1レス短編小説
- 1 名前:水胡 投稿日:2006/03/28(火) 23:50
- 超短い物をいろいろ書こうと思います。
基本底でうごめきます。
- 2 名前:雨と涙 投稿日:2006/03/28(火) 23:51
-
空からの大粒の雨。
きっと誰かが泣いてるんだ。
「どうしたんですか?」
みんなと離れて空を見上げていた藤本さんに声をかけた。
藤本さんはあたしをちらりと見るとまた空を見て笑った。
「綺麗な空だと思って、さ」
あたしはその言葉に眉を顰めた。
黒い雨雲はどう見ても誰が見ても綺麗ではないと思う。
「この空が、ですか?」
あたしの問いには答えずに目を閉じて雨に打たれてる。
藤本さんはびしょぬれだ。目を閉じたままその口が開く。
「多分、泣いてる」
一言だけ呟くと今度はだらりと頭を下げて俯いた。
あたしは頭の中に一人だけ思い浮かぶ。
「…松浦さん…?」
名前を聞いてぴくっと体が動いたのがわかった。
うなだれた顔は起き上がりその目はあたしを見つめる。
「よくわかったね」
藤本さんがこちらに来る。
ぽとぽとと水滴をたらしながら。
「わかりますよ」
あなたの事は。
あなたたちの中には誰も入れないことも。
「風邪ひくよ、田中ちゃん」
通り過ぎる瞬間、頭に藤本さんの手。
ぽん、と頭をたたいて何事もなかったように建物の中へ。
「これは涙ですか」
誰もいないここであたしは空を見上げる。
これは藤本さんに会えない松浦さんの涙。
そして、きっと一生気持ちに気がついてもらえないあたしの涙。
- 3 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/03/29(水) 10:05
- 素敵ですね
- 4 名前:月にうさぎ 投稿日:2006/03/29(水) 23:33
- いるわけがないさ、と君は笑う。
いたらいいねと、あの人が笑う。
あたしは今二人の人に恋をしている。
二股なんかじゃない、だけど二人とも好き。
「さゆはどう思うん?」
ソファーに座ってつまらなそうに、別にこんな事どうでもいいと言いたげにれいなが問う。
その隣で愛ちゃんは携帯を見ながらあたしの話に耳を傾ける。
「さゆは、いると思ってる」
ふーん、とだけれいなから返ってくる。
こういう話人一倍信じて絶対いると思ってるくせに隠し通す子供みたいなれいなが好き。
いたらきっと可愛いだろうね、と笑顔で愛ちゃんは返す。
つまらないだろう話を真面目に聞いてくれて優しく返してくれる愛ちゃんが好き。
返事は二人ともまったく違うのに。
性格だってまったく違うのに。
なぜかこの二人が気になって仕方がない。
結局の所こんな実のない話、どうでもいい。
ただ二人をそばにおいておきたかった独占欲。
二人のことは好きだけどきっとどちらも手に入らない気がする。
自分の目に見えてて、いてほしいと願ってて、でも実際にはいないような。
大好きな二人はきっとうさぎ。
いつか月に帰ってしまう。あたしのそばにはきっとずっといることはない。
二人にはそれぞれ自分の月があるから帰って行ってしまう。
れいなは立ち上がり、あたしの横を通り過ぎる。
トン、と肩がぶつかった瞬間れいなは小さな声で呟く。
「きっとうさぎはいる、と思う」
そう言うれいなの視線の先にはいつも同じ人がいるんだ。
愛ちゃんも開いてた携帯を閉じて、あたしの横を通り過ぎる。
ポン、と肩に手を置かれ小さな声で呟く。
「いつか一緒に見にいこっか」
そう言う愛ちゃんが向かう先にはあたしはいない。
あたしが好きなのはきっと誰かの事が好きな二人が好きなんだと思う。
決して手に入らないようなものがあたしは好きなんだと一人残されて思った。
- 5 名前:水胡 投稿日:2006/03/29(水) 23:34
- >>3
私にはもったいないようなお言葉ありがとうございます。
軽く続き物みたいになってきたのは気のせいだと思いたい感じです。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/07(金) 00:20
-
文章とかすごく素敵です!
