無色透明なままで
- 1 名前:konkon 投稿日:2006/04/02(日) 15:42
- 某小説と同時進行でやらせてもらおうと思います。
主役はれいなです。
- 2 名前:konkon 投稿日:2006/04/02(日) 15:43
-
れいなに出会えて、本当によかったよ・・・。
いつまでも、見守ってるから・・・。
どうか、幸せになってね・・・。
- 3 名前:konkon 投稿日:2006/04/02(日) 15:45
- れいなの名前は田中れいな、四月から高校一年生になる。
れいなは今、都内にある高層マンションを見上げているところっちゃ。
隣で同じように上を無打てるのは、今年から大学に通う藤本美貴さん。
れいなは美貴ねえって呼んでる。
「れいな、行くよ。」
「うん。」
これから、れいなの新しい生活が始まるんだ。
- 4 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:47
- れいなはけっこう裕福な家で育ってきたと。
お金に困ったことはないし、周りの子よりも高い服とか買ってもらってた。
かといって、他の子と何かが違ってたというわけでもなかよ。
いじめられたり恐喝されてもない、普通に育ってきたつもりやった。
中二の夏、何人かの友達と地元で有名なスポットに、肝だめしに行ったっちゃよ。
それが終わったあと、みんなで写真を撮った。
数日後、現像された写真に写されたものを見て、友達は誰もれいなに近づかなくなった。
四人並んで撮った写真、れいなは右端に立ってピースしてる。
そのれいなの周りには、何か渦巻くものが映し出されとったと。
背後霊のような人の形をしたものが、れいなに、れいなだけに付き纏っているように見える。
れいなは小学生の頃から霊感が強くて、よく、ってほどでもないけん、たまに幽霊を見たりしたっちゃ。
まさか幽霊を引き寄せられる、とまで考えたことはなかったけんね。
- 5 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:48
- 子供の頃なら、自分にしか見えないっていう優越感に浸れるかもしれん。
友達も羨んでいた記憶がある。
でも、中学生という大人への道のりを辿る年にもなれば、考えは変わってくる。
クラスメイト達は気味悪がって、誰もれいなに近づかなくなった。
最初の頃は悲しかったと。
でも、人間の本質を見たような気がして、どうでもよくなった。
友達なんて思ってた自分がバカみたいに思えた。
基本的に平和な学校だったから、普通に生活してる分には誰も何もしてこないし、
れいなも一人でもよかったっちゃ。
誰にも介入されないで、自分らしく、気楽に生きていけたんだ。
あの頃は、そう思ってた・・・。
- 6 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:49
- 中三の夏だった。
れいなが塾から帰ってリビングに入ろうとした時やった。
「ふざけたこと言わないでよ!」
ママの奇声ともいえるような大声が聞こえた。
ドアを開けてそっと中を覗いた。
ママとパパが睨み合って言い合いをしている。
「あなた、一体どういうつもりなの!?」
「違うと言っているだろ。この人は仕事の取引相手で・・・。」
「その取引相手と、ホテルにまで入って何をしていたっていうのよ!」
ママがテーブルをバシッと叩く。
テーブルの上には数枚の写真があった。
- 7 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:49
- そのうちの一枚が落ちて、れいなの足元にまでヒラヒラと舞い落ちてきた。
それを見て、れいなは呆然としたと。
写真には、パパと知らない女の人が、ホテルに入っていく模様やった。
パパは女の人の肩を抱いていた。
「探偵まで雇ってこんな写真を撮らせるとはな。」
「あなた、反省してるわけ!?大体ね・・・。」
ママとパパの口喧嘩が続く。
れいなは写真を持って自分の部屋に向かった。
制服のまま着替えもしないで、ベッドの上に転がり込んだ。
何も考えたくなかった。
下から聞こえてくる二人の声を聞きたくなくて、れいなは耳を塞ぎ込んだ。
- 8 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:50
- それからというもの、二人は顔を合わせる度に喧嘩をするようになった。
家ではろくに受験勉強ができない。
れいなのことを考えてる余裕もないみたいやった。
数日後の夜、塾の帰りに町を歩いていたら、ママが知らない男の人に寄り添って歩いてた。
パパがやってたから、仕返ししてるの?
それとも・・・。
どこに向かっているんだか知らないけど、これ以上見ていられなくなって、れいなは走り出した。
家の中に駆け込んで、すぐに自分の部屋に入った。
玄関に靴がなかったから、パパは帰ってきてない。
一人でいたかったから、ちょうどいいと思ってた。
- 9 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:50
- けど、どれだけ経ってもパパもママも帰ってこない。
お腹はすいたけど食欲は沸かない。
汗をかいてるけどお風呂に入る気力もない。
「れいな、どうしたらええっちゃろ・・・。」
れいなの目から一粒の涙が零れた。
どうしてかはわからんかった。
怖かったからじゃなくて、たぶんやけど、悔しかったんやと思う。
自分一人を残して、自分のことを考えてもらえなくて、寂しかったんやと思う。
- 10 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:52
- 二月くらい経った時っちゃろ。
勉強は一応頭の中に入ってくるんだけど、心の中は空っぽだった。
家に帰っても誰もいない日が続く。
どちらも不倫相手と夜を過ごしてるっちゃね。
ご飯は自分で作れるけんなんとかなる。
お金も貯金があったから問題なかよ。
やけど、大きな家にたった一人でいる時間は、れいなには辛かった。
ある日の夜、れいなが帰ってくると久しぶりにママの靴が玄関にあった。
なんとなく、少しでも顔を合わせたくて、リビングの中に入った。
「た、ただいま・・・。」
ママはソファに座ったまま、けっこう赤くなった顔でれいなを見上げた。
テーブルの上にお酒が置いてある。
いかにも純度が高そうなお酒やった。
- 11 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:53
- 隣にはこの間見た男がママの肩を抱いている。
れいなが男の顔を見ていると、ママはれいなを睨みつけてきた。
「何?早く消えてくれない?」
「えっ・・・?」
「あんたもあの人も邪魔なのよ。どうしてあんたなんか産んじゃったのかしらね。」
ママの言葉が深く胸に突き刺さった。
どうしてそんなことが言えると・・・?
酔っているからっていうのは言い訳にもならん。
きっと、本心なんだと思う。
「あ、あの・・・。」
「邪魔だって言ってるでしょ!」
ガシャンッ!
ママが持っていたコップをれいなに投げつけてきた。
コップはれいなの足元に落ちて割れた。
- 12 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:56
- もう、何も言い返す気力もなくなって、れいなはフラフラと自分の部屋に入った。
その瞬間、ぼろぼろと涙が溢れ出てきた。
「うぐっ、うわーーーっっ!!!」
顔を枕に押し付けて、思いっきり泣いた。
何度も布団を叩いて、自分の手が動かなくなるまで叩き続けた。
悔しかったし、悲しかった。
生まれてきたのはれいなのせいじゃないのに・・・。
ここにこれ以上いたくない、生きていたくもなくなった。
平凡やって幸せがよかよ。
高校や大学に行って、誰かと出合って恋をして、そんな想像をしたこともある。
でも、もう嫌や・・・。
どうでもよくなっちゃった。
- 13 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/02(日) 15:58
- れいなは机の引き出しからカッターを取り出した。
終わりに、しよう・・・。
別にこの腐りきった世界に未練があるわけじゃなかね。
やけど、あえて言わせてもらうっちゃ。
バイバイ・・・。
少し力を込めるだけで、手首から血が垂れ流れていく。
血って思った以上に濃いんやね・・・。
これがれいなの最後の記憶なんて、笑っちゃうと。
徐々に意識が薄れてきた。
死んだらどこに行くっちゃろ・・・?
まぁ、どうでもよかね・・・。
ベッドの上に倒れ込んで、れいなは目を閉じた。
- 14 名前:konkon 投稿日:2006/04/02(日) 15:59
- こんな感じで進めさせていただきます。
何でもいいので感想を書いてもらえると嬉しいです。
こっちの小説は少し更新が遅くなるかもしれませんが、
よろしくです。
- 15 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:24
- れいなはどこに向かってるんだろう・・・?
ずっと暗い闇の中を落ちていく。
そっか・・・自殺だから、天国やなくて地獄に行くとね。
あまりにも滑稽すぎて笑えてくる。
どこでもいいから、早く着いてほしい。
そう思ってた時やった。
「だめだよ。あなたはまだ死んじゃいけない。」
突然、目が眩むほどの光がれいなを包み込んで、誰かに手首を掴まれて止められた。
- 16 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:25
- 余りにも明るい光のせいで、顔はよく見えない。
背中には二枚の羽が生えている。
「だ、誰・・・?天使・・・?」
「誰でもいいでしょ。とにかく、自分の世界に戻りなさい。」
「帰ったって、れいなの居場所なんか、どこにもなかよ・・・。」
「だったら、あなたが作ればいいじゃない。」
「そ、そんな無責任なこと言わんと・・・。」
「大丈夫。あなたを思ってくれる人は、これからたくさんできるよ。」
信じられなかった。
人間は自分のことしか考えてない。
自分を産んだママや、れいなを育ててくれたパパでさえも・・・。
そんな世界、うんざりっちゃよ。
- 17 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:26
- 「れいなはこのまま死んだって・・・。」
「ああ、もう時間みたい。最後に一つだけ、あなたを見てくれてる人は
ちゃんといるよ。自信を持って、新しい出会いを信じてね。バイバ〜イ!」
天使がれいなに手を翳した。
その瞬間、れいなを光が包み込んだ。
次に目を開けると、真っ白な世界にいた。
着ている服も壁も地面も真っ白で、どこかの部屋みたい。
薬の匂いと、れいなの手首に包帯を巻いてあることから、病院だってわかった。
生き延びたっちゃね・・・。
それにしても、さっきの夢は何やったんやろ・・・?
ガチャッ
「あっ!れいな、起きたんだ!」
部屋に入った瞬間、その人はれいなに駆け寄ってきた。
- 18 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:27
- セミロングの髪の長さで目つきは少し怖くて、やけど、れいなにとって
唯一話しをすることが聞いてくれる相手、藤本美貴さんだ。
美貴さん、美貴ねえはれいなの幼馴染っちゃ。
れいなの家の隣に住んでて、すごい大きな家に住んでる金持ちの人やと。
でも、小さな頃から仲良くしてくれてて、れいなにとって姉のような人っちゃよ。
去年まではたまに遊びに行ったりしてたんやけど、美貴ねえは年がれいなより三つ上で、
今年は大学受験で忙しそうやったから、遊びに誘うのをやめていた。
れいなも受験があるから滅多に会えなかった。
三ヶ月ぶりくらいかな・・・?
「もう、れいなのバカッ!本当に、よかったよ・・・。」
美貴ねえは涙目になってれいなの頭を撫でてくれる。
久しぶりに感じる人の温もりに、れいなも少し泣きそうになった。
- 19 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:28
-
「美貴ねえ、どうして、れいなは生きてると・・・?」
「れいなの家の前通ったらさ、何かガシャガシャと騒がしかったからね。とりあえず
インターフォンは鳴らしたんだけど誰も出てくれないから、勝手に入らせてもらった。
そしたらさ・・・リビングで、おばさんが、美貴の知らない人と、ね・・・裸で抱き合ってた。」
「・・・。」
「二階の電気が付いてたからさ、れいなも帰ってきてるのかなって思ってね。
そしたら、れいなが倒れてた。あの時は心臓が止まりそうになったよ。
怖くて仕方なかった。」
美貴ねえはぎゅっとれいなを抱きしめてくれた。
思わずれいなの目から涙が零れた。
- 20 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:31
- 理由は二つだと思う。
一つ目に、れいなの家族は二度と戻ることはないのだろうから。
わかってはいても、すごく悔しかったと。
それともう一つ、美貴ねえがれいなを真っ直ぐに見つめてくれて、
れいなだけを想ってくれて、誰かに愛されることがこんなに嬉しかったなんて、
知らなかった。
「れいな、話してくれないかな?何があったのか、美貴に話して。」
「や、やけど・・・。」
「あんたは不器用な子だからね。美貴に心配かけないように、全部溜め込んでるんでしょ。
いつか、れいなが壊れちゃうよ。その方が美貴は嫌だ。れいなを失っちゃう方が、
美貴は怖くて仕方ない、勉強なんて手を付けられるわけないじゃん。」
美貴ねえは、れいなの傷ついた手首をそっと撫でる。
- 21 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:31
-
「ここまで追い詰められてたんだよね・・・気付いてあげられなくて、ごめん。
美貴にできることなら何でもするよ。れいなの力になりたいの。」
「美貴、ねえ・・・。」
れいなは泣きながら、ゆっくりと、話しを始めた。
美貴ねえはれいなの背中を撫でて、しっかりと聞いてくれてる。
「れいな、 もうあの家にいたくなかよ・・・ママもパパも、自分勝手で、
れいなのこと、全く見てくれんとね・・・。」
「そっか・・・。」
一通り話し終えると、美貴ねえは立ち上がって、カーテンを開いて外を向いた。
- 22 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:32
- 横から見た美貴ねえの表情は、真剣そのものだった。
何かを考えてるみたい。
「れいな。」
「なん?」
「美貴ね、大学に受かったら上京しようと思うんだ。ここからだと
美貴が行きたい学校まで、すっごい遠いんだよね。向こうのマンションでも
借りて住もうと思ってるんだ。」
「・・・そうっちゃね。」
美貴ねえの言葉は、れいなの胸に深く突き刺さった。
たった一人だけの、れいなの理解者が遠くに行くなんて、死刑判決のようなものだっちゃ。
やけど、美貴ねえには幸せになってほしいから、文句も我侭も言わん。
なのに・・・勝手に、目から涙が零れてきた。
- 23 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:34
- 美貴ねえだけが頼りやったから、寂しくなると思うと怖かった。
これ以上心配かけるわけにもいかない。
れいなはすぐに涙を拭って美貴ねえを見上げた。
「み、美貴ねえ、向こうに行っても、がんばるとね!れいなは美貴ねえを応援して・・・。」
「ねぇ、れいな。一緒に行かない?」
「・・・えっ?」
「ほらっ、美貴ってこう見えても寂しがりやでしょ。一人でいるのって
たぶん無理なんだよね。それに、れいなってけっこうしっかりしてるからさ、
美貴の傍にいてほしいな〜って思ってね。」
美貴ねえはれいなの隣に座って、優しく頬に触れた。
- 24 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:34
-
「れいなが・・・。」
「それにさ、れいなは今の生活に耐えて生きていくの?苦しいのなら、
新しい世界に飛び出すのもありだと思うの。そこは強要する気はないよ。
よ〜く考えて決めて。返事は別に今すぐじゃなくてもいい。」
「れ、れいな、美貴ねえと一緒に行ってもよかね・・・?」
「うん。もちろんだよ。」
れいなはまた泣いた。
美貴ねえが傍にいてくれる、励ましてくれる、勇気付けてくれる。
こんなにもれいなを考えてくれている人がいたなんて、思いもよらなかった。
一筋の希望を持てたと同時に、れいなはもう一度だけがんばってみることにした。
- 25 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:36
- あれから二ヵ月後、れいなは東京の高校の受験に合格したと。
迷惑だと思いつつ、美貴ねえの家にお世話になって勉強をしてた。
おじさんもおばさんも気のいい人達で、快く了承してくれたっちゃ。
たまに美貴ねえが教えてくれたりもしたしね。
美貴ねえは美貴ねえで、志望校に受かったみたい。
れいなはすぐにでも家を飛び出したかったけん、美貴ねえはまだ高校を卒業していない。
それに、
「れいなも中学くらいは卒業しておきなよ。」
「別に、あんな学校卒業しなくてもよか。」
「ふ〜ん。でもさ、一生で一度しかないんだから出ておいても損はないよ。」
美貴ねえは昨日が卒業式だったから、れいなが卒業する日に上京することになってると。
別に卒業式なんてどうでもよかったけど、美貴ねえが言うから一応出ておいた。
- 26 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:37
- 卒業証書をもらった時、ようやく卒業したって実感が沸いた。
友達がいなくなってからは、特にこれといった思い出はない。
それでも、心に少しだけ穴が空いたような気がしたのは、不思議な感じだった。
誰と話すわけでもなく、中学を出た。
話したい人なんていなかったし、早く準備を始めたかった。
早く、新しい世界に行きたかったから。
家に着くと同時に、自分の部屋に駆け込んだ。
旅行用バッグに気に入った服と必要最小限の生活用品を持って、部屋を出た。
すぐに出て行こうとしたけれど、なんとなく部屋の扉を振り返る。
- 27 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:38
- お金は小さな頃から貯金してたから、それなりにはある。
足らなければバイトして稼いでいこう。
この部屋とも今日で最後だ。
「今までありがと。バイバイ。」
誰もいない部屋に向かって、れいなは手を振った。
家を出る時、玄関に二つの靴があることに気付いた。
リビングを覗くと、パパとママがいた。
二人とも何を話すわけでもなく、自分のしたいことをしているだけだ。
- 28 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:39
- 小さい頃は、三人揃ったられいなが行きたいところへ連れてってくれた。
ママがれいなを抱いてくれて、パパがれいなを笑わそうとふざけている。
もう、れいなが好きだったあの頃には戻ることはなかね。
けれど、それでも最後に一度だけ、かばんを持って家の扉を開ける。
「行ってきます!」
二人に聞こえるくらいの大声で、れいなはそう言った。
ママ、パパ、さよなら・・・。
タクシーで空港まで着いて、そこから二時間ほど飛行機で飛ぶらしい。
空港のロビーで待っていると、美貴ねえがチケットを持ってきてくれた。
- 29 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/05(水) 22:41
-
「れいな、あんたのチケットだよ。」
「うん。ありがと。」
「れいな・・・後悔しないね?もういいの?」
「・・・これでええっちゃよ。れいなはれいなの道を歩くと。」
「そっか・・・よし、行くぞ!」
美貴ねえはわしゃわしゃとれいなの髪を撫で回して歩き始めた。
朝せっかく髪を整えたのに、まぁ別に美貴ねえやからいいんやけどね。
れいなもかばんを持って美貴ねえについていく。
「美貴ねえ、何すると?おかげで髪が乱れたっちゃね。」
「そんなの気にするなって。」
「気になるっちゃよ。れいなは美貴ねえと違ってしっかりしてると。」
「何だと〜?」
美貴ねえとふざけ合って飛行機に向かう。
これから、れいなの新しい道がスタートするんだ。
空港の窓から見える太陽の光が、れいなを見守ってくれてるように感じた。
- 30 名前:konkon 投稿日:2006/04/05(水) 22:41
- 更新です。
ではまた〜
- 31 名前:774改 投稿日:2006/04/05(水) 22:55
- 非常に楽しみにしております
作者様がんばってくだされm(__)m
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/10(月) 00:22
- おもしろいです。続きが楽しみです!
- 33 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:14
- 飛行機から降りたあと、タクシーに30分ほど乗って、れいな達は新しい家に着いた。
これかられいな達が住むのは、都心にあるマンションだった。
やけど・・・。
「さってと、ようやく着いたね。」
「み、美貴ねえ・・・本当に、ここ?」
「合ってるよ。前に一度きたからね。」
れいなは呆然としてこれから住むマンションを見上げている。
そのマンションは、少なくとも30階はあると思う。
外装も造り立てってくらいに輝いていて、まるで高級ホテルのようやった。
「ほらっ、行くよ。」
「あっ、うん。」
美貴ねえと一緒に中に入っていく。
いくられいなが小さいとはいえ、両手を広げても届かないくらい通路が広い。
あっ、防犯カメラまである。
何か、すごい落ち着かない・・・。
- 34 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:15
- 美貴ねえはスタスタと先を歩くから、れいなも置いていかれないようについていく。
エレベーターで25階まで上がって、出てから4つ目のドアの前に立つ。
「美貴ねえ、管理人さんのとこ行かんかったけど、鍵はどうすると?」
「問題ナッシング!見ててみなよ。」
美貴ねえは楽しそうに笑って、ドアの一部だけ白い部分に手を当てる。
すると、ピーって電子音が鳴って・・・ドアの鍵が開いた。
「ハァッ!?」
「人類の進化もすごいもんだよね〜。指紋照合でドアが開けるようになるなんてね。
ああ、あとでれいなも登録しにいかなきゃね。」
・・・ここはどこ?
本当に日本なん?
普通の女子大生が住めるようなとこじゃなかよ。
セキュリティの高さがありえんと・・・。
- 35 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:16
- 中に入って、またれいなは立ち尽くしていた。
すごく綺麗で、部屋がいくつもあって、とにかく広い。
キッチンもあるし、リビングにはソファと大型テレビがある。
生活に必要な物は全て揃ってる感じやった。
五人くらいの家族でも普通に住めそう。
いくら美貴ねえのお父さんが偉い人やからって、ここまでやるとね・・・?
美貴ねえは荷物をリビングの隅に適当に置いて、ソファに座り込んだ。
「荷物の整理は別に明日でいいかな。れいな、何そこで突っ立ってんの?
荷物重いでしょ?早く置いて座ったら?」
「美貴ねえ・・・こんなすごいとこに、れいなも住むと・・・?」
「ん〜、美貴も普通でいいって言ったんだけどね。まぁ、いいんじゃないの。
れいなの学校もそう遠くはないんだしさ。」
「や、やけど、れいな、こんな高いとこ住むお金、持ってない・・・。」
「・・・れいな、こっちにきて。」
美貴ねえが座ってるソファの横をポンポンと叩く。
れいなは恐る恐る美貴ねえの隣に座る。
- 36 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:20
-
「れいなは家賃とか気にしなくていいよ。れいなが欲しいと思ったり、
必要な物ができたら美貴がお金をあげるから。そこら辺は心配しないで。」
「そんなわけにはいかないっちゃよ。ただでさえ、れいなは美貴ねえの家に
住ませてもらっとるんやし・・・。」
「な〜に言ってんの。子供が遠慮なんてするもんじゃないよ。」
「別に子供やなかと!れいなは美貴ねえに迷惑かけたくない。」
「そこが子供だって言ってんの。無理して大人びることないじゃん。
まぁ、美貴も言えた義理じゃないけどね。もっと甘えていいんだよ。
美貴が一緒にきてほしいから誘ったんだ。深く考えることないよ。」
「やけど・・・。」
そうは言っても、れいなはれいなの意思でついてきたと。
さすがにただで住むのはちょっと気が引ける。
れいなが首を傾げてると、美貴ねえは腕を組んで考え始めた。
- 37 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:23
-
「わかった。んじゃこうしよう。生活用品とか学校で必要な物ができたら、
それは美貴に言ってよ。その時は美貴がお金を出す。代わりに、れいなが
自分のために欲しいと思った物、それはれいなが自分でバイトしたり、
お小遣いで手に入れること。どうしてもって時にはさ、美貴がお金を
貸してあげる。それでOK?」
「う〜ん・・・。」
「はい、これで決まり!グダグダ言ってたって先に進まないからね。
それじゃ、当番を決めるとするかね。」
美貴ねえは立ち上がって周りを見渡している。
これは美貴ねえが何かを考える時のくせやとね。
「ん〜と、朝は適当でいいか。だから、夜ご飯は・・・先に帰ってきた方が
作るってことでいいよね。お風呂掃除とかもね。あとは掃除を週に二回、
これは交互にやろっか。それと・・・。」
美貴ねえは次々と勝手に決めていく。
まぁ、れいなにとってそれほど悪くない条件やったから、特に文句はない。
- 38 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:23
- 一通り決めると、美貴ねえはれいなの隣に座り直した。
なんとなく、れいなは周りにあるものを見た。
「それにしても、本当に豪華なとこっちゃね。れいな、こんなとこに住めるなんて
夢にも思わなかったと。」
「う〜ん、うちの親ってさ、悪い言い方すると親バカなんだよね。
過保護すぎるんだよ。確かに一人は寂しいけど、美貴だって
そんなに弱い女の子じゃないよ。」
「いいことやと。家族から大切にされてるけん、美貴ねえは幸せっちゃよ。」
れいなは小さくため息をついた。
少し憎まれ口になっちゃたけど怒ったかな?
そっと美貴ねえに視線を移すと、いきなり抱きしめられた。
- 39 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:25
-
「ならさ、れいなも幸せなんだよね。」
「・・・?」
「だって、これからはれいなが美貴の家族だもん。そうでしょ?」
「れいなが、家族・・・。」
「そういうこと。美貴の可愛い可愛い妹だよ!こんなに綺麗なお姉ちゃんがいるんだ、
れいなも幸せだよね?そうじゃないと、美貴、泣いちゃうぞ。」
美貴ねえはわざとらしくアイドルみたいな笑顔を見せた。
別に可愛くないってわけやないと、美貴ねえには似合わん。
笑える話しなのに、すごく胸が苦しくて涙が溢れてきた。
「・・・プッ、アハッ、ハハハ・・・。」
「れ、れいな・・・泣かないでよ。」
「ふぐっ、ぅぅ・・・。」
何度目になるのかな?
美貴ねえの服にしがみついて泣いた。
- 40 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:25
- れいなのことを思ってくれる家族がいる。
れいなは、一人やなかったと・・・。
「ハハッ、だ、誰が、綺麗な、お姉ちゃんやと・・・?」
「もう、泣くか笑うか突っ込むか、どれか一つにしなよ。」
美貴ねえはれいなにティッシュを渡して立ち上がる。
う〜んと大きく伸びをして、れいなの頭をポンと叩いた。
「れいな、ご飯食べに行くよ。何食べたい?」
「・・・焼肉。」
「そうこなくっちゃ!やっぱ引っ越し祝いには焼肉だよね!」
美貴ねえはウキウキとして外に出る準備を始めた。
- 41 名前:新しい世界 投稿日:2006/04/12(水) 22:29
- 引っ越し祝いって普通は蕎麦やなかったっけ?
まぁ、蕎麦よりも焼肉の方が好きやけん、全然問題なかよ。
れいなも美貴ねえの影響で好きになったとね。
もう、れいな、泣くのはやめる。
美貴ねえみたいに強くなりたい。
「れいな、早く準備して。美貴、お腹すいて仕方ないの。」
「うん!今日はたらふく食べるっちゃよ!」
れいなは先を歩く美貴ねえに飛びついた。
美貴ねえは少し驚いた表情をしていたけど、すぐに笑って受け止めてくれる。
今日だけは甘えさせてもらうと。
明日から、れいなもがんばれるように。
美貴ねえとふざけ合いながら、新しい家を出て行った。
- 42 名前:konkon 投稿日:2006/04/12(水) 22:29
- 更新しました〜。
- 43 名前:konkon 投稿日:2006/04/12(水) 22:32
- >>774改さん
ありがとうございます。
楽しんでいただけるようにがんばりたいです。
>>名無し飼育さん
ありがとうございます。
いけるとこまでいってみようと思います。
- 44 名前:konkon 投稿日:2006/04/12(水) 22:32
- 最後に一言、よっすぃ誕生日おめです!
- 45 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:07
- リボンよし、前髪も整ってるし、大丈夫かな?
今日は高校の入学式、れいなは鏡の前で制服の乱れがないかチェックしてる。
新しい生活が始まって一月が経った。
今日までに美貴ねえと色々なところを周ったけん、この町には何があるのか大体は把握した。
学校にも迷わず行ける。
無駄に広い洗面所から出て、朝食のパンを食べていると、眠そうな顔をした美貴ねえが部屋から出てきた。
いつも思うけど、寝癖がひどすぎる・・・。
後ろ髪が立ってるし、それで外に出て行こうとするけん呆れてしまう。
面倒くさいっていうのを理由に、れいなにやらせる始末っちゃ。
まぁ、これも個性っちゃ個性なん・・・・かな?
- 46 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:08
-
「美貴ねえ、おはよう。」
「おはよ〜。れいな、今日から高校が始まるんだっけ?」
「うん。もうそろそろ出るとね。」
「そっか。気をつけていきなよ。」
「わかってると。」
パンを食べて歯を磨いたら、もう一度制服の確認した。
うん、悪くない。
試着した時以来やから二度目となる紺のブレザー、中学の時はセーラー服やったけん、
けっこう憧れてたっていうのもある。
れいなやって、一応は年頃の女の子とね。
- 47 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:08
- 玄関で革靴を履いていると、美貴ねえが見送りにきてくれた。
スーッと一息ついて、美貴ねえを振り返る。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃ〜い。」
れいなは手を振って家を出て行った。
小学生みたいでちょっと恥ずかしい感じはしたけど、やっぱり誰かに見送られるのって
嬉しい気持ちが広がってくる。
どんな学校生活になるんかな?
前の学校よかは少しはマシな生活を送りたいっちゃね。
- 48 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:09
- マンションを出て二十分ほど歩いたところに、れいなの通う学校がある。
れいなが通うのは女子高やと。
家から近いっていうのと、それなりの偏差値を当てはめたら
ここになったってだけで、特に深い理由はない。
学校の通りには、桜が満開していた。
花見とかって別に興味はないけど、素直に綺麗だなって思えて、
立ち止まって見惚れてた。
あんまり時間もないから行かなきゃ間に合わなくなる。
そう思って歩き始めた時やった。
「そこの新入生!ストーップ!」
「えっ?」
れいなが振り向くと、制服からして同じ高校の人が息を切らして立っていた。
- 49 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:10
- リボンの色が違うけん、先輩やと思う。
小さい、っつってもれいなと同じくらいの身長で、すごい可愛い人。
れいなに何の用やろ?
「ハァッ、ハァッ、これ、落としたで。」
そう言って渡してくれたのは、さっきまで襟に付けていた校章やった。
桜を見上げた時にネジが外れて落ちたっぽい。
入学式かられいなだけ付けてないのは、さすがに恥ずかしい。
「あ、ありがとうござ・・・。」
「やばっ、会議に間に合わん!んじゃね〜!」
先輩は慌しく走って学校の中に入って行った。
- 50 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:11
- それにしても可愛い人やったな〜。
ろくにお礼を言えんかったし、まぁ学校にいればその内会えるやろ。
そう思って、れいなも学校に向かって歩き始めた。
自分の教室に入ると、一斉に注目を浴びた。
やっぱり同じクラスになるんやもん、気になるとね。
黒板に書かれている席順をじっと見つめて、自分の席を探し出す。
れいなの席は・・・おっ、窓際の後ろの方やと気が楽っちゃ。
れいなは自分の席に座って周りを見渡した。
何人かは話してて、その他の人は適当に時間を潰してるみたい。
ホームルームまであと五分、入学式はその十分後。
それにしても、桜が綺麗っちゃね〜。
れいなが窓の外を見ていると、横から視線を感じた。
その視線は隣から、れいなが振り向くと、隣に座ってた子はパッと顔を伏せた。
- 51 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:12
- 黒髪のロングで、人形のように可愛らしい、いかにもおとなしそうな子やった。
別に気になるってわけでもないけん、外の方に向き直ったら、また見てきた。
れいなが振り向くとまた目を離す、その繰り返し。
一体、この子は何やとね・・・?
黒板に書いてある名前を見てみる。
んと、亀井、絵里・・・別に見覚えも聞き覚えもない。
れいな目つき悪いけん、不良とでも思われてるっちゃね?
このまま繰り返しても感じ悪いだけと、れいなから話してみよっかな。
「ねえ、どうかしたと?」
「は、はい!べ、別に、何でもないです・・・。」
亀井さんはオドオドとした態度でれいなを向いた。
- 52 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:12
- 何もそんなに怖がらんでもよかね・・・。
いくられいなでも落ち込むっちゃよ。
「ど、どんな人かなって、見てただけです・・・ごめんなさい。」
「別に謝らんでも・・・。」
なぜか敬語やし、おかしな子やね。
それ以降は特に話すこともなく、担任が教室に入ってきたけん、
れいなは前に向き直った。
入学式が始まって、校長先生の長い長い話しが続いている。
どの学校の校長も、同じことしか言わんしつまらん。
ぶっちゃけ誰も聞いとらんと思う。
- 53 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:13
- ふわ〜、久しぶりに早起きしたけん、眠くて仕方ない。
んと、次は生徒会長の話し・・・って!?
れいなは驚いて欠伸をかみ殺したもんやけん、目から涙が出てきた・・・。
教壇の前に立った生徒会長は、なんと朝に校章を拾ってくれた人やった。
まさかこんなに早く会える、というよか知ることができるとは思えんかった。
「新入生の皆さん、初めまして。生徒会長の高橋愛です。」
高橋さんは笑顔で話し始めた。
やけど、何でかそこで固まってしまう。
「え〜と、あ〜・・・あかん!緊張して何言おうとしたか忘れてもうた!」
・・・忘れたっていうとこまではわかる。
でも、本当に忘れたって言う人は珍しいんやないかな?
普通はそれらしい話しでもして、誤魔化すと思うんやけど・・・。
- 54 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:14
-
「ん〜、何やっけ?里沙ちゃん、カンペ見せて!」
「そんなものあるわけないでしょ!」
高橋さんが生徒会の人と思わしき人達の方を向いてそう言った。
直後に響いた突っ込みの声、れいな達の後ろにいる二・三年の人達は大爆笑してる。
教師達は苦笑いを浮かべていると、高橋さんに何も言おうとせんかった。
「何やよ〜。そのくらい準備してくれたってええのに〜。」
「愛ちゃんが遅刻してくるのが悪いんでしょ!」
「やって、何度も夜遅くまで練習しとったら、いつの間にか寝ちゃって
目覚まし掛け忘れたんやよ!あーしにしては早起きや!」
「そんなこと知るかーっ!」
高橋さんと里沙って人の言い合いが続く。
- 55 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:16
- 今、入学式の途中とね?
もしかして、れいな、間違った学校入ったと・・・?
そりゃ、確かに高橋さんは可愛い、だからって許されるわけが・・・。
「先生達、何も言わないね。」
「可愛ければ許されるものなの。」
れいなの二つ横にいる亀井さん、あんたは正しい。
その隣の席の、道なんとか・・・名前はまだ覚えとらんけど、
こいつは頭大丈夫か?
ハァ、先行き不安っちゃよ・・・。
「えっとね、社交辞令の一つでも言うのが当たり前なんやろうけど、
あーしの柄やないんでね。そんなこと話したって、たぶん誰も
聞きたくないと思うやろうし、あーしは話したいことを話そうと思う。」
突然真剣な表情をした高橋さんの話しが始まって、一瞬で体育館の中は静かになった。
- 56 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:18
- 上級生の人達なんて笑ってたのに、今では誰もが集中して高橋さんを見てる。
一体何があるんやろ・・・?
「あーしから言いたいのはね、まずは自分を隠さないで生きてほしい。
自分が思ったように行動して。満足いくかどうかは知らんけど、
納得がいくようにしてほしいんやよ。本音を言えずに後悔した、
それを引きずってても学校生活は楽しくならんやろ。自分に自信をもって、
想いをぶつけてみてよ。あーしは訛ってる。これは福井弁なんやけど、
あーしはこの話し方に誇りをもっとるよ。別に仕事でもないのに
方言直す必要もないがし、恥ずかしいなんて思わん。たぶんね、
学校ってそういうとこなんやよ。それでね・・・。」
きっぱり言って、高橋さんの話し方は早口すぎて全部は聞き取れん。
それでも、入学式だから、生徒会長だからっていう理由で言葉を
並べてるわけでもなく、自分の本当の意思をれいな達に伝えてる。
こんな人は、そうはいないと。
- 57 名前:出会い 投稿日:2006/04/16(日) 23:19
-
「・・・まぁ、この学校が楽しいかどうか、そう思うんは人それぞれやし、
その人次第やよ。けど、楽しくないって思われたくないし、あーしも楽しみたい。
そのための努力はしとるつもりやよ。何のために学校にきてるんか、
自分が何をしたいのか、よく考えて、しっかりとした夢を見つけてほしい。
あとは自分の可能性を信じて、がんばってね。」
高橋さんが大きく頭を下げると、上級生の人達から歓声と拍手が沸き起こった。
何で高橋さんに誰も何も言わないのか、分かった気がした。
高橋さんは、自分に自信をもって、真っ直ぐに進んでるからっちゃね。
やけん、みんなも信じてついていこうとする、支持していると。
なんとなくやけど、どこか美貴ねえに似ている。
本当はすごい人やったんやね・・・。
「以上、高橋愛でした〜。あっ、みんな、生徒会、もしくは合唱部に入ってな〜。」
再び笑いの渦が起こる。
どうして合唱部なん?
前言撤回、れいな、この学校にきてよかったと・・・?
- 58 名前:konkon 投稿日:2006/04/16(日) 23:19
- 更新しました。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/17(月) 18:46
- 生徒会長さん最高!
れーなさんも早くクラスのみんなと仲良くなってくださいw
- 60 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:15
- 高橋さんの話しも終わって、よくわからんお偉いさんの話しが始まる。
こんな話し聞いててもつまらん。
やけど、入学式から寝てたら先生に目を付けられるし、
そもそも起立と礼があるけん寝てられん。
入学式が終わるまであと一時間、こういう時は逃げ出すのが一番っちゃね。
れいなは椅子から立ち上がって、目立たないように屈みながら列の外に出た。
れいなに気付いた担任が近寄ってくる。
「どうかしたの?」
「すいません。気持ち悪くなったんで、トイレに行ってきます。」
「大丈夫なの?一人で平気?」
「はい。心配かけてすいません。」
れいなは小さく頭を下げて体育館から出て行った。
よし、作戦成功っちゃよ。
あとは適当に時間を潰すだけやと。
- 61 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:16
- 一度教室に戻って、かばんから小説を取り出した。
いつも孤立していたれいなは、本を読むのが好きやった。
教室で読んでて誰かに見つかったら困るけん、誰もいないところを思い浮かべる。
そこで思いついたのが屋上やった。
あそこならこの時間は誰もいないし、そう簡単にはばれないやろ。
階段を上っていって、屋上の扉を開ける。
その瞬間、澄んだ風がれいなを包み込んだ。
すごく気持ちよかね。
下から誰にも見られないように屋上の隅に寄る。
そこから見える桜道は、明るい桜色一色で見ているだけで心が和んだ。
イヒヒッ、入学初日から穴場を見つけたと。
れいなは振り返って奥にある貯水タンクに近寄っていく。
そして、そこについている梯子を上り始めた。
- 62 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:19
- 昔っから高いところが好きやった。
一番高いところに行けば、自分の未来を見つけられるような気がしてた。
現実逃避ってやつかもしれんね。
それでも今日はポカポカして暖かいし、ここで読む小説はどれだけ気持ちいいんやろ?
れいなは胸を弾ませて貯水タンクに辿りついた。
けど・・・。
「あっ・・・。」
そこにはすでに先客がいた。
その人は体育館の方をじっと見つめている。
- 63 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:21
- 誰やろ・・・?
私服やし、顔立ちからして高校生とは思えんけど、部外者がここにいてもええと?
背はけっこう高めで、風に吹かれて靡いている髪は美しく、
端整な顔つきにれいなはちょこっとだけ見惚れてた。
Tシャツに皮ジャン、ジーパンといった軽装をしてて、そこから見えるスタイルは
とてもよく、出ているとこは出てて、引っ込むとこは引っ込んで・・・
別に羨ましいわけやなかと。
ただ、大半の女性は憧れを抱くと思う。
美貴ねえと同じ年くらいかな?
そんな人が、ここで何してると・・・?
その人はふいにこっちを向いて、首を傾げてれいなを見てきた。
「ん?もしかして、あたしのこと見てるの?」
「ええっと、まぁ・・・。」
「へ〜、よく気付いたもんだね〜。そっかそっか。」
その人は嬉しそうにこっち向かってきた。
- 64 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:21
- 気付いたっていっても、偶然れいながここにきただけやし、
もしかしてこの人、ちょっと危ない?
こんな時間に私服で学校にいるし、あまり関わらん方がいいのかも。
「あの、お邪魔しました。」
れいなは梯子に足をかけてゆっくりと下りていく。
小説読みたかったけど、そんな場合じゃなくなったとね。
「ねぇ、ちょっと待ってよ!」
れいなが地面に足を着いたとき、その人は飛び降りてれいなの前の方に着地した。
こっちを見てくる表情は笑顔のまま。
桜を見た時とは別の意味で、どこか癒されるように感じる。
れいな、落ち着くと・・・癒されてる場合やなかよ。
- 65 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:22
-
「・・・あなたは一体、誰ですか?学校の関係者ですか?」
「人に質問するときは、まずは自分から名乗るもんじゃないの?」
「ならいいです。別に興味ないので。」
やっかいごとをごめんやと。
れいなが先を歩こうとすると、その人は慌ててれいなの前に立ち塞がった。
今度は泣きそうな顔をしてる。
「ごめんよ〜。嬉しくてちょっと調子に乗りすぎたよ。怒らないで。」
ここで逃げると何か・・・れいなが悪人みたい。
少しだけ、話しを聞いてみよっかな。
- 66 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:23
-
「あたしの名前は後藤真希。よろしくね♪」
「・・・田中れいな。今年の新入生です。」
「初々しいな〜。若いっていいよね〜。」
「それで、後藤さんはここで何してるんですか?」
「そうだな〜。女子高生見物ってとこですかね。」
「わかりました。警察に通報だけしておきます。」
「いやいや本気じゃないから。れいなって冗談が通じないんだね。」
れいなやって本気やなかよ。
大体、入学式を抜け出して屋上にきたなんて、誰にも言えんっちゃよ。
いつの間にか名前を呼び捨てにされとるし、まぁ明らかに年上やけん構わんけど、
雲のように掴めない人。
- 67 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:25
- さっきからどうでもいいことをペラペラと話し続けてる。
それをれいなは屋上の外を向いて聞いていた。
「れいな、笑わないね〜。あたしの話し、つまんないかな?」
「そんなことないですよ。普通の人が聞いたら楽しいんじゃないですか?」
「ふ〜ん。れいなってさ、無色だよね。」
「えっ?」
意味がわからなくて、後藤さんを振り向いた。
後藤さんもれいなと同じように柵に両手を置いて、外を見つめる。
「きっとさ、れいなって無色透明なままで生きてきたんだろうね。
何も感じたくない、信じられない、心の中に感情を閉じ込めてるんだね。
昔に何かあったのかな?」
「・・・別にあなたには関係ないと。」
「確かにね。けれど、これから関係あるかもしれないし、きっと本当のれいなは
今のれいなを望んでないよ。」
「いい加減にしてください。後藤さんに、何がわかるっていうんですか?」
そう言って軽く睨むと、後藤さんは肩を竦めて小さくため息をつく。
- 68 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:25
- ため息をつきたいのはこっちやと。
もう、帰りたいんやけど・・・。
「れいなの記憶、少しだけ覗かせてもらうよ。」
「ハァ?」
「そのまま動かないでね。」
後藤さんは目を閉じてれいなの目の前に手を出した。
一体何するつもりやと・・・?
