がきさんみきさんのenjoy!学生生活
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/08(水) 12:11
- 新垣藤本+αの学園物。年齢等いじってます
つーかがきさんって今いくつ?
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/08(水) 12:12
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―世界の中心でおっぱいと叫ぶ―
- 3 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:13
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「もっさん、もう帰りましょうよ〜」
「がきさんうるさい。まだだよ、まだねばる!糸引きすぎて真っ白く気持ち悪くなってしまう納豆のような心を持て!」
「そんな心臭くて持てませんよ・・・」
ハロモニ女子学園高等部バレーボール部部室の扉が見える木の陰に二人の女子生徒は身を潜めていた。
豆のように小さな顔に渋い表情を浮かべ一人ごちるのは新垣里沙、一年生。
今年中等部から高等部に上がったばかりのピチピチキラキラフレッシュヤングな15才だ。
彼女の周りの人間は新垣のことを豆だとかがきさんだとかニィニィだとか呼んだりする。
たまにアラガキとか言われるけどアラガキではない。アラカキでもない。ニイガキだ。
そんな彼女を配下に置いている人間がいる。
身を屈め、鋭い目を虎視眈々と光らせバレー部部室の動向をじっとそっとねばっと伺っているこの人、藤本美貴だ。
彼女は三年生。心だけはいつまでもピチピチキラキラフレッシュヤングな17歳。
立ち上がる時にどっこいしょと言ってしまうのはただの口癖だ。
- 4 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:13
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季節は秋。時刻は夕暮れ。オレンジの空に烏が2、3羽。乾いた風が哀愁誘うぜ。
「ねーもっさん!もう帰りましょうって!」
新垣はイライラしている。
お腹が空いていたし少し寒かったし足も痺れてきていたし藤本の後ろからでは何も見えない。
藤本の背中ばかりを見つめもうかれこれ三時間ばかりになる。
今日の夕飯はビーフシチューだと出掛けに母は言った。早く家に帰って弟より肉が多く入るように細工をしたかった。
それができない。新垣はイライラしていた。
「まだだめだ。お前は忍耐が足りん」
藤本は背後に位置している新垣を振り返りもせずに言う。相変わらず鋭い目を光らせ一点を見据え続ける。
新垣は諦めた。ビーフシチューにより多くの肉を入れる事を。人参を取り除く事を。
もう藤本に何を言っても無駄だ。彼女が自分から動き出さない限り新垣自身もこの場から動けないのだ。
昔からそうだった。早く気付くべきであった。彼女が自分の目の前に現れた放課後の時点で気付くべきであったのだ。
新垣は諦めた。盛大にお腹が鳴り、虚しくなって溜め息を吐いた。
- 5 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:14
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彼女との付き合いは長い。
新垣がハロモニ女子学園初等部に入学した年に藤本は隣りに越してきた。
以前は北海道の真ん中ら辺にいたんだと後に藤本は話した。
- 6 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:14
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藤本さん一家が大きなトラックと一緒にやってきたのは金曜日の夕方だった。
隣り同士仲良くしようと初等部一年生ながら里沙は立派に思った。
越してきたばかりでこの辺りの事も知らないだろうから自分が教えてあげようと思った。
通う学校も一緒だという事で登下校は共にしようとも思った。
心を決め、次の日の朝、隣家のインターフォンをめいいっぱい背伸びして押した。2、3度鳴らしてようやくドアが開いた。
「はじめまして。私、となりにすんでるにいがきりさっていうの。よろしくね」
挨拶の言葉は手の平に書いてあった。笑顔もいっぱい練習した。その日の内に大親友になれる作戦だった。
だかその作戦が成功する事は無かった。
白いドアがゆっくりと開き、その隙間から見える人影を確認した瞬間里沙は自分の家へ逃げ帰った。
ベッドに潜り込んで泣いた。手の平に書いてあった挨拶の言葉は滲んで消えた。少しだけお漏らしをしてしまった。
- 7 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:15
- 怖かった。
ドアの隙間から見えたのは自分が想像していた優しくて可愛くてちょっと大人な年上の美貴ちゃんではなかった。
そこにいたのは恐ろしく冷たくて意地悪そうで尖んがってる年上の美貴様だった。
せっかく隣りに引っ越してきたのに仲良くなれないよ。初等部一年生の里沙は両親に泣きながら訴えた。
その時両親がどんな顔をしていたのか今ではもう思い出せない。
それが土曜日だった。日曜日、里沙の両親はお隣りさんの引っ越しを手伝っていた。もちろん里沙は手伝わなかった。
そしてその日の夜、晩ご飯を食べている時に里沙の母親は言った。
「里沙、明日お隣りの美貴ちゃんと一緒に学校行ってあげなさい」
- 8 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:15
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里沙は目の前が真っ暗になった。スプーンを持つ手が震え、落としてしまった。
服をカレーで汚し、父親に怒られ、泣いた。
明日あの子と一緒に登校しなければならないなんて!
里沙を絶望が襲った。大好きな学校が少し嫌いになった。
何とかして明日、学校を休めないものだろうか。小さな里沙は一生懸命考えた。そして思い出した。
お父さんは牛乳を飲むとお腹が痛くなると言っていた!
そうだ、この作戦だ!これなら仮病を使って母親を悲しませる事はない。我ながら名案だと里沙はほくそ笑んだ。
そして月曜日の朝。
里沙はいつもより早く目が覚めた。一階に下りるとまず一杯目の牛乳を飲んだ。
うん、美味しい。コップが空になるとまた注いで飲んだ。それを繰り返した。
まだかな?まだお腹痛くならないかな?そうこうしているうちに牛乳パックは空になってしまった。
冷蔵庫を開けてみるが、生憎これが最後の一本だったようで、牛乳は無かった。
とりあえず沢山飲んだしいいや。
- 9 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:16
- 里沙はソファに座ってテレビを見ながらお腹が痛くなるのを待った。
父親は一杯飲むだけでお腹をピーピー言わせトイレと友達になっていた。
自分はそれ以上飲んだからお腹はピギャーピギャー泣いてトイレとは大親友になれるはずだ。
里沙はお腹が泣き出すのを待った。じっと待った。そっと待った。ぐっと待った。ズバッと待った。
「里沙、もう行かなきゃ遅刻しちゃうわ」
母親が里沙のランドセルを手にして玄関に立っていた。
何故だ!何故こない!
里沙は頭を抱えた。あんなに頑張ったのに。こんなのってない。酷いよ、あんまりじゃあないか!
「ほらっ!もう早くしなさいっ!」
母親にお尻を叩かれ里沙は泣いた。死にたくなった。
無理やりにランドセルを背負わされ外へ引きずり出される。
そこにお隣りさんちの子供はいた。
- 10 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:17
-
「ほら、お隣りの美貴ちゃんよ。ご挨拶しなさい」
母親に背を押され正面に立つ。里沙は顔を上げる事が出来なかった。
お母さん助けてよ。
心の中で叫んでみるものの母親はお隣りの美貴ちゃんのお母さんとお喋りに夢中。
里沙は眉間に皺を寄せた。どうしたらいいんだ!
「アンタ、なまえは?」
少し癖のある鼻にかかった甘い声。誰の声?空耳?気のせいかな?
「ねえ、きこえてんの?」
その言葉で里沙は気付いた。この声は自分に向けられている。と言う事は・・・?
恐る恐る顔を上げた。
腕組みをしてこちらを睨むお隣りの美貴ちゃんがいた。
「なまえ、なんてーの?」
ぶっきらぼうにつっけんどんにお隣りさんは言う。
何故か分からないが里沙は背筋をシャンと伸ばし敬礼をした(里沙は初等部一年生だったが敬礼が出来たのだ!)
- 11 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:17
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「に、にいがきりさでございます!」
「ふーん、りさちゃんね」
お隣りさんは目を狐みたく細めて笑った。
それが少し色っぽくてさすが年上のお姉さんは違うなあと里沙は感心した。
それとこの人本当はあまり怖くないのかも知れないなぁとも思った。
だって改めて見るお隣りの美貴ちゃんはとても可愛い顔をしていた。声も怖くなかった。
少し偉そうだけど年上だもん、当たり前なのかもしれない。
里沙の中から恐ろしかった美貴ちゃんは消えていった。
「あたしはみきだよ、ふじもとみき。よろしくね」
美貴ちゃんは右手を出してニッコリと笑った。それはもうとても可愛くて里沙はイチコロでやられてしまった。
美貴ちゃんと握手をすると里沙の中から冷たかった美貴ちゃんはいなくなった。
目の前にいる美貴ちゃんは太陽みたいに温かい手をしていたのだ。
二人は手を繋いで学校へ行った。里沙はとても幸せだった。
- 12 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:17
- 学校の昇降口で美貴ちゃんと別れた。美貴ちゃんは職員室へ行かなければいけなかったから。
里沙は職員室の場所を教えてあげるとまた後でねと言って別れた。
その直後だった。里沙を悲劇が襲った。
お腹が泣き出したのだ。ピギャーどころかプロゲグギャーと泣き出した。
里沙は走った。背を丸め真っ青な顔に玉のような汗を浮かべて走った。
『廊下を走ってはいけません』のポスターは里沙が走り去った後の風に吹かれて飛んでいってしまった。
漏らしてしまうという大失態は避けたもののトイレとは親友以上恋人未満の関係になってしまった。
- 13 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:18
-
学校の帰りにこの話をするとお隣りの美貴ちゃんは手を叩いて喜んだ。大きな声で笑った。
笑ったけれどその後に小さな声でポツリと言った。
「やっぱりさいしょはこわかったんだ」
と。
里沙には何も言える言葉が無かった。
美貴ちゃんが悲しい思いをしているという事はなんとなく分かった。だから自分も悲しくなって泣いてしまった。
美貴ちゃんはそんな里沙の頭を撫でた。太陽みたいに温かい手で何度も、何度も。
「りさちゃんはやさしいね」
そう言って美貴ちゃんは笑った。
本当は悲しくて泣きたいのに涙を我慢している美貴ちゃんを里沙は大人だなあと思った。カッコいいなあと思った。
里沙はお隣りの美貴ちゃんの事を好きだと思った。
- 14 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:18
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そんなこんなで仲良くなり初等部、中等部と共に進み今現在は高等部に在学する二人。
二人とも少し大人になり美貴ちゃんはもっさんだとかミキティだとかになり、里沙ちゃんは豆だとかがきさんだとかになった。
ぐぅ〜・・・
また新垣のお腹が鳴いた。お腹が痛いわけではない。お腹が空いているのだ。
オレンジ色だった空は上の方から紺色のグラデーションが掛りはじめている。
「もっさぁがっっ」
もうそろそろ、いい加減もういいだろうと新垣が口を開いた瞬間その口は藤本によって押さえられた。
鋭い瞳は宝物を見つけた冒険者のようにキラキラと、否、獲物を見つけた獣のようにギラギラと光っている。
「静かに。騒ぐなよ」
- 15 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/08(水) 12:19
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藤本は絶対零度の冷たい視線を新垣に向けた。
分かった分かった騒がないから手を退けて息が。
必死の形相でアピールすると藤本は手を離した。大きく深呼吸をする新垣。
さっきので脳細胞が何個か殺られてしまった。冥福を祈る、我が細胞よ。
肩を落とす新垣をよそに藤本は唇を歪めて笑った。
その視線ははバレー部部室に注がれている。
「今日こそは逃がさないよ・・・よっちゃん」
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/09(木) 00:18
- 面白そうなのが始まった!(・∀・)イイヨーイイヨー
- 17 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:38
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よっちゃん。
ここで彼女について説明しよう。
よっちゃん、よっすぃ、吉澤ひとみ。
ハロモニ女子学園高等部に在学する、藤本と同じ三年生。元バレーボール部のエースアタッカー。
容姿端麗なスポーツ天才マンだ。勉強は出来ないが(というかアホ)、それもまた彼女の人気に拍車を掛けている。
彼女はこの学園の人気者。下は初等部一年生から上は教師や保護者までその人気は絶大だ。
フランクな人柄とパシフィックオーシャンのように広い心(自称)で学園生の心を常にGET&CATCH!鷲掴みだ。
で、同じ学園生である藤本さんもそこらの学生と変わらず、吉澤さんにガッとグッとギュッと心を鷲掴みにされた一人なのである。
- 18 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:38
-
「豆、行くぞ」
「ぅお?あ、はいっ!」
脱兎の如く駆け出した藤本の後を追う。つもりが足が痺れて転んでしまった。
藤本はそんな新垣を気にも止めずにテッテッテッピョ〜ン!
「ひょっちゅわぁんすわぁ〜ん!!」
それ何語?
キラキラハート振りまいて勢いつけてそのままダイブ!
その先にいた吉澤は動じる事なくがっちりキャッチ!凄い、10点満点だぜブラボー!
つーか公開駅弁やめれ。
地べたにはいつくばる新垣をよそに藤本と吉澤はイチャイチャパラダイスまっしぐら。
「わお、ミキティどうしたんだい発情期?」
「いやんよっちゃん知ってるくせに」
「アウ!そうだった、君は万年発情期だったね、ソーリーソーリー森総理!」
「もぅ、バカ」
- 19 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:39
-
そうして二人はイチャこき出す。
新垣は同性愛や同性愛者に偏見は持っていなかった。
持ってはいなかったが、自分の直ぐ目の前でやられるとさすがにちょっと、ねぇ?耐えられなかった。
「こーらこらこらこらこらこらこらぁーっ!」
「新垣てめぇ・・・」
「おーぅガキさん!お久しブリーフトランクス!」
「お久しブルマー」
突然の乱入者に藤本は顔をしかめ、吉澤は顔を綻ばせた。
大きく腕を広げ軽くハグする。新垣は赤面した。実は昔、少しだけ吉澤の事が好きだったのだ。
「どうしたの、こんな遅くまで学校いるなんて」
過去の記憶を思い起こす新垣に気付くはずも無く、吉澤は体を離すと問う。
いや、私に聞かれても。
新垣は藤本を仰いだ。
そして反射的にそっぽを向いた。
鬼だ。赤鬼だ。鬼が立っている。
ケラケラと吉澤の笑う声が聞こえた。
- 20 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:39
-
「美貴ちゃんいーねー、その表情ナイスだよー!うん、最高だね!」
とある噂によると吉澤は付属の大学ではなく、芸術系大学への進学を希望しているらしかった。
なんでも映像作品を作りたいらしく、最近の学内ではハンディカメラを手に走り回る吉澤の姿が多数目撃されていた。
そんな吉澤の心に藤本の怒りの表情がヒットしたらしい。
吉澤は手を叩いて喜んだ。新垣も心の中で手を叩いて足を鳴らして喜んだ。ナイス吉澤グッジョブ吉澤!
新垣は知っている。藤本の弱点を。それは吉澤。
新垣は神様なんて信じていない。だから神様ではなく吉澤に心の中でこっそりお礼した。
振り返って見ると案の定藤本はデレデレとだらしない笑みを浮かべ吉澤にくっついている。
はぁ、なんだかなぁ。
助かったんだけど、なんだかなぁ。
「で、なんでいんの?」
吉澤は再び問う。その声に藤本はパッと体を離した。
おや、空気が変わった?なんかピリピリ痛いぞ?
何が始まるのかは分からないが自分の身を案じて新垣はその場から少し離れた。
- 21 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:40
-
「よっちゃん」
「ん?」
「最近私の事避けてるでしょ」
「ななななにをいっているんだ、ミキティ、何故そのような事を言う」
「うっさい。なんで避けてんだ馬鹿」
「だだだだから避けてなんかないってば、ホラ、今こうしてあってる」
「逃げようとしたくせに」
吉澤は可哀相なくらいに汗をかいて笑顔のまま固まってしまった。
藤本は目をつり上げ鋭く冷たく睨みを効かせている。
新垣はもう帰りたかった。この後起こる事が何となく予想出来てしまったから。
自分には関係ないしもう帰りたかった。空腹を通り越して気持ち悪くなっていた。
それでも藤本が帰ろうと言わない限り自分は帰れないのだ。何だか情けなくて泣けてきた。
- 22 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:40
-
「今度はどんな子?」
そんな新垣の気も知らず藤本はヒートアップ。目をギラギラさせて吉澤を睨み付ける。
怒りMAX怒りまくりすてぃなもっさんを直視出来るんだもんなーやっぱ吉澤さんって凄いや。新垣はぼんやり思う。
「中に、いるよね」
悪魔のような笑みを浮かべて藤本はバレー部の部室を指差した。
しらを切る事を諦めたのだろうか、吉澤は力無くうなだれがっくり膝を突いた。
「がーきーさんっ!」
突然自分が呼ばれる。
呼んだ本人を見ると可愛らしくニコニコ笑ってバレー部の部室を指差している。
「連れてきて?」
っだあ、んだよぉ、そんくらい自分でやって下さいよぉ的な事を新垣は言いたかったが言わなかった。
藤本はニコニコと笑ってはいたが目が笑っていなかった。
渋々、それでも素早く部室の前に立ちそのドアをそっと開く。
- 23 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:41
-
「・・・よしざーさん?」
聞こえてきたのは関西訛りの可愛らしい声だった。
顔を突っ込み声の主を探す。
ぅおう!おっぱい!
新垣の目に写ったのは豊満な乳房。
「アレ、ちゃうやん。貴方誰ですか?」
のんびりと話すその子に新垣は見覚えがなかった。
でも高等部の制服を着ているという事は二年生か三年生だ。
「あー、一年の新垣です。貴方は?」
「あたし?二年生や。二年の岡田唯言うんよ」
岡田さんはニッコリ笑った。
その笑顔を見て新垣は胸が苦しくなった。出来る事なら見なかった事に、いなかった事にしておきたかった。
だけどそれは出来なかった。新垣は今の藤本が怖かったのだ。
「・・・あー、岡田さん?ちょっと、外出てもらっていいですか?」
「ん〜?ぇえよー」
岡田さんはやっぱりニッコリ笑った。
新垣は自分が今とてつもなく悪い事をしているのではないかという自責の念に駆られた。それでももう、しょうがなかった。
- 24 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:42
- 「そいつか」
藤本の声が聞こえる。
新垣は目をギュッと瞑った。岡田さんの顔を忘れようと思った。
耳を塞いだ。藤本の声も、その内聞こえてくるであろう岡田さんの声も聞きたくなかった。
ところが、耳を塞ごうとしたその瞬間、新垣は聞いてしまった。
「よっちゃんのばかーっ!!」
ぅえ?なんで吉澤さん?
新垣が振り返ると猛スピードで小さくなっていく藤本の後ろ姿。
それとボーッと立ち尽くしたままの岡田さんと同じくボーッと立ち藤本の後ろ姿を見つめる吉澤の姿。
何が起こったんだ?
「がきさん、何アレ?」
怪訝な表情を浮かべ吉澤が聞いてくる。
いや、何アレと聞かれても私も聞きたい。しかも自分一人で帰りやがって。新垣は顔をしかめた。
「・・・とりあえず、今回は助かった形?」
「まぁ・・・そうなんじゃないですか?」
今回は、というか今の所は、だと思うけれども。
新垣が答えると吉澤は嬉しそうに笑った。
何が起きているのか全く理解出来ていない関西弁巨乳の岡田はまだボーッと立っている。
- 25 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:42
-
「で、今度はあの子なんですか?」
新垣は吉澤に近付き小さな声で聞いた。吉澤はニヤニヤといやらしく笑う。
「そーなんだよがきさん、よくぞ聞いてくれた。紹介しよう、我が輩のニュープリンセス、岡田唯ちゃんDカップだ!」
吉澤に名前を呼ばれ岡田はヒラヒラと手を振る。
笑顔を浮かべ手を振り返しながら愚問だとは思いながらも吉澤に聞く。
「選んだわけはなんですか?」
「お前分からないのか?」
吉澤は驚いたような憐れむような表情を浮かべる。
いや分かりますけど。見ただけで全然わかりますけど、貴方の口から聞かないと。
こっちはこの後もっさんに一言一句間違わないようにして伝えなければならないんですよ。
「なんなんですか?」
「おっぱい」
- 26 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:43
-
やっぱり。
吉澤に新しい女が出来たと知ると必ず睨みを効かせ2、3発蹴りをいれていたあの藤本が尻尾を巻いて逃げ帰るのも頷ける。
藤本の弱点は吉澤と胸だった。
新垣は空を仰いだ。もう星がチラホラと見えている。早く帰りたいと思っていた家に帰りたくなかった。
帰ったら藤本は真っ先にこの話を口にするだろう。新垣は話したくなかった。
藤本は怒るよりきっと悲しむだろうと思った。藤本の悲しい顔を新垣は見たくなかった。
心の底から幸せそうな笑みを浮かべヘラヘラとする吉澤の事が初めて憎いと思った。酷いと思った。
- 27 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:44
-
それでも、帰らなきゃなあ。
新垣はくるりと吉澤に背を向けトボトボと歩き出した。知らずに溜め息が出た。
何だか悲しかった。
「がきさん帰んの?」
吉澤の声が聞こえる。
見たら分かるでしょう、貴方馬鹿なんですか?ああ、馬鹿でしたね。
「さよなら三角またきて四角ってな!しーゆーとぅもろ〜!」
吉澤の大きな声に偉そうだとは思いながらも片手を上げるだけで答えた。
いつもなら楽しいはずのふざけた言葉が今この瞬間とても耳障りだった。
早く帰らなければ。
- 28 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/09(木) 00:44
-
ようやく家に辿り着いた新垣を出迎えたのは母の怒声と人参ばかりゴロゴロ入った冷めたビーフシチューだった。
新垣は食後の事を考えると気が重くなった。食が進まない。
人参ばかりだしビーフシチューなのにビーフのビの字も見当たらない。溜め息が出る。
「早く食べてしまいなさい!」母に怒鳴られ、やるせなくてまた溜息を吐いた。
夕食を食べ終えると新垣は重い腰を上げた。二階へあがりたくなかった。
自分の部屋へ行きたくなかった。でも、行かなきゃなぁ。
階段を一段ずつゆっくりと上っていく。自分の部屋の前でいったん立ち止まり、大きく深呼吸する。
よし、行くぞ!
両頬をパン!と叩き気合いを入れると新垣は自室のドアを大きく開けた。そして閉めた。
どどどどどうしよ〜怖いよ恐ろしいよえすかごたる〜!!
幽霊見ちゃった。
肩で大きく息をする。ドアノブを掴んだ両手は汗でグッショリビッショリ。膝はカクカク笑っている。
ヤバいよいい年してお漏らししちゃいそうよコレ。
新垣は情けなく笑った。本当は泣き叫びたかったがもう15才だしと思い我慢した。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/09(木) 00:46
- >>16
面白くなるかどうかは分かりません
ありがとうございます
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/10(金) 00:37
- うぉー!すげえ面白いっす!
スポーツ天才マンのアフォっぷりときたらw
- 31 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:12
-
それにしてもなんだ、幽霊とはこんなに恐ろしいものだったのか。想像以上だ。
新垣は今まで生きてきて心霊体験というものが全く無かった。
初めての心霊体験。それだけに思い出しただけでも身が凍る。
- 32 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:13
-
勢いよくドアを開け、部屋の中に顔を突っ込んだ瞬間新垣は見てしまったのだ。
窓ガラスの向こうに浮かぶ生首を。
なんと恐ろしかった事か!
その顔はこの世の全てを憎んでいるような絶望しているような悲しそうな悔しそうな怒っているような、
なんとも言えない複雑な表情でこちらをじっと睨んでいたのだ!
一瞬の出来ごとだったけれどあの顔は新垣の脳裏にくっきりはっきり焼き付いてしまった。
きっと十年後も二十年後も死んでからも忘れられはしないだろう。それほどに強烈だった。
強烈で恐ろしかったけれど新垣にはそれ以上に恐れているものがあった。藤本だ。
早く報告しなきゃ。
おばけなんてうそさおばけなんてないさ
頭の中で歌いながらドアを開ける。腕だけ入れて電気スイッチを探す。手の平にスイッチの感触。パチン。
開けたドアの隙間から光が漏れてようやく新垣は大きくドアを開けた。途端に腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
- 33 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:13
-
「ミミミミキティ!?」
ガラスの向こうはお隣りさん、藤本家令嬢藤本美貴嬢の自室。
その窓ガラスに藤本がベッタリと張り付きジッとこちらを見ていたのだ。
ちょっとばかしパニクりながらも新垣の頭は動き始めるフルスロットル高速回転。
つーとえーとなにか?自分が見たのはもっさん?
いやでもあれ生首だったよ。
うん、あの人黒い服来てるし部屋真っ暗だし背景と同化したんでしょ。
いや、でもあの生首すんげぇ恐ろしい表情してたよ?
うんうん、今もしてる。
てことはなに、心霊現象なんかじゃないじゃない。
おばけなんてなーいさーおばけなんてうーそさー
幽霊はいなかった!
その事実に新垣は絶望した。小さい頃から信じてたのにオバケさん。
- 34 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:14
-
不意に笑えてきた。
お漏らししそうに怯えていた自分が情けなかった。
幽霊は本当にいるじゃないかと泣きそうになりながらも心の中で小躍りした自分を愚かだと思った。
思い込みの心霊現象に少しだけ喜んだ自分を浅はかだと思った。
へたり込んだまましばらく一人で笑っていた。
するとドンドンとガラスを叩く音が聞こえた。
顔を上げると藤本が自室から身をのりだし窓を叩きながら、開けろ!とアピールしている。
新垣は笑うのを止めて立ち上がると窓の鍵を開けて藤本を招き入れた。
「がきさん一人で笑うのやめなよキモイよ」
藤本は冷たく言うと壁際に設置してあるベットにバフン!と荒々しく腰を下ろした。
新垣は藤本の前に胡座をかいて座る。
- 35 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:14
-
「で?」
藤本が不機嫌そうに漏らした。
新垣は慌てて姿勢を正す。
「えーと、今回のニュープリンセスは岡田唯ちゃん二年生だそうです」
「ふーん。で?」
無関心を装いながら藤本は冷たく次を促す。
新垣は口を開いたまま固まってしまった。
本当の事、言うべきだろうか。言った方がいいよな、自分の安全を考えると。
でも言ってしまったら彼女は悲しくなってしまうかもしれない。落ち込んでしまうかもしれない。そんなの嫌だ。
けどやっぱり言うしかない。吉澤の発言を正しく藤本に伝える事が自分の使命なのだ。
開いていた口をいったん閉じ、覚悟を決める。よし。
- 36 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:15
-
「おっぱい、Dカップだそうです!」
「っがああああああああああああああぅぉをぉおっぱい!!死ね!!おっぱい死ね!!」
藤本は立ち上がって吠えるとそのままベッドに突っ伏した。
新垣は正座で敬礼したまままた固まっていた。
怖い、怖いよもっさん。唾が飛んできたよもっさん。
藤本はベッドに倒れ込んだまま動かない。
とりあえず少し離れて、藤本が動き出すまで待つ事にした。
- 37 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:15
-
「・・・がきさん」
どれくらい経っただろうか、藤本の少し掠れた声が聞こえて新垣は眉毛を整えていた手を休めた。
振り返ると藤本は倒れ込んだ状態のまま動いていない。
「なんですか?」
「美貴の胸は小さい?」
ぅおぅ、直球ストレート!
新垣は困ってしまった。
「ん〜、あ〜、え〜、お〜、ど〜なんでしょうねぇ、そんな事無いんじゃないですか?
一応あることはありますしねぇ、はぁ、いやー、ねぇ、小さいって事はな」
「あるよ!だってAでもスカスカするもん!」
おぉっと大胆告白!つかマジで?私勝った!ってそうじゃない。
藤本は起き上がって凄い目で睨んでくる。
やめてそんな睨まないで。
浮かれてすいません。勝っちゃってすいません。
思わず視線を逸らした。何か、何か言え。
- 38 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:16
-
「や、あの、でもですね、もっさんのおっぱいは形綺麗ですよ」
何を言っとるんだ自分。おっぱいから離れろよ。
藤本の言葉を待つ。が、聞こえない。
恐る恐る視線を戻す。
あちゃあ何これ、どうしちゃったの美貴ちゃんさん。
おっぱい褒められたのそんな嬉しいの?
デレデレと照れ臭そうな笑みを浮かべる藤本の姿がそこにはあった。
「・・・そうかなぁ?」
目が合うと藤本はやはり嬉しそうに言った。
新垣は無言のままブンブンと縦に首を振る。そうだもっさんそれでいい。
大きさより形で勝負よ!
「って違うだろっ!!」
- 39 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:16
-
ひぃい!!
藤本はまた吠えた。目が爛々と光っている。
新垣は身を小さく固めた。殴られると思った。
だが、藤本の鉄拳が振るわれる事はなく、代わりに悲しそうな声が聞こえた。
「・・・よっちゃんはおっぱい大きい子が好きなんだ」
心底から傷ついているような藤本の小さな声。この声を聞くのは二度目だ。
「やっぱりさいしょはこわかったんだ」
藤本と出会ったその日に聞いたあの声と同じ。
新垣は胸が苦しくなった。切なくて悲しかった。
だけど泣かなかった。本当に泣きたいのは自分ではなく、藤本の筈だと思ったから。
だから涙は流さなかった。
だけどだからと言って藤本の涙が見たいわけでは無かった。泣いてなんか欲しくない。新垣は一生懸命考えた。
- 40 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:17
-
「あ、あのですね、でも大丈夫ですよ」
「なにが」
「人間って、二十歳までは成長し続けるんですって」
「だから?」
「だから、今から努力すれば来年にはDカップも夢じゃないですよ!」
「・・・そうかなぁ?」
「そうですよ!諦めたらそこで試合終了ですよ?」
「だよね、そうだった!諦めたらダメだ!美貴頑張るよ!来年には巨乳だぜガハハ!」
- 41 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:17
-
うんうん、無理無理無理無理。
だって貴方何年努力しました?もうかれこれ五年近くそのサイズ保ってますよね。それはそれで逆に凄いんですけど。
来年には巨乳?はいはい夢のまた夢。来年も貧乳街道猛スピードでトップ独走まっしぐら。
つかね、今の時代ナンバーワンよりオンリーワン。あなたそのままでいいじゃない。だって想像してみてよ。
おっぱい大きい藤本美貴なんてあり?正直無しでしょ、キモいって。小さくてこそ美貴パイ、貧乳でこそ美貴様、これ常識。
まぁ気休め程度に、頑張るのもいいとは思いますけどね。
「ですね、頑張ってください!」
新垣はニッコリ笑った。
あぁ、可哀相なもっさん。
きっと報われないであろうその努力を陰ながら応援しています。
「サンキュな、お豆」
- 42 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:18
- 藤本はグッと親指を立てると窓を乗り越えて自分の部屋へと戻って行った。
帰り際の笑顔がとても眩しかった。キラキラ輝いていてそれは凄く綺麗だった。
だから新垣はまた悲しくなってしまった。
だってこんなのって虚しいよ。悲しすぎるよ。
きっと今日から彼女はバストアップエクササイズを始めるのだろう。吉澤のために。
吉澤にはDカップのニュープリンセスが既に恋人の位置に付いている。
藤本は来年になれば自分は巨乳になれると思っている。
だけどきっとそれは多分絶対到底無理な話。
だから来年もやっぱり吉澤の恋人にはなれない。
こんなのってなんか虚しいよ。
新垣は大きな溜め息を吐いた。
てゆーか何でもっさんは吉澤さんの事好きなの?
そう言えば聞いた事が無かった。まぁいいや、今度聞いてみよう。とりあえず今日は疲れた、もう眠たい。
大きな欠伸を一つすると新垣は部屋の電気を消した。
暗闇の中、微かだけれど一定のリズムを保った藤本の声が聞こえてくる。
報われない努力してんだなぁ・・・
眠たい頭でぼんやりと思いながらやがて新垣は眠りに落ちた。
- 43 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:19
-
次の日。
朝からシャワーを浴び気分も爽やかに外へ出ると既に藤本が待っていた。
「がっきさんおっハロー!!」
「・・・おハロー」
やけにテンションの高い藤本に違和感を感じながらも隣りに並んで歩く。
藤本が隣りに引っ越してきて以来、朝は毎日一緒に登校していた。
それにしても今日の藤本はおかしい。やけにハイだ。ニコニコしてるしちょっと怖い。キモ怖い。
- 44 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:19
-
「ね、ね、がきさん」
「なんですか?」
「少しは大きくなった?」
そう言いながら自分の胸を指す。
新垣の膝からガクッと力が抜け危うく転びそうになるところをなんとか持ち堪える。
え?なんて?今この人なんて言った?
少しは大きくなったかだって?
一日そこらの努力で大きくなるような胸があるなら世界中の女性が巨乳だよ!おっぱいパラダイスだ!
スイカップ量産で吉澤さん大喜びだよ!つーかオレにくれ!ってばか!!
- 45 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:20
-
「うーん、その調子ですよー」
ああ私って優しい子。
藤本は始終ご機嫌そうにニコニコ笑いながら前後に大きく腕を振る。
「こう、やって、ねっ、前後に、大きく、腕を、振ると、胸、おっきく、なるって、さっ!」
楽しそうに、嬉しそうに笑いながら腕を振る藤本に新垣はもう何も言えなかった。
目の端にうっすらと浮かんだ涙を気付かれないようにこっそり拭った。
まぁ、悲しかったり落ち込んだりしてるもっさんは見たくないしね、いいんでない?
泣いたり怒ったりなんかしないでさ、今みたいに笑っててよ。
こう、頑張っちゃってるもっさんも(それが報われる事はきっと無いんだろうけど)うん、いいと思うよ。
- 46 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:20
-
「ホラがきさん遅いよ!」
藤本が大きな声で呼ぶ。
いつの間にか歩くペースが違ってきていたらしく藤本は随分と前の方にいる。
だいぶ離れてしまった距離を縮めるべく、新垣はアスファルトを蹴った。
「今行きますってば!今、会いに行きます!」
「誰か助けてください!!」
「ひぃ〜とみぃ〜をとぉ〜じてぇ〜!!」
「いーから早く来い!」
- 47 名前:―世界の中心でおっぱいと叫ぶ― 投稿日:2006/02/12(日) 01:21
-
―世界の中心でおっぱいと叫ぶ―
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/12(日) 01:25
- 以上
次回『臆病者の讃歌』(タイトル変わるかもです)
藤本新垣吉澤というか新垣と吉澤
>>30
次回スポーツ天才マン大活躍の予定です
- 49 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/12(日) 21:53
- めっちゃワロタw
作者さん最高!!次回も楽しそうだなヲイ
- 50 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/13(月) 00:15
- はっきり言う、あんたのセンスが好きだ!w
もっともっと書いてくれー
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/17(金) 03:39
- 今回はあまり面白くないのでsage
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/17(金) 03:40
-
―臆病者への讃歌―
- 53 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:41
- ―ピピピピピピ―
甲高い電子音が鳴り響いて新垣は目を覚ます。7時半起床。
ベッドの上でぅ〜んと体を伸ばすと足を吊った。あまりの痛さに声が出ず一人悶絶する。
「里沙!早く起きなさい!」
階下から母親の大きな声が聞こえる。
うん、分かってる、起きてるんだよお母さん。ただちょっと今動けないだけなんだ。
足をほぐしやっとの思いで下に降りると弟がランドセルを背負い玄関を出ようとしていた。
ということは?
