小話。

1 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/02(木) 16:20
はじめまして。かちゃぼというものです。
色々なカップリングで、短編または中編の話を書いていこうと思っています。

まったくの素人で恐縮ですが、
どうぞよろしくお願いします。

1作目はいしよしです。

2 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/02(木) 16:20

【1ミリメートルの壁の向こう】
3 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/02(木) 16:21
「こぉんのっ! おつかれ!」
「わっ。おつ、かれさまです、吉澤さん」

 収録が終わった楽屋。
うちは、そのざわつく中でひとり、
ぼんやりしていた紺野に後ろから抱きついた。

 紺野は抵抗もせず、おとなしくうちの腕の中におさまっている。
4 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/02(木) 16:21
 「いやぁ…ホント、紺野は抱き心地イイなぁ」

 言って、うちはより(苦しくない程度に)力を入れて紺野を抱きしめた。
 すると、紺野は少し、ふっと息を漏らしてうつむいた。
 
 うっわかわいいぃぃ…。こんこん耳真っ赤だよぉ。

 って、ちょっと悦に入ってたら、何だか後ろから殺気が……。
5 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/02(木) 16:22
 「…楽しそうね、よっしぃー」
 「りっ、梨華ちゃん…」

 うおぉ…こえぇぇぇ。殺気丸出しだよ。戦闘能力どんどん上がってるよ。

 ってか、梨華ちゃん、なんでこんなところ(娘。の楽屋)に?
 今日はオフのはずじゃあ…。
6 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/02(木) 16:22
 少し緩んだうちの腕から、逃げるように紺野が離れていく。

 楽屋にいる他のみんなは……あ、見てみぬ振りですか。
そうですか。あぁ、そんな殺生なぁ〜…。
7 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/02(木) 16:23
 仁王立ちでうちを睨む梨華ちゃんは、
 テレビで見せる可愛らしさは微塵もなく。

 「え、と。なんで、梨華ちゃんこんなとこに?」

 そして、なぜうちにこんなにお怒り??


 「なっ、なんでって…も、よっしぃいのばかっ!」
 「えっ!? えあ、ちょっ…」

 梨華ちゃん、楽屋でてっちゃった…。
8 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:24

 「あ〜ぁ」
 「み、ミキティー…」

 後ろを振り返ったら、あきれた顔で(でも何か楽しそうに)
ミキティーがあからさまなため息をついていた。

 「石川サン、よっちゃんさんを迎えにきたんじゃないの?」
 「え」


 そ、そうなの?

 うわぁ。メンバーのみなさま、目を合わせてくれません。
9 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:25
 そうなの?? 梨華ちゃん、わざわざうちを迎えにきてくれたの?
 え? じゃあ……

 「追いかけなきゃ」
 「はいは〜い。いってらっしゃい」

 ミキティーに手を振りかえして、楽屋を出る。
10 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:25
 って、出たはいいけど…。

 「どこ行ったんだろ?」

 とりあえず、テキトーにうろうろしてみる。


 「…っ……ふっ…」

11 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:25
 あー。みっけた。
 簡単に見つかった。
 なんかね。あきらかにアレ、泣いてらっしゃいますよね?

 「り…梨華ちゃん?」
 「…………」

 その、涙目で上目遣いやめて……。
12 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:26
 「何よぅ…」
 「っあ、と。…梨華ちゃん…うちを迎えにきてくれた…んだよね…?」
 「…そうだよ…ばか。よっしぃーのばか」
 「なんっ、何でうちがバカなんだよ?」
 「……だって…」

 こんこんと楽しそうにしてたから、
 わたしにはあんな笑顔してくれないから、って。
 
 梨華ちゃんは消え入りそうな小さな声で言った。


 今、うちの頭ん中は大パニックだ。
13 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:26
 「くやし…ぃ…。わたしだけ、こんな好きで…」

 梨華ちゃんの目からぼろぼろと涙がこぼれていく。

 好きって…? そりゃあ嬉しいけど…。どーゆー…イミで?
14 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:27
 「梨華ちゃん、うちも梨華ちゃんが好きだよ…?」
 「違うもん…。わたしの好きは、そーゆー好きじゃない…」
 「え?」

 日本語って難しい。混乱してきたぞ。
 元々さっきから混乱状態ですけど。
15 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:27
 「わたしの好きは…」

 言って、梨華ちゃんはうちに抱きついてきた。
 うちの背中に回された手は震えてて。
 星の飾りがじゃらじゃら付いたピアスを吊るしている耳は、真っ赤で。
16 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:27

 うん。そうか。分った。理解したよ。
17 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:28
 「……うん。梨華ちゃん、うちも、梨華ちゃんを愛してる」
 「うそ」
 「うそじゃない」
 「だって、さっき…」
 「うん。ごめん…。怖かったんだ」

 怖かった。
18 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:28
 「梨華ちゃんがうちのこと好きって言ってくれて、
  でも、どーゆーイミかわかんなくて……。
  考えないようにしてたんだ。わざと。避けてた。
  ……ほら、やっぱ、同性だし…なんてゆーか……えっと…」


 あぁ。混乱混乱。

 「でも、梨華ちゃんは、ちゃんとうちに気持ちを伝えてくれて……」

 梨華ちゃんも、怖かったよね。
19 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:28

 嫌悪。
 
 軽蔑。
 
 拒絶。
20 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:29

 「ごめんね。梨華ちゃん、つらかったよね? うちが…ちゃんと……」

 うちが逃げてたから。

 「とにかく、うちは梨華ちゃんが好き。
  誰よりも何よりも大切。愛してる」

 梨華ちゃんの肩に手をやって、しっかり目を見て言った。

 「よっしぃぃ〜…」

 くしゃっとゆがむ梨華ちゃんの顔を、両手で覆って、

 「………」
 「……ん」


 キスをした。
21 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:29
 少し顔を離して見つめあう。
 あぁ〜。幸せ。
 怖がることなんてなかった。
 今までぶちぶち一人で悩んでた時間が憎たらしい。

 ごめんね、梨華ちゃん。
 つらい思いをさせた分、いや、それ以上、うちが幸せをあげる。

 梨華ちゃんがもうやめてって言うほど、たくさんの愛を注いじゃうよ。

 たくさん。たくさん。
22 名前:1ミリメートルの壁の向こう 投稿日:2006/02/02(木) 16:30

 おわり。
23 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/02(木) 16:33
メール欄のタイトル間違えた…。


読んでくださった方(もしもいたら)、
本当にありがとうございます。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/02(木) 19:00
素晴らしいいしよしでございました
続きが読みたいけど短篇の味わい深さが…
というジレンマw
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/02(木) 22:52
いしよし、良かったです!
でも、欲を言えば「よっしぃー」ではなく「よっすぃー」にして欲しかったです
26 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/03(金) 16:31
>>24 名無飼育さま

 ありがとうございます。恐縮でございます。
 長編はもう少し力をつけてから。。。書ければいいなと。

 しばらくはジレンマジレンマなことになりそうです。w


>>25 名無飼育さま

 申し訳ありません。
 うっかりミスでは済まないような大失敗を…。
 一からアルファベット勉強してきます。。。
 ご指摘ありがとうございました。

 これからも「良かった」と言っていただけるように
 がんばります。
27 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/03(金) 16:31

では、更新いきます。

今回は前回のその後で、マイナーな
みきさゆ(藤道?)です。
28 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:32
 「いや〜、やぁっとくっついたか」
 「おつかれさまですっ、ふじもとさん」

 梨華ちゃんが楽屋を飛び出してっちゃって、
 うじうじしてたよっちゃんの背中を押してやった直後。
 一仕事終えた美貴の背中に『なにか』が飛びついてきた。
29 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:34
 「あ〜、なんだろ。肩が重い。憑かれたかな?」
 「あら。疲れちゃったんですか? じゃあ、さゆがマッサージします!」
 「ベタなボケしてんじゃねぇよ…」


 美貴が入り口のところから奥にあるソファーに移動するまで、
 道重ちゃんは大してこってもない肩を叩いてくれた。
 初めてだよ、歩きながら肩叩きされたの。

 「はぁ。ほんと時間かかったなぁ」
 「よしざわさんですか?」
30 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:34
 美貴がソファーにふんぞり返ってからも
 道重ちゃんはそのまま肩を叩き続けてくれてる。
 せっかくだから彼女がやめるまで叩かれ続けてよう。
 結構うまいし。

 道重ちゃん、マッサージ師としてやってけるよ。



 「うん。なんつぅかさぁ、もうじれったくて。ついおせっかいしちゃったよ」
 「え? あの二人って、付き合ってなかったんですかぁ?」
 「うん。よっちゃんが究極に鈍いんだよね。梨華ちゃんがかわいそうだった」

 「…ふぅん」

 呟いて、道重ちゃんは手を止めた。
 あれ。もう終わりか。残念。

31 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:35
 「よしざわさんって、そんなに鈍いんですか…」
 「鈍いじゃんか。見ててわかるでしょ?」
 「じゃあ…」

 道重ちゃんが美貴の正面に回りこんで来て、床にすとん、と座る。

 「じゃあ、ふじもとさんは?」

 組んでいた足を無理やり解かれて、
 美貴の両膝に道重ちゃんの両手が乗っかった。
32 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:35

  『じゃあ、ふじもとさんは?』
33 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:36
 え? イミわかんない。

 「はぁ? 美貴? なんでいきなり美貴の話になるのさ? 
  ってか、美貴はよっちゃんほど鈍くないし」
 「そうかなぁ?」

 なんだこのうさちゃん女。
 美貴とバトルしたいのか。


 「ねぇ、何、さっきから。何言いたいの?」
 「えっとぉ〜、ふじもとさんはぁ、よしざわさんよりもぉ、
  もっともぉっと鈍いなぁって」

 プッツン。
34 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:36
 「あぁ!? このアタシのどこが超ド級にぶちんバカだってぇ!?」
 「そこまで言ってないですけどぉ。あ、でもそっか」
 「てめ、その舌ぶっこ抜いてドブ川に捨ててやろうか」

 今のテンションならホントにヤッちゃうゾ☆
35 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:37
 「だって、ふじもとさん、全然気づいてないんだもん」
 「なにがっ?」
 「さゆがふじもとさんのこと大好きだってコト」
 「………………………」


 美貴の思考が止まるついでに楽屋の空気も止まった。


 「は……い?」
36 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:38
 「だからぁ、さゆがふじもとさんのこと大好きなんです。
  世界でいちばんカワイイのはさゆだけど、
  そのさゆが世界でいちばん愛してるのはふじもとさんなんです」


 何言ってんの? この子。
37 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:38
 「ば…なに…何? はぁ?」
 「ほらぁ。ふじもとさんの方が鈍かった」

 え…ちょっと待って。
 何? 何コレ?


 って、かなりショック受けてたら、
 道重ちゃんが立ち上がって美貴をまたいでソファーに立ち膝をした。

 ちょ…身動きとれないんですけど。
38 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:38
 「ちょっとアンタ何してんの…イミわかんないって」
 「だから、さゆが『おせっかい』します」

 美貴の首に巻きついて、美貴の肩を叩いて、
 さっきまで美貴の膝に乗っていた小さな手が、今は美貴の頬を包んでる。
 
 美貴は、胸のあたりでがっちり組んだ腕を解くタイミングがつかめない。
39 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:39
 「…………」
 「…!」


 重なる。
 呼吸が止まる。思考が止まる。


 「…奪っちゃった」
 「『ちゃった』じゃねぇだろ!」
 「わかりましたかぁ?」

 幼稚園児に『あいうえお』を教えるように言う。
40 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:39
 いや、これはそんなに簡単な問題じゃないだろ…。

 そりゃ…まぁ、道重ちゃんの気持ちはわかったけど…。


 「おへんじは?」
 「お…おう」
 「…それだけですか?」
 「そ、『それだけ』って…」
 「さゆみのこと、どう思います?」

 はぐらかしてごまかしちゃおう作戦失敗…。
41 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:39
 一瞬にして美貴の全てになった道重ちゃん。
 でも、これはだたのきっかけでしかなくて…もっと前から美貴は…。


 「あぁ…」

 きっと、このタイミング。


 解いた腕をすぐ側にある、細い腰に回す。

 重なる。もう一度。

 美貴も道重ちゃんが大好きだよ。世界で一番、愛してる。
 伝わってるかな?
 腰に回した手から。重ねた唇から…。
 美貴が伝えてるんだもん。伝わってるよね。
42 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:40
 「って、こんなとこ(楽屋)でなにしてんのミキティーーー!!??」
 「うわ…ふたりともダイタンだねぇ…」

 楽屋に今までよりも仲良くなったよっちゃんと梨華ちゃんが戻ってきた。


 あ…忘れてた…。ここ、娘。の楽屋だよ…。
 しかもオールメンバー全員集合だよ…。
43 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:40
 「あ…あははー…」

 誰かが言ってた。
 こーゆー時は、笑ってごまかせって。
44 名前:人の振り見て… 投稿日:2006/02/03(金) 16:41

 おわり。
45 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/03(金) 16:43
さゆはイカツイ人と相性がいいなぁ、と思いました今日この頃。

読んでくださった方、本当にありがとうございました。
46 名前:初心者 投稿日:2006/02/03(金) 18:36
みきさゆとっても良かったです
ストレートなさゆと軽ヤンっぽいけど優しいミキティが素敵です
あと自分も>>45で言ってるとうりだなぁと思います
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/03(金) 18:45
いかつい人がさゆのペースにまきこまれる感じがすきですw
48 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/05(日) 16:40
>>46 初心者さま

 ありがとうございます。
 ふたりの正反対でハチャメチャだけどふんわり
 を目指しました。

 共感していただけて嬉しいです!


>>47 名無飼育さま

 ありがとうございます。
 自分の世界にミキティーを引きずり込むさゆパワー大発揮しました。
 ある意味、彼女は最強です。
 
49 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/05(日) 16:42
 では、更新いきます。

 今回は、ぽんれなで、甘くなればいいな…と。
50 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:43

【こんな休日の過ごし方】
51 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:43
 「ぽんちゃん」
 「ん?」


 振り向くと、れいなのアップ。

 あれ?

