罠U

1 名前: 投稿日:2006/01/22(日) 14:38
罠 という同板でひっそりと書かせて頂いておりましたタイトルの続編になります。
生意気に2スレ目でHNなんぞつけてしまい申し訳ありません
こっそりとこれからも駄作を続けてしまう事をお許し下さい

相変わらずの文章力ですが暇つぶしに楽しんでいただければ幸いです

前スレ
 ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/water/1133609584/l50
2 名前: 投稿日:2006/01/22(日) 14:40
ついに卒業式がやって来た

どうやらやぐっつあんは、やっとよしこと体も結ばれたみたい

やぐっつぁんの表情が誕生日を機にぐっと大人っぽくなったから
変態裕ちゃんがしつこく聞いたら、真っ赤な顔をして白状した

だけどもやっと結ばれたのに、それからは卒業間近の頻繁な実技試験や、
作品つくりでほとんど帰る事が出来なくなっていった

みんなも、休日や夜、アジトに約束もしてないのに
誰彼ともなく集まって過去の試験の実技の時間を図ったり、
協力しあっていたから

まぁ、合えない日が続く時には、
日曜の夜に我慢しきれなくなってよしこが寮にやって来てどこかに連れて行ってるけど
それでもほんの少し、一時間位で帰って来る
3 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:43
詰め込むだけ詰め込んだウチらのカリキュラムだからそれも仕方ない

だから、寝る前に美貴に電話して、色々話すだけで今は我慢してるし、
なんだか美貴とよしこがなにげに店出すのに燃えて来ちゃって
暇を見ては、ウチらのイメージを聞いてきては二人で会って裕ちゃんに相談したり、
建築会社に数件見積もりを頼んだりして計画を練っている

全員集合はなかなか出来ないけど、
その中でじっくり一ヶ月位かけて五人で話し合って、
2階はゴトーの洋食と美貴のアクセの店、1階に紺野の和食の店を開く事で皆納得した
そしてやぐっつぁんとよしこが紺野の店を手伝うんだって

従業員は今んとここれだけ

だから店は小さくカウンターとテーブル席が二つ位かな・・・・
一階はカウンターと個室にして

それぞれの奥にウチらの住居が作られるという事

設計事務所は、よしこの店の客に紹介してもらったそうだ
じゃないと相手にしてもらえないみたい
4 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:45
絵梨香が一度心配してゴトーに電話して来た

「ひとみさん・・・・大丈夫でしょうか?」

やぐっつぁん大好きの絵梨香の心配は、間近で見ているよしこの変化
昔のような魅力的なオーラを復活させて、精力的に仕事に励んでいる事がどうも心配のよう

しばらくは誠実ないい感じだったのに・・・・・・と、
再び金持ちの女の人を魅惑的な言葉で惑わせて
次々に指名を獲得している姿をハラハラして見てるそうだ

でも絶対にアフターには行かないし、同伴迄しかしてないみたいだけど
・・・・なんか胸騒ぎがするからと

やぐっつあんに聞いてみると、もちろん答えは決まってて、
すっごく優しいよとしか返ってこない

まぁ・・・・・そうだろうけどさ・・・・・
なんか今迄よりさらにバカップルっぽくなってる二人には、
周りの心配なんて届かないんだろうね
5 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:46
絵梨香の心配は・・・・
もしかしたら設計会社を紹介してくれた客の方なんじゃないかとも思う

よしこを気に入ったのか、ちょくちょく店に来るようになった人気モデル

美貴は会った事があるらしいけど、確かに美人で女らしい人のようだ
ただ、ちょっと何考えているのか解らないような所が怖い感じのする人だという事

何かを求めてるような・・・貪欲な何か

まぁ、絵梨香が心配するような事がよしことの間にある訳ないのは解ってる
よしこがここにやって来た時のデレデレな顔を見れば一目瞭然

よしこはどうやら本気で店を持つ為に、指名を増やして少しでも稼ごうという魂胆だと思う
・・・だって本当のよしこは小さい頃から単純馬鹿な、そしてかわいい奴だから

絵梨香にもそう言うと、なんとなく納得していたようだ
6 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:49
最近ではすっかり美貴とよしこに店の事は任せて、
ウチらは就職面接とか日々資格の取得試験と、慌しい毎日だった

寮の仲間全員の意識が一つになり全員協力しあっていく日々・・・・・
そして漸く、全員合格、就職も決まった

裕ちゃんの最初の言葉通り、
全員協力しながらなんとか卒業にこぎつける事が出来た

ゴトーはプチレストランの下働き
やぐっつぁんは、なんと日本料理の老舗に就職
紺野は何故か旅館の住み込み板前へと遠くに行ってしまう

紺野の土地にウチらの店が作られるのは何年後なのか解らないけど、
着実に夢は近づいていると感じた
7 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:51
二年制の人たちと、同じ会議室でウチらは同じ卒業証書を貰う

合同で行われた卒業作品の品評会で、
なんと瑠依が最優秀作品に選ばれ、
就職先も、超有名ホテルの就職が決まっていた

裕ちゃんが言うには、毎年一人は就職するらしいけど、
余りに厳しくて続かないようだから瑠依が適任だろうと進めてくれたようだ

そんな瑠依が、やぐっつあんを卒業式前に呼び出しているのを見つけてしまって、
気付かれないように後をつけた

寮の後ろの、今迄来た事ない場所で

「やっと卒業だな」
「うん・・・・長かったようで短かったね」

「そうだな・・・・なんか知らないけど・・・・・
みんなとは仲間って呼び合えるような事になっちまったしな」

「うん・・・・瑠依も色々ありがと・・・・おいらの事一杯助けてくれて」
「いや・・・・・それより・・・・あいつと店・・・・開くらしいな」

「うん・・・・いつになるか解らないけど・・・・
よっすぃがおいらと一緒なら頑張れるって言ってくれて」
おいらもやってみようかなっ・・・・て・・・・・よっすぃと一緒だから

ここから瑠依の表情ややぐっつぁんが
どんな顔してそんな事を言ってるのかは解らないけど

きっと瑠依は最後に告ろうとでも思ってたのかもしれない
8 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:53
やぐっつあんに悪気はなくても、これじゃ告れる訳ない

「まぁ・・・・ちゃんと腕磨いとけ、
たまに抜きうちでお前達の店チェックしに行くからさ・・・・・
開店する時は連絡くれよ」
「うん、解った」

「・・・・・じゃあ・・・あいつとも仲良くな」
「うん、ありがと、瑠依も・・・頑張ってね」
「ああ」

戻って来るだろうとそっとその場を離れたから、
その後の二人の会話はわからないけど
結局瑠依は一度もやぐっつぁんに好きだという気持ちを言う事は無かった

生徒と先生だけの卒業式が終わって、
寮生だけでばか騒ぎ・・・・

そして明日は退寮する事になる
9 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:53


10 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:54
「矢口さんってどんな人?」

突然聞いて来た
「いやぁ・・・・かわいいですよ・・・・一つ言うならいつも一生懸命です」
「そう」

石川梨華・・・・
週に一度はモデル仲間とかを連れてこの店にやって来るようになった

初めて会った時に、恋人いるかと聞かれたので正直にいますと答えても、
彼女はウチを指名して飲んでいく

何回かやって来て、ウチの昔の事を聞きたがる石川さんの質問にはきちんと答えてきた

どんな子供時代で、どんな経緯でこの仕事についたか
彼女はウチに興味があるんではなく、ウチのようなダメな奴に興味があるんだと感じる

何か悩んでるのかもしれない
11 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:55
どうしても出てくるウチの恋人の話

隠す事なくウチは矢口さんへの気持ちを話す
とても大切で、いつまでも一緒にいたいという気持ちを

さっきの質問から興味の対象を、
ウチから矢口さんに移したんだと思った

石川さんが連れて来る先輩モデル達は、華やかな世界とはウラハラに、
かなりドロドロとした人間模様もあるみたいで、
ストレスを発散する為にかなり豪快に遊んで帰って行く

そんなバカ騒ぎを静かに見守るのが石川さんで、
しかもいつも石川さんがおごっている

何かと事務所に優遇されている自分への、
先輩のやっかみに対する配慮からなのだろうか

今日も朝方近くには、この集団しかお客さんはいなくて、
紗耶香さんや、舞達主力はもうアフターとかで消えてるけど、残った全員で接待中
12 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:57
ものすごく盛り上がっている一番端っこでふいに石川さんが言い出す

「人を好きになるって・・・・どういう感じ?」

やはりこの人・・・・同じ人種?

矢口さんに出会って気付いた自分の本当の姿

孤独で・・・・
実は怖がりな・・・・ただの臆病者

もし・・・・矢口さんと出会わなかったら・・・・
きっとこの人とは速攻寝ていただろう

お互いの空虚を恐れ、欲望に誘われて

初めて見た時に、その魅惑的な眼差しにそれを感じていた
13 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:58
だけどもうウチは矢口さんの温もり以外はいらない

週に一度も帰って来れなくても・・・・
あの声が毎日元気そうならそれでなんだか一緒にいる気もするし

何より心が温かくなる・・・・

そして明日は待ちに待った日・・・・・
矢口さんが帰って来る日

閉店間近で、はやる気持ちが一杯ですこぶる機嫌のいい私

体を交えて・・・・・お互いを感じあうようになってはっきりと感じる力

絶対に矢口さんといっしょに店をやってやる

誰を傷つけても・・・・きっとそれは矢口さんにとっては望まない事だろうけど

優しい矢口さんを守る為に・・・
ウチはもっと強くならないと・・・・そう思ったから

もっと貪欲に客を取って少しでもお金を稼ぎたい
だから・・・・消極的な仕事の仕方じゃなく・・・・もっともっと稼がないと
14 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 14:59
一人考えてると、さっきの質問の答えに何かを期待するような目で
じいっとこっちを見てる石川さんに気付いて咄嗟に答えた

「そうですね・・・・・今迄知らなかった自分と会えたって感じでしょうか」

「へぇ・・・・・いいね・・・そんなのって」
華のように笑う石川さん

そんなに魅力的なのに・・・・・誰のものにもなった事はないのだろうか

「あっ、絵梨香」
「はい」

石川さんが通りかかった絵梨香さんを呼び止める事はしばしばあった

先輩モデル達が呼び止めて勧める酒を絵梨香さんは真面目に断るもんだから、
私の酒が飲めないのかぁと暴れだし、いつもウチか麻琴、
他のホストが変わって飲んだりして盛り下げないようにしていた

一応絵梨香さん達フロアは飲んではいけない規則になっているからそれも仕方ない
15 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:02
「ここに座って飲まない?」

と言われても決まってこうやって笑う
「すみません・・・・私の仕事は違うんで」

避けるかのように絵梨香さんはいつも去って行くので、
石川さんはウチにいつも少し寂しそうな笑顔を向けた

何故か絵梨香さんは、石川さんを意識してるというか・・・・
あまり近づこうとしない

酔っ払いの豪快な他の先輩モデルにはよく近づいて話し相手・・・・・
というか苛められにやって来ているのに

どうやら絵梨香さんは先輩達にはかわいがられているようだ・・・・
いつもにこにこしているからかな
16 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:03
「吉澤さんの恋人・・・・矢口さんの事を好きなんでしょ・・・絵梨香って」

もしかしたら・・・・と思わずにいられないけど・・・・・
石川さんは、絵梨香さんが気になってるんじゃないだろうか

「まぁ・・・・そのようでしたね・・・・でも絶対渡しませんけど」
彼女も諦めたみたいですし・・・・・

矢口さんにめちゃくちゃ相談にのってあげたり
ウチらのフォローしまくってくれてるし

・・・・落ち着いて考えると彼女には感謝する事は多い

「ふぅん・・・会ってみたいなぁ・・・・矢口さんに」

妖艶な視線がウチを捕らえ・・・・初めて会った時のように息を呑んでしまう

確かにこの人は魅力的だと思う・・・・・

でもウチは絶対にもう浮気はしない
17 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:04
もう矢口さんの泣き顔を見たくないから

だから・・・・・・負けないようにオーラを出す・・・・・
この人に飲まれないように・・・余裕があるように見せるように

「そのうち会えます・・・・あなたのお父さんには力になってもらってるんですから、
そのうち揃って挨拶にでも伺います」

ウチらみたいなガキが、本気で店を出そうと考えてるなんて、
普通の会社では信じて貰えないだろうから

「そんなの必要ないわ、私の言う事は何でも聞く人ですもの、
それが正しい事だろうが、誤っていようが」

悲しい目

「娘のあなたを愛していれば・・・・・親なら当然でしょ」
「さぁ・・・・愛してるのかどうか・・・・・お金ならいくらでもくれるけど」
「そうですか・・・・・・まぁウチの親は、自分の娘がこうなってる事さえも知りませんからね」

すると嬉しそうにくすっと笑った

「やっぱり似てる・・・私達」

「そうですか」
18 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:05
石川さんはウチと似てると思ってたんだ

「同じ匂いがするよね」
「何の匂いです?」

キャラは違いそうだけど、同じ人種だと思ってしまうんだから・・・・
きっと何かが似てるのかもしれない

「そう・・・・だな・・・・・なんだろ・・・・負の匂いかな」

また妖艶な顔でこっちをみて笑ったら、
飲んでいたシャンパングラス越しに私を見た

「負・・・・・ですか」
「そう・・・・・・誰も信じない・・・・・寄せ付けないような負の力」

初めてウチを見てすぐに感じたそうだ

「なるほど」
あまり嬉しくない言葉に苦笑する
19 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:07
そう・・・・かな・・・・
確かに昔はそうだったような・・・・・
でも考え方は常にポジティブシンキングな持ち主だったと思うけどな

「きっとその矢口さんって人が吉澤さんを正に導いたんでしょ」

へぇ・・・・
今ウチは真っ当に生きてるって思われているんだ・・・この人には
・・・・・・なら確かに矢口さんのお陰だね

「私、生きててもつまらないの・・・・・
何でも与えられたから・・・・モデルだってやりたくてやってる訳じゃない・・・・
だから絵梨香が羨ましいのかも」

そういう・・・・負の力・・・・・
そうだね・・・・確かにウチもそうだった

まぁ・・・・・ウチは逆に何も与えられなかったから、
つまんなくて拗ねたり捻くれたり
でも欲しいものは自分で掴みに行ってたけどね・・・・

だから人の心なんて簡単に手に入ると思ってた馬鹿な自分にも
つまらないと感じる感情は確かにあったから
20 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:09
「絵梨香さんがまだ手に入らないものを石川さんは持ってるんでしょ」
しかし、何でも手に入るというのも羨ましいと思うけどね

ウチの言葉に少し悲しそうに笑みを浮かべ
「やっぱり会ってみたいなぁ」
そう呟いてクイッとシャンパンを飲み干した

先輩達も、そろそろ次行くかぁ〜っと盛り上がりながら叫ぶ

梨華、行くよ〜っと叫んで
みんなお気に入りのホストに抱きついてチュッとキスして去って行くのがパターン

他のホストの中には、綺麗なモデルの人達に結構ハマりそうな人も出てきてる
ウチは石川さんのご指名だから、他の人にそんな事される事は今の所ないけど

「今度絵梨香と遊びに行くね」
お見送りのホスト軍団に魅力的な笑顔を振り撒き去って行った

未だによく解らない人だと思う

絵梨香さんもそう思ってるみたい
21 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:10
さぁ・・・・
もうすぐ矢口さんを迎えに行かなきゃ

朝仕事終わりで行きたいけど、ちゃんと退寮の儀式があるらしく、
家族達が迎えに来るなら11時位に来て下さいと手紙で通達迄あった

しかも中澤さんがドスのきいた声で
また朝5時とか迷惑な時間にウチの矢口を連れて行くんやないで・・・
と電話があった

退寮の日だけは、家族や恋人がその敷地に足を踏み入れる事を許可されるみたいなので、
ウチは矢口さんが1年近く過ごした部屋を一度見せてもらう事にしていた

そんなこんなではやる気持ちが顔に出てるのか

「いよいよ明日ですね」
絵梨香さんが声を掛けてくる
22 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:11
「明日は邪魔しに来ないで下さいね」
冗談まじりに本気で言う

「解ってます・・・・まぁ・・・・ぼちぼちまたおじゃまさせて頂きますけどね」
あのクリスマスの日から、どうやら絵梨香さんには優位に立たれている気がする

「まじすか」
しょうがない許してあげますよ・・・・

「石川さんが、絵梨香さんとウチに遊びに来るって言ってましたよ」
素で驚いている絵梨香さんを、してやったりの顔でウチは控え室に戻る

絵梨香さんの弱点・・・石川さん・・・でしょ

絵梨香さん・・・・
石川さんを負の世界から抜け出させてあげてよ・・・・・・なんとなくそう願った

そんな事より、矢口さん、今日の卒業式は泣いたのかなぁ

明日ちゃんと聞かないとね
23 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:12


24 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:13
最近よく石川さんが私の携帯にメールや電話をくれる

そこにはやっぱりひとみさんの事がよく書かれていたり、話題になったりする

嫌な予感は、やっぱり消えない

矢口さんをもしまた泣かせるような事があれば・・・・・
今度こそ私が奪おうって思ってる

でも当の矢口さんは卒業して、明日にはやっとひとみさんのもとに帰れるようになったと喜んでるし
ひとみさんは石川さんの魅力に負けたりしないって信じたい

あくまでも客とホストの一線を越えないように、ひとみさんは頑張ってるんだと思う

店では、二人は出来てるとばかりにピッタリした空気が流れているから、
店長も客もお似合いとか言ったり、
紗耶香さんもあいつら出来てる?という程まったりとした空気が漂っていた

前のひとみさんだったらすぐに石川さんと関係を持っていたに違いない

・・・・・・ツキンと胸が痛む

何かがひっかかってる

それが何かは解らないけど・・・・
25 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:14
私はひとみさんがちゃんと矢口さんとお店を持てる迄見守っていきたい

私は私で変化がある、次の人が見つかったから、
来週でここを辞めてモデルの仕事に専念する

自分を表現する事が楽しい・・・・
こんな風に思えるようになったのはきっと矢口さんに恋をしたから

どうしてか、私の周りにはいい先輩が沢山いて、
モデルの仕事を単発でチョコチョコくれたりするようになったので、
仕事の幅も広がった気がする

スタイリストさん達と一緒にショップ巡りしたり、
自分の好きなスタイルを主張できる場を作ってもらったりして
知り合いも結構出来、また使うと言ってくれるカメラマンさんもいたり・・・・少しは自信がついた

もちろん、石川さんが何かと力になってくれているのは知ってるけど・・・・・
どうも彼女が何を考えているのかは解らないので素直に接する事は出来ないでいた
26 名前:第三章 投稿日:2006/01/22(日) 15:16
石川さんの力で、なんだか仕事をいただけるようになって
数をこなすうちに気付いたことは多々ある

着ている洋服が魅力的に見えるには、
着ている人の心境や表情でも変わってくるんだって気付けた・・・

週に一度は会ってる感じだけど、実際現場で会う事はめったにない
石川さんの仕事とはレベルが違うから

でも石川さんがひとみさんを誘惑するのなら・・・・・
私が絶対阻止しないといけない使命感

なんか変な私だけど・・・・・

大好きな矢口さんの為だし・・・・

きっとそれが自分の為にもなるような気もしてるし・・・・・

なんだろ・・・・

とにかく、皆が店をちゃんと開ける日迄、見守らないと
27 名前: 投稿日:2006/01/22(日) 15:17
本日はこれ迄
ぐだぐだと続けて参り、新しいスレ迄作ってしまいましたが
もう少しお付き合い頂ければと思います
28 名前:名無し7 投稿日:2006/01/23(月) 23:48
お久しぶりです
新スレおめでとうございます
第二部に突入といった所でしょうか、楽しみです
全然駄作ではないですよ!かなりの良作だと思っています
次回からも楽しませてください、例のごとくこっそり見守ってますね
29 名前: 投稿日:2006/01/24(火) 22:32
ひっそりと底の方にいる自分を見つけてくれた上に
いつも暖かい言葉をかけてくれる名無し7さん、本当に感謝です
これからもこっそり見守って下さい。
30 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:35
漸く昨日卒業式が終わって今日は退寮の日・・・・

どうなる事か不安で一杯だった入寮の日から、
10ヶ月がたったんだ

矢口さんと後藤さんに会えて、本当に良かった

そして、ここにいる皆とも・・・・・
なんだかんだあったけど、最後には全員が協力して卒業を迎えられたから
今日で離れるのかぁと思うと寂しいのは皆同じだった

課題や、研究の為に足しげく通ったこの秘密のアジトに・・・・・
退寮の儀式の後、約束する事もしてないのに全員が集まってしまった

全員で狭いアジトを綺麗に掃除し、
いつ後輩が来ても使えるように
ちゃんとランプの燃料とかも補充しておいたり・・・・
一年前にこうやって先輩もしてくれたんだろうなぁって話しながら作業する
31 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:37
埃がつかないように白い布をキッチンや鍋にかぶせると、
畳の部屋に座ってまったりと過ごす

穏やかになった気候がさらにのんびりとした雰囲気にさせる

そんな中入ったばっかりの揉め事の思い出話を皆でして笑いあったりしてると、
なんだかまだ明日もここでなんだかんだ言い合いながら過ごしていそうな気もする

全員の携帯やアドレスを交換して、
最年長川辺さんが張り紙を持ってきてて今年の日付を書いて貼ると、
歴代先輩達のようにみんなで名前を書いていった


名残惜しいけど、みんな家族だったり恋人だったり
もう迎えにきている時間になったのか、次々にみんなの携帯がせわしく鳴り出すから、
瑠依さんがタイミングを見て

「じゃあ、全員元気で」

と言い、おうっと微笑みあう


矢口さんにも後藤さんにも連絡が来て、もちろん私には誰からも連絡はない

それを気遣ってか、矢口さんと後藤さんが私を挟んで腕を組んできた
昼ごはん、一緒に食べに行こう、これからの皆の結束と、
卒業を祝ってと後藤さんが笑顔で言う

うん、行こう行こうとはしゃぐ矢口さん・・・・
ほんとは早く吉澤さんと二人きりになりたいくせに
32 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:41
それから瑠依さんの熱い視線を浴びながらも
矢口さんは気にせずに私の手を引いて山道を降りて行く

「紺野、頑張れよ」

なんだかんだで一緒に休日を過ごす事が多かった瑠依さんに声をかけられる

「はい、瑠依さんも」

随分と優しい顔立ちになった瑠依さん、
後ろにはこれまたフェロモンを封印してしまった千里さんと仁さんが歩いてて
まだ二人揃うと昔の事を一瞬思い出して恥ずかしくなってしまうけど・・・・

千里さんはどうやら仁さんと付き合ってるみたい
ギャルの麻生さんも、外の彼氏と別れて哲郎さんと付き合い始めたし・・・・・
結構このうちわでのカップルが出来てしまった

こっそり教えてくれたけど千里さんは本気で瑠依さんが好きだったみたい
だけど仁さんが千里さんに本気になって彼女と別れたり、
瑠依さんと喧嘩したりっていう青春模様があったとかなかったとか

後藤さんも結構告白されてたみたいだけど・・・・・
もちろん美貴さんがいたから眼中にも入らなかったみたいだ

色んな事があって、泣いて笑って・・・・・

でも本当にここに来て良かった
33 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:44
全員で学校に戻って来たら、
迎えに来ていた彼女とか家族の元に笑顔で向かって手を振って去って行くみんな

矢口さんと後藤さんも、私の手を引っ張ってダッシュしていく

矢口さんは吉澤さんに近づくと、私の手を離して吉澤さんにダイブ
抱きとめる吉澤さんの顔が、ものすごく優しくて微笑ましい

後藤さんも美貴さんに抱きついてポツンと取り残されたけど、
すぐに矢口さんと後藤さんが二人に一緒にご飯食べに行こうと言って説明してくれていた

もちろん二人共、一緒に行こうと笑ってくれて、
本当にやさしい人たちだなぁって思う

それから一緒に部屋に荷物を取りに行って、
私は、大方の荷物を住み込みで働く事になった旅館に送ってしまっていたので
鞄一つで今日出発する

矢口さんの部屋に行った吉澤さんが、
ここで毎日過ごしてたんですねって矢口さんに微笑んで
うんって矢口さんが頷いて笑ってる・・・・・

いいなぁ・・・・

二人を見てると、女の人同士の恋愛も悪くないって思い出した

美貴さんも、こんなとこで毎日電話してたんだぁって思いっきり笑ってて
後藤さんが「笑うなよ」って笑って突っついてた
34 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:47
二ヶ月後にはまたここに新しい寮生が入るだろうから、
あのアジトを見つけるきっかけになった手紙を見つけた場所に
再びこの手紙を貼り付ける仕事を最後に部屋を出る

荷物を運び出したみんなも、久しぶりの家族や恋人と楽しそうに過ごしてて、
なんとなく寂しい思いが込み上げてくると

「行こっ、紺ちゃんっ」
ダンボールを持って下から見上げてきて優しく笑ってくれる矢口さんが話し掛けて来る

大きな鞄を肩から下げた上に布団を持った吉澤さんも頷いて、
吉澤さん達の車の所に戻る

裕ちゃんさんが、下で生徒達を見送っている
引越し業者を入れている人もいるので、
人で溢れ返って賑わっている中でも中澤先生と稲葉先生の励ましの言葉が聞こえてくる

「矢口〜っ」

矢口さんが大好きな裕ちゃんさんが標的を見つけ、
小さな体を抱き締めて頬擦りしている

布団を車に積み終えた吉澤さんは、
苦々しい顔をして二人を引き剥がすように裕ちゃんさんに近づいて

「お世話になりました、これからも色々相談に乗って下さい」

一応頭を下げてるけど、結構本気で睨んでる
35 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:49
「んな睨まんでええやん、もう矢口はよっさんのもんやし、
少し位この感触を分けてくれたってええと思うねんけどなぁ」

「裕ちゃんどーせ、ちょくちょく顔見に吉澤さん家に行くつもりなんやろ、
その辺でやめといたったら?他にも一杯見送りせなあかんねんからもう行くで」
ひきずるように、挨拶を待ってる人たちの所に連れて行く

「あっちゃん〜、裕ちゃん寂しいねん〜」
って言ってる裕ちゃんさんを稲葉さんは、
ほなごっちん、やぐっちゃん元気でな〜ってひきずる

抵抗を見せる体
ごっちん、矢口〜遊びいくから忘れんといてや〜って人の波に消えた

「裕ちゃん、めっちゃ来そうだよね」
「まぁ、色々世話になってるからさ、しょうがないよね、よっちゃんさん」
「二ヶ月は入学前の面接やら、説明会やらで色々忙しいみたいだから大丈夫でしょ」

なんて後藤さんがフォローしてるけど、吉澤さんは少し不機嫌そう
36 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:51
さ、紺野、こっち乗って、よしこの車は乗れないっしょ・・・
と、先日荷物を送ってしまった後藤さんの車に乗り込む

さすが元ホストさんだけあって、後藤さんの車も高そう

美貴さんのダイナミックな運転で連れて行かれた店も、有名なフレンチの店

大丈夫、ゴトーのおごりだからさ・・・・と、私におごってくれるみたい

「悪いから大丈夫です、バイト代も入ってるし、ここは払います」
という私を、いいじゃんおごってもらえば、
無駄に金持ちなんだからさごっちんは、と美貴さんが笑ってるし
吉澤さんも頷いてる

さすが有名フレンチ店だけあって、火加減、素材、ダイナミックな盛り付け、
勉強になるなぁと個室で優雅に皆で会話を楽しむ素敵な卒業ランチだった
37 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:54
その後は、皆で私を駅迄送ってくれて、
店の事は何か変化があればすぐに連絡するからと言って見送ってくれた


さぁ・・・・私も一人で頑張らないといけない・・・・・
二人だって新しい店で、新しい環境で頑張って行くんだし

店は矢口さんと日本食をベースに
気軽に楽しむ事が出来る小さな店を作れたらいいなぁと思ってる

矢口さん達と一緒に住んで・・・・・

楽しそうだなぁ・・・・・

だから、その夢がかなう迄、
みんな修行を頑張らないといけないねって話し合った


「辛い事があったら、溜めないでゴトー達に連絡しなよ、聞く位するからさ」

あえて遠くに就職先を決めた私に、
後藤さんは優しい言葉をくれ、矢口さん達も頷いてくれた

目の前には、初めて見る景色が流れてる
また新しい世界に飛び込んでいくんだって実感する
38 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:55
あの優しい人達と、しばらくお別れ

本当に一人ぼっちになった気がして、急に寂しくなった

「どうかしたのかい?」
隣のおばあちゃんが話し掛けて来た

「あ、いえ・・・・」
どうしてこんな事を聞いて来るんだろう

「これ食べるかい?」
饅頭をにこっと笑って差し出してくるので、遠慮しないでもらった

「おいしいです」
と、おばあちゃんに言うと、どうしてか頭を撫でられた

「無理して笑う事ないよ、おばあちゃん見ないから素直に泣きなさい」


泣く?


