この星の大地に咲く華-残された道標-

1 名前:アルマジロ 投稿日:2006/04/17(月) 16:44
水板で『ココロの歌』を書かせて貰っていた者です。
名前を『作者。』から『アルマジロ』に変えました。
前よりも良いモノが書けるように頑張りますので、よりしくお願いします。



2 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/17(月) 16:46

 

 【第一章 闇と光の森】


3 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/17(月) 16:49
「はぁ、はぁ、はぁ」


―――暗い、闇のような森。


その中を一人の少女が走っていた。                             

辺りは静かで、聞こえるのは自分の息を吐く音とバカでかい鼓動の音、必死に走る足音だけ。

果てしなく闇が広がる森。

光なんて存在しない森。

それでも、その少女は光を求めて走った。            

たとえ、涙が溢れようとも。

たとえ、血が止まらなくとも。

走る。

ただ、逃れたい。  

右腕に刻まれた運命から。

『ダレカタスケテ』

「うわぁッ!」

何かに足を奪われ前のめりに転んだ。           

「いってぇー……」

ごろん、と仰向けになる。  

涙は溢れ、血は止まらない。

少女はそっと目を閉じた。

暗い、闇のような森の中で。

光を、求めた。
4 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/17(月) 16:52
それからどれぐらい経っただろうか。

「んっ…?」

眼を開くと眩しく感じる。

あんなに暗い、闇のような森に。

光が差し込んでいた。

「光…」

おもむろに起き上がる。

目の前に見えたのは壊れたけた教会。

森の中に教会が建っていた。

まるで光はそこに向かって降り注いでるように見えた。

ゆっくりそこに向かって歩き出す。

ギィと音をたてて開く扉。

割れたステンドグラスがキラキラ輝いていた。

「……綺麗」

そこには、光があった。

静かに涙が溢れた。
5 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/17(月) 16:56
十字架に向かって膝まづいて、祈りを捧げる少女がそこにいた。

降り注ぐ光は教会ではなく、この少女に降り注いでる。

――――女神だ。

もう暗い闇は怖くない。

「誰…?」

祈りを終えた少女は入口の方を向き驚いた。

確かに、血まみれの人間がいつの間にか自分の後ろにいるのだから当然だろう。

「……光」

血まみれの少女は呟いた。

笑って、泣いていた。

教会の少女は歩み寄った。

「…あなた、怪我してるの?大丈夫?」

「……どうか、助けて下さい」

「えっ?」

血まみれの少女は膝まづき、手を組み額につけた。

「…まだ生きたい…!」  

教会の少女は戸惑いながらも、血まみれの少女を抱き締めた。

白いワンピースが汚れるのも構わずに。

「大丈夫。あなたは生きている」

優しい、暖かな声。

「これからも生きていくの」

ココロが満たされていくような声。


───闇にはもう戻りたくない。
6 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/17(月) 17:01
「んぁ…」
ある朝。後藤真希は珍しく自分で眼を覚ました。
いつもなら誰かに起こされないと起きない後藤なのに。
……今日は何か変。
おもむろにベットから出てカーテンを開き窓を開ける。そこには森が見える。
眠たげな眼差しで後藤はその森を眺めていた。
「…んー、何かザワザワしてる…」
そう呟きながら欠伸をした。その時、この部屋の扉が開く。
「後藤、起きろ……って起きてる!?」
部屋に入って来た人物、市井紗耶香は信じられないと言った顔をしていた。
いつも誰かに起こされないと起きない後藤が起きている。
「…市井ちゃん」
「お前、大丈夫か?具合でも悪いのか?眠れなかったのか?」
いつもと違う後藤に市井は心配して部屋にずかずか入って来た。
「森が変だよ」
後藤はそんな市井を無視して、再び森の方に視線を向けた。
「森?」
市井も森を見る。しかし市井には昨日と変わらないように見えた。
「何か…ザワザワしてる。昨日はそんなことなかったのに」
「…そうか」
後藤の言葉に顔を曇らせる市井。
…何も起こらなければいいんだけど。
この森は普通の森とは違うからなと市井は思いながら後藤の頭を撫でる。
「とにかく飯だ」
「うん」
二人は部屋を出て行く。開け放された窓から風が吹き込みカーテンを揺らした。
7 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/17(月) 17:09
二人が階段を降りる先にはすぐにリビングが見える。
食卓のテーブルには既に一人、新聞を読みながら朝食を食べていた。
「あれ、梨華ちゃんは?」
食卓についた後藤はもう一人いないことに気付き言った。
「石川なら教会行った」
保田圭が新聞に眼を離さず答えた。
「教会…森の中にある教会だよね?」
「そうだけど?」
後藤は黙って難しい顔をした。それを保田が不思議そうに見る。
「今日の森が変なんだって」
焼いたパンを皿に乗せて市井がやって来た。
「森?」
「なっ、後藤」
皿を食卓のテーブルに起きながら後藤に言う。
「うん…」
「そう…石川、大丈夫かしら」
三人とも神妙な面持ちで残りの一人のことを考えていた。
「んぁ」
後藤がパッと顔を上げた。
「帰って来た」
そう呟く後藤。すぐに玄関が開く音が聞こえた。
「相変わらず、すげぇな。気配がわかるの」
「ホントね」
後藤はある範囲内ならすぐに気配がわかるという能力を持っていた。
8 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/17(月) 17:13
リビングに残りの一人、石川梨華が入って来た。その姿を見て三人は驚愕する。
赤く染まった石川の白いワンピース。
「梨華ちゃん!?どうしたの!?」
ガタンと椅子から立ち上がる後藤。
「大丈夫ですっ。これ、私の血じゃないから」
慌てて白いワンピースを赤く染めている血について石川は言った。
「あの、実は教会で…」
さっきの教会での出来事を話す。あの血まみれの少女は動ける状態ではなく、
石川の力では運ぶことが出来ないため教会に置いてきてこうやって手を借りに来た、と。
「わかった。私が行こう」
市井は席を立ち、玄関へ向かう。
「なっちに連絡しとくわ。ひどい怪我なんでしょ?」
保田がそう言いながら電話の方へ向かった。
「とりあえず一階の使ってない空き部屋に布団とか用意しとく」
後藤はバタバタと走って怪我人を受け入れる準備を始めた。
「あの…市井さん」
玄関を出た所で石川は遠慮がちに言った。
「何?」
「…その人のことなんですけど…右手から右腕にかけてすごく包帯が巻かれていたので、
 気になって見てみたんです…そしたら」
言いづらそうな石川に市井はハッとした。
「まさか…例の?」
「…はい」
市井はすぐに傍にある大きなバイクに向かい、ヘルメットを被った。
その表情は完全に怒りが満ちていた。
9 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/17(月) 17:29
「石川、そいつは私が保護する」
「…はい」
バイクは勢いよくエンジンがかかるとすぐさま森の中へ走り出した。
森の中は舗装された道なんてものはなく、バイクでは走りにくいが、
市井のバイクの運転は素晴らしく深い森の中を上手く切り抜いていく。
……軍に見付かる前に、見付けられて良かった。
バイクを走らせながら市井は思った。
そして、きっと後藤が言っていた森が変なことは、そいつがこの森に入って来たせいだろうとも。
教会に着き、急いで中へと走る。血まみれの少女は眼を瞑って横たわっていた。市井はすぐに息を確認した。
「まだ大丈夫だな…にしても出血が酷い…」
血まみれの少女は右肩と左脇腹、右足の太ももから出血している。
「…おそらく、銃弾だな。弾は貫通してるか…。痛いけど我慢しろよ」
持ってきたタオルで止血する。
「ぐぁ…!」
血まみれの少女が辛そうに顔を歪めた。止血が済むと市井の視線は少女の右手に向けられた。
赤く染められた白いシャツから出ている包帯を巻かれた右手。包帯が少しほどけかかっている。
「…何処からか逃げ出したんだろうな。…許せねぇ。こいつは絶対軍隊には渡さない」
市井の静かな怒りはしばらくは止みそうに無かった。
10 名前:アルマジロ 投稿日:2006/04/17(月) 17:31
本日の更新は以上です。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/17(月) 23:23
始めまして、更新ご苦労様です