 って、気付いたのは、
少し離れた位置でれいなのあのネコみたいなイタズラっぽい笑顔を見てから。

 あ、私今ふい打ちでキスされたって。
52 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:43
 「ちょッ、え、え?」
 「あはっ! パニック起こしとー。ぽんちゃん、ばりあいらしかー!」
 「うわっわっ」

 もう、れいなが突然抱きついてきたのと、
 何言ってるか一瞬理解できなかったのと、
今野菜切ってて包丁持ってるんですけどー! 

って、一気に色んなことが起こった。
53 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:44
 「危ない! 危ないよ、れいな!」
 「あ、ケガしなかったと?」

 ぱっと離れて私の左手をとる。
 わ。れいなの手あったかい。
 私の手が冷たいのか。

 「それは大丈夫だけど」
 「なぁんだ」
 「な…「なんだ」って…」

 指切ったほうがよかったの??
 意味わかんないよ。
 わざわざこんなときにちょっかいかけてきて、もぅ。
54 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:44
 「…ハンバーグ食べたいから作ってって言ったのだれだっけ?」
 「はーい」

 元気よくお返事してくれたれいなちゃん。
 (手を上げるジェスチャー付で)

 「じゃあ、ジャマしないで待ってて」

 向こうでって言う風に私はリビングを指さした。

 「えー。ばってんヒマったい」
 「テレビ見てれば?」
 「なんもやってなかと」
 「じゃあ、手伝って」
 「それはイヤったい」
55 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:45
 わがままだなぁ。

 でも、こんなれいながかわいいなって思える私は
 もう取り返しのつかないれいな病。


 「だから私のジャマするの?」
 「れいながいつジャマしたと?」
 「もー!」
 「あはははっ!」
56 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:45


 こんな風にれいなが私の周りをうろうろしてたから
 余計に時間がかかった、お昼ごはん。

 二人、落ち着いて食卓につけたのは
 私が料理を始めてから約2時間が経っていた。


 ハンバーグとサラダしか作ってないのに…。


 「じゃ、ぽんちゃん」

 れいなが胸のあたりで手を合わせる。

 「あ、はいはい」

 号令係は私だね。

 「せーのっ」
 「「いただきまーす!」」
57 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:46
 私はフォークを持ったまま、れいなの様子をうかがう。

 ハンバーグを器用に一口大に切り分けて、食べる。
 どうだろう…。
 ちゃんと中まで火通ってたかな?
 味おかしくないかな?

 「…そないじっと見んでも」
 「あ、ごめん」
 「うまかよ」
 「へっ? あ、え? ホント?」
 「ん〜。ばりうまか」

 わ。すごくうれしい!
 私は食べるの専門だからちょっと自信なかったんだよね。
58 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:46
 「ばってん、たまねぎ入ってないけん、チョコットものたりん」
 「う。だって、キライなんだもん。
  …それに、あんなの入ってても入ってなくても変わんないでしょ」

 「自称食通がなんば言うと! テレビの前の
  『ぽんちゃんがおいしそうに何かを食べる姿をあたたかく見守ろうの会』
  の人たちに申し訳ないっちゃが」

 「なんだよそれ。……そんなにたまねぎ入りのハンバーグ食べたかったら、
  れいなが作ればよかったじゃん」


 なんて。
 ちょっと怒ったフリしてみたり。
59 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:46

 「え、や…、え…?」

 あぁ。
 れいな、あせってる、あせってる。

 「え? ぽんちゃん、もしかして怒って…」
 「…………」

 『私は今怒ってます』オーラを全面に出す。


 「あ〜、ちょ、れいなそげん怒らるうこと言ったと?」
 「さぁね」
 「ぐぁ〜、…ばってん」


 デビューから約2cm伸びた身長だけど、
 まだまだ小さいれいなが更に小さく、体育座りで縮こまった。
60 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:47
 「ん?」
 「あ…いや…」
 「なに?」
 「……ばっ…れいなは、ぽんちゃんの作った料理が、たべ…」


 私の機嫌をうかがうように、ちょっと拗ねた上目遣い。

 それに弱いって、わかっててやってるの?

 最後のほうは声が小さくて聞き取りにくかったけど、
 私の耳はちゃんと聞き取ってました。
61 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:49
 「そっかそっか」

 「え? もう怒ってないと?」

 「うん。だって、れいなが「ばりうまか」
って言ってくれたからそれでいいの」

 「なん…! 心配ばしてそんけした!」


 れいなは、ため息をつきながらわかりやすく脱力した。
 でも、今の博多弁は早口でよく聞き取れなかった。
 雰囲気で言いたいことはわかるけど…。
62 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:50
 「なに?」
 「心配をして損をいたしました!」
 「あはは…」
 「もーいーから、ぽんちゃんも早く食べり〜」
 「あっ! 命令したな」
 「…そげんことばっかし分かりんしゃる」
 「何年れいなの博多弁聞いとると思っとると?」


 またちょっと拗ね始めたれいなが、私の言葉に目を丸くした。

 それから、にっこり笑う。
63 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:50
 「ばってん、まだチョコットぎこちないっちゃが」
 「あはは…だって私、道産子だもん」
 「わかさいも〜」
 「あれ? よく知ってるね」
 「いや、前にぽんちゃんが…って、そんなことより冷めてしまうったい」
 「あ。じゃあ、改めていただきます」


 こうやって二人でいるとね、れいなの色んな顔が見れてすごく楽しい。

 それを全部独り占めできるなんて、なんて贅沢。
64 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:51
 例えば今みたいに、ごはんを一緒に食べるとき。
 ゆっくりな私のペースに合わせてくれる、
 見逃してしまいそうなくらいさりげない気配りとか。


 なんだかんだ文句をつけて料理中はジャマばっかりしたくせに、
 後片付けは進んで黙々とやるところとか。


 怒ったり、拗ねたり、ニヤニヤしたり、大きく笑ったり…。

 ぜんぶだいすき。れいな。
65 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:51

 なんか、私だけ好き過ぎてないかな?


 ときどきちょっと不安になるけど、
 いつも私に見せてくれる笑顔はトクベツだって。
 こんなにわがまま言いたい放題なのも、私にだけだよねって。

 少し、うぬぼれさせて。
66 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:52
 「あ〜、食器洗い終わったと」

 れいなが対面式のキッチンから出てきて、
 ソファーに座っていた私の隣に重力に無抵抗で座った。
 そーゆー雑っぽいことするから、「元ヤン」とか言われるんだよ。

 「ごくろうさま」
 「ん」

 こつん、と肩にかすかな重み。
 あ、ちょっと。
 この体勢もしかして。
67 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:52
 「ちょ、れいな寝るの?」
 「ん〜。昼寝たい」
 「えー! だめだめ。食べてすぐ寝ちゃだめだよ」

 ぐらぐら揺すっても、れいなは私の肩から頭をよけない。
 私たちアイドルなんだから〜。


 「…すぐ起きるっちゃが」
 「んー。…じゃあ、少しだけね。熟睡禁止」
 「はいはい」
68 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:53

 なんだか小さな子どもみたい。
 本能の赴くままってゆーか。


 「……あ」
 「え? なに?」
 「晩ごはんは焼肉がいいたい。ぽんちゃん、よろ」
 「え! ちょっと、れいな! それまで寝る気でしょ!」
 「もうれいなは寝たと。なぁんも聞こえん」


 起きてるでしょ、確実に。
 しかも、焼肉って料理のうちに入んない…と思うし、またお肉?
 今、ハンバーグ食べたばっかなのに。
69 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:53

 もぅ。


 だけど、れいな病末期の私は、れいながもう一回起きて
 「やっぱ、膝枕のほうがいいたい」って言い出すのを待ってしまうのです。
70 名前:こんな休日の過ごし方 投稿日:2006/02/05(日) 16:54

  おわり。
71 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/05(日) 16:58
 すみません。
 博多弁はがんばって勉強中です。。。

 63のれいなの北海道ネタは…わかる方だけ…
 やっぱり食べ物繋がりです。w


 読んでくださった方、本当にありがとうございました。

 
72 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/09(木) 19:32
最近は少し忙しくて更新できませんでした。
すみません。

今回は高紺でアンリアル。
時期はずれな夏休みの話です。

今までより少しだけ長めなのをがんばってみました。
73 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:33
 夏休みが始まったばかりのある日。
 ひとつ年上の幼馴染から、待ちわびたメールが届いた。

 『今、なにしてる? ヒマなら遊ぼう』

 お昼過ぎ。
 私は宿題をする手を止めて、すぐにそのメールに返信した。
74 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:33


   ―1話― 
   こいのうた


75 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:34
 「私、ずっと待ってたんだけどな」
 「そんなん…ずっとって…。まだ夏休み始まって4日目だよ?」

 いつものように私を家まで迎えに来てくれた愛ちゃんが、
私の抗議に少し慌てる。

 これは、私の悪いクセ。
 あなたをわざと困らせる。


 「でも、全然メールくれなかったし」

 私は不貞腐れて先を歩き出す。
 だけど、あなたはこんな私の扱いがとても上手だから。
76 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:34
 「宿題をバシッとやってもらおうかと思って。
だから、これからは遊びまくろ。なっ!」

 そう。
 そのくしゃっとした笑顔。
 だから、私は。
 すぐに許してしまう。

 もっと、困った顔が見たかったけど、今日はおしまい。


 「うん」
 「よし! さて〜、今日はどこ行こっかなぁ」
77 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:35
 行き先を決めずに歩き出すのも、いつものこと。

 小さな田舎町だから、若い人が遊ぶところなんて歩いていける範囲にはない。
 道は、町から少しでも外れたら舗装されていない。
 高い建物なんかまるでなくて。

 緑ばかりが目立つ、夏の町。

 こうしてのんびり歩いているうちに一日が終わってしまうこともあるけど。
 遊ぶ場所がなくても、靴が泥で汚れても。
 隣にいるのがあなただから。
 私は、私とあなたが生まれ育ったこの町を、心から愛せる。
78 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:35
 他愛ない会話を交わしながら歩いていると、やがて着いたのは町外れの神社。
 古びた鳥居と、長くて狭い階段。
 左右に茂る草木の濃い影が落ちていて、涼しげ。

 「ふふっ…」
 「ん? なしたん?」
 「んーん。なんか私たち、毎年ここに来るなぁって。」

 ここは、夏の思い出が強く残る場所。
 私の記憶ではもう、一番最初にここで遊んだ記憶は残っていない。
 それほど昔から夏には愛ちゃんと二人でここに来ている。

 もちろん、夏以外の季節にも来るけど。
79 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:35
 「もう習慣みたいなもんやしね」
 「無意識に歩くと、ここ来ちゃうよね」
 「……よーいドン!」
 「え? えっ?」

 いきなり愛ちゃんが階段をすごい勢いで駆け上がって行った。

 なに? 競争ってこと?
 えぇー!?

 「ちょっ! 待って! ずるいよー!」
80 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:36
 結局、後半の方で二人とも疲れちゃって。
 ゴールはゆっくり、二人いっしょにした。

 「はぁ〜! 疲れたー!」
 「愛ちゃんが悪いんでしょ?」
 「あ〜…、そっか」

 少年のような無邪気な笑顔。
 伝う汗がきらきらしてて、まるでドラマのワンシーンみたいだった。


 なんて、なんて綺麗なんだろう。
81 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:36
 ねぇ。私は知っているのに。

 その笑顔。
 私といるときにしかしないよね。


 家を出るときの私に困った顔。
 その顔になるのは、私のせいだけだよね。
82 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:36
 私はいとも簡単に、あなたの表情を変えさせることができるのに。


 怖くて言い出せないのは、あなたも同じ?
83 名前:1話 こいのうた 投稿日:2006/02/09(木) 19:37
    ―1話― 
    こいのうた   
        
        おわり。
84 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:43

   ―2話― 
   積み木遊び

85 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:43
 「小学生くらいのときは、よくここでかくれんぼしたなぁ」

 大分、汗も引いてきたころ。
 お賽銭箱の前の階段に座っていた愛ちゃんがふと立ち上がって、歩き出した。
 隣に座っていた私もその後を追った。

 「この木のとこで鬼が数を数えて」
 「ま、いっつもあたしが鬼やらされてたけど」
 「違うよ。愛ちゃんがやってやるって言ったんだよ」
 「そぉだっけ?」
 「そぉです」
86 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:43
 なんていう木か分からないけど、この神社で一番大きな木。
 ごつごつした木肌は、ひんやり冷たくて。
 私と愛ちゃんは腕をいっぱい広げて、その木に抱きついた。

 「で。やたらあさ美ちゃんは隠れるのがうまくて」
 「でも、愛ちゃんはどんなに時間がかかっても私を見つけてくれたよね」
 「あ、思い出した。お祭りのときだ」
 「う…ちょっとイヤな思い出かも」
 「なにー! ええ思い出やざ!」
87 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:44
 昔、本当に私たちが小さいころ。
 お祭りで賑わう中、一度だけかくれんぼをしたことがあった。
 二人とも親に内緒で始めたから、ちょっとした大騒ぎ。

 いつもとは違うお祭りの雰囲気が、ひとりきりだとすごく怖くて…。

 まるで、私だけが静かな境内に取り残されてしまったような。

 お祭りの賑やかな世界と、私ひとりだけの世界とが、
 ばっさり遮断されてしまったような。
88 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:56

 底の無い恐怖。

 声も出なくて。
 涙も出なくて。
 ただ、立ち尽くすことしか出来ない。
 幼かった私。
89 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:56
 だけど。
 私を追いかけてくる鬼は、やっぱりちゃんと来てくれた。


   『あさみ、みぃつけたっ』


 そうして笑いかけてくれたから。
 私を見つけてくれるのは、あなただけだと。
 今でも信じて揺るがない。
90 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:56

 「う〜ん、ま、そうかもね…って、愛ちゃんまた福井弁でてたよ」
 「あ…気ぃ抜いたら出てしまう…」
 「私は好きだけどね」
 「そ?」
 「うん。だって愛ちゃんのお父さんの故郷の言葉だもん」
 「あさ美ちゃんはおもしぇ趣味だね」

 ねぇ。

 いつからだったかな?
 愛ちゃんが私を「ちゃん」付けで呼ぶようになったのって。

 私、それいやだな。
 なんか、距離感じちゃうよ。
91 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:57
 「変な趣味だもーん」
 「お。なかなかうらの言葉もわかってきたか」
 「何年福井弁聞いてると思ってるの?」
 「それもそうか」

 言って、愛ちゃんはいきなり右腕で目を覆って木に伏せた。
 かくれんぼで鬼が数を数えるときの、あの体勢だ。

 「いーち、にーぃ、さー」
 「え? 愛ちゃん?」
92 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:57
 「かくれんぼしよ」

 目を隠したまま言う。

 「え、ちょっ」
 「よーん、ごー」

 有無を言わせない。
 もぅ、いっつも突然で強引なんだから。

 こういう愛ちゃんが子どもっぽくなるとき、
 ほんとに私よりも年上だったか忘れてしまいそうになる。


 でも。
 甘えてくれてるのかなって。
 私はいつも、それを嬉しく思う。
93 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:58

 って、ぼーっとしてられない。

 隠れなきゃ!
94 名前:2話 積み木遊び 投稿日:2006/02/09(木) 19:58

    ―2話― 
    積み木遊び   
        
        おわり。
95 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/09(木) 20:01
タイトルはBGMにいいかな、と思いまして。

『こいのうた』はGO!GO!7188
『積み木遊び』は椎名林檎です。


読んでくださった方、
本当にありがとうございました。
96 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/10(金) 22:50

 昨日の高紺の続きです。
97 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:51

―3話― 
ああ青春
98 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:51
 「もーいーかい?」
 「もーいーよっ!」

 お決まりの掛け声の後、愛ちゃんが動き始める気配。
 小さいころを思い出す。
 なんか、結構どきどきしてきちゃった…。


 「あ〜、あさ美ちゃんどこだろなぁ?」

 私が答えるわけないのに。
 つい、声を出して笑ってしまいそうになる。
99 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:51
 「よいしょっと」

 え?