言われてから頬を触ると、確かに濡れていた

気付かないうちに泣いていたんだ・・・・私

やっぱり不安で・・・・

そして寂しいのかもしれない・・・・・

いつも元気をくれる矢口さんの屈託のない笑顔と、

優しくてかっこいい後藤さんと離れるのが


素直に認めて、おばあちゃんの好意に甘えて両手で顔を覆ってしばらく泣かせてもらった
39 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:56


40 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 22:58
「ただいまぁ〜っ」

前を歩く矢口さんが元気にそう言って部屋に入った

「おかえりなさい、矢口さん」

振り返って矢口さんは満面の笑みうんって頷いて
ダンボールとバックを持って中に入ってく

布団を抱えて開けてくれている玄関のドアから入ると荷物を置き、
もう一度ダンボールを取りに車に行かないといけない

少ない荷物の矢口さんの衣類の入ったダンボールと
ごっちんから買ってもらった大きなバックをからって

開いている玄関から中に入ると、
腕を後ろに組んでにこにこと笑ってる矢口さんがいて
すぐに荷物を降ろしてドアを閉め、鍵を掛けると抱き寄せてキスする
41 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 23:00
ひとしきりその感触を味わうと

「卒業・・・おめでとうございます」
「ありがと・・・・よっすぃのおかげだよ」

真っ赤になって見上げて来る

何度・・・・まだ数回しか合わせていない体だけど、
セックスの快感を知ったくせに矢口さんはいつまでも恥ずかしがっている
その癖、上り詰める時には思いっきり体を開放して快感を表しているけどね

「とりあえず・・・・・荷物の片付けは後でしましょう」
小さな体を抱えてベッドルームに急ぐ

恥ずかしがりながらも、矢口さんは積極的にウチを求めて来るのが嬉しい

全身でウチを好きだと伝えてくる小さな体に夢中で唇を落とす

昔は誰にでも言っていた愛してるという言葉を
本気で口にしながら矢口さんの感触を確かめるように貪り続けた
42 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 23:01
結局夕方になるまで互いの体を求め合って、
お腹すいたねと笑い合って卒業祝いのディナーに誘った

片付けはまた明日すればいいし、とにかく祝ってあげたい

矢口さんの努力の成果を・・・・

有名な多国籍料理の店・・・・・
個室ではないので色々メモをとるのを遠慮してはいるが、
一口一口その味を確かめるように矢口さんは口をつけていく

真剣なその目に、またウチは不謹慎に欲情してしまう

口に運ばれて行く魚だったり、
肉だったりにさえ・・・・嫉妬する感情が湧きあがる

マジで・・・・・惚れたんだなぁ・・・・
と自嘲気味に笑ったのを見て、矢口さんが首を傾げていた
43 名前:第三章 投稿日:2006/01/24(火) 23:02
「どうしたの?」


「一緒に頑張りましょうね・・・店」

ウチの言葉に矢口さんはパアッと華が咲くように笑って頬を染めた

「うん、これからもよろしくお願いします」
かしこまって言われてしまって、やめて下さいと言い笑い合う



さぁ、帰ってまだまだその体を愛しますからね・・・・覚悟して下さいよ

数日後から、矢口さんは早速新しい職場で・・・・

新しい環境で生活して行く事になる

店を一緒にやる為に二人で力を合わせて・・・・
44 名前: 投稿日:2006/01/24(火) 23:13
無駄に長い第三章終了です

読者さんは少数であるはずなのに、そんな中暖かいレスを頂ける事が本当に嬉しいです
それなのに一人一人の方に返答する事が出来ない自分と、本当に感謝している事を
伝える文章力がないのが情けないですが、
ありがとうございます・・・とただただ頭を下げる次第です
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 00:06
一気に読んじゃいました!!
作者さんの文章すごく好きです(^^)
これからもがんばってください!!!
46 名前: 投稿日:2006/01/28(土) 17:07
ありがとうございます
とても恐縮です
なんとか完結まで頑張ります
47 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:09
やっと私のそばに当たり前に矢口さんがいる生活が戻って来た

一緒にいれる日の昼間だってお互い少し忙しかったりするんだけどね

矢口さんは新しい職場での事を覚えようと毎日暇を見てはノートを見て
勉強してなかなか私にかまってくれない日もあるし
ウチだって指名をもらう為に、営業しないといけなかったり、
美貴とアクセ作りを手伝いながら店の事で打ち合わせするから忙しい

時々、あんまり頑張り過ぎないで息抜きしましょうと誘ったりすると、
恥ずかしそうに私に寄り添って来る


それから二ヶ月慌しく過ぎていく日常で

「矢口さ〜ん」

アニメ声の人の声が響き渡る
48 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:14
突然、私達のゆっくり過ごせる平日の昼間にまたやって来る・・・
矢口さんの店が休みの一番やりやすい日を狙ったかのように

それも、ちょっと洗濯とか掃除が終わって二人でイチャイチャしようとしている所に
突然電話が掛かってきて(それも矢口さんの携帯に)
絶対に断らない矢口さんは、ウチの顔色を見て戸惑いながらも来て来てと答える

友達を作りたいけど、来たら少し不機嫌になるウチを気遣ってるんだと思う

そして、何故か付いて来る絵梨香さん

「いつもすみません、またどうしても行くって聞かなくて」
「だって矢口さんに会いたいんだもんっ」

綺麗な顔をしている彼女は
矢口さんが卒業して二週間位した時に本当に現れた

新しい就職先の様子が気になる絵梨香さんについてきた感じだったけど
いきなり石川さんは満面の笑みで矢口さんを見ていた

ウチらの様子や、絵梨香さんと楽しそうに会話する矢口さんに
今でも興味ありげな視線をいつも浴びせてる

その笑顔は、店に来る時の笑顔でないのを最初見た時はとても驚く
49 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:18
最初は、少し恥ずかしそうに相手していた矢口さん

優しい笑みを浮かべている石川さんにもすぐになついてしまって
いつのまにか梨華ちゃんと呼んで楽しく話しをする様になった

だもんだから、すっかり矢口さんを好きになってしまった石川さんは
またこうしてウチらの二人きりの時間を邪魔しにくる

ウチと二人で話しをする時には、店の時のように大人びた
誘惑してるとしか思えない笑みに戻るくせに
矢口さんが近くに来る途端、すごく可愛らしい楽しそうな笑顔になるから不思議だ

もしかしたら、ウチへの態度はウチが少し嫌がっているのを感じているからかもしれないけど

そして基本的に絵梨香さんが大好きな矢口さんは
一生懸命絵梨香さんにファッションの事を聞いたりしてる

まだ石川さんにはそこ迄親しく聞けないみたい
・・・・ってかセンスが違うんだと私的に予測してる

父親に色んなレストランに連れて行かれるという石川さんとは
主に店の事話してる

なんと、石川さんは、矢口さんが勤めている日本料理屋さんを
偶然仕事で接待される時によく行くらしく
そういった時の料理の話しとか、こんな店にしてみたら?とか
グルメ雑誌に出てくる店の中の雰囲気とかをよく話してる
50 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:20
その間、ウチは絵梨香さんがすまなさそうに話し掛けられる

「ほんとの所、落ち込んだりしてませんか?新しい職場で」
もちろん矢口さんの事ばかりだけど

「まぁ・・・・・ウチにもなかなか本当の事は言わないし・・・・・
楽しいとしか言わないけど、朝方近く迄かえって来ないのは、
居残りで一人片付けとかさせられてるんじゃないかなって」

「そう・・・・でしょうね、板前の世界って上下関係や
男尊女卑も激しいらしいですから」

「うん・・・・でも、頑張ってるみたいだし、ウチがついてるし
笑顔も仮面の笑顔じゃないから大丈夫かなって・・・・今の所ですけど」

働いている場所とか店の名前を未だに教えてもらえないのが少し悔しいけど
どうしても甘えずに一人前になりたいみたいだから今は黙って見守ろうと思ってる

それにウチは認めてる・・・・

もう矢口さんはちゃんとした22歳の女性だって
51 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:22
悪いけど、最近は疲れてんのにウチを求めて来る事も多くなってるし
最高にラブラブだからね、ウチら

そんな思いが顔に出てたのか
絵梨香さんは憮然とした表情で矢口さんと石川さんが
楽しそうにおしゃべりしているさまを見て

「以外と繊細な感じですから、気をつけてあげて下さいね
ひとみさんは少し鈍感なようですから」

矢口さんの事をよく知ってるんだぞってアピられてもね
・・・・もう矢口さんはウチのものだし

「言われなくても気をつけてます・・・・その前に絵梨香さんこそ
石川さんをちゃんと飼育しといて下さいね・・・・ウチはあの人には
何も言えませんからね・・・・客とホストだから」

「私だって、お世話になってる先輩ですから・・・・
仕事だって回してもらってるし」

確かに・・・・・絵梨香さんのモデルの仕事は
石川さんが裏で手を回している事も多いみたいだ

そのせいで、石川さんがここに来るのを止められないみたいだし・・・・・

相変わらず店にもやって来るし
その時は家に来る顔とは違う妖艶な顔でやって来るのがなんとも不気味だ
52 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:24
少し前の事を振り返ると
ウチの誕生日には、卒業祝いにプレゼントした包丁セットで
今まで学んだ技術をふんだんに使った料理たちがテーブル一杯に広がったし
その顔がどうだと言わんばかりに輝いてたのが何より嬉しかった

これからずっと二人でこうやって生活していくんだって実感したっけ

絵梨香さんが鈍感と言った言葉を否定できないけど
客にもらったプレゼントは、デジカメを取ってパソコンに記録し、
もらった人と物を覚えて、矢口さんに見つからないように質屋に行って売ってしまったりと
結構ウチにしては頑張ってると思う

ひどい奴かもしれないと苦笑しながらも
もちろん去年の分も同じようにデータ化して客へのアフターケアをしっかりしてるんだし
矢口さんを悲しませない為だもんね

プレゼントをくれた人達にこんな事を知られたら
傷つけてしまうかもしれないけどそんなの知ったこっちゃないし
53 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:28
矢口さんが仕事に慣れるように
一生懸命頑張ってるのをやきもき見守りながら過ごした一ヶ月目には
ゴールデンウィークの大型連休がやってきて
いつものようにわらわらと家に集まってくる人たちに混じって石川さん迄やって来た
・・・というか無理やり絵梨香さんについてきた

その時は丁度中澤さんと保田さん安倍さんがいて
昼間だというのに飲んだくれていた時だった

高い声を響かせやってきた石川さんは
嬉々としてウチらが計画している店のオーナーになってあげる
・・・・・と言い出したのにはその場の全員が引いた

「お金なら沢山あるし、矢口さんの料理は本当においしいもの・・・・
後藤さんという人のも食べてみたいけど」

微妙な空気に包まれたのに

「ごっつぁんのはもっとダイナミックで独創性があっておいしいよ」

となんだか少し嬉しそうな矢口さんが気に入らない
54 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:30
ウチらが頑張って開こうと思ってる紺野の思い出の場所での大切な店を
何不自由なく育ったお嬢様のお遊びで実現させるのはどうかと
その場にいる中で何人思っただろうか

「でも、一応これはウチと矢口さんだけでなく、
みんなの夢になってるんでそんな焦らないで自分達でじっくり暖めたいんですよね」

つい出てしまった本音に、

「そうね・・・・・でも気が変わったらいつでも言って、
私もあなた達と一緒に夢を見たいって思ってるから」

って石川さんは店で見せるような妖艶な笑顔で微笑んでるから
まだ私達は仲間ではないでしょ・・・・・・と思わず口から出そうになったっけ

そしてその場に中澤さんや保田さんがいたのが運の尽き
黙ってた二人は我慢できないとばかりに突っ込んで来た

金持ってんならもろたらええやんという中澤さんと
そんなんじゃダメと反対する保田さんのバトルが長期戦になると
矢口さんと安倍さんがおろおろと必死になだめようとするのがなんだか可笑しかった

最後は結局二人が石川さんに説教して追い出した
55 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:31
それにも懲りず、今日もやって来た石川さんは二時間位話をすると
次の仕事だからと去って行く

絵梨香さんと買い物に行く約束なんかをして矢口さんは上機嫌

再び二人きりになった時には、さっき流れた甘い空気はなくなってて・・・・
そろそろよっすぃのご飯作らないとねと慌しくキッチンに向かって行く

少し不満なウチは、キッチンについていって調理を始めてしまう前に
後ろから抱すくめる

「よっすぃ?」

調理し始めたら、夢中になって邪魔すると怒られるから

「だって・・・・・・石川さんが来てしまったから
せっかく矢口さんとしようと思ったのに出来なかった」

耳元で囁くと、瞬間に耳が赤くなって

「もっ・・・もうっ、よっすぃってばいっつもそんな事ばっかり」
56 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:32
こんな雰囲気に慣れない矢口さんは、戸惑いながらも体を預けてくる

そんな耳たぶにキスをして甘噛みする
「ウチのご飯なんていいですよ・・・・
今日は矢口さんの休日でしょ・・・もっと楽しんで下さい」

後ろから小さな顎をこちらに向けて唇を落とす

少し戸惑った感のある矢口さんは
いざキスし始めると体をこっちに向き直し積極的に舌をからめて来て
ウチの首に手を回してくる

服の上から胸を揉んで、かわいい声を聞くと
鬼畜と呼ばれたウチのスイッチが入り矢口さんを感じさせる事に集中しだす

キッチンで矢口さんが立てなくなる迄手や口で攻めると
一気にベッドに連れて行ってハンパに脱がせた洋服を取り去る

そのままウチが出勤する迄矢口さんのかわいい喘ぎ声を堪能すると
さっき迄の不満が解消された
57 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:34
やっぱり一緒に暮らしているといい

私の世話をちょこちょこ動き回ってやってくれるのもいいけど
ウチを好きでいてくれると解る真っ直ぐな視線がいつも感じられるのがとても安心する

店でどんなに綺麗なお客さんが来ても、あの綺麗な目に敵う人はいないと思う

そんな目でウチを見ながら素肌を合わせて色んな事を話してくれる時間が
ウチには一番幸せだと感じていた

それに熱いキスで玄関迄送り出してくれるから
もう誰にもこの唇に触らせないと思えるし
誰の事も触りたいとか思わないようになった


そういえば絵梨香さんがモデルの仕事に専念する為にやめて
ボーイにまた新しい人が入って来た

岡田唯ちゃんというどうも訳ありそうな、とろい女の子だけど
独特な関西弁を操る不思議な子だ

彼女は、なぜかウチを気に入って
客が引けた時や指名がない控え室にいる時を狙ってウチの周りをうろつく

気に入られてんじゃんという紗耶香さんの言葉に
彼女は「なんかかっこええですやん」と悪びれる様子はない
58 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:36
まぁ悪い気はしないけど
ウチはもう浮気や目移りさえしない体質になってるから
どんなに言い寄られようとも関係ないし

早く帰って矢口さんを抱き締めながら眠りたい・・・・
といつも思いながらも、いつかみんなで店を持つ為に
指名を増やすようにセールストークを続けている

セールストークといっても、前のように愛の言葉を囁くのではなく
相手のいい所を見つけるように心がけてる

矢口さんと結ばれてから、着実に指名の伸びたウチは
紗耶香さんにぶつぶつプライベートが仕事に影響しすぎだとか言われるけど、
なにより精力的に仕事をしているのでそれ以上は言われない

唯ちゃんの事だって
ウチには矢口さんという大切な人がいるから無理だよと周りが言ったりしているし
唯ちゃんもそんなんちゃいますからと言うし、かわいい妹みたいな感覚かな

「なぁ、吉澤はん、今度一緒に買い物行ってくれはらへんやろか
ウチ東京ってまだよう解りませんねん」

「そっか、いいよ、いつがいい?」
そう答えたウチに嬉しそうに今度のお休みの日がいいですと言った

まぁ、ウチが休みの日は矢口さんが仕事だし
日曜日は店が忙しい日だから昼過ぎには矢口さんは仕込みに行かなきゃとか言って
早々にウチの晩御飯やら朝ご飯やらを準備してくれるから相手にされないからね
59 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:37


60 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:38
そうですか・・・・・幸せなんですね

時々、石川さんが無理やり押しかけようとするから
一緒についていって矢口さんに会いに行くと、その顔が教えてくれる

まぁ・・・
そんな幸せそうな顔を見れて良かったって本気で思える自分がいるけどね

そして、石川さんは、私やひとみさんと話をする時とは違って
歳相応の顔で矢口さんと楽しく話している

きっとこの姿が本当の石川さんの姿なんだろう
矢口さんの裏表のない純粋な話し方や表情がその姿を引き出すんだと思う

だんだん石川さんの近くにいる事が多くなって
恵まれてると思っていた石川さんが
実は回りの目に見えない力と戦っている事を感じていた
61 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:40
仕事場でもあからさまに贔屓したり
無視したりと石川さんに対する周りの感情は案外はっきりしている

力ある者に対する嫉妬、妬み
見え透いたお世辞と陰口、人の心の陰と陽

それは、小さい頃から日常のそこかしこで見え隠れしてたに違いない

お嬢様と暢気にしていればいいけど、きっと石川さんはそんなタイプではない・・・・

人知れず傷ついたり・・・・
孤独と・・・・戦っていると思った

父親や、その周りに蠢く権力と政治の圧力・・・・
それらをうまく切り抜ける為に、妖艶な微笑みを身につけて自分を守ってるんだ

だから、何の力もないひとみさんと矢口さんが必死に生活しているのが
気になって仕方が無いんだと思う

ただ純粋にひとみさんを思って料理という道を歩き出している
矢口さんの純粋な愛が羨ましいのかと・・・・
62 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:42
だから、ひとみさんが嫌がるのを知っていながらも
こうしてちょくちょくこのマンションに来る石川さんを許してしまう

二人きりでいたいはずの矢口さんがお休みの平日に
だいたい石川さんはスケジュールを合わせるかのように時間を作る

・・・・・何故か私のスケジュール迄

それでも矢口さんは嫌がらないで三好ちゃんと抱きついてきてくれるから
私もついつい嬉しくて来てしまうし
ひとみさんの嫉妬している姿も少しばかりかわいいから楽しい

でも少し気になる事が一つ

矢口さんと話している時とはうって変わって
いつも見る表情でひとみさんと話ている石川さんを見る矢口さんの目が
少し寂しそうな時がある

私の視線に気付いてすぐに笑顔に戻るけど
やっぱり二人の間の事が気になるのかなぁと勘ぐらずにはいられない

確かに二人が並ぶとなんともいえない厭らしい雰囲気が漂うけど
その表情は店でのひとみさんに近いから、多少の不安はあれど
きっとひとみさんが仕事モードだからだという視点で見るようにした
63 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:46
一時間だったり、二時間だったり・・・・
それくらいしかいつもおじゃましないんだけど
その帰りは、いつも石川さんの表情が生き生きしてて
ほんとに矢口さんと話すのが楽しいんだろうなぁって感じるから
彼女の興味はひとみさんじゃなく矢口さんだと確信する

「ねぇ、絵梨香・・・・・矢口さんの事、どうして諦めたの?」

微笑んでくる顔はとても綺麗だけど、その質問は・・・・・

「まぁ・・・・矢口さんがひとみさんを好きで好きで仕方が無いのを
ずっと見たり聞いたりしてましたから・・・・・どうしようもなかったですね」
解るでしょ・・・あの二人を見てたら

「ふぅん・・・・・まぁ・・・
思いっきりべた惚れ同士だから割り込めない雰囲気だよね」

「でしょ」

誰が見ても幸せそうな二人を引き裂こうなんて無理な話

悔しそうな石川さん

一体あなたはどうしたいんです?
64 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:50
そんなある日、矢口さんと買い物に行く約束をしてた日がやって来た

もらった給料は、いらないと言うひとみさんに無理やり一定額渡し
学費の返済金を払うと、日々の食事を作る食材を買ったりして
自分のお金が残る事はほとんどない矢口さん

学校時代に給食を作るバイトで少し貯まったお金を握り締めて
洋服を買いたいと言ったのでこうして街に出た

雑誌でめぼしを付けていた洋服が売っている店に連れて行くと
高くて買えない・・と言いながらもやっぱり大人っぽい洋服を探している

そこでは自分にあててみてどうかを見るだけだけど
同じようなデザインは安いショップがまだあるはずですよと言うと笑って頷く

私が日ごろ仕事で着ている人気のブランド品とかは
矢口さんの持っているお金ではなかなか数が買えないから
とりあえず着まわしの効くシンプルなデザインを薦める

高そうな服は、真希さんや私が誕生日とか
卒業祝いとかにプレゼントさせてもらったりしてるし
矢口さんは、そんなプレゼントに喜びながらも
いつもお返し出来ないと落ち込んだりするから
みんなで矢口さんが笑ってくれればそれでいいと言って笑いとばすと
戸惑いながらも笑ってくれる
65 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:52
街行く人達のファッションに目が行くようになってから
自分もひとみさんの隣にいて恥ずかしくないようになりたいとの事

確かにひとみさんはいつも素敵だ

ひとみさんの普段着も、いつ買ってくるのか解らないけど
結構違った洋服を着てるので、
お客さんに付き合って買い物に行ったりする事はよくあるのかもしれない

新人ホストの人達に、自分の洋服をあげたりしてるのもたまに見かけたし

今日だってひとみさんが
お客さんと映画に行かないといけないと言っていた日だからおいら暇なのっ
・・・て言われてる日と私の休日が重なったから街に出て来た

どうしても店を早く開きたいひとみさんは、
指名をもらう為にはどうしてもお客に誘われる事を断れないと矢口さんにちゃんと言うそうだ

ベッドでお客を満足させる事の無くなったひとみさんには
ホストという職業柄、買い物や映画に行くという事は
無碍に断る事の出来ない最低限の仕事なんだろう

矢口さんはどこまで納得してるのか解らないけど
一緒に店をやる為にひとみさんは頑張ってくれてるからと笑ってる
66 名前:第四章 投稿日:2006/01/28(土) 17:55
「よっすぃとしゃべってる時の梨華ちゃんってすごく大人っぽいよね」

ポツンとお茶してる時に呟かれた矢口さんの言葉

「考えてみると・・・・考えなくてもおいらの方がみんなより年上なのにさ
ほんと・・・・・なんかごめんね」

もっと大人っぽくなりたいなぁ・・・・
って隣で一人でスケジュール帳に何かを書き込みながら
コーヒーを飲んでる大人っぽい女性を見ながら微笑んだ

「謝らなくていいですよ、そのままの矢口さんがみんな好きだし
誰と比べる事もしなくていんですから」

矢口さんにだけなく、それは自分に対しても言う慰め

「うん・・・・へへ、しょうがないもんね、おいらがこんななのは」

それに対し、私は何も言う事が出来なかった

誰だって自分に自信がなくて、特に恋人が素敵な人であれば
それに見合う人でありたいと思うのは世の中の男女が思う普通の悩み

中には安心を求めて、わざと自分より劣るような人を選ぶ人だっているかもしれない

仕事で他の人が優れていると思うと
自分ばどうしてこんなだろうと落ち込んだりする事だって特別な事じゃない

だから比べる事なんてないんですよ・・・

みんなそうやって生きてるんだから
67 名前: 投稿日:2006/01/28(土) 17:55
本日はここ迄
68 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:16
紺野は、相変わらずのんびりしすぎてるからなのか
旅館で毎日怒られながらも頑張ってるみたいだ

メールで店の事を報告すると、文の終わりにちょっと元気なふりして
みんなに会いたいですと必ず返信が来るから
きっと寂しくて仕方ないんだと思いコールしてみる

『後藤さん?』
「うん、今、仕事中?」
『休憩中です』
「ゴトーも・・・・そうだね、同じような職業だもんね」
『ですね・・・ふふふ』

ちょっと・・・・落ち込んでる?

「元気そうだね、良かった」
『そうですね・・・・今の所元気にやってます』
「今の所?」
『・・・・・』

やっぱり・・・・・何かあった?料理長からいじめられたとか?

「どうした?」
『いえ・・・・・でも・・・・やっぱり日本食は難しいなぁって』

言わないか・・・・・
言うと・・・・・負けちゃいそうだもんね
69 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:17
「だね・・・・・やぐっつぁんも・・・・・
言わないけど結構鍛えられてるみたいだよ」

よしことはうまくいってるみたいだけど
仕事では結構キツい事言われてるみたい・・・・・板長が超厳しい人のようだから

『そう・・・・・ですか』
「まぁ・・・・ウチらには夢があるしさ・・・・・頑張るしかないっしょ」
『はいっ・・・・』
「何かあったらいつでも電話しなよ」
『・・・・・はい』

思ったより厳しい料理の世界・・・・・

本格的な料理店に来てしまったからには仕方ないけど
昔ながらの職人気質の親方がまだ多く残ってるし、男尊女卑もはなはだしい

いや、体調の関係でどうしても味覚の違いがでる女性には
厳しい世界だからそれも仕方ない
70 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:20
洋食のゴトーの店だって
プチレストランとはいえ、従業員たったの五人

座席数だってそんなに多くないのに満席なんてなった時には、目の回る忙しさ

今日はたまたま休憩がとれたけど
味が良くて有名な店だから、とれない時が多い

自信があるはずの自分の腕にだって
いざ実践となるとシェフの手際の良さや
時間配分には到底及ばない自分に苛立つ事だって少なくない

そんな疲れて帰って来るゴトーを気遣って、美貴は食事を作ってくれたりする

味は保障しないからねっ・・・
とか悪態ついてる姿が嬉しくて後ろから抱き付いてしまう

確かに本格的に勉強してるウチらからしたら
味、見た目共にバランスも悪かったりするんだけど

・・・・・その気持ちは何よりも豪華に思えて仕方が無い
71 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:24
「思ったより早く店持てそうだよ」

「えっ」
まじで?