記憶を覗くとか、そんなことできるわけないっちゃ。
やっぱり後藤さんはどこかおかしい。
これ以上付き合いきれんと。
しばらくして後藤さんは手を下ろした。
- 69 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:26
-
「・・・なるほどね。」
「あの、れいな自分の教室に戻るんで、失礼します。」
れいなが付き合うのはここまで、早くここから離れたい。
本当は、後藤さんに自分の本心を出しちゃいそうで怖かった。
この人なられいなをわかってくれる、って思っちゃったから。
それを受け入れられるほど、れいなは強くない。
れいなは後ろを向いて歩き始めた。
その時やった。
「田中れいな、11月11日生まれ、おっ、あたしと同じO型なんだね。」
「!?」
れいなは勢いよく後藤さんを振り返る。
後藤さんはニッと笑ってれいなに近寄ってきた。
- 70 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:27
-
何で・・・?
何も言ってないのに、どうしてそんなことまで・・・。
「好物は焼肉で、趣味は読書。アハッ、高橋と気が合いそうだね。
勉強は上の中、スポーツはまるっきりだめだけど、身体能力は
けっこう高いんだ。身長は151.7cm、体重は・・・。」
「待って!どうして後藤さんがそこまでわかると!?」
「3サイズは・・・れいな、元気を出してね。」
「涙目で言わんでもよかよ!そんなことより、れいなの質問に答えてください。」
「そんなこと扱いしてる割には、毎日牛乳を飲んでるんだね。」
「大きなお世話っちゃよ!れいなの質問に答えろ!」
「・・・ふぇ〜ん。れいなが怒った〜。」
後藤さんは下を向いて、わざとらしく泣き真似をする。
別にれいなは悪くなかよ。
- 71 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:28
- 後藤さんが余計なこと言うから・・・やなくて、れいなの記憶を覗ける理由がわからん。
しかも、今言ってた高橋って、たぶんあの高橋さんやとね?
どうして高橋さんを知ってると・・・この人は何者・・・?
「あ〜、もう、怒らんからこっち見てください。」
「れいな、色んな顔持ってるじゃん。」
「えっ・・・?」
「ずっと無表情でいるのって疲れない?自分の気持ちを表に出してもいいって、
さっき生徒会長さんも言ってたでしょ。今みたいに怒ってたり、あきれたり、
自分を出してもいいんじゃないかな?」
「・・・。」
「悪いんだけど、過去に何があったのかも見せてもらったよ。ご両親のこと、辛いよね。
今は幼馴染の藤本美貴ちゃんと一緒に住んでて、その子にしか感情を見せられない。
素の表情の出し方を忘れることにした。人は信じたってどうしようもないからってね。」
「・・・その通りでしょ。美貴ねえ以外の人を、れいなは信じられん。」
「そんなことないよ。れいなを見てくれてる人はちゃんといる、これから先にも
たくさんできるよ。未来を信じてみてよ。」
ふいにれいなを助けた天使の言葉を思い出した。
- 72 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:29
- 後藤さんとあの天使の言ってたことが似てる。
れいなが呆然としてると、屋上の扉が開かれた。
やばっ、先生とかやったらシャレにならん。
掴まったら何を言われるか・・・どっか隠れられるとこなかね?
やけど、れいなの予想に反して屋上に入ってきたのは、亀井さんやった。
どうしてあの子がここに・・・?
「あれ・・・?」
亀井さんは少し驚くも、トコトコとれいなの傍に寄ってくる。
まだ表情は苦笑いのままやと。
れいなが怖いなら、無理せんでもいいのに。
- 73 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:30
-
「亀井さん、こんなところに何しにきたと?入学式は?」
「えっと、その、田中さんのこと、心配で、入学式は抜け出してきました・・・。」
「えっ?」
「それで、色んなとこ周ってて、あと残ってるのは屋上だけかなって・・・。」
亀井さんはモジモジと恥ずかしそうに話す。
まだ敬語やし、しかも目は全く合わせようとしない。
どうせ先生に言われて探してたってオチやと。
まぁ、どうでもいっか。
「た、田中さんは、ここで一人で何してたんですか?」
「ねぇ、いい加減敬語はやめてくれんと。それに・・・?」
ちょっと待って。
亀井さん、今、何て言ったと・・・?
- 74 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:32
- 思わず後藤さんの方を向いた。
れいなの気持ちも知らずに、後藤さんは大きな欠伸をして涙目になってる。
亀井さんはれいなに合わせて後藤さんのいる方を見るけど、
不思議そうに困った顔をしてるだけやと。
「さってと、適当にふらついて寝るとするかな。」
「・・・。」
「れいな、あたしはよくここにいるからさ、たまにでいいから会いにきてよ。
久しぶりに人と話せて楽しかったよ。バイバ〜イ。」
後藤さんの姿が一瞬で消えた。
もしかして、後藤さんは・・・。
- 75 名前:出会い 投稿日:2006/04/22(土) 12:33
-
「あの、田中さん・・・。」
「・・・何?」
「もう時間だから、行かなきゃまずくないです・・・ないかな?」
・・・無理してまで敬語やめんでもよかよ。
まだまだ考えたいことはたくさんあるんやけど、亀井さんと一緒にここを出ることにした。
亀井さんは、さっきれいなに"一人で"って言っとった。
たぶん、いや確実に、後藤さんとの会話を亀井さんには聞こえていない。
れいなだけが後藤さんと話せた、見ることができたってことやと。
何で、れいなだけなんやろ・・・?
屋上を出る前に、一度だけ後藤さんのいた場所を振り返る。
そこには何もない。
きっと、夢でも見てたんやとね。
それが現実だと知ることになるのは、すぐ先のこと。
これがれいなと後藤さんの初めての出会いやった。
- 76 名前:konkon 投稿日:2006/04/22(土) 12:34
- 更新です。
- 77 名前:konkon 投稿日:2006/04/22(土) 12:35
- >>名無飼育さん
ありがとうございます。
こんな生徒会長がいたら楽しそうですね。
れいなもきっと・・・ネタバレになるんで失礼(汗)
- 78 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/04/30(日) 15:46
- 更新お疲れ様です。
こちらにもお邪魔させてもらいます!
厚かましくてすいませんorz
では次回も楽しみに待ってます。
- 79 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:00
- 次の日の昼前、一年生はまだ授業がないけん終わりっちゃよ。
先生の話しが終わって、亀井さんが何かれいなに言いたそうな顔してたけど、
昨日のことが気になって仕方なかったと、すぐに屋上に向かった。
そう、目的はあの人。
人と呼べるのかどうか、むしろ現実かどうかもわからん。
それを確かめるために、れいなは貯水タンクに繋がる梯子を上った。
けど、誰もいない。
な〜んだ、やっぱ夢やったとね。
白昼夢ってやつやと・・・。
- 80 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:01
-
「よっ!」
「うわっ!?」
いきなり背後から声をかけられて、れいなは慌てて振り返る。
後ろに飛び引こうとしちゃって、思わずここから落ちるとこやったと。
こんなとこから落ちたらマジでシャレにならんっちゃ・・・。
れいなの目の前では、昨日出合った・・・人?
後藤真希さんが腹を抱えて笑っとる。
「もう、れいなを殺す気ですか?」
「アハハッ、びっくりした?きてくれたんだね。」
「ったく、何するとね・・・それより後藤さん、確かめたいことがあるんです。」
れいなが真剣な顔をしてそう言うと、後藤さんも笑うのをやめてれいなを見つめる。
- 81 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:01
- 目が合った瞬間、すごい綺麗と思ってしまった自分が悲しい・・・。
その吸い込まれそうな瞳が笑みを浮かべる。
「後藤さんは、その、何者・・・ですか?」
「ねぇ、れいな。キスしようか。」
「えっ?」
れいなが何か言う前に後藤さんの顔が近づいてくる。
って、ちょっと待つと!
れ、れいな、キスするって、まだ知り合ったばかりの人となんてできん。
後ずさるれいなに、後藤さんは真っ直ぐに近づいてくる。
顔はすぐ目の前。
どうすればよかよ!?
- 82 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:02
-
「やっ、だめ!」
れいなは緊張感に耐え切れないで手を突き出した。
けど・・・突き飛ばす感触がなかった。
れいなの手は、後藤さんの胸の辺りを突き抜けていた。
やっぱり、後藤さんは・・・。
「イヤン、れいなのエッチ〜。」
「・・・触れ、ない?」
「れいなのご想像通り、後藤は幽霊みたいなもんだよ。実体がないんだ。」
「なら、本当の後藤さんは・・・。」
「一年前に死んじゃったよ。けど、何でか知らないけど魂だけは生きてるんだ。
しかもれいなにしか見えないんだ。不思議だよね〜。」
さっき後藤さんが後ろにいたのに気付かなかったのは、影も足音もなかったから。
顔を近づけた時も、息遣いや気配も感じられんかった。
- 83 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:04
- 確かにれいなは幽霊やと思っとった。
なのにキスされる直前で身を引いたのは、自分でもよくわからんと。
あえて言うなら、この人の魅力が強すぎるから・・・何か悔しかよ。
後藤さんは魂だけが生きてるって言った。
なのに、何でそんなに楽しそうに話せるんやろ・・・?
「れいなってさ、後藤のこと怖くないの?本当は幽霊だってわかってたでしょ?」
「慣れてますからね。別に怖くなんかなかよ。」
「ああ、そういえば霊感が強いんだっけ?ってことはだよ、それって
遠まわしにあたしが可愛いって言ってるんだよね?」
「ハァ?どうしたらそうなるんです?」
「だってさ、れいなはあたしのことを幽霊だって気付いてたんだよね?
それは、あたしが幽霊でも可愛いかられいなも傍にいたいってことでしょ!
うん、間違いない!」
「・・・フハッ、どんだけポジティブ思考を持ってるんですか。」
れいなは思わず噴出して笑った。
- 84 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:05
- 後藤さんと話してるだけで何か落ち着く。
こんな気分、ずいぶんと久しぶりやね。
ん、何か後藤さんがじっとこっちを見つめてきてる。
れいな、何かしたと?
「後藤さん、どうしました?」
「いや、れいなって笑うと可愛いなってね。」
「なっ、急に何を・・・。」
「フフッ、照れてる顔も可愛いじゃん。」
後藤さんはニヤニヤしてれいなを見てくる。
何かむかつくと、れいなは素の表情に戻した。
- 85 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:06
-
「れいな〜、素直にならなきゃだめだよ。もったいないって。」
「気が向いたら考えますよ。そういえば、明日から授業が始まるんで、
あまりここにこれなくなると思います。」
「そっか・・・んじゃ、れいなの心の中にも住ませてもらおっかな。」
「ハァ?」
後藤さんはれいなの心を読んだ時のように、手をこっちに差し出した。
その瞬間、後藤さんの姿が消えた。
「・・・後藤さん?」
『何?』
「!?」
今、れいなの頭に、直接聞こえたんやけど・・・。
何がどうなってると・・・?
- 86 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:07
- れいな、どうやって話せばいいんかな?
けど、後藤さんはどっか行っとるし、あれ、どうすればええっちゃ・・・?
『今のあたしはね、れいなの心の中にいるの。』
「れいなの、心の中・・・?」
『そう、思い浮かべればあたしと話せるってことだよ。このまま会話しててもいいけど、
それだと周りの人がいる時だと、変に思われちゃうでしょ。イメージするんだよ。
言いたいことと思うことは違うから、れいなの心を読むこともないからね。安心してよ。』
「えっ、じゃあ、後藤さんはこれからもれいなの中にいると?」
『いや、基本は屋上にいるよ。よっと!』
突然、れいなの前に後藤さんの姿が現れた。
「れいなが呼び出してくれれば、心の中で会話ができるってことだよ。これでいつでも
話しはできる。まぁ、でもやっぱり顔を合わせて話しをしたいからさ、たまにでいいから
ここにきてよ。あたしは待ってるから。」
「はぁ、わかりました。・・・ん?」
ポケットの中に入ってる携帯が震えだした。
- 87 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/03(水) 03:07
- 美貴ねえからメールがきたみたいで、中を見ると晩ご飯を食べに行こうって内容やった。
けっこう話してたみたいで、空はけっこう暗くなってる。
そろそろ帰らんと美貴ねえが心配するっちゃね。
「後藤さん、そろそろ帰りますね。」
「はいは〜い。」
後藤さんは手を振って見送ってくれた。
何やろ、まだクラスには友達とかいないけん、後藤さんと話すのが楽しく感じる。
そういや、後藤さんは普段はあそこで何しとるんやと?
まぁ、あとで呼び出して聞いてみよっかな。
こうやって心の中で会話ができるなんて、面白いっちゃね。
れいなは少しウキウキしながら階段を降りて行った。
- 88 名前:konkon 投稿日:2006/05/03(水) 03:08
- 更新しました。
- 89 名前:konkon 投稿日:2006/05/03(水) 03:08
- >>哀さん好きの名無しさん
いえいえ、いくらでも読んでやってくださいw
こちらもできるだけ早く更新していきたいと思ってます。
- 90 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/05/05(金) 18:02
- 更新お疲れ様です。
ウキウキれいなキャワ(゚∀゚*)
生徒会長キャワワ(゚∀゚*)
・・・毎回これしか言ってなくてすいませんorz
次も楽しみに待ってます。
- 91 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:02
- れいなが入学してから一週間が経った。
クラスメイトとは、話しかけられれば普通に話しはする。
けど、ぶっちゃけまだあんましクラスには馴染んでいるとはいえん。
中学の時は一人で過ごしてたから、どうにも自分から話すようなことができんかった。
そんな中で、よくれいなに話しかけてくれるのは、隣の席にいる亀井さんやった。
何かとこっちを見てきて、たまに目が合うとカタコトで話してくる。
悪くはないんやけど、できれば普通に話してほしい・・・。
朝から授業が始まって、れいなは眠くて仕方なかった。
勉強しとったからわからんことはないけど、眠くてとてもやる気が出せない。
- 92 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:05
- なんとなく窓の外に目を移した。
桜の花びらは完全に散ってしまって、満面だったピンク色は今は見る影もない。
『ねぇ、後藤さん。』
れいなは心の中で後藤さんの名を呼んだ。
イメージのコツはもう掴めた。
やってみたらけっこう簡単で、いつでもどこでも後藤さんと話せる。
こういう時って、誰にも気付かれないで話せるけん、けっこう得っちゃね。
『んあ、どうかした?言っておくけど、勉強教えろって言ったって無駄だからね。
授業中はいつも寝てたから聞いてなかったもん。』
『威張って言えることやなかよ・・・後藤さん、どうして桜の命ってこうも短いんですかね?
あんなに綺麗やったのに、もったいないと思いません?』
れいながそう言うと、後藤さんの小さいため息が聞こえた。
れいな、間違ったこと言ったと・・・?
- 93 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:06
- 『れいな、人の命も同じだよ。ほんの些細なことで、儚く散ってしまうんだ。
だからこそ、桜だけじゃない、虫や動物、人もみんなみんな、精一杯に
生きてるんだよ。がんばって、自らを輝かせようとしてるんだ。』
『後藤さん・・・?それって、どういう意味・・・。』
「次の問題を田中さん、答えて。」
先生の言葉で急に現実に戻される。
後藤さんと話してて全く聞いとらんかった・・・。
先生は黒板を書いてて、後姿でれいなの答えを待ってる。
どうしよ・・・ここは素直にわからんと言うべきやろか?
れいなが戸惑っていると、隣から手が伸びてきて、ノートの切れ端が机に置かれた。
- 94 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:06
- 亀井さん・・・?
とりあえず、その紙に書いてあるのが答えと?
「(xー2)(x−3)=0です。」
「はい、正解。ここの問題は基本だから、よく覚えておくように。」
先生は黒板に問題の説明を書いていく。
助かった・・・この先生、噂やとすごい厳しいとか聞いたことがあると、
答えられんかったらどうなったことか。
れいなが隣を見ると、亀井さんもゆっくりとこっちを向いた。
「えと、ありがと。」
「ど、どういたしまして・・・。」
れいながそう言ったら、亀井さんはすごい嬉しそうに顔を緩ませて、
何度も頷いてた。
- 95 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:07
- そんなに喜ぶようなことっちゃね?
けど、彼女のおかげで助かったんやし、お礼を言ってよかったはず。
何か、れいなより亀井さんの方が喜んでるし、ほんとに面白い子やね。
そういえば、後藤さんと会話の途中やった。
けど、いくら後藤さんを呼び出しても出てくれない。
こういう時はたまにあって、大抵は寝ている時やった。
さっきの会話の内容も気になるけん、あとで屋上に行ってみればええっちゃね。
つまらん授業が続く中、れいなは外を向いて晴れ渡った空を見つめていた。
- 96 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:08
- 昼休みになって、れいなは朝に買ったパンの袋を持って、屋上に駆け上っていった。
誰かがくるより先に、貯水タンクまで上っていく。
そこの裏なら誰にも見つからないで話しができる。
れいなが上ると、後藤さんはグランドの方をじっと見つめていた。
その目は、どこか寂しそうに見えた。
れいなに気付いた後藤さんは、すぐにいつもの笑みを浮かべる。
「何を見てたんですか?」
「ああ、ちょっとある女の子をね。」
「後藤さんが言うと、何かセクハラみたいですね。」
「ハハッ、そうかもね。」
そう言って、後藤さんはまたグランドに目を移した。
何か、いつもと雰囲気が違うと。
- 97 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:11
- れいなもグランドの方を見ると、そこには体育の授業が終わったばかりの生徒達が、
校舎の中に入るとこやった。
ジャージの色からして、二年の人達っぽい。
後藤さんは、一体誰のこと見てたとね・・・?
後藤さんはグランドを見たまま動かんから、れいなは貯水タンクに
背中をつけて座り込み、コンビニ袋からパンを取り出して一口頬張った。
むっ、試しに買ってみたお好み焼きパン、なかなか旨かね。
「れいな、昼休みにまでここにくるなんて、どうかしたの?」
「ああ、さっきのことを聞きたかったんですと。どういう意味です?」
「・・・まだれいなには早いかもね。っつうかさ、友達と食べなよ。
あたしと話すのはいつでもできるんだからさ。」
そんなこと言われたって、何を話せばいいのかもわからん。
後藤さんはこっちを向いて小さく笑みを浮かべる。
- 98 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:11
- 「・・・後藤さん、たまに寝てるやないですか。」
「屁理屈こねないの。隣の席の、亀井さんだっけ?あの子なんか、
れいなと話したがってたじゃん。きっとすぐに仲良くなれるよ。」
「そうですか・・・?」
確かに、何度もこっちを見てくるけん、たまに目が合ったりすると。
れいな以外には、前の席にいる道重さんとしか話しとらんし、
れいなと同じで口下手なんかな?
今度は、こっちから話してみるのもいいかもしれない。
きっかけがあれば、話してみよっかな。
- 99 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:12
- 帰りのHRまで終わると、亀井さんは早々に席を立って教室を出て行った。
何度か話しかけようと思ったんやけど、会話自体が苦手なれいなやと、
話しかけることにも勇気が必要やった。
ハァッ、ちょっと自己嫌悪に陥るわ。
そんな時、道重さんと一度だけ目が合った。
何か言われるかなって思ったのに、すぐに目を離して他の友達と話しを始めてた。
何なんやろ・・・まぁ、いっか。
亀井さんとは明日話しをしよう。
れいなは教室を出たあと、図書室に向かった。
後藤さんと話すのは楽しい。
それでも、たまに一人で小説を読みふけっていたいって思ったりすることもあると。
こっちに来る前にほとんどの小説を部屋に置いてきちゃったけん、
あまり持っとらんとね。
買うのもアホらしいし、学校に通うからには最大限に利用してやるっちゃよ。
- 100 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:13
- 図書室には誰もいなかった。
委員会の人も出とるみたいやし、どうやって借りたらええの?
まぁ、本を探すついでに適当に読んで、時間を潰すとしますか。
れいなが色々な本を探してて、三冊くらい借りたい本が見つかったんやけど、
どうせやけんもう少し探してみようって、奥の方に歩いてた時やった。
バンッ!
思わず本を落としそうなくらい、大きな音が聞こえた。
たぶん、本棚か何かを叩いた音やと思う。
気になって音のする方へ、ゆっくりと、足を忍ばせて近寄った。
- 101 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:14
- 本棚で体を隠して顔だけそっと出してみる。
そこには、亀井さんが明らかに友達やとは思えん人達四人に囲まれてた。
たぶん、上級生やと思う。
亀井さんは体が震えとる・・・まさか、いじめられとんの?
何度も貶されたような言葉を吐き出されて、その度に亀井さんは泣きそうな顔をした。
ここは、止めた方がよかね・・・。
けど、前に踏み出すことができんかった。
怖くて足が震えとる。
れいなは、口下手やけん、逆に喧嘩を売るようなことをしそうやと。
それに、れいなの力じゃ止められるわけがなかよ。
止めようとしたとこで、れいなもからまれるだけやと。
止められる、わけがない・・・。
そうやと、先生を呼んでくるっちゃね!
そう思って、足音を立てないように、足早に図書室を出ようとした。
- 102 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/07(日) 14:15
-
パンッ!
乾いた音が図書室に鳴り響いた。
これは、物を叩いた音やない、人の肌を叩いた音・・・。
亀井さんを囲んでた生徒達は、れいながいる方とは逆の扉から出て行った。
その人達がいなくなって、ようやく体の震えが治まってきた。
れいなは、亀井さんのいる場所へと歩いていく。
近くまで寄った時、すすり泣く声が聞こえてきた。
「うぐっ、ひっく、ぅぅ・・・。」
亀井さんは顔を突っ伏して泣いていた。
頬が赤く染まってる。
れいなは、声をかけることもできないで、影から彼女を見てるだけ。
結局、亀井さんのことを守ることができんかった。
どうして、れいなは何もしなかったんだろう・・・
いや、しようとしたんやけど、でも・・・。
静寂の中、亀井さんの泣いている声が、れいなの耳にずっと残っていた。
- 103 名前:konkon 投稿日:2006/05/07(日) 14:17
- 更新しました〜。
- 104 名前:konkon 投稿日:2006/05/07(日) 14:17
- >>哀さん好きの名無しさん
それでいいと思いますよ♪
自分もそんな感じですからw
生徒会長もまたそのうち出てきますよ。
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/12(金) 14:44
- こらー!!田中ー!!ぴしゃっとせんか!!
- 106 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:41
- 気付いた時には、家の前にいた。
あれからどうやって帰ってきたのか覚えてない。
ただ、亀井さんの泣き声がずっと耳から離れない。
何もできなかった自分の不甲斐なさに腹が立つ。
けど、どうしようもない。
何もできない・・・。
「ただいま・・・。」
「おかえり〜。遅かったね、どうかしたの?」
リビングに入ると美貴ねえが笑顔で迎え入れてくれた。
美貴ねえは首を傾げてれいなを見ている。
- 107 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:41
-
「れいな、顔が暗いよ。何かあったの?」
「あっ、いや、抜き打ちテストがあって、あんまりいい点が取れなかったけん、
友達と勉強してたと。」
「そっか。ご飯は?」
「ん・・・ごめん、食べてきた。」
「別にいいけどさ、今度からは連絡くらいちょうだいよ。」
「ごめんね、美貴ねえ。」
美貴ねえには悪いと思っとる。
けど、全く食欲がない。
部屋に入ると、れいなは制服のままベッドの上に倒れ込んだ。
先生に話す、いや、いじめがエスカレートするだけで、また同じことが繰り返される。
美貴ねえには、できれば迷惑かけたくない。
相談できるのは・・・あの人なら、どうするんやろ?
れいなは目を閉じてあの人を呼び出すことにした。
- 108 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:42
-
『後藤さん、起きてますか?』
『んあ、寝てたよ。まぁ、れいなと話しができるんなら別にいいけどさ。
さてと、どうしよっか?今日は何の話しするの?』
『あの、その・・・。』
『・・・何かあった?話してみなよ。いじめられたとか?』
れいなは何も言えなかった。
別にれいながいじめを受けたわけやなかと、相談内容は間違っていない。
けど、どう話せばいいのかわからん・・・。
『後藤さん、れいなの記憶、覗いてもらっていいですか・・・?』
『へ〜、余程重大な事件でもあったのかな?どれ・・・。』
しばらく沈黙が続いた。
後藤さんはれいなの記憶を見ているんやと思う。
たまに相槌を打つような声だけが聞こえてきた。
- 109 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:43
-
『そういうことね。で?』
『で、って、れいな、どうしたらいいのかわからんくて、
後藤さんに相談しようと思って・・・。』
『何を迷う必要があるわけ?別に考えることなんてないじゃん。
れいなは亀井ちゃんを見捨てた、それだけのことでしょ?』
『違う!れいなやってなんとかしたかった。でも、怖くて、れいなだけやと
どうしようもないけん、先生を呼びに職員室に・・・。』
『図書室から職員室まで走っても往復で1分はかかるかな。その1分の間に、
その上級生達がキレやすかったら、亀井ちゃんが余計なことでも言って
怒らせたとしたら、もし職員室に誰もいなかったら、どうなってたんだろね〜?』
後藤さんの言葉でれいなは考えてみた。
1分もあったら、四人もいればぼこぼこにするのも簡単やと・・・。
職員室に誰もいなかったら、また誰かを探すけん時間がかかる。
- 110 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:44
- なら、れいなはあの時どうしたらよかったと?
れいなにもっと力があったら、守れたはずなのに・・・。
『後藤さんやったら、もしれいなみたいに力がなくて、あのような場面に出くわしたら、
どうしてたと・・・?』
『放っておく。』
『そんな!やって・・・。』
『あたしがそう言ったらどうするの?れいなは納得しないんでしょ?
人の意見を参考にしてどうするのさ。れいなができること、
本当にしたいことは何?れいなは一体どうしたいの?』
何も言えなかった。
後藤さんやったら、そう考えてもどうしようもないし、誰かを羨んでも意味がない。
れいなはどうしたかった・・・?
- 111 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:45
-
『こういう時はね、何も考えない方が気が楽だよ。』
『何も、考えない・・・?』
『もうさ、走っちゃいなよ。自分に言い訳をしないで、嘘をつかないで、
やりたいことに対して全力でぶつかるんだよ。後悔しないようにね。
何かをやり遂げる前に、自分自身に勝たないとどうしようもないからね。
それがあたしなりの答えかな。』
『後藤さん、れいなは・・・。』
『まだいくつか言いたいことはあるけど、答えは自分で見つけるしかないんだよ。
れいながどうするかは知らないけど、一つだけ教えてあげる。あの手のいじめは
いつまでも続く。またいつか同じようなことが起きる。まぁ、あとはどうするのか
自分で決めてよ。おやすみ〜。』
後藤さんとの会話はそこで途切れた。
そうやね、これは誰が決めるわけえもない、自分で決めるとね。
まだ浅く、弱いかもしれんけど、自分自身の意思を立ち上げて、
れいなは目を開いた。
- 112 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:45
- 次の日、亀井さんは普通に登校してきた。
道重さんは、亀井さんの頬が赤くなってたことに気付いたようで、不審そうに顔を見つめている。
「絵里、その顔、どうしたの?」
「ちょっとね、昨日ぼーっと歩いてたらドアにぶつけちゃったんだよね〜。」
亀井さんは笑顔を崩さずにそう話してた。
彼女の顔に不安や焦りは見られない。
昨日のことを気にせずにヘラヘラしとるわけやないと思う。
あの時の涙は、本当に辛そうやったから。
きっと、誰にも心配かけたくないからやと思う。
この子、強いんやね・・・。
それに比べて、れいなは・・・いや、もう後悔したくない。
れいなはれいなで、やれることをやってみるしかない。
- 113 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:46
- 数日後のある日のことやった。
亀井さんの様子がおかしい。
道重さんと話してる時にもぼーっとしてたり、授業中も全く話しを聞いてなくて、
先生に怒られとったりした。
優等生な彼女に限ってこんなことはそうはない。
きっと、今日、呼び出されるんやね。
彼女の虚ろな目を見て、れいなはそう確信した。
SHRが終わって、亀井さんは教室を飛び出していった。
れいなも慌ててあとを追おうとしたんやけど、道重さんに呼ばれて立ち止まる。
「田中さん、今日はさゆみと日直だってこと、忘れないでほしいの。」
「そ、そうやけど・・・。」
れいなは一度教室の外を向いた。
亀井さんの姿がどんどんと遠ざかっていく。
早く、早く行かなきゃいけんのに・・・。
- 114 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:47
-
「ご、ごめん!今日だけ許してほしいと。」
「どうして?何か用事でもあるの?」
「それは・・・。」
「もしかして、絵里のこと?」
れいなは呆然と道重さんを見ていた。
亀井さんのこと、気付いてたんやね・・・。
「わかったの。行ってあげて。」
「あ、ありがとう!」
「その代わり、今度チョコレートパフェ奢ってね。」
それを聞いた時には走り出してたけん、手を振って答えた。
たぶん、場所はこの間と変わってないはず。
れいなは今までにないくらい全力で走って図書室に向かう。
- 115 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:49
- 制服姿で、汗だくで廊下を走ってる生徒なんていないやろね。
けど、誰にどう見られたってかまわん。
図書室について、音を立てないように本棚の奥へと向かう。
そこには、前のように亀井さんが上級生達に囲まれていた。
亀井さんは泣きそうな顔をして、もぞもぞとポケットから財布を取り出した。
どうやらかつあげされとるみたい。
だめ、止めなきゃ・・・けど、足が震えて、前に進まなかった。
冷や汗が頬を伝う。
感じたことのない緊張感が胸をズキズキと締め付ける。
恐怖がれいなをこの場に留めようとする。
どうすると・・・やっぱり、れいなには無理やと・・・。
- 116 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:49
-
『もうさ、走っちゃいなよ。自分に言い訳をしないで、嘘をつかないで、
やりたいことに対して全力でぶつかるんだよ。後悔しないようにね。
何かをやり遂げる前に、自分自身に勝たないとどうしようもないからね。』
後藤さんの言葉が頭に響いた。
そうやとね、怖いのは当たり前。
けど、これ以上後悔したくない、逃げたくない!
上級生が亀井さんの財布を取ろうとした瞬間、れいなは前に飛び出した。
「そんなとこで何しとると?」
「!?」
そこにいた全員がれいなを向いた。
これで後戻りはできんとね・・・震える足を強引にも押さえつけて、
上級生達を睨みつけた。
- 117 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:51
-
「何よ、あんたは?邪魔しないでくれない?」
「下級生を脅してかつあげ?情けなかね。働いて稼げばよかよ。
その年になって、そんなこともわからんと?」
「この一年、何?あんたの友達?」
「や、あの、その・・・。」
「生意気だよね。お仕置きが必要でしょ。」
四人のうちの二人がれいなに近寄ってくる。
立ち位置を計算して・・・よし、やるだけやってやる!
チャンスは一度きり、れいなは一気に前に飛び出して、近寄ってきた二人を突き飛ばした。
その拍子で二人は後ろに倒れて、後ろにいた二人も巻き込んで倒れる。
- 118 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:51
- 今しかない!
れいなは亀井さんの手を掴んで逃げ出した。
「た、田中さん・・・。」
「早く逃げると!」
「こ、こいつ!逃がすと思ってんの!」
上級生の一人が、逃げようとしたれいなの後ろ襟首を掴んだ。
れいなの力やと外すのに時間がかかる。
そんなことしてるうちに他の三人が襲ってくる。
こうなったらどうするか、れいなの心は決まっていた。
- 119 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:52
-
「亀井さん、逃げて!」
「で、でも・・・。」
「いいから早く!行って!」
れいなはなんとか上級生を押さえてる。
亀井さんは泣きそうな顔でこっちを見たあと、ドアに向かって走り出した。
他の三人がきた時には亀井さんは外に出て行った。
ふぅ、助かって・・・なかね。
ドン!
「いたっ・・・。」
「何てことしてくれんのよ。」
背中から本棚に突き飛ばされた。
ズキズキと鈍い痛みが走る。
- 120 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:54
- 襟首を掴まれてる上に、周りには他に三人囲んでて、恐らくはさっきみたいな
不意打ちはできそうにない。
絶体絶命の大ピンチ、どうしたもんやろね・・・。
「あんた、何笑ってんのよ?」
「えっ・・・?」
れいなは知らない内に笑っとったみたい。
こんだけやばい状況にいるのに・・・本当は、理由はわかってる。
亀井さんを逃がすことができたからやとね。
別にれいなは正義の味方やないし、そんなもんにも興味はなかよ。
ただ、あの子を守りたかった、それだけの話し。
- 121 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:55
- あの時に気付いたのに助けられなかったけん、せめて今回は助けたかった。
後悔しないで済んだことから、心に余裕ができたんやろね。
パンッ!
顔を思いっきり引っ叩かれた。
ジンジンと頬に痛みが広がっていく。
それでもれいなは笑ってやった。
けっこう痛かったけど、こんな人達に泣き顔を見せたくない。
「もうよかね?早く帰りたいんやけど。」
「この!あんた、生意気なんだよ!」
また大きく手が振るわれる。
れいなは目を瞑って我慢しようとした。
- 122 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:55
- あ〜、これからぼこぼこにやられるんやろな。
まぁ、スッキリできたことやし、なるようになれやね。
パシッ!
叩く音が聞こえたけど、れいなには何もなかった。
ゆっくりと目を開けると、前にいる四人は驚いた顔をして固まっている。
れいなを掴んでる上級生の後ろ、そこには後藤さんが本を持って立っていた。
後藤さんは無表情のまま、周りにいる生徒の頭をパシパシと叩いていく。
「ちょ、これ、どういうことよ・・・。」
「いたっ!どうして、本が浮いてるの・・・?」
そっか、後藤さんの姿はれいな以外の人には見えないんやった。
この人達には本が攻撃してくるように見えるんやね。
- 123 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:56
- 一人は後ずさりながら、一人は本棚に背をつけて、怯えて本から身を守っていた。
他の二人は、逃げ出そうとしてドアに向かって走っていく。
「逃がすか!」
ドンッ!ドサドサッ!
後藤さんは猛スピードで走って、本棚の後ろに周ってドアの前にある本棚を・・・
きっと蹴り飛ばしたんやとね。
本棚が倒れて道を塞ぎ、逃げようとした二人は涙を流して座り込んだ。
上級生の鳴き声と本が崩れる音だけが図書室に響き渡る。
後藤さんは一度ため息をついてれいなを向いた。
- 124 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/13(土) 23:57
-
「れいな、これからあたしの言葉に続くんだ。いくよ・・・。」
「・・・もし今後、亀井さんに手を出すようなことをしたら・・・。」
ダンッ!
後藤さんが持っていた本を地面に叩きつけた。
上級生達は体を震わせてれいなを見ている。
「れいなが許さない。覚えとくとよ。」
「は、はい・・・。」
これで、二度と亀井さんに近づくようなことはなくなるとね。
それにしても、どうして後藤さんがここに・・・?
「誰かがきたら面倒になる。れいな、行くよ。」
小さく頷いて後藤さんについていく。
後藤さんはドアをすり抜けて・・・幽霊って便利やね。
れいなは倒れてる本棚を避けて、最後に上級生達を一瞥して、
ドアを開けて図書室を出て行った。
- 125 名前:konkon 投稿日:2006/05/13(土) 23:58
- 更新しました〜。
- 126 名前:konkon 投稿日:2006/05/13(土) 23:58
- >>名無し飼育さん
ぴしゃっとしてやりましたw
いかがなもんで?
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/15(月) 18:11
- 更新お疲れ様です。105でした!
ぴしゃっとしましたねぇ。さすが博多っ子^^
これからも期待大です!
- 128 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:33
- れいなが図書室を出たときには、後藤さんの姿はなかった。
あの人はいつものあの場所にいるに違いない。
れいなは屋上に向かって走り出した。
屋上に着いて、貯水タンクのある場所まで上っていく。
後藤さんはそこに立って、夕日を眺めているようやった。
夕日に照らされた後藤さんの表情は、見たことないほど綺麗で、美しかった。
れいなに気付いた後藤さんは、こっちを向いて無邪気な笑みを浮かべた。
「れいな、きてたんだ。呼んでくれればいいのに。」
「・・・後藤さん、嘘つくなんてひどいですよ。誰にも触れないって言ってたやなか。」
「嘘?ついた覚えはないんですけど?」
「やって、後藤さん、さっき本持って・・・!?」
「その通りだよ。誰も物に触れないなんて言ってないでしょ。」
後藤さんは楽しそうに笑ってる。
何か、すごい怒りが噴出してくるんやけど・・・。
- 129 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:33
-
「後藤さん!そんな力があるなら、れいなを使わんでも亀井さんのこと
守ってあげたらよかったじゃないですか。」
「れいなが、守りたいと思ったから。」
「えっ・・・。」
「できるかできないかじゃない。やるかやらないかだよ。結果はどうあれ、
亀井ちゃんをあの場で放っておくようなら、あたしが守る意味なんてない。
れいなが彼女のことを助けたいって思って、勇気を出して前に進んだから、
あたしは手を貸したんだ。れいなの勇気があたしを動かしたんだよ。」
れいなは呆然として後藤さんを見ていた。
今更になって胸の鼓動がいつもよりも速いことに気付いた。
さっきまではがむしゃらやったけん、全然わからんかった。
「あれっ・・・うわっ!」
れいなは貯水タンクに背を向けて勢いよく座り込んだ。
- 130 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:34
- 足が崩れて腰にきたみたい。
まだガタガタと腕が震えている。
恐怖心があとになって蘇ってきた。
でも、よかったと・・・あの子のこと、助けられたんやとね・・・。
「れいな〜、そんなに足広げちゃって、スカートの中丸見えだよ。」
「なっ!見ないでください!」
「アハハッ。何、あたしのことを誘ってるわけ?悪いんだけど、
今のあたしじゃれいなの欲望に答えられないな〜。」
「一体何を考えてるんですか!?れいなはそんなつもりなかよ!」
「フフン、元気が出たようだね。さてと・・・。」
突然、後藤さんがれいなの前に倒れ込んだ。
人には触れることができないから、後藤さんはれいなをすり抜けて地面に倒れた。
- 131 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:35
-
「後藤さん!?どうしたとですか・・・?」
「ん〜、あたしね、よくわかんないけど、ここから離れるとすごく体力使うんだ。
しかも、けっこう力使ったから、すごい疲れちゃって・・・眠い。」
「そんなになってまで、れいなのこと守って・・・。」
「だって、さ・・・れいな、あたしの友達だもん・・・。」
「後藤、さん・・・。」
「れいな、いい顔してるよ・・・よく、がんばったね・・・。」
「あ、ありがとう、ございました・・・。」
後藤さんはニコッと笑って眠りについた。
小さく寝息が聞こえてくる。
普段は大人っぽいのに、寝てるとすごく可愛くて、何か羨ましいな・・・。
れいなも後藤さんみたいになれるかな?
- 132 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:36
- しばらくの間、後藤さんの寝顔を見つめてたら、誰かが屋上に上がってきた。
上から顔だけ出して覗くと、亀井さんがキョロキョロと首を振っていた。
もしかして、れいなのこと探しとるんかな・・・?
れいなはゆっくりと梯子から降りて亀井さんの前に顔を出した。
「あっ!田中さん・・・。」
「こんなとこで何してると?」
「ほらっ、入学式の時にもここにいたから、またいるかなって・・・。」
そういえば、そんなこともあったとね。
れいなはすっかり忘れてた。
もしかして、あの時も本当は、れいなのことを探しに・・・。
- 133 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:37
-
「顔・・・。」
「えっ?」
「腫れちゃってるね・・・絵里のせいで・・・グスッ、
ごめん、なさい・・・。」
「何で謝ると?別にれいなが好きでやっただけやけん、
亀井さんは気にすることなんてなかよ。」
「でも、田中さんは、絵里のこと、助けてくれた・・・。守ってくれたから、
本当に、ありが、とう・・・。」
亀井さんは顔を手で押さえて泣き出した。
れいな、こういう場面に出くわしたことなかったけん、
どうしたらいいのかわからん・・・。
や、わかっとるんやけど・・・これ以上、この子に泣いてほしくない。
れいなは優しく亀井さんのことを抱きしめた。
- 134 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:37
-
「もう、大丈夫やけん、泣かんでよ。」
「うぅぅ・・・。」
何か、余計に泣き出しちゃったんですけど・・・。
それでも、彼女が無事でよかったと思う。
前に足を踏み出せて、後悔しなくて済んだっちゃね。
亀井さんが泣き止むまで、れいなは彼女の頭を撫で続けていた。
- 135 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:38
- 次の日、朝来たときに亀井さんの姿はなかった。
毎日れいなより早くきてたのに、やっぱり昨日のことで傷ついてるとね。
れいなが席に着くと、周りからやたらと注目を浴びた。
それも仕方ないこと、心配性の美貴ねえがれいなの赤く腫れた顔を見て、
無理やり絆創膏を貼り付けたっちゃ。
亀井さんみたいにドアで顔をぶつけたって言い訳したけん、
特に何も言われんかったけど、これで殴られたなんて言ったら、
学校に殴りこみにくるに違いない。
それだけは勘弁してほしいと・・・。
まぁ、昨日のことはれいなの中でも大きな経験になったと思う。
それにしても、亀井さん大丈夫やとね・・・?
れいなは授業中ずっと亀井さんのことを考えていた。
- 136 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:40
- 午前の授業が終わって、昼休みになった直後やった。
教室のドアが開いて、亀井さんが入ってきた。
彼女の姿を見て、クラスメイト達も、よく一緒にいる道重さんも、
れいなも驚いていた。
亀井さんは髪をショートにしてて、少し茶色に染まっていた。
亀井さんが席に着いて、道重さんは彼女の方を向いた。
「絵里、その髪、どうしたの?」
「ウヘヘ、イメチェンってやつかな。可愛くない?」
「さゆみの次に可愛いから可愛いと思うの。」
「全く〜、さゆは素直じゃないね〜。」
亀井さんは一頻り笑うと、れいなの方を向いた。
髪型を変えた彼女はちょっと新鮮で、別人のように見える。
- 137 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:40
-
「あの、田中さん、おはよう・・・。」
「もう昼やと。こんにちわじゃなか?」
「アッ、ハハ、そうだよね・・・。」
「髪、どうしたと?」
「・・・あのね、絵里って周りから大人しくて弱く見られちゃうみたいでね、
不良とかにも絡まれちゃうから、思い切って染めてみたんだ。」
亀井さんは、周りに聞こえないように小さくそう言った。
確かに彼女はお嬢様って感じやったけん、無理もない話しやと。
今は明るい女子高生って感じで、これはこれで悪くないと素直に思える。
「田中さん的には、どう、かな・・・?」
「・・・いいと思うと。似合っとるんじゃなかね。」
「本当に〜!?ねぇねぇ、さゆ、聞いた!?すっごく可愛いってさ!」
誰もそこまで言ってなか・・・。
思った以上に元気そうで安心した。
- 138 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:41
- れいなの横では、亀井さんと道重さんが机を合わせて、
昼ごはんを食べるとこみたい。
さて、れいなは屋上にでも行こうかな・・・。
そう思った時、亀井さんと目が合った。
「あっ、田中さん。」
「なん?」
「あのさ、一緒に、お昼食べないかな〜って・・・。」
れいなは自分のお弁当をじっと見て、彼女達の机の上に置いた。
あんまり馴れ合うのが得意なれいなじゃないけど、彼女達なら平気そうな気がした。
この空間にいたいって思えた。
- 139 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:42
-
「田中さん・・・。」
「れいな。」
「えっ?」
「名前で呼んだ方が楽やと。れいなも絵里とかさゆって呼ぶけん、
それでよかね?」
「・・・れーな。」
れいなは椅子から転げそうになった。
何でこの子はきちんと人の名前が言えんと・・・?