・・・少女・・
誰でしょう・・・
続き楽しみにしてます!
12 名前:翡翠 投稿日:2006/04/18(火) 13:00
更新お疲れ様です&新作開始おめでとうございます!!
前回の「ココロの歌」とは、全然違う感じですが
さっそくハマってしまいました。
続き、そして例のプロジェクト楽しみに待ってます♪
13 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/18(火) 21:20
安倍なつみは愛車を飛ばして、ある場所へ急いでいた。さきほど診療所に緊急の連絡を受けたのである。
「にしても、何があったんたべ…」
車を走らせながら呟く。友人の保田からの緊急連絡。決して穏やかな声ではなかった。
誰かが大怪我でもしたのだろうか。不安を抱きながら、ある場所に着いた。
森の傍に建てられている家。車を止めて治療道具が詰まった鞄を持ち、白衣をひるがえし玄関へと急いだ。
玄関の扉をノックするとすぐに扉が開いた。
「安倍さん!」
迎えたのは石川だった。安倍は石川の白いワンピースが赤く染まっているのに驚いた。
「血!?梨華ちゃん大丈夫だべか!?」
「いえ、これは私のでなくて…とにかく入って下さい!」
石川は安倍の腕を引っ張り中へ入れる。そして一階の空き部屋へ案内した。
「酷い出血なんです。止血はしたんですけど…」
歩きながら石川が言う。空き部屋の扉の前では保田と後藤がいた。
「この中です」
安倍は扉をノックし開いた。ガランとした部屋に布団が敷かれていて、
少女が横になっている。傍に市井がいた。
「この子?」
「銃弾を右肩、左脇腹、右太ももに受けてる。見たとこ弾は貫通してる」
部屋に石川が入り扉は閉められた。安倍は早速、少女の診察に入る。
「これは…酷いべ」
布団を捲り、少女の怪我を見て呟く。
そっと赤く血に染まった包帯を外すと生々しい傷口が見えた。
後ろにいた石川は手を口に当てて必死に泣くのを我慢していた。
14 名前:名無飼育 投稿日:2006/04/18(火) 21:21
新スレおめでとうございます!
すごい面白そうな始まりですね。
教会に駆け込んできた少女は
やはりカッケ−あの娘。?
更新楽しみにしています♪
15 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/18(火) 21:24
「…じゃ、始めるから少し離れてて」
傷口に両手をかざす安倍。市井は石川のとこまで下がった。
「緊急だから少し強めにするけど…我慢してね」
安倍が言い終わると両手から眩しい光が溢れ出した。
「ぐぁ!うぁ!」
カッと眼を開き、少女は苦しそうにもがいた。光は傷口に降り注ぐ。
安倍はギュッと眼を閉じて、歯を食い縛っていた。

扉の外では何だか不機嫌な後藤が腕を組み、扉を睨みつけていた。
「…圭ちゃん」
視線は変えず、隣にいる保田に話かける。その声には怒りが含まれていた。
「何よ」
「何であたしは見ちゃ駄目なの」
さきほど後藤も心配で部屋に入ろうとしたら市井に入るなとキツク言われていた。
「大人数でいたらなっちに迷惑よ」
保田はやれやれとため息をついた。それでも後藤は納得しない。
「何か隠してるでしょ」
「そんなことないわよ」
そう言いつつも保田の内心はドキッとしていた。
さっき市井に耳打ちされた言葉を思い出す。
『―――例の奴だ。おそらくどっかの研究所から逃げて来た可能性が高い』
後藤に知られてはいけない。もし彼女が知ったらどうなるだろうか。
確実に冷静さを無くす。彼女が冷静さを無くし暴れ出すと手がつけられないほどになる。
「さ、私たちは向こうへ行こ。まだ時間かかるだろうし」
「…わかった」
後藤は渋々頷いた。それに保田がホッと安心をする。
もちろん顔には出さないが。
16 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/18(火) 21:28
───ココは何処だ?

『今回の実験サンプル体は五体です』

『すぐに実験に取りかかるように。最近、成果が上がらないせいか上層部がイラついてるからな』

少女は気付いたら牢屋のようなとこにいた。
何で自分がこうなってしまったのかわからない。

病院の消毒液のような匂い。

白衣を着た人たち。

遠くから聴こえる悲鳴のような声。

ココは危険だ。

少女は一瞬でそう思った。

しかし牢屋からは出れない。

『実験サンプル体、452番。実験室へ移動させます』

牢屋に白衣を着た人たちが入って来る。少女の腕を掴む。

やめろ!触るな!