まだまだ具体的なリフォーム案とか、出来てないと思ってたけど

「へへっ、驚いた?」
こくこくと頷くが声は出ない・・・・まぁそれほど驚いてる訳

「実はさ、よっちゃんさんがめいっぱい気合入っちゃってるから
結構昼間美貴に会いに来てたんだよね、まだごっちん達が卒業する前から」

「あぁ・・・やぐっつぁんとやっと結ばれてからね」
そう言ってたね

「そう、設計会社に二人で通ってさ、美貴はごっちんから聞いてたイメージを、
よっちゃんさんは矢口さんのイメージをなんとか出来ないかってさ」

卒業前には、何社かの見積もりで一番安い所にめぼしをつけて
自分達の思いが伝わりそうな設計会社か見極めたりしてたんだって
72 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:26
卒業後は、ウチらは自分達の職場の事でめいっぱいだったから
昼間、確かによしこと出かけてくると、ちょくちょく出てくのも気にしてなかった

仲良くなったんだなぁって思う位で・・・・ゴトーは少しでも体休めたかったし

そんなゴトーに料理だけに集中して欲しいって
お金とかの経営面に関わる事とかは美貴がしようって思ってくれたらしく
内緒で色々進めてくれてたみたいだから甘えてる

「だってはりきってんだもんっ、よっちゃんさん早く一緒に仕事したいみたいで」
「へぇ〜、あのよしこがねぇ」

いい加減が服着てるような奴だったのに・・・・・人って変わるんだねぇ
・・・・ってかやぐっつぁんに会ってマジ成長しちゃったねぇ

「まぁ、いつもの過保護癖で、職場で苛められてないか心配なだけかもしれないけどね」
と、そう言う美貴の視線も、ゴトーの事を心配してくれてるのが解る

「でも、やっぱ勉強になるよ、シェフの手順とか
ソースを作るタイミングとか、やっぱ学校で習っただけじゃね」

今は雑用ばかりしかさせてもらえないから
自分で盗む世界がすべての戦場で、チーフの技を盗み見るのは結構しんどい
73 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:26
「じゃあ、あんま急がない方がいい?」

少し悲しそうな顔・・・・

確かにゆっくり皆で準備すればいいと言ってたから
最低一年は修行しなきゃって思ってたけどさ

「ううん・・・・ってか・・・・・どれ位迄進んでるの?」
「もう、発注寸前」
「えええええっ」

まじ驚くって・・・・・・
だって・・・・・まだ・・・・・全然

「やるっきゃないっしょ・・・・・・美貴達の店」
「まぁ・・・・・そ・・・・・だけど」

そりゃそうなんだけど・・・
74 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:29
「自信・・・・ない?」

真っ直ぐな視線


そうだね・・・・身の回りの慌しさと
自分の腕を磨くの必死だったから
ほんと、店の事はよしこと美貴にまかせっきりだったけど
みんなで力を合わせてやる店・・・・うまくいかない訳がない

「いや・・・・あるよ・・・・・絶対イケる」

ゴトーの顔は、きっと憎らしい表情をしてるはず

そして、近づいてくる美貴の顔

「当たり前っしょ」

そう言ってゴトーの唇を塞いできた

だね・・・・・

美貴とよしこは、ウチらの腕を信じて

慣れない事してくれてるんだもんね
75 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:29


76 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:30
何故か私は、石川さんの車に乗せられて
矢口さんの働いている日本料理店へと向かってる

そろそろ着くかなって所の信号待ちで
俯いて両手に一杯荷物を持ってとぼとぼと歩いてる矢口さんを見つけた

「あれ、矢口さんじゃない?」
同時に気付いた石川さんも、運転席で呟いた

「はい・・・・何か・・・・・元気ないですね」

道路を挟んで、石川さんが車を止めてクラクションを鳴らすけど
矢口さんは何の反応もしないでただただとぼとぼと歩いている

石川さんが、首をかしげて窓ガラスを下ろした

「矢口さ〜んっ」

高音ボイスがそこらじゅうに響き渡ると
二度目に叫んだ時やっと矢口さんがキョロキョロしだした
77 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:33
「乗って行きます?」

私達を見つけて笑顔になると、ハッとしたように焦って走り出す

「ううんっ、走るからいいっ、先に行って待ってるねっ」
小走りに荷物を持ったまま行ってしまった

確かにもう少しでお店だから、車に乗った方が遅くなるだろうけどね
私達が姿を表した事で、予約時間が近いことを思い出したんだろう

でも、どうしてあんなにどよんとした感じで歩いてたんだろう

「心配?絵梨香」
「え・・・・あ、はい・・・・・
まぁ・・・・・矢口さんの事、なんだか娘みたいに感じちゃってる自分がいるから」

石川さんの悟りきった笑顔が少し怖い
78 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:34
「年上に向かって娘なんだ」

クスりと笑うその横顔も、いつも通り綺麗だった

「ま・・・・ぁ、ずっと成長を見守って来ましたからね」
「親の愛情じゃないでしょ・・・・でも」
「ま・・・・・まぁ、昔はそうですけど、もう今は親みたいな感じですかね」

そこ迄話した所で、駐車場に着く

「ますます興味でるよね・・・・矢口さんに」

不敵な笑みで車から出てった

最初はホストクラブで自分を満たしてくれる人を探そうと思ってたんでしょ
なのにほんとに益々興味津々
79 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:43
矢口さんに電話を入れて、
個室じゃ矢口さんの姿は見る事も出来ないらしいから、カウンター席を予約してもらってた

目の前には、私達に出すお刺身を
綺麗なまな板の上で見事な包丁さばきして見せている板前さん

奥からかすかに、誰かの怒鳴り声が聞こえる

「すみませんねぇ・・・・矢口の友達さんが来てるのに、見苦しい所見せちゃって」
板前さんが愛想良く言ってくれてると、以外な所から声がする

「ん?」
カウンター席の一番端っこで一人で日本酒を飲んでる男の人が小さく声を出してこっちを見た

それを気にするでもなく、石川さんが言う
「あの、矢口さんが怒られてるんですか?」

苦笑する板前さん

「ええ・・・・買い物に板長がいかせたら
ちょっと遅くなっちまったらしくて、すいやせん・・・・・
まぁ、気にしないで楽しんでって下さい、たまにこっちにやらせますから」

その会話を、さっき小さく声を出した男の人がじっとこっちを見てた
80 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:45
石川さんが私の視線を気にしてその男の人を見ると
ふいっと視線を逸らしてしまった

首を一捻りしてからこっちを向きなおした石川さんは

「ねぇ、絵梨香、矢口さんってどういう過去を持ってるの?」

目の前にいる板前さんにも聞こえないように小声で聞いて来る

「いや・・・・・私もあんまり」

疑わしいという目でこっちを日と睨みして、お茶に口をつけてた

小さな小皿に手の込んだ料理が何品か出て来るとそれを食べて
おいしいね・・・なんて話していると
ばつが悪そうに矢口さんが後ろから出て来た

それに気を使ってか
さっき迄目の前で刺身を切っていた人が後ろにはけてってくれた

「大丈夫ですか?怒られてたみたいですけど」
「うん、大丈夫、あんなの毎日だし、今日はマジでおいらが悪いし
ぜんぜん、それよりおいしいでしょ、板長が特別に作ってくれたんだよ、おいらの友達だからって」

そう言う矢口さんがきらきらして見えたので安心する
81 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:46
この店でもしかしたらいじめられてるんじゃないかっていうひとみさんの心配は
やっぱり取り越し苦労で、この店でもちゃんとかわいがってもらってるんだって見れたから

「うん、おいしいですよ、でもここだけの話、高いんでしょうね」

というと、矢口さんも小声で、うん、おいらの給料じゃ無理みたい
と、二人で笑った

それをにこにこと見てる石川さんは

「たまに来るけど、あんまり気を使わないで、ここの事はよく知ってるから」

高いのも、値段が時価なのもお金持ちの石川さんにはあんまり気にならないのよと
余裕の笑顔を矢口さんに向ける

「えへへ、でも来てくれて嬉しい、ゆっくりしてって」

と、戻ろうとしてカウンターの隅の人に矢口さんが驚く表情を見せる
82 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:48
「る・・・瑠依?」

瑠依?誰?
なんか・・・・・さっきと違って優しい顔で矢口さんを見てるけど

さっき迄の威嚇するような鋭い視線とは違ってる印象になってる男っぽいイケメン

私達の視線にも気付いたのか
「この人ね、瑠依っつっておいらと一緒に学校通ってたの」
超才能あってすごいんだよと、笑顔で説明してくれた

やっと、こっちを向いてぺこりと頭を下げるイケメンさんは
また矢口さんを向いて話し掛けた

「どうだ?順調か?」

ウチらには愛想悪いけど、矢口さんを見る目が優しくて
この人はただシャイなだけなのかなって思わせた
83 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:50
「まぁ、ね、瑠依は?大変?」

「まぁ・・・・・・なんとかやってるよ、
中澤にくらべりゃまだ優しいもんだよ、みんな」

「あははっ、そっか怒ったら裕ちゃん怖かったもんね〜
でもこんなとこ来て大丈夫?ここ高いよ」

「知ってるよ、だから悪いけど、これだけしか頼めなかった
お前の顔見れたからもう帰るよ、たまには連絡しろよ
どっか飯でも食いに行こうぜ」

「うん、そうだね、ごっつぁんにも言っとくよ」

そのイケメンは、フッと苦笑しておあいそ、矢口という

ちょっと待っててと、さっきの板前さんを呼びに行く矢口さん
出て来た板前さんは、すらすらと小さな紙にえんぴつで書いて矢口さんに渡す
大丈夫?と言って矢口さんが笑うと、ば〜かと言ってお金を渡した
84 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:53
おつりを矢口さんが持って来ておいしかったですとぺこりと板前さんに頭を下げて立ち上がった帰り際

「あいつとは?」

と、真剣な顔で聞いてたら、一瞬影が落ちたけど、笑顔で恥ずかしそうに

「うん、大事にしてくれてるよ、もちろん」

フッと鼻で笑って、そっか、じゃあなと去って行くその人は
私達にもぺこっと頭を下げて店を出てった

あの瑠依って人は、矢口さんを好きなんだ・・・・・・・と思った

「ああ見えて優しいんだよ、瑠依」
矢口さんは気付く事なく、私達に説明してくれ

その矢口さんに、板前さんがこそっと
「やっぱ同業者か?あいつ」

「あ、はい」
と、どこで修行中と言うと

「そりゃまた一流のシェフ予備軍の奴だったのか、
頼むもんがめっちゃ玄人もんだったからさ、どっかのスパイかと思ったら矢口の彼氏だったとはな」

「えへ、彼氏とかじゃないですよ、恋人は別にいますから」

そうなのか?と苦笑する板前さん・・・・
85 名前:第四章 投稿日:2006/01/29(日) 13:55
奥から矢口ぃ、そろそろ戻って仕事しろっという声が聞こえて
はいっと矢口さんは舌を出してまた来るねと入って行った

すっかり普通の人のように振舞えるようになった矢口さん

「まだ・・・・好きなんだね、絵梨香」

ぼーっと矢口さんが入って行った所を見てたら
石川さんがそんな私を見て微笑んでた

「母親ですから・・・・」

ふふっと笑う石川さん

その後、試食品です・・・と矢口さんが作ったという一品を出してもらって食べると
満足な気持ちで店を後にした

しかも石川さんにおごってもらってるし

「ありがとうございました」
「ううん、気にしないで、これで私も決心出来たから」

は?
戸惑う私に、魅力的な微笑みで

「絶対私も混ぜてもらう、矢口さん達の夢に」

ふふっとキショ・・・・・いやいや、綺麗な笑顔で車に乗り込んだ
86 名前: 投稿日:2006/01/29(日) 13:55
今日はこのへんで
87 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:43
「どうしたんです?」

せっかくのウチが休みの日、
いつもよりも少し遅く帰って来た矢口さんは、シャワーを浴びに行ってから
ウチに悲しそうな視線をくれて何も言わずすぐにベッドに行ってしまった・・

ウチを誘ってる?

平日はウチよりも矢口さんの方が早く帰ってるから寝てる事が多いんだけど
確かに、今迄は、こんな日にはウチが我慢出来なくて
髪の毛を乾かしてる矢口さんを後ろから捕まえてムリやりに始めちゃったりする事は確かにあったけど

まさか積極的に矢口さんからベッドに誘われるなんて・・・・・と
自分勝手な希望的観測で嬉しかったのもつかの間

矢口さんは、むか〜し、見せた背中を向けて拒絶するように寝てしまってたんでつい声をかけた


「・・・・・・ううん、何も」
そっけないし

「ウチ・・・何かしました?」
ボーッと立ってる私を少しじとっとした目でこっちを見てまた壁を向いてしまう
88 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:45
何・・・・・したっけ

すっかり、普通の人の知識と感覚を身に付けた矢口さんは
時々私と、小さな言い争いをする事はあったけど
それでもやっぱり矢口さんは矢口さんだった

「よっすぃは・・・・」
「はい」

小さな声が聞こえて来てそばに寄って聞き耳をたてる

「おいら・・・・・だけだよね」

何ですと?・・・・・・

こんなに一途なウチにしといて・・・・・それ聞く?

「当たり前じゃないっすか・・・・・何を今更」

それを聞いてちらっと覗き込んでるウチの顔を見ると
口をへの字にして丸まってしまった

「うん・・・ごめん」
89 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:46
ため息をつく・・・・

こんなに二人は愛し合ってるのに

今日はめちゃくちゃ抱き締めようと思ってはりきってたのに

肩を掴んでこっちを向かせて隣に寄り添うように寝転がって矢口さんの頬に手を添えた

「ほんとに、どうしたんです?急に」
優しく聞いてみる

すると、ばつが悪そうに
「・・・・・・・・今日は・・・・・何してた?」

おっ・・・・と思った

矢口さんは、絶対に私の行動なんて聞いてこなかったから

だいたい昼間お客と出かける時もちゃんと言うし
ウチの行動は矢口さんには全部伝わってるはずだと思ってるから・・・
90 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:48
本当は聞きたかったのかもしれない

もしかしたら、アヤカとの一件が尾を引いてるのかもしれない

それをちゃんと気付いてるから、ウチはなるべく解り易く行動してきたし
お客さんと食事に行くのだって映画に行くのだってきちんと言ったり
報告したりしてる

こんな誠実なウチって結構すごいと思うんだけど・・・・

「別に・・・・普通ですけど・・・・矢口さんいないし・・・・」

何故か悲しそうな顔で向こうに顔を向けてしまった


あっ・・・・と思いつく
今日、岡田ちゃんが買い物に連れてってと言ってたから一緒に買い物に行って、
矢口さんが超おいしいんだよと教えてくれた穴場の食堂に連れて行った事を思い出す

寂しく一人でこの部屋にずっといたから
そんな事は遠い日の事だと思って思い出せなかったけど

まさか・・・・?
でもその時間は絶対に仕事中だったはずだから目撃されるなんてありえないし・・・・
91 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:50
いつもは美貴の所に寄ったりして
店の計画詰めながら美貴のアクセ作り手伝ったりしてるんだけど
中途半端な時間だったから行けなくって

帰ると一人ぼっちだから、寂しくなるんで
あまり遅くならない位迄飲みには付き合わせたけど・・・・・

「あの・・・・そういえば、
店の新しいウェイターの子の買い物に付き合いましたよ・・・・
こっちの事あんまり知らないからって」

うるうるした目でこっちを見て、少し安心するように息を吐いた

「うん・・・・・・・キス・・・・して」

ゴクンと喉が鳴る

随分歳相応の色気が出て来て
時折見せる恍惚の表情が益々どきどきさせるようになってるのを
この人は気づいてるんだろうか

拾った時のやせぎっちょの子供のような人は・・・・
こんなに大人に・・・こんなに綺麗になってしまったのを

こんな表情・・・・絶対に誰にも見せたくない
92 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:52
愛してるという言葉を懸命に伝える

一人でずっと生きて行くと思ってた私に
そばにいないとダメだと思わせた人だから

いつもにも増してぎゅっとしがみついて来て
押し付けてくる唇に、きっと不安だったんだと思ったから

アヤカとの事もだけど、特殊な生活をして来た矢口さんにとって
不安に陥る事はすごく沢山あるはずだから

ウチは、それをちゃんと一つ一つ解決してやらなきゃって思って
一緒に生活してる訳だから、うまくいかない訳ない

こんな自分がまずありえないから

「見ちゃったの・・・・・よっすぃが
女の人に腕を組まれて楽しそうに歩いてる所」

上り詰めた後、ウチの胸の中で蹲ってぽつぽつと話し出す

「やっぱり・・・・だと思いました」
「じゃあ何で最初隠したの?」
すがるような目

「隠してたんじゃないです、忘れてたんです・・・・・
あまりにも矢口さんの帰りを一人で待ってたからずっと待ってたみたいな感覚になってて」

「・・・・・ごめんね」
93 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:54
「嫉妬してくれたんですね・・・・でも平気ですよ、ウチは矢口さんだけです」

こくんと頷く矢口さんは恥ずかしそう

「早く・・・・店開きましょうね」
いつも一緒にいられるように

なのにまた表情が曇る
「・・・・・でもやっぱ難しいよ・・・・
おいら・・・やっとお金稼ぐのがどんだけ大変かとか・・・・
ほんとに解って来た所だから・・・・・」

少ない給料の中でウチに渡してくるんだけど
生活費に矢口さんが出してくれてる分も含めてちゃんと矢口さんの貯金通帳に入金してあげてる

はっきり言って矢口さんにはウチらの計画のお金の部分に関しては話していない

だってウチとごっちんは結構金持ちで心配する様な借金にはならないと思ってるから

まぁ主に美貴と二人で話してるから
もしかしたらきっとそれがよくないのかもと思った
94 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:56
「大丈夫です、マジ、ウチ稼いでるし・・・・・借金はしなくても出来ます。
ただその後の生活が出来るかと言われると自信は無いけど・・・・二人ならって思えるし」

このマンションだって、店が出来たら売ってしまうし
内緒だけどアヤカの好意で高く買ってくれそうな所も見つけてもらったし

「うん・・・・ありがと・・・・・おいら・・・・
よっすぃがいないと何も出来ないままだね・・・・・いい加減年相応になりたいな」

十分ですよ、もう辞書を引くことがなくなってるじゃないですか
それだけでもすごい事ですよ・・・・ウチからしたら

「まぁた・・・・いつまでもそんな事言うと怒りますよ・・・・
大丈夫です、ちゃんとウチよりお姉さんです。
それより矢口さんはその腕を磨く事だけ考えてればいいんです
それがウチの為でもあり二人の為になるんですから」

「ほんと・・・・・おいら幸せだよ・・・・」
優しい人に囲まれて、よっすぃのこの腕に守ってもらえてさ

きゅっと丸まって胸の中に擦り寄ってる矢口さんは
あの時のままだけど、やっぱり少し色っぽくて困る

剥き出しの肩は、ウチの唇を待ってるかのようで
でも焦る事ない・・・・・ずっと一緒にいるんだから

そうやって思ってたのに・・・・・まさかあんな事になるなんて
95 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:56


96 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:57
「どうしていつも絵梨香は私に付き合ってくれるの?」

夏のギラギラした太陽の下
日焼けを気にしながらの撮影

しかも珍しく石川さんと一緒

他のモデルさん達の衣装チェンジの空き時間
私達はもうほとんどとり終えてるからロケ車の中で涼みながらお茶を飲んでる

「どうして・・・・って、誘われるから・・・・」
まさか矢口さんに会いたいからなんて言えないし
97 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 22:58
なんて心を読まれてしまったのか、ふふっといつもの微笑みで私を見つめると

「ねぇ・・・・今日撮影終わったら何かあるの?」

ひとみさんじゃないけど・・・・ごくって喉が鳴る

私を・・・・ううん、人を射抜くようなその視線
きっと今まで沢山の人を虜にしてきたんだろうなぁ

「いえ・・・別に」
きょ・・・・今日は洗濯しよっかなぁ・・・・・って

もちろん言える訳もなく

「じゃあ飲みに行かない?」
「へ?」
98 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:00
部屋が区切ってあるバーにやって来て飲んでる

さっき連れてかれたイタリアンの店では
いつもよりグビグビとワイン飲んでた石川さん

そんなに強くないのは知ってるけど・・・・大丈夫?
私の心配をよそに、出てくる料理を食べては
何度か食べている真希さんや矢口さんの手料理の方が絶対おいしいね
と批評しながら上機嫌

そしてやっぱりおごってもらった

食事中の会話は昔の恋愛話だったのが意外だったけどね

石川さんは今まで誰かの事を思って胸が高鳴ったり
ドキドキしたりする事は無かったそう

言い寄ってくる男達に何度抱かれてもどんどん醒めてく自分がいて
もしかしたら相手が男だからときめかないんじゃないかと
そっち系のホストクラブなんかで働いてる私に目を付けたそうだ
99 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:01
そんな所で働いてるくせにモデルになるのを夢見てる田舎娘

興味本位だった出来事でひとみさんに会った時には本当に嬉しかったって
自分と同じ人種がこの世にいるなんて・・・・・って

自分を見下ろして来たあのガラスのような目がそう感じさせたのに
当のひとみさんには、とても大切に思ってる人がいた

そのガラスの瞳に温かみを灯す存在

「私には現れないのかなぁ・・・」
トロンとした顔は、もういつもの石川さんではなく、素の石川さん

くたりとテーブルに伏せてうっすらと笑みを浮かべて気持ちよさそう
100 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:02
突然視界に入るボーイと会話しながらこっちを伺っている男二人

やばい
この雰囲気は絶対来る

「石川さん、帰りましょう」
髪の毛をかきあげて気だるそうに起き上がると視線で私を捕らえる

「どうして?」

ドキッとする

この人といい・・・・ひとみさんといい・・・・真希さんといい・・・・・
私の周りには人間離れした人が多すぎる

いや・・・ときめいてる場合じゃない、ほら来た
101 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:04
「彼女達二人?」
「いえ、これから彼と会うんです」
一応こんな事にも対処できる位にはなってるつもり

「まぁった嘘ついちゃって、今酒持ってこさせてるからさ、一緒に飲も」
ずうずうしく隣に座ろうとしてるし

「うひゃ〜っ、すっごい美人だね〜、君って・・・
あれ?どっかで見た事あるなぁ」

調子いいリーマン

石川さんは慣れてるようにその視線を二人に向け
「あなた達と飲んだら幸せが訪れる?」
しめたとばかりの男達
「ああ、もちろん、絶対損はさせないよ」
「あの、すみません、もう帰ります」

魅力的な瞳で男の人を見てる石川さんの手をぐいっと引っ張って
ちょっと待ってよという声を背中に聞きながら出口へと向かう
102 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:06
静かに寄ってくるボーイさんに、いくらですか?と聞くと
石川さんが少しよろめきながら一万円を渡し、
おつりはいいからと私の腕にからまって店を出た

おつり・・・・一杯ずつしか飲んでないのにぃ〜

「もうっ、何でそんなに自分から誘わせるような事言うんですかぁ」

貧乏な私からすると考えられない出来事がちょっとムカついてたのか
つい言ってしまってた

なのになんだか楽しそうな石川さんは、しっかりと私にしがみついて笑ってる

「妬いてるのぉ?絵梨香」
「な訳・・・・」

何言ってんですか

全く
103 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:06
「ねぇ、絵梨香ん家行っていい?」
「えええっ」

嘘でしょ

「だめ?」
もっと飲みたいぃ〜って

わ・・・・私に上目遣いしたって・・・・・あの、そんなんで

「しょ・・・しょうがないですね」
って弱っ

「んふふ、やっさしっ」

はぁ〜っ、何でこんなんなっちゃうかなぁ
104 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:09
連れてきてしまった私の部屋の狭さにまず驚く石川さん

「すっごぉ〜い、こんなのドラマでしか見た事な〜い」

悪かったですね、ワンルームで
しかもいつもは我慢するクーラー入れてあげてるんですから文句言わないで下さい

飲む前にシャワー浴びて下さいと言うと、絵梨香先に入ってぇ〜と言われ
さっきコンビニで買った缶チューハイを渡すとしぶしぶ先に入った

ぶつぶつ独り言を言いながら即行出てくるとお嬢様は案の定ベッドで先に寝てるし

わがままにしても程がある

ってか、シングルだから二人じゃ寝れないしタオルケットだって一枚しかないのにぃ

次第にムカムカして来て
夜中なのにドライアーをガンガン近くで掛けて小さな攻撃をしてみるけど
気持ちよさげに微笑んで眠ってる
105 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:11
ワンピースを着てる石川さんの服に皺が寄るかなぁなんて
心配してやんないんだから

「石川さんっ、着替え貸しますから着替えて寝て下さいっ」
ってやっぱり全然違う事声出してしまってるし

ん〜って動いてゆっくりと目が開くとおもむろに起き上がって
不自由そうに両手を後ろのチャックにやってワンピースをごそごそと脱ぎ始めた

慌ててTシャツと短パンを用意して振り返ると
ワンピースを下に落として下着姿で座ったままこくりこくりと船を漕いでる

「あっ、あのっ、これっ」
おろおろとその手にシャツを握らせると
ゆっくり目を開けてにっこりと笑うとのろのろとTシャツを着てくれた
短パンは着る気がないのか眠いのかポトリとベッドから落ちた

何度か撮影中の着替でそんな体を見てるとはいえ
腰のくびれとかがハンパなくてすっごくエロいと思ってしまった
106 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:13
いやいや、何でこんな事考えてんだろ

「じゃあ電気消しますね、あの、少しでいいんでズレて下さいね
布団これしかないんで」

小さくは〜いと言ってくれておどおどと背中を向けて隣に入り込むと
なんだか知らないけど、妙にドキドキしてる

石川さんだって別に女とするなんて考えられる訳ないし、私だって無理
矢口さんを好きだった時だって、そばにいたいなぁとか
少しは抱きしめちゃいたいなぁ・・・なんて思ったけどね

エッチなんて・・・しかも自分がしてあげるなん・・・て・・・・・・・

はぁ〜馬鹿みたい
変な妄想してないで早く寝よっ

明日は確か石川さんの撮影が早いはずだから私も早く起きないといけないし
うん、ちゃんと目覚ましセットしてあげたもんね

とその時
私に密着して石川さんがひっついて来た
107 名前:第四章 投稿日:2006/02/01(水) 23:14
ちょっ・・・・・

バクバクと心臓が鳴り出して

夏だからもちろん暑いしジワッと汗が出てくる

「ふふ、だいじょ・・・・・ぶ・・あの二人の・・・邪魔と・・・か・・・しな・・・から」
そう言うとぎゅっと抱きしめられた

急に心臓が静かになって、背中からは寝息が聞こえ出す

なん・・・・・・だ

・・・・・・・・・・なんだ?

期待とかしてたり?