「あのさ、れいなやって。」
「エヘヘ、れーな♪」
「やけん、れいな・・・クククッ、アハハハハ!」
れいなは腹を抱えて笑ってしまった。
- 140 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:44
- 何でこんなに可笑しかったかわからんと、絵里の言い方がツボに入ったみたい。
絵里とさゆは珍しそうにれいなを見とる。
「絵里、ちゃんと言えとらんて・・・なん?」
「れいなが笑ってるとこ、初めて見たなって思って。」
「れーな、笑うと可愛いね〜。」
「お、大きなお世話っちゃよ。」
れいながそう言うと、二人は笑顔でこっちを見つめた。
「改めまして、日本一キュートな亀井絵里です!」
「じゃあ、世界一可愛い道重さゆみなの。よろしくね。」
ここまで自分に自信がある人間が身近に二人もいるって、ある意味珍しいんやなかね?
やったら、れいなもやってやるっちゃよ。
- 141 名前:前に踏み出す勇気 投稿日:2006/05/20(土) 15:45
-
「・・・宇宙一プリティな、田中れいなっちゃよ。」
「れいな、似合わないことするもんじゃないの。」
「ウヘヘ〜、れーな、面白〜い。」
「な、何で面白かよ!?れーなやってがんばったっちゃよ!」
「よしよし、可愛い可愛い♪」
二人にノッて上げたのに、どうしてこうなると・・・。
けれど、それが当たり前のようにすぐに馴染んでる自分がいた。
まるで、昔から三人一緒にいたように・・・。
どこか不思議な空間、すごく落ち着けて楽しい雰囲気。
この二人となら、れいなも変わることができるかな・・・?
あの人がいるなら、れいなもやっていけるとね。
ねぇ、後藤さん・・・。
久しぶりに友達と食べる昼ごはんは、すごく美味しく感じた。
- 142 名前:konkon 投稿日:2006/05/20(土) 15:45
- 更新しました。
- 143 名前:konkon 投稿日:2006/05/20(土) 15:46
- >>名無し飼育さん
どうもです。
今後もこんな感じでやらせていただきますので、よろしくです。
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 01:52
- 更新乙です。
とりあえず、ホっ
て感じですね(ぇ
- 145 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:01
- れいなが入学して、一月が経った。
れいなはそれなりにクラスメイト達と話せるようになった。
でも、一番話すのは決まって絵里とさゆの二人やった。
絵里は、よく笑ってて、たまにキショかったりするけど、彼女の笑顔には癒される。
この子が笑ってるとホッとする。
何か不思議な力でも持っとるんやなかね?
さゆは自分が一番大好きで、究極のナルシスト。
かといって、自分のことしか見てないかと思いきや、周りの変化、
それが些細なことでも敏感に反応する。
れいなも絵里を習って髪を少し染めたんやけど、最初に気付いたのはさゆやった。
自分にとってプラスになる要素を集めるためなのか、そこまでは知らん。
- 146 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:03
- そんな二人と一緒にいて、れいなは学校生活をそれなりに楽しく過ごしていた。
ただし、今のれいなにはある十代な問題点が一つだけある。
昼休みにごはんを食べてる時、れいなは大きなため息をついた。
「れーな、どうかしたの?」
「ん、まぁ、ちょっとね・・・。」
「何か悩みでもあるの?絵里でよければ相談に乗るよ!」
「いや、大したことやないけん、心配せんでも・・・。」
「絵里じゃ、頼りないからだね・・・。」
絵里は泣きそうな顔で俯いた。
何もそんなことで悲しそうな顔せんでもよかね。
- 147 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:04
- さゆを見ると、小さく首を振って絵里を見た。
はいはい、話せってことね・・・。
「バイト、探しとるっちゃよ。」
「バイト?」
「うん。れいな、お姉ちゃんと二人で過ごしとるけん、自分のことは
自分で管理せんといかん。お金がけっこうなくなってきたけん、
バイトしたいなってね。でも、どこも雇ってくれんとよ・・・。」
そう、れいなが今直面してる問題はお金やった。
絵里達と遊びに行くようになって、ご飯食べに行ったりして、
面白いようにお金がなくなっていく。
他にも服とか小説とか欲しい物も買って、参考書とかは美貴ねえが
出してくれるかもしれんけど、できれば自分の力で手にしたくて言わんかった。
貯金はできれば今後のために残しておきたい。
結果、今の所持金はほとんどない。
- 148 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:05
- れいなもいくつかバイト探して、面接受けに行こうとしたんやけど、
四月に入って一斉にみんなバイトを始めようとするもんやけん、
どこも間に合っとるらしい。
後藤さんの家はお店で、お金に困ったら手伝いをしてもらってたようで、
バイト経験はないみたい。
そんなわけで、バイト探しで疲れちゃったんやと。
「バイトね〜、あっ!ならあの人に聞いてみるの。」
「あの人?」
「さゆみの恋人♪」
さゆは携帯を取り出してメールを打ち出した。
恋人に送るからか、やけに嬉しそうにしてる。
- 149 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:07
-
「絵里、さゆって付き合ってる人いたん?」
「あ〜、脳内でね。」
「ハァ?」
「いや、付き合ってるってわけじゃないんだけど、さゆは今好きな人に
アプローチかけてるんだよ。ほらっ、さゆってさ・・・。」
「ん、言いたいことはわかるっちゃよ・・・。」
さゆは思い込んだら突っ走る、典型的なれいなと反対な子やと。
後藤さんの言ってたように、他の事は一切考えず、怖気ずに真っ直ぐに向かっていく、
そこはちょっと羨ましくも感じる。
ほんとにちょこっとだけね。
っつうか、さゆはメール打ちまくっててまだ終わらん。
れいなやったら2・3行で終わらすけど、さゆの場合、
20行くらい打ってるんやなか?
ようやくメールを打ち終えて、さゆはれいな達を向いた。
- 150 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:08
-
「さゆ、何て送ったの?」
「少しお話しがあるから、放課後にいつもの場所に友達を連れて行っていいですかって。」
「年上なん?」
「うん。もうすっごく可愛い人なの。」
自分大好きなさゆがそこまで言うくらいや、相当可愛い人なんやろ。
少し会ってみたい感じもするとね。
お昼ごはんを食べてたらさゆの携帯が鳴った。
さゆはまた嬉しそうに携帯を開いてメールを見た。
「何だって?」
「おう、ってさ。」
あれだけ打って、返信はたった二文字・・・。
これにはさすがのれいなも悲しくなった。
さゆ、がんばるっちゃよ・・・。
- 151 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:09
- 放課後、れいなと絵里はさゆについて校内を歩いていた。
どこに行くのか、絵里はわかってるらしいけど、
さゆが秘密やって教えてくれんかった。
しばらく歩いてついたのは、生徒会室やった。
何でさゆがここに・・・?
コンコン
「失礼します。」
「失礼しま〜す。」
「し、失礼します・・・。」
絵里とさゆは慣れてるようで、堂々と入っていく。
っつうか、返事ももらわんで入ってもよかね?
かといって置いていかれるわけにもいかんとね、れいなも慌てて中に入る。
- 152 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:11
- 生徒会室には、二人の生徒が書類を見て話し合っていた。
一人はよく見覚えがある。
入学式の日に校章を拾ってくれた、生徒会長の高橋愛さん。
近くで見ると、本当に可愛い人やと思う。
もう一人は、見覚えがないけんわからん。
生徒会の人やと思うけど・・・っと、こっちに気付いたみたい。
「こんにちわ〜。」
「あっ、愛ちゃん、さゆ達がきたよ。」
「おう、久しぶりやね。」
「おいおい、まだ二日しか経ってないから。」
「里沙ちゃん、細かいこと気にしてっと疲れんか?」
「愛ちゃんの相手してるのが一番疲れるんだよ!もう慣れたけどね。」
「ならよかったがし。あーしといられて疲れんで一石二鳥やろ。」
「だ〜か〜ら〜・・・。」
何だっけ・・・この突っ込み、どっかで聞いたような・・・。
思い出した、入学式で高橋さんに突っ込んでた人だ。
- 153 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:12
- それにしても、二人ともすごい・・・息の合った漫才みたい。
その前にここ、生徒会やとね?
「ん、新しい子がいるわな。誰?」
「ちょっと、愛ちゃん。話し終わってないから!」
「わーったって。んじゃ十分後くらいに聞いてあげると思うから。」
「絶対忘れてるでしょ!っつうか思うからって・・・もういいや。」
「よし、里沙ちゃんから許可もらったから、自己紹介してええよ。」
許可って・・・ちょっと相方が可愛そうになってきた。
高橋さんは笑顔でこっちに近づいてくる。
里沙って呼ばれた人は本当にもう慣れてるようで、こっちをじっと見ているだけ。
- 154 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:13
-
「あの、さゆの友達の、田中れいなっていいます。」
「そっか。あーしは生徒会長の高橋愛やで。よろしく!」
高橋さんがスッと手を差し出してきた。
れいなはゆっくりとその手を握る。
「えっと、前から言いたかったんですけど、校章を拾ってくれてありがとうございました。」
「校章?」
「入学式の日に、れいなが校章を落としちゃって、それを走ってきた高橋さんが
拾ってくれたんです。覚えとらんですか?」
「ん・・・ああ、そんなこともあったかもしれんわな。よく覚えとったね。
そんな昔のことなんか気にせんでええのに。」
「でも、ずっと言いたかったんです。お礼に時効はないと思うけん。」
高橋さんは目を丸めてじっとれいなの顔を見つめる。
れいな、何か気に障るようなこと言ったと・・・?
- 155 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:14
-
「田中ちゃんって言ったね。生徒会に入らんか?」
「えっ?」
「君のような素材を探しとったんや!ほらっ、あーしと同じで訛っとるし、
未来の生徒会を守るために、最高の学校生活を育んでいくためにも!」
「まずは愛ちゃんを育む必要あると思うけどね。訛りは関係ないし。」
高橋さんの後ろの方からぼそっと聞こえてきた。
誰とどんな話しをしてても突っ込むんやね。
さすがにここまでくると感心するっちゃ。
高橋さんはちょっとむっとした表情をして、頬を膨らませる。
「今やったら会計の席も空いてるで。」
「コラーッ!私がやってるでしょ!田中ちゃんだっけ、これ以上相手する必要ないから。」
「アハハ・・・!?」
突然、横からもの凄い殺気が・・・。
誰だかはわかっとる、さゆの目がれいなを捉えて離さない・・・。
- 156 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:15
-
「あ、あの、れいなは、いいです・・・。」
「そっか〜、それは残念やな〜。」
高橋さんは元の席に戻っていく。
その瞬間、緊迫した雰囲気が消えて、さゆが高橋さんに駆け寄っていく。
ふ〜、助かった・・・昔にれいなが近所の子にいじめられて、それを見た美貴ねえが
キレた時くらい怖かったとよ。
いや、美貴ねえもさゆも悪い子やないんやけどね・・・。
ふいに里沙って人と目が合った。
「あ、ごめんごめん。自己紹介が遅れたね。私は新垣里沙、二年だよ。
会計と愛ちゃんの保護者をやってるよ。」
「すっごい大変な仕事やよ。」
「そうそう、ってあんたが言うな!」
相変わらずいい突っ込みやと。
美貴ねえもここにいたら面白いことになりそう。
- 157 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:16
- けど、確かに大変そうやと・・・高橋さんはどこか天然っぽいし、
その上さゆもいるけんね。
さゆは高橋さんに後ろから抱きついてて、高橋さんは苦笑いしながらも受け止めてる。
恋人、か・・・ん、何でか絵里がこっちをじっと見とる。
「ねぇ、れーなはさ、好きな子とかいるの?」
「別にいないっちゃよ。絵里はいるん?」
「ん〜・・・どうだろね。」
聞いといて何やとそりゃ。
その時に舌を出してそう言った絵里が、不覚にも少し可愛いと思ってしまった。
そういや、どうしてれいなはここに・・・そう、バイトやと!
れいなは生徒会に入るためにここにきたわけやなかよ。
- 158 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:17
-
「さゆ、ちょっと聞いて・・・。」
「何?」
そんな怖い顔でこっちを見んでよ・・・。
さゆは悔しそうに高橋さんから手を離した。
「さっき言っとったバイトの話しなんやけど・・・。」
「ん、あ〜、そんなこと言ってたね。」
さゆ、忘れとったんか・・・。
さゆにとっては、高橋さんに会う口実にれいなを連れてきただけなのね。
高橋さんと新垣さんは一度目を合わせて、れいなを向いた。
- 159 名前:大切な居場所 投稿日:2006/05/27(土) 23:18
-
「何、バイト探しとるんか?」
「はい。探しとるんですけど、なかなか見つからんとです。」
「バイトね・・・あ〜、ちょうどええとこがあるわ!」
「本当ですか?」
「なら、仕事終わったら案内するわ。里沙ちゃん!」
「はいはい、ようやくマジモードですか。もっと早くにやる気出してよ。」
「よっしゃ、いくで!あと10分くらい待っとってな。」
二人の前にはけっこうな量の書類がある。
それを10分って、終わるわけなかよ・・・。
れいなはそう思っていた。
しかし、このあと信じられない光景を目にすることになる。
- 160 名前:konkon 投稿日:2006/05/27(土) 23:18
- 更新しました〜。
- 161 名前:konkon 投稿日:2006/05/27(土) 23:19
- >>名無飼育さん
安心しました〜みたいなw
れいなの学園生活はこれからですよん♪
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 22:14
- これから楽しみですねぇ^^
年上チームも出てこないかなぁ?
とか言ってみたり…w
- 163 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:38
- 高橋さんと新垣さんは、目を合わせて首を頷けた。
さっきまでと全然雰囲気が違くて、れいなは思わず息を飲み込んだ。
「まずは部活動の予算案からやね。今年に入って同好会が二つ増えた。
部員数は7人と15人、けっこう入っとるみたいやの。」
「だけど、あんまり予算を割くわけにもいかないよね。」
「んじゃ、明日か明後日辺りに顧問の人と直接話してみるわ。次。」
「来週にあるスポーツ測定についてだよ。去年は時間がないってことから終わらなくて、
次の日に回したってとこもあったね。」
「順番がどうのこうのって喧嘩したとこもあったからやな。今回はあーしが決める。
それなら文句ないやろ?」
「公平に決めてね。次はね・・・。」
見てて鳥肌がたつくらいすごいと思った。
さっきまではおしゃべり女子高生やったのに、今は完璧に生徒会役員になっとる。
- 164 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:39
- 高橋さんと新垣さんは、交互に書類を流し読みしたらチェックして、メモに書き込んでる。
あまりの速さに、何を話しているのかも混乱してくる。
たまに高橋さんが何言っとるのかわからんくなるけど、
新垣さんは普通に聞けるみたい。
伊達に生徒会を名乗ってるわけやないんやね・・・。
今、れいな達は町の中を歩いてる。
前を歩く高橋さんの横に、ぴったりとさゆがついている。
れいなと絵里は、新垣さんと話しながら後ろを歩いていた。
学校のこと、生徒会のこと、ちなみに今日の仕事は週に一度しかないんやけど、
普段もよくあそこを溜まり場にしてるとか。
高橋さんとさゆが話す時も生徒会室を利用しとるらしい。
なんでも高橋さんは静かなとこが好きなようで、ファミレスとかうるさい連中が
いそうな場所には行きたくないんやと。
新垣さん曰く、けっこう我侭で自分勝手なこともあるらしい。
それでも仕事はきっちりとこなすけん、先生も生徒からも好かれている。
- 165 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:39
- あれから10分後、二人は本当に全ての仕事を終わらせた。
有言実行、さすがは生徒会やと。
最初の頃は不安やったのに、この人達なら大丈夫やって今なら頷ける。
たった二人だけであれだけの量を・・・二人だけ?
「新垣さん、生徒会って二人しかいないんですか?」
「いや、あと二人いるよ。だけど一人はバイト、今日は月一で忙しい日だから、
生徒会は休ませてくれってさ。もう一人は、ちょっとおは・・・。」
「里沙ちゃん!」
突然、高橋さんの大声が聞こえた。
れいな達は、初めて怒っている高橋さんを見て、固まってしまっている。
新垣さんは、少し落ち込んだ表情をして俯いた。
- 166 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:40
-
「ごめん・・・軽率だったね。」
「高橋さん・・・。」
「ん、何でもないがし。大声出して悪かったよ。気にせんで。」
高橋さんはすぐに笑みを浮かべて歩き始める。
新垣さんも前を向いて歩き出したから、れいな達もその横を歩く。
「新垣さん、さっきのって、どういう意味ですか・・・?」
「あ〜、気にしないでよ。そのもう一人はね、ちょっと生徒会で必要な物の
買出しに行ってもらってるんだ。」
新垣さんはそう言うけど、絶対何か隠してるとね・・・。
まぁ、それを検索する気はなかよ。
する方もされる方も嫌な思いをするやろうし、れいなも高橋さん達は好きやけん、
わざわざ仲悪くなるようなことを聞く必要もないけんね。
それからも適当に話しているうちに、前を歩いてた高橋さん達の足が止まった。
- 167 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:41
-
「ここやよ。」
「ここ、ですか・・・?」
高橋さんが連れてきたのは、一件の服屋やった。
高橋さん達が中に入っていくけん、れいな達も慌ててついていった。
店の中は大きいってほどでもないけど、見ただけでも種類がけっこう豊富なようで、
れいなもけっこう好きな雰囲気やと。
平日の夕方やってのに、けっこう客が多い。
月一の大バーゲン・・・なるほどね。
れいなも何か買って・・・お金ないんやった・・・。
高橋さんと新垣さんは、服のチェックをしてる一人の店員さんに寄っていく。
金髪で声を張り上げてるけん、よく目立つ人やと。
「よっ。麻琴、がんばっとるか〜?」
「あっ!愛ちゃんと里沙ちゃん、お疲れ様〜。ちょうどいいや、
愛ちゃん入ってくれない?客が多くて大変なんだよ。」
「その点なんやけどさ、ほらっ、田中ちゃんこっちやよ〜。」
高橋さんはこっちに手を振ってれいなを呼んだ。
- 168 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:42
- こんなたくさん人がいるとこで大声で呼ばんでも・・・。
れいなはスタスタと足早に高橋さん達のところに向かう。
「愛ちゃん、その子は?」
「バイト希望の子やよ。」
「本当に!?愛ちゃん、シフト減らすっていうからバイト募集するとこだったんだ。
私は小川麻琴です。よろしくね!」
「は、はい、よろしくお願いします・・・。」
「ここはあーしがバイトしてるとこで、麻琴のお父さんのお店なんやよ。」
「マコっちゃんは生徒会の書記でもあるんだよ。」
「そうなんですか〜・・・。」
この人も生徒会の人なんや。
っていうか、この話しの流れやともうれいながここでバイトすることが
決まってるような・・・。
そりゃ、バイトしたいって考えてたけど、何でもいいってわけやなかよ。
少しは考えさせて欲しいと。
- 169 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:43
-
「田中ちゃん、ここでバイトしたいの?」
「それは、まだ、考えて・・・。」
「そうだよ。愛ちゃん、田中ちゃんの意思を尊重しないとだめだって。」
「あーしは紹介したまでやっての。入るかどうかまでは知らん。んで、どうする?」
「どう、って言われても・・・。」
「まぁまぁ、今日初めてきたんだし、見学でもしていってよ。」
「は、はい。」
「愛ちゃんは手伝ってよ。」
「ほ〜い。そんなわけで、見てってや。」
高橋さんは一度ウインクをして、奥の方へと入っていった。
小川さんは服のチェックしたり、お客さんの要望に頷きながら色々とアドバイスしとる。
新垣さんは用事があるって言って、さっき帰ってしまった。
絵里とさゆは、可愛い服を見てははしゃいだりして・・・高校生にもなって恥ずかしかよ。
れいなはというと、邪魔にならないように小川さんや他の店員さんが、
どんな風に働いてるのか見てる
- 170 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:44
- 服を整理して、お客さんに服を選んだり、たまにコメントしては話しを聞いて、
どんな服がいいとか相談してたりする。
服を買った人達は、嬉しそうに帰っていく。
れいなはいつも適当にしか着んから、あまり服のセンスとか興味ない。
自分に似合う、好きな服をきて歩くことって、とっても嬉しいかもしれんとね。
そう考えると、このバイドって幸せを届けてるんじゃないかって思えてくる。
「れーな、どうするの?ここでバイト始める?」
「そうやね。他のとこが空いてないからってわけやないと、やりがいが
ありそうな感じやけん、やってみたいな。」
「高橋さん、けっこう大変だって言ってたの。続けられるの?」
「それはやってみなきゃわからんっちゃよ。何事も始めることすらせんと、
本当に何もできんとね。」
さゆは適当に相槌を打ったんやけど、絵里は目を輝かせてれいなを見とる。
- 171 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/04(日) 21:45
- れいな、そんなにいいこと言ったとね?
まぁ、後藤さんの受け売りなんやけどね。
絵里達と話してると、小川さんが近づいてきた。
「愛ちゃんも入ってきて、ようやく落ち着いてきたからさ、少し奥で話しをしよっか。
もしよかったら、このあと入ってほしいしさ。」
「は、はい。わかりました。」
「んじゃ、絵里とさゆはどうする?一緒に話し聞く?」
「あっ、さゆみもお店の裏側って見てみたかった・・・モガッ!」
「絵里達はもう帰りますからお構いなく。れーな、がんばってね!」
絵里はさゆの口を押さえながら店を出て行った。
仕事の邪魔にならないように気を利かせてくれたんやと思う。
ありがとね、絵里。
よし、れいなもがんばってみると。
一度自分の頬を叩いて、れいなは歩き出した。
- 172 名前:konkon 投稿日:2006/06/04(日) 21:46
- 今日はここまでです。
- 173 名前:konkon 投稿日:2006/06/04(日) 21:47
- >>名無飼育さん
今のとこは誰を出すかは未定です。
まぁ、今後の展開によりますかね(謎)
- 174 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:46
- バイトを始めて1週間が経った。
朝、教室に入って自分の席に着くと、絵里がれいなの顔を覗き込んできた。
「おはよ〜。バイトは順調ですか〜?」
「・・・何かバカにした言い方やとね。」
「違うよ!そんなつもりはないってば。」
「わかっとるよ。それなりにがんばってるっちゃよ。」
初めてのバイトは大変の一言に尽きる。
高橋さんに連れられたあの日、いくつか話しを聞いて、まずは実践してみようってことから
声を出したり服を畳んだりと始めてみて、それからも二回ほどバイトに出たんやけど、
もう足引っ張りまくって悲しくなってくると。
まだ見習いやけん、服の整理とか品出しから習わんといけなくて、それすらもまだ
ろくにできてない。
- 175 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:46
- お客さんに話しかけられたら、高橋さんや小川さんに聞いてなんとかしとるとね、
誰もいない時とか本当にわかんなくて混乱して、謝ってばっかのような気がする。
小川さんは、まだそれでもいいよって言ってくれるけど、れいなもがんばって勉強して、
早いうちにはあの店の力になりたい。
いちおうお金をもらってる形でもあるけんね。
それにしても、何で絵里はウキウキしとると?
いつにも増して笑顔っちゃ。
「絵里、何かいいことでもあったと?」
「ウヘヘ〜、だって今日はスポーツテストだよ。午前中で終わるじゃん。」
「うげ、忘れとった・・・。」
れいなは走るのが苦手やった。
何でスポーツテストなんてあるんやろ・・・。
さぼって小説でも読んでたいな。
- 176 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:47
-
「言っておくけど、さぼっちゃだめだからね。」
「・・・わかっとるよ。」
絵里はこういう時だけけっこう鋭いんやけ。
はぁ、外に出たくなかよ・・・。
れいな達が最初に測るのは、50メートル走。
ゴールがすっごく遠く感じる。
絵里はもう、俄然強め!とか言ってやる気満々やった。
こんなの何が楽しいんやろ?
二人一組になって測定が始まる。
何人かが走り終えて、絵里の番となった。
ピストルの音と同時に絵里が飛び出した。
絵里、速いな〜・・・たぶんクラスの中で一番速いんやなかね?
- 177 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:47
- それからも何人かが終わって、れいなの番になる。
れいなと一緒に測るのはさゆやった。
さゆも運動好きやないって言っとったし、この子にだけは負けたくない。
ドンッ!
ピストルの音でれいなは飛び出した。
久しぶりに走るけん、ちょっと走っただけで息が切れる。
それでも、さゆより少しだけ前を走っとる。
このまま最後までがんばって・・・なんとかさゆよりは先にゴールできた。
とは言っても、クラスの中でも真ん中くらいやと思うけどね。
他に懸垂とか走り幅跳びとかやったけど、成績はれいなはやっぱ真ん中ら辺かな。
さゆよかは上やと思う。
あの子はびっくりするくらい運動音痴やった。
- 178 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:48
- まぁ、さゆと比較しても仕方ない。
自分の運動能力に少し凹んだのも事実やと。
れいなも少し運動しよっかな。
あとはハンドボール投げか・・・れいなが歩き出した時にさゆが近寄ってきた。
「れいな、成績悪くて落ち込んでるの?」
「ん、まぁね。もっと強くならんとね。さゆは思わんの?」
「さゆみは可愛いから、運動できなくてもいいの。」
「んじゃ、れいなもできなくてよかね?」
「・・・ハンドボール投げがんばろ〜っと。」
「さゆ!答えんしゃい!」
れいな達は騒ぎながらハンドボール投げへと向かう。
絵里は綺麗なフォームでボールを投げる。
- 179 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:48
- あんまし力なさそうなのに、ずいぶんと遠くまで飛ばした。
助走とタイミングがいいのかな?
れいなも真似してやってみたんやけど、
「とりゃっ!」
ポトッ
一発目はすっぽ抜けて5メートルしか飛ばんかった。
二発目は力みすぎてファール、マジやばすぎる成績やった・・・。
次にさゆの番になって、れいなは端っこの方で絵里と話しながら見てた。
さゆが思いっきり踏み込んで、
「えいっ!」
「危ない!」
さゆの投げた球は、れいな達の方に向かってきた。
- 180 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:49
- れいなは絵里を押し倒すようにして避ける。
運動は苦手でも、反射神経だけはけっこう高いっちゃよ。
それにしても、角度的に見ても暴投にもほどがあると・・・。
「絵里、大丈夫やった?」
「うん・・・。」
「全く、さゆ!真っ直ぐ投げるっちゃよ!」
「ごめんなさ〜い。次は気をつけるの。」
まぁ、絵里に怪我がなかっただけでもよかったと。
絵里の手を引いて起こすと、絵里は顔を俯かせる。
「絵里、どうかした?」
「な、何でもないの!れーな、ありがと!」
絵里は顔を赤くして首を振った。
今更になって疲れてきたのかな?
ちょっと気になったけど、突然歓声が聞こえてきて、れいなは考えをやめた。
- 181 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:49
- 声の方を見ると、長距離走を測っているクラスのとこやった。
一体何があったんやろ・・・?
れいながぼーっと見ていると、いつの間にか絵里が傍にいなくなってた。
少しして、絵里は長距離走をやってるクラスの方から、小走りに戻ってくる。
「すっご〜い!紺野さん、長距離で全国三位だってさ!」
「誰?」
「れーな、知らないの?うちの副生徒会長で、知能もスポーツも学年で一番の人だよ。」
「へ〜、その人が副生徒会長なんや・・・。」
さゆに付き合わされてたまに生徒会に行くけど、その紺野さんとは顔を合わせたことはない。
どんな人なのか、今は人垣ができてて見えないし、そこまでして見たいとも思わん。
生徒会の人ならそのうち会えるけんね。
- 182 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:50
-
「こんな成績修めたのって、吉澤さん以来だな〜。あっ、吉澤さんって人はね、
去年の卒業生でフットサル部やってて、全国大会に出た人でね・・・。」
「絵里、何でそんなこと知っとると?」
「ん〜、この辺に住んでる人はみんな知ってるよ〜。」
「ねえ、絵里もスポーツできる人の方が好きなん?」
「えっ・・・そんなことないよ。だってさ、人間だもん。得手不得手ってあるじゃん。
それにさ、その、れーなはれーなでいいとこたくさんあるよ!」
「ん、ならよか。」
何でか知らんけど、絵里にそう言われて安心した。
確かにスポーツできた方がかっこいいとは思うけど、そればっかやないとれいなは思う。
言い訳やなくて、もっと別のことでも、自分に誇りが持てればいいんやないかな。
さて、今日はこれで終わりやし、バイトもないけんどうしよっかな。
- 183 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:50
- 教室に戻って着替え終わったあと、れいなは帰る準備を始めた。
昼休みもないけん、今日はこのまま終わりになる。
ふわっ・・・すごい疲れた。
帰ったら寝ようかな?
れいなが大きな欠伸をした時、絵里がこっちに顔を向けた。
「ねぇねぇ、れーな。どこかでご飯食べにいかない?」
「無理。」
「えっ・・・何か用事とかあるの?」
「ない。けど今日はあんまりお金持ってないし、家で食べるつもりやと。」
「そうなんだ・・・。」
やけん、そんなに悲しそうな顔しないでほしいっちゃ・・・。
さゆは高橋さんのとこに行っとるし、かといってファミレスとか行くとけっこうお金もかかる。
- 184 名前:大切な居場所 投稿日:2006/06/09(金) 23:51
- 情けない話し、給料日まで無駄遣いするわけにいかん。
どうするか・・・そうや、一緒に食べられればええんやね。
「絵里、このあと暇ならさ、れいなの家にくる?」
「えっ?いいの?」
「うん。お昼ごはんれいなが作るけん、一緒に食べよ。その方が安いし、
一杯食べられると。それでもよかね?」
「・・・うん!いくいく!れーなの家行きたい!」
絵里は嬉しそうにはしゃいでいる。
なんとなく、絵里の頭をポンポンと撫でると、ニコニコと満面の笑みを浮かべた。
よかった、絵里の機嫌もよくなったみたい。
ん・・・れいな、何で絵里のことこんなに気にかけとるんやろ?
まぁ、いっか。
れいなは絵里と一緒に教室を出て行った。
- 185 名前:konkon 投稿日:2006/06/09(金) 23:51
- 更新
- 186 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2006/06/16(金) 16:58
- 更新お疲れ様でした。
面白く読んだのに次も楽しんでます。
- 187 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:06
- れいなと絵里は、うちの近くにあるスーパーにきて買い物をしとる。
食費とお小遣いはまた別やけん、お昼ごはんと晩ごはんの食材を買うところやと。
美貴ねえも昼過ぎから講義やって言っとったけん、三人分買わなきゃね。
絵里はご馳走になってるだけじゃ悪いって、何かお菓子を買いにいってる。
そんなこと気にせんでええのに、絵里はいいからいいからって、
足早にお菓子売り場に歩いていった。
あの子はよく気がきくとね。
さて、何を作ろうかな。
最近は料理を作るのも楽しくなってきた。
一人で食べるんやなくて、美貴ねえ、今日に至っては絵里もいるからっていうのもある。
それとは別にもう一つ理由があるんやと。
- 188 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:07
-
『後藤さん、お昼ごはん帰って作ろうと思うんですけど、何がいいですかね?』
『そうだね〜。スパゲッティなんかはどうかな?』
『いいですね。どんなのがお勧めですか?』
『よし、それじゃあとっておきのスパゲッティを教えてあげよう!んじゃね、
必要なもの言うから買ってよ。まずはね・・・。』
れいなが料理を好きなったもう一つの理由、それは後藤さんに料理を教えてもらえるから。
後藤さんは昔から料理が好きやったみたいで、色んな料理を知っとると。
たまに後藤さんに教わって作るんやけど、これがまた本当に美味しいの。
美貴ねえも絶賛してて、どこで覚えたのってよく聞かれる。
さすがにそれは言えんけどね。
えっと、玉ねぎとひき肉に覚えにくい名前のスパイスを探して、
他にもふらついて夕食の食材を買ってから、外で絵里と合流した。
絵里が持ってる買い物袋はパンパンやった。
れいな、そんなにお菓子食べれんと・・・。
スーパーから話しながら歩いて、れいなの家のマンションに着いた。
- 189 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:08
- 絵里は、以前のれいなと同じように呆然として、マンションを見上げている。
まぁ、当然のリアクションやとね。
「れーな・・・こんなすごいとこに住んでるの?」
「まあね。とは言っても、居候やけどね。絵里、行くよ。」
「う、うん・・・。」
マンションのエレバーターで上がって、れいなの家に到着した。
さっきまでの元気はどこいったのか、絵里は関心して周りを見渡してる。
その気持ち、れいなもよくわかると・・・。
美貴ねえと一緒じゃなきゃ、天地がひっくり返ってもこんなとこ住めるわけなかね。
ドアに手をくっ付けて、コンピュータにれいなやと認知させてドアを開ける。
「ただいま。絵里、入って。」
「お、お邪魔します・・・。」
絵里はおどおどとしてれいなの後ろをついてくる。
家に入ると奥の方から話し声が聞こえてきた。
- 190 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:10
- 声は二つ、美貴ねえと誰かが話してるみたい。
リビングには、美貴ねえとすごくかっこいい人がソファに座っていた。
「れいな、おかえり〜。」
「ん、この子がミキティの妹のれいなちゃんね。初めまして。」
「初めまして。えっと、美貴ねえの彼氏、ですか?」
「れーな、違うよ!この人は・・・。」
絵里はぐいぐいとれいなの服の裾を引っ張ってそう言った。
誰やろ・・・絵里は知っとるみたいやけど。
美貴ねえは、何でか腹を抱えて笑ってる。
「アハハッ!よっちゃん、彼氏だってさ〜。」
「褒め言葉としてとっとくよ。私はミキティの友達の吉澤ひとみ、よろしくね。」
「あっ、すいません。れいなは田中れいなです。よろしくお願いします。」
へ〜、男の人かと思った。
やって、ジャンパーにジーパンで、髪は一つに整えてて、
顔は凛々しく端整やけん、誰が見ても女性には見えんと。
- 191 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:12
- 決して悪く言ってるわけやなく、本当にかっこいいと思う。
ん・・・吉澤って名前、どこかで聞いた覚えが・・・。
「れいな、聞いてよ!美貴ね、フットサル始めたんだ〜。これがさ、
けっこう面白くいんだよ。よっちゃんは美貴のチームのキャプテンなの。」
「そうなんや。がんばってね。」
「もっちろん!最強のストライカーになってやるさ!」
「その前に、まずはリフティングくらいできるようになろうな。」
張り切ってる美貴ねえに、吉澤さんは呆れた顔をして呟いた。
美貴ねえは運動神経いいから、スポーツなら何でもできるようになると思う。
フットサルって、確かサッカーの小さい盤やったっけ?
フットサル・・・ああ、吉澤さんって絵里が言ってた全国大会に出た人やね。
- 192 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:12
- れいなが一人納得してると、吉澤さんが立ち上がって、れいなの目の前に立つ。
ちょっと身長差があるけん、れいなは見上げる感じになる。
「れいなちゃんって言ったね。可愛いね。」
「えっ・・・。」
「もしよかったら、今度一緒にお茶でも・・・。」
「よっちゃん、もしれいなに手を出したら、殺すよ?」
「じょ、冗談だって・・・。」
吉澤さんは苦笑いを浮かべてソファに戻った。
今の美貴ねえの目は、決して冗談なんかやなかった。
本気で人を殺す目やった。
れいなのことを思ってくれるのは嬉しいけど、さすがに怖すぎやと・・・。
- 193 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:13
- 美貴ねえはしばらく吉澤さんを睨んだあと、れいなの方を向いた。
れいなっていうより、れいなの斜め後ろにいる絵里の方ね。
「れいな、その子は?」
「絵里。」
「あっ、うん。れーなの友達の亀井絵里っていいます。」
「美貴は藤本美貴、れいなの幼馴染だよ。れいなの友達、ね。
仲良くしてあげてね。」
「は、はい!」
「亀ちゃんね。どう、私に今夜辺り付き合うつもり・・・イテッ!」
早速ナンパしようとした吉澤さんの脛を、美貴ねえが蹴りつけた。
れいなやったら折れてると・・・そんくらい強い蹴りやった。
それにしても、この人がうちの学校の伝説とはね・・・。
- 194 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:15
-
「いい加減にしなよ。それに、"あの子"と付き合ってんでしょ。言っちゃうよ?」
「ミキティ、痛いって。冗談だよ〜。これがひ〜ちゃん流の挨拶なんだよ。」
「うるさい。れいなの友達にも手を出すな。」
「吉澤さんって、けっこうモテそうな感じですよね。」
「お〜、今は落ち着いてるけど、高校の時はモテモテだったよ。
なんたって、学校の三大美女の一人だったからね。」
「三大美女?他に二人もいたんですか?」
「一人は、私の彼女の石川梨華って子だよ。」
「美貴達と同じ大学の子で、色黒でうるさくてアニメ声の美少女だよ。」
「ミキティ、褒めてるようには聞こえないんだけど・・・。」
「いちおう褒めてるつもりだよ。そういえば、もう一人は美貴も知らないな。
どんな子だったの?」
「"ごっちん"・・・私の親友だった子だよ。今はもう、遠くにいっちゃったけどね。」
吉澤さんは小さく笑ってそう答えた。
- 195 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:15
- その時の目は、どこか虚空を見るような、悲しそうに感じた。
それも一瞬だけ、吉澤さんはソファから腰を浮かせてかばんを手に取った。
「ミキティ、そろそろいくよ。講義に間に合わなくなる。」
「あっ、そうだった!れいな、美貴、大学に行ってくるね!」
「美貴ねえ、お昼は?」
「ごめん、れいなが早く帰ってくるとは思ってなかったから、先に食べちゃったよ。
晩ごはんまでには帰ってくるようにするから・・・。」
「ミキティ、今日は歓迎会やる日だよ。」
「あっ、そっか。あ〜、でも・・・。」
「無理せんでよかよ。友達と一緒に食べてきなよ。」
「れいな・・・。」
美貴ねえは小さく首を上げてれいなを見る。
- 196 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:18
-
「美貴ねえ、最初に言ってくれたと。美貴ねえに遠慮するなって。やったら、
美貴ねえもれいなに遠慮することなかよ。自分のやりたいことやってよ。」
「・・・れいな〜。」
美貴ねえが立ち上がってれいなに抱きついてきた。
優しい美貴ねえのこと、れいなも好きやと。
やけん、美貴ねえも楽しんできてほし・・・ちょっ、美貴ねえ痛い!
そんなに締め上げんで・・・。
「み、美貴ねえ・・・痛い、っちゃ・・・。」
「もう、れいなって何でこんなにいい子なんだろ。ねぇ、亀ちゃん、
この子優しすぎるからさ、もしよければ守ってあげてね。」
「は、はい・・・。」
「み、美貴、ねえ・・・。」
ちょ、美貴ねえ、手を離してくれんと、マジ死ぬっって!
やばっ、意識が朦朧としてきた・・・。
- 197 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:19
-
「いいな〜。私もれいなちゃんのこと抱きて〜・・・。」
「・・・何か言った?」
「いいえ、何も言ってませんよ。」
「さて、時間になったから行くかな。れいな、料理作るのはいいけど、
火だけは注意してね。ほらっ、よっちゃん行くぞ!」
「へいへい。」
美貴ねえは吉澤さんと一緒に家を出て行ったみたい。
みたいっていうのは、れいなはそのまま立ち尽くしていたからであって、
「れーな、藤本さんってちょっと怖いかなって思ったけど、いい人だね。」
「・・・。」
「れーな?」
絵里は不思議に思ってれいなの前に回る。
その瞬間、れいなは絵里に寄りかかるように倒れた。
- 198 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:22
-
「れ、れれれれーなっ!?」
「う〜、痛かったと・・・。美貴ねえ、力が強すぎるっちゃよ。」
絵里はれいなを抱き止めてくれている。
まだ力が入りそうにないけん、今だけちょっと甘えようかな。
っつか、何でそんなに顔が赤いと?
れいなは顔を上げて、絵里のおでこにそっと手を触れた。
うわっ、すごい熱い!
絵里、風邪引いとるんやなか?
「絵里、熱あると。れいなが送るけん、早く帰った方がええよ!」
「ち、違うよ。なんでもないから!大丈夫大丈夫!」
絵里は必死に首を振って否定する。
だけど・・・やっぱり心配になる。
- 199 名前:友達 投稿日:2006/06/17(土) 12:22
- 強い絵里は、気丈に振舞って元気やと思わせるから。
「でも・・・絵里に倒れてほしくなかよ。」
「・・・エヘヘ。ありがと、れーな。」
絵里は満面の笑みでれいなの頭を撫でる。
これやとどっちが病人だかわからん。
「心配しなくても、すぐに治るよ。だから大丈夫!」
「ん・・・ならよか。」
すぐに治る病気なんてあると?
でも、少ししたら顔が赤いの引いたけん、もう大丈夫そう。
とりあえずお腹すいたけん、れいなはお昼ごはんを作る用意を始めた。
- 200 名前:konkon 投稿日:2006/06/17(土) 12:22
- 更新です
- 201 名前:konkon 投稿日:2006/06/17(土) 12:23
- >>名無し飼育さん
ありがとうです。
今後も楽しめるような小説にしたいと思います。
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/20(火) 15:19
- 更新乙です。これからも、頑張ってください♪
- 203 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/21(水) 12:19
- ちょっとmikiれなが良かった。
- 204 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 21:55
- スパゲッティを茹でながら、ミートソースを作る。
玉ねぎを千切りにして、ひき肉を炒めて、後藤さんから教わりながら
ソースを作ってと・・・。
よくわからんスパイスも入れたけど、本当に美味しいのかな?