少女は必死に抵抗した。泣きながら、暴れていた。
すると白衣を着た人が注射器を取り出し、少女の首に打った。
少女は抵抗力を失い、その場に倒れた。意識はあるが身体が動かない。
少女はそのまま運ばれて行った。

やめろ…やめろ…!

冷たい台の上。

真っ白な空間。

台を囲む厚いガラス。

眩しい照明。


『実験を開始します』



「うわぁぁぁ!!!!」
17 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/18(火) 21:34
少女は飛び起きた。身体中、嫌な汗がベッタリしていた。
「はぁ、はぁ…」
自分がいる場所は知らない場所。部屋の中をキョロキョロ見渡していると部屋の扉が開いた。
「…大丈夫か?」
入って来たのは市井だった。初めて見る顔に少女は警戒心剥き出しで睨みつけた。
「んな睨むなって。何もしねーよ」
市井は笑って扉を閉めた。とっさに少女は布団から出て部屋の隅に移動した。
「教会で倒れているとこを発見したんだ。怪我酷かったから知り合いの医者に治してもらったよ」
「教会…怪我…」
「全くラッキーだったな」
市井が床に座る。少女はさっきより警戒心が薄れていた。
「…まぁ、この家にいるもんはお前の味方だ。安心しろ。ここなら追っても来ねぇだろ」
「味方…」
少女の眼が変わった。穏やかな優しい眼は市井を敵ではないとわかったからだろう。
「…右腕と右手は平気か?」
市井が優しくそう聞くと少女はハッとしたように市井を見た。
「…知ってるんですか?“コレ”のこと…」
「あぁ。きっとお前よりも知ってると思うよ」
「…関係者、ですか?」
「…いや、直接関係は無かったよ。いろいろと情報は耳に入って来たけど…」
「そうですか…」
「…あ、そーいや名前言ってなかったな。私は市井紗耶香。後で仲間も紹介するよ」
「うちは…吉澤ひとみです」
市井の差し出した左手を少女―――吉澤ひとみの左手を握った。
「一つ、言っておく」
握手をしたまま市井は真剣な眼で言った。何かを決意したかのような眼をしていた。
「きっと吉澤はこれから先、政府や軍から追われるようになる。だけど絶対吉澤は渡さない。
 私たちが守るからな」
「…ありがとうございます」
吉澤はそんな市井に安心したのか深く頭を下げ、ココロを込めて感謝した。
18 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/04/18(火) 21:44
(※柴田プロジェクトとは、『ココロの歌』のメンバーが『この星の大地に咲く華−残された道標−』
 のそれぞれの役を演じているという柴田が提案した計画である。詳しくは同じ板の『ココロの歌』
 873〜879を読んで下さい)


【柴田プロジェクト−始動−】

とある場所に一台のワゴン車が向かっていた。運転席には大谷、助手席には柴田。
後ろには吉澤、石川、市井、後藤、保田が座っていた。
「ねぇ、柴田さん」
吉澤の声が静かな車内に響いた。
「何かしら?」
「コレ…取っちゃ駄目ですか?」
吉澤が言うコレとは。後ろの方に座っている全員の目を隠しているモノ―――アイマスクがつけられていた。
「駄目よ。もうすぐ着くから、それまで取らないで」
この日は再び柴田の集合がかかり、集まるや否や、アイマスクをつけられ車に乗せられた。
一体何処へ向かうか、柴田と大谷以外誰も知らなかった。
「一体何処へ行くの?柴ちゃん」
石川がそう聞くと柴田はニコッと笑い「内緒♪」と答えた。
車はガタガタ揺れながら走ること一時間。やっと目的地に到着。
「はい。着いたよ」
柴田はそう言うと一番に車を降りた。
「アイマスクを外して、降りて下さい」
大谷が後ろを向いて言う。一名を除いて後ろにいる人はアイマスクを外した。
「おい、後藤?」
アイマスクを外さない後藤は明らかに寝ていた。市井が肩を揺さぶり、起こす。
「んぁ…?」
「着いたらしいぞ」
やっと後藤が起きたとこで全員車を降りた。
「な、何だ…ここは…!?」
その場所を見て全員固まった。
「おいおい、何処だよ、ここ」
「しかも寒いじゃない。私、寒いの苦手なのよッ」
「んぁ……」
「…何か、ちょっと怖い…」
思い思いの言葉を口にする。
到着した場所というと───でかい森の傍。
まわりには何もない場所。天気は悪く、うっすら霧も出ていた。
「じゃ、今から台本を渡すわ。マサオ」
「ハイハイ…」
大谷が用意していた全員分の台本を車から持って来た。一人ずつ渡していく。  
19 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/04/18(火) 21:47
「今日はいきなりですが重要なシーンです。森の中の撮影をします。よっすぃーと梨華ちゃんね」
着々と進んでいく柴田プロジェクトに唖然するしかないキャストのみなさん。
「撮影の準備とかあるから車の中で台本読んで待機してて」
一体どうなるんだと全員は不安でいっぱいになっていた。
「ゲッ…走るシーンがある」
とりあえず、全員車に戻り台本を読む。早速、吉澤が嫌な顔をした。
「っていうか、何で私らがこんなことしなきゃなんねぇんだ?」
台本を捲りながら文句を言う市井。また、市井とは逆に黙々と台本を読む後藤。
「最初は私とひとみちゃんの出逢いなんだね」
戸惑いながらも台本を読む石川。
「全く。ギャラ出るのかしら」
何だかんだ言いながらも保田はしっかりと読んでいた。
しばらく時間が経った後、車の扉が開く。
「えーと、みなさん着替えて下さい」
大谷がひょこっと顔を出して言った。全員車から降りて、近くにあるテントへ向かった。
「みんな〜久しぶり!」
テントの中で待っていたのは市井の仕事仲間のアヤカだった。
「な、何でアヤカがここにいるんだよッ!」
「何よ、紗耶香。いちゃ悪い〜?」
「別に悪くねぇけど…」
「私、衣装とメイク担当なのでよろしく〜♪」
こいつ…絶対報酬貰ってる。
市井はアヤカを見てそう確信した。
20 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/04/18(火) 21:49
まずは吉澤と石川が着替え、メイクも済ませ、監督である柴田と物語の打ち合わせ。
「まぁ、こんな感じ」
大雑把に二人の役を話す柴田。森の中にはいつの間にかカメラや照明などがセットしてあり、スタッフもいた。
「柴田さん…この人たちは?」
淡々とスタッフが準備をしていく姿を戸惑い気味に吉澤は見ていた。
「スタッフよ」
「何処から来たんですか…ってか柴田さんは何者なんですか…」
「それは、企業秘密♪」
さっさとスタンバイして!という柴田の声に二人は渋々歩き出した。