「八時じゃん!」
新垣が通うハロモニ女子学園高等部は午前8時40分に朝のホームルームを行う。
自宅から学校まで歩いて20分弱。10分前には教室に入っていたい新垣は毎朝8時10分頃に家を出ていた。
それがどうしたことか、突然のアクシデントによる大幅なタイムロス。新垣は朝食をとるのを諦めた。
慌てて顔を洗い髪を梳かし眉毛を整え歯を磨き制服に腕を通す。
母の用意したお弁当と鞄を掴むといってきますの挨拶もそこそこに外へ飛び出した。
- 54 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:41
- 「がきさんおハロ〜」
「はぁはぁ、はい、おハロ〜」
「うげ、朝から興奮しすぎ。キモいよ」
いや別に興奮してるわけじゃないんですよ、急いでたんです。
新垣の言い訳をはいはいと冷たく流しさっさと行くぞ!と乱暴な言葉を吐くのはお隣りの藤本美貴ちゃんAカップ未満。
学園一の人気者の恋人の座を狙ってなんだかんだと一悶着あり、
来年には巨乳になれると信じて(なれる訳ないのにね)今日も今日とて無駄な努力を続ける藤本。
「ね、がきさん、少しはおっきくなった?」
「うんうん、その調子!」
ここ最近幾度となく繰り返されるこの会話。半機械的に新垣は笑顔を浮かべ声を出す。
一人の人間のためにここまで努力をする藤本の気持ちを新垣は潰したくなかった。だから本当の事は言えなかった。
大きくなんて、なってないから。大きくなんて、ならないから。
それでも藤本は新垣の言葉をまるまる鵜呑みにし、毎日毎日バストアップに命を懸ける。
そんな一途な藤本が可愛くてちょっと可哀相でここ最近新垣の気持ちは複雑だった。
- 55 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:42
- 「ミッキティ!がっきさん!おっハローもーにんぐっ!」
突然大きな声が聞こえて頭の後ろからグッと親指を立てた腕が伸びてきた。
「よぉっちゃあん!」
「ぅお、吉澤さん!」
「ハーイ、えびばでぃ、ヒーちゃんだよ!」
くるくる回転しながら二人の目の前に現れたのは学園一の人気者、よっすぃよっちゃん吉澤ひとみ。眩しすぎるぜその笑顔。
新垣はこっそり藤本の方を見た。
あちゃあ、目がハートだ。乙女チックファンタジックワールド大々展開中!
そう、藤本は吉澤の事が好きなのだ。
そして報われる事の無い努力を健気に続けるのも全てこの人、吉澤ひとみという名の巨乳ハンターのお眼鏡に適うためであった。
そしてそんな巨乳ハンター吉澤のお眼鏡に見事適ったのがこの人。
「豆ちゃんおっはよー!」
岡田唯ちゃんDカップ。
- 56 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:42
- ・・・・・・?
アレ?んん?Dカップおっぱい?
って、ぅぇえええ!?
違うやん!人変わってるやん!何で!?一週間たってないで!?っつーか、
「あはははは、がきさんその顔おもしろい」
「ああああああいぼん?」
「イエース、ノット洗眼薬、ノットとろ〜り!」
目をパチパチさせながら吉澤の背後から姿を現したのはDカップおっぱい岡田唯ちゃん二年生ではなく、
なんと新垣と同級生(しかも同じクラス!)である色白ほんわかぽっちゃり系の加護亜依ぼんだった。
吉澤はデレデレにやにやしながら加護の手を握っている。
あぁ、なんて事を。
酷いよ、もっさんの前で。
新垣は思うが天然失礼なこのスポーツ天才マンが新垣の思いに気がつくわけもなかった。
新垣は横目で藤本を確認する。
怒っているだろうか。驚いてるかな?呆然としているのだろうか。
・・・笑ってる!
ニコニコ笑いながら前後に大きく腕振ってる!
これ以上ないくらい、めっちゃ笑顔だった。
- 57 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:43
- 「も、もっさん?」
「ん、何か、用?」
「あ、あの吉澤さん・・・」
「ああ、あれ、がっ、あたっ、らしっ、いっ、子?」
「そうみたいです」
「なるっ、ほど、あそ、こまっ、でっ、おおっ、きく、なれっ、ばっ、いいっ、のねっ!」
新垣は泣きそうになった。
あぁ、もっさん!その笑顔、純すぎてとても悲しいよ。その無駄にかいている汗が眩しくて心が痛いよ。
吉澤に新しい女が出来たというのに一心不乱にバストアップエクササイズを続ける藤本。
今までなら吉澤に新しい恋人が出来たと知ると一番にその人物の元へ赴き2、3発蹴り入れていたあの藤本が。
あの藤本が蹴り入れるどころかバストサイズの達成目標にしちゃった!
到達する事なんて永久に無いのに。新垣は引きつった笑みを浮かべた。
まぁ、もういいや。もう何も言わない。私関係ない。私悪くない。
右から順に大きく腕を振って歩く藤本、虚ろな笑みを浮かべる新垣、ほわほわ笑う加護、ニヤニヤと変態チックに笑う吉澤。
四人綺麗に並んで校門をくぐった。
- 58 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:43
- 三年生である藤本吉澤とは昇降口で別れ、加護と一緒に教室へ入る。
教室へ入ると鞄を置くのもそこそこに加護の前の席を借りる。
「いやーしかしビックリ。あいぼんが吉澤さんの彼女になったなんて」
「えへへー、なっちゃった」
「知らなかったよー。ね、いつから?」
「んー?昨日」
「昨日!?」
新垣は大きな声を出して思わず立ち上がる。
教室内にいた数人の生徒が怪訝そうな目を向ける。
「がきさん声大きいよ!」
「ああ、ごめんごめんご。だってびっくりしちゃって」
視線を向けてきたクラスメイト達に愛想笑いを振り撒きながら新垣は腰を下ろす。
つーかだって普通にビックリだって。
藤本がバストアップのために大きく腕を振りながら登校し始めてまだ四日くらいだ。
Dカップおっぱいの岡田唯ちゃんは?どうしたの?
- 59 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:44
-
「ね、あいぼん」
「ん?」
「吉澤さんの前の彼女知ってる?」
「ううん、知らない」
そっか、やっぱ知らないよね。直接吉澤さんに聞くしかないか。
新垣は無意識に溜め息を吐いた。
「え、もしかしてがきさんだったの?」
「っな!?ちっがぁーう!!」
バン!と机を叩きまた立ち上がる。
明らかに怒っている、鋭い視線がバシバシ突き刺さる。
「あはは、がきさん顔真っ赤。おもしろーい」
ピリピリした空気の中、加護だけがパンパン手を叩きながらケタケタと笑っていた。
- 60 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:44
-
放課後。
昇降口の傘立てにポツンと座る一人の生徒。退屈そうに外を見ている新垣。
吉澤に直接会いたいと思っても新垣には連絡を取る手段が無かった。
三年生の教室には入れない。というか吉澤のクラスを知らない。
藤本という吉澤に最も近い人物と新垣はとても仲が良かったが藤本に取り次いで貰うなんて以ての外だ。死んでしまう。
なので、昇降口で待っている。一年生から三年生まで、全ての生徒が利用するこの場で吉澤を探そうとしているのだ。
- 61 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:45
-
しかしよく考えると吉澤さんって結構存在が遠いな。
一年生と三年生。ただでさえ学年が違っているのだ。
自分は部活なんかにも入って無いし接点は無いに等しい。
の割には、一年の割には新垣は吉澤とよく喋っていた。結構会ったりもしていた。
けれどそれには全部藤本が絡んでいる。
たまに廊下で擦れ違ったりする時も吉澤の隣りには藤本がいる。そのおかげで会話をしたりもする。
吉澤と何かしらある時は必ず藤本が側にいる。
って事は、もっさんってもしかして吉澤さんに凄く近い存在なんじゃないの?
そうだよ、そうに決まってる。きっと一番近いはずだよ。
でも、恋人にはなれない。
可哀相だな。
新垣は藤本の事を思って胸が痛んだ。
- 62 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:45
- 吉澤さん、遅いな。
もしかして気付かない内に帰っちゃった?や、そんなはずは無い。
新垣はたとえ百を超える群衆の中からでも真っ先に吉澤を見つけられる自信があった。
根拠は無い。ただなんとなく自信がある。
あの変態チックな佇まいは妙に眉毛を刺激するのだ。
だが今までに眉毛はピクリとも反応していない。だから吉澤はまだ校舎内にいるはずだった。
あー遅い。早くこい。
- 63 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:46
-
どれくらい経っただろうか。
眉毛の手入れをしたり鼻歌を歌ったりけんけんぱをしていたりしたら突然ゾワゾワときた。吉澤察知センサー発動!
新垣はキョロキョロと辺りに目をやる。近い近い。眉毛が痒い。
いた!
新垣の瞳は廊下のずっと先に人影を捕らえた。あのやらしいオーラは吉澤さんだ、間違いない!
だけど一人じゃない。隣りに誰かがいる。
というか吉澤が一人でいるところを見た事がない。いつも回りに誰かがいた。その誰かとは大抵藤本だったが。
だけど今隣りにいるのは藤本とは違う人のようであった。
新垣の眉毛は右が藤本察知センサーで左が吉澤察知センサー仕様になっているのだ。
右の眉毛は何ともないのに左だけがピクピクと動く。
じゃあ、吉澤さんと隣りは誰だ?
目を凝らして一生懸命見る。眉間に皺を寄せ目を細めたり大きく開いたり。
- 64 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:47
-
んー・・・おっぱい?
顔の判別はまだ付かないがとりあえず巨乳である事は見て取れた。貴方本当におっぱい好きですね。
ニヤニヤと笑う吉澤の顔が脳裏に浮かぶ。消えろ変態!
つーか巨乳?じゃあ隣りにいるのはあいぼんかしら?そうだよ、吉澤さんの彼女なんだもんな、昨日から。
でもだけどあいぼんにしてはちょっと背が高い。違う人?
二人はどんどんと近付いて来る。
新垣はいったん引っ込んで、偶然を装う事にした。再び傘立てに腰掛ける。
足音が近付いて来る。
「・・・からさぁ、多分こしあんだと思うんだよねぇ」
「え〜?ウチはつぶあんの方が好きや」
- 65 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 03:47
- 吉澤とその相手との声が聞こえる。こしあんとかつぶあんとか何の話だよ。
ってゆーか、ちょっと待ってよ。相手の声、すんごい聞き覚えがある。
目をつぶり、耳を澄ます。
「ホワーイ?何でよ何でよこしあん美味いぜ?」
「ん〜、美味しいけどあれ食べてるとおばあちゃんみたいで嫌や。歯応えあらへんねやもん」
ぅおをっとぉ!?こいつぁビックリまさかのミステリー!
岡田唯ちゃんDカップ!!
この関西弁、のんびりした口調、可愛らしい声、間違いない!
あの藤本を初めて敗走に追い込んだDカップ巨乳の持ち主でファイナルアンサー!
新垣は思わず腰を上げ、二人の前へ飛び出した。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/17(金) 03:50
- 続く
>>49-50
レスありがとうございました
- 67 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 21:54
- 「おっとぉ、がきさん朝方ぶりぶりざえもん!」
「あー、貴方、あー・・・がきさん?」
なんでなんでなんでなんで?
勢い良く二人の前に飛び出したのはいいが、目の前の光景に新垣はパニックに陥る。
あれ?吉澤さんの恋人は昨日からあいぼんでしょ?
今日だって一緒に登校してたじゃない。あいぼんだって言ってたよ、昨日から付き合ってるって。
え、恋人って、フツー一人につきお一人様限定でないの?
違うの?法律改正されちゃった?
わけがわからないよ。恋人ってなに?吉澤さんはあいぼんと付き合ってるんでしょ?
だったらなんで、何で
「手ぇえーっっ!!」
ラブラブ繋ぎしてるの!?
- 68 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 21:55
- 「ぅぐぁっ!や、殺られた!お主、なかなかやる、な・・・」
「バカッ!ちがーうっ!」
「めーん!こてーっ!どぉーっ?」
「お前馬鹿、手!ユアハンド!!」
「ん、これ?」
そう!さすがDカップ、アホ馬鹿間抜け三拍子揃った変態とはひと味もふた味も違う。さすが。って褒めてる場合か!
「ちょっと、吉澤さん!」
「ん、なんだい?」
「話があるんですけど!」
「告白なら間に合ってるよ」
だからなんでそこでDカップを抱き締める。
貴方の今の恋人はあいぼんじゃあないんですか?
「貴方に告白なんて一生有り得ませんから」
「嘘こけ、がきさん昔あたしの事好きだったろ?」
「なっ!?」
てんめぇ〜・・・嬉しそうな顔しやがってからに畜生め。
てゆーか気付いてたんですか。
あー、こんな変態の事を若気の至りとは言え一瞬でも好きになってた自分を殺したい。
なんだよ楽しそうにしやがって畜生。悔しいな。
- 69 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 21:58
- 「昔の事は覚えてません。そんな事より一つだけ聞いていいですか?」
「あーら、がきさんも大人になっちゃったのねえ。いいよ、何?聞きたい事って」
新垣は深呼吸する。
藤本の顔が、加護の顔が、岡田の顔が、順に浮かんでは消える。
「吉澤さんが今付き合ってる人って誰ですか?」
「・・・お前見て分からないの?」
いつかも聞いたこの台詞。やはり驚いたようなどこか憐れむような表情を浮かべて。
前回と違っているのはこれ見よがしにみせつけている繋いだ手。
新垣の鼻の奥がツーンと熱く、痛くなった。ふわふわ笑う加護の顔が脳裏に浮かぶ。
「あっ、あいぼんじゃないんですかっ?」
「お前聞きたい事一つだけって言ったろ、増えてるぞ?」
吉澤は困ったように笑う。
「答えてください!」
「やーだね。だって一つだけって言ったじゃーん」
「逃げるんですか?」
「・・・わかった、がきさん。明日話そう。必ず。だからちょっと今はホラ、勘弁してよ」
- 70 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 21:59
- 新垣に近付き吉澤は小さな声で言う。ホラ、と指差した先には岡田の姿。勘弁してよと器用にウィンクして笑う。
プッッチーン。はいアンタ今スイッチ入れたよ。何この変態マジむかつく!
「いいですよ!明日絶対ですからね!生きて帰れるなんて思わないでください!」
新垣はドン!と吉澤を突き飛ばすとそのまま走った。後ろなんて振り返らなかった。
畜生なんだよバカ!変態!
怒りが収まらなかった。
とても腹が立っていたけどそれと同時にとても悲しかった。
ニコニコ笑う加護の顔が頭から離れず、自然に涙が溢れた。あんなに幸せそうで嬉しそうだった。
それなのに。
酷いよ、こんなのってないよ。
新垣は泣きながら帰り道を走った。
- 71 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 21:59
- ドンドンと窓を叩く音がする。振り返るとジャージ姿の藤本。窓を開けて部屋へ入れた。
「がきさーん、よっちゃんから変なメールきたんだけど」
「吉澤さん?良かったじゃないですか」
「違うんだって、これ。見て?」
吉澤と言う名前に敏感に反応し、渋い表情を浮かべていた新垣の前にずいと藤本は携帯を差し出す。
From:よっちゃん
Title:non title
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
みきちゃ〜ん、がきさんに
『明日の放課後屋上で★
優しくしてね!』
って伝えといてちょんまげマーチ☆
- 72 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 22:00
- メールを読み終えると新垣は携帯をパチンと閉じ無言のまま藤本に返した。
ふざけやがって。なんだよちょんまげマーチって。収まりかけていた怒りが首を擡げる。
藤本は携帯と新垣とを交互に見やるとふうっと息を吐いた。
「がきさん、今日よっちゃんと何かあった?」
「さあね。知りません」
「はは、やっぱ怒ってる。よっちゃんの言うとおりだ」
「別に怒ってなんかないですよ。腹が立ってるんです」
「どう違うんだよっ!」
藤本は笑う。
確かに新垣は怒っていた。だが吉澤の予想通りになんてなりたくなかった。
だけど思い出しただけでも怒りが沸いてくる。あの変態野郎めが。
「ねぇがきさん、何で怒ってんの?」
「・・・吉澤さんに聞けって言われたんですか?」
「えっ?あ、あはははは、んなわけないじゃん、ほら、やっぱりそのー、ね、あのー、ね、気に」
「吉澤さんに、言われたんですね?」
「・・・そうです」
- 73 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 22:01
- はぁ、やっぱり。
つーか何だよ気になるなら直接私に言え!変態チキン!
あ、でもそっか。
私達お互いに連絡手段持ってない。
唯一繋いでるのがもっさん。それじゃあしょうがないか。
「今日一晩かけてじっくり考えなさいって言っといて下さい。
何で私が怒ってるのか、それが分かったなら少しだけ優しくしてあげる、とも」
「りょーかーい」
藤本は楽しそうに言うと携帯を操作しだした。
不意に藤本の楽しそうな顔が加護の幸せそうな笑顔とダブる。
あ、やば。泣く。
慌てて机に突っ伏した。涙は溢れて止まらない。
ふーヤバい、もう少しでもっさんに見られるトコだった。
てゆーか今日泣きすぎだな、どうした?私。
涙を流しながらも、その泣いている自分をどこか客観的に眺めているもう一人の自分がいてどこか変な感じがした。
- 74 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 22:02
- 「がきさん」
藤本の声が聞こえる。
「・・・なんですか?」
「泣きたい時は我慢して泣くより思い切り泣いた方がいいよ」
その言葉に涙を拭いもせずに振り返る。
こちらに背を向けてベッドに寝転がる藤本がいた。
なんだよもっさん。悲しい時にそんな優しさ卑怯だよ。
余計に泣けるじゃないか。
新垣は久し振りに声を上げて泣いた。涙はポロポロ止まらなかった。
その間、藤本はずっと背中を向けていた。
静かだ。
涙は止まった。時々漏れる嗚咽もそのうち止まるだろう。
藤本は相変わらず背中を向けて寝転んでいる。
そうだ、この際に聞いてみるか。
「もっさん」
藤本の肩がビクッと動く。
「もっさんはなんで吉澤さんが好きなんですか?」
藤本は起き上がってようやくこちらを向く。
そして笑った。
「・・・やっと、聞いたね」
- 75 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 22:02
- そう言えばそうだ。
藤本はもうかれこれ三年近くよっちゃよっちゃんと言い続けている。
なぜ今まで聞いた事がなかったのだろう。自分でも不思議だ。
「で、何でなんですか?」
「・・・がきさんには分からないよ、多分」
藤本はどこか寂しそうに笑った。
え、分からないって、どうゆう事?
「もしかしたら・・・もしかしたら明日、よっちゃんと話したなら少しは分かるかもね」
藤本は立ち上がった。
そして意味深な笑みを浮かべる。
「ま、本物のよっちゃんが好き。って事かな」
そう言い残すとおやすみーと窓を乗り越えて自室へと戻っていった。
よく分からない発言と共に残された新垣はしばし考える。
明日話せば少しは分かる?
本物のよっちゃんってなに?
本物の巨乳ハンター?
わからない。
藤本が見せたあの少し寂しげな笑顔もどこか引っ掛かる。
取りあえずは明日だ。
明日の、放課後。
変態ジゴロ野郎に話を付ける。
- 76 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 22:03
- ―ピピピピピピピピ―
甲高い電子音で目を覚ます。7時半起床。
ベッドの上でぅ〜んと体を伸ばすと階下へ下り、朝食を取る。
腹が減ってはほにゃららら。新垣はご飯をおかわりした。
朝食を終えると支度を整える。今日は決戦だ。いつもより念入りに眉毛を整える。久し振りに前髪を上げた。
「いってきまーす」
外に出ると今朝もまた先日と変わらず腕を大きく振る藤本の姿。
「がきさんおハロー」
「おハローございます!」
「おぉー、今日気合い入ってんねぇ。侍だ、ラストサムライ」
ちょんまげちょんまげちょんまげまぁちござるはおさるでモンキッキー!
楽しそうに歌いながら藤本はポンポンと手の平で新垣のちょんまげをいじくる。
「今日は決戦ですからね。負けません!」
「おー、がきさんカッコいー」
鼻息荒く決意を口にする新垣と面白そうに笑う藤本。
二人は学校へ向かう。
- 77 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 22:04
-
そして放課後。屋上。
向かい合って立つ二つの人影。
乾いた風が枯れ葉を乗せて二人の間を通り過ぎる。
ヘラヘラ笑う吉澤と怒りの表情を浮かべる新垣。
「まぁがきさん、そんな怒ってると可愛い顔が台無しだよ。笑ってごらん?笑顔プリーズ、ギブミースマイル」
「笑える訳ないでしょう。私が何で怒ってるのかちゃんと考えたんですか?」
「おおっと、そうだった。そう、昨日ちゃんと考えてたんだよ」
吉澤は相変わらずヘラヘラと笑いふざけた様子。
一方新垣は藤本直伝の腕組みと鋭い睨みで吉澤を冷たく見据える。
「で、分かったんですか?」
「ああ。何で怒ってたのか、気付いたよ。ホント、申し訳ない」
「本当に気付いたんですか?」
「ああ、気付いた。がきさんはこしあんでもなくつぶあんでもなく白あんだと思ってたんだろ?」
- 78 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/17(金) 22:04
- 「・・・はぁ?」
「ホント、悪かったよ。色が黒いからといって白あんを選択肢に入れなかったのはマズかった。
反省してる。マジで謝るよ。」
いや、黒かったら白あんって言わんだろう。てゆーか何?意味分かんないんですけど。
「ちょっと吉澤さん?何の話してるんですか?」
「え?だからアンパンマンの中身の話だろ?選択肢に白あんが無かったからがきさん怒ってるんだろ?」
「うん、死ね」
新垣は笑った。笑って屋上の柵の向こうを指差した。
この人ほんまもんのアホや。いっぺん死んで生まれ変わらな治らへんわ。いや、死んでも治らんかもわからへん。
新垣は笑顔を浮かべたまま心の中で泣いた。
この人と少しでも真面目に話せると思っていた自分が馬鹿だった。少し反省した。
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/19(日) 07:08
- よっちゃんのキャラすごすぎです
みんな個性があって読んでて楽しい
- 80 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:09
- 「うーん、がきさんキツイなぁ、ヒーちゃんショックだよ。ターイムショックならぬヒーちゃんショーック!」
悪びれる様子も無く吉澤はふざけて笑う。
新垣は呆れてしまって、肩を落とすと吉澤から離れた。
少し離れた所にある貯水槽に背を凭れて座り込む。
吉澤は一人で何か奇妙な動きをしている。新垣は溜め息を吐いた。
もっさん、こんなふざけた人のどこがいいんですか?
新垣はぼんやりと空を見上げた。薄オレンジの空を雲が流れて行く。
あぁ、あの雲あいぼんみたいだ。
一際大きい真っ白な雲が頭上を通過していく。
加護の笑顔を思い出して新垣は泣きそうになった。だが泣かなかった。
いつの間にか吉澤が目の前に立っていた。
「・・・何ですか?」
「いや、その、なんだ。・・・ちょっとふざけ過ぎた。ゴメン」
「別にいいですよ、もう」
新垣はふいっとそっぽを向く。
吉澤は困ったように頭を掻くと新垣の隣りに腰を下ろした。
「分かってるよ、あいぼんの事だろ」
- 81 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:10
-
吉澤は小さく呟く。
その言葉に新垣はそっと吉澤を見た。
そこに何が見えているのか、吉澤は宙の一点をじっと見据え真面目な顔をしている。
・・・吉澤さんが笑っていない!
新垣はこんな表情の吉澤を今まで見た事が無かったので少し驚いた。
いつもニヤニヤヘラヘラ笑顔の吉澤しか見た事が無かったのだ。
初めて見る真面目な吉澤の横顔はそれはとても綺麗で新垣は見入ってしまった。
しばらくぼーっと綺麗な横顔を見ていると突然吉澤が振り向いた。
振り向いて、目が合ってしまった。新垣は慌てて視線を逸らした。
「なぁがきさん」
「はっ、はっ、はいっ!?」
「人は、何で人を好きになるんだろうな」
「え?」
「好きになったら、何で自分の物にしたくなっちゃうんだろう」
「は?」
- 82 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:10
- 「何で皆1人の人としかつきあっちゃいけないって言うんだろ」
「えーと・・・」
「二人同時に好きになっちゃいけない?」
「や・・・」
「二人とも好きなんだ、大好きなんだよ。どっちか選ぶなんてできないよ。
二人とも一番なんだ。それ以上も以下も無いんだ」
「あの・・・」
「そうゆう事なんだよ」
吉澤は軽く笑うと立ち上がった。
制服の裾をパンパンと払い歩き出す。
「ち、ちょっと待ってください!」
「んー、何?」
思わず立ち上がった新垣に振り向いてみせる吉澤は、もう真面目な顔などしていなかった。
いつものように笑っている。
「それって、それって吉澤さんのただの我が儘じゃないですか!」
「そうだよ?」
「はぁ?」
「あたしは我が儘で欲張りで、人間の鏡みたいな人間なんだ。どーだ、スゲーだろ」
吉澤は腰に手を当ててわははと笑う。
新垣は黙っていた。吉澤は笑っていた。虚しい笑い声は夕焼けの空に消えた。
- 83 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:11
- 「あいぼんは知ってるんですか?」
「何が?」
「吉澤さんにもう1人彼女がいる事」
「知らないよ。聞いてこないし教えてないもん」
「そうですか」
冷たく言うと新垣は歩き出す。
「あれ、がきさん帰っちゃう形?」
ちゃらけた吉澤の言葉を無視する。
吉澤の目の前に立ち、自分より幾分か高い位置にある吉澤の顔を睨み付ける。
「他にも付き合ってる人がいるなんて、あいぼんには絶対に言わないで下さいね」
「うぃー」
吉澤は肩を竦めておどけてみせる。
バシッ!
新垣は思わず吉澤の腕を叩いた。
吉澤は驚いた様子で叩かれた腕を押さえ新垣を見る。
- 84 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:11
-
「私!」
ダメだ泣いたらダメだよ泣くなよ自分
「今、吉澤さんの事凄く嫌いです!」
大きな声で叫ぶと走った。
屋上の扉を開け、階段を駆け下り、自分の教室まで走った。
もの凄く腹が立っていた。怒っていた。ムカついていた。
悔しかった。悲しかった。だけど泣かなかった。吉澤に負けたくなんかなかった。
それでも、加護の席を見るとどうしようもなかった。少しだけ泣いた。
- 85 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:12
- 家に帰ると待ち侘びていたかのように鳴る窓ガラス。
鍵を開けてやるとまるで猫のようにするりと藤本は入ってきた。
「まぁまぁなんと無残な頭だこと」
藤本はボサボサに跳ねた新垣の頭を見て苦笑した。そしてベッドに腰を下ろす。
「・・・よっちゃんと話した?」
「知りません、あんな人。もう話したくなんかありません」
「あらら、今日もまた怒ってるねぇ」
藤本は呆れたように笑う。
確かにそうなので新垣は無言で頷く。
藤本は困ったように背を竦めると寝転んだ。
「ねぇがきさん、何で怒ってんの?」
「吉澤さんは最低な人です」
「何で?」
「だって・・・二人同時に付き合う、えーと、二股?してるんですよ」
「ふーん」
- 86 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:13
- 藤本は興味無さそうに相槌を打つ。
あれ、おかしいな。吉澤さん大好きなもっさんの事だから怒りだすかと思ったのに。
予想外の藤本の反応に気が高ぶってくる。
「ふーんって、何でそんな冷めてるんですか!もっさん吉澤さんの事が好きなんでしょう?
何とも思わないんですか?最低じゃないですか!かわいそすぎますよ!」
「え、何で?」
「何でって、二股かけられてるんですよ?」
「や、分かってるけど。それが何で可哀相なの?」
「は?」
「だって二股かけられてるかもしんないけど愛情貰ってるわけでしょ?どこが可哀相なの?」
寝転がっていたはずの藤本はいつの間にか起き上がっていて、新垣に不思議そうな表情を向ける。
藤本のその問いに新垣は言葉が詰まってしまった。
そんな新垣をよそに藤本は尚も口を開く。
「ねぇがきさん、二人の人を同時に好きになっちゃうのっていけない事?」
あ、同じだ。
吉澤さんと同じ事言ってる。
- 87 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:14
- 「どっちか1人なんて選べなくて、でも2人とも手放したくなくて2人の人と付き合っちゃうのって、
可哀相な事なの?2人とも、両方が一番なんだよ?それは可哀相なの?」
うるさいうるさいうるさいうるさい
もう、何で二人して同じ事言うんだよ。
私に分かるわけないじゃないか!
私が間違ってるって言うの?だって私はあいぼんが可哀相だと思ったんだ。
吉澤さんと付き合ってるんだと幸せそうに照れ臭そうに笑ったあいぼん。
だけど吉澤さんにはもう一人付き合ってる人がいる。それを知らず、嬉しそうに笑うあいぼん。
そんなあいぼんを可哀相だと思ったんだ。可哀相だと。
可哀相。
可哀相ってなんだ?
かわいそう
ふびんなさま、同情に堪えぬさま
「一応愛してもらってんだし可哀相なんて、それはがきさんの主観じゃん。
本人は別にそんな事思ってないんじゃないの?」
- 88 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:14
- 藤本は再び寝転がりストレッチを始める。
そうなの?可哀相だと思うのは私だけなの?
あいぼんはそんな事思ってないの?あぁ、そうか。あいぼんは知らないんだもんな。
でもそれってやっぱり可哀相な事じゃない?
頭が混乱してくる。自慢じゃないが頭はあまり良くなかった。
難しい顔をしたまま固まってしまった新垣を見て藤本は息を吐いた。
「まーよく分かんないけどさ、取りあえずそんな顔すんのやめなよ、可愛くないって。
ここんとこがきさんが笑ってんの見てない」
その声に新垣は振り返りぎこちなく笑ってみせた。
だが藤本は例のバストアップエクササイズに夢中でこっちを見てくれなかった。
こーゆーの、可哀相だよね。
新垣は大きな溜め息を吐いた。
- 89 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:15
-
その後、約15分程新垣の部屋に居座りストレッチに精を出した藤本。
最後に「ちょっと大きくなった?」とお決まりの言葉を吐き、
これまたお決まりの答えである言葉と笑顔を返すと満足そうに笑い窓を乗り越え自分の部屋へと帰っていった。
藤本が帰った後、新垣は考えた。
吉澤が言っていた事、藤本が言った事。
考えてみたけどよく分からなかった。何も分からなかった。もう一度言うが頭はそんなに良くなかった。
新垣の小さな頭は爆発しそうだった。ボサボサに跳ねた頭を掻き毟った。それでも何も分からなかった。
壁を使って倒立してみた。やっぱり分からなかった。
疲れていた。眠たかった。考えるのを止めた。
明日明後日と学校は休みだ。考える時間ならいくらでもある。
新垣は部屋の電気を消すとベッドに入った。夢の世界へすぐに墜ちていった。
- 90 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:15
- 空腹を覚えて目を覚ます。やけに部屋が明るい。
新垣は枕元に置いてある時計で時刻を確認した。昼前だ。
慌てて飛び起きた。
次の日が休日だと新垣は目覚ましをかけない。早起きする必要がないから。
しかしそれにしても寝過ぎだ。せっかくのHOLIDAYが!
ベッドを抜けると足音荒く階段を駆け下りた。
静まり返った家の中。家族の姿が見えない。あれ、おかしいな。
両親の部屋へ入ったり風呂場を確認したりトイレを覗いたり。
いない。どこへいったんだ?
新垣は頭を抱えてリビングにあるソファに体を沈めた。お腹空いた。泣きそうだった。
と、頭を抱えた新垣の視界の隅に写る一枚の紙切れ。広いあげて確認する。
理沙へ
外食してきます。
何か作って食べておいてね(≧∀≦)
ママ
外食!
私一人を残して外食!
新垣は無意識の内に紙を引き千切っていた。怒りで拳が震えた。お腹が鳴いた。
畜生絶対許さない!
眉毛を逆立たせて怒った。
ぴんぽ〜ん
突然インターフォンが鳴り、新垣は気を沈める。
- 91 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/02/27(月) 01:16
- なんだ?宅配か郵便か宗教勧誘か?玄関に向かい、そして気付く。
頭は寝癖でボサボサ。服装ときたら何年も愛用している恐竜パジャマ。
こんな格好じゃ出られやしない!
しょうがない。着替えるのも面倒臭いし新垣は居留守を使う事にした。
初めてのお使いならぬ初めての居留守。
何故か身を屈め、息を潜める。
ぴんぽ〜ん
再び鳴るインターフォン。
新垣は変な汗をかきながら祈った。
お願いだから早く帰れ!
親は今いないんだ。ましてや金なんてあるわけない!さっさとどっか行ってくれ!
新垣はガタガタ震えながら思った。借金取りに追われる人の恐怖をほんの少し囓った気がした。
暫し静まりかえる。
やっと行ったか?新垣は首を擡げる。と、突然。
ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポ〜ン!!
物凄い勢いで鳴り出したインターフォン。新垣はガタガタ震えながら玄関の隅で小さくなった。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/27(月) 01:16
- >>79
レスありがとうございます
- 93 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:15
-
ドンドンドンドンドン!
その内外れるんじゃないかぐらいの勢いで叩かれる新垣家の白いドア。
新垣は目に涙を浮かべていた。そして両親を呪っていた。
酷いよ酷いよあんまりだよ!