馬鹿らしっ・・・・・・もう寝よ寝よっ

あっつい中私はそれから妙に落ち着いてすぐに眠る事が出来た
108 名前: 投稿日:2006/02/01(水) 23:15
今日はここ迄  ほんとぐだぐだ感たっぷりで申し訳ありません
後少しで終われると思いますのでしばらく辛抱を・・・
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/02(木) 13:25
今日発見して一気に読んでしまいました。
どうなっちゃうんだろう。
今後の展開が気になります。
110 名前: 投稿日:2006/02/02(木) 22:42
ありがとうございます
良い暇つぶしになって頂ければと思います
111 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 22:46
またたくまに卒業から半年以上が過ぎ、もうすぐ師走になるという頃
美貴とよしこが建築会社を絞り込み、発注を済ませてしまった

完成は4月
出来るだけ丁寧にやってもらえる小さな工務店を探したから
発注にこぎつける迄時間がかかってしまった

設計会社との綿密な打ち合わせで、ゴトーの注文や紺野のおぼろげなイメージ
やぐっつぁんのやんわりしたイメージを二人がじっくり形にしていってくれたから

それより先に、あの瑠依が一流ホテルの下働きをやめて、早くも独立した

理由は
「あの世界にどっぷりつかるのは嫌だった・・・」
という事

一流の料理人独特の世界に、瑠依はついていけなかったみたい
112 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 22:48
元々、学校のバイトも近所の食堂で老夫婦を助けていたのが肌に合うと言ってたから
小さな店を自分らしくしたいと思い、やるなら早い方がいいと決意したんだって

その噂はたちまちウチら学校のみんなに広まり
それぞれ休みの日には、瑠依の家に集合してメニューの考案や
小物の作成、食器の手配等手伝いをして過ごす

ゴトー達の店の事は、ウチらの夢だからゆっくりするし
みんなゴトー達が金持ちなのを知ってるからあんまり心配してないけど

瑠依はほとんど資金のないまま、借金スタートさせるという事で
仲間意識の芽生えたうちらは何かと協力的だ

本当に一人でやるのにこれが限界という小ささで
カウンター席と、マス席が1個という小料理屋という作り

駅の近くの商店街の中にある
つぶれた古い居酒屋の後を少し改築しただけのこじんまりした店

だけど、そんな場所に、自分の料理を食べにやって来てくれる人がいれば
それでいいんだと瑠依はかっこつけてる
113 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 22:50
さすが一流の店で少し働いただけある
と試作してくれる料理を見て思うけど
こんな感じの店でこんなにすごい料理をしてもったいないと正直思う

ウチら中澤組の他に、昔の悪そうな仲間も時々様子を見にやって来てたけど
結構人望があるみたいで、いい奴じゃんって再確認する

紺野みたく、遠方に住み込みとか
地方の地元とかで働いている奴らも気にはなるみたいで
誰彼ともなくメールして来る

あの10ケ月で、本当の仲間になったんだなって
ちょっと嬉しかった

なんだか修羅場があったとかなかったとかいう仁だって様子を見に来るんだから
・・・・でも仁の彼女、千里は一度も現れないけどね・・・
114 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 22:51
自分の店第一号の瑠依には、是非成功してもらわないとね
と、残暑厳しいのになんだかんだとみんなが集まる中
やっぱり気になるのは、瑠依のやぐっつぁんに向ける熱い視線

よしこに愛されて、より女らしくなったやぐっつぁんを
みんなからかうように言うけど
瑠依は、まだまだ全然諦めてる感じはしなかった

それに、何度か瑠依の部屋にいたら、女がやって来る事があって・・・・
それもすっごい大人っぽい年上の女性ばかり

訪れる全員に対して、外に連れてってすぐに帰って来るから
みんなで冷やかしたりして怒らせたりして

そんな時に瑠依が気にしてるのは、やぐっつあんの表情だったから
115 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 22:53
秋になって明日開店という日
何人かは、その日休みがとれたから手伝いに行くと言ってたけど
ゴトーもやぐっつあんとこもムリで、時々電話で様子を聞いたりしたら
昔の仲間がほとんどで、近所の人達は様子を見てるだけだったみたい

だから途中で瑠依が追い出したりして
普通の人の来店を待ったけど、なかなか入って来てはくれなかったらしい

前途多難

まぁ、次の日からはちょこちょこ様子見に入って来てくれだしたみたいだけどね

だから、今度やぐっつぁんと一緒に休みの日に様子を見に行こうって言ってる

そして、二人で見に行ってみたら
なんと行列が出来ていた
116 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 22:54
どうやら、一度怖いもの見たさで訪れた近所のおじちゃんがうまいと言いふらしたらしく
噂に弱い日本人のおかげで猫の手も借りたい位の忙しさになりゴトー達も手伝うはめに

結局、店じまい迄手伝ってしまったゴトーとやぐっつあん・・それに仁
お礼にと、瑠依が出してくれた煮物と煮魚と炊き込みご飯

「何で和食なのかって話だよね、フレンチの店で修行しといて」
ゴトーの突っ込みに、瑠依は当然のように言う

「日本人だし」
「でもうまいぜ、これ、家庭料理っちゃ家庭料理みたく作ってるけどさ
知ってる人が食べりゃ、めちゃくちゃ手が込んでるの解るし
とにかく瑠依って感じだよな」

仁のこれ以上ないという位のほめ言葉に、少し瑠依も照れくさそう

それに素材もいいのを使ってる・・・・・
朝市場に行って、その日のいいものを選んで買っているみたい・・

なのに居酒屋より少し高い位の値段で出してるし
ほんとに採算とれんのかってみんな心配してる
117 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 22:56
「でも確かに、瑠依の作るのって、全部ポリシーがあるよね・・・・・
なんてっていいのかわかんないけど」

一品一品が、ちゃんと下ごしらえされてて
手間隙かけられてるのが解るし・・・・
でもそれでいて少しも押し付けがましくないから、食べ飽きない感じ

やぐっつあんの作る和食とはまた違った感じ・・・

なんつ〜か・・・・

プライドがあるっつーか・・・

きっと才能があるんだと思う

多分、やぐっつあんの基準はよしこの味覚・・・・
よしこの薄味な感じが好きだというのを意識して
あえて薄味にしているって気がする

まぁ、それも個性だと思うからそれでいんだけどね

「この分だと順調にいけるんじゃない?」

そう言うゴトーに
「最初だけだよこれから長くやってくには、それなりに新しいもん始めないといけないし
この店に久しぶりに来たらこれが食べれるっていうメニューも無いと」

と冷静に言う瑠依に、中澤学校で学習したウチらは頷くだけだった
118 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 22:58
だから、ゴトーもやぐっつぁんも
瑠依の所に集まるみんなに意見を聞いたりして
オリジナルメニューの考案に頭を悩ませていたりする

そこそこいいものは出来てるんだけど
これっていうのがまだピンと来ない二人だから
瑠依の所の台所を借りて、ちょこっとお客さんに食べてもらったりした

季節の食材の変化や、原価率とか考え出すと
なかなか一年中食べられるオリジナルというのは難しい
やはり定番へと傾いてしまうから

ゴトーの作るのは洋食だからこの店には会わないけど
仲間はみんなこれならお金出して食べに行こうって思えると
何品か合格点はもらえた

だけどやぐっつぁんのは、おいしいとは思うけど
わざわざお金出して食べに行こうって感じではないと容赦ない

そりゃそうだ、こんな話に同情は優しさではないから・・・
それに・・・・・
やぐっつぁんは、よしこにとって一番おいしいものしか作らないから

いつもしょんぼりして帰るやぐっつぁんに
いつも瑠依は、また来いよ・・・と優しい顔で言うだけ
119 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 23:01
だから、毎週水曜日は
ゴトーと二人瑠依の店に手伝いに行くのが普通になってしまった・・・
瑠依も少ないけどとバイト代くれたりして

そんな風にまたたくまに二ヶ月が過ぎた頃
外装工事も終わり、内装に映る前に、今迄相談していた内装のタイルやら
美貴やよしこと一緒に昼間打ち合わせする事も多くなる

師走になってはりきるよしこに比べて、不安そうなやぐっつあん

そりゃそうだろう・・・・・
仲間内からまだ合格点がもらえない料理達

なのに、やけによしこは張り切ってるし・・・・
まぁ・・・・あのばかはやぐっつあんと一緒に仕事できるのが嬉しいだけみたいだけど
それが今やぐっつぁんにとってプレッシャーになってる事気付いてる?

それと、いつのまにか当然のように石川梨華という
絵梨香の先輩モデルが噛んできて、計画に私も混ぜてと言って話しに入って来た

見積もり段階で色々な設計会社や工務店を紹介してくれた恩はあるとはいえ
とにかくお金はあるからと、一気に自分の貯金通帳をポンと私達にくれたのにはびっくりした
120 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 23:03
あっけにとられる私達をよそに
一緒に夢を持つっていうのに憧れてると
キショキャラ全開で宣伝部長になるとか一人で盛り上がるのを
美貴に一刀両断されて

ウチらは口コミとかで徐々に客を増やして行こうとしているのを伝えると
そんなんでこの世界を生き抜いて行けると思ってんのって
キャンキャン言い出して

最初はなんだこいつっ・・・・って思ったけど
なんか何度か会ってるからなのか美貴と言い争ってたり絵梨香がおろおろしてる見てたら
可笑しくなって、結局混ざっちゃってた

住居だって、三階建てで、三階に一応共同リビングとか紺野の部屋にしようと思ってたんだけど
四階迄作って家賃とって従業員とか住まわせればと言い出した

そんな必要ないというウチらに
結局四階部分の建築費は自分が出すからと言って強引に説得された
121 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 23:05
遊びじゃねんだよって最初嫌だったけど
なんだか色々話しているウチに
本気でウチらの店を考えてくれてるって思え出して、しょうがないってなった

最初、梨華ちゃんはよしこを狙ってるのかと思ってたけど
どうやらやぐっつぁんを狙っていると知った

ムリでしょ・・・・あの二人を見たら・・・・
って思ったけど、美貴が聞いた話では
あの二人は完全に信頼しあってないからまだ大丈夫なんだって・・・って呆れてた

なら、梨華ちゃんがウチらの仲間に入るってやばいんじゃないっ・・・・って頭を過ぎる


・・・けど、あの二人ならまぁ大丈夫だろうと思ってた


だけど・・・・・・

だんだんやぐっつあんの元気がなくなっていき・・・・・・

よしこが不機嫌になっているのに気付いた時にはもう遅かったのかもしれない
122 名前:第四章 投稿日:2006/02/02(木) 23:05
今日はこのへんで
123 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:06
どうしてあの瑠依って奴の所に手伝いに行ったりするのか

最初やんわり行って欲しくないと言ってたけど
最近は、積極的に手伝いに行く矢口さんを見て腹が立ってつい強い口調で送り出してしまう

ごっつぁんや、他の人もいるっていうからまだ送り出してるけど・・・・

あの学校で一緒に学んだ人の絆がどんだけ深いのかも解るけど

あの瑠依って奴の店ってのが気に食わない

絶対あいつまだ矢口さんを狙ってるから

ただでさえ石川さんが矢口さんを奪うみたいな事ウチに言って来て焦る・・
っていうか、心が乱れてるのに
こう毎週毎週あいつに会いにいかれたら・・・・・

それによく電話もしてるみたいだし
124 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:07
最近はよく机に向かって悩んでるみたいだから
そんなに根詰めなくていいんじゃないですか?と言うと
そういうわけにはいかないと、つらそうな顔で頭を抱えてる

どうやら、その店で仲間から何か言われたらしく
絵コンテみたいなのを書いてはえんぴつで消してうつぶせたりしてる

昼間は建築会社や工事会社との頻繁な打ち合わせで忙しいし
夜はお互い仕事・・・・・

休みの日も矢口さんは瑠依の店に行ってしまって疲れてるのか
ウチが帰ると寝てるし

すれ違いってこういう事をいうのか
・・・・・なんて夫婦のような悩みを持ってしまってる

もう二ヶ月位矢口さんを抱いてない?

いや・・・・

いいんだけど・・・・

そばにいるからいいんだけど・・・・・

何故か出来てしまった距離

どうしてか焦ってる矢口さんを落ち着かせる事がウチには出来ずにいるのが悔しい
125 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:09
ごっちんが言うには
店の核となるメニューが出来ない事が要因みたいだけど

そんなのは紺野が帰ってくればまた二人で考えればいい話だし
紺野だって板長に怒られながらも作品を作って色々考えてるみたいだし・・・

例え最初はうまくいかなくても
そんなの想定の範囲内だから、一人で背負い込む事はないのに

ここぞという相談相手の絵梨香さんにも相談してなくて
今の所、相談相手はごっちんかその瑠依って奴だけ

だからこっちも焦ってしまってついつい、口調が荒くなる

相手が男っていうのが、ウチを焦らせるんだと思うけど


今日も

「行かないで下さい」

「えっ」

店の開店時間より随分前にはりきって行こうとする矢口さんが信じられなくて

つい言ってしまった
126 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:10
「あの瑠依って人の店にはもう行かないで下さい」

今迄だってやんわり行って欲しくないような事は言っていたけど
困ってるし、色々勉強になるからとやめようとしない

「ど・・・うして?」
困った顔で振り返る矢口さんの目は悲しそうで視線を逸らしてしまう

「あいつが嫌いだからです・・・・」
はっきり言ってしまった・・・でも本心だから

「・・・・でも・・・色々教えてもらわないと」
「あいつがどんなつもりで矢口さんに優しくしてるのか解ってるんですか?」

最後迄言わせないで強く言ったら、怯えたような目でウチを見てた
127 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:11
「・・・仲間・・・だもん」
「何言ってんです・・・・あいつは・・・・・」

そこ迄言ってやめた・・・・・

矢口さんの横顔がとても悲しみに満ちてたから

再び後悔が襲う・・・・・

もう二度と・・・

こんな顔させはしないって思った事あったのに・・・・

「そんなに背負い込まないで下さい・・・・・ウチと・・・・・
ウチと一緒に力を合わせていきましょうよ」

あれこれ考えて、やっとこれだけ口に出す

「・・・・・おいら・・・・おいら・・・・」

涙を一杯溜めた目で見上げて来るもんだから、溜まらずに唇を塞ぐ
128 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:12
すがるように貪りあう二人の唇が離れたら

「いいんですよ・・・・・紺野が帰ったら相談しながらでいいし
店だって完成迄まだあるし・・・・」

「でも少しでも自信つけときたいし・・・・
瑠依・・・・って・・・・才能あるから・・・・」

ため息をつく・・・これじゃ堂堂巡り

「・・・・・・解りました・・・・もう・・・・いいです」

矢口さんは矢口さんなりに、ほんとに一生懸命で
あいつが下心ありありで優しく教えてくれてる事なんて
これっぽっちも解ってないんだという事も理解出来た

そしてその日・・・・

矢口さんは朝方私が仕事から帰って来ても帰って来ていなかった
129 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:12


130 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:13
よしこから電話がある・・・・

しかも朝5時半

思いっきり眠ってる所だったから、めちゃくちゃ無愛想に出ると

『寝てたの?矢口さんは?』
「はぁ?もう勘弁してよ・・・・電話すればいいじゃん、本人に」
『電源が切れてる・・・・何?あいつの店にいるんじゃないの?』

ものすっごい不機嫌なよしこだけど・・・・・

それ以上にゴトーのが不機嫌だっつーの
131 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 00:14
「頑張って作るって残ったのっ、もうっ、おやすみっ」

ブチッて切ってから

「やばいんじゃない?ごっちん」

至近距離の美貴が眠ったまま口だけ動かした

「だって人がやっと気持ち良く寝てる時に・・・・・・・・・あ」
「まぁ・・・・あの二人なら大丈夫か」

むにゃむにゃとゴトーを抱き寄せてきて頭を撫でてくれた

美貴の胸に抱かれながら
一瞬出た冷や汗を美貴の言葉で納得させて再び深い眠りについたけど
やっぱり、ゴトーのその判断も間違っていたみたい
132 名前: 投稿日:2006/02/04(土) 00:14
ちょっこす更新です
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/04(土) 01:13
うわあ、なにがあったんだろう
更新が待ち遠しいです
134 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/04(土) 02:50
更新お疲れ様です。
なにがあったのかすごく気になります。
135 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:27
7時半位だった・・・・・

もちろん眠れずに
朝の情報番組なんか見ながらイライラしていた

ごっちんもいないのにあいつの店で一晩・・・・・
そう思うといてもたってもいられない

まさか帰って来てないなんて夢にも思わなかったから

帰って来たら、優しく話をしようって帰って来たのに

帰ってお風呂に入ってもまだ帰って来ないから
一緒にいるだろうごっちんに電話したら、思いっきり寝てた雰囲気に頭がカッとなる

一方的な切られ方をした電話をソファに投げつけ
不貞腐れたようにビールを取りに行ってぐびぐびと飲み干す

解ってる・・・・

矢口さんは責任感が強いし、プレッシャーにも弱いって事

人に迷惑をかける事を極端に嫌う事

だから、ウチらの店の為に一生懸命頑張ってるのはウチだって解ってる
136 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:28
矢口さんがウチを好きな事だって・・・・
疑ってる訳じゃない

でもあの瑠依って奴だよ
昔どんなに悪かったか知らないけど
昔、矢口さんを騙すような事をしたら許さないと言ったあの本気の目

ウチから矢口さんを容易に奪える・・・・・
お前は女だろっていうあの顔をウチは忘れる事は出来ない

女だから・・・・

結婚だって出来ないし、子どもだって出来ない

そんなのかまわない・・・・

ただ矢口さんがそばにいればウチは幸せ

なのに
その手助けをどうしてあいつにしてもらわないといけない?

虎視眈々とうちらの隙を伺ってるあの男に
137 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:30
そう・・・・うちは女だから・・・・
その引け目に焦ってるだけだって事も・・・・うっすらと解ってる

携帯が通じない事で
もしかしてあいつが矢口さんを無理やり襲ってんじゃないかとか

抱かれる喜びを知った矢口さんは
もしかして軽い気持ちで男の人がどんな感じか知りたいって思ったりしないかって

・・・・バカみたいな事ばかり考えてたらどんどんビールが開いて行く


「ただいまぁっ」

ビールが五本ほど開いた8時前に、勢い良く入って来る矢口さん

「・・・・・・・・」

何故かはしゃいだ感じがウチに火をつける

「よっすぃまだ起きてたっ、これこれっ
食べてみてっ、瑠依もねっ、これならイケるって言ってくれたのっ」

ビールの空き缶の横にタッパーを置いて、ウチが飲んでいるのに気がついたようだ

「・・・・・飲んでる・・・・の?」
「・・・・・・・・」

見れば解りませんか?めいっぱい飲んでますよ・・・・・
家ではあんまり飲まない私が

ウチはバカだから
あいつに襲われてる矢口さんを想像したりしちゃって・・・・・
138 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:32
さっきまでの勢いが消え、怯えたような目になってた

それは私がきっと怖い顔で矢口さんを見てるからだろうけど

矢口さんは悲しそうな顔で
テーブルの上で凹まされた缶を両手で掴んで片付け出した

その手を掴んでソファのほうに引っ張ると、下に押し付けてキスした
ガチャガチャンッと空き缶が派手な音を出して転がって行く

「いやっ・・・よっすぃっ」

怯えた顔で見上げる顔が、どうしようもなく力を出させる

酔ってるの?となげかけてくる唇を容赦なく貪り
着ている服を乱暴に剥ぎ取ろうとしてシャツのボタンがちぎれる

よっすぃやめてというとぎれとぎれの声に耳を貸さずに
スカートの中の下着に手を掛けると
お腹辺りに痛みが走りテーブルに背中を打ち付けるように飛んだ
139 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:33
どうやら矢口さんにお腹を蹴られて飛ばされたらしい

「嫌なんですか?」
「・・・こ・・・こんなのは嫌・・・だよ」

胸元のボタンのちぎれたシャツを正して
ソファの端っこに怯えた子犬のように縮まって震えながらこっちを見てた

「・・・まさかあいつと何かありました?」
「何・・・・って?」

ゆらりと立ち上がって、テーブルに乗ったタッパーを手に取った
蓋を開けると、確かにおいしそうな魚料理が入っていた

激しい動きをしたせいか、急に酔いが回る
くらっとした際に、タッパーが床に落ちた

「あっ」
矢口さんが右手を咄嗟に出し身を乗り出した

落ちてしまった魚料理が無残に床で散らばって
前のめりになったまま、唇を震わせて矢口さんが涙を溜めている
140 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:35
「・・・・・ちょっと・・・・酔い・・・覚ましてきます」

後悔・・・・だけどこの胸に溜まったどす黒い感情の為
まだまだ攻撃してしまいそうなこの口を封じる為に
一度矢口さんから離れなければと思った

ふらふらとベッドルームに行って着替えると、バックを持って外に出た

あんまり見ることのない朝の太陽によって、すがすがしい空気が流れている

やってしまった・・・・・・

いくら嫉妬してるからって・・・・・

今迄ちょこちょこ喧嘩っぽいのはあったけど・・・・
こんなのは初めてだった

思ったよりあの瑠依って男に怯えてるんだって苦笑するしかなかった

矢口さんのあんな怯えた目

前に車の中で触った時以来・・・・・

いや、それ以上に怯えてた
141 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:36
マンションの下で思わず壁を蹴飛ばす

憶測で矢口さんを怯えさせてどうする・・・・・

後悔に頭を抱えながら、ゆらゆらと近所の公園に歩いて行ってみた

ドカッと隅のベンチに腰掛け天を仰ぐと目を閉じた

もう冬だというのにカラッとした青空
公園の横の道路は、通学する女子高生やサラリーマン
小学生が通っている声がする

朝の公園にいるのは、家のない人達か
終電に間に合わなかった酔っ払い位だろう



もう矢口さんと出会って二年が過ぎてしまったんだっけ・・・・

はぁ・・・・・早く謝った方がいいのかな

だよね・・・・・

全くの一人の妄想からの嫉妬だし
ウチらの店の為に料理を勉強してるだけだったんだもんね
142 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:37
「な〜にしてんのっ、か〜のじょっ」

嘘だろ・・・
朝の公園でナンパなんてしてんじゃね〜よ

「っせ〜よ」
目を瞑ったまま答えると

「連れないじゃん、何?何か嫌な事でもあった?」
「うっさいって言ってるだろっ、どっか行けよっ」

がばっと身を起こして声のする方を見ると
チャラい兄ちゃんがチッと言って去って行った

遠くの道路から、何があったのかとちらちらとこっちを伺う人の目さえ苛つかせる

ケッと再び目を閉じて天を仰いでると

「な〜にやってんだか」
なつかしい声
143 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:39
この声は

「アヤカ?」

目を開けて眩しい光の中に、傘を差したシルエット
そして慣れた目に飛び込んで来るお腹

「こんな朝に似合わないひとみが何やってるの?」
「ん・・・・・・ちょっとね」

喧嘩したなんて、この人に言えないよね

「くさっ・・・・妊婦の前でお酒の匂いさせないでよ」

どうやら妊娠してウチの店にもすっかり寄り付かないようになったアヤカ

「勝手に近づいたのはそっちっしょ」

くすっと笑い合う二人
144 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:40
「で、アヤカはこんなとこで何してんの?」
「私はこの近くの病院に通ってるのよ、今日は定期検診」

道歩いてる人がやたら注目してるから何かなって思ったら・・・・
なんか見覚えのある人が不貞腐れて座ってるし・・・・って笑ってるし

「そっか・・・・・幸せ?」
「まぁ・・・・一応ね・・・・・両親達がめちゃくちゃ喜んでるから
・・・・・これでいいのかなっ・・・て」

子供・・・・ウチと矢口さんには絶対出来ないんだよね

「あの子犬と喧嘩でもした?」
「・・・・・・・・」
「初めて人を愛したんですものね・・・・・もどかしいんじゃない?自分が」

やっぱり敵わない
この世にはウチが適わない人が多すぎる・・・・ってか・・・・

「・・・・・なんつ〜か・・・・多分・・・・自分に自信がないんだと思う、ウチ」

前にアヤカが言ったように案外情けないヘタレな女だから・・・・
145 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:41
朝っぱらから何相談してんだろ

それほど・・・・弱ってたのかもしれない

「へぇ〜・・・・・ひとみがねぇ・・・・・考えられない」
「だね」

苦笑してたら、アヤカが立ち上がる
「ね、病院一緒に行かない?多分ひとみは一生行く事ないだろうから」
「へ?」
「産婦人科なんて、ひとみには縁が無いでしょ」

すっかりマダムな雰囲気のアヤカに手を引かれて、車に乗せられた
146 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:42
連れて行かれた自分とは別世界の幸せそうな雰囲気

入り口には、今週生まれた赤ちゃんと、幸せそうな両親の姿の写真
こんな所に、薄汚れた酒臭い自分が入ってもいいんだろうかと思ってしまう

アヤカは、もう常連というか、顔なじみの看護婦さんや
赤ちゃん連れと世間話をしながらいい奥さんを演じている

妹さん?なんて言われながら、じいっと見る赤ちゃんの視線を感じると
その視線が矢口さんみたいで心に刺さる

赤ちゃん見て思い出すなんて、本人が知ったら怒るかな・・・・なんて笑ってると

「欲しくなった?」
したり顔のアヤカに

「別に」

と、態度悪く待合室の椅子に座ってそばにあった育児雑誌を手にとってパラパラとめくった
147 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:44
ため息をついて、そばに座ってたアヤカに呼び出しの声
じゃあ診察行って来るねと消えて行くのを見もしないで雑誌の中の赤ちゃんを見つめてた

くるくるとした視線は、そのまま矢口さんに重なり・・・・・

どうしようもなく・・・・・会いたくなる

謝らなきゃ・・・・・ただでさえ自分を追い詰めてた矢口さんだったから

「検診ですか?」
入院している人だろうか
ネグリジェみたいなのを着てにこにこした顔で赤ちゃんを抱いて隣に座ってくる

「いえ・・・・付き添いです」

ここに来るにはまだ若いので興味があったのだろうか

「ふふ・・・・かわいいでしょ」
自慢ですか?ああ、それがしたかったんですね

「ええ」
幸せ自慢でも何でもして下さい・・・・聞き流しますから
148 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:45
「なんていうか・・・・最初はこの子が出来てどうしようって思ってたんだけどね
好きな人の子供じゃなかったから」

「はぁ・・・・」
なんだよ、いきなり変な話初めやがって

「でも、好きな人の子じゃなくっても、母性ってあるんだね・・・・・・
こんなに愛しいって思うんだから」

「・・・・・・好きな人の子供じゃないのに
・・・・・どうして生もうって思ったんですか?」
聞いてるし、ウチも

「ふふ・・・・・この子の父親ね・・・・・
私の事が大好きで大好きでしょうがなかったみたいでね・・・・・
二股かけられてるのも知っててずっとプロポーズしてくれてたの」

「二股かけてたんすか」
その人は、ふふっ、最低でしょ私・・と笑い

「でもね、ほんとに私が好きな人に、子供が出来たって嘘ついたの・・・・・
もう一人と別れて、ちゃんとつきあいたいって思ったから」

子供の頬を優しくなでながらゆっくりと話し出す
149 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:48
「好きな人はね・・・・本命がいたみたいでね・・・・すっごい嫌な顔された」

へぇ・・・・・自業自得・・・と思ったけど
・・・でも、あれは傷ついたなぁ・・・っていうその人の顔は本気で傷ついてたんだと思った

「そしたら本当に妊娠しちゃった、今の主人の、笑っちゃうでしょ」
「ええ、ほんとに」
やべっ、つい本心言っちゃった、こんな時職業発揮しなくてどうする

「ふふっ・・・・でもね、なんか・・・・・好きでいるより・・・・
好きになってもらえるのって嬉しく思えるようになってね・・・・・
すごくない?あなたみたいに綺麗な人とか一杯いるのに
私みたいなのを一生懸命好きになってくれて、伝えてくれるの
・・・・・楽を選んだのかもしれないけど」


・・・・・・・
150 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:49
「まぁいっか・・・って結婚して・・・・・
これまで以上に大切にしてくれる主人がいて・・・・・・
思ったの・・・・・自分が好きって思うのって何が基準だったのかなって」

たまには、流されてみるのも悪くないっ・・・・て、この子を産んでみて思ったの
その環境その環境で、小さくても幸せって思えたら・・・・・
どんな人生も悪くないなっ・・・・て

「たまたま授かったこの子だけど、あの傷ついた時にもし産んでなかったら
こんなに幸せな気分にならなかっただろうし・・・・・
ふふ・・・・あなたみたいな若い子に何言ってんだろね」

ほんとに・・・・・・

でも・・・・・この人、誰かに聞いてもらいたかったんだろうなっ・・・て思った
身近な人にはきっと言えないんだろう

「抱いてみる?」
なんて、生まれてまもない子供をポンッと私に渡してきた

「うわっ、わっ・・・・」
151 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:50
慌てるウチを面白がるように
「私も最初怖いって思ってガチガチに抱っこしてたけど
結構平気なものよ、びっくり」

なんて肩をすくめてるけど、あんたがびっくりだよ・・・・・
うわ・・・・・勘弁してよ、壊しそう

目も開いてなくて、ぎゅっと手を握ってうにうに動く小さな人間

「あれ、ひとみ、大丈夫?」

なんてアヤカが近づいてくるのも解らない位緊張してた

はいっと赤ちゃんを帰すと、その人はけたけたと面白そうに笑ってた

「ねぇ、この子、夜の商売でしょ」
なんてアヤカに話し掛けてるし

「そう、良く解りますね」
「うん、同類の匂いがするもの・・・・私も元ホステス」

ホステス・・・・とは違うんすけど

・・・・ウチはホスト
152 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:52
さ、帰るわよとアヤカが会計のフロアに行こうと立てる?
と子供を扱うように手招きする

二人して、からかうような口調がムカついて
「旦那さんと幸せに・・・・」

「ありがと、あなたもね」
まだ目の見えない子の手をふりあげてブンブンと手を振った

会計を終えて駐車場に戻る時
「もし私がひとみと付き合ってたら・・・・・今頃こんな風にしてないわよね」
「だろうね」
誰があいてでも、ウチには子供なんて出来ないから
153 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:53
「さっきの人ね、結構有名人なの
あの子が生まれる前に旦那さんが亡くなってしまってね」
「へっ」
そうなの?

「昔から結構色々してたみたいで、
そのつけが回ったって周りの人は言ってたけどね・・・・・
なんだかめげないで頑張るみたい」
「ふ〜ん」

なるほど・・・・・・強がりを言ってみたかったのか

・・・・・・・

子供を見るその人の顔や、目を思い出す

なんとなく、朝のイライラした気分は落ち着いて

・・・・ただ

矢口さんに会いたくなっていた
154 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:54
マンションまで送って貰って

「じゃあ、アヤカも幸せに・・・・・元気な子供産んでよ」
「うん、生まれたら写メール位贈るわ、出産祝いもらわないとね」
ふふっと笑って車を降りた

派手な車を見送り、ウチは部屋に急いだ

泣いてベッドに蹲ってる気がする

酒も抜けて、なんだか無性に矢口さんに会いたくて走った

早く謝ろう・・・・

もうあんな男の影に怯える弱い自分をさらけ出して、許して貰おう
155 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:55
だけど・・・・・

部屋には、物音一つせずに

綺麗に片付けられたテーブルに、手紙が置かれていた

「よっすぃに、迷惑かけないように
もっと勉強して一人前になって帰って来ます」

って何?

出てったって事?

迷惑って?まだそんな事

何?