ひゃ〜…何か結構暗いなぁ。
吉澤は森の中を歩きながらまわりをキョロキョロ見ていた。
石川は別の場所なので一緒にはいない。
「所々ぬかるんでるから気を付けて」
大谷が案内をしながら後ろを歩く吉澤に言った、が。
「うわッ、わッ、滑る!」
危うく滑ってこけそうになる吉澤。慌てて大谷が吉澤の腕を掴んだ。
「…すんません」
「気を付けないとせっかくの衣装が台無しになるからね」
衣装が台無しになってしまったら柴田は鬼のように怒るだろうと大谷は予想していた。
「ここら辺から走って」
「めっちゃ、木の根とかあるんスけど…絶対走りづらいっていうか走れませんよね」
「元陸上部でしょ」
「いやいや、関係ないし!」
「じゃ、リハーサル始めよう」
「シカトッスか!?」

こうして着々と撮影が始まっていく。
21 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/04/18(火) 21:54
「はぁ〜。吉澤と石川まだ終らないの?」
一方、テントでは保田と市井と後藤は出番を待っていた。
「待ち時間長げぇ…暇だ。…ん?」
市井は隣のパイプ椅子に座ってる後藤に目をやる。
「…寝てるよ、こいつ」
どんな状況でも寝れるのが後藤の特技だった。
「まぁまぁ、お茶でも飲んで」
アヤカは温かいお茶を注いだ紙コップを持って来た。市井と保田に渡す。
しばらく三人で話しているとやっと最初の部分の撮影を終えた吉澤と石川が帰って来た。
「うわ、何だよ、その赤いのは!」
血まみれの吉澤を見て市井が驚く。
「何って…血のりッスよ」
疲れた顔して吉澤は答えた。テントに大谷が入って来る。
「次は市井さんと保田さん、後藤さんも入ります」
そう伝えると忙しそうに出ていった。
「…こりゃ、大変なことになりそうね」
「まぁね。おい、後藤!起きろッ!出番だぞ!」
「んぁ…?もう…?」
「着替えちゃ駄目かなぁ…アヤカさん。血だらけで何か嫌だ」
「駄目。次もこれで出てね」
文句を言いながら全員は柴田の元へ向かった。
22 名前:アルマジロ 投稿日:2006/04/18(火) 22:03
本日の更新は以上です。

>11 名無し飼育さん様。
    初めまして!読んで下さりありがとうございます。
    少女については…今回でわかっちゃいましたよね(^−^
    続き頑張ります!

>12 翡翠様。
    前回に引き続き今回も読んで下さりありがとうございます!
    ハマッてしまいましたか!嬉しいです。プロジェクト、今回から
    始めてみましたがどうでしょうか?自分だとよくわからないので
    不安です…(−_−;

>14 名無飼育様。
    ありがとうございます!そう言ってもらえると嬉しいです。
    少女については今回、わかっちゃいましたよね。そうです、
    あのカッケー娘です。続き頑張ります!


今回から始まりました。柴田プロジェクト。
うーん、物語とごちゃごちゃになってしまうのが不安ですが…。
あんまりにもごちゃごちゃするようなら、ちょっと考えたいと思います。
23 名前:アルマジロ 投稿日:2006/04/18(火) 22:06
早速間違い発見…。

17 ×『市井の差し出した左手を少女―――吉澤ひとみの左手を握った。』
   ○『市井の差し出した左手を少女───吉澤ひとみは握った』

今後、気をつけたいと思います…。
 
24 名前:名無飼育 投稿日:2006/04/18(火) 22:53
14です。スミマセン!なんか更新とかぶっちゃいましたね。;
今回のようにプロジェクトの舞台裏も同時進行でされるんでしょうか?
おもしろい試みですね。今後どうなるのか全く想像もつきませんが
興味深く見させて頂きます。