 すぐ近くで声が聞こえた。

 なんだ。
 もう見つかっちゃったのか…。

 「久しぶりだなぁ、あさ美ちゃんとかくれんぼしたの」
100 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:52
 あれ?
 私はもう見つかったはずなのに。
 愛ちゃんはまるで独り言のように言った。

 「あさ美ちゃんは覚えてるかなぁ? 
  あたし達が、いつからここでかくれんぼしなくなったか」

 声は、私の真後ろから聞こえる。
 ってことは、私たちはお賽銭箱を挟んで背中合わせの格好…?


 私は突然の愛ちゃんの行動が理解できない。
101 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:52
 びっくりして。
 混乱して。
 ただ、黙って愛ちゃんの独り言を聞く。

 「あたしの記憶が合ってれば、たしか…あのお祭りの日から」


 何? 何だろう?
 愛ちゃん、何がしたいの?


 「あれからあさ美ちゃんは怖がって、
  フツウの日の昼間でも、ここでかくれんぼすることを嫌がった」
102 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:52

 あぁ、そうだ。
 私は、この場所が怖くて。

 だけど。

 「だけど、今日はできた」


 どうしたの? 愛ちゃん。
 私は未だ、声を出せない。

 鬼に、見つけられてないから。
103 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:53
 「ちょっと、賭けだったんだ」

 何の?

 「あたしを信じて、あたしにあさ美ちゃんを探させてくれるか」

 私はずっと信じてたよ?
 ずっと、ずっと。

 でも。
 ああ。

 伝わってなかったんだね。
104 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:53
 かくれんぼを嫌がった私。
 きっと、裏切られた…と、思ってたんだね。

 「あたしは…、あさ美ちゃんを探して、見つけるのはあたしだけ!」

 ごめんなさい。
 あなたが私を呼び捨てなくなったのも、あの日から。


 あなたと私の距離を作ったのは、私だった。
105 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:54

 「じゃぁ…」

 小さく、声帯を使わないで呟く。
 鬼にヒントを与えるくらい、いいよね。

 「じゃぁ…はやく見つけて…」
 「!!」

 鬼が、お賽銭箱の向こう側から身を乗り出してきた。

 「あっ、あさ美! みぃつけたっ!」


 愛ちゃんのくしゃくしゃの笑顔は、頬が赤く染まっていて。
 私の心に、もう、どうしようもないくらい幸せが溢れてきた。
106 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:54

 この笑顔で私の側にいてくれるのなら。
 離れてしまっても、すぐに見つけてくれるのなら。


 私は他の何に代えても、あなたの笑顔を守ってみせる。
107 名前:3話 ああ青春 投稿日:2006/02/10(金) 22:54

  ―3話― 
  あぁ青春

      おわり。
108 名前:最終話 涙が止まらない放課後 投稿日:2006/02/10(金) 22:55

    ―最終話― 
  涙が止まらない放課後
109 名前:最終話 涙が止まらない放課後 投稿日:2006/02/10(金) 22:56
 「さっきさ」
 「ん?」

 遊び終えた私たちは、来るときに駆け上がった
 (最後は歩いたけど)長くて狭い石段をゆっくり下っていた。

 少し暑いけど、手を繋いで。


 「ここに来たとき。あさ美、
  無意識に歩いてたら来ちゃったね、みたいなこと言ってたでしょ?」

 「あ…あぁ、うん。言ったかも」

 「あれ、ホントは無意識じゃないんだよね」

 「へ?」
110 名前:最終話 涙が止まらない放課後 投稿日:2006/02/10(金) 22:56
 私が愛ちゃんの顔を覗き込むと、あからさまに目をそらされた。

 ん??


 「や。だから…最初から、今日…その…ちゃんと言うつもりで…」

 愛ちゃん。力いっぱい向こう向いてるけど、
 真っ赤な耳が丸見えだから意味無いよ?


 「…って、あー! もしかして、いきなり階段かけあがったのって…」
 「うあ。…うん。上がったらこっちのもんだーって…思って」
 「もぅ…なにそれ」
111 名前:最終話 涙が止まらない放課後 投稿日:2006/02/10(金) 22:56

 ほんと…、なんていうか…どうしようもない。
 でも、だから気になっちゃって。
 私がもう何年もこのひとの側に居る、居られる理由のひとつかな。

 「…あ。…ねぇ。私、もうひとつ分かっちゃった」
 「?」

 あ。やっとこっちを見てくれた。
112 名前:最終話 涙が止まらない放課後 投稿日:2006/02/10(金) 22:57
 「夏休み入ってからメールくれなかったのも、
  ずっと悩んでたからなんでしょう?」

 「…………………えすぱー?」

 「そうかも。愛ちゃん限定の」

 「う…それ、カナリうれしい」

 「そん…わざわざ言わないでよ、恥ずかしい」

 「へへ〜」


 あぁ、もう、うわぁ。どうしよう。
 すごくすごく、幸せ!
113 名前:最終話 涙が止まらない放課後 投稿日:2006/02/10(金) 22:57
 「あ、あと恥ずかしいついでに」
 「え、な…何?」
 「あたしのことも呼び捨てで呼んでくれたら…なぁ…って」

 繋いだ手から、少し緊張が伝わってくる。
 変なとこで消極的なんだから…。

 「…ええよ」

 緊張が移っちゃって、照れ隠しについ福井弁。

 「あ、愛」
 「あー! ひっでぇうれしい! あさ美大好き!」
 「そんな、声ひっくりかえるほど叫ばなくても〜」
114 名前:最終話 涙が止まらない放課後 投稿日:2006/02/10(金) 22:57
 どうしよう。
 涙が出てきそう。

 そして、止まらなくなりそう。

 幸せが、過ぎるから。
115 名前:最終話 涙が止まらない放課後 投稿日:2006/02/10(金) 22:58

    ―最終話― 
  涙が止まらない放課後

           おわり。
116 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/10(金) 22:59
 これでこの話は完結です。
 これからシリーズ化にしたいと思いますが…
 思っただけで終わりそう…。

 なにか思いついたら書いていきます。


 読んでくださった方、本当にありがとうございました。
117 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/11(土) 01:21
やわらかい雰囲気でいいですね
何か思いつくことを期待していますw
118 名前:名無し飼育 投稿日:2006/02/11(土) 02:49
ほのぼの高紺良いですね。
何か昔遊んでた時を思い出しちゃいました(w
119 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/11(土) 20:19
>>117 名無飼育さま

 ありがとうございます。
 今、頭の中で夏休みシリーズのベタなやつwを
 書いています。
 ご期待にそえるかどうか分かりませんが…


>>118 名無飼育さま

 ありがとうございます。
 そう言っていただけて本望です。
 私のこのふたりのイメージは
 こんな感じのほのぼのだなぁと思いまして。
120 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/11(土) 20:19

 今回は雰囲気をがらりと変えて
 カプは王道で、ファンタジーっぽいものです。
121 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:20
 
 また、此の季節が来た。
 然して、思い出すのは、彼女の笑顔ばかり・・・。
122 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:20


   此岸の果実

123 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:21
 「あ、吉澤さん。おはようございます」
 「…おはよう。珍しいね、こんな朝早く」

 まだ日も昇って間もない早朝。
 開店まで5時間以上もあるというのに、庭で絵里に会った。

 小さな町の薬屋を営んでいる私は
 いつもなら当然寝ている時間で。

 従業員として働いてくれている絵里は
 いつもこんなに早く起きているのだろうか。
124 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:22
 「吉澤さんこそ。
  何所かにお出掛けになられていたのですか? 
  …それは?」

 一つ目の質問に答える前に
 絵里の視線が私の手元に集中した。

 此の籠の事に答えれば、
 二つの質問に同時に答えることが出来る。


 「…木苺。裏の森の」
 「それを、採りに? そんなに御好きでしたっけ?」

 怪訝な顔で、また質問。

 厭な質問。
125 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:22

 「…いいや」

 「え?」

 「好きじゃないよ、木苺なんて。……大嫌い」
126 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:23


   *     *     *

127 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:23
 彼女は、何のことはない普通の。
 私にとっては『只の客』でしかなかった存在。


 「睡眠薬を、頂きたいのです」


 華奢な身体。
 少々覚束ない足取りで、貴女は私の店に来た。
128 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:23
 「眠れないの?」
 「はい…」
 「どのくらい?」
 「今日で3日になります」
 「医者へは?」
 「行っておりません」

 処方箋が有ったほうが楽なのに…。

 私は簡単な診察と、詳しい事情などを聞き、
 とりあえず気休め程度の物を渡した。
129 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:24
 「これは今日の分。1日分しか出さないからね。
  そんなに深刻な睡眠障害ではないから大丈夫。
  でも、一応医者へは行ったほうが善い。
  紹介状を書いてあげるから、そこで少し待っていて」

 「ありがとうございます」


 薬を手渡すと、貴女は私に初めて笑顔を見せた。

 少しやつれた笑顔だったけれど、
 其の時、私は何故だかひどく安堵したのを覚えている。
130 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:24


   *     *     *

131 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:25
 そして、翌日。
 貴女は私が紹介した病院の処方箋を持って、再び店に来た。

 「こんにちは」
 「…あぁ。此の前の」
 「はい」
 「調子は如何?」
 「ええ、いつもより睡眠が取れましたわ。
  …それで、此の薬を頂きたいのですが」


 今度は処方箋通りの薬を調合し、貴女に手渡す。

 貴女はまた、笑顔で受け取る。
132 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:25


   *     *     *

133 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:26
 「こんにちは」
 「…あら? 貴女は…まだ眠れない?」

 数日後、貴女は私の店に来たけれど、
 其の時は『薬を貰いに来た客』ではなかった。


 「いえ。お蔭様で、今はもうすっかり良いですわ。」
 「そう」
 「今日は、そのお礼に参りました」

 言って、貴女は私に小さな籠を差し出した。


 中身は…そう―――
134 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:26
 「…木苺?」

 「はい。近くの森に沢山実っているのです。
  今が一番食べ頃ですわ」

 「そう。わざわざありがとう」

 「いいえ。受け取って頂けて好かった…。
  突き返されたら如何致しましょうかと」

 「そんなこと…。嬉しい。本当に」
135 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:26
 嘘を吐かなければ善かったのだ。
 其の時、「迷惑だ」と明確に示せば善かったのだ。


 私は、木苺なんて嫌いで。

 そして、人間も嫌いで。

 必要最低限の人間関係の中で生活している私にとって、
 貴女のその行為は只、無駄な様な気がして。


 結局、籠一杯に摘まれた木苺は、
 一粒も私の血肉に成ることは無く、静かに腐敗して往った。
136 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:27

 それから、貴女は頻繁に私の元へ木苺を持って来る様になった。

 氷付けにすればある程度保存かきくだとか、
 ジャムにすると色々な料理に使えるだとか、
 だけど、そんな話を私は丁寧に聴いた。

 貴女が、笑顔で喋るから。


 庭の土の下にどんどん増えてゆく木苺は、
 まるで私の心に募る貴女への想いの様だった。
137 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:27


   *     *     *

138 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:27
 「…御嫌いなのに、
  そんなに沢山…摘んで来られたのですか?」

 理解できない、と云う風な顔で絵里が訊く。

 自分でも、此の行動が良く理解できていないのに、
 答えられる筈も無く。

 私は只呆然と、籠一杯の木苺を見つめるしか出来なかった。
139 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:28


   *     *     *

140 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:28
 やがて、冷たく硬くなった地面を雪が覆う頃。

 貴女はぴたりと来店の足を止めた。

 此の寒い時期に、態々出歩くのが億劫に為ったのだろう
 という単純な思考しか浮かばず、
 私は貴女の居ない日々を、静かに流れた。
141 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:28


 其れは、終わらない沈黙。

142 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:29
 貴女がこの世から去ったという知らせを聞いたのは、
 貴女の命日から120日以上経った
 日差しの柔らかい日だった。


 私が貴女に紹介した医者。――覚えている? 
 偶然町で会ったときに何と無く貴女のことが思い浮かんで、
 今如何しているか聞いてみたんだ。


 …いいや、嘘。
143 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:29
 何と無く、などではない。

 如何してか、本当は何時も何時も貴女を想っていた。


 蒼白な顔で私の薬を求めた貴女。
 笑顔で木苺を私に差し出した貴女。

 突然、姿を見せなくなった貴女を。


 貴女の行為を「迷惑」の一言で片付けた私は、
 空に浮かぶ雲の様に何時の間にか形を変えていて。
144 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:30
 其の医者から貴女が眠っている場所も聞いたけれど、
 でも、何だか行く気には為れなくて。


 私は、貴女のお気に入りの森へ行くことにした。


 春の森は、優しく私を受け入れてくれた。

 この静かな木漏れ日が貴女にとても似合っていたのだろうね。


 ―――……如何して私は、貴女と此処に居ないの?
145 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:30
 少し開けた場所に出ると、沢山の木苺の木が私を視た。

 当たり前だけれど、此の季節に果実が生っている筈もなく。

 唯、白い花が咲いているだけで。


 私は何故、此処に居るのだろう。
 何故、此処に来たの?