1人だけ置いてけぼりだしこんな怖い人がやってくるなんて!
新垣の目からはもう涙が溢れそうだった。だがその涙が溢れる事はなかった。
「がぁーきぃーさぁーん!!」
近所一帯に聞こえていそうな大きな声が聞こえて、新垣の涙は引っ込んでいった。
新垣は慌てて立ち上がる。この声は!
「おい豆がき!」
紛れもなく藤本の声だ。
新垣は急いでドアを開けた。
「おい豆がっ・・・ぶぁはははは、なんじゃその格好は!」
ドアを開けたすぐ目の前にあったのは鬼の様な形相をした藤本の姿。だがそれはすぐにくしゃっと笑顔に変わった。
そうだ、恐竜パジャマ。
かぁーっと顔が赤くなる。
なんだよそんなに笑わなくても。お気に入りなんだぞ!
ゴホンゴホンとわざとらしい咳をしながらとりあえず藤本を中に入れる。
- 94 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:15
-
「一体なんなんですかいきなり」
「やー、部屋にお邪魔しようかと思ったんだけどさぁ、がきさんいないんだもん。つーかその格好、寝起き?」
藤本はまだ笑っている。
新垣はボサボサの頭を掻いた。
「とりあえず着替えてきますんでここにいてください」
そう言い残して二階へ上がる。
しかしもっさんだったとは。
半端なく怖かったぞ。
服を着替えてリビングへ戻る。何やらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて藤本が立っていた。
「がきさん置いてかれたんだ?」
そう言って指差したのは新垣が無意識の内に破っていた一枚の紙切れ。
藤本は哀れむ様に笑う。
少し悲しくなって新垣はその紙切れをゴミ箱に捨てた。
「って事はお昼まだなの?」
藤本は壁に掛かっている時計を見ながら言う。
まだですよ?と答えると振り向いてまたニヤッと笑った。
「美貴と、デートする?」
- 95 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:15
-
近所のファーストフード店でハンバーガーとポテトを腹に納めた二人。
今はオレンジジュースを藤本が、新垣はアイスコーヒーを飲みながらまったりとしている。
「そういえばもっさん」
新垣の声に藤本はジュースを飲みながら、ん?と目だけを上げる。
「なんか用だったんですか?」
お邪魔しようと思ってとか何とか言ってましたよね。
藤本は思いだしたようにうんうん頷くと残っていたオレンジジュースを一気に飲み干した。
「そうだそうだ、思い出したよ。こんな事してる場合じゃない、行くよ」
藤本は席を立って新垣を急かす。
「行くって、どこ行くんですか!?」
コーヒー片手に眉間に皺を寄せた渋い表情で困ったように新垣は叫ぶ。
店を出ようとしていた藤本は振り返ってまた笑った。
「よっちゃんち!」
- 96 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:16
-
強制的に連れてこられた初めて見る吉澤の部屋は以外にも普通だった。
アホで馬鹿で変態だから住まいもきっとおかしいに違いないという新垣の予想はあっさり外れた。
全然普通だった。
普通というか綺麗だった。自分の部屋よりずっと綺麗で新垣は少し悔しかった。
さっぱりすっぱりあっさりしていてあまり生活感が感じられなくて少しどこか寂しい感じがした。
それが以外で新垣はキョロキョロそわそわと落ち着きがなかった。
藤本はそんな新垣を見て笑った。
「がきさん落ち着きなって、キョドってるよ、どーしたの」
「ぅえ?あ、やー、何か以外だなぁと思って・・・」
「部屋汚いと思ってたんでしょ?」
「えぇ、まあ」
新垣は素直に答える。
しかしなんだ、もっさんはまるで普通だ。
そりゃあ自分よりかは吉澤さんと凄く仲がいいし、
部屋に来るのだってきっと初めてじゃないとは思うけれど何かおかしい。
新垣は体中がこそばゆくてなんか変な感じがした。
「やぁやぁお待たせ。マイマザーが客人にこれを持っていけと五月蠅くてね」
- 97 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:18
- ドアが開いて吉澤が姿を現す。その手にはティーカップやらお茶菓子やらが乗った小さなお盆。
マイマザー?
おかしいな、「今日家に誰もいなくてさ、ヒーちゃん寂しかったんだよぅ」って言ってたのに。
帰ってきたのだろうか、後で挨拶しておかなければ。
思案を巡らせる新垣をよそに藤本はどこからか小さなテーブルを引っ張りだし、
その上に盆を置いて吉澤は手際よくお茶を入れる。
「ハーイがきさんプレゼントフォーユー」
「あっ、ありがとうございます」
吉澤が差し出したカップを受け取り礼を言う。吉澤はニィっと笑った。
新垣は慌ててそっぽを向く。そうだよ、何受け取ってんだ何でお礼言ってんだ。
吉澤さんの事嫌いになったばかりじゃないか。
昨日のやり取りを思いだし、現在の状況を改めて見直し、少し反省する。
しかし吉澤は先日の出来事などまるですっかり忘れてしまっているかのようにデレデレベタベタとじゃれついてくる。
- 98 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:19
-
「ねーがきさんあっち向いてホイしよーよー」
ベタベタとくっついてくる吉澤を新垣はおもいきり振り払った。
飛んでいった吉澤は驚いた様に目を見開き、それでも笑う。
「ありゃ?よしざーがきさんに嫌われちゃった形?」
楽しそうに言いながら新垣と藤本を交互に見やる。新垣はフン!と顔を背けた。
一方藤本はここぞとばかり吉澤に抱き付きに行く。
「もーよっちゃあん、美貴がいるじゃない」
吉澤はハハハと乾いた声で笑うと襲いかかってくる藤本を躱す。
避けられた藤本の腕は虚しく宙を掴んだ。
「がきさーん、こっち向いてよー。キュートなフェイスをショーミー!ショウミープリーズ!」
吉澤はしつこくちょっかいをかけてくる。
しょうがなく振り向いた新垣を突然襲うフラッシュ。
何?なんだ?なにがおこった?
「イェア!がきさんフェイスGETだぜ!」
- 99 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:19
-
視力が戻った新垣の目に写るのはカメラ片手に親指を立てる吉澤の姿。
新垣はもう疲れてしまって溜め息を吐いた。
「ありゃ、がきさんってばアーミッシュ?」
「・・・はぁ、なんですかそれ?」
「だいじょぶだいじょぶ写真取ったくらいで魂なんて抜かないから抜けないからホラ生き返れよ」
カメラじゃなくてアンタといるだけで魂抜かれそうなんだよ。新垣はまた息を吐く。
「吉澤さん」
「おぅ何だい?」
「私が昨日言った事覚えてます?」
「おぉーもちろん覚えてるとも、あたしの事嫌いなんだろ?」
「そうです。だから喋りかけないでください」
「やーだね。だって昨日『今』って言ってたじゃん。もう嫌いじゃないでしょ?」
「馬鹿なんですか?まだ嫌いです」
「ぅおーっと、ショックだ。ヒーちゃんショックだよ」
- 100 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:20
-
がっくりと肩を落とす吉澤を新垣は冷めた目で見た。
何がショックだ。笑ってるじゃないか。
新垣は吉澤から受け取ったカップに口をつけた。紅茶は少しぬるくなっていた。
新垣に相手にされなくなった吉澤は藤本と会話を交わす。
「つーか何で家きたの?」
「歩いて」
「違うよ、何か用だった?」
「んふー、よっちゃんさんに会いたかったのー」
「あ、そう。がきさんも?」
「違います!私はもっさんに連れてこられただけです!吉澤さんになんか会いたくありません!」
「あらら、それはご愁傷様。ミキティ、何でがきさん連れてきた?」
「あ、もしかして美貴だけの方が良かった?」
「いや、それはないね」
「そんなはっきり言わなくても・・・よっちゃんとがきさんに仲直りして欲しいの」
「仲直り?」
「うん、何か喧嘩してんでしょ?」
- 101 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:21
-
「何言ってるんだ、喧嘩なんかしてないよ。なぁがきさん?」
「ぅえっ!?してますよ、私怒ってますもん」
「それがきさんが一方的に怒ってるだけだろう?少なくともあたしはしてないね。
LOVE&PEACE、喧嘩なんて馬鹿がするものさ」
うーん、アンタ今凄くカッコいい事言ったかもだけど貴方にだけは言われたくない。
新垣はやれやれと首を振った。
「吉澤さん」
「はい、何でしょう」
「貴方悪いと思わないんですか?」
「はぁ、何が?」
「あいぼんと岡田さん、二人同時に付き合うって事!」
「・・・がきさんは悪いと思う?」
「当たり前じゃないですか!」
「・・・そっか・・・」
- 102 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:21
-
急にシュンとなり爪を噛む吉澤。
え、何?何この雰囲気。私何か悪い事言った?
言ってないよ、普通の事言っただけだよ。なのに何でそんな静かになるの?
吉澤は爪を噛んだままじっと黙っている。
藤本を見た。吉澤のベッドに寝転がり我関せずとでも言う様に腹をポリポリ掻いている。オッサンかアンタは。
新垣は困ってしまってテーブルの上の茶菓子に手を伸ばした。
「よし分かった!」
あとほんの数ミリでビスケットに手が届きそうだったその時吉澤が叫んだ。
新垣は伸ばしていた腕を慌てて引っ込める。
が、その腕を吉澤がガッシリ掴む。
「分かったよがきさん、決めた!」
「なななな何がですか!?」
吉澤は新垣の目を見つめ、一つ深呼吸すると言った。
「がきさん、あたしと付き合おう」
「はぁあああ?」
「これでいいんだろ?」
「はっ?何が?意味分かんない」
「何でだよ、他の二人と付き合ってて自分が選ばれなかったのが悔しいんだろ?
始めっから言えよなー汗臭いんだから」
- 103 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/09(木) 22:22
-
「それを言うなら水臭い。更に言うなら私吉澤さんとつきあいたくなんかありませんから!!」
「うんうん、分かってる。ジョークだって。そんな怒るなよ」
プンスカ怒る新垣に吉澤はヘラヘラと笑って見せた。
しかしその笑顔はすぐに引っ込んだ。
一つ二つ咳払いをして吉澤は再び口を開く。
「さっきのはただの冗談だけど、今から言う事はホント。嘘じゃないよ」
「・・・何ですか?」
「決めたよ。二人と、別れる」
吉澤は真面目な顔をして言った。
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/13(月) 16:53
- コレはまた意外な展開
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/25(土) 15:54
- どうなるか全然読めない…
更新待ってます!
- 106 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:36
- 固まったまま動かない新垣と藤本。真面目な顔をする吉澤。
沈黙。
「じ、じゃあ美貴と付き合う?」
重苦しい沈黙は藤本の一言で破られた。
吉澤は笑って首を振る。
「いや、ミキティとは付き合えない。
決めたよ、よしざーはオンリーロンリーヒーちゃんになる。一匹狼だ。カッコいーだろ?」
がっくり頭を下げる藤本を見ないふりして吉澤はわははと笑う。
その声で新垣の頭はやっと動き出す。
「ちょちょちょちょっと待ったぁ!!」
大きな声を出して立ち上がる新垣に二人の視線が向く。
「なんで、そうなる」
新垣の問いに吉澤は暫し考え込む様な仕草を見せ、ゆっくりと口を開く。
「だってどっちか一人なんて選べないよ。二人同時に付き合うのが悪いってんならもう二人とも付き合わない」
「そんな、あいぼんがあんまりじゃないですか!」
「ははは、がきさんは我が儘だなぁ。じゃあ私はどうしたらいい?」
- 107 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:37
- 逆に吉澤に問い掛けられ新垣は言葉を無くす。
我が儘。
岡田さんとあいぼん。
吉澤さん。もっさん。自分。
私はでしゃばっているのだろうか。自分勝手なのだろうか。
お節介なのだろうか。我が儘なのだろうか。
私はどうしたいんだろう。何がしたいんだろう。
あいぼんに幸せになって欲しいと思った。
だけど吉澤さんは岡田さんとも付き合ってた。
岡田さんと別れて欲しかった?ううん、そんな事はない。
岡田さんにも幸せになって欲しい。
じゃあどうしたらいい?
私が今してる事は間違ってる?
吉澤さんが二人同時に付き合う事は間違ってる?間違ってるよ。そんなのいけない。
でも吉澤さんと付き合う事が二人の幸せならそれは間違っていない?
なんだ、なんなんだ?もうわけがわからない。
なんなんだよちくしょうめんどくさいな、私は頭が悪いんだ!
- 108 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:38
- ここ最近の出来事が目まぐるしく脳内を駆け巡る。
巨乳になりたい藤本。
岡田唯ちゃんDカップ。
巨乳が好きな吉澤。
あいぼん。
吉澤の事が好きな藤本。
こしあんが好きな吉澤。
二人と付き合う吉澤。
選べない吉澤。
藤本とは付き合わない吉澤。
ピコーン!
「吉澤さんは卑怯だ!」
「へ?」
「選べないのはどっちかを選べば片方が悲しむからなんて思ってるんでしょう?
そんな貴方は優しいけどその優しさは残酷だ!」
「いや、がきさ」
「傷ついたり傷つけたりするのが恋愛だ!それが出来ない人は人を愛する資格なんかない!
全く出来やしない貴方は卑怯者の臆病者だ!!」
- 109 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:40
- 新垣はビシッと指を指した。その先には目を見開いたまま固まる吉澤の姿。
ああしまった。人に指向けるなってお母さんに言われてたのに。
勢いに任せてついやってしまった。新垣はゆっくりと腕を下ろす。
興奮していた。何かが分かった様な気がしてドキドキしていた。
あぁ、これか。
新垣は思い出す。藤本が言っていたあの言葉「本物のよっちゃん」
優しくてカッコよくていつもニコニコ学園一のスーパーヒーローの正体。
それは残酷なまでに優しくて笑えるほどに臆病な一人の人間だった。
「はっはぁ、バレちまったらしょうがない。そうだよ私は卑怯者で臆病だ。なんか文句あるか?」
「いえ別に」
「なんだよあるんだろ言えよ。
えー吉澤さんがそんな人だったなんて信じられなーいとかさ、あるだろ?言えばいいじゃん!」
「・・・吉澤さんって、寂しい人間ですね」
「私は寂しくなんかないよ」
- 110 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:41
-
「嘘です。そうやって貴方はいつも嘘を吐く。おどけて見せたりカッコつけてみたり」
「はは、分かった?だって皆がそうゆう私を求めてるんだもん。皆が求める限りこの衣装は脱げないよ」
「疲れませんか?」
「だってもう六年近くやってんだよ?慣れたさ。まぁたまに死にたくなるけどね」
「・・・だからこの学園出て他の大学行くんですか?」
「違うよ、本当にやりたい事があるんだ。でもそれも少しはあるかもね」
吉澤は乾いた笑い声をあげた。新垣は悲しくなった。
吉澤の事を可哀相だと思った。
新垣のポケットの中で携帯が低く唸った。藤本からメールが来ていた。
そういえば藤本の姿が見えない。携帯を開いた。
ごめん、おっぱい薬飲むの忘れてたから先帰る。
本物のよっちゃん、分かったよね?
おっぱい薬って何だよ。
本物のよっちゃん、ねぇ。
- 111 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:41
- 「吉澤さん」
「ん?」
「もっさんの事好きでしょう?」
「・・・まぁ、嫌いではないね」
「またそうやって誤魔化す」
「いや・・・だって・・・」
俯いて頬を赤らめる吉澤。
うほ?やだちょっと何これ。吉澤さんが乙女チック!
「何見てんだよ!」
ジロジロ見てたら殴られた。
吉澤は立ち上がってストレッチを始める。
あぁ、なんかこうゆう所もっさんに似てるなぁ。
吉澤の背中を見ながら新垣はぼんやり思った。
「がきさんの言うとおりだよ。ミキティの事が好きだ」
「じゃあなんで付き合わないんですか?」
「だっておっぱい小さいもん」
- 112 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:42
-
吉澤の答えに全身から力が抜けくたりと床に倒れこんだ。
本物のよっちゃん=巨乳ハンター?
笑うしかなかった。
「うそだよ」
顔を上げると真面目な顔をした吉澤がいた。
「ミキティの事は好き。でも付き合えない。付き合うのは怖い。
何かが壊れてしまいそうな気がするから今のままでいい。今の、この関係のままでいたいんだ」
「・・・やっぱり臆病者ですね」
「ははは・・・嫌いになった?って、元から嫌われてたんだっけ」
「いえ。今の吉澤さんは少し好きです」
吉澤はありがとうと言って軽く笑った。
帰り際吉澤ママに挨拶していこうと思ったが吉澤ママはいなかった。
アディオスがきさん!と笑う吉澤はいつもの人気者の吉澤だった。
- 113 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:42
- 自宅に戻ると家族が帰ってきていた。楽しそうに笑っていた。
少し疎外感を感じて新垣は寂しかった。
皆で夕食をとって自分の部屋に戻るとタイミングよく鳴る窓ガラス。窓を開けて藤本を入れた。
「仲直りしてきた?」
「仲直りも何も喧嘩なんてしてませんよ」
「あっそう」
不機嫌そうに、でも笑いながら藤本は言った。そしてストレッチを始める。
他愛もない話をしながら藤本はバストアップに精を出し新垣は眉毛の手入れをする。
15分程すると藤本は自分の部屋に帰っていった。
てゆーか何でわざわざこっちきてやるかねえ。別にいいけど。
それより疲れた。ひじょーに疲れた。
でもすっきりしていた。ベッドに入るとすぐ夢の中へ落ちていった。
- 114 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:44
- 何事も無く日曜日が過ぎて月曜日。
登校し教室に入ると加護の姿があった。鞄を置いて近付く。
「あいぼんおっはー」
「あ、がきさん。おっはっはー」
振り向く加護はニコニコ笑っていた。
吉澤さん、別れてないのかな。
トントン。
肩を叩かれる。耳貸してと加護が囁く。
「よっすぃーと別れちゃった」
「・・・ぅえぇええぇあ!?」
「あははははがきさんその顔おもしろいってかうるさい耳痛い」
口をあんぐり開けた新垣の目の前で加護は耳を押さえて笑ってみせる。
新垣の頭は少し混乱していた。
吉澤さんが別れた。
あの臆病者の卑怯者が。
私が二人と付き合うなって言ったから?私のせい?
「マジで?え、あ、てか何で?」
- 115 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:44
-
「何かな、そろそろ受験勉強で忙しくなってあまり会えなくなるんやって。
そうなるときっと私が寂しいし辛いだろうで別れちゃおうってさ」
「はぁ」
「せやけど、学校では会えるしまた一緒にデートしようねって言ってくれた」
「ほぉ」
「今日も一緒に学校来たんだぁ」
だからあんまり別れた感じがせえへん。まだ付き合ってるみたいや。
そう言って加護は幸せそうに笑った。
勉強が忙しい?
言いにくい理由がある時の典型的な言い訳だ。
本当の事が言えない吉澤さんは臆病で卑怯だけどやっぱり優しい。
なんて言うか。まぁいいや。
私が口出しする事じゃない。
吉澤さんとあいぼんと岡田さん。
それぞれがそれぞれに幸せになったらいい。
- 116 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:44
-
「ね、あいぼん」
「ん?」
「アンパンマンの中身って何だと思う?」
「なんやぁ?いきなり」
「いいからいいから。何だと思う?」
「チョコ」
だって黒いやん?
『あんぱん』って言っときながら中身チョコやったら嬉しくない?
加護はおかしそうに笑った。
確かに黒いけどね。あんこじゃないね。
もっさんだったら何て言うだろう。海苔の佃煮とか言いそうだな。理由はもちろん黒いから。
- 117 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:45
- 放課後。
帰り道を藤本と二人で歩く。
「よっちゃんね、二人と別れたってさ」
「みたいですね」
「あーあ。何で美貴とは付き合えないかなぁ?めっちゃ愛してるのに。こんな良い女滅多にいないよ?」
空に向かって愚痴る藤本を新垣は複雑な思いで見つめた。
吉澤さんがもっさんと付き合えない理由。それを自分は知っている。
だけど言わなかった。それは吉澤さん自身が言うべき事だから。
「・・・まぁ吉澤さん怖がりですからねぇ」
「なに、美貴が怖いって事?」
うん、怖い。怖いよ。
立ち止まりギロリと睨む藤本にブンブン首を振って否定する。
「ま、いいんだけどね」
藤本は軽く笑って歩き出した。
新垣は慌てて後を追う。
「あ、もっさん」
「ん〜?」
「あんぱんまんの中身って、アレ何でしょうね?」
「何、よっちゃんに刺激された?」
「や、なんで吉澤さん?」
「あれ、知らなかった?よっちゃんアンパンマン大好きっ子なんだよ。かばおくんになりたいんだって」
- 118 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:46
-
「ほぅほぅ。あ、で、何だと思います?」
「さぁ、イカ墨でも入ってんじゃね?黒いし」
藤本は面倒臭そうに言うと歌い出した。
あんあんあんぱんまーんやーさしっいきっみはー
いっけーみんなのゆーめまーもるったーめー
あぁ、なんか似てる。
新垣の頭の中で吉澤とアンパンマンが肩を組んで笑う。
あんあんあんぱんまーんやーさしっいきっみはー
サビの部分だけしか知らないし歌詞もあってるのか微妙だ。だけど楽しい。エンドレスで歌い続ける。
今度吉澤さんの前で歌ってやろう。
秋の夕空に二人の歌声が響いた。
- 119 名前:―臆病者への讃歌― 投稿日:2006/03/25(土) 23:46
-
―臆病者への讃歌―
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/25(土) 23:48
- 以上
次回作はタイトル未定。4月に更新します
>>104-105
レスありがとうございました
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/30(木) 14:06
- 面白かった。新藤吉の三人はもちろんふわふわした岡加の二人も素敵だなあと思いました。
次回作楽しみにしてます。
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:00
- >>121
ふわふわした岡πと加護亜依ぼんはまた出てくる予定です
ちょっとというか全く関係ない話
6期を書いてみたくなりました
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:01
- 絵里と喧嘩した。
もう二度と口聞いてやるもんかなんて思ってたら声が出なくなった。
風邪でも引いたのかななんて思って薬を飲んだりうがいしてみたりしたけど治らなかった。
声を出そうと思って口を開いてみるけどそこから出てくるのは掠れた息音だけだった。
私は声の出し方を忘れた。
「れーなぁ、まだ治らないの?」
こてっと首を傾げてさゆが小さな声で聞いてくる。私は黙ったまま頷いた。
さゆは困った様な悲しそうな顔をした。そして私の隣りに座って携帯を取り出す。
声が出なくなった事を私はその日の内にメンバー全員に伝えた。
『何でか分からないけど急に声が出なくなりました』と。
嘘。絵里にだけは教えなかった。
教えなかったし知られたくなかったから、絵里には言わないで下さいとも伝えておいた。
その日以来、私が誰かと会話する時には携帯か、ペンと紙が必要になり、
それは絵里の目に付かない所でしか行われなくなった。
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:02
-
さゆは隣りで携帯をいじっている。私は楽屋を見渡した。
吉澤さんは小春ちゃんに戯れ付かれながら本を読む。その逆隣りには藤本さんがベッタリくっついている。
愛ちゃんとがきさんは噛み合わない会話を延々と続けるし、紺ちゃんとまこっちゃんはグルメ談話に花を咲かす。
何だかなぁ。
自分の声は出ないのに他の人の声は聞こえるって何かすごいムカつく。不公平だ。
声、出ないかな。
こっそり下向いて口を開けてみる。
声はやっぱり出なかった。吐く息が手に当たってそれは少し湿っていて暖かかった。何だか悲しかった。
顔を上げると絵里と目が合った。
細い目を更に細めてキッと睨んできた。ムカつく。
私も睨み返してやった。
もし声が出る様になったって口なんかきいてやらないんだから。私は心に決めた。
それにしても一人で何してるんだ。
絵里は皆と少し離れて一人壁と向かい合って突っ立ってる。変な奴。
気付かれない様にこっそり見てたら腕をつつかれた。さゆ。
ずいっと携帯を差し出してくる。私はそれを受け取って画面に目を落とす。
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:02
-
『れーな、えりとなにかあったの?声が出なくなった事、何か関係あるんでしょ?えりに教えなくていいの?』
まただ。
もう何回目になるだろう。
さゆは毎回聞いてくる。はっきり言ってウザイ。
『絵里には関係ないし教えんで。その内自分で言うけんよか』
私はお決まりの返事を返す。
絵里と喧嘩した事が関係あるかどうかは分からないけど声が出なくなった事、絵里に教えるつもりなんてさらさらない。
さゆは隣りで携帯を閉じると残念そうな顔をした。
「その内じゃなくてなるべく早く教えて上げてよね」
さゆはそう言うと私の鼻をピンと弾いて楽屋を出て行ってしまった。
何なんだ今の、腹が立つ。微妙に痛いし。
私は鼻を押さえたままさゆが出て行った扉を暫く見ていた。
何でさゆにそんな事言われなきゃいけないんだ。ほんと腹が立つ。
私は溜め息を一つ吐くと足を組んだ。
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:03
-
「田中、ココに皺よってる」
あ、吉澤さん。
声に顔を上げるとハードカバーの本を片手に自身の眉間を指差す吉澤さんの姿。
組んでいた足を慌てて元に戻す。
「いやー、小春とミキティが五月蠅くてさぁ。話が全然進まない」
コツコツと分厚い本を叩きながら困った様に笑って、私の隣りに腰を下ろした。
「・・・重さんなりに心配してんだろうし、そんな顔しちゃダメだよ」
本を開きながら吉澤さんは小さな声で言う。
見てないようでしっかり回りの事見てる吉澤さんは素直に凄いと思う。
私は前を向いたまま頷いた。後でさゆに謝っておこう。
「亀井と喧嘩したんだろ」
ドキッ。
思わず腰を浮かして吉澤さんを見ると何もなかったかの様に本に目を落としている。
そして本に目をやったまま軽く笑った。
「田中、アンタ分かりやすすぎ」
ケフンと声にならない乾いた咳をして腰を下ろす。
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:03
-
「声が出なくなった原因もそれでしょ?何があったかは知んないけど早いとこ仲直りしときな」
そこまで言って吉澤さんはようやく本から顔を上げた。
「・・・じゃないと元に戻れたはずのものも戻れなくなっちゃう」
吉澤さんは一瞬だけ懐かしむ様な切なさに染まった顔をした。
でもそれは一瞬。
次の瞬間にはさらっと笑って私の頭をぽんぽん叩いた。
「あんた達ならまだ間に合う。大丈夫、戻れるはずだよ」
そして小春ちゃんと藤本さんの方へ戻っていった。
五月蠅いんじゃなかったのかよ。
ヘラヘラ笑って足をブラブラさせて椅子に座る小春ちゃんの横で両手を大きく広げ、迎える藤本さん。
その腕を軽くかわすと吉澤さんは一度だけこっちを振り返って大きな瞳でウィンクした。
はぁ、なんだかなぁ。
溜め息を一つ吐いて顔を上げると絵里と目が合った。
ムカッ。
いつの間に目の前に立ってんだ。しかも何故睨む。
ムカムカッ。
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:04
-
「れーな、ちょっと来て」
睨み返すと絵里は私のほそっこい腕を掴んで無理やり椅子から引き剥がす。
ちょっとなんだよいきなり。てゆーか腕痛い。
抗議しようにも声は出ない。腕を振って離そうとするけど絵里はそれ以上の力で腕を掴む。
結局椅子とさよならして私と絵里は二人で楽屋を出た。
楽屋を出ても絵里は手を離してくれない。
ぎゅっと掴んだままずんずん歩いて行く。
どこ行くの?なんて聞きたいけど聞けない。私は黙ったまま絵里の後ろをついて行く。
てゆーか腕。いい加減離してくれないかな。相当痛いんだけど。
黙ったまんま後ろを歩いていたら突然絵里が立ち止まった。
突然だったので私は絵里の背中に頭をぶつけた。
なんだよ痛いないきなり止まるなよ。
文句を言いたいけど声は出ないので無言の抗議。
私が睨み付けると絵里も睨んできた。
何だよ、悪いのはそっちじゃん。
睨み続けてるとやがて絵里は目を逸らした。やった、私の勝ち!
心の中でこっそり喜んでいると絵里の小さな溜め息が聞こえた。
「れーな、絵里が悪かったから。ごめん」
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:05
-
「あの時喧嘩したからでしょ?れーなが口聞いてくれないの。
謝るから、絵里が悪かったから。だからそんな睨まないでよ」
絵里の声は悲しそうだ。
だから私も悲しくなってしまった。
さっきまでムカついていたくせに。心の弱い奴だ。
私は何となく絵里の顔を真っ直ぐ見れなくて下を向いた。
「ごめんね?だから前みたく仲良くしよ?」
あー黙れ黙れ。
何だよもう、畜生ずるいじゃないか。
許してあげないって、そう思ってたのに。口なんかきいてやるもんかって、思ってたのに。
そんな悲しそうな顔で声で言われたらもうどうしたらいいんだよ。
許してあげるしかないじゃないか。
ずるいよ。絵里はずるい。
「れーな、ごめんね?」
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:05
- 絵里の声に私は顔を上げる。
そこにいたのは今にも泣き出しそうな顔の絵里。
ほら、やっぱりずるい。
もういいよ。
睨んだりしないし口だって聞くし許すよ。
だからそんな顔しないで。
私は口を開いた。
「ぁ・・・あ・・・」
そうだった。
声が出ないんだった。
どうしよう、どうしたらいいんだ?
ちょっとパニック。やばいって。携帯!楽屋だ。紙は?無いよ!
どうしようどうしよう。
口を大きく開いて声を出そうとするけど掠れた息しか出てこない。
目の前で絵里は訳分かんなそうな顔してるしその顔はだんだん歪んできてるし
声でないし目に涙浮かんできてるしヤバいよ、絵里が泣いちゃう!
本当に泣きたいのは私だ!
「あれ、れーな?・・・と、絵里?」
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 15:41
- 続きます
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:41
- あぁ神様仏様道重様!
グッドなのかバッドなのかタイミングよく聞こえてきたのはさゆの声。
助かった。さゆなら携帯持ってるよね。
「絵里?泣いてるの?・・・れーな、アンタ絵里に何した?」
あぁ、バッド。
何もそこに気付かなくても。
私は必死で首を横に振りながら身振り手振りで携帯を貸せと訴える。
「何?耳?耳が・・・痒い?」
馬鹿、何でこんな時に耳痒くならなきゃなんだよ、違うっての!
つーか分かれよ馬鹿さゆ。
「え、違うの?何?私?私の・・・耳?」
だから馬鹿、お前耳好きな。
うさちゃんピースばっかやってるからだ。
てゆーか何故伝わらない!
「さゆの・・・携帯?」
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:42
- そうそうそれそれ!って絵里!?
私の必死のジェスチャーを理解してくれたのは後ろで泣いてたはずの絵里。
その声でやっとさゆも分かってくれたようでポケットから携帯をとりだす。
「携帯かぁ〜、早く言ってよね。てゆーかあんなの絶対分かんないって」
いやいや声が出ないから必死こいて身振り手振りで伝えてた訳であって、
絶対分かんないって、背後で見てた人すんごい理解してたよ?
いろいろ突っ込みたかったけど面倒臭いしどうでもいいので取りあえず携帯を受け取ると文字を打ち込む。
『絵里にずっと黙ってたんだけど、今声が出ない』
取りあえずこれだけ打ち込んで絵里に渡す。
きっと状況が良く飲み込めていないであろう絵里は不思議そうな顔をして携帯を受け取る。
受け取って、画面に目を落とす絵里。
不思議そうな表情は次第にしかめっ面になり、そして次の瞬間弾かれたように顔を上げた。
細っこい目はこれでもかってくらいまん丸く見開かれて。
携帯を片手に口をパクパクさせている。
いや、だから声が出ないのは私であって絵里は普通に喋れるでしょ?
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:42
- 隣りにいたさゆが絵里に説明してくれている。
眉間に皺を寄せて聞いていた絵里。さゆが話終わると私の方を見た。
な、なんだよ。
険しい表情で見つめる絵里に少し身構えてしまう。
絵里は黙ったまんまじっと見てくる。そして次の瞬間、顔をグニャリと歪ませて大きな声で泣き出した。
私は何も出来なかった。どうすれば良いのか分からなかった。
ボーっと突っ立って、大声で泣いている絵里をただ見ていた。
泣いている絵里の隣でさゆは私を睨んだ。何か言いたそうな顔をしていたけれどその口は開かれなかった。
黙ったまんま私を睨みつけると絵里に手を伸ばした。
何だよ、言いたい事があるなら言えばいいじゃん。
どうせ私は反論なんて出来ないし言いたい放題言えるよ?言えばいいじゃないか。
イライラする。ムカツク。むかつくむかつくむかつく。
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:43
-
私は何にムカついているのか。
絵里の大きな声。違う。
私を睨みつけたさゆ。・・・違う?
違うよ。
さゆ、お前何絵里に触ってんだ!
そして絵里、絵里がいるべきところはそこじゃないよ、こっち、私の所でしょう!
放せ、触るんじゃない!
絵里、泣かないで、悪かったのは私だから。
勝手に意地張って、離れていったのは私の方だから。
私が全部悪かったから、謝るから。だから泣かないでよ。
「っあっ・・・ご・・・こめっ・・・」
何かをどうにかしたくて大きく開けた口から出てきたのは声なのか。声なんだろう。
何日か振りに発せられた私の声は小さく掠れていて引きつっていて私の声じゃないみたいだった。
それでも、声は出た。
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:43
-
「れ、れーな?今、声・・・」
さゆが驚いたように私を見る。うん、出た。声、出たよ。
ちゃんと聞こえたんだ、良かった。
絵里。
絵里、私声出たよ。絵里は聞こえた?
「・・・れーな?」
「ぇ・・・えり・・・」
「・・・米?」
いやいやいやいや、涙と鼻水で顔グショグショにしながら米?とか聞かれても。
つーか馬鹿、何で米だよ!
確かにこめって言っちゃったけどさ、違うよ、私声出たの!
変なトコ突っ込むな、恥ずかしいやろ!
さゆが笑った。笑うな馬鹿。
「絵里、ごめん」
あ、ホラ、今度はちゃんと喋れた。ちゃんと謝れたよ。聞こえたでしょう?