何を企んでるのか柴ちゃんがコワイ…。w
25 名前:ミッチー 投稿日:2006/04/20(木) 01:29
更新お疲れ様デス。。。。
うはっ!少し乗り遅れてしまった><;
今回の話もかなりはまりそうです☆
一体どういう秘密があるのか気になりますね!
柴田プロジェクトの方も面白いっす(w
スタッフを用意できる柴田さんは何者なんでしょうか?(w
次回も楽しみにしてます^^
26 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 14:34
キッチンの近くにある食卓テーブルには安倍と保田がお茶をしていた。
「さすがに疲れたべ〜…」
肩を叩きながら安倍は言った。 
「でも、やっぱりすごいわね。なっちの晶術は」
「まぁ、こう見えても里長の娘だもん」
エッヘンと胸を張り威張る。安倍は少し離れた小さな村の診療所に勤めていて、出身は遠くの人には知られていない里である。
その里の人間は昔から不思議な力が扱え、晶術と呼ばれている。自然の力を借り、あらゆる技が出来る。
「…にしても、初めて見たよ」
眼を伏せて安倍はため息をつく。
「あぁ…例の、ね」
保田の表情も暗くなった。
「酷いよ…人間にあんなことするなんて…!」
「噂は本当だったのよね…」
二人とも言葉を失い、黙ってしまった。そこへ着替えた石川がやって来た。
「梨華ちゃん」
安倍が顔を上げ、石川を見た。
「ごっちんは…?」
「後藤なら庭にいるわよ」
「そうですか…」
ごっちん…怒ってるかな。   
石川は肩を落としながら庭の方に向かって歩いた。
27 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 14:36
庭では後藤が黙々と趣味である家庭菜園の作業をしていた。
「何であたしは見ちゃいけないの…市井ちゃんのバカッ」
…あたしだって心配なのにッ。
さきほど部屋に入れてくれなかったのがよっぽど悔しいらしく、その悔しさを土にぶつけていた。
スコップでザクザクと土を乱暴に耕していく。
「あ〜もう!」
やがて作業を止め、空を仰いだ。
「ごっちん」
いつの間にか庭に石川がいた。小走りで後藤に近付いて来る。
「梨華ちゃん…もう、終わったの?」
「うん…。ごっちん…市井さんは悪くないの」
市井という言葉が出ると後藤はあからさまに嫌な顔をした。
「何でさ。あたしを除け者にしたじゃん」
プイッと顔を背ける。
「…それは…」
市井さんがごっちんのことを想って…。
続きの言葉を石川は言えずに黙った。
それを言えば、市井が後藤の為に何を隠しているのかを説明しなければならなくなる。
「梨華ちゃんは何でそんなに市井ちゃんの肩を持つのさ!」
「別に持ってないよ!でも…市井さんは悪くないの」
「…わかんないよ…あたしには」
グッと拳を握り、後藤はうなだれた。その瞳にはうっすら涙が溢れていた。
そんな後藤に石川は何も言えず、ただ俯いていることしか出来なかった。
28 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 14:41
市井は吉澤がいる部屋を出るとリビングへ向かった。すると安倍がリビングの扉から出てきた。
「帰るの?」
「診療所を長く空けとくわけにはいかないから。また何かあったら呼んで」
スタスタと玄関に向かって歩く安倍、その後ろを市井が歩く。
「ありがとう。助かったよ」
市井は安倍が靴を履いてる後ろ姿に言った。
「……紗耶香」
「ん?」
「…アレはさ、そんな生優しいもんじゃないよ…」
安倍は市井に背を向けたまま呟いた。
「今はまだ自我が持ててると思うけど…このまま進行が進めば、それも危うくなる…
 きっと副作用にも苦しむことになるよ…まわりの認識が出来なくなるんだよ」
「…わかってるよ」
医者として、傷を癒す者として。安倍は何とか治してあげたいと思っていた。
でも今の自分には何も出来ない。せめて出来ることは銃弾を受けた身体の傷を治すことだけだった。
何て非力なんだろうと安倍は自分を責めていた。
「…なっちがあいつを助けたい気持ちは十分伝わる。だからそんなに自分を責めるなよ」
「…紗耶香」
「一緒に頑張ろう」
安倍は溢れそうになる涙をゴシゴシと拭いて市井の方を向いた。そして笑った。
「うん。頑張ろうね」
「でもあんま大っぴらに研究するんじゃねぇぞ?このことを調べるのは禁止されてるからな」
「紗耶香もね。…あ、ごっちんはどうするの?」
「…ちゃんと話すさ。あいつも大事な仲間だからな。今夜にでもゆっくり話すよ」
「そっか。じゃ、帰るね」
安倍は家を出て車に乗り込み、診療所へと帰って行った。
29 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 15:09
安倍が帰るのを見届け、市井は自分の部屋へ向かった。ちなみに市井の部屋は一階にある。
「冷静に聞いてくれればいいんだけど…」
考えることは後藤のことだった。市井の部屋はシンプルなもので必要な物以外何も無かった。
部屋にある隠しスイッチを押した。すると部屋の何処かでカチッという音が聞こえる。
そしてベットを動かし、下にある正方形の板みたいなモノを持ち上げた。
すると人一人分ぐらい通れる広さの階段がそこにある。市井は部屋の扉の鍵を閉めて、
階段を降りて行った。そこの地下室は市井の研究をする為の部屋だった。
「これから忙しくなりそうだな…」
本棚には様々な本がギッチリ並べられていて、パソコンが置かれている机には書類が
山のように置かれていた。市井は深く息を吐くと、パソコンの電源を入れ作業に入る。
カタカタカタとキーボードを叩いて行くと、階段を降りる音が微かに聞こえた。
市井はそれを気に止めずに手を動かした。やがて音はすぐ近くで止んだ。
「…圭ちゃん。勝手に入って来んなよ」
市井がそう言うと後ろに居る保田は笑った。
「いいじゃない。同じ志を持つ仲間なんだから」
「ハイハイ…」
鍵をかけたはずの部屋は保田にとっては簡単に入れる部屋だった。
「大丈夫よ。ちゃんと鍵はかけておいたから」
「そうじゃなきゃ困るよ」
暗い地下室に二人の声とキーボードを叩く音が響く。
「にしても、こんな隠れてやることなんかないんじゃないの?」
本棚を眺めながら保田は言った。
「ほら、都会に住んでるってわけじゃないし」
「いつ誰がこの家に来るかわかんねぇじゃん。あいつだってホントはこの地下室
 に隠したいほどだけど。そうしたらなっちや石川が騒ぐだろうし」
「あいつってあの血まみれの?…確かに。ココ、暗いし寒いしね」
「まぁ…とにかくあいつを元に戻せる方法を見つけないと」
「そう簡単に見つかるとは思えないけど…このままじゃ、死んじゃうわ」
「時間との勝負だよ。っで、圭ちゃんは何をしに?」
くるっと椅子を回転させて市井は保田を見た。
「別に何をってわけじゃにけど…何か手伝うことあるなら」
「悪ぃけど一人でやりたいから」
「…相変わらず、可愛くないわね」
再び作業をする市井に保田は悲しそうに笑った。



30 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 15:12
市井たちがいる場所からは遠く離れた都市。

自然なんてものは無く、高層ビルがやたらと建っていて車の通りが激しい。
環境は良いとは言えなかった。しかし、そこにはたくさんの人々が住んでいた。
そして、この都市の中でもっとも大きい企業のビルの一室。
緊迫した空気の中会話をしている者たちがいた。
「…まだ実験サンプルの居場所が特定出来きないのか?」
黒い革製の椅子に座っている男が言った。 
「申し訳ありません。現在、全力で捜査をしていますが…なかなか」
少し離れた場所で髪の長い、黒のスーツを着ている女が答える。
男はため息をつくと葉巻を取り出し火をつけた。椅子から立ち上がり、高いビルの窓の外を眺めた。
ここの窓は都市が一望出来る場所だった。         
「そいつは失敗作だ。とにかく速く見付け出し処分しろ。いいな」
「……了解致しました」
女がそう言い、頭を下げ部屋から出て行こうとした時。
「―――飯田。君には期待している。今回のことが上手く行ったら昇格させてやろう」
男が得意気に言うのを女―――飯田圭織は無表情で聞いていた。
「…ありがとうございます」
何の感情も感じられない言葉。部屋の扉を開いて飯田は素早く出て行った。

