DREAMER3

1 名前:konkon 投稿日:2006/03/10(金) 23:05
藤本美貴主演の学園物語です。
前スレ、前々スレはこちらになります。

DREAMER
ttp://mseek.xrea.jp/green/1090602454.html

DREAMER2
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1115143977/
2 名前:konkon 投稿日:2006/03/10(金) 23:06
ハイハイハイ!
久しぶりの登場、藤本美貴です!
いよいよ物語は終盤へと進みます。
とはいっても、まだ話しは二学期だけどね(汗)
たぶん、このスレで終わる・・・かな?
これから先にも恋愛や、友情、出会いを大切に楽しんでいきたいと思います。
それでは、がんばっていきまっしょい!
DREAMER3、スタート!
3 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:07
美貴達がライブを観に行った次の日の休日、真希は公園にあるバスケットコートで
フリースローの練習をしていた。
あと少しでバスケ部の仲間達がくるので、それまでの暇潰しだ。
ボールを二回ほど地面について、ゴールに向けて構える。
「98・・・。」

シュッ ザシュッ

ボールはリングに触れることなくゴールを通過した。
バスケから離れた生活をしているとはいえ、ここまでに一度も外していない。
何千回、何万回もの反復練習が体に染み付いているのだ。
なぜバスケをやりたくなったかというと、それは前日に見たテレビが原因だった。
四年前の全国中学バスケット大会決勝戦、本来なら真希が出ているはずの試合が、
衛星放送で流れていたところを偶然にも見たのだ。
4 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:09
しばらくして、ある選手に興味を抱いた。
対戦は美勇伝中学、そこには真希達のライバルである絵里香や唯も出場している。
最強の二文字が相応しい美勇伝が、今まで無名だった中学、
黒江中学と互角に戦っていた。
ここの中学の監督に就任した石黒彩という人が、彼女達を育てたようだ。
中でも、美勇伝の選手を華麗に抜き去る一人の選手がいた。
信じられないほどの体力で縦横無尽に動き回り、ボールを持てばしなやかな態勢で
敵を避けて、一人、二人と抜いていく、ものすごいポテンシャルを持っていた。
試合の結果はというと、美勇伝も意地を見せてぎりぎりで勝利した。
もしその場に真希がいたらどうなっていたか、そう考えるだけで胸が弾んだ。

ザシュッ

綺麗にフリースローを決めて、跳ねているボールを拾いにいく。
5 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:11
放送時間はほんの数分、アナウンスも何もなかったので、画面に名前が出てくることもなかった。
試しにあさ美に聞いてみたがわからないようだった。
当時、あさ美がバスケに興味をもったのは、真希に見惚れたためだ。
だから、真希の出ない試合をあさ美が見ることはなかったので、
そのような選手がいたこと自体知らなかった。
ただ一つ気になることは、これだけの選手が高校に入って、
一度でも活躍した話しを聞いたことがなかったことだ。
バスケをやめた、もしくは真希のように理由があった、どちらにせよこれから先に
会うことはないだろうと思い、それ以上考えるのはやめにした。
他の部活仲間の里沙に聞いたところ、選手の名前は忘れたが、
異名を持っていたと聞いた。
漆黒の天使、真希の金髪の妖精に対抗したのか、学校の名前の由来からかは知らないが、
大袈裟なネーミングだと真希は冷静にそう思った。
それでも、真希に刹那の喜びを与えたのは確かだった。
無性に体を動かしたくなって、あさ美達とバスケをしようということになったのだ。
6 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:13
まだ時間にはなってないが、彼女達は現れない。
もう少し待つことにして、真希はボールを持って構える。
「これで・・・。」
「ひゃ〜く。」
「!?」
突然の声に驚いて、少しシュートを打つ手がずれてしまった。

ガガンッ

ボールはリングに当たって跳ね返る。
声がした方を振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。
ピンクの帽子に青のサングラスといった異色の組み合わせで、
服装はブラウスにジーンズといった軽装をしている。
「あっ、ごめんなさい。あとちょっとで100回連続だったのに、
 いきなり声かけちゃったから、外しちゃったんだね・・・。」
「別に気にしてないよ。」
そう答えて落ちているボールを拾う。
7 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:14
「ねぇ、もしよかったら、私と勝負しない?」
「後藤と?」
「うん。何か、見ててやりたくなってきちゃったんだよね〜。」
真希は一度、時計台を眺めて考える。
「(まだ紺野達はこないのかな・・・まぁ、何かあるんなら連絡くれるだろうし、
 それまでならいっかな。)」
持っていたボールを少女に放り投げる。
その少女は嬉しそうにしてボールをバウンドさせる。
「ルールは特にいらないよね。ハーフコートで10点取った方の勝ちね。」
「OK〜。」
「ところでさ、あなたの名前は?」
「私?私の名前はね、石川梨華。」
梨華は帽子とサングラスを外して、真希に笑みを向ける。
8 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:14
「そう、んじゃ梨華ちゃんでいいね。後藤は後藤真希。友達からは
 ごっちんとか真希とか呼ばれてるから、適当に・・・。」
「ちょっ、ちょっと待って!私のこと、知らないの?」
真希は首を傾げて梨華を見つめる。
「今聞いたよ。石川梨華ちゃんでしょ?」
「そうじゃなくて、私の名前に聞き覚えはないかってことよ。」
「ないよ。それはきっぱりと断言できる。一度でも見たり聞いたりしたんなら、
 忘れることなんてないからね。何で?有名人とか?」
「ん・・・もういいや。私もまだまだだわ・・・。」
梨華は少し落ち込んでコートの中に入る。
そして、真希にボールを投げ返した。
9 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:15
「んと、私もごっちんって呼ばせてもらおうかな。ごっちんからでいいよ。
 絶対に負けないんだから!」
今度はやる気に満ちている梨華を見て、真希は苦笑いを浮かべる。
「(感情の起伏が激しい子だな。)」
「お手柔らかにね。金髪の妖精さん。」
「後藤を知ってるの?」
「バスケをやってる人なら誰でも知ってるわよ。私も昔やってたからね。
 でも、そう簡単には負けないわよ。」
「面白そうじゃん。いくよっ!」
真希は数回ボールを跳ねさせたあと、猛スピードで梨華に向かっていった。
10 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:16
あさ美は走っていた。
時間に間に合うように早めに出たのだが、途中に通りがかった人に道を聞かれて、
最後まで案内していて遅くなってしまったのだ。
事情を話せば真希はわかってくれるだろう。
怒ることは絶対にないけど、真希は一度落ち込むとなかなか立ち直りが遅い。
それだけは嫌だった。
天気に恵まれているのだし、真希と思い切りバスケをやりたい。
そう思いつつ、あさ美は公園に着くと同時に中に駆け込んだ。
バスケコートに近づいていくと、その少し前から隠れて顔を覗かせている、
二人の姿を見つけた。
真希に呼ばれた麻琴と里沙だった。
あさ美は不思議そうな表情で二人に近寄っていく。
11 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:16
「どうしたの?」
「あっ、あさ美ちゃん。あの人、一体誰なの?」
「えっ?」
「後藤さんと、一対一の勝負をしている人です・・・。」
コートの中では、真希とあさ美の知らない少女、梨華がバスケをしていた。
真希がボールを持って、梨華が守っている。
試合を見ていて、あさ美は呆然としていた。
あの真希が梨華一人を抜けずにいるのだ。
前に出ようにも素早く手を出され、フェイントをかけてもすぐに守りに入る。
手加減してるのかと思いきや、表情を真剣そのもので、時には笑みを浮かべる。
真希が全力を出している証拠だ。
12 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:17
「このっ!」
一瞬の隙をついて、左にステップを踏んだ瞬間に飛び上がる。
そこに梨華も喰らいついていく。
あれは取れない、真希と組んでいたあさ美だからこそわかった。
真希はゴールに近づいた瞬間に背を向ける。
三種の神器の一つ、クロス・ダンクだ。
今までに誰にも攻略されたことのない技だ。
だが、次の梨華の動きにあさ美は目を見開いて驚いた。
真希の体を避けたかと思ったら、真希が振り向いた瞬間に下から
ボールを突き上げたのだ。
恐ろしいほどの柔軟に真希に匹敵する脚力、何よりもボールに対する嗅覚が鋭い。
「まだまだだね!」
「くっ・・・。」
ボールはバックボードに当たって跳ね返り、それを梨華が拾い上げる。
13 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:18
「次は私の番だよ!」
梨華がボールを持って飛び上がる。
そこに、真希もタイミングを合わせてゴールとの間に割って入る。
そのままいけば真希は防ぐことはできる。
だが、真希が手を伸ばす直前で、梨華は反転して体を入れ替えた。
先ほど真希が見せたクロス・ダンクと同じだ。
ほんの一瞬だけ驚いたものの、自分の技なのだから止め方は知っている。
ぎりぎりまで引き付けて、梨華が腕を上げた瞬間に奪えばいい。
ゴールを目の前にして、梨華が振り向いて腕を高く振り上げる。
「もらった・・・!?」
「残念でした〜。」
真希の手が上がった瞬間、梨華はボールを持つ右手を下げ、左手に放り渡した。
そして、左手でボールを放り入れた。
14 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:19
クロス・ダンクとダブル・クラッチ、プロでも簡単にはできないような技を、
梨華は技を混合させてしまったのだ。
真希の体が震える。
ここまですごいと思える人物は、あさ美を除くと美勇伝の絵里香や唯、
もしくは美貴くらいなものだ。
背筋にゾクゾクと寒気を与える緊張感。
興奮がアドレナリンを活発化させる。
「ふぅっ、さってこれで8対6、逆転してみせるんだから!」
梨華が力強く言い放つ。
それを聞いた真希は、薄い笑みを浮かべる。
「梨華ちゃん、一つだけ言っておくよ。」
「何?」
「後藤の真の力、見せてあげるね。」
真希は状態を低く屈め、梨華に突進した。
15 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:20
ボールを取ろうにも低すぎて、しかも真希の体が邪魔している。
それでいて右に左に、いくつものフェイントをかけるものだから、
いつ抜かれるかもわからない。
「くっ、このっ・・・速い!」
真希の動きが左にずれる。
ステップからしてクロス・オーバーだと判断し、梨華は少し後ろに下がった。
今のままでは真希に追いつけないからだ。
だが、真希は梨華の思考に反して、ボールを持って後ろに跳んだ。
「あっ!」
「甘いよ。」
神器の一つ、オーバー・フェイダウエイだ。
いくら梨華の跳躍でも、距離を空けて跳ばれては止めようがない。
真希の放ったシュートは、梨華の頭上を越えてゴールを通過した。
16 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:21
「ごっちん、すごいね。私が反応できなかったよ・・・?」
その言葉に全く反応せずに、じっと梨華を見つめている。
すぐにでもバスケをやりたいという、闘志が漲っていた。
その気持ちは梨華にもよくわかる。
だから、すぐにボールを持ってドリブルを始めた。
勢いで真希を抜こうにも抜けない。
フィントにも全く引っ掛からない。
梨華に合わせて体を揺らし、呼吸を読み取って次の動きを始める。
何よりも、目がボールではなくて梨華の目を見ていた。
「(くっ、抜けない・・・。)」
一瞬の隙をついて、梨華のボールを横に弾く。
梨華が気付いた時には、真希はドリブルを始めていた。
ボールに対する嗅覚は真希の方が敏感だった。
17 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:21
真希が前に飛び出して跳び上がる。
それに合わせて梨華も跳んだ。
三種の神器は全て見たので、止められないことはない。
その判断が誤りだと気付いたのは数秒後。
梨華が跳んだ瞬間、真希は垂直ともいえるシュートを片手で打った。
あまりの速さに、予想外のシュートに梨華の反応が遅れる。
ボールは誰の跳躍でも届きそうにない高さまで上がり、ゴール目前で急降下を始める。
「第四の神器、ハイ・アップ。」

パサッ

ボールがまるで流星のようにゴールを突き抜けた。
梨華は呆然として跳ねるボールを見つめたあと、コートに座り込んだ。
18 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:22
「ハァッ、ハァッ、負けちゃった・・・ごっちん強すぎ〜!」
「梨華ちゃんもすごい強かったよ。本当に楽しかった。」
真希は笑ってボールを拾いにいく。
「梨華ちゃんは今何してんの?バスケはやらないの?」
「私?私は別のことにはまってるからね〜。バスケはもう・・・。」

♪〜

梨華の携帯が鳴り始める。
「ちょっとごめんね。はい、もしもし・・・えっ、もうそんな時間ですか?
 わかりましたよ。すぐにそっちに行きますから・・・は〜い。えっと
 そんなわけで、私行くね。付き合ってくれてありがとね。」
「そっか・・・残念だね。」
真希は少し寂しそうに呟いた。
19 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:24
「それにしても、本当に強かったな〜。絵里香や唯が認めるだけあったよ。」
「へっ?絵里香達と知り合いなの?」
「友達だよ。美勇伝での唯一の友達。」
梨華は帽子とサングラスを掛け直して、かばんを手にとる。
「バイバ〜イ。」
梨華は手を振って公園から出て行った。
梨華が出て行ったあと、真希がゴールを見つめていたところに、
あさ美達が出てきた。
「後藤さん、今の人は・・・?」
「石川梨華ちゃんって子だよ。バスケをやりたいっていうから、
 一緒にやってたの。」
「・・・動きが"漆黒の天使"に似てませんでした?」
「漆黒の天使!?」
麻琴と里沙が、真希より先に反応して驚いた。
20 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/10(金) 23:26
「嘘・・・あの人が・・・?」
二人は梨華が去って行った方向を見て、固まっていた。
麻琴達にとってもまた、中学時代では憧れの存在となっていたからだ。
「そういえば・・・梨華ちゃんがそうだったのかな?」
真希は下を向いて考えたあと、あさ美を振り向いた。
「まぁ、いいや。またやりたいとは思うけど、梨華ちゃんはもうバスケは
 やらないって言ってたし、もっと後藤も強くならなきゃならないからね。
 バイトまであんまり時間ないから、早くやろうよ。」
「はい。」
あさ美は頷いてボールを持つ真希と対峙する。
石川梨華という名前に聞き覚えがあったのだが、結局あさ美は思い出せなかった。
21 名前:konkon 投稿日:2006/03/10(金) 23:26
更新しました〜。
新スレでもまたがんばろうと思いますので、
これからもよろしくです!
22 名前:ミッキーティ♪ 投稿日:2006/03/11(土) 00:07
やったー♪3がデター(・∀・)b−☆
作者さん更新お疲れ様です!!
梨華ちゃん登場ですね面白いです。
23 名前:konkon 投稿日:2006/03/15(水) 23:30
ある日の夜、美貴はゲームセンターの中にいた。
学校から帰って、真希と遊びに行ったあと、愛がバイトが終わる時間に
迎えにきたのだが、引継ぎのバイトが遅れることから残業するらしい。
雑誌を立ち読みしているのも邪魔になるし、かといって外で待っているわけにもいかない。
せっかく迎えにきたのにこのまま帰るのも気が引けるので、すぐ傍にある
ゲームセンターで時間を潰すことにした。
特にやりたいことがあるわけではなく、フラフラと中をうろついていると、
誰かが言い合っている声が聞こえてきた。
そこでは、パンチングマシーンの前で一人の少女が三人の男に囲まれていた。
男達は怒っているようだった。
夜だというのに、その少女はサングラスをしていて顔はわからないが、
時々首を振ったりして困っているようだ。
24 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:30
「どうしたの?」
美貴が声をかけると、少女と言い合っていた男が美貴を睨みつけた。
「関係ないやつはすっこんでろよ!」
「だったら、その子に絡むのやめたら?みっともないよ。」
「うるせーっ!この女が邪魔しなかったら記録を塗り替えられたのによ!」
話しを聞くと、パンチングマシーンで今日の新記録を出せそうなところを、
この少女が近くでくしゃみをしてしまい、それが気になって記録が出せなかったらしい。
「(くっだらないことで・・・。)」
美貴は大袈裟なため息をついて、財布から百円玉を取り出した。
そして、それを機械に入れてグローブをつける。
「邪魔だからどいて。」
男達をどかして、パンチングマシーンに一瞬にして間合いを詰めると、
大きく拳を振り下ろした。
25 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:31

ズドォンッ!!

まるで大砲でも撃ったかのような、強烈な音が鳴り響いた。
画面には、今日の記録だけでなく、歴代最高記録をはるかに上回る数値が表示されている。
男達は口を開けて驚いていた。
「あと二発あるから、打っていいよ。これで新記録達成できるでしょ?」
「い、いえ、もういいです・・・。」
男達は深く肩を落としてゲームセンターを出て行った。
「やれやれ。大丈夫だった?」
「はい。ありがとうございました。」
その少女は深く頭を下げてお礼を言った。
26 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:32
「あれ?どっかで会ったことあったっけ?」
「いえ、ないと思いますけど・・・。」
「そう?なんか聞き覚えのある声だったからさ。ごめんね。」
「あの、もしよかったら、どこかでお茶でもどうですか?
 お礼がしたいんです。」
「嬉しいお誘いなんだけどね、迎えがきたから美貴は行くよ。」
ゲームセンターの入り口で、キョロキョロと首を振り回している愛を見つめる。
「気をつけて帰りなよ。バイバイ。」
「はい。本当にありがとうございました〜。」
その少女は笑顔で美貴を見送った。
美貴は愛と一緒にゲームセンターを出て行った。
「私も今の人見たことあるんだよな〜。いつだったっけ?
 忘れちゃったし、別にいいかな。」
ふとそのような呟きをして、美貴の出て行った扉を見つめていた。
27 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:32
土曜日の昼頃、美貴と愛はタンポポに向かっていた。
今日は2時からライブがあるのだ。
その前に少し練習をしようとのことで、早めに家を出てきた。
途中、絵里達と出会って五人でタンポポの中に入る。
しかし、楽屋の中に入ろうとしたが、鍵がかかっていた。
「あれ?飯田さん、どうしたんだろ?」
「美貴ねえ、どうかしたと?」
「鍵がかかってるみたい。まだ寝てんのかな?」
「藤本さんじゃあるまいし、きっと宇宙と交信でもしてるんですよ。」
「・・・どう返せばいいのかわからん。とりあえず、飯田さんの
 部屋に行ってみよう。」
美貴達は圭織の部屋に向かう。
28 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:33

コンコン

「飯田さん、入りますよ。」
一声かけて、美貴は扉をそっと開ける。
その瞬間、美貴は目を見開いて驚いた。
圭織は起きていたのだが、圭織の前の椅子に座っている一人の女性がいた。
その女性は、miracle charmy keyの保田圭だった。
後ろから愛達が入ってきて、やはり驚きの声を上げる。
「あっ、ごめんごめん。圭ちゃんとの話しに夢中になってて忘れてたよ。」
「えっ、何で、どうして・・・?」
「紹介するね。って、知ってるよね。miracle charmy keyの保田圭さんです。」
美貴達、特に美貴は大きく頭を下げる。
圭はじっと美貴達を見つめている。
29 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:36
「久しぶり、でいいのかな?」
「えっ!?どういうことですか!?」
「そっちの子は初めてかな?けど、そこの二人は前にも会ったことがある。
 んで、あんたは三回目のはずだけど。」
最初に愛、次に絵里とさゆみを見て、最後にれいなを見る。
「れいな、どういうこと!?そんなに会ったことあるなんてっ!」
「み、美貴ねえ、痛いっちゃ・・・知らんとね。」
美貴に肩を強く揺すられて、れいなは顔を歪める。
絵里とさゆみも顔を見合わせて、不思議そうな表情をしている。
「あんた達ね、覚えておきなさいよ。初めてここにきた時に会ったでしょ。
 それと、オーディションでつんくさんに押しかけた時にもね。」
「あっ・・・。」
「まぁ、最初の時はデビューしたばっかだから、無理もないけどね。」
圭は薄く笑ってそう言った。
30 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:36
「あの、美貴も初めましてですよね?」
その言葉に、圭は美貴を見上げる。
「美貴、保田さんの歌とかギターに、すごい憧れてるんですよ。
 こんなところで会えるなんて、夢にも思いませんでしたよ!」
美貴は嬉しそうに話す。
圭は黙って聞いてるだけだった。
「初めまして、ね。ある意味間違ってはいないけどね。」
「・・・?」
「何でもないわ。気にしなくていい。それより・・・。」

ガチャッ!

「遅くなってごめんなさ〜い!」
突然、扉が開いて一人の女性が入ってきた。
その姿を見て、また美貴達は固まった。
31 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:37
「ちょっと先の方まで行ってたら、迷っちゃいました〜。」
「い、石川、梨華さん・・・。」
「あれ?あなた達は・・・?」
梨華はじっと美貴達のことを見つめる。
「確か名前はhigh bredge。オーディションで見たでしょ。」
「あ〜、はいはい。最後に演奏してた人達ですね。それで、
 血を流してぶっ倒れちゃった人がいたわよね。大丈夫なの?」
「面目ない・・・。」
美貴は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「あれ・・・?あなた、この間会わなかったっけ?」
「えっ・・・?」
「ほら、ゲームセンターで助けてくれたじゃない?」
「・・・あ〜!あの時の・・・。」
美貴は手を合わせて大きく頷いた。
32 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:42
「どうりで聞き覚えがある声のはずだよ。まさか石川さんだったとはね・・・。」
「私だってよくゲーセンとかに行くよ。地元がここから近いんだ。」
「そうなの!?知らなかったよ。」
美貴と梨華は楽しそうに話しを続ける。
年が近いことからか、二人はすぐに打ち解けたようだ。
一方で、取り残された愛達は、美貴達と圭を交互に見て戸惑っていた。
「聞かせてもらったよ。high bredgeの歌。」
「い、いかがでしたか・・・?」
愛は緊張しながら圭に聞いた。
「実力はともかく、すごく楽しそうに歌うんだね。珍しいタイプだよ。」
その言葉に愛は目を細める。
33 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:44
「そうなんですか?」
「歌を仕事にしていると、そのうち仕事が歌うことになるんだよ。
 仕事だから歌う、金をもらうために歌うしかない、今の時代、
 そう考えてる人間の方が多いんだ。悲しいことにね。」
「はい・・・。」
「けどね、どうして歌っているのか、歌うきっかけは何だったのか、
 それを忘れないでほしいんだ。特に、あんた達みたいにこれからの
 時代を生きる人達にはね。希望をもって歌い続けてほしいわね。」
「保田さん、おばさんみた〜い。」
「石川!大きなお世話よ。」
圭の声が部屋に響く。
34 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/15(水) 23:44
「あの〜、どうしてお二人は飯田さんと知り合いなんですか〜?」
「圭ちゃんはね、圭織がこのライブハウスに誘ったの。駅前とかで
 ストリートライブをやっててね、すごい胸に染みる歌だったから、
 ここで歌ってほしくなっちゃったの。」
絵里の質問に圭織が答えた。
「じゃあ、保田さん達もここで歌ってたってことですか?」
「そうだよ。石川は・・・まぁ、おまけかな。」
「勝手についてきただけだから、気にしなくていいわよ。」
「え〜!二人ともひど〜い。梨華、怒っちゃうもん。プンプン。」
「梨華ちゃん、キショイ。」
「美貴ちゃんまでひどいよ〜!」
美貴は声を上げて笑っている。
それにつられてみんなが笑い合っていた。
35 名前:konkon 投稿日:2006/03/15(水) 23:45
更新しました〜。
36 名前:konkon 投稿日:2006/03/15(水) 23:50
>>ミッキーティ♪さん
ありがとうございます。
続々と登場していきますよ!
P.S.レスは嬉しいんですけど、できればsageでお願いします。
37 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:37
結局練習することもなく、話をしているうちにライブの時間となった。
「あ〜あ、もうちょっと話したかったな〜・・・まだいますか?」
「いや、悪いんだけどそんなに暇ではないんでね。そろそろここを
 出ようと思ってる。」
「マジですか〜?ハァッ・・・。」
「ほらっ、美貴ちゃんいくで。保田さん、石川さん、失礼します。」
「バイバ〜イ。」
美貴達は少し寂しそうにしながらも、ライブの準備を始めるために
圭織の部屋から出ていった。
「圭ちゃん達、もう行くの?」
「保田さ〜ん。美貴ちゃん達の歌、聞いていきたいです〜。」
圭の腕を梨華が掴んで離さない。
「・・・わかったわよ。久住もまだ学校が終わってないだろうし、少しだけね。」
「ヤッター!」
圭は小さくため息をついて、梨華と共に部屋を出て行った。
38 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:38
土曜日の昼過ぎ、美貴は街中をブラブラとふらついていた。
愛はバイトで、真希は亜弥と一緒に、メイク道具を買いに行くと言っていた。
他の仲間も用事があるということで、夕食を作る時間まで暇になった美貴は、
一人で町に服を買いに行くことにした。
二件ほど周ったが、特に欲しいと思える服は見つからなかった。
あきらめて帰ろうとした時、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと、そこにはサングラスをした一人の女性が立っていた。
美貴は口を開けて呆然としている。
サングラスをしていてもわかる。
つい最近圭織の部屋で会った、保田圭だった。
「久しぶり。こんなとこで会うなんて、奇遇ね。」
「や、保田さん・・・。」
叫ぼうとした美貴の口を、圭は素早く手で覆った。
39 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:39
「大声を出さないで。バレたら面倒なことになる。」
「は、はい・・・。でも、どうして保田さんがここに・・・?」
「立ち話もなんだし、お茶でもどう?暇があるならの話しだけどね。」
「も、もちろん、付き合わせて頂きます。」
美貴はすぐに頷いた。
断る理由がない、むしろこうしてまた話しができることに、喜びを感じていた。
圭が歩き出したので、美貴は後ろについていく。
少し歩いて、二人はすぐ近くの喫茶店に入った。
圭はコーヒーを二つ注文して、美貴と向き合う。
「あ、あの、今はこちらに、住んでるんですか?」
「いや、仕事の都合でこっちにきてるだけよ。来週には戻るわよ。」
「そうなんですか・・・また会えるといいですね。」
「ねぇ、どうして敬語を使ってるわけ?」
その言葉に、美貴は首を傾げる。
40 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:42
「な、何を言ってるんです?当たり前じゃないですか。だって、
 保田さん相手にタメ口なんて、そんな・・・。」
「ふ〜ん。」
「・・・?」
ウエイトレスがコーヒーを運んできたので、一度視線を外した。
コーヒーを一口含み、圭は美貴の隣に置いてある美貴のかばんに目を向ける。
かばんというより、チャックについている熊のキーホルダーを見ているようだった。
「ずいぶんと古いのを付けているのね。」
「これですか?これだけは外せないんですよ。美貴にとって
 すごく大切な物ですから。」
「子供の時にゲームセンターで取った物じゃない。よく持ってたわね。」
「そうなんですよね〜。お姉ちゃんが2000円もかけて取ってくれて・・・って、
 どうして知ってるんですか!?」
美貴は思わず立ち上がって声を上げた。
圭は静かに人差し指を口に当て、美貴を椅子に座らせる。
41 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:43
「一人ノリ突っ込みか。あんた芸人でもいけるわね。」
「そうですか・・・じゃない!問題はそこじゃないですよ!」
「あんたのことなら、何でも知ってるわよ。美貴。」
圭は柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
その名前の呼び方で美貴は思い出した。
数年前にも、今のようにきつい目つきをしながらも、優しくしてくれていた、
別れなければならなくなった大事な人のことを。
「ま、まさか・・・お姉ちゃん?」
「そうよ。できれば最初に目を合わせた時に、気付いてほしかったけどね。」
「本当に、本当にお姉ちゃんなの!?」
「だから、そうだって言ってるでしょ。」
圭は頬をかきながら頷いた。
42 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:44
美貴には姉がいた。
姉といっても、血は繋がっていない。
美貴の母親は、美貴が産まれた直後に病気で亡くなった。
二年後に美貴の父親は再婚した。
その再婚した相手の娘が圭だった。
それからというもの、父が離婚する時までは、二人は姉妹として仲良く過ごしていた。
ただ、信じられなかった。
自分の姉も音楽をやっていて、しかもそれがプロであるということが、
夢にも思わなかった。
「元気にしてた?あれから何度か手紙を送ったわよね?」
「うん。まぁ、色々あってね。返事が出せなくてごめん・・・。」
「別に気にしてないわよ。あんたも大変だったんだろうからね。」
「美貴のこと、親父、お父さんから何か聞いてたりした?」
その時だけは、呟くようにして聞いた。
不思議に思いながらも、圭は首を横に振る。
43 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:46
「何にも教えてくれなかったわよ。まぁ、こうして久しぶりに再会できたんだし、
 それでいいじゃない。そういえば、あんた達のバンド、聞かせてもらったよ。」
「・・・どうだった?」
「聞いてて楽しかったわよ。面白かった。」
その答えに、美貴は苦笑いを浮かべる。
「何か、釈然としない答えだね。」
「事実を言ったまでよ。実力がどうとかは、私からは答えられないわ。
 上手かったとは思うけど、私は評論家じゃないからね。これからよ。
 認めてもいいとは思うけど。」
「ハハッ、相変わらず捻くれた言い方しかできないんだね。」
「大きなお世話よ。」
遠い昔にも同じ光景を見たような気がした。
同時に、今目の前にいる相手が、本当に自分の姉であると理解した。
44 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:47
「どう言われようと、美貴達は先に進むよ。まずはお姉ちゃん達に追いつく。
 そして、いつかは抜いてやるんだから。」
圭は美貴をじっと見つめたあと、頬を揺るませて笑った。
「あんたも変わってないわね。常に上を見続けている。血が繋がってないけど、
 本当に私達って似てるわ。」
「顔は似てないけどね。」
「ちょっと、どういう意味よ!」
圭が怒って、美貴は声を上げて笑う。
まだ受け止めきれていない自分がいる。
それでも、数年ぶりに会えた姉が目の前にいることが、心から嬉しかった。
後に、今の自分、話せる範囲で過去についてなど、
時間が許す限り二人は語り合っていた。
45 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:48
歩道の先、ウィンドウ越しに美貴達を見つめている者がいた。
サングラスをかけて変装をしている石川梨華だ。
梨華は、震える腕を握り締めて、笑っている美貴を睨みつける。
「どうして・・・。」
口唇をかみ締めて小さく呟く。
「美貴ちゃんだけは、信じてもいいと思ったのに・・・。」
「そこの彼女、何してんの?」
「暇なら俺らに付き合わない?」
二人の男がニヤついた顔をして梨華に近寄ってきた。
梨華のスタイルに見惚れて、ナンパでもしようとしているのだろう。
梨華は無視して歩き始める。
「ねぇ、ちょっと待ってよ。」
一人の男が梨華の腕を掴んだ。
46 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/17(金) 23:49
「・・・うるさい。」
梨華が男の腕に触れる。
次の瞬間、

ゴキッ!

「うがぁっ!」
男の腕の間接が外れていた。
男は腕を押さえて蹲る。
「お、お前、何を・・・。」
もう一人の男が梨華に掴みかかろうにも、梨華の異様なほどの
不気味な雰囲気に飲み込まれ、その場から動けなかった。
「許さない・・・絶対に許さないんだから・・・。」
梨華の目は潤っていたが、口元だけはどこか歪んでいたように見えた。
立ち尽くした男に背を向け、梨華はゆっくりと歩き出した。
47 名前:konkon 投稿日:2006/03/17(金) 23:49
更新しました。
48 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/20(月) 21:32
梨華ちゃんは一体何にキレたんだーっ!?w
つーか恐ぇ…。(汗;
49 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/21(火) 23:57
その日の夜、美貴は家から少し歩いた先にある公園にきていた。
夕方頃、梨華にメールで会いたいと呼び出されたのだ。
少し疑問に思ったのだけど、また会える日がいつになるのかわからないので、
このチャンスを無駄にしたくなかった。
公園の中を歩き回ったが、梨華はまだきていないようだ。
美貴はベンチに座って待っていることにした。
携帯を忘れたことに後悔していた。
夕食を作ったあと、時間まで寝ていたのでつい忘れてしまったのだ。
煙草を吸ってぼーっとしてると、誰かが近づいてくる足音に気付いた。
予想通り、歩いてきたのは梨華だった。
夜にこの公園を訪れる人はそういないからか、梨華は顔を隠していない。
美貴は煙草を灰皿に捨てて、梨華の顔を見上げた。
50 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/21(火) 23:58
「どうしたの?こんな場所に呼び出して。」
「・・・さない。」
「えっ?」
「私の邪魔になるのは・・・みんな、消えればいい・・・。」
「梨華ちゃん・・・!?」
美貴は素早く飛び退いた。

バキャッ!

ベンチが粉々に砕け散った。
梨華の振り上げた足が、美貴が座っていたベンチを踏み砕いたのだ。
51 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/21(火) 23:59
もし避けなければどうなっていたか、美貴は砕けた破片を見て身震いをした。
梨華の力がすごいことが問題なわけではない。
なぜ自分が襲われているのか、それが理解できなかった。
「ちょっと、梨華ちゃん!どうしたんだよ!?」
「うるさい!私の大切な人を奪うなんて、あんたなんて死んじゃえばいいのよ!」
梨華が振り下ろした拳を、美貴は横に首を振って避ける。

ゴシャッ!

後ろにあった時計台が、まるで削岩機でもぶつけたように、
大きな凹みが入る。
真希や希美でもここまでいかないだろう。
恐ろしいほどの力だった。
52 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:00
「一体何の話しなの?美貴は何も・・・。」
「あなたは信じられると思ったのに、私の想いを踏みにじったじゃない。
 許せないのよ!」
梨華の攻撃を美貴は必死になって避けている。
決して反撃はしない。
梨華はせっかくできた友人だ。
何よりも、理由もわからずに喧嘩などしたくなかった。
美貴は大きく後ろに跳んで、正面から梨華を向いた。
「ねぇ、何がどうなってんの?美貴、梨華ちゃんに何かした?」
「あなた、保田さんとどういう関係なの?」
「えっ・・・?」
「あの人の目は、あなたに向ける時だけすごく優しい目をしてる。
 私にも見せない、暖かい雰囲気を出してる。どういうことなの!?」
梨華の叫び声が公園に響いた。
53 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:00
「もし今後機会があったとしても、二度と保田さんに近づかないで。」
「それは・・・。」
梨華が自分の姉に好意を持っていることはすぐにわかった。
だけど、今までどうしても会いたかった姉妹にようやく会えたのだ。
二度と近づくなと言われても、家族なのだから無理な話しである。
「それはできないよ。けど、美貴は梨華ちゃんの邪魔しようなんて・・・。」
「もう、何も言わなくていい。ここで死んで。」
梨華は猛スピードで前に飛び出し、拳を繰り出した。
何度か避け続けていた時、梨華の指が美貴の服に引っ掛かった。
なんと梨華は指の力だけで美貴を引き寄せ、拳を振り上げる。
「ぐっ・・・。」
美貴は咄嗟に後ろに跳んで、衝撃を受け流そうとした。
54 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:01

ドゴンッ!

「ガハッ、あ・・・。」
腹に強烈な痛みが走る。
衝撃を受け流したはずのに、受け流せなかった。
美貴の体がぐらりと揺れる。
その時を狙って、梨華のハイキックが美貴の側頭部を打ち抜いた。
美貴は後ろへと吹き飛んでいく。
ぎりぎりで左腕で防御したとはいえ、左腕がほとんど動かない。
右腕はまだ治ったばかりで、あまり無闇に使うわけにはいかない。
「な、何で、梨華ちゃ・・・あがっ!」
左手一本で美貴の首を掴んで持ち上げる。
指が首にめり込んで、美貴の口から血が零れる。
55 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:01
「何で抵抗しないわけ?」
「あっ・・・ぐっ、カハッ・・・。」
「まぁ、もうどうでもいいかな。あんたを信じた私がバカだったってだけね。」
梨華の力が強まり、美貴の意識が遠のいてきた。
「よっすぃ達が言ってたのとは違うね。思った以上につまんない。」
「ぐっ、な、何・・・?」
「そういえば、言ってなかったね。士鬼面の本当の頭は私だったんだよ。
 よっすぃが表で統率して、私が裏から操るの。面白いでしょ?」
「・・・。」
梨華の言葉に驚いたものの、ほとんど意識が消えかかってきた。
美貴の手が力なく下がる。
56 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:02
「私の大切なものを奪うっていうんなら、私が先に奪ってやる。
 high bredgeだっけ?あそこのメンバーも、あんたの友人も
 家族だって、全て私が潰してあげる。あんたの通う朝比奈学園も
 士鬼面のターゲットにしてやるんだから。」
その言葉の直後だった。
美貴の腕が梨華の腕を掴んだ。
「っつ・・・。」
感じたことのない痛みに、梨華は美貴の首を離した。

ガッ!

美貴の高速の蹴りが梨華の顔を蹴り飛ばした。
一度は倒れ込んだ梨華は、美貴の顔を睨みつけながら立ち上がる。
57 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:03
「ハァッ、ハァッ、梨華ちゃんとやり合う理由なんてなかったから、
 美貴は喧嘩する気はなかった。けどね、美貴だけならともかく、
 美貴の仲間に手を出すやつは許せない。美貴の大切な人達にまで
 傷つけるっていうなら、例え梨華ちゃんでも美貴は相手になるよ。」
美貴は口元の血を拭って、梨華の視線に対抗する。
「ふ〜ん、だったら、守ってみせなさいよ!」
梨華は猛スピードで飛び出し、美貴の顔を殴りつける。
「ぐっ・・・くぉぉぉっ!」
美貴は数歩下がるも、すぐに態勢を立て直して殴り返した。
それからというもの、二人は殴り合いに展開した。
梨華が殴れば美貴も殴り返す。
蹴れば蹴り返す。
どれだけ攻撃しても、美貴は一歩も引くようなことはなかった。
58 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:04
梨華には理解できなかった。
今までに負けたことなど一度もない。
終わったあとには、相手にした全ての者が地に伏せていた。
士鬼面を統率しているひとみですら、梨華の前には勝てなかった。
なのに、今目の前にいる美貴は、体中が血に塗れながらも、鋭い目をして立っていた。
美貴には負けるわけにはいかない、大切な絆がある。
梨華にも同じようにして譲れない想いがある。
「こっのーっ!」
梨華の飛び蹴りが美貴の右肩に突き刺さる。
「ぐっ!っつ・・・。」
完治していない傷口から血が噴出して、美貴は右肩を押さえて蹲る。
その瞬間を梨華は見逃さなかった。
59 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:05
「終わりだよ!」
梨華の打ち下ろした拳が、美貴の顔を急襲する。

バシィッ!