後藤さんを信用しとらんわけやなか。
やって、後藤さんに教わった料理ではずれはなかったから。
絵里にはリビングで待っててもらっとる。
テレビでも見ててって言ったけど、この時間に面白そうなのはやってなかね。
早く作らんと暇しとるかもね。
『れいな、それじゃ足らないよ。もう少しスパイス振って。』
『あっ、はい。』
後藤さんと話してる時は、後藤さんもれいな視点で見ることができるみたい。
- 205 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 21:58
- けっこうマイペースな人なのに、何事にも完璧に仕上げようとする。
そこは尊敬できると、れいなはけっこう適当やけんね。
スパイスをパッパと振って、もう一度後藤さんに呼びかける。
『こんなもんでよか?』
『そうだね。あとはじっくりと煮込むと完成だよ。』
『そういえば後藤さん、吉澤さんってどんな人ですか?』
『・・・よっすぃ?どうしてなの?』
『よっすぃ?そう呼ばれてるんですか?美貴ねえと友達になったようで、
さっきまでここにいたんです。』
『そうだったんだ・・・。』
後藤さんはフフッと笑う。
当時はれいなの行ってる学校の生徒だった後藤さん、やっぱ知ってるみたい。
学校の三大美人って自分で言うくらいやと、本当に有名人やったとね。
- 206 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:00
-
『そうだね。よっすぃはしっかり者で、面倒見がよくて、スポーツ万能だったね。
あれでもけっこう純粋で一途なんだよ。』
最初に会った時のことを振り返る。
う〜ん・・・どう考えても後藤さんのいうような人には思えんと。
『・・・全然そうは見えませんでしたけど。ナンパされましたよ。』
『アハッ、それはあの子の挨拶みたいなもんだよ。好きな子ができると
一直線にぶつかって、ふられた時なんかはすごく落ち込んでたんだ。
よく愚痴を聞いたりしたもんだ。あれ、でも今は梨華ちゃんと
付き合ってるんじゃなかったかな?』
『そうみたいですけど、後藤さんと仲がよかったんですか?』
『・・・まぁね。』
『そうなんですか。それじゃ、"ごっちん"って人は知ってます?』
『んあ・・・まぁ、知ってるね〜。』
『その人とも仲良かったんですか?吉澤さんは遠く離れちゃった親友だって
言ってましたけど、その人は・・・。』
『・・・れいな、そろそろスパゲッティ茹で上がるよ。』
おっと、忘れるとこやった。
れいなは慌てて火を消して、スパゲッティをざるに移し変える。
- 207 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:01
- さてと、話しの続きを聞こうかな、って思ってたんやけど、
『れいな、人の詮索はもうしない方がいいよ。』
『えっ?』
『ほらっ、知らない人の過去をれいなが知ってたらおかしいでしょ?
それに、その"ごっちん"って人はもう遠くにいったんだから、
深く知っても意味はないよ。』
『・・・そうですね。すいませんでした。』
『気にすることないよ。他人に興味を持つことは、悪いことじゃないからね。
だけど、これはあたしとれいなの秘密だよ。』
『はい。』
れいなが返事すると後藤さんは、エリリンを待たせたら悪いでしょって、
話しを切って眠りについた。
確かにこれ以上絵里を待たすわけにはいかないし、出来立ての方が
美味しいに決まってる。
れいなはスパゲッティの皿を二つ持ってリビングに入る。
- 208 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:03
- 絵里は真剣にテレビを見ていた。
昼ドラマとかやなくて、普通のニュース。
れいなはまず見ることはない。
「絵里、できたと。」
「わぁっ、ありがとう!」
「熱いうちに早く食べよ。」
「うん!いただきます。」
絵里はスパゲッティをフォークで巻いて、フーフー息を吐いて口に入れた。
絵里の反応が気になってつい絵里を凝視する。
美貴ねえ以外の人に料理を作ったのは初めてやと、けっこう緊張してきた。
ドキドキしながら絵里の表情を窺う。
- 209 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:04
-
「・・・どう?」
「美味しいよ〜!お店よりも美味しいかも。」
「そか。ならよかった。」
絵里は満面の笑みを浮かべてまた一口食べる。
この笑顔が見れただけで、れいなも幸せを感じる。
あっ、これ本当に美味しい・・・。
教えてくれた後藤さんに感謝っちゃね!
「ところで絵里、何でニュースなんか見てると?」
「れーな、忘れたの?明日、時事問題の小テストやるって言ってたじゃん。」
「あっ・・・。」
もう完全に忘れとった。
れいなも一応ニュースを視界に入れる。
- 210 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:06
- こういうの見てると眠くなってくる・・・。
んと、どっかの町で銀行強盗が入った情報・・・怖い世の中やね。
「そういえばさ、れーなはこっちに引っ越してきたんだよね?」
「そうやけど、なん?」
「あのね、三年くらい前にもね、ここの近くの銀行にも強盗が入ったんだって。
それでね、犯人はライフルを持ってて、ある家族の人達が見せしめに
撃たれて、殺されちゃったらしいよ。」
「絵里、そんな怖いこと言わんで・・・。」
「大丈夫!その時は絵里がれーなを守ってあげるから!」
・・・ごめん、絵里、全然頼もしくなかよ。
それに、普通友達と銀行に行くなんてことないやろ。
ずっと笑みを浮かべている絵里を見て、れいなは小さくため息をついた。
- 211 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:07
- 絵里がれいなの部屋を見たいっていうけん、れいなの部屋に移動した。
部屋には、ベッドと机、あとはバイトの勉強のために買ったファッション雑誌が二冊と、
小説が数冊散らばっているだけで、全然女の子らしい部屋じゃない。
絵里は落ちていた一冊の小説を拾って、それをじっと見つめる。
「れーな、小説好きなんだね。」
「まぁね。昔は一人で読みふけってるのが一番好きやったけんね。」
「今は違うの?」
「今は・・・違うかな。絵里達と遊んだり話したりしてる方が楽しいと。」
これは決して間違いやない。
たまには一人になって読みたいなって思うときもあるけど、学校では
絵里やさゆと、家では美貴ねえや後藤さんと話したりする方が多い。
- 212 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:09
- 誰とでも仲良くなれる、そんなことを特技にしてたこともあったとね・・・。
けど、少しづつ昔の自分を取り戻してる自覚がある。
まだまだ時間が必要やけん、これからっちゃよ。
あれっ、絵里がかばんからノートを取り出して・・・、
「えと、亀井さん、何をしようとしてるんでしょうか・・・?」
「何って、勉強だよ。テストは明日なんだし、がんばろ〜!」
「・・・やりたくなか。」
「ほらほらっ、早く終わらせればいっぱいお話しできるよ。それとも、いや?」
「べ、別にいやとは言っとらんと。まぁ、がんばるか。」
絵里、頼むから泣きそうな顔で言わんでよ。
れいなも潔く勉強道具を出した。
正直なところ、絵里が誘ってくれてよかったと思う。
当日に時事問題のテストがあるって気付いても、全く勉強のやりようがない。
絵里はノートにびっしりと最近のニュースの事柄を書いている。
それらを絵里と話しながら、勉強に集中した。
- 213 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:10
- 勉強の休憩に絵里と話して、また勉強してと、なんか充実した気分。
夜になって、絵里が帰る準備を始める。
友達を見送るのって、情けないことにすっごく懐かしく感じて、
寂しさが漂う。
絵里が靴を履き終えてれいなを振り向く。
「れーな、お昼ご馳走様でした。とっても美味しかったよ。」
「そか。そう言ってもらえると嬉しいと。」
「あ、あのさ、れーな・・・。」
「なん?」
「また、遊びにきてもいいかな?」
「・・・バイトがない日なら、いつでもきてよかよ。」
「本当に?ありがとう!れーな、今日は楽しかったよ。バイバ〜イ!」
絵里は手を振って出て行った。
- 214 名前:友達 投稿日:2006/06/23(金) 22:11
- 絵里、お礼を言いたいのはこっちやと。
絵里のおかげで、最近はすごく充実してるって思える。
学校でも、バイト場に顔を出してくれる時にも、絵里の笑顔がれいなの力になる。
何か不思議な子やね。
さてと、少し勉強の復習したら、お風呂入って寝ようかな。
勉強したのに遅刻したらシャレにならんとね。
絵里、おやすみ。
- 215 名前:konkon 投稿日:2006/06/23(金) 22:11
- 更新しました〜。
- 216 名前:konkon 投稿日:2006/06/23(金) 22:13
- >>202:名無飼育さん
ありがとうです。
マイペースにですけど徐々に更新していきます。
>>203:名無飼育さん
また書けたらいいな〜って思います。
っつか書くと思いますw
- 217 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:22
- ある日の放課後、れいなはバイトしていた。
生徒会の人や、他のバイト達とも名前で呼び合えるくらい仲良くなれた。
最近では、お客さんの話しを聞いて相談に乗ったり、雑談を聞いたりくらいならできる。
れいなができるのはそこまで、まだとてもやないけど服を選んだりしてあげることまではできんと。
大体の話しを聞いて、それを愛ちゃんやマコっちゃんに話して、どんな服がいいのか選んでもらう。
れいなもやってみたいとは思うけど、ちょっと自信がね・・・入ったばかりのれいなが選んだらまずいやろ。
今日はレジに愛ちゃん、マコっちゃんがお客さんの相手してて、れいなは服の整理してる。
平日なだけあって、あまりお客さんはいない。
楽っちゃ楽やけど、それはそれでつまらん。
マコっちゃんの相手してたお客さんが買い物して帰ると、れいな達以外にいなくなった。
ん〜、暇やと・・・お客さんの話しを聞くのもけっこう楽しいんやけどな〜。
- 218 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:22
- 愛ちゃんとマコっちゃんは何か話してる。
一通り服は並び終えたし、れいなも話しに混ざろうかな。
そう思った時やった。
ムニッ
「ヒャァッ!」
いきなり後ろからお尻を揉まれた。
れいなが身を引いて振り向くと、そこには見覚えのある人がにやけて立っていた。
美貴ねえの友達であり、れいなに会うなりナンパしてきた吉澤さんやった。
その後ろにもう一人いたけど、今はそれどころやない。
「吉澤さん!何すると!?」
「れいな、体は細いのにいいお尻してるね〜。安産型かな。」
ぐ〜、殴りたい。
そう思って平手で叩こうとしたら、簡単に掴まれた。
- 219 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:23
-
「やめとけって。こう見えても昔は道場に通ってたから、けっこう強いよ。」
「わかりました。今のことは全部美貴ねえに伝えておきます。」
「うそっ!?ちょっと、それだけは勘弁して!殺されちゃうよ〜。」
「でしょうね。」
「れいな、悪かったって!許してよ〜。」
「それじゃ、一つだけれいなのお願い聞いてもらえませんか?」
前々からやりたいと思ってたことがある。
さっきの吉澤さんの話しを聞いて、ちょうどいいと思った。
それを話すと、吉澤さんは感心したように頷いた。
「別にいいよ。フットサルがあるから長い時間はできないけど、
それでもいい?」
「はい。よろしくお願いします。ところで、後ろの人は・・・?」
「ああ。お〜い、こっちにきなよ。」
服を見ていたその人は、ピョコピョコと吉澤さんの隣まで近寄っていく。
- 220 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:27
- 端整な顔つきに、れいなより身長が高くて、大人っぽい表情。
吉澤さんに負けず劣らずに綺麗な人やね。
この人が石川さんって人かな?
「吉澤さんの彼女ですか?」
「違うよ。小春。」
「はい。久住小春っていいます。中学二年生で〜す!」
「ハァ、ついに中学生にまで手を出しちゃったんですか。しかも彼女いるのに。
もう犯罪ですね。存在自体が。」
「・・・れいな、言いすぎ。小春は私の親戚だよ。」
「そうなんですか・・・ん?・・・中学生!?」
「反応遅いな!」
嘘やろ・・・れいなより全然大人に見えると。
最近の子は成長が早いっちゃね。
かなり落ち込むわ・・・。
- 221 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:28
-
「吉澤さ〜ん!きてくれたんですね!」
「おう。麻琴、元気そうだね。」
マコっちゃんが駆け寄ってきて、吉澤さんに飛びついて、それを華麗に避ける。
ビタン!と地面に倒れたマコっちゃん。
ごめん、予想通りやったわ。
後ろから愛ちゃんが笑いながら近寄ってきた。
「吉澤さん・・・避けるなんてあんまりです〜。」
「アハハッ、麻琴、大丈夫か〜?よしざーさん、お久しぶりです。」
「お〜う、愛ちゃんじゃないか。綺麗になったね。」
「もう大人になりますからね。もっと綺麗になりますよ。」
「そっか。ねぇ、今度暇な時にでもデートして・・・。」
「レジが空いちゃったらまずいんで、あーしは戻りますね。」
愛ちゃんは早々にその場から離れていった。
たぶん、この人が高校にいる時から色々と言われてたんやろね。
ずいぶんと慣れてるみたいであっさりとかわしたと。
- 222 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:29
- 吉澤さんは小さくため息をついて、苦笑いを浮かべた。
「あ〜あ、断られちゃった。仕方ないから麻琴、新作見せてくれ。」
「仕方ないって何ですか〜!」
「それと、れいな。」
「はい?」
「小春の服、コーディネイトしてやってくれないかな?」
「はい・・・って、れいながですか!?」
「んじゃ、よろしくね〜。」
そう言って、吉澤さんと小川さんは離れていった。
えっ、ちょっと待って。
れいながこの子の服を選ぶの・・・?
ふと視線を向けると目が合った。
小春ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
- 223 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:29
-
「よろしくお願いします!」
「あっ、うん、えっと・・・ちょっと待ってて。」
れいなは駆け足で愛ちゃんのとこまで走る。
やってみたいと思っても、まだれいなには無理やって。
そう思って愛ちゃんに話したんやけど、
「面白そうやん。れいながやってみればええやろ?」
「お、面白そうって、無理ですよ。やって・・・。」
「何?」
「れいな、まだ入ったばっかやと。あの子に合う服わかりませんよ。」
「ねぇ、れいな。ここに入る前、絵里に何て言っとった?」
「えっ・・・?」
ここに入る前、絵里に・・・?
絵里にはここでバイトするって言って、やれるだけやってみるって言って、
それで・・・思い出した。
愛ちゃんは笑顔で頷く。
- 224 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:30
-
「無理かどうかは、やってみなきゃわからんのやろ?ならやってみればええ。
だめやったらそん時はそん時、あーし達で責任とるよ。一人やと思わんで。」
「・・・はい!」
れいなは大きく頷いて小春ちゃんに近寄っていく。
そうやった、自分で言ってたことやったね。
れいなが選んだ服を、小春ちゃんが気に入ってくれればそれは嬉しいことやし、
だめやったらまた探せばいいっちゃよ。
こんなことじゃ絵里に笑われる。
「小春ちゃん、どんな服がよかね?」
「えっと〜、これから暑くなってくるんで涼しい格好がいいですね。」
「そうやね。なら・・・あれがいいかな。」
れいなはさっき綺麗に整理した服を一枚一枚確認していく。
確か夏用の最新作がこの中にあったはず。
- 225 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:31
- んと、これだ。
れいなが取り出したのは、白のワンピース。
胸の真ん中ら辺に花の刺繍がしてあって、これはれいなも着てみたいと思った。
ハンガーを取り出して小春ちゃんに見せる。
緊張の一瞬、彼女はどんな反応をするのかな?
「小春ちゃん、これなんかはいいと思うけど、どうかな?」
「わ〜、可愛いですね。着てみてもいいですか〜?」
「もちろん。じゃあ、ついてきて。」
試着室に小春ちゃんを連れて、中で着替えてもらう。
小春ちゃんはスタイルいいし、肌が白いけんよく似合うと思う。
それと、忘れちゃいけないのがあった。
さっき見つけた白い帽子、これはきっとあのワンピースにピッタシやと思うけど・・・。
カーテンが開いて、着替えた小春ちゃんが出てきた。
- 226 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:32
-
「どうですか?似合います?」
「・・・うん。よく、似合ってるっちゃよ。」
予想以上に可愛くて、つい見惚れてしまった。
小春ちゃんにこの帽子を被ってもらって、これで完璧やね!
後ろから吉澤さん達の声が聞こえてきて振り向いた。
吉澤さんも涼しげでカジュアルな格好してて、かなり決まってる。
美人って言うよりカッコよすぎやと。
「うぉっ!小春、すげぇ可愛いじゃん!」
「エヘッ♪田中さんが選んでくれたんです。」
「マジ可愛いって。れいな、よくやったぞ。麻琴、このまま買っていくから。」
「はいは〜い。」
フーッ、とにかく一段落ついてよかったと。
ちょっとした満足感が溢れてきた。
- 227 名前:自分を信じて 投稿日:2006/06/30(金) 22:33
- 小春ちゃんの笑顔を見て、何だかこっちも嬉しくなってくる。
そんな時、ポンッと肩を叩かれた。
「れいな、お疲れ様。」
「マコっちゃん・・・ありがとうございます。」
「これからも少しづつでいいからさ、がんばってね。」
「はい!」
マコっちゃんはいつも通り朗らかに笑って、吉澤さん達の服を直し始める。
れいなやって、自分を信じてやればできるもんやね。
愛ちゃんやマコっちゃんを見て、もっと勉強しよう。
買ってくれるお客さんに笑ってもらえるように、もっとがんばっていこう。
っと、仕事中にぼーっとしてるわけにはいかんとね。
床の掃除もしなきゃいけない。
それでも、れいなは頬を緩ませて床を磨き始めた。
- 228 名前:konkon 投稿日:2006/06/30(金) 22:33
- 更新です
- 229 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:11
- あれから数日後、今日もれいなはバイト中。
午前中で学校が終わったけん、今日は昼から夕方まで。
以前と違うとこは、少しだけど自分から積極的にお客さんに話せるようになったこと。
お客さんが悩んでたら、れいなから話してみて、どんな感じの服がいいのか聞いてあげる。
れいなが選んだのがよければそれを買っていってくれるし、無理そうなら
愛ちゃんやマコっちゃんに相談してみる。
また一人、服を取っては返して、それを何度か繰り返しているお客さんがいる。
すぐに対応するんやなくて、どうしてもわからなそうならば聞きにいくことにしてる。
悩む前から話されてもうざいだけやけんね。
さてと、そろそろ話してみよっかな。
「お客様、どのような服をお探しですか?」
「ええ、そろそろ梅雨だからね。薄着を探してるの。」
最近暑いやらじめじめするやら、色んなことを話してくれる。
れいなも笑顔で話しを聞く。
- 230 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:11
- お客さんと日常会話するのも楽しくなってきた。
それと同時に、お客さんを観察してどの服が似合うか、頭の中で整理する。
「でしたら、このような服はどうでしょうか?」
「そうね・・・着てみてもいいかしら?」
「ええ。では、こちらへどうぞ。」
試着室に案内して、服を着てもらう。
しばらくして、着替えたお客さんが出てきた。
あっ、やっぱり似合ってるっちゃね。
お客さんも満更ではなさそう。
「いかがでしょうか?」
「うん、けっこういいと思うわ。これ、もらっていきます。」
「ありがとうございます。」
お客さんは嬉しそうに店を出て行く。
あの笑顔を見れるだけでがんばれる。
- 231 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:12
- さっきもマコっちゃんに、この仕事合ってるんじゃない?って言われて、
すごく嬉しくなった。
もしかしてれいな、本当にこの仕事ピッタシなんやなかね?
何がいいのかわからんくて、服を選べないような時もあるけど、それはまた勉強になる。
まぁ、中には例外もいるけどね。
・・・その例外が店に入ってきた。
すごい笑顔でこっちに向かってくる。
「田中ちゃん、ヤッホー。」
「松浦さん・・・きちゃいましたね。」
「え〜。田中ちゃん、ひどいよ〜。」
れいなに近寄ってきたのは松浦亜弥さん。
愛ちゃんと同じクラスで、けっこう前からの親友らしい。
- 232 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:14
- たまに生徒会に遊びにきたり、このお店にもちょくちょくきたりする。
まだそんなに話したことはないけど、すごく可愛いしいつも笑顔で明るくて、
学校でもかなりの人気者やと。
やけど、松浦さんはれいなの、いや、この店の天敵やった。
愛ちゃんに会いにここにくる、それだけならまだいい。
松浦さんは、愛ちゃんが出てくるまで暇な時間に、可愛い服を選んでは試着して、
買わずにまた選んではそれを試着して、その繰り返しのあげくの果てに、
結局買わないで帰ることが多い。
松浦さんは服のセンスがものすごくよくて、たまにれいなも感心するような
組み合わせや、奇抜で目立つ格好をすることもある。
最近の服の流行にも敏感やし、時代に決して乗り遅れないようにようこの店に覗きにくる。
それにはさすがの愛ちゃんも困っとるようで、試着にしょっちゅう付き合わされるのは
一番年下のれいなやと。
本人は邪魔してるつもりはないらしいが、れいなもちょっと勘弁してほしい。
そんなこと本人の前では言えんけどね。
口に出したらどうなるかわからんもん。
- 233 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:14
-
「お客様、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「もう、どうした〜?田中ちゃん愛想悪いぞ〜。」
「ありがとうございます。」
「いや、褒めてないから。愛ちゃんいる?」
「愛ちゃんなら、今日は裏方に周ってます。店には出てきませんよ。」
「そうなんだ〜。宿題教えてもらおうと思ったのに。じゃあ、また適当に試着して、
時間潰そうかな〜。田中ちゃん、付き合ってくれる?」
「丁重にお断りします。」
「田中ちゃんのケチ。それじゃ、愛ちゃんに隣のカフェで待ってるって伝えてくれるかな?」
「メールすればええんやないですか?」
「愛ちゃんはね、携帯見ないで帰っちゃう子なんだよ。よろしくね〜。」
それだけ言って、松浦さんは店を出て行った。
れいなは伝言板やなかよ・・・。
さて、れいな達のバイトはあと少し、もう一頑張りするっちゃね。
- 234 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:15
- れいなが床の掃除をしていた時、一人のお客さんが目に入った。
れいなと同じ学校の制服を着てる、リボンの色から一個年上みたいやね。
顔はちょっとふくよかな感じで、スタイルはスラッとした可愛い人。
その人は、壁に掛かってるジャケットを、じっと見つめているだけやった。
それも、すごく寂しそうな目をして、その場から動こうとしない。
何か気になって見ていると・・・な、何かあったと?
その人の目が潤んできて、涙が零れてきた。
えっと、どうしたらよか?
こういうとき、どうすればええっちゃろ・・・。
そうやと、確かハンカチ持っとったけん、貸してあげよっかな。
れいなは恐る恐るその人に近寄っていく。
「あ、あの、これ使います?」
「えっ・・・あっ、ごめんなさい。大丈夫です。」
その人は指で涙を拭って、れいなに笑顔を向けた。
- 235 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:16
- 何か重い空気が流れてくる。
どう声かけたらいいのかわからんし、どうしたらよか・・・。
「あ〜!あさ美ちゃん、きとったんか?」
後ろから帰る準備を終えた愛ちゃんが出てきた。
もうそんな時間やったんやね。
愛ちゃんの知り合いなんかな?
「あさ美ちゃん、どうしたんや!?れいなに泣かされたんか?れいな、
うちの次期生徒会長を泣かせたらただじゃ済まんで!」
「愛ちゃん、そんなことしませんから。それより、次期生徒会長って・・・。」
「ああ、れいなは初めてやったな。あさ美ちゃん、この子はあーしの
後輩の田中れいな。仲良くしてやってな。」
「あなたが田中れいなちゃんですね。噂はよく聞いてます。」
「ど、どんな噂ですか・・・?」
「何でも、生徒会に興味がある生徒を見つけたと愛ちゃんが・・・。」
誰も興味あるなんて言っとらんし・・・。
れいなは軽く愛ちゃんを睨みつけると、愛ちゃんは舌をペロッと出して笑みを浮かべる。
年下の紺野さんの方が全然大人に見えると。
- 236 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:17
-
「別にええやろ〜。れいなが入ってくれたら楽しくなりそうやしさ。」
「愛ちゃん、強制するのはいけませんよ。あっ、申し遅れました。
副生徒会長の紺野あさ美です。よろしくお願いします。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
れいなが頭を下げると、紺野さんも深く頭を下げてきた。
ずいぶんと礼儀正しい人っちゃね。
れいなに対しても敬語やし、これが紺野さんの話し方なのかな?
紺野さんは愛ちゃんと少し談笑したあと、帰っていった。
どうやら、塾の帰りに顔を見せただけみたい。
「さてと、あーしも帰るかな。」
「あっ、そういえば松浦さんが隣のカフェで待ってるそうです。」
「ほうか、わかった。れいな、お疲れさま〜。」
「お疲れさまでした。」
引継ぎのバイトの人達も入ってきたし、れいなも帰ろうっと。
ん、そういえばこのジャケット、どっかで見たことあるような・・・。
でも、どうして紺野さんはこのジャケットを見て泣いてたんやろ?
ここで考えてても仕方ないけん、れいなは家に帰ることにした。
- 237 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:18
- 次の日の昼休み、絵里達の誘いを断って、れいなは屋上でご飯を食べることにしていた。
後藤さんとは毎日話してるけど、たまには顔を合わせんとね。
あの人、けっこう寂しがり屋やし、たまには面と向かって話すことも大事やと。
梯子を上って貯水タンクまで上がる。
そこでは、後藤さんは肩膝を立てて座ってて、空を見ているとこやった。
傍から見ると、本当に綺麗な人やな・・・。
「後藤さん、こんにちわ。」
「ん、れいな・・・きてくれたんだね。」
後藤さんは嬉しそうに頬を緩ませる。
れいなは後藤さんの隣に座って、同じように空を眺める。
- 238 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:18
-
「後藤さん。何を見てたとです?」
「ん〜、雲の流れを見てたんだ。」
「それって、楽しいですか?」
「他にすることないからね。たぶん、もう少ししたら雨が降るから、
早めに戻った方がいいよ。」
「えっ?やって、こんなに晴れてるんですよ?」
今日の天気は快晴で、降水確立も10%に満たないとか天気予報で言ってた。
本当に雨が降るとね?
けど、後藤さんの言葉には、どこか重みがある。
この人が言うんやから、本当に雨が降るんやろね。
それより、昨日からずっと気になってたことがある。
れいなは後藤さん、というより後藤さんの服をじっと見つめる。
- 239 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:19
-
「やっぱりそうやとね。」
「ん?何がやっぱりなの?」
「あのですね、れいなのバイト場に、後藤さんの着てるジャケットと
同じやつが売ってるんです。それで、昨日きたお客さんがそれを
じっと見てたあと、泣いちゃったんですよね。紺野あさ美さんって
人なんですけど・・・。」
「・・・紺野?」
後藤さんの表情が徐々に変わっていく。
苦虫を噛み潰したように、苦しそうに顔を歪めて、体を震わせた。
一体、どうしたと・・・?
れいなはただ、見ていることしかできない。
- 240 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:20
-
「紺野の、バカ・・・。」
「あの、紺野さんのこと、知ってるんですか?」
「・・・この学校の生徒なら、大体は知ってるよ。」
後藤さんは一度目を閉じると、いつもの笑みを浮かべてそう答えた。
明らかに無理をしているのはわかる。
「紺野はね、すごくいい子だよ。まじめで、優しくて、何に対しても一生懸命な子なんだ。
色々と世話を焼いて、高橋達を助けてたね。いや、現在進行形かな。」
フフッと笑って、紺野さんの話しを続ける。
きっと、過去に何かあったんやと思う。
以前にガキさんが口走ったことと、関係があるのかもしれない。
- 241 名前:自分を信じて 投稿日:2006/07/15(土) 21:21
- でも、そこに立ち入って聞き出すほどれいなも子供やないし、
聞き入れられるほど大人でもない。
もし、れいながもっと大人になったら、後藤さんも話してくれるのかな?
もっと、強くならんとね・・・。
後藤さんの言ってた通り、少しづつ雲行きが怪しくなってきた。
れいなは言葉少なに後藤さんと別れて、教室に戻っていった。
教室に戻ると、絵里が話しかけてくれたんやけど、さっきの話しが気になって
内容は全然覚えてない。
授業が始まっても、れいなは窓の外を見てぼーっとしていた。
徐々に雨が降り出して大降りとなる。
その雨はまるで、誰かが悲しくて泣いているように見えた。
- 242 名前:konkon 投稿日:2006/07/15(土) 21:21
- 更新です
- 243 名前:konkon 投稿日:2006/07/15(土) 21:27
- あと少しでもう片方の小説が終わるので、
スピードを上げていきたいと思います。
- 244 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/25(火) 23:57
- はいはいはい、亀井絵里で〜す。
今回だけは、絵里視点でいかせてもらいます。
六月も中旬に入った土曜日、この日はれーなの家に遊びに行くの。
最近は雨降ってばっかでどこにも行けなかったんだけど、今日は気持ちいいくらい晴れてる。
れーなと約束したわけじゃなくって、昨日れーながさゆと話してて、
「明日は久しぶりに晴れるみたいなの。れいなはどこか行ったりしないの?」
「ん〜、家でのんびり過ごすんじゃなかね。」
別にストーカーなわけじゃないですよ!
れーなが隣の席だから聞こえちゃったの。
それにしても、こ〜んなにいいお天気なのに、おうちでゴロゴロなんてもったいない。
れーなと遊びに行きたいな〜。
- 245 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/25(火) 23:58
- エヘヘ、れーな、突然お邪魔したら何て言うかな?
文句言うことはないと思うけど、おうちでお話ししようって言うかも。
それでもいいかな、れーなといっぱいお話ししたいもん。
もう楽しみで仕方ないの。
できるだけおめかしをして、いざれーなの家にしゅっぱーつ!
ちょっとだけ迷いながら、無事にれーなのマンションに到着しました〜。
いつ見てもすごいな〜って感心しちゃうマンションだよね。
エレベーターで上って、れーなの家の前に着く。
軽く深呼吸して・・・よし!
ピンポーン
何か胸がドキドキしてきた。
緊張しながら待ってると、
『はい。どちら様ですか?』
インターフォンから藤本さんの声が聞こえてきた。
- 246 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/25(火) 23:59
- 絵里はインターフォンにそっと顔を近づける。
「あのぉ、亀井です。れーなの友達の・・・覚えてますか?」
「ああ、亀ちゃんね。ちょっと待って。」
よかった、覚えててくれたみたい。
少ししてから、ドアが開いて藤本さんが顔を出した。
うわっ、髪型すご・・・寝癖が立ってる。
「えと、れーな、起きてますか?」
「れいなはいないよ。約束でもしてたの?」
「いえ、してないんですけど・・・どこかに出かけられたんですか?」
「ん、出かけたっていうか・・・そろそろ時間かな。んじゃ、
中でちょっと待ってて。」
藤本さんがドアを開けて中に入れてくれた。
リビングで適当に寛いでてって言うから、絵里はソファに座って待つことにした。
- 247 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/25(火) 23:59
- 藤本さんは洗面所に入って身支度をしてるみたい。
5分くらいして、寝癖を直した藤本さんが出てきた。
藤本さんって、よく見るとすごい美人さんなんだ・・・。
少し目つきは怖いけど、スタイルいいし、はにかんだ顔は可愛いし・・・。
絵里も藤本さんみたいになれるかな〜?
「何?美貴の顔に何かついてる?」
「い、いえいえ!何でもないです。」
「そう。それじゃ、行こうか。」
「えっ?どこにですか?」
「どこって、れいなを迎えにだよ。あの子に用事があるんでしょ?」
藤本さんが玄関に向かって歩いていくから、絵里も慌ててついていく。
- 248 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:00
- 家を出て、二人でエレベーターに乗る。
シーンとした、微妙な空気が流れてるね・・・。
何かお話ししてみよっかな。
れーなのことも知ることができるかもしれないしね。
「あ、あの、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「何?」
「藤本さんとれーな、どうして二人だけで住んでるんですか?」
「ん〜、愛し合う二人が同棲することに、問題でもあるの?」
「えっ・・・。」
全てが崩れ落ちたような気がした。
れーなと、付き合ってたんだ・・・。
- 249 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:00
- やだっ、涙が出そうになってきた・・・。
れーなの幸せを想うなら、藤本さんの方がいいに決まってるよね。
でも、でも・・・。
「亀ちゃん、冗談だから。本気にしないの。」
「でも・・・えっ、冗談、ですか?」
「前にも言ったでしょ。れいなとは幼馴染なんだよ。美貴は一人暮らしを
するつもりだったんだけど、あの子はちょっと訳あって家を出ててね。
どうせだから、一緒に住まないかってことにしたんだよ。」
「そう、だったんですか・・・。」
「深いことは美貴からは言えない。でもさ、もしかしたら、れいなから亀ちゃんに
直接話す日がくるかもしれない。だから、それまで待ってあげて。」
藤本さんは優しい笑みを浮かべてそう答えた。
何があったかは絵里にはわからない。
けど、れーなのためなら、絵里もがんばれる。
絵里は小さくだけど首を頷けた。
- 250 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:01
- 一階に着くと藤本さんは外に出て、少し歩いたところで立ち止まった。
ここは、スポーツジム・・・?
藤本さんは受付の人といくつか話しをして中に入る。
えっと、絵里も入っていいのかな・・・?
絵里が戸惑ってると、藤本さんは手招きをして呼んだから小走りに絵里も入った。
中にはいくつもの部屋があって、そこでは数人の人が走ってたり、
ウエイトトレーニングとかやってる。
途中、藤本さんは自動販売機でジュースを二本買った。
絵里にくれるのかな〜って思ったら、そのまま奥へと進んでいく。
さらに歩いて、藤本さんはある部屋の前で立ち止まった。
- 251 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:02
- 絵里も中を覗こうとしたら、
ダンッ!
何かが叩きつけられる音が響いて、小さく悲鳴を上げちゃった。
何やってるとこなの・・・?
絵里はそーっと中を覗いた。
そこには、小さく息を整えている吉澤さんと、れいなが畳の上に倒れていた。
二人とも柔道着を着てる。
「どうしたよ?れいな、もう終わりか?」
「いつっ、まだまだ、っちゃよ・・・。」
れいなは背中を摩りながら立ち上がった。
- 252 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:03
- 目は涙ぐんでて、顔は真っ赤に染まってる。
それでも吉澤さんに手を伸ばして頑張ってる。
吉澤さんはれーなの手を取って、上手く引っ張ると同時に足を引っ掛けて、
また地面に叩きつける。
うわっ、痛そう・・・。
れーな、何をやってるの・・・?
藤本さんは、その場から動かずに二人を見てる。
れーなに対して極度の心配性だって聞いたけど、藤本さんは真剣な表情で、
今はただじっと見つめてる。
「れいなはね、一度逃げたんだってさ。」
「えっ?」
藤本さんは、二人から視線を外さずに呟いた。
- 253 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:04
-
「守りたかったのに、力がないからって自分に言い訳して、逃げたんだって。
そんな自分が嫌になったんだってさ。二度と逃げ出さない、次はしっかりと
守れるように、よっちゃんに稽古をつけてもらってんだ。」
「れーな・・・。」
「ぶん殴るだけだったら美貴が教えてよかったんだけど、倒したいんじゃなくて、
守りたいんだって。少し捻くれてるところもあるけど、バカがつくくらい素直で、
とっても優しい子なんだ。可愛いやつでしょ?」
「はい。それはよく知ってます。」
正直に言えないで曲がった言い方するから、友達によく思われてない時もある。
だけど、本当は言葉の中にも優しさが含まれてることも、絵里は知ってるよ。
誰よりも真っ直ぐで、頑張りやさんで、負けず嫌いで、すっごく優しいの。
強い想いを持つれーな。
そんなれーなだから、絵里は・・・。
- 254 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:04
-
「この!負けんと!」
「うぉっ!危ない危ない。でも、まだまだ甘いな!」
「どわっ!」
ズダンッ!
あ〜、れーなが吉澤さんに投げられた。
あとほんのちょっとだけだったんだけどな〜。
れーなは何度も息を吐き出して天井を見上げてる。
「ハァッ、ハァッ、少しは、手加減してくださいよ・・・。」
「バ〜カ。十分手加減してるよ。お迎えもきたことだし、終わりにするか。」
「んえ?もうそんな時間ですか?」
れーなはよろよろと起き上がってこっちを向いた。
- 255 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:05
- その瞬間、れーなは口を開けて驚いた。
アハハッ、今の顔可愛いな〜。
ドタドタと走ってきて、絵里達の前で止まる。
「ど、どうして絵里がここにいると!?」
「れいなと遊びたいんだってさ。ほらっ、お疲れ〜。」
「むぐぅ・・・美貴ねえのバカ・・・。」
藤本さんからジュースを受け取って、れいなはチビチビと飲み始めた。
ってあれ、何でそんな泣きそうな顔で絵里を見つめてくるの?
- 256 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:05
- そ、そんな見つめちゃだめだよ〜。
絵里は赤くなった顔を見られないように顔を反らした。
「絵里、今日のことは誰にも言っちゃだめやと。」
「どうして〜?」
「やって、吉澤さんにボロボロにされてるれいな、見られたくなかよ。」
「ん〜わかった。」
「絶対っちゃよ!約束やけんね、ほらっ、指きり。」
れーなは絵里の手を取って、自分の小指と絡め合わせた。
恥ずかしくって顔がにやけちゃうよ〜・・・。
絵里の想いに気付かないこの子は、指をしきりに振ってる。
その間に吉澤さんが汗を拭いながら寄ってきた。
- 257 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:06
-
「な〜にしてんだよ。そんな子供みたいなことしちゃって。」
「別にええやないですか。」
「よっちゃん、お疲れ。れいなはどんな感じ?」
「おっ、サンキュ。なかなか筋がいいんじゃないかな。根性もあるし、
鍛えがいがあるよ。」
藤本さんからジュースを受け取った吉澤さんは、ニッと笑みを浮かべてそう言った。
あんまりれーなのこといじめないでくださいね。
「絵里、お昼はもう食べた?」
「ううん、れーなと食べたいな〜って思ってまだだよ。」
「そか。なら、みんなで食べよう。れいなが腕を振るって料理するっちゃよ!
吉澤さんも食べてってくださいよ。」
「おっ、いいのか?嬉しいね〜。」
「よっちゃん、きっと驚くよ。れいなの料理、マジで上手いから。」
「本当かよ?期待してるぜ。」
「任せてください!」
れーなは元気に胸を張って答える。
- 258 名前:いつかきっと 投稿日:2006/07/26(水) 00:09
- れーなの料理、楽しみだな〜。
色々なことに挑戦して、一生懸命なれーな、大好きだよ。
いつかは伝えられるかな?
今はこのままでも、いつかきっと・・・。
「絵里、何してると?早く行くよ。」
「あっ!待ってよ〜。」
絵里がぼーっとしている内に、三人はもうジムの玄関で待っていた。
ご飯食べたあと、れーなとどこに行こっかな〜?
れーなによくキショイって言われてる、いやいや本当はね、
可愛い可愛い笑みを浮かべて、三人に駆け寄った。
れーなの新しい一面を見れた今日、どんな日になるのか楽しみだな〜。
- 259 名前:konkon 投稿日:2006/07/26(水) 00:56
- 更新です
- 260 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/01(火) 09:31
- 更新乙です。これからの展開に期待してます。
- 261 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 11:58
- 絵里が遊びにきてくれた土曜日、お昼を食べたあとに遊びに行くつもりやったんやけど、
マコっちゃんから電話があって、バイトが熱を出してこれないって言うけん、
れいなが入ることになった。
絵里は寂しそうな顔をしてたけど、明日遊ぼうって行ったら頷いてくれた。
この子はものわかりがよくていい子やね。
そんなわけで日曜日、今日はこれから絵里と遊びに行く。
今日も晴れてよかったと。
遊びに行くって言っても、どこかって決まってるわけやない。
ただ適当に町の中をフラフラとするだけ。
それでも、けっこうウキウキするもんやね。
本当はさゆも誘ったのに、用事があるから二人で楽しみなよって断られた。
- 262 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:01
- 部屋を出る前に後藤さんと話そうと思ったけど、
あまり時間がないけん夜にしよう。
あれから、後藤さんとは何度か話しをした。
後藤さんは何事もなかったように明るい口調で、
れいなの話し相手になってくれている。
やけん、れいなも紺野さんについては触れないことにした。
いつになるかわからんけど、後藤さんから話してくれるときが必ずくるって信じてる。
何でか知らんけどそんな気がする。
その時までに、れいなももうちょっとだけ、大人になっておきたいな。
さてと、この間買った新しい服を着て、れいなは部屋を出た。
リビングでは、れいなが作った朝ごはんを食べてる美貴ねえがいた。
休みの日は昼まで寝てる美貴ねえにしては、かなり珍しい光景。
ちなみにれいなはとっくに食べ終えました。
- 263 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:02
-
「美貴ねえ、絵里と遊びに行ってくると。」
「そっか。遅くなるようならメールするんだよ。」
「は〜い。行ってきます。」
れいなは元気に返事をして家を出て行った。
絵里との待ち合わせ場所は、絵里の家と大体中間地点にある公園。
約束の時間の五分前、絵里はすでに公園のベンチに座って待っていた。
「絵里、お待たせ。」
「れーな・・・エヘヘ。」
「ん、どうしたと?」
「ん〜何でもな〜い。」
絵里は嬉しそうに立ち上がる。
今日の絵里は、薄めのブラウスに膝まであるスカートで、どっちも水色で染めている。
- 264 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:04
- こうして見ると、ちょっとドキッとする。
絵里って、やっぱ可愛いわ。
「れーな、どこに行こっか?」
「えっ、あっ、絵里はどこに行きたい?」
「れーなが決めていいよ。」
「そか。んじゃ、カラオケでも行かん?久々に歌いたい。」
「いいよ〜!」
絵里と一緒にカラオケに行く。
けっこう久しぶりでウキウキする。
前に行ったのは、学校始まる前に美貴ねえと二人で行ったっけ。
友達とくるのは・・・ずいぶんと昔になるんやね。
よ〜し、思いっきり歌うと!
「泣いて済むなら泣きやがれ〜全ての恋はシャボン玉〜♪」
緊張を隠すために、最初っから全力でれいなの十八番を歌い終える。
- 265 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:04
- こう見えても、歌は得意な方なんやと。
絵里は笑ってパチパチと拍手してくれる。
「れーな、歌上手なんだね〜。」
「そんなことなかよ。次は絵里の番やと。」
「うん!亀井絵里、いきま〜す!」
絵里も元気いっぱいに歌い始める。
何か、すごく楽しい・・・れいな、もったいない人生送っとったな〜。
友達がいなかったらまた作ればよかったのに、本当にバカやね・・・。
れいながぼーっとしているうちに、絵里の歌が終わったみたい。
- 266 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:06
-
「れーなれーな、どうだった〜?」
「うん。可愛く歌えてたと思うよ。」
「そんな、可愛くて惚れちゃいそうなんて、褒めすぎだよ〜。」
誰もそこまで言っとらんと。
このような展開にも慣れてきた。
それだけ絵里達と一緒にいるってことやね。
そう、昔のことをほじくり返したって仕方ない。
れいなが生きているのは今なんや。
次の曲が流れてきたけん、れいなは立ち上がって歌い始めた。
- 267 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:07
- それからも数曲歌い終わって、カラオケから出る。
次はどこに行こうかな〜。
って思ってったんやけど、絵里がじっとこっちを見てきた。
「絵里、なん?」
「ん、れーなの服、かっこいいな〜って思って。」
「ありがと。絵里の服も可愛いと。」
「うへへへへ〜。でもねでもね、もっと可愛い服を探してるんだけどね、
なかなか見つからないの。」
「ふ〜ん。ならさ、絵里に似合う服でも探しにいこっか。」
「えっ?いいよ、れーな無理しなくても・・・。」
「無理なんかしとらんよ。ほらっ、いこうよ。」
「・・・うん。」
れいな達が向かった先は、お馴染みのマコっちゃんのいる店やった。
ここなられいなもバイトしとるけん、どんな服があるのか大体覚えてる。
- 268 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:08
- 絵里に似合う服を頭の中にインプット・・・よし、これかな。
れいなはこれだと思う服を手に取って絵里に持っていく。
「絵里、これ着てみて。」
「ん〜、ちょっと恥ずかしいな・・・。」
「大丈夫。絵里ならきっと似合うよ。」
絵里はもじもじとして試着室に入っていく。
すっごい楽しみやと。
絵里、どんな感じになるんやとね・・・あ〜待ってる時間が長く感じる。
たぶん十分もしない、れいなにとっては一時間くらいに感じられたけど、
ようやく絵里がカーテンから顔だけ出してきた。
- 269 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:09
-
「あ、あの、れーな・・・。」
「絵里、何恥ずかしがってると?出てきんしゃい、」
「う、うん・・・。」
絵里がカーテンを開いた。
ん・・・想像以上になかなかイケてると。
けど、ちょっと色が濃いかな。
絵里は清楚なイメージの方が強いけん、こっちの薄いやつに替えてみよっかな。
「絵里、やっぱこっち着てみて。」
「えっ?うん。」
「何か、幸が薄く感じる・・・失敗やと。こっちにしよう。」
「これ?ん〜わかった・・・。」
絵里に色々と着替えてもらって何回目かで、後ろから強い視線を感じた。
- 270 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:10
- 振り向くと、愛ちゃんがちょっと怖い目でこっちを見ている。
・・・少し調子に乗りすぎたっちゃね。
これで終わりにした方がいいかも。
それに、絵里に似合う服を着てもらいたくて探してたけど、
本当は絵里が決めることやけんね。
れいなが間違ってたと、出てきたら謝らんとね。
しばらくして、絵里がそろそろとカーテンを開けた。
あっ・・・これ、可愛い。
鮮やかな黄緑色で染めたキャミソールと、リボンのついた純白のスカート、
見惚れちゃうくらい、絵里が可愛いかよ・・・。
「れーな。似合う、かな?」
「うん・・・とっても似合ってるっちゃよ。惚れそうなくらい、
マジ可愛い。」
「本当に!?じゃあ、これ買ってくるね!」
絵里は素早く着替えてレジに向かう。
れいなの言ったこと真に受けていいのかな?