……感情なんて無用のはず。

長い廊下を半分まで歩いて立ち止まる。

「……私はあの子を守る。それだけ」

眼を堅く瞑り、自分に言い聞かせるように呟いた。
そしてゆっくり眼を開き、また歩き出す。

ビルの外は、もうすぐ夜になろうとしていた。
31 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 15:16
キッチンでは夕食を作る石川の姿があった。今夜は機嫌が良くない後藤の為にオムライスを作った。
あれから結局後藤は部屋に閉じこもり出てきて無い。心配する石川に保田は
「後藤の好きなもん作ってあげれば、匂いにつられてすぐに出て来るわよ」
と言い、リビングのソファで読書をしていた。
「あっ」
そうだ、今日はもう一人いるんだ。吉澤のことを思い出し、石川はもう一人分追加した。
「オムライスか。美味そう」
いつの間にか市井が地下室から出てキッチンにいた。
「もう、市井さんびっくりさせないで下さいよ〜」
「悪ぃ。癖でさ」
市井は自分の気配を消すということが優れていた。
「市井さん。あの人のは部屋に持っていけばいいんですか?」
「あぁ。頼むよ」
早速トレイに出来立てのオムライスの皿を乗せ、スプーンとお茶の入ったコップも乗せた。
「こっちは私らがやるから。圭ちゃーん、手伝って〜!」
石川は後のことは市井に任せ、トレイを持って吉澤がいる部屋に向かった。
扉を数回ノックする。
「えっと、夕飯持って来ました!入りますね」
扉を開けるとそこは真っ暗だった。
あれ…?
外はすっかり夜なので部屋は電気をつけないと明るくならない。
どうしたんだろうと思っていると暗闇の隅で何かが動いた。
32 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 15:19
「きゃっ……そこにいるの?」
手探りで電気をつけた。すると部屋の隅で吉澤は縮こまっていた。
怯えたような眼をして、石川を見ていた。
「……どうしたの?」
トレイを床に置いて、石川は吉澤に歩み寄る。
「…暗くて…怖かった…」
今にも消えそうな声。
「…そっか。暗闇は怖いもんね」
吉澤の傍にしゃがんで微笑む石川。もう、大丈夫だよと伝えるような微笑みだった。
「暗闇が嫌だったら電気をつければ明るいから、ね?」
「……うん」
吉澤の眼は次第に穏やかさを取り戻した。
「お腹減ってない?オムライス作ったの」
「……いいの?」
「もちろん!」
この後、すぐに吉澤は綺麗にオムライスを食べた。
「あ、名前言ってなかったね。私、石川梨華」
「…吉澤ひとみ」
「ひとみちゃん?うん、似合ってるね」
「…初めて、言われた…そんなこと」
「よろしくね」
「…うん」
二人は笑い合った。この時、吉澤は本当にココロの底から幸せを感じていた。
不安なココロは石川によってほんの少しだけ喜びに満ちていた。
33 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 15:22
食卓テーブルでは市井と保田、そして匂いにつられてやって来た後藤がオムライスを食べていた。
「紗耶香、明日の仕事なんだけど」
「あぁ、後で資料渡すから」
会話は市井と保田だけ。後藤は黙々と食べ続けていた。
そして一番に食べ終え、席を立った。
「後藤、後で私の部屋に来て」
何とも無いように市井が言った。そんな市井を後藤は睨み、
さっさと皿を片付け二階へ上がってしまった。
「前途多難ね」
「まぁね。これからが大変だよ」
二人が話していると石川が戻って来る。
「ごっちん、もう食べ終わったんですか?」
既に食卓のテーブルから姿を消している後藤に石川は驚いた。
「あぁ。すごいスピードだったぞ」
「綺麗にね。よほどお腹すいてたんでしょ。それよりどうだった?」
自分の席につく石川に保田が尋ねる。
石川との入れ替わりで今度は市井が席を立ち、食べ終えた皿を片付け始めた。
「どうだったって…何がですか?」
「状態の話よ」
「状態…別に普通でしたよ?」
石川が自分の分のオムライスを食べ始める。
キッチンからはカチャカチャという音と水が流れる音が聞こえていた。
しばらくしてその音が止む。
「圭ちゃん。大丈夫だって」
市井が皿を洗い終えてやって来た。
「でも…」
市井の言葉に保田は顔を曇らせる。反対に市井の顔は明るかった。
34 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 15:29
「見た所、そんなに日が経ってもないみたいだし。あいつもちゃんとわかってないみたいだから、
 私が話して、これからのことを考えるよ」
「…そう…わかったわ」
「さーて、後藤と話でもするかな」
二階へ上がって行く市井を見て保田はため息をついた。
…全く、あの子は。
「保田さん。どうかしたんですか?」
そんな保田を不思議に思う石川。
「…昔からね、紗耶香は一人で全部背負い込む癖があってね。今回のこともそうなのかなって」
地下室で一人、パソコンの画面と向き合う市井の背中。そしてワザと石川を心配させないように
明るく振舞う市井の顔。保田はそんな市井を見る度にココロが痛かった。
「そういえば市井さんと保田さんって何処で知り合ったんですか?」
石川の何気ない質問に保田のココロはまたズキンと痛みが走った。


『今日からこちらに配属になりました市井紗耶香です!よろしくお願いします!』

『何でココに来たか、ですか?そうですね…もっと世界を見たかったから…小さな村の出身なんで』

『保田さん!何ですかその絵!面白過ぎッスよ!!』

最初は何をやってもドジが多かったけど次第に彼女は成長して行った。
私たちはずっと一緒にいた。だけど、彼女は何と戦っているのかも知らずに。

『圭ちゃん。大丈夫?』

『ココは私に任せて!早く行って!』

『……ちくしょー。何でだよぉ…』


「―――さん!保田さん!?」
保田は石川の声にハッと我に返った。そして自分が泣いていることに気付いた。
「大丈夫ですか?すいません…私、余計なことを…」
あたふたする石川。滅多に泣かない保田を見て気が動転してしまった。
「いいのよ…私、もう寝るわ」
「あ、はい。お皿は私がやっておきますから」
涙を拭い、保田は自分の部屋へ引き上げた。
35 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/22(土) 15:33
「おーい、後藤〜」
市井が後藤の部屋に行くと部屋は真っ暗だった。
ベットを見るとどうやらそこにいるらしい。もぞもぞと何かが動いていた。
「寝るには早くないか?」
「……市井ちゃんのバーカ」
「ひでぇな。電気つけるぞ」
パチッと部屋の電気がついて明るくなる。ベットでは後藤が布団を被って丸くなっていた。
「悪かった。でも仕方なかったんだ」
やれやれと言った感じで市井はベットの傍に立った。
「まぁ…後藤にキツク言ったのは私が悪いんだけど…ごめんな」
「…何で?」
「えっ?」
カバッと布団を押し退けて後藤は身体を起こした。
「何で部屋に入っちゃ駄目だったの?」
その質問に市井は覚悟を決めてベットに腰かけた。
「…後藤」
「何?」
「冷静に聞いて欲しい。今から私が言うことに対して感情的にならないでくれ」
後藤は市井の言葉に何か言おうとしたが、口を閉じ頷いた。
「あいつの名前、吉澤ひとみって言うんだけど」
「うん」
「……吉澤の右腕から右手は―――“獣化”してる」

えっ…?