 お墓参りの心算で?

 だとしたら、とんだ御笑い種。
146 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:30

 「?」

 座り込んで目線が低くなった為に、
 初めて気が付けた違和感。

 目の前に有る木の根元に、
 直径10センチ程の円が奇麗な小石で描かれている。


 未だ少し硬い地面に指を突き刺し、円の中心の土を抉る。
 何も考えてなんていない。

 確定もしていないけれど、貴女に導かれた気がして。
147 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:31
 「…………」

 やがて其れは、私の手中に。

 土塗れの封筒。

 封を切り、中に入っている物を取り出す。


 目が痛くなるような真っ白な紙に、
 群青色の文字が書かれている其れは。

 紛れも無く、貴女が私に遺した意志。
148 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:31


  こんにちは、薬屋さん。

  あなたが此れを読んでくれているということは、
  もう冬は終わったのですね。
  其れとも、もう直ぐ冬が来る頃でしょうか。

  どの季節でも、今よりも未来なのだから、
  状況は同じなのでしょうね。


  御免なさい。


  私はあなたに意地悪をしたまま。
  斯うやって、最期まで。
149 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:31
  本当は気付いていたのです。
  あなたは木苺が嫌いだということ。


  如何しようも出来なくて、
  御店の裏の庭に埋めていたこと。


  私を傷付けない様に、
  黙っていて下さったのですよね。
  一粒も口にしていないとしても、
  それでも、わたしは構わなかったのです。

  私の贈り物を、他の方に差し上げることもせず、
  確かとあなたが嚥下して下さっていたのですもの。
150 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:32
  ですから、
  私はずっとあなたに木苺を送り続けました。


  御免なさい。


  卑屈で醜い私に、
  厭きれてしまわれたでしょう。

  どうか、この手紙は、
  読み返さないで処分してしまって下さい。


  私がこの世の自由を亡くしてしまう前に、
  あなたと御話が出来て善かった。

  私の願いを叶えてくれて、
  ありがとうございました。


  石川 梨華
151 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:32


   *     *     *

152 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:33
 「よ、吉澤さん…?」

 「…何?」

 「あ、いえ…。急に黙り込んでしまったので。
  具合でも悪いのですか?」

 「いいえ。少し、昔のことを思い出していただけ。
  …絵里、其処に在るシャベルを取ってくれる?」

 「え? あ…はい、どうぞ」

 「ありがとう。」

 「…それでは、わたしはそろそろ戻ります。」
153 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:33
 絵里の姿が見えなくなってから、私は地面を掘ってゆく。

 大きく。深く。優しく。


 掘り終えて、摘み立ての木苺を一粒、抓む。

 あの頃、貴女に貰った其れと同じ、
 瑞々しく、紅い実。
154 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:33
 毎年、あの森の木は実を生らす。
 手紙は、其の木の下。

 此れは、貴女の気持ちが詰まった木苺。

 私は、毎年摘みに行くけれど。


 「……やっぱり、食べる気にはならないな」

 指に力を込める。
 いとも簡単に潰れた実と一緒に、
 籠の中身を全て穴の中に落とす。
155 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:34

 私は、今でもちゃんと
 貴女の気持ちを汲んでいる。


 石川梨華。

 貴女が残した、甘い木苺の香りの中で。
156 名前:此岸の果実 投稿日:2006/02/11(土) 20:34


 此岸の果実

    おわり。

157 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/11(土) 20:37
 切ない系を目指してみました。
 たまにはこんなのも。

 タイトルは『この世の果実』という意味です。
 そのまんま…。


 読んでくださった方、
 本当にありがとうございました。
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/12(日) 01:29
更新お疲れ様です。
う〜んせつないですね・・・。
いしよしは甘いのが一番ですけどせつないのも似合うんですよね。
159 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/13(月) 05:32
>>158 名無飼育さま

 ありがとうございます。
 私も極甘ないしよしファンですが、
 ちょっと心を鬼にして…。

 いつかこの反動を爆発させたいと思っていますw
160 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/13(月) 05:33
 では、更新いきます。
 前々回の夏休みシリーズ、高紺の続きを。
161 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:33

  さんぽ道

162 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:34
 夏休みはまだまだ続いていて。

 相変わらず空は綺麗すぎて、まるで作り物のような青。
 容赦のない太陽。
 遠くでゆらめく白い雲。

 時折、草の匂いが網戸から吹き込んでくる。
 そんな夏の一日の中で、一番暑い午後。

 今日もまた愛から誘いのメールが届き、
 私の家でまったりすることになったのだが、
163 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:34

 『今、あさ美は何してたん?』
 『宿題だよ』
 『相変わらず真面目やね』
 『愛、絶対なにもしてないでしょ』
 『ふっふっふっ。よくぞ見破ったのう』
 『じゃあ、今日は私の家に勉強道具を持ってくること』
 『ぅえ! まさか……』

164 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:35

 というわけで。
 ステレオから小さく流れるポップスと、止まない蝉時雨を聞きながら
 私たちは学生らしく夏休みの宿題なんかをやっていた。


 「あぁ〜あたしはもうだめだぁ〜」

 始めてから約1時間が過ぎたころ。
 大きな降参の声を発しながら、
 愛は英語のプリントを放り投げて、後ろに倒れこんだ。

 私は驚いて頭の中の数式がとんでしまい、
 おまけに書いていた字も大きく歪んでしまった。

165 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:35
 「もう少しなんじゃないの?」
 「その『もう少し』がとてつもなく嫌なんよぉ」
 「も〜。愛は私より宿題多いんだからがんばんなきゃ」

 さっきの衝撃で歪んでしまった字を消しゴムで消しながら言う。
 あ、余計なとこも消しちゃった…。


 「暑いので脳みそが溶けてしまいました」
 「んー。(しょうがないな)じゃ、ちょっと休憩する?」
 「うん!」

 勢いよく起き上がって満面の笑み。
 脳みそ溶けてる割に結構元気じゃない。

166 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:36
 「なんか飲み物…って、切れてるんだった」
 「あ、そしたら散歩がてら買いに行こ」
 「愛、暑くて降参したんじゃなかったの?」

 外はもっと暑いんだからね。

 「気分転換!」
 「そんな方向に転換したくないよぅ」
 「あたしはあさ美とおさんぽしたいな〜」

 愛が私の後ろまで移動してきてのしかかるように抱きついてきた。
 まるで犬みたい。

 「もぅ…。じゃ、行こっか」
 「よし!」

167 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:36


 玄関の向こうは別世界。
 上からは直射日光。
 下からはコンクリートの熱でくらくらする。


 だけど、
 愛はそんな暑さをものともせずに私の数歩先まで小走りで進んだ。

 「あさ美はホント暑いの弱いね」
 「今更だよ…。もー、愛ー、歩くのはや〜い」

 って、あれ?

 「ねぇ、愛」

 私は数歩の距離を縮めて愛の腕をとった。

168 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:36
 「ん? あさ美、腕なんて組んだら余計暑く
  …あぁ、まぁそんなあさ美がかわい――」

 「ちが! いや、そうでもないけど。…じゃなくて!」

 「んん?」

 「あれ。あそこ歩いてるのって…れいなじゃない?」


 数メートル先を指さして言う。
 遠目でよくわからないけど、
 あの身長であの派手な髪型はきっとれいなだ。

169 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:37

 れいなは私と同じ部活に所属する1年生の後輩で、
 人懐っこい猫みたいな感じがかわいらしい。

 こんなこと愛に言ったらうるさく嫉妬するんだろうな。
 きっと私もそうだけど。


 「あ〜。ホントだ。制服なんか着て…部活かの?」
 「え? でも、今日は休みだったと思うよ」
 「吹奏楽じゃなくて、ジャズ研の方とか」
 「あぁ。そーかも」

 ジャズ研。
 そういえば、友達に人数合わせで入れられたって言ってた気がする。
 れいなは強く人から頼まれると断れないんだよね。

170 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:37

 「って、なんで愛はれいながジャズ研入ったって知ってるの?」
 「亜弥ちゃん情報」
 「え? なんでそこで亜弥ちゃんが出てくるの?」

 亜弥ちゃんっていうのは、愛と仲がいいクラスメイトの一人だ。
 れいなと亜弥ちゃんを繋ぐ関係って?

 「妹のさゆがれいなを呼び込んだ張本人らしいんよ」
 「あぁ。なるほど」


 納得。
 そっか。れいな、さゆにお願いされちゃったか。
 あの姉妹の勢いはすごいもんね。

 いつだったか廊下でどっちがかわいいか
 なんて喧嘩(?)してたこともあったし。

171 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:38


 「なんかやけに聞きたがるね」
 「え?」
 「そんなに気になる? 後輩ちゃんのこと」


 あ。やきもちだ。


 「そりゃあ、かわいい後輩のことですから」
 「な…」
 「あ、コンビニ着いたよ。暑いからアイス買っちゃお」
 「え…あ、あさ美…」

172 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:38


 ごめんね。
 やきもちを焼いてくれるあなたがかわいくて。
 いとしくて。

 ほんのちょこっとだけ、いじわるしたくなったの。

 本当はいけないことだけど。
 でもそれは、今まで私がどんなにわがままを言っても、
 私の側に居続けてくれたあなたへの信頼の証。

 一応、自覚はしているの。
 歪んでいる、傲慢な私を。

173 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:38
 だけど、文字のように消してしまおうとしたら、
 きっと余計な部分まで消してしまう。

 宿題のノートと違うのは、簡単に書き換えができないところかな。

 だから私は歪んだ部分のノートを、
 ページごと破りとってしまわなければならない。


 「れいなのこと」
 「え?」

 アイスを選びながら言う。
 あなたはきっと、私の斜め後ろで泣きそう。

174 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:39

 「愛ほど気にしてないよ」
 「…へ?」
 「むしろ、愛以外の人はたいして気にならない」

 そりゃ、私もまったく周りが見えていないわけじゃないけど。
 あなたは特別の特別。


 だから。
 いつでも私を見ていて。

 あなたの名にあるように、愛して。
 私が壊れてしまうくらい。

175 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:39

 「あさ美、言うときは言うの」

 愛が目を見開いて、顔を真っ赤に染める。

 「だっ、だから! そーゆー返しやめてよ。私まで…もぅ」


 結局、つられて私も赤面。

 「あさ美のほっぺかわいー」

 「どーゆーこと? それ…って、冷た! アイスつけないでよ」

 「冷やしてあげようと思って」
 
 「からかいすぎ〜。もう、
  今日は持ってきた分の宿題全部終わるまで口きいてあげない」

 「ぅええ! それだけは!」

176 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:40


 そんなこんなで、
 私たちはアイスやらお茶やらお菓子やらを買い込んでレジに向かった。

 ちょっと買いすぎかなぁ…。
 ま、うちで遊ぶのはまだこれからもたくさんあるから大丈夫か。

 「いらっしゃいませぇ」
 「って、「さゆ!!」」

 思わず愛とハモってしまった。
 だって、コンビニのレジにいたのが、さっき話題にでてきた子だったから。

 うわさをすれば…ってやつ?

177 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:40

 「ふたりとも、入ってきたときに
  気づくかと思ったら…全然で。さゆ寂しかったなぁ」

 「そやったか…」

 「ご、ごめんね…」

 なんかよくわかんないけど、
 さゆにグッて寂しい顔されたら謝んなきゃ…って気になっちゃう。

 不思議パワー。

178 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:41

 「ってゆーか、
  こんなことでイチャつくのやめてくださいよぉ。
  いくら付き合ってるからって…
  他にお客さんいなかったから別にいいんですけど」


 え!?
 なんで私たちが付き合ってるってさゆが知ってるの?

 「へ? いや、あたしは誰にも言ってないよ? 
  そんな、睨まなくても…」

 別に睨んではいないけど。
 無実だ! って感じで愛が首を振る。

179 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:41

 「そんな今更言われなくても、みんな知ってるじゃないですか」

 「今更って…?」

 「だって、ずぅっと前からおふたり、付き合ってるんじゃないんですか?」

 「えぇ?」「はぁ?」


 もしかして私たち、
 ずっとそんな風に周りから思われてたってこと?

 当人たちはものすごく葛藤して、
 最近やっと結ばれたって言うのに?

180 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:42


 「あはっ」

 なんだかおっかしくて。
 私たちはさゆをほったらかして(ごめんね)
 ふたりで涙が出るほど笑った。

 なぁんだ。って。
 気が抜けたっていうのも変だけど、なんだか…ね?


