!そんな風に言って頂いて無性に喜んでいます!
これからも頑張るんで、レスをいただけたら嬉しいです。
》285 名無飼育さん
ごっちんが、梨華ちゃんのおかげでこれから様々な事が起こっていきますよ!
乞うご期待!(作者がネタバラシしちゃった…)
あと、レスはもらえるだけもらいたいです!
レスをくれていた方々に申し訳ない…返信をちゃんとしていませんでした。
だから、邪魔なんてまったく思っていませんよ!
皆さん、レス有難うございます!
金曜日の夜か、土曜日にまた書きたいと思います。
- 287 名前:第24章 投稿日:2006/08/25(金) 22:40
- 次の日、私たちは一緒に市内の有名な総合病院に行く事になった。
その日の朝に何気なく
「今日、病院行かない?ほら、昨日言ってたじゃない…」
なんて言ってみたら
「…うん。いいよ…」
なんて意外な返事が返ってきた。
今までずっと拒み続けてきた外への一歩がいとも簡単に実現する事になってしまった。
外に出るというのは私と彼女とまわりに関係のない第三者がいるという事で。
今までにはない大きな一歩になりそうな予感がした。
彼女はいたって今は穏やか。
何も話さないが、私たちの間にゆったりとした時間が流れてういるような気分になった。
彼女の行っている病院はここの辺りで最も大きな病院で市の中心部にある。
ここからは地下鉄で地下鉄も使って30分あたりだろうか…。
今日は平日。
あえて平日だからこそ行く事を誘ったのだ。
だが、平日だからといって人がまったくいないわけではない。
昨日私たちが訪れた公園とはわけが違う。
今の時期は夏休みの真っ最中で昼過ぎにもかかわらず若い女の子や男の子たちで溢れかえっていた。
その中には汗水たらして営業に向かうサラリーマンや、買い物を楽しんでいるおばさん方、公園でうずくまっているホームレスの人なんかもいる。
誰もかれもが不思議な笑顔、または無表情で今の時間を過ごしている。
生きている生身の人間とは思えないほど淡々と過ごしている人形たち。
目標も何もない人間たち…。
生きている理由が分かっていない人間たち…。
私にはそうしか見えなかった。
そう…それはまるでサーカスの舞台に魂をうられたピエロそのものだった。
表情がみえず、見かけは笑っているのになぜか観客から恐いという声ももらう。
必死にその場を取り繕うプロ…。
少し…恐い。
隣の彼女はというとかれこれ30分以上一言も言葉を発しない。
前ならそれが当たり前だったが今は少し変わってきているにもかかわらずにだ。
彼女もまた、私と同じ気持ちなのかもしれない。
必死に顔をうつむかせて何も見ていない。
また、前の彼女に戻ったようだった。
- 288 名前:第24章 投稿日:2006/08/25(金) 23:44
- 徐々にごっちんの顔が曇っていくさだか、やっと病院についた。
その病院は大きな大学病院のように建物が大きく、
外見には有名な建築デザイナーが考えそうな落ち着いている雰囲気であり、見た目もとても格好がよいものだった。
病院というのには少し抵抗を感じてしまうほどモダンな造りだった。
このあたりに住んでいる者なら誰もが聞いた事があり、
設備が整っている事で有名だった。
私も昔、親に連れられてココに何度か来たことがある。
病院の中に入ると尋常ではないほどに効き過ぎているクーラーに思わず体が震えた。
「ごっちん…寒いね」
「…」
「っていうかさ、カードかなにか持ってる?保険書とかは?」
「美貴が持ってる…」
「え…。じゃ、じゃあどうやって診察受けるの?始めて来たわけじゃないんでしょ?」
「…担当医とアタシの名前で大丈夫だと思う…」
「そうなの?担当の先生の名前は?」
「…中澤」
「中澤先生ね。わかった。なら、ちょっとそこの椅子に座っていて。私が受け付け済ましてくるから」
「…」
そういい、彼女を近くの椅子に座らせた。
何か飲み物を飲むか聞いても断られた。
私は受付に足を運ぶ。
あまり慣れていないせいか緊張気味だ。
受付には20台前半の綺麗な女性が座って何か書類に目を通していた。
「あ、あの…」
「はい、何でしょう」
「受付したいんですけど…」
「初めての方ですか?それならあちらの机で紙に書かれたことをご記入の上で再びこちらへ来てください」
「初めてではなくて以前にも来た事が…」
「あ、そうでしたか。それではカードと保険書をご提示お願いします」
「カードも保険書も忘れてしまって…」
「…そうですか…。なら、次に来診される際にカードと保険書をお持ちください。
今日は一応本人確認のためにこちらの紙に、住所、氏名、電話番号をご記入ください」
「あ、だからそうじゃなくて…。担当が中澤先生なんです」
「…はい。本日中澤先生はいらっしゃいますが…」
「中澤先生の所に直接行きたいんですが…」
「ですから、それにはここにご記入を…」
「で、電話を繋げてもらえませんか?」
「中澤先生はお忙しい方なので、本人にはつなぐ事は出来ませんがそこの科に今電話をして確認して差し上げましょうか?」
「あ、お願いします!」
「それでは…お名前を」
「あ、私じゃないんですけど…あそこにいる彼女、後藤真希です」
「…後藤真希様…分かりました。少々お待ちください」
そう言うと名簿のようなものを取り出して電話番号を探し、電話をかけた。
私は聞いていない振りをしていたがこっそりと耳を傾けていた。
「…あ、もしもし…受付の…ですが…あ、そうです。実は今受け付けのほうに…はい。
…はい…で、担当が中澤先生というお方が…えぇ…確認を取ってほしいのですが…はい。
…患者さんとお名前は…後藤…あ、そうです。……わ、わかりました。それでは…」
ただ、確認をするだけなのにやたら長かったように思う。
「あ、あの…どうでしたか?」
「大丈夫です。保険書もカードもいりません。
それでですね、このまま中澤先生のところに行って下さい。すぐに診察すると言っておりましたので…」
「あ、あの!中澤先生って何科…の先生なのですか?」
そういえば、なにも知らなかった。
内科なのか…外科なのか…はたまた耳鼻科なのか…。
彼女が何のために病院に来ているのかを知りたかった。
だが…この受付の女性が口に出した言葉は一番私を混乱させた。
「え?中澤先生ですか?精神科の先生ですが…」
「…ぇえ?」
「精神科はここをまっすぐ進んでいくと第2館への連絡通路がありますので
そこをわたってエレベーターで5階に上がりましたら右のほうに見えます」
「…」
精神科…?
ある意味想定内でもあり以外でもあった。
椅子に座っていた彼女はまだ目が死んでいる。
私の目もかなりそれに近いものがあるのだろう。
ねぇ…ごっちん。
貴方はいったいどんな病気に掛かっているの?
それはどのくらい貴方を精神的に蝕んでいるの…?
- 289 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 22:50
- 更新お疲れさまです。
梨華ちゃんはかなりごっちんの世界に侵食されてる感じがしますね。
引き続き楽しみにしてます。
- 290 名前:第24章 投稿日:2006/09/09(土) 23:36
- 「…後藤…よう来たな。元気…しとったか…」
私の目の前にいる金髪で化粧が濃く、関西弁である医者がまず最初に口に出した言葉はそれだった。
彼女が医者であるというのにまず疑ってしまう。
この人が『中澤先生』なんだろう。
私たちがこの人と会ったとき、彼女は目を丸くして大きく見開いた。
そしてしばらくしてからフッと表情を緩め、ゆっくりとした温かみのある声をだした。
その後も彼女はごっちんに話しかけていた。。
『痩せたなー』とか、『美人になったなー』とかそんな事ばっかり。
これが医者の仕事?