後藤は思わず言葉を失った。

「だから…お前には、その…すぐに逢わせたくなかった。こうやってちゃんと話してからの方がいいと思って」
市井は後藤を見て、ハッとした。後藤がボロボロと涙を流していた。


『逃げろー!すぐに村から離れろ!』

『もう、無理だ!囲まれてる!』

『真希。お前は屋根裏に隠れてなさい』

『お父さんは?お母さんは?』

『いいから、早く!』


「嫌だ……行かないで…!あたしを一人にしないでよぉ…!」
「後藤、落ち着け!」
「何でみんないなくなるの…!?どうしてみんな死んじゃったの!?」
「後藤!」
ベットで暴れる後藤を市井は強引に押し倒した。それでも後藤は暴れ続けた。
「後藤、私を見ろッ!眼を見ろ!」
ピタッと動きが止む。後藤の焦点がゆっくりと市井の眼に合う。
「…市井ちゃん…?」
「…あぁ。私はココにいるよ」
……まだ傷は癒えてない、か。
後藤を抱き締めながら市井はそう思っていた。
「……市井ちゃん…市井ちゃん」
「…話はまた明日にしよう。今夜はもう寝ろ…」
「うん…」
市井は部屋から出て、深く息を吐いた。
予測してたとはいえ、後藤があんなに取り乱すとは思ってもみなかった。
「…あいつをあんな風にさせたのは…私なんだよな…」
そう呟いて市井は階段を降りて行った。
36 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/04/22(土) 15:38
「んじゃ、本番。よーい、スタート!」
柴田の声で本番の撮影が始まる。今は家の中の食卓のシーン。
ちなみにこの家はこの撮影の為に作られたセット。
「眠くなって来た…」
撮影が行われている家の外で吉澤と石川はスタンバイしていた。
「今日、早起きしたもんね」
「ってか早く帰りたい…来週締切のレポート終わってないよ」
大学生である吉澤にとって撮影よりもレポートの方が大事だった。
「私もやんなきゃいけないことがあるし…」
「こんなんじゃ、梨華ちゃんとデートも出来ないし」
「そうだね…ホントに」
「…次の休み、絶対デートしようね」
「うん!」
撮影のことを忘れ、二人は手を繋いで笑い合った。
今の二人は次の休みもこの撮影が入っていることを知る由もなかった。


一方、大谷は撮影の場所から離れ車を飛ばしていた。
「全く…人使い荒いんだから」
本人に直接言えない文句をブツブツ言いながらハンドルをきる。
「大体、無理があるんだよ。みんなだっていろいろ忙しいのに」
車はある人のバイト先で止まった。そこは本屋だった。
えーと…あ、いたいた。
さっき柴田から受けた仕事。
「安倍さん!」
次の撮影に必要な人である安倍を呼びに行けというのが今回の仕事だった。
37 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/04/22(土) 15:40
「あっ、大谷さん。どうしたの?」
「あの、撮影があるんでお迎えに上がりました」
大谷の言葉に目をパチパチさせる安倍。
「撮影って…こないだ柴ちゃんが言ってた…」
「そうです。あの我が侭過ぎる柴田あゆみが言ってた撮影です」
ニッコリ笑って言う大谷。本人がいないから言いたい放題言える。
「でも…私、バイトが」
安倍はこの本屋のバイトの姿をしていた。たった今、本棚の整理をしていたとこである。

『安倍さんを迎えに行く?』
『次のシーンは安倍さんの出番があるのよ。さっさと行ってきて』
『でも…安倍さん、今日バイトじゃなかった?』
『あ、大丈夫よ。店長に話はつけておいたから♪』

大谷は柴田との会話を思い出していた。
…話はつけたって…一体どんな話をしたんだろう。
「お〜、君が大谷さんかい?」
奥から店長らしき年輩の男が現れた。
「安倍さんはもう上がっても大丈夫だから」
店長はにこやかにそう言った。
「えっ?店長?」
その言葉に安倍が驚く。
「撮影なんだって?大変だねぇ、若い人は。こっちは大丈夫だから安心して行っていいからね。
 シフトは撮影に合わせてでいいし」
何が何だかわからないといった感じの安倍。大谷はますます柴田が何を言ったのか理解不能になってしまった。
「…えーと、じゃ、安倍さん。支度して下さい。駐車場の方に車、止めてありますから」
「あっ…うん」
「いやぁ、若いって素晴らしいね。もう少し若かったらなぁ。ハハハ」
店内には店長の笑い声が響いていた。
38 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/04/22(土) 15:42
「なっちはいるかな〜?」
スキップをしながら安倍がバイトをしている本屋にやって来たのは虫…ではなく矢口だった。
ちょうど矢口が本屋の入り口に来た時、本屋から安倍が出てきた。
「あれ、なっち?もう上がりなの?」
「あっ、矢口。何かよくわかんないんだけど撮影に行かないといけないらしくて。
 大谷さんが迎えに来てくれたの」
「撮影……って柴ちゃんが言ってたやつ!?何、もう始まってんの!?オイラ知らないよ!?」
自分の知らないとこで撮影が行われていたことにショックを隠しきれない矢口。
「安倍さん!乗って下さい!」
車の窓を降ろして大谷が言う。
「じゃ、行くね」
安倍が大谷の車に向かって走り出した。
「えっ…何でなっちだけ?ってかオイラは!?」
安倍を追いかけ、車の窓をベシベシ叩く。ガーッと窓が下がった。
「オイラの出番は!?」
「すいません。今回は安倍さんだけなんで」
「何でさ!ちょ、窓閉めんな〜!」
車がゆっくり走り出して行く。そして悔しい思いで立ち尽くす矢口だけがそこに残ってしまった。
39 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/04/22(土) 15:46
安倍が到着した後も撮影は順調に進んで行った。NGも少なく、柴田の機嫌は最高に良かった。
『嫌だ……行かないで…!あたしを一人にしないでよぉ…!』
『後藤、落ち着け!』
『何でみんないなくなるの…!?どうしてみんな死んじゃったの!?』
『後藤!』       
画面に映し出された映像を満足気に眺める。そこには暴れる後藤を市井が押さえ込むシーンだった。
「んぁ…何か疲れた…」
「あぁ、私も。妙に現実と似たような感じだったから…」
「何か言った?市井ちゃん」
「い、いや!何も!」
「梨華ちゃんのオムライス美味かった〜」          
「今度、撮影じゃなくて、ちゃんと私が作ってあげるね」
これにて今日の撮影は終了。キャストのみなさんは着替えて車へと戻って行く。
「明日は飯田さんね。マサオ、ちゃんと迎えに行くのよ」
「ハイハイ…」
「さすが私の演技は完璧ね!これを機会に女優になろうかしら」
「矢口、大丈夫かなぁ…」