短い中でも風景とか気持ちとか伝わってくる気がします
作者さんのあやみきたくさん読んでみたいなぁ
更新待ってます
- 7 名前:水胡 投稿日:2006/04/23(日) 23:58
- 1レスとかハードル上げすぎて苦しいので見切り発進の話でも書いていきます。
更新は激しく遅いです、申し訳ない。
>>6
あやみきですかー。思い浮かんだら書いてみたいです。ありがとうございます。
- 8 名前:空に字を書く 投稿日:2006/04/23(日) 23:58
- あたしがあの人に初めて会ったのは全てが嫌になった夜だった。
その日は休日で大好きな恋人とのデートの日だった。
それなのに寝坊、遅刻、挙句好きな人ができた、と振られた。
凄く好きだったのに振られても何故か泣けずに笑ってる自分がいて。
いつもどこか気を使っていた。だからこんな時くらい本音を出したらよかったのに。
遅刻はしたものの張り切って選んだ洋服も、
買った時や初めて着た時はあんなに輝いて見えたのになんだかくすんで見えて仕方がない。
思えば全て似合うよ、と薦められて買ったものだった事に気がつく。
にぎわう街のショーウインドウに映る自分の姿。
そのガラスには幸せそうな顔で歩くカップルの姿も一緒に映りなんだか居たたまれなくなる。
「何してるんだろ…」
ドン、とぶつかられよろける。
すみません、と声をかけた若者はすぐにあたしからは目もくれず隣の恋人とお花見の話などしていた。
もう散りかけてはいるけれどこれから見に行くのだろうか。
特にする事もなかったし、このまま一人で家に帰るのもなんだか嫌だったから、
あたしも寂しく一人で花見でもしながらジュースで一杯でもしようと近くの公園へと向かった。
少し薄暗くなった公園はいつもなら怖い感じもしたけれど少し残る桜のピンクのおかげで、
あまり怖い感じはしなかった。プシュ、と音を立ててペットボトルを開けて一口飲む。
口に広がる炭酸が鼻にツーンと来て少し泣けた。
ベンチに座ってぼーっと眺めていると一人の女の人があたしの前を横切った。
一瞬だけだったけど凄く綺麗な人だった。
その人は手に持っていたカメラで桜を撮っていた。
- 9 名前:空に字を書く 投稿日:2006/04/23(日) 23:59
- その表情があまりにも楽しそうで。
一人で公園に来てこんな夜に楽しそうに写真を撮る姿は一見かなり怪しいけれど、
何故かあたしはその姿に見とれてしまっていた。
あたしはベンチから立ち上がりその人に近づいた。
その人は熱中していてあたしが近くにいる事に気がついていないようだ。
「あのー?さっきからずっと撮ってますよね。花とか好きなんですか?」
あたしが話しかけても彼女はカメラのファインダーを覗き上しか見ていない。
無視かよ、こんなに近くに寄って話しかけてるのに。
少しむっとしたあたしはぐいっと彼女の手を引っ張った。
するととても驚いた様子で彼女はこちらを見た。
「無視しないでくださいよー」
「……」
彼女はとても困った表情をしてきょろきょろとあたりを見回す。
なんだ?桜撮るふりして民家とか撮ってる怪しい人だったんだろうか。
声をかけた事に失敗したな、と思っていると彼女は落ちていた枝を拾い地面に字を書く。
『ごめんね、私耳が聞こえなくて』
その文字を見てはっとして彼女の顔を見ると困ったように笑っていた。
慌ててあたしは彼女が持ってた枝を手に取り地面に書く。
『こちらこそ急にごめんなさい!』
文字を書きできるだけの申し訳ないという表情をすると彼女は笑っていた。
- 10 名前:空に字を書く 投稿日:2006/04/25(火) 00:16
- ◇
彼女は今でも強引だけど出会った時もなんだか強引だった。
生まれつきの障害であたしは耳が聞こえない。