わけが分からない…。
ごっちんは彼女の言葉がまるで耳に入っていないかのように斜め下を見つめていた。
この診察室は個室で他の患者に話が聞こえる事はない。
白を基調にしたこの部屋は十畳くらいの広さはあった。
中澤先生の机には大き目のパソコンが1台、そしてカルテ。
少し開いている引き出しから女性週刊誌らしきものが目につく。
一見、何の変哲のないデスクに違いないのだがよくよく目を凝らすとあちらこちらに彼女の『色』がみえた。
壁に飾られている小さな絵、彼女の着ている白衣なんかには何か加工が施されていた。
逆側の壁には数え切れないほどの本が埋め尽くされていた。
『治療薬のすべて』『精神病とは』『心の病気…』などなど様々だ。
しかしそんな中に何冊かエッセイのようなものもあった。
絵本のようなものもあった。
麻薬についての本もあった。
私が知っている病院とは違う雰囲気がここにはあった。
ごっちんが座っている椅子もそうだ。
丸椅子なんかじゃない。
ゆったりとした小さ目の回転ソファーだ。
中澤先生は私にはお構いなくずっとごっちんと話していた。
この診療室に入る前に私はごっちんだけが入るんだろうと思っていたのに傍にいた看護婦の人に
「あなたも入ってください。中澤先生から言われていますので…」
なんていわれた。
それからかれこれ20分…。
私はごっちんの後ろのほうで部屋を眺めているしかなかった。
「さて…と…後藤。お前はこれから精密検査があるんや。しばらくここにはお留守やったからなぁ…。
注射したりレントゲン取ったり…まぁ看護婦の指示に従ってればええわ。…まぁざっと1時間半くらいかなぁ〜」
「…はい…」
「…かわったな…後藤」
「…?」
「まぁ、ええわ。んじゃ外に看護師の谷口さんがおるから。がんばりぃ」
「…」
― バタンッ
そういってごっちんは私のほうを見向きもしないでこの診療室を後にした。
- 291 名前:第24章 投稿日:2006/09/10(日) 00:03
- 私は部屋に中澤先生と二人っきりだ。
初めて会った人といきなり話せない…
何で私が?無言状態が続く。
いづらい。
ど、どうしよう…。
「…何してんねん。こっち座りぃや。あんた…何飲む?コーヒーでええか?それとも紅茶がええか?」
「…え、えっと…じゃあ紅茶でお願いします…」
「んー。わかった…ちょい待っててな」
そういって彼女は部屋の角にある戸棚からカップを2つ取り出し紅茶をいれた。
私はソファーに座る。
思った以上に彼女の椅子と近くて緊張してしまう。
肩が震えているのがわかる
別に何もやましい事をやった訳でもないのにごっちんの事を今から聞かれようとなると、
今から取調べを受けるような錯覚に陥った。
「何そんなに緊張してんねん。そんなに恐がる事もないやろ…?」
「は、はい…」
紅茶をいれたカップを手にもってこっちにやってきた。
机に紅茶を置き自分で片方飲む。
私はそれを見て、この話は長くなるんだろうなと直感した。
「ところであんた、名前は?」
「…石川…梨華です」
「石川…さんね…」
「…」
「あのな、聞きたい事が山ほどあっていちいち遠回りに聞いて回りくどく聞き出してる場合じゃないねん…」
「…わかってます」
「…うん。あんたも、まぁ色々聞きたい事もあるんやと思うし。
まぁ、石川さんと後藤の関係のを知った上でうちからも話せる事は話すけど…」
「…どういう意味ですか?」
そう言うと彼女は少し顔をしかめて面倒くさそうに再び話し始めた始めた。
「最近な、個人情報保護法っつう面倒臭いもんが出来だしてなぁ…。
たとえ家族であっても本人の了解無しじゃなんも喋れんのよ…」
「…はぁ…」
「まぁ、気にせんといて。ちょっとぐらいなら大丈夫やから…」
「…はい。ありがとうございます」
「あと…あんたが今から話す事はカルテに書かせてもらうけど…かまへんよな?
これでも一応後藤の担当医やからさ」
「…はい…かまいませんけど…」
私の返事を聞いた中澤さんはカルテを引き出しから取り出した。
後藤真希専用のカルテだった…。
そして右手にペンを持ち、新しいページに私の名前を書き足した。
- 292 名前:第24章 投稿日:2006/09/10(日) 00:23
- 「さてと…石川さん、あんた誰や?何もんなんや?言い方悪くてすまんな」
「…私は後藤さんと同じ学校に通っている高校3年生です…」
「…高校3年生…ってことはもしかして藤本と同じ学年か?なぁ、あんた藤本美貴ってやつ知ってるか?」
「…美貴ちゃん。美貴ちゃんは…私の親友ですけど…」
「…なんやて?ホンマに?…まぁええ。あんたの事はわかった。後藤とどういう関係か聞かせてくれるか?」
「…偶然です。偶然…私は彼女を知ってしまったんです…彼女と私は同じマンションに住んでいて…」
「…へぇ…。それまたすごい偶然やなぁ…」
「…はい」
今の事を彼女は真剣な眼差しで何かを考えていた。
そしてカルテに何かを加えていった。
「なら…石川さんは見てるはずやろ…?後藤の…姿を」
「…はい…」
「なのに、なんで今…あいつは話しているんや?あんた…後藤に何をした?」
私はこれまでの話を事細かにすべて後藤さんに話した。
最初の頃の彼女の事、公園で見つけたこと、私の家に来た事、彼女が起こした言動…
ただ、私の主観を除いて客観的に。
私の主観は…少し変だ…。
彼女の事が以上に気になったり、胸が押しつぶされるように痛くなったり、彼女の事で泣き叫んでしまったり…。
認めたくないけどある意味彼女のせいなのだ。
中澤さんは静かに全てを聞いてただ、ただ一人で驚いていた。
カルテに記すのも忘れて私の話に没頭していた。
- 293 名前:第24章 投稿日:2006/09/10(日) 00:49
- 「…私が話せる事はこれだけです…」
そういって私は一呼吸置いた。
中澤さんも、冷めた紅茶に手を伸ばして生唾と共に喉に通した。
そして彼女はソファーにゆったりと背中を押し付けた。
「あんた…すごいわ…」
「…え?」
彼女はカルテを閉じた。
そして高々と持ち上げて自分で見つめた。
「…うちはもう今年で3年目やで…?このカルテも2冊目…。
進展は?得に無し…なのに後藤と会って数ヶ月の石川さんが…アハハ…しんどいわ…」
「…な、中澤さん?」
「…べつに嫉妬してるわけやない…自分の無力さに驚いてるだけや。
所詮、精神科医って言っても病院でしか人とかかわる事ができない無能な人間なんやね…」
「…そ、そんなこと…」
「…石川さん…感謝するわぁ…話せる限り、話たる。あんたの聞きたい事ってなんや…?」
人間の無力さ…そんなの精神科医に限った事じゃない。
私だって無力。彼女を何度も苦しめた。
もしかしたら私の心の奥底では彼女を救うという行為で
自分はいい人であり続けれると思っているのかもしれない。
彼女のことを考えることで自分の問題から目を逸らしているだけなのかもしれない。
そんな私が力を持っているはずが…無いんだ。
そんなに大きな器の人間じゃない。
だから…中澤さんの言っている事は間違っている…。
- 294 名前:第24章 投稿日:2006/09/10(日) 01:10
- 彼女の心の中なんて分からない。
どんなに私が知りたくても分からない。
彼女はけして心を見せようとはしない。
あの細い肩を後ろから見ていると貴方が居なくなってしまいそうで恐い。
無力…。
なぜ、私は後藤真希という人にかかわっているんだろう。
改めて今までの事を振り返ってみると不思議な事ばかりだ。
何かに導かれてとしか言いようが無い。
なのにもかかわらず、彼女を苦しめているのは私。
中澤さんは彼女の過去に必ず関係している。
関係というか…知っている。私の知らない事を。
美貴ちゃんもまた知っているはず。
彼女は私に何か隠している。
とてつもない何かを。
私は…まだ何も知らないんだ…。
だから、動こうにも動けない。
動かないだけかもしれないけど、動きたいと思っているのは確かなんだ。
知っておきたい事実がそこにある。
だから、中澤さんに聞いておきたい。
これって正論ですか?