横から出てきた一つの影が美貴を抱きかかえて避け、
もう一つの影が梨華の拳を両手で押さえた。
美貴を抱えたのは亜弥で、拳を受け止めたのは真希だった。
「美貴たん、大丈夫!?」
「亜弥ちゃん・・・?」
美貴は不思議そうな表情で亜弥を見上げる。
「いった〜、二人とも何してんの?」
真希は痺れている両手を振りながら、梨華に聞いた。
60 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:05
「ごっちん・・・どうしてここにいるの?」
「久しぶりにまっつーと二人で、ミキティの家に遊びに行こうと思ったんだけど、
 携帯に繋がらなくてね。一緒に住んでる高橋って子が出て、ここにいるって
 聞いたんだよ。後藤もまた梨華ちゃんと話しがしたいって思ってたし、
 けど・・・何で喧嘩してんの?」
「別にごっちんには関係ないよ。」
「関係なくないよ。これ以上、ミキティを傷つけさせるわけにはいかない。」
「邪魔するんなら・・・例えごっちんでも殺すよ?」
梨華の目に圧倒されて、真希の背筋を寒気が襲う。
「ちょっと、梨華ちゃん・・・。」
「二度とバスケができない体になっても知らないよ。」
「亜弥ちゃん、ごっちん、どいて。」
美貴は口についた血を舐め取って立ち上がる。
61 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:06
「美貴たん、その体で・・・?」
「やめときなよ。二人が喧嘩したって・・・。」
「いいからどけよ。」
美貴は真希を横に押して梨華を睨みつける。
美貴の目は梨華しか見ていなかった。
一間置いて、梨華が前に飛び出して美貴の顔を殴りつけた。
それを喰らう直前まで、美貴は全く動こうとしなかった。
「どうして、避けないの・・・?」
「・・・さっきごっちんが守ってくれた、一発分だけもらったんだよ。
 自分にことしか考えてないやつに、美貴が負けるか。」
「じゃあ何、美貴ちゃんは誰のために生きてるって言うのよ?」
「知らないよ。美貴も自分のことを考えてばっかだと思う。けどね、
 誰かを犠牲にしてまで生きたくない。梨華ちゃんとは違うんだよ!」
美貴が飛び出して梨華の顔を殴った。
62 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:07
再び殴り合いが始まる。
飛び散った鮮血が地面を濡らす。
真希と亜弥は目を塞ぎたくなる衝動に駆られるも、決して反らすことなく見届けていた。
数発目の打撃を喰らって、美貴は体をふらつかせる。
それでも、梨華を見る鋭い目は変わらない。
「(どうして・・・あなたは立ってるの・・・?)」
何度も荒い息を吐き出して、梨華は美貴を見つめる。
「(嫌だよ・・・もう、捨てられたくないの。一人になりたくない・・・。)」
込み上げる想いを胸に、梨華は美貴に向かって走り出す。
「お願いだから、倒れてよ!」
「石川、そこまでにしなさい。」
突然の声に、梨華はその方を振り向く。
声の主、圭が二人に歩み寄ってきた。
63 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:08
「やれやれ、そんなに血だらけになって、明日からの仕事どうするわけ?」
「何で、保田さんがここに・・・?」
「ホテルに帰ってもあんたがいなかったからね。携帯にも出ないし、
 探したんだよ。ここら辺であんたが行きそうなとこくらい、
 予想はついてたしね。」
そう言って、圭は真希達に視線を向ける。
「あんた達、美貴の友達?」
「えっ、はい・・・。」
「その子を病院に連れて行くの、手伝ってくれない?もう意識がないみたいから。」
「えっ!?」
真希と亜弥は、急いで美貴に駆け寄っていく。
美貴は立ったまま気絶していた。
「どうして、ですか・・・?」
梨華は泣きそうな顔で圭を見つめる。
64 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/22(水) 00:09
「どうして、美貴ちゃんを名前で呼ぶんですか・・・?私にだって、
 名前で呼んでくれないのに!」
「当たり前でしょ。姉妹なんだから。」
「ええっ!?」
梨華だけでなく、真希と亜弥も驚いた。
「話しはあとよ。病院に行くわよ。」
「保田さん・・・なら、私は・・・?」
「・・・恥ずかしくて、呼べるわけないでしょ。」
圭らしい答えに、梨華は小さく噴出した。
「それと、これだけは覚えておきなさい。あんたは私の大事な
 パートナーなんだから、捨てるわけないでしょ。」
「・・・ハイ!」
「ほらっ、あんたも行くのよ。あの子達、先に行っちゃったわよ。」
「ハ〜イ。」
先ほどまでの不安がまるで嘘のように、梨華の心は晴れ渡っていた。
今更になって痛みに気付き、梨華は圭のあとをついていった。
65 名前:konkon 投稿日:2006/03/22(水) 00:11
更新しました〜。
66 名前:konkon 投稿日:2006/03/22(水) 00:11
>>名無飼育さん
こんなことがあったからですw
普段の彼女からは怒った表情とかは・・・
たまにしか見られませんからね〜www
67 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/03/25(土) 12:15
更新お疲れさまです。
事情によりなかなか来れなかったので、今一気に読ませていただきました。
今の心境は
川*'ー')<作者さんGJやよ
という具合です(何
次も楽しみに待ってます!
68 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:19
美貴が目覚めたのは、病院について二時間後のことだった。
周りには真希、亜弥、梨華の三人と、駆けつけてきた愛が椅子に座っていた。
圭は外に出て電話をしているようだ。
「美貴ちゃん・・・。」
「おっ、気付いたみたいだね。」
「いたた・・・ここは?」
「病院だよ。美貴たん、意識を失ってたんだよ。」
美貴の疑問に亜弥が答える。
美貴は黙って梨華に視線を移す。
「美貴ちゃん、ごめんなさい!」
その視線に気付いた梨華は、大きく頭を下げた。
69 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:19
「梨華ちゃん・・・?」
「あの、私、すごい勘違いをしてて、あなたまで傷つけて・・・。
 何もかも私が悪いの。本当にごめんなさい!」
「えっと、梨華ちゃん、頭を上げて・・・。」
梨華は俯いたまま顔を上げようとしない。
美貴は困った顔をして周りを見渡す。
「梨華ちゃん、お姉ちゃんのこと、好きなんだね?」
「・・・うん。私のことを拾ってくれた、本当に大事な人よ。」
そこでようやく、梨華は顔を上げた。
「ごっちんには話したかもしれないけど、私は美勇伝にいたんだ。」
「そう言ってたね。」
真希が相槌を打った。
70 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:21
「うちの家系ってさ、優等生ばっかなんだ。両親は大きな会社を経営してるし、
 お姉ちゃんと妹は県でトップクラスの学校に行ってる。頭が悪かった私は、
 せめて何か身に付けて目立とうと、バスケをがんばってたんだ。」
梨華は思い出すように話しを始める。
「黒江中学でがんばって、みんなからブラックエンジェルなんて呼ばれて、
 美勇伝高校に推薦されたの。けれど・・・美勇伝の掟って知ってるよね?」
「掟?」
「三年になるまで試合に出れないってやつだよ。」
梨華より先に真希が答えた。
「そう、それでね、一年間は我慢してたんだ。ずっと出してもらえないで、
 親から文句を言われることもあったの。それから少しして、一年の唯が
入ってきて、絵里香も含めた三人でチームを組んだ。レギュラーよりもずっと強い、
 最高のチームだった。」
梨華は一息ついて天井を見上げた。
71 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:25
「それでも監督は出してくれなかった。監督と言い合いになって、
 その時にさ、侮辱した言葉を吐かれたんだ。それを言われて
 つい切れちゃってね。監督を殴っちゃったの。」
「それで、監督が変わったんだね?」
「そうみたいね。私は停学になったんだけど、バスケ部にはいられなくなった。
 バスケがやれないなら学校にいても意味ないから、美勇伝を辞めた。
 そしたらさ、勘当されちゃって家を追い出されたんだ。石川の名を
 汚すお前なんかいらないってね。」
「そんなの、ひどすぎる!」
亜弥の怒った表情を見て、梨華は小さく口元を緩めた。
「何にも持たなかった、全てを失った私は、適当にどこか泊まれるとこを探してた。
 最初のうちは友達の家に泊めてもらってたんだけど、それも続くことはなかった。
 生まれ持った力だけはあったから、誰かに襲われても返り討ちにできたけど、
 すごく寂しかった。所持金もなくなって、公園でただ途方に暮れてた私を
 拾ってくれたのが、保田さんだったの。」
それを聞いて、美貴は思い出していた。
72 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:25
圭は見た目とは違って優しい心の持ち主だった。
過去にも何度か捨て猫を拾ってきたりしたこともあった。
その度に親と言い合いになって、涙を流していた時の記憶が蘇る。
「保田さんは、厳しい言い方をしてたけど、本当に優しかった。
 嬉しかったの。アーティストになるために家を出て、ストリートライブの
 合間にバイトをして、ぎりぎりの生活だったのに私を家に置いてくれた。
 あの人の力になりたかったから、私も音楽を始めたの。保田さんが全てだった。
 そう想ってて、つい・・・。」
梨華はまた顔を下に向けた。
「美貴ちゃんのこと、何にも知らなくて、何も知ろうとしないで
 こんなことになっちゃって、ごめんね・・・。」
「いいよ。もう済んだことだし、仕方ないよ。」
美貴はできるだけ優しく言った。
73 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:26
「正直なとこ、嬉しかったんだ。梨華ちゃんがそれだけお姉ちゃんのことを
 好きでいてくれてさ。傍に梨華ちゃんがいるなら、きっとやっていけるなって、
 そう思えたんだ。これからもお姉ちゃんのこと、よろしくね。」
「美貴ちゃん・・・。」
「美貴のことは心配しないでよ。殴られるのは慣れてるしさ。」
「心配してたんは、あーしの方なんやけどね。」
「・・・ごめんなさい。」
今度は美貴が愛に頭を下げた。
その姿を見て、真希と亜弥が笑い出す。
それにつられて美貴と愛も笑っていた。
梨華にも笑みが零れる。
74 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:27
「話しは終わったの?」
圭がドアを開けて入ってきた。
「保田さん、誰と話してたんですか?」
「マネージャーよ。あんたが階段から落ちて大怪我したってことを理由に、
 テレビ出演を先送りにしてもらったわ。」
「ごめんなさい・・・。」
梨華は小さくなって頭を下げた。
「それと、久住のことを頼んでおいた。あの子は一回家に帰るらしいわよ。」
「そうですか。わかりました。」
「美貴、怪我の方は?」
「なんとか大丈夫だよ。学校にはちゃんと行けるよ。」
「そう、石川と喧嘩してその程度で済むなんて、あんたも大したものよね。」
「まぁね。」
美貴は笑って答えた。
美貴の顔を見て、圭は小さく笑うと、すぐに真剣な表情を美貴に向けた。
75 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:28
「美貴、私達は上に行く。誰にも負けないようなアーティストになる。
 今のあんた達じゃ届かないようなとこまでね。」
「・・・。」
「だから・・・すぐに追いついてきなさい。私達は止まらないわよ。
 だけど、ライバルと呼べるレベルまで喰らいついてくることに、
 期待してるわ。」
「・・・うん!」
美貴は力強く頷いた。
「次に会える日を楽しみにしてるよ。そこの・・・テッテケテー。」
「あ、あーしのことですか!?」
「早口すぎて何言ってるかわからないからね。ピッタリでしょ?」
「アハハハハッ!愛ちゃん、それいいじゃん!」
「美貴ちゃん、笑いすぎやよ!」
「あんたもそうだからね。それと、美貴のこと頼むわね。」
最後にそう言った圭の表情は、妹を想う優しい顔をしていた。
愛も嬉しそうに頷く。
76 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:29
「石川、今回はあんたの負けね。美貴の心は最後まで折れなかっ・・・
 何を人の顔じっと見てんのよ?」
「・・・また名前で呼んでくれなかった〜。」
「・・・美貴、またね。いしか・・・り、梨華、先に外に出てるわね!」
圭は乱暴に扉を開けて出て行った。
初めて名前を呼ばれた梨華は、満面の笑みを浮かべている。
「それじゃ、私も行くね。」
「うん。美貴達もすぐに追いついてみせるからね!」
梨華は一度頷いて立ち上がる。
部屋の扉に手をかけた時、美貴を振り向いた。
「あの、美貴ちゃん、ひどいことしてなんだけど・・・。私と、
 友達になって、くれないかな・・・?」
梨華は小さい声で、もじもじとして聞いた。
77 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:30
美貴は一瞬だけ呆けた顔をして、大きくため息をついた。
唾を飲み込んで次の美貴の言葉を待つ。
「梨華ちゃんってさ、バカ?」
「えっ・・・?」
「何を今更そんなこと言ってるわけ?大体美貴は・・・イヒャヒャヒャッ!」
愛が美貴の頬を抓っていた。
美貴は赤くなった頬を押さえて、涙目をして愛を見る。
「愛ちゃん、何すんのさ?」
「わかりにくい。きっぱり言うんやよ。」
「愛ちゃん、いいよ。私が悪かったんだもん。それなのに友達だなんて・・・。」
「いしかーさんも、ちゃんと聞くがし。」
愛に言われて、梨華は口を閉じた。
78 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:30
「美貴はさ、とっくに梨華ちゃんと友達だと思ってたんだけど?」
「えっ・・・?」
「そう思ってたのって、美貴だけだったのかな?」
梨華はただ口を開けて驚いていた。
美貴のことを傷つけたのに、自分を友達だと言ってくれている
美貴の言葉が信じられなかった。
「後藤も友達だよ〜。一緒にバスケをした仲だしね。」
「あーしもライバル兼友達やわ。」
「えっと、それじゃ私は・・・可愛い子仲間ってことで。」
「亜弥ちゃん、すごいバカっぽいよ。」
「美貴たん、うるさい!」
亜弥と言い合いながらも、美貴達は楽しそうにはしゃいでいる。
自分もその中に入ってもいいのかどうか、戸惑っていた。
79 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:31
「梨華ちゃん、そういうことだからさ。一人だなんて思わないでよ。」
「うん・・・ありがとう。」
梨華の目から一粒の涙が零れた。
それを拭って、すぐに笑顔を美貴に向ける。
「ねぇ、この中にさ、美貴ちゃんの彼女っているの?」
真希と亜弥は即座に首を横に振る。
愛は少し考えるも、断念して二人と同じように首を振った。
「そう、なら平気かな。美貴ちゃん。」
「ん?」
梨華は美貴の隣まで歩み寄り、

チュッ

「!?」
頬に軽くキスをした。
80 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:33
「本当にありがとね。また会おうね〜!」
梨華は手を振って出て行った。
直後に、美貴達に究極と言っていいほどの寒気が襲った。
それは、梨華と対峙した時とは比べ物にならないほどである。
その雰囲気を出しているのは、愛だった。
「ご、後藤、そろそろ帰らないと、なっちが心配するから・・・。」
「わ、私も、明日、バイトがね・・・。」
愛が怖い顔をして立ち上がる。
「あ、愛ちゃん、落ち着いて・・・。」
「・・・。」
「ご、ごっちん、亜弥ちゃ・・・!?」
美貴が二人を振り向いた時、扉が閉まる音が聞こえた。
81 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:33
「あいつら、逃げやがった・・・。」
美貴は恐る恐る愛の顔を見上げる。
愛の手には、先ほどまで座っていたパイプ椅子が振り上げられていた。
「あ、愛ちゃん!ストップスト・・・。」
「美貴ちゃん!今のはどういうことやざーーーっっっ!!!」

ドガンッ!

翌々日の朝、美貴は傷を背負ったまま登校してきた。
その内のいくつかの傷は、愛に殴られたということに気付いたのは、
真希と亜弥の二人だけだった。
82 名前:運命の再会 投稿日:2006/03/25(土) 18:33
更新しました。
83 名前:konkon 投稿日:2006/03/25(土) 18:35
>>哀さん好きの名無しさん
お疲れ様ですw
溜めてでも読んでいただければ嬉しい限りです。
哀さん好きの名無しさんGJ!
84 名前:ピート 投稿日:2006/03/25(土) 18:49
梨華ちゃん個性豊かな人達と友達になれてよかったですねw
にしても、愛ちゃん・・・・怖いですよ・・・w
もしかしたら、愛ちゃん、ミキティより強いかも!?
85 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/27(月) 07:53
美貴ちゃんと圭ちゃんが姉妹ということは、
一応、亜弥ちゃんと圭ちゃんも姉妹ということかな?
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/27(月) 11:40
ヤンタンを聴いた後にここを読むと倍ニヤニヤ出来る自分がいます。
アンリアルなんだけど妙にリアルな2組のカプにこれからも期待します。
87 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:24
ある日の朝、さゆみは目覚まし時計の音で目が覚める。
だが、手を伸ばして目覚まし時計の音を消すと、再び布団の中に潜り込んだ。
「ん〜、あと五分・・・。」
「あと五分、じゃないでしょ。学校に遅刻するよ?」
母親ではない、自分が最も好きな声を聞いて、さゆみはガバッと起き上がる。
起き上がって見上げると、制服姿のれいなが笑みを浮かべて立っていた。
「な、何で、れいながここにいるの・・・?」
「さゆのご両親、旅行に行ってるでしょ。だから、昨日さゆのお母さんから
 頼まれたんだよ。さゆは寝起きが悪いから起こしてやってほしいって、
 鍵を借りたんだ。」
「そうなの・・・ありがと。えっ、さゆみ、まだ寝起き・・・
 れいな、見ないで!見ちゃだめ!」
さゆみは布団を頭から被って顔を隠した。
88 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:25
「寝起きのさゆも可愛いよ。んじゃ、朝ご飯できてるから
 準備が終わったら食べにきてよ。」
れいなはさゆみの部屋から出て行った。
扉が閉まる音を聞いて、そ〜っと顔を出してれいながいなくなったことを確認し、
すぐに学校に行く準備を始めた。
着替えまで済ませて階段を下りていくと、いい匂いが漂ってきた。
リビングにあるテーブルには、れいなが作った朝食が用意されていた。
れいなは椅子に座ってさゆみを見ている。
「さゆ、おはよう。」
「うん・・・おはよ。」
「ご飯食べて、早く学校に行こう。」
「うん・・・。」
れいなの前の椅子に座って、手を合わせて頭を下げる。
89 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:26
「いただきます。」
「どうぞ。」
れいなはさゆみを見たまま食べようとしない。
自分を見つめる視線に熱が帯びたように感じる。
普段のれいななら、すぐにご飯を食べて猫みたいにゴロゴロと
寝そべっているはずだ。
さゆみはお椀越しにれいなを見る。
「美味しい?」
「うん・・・。」
「ならよかったよ。それにしても、さっきからうんしか言ってないね。
 さゆ、どうかしたの?」
「ううん!どうしてもないの!」
さゆみは慌てて首を横に振った。
90 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:27
れいなはクスクスと笑っている。
こうして二人だけで朝食を食べていると、新婚のような気がして、
さゆみの顔は真っ赤に染まっていた。
「「行ってきま〜す。」」
誰もいない家に、いつも通りの声をかけて出る二人。
並んで歩いていて、ようやく違和感を感じることができた。
まず、隣にいるれいなの方が、さゆみよりも僅かにだけど身長が高い。
心なしか胸も出ているようだ。
顔立ちも整っていて、下ろした髪もしなやかで、高校生とは思えないほどとても綺麗だ。
何よりも不思議に思うことは、
「さゆ、さっきから元気ないね。本当にどうかした?」
れいなが標準語で話していることだ。
91 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:28
教師やバイトの上司に対しては標準語を使っているが、普段の生活では
まず使うことのなかった。
れいなはさゆみに顔を寄せて覗き込む。
「調子悪いの?風邪でもひいた?それとも・・・れいな、何かしたかな?」
「そ、そんなことないの。今日も可愛いもん!」
「フフッ、可笑しなさゆ。でも、そこもまた可愛いんだけどね。」
れいなは髪を梳かすようにして頭を撫でる。
自分よりもはるかに大人っぽく、まるで別人のようにも感じる。
可愛いという言葉を流さずに受け止める、受け止めてほしいけど受け止めてほしくない、
矛盾した考えがさゆみを混乱させる。
それも束の間、すぐに考えるのをやめにして、せっかく甘えさせてくれているのだから、
れいなに寄り添って歩き始めた。
92 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:28
学校に入るまでに、いくつもの視線を浴びていることに気付いた。
ようやく自分の可愛さがわかった、とは思えなかった。
さゆみもそこまでバカではない。
生徒達はれいなに目を向けていた。
「田中さん、カッコイイよね〜。」
「綺麗だよね。あんな風になりたいな。」
そんな声が周りから耳に届いてくる。
文化祭で人気が出たとはいえ、ここまで注目を浴びることはなかったはずだ。
れいなはというと、誰かと目が合っては笑みを見せている。
さゆみからしたらあまり面白い光景ではない。
そんな時、れいながさゆみの膨らませている頬を押した。
93 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:29
「さゆ、怒らないの。れいなの想いはさゆだけだからさ。」
「れいな・・・。」
「さゆは笑ってた方がもっと可愛い。」
思いがけない言葉に、さゆみは苦笑いを浮かべる。
さゆみの知っているれいなからは、あまりにもかけ離れている。
それも知らずに、れいなはさゆみの手をしっかりと握って歩いている。
しばらく歩くと、後ろに人の気配を感じた。
さゆみが振り向いた先には、亜弥と絵里がついてきていた。
「絵里、おはよう。」
「さゆ、おはよ〜。」
「あっ、松浦さん。おはようございます。」
「おはよ。田中ちゃん、相変わらず可愛いね〜。」
さゆみは目を見開いて驚いた。
さゆみに対抗する自分大好きナルシストの亜弥が、れいなを可愛いと言ったのだ。
94 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:29
何かが起こるという恐怖心に唆され、れいなの後ろにしがみついた。
「さゆ、何してんの?」
「だって、松浦さんが、れいなを可愛いって・・・。」
「ニャハハッ、何言ってんの?誰が見たって田中ちゃんの方が
 可愛いじゃん。ね?」
「そうですよね〜。松浦さんもさゆも、もちろん絵里も可愛いけど、
 れいなには勝てないよ〜。」
「えっ?えっ、えっ・・・?」
「さゆ、行くよ。」
れいながもう一度さゆみの手を握って歩き始める。
亜弥達は、なぜかさゆみとれいなの後ろについて歩いている。
95 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:30
「あの〜、どうしてさゆみ達の後ろを歩いてるんですか?」
「まぁまぁ、私達も目立ちたいもん。田中ちゃんの後ろにいれば、
 自然と私達も見てくれるでしょ?」
そこだけは変わらないんだ、そう思うと少し安心した。
教室に入って自分の席についた途端、無意識の内に大きなため息をついていた。
横の席にいるれいなは、人気があって愛想もよく、端整かつ綺麗な上に上品だ。
あまりにもさゆみの理想的すぎるために、頭が追いつかない。
そうでなくても、何かが胸の内に引っ掛かっていて落ち着かないでいる。
横目でれいなを見つつ、さゆみはかばんから鏡を取り出した。
96 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:31
一時限目の授業は英語だ。
真里の英語を聞いて、さゆみは眠くなってきた。
英語は得意な方ではない。
むしろ苦手分野に入る。
「Cathy was running. It kept running to run away from ahead
and something ahead.Because・・・。」
教科書から目を外してれいなを見た。
れいなは真剣に教科書を読んで、真里の話しを聞いているようだった。
教科書の間に漫画が挟まれていないことに、異様な空気を感じた。
「んと、次の文を・・・道重、読んで。」
「えっと〜、聞いてませんでした。」
さゆみはさも当然のように答える。
97 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:32
「ちょっと待て!聞いてませんでした、じゃないだろ!」
「じゃあ、わかりません。」
「じゃあって何だよ!?あのさ、わからないから勉強してんだろ?」
「エヘッ♪」
真里は大袈裟と言っていいほど壮大なため息をついた。
「・・・もういい。お前の相手してると疲れる。代わりに田中、読んでみて。」
「はい。It is scary and it is reluctant. It is good when doing very.
 It is not possible to run away any longer・・・。」
聞いていて身震いするほどの綺麗な発音だった。
英語の苦手なさゆみでも、れいなの言葉は例え相手が外人でも伝わると思った。
98 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:33
「さすがは田中だね。よく予習してるよ。次は・・・。」
さゆみはれいなの肩を突ついて振り向かせる。
「れいな、すごい英語上手だったの。」
「そんなことないよ。れいなよりも上手い人はたくさんいるって。」
れいなは口元を緩ませてそう答えた。
「・・・ふ〜ん。」
なんとなくさゆみは不満げに視線を反らす。
「(つまんない・・・。)」
授業とは別の意味で、何かがつまらないような気がした。
それをあえて口に出すようなことはしなかった。
99 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:34
二時限目、日本史。
「じゃあ、次の問題を、田中さん。」
「はい。徳川家光は、江戸幕府第三代将軍であり、家諸法度・参勤交代の
 制などを発令し・・・。」

三時限目、PC教室。
「おおっ、田中すごいな。もうjavaもほとんど理解したのか?」
「いえ、まだまだですよ。普通のホームページくらいしか作れませんし・・・。」

四時限目、数学。
「次のxとyの関係がわかる人・・・あっ、田中さんはわかる?」
「(x+2)(x-3)=0となることから、x=3、-2です。」
こうして午前の授業を終えた。
100 名前:あなただから 投稿日:2006/03/28(火) 22:34
さゆみは適度に話しを聞いたくらいだったが、れいなはズバ抜けた知能で
クラスを沸かせていた。
誇らしいとも思う。
けど、嬉しくはなかった。
嫉妬したわけではなく、クラスメイト達と話しているれいなを見て、
一番傍にいるはずなのに、どこか寂しさが付き纏っていた。
101 名前:konkon 投稿日:2006/03/28(火) 22:35
更新しました〜。
地震発生w
102 名前:konkon 投稿日:2006/03/28(火) 22:39
>>ピートさん
個性が強い人ばっかですね〜w
ミキティと愛ちゃん、どちらが強いかは言うまでもな(ry

>>85:名無飼育さん
考えたこともなかった・・・。
ですけど、あややとは姉妹のようなもの、圭ちゃんとは
ある意味本物の姉妹ですから、少し違うようなそうでないような・・・
頭の悪い自分ではわかりません(汗)

>>86:名無飼育さん
この二組のCPが自分の超お気に入りですw
こんごまでヤンタン出れたらよかったですね〜。
103 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/03/29(水) 12:57
更新お疲れ様です。
キャーれいなったら。容姿端麗 頭脳明晰(゚д゚*)
哀ちゃんも噂されてたらいいなあと思う今日この頃ですw
次も楽しみに待ってます!
104 名前:あなただから 投稿日:2006/04/01(土) 23:52
昼休み、さゆみとれいなは昼食を食べ終えて、まったりとした時間を味わっていた。
れいなは委員会の仕事でもない限り、昼休みに教室を出ようとはしない。
二人きりでいられるこの時間が好きだった。
だが、その時間はあっけなく潰れることになる。

ガラガラッ!

「れいな!助けてほしいやよ!」
教室の中に愛が飛び込んできた。
手には教科書とノートが抱えられている。
「あーし、次ここの問題指されるの!解き方教えて!」
愛はれいなの机の上に教科書を開いて見せる。
105 名前:あなただから 投稿日:2006/04/01(土) 23:53
「愛ちゃん、後藤さんや紺ちゃんに聞けばいいんじゃないですか?」
「あの二人どっか行っちゃってるんやよ〜。美貴ちゃんもわからん言うとるがし、
 もうれいなしか頼れんの。」
「わかりましたから、泣きそうな顔しないでくださいよ。いいですか・・・。」
れいなはスラスラと問題を解いて、それを愛が真剣にノートに書き込んでいる。
高校三年の問題、さゆみには全く解らなかったが、れいなには解けるようだ。
「・・・っていうわけです。わかりました?」
「さすがはれいなや。ありがとね!」
愛は嬉しそうにして教室を出て行った。
「・・・れいな、どうして愛ちゃんが解らない問題まで解けるの?」
「前に予習したことある問題だったからね。それより・・・。」
また教室の扉が開いた。
そこには、ジャージ姿の真希と雑誌を抱えているあさ美が立っていた。
106 名前:あなただから 投稿日:2006/04/01(土) 23:56
「田中ちゃん、勝負だ!」
「後藤さんも負けず嫌いですよね。わかりました。」
れいなはすっと椅子から立ち上がる。
「れいな、どこに行くの?」
「体育館だよ。この時間は、後藤さんの練習に付き合ってるでしょ。」
「そうだっけ・・・?」
れいなは、さゆみと同様に運動が苦手なはずだ。
そのために、れいながスポーツにおいて真希に付き合えるとは思えなかった。
「うん。ほらっ、さゆの応援があればがんばれるからさ、一緒にきてよ。」
れいなに手を差し出される。
少し躊躇するも、さゆみは手を取って立ち上がった。
107 名前:あなただから 投稿日:2006/04/01(土) 23:57
「これでっ!」
「やらせない!」
ボールを持つれいなと、ゴールを塞ごうと真希が跳び上がる。
真希はれいなの持つボールに手を伸ばす。
ボールに触れた瞬間、れいなが急速的に回転を起こした。
その反動で真希の手が弾かれる。
「やばっ・・・。」
「ヤァッ!」

ガゴンッ!

回転しながらボールをゴールに叩きつけた。
真希は悔しそうに上を仰ぐ。
108 名前:あなただから 投稿日:2006/04/01(土) 23:58
「あ〜、また負けちゃったか・・・。」
「どうですか?れいなの編み出した技、ローリング・ダンクです。」
「すごいよね・・・よし、後藤も練習してみるよ!」
真希はボールを持って、今のれいなのようなシュートの練習を始める。
さゆみは体育館の壁に寄りかかって、二人の試合を見ていた。
結果はれいなの勝ちだった。
真希がバスケ部のエースであったことはよく知っている。
その真希に勝ったれいなの身体能力は、まさに最強の一文字だけだった。
「れいな、すごすぎるの・・・ん?」
ふと横を見ると、あさ美が真剣に料理の雑誌を見ていた。
そのページには、一流のプロが作ったであろう、鮮やかな料理が写っていた。
109 名前:あなただから 投稿日:2006/04/01(土) 23:59
「紺野さん、何見てるんですか?」
「これ、食べてみたいな〜って思ってね。後藤さんでも作れないようだから、
 きっと無理なんだろうけどね〜・・・。」
あさ美は悲しそうにため息をついた。
そこに、ジャージを肩にかけたれいなが近寄ってきた。
「さゆ、終わったから戻ろう・・・紺ちゃん、何見てるんです?」
「ん〜、なんでもないよ・・・。」
「どうかしました・・・あ〜、その料理、れいな作ったことありますよ。」
「本当に!?」
あさ美は目を輝かせてれいなを見上げる。
「ええ、今度よければ作りましょうか?」
「うん!うん!約束だよ!」
「それじゃ、またの機会にでもね。さゆ、行くよ。」
満面の笑みを浮かべたあさ美に見送られて、さゆみは歩き出した。
110 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:01
放課後、この日はバイトも何もないので、れいなと一緒に帰ることにした。
二人で教室を出ようとした時、絵里が泣きそうな顔で歩いてきた。
「絵里、どうしたの?」
さゆみが声をかけると、絵里は小走りに駆け寄ってきた。
「さゆ〜、どうしよ〜・・・。」
「何がどうしたの?」
「これから松浦さんと遊びに行くのに、体育ではりきりすぎて、
 髪がぐしゃぐしゃで治らないの・・・。」
絵里の髪は所々乱れていて、確かに綺麗とは言えない。
さゆみはなんとなくれいなに顔を向けた。
れいなはクスッと笑って絵里の腕を掴んだ。
111 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:02
「そのくらい、なんとでもなるよ。おいで。」
「・・・れいな?」
れいなは絵里を教室に入れて、自分の席に座らせる。
そして、自分のかばんの中からポーチを出した。
さゆみはそれを見たことがない。
「絵里、じっとしててね。」
ポーチから小型の櫛を取り出して絵里の髪を梳かしていく。
たまに香水も髪に馴染ませて、ほんの十分ほどで絵里の髪は綺麗に整った。
れいなは絵里の前に鏡を置いて、髪の具合を見せる。
「どう?これで松浦さんとデートできるでしょ?」
「れいな・・・ありがと〜!」
「ん、やっぱ笑ってる絵里の方がずっと可愛いよ。これからは気をつけてね。」
「うん!行ってくるね〜。本当にありがとね!」
絵里は嬉しそうにして走っていった。
112 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:06
「れいな、あのさ・・・。」

バタンッ!

閉められたばかりの扉が勢いよく開いた。
突然、美貴が荒い息を吐き出して中に入ってきた。
「れいな、お願いがあるの!」
「もうお金は貸さないよ。」
「そんなこと言わないでよ〜。れいなたくさん貯金あるでしょ?」
「美貴ねえ、いい加減にしないとれいなも怒るよ。また無駄遣いしたの?」
「だってさ、すごい可愛いバッグがあったんだもん。」
「これ以上貸したら美貴ねえのためにもならないよ。あきらめなって。」
美貴の目つきが厳しくなる。
話しの推測からして、美貴がれいなから金を取り上げようとしているようだ。
113 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:07
「なら・・・力づくで奪うまでよ!」
美貴が猛スピードで飛び出す。
同時にれいなも前に出る。
「このっ!」

パシッ!ズドンッ!

れいなが美貴の振るった腕を掴んで、地面に叩きつけた。
美貴は苦悶の表情で倒れている。
「さゆ、行こう。もう知らないよ。"藤本さん"なんか放っておこう。」
「えっ・・・。」
れいなは片手にかばんを持って、片手でさゆみの手を掴んで歩き始める。
114 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:09
「ちょっ、ちょっと待ってよ!ねえ、れいな!」
足を止めて美貴を振り向く。
「うん、わかった!美貴が悪かったよ。絶対にもう迷惑かけないから、
 見捨てないで・・・。れいなに、嫌われたくないよ・・・。」
「わかってもらえればいいんだよ。れいなだって、美貴ねえって呼んでいたいよ。
 他人扱いしたくない。だから、美貴ねえもしっかりしてね。」
「うん・・・ありがと・・・。」
美貴は泣きながらそう言った。
美貴の泣き顔を初めて見たものだから、さゆみは珍しそうにその光景を見ていた。
しかし、れいなに手を引かれたので先を歩むことにした。
115 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:10
家に着いて、着替えを終えてから鏡の前でぼーっとしていると、
呼び鈴が鳴った。
この日も親がいないので、れいなが泊まりにくることを思い出す。
さゆみは急いで階段を駆け下りて、玄関の扉を開ける。
「れいな、早かったの。」
「さゆと少しでも長く一緒にいたいからね。」
れいなの笑顔がやけに眩しく感じる。
ここまで素直なれいなは見たことがなかった。
今日一日だけで、どれだけの疑問が頭の中を駆け巡ったのだろう。
あまりにもさゆみの理想的すぎた。
それでもれいなをこのまま待たせているわけにはいかないので、
家に上げることにした。
二階に上がってれいなを部屋に入れる。
その瞬間、後ろから抱きしめられた。
116 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:12
胸の鼓動が一段と速くなる。
さゆみはそーっと首を後ろに回した。
「さゆ・・・好きだよ。」
顔を向けたと同時に、れいなが口付けた。
体の力が抜けるくらいに、甘く、切ないキスだった。
思わず力が抜けてしまい、倒れそうになるところをれいなが抱き止める。
れいなに抱きかかえられて、さゆみはベッドの上に下ろされていた。
「待って、れいな・・・。」
さゆみの上にれいなが圧し掛かる。
すごく真剣な目にさゆみは思わず目を反らした。
117 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:14
こんなシチュエーション、初めての経験だ。
れいなはさゆみが誘わなければ、本心を曝け出すようなことはしないのだから。
キスをしてくることはおろか、れいなから抱きしめるようなことも滅多にない。
れいなはさゆみの頬に手を添えて、自分に向かせる。
「これがさゆの望んでた王子様でしょ。何が不満なの?」
「不満は・・・ないの。」
欠点の全く見当たらない王子様に迎えにきてほしい、そう思っていた時期もあった。
それは、心の片隅では今でも望んでいるのかもしれない。
「(けれど、さゆみは、本当は・・・。)」
れいなの顔が近づいてくる。
口唇が触れ合おうとした瞬間、さゆみは目を閉じた。
118 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:15
「・・・っていう夢を見たの。」
「「「へ〜・・・。」」」
ライブハウスの楽屋の中、楽しそうに話すさゆみの話しを、美貴、愛、絵里の三人と、
遊びにきた真希とあさ美が聞いていた。
美貴達はなんとも言えないような表情を浮かべる。
「美貴、そんなに金遣い荒くないし。しかもれいなに喧嘩で負けるとはね・・・。」
「あーしやって、れいなに勉強を教えたことはあっても、教わったことはないやよ。」
「れいなに髪を梳かしてもらうくらいだったら、松浦さんに頼むもん。」
「私、そこまで食い意地張ってないと思うけどな〜。」
「ローリング・ダンクか〜。田中ちゃん、すごい技持ってるんだね。」
「いやいや、夢の話しだから!」
真希の呟きに美貴が突っ込んだ。
直後に、美貴はじっとさゆみを睨みつける。
119 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:17
「確かさ、夢って人間の欲望を見せたりするんだよね。ってことは、
 さゆは美貴達をそういう風に見てたってことかな?」
「藤本さんでも夢を信じるなんて、何気にロマンティストなの。」
「違うでしょ!しかも何気にって何だよ!?」
「アハハッ、みっちーも面白いね〜。」
「後藤さん、笑ってないで、そろそろ止めた方が・・・。」

バタンッ!

勢いよく扉が開いてれいなが駆け込んできた。
「ごめんなさい!補習で遅れたっちゃよ!なんとか逃げようと思ったけん、
 中澤先生に見つかっちゃったとね・・・?」
美貴、愛、絵里の三人は、れいなの周りを取り囲む。
120 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:18

ビシッ!バシッ!コンッ!

「痛っ!遅れたのは悪かったけん、そんなに怒らんでも・・・。」
「やっぱり〜、これがれいなだよね〜。」
「うん。本物のれいなやよ。」
「何でもできちゃうれいななんて、れいなじゃないよ。バカでアホで
 真っ直ぐなれいながれいなだよ。」
「何言うと!美貴ねえ酷いっちゃよ!」
れいなを美貴がからかって、楽屋の中が騒がしくなる。
さゆみは頬を緩ませて、楽屋から出て一足先にスタジオに向かった。
ステージを見上げると、ドラムが根を生やしたように置いてある。
そこで真剣に叩いているれいなを思い浮かべた。
121 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:21
「完璧な王子様もかっこいいと思うの。でも、さゆみは・・・。」

ドタドタドタッ!ガチャッ!

れいなが息を切らしてスタジオに入ってきた。
「さゆっ!聞いたっちゃよ、なんちゅう夢を見てるとね。」
れいなはぶつぶつと呟きながらさゆみの元に向かう。
「れいな、夢の中のれいなにやきもちなの?」
「そ、そういうわけじゃなかよ。それは、れいなは勉強もできんし、
 運動も苦手っちゃ。料理はそこそこできても後藤さんには及ばない、
 美貴ねえみたいに喧嘩やって強くない。ただ・・・。」
さゆみの顔を引き寄せてキスをした。
122 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:25
思いがけないれいなの行動に、さゆみの胸が高鳴りを上げる。
れいなは口を離すと、恥ずかしそうに顔を反らす。
「れ、れいなのさゆを想う気持ちだけは、さゆの理想のれいななんかに
 絶対負けないっちゃよ。」
「れいな・・・。」
「何かこう、あの・・・あ〜、もう!何が言いたかったか混乱して忘れたっちゃよ。
 さゆ、そろそろ練習始めるとね!美貴ねえ達はまだ話してるみたいやし、
 先に練習してるっちゃね。」
れいなはさゆみの手を引いてステージに上がる。
さゆみを握る手が、すごく熱くなっているのがわかる。
心の奥にある深い想いが伝わってきたように感じて、さゆみの頬も紅く染まる。
123 名前:あなただから 投稿日:2006/04/02(日) 00:27
れいなはスティックを持ってリズムをとり始めた。
さゆみも脇に置いておいた自分のベースを肩にかける。
「さってと、今日も全開でいくけん、さゆもついてくるとよ!」
「さゆみだって負けないの。」
れいなのドラムに合わせてさゆみもベースを弾く。
「(さゆみの理想の王子様とはかけ離れてるけど、れいなはこれでいいの。
 最初から完璧にできる人じゃなくて、少しづつでも前に進もうとする
 あなただから、好きになったんだよ。真っ直ぐで、純粋な強さを持つ
 れいなは、誰よりもかっこいいの。さゆみは、今のれいなが一番好き・・・。)」
横目にれいなを見つめながら、徐々にエンジンを上げていく。
最大限にまで引き出されたボリュームと同じように、さゆみの鼓動が鳴り止むことはなかった。
124 名前:konkon 投稿日:2006/04/02(日) 00:27
更新しました〜。
125 名前:konkon 投稿日:2006/04/02(日) 00:28
>>哀さん好きの名無しさん
こんなれいながいたらすごいですねwww
愛ちゃんは・・・う〜ん、どうでしょね(汗)
126 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/04/02(日) 00:32
更新お疲れ様です。
リアルタイムで読みました〜
作者さんこうきましたか!まんまと騙されました(゚∀゚*)
ラブラブっぷりがとても微笑ましいです。
次も楽しみに待ってます。
127 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:30
季節も冬に入り、本格的に寒くなってきた頃だ。
吉澤ひとみは、朝比奈学園の正門の前に立っていた。
今の時刻は夕方、帰り際にひとみを見た生徒達は、声を上げたり
その容姿に見惚れていた。
その生徒達に気付くと、ひとみは柔らかい笑みを浮かべて見送っていた。
男に見間違えるほどの端整な顔立ち、モデルのような凛とした容姿、
誰もが目を奪われる。
ひとみが士鬼面の生徒だということに、誰も気付かない。
校章をしていなければこんなもんかと、ひとみは思っていた。
「くっそ〜、まだ出てこねぇのかよ。藤本美貴ちゃんは・・・。」
一度腕時計を見て、朝比奈学園を見上げる。
ひとみがここにいる理由は、美貴に会うためだ。
下校時間を狙ってきたのだが、美貴はまだ出てこない。
128 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:32
この日は、三年生は午後から受験の講義があった。
受験をしない生徒は、講義を受ける必要がないので午前中で終わったのだ。
美貴は早々に帰ったことを、ひとみは知らない。
「しゃ〜ね〜、入ってみっか。」
別に今日でなくてもいいのだが、自分の性格が気まぐれだと知っているので、
次にくるのがいつになるのかわからない。
今日にしたのもなんとなくだ。
それでも、できることなら年内に済ませようとここまできたのだ。
美貴の通うの高校にも興味があったので、ひとみは私服姿でも気にせずに校舎の中へと入っていった。
大半の生徒が下校したあとのようで、人はほとんどいない。
下駄箱の隣に置いてあったスリッパを履いて、適当に周りを物色しながら廊下を歩いていく。
10分ほど歩いて、ひとみは立ち止まった。
129 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:32
「広すぎだろ・・・ここはどこだ?」
ひとみは迷っていた。
初めてこの学校に入った者は、確実といっていいほど一度は迷うことがある。
「ん、そこの、何してんだ?」
「へっ?」
ひとみが振り返ると、真里が訝しげな顔をして立っていた。
「お前、ここの生徒じゃないだろ?こんなとこで何してんだよ?」
「ん、あんたこそ生徒じゃないでしょ?中学生?それとも小学・・・。」

スパン!

真里の持っていたノートで頭を叩かれた。
130 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:34
「いった〜!暴力反対!」
「うるさい!目上の人には敬語を使えって習わなかったのか?」
「目上って・・・あんた教師?」
「そうだよ!どうせおいらは小さくて教師には見えないよ・・・。」
真里は泣きそうな顔で落ち込んだ。
ひとみは彼女をどうにかしようと頭を働かせる。
「えっと・・・あっ、先生!藤本美貴って生徒、知りませんか?」
「藤本?藤本はうちのクラスだけど、何の用だ?」
「実はですね、うちはあの子の親戚なんすよ。それで、今日は美貴ちゃんの
 家に泊まる予定だったんすけど、家にはいないようでしてね。携帯にも
 繋がらないから、彼女の学校に迎えにきたってわけです。」
ひとみは最もらしい嘘をついた。
それを真里は信じているようで、頷きながら話しを聞いている。
131 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:35
「そうだったのか・・・あんた、名前は?」
「えと・・・い、石川梨華です。」
ひとみはここでも嘘をついた。
本名を知られるとまずいと思ったからだ。
「ところで、彼女のクラスはどこですか?」
「ここの棟の三階だけど、まだいるとは限らないよ。校内放送で
 呼んでみるから、とりあえず職員室に・・・。」
「わかりました!どうもです!」
ひとみは軽く頭を下げて、階段を駆け上って行った。
「何なんだ・・・?藤本の親戚ね〜。」
真里はしばらくの間階段を見つめたあと、職員室に向かって歩き出した。
132 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:36
「しまった〜!クラス聞き忘れた・・・。」
三階は基本的に三年のクラスが独占しているので、どのクラスかわからない。
とはいっても、ほとんどのクラスは誰もいなくて、生徒がいたとしても
二・三人しか残っていない。
「やっぱ帰ったのかな・・・ん?」
先にあるクラスから、誰かが言い合っている声が聞こえてきた。
そっと覗いて見ると、一人の生徒が二人の生徒に責められていた。
責められている生徒はあさ美だった。
「どうしてあんたなんかが後藤さんと付き合ってんのよ!?」
「ちょっと勉強とかバスケができるからって、いい気にならないでよ。」
「そんなこと言われても、それは個人の意思だから・・・。」
あさ美は苦笑いをして答える。
どうやら、真希があさ美と付き合っていることが、気に入らないようだ。
133 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:36
「何をカマトトぶってんじゃないわよ!」
一人の生徒が、あさ美に向けて手を振り上げた。

パシッ!バッ!

「なっ・・・。」
あさ美は振り上げられた手を弾き、生徒の顔の前で拳を寸止めをした。
その生徒はへなへなと地面に座り込む。
「あっ、ごめんなさい。こう見えても、昔は空手をやってたので・・・。」
あさ美は心配そうに座り込んだ生徒を覗きこむ。
「こっ、このっ・・・。」
「そこら辺にしときなよ。」
あさ美が振り向くと、ひとみが教室の中に入ってきていた。
134 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:37
「な、何よ、あんたは・・・。」
「そう怒らない。ほらっ、可愛い顔が台無しだよ。」
ひとみが立っていた生徒に顔を近づけて頬に触れる。
その生徒は顔を赤らめて、教室を飛び出して行った。
「ま、待ってよ〜!」
座り込んだ生徒も出て行って、教室にはあさ美とひとみの二人だけになった。
ひとみは笑顔であさ美に近寄っていく。
「あの、あなたは・・・?」
「うちは吉澤ひとみ。よろしくね。君は?」
「わ、私は、紺野あさ美といいます。」
「そう、んじゃコンコンだね。コンコンはこれから空いてる?」
「コン・・・?ええと、これから帰ろうかと・・・。」
「んじゃ、これからうちに付き合わない?面白いとこに連れてってあげるよ。」
その言葉にあさ美は首を傾げた。
135 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:38
いきなり見ず知らずの人間に言われれば、誰でもそうなるだろう。
しかし、ひとみはあさ美のかばんを手に持って、あさ美の手を引いた。
「よし、行こうか!」
「あ・・・。」
あさ美は抵抗することなくひとみについていた。
なぜ抵抗しなかったかはわからない。
なんとなく、自分のよく知っている人と同じ雰囲気を感じていた。
教室を出た瞬間、横から出てきた腕がひとみの腕を掴んだ。
そこには、真希が怖い顔をして立っていた。
「後藤さん・・・。」
「吉澤ひとみ・・・何であんたがここにいるの?」
決して忘れることのない真希は、士鬼面での出来事をしっかりと覚えていた。
136 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:39
「ん〜と、ごっちんだっけ?久しぶりだね。」
ひとみはあさ美の手を離すと、二人を交互に見つめる。
「質問に答えなよ。何であんたがここにいるの?」
「そう怖い顔すんなって。うちは藤本美貴ちゃんに会いにきただけだよ。」
「ミキティに何の用?」
「この間はうちの負けだった。だから、リベンジってわけじゃないけど、
 めちゃくちゃ強かったからもう一回戦いたいんだよね。」
ひとみは楽しそうに答える。
「だったら、紺野は関係ないじゃん。それに、ミキティに手を出すやつは
 後藤が許さない。」
真希の目つきが一層険しくなる。
137 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:40
「別に喧嘩するわけじゃない。ボクシングの試合やってくんないかなってね。
 コンコンも興味があったらやってほしかっただけだよ。それとも、
 ごっちんもやりたい?」
「誰がそんなの・・・。」
「あ、でもいいや。一度うちに負けたやつには興味ないから。」
「何をっ!?」
「ん?ごっちんはうちに勝てると思ってんの?」
「当たり前だよ。今だったらあんたにだって・・・。」
「よし、それなら今から一時間後に駅前集合ね。決着を着けようよ。
 ちなみに逃げたら負けだから。じゃ〜ね〜。」
ひとみは手を振って去って行った。
今更になってひとみに仰がれていたことに気付く。
138 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:41
「後藤さん、今日は帰られたんじゃないんですか?」
「下駄箱で新垣に会ったんでね、バスケの練習に付き合ってたんだよ。
 さっき終わったばっかだったから、紺野を待ってることにしたんだ。」
「そうだったんですか。あの・・・。」
「高橋はどうしたの?一緒に委員会だって言ってたよね?」
「愛はバイトがあるので、先に帰りました。」
タイミングが悪いと、真希は心の中で毒づいた。
「あの、吉澤さんって、後藤さんのお友達ですか・・・?」
「別に友達じゃないよ。よくわかんないやつ・・・。」
不満があるものの、ここで逃げたくはない。
仕方なく、真希は一度帰ってから駅に向かうことにした。
139 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:42
約一時間後、真希は駅の前でひとみを待っていた。
真希の隣では、あさ美が不安そうな表情で真希を見つめている。
帰ってもいいと言ったのだが、頑として首を縦に振ろうとはしなかった。
そろそろ時間だというのに、ひとみの姿はなかった。
「ごっめ〜ん!間に合ったかな?」
ひとみが駆け足で真希達の元へと向かってきた。
ひとみは軽く息を切らして、笑顔で真希達に手を上げた。
「いや〜、悪いね。そこのパン屋のベーグルが美味くってさ、
 つい食べ歩いちゃってたよ。一つ食べる?」
手に持っていた袋を二人に見せる。
「別にいらない。」
「マジでか?うまいよ〜。コンコンは?色々あるから、好きなの食べていいよ。」
「あっ、えっと・・・い、いただきます。」
真希が気になってはいたが、食欲に負けてあんパンを一つ手に取った。
140 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:42
「あっ、美味しい!」
「でしょ。ごっちんも無理せず食べなって。ほらっ。」
ひとみは真希の手を取ってパンを渡した。
真希は眉間に皺を寄せてパンを掴んだ。
ひとみのことが気に入らないはずなのに、なぜか彼女のペースに振り回されている。
士鬼面であるということを除けば、なぜ嫌いなのかもわからなくなってきた。
パンを三口ほどで頬張ると、ひとみを睨みつけた。
「で、どこで決着つけるわけ?」
「まぁ、そう急ぐなよ。ついてきな。」
ひとみが歩き出したので、真希はひとみについて歩き始めた。
その後ろを、あさ美がハムハムと食べながらついていく。
141 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:43
「ところでさ、ごっちんの着てるジャンパーってカッコいいよね。
 うちもそういうの欲しいな〜。どこで売ってんの?」
「・・・さあね。昔に買ったやつだから、忘れちゃったよ。」
「ふ〜ん。ごっちんってさ、O型でしょ?」
「・・・何でわかるの?」
「嘘がバレバレ。顔にかいてあるよ。そんなにうちに教えたくないかな〜?
 まあいいや。けど、ごっちんとは趣味が合いそうだね。」
「べ、別に何で・・・。」
「照れるなって!うちもO型なんだよ。そういえばさ・・・。」
ひとみは真希の隣に並んで、ベラベラと話している。
真希は少し戸惑いながらも、ひとみを拒絶することはできない。
その理由は、あさ美だけは気付いていた。
142 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:44
真希とひとみを見て、楽しそうに頬を緩める。

ドンッ

「キャッ!」
突然、路地裏からいかにも柄の悪そうな二人の男達が出てきた。
「おい、何してくれてんだよ。」
あさ美の持っていたパンが、男の服についたようだ。
ぶつかってきたのは男の方だが、それを聞き入れるわけもない。
あさ美は怯えた表情をして立ち尽くしていた。
真希達は気付いていないようで、先を歩いている。
143 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:44
「どうするんだって聞いてんだろ?これ、すげぇたけぇんだぞ。」
「えっと、あの・・・。」
「お前、ちょっとこいよ。」
男に手を引っ張られる。
恐怖で声を出すことすらできなかった。
「いいからこいよ。お前が悪いんだからよ・・・。」
「悪いのはお前の方だろ。」

ドゴッ!