あたしの世界はいつだって無音。それが普通で、それが当たり前だから特に何とも思わなかった。
人と接する事。元々きっとあたしは耳が聞こえても人付き合いは得意なタイプではないだろうと思う。
気の合う子はあたしの耳が聞こえなくても寄ってきてくれるし。
まぁ大体はどうしたらいいかわからないのか、接してくれる人は少ないけれど。
『そんなの持って、また撮りに行くの?』
数少ない変わった親友がいる。
あたしと会って手話を猛勉強してくれた。
初めて会った時からあたしと「話」がしたかったそうだ。
『うん、もうすぐ散っちゃうから』
「話」と言ってもあたしたちの会話は手話。
でも彼女はとても上手に「話して」くれる。
『美貴も行こうか?もうすぐ暗くなるよ?』
元々一人暮らしがしてみたかったけど、当たり前に親には反対された。
そんな時、美貴ことあたしの親友藤本美貴がルームシェアしない?と声をかけてきてくれた。
美貴の事を良く知っていてとても仲が良い事も知っている両親は、
あたしが言った時はあれだけ反対したくせにすぐにOKを出してくれた。
『ん〜、大丈夫。そんなに遅くなんないよ』
あたしがそう言うと右手でOKを作って笑った。
『いってらっしゃい、ごっちん』
手を振る美貴に振り返し、あたしは玄関の下駄箱の上においてるカメラを持って家を出た。
- 11 名前:空に字を書く 投稿日:2006/04/25(火) 00:16
- あたしの仕事と言えば、フリーカメラマン、と言えば聞こえはいいかもしれない。
実際は聴覚障害者の撮った写真だと物珍しく取り上げられてる事は知っている。
それでもあたしはこれを手放す事はできない。
レンズ越しに見える全ては動いて音を発している。
もちろん聞く事はできないけれど、今見える景色はこんな音がするんだろうか、とか
この景色にはどういう音が合うんだろうとか。考えているだけで飽きない。
聞こえてる人には絶対楽しめない感覚があたしだけの特別な気がする。
美貴は言う。ごっちんは超プラス思考だと。
確かに悩んだ時も合ったけど、結局悩んだってしょうがないし今この体で生まれてきたんだから
この体で全てを楽しむしかないと思っただけ。そう言ったらやっぱりね、と笑われたけど。
夜の公園は好き。誰もいないし、あたしの音を感じ取れる事ができる。
例えば草が風で揺れる音とか鳥の羽ばたく音。
目で感じる音が好き、とかなんだかロマンチックな気がして自分の性に合わない気がするけど。
思ったとおり、桜は散り始めてきていて今が絶好のチャンスだった。
あたしはカメラを構え、何枚も桜を撮る。凄くきれい。
美貴に見せても良い反応は返ってこないからつまんないんだよなぁ。
美貴曰く、風景とかつまんないから美貴を撮ってよ、だそうだ。
フィルムが勿体無いよ。毎日会ってるのに。
急に服を引っ張られてドキリとした。
驚いて振り向くとあたしよりも年下だろう女の子が怪訝な顔で何かを言っている。
しかし全然聞こえるはずもなく口をパクパクしているだけ。
いつも人と会うときは大体美貴が隣にいたりするから通訳がいて話ができたけど、
こんなに急に話し掛けられたのが初めてで。
あたしが困ってるとさらに怪訝な顔をしたのであたしはあたりを見回し枝を手にした。
事情を地面に書くと彼女は凄く申し訳ない表情をして謝ってきた。
知らなかったんだから仕方がないし、あたしは気にしないでという言葉の代わりに笑った。
- 12 名前:空に字を書く 投稿日:2006/04/26(水) 22:53
- ◇
「ごっちん!」
声のする方を向くと誰かが立っていた。声の感じからして女の人だという事しかわからないほど
辺りは暗くなっていて。あたしがそっちを見ると目の前の彼女もつられるようにそちらを見た。
彼女はあぁ、と言うような表情をした。知り合いだろうか。