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:44
- 「・・・れーな」
「れいなが悪かったけん。謝るけぇ泣かんで」
あーあ。
絶対に謝るもんかって決めてたのに。
絵里が泣くからだ。
いつだってそうだ。絵里はすぐ泣くんだ。
そして私はいつだって絵里の涙に負けるんだ。
「ごめん。もう泣かんで」
私はそっと絵里の手を握った。絵里の手は暖かかった。握り返してくれるのが分かった。
だから私も握り返した。絵里は笑った。
涙は止まっていなかったけど、泣きながら笑っていた。
私は嬉しくなった。
絵里が笑った!声だって出た!仲直りだって出来た!
私は今、モーレツに感動している!!
「そう言えばさぁ、絵里とれーな、何で喧嘩してたの?」
ガラガラゴッシャーン
私の素晴らしき感動はさゆの何とも言えない間の抜けた言葉で綺麗に崩れた。
つーかさゆ、何でまだいるんだよ。早くどっかいっちゃえ!
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:45
- 「あー、何でだっけ?」
絵里も絵里だ、この馬鹿に一々答えなくたっていいんだよ!
さっきまで泣いてたのが嘘みたいにケロリとした表情で顎に手をやっている絵里。
何だ、喧嘩の原因忘れたの?
アレだよ、あれ・・・・・あ・・・・あれ?何だっけ?
「何で喧嘩してたんだっけ?」
「・・・覚えとらん・・・」
「だそうです」
さゆはこの世の終わりみたいな表情をしていた。何もそこまでしなくても。大袈裟な奴だ。
あんぐり口を開けて私たちを交互に見やるといきなりプンスカと怒り出した。
「もうっ!何よ、何なのよ!私二人の事凄く心配してたんだからね!
うさちゃんピースだって出来なかったし、二人の事ばっか見てて鏡だって見れなかったんだから!!
むかつくむかつく!!何よ馬鹿!ばかれーな!!!もう知らないっ!!!」
ぅおほほい、何で私だけ馬鹿呼ばわりするんだ、馬鹿さゆ!
さゆは早口で捲くりたてると肩を怒らせて歩いて行ってしまった。
残された絵里と私はそのイカツイ後姿をただボーっと見ていた。
しばらくして絵里が変な声で笑い出した。
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:45
- 「何ば笑いよっと?」
「ひぇっ、えっ、だって、ウハ、可笑しいじゃん」
「だけん、何が?」
「何で喧嘩してたのか忘れちゃって、そしたらそれでさゆが怒っちゃって。なんか可笑しくない?」
「・・・別に?」
別に可笑しくもなんとも無いよ。おかしいのは絵里だ。
なんだよ、ケラケラ笑っちゃってさ。変な声で笑うのやめろよ。笑えちゃうだろ。
何となく素直には笑えなくて、だから違う方向いてこっそり笑った。
「よし、そろそろ戻るか」
絵里の声で私達は楽屋に戻った。
一番にさゆの姿を見つけて、話しかけようとしたけどさゆはそっぽを向いてしまった。
何だよアイツ。ふんだ、お前もその内声でなくなっちゃうぞ?
そう、そうだ。声。出るようになったんだ。
「みなさん!!!」
おおっと。
暫く声を出していなかったからなのか、ボリュームコントロールがちと難しい。
第一声は予想外の大きな声だった。
だけどそのせいか効果は抜群。楽屋にいた皆は私を見てくれている。
おお、何だか恥ずかしい。てかまこっちゃん、口が開いてる。
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:46
-
「え〜、本日、めでたく私、田中れいなは声が出せるようになりました!!!」
ぅおおー!!!と言った歓声は微塵もなく藤本さんの凄く冷めた「よかったじゃん」とまばらな拍手がチラホラリと。
それでも私は声が出るようになったのが嬉しくて、はしゃいでいた。
「田中、少しうるさい」
愛ちゃんと新垣さんと絵里と私とでお喋りタイムをしていたら吉澤さんに怒られた。
例の分厚いハードカバーを片手に難しい顔をしている。
ちぇっちぇっ、何だよ。
それでもはぁーいと返事だけは素直に、少し頭を下げる。
吉澤さんは「はしゃぎすぎるなよ?」と言うと困ったように笑った。
私は話の輪から少し離れた。
さゆが一人で椅子に座っていた。ふてくされた顔をして、私を見ていた。
「さゆ」
「・・・」
「さーゆ」
「・・・」
「はぁ。どげんしたと?」
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:46
- 私が聞いてもさゆは黙ったまんま答えない。
何だよ何だよ、確かに心配かけて悪かったけどさ、何もそこまで怒らなくてもいいじゃん。
「さゆみは今怒っています。話しかけないで下さい」
「そげん怒りよると不細工んなるよ?」
「やだ!不細工はイヤ!だけど怒りたい!!」
本当に訳のわからない事を言う。
ホッペをぷっくり膨らませて黒目がちの目で睨んでくる。
「さゆには感謝しよるけん、怒らんでよ。心配させた事も悪かったし、謝る」
「・・・何よ、いきなり良い子ぶっちゃって」
「はぁっ?誰が良い子ね、何言いよっとか!!」
「・・・っぷ、アハハハハ、それでこそれーな」
訳が分からない。
さゆは目に涙を浮かべながら笑っている。
なんなんだ、頭がおかしくなっちゃったのかコイツ。
それでもさゆはもう怒っていないみたいだったので安心した。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:47
- 「れーな」
ギャハギャハ笑い続けるさゆに少し恐怖を覚えて離れた場所に座っていたら絵里が来た。
絵里もさゆが気になるのかチラチラと見ている。気になるなら正々堂々と見ようよ。絵里はいつもチラ見だ。
「さゆ、どうしちゃったの?」
「さぁ、わからん」
「そう」
絵里は気になるみたいだったけど結局さゆの方へは行かずに私の隣に座った。
「皆から聞いたよ、れーなの事」
「何を?」
「声でなかったこと。私にだけ教えてくれなかったんだね」
「や、それは・・・」
「ふふっ、もういいよ。終わった事だし」
絵里はサラリと笑った。
その笑顔が何だか大人びていてムカついた。
ムカツク?むかつく。ムカつく・・・そうか、思い出した!
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:47
- 「絵里、思い出した」
「何を?」
「喧嘩の原因」
「あー・・・何だった?」
「絵里は私の事をすぐ子供扱いする」
「・・・そうだったっけ?」
「そうだよ、一個しか違わんとに、絵里はいつも『れーなは子供やけん』って、すぐ言う」
「・・・そうだっけ?」
「そうだよ!そしていっつもそうやってヒラヒラかわして大人ぶるんだ」
「れーなはすぐムキになるね。そこが子供だ」
「っな!!まだ言うと!?」
「はいはいはいそこまでー!!!!!!」
思わず拳を握り締めた時、私たちの間に気の抜けた声が響く。
絵里と私は一瞬お互いを見合って、それから声のしたほうを向く。
さゆ。
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:48
- 「もうさ、せっかく仲直りしたんだからまた喧嘩とかやめてよね」
吉澤さんに教えてもらったのか、さゆは外人ぶって大袈裟に肩を竦めてみせる。
あーうざったい。
絵里も同じ事思ってるんだろうか、こっそり見てみたらもの凄くウザそうな顔をしていた。
さゆは気付かないでいる。
「それにさ〜、最近おかしいよね。何か2人との間に距離を感じるんだよね、私。
これ気のせいじゃないよね?何よ何なのよ、私達いつだって一緒だったじゃない、仲間外れにするのは禁止!」
あーまじうざったい。
さゆは延々と日頃の不満をぶつけてくる。段々関係ない方向に話がいってる気がしなくもない。
絵里を見た。
ホラ、私たちってやっぱり何か気があってる。さゆが距離感じちゃうのも仕方ないかも。
お互いに確認しあって1.2.3で楽屋を飛び出した。
さゆの叫ぶ声が聞こえたけど気にしない。まだまだ走るよ。
絵里が少し前を走る。笑う声が聞こえる。私は絵里の後ろを走る。
「れーな!」
「なに?」
「楽しいね!!」
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:48
- 何言ってるんだ、ただ走ってるだけじゃないか。何が楽しいんだ。
何を笑っているんだ、何もおかしくなんかないよ。
絵里は子供だ。
子供だ。
子供って何だ。
「・・・楽しかね!!」
ああそうだよ、楽しい。凄く楽しいよ。
私はまだ子供なんだ。
トゥルトゥルじゃないけどね。
子供だよ。
「絵里!!」
「なーにー?」
「あそこの角まで競争!」
そうだよ、私は子供だよ。
すぐムキになるし意地だって張るし見栄だって張りたいし我がままだって言いたいし他にもいろいろあるよ。
早く大人になりたいなんて思ってた時もあったけど、でも私はまだ子供でいるよ。
だって絵里は私を好いてくれてる。こんなガキんちょの私を。
だから私はまだガキんちょでいるよ。
細っこい腕と足といっぱい伸ばして走り回ってやる。
とりあえずはあの角までひとっ走り。
絵里になんか負けないよ。
廊下を走るのは子供だけの特権なんだから。
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 18:51
- 以上
次回更新より―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)―をお送りいたします
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/08(土) 20:58
- 切ない。でも笑えた。
次回も期待してます
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/09(日) 01:21
- あーこれいい
いいです
6期もの読んでて初めてキュンとしました
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/09(日) 22:16
- 今までのぶん一気に読んだのですが、個人的にみきがきの二人が一推しなのでかなり嬉しいお話で。
貧乳少女Mと眉毛少女Rがくっついたらなんて思ったり思わなかったり思ったり………
れなえりもキュンとしました。
更新頑張ってくださいね!
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/13(木) 21:15
- >>147-149
レスありがとうございました
六期もの初でしたが頑張りました
がきみきその他諸々の話やります
- 151 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:16
-
―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)―
- 152 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring 投稿日:2006/04/13(木) 21:17
- とある休日の午後。新垣の部屋に藤本がやって来た。
やって来て何をするかと言えば特にこれと言ってする事は何もなく、一人で無駄に体力を消費する。
バストアップエクササイズ。
だから何でこの部屋でやるかなぁ?
フッフッとリズム良く息を吐く藤本を見ながら新垣はぼんやり思った。
「・・・もっさんこれから関西弁で喋ったらどうですか?」
「なんで?」
「だってもう巨乳は無理じゃないですか」
「んん?よく聞こえなかったなぁ、何が無理だって?」
「あ、いや、違う、無理じゃないけど時間がかかるでしょう?関西弁ならすぐですよ」
「そ。つか何でいきなり関西弁なの」
- 153 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring 投稿日:2006/04/13(木) 21:17
- 「だってほら、吉澤さんが最近付き合ってた二人って共通点あるんですよ、巨乳と関西弁」
「おぉ、そう言えばそうだったな」
「だから吉澤さんの好みってきっと関西弁で話す巨乳なんですよ」
「おおぉ、凄いよがきさん」
「いえいえ。だから関西弁で喋ったらその内吉澤さんゲット出来ますよ!」
「まじか!美貴頑張る!でかしたがきさん!」
「いやーそれほどでも。だからもっさん、明日から吉澤さんと話す時は関西弁ですよ?」
「おぅ、まかしとき!」
親指をグッとたて早速関西弁らしき物を使う藤本。
なんだかなぁ、何かに似てるなあ。
見かけによらず?可愛らしい声を持つ藤本。鼻にかかった甘い声での関西弁は可愛らしいちびっこチンピラの様だ。
藤本に見つからない様に新垣はこっそり笑った。
- 154 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:18
- 数日後、学校の屋上。
給水塔に凭れかかる二人の生徒。新垣と吉澤。
ヘラヘラ笑ってばかりの吉澤は珍しい事に疲れたような表情を浮かべていた。
心なしかやつれている様にも見える。
家に帰ろうとしていた所を吉澤に拉致された新垣は訳が分からずにただ吉澤が喋り出すのを待っている。
暫くして、やっと吉澤が口を開いた。
「なぁがきさん」
「何でしょう」
「火垂るの墓っていいよな」
「あぁ、アニメですか?いいですよねー。前もっさんと見ましたよ!」
「やっぱり」
やっぱり?
はぁっと大きな溜め息を吐く吉澤を見た。
そんな新垣の腕を吉澤がガッと掴む。
「頼むがきさん止めさせてくれ!」
目にうっすらと涙を浮かべ悲痛な声を上げて懇願する吉澤。
新垣は訳が分からない。
何だなんだなんだ?何を止めさせる?
「ちょっ、落ち着いて、何をです?もっさんですか?」
吉澤はブンブンと首を縦に振る。必死だ。
- 155 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:19
- 「そう、ミキティの関西弁!お願いだから止めて!」
吉澤は叫ぶ様にして新垣にすがりつく。
更に訳が分からない。
何でよ、吉澤さんは関西弁で喋る子が好きなんでないの?
私の思い違い?
あ、分かった!もっさんが巨乳じゃないからだ。
そうでしょ?
「最近アイツと喋ると何故か関西弁なんだよ。しかもセツコなの」
せつこ?
あぁ、あのアニメの妹か。
そうか、それだ!
何かに似てると思ったらそれだ、よく気付いたナイス吉澤!
- 156 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:20
-
「・・・でさ、夢にまで出てくんだよ。何故か私が兄貴でミキティが妹なんだ。
あの顔でセツコのカッコして『セツコな、おなかピチピチやねん』とか言うの。マジ恐怖だよ耐えらんない」
吉澤は一気に吐き出すと自分の体を抱き締めた。
相当怖いのだろうか、ガクガクと震えている。
新垣は想像してみた。
・・・・・・。
・・・うん。
怖ぇええええ!!!
こいつぁ立派な睡眠障害だ!
新垣は吉澤の腕を掴んだ。
「分かりました、止めさせましょう!」
吉澤の目を覗き込み、力強く宣言する。吉澤もきりっとした表情を浮かべ頷き返す。
ここに吉垣同盟が発足した。
- 157 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:21
-
「がーきーさん」
「何でしょう?」
「おっぱい、大きなった?」
「その調子ですよ!てか何で関西弁。吉澤さんに対してだけでいいんですよ?」
「だって抜けへんねやもん。無理」
新垣は頭を抱えた。
だめだ、今日絶対夢に出てくる。
鮭トバ片手に生肉かじりながらお腹ピチピチやねんとか言う。
レバ刺し出しておにーちゃんもどーぞとか絶対言う。
生で肉食べるからお腹痛くなるんだよ!
そんなのヤダヤダ。それに吉澤さんと約束したんだ。
「ぅあ、あ、あの、もっさん」
「何?」
「あの、今日吉澤さんに会ったんですけど、関さばっ」
ボフッ!
言い終らない内に顔面に枕の急襲。
顔に張り付いた枕を取ると目の前には鬼。もとい藤本美貴。
魂抜かれる!新垣は慌てて目を逸らした。
- 158 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:22
- 「よっちゃんと会った?美貴知らないんだけど」
「うぅ、いや、あのですね、会ったというか、いや、別に私は会いたくなかったんですけどね、
吉澤さんが、あぁ、でも吉澤さんも別に私に会いたいなんて思ってないんですよ?
あのですね、あーなんと言うかつまり遭遇したというか拉致られたというか・・・」
「長い。しかも何それ意味分かんない。美貴も拉致られたい!」
拉致られたいってアンタ。
地団駄を踏みガチガチ爪を噛みながら悔しがる藤本。
おぉ、何だか優越感。って違うだろ!
つーか貴方相当吉澤さん好きですね。
「で、まぁ吉澤さんに会ったんですけど、関西弁ブーム終ったみたいですよ」
「マジで?」
「でじま」
「ふーん、関係ないね」
「は?」
「気に入った。美貴これから関西ガールになる!」
ぅおっとぉ!宣言しちゃった!
目キラキラ光ってるじゃないですか!どうした藤本、滝川を捨てるのか!
グヘェ!いきなり右フックは卑怯ですよもっさん。
- 159 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:23
- 「ゲフゲフ、ぅ、や、あの、でも吉澤さんが」
「うるさいなぁ、よっちゃんは関係ない」
「・・・はぁ?」
「美貴、好きな人出来た」
「ほぅ・・・って、はぁあああああ?」
恥じらう様に俯き加減で頬を赤く染める藤本。
前に組んだ手をモジモジさせてまるで恋する乙女だ。
って、恋してるのか。
でも吉澤さんじゃない。誰に対して?
つーかさっき地団駄踏んで悔しがったの誰だよ。拉致られたい発言したの貴方でしょ?
「よっちゃんさんの事嫌いになった訳じゃなくて、好きだけど大好きだけど超好きだけど
ほんとマジでクレイジーフォーユーのフォーリンラブなんだけどそれ以上に好きな人見つけちゃった」
- 160 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:24
- テヘッと舌を出して恥ずかしそうに笑う藤本。新垣の背中に虫酸が走る。
こんなのもっさんじゃない!
痛いどころかそれ通り越してキモい。
新垣は藤本の目の前でパンッと手を叩いてみた。
驚いたのか目を大きく見開く藤本。
しかし次の瞬間。
「何しとんじゃい!」
出た!伝説の大外刈り!
まともにくらった新垣は受け身もとれずにどうっと床に倒れ込んだ。
やっぱもっさんだ。うん、もっさんだよな?
「もっさん」
新垣は床に倒れたまま天井を見つめながら口を開く。
視界の隅には藤本の顔が少し映っている。
満足そうな笑みを浮かべた藤本はん?と首をかしげる。
「もっさんの好きな人って誰ですか?」
「んー、一番はよっちゃんだけどぉ・・・んふー、内緒」
ぐはあっ!君の瞳に恋してる!
藤本は妖艶な視線を新垣に向けるとしゃがみ込んで耳元で囁いた。
「がきさんも恋しなよ」
- 161 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/13(木) 21:24
- 最後にフッと息を吹き掛け悪戯っぽく笑うとまた明日ねと手を振って自分の部屋へと戻っていった。
なんだ今の。
心臓がドキドキしていた。息の掛かった耳がこそばゆかった。
体中がむず痒くて床の上をゴロゴロ転がり回った。
どうしたんだ私。どうしたんだもっさん。
もっさんの好きな人って誰だよ。吉澤さんじゃない人って誰だよ。私は知ってるのかよ。
恋しなよなんて一々言われなくてもするよ。相手がいればだけどね。
なんでもっさんに言われなきゃなんないんだ。そんな事言うなよ。
何故かイライラして枕をバシバシ殴ったらスッキリした。
吉澤さん、申し訳ありませんがもっさんの関西弁は止めれそうにありません。
それより重大な使命が新垣には出来てしまったのです。
吉垣同盟も誠に勝手ながら解消させていただきます。
てか吉澤さんは知ってるのか?
そう、これ大事だよきっと。明日聞いてみよう。
心に一つ決めると新垣は電気を消して布団に入った。
明日。明日だ。
- 162 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/04/14(金) 11:32
- ハァ…(*´д`)ポ
ドキドキな展開ですね
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/15(土) 04:07
- >>110の言葉、吉ヲタとしてすこし胸に響きました
- 164 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/22(土) 19:49
- 翌日。
「がきさんおハロー!」
「はいおハローございます」
いつにも増してテンションの高い藤本。
歩き出すなり早速口を開く。
「ね、ね、おっぱいどう?」
「うんうんその調子」
お決まりの言葉を返しながらもっと普通の会話がしたいななんて思う新垣であった。
藤本はそんな新垣の気持ちも露知らず、腕を大きく振りながらおっぱいトークを繰り広げる。
「なんか最近大きくなってきた気がするんだよね〜」
よく分かってるじゃないですか、気のせいですよ!
「なんて言うの?胸の辺りが重くなってきたって言うかさぁ」
はいはいそれも気のせい。きっと筋肉。
「やっぱ大きくなってるのかも」
んなこたぁない。
全く何にも全然微塵たりとも以前と変わってませんから。
きっとこれからも現状維持でそしてそのまましょぼくれていきますよ。
藤本の将来を想像して新垣は空しくなった。
隣りで嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女を見て更に泣けてきた。
まぁ頑張ってください。
- 165 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring 投稿日:2006/04/22(土) 19:51
- 「がっきさん、ミッキティおっハロー!!」
ドンと背中をど突かれ前のめりになりながら振り返る。
「ひょっちゃあん!!」
「吉澤さん!」
「ハーイよっちゃんだよ!おハロー!ユー達元気かい?」
「んふー元気元気!よっちゃんも元気やな!」
「ぅ゛・・・は、ははっはぁ、ミキティの元気は私の元気!
地球の皆、すまねぇ、オラに力を貸してくれ!ってな!」
いやいや借りてちゃいかんだろ。両手突き上げてそしてお前は何を出す。
ぐほぉっ!
「ホワーイ、どうしたがきさん眉毛がしおれているよ!」
「ぅがっ・・・はぁ、いきなり叩かないで下さいよ、内臓吐きそうでしたよ今」
「内臓吐く?・・・いいねぇ、その絵いいよ、もっかい叩いていい?」
涙目になりながら訴える新垣に対し好奇の目を向ける吉澤。
口調はふざけているものの目がマジだったので新垣は藤本の背にそっと隠れた。
- 166 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring 投稿日:2006/04/22(土) 19:51
- 「んはー冗談だよ!今日もいい天気だねぇ。楽しいこといっぱいあるといいねぇ」
吉澤は無邪気に笑う。
つーか貴方が楽しくない日なんてあるんですか?
吉澤の笑顔を見ながら新垣はそっと思う。
「何言うてんのよっちゃん、美貴がおれば楽しいやろ?」
「ん゛っ・・・ぉおっとそうだった、ソーリーソーリー中曽根総理!」
「お前いつの人間やねん!」
なんだかなぁ。
朝からこんなテンションで疲れないんだろうか。それについてくもっさんももっさんだけど。
しかもきっちり微妙な関西弁。吉澤さん少し引いてるし。可哀相に。
引きつった笑顔を浮かべる吉澤。少し前を歩いていたがいきなり立ち止まる。
それに合わせる様にして二人も足を止める。
吉澤は一点を見つめたまま動かない。吉澤の視線の先。電信柱。電信柱?
「・・・あやや?」
「あやや?」
「おはよーございます、吉澤先輩!」
- 167 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring 投稿日:2006/04/22(土) 19:52
- 三人の視線が集まる電信柱の影からひょっこり現れた制服姿の女の子。
ニカっと笑って吉澤に抱きついた。
ぅわお、チャレンジャー!
隣りにもっさんがいるのに!
この子死ぬよ死んだよ、どうしよう私。
新垣は両手で顔を塞ぎながら指の隙間からそっと藤本を見る。
?
???
・・・もっさん?
新垣の目に映ったのは信じられない光景だった。
藤本は殴る事も蹴る事も怒鳴る事もせずにじっと見ているのだ。
それもただ見ているわけではない、心なしか頬をほんのり赤く染めて口元には微笑さえ浮かべている!
なんだ、なんなんだもっさん!どうしたんだ!そしてこの子は一体誰!
「松浦そろそろ離れてくれんとキュートなフェイスが見れないよ」
吉澤に背中をポンポン叩かれて松浦と呼ばれたその子はようやく体を離す。
新垣は吉澤を見る。その顔には満足そうな笑み。
松浦と呼ばれた子を見る。こちらも嬉しそうに笑っている。
てか胸!デカ!
吉澤の満足気な笑みの原因が分かった様な気がした。
そして藤本を見る。
・・・やっぱりおかしい。
- 168 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/22(土) 19:53
- どうして何も行動を起こさないんだ!
吉澤さんに近付く者に対しては老若男女構わず鋭い視線を送っていたのに。
触れようものならそれこそ一瞬で地獄図が展開されていたのに。
何でデレデレ笑ってるんだ!
「松浦も一緒に行くか?」
「はぁい是非!」
吉澤の一言で一緒に学校まで歩く事になった四人。
吉澤を真ん中に藤本、松浦が両隣りを固め少し離れて後ろから新垣がついて行く。
つーかアンタ誰だよホント。何で私の定位置にいるんだチクショウ。
横一列に並んで歩く三人の後ろ姿を見て新垣は少し寂しかった。
「貴方知ってるよ、がきさんでしょ?」
突然話しかけられて新垣は姿勢を正す。
前を歩いていたはずの松浦が隣りにきていた。
「私松浦亜弥。二年生だよ、あややって呼んでね!」
「は、はぁ・・・」
はきはきと喋り手を差し出して来る。いまいち勢いに乗れずそれでも握手する。
ゾクッ。
何?何今の!?
新垣はパッと手を離し辺りを見渡す。気のせい?
- 169 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/22(土) 19:54
- 「・・・あ、は、あはははっ、ホントだ、面白ーい!」
髪を振り乱し周囲を見渡す新垣を指差して松浦は高らかに笑う。
さらさら綺麗なソプラノを耳に新垣は頭を振る。
何だったんだ、今の。
「ね、がきさんて呼んで良い?」
声に顔を向けるとニコニコ笑う松浦の姿。
新垣は困った様に笑って頷いた。
「唯ちゃんから聞いてたんだよ、がきさんの事」
唯ちゃん?
あぁ、関西弁巨乳の二年生か。
松浦さんも二年生か。なるほどね。
「でもねー、実はだいぶ前から知ってたんだな、コレ」
嬉しそうに口元に手をやるとにゃはっと変な声で笑った。
「ま、これからもよろしくっ!」
そう言ってまた手を差し出してきた。
無視する訳にもいかないので曖昧に笑って握り返す。
ゾクゾクっ!
背筋を冷たい汗が伝い、手を離してガチガチとゆっくり振り返る。
あぁ、死ぬ。死んだ。
- 170 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/22(土) 19:55
- お父さんお母さん、私は今日短い一生を終えます。親不孝な娘でごめんなさい。
生んでくれてありがとう。短い一生だったけれどとても楽しかったよ。
そして先に旅立つ不遇をお許し下さい。
新垣は目を閉じた。そしてその時を待った。
見てしまったのだ。
鬼。いや、それ以上の形相で自分を睨み付ける藤本の姿を。
ここで死んでしまうのだと本能が言っていた。
新垣は待った。藤本の鉄髄が下されるその時を。
じっと待った。ぐっと待った。ズバッと待った。
だがそれはいつまで経ってもやってこなかった。
その代わりに吉澤の能天気な声が聞こえた。松浦の綺麗なソプラノが聞こえた。
新垣は恐る恐る片目をうっすらと開けた。
遥か遠く前方に二人の姿が見える。二人。二人?
「おい」
ひぃぃいいっ!!
「はははははひゃい?」
耳のすぐ後ろから聞こえてきた低い声に背筋を伸ばす。
心臓が止まりそうだ。もうちょっと頑張ってマイハート!
- 171 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/22(土) 19:56
- 「何でお前亜弥ちゃんとトークしてんだよ」
トーク?いやトークも何も一方的に向こうが話してきただけあばばばば
「さっき手握ってたな?」
背後から首に腕をかけられ絞められる。
ギブサインを出すものの藤本は気にもせずに片方の腕で新垣の右手を持ち上げる。
あ、ヤバい。息が。
死ぬ死ぬ助けて。
「よし、間接握手だ」
うひゃあきもちわるいやめてはなして!
窒息寸前首から腕が離れ肺一杯酸素を取り込む事は出来たがそれは一瞬にしてまた吐き出された。
新垣の目の前で上下に大きく揺れる繋がれた手。
新垣と藤本。
何関節握手って。
もっさんやめて何かホント気持ち悪い。貧乳移りそうだから早く離して。
- 172 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/22(土) 19:57
- そんな新垣の思い空しく藤本は更に力を込めて手を握る。
その顔には変態チックな笑みさえ浮かんでいる。
つーかどう見てもおかしいだろコレ。
登校中に固い握手を交わす二人。ってどんな物語だよそんなの知らないよ。
ねぇそこの人つっこんでよ。知らない振りして通り過ぎないでよ。何してるんですか?って聞いてよ。
え?聞けない?そりゃそうだね悪かった。そうだよ全くもって君の言うとおりだ。
狂犬と呼ばれ恐れられている人物がニタニタ笑ってたらそりゃ声もかけられんわな。目も背けたくなるわな。
そう、そうだよ、悪かった私が悪かった。
- 173 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/22(土) 19:57
-
「ぅおーい何してんだぁ?何それ新しいゲーム?あたしも混ぜやがれこんちくしょう!」
そう、こんなアフォな奴じゃない限り声はかけれんわな。
つーか吉澤。お前はこれのどこがゲームに見える。
混ざりたい?あぁ混ぜてやるとも。つーか代われ。
あぁもうどうしよう。
この先おっぱいが成長しなかったらぜったいもっさんのせいだ。呪ってやる。
新垣は泣いて笑った。手は離れた。
吉澤が走って来る。その後に松浦の姿。
新垣の隣りで藤本は右手を高々と掲げると満足げに笑った。
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/22(土) 19:59
- >>162-163
レスありがとうございました
- 175 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2006/04/23(日) 02:45
- 貧乳はうつらないもんだけどすでに(ry
ガキさん乙
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/27(木) 06:52
- なにこれちょうおもすれー
更新待ってます
- 177 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:40
- 「あいぼんおっは、ね、二年の松浦さんって知ってる?」
教室に入るなり親友の姿を見つけると一目散に駆け寄る新垣。
駆け寄られた相手と言えば余裕なもので、どっしりと構えゆっくり振り返る。
「お、がきさんおっはっはー。松浦?まつうら・・・あぁ、亜弥ちゃん?」
親友のいかにも知っていますとでも言うような口調に新垣の鼓動は早くなる。
席に着く事もせずに早速がっつく。
「そうそうそうそう、知ってる?」
「知ってるも何もウチら華の関西トリオやで?」
「関西・・・トリオ?」
「せや。ウチと亜弥ちゃんともう一人二年生でおるんやけどな、」
「あ、岡田唯ちゃんDカップ?」
「ぉお、そうそう。何で知ってるん?てかDカップって何じゃらほい」
「ぅあぁ、それはまぁおいといて、松浦さんとお友達?」
「せやからぁ、友達も何も華の関西トリオや言うてるやろ?」
色白ぽっちゃり加護亜依ぼんはそのふくよかな胸を大きく張ってケタケタと笑う。
華の関西トリオ、か。華っていうか乳の関西トリオだよね。
- 178 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:41
- 「じゃあ松浦さんの事知ってるんだ?ね、松浦さんってどんな人?」
「なんやぁ?偉いがっつくなぁ。あ、もしかしてもしかするとがきさん、春がやって来た??」
「はぁ?あいぼん何言ってんの、今秋だよ?イッツオータムよ?秋の次は冬よ?春はその先だって、まだまだ」
プププとでも言わんばかりに口元に手をやっていた加護は新垣の真面目な顔と物凄いマジレスに少し申し訳なく思ってしまう。
新垣は気付かないようで、松浦はどんな人なんだと顔をしかめて聞いてくる。
なーんだ、つまんないの。
加護は諦めたように溜め息を一つ吐くと松浦について語り出した。
「せやな、あれはウチが中等部の三年生やった頃の」
「ちょちょちょちょちょっと待てぃ、出会いとかその乳の何とかトリオ結成の馴れ初めみたいのは全く要らないから。
松浦さん個人について簡潔にかつ詳しく情報が欲しい」
「は・な・の!関西トリオや。なんや、おもろない。まぁええわ」
出鼻を挫かれた加護は多少不機嫌になりながらも情報を提供する。
新垣は一言も聞き漏らすまいと必死で加護に食いついた。
- 179 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:42
- 松浦亜弥。通称あやや。
兵庫県(姫路?)出身、6月25日生れの17歳。
双子座のB型。
去年からハロモニ女子学園に通う、所謂外来、高校受験組。
とりあえず、モテる。
自分大好き。
暇さえあれば鏡を見ている。
去年の文化祭、一年生ながらミスハロモニトップ3。
親が元ヤン。
頭はあまり良くない。
胸が大きい。可愛い。
桃色の片想い中。
そこまで聞いてチャイムが鳴った。
顔を上げて教室を見渡すともうほとんどの席が埋まっている。ホームルームが始まる。
まだ何か言おうとする加護に「ありがとね!」と先手を打つとその場を去った。
「こっからが重要重大マル秘情報やったのに・・・」
加護は小さく呟くが新垣はもう自分の席に戻っていた。
まぁいいか。知らずにいるのもこれはこれでおもろいやん。
何やら意味深な笑みを浮かべる加護に新垣が気付く事は無かった。
いやはや、あいぼんも流石関西人だ。喋り出すと止まらないね。
しかしそれにしてもやっぱ持つべきものは友達だな。
自分の席に着いた新垣は一人悦に入る。
- 180 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:44
- 「どうしたがきさん、朝からニヤニヤして。眉毛も絶好調か?」
「そりゃもう、もちろん!眉毛ビィーム!!って吉澤さん!?」
廊下側に位置している新垣の席。
声のした方に顔を向けるとニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた吉澤が廊下に立っていた。
つーかニヤニヤとか貴方に言われたくない。
「ななななんでここに?」
「オイオイ冷たいじゃないか、君が想う時、僕はいつでも側にいるんだよ!」
いやいや一秒たりとも貴方の事なんて思ってませんから。
つーかサムっ!キモッ!
バチっとウィンクを飛ばす吉澤を見て新垣は固まった。
固まる前に、飛んで来たウィンクはマトリックス並みのアクションで避けた。
こいつマジで頭おかしいんちゃうかと。
ネジ一本どころか二、三本外れてるんちゃうかと。
その前に人間なのかと。
黄色い声で新垣は我に帰る。いつの間にか人だかりができていた。
- 181 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:45
- そうか、そうだった。
この変態おっぱい星人は腐ってもこの学園のスターだったっけ。
吉澤を見るとヘラヘラと愛想良く笑顔を振りまいている。
あー、この人もつくづく馬鹿だよなぁ。
つーかホント、何でいんの?
貴方もHRあるでしょ?