 「え? ちょっと、なんなんですかぁ、いきなり〜!」
 「ううん、ちょっと…」
 「うん。…あ、さゆ、これ差し入れね」

 言って、チョコレート菓子をさゆに手渡す。

 「えぇ??? あ、ありがとうございます…」

181 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:42


 なんだか変にすっきりした、コンビニまでのおさんぽ。

 今日の太陽がなくなってしまうまでまだまだ時間があったから、
 私たちはそのままコースが決まらない散歩をすることにした。

182 名前:さんぽ道 投稿日:2006/02/13(月) 05:42

   さんぽ道

      おわり。

183 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/13(月) 05:52

 なんだかどうしても愛ちゃんがヘタ○になってしまいます。。。
 そして、こんこんはちょっと黒い…かも。

 明るく甘く持っていきたい気もするし、
 ダークな方へ持っていきたいような…。
 そもそも続きを書けるのかどうか…。。。

 地に足がつかない私ですが、
 読んでくださった方
 本当にありがとうございます。
184 名前:名無し飼育 投稿日:2006/02/13(月) 18:34
続編キター!!
いやいや、このヘタレ具合が自分は好きですよ?(w
いしよしも良かったです。いろんな作風楽しみにしております。
185 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/13(月) 20:44
>>184 名無飼育さま

 ありがとうございます!
 楽しみにしていただけるなんて…恐縮です。

 では、高橋さんにはそのままヘタレていただきましょうかw
186 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/13(月) 20:45
 更新いきます。

 今回は前回と同じ時間軸で、
 れいな←絵里・さゆ です。
187 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:46


   支点・力点・作用点
188 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:46

 なんでこんなクソ暑いなか外を歩かなきゃならないんだ…。


 『今日、部活あるからね』

 絵里からのそんなメールで起こされた、お昼ごろ。
 なんて目覚めの悪い…。

 けど、あれでも一応先輩だし。
 とりあえずれいなはシャワーを浴びて、学校へ行く用意をした。


 夏休みの通学路は閑散としていて。
 まぁ、この町はいつでもこんな風だけど。

 それにしても。
 あぁ、なにもこんな暑い時間に部活をやらんでも…。

189 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:47

 <JASS研究会>
 黒のマジックでそう書かれたコピー用紙。
 それが貼り付けられた教室の戸を開ける。
 
 中には先輩がひとり。亀井絵里が居た。
 窓際に置いてあるパイプ椅子に座り、楽譜を眺めている。

 「おはようございます」
 「あ、おはよう」

 朝でも昼でも夜でも(夜はあまりないけど)
 れいなたちの挨拶はこれだ。

190 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:47
 入り口のすぐ側にある大きなソファに鞄を置いて座る。
 この部室は「教室」といっても、使われていない小さな会議室で、
 このソファの所為で元々狭い部屋が更に狭く感じられる。

 …実際、狭くなっているんだけど。

 窓を全開にしても埃っぽい空気はそれほど変わらない。
 風通しが悪すぎる。
 暑い。

191 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:48

 「…会話は挨拶だけで終了?」
 「え?」

 しばらく黙っていたれいなに、絵里が不機嫌丸出しで言った。
 …すんまっせん。

 でも、いきなり何か話せって言われても…アドリブきかんたい。


 「…あ〜、今日は暑いとですね」
 「ん〜。そうだね…」
 「……………」
 「……………」

 会話終了。

 早く誰か他の部員。
 この空気、何か…いやったい。

192 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:48

 「…あ、その楽譜、何ですか?」

 話題発見。
 れいなは絵里が持っている楽譜を指差した。

 「これ? 新しい曲のやつ。次のライブにいいかな、と思って」
 「へぇ…」
 「見たい?」
 「はい」

 絵里はパイプ椅子から立ち上がって、れいなの隣に密着するように座った。
 ただでさえ暑いのに…。
 触れている肩や足が、熱い。

 「この曲、すごくいい曲だよ。ここのベースとかかなりカッコイイの」
 「へぇ」

193 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:49

   *     *     *


194 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:50


 「あ、そうそう。そういえばさ」

 あぁ。
 また違う話題が始まっちゃった…。

 コンビニいちゃつきカップルの話題はつきないのね…。
 さゆが何面白いこと言ったかわかんないけど、
 いきなり二人で笑い始めちゃって。

 それで、あさ美先輩にお菓子もらって。

 それから、なんだか知らないけど世間話大会が繰り広げられてる。
 お客さんも来ないし、暇だから
 (ホントはモップがけとか全陳とかしなきゃいけないんだけど)ま、いっかって。

195 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:50

 「さゆ部活はいいの?」
 「え?」
 「今日部活だったんじゃないの?」

 ふたりが『当然』みたいな顔して言う。

 「え? 違うの?」

 頷く。
 どーゆーことかさっぱりわかんない。

 「ここに来る途中、れいな見たんよ」
 「え!?」
 「今日、うちの部活休みだし、そっちかなぁって…」
 「うん。制服着てたし、行く方向も学校の方やったし」

 え? さらに、どーゆーこと?

196 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:50

   *     *     *

197 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:51


 10分ほど経っただろうか。
 話題は変われど、体勢は変わらず。

 「あの」
 「ん?」
 「暑くないです?」
 「んー、そうだね」
 「そっちの椅子とか空いとーし…ばってん、2人しかいない…ですし。」

 れいなは近くの椅子を指差した。
 狭い部室だけど、広く使いまっしょうよ。

198 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:52

 「「2人しかいないから」だよ?」
 言って、絵里は腕を絡めてきた。
 なんな? この状況は。

 「い、いやいやいや…」
 とか。とりあえず、はぐらかしてみたり。

 「私が側に居るの、嫌?」
 「ま…まさか。とんでもないとです」
 「ふーん。ほんとかなぁ?」

 近い。顔、近いです。

 「信用でけんですか?」
 がんばれ、自分!

199 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:52

 「…意地悪な答え方。」
 「先に意地悪したっちゃ先輩のほうやろう?」
 「あはっ。そうだった。でも、離れて(やめて)あげない。」

 ぐっ…この小悪魔ー!!

 「ちょ…誰か来たら…」
 「来ないよ、誰も。今日、練習無いから。」

200 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:53


 え。


 「はっ!?」
 そげんこと聞いとらん!

 「あ、ごめんね。れいなに『やっぱ休み』って連絡し忘れてた。」
 「…ワザとでしょ。」

 絶対、他の部員には『今日は休み』メールで、れいなにだけあのメール。

 「こんなにアッサリ成功するとは思わなかった。」

201 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:54

 ほらやっぱり。
 絵里は満面の笑みでれいなを見つめる。
 これはアレですか。後輩イジメですか。

 「れいな、可愛い」

 腕が開放され、今度は首を拘束される。
 他の部分よりも汗ばんだ腕が、涼しい。首が、熱い。

 甘い香水の匂いとか、呼吸のたび上下する細い肩とか、
 オレンジ色のグロスが塗られた、形の良い唇とか……。

202 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:55

 「ねぇ。れいな。何考えてる?」

 絵里が呟くように問う。


 ……れいなは、何を考えてる?


 「…ま、また。そうやってからかって…」

 道徳。倫理。理性。

203 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:55

 「からかってないよ」

 言って、静かに目を閉じる。

 「キスして。れいな」

 本能。


 右手で絵里の腰を抱き、顔を寄せる。
 首も、手も、腰も。全て熱くて。

 思考が溶けていく。

204 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:55


  ♪〜


 「ぅわ!」「!!」

 突然、爆音でケータイが鳴った。

 「あ、あ〜。…れいなったい。」
 「はぁ…びっくりしたぁ(もう少しだったのに…)」

 鞄からケータイを取り出して開く。
 さゆから…メール。

205 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:56

 『れいな! 今どこ? 今日、ジャズ研の活動ないよ? 
  あさ美先輩も吹奏楽の活動ないって言ってたし。
  また絵里にだまされて、からかわれたんじゃない? 
  もー、れいなぁ! しっかりしてよ。
  さゆもうすぐシフト交代だから今から迎えに来て。 
  どうせ部室にひとりでいたりするんでしょ? ヒマ人!』


 …長っ!!
 って、あ? またメール受信。

 え? さゆ?

206 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:57

 『もしかして、絵里とふたりでいる!? 
  ちょっとー! だったらだめ! だめだめ!! 
  今すぐただちに来て!』


 「……………なして?」

 ばってん、さゆ…えすぱー?

 「どしたの? れいな」

 隣に座っている絵里が顔を覗き込んでくる。

 「あ、いや、なんか緊急みたいで…」
 「ふぅん。さゆ?」

 え…えすぱー?? (その2)

207 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:57

 「ま、今日はいっか」
 「へ?」
 「どうせ、今すぐ来てみたいなメールでしょ?」
 「…よくわかりますね」
 「まぁ…」
 「あ〜、じゃあ…れいなはお先失礼しま」

 ふいに、視界がゼロになる。
 絵里に正面から片手で目隠しされて…唇にはやわらかな感触。

208 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:58

 手をどけられて、また明るい部室と絵里の笑顔が目に入る。

 「なっ…!?」
 「仕返し」

 歌うように言う。

 「なしてそげなこと!」
 「れいなを呼び出したさゆと、さゆのとこに行っちゃうれいなに」
 「……も、からかわんでください」


 だめだ。
 これ以上ふたりでいたら…いたら……。
209 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:59
 「からかってるわけじゃないんだけどな」ってつぶやきが聞こえたけど、
 れいなはそれに応えず早足で部室を後にした。


 『今から行くけんね』


 さゆにメールを返信して学校の玄関を出る。
 圧迫感さえ感じる夏の空気。

210 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:59


 あのとき。
 絵里に迫られたとき、何を考えてた?
 さゆからメールが来たとき、どう思った?

 「はぁ…」

 難しい。難しい。
 れいなってこんなに優柔不断だったと?

 持て余している心。

 「あ〜…!」

 もう、ため息しか出ない。

211 名前:支点・力点・作用点 投稿日:2006/02/13(月) 20:59

   支点・力点・作用点

         おわり。
212 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/13(月) 21:02

 続編に続編がついた、自分でも予想外の展開(汗
 ふたりの間でふらふらするれいなを書いてみたくなりまして。

 読んでくださった方、
 本当にありがとうございます。
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/13(月) 23:13
へたれいな・・・癒されますww
214 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/14(火) 02:23
ふらふられいな
一番好きなパターンですw
続きを期待しちゃいます
215 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/14(火) 08:09

>>213 名無飼育さま

 ありがとうございます。

 へたれいなで癒されましたか!
 私も楽しみながら書いたので
 そう言っていただけると嬉しいです。 
 


>>214 名無飼育さま

 ありがとうございます。

 私もこういう三角関係好きです。
 ご期待に…答えられるかどうかわかりませんが
 続編を書きました。
 もしよろしければ、ご覧ください。

216 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/14(火) 08:10

 では、更新いきます。
 前回の続き(れいな←さゆ・絵里)で、今度はさゆ編です。

217 名前:   Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:10

 「遅い」

 それがメール受けてからすぐに迎えにきた人間に言う言葉と?

218 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:11


Equilateral triangle


219 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:12

 さゆがバイトしているコンビニの前。
 お姫さまはご立腹。

 「なんも、遅くなか」
 「来るのもちょっと遅かったけど、メールの返信が遅かった」

 ぷいっと先を歩き出す。
 あぁ、ちょっと涼しいコンビニで休憩させてくれても…。

 まったく。一度、機嫌を損ねたらこれったい。

220 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:13

 「れいなはそんなにケータイ人間じゃなかと」

 しかたなくさゆの後を追う。

 「そうだけど…だって」
 「ん?」
 「もういいもん」
 「な…なんもよくなかっ…!」


   ♪〜


 あー! もう、こんなときに!
 鞄のなかで鳴り続けるケータイを取り出す。

221 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:13


 メール。
 …絵里から。


 『おじゃましちゃったかな? それとも、もうフラれてひとり? 
  だったら今から絵里うち来てもイイよ☆』


 「…ほんっとになんな、こん人は…」
 「何? ダレ?」

 あ、独り言です。
 無視してください。

 「だっ…誰でもよか」
 「あっそ」
 「ちょっ!」

222 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:14

 言ってることとやってることが一致してない。

 またぷんすか先を歩き出すかと思えば、
 さゆはあっさりれいなの手からケータイを奪った。

 ああぁあぁ。
 読まれた…。

 れいなにはプライベートいうもんが無かと?

223 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:15

 「なにこれ?」
 「え? さぁ…? ようわからん人ばい」
 「ねぇ、やっぱりさっきまで絵里と…」


   ♪〜


 「え?」「?」

 またケータイが鳴る。
 って、あぁ〜、それも見んくていいとな…。

224 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:15

 さゆが今来たメールを見たとたん
 れいなをすごい勢いで睨んできた。

 元の顔がかわいいから見た目はそうでもないけど、
 この目のさゆに出逢ったら最後。

 明日の朝日、見れんかもしれん……。


 「………こりゃ一体何かいね?」

 さゆがディスプレイを突きつけてくる。
 はい、なんでしょうか?

225 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:16

 そこにはやっぱり絵里からのメールが表示されていて。


 『ついし〜ん。さゆと一緒でも、
  さっきの続きしたかったら来てイイんだからね♪』


 わざわざこげんこと…。
 絶対、わざとばい。


 「あ、これは…」
 「れいなぁ、よーかばちぃたれんなよ。え〜かいのう?」

 何かテキトーな言い訳をしようと口を開いたら、さゆに胸倉を掴まれいな。
 あぁ、現実逃避してる場合じゃない…。
 でもしとぉよ…。さゆ怖すぎっちゃが。

226 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:16

 「え…あ…え〜」
 「はよせんかね」
 「はい…。え〜、なんと言いますか…ちょっと…事故とゆーか…」
 「事故ぉ!? なに?」


 正直に言っても言わんでも殺られそう。
 ジーザス…!!

 「あっと……ちょぉ…軽ぅく…」

 言って自分の唇を指差す。

 「なっ…!!?? ばっっっかれいなぁぁぁぁぁ!!!」
 「ちょ、やめ、くるし」

 さゆに胸倉を掴まれたまま、がくがく揺さぶられる。
 いたた…さゆ、れいなのケータイ持ったままだからがちがち当たって…!
 あぁ、死んでしまう!

227 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:17

 「もぉぉぉ!! 絵里も絵里でわざわざさゆと同じ手使ってくるし! 
  なにが『ついし〜ん』な!」


 れいなを押しのけるように手を離される。
 あだ! しちもちついたっちゃが…。

 「さゆ…お、落ちつい」
 「れいな! ケータイ変えて」

 仁王立ちで高らかに。
 いまいち様にならないけど、迫力は十分…って何?

228 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:18

 「は…えぇぇ? なしそげなこと…?」
 「かーえーてっ! 番号もメルアドもさゆ以外に教えるの禁止!!」
 「そん…それは…」
 「じゃあ、電源切って」
 「い、今?」
 「今。……れいな…さゆと一緒にいるときは…電源切っ…」


 ぼろぼろとさゆの頬を涙が伝う。
 いきなり!?
 ああぁぁあぁれいなんせいとー?

 電源切るのはいいけど、さゆが握り締めたままだし…。
 あれでよく落とさんかったと。さゆな器用ね。

 って、そんな場合じゃない。

229 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:18

 「…さゆ…泣かんで」

 顔を覆っているさゆの手をそっと包む。
 白ぅて、小そぅて、柔ぁ手。

 「れ…なのせぃ…しょぉ…」
 「ん。悪かったと」
 「…ばかれいなぁ」
 「ん。れいなはばかやけん。な、泣かんで?」


 さゆは笑ってた方があいらしか。

 こげんこと口に出せんけん。だけん…本当にそう思っとーよ?

230 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:19

 「じゃ…キスして」
 「はぁぁ?」
 「絵里とはしたんでしょ?」

 そうくるか…。

 「さ…ゆ……」
 「…………」


 目を閉じてスタンバイオーケーらしいです。
 うぁあ、こげなとこで…。

 人通りは少ないけど、一応道のど真ん中。
 ばってん…さゆ、きっとするまで動かんのやろ?