- 271 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:12
- まぁ、絵里が気に入ってくれたんなら、嬉しい限りやけどね。
それにしても、
「絵里、本当に可愛かったと・・・。」
「うんうん。可愛い服着てたね〜。」
「・・・幻聴やね。気にしない気にしない。」
「ちょっと〜!相手してくれなきゃ泣いちゃうよ〜!」
いきなりれいなの独り言に混ざってきた声。
れいなは一息ついて声の主の方に顔を向ける。
そこには、意味なく可愛いポースをとってる松浦さんがいた。
「ヤッホー!松浦亜弥で〜す♪」
「松浦さん、今日はどうしたんですか?」
「あのさ、聞いてよ〜。今日ね、愛ちゃんと遊びに行く約束してたんだけどね、
バイトの子が熱出ちゃって代わりに入るんだってさ〜。楽しみにしてたのに、
もうあやや、悲しいよ・・・。」
まだ治ってなかったんやね・・・せっかく話せるようになったバイト仲間やし、
そっちの方がれいなは気になる。
- 272 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:13
- れいなの思いも知らずに嘘泣きを始める松浦さん。
さて、れいなはどうするのが一番よかね?
1、放置する・・・あとで確実に文句言われまくるけん無理。
2、愛ちゃんに相手してもらう・・・バイトの邪魔はさせるわけにはいかん。
3、一緒に遊ぶ・・・れいなは構わんけど、絵里はどう思うかな?
あっ、紙袋を抱えた絵里が戻ってきた。
大事そうに両手で持ってて、ついついれいなも嬉しくなってくる。
絵里に一通りの話しをすると、この子も苦笑いを浮かべた。
「そういうことだから、田中ちゃん!亀井ちゃん!私に付き合って。」
「「はぁっ?」」
「暇なのは嫌なの。一人は嫌いなの!ほらっ、お昼ごはん奢ってあげるから、
一緒に食べに行こうよ!」
絵里と一度顔を見合わせる。
別に松浦さんのことが嫌いなわけやない、むしろ活発で明るくていい人やと思う。
- 273 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/05(土) 12:14
- ただ、今日は絵里と二人で遊ぶ約束やったけん、なんともいえん・・・。
一人が寂しいのはれいなもよくわかると、松浦さんの気持ちもよくわかる。
れいなが考えてると、絵里に軽く肩を叩かれた。
「れーな、松浦さんと一緒に遊びに行こう。」
「絵里・・・よかね?」
「うん。だって、一人って悲しいもん。」
「・・・絵里はいい子やね。」
ポンポンと頭を撫でると、絵里は嬉しそうに笑う。
他にお客さんがいるにも関わらず、松浦さんが店の入り口かられいな達を呼んでる。
お願いやけん、こんなとこで大声を上げんで・・・?
もしかしてデジャブってやつ?
前にも同じようなことが・・・ああ、類は友を呼ぶってやつか。
そんなことを思いながら、れいな達は店を出て行った。
- 274 名前:konkon 投稿日:2006/08/05(土) 12:14
- 更新しました。
更新ペースが上がらず申し訳・・・orz
- 275 名前:konkon 投稿日:2006/08/05(土) 12:15
- >>名無飼育さん
ありがとうです。
今後も色々な展開に発展させようと思います。
- 276 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:48
-
「あっ、絵里、もうだめ〜・・・。」
「ほらほら、しっかりしないともっともっと攻めちゃうよ?」
「ちょっ、松浦さん、絵里の大事なとこ奪わないで・・・ああっ!」
「アハハハッ!もらっちゃった〜♪ご馳走様。」
「ぁん、やられちゃった・・・。」
生き生きとした松浦さんと、意気消沈の絵里。
別に怪しいとこにいるわけやなかよ。
れいな達はお昼ごはんを食べたあと、ゲームセンターの二階にきていた。
今は絵里と松浦さんが銃を撃つゲームをやってたとこで、結果は松浦さんが
ほとんどの敵を倒して、絵里はライフが全てなくなったとこやった。
二人用やったけん、れいなは後ろからゲームをじっと見てた。
- 277 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:50
- それにしても、二人ともそんな声を上げてたらやばいやろ?
聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。
幸いにも周りは他のゲームに夢中やったからよかったけど、これで近くに人がいたら・・・。
そんなことを考えてると、絵里が落ち込んだ表情でこっちを向いた。
「れーなれーな〜、絵里の仇とって〜。」
「仇って、何もそんなゲームで熱くなることないやろ。松浦さんも大人気ないですよ。」
「ごめんね〜、強くってさ〜♪ところで田中ちゃん、そこは言い訳しないで、
正直に私には勝てないって言うとこだよ。ほらっ、私って可愛いし〜。」
ブチッ
れいなの中で何かがキレた。
今の言い方やと、れいなは別に可愛くないみたいな言い方やね。
余裕の表情で笑ってる松浦さん、たまには凹ませてやるか。
- 278 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:51
- れいなは絵里の頭をポンと撫でて、ゲーム機に目を向ける。
「絵里、仇はとっちゃるよ。」
「ほんと〜?」
「うん。しっかりと見てるんやと。」
松浦さんの隣に並んで、新しいお金を入れる。
銃を持って、ん、けっこう重いんやね。
けど、ここは絶対に負けられん。
「松浦さん、れいなを本気にさせたこと後悔させてあげますよ。」
「ほっほ〜、田中ちゃんやる気満々だね。いいよ、やろうよ。」
「なら、負けた方が絵里の分も含めてジュースを奢るってことで。」
「上等じゃん。こっちは昔から愛ちゃんに付き合わされて、いつの間にか
上手くなってたんだからね!負けないよ〜。」
そんなこと自慢されても困るんですけど・・・。
とにかく、今はゲームだけに集中して、銃を構えて画面を見つめる。
- 279 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:51
- 何人もの敵がこっちに銃を向けてくる。
それより先に、
ドドドドドッ!
れいなと松浦さんの弾が敵を打ち抜いていく。
「おっ!田中ちゃん、やるね!」
「松浦さんこそ!けど、負けんと!」
昔、射的で十個もの景品を落とした腕は伊達じゃなかよ。
ステージはどんどんと進んでいって、二人の得点はほとんど同じ。
終盤、松浦さんが少しだけ点を伸ばして差をつける。
このままやと負けてしまう、そう思った時、高得点の敵が出てきたことに気付いた。
- 280 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:52
-
「ここやと!」
「あっ!」
れいなの弾が高得点の敵を打ち抜いて、一気に逆転した。
そのままなんとか逃げ切ってれいなの勝ち!
恨めしそうにこっちを見てくる松浦さん。
そんな顔しても、結果は変わらんと。
「む〜、もう一回!今度こそは勝つから!」
「遠慮します。このまま勝ち逃げするんで・・・。」
「や〜だ〜!もう一回やろ〜よ〜!やりたいやりたい!」
「わ、わかりましたよ。やけど、その前に約束は守ってくださいよ。」
「わかってるって!そのあともう一回だからね!」
あんたは子供ですか?
松浦さんはれいなの服の裾を掴んで駄々ごねたあと、自動販売機に向かっていった。
- 281 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:52
- 全くあの人は・・・普段は大人っぽいのによくあんな無邪気になれると。
どっかの誰かさんにそっくりやね。
「れーな、仇とってくれてありがとね♪」
「さっき言ったと。れいなに任せろってね。」
「うん!」
しばらく絵里と話してたんやけど、松浦さんが一向に戻ってくる気配がない。
トイレに寄ってるにしても時間がかかりすぎてる。
ちょっと心配になって二人で探すことにした。
自動販売機に近づいた時、松浦さんが一人の男と話しているのが見えた。
その後ろには仲間と思われる男が数人見ている。
柄の悪い、チャラチャラした格好した人達。
耳を澄ませて聞いてみたら、どうやらナンパでもされているようやった。
- 282 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:53
- 松浦さんも可愛いけんね、でも松浦さんは断ろうとしとるようで、
苦笑いを浮かべて首を横に振っている。
それでも男はしつこく誘ってる。
とりあえず、れいなの中でやるべきことは決まった。
「絵里、ここにいて。」
「えっ?絵里も行くよ〜!」
「絵里は可愛いけん、あの人達に絡まれたら余計にややっこしくなるとよ。
それに、絵里にだけは怪我してほしくなかよ。」
「れーな・・・。」
「大丈夫やって。いざとなったら大声出して店員でも呼び出すと。」
れいなは真っ直ぐに松浦さんのとこに向かっていく。
松浦さんもはっきりと断ればええのに。
それ以上に男がしつこいのが悪いんかね・・・?
- 283 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:54
-
「松浦さん、何しとんのですか?」
「あっ、田中ちゃん・・・。」
「あれ、他にも可愛いお友達もいたんだ。ねえ、これから俺達と遊びに・・・。」
「松浦さんはどうしたいんですか?」
「わ、私は別に、ね・・・。」
「そういうことなんで、けっこうです。ほらっ、いきますよ。」
れいなは松浦さんの手を掴んで後ろを向いた。
こういう時はさっさと離れるのが一番、やと思ってたんやけど・・・、
「ちょっと、待ってよ。暇してんでしょ?別にいいじゃん。」
男にれいなの腕を掴まれた。
あ〜、うざ・・・。
相手の都合も考えないで自分の意見を押し通す人間が一番嫌いやと。
- 284 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:55
- れいなは目を細めて男を睨んだ。
「離してもらえんと?れいな達はあんた達と遊ぶ気ないんで。」
「そういう言い方しないでもいいじゃん。俺らだってけっこうイケてるだろ?
君達とお似合いだって思わないか?」
「興味ないって言っとるやろ。いい加減せんと、本気で怒ると。」
「ふ〜ん。んじゃ、怒ってもらおうかな。」
「痛っ・・・。」
突然、手を握り締められて引っ張られる。
男はニヤニヤしながられいなの顔を見下ろしてる。
むかつく・・・こんなことならもっと早くから、吉澤さんに技とか
教えてもらうべきやったと。
- 285 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/13(日) 22:58
-
「待ってよ!私が行くから、田中ちゃんを離してあげて!」
「ま、松浦さん、別によかよ・・・。こんなやつらに、ついていくことなか。」
「田中ちゃん・・・。」
「やれやれ、どうしたら素直についてきてくれるんだ?」
「やから・・・嫌やって、言っとるやろ・・・。あんた、頭悪いやろ?」
「ずいぶんと生意気な口を聞くね。しっかりと教育してやんないとな。」
「あっ、離して・・・。」
さすがに男の力には敵わない。
ゲームをやってる周囲の人間は見て見ぬ振りやと、頼りにもならん。
あんましやりたくないけど、こうなったら大声で叫んでやる。
そう思って、れいなが息を吸い込んだ時やった。
「何してんのよ?」
れいなの後ろから声が聞こえた。
視線を向けると、そこには顔を引くつかせた美貴ねえが向かってきていた。
- 286 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/14(月) 09:23
- うは。オイシイ登場w
- 287 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:28
- 美貴ねえはゆっくりとこっちに歩いてくる。
ただ、れいなはその顔を見ていることができなかった。
この時の美貴ねえの表情、これは・・・
「何、この子のお姉ちゃん?綺麗だね〜。君もさ、一緒に・・・。」
「れいなの腕を掴んで、何してるの?」
「えっ?」
「れいなに、手を出してんじゃねぇ!」
グシャッ!
すぐ横に置いてあった看板が、美貴ねえの蹴りで大きく凹んだ。
美貴ねえの鋭く尖った視線が男達を捕らえて離さない。
- 288 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:29
- やっぱりメチャクチャキレとる・・・。
男がビクついてるうちに、れいなはすぐに手を引き離した。
「何なんだよ、お前・・・。」
「れいなの前で血を見せたくないから、3秒だけあげる。美貴に顔を
潰されたくなかったら消えろ。」
「な、何を言って・・・。」
「3・・・2・・・1・・・。」
いくらバカとはいえ、本能が悟ったんやろ。
男達は慌てて逃げ出した。
相変わらずすごい迫力っちゃね。
美貴ねえはこっちを向いて、れいなの両肩を掴んだ。
- 289 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:29
-
「れいな!大丈夫だった!?怪我はない?」
「うん、平気やと。美貴ねえ、ありがとう。」
「そっか。れいなが無事でよかったよ。」
そう言って、れいなの体を抱きしめる。
ちょっと痛かったけど、助けてもらったこともあるから、ここは許すことにした。
「美貴ねえ、どうしてここにいると?」
「ああ、さっきバイト終わったあとにそこのコンビニで立ち読みしてたらさ、
れいな達がここに入っていくのを見たんだ。出てきたら声をかけようと
思ってたんだけど、なかなか出てこないから見にきたんだよ。そしたらさ、
案の定これだもんね。」
「ちょっと待って。美貴ねえ、バイトしてると?」
「当たり前でしょ。れいなががんばってるっていうのに、美貴だけ何も
しないわけにはいかないじゃん。自分の小遣いくらいは自分で稼ぐよ。」
美貴ねえは笑ってそう答える。
- 290 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:30
- 本当はお金もあるのに、そういうとこはしっかりとしてる。
自尊しとるわけでも、高飛車に出たいからでもない。
それが美貴ねえやけん、れいなは心から尊敬しとると・・・。
「れーな!」
「ん、絵里。もう終わったと。」
「亀ちゃん、久しぶり〜。」
「藤本さん・・・すごい強かったんですね。」
「美貴ねえは空手やってたけんね。」
「空手!?」
「大したことじゃないよ。それより、一旦ここから離れよっか。」
いやいや、十分大したことありますから。
それは置いとくとして、ここにいたら騒ぎを聞きつけた店員が
きて面倒なことになるってことで、一先ず一階に退避するために歩き出した。
- 291 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:31
- 階段を降りたところで、美貴ねえは後ろからついてきていた松浦さんを振り返る。
「ところで、そこの彼女はどうした?」
松浦さんはさっきから顔を俯かせてて、黙ったままやった。
美貴ねえが下から顔を覗き込ませると、首を引っ込めて何度も振った。
「なっ!?ななな、何ですか!?」
「何もそんなに驚かなくたって・・・。どうかした?」
「べべべ、別に、どうしてもないです・・・。」
「そう?そういえば自己紹介が遅れたね。美貴の名前は藤本美貴、
れいなの幼馴染だよ。よろしくね。」
「はい!わ、私は、松浦亜弥っていいます・・・。」
「亜弥ちゃんね。顔を俯かせてたら、せっかくの可愛い顔がもったいないよ。」
「ほ、本当にそう思いますか!?」
「うん。すごく可愛いと思うよ。」
松浦さんらしくない、何をキョドっとんのやろ?
そんなに美貴ねえのことが怖かったんかな?
あとで誤解やってこと教えてあげんとね。
- 292 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:31
- そういえば、絵里も松浦さんと会ってからあまり元気がない。
人間関係って難しいもんやね。
一通りの話しが終わった美貴ねえが、再びこっちを向いた。
「れいな〜、これからどうするつもりなの?」
「どうするったって・・・絵里、どうしたい?」
「ん〜、あとはプリクラでも撮ろうかと思いまして・・・。」
「だめっ!絶対にやだっ!」
絵里達は驚いた顔をしてれいなを見てる。
これだけは絶対にだめやと。
写真に写っちゃったら、れいなはもう、この中にはいられない・・・。
- 293 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:32
-
「亀ちゃん、亜弥ちゃん、先に入って準備してて。」
「み、美貴ねえ!」
「れいな、一緒に撮ろうよ。美貴もさ、れいなと撮ったことないんだよね。
昔っから一緒にいたのに、そういうのってなんか寂しいじゃん。」
「け、けど・・・。」
美貴ねえの気持ちは嬉しい。
やけど、れいなと撮って霊が写ったら、きっとこれかられいなを見る目が
変わるに違いない。
不気味なものでも見るような、もしかしたら家を追い出されるかもしれん。
そんなの嫌だ。
ようやく今の生活を好きになれたのに、離れたくない・・・。
- 294 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:33
- れいなが止まっていると、美貴ねえはれいなの首を手を回して引っ張った。
「何に怯えてんだか知らないけど、一緒に撮るよ。」
「や、やけん、れいなは嫌やって・・・。」
「そんな恥ずかしがることないって!気にするな。」
れいながいくらもがいても美貴ねえの腕は離れない。
元から力に差があるのに、完全に固定されて暴れることもできんかった。
強引にもプリクラ機の中に入れられる。
そこには、すでに準備を終えた絵里達がいた。
待って・・・押したらあかんと!
れいな、みんなに嫌われたくない!
れいなの思いもむなしく、松浦さんがボタンを押してカウントが聞こえてきた。
美貴ねえはれいなを離さないままピースしてる。
- 295 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:33
-
カシャッ!
「「「あっ!」」」
三人の声が揃って、れいなの方を向いた。
もう、終わりやね・・・。
れいなは力が抜けてその場に座り込んだ。
「れいな、どうした?」
「・・・。」
「れーな、気分でも悪いの?大丈夫〜?」
絵里がしゃがんでれいなの顔を見つめる。
- 296 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/17(木) 22:35
- どうして、れいなを気にしてんの?
変な写真になって、れいなを気味悪がってるんやなくて?
「アハハッ、田中ちゃん、目を閉じちゃってるよ〜。」
「よし、もう一度取り直しだよ。」
「えっ・・・?」
「れーな、立てる?」
絵里の手を借りて起きてから、画面を凝視する。
何か写ってるわけでもない、れいなが目を閉じているだけの、普通の画面やった。
何で、普通に撮れてるんやろ・・・?
れいながぼーっと考えてるうちに、撮影は次々と進んでいった。
たぶん、マヌケな顔で写ってるんだろうな〜とか、どうでもいいことが頭に浮かんだ。
- 297 名前:konkon 投稿日:2006/08/17(木) 22:35
- 更新です。
- 298 名前:konkon 投稿日:2006/08/17(木) 22:36
- >>名無飼育さん
美貴ねえはそういう人ですからw
今後もまたおいしい役になるかもしれ(ry
- 299 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:43
- プリクラを撮り終えたあと、気分が悪いことにしてトイレの中に駆け込んだ。
こういうことは、同類である後藤さんに聞くのが一番早い。
個室に入って目を瞑る。
『後藤さん。』
『んあ、どうしたの〜?今日はお出かけじゃなかったっけ?』
『そうなんですけど、聞きたいことがあるんです。後藤さん、何かしました?』
『何かって?』
『れいな、写真を撮っても何もなかったんです。それはもちろん
嬉しいことなんやけど、もしかして後藤さんが何かしてくれたんや
ないかな〜って思って・・・。』
後藤さんはしばらく考えたあと、わざとらしくうんうんと相槌を打った。
- 300 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:44
-
『この間さ、れいなが屋上に遊びに来てくれたときに、れいな寝ちゃったでしょ。
覚えてるかな?あたし、暇で暇でしかたなかったんだよね〜。』
『えっと、まぁ・・・あのときはすいません。』
『ハハッ、冗談だよ。そのときにね、れいなの守護霊と話したんだ。』
『守護霊、ですか?』
『そう、写真に写ってたのは、れいなの守護霊だったんだよ。れいなを守りたい、
強い思いがあったために、普段は見えないけど写真に写るようになっちゃったんだ。』
れいなはどう答えたらいいのかわからんかった。
やって、守護霊が自分を苦しめてたなんて、そんなバカげたことあるんやろか?
それって本当に守護霊なん?
れいなの守護霊なのに、どうして今までれいなを・・・。
『悪く思わないであげてね。れいなを守りたい一心でこうなっちゃったんだ。』
『けど・・・ふざけすぎてますよ。れいな、そのせいで友達が全然できなくて、
ずっと一人でいたとよ。寂しかったっちゃよ・・・。』
『そうかもしれない。けどね、よく思い出して。れいなが危険に晒されたとき、
れいなの身に何が起きた?大きな怪我とかはしなかったでしょ?』
後藤さんの言葉で昔のれいなを思い出す。
- 301 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:45
- れいなは小さい頃から大きな怪我や病気にかかったことはない。
れいなが自殺をはかったときも、美貴ねえが助けてくれた。
傷やって腕時計で隠せるくらい小さいもので済んだ。
学校で絵里を助けようとしたときも、後藤さんが守ってくれた。
さっきもそう、もしかしたらずっと、れいなの守護霊が・・・。
『・・・ごめんね。ずっと守っててくれたのに、文句なんか言って、
本当にごめんなさい・・・。』
『大丈夫だよ。今はわからないけど、きっと喜んでる。れいなに褒められて、
すっごく嬉しいはずだよ。そして、これからもれいなを見ていてくれるはず。
それに、今のれいなは一人じゃないでしょ?』
『・・・そうやね。』
そう、れいなは一人やないんやったね。
見えないけど、ずっと守ってくれていた。
れいなの守護霊さん、ありがとね。
- 302 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:47
-
『ところでさ、今日はエリリンとお出かけじゃなかったの?』
『いや、そうなんですけど・・・何か微妙な雰囲気やと。』
『どういう意味?』
どういう意味と聞かれても・・・どう答えようかな。
れいなにもどう言ったらいいのかわからんけど、とりあえず話してみよっと。
『えっと〜、途中で松浦さんが暇やって遊ぶことになったら、
絵里が元気なくなって、さっき美貴ねえも合流したんやけど、
今度は松浦さんが美貴ねえに怯えとるみたいで、全然話しを
しようとしないし・・・。」
『れいな、何を言ってるのか全くわかりません。』
「説明しにくい。少しだけ記憶見てもらえますか?』
『アハッ、記憶を覗くのに頼むってのも面白いね。どれどれ・・・。』
後藤さんがれいなの記憶を見ている。
しばらくして、後藤さんの口からため息が零れた。
- 303 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:48
-
『ど、どうしてそこでため息つくと!?』
『あのさ、血が繋がってないとはいえ、ここまで鈍感な姉妹って
そうはいないよ。何でわかんないのかね〜?』
『ハァ?』
『自分で気付かないと意味ないからね。ちょっとだけ手助けしてあげるよ。
あのね、確か美貴ちゃんってどんな服買おうか迷ってたよね。まっつーは
今時の流行に敏感らしいから、彼女にコーディネイトするように言ってみたら?
んで、れいなはもう一度エリリンとプリクラを撮ること。それが妥当かな。』
『えっ?どうして松浦さんに・・・。』
『いいから。あたしが言えるのはそれくらいだよ。じゃ〜ね〜。』
そう言って後藤さんは会話を切った。
後藤さんが何を言いたかったのか全く意味がわからない。
ずっとここにいるわけにもいかないけん、絵里達のとこに戻ることにした。
- 304 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:49
- 絵里達はトイレの手前にあるベンチに座って、プリクラを見ているみたい。
れいなに気付いた絵里が、心配そうな顔をして駆け寄ってくる。
「れーな、どうかしたの?」
「何でもなかよ。ちょっと髪いじってただけやと。」
「そっか〜。よかった〜。」
「心配せんでも平気やと。絵里、ありがとね。」
絵里は満面の笑みを浮かべて頷いた。
この子が笑うとホッとする。
また頭を撫でてあげようと思ったとき、美貴ねえが立ち上がってこっちにきた。
- 305 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:50
- 松浦さんも慌てて美貴ねえを追いかけてくる。
仲よくなったんかな?
「れいな、次はどこに行く?」
「ん〜、考えとらん。ところで美貴ねえ、この間新しい服を買いたいって
言っとらんかったっけ?」
「ああ、言ってたね。なかなかいい物がなくてさ〜。」
「それなんやけど、松浦さんに選んでもらったらどう?松浦さんは流行に
敏感やし、けっこういい服とか知っとると思う。」
「そうなの?」
美貴ねえが振り向くと、松浦さんは何度も首を頷ける。
あれ、まだ怖がっとるんかな?
だったらここはいいチャンスなのかもしれない。
- 306 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:51
- ちょっと心配やけど、ここは後藤さんを信じてみるっちゃね。
一緒にいれば、美貴ねえがいい人やってわかるはずやもん。
「れいな達はさっき見てきたし、美貴ねえも行ってきたらどうかな?」
「そうだね〜。美貴も買わないと着るものないし。亜弥ちゃん、頼めるかな?」
「は、ははは、はい!」
「そんなに緊張することないって。んじゃさ、れいなはどうするの?」
「れいなは絵里と行くとこあると。」
「そか。気をつけて帰るんだよ。亜弥ちゃん、行こうか。」
美貴ねえと松浦さんはゲームセンターを出て行った。
- 307 名前:幽霊の正体 投稿日:2006/08/22(火) 21:52
- んで、あとは絵里ともう一度プリクラやったっけ・・・?
「絵里、もう一回プリクラ撮らん?」
「れーな、大丈夫なの?さっき具合悪そうだったけど・・・。」
「もう平気やと。心配かけてごめんね。」
「うん!れーなと二人で・・・うへへへ〜。」
絵里はちょっとキショイ、でもさっきまで見せなかった笑顔で頷いてくれた。
機械の中に入ってお金を入れる。
れいなはよくわからんと、絵里に設定してもらってと・・・。
触れるくらいまで顔を寄せて、カメラを見つめる。
もう、怖くない。
今度は笑って撮れるよね。
できる限りの笑みを浮かべて、れーなはポーズをとった。
- 308 名前:konkon 投稿日:2006/08/22(火) 21:52
- 更新です
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/23(水) 00:21
- 更新乙です。
あ〜〜〜絵里が可愛い!
れいなも可愛い!!
- 310 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:40
- ある日の放課後、今日はれいなはバイトがない。
絵里は用事があるって言ってさっさと帰っちゃって、さゆも愛ちゃんと話しがあるって
生徒会に行っちゃったもんやけん、暇になったれいなは久しぶりに屋上で後藤さんと話しをしていた。
こんな時間に屋上にいる人はいないと、普通に話すことができる。
家で話すのとは違って、やっぱ顔を合わせて話す方が楽しいな。
会話するのと電話するくらいの差がある。
「ねぇ、れいなは好きな人とかいないの?」
「好きな人・・・まだいませんね。」
「周りにいる人も目がないよね〜。素直なれいなは可愛いのにさ。」
「素直な、は余計やと。後藤さんはどうやったんですか?」
「ん〜あたしもそれなりに恋愛してたんじゃないかな。」
「・・・はっきりしませんね。」
「まぁ、人それぞれだからね。れいなもそのうち気付くかもしれないからね。
本当の恋ってやつにね。」
そんなこと言われても、恋愛なんてしたことないけんわからんと。
- 311 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:41
- もし誰かを好きになったら、さゆみたいに一直線に突っ走るんかな?
全く想像もつかんけどね。
後藤さんと話してると、屋上に誰か上がってきた。
顔を覗かせて出てきた人を見る。
あれは・・・さゆ、と後ろから愛ちゃんがついてきてる。
二人は屋上の真ん中ら辺で止まって顔を合わせる。
「愛ちゃん、好きです。」
「ん、あーしもさゆのこと好きやよ。」
さゆの言葉にあっさりと返す愛ちゃん。
さゆはため息をついて愛ちゃんをじっと見つめる。
- 312 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:42
-
「さゆみ、愛ちゃんのこと本気で好きなんです。愛ちゃんの思う好きじゃなくて、
さゆみは愛ちゃんを愛してます。」
「さゆ・・・。」
「本気で好きでいてくれるなら、さゆみと付き合ってください。」
愛ちゃんはしばらくさゆを見つめたあと、小さく首を振った。
「ごめん。さゆのことは、可愛い後輩以上には見れないと思う。」
「なら、どうしたら愛ちゃんと付き合えるんですか?さゆみ、愛ちゃんのことが
好きで好きでたまらないんです!愛ちゃんといられるなら何だって・・・。」
「そうやないんやよ。たぶん、感性の差やと思う。」
「感性・・・ですか?」
「・・・あーしね、まだ小さい時に一度だけさ、直感でビビビッ!って、
肌で感じたことがあるんや。あくまで直感ね。」
愛ちゃんは思い出すように頬を緩める。
さゆは少し泣きそうな顔をしながらも、しっかりと聞いてる。
- 313 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:43
-
「その、ビビビッ!ってきたのってさ、里沙ちゃんやったんやよ。」
「ガキさんが・・・。」
「そう、あーしが何を話してるんかもわからんくて、誰もあーしのことを
放ったらかしにされた時も、里沙ちゃんだけは傍にいてくれた。あーしに
かまってくれた。それは今も同じ、一番解ってくれてると思う。」
「・・・愛ちゃんは、ガキさんのこと、好きなんですか?」
「ん〜、さゆのいう愛してるって言葉とは、ちょっち違うんやな。
傍にいてほしい、それがピッタリやな。誰かと付き合うってことを
考えても、最初に考えるのは里沙ちゃんやった。きっと、あーしは
あの子じゃなきゃだめなんやろね。」
風で揺れた前髪を指で払って、愛ちゃんは上を向いた。
反対にさゆは俯いてる。
「どうしても、さゆみとは付き合えないんですか・・・?」
「・・・うん。たぶん無理やと思う。あーしはさゆのこと、恋愛対象として
見れることはない。ごめんね。」
そう言って、愛ちゃんは後ろを向いて出口へと向かう。
そして、一度も振り向くことなく屋上から出て行った。
- 314 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:44
- れいなは思わず立ち上がった。
今の言葉、さすがの愛ちゃんでも言いすぎやと。
あんなにきっぱりと言うことないのに、ひどいやろ。
後藤さんは座ったままれいなを見上げる。
「れいな、どうするつもりなの。」
「愛ちゃんに一言言ってきます。さゆやって一生懸命なのに、
あんな言い方せんでもよか。」
「二人の会話をこっそりと聞いてましたって言うつもりなの?」
「そ、それは・・・。」
「高橋は間違ってないと思うよ。中途半端な優しさは人を傷つけるだけ、
あんな風に強く言わないと、みっちーは決してあきらめない。高橋が
どんな人間か、れいなは知ってるでしょ?人それぞれの思いがあるんだよ。」
後藤さんの話しに、れいなは何も言えなかった。
高橋さんがどれだけいい人か、よく一緒にいるれいなやってよく知っとるし、
さゆなら尚更わかるはずだ。
- 315 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:46
- やけど、さゆはどうするんやろ・・・?
さゆに目を向けると、ゆっくりと端の方に歩いていく。
手摺に手を置いて、空を見上げた。
「あ〜、ふられちゃった・・・。なんとなくはさ、わかってたんだよね。
だって愛ちゃん、ガキさんといる時が、一番楽しそうだもん・・・。」
さゆの呟く声が、ほんの小さくやけど聞こえる。
その直後に、さゆの膝が崩れ落ちた。
「でも、でも・・・好き、だった、んだもん・・・。」
さゆの泣き声がれいな達にまで聞こえてきた。
- 316 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:46
- れいな、何か声でもかけた方がいいんやろか?
後藤さんの方を向くと、横に首を振った。
「今は一人にしてあげなよ。」
「・・・そうですね。」
恋愛って難しいんやね・・・。
さゆ、すごく辛そう。
けど、今のれいなにできることは何もない。
今はただ、さゆのことを見ていることしかできんかった。
- 317 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:48
- それから三日が経った。
さゆは特に変わった様子は見せなかったけど、時々寂しそうに虚空を見つめる時があった。
れいなにはどうしたらいいのかわからんかった。
やけど、さゆを信じてるから、さゆから話してくれるまで待つことにした。
この日は金曜日、れいなが帰る準備をしてると絵里がさゆに呼ばれた。
「絵里、明日空いてる?」
「あ〜、ごめん。これからお婆ちゃんのとこに行くんだ。だから、
明後日まではこっちにいないの。」
「そう・・・なら、仕方ないの。」
絵里は何度もさゆに謝って、一度れいなにバイバイして、足早に教室を出て行った。
さゆは小さくため息をつくと、れいなの方にチラッと視線を向ける。
- 318 名前:愛の形 投稿日:2006/08/27(日) 01:52
-
「れいな、明日空いてない?」
「明日ね・・・。」
明日は朝から稽古と夕方からバイトが入ってるくらいで、他に特別な用事はない。
まぁ、吉澤さんの稽古の方は、きっと話せばわかってくれるよね。
「れいなはバイトがあるけん、夕方までになるけどそれでもよか?」
「うん。それでもいいの。お買い物に付き合ってくれないかな?」
もしかしたら、この間のことを忘れるために、気分を紛らわせたいのかもしれない。
れいなにできることなんて高が知れてると、できることなら協力したい。
れいなは二つ返事で頷いた。
- 319 名前:konkon 投稿日:2006/08/27(日) 01:52
- 更新です。
- 320 名前:konkon 投稿日:2006/08/27(日) 01:53
- >>名無飼育さん
どうもです〜。
今後も可愛いれいなと絵里を書いていきたいと思います。
- 321 名前:konkon 投稿日:2006/08/27(日) 02:14
- レス210にて、一つ訂正します。
3年くらい前と書きましたが、1年くらい前に変更でお願いします。
誠に申し訳ないです。
- 322 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:39
- れいなの家からちょっと離れたデパートに、れいな達は買い物にきていた。
さゆはよくここで買い物をするらしい。
それはいいとして、
「さゆ、重いっちゃ・・・。どっかで休もうよ?」
「まだだめなの。もう少し付き合ってもらうの。」
れいなの両手には紙袋がぶら下がってる。
しかもパンパンに膨れ上がるくらい、たくさんの荷物が入ってる。
一気に買うって本人から聞いてたとはいえ、こんなに買うなんて聞いとらんと・・・。
れいなの前を歩くさゆはバッグだけ。
お昼ごはん奢るからってつられたれいながバカやった。
- 323 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:40
- まぁ、さゆも楽しそうにしとるし、たまにはこうして付き合うのも悪くないと思う。
それに、けっこう色んな物があるけん、今度は絵里も連れてまたきたいな。
けど、もうだめ・・・。
「さゆ〜、れいな、もう無理やと・・・。」
「それじゃ、お昼ごはん食べに行くの。」
その言葉に思わずガッツポーズをとった。
これ以上重たい荷物持ってたら腕が伸びちゃう。
さゆとエレベーターで上がって、ファミレスの中に入る。
ちょうどお昼時やったけん、たくさんの人がいたけど、なんとかぎりぎりで入れた。
- 324 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:41
- 奥にある席に案内されて、れいな達は向かい合って座った。
あ〜、ようやく開放された・・・。
「さゆ、本当に奢ってもらっていいの?」
「うん。れいな、がんばってくれたもんね。好きなの食べていいの。」
れいなはハンバーグを、さゆはパンケーキを注文した。
それを食べ終わったあと、二人でジュースを飲みながら話してた。
とはいっても、大体はさゆの話しを聞いてそれを返すって形なんやけどね。
二人で笑い合ったところで、さゆは急に悲しそうな表情で窓の外を見つめた。
「ねぇ、れいな。」
「なん?」
「さゆみ、愛ちゃんにフラれちゃった・・・。」
「・・・そか。」
二人の間に、しばらく沈黙が続いた。
- 325 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:42
- こんな時に気の利いたことの言えない自分に腹が立ってくる。
それでも、さゆは小さく笑ってれいなを見た。
「れいな、何も聞かないんだね。」
「聞きたくないわけやなかよ。でも、さゆが話したくないっていうのに、
無理やり聞かれるのも嫌やろ。」
「そう・・・ありがとう。」
さゆはきっと、辛いと思う。
忘れたいのか、もう一度愛ちゃんと話し合うのか、それもわからん。
けど、れいなにはれいなのできることをする。
「さゆはさ、どうしたいと?」
「えっ?」
「さゆがどうあろうと、れいなはさゆの力になるっちゃよ。
さゆがやりたいように進んでいけばええんやなかね?」
「・・・やっぱさ、れいなは違うよね。」
れいなは首を傾げてさゆを見つめる。
- 326 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:43
-
「違う?」
「周りの人はね、どうして〜とか、もう一度がんばってよとか、けっこう
無責任なこと言ってくるんだよね。興味本位とかちょっとした話題になるから、
さゆみから聞いてくるだけだと思う。れいなはさゆの力になるって言ってくれた。
れいなのそういうとこ、さゆみは好きなの。」
「へへっ、れいな達、友達やろ。絵里やって、生徒会の人もいるんやし、
もっと頼ってもよかよ。」
少し前まで友達のいなかったれいな。
やけん、どれだけ信頼できる仲間が必要か、よくわかる。
さゆの力になりたい。
その気持ちに嘘はない。
「ならさ、一つ頼んでもいい?」
「なん?れいなにできることあんなら協力するよ。」
「エヘヘッ、言ったね〜?」
さゆは怪しげな笑みをしてれいなを見る。
何か、嫌な予感がする・・・。
- 327 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:44
- 帰り道、れいなはさゆの家に向かって二人で歩いてる。
れいなの両手には、さっきよりも膨らんだ荷物がぶら下がってる。
もっとお買い物がしたいって頼まれて、しかも家まで付き合ってって、
もうヘトヘト・・・。
さゆも荷物を持ってるけど、明らかにれいなの方が量が多い。
買いすぎやけどお金あるのか?って聞くようなことはせん。
さゆは美貴ねえに匹敵するほどのお嬢様やって、絵里から聞いたことがあるからね。
「さゆ・・・もう、限界・・・。」
「れいな〜。あと少しだからがんばって。」
「う〜・・・。」
「仕方ないな〜。」
仕方ないって言える立場やないやろ。
本当にこの子は・・・。
- 328 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:45
- まぁ、れいなに心境を話したさゆは笑顔を見せてくれるようになったし、
機嫌を悪くしたくもない。
休日のせいか、喫茶店はどこも込んでるから、公園で休むことにした。
二人で公園に入って歩いていた時やった。
いきなりサッカーボールが飛んできた。
しかもすごいスピードで、このままやと確実にれいなにぶつかる。
見えるのと避けられるのは別だ。
れいなは荷物持ってるし、避けたらさゆに当たってしまう。
ボールがぶつかる瞬間、思わず目を閉じた。
バシッ!
あれ・・・何にも痛みがない。
目を開けると、目の前で指先でボールを回している、見覚えのある後ろ姿が見えた。
- 329 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:47
-
「全く、危ねぇな。怪我はなかった・・・って、あれ?」
「吉澤さんじゃないですか。何してんです?」
「お、れいなじゃん。稽古サボってお買い物かよ?ま、たまにはそれも許してやろう。
っつうか、ミキティ!ちゃんと手加減しなよ。」
「ごめんごめ〜ん!」
前の方から美貴ねぇともう二人、こっちに駆け寄ってくる。
一人は小春ちゃんで、もう一人はれいなの見たことのない美人な人やった。
「ん、れいな?何してんの?」
「それはこっちのセリフやと。何で美貴ねえがここにいるの?」
「今日は大学がオープンキャンパスとかで、フットサルの練習ないんだよね。
だからさ、小春ちゃんがキックベースの大会が近いから付き合ってたんだ。
ところで、後ろの子は?」
「初めまして、れいなの友達の道重さゆみで〜す。」
「なら、重さんでいいかな。もしよければ、このあと私に付き合わ・・・いでっ!」
「ちょっと、よっすぃ〜。よくも私の前でそんなことが言えるわね〜。」
「り、りがぢゃん、いでーっで・・・。」
後ろにいた美人の人が、速攻でナンパした吉澤さんの頬を引っ張った。
- 330 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:47
- たぶん、"りかちゃん"って言ったんやろね。
・・・ああ、この人が以前言ってた石川さんって人なんやな。
美少女っていうのも頷けるくらい可愛いし、肌が黒いからすぐわかった。
スタイルよくて、後藤さん並に胸が大きい・・・れいな、まだ成長してるよね?
ちょっと悲しくなって小さくため息をついた。
「大丈夫ですよ。もとから付き合うつもりはないので。さゆみ、
カッコいい人も嫌いじゃないけど、可愛い人の方が好きなの。」
「うそぉん!そんな断られ方したの初めてだよ・・・。」
「アハハハハッ!よっちゃんださいね。」
「あなた、なかなかやるわね。ならさ、よっすぃより私の方が好みってこと?」
「そうですね〜。さゆみの次に可愛いと思いますよ。」
さゆ・・・その言い方やばくない?
石川さん怒るかな〜って思っとったら、何かお腹を抱えて笑い出した。
- 331 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:48
-
「何よ〜、チャーミーの方が可愛いもん。プンプン!」
「さゆみのうさちゃんピースには、誰も敵わないの♪」
全然話しについていけん・・・。
確か、石川さんも後藤さんの友達やったっけ?
ちょっと聞いてみよっかな。
『ねぇ、後藤さん。見えますか?』
『んあ・・・おっ、よっすぃに梨華ちゃんじゃん。久しぶりだな〜。』
『話してて思うですけど、よくわっかんない人達ですよね〜。』
『僕にはわかる。あなたのその苦しみが、僕にはわかる。』
『・・・ハァ?』
『あたしの周りってさ、変な子ばっかでしょ?よっすぃも梨華ちゃんも
何考えてるかわかんないからね〜。』
相談しようと思ったれいながバカやった。
後藤さん、あなたも十分変な人でしたね・・・。
- 332 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:50
- 後藤さんとは話しの途中やったけど、またキックベースを始めるっていうけん、
れいな達はベンチに座って見ていくことにした。
吉澤さんが転がして、小春ちゃんが蹴って、それを美貴ねえと石川さんが追いかける。
一発二発と蹴ったボールは、浮いちゃって美貴ねえ達に取られちゃったけど、
三発目はゴロゴロと転がって二人の間を抜いた。
さゆは隣で手を叩いて喜んでる。
本当に可愛い子が好きなんやね・・・。
「そういえばさ、れいな。」
「ん?」
「れいなは好きな子とかいないの?」
れいなは苦笑いがバレないように、空を仰いだ。
- 333 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:50
- 全く唐突に、それも後藤さんと同じことを聞くと?