横から出てきた拳が、男の顔を殴り飛ばした。
144 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/04(火) 23:45
「女の子を泣かせようなんて、それでも男かよ?」
ひとみは冷徹な目で倒れている男と、立ち尽くしている男を睨みつける。
「て、てめぇ!俺らが誰だかわかって・・・。」

バキッ!

真希の飛び蹴りが男の後頭部を打ちつけた。
男は前に倒れ込んだ。
「誰であろうと、紺野に手を出すやつは後藤が許さない。」
真希はそっとあさ美を抱きしめた。
「紺野、大丈夫だった?怪我はない?」
「は、はい・・・。」
「ごっちん、さっさとここから離れよう。めんどいことになるのは
 ごめんだからね。」
「・・・わかった。紺野、行くよ。」
真希はあさ美の手を引いて、ひとみと一緒に歩き出した。
145 名前:kon 投稿日:2006/04/04(火) 23:45
更新です。
146 名前:konkon 投稿日:2006/04/04(火) 23:46
>>哀さん好きの名無しさん
夢の中の世界、たぶんさゆに一番似合うのではとw
れいなも素直でキャワッにしてみました♪
147 名前:konkon 投稿日:2006/04/10(月) 01:10
「ごっち〜ん、悪いんだけど、手加減はしないよ。」
「当たり前だよ。手加減した時点で、あんたの負けだ。」
「ふ〜ん、言ってくれるね。まぁ、言うだけならいくらでもできるもんね。」
ひとみは薄ら笑いをする。
その表情を見て、真希は少し目を細める。
「よっぽど自信があるようだね。後藤に勝てると思ってるわけ?」
「ごっちんの方こそ、偉そうなことばっかり言ってると、
 負けた時の言い訳はできないよ。」
「御託はいいから、始めるよ。」
「よっしゃ、いっくぜ〜!」
真希とひとみは、真剣な眼差しで前を向いた。
148 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:11

ドゴッ!ガガガッ!

「ほらほらっ、ごっちんどうしたよ?」
「何を・・・まだまだ!」

ガシッ、ズドン!

「やばっ!くそ・・・。」
「これで!」
「な〜んてね!もらったっ!」

バシッ、ズガガガガン!

強烈なストレートが何発も決まった。
あまりの速さに、真希は防御できなかった。
149 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:12
「ぐっ・・・負けた・・・。」
真希は頭を抱えて後ろに仰け反った。
隣にいるあさ美は、クスクスと笑っている。
画面にはGAME OVERの文字が点滅していた。
「よっしゃ〜!うちの勝ちだぜ。」
ひとみが嬉しそうにして真希の横に立つ。
「思ったよりゲーム強いんだな。優等生って顔してんのに、
 案外遊んでるんだね。ひ〜ちゃん嬉しいぜ!」
「何がひ〜ちゃんだよ。次にいくよ。」
真希は渋々と立ち上がった。
ひとみが連れてきた場所はゲームセンターだった。
どうやら、真希と喧嘩するつもりは全くないようだ。
150 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:13
美貴と勝負を着けにきたと言っていたが、喧嘩ではなく、ボクシングの
試合をしたいとのことだった。
悪いやつではないと、なんとなくは気付いていた。
敵意がなく、楽しそうによく話すのに、近づけば人を突き離すような雰囲気を、
ひとみは持っている。
それが真希にはわからなかった。
真希はあさ美の手を握って次のゲームを選んでいる。
先ほどのようなことが起こらないように、決して離れないように。
ゲームをしている間でも、真希のすぐ傍に置くようにしていた。
「次はこれで勝負だよ。」
真希が指したものは、図形を当てるゲームだった。
バラバラになった絵を組み立てて、元の絵を探し出すゲームだった。
151 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:14
「こんくらい、楽勝で終わらせてやるよ!」
ひとみが勢いに任せて乗り込むも、一面ですぐに終わってしまった。
「うそ〜ん・・・。」
「ださいね。」
「うるさい!だったらごっちんがやってみろよ!」
このような頭を使うゲームでは、自分に敵うわけもないと思っていた。
しかし、現実は違っていた。
二面までは順調に進んだが、三面から真希の手の動きが鈍くなる。
「(嘘っ!違うの・・・?なら、これかな・・・?)」
知識が豊富なはずの真希ですら、三面で終わってしまう。
「あ〜あ、負けちゃった。」
「・・・フン。」
ひとみに勝ったとはいえ、悔しそうにゲーム機を睨みつける。
152 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:15
「あの、私もやってみていいですか?」
「おっ、コンコンが挑戦するんだ。やってみなよ。」
あさ美はゲーム機の前に立つと、じっと画面を見つめる。
決して早いとはいえないが、一つも間違えずに次々と絵を当てていく。
その姿を、真希とひとみは呆然として見ていた。
「コンコン、すげぇ・・・五面までクリアかよ。」
「当然だよ。紺野は後藤のパートナーなんだからね。」
真希はにやけた表情を浮かべてそう言った。
このゲームで必要なのは、知識ではなく想像力だ。
バスケットボールなどで、場面を組み立てることを仕事としてきたあさ美には、
最も得意とするゲームの一つだろう。
しばらくして、画面にALL CLEARの文字が表示された。
153 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:15
「後藤さん、吉澤さん、やりましたよ!」
「紺野、よくがんばったね。」
「いや〜、すげぇ感心しちゃうね〜。うちには無理。」
「本当だよ。紺野ってやっぱすごいね。」
「ごっちんもね。」
「えっ・・・?」
ひとみの呟きを真希は聞き逃さなかった。
「朝比奈学園の後藤真希と紺野あさ美っていえば、スポーツ界では有名だよ。
 次世代を担うスーパールーキー達だってね。」
「へ〜・・・。」
「まぁ、それとこれとは別だ。次はどのゲームで勝負するよ?どれでもいいよ。」
「こっちのセリフだよ。何だって負けないさ!」
それからも、真希とひとみは色んなゲームで競い合っていた。
154 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:17
ガンシューティングに至っては、信じられないほどの動体視力で敵を瞬殺していき、
ダンスゲームでは凄まじいほどのステップで点を競い合っていた。
ガンシューティングでは、ひとみの得点の方が高くて子供のように飛び跳ねて喜び、
ダンスゲームではほんの僅かに真希の点数が上で、両手でガッツポーズを作った。
楽しそう、あさ美は真希の顔を見てそう思った。
口に出したら確実に嫌な顔をするだろう。
過去に何があったか知らないけれど、それでも今の二人は、
友達のような雰囲気だった。

ズドォンッ!!!

ひとみの強烈な拳が、パンチングマシーンを叩きつけた。
画面には過去最高の得点が刻まれている。
155 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:18
「よしっ!次はごっちんの番だよ。」
真希は黙ってグローブを付ける。
限界まで反動をつけて、パンチングマシーンを殴りつけた。
派手な音を出したが、得点はひとみには及ばなかった。
「ごっちん、違うって。ただ殴るんじゃない、叩きつけるんだ。」
「・・・どういう意味?」
「真っ直ぐだと衝撃を突き抜ける。衝撃を逃がさないように、
 地面に叩きつけるような感じで殴るんだよ。」
ひとみはゼスチャー付きで説明した。
真希はじっとひとみを見つめたあと、同じように拳を叩きつけた。

ズドォォンッ!!!

ひとみよりも高い数値が表示された。
真希は自分の出した数値に感心していた。
156 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:19
「マジかよ・・・負けちまったか。」
「あんたの説明がよかったからだよ。」
真希の思わぬ言葉に、ひとみは驚いていた。
それも束の間、すぐにヘラッと笑って次のゲームに歩き始めた。
それからしばらくして、真希達はゲームセンターから出た。
負けず嫌いの二人が戦っていたので、店を出たのは夜遅くになっていた。
「ごっちん、すごい強かったんだね。見直したよ。」
「あんたこそ、それなりに頑張ってたんじゃないの?」
「それなりって、もっと褒めてくれたっていいじゃ〜ん。」
ひとみはわざとらしく泣き真似をする。
それを見て、真希はフッと口元を緩めた。
157 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:20
駅までの近道ということで路地裏に入ったときだった。
いくつものバイクが真希達の周りを取り囲んだ。
さらには、前の方からも数人歩いてくるのが見える。
「やっと見つけたぞ。」
一人の男がバイクから降りて近づいてきた。
あさ美はその男に見覚えがあった。
その男は、先ほどひとみに殴られた男だった。
もちろん、ひとみがいちいち覚えているわけもなく、
「あんた誰?何か用?」
「ふざけんなよ!コラッ!」
「おい、少し落ち着けよ。」
後ろに立っていたもう一人の男が、肩を叩いて抑える。
158 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:22
「お前、吉澤ひとみだろ。士鬼面の頭だ。」
「だったら何?」
ひとみにはわかっていた。
このような状況では、答えは一つしかないことを。
「お前を倒せば、うちらの名が上がるってことだよ。」
ぞろぞろと近寄ってくる男達を、ひとみは睨みつけながら見渡した。
「・・・40ってとこか。ごっちん。」
「何?」
「うちが道を作るから、あんた達は逃げなよ。」
「・・・どういうつもり?」
「狙いはうちだ。付き合わせたのも、原因を作ったのもうちだろ?
 喧嘩して怪我したら、あんたはバスケができなくなるかもしれない。
 さっさと逃げな。」
真希はじっとひとみを見つめたあと、一歩前に出る。
159 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:23
「おいおい、逃がすと思って・・・。」

バキャッ!

真希が近づいてきた男の顔を殴り飛ばした。
「誰が逃げるって?紺野をいじめたやつらを後藤が許すと思ってんの?
 大体、あんただってボクシングやってるんでしょ。腕が壊れたら終わりだよ。」
「そりゃそうだけど・・・こんだけ人数がいるんだよ?」
「ならちょうどいいじゃん。正当防衛になる。」
「・・・やれやれ、んじゃいくぜっ!」
「ふざけんな!てめぇら、やっちまえ!」
男達が一斉に真希達に襲い掛かってきた。
160 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:24
真希とひとみは、怯むことなく次々と男達を殴り飛ばしていく。
3分の1ほど倒したところで、ひとみは薄い笑みを浮かべた。
「相手が悪かったな。うちらに勝てると思って・・・。」
「キャァッ!」
振り向くと、あさ美が男に襲われていた。
あさ美に向けてバッドが振るわれる。
「やばっ!」

バキッ!

横から飛び出した真希が、あさ美を庇って殴られた。
161 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:25
側頭部から血が垂れ流れる。
ひとみはすぐに真希の元へと向かう。
「ごっちん!大丈夫か!?」
「これくらい、別に・・・!?」
真希がキョロキョロと首を廻し始めた。
ひとみは、囲んでくる男達を気にしながら真希を見る。
「後藤さん・・・?」
「嘘でしょ・・・目が、見えない・・・。」
「そんなっ!」
「マジかよ・・・。コンコン、ごっちんを頼んだ!」
ひとみは近づいてくる敵を殴りつけていく。
だが、さすがにひとみ一人では無理があった。
162 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/10(月) 01:27
一人だったら、逃げることも可能だったかもしれない。
それでも、ひとみは二人を庇いながら戦っていた。
自分の身を盾にしてでも逃げ出さなかった。
「(何で、うちは"また"守ってるんだろ・・・?)」
壁を背に座り込んでいる二人を、チラッとだけ見る。
「(あんなことがあったのに・・・でも、やっぱ嫌だよ・・・。)」
「これで終わりだ!」
一人の男が、パイプを振り回してきた。
ひとみは反応できない。

バキッ!

「何・・・?」
目の見えない真希の耳に、何かが壊れる音が聞こえてきた。
163 名前:konkon 投稿日:2006/04/10(月) 01:27
更新です
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/12(水) 22:07
普通に面白いね
キャラそれぞれに特徴がでているから、何回か読み直したくなる
続き楽しみにしてるので、頑張ってください
165 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:41
「ねえ、紺野、あいつは・・・?」
真希はよろよろと立ち上がる。
「吉澤ひとみは、どうなったの・・・?」
「後藤さん、落ち着いてください。」
あさ美はゆっくりと真希を座らせた。
何が起こっているのか、真希には何もわからない。
不安が胸をかき回すも、真希の視界はぼやけたままだった。
実際には、ひとみは殴られていなかった。
ひとみを殴ろうとした男は、横から割り込んできた影に蹴り飛ばされたのだ。
突如真希達を救ったのは、ひとみの探していた美貴だった。
彼女の両手には紙袋が抱えられている。
166 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:42
「な、何だ!てめぇは!?」
「よってたかって、集団でリンチするのは美貴は嫌いなんでね。」
「藤本、美貴・・・。」
「あれ?あんた士鬼面の・・・。」
ぼろぼろになっているひとみを見て、美貴も驚きの声を上げる。
「どうしてあんたがここにいるんだ?」
「(えっと・・・何て名前だっけ?)」
「それにしても、こんなところで助けられるなんてね・・・。」
「(何て言ったっけな〜・・・思い出せない。確か、"よ"のつく名前だったような・・・。)」
「ミキティ・・・。」
聞き覚えのある声で、美貴は振り返る。
「紺ちゃん・・・ごっちん!?どうしたの!?」
美貴は慌てて真希の元へと駆け寄っていく。
167 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:42
「その声は、ミキティ?」
「声・・・?」
「後藤さん、私を庇って殴られて、目が見えなくなっちゃって・・・。」
あさ美は泣きそうな顔で美貴に答える。
「おい、俺らを無視してんじゃ・・・。」
「いいから黙ってなさいよ。」

ドシャッ!

美貴と同じくして飛び込んだ影が、男を踏み倒した。
「っていうか、逃げた方がいいかもね。でないと、やばいよ?」
「亜弥ちゃん、ごっちん達を頼んだ。」
「はいよ〜。」
亜弥は持っていた紙袋を横に置いて、真希達の前に立つ。
168 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:43
美貴は荒い息を吐き出してひとみを見た。
いや、睨んだという方が正しいかもしれない。
ひとみですら目を反らしたくなるほどに、美貴の目は据わっていた。
完全に怒りに満ちていた。
持っていた紙袋を放り出し、美貴はひとみから男達に視線を移す。
「よっちゃん、いくよっ!」
「・・・うちのこと?」
「あんた以外にいないでしょ。こいつら、死刑決定。」

ドゴッ!ゴキッ!

美貴が飛び出した瞬間、一人の男は宙を舞い、一人は地面に沈んでいた。
169 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:43
「ごっちんに手を出してんじゃねぇよっ!」
まるでダンプカーのように、次々と男達を弾き飛ばしていく。
「相変わらず、すげぇな・・・。」
向かってきた男を殴りつけ、ひとみは美貴を見つめた。
あさ美を人質にでもとろうとする者もいたが、亜弥に殴られてそこで終わった。
「待てよ!おい!」
「何!?」

ブシュッ!

「痛っ!」
振り向いた美貴の目に、何かが吹きかけられた。
170 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:44
「な、何を・・・。」
「ハハッ、よく効く催涙スプレーだろ。」
美貴は涙を零しながら目を押さえる。
吹きかけた男は高々と笑いかけて、持っていたバットを振り上げた。
「お前もここで終わりだよ!」
「ちっ・・・。」

ゴッ!

その音がした直後に、男は地面を転がっていく。
美貴のカウンターがまともに人中に入ったようだ。
ひとみは呆然としてその様子を見ていた。
171 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:45
「痛いな〜。卑怯な真似しやがって。」
「あんた・・・目は、大丈夫なのか?」
「まだ痛くて開けないよ。けど、美貴の心配はいらない。」
背後から迫った男の警棒をスルリと避け、肘打ちを側頭部に打ちつけた。
美貴は目を閉じたままだった。
「伊達に音楽やってるわけじゃないんでね。誰がどこにいるかまではわかんないけど、
 音で気配がわかるから問題ないよ。ごっちんより一つでも優れている部分があると、
 けっこう気持ちのいいもんだ。」
美貴は笑ってそう言った。
ひとみは思い出していた。
以前に戦った時、目ではなく耳で自分のパンチを感じ取っていたことを。
これなら美貴を気にする必要はない。
ひとみは拳を握り締めて、残っている敵を睨みつけた。
172 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:46
数分後、立ちはだかっていた男達は全員地に伏せていた。
美貴は真希の前に座り込んで、顔を近づける。
「ごっちん、美貴の顔が見える?」
「ん・・・ぼやけてだけど、ミキティだってわかるよ。」
「そっか。ならよかった。一時的な障害だから、しばらくすれば治るよ。
 だけど、一応病院には行った方がいいね。」
「・・・ミキティは?」
「美貴は大丈夫だよ。大体見えるようになったから。紺ちゃん、
 ごっちんを病院に連れてってあげてね。」
「うん!」
あさ美は大きく頷いた。
美貴は小さく笑ったあと、ひとみを見上げた。
173 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:48
「久しぶり、とでも言っておこうか。士鬼面の時以来だね。」
「うちがごっちんといるのに、何も聞かないのか?」
「ごっちんが一緒にいたいからいるんでしょ。ごっちんは本当に嫌なやつとは、
 一緒にいるどころか口も聞かないからね。」
「・・・そうなのか。よく知ってるんだな。うちには全然わかんないけど。」
「わかろうとしなきゃ、わかるわけないじゃん。少なくとも、梨華ちゃんや
 あいぼん、のんちゃんは信頼しようとしてる分、あんたより上だね。」
「何で、あいつらのことを・・・。」
「だって、友達だもん。それより、あんたも病院に行っておきなよ。
 あとさ、二人のこと守ってくれて、ありがとね。」
その言葉に、ひとみは美貴の顔を見つめた。
174 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:50
何か言いたげな表情をしていたが、美貴はひとみから視線を外した。
「亜弥ちゃん、帰るよ。」
美貴は紙袋を持って歩き始める。
亜弥も残りの紙袋を抱えて美貴についていく。
「ちょっと、美貴たん。これでいいと思ってんの?」
「大丈夫だよ。士鬼面に入った人って、みんな理由を抱えてると思うんだ。
 きっと、よっちゃんもその一人だよ。ごっちんもそれに気付いてるから、
 一緒にいるんだと思うよ。だから心配ない・・・。」
「ちが〜う!私の買った服とか放り出したでしょ!?しわくちゃになってたら、
 また買い物に付き合ってもらうからね!」
「え〜!亜弥ちゃんの買い物長いだもん・・・。」
美貴と亜弥は騒ぎながら路地裏から消えていった。
声が消えて静寂になってから、ひとみは真希の前に立つ。
175 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:51
「悪かったね。面倒かけちゃってさ。」
「・・・後藤は後藤の意思で喧嘩した。それだけだよ。」
「そっか・・・コンコンは平気?」
「はい・・・。」
「ならよかった。んじゃ、うちは行くわ。」
「待って。一つだけ聞かせてくれない?」
歩みを止めたひとみは、小さく首を動かして真希を向いた。
「あんたはさ、何で士鬼面に入ったの?」
「質問の意味がよくわかんないな。入りたいから入ったんだけど?」
「後藤の中学時代、全国バレーボール大会で前代未聞の三連覇を
 成し遂げた学校があった。そこには天才的エースアタッカーが
 存在した。そのエースの名前は吉澤ひとみ、あんたのことじゃないの?」
それを聞いて、あさ美はひとみを見上げた。
176 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:52
先ほどひとみが士鬼面の生徒であるということを聞いて、疑問が胸中を渦巻き、
今度はその事実に驚きを隠せずにいた。
「よくそんな昔のことを覚えてるもんだね。」
「一度聞いたら、絶対に忘れないからね。」
「・・・あるところに、一人の少女がいた。」
ひとみは後ろを向いて話し始めた。
「その少女はバレーがすごく好きで、小さな頃から特訓に励んで強くなっていった。
 中学の頃には、誰も止められないくらいのアタックを打てるようになっていた。
 中学では敵無し、高校も一番強いところに推薦された。高校に入ってからも、
 一年でありながらずっとエースで居座り続けていたんだ。大好きなバレーができて、
 楽しい毎日を送っていた。でも、そう長くは続かなかった。」
「どうして、ですか・・・?」
あさ美が震える声で聞いた。
177 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:53
「ある日のことだった。夜遅くまで仲間二人と練習していたその少女は、
 人気のない道で何人かの暴漢に襲われたんだ。仲間を守るために、
 少女は戦った。日頃から鍛えていたから、暴漢を退治するのも成功した。
 だけど、その時から仲間の見る目が変わっていった。少女の守るために
 使った暴力が、結果的には仲間を怖がらせる凶器になっちゃったんだ。
 次の日には学校中で噂になって、少女は孤立した。やりすぎたっていうのも
 あるけど、いつの間にか写真まで撮られてて、学校中に散らばってたよ。
 暴力少女というレッテルが貼られ、誰にも相手にされなくなって、
 あんなに大好きだったバレーもできなくなった。悲しくて、辛くなって、
 少女は学校を辞めたんだ・・・。」
ひとみは、最後だけ呟くように言った。
178 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:55
「笑っちゃうよね〜。あとから知ったんだけど、その暴漢達に少女を
 襲わせたのは、他の誰でもない、バレー部の先輩だったんだから。」
「えっ!?」
「嵌められたんだよ。一年にエースの座を取られたのが、よっぽど気に
 食わなかったんだろうね。ほ〜んと、その頃から人を信じられなくなって、
 それでも頭はいい方ではなく、体を動かしてる方が性分に合ってた少女は、
 ボクシングを始めた。鍛えてたおかげですんなりと体に染み込ませることができたし、
 一人で戦う方が楽だったんだよね。一年間はボクシングにはまってて、学校にも
 行っておきたかったから適当な学校を探して、誰でも入れる士鬼面に入ったんだよ。
 本当に、バカだよね・・・。」
ひとみの小さな一息が、やけに寂しそうに聞こえた。
179 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:56
「士鬼面でもやっぱ疑心暗鬼が渦巻いていて、人を信じられなかった。
 どいつもこいつも、上を狙ってた。そのためならば、人を簡単に
 裏切るようなやつばっかだった。まぁ、梨華ちゃんにあっさりと
 ぼこられて終わってたけどね〜。うちも一人でいいと思ってた。
 ただ・・・。」
そこで、ようやく真希を振り向いた。
「士鬼面に取られた物を取り返しにきたっつう、前代未聞のバカを見て、
 何かこう、違うんだなって思えたんだ。誰にも持ってない強い絆みたいなものが
 見えた気がして、信頼し合ってて、仲間のことを真剣に考えてるその人達が、
 羨ましかったんだろうね・・・。それを知りたくて、手に入れたくて、
 彼女に会いたかったのかもしれない。まぁ・・・そんなとこだね。」
「・・・。」
「そろそろ行くよ。バイバイ。」
ひとみは再び歩き始める。
180 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:57
「ちょっと待ちなよ。」
「ん〜?もう答えられることなんて・・・っと!」

パシッ

突然飛んできたものを、ひとみは横に手を伸ばして掴み取った。
それは、真希が投げたと思われる携帯だった。
「使い方くらいわかるでしょ?後藤は目が痛くて使えないから、
 あんたが後藤の番号登録しておきなよ。」
「へっ・・・?」
「今日みたいに遊ぶのもけっこう好きだし、気が向いたら相手になってあげるよ。」
真希は目を離して恥ずかしそうにそう言った。
181 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 01:59
「昔に辛い思いをしたんでしょ。けどね、前にミキティが言ってたように、
 大切なのは"今"なんだよ。今という瞬間を楽しんだ方がいいんじゃない?
 あんたのこと、後藤は信じるよ。」
その瞬間、ひとみの胸に痞えていたを何かが、パンッと弾け散った。
「(そっか・・・ずっと一人でいいと思ってた。けど・・・。)」
少しだけ呆けていたあと、自分の携帯に登録を始めた。
「(本当は、一人になりたくなかった。寂しかったんだ・・・。
 誰かに信じてもらえるのを、ずっと待ってたんだ・・・。)」
登録が終わると、ひとみは真希の元へと歩いて携帯を手渡した。
「今日の夜にでも、電話してもいいかな?」
「電話するんなら、早めにした方がいいですよ。後藤さんは気付いたら
 寝てる人ですからね。」
あさ美は笑って真希の顔を見る。
182 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 02:00
「紺野、よけいなことを言わないの。」
「ハハハッ、わかったよ。んじゃ、あとで電話するね。」
「バイバイ。よしこ。」
「・・・美貴ちゃんといい、何でそんなネーミングセンスないのかね?
 そんな呼び方されたことないよ。」
「それっていいことじゃないの?後藤だけがよしこって呼んでるんだ。
 ある意味特別扱いされたとでも思ってれば?」
「ずいぶんと意味深な言い方だね。けど、ありがと。またね〜。」
「吉澤さん、今日はありがとうございました!」
あさ美は歩いていくひとみの背中に、大声でそう言った。
ひとみは振り向かずに、手だけ振って答えた。
183 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 02:01
ひとみが見えなくなったあと、真希はゆっくりと起き上がった。
あさ美がすぐに真希を支える。
「紺野、後藤はちょっと悲しかったな〜。」
「えっ?」
「だってさ、よしこに手を引かれても、何も言わなかったんだもん。
 どうしてかな?後藤に飽きた?」
あさ美はブンブンと首を横に振った。
「そんなことありませんよ!あのですね、吉澤さんに手を握られた時、
 目を見た時に、先ほど話してくれたように、寂しい人だってなんとなく
 気付いたんです。まるで、昔の後藤さんと同じ雰囲気を持っていました。」
真希は不思議そうにあさ美の顔を見つめる。
184 名前:今という瞬間 投稿日:2006/04/15(土) 02:02
「後藤と・・・?」
「はい、お二人ともよく似てますよ。今の後藤さんは、昔に比べて
 とても生き生きとしてる。だから、私に何かできることはないかなって、
 吉澤さんの力になれないかなって思いまして・・・。」
「・・・紺野はいい子だね。」
そっとあさ美の顔を触って確認して、優しくキスをした。
「いこう。」
「は、はい!」
あさ美は赤くなった顔を見られないように、真希を支えて歩き始めた。
電話がきたら何を話そう、そう思うと真希は少し楽しみになって、
顔に笑みを浮かべていた。
185 名前:川VvV) 投稿日:川VvV)
川VvV)
186 名前:konkon 投稿日:2006/04/15(土) 02:03
更新です。
187 名前:konkon 投稿日:2006/04/15(土) 02:03
連投してしまいました(汗)
185は却下でお願いします・・・orz
188 名前:konkon 投稿日:2006/04/15(土) 02:05
>>名無飼育さん
ありがとうです。
それぞれのキャラが出せればいいかなとは思ってるんですけど、
なかなか難しくて・・・(泣)
読み直してもらえるとは、本当に嬉しい限りです。
189 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/04/15(土) 17:59
更新お疲れ様です。
ごっちんカッケー(゚∀゚)あれは惚れますね(w
次はどんなものをうpして下さるのかと思うととても楽しみです!
次回も楽しみに待ってます。
190 名前:名無しの案山子 投稿日:2006/04/15(土) 21:28
みんな強過ぎだよぉ〜。w
梨華ちゃんが助けに出てくるかと思いきやって感じですが
よっすぃーにもそんな過去があったんですね。
次も楽しみに待っています!
191 名前:ヒガン 投稿日:2006/04/17(月) 14:01
いつも楽しく読んでます。
ごっちんとよっすぃーなんだかいいコンビになりそうですね。
次の更新も楽しみにしています。
192 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/19(水) 23:52
きっかけは、絵里の修学旅行のお土産だった。
ライブ前に楽屋に持ってきたのだ。
「修学旅行か〜・・・美貴も行ってみたいな〜。」
「美貴ねえ、修学旅行に行かんかったと?」
「うん。前日に熱が出ちゃってさ〜。中学の時もそうだったんだ。」
愛は瞬時に嘘だと見抜いた。
恐らくは、家の都合上行くことができなかったのだろう。
「修学旅行か・・・行ってみたかったな〜。」
もう一度同じ言葉を繰り返した美貴の寂しそうな表情が、愛の頭から離れない。
その日の夜、愛は寝る前に美貴の方に体を向ける。
「ねえ、美貴ちゃん。一つ提案があるんやけど。」
「提案?」
美貴は不思議そうな目で愛を見つめる。
193 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/19(水) 23:53
「冬休みに入ったらさ、旅行に行かない?」
「旅行に・・・?」
「そう、ちょっと遅めの修学旅行やよ。今年で最後やし、みんなで行こうよ。」
「・・・面白そうだね。行こうか!」
「うん!」
美貴達の予定では、23〜25日しか空いていなかった。
それ以降になると、バイトやライブがあるので行くことができない。
早速、仲間たちに旅行の話しを持ちかけた。
真希とあさ美はすぐに了承を得られたのだが、れいなは親が帰ってくることから
家に残るようで、さゆみはれいなに付き合うということだった。
絵里は誕生日だということで、亜弥に遊びに連れていってもらうらしい。
他の仲間も、クリスマスだとやはり空けられないようだった。
194 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/19(水) 23:55
仕方なしに仲間はあきらめ、修学旅行気分を味わいたいとのことで、教師兼保護者として、
真里となつみも一緒に行くことにしてもらった。
そして、冬休みに入った12月23日、美貴達は北海道に旅行に来ていた。
飛行機の中や、ホテルの部屋でずっとはしゃいでいる美貴が可愛くて、
愛は嬉しくてずっと微笑んでいた。
次の日、

ザシュッ!

ものすごいスピードで雪山を滑っていく、二人のボーダーがいた。
止まっている者を瞬時に抜き去り、軽快に滑り降りていく。
赤いウインドブレーカーを着ているのが美貴で、青が真希だった。
美貴はまだ幼い頃に少しだけ、真希は本を読んで勉強した程度だが、
二人は人並み外れた運動能力によって、ほんの二時間ほどでプロ並に滑れるようになっていた。
195 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/19(水) 23:56
今はどちらが早く麓まで行けるのか、競争をしているのだ。
美貴が僅かにリードしている。
「ミキティ、どいてよ!」
「やだ!絶対に抜かせない!」
急激なカーブに入り、スピードを出しすぎていた美貴は、大きく回ることになる。
しかし、真希は地図でコースを読んで予め記憶していたので、
スピードを落として内側を滑っていく。
その間に真希が抜き去った。
「やばっ!」
「これで後藤の勝ち・・・ん?」
中級者コースと初級者コースの分かれ道、美貴達は中級者コースを
進むつもりだったのだが、真希はなぜか初級者コースへと滑り降りていく。
196 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/19(水) 23:57
「ちょっと、ごっちん?」
真希が道を間違えるわけがない、そう思った美貴は真希のあとをついていく。
そして、すぐに理解した。
少し先には、美貴達と同じ色の服を着た二人組みがいたからだ。
雪の上で倒れているのがあさ美、座って彼女を見つめているのが愛だ。
どうやらあさ美が転んでしまったようだ。
「あさ美、大丈夫?」
「うん・・・なんとかね。ボードって難しいね。愛みたいにバランスがよければな〜。」
「運動神経のいいあんただったら、すぐに滑れ・・・。」
「紺野ーっ!」

ズザザザッ!!!

猛スピードで降りてきた真希の急ブレーキが、雪を深く抉る。
197 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/19(水) 23:58
真希はあさ美のすぐ傍に寄って手をとった。
「紺野、怪我はない?痛くない?」
「はい、大丈夫です。」
「そっか・・・よかった〜。」
「全然よくないんですけど・・・。」
真希が振り向くと、雪に埋もれた愛が寒そうに両腕を抱えていた。
「高橋、どうしたの?」
「ごっちんがやったんでしょ。紺ちゃんラブも構わないけど、
 愛ちゃんまで巻き込まないでよ。」
あとから滑ってきた美貴は、愛の服にかかった雪を払う。
「あちゃ・・・高橋、ごめんね。」
「もういいやよ・・・。」
愛はふてぐされた顔をしてそう言った。
198 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/20(木) 00:02
スノーボードをしているのはこの四人だけだ。
真里となつみは、この日は町に出てゆったりと過ごすらしい。
夜までには帰ってくるけど、何かあったら連絡だけはするように、と聞いている。
「あっ、ねぇ、そろそろお昼ごはん食べにいこうよ。でないと、
 午後からのボード教室に間に合わないよ。」
「そうだね。早く滑れるようになりたいんもんね。」
美貴と真希はすでに滑れるようにはなっているのだが、やはり彼女達についていたい
気持ちの方が上だったので、一緒に習うことにしていた。
真希達が滑ろうと立ち上がった時、美貴だけはすぐ隣の林の中の、
ある一点をじっと見つめていた。
「ミキティ、どうかしたの?」
「先に行ってて。美貴、ちょっと見てくるものがあるから。」
美貴は、ボードを外して林の中へと歩いていく。
199 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/20(木) 00:06
「ちょっと、美貴ちゃん!」
「見てくるって・・・後藤さん、どうしましょうか?」
「どうするったって、二人を放って先に行くわけにはいかないでしょ。」
「二人って・・・あれ、愛は?」
あさ美が気付いた時には、愛はすでに美貴の隣を歩いていた。
「紺野、後藤達も行くよ。」
「は、はい!」
美貴達を置いていくわけにもいかないので、真希達も後ろからついていった。
林に入って何本目のかの巨木の前で、美貴は立ち止まって上を向いた。
美貴の見つめるその先には、10メートルほど高い枝の上で、何かがモゾモゾと動いていた。
最初は解らなかったが、よく見るとそれは一匹の小熊だった。
寒いのか、もしくは高い所にいる恐怖心からか、小熊は震えている。
200 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/20(木) 00:07
「熊・・・?」
「何でこんなところにいるの?」
「さあ、それは知らないよ。でも、放っておくわけにもいかないでしょ。
 きっと、登ったけど怖くなって降りれなくなっちゃったんだね。」
美貴はボードを雪の上に置いて、軽く屈伸を始める。
「せーのっ!」

タンッ!タンッ!タンッ!

履きなれない靴、雪で滑るというのに、美貴は高い跳躍をして、
枝を飛び移っていく。
三回ほど跳んで小熊の乗っている枝に辿りつくと、できるだけ枝を揺らさないように、
ゆっくりと小熊に近寄っていく。
201 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/20(木) 00:09
小熊は美貴に向けて唸っている。
美貴は微笑んで小熊に手を差し出した。
「美貴は敵じゃないよ。怖くないからね。」
しゃがみ込んでそっと手を伸ばす。
それでも、美貴を警戒して後ろに下がっていく。
その時、小熊が滑って枝から落ちた。
「やばっ!」
美貴は枝を蹴って飛び出し、小熊を抱え込んだ。

ドシャッ!

背中から雪の上に墜落した。
202 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/20(木) 00:11
「いった〜・・・。」
真希達は慌てて美貴の元へと駆け寄っていく。
「ミキティ!大丈夫?」
「うん・・・この子は平気だよ。」
美貴は小熊を下ろしてそう答える。
墜落した自分ではなく、小熊のことを気にしている美貴に、愛は頬を緩めた。
「(美貴ちゃん・・・本当に、優しいんやな・・・。)」
真希の手を取って上体を起こすと、美貴はあることに気付いた。
「あれっ?この子、怪我してる・・・。」
小熊の左手から、血が垂れていた。
恐らくは枝か何かで切ってしまったのだろう。
美貴はポケットからハンカチを取り出して、それを小熊の腕に巻いた。
203 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/20(木) 00:11
「ほらっ、これで痛くないでしょ。行っていいよ。」
小熊はじっと美貴を見つめたあと、林の奥の方へと駆けていった。
遠ざかっていく小熊を見て、愛の頭に管理人に預けている飼い猫が過ぎった。
「トレイン、元気にしてるんかな?」
「平気でしょ。管理人さんも可愛がってくれてたもん。元気にしてるよ。」
「そうやね。」
「そろそろ行こう。本当に間に合わなくなっちゃうよ。」
「うん。」
美貴は見えなくなっていく小熊を見つめたあと、真希達と一緒に歩き始めた。
204 名前:konkon 投稿日:2006/04/20(木) 00:12
更新しました〜。
205 名前:konkon 投稿日:2006/04/20(木) 00:16
>>哀さん好きの名無しさん
ごっちんはカッケーの一言に尽きます!
次はこんなものをうpしましたw
まだまだ続きます。

>>名無しの案山子さん
初めまして〜ですよね?よろしくです♪
みんな強過ぎですw
皆さん辛い過去を背負ってるんですよ(泣)
もっとマシな設定考えろって感じですよね(汗)

>>ヒガンさん
お久しぶりです。
ってかまぁ、俺が一方的に知ってるだけですけどねw
面白いコンビになりそうですね。
何かまた展開が書ければいいなと思ってます。
206 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/22(土) 11:52
次回どのような展開になるかすごく楽しみです
頑張って下さい
207 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/04/22(土) 23:04
更新お疲れ様です。
ヤバイです旅行はヤバイですよ(何
個人的にツボなシチュエーションなのですごく楽しみですw
ミキティと哀ちゃんいい感じですね〜
次も楽しみに待ってます!
208 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 21:56
ボード教室は、一つ離れた山で行うらしい。
リフトに乗って山を越え、林の中をしばらく歩くと練習場があるそうだ。
美貴達はぎりぎりで到着したので、一番最後尾を歩いている。
美貴は、隣を歩く愛が震えていることに気付いた。
「愛ちゃん、大丈夫?」
「寒くなってきた・・・けど、平気やよ。」
「無理しなくていいよ。戻る?」
「平気やって。そんな心配せんでええよ。」
愛は笑ってそう言った。
美貴は風が吹く方向に視線を向ける。
先ほどよりも強くなってきた。
209 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 21:57
震える足で歩いている愛に合わせていたので、集団とはけっこうな距離が離れている。
美貴の視力なら、例え100メートル離れていたとしても特に問題はないが、
このまま置いていかれるわけにもいかない。
「(仕方ない、愛ちゃんに少しがんばってもらうしか・・・ん?)」
次の瞬間、ものすごい吹雪が美貴達を包み込んだ。
目の前にいる人すら見えないほどの強い吹雪だ。
「うわっ!愛ちゃん!ごっちん!紺ちゃん!大丈夫!?」
「こっちは平気だよ!」
「私も!」
すぐ傍にいた愛からの返事がない。
美貴が振り向くと、愛は雪の上にしゃがみ込んでいた。
210 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 21:58
「愛ちゃん!」
美貴は駆け寄って愛の顔を覗き見る。
寒さに慣れていないのか、愛の顔は真っ赤だった。
「ちょっと、誰か手を貸してください!」
ボード教室に通う人達がいた方に大声で叫ぶが、返事はなかった。
吹雪のせいで、もはや影も形も見えないでいた。
「ミキティ!」
真希とあさ美が近寄ってきた。
他には誰もいない。
「くそっ!ごっちん、悪いんだけど、美貴と愛ちゃんのボード持ってくれない?」
「わかった!」
真希に二つのボードを渡して、美貴は愛を背負う。
211 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 21:59
「とにかく追いかけよう!でないと、遭難しちゃうよ。」
「そうだね。急ごう!」
美貴達は決して離れないように、足早に集団を追いかけるが、
誰にも遭遇できないでいた。
足跡は吹雪で完全に消えてしまっている。
しばらくして、美貴は辺りを見渡した。
どこを見ても、同じ光景にしか見えない。
「やばいな・・・本当に遭難しちゃったみたい。」
「・・・リング・ワンダ・リングか。」
「・・・どういう意味?」
真希の呟きを聞いて、美貴は振り向いた。
212 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:02
「人は真っ直ぐに歩いているつもりでも、目印がないと知らない内に
 曲がってしまうんだ。ここら辺はほとんど平らで、下山してるのか
 どうかも分からない。結果、全く別の場所にきてるのかもしれない。」
「じゃあ、どうすればいいの!?どうしたら美貴達は帰れるの!?」
「ミキティ、落ち着いて。とにかく、道なりに進むしかないよ。」
あさ美に言われて、美貴は小さく頷いた。
「・・・そうだね。怒鳴っちゃって、ごめん。」
「美貴ちゃ、ごめん、ね・・・。」
愛がぼそぼそっと呟いた。
今にも泣き出しそうな声だった。
「いいんだよ。気にしなくても。」
愛にそっと顔を寄せて小さく笑った。
できるだけ、彼女が安心するように。
213 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:03
「や、やばく、なったら、あーしのこと、置いてって・・・。」
「愛ちゃん、本気で怒るよ。余計なこと考えないで、休んでなよ。
 美貴のことなら、いくらでも頼りにしていいんだからさ。」
「うん・・・ごめんね。」
美貴の耳元では、愛の荒い息が絶え間なく聞こえてくる。
美貴はぐっと口唇をかみ締めて歩き出した。
どれだけ歩いても先が見えない。
さすがの美貴達でも、猛烈な吹雪の寒さに耐えているのも苦痛になってきた。
あさ美も真希に庇ってもらって歩いている状態だ。
山に沿って歩いていると、突然美貴が立ち止まった。
それに気付いて、真希は美貴の隣まで歩み寄る。
「ミキティ、どうしたの?」
「あっち・・・洞穴がある。」
美貴が指した方向を見ても、真希には見えない。
214 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:04
「もしかしたら、吹雪を防げるかもしれない。」
「行ってみる?」
「その方がいいと思う。このままだと、愛ちゃんも美貴達もやばいからね。」
そう言って、美貴は洞穴へと向かって歩き始める。
真希もあさ美の手を引いて、美貴のあとをついていった。
美貴が向かった先には、確かに洞穴が存在した。
中は吹雪が入らなくて思った以上に暖かく、四人が手を
広げられるくらいの広さがあった。
奥の方は暗くて見えない。
美貴はそっと愛を下ろすと、自分の上着を愛に被せた。
それでも愛の震えは止まらない。
「ごっちん、何か燃えるもの持ってない?」
「燃える物・・・えっと、ティッシュならあるよ!」
「よし、ならちょい手伝って。」
美貴達は洞穴の中に落ちている枝を拾い始めた。
215 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:05
中までは雪も入らないようで、完全に湿っているわけではなさそうだった。
拾った枝を集めて、ライターでティッシュを燃やしてかき集めた枝の中に入れる。
すると、少しづつ木が燃え始めた。
「愛ちゃん、もっと近づいて。」
「ん・・・。」
愛、真希、あさ美の三人は、焚き木の前に手を差し出している。
美貴は少し離れたところで煙草を口に咥え、外の様子を見つめていた。
思い出したかのように、ポケットから携帯を取り出して耳に当てる。
「ミキティ、どう・・・?」
「全然だめ。圏外だよ。」
美貴は煙と一緒に大きなため息をついた。
216 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:05
「これは止むまで待ってた方がいいね。」
「その方がよさそうだね。」
それからというもの、美貴達はずっと洞窟の中にいた。
日は暮れて、外は完全に闇と化している。
寒さには慣れてきたものの、吹雪は一切止むことがなかったので、
洞窟から出ることができないでいた。
携帯は何度かけても繋がりそうにない。
「(今日は帰れそうにないな・・・。)」
美貴は二本目の煙草の煙を吹き出して、地面に落として踏み潰した。
その時だった。

ズシリッ

何かが洞穴の奥から聞こえた。
217 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:06
美貴はしっかりと聞いていた。
それは、何かの歩く足音だと認識した。
「ごっちん・・・。」
「何・・・?」
「美貴、すごいやばい予感がするんですけど・・・。」
「後藤もだよ・・・。」
ゆっくりとその姿が美貴達の前に露になる。
それは、美貴の体の二回り以上はある、巨大な熊だった。
熊の眼光に美貴達の姿が映る。
愛とあさ美は、呆然としたまま動けない。
美貴と真希は、二人を庇うようにして立ち塞がる。
「ごっちん・・・動物って、火に弱いんだっけ?」
熊からは視線を外さずに、美貴は恐る恐る真希に聞いた。
218 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:08
「・・・人が暖まれる程度の火で、怯えるわけないでしょ。」
「走って、逃げられると思う?」
「熊の嗅覚は人の千倍、足の速さは時速60キロ。ただでさえこの吹雪の中、
 こんな暗い山の中を逃げたとしても、すぐに捕まるよ・・・。」
「んじゃさ・・・勝てるかな?」
「勝つしか、ないでしょ・・・。」
熊の目は、先ほどから美貴達をずっと離さない。
二人の後ろには、愛とあさ美がいる。
負けたら全員殺されるだろう。
耳が壊れるような熊の雄叫びが、洞穴の中に響く。
完全に臨戦状態のようだ。
「やるしか、ないか・・・。」
美貴は一度ため息をついて、熊を見上げる。
219 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:08
「悪いんだけど、少し眠っててもらうよ。ごっちん!いくよっ!」
「うんっ!」
二人は左右に分かれて飛び出した。
その瞬間、熊の巨体が一瞬にして美貴の目前に迫る。
想像以上の素早さに美貴は反応できない。

ドンッ!