- 295 名前:第24章 投稿日:2006/09/10(日) 09:06
- 「な、中澤…さん…」
「…フハハ…何もそんな真剣そうな顔つきせんくてもええって。あんたが気にする事やない…」
「…は、はい…」
「…何が聞きたい?言ってみぃ?」
母性とでも言おうか…彼女が醸し出しているのはそんなようなものだった。
私までも包み込まれてしまうような強くて温かみのある声。
見た目からは想像できない強さ。
今まで何人もの患者をみてきたのだろう…。
簡単な言葉は口にしない。
私が…欲しい強さがそこに見えるような気がした。
「…貴方は…ごっちんの何を知っているんですか?」
「…えらい唐突やな」
「…す、すみません」
「いや、責めてる訳や無いって。石川さんも、すぐ謝る癖は直さんとあかんよ…。
自分が低めの態度をとったら相手が自然と強い立場に成るからなぁ…」
「…はい」
「ん〜…後藤とどういう関係かって聞きたいんやろ?」
「…そうです」
「その前にうちの事を知ってもらわんとなぁ。人間の言動には順序ってものがあんねん…」
私は…この人についてそういえば何も知らない。
知らない人と会話をしているのに何も違和感が無かったのはごっちんを含めて二人目だ。
「うちは…まぁ、後藤の担当医の中澤や。後藤は彼女が中学3年の時からの患者や…」
「中学3年生…。あ、あの、精神科って具体的に…どんなところなんですか…?
あまり詳しくは知らなくて…」
「…うちらは一般的にカウンセラーと呼ばれている。
何らかの問題を抱えている人から相談を受け、それに適切な援助を与える人…それがカウンセラー」
「…はぁ…」
いまいち理解できていない私を見たのか少しため息をついて、まるで質問をしてくる小学生を相手に話すよう彼女は言葉を続ける。
「…あんたやって、風邪ひくやろ?同じ事。精神病に掛かっている患者は心が風邪をひいている。
それを直す仕事が我々病院の者…」
「…」
「…まぁ、ピンとはこないかもなぁ。彼らの病気は彼らにしか分からない。
全てが目に見える症状を出すわけやないんや。だから難しい」
「…ごっちんは…病気なんですか?」
「…彼女はな、ただたんに心が弱いというレベルやないんや。かなり重度の患者さんや」
「…だから…薬もあんなに持っていたんですね」
「…本当はあれだけやないんやで。もっと様々な薬を飲まなきゃあかん。睡眠薬だけや無くて抗精神病薬なんかもな。
でも、それを大量に服用すると命の危険にさらされる確立が高くなるからなぁ…。
睡眠薬やって同じやけど。あいつ…眠れてないみたいやから」
「…そう…ですか…」
苦しみなんかは薬で解決する問題なのか?
私には分からない。
ちゃんと向き合うべきじゃないのか?
薬を使って考える事を麻痺させてるのではないのか…?
体にはもともと無いものを入れて神経もろとに脳まで使えなくしてるんじゃないかって…思った。
薬じゃなくて…他に…あるんじゃないのか?
意味が分からない…。
病院は…少し嫌い…。
というか、苦手なのかもしれない…。
- 296 名前:第24章 投稿日:2006/09/10(日) 09:50
- 「…なんでごっちんは…そんな風になってしまったんですか?」
そう。これが一番私が聞きたかった事。
最初から疑問に思っていた事。
でも、彼女は応えてはくれなかった。
「…それを後藤はあんたに話して無いんやろ?こればかりはうちからも話せないんや」
「…そうですか…」
彼女は引き出しから何かを取り出した。
それは一冊目の後藤のカルテだった。
そしてあるページを開いて私のほうに向きなおした。
何か嫌な予感がした。
「あのな、これだけは言っておこうと思って…」
「…なんですか?」
そして中澤さんはカルテに目を通して更に顔を強張らせてゆっくりと私に話し始めた。
「…後藤は…過去に4回…自殺をしようとしたんや…自殺未遂っちゅうもんや」
「…え?」
「幸い、どれも死には繋がらなかった。何とかお偉い医者の大先生の大手術のおかげで持ちこたえた…」
「…な、なんのっ話を…しているん…ですか…?」
「あんた、知らなかったのか?見た事あらへんか?彼女の体にある無数の傷を。
手術の時の縫い傷なんか完治しても後は一生残るんや。可哀想にな…」
「…し、信じません…き、傷なんて、見たことも…」
「あるやろ?」
「…!!え、あれって…自殺の…?」
「そうや。あんた、リストカットって知ってるか?」
「…は、はい。うちの学校にも何人かやっている子がいましたから…」
「言っとくけどな、あれとはまったく違うんやで。リストカットというもんは本当に死にたくてやっている訳じゃない。
自分が生きているんだっていうのを痛みで実感する事なんや。
そいつらはまだ希望が残っている。
後藤の場合はな、違うんや。死を4回も体験して直これからも続けようとしている。
あいつの精神力はもうないんや…。目に…光がない…」
「そ、そんな…」
「本当にやばいんや…後藤は」
「……」
「だから…後藤に何かあったら連絡してくれ。すぐにな」
そういって紙を小さく破り、携帯の番号とアドレスを書いた。
そしてその紙を方針している私に握らせた。
「今はあんたしかおらへん…頼んだで」
「…」
今の話が信じられなかった。
信じたくなかった。
彼女の事を知れば知るほど深みにはまっていく。
もがけばもがくほどはまっていく。
それは底なし沼のように。
ズブズブと音を立てながら。
素直に泣き叫ぶ事ができないのは、そうしようと思わなかったからなのかもしれない。
彼女の言動を思い出すたびに彼女がいなくなる衝動に陥ってしまう。
肩が震える…。
周りが真っ暗になっていく…。
いなく…ならないで!!
ごっちん…いやだよ…。
「…あんた…後藤のこと…いや、なんでもないわ」
「…?」
「よろしくな。んじゃ、そろそろ後藤が戻ってくるだろうから診察室でてええよ。
ホンマにありがとう…助けてくれて」
「…」
私は病室を無言で立ち去った。
- 297 名前:第24章 投稿日:2006/09/10(日) 09:50
-
- 298 名前:モノローグ 投稿日:2006/09/10(日) 10:05
- 『死という痛み』
貴方はなぜ自ら死に走ろうとするの?
貴方の苦しみを私に向けて欲しかった。
助けてって素直に言えなかった貴方を見て涙があふれた。
貴方の体の傷が心の傷よりも浅い事はわかっていたんだ。
だから…。
その傷を私にもください。
一緒に分かち合っていきたいの…。
いつか眠りにつくからって、早くその命を終わらせないで。
貴方の命は私の命なの。
貴方が死ぬとき、私もきっとこの世の中にはいない。
始まりがあったんだからちゃんとした終わりが欲しかった
私には守っていく貴方がいる。
だから…私のために生きて欲しい…。
叶わぬ望みなのかな…ねぇ、ごっちん。
- 299 名前:モノローグ 投稿日:2006/09/10(日) 10:06
-
- 300 名前:Liar 投稿日:2006/09/10(日) 10:11
- 》289 名無飼育さん 様
有難うございます。
読んでいる人がいるだけで幸せです。
この後も石川さんの中の後藤さんと後藤さんの中の石川さんが
お互いを侵食していく形になりそうですよ。
300いきました!!良かった…。すこしホッとしています。
意外と長くなってしまいそうです。
(水版に書けばよかったかなぁ〜。)
たぶん、『光と闇2』みたいな形になるかもしれません。
まぁ、まだまだ先の話ですが。
これからも頑張るんで、良かったらお付き合いください。
- 301 名前:第24章 投稿日:2006/09/18(月) 15:07
- ―カチッカチッ……シュボッ…
「…フゥ〜…」
タバコの箱を胸ポケットから取り出す中澤。
そこから一本タバコを取り出し、使い古したライターを使って火をつけた。
口に銜え、ゆっくりと吸い込む。
肺の所まで到達しただろうか…そうして時間をかけて吐き出した。
― ギィ……
中澤は右手にそれをもち、椅子に体を押し付けて天井を見た。
白い天井が夕日に照らされてオレンジ色に染まっていた。
椅子のスプリングが軋む。
2、3回口にそれを銜えて、机の上の灰皿に押し付けた。
ゆっくりと目を瞑る…。
そしてまたタバコの箱を取り出した。
中には残り1本しか残っていなかった
「…」
しばらくそれを見つめる中澤。