れいなは小さく首を横に振った。
「わかんない。れいな、誰かを好きになることができんのかもしれん。」
「何で?」
「昔、ちょっと嫌なことがあってさ、恋愛するのが怖いのかもね。
誰かを好きになったとしても、裏切られたらきっと立ち直れん。」
「そうなんだ。でもね、それはないと思うの。」
「・・・どうしてそう思うと?」
「だってね、れいなが好きになった人だもん。信じていいと思うの。」
さゆは笑顔で言った。
どこまでこの子は真っ直ぐなんやろ・・・。
- 334 名前:愛の形 投稿日:2006/08/29(火) 23:51
- れいなが一番気になる子は・・・絵里のことが真っ先に頭に浮かんだ。
それならば好きなのか、と聞かれると答えられない。
ハァ、恋愛ってやっぱ難しいわ。
「さゆ、れいな達も一緒に混ぜてもらおう。」
「れいな?」
「ほらっ、行くよ!」
ごちゃごちゃと考えるのはれいならしくない。
今は恋愛のことはわかんないんやし、わかるようになるまではこのままでいいと思う。
愛の形は人それぞれやし、これがれいなやけんね。
れいなはさゆの手を引っ張って、美貴ねえ達のとこまで走り出した。
- 335 名前:konkon 投稿日:2006/08/29(火) 23:51
- 更新です。
- 336 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/30(水) 00:23
- 身体はともかく、心の成長は著しいよ、れいな♪w
- 337 名前:真実 投稿日:2006/09/02(土) 23:44
- ある日の放課後、れいなは絵里と一緒に、さゆに紹介してもらったデパートにきていた。
一学期の期末テストが終了して、長かった長かった苦しみから解放されたれいなは、
すぐにでも遊びに出かけたかった。
さゆも誘ったんやけど、用があるから二人で楽しんでって言われた。
れいなは気に入ったアクセサリーとか買えたし、期末が終わったせいか
絵里も終始笑顔やったし、今日は最高の一日やね。
買い物が終わって、ポンちゃんに教えてもらった定食屋で夜ごはんを食べて、
あっ、ポンちゃんって副生徒会長の紺野あさ美さんのことね。
あの人は何かと忙しいみたいやけん、あんまり生徒会室にはいないけど、
この間顔を見せに行ったら愛ちゃんと生徒会の仕事をしてたんだ。
その時にあだ名でいいって言われて、どんな風に呼ばれてるかって聞いたら
コンコンとか紺ちゃんとかってね。
でも、れいなはポンちゃんって聞き間違えて、その呼び方が気に入ったからそう呼んでる。
- 338 名前:真実 投稿日:2006/09/02(土) 23:46
- あの人も後藤さんのようにマイペースな人で、嬉しそうな笑顔を見るとすごく癒されるんだ。
絵里とは違った意味で、周りの人を元気にさせてくれる力を持ってる。
敬語やったし固い人かなって思ってたけど、思った以上に面白いひとやってわかった。
特にごはんの話しになると飛びついてくるし、そこでさっきの定食屋を教えてもらったの。
けれど、時刹見せる悲しげな表情だけは、れいなにはわからなかった。
帰りは絵里の家の近くを通るけん、家まで見送ることにした。
話しているうちに、あっという間に絵里の家に着いた。
楽しい時間って過ぎるのが速いもんやね。
もうちょっと絵里と話してたかったな〜。
そう思ってると、絵里が家の門を開けた。
- 339 名前:真実 投稿日:2006/09/02(土) 23:47
-
「絵里、今日は楽しかったと。付き合ってくれてありがとね。」
「ううん、絵里も楽しかったよ!れーな、また誘ってね。バイバ〜イ!」
絵里が玄関のドアに手をかけるけど、鍵がかかってるみたい。
それに気付いた絵里は、鍵を取り出そうとかばんの中をごそごそと探る。
しばらく見てたら途中で固まっちゃったけん、れいなは絵里に近寄った。
「絵里、どうしたと?」
「鍵・・・家の中に忘れてきちゃった・・・。」
「ご両親はいつ帰ってくるの?」
「親戚の家に行ってて、帰るのは夜中になるって言ってた・・・。」
「ふ〜ん。」
「あっ、大丈夫大丈夫!なんとかするからさ・・・れいなは心配しないでよ。」
ったく、この子は何言っとうと。
そんな不安そうな顔をして、何をどうするつもりなんだか・・・。
- 340 名前:真実 投稿日:2006/09/02(土) 23:49
- れいなは小さくため息ついて、絵里を手招きした。
「絵里、行くよ。」
「えっ?行くって、どこに・・・?」
「れいなの家に決まってっとるやろ。絵里、夜中まで家に入れんのやったら、
れいなの家に泊まっていきなよ。」
「で、でも、迷惑じゃ・・・。」
「迷惑になるわけなかよ。明日はテスト休みやし、問題ないでしょ?
美貴ねえも歓迎してくれるよ。それに、れいなはもっと絵里と
話ししたいもん。」
「れ、れーな!本当に!?本当にそう思ってくれてるの?」
「当然っちゃよ。何か問題ある?」
「・・・ありません。お世話になります。」
「んじゃ、おいで。」
れいなは笑顔を見せて、後ろを向いて歩き始めた。
後ろからトコトコと絵里がついてきて・・・おわっ!
絵里が腕に抱きついてきた。
こんなに嬉しそうな顔されると文句も何も言えなくなる。
別に悪い気はしなかったし、むしろ嬉しかったような・・・ともかく、
れいな達は一緒に家に向かった。
- 341 名前:真実 投稿日:2006/09/02(土) 23:52
- マンションに着いてエレベーターで上に上がる。
そういえば、友達を家に泊めるのって初めてかも・・・。
そう思うとかなり楽しみになってきて緊張してきた。
指紋照合してドアを開ける。
あれ、靴が二つある・・・誰かきてるみたい。
「ただいま〜。」
「おじゃましま〜す。」
返事がないってことは、部屋で何かしてるのかな?
リビングに入ると、美貴ねえが冷蔵庫を開いていたのが見えた。
- 342 名前:真実 投稿日:2006/09/02(土) 23:55
- 美貴ねえがこっちに気付いて顔を振り向かせる。
顔がやけに赤くて少しにやけてる。
手に持ってんのはお酒・・・まさか!?
「れ〜な〜!」
タタタッ!パシッ!
美貴ねえは猛スピードでれいなに駆け寄ってきて、顔から飛びついてきた。
そこに素早く手を入れて、美貴ねえの口を塞いだ。
「んんっ!」
「全く、美貴ねえ、何してると・・・。」
危なかった・・・あと少し気付くのが遅かったら、キスされてたとこやったと。
れいなは押し付けてくる美貴ねえの顔を、なんとか押し離した。
- 343 名前:真実 投稿日:2006/09/02(土) 23:57
-
「美貴ねえ、いい加減にその酒癖直しなよ。」
「え〜、れ〜なとキスしたい〜!」
「だめっ!友達もきとるやろ?お酒もここまでにした方がよかよ。
わかった?」
「・・・はい。」
美貴ねえは小さくなって自分の部屋に戻っていく。
美貴ねえは自分からお酒を買って飲む人やない。
そういえば、昨日フットサルの大会の打ち上げとかで、余ったお酒を
もらってきたって言ってたっけ。
でも、ここまで強く言わんと言うことも聞かないし、お酒を飲むのは構わんけど、
酔っ払うまで飲まなきゃいいのに。
- 344 名前:真実 投稿日:2006/09/03(日) 00:01
- 美貴ねえが部屋に入る前に、美貴ねえの部屋の扉が開いた。
中から出てきたのは、松浦さんやった。
どうして松浦さんが・・・絵里に顔を向けると、やっぱり首を傾げた。
「美貴たん遅い〜って、田中ちゃんと亀ちゃんじゃん。オッス!」
「あれ、松浦さんがここにきてたんですか?」
「別にいいでしょ。私達、付き合ってるんだから。」
「「ね〜。」」
二人は顔を合わせると、声を揃えて笑顔を向けた。
美貴ねえは、よく松浦さんの話しをするようになった。
仲がよくなったのは嬉しいけど、まさか付き合うとまでは思ってなかった。
一瞬何で教えてくれなかったとは思ったけど、何気に美貴ねえは照れ屋やけんね、
れいなに言えなかった気持ちはすぐにわかった。
- 345 名前:真実 投稿日:2006/09/03(日) 00:04
- でも、れいな達の目の前でイチャイチャとくっ付いてるバカップル、
何かすごいうざ・・・って、何しとると!?
美貴ねえが松浦さんに抱きついたと同時に、顔を近づけてキスをした。
しかも、一瞬だけやなくて、ずっと長い時間口付けてる。
れいなも絵里も口を開けてぼーっとその光景を見ていた。
キスを終えた松浦さんは、不思議そうにこっちを向いた。
「あっれ〜、どうして顔を赤くしちゃってるの〜?」
「ど、どういう関係かはわかりましたけど、こんなとこでキスしないでください!」
「そんなに照れなくたっていいじゃない。二人だってするでしょ?」
「しません!絵里とは"ただの友達"やけんね。」
この言葉がどれだけ絵里を傷つけたか、れいなは気付かなかった。
うるさい二人を強引にも部屋に押し込んで、ようやく静けさが戻った。
- 346 名前:真実 投稿日:2006/09/03(日) 00:05
- これで絵里と二人で話しができる、そう思ってた。
でも、絵里は固まったままその場を動こうとしない。
「絵里、部屋に行こう。」
「・・・うん。」
さっきまで明るかったのに、絵里の元気がなくなってる。
れいなの部屋に入った絵里は、ベッドに座り込んで大きなため息をついた。
そんなにさっきのキスが衝撃やったんかな?
「ねぇ、れーな。」
「ん?」
「れーなさ、藤本さんと、キスしたの・・・?」
「それは・・・美貴ねえ、昔からお酒飲むとキス魔になるんやと。
昔は何も知らんかったけん、やられたね。」
「そうなんだ・・・。」
「え、絵里・・・?」
「ただの、友達か・・・。」
ますます落ち込んだ絵里。
どうしようもなくなったれいなは、飲み物を取ってくる理由に部屋から出た。
- 347 名前:konkon 投稿日:2006/09/03(日) 00:05
- 更新しました。
- 348 名前:konkon 投稿日:2006/09/03(日) 00:06
- >>名無し飼育さん
少しづつだけど成長しているんですよね。
今後もれいなにはがんばってほしいと思います。
できれば体の成長も(ry
- 349 名前:真実 投稿日:2006/09/06(水) 23:54
- あ〜もうどうしたらええんやと!?
絵里が泊まりにきてくれるって、せっかく楽しみにしてたのに・・・。
れいなはリビングのソファに転がり込んだ。
『ねぇ、後藤さん。お酒って怖いですね。』
『んあ?いきなりどうした?れいなってお酒飲んでたっけ?』
『いや、れいなやなくて、美貴ねえと松浦さんがね・・・。』
後藤さんはフンフンと頷いてれいなの話しを聞いてくれる。
今みたいな時、後藤さんが話しを聞いてくれるけん、落ち着くことができる。
- 350 名前:真実 投稿日:2006/09/06(水) 23:55
-
『そうだね〜。あたしも初めてお酒を飲んだ時は、意識を失ったもんだよ。』
『後藤さんも飲むんですか?』
『飲み屋の娘だからね。中途半端に残ったお酒とか、お姉ちゃんに付き合って
飲んでたりしたよ。酔うとけっこうストレスとか発散できるんだ〜。』
へ〜、そういうこともあるんだ。
後藤さんの話しを聞いてると、れいなも飲みたくなってくる。
『れいなもお酒に興味持った?あんまり飲みすぎたりしたらだめだよ。』
『ん、わかってますよ。』
『何か嫌なことでもあった?あたしでよければ聞くよ?』
『いえ、大丈夫です。ありがとうございます。』
後藤さんにばかり迷惑かけていられんと、ってのは建前でしかない。
ぶっちゃけれいなも興味あったんよね。
冷蔵庫を開いて、余ったお酒を両手で抱える。
絵里も機嫌悪いみたいやし、こうなったら二人で酔っ払ってやる!
- 351 名前:真実 投稿日:2006/09/06(水) 23:56
- れいなの部屋に入ると、絵里はほんの少し顔を上げて、また俯いた。
絵里、何でそんなに機嫌悪いと・・・。
「絵里。」
「・・・何?」
「何か嫌なことでもあったん?」
「別に、そうじゃないけど・・・。」
「あのさ、たまにはお酒、飲んでみない?嫌なこととか吹き飛んじゃうよ。」
絵里は無表情でれいなを見る。
お願いやけん、そんな顔でれいなを見ないで・・・。
しばらく無言だった絵里は、絨毯の上にあるお酒を一本取って・・・ちょっ、絵里!?
グビグビと一気に煽って飲んじゃった。
しかも空になった缶を置くと、二本目のお酒を手に持った。
絵里って、けっこうお酒強いんやね・・・。
そんなことを思いながら、れいなもお酒を飲み始めた。
- 352 名前:真実 投稿日:2006/09/06(水) 23:56
- 飲み始めてから数分後、
「ねぇ!れーなったら聞いてるの!?あのね・・・。」
「き、聞いとると・・・。」
れいなはお酒を二本飲んだ。
最初は苦くて飲みずらかったけど、慣れてくると気持ちよくなってるのかな?
体に力が入らなくて、面白い感覚を覚える。
頭がフラ〜っとしてきて、体が倒れそうになるのをなんとか防ぐ。
絵里はというと、れいながお酒を二本飲み終えるまでに、もう三本も飲み終えてしまった。
しかも、そのあとはベッドの上でず〜っと愚痴だか文句だかわかんない話しを続けてる。
学校のことでも私事のことでも、どうでもいいようなことを話しては
怒ったり笑ったりして、話しの最後には必ずれいなに振ってくる。
- 353 名前:真実 投稿日:2006/09/06(水) 23:58
- これはこれで悪くもない。
今の絵里は怒ってるけどヘラヘラした笑顔やし、口調ほど機嫌も
そんなに悪くはないやろ。
「れーなはどう思ってるの?」
「えっ・・・ごめん。聞いてなかった。」
「もう、れーな・・・こっちにきなさい。」
絵里は手招きしてれいなを呼んだ。
重い体を絨毯から引き離して、ゆっくりと絵里に近寄っていく。
殴られるのだけは勘弁やと。
れいながベッドの上に乗った瞬間、絵里が飛びついてきた。
気付いた時には、押し倒されるような形で、絵里の顔がすぐ目の前に見えた。
- 354 名前:真実 投稿日:2006/09/06(水) 23:59
- こんなに近くで顔を見たのは初めてで、胸がすごく高鳴った。
絵里は顔を近づけたまま離れようとしない。
れいな、どうすればいいの・・・?
とにかく、この状態は危ないということだけはわかった。
「え、絵里!酔い過ぎやろ。落ち着いて・・・。」
「ならさ、れーなの答えを聞かせてよ。」
「えっ・・・?」
「絵里はね、れーなのことが好き。ずっと好きだったの!」
何をどう返せばいいのかわからんかった。
れいなのことが好き・・・?
それは、友達として?
それとも、本当にれいなのことを・・・?
- 355 名前:真実 投稿日:2006/09/07(木) 00:01
- ち、違うよね。
れいなも絵里も、酔ってるだけなはず。
きっと聞き間違いに決まってる。
「絵里、れーなはここいるし、話しも聞いとるけん、待ってよ。
今の言葉、もう一度言って。」
「何度でも言えるよ。絵里はれいなのことが好き。好きで仕方ないの!」
「れ、れーなも絵里のこと好きだよ。」
「本当に!?よかった〜。嬉しいな〜。」
「絵里、やけん、ちょっとどいて・・・。」
「れーな、大好き・・・。」
絵里の顔が徐々に近づいてくる。
え、どうして!?
れいな、どうすればよかよ!?
れいなが好きやと言ったのは、もちろん友達として。
やけど、絵里は別の意味で捉えちゃってる。
だめやろそんなの、れいな達付き合ってもないし、絵里やって無意識のうちやろ?
ここはとりあえず引き離さなきゃ・・・。
- 356 名前:真実 投稿日:2006/09/07(木) 00:02
- 絵里の口唇がれいなのそれを塞いだ。
どうしてかな・・・?
止めることも、押さえることやってできたはずなのに、
れいなは何もしないで絵里の口唇を待っていた。
美貴ねえ以外の人とは初めてのキス。
生暖かい温もり。
これが、絵里・・・どこか気持ちよくて、うっとりとしてきて目を閉じた。
ずっと感じていたい。
そう思えるのも、何でかわからない・・・。
これが絵里やなくても、そう思ったのかな?
それもわかんないけど、暖かくてれいなを包み込んでくれるような、
優しいキスやった。
- 357 名前:真実 投稿日:2006/09/07(木) 00:04
- 数秒間繋がったあと、絵里はゆっくりと顔を上げた。
「絵里・・・。」
「れーな、好き・・・。」
絵里の目が閉じたと同時に、れいなの胸に倒れこんできた。
寝息が聞こえてくるけん、寝てるみたい。
全く、人の気も知れないで・・・。
れいなは起き上がると、絵里に布団をかけてベッドに寝かした。
あのままやと、れいなの胸の鼓動でまた目を覚ましてしまうかもしれなかったから・・・。
絵里から離れたのに、まだ心臓の音が鳴り止まなかった。
- 358 名前:真実 投稿日:2006/09/07(木) 00:05
- 絵里とキス絵里とキス絵里とキス・・・。
叫びたい衝動をぎりぎりのとこで抑えて、絵里の顔を横から眺めた。
「酔ってても、普通いきなりキスすると?」
ツンと頬を突くと、絵里は一度寝返りをうって、またれいなの方を向いた。
寝返りの意味ないじゃん。
こんなくだらないことでも、相手が絵里やと楽しかった。
っつか、絵里の寝顔見てたら、れいなも眠くなってきた・・・。
明日には綺麗さっぱりと忘れてるかもしれん。
絵里のためにもそれでもいいと思うし、少しもったいなくも感じるけど・・・。
- 359 名前:真実 投稿日:2006/09/07(木) 00:07
- ベッドから立ち上がろうとしたその時、
ズキン
なん、今の痛み・・・?
頭の中を鈍器なようなもので殴られた痛みやった。
これが二日酔い、ってやつなのかもね。
これ以上睡魔に勝つ自信はないし、もう寝よう。
「おやすみ、絵里。」
そっと絵里の髪を撫でると、絵里はくすぐったそうに笑みを見せた。
可愛い寝顔やね・・・絵里の顔を見つめているうちに、れいなの意識は薄れていった。
- 360 名前:konkon 投稿日:2006/09/07(木) 00:07
- 更新です。
- 361 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/09(土) 01:04
- 何か気になる前フリが・・・。
気のせいならいいけど。
あ、更新乙です♪
- 362 名前:Monokuro 投稿日:2006/09/09(土) 07:31
- 頑張れ!絵里!
れいなも早く自分の気持ちを気づいてよ~~
- 363 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:15
- 朝の日差しでれいなは目が覚めた。
ん、ちょっと頭が重い。
そういえば・・・昨日のことを思い出して顔がめちゃ熱くなる。
れいな、絵里とキスしちゃったんだ・・・。
もしかして、絵里も覚えてるのかも・・・どわぁっ!?
声には出さなかったものの、そこから大きく飛び引いた。
やって、れいなのすぐ隣に、絵里の寝顔があるんやもん・・・。
れいな、ソファで寝るつもりやったのに、あのまま絵里と同じベッドで寝ちゃったんやね。
絵里と同じ・・・また心臓が暴れ出す。
本当にれいな、どうしちゃったんやろ?
昨日からかなり重症みたいやね。
ちょっとシャワーでも浴びて、すっきりしてこよっと。
- 364 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:17
- シャワーを浴び終えたれいなは、自分の部屋に入ってベッドに腰掛けた。
絵里はまだ寝ている。
絵里の顔を凝視しない程度に見ながら、顔を近づける。
「絵里、起きろ〜。」
「ん・・・。」
「絵里〜。朝やと。いい加減に起きんしゃい。」
絵里の肩を揺すると、ゆっくりと瞼を開いた。
布団を出てきょろきょろと首を回して、れいなに照準を合わせる。
「絵里、おはよ。」
「・・・れーな?」
絵里は不思議そうにれいなの顔を見つめる。
何か、見つめられるのが恥ずかしくなって、れいなは目を反らした。
- 365 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:19
-
「おはよ・・・あれ、どうしてれーなが絵里の家にいるの?」
「何言っとんの?昨日はれいなの家に泊まったんやろ。それより絵里、気分はどう?」
「気分・・・ん、頭がフラフラする。」
「やろうね。はい。」
「あっ、ありがと・・・。」
れいなが渡した水をコクコクと飲み込んでいく。
ようやく頭が回り始めたのか、絵里は何やら考え込んでいる。
「絵里、そういえば昨日・・・。」
「あっ!絵里、シャワー浴びてくるとよかよ!頭すっきりするよ。」
絵里が思い出す前にれいなはそう言った。
自分でも何をそんなに慌ててるんだかって感じやけど、昨日のことは
あまり思い出してほしくなかった。
- 366 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:20
- 酔っていたとはいえ、キスをしちゃったことは思い出してほしくは・・・
やっぱほしいかも、って頭がこんがらがってくる。
「れーな、いいの?」
「もちろん。服は適当にれいなの貸すけん、心配いらないよ。」
「れーなの、服・・・。」
「あ、いやなら美貴ねえの借りてくるけど、どっちがいい?」
「ち、違うよ!いやとかじゃなくて、その、れーなの服でお願いします。」
絵里に適当に服を渡すと、トコトコとお風呂場に向かっていった。
さてと、その間にれいなは朝ごはんでも作っちゃうかな。
美貴ねえ達を起こすとうるさくなるけん、あとにしようっと。
- 367 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:21
- 簡単な料理をしているうちに、昨日の絵里のことを思い出した。
怒った絵里、笑ってる絵里、泣いてる絵里、喜んでる絵里、色んな絵里の表情が
頭の中に浮かんでくる。
最近絵里のことばっかり考えてるような気がする。
れいな、もしかして、絵里のことを・・・あっ!
危ない危ない、ぼーっとしてるうちに卵を焦がすとこやった。
れいな達と美貴ねえと松浦さん、四人分の朝食を並べ終えたとこで、
絵里がリビングに入ってきた。
れいなの服もけっこう似合っとるね。
- 368 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:21
- つやつやの髪が太陽の光を反射して、綺麗に光ってる。
絵里、可愛いな・・・。
「れーな、朝ごはん作ってくれたの?」
「えっ?ああ、うん。み、美貴ねえ達起こしてくるけん、先に食べてて!」
れいなは顔を見られないように、すぐに美貴ねえの部屋に向かった。
やって、また顔赤くなってるかもしれんし、今は絵里の顔を真っ直ぐ見られる自信がない。
あ〜本当にやばい。
コンコン
「美貴ねえ、朝ごはんできたよ。美貴ねえ。」
何度呼んでも起きてくる気配がない。
仕方ない、朝ごはんも冷めちゃうし、れいなは部屋のドアを開けて中に入った。
- 369 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:23
-
「美貴ねえ、ご飯・・・!?」
れいなは目を見開いて固まった。
美貴ねえが寝ているベッドの上では、松浦さんも一緒に寝ている。
それだけやったらまだ問題はない。
けど、布団の隙間から見える二人の体は、裸やった。
絡み合っている二人を見れば、何をしていたかもすぐに想像できる。
ズキン
昨日と同じ、いやそれ以上の頭痛がれいなを襲う。
今見ている光景とリンクしたように、嫌な思い出が頭の中を突き抜けた。
- 370 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:24
- れいなの家で、ママが知らない男に抱かれている姿が蘇ってくる。
れいなが部屋にいるのに、自分の部屋で行為をしている声が聞こえてくることも、
裸姿で寄り添って寝ているところを見たこともあった。
信じられなかった。
パパに、れいなに対する裏切りの行為。
それは、パパも同じやった。
けれど、れいなは、れいなは・・・。
生理的な嫌悪感。
黒く醜い感情が胸を締め付けてくる。
「ん、ご飯?」
美貴ねえは目を擦りながら起き上がって、れいなに視線を向ける。
そのあと、今の自分の姿に気付いて裸体を隠した。
- 371 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:25
-
「あっ、ちょ、れいな少しだけ待って!美貴達、その・・・。」
「・・・。」
「・・・れいな?」
美貴ねえが服を身に付けている間に部屋を飛び出した。
ものすごい吐き気がしてトイレに駆け込んだ。
「ゴホッ!おぇ、うぇぇ・・・。」
便器に突っ伏して吐いた。
朝は何も食べてなかったから、胃液しか出てこなかった。
限界まで吐いて、もう何も出てこない。
それでも、気持ち悪いのは取り除けなかった。
- 372 名前:真実 投稿日:2006/09/11(月) 23:26
- 美貴ねえも、松浦さんやって何も悪くない。
むしろ喜ばしいことやと思う。
れいなと同じように、少しだけ口調や目つきが厳しいけんあんまり
友達のいなかった美貴ねえが、好きな人と付き合ってる。
れいなやって嬉しいはず。
でも・・・体が、心がそれを受け付けない。
二人に対する思いじゃない。
たぶん、それが誰であったとしても、人と人との重なり合いが、パパやママを思い出させる。
相手をすごく好きで、愛し合って、それなのに裏切って・・・信じられなかった。
愛することに意味があるのかさえわからなくなってくる。
こんな思いをするくらいなら、れいなは一人でいい!
「ぐすっ、ふぐぅぅ・・・。」
もう、何も考えたくなかった。
溢れてくる涙を押さえながら、声を押し殺して泣いていた。
- 373 名前:konkon 投稿日:2006/09/11(月) 23:27
- 更新しました。
- 374 名前:konkon 投稿日:2006/09/11(月) 23:30
- >>名無し飼育さん
前フリ・・・どうなるんでしょうねw
どのような展開になるかは、今後のれいな次第ですね。
あっ、どうもですw
>>Monokuroさん
れいなにも絵里にもがんばってほしいですね♪
果たしてれいなは自分の気持ちを・・・ネタバレになるんで
ここら辺にしときます(汗)
- 375 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/12(火) 22:41
- うう、そんなトラウマを・・・。(ノ_<。)
- 376 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/13(水) 18:32
- 更新お疲れ様です。
れーな頑張れ・・・!次回も楽しみにしています
- 377 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:18
- れいなは壁に背をつけて座り込んでいた。
どのくらいぼーっとしてたやろ?
大して時間は経ってないと思うけど、れいなにとってはすごく長い時間のように感じた。
ゆっくりと起き上がってトイレから出る。
リビングに入ると、絵里達三人が楽しそうに朝ごはんを食べてた。
れいなに気付いた絵里が、こっちに駆け寄ってくる。
「れーな、大丈夫?顔色悪いよ?」
「別に、何でもない。」
さっきまで空腹やったのに、今は何も食べる気がしない。
絵里の前を素通りして玄関に向かう。
- 378 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:19
- れいなの不審な態度に気付いた美貴ねえが、怪訝そうな顔をして
れいなに近寄ってくる。
「ちょっとれいな、どこに行くの?」
「・・・散歩。」
「だめだよ。せめて朝ごはん食べないと、倒れちゃうよ。」
「いらない。」
「いらないってね、れいな・・・。」
玄関で靴を履いていたれいなの肩に、美貴ねえが手を置いた。
その瞬間、
バシッ!
反射的に美貴ねえの手を弾いてしまった。
- 379 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:19
- そんなことをするつもりはなかった。
けど、今は人に触れられたくない。
人の温もりが怖かった。
「れいな・・・?」
「・・・。」
れいなは何も言わずに家を出た。
悲しそうな表情で立ち尽くしている美貴ねえ。
その後ろから、絵里と松浦さんが近寄る。
「田中ちゃん、どうしたの?」
「わかんない。ただ・・・あの子、泣きそうな顔をしてた。」
「あ、あの、絵里がれーなを連れ戻してきますから、心配しないでください!」
「亀ちゃん、れいな、何かあったの?」
「それは・・・わかりませんけど、絵里がれーなの傍についています。」
「そう・・・頼んだよ。」
絵里は素早く靴を履いて家を出て行った。
その後姿を見届けたあと、美貴ねえはぐったりと松浦さんに寄りかかった。
松浦さんは、何も言わずに優しく美貴ねえの背中を撫でていた。
- 380 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:20
- れいなは歩いていた。
特に目的の場所なんてない。
ただ、外の空気でも吸って、頭の中をすっきりさせたかった。
家の中にいると、絵里や美貴ねえ達に当たって、何もかも壊しそうやったから。
途中から絵里がついてきていることに気付いた。
一度目を向けると、少し緊張した顔で口を開こうとしたんやけど、
結局何も言わずに俯いた。
絵里には悪いと思ってる。
けど、そう思いつつもれいなは、それ以上絵里を振り返ろうとはしなかった。
目に付いた公園に入って、ベンチに腰を下ろした。
夏が始まるこの季節にしては、涼しい風が吹いてて気持ちがいい。
深呼吸すると、少しだけ気分が冷めてきた。
- 381 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:21
- 頭を押さえて下を向いてると、一つの影に気付いて顔を上げる。
絵里が、悲しそうな顔をしてれいなのすぐ傍に立っていた。
「絵里・・・。」
「れーな・・・気分、悪いの?もしかして、絵里、何かしたの!?
だったら謝るから・・・。」
「大声出さんで。頭に響く。」
「あ、ごめん・・・。風邪、引いちゃったの?それとも、お酒のせい・・・?」
「・・・そういうわけやなかよ。」
ようやく頭が回ってきた。
れいなはベンチの隅によって、隣をポンポンと叩く。
それを絵里は理解したようで、れいなの隣に腰を下ろした。
- 382 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:23
-
「れいな、やっぱり信じられん。」
「・・・れーな?」
「誰かを愛することが、すごく怖い・・・。」
れいなは前を向いたまま話し始めた。
れいなの過去を、パパやママのことを。
ぽつぽつと話して、それを絵里がどう思うかはわからない。
心の中では話してしまいたかったのかもしれない。
傍にいる都合のいい誰か、やない。
美貴ねえや愛ちゃんみたいに、大人の考えができる人でもない。
絵里やけん、話したんやと思う。
絵里にとってはいい迷惑かもしれない。
それでも、話したかった。
れいなを、わかってほしかった。
- 383 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:24
- 一通り話し終えて小さくため息をついた。
一度だけ、チラリと視線を向ける。
絵里はすぐにでも泣きそうな顔でれいなを見ていた。
痛まれなくて視線を外し、空を仰いだ。
「れいなにはわからん。どうして人を好きになるのか、体を抱き合わせるのか、
そこに何を求めてるのか、何にもわかんなくなってくる・・・。」
「れーな・・・。」
「絵里にはわかるの?人を愛する意味がわかるの?愛って何?
簡単に消えてしまうくらいなら、れいなはそんなものいらない。
れいなは、一人で生きていく・・・。」
そう言った瞬間、絵里に抱きつかれた。
その暖かさがれいなを恐怖に貶める。
一瞬で消えてしまうような温もりなら、初めからない方がマシやと思ってた。
- 384 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:25
- 受け入れたくなかった。
絵里の体を拒絶する。
「絵里!何すると!?離して!」
「・・・。」
「絵里!離せっ!だめっ!」
どうあっても絵里は離してくれない。
苛立ちが募って絵里の背中をバシバシと叩く。
それでも絵里は離れてくれない。
「絵里!いい加減に・・・。」
バシッ!
「あっ・・・。」
「痛・・・。」
勢い余って、絵里の頬を叩いてしまった。
絵里の顔を叩いてしまった罪悪感と、絵里の思いがけない行動に
ついていけなくて俯いた。
- 385 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:28
- れいな、子供やね。
絵里は何も悪くないのに、絵里のせいにしようとしてる。
けど、どうして絵里は・・・?
「え、絵里、ごめ・・・。」
「絵里ね、れーなのこと、好きだよ。」
赤くなった頬を押さえながら、絵里は笑顔でそう言った。
「れーなのこと、絵里は信じるよ。ね、れーなも絵里のこと、信じてみてよ。
信頼してよ。絵里はれーなのこと絶対に裏切らないよ。」
「そ、そんなことわからん!絵里やって、れいなのことを捨てるかもしれんし、
れいなも絵里をどうでもいいと思うかもしれん・・・。」
絵里は少し苦笑いを浮かべて考え込んだ。
ほらっ、やっぱり絵里やって、信じることなんか・・・。
- 386 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:30
-
「確かにそうだよね。けどね、信じないと何も始まらないもん。
絵里のことをれーなは守ってくれたし、たくさん話しもしてくれた。
色んなこと考えてくれてる。れーなは優しいよね。人を思う強い心を
持ってるの。そのせいで傷ついちゃってると思うけど、それがれーななんだよ。
絵里ね、れーなだから好きになったんだよ。ずっと、ずーっと一緒にいたい。
何があっても、絵里はれーなを信じるよ。」
「絵里・・・。」
「こんなとこで告白するのって、間違ってるのかもしれない。絵里、
卑怯だよね・・・。それでも、絵里はれーなのことが好きなの。
れーなのことが好きで好きでたまらないの。れーなの力になれるんだったら、
絵里、何でもするよ。何でも言ってみてよ。」
れいなのことが好き・・・?
そんな、何でれいなのことなんか好きになると?
れいな、人を愛する意味すらわかんないのに・・・。
- 387 名前:真実 投稿日:2006/09/15(金) 21:31
- そう言ったら、絵里はこう答えてくれた。
「そんなの絵里だってよくわかんないよ。だからさ、一緒に二人で
探しにいこうよ。れーなは一人じゃないよ。怖がらないで。」
「・・・。」
「大丈夫。絵里はここにいるよ。」
もう一度絵里に抱きしめられた。
この時の絵里の温もりに、恐怖心や絶望を抱えることはなかった。
むしろ、れいなの暗い感情を照らしてくれるような気さえした。
暖かかった。
優しかった。
どこか安心して自然と涙が零れてきた。
れいなは絵里の体に抱きついて泣き出した。
絵里の愛に包まれて、れいなは泣き続けていた。
- 388 名前:konkon 投稿日:2006/09/15(金) 21:32
- 更新しました
- 389 名前:konkon 投稿日:2006/09/15(金) 21:34
- >>375:名無飼育さん
色々と深い理由があるんですね・・・。
暗い過去をれいながどうするか、ですかね(汗)
>>376:名無飼育さん
れいなにはがんばってほしいですね。
今後の彼女の動きに注目ですw
- 390 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/16(土) 00:14
- ちょこっと泣いちゃった
- 391 名前:Monokuro 投稿日:2006/09/17(日) 18:49
- 更新,お疲れさまでした!
「そんなの絵里だってよくわかんないよ。だからさ、一緒に二人で
探しにいこうよ。れーなは一人じゃないよ。怖がらないで。」
--> この文章を読んですごく感動しちゃいました。
絵里がれいなの心の傷を完全に治してくれることができるように。。。
次の話しも待ってますよ~
- 392 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/17(日) 21:14
- 更新お疲れ様です。
ちょっと前進?な、あの二人の今後。期待大です!
>>391
ネタバレです。今後、ご注意を。
- 393 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/17(日) 21:15
-
- 394 名前:392 投稿日:2006/09/17(日) 21:16
- 要らぬお世話かもしれませんが、ネタバレ防止の意味を込め
2レスほど隠させていただきます。
- 395 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:37
- 公園から出たあと、絵里は一度れいなの部屋に戻ってすぐに帰った。
絵里に話して、すごく救われた気がする。
絵里に会えて、本当によかったと思う。
でも、告白に至っては話しが別だ。
夕方にもう一度公園で会うって形で、そこで答えを出すことにしてもらった。
今はまだ答えが出てこない。
松浦さんと付き合ってる美貴ねえに相談するって考えも浮かんだけど、
これだけは自分で考えないと意味がない。
絵里にやって悪いし、れいな自身の答えを見つけなきゃいけない。
前を向いて歩きたいと思う気持ちと、まだ恋愛に対する恐怖心が混ざり合っている。
「絵里・・・。」
ベッドに寝転んでぼーっと考えてた。
答えの出ない答えを探しているうちに眠くなってきて、れいなはゆっくりと目を閉じた。
- 396 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:38
- 気付いたら、全くわからない場所に立っていた。
周りは白いもやがかかっててよく見えない。
ここはどこなの・・・?
れいなが突っ立ってると、前の方から人影が見えてきた。
あれは、後藤さん?
「やぁ、れいな。」
「後藤さん、ここはどこですか?」
「れいなの夢の中。」
「そうなんですか・・・。」
まさか夢の中でまで後藤さんに会えるとは思わなかった。
後藤さんはにこやかな笑みを浮かべてれいなを見ている。
- 397 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:39
-
「どうして後藤さんがここにいるんですか?」
「そんなの決まってんじゃん。れいなに会いたかったからだよ。」
「えと、その・・・。」
「アハハッ!赤くなったれいな可愛い〜♪」
「ちょっ、何も笑わんでも・・・!?」
れいなの頬に暖かい温もりが触れた。
後藤さんの伸ばした手が、れいなの頬に当たってる。
後藤さんを感じることができる・・・幽霊なのに、夢の中では実体化してた。
れいなはそっと後藤さんの手に触れた。
初めての感触に、どこか不思議な思いと、これが後藤さんなんだという
心地よさが溢れてくる。
「後藤さんに、触れる・・・?」
「ん、今だけね。そういうことだから、お姉さんに甘えてもいいんだよ〜。
さぁ、おいで。」
後藤さんは手を広げてれいなを呼んだ。
- 398 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:39
- 夢だとはいえ、さすがにそんなことはできんと・・・。
それに、今は絵里のことで頭がいっぱいやし、れいなは首を横に振った。
「ちぇ、まぁ仕方ないか。何か考えてるみたいだしね。」
「えっ?」
「れいなさ、いかにも悩んでるって顔してるよ。どうした?」
「それは、れいなの問題やけん、自分で解決しないと・・・。」
「もちろん、答えを出すのはれいなだよ。けどさ、あたしだって力を添えることが
できるかもしれないよ。人に話して、その人の話しを聞くのも一つの手だと思うけど?」
れいなは唸って考える。
後藤さんは誰よりも信頼できる優しいお姉さんだ。
一人でいたときも、悩んでたときも力を貸してくれた。
少しだけ、話してみよっかな・・・。
- 399 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:40
-
「絵里に、告白されました・・・。」
「うん。それで、れいなは何て答えたの?」
「今日の夕方に答えを出すって伝えました。けど、れいな、わかんないことばっかで、
絵里のことを好きでいられるのか、絵里がずっと傍にいてくれるのか、そう思うと
怖くなって・・・。」
「そっか・・・。」
後藤さんは小さく笑みを浮かべてれいなの頭をポンポンと叩いた。
その温もりが、絵里とは別の意味で、すごく癒される気がする。
「そうだね。れいなはちょっと重い過去を背負ってるからね、怖いと思うよ。
人を好きになろうにも、れいなを裏切ったご両親、みっちーがフラれた場面も
目撃してるし、恋愛は怖いって思うかもしれない。でもね、思い出してみてよ。
エリリンといる時のれいな自身を、見つめ直してみてよ。きっと答えは出てくるよ。」
「絵里と、いる時・・・。」
れいなは目を瞑って、絵里と出会ってからの日々を思い出した。
- 400 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:41
- 最初に会った時は、チラチラと目を合わせてくる、変な子だなとしか思わなかった。
上級生にいじめられてて、弱い子だなって思った。
けど、本当は違った。
一番弱いのはれいなやった。
絵里は、誰にも不安を打ち上げずに、自分一人で解決しようとしてた。
誰にも被害が及ばないように、一人で立ち向かった。
それに比べて、れいなは見ているだけやった。
後藤さんに背中を押してもらえるまで、れいなは前に進めなかった。
絵里は、いつでも笑ってて、れいなを気にしてくれていた。
一人でもいいって思ってたのに、ズカズカとれいなの心の中に入ってきた。
いっぱい話しをしてくれた。
絵里の笑顔に吸い込まれていく自分に気付いた。
- 401 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:42
- ずっと話しをしたり、遊んだり、いつまでも笑い合っていたい。
絵里が傍にいてくれるなら、れいなはがんばれる。
絵里がずっと一緒なら、れいなは・・・。
「どう?答えは見つかった?」
後藤さんの言葉でれいなは目を開いた。
「・・・れいな、絵里のことが好きかどうかはまだわかりません。
でも、絵里と一緒にいたい。ずっとあの子の傍にいたいです。」
「フフフ、れいなって可愛いね。」
「なっ!?何言うとうと・・・。」
「れいな、それが"好き"だって感情なんだよ。」
「えっ・・・?」
「まぁ、どう答えてもあの子は受け入れてくれるはずだよ。あとは、
れいなの気持ち次第だよ。がんばってね。」
「・・・はい!」
れいなが大きく返事をすると、後藤さんはまた頭を撫でてくれた。
- 402 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:42
- そうやね、思いのままに感情をぶつけてみるんだ。
不器用なりにも、ありのままのれいなを伝えるんだ。
「さてと、答えが出たならそろそろ行かなきゃね。」
「えっ?もうそんな時間なんですか?」
「夢の中だからね。時間の経過はけっこう早いもんだよ。」
「そうですか・・・。後藤さん、ありがとうございました!」
「あたしは何もしてないよ。ただ話しを聞いただけだもん。」
ハハッ、この人も素直じゃないよね。
後藤さん、可愛いって言ったら、どんな顔するんかな?
よし、ちょっと試してみよっと。
- 403 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:46
-
「後藤さんやって、素直じゃないですよね。」
「ん〜そうかもね。だからあたしはここにいるのかもしれない。」
「後藤さんも可愛いとこ・・・ん、どういう意味ですか?」
後藤さんは、今までにないくらい真剣な表情をしていた。
れいなもふざけるのをやめて、後藤さんと向き直った。
「ねぇ、れいな。自分の道は自分で切り開くんだ。でもね、人は決して
一人じゃ生きられない。たくさんの人を愛し、愛されて生きてるの。
それだけは覚えておいてね。」
「はい。そうやけど、どうして急に・・・!?」
気付いた時には、後藤さんに抱きしめられてた。
- 404 名前:願い 投稿日:2006/09/18(月) 22:49
- 絵里に対する思いを知ってて、そういうことをする人やない。
なら、どうして・・・?