美貴は後ろに大きく弾き飛ばされた。
「ぐっ・・・。」
「ミキティ!このっ!」
脇腹に目掛けて、真希の重い蹴りがめり込んだ。
その痛みに熊は声を上げ、真希を睨みつける。
220 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:09
「やばっ・・・。」

ドガッ!

熊の振り上げた腕が真希を殴り飛ばし、壁に叩きつけた。
「っつぅ・・・。」
「ぐっ、くそーっ!」
今度は美貴が熊に飛び込む。
鋭い爪をぎりぎりで避ける。
目ではなく耳で、スピードに追いつけないから音で感じ取る。
振り下ろされた爪を避けて美貴は跳び上がる。
221 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:10
狙いは熊の顎だ。
「これで・・・!?」
思った以上に足の動きが遅い。
この寒い中、慣れない山道を人を抱えて歩いていたのだ。
その疲れが今になって襲ってきた。

ドゴンッ!

熊の腕が、美貴の腹に埋まり込んだ。
瞬時に身を捻ったので爪で刻まれることはなかったものの、
あまりにも鈍く重いダメージに、美貴は腹を抱えて倒れ込んだ。
222 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:11
真希もまだ足にきているようで、熊に近寄ることができない。
熊の足音が聞こえてくる。
「(い、いたっ・・・早く起きて、みんなを、守らないと・・・。)」
美貴はなかなか起き上がれない。
立たなければやられる。
だが、いくら時間が経っても、何も起きなかった。
ほんの数秒ほどであろうが、熊にしたら余裕で人を殺すことができたはずだ。
美貴はようやく上半身だけ起き上がらせる。
すると、そこには自分と熊の間で両手を広げている、愛の姿があった。
「あ、愛ちゃん・・・?」
美貴はゆっくりと立ち上がる。
223 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:11
熊の目は愛の姿から目を離さない。
愛は体を震わせながらも、その場から動こうとしない。
「あ、愛ちゃん、美貴はいいから、離れて・・・。」
「嫌やよ。もう、守られてばかりなんて、ごめんやわ・・・。」
「け、けど・・・。」
「あーしやって、美貴ちゃんを守りたい!やから、どかんよ!」
熊の体がのそりと起き上がり、腕を大きく振り上げる。
狙いは愛だ。
「愛ちゃん!」
美貴は前に飛び出した。
一撃でも喰らえば、愛の細い体は確実に砕かれてしまう。
224 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:12
手を懸命に伸ばした。
それでも間に合いそうにない。
「(お願い!どうか、愛ちゃんを助けて!)」
美貴は心の中で必死に叫んだ。
その時、何かが聞こえた。
動物の鳴き声が、洞穴の奥から聞こえてきた。
熊の腕が愛の顔の目前で止まり、熊はその場に屈み込んだ。
美貴達は不思議そうに見ている。
少しして奥から現れたのは、一匹の小熊だった。
美貴はその小熊に見覚えがあった。
その小熊には、左腕にハンカチが巻かれていた。
「(あの小熊、さっきの・・・。)」
小熊が何度も熊に向かって叫んでいる。
まるで何かを訴えているかのように、美貴には聞こえた。
225 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:13
何度目かの叫びで、熊は起き上がって後ろを向いた。
そして、小熊と一緒に奥の方へと消えていった。
美貴は力が抜けてその場に座り込む。
「美貴ちゃん・・・平気やざ?」
愛が心配そうに顔を覗き込む。
次の瞬間、愛は美貴の腕の中に押さえ込まれていた。
愛にとっては、少し痛いくらいの力だった。
「もう、バカ・・・。」
「美貴ちゃん・・・?」
「何であんなことしたの?愛ちゃん、殺されるとこだったんだよ・・・。」
抱き合っている形になっているので、美貴の顔は見えないが、体は震えていた。
226 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:14
寒いことでも、熊に襲われることでもない。
愛を失う恐怖のせいだ。
愛もそっと美貴の体に手を回した。
「二度と心配させるような真似しないでよ。」
「美貴ちゃんやって、よくムチャするやよ。」
「美貴はいいの。愛ちゃんはだめ・・・。」
「なんやよ、それ・・・。」
言っていることに無理があるけど、愛は嬉しかった。
またこうして温もりを感じられること、生きていることに喜びを感じた。
「ミキティ、どうなったの・・・?」
あさ美に支えられて真希が近づいてきた。
美貴は愛の体を離して、真希を見上げる。
227 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/24(月) 22:15
「もう大丈夫だよ。あの子が説得してくれたみたいだからさ。」
「ミキティ、解るの・・・?」
「なんとなくはね。あの子達の巣に入ってきた美貴達が悪かったんだよ。
 でも、あの子が親に話して、助けてくれたんだ。」
「さっきのお礼かな?」
「かもね。それにしても、疲れた・・・。もう寝ようか。」
「火はどうするの?」
「美貴が見てるから、みんなは寝てていいよ。」
「えっ?ミキティは・・・?」
「さっき熊と戦った興奮が冷めないから、まだ起きてるよ。
 眠くなったら誰かに代わってもらうよ。」
「・・・わかったよ。よろしくね。」
よほど疲れていたのだろう、この寒い中でも、愛もあさ美もすぐに眠りについた。
「ミキティ、やばくなったら交代するんだよ。」
「ん、わかってるって。」
真希も横になり、徐々に小さな寝息をたてていく。
美貴はふわ〜と大きな欠伸をして、燃えている火をぼーっと見つめていた。
228 名前:konkon 投稿日:2006/04/24(月) 22:15
更新です〜。
229 名前:konkon 投稿日:2006/04/24(月) 22:18
>>名無飼育さん
嬉しいレス、ありがとうございます。
今回は、こうなりましたw

>>哀さん好きの名無しさん
旅行はいいですね〜♪
修学旅行なんて何年前のことだろう・・・orz
これを基に二人がどうなるのか、続きは次回ということで(謎)
230 名前:konkon 投稿日:2006/04/24(月) 22:19
新たに書き始めました。
もしよろしければ読んでください♪

ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1143960168/
231 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/29(土) 23:55
次に真希が目を覚ました時には、もう日が昇り始めていた。
どうやら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
火は綺麗に消されていた。
真希の前では、愛とあさ美がすやすやと寝ている。
一人だけ、美貴の姿はなかった。
「ミキティ・・・?」
真希が立ち上がろうとしたその時、外から雪を踏む音が聞こえてきた。
真希が警戒しながら待っていると、美貴がボードを抱えて中に入ってきた。
「およっ、ごっちん起きたんだ。おはよ〜。」
「・・・おはよ。こんな時間にどうしたの?」
「ああ、滑り足りないから滑ってきたんだよ。そしたらさ、町が見えたの!
 道は覚えたから、二人が起きたら帰ろうよ。」
「うん・・・。」
美貴の言葉に嬉しさが込み上げたのだが、まだ完全に疲れが取れていないので、
真希は気だるく頷いた。
232 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/29(土) 23:57
なつみと真里は、ホテルのリビングにある椅子に座っていた。
夜になっても美貴達が帰ってきていないことを知った二人は、捜索願を出した。
携帯も繋がらず、救助隊もまだ見つけられていない。
いても立ってもいられなくなった二人は、すぐにでも美貴達を迎えられるように、
リビングで待っていた。
時刻は朝の5時半を指している。
当然、周りには誰もいない。
「真希・・・。」
なつみは、祈るように手を重ね合わせ、真希の名を呼んだ。
体はずっと震えている。
その姿を、真里はどうすることもできずに、見守っていることしかできなかった。

ウィーン

ホテルの自動ドアが開く音が聞こえた。
233 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/29(土) 23:57
二人はすぐに立ち上がってその方を見た。
そこには、フラフラとしてホテルに入ってくる美貴達の姿があった。
「真希っ!」
「・・・なっち?」
呆然としている真希に、なつみは抱きついた。
「バカ・・・何してたのよ?心配ばっかかけさせて・・・。」
真希の肩にしがみついて、なつみは泣き始めた。
「ごめんね、なっち・・・。」
人を失う恐怖を誰よりも知っているのは真希だ。
その分、なつみがどれだけ心配していたか今更になって気付き、胸が痛んだ。
「藤本達もだよ。本当に、無事で、よかった・・・。」
美貴達に近寄ったと同時に、真里も泣き出した。
234 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/29(土) 23:58
「ごめんなさい・・・。」
「心配かけて、すいませんでした。」
愛とあさ美は、大きく頭を下げた。
「それにしても、どうやって帰ってこれたんだ?」
「ああ、雪山を降りていったら偶然にも町に出たんで、
 タクシーで帰ってきました。」
「そっか・・・。うん。そんなことどうでもいいよね。よく帰ってきたよ。」
「ところでですね、矢口先生、帰って早々お願いがあるんですけど・・・。」
「何?おいらにできることなら何でもするよ!」
「えっと・・・お金、貸してもらえません?」
「へっ・・・?」
美貴は苦笑いをして後ろを振り向く。
そこには、タクシーの運転手らしき男が、じっと美貴達のことを見つめていた。
235 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/29(土) 23:58
美貴達は、部屋に戻ってまずは着替えた。
洞穴の中で寝ていたので、それほど眠くはなかった。
真里は美貴達が帰ってきたことを、ホテルの受付に報告している。
「みんな、コンビニ行ってくるけど、何か欲しい物とかない?」
「なっち、寝てないんでしょ?寝てた方が・・・。」
「いいのいいの!子供は大人の言うことを聞くもんだべさ。
 何か欲しいのはある?」
「・・・後藤、お腹すいた。」
「えっと、私もです・・・。」
「あーしも、何か食べる物ください。」
愛も恥ずかしそうにして二人に続いた。
236 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/30(日) 00:00
「OK〜。美貴つぁんもご飯でいい?他に何かある?」
「ん・・・美貴はいいです。そんなにお腹すいてないんで。」
「そう?それじゃ、適当に買ってくるよ。」
「なっち、悪いね。」
なつみは笑顔で首を振り、部屋を出て行った。
「ミキティ、昨日の昼から何も食べてないのに、お腹すいてないの?」
「美貴、眠い・・・。」
あさ美にそう簡単に答えて、美貴は倒れるようにして絨毯の上で寝てしまった。
「ミキティも、やっぱり疲れてるんだね。」
「紺野、寝かせてあげて。ミキティ、昨日は一睡もしてないんだ。」
「「えっ!?」」
愛とあさ美は、驚いて真希を向いた。
237 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/30(日) 00:01
「後藤達を寝かせるために、わざとあんな態度をとったんだよ。しかも、
 ミキティは誰とも交代しないで朝まで起きてたんだ。吹雪が止んでからは、
 ボードで麓まで道を探してたんだと思う。」
真希は布団をしいて、そこに美貴を寝かせた。
愛は美貴の顔を覗き込んで、頬をそっと撫でる。
「・・・お疲れ様。美貴ちゃん、ありがとう。」
「愛、あの時みたいにご褒美あげたら?」
「あ、あさ美!」
愛は顔を赤くして声を上げた。
「ハハハッ、愛ったら照れちゃって、可愛い〜♪」
「ぐぬっ・・・。」
「ほらっ、二人とも静かにしてよ。ミキティが起きちゃうでしょ。
 なっちがご飯買ってきてくれたら、後藤達も少し寝よう。」
「そうですね。」
なつみ達が戻って、少し早めの朝食を食べたあと、真希とあさ美は眠りについた。
愛は、寝ている美貴を起こさないように、そっと手を握って顔を見つめていた。
238 名前:雪の結晶 投稿日:2006/04/30(日) 00:02
「んん・・・。」
美貴が起きたのは、朝と昼の中間くらいだった。
すぐ傍では、愛が自分を見ている。
真希とあさ美は、横になって一つの雑誌を二人で読んでいた。
「美貴ちゃん、おはよ〜。」
「おはよ・・・んと、帰ってきてから、寝ちゃったんだっけ?」
「そうやよ。美貴ちゃん、お疲れ様でした。」
愛がちょこんと頭を下げる。
美貴もなんとなく頭を下げる。
そこに、真希とあさ美が近づいてきた。
「ミキティ、昨日はお疲れ様。温泉があるみたいだからさ、
 眠気覚ましに入ってこない?」
「ん〜、美貴、お腹すいたんですけど・・・。」
「温泉に入ったら昼ごはんにしよう。ってことで行こうよ!」
「美貴ちゃん。」
愛が笑顔で手を差し出している。
美貴はすぐに手を取って起き上がり、着替えの準備を始めた。
239 名前:konkon 投稿日:2006/04/30(日) 00:02
更新、しました・・・。
240 名前:konkon 投稿日:2006/04/30(日) 00:04
今回の件、非情に残念です。
コンコンがハローを脱退・・・理解しかねます。
彼女の笑顔には何度も癒されてきたのに・・・(泣)
けど、まぁ、これが彼女の選んだ道ならば、
彼女が夢を掴めるように応援していこうと思います。
コンコン、そしてマコ、がんばって!
241 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/04/30(日) 15:55
更新お疲れ様です。
やっぱりミキティは優しいですね(´д`*)
哀ちゃんはいつにもまして可愛(ry
次も楽しみに待ってます。

二人の脱退は寂しいですね。
娘を盛り上げてきた人ゆえに名残惜しいです。
5期メン゜。(ノд`)゜
242 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:49
愛とあさ美は隣り合って座り、体を洗っていた。
愛は、時々あさ美の方を向いて、またすぐに前を向く。
それが何度か続いた時、あさ美と目が合った。
「ん、どうかしたの?」
「べ、別に、何でも・・・。」
「そうだ!愛、背中洗ってあげるね。」
あさ美は愛の背後に周って、タオルを背中に当てる。
「・・・あーし、さっき背中洗って・・・。」
「ないでしょ?」
「み、見とらんやろ!?」
「そんなことないよ〜。ぜ〜んぶ見てましたよ。愛の抜群のプロモーション、
 綺麗な肌、細い括れ、それに・・・。」
「わーった。もうええから・・・。」
愛は小さくため息をついた。
243 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:49
「ミキティが惚れるのもわかるもん。むしろもったいないよ。
 愛ほど可愛い子なんて、そうはいないよ。」
「惚れるって・・・それなら、あさ美やってそうやろ。」
「えへへ。ありがと。」
あさ美は嬉しそうに頷く。
鏡越しにあさ美の笑った顔を見て、愛の顔にも笑みが零れる。
「あさ美、変わったよね。」
「そうかな?愛の方が変わったと思うけど。」
「・・・かもね。あの人達がきてから、ずいぶんと変わったんやろな。」
「けれど、私達の関係は、これからもずっと変わらないよね。」
「うん・・・当然やよ。あさ美、次はあーしが洗うがし。」
今度は、愛があさ美の背中に周って洗い始める。
244 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:50
「あさ美・・・今まで、ありがとね。」
「愛・・・?」
「まだ、あとちょっとだけあるんやけど、今年中、いやほんまはもっと前から
 伝えようと思ってたんやって。なかなか言えんで、やけど、あさ美がいつも
 傍にいてくれたから、今のあーしがいるんやって思っとる。前に進むことが
 できたんやよ。それに、えと、あの・・・。」
「それなら、私の方こそありがとね。愛の強さに惹かれたから、憧れてたから、
 私はここまで強くなれたんだよ。これからもずっと強くなりたいって、
 そう思えるようになったの。まだまだ弱いけど、いつかは後藤さんを守れるくらいに、
 強くなりたい。」
「・・・そこら辺の心配はしとらんよ。あんたなら絶対なれるがし。
 まぁ、ぼーっとしてなけりゃなんとでもなるやよ。」
「それは難しいな〜。」
あさ美は、鏡に写る愛に苦笑いを浮かべた。
その表情がおかしくて、二人で笑い合っていた。
245 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:51
早々に体を洗い終えた美貴は、湯船の中で愛達の会話を聞いていた。
他にも何人かの客がいて、話し声が聞こえる。
それでも、音を聞き分けられる美貴の耳には、自然と聞こえていたのだ。
同時に、深く考える。
ならば自分は変わることができたのか、と。
幼い頃から虐待を受けていた美貴は、人と深く関わることから避けていた。
真希のような相手でなければ、自分を理解できないと思っていたから。
親から離れることができた今年、ようやく閉じ込めていた心を解放することができた。
愛と出合った時には、素の自分を出せたと思う。
ならば、今の美貴がありのままの自分であるとしたら、藤本美貴は変われたのか、
美貴は腕を組んで考える。
246 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:52
「ミキティ、どうかしたの?」
何も身に付けていない真希が美貴に近寄ってきた。
美貴は真希を見て呆然としている。
「ごっちん・・・少しは隠せよ。」
「な〜に言ってんの。温泉っていうのは、裸のお付き合いだよ。」
真希はそう言って美貴の隣に座った。
「んで、どうかしたの?」
「・・・。」
美貴は真希の体を見つめ続ける。

ムニュッ

美貴の手が、真希の豊満な胸を揉んだ。
247 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:53
「ヒャッ!な、何すんのさ!?」
「・・・不公平だよね。」
美貴の顔が湯船に沈んでいく。
真希は慌てて美貴を引き上げる。
「ごっちんばっかずるい。美貴にも少しちょうだい。」
「バカ言わない。ミキティだって綺麗なんだからいいでしょ。」
「・・・美貴の体は汚いよ。」
美貴は上を見上げて呟く。
「昔っからくそ親父に傷つけられてたんだよ。すごく痛んでて痣だらけ、
 どこも綺麗じゃない。こんな体を好きになるやつなんていないよ。」
「もしかして、そんなことで悩んでたの?」
「そんなことって・・・?」
真希は美貴の顔を引き寄せて、自分の肩に乗せた。
248 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:55
「ミキティは綺麗だよ。すごく清らかで、純粋で、誰よりも優しいよ。
 それでいいじゃん。外見で人を判断するやつなんて、後藤達の仲間には
 いないでしょ。そうでなくても、後藤はすごく可愛いと思うけどね。」
「ごっちん・・・。」
「ミキティ、親友の頼みって聞いてもらえるんだよね?笑ってよ。
 それが後藤の幸せにも繋がるんだからさ。」
「どっかで聞いたセリフだね?」
「何言ってんのさ。ミキティが自分で言ったんだよ。」
「パクリじゃん・・・けど、ありがと。」
美貴は目を閉じて、真希の体温を、心の暖かさを感じ取っていた。
それも束の間、すぐに顔を上げる。
愛とあさ美の近づく気配を感じたからだ。
真希は二人を振り向いて、立ち上がって湯船から出た。
249 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:55
「紺野、露天風呂もあるみたいだから、そっちに行こう。」
「後藤さん。少しは隠してください。」
あさ美は呆れた表情をして、真希のあとをついていった。
今度は、愛が美貴の隣に座り込む。
美貴は愛をじっと見つめる。
「愛ちゃんって綺麗だよね〜。」
「そ、そんなことないで!」
「ねえ、愛ちゃん。美貴って変わった?」
「ふぇっ?」
咄嗟に話しを変えられて、変な声を出してしまった。
愛は少し考えて、美貴に顔を向ける。
250 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 20:56
「美貴ちゃん、変わりたいんか?」
「ん〜、変わった方がいいのかなってね。」
「変わる必要なんてないんやないの?」
「えっ・・・?」
「あーしは変わりたいって思っとったから、変わったってだけやと思うよ。
 あーしがなりたいようになれた、それは美貴ちゃんがいてくれたからや。
 かといって、美貴ちゃんが変わらなきゃあかん理由なんてないやろ。
 あーしにとって、美貴ちゃんは美貴ちゃんなんやしね。」
ニヒヒッと笑って、愛は答えた。
美貴はそっと愛の頭を撫でる。
「愛ちゃん、ありがとう。」
「うん。」
愛は恥ずかしそうに、嬉しそうに笑っている。
美貴が撫でた際に垂れた前髪が、どこか愛おしさを滲み出していた。
251 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 21:00
温泉から出ると、脱衣所にはすでに真希達の服はなくなっていた。
美貴と愛は自動販売機でジュースを買って、椅子に座って飲んでいる。
これからの予定をどうするかと話していたが、真希達がいないので
結局戻ってから考えることにした。
部屋に戻ってドアを開けると、玄関に二人のスリッパが置いてあった。
予想通り、真希達は戻ってきているようだ。
部屋の中に入ろうとした時だった。
「んあぁっ!」
突然の真希の声に、美貴の足が止まる。
「後藤さん、どうですか〜?」
「やっ、紺野、そこは・・・んんっ!」
居間に続く襖の先で、二人のそんな声が聞こえてくる。
252 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 21:01
「フフッ、可愛い声ですね。」
「だ、だって、紺野の指が、あっ、そこっ!」
「気持ちいいですか。」
「・・・うん。もっと、して・・・。」
美貴のいる場所からでは、真希達の様子が見えない。
それでも前に進むことができないでいた。
美貴と愛は、顔を赤くして立ち尽くしている。
「あ、愛ちゃん、先に行っていいよ・・・。」
「や、美貴ちゃんこそ、先にどうぞ・・・。」
「っつうか、紺ちゃんが攻めだったんだ・・・。」
「・・・そういう問題?」
「ち、違うよね。うん、でないと美貴達も中に入れないし・・・。」
美貴は襖を開けて部屋の中に入る。
253 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 21:02
「ごっちん!紺ちゃん!何をして・・・。」
二人の姿を見て、美貴達は口を開けて突っ立っている。
「紺野、そこは痛いよ。もう少し手加減して・・・ん?」
「ミキティ、愛、二人ともどうしたの?」
布団の上で真希が腹ばいに寝て、あさ美が真希の足を掴んでいる。
あさ美は不思議そうに美貴達を見ていた。
「・・・何してんの?」
「見てもわかんないかな?マッサージだよ。」
「昨日はずっと動きっ放しだったからね。しっかりとマッサージしておかないと、
 体の機能が成長しないんだよ。特に風呂上りは重要だよ。」
真希とあさ美は普通に答える。
254 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/04(木) 21:02
「ミキティもさ、次にやってあげようか?バスケ部でずっとやってたから、
 後藤もけっこう上手い・・・。」

ゴンッ!

真希の頭に美貴の鉄拳が炸裂した。
「っつ・・・ミキティ!何で殴るの!?」
「うるさい!色っぽい声出すな!」
美貴はそう怒鳴りつけて自分のかばんに近寄っていく。
「ちょっと、ミキティ・・・愛、どうしてミキティ怒って・・・。」
「知らん!」
一喝して愛もかばんから私服を取り出した。
真希とあさ美は、一度顔を見合わせて首を傾げていた。
255 名前:konkon 投稿日:2006/05/04(木) 21:03
更新です。
256 名前:konkon 投稿日:2006/05/04(木) 21:04
>>哀さん好きの名無しさん
愛ちゃんはいつでも可愛(ry
コンコンとマコ・・・とりあえず、泣きましょう(マテ
257 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/05(金) 03:16
やはりこういうオチでしたか
ベタな展開に踊らされるミキティと愛ちゃんが可愛いです
258 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/05/05(金) 17:52
更新お疲れ様です。
今回ヤバイぐらい萌(ry
すいませんハレンチで゜。(ノд`)゜
次も楽しみに待ってます。
259 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/07(日) 13:30
卒業は残念ですが
作者さんの小説には今後も期待してます!
260 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/08(月) 23:54
昼食を簡単に済ませたあと、隣の部屋にいた真里達と合流して、
荷物を家に送るためにフロントに持っていった。
旅行最終日のこの日は、全員で町を周ることにした。
バスで山を降りて、町に到着した。
最初に向かった先は、オルゴール館だった。
店に置いてある様々なオルゴールを、愛は感心しながら見渡している。
「愛ちゃん、こっちにきて。」
美貴に近づくと、オルゴールの音が聞こえてきた。
その曲には聞き覚えがあった。
「これって・・・。」
「うん、miracle charmy keyのamorous and irritatingだよ。」
美貴と愛は、オルゴールを見つめてその音を聞いている。
261 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/08(月) 23:55
「有名な曲は、オルゴールを作ってもらえるんだよ。」
「・・・追いつこう。あーし達も、作ってもらえるくらいにね。」
「いいや、追い抜いてやろうよ。いつになるかわからないけど、
 絶対に美貴達の歌を世界中に聞かせるんだ。」
「そうやね。がんばるか〜。」
美貴と愛は顔を合わせて笑い合う。
すると、真里が真希達を引き連れて近づいてきた。
「藤本、高橋、そろそろ次に行くぞ。あんまり時間がないから、
 急がないと空港に行く時間に間に合わなくなる。」
「は〜い。」
美貴達は真里について店を出て行った。
262 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/08(月) 23:56
次に向かった先はガラス工房だ。
大小大きさの異なる模様のついたコップや皿などを見て、
愛とあさ美は目を輝かせて見ている。
「これ、綺麗やね〜。」
「可愛いよね〜。」
興味津々で見ている二人。
その後ろから付き添う形の美貴と真希。
そこで、美貴が一枚の張り紙に気付いた。
「ねえ、これって美貴達も作れるらしいよ。」
「本当に!?」
愛とあさ美が張り紙に顔を近づけて喜んでいる。
「やってみる?」
「うん!」
二人は満面の笑みを浮かべて頷いた。
263 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/08(月) 23:57
「後藤さん、矢口先生と安倍さんはどちらへ?」
「ん〜、さっき二階に行ったの見たから聞いてくるよ。先に行ってて。」
そう言って、真希は階段を上っていった。
美貴達はその間にガラス加工の登録をした。
あとからきた真希の話しでは、真里達は見ているだけでやらないそうだ。
店員の話しによると、まずは絵を描いてからそれを元に作るらしい。
美貴達は机に座って絵を描き始める。
「美貴ちゃん・・・それでええの?」
「え?だめかな?」
真希達が華やかなコップの絵を描いたのに対し、美貴の絵は模様も何もない、
普通のコップだった。
264 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/08(月) 23:58
「シンプルイズベスト!」
「絵に自信がないから簡単に描いただけでしょ。」
「そういえば、ミキティって絵が下手だったっけ・・・?」
「違うって!現代におけるピカソに何を言ってんのよ。美貴が生きてる間は
 評価されないかもしれないけどね。」
「圭織にでも習ったら?」
「美貴はこういうコップが好きなの。」
最初に美貴が工房に入り、模様は特にないのですぐに加工に入る。
コップの底を空けないように、ゆっくりと丁寧に穴を空ける。
思った以上に大変な作業で、大した作品ではないとはいえ、
完成した時には十分に満足していた。
他の三人も終わって、帰り際に作品を手渡された。
愛は嬉しそうにしてコップの入った袋を抱えていた。
265 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/08(月) 23:58
「愛ちゃん、よかったね。」
「うん!」
愛はとても嬉しそうに頷いた。
その笑顔を見れただけでも、北海道にきてよかったと美貴は思った。
時間が残っているとのことで、少し早めの夕食を食べることになった。
美貴は希望のジンギスカンを食べ終わったあと、腕時計の針をじっと見つめる。
「ねえ、矢口先生。まだ時間ありますよね?」
「そうだね。あと一時間くらいなら余裕あるよ。どっか行きたいとこでもあるのか?」
「はい。ちょっと行ってきますね。時間までには駅に行きますから。
 愛ちゃん、行こう!」
「えっ、うん。」
美貴は愛の手を引いて店を出て行った。
266 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/08(月) 23:59
「ミキティ達、どこへ行くんでしょうね〜?」
「大体予想はつくけどね。ようやく動き出した・・・あっ、すいません、
 こっちに特製いくら丼一つお願いします!」
「そうですね。あっ、私には蟹丼ください!」
真希とあさ美は、手を上げて店員を呼んだ。
「おいおい、まだ食うのかよ・・・。」
「奢るなんて言うんじゃなかったべさ・・・。」
自分の財布を覗き見て、顔を歪ませる真里となつみであった。
そのためか、真希とあさ美の首にかかっている色違いの同じネックレスに、
気付くことはなかった。
267 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:00
美貴と愛は、歩道をひたすら走っていた。
路面は凍っていて、途中何度も愛は滑りそうになったが、
その度に美貴が支えていた。
繋いだ手を決して離さずに、美貴達は走っていく。
何度目からの信号を渡ったところで、美貴は立ち止まった。
「ハァッ、ハァッ、美貴、ちゃん・・・どこに、行くんやよ・・・?」
「着いたよ。」
愛は荒い息を吐き出しながら、美貴の見つめる先を追う。
そして、普段以上に目を見開いた。
美貴が連れてきた場所は、日本に数本しかない、立派な時計台だった。
クリスマス用に華やかに飾り付けられているので、より一層豪華に感じる。
雄大に立っている時計台を、愛は感動して見ていた。
268 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:01
「美貴もね、紺ちゃんと同じ北海道出身なんだ。」
「・・・そうなん?」
「うん。でね、まだ小さい時に見たことがあってね、その時もクリスマスで、
 その光景が頭から離れないんだ。そして、今でも同じ輝きを放ってる。
 愛ちゃんにもぜひ見てほしかったんだ。」
「うん・・・すごいね。ありがとう!」
美貴は頭を掻いて、時計台に視線を戻した。
その時、愛が美貴の首に手を回した。
暖かさが首を包み込んだ。
見ると、愛と同じ白いマフラーが巻かれていた。
「・・・このマフラー、どうしたの?」
「エヘヘッ、メリークリスマス!クリスマスプレゼントやよ。」
どうりでかばんを決して美貴には見せなかったわけだと、美貴は思った。
269 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:02
愛は恥ずかしそうに顔を赤くしている。
それでも美貴の顔から目を離さない。
「ありがと。あのね、美貴からもプレゼントあるんだけど、その・・・
 愛ちゃんはもらってくれるかな?」
愛は笑顔で首を頷ける。
反対に、美貴は渋い顔をして何やら悩んでいるようだった。
「あの、いらなかったら、捨てちゃってもいいから・・・。」
「せっかくの美貴ちゃんからのプレゼントやもん。そんなことせんよ。」
「んじゃ・・・これ、もらってください!」
美貴はポケットから小さな箱を取り出した。
その中には、銀色の指輪が包み込まれていた。
愛は驚いて美貴の顔を見つめる。
270 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:04
「美貴と、付き合ってほしい。」
「美貴ちゃん・・・。」
「本当はすぐにでも伝えたかった。でも、ずっと怖くって、今までの関係が
 壊れてしまいそうで言えなかった。だけど、この先も愛ちゃんとずっと
 ただの仲間だなんて、そんなの嫌だ。愛ちゃんが好きで仕方ないの。
 美貴は愛ちゃんの全てが欲しい。美貴と真剣に付き合ってほしいんだ。」
愛は美貴の顔と指輪を交互に見つめる。
指輪をそっと手に取るが、それを美貴の手に返した。
「いらない、か・・・。」
「あのね、美貴ちゃん・・・。」
「いいのいいの。忘れてよ。プレゼントって言っても、美貴の押し付けみたいに
 なっちゃうし、美貴は・・・。」
愛は落ち込んでいる美貴の肩を掴んで振り向かせる。
271 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:04
「話しは最後まで聞く。」
「はい・・・。」
愛は一息ついて美貴に左手を差し出した。
「み、美貴ちゃんが、付けてよ・・・。」
「えっ・・・?」
「あーしが付けたって意味ないやろ。美貴ちゃんが付けてくれんと、
 恋人の証にならんがし・・・。」
「愛ちゃん・・・美貴で、いいの?」
「・・・あーしは、美貴ちゃんやから付き合いたいんやよ。あーしやって、
 美貴ちゃんに負けんくらい、美貴ちゃんが好きやったんやから・・・。」
美貴は恐る恐る愛の手を取って、薬指に指輪を付けた。
272 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:05
愛は笑って自分の指に付いた指輪を見ている。
そして、次に美貴の左手を取って、もう一つの指輪を手にした。
ゆっくりと丁寧に美貴の指に指輪をはめ込む。
美貴も自分の指を見つめる。
「それにしても、ようサイズ知っとったね?」
「ああ、前に文化祭で亜弥ちゃんにメイクしてもらったでしょ。
 その時に付けた指輪のサイズ、聞いたんだ。」
「・・・その頃から、あーしのこと想っとってくれたん?」
「いいや、一目惚れだよ。それに、一度は告白したんだけどね。」
「うそぉっ!?いつ!?あーし聞いとらんがし!」
「本当だよ。愛ちゃんは酔っ払ってたから覚えてないんでしょ。」
驚いている愛に、美貴は笑ってそう答えた。
一頻り笑ったあと、美貴は真剣な表情をして愛の顔を見つめる。
273 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:06
「愛ちゃん、好きだよ。」
「・・・あーしも美貴ちゃんが好き。」
美貴の顔が近づいていく。
愛は静かに目を閉じる。
優しく触れ合う二人の口唇。
ほんの一秒ほどで美貴は顔を離した。
二人は何も言えずに、目を合わせずに黙ってしまう。
その時、白い雪が降り始めた。
「あっ、雪やわ・・・。」
「ホワイトクリスマス、だね・・・。」
美貴は空を数秒間見上げて、もう一度愛に目を向けた。
274 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:06
「ねえ、愛ちゃん。」
「ん〜?」
「もう一度、キスしていい?」
「・・・そういうのって、言わんでやってくれんか?」
「どうして?」
「やって・・・恥ずかしいやよ。」
顔を染める愛を見て、美貴はギュッと抱きしめる。
「愛ちゃん、可愛い。」
「・・・知っとるよ。」
「ハハッ、そうだよね。」
美貴はもう一度愛に口付けた。
全てを感じ取れるように、先ほどよりも強めに、深く、長いキスだった。
275 名前:雪の結晶 投稿日:2006/05/09(火) 00:08
愛は全く抵抗せずに、美貴の全てを受け入れた。
口唇を離した二人は、目を合わせて微笑んだ。
「そろそろ行こうか。」
「うん。」
美貴が手を差し出すも、愛は手を取らずに腕を絡ませた。
「いいね〜。恋人みたいな感じ♪」
「みたいやなくて、恋人なんやろ。」
「・・・そうだったね。ずっと、美貴の傍にいてね。」
「うん。」
美貴達は、駅に向けて歩き始めた。
二人の指に付けられているリングが、雪の結晶のように輝いている。
雪は変わらずに降り続く。
昨夜は吹雪で嫌気が差した雪も、この時ばかりは祝福されているように、
美貴は感じていた。
276 名前:kon 投稿日:2006/05/09(火) 00:11
更新しました〜〜。
277 名前:konkon 投稿日:2006/05/09(火) 00:11
>>257:名無飼育さん
申し訳ないです。
こんな展開しか考えられませんでした(汗)
まぁ、ゆったりとまったりでいきましょうw

>>哀さん好きの名無しさん
大丈夫です。
それが狙いですから(謎)
萌えて萌えて萌えまく(ry

>>259:名無飼育さん
そう言っていただけると嬉しい限りです。
最後まで終わらせられるように、今後も期待願います。
278 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/09(火) 00:15
いい!!すばらしい。やっとくっついてくれたかって感じだけど、
実際読むと単純に二人の幸せがうれしい。おめでとう。よかった!!
konkonさんいいお話を読ませてくれてありがとう。これからも期待して待ってます。
279 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/09(火) 00:46
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!ヽ(*;`Д´)ノ

スミマセン、興奮し過ぎて思わず叫んでしまいました…。
280 名前:初心者 投稿日:2006/05/11(木) 02:00
更新お疲れ様です
ミキティも愛ちゃんも良かったなぁとしみじみ
あと亀レスですがさゆとれいなの話も最高でした、ありがとうございます
次回更新楽しみに待っています
281 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/13(土) 02:45
良かった、良かったよー!
今後も楽しみにしてます、がんばってください!!
282 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/05/13(土) 15:14
更新お疲れ様です。
ついにですか!!良かった・・本当によかった゜。(ノд`)゜
ミキティ男前じゃないですか(爆
今後も二人がどのようになっていくのか期待しています!
283 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:25
今年最後の年末、今日は圭織の経営するライブハウス、タンポポでパーティがある。
パーティといっても、知人だけで集まる個人的なものだ。
それに参加する絵里とさゆみは、その食材を仕入れるために
人が込み合う商店街を歩いていた。
二人は大きなビニール袋を両手に一つずつ持っている。
「あ〜ん、もう、何でさゆみ達がこんなに荷物を持たなきゃいけないの?」
「普通は藤本さん達がやるべきだよね〜。本当にもう、やってらんないよ・・・。」
絵里は下を向いてため息をついた。
「絵里?」
「さゆ〜!何で松浦さんがいないのよ〜!」
「さゆみに言わないの。年末年始はお母さんのとこに帰るんでしょ?
 来年一番最初に絵里に顔を見せるっていうんだから、我慢するの。」
「・・・そう、だよね。それまでがんばるしかないよね〜。」
商店街を抜けて、目的の場所まで歩いていると、後ろから一台の軽自動車が隣に並んだ。
284 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:26
車の窓から顔を出したのはなつみだった。
「亀ちゃん重ちゃん、ヤッホー!」
「あ、安倍さん。」
「二人とも、乗りなよ。お前達を迎えにきたんだよ。」
運転席にいる真里は、親指を立てて後ろを指した。
絵里達は嬉しそうにして後部座席に潜り込む。
「亀井達を送ったら、あとは酒を買ってくる裕ちゃんを拾えば
 全員揃うかな・・・。」
「絵里、もうちょっと詰めてよ。」
「だって、たくさん荷物あるんだもん。そのくらい我慢してよ。」
「あのね、絵里と違ってさゆみは普通なの。狭いとこにいたって
 嬉しくないの。もっと大きな車だったら余裕なのに〜。」
「絶対無理でしょ。身長の低い矢口先生じゃ足が届かないって。」
「あっ、そうだよね〜。」
絵里達の話しを聞いて、真里は顔を赤くして体を震わせていた。
285 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:27
「おい、お前ら降りろ。」
「わ〜、生徒虐待だ〜。PTAに訴えてやる〜!」
「冗談ですよ〜。そんなに怒っちゃ、一応可愛いってことなってる顔が
 台無しなの。矢口先生、さゆみの次の次の次の次辺りに可愛いってことに
 しといてあげますから。」
「亀井、それは言いすぎだろ・・・。っつか、道重、おいらのレベルって
 そんなに低いのか?」
「これでも100倍くらい上げてあげたの。」
「ちょっと待て!おいらだってな〜・・・。」
どちらが教師でどちらが生徒だかわからないほど、真里がいじられている。
まるでhigh bredgeでベースを弾いているように、絵里とさゆみの息はピッタリだった。
隣で必死に弁解している真里を見て、なつみは声を押し殺して笑っていた。
286 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:29
タンポポの上の階である一階が圭織の家だった。
そこのキッチンで、真希とれいなは料理を作っていた。
すでにいくつかの料理がテーブルに並べられている。
「あとは・・・田中ちゃん、人参とってくれる?」
「は〜い。」
煮物を見ていたれいなは、冷蔵庫の中から人参を取り出して真希に渡した。
真希は華麗な包丁裁きで人参をみじん切りにしていく。
それが終わると、同じようにして刻まれているピーマンや玉ねぎの
入ったフライパンに入れて、火を通し始める。
「何かさ、楽しいよね。普段と違うところで料理を作るの。」
「そうですね。後藤さんと二人だけで料理を作るのって、あんまりなかったですとね。」
手だけは決して止めずに、二人は話している。
287 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:29

ガチャッ

キッチンのドアが開いて圭織が入ってきた。
「おっ、いい匂いがするね。」
「圭織、終わったの?」
「なんとかね。あとは来年初めにもう一度チェックすればいいかな。」
圭織はライブハウスの機材の点検をしていた。
細かいところまでは見られないけど、それなりにスキルはあるので、
大概のことは彼女が自分の手で確認をしていた。
「圭織も何か手伝おうか?」
「いや、こっちは二人でいいよ。それより、きたみたいだよ。」
廊下の方からドタドタと歩く音と、話し声が聞こえてくる。
ドアが開いて入ってきたのは、美貴と愛、ひとみの三人だ。
288 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:30
「飯田さん、焼肉セット借りてきました〜。」
美貴が親指を立ててそう言った。
「ちょっと、カオリン聞いてよ〜。美貴が道を間違えやがってさ〜。
 愛ちゃんがいたから助かったものの・・・。」
「あのね、最初から道を覚えようとしなかった、よっちゃんにだけは言われたくないね。」
「うちが覚えられるわけないだろ。運転できない美貴が悪い。」
「威張るな!っつうか、美貴のせいかよ!」
真希とれいなは笑って話しを聞いている。
「ごっちん、れいな、先に行って準備してるね。三人とも、行くよ。」
「はいは〜い。」
圭織に続いて、美貴達は部屋を出て行った。
キッチンでは、変わらずに料理を捌く心地良い音が響いていた。
289 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:31
愛が誘導しながら、美貴とひとみの二人で、焼肉セットを地下に運んでいる。
普通の人なら持てない重さであるが、この二人でなら持てないことはない。
ゆっくりと、慎重にライブハウスの中へと運ぶ。
普段は飲食禁止のライブハウスを利用しようと言ったのは、
他の誰でもない圭織だった。
年に一度くらいは大勢で騒ごうとのことである。
二台ある焼肉セットを中に入れて、美貴はひとみを見る。
「よっちゃん、説明書はどこ?」
「あ〜っと車の中。取ってくるわ。」
そう言って、ひとみはライブハウスから出て行った。
美貴は、誰もいないステージを見上げた。
愛もそれにつられて見上げる。
290 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:33
「ここから始まったんだよね。」
「何が?」
「初めてここにきて、歌っている愛ちゃんを見てさ、美貴もバンドを
 やりたいって思ったんだ。愛ちゃんがいてくれたから、美貴も夢を
 持つことができたんだよ。ありがとね。」
「・・・それはあーしもそうやよ。美貴ちゃんがいてくれたから、
 あーしも強くなりたいって思えたんや。本当にありがとう。」
美貴は軽く笑って首を振った。
「な〜にを感慨ふけってんの?まだまだこれからでしょ。」
後ろから圭織が声をかけてきた。
「あんた達はまだ若いでしょ。圭織もまだ若いけど、始まりは一度だけじゃないよ。」
「・・・そうですね。」
美貴は苦笑いを浮かべて頷いた。
291 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:34
「いい、よ〜く聞きなさいよ。圭織が思うにはね・・・。」
「(やばっ、飯田さん、目が説教モードだ・・・。)」
「(美貴ちゃん、どうしよ・・・。)」
こうなってしまうと、圭織の話しは止まらない。
美貴と愛は、顔を合わせてどうしようかと考え始めた。

ガチャッ

ライブハウスの扉が開いた。
その音に気付いて、圭織は振り向いた。
「「(助かった〜・・・。)」」
美貴と愛は同時にそう思った。
292 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:35
中に入ってきたのは希美と亜衣だった。
「カオリン、久しぶりだね!」
「おっ、ミキティ達もおるやん。」
「久しぶりだね〜。のんちゃんとあいぼん。二人とも大人っぽくなったね。」
圭織は笑顔で迎え入れる。
美貴と愛は、少し驚いた顔をして圭織を見た。
「飯田さん、知り合いだったんですか?」
「うん、一時期は保母さんになりたいって思ってた時があってね、
 研修で色々な施設を周ったりしてたの。その時に知り合ったんだ。」
「ねえ、カオリン。のん達、あんまりお金持ってないけど、いいの・・・?」
希美が不安そうな表情で圭織を見つめる。
293 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:37
「別にいらないよ。その代わり、二人には働いてもらうことにする。
 それでいいよね?」
「何をすればええんや?」
「とりあえず、まだ済んでない楽屋とステージの掃除、お願いしようかな。」
「任せてよ!」
希美と亜衣は張り切って部屋から出て行った。
ちょうど入れ替わりでひとみが入ってくる。
「よし、美貴達も片付けちゃおうか!」
「うん!」
ひとみが持ってきた説明書を元に、美貴と愛も準備を始めた。
294 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:39
真希とれいなは、椅子に座ってだらけていた。
テーブルの上には、乗せきれないほどの様々な料理が置かれている。
「それにしても、ずいぶんと作ったっちゃね〜。」
「本当だね。おかげで肩がこっちゃったわ。」
「後藤さん、おばさんっぽい言い方ですと。」
「・・・田中ちゃん、言うようになったね。」
「ヘヘッ、それより後藤さん、いい加減に名前で呼んでくださいよ。
 今度かられいなって呼ばんと、返事しませんよ?」
「わ、わかったよ・・・れ、れいな・・・。」
恥ずかしそうにしている真希に、れいなは笑顔を見せる。
その時、扉が開いてあさ美が入ってきた。
295 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:41
「後藤さん、お連れしました〜。」
「紺野、お疲れさま〜。」
あさ美の後ろからついてきたのは、麻琴と里沙だった。
真希やあさ美にとってかけがえのない友人も、ここに招待したかったのだ。
「えっと、後藤さん、私達もここにいていいのでしょうか・・・?」
里沙が落ち着かない様子で真希に聞いた。
「いいんだよ。後藤がきてほしたかったから呼んだんだからさ。
 他のみんなは?」
「やっぱり、年末で忙しくて、出れないとのことです。」
「そっか。仕方ないね。んじゃ、紺野は小川と一緒に圭織のとこで
 何したらいいか聞いて。」
「はい。」
「わかりました。」
あさ美と麻琴は部屋を出て行った。
296 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:42
「さてと、後藤達はこれから下に料理を運ぶから、新垣も手伝ってよ。」
「はい!」
里沙は元気よく返事をした。
れいなと里沙は料理をどのように運ぼうかと話している。
このような場でないと、まず話すことなどない二人だ。
そう思うと少し不思議に思える。
それが自分を挟んでの関係だから尚のことだ。
「こんなにあると、なかなか運びにくいっちゃよ。」
「後藤さん、どうしますか?」
「こういうのはコツがいるんだよ。あのね・・・。」
真希は小さく微笑んで、椅子から立ち上がった。
297 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:47
時刻は八時を周ったところだ。
ライブハウスには美貴達high bredgeのメンバーに、真希達のバスケ部、士鬼面の三人、
裕子や真里、なつみに圭織が揃っていた。
料理は全て運ばれていて、あとは肉を焼くだけだ。
「あときてないのは・・・いしかーさん達だけやね。」
「仕方ないよ。あの人達は仕事だしね。」
愛の呟きに、美貴が答える。
その時だった。
「ハッピー!」
突然扉が開いて、梨華が手を広げて入ってきた。
誰もが呆然として梨華を見ている。
298 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:48
「みんな〜、私のことを待っててくれてありがとね♪」
「誰も待ってないし。っつうかキショイ。」
一刀両断、美貴の一言で、梨華はいじけて座り込む。
「美貴ちゃん、ひどいよ・・・。」
「まぁまぁ、冗談じゃないけど冗談にしといてあげるから。」
「慰めになってないよ〜。」
「美貴、梨華をいじめるのもそこで止めときなよ。」
梨華の後ろから圭と小春が入ってきた。
「梨華をいじめると話しが前に進まないでしょ。」
「保田さんまでひどい・・・。」
「お姉ちゃん、どうしてここにいるの?仕事は?」
「紅白はトップバッターであとは暇だったから、早々に切り上げてきたのよ。
 他の番組は生放送ばっかで、久住が年齢対象外だから録画なんだよね。
 これ、お土産。」
圭が渡した包みを見ると、いかにも高そうな肉が包まれていた。
299 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:49
思わず美貴は唾を飲み込んだ。
「あんたは昔から肉が好きだったわよね。」
「お姉さま!おありがとうございます!」
美貴は大きく頭を下げた。
他の人達は、miracle charmy keyの三人を見て立ち尽くしていた。
今テレビで活躍中の芸能人が目の前にいるのだから、当然といえば当然だ。
その中で、誰よりも驚いていたのは絵里、さゆみ、れいなの三人だった。
「美貴ねえ!今のはどういうことっちゃ!?」
「miracle charmy keyの保田さんが、藤本さんのお姉さん・・・?」
「さゆみ、全然わかんないよ〜。」
「えっと、わかったよ。あとで説明するって。」
美貴は絵里達をなんとか宥めて椅子に座らせた。
圭や梨華、小春も適当な席に座る。
「さってと、始めようか!」
美貴は嬉しそうに笑って、ここにいるメンバー達を見渡した。
300 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/14(日) 22:55
更新です〜〜〜。
301 名前:konkon 投稿日:2006/05/14(日) 22:56
>>278:名無飼育さん
本当にようやくって感じですねw
だからこそこの時が至福だなって思えたら光栄です。
これからもあいみきでがんばります!