思わずベッドルームの矢口さんの宝物を見に行くと
亜依ちゃんの写真・おもちゃの靴とビー玉達がなかった
156 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:56
「まじ・・・・・で?」

慌てて携帯を探して矢口さんに電話するけどやっぱ電源が入ってないし
だからまたごっちんに電話しながら、駅へと向かう

矢口さんの携帯は電池切れが多い
一緒に暮らしてからあまり必要のなくなった携帯だから

『んあ』
まだ寝てたっぽいごっちんは寝ぼけた感じで出た

「矢口さん知らない?」
『んあ?』
「矢口さん」

寝てる場合じゃね〜ってば

『知らない・・・・え?まだ帰って来ない?』
「いや・・・・・・帰って来たんだけど・・・・・いいや、何か連絡あったらすぐ連絡頂戴」
157 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:57
ぶつっと電話を切って絵梨香さんの番号をスクロール

仕事中なのか、留守電になったので
一応矢口さんから連絡があったらすぐに連絡する様に入れておいた

後は保田さんに安倍さん、紺野にも電話して、矢口さんが出てった事を広めてしまった
みんな一様にウチを攻めるような事を言って電話を切られる

紺野は一人であたふたするだけだったけど

いつも利用する駅の改札で、辺りを見回すけど、矢口さんらしき人はいない
まだ矢口さんの携帯は電源が切られてるし

ウチのバカさ加減にはほとほと呆れる
唇を噛み締めて立ち尽くすしかなかった
158 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:57


159 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:58
「あちゃ〜・・・・・どうしよ、美貴」
ん〜、ど〜した?って色っぽい目してこっち見ないで

「やぐっつぁん出てったみたい」
「へっ」
飛び起きて胸が丸見えになる美貴

「見えてる・・・・襲っちゃうよ」
「いいじゃん、もう飽きる位見てるっしょっ、てか、まじで?」

いいのかい・・・美貴
160 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 14:59
「飽きないよ、ってうん、慌てふためいたよしこが電話掛けて来てるから」

「何が原因?」
「さぁ・・・・多分・・・・・・
瑠依の店に入り浸ってるのが気に入らないんじゃないかって思うけど」

「そうだよ、美貴だってほんとはやなんだからね
野郎が一杯出入りする店にごっちん行かせるの」

「でもさ、確かに大きい所より、小さい瑠依の店って練習になんのよ」

「それ何十回も聞いたから・・・・」
はやっ・・・・・ええいっ

押し倒して上から顔を覗き込んで

「信じてない?」
「信じてるよ・・・・・案外解り易いごっちんの事は・・・・」
「よし」

優しくキスする
161 名前:第四章 投稿日:2006/02/04(土) 15:00
「だけどさぁ・・・・矢口さんは結構解りにくいよね・・・・・
いつも笑ってるからさ、よっちゃんさんを好きっていう顔だけは解り易いけど」

「そうそう・・・・最近は切羽詰ってるみたいだったのに
表面はいつも通りだもんね」

キスを繰り返しながら矢口さんを語る

「・・・・・・朝のゴトーの電話のせいかな・・・・・」

はたと気付くと
美貴が手を伸ばしてゴトーの髪の毛を掻き揚げてくれる

「んな事ないっしょ・・・・・・・・・・
様子・・・・見に行ってみる?」

それっきゃないよね
「ん」
162 名前: 投稿日:2006/02/04(土) 15:01
今日はこのへんで
163 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:12
留守電に無愛想な声で
矢口さんから連絡あったらすぐ電話して下さい・・・・とだけ

早朝ロケの合間の休憩時間に聞いていてもたってもいられなかったけど
とりあえず撮影が終わる迄我慢して昼過ぎにひとみさんの部屋に向かった

「あ、絵梨香」
出て来たのは、真希さん
にやっと笑ってやっぱり来たって笑った

そんなに深刻な事態じゃない?

「や・・・矢口さんは?」
「ん・・・・ま、とりあえず入って」

と、入れられたら、ソファで憔悴しきったひとみさんがいた

目の下にくま迄出来てるし
164 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:14
「何が・・・・あったんです?」
「なんかね、ゴトーの通ってた学校の男との間を勝手に嫉妬して当たっちゃったんだって」

ひとみさんが?いつも自信満々の

・・・・あ・・・・男・・・・が相手だから?

「反省してるみたいだし、ゴトーの部屋に来てるかもしれないから
とりあえず帰ろうかって、だから絵梨香も何もなければ部屋に戻っててよ
やぐっつぁんが行くとこなんてゴトーんとこか、絵梨香んとこか
もしかして紺野ん所位しか解らないんだからさ
大丈夫だって、すぐ帰って来るって」

「だって・・・・宝物・・・・・持ってってるし」

ああ・・・・
ひとみさんからの最初のクリスマスでもらったおもちゃの靴ね・・・・・

もう12月・・・またクリスマスがやってくる
165 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:15
苦笑しながら美貴さんも私の肩を叩いて玄関に向かった

「解りました、部屋で待って、もし来なかったら矢口さんの働いてる店に行ってみます」

「イヤ・・・ウチ行くからいいです、店は、もし来たらすぐ電話下さい」
店・・・教えて下さい・・・・
ウチは知らないから・・・と、ゆらっと立ち上がるのを真希さんが支える

「とりあえず寝てないんでしょ、それによしこも店あるんだし
それ迄まだあるから、少し寝ないと持たないよ、絵梨香に店は頼んでさ」

はぁ〜っとため息をついて頭を抱えるようにするひとみさん
こんなひとみさん初めてだ

「寝てないんですか、じゃあ寝ないと
店はまかせておいてください、夜は何もありませんから」

そうだった・・・・甘やかされるのが嫌だから
ひとみさんには自分の勤め先を教えないでくれって言ってたっけ
166 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:16
「ほら、絵梨香にまかせて、よしこは寝な
鍵は?あ、これね、閉めたらポストに入れとくからさ」

優しい顔でひとみさんの背中をベットルームに押して行って寝かせてきたら
小さく肩をあげて苦笑して私の背中を押した

ドアを出てからエレベーターに乗ったら
真希さんと美貴さんは二人でため息をつく

「馬鹿だねぇ・・・・よしこは」
「ほんと・・・・これだから恋愛音痴は」
二人して息を合わせて首を振った

「ま・・・あ、気持ちは解るけどね」
「うん」
二人して今度は悲しそうな顔を見合わせていた
167 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:18
「どういう事です?」

エレベーターから降りて、車に乗せられる迄、二人は口を開かない

「真希さんっ、どういう事ですかっ」

「ゴトー達は普通じゃない恋してるって事・・・・・
結婚も出来なければ、子供だって出来ない関係」

「そんなのっ、そんなの関係ないじゃないですか」

熱く言う私に、二人は優しい笑顔で顔を見合わせてエンジンを吹かした後出発した

「案外重いんだよ、その事って・・・・・いくらお互いに好きだって思ってても
永遠じゃないし・・・・・それは普通の夫婦だって同じだけどね」

「そ・・・・だから美貴も焦るように店を開く事に燃えてたりね・・・・・・
何か証・・・・が欲しいのかもね」

助手席の美貴さんの手に一瞬真希さんが手を乗せて笑った
168 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:19
「普通の生活を知らずに過ごしたやぐっつあんは、学校でもそうだったけど
普通に憧れてた・・・・だけど、自分が好きなのはよしこで・・・・・
それは普通じゃないってちゃんと理解出来て
それなのに、店をやる時の一番の重荷がやぐっつぁんにかかってるって思い込んで必死な所に
よしこの変な嫉妬でしょ・・・・・ちょっと頭を冷やしたいのかなって・・・」

「まぁ、お金もあんまり持って出てないみたいだし
店を辞める訳にはいかないから職場にはちゃんと行くと思うし
だから美貴も一緒に行くよ三好ちゃん」

「あ・・・・はい・・・・」

送って貰って、アパートの周りを見てみるけど・・・・・
矢口さんが来た様子はない

あいかわらず電話は通じないし

後で迎えに来るねと美貴さんは手を振ってくれた
こんな時は、私を頼ってくれるはず

そう思ってたけど・・・・
どこいっちゃったんです?矢口さん
169 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:21
矢口さんが職場に出勤する時間帯は、きっとごっちんとあんまり変わらないだろうから
その時間にごっちんを送りに行って三好ちゃん家に迎えに行くねと言われて来てくれた

「美貴も矢口さんの店知らないから案内してね、三好ちゃん」
「はい」

そしてたどりついた店はまだ準備中
裏口を二人で探して、美貴さんはずんずん入って行く

「すみませ〜ん」
裏口の勝手戸みたいなのを見つけて叫ぶ美貴さん・・・・すごい行動力

そして、はい、何?と出て来る板前さんみたいな若い人の怖い事

「なんですか?まだ開店してませんけど」

ソリの入った私達より少し年上位の人が美貴さんを
上から下迄嘗め回すように見る
170 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:22
「すみません、忙しい所、私達矢口真里さんの友達なんですけど
少し矢口さんに時間下さいませんか?」
「矢口の?」

めちゃこわ・・・・板前さんってこんなに怖いの?裏では

お〜い矢口ぃ〜っと呼ぶ声がまた怖い事

「客が来てる、でも10分だぞっ、今日は予約入ってて忙しいからな」
「はいっ」
と、笑顔で出て来る矢口さん

「あれ、ミキティ、三好ちゃん」

「「あれじゃないでしょ」」

あまりに暢気な顔してるもんだから二人の息が合ってしまった
171 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:23
「携帯も切ってるし・・・・どこいってたんです?」
あれ、あ、電源切れてたんだっけ・・・・と頭を掻いてる

「めちゃくちゃ心配しましたよ、みんな」
みんな?と頭を捻るので、今迄の事を話して

「とりあえずこれでひとみさんに声を聞かせてあげて下さい
ものすごく心配してるし」

「あ・・・・う・・・うん」
途端に暗い影

「もう・・・・嫌いになっちゃった?よっちゃんさんの事」
ぶるぶると必死に首を振る矢口さん
172 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:25
「最近・・・・よっすいの様子が変なの・・・・
多分おいらがちゃんとメニューを考案出来ないから・・・・・
不安なんじゃないかなっ・・・て」

美貴さんと顔を見合わせる
「今日はどこに泊まるつもりなんです?」
「あ・・・う・・・ん・・・大丈夫、ここの近くに泊めてもらえるって」

嘘っぽく言われるとと黙り込んでしまった

「私の所でいいですよ、行くとこないなら、それならひとみさんも安心だろうし」

だからひとみさんに声聞かせて下さいね、と言うと、悲しそうな顔で首を振る

「おいら・・・・頑張るから・・・・よっすぃに心配しないでって言っておいて」
お店・・・・成功させようねって・・・・・

解ってない・・・・矢口さんはひとみさんの心配や嫉妬心を全然
173 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:25
「落ち込んでましたよ・・・・よっちゃんさん・・・・帰った方がいいと思うけど」

「・・・・・ほんと?・・・・・
でも・・・・きっとあの人が慰めに来てくれるだろうから・・・・・」

あの人?誰?
美貴さんと顔を見合わせる

「誰です?」
私より早い美貴さんの突っ込み

「あっ、ううんっ、何でもない・・・・・」
矢口さんも誰かに嫉妬?
174 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:27
「ひとみさんには、誰もいないと思いますよ・・・・矢口さん以外」

腑に落ちなくてつい言ってしまった

「うん、いないよ、よっちゃんさん、今はめちゃくちゃ一途だけど・・・・端から見てて」

少し遠い目をしながら矢口さんが、くんっと顔をあげる

「・・・・・・・・何品か自信がある作品が生まれたら
帰るから・・・・・おいらも・・・・・少しよっすぃ離れして・・・・自立しないと」

「一緒に店やるのに?」
美貴さんの言葉にコクンと頷く

「おいらにはよっすぃしかいないから・・・・・
やっぱりよっすぃ一人に負担かけたくないし・・・・・
一人でもちゃんと出来る事・・・・・おいら自分に自信を持って胸はって帰りたい」

決意の眼差し・・・・だけどちょっとの迷いが見える

いつのまにかそんなに成長して・・・・・

また・・・何か背負い込んでたんですね
175 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:28
矢口ぃ〜っと中から声が聞こえる

「はいっ、今行きますっ、じゃあ、心配しないでね、ありがと、来てくれて」
慌しく入ってしまった

帰りの車の中、お互い口を開かない

「どう?」
口火を切ったのは、美貴さん

「浮気・・・・してるんですか?ひとみさん」

「してないっしょ・・・・・・・・でもあんな事言うなんて
何か感じ取ってるのかな」

「・・・・昔の・・・・ショックが残ってるんじゃないですか?
あの部屋で浮気してたひとみさんの残像」

「そりゃ・・・まぁ・・ショックだったろうからねぇ・・・・」
ハンドルを握る美貴さんの手がギュッと握られる
176 名前:第四章 投稿日:2006/02/05(日) 12:29
「昔ね、美貴も彼の浮気現場に入ってさ・・・・・・
結構ショックだよね、未だに忘れられないもん・・・・
まぁ美貴はすぐ別れたけどね」

「そう・・・ですか」
美貴さんも結構ヘビーな体験してるんですね

「今は幸せだけど、ああ見えてごっちん真面目だし」
「ええ・・・・そうですね」

昔の真希さんを知ってるだけに苦笑するけど

ほんとに真面目になった

ひとみさんだって

だから信じたい・・・・二人はまたやり直すって

その後、近くって言ったけど
ほんとどこ泊まるつもりなんだろうという話しになり

「職場の寮とかあってそこにもぐりこんだんじゃないの?
一人前になりたくて職場の人に教えてもらう為に」

と美貴さんの言葉にそうかも・・・・と思ってしまった
177 名前: 投稿日:2006/02/05(日) 12:30
今日はここ迄
178 名前:名無し7 投稿日:2006/02/05(日) 13:22
更新お疲れ様です
ちょっとしたすれ違いが切ないですね…
お互いもっと素直になれればいいのに
久々に来たら物語がすごく進んでいて嬉しかったです
179 名前: 投稿日:2006/02/06(月) 22:39
久々に来て頂けて嬉しいです
先週の平日は、接待&残業が多くへろへろ状態でなかなか更新出来ずにいたので
週末の空き時間に不出来ながらも更新させて頂きました
一応ラストスパートに入ってるつもりですが、期待に添えるかどうか・・・それが心配です。

それから一応今回更新より瑠依視点をどうしても入れてしまう事になりました
嫌な方は遠慮なくスルーして下さい
180 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 22:42
こんな奴は初めてだった

最初、何でこいつこんなに何も知らないんだろうって正直馬鹿にしてたけど

みんなにあからさまに文句を言われても

ひたすら笑顔で頑張る姿に・・・・・・いつのまにか気になる存在になってた

哲郎がグループの成績が一番遅れていたから
勉強を教えてやるとあいつを誘ってるのを見て何故か気になって後を追ってみたら
いつもあいつを守るように一緒にいる後藤もつけているのに気付く

後藤は、最初寮の奴らが色めきだつ程のルックスで
影で色々アプローチしているのに、恋人が外にいるからと頑なに誰にもなびかない奴

そんな後藤はいつもあいつのそばで優しく見守っていた

だから馬鹿な男達は、もしかしてあの二人出来てんじゃね〜の?
なんていうのを言っていたっけ
181 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 22:44
その後藤が、中の様子に耐えられなくて飛び込もうとしたときにその腕を掴んだ
その中では、学校を出たとか出ないとか・・・・・そんな話だった

俺もはっきりいって小学校しか出ていない
中学はほとんど出ていないから・・・・

まるで自分が馬鹿にされたような錯覚に陥って
つい中に入って哲郎を殴ってしまった

昔、変なあだながつけられた時と
自分はちっとも変わっていないと少しイラつく

夜な夜な、弱い奴らが集う場所に居場所を見つけ
人を怯えさせる事で自分を誇示させてたあの時と


その道に進むしかないと思ってた自分に
ひょんなとこで知り合った中澤校長が俺の器用さと味覚のするどさに
手を差し伸べてくれてここに来てしまったけど

あいつの境遇を聞いて

それでも普通になりたいと笑顔でいたあの強さに打ちのめされた
182 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 22:45
それから、何かとあいつのそばにいって共同作業をする度に
気になって仕方が無い自分がいた

女といえば、自分の性欲を満たす道具位にしか思えなかった俺

中一のまだ毛も生え揃えていない時に
当時二十歳近くの人に教えて貰ったセックス

モテていた俺は、毎日のように違う女が寄って来て、快楽に溺れた時もあった

それでも、誰かを愛しいと思う事はなく
かえって冷めていく自分を感じていたから

あの日、落ち込んだであろうあいつの元にやってきた、ホスト風の奴に
全身で喜びを漂わせて寮が揺れる程に走っていったあいつ

仁達も何ごとかとドアから出て来て
あいつ彼氏いたんだと少しショックを受けるのを横目に見ながら
ショックというには余りに衝撃が大きい事に驚き
胸がこげるような、締め付けられるような感覚を始めて体験した
183 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 22:57
あいつの相手が女と知った時・・・・・

正直嘘だろと思ったけど
かえって希望の光が見えた気がした

夏には本当に付き合いだしたと
いい顔して笑うようになったあいつ

街で毎日のように遊んでる昔の仲間が
寮の俺に頼みもしないのに近況を報告にきた時に
偶然送りに来たあいつを見て知ってる風だったので聞いてみると、
そっち系の多い街では有名なジゴロタイプのホストで
毎日違う女と歩いたりしてるのをよく見るし
実は自分もファンで一度話してみたいと思ってるとか女のくせに言っていた

同性にもモテる奴・・・・・
まさか、あいつは遊ばれてるだけとか・・・・そう思うと無償に腹が立って

一度あの綺麗な男みたいな女に近づいてすごんだら
一瞬そいつの目に恐怖が浮んで
そんなんであいつを守れるのかとムカついた俺・・・

だから

焦ってあいつに気持ちを伝えようとした時に
後藤に俺と千里がやっていたのを見られたと知り
足元から何かが崩れ落ちたような気がした

あの吉澤とかいう女をどうこう言う前に
俺が純粋なあいつに見合う男ではなかった・・・・

俺には薄汚れた過去と、いい加減なこの体しかなかったと自分を笑った

だから、おとなしくあいつの幸せを願ったりした
184 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 22:59
後藤には俺の心はバレバレみたいで
もう諦めた?と可笑しそうに言って来たのにも、何の反応も出来なかった

諦め・・・・とは違う何かが胸の中にあって
それが何かも解らなくなっていたから

クリスマスには意外にも、寮に戻って来ていたあいつ・・・

他の奴らの矢口をからかう会話の中から読むと
俺と千里がやっていたのを見て、セックスという行為に抵抗を見せ
吉澤は、そんなあいつを抱きたくても、抱けないというジレンマに苦しんでいた時期だったんだろう

それも乗り越えたのか、卒業の時には、幸せのオーラが二人の間を包んでいた

正直悔しくないといえば嘘になる

だけど、何でか俺はまだ諦めてはいなかった

あいつ・・・・

矢口は普通になりたがってたから
185 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:01
吉澤との間の事は、矢口が経験出来なかった思春期に
多分みんな経験する恋に恋する恋愛ごっこのようなものじゃないかと思えて

あいつの一見綺麗な見てくれに誘われて、憧れを抱くような思春期

そのうち大人になって、本当の恋愛を知っていくなら・・・・・
仲間としてそばにいれば、そのうちチャンスがめぐってくると思ってた


修行と称する一流ホテルでの勤務は
俺には無理な世界だという事は最初から見えていた

中澤校長も、お前には向かへんと言いながらも
その働き口に推薦してくれたのは、のちのちの経歴を話す時に少しでも博がつくという事だけだった

ただ、
後輩がまた雇って貰えるような辞め方をしろという脅しにも似た激励

だから、料理長に、早めに独立を考えている事を言い
とにかく鍋洗いから掃除から、めちゃくちゃ一生懸命やった

目の端で、先輩達の火の入れるタイミングやソースを作るタイミングを盗んで
材料を買っては一人残って再現させてみたりしてたら

それを見てた料理長が、時々俺のオリジナルを作れとか宿題をくれたりして
いつのまにか厨房の人達が俺の独立を応援してくれるようになっていた
186 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:02
そして、半年を過ぎた頃に借入金の相談に銀行に通い、小さな空き店舗を探した
とりあえずの店だから、紺野達のような大掛かりな店舗ではない

先輩達は無理だと思いながらも、俺の情熱にまぁやってみろと言ってくれた

力をつけて、本当にやりたい店を、俺は矢口とやりたいと本気で思っている

中澤学校で出来た仲間が、なんだか心配して店を手伝ってくれるのも
俺としては初めての経験

昔の馴れ合った奴らも、なにげに店に客を連れて来てくれるし
手伝ってくれる・・・もちろんめしを食わせてやったりするけど

本当の仲間・・・・それが実感出来た


漸くチャンスがめぐってくる
187 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:05
その店作りで同じように悩んでいる後藤と矢口が
自分達の休日に手伝いに来てくれるようになった

客のあしらい方や、出す料理の手順を俺の店でつかみたいようだ

俺もそのときは料理に集中出来て一人でやるより効率もいいし
納得のいく料理を出せる

二人には、バイト代がわりに、店の材料で何か作ってお客に聞いてみる事を許したら
結構二人は面白い料理を出してお客に喜ばれたりしてた

まぁ、こんな小さな店で、ルックスのいい二人の女が
一生懸命料理を作るのが早くも名物化しそうで
水曜日は特に人が途切れる事なく客が来る

矢口は店が終わっても、俺に試食してもらおうと何品か作ってはがっくりして帰って行く

確かにおいしい・・・・

おいしいけど、それが店の看板かと言われればそうではないと思うから
後藤と正直に言う

後藤はセンスがいいのか
いつも唸るような皿を出してくる

ただこの店には合わないけど、メインはもう決まったからと
サイドメニューを色々思案しているようだ
188 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:06
だんだん切羽詰った感じになっていく矢口は
ある日後藤と一緒に帰らず台所を借りていいかと言って来た

俺は閉店後、片付けを済ますと仮眠して朝市場に仕入れに行くんだけど
こんなチャンスは無いと思いOKを出した

後藤が帰ってからの矢口は、必死に調味料と格闘し
考えて来たのか、ノートに書かれたイラストとか見ながら考えたレシピを次々に実行してるみたいだ

気になる事は俺もちょっと口だししたりして、でもそれを素直に聞いてくれる

朝になってやっと出来た魚料理

「どう?」
心配そうに聞いて来る顔でさえ心臓が正常に働かない

「うん・・・・これならイケる、これならたまに食べたいって思うよ」

瞬間満面の笑みを浮かべると、やった〜っと両手を天に突き上げて喜んだ
189 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:07
これ持ってかえっていい?と聞いて来るので、もちろん頷く

「後藤に?」

恥ずかしそうに首を振ったので
ああ、あいつにか・・・・と落胆したら、さらに言ってくる

「それとね・・・・もう・・・・ここには来れないと思う」

「何でだ?」
即座に聞いてしまう

「・・・・・・・・・」

答えない矢口に

「あいつか・・・・」
と、問うとコクンと頷いた
190 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:09
少し嬉しかった・・・・・

吉澤が・・・・妬いてるんだと思ったから

「じゃあ・・・・・今度は一緒に客としてでもいいから来いよ・・・・
俺らは仲間なんだし」

嬉しそうに頷いてくれてホッとする・・・・・
でも昔はこんな事言える奴じゃなかったのに

帰り支度をする矢口と、市場の時間には少し遅くなったと気付いた俺

「何かあったら電話しろ・・・・力になるよ」
うん・・・と笑ってくれてホッとする

送ろうかと言うと
もう電車走ってるから電車で帰るねと走って帰って行った

これでいい、こうして矢口にとっていい友人でいれば
その内チャンスがやって来る・・・・・いつものようにそう思い込んでいたら

市場の帰り道で、大きな鞄を持ってとぼとぼと歩いている矢口を見つけ胸が高鳴った

あいつらが住んでいる所ではない
もしかして俺を頼って・・・・
191 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:12
すかさず車を止めて叫んでみた

「何してんだ、矢口」
窓を開けて、こっちを向いた顔を見て驚く

「どうした、何かあったのか」
すぐに降りて近づく

泣きはらした目で、どうしたらいいのか解らないと呟いて俺の胸にすがりついて来た

瞬間意識が飛びそうになる

そしてすぐに行動に出ていた

ぎゅっと小さな体を抱き締めて
何て言葉を掛けていいのかと戸惑う・・・

頭を言葉にならない思い達が走っていく
192 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:13
ひとしきり泣いたら
ごそごそと動き出して目を両手でこすって笑顔を作る

「ごめんね、ちょっとよっすぃと喧嘩したの」
「出て来たのか?」
これでも優しく聞いているつもり

「へへっ・・・・おいらもっと頑張らないと・・・・・一人で・・・・・
いっつもごっつぁんや、三好ちゃんや
なっちや圭ちゃんに助けてもらってばっかでいつまでも一人前じゃないから」

「吉澤がそういうような事言ったのか?」
「ううんっ、よっすぃはそんな事言わない・・・・・すごく・・・・優しいから」

悲しい顔だけど、それでもあいつが好きだと解る表情が、無性に悔しい
193 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:15
「じゃあ、俺んとこに来い
俺の店でお前一人でもちゃんと出来るっていうの証明すればいい」

冷静に考えると訳の解らない口説き文句だが
俺はこのチャンスを見逃さなかった

「平日はちゃんと今までの店で働けばいいし
水曜だったら、お前にメニューを作らせてもいい、納得行く迄やってみたらどうだ」

あくまでも俺がメインを作って
サイドを助っ人に作ってもらう事しかしていなかったから

必死だった・・・・

とにかくそばにいれば何か変わるんじゃないかって

唇を噛み締めて、真っ赤になった目を地面に向けて必死に考えている

くいっと顔をあげて
「うん・・・・・やってみる・・・・・
ごっつぁんにもおいらの居場所は言わないで
水曜にも来ないでいいって言ってくれればいいし」

「そうか・・・・解った、じゃあ乗れ
俺もだけどお前も寝てないし、早く帰って寝よう、夜からまた仕事だろ」

浮かれていたのかもしれない・・・・・

ひょんな事からころころと矢口が転がり込んで来たんだから
194 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:17
車の中でどうするつもりだったんだって聞いてみたら
しばらくは公園かどこかで夜をあかせばいいと考えてたみたいだ

職場の人に聞けば
もしかしたら店の休憩室に居候させてもらえるかもしれなかったしと笑ってる

誰もいない海沿いの防空壕でずっと暮らしていた矢口なら
どこでも寝れるとでも思ってるのかもしれない

まだこの街の恐ろしさを知らないのが矢口らしいけど
俺が見つけられて良かった

一応、俺だって理性ってものがあるけど、こんな気持ちで同じ部屋では寝れない

俺は店で寝るから矢口は部屋で寝ろと言ったけど
自分が居候だから店で寝るねと
マス席の三畳程の畳の所に布団を持って来てやって寝させた
野郎達がたまに泊まって行く時に使う奴だから臭くてごめんなと言いながら

そして、店の準備を始める時には、シャワーを浴びてすっきりした顔
寝る前の泣き晴らした顔でなく
笑顔でいって来ますと元気に出て行く矢口

こんな生活・・・・・・

ずっと続けばいいのにとマジで願った
195 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:17


196 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:19
美貴が、矢口さんの働く店に行ってくれてから連絡をくれた

飛びつくように携帯を握り出ると

「どうだった?」

『うん、ちゃんと店に来てた、多分職場の人の所とかにお世話になってるっぽいよ』

そっか・・・無事で良かった

男?いや・・いい、何でもいいから早く帰って来てほしい

「そっそれで・・・・いつ帰って来るって?」
『なんかね・・・・・・一人前になる迄帰らないって』
「どうしてっ・・・・もう十分一人で大丈夫じゃんっ」

そんな事私に言わないでよ・・・・でも、なんか決心したって感じだったよ
自分にはよっすぃしかいないからって頑張り屋さんはと声を小さくする
197 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:20
知ってるよ・・・・・

頑張り屋さんなのはウチが一番知ってる


そんなに頑張る必要なんてない・・・・

ウチはいつでも矢口さんを認めてる・・・
ウチだって矢口さんしかいないし

憔悴しきったウチに、紗耶香さんや店長が

「またか、お前マジホスト向いてねぇ」
「ってか、社会人に向かないよね・・・・
いちいちプライベートを仕事に持ち込んで」

はい・・・・・
おっしゃる通りです

でも今日は無理なんです・・・・・

とても人を幸せにする事なんて出来ません

落ち込んでるんですから
198 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:21
解ったから今日は帰れと二人に追い払われたので
その足で矢口さんの働いている店へと向かった

教えたら毎日送ってくれようとするだろうから言わないと
勤め先さえ教えてくれなかった

そこ迄甘えたくないし、電車くらい一人で乗れるもん・・・
とかわいく拗ねる矢口さんに負けて、勤務先は知らないまま

だけど、そこはやっぱり恋人の勤め先位抑えとかないとダメっしょと
だいたいのあたりはつけていた

矢口さんの定期券と、日本料理の店で老舗・・・・
それだけで結構絞り込めるし、前に唯ちゃんと食べに行った定食屋はきっと近所

絵梨香さんやごっちん達はもちろん知ってるのが悔しいから
めちゃくちゃ調べたもん・・・まじで教えてくれないし
199 名前:第四章 投稿日:2006/02/06(月) 23:22
それでも三軒・・・・

違う店を訪ね歩いた

すっかり店じまいを終わった感じの三軒目についたのはもう夜中

矢口さんも片付けや掃除を始めた頃だろう

ため息をつきながら車で家に帰る
もしかしたら帰って来てくれてるかもしれないから


だけど・・・・・

いつも帰って来てる時間になっても全然現れず
叫びたい気持ちになりながらも再び電話した
200 名前: 投稿日:2006/02/06(月) 23:23
今日はここ迄
201 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/07(火) 09:58
よっすぃのそばは優しすぎて居心地が悪そうな矢口さん。
お金持ちだし甘やかしてくれるしずっと一緒にいると劣等感を感じるのかも・・・。
瑠依も憎めないイイ男なんで特に気になりませんよ。














202 名前: 投稿日:2006/02/08(水) 22:19
そう言ってもらえると有難いです
余談ですが、自分なら甘やかされるの大好きですね・・・ってか甘やかしてって思います(キショ)
203 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:21
「ほんとに出てっちゃったの?」

明日の撮影の事で話があると
夜中近くのそろそろ寝ようって時に突然やって来た

私の心がここにあらずという状況に
何かあったの?と言われてつい事情を話してしまったらそう言われた

なんだか嬉しそうな石川さんに思わず言ってしまう

「どうしてそんなに嬉しそうなんですかっ、心配じゃないんですか?」
「だって絵梨香もチャンスじゃない」

いつもの妖艶な笑みでそう言う石川さんにマジでカッと来る
204 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:22
そんないつもの仮面をつけてまだ私の心を探ってるつもりなんですか?