「禁煙せな…あかんよな…」
ポツリと独り言を発した。
そして最後の1本を取り出し、箱をグニャリと潰してゴミ箱に入れた。
―カチッカチッ…カチッ…シュボッ…
再びタバコに火をつけた。
口に銜え、息を吸い込む。
ゆっくりと長く…。
「…!…ゲホッゲホッ!ゲホッ…」
気管に入ったのか思いっきり咽てしまった。
口からタバコを離し、手に持たせる。
左手で頭を抑えながら火がついて煙が出ているそれを眺めていた。
「…アチッ!」
いつの間にかタバコの火が手の辺りに到達しており、指を火傷してしまっていた。
火傷した手を口にあて、更に何か考え込んでしまっている。
- 302 名前:第24章 投稿日:2006/09/18(月) 15:19
- 「…」
何か思い当たったのか、中澤は自分の着ている白衣から携帯を取り出し電話をかけはじめた。
―プルルルル……プルルルル……プルルップチ…
『…はい』
「…あ、藤本か?」
『…あ、お久しぶりです…』
「元気、しとったか?」
『…えぇ、まぁそれなりに』
「…そか…ならええんやけど」
『…なにか、あったんですか?』
「ん?まぁな…」
- 303 名前:第24章 投稿日:2006/09/18(月) 20:39
- 中澤は携帯を耳に当てたまま立ち上がり、窓の近くに歩いていった。
眩しいくらいの夕日が視界に入ってきた。
少し間を取って再び話し始める。
「…後藤が今日診察にきたで…」
『…え?』
思ったとおりのリアクションだ。
分かりやすい。
という事は彼女が後藤に病院へ行けと言ってないという事になる。
「知らへんかったんか?」
『は、はい…あの、一人でですか?』
「いや、石川っていうベッピンさんもつれてなぁ…」
『…梨華ちゃんが…そうですか』
「アンタ…なんで言わへんかったんや?」
『…すみません』
彼女の素直な謝りを聞いて携帯を待ちなおした。
「こういう事は言ってもらわんとアカンでぇ…なぁ、藤本」
『分かってます』
中澤はやはり少し動揺していた。
石川の存在について。
それを早く知っておきたかったのだ。
唐突にやってきて受け入れられる用意はしていなかったようだった。
「あいつ…だれなんや?親友ってほんまか?」
『…はい』
「わざと後藤に接近するためにアンタに近づいたんとちゃうのか?」
『それは…無いと思います。2年の時からですから』
「その石川っていうやつはなんで後藤に?」
『…彼女が知ったのは美貴のせいです。あとは偶然としか言いようがありません…』
「出会いはいまさらどうでもええ。出会ってからも何で後藤にって事を聞いてるんや」
『…それは美貴にも分かりません…彼女自身も分かっていないみたいです』
「フフッ…まさか運命とか言わせへんで?」
『…美貴は…そう思いますけど』
彼女のその言葉を聴いて何か愕然とした。
中澤は自分の机のほうに戻りタバコを探した。
しかしタバコはもうなかった。
灰皿に無残にも潰されているそれをみて中澤は舌打ちをした。
「…石川は後藤に何をしたんや?」
『…何をって?』
「…今日の後藤は今までよりもまだましな顔つきをしてたでぇ」
『…梨華ちゃんは根気よく思うがままに続けただけだと思います…』
「…そうか」
『中澤先生…大丈夫ですよ。
たぶん、今まで以上にごっちんが傷つく事は無いと思います。だから、任せてあげてください…』
「…ん。そんな感じはしとったからなぁ」
『…』
「藤本、アンタが監視しとけよ。二人ともや」
『分かりました…』
「んじゃぁな。切るで…よろしくなぁ…お前しかおらへんから…」
『わかっています…それじゃぁ』
―プチッ…ツーツーツー…
中澤は大きく深呼吸をした。
そして椅子に座り今日の事をカルテに書き記した。
最後に『石川梨華』と大きく書き出した。
「何もんなんや…こいつ…」
手にボールペンをにぎりしめ、しばらく見つめる。中澤は急に立ち上がった。
そして財布を取り出し、下の売店にタバコを買いに行く事にした…。
- 304 名前:Liar 投稿日:2006/09/18(月) 20:49
- これで第24話は終了です。
更新遅くてすみません…。
第25話はなるべく早く更新しようと思ってますんで…。
意見とか疑問点なんかでも結構です!
レスもらえたら嬉しいです。
これからもマターリ頑張ります。
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/19(火) 07:02
- 更新お疲れさまです。
徐々にいろいろなものが動き出して行く予感・・・。
- 306 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/25(月) 01:02
- 今、一番お気に入りの作品です!
どのような”運命”なのか?
ワクワクしてま〜す。
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/25(月) 01:20
- >>306
作者さんがsage進行でやってるんだからageちゃダメよん。
更新お疲れさまです。
美貴ちゃんが頼りって感じですね。
梨華ちゃんがなんか心配。
- 308 名前:第25話 投稿日:2006/09/25(月) 21:29
- 「…ねぇ、ごっちん…服脱いで私に見せて…その体を…」
私がこんな事を言ったのには訳があった。
私たちは病院から何処にも寄り道せずに帰ってきた。
和気藹々という訳ではもちろん無く、いつもの私たちだった。
いや、これも何か違う。
少なくともごっちんはいつもどおりだった。
それよりも幾分調子の良さそうな顔色だった。
違うのは私のほうだ。
普段なら隣の彼女に嫌がられようが、無視されようがかまわず話しかけていた。
だが、今は違う。
私のほうが黙り込んでしまっている。
原因はもちろん知っている。
中澤先生が話したあの話だ。
少し前を歩いている彼女の背中を見るたびに私の目には無数の傷跡が幻覚のように透かしだされた。
実際、まったく嘘というわけではなくて。
よく目を凝らしてみると肩のあたりに、見難いが傷跡のようなものがあった。
それをみて私は鳥肌が立った。
中澤先生の話が嘘であってほしいと心のどこかではそう願っていた。
だが、昨日彼女と一緒に行った公園でも傷跡は見ていた。
…急に実感が沸いてきて恐くなる…。
私は夏なのに冷や汗を掻いている自分をギュ…と抱きしめた。
マンションについててっきり彼女は私の家に来るのかと思っていた。
だが、エレベーターが7階に来ると私とは反対方向に歩き自分の家に入ろうとした。
あわてて私も彼女の家のドアに腕をスルリと入れて中に強引に入る。
彼女は顔をしかめたがそのまま中に入れてくれた。
そしてドサッとソファーに座り目を閉じた彼女。
そんな時に私はこんな事を彼女に言ったのだった…。
―――
――――――
「…」
彼女は目を見開いて下唇をかんだ。
何か言いたげだったがおとなしく立ち上がり、私のほうへ向き直った。
彼女の目は…何かを訴えていたかのようだった。
そしてノースリーブの黒いTシャツをゆっくりと脱ぎ始めた…。
彼女の上半身は下着と首に掛かっているリングのみとなった。
私は…絶句した…。
唇がワナワナと震え始める。
私の動向がキュッと音を出して小さくなるのが分かった。
彼女の体は…傷だらけだった…。
- 309 名前:第25話 投稿日:2006/09/25(月) 22:15
- 「…それ…は…何?」
「…」
「…ごっ…ちん…」
私は分かっているものの、彼女に質問した。
この体を見てもまだ信じられなかった。
どうしても彼女の口から聞かないと信じたくなかった。
「…なんで聞く必要がある…」
彼女は私を見下すように上から睨みつけた。
目が…恐かった。
「…ぇ…なんでって…」
「聞いたんでしょ?中澤先生から」
「…ぅ…うん」
「…その通りだよ…」
彼女は穿き捨てるようにそう呟いてTシャツを着直した。
「…っなん…で…!」
「…あんたに…何が分かる?」
「私の…今までの努力は…何?!」
「…」
「貴方のためにっ…!貴方のために…」
私の感情がみるみるうちに膨れ上がった。
私が今まで彼女のためにやってきたことが貶された気がした。
少しでも分かり合えたと思っていた。
少しでも構成されたと思っていた。
もう、大丈夫なんじゃないかって…思ったりもした。