>>279:名無飼育さん
いくらでもどうぞ♪
それが狙いですのでw

>>初心者さん
ありがとうございます。
さゆれなはちょっとメルヘンな感じでしたけど、
それがさゆの最高潮だと思っております。

>>281:名無飼育さん
本当によかったですよ〜。
この二人どうしてやろうかと考え(ry
ってのは冗談で(マテ、今後もラブラブにできたらなって思ってます。
っつか書くつもりですけどねw

>>哀さん好きの名無しさん
男前すぎでしたかね(汗)
二人の関係はこれからも色々と書きつつ成長していきたいと
心から思ってます。
それが書けるようになれたらいいなと心の底から思ってます(泣)
302 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/05/17(水) 22:02
更新お疲れ様です。
パーティー楽しそうですねw混ざりた(ry
全員が揃うことはあまりないと思うので、どんなパーティーになるか楽しみです。
次回も楽しみに待ってます!
303 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:47
美貴は悩んでいた。
ここは場を借りているので圭織に話しをしてもらうのか、
最年長の裕子に頼むべきか、もしくは勢いでこのまま始めてしまうか。
とりあえずは、圭織のおかげなので圭織に頼むことにした。
「えっと、飯田さん、何か一言お願いします。」
「え〜、圭織がやるの〜?参ったな〜・・・。」
そう言いながらも、圭織は立ち上がって仲間を振り向く。
「皆さん、今年もお疲れ様でした。来年も元気にやれるように、
 ここでは少し昔の偉い人の話しをしようかと・・・。」
「圭織〜!はよ飲みたいんやから終わりにしてくれ!」
「裕ちゃんは黙ってて!これからがいいとこなんだから・・・。」
圭織と裕子の言い合いが続く。
304 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:47
この二人に任せようと思ったこと自体が間違いだと気付いて、美貴は深く後悔した。
なかなか始まりそうもないので、コップを持って立ち上がる。
「みんな〜!今年もお疲れ様でした!」
「藤本、こっちの話しも終わっとらんで!」
「いいじゃないよ。この子達が本当は主役なんだから。」
「まあ、それもそうか。」
裕子と圭織はあっさりと身を引いた。
美貴は、愛達に視線を送る。
愛達は笑顔で首を頷かせる。
「え〜と、始める前に、皆さんに重大な発表があります。美貴達high bredgeが、
 なんとオーディションに合格しました〜!」
「おめでと〜!!!」
周りから歓声と拍手が送られる。
それを美貴は不思議そうに見ている。
305 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:49
「あれ・・・誰も驚かないの?」
「あっ、ごめん。後藤達がみんなに言いふらしちゃった。」
「ふ〜ん。まあいっか。んじゃ、かんぱ〜い!」
「「「かんぱ〜い!!!」」」
美貴の掛け声で、一斉にコップを鳴らす音が響いた。
「圭織も話したかったのに〜・・・。」
「まぁまぁ、圭織、来年もよろしくね。」
圭は笑って圭織にコップを差し出した。
「こっちに酒持ってこ〜い!」
「裕子、頼むから少しは大人しく頼むよ。」
「なんや矢口〜!あんたも飲まんかい!」
「これで生徒の鏡なんだから、面白いもんだべ。」
裕子と真里のやり取りを、なつみはクスクスと笑って見つめている。
306 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:49
美貴が肉を焼いている間に、愛は絵里とさゆみとれいなに、
美貴と圭の関係を話していた。
「そういうことだったんですか〜。」
「藤本さんのお姉ちゃんか〜。まぁ、さゆみにも頼りになるお姉ちゃんがいるけどね〜。」
そう言って、さゆみは愛の背中に抱きついた。
「おわっ!」
「ねえ、お姉ちゃん♪」
「さゆ・・・もしかして、もう酔っとんのか?」
「酔ってなくてもさゆみはお姉ちゃんのことが好きですよ〜。」
さゆみは抱きしめた腕を強めて離さない。
それを見て、絵里はニコニコと笑っている。
だが、れいなだけは寂しげに俯いていた。
「れいな、こっちにきなよ。」
美貴に手で招かれて、れいなはノロノロと美貴の元へと歩み寄る。
307 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:50
「そんな暗い顔しないの。愛ちゃんとさゆだってマジじゃないことくらい、
 あんたが一番知ってんでしょ。」
「まぁ、そうやけど・・・。」
「今はここに美貴がいるんだからいいじゃん。それとも、美貴じゃ不服?」
「れいなは愛ちゃんの方がよか・・・。」

ビシッ!

美貴はデコピンでれいなの額を弾いた。
「生意気言うな。れいなのバカ。」
「いった〜!冗談とね、そんな怒らんでも・・・。」
美貴は目を反らして一気に肉を頬張った。
308 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:51
「あ、あの、美貴ねえ。」
「ひゃひ?(何?)」
「・・・今年はお世話になりました。来年もよろしくお願いします!」
一瞬拍子抜けしたものの、口の中に入っている肉を飲み込んで、
れいなの頭を乱暴に撫で付ける。
「・・・美貴もれいなに会えてよかったよ。こっちこそよろしくね。」
れいなは嬉しそうにして頬を緩ませた。
「来年はもっと厳しくなるだろうけど、がんばろうね。」
「うん!いけるとこまでいってやるっちゃよ!」
美貴はれいなとコップを合わせる。
309 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:52

コツン

小気味良い音がした直後に、梨華が飛びついてきた。
「ちょっと美貴ちゃん、話し聞いてよ〜!ごっちんがひどいんだよ〜。」
「梨華ちゃん、どうしたの?ごっちんが何かした?」
「よしこ、後藤、間違ったこと言った?」
「いいや、ごっちんは間違ってないよ。梨華ちゃんはちょっと頭おかしいから、
 気にしないほうがいいよ。」
「もう、よっすぃ〜!」
梨華の一段と高い声が響いた。
どこへいってもいじられ役だが、ひとみがつくとさらに面白くなる。
美貴もすぐに話しに混ざることにした。
310 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:53
時刻は十一時半を周っていた。
ほとんどのメンバーが酒に酔って、楽しく笑っていた。
「んまい!圭ちゃん、この酒旨いわ〜!」
「裕ちゃんもけっこうイケる口ね。」
「けっこうやないで。まだまだイケるわ!」
「フフン、面白いじゃん。勝負してみる?」
裕子と圭は飲み比べをしている。
「あのね、圭織が言いたいのはね・・・。」
「キャハハハッ!その話しおいら何度も聞いたよ!」
「なっち、圭織の言いたいことよくわかんないべさ。」
「へ〜、そういうことなのね・・・梨華、よくわかったわ!」
圭織のグダグダと長い話しが続いている。
311 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:54
なつみと真里は完全に酔っていて、ほとんど聞いていないようだ。
それでも圭織は話しを続けている。
その話しを、なぜか梨華だけは真剣に耳を傾けていた。
「吉澤さ〜ん!聞いてくださ〜い!」
「麻琴〜!くっ付くな〜!」
ひとみと麻琴はふざけ合っている。
麻琴は、ひとみのことがずいぶんと気に入ったようだ。
言葉とは裏腹に、ひとみも嫌がっているようには見えない。
少し離れたところでは、真希達がトランプをしていた。
「これでどうや!」
亜衣が勢いよくカードをテーブルに叩き付けた。
「ごめん、革命起こして8流しで、これで終わり。」
「それでは、3を三枚、5から7のトリプルで、私も終わりです。」
真希とあさ美がカードを出して、亜衣は頭を抱えて悔しそうな表情を浮かべた。
312 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:55
「これで七連敗・・・何で勝てないんや?」
「出したカードを全部覚えれば、誰が何を持ってるかわかるからね。」
「次の展開が読めれば完璧です!のんちゃんはやらないの?」
「あいぼんが勝てないのに、のんが勝てるわけないよ。」
「のんもやるんや!今度こそは勝つ!」
亜衣は手馴れた手つきでカードを切り始めた。
真希とあさ美は顔を合わせて笑い合い、ゲームに参加していた。
「ねえねえ、ガキさん、絵里ってキモいかな?」
「あのね、亀ちゃん、いきなりそんなこと言われても困るから・・・。」
「絵里は可愛いから平気やわ〜!」
「愛ちゃん、そういう問題じゃ・・・。」
「そうだよね!絵里って可愛いんだもんね〜!」
「って、納得してるし!私に聞いた意味ないじゃん。」
里沙は酔っている愛と絵里の相手をしていた。
313 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:57
話しは全くかみ合わない、自己中心的な話しをするのが多い二人だが、
それでも里沙は一つ一つの会話に突っ込みを入れている。
面倒見がいいのが彼女の長所でもあるかもしれない。
一方で、珍しくさゆみとれいなが言い合いをしていた。
「だめなの。小春ちゃんとはさゆみと組むの〜!」
「いいや、いくらさゆでもこれだけは譲れんと!小春ちゃんはれいなと
 組むっちゃっよ!」
「さゆみなの!」
「れいなやと!」
「ん〜、どっちも楽しそうですから、両方ともやりましょう!」
小春は楽しそうにそう言った。
314 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/18(木) 23:58
「それじゃあ、さゆみとはピンク系でいくの!重ピンクとこはっピンクで組むの。」
「いいですね。」
「れ、れいなとも組むっちゃよ!猫のれいなと兎の小春ちゃんで
 何か面白いことやると!」
「面白そうですね〜。」
さゆみとれいなは嬉しそうに頷いている。
「小春ちゃんにうさちゃんピース、伝授してあげるの!」
「れいなはれいにゃでよかとね!」
「はい!」
美貴はぼーっと周りの様子を見つめていた。
突っ込みどころ満載だが、あえて何も言わずに立ち上がり、部屋から出て行った。
その様子を、真希は横目でじっと見つめていた。
315 名前:konkon 投稿日:2006/05/18(木) 23:58
更新です。
316 名前:konkon 投稿日:2006/05/18(木) 23:59
>>哀さん好きの名無しさん
年に一度の祭りですからね〜。
賑やかに楽しめればいいですよね〜♪
俺も混ざりた(ry
317 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:14
外の冷たい空気が酒の酔いを消していく。
美貴は煙草を口に咥えて火を点けると、空に向けてフーッと煙を噴き出した。
夜空に浮かぶ星が美貴の顔を照らす。
短くなった煙草を携帯灰皿に入れた時、後ろから足音が聞こえてきた。
振り向くと、真希が階段を上がってきていた。
「ミキティ、どうしたの?」
「ん〜、なんでもない。吸う?」
「言ったでしょ。誕生日に吸ったので最後だってさ。」
「そうだったね〜。」
美貴は笑って新しい煙草を口に咥える。
318 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:14
「何か嬉しそうだね。」
「そうだね。嬉しいよ。たくさんの人達とこうやってバカ騒ぎできることがさ、
 こんなに楽しいものだなんて知らなかったよ。」
美貴はふいに空を見上げる。
「人ってさ、星の欠片みたいだと思わない?一つだけでも輝くことはできるけど、
 たくさん集まると星座っていう一つの形になってさ、さらに輝きを増していくんだ。
 今の美貴達と同じだよ。」
「・・・そうかもね。」
「できるんだよ。こんな美貴にも、仲間っていう絆を作り上げることができるんだ。
 美貴、すごく幸せだよ。」
「うん。そうだね。」
二本目の煙草を吸い終わったあとも、二人は夜空を見つめていた。
319 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:15
「いつデビューするの?」
「それはまだわかんない。つんくさんの話しだと、来年四月から
 本格的にトレーニングを積んで、一人前になってからだってさ。」
「そっか・・・ミキティがどこまで駆け上がっていくか、
 後藤は楽しみだよ。がんばろうね!」
「うん。ありがと。」
「それにしても、今年は色々なことがあったね。」
「そうだよね〜。本当にたくさんの思い出ができたよ。」
「ところで、高橋とは上手くいってるの?」
「ん〜、まぁ、ぼちぼちってとこかな。ゆっくりやってくよ。」
「そこだけは心配だよね。ミキティ、意外と度胸ないからな〜。」
「意外とって、失礼な!美貴だってやるときゃやるさ!」
「どうだかな〜。ん?」
真希は階段を上ってくる足音に気付いて、そちらに目を向ける。
320 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:16
そこから、ゆっくりとした歩調で愛が階段を上ってきた。
ずいぶんと飲んだようで、顔は真っ赤でフラフラとしている。
「愛ちゃん、大丈夫・・・どわっ!」
美貴と目が合った瞬間、愛が抱きついてきた。
「こんなところにいたがし!美貴ちゃん、あーしを置いていかんで、
 寂しいやよ・・・。」
愛は美貴の首に手を回して離さない。
その様子を、真希はニヤついた顔でじっと見ていた。
美貴は顔を赤くして真希を睨む。
「ちょっと、ごっちん・・・。」
「はいはい、邪魔者は消えますよ。」
真希は軽快な足取りで階段を下りていく。
真希が見えなくなってから、美貴はそっと愛を抱きしめた。
321 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:16
「愛ちゃん、美貴はここにいるでしょ。ずっと傍にいるよ。」
「ほんと・・・?」
「うん。不安にさせてごめんね。ところで・・・。」
美貴は優しく愛を離すと、酔っているとは思えないほど素早い動きで、
階段に近づいて下を見下ろした。
直後に、ドタドタと走り去っていく音が聞こえた。
「全く、油断も隙も出せないや。愛ちゃん、戻ろうよ。」
なぜか美貴は大声で、下にまで聞こえるようにそう言った。
その次の瞬間には、愛は美貴の腕に抱きしめられていた。
「これで邪魔者はこないよね。」
「み、美貴ちゃ・・・。」
愛の口唇が美貴のそれによって塞がれた。
322 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:17
愛はゆっくりと目を閉じる。
美貴の暖かさが、抱いている体を、繋がっている口唇を通して伝わってくる。
十分に感じたあと、美貴は顔を離した。
「愛ちゃん、美貴を感じてくれた?」
「うん・・・。」
胸の鼓動が鳴り止まない。
熱が体中を刺激する。
美貴はそっと愛の顔に手を添える。
「泣きそうな顔しないでよ。美貴は愛ちゃんだけのものだから。
 愛ちゃんは美貴の大切な人だから、決して離さないよ。ね?」
「・・・うん。ごめんね。」
「いいよ。美貴も嬉しかったからさ。みんなのとこに戻ろう。」
「うん!」
美貴の手をしっかりと握って、二人は部屋へと戻って行った。
この時のことだけは二日酔いで忘れないでほしいと、美貴は心から願っていた。
323 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:18
美貴達がライブハウスに入ると、何人かが美貴達を見たと同時に目を反らした。
内心怒りが沸騰するも、美貴は気を落ち着かせて心を静めた。
時計の短針がそろそろ12を指そうとしている。
あと少しで一年が終わる。
何を思い立ったのか、ステージを見上げる。
そこには、ドラムだけが根を生やしたように置いてあった。
「愛ちゃん、れいな達を連れてステージに上がってて。」
「美貴ちゃん・・・は〜い。」
あまり期待できない感じの返事だったが、美貴は楽屋へと走り出した。
美貴が戻ってきた時には、愛達がステージの上に上っていた。
ライブハウスの壁に掛かっている時計は、12時まで残りほんの30秒ほどだった。
324 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:19
美貴は自分のギターとベースを二本、一本のマイクを抱えてステージに飛び乗った。
美貴達に気付いて真希達は見上げる。
「あと7秒・・・カウントダウン、始めるよ〜!5!」
「ハハハッ!4!」
梨華、ひとみ、亜衣、希美が四本の指を立てて上に向けた。
「3!」
絵里、さゆみ、れいなが三本の指を見せる。
「2!」
真希とあさ美、麻琴、里沙も二本の指を高く上げた。
「1!」
美貴や愛に合わせて、小春も嬉しそうに人差し指を上げて見せる。
大人達は笑顔で見届ける。
「0!ハッピ〜ニュ〜イヤ〜ッ!」
「「「イエ〜イ!」」」
歓声と共に、美貴がギターを大きく弾いた。
325 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:20
「よっし、新年明けましておめでとうってことで、high bredgeが
 今年も最高の歌をお届けするよ!みんな、準備はいい?」
「無理です〜・・・。」
「さゆみ、眠いんですけど・・・。」
「酔っ払って腕が上がらんと・・・。」
絵里達はだるそうに返事をした。
「ぶっ飛ばしていくんでよろしくね!新曲、intuition!」
美貴は愛達にそれぞれの楽器を渡すと、軽快なギターの音を弾き出す。
その瞬間、愛や絵里、さゆみ、れいなの目つきが変わる。
美貴に合わせて音を刻み、激しく指を震わせて声を出す。
「ミキティ、カッケェ!」
「サイコーッ!」
真希達は声を上げて楽しそうに騒いでいる。
一方、小春は感心しながら美貴達を見つめていた。
326 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:21
「久住、美貴達のことどう思う?」
後ろから圭が話しかけてきた。
小春はチラリとだけ圭を見て、またすぐに視線を戻した。
「すごい人達だと思います。こんな人達がいたなんて、びっくりです。」
「そうね。どんな状態からでもすぐに弾ける力は、アーティストとして
 とても大事なことだね。それをあの子達は、きっと本能が知ってるんだよ。
 そして、本当に大切なこともね。あなたと同じよ。」
「楽しそう、ですよね。」
小春にもなんとなくはわかっていた。
美貴達が何を持って歌っているのか、自分と同じ気持ち、それ以上のことを
歌を通して伝えようとしている。
そして、美貴のことを見た。
327 名前:星の欠片 投稿日:2006/05/21(日) 22:22
「藤本さんのこと、小春は尊敬しています。」
「美貴のこと?」
「藤本さんには、小春も、他の誰にも持ってない力があると思います。
 人を惹きつける魅力があるんですよ。かっこいいですね。」
「・・・そうかもしれないわね。」
美貴にそのような力があるのを、圭も薄々とは感じ取っていた。
だが、小春にもそれに負けない力を持ち合わせている。
それは、小春の純粋さゆえに持つ、吸収する力だ。
純粋無垢な小春だからこそ、人のいいところを吸収して、自分の力にできる。
美貴の音楽を聴いていればもしからしたら、と思ったが、
「保田さん、小春はもう限界です・・・。」
小春はテーブルに伏せてしまった。
デビュー前は11時には寝ていたという小春だ、この時間帯は厳しかったかもしれない。
圭は一息ついて上着を小春に被せた。
寝ている時にまで、小春の表情から笑顔が離れることはないようだ。
最後に小春の目に焼きついたのは、美貴の鮮やかにギターを弾く指と、
楽しそうに笑顔を振り撒いている可憐な笑みだった。
328 名前:konkon 投稿日:2006/05/21(日) 22:22
更新っす。
329 名前:774改 投稿日:2006/05/21(日) 23:11
更新お疲れさまです
ヤパーリ面白いですよ書き込むのは久々ですが
いつも読んでますw
では次回更新を楽しみにしながら・・・
330 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:27
一月中旬のある日の夜だった。
亜弥と絵里は街中を歩いていた。
この時期では、三年はほとんどの授業が午前中で終わる。
二年の絵里は、この日は特別授業ということで、授業が早めに終わった。
特にバイトなどの用事もなかったので、亜弥と二人で町に遊びに行ったのだ。
「そうだ、今日は美貴たんにDVDを借りに行こうと思ってたんだ。」
「愛ちゃんもいますかね?」
「どうだろね。一緒に行く?」
「はい!」
二人は美貴の家に着いてインターフォンを押す。
二・三度押しても誰も出てこない。
331 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:27
「ありゃ、美貴たんどこ行ったんだろ?バイトかな?電話してみる。」
「なら、絵里は愛ちゃんに電話してみます。」
亜弥が電話してみるが、美貴は全く出なかった。
逆に、絵里は愛と繋がって、話しをしているようだ。
電話が終わった絵里が亜弥を振り向いた。
「愛ちゃん、今買い物中であと少しで帰るようです。」
「そっか。なら、そこの公園で待ってようよ。」
今日はそれほど寒くないので、少し待つくらいなら喫茶店に入る必要もない。
二人は公園に向かって歩き始める。
公園にある一つのベンチの前で立ち止まって、亜弥はかばんだけ下ろした。
「絵里、飲み物買ってくるけど何がいい?」
「じゃあ、ミルクティでお願いします。」
「ん、わかった。」
絵里に親指を立てて向けると、亜弥は足早に歩き始めた。
332 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:28
ある女の集団が夜道を歩いていた。
そのうちの一人は是永美紀である。
一緒にいるのは、朝比奈学園で恐れられていたメロンの四人だった。
この五人は、高校に入る前からの悪仲間だ。
「なあ、是ちゃん。幸っちゃんはどうした?」
雅恵が眠そうに欠伸をして美紀に聞いた。
「あいつはいないよ。藤本美貴にぼこされて、普通に過ごすことにしたんだと。」
「まぁ、確かにあいつは強かったからね。」
「ボスもやばいんじゃない?別の意味でね。」
「素直に二浪してるからって言えば?」
「うるさい、バカッ!」
瞳は声を荒げてそう言った。
333 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:29
「けど、次に会った時には殺してやる。今の私達には、秘密兵器があるからね〜。」
美紀は一番後ろを歩いている、この場の空気に合わない生徒を振り返った。
美紀達についていたのは里沙だった。
里沙は怯えた表情をして俯いた。
「ん・・・あいつら。」
「どうした、是ちゃん?」
美紀は公園の中をじっと見つめている。
ちょうど、亜弥がジュースを買いに絵里と別れたところだった。
「面白いこと考えた。」
そう言って、美紀はかばんの中をごそごそとあさっている。
あゆみ達は美紀の作業を見ている。
少しして、里沙は一枚のハンカチを渡された。
334 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:29
「里沙、これをあっちに行った女に嗅がせてきてよ。」
「えっ・・・?」
「大丈夫、別に毒じゃないから死にはしないって。」
「で、でも・・・。」
「言うこと、聞いてくれるよね?」
里沙は体を震わせてそれを受け取った。
里沙は俯いていたので、公園にいるのが亜弥と絵里だということを知らない。
やるしかないと自分に言い聞かせ、亜弥の元へと歩き出す。
「さってと、これで楽しくなってくるよ。」
「是ちゃんも悪だね〜。」
美紀達は顔をにやけさせて絵里に向かって行った。
335 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:30
「フンフフ〜ン♪これとこれ!」
亜弥は自動販売機のボタンを押して、二本のジュースを買った。
それを取り出して振り返る。
明日も二人とも学校が早めに終わるので、美貴からDVDを借りたら
絵里と一緒に見るのも悪くない。
そう思うと頬が自然に緩まる。
ジュースを見つめながら歩いていると、目の前に人の気配を感じた。
亜弥が前を向いた。
次の瞬間、
「んんっ!?」
何者かに布を口に覆われた。
336 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:31
ジュースが亜弥の手元から離れて地面に落ちる。
力で引き離すも、頭に眩暈がして急激な眠気が襲ってくる。
以前に自分が愛に使ったものと同じだと、瞬時に理解した。
目の前にいた影は走って逃げ出した。
「(逃げ、た・・・?狙いは、まさか、え、絵里・・・。)」
亜弥は近くにあった鉄柱を掴んで起き上がると、

ガンッ!

自らの額を強く打ち付けた。
強い痛みで眠気をかき消した。
「い、行かなきゃ・・・。」
顔に垂れてくる血を拭って、亜弥はふらつきながらも足を前に踏み出した。
337 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:32
絵里はベンチに座って手帳を見ていた。
手帳には、亜弥と絵里が顔をくっ付けて笑っているプリクラが貼られていた。
以前に約束したことを亜弥は覚えていてくれたのだ。
蛍光灯は少し薄暗かったが、それでも気にせずにじっと見つめては、笑っている。
亜弥がきたら、キモイよ、と笑われるだろう。
そう言われるのも一つの楽しみだった。
亜弥がくるのを待っていると、自分の姿を影が覆った。
「松浦さん、遅かった・・・!?」
見上げた絵里の顔から笑みが消えた。
絵里の前に現れたのは美紀達だった。
「久しぶり〜。あんたの指輪、けっこう気にいってたんだよね。」
「い、いやっ・・・。」
絵里の口が美紀の手によって塞がれる。
同時に、雅恵と恵が絵里の両腕を押さえて地面に押し付けた。
338 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:33
この公園はそれなりに広いが、普段よりは暖かいとはいえ、
冬の夜に公園を出歩く人など皆無に等しい。
「あんたもけっこう可愛いからね。それなりの値段にはなるよ。」
「んんっ・・・!?」
上を見上げると、あゆみがビデオカメラで自分を撮っていた。
絵里は涙を零して暴れようとするが、力で押さえつけられて抵抗にもならない。
美紀が絵里の服に手をかける。
その時だった。
「何してんやよ?」
美紀達が振り向くと、手に買い物袋をぶら下げた愛が立っていた。
「絵里に何してるって聞いてるんやよ。離してあげて。」
「高橋、愛・・・。」
あゆみが呟くようにそう言った。
339 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:35
「誰?」
「私らが昔に目をつけた女で、藤本美貴とよく一緒にいるやつだよ。」
美紀の問いに、瞳が答えた。
「へ〜、ならちょうどいい。藤本のやつはいないんだし、復讐も果たせるじゃん。
 そいつのことも襲っちゃえば?」
「言われなくても、そうするよ。あいつがいなけりゃ、こんなやつ・・・。」
手の空いていた瞳が愛に近寄っていく。
それを見かねた愛は、深く息を吸い込み、
「イヤーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」
ものすごい大声で叫んだ。
その場にいた誰もが耳を塞ぎたくなるような、太く、響く声だった。
340 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:36
過去にあゆみ達が愛に詰め寄った時とは、全く予想外の行動だ。
公園全体、いや、公園を突き抜けて外にまで聞こえたかもしれない。
「くそっ!」
美紀達は慌てて絵里を離し、公園から逃げて行った。
愛は一息ついて絵里の傍に歩み寄る。
「"こんなやつ"から逃げとったら世話ないわな。絵里、大丈夫やった?」
「あ、愛ちゃ〜んっ!」
絵里は愛に抱きついて泣き出した。
愛は優しく背中を摩る。
「夜遅くにこんなとこおったら、危ないやろ。」
「それは、愛ちゃんだって・・・。」
「あーしやって普段は通らんよ。絵里達がうちに来るって言うがし、
 近道しただけやよ。ところで、亜弥ちゃんは?」
絵里は思いだしたかのように首を左右に振って、亜弥を探し出す。
341 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:37
「え、絵里・・・。」
声の方を振り向くと、そこには頭から血を流している亜弥が近寄ってきていた。
「ま、松浦さん!」
絵里は慌てて亜弥に近寄った。
ハンカチを取り出して傷口を塞ぐ。
「亜弥ちゃん・・・早くうちにきて!止血せんとやばいわ!」
「み、美貴たんは・・・?」
「美貴ちゃんは、まだバイトから帰っとらんよ。」
それを聞いて、亜弥は小さく頷いた。
愛と絵里の二人に支えられて、美貴達の家へと歩き出した。
342 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:38
止血が終わった亜弥は、ソファの上でぐったりと寄り掛かっていた。
それを絵里が隣に座って心配そうに見つめている。
愛は四人分の料理を作っている。
冷静を装っているけど、内心は胸を刺激して止まない状況だった。
美紀のことを愛は知らないが、メロンの四人は記憶にある。
だが、その四人が亜弥を襲う理由がわからない。
あえて考えられるのだとしたら、美貴と親しいことだ。
逆に考えると、美貴がいるのに手を出したということになる。
ならばなぜ今になって襲ってきたのか、それがわからなかった。
愛と絵里を最も深く混乱させたのは、次の亜弥の言葉だった。
343 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:38
亜弥を襲ったのは里沙だと言う。
絵里と話しているのを何度か見かけていたので、間違いないらしい。
絵里の数少ない親友であるし、愛も年末には仲良くなれた。
あの時の里沙を思い出すと、どうあっても彼女が関わっているとは考えられない。
愛はシチューの鍋が噴出しそうなったことに気付いて、一度思考を止めた。
その時、リビングから物音が聞こえた。
亜弥が立ち上がって帰る準備をしていた。
絵里も亜弥についていく。
「亜弥ちゃん、帰るの?」
「うん。迷惑かけてごめんね。」
「それは、構わんけど・・・。」
「・・・愛ちゃん、一つお願いがあるの。」
亜弥が真剣な表情で愛を見つめる。
344 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/25(木) 22:39
「今日のことは、誰にも話さないでほしいの。もちろん、美貴たんにもね。」
「えっ・・・?」
「約束、してくれるかな?」
亜弥は愛を見つめたまま動かない。
こうなってしまった亜弥は、梃を使っても動かないだろう。
仕方なく、愛は黙って頷いた。
「そう、ありがと。またね。絵里、帰るよ。」
「は、はい!愛ちゃん、今日はありがとうございました。」
絵里は大きく頭を下げて、亜弥と一緒に家を出て行った。
何をどうしたらいいのかわからない。
またシチューが噴出しそうになっていたが、愛はその場から動けなかった。
345 名前:konkon 投稿日:2006/05/25(木) 22:40
>>774改さん
そう言ってもらえると嬉しいです。
今後も続けて書いていきたいと思います。
346 名前:konkon 投稿日:2006/05/25(木) 22:40
また先にレス返しやっちまった・・・更新ですw
347 名前:七誌さんデス 投稿日:2006/05/29(月) 20:53
お久しぶりなのか初めましてなのかすら曖昧なほど久々な書き込みです;
ここの小説は前から好きでよく読んでいます。
それぞれのストーリー、というか展開が面白くて素敵ですね。
これからの展開が楽しみです。
更新頑張ってくださいね。
348 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:49
三日後の昼、三年生は放課後の授業がないので帰りとなる。
美貴と真希は話しながら帰る準備をしていた。
「紺野、一緒に帰らない?」
真希は隣の席にいるあさ美に聞いた。
「えっとですね、私は・・・。」

ガラガラッ

教室の扉が開かれて、中に麻琴が入ってきた。
別の棟に教室がある彼女がくるのは、けっこう珍しい。
「あさ美ちゃん、そろそろ行こうよ。」
「うん。今準備するから、ちょっと待って。」
「小川、どこに行くの?」
麻琴は真希の声で顔を振り向かせる。
349 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:50
「後藤さん、何か里沙ちゃんが三日前から学校にきてないんですよ。それで、
 メールで理由聞いたら風邪ひいちゃったようで、これからあさ美ちゃんと
 お見舞いにいくんです。一緒にいきますか?」
真希は腕を組んで考える。
「う〜ん、新垣の家だとちょっと遠いな・・・後藤、バイトがあるから
 そんなに時間があるわけじゃないんだ。」
「そうなんですか〜。んじゃ、あさ美ちゃん行こう。」
「うん。では後藤さん、さようなら。」
「新垣によろしく言っといてね。」
あさ美は麻琴と一緒に教室を出て行った。
「そんなわけだから、後藤も帰るよ。また明日ね。」
「うん。バイバ〜イ。」
美貴は手を振って真希を見送った。
真希が出て行ったあと、適当に教科書をかばんに放り込んで、愛を振り向いた。
350 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:53
「愛ちゃん、ご飯でも食べて帰らない?」
「・・・。」
愛は外を向いたまま返事をしない。
「愛ちゃん!」
「おわっ!美貴ちゃん、何・・・?」
「どうしたの?最近元気ないよ。悩み事でもあるの?」
「そ、そういうわけやないんやけど・・・。」
愛が戸惑っていると、教室の扉が開いて今度はさゆみとれいなが入ってきた。
「よっ、どうしたの?っつうか、れいな、美貴は悲しいよ・・・。」
「ハァッ?いきなり何言うと?」
「こ〜んな茶髪に染めちゃって、おまけにピアスまでしてさ、お姉ちゃんは
 そんな悪い子に育てた覚えはないよ。どっからどう見ても不良だよね。」
美貴は大袈裟にため息をついて椅子から立ち上がる。
351 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:54
れいなは年が明けてから茶髪に染めた。
美貴はれいなの茶色く染まった頭をクシャッと撫でる。
その手をれいなは鬱陶しそうに弾いた。
「美貴ねえ、会う度に同じこと言っとるっちゃよ。今はそんな話し、
 どうでもよかよ。それよか、さゆ。」
「うん。あの、絵里について、お姉ちゃん達に話しがあるんです。」
美貴は不思議そうに首を傾げるが、愛の表情は強張る。
「絵里、この間から様子が変なんです。話しかけてもぼーっとしてたり、
 全然笑わないし、バイトでもオーダーを聞き流して店長に怒られたり、
 すごい悩んでるみたいなんです。絵里に聞いてみても、何でもないって
 答えてくれないんです・・・。」
「何か聞いたりしとらんと?」
美貴は腕を組んで考え始めた。
352 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:55
「そういえば、一昨日の練習の時もよく音外してたし、確かにおかしかったね。
 まぁ、普段からおかしいといえばおかしいけど、風邪でもひいたのかな?」
「どうでしょう・・・お姉ちゃんは、何か知りませんか?」
さゆみに聞かれて、愛の体が一瞬だけ震える。
「いや・・・何も聞いとらんよ。」
「そういえば、亜弥ちゃんも風邪ひいたとかで学校きてないんだ。
 それで元気がないんじゃないかな?」
「それだけだといいんですけど・・・他に何か心当たりありましたら、
 さゆみ達に教えてください。れいな、行こう。」
二人は深く肩を落として教室を出て行った。
教室にはもう誰も生徒が残っていない。
愛は変わらずに思い詰めた表情をしている。
その時、美貴が愛の顎を指で押し上げて、顔を近づけた。
353 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:56
愛は反射的に目を閉じる。
だが、キスするわけではなく、美貴の額が自分のそれにくっ付いていた。
「み、美貴ちゃん・・・?」
「風邪じゃなさそうだね。よかったよ。」
美貴は顔を離して嬉しそうに言う。
「美貴にも言えないような、悩み事でもあるわけ?」
「そ、そういうわけやなくて・・・ただなんか、調子が悪いような、
 体がだるいだけで・・・。」
美貴は小さく相槌を打って、かばんを拾い上げる。
「やっぱさ、お昼は家で食べよう。」
「えっ?」
「お昼はかる〜く済ませて、夜に美味しい物でも食べにいこう。
 愛ちゃんの元気が出るように、好きなものでいいよ。」
愛は小さく口元を緩ませて、美貴の肩に寄り掛かった。
「美貴ちゃん、ありがと。」
「どういたしまして。」
愛の長い髪をそっと撫でて、美貴は微笑んでいた。
354 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:56
その日の夜、美紀とメロンの四人は夜道を歩いていた。
車も人気も全くない、月明かりだけが頼りの暗い裏道だった。
「やっぱりあそこの店が、一番万引きしやすいよね。」
「人がいる方が返って安全なんだよな。」
美紀達は品性も何もない大声で笑っている。
美紀達の後ろには、里沙がとぼとぼとついて歩いていた。
「(はぁ、早く帰りたいな〜・・・。)」
そう思った時だった。
「やっと見つけた。」
「えっ・・・?」
声のする方の先を振り返ると、そこには亜弥が立っていた。
荒い息を吐き出して、美紀達を睨みつける。
「フン、まだ生きてやがったのかよ。」
「ふざけてんじゃ、ないわよ!」
飛び掛ってきた雅恵の顔を殴りつけた。
355 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:57
「絵里にあんなことするあんた達なんて、どうかしてるわよ!」
「うぉっ!」
さらに、雅恵の腕を掴んで投げ飛ばす。
無我夢中だったので亜弥は気付かなかった。
雅恵を投げ飛ばした先には、里沙がいた。
「う、うわっ!」
里沙は雅恵の下敷きになって地面に倒れる。

ガッ!

「うっ・・・。」
倒れた衝撃で頭を地面に打ち付けた。
里沙は側頭部から血を流して意識を失った。
356 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:58
「もう、絶対に許さな・・・。」

ゴッ!

亜弥の額を、硬く重い何かがぶつかった。
そのぶつかった物が、ゴトンと地面に落ちる。
どうやら、ブロックのような硬い物を投げつけられたようだ。
「バカじゃないの?うちらに一人で向かってくるなんてね。」
「っつ・・・。」
まだ辛うじて立っていられる。
残り三人、普段の亜弥なら倒せないこともない。
だが、今の亜弥は立っていることが限界だった。
357 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:59
「(や、やばい・・・血が・・・。)」
亜弥が受けた傷は、眠気をとるために打ち付けた傷と、
偶然にも同じ箇所だった。
運の悪すぎる偶然、傷口から血が垂れて、目が見えなくなる。
徐々に足音が近づいてくる。
「こ、このっ!」
勘を頼りに飛び出して拳を振るった。
だが、亜弥の出した拳は空を切って終わってしまう。
「ほらっ、こっちだよ!」
「うあっ!」
背中を蹴られ、前に倒れ込む。
その直後に、周りから何発もの蹴りが降り注ぐ。
358 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 22:59
「死ねよ、バカ。」
「邪魔なんだよ。お前も藤本も、調子に乗ってんなよ!」
「あぐっ、ぅぅ・・。」
ほとんど意識が消えかかっていた。

ドゴンッ!