「吉澤さん吉澤さん」
「はいはいなんでございましょ?」
「何か用ですか?」
「用?あぁ、なんだったっけ」
吉澤のその言葉に椅子から転げ落ちそうになる。が、寸での所で持ち応え、吉澤をキッと睨む。
「窓閉めますよ?心の扉も閉めちゃいますよ?」
「ぉおっと、その窓を閉めて貰うのは一向に構わないが心の扉は常時開放していておくれよ、オープンユアハート!」
「はいはい。で、何ですか?」
「あぁ。がきさん、気をつけろ。君は命を狙われている」
「はい施錠しまーす」
「ちょっと待てまーって、これはマジな話なんだ、ミキティに気をつけろ」
- 182 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:46
- 吉澤は声を潜めいつになく真剣な表情を浮かべて言う。
新垣の頭には幾つもの?マークが浮かぶ。
気をつける?もっさんに?命を狙われてる?何だそれ。
「はいはい分かりましたから。吉澤さん戻らないとHR遅刻しますよ?」
「あーっ、信じてないな?ホントだぞ?本当の本当なんだからな?」
「あぁもう五月蠅いですよ」
「畜生、なぜ信じない!この私が嘘を吐いた事があったか?」
「てゆーか貴方の存在自体が嘘っこですもん」
「なっ・・・それは言わない約束だろ・・・」
廊下へ大袈裟に崩れ落ちる吉澤にしっしっと手を振る。
顔を上げた吉澤は恨めしそうな顔をしながら捨て台詞を吐き去って行った。
「後で泣き付いて来ても知らないからな!ばーかばーか!」
馬鹿はお前だ!!!
吉澤の姿が見えなくなると、新垣はようやく伸ばしていた首を引っ込めた。
あぁ疲れた。朝から無駄に疲れた。
しかし何だったんだ、一体。
- 183 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:47
- 吉澤はいつもヘラヘラしているしお調子者だしその発言は嘘か本当かもよく分からない。
大抵は嘘の方が多い。嘘つきは泥棒の始まりって言うのが本当ならきっと今ごろ世界的な大泥棒だ。
それでも本当の事を言う時もある訳であって、だからそれはとても分かりづらい。狼少年だ。
何故わざわざ一年生の教室が入る四階まで来たのか。
そこまでして私に嘘を吐きたかったのか?いや、ありえない。
吉澤自身についての事をよくは知らないが、ここ最近ぐっと近くなって感じた事。
彼女は究極の面倒臭がりだ。藤本と良い勝負をはれるくらいに。
そんな彼女が朝っぱらから階段上って茶化しに来るわけが無い。断言出来ないのが悲しい所だが。
しかしそれならば吉澤が言っていた事は本当なのか?
私の命が狙われている。
・・・有り得ない。
ん?や、でも待てよ?
ぐるぐる思考を巡らせていた新垣の脳裏に今朝の出来事が浮かび上がる。
- 184 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:48
- ―鋭く尖った刺す様に冷たい視線―
そうだ、私は死にかけた。じゃあ吉澤さんが言っていた事は本当?
―有無を言わせぬ強い力で締め上げられた首―
命を狙われている。気をつけろ。ミキティに、気をつけろ。
―鬼の様な形相の藤本―
あぁ。
新垣の背を冷たく嫌な汗が伝う。
もっさん。そうだ、もっさん!
今朝の、登校中の出来事を鮮明に思い出した瞬間、新垣を強烈な震えが襲う。
いやだいやだいやだ、死んでしまう。
気をつけろ?どうやったらいいんだよ、家は隣りだ!
殺してくれと言ってる様なものじゃないか!
助けてよ吉澤さん、貴方なら何とかできるんじゃあないんですか?
私まだ死にたくない!まだ何もしてないもの!
人並みに恋とか言う奴してみたいしファーストキッスはレモンの味がするのか検証してみたいしそれよりなによりまだ処女だし!
きゃあ恥ずかしい、落ち着け落ち着け、何も私情を暴露しなくてもいいんだぞ、な?自分。
- 185 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/04/28(金) 22:48
- そうだ、まずは落ち着け。
大きく息を吸い、そしてゆっくり吐き出す。
先程から目まぐるしく変化する己の表情に少し引き気味な周囲のクラスメイトは気にしない。
そうだ、いいぞ?落ち着くんだ。さぁ、落ち着いた。
ふぅ。
って、やっぱやべぇっすよこりゃあ。死にますって。
つーかちょっと待って?
何故?
何故殺されなきゃならない?
私何かしたっけ?何もしてないよ。
そうだよ、何もしてないじゃん。なのに何で命狙われちゃってんのよ、意味分からなくなくなくない?
私何も悪くない。むしろ悪いのはもっさんの方だ。あれは殺意があった。殺人未遂事件だ!
私は被害者なのだ、訴えてや・・・れねーよ、馬鹿。
新垣をパニックと絶望が襲う。
朝の清々しい光が眩しい教室で新垣の座るその一角だけが暗く澱んでいた。
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/28(金) 22:50
- >>175-176
レスありがとうです
- 187 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 21:55
- 「なぁ、がきさんどないしたん?」
「んー・・・もういいんだ・・・疲れたよ」
昼休み。
各々が楽しくワイワイと箸をすすめるランチタイム。
新垣の前には加護が座っていた。
そこは朝から全く変わらず空気が重い。
その圧力に耐えられなかったのか新垣自慢の眉毛もぐんにゃりと垂れ下がっている。
加護は困ってしまった。
こんなに落ちている新垣を見るのは初めてだったのだ。
「がきさん、とりあえずお昼食べよ?お腹空いたよ」
「うーん、あいぼん食べなよ・・・私はいいよ・・・」
いいよ言われてはいそうですかって食べれる雰囲気か?
加護は引きつった笑みを浮かべた。お腹の虫がそろそろ活動し始める頃だ。
ぐ「ねぇあいぼん」
お腹の虫の第一声は新垣の声で書き消された。
「な、なんやぁ?」
「ファーストキスって、どんな味がした?」
「ファーストキスゥ???」
- 188 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 21:56
- 加護はまじまじと新垣を見つめる。
どこかアンニュイな表情を浮かべ明後日の方向を見ている新垣がいた。
目の前でヒラヒラと手を振ってみる。反応なし。
叩いてみる。パチン!反応なし。
一体全体どうしたっていうんだがきさん、突然ファーストキッスだなんて!
「・・・ホントにレモンの味すんのかなぁ・・・」
机に片肘ついて呟く新垣。
憂いを帯びたその表情に加護は戸惑ってしまう。
「あ、あんなぁ、イチゴ味やったで?」
ボケる事もせず真面目に答えてしまう。
イチゴ味。
甘酸っぱい様子を比喩した訳では無く、本当にイチゴの味がしたのだ。
だって初めてのキスの相手はその時ストロベリーキャンディを口にしていた。
だからファーストキスはイチゴ味だ。当時を思い出して懐かしく思う。
「レ、レモン味じゃなかったのかっ・・・っく、それじゃあまだだ。まだ死ぬわけにはいかない!!」
- 189 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 21:57
- 加護の美しきセピア色の思い出は突然発せられた新垣の大きな声で掻き消された。
新垣を見ると垂れ下がっていた眉毛はピンピンと生気を取り戻し、厚く覆っていた灰色の重い空気も何処かへ消え去っている。
いつもの元気な新垣に戻っていた。
「が、がきさん?どうした?」
「はっはぁ、あいぼん、私はまだ死ぬわけにはいかないのだよ。パイナップル味のファーストキスを手に入れるまではね!」
「ん?パイナップル?てかファーストキスまだなんだ?」
「ぅえっ?え、ええぃ!黙れ黙れ、私は美味しいものは最後に残しておく派なんだぃ!」
「あはははは、意味分んない、おもしろーい!」
恥と怒りで顔を真っ赤にする新垣。それを見てケラケラと加護は笑った。
何がなんだかよく分んないけど取りあえず生き返ったっぽい。
良かった良かった。
彼女が内緒にしていたのであろうプライベートな事実も知ってしまった。
顔を紅潮させながら弁当箱を取り出す新垣を見て自然と自分の顔が緩むのが分った。
- 190 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 21:57
-
放課後、屋上。
「泣き付いてきても私は知らないって言ったぞ?」
「えぇ、でも吉澤さんならホラ、助けてくれるんじゃないかって。なんせこの学園のヒーローですから」
「おほほぉい、いつから私はMEN’Sになったんだい?それにお前は知っているだろう、私の正体を」
「何カッコつけた事言ってるんですか?いいから助けて下さいよ」
「は、ははぁ、がきさん言うねぇ。でもね、助けてあげたいけど無理だよ」
「そんな事言わずに」
「無理だね、いやだ」
「お願いしますよ」
「やなものはやだ!」
「そんなムキにならないで、お願いしますよ」
「ねぇがきさん。私はまだやりたい事が沢山あるんだ。こんなトコで死にたくないよ」
さらりと吉澤は笑った。
- 191 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 21:58
- なんと言う事だ!新垣は目の前が真っ暗になった。
これだけお願いしているのに!
藤本の弱点であるはずの彼女までもが死にたくないと言っている!
これは相当ヤバいんじゃないの?背筋をぞわぞわと嫌な空気が伝った。
つーかホント、何で命を狙われているのかマジで分からない。
「ねぇ吉澤さん」
「うん、むりだよ?」
いやいや何も言ってないだろう。言わない内からむりだよとか可愛く言うな。
「私はなぜ殺されかけているのでしょうか」
「さぁ・・・肩でもぶつかったんじゃない?」
アホか!お前はアホか!
声を大にして叫びたい。
確かに何回かぶつかっちゃったりしたけどさ、そんな理由で殺されるなんて死んでも死にきれない。
つーかもっさんだってそこまで短気じゃないよ、きっと。・・・多分だけど。
「吉澤さん知らないんですか?」
「残念ながら知らないねぇ。
ただ『豆煮る!焼く!茹でる!炒る!』とか言ってたから相当恨みかっちゃったみたいだね。ご愁傷様」
- 192 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 22:00
- そこ!こんな時に爽やかスマイル禁止!泣きそうになるだろ。
てか何よ、焼くとか煮るとか。
確かに豆とか言われるけどさ、私一応ヒト。ホモサピエンス。
もうちょっとまともに殺して欲しい。できれば殺してほしくなんかないけど。
「あぁ・・・もぅどうしたらいいんだ・・・」
「ダイジョブがきさん、何とかなるよ。頑張って!」
あぁこのヒトはほんまもんのアホだし泣けてくる。
その笑顔とても眩しいけど私の方はお先真っ暗だ。
頑張るとか頑張らないとかそういう問題じゃないでしょうが。
人事だと思ってヘラヘラ笑いやがってコンチクショウ。
「がきさぁ〜ん、元気出せよ。元気があればー何でもできるぅー!!」
「・・・それ多分アナタだけですよ」
「何を言うか、アニマルとアントニオのコラボだぞ?ダブルネームよ?
めったに見られんぜ、これは。出来ないわけが無いだろう」
吉澤はドンと胸を叩いた。
- 193 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 22:01
- また訳の分からない事を言って。
だけど新垣にはそれが吉澤なりに自分を励ましてくれているのだという事が分かった。
吉澤の表情はふざけていながらも、その目は少し優しかったから。
励ますより助けてくれる方が嬉しいんだけどな。
そっと思ったがすぐに打ち消した。
これは私に与えられた試練なのだ。
自分一人でやってやる。何だってやるぜ?ポリスメンだって相手になろう。
そして生き残ってやる。勝利の雄叫びをこの町中に響かせてやるのだ。
ワハハハハ、さぁ何でも来い!今なら誰にも負ける気がしないぜ!
ぐほぉっ!!?
「がきさんニヤけ過ぎだぞ!」
くっ、吉澤ぁ・・・
いつもニヤけてばかりのお前には言われたくないセリフだ!
そして不意打ちは卑怯だ。
いきなり殴られた脇腹をさすりながら新垣は立ち上がった。
遠く地平線に浮かぶ真っ赤な太陽が照らすその顔は凛としている。
新垣は呼吸を整えると吉澤の方を向いた。
吉澤を必死の思いで捕まえた本当の理由。報告と確認。
- 194 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 22:01
- 「吉澤さん、ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「んん?何だい、聞きたい事って」
「もっさんの事なんですけど、好きな人出来たみたいなんですよ」
「ミキティの好きな人?そりゃお前、私の事だろう」
なにこの自信過剰者。
余裕しゃくしゃくのその顔がムカつく。
吉澤は腰に手を当ててカラリと笑う。
「・・・それがどうも違うみたいなんです。なのでもっさんの関西弁は止めれません。知りませんか?もっさんの好きな人」
新垣は吉澤を見る。
余裕の笑みを浮かべていたその顔が次第に変化していく。
ゆっくりと、歪んでいく。スローモーション。
吉澤の顔は段々と変化していき、端整だったはずのその面影はどこにも見受けられない。
これでもかと言わんばかりに口を大きく開き、目を見開き、眉をハの字にしてそのまま固ってしまった。
吉澤の目の前で手を振ってみる。叩いてみる。呼び掛けてみる。無反応。
「そりゃっ!!」
- 195 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 22:02
- 日頃の鬱憤と少しの好奇心とその他諸々を込めて飛び蹴りを食らわしてみる。
吉澤は避ける事も受け身を取る事もせずに固まった表情のままどさりとコンクリの冷たい地面に倒れた。
はて、どうしたものか。
新垣は捲り上がったスカートを直すと頭をかいた。
まさかここまで効くとは。これだから自意識過剰ってのは怖い。
吉澤は起きそうにない。
白い頬を叩いてみたり、脇腹をつついたり。
スカートの中を覗いてやろうかなんて思ったりもしたが生憎そこまでの勇気は持ち合わせていなかった。
しかし困ったな、置いて帰る訳にはいかないしだからと言って連れて帰れるような力も無い。
- 196 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/02(火) 22:03
- ホント、困ったな。
新垣は空を見上げて大きな溜め息を吐いた。
空は一面のオレンジ。もうそろそろ帰らなきゃだ。
赤く錆びた扉をみる。
しょうがない、頑張ってみるか。
新垣が吉澤の腕を掴んだ時だった。
ギィッと音がして、扉が開く。
その狭い隙間から小さな顔がひょっこり覗いた。
細い隙間から覗く小さな白い顔。新垣はその人を見て固まった。
一方その相手は新垣の姿を確認すると口を窄めて笑顔を浮かべた。そして口を開く。
「がきさん」
- 197 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/07(日) 12:53
- 錆付いた扉から現れたのは松浦だった。
松浦は扉を大きく開けると新垣の方へ向かってきた。
新垣は吉澤の腕を掴んだままやはり固まっていた。
「こんな所で何してるの?」
新垣の前で立ち止まると松浦は首を傾げて聞いた。
新垣はまだ固まっている。
松浦は新垣自慢のオデコをコツンと弾いた。
「ぅえっ?あっ、は?ままま松浦さん」
「まつぅらぁ〜、ぁやでぇ〜す!」
「ななな何でここに」
「おやおや、それは私が聞きたいな」
ニャハハと松浦は奇妙な声で笑った。そしてふと目を落とす。
松浦の視線の先。顔を歪めて固まったままの吉澤。
新垣は掴んでいた腕を慌てて放す。
少し浮いていた吉澤の頭がコンクリートに落ちて鈍い音を立てたが、それでもその歪んだ顔はそのままだった。
- 198 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/07(日) 12:55
- 「いやっ、あのっ、これはですね、その、なんと言うか、あぁ、これ人形なんですよ!
凄いでしょ?本物そっくり!てかそれ以上ですよね、凄くないですか!」
「うんうん、てか吉澤さん本人だよね」
新垣の小さな頭で必死に咄嗟に思い付いた嘘は、スーパーアイドルのような笑顔と共にあっさりスッパリと斬り捨てられた。
松浦は笑っている。新垣の眉毛が下がった。
「ところでこれはどうして固まっているのかな?」
松浦はいつの間にかしゃがんでいて、吉澤の白いオデコをコツコツ小突きながら言う。
どうやらオデコをいじるのが好きなようだ。
「いや、あのー・・・まぁいろいろありまして。起きてくれないんですよね。
復活したらしたでそれはまた迷惑なんですけどこのまま置いて帰れないし・・・」
「ニャルホド」
にゃるほど?
松浦はフンフン鼻歌を歌いながら吉澤の顔をいじくっている。
頬をつまんでみたり睫毛引っ張ったり鼻を広げてみたりあぁそれはちょっと不細工。
てかそんな遊んでちゃヤバいですよ、後で絶対セクハラされますって。
- 199 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/07(日) 12:55
- 新垣が松浦に声を掛けようとした時だった。
松浦は「よし、起こすか」と言って立ち上がった。
「ま、松浦さん?」
「なぁんだよう、あややって呼んでねって言ったじゃん」
「じ、じゃあ、あ、あややさん」
「プハッ、堅いなぁ〜。なーに?」
「あのですね、ぶっちゃけると私、吉澤さん固まっちゃったから起こそうと思って飛び蹴りしたんですよね」
「おぉフライングキック!やるねぇ」
「えぇありがとうございます。でもですね、起きなかったんです」
「ほぅ、強いんだね」
「はぁ、そうなんです。って違いますよ、ちょっとやそっとじゃこの人生き返りませんよ」
「んにゃ、ダイジョブ。まつーらにお任せあれ」
松浦はニッコリ笑った。
新垣は訳が分からずに、それでも成り行きを見守る事にした。
蹴っても起きなかったんだ、松浦さんは火でもつけるつもりなんだろうか。
- 200 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring 投稿日:2006/05/07(日) 12:56
- 新垣の思惑を余所に松浦は再びしゃがみ込み、吉澤の顔に口を近付ける。
・・・キッスかよ!
メルヘン過ぎるだろ、似合わないよ。っていうかキャスティング無理あるって、普通逆だよね?
って違う、やめてよやめて!
新垣は思わず両手で顔を覆った。
それでもちょっとした好奇心を押さえ切れず、指の隙間からこっそり見てみる。
キス来い、キッス!
二人の距離はどんどん近くなる。さぁくる、くるぞ!
心臓がドキドキ言っている。何興奮しているんだ私は。
隙間から目を凝らす。
さぁもう距離は無い。チュウだ、チュウしろ。
「ひーちゃん」
・・・
・・・あれ、キスは?
顔を覆っていた両手を下ろす。
待ち焦がれていたキスシーンはいつまで経っても目の前に現れず、その代わりに聞こえてきたのは松浦の猫撫で声。
てかさっき何て言った?ひーちゃん?
「ひーちゃん起きてよ、風邪引いちゃうよ」
やだやだちょっと何よこの二人。二人って言うか松浦さん!
思考回路はショート寸前。
- 201 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/07(日) 12:57
- 「っっだあぁぁああああ!!やめろ!ひーちゃん言うな!」
「おぉ、起きた。おはよ、ひーちゃん」
「あ、おはよう。って、言うなっていってるだろ!」
「にゃはは、メンゴメンゴ」
吉澤は復活した。松浦が復活させた。
仲睦まじげに戯れ合う二人を目の前にして新垣の頭は弾けた。
「いいですね?これから私が質問する事について正直に分かりやすく且つ簡潔に答えてください」
「ほーい」
「え〜、私もぉ?」
「二人ともです!吉澤さん、姿勢を崩さないっ!」
オレンジ色の空に紺色のグラデーション。太陽はもう見えない。
校舎の屋上、給水塔の前に正座して座る二人、吉澤と松浦。
その二人の前で腕を組み渋い表情を浮かべる新垣。
吉澤は目覚めてから相変わらずヘラヘラと緩みきった笑みを浮かべている。その隣りで松浦は不満そうだ。
そんな松浦を気にかける事もせず新垣は声を張り上げる。
確認しておくが吉澤は三年生、松浦は二年生。新垣は一年生だ。
- 202 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/07(日) 12:58
- 「まず第一の質問!」
「ほいほい待ってました!ぃよっ、がきさん」
「ねぇがきさん、足痛いんだけど」
「二人とも黙ってください、まず質問一個目。二人の関係は?」
「ぅおっとぉ、いきなり深いトコ突いてくるなぁ、さすががきさん。あのミキティの舎弟こなしてるだけあるよ」
「関係だなんて、もう。いやん、ハレンチ!」
「二人とも真面目に答えてください」
「関係か、そりゃあ、心も体も知り尽した仲だよな。なぁ、松浦?」
「そぉだね。ひーちゃんは胸のど真ん中にホクロあるよね」
「おいおい松浦次は無いぜ?」
「あと背中にもお星様あるよね?ひーちゃん」
「ははっはあ、死んだよ松浦、お前死んだよ。遥か遠い昔に封印したビッグファットホワイトベアをお前は今呼び起こした」
「きゃあ怖い。がきさん助けて!」
「・・・って、てめぇら・・・」
「ぐわぁあおぅ!!」
「キャアァ〜!!」
「いい加減にしやがれスカポンタン!!」
- 203 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/07(日) 12:58
- 夕闇が包む屋上に新垣の怒声が響いた。
三者三様それぞれのポーズで固まる。カラスが間抜けな声で鳴いた。
「ポカホンタス?」
「それはディズニーアニメ」
「ボンタンアメ?」
「美味しいですよね。って違う!馬鹿!貴方達は日本語が分からないのか!?」
「まぁまぁがきさん落ち着けよ、血管切れるぞ?」
「そうだよ。あ、キレてるんですか?」
「・・・ノリませんよ?」
「ちぇっ、面白くない」
「お、松浦さんキレてるんですか?」
「や、キレてないっすよ」
「え、キレてるんでしょ?」
「や、だからキレてな」
「キレてるのは私だ!質問に答えろ!!」
「にゃは、がきさんやっぱキレてた」
- 204 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/07(日) 12:59
- 新垣は泣きたくなった。
本来の目的をもう忘れてしまいそうだった。
松浦はケラケラと笑い吉澤もデヘデヘと笑う。
新垣は泣きたかった。イライラしていた。
なんなんだこいつら。私は何をしているんだ。私は何がしたかったんだっけ。
空を見るとチラホラと星が見える。冷たい風が通り過ぎた。
「もう一度聞きます。二人はどんな関係なんですか?」
「だからぁ、心も体も」
「真面目に答えてくれないとマジでビーム出しますよ?」
「うひょお、そりゃあ勘弁。うーん、そうだな。例えば私はあんぱんはパンの部分しか食べない。松浦は?」
「そぉですね、まつーらはキュウリは皮の部分しか食べません」
「と、そう言う事だよ、がきさん」
「ほぅほぅなるほど。って解るか馬鹿阿呆ボケなすび!」
「む、なすびって。そこまで顔長くないよ!じゃあそうだな、私は肉まんは白いトコしか食べない。松浦は?」
「んーと、まつーらはぁ、餃子は皮しか食べません」
「どうだい、分かったかい?」
- 205 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/07(日) 13:00
- 「ふむふむ、皮が好きと。って解るわけないでしょう、言っときますけど私馬鹿なんですからね!!」
「おほ〜、仲間だ!」
「嬉しそうに笑うな!ハグを求めるな!いい加減教えろ!」
「ふぅ、しょうがないな。松浦」
「ほいほーい。がきさん耳貸して?」
吉澤は立ち上がるとやれやれと言ったふうに頭を振る。
新垣は言われるままに松浦に耳を貸す。
「あのね・・・」
風が強くなってきている。
空にオレンジ色はもう無い。
どこか遠くで犬が鳴いている。
風が冷たい。
松浦は新垣の耳元で囁くとニィッと笑って少し離れた。
ボンッ!
薄暗い屋上に新垣の小さな頭が弾ける音が響いた。
吉澤と松浦は二人並んでそれを見ていた。
- 206 名前:konkon 投稿日:2006/05/07(日) 21:57
- ガキさんファイト!
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/08(月) 21:45
- 相変わらず面白い
- 208 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:51
- 落ち着け、落ち着くんだ。そして整理しろ。
うん、落ち着いた。
ひーちゃんと呼ぶ松浦。ふざけながらもかたくなに拒む吉澤。
心も体も知り尽した?仲。
外側しか食べない吉澤。皮が好きな松浦。
松浦が囁いた言葉。
『ひーちゃんと私ね、従姉妹同士なの』
従姉妹同士。だからなのか?朝方もっさんが松浦さんに怒らなかったのは。
従姉妹。
って事は吉澤さんと同じ血が少なからずその体には流れてるのか。
なるほど、妙に高いテンションや時折見え隠れするヘンテコな言動もそこからきてるわけね。あと馬鹿なとこも。
何もそんなところ似せなくてもよかったじゃない。
って、
「マジですか!?」
「「マジですよ」」
伊達に同じ血流れてませんね、息ピッタリ。
吉澤の顔は真面目だし松浦だって大真面目。
マジかよ、なんてこった。
新垣はオデコに手をやると空を仰いだ。
- 209 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:52
- あいぼんめ。何故こんな重要な事を教えてくれなかったんだよ。
あぁ神様ヒドいよ。なんだって私の回りにはおかしな人しか集まらないんだ。
貧乳と変態(巨乳ハンター)と乳の関西トリオって。
なんでこんなおっぱいだらけなんだよ。もっとまともな友達が欲しいよ。
泣きたかったがぐっと堪えた。
空は暗い。グラウンドから聞こえていた運動部員達の声ももう聞こえない。
校内外の施錠時間が近付いている。本来の目的を果たさなくては。
「えーっと、貴方達の事は一旦置いといて」
「「え、いいの?」」
「吉澤さん知らないんですか?」
「うわ、がきさんヒドいな、スルーしたよ」
「ん、これは見事なスルーだね。快適に流れるドライブスルーって素敵よね、スルーするーがきさん!」
「おお松浦流石。ちょっと面白いな、私には負けるけど」
- 210 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:53
- 「はっ、ひーちゃんなんかに負けないよ」
「だからやめなさいと言っているだろう、猿」
「ムキャー!猿言うな!」
「デヘヘ、さるさるぅ〜、るるる〜!」
「シャラップ!やめろ!馬鹿かお前らは!」
「「馬鹿じゃないよ!」」
新垣は本当に泣きたくなった。疲れていた。もう帰りたかった。
吉澤一人を相手するだけでかなりの体力を消費してしまう。
それを一度に二人相手しているようなものだ。
新垣は極限に疲れていた。
怒りたかったが怒る気力すら残っていなかった。下手をすれば家に帰れないかもしれない。
新垣は逃げる事にした。
「私もう帰ります」
「「え、帰っちゃうの?」」
新垣の申し出に吉澤と松浦は同じ顔をして聞き返してきた。
つーかなんで一々合わせるかなぁ。双子じゃないんだし。
目を開いたままこちらを見る二人をその場に残して新垣は歩き出した。
- 211 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:54
- 私は馬鹿だけど分かるよ。ここで口開いちゃいけない。
開いたら最後、この馬鹿二人相手に最後の体力使い果たして家に帰れなくなるんだ。
ここは無視するんだ。
そしておうちに帰ろう。シチューを食べよう。
家に帰ってご飯食べてお風呂入ってもっさんとおしゃべりして布団に入って寝よう。
・・・
・・・もっさんとおしゃべり?
おしゃべり。
おしゃべりできるのか?
「殺されるじゃん!!」
あともう少しだった。
あと二、三歩で馬鹿共とおさらばできていた。
だが新垣は思い出してしまった。藤本。
自分を煮るだとか焼くだとか吠えていたらしい。そんな彼女はお隣りさん。
毎晩新垣の部屋に上がり込んではバストアップに励んでいる。
確実に調理されるじゃないか!新垣はその事実に気付いて足を止めてしまった。
そして反射的に振り向いて目に映ったのは天使の笑みか悪魔の笑みか。
吉澤が両手を大きく広げて微笑んでいた。
「飛び込んできなさい、彷徨える小羊よ」
- 212 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:54
- 吉澤のニヤけ顔を見て新垣はおもいきり眉を顰めた。そして考えた。
家に帰って藤本に殺されるか、吉澤にお世話になるか。
・・・どっちもどっちだ。比較した自分が馬鹿だった。
どちらも地獄には変わりない。
大きく息を吐いた。
「吉澤さんのお世話には一生なりません。帰ります」
「おぉ、手厳しい。大丈夫だよ、がきさんあんまおっぱいないし襲ったりしないよ?」
「・・・帰りますね、さようなら」
「本日二度目のスルーだよ、高度だな!難易度いくつ?」
「松浦さんもさようなら」
「あ・や・や!バイバーイ」
「おい松浦、私は今少し悲しいぞ」
吉澤がダラダラと松浦に愚痴る声を聞きながら新垣は屋上を後にした。
- 213 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:56
- 疲れた。今日は本当に疲れた。いろいろありすぎた。
帰ってゆっくりしたいけどきっと無理なんだろうな。やっぱあの時吉澤さんについていけば良かったかな?
いや、それは絶対あり得ない。だけどなぁ。
薄暗い道を黙々と歩きながら答えの出ない押し問答を続ける。
家へ近くなるにつれ溜め息の数が増える。一年分の幸せを逃がしてしまったかもしれない。また息を吐いた。
そしていつの間にか自宅前。ドアを開く腕が躊躇して宙に浮いたまま止まる。
ふと隣りを見れば明かりが灯っている藤本家。
見る人が見ればそれは一般的な家庭の幸せそうな窓明り。
だが今の新垣にはそれが地獄の炎に見えて仕方がなかった。
このドアを開いてただいまを言った瞬間から地獄へのカウントダウンは始まる。
あぁ怖い。嫌だな。それでも、なんとかしなくちゃなぁ。
よし、行くぞ。
宙に浮いていた腕を下ろして一つ大きく深呼吸。よし。
「ただいまぁがっ!!」
ハハ、なんだこれ笑えちゃうな。
カウントダウンする暇もなく地獄行きか。急行ですか。そりゃあないぜ。
- 214 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:56
- 目に涙を浮かべて新垣は力無く笑った。
右の拳が見事に入った脇腹を押さえてそのまま玄関に倒れた。
「おかえり、がきさん」
倒れた新垣の耳元で悪魔が囁き、笑った。
あぁ、綺麗だな。
ぼんやり思って、目を閉じた。
「美貴ちゃん、ご飯食べていく?」
「あ、はい、是非!でもその前にちょっと着替えて来ますね」
お母さんの声。
お腹空いたな。
暖かい。背中?
もっさんの匂い。
もっさんの背中。
おんぶされてる。
微かに残っていた意識を完全に手放した。
「・・・ーぃ」
「・・・き・・ん」
「いい加減起きろ!」
額に痛みを覚えて目を開く。
真っ先に映り込んできたのは機嫌の悪さを惜しげもなく前面に押し出した藤本美貴嬢。
体を起こすと藤本は「がきさん気持ち良く寝過ぎ」と言った。
寝過ぎ?私は寝ていたのか?まだ頭がぼんやりしている。
脳内にかかった靄を払うように頭を振る。
そして気付く。
ここ私の部屋じゃない、もっさんの部屋だ!
- 215 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:57
- 「も、もっさん、私はなぜここに」
「ん?今日はがきさんと色々お話がしたくてねぇ」
とろけそうに甘い声で藤本は言った。体をくねらせてそれはとてもセクシーだ。
胸が無いのが残念だ。
ってそうじゃない、セクシーだけど違う、これは怖いよ。
藤本は笑っていた。その目の奥には赤い炎がチラリと見える。
焼かれる。
早急に脱出しなければ、夏の太陽より暑い灼熱地獄が待っている。
「ああああの、私お腹空いてるんでご飯食べてきます」
「必要ないよ。人間朝と昼しっかり食べれば何とかなる」
いやいや鬼か。
新垣のお腹がグゥと鳴った。
それはきっと藤本にも聞こえていたはずだ。だが藤本は天井を黙って睨み付けているだけだった。
- 216 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:58
- 「あ、あの宿題しないと」
「いつもしてないじゃん」
「テレビみたいな」
「いつも見ないじゃん」
「ゲームしたいな」
「いつもしないじゃん」
「お風呂入らなきゃ」
「いつも入らな・・・後でいいじゃん」
「制服着替えたいな」
「ねぇがきさん」
「はい?」
「諦めの悪い子って、美貴嫌いだな」
藤本は笑った。新垣はその笑顔を怖いと思った。
諦めた。口を噤んで、肩を落とした。
溜め息をついたらベッドのスプリングがギシギシ鳴った。
「さぁがきさん、美貴とトークしようか」
「どうぞ?」
「んー、冷たいなぁ、がきさんはもっと暖かい子だと思っていたのに」
「は、ハハハハ、ジョークですよ!さぁトークしましょう、何がいいですか?
緑豆深海大冒険?空豆地下に住む?ポークビーンズについて思う事?何でもいいですよ、マシンガントークしますから!」
- 217 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/14(日) 13:59
- 「うるさい。何で今日こんな遅いの」
「へ?」
「何してたの。寄り道買い食いはしたらダメって言ったじゃない」
「は、はぁ」
「何故帰りが遅くなったのか説明しなさい。ちなみに美貴は嘘が嫌いです。嘘を吐くがきさんはもっと嫌いです。分かるよね」
藤本は口角をきゅっと上げ上品に笑った。それは恐ろしい笑みだった。
新垣は唾をごくんと飲み込んだ。背中を汗が伝う。膝は押さえ込んでいなければ今にも笑い出しそうだ。
本当の事。言うしかないよな。
「あ、あのですね、吉澤さんと会っていました」
さぁ来い。来るなら来やがれ。
頭突きでもパンチでも後ろ回し蹴りでも肘鉄でも踵落としでもなんでもきやがれ。
さぁ。
体にぐっと力を入れ目をつぶって新垣は待った。
長年の付き合いがあるのだ。藤本の行動なら分かっている。
覚悟ならあるんだよ、さぁきなさい。
- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/14(日) 14:00
- >>206-207
レスありがとうございます
- 219 名前:konkon 投稿日:2006/05/15(月) 01:13
- ミキティこぇぇ・・・
ガキさんの今後が心配です(汗)
- 220 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:26
- 新垣は腹を括っていた。
どんなおしおき(という名の嫉妬からくる一方的な暴力行為)にだって耐えるつもりでいた。
ところがそれはいつまで経っても新垣に振るわれる事はなかった。
薄く目を開いた。藤本の足が見える。
彼女は新垣がこの部屋で目覚めた時から一歩もその場を動いていなかった。
完全に目を開き、藤本を見る。天井を睨んでいた彼女は視線を下ろし、新垣と目が合う。
唾を飲んだ。
「それだけ?」
藤本は一言だけ言った。それはとても冷たい響きだった。
MK5だ。
美貴ちゃんキレる5秒前だ。
「そ、それだけって、それだけですよ?」
「嘘。がきさんは嘘を吐いている」
藤本はスッと目を細めた。
その瞳はどんなに尖ったナイフより鋭く新垣の心臓を貫いた。
痛い。苦しい。逃げ出したい。
でも待って。
私嘘は言っていない。
だって本当に吉澤さんと会っていたもの。
寄り道なんかしなかったし買い食いだってしないでまっすぐ帰ってきたもの。
- 221 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:27
- っていうかその前に一つ言いたい。
なぜ何も行動を起さない!