「…なんで…死にたいなら…なんで私になんかと…話したりするのよぉ…」
「…石川さんが勝手に近づいてきたんじゃないの…?」
「…分かっているわよ!!」「…」
「でも…なんで…死にたいのに私といちいちコミュニケーションをとろうとしたのよ…!」
「…だからだよ…」
「…どういう意味?」
私は怒りが爆発しそうだった。
収まらなかった。
彼女はそれこそ笑いはしなかったが、私に向かって彼女もまた小さな怒りをぶつけるために、
こう言い放った。
「…石川さん…あんたと話したのは気まぐれに過ぎない…たとえアンタがどうアタシのことを思っていようがね」
「…!!」
思わず息を呑んだ。
それと同時に涙が溢れ出した。
私がごっちんに接していたのはただ情があるだけな訳じゃない。
傍にいたかったから…貴方のために何かしたかったからだった…。
彼女は本当の怒りを見せ始めた。
「…アンタさぁ…なんでアタシに近づいたわけ…」
「…」
「…なにが分かるの?…アタシにも分からないのにアンタが何をしてくれるの…」
「…」
「アタシが何もできないのがそんなに見てて楽しいの?」
「…ち、ちがう!」
「…アタシを看病する事で自分は正義のヒーローでも気取りたいの…?」
「ちがう!…そんなんじゃない…」
信じてきた相手に嘘をつかれた気分だった。
私が寝る暇も惜しんで尽くしてきた相手にこんな風に思われている事がとても悲しかった。
私は立ち尽くしたまま下を向いて泣きながら彼女の言う事に否定をするしかなかった。
「…分からないくせに首を突っ込んできてそんなに楽しいの?」
「…そんな風に…思ってないんだよぉ…ねぇ…信じてぇ…!」
「…おまえに何が分かる!!!」
「…!」
「…この苦しみの何が分かる…!!」
彼女の手は震えていた。
私に対する怒りでカタカタと震えていた。
手に力がこもっているのが分かる。
でも、恐くて彼女の顔が見れなかった。
でも、その手だけで十分怒りは伝わってきた。
- 310 名前:第25話 投稿日:2006/09/25(月) 22:43
- しかし、その手の力はフッ…と貫かれた。
それを私はみて思わず顔を上げた。
彼女の目は何も映されていなかった。
それこそ怒りさえも。
そして何故か彼女は私を見下すように『笑みを浮かべた』様に見えた…。
私はその意味が分からなかった。
「…ねぇイシカワさん…」
そして口調も先ほどとは何か違った。
「…な、何…?」
「アンタさぁ…アタシの事助けてくれるんだよね?」
「…う、うん」
「…なんでも『シテクレル』んだよねぇ…?」
「…うん…なんでもする…貴方のため…なら」
「…そもそもさぁ…イシカワさんがアタシに近づいたのってアタシの事欲しいからなんでしょ…?」
「…え…?」
彼女は私のほうに徐々に近づいてきた。
私は彼女が近づくたびに一歩、また一歩と後ずさりをする。
―ドンッ…
私の背中に壁が当たった。
もう、彼女から逃げる事はできなかった。
徐々にその差が縮まってくる。
「…『ナンデモ』してもいいんだよね?…私のためだもんね?」
「…ご、ごっちん…?」
「アンタも欲しいんでしょ?…アタシが…なんならしてあげるよ…!」
―ドンッ!!
彼女の腕が私の左肩を勢い良く押さえつけた。
「…っ痛…」
彼女は私の言葉なんかお構い無しだった。
私達の距離は0に等しくなろうとしていた。
- 311 名前:第25話 投稿日:2006/09/25(月) 23:15
- 「…や…やめて」
「…アタシのためなんだよ…
そしてアンタの望みでもあるんだよ…なんでやめる必要があるのさぁ…!」
「…貴方は…そんな事望んで…な…い」
「…いいや…望んでるよ…恐いくらいにねぇ…」
どんどんと強くなる腕の力。
私の力なんかじゃ到底振り払えなかった。
私は何とか抵抗ををしたがそんなのはまったく敵わなかった。
私は肩の痛みに顔をしかめた。
普段の彼女はそこにはいなかった。
恐かった…。
なのに、なぜか私の体は彼女が欲しかった。
精神では拒んでいるのに肉体は彼女が欲しかった。
私は目の前にいる彼女と自分自身の肉体とを相手に堪えていた。
「…この口にキスしてほしいの…?」
「…やぁ…めて…ください…」
「綺麗な唇…噛み切りたいくらいにね…」
「…ごっち…ん…正気をもどしてぇ…!」
主導権は完全に彼女だった。
私はなすすべも無かった。
これでいいのか?
このまま彼女に体をゆだねたほうがいいのか?
彼女の苦しみが少しでも和らげるのならそれでも…?
心の無い身体関係は何か生み出すのか…?
私はまだその関係が無いから何も言えなかった…。
「それとも…この体を抱いて欲しいの…?」
「…!や、やめて!」
「…何人の男がこの体を求めたかったんだろうね…
イシカワさん…かわいいからね…」
彼女はそう言いながら私と体を密着させてくる。
顔から炎が出そうだった。
恥ずかしかった。
彼女は更に体をくっつけてくる。
片手で肩を抑え、私の股に彼女の足が奥へ奥へと入り込んでくる。
「…あっ…ん…!」
もはや、立っているのもやっとだった。
私の心臓は早鐘のように打ち鳴らした。
鼓動が耳にまで聞こえてくる。
口から心臓が飛び出しそうな勢いだった。
もう、私は拒む事ができなかった…。
彼女には私の声なんか届いていなかった。
しかし、口に彼女のそれが触れる寸前に彼女は一言、言い放った…。
今の彼女を現すかのような残酷な一言を…。
――――
「…犯してやるよ…二度と人前に出れないぐらい…グチャグチャにね…」
「!!」
―バンッッ!!
私はその一言を聞いたとたん、
まだ動かす事のできた右手で思いっきり彼女の顔を殴った。
彼女は思わずよろめいた。
そして鵬を左手で抑えた。
そして私のほうを睨んだ。
- 312 名前:第25話 投稿日:2006/09/25(月) 23:44
- 「…はぁ…はぁ…はぁ…」
「……」
私の息は上がったまま。
しかし彼女の表情は何一つ変わっていなかった。
ただ、鵬を抑えて私と目を合わせていない状態だ。
「ご…っちん…正気を…戻してよぉ!!」
「…」
「貴方は…私なんか望んでいない…!…自分の感情にはちゃんと…向き合って…」
「…」
「なんで…投げやりになるのぉ!!…そんなの…あんまりだよ…」
「…」
「私の気持ちを…踏みいじって…楽しいの?」
「…」
「がんばんないと…だめだよ…ごっちん…」
私はそれでも彼女に言い聞かせようとした。
何度も何度も同じ事を繰り返す事しかできなかった。
どうしてもわかって欲しかった。
彼女なら分かってくれると思った。
だからここまで私は言った。
効果は…あったのか…?
彼女は黙って私の話を聴いていた。
そして鵬に当てていた手をゆっくりと下げて私を見た…。
――この時の彼女の目は今まで私が見てきた中で一番暗影が強く、
怒りと悲しみが…光の差さない闇がそこにはあったようだった…――
「…ぉ…母さ…ん…?」
何故か彼女はこう呟いた。
首を少し傾けて壊れたピエロのように手をダラーッと下ろしていた。
「…え?何?…なんて言っ…」
「ぅぅううわわわわあああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」
「!」
彼女は雄たけびを上げた。
ものすごい叫び声だった。
絶叫にちかかった。
そして私の両肩をつかみ思いっきり押し倒した。
私は何が起きたか、いまいち理解ができなかった。
ただ、今の状況は彼女が私の上に馬乗りをしていた。
それだけだった。
「…ご、ごっちん!!…どうしたの?!」
「…ぅ…ぅ…ぉ…母…さん…?」
「…え?何?ど、どうしっ…!っう…くぅ…」
彼女は私の言葉ともろに両手で首をつかんだ。
そして徐々に力を入れていった。
―ギリ…ギリッ…
「…!!っく…ゃ…た…すけ…ぇ」
「……」
彼女は不思議な笑みを浮かべる。
彼女の額からは大量の汗が滴り落ちた。
「…くぅっ…ぅ…うぅ…ごっ…ち…」
言葉すらもままならなくなってきた。
どんどんと視界が白くなってくる。
私に見えるのは彼女の不気味とまでいったこの笑みのみ…。
そして、小さく『お母さん』と呟いている彼女の悲しい目だけだった…。
- 313 名前:第25話 投稿日:2006/09/26(火) 00:15
- 私の意識も、もう薄れてきた。
…ここで死ぬの?
…彼女に殺されてしまうの…?