「ガホッ!」
突然の呻き声と同時に、自分に降り注いでいた痛みが止んだ。
さらには、いくつかの自分にではない攻撃する音が聞こえた。
痛みを堪えて、血を拭いながらゆっくりと顔を上げる。
「亜弥ちゃん、こんなとこで何してんのさ?」
最初に亜弥の目に飛び込んできたのは美貴だった。
周りでは、先ほどまで亜弥を囲んでいた者達が倒れて蹲っている。
359 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 23:00
「み、美貴たん・・・?どうして、ここに・・・?」
「愛ちゃんとご飯を食べに行った帰りだよ。うわ〜、痛そうだね。
 早く病院に行こう。」
亜弥の腕を美貴が掴んで引き起こした。
美貴は亜弥の顔をじっと見つめる。
「んで、何があったの?」
「・・・。」
亜弥は顔を反らして俯いた。
「こいつらに絡まれたの?それとも、他に何か理由が・・・。」
「里沙ちゃん、しっかりして!里沙ちゃん!」
愛の声で美貴は振り向いた。
そこには、愛の腕に抱えられている里沙の姿があった。
里沙は倒れたまま動かない。
360 名前:友情の誓い 投稿日:2006/05/30(火) 23:01
「確か、ガキさんって呼ばれてた・・・。」
美貴にも見覚えがあった。
絵里と仲がいいと聞いている。
何よりも、年末に愛が彼女に何度も突っ込まれたと嬉しそうに笑っていたのが、
よく印象に残っている。
その彼女がなぜここで倒れているのか、美貴には全くわからなかった。
「とにかく、病院に行こう。愛ちゃん、その子は美貴が運ぶから救急車を呼んで。」
「わ、わかった!」
「亜弥ちゃんもだよ。」
「・・・。」
亜弥はやはり美貴と目を合わせようとしない。
愛が叫ぶようにして電話をしている。
美貴の胸を嫌な予感が渦巻く。
自分達を照らす月が、その予兆を示しているように感じていた。
361 名前:konkon 投稿日:2006/05/30(火) 23:01
更新です〜〜〜。
362 名前:konkon 投稿日:2006/05/30(火) 23:03
>>七誌さんデスさん
お久しぶりですね。
前小説も含め、月日だけなら随分と長いお付き合いでw
本当にありがとうございます。
今後の展開にも気を降り注ぎたいと思います!
363 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 00:36
おー新展開ですね
これからどうなるか楽しみです
364 名前:七誌さんデス 投稿日:2006/05/31(水) 19:02
わぁー、なんか気になるトコで終わりましたね。当たり前か(笑)
そういえば、月日だけなら結構長い付き合いですね(笑)
次も期待しています!更新頑張ってくださいね。
作者さまが気合たっぷりなので大丈夫だと思いますけどね(笑)
365 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/01(木) 01:02
またまた一波乱二波乱ありそうな展開だね
それぞれのキャラの葛藤、対立などを含ませて展開させていくところが、
ストーリーをより盛り上がらせていいね〜

更新ペースも安定しているし、ほんと面白いし読みやすいよ
今後も楽しみにしてます>作者
366 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:47
真希は走っていた。
ものすごい勢いで病院の中へと駆け込み、階段を駆け上がっていく。
しばらく走ると、待合室であさ美が椅子に座り込んでいるのが見えた。
「ハァッ、ハァッ、紺野・・・。」
「後藤さん・・・。」
真希はあさ美の隣の椅子に座る。
あさ美は泣きそうな顔で下を向いていた。
「新垣の状態は?」
「・・・とりあえずは、大丈夫なようです。身体にも異常はありません。」
「そっか・・・よかったよ。」
真希は大きく息を吐き出して、椅子に寄りかかった。
367 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:49
「で、何で新垣が怪我したの?」
「それは・・・私にもわかりません。ただ・・・。」
「ただ?何かあったの?」
あさ美は何度か口を開いては、また閉じる。
真希も急かそうとはしないで待っている。
「・・・里沙ちゃんが運び込まれた時、一緒にミキティ達もいて、
 亜弥ちゃんも怪我してて、治療していたようです。」
「まっつーが?どうしてまっつーが怪我を・・・?」
「・・・すいません。何も聞いてないんです。」
あさ美は頭を下げて謝った。
真希はポンとあさ美の頭を撫でる。
「紺野が謝ることじゃないよ。それで、ミキティはどこ?」
「先ほど帰られました。亜弥ちゃんを愛と一緒に送っていきました。」
「・・・そっか。わかった。」
真希は椅子から立ち上がって自動販売機の前に立つ。
ジュースを二本買って、そのうちの一本をあさ美に渡した。
368 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:50
「あ、ありがとうございます。」
「紺野、それ飲んだら今日は帰るよ。あとで話しを聞こう。」
「・・・そうですね。」
真希は一気にジュースを飲み干して、じっと真上を見つめた。
「紺野、この間見舞いに行った時、新垣の様子はどうだった?」
「・・・いませんでした。」
「えっ・・・?」
「里沙ちゃん、家にいなかったんです。そのあと、いくら電話しても出てくれなくて・・・。」
「・・・まっつーが、新垣と関係してるのかな?」
「・・・。」
「新垣に何かあったら、いくらまっつーでも許さない・・・。」
「後藤さん・・・。」
真希の持つ空き缶が、見る見るうちに握り潰されていく。
あさ美はその光景を見つめていることしかできなかった。
369 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:51
翌日の朝、美貴と愛は普段通りに登校した。
教室に入って、自分の席に着く。
美貴は昨日から不機嫌な状態だった。
亜弥の治療を終えたあと、結局亜弥は何も話さずに自分の家に帰った。
一言だけ、頭の中が整理ついたら話すとだけ聞いている。
それでも美貴はイラついていた。
納得がいかなければ落ち着かない、そんな自分の性格も理解できてはいるが、
大切に思っていた妹に拒絶されたことが美貴の怒りを膨らませている。
いくら愛が呼びかけても美貴の態度は変わらない。
美貴がどれだけ亜弥のことを大切に思っているかは知っている。
だから、次第にほとぼりが冷めるまで、愛も何も言わないことにした。
教室の扉が開いて、真希が入ってきた。
毎朝眠そうにしている彼女にしては珍しく、真剣な顔つきだった。
370 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:53
彼女の後ろからは、あさ美がついてきている。
真希はかばんを机の上に乱暴に置いて、美貴に視線を移した。
「ミキティ、まっつーは?」
真希の荒い言い方に、美貴の機嫌も一層悪くなる。
「・・・怪我してるんだよ。家で寝てんじゃない?」
「何でまっつーが怪我したのかね?何かしたんじゃないの?」
「何かって、何をしたっていうの?」
「さあね。けど、まっつーには前科があるからね。」
「・・・何が言いたいわけ?」
「別に。けど、新垣を巻き込むなんてどうかしてるね。」

ダンッ!

美貴が机を叩いて立ち上がる。
教室中の視線が美貴と真希に注がれる。
371 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:53
「ごっちん、ふざけないでよ。亜弥ちゃんがあの子を巻き込んだ?
 冗談も休み休み言ってくれる?」
「じゃあ、新垣から是永達に近寄ったとでも?それこそありえないね。」
「ハン、それってごっちんの被害妄想じゃん。亜弥ちゃんを勝手に
 巻き込まないでくれない?それこそガキさんに聞いてみればいいじゃん。」
「その新垣から聞いたんだよ。朝、彼女の見舞いに行ったら、新垣はまっつーに
 やられたって言ってたんだよ。」
「バッカみたい。それだけのことで亜弥ちゃんが悪い風に言うなんてさ。
 嘘なんじゃないの?ごっちんは騙されやすいからね。」

ドンッ!

真希は美貴の胸倉を掴んで、美貴を壁に叩きつけた。
どこからか悲鳴が聞こえたが、二人の睨み合う眼差しは変わらない。
372 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:54
「ミキティ、いい加減にしなよ。でないと・・・。」
「でないと、何さ?そっちこそなめたこと言ってんじゃないよ!」
美貴は真希の手を大きく弾いた。
再び二人の視線が絡み合う。
今にも掴みかかりそうな雰囲気だ。
「美貴ちゃん!だめ!」
「後藤さん!やめてください!」
二人を止めたのは愛とあさ美だった。
あさ美は真希の前に出て、愛は美貴の腕を掴んだ。
飛び掛ることはないものの、二人の鋭く恐ろしい目つきは、
お互いを見据えたままだ。
373 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:55
「さて、今日も授業を始めるぞ〜。」
教室に真里が入ってきた。
しかし、誰もその場から動こうとしない。
「ん・・・藤本、後藤、どうかしたのか?」
真里が怪訝そうな表情で二人を見た。
「おいおい、何があったんだ・・・?相談ならおいらが・・・。」
「別に何でもないですよ。」
美貴はドカッと椅子に座り込んだ。
「やぐっつぁん、後藤、体調悪いから帰るね。」
そう言って、真希はかばんを持って教室の窓から飛び降りた。
「おい、後藤・・・藤本、一体何があったんだ?」
美貴は真里の方を見ようともせず、真希の出て行った窓の外を向いていた。
374 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:55
ようやくクラスメイト達が動き出すが、先ほどの美貴達のことが
気になって仕方ないようだ。
愛とあさ美は、過去に一度だけ二人のけんかした場面を見たことがある。
士鬼面から絵里の指輪を取り戻すため、美貴が一芝居打ったのだ。
だが、今回は違う。
二人とも真剣そのものだった。
少しでも止めるのが遅ければ、すぐさま殴り合っていたに違いない。
あんなに怖い美貴を見たのは初めてだった。
少なくとも、仲間に向けるような怖さではない。
まだ愛の体は震えている。
チラッと美貴の方を見ると、何かを考えているようだった。
その決断が下される時、愛はもう自分では止められないと悟っていた。
375 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:58
時刻は八時を過ぎた辺りだ。
真希はベッドの上から降りて、窓の外を見ていた。
真希は裸だった。
カーテンの隙間から見える月の光が、その様をより美しく見せている。
季節は冬、それでも先ほどまでの行為のために、寒くはなかった。
真希は絨毯の上に落ちている服を拾って、ゆっくりと身に付け始めた。
「んん、後藤、さん・・・。」
真希が降りたのと同じベッドから、あさ美が体を起こした。
裸体を隠すようにシーツを体に巻きつけ、ベッドから降り立つ。
真希を自分の家に呼び出したのはあさ美だった。
あさ美も愛と同じ想いを持っている。
だからこそ、自分にできることをやり通したいと思い、真希と体を重ねた。
少しでも彼女の不安を取り除けるように。
376 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/02(金) 23:59
今回が初めてではないとはいえ、思い出すと体が熱くなる。
まだ少し顔は赤い。
真希はフッと笑ってあさ美に近寄った。
「行かれるのですね・・・?」
「・・・うん。紺野に元気をもらったからね。」
「一つだけ、約束してください。」
「何?」
「絶対に・・・負けないでくださいね。」
あさ美ができることは、ここまでだった。
じっとあさ美の目を見つめたあと、真希は軽く口唇に口付けた。
「ありがと。行ってくるね。」
勝て、ではなく、負けるな、と言われた。
それが真希は嬉しかった。
勝つことよりも大切な何かが、そこにあると確信していたから。
真希はあさ美に背を向けて歩き出した。
377 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/03(土) 00:00
同じ頃、美貴は家のソファに寝転んで天井を見つめていた。
学校から帰ったあと、美貴はずっとこの状態だった。
「美貴ちゃん・・・その、今日何か食べたい物ってある?」
「愛ちゃんの好きなのでいいよ。」
「今日って、何か宿題とかあったっけ?」
「さあね。どうでもいいや。」
愛は必死になって会話を探した。
だが、美貴は話しを聞いているようで、上の空の答えだった。
真希から一通のメールがきたのは、今から五時間前のことだ。

『まっつーを連れて、九時に廃ビルの奥にある倉庫にきて。』

廃ビルとは、以前に亜弥に呼び出された、秘密の場所である。
その少し先に、古びた倉庫があったのを思い出した。
378 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/03(土) 00:00
真希から送られた文字はたったの一言、それでも美貴は全てを理解した。
もう少しで約束の時間がくる。
バイトを休んででも行く必要があった。
いや、行かなければ何も始まらないし、何も終わらない。
時間になって、美貴は体を起こして上着を着た。
玄関に足を踏み入れようとした時、
「美貴ちゃん・・・気をつけてね。」
背中にかけられた愛の言葉に、美貴は立ち止まる。
「やめろって言わないんだね?」
「そう言ったら、止まってくれるんか?」
「・・・よくわかってることで。」
後ろを振り向いて、愛に柔らかい笑みを浮かべた。
379 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/03(土) 00:04
愛は不安そうな顔をしている。
それでも、美貴を見つめる視線は反らさない。
「美貴ちゃんが大事やから、できれば喧嘩なんてしてほしくない。
 けど、美貴ちゃんが喧嘩するのって、絶対に理由があるんやろうから、
 どんな時にでも、意味があると思うんやよ。あーしは止めないがし。
 その代わり・・・。」
「ん?」
「美貴ちゃんを信じてる。早く、帰ってきてね・・・。」
愛の真っ直ぐな眼差しが、美貴の瞳に突き刺さる。
美貴は愛の体を優しく抱きしめた。
「ごめんね。愛ちゃんには、心配かけてばっかだね。」
「・・・ほんとやよ。美貴ちゃんが帰ってくるの、待ってるから。」
「うん・・・ありがとね。んじゃ、行ってくる。」
美貴は前を向いて家を出て行った。
パタンとドアが閉まったあと、愛はリビングのソファに座り込む。
足元に近寄ってきたトレインを抱き寄せて、美貴の無事を願っていた。
380 名前:konkon 投稿日:2006/06/03(土) 00:09
更新しました〜。
381 名前:konkon 投稿日:2006/06/03(土) 00:09
>>363:名無飼育さん
新展開ですねw
なんとなくはおわかりでしょうけど、ここはネタバレ禁止ということで(汗)
まぁ、見届けてやってくださいな。

>>七誌さんデス
それが狙いですから(ry
そこまで言われるとがんばっちゃいますよ(爆)
やるだけやってみますわw

>>365:名無飼育さん
好きな言葉が波乱万丈なもんで(汗)
あや〜そこまで言われるとさすがに照れますわwww
これからも様々な人間関係を書いていけたらなと想ってます。
382 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/03(土) 00:49
>>381
ナマ更新に初遭遇
乙です

今、連載を休載しているとある漫画に
「その人を知りたければその人が何に対して怒りを感じるかを知れ」
ってフレーズがあり、以前から個人的にそれが気に入ってます

まさに今の主役2人の状況がそれであり、どちらが正しいとか間違っているとかは
断言できないですね(お互い信念に基づいて行動しているし)
善悪で捉えきれない心情をうまく描写して、それをどう扱うのか凄く楽しみです
邪道かもしれませんが、魅力的キャラクターを活かすためにもこういう流れを
つくれる作者の力量に脱帽ってとこですかねw
383 名前:七誌さんデス 投稿日:2006/06/04(日) 17:54
ぐはぁ。ちょっと間に合わなかったか(何
とにかく、更新乙です。
真希と美貴、なんか雰囲気がすごいですね。
文章読んでて、本当にそう思いました。
作者さまの文章力にはもうお手上げ状態です(笑)。
愛とあさ美の気持ちもわかります。
続きがすっごく気になる・・・。
こんなにも気にさせちゃうなんて、作者さま、罪ですねぇ(笑)。
384 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:41
美貴と亜弥が倉庫に着いたのは、約束の時間の五分前だった。
美貴は堂々と、亜弥はキョロキョロと周りを見渡しながら倉庫に入っていく。
中には、士鬼面の美紀とメロンの四人、その中心に真希がいた。
真希の隣では里沙が立っている。
「・・・きたね。」
真希は美貴に向かって歩き出す。
美貴も真っ直ぐに真希に向かっていく。
10メートルほど離れたところで、二人の歩みが止まる。
「で、どういうことなの?」
美貴が先に口を開いた。
「あいつらは何?答えは出たわけ?」
「別に、是永達はただの証人だよ。それで、先に手を出したのはまっつー、
 あんただって聞いたよ。」
「なんですって!?」
その言葉に、亜弥は声を荒げた。
385 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:42
「そう言ってたよね?」
真希が美紀達を振り向いて聞いた。
「ああ、先に手を出してきたのはそいつの方だよ。私達は何もしてないのに、
 いきなり殴りかかってきたんだ。」
「何言ってんのよ!その子が私に薬を嗅がせたんじゃない!そして、絵里を・・・。」
「・・・どっちが正しいわけ?」
「私達の方だよ。そうだよな、里沙?」
里沙は胸に手を押さえて縮こまっている。
「新垣、是永達の言ってることは本当なの?」
「・・・はい。」
「嘘よ!ちょっとごっちん・・・。」
「うるさい。」
真希の獰猛な眼が亜弥を捉えた。
386 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:45
あまりの怖さに、亜弥は思わず唾を飲み込んだ。
背筋が凍るような、それでいてフツフツと怒りを示す恐ろしい眼差しだった。
「そういうことだよ。後藤は新垣を信じる。ミキティ、まっつーをこっちに渡しなよ。」
「渡してどうするわけ?」
「一発でいい、本気で殴らせてもらう。」
「だから、私は・・・。」
「亜弥ちゃんってさ、周りを顧みることなく、一直線に自分の道を突き進むんだよね〜。」
美貴は頬を緩めてそう言った。
「なにせ、B型な上に可愛いもんだからタチの悪い。我侭でうるさくて生意気で、
 それでいてナルシスト、手がつけられないほどムチャクチャな妹だよ。」
「何が言いたいの?」
真希は苛立ちを隠せずに目を細めて聞いた。
387 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:46
「けどね、亜弥ちゃんは美貴にだけは嘘をついたことがないんだよ。
 一生懸命に前に進もうとするから、自分に正直なんだよ。それだけは、
 誰よりも信じられる。美貴は亜弥ちゃんを信じる。」
美貴は一歩前に出て、真希を睨みつける。
「ごっちん、亜弥ちゃんは渡さないよ。どうしても亜弥ちゃんに
 手を出すっていうなら、美貴が相手になる。」
「・・・交渉決裂だね。」
真希は自分の左手に右拳を叩きつけた。
弾ける音が倉庫に響く。
「美貴に勝てると思ってんの?」
「後藤に刃向かったこと、後悔しないようにね。」
美貴と真希の目が交錯する。
次の瞬間、二人は同時に前に飛び出した。
388 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:46

ドゴッ!

二つの鈍い音が同時に聞こえた。
美貴の右の拳と、真希の左の拳が、お互いの顔を捉えていた。
「ぐっ、このっ!」
「やぁっ!」
二人はすぐに体を立て直して殴りかかる。
今度は、左と右の相打ちだった。
力で押されて、美貴が先によろめいた。
「ハァッ!」

ドンッ!

強烈なショルダーチャージが美貴を弾き飛ばした。
倒れる美貴に、真希は突っ込んでいく。
389 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:47
「っつ、のやろっ!」
美貴は腕の力だけで立ち上がり、その反動で真希の腹を蹴りつける。
「ぬっ・・・ぅおお!」
真希は両腕を振り下ろして、美貴を再び地面に叩きつけた。
衝撃で地面に亀裂が生まれる。
「ゴホッ・・・ちっ、この程度で美貴がやられるか!」
美貴は足を真希の足に絡ませて、体を捻って地面に倒す。

ゴッ!

美貴の足が真希の顔を蹴り飛ばした。
思わず目を反らしたくなるほど残酷な光景だ。
390 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:48
真希はゴロゴロと地面を転がっていく。
美貴はその場から飛び上がり、倒れている真希に向けて蹴りを放つ。

バキャッ!

地面が砕け、破片が飛び散る。
寸前で真希は転がって避けた。
直後に、美貴の足を掴んで壁に叩きつけた。
スチール製の壁が大きく凹み、美貴は呻き声を上げる。
「ぐぅっ、離せ!」
真希の腕を蹴り上げて地面に降り立つ。
だが、頭を打ったせいでふらつき、少し後ろに下がる。
真希も痛みで足が動かせない。
391 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:49
「おい、チャンスじゃん?」
「この隙にやっちゃおうか!」
雅恵と恵が鉄の棒を振り上げて、美貴に向かって走り出す。
同時に、美貴と真希も前に飛び出した。
「もらった!」
「死になさいっ!」

ドゴッ!ゴシャッ!

美貴の蹴りが恵の腹を、真希の拳が雅恵の顔を殴り潰していた。
二人はゴロゴロと後ろに転がっていく。
「邪魔するなっ!」
「これは、二人だけの喧嘩だ!」
一瞬だけ美紀達を睨みつけたあと、再び殴り合いが始まると思われた。
だが、二人の戦いに変化が生まれていた。
392 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:49
真希の攻撃が当たらなくなってきた。
真希がどれだけ腕を振り回しても、美貴に当たろうとしない。
「何で・・・!?」
美貴は目を閉じていた。
音で聞き取って真希の攻撃を避けていたのだ。
「もう終わり?なら、こっちからいくよっ!」
美貴が前に飛び出す。
「くっ!」

バキッ!

真希が繰り出した蹴りに合わせて避けると、その体を支えている足に
ローキックを浴びせた。
393 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:50
「っつ・・・。」
「ほらほらっ、まだまだいくよ!」
真希が攻撃を仕掛ける度にカウンターを取られる。
そのような攻撃が何度も続き、真希は膝を地面につけた。
「ゴホッ、ったいな・・・。」
「ヘヘッ、美貴の方が強いでしょ。負けを認めなよ。」
「だ、誰が負けるって?」
真希は余裕の笑みを見せて立ち上がる。
美貴は目を瞑っているので意味はないが、一種のプライドのようなものが
真希をそうさせた。
「(考えよう。ミキティが音楽で身に付けたものがそれなら、
後藤にだってあるはず。ミキティは後藤の気配と、攻撃時に
聞こえる音で何をしているかを聞き取っている。それなら・・・。)」
真希は前に飛び出し、先ほどと同じように殴りかかった。
394 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:51
「終わりだよ!」
美貴のカウンターが真希に放たれる。

バキッ!

「あがっ!」
倒れ込んだのは美貴の方だった。
美貴は殴られた頭を押さえて起き上がる。
「な、何を・・・。」
「後藤にしかできないことをやった。それだけだよ!」
「(くっ、もう一度だ。美貴に当たるわけないのに・・・。)」
美貴は目を閉じ直して、真希の気配を窺った。
次の瞬間、腕に重い痛みを感じ取っていた。
395 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:52
どうやら蹴られたようだ。
本当なら顔に届く蹴りのはずが、なぜか腕にダメージを残している。
美貴は目を閉じたまま考える。
「いくよっ!」
「このっ、少しは考えさせろよ!」

パンッ!

真希の拳を美貴の掌が受け止めていた。
なぜ今回は止められたのか、それは美貴が目を開けていたからだ。
真希の一発目はフェイントだった。
真希にしかできないこと、それはバスケで鍛え上げた技術にある。
誰もが反応してしまうような一瞬のフェイント、それをここで魅せたのだ。
396 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:52
美貴は音で感じ取っているため、真希のごく僅かな動きにも反応してしまう。
それに合わせてカウンターを狙っていたのだから、合うはずがなかった。
美貴は二発目の攻撃を喰らっていたのだ。
「ずいぶんとセコイ真似してくれるね。」
「よく言うよ。自分から始めたくせに。」
「・・・そうだよね。こんなくだらないことしてないで、
 初めからぶつかり合ってればよかったんだ。」
「そういうことだよ!」
美貴の拳が、真希の拳が顔を打ち抜く。
二人とも一歩も引かずに次の攻撃に出る。
お互いに譲らない、もはや親友同士とはいえないほどに、凄まじい喧嘩だった。
397 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:53
目を瞑りたくなるような光景に、誰も動けない。
地面は削れ、壁に穴が空き、近くにあった材木は粉々だ。
頭から、顔から、腕が、足が血まみれになっている。
それでも二人は止まらない。
どちらかの意思が息絶えるまで死闘は続く。
「ぐっ、ぉぉっ!」
真希の拳が美貴の腹にめり込んだ。
骨がメキメキと唸るのが聞こえる。
「ガッ、ハ!くそ・・・!?」
「これで、決まりだっ!」

ズドンッ!

美貴の顔を鷲掴みして、地面に叩きつけた。
398 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:56
鮮血が地面に撥ねる。
美貴は苦痛に顔を歪めるが、すぐに目の色を変えて真希を睨みつける。
「ま、負けて・・・たまるかっ!」

ドスッ!

美貴の鋭い蹴りが真希の脇腹に突き刺さる。
「カハッ・・・。」
「うっ、りゃぁっ!」
立ち上がり様の裏拳が真希の顔を撥ね飛ばした。
真希は派手に地面に叩きつけられて、地面に蹲る。
側頭部からは、ダラダラと血が垂れていく。
399 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/06(火) 23:57
真希は震える体で起き上がる。
美貴も負けじと地面に手をつけた反動で上体を上げた。
足がガクガクと震えてまともに動けない。
残った力は、自らの信念のみ。
美貴と真希の視線が絡み合う。
だが、美貴は口元を吊り上げてフッと笑う。
「・・・何が可笑しいの?」
「いや、三年前と同じようだなってね・・・。」
「同じ、じゃないよ。」
「そうだったね・・・そろそろ、ケリを着けようか。」
美貴は拳を握って前に出す。
真希も同じように構える。
そして、二人は残った気力を振り絞って前に走り出し、拳を振り下ろした。
400 名前:konkon 投稿日:2006/06/06(火) 23:58
更新しました〜。
401 名前:konkon 投稿日:2006/06/07(水) 00:01
>>名無飼育さん
その漫画、自分も知ってるかもしれないですw
休載中なんですかね?
信念を貫くっていうことが今回の一つのキーワードですね。

>>七誌さんデスさん
やった、勝った(爆)
いやいや、そんなことないですよ〜(照)
罪な男とはいいもんかとw
402 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/07(水) 00:29
更新頼むァァァァァ
403 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/07(水) 01:28



やばい!!
すんごいことになってる・・・
どうなっちゃうの?
なんか悲しいけどなんとか無事でいてほしい


404 名前:七誌さんデス 投稿日:2006/06/07(水) 18:16
わぁ・・・。なんだがすごいことになってますね・・・。
めちゃくちゃ続きが気になります!
どうか無事でいられますように (´人`)
405 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:46
時が止まったかのように静寂が続く。
誰も何も動かない。
美貴と真希の拳は、お互いの顔の目前で止められていた。
「どうして、止めたの?」
「それは、ミキティだって・・・。」
「ん、まぁ、なんとなく・・・。」
口には出せなかったけど、これ以上喧嘩をしていたくなかった。
殴り合って、相手の気持ちをよく理解できたから。
信念は譲れないけど、勝ちは譲ってもいいと思えた。
「それで、どうするの・・・?」
「どうするったってさ、あんなの見ちゃったらね・・・。」
美貴は里沙の方を振り向いた。
406 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:47
里沙は、地面に膝をついて泣いていた。
地面にはいくつもの水滴が零れ落ちている。
「ご、後藤さん、ごめん、なさい・・・。」
里沙の呟くような声が聞こえた。
「わ、私達の学校、盗撮されてて、その写真をばら撒くって脅されて、
 私が言うことを聞いてれば、何もしないって言われて、それで・・・
 本当にごめんなさい!松浦さんを襲ったのも、私なんです・・・。」
「里沙!お前、何を・・・。」
「後藤さんに、これ以上、嘘ついていたくない、傷ついてほしくないんです。
 私、私・・・。」
「・・・よくわかったよ。後藤はこれからどうすればいいのかね。」
真希の冷酷な目が美紀達を捉えた。
恐怖心に駆られて、美紀と瞳は後ろに下がる。
407 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:47
「あ、あゆみ、どうする・・・?」
「・・・とっておきを使う時がきたようね。」
あゆみはポケットから携帯を取り出した。
「警察にでも電話するつもり?」
「いいや、そんなことする気はないよ。あんた達はここで死ぬんだから。」
あゆみは不敵な笑みを浮かべてそう答えた。
「喧嘩に夢中になってて気付かなかったようね。今、私達の倉庫の周りを
 摩天楼の人達が囲んでいるんだよ。」
「摩天楼?」
「50人から構成される、この町で一番大きい暴走族だよ。私が電話をかけて
 その人達がくれば、今のあんた達なんか瞬く間にリンチにされて、何度も
 犯されて、用済みになったら殺されるわよ。」
「へへっ、形勢逆転じゃん。」
美紀と瞳の口元が歪む。
408 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:48
「・・・だから何?」
真希は指を鳴らして前に出る。
「そんなことはどうでもいい。お前達は、後藤の大切な仲間を泣かせたんだ。
 それだけは許せない!」
「ちっ、うるさいやつだね。あゆみ!」
「わかってるわよ。」
あゆみは何度かボタンを押して、耳元に携帯を当てる。
何度目かのコールで相手が出た。
「もしもし、すいませんけど、今すぐ中に・・・。」
「これから入るわよ。」
「!?」
その声を聞いて、あゆみは思わず携帯を落とした。
409 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:49
直後に、

ドゴンッ!

倉庫の扉が吹き飛んできた。
入ってきたのは、携帯を手にしている梨華とひとみだった。
「ど、どうして、石川さんがここに・・・。」
「久しぶりの休みで友達と遊ぼうとしたら、ここにいるって聞いてね。
 そしたらずいぶんと楽しそうなことやってるじゃない。」
「悪いんだけど、周りにいたやつらはぶっ倒させてもらったから。」
梨華とひとみは、美紀達に歩み寄っていく。
美貴がその姿を見ていると、後ろから肩を叩かれた。
振り向いた先には希美と亜衣が立っていた。
410 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:49
「ミキティ、生きてるか〜?」
「どうして、みんながここにいるの?」
「愛ちゃんに聞いたからだよ。」
希美がそう答えた。
「守るべきもんは友達やからね。」
「もう心配いらないよ!」
二人の笑顔を見て、美貴もニコッと笑みを浮かべた。
一方で、梨華は持っていた携帯を粉々に握り潰し、美紀達に近寄っていく。
「是ちゃん、あれだけ言ったわよね?私がいる学校でやばい話しがあると、
 芸能界で後に響くから悪いことはするなって。聞いてなかったの?それとも・・・。」
「い、石川さん、これはですね・・・。」

ドゴッ!

梨華の横を一陣の風が抜き去り、美紀の顔を殴り飛ばした。
411 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:50
「ごっちん・・・。」
「お前達が、新垣をっ!」
さらに真希はあゆみと瞳も殴りつける。
それでも止まらずに、すでに意識のない彼女達を掴んでは殴っていく。
口元から血を吐き出している美紀の服を掴んで起こし、拳を大きく振り上げる。
「このぉっ!」

バシッ!

ひとみが後ろから真希の腕を掴んだ。
「よしこ!?離して!」
「ごっちん、そこら辺にしとけって。」
「でも、こいつらが新垣を・・・。」
「確かに悪いことしたけど、それ以上やったら死んじゃうよ。
 うちは友達に人を殺してほしくない。」
真希はひとみの顔をしばらく見つめると、美紀の服を離した。
412 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:51
「ごっちん、ごめんね・・・。うちの生徒が迷惑かけちゃったね。」
「何で梨華ちゃんが謝るの?」
「まぁまぁ、あとはうちらに任せといてよ。こいつらが撮ったビデオとかは、
 全部処分させとくからさ。」
「うん・・・お願いするね。」
真希は小さくため息をついて、里沙に近寄った。
「新垣。」
「あ、あの、ごと・・・。」
里沙の言葉はそこで途切れた。
真希の腕が、里沙の体を包み込んだ。
「ごめんね。気付いてあげられなくて・・・よくがんばったね。」
「うぐっ、うわーっ!」
里沙は真希の胸で泣いた。
泣きじゃくる里沙の背中を優しく摩る。
413 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:52
「新垣は責任感が強いからね。全部自分でなんとかしようって
 思ってたんだよね。でもさ、もっと頼ってよ。新垣には後藤も、
 紺野も、小川やバスケ部の仲間がたくさんいるんだよ。一人で全部
 背負わないで。大切な仲間なんだからさ。」
「・・・はい。」
里沙は顔を上げて、小さく頷いた。
真希は微笑んで里沙の頭を撫でる。
その様子を見ていた美貴は、後ろを向いて歩き始める。
「亜弥ちゃん、帰るよ。」
「そうだね。」
美貴のあとに亜弥が続く。
「あの、松浦さん!」
里沙が亜弥の元に駆け寄っていく。
414 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:53
泣き腫らした目をして亜弥を見つめたあと、大きく頭を下げた。
「本当にすいませんでした!私が弱かったから、こんなことになって・・・。」
「・・・新垣ちゃん、顔上げて。」
「・・・。」
「顔上げてって言ったの、聞こえなかった?」
里沙は恐る恐る顔を上げる。

ピシッ!

亜弥のデコピンが里沙の額を弾いた。
大して痛くはなかったが、里沙は呆然として亜弥を見ている。
「それでチャラにしてあげるわよ。その代わり、これからもさ、
 絵里と仲良くしてあげてね。」
「は、はい!」
「美貴たん、行こう。」
亜弥は美貴の手を引いて倉庫の外に出た。
415 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:54
「亜弥ちゃん、大人になったね。」
「大きなお世話よ。それにしても、凄かったね。二人の喧嘩。」
「まぁ、ね・・・。」
美貴からの返事が弱い。
気になって振り向いた瞬間、美貴が倒れこんできた。
亜弥は素早く美貴を抱き止める。
「キャッ!美貴たん、しっかりしてよ!」
「亜弥ちゃん、悪いんだけど、愛ちゃんのとこまで送って・・・。」
「・・・大丈夫?」
「だめ・・・体中が痛いよ〜。ごっちんのバカ・・・。」
「・・・たぶん、ごっちんも同じこと言ってるよ。」
亜弥は美貴の肩を支えて歩き始める。
美貴の足取りはふらついていて、まともに歩けていない。
416 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:55
「三年ぶりの喧嘩はどうだった?」
「そうだね・・・やっぱ違うよ。」
「何が違うの?」
「全然違うよ。決定的に違うものがあるじゃん。」
「・・・?」
「美貴とごっちんの関係。」
美貴は弱弱しく顔を上げてそう答えた。
「あの頃とは全然違うんだよ。本気なんだけど、本気じゃない。
 どこかで全力を出せない自分達がいたんだ。信じてるから。
 どれだけ食い違ったとしても、美貴達は親友だからね。」
「・・・あれで本気じゃないんだ。」
「まぁ、最後までやってたら、確実に美貴の勝ちだったけどね。」
「どうだかな〜。立ってるのもやっとの人が、よくそんなこと言えるね。」
亜弥が手を離すと、美貴は必死になって亜弥にしがみ付いた。
417 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:55
「亜弥ちゃん、ひどいよ・・・。」
「はいはい。お疲れ様でした。」
亜弥は笑って美貴に肩を貸した。
「美貴たん、信じてくれて、ありがとね。」
「当然でしょ。亜弥ちゃんは大事な妹だからね。」
「でもさ〜、さっきのは言いすぎじゃない?」
「全部本当のことだよ。美貴は何一つ間違ったことは言ってないけど。」
「・・・置いて帰るよ?」
「ごめん、嘘。亜弥ちゃんは可愛いから許して。」
今の美貴では亜弥に逆らう気力すらない。
弱まった体でなんとか家まで歩いていく。
久しぶりに見る月が、やけに眩しく見えた。
418 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:56
次の日の朝、美貴と愛は二人で登校していた。
美貴の顔にはいくつもの絆創膏が貼られ、足には包帯が巻かれていた。
制服で見えない部分にも、何重にも包帯が巻かれている。
当然、他の生徒達は美貴の姿を珍しげに見ていた。
「見世物じゃないんだけどな〜。」
「仕方ないやよ。やから学校休めばよかったがし。」
「だめなんだよ。今日だけは出なきゃいけないんだ。」
校門に着いて、二人の足が止まる。
腕を組んで壁に背をつけた真希と、あさ美が並んで立っていた。
真希にも無数の怪我の余韻が残っている。
美貴が再び歩き始めると、それに合わせて真希が横に並んで歩いていく。
二人は全く顔を合わせようとせず、口を開こうともしなかった。
419 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:57
愛とあさ美は心配そうにして、後ろから美貴達の様子を見守っている。
昇降口に入った時に、廊下を歩いてきた真里が美貴達に気付いて駆け寄ってきた。
「おい、二人ともどうしたんだ!?そんなに怪我して・・・まさか、
 二人で喧嘩してたのか?」
「・・・そうなんですよ。ちょっと矢口先生、聞いてくださいよ〜。」
真里は、先に口に出した美貴に目を向ける。
「昨日の夜、愛ちゃんと紺ちゃんがご飯作ってくれたんですけどね、
 美貴がすごく楽しみしてた、愛ちゃんが作ってくれたステーキ、
 トイレに行ってる間にごっちんが一人で食べちゃったんですよ!
 信じられますか〜?」
「よく言うよ。ミキティだって、紺野が後藤のために作ってくれた
 海老フライ食べちゃって、紺野が泣きそうな顔しちゃってたじゃん。」
「え〜っと、もしかして、そんなくだらない理由で喧嘩したのか?」
「「くだらないだって!?」」
美貴達の声が揃った。
420 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:58
「じゃあ聞きますけど、矢口先生だったら安倍さんが作った料理を
 他の人に食べられたら、どうしますか?」
「この人に食べてもらいたい、愛情を込めた料理を他人に食べられるって、
 すごい悔しい思いするでしょ。やぐっつぁんはそう思わない?」
「えと、いや、そうかもしれないけど・・・。」
「矢口先生!」
「どうなの?」
「う、うん・・・お前達の言いたいことは、おいらにもよくわかるよ・・・。」
真里は戸惑いの表情で二人を見上げている。
「それじゃ、今回の件は目を瞑ってくれるってことですよね?」
「やぐっつぁん、そこら辺よろしくね〜。」
呆然としている真里を残して、美貴と真希は先に進んで行った。
421 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:59
「よくもあんな嘘がつけたもんだね。」
真希はあきれたような口調でそう言った。
「その嘘に付き合ったごっちんもごっちんでしょ。お互い様だよ。」
「当然でしょ。ミキティの考えなんて、すぐにわかるよ。」
「どうして?」
「そりゃ・・・親友だからね。」
美貴は嬉しそうに頷く。
「美貴もごっちんなら合わせてくれるって思ってたよ。」
「本当に〜?」
「本当だって!信じる者は救われるのだ!」
「・・・ミキティってバカだよね。」
真希はぼそっと呟く。
422 名前:友情の誓い 投稿日:2006/06/10(土) 20:59
「聞こえてるから!ごっちん、ひどいよ〜。面と向かってそう言うかね?」
「アハハッ!冗談だよ。信じてるから大丈夫なんだよね。」
「む〜、絶対バカにしてるでしょ。」
「してないよ。後藤達が交わした友情の誓いは、これから先にも
 絶対に消えることはないからね。」
「なんだ、よくわかってるじゃん♪」
昨日までの険悪なムードがまるで嘘のように、美貴と真希は笑い合っている。
それを見て、愛とあさ美は顔を合わせて、二人に駆け寄っていく。
ようやくいつもの生活に戻りそうだ。
変わっていくものもたくさんあるけれど、決して変わらないものだってある。
この関係だけはいつまでも変わってほしくないと、美貴は心から願っていた。
423 名前:konkon 投稿日:2006/06/10(土) 20:59
更新しました〜。
424 名前:konkon 投稿日:2006/06/10(土) 21:02
>>402:名無飼育さん
更新しましたよw
お待たせして申し訳ないっす。

>>403:名無飼育さん
このような結果になりました。
まぁ、さっぱりと終わったと思われ(ry

>>七誌さんデスさん
無事、といえば無事なんですかね・・・?
うん、たぶん無事なんだと思いますwww
425 名前:七誌さんデス 投稿日:2006/06/10(土) 21:16
うは、今度はリアルタイムでGET!(ぁ
うーん。ごっちんとミキティは凄いですねぇ。
あと、矢口先生がいい味を出してるなとww
次の更新も楽しみにしてますね♪
426 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 21:51
一月末、三学期が終わって美貴達の学校生活は一時的に終了した。
美貴と愛には、バイトやバンドの練習があるので暇とは言い切れないが、
それでもやはり時間が空いてしまう時もある。
美貴達は中古で買ったこたつに入って、まったりと過ごしていた。
時刻は昼過ぎ、この日は美貴は特に何もなく、愛は夕方からバイトがある。
昼食を食べ終えた美貴は、顎をこたつに乗せて愛を見上げた。
「たまにはこんな日もいいよね〜。愛ちゃんとゆっくりと過ごせるのって、
 なんかすっごい幸せ感じるよ。」
「フフッ、あーしもやよ。」
愛は嬉しそうに答えた。
テレビに映っている漫才で、二人が大笑いしていた時だった。

ピンポーン

家のチャイムが鳴った。
427 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 21:54
今日の気温は普段よりも低く、暖房のないこの部屋はかなり寒い。
「・・・美貴、出たくない。」
「あーしも。」
数秒ほど、二人の間に沈黙が続く。
「「じゃんけん!グーッ!」パーッ!」
「よし、あーしの勝ちやよ!」
「ちぇっ。う〜、寒い・・・。」
美貴は寒そうに両腕を抱え込みながら玄関に向かう。
チェーンを外して扉を開けると、そこには見知らぬスーツ姿の女性が立っていた。
「どちら様でしょうか?勧誘ならお断りですけど。」
「あなたが藤本美貴さん?」
「そうですけど・・・あなたは?」
「申し遅れました、私は前田ゆきと申します。藤本環境大臣の秘書です。」
「!?親父の・・・。」
美貴の目つきが鋭くなる。
428 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 21:56
「・・・で、美貴に何か用ですか?」
「これは世間には知られていない事実です。あなたのお父上が倒られました。」
「親父が!?それで、今はどうしてんの?」
「今は病院で休養中です。ですけど、復帰にはしばらくかかる模様です。」
「・・・それを知ったところで、美貴にどうしろっていうんですか?
 見舞いにでも行けと?」
「いえ、早々にあなたに受け継がせたいとのことです。」
「ハァッ!?」
美貴は大声を上げた。
それに気付いて、愛はこたつから出て玄関に近寄っていく。
「数年後にはあなたの力が必要になります。大臣の娘であることが、
 政界でも十分すぎるほど効果があります。そのために、早々にも
 あなたが受け継がれるかどうかという意思をお聞きに参りました。」
美貴の目がゆきを睨みつける。
429 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 21:58
「冗談じゃない!答えはノーだね。誰があんなくそ親父のために美貴が
 受け継がなくちゃなんないんだよ。バカなことを言わないで・・・。」
「そう言って、あなたは逃げるのですね。」
「逃げるだって?元から美貴は美貴の意思で生きてきたんだ。今更あいつの
 力になりたいだなんて思うわけないでしょ。あんたは何も知らないから
 そんなことが言えるんだよ!」
「いいえ、全て知っていますよ。あなたのご両親が離婚されていることや、
 幼い頃から虐待を受けていたことまで、一通りのことは調べました。」
「だったら尚更だよ。美貴の性格だって知ってるだろ。」
「だから逃げていると言っているのです。幼い頃から虐待を受け、
 今もまだこうして生きている、それだけの精神力や忍耐力、
 昔から教え込まれてきた知識が必要なのです。この政界ではね。」
ゆきの言葉に、わなわなと体を震わせる。
振り返りたくもない過去が頭を過ぎり、怒りが全身を包み込んでいく。
430 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 21:58
「大臣に代わる才能は、その娘であるあなたしかいないのです。
 あなたの力が必要と考えられたために、大臣は呼ばれた・・・。」
「ふざけるなっ!」

バンッ!

美貴は荒い息を吐き出して、壁を力強く叩きつけた。
ゆきの表情は変わらない。
「いい加減にしてよ。美貴をこれ以上縛り付けるなんて・・・。」
「仕方のないことです。それがあなたの背負う運命ですから。」
「運命なんて言葉で片付けないでよ!美貴は、美貴は・・・。」
「これから先のことをよくお考えください。またきます。」
ゆきは頭を下げて美貴に背を向けた。
431 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 21:59
ゆきの姿が見えなくなると、今度は弱弱しく、壁を叩きつけた。
しばらくは立ち尽くしたままだったが、美貴は気を取り直して家の中に入る。
玄関には愛が不安そうな表情で立っていた。
「愛ちゃん・・・今の話し、聞いてたの?」
「少しだけ・・・。」
美貴は愛を素通りして中に入っていく。
リビングに掛けてある上着を羽織って、バイクの鍵を取り出した。
「美貴ちゃん、あの・・・。」
「さっきの話しなら気にしなくていいから。美貴、ちょっと出てくるね。
 愛ちゃんが帰ってくるまでには夕食作っておくから、大丈夫だよ。」
「み、美貴ちゃん・・・。」
愛が言い終える前に美貴は家を出て行った。
美貴は無表情だったとはいえ、内心吹き荒れる雰囲気はとても怖くて仕方なかった。
愛は、ただ美貴の出て行った扉を見つめていた。
432 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:00
少しは落ち着くと思った。
そのためにバイクを警察に捕まらない程度の速度で飛ばしている。
それでも、美貴の胸を縛り付けている鎖は絡まったままだった。
「何だよ・・・どうしたらいいんだよ・・・。」
隣町に入ってバイクを走らせていると、ある建物の中に知り合いの顔を見つけた。
猛スピードで走らせていても気付いたのは、美貴の並外れた視力ならではである。
美貴は歩道にバイクを寄せて止まると、その建物の中に入っていく。
看板にはボクシングジムと書かれていた。
扉を開けた瞬間、一斉に注目を浴びた。
中にいたのはほとんどが男で、あとは数人の女性が一箇所に集まって練習をしていた。
その中の一人、ひとみが美貴に気付いて駆け寄ってきた。
433 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:01
「美貴じゃん!どうしたんだ?ようやくやる気になってくれたか?」
「入るかどうかは決めてない。よっちゃん、少しやらせて。」
「OK!今グローブ持ってくるから、ちょっと待ってろ。」
ひとみは嬉しそうにグローブを取りに行く。
美貴は適当に周りを見渡したあと、一つのサンドバッグに歩み寄る。
「美貴、持ってきたよ。これ、殴ってみたいのか?」
美貴は何も言わずに両手を差し出した。
ひとみは美貴の両手にグローブをはめ込んで、しっかりと固定する。
それが終わると、少し下がって美貴を見つめる。
周りにいた誰もが美貴を見ている。
男達は美貴の容姿に見惚れ、女達は美貴がボクシングができるのかどうかが、
気になって仕方のないようだ。
434 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:02
「吉澤、あの子もプロボクサー目指してるのか?」
ひとみの後ろからボクシングジムの館長が声をかけてきた。
「さぁ、それはどうでしょうね?」
「すごく可愛い子だな。とてもじゃないけど、ボクシングができるとは思えんな。」
「うちだってそうでしょ。人は見た目じゃないっすよ。それに・・・。」
美貴が反動をつけて拳を振り上げる。
「うりゃぁっ!」

ズドォォンッ!

巨大な轟音と共に、サンドバッグが凹み、大きく後ろに揺れた。
周りにいた誰もが口を開けて呆然としていた。
跳ね返ってきたサンドバッグを、さらに殴りつけて吹き飛ばす。
435 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:02
ひとみは美貴から目を離さずに口を開く。
「あいつ、ボクシングならともかく、喧嘩じゃうちより強いっすよ。」
館長も目を見開いて驚いている。
数発目の轟音の直後に、美貴は前に飛び出した。
「バカッ!美貴、よせ・・・。」
「このやろーっ!」

ズドォォォォンッッッ!!!