今の藤本の表情は冷たく、とても恐ろしい。
だがそれ以上に、吉澤の名前を出したのに何も動こうとしない彼女の存在自体がそれ以上に恐ろしかった。
どうしてしまったんだもっさん。
殴るなり蹴るなりしてくれないとどうしたらいいのか分からないよ。
「嘘なんか言いません、本当ですよ。吉澤さん、吉澤さんと会って喋っていたんです」
さぁどうだ、今度こそ。
新垣は待った。藤本が動き出すのを。
やや間があって、藤本はやっと行動を起した。
ずっと立っていたその場を離れ自分に向かってくる。
新垣は目をつぶる。攻撃されるのは分かっていても、慣れていても怖いものは怖いのだ。
今回はなんだ。蹴りか?いや、ビンタとかきそうだな。最近くらっていない。
藤本の気配をすぐ近くに感じる。
一層きつく目を瞑り歯をくいしばる。
襟首を掴まれる。そのまま引き上げられ、体が宙に浮く。
投げ飛ばされるか。
- 222 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:28
- 腕が離れた瞬間に頭を守ろう。これ以上馬鹿になりたくない。
机の足とかぶつかりたくないな。できるだけ障害物の無い場所に優しく投げてくれないかな。
「亜弥ちゃんの匂いがする」
投げ飛ばされた先はベッドの上だった。
投げ飛ばされたと言うか放られたと言うか元に戻されたと言うか。
てゆーか、何?
さっきもっさんなんて言った?
「なんでお前から亜弥ちゃんの匂いがするんだよぉぉおおお!!」
ぐはぁっ!!
不意打ちだった。完全に油断していた。
藤本に聞き返そうと体を起こして見えたのはもの凄い形相で新垣の通学鞄を振り上げる藤本の姿だった。
彼女の絶叫を聞き、目の前が暗くなり、新垣は意識を失った。
- 223 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:29
-
目が覚めたそこは変わらず藤本の部屋だった。頭が痛い。
藤本は壁に凭れるようにして座っていた。新垣が体を起こすと、立上がって向かってくる。
ベッドの側までくると立ち止まり、しゃがむ。
新垣の目を真っ直ぐ見て、低い声で言った。
「お前と亜弥ちゃんの関係を詳しく且つ簡潔に話せ」
藤本の顔は真剣だった。新垣は本能の赴くままに視線を逸らした。
怖い。ヤバい食われる。
そんな新垣の顎をがっつり掴み藤本は笑う。
「美貴、がきさんのお話し聞きたいなぁ」
とっておきの甘い声ととっておきの可愛らしい笑顔を浮かべる藤本。
新垣は自由な両手でベッドを叩いた。
痛い痛い痛い痛い!
目に涙を浮かべ必死で藤本の腕から逃れようとする新垣。
顎が。
掴まれている顎が今にも握り潰されそうだ。骨が砕けちゃうよ。
藤本はようやく新垣の顎を離す。
見るも無残な藤本の指跡がきつく残った顎を擦りながらベッドに沈んだ。
覆い被さるようにして、藤本は指先で新垣の顎をそっと優しく撫でる。
「痛かったでしょう、これはおしおき」
- 224 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:29
- 漏らすように耳元で囁いた。
そして起き上がると枕を抱えてベッドの上で胡座をかく。
「さぁ、話せ」
あぁ。
ついさっきまでの仕草はとてもセクシーで色っぽくて大人で心臓のドキドキが早くなったのに。
あぁそれなのに。
枕を傍らに胡座をかくその姿は親父そのものだ。
これがなけりゃあ最高に素敵なのに。
新垣は溜め息を吐いて座り直した。一つ深呼吸して口を開く。
「えーとですね、放課後吉澤さんを捕まえて屋上で話してたんです。そしたら松浦さんがやって来て」
「は?よっちゃん?がきさんよっちゃんと屋上でナニしてんの!?」
今頃かよ!
飛んできた枕を体の正面で受け取り藤本に返す。
「しかもなんでそこに亜弥ちゃんがくるんだよ!」
再び飛んで来る枕。
避けると藤本は露骨に嫌な顔をした。
「で?よっちゃんと亜弥ちゃんと三人で何してたの」
「特に何も」
「チェストォォオオオ!!!」
- 225 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:30
- 藤本は吠え、そして飛んだ。
弾みをつけ宙に飛び出したその身体は綺麗な弧を描き、前に伸ばした腕で新垣の肩を掴むとそのまま押し倒した。
馬乗りになり、目をギラつかせる藤本。最近伸ばしているらしい長い髪がバラけて恐ろしさを倍増させる。
「何もない訳が無いだろう、死にたいのか!?ナニしてた!?三人で何したんだ!?」
「トトトトットットットークです!」
「馬鹿言え、たかがトーク如きでこんな遅くならんだろうが!」
「だってあの二人が馬鹿なんですもん!!」
新垣は泣きながら叫んだ。
藤本が怖かったし、屋上での出来事も思い出すだけで泣けてくる。
怖い怖いよ。
「・・・亜弥ちゃんは馬鹿なのか・・・」
体全体で感じていた体重が消えた。
瞑っていた目をそっと開く。覆い被さっていた藤本の姿が無かった。
半身を起し、姿を探す。
いた。
藤本はフラフラと歩き、そして机に向かって座った。
なんだ?どうしたんだ?
椅子に座った藤本は机の引き出しから一冊のノートを取り出しパラパラと捲る。
そして鉛筆を取り出した。
- 226 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:32
- 「・・・馬鹿である・・っと」
微かに笑い声が聞こえたような気がするが気のせいにしておこう。
こわい、とてつもなくこわい。
新垣の位置からは彼女の背中しか見えない。だがその背中がもう恐ろしかった。
いつもとは全くタイプの違う禍々しいオーラが渦巻いている。
新垣が見なかったふりをしようとそっとベッドに潜り込もうとしたその時、ぐるんと藤本が振り返った。
「がーきーさん!」
ひぃぃいいいっ!!
藤本の顔を見て新垣の心臓が一瞬止まった。
藤本はこれ以上ないくらいに極上の笑みを浮かべていたのだ。
吉澤と話している時だってこんなニヤけてはいない。
そう、藤本はデレデレといやらしい笑みを浮かべていた。
そして甘い声で新垣を呼ぶ。
「がきさん!」
「な、何ですか?」
「がきさんは亜弥ちゃんとどんなお話ししたのかな?」
- 227 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:32
- うぇーっ。
どうしてしまったんだもっさん。きもちわるいよ。
藤本はニコニコと笑っている。なるべく目を合わせないようにして口を開いた。
「えーと、お話しというかホント、特に何も話してない」
「ど・ん・な・お話ししたのかなぁ?」
「あああああのですね、えーと、吉澤さんは外側が好きで松浦さんも皮が好きでキュウリは外側しか食べなくて・・・もっさん?」
こちらを見て恐ろしい笑みを浮かべていた藤本。
だが今は新垣に背を向け何やらノートに書き込んでいる。
奇妙な声が聞こえてくるのはきっと気のせい。空耳、幻聴だ。
視界に写る背中が楽しげに揺れているのもきっと幻覚。疲れ目霞み目。
そう、きっと自分が疲れているだけ。彼女は普通だ。もっさんはおかしくないよ、ね?
「んふふー、おバカな亜弥ちゃんかぁ〜」
ってやっぱこれおかしいだろ。私は普通、おかしいのはもっさんだ!
「もっさん、一体どうしちゃったんですか!」
「うるさい!美貴は今恋する乙女モードだ!」
- 228 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/22(月) 21:33
- いやいやいやどこの世界に鬼みたいな顔して恋する乙女がいるんですか?
あぁ、でも。
立ち上がって新垣に消しゴムを投げ付けた藤本。
彼女の身体越しに見える机の上にあった。
アイドルスマイル。
机の上の写真立ての中で通称あややこと松浦亜弥がニッコリと笑っていた。
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 21:34
- >>219
レスどうもです
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 04:10
- やっと気付いてくれたかガキさん!
- 231 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:05
- なんてこった。
もっさんに出来た好きな人って松浦さんだったのか。
どうしてこうも馬鹿な人ばかり好きになるんだ。アレか?類は友を呼ぶってやつか?もっさんは馬鹿なのか?
うん、そうだ、そうに違いない。馬鹿なんだ。だから吉澤さんを好きになるし松浦さんを好きになるんだ。
馬鹿なんだ。もっさんは馬鹿なんだ。
「人の顔をじろじろ見るんじゃない、馬鹿がき!」
あぁ、馬鹿に馬鹿って言われた。頭まではたかれた。さらに馬鹿になってしまう。
新垣は叩かれた頭を抱えてしゃがみ込んだ。
叩かれるのは慣れていたし別に痛くはなかったが、頭が痛かった。
「あ、あの、もっさんの好きな人って松浦さんなんですか?」
「お、流石がきさんご名答。ご褒美は何が欲しい?」
ほら。
藤本の好きな人は松浦だ。頭が痛い。
朝方松浦が吉澤に抱きついても殴らなかったのはきっとこのせいだからだ。
もっさんは松浦さんが好きだからだ。
- 232 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:06
- 「家帰りたいです」
新垣の言葉に藤本は腕を組んだ。
何だ、何をそんな難しい顔をしている。帰してくれたっていいじゃない。
しばらくおいてようやく藤本は顔を上げた。
「よし、今日のところは帰してやろう」
今日?
「しかしだな、がきさん」
「なんでしょう」
「亜弥ちゃんについてリサーチしろ。それと今後亜弥ちゃんと会う場合には美貴に必ず許可を取る事。」
「は?何ですかそれ」
「は?じゃねーだろ、美貴はマジなの。本気と書いてマジと読む。いいね?」
笑った藤本の顔はやはりどこか恐ろしかった。
新垣は引きつった笑みを浮かべて頷いた。
- 233 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:07
- 藤本に好きな人が出来た。
新垣は自分のベッドに寝転んでいた。
藤本から解放されご飯を食べてお風呂に入って恐竜パジャマを着て寝転んでいた。
関西弁を止めない理由。好きな人が関西ガールだったから。
関西ガールの関西弁は身体的魅力。類似点の偽造を行いマッチング原理を狙うってか。
まぁ言葉は近付けてももう一つの魅力である胸は到底無理だな、うん。
吉澤では無い好きな人。松浦。
吉澤では無いけど吉澤に近い人。従姉妹。
彼女は知っているのだろうか。
知っていても知っていなくても困った事に彼女は本気らしい。
本気なのはいいけど自分を巻き込まないで欲しい。困った。
リサーチしろなんて言われたけど会うためには許可がいる。なんだよそれ。アンタあの子のなんなのさ。
まったくもう、どうしたらいいんだ。
なんとか死なずには済んだが一難去ってまた一難だ。新垣は大きな溜め息を吐いた。
- 234 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:08
- 死なずに済んだと言えばそうだ。
彼女が朝方殺すなんて吠えてたのはきっと自分が松浦と親しくしていたからなんだろう、握手までしてしまったし。
これじゃあ会うどころか近付く事すら出来やしない。ホント無理を言う人だ。
新垣は頭を抱えてしまった。
せっかく生き延びたのだ。こんなところで死んでたまるか。何か良い手は無いか。
新垣は必死で考えた。
机の引き出しを開けてみた。押し入れではなくクローゼットを開いてみた。ドラえもんはいなかった。
どうしたらいいんだ。
松浦に近付く事はせずにだけど詳しく知るためにはどうしたらいい。
松浦。
関西ガール。関西トリオ。
そうだ、私にはあいぼんがいる!Dカップおっぱいの岡田さんも良い人そうだったし、そうだよ乳の関西トリオ!
やっぱ持つべきものは友達だぁ。
希望の光を見出だし新垣の顔が緩む。
「がきさん一人で笑うのキモいって」
ぅわあぉう!!
突然の声に慌てて跳ね起きる。
窓から藤本の怪訝そうな顔が現れ、そして猫のようにするりと入ってきた。
見られた。てか何してるの?何しにきたの?
- 235 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:09
- 「がきさん、おっぱいおっきなった?」
「うんそうですね!そのちょうしですよ!」
「んははー、頑張ろっと!じゃね、おやすみ」
それだけかよ!
藤本はにこやかヒラヒラと手を振って帰っていく。
しかしいつまで続くんだこの毎晩の逢瀬は。変な事吹き込まなきゃよかった、こんな事になるなら。
自分の浅はかな行動を反省する。
でも待てよ。もっさんが胸を大きくしたいのは吉澤さんに振り向いてほしかったからじゃないのか?
そうだよ、そうだったはずだ。でも今は松浦さんが好き。
じゃあ全く意味ない行動してんじゃん。(元から大して意味なんてなかったのだけれど)
何故藤本は未だ意味のないバスとアップエクササイズを続けるのだろうか。分からない。
まぁいいや。
今日はもう遅い。新垣は電気を消すと布団に入った。
- 236 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:09
- 翌日。
「がきさんおハロー」
「あ、おハローございます」
「どう?昨日よりちょっと大きくなってない?」
「あー、言われて見ればそうですねぇ」
「でしょでしょ?昨日ね、新しいおっぱい薬試してみたんだ〜。早速効いてるよ!」
「よかったですねぇ!!」
ニコニコ笑う藤本。
新垣は笑顔を浮かべながら目の端から溢れ出てくるモノをそっと拭った。
あぁもっさん。貴方はとても幸せ者なのかそれともとても不幸者なのか。
おっぱい薬ってなんだよ。きっとそれただのビタミン剤とかじゃないんですか?
騙されてますよ。
新垣は藤本に言おうと思ったがやめた。
彼女は今とても幸せそうに笑っていたから。ぶち壊す事なんて出来ない。それに殴られたくない。
心の中で泣いて顔で笑った。
- 237 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:10
- 「ぐっもーにーん!!はうあーゆー!!」
「よっちゃん!」
「吉澤さん!」
「ハーイ、もーにんっ!元気ですかー!?元気があれば何でも出来るぅ!オッケーぼくじょー!!」
「よっちゃんうるさい」
「み、ミキティ?」
「ん、なぁに?」
「あ、や、なんでもないっすビビアン・スー」
「イマイチだね」
藤本は冷たく吐き捨てると腕を前後に大きく振って歩き出した。
残された吉澤と新垣は互いに見合う。
「ちょっとちょっと何これ」
「それは私も聞きたいです」
- 238 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:11
- ホワーイと肩を竦める吉澤。
新垣もホワーイな状態だった。
藤本は一人先を歩いて行く。怒っているようでは無さそうだ。その後ろ姿は至って普通。
それならば何故だ。おかしい。
いつもなら何語か分からない「ひょっちゅわぁんすわぁん」が日本語の「よっちゃん」。
抱きつきに行くこともせず、吉澤の毎朝恒例のおかしな挨拶にも「うるさい」と一言だけ。
確かに今日のはいつにも増して五月蠅かったのだが、どうしてしまったんだ。
本当に本気で松浦さんが好きなのか。
吉澤さんの事はもうアウトオブ眼中なのか。
吉澤さん、可哀相に。
新垣は吉澤を振り返った。
自分はこうゆう状況になってしまったそれなりの理由を多分知っている。だが吉澤はどうだ。きっと知らないし分かっていない。
何も知らない吉澤はきっと今の状況をよく飲み込めていないはずだ。
証拠にその瞳はどこか寂しそう。
いたたまれなくなって新垣は吉澤に声を掛けた。
「吉澤さん・・・」
「がきさん・・・ミキティ今日女の子の日?」
うん。違うよ。
「もっさん、待ってください!」
- 239 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:11
- 新垣は藤本の背中を追いかけた。
馬鹿かアイツは馬鹿か!馬鹿は私だ!
あの人がアフォな事は分かっていたはずなのに!それなのに!
「ぅお〜い、待ってくれよ二人とも〜!」
新垣はスピードを早めた。藤本の背中までもう少しだ。
バンッ!!
「がきさんターッチ!」
突然背後から衝撃を受けつんのめる。
走っていたためか止まる事ができずにアスファルトに倒れ込んだ。
見上げた先には右手をグーパーグーパー握ったり開いたりする吉澤の姿。
「い、いきなり何するんですかっ!!」
「え、おにごっこじゃないの?」
吉澤の言葉に新垣は再びアスファルトに沈んだ。擦り剥いた膝小僧より頭が痛かった。
頭上からは「がきさん鬼だかんな」と吉澤の楽しそうな声が聞こえる。
新垣は笑った。アスファルトに倒れて泣きながら笑った。
涙で滲んだ視界の隅に小さくなった藤本の後ろ姿が見えた。
- 240 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/27(土) 01:12
-
「じゃ、ひーちゃん逃げちゃうからな!!」
ニカッと笑って吉澤は走っていった。足音が心地良い。
ばーかばーか、必死こいて走りやがれ。誰が追いかけてやるもんかばーか。
新垣は涙を拭った。そのまま仰向けになる。
朝から制服姿で道路に寝転んでおかしな子だと思われるんだろうな。目を閉じてそっと思った。
でもだってしょうがない。回りは変な人ばかりだもん。変な人だしおっぱいだもん。
新しく知り合いになった人だって変な人だしおっぱいだもん。しょうがないよ。
ふうっと大きく息を吐いて目を開けた。見上げた空はどこまでも青かった。擦り剥いた膝がズキズキ疼いた。
「倍返しでタッチしてやる」
小さく呟くと起き上がって駆け出した。膝の痛みなんて気にしない。
足音高く駆けて行く。目指すのは朝日を受けてキラキラ輝く変態の金髪頭だ。
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 01:14
- >>230
やっと気付いたよがきさん!
レスどうもです
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 01:42
- 最後の3行…
結局そうするからガキさんはあの人たちの仲間なんですねw
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 04:02
- 吉澤w
- 244 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:38
- 「はぁっ、あ、あいぼん、おはろほ・・・」
「が、がきさん?どないしたん、今日び戦場帰りの兵士でもこんなひどないで!?」
チャイムが鳴る寸前に教室へ入ってきた新垣。その姿を見つけ加護は大きな声を上げる。
朝から新垣の姿は悲惨だった。制服は汚れ髪はばらけて膝からは血が滲んでいる。
「あぁ、ちょっとね・・・アフォと戦ってきたんだ」
新垣は弱々しく笑った。
こんなんなるまで戦うなんてがきさんアフォやな。
自分の席へ崩れるように座り込む新垣を加護は憐れむような目つきで見ていた。
「なぁ、ほんまどないしたん?」
ホームルームが終わり少しの休憩時間。
新垣の膝に傷テープを張りながら加護が問い掛ける。
傷が痛むのか新垣は顔をしかめている。相当痛いんやろうか。加護は思う。
確かに痛かった。頭が。
頭が痛いのは藤本や吉澤のせいだ。
頭は痛いし傷は痛いし吉澤は馬鹿だし泣けてくる。思わず涙が浮かぶ。
怪我のせいで泣いているのだと勘違いしている加護はよしよしと新垣の頭を撫でた。
そんな加護の腕を新垣は掴む。
- 245 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:39
-
「あ、あいぼん!」
「な、何?たんこぶできてた?」
「違う、教えて!」
「え?コブ?ないで?どこにもあらへんよ?」
「あ、いや、こぶじゃなくて松う」
キーンコーン
新垣の声は一限開始の合図であるチャイムに消された。
「また後で」と手を振る加護に力無く微笑み返す。
その後授業終了後に何度か口を開くものの核心をつく事が出来ずに昼休み。
新垣と加護は二人向かい合ってお弁当を広げていた。
「で、なんやのがきさん」
「あ?あぁ、そうだ。あのさ、吉澤さんと松浦さんって・・・」
「あぁ、あの二人がどうかしたん?」
「あ、いや、別に何もしてないんだけどちょっと風の噂を聞いて・・・」
「なんやじれったいなぁ、あいぼんさんにガツンと言ってみ?」
- 246 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:40
- 「あ、じゃあ聞くけどさ、あの二人がその・・・い、従姉妹ってマジ?」
「・・・もう知ってしまったん?」
「じゃあマジなの!?てかなんで教えてくれなかったの!」
思わず首に伸びそうになる腕を僅かに残る理性が押さえ肩を掴むに治まる。
だが相当力が入っていたようで加護の顔は苦痛に歪む。
「ちょ、痛いって」
加護の声に自分を押さえ肩を掴んでいた腕を離し、浮きかけていた腰を沈める。
それでも鼻息は荒いままだ。
「なんで教えてくれなかったのさ!初めから知ってたらそれなりの対処法を考えていたのに!」
「せやかてがきさんが話の途中で切り上げたんやで?
それに知っとったとしても無理やろ。亜弥ちゃんとよっすぃーは同じ血が流れてるんやから」
加護の至極真っ当な意見に新垣は力無くうなだれる。
そう、そのとおりだよ。まったくもってあいぼんの言うとおり。
知ってたって何も出来やしないよ。馬鹿って強いもん。
新垣はこれ以上親友を責めるのはやめた。自分にはそれ以上に重大な使命があったからだ。
- 247 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:41
- 「まぁいいや。でさ、あいぼんと松浦さんは乳の関西トリオなんでしょ?」
「は・な・の!そこ一番大事な所やから間違えやんといてーな」
「ああごめんごめんご。でさ、じゃあ松浦さんの事ちょっとは知ってるでしょ?何か教えてよ」
「なんやぁ、やっぱ春が来たんと違うん?」
「だからまだ秋だって。気が早すぎるよ」
またしても新垣のマジレスを食らった加護は頬をぷくっと膨らませる。
そんな加護を気にも留めずに新垣は目をキラキラさせる。
加護ははぁっと大きな溜め息を吐いた。
「ウチが知ってる事いうてもなぁ。前話した事ぐらいしか知らへんで?」
加護の言葉に新垣はがっくりとうなだれた。
収穫無しだなんて。もっさんに殺されちゃうよ。
悲愴な雰囲気を醸し出す新垣に加護が気がつき、慌てたように口を開く。
「あ、あのなぁ、ウチはちょこっとしか知らへんけどあれや、唯ちゃんやったら他に知ってるかもしらへんで!?」
- 248 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:42
- 努めて明るい声を出す加護に新垣は顔を上げる。
「唯ちゃん・・・岡田唯ちゃんDカップ?」
「んん?あ、あぁそうや、学年も一緒やし、絶対何か知ってるって!」
「そうか!そうだよな、そうだよあいぼん!さすが乳の関西トリオ!」
「華の!!」
「ねぇそうと決まれば早速セッティングしてよ!会いたい会いたい!」
「・・・そんな興奮せんといてや、発情した雄犬みたいやで」
加護は顔をしかめるとポケットから携帯を取り出しどこへやら電話を掛け始める。
新垣はまるで発情した雄犬のように口から舌を出し鼻息荒く目をキラキラさせていた。
「オッケーやって。唯ちゃん今から来てくれるで」
話し終えた加護は携帯を閉じながらぐっと親指を立てる。
やっぱ持つべきものは友達だあ。
新垣は感動で胸がいっぱいになった。
二人して教室の扉をじっと見る。しばらくするとその扉が開き、見覚えのある顔が覗いた。
「唯ちゃん!」
加護が席を立ち扉に駆け寄る。新垣も後を追った。
「おー、あいぼん。どないしたん?」
- 249 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:43
- 加護と岡田は互いに腕を広げ抱き合う。
抱き合うって言うかおっぱいタッチと言うかおっぱい相撲だな、これ。二人とも大層立派な胸の持ち主。
あの間に挟まれたら幸せそうだな。ほわほわしてそう。
吉澤さんならあの間に挟まれて窒息死しても悔いは無さそうだ。
ぼんやり新垣が思っていると肩を叩かれた。
「ほら、がきさん。唯ちゃんやったら何か知ってるかもあらへんで?」
加護の声で現実へ引き戻された新垣は岡田を見る。岡田はにっこり笑った。
「あ、あのですね、松浦さんについて教えてください!」
唐突な新垣の発言に岡田は目を開き、加護と新垣とを見やる。
加護は困ったように笑いながら事情を説明する。
うんうん頷きながら聞いていた岡田はやがて口を開いた。
「せやったら吉澤さんに聞くのが一番ちゃう?」
ニコニコ笑いながら言う岡田に新垣は言葉を無くした。
あぁ、それは。それだけは言って欲しくなかったよ。
- 250 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:44
- 一番初めに考えたさ。従姉妹なんだもん、きっと誰より詳しく知ってるはずさ。
でもだってあの人馬鹿なんだもん。アフォなんだもん。変態なんだもん。
話し聞くどころか会話が成り立つかどうかだって微妙なとこだもん。
バカでアフォなあの人に関わりたくないから貴方達に頼ったのに貴方達はバカでアフォなあの人を頼れと。
あぁはい、そうですか。
なんで松浦さんはあの人の従姉妹なんだよ。なんでもっさんは松浦さんを好きになっちゃったんだよ。
なんで私が巻き込まれてるんだよ。
新垣は笑いながら心の中で泣いた。
そんな新垣の心内も知らずに加護はナイスアイデア!と岡田と手を取り合いはしゃぐ。
新垣はさらに泣けてきてしょうがなかった。
「な、がきさん、よっすぃーん所行こうや。あれやで、善は急げや」
加護は新垣を急かす。
何が善だよ。絶対間違ってるって。
急かす加護を押さえて新垣は首を横に振った。
- 251 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:45
- 「や、これは私の戦いだ。あいぼんを巻き込む訳にはいかないよ。これ以上あの人の犠牲者を出しちゃいけない」
沈痛な面持ちでどこか厳かに話す新垣に加護は首を傾げる。岡田も同様にして新垣を見る。
「吉澤さんとは放課後会う事にするよ」
「なんでやねーん!せっかくよっすぃーに会える思ったのにー」
新垣の発言に加護は不満の声を上げる。
すると岡田が口を開いた。
「せやったらあいぼん、ウチと一緒に今から行こかぁ」
岡田の言葉に加護の顔がパァッと明るくなる。ふくよかな体はほわほわと今にも宙に浮きそうだ。
「行く行く行くぅ!あ、がきさんも来る?」
加護の申し出に新垣はいってらっしゃいと手を振って答えた。
加護は一瞬だけ不満そうに頬を膨らませたが、次の瞬間にはもう笑顔になった。
「ほながきさん、ちょっくらお散歩してくるわぁ」
- 252 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/05/30(火) 23:45
- 加護はそう言い残すとヒラヒラと手を振って岡田と手を繋ぎ教室を出て行った。
眩しい。眩しすぎるよ。
新垣はボーッと突っ立って岡田と加護の後ろ姿をずっと見ていた。
それから思い出したように携帯を取り出すと加護にメールを送った。
『吉澤さんに聞きたい事があるから放課後屋上で待ってるって伝えといて!』
数分もしない内に新垣の携帯が震える。
『がってんしょうちの助(´ー`)ъ』
携帯の画面を見ながら放課後の事を思う。
今日も今日とて疲れそうだ。
考えるだけで頭が痛い。ズキズキ痛む頭を押さえながら携帯を閉じると窓辺に寄って空を見た。
今日も秋晴れの空。泣ける程にそれは碧くて、新垣の胸はなぜかキュッと痛くなった。
- 253 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 23:47
- >>242-243
レスありがとうございます
馬鹿は馬鹿です
- 254 名前:んあ 投稿日:2006/05/31(水) 00:10
- ガキさんファイト!
- 255 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:02
- 放課後、屋上。
新垣は柵に腕を掛け眼下に広がる街並を見下ろしていた。
昼間見た真っ青な空はすっかり色を変え、今は綺麗なオレンジ色に染まっている。
グラウンドを走る運動部員の声を運ぶ風は乾いていて少し冷たい。
何を考えるでも無くぼんやりと眺めていた。
暫くしてギィッと扉の開く音がして新垣は振り返る。
夕焼け空よりも昼間の青空の方が似合うであろう爽やかな笑顔がそこにあった。
「やぁお待たせ」
軽く片手を上げて吉澤が近付いて来る。
新垣も柵を離れ、二人は決めていたように給水塔に凭れ掛かった。
「なんだい?話って。告白ならもっと良い場所があっただろうに」
「・・・おめでたい頭してますね」
「うん、よく言われる」
吉澤は嬉しそうに笑った。
言葉の意味知ってんのかこの人。
まぁこの人なら知ってても知らなくても嬉しそうなその表情に凡そ変わりは無いのだろうけど。
- 256 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:03
- 「で、何?」
吉澤は長い前髪をサラリと掻き上げてカッコつけてみせる。
少し心臓のドキドキが早くなって、新垣は心を落ち着かせる。そうだ、落ち着け。
この人は馬鹿だ。アフォだ。変態だ。カッコよくなんてないよ。そう、落ち着けマイハート。
いいよ、通常営業。落ち着いた。
「あのですね、もっさんの好きな人分かったんです」
「む?だからそれは私じゃないのか?」
ドゴッ!!
ぐへぇ!?
パンパン!
・・・パチクリ
「・・・なんだか顔が腫れぼったいのは気のせいなのだろうかがきさん」
「ええ気のせいです。それよりですね、分かったんです。もっさんの好きな人」
「だからそれはわたs」
「しつこい」
「ちぇっ。いーよ話せよ誰だよ。さーみしーくないよーさみしーくなんかないよーほーさーみ」
「歌うな!聞け!リッスントゥーミー!!」
「んもぅ、いじわるだなぁ、がきさんは」
- 257 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:04
- 吉澤はデヘデヘと笑う。
一人の人間と話す事がこんなに疲れるとは。予想はしていたが予想以上の兵だ。
新垣はどっと疲れていた。
できるなら話しなどせずに、目の前のアフォを蹴り飛ばし空に浮かぶ一番星のその隣りの隣りくらいに葬り去りたかった。
キングオブアホのプレートを首からぶら下げて全世界の見せ物にしてやりたかった。
新垣は泣きたくてしょうがなかった。
「吉澤さん!」
「おうおうなんだい大声なんか出しちゃって」
「真面目に聞いてください!」
「う〜・・・ぶラジャー!!」
ビシッと敬礼のポーズを決める吉澤を目の前に新垣はヘナヘナとへたり込んだ。
ダメだ、キレそうだけどキレる元気が無い。
究極のアフォだ。ベストオブアフォだ。殺してやりたい。
顔を上げると吉澤は敬礼のポーズをとったまま真面目腐った顔で宙を見据えている。
なんなんだこの人。人間なのか。
- 258 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:05
- もっさんはなんでこの人を好きになったんだ。
松浦さんは本当にこの人の従姉妹なのか。
こんな変な人の従姉妹をなんでもっさんは好きになったんだ。
なんでこんな人が学園の人気者なんだ。この学園は馬鹿なのか。
あぁきっとそうだ。学園が馬鹿だから皆馬鹿なんだ。そうに違いない。貴方達みんなバカよ!!
「もっさんの好きな人、松浦さんなんですって!!」
やけくそになって叫んだ言葉は放課後の屋上によく響いた。
吉澤はその言葉を敬礼したまま聞いていた。
新垣はフラフラと立ち上がる。
立ち上がって吉澤を見る。
吉澤はまるで魂を抜かれた人のようにでーんと立ち、その目は虚ろで焦点が定まっていない。
バチン!
顔を挟み込むようにして両頬を叩くとようやくこちらの世界に戻って来た。
新垣を見て、頭を振って、少し俯いて、突然顔を上げた。
「やだやだそんなのやだ!」
「やだって言われても知りませんよ。もっさんが好きなのは松浦さんなんです!」
- 259 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:06
- 「やだやだ!!ひーちゃんは美貴ちゃんが好きなの!だから美貴ちゃんもひーちゃんを好きじゃないとやなの!!」
「・・・恥ずかしくないですか?」
「・・・むむ、そうだな。忘却の空へ蹴り飛ばしてくれ」
「デリートしました」
「ご苦労、がきさん」
「で、松浦さんについてリサーチしてるんですよ」
「あぁ、アイツはやめとけ」
吉澤はどこかイライラしたように吐き捨てると爪を噛んだ。
その空気に飲まれ自然と新垣は口を噤んだ。
吉澤は爪を噛んだまま黙り込み眉を顰めて宙を睨む。
暫くして吉澤は口を開いた。
「ミキティじゃアイツは無理だ」
「無理?どういう事ですか?」
「・・・ミキティには私がお似合いって事さ」
新垣は無言で腕を振り上げた。その腕には並々ならぬ殺意が込められている。
察知したのか吉澤は新垣から少し離れると冗談だよと言って笑った。
振り上げていた腕を下ろすと吉澤は再び近付いて来て溜め息を一つ吐いた。
- 260 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:06
- 「ミキティじゃ無理っていうかさぁ」
吉澤は頭を乱暴に掻くと手をポケットに突っ込み歩きながら喋り出す。
新垣はその後ろをそっとついて行く。
「きっと誰でもダメだよ」
「なんでですか?」
「聞いたんだよ。アイツ今桃色の片思い中なんだってさ」
・・・ああ、確かあいぼんが言っていたかな。
吉澤はぶっきらぼうに言い捨てると立ち止まって空を見上げた。
つられて新垣も空を見る。
吉澤には何が見えているのか。
少し眩しそうに細めて空を見上げるその横顔はどこか寂しそうだ。
その瞳も果たして空を見ているのか。まるでその先の先を見ているような遠い目をしている。
「なんつーかさ、親心ってこんな感じなんだろうな」
突然何を言い出すのかこの人は。さすが変人変態。何を考えているのか全く分からない。
吉澤は相変わらず空を見上げたままだ。新垣は首が痛くなって空を見るのをやめた。
- 261 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:07
- 「なぁがきさん」
「なんでしょう」
「亜弥の好きな人って誰だろうね」
知らねーよ!
新垣は叫びたかったが我慢した。叫べるような雰囲気ではなかったからだ。
「がきさん」
「は、はい?」
「・・・ちょこっと調べて教えてくれよ、アイツの好きな人」
吉澤はやっと空から目を下ろし、悪戯っぽく笑った。
首が痛いのかぐるぐる回しながら喋る。
「誰なのか調べるだけでいいんだ。相手が分かったら私が見極めて交際の不可を判断するから」
なんて自分勝手の傍迷惑な馬鹿。貴方は松浦さんの何。
つーか貴方達何か勘違いしていませんか?何でなんでもかんでも私に押し付ける。
私は便利屋じゃない!探偵でもない!ただの女子高生だ!!!