もしかしてあなたはあなたの作り出した
私の皮をかぶった誰か別の人とでも話してたんですか?

それとも・・・・

それともいつも私が偽善的な心で矢口さん達を応援してるとでも?

そう思ってるんですか?

カッと来てるだけにマイナス思考は止まらない

馬鹿にしてるっ・・・あなたがいつまでもそんなじゃ・・・・
誰もあなたの事なんて解ってくれやしないっ

色々仕事で世話になっているこの人に頭が上がらないからと
臆病な私は、心で思い切り怒鳴る

それにそんな風にしか私を見ていなかったんだって解って

もしかしたらいい人かもしれないと
少しでも思ってた私に悔しさが込み上げてくる
205 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:24
「・・・・もう・・・・もう私は矢口さんの幸せを願う友達なんです・・・・
そんな事言わないで下さい」

やっと搾り出した声に追い討ちを掛けるように
「嘘つかなくてもいいわ、なんなら私が吉澤さんを誘惑してさらに」

パシッ

全部は言わせなかった

「ひどいです・・・・・なんだかんだ言っても
石川さんは矢口さんと吉澤さんの事羨ましくて色々邪魔してても・・・・
二人の仲を見守ってくれてると思ってたのに・・・・
なのに・・・・なのにひどいです・・・・・私は矢口さんの友達なのに・・・・」

つい手が出てしまってた

視界が滲んでいくなかで・・・・
綺麗な顔を殴られて、横を向いた石川さんは固まってしまっている

震える唇からはもう言葉が出ない
206 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:26
流れそうになる涙を抑える為に両手で顔を覆って目頭を押さえつける

落ち着かなきゃ

落ち着かなきゃとそっと深呼吸する

もう感情的にならないように、この人の前で泣いてしまわないように

この人の前で感情的になったら・・・・きっと負けだ

目を閉じて息を整えると覆っていた手を下ろして目を開けた

「帰って下さい」

目を開けた瞬間に落ち着いて言うと
石川さんが涙をスーっと一筋流して私を見てた

「ごめんなさい・・・・」
驚く事に震える唇からこの言葉を発したのは見た事もない石川さん

「・・・・・・」
あんまり綺麗な泣き顔で言葉を失う
207 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:27
「絵梨香ごめん・・・・ごめんなさい」

そう言うとくしゃっとした顔で私に抱きついてきた
そして耳元で繰り返される謝罪の言葉

帰れなんていわないでと・・・・
嘘だから・・・・さっきのは全部嘘だからと
ぎゅうっと首に巻きついてる腕の力強さは引き離せそうにない

「石川さんは私たちを馬鹿にしてる」

まだ私の中に熱いものが残っててゆっくりだけど言葉に出来た

「違うっ、私はあなた達が本当に羨ましいのっ」
「嘘っ」
「嘘じゃないっ、出来れば絵梨香になりたいくらいっ」

優しくて強い・・・・
そんな風に私を誇大表現してくれて

今度の事を私はどうするんだろうって少し意地悪しただけで
本当に矢口さんを奪おうなんて思う訳ないって事ちゃんと解ってるって

耳元で弱弱しく謝罪される
208 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:29
「そんなに・・・・・人の心ばっかり試してたら・・・・
本当の事なんて何も見えなくなってしまいますよ」
「うん・・・ごめんなさい」

素直な言葉に燃え上がった自分の心がだんだんと落ち着いてくる

「私も・・・・きつい事言ってすみません」
「ううん・・・ううんありがとう」

叱ってくれてありがとうと仮面を取った顔で
そう囁かれるとじわりと胸が痛む

しがみつかれていた体勢がくずれて
ゆらゆらと石川さんは帰ろうとバックを手に持った

「石川さん」

弱弱しい目で私の目を見る

「石川さんはどうしたいんです?」
ずっとずっと聞きたかった言葉
209 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:30
視線を落とすと、彼女は小さく呟いた

「私は・・・・本当に仲間が欲しいの・・・・・
あなた達みたいな・・・・心配したり・・・・喧嘩したりするような」

私にはずっといなかったから・・・と

「だったらもう仲間でしょ・・・・
それでなくても石川さんは強引に入り込んで来たんだから」

振り回されながらも私もみんなもそう認めざるを得なかった

「ごめんね」
なんだかしおらしい彼女
210 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:32
私だって本音を言えば石川さんに憧れる部分はかなりある

さっき腹が立ったのはきっともう私が石川さんを仲間だって思ってたからで・・・・

だから・・・・

「矢口さんは・・・・ずっと・・・・ずっと父親と・・・・妹だけで育ったんです」
「え?」
何を言い出すんだろうって顔

「十年もの間・・・・・ずうっと家族三人だけで・・・・・
海沿いの防空壕で暮らしてたそうです」

そこで石川さんはハッとした顔をしたので頷いた

そこまで言えばあの事件の事を言っているんだという事は誰でも気付くはず

それだけで矢口さんが純粋な理由が解って貰えるはず・・・・

どうしてみんなが気にしているのかが・・・

「矢口さんは友達が欲しくても周りに人がいなかったんです・・・・・
だから、あのホストクラブでバーテンのバイトしてた時も
ずっと友達を欲しがってました」

「そう」

憂いのある横顔でそのまま黙って聞いてくれそう
211 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:34
「今はかなり普通っぽくしてるけど、私が初めて会った時はもっと子供でした・・・・
だからもっと前に出会ったひとみさんが見た矢口さんはもっともっと子供っぽかったはずです
知らない事ばかりで、小学生の勉強から日常の些細な事迄
ひとみさんは愛情たっぷりに教えて来たんです・・・・・だからこの二年間は
二人にとってとても濃い、誰にも解らない二人の時間があって・・・・
そうやって二人で少しずつ少しずつ成長して来たんですから
今ちょっとうまくいかないからって私が入る余地なんて全くありませんし
あの二人がこれくらいでダメになるなんて私は信じません」

私の必死の説明にうんと頷いて、持っていたバックを置くと
私にも座ってと手を引いてテーブルの近くに座らされた

「私達も元はと言えば矢口さんが導いてくれた仲間達なんです・・・・・
矢口さんが友達が欲しいって、自分を全部さらけだして願って出来た人の輪
だから・・・・・・石川さんも・・・・・
もっと私達に本当の姿を見せて下さい・・・そしたらもっと仲良くなれますから」

「絵梨香・・・・」
石川さんがへの字にした口で少し泣きそう
212 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:38
「あの・・・・一応・・・・・初喧嘩もした事だし・・・」

なんか恥ずかしくなってお互いにぎこちなく笑いあう・・・・
この空気をどうにかしたいと思った途端

「今日も・・・・泊まっちゃダメ?」
実はお泊りセット持って来てるのってかわいい笑顔

最初からそのつもりかよっ・・・・とはもちろん言えなかった

そしてその後の言葉はとても石川さんからの言葉とは思えなかった

「あの二人・・・・何かあるたびに絵梨香達の力を借りて強くなって来たんでしょ、
きっと・・・・今度もきっとみんなの力を借りて二人の絆は深まるわよ」

「そうですね・・・」

その言葉には偽りや人を試すような心情は感じられず素直に答えられた

ほんとにあなたって変てこで・・・不思議な人ですね

そう思いながらもその後寝る準備を終わらせると
あの夏の日のようにまた抱きつかれて眠る

いつのまにか・・・・・

私はこの人のペースにはまってる気がした
213 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:39


214 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:40
店じまいしてると、矢口が帰って来た

「ただいま」
「ああ」

なんだか照れくさそうに言う矢口が溜まらなく愛しいと思えた

♪♪♪♪♪♪♪♪♪

いきなり鳴り響く俺とは違う着信音

こんな夜中過ぎ、掛けてくるのなんて
絶対矢口が仕事が終わった時間を知ってる奴しかいない

矢口も解ってるのか、唇を噛み締めると
俺を一度見て電話を取ると、また外に出てってしまった
215 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:41
気になる・・・・・

椅子を上にあげるふりをしながら、ドアに近づき耳を傾けると

「ううん、こっちこそごめんね・・・・
でも心配しないで・・・・ほんとに・・・・」

ひたすら謝ってる感じの吉澤へは、無理な笑顔から出してるような明るい声

「うん・・・・結局おいら、誰かに世話にならないと暮らしてけないんだよ・・・
だから・・ちゃんと面倒見てくれる人いるし、平気だよ、全然」

面倒見てるつもりはない・・・・

俺はお前が欲しいだけだよ、矢口

「だけど、いつかおいらよっすぃとちゃんと対等に隣でいられるようになりたいから
絶対あの人に負けないから」

あの・・・・人?
216 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:42
吉澤って奴、二股かけてんのか?

がらっとドアを開けて入って来てしまった
今のセリフはいい逃げ?

不自然に掃除してる俺に
矢口は俺に聞かれたと気付いたのかばつが悪そうに笑った

「掃除おいらするからもう瑠依は寝てよ、面倒見てもらってるし」

へへへと俺から小さなほうきを取り上げた
217 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:42
「あいつ・・・・他に誰かいるのか?」

突っ立ってた俺は、睨みつけるように聞いてしまった

「わかんない・・・・でも・・・・・おいらはよっすぃが好き」
なんか・・・・悔しかったの

そう言って掃除をする矢口を
俺は抱き締めたくて仕方が無かった

だけど、何故か一歩も動く事が出来なかった

余りに悲しそうな笑顔だから
218 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:43


219 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:44
仕事も手につかず
三軒矢口さんの働いてそうな店を回って諦めて
どんよりとしたまま家に帰り勇気を出して電話を掛ける


やっと繋がった電話

「矢口さん」

『よっすぃ』
戸惑った声

「ほんと、すみませんでした・・・・
今どこです?迎えに行きます、帰って来て下さい」

『ううん、まだ帰れない、おいらがちゃんとするまで』
何言ってるんです、もう十分一人前じゃないですか

「ちゃんとしてます、それに昨日も全面的にウチが悪いんだから
矢口さんはそんなウチを怒ってくれればいんです、すみませんでした」

そう・・・・

いつだって喧嘩する時はウチの勝手な思い込みから始まるんだから
220 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:45
『ううん、こっちこそごめんね・・・・
でも心配しないで・・・・ほんとに・・・・』

「心配しますっ、だから帰って来て下さい」

『うん・・・・結局おいら、誰かに世話にならないと暮らしてけないんだよ・・・
だから・・・ちゃんと面倒見てくれる人いるし、平気だよ、全然』

「誰?誰ですか?その面倒見てくれる人って」

『だけど、いつかおいらよっすぃとちゃんと対等に隣でいられるようになりたいから
絶対あの人に負けないから』
ブツッと切れた

あの人って誰?

矢口さんはウチにまだ誰かいると思ってる?

いる訳ない・・・・

こんなに矢口さんだけなのに・・・・こんなに・・・・

こんなに矢口さんしか見えてないのに

再び涙がこぼれた
221 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:48
昨日から流し続けた涙で、もう自分の中に涙は無くなったと思ったのに・・・・・

それでも尚溢れてくる涙

あの人・・・・・確かに矢口さんはそう言った

もしかして・・・・・

我に帰ってすぐにまた電話する
しばらく出てくれなくて、そしてやっと繋がると、一言も言ってくれなかった

「矢口さん、あの人って誰です?私には矢口さんしかいませんよ」

『・・・・・で・・・・でも』

でも?

何かあった?
222 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:49
しばらくして

『・・・・・でも昨日・・・・あの人とどっかに行ってたもん』
囁くように言われた事で何か真実味があって

心当たり・・・・・

あ!

「あれは違いますっ、偶然会ったんです
彼女妊娠してて病院に行くからって言うから頭冷やしについてっただけで」
『でもっ、見たくなかったっ』

言い終わりもしないうちに、突然大きな声で言われると
再びブツッと切られた
223 名前:第四章 投稿日:2006/02/08(水) 22:51
・・・・・・

そこか・・・・

矢口さんは出てったウチを追いかけて、外に出て来たんだ

そして、ウチがアヤカと車に乗って病院に行くのを見たから
出てってしまった・・・・・・という事

自立とか・・・・・

そんなのは建前で・・・・・

本当のわけはそこだったって・・・・・

大きなため息・・・・

どうしていつもいつも・・・・・・

もうそれから電話を掛ける事は出来なかった

会いたくないんだ・・・・・

矢口さんはウチに


信じて・・・・・なかったんだ
ウチの事


がっくりとソファに身を沈めた
224 名前: 投稿日:2006/02/08(水) 22:51
本日はここ迄
225 名前:オレンヂ 投稿日:2006/02/09(木) 03:52
最初から読ませてもらっていましたが
ついにガマンできなくなってレスさせてもらいます。
かなり感情移入しながら更新を楽しみに読ませていただいてます。
よっちゃん・・・ここでがんばんないと!
226 名前: 投稿日:2006/02/10(金) 00:43
ほんとにここのよっちゃんは・・・と、自分でこんなキャラにしておきながら
思ってしまいます。
最初から読んでいただけていたなんて、オレンヂさん気付かずに申し訳ありませんでした
とてもありがたい事とただ感謝です
227 名前:第四章 投稿日:2006/02/10(金) 00:45
電話が終わって再び掃除してる矢口に、また携帯が鳴る

ボーッと見ていたが我に帰った俺は、電話をとった矢口の声を聞いたらまずいかと
上の住居に向かう事にしようと歩き出そうとした

すると

「・・・・・で・・・・でも」
俺に顔を向けて、気まずそうに後ろを向いた

しばらくして

「・・・・・でも昨日・・・・あの人とどっかに行ってたもん」
小さな小さな声

そして、くいっと顔を上げると

「でもっ、見たくなかったっ」
と言って携帯を切っていた
228 名前:第四章 投稿日:2006/02/10(金) 00:47
階段から見つからないように見てしまってたけど
くるっと振り返った矢口と目が会ってしまう

「へへっ・・・・おいらかっこ悪いね」

なんて強がって笑うから

「それでもあいつじゃないとダメか?」

ちょっと聞いてみると
すごい笑顔で頷く

「そっか・・・じゃあ・・・・・俺は寝るよ、おやすみ」
「うん、おやすみ」

まだまだ・・・・・時間がかかりそうだな
229 名前:第四章 投稿日:2006/02/10(金) 00:48
それから三週間がたつ

世間はクリスマスが近くなって浮き足立ち
客も恋愛話に花を咲かせる

あれから・・・・

あいつからの電話は一度もないようだ

他の奴からはバンバン心配の電話や
打ち合わせの電話がかかってきてるみたいだけど・・・

夜、俺が2階に上がって行こうとすると
畳の隅でじいっと携帯を見つめてる矢口を何度か見た

あいつにもらったんだと解るピアスをいじりながら
きっとあいつにもらった赤いクリスマスの靴をちょこんと隣に置いて


本当は帰りたい・・・・・


全身でそう訴えてる
230 名前:第四章 投稿日:2006/02/10(金) 00:49
その間に、矢口の料理が何品か出来上がる

鬼気迫る勢いで、料理に取り組んでるあいつを見る事しか俺には出来なかった
自分に合格点を出して、早くあの吉澤の所に戻りたいと


水曜日

ガラッと開いたドアに
お客かと二人でいらっしゃいませと言った途端に二人で息を飲んだ

「やっぱりここにいた」
「ごっ・・・・っあん・・」

現れたのは、後藤とキツめの顔がやけにそそる女
231 名前:第四章 投稿日:2006/02/10(金) 00:51
「可笑しいと思った・・・・
急に店にはもう手伝いに来なくていいなんて言い出したけど
美貴は仕事場に寝泊りしてるんじゃない?って言ってたから」

「やっぱちゃんと聞いておくべきだったね、ごめんねごっちん」
「ううん、ゴトーも気付かなかったし」

他の客が、どうしたどうしたと聞いて来る

その中の一人は
あれ、この子もよくここ手伝ってたよねと連れに話しているのが聞こえる

久しぶり、おじさんとか後藤が愛想をふりまいてから

「瑠依、ちょっとやぐっつあん借りるね」

小さく頷く俺を見て
笑顔で手招きする後藤に、しぶしぶ矢口は出て行った
232 名前:第四章 投稿日:2006/02/10(金) 00:52
「えらいべっぴんさんばっか手伝いに来てくれるんだねぇ、この店は」
「三角関係とかかい?」

ごきげんな常連客がひやかす

「そんなんじゃないですけどね
矢口は今恋人と喧嘩中ですから、それがらみですよ」

ほぉ〜っ、真里ちゃんに恋人がいたのかぁ
てっきり瑠依君の女房になるとばっか思ってたけどなぁ

「ははっ、そうだといいんですが」

こんなトークも出来る様になってる自分、結構悪くない

そして・・・・・
おじさんの言うことは、いつか必ず実現させますからね
233 名前: 投稿日:2006/02/10(金) 00:52
すみません、本日はちょこっとで・・・
234 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:01
やぐっつあんが出てったって聞いてからもう三週間がたつ

クリスマス目前・・・・

ウチらの二回目のクリスマスは甘いもんにしたいのに
・・・・よしこ達の様子が気になって気分があがらない

やぐっつぁんには毎日電話するけど、よしこの話以外には元気に会話してくれる

とにかく納得のいく料理を作りたいって事はいやって程伝わってくるから
少しそっとしておいてやろうかなんて美貴と様子を見る事にしていた

電話で一生懸命作った作品の事を説明してくれるけど
やっぱり誰か助言してくれる人がいるみたいで、職場の人に世話になってるっぽかったから

店が順調に工事を進め、内装での細かな打ち合わせがちょこちょこ行われる時に
よしこは顔を出さなくなってた

ほぼ計画通りだったから
それほどやぐっつぁんもよしこも必要だった訳ではないからいいけど
235 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:03
しばらくほおっておいた騒ぎの張本人に久しぶりに電話を入れたら
よしこの様子があまりに変なので、美貴に相談して部屋を尋ねてみると

出て来たよしこは、知っているよしこではなかった

「・・・・・ごめん・・・・打ち合わせ出れなくて」

玄関先で呟くよしこは、死んだ目で髪はボサボサ
そしてげっそりと頬をこけさせて、お酒の匂いをぷんぷんさせていた

美貴が慌てて部屋に上がりこんで
昼間なのに薄暗い部屋のカーテンを開けて窓を全開にしてまわっていた

ビールの空き缶や、ウィスキー・ワインのボトルが
床にハンパじゃなく転がってるのがここから見える
236 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:04
玄関横でがっくりと壁に背中をつけてフッと笑ってるよしこ

「みっともないよね・・・・こんなの」

そう・・・・だね

「店は?」
とてもこんな顔でホストやってるなんて出来るはずがないという思いで聞いた

ずるずると座り込んで

「やめた・・・・」


もっと早く見に来れば良かった

あの二人なら大丈夫・・・・
そう思ってたけど間違ってた、やぐっつあんとはちゃんと連絡取れるし
作品も何品か出来たから今度作りに行くねって結構明るい声だった大丈夫かなって

だけど心配しなきゃいけないのはこっちだったか
237 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:06
ガチャガチャと空き缶の音
さむざむとした空気が流れ出した部屋を美貴が必死に片付けているのが玄関から見える

「・・・・・店・・・・・やぐっつぁんの店・・・・・行こう」

うなだれたよしこは、ゆっくりと首を振った

「信じられてないんだ・・・・・・
あんなに愛し合ってたのに・・・・・あんなに好きだって伝えてたのに」

子供のようだった

拗ねて泣く・・・・ただの子供

子供だと思ってたやぐっつぁんは大人なっていってるのに
今はよしこの方が子供に見える

その子供は両手で顔を覆って動かなくなった
238 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:08
もうよしこにとってやぐっつあんは
生きていくには不可欠な存在になってるって事か

「行くよ、よしこ、ちゃんと迎えに」
子供のよしこに優しく言うと

「ごっちんっだめっ」
美貴がリビングからすごい剣幕で怒ってた

「だって美貴」
「こんなよっちゃんさん、矢口さんにふさわしくないよ」
「いや・・・・・でも」
美貴から視線を小さくなったよしこに向ける

あの日、そっけなく電話を切った事が悔やまれる
239 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:11
「矢口さんは美貴にちゃんと言ったよ、おいらにはよっすぃしかいないって・・・・
胸を張って帰る日が来る迄頑張るって、なのによっちゃんさんがこんなじゃ
矢口さんがっかりだよ」

怒って顔を真っ赤にしてる美貴がごみ袋をひきずって玄関に来ると
勢いをおさめる事なく小さなよしこに感情をぶつけ出す

「そんなにみっともない姿見せるならっ
どうしてもっと強く自分には矢口さんしかいないって言わないの?
さっき信じられてないって言ってたけど自分が一番信じてないんじゃんっ
あんなに一生懸命な矢口さんを信じてないのはよっちゃんさんじゃないっ
・・・・矢口さんにはもっとっ・・・もっと強い人がふさわしいって事だよっ」

「美貴っ」
もうやめなよって言おうと思って美貴を見たら美貴が泣いてて驚く
240 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:14
「帰るよっ、ごっちん」

ごみ袋をよしこのそばに放り出し
顔を覆ったままピクリともしないよしこを置いて
怒った美貴はゴトーの手を引いてずんずんと歩いてエレベーターのボタンを押した

悔しそうに唇を噛み締めてゴトーに寄り添って手をぎゅっと握ってくるから

「今から、やぐっつあんとこ行こう」
こんな美貴も初めてで、優しく聞くとさっき迄の勢いはすでにもう無く

「定休日・・・・でしょ」
どこにいるのか解らないじゃんって俯く美貴

よしこのあの姿を見て、咄嗟に頭が働きだしているのを感じたゴトーは
丁度やぐっつぁんが出てった頃に不自然に瑠依から電話がかかってきた事を思い出していた

矢口がもうここに来ないっつってたから、お前ももういいよ・・・・

それを信じていたけど、あのよしこの具合を見た途端、もしかしたらって思った
241 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:16
やっぱり

案の定瑠依の店にいるやぐっつあん

内心面白くなさそうに頷く瑠依の許可を得て外に連れ出すと
人気の無い路地に連れ込む

まさか瑠依・・・・やぐっつぁんとやっちゃってないよね
まぁ、やぐっつぁんを見れば、やられてないのは解るけど

「どう?調子は」
ちょっと嬉しそうに
「うん、何品かね、瑠依もイケるって言ってくれたから
後は紺ちゃんと一緒に色々考えてもいいんじゃないかって」

紺ちゃんもね、何品か出来たって言ってるし・・・とあくまで店の事で必死な様


ほら・・・・・

やぐっつあんは、よしこの苦しみを全然理解せずに

ただよしこと・・・

よしことの店を思って料理してるだけ
242 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:19
「そっか・・・・じゃあもう帰ってこれる?よしこの所」

笑顔だった顔は、少し曇って行ったら呟きはじめる・・・・・
あれから一回も電話ないし・・・へへっって笑って

「・・・・・・もう・・・・おいらの事なんて・・・・嫌いになっちゃってるかも」
へへっ、自業自得だけどね・・・・勝手に飛び出しちゃったから

なんて力無く笑うといきなり
「そんな事ないよっ、矢口さん、早く帰ってあげてよ」
美貴はやぐっつぁんの肩を掴んで必死な形相で言う

ほんと、こんなに必死な美貴は初めてかも・・・・・

美貴も不安なの?
もしかしてゴトーと一緒にやってく事・・・・

だから必死にこの二人を元通りにしたがってる?
243 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:23
「・・・・・・・で・・・も」
「矢口さんが好きなのは誰?」

俯いて小さな声で言う
「・・・・・・・・よっ・・・すぃ」
「間違いない?」
今度は強い視線を美貴に上げてこくんと頷く

「じゃあ帰ろ、あの男の人は仲間かもしれないけど
ここにいる事をよっちゃんさんが知ったら取り返しがつかないよ」

矢口さんの働いてる店に寝泊りしてた事にするんだよと美貴

「どうして?おいら嘘つきたくないし、別に瑠依とは何もないもん」

どうしてよしこの嫉妬を理解出来ない?
244 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:24
「ついていい嘘と、悪い嘘があるの
これはついていい嘘、つかなきゃいけない嘘」

「・・・・でももうちょっと待って、まだ・・・・決心出来ないから」

「何の決心?」
つい、ゴトーは聞いてしまった

「・・・・・・・・まだ・・・・・思い出しちゃうの
・・・・よっすぃが他の人とキスしたり・・・・・・あんな事したりするの」
もしかしたらおいらの知らない所でやっぱり続いてるのかもしれない・・・・と

ぎゅうううっと自分の胸元を掴んで唇を噛み締めてる

「やぐっつあん・・・・・やぐっつぁんが瑠依の所にいる事で・・・・
その胸の痛みはよっすぃが味わうんだよ」

どうしてって感じでゴトーを見上げて来る

「おいら別に瑠依とはそんな事してないし・・・・・
出来ないもん・・・・よっすぃ以外の人とは」
真っ赤になってるし・・・・・・
245 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:26
「よっちゃんさんは本当に矢口さんだけだよ・・・・
矢口さんが好きなんだよ・・・・解ってる?」

ほんと?って顔して美貴を見上げてるけど
見上げられた美貴はガッとやぐっつあんの両肩を掴んで

「好きなんでしょ、そばにいたいんでしょ、だから頑張ってるんでしょ」

美貴・・・・

違うの?じゃあ何の為に頑張ってんの?・・・って

その熱意に押されるように小さく頷くやぐっつぁん
246 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:28
「だったらすぐ帰りなさい、よっちゃんさんが必要にしてるのは矢口さんなんだよ」

言い終わると突き放すように美貴が両手を離すと
少しよろめいたやぐっつぁんは唇をかみ締めてゴトー達の顔を見る

その後力強く頷くやぐっつあんの目にもう迷いは無い

ようやく美貴の心が通じたね・・と、美貴と顔を合わせて微笑む

「おいらよっすぃとの店・・・・ちゃんとしたいんだ」
「そうだよ、だから二人一緒にいないとダメでしょ」

ほんと、この二人なら大丈夫と思ってたのは間違いだった、

恋愛素人のばかよしこと
純粋すぎるやぐっつあんにはまだまだ周りの人の協力が必要なんだね

後少しすれば、ちゃんと目を掛けて上げられる距離で見守ってあげられる

愛しい美貴とね・・・

だから早くみんなで暮らそう
247 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:28


248 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:30
店が混んでる・・・・水曜日は特に

早くも常連には矢口や後藤達がいるからと来る事が多いから

連れて行かれた矢口が抜けて
めちゃくちゃ忙しいので、一人では手が回らないと痛感する

こんな小さな店で人を雇える余裕がないし
手伝いに来てくれる仲間は本当にありがたい

居酒屋とは違った、少しカジュアルな日本料理店にしたかったので
料理には手間ひまかかってるし、手は抜きたくない
あのホテルでの修行も無駄にしたくないので洋風の料理も少しは出してみたいし

伝票への記入や会計の計算等、重なると大変だったけど
なんとかそれにも慣れて来た
249 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:31
後藤達も帰ったのか戻って来た矢口は
その様子をみてすぐに仕事に戻ってくれた


店も終わりが近づき、最後の客も帰って行った後

「明日帰るね、瑠依、今迄ありがとう」

嫌な予感は当たっていた

「帰るなよ」
咄嗟に口から出た

えっ?て顔している矢口

「ずっとここにいろよ」
「な・・・」

驚きすぎて声も出ないのか?
250 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:37
今までもずっとお前は俺の気持ちには気付いてなかったのか?