美貴の振りぬいた蹴りがサンドバッグにめり込んだ。
今までにないほどの強烈な音が響き渡り、あの重いサンドバッグが
天井にまで叩きつけられる。
振り子のように止まらないサンドバッグに背を向けて、美貴はひとみに寄っていく。
436 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:03
「美貴、蹴りはやめとけよ・・・。」
「やっぱ美貴には合わないや。これ、取ってよ。」
「はいはい。」
ひとみはあきれた顔をして美貴のグローブを外した。
両手が自由になった美貴は、そのままジムを出ようとする。
「どうしたんだよ?らしくねぇな。」
「・・・何だっていいでしょ。」
美貴はひとみの顔を睨みつける。
迫力のあるその目に、ひとみは身を引いた。
「・・・ごめん。帰るわ。」
「えっ、おい・・・。」
美貴は振り返ってボクシングジムを出て行った。
何も理由の知らないひとみは、難しい顔をして美貴を見送っていた。
437 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:03
バイクに乗る前に、美貴はふと思い出して携帯を取り出した。
数回目のコールで電話した相手が出た。
「もしもし。美貴ねえ、どうしたっちゃよ?」
美貴が電話したのはれいなだった。
「れいな、今空いてる?」
「ん〜、これからさゆと遊ぼうかなって思ってた・・・。」
「なら空いてるんだね。今から絵里とさゆを呼んで、タンポポにきて。」
「ちょっ、美貴ねえ・・・。」
「待ってるから。」
一方的に言い放って、携帯をポケットに放り込んでバイクを走らせた。
438 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:05
美貴がスタジオで待っていると、れいなとさゆみが入ってきた。
二人とも不服そうな表情をしている。
「絵里は?」
「絵里はバイトでこれませんよ。」
「そっか。別に二人がいればいいや。」
「美貴ねえ、今日は練習ないし、愛ちゃんもいないっちゃよ。
 一体どうしたと?」
「美貴が歌う。二人とも準備して?」
「「えっ?」」
さゆみとれいなは顔を合わせて首を傾げる。
美貴はマイクを持ったまま動かない。
「早くしてよ。あまり時間がないんだよ。」
「う、うん・・・。」
普段の美貴でもたまに怖いことがあるとはいえ、このように本気で
言われたのは初めてだった。
439 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:05
美貴を気にしながらさゆみとれいなはそれぞれの位置についた。
れいながドラムを叩いて、さゆみがベースを弾いて、美貴が歌う。
以前にカラオケに行って、美貴の歌声を聞いたことがある。
その時の美貴は、愛に匹敵するほどの上手さを持ち合わせていた。
だが、この日は何かが違っていた。
歌うというよりも、音に合わせて叫んでいるように聞こえる。
まるで、何かを体から追い出すかのように、音を消し去るほどの声を上げていた。
何曲かの歌を歌い終えた美貴は、マイクの電源を切って二人を見渡した。
「だめみたいだからもういいや。ありがと。」
そう言って、美貴はステージから飛び降りて歩き始める。
れいなは慌てて美貴のあとを追う。
440 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/13(火) 22:06
「美貴ねえ!待ってよ!」
「何?」
「何か、あったと?こんなの、美貴ねえらしくないっちゃよ。」
美貴の目がれいなを捉えた。
その恐ろしいほど冷徹な目に、れいなは逃げ出したくなるほどの恐怖を感じた。
さゆみも怖くて何も口に出せない。
こんな目を見せたことなど、一度もなかった。
「・・・れいな、美貴らしいって何?」
「えっ・・・?」
「ならさ、美貴って何なの?いつ、どんな時の美貴が本物なの?」
「あ、あの・・・。」
「・・・何でもない。忘れて。バイバイ。」
美貴は、それ以上何も言わずにスタジオから出て行った。
先ほどまでの音楽が嘘のように、スタジオの中は静まり返っていた。
441 名前:konkon 投稿日:2006/06/13(火) 22:06
更新です。
442 名前:konkon 投稿日:2006/06/13(火) 22:08
>>七誌さんデスさん
リアルタイムでありがとうです♪
すごい二人だからこそすごい・・・ですね?
矢口先生は相変わらずそんなキャラですw
443 名前:七誌さんデス 投稿日:2006/06/14(水) 19:59
更新お疲れ様です (´∀`*)
美貴ねぇ雰囲気ありまくりですね(苦笑
さーて、あの人の登場でどうなるか気になりますね。。。
続きも期待しまくっちゃいます♪
444 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:16
その後の美貴は、希美や亜衣を連れてボーリングに行けば、ボーリングの球を
恐ろしい速さで投げつけピンを弾き壊したり、嫌がる亜弥を無理やり後部座席に乗せて、
町の中をバイクで乗り回していた。
亜弥を帰したあと、美貴は大きくため息をついてバイクに跨った。
一通り暴れたがまだスッキリしない。
真希とあさ美は、この日はデートだと言っていた。
さすがに今の美貴でも、二人の邪魔をする気にはなれなかった。
胸の痞えが取れずに、また苛立ちが募ってくる。
少し落ち着く必要があると思い、近くのコンビニで飲み物を買うことにした。
バイクを止めて、美貴がコンビニに入ろうとした瞬間、
「動くなよっ!」
中から怒声が聞こえてきた。
445 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:18
ヘルメットを被っている男が、レジにいる女の店員にナイフを向けている。
どうやら、コンビニ強盗のようだ。
店員は、泣きながらレジから金を抜き取っていた。
他の客は誰も動けない。
ただ一人、美貴は何も気にすることなく店の中に入っていく。
美貴に気付いた強盗が、ナイフを美貴に向ける。
それでも美貴は止まらない。
「お、お前、止まれっ!でないと・・・。」
「でないと、何?」
美貴は瞬時にナイフを持つ強盗の右腕を掴み取り、力任せに握り締める。
「あがっ!うぁぁっ!」
強盗の手からナイフが落ちる。
「これ以上、美貴をイラつかせるなっ!」

ズダンッ!

強盗の胸倉を掴んで、地面に叩きつけた。
その衝撃で、強盗は完全に意識を失ったようだ。
446 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:19
殴りつけてもよかったが、その反動で商品を壊して弁償したくはない。
思ったより理性があるんだなと、他人事のように思っていた。
「あ、あの、ありがとうございます。」
店員が美貴に頭を下げた。
よほど怖かったのだろう、まだ体は震えている。
普段の美貴なら、優しい言葉の一つでもかけたのかもしれない。
だが、今の美貴にはそのような余裕はなかった。
美貴は冷蔵庫からペッドボトルを取り出して、それをレジに置いた。
「えっと・・・。」
「美貴、急いでるんです。早くしてもらえませんか?」
「は、はい!」
美貴は金を払うと早々に店を出て行った。
強盗を倒して買い物をしたらすぐに出て行く、その間僅か一分にも満たない時間だった。
店員も客も、誰もが呆然として立ち尽くしていた。
447 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:19
家に着くと、電気が付いていることに気付いた。
愛がバイトから帰ってくるまでには、まだ一時間ほど余裕がある。
彼女が鍵を掛け忘れて泥棒が入ったとは考えにくい。
そうなると答えは一つ、美貴はドアを開けて家の中に入った。
「あ、おかえり〜。」
愛は可愛らしい声をかけて玄関まで迎える。
「愛ちゃん、バイトは?」
「ん〜、今日は人が多かったから、仮病で休んじゃった。
 外、寒かったでしょ。はよ入りや。」
瞬時に嘘だと確信した。
愛がそんな適当な人間ではないことは、美貴が一番よく知っている。
少し困惑気味になりながらも、愛に押されて部屋の中に入る。
448 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:20
「もうすぐご飯できるから、こたつの中で暖まっとって。」
「・・・。」
美貴は何も言わずにこたつの中に足を入れた。
後ろから包丁の心地よい音が聞こえてくる。
しばらくして音が鳴り止み、愛がリビングに入ってきた。
「終わったやよ〜。あと10分位したらご飯できるからね。」
「うん・・・。」
「・・・美貴ちゃん、らしくないね〜。」
その言葉に、美貴は勢いよく振り向いた。
この一日だけで何度言われたかわからない。
けれど、自己存在に悩みを抱えている美貴としては、それは禁句だった。
「愛ちゃんに、美貴の何がわかるの・・・?」
美貴は声を震わせて呟いた。
449 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:20
「なら聞くけど、美貴らしさって何?本当の美貴って何なの?
 美貴はどうあれば美貴だって言えるのさ?美貴は一体、
 どうしてここにいるの!?」
「美貴ちゃん?」
「愛ちゃんにだって、美貴のことなんかわかんないよ!」
自分勝手だと思う。
彼女は全然悪くないのに、愛にぶつけてしまった。
言ってしまってから自分の言動に後悔して、美貴は俯いた。
「エヘヘ〜、怒られちゃった。」
愛は嬉しそうに笑って、美貴を後ろから抱きしめた。
「何で、笑ってるの・・・?」
「やって美貴ちゃん、初めてあーしに本音をぶつけてくれたんやもん。」
美貴の首に腕を回して、顔を近づける。
450 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:21
「美貴ちゃんのこと、わかるわけないやろ。ちゃんと言ってくれんと、
 分かり合うことなんてできんがし。自分の感情を閉じ込めんで。
 全部とは言わんけど、言いたいことは言ってほしいんやよ。あーし達、
 付き合ってるんでしょ?隠した感情で接しられても、あーしが困る。」
「・・・。」
「心配はかけてほしくない。けど、迷惑はいくらでもかけてええんやよ。
 あーしやって、美貴ちゃんのこと知りたい。力になりたいがし。
 一人で悩まんで、人に言った方が楽になれる時もあるはずや。」
美貴を抱く腕に力を込める。
美貴は、そっと愛の手を握った。
「愛ちゃんって、暖かいね・・・。」
「ほうか?さっきまでキッチンにいたんやけど、冷たくない?」
「そうじゃなくて、心が暖かいんだよ。もう少しだけ、このままでいてくれる?」
「うん!」
背中越しに愛の胸の鼓動が聞こえてくる。
愛の優しさが心に染みてきた。
451 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:23
「もしかして、美貴の後ろにいて寒い?」
「美貴ちゃんが暖かいから平気やよ。」
「そっか・・・美貴の話し、聞いてもらってもいいかな?」
「うん。」
「今日ね、親父の秘書がきたんだ。親父が倒れたんだってさ。」
「うそぉっ!大丈夫なの!?」
愛の驚いた声に、美貴は思わず耳を塞いだ。
どうやらこの話しは聞いていなかったようだ。
「親父の後継者として、美貴に政治の世界に入れって言うんだ。美貴は、
 愛ちゃん達とバンドをやりたいから、当然断ったよ。そしたらさ、
 それは逃げだって言うんだ。現実と向き合いたくない、親父の後を
 継げないからってね。確かに、美貴は親父のようになれないよ・・・。
 あんな親父でも、政治に関しては認めてた。いや、今でも認めてるんだ。
 けど、それとこれとは話しは違う。美貴は親父のために生まれてきたんじゃない。
 美貴にだって大きな夢はある。美貴は、親父の物なんかじゃない・・・。」
美貴の震える声を聞いて、愛は優しく彼女の頭を撫でる。
452 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:25
「美貴、どうしたらいいんだろ・・・?自分が生きていることに
 疑問を感じてる時に美貴らしくないって言われて、だったら、
 本当の美貴は何しててどんなやつなんだって、わかんなくなってね、
 色んな人に当たっちゃったよ・・・。」
「それは知っとるよ。携帯に何件かクレームがきたからね。」
「・・・マジすか?」
「マジです。」
愛はニヒヒッと笑う。
「みんな心配しとるんやよ。美貴ちゃんが大好きやからね。」
「・・・。」
「らしいかどうかなんて、あーしにもわからんよ。やって、ここにいる美貴ちゃんが
 あーしにとって全てだから。笑って、怒って、泣いて、全部美貴ちゃんやよ。
 本当の美貴ちゃんは、ここにいる。思ったように行動してればええんやないの?」
その言葉に、美貴はう〜んと唸らせる。
453 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:27
「何かさ、美貴、好き勝手にやってるような感じじゃない?」
「あれ、違うんか?」
「ひど〜い!美貴、もっといい子だよ。」
いつもの明るい声に、愛は微笑んで美貴の頬に顔をくっ付けた。
「どんな美貴ちゃんでも、あーしは、あーし達は受け止めるよ。
 やから、避けないで、たまには真正面からぶつかった方がええよ。
 自分に打ち勝ってよ。美貴ちゃんのこと、信じてるから。」
「・・・今日の愛ちゃんってさ、随分と積極的だよね。」
美貴は振り向き様にキスをした。
愛が一瞬呆けている間に、コタツから出て立ち上がる。
「さってと、愛ちゃんにキスしたら美貴も元気になったから、
 ご飯にしよう!」
「もう、美貴ちゃん!」
美貴は愛の頭をポンっと撫でて背を向ける。
454 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/18(日) 20:30
「愛ちゃんは座っててよ。美貴が用意するからさ。」
美貴が部屋を出て行ったので、愛は入れ替わりにコタツの中に入る。
「美貴はね、こう思うの。それだけは絶対に間違ってるって。それでね・・・。」
「うん。でも、美貴ちゃんはさ・・・。」
「そうなんだよね。それだけじゃなくってさ、他には・・・。」
美貴は夕食を食べている間、普段以上によく自分の話しをした。
できる限りだけど本音を話してくれて、愛は素直に嬉しかった。
「愛ちゃん、今日は本当にありがとね。すごく勇気が湧いたよ。」
「ん、美貴ちゃんが元気になってくれてよかったわ。」
「うん。それでね、一つ頼みたいことがあるんだ。」
「頼み?あーしにできることなら、何でも言ってええよ。」
「そっか。あのね・・・。」
次の美貴の言葉を聞いて、愛は口を開けて驚いていた。
それも束の間、すぐに笑みを浮かべて頷いた。
455 名前:konkon 投稿日:2006/06/18(日) 20:30
更新しました。
456 名前:konkon 投稿日:2006/06/18(日) 20:31
>>七誌さんデスさん
あの人はどう関わるんでしょうかね〜。
むしろ関わりがあるのか(ry
そこは次回のお楽しみということで♪
457 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:42
翌日の昼前、ある病院の中に一人の少女が入ってきた。
白いワンピースに明るめの上着を羽織っている。
透き通るような綺麗な髪、ワンピースの間から覗かせる白く健康的な肌、
通り行く人は誰もが振り向くような、美しい少女だ。
少女は受付でいくつか話したあと、服と同色のハイヒールを鳴らして
階段を上っていく。
少女が目的の部屋に着く前に、カメラや手帳を持った何人もの人達が、
ある部屋の前で待機していた。
その少女も近寄ろうとすると、二人の警備員に止められた。
「お嬢さん、ここから先は立ち入り禁止だよ。」
「私の名前は藤本美貴です。父に会わせてもらえませんか?」
ワンピースの少女、美貴は笑顔で警備員に言った。
458 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:43
「少々お待ちください。」
二人の警備員は、人ごみを掻き分けて奥の方へと向かっていく。
「(う〜、足元が寒い・・・。)」
前日の夜、愛に頼んで借りたこの服は、美貴には少し耐え難いものがった。
美貴がこのような格好をすることは、滅多にない。
少なくとも、自分から着るようなことは、数えた方が早いくらいだ。
髪を整えて、薄く化粧をした美貴は、まさしく美少女と言えるだろう。
証拠に、周りにいた記者であろう何人かは、美貴のことが気になって
何度も視線を向けている。
しばらくして、見たことのある一人の女性が近づいてきた。
父の秘書、前田ゆきだ。
「藤本さん、きてくださったのですね。」
「父に会わせてもらえますか?」
ゆきは静かに首を横に振った。
459 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:44
「いえ、例え大臣のお嬢様であったしても、どのような考えをされているのか、
 先に私が聞くようになっております。その後、私の方から・・・。」
「ならけっこうです。あなたに話したいことなんてありませんから。」
笑顔で丁寧な言葉遣いの中に、毒づいた言い方であった。
見た目の容姿では考えられない言葉だが、美貴は全く気にすることはない。
むしろ、誰のものでもなく、ありのままの自分でありたいから、そのようなことを
考えることもなかった。
「・・・わかりました。ついてきてください。」
ゆきは難しい顔をして歩き出した。
しばらく歩いていくと、扉からして高そうな部屋の前に連れてこられた。
「こちらになります。私はここで失礼します。」
ゆきは美貴を振り向いて、頭を下げるとその場から離れていく。
美貴はノックもしないで部屋の中に入っていく。
460 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:45
部屋に置いてあるベッドの上には、約一年ぶりに見た父の姿があった。
虐待された憎しみが込み上げてくる、と思っていた。
だが、最後に会った時に比べてやつれている父の姿に、美貴の想いは
どこかにいってしまった。
「美貴!?お前・・・。」
美貴に気付いて、父が見上げてきた。
美貴は堂々と近づいていき、手前にある椅子に座った。
「・・・何しにきた?バカ娘が。」
「久しぶりに会って一言目がそれですか。見舞いにきてやったんだよ。
 くそ親父。」
持ってきた果物を足元に置いて、父を睨みつけた。
「貴様、実の父親に向かって何て口の聞き方を!」
父は美貴に向けて拳を振り上げた。

パシッ

美貴は軽々と拳を受け止める。
461 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:45
「何だよ、これは・・・。」
殴り合った時に比べて、明らかに威力が落ちていた。
病か、または年のせいかは知らないし、美貴にとってはどうでもいいことだ。
それでも、遣る瀬無い想いが込み上げてきたのも事実だった。
「情けないパンチするなよ。あんたに負けた美貴がバカみたいじゃん。」
「・・・うるさい。何をしにきた?弱った私に復讐するためか?
 それとも・・・。」
美貴はじっと父の顔を見たあと、フーッと息を吐き出した。
「生憎だけど、病人を殴るほど美貴は落ちぶれてないし、そこまで暇人じゃないよ。
 美貴の出した答えを話しにきたんだ。美貴は、あんたのあとを継ぐつもりもない。
 美貴はあんたを父だなんて認めたくない。それだけの傷を体に、心に負ったこと、
 あんたはわかってんの?」
「・・・。」
「だんまりか。自分のことしか考えてない、悪徳政治家みたいだね。」
美貴を見る父の目つきが変わる。
462 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:47
「私の政治をお前にどうこう言われる筋合いはない。」
「別に興味ないよ。本当のとこ言うと、あんたみたいになれるとは
 思ってないし、美貴が政治を行ったとこでたかが知れてる。けど、
 この世界が危険に晒されてるってことは、よく学んだよ。だから、
 美貴は美貴でできることをする。」
「お前に、できることだと・・・?」
「親父、あと五年、もたせてみせなよ。五年以内に、美貴達は世界中に
 知れ渡るくらい、最高のバンドを築き上げてみせる。そして、
 世界中の人達に呼びかけてやるんだ。この世界を救うために、
 やれることをやるようにね。」
美貴は自信に溢れた笑みを浮かべてそう言った。
「・・・その自信はどこから湧き出てくるんだ?根拠はあるのか?」
「あるわけないじゃん。」
父は難しい顔をして首を傾げた。
463 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:48
「少しは自分の運命を悟ったらどうだ?お前の言っていることは、
 僅かな可能性にかける過酷な人生だ。無理としか・・・。」
「くっだらない、だから何だって言うんだよ?自分の運命?過酷な人生?
 上等だよ。どんな壁だって突き破ってやる。僅かな可能性しかないって
 言うけどね、先が見えない未来だからこそ面白いんだよ。あんたから
 見たらさ、地面を這いずり回るような人生かもしれないけど、美貴は自分の
 道を突き進むよ。無理かどうかはやってみなけりゃわからない。
 あんたに指図されたところで、自分のことは自分で決めるさ。」
「・・・フン、好きにしろ。」
父もまた小さく笑う。
離婚してから美貴に笑いかけたのは、初めてのことかもしれない。
少なくとも悪い気はしなかった。
464 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:49
「さってと、そろそろ帰る・・・あっ!そういえば、忘れるとこだった。親父。」
「何だ・・・。」

パンッ!

美貴が父の顔を平手で打ち倒した。
父は口唇から血を垂らして美貴を睨む。
「言っておくけど、十分手加減したからね。」
「美貴、貴様・・・。」
「あんたには借りがたっぷりと溜まってるんだ。残りは治ったら
 倍にして返してやる。だから・・・勝手にくたばるなよ。またな。」
美貴は振り返って部屋から出て行った。
その間、父から何も言われなかった。
465 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:49
認められたとは思えない。
恐らくは試されている、それでもよかった。
自分の信念を貫くことができたのだから。
部屋から遠ざかって階段を下りようとした時、美貴の視界にゆきの姿が映った。
「久しぶりのお父上とのご対面は、いかがでしたか?」
「別にどうってわけでもないですよ。美貴は美貴のやりたいように
 やるだけだしね。」
「そうですか・・・。」
「あんな親父だけど、あとはお願いしますね。」
「・・・はい。」
美貴は一度だけ笑みを向けると、階段を降りていった。
病院を出て、バス停に向かう。
466 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:52
かばんに煙草が入ってることを思い出して手を入れるが、
何も取らずにすぐに出した。
社交辞令だとはいえ、せっかく綺麗な格好をしているのに、
煙草の匂いで壊したくなかった。
椅子に座って待っていると、携帯が鳴り始めた。
ディスプレイに映し出された名前はれいなだった。
「もしもし。れいな?」
『・・・。』
「あれ?れいな〜?」
『・・・あの、すいません。ちょっとれいな、しっかりしてよ。』
「その声は、さゆ?」
『はい、今日も可愛いさゆみですよ。』
電話に出たのがさゆみだったことに、美貴は少し戸惑う。
467 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:53
「れいな、どうかしたの?」
『えっと・・・昨日の藤本さん、少し様子がおかしかったから電話かけたんですけど、
 すごい緊張しちゃったみたいで、さゆみの隣で話しを聞いてます。』
昨日の出来事を思い出し、罪悪感が込み上げてきた。
「そっか・・・昨日はごめんね。」
『あの、さゆみ達にできることがあるなら、藤本さんの力になりますから!
 何があったか、教えてくれませんか?』
「・・・ありがとう。でも、ごめんね。もう用は済んだんだ。」
『そうなんですか?藤本さん、もう大丈夫なの?』
「うん。さゆ、悪いんだけどれいなと代わってもらえるかな?」
『は〜い。ほら、れいな・・・。』
電話の向こう側からさゆみとれいなの声が聞こえる。
468 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:55
『も、もしもし、美貴ねえ・・・。』
れいなの緊張気味な声が聞こえてきた。
美貴はスーッと息を吐き出して、受話器に口を近づける。
「れいな、昨日はごめんね。美貴"らしく"なかったよね。」
『えっ・・・?』
「いちいち考えてるなんて美貴じゃないもんね。美貴は美貴の道を突っ走るよ。
 そういうことだから、これからもよろしく!」
『・・・うん!』
「れいな、これから空いてる?昨日のお詫びにお昼奢ってあげるよ。」
『本当に!?』
「うん。ん〜とね〜・・・。」
それからいくつかの話しをして、美貴は携帯を切った。
469 名前:本当の気持ち 投稿日:2006/06/22(木) 22:55
自分のせいで、二人を傷つけて、心配をかけた。
会ったら、真っ先に謝ろうと思う。
それは他の仲間達も同様だ。
バスが坂を下りてこちらへと向かってくる。
「よし、行くか。」
昨日まで悩んでいたものは、全て父にぶつけた。
今後もまた壁に突き当たるかもしれない。
それでも、美貴はまたぶつかってやろうと思う。
立ち止まりたくない、先に進みたいから。
美貴は大きく伸びをして、椅子から立ち上がった。
470 名前:konkon 投稿日:2006/06/22(木) 22:55
更新です
471 名前:ハラポワ 投稿日:2006/06/27(火) 02:21
久しぶりに長時間ネットが出来たので、たまってた分全部読ませて頂きました。
自分が読まない内に愛ちゃんとミキティが進展してたり
仲間が増えてたりでニヤニヤハラハラしながら読んでましたw
今回の件もミキティ“らしい”解決の仕方だったんじゃないかなーと思います。
更新楽しみにしてます。
472 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:16
2月中旬、美貴がバイトから帰ってきて、二人で夕食を食べている時のことだった。
「ねえ、美貴ちゃん。26日って、何か用事とかある?」
「26日?ちょっと待ってね。」
美貴はかばんから手帳を取り出して、パラパラとページを捲る。
「ん〜と、バイトが入ってるよ。」
「それ、誰かに代わってもらったりとか、できないんか?」
「その日に何かあるの?」
「あのさ、あさ美が動物園のチケット、新聞屋の人から四枚もらったっていうから、
 みんなで行かんかってね。たぶん、あーし達四人でどこか遊びに行くのって、
 これで最後になるやろうし、だめかな?」
「・・・そうだよね。うん、いいよ。誰かに代わってもらう。」
「ホントに?」
「うん。」
美貴は笑顔で頷いた。
473 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:17
そんな簡単に代わってもらえるか心配だったが、美貴の功績は愛の想像以上に
高いもので、あっさりと休みをもらうことができた。
そして、26日の朝、
「美貴ちゃん、起きて。時間やよ。」
「ん〜・・・愛ちゃん、おはよ・・・。」
美貴は眠たそうに目を擦って起き上がった。
普段よりも早い時間のせいか、美貴はぼーっとしたまま動かない。
「ほらっ、起きても何もしなきゃ意味ないやろ。顔洗ってきて。」
「ふぁ〜い・・・。」
美貴は大きな欠伸をして洗面所へと向かう。
その間に、愛は朝食の準備を始める。
今日は美貴の誕生日だ。
だが、それを彼女の口から聞いたことがなかった。
474 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:18
愛も真希から聞くまでは全く知らなかった。
その理由を理解できるのは、愛と真希くらいなものだろう。
二人は朝食を食べ終えて、真希達が来るのを待っていた。
愛は、ソファでだらけている美貴の寝癖が、まだ直ってないことに気付いた。
「美貴ちゃん、寝癖ひどいよ。」
「ん〜、別にいいんじゃない?これが美貴のスタイルだしさ。」
「こんな日くらい、綺麗な髪にした方がええやろ?」
「こんな日?今日って何かあったっけ?」
「あっ・・・えと、ほらっ、外に出るんやし。ん〜、そこにいて。」
愛は洗面所から櫛を持ってきて、美貴の背後に周って髪を梳かし始めた。
美貴は少し擽ったそうに顔を緩ませる。
「美貴ちゃん、何か欲しい物とかってないんか?」
「欲しい物ね〜・・・特にないかな。」
「ないの?」
「う〜ん、これといったものはないね。大切な仲間がいて、夢にまで見たバンドができて、
 愛ちゃんと一緒にいられる。こんなに幸せなのに、これ以上欲しいものなんてないよ。」
それを聞いて、愛は少し悲しくなった。
475 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:19
物欲がなく、今の生活に満足をしている。
なら、愛と出会うまでの生活はどうだったのか、想像すると胸が痛んだ。
愛は後ろから美貴の体を抱きしめた。
「美貴ちゃん、あーしはずっと傍にいるからね。」
「ん・・・ありがと。」

ピンポーン

「おっ、ごっちん達、きたみたいだね。」
「美貴ちゃん、行こうか。」
「あ〜、もうちょっと愛ちゃんとイチャイチャしてたかったんだけどな〜。
 続きは夜かな?」
「な、何言うとるんやが!」
「冗談だよ。行こう。」
照れて顔を赤くしてる愛の頭を撫でつつ、美貴は立ち上がった。
476 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:21
電車で一時間ほどかけて、美貴達は動物園へとやってきた。
この日は休日からか、カップルや家族連れの人が多い。
そんな中、
「愛ちゃん!こっちに面白い鳥がいるよ!」
「美貴ちゃん!ちょっと待ってよ!」
「あっ、ゴリラがいる。いかにも強そうだな〜。」
「ミキティ、歩くの早いって。」
美貴はハイテンションのまま先へと進んでいく。
少しでも目を離すと、美貴の姿が見えなくなりそうだった。
「ねぇ、あっちにはさ・・・。」
「ミキティ、ストップ!」
真希は美貴の襟首を掴んで引っ張った。
477 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:23
「ぐえっ!ごっちん、苦しいって。」
「あのね、もっとゆっくり行こうよ。時間はまだまだあるんだからさ。」
「そうやよ。みんなで楽しい思い出作らんでどうするんやが?」
「・・・ごめんなさい。浮かれすぎてたよ。」
「わかればよろしい。」
一度は凹むも、愛に慰められてすぐに笑顔を取り戻す。
それから、美貴達は色々なところを見て周っていく。
途中、真希は猿山に気付いて美貴の肩を叩いた。
「ミキティ、あそこで高橋と一緒に並びなよ。写真撮ってあげるからさ。」
真希がかばんからデジタルカメラを取り出してそう言った。
「へ〜、これがデジカメってやつ?」
「そうだよ。」
美貴は感心してカメラを凝視する。
478 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:24
「これってさ、美貴の携帯にも送れたりできる?」
「もちろんできるよ。あとで送ってあげるよ。」
「ごっちん、すごいね〜。よし、愛ちゃん行こうよ!」
「うん。」
美貴と愛は、猿山をバックに並んだ。
美貴は片手でピースをして、片手で愛の肩を抱いた。
それが無意識だとはわかってはいても、愛は恥ずかしそうに顔を赤くした。

パシャッ

「愛、もう少し笑ったら〜?」
デジカメに写る画像を見て、あさ美は笑みを浮かべている。
479 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:24
「そんなこと言われても・・・。」
「まぁいいじゃん。ところでさ、どれが愛ちゃんかな?」
「へっ?」
「ほらっ、美貴達の後ろにもたくさん愛ちゃんが・・・。」

ゴンッ!

愛の拳が美貴の頭部を捉えた。
「だ・れ・が猿やって?」
「痛いよ〜。冗談だって。愛ちゃんはどちらかと言うとオラウータン・・・。」

パンッ!

今度は美貴の頬を力強く叩いた。
480 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:25
美貴は顔を押さえて蹲る。
愛は荒い息を吐き出して、すぐに真希とあさ美に笑顔を向けた。
「さて、こんなのは放っておいて、次はあーしがあさ美達を撮ってあげるやざ。」
「えっと、うん・・・お願いね。」
真希は苦笑いを浮かべて愛にカメラを渡した。
「高橋って、けっこうすごいよね・・・。」
「フフッ、私は今の愛は好きですよ。とても生き生きとしてて、楽しそうです。」
「まぁ、確かに、楽しそうなんだけど・・・。」
「ミキティには感謝してます。彼女のおかげで、私達は変わることができた、
 自分を曝け出す恐怖に打ち勝てたのだから。」
「それは後藤も同じだよ。あとでたっぷり返してあげようね。」
「はい!」
真希達が振り返ると、美貴が何度も愛に頭を下げている姿が目に入った。
その光景は少し情けない気もするが、微笑ましいことには変わりはなかった。
481 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:27
愛も機嫌を取り直して、四人で昼食を食べ終えたあと、休憩も含んで園内にある
ゲームセンターに入ることにした。
今は真希が両替に、愛とあさ美がUFOキャッチャーでキーホルダーを取ろうとしている。
「あっ!あとちょっとやったのに・・・。」
「愛、次は私にもやらせてよ。」
美貴は近くの灰皿の前で、煙草を吸いながら二人を見ていた。
少しして、真希が戻ってきた。
「ごっちん、おかえり〜。遅かったね?」
「ただいま。近くのお店まで行ってたんだよ。両替機が壊れてるのに直さない
 ゲームセンターなんて、そうはないよね。」
「ハハッ、そりゃそうだ。」
美貴は一頻り笑って煙草を口にくわえる。
482 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:28
「ミキティ、煙草やめたら?体に悪いよ。」
「そうなんだけどね、なかなかやめられないんだな〜。」
「ミキティはいい子に育ってると思ったんだけどね。どうして煙草吸い始めたの?」
「どうしてって・・・ん〜、何でだっけ?」
美貴は煙草を灰皿に捨てて、腕を組んで考え始める。
それでも、吸い始めた理由が出てこない。
気付いたら吸っていた、それだけだ。
「まぁ、やめられたらやめるよ。」
「その方がいいよ。んで、話しは変わるんだけど、ミキティってさ、
 高橋のこと抱いたことあるの?」
美貴は真希の顔をじっと見つめる。
「あるといえばあるけど・・・。」
「そうじゃなくて、体を抱き合わせたことはあるのかってことだよ。」
「・・・ないよ。」
美貴は恥ずかしそうに顔を反らす。
483 名前:一人じゃない 投稿日:2006/06/27(火) 23:30
「愛ちゃんが求めてないならさ、無理やり抱き合う必要もないんじゃない?」
「そうかな?高橋、待ってるんじゃないのかな?ミキティは優しいからね、
 高橋に合わせてるんだろうけど、たまには自分から動くのも必要だよ。
 ミキティが何をしたいのか、何を望むのか、それを相手に伝えるのも
 一つの愛だと後藤は思うけどね。」
「・・・そうかもね。」
「美貴ちゃ〜ん、そろそろ行こう。」
愛達もゲームが終わったようで、美貴達は再び園内を周り始めた。
夕方になって、一通り楽しめた四人は動物園を出た。
「ねえ、ごっちん。晩ご飯何食べよっか?」
電車に乗ってる中、美貴は真希に聞いた。
「もう決めてあるから、安心していいよ。」
「どこに行くの?」
「それは着いてからのお楽しみだよ。」
真希は笑みを浮かべてそう答えた。
少し気にはなったが、真希の言葉に期待して美貴は頷いた。
484 名前:konkon 投稿日:2006/06/27(火) 23:30
更新しました。
485 名前:konkon 投稿日:2006/06/27(火) 23:32
>>ハラポワさん
お久しぶりです。
ずいぶんと読んでもらってありがとうです!
様々な出会いの中でどのような自分を見つけていけるのか、
まぁそれがテーマなんでそこを理解いただけると嬉しいです。
486 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 22:55
期待しちゃってよいのかな?(*´Д`)
487 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:21
自分達の町に着いて、真希の案内で町の中を歩いていた。
途中、意味なくコンビニに入って時間を潰したり、遠回りをしたように思えたが、
そこは気にしないようにした。
真希が連れてきた場所は、美貴がきたことのない焼肉屋だった。
焼肉というキーワードだけで美貴はすごく嬉しそうな表情をする。
中に入って真希が店員を呼んだ。
「すいません、後藤の名前で予約してたんですけど。」
「はい、後藤様ですね。こちらになります。」
店員についていくと、座敷の部屋に案内された。
襖が閉められているので、中はまだ見えない。
案内されている間、真希はしきりに愛を気にしていた。
「ごっちん、さっきから何愛ちゃんの方ばっか見てんの?
 もしかして、美貴の愛ちゃんに惚れたりとか?」
美貴は笑ってそう言うが、二人とも真剣な表情をして愛の腕時計を見ていた。
488 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:22
「あと五秒、ちょうどええよ。あさ美。」
「うん。ミキティ、入ってよ。」
「えっ?何?」
あさ美に背中を押されて、美貴は襖を開けて中に入った。
「あれ、何で・・・?」
そこには、絵里、さゆみ、れいなのいつもの三人と亜弥がいた。
「どうしてみんながここに・・・?」
「ちょっと愛ちゃん!少し早いですよ!」
突然、絵里が愛に向かって叫んだ。
「うそやろっ!?あーし、ちゃんと7時になったの確認したで!」
「愛ちゃんの時計、少し早かったんやなか?」
「今7時になったとこですよ〜。」
さゆみが携帯を愛に見せる。
489 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:23
「あ〜、失敗やざ・・・。ここまで完璧やったのに・・・。」
「愛、落ち込んでないでやり直せばいいじゃない。」
「んじゃ、仕切り直しってことで、みんなよろしく。」
真希が襖を閉めてそう言った。
その瞬間、

パンパンパーンッ!!!

亜弥達は一斉にクラッカーを鳴らした。
「えっ?えっ、何・・・?」
美貴は口を開けて仲間達を見ている。
今の状況に頭がついていけない。
490 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:24
「藤本さん、お誕生日おめでと〜ございま〜す!」
「美貴ねえ、おめでとうっちゃ!」
「おめでとうなの。」
「美貴たんも大人の階段を一つ上ったね〜。」
「ミキティ、おめでとう。ほらっ、座ってよ。」
真希に肩を叩かれて、美貴はゆっくりと座り込んだ。
「まっつー、あれ、持ってきてくれた?」
「持ってきたよ〜。」
亜弥が箱をテーブルの上に乗せた。
それを開くと、バースディケーキが顔を出した。
「みんなで作ったんですよ〜。」
「れいな達の自信作っちゃよ!」
絵里とれいなが力強くそう言った。
491 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:24
「今日は私達が奢ってあげるから、たくさん食べていいよ。」
亜弥も嬉しそうに付け加える。
「お姉ちゃん、これ。」
「おう。」
今度は愛が、さゆみからかばんを受け取って、美貴の前に座り込んだ。
愛がかばんからもぞもぞと何かを取り出す。
それは、美貴に似合いそうな、黒のジャケットだった。
「美貴ちゃん、誕生日おめでとう。」
美貴の恐る恐る差し出した手に、愛はポンとそれを乗せた。
その直後に、真希達は手を叩いて祝福した。
「これ、どうして・・・美貴、に?」
「そうやよ。やって、美貴ちゃんの誕生日やもん。」
美貴はまだ戸惑いを隠せない。
492 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:25
「あ、ありが、とう・・・。」
「美貴、ねえ・・・?」
れいなは驚きの表情で美貴を見ている。
れいなだけでなく、その場にいた誰も動けない。
美貴の目から、止めどなく涙が溢れていた。
愛は自分の肩にそっと美貴を抱き寄せた。
「美貴ちゃん。もう、我慢しなくてええよ。あーし達が、傍にいるよ。」
「うぐっ、愛、ちゃ、ぐぅぅ・・・。」
美貴は片手でジャケットを抱いて、片手で愛に抱きついた。
愛は泣きじゃくる美貴の頭を優しく撫でている。
それを見て、あさ美は真希の耳元に顔を寄せる。
「後藤さん、もしかして、ミキティは・・・。」
「うん・・・。きっと、自分の誕生日を忘れてたんだよ。忘れたというより、
 自己防衛本能が働いて、自ら忘れることにしてたんだろうね・・・。」
あさ美にしか聞こえないように、真希は小さく言った。
493 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:26
愛にはあさ美が、あさ美には愛がいた。
真希は叔父や叔母、なつみから誕生日には祝ってもらえていた。
亜弥にも母親や友達がいた。
絵里、さゆみ、れいなはいつも三人一緒だった。
だが、美貴には誰もいなかった。
父親には虐待され、姉や母親も離婚して離れていった。
家庭教師は私情を挟まず勉強しか教えることはなかった。
毎日のように傷を負っていた美貴には、当時のクラスメイト達は誰も近寄ろうとせず、
教師も親の力を恐れて、美貴に何もしようとしなかった。
誕生日に誰にも祝ってもらえず、一人寂しい一日を送っていた美貴は、
いつの間にか自分でも知らない内に、誕生日の存在を忘れていたのだ。
「旅行に行く前に申請書を書いたでしょ。その時にさ、こんなことが
 あったの覚えてるかな?」
真希は呟くように話し始める。
494 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:26