「・・・後藤さん?」
「忘れないで。どこにいても、あたしはれいなを見守ってるよ。」
後藤さんが何を言いたかったのかはわかったけど、何で急にそんなことを
言うのかまではわからなかった。
後藤さんはれいなを離すと、後ろを向いて歩き出す。
霧のせいで徐々に見えなくなってくる。
「ご、後藤さん!本当にありがとうございました!」
消える直前で後藤さんは一度だけ振り向いた。
その時の表情はよく見えなかったけど、いつものように笑っていると確信したかった。
この時にはまだ、何も知らないでいた。
後藤さんの思いを、れいなは知る由もなかったのだから・・・。
- 405 名前:konkon 投稿日:2006/09/18(月) 22:50
- 更新しました〜。
- 406 名前:konkon 投稿日:2006/09/18(月) 22:54
- >>390:名無飼育さん
大いに泣いちゃってくださいw
ちょっとした感動の一面ですね。
>>Monokuroさん
俺もこのセリフは大好きですよ♪
どのような未来が待っているかは・・・まぁ神のみぞ知るってとこで(マテ
ネタバレにはご注意くださいね。
>>392:名無飼育さん
ほんのちょっと前進ですかね(汗)
まぁ今後ともご期待願います!
あと、嬉しい気配りの方ありがとうございましたm(_ _)m
- 407 名前:Monokuro 投稿日:2006/09/19(火) 10:52
- ネタバレのこと、本当にすみませんでした。
作家様と読者様に迷惑をかけました。
すごく感動してそれはまだ考えつかなかったんです。これから気を付けるようにします。 Y.Y
- 408 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/20(水) 23:38
- れなえり可愛いなぁ・・・(*´Д`)
そしてごっちんかっこいい!
次回更新心待ちにしております。
- 409 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:29
- れいなは目を覚まして起き上がった。
時間を見ると三時半、絵里との約束は四時にさっきの公園で会うことになってる。
まだちょっと早いけど、家を出る準備を始める。
部屋を出ると、美貴ねえと松浦さんがリビングのソファに隣合って座ってた。
美貴ねえはひどく落ち込んだ表情をしてて、松浦さんが慰めてる。
もしかして、朝のれいなを気にしてるの・・・?
れいなは美貴ねえの傍まで歩み寄る。
「あの、美貴ねえ・・・。」
「・・・。」
「田中ちゃん・・・。」
美貴ねえはゆっくりとれいなを振り向く。
松浦さんの様子から察すると、やっぱりれいなのことを考えてくれてたみたい。
- 410 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:30
-
「美貴ねえ、ごめんなさい!」
「・・・れいな?」
「ちょっと問題があって、でもそれはもう解決したから・・・。
朝は機嫌が悪くなってて、美貴ねえにも冷たく当たっちゃって、
本当にごめんなさい。」
れいなは深く頭を下げた。
少しして、美貴ねえは立ち上がってれいなの頭を上げさせた。
「れいな、たぶん深い理由あったんだと思うよ。でも、何あったかは聞かないよ。
本当にやばいと思った時には、話してくれると思うからね。」
「美貴ねえ・・・。」
「けどね、覚えておいてよ。美貴はれいなの家族なの。美貴にとって、
れいなは大切な妹なんだよ。いつでも力になるからね。」
「私もだよ。田中ちゃん♪」
松浦さんが美貴ねえに寄り添ってそう言ってくれた。
後藤さんの言っている意味が、改めて胸に染みてきた。
れいなにも大切な仲間がいる、れいなを分かってくれる仲間がいる。
れいなが嬉しそうに頷くと、二人もようやく笑顔を見せてくれた。
- 411 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:30
- れいなが玄関に向かうと、美貴ねえが見送りにきてくれた。
「れいな、どこか行くの?」
「うん。絵里と会ってくる。晩ごはんまでには帰るけん、心配しないで。
あ、美貴ねえと松浦さんは家にいると?」
「そうだね〜。今日は家でゴロゴロしてるつもりだよ。」
「ならさ、絵里も呼んで、みんなでご飯食べてもよかね?」
「いいんじゃないかな?れいなの手料理なら、亜弥ちゃんも喜ぶよ。」
「へへっ、それじゃ、行ってきます!」
「気をつけてね。」
れいなは足早に玄関を飛び出した。
約束の時間まであと十五分、公園には普通に歩いて十分もあれば着く。
けど、早く絵里に会いたかった。
会いたくて仕方なかった。
- 412 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:31
- 正直なところ、絵里にどう伝えようとかはあまり考えてない。
れいなの思っていることを素直に全部ぶつけるだけだ。
その思いを早く伝えたかった。
絵里と付き合ったらどうなるんかな?
今までと変わらないのかもしれないし、何かあるかもしれない。
色んなことして、喜んで、楽しんで、悲しんだりするのかな。
絵里とケンカしたり、言い合ったりするかもしれんね。
その時には、頼れる仲間に相談を持ちかけたりすればいい。
さゆや、美貴ねえや、松浦さんとか生徒会の人達に相談するんだ。
れいなには、信頼できるたくさんの仲間がいるんだから。
そうすれば、絵里とも仲直りして、またいっぱい遊んで、笑い合って・・・
今までのれいなでは考えられなかった、色んな未来を想像してしまう。
れいなは早歩きをやめて走り出した。
- 413 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:33
- 最後の交差点を渡ろうとしたところで、信号が赤になった。
もう、公園は見えてるのに・・・こういう時ほど赤信号が長く感じる。
早く青になれ、そればっかを心の中で唱え続けていた。
信号が青になった瞬間、れいなは前に足を踏み出した。
頭の中は絵里でいっぱいやった。
- 414 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:33
- やけん、気付かなかった。
そして、気付いた時には遅かった。
居眠り運転の車が、信号を無視してれいなに向かってきていた。
車はすぐ目前まで迫ってきていた。
避けることは、できなかった。
- 415 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:34
- れいな、こんなところで死ぬの?
せっかく新しい未来を作りたいって、生きていたいって思えたのに・・・。
たくさんの仲間ができたっていうのに・・・。
絵里に、思いを伝えたかったのに・・・。
ほんの一瞬のはずなのに、走馬灯が頭の中を駆け巡る。
ドンッ!
強い衝撃と共に、れいなは地面に倒れ込んだ。
手を地面に擦ってできた傷と、背中に伝わった人に押されたような衝撃の痛みが走る。
痛い、って認識がある。
れいな、生きてるんだ・・・。
- 416 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:35
- 生に対する喜びと、同時に浮かび上がる生きている疑念。
後ろの方で人の騒ぎが聞こえてきた。
そちらの方を向いた瞬間、れいなは言葉を失った。
目に入ったのは、電柱に突進した車の残骸と、血まみれになって倒れている人。
顔は伏せていてよく見えなかったけど、すぐに分かった。
見覚えのある、鮮やかな黄緑色で染めたキャミソールに、
リボンのついた純白のスカート。
足がガクガクと震えて、それでもれいなは全力で駆け寄った。
『れーな。似合う、かな?』
『うん・・・とっても似合ってるっちゃよ。惚れそうなくらい、マジ可愛い。』
『本当に!?じゃあ、これ買ってくるね!』
「絵里ーっ!」
れいなは集まりかけてる人達を掻き分けて絵里に近寄った。
- 417 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:36
- そっと絵里の体を抱えると、ドロッとした血がれいなの手に垂れる。
買ったばかりの服が、徐々に赤く染みこんでいく。
「絵里!どうして、れいななんか、庇って・・・。」
れいなは泣きながらそう言った。
すると、絵里はほんの僅かに目を開けて、震える手をれいなの手に乗せた。
「れ・・・い・・・と・・・。」
「えっ・・・?」
絵里は口をパクパクとして呟いた。
そして、またぐったりと頭を下げて目を閉じた。
- 418 名前:願い 投稿日:2006/09/21(木) 23:37
- そんなの、そんなのなかよ・・・。
絵里・・・そんなこと、言わないでよ・・・。
「絵里・・・絵里ーーーっ!!!」
れいなの泣き叫ぶ声が、交差点に響き渡った。
それでも、絵里が再び目を覚ますことはなかった。
- 419 名前:konkon 投稿日:2006/09/21(木) 23:37
- 更新です・・・
- 420 名前:konkon 投稿日:2006/09/21(木) 23:40
- >>Monokuroさん
いえいえ、お気になさらないでください。
感動したなんて言ってもらえてとても嬉しいです。
>>408:名無飼育さん
れなえり大好きですw
ごっちんも可愛くしてみたかったりしてwww
けどかっこいいごっちんが自分は好きです♪
- 421 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/22(金) 05:13
- すごい衝撃的な展開・・・
- 422 名前:Monokuro 投稿日:2006/09/22(金) 10:49
- どうしよう。。。どうしよう。。 Y.Y
せっかくれいなが自分の気持ちを気づいたのに。。。
震える心情で次話を待ってます。
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/23(土) 22:03
- うわー。
どうなんの、コレ・・・。
- 424 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:16
-
真希視点
あたしは星が散りばめられている夜空を見上げていた。
さっきまではれいなの夢の中にいた。
その人の夢とシンクロすることで、相手の夢の中に入り込むことができるんだ。
本当はこんなことしちゃいけないんだけどね。
れいなと話しをするくらいならともかく、その人の人体に障害が出るような真似だけは
してはいけない、するつもりはなかった。
けど、もうすぐれいなと会えなくなる。
そんな予感があたしの胸に渦巻いていたから、ほんの少しでいいから、
れいなの力になりたかった。
あたしに気付いてくれたれいなのために、恩返しをしたかったんだ。
- 425 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:17
- 空を見上げていると、光が天へと舞い上がるのが見えた。
あれは・・・天使?
普通の人には見えない天使の姿が、今のあたしには見える。
天使の仕事は、死んだ者が善人なら地獄に落ちようとしている魂を救い、
一度天に舞い上がり、生き延びることができる者は器に戻され、
死を迎え入れた者はそのまま天国へと連れていかれるみたい。
あたしはどちらかというと後者なんだけど、訳あってここにいる。
その天使はあたしに気付いたようで、魂を連れたままこちらに向かってくる。
あれ、あの魂って、まさか・・・。
「久しぶりね。後藤真希。」
天使は笑顔でそう聞いてきた。
- 426 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:19
- あらら、あの時の天使みたいだね。
どうやら覚えててくれたみたい。
「・・・久しぶりだね。天使、なっち。あの時はどうも。」
「覚えててくれたようだね。そう言うくらいなら、無闇に逃げ回らないで
ほしいもんだべさ。それにしても、こんなところに住み着くなんて、
珍しいタイプだべ。これからもずっとそこに住むの?今だったら、
天国まで連れて行ってあげられるけど?」
「その前に、一つ聞かせてよ。その子、死んでるの?」
あたしは魂に視線を向ける。
なっちは、笑みを消して小さく頷いた。
- 427 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:21
-
「まぁ、ね。肉体はまだかろうじて生きているけど、魂の方が死んでしまってるの。
あなたとは逆ね。」
「えっ?・・・ってことは、あたしの魂はまだ生きてるの?」
「そうみたいだべ。でないと、ここにいられるわけないでしょ。」
「・・・ねぇ、一つだけお願いがあるんだ。」
あたしはなっちの目を見てそう言った。
きっと、これがあたしの最後の仕事なんだね・・・。
- 428 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:22
-
れいな視点
あれから、絵里は救急車で病院に運び込まれた。
今は手術室のランプが赤く点灯している。
れいなは近くにあるベンチに座って、手術が終わるのを待っていた。
もう涙も枯れ果てたみたいで、目からは何も出てこなかった。
心の中もポッカリと穴が空いたみたいに何もなくなった。
手術室の前では、絵里のパパとママが体を寄せ合って、涙を浮かべて立っていた。
れいなから連絡を受けた美貴ねえと吉澤さんは、壁際で何も話さずに
ただじっと立ち尽くしている。
愛ちゃんやポンちゃん、マコっちゃん、ガキさんは、れいなのいる前のベンチで、
暗い顔をして医師の報告を待っている。
ほとんど抜け殻と化していたれいなを隣で支えてくれたのは、さゆやった。
- 429 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:24
- 反対側に座って泣きじゃくってる小春ちゃんを慰めながら、絵里は大丈夫だから!と、
れいなに何度も言い聞かせてくれた。
まるで、自分自身に言っているようにも感じた。
どのくらい経過したやろ。
誰かのすすり泣く声が聞こえる中、ついに手術室のランプが消えた。
全員が手術室に視線を向ける。
しばらくして、医師が出てきた。
絵里のご両親が出てきた医師に飛びついた。
「先生!あの子は、絵里は無事なんですか!?」
「先生!」
一瞬の沈黙のあと、医師は言いにくそうに呟いた。
- 430 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:25
-
「誠に、残念ですが・・・。」
「そんな・・・。」
絵里のママは泣き崩れて、パパは立ちながら涙を零した。
周りのみんなも泣いている。
バンッ!
音のした方を照準の合わない目で追うと、吉澤さんが壁に手をつけて立っていた。
目には涙を溜めて、叫ぶのを堪えるかのように歯を食い縛ってる。
「ちくしょう・・・何でだよ?何でこんなことに・・・。」
「よっちゃん・・・。」
「何で"また"、私の仲間が、いなくなるんだよ・・・くそぉっ!」
もう一度壁を叩きつけると、吉澤さんの膝が折れた。
- 431 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:28
- 美貴ねえも信じられないといった顔をしてる。
けど、涙が次第に零れてきて、吉澤さんに肩を回して抱きしめた。
いや、お互いを慰め合うかのように、抱き合っていた。
「うそ・・・うそやよ。そんなの、うそに決まっとるがし!」
愛ちゃんが大声でそう言って立ち上がった。
そして、ガキさんの方を向いて、肩を強く揺さぶる。
「な、なぁ、里沙ちゃん。こ、こんな、の、うそやよね・・・?あーし、
夢でも見とるんやよね・・・?」
「わ・・・私だって、こんなの信じたくないよ!だって、カメ、今度一緒に、
遊園地で絶叫しようって、約束したんだもん!でも、でもぉ・・・。」
「そうやよね!絵里は生きてるって!あーし達を驚かそうとしとるだけやって!
ほらっ、あっちであーし達がくるのを待って・・・。」
手術室に駆け寄ろうとした愛ちゃんを、ポンちゃんが抱き止めた。
- 432 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:31
- ポンちゃんは、小さく首を振って見せる。
彼女自身も信じたくないはずやけど、事実を愛ちゃんに振り向かせた。
「愛ちゃん・・・。」
「あ、あさ美ちゃん、違うよね・・・"あの人"みたいに、あーし達を置いて、
死んだりしないよね・・・?ねぇ・・・うそやって言ってよーっ!!」
愛ちゃんはズルズルと泣き崩れた。
マコっちゃんも、ただ泣きながら彼女を見ていることしかできなかった。
れいなは、動けなかった。
まだ実感が沸かないのか、それとも、あの時の絵里の言葉を身に
受けてしまったせいなのか、それもわからない。
- 433 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:32
- 絵里は、事故に遭った直後に、れいなにこう言った。
『れーな・・・今まで、ありがとう・・・。』
信じたくなかった。
何でそんなことを言うのか信じられなかった。
でも、そんな言葉を使ったのは、絵里自身がわかっていたから、
最後にれいなに伝えたんやと思う。
これが最後やって、わかってたから・・・。
「絵里、死んじゃったんだね。」
今までずっと黙ってたさゆが、口を開いた。
その口調は、寂しいというよりも無感情に聞こえる。
- 434 名前:願い 投稿日:2006/09/24(日) 23:33
-
「絵里さ、れいなに伝えたんだよね?」
「・・・。」
「バカなの。本当にバカなの。れいなに自分の気持ちを伝えたのに、
すっごく楽しみにしてたのに、やっと・・・伝えることができたのに・・・。」
そう言った瞬間、さゆは顔を伏せて泣き出した。
「どうしてなの・・・?あんなに、いい子が、どうして死んじゃうの!?
絵里・・・戻って、きてよ・・・。」
両肩を抱きしめて泣いているさゆを、れいなはじっと見ていた。
ほら、絵里、みんな泣いてるよ。
たくさんの仲間が絵里を愛してたんだよ。
れいなやって、みんなよりも愛してたよ。
ねぇ、絵里、答えてよ。
もう一度、れいなにあの眩しい笑顔を見せてよ。
絵里・・・。
- 435 名前:konkon 投稿日:2006/09/24(日) 23:34
- 更新です
- 436 名前:konkon 投稿日:2006/09/24(日) 23:36
- >>421:名無飼育さん
衝撃的瞬間です(違
ちょっとやばい雰囲気です(汗)
>>Monokuroさん
本当にどうしましょうw
れいなの思いはどこにいくんでしょうね〜
>>423:名無飼育さん
どうなっちゃうんでしょう・・・?
作者自身どこへいこうかと(汗)
- 437 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/25(月) 03:33
- また、泣いちゃいました・・・
- 438 名前:Monokuro 投稿日:2006/09/25(月) 18:30
- すごく泣きしちゃいました。
何か奇跡でも起こらないでしょうか。。。 T.T
- 439 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/26(火) 01:37
- 誰もがその存在に役割を持ってる。
それがどんな立場であれども。
彼女があの場に居続けたのも。
- 440 名前:願い 投稿日:2006/09/28(木) 23:43
- 絵里は一度病室に連れていかれた。
そのあとに霊安室に連れていかれるらしい。
今は絵里のご両親が絵里と会っている。
れいな達は、絵里の部屋の前にいた。
カーテンは閉まっているから、中の様子は全く見えない。
もう泣き声も聞こえてこない。
誰もが呆然としたまま動こうとしなかった。
しばらくして、絵里のご両親が部屋から出てきた。
れいな達に頭を下げたから、こっちも小さく頭を下げた。
- 441 名前:願い 投稿日:2006/09/28(木) 23:47
- 絵里のパパは無表情のまま廊下を歩いていったけど、何を思ったのか、
絵里のママはれいなの方に近寄ってきた。
「あなたが、田中れいなさん?」
「・・・そうですけど。」
絵里のママは、泣き腫らした顔で笑みを浮かべた。
よく見ると、絵里と似てる。
何よりも、絵里のように笑みを浮かべた時の愛らしい眼が、れいなの胸を痛めた。
「あの子、よくあなたの話しをしてたのよ。学校で友達ができたって、
絵里を守ってくれる、カッコイイ友達ができたって、嬉しそうに話してたのよ。」
「そ、そんなこと、ないです。れいなは、絵里に何もしてあげられなかった・・・。」
れいながそう呟くと、絵里のママはフッと笑って首を振った。
- 442 名前:願い 投稿日:2006/09/28(木) 23:48
-
「あなたの話しをしている時、絵里はいつも笑顔だったの。中学の時に
いじめを受けてね、学校なんて行きたくないって言ってたことがあるのよ。
そんな絵里が、早く友達に会いたいって、学校が大好きだって言ってたのよ。
あなたのおかげよ。本当に、ありがとう・・・。」
「・・・。」
「最後に、もう一度あの子に会ってもらえませんか?お願いします・・・。」
絵里のママが深く頭を下げた。
れいなは慌てて首を頷けた。
言われなくても、こっちから絵里に会いたいって伝えたかったとこだ。
- 443 名前:願い 投稿日:2006/09/28(木) 23:50
- みんなは気を利かせてくれたみたいで、れいなだけが部屋に入った。
ベッドの上にいる絵里は、まるで寝ているようにしか見えないくらい綺麗やった。
あれだけの怪我にも関わらず、顔にはほとんど傷がない。
そっと絵里の頬に触れる。
反応は全くない。
絵里、本当に、死んじゃったんやね・・・。
あの無邪気な笑顔を見ることも、叶わないんやね・・・。
れいなは傍にあった椅子に座って、絵里の手を握り締めた。
「絵里、そのままでいいから聞いてほしいんだ。れいなね、絵里のこと、好きだよ。」
絵里は何も返さない。
それがわかってはいても、何だか胸が苦しかった。
- 444 名前:願い 投稿日:2006/09/28(木) 23:52
- それでも、れいなは続けて話し続けた。
自己満足でしかないかもしれないけど、絵里に聞いていてほしかった。
「入学式の日にさ、初めて絵里と話したじゃん。本当はね、嬉しかったんだ。
れいなも友達いなかったけん、クラスメイトと馴染めるか不安やったの。
全然そうは見えないでしょ?怖かったんだよ。けどね、絵里やさゆと
話せるようになって、れいな、ここにいてもいいんだな〜って思えたんだ。」
色々と話しをした。
たったの三ヶ月ちょいやったけど、思った以上にたくさんの思い出があった。
これからも、語りきれないほどの思い出を作りたかった。
- 445 名前:願い 投稿日:2006/09/28(木) 23:59
- 枯れ果てたと思ってた涙が、再びれいなの頬を伝う。
「ねぇ、絵里、れいなを置いていかないでよ・・・。絵里のこと、れいなは信じるよ。
これからもずっと、絵里のこと、大好きだよ・・・。なのに、絵里・・・。」
涙がポツポツと零れ落ちる。
体を震わせて、二度と戻ってこない絵里の手を両手で握る。
その時やった。
「れいな。」
後ろから後藤さんの声が聞こえた。
頭にではなく、背後から。
学校の屋上から出られない後藤さんが、ここまでこれるはずがない。
- 446 名前:願い 投稿日:2006/09/29(金) 00:00
- 一瞬だけ不思議に思ったけど、今は絵里から目を離せない。
ほんの一時たりとも無駄にはしたくなかった。
れいなは後ろを振り向かないで口を開いた。
「・・・今は、話したくないんです。あとにしてもらえませんか?」
「それじゃ困るんだよ。話しを聞いてよ。」
「いやです。絵里の顔を目に焼き付けたいんです。」
「れいな、こっちを向いて。」
「・・・るさい。」
「えっ?」
「うるさい!後藤さんにれいなの気持ちなんて・・・。」
そう言って振り向いた瞬間、れいなは言葉を失った。
- 447 名前:願い 投稿日:2006/09/29(金) 00:01
- そこには苦笑いを浮かべている後藤さんと、隣には・・・天使?
背中に神々しい羽をつけている。
「久しぶりだね。元気そう、でもないかな。」
「その声・・・もしかして、れいなを助けてくれた・・・。」
「覚えててくれたんだね。嬉しいよ。」
天使は今の雰囲気には似合わないくらいの、眩しいほどの笑みで笑う。
どうして後藤さんとここにいると?
何で天使がここに現れるの?
色々な疑問が頭の中をかき回す。
「なっち。そろそろ話してもいいかな?」
「はいはい、どうぞ〜。」
なっちと呼ばれた天使は、腕を組んで一歩下がった。
- 448 名前:願い 投稿日:2006/09/29(金) 00:02
- れいなは真っ直ぐに後藤さんと向き合う。
「後藤さん、あの天使と知り合いやったんですか?どうやってここに?
後藤さんは・・・。」
「れいな、落ち着いてよ。順を追って話そう。あたしがここにきた理由も話すからさ。」
「ここにきた、理由・・・?」
「エリリン、死んじゃったんだね。」
「・・・。」
「ねぇ、れいな。一つだけあたしの願いを聞いてくれないかな?
その代わりに、あたしがれいなの願いを一つだけ叶えてあげる。」
れいなは俯いた顔を上げて後藤さんの顔を凝視する。
れいなの願い・・・もしかして、絵里を生き返らせることもできるの!?
- 449 名前:願い 投稿日:2006/09/29(金) 00:03
- 絵里が生き返るんやったら、れいなは何でもする!
例え自分の命を渡せって言われても、それで絵里が助かるなら、
れいなの命やっていらない。
「れいなの願い、まぁ言われなくてもわかってるんだよね。」
「なら・・・絵里を生き返らせることができるんですか!?」
「まぁ、ね。それが今のれいなの願いだね?」
「はい。絵里のためなら、何だってします。れいなは何をすればいいんですか?」
「まぁまぁ。その前に、少しだけ話しをさせてほしいんだ。」
「何の話しですか?」
「ん、あたしの生きていた頃の話しだよ。」
後藤さんは、昔を懐かしむように微笑んで、話しを始めた。
- 450 名前:konkon 投稿日:2006/09/29(金) 00:04
- 更新です〜。
- 451 名前:konkon 投稿日:2006/09/29(金) 00:07
- >>437:名無飼育さん
ありがとうです・・・泣けますね(泣)。
何度でも泣いちゃってくださいw
>>Monokuroさん
そう言ってもらえると嬉しい・・・喜んでいいんでしょうか(汗)
どうなるかはお楽しみってことでよろです〜。
>>439:名無飼育さん
そうかもしれませんね。
人は何かを持っているから生きていられるのかもですね。
そして、自分も生きていてどうなのかという・・・
- 452 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/29(金) 00:15
- れいな〜エリリン〜・・・後藤さん〜!!
もうグッとキますわ作者さま!!
- 453 名前:Monokuro 投稿日:2006/10/02(月) 01:51
- れいなの独白を読みながらまた泣きました。TT
次話がどうなるか震える心で待ちます。
- 454 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:47
-
真希視点
あたしがあの子と出合ったのは、高二の春だったかな。
その頃のあたしはね、まぁそれなりに青春を堪能してたんだ。
よっすぃや梨華ちゃんと一緒に遊んだり、フットサルやったり、
友達もそれなりにいたし、特に不満なく生きてたよ。
けど、恋愛だけはどうしてもできなかったんだ。
あたしも三大美女とか呼ばれたりしてね、けっこう色んな人に告白とかされてたよ。
ただね、興味がなかったっていうか、縛られたくなかったんだよね。
よっすぃや梨華ちゃんを見て微笑ましいとは思えたけど、羨ましいとは思わなかった。
どこかで一人でいたいって思ってたのかもしれない。
友達とかといても、心の奥にまで深く入り込もうとしなかった。
そして、誰の侵入も許さなかった。
きっと怖かったんだよね。
人に傷つけられることを恐れてたんだ。
あたしってすごく弱い人間だったんだよ。
だからね、誰とも付き合ったりしなかったんだ。
- 455 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:47
- ある日、よっすぃ達と夜遅くまで遊んでた帰り道だった。
中学生の女の子が、男二人に絡まれてたんだ。
大人しい性格だから、嫌がってるのにきっぱりと断ることができないでいたんだ。
別に正義心とかじゃなくて、何ていうんだろ、直感が体を動かしたのかな。
あたしは絡まれてるその子に近づいたんだ。
「何してんの、こんなところで。」
「えっ・・・?」
「あれ?誰、君は?」
「早く行かないと、お母さん達帰っちゃうよ。ほらっ、行くよ。」
あたしはその子の手を引いて、男達から遠ざけた。
足早に歩いて、ちょっと息を切らしたところで公園が見つかったから、
男達が追ってきてないことを確認して、二人でそこに入ったんだ。
- 456 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:49
- あたしは大きく息を吐き出して、その子を見つめた。
「えと、あの・・・ありがとうございます。」
その子は赤くなった表情であたしにそう言った。
それが疲れのせいなのか、照れているのかはわからない。
ちょっとだけふっくらとした顔、真面目な面影を見せるストレートの黒髪、
まん丸な目、何よりも惹かれたのが独特の柔らかい雰囲気だった。
「あのさ、嫌なら嫌ってちゃんと言った方がいいよ。こんな夜遅くに
中学生が出歩くのは危険だよ。」
「は、はい。すいません・・・。」
「いや、別に怒ってるわけじゃないから・・・。」
「はい・・・。」
その子は泣きそうな顔をして頭を下げる。
どうして落ち込むんだかね?
そして、どうしてあたしはこの子を助けたんだろ・・・?
- 457 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:51
- 余計な関わり合いは今まで避けてきた。
この子がどうなろうとあたしには関係ないじゃん。
なのになぜ・・・考えてみたけどわからなかった。
けど、これだけははっきりしてる。
すごくドキドキしてたんだ。
こんな気持ち、初めてだった。
この子といると、落ち着かせてくれると同時に、胸が高鳴るんだ。
彼女のどこに興味を持ち出したのかわからないのに、初めて会ったばかりなのに、
あたしが感じたことのない何かに、惹かれ始めてたんだ。
この場だけの思いにしたくなかった。
あたしが初めて感じたこの感情が何なのか、答えを知りたかったんだ。
- 458 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:52
- あたしはそっと彼女の肩を叩いて顔を上げさせる。
「ねぇ、どうしてこんな時間に出歩いてたの?」
「えと、先ほどまで塾にいたので・・・。」
「ふ〜ん。家はこの辺?」
「はい、ここから駅の方に歩いて十分ほどのとこです。」
「あれ、うちと近いじゃん。塾の帰りっていつもこんなに遅いの?」
「そうですね。このくらい、ですね・・・。」
「ならさ、さっきみたいなやつらが君に近づかないように、
あたしがボディガードになるよ。」
「えっ・・・?」
「それとも、迷惑かな?」
「い、いいえ!そんなこと、ないです、けど・・・。」
「けど?」
「あ、あなたに、迷惑ではないでしょうか?」
まさか、自分のことじゃなくて、あたしのことを考えてくれてたとはね・・・。
あたしは小さく笑って首を横に振った。
- 459 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:52
-
「そんなことないよ。今さっき会ったばかりのあたしがこんな言い方したら
変かもしれないけど、君を守りたいんだよ。それじゃだめかな?」
「・・・。」
「まぁ、確かに怖いよね。あたしが君を襲うとかって可能性も、
ないわけじゃないもんね。」
「そ、そうではないんです!さっきだって守ってくれたし、それに、え〜っと・・・。」
また彼女は俯いた。
今度は落ち込んでるんじゃなくて、真剣に考え込んでるみたい。
しばらくして、彼女は顔を上げた。
「あの・・・。」
「ん?」
「よろしく、お願いします・・・。」
彼女はペコッと可愛らしく頭を下げた。
- 460 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:53
- それを聞いて、あたしはたぶん、笑みを浮かべたと思う。
信じてもらえて、嬉しかったんだよね。
「うん。えっと、君の名前は?」
「は、はい!紺野、あさ美と申します・・・。」
「あたしの名前は後藤真希だよ。こちらこそよろしくね。」
あたし達は適当に話しながら家に向かった。
それが、あたしと紺野の出会いだった。
- 461 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:55
- それからというもの、紺野の塾がある度にあたしは付き添ってたよ。
マイペースってところはあたしとよく似てて、いつもまったりしてた。
休みの日とか、空いた時間に遊びに行ったりもしたよ。
誘ったのは全部あたしからだったけどね。
わかったんだ、これが恋なんだってことがさ。
紺野のことが好きだってことに気付いたんだ。
初めて人を好きになることができたんだ。
紺野があたしを信じてくれるおかげで、あたしは人に本音を話せるようになった。
人を信頼できるようになった。
よっすぃにも表情が柔らかくなったとか言われたよ。
マイペースに生きてきたつもりなのに、いつの間にか彼女の独特の空気に流されて、
あたしもずいぶんと変わったみたい。
- 462 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:57
- そして、これからもあの子の傍にいたい。
紺野の受験が終わったら告白しようって、決めたんだ。
でもさ、秋の終わり頃に予想外の事態が起こったんだ。
紺野、第一志望をあたし達のいる高校に変えたんだ。
両親はもちろん、学校の教師も、塾の講師も反対したよ。
あの子は学校で常にトップをとり続けるほど頭がよくてね、もっと上を
目指せるはずなのに、あたしみたいに成績はそこそこでも入れる高校を選んだんだ。
その理由をさ、それとなく聞いてみたんだ。
「ねぇ、紺野。どうしてあたしと同じ学校を選んだの?」
「何か問題でもあるんですか?」
「いや、そうじゃないけどさ・・・。」
紺野は不思議そうにあたしの顔を見つめて聞いた。
- 463 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:58
- 「紺野だったら、もっといい高校とか入れたんじゃないの?」
「・・・今までは、それでいいと思っていました。けれど、違うんですよね。」
「違う?」
「私には夢があります。私の夢は、私が決めます。自分の夢を叶えたいんです。
それを教えてくれたのは、後藤さんですよ。」
すごく自信を持ってそう答えたんだ。
いつも曖昧にしか返事をしないあの子がさ、あたしも嬉しかったよ。
強くなったんだな〜ってね。
けどね、本当の答えを知ったのは、紺野が受験に受かった日なんだよね。
紺野なら絶対に受かってるんだけど、一人じゃ怖いからって一緒に見に行って、
受験番号があったのを確認するとすごく喜んで、いきなり抱きつかれて驚いちゃったよ。
「やりましたよ!これで、後藤さんと同じ高校に入れます。」
「・・・ねぇ、もしかしてそんな理由でここに入ったの?」
「いえ、もちろん夢は叶えますよ。でも・・・一番の理由は、その・・・
後藤さんと、少しでも一緒にいたかったからです。」
「紺野・・・後悔しない?」
「しませんよ。するわけないじゃないですか。」
彼女にしては珍しく、強い眼差しであたしの目を見つめ返した。
- 464 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/02(月) 23:59
- 紺野が本気だって知ったあたしは、彼女を屋上まで連れていったんだ。
そして、貯水タンクのとこまで上る。
春に近づいていた風は、二人を優しく包み込んだ。
フェンスや壁も何もないから、新鮮な風が吹き付けてくるんだよね。
「うわぁ・・・。」
「アハッ。気持ちいいでしょ。あたしのお気に入りの場所だよ。
ここに人を連れてきたのは、紺野が初めてだよ。」
「私が、初めてなんですか・・・?」
「うん。紺野は気に入ってくれた?」
「はい・・・優しい風ですね。まるで、後藤さんのようです。」
「それって逆じゃない?」
「あ、そうですね。でも・・・私は好きですよ。後藤さんのことが・・・好きです。」
「あたしも紺野のこと、大好きだよ。」
あたしは紺野の肩に手を置いてキスをした。
胸が痛いほど締め付けられて、それも心地よかった。
好きな人とのキスが、こんなにも繋がりを感じさせてくれるなんて、ね。
顔を離したあと、あたし達は笑い合った。
この瞬間から、あたし達の恋愛は始まったんだ。
- 465 名前:konkon 投稿日:2006/10/02(月) 23:59
- 更新です。
- 466 名前:konkon 投稿日:2006/10/03(火) 00:02
- >>452:名無飼育さん
ハイ、自分もグッときますよ・・・。
このあとの三人がどうなるのかは、もうちょい先のことです(汗)
>>Monokuroさん
そこまで言っていただけるなんて感激ですよ(泣)
それぞれの思いが伝わるといいんですけどね・・・。
- 467 名前:452 投稿日:2006/10/03(火) 00:19
- もう・・・胸にキますね、これまた。
後藤さん・・・。
- 468 名前:Monokuro 投稿日:2006/10/06(金) 19:44
- ずっと後藤さんの過去が知りたかったです。
何かこっちも切ない話があるみたいですよね。
- 469 名前:konkon 投稿日:2006/10/08(日) 20:30
- 紺野は入学した直後から人目を集めてたんだよ。
最初のテストは学年一位でさ、高橋がしつこく生徒会に入らないかって聞いてたね。
初めの頃は断ってたんだけど、勢いに押されて書記になったんだって。
それでも、高橋は空気が読めないけど優しい子だから、
紺野と仲良くやれると思ってたから安心してたよ。
スポーツテストでは持久走で全国に通用するほどの成績を残した。
その成績を目にしたよっすぃは、速攻で紺野を勧誘してたっけね。
入学して落ち着いたら入るって言ってた部活は、あたし達と同じフットサル部に入って、
一年でありながらキーパーのレギュラー候補にまで選ばれた。
昔は空手をやってたらしいし、根性あるんだよね。
- 470 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:30
- よっすぃや梨華ちゃんは、あたしが紺野を好きだと伝えると、応援してくれた。
相談に乗ってくれたり、色々と気遣ってくれたよ。
いい仲間達に出会えたなって、今でも思ってる。
紺野とは学年が違うから、なかなか会えなかったりしたけど、時間がある時とかは屋上に行って、
貯水タンクのとこで二人でまったりと過ごしてたんだ。
あの時間だけは、まさに至福の時だった。
ただ一緒にいられるだけでよかった。
それくらい幸せだった。
あの事件が起こる時までは・・・。
- 471 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:31
- ある日の休日、あたしと紺野は遊園地に遊びに行くことにしたんだ。
その日は天気もよくて、ウキウキしながら歩いてた。
お金がないことを思い出したあたしは、銀行に寄ることにした。
順番を待っている間も、ずっと紺野と楽しく話してた。
そんな時だった。
一人の覆面を被った男が入ってきて、受付に近寄り、そして、
ドンッ!
懐から取り出した銃で、天井を打ち抜いたんだ。
銀行強盗だった。
誰もが叫んで、銀行の中はパニック状態になった。
あたしも紺野も座ったまま動けなかった。
- 472 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:32
- しばらくして、関係ない人達は隅に座らされて、関係者達はお金をかき集めていた。
紺野はあたしの腕を掴んで震えてた。
でも、相手は銃を持っていて、あたしは動くことはできなかった。
そんな中、一人の銀行員が警報機を鳴らしたんだ。
男は怒ってその銀行員を撃ち抜いて重症を負わせた。
怒りで我を失った銀行強盗は、人質であるあたし達に照準を向けた。
その中で、三人家族に狙いをつけたようで、
ドンッ!ドンッ!
二発の銃声が鳴って、母親と父親を撃たれた。
幸いにも即死には至らなかったけど、二人はひどい出血をして倒れ込んだ。
- 473 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:34
- 子供は大声で泣き出した。
男は無情にもその子に銃で狙いを定めた。
次の瞬間、紺野が飛び出して子供を抱えて避けたんだ。
弾は子供のいたところを突き抜けた。
本当に強い子だと思ったよ。
恐怖で動けなかったあたしなんかより、ずっと強かった。
だけど、それで終わりじゃなかった。
紺野は子供を助けた時に足を痛めたみたいで、動けないようだった。
- 474 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:35
- 男の視線が紺野に向いた。
そして、
ドンッ!
ほとんど無意識の状態だった。
考える前に体が動いてた。
紺野のことを、守りたかったから。
紺野を愛していたから。
あたしは紺野のことを押し倒した。
その瞬間、弾があたしの胸を貫いた。
面白いことに、痛みはほとんどなかった。
その代わり、あたしだけ別の世界にいるように、何もかも感じなくなっていたんだ。
- 475 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:36
- その時、自分の肩を掴まれる感覚が蘇ってきた。
あたしを掴んでいるのは紺野だってことだけは、なんとなくわかったよ。
何かを叫んでいるようだったけど、もう目はぼやけてて、ほとんど何も聞こえなかった。
あたしは死ぬんだなって理解した。
だから、最後にね、一言だけ伝えたかったんだ。
「紺、野・・・あり、がと・・・。」
あの子の悲しむ姿だけは見たくなかったから、できるだけ笑ってみた。
それが上手く笑えたかどうかはわからない。
あたし、後藤真希は、そこで生涯を終えたんだ。
その日は、皮肉にも今日から数えて、ちょうど一年前の出来事だった。
- 476 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:37
- 男はまもなく逮捕されたってさ。
元々六発しか入らない銃なのに、全部使っちゃったんだ。
すぐに警備員に捕まったよ。
撃たれた人達はすぐに病院に連れて行かれたようで、命は取り留めたみたい。
死んだのは、あたしだけだった。
- 477 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:38
- あたしは見たことのない世界に立っていた。
どこにも出口の無い世界で、どうしたらいいのか迷っていた。
そんな時、眩い光があたしの目の前に現れた。
美しい羽を羽ばたかせて舞い降りてきた天使、なっちだった。
「後藤真希さんだね?」
「天使?ってことは、やっぱりあたしは死んじゃったんだね。」
「ええ・・・でも、あなたは天国にまで行けるから、安心していいよ。」
なっちが手を差し出してきた。
死んだことを受け入れたあたしは、素直に彼女の手を取った。
なっちは羽を広げて飛び上がった。
- 478 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:40
- ずっと飛び続けて、あたし達がついた場所は、雲のようなところだった。
前には巨大な扉がある。
あれを超えたら天国なんだろうと、なんとなく予想した。
けど、天国がどんなとこかという気持ちより、強い思いがあたしの胸を刺激していた。
「ねぇ、一つだけ教えてほしいんだ。」
「何?」
「紺野は、どうなったの?一目でいいから見たいんだ。」
「・・・わかったべさ。ちょっと待ってて」
天使があたしの前に手を差し出した。
その瞬間、スクリーンに映画を映し出すように、あたし達の世界が映し出された。
その世界では、あたしが救急車に運び込まれるところだった。
そして、あたしの傍で泣き続けている紺野の姿が見えた。
- 479 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:41
- 複雑な思いだった。
紺野を守るために命を投げ出したのに、結果的には紺野を泣かしているんだ。
すぐにでも駆け寄って慰めたかった。
この手にもう一度彼女を抱きしめたかった。
死を悟ったはずなのに、思いはどんどんと強くなって、そして、
そこから飛び降りた。
自分の世界に戻れる保障なんてない。
何よりもあたしは死んでいるんだ。
何もできるわけがない。
だけど、紺野に会いたくて、彼女に触れたくて、このままじゃ死にきれなかった。
途中、なっちが追いかけてきてたみたいだけど、意味のわからない世界を
通過していく内に、なっちの姿は見えなくなっていた。
- 480 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:42
- 気付いたら学校の屋上にいた。
どうしてかって理由を考えるまでもなかった。
霊は最も自分の印象に残った場所に住み着くらしい。
ならば、あたしは紺野と共に過ごしたこの場所が、一番印象に
残っていたということだ。
とにかく、紺野のことが心配で仕方のなかったあたしは、そこから飛び出そうとした。
だけど、屋上から出ようとした瞬間、あたしの体は弾かれた。
まるで、電気の走る牢屋に閉じ込められた気分だった。
どのように出ようとしても、外の世界には出ることができなかった。
限界でも学校の中、それもほんの数分で体がもたなくなって、
意識を失うと元の場所に戻っていた。
どうにもできなかったあたしは、あの場所で一人夜を過ごしたんだ。
- 481 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:43
- 次の日、あたしは貯水タンクのとこに座って、空を見上げていたんだ。
この日は休日で誰かがくることはなかった。
お腹はすかない、眠くもならない、体には何も異常は感じなかった。
そして、風も、空気も、太陽の光さえも、あたしが感じることはなかった。
なっちが迎えにくることもなく、何もすることができなかったあたしは、
紺野と過ごした日々を思い出していたよ。
その度に不安になる。
紺野はどうしているのか、本当に無事なのか、彼女に会いたくて
いても立ってもいられない状態だった。
そんな時だった。
紺野が屋上に出てきて、貯水タンクのとこまで上ってきたからだ。
驚いたよ、ずっと会いたいと思っていた彼女が、すぐ目の前にいるんだから。
- 482 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:44
- あたしは彼女の腕を掴もうとした。
でも、当然それは無理だった。
わかっていたことなのに、すごく胸が締め付けられた。
紺野は貯水タンクに背をつけて座り込んだ。
「ねぇ、後藤さん。やっぱり、ここの風は気持ちがいいですね。」
突然名前が出てきてビクッとした。
呼びかけられてるのかと思ったけど、紺野の視線は上を向いていた。
「後藤さん・・・あなたがいなくなってしまって、私はどうしたらいいんでしょうか・・・?」
「紺野・・・。」
「どうして、後藤さんが隣にいないんですか・・・?ずっと、
傍にいると約束したのに・・・。
後藤さん・・・後藤さん・・・。」
紺野は目から溢れ出る涙を拭おうともせずに、ずっと泣き続けた。
あたしの名前を呟いて、泣いていたんだ。
- 483 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/08(日) 20:49
- ここから出ることも出来ない。
けど、毎日のようにきて泣いている紺野の声は、勝手に聞こえてしまう。
触ることも、声をかけることすらできないあたしにとっては、
地獄に落ちたような気分だった。
紺野は、時間がある度にここにくるか、あたしのお墓参りをしてるって、
高橋と小川が話しているのを聞いたことがあるんだ。
あたしは、紺野を守りたかったのに、結局紺野の重荷にしかならなかった。
それから数ヵ月後、満面の桜が咲き始める春のことだった。
あたし達は、あたしとれいなは出会ったんだよ。
- 484 名前:konkon 投稿日:2006/10/08(日) 20:49
- 更新です〜。
- 485 名前:konkon 投稿日:2006/10/08(日) 20:52
- >>452さん
後藤さんには泣かされますね。
彼女は悲しい過去を背負っていましたから(汗)
>>Monokuroさん
切ないんですよ〜(泣)
これで彼女の言いたいことが分かっていただければと・・・(謎)
- 486 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/09(月) 05:48
- 後藤さーん(T□T)
- 487 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/09(月) 08:09
- ごっちん....悲しすぎます・゚・(つД`)・゚・
- 488 名前:Monokuro 投稿日:2006/10/11(水) 07:25
- あ〜後藤さんにそんな悲しかった事があったんですよね。T.T
- 489 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:08
-
れいな視点
後藤さんは話し終えると、窓の外を向いて星が輝く夜空を見つめた。
全ての話しが繋がった。
ポンちゃんのあの悲しそうな表情は、後藤さんのことを想っていたからなんだ。
「正直なところ、あたしにはれいなの気持ちがわかんないんだ。あたしは、
自分の命を代償に恋人を守った身だからね。その分、エリリンの気持ちは
よくわかるんだよ。人はそんなに強くないよ。自分が死ぬかもしれない
危険な場所になんか、飛び込むわけがない。でもさ、不思議なことにね、
ほんのさっきまで銃が怖くて震えてたのに、紺野を見た瞬間全てが頭の
中から吹き飛んだんだ。体が勝手に動いてたんだ。何があっても、例えどんな
ことがあろうと、心から大切な人を守りたいから、生きていてほしいからだよ。」
「後藤さん・・・。」
「ちょっと大袈裟かもしれないけどね、人を好きになるってそういうことなんだよ。
れいなには、そういう覚悟はある?エリリンと付き合っていく自信はあるの?」
れいなは迷うことなく頷いた。
れいなやって、自分なりに悩んで考えてきたつもりだ。
- 490 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:09
- 怖くなって、立ち止まるかもしれない。
前に進めなくなるときがくるかもしれない。
でも、どんなことがあっても絵里が好き。
その思いがあれば、きっと先に続く道へと歩いていける。
絵里と一緒に未来を作りたい。
後藤さんはれいなの目を見つめたあと、フフッと笑った。
「れいなさ、強くなったよね。これからもがんばってね。」
「はい!」
「さってと、それじゃ始めるかな〜。なっち、お願い。」
後藤さんは鼻歌を歌いながら絵里に近寄った。
彼女の前に立って目を閉じる。
- 491 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:10
- 何をするのかわからないけど、また絵里の笑顔が見れるんだ。
絵里と一緒にいられるんだ。
つい嬉しくなっちゃって、れいなは笑みを浮かべた。
「・・・ねぇ、本当にいいの?」
天使が小さく呟いた。
後藤さんは振り向いて、変わらない笑顔を向ける。
「何のこと?」
「いや、あなたが決めたことなら何も言わないけど・・・。」
「そう。」
後藤さんはまた絵里を振り向いた。
何・・・天使は今、何を言おうとしてたの・・・?