それが何で身辺調査したり片想いの相手まで探さなきゃならんのだ。
新垣は頭を抱えた。自分の悩みくらい自分で解決してくれ。迷惑なんだ。
松浦さんにとってもその相手の方にとっても迷惑この上ないが誰より一番迷惑を被るのはこの私だ!
- 262 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:08
- 「吉澤さん」
「おぉ引き受けてくれるのかがきさん。流石立派な眉毛を持っているだけあるよ」
「いえ、この件については丁重にお断りさせて頂きます」
「ホワーイ!何でよ何でよ!吉澤さんの頼み事よ?
ひーちゃんの可愛い可愛い従姉妹がどこの誰かも分からない馬の骨にとられちゃってもいい訳!?」
いいですよ。
だって私関係ありませんもん。
「そもそも私今もっさんに松浦さんに接近禁止令出されてますから近付き様がありませんので」
「むぅ、ミキティめ」
吉澤はガチガチと爪を噛む。
新垣は帰りたくなった。
このままこの場所にいればなにかまた面倒な事に巻き込まれてしまいそうな気がしていたのだ。
丁度良い事に吉澤は爪を噛んだまま目を潰って何か考え事をしている。
チャンス!
新垣はそっと吉澤から離れていった。
吉澤はまだ気付かない。よし、もうすぐ。
扉に手をかけた時、悪魔が目を覚まして、笑った。
- 263 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:08
- 「しょうがないな、ミキティに代わって私が許可を出そう」
「・・・は?」
「接近して良いぞ?おっぱいもお尻も触り放題の時間は無制限!もちろんお代の方は一切頂きません!!」
どこの呼び込みだお前は。
緩んだ顔を元に戻せ変態!
「という事で、さぁ、行こうか」
「は?どこに!てか待って、私帰りたい!」
必死で叫ぶ新垣の肩にぐるりと腕を回し吉澤は大股で歩き出す。
その顔はとても楽しそうだ。
「ちょっと待ってください!帰らして!ひゃ、ちょ、変態!!」
吉澤は新垣のお尻をつるりと撫でるとカラカラと笑った。
「ふむ、だいぶ成長してきたね。二、三年後が食べ頃かな?」
- 264 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/03(土) 15:09
-
喋りながらも吉澤は歩を進める。必死の抵抗も空しく新垣は吉澤にひきずられていく。
なんでやねん。
なんでこんな事になってんねん。
何で私がこんな目にあわなあかんねん。
嫌い。嫌いだ!
もっさんも吉澤さんもみーんなだいっきらいだ!
新垣は半泣きだった。
吉澤は気付かずに楽しそうに鼻歌を歌いながらひょいひょいと歩く。
新垣は諦めた。もうなるようにしかならない。
吉澤の腕から抜けだし、乱れた服を正すと聞いた。
「今からどこ行くんですか?」
吉澤は振り返ると笑って言った。
「ん〜?亜弥んち」
- 265 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/03(土) 15:10
- >>254
レスどうもです
- 266 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:07
- 「あら?ひーちゃん」
「やぁやぁどうもこんばんわ。それとその呼び方は止めなさい」
「にゃは、めんごめんご」
吉澤の後を重い足取りでついて来た新垣。
たどり着いた松浦の家はいつだったか藤本に無理やり連れてこられた吉澤の家からそう離れていない場所にあった。
吉澤が先に立ちインターフォンを鳴らすと出て来たのは松浦だった。
制服から着替え、私服姿で現れた松浦に新垣は少しドキドキしてしまった。
松浦はとても可愛かった。
「およよ?後ろにいるのはがきさんじゃない」
松浦は新垣を見つけ、その顔にパァッと笑みが広がる。
吉澤に引っ張られて松浦の前に立った。
「あ、どうもこんばんは」
「んふー、こんばんわん!」
松浦は顔をくしゃくしゃにして笑う。
何がそんなに楽しいんだろうか。
ぼんやり新垣が思っていると後ろから背中をつつかれた。吉澤だ。
- 267 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:08
- 「がきさん、うまく聞き出してくれよ?」
吉澤は低い声で囁くとバチリとウィンクしてみせた。
新垣は息を吐く。
「自分で聞いてくださいよ」
「だって亜弥ちゃんひーちゃんには教えないって言うんだもん」
キモっ。
唇を尖らして拗ねた様に指をクルクル回すその姿に新垣は吐き気を覚えた。
「だから、よろしく」
吉澤は表情をガラリと変え二カッと笑った。
新垣はまた息を吐いた。
- 268 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:09
- 「ねぇねぇそんなトコ立ってないで上がりなよ」
不審な目つきで二人を見ていた松浦が口を開く。
吉澤は顔面をゆるゆるに伸ばしきると新垣を押し退けて前に出た。
途端に松浦の顔に嫌悪感が露になる。
「アンタは帰れ」
「なっ!?酷いよあやや!それにその口の聞き方!どこでそんな言葉覚えたの!ひーちゃんは今とても悲しい!」
「ね、がきさん、ママがケーキ焼いたの。一緒に食べない?」
「食べる食べる食べる!あ〜、思い出すなぁ、おばさんのマーブルケーキ」
「がきさんはコーヒー派?紅茶派?」
「はーい牛乳派!!」
「水でも飲んでろ!」
「ひ、ヒドい・・・」
- 269 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:09
- 新垣は会話に入る事もせず二人のやりとりを見ていた。
なんなんだこの二人。流石従姉妹とでも言うべきか。
松浦は腕を組みふん反り返って冷たい視線を落としている。
その視線の先には崩れ落ちた吉澤の姿。
どうしたらいいのか分からずに新垣は黙ったままボーッと立っていた。
やがて吉澤はヨロヨロと立ち上がり新垣に凭れかかる。
「がきさん助けてよ。アイツやっつけ」
「チェストォォオオオ!!!!」
「ぶへぇあ!!!」
閑静な住宅街に二つの声が響き、一人は崩れ落ちもう一人は崩れ落ちたその人を踏み付ける。
「馬鹿!変態!私のがきさんに触るな!!」
吉澤を足蹴にして松浦は吠えた。
- 270 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:10
- 「えーと、松浦さん」
「んもぅ、あややって呼んでって言ったじゃん」
「じゃああややさん」
「はぁーい?」
「まず少し離れてもらっていいですか?」
新垣は右腕を上げた。
その腕にはべったりとねっとりと松浦の白い腕が絡み付いている。
松浦は口を尖らせながらも腕を離した。
ようやく自由になれた新垣は松浦が用意した紅茶を一口啜る。
お腹が空いていたのでケーキも頂く。うん、美味しい。
紅茶をまた飲んでカップを戻す。
「美味しい?」
「はぁ、御馳走様でした」
新垣は頭を下げる。松浦は笑った。
吉澤の従姉妹の松浦の部屋。それは吉澤の部屋とは正反対でとても賑やかだった。
新垣は落ち着かなくてキョロキョロと部屋を見渡していた。
「んふ、なんか珍しいものでもあった?」
突然松浦のアップ顔が目に映って新垣は少し後ずさる。
松浦はにゃははと笑った。
- 271 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:11
- 「そう緊張するなよぅ!」
松浦は新垣の背中をバンと叩いた。
突然叩かれた新垣は目を白黒させる。
松浦は近くにあったクッションを抱き寄せると声を出して笑った。
やがて新垣が口を開いた。
「あ、あの、松浦さん」
「あ・や・や!何?」
「私は今ある二人の人物に頼まれて貴方の事を調べています」
「ぅおー、カッコいい!」
「で、ですね、いろいろ調べるというか話を聞いてまわってたんですけど」
「ふんふん」
「貴方は今桃色片思い中だと聞きました」
「ほぉ、凄いね。誰から聞いたの?」
「吉澤さんです」
「ひーちゃん・・・あの馬鹿」
「で、それは本当なんですか?」
松浦は黙ったままニッコリ笑うと頷いた。
- 272 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:12
- 新垣は腰を上げる。
新たな情報を入手した。今日はもう十分だ。
吉澤さんの依頼はどうでもいいや。私全く関係ないし。
早く帰ってもっさんに報告しよう。ここにいちゃいけない。何かとてつもなく危険な香りがするもの。
新垣の本能が急かしていた。
そそくさと帰り支度を始める新垣の腕を松浦が掴む。
「ちょっと待ってよ、もう帰っちゃうの?」
「えーと、早く帰らないと怒られちゃうので」
「お母さんに?」
ええ。それともっさんにも。
新垣は頷いた。
途端に松浦の顔に落胆の色が広がる。
「そっかぁ、それじゃあ仕方ないなぁ」
ブツブツと呟く松浦を尻目に新垣は鞄を取った。
「あ、あの、それじゃあ・・・あ、ケーキ美味しかったです」
「がきさん!」
「はぁ」
「ケータイ、教えて?」
- 273 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:12
- 松浦は首をこてっと傾げた。
その仕草はとても自然で普通に可愛くて新垣の胸がトクンと鳴った。
携帯を差し出すと松浦は早速操作しだす。
そして。
「イェア!がきさんのアドレスゲットー!!」
高らかに歌うとニンマリ笑って携帯を投げてきた。
「後で送るからちゃんと登録しといてよ?」
「は、はぁ」
携帯を手にして新垣は小さく頷く。
松浦はまた笑った。
「なんだよぅ、がきさん元気がないなぁ」
どこかで聞いた覚えのあるフレーズを松浦はその口で紡ぐ。
「元気があれば何でもできるぅ!」
あぁ、吉澤さんだ。
吉澤さんと同じ事言ってるよ、さすが従姉妹。
新垣は小さく笑った。
「お、やっと笑ったね。よしよし」
松浦はポンポンと新垣の頭を叩いた。
それじゃあ。と頭を下げる新垣に松浦はまた明日ねと言って手を振った。
- 274 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:13
- 松浦家の玄関を出て大きく息を吐く。
全身から力が抜けてその場にへたり込んだ。
そして思い出していた。松浦の言葉。
『私のがきさんに触るな』
『私のがきさん』
『私の』
あれはどうゆう意味なのだろう。新垣は頭があまり良くなかった。
他人の家の玄関先で座り込んでいた。
「がきさん」
突然暗闇が揺れてぬっと人影が現れた。
新垣は顔を伏せ体を堅くする。
「私だ、みんなのヒーローよっちゃんマンだ」
その声に新垣は顔を上げる。
顔の片側をパンパンに膨れさせた吉澤が立っていた。
「吉澤さん。何してるんですか?」
「うん、どうやら寝ていたみたいなんだ」
吉澤は頭を掻きながら首を捻る。
この人馬鹿です。
吉澤は張れた頬をさすりながら痛ぇ痛ぇとしきりに呟いている。
「あの、私もう帰りますので」
「ちょーっと待った」
一歩踏み出した新垣の腕を吉澤が掴む。
新垣は眉を顰めて吉澤を睨んだ。
「何するんですか、帰らしてくださいよ」
- 275 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:14
- 吉澤は新垣の声などまるで聞こえていないようでうんうん唸りながらマジマジと新垣の顔を見つめる。
何だか恥ずかしくなって新垣は顔を背けた。
やがて吉澤は腕を離し、ポンと手を叩いた。
「よし、合格」
「は?何が?」
「いやー、灯台下暗しとは正にこの事だねぇ。まさか馬の骨ががきさんだったとは」
「は?何の話ですか?」
吉澤は慈しむような笑みを浮かべてしきりにふんふん頷いている。
新垣は全く訳が分からなかった。
「ちょと吉澤さん、なにが合格なんですか?」
鼻息荒く詰め寄る新垣を吉澤は落ち着けと制する。
「いいんだよがきさん、私が許す」
「だから何をですか!?」
「亜弥との交際だ」
- 276 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/12(月) 00:15
-
はぁ。交際ですか。
交際。こうさい。交際?こうさい?付き合うって事?
「はぁ?何言ってるんですか、貴方馬鹿ですか?なんなんですか、わけ分かりませんよ!」
「大きな声出さないの。近所迷惑でしょう、がきさんは馬鹿なのか?」
「えっと、多分貴方よりはマシだと思います」
「いや、お前は私以上に馬鹿だよ。亜弥の片思いの相手はがきさんだったんだ」
吉澤は新垣の目を見て厳かに言った。
新垣は吉澤に掴み掛かった格好のまま固まってしまった。
暫くしてボンッ!と新垣の頭が弾ける音が静かな住宅街に響いた。
- 277 名前:konkon 投稿日:2006/06/12(月) 03:17
- 新展開ですね〜。
ガキさん・・・やべっ、この先楽しみです!
- 278 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/12(月) 19:33
- こ、こんなカプはありですか!?
でももっと見たい…ww
- 279 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/13(火) 04:19
- 意外と良さそうなCPですね♪
続き楽しみに待ってます。
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/13(火) 22:51
- ぐほ。おんもしれえ。やべえ。呼吸困難モノっすよw
- 281 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:45
- 新垣はふらふらと夕闇に染まった道を歩いていた。
松浦の言葉と吉澤の言葉がさっきから頭の中でぐるぐると追い駆けっこをしている。
『私のがきさんに触るな』
『亜弥の片思いの相手はがきさんだったんだ』
はぁ。
そうですか。そうなの?
てかいきなり言われても。
なにこれ。現実なの?夢なの?
新垣は自分の頬をおもいきり抓ってみた。ちょっとだけ泣いた。
痛かった。現実だった。
現実。夢じゃない。
吉澤は言っていた。
『今思えばおかしかったんだよな。アイツは自分大好きだからさ、他人の事なんて全く気にしたりしないんだ。
でもさ、がきさん、お前だけは違かった』
『は?何がですか?』
『やたらとがきさんの事聞かれたんだよ。いつも一緒に学校行ってる眉毛の子は誰?ってな』
『はぁ、そうなんですか』
『あぁ、まさかがきさんに恋してるなんてなぁ。お前泣かすんじゃあないよ?』
- 282 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:46
- がきさんって言うのは私。吉澤さんが言うアイツってのは松浦さん。
私に恋してる?
もっさんの片思いの相手。松浦さん。
松浦さんの片思いの相手。私?
私は・・・私は・・・
頭が痛くなって新垣は考えるのをやめた。頭を空っぽにした。
ふらふらと家路を辿る。
ポケットの中で携帯が鳴って取り出した。知らないアドレスだった。開いて見る。
『がきさ〜ん、あややだよ!
今日は楽しかったねぇ、また遊びに来てね!』
メールは松浦からだった。電話番号も書いてあり、登録しておけ!とあった。
はぁ。
新垣は携帯を手にして息を吐いた。何か変な感じがした。
これは私の携帯なのか?誰か違う人のを間違って持っているんじゃないだろうか。
だけどそれは間違いなく自分の携帯で、表示されている本文にも『がきさん』とある。
タイトルには『あややだよ!』
松浦から自分に。
新垣は携帯を閉じるとまた息を吐いて歩き出した。
もうすぐ自分の家だった。
その足取りは重くて新垣はどっと疲れていた。
- 283 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:46
- 「ただいまー」
家に帰ると母親が夕飯の支度をしていた。
とてもいい匂いがしていたが食欲が沸かず、後で食べると言い残し自分の部屋に入った。
鞄を放り出し制服姿のままベッドに倒れ込む。
疲れていたし、まだどこか夢の中をふわふわ漂っているような変な感じがしていた。
「なんなんだよ全く・・・」
新垣は小さく呟いた。
ベッドに突っ伏して枕に顔を埋める。
その口からでてくるのは溜め息ばかりだった。
ドンドンドン!
窓ガラスが鳴っている。新垣は緩慢な動作で起き上がると窓を開けた。
「おっすがきさん」
窓から入ってきた藤本は片手をあげるとそのままベッドの上で胡座をかいた。
新垣は窓を閉めるとベッドの中に潜り込もうとした。
「ちょっと待て、何か言う事があるだろう、ん?」
布団を捲り上げる新垣の腕を掴んで藤本は笑う。
新垣は動きを止めて藤本を見た。
その瞬間、新垣の中に様々な思いが溢れ返ってきて、そして爆発した。
「・・・もうウンザリです」
- 284 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:47
- 「はぁ?どの口が美貴にそんな事言う」
「この口です!もう迷惑なんです!」
「・・・がきさん?」
「何なんですかもう・・・私を何だと思ってるんですか?私だって一人の人間なんですよ!?
人権があるんです!それをなんですか、もっさんも吉澤さんも!都合のいいように使わないでくださいよ!」
新垣は堰を切ったように喚き、そして泣いた。
藤本は呆気にとられて何も言えずに黙って見ていた。
新垣はしゃくり上げながら喋る。
「何で貴方達は自分の事を自分で出来ないんですか。何でも私に押しつけて。人間として最低です!」
「・・・がきさん」
「うるさい!特に貴方です、もっさん!」
「私?」
「えぇえぇ、貴方ですよそこの貧乳お嬢さん。貴方が一番の加害者だ。
吉澤さんの新しい彼女を調べろ?松浦さんの身辺調査をしろ?
なぜ貴方がやらない!出来ないのか?貴方は今幾つだ!?」
- 285 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:48
- 「えっと、17です」
「真面目に答えるな!貴方は馬鹿か!?あぁそうだった、馬鹿だ。吉澤さんと同じだ」
「む、よっちゃんとは一緒にしないでよ!」
「いいや一緒だね!分かりましたよ貴方が吉澤さんを好きになった理由が!
人間っていうのはどこかしら自分と似ているような所がある人を好きになるんですよね。
貴方は馬鹿だし吉澤さんも馬鹿。吉澤さんは臆病者の卑怯者で、もっさん」
「・・・何よ」
「・・・貴方も臆病者の卑怯者だ」
「う、うるさい!黙れ黙れ黙れ!」
「いいえ黙りません!今日は言わせてもらいます!貴方は臆病で卑怯でそして貧乳だ!!」
「五月蠅い!がきさんに何が分かる!!貧乳って言うな!お前死んだぞ!?」
「いいえ死ぬのは私じゃない、もっさん、貴方だ」
- 286 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:49
- ベッドの両端で睨み合い、肩で息をする新垣と藤本。
新垣はもう泣いてなどなく、眉毛をビシッと逆立たせて藤本を睨み付けている。
藤本もその鋭い瞳をさらに細めて睨みを利かせていた。
だがその心情はとても複雑で、少しパニクっていた。
新垣にここまで言われるのは初めてだったのだ。
大きく息を吐いて口を開く。
「・・・はぁ?何を言っているんだお前は」
「もっさんに言われて調べたんですよね、松浦さんの事」
「だからなんだ」
「松浦さん、今片思いしてるんですって」
二人の間に重苦しい沈黙が降りる。
暫くして藤本は震える声で尋ねた。
「・・・で?」
目を閉じる。
少し間をおいて深呼吸。
ゆっくり口を開いた。
「その相手は、私です」
- 287 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:50
-
「・・・嘘だ・・・」
言い過ぎた。
新垣は今の自分を、自分の発言を酷く後悔した。
興奮していて熱くなっていて押さえられないでいた自分を激しく後悔した。
目の前で藤本は呆然とした表情を浮かべて崩れた。
新垣は俯いて唇を噛んだ。
拳をきつく握った。こんなはずじゃなかったのに。
確かに藤本や吉澤は何でも自分に押しつけてくる。でもそれは決して本心から嫌だと思った事はない。
何だかんだ言いながら二人が自分を必要としてくれているような気がしてそれは少し嬉しかったのだ。
それなのに。それなのに。
新垣は顔を上げた。
いつも威圧的な態度で無い胸を張って大きく存在していた藤本。
それが今、崩れ落ち頭を垂れとても小さくなってしまっている。
こんなはずじゃなかったのに。
胸が苦しくなって新垣は目を逸らした。
まるでこの世の全てが止まってしまったかのように二人は動かない。
重苦しい雰囲気の部屋の中で新垣が毎朝お世話になっている時計だけが規則正しく音を刻む。
耐えられなくなって新垣は口を開こうとした。
- 288 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:50
- 「も「がきさん」
新垣の声は藤本の声に消された。
その声はいつだったかに聞いたとても弱々しい声だった。
新垣は悲しくなった。
「・・・何でしょう」
やや間があって、藤本が口を開いた。
「・・・おっぱい、大きくなった?」
藤本は顔を上げて笑った。
その笑顔はとても悲しい笑顔だった。目を潤ませて弱々しく笑う。
「・・・大きくなってますよ」
藤本が笑っていたので新垣も笑った。だがそれは上手く笑えていたのか。
分からないけれど藤本は「そう」と小さく呟くと立ち上がった。
「・・・なんか、今までごめんね」
藤本は立ち上がって窓の外を見ながら小さな声で喋る。
「がきさんの言う通りだよ。美貴自己チューだしさ、がきさんの事なんて全然考えてなかったし・・・」
違う!違うのに!!
新垣は声を大にして叫びたかったがなぜか声が出なくて、窓の外を見る藤本の横顔を見つめた。
藤本は口角をキュッと上げて小さく笑う。
それはまるで泣くのを我慢しているかのようで新垣は胸が苦しくて痛くて泣きたくなった。
- 289 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:52
- 「今まで本当に悪かった。謝って許せるようなものじゃないかもしれないけどさ・・・ごめん」
藤本は最後にこちらを振り向いて笑った。
それは泣いているかのような笑顔だった。
心臓が締め付けられるような気がした。
「もっさん・・・」
自分の口から出てきた声は小さく掠れていて誰か別の人の声のようだった。
藤本は聞こえなかったのか「おやすみ、がきさん」と言うと窓を開けて夜の闇に消えて言った。
「もっさん!」
- 290 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/19(月) 01:52
- 新垣の声に答える者は誰もいなかった。
違うのに。別に嫌なんかじゃなかったんだよ、本当だよ。
謝って欲しかった訳じゃない。許すも何も私は怒ってなんかいない。
もっさん、違うんだよ。貴方を傷つけたかったんじゃないんだ。
小さくなった姿を、泣いてる顔を見たかった訳じゃないんだ。
謝らなきゃいけないのは私の方だよ。
ごめん、ごめんなさいもっさん。だからお願い、一人で泣いたりしないで。
新垣は自分の部屋の窓から身を乗り出すと目の前の窓ガラスをたたいた。
それは藤本が隣りに越してきて新垣の部屋を行き来するようになってから、初めて行われた事だった。
やがて窓が開き、そこから泣いていたのだろうか、目を真っ赤にした藤本の顔が現れた。
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/19(月) 01:54
- >>277-280
レスありがとうございます
カプ物にはならないような気がします
あまり期待しないでいてください
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/19(月) 01:57
- あ、次回最終回です
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/19(月) 02:10
- これは…いいですね
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/19(月) 12:41
- ものすごく…おもしろいです
- 295 名前:konkon 投稿日:2006/06/19(月) 20:44
- ウハーッ!
まさかまさかの展開で・・・
最後までがんばってください!
- 296 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/20(火) 00:39
- 次回最終回ですか・・・サミシイ
- 297 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/22(木) 02:53
- ガキさんもミキティも幸せになるといいですね。
がんばってください。
- 298 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:52
- 「・・・がきさん?」
「あ、あの、こんばんは・・・」
「・・・こんばんは?」
「えっと、お邪魔していいですか?」
「・・・どうぞ」
初めて部屋の窓を叩いて現れた新垣に藤本は戸惑いながらも部屋へ通す。
新垣はいつも藤本が自分の部屋へ入ってくる時のようにするりと体を通した。
窓の下にはベッド。新垣の部屋と同じだ。
藤本が座りなよと言うので彼女から少し離れて新垣は腰を下ろした。
二人が二人ともどうしたら良いのか分からずに黙り込んでしまう。
開け放したままになっている窓から入ってくる風は冷たい。
藤本は俯いたまま枕を抱いている。一方新垣はそわそわと落ち着きなくキョロキョロと部屋を見渡し手を組んだり解いたり。
やがて口を開く。
「あ、あの、もっさん」
新垣の声に藤本はん?と顔を上げるだけで答える。
「えっと、その、ごめんなさい」
「・・・何で謝るの」
藤本は乾いた笑い声を上げた。
それを聞いて新垣は悲しくなってしまう。
- 299 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:53
-
「いいんです、ちょっと言い過ぎました。ごめんなさい」
「や、美貴もがきさんの言う通りだななんて思ったし。こっちこそごめん」
「いえいえ私の方がごめんなさい」
「いえいえ美貴の方こそごめんなさい」
「いえいえ私が」
「いえいえ美貴が」
「いえやっぱり私が」
「いやいや美貴が」
二人して頭を下げて二人同時に顔を上げて目が合って、お互いに吹き出した。
ひとしきり笑い終えると藤本はふぅと息を吐いて枕を投げた。髪を掻き上げて窓の外を見る。
「はぁ、なんかビックリだわ」
「何がですか?」
「何がって・・・がきさんはいきなりキレるし・・・片思いは終わっちゃうし、いきなり美貴の部屋に来るしビックリくりの助だよ」
「や、別にキレてなんか・・・」
- 300 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:54
- 「いーの。がきさんの本音みたいなの聞けたし」
「いやぁ・・・それに片思いが終わるってなんですか、まだ告白もしてないのに」
「いんだよ、終わり終わり。振られるって分かっててわざわざ告る馬鹿がどこにいる」
「・・・傷つくのが嫌ですか?」
「当たり前じゃん。・・・ハハ、そうだな、がきさんの言う通り。よっちゃんと一緒だ。弱虫で臆病だ」
「や、吉澤さんよかはマシですよ」
「それあんまフォローになってないから」
藤本は静かに笑った。
だけどその笑顔はさっきまでの悲しい笑顔なんかじゃなかった。
「やっぱ美貴にはよっちゃんがお似合いって事だったんだ」
小さく呟くとベッドの上に寝転んだ。
突っ伏したままうーだとかむーだとか唸って、顔を上げた。
その顔に浮かぶ表情はもういつもの藤本だった。
「がきさん」
「は、はい!」
「がきさんは、亜弥ちゃんの事、どう思ってんの」
- 301 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:55
- 藤本は真面目な顔で聞いてくる。
新垣は困ってしまった。
どう思ってる。どう思ってる?
どう思うも何もまだ二、三回しか会った事のない相手に何を思えと。
吉澤さんの従姉妹でもっさんの好きだった人で私の事を好きだと(吉澤さんが)言った人。
「えーと、う〜ん、可愛いんじゃないんですか?」
「馬鹿野郎、可愛いのは当たり前だ!」
あ、いつものもっさんだ。
飛んできて顔に張り付いた枕を剥す。
「好きなのか?亜弥ちゃんの事」
いつの間にか藤本は目の前にきていた。
新垣は何故かドキドキしてしまって視線を逸らした。
そんな新垣の顎を掴み藤本は目を合わす。
「どうなんだ、答えろ」
「はろ、ひらひ」
「・・・あぁ、顎痛いのね」
「あ、ありがとうございます」
「で?」
「・・・えっとですね、よく分からないです」
- 302 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:55
- 「分からないって何が」
「いや、可愛い人だとは思うんですけど・・・好きかって聞かれたら・・・まぁ、嫌いでは無いですけど・・・」
「あぁんもう!なんだいがきさんはっきりしないなぁ!」
新垣の目の前で藤本は暴れ出す。
はっきりしないななんて言われてもだってだってしょうがないじゃん!
新垣は泣きそうだった。
やがて藤本は髪をばらつかせた頭を上げた。
「じゃあ聞こう、がきさんは美貴と亜弥ちゃんとよっちゃん、この中で誰が一番好きだ?」
「え?もっさんです」
そりゃあそうだろ。
アフォで変態で馬鹿な吉澤さん。よく知らない可愛い松浦さん(吉澤さんの従姉妹)
この二人並べられたら迷わずもっさん選びますよ。
新垣は藤本を見た。
するとどうした事か、藤本は耳まで真っ赤になってこちらを見ているのだ!
何か嫌な予感がして新垣は慌てて口を開いた。
「まぁ誰がマシかって聞かれればですよ?好きな人ならあいぼんとか、あと二年の岡田さんとかもい」
「お前もよっちゃんと同じだ!!」
- 303 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:57
- 頬を叩かれる寸前に見えた藤本の目にはうっすらと涙のような物が見えた。
バチン!!と音が響いて新垣は倒れる。
藤本が叩いた右手をきつく握り締め悔しそうに恨めしそうに睨んでいた。
ああ、そうか。
よっちゃんと同じ。吉澤さん。巨乳ハンター。
慌てて口を開いたとは言え自分の口から出てきたのは乳の関西トリオメンバー。
藤本の宿敵だった。申し訳ない。
新垣は倒れたまま呟いた。
「あ、でもやっぱ一番はもっさんです」
藤本はその小さな声を聞き取ると「あっそ」と冷たく言いながらもとても嬉しそうに笑った。
そして手を差し出して引き起こす。
倒れていた体を起こし新垣がベッドの上に座ると藤本は目を合わせてきて「ありがと」と言った。
新垣は照れてしまってモジモジ体をくねらせた。すると藤本は「キモい」と枕を投げてくる。
あぁ、良かった。いつものもっさんだ。
顔面に食らった枕を新垣は優しく抱き締めた。
それから新垣は気になっていた事を聞いた。
- 304 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:58
- 「もっさん、もっさんはなんで松浦さんを好きになったんですか?」
「え〜?だってさぁ、美貴達いつも朝一緒に学校行くでしょ?がきさんとよっちゃん」
「はぁ、そうですね」
「したらさ、いっつも見てたんだって。亜弥ちゃん。
まぁよっちゃんとがきさんは馬鹿やってて気付いて無いみたいだったけどさ」
そ、そうだったのか・・・いつも見てたのか・・・
てゆーか馬鹿なのは吉澤さんであって私はその馬鹿の被害者だ。まぁどうでもいい。
そういえば言っていたっけ、「だいぶ前から知っていた」
知っていたじゃなくて見ていたのか。
さすが同じ血が流れているだけある。変態の従姉妹はストーカーか、やるな!
「でさ、いっつも見てるからさ、こりゃ美貴の事好きなんでねーの?
なんて思ったらもう止まらない、恋の始発列車は快速急行超特急!」
あぁ、自意識過剰なとこも吉澤さんとそっくりだ。
てか案外単純だ、もっさんって。
「あーあ。ホント馬鹿だわ。見てたのは美貴じゃなくてがきさんなんだもんなぁ。笑っちゃうよ」
- 305 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:58
- 藤本の言葉は確かに自嘲気味ではあった。
だがそれを喋る藤本の顔は歪んでなんかいなくて全てを理解して納得している者の表情だった。
新垣はそれを見て安心した。気付かない内に笑っていた。
「何笑ってんのがきさん」
「う?あ、いえ、別に」
「んふ。変ながきさん」
藤本は妖艶に笑うと近付いてきた。
デコピン食らうか。新垣は目を閉じた。
だがそれはいつまで経ってもこなかった。代わりに唇に何かが振れた。暖かくて、優しい。パイナップル味。
パイナップル?
新垣は目を開いた。目の前に満面の笑みを浮かべる藤本がいた。
「がきさんの言った事、忘れないからね」
「・・・私が言った事?」
「美貴が一番好きだって」
「あ、あぁ・・・」
「さ、美貴もう寝るから。がきさんも帰んな」
「あ、はい・・・んー・・・パイナップル?」
- 306 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 01:59
- 帰ろうと腰を上げながら新垣は首を傾げる。
なんだったんださっきのパイナップル。
そんな新垣に藤本が気付き、手にしていたモノを投げてよこす。
パイン飴。
受け取ったそれを見て新垣は再び首を傾げる。
藤本は寝転んで笑った。
「がきさんに美貴からごめんねとこれからもよろしくのプレゼント」
「これが?」
「なんだお前、美貴のチュウじゃ不満か?」
「いえいえ!有り難き幸せ!不満なんて何も・・・ってチュゥウウウ!!??」
突然大声を上げた新垣に藤本は顔をしかめた。
だが新垣は気にしない。頭の中が真っ白だった。
チュウって、あのチュウだよね?所謂キッスだよね?キス!
私のファーストキスが!もっさんとキッス!しかもパイナップル!
大人の階段一歩登っちゃったよ、あいぼん!
ぐはぁっ!!?
「も、もっさん・・・何を・・・」
「んふ、なんとなく殴ってみた」
藤本は楽しそうに笑った。
あぁ、今凄い幸せかもしれない。殴られたお腹が痛いけど。
藤本が笑っていたので新垣も倒れたまま笑った。
- 307 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 02:00
- 「うりゃ」
予想通りと言うかなんと言うかやっぱり藤本に蹴られた。
それでも幸せだった。
今はこのままでいいよ。このままで。
吉澤さんと仲良しであいぼんとも仲良しで。もっさんとはもっと仲良しで。
恋愛だとか難しい事は分からない。
だけど松浦さんとはその内仲良くなれるだろう。なんたって吉澤さんの従姉妹なんだから。
今はこのままでいいや。
新垣は小さく笑った。
「がきさん、ここ美貴の部屋なんだけど」
- 308 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 02:00
- 藤本に追い出され、自分の部屋の自分のベッドに寝転んで新垣はまた笑った。
明日の朝が楽しみで、ワクワクしていた。明日からは松浦がきっと加わってくるだろう。
いいじゃない、楽しいよ。
寝返りを打って、思い出してまた笑った。
キスをした。
もっさんと、ファーストキス。パイナップルの味がした。
パイナップル味のファーストキスを手に入れた。これでもう何時死んでも悔いはない。筈。
あ、そういえばもっさんからもらった飴を忘れてきてしまった。まぁいいや。
だって私は今凄く幸せだ!
今夜はいい夢が見れそうだ。
きっと楽しくなるであろう明日からを思って新垣は目を閉じた。
- 309 名前:―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)― 投稿日:2006/06/24(土) 02:01
-
―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)―
- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/24(土) 02:05
- 以上
>>293-297
レスありがとうございます。
少し言葉が足りなかったです。
次回最終回とは―貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)―は終わりますと言う意味です。
このスレ自体はまだまだ続きます。
と言う事で次回―バストサムライ―をお楽しみに。
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/24(土) 02:26
- 更新お疲れ様でーす♪
作者さんらしい結末にニマニマしてます。
続くんですね!よかったあ。
新作・・・どうしてもそこにこだわりますか(笑)
どこまでも報われない美貴様w
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/24(土) 03:41
- 今回の更新にニヤニヤ
そして次回の題に爆笑しますた
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/26(月) 10:37
- 更新お疲れ様です
相当面白かったです
次回作も期待してます
- 314 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:44
-
「う〜ん、やっぱトムの出る映画ってイマイチですよね〜」
「・・・」
「・・・もっさん?」
「おい、豆」
「何でしょう」
「決めたぞ、美貴はサムライになる」
「はぁ、頑張ってください」
「冷たい!がきさん冷たいよ、美貴の一大決心だよ?もっと心から応援するなりしてよ!」
「うわーっ、凄い凄い!頑張ってくださいね!」
「死ね」
ぐはぁっ!!