そんな事が私の頭によぎった。
だが、私の意識が途切れる瞬間に首を押さえ込めているものが解き放たれた。
チカチカとする視界が徐々に見えてくる。
それと同時にドサッと何かが私の隣に崩れ落ちたような気がした。
しばらく酸素が体に行き渡るのに時間がかかり、思考能力も低下していた。
やっと、体を起こせるくらいになり、ゆっくりと体を起こすとかわりに隣で彼女が倒れていた。
…まるで死んだかのように…ぐったりと。
「…ご、ごっちん…?」
「…」
返事が無い。
私の背中には嫌な汗が一滴滑り落ちた。
「…ねぇ…ごっちん?…お、起きてよ…」
「…」
どんなに体をゆすっても動く気配が無い。
「…いやぁ…やだぁ…よ…ねぇ、ごっちん!!」
「…」
再び血が引いていくのがわかった。
さっきとでは違う意味でだ。
何が起きたのかがよく分からなかった。
「…い、いやぁ…」
思わず涙があふれる。
ふと、中澤先生から言われた言葉を思い出した。
『…後藤に何かあったら連絡してくれ。すぐにな』
「そ、そうだ!…連絡…!!」
勢い良くポケットから携帯を取り出しディスプレイに“中澤先生”と表示すると発信ボタンを押した。
―プルルルルルッ…プルルルルルッ…
お願い…中澤先生出てください…。
神様にでもお祈りするかのように心の中で叫んだ。
―ガチャッ…
それが通じたのか、つながる事ができた。
『はーい…中澤ですけどぉ…』
「な、中澤先生!!ごっちんが…ごっちんがぁ…!」
『…なんや。石川さんやないかぁ。どないしたん?泣いてちゃわからんでぇ』
「…た、倒れたんです…!ど、どうすればぁ…!」
『…おちつきぃ…石川。後藤息してるか?確かめてみ』
「え、いきですか?…ちょっと待ってください…息は…してます…」
『…そか…ならたぶん寝てるだけや。後藤は。時々あんねん。
興奮したときとかなぁ…普段から大量に薬を服用してるから寝る時間が変なんや。そんなに心配することや無いで』
「…そ、そうですか…よかった…。急に倒れて…」
『…一応ベッドに寝かせてやってや。あと、体にいいもん食わせてやってくれ。
それで大丈夫や。あんまひどいとまた病院連れてきてくれぇ』
「わかりました…ありがとうございます…」
『いーえ。ありがとなぁ…連絡くれて。また、よろしくな』
「…はい」
『んじゃ、きるで』
―ガチャッ…
良かった…。
寝てるだけなんだ。
でも…これも私のせいなんだ…。
私が彼女を苦しめているんだ。
誰でもなく…この私が…。
もぅ…どうしようもない…。
もぅ…駄目なのかもしれない…。
…限界なのかな。
ねぇ、ごっちん…。
- 314 名前:第25話 投稿日:2006/09/26(火) 00:15
-
- 315 名前:第25話 投稿日:2006/09/26(火) 00:23
- 》305 名無飼育さま
有難うございます。
徐々に何かが動き出しているように書いているのですが
なかなか話が進みません(笑
こんなダラダラ文で申し訳ありません!
》306 名無飼育様
こんな駄作にそんなレスがもらえるなんて思ってもいませんでした!
本当に嬉しいです!
期待を裏切らないように頑張ります!
》307 名無飼育様
レス有難うございます。
そうですね〜…。
私の書く梨華ちゃんはかなりのナイーブでネガティブさんなので
なかなか一人でやっていけないところがあるようです。
まぁ、題名でもあるように
『光と闇』ということで後藤さんと共存して生きていくさまを
書いていきたいのでこんな梨華ちゃんになってしまいました!(笑
- 316 名前:Liar 投稿日:2006/09/26(火) 00:25
- 皆さんレスありがとうございます!
やっぱりレスはすごく嬉しいですね!
書く勇気をもらえます。
これからも頑張って書いていきます!
レスもらえたら嬉しい限りです。
それでは失礼しました。
- 317 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/29(金) 01:51
- 前回はageてしまってすみませんでした。。。
以後気をつけますね。
少しエロモードに期待なんかしてしまいました(;^ω^A
秘密が少しずつ解き明かされて行く展開に
さらにドキドキしてしまいます!
更新楽しみにチェックいたします〜
- 318 名前:さみ 投稿日:2006/10/07(土) 04:49
- 読みました、頑張って下さい!
- 319 名前:第25話 投稿日:2006/10/20(金) 22:54
- ―プルルルルルッ…プルルルルルッ…
突然電話が鳴ったのは夜の9時すこし前の時間だった。
―――――――――
誰かと昼間に遊んだわけでもなく、勉強していたわけでもなく。
ただ高校生活最後の夏休みという時間を無駄に過ごしていた。
午前中から部屋にこもりっぱなし。
梨華ちゃんみたく本を読む事も無く、そこらへんのオタクみたく朝から晩までゲームに没頭するわけでもない。
ただ朝起きて熱めのシャワーで目を覚まし、ご飯を食べて、お気に入りのソファーの上でボーッとする。
そんなわけもない私にとっては平凡な一日が今日もようやく終着点を迎えようとしていた。
再びシャワーを浴び灰色のスウェットに着替え、タオルを首に巻きつける。
机の上にあったリモコンを手に取り、テレビをつけることにする。
毎週なんとなく見ていたドラマの時間なのだ。
今流行の純愛学園ラブストーリー。
何故このドラマを見ているのかは自分でも不思議だった。
だが、見出すとなかなか面白い。
よくある高校生の純愛なのだが、
私の知っているリアルの世界はこんな世界ありえない。
だからこそ、ある意味現実離れしたドラマの世界に少なからずも引き込まれるのも、
やはり疲れがたまっている証拠なのだろう。
そう勝手に自分で理由をつける。
じゃないと見てるこっちが恥ずかしい。
キャラじゃない自分が気恥ずかしいのだ。
物語はというと夏休みも終わりに近づいてきているために盛り上がりをみせている。
私の気持ちとは正反対に。
私はゆっくりと目を閉じた…。
耳には主人公の甘い台詞が聞こえてくる…それに応えるヒロイン…。
思わず眉間に皺がよる。
―ブチッ…
「はぁ…」
テレビの電源を切り、思わずため息をついてしまった。
ため息をつくと幸せを逃すんだっけ…。
頭の片隅にあるのはこんなどうでもいい豆知識。
自分の身をソファーに投げ出す。
軋む音が耳に届く。
さらにギュッと目を強く瞑る。
「…くっ…!」
そんな定かの事だったんだ…。
私の携帯が光ったのは。
―――――――――
- 320 名前:第25話 投稿日:2006/10/20(金) 23:20
- 「……」
だれから?
出る気力もないが、そんなわけにはいかない。
重たい体を少し持ち上げて腕を伸ばして携帯を握り締めた。
「…はい…」
『…もしもし、美貴ちゃん?』
いつもより声のトーンが格段と低い。
声自体は高いんだけど、彼女の持つあのネガティブな思考がもろに伝わってくる。
「…どうしたの?何かあった?」
『あ、あのね…ご、ごっちんがね…』
「うん、ごっちんがどうしたの?」
『…た…ぉ…れた…の』
彼女の声が微かに震えている。
泣いていた?それとも泣いている?
あきらかに様子が変だ。
「…落ち着いて。美貴にちゃんと話して?」
『ごっちんが…倒れた…』
「…は?」
『ううん…。で、でもね、中澤さんに電話したらただ寝てるだけだって…時々あるんだって…』
「…あ、そう…。びっくりするじゃん」
なるべく平然のふりをする。
声に分からないように。
今、一瞬私の額に冷汗がつたった…。
『…う、うん』
「で、梨華ちゃんは何で電話してきたの?報告?」
『…』
「梨華ちゃん?」
『あ!…あのね、来て欲しいんだ。ここに』
「…」
『夜遅いって分かってるんだけどね、…話したいこともあってさ…』
「それは…電話では言いづらい事?」
『…だね』
「わかったよ」
『…ごめんね、迷惑ばっかりかけて』
「こっちこそ。本当はそんな時に身内である美貴がそばにいなきゃいけないのにね」
『ううん…そんなこと…』
「いまから…いくから。まってて」
『うん。それじゃあ、まってるね』
―プツッ…
切れた携帯をしばらく見つめる。
話したいこと…?