- 492 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:12
- 今の言葉のやり取りが、れいなを不安にさせた。
後藤さんが手の届かないようなところへと行ってしまうような気がした。
「ご、後藤さん!」
「ん、今度はれいなか。早くエリリンを生き返らせたいんじゃないの?」
「そうですけど・・・後藤さんは、どうなるんですか?」
「別に、れいなの困るようなことは何も・・・。」
「れいなの前からいなくなったりしませんよね?まだまだ一緒にいてくれますよね?」
「・・・。」
「ねぇ、後藤さん。答えてくださいよ・・・。」
れいながそう言っても、後藤さんは口を開こうとしなかった。
しばらくして、後藤さんは頭を掻きながられいなを向いた。
- 493 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:15
-
「れいな、サヨナラの時がきたんだよ。」
「えっ・・・?」
「これが、あたしにとってれいなのためにできる、最後の仕事なんだよ。
あたしの魂を犠牲にすることで、エリリンの魂を蘇らせる。」
「そ、そんなこと・・・。」
「きっとね、あたしはこの日のために生きてきたって思えるんだ。
魂だけになってでも、誰にも知られずに生きてきたのは、この時のため、
れいなと出会うためだったんだよ。」
れいなは口を開けたまま固まった。
後藤さんの魂で絵里を生き返らせる・・・。
絵里には生きていてほしい。
でも、そのために後藤さんの魂を使うなんて、そんな・・・。
「何を迷ってんのさ?いついなくなるかもわからないあたしの魂なんかよりも、
現実にれいなと共に生きる彼女の方が大事でしょ?そう考えれば、あたしの
命なんか安いもんだよ。」
「で、でも・・・。」
「れいな、あんたはさっき何て答えた?エリリンを守るって、
そのためなら何でもするって、そう答えたでしょ。彼女を守るのが、
れいなの使命だよ。」
それはわかってる。
れいなやって絵里の笑顔を取り戻したいって、心の底から思ってる。
- 494 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:17
- でも、でも・・・。
「ご、後藤さんは、それでいいんですか・・・?」
「あたしはどうせ一度は死んだ身だよ。これ以上、みんなを悲しませたくないんだよ。
もし、それでも納得がいかないのなら、れいなが決めなよ。あたしか、エリリンか、
どちらを選ぶの?」
そ、そんなの選べるわけがない!
絵里は、れいなが初めて好きになった人。
いつでもれいなを支えてくれた、守りたい人。
でも、それは後藤さんにも同じことがいえる。
美貴ねえ以外に心を開ける人がいるなんて思えなかった。
れいなが足を踏み出せるようになるなんて思えなかった。
ここまで強くなれたのは、あなたがいたから・・・。
- 495 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:18
- 例え体を失っても、れいなの思いを受け止めてくれた大切な人には代わりはない。
どちらかを選ぶことなんて、そんなこと・・・。
「れいな、いい加減にしなよ。エリリンの肉体が生きていられるのは、
もう残り僅かな時間しかないんだ。」
「・・・。」
「・・・れいなは優しい子だね。でもさ、答えは出てるんしょ?」
「ご、後藤さん・・・れ、れいなは・・・。」
「あたしね、本当は苦しかったんだ。死んでしまったことじゃなくてさ、
あたしがいなくても同じ日常、あたしのことを忘れてしまう友達を見て、
寂しかったんだ。もしかしたらさ、死んでしまうことよりも、忘れられて
しまう方が辛いのかもね。初めから居ないも当然なんだよ・・・。」
「そ、そんなことないです。みんな、後藤さんのことを・・・。」
「うん。わかってるよ。紺野や、よっすぃや梨華ちゃん、高橋達は、
あたしのことを覚えてくれている。だから尚更辛いんだ。あたしを思って
悲しんでくれた仲間達を、大好きな恋人にこれ以上泣いてほしくないんだ。
だからさ、お願いだよ。エリリンを生き返らせて。あたしのためにも。」
どうして・・・どうして、この人はこんなにも強いの?
自分の魂を人を生き返らせるために使うのに、どうして笑っていられるの?
- 496 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:19
- さっきから後藤さんの顔がぼやけてよく見えない。
涙が溢れ出てきて、どれだけ拭っても止まらなかった。
それでも、言わなきゃいけなかった。
絵里のために、みんなのために、そして、後藤さんのために・・・。
れいなは何度も目を擦って後藤さんを見た。
後藤さんは、変わらずに笑みを浮かべていた。
「ご、後藤、さん・・・。」
「ん?」
「え、絵里を・・・んぐっ、生き返らせて、ください・・・。」
「・・・うん。」
後藤さんが絵里を振り向くと、天使が後藤さんの背後に立って手を伸ばした。
すると、天使の腕が金色に光りだして、今度は絵里に向ける。
それを絵里の胸元に当てると、絵里の体が急激に光りだして、次第に消えていった。
- 497 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:20
- これで、絵里は生き返るんだ。
そして、後藤さんは・・・。
「ねぇ、なっち。最後にもう一つだけ頼みたいことがあるんだけど・・・。」
「・・・なっちは神様からの使いだからね。大して力もないから、
もっても三分ってとこだよ。それでもいい?」
「もちろんだよ。ありがとう。」
れいなが下を向いて泣いていると、温かい何かがふわっと体を包み込んだ。
ほんの少し前に感じた、あの優しい雰囲気、後藤さんの両腕がれいなを抱きしめていた。
後藤さんが消えてしまうと思うと怖くなって、れいなはしがみつくように
後藤さんに抱きついた。
- 498 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:22
-
「ごと、さん・・・行かないでよ。これからも、ずっと、れいなの傍にいてよ・・・。」
「れいなは一人じゃないでしょ。寂しくないよ。」
「でも・・・。」
「あたし達って似てるよね。ずっと一人で生きていけるって思ってた。
けれど、愛する意味を知った。一人でいるのがあんなにも寂しいものに
変わるとは思わなかった。誰かと話したかった。誰かにかまってほしかった。
愛されたいと心から強く願ってた。何も出来ない孤独な生活から逃げ出したかったんだ。
幽霊となったあたしには、誰にも気付いてもらえるわけがなくて、悲しかったよ。
だけど、れいなは気付いてくれた。こんなあたしでも、傍にいてくれた。話してくれた。
もう十分すぎるほど、れいなの愛を感じたよ。れいなみたいな強くて優しい子で、
本当によかったよ。」
「そんなこと、ない・・・れいな、弱いし、我侭やし、無鉄砲やし・・・。
後藤さんがいないと、強くなろうとも、思えんかった・・・。」
「大丈夫だよ。れいなは強くやっていけるさ。なんといっても、
このあたしが認めてるんだからね。」
そんなの、卑怯やと・・・。
そんなこと言われたら、れいな、何も言えないじゃん。
- 499 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:22
- ポンちゃんはきっと、幸せやったと思う。
こんなに素晴らしい人と付き合えたなんて・・・!?
れいなは慌てて顔を離して後藤さんを見上げた。
後藤さんにはまだ触れるとはいえ、徐々に体が透けてきている。
「ご、後藤さん!ポンちゃんが部屋の前にいます。今ならまだ・・・。」
「・・・だめだよ。あたしは紺野に会っちゃいけないんだ。」
後藤さんはれいなの体を離して、頭をポンポンと撫でてくれた。
「できることなら、もう一度この手に抱きしめたいよ。でもね、だめなんだ。
今のあたしと紺野が会ったら、絶対に歯止めが利かなくなる。あたしも
後悔を残して死にたくないし、これ以上紺野の重荷にもなりたくない。
彼女は彼女で、幸せに生きていてほしいんだ。」
「そんな・・・。」
「れいな。あたしの願い、聞いてくれるんだよね?」
ここにきて、後藤さんは初めて真剣な眼差しをれいなに向けた。
- 500 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:24
- れいなは小さく頷いた。
後藤さんが望むなら、どんなことでもしてみせる。
「紺野に伝えてほしいんだ。もう振り返らないでって。あたしのことは
忘れてくれなければ、それだけで満足なんだよ。自分の夢に向かって、
真っ直ぐ突き進むんだって。がんばって、幸せになれってさ。」
一度は引いた涙が、またぼろぼろと零れてきた。
自分で伝えたら、思いを止められないから、れいなに頼むんだ。
すぐ傍にいるのに、扉を開ければ彼女の姿が見れるのに、
後藤さんはこのまま姿を消すつもりやった。
何も出来ない自分自身に腹が立ってくる。
れいなは、ただ、伝えることしか出来ない・・・。
- 501 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:26
-
「ねぇ、れいな。笑ってバイバイしようよ。れいなの泣いてる顔見てるとさ、
あたしまで悲しくなってくるよ。」
「・・・ご、後藤さんは、笑ってるやないですか・・・。」
「だってあたしは強いもん。それに、あたしに涙は似合わないでしょ。
悔しかったら、あたしよりもずっと強くなってみせなよ。エリリンを愛して、
愛されて、仲良く付き合っていくんだよ。あたしにできなかった幸せな人生を、
その手に掴んでよ・・・。あたしのためじゃない、れいなのために、
二人のためにも、がんばってね・・・。」
後藤さんの目にも涙が溜まっていく。
でも、それが零れるより先に、後藤さんは満面の笑みを見せた。
れいなも泣いているわけにはいかない。
笑顔で別れようって、後藤さんが望んでいるんだから・・・。
れいなはできる限りの笑みを見せた。
きっと、すごい不器用で、引き攣ったような笑みやったかもしれない。
それが、ただ一つだけ後藤さんにしてあげられる、今のれいなにできることやった。
それでも、後藤さんは満足したようで、嬉しそうに頷いた。
後藤さんの体は、ほとんど消えていた。
- 502 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:26
-
「後藤さん・・・今まで、本当に、本当に、ありがと・・・ござい、ました・・・。」
「お礼が言いたいのはあたしの方だよ。れいなと一緒にいられて楽しかったよ。
れいな、大好きだよ。ありがとね。」
「後藤、さん・・・。」
「ねぇ、れいな・・・。」
- 503 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:27
-
れいなに出会えて、本当によかったよ・・・
いつまでも、見守ってるから・・・
どうか、幸せになってね・・・
- 504 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:27
- 後藤さんの姿が、スーッと消えていった。
最後まで、あの無邪気で明るい笑みを残して・・・。
いつの間にか天使もいなくなっていた。
きっと、後藤さんを天国に連れていったんやと思う。
「後藤さん・・・サヨナラ。」
後藤さん、れいなはここに誓います。
れいなはあなたのようになれるとは思えない。
けど、れいなはれいなで、できることを見つけると。
こんな弱くて脆いれいなでも、できることはあるはずやけんね。
一生懸命に生きていくよ。
やけん、安心して見守っていてくださいね・・・。
- 505 名前:真希の思い 投稿日:2006/10/11(水) 22:28
- れいなは絵里の前にある椅子に座って、彼女の顔を見つめていた。
しばらくすると、ピクッと体が動いた。
絵里の手を両手で握り締める。
絵里は小さく目を開けて、少しづつれいなに顔を向けた。
「れ、な・・・。」
「絵里・・・れいなはここにいると。無理せんで、今は寝ときんしゃい。」
「・・・うん。」
絵里はほんの僅かに頬を緩めて、また眠りについた。
すぐにでも絵里に抱きつきたかった。
でも、生き返ることができたとはいえ、絵里の体は傷だらけで動くことすら苦痛のはず。
今は、この両手に伝わる温もりだけで、それだけでよかった。
- 506 名前:konkon 投稿日:2006/10/11(水) 22:28
- 更新しました・・・。
- 507 名前:konkon 投稿日:2006/10/11(水) 22:31
- >>486:名無飼育さん
自分も叫んでよろしいでしょうか(マテ
後藤さーん(T□T)
>>487 :名無飼育さん
悲しくてもごっちんらしさでなんとかここまで・・・。
かなり胸が痛いです(汗)
>>Monokuroさん
色々とあったようですね・・・。
悲しい過去を背負ってでも、彼女の意思で生きてきたんですよね。
自分で書いておきながら泣きそうです(泣)
- 508 名前:Monokuro 投稿日:2006/10/13(金) 20:28
- えりりんの事は良かったですが。。。
後藤さんの事は。。事は。。。T.T
でも後藤さんもきっと嬉しかったはずだと思います。
最後の彼女の微笑みは絶対忘れないですね。
- 509 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 22:55
- あの事故から10日後、今日は学校の終業式やった。
絵里は怪我が治ってないからまだ病院にいる。
絵里の命が舞い戻ったあと、病院中が大騒ぎになった。
峠を越えた者が命を吹き返すことはごく稀にあるらしいんやけど、
絵里は完全に死んでいた。
それなのに蘇ったことに、医者達は驚愕の表情を浮かべていた。
何が起きたのか、原因は何なのか、常識を覆すほどの出来事やったみたい。
でも、れいな達にとっては、そんなことどうでもよかった。
みんなで喜びを分かち合い、泣きながら絵里を迎えた。
れいな達に起こった奇跡。
あの人の起こした奇跡が、れいな達に笑顔を取り戻してくれたんだ。
- 510 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 22:56
- 今学期最後のHRが終わったあと、お昼食べたら絵里のお見舞いに行こうって
さゆと話してから、れいなは屋上に向かった。
本格的に夏に入って、日差しが少し強い。
今年の夏も暑くなりそうやね。
貯水タンクのとこに上がって、生徒が通り過ぎている校門を見渡した。
初めてここにきた時には、桜が綺麗に咲いていた。
そして、あの人と出会った。
懐かしいな・・・後藤さんと出会ってからの日々を思い出した。
いきなり笑顔で話しかけてきた、少し不思議な人。
本当の強さの意味を教えてくれた人。
不器用やけど優しくて、れいなの相談に乗ってくれた人。
そして、絵里の命を救ってくれた、かけがえのない大切な人。
- 511 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 22:57
- あなたとの思い出は心の中に染み付いてますよ。
れいなは絶対に後藤さんを忘れない。
後藤さんの意思を受け継いで、しっかりと伝えるよ。
誰かが梯子を上ってくる音が聞こえてきた。
そして、そこから顔を出したのはポンちゃんやった。
れいなが彼女をここに呼んだんだ。
ポンちゃんはニコッと笑ってれいなに近寄ってきた。
「遅くなってごめんね、れいな。」
「いえ、ポンちゃんには生徒会の仕事があるのに、呼び出したりして
すいませんでした。」
「気にしなくていいよ。それにしても、れいながここに呼び出すなんてね・・・。」
ポンちゃんは風に靡く髪を撫でて、空を仰いだ。
- 512 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 22:58
- 何かを思い出しているような、澄んだ目をしていた。
その姿をれいなは後ろから見ていた。
「私もね、この場所が大好きなんだ。あの人が教えてくれたこの場所がさ・・・
ここにいると和むんだ。風が気持ちよくて、まるで・・・あの人に
包まれているみたいに、ホッとするの。」
「・・・あの人って、後藤さんのことですね?」
「!?」
ポンちゃんは慌ててこちらを振り返った。
無理もない、れいなが後藤さんのことを知っているはずがないんだ。
愛ちゃんや吉澤さんに聞いたとしても、ここを知っているのはポンちゃんだけ。
後藤さんは、ポンちゃんにしかこの場所を教えていないから。
- 513 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 22:59
-
「どうして、れいなが後藤さんのことを・・・。」
「信じられないかもしれません。でも、話すって約束したから、ポンちゃんに、
伝えて欲しいと言われたから・・・正直に話します。れいなは、この数ヶ月間、
後藤さんと一緒にいました。」
「うそ・・・だって、後藤さんは・・・。」
「全て知ってます。後藤さんのことも、ポンちゃんが恋人だったことも・・・。」
れいなは一息ついて、ゆっくりと話しを始めた。
後藤さんとの思い出を、一つずつ思い出しながら。
最初は半信半疑やったポンちゃんも、れいなの話しを聞いているうちに、
後藤さんのことを思い出して重ね合わせたんやと思う、たまに頷いたり、
小さく笑ったり、しっかりとれいなの話しを受け止めていた。
「後藤さんは、最後にこう言っていました。あたしのことを忘れないでって。
でも、あたしのことよりも自分の道を突き進んで、夢を叶えて幸せになれって・・・。
それを、ポンちゃんに伝えてほしいと・・・。」
「・・・そっか。後藤さんが、そんなことを・・・。」
ポンちゃんの目が滲み始めた。
- 514 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 23:01
- 見る見るうちに溢れ出して、大粒の涙が零れ落ちていく。
ポンちゃんは自分の体を抱えて泣き出した。
「後藤さん・・・後藤さん、後藤さん・・・。」
何度も後藤さんの名前を呟いて、涙で地面を濡らしていた。
れいなは何もしてあげることができない。
震えているポンちゃんの体をそっと抱きしめた。
すると、ポンちゃんはれいなにしがみつくようにして、肩に顔を埋めていた。
ポンちゃん、ごめんなさい。
れいなには慰める言葉が見当たらない。
ましては、後藤さんの代わりになることなんてできるわけがない。
れいなはただ、こんなことしか・・・。
- 515 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 23:02
- しばらくして、ポンちゃんはれいなの肩から顔を上げた。
「ごめんなさい。制服、濡らしちゃって・・・。」
「いや、こんくらい、なんともないです。」
「れいな・・・ありがとう。」
「えっ・・・?」
「後藤さんの思い、私がしっかりと受け継いで、夢を実現させないとね。
いつまでも泣いているわけにもいかないのだから。後藤さんに笑われないように、
がんばって生きていかないとね。」
ポンちゃんは穏やかで優しい笑みをれいなに向けた。
なるほどね・・・よく見ると、ポンちゃんって後藤さんによく似てる。
- 516 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 23:03
- 見た目とかやなくて、自分の意思を強く持っているんだ。
真っ直ぐに進もうとする決意、優しく純粋な心、後藤さんが惹かれる理由もよくわかる気がする。
「れいなさ、変わったよね。」
「ん?」
「本当はね、愛ちゃんから聞いてれいなのことを知ってたの。けどね、
初めてあなたを見たとき、怖かったんだ。目つきが鋭くて、冷たい人に感じたの。」
「それは、仕方ないやないですか。生まれつきですって。」
「ううん、そうじゃないの。目の奥に潜んでいた、人に対する恨みっていうのかな。
まるで、全ての人に対して憎しみを持っているように感じたんだ。」
「・・・。」
「でもね、今は違う。柔らかくて温かい目をしてるよ。後藤さんのような、
綺麗で穏やかな目をしてる。それも絵里のおかげなんだろうね。それとも、
れいな自身が変わりたかったのかな。」
「・・・きっと、両方ですよ。確かにポンちゃんの言うとおり、れいなは一人でも
生きていけるって思ってました。誰も信じずに、一人で勝手にふてぐされてました。
でも、本当は違うんですよね。家族や仲間、姉妹、そして、愛する人と、協力して、
理解し合って、助け合って生きているんです。それを、れいなは後藤さんから
教えてもらいました。素直な気持ちをぶつけろって、必ずれいなの思いを
受け止めてくれる人達がいるからってね。やけん、こう答えておきますよ。
れいな、みんなのこと大好きです。」
れいなが笑顔でそう言うと、ポンちゃんは一瞬だけ呆けた顔をしたけど、
すぐに笑みを返してくれた。
- 517 名前:約束 投稿日:2006/10/16(月) 23:06
- ポンちゃんは、何かを思い出したかのように両手を叩いた。
「そうだ。ねぇ、れいな。これからお昼ごはん食べに行かない?」
「いいですね。どこに行きましょうか?」
「あのね、駅前に新しいパスタ屋さんができたんだって。そこに行ってみようよ。」
「ああ、けっこう評判いいみたいですよね。じゃあ、行きますか!」
「うん!」
ポンちゃんは嬉しそうに頷いた。
ご飯の話しになると、こっちまで幸せになるくらい、いい顔するとね。
きっと、ポンちゃんも大丈夫。
もしかしたら、後藤さんが思っている以上に強いかもしれませんよ。
後藤さん、またきますね。
れいなは、いつも後藤さんの座っていた場所に小さく頭を下げて、梯子を降りていった。
- 518 名前:konkon 投稿日:2006/10/16(月) 23:07
- 更新しましたです〜。
次回最終回です。
- 519 名前:konkon 投稿日:2006/10/16(月) 23:08
- >>Monokuroさん
後藤さんも幸せだったらよかったですね・・・。
書いておいてなんですけどごっちんにはどうしても
この役をやってほしかったんですよね〜なんとなくですけどw
次回で全てが終わりますのでお楽しみに!
- 520 名前:Monokuro 投稿日:2006/10/19(木) 19:44
- 後藤さんのおかげで一段階成長したれいなになったようですね。よかった〜
いよいよラストなんですか。
凄く惜しいですが、最後まで頑張って下さい。
- 521 名前:konkon 投稿日:2006/10/22(日) 14:40
- 先にレス返しさせていただきます。
>>Monokuroさん
れいなもすごく成長しましたね♪
今回でラストです。
応援ありがとうございました!
- 522 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:42
- 夏休みが始まって一週間が過ぎた。
絵里はまだ病院に入院中やった。
昨日は精密検査があったし、まだ体も不完全で松葉杖がないと歩けない状態でいる。
それでも、体は順調に回復してるけん、リハビリさえしっかりとやってれば、
二学期からはまた学校に行けるってさ。
今日は朝からリハビリを行って、昼からはさゆも含めて夏休みの宿題をする。
はずやったんやけど、
「何言ってんだよ、ミキティ。夏と言ったら海だよ!」
「よっちゃんは水着姿の子を見たいだけでしょ。美貴は山に行きたいの!」
「だめ!海!」
「山だよ!」
れいな達の目の前で、美貴ねえと吉澤さんの言い合いが繰り広げられている。
- 523 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:44
- 美貴ねえが最近車の免許をとったけん、吉澤さんと二人で車を借りて、
夏休みにみんなを遊びに連れて行ってくれるみたい。
そこで、海と山どっちに行こうかって話しをしてる。
フットサルの帰りに寄ってくれたらしいんやけど、あまりにもうるさくて
勉強もできやしない。
あとから彼女二人もくるらしいけん、更にうるさくなるんやろね。
っつうか、こんな所で話さなくてもええんやなかね?
「あさ美ちゃんはどっちに行きたい?」
「私はどちらも好きだな。自然は優しくて落ち着くよ。麻琴はどちらがいいの?」
「吉澤さんが海に行きたいみたいだから、私も海でいいな!」
「マコっちゃん、そんな理由でいいわけ?」
「里沙ちゃんの言う通りやが!これはあーし達にとって重大な問題やよ!」
「いや、重大ってほどでもないような・・・。」
愛ちゃんを筆頭に、生徒会の人達もお見舞いにきてくれた。
- 524 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:45
- ある意味タイミングが悪いっちゃよ。
この人達がいると絶対に話しが・・・。
「よし、生徒会全員一致で海に決定!」
「コラーッ!勝手に決めちゃだめでしょ!愛ちゃん一人で判断したら・・・。」
「れいな、絵里、さゆ、海でいいよね?」
やっぱりこんがらがってきた。
ガキさんの話しを無視してこっちに話しを振った愛ちゃん。
相変わらずガキさんも大変やね・・・。
れいなは一度絵里と目を合わせて、愛ちゃんを振り向いた。
「れいなはどっちでもいいですよ。」
「絵里もお任せします。さゆと小春ちゃんは?」
さゆの隣で教科書を見て唸ってた小春ちゃんが顔を上げた。
さゆは小春ちゃんをかなりお気に入りみたいで、彼女が夏休みの宿題が大変だって聞いたら、
教えてあげるから一緒にやろうって誘ったんやと。
- 525 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:46
- さゆは人差し指を顎に当てて考えてて、小春ちゃんは首を傾げて吉澤さんに視線を向ける。
「何の話しですか?」
「だからさ、みんなで旅行に行こうって話しだよ。海と山、当然海だよな?」
「ん〜道重さんはどうですか?」
「さゆみ、泳げないから山がいいの。」
「なら、小春も山にします。」
「小春〜・・・。」
吉澤さんは情けない声を上げた。
その隣で踏ん反り返ってる美貴ねえ、何もそこまで勝ち誇らなくてもよかね。
「れいな、絵里、あんた達にあーし達の未来がかかっとるんやよ。どっちがええの?」
「ちょっと、高橋さんって言ったね。美貴のれいなに強制かけないでよ。」
れいな達に詰め寄る愛ちゃん。
その後ろから肩を掴んで止める美貴ねえ。
何か、嫌な予感がすると・・・。
- 526 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:46
-
「何も海じゃなくたっていいでしょ。何をムキになってんの?」
「やって、福井の海は綺麗やったんですって。藤本さんも見たらそう思うやが。」
「福井?そんな田舎に行ってどうすんのさ?大体訛りが変だし、
早口で何言ってるかよくわかんないし。」
ピクッ
愛ちゃんの眉が釣り上がる。
訛りを誇りに思ってる彼女に、今の言葉は禁句やった。
「・・・それもそうですね。藤本さんは海に行かない方がええかもしれんもんね。」
「どういう意味?」
「やって、海に行って水着になったら、胸がないことを教えてるようなもんですからね。」
ブチッ!
あ、あ、愛ちゃん!
今の言葉はそれこそ完全なる禁句やと!
- 527 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:47
- 昔に美貴ねえが断ったナンパした男が、悔し紛れに胸がないことをバカにして、
そのあとの美貴ねえのキレようと言ったら・・・。
美貴ねえの目が殺気を交えて恐ろしく光る。
愛ちゃんは全く引こうとしない。
「ふ〜ん、よく見るとわかるもんだね。猿なだけに山に帰りたくなったわけね。」
「あーしも簡単に想像つくわ。水に濡れたら髪が薄いことがバレちゃうもんね。」
「ミ、ミキティ・・・ここは、ほらっ、大人として、引いた方が・・・。」
「あ、愛ちゃんも落ち着いて・・・。」
「「うるさい!!」」
吉澤さんとガキさんが止めようとしたんやけど、二人のあまりの気迫に押し出された。
誰もこの二人を止めることができない。
- 528 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:48
- まぁ、愛ちゃんはともかく、美貴ねえが相手やと大半の人が
蛇に睨まれた蛙みたいなもんやけん、愛ちゃんは命知らずというか、
ある意味すごいとは思う。
あとこの中で動けるのは、美貴ねえに慣れてるれいなくらいなもんかな。
そろそろ止めないと本当にまずそうやけんね。
れいなは椅子から立ち上がって、二人の間に割り込んだ。
「はいはい、そこまで。」
「れいな、どいて。まだ話しは・・・。」
「美貴ねえ、いい加減にすると。美貴ねえの悪い癖、大人気ないっちゃよ。
れいなは優しい美貴ねえの方が好きやと。」
「うん、まぁ・・・。」
「愛ちゃんも、少し言いすぎですよ。福井をバカにした美貴ねえも悪いけど、
本当はいい人やけん、許してあげてください。」
「えと、れいなが、そう言うんならね・・・。」
「一つ提案があるんやけど、両方行けばいいやないですか。」
「えっ?」
全員の目がれいなを向いた。
誰もこの案に気付いていなかったらしい。
- 529 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:49
-
「れいな達もなんとかみんなのスケジュールに合わせますから、両方行きませんか?
たくさんの思い出を作りましょうよ。」
「・・・うん、そうだね!」
「美貴もその意見に賛成。高橋さん、ごめんね。ちょっとムキになってたよ。」
「愛でいいですよ。あーしの方こそ、色々と言ってしまってごめんなさい。」
「せっかくの旅行だし、楽しまなきゃね。それと、美貴も美貴でいいよ。」
「うん、美貴ちゃん!それにしても、れいなはすごいね。やっぱり次期生徒会長決定やが!」
「えっ、愛ちゃんそうなの?れいな、すごいじゃん!」
全然違うし。
何でか知らんけど、今度は美貴ねえと愛ちゃんに詰め寄られる。
もしかして、この二人って相性いいの?
やなくて、どうやって逃げよう・・・。
「ま、待って!次の生徒会長はポンちゃんやなかね?」
「私はれいなだったら譲ってもいいけどね。」
ポンちゃんは笑顔でそう答えた。
- 530 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:50
- ポンちゃん、もしかして楽しんでないですか?
絶対わかって言ってるっちゃね・・・。
「え、絵里!ずっと話してばっかで疲れたやろ?外の空気でも吸いに行こう!」
「うん。いいよ〜。」
さすがは絵里、わかってくれてよかった。
れいなとさゆで絵里を下ろして、ゆっくりと部屋を出た。
絵里は松葉杖をついて、バランスをとりながら歩いている。
れいなは彼女に合わせて横を歩く。
本当は手を貸してあげたい。
でも、絵里は早く治りたいからって、自分の力で治したいって言われたことがある。
- 531 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:51
- 何気に強情なとこがあるけん、れいなも何も言わない。
絵里が満足するように付き合うってれいな自身もそう決めた。
「よいしょっと!それっ!」
「絵里、そんな早く歩いて平気やと?」
「大丈夫大丈夫・・・。」
絵里はれいなの前を横切って角を曲がろうとする。
その瞬間、絵里の体がガクンと倒れそうになる。
ガシッ!
フーッ、危なかった〜。
絵里が倒れるより先に、れいなは絵里の前に周り込んで抱きとめた。
絵里の体を支えながらそっと立たせると、絵里は赤くなった顔でれいなの顔を見た。
「れーな、ありがと・・・。」
「絵里、無理するからやろ。もっとゆっくり歩こうよ。」
「でも・・・早く歩けるようになって、れーなと、デートしたいんだもん・・・。」
絵里は下を向いてぼそぼそっと呟いた。
- 532 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:53
- 恥ずかしそうに顔を赤くしている。
れいなは小さく笑みを浮かべて、絵里の体を抱きしめた。
「絵里、れいなも絵里とデートしたいよ。二人で色んなとこに行ってみたいと。
だからこそ、ゆっくりと焦らずに治そう。急いで治そうとしてまた怪我したら、
治るのがもっと遅くなっちゃうよ。やけん、ね。」
「うん・・・そうだね。」
絵里を放すと、彼女も頷いてくれて、また歩き出した。
今度はペースを上げずに、足に負担をかけないように丁寧に歩いている。
絵里・・・れいなの大好きな絵里。
れいなはずっと絵里の傍にいるよ。
やけん、一人で無茶しようとか考えないでよ。
ずっと、いつでも力になるからさ・・・。
- 533 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:56
- 外に出て、病院に沿って歩いていくと、ベンチがあるけんそこに並んで座る。
絵里のリハビリする時は、大体はここか屋上まで歩いている。
真夏の太陽がジリジリとれいな達を照らす。
でも、ここは日影になってて外の空気を吸うにはちょうどいい。
普段なら楽しそうに話しをする絵里は、珍しく、って言ったらちょっと失礼やけど、
真面目な顔をしてれいなを振り向いた。
「ねぇ、れーな。聞いてほしいことがあるの。」
「なん?」
「今まではさ、信じられないような話しだったから黙ってたんだけど、
絵里ね、天使さんに会ったんだ。」
「・・・天使?」
れいなは、目を見開いて口を開けたまま絵里を見つめた。
- 534 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 14:58
-
「うん。事故に遭ったあとね、真っ暗なとこにいたの。それでね、天使さんに
手を掴まれてね、天国に行くんだって聞いたの。絵里、死んじゃったんだ、
れーなともう会えないな〜って、すっごく悲しかったんだよ。でもね、
ある人が突然出てきて、それを引き止めたの。絵里はまだ死んじゃいけないって、
れいな達が待ってるから、そこに連れて行ってあげるって、そう言ってくれたの。」
「・・・。」
「天使さん、じゃなかったのかな〜?私服だったし、絵里の知らない人だった。
でも、何かで見たことあるような気がする・・・れーな、泣いてるの?」
「えっ・・・?」
れいなが目元に手を当てると、水滴が指についた。
自分でも気付かないうちに泣いてたみたい。
後藤さんのことを思い出すと、今でも寂しく感じる。
もっと、強くなるって約束したのにね・・・。
- 535 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 15:00
- れいなは腕で涙を拭って、絵里の頭をそっと撫でた。
「絵里、その人のこと、忘れないであげて。それがきっと、その人にとっても
一番嬉しいことやと思うからさ。」
「うん・・・忘れないよ。絵里、ちゃんと覚えてるよ。」
「ん・・・ありがと、絵里。」
「どうしてれーながお礼を言うの?ねぇ、れーな、どうして泣いてるの?
どっか痛いの?れーな・・・。」
「・・・絵里、そんな悲しそうな顔することなかよ。絵里が無事で、
こうして傍にいてくれてよかったな〜って思ってね。」
「れーな・・・。」
「絵里、好きだよ。」
絵里と目を合わせて顔を近づける。
絵里の目がだんだん閉じていく。
それに合わせてれいなも目を閉じた。
- 536 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 15:00
- 吐息を感じる距離まで顔が狭まっていく。
あと少しで口唇が触れようとした瞬間、どこからか視線を感じた。
絵里の肩をポンと押して戻すと、れいなは絵里の病室に顔を向けた。
「あ〜、あとちょっとだったんやが。あーし達のことは気にせんでがんばれ!」
「れいなも成長してくれたんだね・・・お姉さんは嬉しいよ。」
窓から顔を出してにやついてる愛ちゃんと美貴ねえ。
気にするなって、気になるに決まっとう。
れいながじっと見てると、美貴ねえは苦笑いを浮かべて顔を引っ込めた。
「何々!?れいながキスするの?」
「私も見たい!」
「うるさい!美貴のれいなのキスシーンを見ようなんて十年早い!
ほらっ、外に出るなよ!愛ちゃんも!」
「ふぇっ?おわっ!」
美貴ねえは窓に集まってきたみんなを一蹴して、
愛ちゃんを引きずって部屋の中に入った。
- 537 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 15:02
- ようやく静けさが戻ってきたけど、雰囲気は完全に崩れ去ってしまった。
れいなは立ち上がって、絵里に手を差し伸べた。
「絵里、みんなのとこに戻ろう。」
「う〜ん・・・。」
絵里は納得をしない顔をして立ち上がった。
その瞬間、れいなは絵里の体を抱き寄せて、キスをした。
れいなからは初めてのキス、彼女の温もりを感じたくなった。
雰囲気が壊れたとしても、自分の欲求はそんな簡単に抑えられるもんじゃない。
いつからこんなに我侭になったっちゃろね?
- 538 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 15:03
- ここにくるまでは全てを心の中に閉じ込めていた。
でも、そんな感情を取り戻してくれたのは、後藤さん、あなたでしたよね・・・。
顔を離したあと、絵里は呆然とした表情で突っ立っていた。
「ハハッ、絵里、なかなか面白い顔してるっちゃね。」
「れーな、反則だよ・・・。」
「なん、絵里はキスするの嫌やった?」
「そんなことないよ。れーなとキス・・・うへへへへ〜。」
「絵里、キショイ。」
「え〜、れーな、ひどいよ〜。」
「冗談やと。絵里は可愛いよ。ずっとさ、一緒にいようね。」
「うん!」
絵里は、すぐに眩しい笑顔を取り戻した。
二人で手を繋いで、みんなのいる病室へと歩き始める。
- 539 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 15:06
- 絵里とまたこうして笑い合っていられるのも、あの人がいたから。
後藤さんのおかげで今のれいな達がいるんだ。
後藤さん、れいなは幸せだよ。
たくさんの仲間達が傍にいてくれる。
愛する人が傍にいてくれる。
れいな、これからも一生懸命に生きていくよ。
何があっても絶望なんてしない。
希望を持ち続けて前に進んでいくよ。
- 540 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 15:07
- でもさ、後藤さんの言っていたことにも、一つだけ間違ってることがあったんですよ。
人はね、たまには空っぽな状態になってもいいと思うんだ。
無色透明なままでいるっていうより、そこから新しい色を見つけるんです。
混ざり合うだけやなくて、新しい自分を見つけることもできると思うんだ。
れいなね、もっとたくさんの自分を作り出しますよ。
いつになるかわからんけど、綺麗な虹色に輝いてみせるよ!
後藤さんも知らない新しいれいなのこと、ずっと見ていてくださいね。
後藤さんは今頃何してんのかな?
ずっと寝てばかりいて、天使さん達に迷惑かけたりしたらだめですよ。
ねぇ、後藤さん・・・。
- 541 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 15:08
-
「こら〜!ごっちん、寝てばかりいないで起きなさいよ。」
「んあ〜。なっち、まだ眠いよ〜。」
「・・・何で死んでるのに眠くなるわけ?」
「それが後藤真希だからじゃない?」
「いや、自信持って言われてもね・・・。そんな寝てばっかりいると、
あの田中れいなって子に笑われちゃうべさ。」
「そうだった!寝てる場合じゃない。なっち、急ぐよ!」
「あっ、ちょっと待ちなさい!ごっちん!」
「れいな、あたしは元気にやってるよ!れいなもがんばるんだよ〜!」
- 542 名前:虹色の輝き 投稿日:2006/10/22(日) 15:09
-
終わり
- 543 名前:konkon 投稿日:2006/10/22(日) 15:14
- これで「無色透明なままで」は終わりです。
れいなの成長を描いたつもりでしたけど、いかがだったでしょうか?
自分なりに考えて書いていたつもりでしたが、たぶん突っ込みどころばっかかと(ry
それでも、自分なりにはけっこう満足してたりしますw
機会があったら他にも小説を書いてみたいと思います。
約半年間、ご愛読ありがとうございました〜。
またどこかでお会いしましょう。
- 544 名前:たぁん 投稿日:2006/10/22(日) 21:32
- 乙です!ホントもう素敵!!
二人にはずっと幸せで居て欲しい・・・
次期待しちゃいます〜☆
- 545 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/22(日) 22:46
- 完結ご苦労様です
みんな幸せそうでよかった♪
できたら番外編で海・山キャンプ編もみてみたいです
- 546 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/23(月) 00:30
- 簡潔おめでとうございます。
何というか、ごっちんは最後までごっちんでしたね笑
皆も幸せそうで良かったです〜
- 547 名前:Monokuro 投稿日:2006/10/24(火) 19:47
- 完結、おめでとうございます。
皆の笑顔と幸せな姿を見られたから本当によかったですね。
いつか作者様の新しい小説にまた会えるように。。。
お疲れ様でした!
- 548 名前:ais 投稿日:2007/01/27(土) 09:39
- ずいぶんと遅くなりましたが、落ちる前にレス返しさせていただきます。
ちなみに現在はaisで通ってますw
>>たぁんさん
ありがとうございます。
そこまで言っていただけると嬉しいです。
ずっと二人で幸せに築いていけたらいいですね。
>>545:名無飼育さん
みんなが笑顔になれたのも後藤さんがいたからだと思います。
番外編・・・考えたこともなかったですね(汗)
別スレの方が順調であれば考えてみようかなと思います。
ご愛読ありがとうございました。
- 549 名前:ais 投稿日:2007/01/27(土) 09:43
- >>546:名無飼育さん
ありがとうございます〜。
ごっちんが自分自身を変えないことで、自分の意思を示すことで
れいなに伝わってもらえたんだと思います。
それぞれの生きがいを大切にしないといけませんよね。
今後自分も考えていきたいと思います。
>>Monokuroさん
ぶっちゃけ別スレで書いちゃってたりw
一人の死によって全てが壊れてしまうことってありますよね。
aisも命の大切さを学んで生きていきたいと思ってます。
ご愛読ありがとうございました。
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