おぉ、確かに凄い侍だよ貴方は。
その手刀は刀よりもよく切れる。武器いらずの手間要らず。
凄い凄いって何で私が斬られるよ。微妙に結構痛いし。
「もっさん、侍になって誰を斬るんですか?」
「この世に蔓延る悪の全てさ」
藤本はニヤリと笑って刀で斬るフリをしてみせた。
ああかっこいい。だけど恐ろしい。
貴方のその笑みは悪そのものだしそんな貴方の悪の基準が分からないもの。
一体何を斬るのだろうか。
藤本の背後、テレビの画面に『LAST SAMURAI』の文字が写っていた。
- 315 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:45
- 「そーか、ミキティは侍になったのか」
「そーなんですよ。どうにかしてくれませんか?」
「え、いやだ」
「は?何で!?」
「面白そうじゃん。がきさん知ってたか?アイツ結構デコ広いんだ、これで本物の落ち武者を拝見できるな」
こいつアホや。
吉澤はくひひと肩を揺らして笑った。
今の言葉もっさんが聞いたら百回位殺しますよ。
あぁ、だけど。
悲しいかな、吉澤の言葉が頭の中でイメージとして速攻再生できてしまう。
これがまた似合うと言ったらありやしない。
吉澤につられて新垣も笑ってしまった。
「おい、二人で何してる」
背後から突然現れた落ち武者。じゃなくて藤本。
声を飲み込み振り返る。
あら、やっぱり落ち武者だ。
走って来たのだろうか、前髪が跳ね上がり両サイドへ流れ、綺麗な広いおでこが丸見えだ。
まるで落ち武者。
「ん?美貴の顔に何かついてる?」
「あ、いや、え、何も」
「だったらじろじろ見るな」
ぐへぇ。
藤本の手刀をまともにくらい新垣は変な声を出して倒れた。
- 316 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:46
- 吉澤は目をキラキラさせてその光景を見ている。興奮したように喋り出した。
「カッケー!カッケーよ!ね、ね、ミキティ、ビデオ撮ってい?いいよね、ミキティの軌跡をキャメラに収めようじゃないか!
君の雄姿を今ここに、我がゴッドハンドで撮らしてくれよ!」
「よっちゃんが撮ってくれるの!?嬉しい!美貴侍の中の侍になるよ!めちゃくちゃ頑張るから!ばっちり撮ってね!」
「まかせろまかせろ!武監督もびっくりの侍映画が完成だぜ!」
「きゃあ、それじゃアカデミー賞総嘗めね!」
「イェアアカデミー!カムオンカムミーゲットオブマイハンズ!!」
あんたらにはアカデミー賞なんかじゃなくバカデミー賞をくれてやるよ。
手を取り合ってはしゃぐ二人を見上げながら新垣は心の中で毒づいた。
「さぁそうと決まれば早速撮影開始だよ!」
「ようし、れっつらごー!!」
新垣は笑いたくなった。
この人達は本当になんて無邪気な馬鹿達だろう。
ホント毎日が楽しそうで羨ましい。
- 317 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:47
- 倒れ込んだその状態のまま目を閉じる。
コンクリートの地面から背中に伝わるひんやりとした冷たい空気が気持ち良い。
やがて新垣は徐に立ち上がる。
カメラ回すなら私がいなきゃダメでしょう。主演女優賞はもっさんに譲るけど助演女優賞は私のものだ。
新垣も馬鹿だった。
制服に付いた汚れを払い落とすと藤本と吉澤の後を追った。
二人はすぐに見つけられそうだった。
新垣が一旦教室に戻るとそこには教室の床に這い蹲る無残な親友の姿。
「あいぼん!どうしたの!?何があったの!」
「お、落ち武者や・・・」
新垣の親友ほんわか色白ぽっちゃり系巨乳の加護亜依ぼんは弱々しい声で言葉を吐く。
落ち武者?もっさんの事か?
「なんでこんな事になってるの!?」
「知らんがな・・・いきなり成敗や!言うて・・・」
- 318 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:48
- 加護は苦しそうに顔を歪めた。新垣は親友の腕を取った。
藤本の真意が読めた。
藤本が言っていたこの世に蔓延る悪の全て。
彼女の言う悪とは巨乳だった。
自分が貧乳だからってそれはなくなくない?
「ねぇあいぼん、その落ち武者はどこへ行ったか分からない?」
「さぁ、分からへん・・・」
加護はもう息も絶え絶えだ。
新垣は親友の手を強く握ると誓った。
「あいぼん、この敵は必ず取るよ」
そして教室を後にした。
耳を澄ませる。微かに声が聞こえた。新たな被害者が出たようだ。
新垣は耳を凝らして声のした方へ走っていった。
「ねぇよっちゃん、ちゃんと撮れてる?」
「もちろんもちろん!天才的なカメラワークでミキティの勇姿をバッチリ収めてるよ」
「んふふ、後で見せてね!」
新垣が階段を駆け上がって行くとその先の廊下で話している二人の姿。
吉澤は片手にカメラを抱え藤本は髪を振り乱し頬を上気させている。
その足下には藤本に斬られたのであろう、二人の生徒が転がっていた。
- 319 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:49
- 「もっさん!」
「んん?なんだ、がきさんか。どうした?」
「いざ、勝負!」
「は?いきなり何言うの」
「あいぼんの敵だ!」
新垣は言うなり藤本に向かって走って行く。
吉澤はすかさずカメラを抱え、その光景を納める。その顔はとても楽しそうだ。
藤本はと言えば怪訝そうな顔をしていたものの、新垣が自分に向かって走って来るのを確認すると唇を歪めて笑った。
「馬鹿だねがきさん。お前でちょうど百人目だ!」
「チェストォォオオオ!!!」
新垣は吠えた。跳んだ。
その体はふわりと宙に浮き、一点を目指して落下していく。
その先にいるのは藤本。
目をギラつかせてニヤリと笑った。
「笑止!私に勝てると思っているのか!!」
- 320 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:50
- 新垣の右足の爪先は藤本の髪を捕らえていた。
勝てると思った。
日頃の鬱憤をはらしてやろうと、足に益々力を入れた。
だが次の瞬間新垣の視界はグニャリと歪み、体は廊下に叩き付けられた。
何事かと目を上げると右腕を高々と掲げ満悦の笑みを浮かべる藤本の姿。
見上げる新垣と目が合うとしゃがみ込み、無造作に前髪を掴んだ。
そして笑いながら言った。
「またつまらぬ物を斬ってしまった」
藤本は大袈裟に肩を竦めると立ち上がった。
そしてカメラを回し続けている吉澤に向かって言う。
「さぁよっちゃん、行こう。この場所にもう用はないよ」
「ぶラジャー!」
新垣は霞掛かった頭でぼんやりと二人を見ていた。
ごめんねあいぼん。敵取れなかったよ。あの人強いよ。
心の中で藤本の手に掛っていた親友に謝る。
勝てると思ったのに。
日頃の恨みを果たせると思ったのに。
- 321 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:50
- なんだか泣けてきた。目の端に涙が浮かぶ。
泣いたらダメだ。泣くのはあの二人がどっか行ってから。
新垣は涙を堪える。
藤本は次なる標的を探してかフラフラと歩き去って行く。
藤本が去って行くのを確認した新垣。吉澤の姿を探す。
突然視界いっぱいに吉澤の顔が現れた。
「ひ、ひゃあ!」
「あれ、がきさん生きてんじゃん」
吉澤はつまらなさそうに言うと新垣に向かって手を差し出す。
その腕を借りて新垣は立ち上がった。頭が少しクラクラするがそれ以外はなんともないようだ。
「凄いな、ミキティに斬られても意識があるなんて」
「みんなやられちゃってんですか?」
「そうだよ。がきさんはきっと普段からミキティの攻撃を受けてるから免疫力があったんだな、良かったな!」
いやいや良くないし。
でも凄いなぁ、もっさん。
新垣は先に転がっていた二人の生徒を見る。
その体はピクリとも動かない。気を失っているようだ。
吉澤はカメラを抱え転がっている二人を映す。
- 322 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:51
- 「吉澤さん、藤本さん追いかけなくていいんですか?」
「あぁ、ちょっと待って」
藤本は今頃次の巨乳を見つけているはずだ。その場面を撮らなくていいのか?
新垣は疑問に思って吉澤に聞くが吉澤は何でもないようにちょっと待ってと言うとカメラを脇においた。
何をするんだ?吉澤は二人の生徒に近付いて行く。
やがて転がっている生徒の一人の傍らに立つと膝を付いて腕まくりをする。
心臓マッサージ?
さすが吉澤さん、優しいなあ。新垣は吉澤の事を少し見直した。
「う〜ん、CとDの間だなぁ」
新垣は目の前の光景を疑った。優しいななんて一瞬でも思った自分を殺したかった。
目の前の吉澤は顔をだらしなく緩ませ、その手は心臓マッサージなんかではなく、おっぱいを弄っているのだ!
正にゴッドハンド!触っただけでサイズを当ててしまうなんて!って違うだろ、下手したらってゆーかそれ犯罪。
吉澤はデヘデヘと笑う。新垣は泣きたくなった。
その間にも吉澤はもう一人の生徒の方へ移動し胸を弄る。
「おひょ、こっちはFか!顔も結構可愛いねぇ。んふー、お名前なんてのかな〜」
- 323 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:52
- 生徒手帳を探しているのだろうか。吉澤は生徒の体をいじくりまわす。
いやいやスカートの中に手帳いれる人間なんていませんから。
吉澤はスカートを捲って「あは、ピンクだ」なんて笑う。
新垣は怒鳴る事も突っ込む事も何もせずその場にしゃがみ込んだ。
何だか疲れてしまっていた。
吉澤は名前をゲットしたようで満足そうに笑うと傍らに置いていたカメラを手にした。
「がきさんもくるかい?」
「いえ、遠慮しときます」
「なーんだよぅ、楽しいのに」
それは多分アンタだけだ。
吉澤は目をキラキラさせて喋る。
「ミキティがさ、おっぱい大きい子ばっか斬ってくれるんだよ、バスト侍!もうひーちゃん幸せだよ!」
吉澤は嬉しそうに笑った。
その笑顔は本当に幸せそうで新垣はなんだか虚しかった。
バスト侍、ね。確かに巨乳ばっか斬ってるもっさんはバスト侍だ。
でも一番誰よりバスト侍してるのはアンタですから!残念!
- 324 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:52
- 「じゃあちょくら行ってくるから!完成したらがきさんにも見せたげるね!」
吉澤は手を振ると走り去っていった。
私の場面、上手く撮れているんだろうか。
走って行く吉澤の後ろ姿を見ながらぼんやり思った。
タイトルはやはりバストサムライなのだろうか。
校舎のどこかで藤本の声がした。また新たな犠牲者が出たようだ。
新垣は目をつぶった。
もっさんは巨乳ばかり斬ってるんだね。
じゃあもっさんに斬られた私は巨乳だね。
新垣は馬鹿だった。
幸せそうに笑うと立ち上がって歩き出した。
校舎のどこかで藤本の高らかな笑い声が響いた。
- 325 名前:―バストサムライ― 投稿日:2006/07/03(月) 05:52
-
―バストサムライ―
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/03(月) 05:56
- 以上。
次回―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密―
>>311-313
レスありがとうございマッスルマッスル
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/04(火) 00:50
- 吉澤バカスwwww
- 328 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/07/04(火) 02:49
- 本当面白いですwww
この学校、巨乳が多すぎる。百超えたでwww
- 329 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/08(土) 20:24
-
―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密―
- 330 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:25
- 季節は秋も終わりかけ。赤や黄色に染まった葉はほとんどが落ち、日が沈むのも大分早くなった。
新垣は中等部生の頃から毎年この季節になると頭が痛くなってくる。大嫌いな期末テストがあるのだ。
それ以外にも寒いのか暖かいのか微妙だし夕暮れは早いしなんだか物哀しくなるし、この季節はなんとなく好きではなかった。
それより。
新垣は決めていた。今日の朝から、いやもう昨日の内から決めていた。
そうだ、図書館に行こう。
新垣が高等部に上がって半年と少しが過ぎた。だがまだ一度も図書館を利用した事が無かったのだ。
聞けば親友である色白ほんわかぽっちゃり系の加護亜依ぼんはテスト前になるとよく図書館を利用しているそうだ。
それでも決して真面目に勉強ばかりしているわけではなく、もっぱら少女マンガばかりを読んでいるらしかった。
加護だけではなく、新垣の周りでは意外な所で吉澤も利用しているらしかった。
どうせこの人の事だからデートスポットにでも使ってるんじゃないのか。
なんて新垣は思ったのだが、聞かされた吉澤の話はえらく真面目だった。
- 331 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:26
- 彼女は付属の大学ではなく他の芸術系大学への進学を目指している。
なので進学した時に困らぬよう今の内から色々と知識を詰め込んでいるとの事だった。
その話を聞いた時新垣は冗談で「進学してからの事より進学できるかどうかを心配した方がいいんじゃないんですか?」と聞いた。
すると吉澤はいつものふざけた様子ではなく何時だったかに見せたとても真剣な顔になって、
「それはがきさんに言われなくても十分分かってる」とどこか突き放すように冷たく言ったのだ。
それがあって以来新垣は吉澤の前で大学の話をするのを止めた。
最近の吉澤はどこか雰囲気がピリピリしている。新垣はそれが少し悲しかった。
でもそれは仕方の無い事だ。いずれきっと自分も経験する事なのだろうし。
そう思うと新垣は心の底から吉澤を応援してあげたくなるのだった。
- 332 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:27
- そんなこんなで新垣は放課後図書館にやってきた。
学園の中には図書館が二つある。
主に初等部生と中等部生が利用する第一図書館と主に高等部生、それとたまに大学部の学生が利用する第二図書館だ。
大学部は大学部でまた別に図書館を設けているらしかったが詳しくは知らない。
第一図書館は初等部生の頃何度か利用した事があったが第二は初めてだ。
ドキドキしながら図書館に入った。
そこは独特の異様な静けさに包まれていた。
生徒の姿はちらりほらりと見えるものの喋っている声はなく、本のページを捲る音、本を探して歩く足音がやけに大きく聞こえる。
新垣はなるべく足音を立てないようにして奥へ進んだ。
- 333 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:27
- 十分後。
新垣は途方に暮れていた。
とてつもなく広い図書館。
特に目的も目当ての本があった訳でもなくただ奥へ奥へと歩いていたら迷ってしまった。
周りを見れば分厚い本ばかりがズラリと並ぶ。その背表紙踊る文字はいずれも横文字、つまり外国語だ。
なんだよこの本。そもそも私達は日本人だ。
誰がこんな横文字だらけの本を読むんだよ。馬鹿か!
新垣は外国語の本に囲まれて頭が痛かった。ちなみに前期の英語の成績は2だった。
取りあえずじっとしていたってどうにもならない。
新垣は歩き出した。ぎっしりと並ぶ分厚い本の背中を指でタンタン叩きながら歩く。
「ほぉ、これかぁ・・・」
誰もいないと思っていた本棚の奥から小さな声が聞こえて新垣は足を止めた。
身を屈めて棚の隙間から声がした方を覗く。
栗色の頭が見えた。
「豊胸効果もある・・・か。んぁ、みきちーでまた試すか」
- 334 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:28
- 栗色の頭は楽しそうに揺れる。
みきちー?ミキティ?みき?もっさん?
新垣は思わず飛び出した。
栗色頭のその人は大して驚いた様子もみせず、開いていた分厚い本を閉じるとふわぁっと笑う。
この制服は三年生。って事はもっさんと同学年。そう言えば何度か藤本の隣にいるのを見た事があるようなないような。
じゃあみきちーって言うのはやっぱりもっさん?それとも全く関係のない別の人?
「んー、君はがきさんだね?」
新垣が小さな頭で色々考えていると目の前の三年生が聞いてきた。
ちょっと待って、今なんて言った?
「な、なぜ私を知っている!?」
「んは、やっぱそうか。みきちーからいつも聞いてるよ、眉毛とおでこが素敵な一年生だって」
なるほど、じゃあみきちーってのは間違いなくもっさんの事だな。
てゆーかもっさん、私の事話題にしてくれるのはとてもありがたいのですが眉毛とおでこが素敵って。
なんかもっと良い褒め方して欲しいなぁ。
- 335 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:28
- 「やぁ、しかしみきちーの言う通りだあ、素敵ねぇ」
言いながら栗色頭の三年生はおでこを触ろうとする。
新垣は一歩後ろへ下がった。
「あ、あのっ!先輩、お名前は?」
そう、名前だ。
名前も知らない見ず知らずの誰かさんにこの神聖なおでこを触らせるわけにはいかない。
触ろうとしたところを避けられて少し驚いたのか、その三年生は自分の手と新垣のおでことを見やる。
そして笑った。
「んあ、ごめんごめん。ごとーはごとーだよ」
「はぁ、ごとー・・・後藤先輩?」
「あは、先輩は嫌だなぁ。ね、それよかおでこ触ってい?」
「あ、どうぞ」
「んぁ、ありがと」
後藤はふわりと笑って新垣のおでこを指の腹で撫でた。
少しくすぐったくて新垣は笑ってしまった。
「綺麗なおでこしてんねぇ」と後藤は言ってくれた。
それが嬉しくて単純馬鹿な新垣は初対面ながら後藤の事を好きだと思った。
もっさんと知り合いみたいだし仲良くなれるかも、とも。
新垣は本当に単純馬鹿だった。
- 336 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:29
- 「がきさんは何しにきたんだい?」
後藤はふと思い出したかのように尋ねてきた。
迷ったなんて言うのはとても恥ずかしい事であったが不思議とこの先輩の前では素直になれた。
訳を話すと後藤は「ここムダに広いからねぇ」と微笑んだ。
そして「おいで」と言うと新垣の手を引いてくれた。
その手は暖かくて新垣は後藤の事をいい人だと思った。
「ほら、あそこに配置図があるでしょ?」
しばらく歩いて辿り着いたそこは机と椅子が沢山並ぶ見覚えのあるホール。
その真ん中辺りに置いてある掲示板の前に連れて行かれた。
「これ見たらどの場所にどんな本があるかすぐ分かるんだよ」
後藤はそう言ってさっきまで自分達がいたのであろう場所を指した。
そこは広い図書館の一番奥の奥。
よく見ると小さな文字で『欧米・医学本』とある。
新垣はビックリして後藤と、後藤がずっと大事そうに抱えていた分厚い本に目を向けた。
そこには横文字のタイトル。頭が痛くなった。
- 337 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:29
- 「あ、これ?どこだっけかな、アメリカの医学書」
後藤は本を見せて嬉しそうに笑った。
新垣は痛むこめかみを押さえて聞いた。
「あ、あの、ごとーさんは英語を読まれるのですか?」
「おぅいぇす!読まれる読まれる。こう見えて頭良いんだぞ、エッヘン!」
誇らしげに言うと胸を張ってみせた。
あぁ。
もっさんの知り合いっぽいし頭の方もそれなりかと思っていたのに。
なんだか裏切られたようでショックだった。
もっさんに頭の良いお友達がいただなんて。
「がきさんはこうゆう本読む?」
後藤は無邪気に聞いてくる。新垣は必死で首を振った。
日本語の本を読むのも一苦労なのに英語なんて。しかも医学!
頭痛のオンパレード、デスマーチだ。
必死に首を振る新垣を見て後藤は残念そうな顔をした。
それでもすぐに笑みを浮かべて言った。
- 338 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:30
- 「ごとーはさ、放課後は大体いつもここにいるんだ。また来なよ」
新垣が首を振るのを止めて顔を上げると後藤はふにゃりと顔を崩した。
「ごとー、がきさんとはお友達になれそうな気がするから」
そう言うと後藤は分厚い本を抱え、
「あっちの方にはマンガもあるし覗いてみたらいいよ」
と言い残し去って行った。
新垣はその後ろ姿をずっと見ていた。
ごとーさん、か。家に帰ったらもっさんに聞いてみよう。
そう決めると新垣は後藤が指差したマンガが置いてあるという方へ向かった。
本を読むのは苦手だがマンガなら別だ。ノープロブレム、むしろウェルカムだ。
なんだか幸せで新垣は下を向いてこっそり笑った。
- 339 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:30
- 「なに、ごっちんに会ったの?どこで?」
「あ、あの図書館で・・・」
「図書館?がきん本なんて読めるんだ?」
「失礼な!読みますよ本くらい」
漫画だって一応本でしょ?
新垣は頬を膨らませる。藤本は冗談だよと言って笑った。
図書館で漫画を見つけ、後藤に感謝しながら読み耽った。
家に帰ってきた時、辺りは真っ暗になっていた。
母親に何処で何をしていたのかと口うるさく問い詰められたが、図書館にいたのだと答えるとそこまで怒られる事はなかった。
これは言い事を学んだと新垣は心の中でほくそ笑んだ。
そして夕食をとり自室で寛いでいるとリズムよく鳴る窓ガラス。
そこからやってきたのはお隣りのもっさんこと藤本美貴嬢。
がきさんこんばんは!と片手を上げると早速運動を始める。バストアップエクササイズ。
藤本は少し前に片思いをした。だがその思いは伝わる事もなく砕け散った。
それがあってからというもの、藤本の毎晩に及ぶこの運動には並々ならぬ気合いが入っている。
それはなぜか。
- 340 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:31
- 藤本には好きな人がいるから。片思いをしたのはちょっとした脇道だと後に彼女は言った。
そんな彼女の恋の大本命ロードの先にいる人物。それは吉澤。
この吉澤のために藤本は毎晩バストアップに励んでいるのだ。
なぜならこの吉澤と言う人物超がつくほどのおっぱい大好き星人、変態だ。
巨乳じゃなければ女じゃないくらいに思っているのだ。
そんな吉澤の事が大好きな藤本。
しかし神様は残酷だ。
吉澤の事を誰より愛していると言い張る藤本は超、ホント最高級に貧乳なのだ。
もう成長する見込みもない。
だが新垣の適当な発言でまだまだ胸が成長すると信じている藤本は毎晩一生懸命バストアップエクササイズを続ける。
それは新垣が提案した日から一日も欠かす事なく続けられている。
そして今日もその例外ではない。
藤本は首にタオルをかけジャージ姿で運動に励んでいた。
- 341 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:31
- 「ごっちんと会って何したの?」
「あー、特に何もしてないんですけど。ごとーさんってもっさんの友達なんですか?」
「友達も何も美貴の救世主よ」
藤本は動かしていた体を止めるとタオルで汗を拭いてニヤリと笑った。
救世主?
「ごっちんね、凄い頭良いの。馬鹿っぽいけど英語ペラペラだし」
「あぁ、言ってました。今日も外国の医学書持ってましたよ」
「マジで!?」
「ぅえっ?ま、マジですよ?」
突然がっついてきた藤本に新垣は少し体を引く。
藤本はどこか遠い世界にトリップしていた。
「今度はどんな薬かなぁ・・・即効性強いのがいいなぁ・・・」
顔をだらしなく緩ませて藤本は半笑いの状態だ。
なんだよ気持ち悪いな。しかも何?即効性とか薬とか。
「ちょっともっさん、帰ってきて下さいよ!」
「ん?あぁ、ごめん、ただいま」
「おかえりなさい。それより何ですか?即効性って」
「え?おっぱい薬」
「はぁ?」
「ほら、これだ」
- 342 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:32
- 藤本はジャージのポケットをがさがさと探ると何やら茶色い小瓶を取り出して自慢げにみせた。
中には何か液体のような物が入っている。
「・・・何ですか?コレ」
「だからおっぱい薬だ」
もっとよく見ようと手を伸ばすと藤本は手を高く上げた。
そして大事そうにポケットの中にしまう。
「だめ、これは美貴の薬だからがきさんには触らせない」
「な、触らせてくれたっていいじゃないですか!」
「だーめ。他の人に渡すと効果が無くなるってごっちんに言われたもん」
「・・・ごとーさん?」
「がきさん欲しいんだろ?あげないよ〜」
いや別にいりません。そこまで必要としてませんから。
藤本はニヤニヤデヘデヘ嬉しそうに笑っている。
てゆーかごとーさん?なぜ?
他の人に渡したら効果が無くなるって、そもそもその中身は本物なの?
凄い胡散臭いんですけど。おっぱい薬って。
- 343 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:32
- 「もっさん、それ本物なんですか?」
「はぁ?ごっちんが作ってくれたんだから本物に決まってんじゃん」
「ごとーさんが?なんで?薬を作る?」
「あぁもう、がきさん馬鹿だな!いいか、ごっちんは天才なの。ちょー頭良いの。来年は医学部なの」
「はぁ、凄いですね」
「そう、凄いの。そんな頭の良いごっちんはなんと美貴の大親友。だから助けてくれてんの。分かった?」
あぁ、なるほど。
少し前からよく口にしていたおっぱい薬。
てっきりもっさんの造り出した嘘かなんて思っていたけどどうやら違っていたようだ。
本当にあるんだ。ごとーさんが作ってるんだ。
おっぱい薬を作ってくれるごとーさんはもっさんの救世主。なるほど。
てゆーか助けてくれてるって。
もっさん実験台になってるだけじゃないんですか?
だって今日だって「みきちーで試すか」って。試すか、って言ってたよ?ごとーさん。
あまり効果があるようには見えないし。
ごとーさんが頭良いのは分かったけどなんか違うような気がする。
まぁもっさんのお友達ならそんなものか。
- 344 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:33
- 「言っとくけどおっぱい薬は美貴専用だから、がきさんにはあげないから」
いやいや、だからいりませんって。
私のおっぱいはもっさんと違って、特別な努力しなくてもまだ勝手に成長してくれますし。
心の中で思った事が顔に表れてしまったのだろうか、藤本は不機嫌そうに睨むと枕を投げてきた。
顔に張り付いた枕を引き剥がすと目の前には藤本の顔があった。
「おいがきさん」
「はい?」
「おっぱい、おっきくなった?」
「わあすごい!だいぶせいちょうしたんじゃないですか!?そのちょうしですよ!!」
「んふー、そっかそっか、やっぱごっちんの薬のおかげかも!」
- 345 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:33
- 藤本の不機嫌そうだった表情はガラリと変わって今は喜色満面。
おっぱいの事褒めるとすぐこれだ。もっさんって案外単純だ。
逆にけなすと殺されるけど。
藤本は嬉しそうに笑いながら「おやすみがきさん」と言い残し自分の部屋へ帰っていった。
藤本の姿が消えると新垣はベッドに寝転んだ。
ごとーさん。ごっちんさん。フルネームはなんて言うんだろう。
放課後は大抵図書館にいると言っていた。
お話したいし、おっぱい薬について聞いてみたい。
よし、明日も図書館行こう。
新垣は心に決めて部屋の電気を消した。
- 346 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:33
- 翌日。
「おハローがきさん」
「はいおハローございます」
「ね、ね、おっぱい、ちょっと大きくなってない?」
挨拶するなり朝一番からおっぱいトークかよ。
新垣は一瞬眉をしかめたが胸を張ってみせる藤本は気付かなかったようだ。
「あぁ、大きくなってますねぇ!」
「でしょでしょ!?んふふー、気持ちの良い朝だ」
ごめん、嘘だよ。大きくなんかなってないよ。
藤本の嬉しそうな顔を見て少し罪悪感を覚える新垣であった。
でもそれは毎朝のことだから次の瞬間には忘れてしまう。
二人は並んで道を歩いた。藤本は大きく腕を振りながら。
- 347 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:34
- 「ミキティがきさんグッモーニンッ!!」
「ひょっちゅわぁんすぁん!!」
よっちゃんさんね。
「おハローございます吉澤さん」
「やぁおハロー。今日も素敵な眉毛だね!」
「ねぇよっちゃん、美貴は?美貴は?」
「・・・相変わらず胸がな」
「死ね!!」
「んは、生憎だけどミキティの巨乳姿をこの目で見ない限りは死ねないんだな!」
「あら、じゃあ一ヶ月後には空の上ね」
いやいやいや一ヶ月後も何も、もっさんが巨乳になったら死ねるってこれじゃあ吉澤さんは不死身人間だ。
巨乳になったもっさんを見てみたい事もないけど吉澤さんが死んじゃうのは悲しいなあ。
だからといって一生生き続けられるのも凄い迷惑だけど。
それにしても、今日の吉澤はえらくご機嫌だ。
ここ最近の吉澤はどこかピリピリしていていつものふわふわした様子が微塵も感じられなかったのに今日はひどく浮かれている。
- 348 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:34
- 「おっはよー、がきさん!」
新たな声が響いて新垣は振り向いた。
ああ。
吉澤の浮かれている原因が分かったような気がした。
松浦がいた。
「あ、おはよーございます」
「にゃは、固いなぁ〜。もっとフランクに行こう!」
松浦はニコニコ笑いながら新垣に腕を絡ませる。
引きつった笑みを浮かべて曖昧に頷いた。
「あーっ!なんだいなんだい、私が手を繋ごうとしたらビンタしたくせに!」
「うるさい!ひーちゃんと手繋ぐぐらいならオラウータンと繋いだ方がマシですよーだ」
「ひーちゃん言うな!猿!」
「ムキャー!猿言うな変態!」
吉澤と松浦の間で小競り合いが始まりそのどさくさに紛れて新垣はそっと離れた。
藤本は面白そうに笑みを浮かべながらその光景を見ている。
見ている。吉澤と、松浦。
松浦を、見ていた。
- 349 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:35
- 藤本のちょっと脇道に逸れた片思い。その相手は松浦だった。
そんな松浦は吉澤の従姉妹。
そう言えば彼女は知っているのだろうか。
知っていて好きになったのならそうとうな物好きだ。
知らずに好きになっていたのならそれはまぁ、なんと言うか凄いんじゃないかと思う。
だがその片思いは告げられる事なく突然に終わった。
松浦には好きな人がいたのだ。
好きな人がいたくらいで諦めるなんてカッコ悪い、なんて世間の人間は言うかも知れないが、藤本はカッコつけだった。
振られるのが分かっててわざわざ告白するなんて、こんなカッコ悪い事は無いと、藤本は自ら身を引いたのだ。
それに松浦の片思いの相手が相手だった。
松浦の好きな人。それは新垣だったのだ。
藤本は綺麗さっぱりと松浦を諦め、また吉澤に戻った。
それでもやはりまだどこか気になるんだろう、松浦を見るその目は優しくて少し悲しそうだった。
- 350 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:35
- やがて二人の間に決着がついたのか、吉澤は肩で息をしていった。
「いいよ、亜弥なんて嫌いだ!」
「嫌ってくれて結構。むしろありがとーございます!」
「お前可愛くないぞ!」
「・・・はぁ?私が可愛くない?アンタの目はお尻についてんのか」
「あ、や、あの、えーと冗談だよ?マジ可愛いって、お前は日本一だ」
「世界一でしょ」
「はぁ、そうでした、スンマセン」
「フフ、今日はこれぐらいにしといてあげる」
「あ、あざーっす!!」
本当に決着がついたようだ。
吉澤は九十度のお辞儀をしたまま動かない。松浦は満足そうに笑って歩いてきた。
- 351 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:36
- 「ひーちゃんったら失礼しちゃうよね」
新垣の隣りに来ると早速腕を絡ませる。
新垣は緊張してしまって黙ったまま笑みを浮かべていた。
「私が可愛くないなんてさ!どこ見てんのよって感じ」
松浦は本気で怒っているようだ。
なんの反応もしない新垣を全く気にも止めずプンスカ怒りながら歩く。
松浦は自分が大好きだった。
「ねぇがきさん、私可愛いもんね?」
引っ張られるようにして歩いていた新垣は突然立ち止まった松浦にぶつかる。
おでこを擦りながら顔を上げると松浦のアップ。
可愛いよね?可愛いでしょ?と聞いてくる。
「はぁ、可愛いですよ」
確かに松浦は可愛かった。
少し猿っぽいところもあるが、全く気にならない程に可愛らしい顔をしていた。
松浦はそれを聞くと喜んでピョンピョン跳ねだした。
「ほらほら!やっぱがきさんの目は正直だ!ね、ね、それで私の事好き?」
- 352 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:36
- 新垣は笑ったまま固まった。
『私の事好き?』
このセリフ。頭が痛くなった。
松浦の好きな人が自分だと分かって、結構な時間が経った。
だが自分の気持ちが未だに分らない。
嫌いじゃない。それは断言できる。
だが、好き?と聞かれて、好きだよ。と答えることが出来ないでいるのだ。
頭が痛い。
「ねー、どーなのよぅ、がきさん」
「・・・あぁ、まぁそれなりに・・・」
ほらまた逃げた。
いつもあやふやに、有耶無耶にして逃げる。
松浦は「またはぐらかすー」と言って笑う。
何度聞いてもはっきりとした答えが無いので松浦も割り切っているらしかった。
でもこれって凄く悲しいことだ。
ニコニコ笑う松浦に向かって新垣はごめんなさいと心の中で謝った。
- 353 名前:―放課後の図書館とおっぱい薬の秘密― 投稿日:2006/07/08(土) 20:37
- 「ちょっと、二人とももう少し年長者を労るべきじゃないかと思わないかい?」
遅れていた吉澤と藤本が合流し、四人で学校までの道を歩く。
走ってきたのかいつも真っ白な吉澤の頬はうっすらと赤味が差している。
「ああ!そうだった!藤本さんごめんなさい、置いてけぼりにしちゃって!」
「はは、いいよ。いい運動になったし」
「そうですか?ごめんなさい、全然気付かなくて」
「おほほい、私は?」
「・・・そうか、今日は不燃ゴミの日だったか」
「な、どーゆー意味だそれ!」
松浦は意味あり気に笑うと駆け出した。両手を振り回し、吉澤が追いかけて行く。
あっという間に二人の姿は小さくなった。
残された藤本と新垣は互いに見合うとゆっくり歩き出した。
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