こんな俺・・・・珍しいと思うんだけど全く?

たまに来る昔の仲間達に冷やかされても

にこにこしてて全く気にもとめないでいたのは

本当に俺の気持ちには全く気付いてなかったって事なのか?


でも今だと思う・・・

ずっと秘めていた俺の心


「結婚しないか?俺と」

ますます驚いた顔で固まってしまった

だから

「俺・・・・マジだよ、この店をお前とやりたい・・・・・
いずれはもっと大きくしていくし、ずっとお前を守ってやる、あいつなんかよりずっと」

真剣だった

スルスルと心から出た
251 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:38
「む・・・・無理だよ、お・・・・おいらよっすぃが・・・・」

漸く我に帰った矢口が口にしたあいつの名前

「普通になりたいんなら、俺と結婚すればいい・・・」

俺は普通という切り札を使う

「ご・・・・ごめんなさい・・・・・
おいら普通じゃなくても・・・・・よっすぃがいいの
・・・・よっすぃじゃないとダメなの」

切羽詰まった表情で言う

「もっと良く考えたらどうだ?あいつが本当はどんな奴か」
「どんな?」
「お前の知らない顔とか持ってるかもしんないだろ」

しばらく矢口が唇をかみ締めて黙り込んだ
252 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:40
「神様なの」

意を決して話す第一声に耳を疑う
「は?」

「おいらがもう死んでしまいたいって倒れてたのを起してくれたよっすぃは
おいらにとって神様みたいに光って見えたの」

死ぬ・・・・・・?

「今ならよく解る、おいらが逆なら絶対においらみたいな子拾ったりしない
なのに拾ってくれた上にずっと優しくしてくれたよっすいは
おいらにとって一生特別で、一番大切にしないといけない人なの・・・・
だから・・・だからよっすぃが誰の物でも・・・おいらはよっすぃのもの」

おいらの命さえも・・・・

そう言う矢口の瞳には一遍の翳りも見えなかった・・・・
253 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:41
あいつがくれた二年前にくれたクリスマスの靴の中のお菓子で
寒空の中死なずにすんだのも

そして生きなきゃって思えたのも

「おいらを拾ってくれたのがよっすぃだったから・・・・
亜依を死なせてしまった自分を認めて生きていこうって思えたし
父ちゃんを許せるようになった・・・
他の誰でもない・・・・よっすいだったから・・・・
今こうやって生きていこうって頑張れるの・・・・だから・・・・ごめんなさい」


俺の方が・・・・・

矢口を知らなかったって事か

「解った・・・・でも俺はずっとお前を思ってる・・・・・
いつでもいいから俺の所に戻って来い、ずっと待ってるから・・・・俺はずっとお前が好きだから」

まともじゃないと思う・・・・こんな男
254 名前:第四章 投稿日:2006/02/11(土) 14:44
矢口は小さく首を振って

「ごめん・・・瑠依・・・・でも待たないで・・・・・今迄・・・・ありがと」

それでも止まらなかった

それほど本気だから

「いいか、それでも俺はお前の事一生好きだって事忘れないでくれ」

重いよ・・・・

でも俺だって本気だ・・・・

きっとこれからお前以上に好きになれる奴はいないだろう

何も言わなくなった矢口を置いて、俺は2階へ行った

そして眠りにもつけずに布団で横になって、
いっそ無理矢理抱いてしまおうかともんもんと考えてると

いつのまにか明るくなってて下からなにやら音がしだし
「ありがとう、瑠依、お世話になりました」と声がして扉が閉まった音がして
俺は漸く目を閉じた

さっき迄の出来事を夢の中の事にしようとするように・・・・

255 名前: 投稿日:2006/02/11(土) 14:45
本日はここ迄
256 名前:名無し7 投稿日:2006/02/11(土) 15:00
リアルタイムで読ませていただきました
今回ばかりは瑠依に感情移入してしまいました
矢口さんに対しては凄くいい男なのに…切ないですね
だけど強引な行動に出なかった彼の想いの強さはよっすぃに匹敵するくらい
大きなものだなと思いました
次回更新も楽しみにしてます
257 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/12(日) 01:28
女だから疑心暗鬼になって卑屈になったよっすぃと男だから少し慢心してしまった瑠依・・・
揺らぐことのない矢口さんが輝いて見えます。
瑠依の生き写しのような友達に重ねて、最近は彼を応援しと私は不謹慎でしょうか。
258 名前: 投稿日:2006/02/12(日) 15:21
名無し7さんリアル読みありがとうございます。
257:名無し飼育さん、矢口さんが輝いて見えてくれて良かったです

なにより、娘。さん好きな人の板に男を出すのはタブーなのかとビクビクもので
出してしまってたので、感情移入して頂けたり応援して頂けたりと暖かい方ばかりで良かったです。
瑠依の生き写しのような友達の方がいらっしゃるなんて、きっとその人は素敵な人なんでしょうね。

誰を応援するとかは、今色々世間を騒がせている件でも個人の自由だし、応援するって事も
その人にとってすごく力になる事じゃないかと思いますので、誰が不謹慎とかって言って
しまう事も出来ない事だと個人的に思います。

ん?変な返答でごめんなさい。うまく返答できませんでしたm(__)m
259 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:23
美貴から怒られて自暴自棄から少し立ち直ろうかと
散らかった部屋をざっと片付けて、久しぶりに鏡を見た

目の下の隈がすごく、見た事もないような自分の顔になってる

ひで〜
苦笑するしかない

そうだよね、自分が一番信じてなかった

信じられてないと落ち込むより
自分が信じてない事にどうして気がつかなかったんだろう

ありもしない矢口さんとあの男の事に嫉妬してる自分を馬鹿と思うのは自覚してたのに
実は自分も本当には信じてなかったんだという事だったなんて
260 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:24
いつ眠ったか、昼も夜も解らなかった三週間
そして今週末はクリスマスイブ・・・・

矢口さんと出会って・・・・三度目のクリスマス

迎えに行こう・・・・明日こそ

そして去年も適わなかった二人きりのクリスマスイブを
完璧に設定して・・・・プレゼントも買わなきゃ

自分を磨くように風呂場や床やトイレを磨きまくる・・・・

そして矢口さんの大事なキッチンも

必死に掃除をしまくって久しぶりに体を動かしてたので
いつのまにかソファで眠ってしまってた多分朝頃


カチャッと玄関の開く音
261 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:25
思わずガバッとソファから立ち上がって玄関に行くと

夢に迄出て来る愛しい姿がばつが悪そうに俯いて立っていた

ちらっとこっちを見て驚いてる

多分、ウチの顔があまりにひどいから


「「ごめんなさい」」


重なったおたがいの第一声に、二人でちょっと微笑むと
矢口さんは瞬間靴を脱ぎ捨てウチに抱きついて顔を近づけた

抱きとめて近づいてくる顔に躊躇なく唇を奪いに行く
262 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:30
久しぶりの感触に、夢中で互いの舌を絡めあい
両手で矢口さんの存在を確かめるように撫で回す

同じような行動の矢口さんが嬉しくて
キスしながら互いの服を脱がしあった

離れるのが嫌でずっとキスしていたくて
そのまま抱き上げて久しぶりにベッドに向かっていきその体に唇を寄せた

互いに愛してると言い合いながら
何度となくお互いをイカせて気がつけばもう昼前になっている

落ち着いた頃にまじまじと腕の中の体を抱き寄せながら
「ほんと・・・・・すみませんでした」
「ううんっ、おいらこそ・・・・ごめんね、ほんと」
私の鎖骨辺り・・・
もらったチョーカーに額を寄せて擦り寄ってくる
263 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:46
「おいら・・・・よっすぃの言葉をちゃんと信じてなかったんだね・・・・」

「ウチこそ・・・・変に疑って・・・・・
矢口さんにとって大切な仲間なのに、勝手に嫉妬して」

「おいらもしちゃったよ、あの人に・・・・・
おいら自分に自信がないから・・・・あの人にやっぱり取られちゃうんじゃないかって・・・・」
それでもいいって思いながらも・・・って

「ウチもです、ウチは女だから・・・・
矢口さんに子供を作ってあげることも結婚する事も出来ないから
男の人がライバルなら絶対負けるっ・・・て」

矢口さんは首を小さく横に振って、ウチの顔に手を伸ばし頬に手を添えた
264 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:47
やせちゃったね・・・・・ごめんねと言うと、じっとウチの顔を見て

「実はね・・・・おいら今日瑠依にプロポーズされたの」

えっ・・・・

顔がこわばるのが解る、それを見てすぐに言い出す

「その瞬間浮んだのはよっすぃの顔・・・・
よっすぃに会いたくて・・・・会いたくて朝一番に出て来たの」

・・・・・・・

って事は・・・・・

「あいつ・・・・・のとこに・・・・いたんですか?」
265 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:48
ウチの目を真剣に見て決意したように言う

「うん、ごっつぁんとミキティには言うなって言われたんだけどね
おいらと瑠依とは本当に何もないし、
おいらはずっとよっすぃが好きだから本当の事言う事にしたの」

思わず心臓に手をやる

焦げそうな程胸が痛いから

「もう・・・・会って欲しくないです」

できれば絶対・・・・
でもきっと瑠依って奴は矢口さんにとっては大事な仲間

「うん」

とりあえず素直に頷いてくれてほっとしたら
心臓辺りに置いた手に頬に置かれていた手を動かして重ねてきた
266 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:50
「ほんとにごめんね・・・・よっすい」

「いえ・・・・ウチもあの日・・・・
偶然とはいえアヤカと病院に行ったりしてすみませんでした
・・・それにあんな事もしてしまって・・・」

「ううん、いいの・・・・・あの人・・・赤ちゃんが出来てたんだったね」

「ええ、あの日以来店以外では初めて会いましたね、
店でももう他の人を指名してたから話す事はなかったし・・・・・・
それに病院で赤ちゃん見てたら矢口さんに会いたくて・・・・
帰って来たら矢口さんいませんでしたけど」

ううっ・・・・ごめんなさい
そう呟いて重ねた手でウチの手を握って自分の方に引き寄せて俯いた
267 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:51
「もうウチから離れないで下さい・・・・
矢口さんは一人前なちゃんとした女性ですから」

「うん・・・・・ずっと・・・・ずっと一緒にいようね
おいらも焦らないでよっすぃと一緒にやってくから」

「はい」

引き寄せられた手に矢口さんはキスしてくれた

ウチが昔自分の気持ちを伝えようと矢口さんにしたみたいに

その手で矢口さんの顎を持ち上げて唇を寄せた

大丈夫・・・・・

矢口さんは、どんなにモテても
ウチ以外の人に体を預けられるはずがない・・・・

矢口さんはウチだけを愛してくれてる
268 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:52
ぐぅ〜

もう一戦・・・と思ってたら、ウチのお腹が鳴った

くすくすと笑う矢口さんは
「何か作ろうか?」
「あ・・・・・はい」

ひょいっと起き上がって、
綺麗な背中を見せながら自分の下着とかを着けて部屋を出てった

そういえば出てってからは、一日一食も食べてないような気がする

アルコール以外食べても吐いてしまってたから

帰って来てくれたから・・・・・
途端に胃が受け付け出すなんて・・・・・なんて単純
269 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:53
自分も洋服を着てリビングに戻ると、懐かしい光景に顔が微笑む

こうじゃないと・・・・この家じゃない

ソファに座って、昨日美貴が置いて行った打ち合わせ書に目を通す

冷蔵庫何もないし、あんまり食べてなかったんでしょ・・・・
と、おじやにするねと楽しそう

出来上がったおじやというには余りに上品な、
梅と鮭の入った雑炊のような品物

「幸せです・・・・やっぱりおいしい」
一口食べて言うと、満足そうな矢口さん

「よっすぃに何か作るのが一番楽しい」
ゆらゆらと揺れながら恥ずかしそうに言う
270 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:54
「ウチの馬鹿さ加減のせいとはいえ・・・すごくつらかったです」

ん?って感じで隣から見上げてる

「もう離れられません・・・・矢口さんとは」

茶碗を持ってるけど
顔を近づけると矢口さんも目を瞑って顔を近づける

チュッ

もう抱きたい・・・・

ずっと肌をくっつけていたい

まただ・・・どうしてウチはすぐ体を求めるのか・・・
今は心を込めて作ってくれたご飯を食べないと
271 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:56
「矢口さんの勤め先・・・・・ちゃんと教えて下さいね・・・・
今日から送っていきます」

「うん」
今迄何度聞いても教えてくれなかったけど、ついに頷いてくれた

あの日、電話を切ってから探すのをやめてしまっていたからまだ知らない

「良かった・・・・なるべく甘やかさないようにしますね・・・・
もう一人前ですから」

大事にするのと甘やかすのは違うから

「うん・・でもよっすぃの仕事に遅れちゃうからいいよ」

遠慮がちな声・・・そっかやめたの知らないんですよね
272 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:57
「仕事・・・・やめたんです・・・・・
矢口さんがいないと・・・・仕事も何も手に着かなかったし・・・・
矢口さんが誤解するような仕事は・・・・もうしたくなくて」

「よっすぃ」
驚いたけどすぐに嬉しそうな矢口さんになる

「収入は減っちゃうけど、どっか食べ物屋さんにでもバイトに行って店の準備します」

「・・・・うん・・・・うん」
よほど嬉しいのか、噛み締めるように頷いてる

あの仕事をしてるのも
彼女を不安にさせている要因だったんだって改めて気付いた
273 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 15:58
そしてもう一つ、私がしなければならない事・・・・

ご飯の後、もう一度矢口さんの体を堪能してから
矢口さんがシャワーを浴びに行ってる間に電話する

「ごめんね、ごっちん、美貴も・・・」
『どう?仲直りした?』
優しい声

「うん色々ありがとね・・・・まじで・・・・・・・
それで、あの瑠依って男の店の場所教えてくれる?」

『まさか』

「うん、ちゃんと会いに行ってくる・・・・・
なんか矢口さんにプロポーズしたみたいだから」

瞬時にごっちんが息を呑むのが解る
274 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 16:00
「心配しないでいいよ・・・・あの男がどう思ってても
矢口さんにとってはただの仲間だから・・・・・・」

『そっか・・・・言っちゃったんだ、やぐっつあん』

「うん・・・・それでも大丈夫だって・・・・ウチを信じてくれたんだよね」

『ん・・・・ごめん、ウチらは言うなって言ったんだけど、間違ってたみたいだね』
いいよ、ほんとに二人には感謝してる、ありがとう

心から言うと
後、皆にもちゃんと電話して安心させろと忠告を受け、場所を教えてくれた

シャワーから出て来た矢口さんは
冷蔵庫が空っぽだから買い物に行こうと誘って来る

夕飯何食べたい?といつも言ってくれてたみたいに聞いて来て
何でもいいですよとウチが応えるパターン

一番困るんだよね〜何でもいいがって自分で作ったレシピノートを見て悩んでる
275 名前:第四章 投稿日:2006/02/12(日) 16:02
「この前・・・・・手がすべって食べれなかった魚料理・・・・・はどうです?」
はっとした表情でウチを見上げて柔らかく笑った

「うん・・・・あれ結構手間が掛かるんだよね〜
すぐ買い物行って作らないと出来ないよ、早く行こっよっすぃ」

手を引いて立たされると、子供のようにはしゃいだ感じでひっぱられた

去年もらったプレゼントのマフラーを首に巻いて手を繋いで駐車場迄行く

車の中で、矢口さんにみんなに
「心配かけてごめんね」の電話をするように言うとうんっと電話しはじめた

絵梨香さんや紺野、保田さんに安倍さん、みんな心配してくれてた

「おいら一杯迷惑かけてたんだね」
電話の後、すまなさそうに笑う助手席の矢口さんの手を握る

私達・・・ですよ

まだまだ二人で一人前なのかもしれませんね、やっぱり
276 名前: 投稿日:2006/02/12(日) 16:02
本日はこのへんで
277 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:05
いつも通り市場から帰って食材を収納し
ここ最近の日課だった矢口用の布団を二階へと運ぼうとすると
テーブルの上に紙が置いてあった

『本当にありがとう、お世話になりました』

これだけが書かれて、ビー玉とおはじきがちょこんとのっかってた

本当に帰ってしまったんだ・・・・とビー玉を手に取る

それからは、何をしてても矢口の幻影に遭遇してしまう

前日の伝票を整理する時、洗濯物を干す時

無理して買った中古のパソコンに伝票を打ち込む作業をやらせてくれと言い
小さな手で苦手な機械に一生懸命打ち込んでた矢口

自分の下着を干す時に恥ずかしがってあっち向いててと
隠すようにタオルでガードしてた笑顔


昔から馴れ合った野郎や女の家に転がり込んで暮らしてた俺が

そんな時虚しさしか感じなかった俺が

初めて感じる安らぎだった
278 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:07
やはりあきらめきれない

手放したくない温もりだった

もっと早く・・・・

後藤達がここを突き止める前に告白してれば結果は変わった?

いや・・・・・多分変わらない


じゃあしょうがない・・・・

俺がもし強引にあいつを抱いたとしても
きっと泣かす事しか出来なかったはず

だいたい俺の生き方に、タラ・レバは無い

もう考えるのはやめよう・・・・でも


あいつ・・・・
吉澤って奴はそんなに魅力的な奴なんだろうか
279 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:10
しばらく佇んだけど、やはり女々しく引っ張りたくなかった

帰ってった矢口は、あいつと仲直り出来たのかは知らないけど

また何か矢口にあった時、少しでも思い出してもらえて・・・・
また偶然にでも会えるような事があれば

今度は絶対矢口を離さない・・・・
何度でもプロポーズしよう

まだ・・・・

まだ希望はあるはず

もうすぐクリスマス・・・・もしかしたら奇跡があるかもしれない

こんな俺にだって・・・・サンタがやって来るかもしれない

俺は俺らしく生きればいい・・・・
中澤学校に通ってこう思えるようになったから、いつものように俺は背筋を伸ばす
280 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:11
開店する少し前、まだ看板を開けてないのに誰か入って来た

「すいません・・・・・・ま・・・・だ」

顔をあげて驚く・・・
絶対にここに来る事はないと思っていたあいつだったから

「どうも・・・・ちょっとですから、時間いいですか?」
目の下に隈が出来て、幾分痩せこけたた感じ

やけに自己主張をするマフラー・・・・・
多分去年一生懸命矢口が編んでた手編みのマフラーだろう

「いいけど・・・・何?」

矢口がついてきてるのかと後ろを確認するが
ドアを閉めてしまったので一人なんだろう
281 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:12
「プロポーズしたそうですね」

刺すような視線で落ち着いて言って来て驚く
矢口・・・・言っちまったのかって

「それが?」
目が異常にギラギラとこっちを睨んでてこっちも肝を据えた

「絶対に離しませんから、ウチは矢口さんを」
「女のお前が?」
「ええ、絶対に離しません・・・・・
だから、これからも仲間として矢口さんをよろしくお願いします」


何?
282 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:14
「ふざけるなよ」
余裕ぶっこいてんじゃねーぞ

「ふざけてません、矢口さんは仲間としてあなたを尊敬し
お手本としたいみたいですからね」

「しかし次にここに矢口が来た時には、俺はあいつを抱くぞ」

逸らすことなく突き刺さってくる視線

「出来るものならやってみて下さい」

カウンターから徐々に吉澤に近づく迄
お互い目を逸らさなかった

近くに寄ると、俺よりも背の低い、ただの力の弱い女だって解る

「お前に出来るのかよ・・・あいつを幸せにする事が」

結構どすの利いた声が出た
前のこいつなら確実にびびってたはず
283 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:16
だけど

ずいっと前に出て澄んだ瞳で俺を下から睨みつけた

「出来る・・・・むしろ私しか出来ない」

確かに綺麗な顔をしてる
女としてでもこいつならどんな男でも落とせるだろう

なのに・・・どうして矢口なんだ

「お前なら・・・・いくらでも男が寄って来るだろうに・・・・・何で矢口なんだ」

「矢口さんしかいない・・・・ウチには」
284 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:18
それでも真っ直ぐに見上げる視線に、なぜか敗北を感じた

「そして矢口さんにはウチしかいない・・・・・ウチが拾ったその日から」

自分が拾って、今迄の色んな人生を一生懸命受け入れて頑張ってきた矢口さんを

ずっと見て来たのは間違いなくウチだけ

そして、これからも見届けるのはウチだけ

綺麗な瞳がずっと俺を見つめてそう言う姿を見て少し神々しいと思ってしまう

そういや神様だと矢口は言った


この姿に光を見出したんだな



ドカッと客が座る席に座る
俺はどんな奴にも負けねぇと思ってたけど・・・・

まさか神様と勝負するとは・・・
285 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:20
「幸せに・・・・・してやれよ・・・・矢口を」

こう言うしかないような気がして・・・・・

何も考えずに口から出ていた

「言われなくてもします・・・・だから・・・・指一本触れさせませんから」

「ふっ・・・解ったよ・・・・だけど思う位いいだろ・・・・仲間として」

拗ねた子供のような声が俺から出てきて
なんだか可笑しくなって二人でくすくす笑い合ってしまった

「仲間としてだけですよ」

そしてやつは堂々と帰って行った



俺に勝利したと物語る背中で
286 名前:第四章 投稿日:2006/02/13(月) 21:21
くっ

笑いが込み上げてくる
天を仰いでしばらく笑った

ただのホストじゃ・・・・なかったか

骨のある・・・・いい奴・・・・って認めてやるよ

一人準備もせずにしばらくそこに座ったままだった



気がつくとポケットからおはじきとビー玉を出して眺め呟いてた

「サンタクロースなんて・・・いやしね〜よな」

今年のクリスマスはきっと少し違うと思ってたけど・・・

なんて苦笑してみた
287 名前: 投稿日:2006/02/13(月) 21:21
少しですがこのへんで
288 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/14(火) 02:00
連日の更新おつかれさまです
みんなかっこいいですね
色々なことを乗り越えて成長した姿に感慨を覚えます
289 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/14(火) 10:00
自信を取り戻したよっすぃはカッコイイし、矢口さんが惚れただけあるなあ。
瑠依は矢口さんを手に入れられなくても料理人として立派にやっていけるから。
誰もを魅了する矢口さんは、よっすぃがいたからこそ存在するんですね。
290 名前:& ◆xTwoYEuCC. 投稿日:2006/02/16(木) 01:16
無事に乗り越えてくれてよかったですつД`)
それぞれみんなかっこいいですね
みんなのこれからが楽しみです
291 名前: 投稿日:2006/02/18(土) 00:40
288:289名無し飼育さん、成長する姿を感じていただけたり、
お互いの存在で、互いの魅力を引き出す力を感じて頂けてとても嬉しいです。

290 :& ◆xTwoYEuCC.さん、なんだか暖かく見守ってて頂いてた様でありがとうございます。

そして
せっかく楽しみにしていただき心苦しいのですが、今回更新にて最終話になります
292 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:45
はぁ〜・・・・やっと帰って来た

「やっぱ人が多い〜っ」
長旅の疲れもなんのその、うぉ〜っとはしゃいで走ってくこの人

老舗旅館の厨房に住み込みで働いて
怒られてばかりで、ううん、やっぱり要領が悪い自分が腹が立って、いつも裏で泣いてたら

「いっ・・・・つも泣いてんね〜」

にこにこと人懐こい笑顔で背後から近づいて来たのがこの人

どうしたの?と隣に座って話しを聞いてくれた仲居さん
色んな楽しい話をしてくれて元気づけてくれた
293 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:46
「あさ美ちゃんっ、どっちどっち?」
「愛ちゃん、そんな慌てないで」
だってこんな都会初めてなんやもんっ、次どこの汽車に乗ればいいんっ?
てくるくる回って嬉しそう

そう・・・・・私の・・・・・というか
ほとんど後藤さんと吉澤さん、それに石川さんがお金を出して作る店が完成したから帰って来た

卒業してから一年、こっちには一度も戻って来てなかった
お盆や正月も、かきいれどきという事でこっちに帰って来る事も出来ずにいたけど
ちょこちょこビデオレターや写メールで進捗状況は教えてくれたり
ちゃんと電話や手紙で意見を求めたりしてくれたので、ほとんど何も言う事はない出来栄えだと思う
みんなはもうマンションを引き払って引越しをすませてしまった
294 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:48
はしゃぐ愛ちゃんをこっちだよと導きながら到着すると、矢口さんが飛びついて来た

「おかえりっ紺ちゃんっ」
くりくりお目めで見上げて来るので少し照れる

電話ではよく話してたけど元気そうで良かった
店の中ではズラリと優しい顔で迎えてくれるお姉さん達

「「「「「「おかえり」」」」」」

照れくさいけどなんとか一言返す

「ただいま」

1階の日本料理店のテーブル席には、豪華な料理が並ぶ
295 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:50
お洒落な店内・・・・

歳を召した人にも、若者にもどちらでも対応できる
シンプルだけど古臭くない雰囲気を出したいという私達の思い通りになった店

そして所どころに、おばあちゃんの店が残っている・・・・・
私が店内を見回していると、美貴さんが鋭く言う

「紺ちゃん、お店に満足するのはいいけど、そろそろ隣でびっくりした顔した子の紹介でもしたら?」
「口開けて固まってるし」
「あっ、はっ、はいっ、こっちは同じ旅館で仲居さんをしてた高橋愛ちゃんです」

「高橋愛ですっ、うっ噂は聞いてましたけど
あ・・あんまり皆さんが綺麗でびっくりしてました、これからよろしくお願い致します」

二人で同時に頭を下げると、よろしく〜だとか
さっ、食べようぜっとか言ってテーブルにつかされた
296 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:52
「とりあえず乾杯してさ、それから荷物上に持ってったりしなよ
ウチら昼から準備してくたくただから早く飲みたいんだよね」

「すみません、遅くなって」

板長やら先輩とか、おかみさんだとかが見送りに来てくれて
厳しかったけど、やっぱり自分の為を思って厳しくしてくれてたんだと感激して一本乗り遅れてしまったから

嘘嘘そんな意味じゃないよ
まぁ堅苦しくならずにさ、早く食べようって事だよとみんな笑ってる

愛ちゃんは、後藤さんの店の方のフロアの人が足りないというので悩んでいたら
是非働きたいって言ってくれたから私と同室で住み込みで働いてもらう事になった

テーブルを二つくっつけての大人数での食事はとっても賑やか
297 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:53
吉澤さんと矢口さんは、色々あったみたいだけど
今でも二人の間には温かい空気が流れててホッとした

後藤さんと美貴さんは、相変わらずラブラブ全開で
美貴さんがこの場を取り仕切ってるっぽい

石川さんは、三好さんを何故か家来のように従えて見えるけど
どうやら主導権は三好さんにあるみたいだから不思議

最初雑誌の写真を見た時は、お嬢様で別世界の人間のように見えたけど
ここにいる石川さんは美貴さんにことごとく突っ込まれてる同年代の女の人
お嬢様という仮面をつけていただけなんだなぁって

「真里ちゃんとってあげよっか?」

矢口さんから遠い皿から料理を取ってあげようとしてるけど

「いいです、ウチが取りますから」
「ほらっ、石川さんこれおいしいですよ〜」

吉澤さんにブロックされ、三好さんになだめられている

そして矢口さんは嬉しそうに吉澤さんを見てから微笑み合ってる
298 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:54
「すごい美人さんばっかりだね〜、あさ美ちゃんの共同経営者さんは」
「うん、すごいでしょ」

自慢のお姉さん達


中澤学校で偶然出会った二人と
まだまだずうっと先だと思ってたこの場所での開店にこんなに早くこぎつける事が出来るなんて

後二週間で開店、それまで忙しい事になるよと
お姉さん達に脅されながら自慢の料理達を堪能した

驚いたのは、矢口さんの作った料理がすごい変化を見せている事

材料の特性を生かしながらも、自己主張を見せる料理に変身していた

「すっごいおいしいです、矢口さん」

へへっと嬉しそうに吉澤さんを見上げて笑ってる
299 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:56
「それならまたここに来ようっていう気になるでしょ」
後藤さんも自慢げにそう言った

うんうんと頷いて、同じように隣で愛ちゃんも頷いてる

「どれもおいしい、高級料亭に来てるみたいだし
こっちの洋食も本格的な味がする」

「当たり前っしょ、ごっちんと矢口さんプロなんだよ、もう」
誰よりも早く突っ込む美貴さん

「あ、そっか」
にかっと笑う愛ちゃんに、まだまだ修行中だよと笑う後藤さんは自信ありげ

すでに溶け込んでいる愛ちゃんは美貴さんと話しながらもすごく嬉しそう
300 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:57
今迄は、すごく歳の離れたおばさん達の中に入って
それなりに気苦労が絶えなかったらしいから