声をかけた人が近づいてくる。ようやく街灯の明かりで表情が見えた。
「ごっちん、なんかあった?大丈夫?」
一見見ると怖そうな女の人が手話をしながら話し掛けている。
その女の人を見て彼女も笑いながら手話で答えている。
なんだかあたしはあまり見た事がない、不思議な世界だった。
ドラマで見た事があったり、教育テレビなんかで見た事はあるけどこんな目の前で見る事が初めてで。
一通りの説明が終わったのか迎えに来たような女の人はあたしの方を振り向く。
「ごっちんね、あ、この子後藤真希って言うんだけどさ、耳が聞こえないんだ。
驚いたでしょ?耳が聞こえないのにこんな夜に一人とか。
美貴は危ないからやめなっていつも言ってるんだけど全然聞かなくて困ってるんだよね」
「は、はぁ…」
自分の事を美貴、と名乗った彼女は聞いてもいない事を詳しく話してくれた。
そして彼女は後藤真希さん。あたしたちの会話はまるで聞こえていないらしく、
少しむっとした表情で美貴さんの服の袖を引っ張りまた手話をする。
「え?あぁ、別に変な事言ってないって」
美貴さんが説明すると疑った目で真希さんは見ていた。
それがなんだか面白くて笑ったら二人は目を丸くしてお互いの顔を見て二人も笑った。
「そういえばさ、キミもこんな夜に一人で何してんの?危ないねぇ。
最近物騒なんだから早く帰った方がいいよ」
美貴さんに言われて携帯を見ると、ほんとだこんな時間だ。
- 13 名前:空に字を書く 投稿日:2006/04/26(水) 22:53
- 「そうですね、じゃぁそろそろ帰ります。…ええと」
話しても通じないからどうしていいのか少し悩む。
すると察してくれたのか美貴さんが伝えたい事があるなら伝えるよ、と言ってくれた。
「あの、驚かせて本当にすみませんでした、と伝えてください」
「おっけー。ごっちん、驚かせてごめん、だってさ」
恐ろしく簡略化された。なんとなくこの人の性格とか判った気がする。
美貴さんの手話を見て真希さんは首を振り口を動かした。
『き に し な い で』
ゆっくり動かした口はきっとそう言っていた。
ほっとして一礼をして帰ろうとすると美貴さんに声をかけられた。
「ねぇ」
「はい?」
「ごっちんが、名前聞きたいってさ。キミなんて名前?」
「あたし、松浦亜弥です。失恋したてほやほやの大学生です」
あたしの言葉に一瞬ぎょっとした顔をして、そしてそっくりそのまま真希さんに伝えてる。
真希さんはどんなリアクションをするのだろう。
美貴さんの手話を見た後、真希さんは少し考えた表情をした後、美貴さんに手話をする。
あたしも通じたらいいのに。あたしもできたらよかったのに。
こんな事思った事ないのに今はとても強くそう思う。
知り合いでもないからこんな事思うのは変なはずなのに、仲間に入れない事がなんだか寂しくて。
「こんなに可愛いのに振るなんて見る目なかったんだね、その人、だってさ」
美貴さんから聞く真希さんの言葉に何故か照れてしまった。
可愛い、とか自分で言うのもなんだけどよく言われる方だけど、
言ってくれた真希さんと伝えてくれた美貴さんがとても優しく笑うから。
「あ、ありがとうございます。じゃ、じゃあおやすみなさい!」
ペコリと頭を下げて顔を見られないように後ろを向いた。
きっとあたしは今凄く赤い顔をしてる。こんな事初めてで自分でも戸惑っている。
少し歩いてから振り向くと二人はまた何かを話し、あたしとは別の公園出口から出て行った。
また会えたらいいな、そう思った。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/07(日) 01:49
- キレイなお話ですね。素敵です。
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