『名前は藤本美貴、年は・・・あれ、美貴って何歳だっけ?』
『ミキティ、自分の年くらい覚えてなよ・・・。』
『愛ちゃんよりも一つ上だから19歳かな。』
『ミキティはまだ18だよ。』
『ああ、そうだったかも。んじゃ18歳ね。生年月日は・・・いつだっけ?
 愛ちゃん、美貴の生年月日っていつ?』
『美貴ちゃん、はよしねま。』
『うえっ、愛ちゃんに死ねって言われた・・・。』
『あのね、そういう意味やなくて・・・。』
『・・・ミキティ、あとは後藤が書いておくから、遊んでていいよ。』
『そんな子供扱いしなくたって〜!』
495 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:28
「学校の書類の時は管理人さんに、バイトの履歴書は適当に書いたんだってさ。
 本当に、ミキティは忘れてたんだよ・・・。」
「・・・。」
「後藤も一度だけ、お父さん達を失った年はね、ずっと一人で部屋の中に
 閉じこもっていたんだ。だから、それは後藤が悪いんだけどね、
 誰にも祝ってもらえなくて、すごく寂しかったよ。胸が痛くて、
 泣きたい気持ちでいっぱいだった。そんな生活を、ミキティは何年間も
 送り続けてたんだ。後藤には耐えられないと思う。きっと、心はぼろぼろに
 なっちゃうよ・・・。」
「そんな、ミキティ・・・。」
「でもね、もう大丈夫だよ。ミキティは弱い子じゃない。それにね、
 これから先には、あの子がずっと一緒にいてくれるからさ。」
「愛ちゃん、ありがと・・・。」
美貴は涙を腕で拭って顔を上げる。
496 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:28
「別に気にせんでええよ。」
「美貴ねえ、そんなに感動してくれたと?」
れいなは小さい声で美貴に聞いた。
「感動したことには感動した。まさかここまでやってくれるとは
 思わなかったからさ、驚いて鼻を思いっきり啜っちゃって頭が
 痛くなっちゃったよ。そのせいで涙が止まらないし、でも・・・
 本当にありがとね。」
もう一度涙を拭って、普段と同じ顔で、美貴はテーブルに向いた。
「さてと・・・亜弥ちゃん、奢ってくれるって言ったよね〜?」
「う、うん・・・。」
「フフン、じゃあ、注文しよっかね。すいませ〜ん!」
美貴は怪しげな笑みを浮かべ、大声を出して店員を呼んだ。
店員が襖を開けて中に入ってくる。
497 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:29
「手始めにレバ刺し五人前、それとカルビとタン塩を三人前づつと、
 2、3、4・・・生8つね。」
「み、美貴たん、そんなに頼むの?」
「言っておくけど、今言った肉は美貴の分だからね。あとは各自で注文してね。
 美貴、焼肉だったら普段の五倍は食べるから、覚悟するんだね。」
「鬼ですね・・・。」
「奢るなんて言わなきゃよかったかも・・・。」
「まぁ、今日くらいは騒ぐっちゃよ。ねぇ、愛ちゃん。」
「うん。れいなの言うとおり、みんなで楽しもう!」
次々と運ばれてくる皿を、美貴は焼いては食べて、綺麗に片付けていく。
その勢いに少し呆気に取られながらも、美貴が満足するのなら、と愛達は
特に文句を言うこともなく、彼女に付き合っていた。
時間がくるまでずっと騒ぎ続け、美貴の笑顔が途切れることはなかった。
498 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:30
誕生会も終了して、美貴達は家に帰った。
家に帰るまで、風呂に入り終わったあとにも、美貴はずっとジャケットを
胸に抱え込んでいた。
ソファに座って、何度も嬉しそうに頬を緩ませている。
風呂から上がった愛は、自分の髪を整えて美貴の隣に座り込んだ。
「愛ちゃん、美貴ね、一つだけ欲しい物があったんだ。」
「何?それって、あーしでも買える物なの?」
「いや、世界中のお金を注ぎ込んでも買えないだろうね。」
「・・・そんなん、あーしには無理やわ。」
愛は小さくため息をついた。
「それで、何が欲しいの?」
美貴はジャケットを隣に置いて、愛と目を合わせる。
499 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:30
「美貴、愛ちゃんが欲しい。」
「えっ?」
「愛ちゃんの、全てが欲しい・・・。体も、心も、全部が大好きだよ。
 美貴だけの愛ちゃんになってほしい。」
美貴はすっと愛の体を抱きしめた。
髪についたシャンプーのいい香りが、愛の胸の鼓動を速まらせる。
「我侭なのはわかってる。それでも、美貴は・・・。」
「まだ、なってなかったんか?」
「えっ・・・?」
愛は美貴に顔を近づけて、一度だけ口唇を重ね合わせた。
触れるだけのキスをして顔を離すと、美貴の首に腕を回す。
「美貴ちゃんと付き合った時に、あーしは全てを美貴ちゃんに捧げるつもりやったよ。
 美貴ちゃんのこと、愛してるから・・・。」
「・・・美貴も、愛ちゃんのこと、愛してるよ。」
今度は美貴から愛に口唇を求めた。
いつもよりも強めで、絡み合わせるようなキスだった。
500 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:31
布団の中、二つの体が絡み合う。
美貴の吐息が、口唇が、指が愛の精神を狂わせる。
指が秘部に触れ、愛は身を捩じらせて美貴に力強く抱きついた。
「ぁっ、んん、美貴、ちゃ・・・。」
「大丈夫。怖くないよ。」
美貴は優しくキスを落として、愛の恐怖心を和らげる。
美貴は行為をやめようとしない。
愛もしっかりと受け止めている。
二人とも、前に進む覚悟ができたのだから。
お互いの愛を受け止める想いがあったから。
少しづつ、少しづつでも、愛が深まりつつあることを信じていた。
501 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:32
真夜中に、美貴は目を覚まして体を起こした。
すぐ隣では、愛が気持ちよさそうに寝ている。
何も身に付けていないのに寒さはあまり感じられなかった。
先ほどまでの行為を思い出し、美貴の体にまた熱さが灯ってくる。
煙草を手に取って、膝まであるコートを被ってベランダに出る。
別に寒くはなかったのだが、真夜中とはいえ、さすがに裸で外に出るわけにはいかない。
煙草を吸って、いくつもの星が浮かぶ空に煙を吐き出した。
その瞬間、美貴が初めてここにきた頃の光景が目に浮かんだ。
「そういえば、あの日の夜もたくさん星があったっけ・・・。」
美貴は煙草を吸い始めた理由を思い出した。
502 名前:一人じゃない 投稿日:2006/07/02(日) 22:33
一人でここにきて、まだ誰にも知られず、知ってもらえずに一人でいた美貴は、
気まぐれにコンビニで煙草を買って、ベランダで吸ってみた。
寂しくて仕方なく、少しでも気を紛らわせようと思っていた。
初めて吸った煙草は、まずくて喉が痛くて何度も咽た。
それでも、少しは落ち着いたような気がした。
煙草の仄かな暖かさに、美貴はすがり付いていた。
「でも、今は違う・・・。美貴は、一人じゃない。」
一度しか吸っていない長い煙草を灰皿に入れて、まだ数本残っている煙草の箱を握り潰した。
もう吸う必要はない。
たくさんの仲間達が美貴の傍にいるから。
美貴を暖めてくれる彼女が傍にいるから。
「・・・ふわっ、もうちょっと寝るかな。」
美貴は目を擦りながら部屋の中に入っていく。
そして、愛の寝る布団の中に潜り込んで、愛しい彼女に抱きついた。
彼女の暖かい愛に包まれて、美貴はゆっくりと目を閉じた。
503 名前:konkon 投稿日:2006/07/02(日) 22:34
更新です〜。
あとちょっとでこの物語も終わりますので、
もう少しだけお付き合いください。
504 名前:konkon 投稿日:2006/07/02(日) 22:35
>>名無飼育さん
ん〜たぶん期待を裏切った形ではないかと思われ(ry
ちょっと悲しいけど嬉しい話しでしたw
505 名前:たま 投稿日:2006/07/02(日) 23:15
スゴい良かったです☆みんなの愛が感じられますね♪
もうそろそろ終わっちゃうんですね…寂しいです
506 名前:ハラポワ 投稿日:2006/07/08(土) 04:18
ミキティおめでとう。・゚・(ノД`)・゚・。
良かったなぁ。・゚・(ノД`)・゚・。
もうすぐ終わっちゃうんですね。
物語に終わりがあるのは当たり前ですが、やっぱり寂しく感じます。
でもしっかり最後まで付いて行きますよー(笑)
507 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:03
三月に入り、学校の桜並木が綺麗なピンク色に染め上がっている。
この日は、美貴達三年生の卒業式だ。
美貴は普段よりも早めに登校して、学校の屋上に立っていた。
真希はバスケ部の仲間と、愛はあさ美と話しをしていたので、ここには一人できた。
手摺に寄りかかって、目を瞑り、今年一年の学生生活を振り返る。
今まで生きてきた中で、最も楽しかった一年だと思えた。
しばらく想いに耽っていると、階段を上ってくる音が聞こえてきた。
「おっ、美貴たんはっけ〜ん!」
屋上に出てきたのは亜弥だった。
亜弥は笑顔で美貴に近寄っていく。
「亜弥ちゃん、どうしたの?」
「ん、美貴たんに会いにきたんだよ。まぁ、最後に一度だけ、
 お礼を言っておこうと思ってね。」
そう言って、美貴に抱きついた。
508 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:04
「亜弥ちゃん・・・?」
「美貴たん・・・今までありがとね。」
「・・・珍しく素直じゃん。何か悪いものでも食べた?」
「美貴たんは素直じゃないね。ここは答えるとこでしょ?」
「そうだね。どういたしまして。」
美貴はそっと亜弥の頭を撫でる。
「色々と迷惑かけちゃってごめんね。私は・・・。」
「美貴ね、ここにくるまでは亜弥ちゃんだけが心の拠り所だったんだ。
 一年でほんの数回しか会えなかったけど、一緒にいた時はすごく楽しかった。
 美貴の心を癒してくれたよ。亜弥ちゃんがいてくれて、本当によかった。
 これからはさ、もう美貴のことで迷ったりしないで。自分のために生きてよ。」
「・・・美貴たんこそ、私がいないからって泣いたりしないでよ。」
「それはありません。美貴には愛ちゃんがいるも〜ん。」
「ハイハイ、そうでしたね〜。」
亜弥はわざとらしく大きなため息をついた。
509 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:06
「亜弥ちゃんこそ、これからどうするの?上京するとしか聞いてないけど。」
「私は美容師の専門学校に通うよ。がんばって勉強して、アップフロントに就職して、
 high bredge専門のメイクさんになってあげるから、美貴たんもがんばるんだよ!」
「そっか・・・それは楽しみだよ。ところで、絵里とはどうするわけ?」
「私の住むとことは少し離れてるけどね、時間があれば会えるくらいの距離だからさ、
 そこは問題ないよ。いずれは同居しようと思ってるしね。あっ、そろそろ時間だね。
 美貴たん、行こう!」
亜弥は腕時計を見て後ろを向いた。
美貴も亜弥の横に並んで歩き出す。
「美貴たん、お互いがんばろうね!」
「うん。絶対に夢を掴んでやろうね!」
美貴と亜弥はふざけ合って屋上を出て行った。
最後まで、亜弥を見る美貴の目は優しさに満ち溢れていた。
510 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:08
卒業式が始まって、先ほどから校長の話しが続いている。
普段ならぼーっとしている美貴も、この日ばかりはきちんと話しを聞いていた。
いくつか隣で座っている真希は、相変わらず眠そうな顔をしていて、
隣に座っているあさ美に何度も肩を揺さぶられていた。
こんな時にでも緊張感の欠片も見られない。
全く変わってないな、と思い、美貴は笑みを浮かべた。
次に、各クラス代表の生徒が卒業証書をもらっていく。
これを教室でもらったら、学生生活も終わるんだと、ようやく実感が沸いてきた。
ただ、ここにきた時から気になる点が一つだけある。
それは、教壇の後ろのステージが、幕が降りていることだ。
511 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:09
美貴は何か妙な胸騒ぎがした。
その予感は見事に的中する。
『次に、特別ライブが行われます。』
生徒達がざわめき出す。
予行練習では入っていなかったイベントだ。
スルスルと幕が上がっていく。
そこにいた人達を見た瞬間、美貴は目を見開いて驚いた。
センターには久住小春、その両隣に保田圭、石川梨華と並んでいた。
生徒達は一斉に立ち上がって歓声を上げる。
「初めまして〜miracle charmy keyで〜す!心を込めて歌うので、
 聞いてくださいね!amorous and irritating。」
小春の歌が始まって、体育館にいた誰もが心を躍らせてそれを聞いていた。
続けてもう一曲歌い終えたあと、小春は一息ついて周りを見渡した。
512 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:10
「最後に、卒業する皆さんへ、この歌を贈りたいと思います。Never Forget。」
ゆっくりとしたテンポで始まり、小春は丁寧に歌い始めた。
別れをテーマにした詩、何人もの生徒達のすすり泣く声が聞こえてくる。
さすがの美貴も少し涙ぐんだ。
歌っているのが小春だから尚のことだった。
横の方を見ると、愛も泣きそうな顔をしている。
今すぐに抱きしめに行きたかったが、今は我慢してステージ上にいる彼女達を見つめていた。
曲が終わって、小春が大きく頭を下げる。
その瞬間、たくさんの歓声と拍手が体育館に響いた。
「ありがとうございました〜!miracle charmy keyでした〜。」
小春がお辞儀をしたと同時に、幕が降りていく。
教師達が生徒を静まらせようとしているが、まだ歓声は鳴り止まない。
そんな中、美貴だけはステージを見つめたまま、動くことができなかった。
513 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:11
卒業式が終わって退場した直後に、美貴は列を逆らって体育館の裏へと回る。
小春達がいるのは、恐らくは控え室だと判断したためだ。
控え室に続く通路の裏口へと周ると、警備員が二人立っていた。
美貴は小春達がいると確信して、警備員に近づいていく。
「ん、君、ここから先は立ち入り禁止だよ。」
「myracle charmy keyの保田圭に、藤本美貴がきたと伝えてもらえませんか?」
美貴がそう言うと、二人はいくつか話し合ったあとに、一人が中へと入って行った。
しばらくして、ドアが開いて警備員が戻ってくる。
「先ほどは失礼しました。どうぞ。」
美貴はスタスタと通路を歩いて、控え室の前で立ち止まる。

コンコン

「失礼します。」
大きめな声で、少し皮肉めいた言い方をしてドアを開けた。
514 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:11
中には、圭と梨華、小春の三人が、机を挟んで話しをしているようだった。
「美貴ちゃんじゃない。どうかしたの?」
「梨華ちゃん・・・どうかしたじゃないから。」
美貴は小さくため息をついて梨華を向いた。
「何でうちの学校でライブをやるわけ?しかも美貴達知らなかったし。」
「だって〜、真里っぺに頼まれたんだもん。」
「真里っぺ・・・矢口先生のこと?全くあの人は・・・。」
「それに、卒業式にライブをやるなんて、世間の注目を浴びれるじゃない?
 これで私達はまた一歩先に進んだわ!」
「だからって、美貴の学校でやることないでしょ!」
「ここでやることに意味があるのよ。」
今まで口を閉ざしていた圭が口を開いた。
「親が離婚して、離れ離れになっちゃって、あんたには何もしてやれなかったからね。
 せめて、最高の卒業式を送ってあげようと思ったわけよ。よかったでしょ?」
「・・・ん、まぁ、ありがと。」
美貴は頬を掻いて、照れくさそうにそう言った。
515 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/08(土) 20:13
「これからは本格的にトレーニングを積んで、本物のアーティストになるなら、
 私達はライバルよ。そう簡単に負けるんじゃないわよ。」
「当然だよ。そっちこそ、美貴達が潰すまでは持ちこたえてよね。」
「相変わらず強気な発言よね〜。そんなことが言えるのって、
 美貴ちゃんくらいなもんだよ。」
「それが美貴だからね。んじゃ、HRあるから行くよ。またね。」
美貴は振り向いて控え室を出て行こうとした。
「藤本さん。」
小春に呼ばれて、美貴は首だけ動かして小春を向いた。
「何?」
「小春は、藤本さんをかっこいいと思います。だから、藤本さんより
 もっともーっとかっこよくなれるようにがんばります!」
「えっ、うん、ありがと。がんばってね。」
美貴は小さく手を振って出て行った。
立場上は自分よりも上なのに、自分に憧れるとは思ってもなかった。
「人それぞれかな。でもね、小春ちゃん・・・美貴は負けないよ。」
美貴の呟きがやけに響いたような気がした。
ゆっくり歩いて感傷にふけっていようとも思っていたが、通路に掛かっていた
時計を見て、美貴は慌てて走り出した。
516 名前:konkon 投稿日:2006/07/08(土) 20:13
更新しました〜。
517 名前:konkon 投稿日:2006/07/08(土) 20:16
>>たまさん
たくさんの仲間の愛に包まれて、過去を清算するって感じですかね。
ちょっとした感動を書きたかったけどどんな感じやら・・・(汗)
あと少しですけど、また新たな小説でも書いていこうかとw

>>ハラポワさん
ミキティおめですね♪
一人じゃないんです。
物語はあと二話で終わりです。
できればあと少しだけお付き合いよろです。
518 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/08(土) 20:19
作者さん乙です。
長かった物語もついに最後ですね。
(っていうかついにここまできたかぁって感じですわ)
寂しくもありますが最後まで頑張ってください。

とりあえず、また初めから通して読ませていただきます。
519 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:09
美貴が教室に着いたのは、HRの始まる2分前だった。
美貴は何度も息を吐き出して教室の中に入った。
「藤本さん!写真撮ろうよ!」
「一緒に撮って!」
一瞬にしてクラスメイト達に囲まれた。
先の方では、真希達も同じように囲まれている。
「・・・うん。いいよ。」
少し戸惑いはあったけど、このように友達と写真を撮った記憶があるのは、
真希達くらいなものだった。
一緒に撮ろうと言われて、素直に嬉しかった。
何枚か撮ったあと、ドアが開いて裕子と真里が入ってきた。
「ほらっ、座りや。最後のHR始めるで。」
裕子の言葉で、クラスメイト達は素早く席に着いていく。
520 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:10
やはり最後くらいはしっかりと始めて終わらせたいと、誰もが思っているのだろう。
美貴も足早に自分の席に向かう。
「美貴ちゃん、おそ〜い。」
「ミキティ、何してたの?」
「ん、ちょっとね。」
「ミキティ、あとでみんなで写真撮ろうよ。」
真希が自分のカメラを見せたので、美貴は笑顔で頷いた。
「それじゃ、卒業証書を渡すから、呼ばれた人から順にきてや。
 まず、一番・・・。」
裕子に呼ばれた生徒は大きな返事をして、裕子のいる教卓の前に立つ。
真里が卒業証書を裕子に渡して、いくつか話したあと、それを両手で受け取った。
いよいよ終わりだと実感が沸いてくる。
美貴は胸を躍らせてその時を待っていた。
521 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:11
「後藤真希。」
「はい。」
珍しく普段よりも緊張した表情をして、真希は教卓の前に立った。
「卒業おめでとう。これからもバスケがんばってや。」
「裕ちゃんも素敵な恋人が見つかるといいね。」
「大きなお世話や!がんばりや。」
「ありがとうございました〜。」
真希は大きく頭を下げて、自分の席に戻っていく。
「次、紺野あさ美。」
「はい!」
いつもとは違う、あさ美の大きな返事が教室に響いた。
「おめでとう。紺野もがんばってや。ごっちんのこと、支えてやってな。」
「任せてください!今までありがとうございました。」
裕子は少し驚いた顔をして、あさ美の後ろ姿を見守っていた。
522 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:12
「紺野はずいぶんと変わったな。強く成長したみたいやね。」
「そりゃそうでしょ。おいらが鍛えたんだもん。」
「そうやな。あれならどこへ行ってもやっていけそうや。
 さて、次・・・。」
周りでは早くも泣き出しているクラスメイトもいる。
美貴はクラスを見渡して、その様子を目に焼き付けていた。
「高橋愛。」
「はい。」
愛はしっかりとした足取りで教卓に向かう。
「卒業おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「高橋、本当にごめんな。ずっと気になってたのに、わかってはいても、
 あんたのこと、笑わすことができなくて・・・。」
裕子の話しの途中で、小さく首を横に振る。
523 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:13
「あーし、このクラスでよかったですよ。やって、たくさんの思い出ができたから、
 大切なことを見つけることができたんやから・・・すごく幸せでしたよ。」
「高橋・・・。」
「中澤先生、矢口先生、今まで本当にありがとうございました。」
愛は満面の笑みを浮かべてそう言った。
その言葉が、裕子の胸に突き刺さって涙が出そうになる。
真里はすでに涙目になっていた。
「ほらっ、矢口、まだ終わってないで。」
「・・・べ、別に泣いてないって!」
「そか。んじゃ次・・・。」
少しづつ美貴の番が近づいてくる。
美貴の胸の鼓動がだんだんと膨れ上がってきた。
524 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:22
「(う〜、やっぱだめ・・・美貴、こういうの苦手なんだって。)」
「それじゃ、次・・・。」
「(え〜い、ままよ!)」
「藤本美貴。」
「はい!」
美貴は椅子を立った瞬間、前に飛び出した。
直後に、大きく飛び上がって教卓の前に綺麗に着地した。
生徒達は感嘆の声を上げ、裕子は頭を抱えて美貴を見ていた。
「あんたって子は、最後まで何かやらかすんやな・・・。」
「美貴にはこの雰囲気は無理ですよ。だったらもっと早く呼んでください。」
「名前順なんやから無茶言うな!はい、おめでとう。」
「ありがとうございます!」
美貴は両手で丁寧に卒業証書を受け取った。
525 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:23
「うちはな、あんたには不思議な力があると思うんや。たくさんの人達を
 勇気付けることができる、強く、それでいて暖かく優しい力をな。」
「そうですか?」
「その力で、高橋のこと守ってやってな。いつまでも応援しとるから、
 絶対に負けるんやないで。」
「・・・当然ですよ。すぐにでもテレビに映ってやるんですから、
 ちゃんと見ててくださいよ。」
美貴は不敵な笑みを浮かべてそう答える。
最後の一人まで卒業証書を渡し終え、裕子の話しが始まった。
思い残すことは何もないはずなのに、美貴の目がじわじわと滲んでいく。
最近涙脆いな、とどこか人事のように思い、裕子の話しに耳を傾けていた。
526 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:24
クラスメイト達と話し終えたあと、美貴の携帯にれいなからメールがきた。
絵里、さゆみ、れいなの三人が、図書室で待っているらしい。
真希とあとで会う約束だけして、愛と一緒に教室を出た。
その直後だった。
「藤本さん!ボタンください!」
「握手お願いします!」
「一緒に写真撮ってもらえませんか?」
待ち伏せしていたであろう大人数の生徒達に、一瞬にして取り囲まれた。
あらゆるところから手が伸びてくる。
「ちょ、ちょっと待って・・・。」
「藤本さん!」
「あっ、どこ触って・・・もうっ、うりゃっ!」
美貴は一度両手を出して生徒達の手を振り切って、その場から
大きく飛んで壁を蹴り、集団から逃れた。
527 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:25
集団は一斉に美貴に駆け寄ってくる。
「ストップ!」
美貴が片手を前に出して生徒達を止める。
「美貴達のデビューはいつになるかわからない。けど、すぐにみんなの前に
 また顔を出すよ。カッコイイアーティストになってテレビに映るから、
 その時まで待っててね。」
美貴は親指を立ててそう言った。
「藤本さん・・・がんばってくださいね!」
「ずっと応援してます!」
生徒達は歓声を上げて美貴を見送った。
美貴も手を振ってその場から離れていく。
少しして、愛が小走りに駆け寄ってきた。
528 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:27
「フフッ、すごい人気者やね。」
「それは嬉しいんだけど、ちょっとやりすぎでしょ・・・。」
美貴の制服のボタンは全て取られていた。
鏡で見ると、髪や服がけっこう乱れてしまっている。
朝には整えたはずの自分の姿を思い出し、最後になって初めて
女子高生の怖さを知った。
図書室には数人の生徒がいた。
美貴達は奥にある机に向かう。
「あっ、きた。」
「美貴ねえ、愛ちゃん、卒業おめでと〜!」
「お疲れ様でした〜。」
絵里達が笑顔で二人を迎える。
529 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:28
ここは以前からミーティングなどで使用していた、美貴達にとって
特別思い入れのある場所だった。
美貴はそっと机に手を触れる。
「ここも今日でお別れだね。」
「そうやね・・・去年の夏は、絵里に勉強の邪魔されてばっかやったっけ?」
「え〜!愛ちゃん、そんな風に見てたんですか〜?」
「アハハッ、冗談やよ。本当は楽しかったんよ。」
愛は懐かしそうに思い出して、頬を緩める。
「あの時、絵里が誘ってくれんかったら、今のあーしはいなかった。」
「それは絵里達も同じですよ。」
「屋上で愛ちゃんに会って、歌を聞いて・・・。」
「美貴ねえが転入して、バンドに入ってきて・・・。」
「色々あったよね。そして、これから新しい生活が始まるんだ・・・。」
それからしばらくの間、美貴達はこれまでの話しをしていた。
530 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:30
これまでに何度も利用した場所だ。
始まりから終わりまで、細かく話すときりがないほど思い出が詰まっている。
それも今日で最後、時間になってこの場を離れる時、美貴はもう一度机を撫でた。
「そのうちさ、OBとしてここにくるのもいいかもね。」
「アハハッ、それも面白そうやね。」
「その時に中澤先生達もいたらいいですね。」
「結婚してたりして。」
「それはありえないの。」
美貴達は笑いながらその場を去っていく。
今までの感謝の念を込めて、心の中で"ありがとう"、と呟いて。
531 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:31
美貴達が図書室で話している頃、真希とあさ美はバスケ部にいた。
離れ離れになるとのことで、先輩後輩が絶え間なく話し合っている。
「小川やまいちんはバスケ続けるんだよね。いつか戦うことになるかもね。」
「その時までに猛特訓して、ごっちんに負けないくらい強くなるからね。」
「それは楽しみだよ。また会える日まで、がんばろうね。」
「うん。」
真希はまいと笑って握手をした。
「あさ美ちゃん・・・フグッ、これからも、友達でいてね・・・。」
「うん・・・今まで、ありがとね、マコっちゃん・・・。」
あさ美と麻琴は涙を零して抱き合った。
それからもいくつか話しをして、いよいよ終わりの時間が迫ってきた。
離れる側と見送る側に分かれて、その間に真里が入り込む。
532 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:32
「み、みんな、ま、負けない・・・ぐっ、ように、が、がん・・・。」
「ほらっ、やぐっつぁん。顧問がそれじゃ絞まらないでしょ。」
「わ、わかってるよ。ングッ、それじゃ、最後に一言だけ言わせてもらうよ。
 これからの生活において、バスケで生きていく者もいるだろうし、やりたいことを
 見つけて新しい自分と向き合う時がくるかもしれない。それが何であろうとも、
 自分を信じて前に進んでいけば、必ず道は開けるから、強い想いをもっていこうね。
 いつまでもおいら達は仲間だ。いつでも戻ってきなよ。待ってるからさ。」
「やぐっつぁん、みんなのことよろしくね。」
真希が真里に手を差し出して、柔らかく、強く握り締めた。
真里はすぐにいつもの笑みを浮かべて頷いた。
「せいれーつっ!」
里沙が声を張り上げると、一・二年の生徒達が綺麗に横に並んだ。
533 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:33
「礼っ!」
「「「ありがとうございましたーっ!」」」
里沙達が一斉に深く頭を下げた。
「・・・卒業生、整列してください。」
あさ美の言葉で、真希達は横一列に並ぶ。
「気をつけ・・・礼。」
「「「ありがとうございましたー!」」」
真希達も同じように頭を下げる。
誰もが涙ながらに笑って、話して、最後のひと時を楽しんだ。
「新垣、これからの朝比奈学園のこと、よろしく頼むね。」
「里沙ちゃんは私よりもしっかりしてるから、大丈夫だよ。
 いつまでも応援してるからね。」
「はい!お二人とも、がんばってくださいね!」
時間になり、真希とあさ美は手を振ってバスケ部から離れていく。
いつもは笑顔を浮かべている真希も、この時ばかりは少し涙を零した。
534 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:38
二人で歩いて正門に向かう。
そこには、美貴と愛が立っていた。
二人は早足に美貴達の元へと向かう。
「ごっちん、もういいの?」
「うん・・・終わったよ。」
「あさ美・・・今までありがとね。」
「それはこっちのセリフだよ。愛に出会えてよかったよ。本当にありがとう。」
愛とあさ美は、泣きながら、力強く、優しく抱き合った。
真希が呆然とその光景を見ていると、美貴が手を差し出した。
「ごっちん、これからは離れ離れになるけどさ、お互いがんばっていこうね!」
「・・・。」
「ごっちん・・・?」
「ミキ、ティ・・・。」
真希は大粒の涙を零して美貴に抱きついた。
535 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:39
「嫌、だよ。これからもずっと一緒にいたい!離れたくないよ・・・ミキティがさ、
 隣でがんばれって、ずっと応援してくれたから、後藤はここまでこれたんだよ。
 なのに、これで、お別れなんて・・・。」
「ごっちん・・・。」
真希は美貴の体を掴んで離さない。
真希の体は震えたままだ。
最も身近な人と離れること、その悲しさや寂しさを美貴も知っている。
美貴は真希の震えが止まるように、優しく抱きしめた。
「ごっちん、そのままでいいから聞いて。」
「・・・うん。」
「美貴達と出合って、これまで色々なことをして過ごしてきた日々、覚えてる?」
「当たり、前じゃん・・・。」
美貴は首を横に振って、そっと真希の頭を撫でる。
536 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:43
「そうじゃなくてさ、頭で覚えるんじゃなくて、心に残してよ。
 どんな時にでも引き出せるように、色褪せない大切な思い出達を、
 胸にしまっててよ。ごっちんも言ってたでしょ?友情の絆は
 消えることなんてないんだって。美貴達はいつでも繋がってるよ。
 どれだけ離れてたって、ずっと友達だよ。」
「ミキティ・・・うん、そう、だね。」
「ごっちんなら大丈夫だよ。美貴が傍にいなくても、夢を掴むことが
 できるって信じてる。美貴はごっちんのことを絶対に忘れないよ。
 最高の親友がいたって胸を張って言い切れる。いつになるかわからないけど、
 また会おうよ。その時には、美貴はビッグになってると思うけどね。」
「・・・後藤だって、負けないよ。世界一のバスケット選手になってみせる!」
「うん・・・今までありがとね。」
「こっちこそ、ありがとう。」
美貴達は一度離れると、顔を合わせて笑顔を作る。
それがどれだけ不器用だったとしても、二人の思いは同じだった。
537 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:44
「紺ちゃん、ごっちんと一緒にがんばってね。」
「もちろん。ミキティ、これからも愛を守ってあげてね。」
「高橋、ずっと友達だよね?」
「当然やよ。後藤さん、あさ美のことよろしくお願いします。」
それぞれ握手をして、抱き合って、四人は正門を出て立ち止まる。
「・・・またね。」
「うん。バイバイ。」
美貴と愛、真希とあさ美は背を向けて歩き出す。
また会えると信じているから、一度でも振り向くことはなかった。
538 名前:バイバイ 投稿日:2006/07/12(水) 22:45
一つ目の角を曲がった時、愛は気付いた。
美貴は体を震わせて泣いていた。
愛は美貴の頭を引き寄せて抱きしめる。
「よく、泣かんでがんばったね。」
「ふぐっ・・・だって、ごっちんの前で、泣きたくないもん・・・。」
「美貴ちゃんがどう思ってるのか、ちゃんとわかっとるよ。」
「うん・・・ありがと、愛ちゃん。」
美貴は涙を拭って前を向いた。
別々の道を歩く二人。
かけがえのない親友がいたことに、美貴は誇りをもって歩き始めた。
539 名前:konkon 投稿日:2006/07/12(水) 22:47
更新しました〜。
次回、いよいよ最終回となります。
ここまで長かった〜(泣)
540 名前:konkon 投稿日:2006/07/12(水) 22:49
>>518:名無飼育さん
本当についにって感じですねw
何度も読んでくださってありがとうです♪
この話しを通して、感動をお届けできたらいいなと思います。
最後までお付き合いよろしくです!
541 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/13(木) 00:08
更新乙デス!!!!
次回最終回デスかぁ……
何か、少し寂しい気もしますね…
でも、お待ちしておりますッ!!!!
542 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/13(木) 00:38
>>540
こちらこそ感動ありがとう!
キャラクターの個性の出し方がうまいので楽しかったです。
特に藤本がイイ味だしているので、次回も主役(あたり?)でよろしくです。

当然この話も最後までお付き合いしますよ!
543 名前:ハラポワ 投稿日:2006/07/21(金) 14:21
次で最終回ですか…
やっぱり寂しいですね(´・ω・`)
でもミキティがごっちんに言ったようにこの話も最後までしっかり心に焼き付けたいと思います!
544 名前:konkon 投稿日:2006/07/22(土) 11:44
今回のみ先にレス返しさせていただきます。

>>541:名無飼育さん
そういっていただけると嬉しいです。
自分自身ちょっと寂しい気をしますけど、
それでは終わらなくなっちゃいますのでw
ご愛読ありがとうございました。

>>542:名無飼育さん
キャラ設定変更しまくりでしたからね(汗)
自分的にはかなりかっけぇミキティになったと思われ(ry
ん〜、今書いている他の小説の主人公はれいにゃです・・・。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。

>>543:ハラポワさん
お〜ありがとうございます!
焼き付けなくてもちょっとくらいよかったなって思っていただければ
光栄かと思われます。
最後に一言、ハラポワさんの小説好きですよ♪
545 名前:konkon 投稿日:2006/07/22(土) 11:44
それでは、最終更新いきます。
546 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:46
美貴達は、タンポポの楽屋の中で、ライブの準備をしていた。
ここでのライブは最後となるこの日、美貴達は張り切って準備をしている。
絵里、さゆみ、れいなの三人は、今までのタンポポでのライブについて、
今後のhigh bredgeについて、色々と話しているようだ。
愛はいつも通り、壁に背をつけて目を瞑り、集中力を高めている。
美貴は自分のギターを見て、思い出に浸っていた。
「(ここから、全てが始まったんだ・・・。)」
ギターの先端を指先で撫でる。
その時、美貴の携帯が鳴った。
携帯を開けて受信されたメールを見る。
メールの差出人は真希だった。
547 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:47

『今日でタンポポでの最後のライブだよね。後藤達は見れないけど応援してるから、
 がんばってね!こっちも負けないように、これから練習に行ってきます!またね♪』

真希とあさ美は卒業した翌日、家を出て大学の寮に引っ越した。
そのすぐ次の日からバスケの練習が始まるためだ。
大学に入る前の段階から、真希達の戦いはすでに始まっていた。
そんな忙しい時にでもメールを送ってくれたことが、美貴は嬉しかった。
すごく心強くて、とても励まされた。
美貴は添付ファイルが付いていることに気付いて、中を開いた。
それを見て、美貴はフッと口元を緩める。
「愛ちゃん。」
愛は目を開いて美貴に視線を向ける。
548 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:48
美貴が放り渡した携帯を受け取ると、携帯を開いて、やはり笑顔を浮かべた。
添付ファイルには、ユニフォームを着ている真希とあさ美が、
顔をくっ付けて笑っている画像が入っていた。
「負けられないね。」
「そうやね。あーし達もやってやるがし!」
そろそろライブの時間となる。
美貴達は部屋の中央に集まって、手を重ねていく。
「最後のライブやけど、気負わんで、いつも通りの最高のライブをするよ。
 high bredge、気合入れていくでーっ!」
「「「「おーっ!!!」」」」
美貴達は手を叩き合い、楽屋を出て行った。
549 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:50
美貴達が出てきた瞬間、盛大な歓声が沸いた。
この日のライブはhigh bredgeのみだというのに、客入りは満員だ。
これでもチケットが取れなくて、泣いていた人が何人もいたと圭織から聞いている。
愛は周りに手を振りながら中央に寄って、マイクを口元に近づけた。
「みんな、ちょっち話しを聞いてくれんか?」
観客達は一斉に静まる。
「これで、タンポポでやるhigh bredgeのライブは終わりとなります。
 今まで本当にありがとうございました。」
愛が深く頭を下げる。
美貴達もそれに合わせて頭を下げた。
550 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:51
周りから泣き声やどよめきの声が聞こえてくる。
愛は頭を上げて観客達を見渡した。
「あーし達はデビューするためにここを離れるんやよ。デビューして
 テレビに映れば、またすぐにみんなの前に顔を出すわ。そして、
 大きく成長したら、またここで歌いたいと思う。今度は新しいhigh bredgeの
 歌をみんなに届けるわ!みんなのことが、大好きやから。」
一瞬の沈黙のあと、観客達から歓声が聞こえてきた。
愛は嬉しそうに笑って美貴達に目を向ける。
「よっしゃ、最後まで楽しんでいくよ!まずはsexy girl!」
美貴達の音に合わせて愛が踊りだす。
テンポよく観客達に手を振って、声を出して、high bredge特有の
雰囲気を作り上げる。
551 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:53
美貴のギターが唸る。
絵里とさゆみのベースが波を起こす。
れいなのドラムが弾けさせる。
愛の声が心を響かせる。
今まで以上の激しさに、観客達のボルテージもピークを迎え、
歌が終わるまで続いていく。
いくつもの思い出の詰まった歌達を歌い終え、いよいよ最後の曲となる。
「最後の曲やよ。聞いてください。ambitious!」
これで、本当に最後の曲だ。
愛、絵里、さゆみ、れいな、もちろん美貴も、悔いの残さないように、
最後まで想いを込めて、歌って弾いていた。
552 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:54
ライブが終わったあと、美貴達は楽屋で思い出話に華を咲かせていた。
絵里たちが初めてここにきて、圭織と出会い、愛を呼び出して、
美貴がhigh bredgeに入ってきた。
それぞれの思いを話し合っている。

コンコン

ドアがノックされて、中に圭織が入ってきた。
その時の彼女の表情も、少し寂しそうだった。
「みんな、今までお疲れ様でした。」
「飯田さん・・・。」
「あなた達がいてくれて、すごく楽しかったよ。新しい場所でも、
 がんばってね。」
「・・・飯田さ〜ん!」
絵里、さゆみ、れいなの三人は、圭織に駆け寄って抱きついた。
553 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:55
「飯田さんには、たくさん、怒られたりしたけど、絵里達のこと、ずっと、
 支えてくれて、守ってくれて、ありがとうございます・・・。」
「れ、れいな、飯田さんのこと、大好きやと・・・。ほ、本当に、
 ありがと、ござい、ました・・・。」
「さゆみにとって、優しくて、頼りになるお姉ちゃんです。これからも、
 タンポポで、がんばってくださいね・・・。」
「うん・・・私も、みんなのこと、大好きだよ・・・ありがとう。」
泣きながら抱きついている三人を、圭織もまた涙を流して抱きしめた。
少しして三人が離れると、愛が圭織の正面に立つ。
「あ、あの、最後に一つだけ、いいですか?」
「何?」
「・・・ん、んぐ、かおりん、大好き!」
愛が泣き出して圭織の胸に飛びついた。
圭織は優しく笑って受け止める。
554 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:56
「愛の歌には、私もすごく励まされてきたよ。あなたには人を元気に
 させる力があるの。それをさ、たくさんの人達に聞かせてあげてね。」
「・・・はい!」
愛は涙を浮かべた目で圭織を見上げ、大きく頷いた。
最後に、美貴が圭織に近づいていく。
「飯田さん、さよならは言いませんよ。だって、美貴達はまた、
 ここに戻ってくるんだから。」
「うん。その時まで楽しみに待ってるよ。」
「・・・短い間だったけど、お世話になりました。」
美貴は寄りかかるように圭織に抱きついた。
「・・・あなた達なら、きっと最高のアーティストになれるって信じてる。
 これからも応援してるからね。ファイトだよ!」
「はい!」
美貴は大きな声で返事をした。
そして、これからもhigh bredgeを守り抜く誓いを立てた。
それが、自分達の面倒を見てくれた圭織に対する、美貴にできる
最高の恩返しだった。
555 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:57
タンポポを出て、美貴と愛、絵里とさゆみとれいなで分かれる。
「そっちはあと二週間だっけ?」
「はい。藤本さん達は、すぐにここを出るんですよね?」
「うん。今日でこことお別れだよ。」
美貴達は、このあと新しいマンションに住むことになっている。
学校が終わったので、上京するために引っ越すのだ。
まだ学校の終わっていない絵里、さゆみ、れいなの三人は、終業式が終わり次第、
それぞれの上京先の、親戚や祖父の家にお世話になるとのことだ。
「先に行って待ってるよ。」
「愛ちゃん、美貴ねえのこと、しっかり見てやってくださいね。」
「れいな、それはどういう意味だ〜?」
美貴は少し怒った顔をしてれいなを睨む。
556 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 11:59
「藤本さん、れいなのこといじめないでほしいの。」
「大丈夫だよ。美貴ちゃんはあーしが面倒見てあげるから。」
「面倒って、愛ちゃん言いすぎでしょ・・・。」
「アハハッ、愛ちゃん、いい奥さんですね〜。」
「ちょっ、絵里!」
「絵里、いいこと言った!」
一通り騒いだあと、美貴達は絵里達と別れた。
家に着くまでに、二人は様々な場所を見ては思い出し、笑っていた。
たくさんの思い出が詰まった町だ。
マンションに着いた頃には、美貴も愛も感慨ふけっており、口を開くことはなかった。
荷物はすでに送り届けてあるので、家の中には何も残っていない。
ただ、最後に一度だけ、見ておきたかった。
美貴にとって最も想いの詰まった一年、その間はずっとここに住んでいたのだ。
557 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 12:01
簡単に準備だけ済ますと、美貴は玄関のドアを両手で閉めた。
「バイバイ。」
美貴は一言だけそう告げて、愛と共に階段を降りていった。
マンションを出る前に、鍵を返すために管理人の部屋に向かう。
インターフォンを押すと、管理人がトレインを抱いて出てきた。
「今まで、お世話になりました。」
「ええ。美貴ちゃんも愛ちゃんも、がんばってね。」
「はい。あの・・・最後にトレインのこと、抱かせてもらえませんか?」
「いいわよ。」
美貴は管理人からトレインを受け取ると、ギュッと抱きしめた。
「トレイン、今までずっと一緒にいてくれて、ありがとう・・・。」
美貴達の仕事は、今後忙しくなってくるだろう。
その時々に、新しい管理人にトレインを預かってもらうわけにも
いかなくなってくる。
558 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 12:04
そのようなことを管理人に相談したところ、トレインを預かりたいと申し出てきた。
美貴や愛がいない時などは、よく預かってもらっていたからか、
トレインと別れることが寂しいようだ。
管理人は一人暮らしなので、美貴にも十分にその気持ちが理解できた。
美貴はひたすら悩んだ末に、トレインと決別することを決意した。
一人だった美貴を元気付けてくれた大切な家族、美貴は何度か背中を撫でて、
愛にそっと手渡した。
愛もまた、トレインの顔に頬を寄せて、優しく抱きしめる。
「トレイン、大好きやよ。元気でね・・・。」
愛は涙を拭って管理人にトレインを返した。
管理人達に手を振って、美貴達はマンションに背を向けた。
559 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 12:05
駐車場に向かい、美貴はヘルメットを被ってバイクのエンジンをかける。
同じようにヘルメットを被った愛が、美貴の後ろに座って腰に手を回す。
「愛ちゃん、ちょっと寄り道してもいいかな?」
「別に構わんよ。」
「それじゃ、行くよ!」
美貴のバイクが街中を突っ切っていく。
高速を使った方が速いのだが、美貴はあえて使わずに、峠を上っていく。
途中、休憩所のようなところで美貴はバイクを止めて降りた。
「愛ちゃん、こっちきてよ。」
愛はヘルメットを置いて美貴の隣まで向かう。
そこから見下ろす景色は、まさに絶景だった。
自分達の住む町が見れたことに、愛は感動した。
560 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 12:05
「うわぁ・・・すっご〜い!」
「ほらっ、あそこが美貴達の学校だよ。」
「へ〜、あっ!あそこら辺にタンポポってあるんやよね?」
「そうだね。で、あれが美貴達の住んでたマンションだよ。」
「・・・今日で、終わりなんやよね。」
「Starting Over。」
「えっ?」
「終わりは始まりって意味だよ。これで終わりじゃないんだ。
 これから始まるんだよ。美貴達の未来がね。」
「未来、ね・・・やってやろうやないか!」
「うん。ここの町とは今日でお別れだから、しっかりと目に焼き付けとこうね。」
町を見渡していく内に、頭の中を思い出が過ぎる。
目を閉じるだけで、決して忘れられない日々が蘇ってくる。
561 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 12:08
美貴の転入から始まり、愛、あさ美との出会い、high bredgeへの加入。
唯一の親友であった真希との再会。
美貴を含めた初めてのライブ。
愛の家出、そして新しい生活の始まり。
本気になった1 ON 1。
裏切りと思い込んだ亜弥の復讐。
美貴達が送り届けた真希の誕生会。
士鬼面に乗り込んだ指輪の奪還。
本当の自分達を魅せた文化祭。
瀕死になってでも駆け込んだオーディション。
音楽の世界の広さを教えられたmiracle charmy key。
姉を愛した梨華と喧嘩。
愛に想いを届けた修学旅行。
大切な仲間達と騒いだ年末。
改めて知ることができた親友との友情の誓い。
親にぶつけた美貴の想い。
忘れていた誕生日、愛と体を重ね合わせた夜。
562 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 12:08
今でも鮮明に思い出せる。
それだけ充実した一年だった。
美貴は目を開けて愛に視線を向ける。
それに気付いて、愛も美貴と顔を合わせる。
「愛ちゃん、怖い?」
「・・・怖いよ。けど、美貴ちゃんとなら、何でもできるがし。
 どこまでだっていけるやよ。」
「そっか・・・ありがと。」
「美貴ちゃんは?」
「美貴も怖いよ。それでも、真っ直ぐに、前に進んでいけるよ。
 愛ちゃんが傍にいてくれるからね。」
美貴は愛の体を抱き寄せて、そっと口付けた。
愛も美貴の背中に手を回して、身を寄せる。
二人は十分に感じたあと、顔を離して微笑み合い、前に足を踏み出した。
563 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 12:10
「いくよっ、愛ちゃん!」
「OK!美貴ちゃん!」
二人を乗せたバイクが峠を越えていく。
今、美貴達の一つの道が終わり、新たなる道が始まった。
これからもいくつもの難関を乗り越え、様々な出会いと別れを繰り返し、
また次の道へと旅立つだろう。
どれだけ遠い道のりであろうと、彼女達は止まらない。
なぜなら、彼女達はDREAMERなのだから。
春の暖かくなってきた風が、二人を乗せるバイクを包み込んでいく。
反響する勇ましいエンジン音は、徐々に峠の彼方へと消えていった。
564 名前:エピローグ 〜終わりは始まり〜 投稿日:2006/07/22(土) 12:10
終わり
565 名前:konkon 投稿日:2006/07/22(土) 12:11
DEAMERはこれにて終了です。
ご愛読ありがとうございました〜。
566 名前:konkon 投稿日:2006/07/22(土) 12:14
書き始めて早二年、なぜこんなに長くなったんだろうと
疑問に思う今日この頃です(汗)
まぁ、別の小説と重ね重ねやってたのも一つの理由だとは思いますが、
予定の倍以上になるという計画性の無さに驚きですねw
旅立った二人同様、自分にとってたくさんの思い出の詰まった小説です。
もし、思い出したりした時、また読んでいただけるとすごく嬉しいです。
読んでくれた方、レスをくれた方、本当にありがとうございました。
では、またどこかで会いましょう♪
567 名前:konkon 投稿日:2006/07/22(土) 12:15
今はこちらでも書いています。
もしよければ読んでやってください。

ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1143960168/
568 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/22(土) 15:03
お疲れ様でした>作者さん
前作も含めて2年で膨大な量の更新ですね
内容はもちろんのこと、更新のテンポも良かったので
読み手としては非常に楽しかったです

前作にくらべ小説家としての表現が非常にうまくなってますよ
(ナマいってすいません・・・)
ですので今後の作品により期待してます!
569 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/23(日) 01:02
完結おめでとうございます!
そして更新お疲れさまでした

この作品を見つけて読み始めた時になんだか物語にすごく吸い込まれたのを覚えています
それからは毎回読むのが楽しみでした
たくさん泣いたしあったかい気持ちになれたしすごく感動したし
もう終わってしまったと思うと寂しいです
でも読めて本当によかったです
作者さんお疲れさまでした

すばらしい作品をありがとう
570 名前:ハラポワ 投稿日:2006/07/23(日) 01:39
長い間連載お疲れ様でした!
ミキティが今までのことを思い出すと同時に、
自分も初めてこの小説を見つけた時のことを思い出しましたw
夜中に2時間ぐらいかけて2スレ近く一気に読んでしまったんですよね。
自分の中のミキティ像が大きく変わった小説でもありました。
後紺を知る良い機会にもなりましたしw
最後に一言、とか不意打ちできたので思わずジーンときましたよ(笑)
また現在連載中の方も読みたいと思います。
どこかでお会いしましょうw
お疲れ様でした。ありがとう。

571 名前:闇への光 投稿日:2006/07/23(日) 10:04
完結おめでとうございます。
自分もこの作品を見たら引き込まれてしまいました。
下手に感想を言うと月並みになりそうなので一言

良かった、面白かった。

では失礼します。
さ〜て卒論、卒論・・・。
572 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 18:14
落ちる前にレス返しさせていただきます。

>>568:名無飼育さん
ありがとうございます。
けっこうマイペースにやってたもので、このくらいのテンポでよければ
また書いていきたいと思います。
前回よりも腕が上がってますか!?
ありがとうございます♪
今後もまたよろしくです。

>>569:名無飼育さん
そこまで言っていただけるなんて・・・こちらが号泣しそうです(汗)
いやマジで嬉しいです!
物語は終わりましたけどまた新しい世界が広がることでしょう。
ご愛読ありがとうございました〜。
573 名前:konkon 投稿日:2006/08/20(日) 18:18
>>ハラポワさん
二時間で2レス!?
自分ではとても無理です・・・けどそこまでハマっていただけるなんて
嬉しい限りです。
自分としても色んなミキティや愛ちゃん、こんごまを書けて
楽しく書けたと思ってます。
自分もハラポワさんの小説好きですよ♪
またがんばっていきましょう!
ありがとうございました。

>>闇への光さん
ありがとうございます。
月並みでもなんでもすごく嬉しい言葉です。
そう言っていただけるとまた書いていきたいって思えます。
卒論がんばってくださいね♪

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