それは大体わかってた。彼女のトーンでわかる。
あまり…よくない事だと思う。
そんな気がする。
私はソファーから立ち上がり下はジーパン、上はシャツといった簡単な格好で携帯片手に部屋を飛び出した。
- 321 名前:第25話 投稿日:2006/10/21(土) 12:55
- 外にに出た私は空を見上げた。
今日は少し曇っていて星空が見えない。
「そうか…今日は曇りだったんだ…」
ポツリと口から出る喪失感。
今日は外に出なかった。
だから分からなかった。
というか、最近外に出てもろくに空なんて見上げる事すらなかったと思う。
夏風が背中から通り抜ける。
私の短い髪がゆっくりと揺れた…。
顔に掛かる髪を払い除けてフッと笑みをこぼす。
どうしちゃつたんだろうか…。
いつものこと?…
いやちがう。
自問自答を繰り返す。
…梨華ちゃんのせいだよね?
…そうかもね。
夏の空気が私にまとわりつく。
ジメジメとして気持ち悪い。
私は歩き始めた。
徐々に早歩きになっていく。
いつの間にか私は全速力で駆け抜けていた。
自分の呼吸が乱れようとお構い無しだった。
「はぁっ…はぁっ…!」
街灯が、木が、人が、車が。
私の横を突き抜けていく。
わけが分からない。
…なぜ私は走っているの?
…ごっちんには…わかる?
- 322 名前:第25話 投稿日:2006/10/21(土) 13:16
- ―…ピーンポーン…
私がインターホンを鳴らしてから扉が開くまでの間はほんの数秒にもみたなかった。
扉の奥には彼女の…梨華ちゃんの悲しい微笑がそこにあった。
思わず胸が痛くなる。
この子、こんな顔もするんだ…。
「はやかったね…」
「走ってきたからね」
「…はは。キャラにもないことしたんだ…」
「…うん」
彼女は目を伏せながらこう応える。
どうしたの?
なんてその場では聞けなかった。
「…ごっちんは?」
「あぁ。あのね、リビングの床で…寝てる」
そう彼女から聞いて私はリビングへ直行した。
そこにはうつむせに倒れている後藤がいた。
「これ、本当に寝てるの?」
「…うん。寝息もたってるし」
「…そか」
ゆっくりと駆け寄る。
…うん、確かに寝ているようだが。
無理やり…というか、なんというか。
苦しそうだ。
「梨華ちゃんさ、こんなとこに寝かせるんじゃなくてベットとかに運んであげればよかったのに」
「…あ…」
私の口元が緩む。
まぁ、彼女の事だから気が動転していたんだろう。
未だに目が虚ろになって今の状況に納得しているわけではなさそうだ。
「まぁ、いいからそっちの腕、担いで上げて。ベットに移動させるよ」
「…う、うん」
2人でごっちんを持ち上げてベットに移動させた。
そんな大きなことにも動じず、彼女は未だに夢の中だ。
…これは梃子でも動かない…いや、梃子でも起きないって言ったところかな。
ごっちんを移動させた私と梨華ちゃんはソファーに座った。
「…大変だったみたいだね。お疲れ様。色々と…」
「…うん」
彼女は目を閉じて応えた。
…なにかあったんだね…?
心で私はこう問いかける。
- 323 名前:第25話 投稿日:2006/10/21(土) 14:00
- 「…病院行ったんだって?」
なにか言いづらそうな彼女だったので私から話題を振ることにする。
「…え?なんでしってるの?」
「中澤先生から聞いたよ」
「…あ、そっか。知り合いなんだっけ」
「まぁね。…よく、素直にごっちんが行ったもんだね」
「…うん。あ、あのね、美貴ちゃん…」
「何?」
彼女は言いづらそうに、でも鋭い目で私を見つめる。
何かを主張するような強い目をした。
「…傷をね…見たんだ…」
「…なんの?」
「…彼女の体の…傷」
「…あぁ」
「…美貴ちゃんは、どうしてその傷が出来たかもちろん知ってたよね?」
「…そりゃあね。知らないわけはないよ」
「…言って欲しかったよ…」
本当に暗い…そう、まるでごっちんのような目を一瞬彼女はした。
…へ?…同じ目?…似てるの?
「…うん。ごめん」
「…」
「びっくりした?それを見て」
「…びっくりしたとかの問題じゃなかったよ…私自身、何か…おかしくなった」
「…なにか…あったんでしょ?ごっちんと」
彼女はきっといえないだろう。
それについて。
だけど何かあった事は確かだ。
彼女も…おびえてるように見えるから…
- 324 名前:第25話 投稿日:2006/10/22(日) 21:08
- 「…そうみえる?」
彼女は私の目をまっすぐと見つめて強くこう言った。
よく見てみると、手は小刻みに震えている。
顔色もよくない。
「見えるよ。だてに梨華ちゃんと長く親友やってるわけじゃないからね」
「するどいね。美貴ちゃんは」
言葉を一生懸命吐き出してるようだった。
彼女はそうやって言い、顔を歪めた…『笑う』のではなく。
引きつる笑みが私の胸を抉る。
「…無理して笑わなくていんだよ…」
彼女が何で悩んでいるのか正確に分からない。
でも、ごっちん関係ってことは分かる。
彼女が最近考える事は全てごっちんがらみだ。
この前も…ごっちんに投げつけられたコップの件で梨華ちゃんはひどく傷ついていた。
私は…何もしてあげる事ができなかった。
自然と目線は梨華ちゃんの鵬にむいた。
―――今だって…残る彼女の鵬の傷…
私は目を細めた。
ごめん。ごめん、梨華ちゃん。
胸の中で響くのは謝罪の言葉だけ。
私は彼女の鵬から視線を放そうとした…。
「…ぁ…れ?」
「…何?美貴ちゃん」
「…それ…どうしたの?」
私は彼女の首元を指差した。
そこには小さな赤い痣のようなものが喉の横を左右、三箇所ほど付けられていた。
中には血が滲んでいるものもあった。
それはまるで爪で付けられた跡のようだった…。
彼女は首元を触っている。
自分からは見えないようで私に何?何?としきりに聞いている。
「…痣みたいのがあるよ?赤い小さな斑点が。なんか…爪跡みたいの。どうしたの?」
一瞬考え込んでいたようだったが直ぐに思い出したかのようにハッとし、首元を隠した。
「な、なんでもない!…なんでもないよ…」
その慌てようは普通ではなかった。
目は血走っている…という感じか。
オーバーリアクションな彼女ならではの事だ。
「美貴にはいえないこと?」
「…だからなんでもないって言ってるでしょ!!」
不意に大きい声を出す。
「…別に怒る事でもないでしょ…」
「…ご、ごめん」
「美貴もごめん。言いたくないならいいんだ。なんとなく…わかったから」
えっ?っと私の勘の良さに驚く彼女。
まさかって感じの顔をしている。
でも、それは勘なんかじゃない。
ちゃんとした推理だ。
というか予測…いや、確信だ。
さっきごっちんをベッドへ担いだ時、彼女の爪先に血のようなものが付着していた。
そして、目の前で驚いている彼女には言わなかったが
彼女の首元には、爪跡と…手形の痣もうっすらだが残っていたのだ。
まぁ、これがいわゆる徹底的な証拠というものか。
梨華ちゃんは私の勘の良さに驚いているだろうが、
考えれば小学生でもわかる話しだ。
少し…残酷ではあるが。
- 325 名前:第25話 投稿日:2006/10/22(日) 21:47
- そこまで…するか…ごっちん…。
ここまでくると、ただ彼女に『助けてあげて』とお願いできるレベルではない。
これを心開いている証拠ととるには少々ふざけている。
そんなごっちんに怯えるのはもはや当然であり、
逃げなくてはいけないくらい危ないような気もする。
だけど私には、私にはまだ大丈夫、ごっちんは本気でそんなことする子じゃない
といった親馬鹿の気持ちがあった。
梨華ちゃんに『何かあったら言ってくれ』なんて言えるのだろうか?
もし、何かあっては遅いのではないの?