231 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:19

 「…………」
 「…………」

 触れるだけのちいさなキス。

 一日に違う人ふたりとって…。
 なんか…少し落ち込む。


 「…他のこと考えたでしょ?」

 離れて目があった瞬間見抜かれた。
 れいな…そんなにわかりやすいと?

 「そっ、そげんことなか」
 「絶対うそ」
 「さゆといるときは、さゆのことだけ考えて」

232 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:20

 今度はさゆからキス。


 意識したせいか、さっきよりも強くさゆを感じる。
 肩に乗せられたさゆの手がやけに熱くて。
 さゆとの距離がゼロ。

 鼓動が、重なる感じ。


 離れる。目が合う。
 今度はいつもの…いつも以上にやわらかくて優しい笑み。
 妙に色があって、心臓が大きく鳴る。


 「じゃ、帰ろっか」
 「え? ちょ、さゆ!」

 いきなり腕を引っ張られてバランスを失う。
 転びそうになりながら駆け足のさゆについていく。

233 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:21



   『さゆといるときは、さゆのことだけ考えて』

   『ねぇ。れいな。何考えてる?』



234 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:21

 流されやすい自分が心底イヤになる。

 さゆが好きなんか、絵里が好きなんか…。


 本当は?
 いや、もしかしたら本当の心ってれいなには無いのかもしれん…。


 れいなはちょっと…いや、かなりおかしいのかも。

 ふたりとも、好きだなんて…。

235 名前:Equilateral triangle 投稿日:2006/02/14(火) 08:23


   Equilateral triangle

          おわり。


236 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/02/14(火) 08:23

 またふらふら。
 今回はギャグ色、俄然強めでした。

 読んでくださった方
 本当にありがとうございます。


 それから、本当に私事で申し訳ないのですが今日から用事があり
 4月上旬まで更新ができません。
 ですが、放置・放棄は絶対にしません。

 必ず、4月には更新したいと思っていますので
 どうかよろしくお願いいたします。

237 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/15(水) 15:56

更新が早くていつもびっくりしていました。
早過ぎて感想書こうと思っても、その機会を逃したり…。

夏休みシリーズ、なんかすっごい好みです。
松浦さんとさゆが姉妹とか、おもしろすぎです!
想像するだけで、笑えます!
それと高紺、良かったです!雰囲気最高!
貴重な分、余計楽しめました。

それでは、4月までゆっくりと待ってます。
いい小説をありがとうがとうざいました!

238 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/07(金) 02:46


 帰って参りました。
 かちゃぼです。
 これからまた更新を再開させていただきますので
 どうか、よろしくお願いいたします。
239 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/07(金) 02:47

>>237 名無飼育さま

 ありがとうございます。
 そんなに楽しんでいただけたなんて…。
 すごく嬉しいです。

 高紺大好きなんです。

 少ないマイナーCPなんで、
 自分で書いてしまいました。

 まだまだ勉強の足りない初心者ですが
 頑張っていこうと思うので、
 これからもよろしければご覧ください。

240 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/07(金) 02:48

 では、久しぶりの更新いきます。

 ちょっと夏休みシリーズはお休みして、
 今回はがらりと雰囲気を変えて
 初のミステリーっぽいものを…。

 少しだけ長めな話になります。

241 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:49


   「ごめ――、―――。
    これで―――? ――――。
    ――――……みきたん…」


242 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:50

 悲しげな女の子の声。
 夢と現実の狭間で、私はそんな声を聞いた。

243 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:50


     I Know.
   1話 おぞましき純白の目覚め


244 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:51

 頭が痛い。
 体が重い。

 ここは、どこだ?


 室内に時計は無く、今が一体何時なのか、
 どれくらい眠っていたのか分からない。


 私はどうしてこんなところに居るんだろう。
 ここは、どこだろう。
245 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:51

 あれ?
 ちょっと待て。
 私…?
 私は…だれだ?

 記憶ソーシツってヤツ?

 うっわ。勘弁してよぉ。
246 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:52

   「ごめ――、―――。
    これで―――? ――――。
    ――――……みきたん…」

247 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:52
 唯一ある記憶。
 悲しげな少女の声。


    「みきたん」


 みきたん。
 みき。
 私の…名前?

 あの子はだれだろう。
 だれだっけ?

248 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:53

 ぼんやりと天井を仰ぐ。
 白い。
 白い壁。
 淡いリノリウムの床。

 …私は事故か何かに遭って
 病院に運ばれたのだろうか。

 あぁ、でも。

 窓と時計くらい
 あってもいいと思うんだけど…。

249 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:53

 ショーガイがあるから、
 こんな病室に入ってんのかな?

 おーい、だれか。
 せんせー。
 私、目が覚めたよー。
 何も覚えてないよ。

 だれでもいい。
 だれか来て、私に何があったか教えてよ……。

250 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:54


   *   *   *


251 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:54

 …………………。
 ……………。
 ………。

 夢を見た。
 私は知らない(覚えてない?)女の子と、
 ふたりで和やかに会話していた。

 かわいらしい声で、表情豊か。
 あれは、だれだったろう。

252 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:55

 夢の中での私たちは、すごく仲が良かった。
 私に記憶がなくて、何も覚えてないと知ったら…
 彼女はきっと悲しむ…気がする。


 夢の中のことだから、
 その子が実在するのかも分からないけど。

 思い出したい。
 自分の記憶を取り戻したい。
 早く。

253 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:55


   *   *   *


254 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:56

 いつまで待っても医者とか看護士とかが
 来る気配は無い。

 ドアに目をやる。
 重たそうな鉄扉。

 とりあえず外に出て、
だれかに話を聞いてみよう。

255 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:57

 「…うぁっ…と!」

 ベッドから降りてスリッパを履こうとしたら
 うまく足に力が入らなくて、
 情けなくべしゃっと潰れるようにコケた。

 ずっと寝ていたせいで体がなまってたんだ。

 気を取り直してドアまで進む。

256 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:57

 「……?」

 ノブは回るけど、押しても引いてもドアは開かない。

 え?
 鍵…かかってる…?
 内側からは開けられないようになっている。
 ちょっ…、え?
 なに? 私、閉じ込められてんの?

257 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:57

 おかしい。
 なんで?
 私そんなに…ヤバいとか?

 ちょっとー、なに? この状況。
 私、この状態で記憶無いとか……。
 どーしよ…。

258 名前:1話 おぞましき純白の目覚め 投稿日:2006/04/07(金) 02:58


     I Know.
   1話 おぞましき純白の目覚め


             おわり。


259 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 02:59


   私は、あなたさえいてくれればそれでいい。
   ずっと私の側にいて。


260 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:00


     I Know.
   2話 予期せぬ日常の喪失


261 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:00

 ここは、どこだろ?
 アタシ、なんでこんなとこにいるんだっけ?

 今、いつだ?

 部屋に時計が無いから
 あれから何時間経ったのか分からない。

 窓の外は明るい。

 あれは夕方だったから、
 少なくとも12時間は経ってるってことか。

262 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:01


   *   *   *


263 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:02

 「ミキティーおはよー」

 「もうこんにちはの時間だけど…おはよう。ってか、ごっちん。
  午前の講義出なさ過ぎだよ」

 「だってしょーがないじゃん。
  目覚まし聞こえないんだもん。
  ってか、よっすぃーは?」


 いつも講義はアタシとミキティーとよっすぃーの
 3人で受けていて。

 いつもアタシが寝坊して。
 いつもふたりがわーわー言ってくるのに。

 今日のお出迎えは、ミキティーひとりだけ。

264 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:03

 「あー、なんかメールも返ってこないし、
  ケータイも出ないんだよね」

 「めずらし。音信不通」

 「うん。病気でもしたのかな?」

 「あぁ。死んでるかも」

 「あはは、そーかも。
  帰りに見舞いでも行ってやるかぁ」

 「だね〜」

265 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:03


   *   *   *


266 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:03

 そして、サークルのミーティングに行くミキティーの
 「すぐ行くから先に行ってて」という言葉に従って
 ひとり、よっすぃーの家に向かう途中、
 後ろから布で鼻と口を覆われて…。

 まるでドラマのように誘拐されたんだ。


 で、どっかの倉庫とかで
 手足を縛られて目覚めるのがベタなんだけど。

 残念ながら(?)アタシは
 病院みたいなとこで目覚めた。

267 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:04

 『みたいな』って言ったのはちゃんとわけがあって。

 部屋の雰囲気、つくりとかはそれっぽいんだけど。
 ここは、室内に何も無さ過ぎる。


 普通の病室だったら、
 棚とか椅子とかあっても良さそうだし。

 窓もかなり上の位置にあって、
 頑丈そうな鉄格子がはめられている。

268 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:04

 そもそも誘拐でなんで病院なんだ?
 いや、本当にここは病院か?

 まるで刑務所。
 人を監禁するための部屋のようだ。

269 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:05

 ベッドから降りてドアに近づく。

 「………」

 やっぱり開かない。

 ドアのすぐ横にある
 電気のスイッチを入れてみる。

 天井の蛍光灯が当たり前のようについた。

 電気が通っているってことは、
 今も使われているってことか。


 すると、アタシをさらったのは病院の関係者…?

270 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:05

 部屋をくまなく調べてみる。
 何も無い。

 持っていたはずの鞄。
 ケータイも、腕時計も。
 指輪などのアクセサリーまで。

 「なんなんだよ〜」

271 名前:2話 予期せぬ日常の喪失 投稿日:2006/04/07(金) 03:06


     I Know.
   2話 予期せぬ日常の喪失

            おわり。


272 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/07(金) 03:07

 一応そこら中に謎を振りまいて
 少しずつ解いていこうと思うのですが、
 バレバレかもしれません…(汗)

273 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/09(日) 02:55
ほう。おもしろそう
こういうのすごく好きです
続き楽しみにしてます
274 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:07


   一瞬でもあなたを思わなかったことはない。

   あなたは、私だけのもの。


275 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:08


    I Know.
  3話 広すぎる密室での迷走


276 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:08

 なんなんだ、本当に。

 何も無い病室みたいなところで見ざめて。
 とりあえず、ここを出なくちゃ、と思って。
 一応ドアを開けようとしてみたら、あっさり開いた。

 なんで開いてんだ?
 まるで誰かにからかわれているようだ。


 見られている。
 監視されているような、不快感。

277 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:09

 外に出てみるか?
 …少し怖いけど、このままここに居るよりは…。


 ドアは見た目どおり重たかった。
 ぎぃぃ…という耳障りな音がやたら大きく聞こえる。

 廊下は窓が無いため薄暗く、
 点滅する蛍光灯がまた雰囲気あって…。

 こぉわっ!!

278 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:09

 落ち着け、落ち着け。

 ………よし!
 出口を探そう。


 私が目覚めた病室は廊下の一番奥の部屋だった。
 同じ形状のドアがずっと続いている。

 ノブを回してみたが、
 どのドアにも鍵がかかっていて開かなかった。


 犯人と鉢合わせちゃったらヤバイから
 あんまり構わないで、出口探しに専念しよう。

279 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:10

 おっかなびっくり歩いていくと
 やがてT字路に行き着いた。

 どーしよ。
 左行ってみようかな。テキトーに。


 先ほどの廊下より少し広めで扉がある感覚も広い。
 ふと、それらの扉のひとつが目に入った。
 扉には鍵穴が無く、横の壁にカードスロットがある。
 ここのロックはカード式なのか。

 上にはめられているプレートには『薬品庫』とある。

 私には薬の知識なんてまったく無いし、
 入れたとしても何の意味もないから、どーでもいいんだけど。

280 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:11

 廊下はすぐに行き止まりになった。

 そこでエレベーターを発見したが、
 ボタンを押しても作動しない。

 電気は通ってるはずなんだけど…。


 まぁいっか。
 反対の道行ってみよ。


 私は今来た道を引き返し、
 まだ行っていない右方向へ向かった。

 運が良ければ出口に行き着けるかもしれないし。

 ここが1階じゃなくても、
 まさか階段が無いわけないだろう。

281 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:11

 ……………。
 って、あれ? 行き止まりだ。
 階段…無かった…?

 いや、待てよ。この鉄扉…。
 今までのドアよりも少し大きめで雰囲気も違っている。
 階段はこの向こうか。

 「…ぐっ…」

 開かない。

 「…………」

 扉に鍵穴を見つけた私は、一気に脱力感に襲われた。

282 名前:3話 広すぎる密室での迷走 投稿日:2006/04/09(日) 03:12


     I Know.
  3話 広すぎる密室での迷走

            おわり。


283 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/09(日) 03:12

 本当に短いくて申し訳ないですが、
 今回はここでおわりです。

284 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:21

   出口がないのなら、ずっとここにいればいい。

   入り口がないのなら、壁を破って作ればいい。


285 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:21


     I Know.
   4話 究極の一択問題


286 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:22

 これからどうするか。
 さすがにあの窓からの脱出は無理だし。
 でも、このまま犯人に殺されるのとかは勘弁だし。

 ベッドでゴロゴロしながらそんなことを考えていたときだった。


 廊下に足音が響く。
 だれだ?
 アタシをさらった誘拐犯だろうか。


 部屋の前で止まる。

 鍵が開けられる。

287 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:23

 どうしよう。
 どうしよう――。


 扉が、開けられる。


 「……! ごっちん!」
 「え……? り、梨華ちゃん…?」
 「ごっち〜ん!」

288 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:24

 鍵を開けて入ってきたのは、
 アタシの幼馴染であり、親友の彼女だった。

 まさか梨華ちゃんが犯人なの? 
 って、一瞬思ったけどそんなことあるわけないよね。

 こんな風にアタシにすがり付いて大泣きするような怖がりが。


 「ちょっ、梨華ちゃん。鼻水鼻水」
 「う〜…こわかったよ〜」
 「梨華ちゃんも誘拐されたの?」
 「ん…そーみたい」

289 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:24


 あれ?