「紺野も何か後で作ったら?後で裕ちゃん達も来るって言ってたからその時にさ」
考えて来たんでしょ、オリジナル・・・と後藤さん

「ええっ、裕ちゃんさんも来るんですか?」
知らなかった、ここに住む人だけかと思ってたのに

「来るでしょ、あの人なら、めちゃくちゃ張り切ってたもんね、美貴達の店なのに」
保田さんだって安倍さんだって楽しみにしてるみたい

「でもただ飲みに来るだけな気もするけどね」

冷静な吉澤さんの一言
301 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 00:58
「いえる、なんだかんだ言ってただで食べれる所が出来たって思ってると思うよ、あの人達」

経営の面は、吉澤さんと美貴さんが裕ちゃんさんに
個人別に経営学を教えて貰ってるから頭が上がらない

だから裕ちゃんさんと、なんだか仲良しになって
しょっちゅう会って色んな相談に乗ってもらっていたんでこんな事を言うみたい

ほんとならちゃんと授業料をとってもおかしくない位
美貴さんとホストをやめた吉澤さんはバイトしながら学校に通い詰めてた様

もちろん刑事さん2人にはまだまだお世話になってるみたいだし気に掛けてもらって感謝してるみたい
「でも絶対イケますよね、こんなにおいしいのに、値段もそんなに高くないし、絶対流行ると思います」

三好さんは、昔と同じように矢口さんに優しく笑いかけている

「ほんと、なのにどうしてマスコミとか利用しないの?」

石川さんは、お嬢様の本領発揮で
色んな雑誌社にこの店を載せてもらう段取りをしようとして
後藤さんと矢口さんに止められた

「いいの、ゴトー達の実力なら、自然に客が入るんだから」
302 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:01
自信まんまんの後藤さんにはちゃんと訳がある

立地条件のいいこの場所なら、一度興味本位で来てくれた人が
必ずリピーターになった他の客を連れて来るという事

客が入ったらという当然の条件ながら
採算が取れるギリギリの価格設定で、食材だってかなり吟味した食材を手に入れる事にしている

作る人の心のこもった料理で勝負したいという二人の意気込みに
石川さんは黙るしかなかった

それから石川さん達の引越しも無事に終わった
何故か、人気モデルの石川さんと三好さんが
家賃を入れる代わりに間借りしてる部屋が出来た

自分で建てといて、自分にお金を払うってどういう事?と呆れる後藤さん達
・・・・だけどどうしても石川さんは私たちと一緒に夢を追いたかったらしい
・・・・・と呆れながらも仲間に入れてあげていた

その巻き添えになったのが三好さん

同じ家賃を払うのなら、矢口さんの為になりたいという三好さんは
快く同居を決めた

石川さん達のいる四階にはちゃんと正式な手続きを踏んで
営業外収益となる様にして、水道ガス等のメーターを別に設置したり設計しなおしたから

とにかく石川さんは、実家から離れたかったのと
本当の友達が欲しくてたまらなかったみたい

生まれも育ちもバラバラで、キャラだって全然違うけど

これから私はこんな素敵な人達と一緒に過ごしていく
303 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:01



304 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:03
ようやく開店に近づく
紺野も帰って来て、最終確認、オーダーの通し方や
清算の方法等の細かい打ち合わせを三人でしていく

開店の際のメニューも、紺野が考えて来たメニューの試食したり
どの種類のお酒を置くか選定したりして慌しく過ぎた

いよいよオープン

石川さんや絵梨香さんのモデル仲間が来てくれたり
もちろん中澤学校の仲間達も小さな店だからと分散して来てくれた

驚いたのは、市井さんやみちよさん達も来てくれた事
・・・・あんな辞め方をしたのに、おいしかったよと・・・・
たまに同伴で使わせてもらうと言って帰っていく

迷惑をかけたあの店と、みんなに改めて感謝する
305 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:06
安倍さんや保田さんも同僚の人達を連れて来てくれたりと
最初は協力してくれた人達

だけども、その連れて来た人達が、またその友人を連れてきたり
両親を連れてきたり

帰り道に一杯ひっかけていくリーマンなんかも来てくれて結構な繁盛具合だった
私も元接客業だし、矢口さんだって一度はウェイターをして接客には慣れてる

紺野は、もくもくと調理してもらって経理面も任せる事にし
二人で接客及び配膳を行う

二人の手で作られる食材は、運んでてもとてもおいしそう
本格的な日本料理が、こんなにリーズナブルに食べられる所は
きっとここしかないんじゃないかって位

それにメニューには載ってなくても
ちゃんとリクエストがあれば作ってあげる事にしたのがリーマンにはウケてる


なにより・・・・

同じ時間、同じ空間でずっと矢口さんと過ごせる
306 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:08
慌しく過ぎていく毎日

家と職場は同じだから通勤時間もないし
暇ならちょっと家に戻って休憩する事だって出来る

楽しそうに料理を作る矢口さんを見ると
すごい幸せだなって思える自分が嬉しい
ごっちん達の店も好評で、紺野が連れて来た高橋もちょっと田舎臭くて愛嬌があるからほわっとしたごっちん達の店の雰囲気にも合ってるみたい
お互いの店の料理を交換して注文する事も出来るようにすれば喜ばれるかなぁなんて・・・・もっと慣れたらやってみようとか言ってる
「あ〜っ、疲れたね〜」
三階のみんなのリビングで先に上がり入浴をしたりキッチンでお湯を沸かしてコーヒーを飲んだりしてくつろいでる三人の所に、ごっちん達がわらわらと上がってくる
「お疲れ〜、今日も忙しそうだったね」
と聞いてみると
307 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:44
「めっちゃ忙しい・・・・おいつかないよ、一人じゃ」

そっか、フロントは二人いて、作るの一人だもんねそっちは

「それに美貴のアクセも人気あるから、そっち行かれると手一杯だよね、愛ちゃん」

店の片隅にあるアクセの店も
すっかり雑誌とかで有名になってるから
どっかで情報入れて買いに来るお客さんがいるし開店時からそれ目当ての客も結構いた

「でも人入れる余裕ないでしょ、もう」
ドカッと隣に座ったごっちんに言うと

「まぁね、でもじき慣れるっしょ、美貴も器用だから
あっちもこっちも相手しながらうまく接客してくれてるし」
ふふんっと当たり前でしょみたいな顔で矢口さんの隣で座ってるし

「私はいっぱいいっぱいですけど」
ぐったりと紺野の隣に座り込んだ高橋はソファに沈み込むようにして言った
308 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:47
「仲居さんとはやっぱ勝手が違うの?」

最初は仲居さんが解らなかった矢口さんだけど
かわいくこうやって聞いている

「はい、大分違いますね、でも楽しいですこっちの方が
それにみんなおいしいって顔が言ってるからなんか嬉しくて」

「そうだね、ウチもホストやってる時はお客に夢見させて幸せな顔させるのが仕事って思ってたけど・・・・・
こんな風に内側から幸せな顔させるのっていいなってマジ思うよ」

自然に口から出た言葉に
ちょっと恥ずかしくなって矢口さんをちらりと見ると、幸せそうにウチを見てた


「私もばあちゃんの店がこんなに素敵になって嬉しいです」
紺野の顔も嬉しそうだ

近所の人も来てくれて、昼も開けてくれればなんて言われてる位だからね
309 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:48
絵梨香さんと石川さんはまだ帰って来てない

夢だったモデルの仕事がとても順調で
でも石川さんに振り回されてる絵梨香さんがなにげに可愛そうだけど

どうやら二人はお似合いというか・・・・
相性がいいみたいで結局四階のちゃんとした間取りの部屋なのにどっちかの部屋で一緒に寝たりしてるみたい

まだ恋人同士にはなってないみたいだけど
ごっちんが言うには時間の問題だろうって

石川さんは結局、ウチが変わったように
自分を変えて欲しかったから矢口さんに執着してたそうだ

見てると今は絵梨香さんがどうもその役をこなしている風かな

くだらない事をここで話して、笑って・・・・

こんな穏やかな毎日が続く幸せ
310 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:50
「さて、明日もそっちの店は仕入れが早いし
美貴は注文品を作らないといけないし、もう寝ますか」
ごっちんが美貴の手をひいてお風呂へ向かう

そして入浴を済ませた紺野達も自分達の部屋へ
二人での日課を眠くなる迄やってるみたい

なんか毎日、ごっちんの店とウチらの店の客が頼んだオーダーや天気
男女の比率とか年齢層をデータベースにして分析していくんだそうだ
とてもウチにはそんなまめまめしい事は無理だからおまかせする

魚料理がメインのウチらの店は朝が早い・・・・
ごっちんたちは提携した肉屋と魚屋さんと契約してるからいいけどね

一階奥はウチらの部屋、二階奥にはごっちん達の部屋と美貴の工房
三階にリビングと簡単なキッチンと共同のお風呂、
そして紺野の部屋だったけど、予定では高橋の部屋だった所が石川さんに取られて紺野と同室になった

トイレは各階にあるけど、お風呂はみんなの集まる場所を作る為に三階に作った
あ、四階は別だから各部屋にちゃんとついてるけどね
311 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:52
そして今日も矢口さんを抱き締めて眠る

魚介類の仕入れは毎日ちゃんと矢口さんが行くから・・・・・
もちろん私も荷物もちで行くし・・・・

たまに市場で瑠依に会うから監視というか
ちょっかい出されないようにいつもそばにいる

アヤカからは写メールで一度赤ちゃんが笑ってるメールが届く・・・・
幸せだよと一言書かれて

だからみんなの写真とメッセージと一緒に子供服を贈った


幸せ・・・・

昔相手をしていた奥様達によく感じていた幸せの意味

お金は必要だし、快楽も必要
人それぞれに幸せの意味は違って当然

私があの人たちを不幸だと決め付ける事は出来ないし、する必要もない

そして、あの頃の自分を恥じる必要も・・・・
312 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:53
身近にいる、大切な人を思う心が、人を信じる事が・・・・
多分小さな幸せを沢山運んで来て大きな幸せになる

前の私じゃ考えられない事を今感じてる事が信じられない


ベッドの中でそんな自分の世界に浸ってると

「幸せ」
腕の中で呟く矢口さん

「ええ・・・幸せです、良かった・・・・矢口さんと出会えて」
「おいらも」

何度でも言うよ・・・
拾ってくれてありがとう・・・・そう言って寄り添ってくる

こうやって愛する人も同じように感じてくれてる事・・・・これって奇跡でしょ
313 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:55
なんて嬉しいんだろう

コツコツと努力して、毎日精一杯生きる

それがこんなに清清しく
楽しいものだったなんて私はどうして今まで知ろうとしなかったのか

まだまだ子供な私達・・・・

世の中知らない事だらけ・・・・
314 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:55
生きていく事だけを考えてた矢口さん

一人だと思って強がっていた臆病な自分やごっちん

自分の傷を治す為に、人の痛みを癒してやる為の手助けに何かを作りたいと思い続けてる美貴

自分に自信が持てずに夢をあきらめかけていた絵梨香さん

世の中の汚い部分を見せられても、自分の中の正義に信念を持ってる保田さんや安倍さん

昔、何があったか知らないけど、自分の二の舞は踏ませまいと人を育ててる中澤さんや稲葉さん

世の中の大人は全員敵だと思って、だけど信頼出来る仲間を強く欲しがってた石川さん

おばあちゃんの暖かい思い出を守り続けたいと頑張る紺野・・・それに自分には何かあると信じてる高橋
315 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:57
色んな人がいて

色んな苦しみや悩みを持っていながらも

みんな大切な何かを探してて、そして生きていこうとしてるんだって


あのままの自分じゃ絶対に出会えなかった素敵な人達
そんな風に思えるようになったのも出会えたのも全部矢口さんのおかげ

あんな薄汚れた街で、互いに薄汚れた心と体を持ってたお互いの人生を

どちらが罠にかけたのか

はたまたどっちの罠にかかってしまったのか・・・・・

お互いの相手しかダメだと思える相手と出会えたのは神様の罠というか・・・・悪戯というか



とにかく・・・

幸せをありがとう・・・・神様



これからも見守っててください
316 名前:最終話 投稿日:2006/02/18(土) 01:58


〜終わり〜
317 名前: 投稿日:2006/02/18(土) 02:10
以上でだらだらと続けさせて頂いた駄作も終了となりました

ひっそりと続けさせていただいて、しかも暖かい励ましや、率直な感想を述べて頂けて

本当にありがたいと感謝致します。

振り返ると、誤字脱字や、改行、文章の変な所、妙な焦り感等多々あり、恥ずかしいと思うのですが

ひとえに皆様の暖かいご支援のおかげで無事終演を迎える事となりました。

まだまだ勉強不足と感じましたが、皆様と交流させて頂く事はとても楽しく

更新する事がいかに大変かを身を持って知る事が出来、他の作品を書かれている方の

偉大さを感じずにはいられませんでした。

これに懲りず、またいつの日かお会い出来る日を楽しみに、他の偉大なる作品を読ませて

頂きたいと思います。

最後迄読んで頂いて、誠にありがとうございました。

それでは、また会う日迄


〜拓〜

318 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/18(土) 12:35
いつも更新楽しみにしていました
良かったです
319 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/19(日) 08:20
めっちゃよかったです
石川さんがウザ可愛いのとか、矢口さんがどういう境遇であれ
やっぱり頑張り屋なのとか、もうみんなが可愛くて仕方ありませんでした
名残惜しいですけど…・・・お疲れさまでした。
320 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/23(木) 09:54
とうとう終わってしまった・・・。
主人公なのに矢口さんの口からは終始語られず、終盤の瑠依との会話でやっと「よっすぃは神様」だと本心がわかりました。
初めのうちはよっすぃのだらしなさとずるさが好きになれませんでしたが、彼女はとても成長してよかったです。
それぞれの人物が淡々と話しているのにとても惹きこまれ、いいペースで更新して下さるので毎日が楽しみでした。
登場人物すべてが魅力的でした。ありがとうございました。
321 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/24(金) 22:00


322 名前: 投稿日:2006/03/06(月) 21:55
318〜320名無し飼育さん
楽しみにして頂けたり、名残惜しんでくれたりありがとうございました。
石川さんをウザ可愛いと言って下さったのが個人的にツボです
あ、矢口さん視点・・・そういえばありませんでしたね・・・主人公なのに・・・


申し訳ないのですが、スレ容量が余ってますので皆さんの暖かさに甘えて思いつきの短編を一つ
323 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 21:56
まただ


あの人が私の場所を邪魔しに来る・・・・

いや・・・・私が邪魔してるのかもしれない
324 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 21:58
学校での私は、文句のつけようがない優等生

そしてあの人は、この学校でも有名な二年の時留年したらしい問題児


自分では何も感じていないけど
女なのにやたらと褒められる容姿のせいで
中学の時には女の後輩から告白された事もあったりした

成績優秀で運動神経だっていいし
人当たりだって悪くないから生徒会長とかに祭り上げられてしまった

別に特別アピールした訳でもなんでもなく
勝手に作られたイメージで
勝手に作り上げられてしまった私という存在が一人歩きしてった感じ

それはいつしか自分を自分じゃなくならせてしまっている感じがしていた



そしてそれをどうにも出来ないまま卒業
325 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:07
高校入学と同時に、この苦しさをなんとかしたくてもがいてみたけど
自分で作ったイメージを壊せないでいた

そんな時に見つけた時はなんだかうれしかった

学校の外壁と、グランド奥の体育館裏の間に
等間隔に並んだ木と、雑草が所々生えた土があって、校舎裏からこっそり入る事が出来る

入学早々に同じ中学の子達に他の中学から来た子とかに次々と紹介されたりして
ウンザリしてたから、人気のない所をたどってたらここを見つけた

ちょっとした屋根と同じだけのコンクリの地面に寝転がって
空を眺めて一人でぼんやりするのが好きだった


なのに

見つけた三日後位にその人はやって来て
一度私をにらみつけると、フッと笑って少し離れた場所に
同じように寝転がってタバコを吸っていた
326 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:10
お互い何も話す事なく一ヶ月が過ぎた頃


「お前さぁ・・・・なんでいんの?」

そろそろ夏の日差しになって来たのを感じ始めた時に話し掛けられた

もう気にもしなくなったお互いだったけど
たまにすれ違ったりする時にも目をあわせない関係で
このまましゃべる事なくあの人は卒業してくもんだと思ってた

「だめ・・・・ですか?」

きっとこの場所はこの人の特等席だったんだろうとはうすうす感づいていた
一番広くて、寝転がりやすいし
日が照っても影になってるしいい位の温度が保たれてるから

「や・・・・・いいけどさ・・・・・お前有名じゃん、やたら」
やっぱり作られたウチのイメージを知ってるんだ

「・・・・・・・先輩こそ・・・・有名です」
327 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:11
互いに寝転がって空に向かってしゃべってる状態

プカプカとタバコをふかしてる音が聞こえる

「おいらはお前とは真逆だけどな」
かかかって笑ってる

思わず起き上がって
「ウチはみんなが思ってるような優等生じゃないですよ」

彼女を見ると、こっちに頭を向けて寝転がったまま両手を頭の下に置いて
タバコを歯に挟むような形で上目使いでこっちを見上げてた

「ふ〜ん、悪かったなそれは」

またかかかっと笑いながら普通に上を見てたばこをふかしだした
328 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:12
「先輩」

「ん?」

「ここ・・・・私が取ってしまってすみません」

ずっと言いたかった

やっと言えた

するとそのままの姿勢で
「たけ〜ぞ・・・・そこ・・・・特等席だから」

この人も起き上がって金髪の髪の毛を整えながらこっちを見て
にししと笑った

初めてちゃんとこの人の顔を見るけど、その笑顔がとてもかわいいと思った
329 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:14
それから・・・・

少しずつ話をするようになる


いつのまにか昼休みのそのひとときの時間は

とても大切な時間になった


雨の日も、暑い日も

ここにはいつも心地いい温度と、にかっとした明るい笑顔があって

私達は、特等席にぼーっと二人で並んで座ってしゃべるのが日課になってる

あの先生がいきなり殴ってきたとか
街で中学生の不良にからまれた話とか
この人の話はちょっとバイオレンスが入ってて、なんだか面白かった

そのうち・・・
噂では知らなかった先輩の私生活が明らかになっていった
330 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:15
先輩が独り暮らししてる事
さぼってるんじゃなくて、バイトで来れない事
思ったより真面目な人だって事

日がたつにつれて、私が私でいられる場所にいつのまにかなってて
人が言うように、この人は遊び人じゃないと思った

自分に自信がなくて、結構小心者・・・・・
なのに頑張って強そうに見えるように殻を作る・・・・そんな風に感じた

そして校内で会っても、お互い知らないふりをしているのも面白かった

いつも誰かしら周りに人がいるお互いに
廊下ですれ違ってもちらっと見るだけで決して話し掛ける事はない
331 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:17
「最近あの先輩真面目に学校来てるよね」

私の友達の一人がそう言う
だいたい3時間目からの登校みたいだけど、毎日来る事が信じられないみたいだ

それを本人に言うと

「よっすぃが寂しがると思ってさ」
にかっとたばこをくわえたままこっちを見て笑ってる

へへっと笑ってまた穏やかな空気の中でぼんやり空を眺めるんだけど
ツキリと胸に痛みが起きる
332 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:18
先輩が来ないと昼休みはとても寂しいものになっていたから・・・

どう考えても一年の私と、三年生の先輩では
先に先輩がいなくなってしまうのは確か

そうすると・・・・
ここには一人で来る事になる

いやそれでも関係ないはず・・・・・
一人になりたくてここに来ていたんだから

とはもう思えなくなってる
333 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:19
「先輩」
「ん?」

いつもこうやってぼんやり話している

「卒業したら・・・・何するんすか?」

プカプカといつものようにタバコをふかしながら、のんびりと言う

「さぁ・・・・何するんだろな、まぁ・・・・適当に働くんじゃね〜か?」

人ごとのように言うもんだから、可笑しくなって

「適当っすね」
「おう」

にししと互いに笑う
334 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:20
心地いい

きっと先輩はもっと色んな事考えてて
もしかしたら不安だったりするかもしれない

友達の多い先輩は、知り合いのクラブとかで
バイトに誘われているとか前に話してたのを思い出したりするし

それとも、もしかしてものすごい夢を持ってて
わくわくしてるのかもしれなし・・・・・・

でも聞かない

細かく知らないのがいいんだけど
知りたいと思う自分がいない訳じゃない

でも私達は友達ではないから
ここでこうやってあいまいに過ごしているだけなのがすごくいい
335 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:22
昨日の夜は遊び過ぎたと、ずっといびきをかいて寝てて
休み時間が過ぎても起きなかった時だってある

めちゃくちゃゆさぶっても起きなくて
口を開けてカーッと寝てる先輩に、妙にドキドキする自分にびっくりして
制服のブレザーを掛けておいて教室に帰ったりすると

放課後に必ずあの場所で待っててくれて
あんがとって照れながらブレザーを返してくれたりした

そんな時は、遠くで部活の声が聞こえる中
暗くなるまであそこでくだらない話をしてまどろんでたりする
336 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:25
冬が来て、先輩の卒業が現実味をおびていく

すっごく寂しく感じるけど
現実には確実にあの時間の無くなるのが解っていたはず

私はあの場所に向かう事をためらうようになった

だけどその時間がないと、優等生の自分を演じ切る事が出来ない気がするし
なにより、先輩の卒業迄の貴重な時間だからと毎日向かった


ぱったり先輩が姿を見せなくなる

ぽかぽかの天気の日だったおとといは
いつものように寝そべってればまだ良かったけど

昨日は一転して、肌寒い曇り空
コンクリートがめちゃくちゃ冷たくて・・・・
先輩と一緒に保健室から盗んだ毛布を敷いても寒く感じた
337 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:26
三日目に、友達に聞いてみる

「ねぇ・・・・あの先輩見ないよね・・・最近」
「あれ、知らないの?よっすぃ
なんか夜街で男とホテル入ったのを補導員に捕まって謹慎中みたい」

なんだかあの先輩は、学校中に話題を振り撒き続ける人みたいだから
ちょっと聞けばすぐに情報が入って来る



ただ・・・・・
私が聞かないだけ・・・・・聞きたくないだけ
338 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:27
聞かなければ良かった

それでも寒い毎日を、コートを着込んであの場所に向かった

枯れてしまった雑草を見つめながらぼんやりして過ごした数日

「おう、久ぶり、元気だったか?」

けらけらと何笑いながら敷いた毛布の開いたスペースにいつものように座ってくる先輩

「先輩は?」
ちらちらと横目で見ながら聞いてみる

「ん〜、さいこ〜、毎日だらだら出来たし、夜明日の事考えずに遊べたもん」
シュボッとたばこに火をつけてにかっと笑った
339 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:28
いつものようににかっと笑い返せない自分

そうとう腹が立ってる


どうして?

解らない


この数日がめちゃくちゃ寂しくて・・・・・

もちろんいつものように優等生を演じる事さえ出来ずに
イライラしていた自分は何だったんだろう


この気持ちは一体何者なんだろう


そばにいたいのに・・・・・・顔さえ見たくない


複雑



めんどくさい・・・・
340 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:29
「先輩」

「ん?」

「私・・・・・ここ・・・・卒業しますね」

「へ?」

すくっと立ち上がったらもう先輩を振り返らずにその場を去った



そのまま冬休みが来た

友達と呼べるのか解らないけど
毎日のように色んな子と映画や遊園地、ショッピングに行って気付く

すごく寂しい事に

心にぽっかり穴が開いたみたく
誰といてもどこにいても・・・・・本当の自分がどこにも現れなかった
341 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:30
それからも私はあの特等席には行かなかった

友達から最近昼休みに教室にいるよね、どうしたの?
と聞かれても、ん〜、寒いじゃん・・・とだけ返せば誰も何も言わなかった

風の噂で、先輩がまた学校に現れなくなったと聞き
私は教室からぼんやりと外を眺める事が多くなった

放課後はごくたまに先輩がずったらと帰って行く背中が見えた



友人達の私を見る目が変わって行ったのもその頃
噂では、失恋したから腑抜けになってるんだそうだ

相手は誰かと、何かと話題にされてウザい
342 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:31
失恋・・・・

と聞いた時・・・・・私は否定できなかった



そう・・・・・

私は先輩が好きだったんだって気付いたから


でも気付いた時は卒業間近

めでたく先輩は卒業出来るみたいだと噂で聞いた
343 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:33
明日は卒業式

これで完全に先輩と会う事がなくなる

そう実感した時・・・・涙が溢れてきた

それはお風呂に入っている時だった

ごまかすようにバシャバシャと音を立てて
湯船に顔を沈めたりしてしゃくるように泣いた


先輩と過ごした心地いい日々

たばこをくわえてにかっと笑うかわいらしい笑顔

くだらない冗談

嘘かほんとか解らない話
344 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:33
・・・・・・後に残る喪失感


どうしてあんな事言ってしまったんだろう

自分からあの場所を卒業するなんてどうして思ってしまったんだろう


襲ってくる後悔に、体が震えた


私は馬鹿だ
345 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:35
そして卒業式・・・・

先輩は来なかった


前日に泣いて泣いて・・・・・
後悔してたから最後に一目だけでも見たかったのに


担任の先生に呼ばれる先輩の名前の後、欠席と告げられて父兄がざわめく


教室に戻って気付く
先輩と最後写真撮ってもらおうと思ってたのに残念というクラスメートの声が
あちこちから聞こえて来た事

なんだかんだ噂してても・・・・・・・

先輩はみんなの憧れの的だった・・・・って事
346 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:36
自然に私はあの場所に向かう

なくなってしまった毛布と・・・・・
すこし汚れてしまった特等席のコンクリート

スカートが汚れるのもかまわずに私はそこに寝転がった


そろそろ春がやって来る

等間隔に植えられた木は、徐々に新緑の色を帯びていくんだろう
347 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:37
卒業生達が、別れを惜しみながら去って行く声が遠くに聞こえ
やがて何も聞こえなくなる


閉じた目から・・・・ツーっと雫が垂れていくのを感じた


ザリッ

誰かが来た音

やべっ・・・・こんなとこで泣いてるなんて・・・・・
またウザく噂がたってしまう

さりげなく腕を目に乗せて寝たふりをした
348 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:38
「おう・・・・ひさぶり」

ガバッと飛び起きた


「せん・・・・ぱい」



何やってんすか?
思わずきいてしまいそうだった
349 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:39
先輩は少しやせてて・・・・
でも変わらない笑顔でこっちを見下ろしてた

「お前・・・・なんでいんの?」

柔らかい表情

いつかのセリフ

初めて先輩と話した言葉


「だめ・・・・ですか?」
350 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:40
私はこう言った後
にかっとぎこちない笑顔を見せた

途端に先輩がくしゃっと顔を歪ませて泣き出す

「すげ・・・・・寂しかった・・・・・」

「え?」

「お前が卒業して・・・・・・
すげ・・・・・・寂しかった」

繰り返して言ってくれる顔は真っ赤になってぐちゃぐちゃになってる
351 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:41
何も考えないまま、私は立ち上がって先輩を抱き寄せた

こんなに・・・・
小さかったんだ・・・・・矢口先輩

ううっと泣いてる先輩を、これでもかと力一杯抱き締める



「私も・・・・寂しかったです」
するするとこぼれる言葉
352 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:42



「好き」「好きです」



重なる言葉に、お互いにびっくりして顔を見合わせ
互いににかっと笑うと、自然に顔を寄せた




その日から・・・・


私の特等席が放課後に出来た


矢口先輩の家に
353 名前:特等席 投稿日:2006/03/06(月) 22:42
  〜終〜
354 名前: 投稿日:2006/03/06(月) 22:43
なんとなくで申し訳・・・です
355 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 23:49
小心者同士の二人が可愛い
ごちそうさまでした
356 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/20(土) 02:25
今日、前スレから一気に読ませていただきました。
ストーリー、設定、すべて引き込まれました。
とても充実した時間を過ごせました、ありがとう。
357 名前:かなぁ 投稿日:2006/07/04(火) 22:49
何処の版に罠が置いてありますか?
358 名前:名無し飼育 投稿日:2006/07/04(火) 23:00
過去ログ倉庫 空板 にあります
ageるのはどうかと思います
359 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/04(火) 23:23
                                             

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