…だけど…そういうしかないんだ。
「…大変だったね…」
「…!…な、何にもなかったよ…」
少しばかりの抵抗が心に刺さる。
そんな顔してそんなこと言わないで欲しい。
私だって…つらいんだよ…。
「…美貴は何にもできてないね。梨華ちゃんに任せっぱなしだね」
「…私が望んだ事だし…」
「…なにか…あったら…言って?」
「それ、何度も美貴ちゃんから聞いてるよ」
「…そだね」
でも、そう言うしかないんだ。
私には見守るしかできないんだ。
弱いから…。
- 326 名前:第25話 投稿日:2006/10/22(日) 21:59
- 私はそのまま梨華ちゃんの家から帰ることにした。
彼女はごっちんの傷跡の事を聞きたかったんだと帰り際に言っていたが、
たぶん恐かったんだろう。
どんなに自分が少しばかり好いてる相手でも首を絞められたのだから。
それは彼女の震えから分かる事だった。
それに、傷跡についてたいして私達は会話しなかった。
聞きたかった事は確かだろうが。
「…バイバイ、美貴ちゃん」
「…うん。それじゃあ。…また、電話して」
「うん…」
彼女の縋るような顔を見たくなかった。
一刻も早くここから立ち去りたかった。
ごめん、ごめん…。
これしか頭に浮かばない。
今にも泣き出しそうな彼女に最後の一言を私は付け加えた。
「…大丈夫だから。ごっちんは…真希はもうしないよ。
梨華ちゃんが来たからもう自殺なんてことしないよ。信じてあげてよ…」
「…うん」
本当に…本当に最後に彼女は綺麗な微笑を私に投げかけた。
だけど、それは彼女にできる必死の作り物だったことは分かっていた。
それでも私は綺麗に見えたんだよ…?
梨華ちゃん。
- 327 名前:第25話 投稿日:2006/10/22(日) 21:59
-
- 328 名前:第25話 投稿日:2006/10/22(日) 22:04
- 》317 名無飼育様
ageとかsageはあまり気にしてないですよ!全然気になさらないでくださいね。
エロモードに期待しましたか。よかったです!
あぁいうシーン書いたこと無かったんで…。
たぶん、のちのち増えていく予定です…。しかも黒めで。
マターリお付き合いください。
》318 さみ様
はい!がんばります!
レスありがとうございます!
- 329 名前:第25話 投稿日:2006/10/22(日) 22:07
- また、間があいてしまって申し訳ありませんでした。
すこし暗めなので書くのにてんぱってました。
本当にゆっくり更新で申し訳ありません。
でも、地道にがんばりたいです。
レスもらえたらうれしいです。
それでは失礼しました。
- 330 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/24(火) 01:23
- 更新おつかれさまでした〜
毎日、ここまでか?とワクワク見てました!
はい。暗めのエロ期待しております。
ますます目が離せません〜
実は少しずつ救われて行く様な気配と
更に落ちて行く感じ。どっちなんでしょーね。
- 331 名前:Liar 投稿日:2006/10/28(土) 00:09
- ちょっと、皆さんに聞きたい事があるのですが…。
これからの主旨についてです。
皆さんはHAPPYな結末とBADな結末はどちらがお好きでしょうか…。
別にそれを聞いて結末を決めるというわけではなく、参考にまでと思いまして。
あと、物語に『こんな感じの事を入れて欲しい』とか
『こんなのを入れたらこの小説にあっているのではないか』
なんていう意見を頂きたいのですが。
この小説にはもう、ある程度段取りなんかは決まっているのですが
呼んでくれている方にも聞きたいなっと思いまして。
あくまでも参考です。
それが100%取り込まれるわけではないのですが。
よろしくお願いします。
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/28(土) 00:40
- 最初がとことん暗かったのでできれば最後はHAPPYな方向で…
- 333 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/28(土) 02:05
- 甘く切ない感じで、、、
- 334 名前:Liar 投稿日:2006/10/28(土) 11:52
- 『エロがもっと欲しい』
『後藤が石川に○○してる所をみたい』
『藤本と石川が〜〜したほうがいいと思う』
なんて意見も欲しいのですが。
どうですかね。
- 335 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/28(土) 21:53
- 石川が後藤に無理矢理されてるところを藤本が見てるとか
後藤が感じてしまい逆転するとか?
石川の身体に夢中になり立ち直るとか?
- 336 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/29(日) 08:18
- 石川さんがボロボロにされつつも最後には救いがあれば
- 337 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/29(日) 13:01
- 後藤のせいで欲求不満な石川が我慢出来ずに藤本を襲うみたいなの希望します
- 338 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/29(日) 14:35
- 最後にラブラブないしごまになってくれれば嬉しいです
- 339 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/30(月) 19:11
- 欲しい意見の要求してどうすんの。w
自分はてっきり話の始め方とかで結末ありきの話なのだと思っていたんですが
どうやらそういう事でも無いみたいですね。
話の趣がわりとシリアスな展開の仕方をしているのであんまり甘々なのは入れないで欲しいですね。
最終的に救いのある終わり方を望んでいます。
エロは…どうでしょ。流れ上必要なシーンなら別にあってもかまわないと思うんですが
エロを入れたいからとか、エロありきな話の持っていき方だと読んでいて冷めてしまいます。
長くなってしまいましたが、引き続き楽しみにしているんで頑張って下さい。
- 340 名前:Liar 投稿日:2006/10/31(火) 14:13
- 沢山のご意見有難うございました。
>332 名無飼育さん
最初、私が決めていた結末は暗いものだったので少し考えてみます。
有難うございました。
>333 名無飼育さん
甘くはできないと思いますが、切ない感じのを突き詰めていきたいです。
ご意見有難うございました。
>335 名無飼育さん
藤本さんの使い方のご意見有難うございました。
そのとおりになるか分かりませんが、藤本さんをもう少し使ってみようかと思います。
ご意見有難うございました。
>336 名無飼育さん
たぶん、後半になるにつれて石川さんがもっと悲劇的になっていくと思います。
それをご意見にいれてくれて、ホッとしました。
有難うございました。
>337 名無飼育さん
そういう使い方も面白いですね(笑
ご希望に添えるか分かりませんが、石川さんがボロボロになっていくのは
間違いないと思います。
有難うございました。
>338 名無飼育さん
私は暗めの結末を考えていたのですが、
明るい最後が良いという方が結構いたので、
皆さんがどう感じるか分かりませんが少し石川さんにとっては明るい最後にしたいです。
できるかわかりませんが…。
有難うございました。
>339 名無し飼育さん
長いレス有難うございます!
意見は『読んでくれている方がいるのにつまらない作品になったら申し訳ない』と思いまして
作者の勝手ながらご意見をもらいたかったです。
差支えがありましたらすみませんでした。
私個人として一番知りたかったのは結末についてでして…。
最終的にハッピーな結末を希望してる方が多かったので、
皆さんがどう感じるか分かりませんがそういう方向にもっていけたらなと思います。
エロはどうしても入れなければならない場所が今後多々ありまして…。
ものすごく暗いエロになってしまう気がしてなりません。
長いレス本当に嬉しかったです。
有難うございました。
- 341 名前:Liar 投稿日:2006/10/31(火) 14:21
- 皆さん本当に有難うございました。
何故意見を欲しかったかといいますと
書いている私自身の自己満足でもいいと思ったのですが
こんな駄作、しかも処女作品を読んでくださっている方がいると
いうことで、少なからずですが読者の皆さんがどんな事を希望しているのかが
知りたかったという、作者の勝手でした。
すみませんでした。
しかしそんな勝手にご意見をくれた方々、本当に感謝しています。
当初、結末は真っ黒…といいますか…BADな結末にしようとしていました。
しかし、明るい最後を希望している方が何人かいらっしゃったので
少し形を変更しようかと考えています。
内容的にラストも真っ黒くなっていくのは
どうしても変えれないのですが
番外編、または違った意味で少し明るいところを石川さんに入れたいなと思います。
今後はしばらくダラダラと内容が進んで行きますが
もう少しすると
黒く、黒く…切ない感じになっていくと思います。
そんな小説ですが、よろしくお願いします。
次回更新は今週中にでもしたいと思います。
それでは失礼しました。
- 342 名前:さみ 投稿日:2006/11/02(木) 01:50
- この小説読んでる人は少なからず貴方に賛同してる人だと思います。
自分で納得できる小説を書き上げて下さい。
Liarさん!がんばれ!!!
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/21(金) 17:26
- すごい続きが気になります。
いつまでも待っとります
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