 「ってか、梨華ちゃん。日本にいつ帰ってきたの?」


 彼女はめちゃくちゃ天才で、
 外国の何とかって大学に留学してたはずだ。

 電話とかメールとかはちょこちょこしてたけど、
 こうやって実際に会うのはすごく久しぶり。

 相変わらず胸でっかいなぁ。

290 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:25

 「えっと、昨日…いや、おととい? 
  とにかく最近。日にちの感覚ないの」

 「あ、アタシも感覚麻痺してる。……ん? 
  ってことは梨華ちゃんは帰国してすぐに誘拐されたってこと? 」
 
 「そうなの。家に帰る途中で」

 「…そっか。ん〜、とりあえず、おかえり」

 「ただいま」


 「よっすぃーには言ってあるの? 帰るって」

291 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:25

 途端に悲愴な顔でうつむいてしまう。

 あ〜、無神経だった…。


 「言ってないよ。驚かせようと思って」
 「そっか」

 帰国して、梨華ちゃんが一番に会いたかったのはよっすぃーなんだ。

 もしかしたら、帰国の理由そのものかもしれない。

292 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:26

 「え…っと、そうだ。
  梨華ちゃんはなんでこの部屋の鍵持ってたの?」

 「あ、それが…この近くの部屋で目が覚めたんだけどね、
  枕元にこの部屋の鍵があったの」


 言って、梨華ちゃんがアタシの目の前に鍵を翳した。

 それはごく普通の形の鍵で、
 一緒にこの部屋の番号が彫られたプレートがついている。

 「それで、この部屋のところに『202』って書いてあったから…」
 「そっか…」

293 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:26

 ますます分からなくなってきた。
 犯人の目的。

 アタシたちでゲームでもしているのだろうか。

 選択肢を与えるように見せかけて、
 本当はひとつの道しか選べない。


 悪趣味なゲーム。

294 名前:4話 究極の一択問題 投稿日:2006/04/10(月) 04:26


     I Know.
   4話 究極の一択問題

          おわり。


295 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/10(月) 04:27

 今回も短いですが…
 ここまでです。

296 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/10(月) 23:43

>>273 名無飼育さま

 大変遅れて申し訳ありません。
 せっかく下さったレスを見逃してしまっていました。

 なんとお詫びしてよろしいのか…。
 本当に失礼いたしました。

 レスありがとうございます。


 このスレを読んでいて不快に感じられた方も、
 本当に申し訳ありませんでした。


 精一杯がんばっていこうと思いますので、
 これからもどうか更新させてください。

297 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:54


 本当は、ずっと前から気づいていた。
 私がもっと早く行動を起こしていればよかったんだ。


 簡単なことだったのに。

 彼女がやろうとしていることに比べれば、遥かに。


298 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:54



     I Know.
  5話 幽かに揺れる疑惑と真相



299 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:55

 「ところで、梨華ちゃんはどこの部屋に居たの?」

 「私は、この隣の隣の200号室だったよ」

 「そっか…。ってか、梨華ちゃん危ないよ。
  もしここに居たのがアタシじゃなくて犯人だったら、
  今頃殺されちゃってたかも」

 「うん…。けど、それは無かったと思う」

 「え? なんで?」

 「だって、殺すのが目的なら
  わざわざこんな風に監禁なんてしないでしょ?」


 あぁ。そうだよね…。

 殺そうと思えばいつでも殺せたはず。
 でも、アタシたちは傷ひとつ無い。

300 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:56

 「それでも危ないって!
  なんか明らかにワナっぽいじゃん! こんなさ…」

 「う…、わ、私だってすごく怖くて、
  ずっとどうしようか悩んでたけど…
  でも…この部屋に居たのはごっちんだったよ」

 「あ、うん…。ま、そうだけど…」
 
 「ありがとう、心配してくれて」


 『結果よければすべてよし』っていうような、綺麗な笑顔。

 怖がりのくせに図太い…。

301 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:56

 「どういたしまして…。ってか、これからどうしよう…」

 「うん…」

 「この部屋が『202号室』なら、ここは2階ってことだよね。
  なら、まず1階に下りなきゃ出られないけど…
  そう簡単には出してくれないだろうね」

 「うん…」

 「あ、梨華ちゃんが居たとこが200号室だったなら、
  アタシたちの他にもだれか誘拐されてきた人が
  隣(201号室)とかに居るかも」

 「あ。…探して、みる…?」
 
 「そうだね。情報も少なすぎるし。
  ここにずっと居ても無事で外へ出られる保障はないし」

 「うん…そうだよね」

302 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:57

 で、アタシの腕を痛いほど抱きしめる梨華ちゃんと一緒に
 建物内を探索することに。


 ホントに怖がりなんだから…。

 こんなとこよっすぃーに見られたら(ばれたら)
 アタシ殺されちゃうよ。

 結局梨華ちゃんがいた200号室とアタシがいた202号室以外、
 開く病室は無かった。


 201号室はしばらく念入りに扉を叩いたり
 呼びかけたりしてたんだけど、中から物音ひとつしなかった。

 気を失ってる?
 それとも、もう返事ができない?


 いや、本当にだれも居ない可能性もあるし。
 ただ隣同士はまずいということで、空室をはさんだとか。

303 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:57

 まぁ、とりあえず、どの部屋も応答は無かったので
 病室エリアの捜索は中止した。


 そして、少し歩いた先には。


 「…T字路だ。梨華ちゃん、右と左どっちがいい?」
 「え? で、出口に近い方…」
 「アタシ出口の場所なんて知らないよ」
 「私も知らないよ」

 ……ま、そりゃそうだよね。

 「……とりあえず左行ってみよ」
 「うん」

304 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:58

 少し廊下は広くなったが、部屋数は少ない。

 というか、一部屋しかない。
 なんだか不気味な、くすんだ白い色の扉。

 そして、その向かい側の角には――。

 「…エレベーター…」
 「うん…」
 「…どーする?」
 「どっ、どーするって、ごっちん…」


 これに乗ればすぐに1階に行くことができる。

 けど、そうすることで犯人にアタシたちの行動が
 筒抜けになってしまうかもしれない。

305 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:58

 それはやっぱマズイよね。

 なるべく静かに、階段を使って移動した方が良さそうだ。

 …いや。もしかして、
 それこそ犯人の思惑通りになってしまうのかも…。


 堂々巡りだ。


 そもそも、何でアタシの部屋に鍵をかけたのに、
 それを梨華ちゃんの部屋に置いたんだ?

 どうして梨華ちゃんは閉じ込められていなかった?


 犯人はアタシたちに、何をさせたいんだ?


306 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:58

 「ご、ごっちん?」

 「え? あ、ごめ。ぼーっとしてた」

 「エレベーター、乗る?」

 「……いや、階段でいこ。
  わざわざ犯人にアタシたちの行動を知らせる必要はないよ。
  『今エレベーターで1階へ向かっています』って」
 
 「そうだね」

 「向こう側の道行ってみよ。階段、病室がある方になかっから、
  きっとそっちにあるよ。」

307 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:59

 アタシにがっちりとくっついてる梨華ちゃんを引きずるようにして、
 来た道を引き返していく。

 さっきのくすんだ白い扉のところまで来た。
 上のプレートには『実験室』とある。

 なんとなくノブをひねってみたけど、
 案の定というかなんというか、開かなかった。


 実験室…。
 なんの実験だよ。


308 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 03:59

 少し歩いてさっきのT字路の右側へ来ると、
 またひとつ部屋があった。

 今度は『事務室』。


 「…え?」
 「なに? ごっちん、どうしたの?」
 「あ、開いちゃった…」
 「えぇ!?」

 ここも開かないだろうと思っていたけど、
 あっさり開いてしまった。

309 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:00

 室内は驚くほど明るかった。
 窓の配置が一般的だったからだ。

 外には気持ちよく晴れ渡った空が広がっている。
 だいたい午後12前後ってところかな?


 中央に業務用の机が4つ、向かい合わせにして置いてあり、
 壁に沿ってずらりと並べられた棚には
 ぎっしりとファイルが詰まっている。

 まぁ、つまりごく普通の事務室だ。

 今までの病室や廊下の雰囲気からしてもっとこう…、
 おどろおどろしい、埃っぽいのをイメージしちゃってたから
 なんか妙な言い方だけど拍子抜けした。

310 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:00

 「…え、ちょ、ごっちん…」
 「ちょっとだけ。ちらっと見てこ」

 なにか、手がかり的なものを見つけられるかもしれないし。
 ここだけ鍵がかかっていないというとこも引っかかる。



 ぎゅ。

 室内に入る瞬間、
 梨華ちゃんに掴まれていた腕がさっきより更に締められる。

 怖い?
 怖いよね。
 アタシだって相当怖いよ。


311 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:01

 けど今、怖がりの梨華ちゃんの側にいるのはアタシだけ。

 アタシが守らなきゃ。

 アタシが死んじゃっても、
 梨華ちゃんだけはあの青空の下に返してあげなきゃ。



 普段だったらふざけて腕にまとわりつく梨華ちゃんを
 「またキショイからやめてよ〜」とか言って振り払うんだけど。

 今はそんな風にしなくてもいいんだ。


 ………よっすぃーが側に居ないから。


312 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:01


 あぁ。
 ダメだな、アタシは。

 こんな非常事態なのに。

 梨華ちゃんとよっすぃーの仲を壊す気はないし、
 応援するって決めたのに。

 気持ちを伝えたことはないし、伝える気もない。


 だから。
 だから、しっかりしなきゃ。

313 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:02

 ふと机の上にある電話に目が留まった。

 アタシは心を悟られないように、
 半ばごまかしで受話器を取った。


 「…………」
 「…どう? 通じる?」
 「いや、やっぱダメ」
 「そっ…か…」


 ここで外部と連絡が取れたなら、益々犯人の目的がわからない。
 アタシたちを誘拐した意味がまったくなくなってしまうから。

 こんなことされる様な心当たりもまったくないけど。

 いや、元々意味なんてないのかも知れない。

 ただ運悪くゲームの登場人物にアタシたちが
 選ばれてしまっただけなのかも。

314 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:02

 受話器を置いて辺りを改めて見回してみると、
 机上には書類や筆記用具が置きっぱなしになっていて、
 確かに人の居た気配がする。

 ここで仕事をしていた人たちはどこに行ったんだろう。


 「…ね、ねぇ、ごっちん…!」

 アタシの腕を揺らしながら梨華ちゃんが呼んだ。
 その反対の空いた手には一枚の書類。


 「なに、コレがどうかした?」
 「ここ見て…」


 その指さされた箇所には『松浦製薬』の文字。



315 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:03

 「これも、ここにも…、ここにあるボールペンにも…!」
 「え……え…?」


 梨華ちゃんが指す全てに、『松浦製薬』。


 「じゃあ、ここってさ…病院じゃなくて…」
 「松浦製薬の会社ってこと…かなぁ?」


 いや、会社というよりも…。


 「研究所…? って感じじゃない? 
  さっきだって実験室とかあったし…」

 「松浦…製薬……」


316 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:03


 妙な空気になる。
 ふたりとも、ある可能性を発見してしまったから。

 「まさか…」

 「いや、まだ確定はしないよ。
  ここだって、本当に松浦製薬の施設かどうか」

 「けど」

 「うん、わかってる」

 ここは松浦製薬の研究所で間違いないだろう。
 ただ、『ある可能性』とは、それだけじゃなくて…。



317 名前:5話 幽かに揺れる疑惑と真相 投稿日:2006/04/25(火) 04:04


 松浦製薬、会長の孫娘でる松浦亜弥が。

 アタシたちと(元)同じ高校で、
 あんなにアタシたちと仲が良かった亜弥ちゃんが。



 この奇妙な誘拐事件の犯人だなんて。

 そんな、最悪な可能性。



318 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/25(火) 04:04


 今回はここまでです。

 読んでくださった方、本当にありがとうございました。


319 名前:6話 孤独という名の絶対恐怖 投稿日:2006/04/29(土) 01:36


     I Know.
  6話 孤独という名の絶対恐怖


320 名前:6話 孤独という名の絶対恐怖 投稿日:2006/04/29(土) 01:37

 ここで目覚めて最初に見た夢。
 知らない女の子がでてくる夢。

 何度も見たけど、やっぱり思い出せない。


 あれから、もう何度眠ったろう。
 寝すぎて体がおかしくなりそうだ。

 お腹空いたな。
 今、何時なんだろう。

321 名前:6話 孤独という名の絶対恐怖 投稿日:2006/04/29(土) 01:37

 いくら待ってもだれも来ない
 (実際はそんなに時間が経っていないのかもしれないけど)。
 
 医者も、看護士も、見舞いの家族とかも。


 どうして?


 私は見捨てられちゃったのかな?


 そんなはず、ないよね…?
 検診とか見回りとかで誰かかれかそのうち来るよね?


 時計がない分、ひとりの時間が長く感じられる。

322 名前:6話 孤独という名の絶対恐怖 投稿日:2006/04/29(土) 01:38

 私を悲しげに呼んだあの子は、
 やっぱり私が夢の中で作り出した架空の人物だったのかな?


   「みきたん」


 甘い声がまだリアルに頭の中を回っている。


 ここから出たい。

 あの子に会いたい。


 こんなところで、何も知らないまま死にたくなんてない…!

323 名前:6話 孤独という名の絶対恐怖 投稿日:2006/04/29(土) 01:38


     I Know.
  6話 孤独という名の絶対恐怖

             おわり。


324 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:39


     I Know.
 7話 聞こえる言葉と見えない手


325 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:39


 ここまで来て、鍵が閉まってるってどーゆーことだよ…。

 私は思わずその場に座り込んでしまった。
 背中越しに硬く冷たい鉄扉の感触。
 

 あれから色々と歩き回ったけど、やっぱりここしか考えられない。

 この扉の向こうには、きっと出口に繋がる階段があるはず…なのに。

 「……………?」


 物音がする。
 …いや、足音…?


326 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:40


 どこから?


 ……どんどんこっちに近づいてくる。

 今私が寄り掛かっている、この扉の向こうからだ…。

 だれ?


 犯人、かな?

 怖い…。
 怖い……!

327 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:40

 一瞬逃げようかと思ったけど、この広い密室。
 どこに逃げるっていうのだ。


 やられる前にやるしかない……!


 来るなら来てみろ。

 この扉を開けた瞬間、超必殺中段蹴りをお見舞いしてやる。



 足音が扉の前で止まった。


 「―――――」
 「―――――」


 くぐもった声が聞こえる。
 …会話、しているのか?

328 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:41


 犯人はふたり以上ってこと?

 1対2じゃ、ちょっとヤバイかも…。

 いや、相手は声からしてたぶん女の二人組み。
 先手を取って一気にやれば、いけるかも。


   ちゃ…


 鍵穴に鍵が差し込まれた。

329 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:41

 「すー…はー…」

 落ち着いて、深呼吸。


   がちゃん


 鍵が開けられた。
 そして、ゆっくりと扉が開く。


330 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:42


 「ぅおらっ!!」
 「がっは…!」
 「きゃー! ごっちーん!!」


 は?



331 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:42


 「げほっ…ぅあ…口ん中が苦い…」

 「え? ごっちん? 梨華ちゃん??」

 「ミキティー! もー、いきなり何するのぉ!?」

 「え、いや…だって、てっきり犯人かと…。
  ってか、ホントごめん、ごっちん…大丈夫?」

 「ん。なんとか…。一瞬違う世界が見えたけど…」

332 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:43

 犯人だと思い込んでいた女の二人組みは、私の友達でした。

 「ミキティーも、誘拐されちゃってたの?」


 その友達のひとりの梨華ちゃんが
 ごっちんの背中をさすりながら訊く。

 いや、蹴りが入ったのは鳩尾で、
 背中さすってもあんま意味無いと思うんだけどね。

 ま、いいや。

333 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:43

 「うん。サークルのミーティング終わって、
  よっすぃーの家に向かう途中に…誰かに後ろから薬を嗅がされて…」

 「あ、ミキティーも? アタシもそーやって誘拐されたんだ。
  何かドラマみたいだったよね〜」

 「そうそう! ホントね〜」

 「もぅ! 
  ふたりとも、そんなのんきにしてる場合じゃないでしょっ!」

334 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:44

 ごっちんと盛り上がってたら梨華ちゃんに怒られてしまった。

 ちょっとイラっときたけど、
 ここはおとなしく本題に戻ったほうがいいか。

 「え〜…っと。ってか、今どーゆー状況なの? 
  だれの何の目的で私たち、こんなことになっちゃってんの?」

 「え、そ、そんなにいっぺんに訊かれても…」

 「んぁ〜、ま、とりあえずうちらが掴んだことは…」

335 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:44



   *     *     *



336 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:45



   ― 3人が再会する約20分前 ―


 とりあえず事務室を出た私たちは、
 その隣に警備室を発見し、入ってみることにした。

 扉はまたあっさりと開いて、簡単に入ることができた。



 部屋中に小さなモニターがあって、
 そこには建物内の各所に設置されている監視カメラの映像が映し出されている。

 「うわ…。こんな部屋ホントにあるんだね…」
 「……………」
 「? 梨華ちゃん、どしたの? 疲れた?」
 「へっ? う、ううん。どうもしないよ…」

337 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:45


 「大丈夫」と呟いた梨華ちゃんは、やっぱり少し顔色が悪いようだ。
 こんな状態で精神的に疲れない方がおかしいよね。

 私もちょっときてるかも。
 どこかで一旦、休憩したほうがいいかな?


 梨華ちゃんの顔をもう一度見てみると、
 さっきと同じところをじっと見続けていた。

 その視線の先には、壁にかけられた何種類もの鍵。
 色々な場所の鍵があって、ところどころ欠けている。


338 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:46


 最初にアタシがいた202号室と、梨華ちゃんがいた200号室の鍵。

 この2つは今梨華ちゃんが持っているから、無いのは当たり前で。


 あとは、『3階』と書かれた場所の『制御室』、
 『B1』と書かれた場所の『第1隔離室』、
 『B3』と書かれた場所の『第3隔離室』の鍵が持ち出されている。

 今、犯人が持っているということだろうか。


339 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:46


 「『階段』って書いてある鍵、一応持ってってみる?」

 「え?」

 「無くなってる鍵の部屋の場所って、階段使わなきゃ行けないとこだし。
  行かなくても持ってて損なことはないよね」

 「あ…うん。そうだね」


 私は各階の階段の鍵を取った。

 ふと、視界の端に入っていたモニターに何か動くものを見つけた気がした。


 「え…!? よっすぃー!?」
 「え?」


340 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:47

 瞬間、モニターが切り替わってしまった。

 「あ、今、よっすぃーが居たんだ! 
  どこだろう…なんか、アタシたちの居た部屋に似たような…
  梨華ちゃん、見なかった!?」

 「み、見てない…一瞬だったし……。ホントに? 
  ホントによっすぃーだった? よっすぃーも…誘拐されちゃったの……」

 「助けに行こう。犯人はよっすぃーのとこに行ったのかも」

 きっと、よっすぃーは
 第1隔離室か第3隔離室のどっちかに閉じ込められてるんだ。


341 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:47


 「でも、鍵が…どうやって助けるのっ?」

 涙ぐみながら梨華ちゃんが言う。
 どうやって助けるか、なんて…そんなのわかんないけど…。

 「とにかく、このままここに居るよりは!」
 「…っ!」
 「…あ…ゴメン、怒鳴っちゃって……」
 「う、…ううん。私こそごめんなさい…」

 「…行こう。とりあえず、
  ここから一番近い地下1階の第1隔離室に」


342 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:48



   *     *     *



343 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:48


 「――…ってわけで」

 アタシはここに来るまでの経緯と、
 今まで分かったことをミキティーに話し終えた。


 「そっか…よっすぃーも……ってか、あやちゃん…」
 「あ、それは単なる憶測で、可能性なんてゼロに等し…」
 「でもゼロってわけじゃない…」
 「そ、れは…そうだけど…」

 「……………」


 重い沈黙。

 アタシの腕にしっかりくっついている梨華ちゃんも、
 さっきから顔を伏せて黙り込んだままだ。


344 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:49


 「…あ〜、っつーかさぁ、
  ふたりともいつの間にそんな仲良しになったの?」

 突然、ミキティーがいつものしかめっ面でこの状態を指摘した。

 「へっ? あっ…!」

 梨華ちゃんが慌ててアタシの腕を振り払うように離れた。
 ひどいなぁ。梨華ちゃんが一方的にくっついてたんでしょ。


 「梨華ちゃん浮気ぃ〜? それともごっちんに乗り換えたとか」
 「なっ! ちがうもん!!」

 梨華ちゃんが顔を真っ赤にして抗議する。


345 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:49


 うわ。
 これ、…ちょっとキツイ。

 やっぱり、梨華ちゃん…
 アタシのことは『友達』としかみてないよね。

 うん。まぁ、わかってはいたけど。


 でもちょっとツライから、話題変えさせてもらうよ。


346 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:50


 「ま、まぁ…とりあえず移動しよ。
  ミキティーが居たのは第1隔離室だったんだよね? 
  次の…えっと、第3隔離室に行ってみよう」

 「あ? あぁ。そ−だね。そこによっすぃーが居るんだもんね」
 

 梨華ちゃんの恋愛話にはさほど興味が無かったのか、
 あっさりミキティーはアタシに同意した。


 助かります。


347 名前: 7話 聞こえる言葉と見えない手 投稿日:2006/04/29(土) 01:50


     I Know.
 7話 聞こえる言葉と見えない手


             おわり。


348 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/04/29(土) 01:51

 今回はここまでです。
 読んでくださった方、本当にありがとうございました。

349 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:25


     I Know.
  8話 閉ざされた道の最果てで


350 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:26


 少し彼女を侮っていたようだ。


 あたしはもぬけの空になっている第一隔離室に絶望し、
 同時に彼女を恨んだ。

 やっぱりちゃんと鍵をかけて、あたしが持っておくべきだった。
 とりあえず制御室からエレベーターのロックをかけたけど…。

 それを解かれるのも時間の問題かもしれない。



 どうか。

 どうか間に合って。


351 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:26


*     *     *


352 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:27

 「あ…ちょっと、待って。ふたりとも」

 まだ第3隔離室に閉じ込められているよっすぃーの元へ行こうと
 歩き出したアタシとミキティーを、梨華ちゃんが呼び止めた。


 「なんだよ」

 「んぁ? どしたの?」

 「そういえばね、あの…警備室でごっちんが、
  よっすぃーを見たって言ったでしょ?」

 「うん」

 「そのよっすぃーが映ったモニターって、
  右下の一番端のやつ…だったよね?」

 「? うん」

353 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:27

 あのとき、確かにアタシはそのモニターを指差して言った。


   ――あ、今、よっすぃーが居たんだ! どこだろう…なんか、
     アタシたちの居た部屋に似たような…梨華ちゃん、見なかった!?――


 けど、それが…。

 「それがどーしたの?」

 アタシの代わりにミキティーが梨華ちゃんに訊く。
 何が言いたいのかさっぱり分からないという様子で。


 うん。
 アタシにも梨華ちゃんが何を言いたいのか分からない。

354 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:28

 「あ、えっと…そのモニターの下に『第2隔離室・B2廊下』
  って書いてあった…気がして」

 「えっ?」


 そうだったのか。
 あのときはびっくりして他のトコよく見てなかったから。

 「ってことは、よっすぃーはごっちんの言う第3隔離室じゃなくて、
  第2隔離室に居るってこと?」

 「たぶん…」
 「それじゃあ急いで警備室に鍵を取りに…」
 「あ、待って!」

 また梨華ちゃんに呼び止められる。


 思わず勢い余ってコケそうになっちゃった…。

355 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:28

 「鍵ならあるよ」

 言って、梨華ちゃんがポケットから鍵を出した。
 …って、えぇ!?

 「い、いつの間に…」
 「えへっ」
 「いや。梨華ちゃん、キショイから」
 「なっ! ミキティー、ひどい!」


 そんな感じで(?)アタシたちはそこからまっすぐ
 地下2階の第2隔離室へと向かった。

356 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:29


 階段は狭くて、暗くて。
 そして、3人分の足音がよく響く。


 この音、犯人に聞かれてはいないだろうか。
 扉を開けるとき、角を曲がったとき、いきなり殴りかかってくるかもしれない。


 だけど、そんなことはなくて。
 もしかしたら犯人は今、この建物内には居ないのかもしれない、なんて。
 そんな推測ができてしまうくらい、全然姿を見せない。


 まるでアタシたちとの接触を避けているかのように。


 「ここだ。第2隔離室」

 この扉の向こうに、よっすぃーがいる。


357 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:29


 「よ…よしっ」

 一応、気合を入れたつもりなのだろうか。
 梨華ちゃんが胸の前で両手を握る。
 その右手にはこの扉の鍵。


 よっすぃーと、久しぶりの再開だもんね。
 こんな形でだけど、…やっぱりドキドキするよね。

 梨華ちゃんは緊張してるのか、鍵を差し込む手が震えていた。


   かちゃ…ん


 梨華ちゃんがゆっくりと鍵を開ける。



 そして、ドアノブに手を………かけなかった。

358 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:30

 「ご、ごっちんとミキティー、先に行って!」
 「へ?」 「は?」

 いきなり指名されたアタシたちはきれいにハモった。


 「ちょ、梨華ちゃん、なに照れてんの? いーから行きなって」
 「いぃ、いーからミキティー行ってよ」

 扉の前で何やらばたばたと始まった。

 も〜、なにやってんだか。


 「じゃあ、アタシが開けるよ」

 騒いでいるふたりを放って、アタシは躊躇い無く扉を開けた。

359 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:31


 「ほら。遠慮してるからごっちんに先越されちゃった」
 「…………………」


 梨華ちゃん、怒ったかな?
 怖くて後ろ振り向けないや…。


 これは、ちょっとしたアタシの抵抗だったり。

 「お〜い、よっすぃー?」

 とりあえず、声をかけてみる。
 室内は電気が点いていなくて真っ暗だったから、様子がよく分からない。


 「あれ? なんだ、真っ暗じゃぅおわ!?」
 「うわぁ!!」

360 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:31


 アタシのすぐ後ろに居たミキティーに押されて、
 ふたりで思いっきり床に倒れこんだ。

 な、何が起きたの??


 「いたたたた…ミキティー、どいて…」
 「あ〜、ごめ。…ってか、石川ぁ! いきなり背中押すなよっ!」


 え? なに? 梨華ちゃんがやったの?
 先に部屋に入ったことそんなに怒ったのかな?


 「……ごめんねぇ、ふたりとも」


 声はいつも通り、いや、いつもよりも明るい?



 …笑ってる、の?


361 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:31


 逆光だし、見あげる体勢だから表情がわからない。

 「ちょっと私、行ってくるから」
 「え? 行くって、どこに…」
 「おい、ちょっと待てっ!」

 「邪魔者を…排除してくるね」


   バタン! ガチャッ!


 え?
 鍵、閉められた?


 「ちょっ、オイ! お前、なにすんだよっ! 石川ぁ!!」

 真っ暗闇の中、ミキティーの怒声と扉を叩く音が響く。

362 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:32


 アタシは混乱して、座り込んだまま動けない。

 なにが起こったの?
 『邪魔者』ってだれのこと?
 どうして梨華ちゃんがアタシたちを閉じ込めるの?

 それに、どうして…笑ってたの?


 わけがわからなくて、涙が出てきた。

 「うぅ………り…かちゃ…」
 「え? なに、ごっちん泣いてんの?」
 「んミキティいぃぃぃ…」


 手探りでミキティーを見つけたアタシは、
 その足にすがり付いて泣いた。

 「うわっと! あぶなっ! コケるコケる! あ゛――!」


363 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:33

 「うぇー… ミキティー…!」

 「いったぁ〜、お尻おもっきし打ったって。
  ちょっと勘弁してよ、ごっちん」

 「だって……りかちゃんがぁ…」

 「なに? なんで泣いてんの?」

 「……ぅ……………」

 「え? ねぇ、どうしたの? 
  わけわかんないよ、いきなり泣き出したりとか…」

 「…………ぐすっ……」



 わけわかんないから泣いてるんだよぉ…。


364 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:34


 「…あ〜、もう! しょーがないなぁ」


 質問に答えないでいると、ミキティーはそれ以上訊かないで
 ただアタシの背中を優しく叩いてくれた。


 持つべきものは親友だね。


 アタシはここにミキティーがいてくれたことにすごく安心した。



 こんな真っ暗な部屋にアタシひとり閉じ込められたら、
 きっと…正気を保っていられなかったと思うから。

365 名前:8話 閉ざされた道の最果てで 投稿日:2006/05/01(月) 02:34


     I Know.
  8話 閉ざされた道の最果てで


             おわり。


366 名前:かちゃぼ 投稿日:2006/05/01(月) 02:35


 今回はここまでです。
 読んでくださった方、本当にありがとうございました。

367 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/06(火) 18:47
おっ、面白いのみっけ
どういう結末になるか考えながら待ってます

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