───その頃の矢口はというと。

「うわッ!紗耶香とごっちんもいないじゃんか!よっすぃーと梨華ちゃんの携帯にかけても出ないし!
 なっちは連れて行かれちゃうし!」

市井と後藤の家の前でジタバタしていた。

「オイラも出たいよ〜!」

矢口の切ない叫びは空しく消えて行った。
40 名前:アルマジロ 投稿日:2006/04/22(土) 15:56
本日の更新は以上です。

>24 名無飼育様。
    いえいえ、お気になさらずに。レス貰えるの嬉しいので(^−^
    舞台裏の方は同時進行出来ればいいんですけど…頑張ります!
    川σ_σ||<次は何をしようかしら♪
   (;`_´)<もうお願いだからやめて…。
    大谷さんは柴田さんの企みに振り回されています。

>25 ミッチー様。
    はまりそうですか!どんどんはまっちゃって下さい♪
    秘密が多いですが…その内徐々に明かされていくと思うので(w
    川σ_σ||<何者?そんな言うまでもないわよ♪
   (;`_´)<スタッフの手配も全部私がやりました…。
    
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/22(土) 19:20
どんな展開になるかとてもワクワクして読んでます。
これからも陰から大谷さんの応援してますよ!!!
42 名前:ミッチー 投稿日:2006/04/23(日) 06:11
更新お疲れ様デス。。。
後藤さんの過去にも何かあるんですね・・・。
う〜ん、複雑です。
柴田プロジェクト面白いね〜(w
1人ぼっちの矢口さんが面白い(w
大谷さんは苦労が絶えませんね(w頑張ってください!
43 名前:名無し 投稿日:2006/04/23(日) 18:35
更新乙です。
なんかハロモニ劇場の駄々っ子婦人警官の矢口さんを
思い出しました(w
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/25(火) 00:10
柴田プロジェクトとして舞台裏も同時に更新されてるんですね。
どちらもすごく面白いだけに本編と同時にすぐに舞台裏を見せられると
ちょっとどちらも話に入って行きづらい感じがします。
個人的には本編がキリのいい所まで終わってから柴田Pの方も
読ませて頂いた方がより楽しめるのですが。
えらそーな事を申しましたが、つづきを楽しみに待ってます!
45 名前:アルマジロ 投稿日:2006/04/25(火) 18:44
レスありがとうございます!かなり嬉しいです。

>41 名無飼育さん様。
    (`_´)<応援して下さるなんて…!感激です!
    ワクワクしますか!すごく励みになります〜(嬉泣)
    これからも頑張りますね。

>42 ミッチー様。
    ( ´ Д `)<市井ちゃんのバカ〜!
     ヽ;^∀^ノ<な、何だよぉ!ひでぇ!
    こうゆう所は普段と変わらなかったり(w
    矢口さんはしばらくこんな扱いになる…かも?

>43 名無し様。
    (〜`◇´)<ヤダヤダヤダヤダ!!オイラも出たいよ〜!
    まさにそんな感じですね(w 

>44 名無飼育さん様。
    ご意見ありがとうございます!とても有難いです。
    今、改めて自分の書いた文章を読み返し、確かに
    これじゃぁ、読者の皆様に読みづらいと思いました。
    これを機に読者の皆様が楽しく読めるように改善して行きたいと
    思います。続き頑張ります!

今回、ご意見を頂き改めて自分の作品と向き合いました。
そして読者の皆様に楽しく読んで頂く為に、しばらく考える時間が
欲しいと思いました。なので、待っていて下さってる方には申し訳
ありませんが、次の更新はもう少し後にします。
でも、すぐに更新出来るよう頑張ります!
 
46 名前:RIMU 投稿日:2006/04/27(木) 16:15
今日初めて読みましたが・・・
とてもおもしろいです。
続き、楽しみにお待ちしております。
47 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/29(土) 15:10
翌日の朝。後藤はずっと部屋に閉じこもり出て来なかった。
市井は仕方ない、とため息をつき吉澤をリビングへ連れて来た。
リビングには石川と保田が既にそこにいて、朝食の支度をしていた。
「仲間、紹介するよ。石川はもう知ってるよな。あと、こっちが圭ちゃん」
「保田圭よ。よろしくね」
吉澤は「あ、ハイ」と戸惑いながらも軽く頭を下げた。
「っで、あともう一人いるんだけど…今はまだ無理かな」
吉澤を除いた三人は二階の方を見上げた。後藤が部屋から出てくる気配は全く無かった。
「よし。朝飯にしよ。吉澤、今日から一緒に食べるからな」
「いいんですか…?」
「当然よ!」
バシッと保田が吉澤の背中を叩いた。
「いてぇ!」と吉澤が叫ぶ。
「今日は昨日の夜から作ってた手作りパンと森の木苺の
 ジャムにコーンスープです。たくさん食べて下さいね」
石川がみんなにパンを配る。その時に市井に困った顔で話かけた。
「ごっちんは…」
「あぁ。後で私が部屋に持って行くから。どーせまだ寝てるだろうし」
昨夜のことを今朝早くに市井から聞いていた石川は後藤を気にかけていた。
「あと今日、私と圭ちゃん仕事行くから」
「あ、ハイ。わかりました」
吉澤を新たに加えた朝食。後藤がいないのが少し寂しいように石川には見えた。
でも仕方ないことだ、と思うしかなかった。
「にしても美味いなぁ。このジャムも自分で作ったの?」
市井が木苺のジャムをパンに塗りながら言った。
「はい。森で木苺がたくさん取れるんですよ。あの教会の近くで」
「石川ってこの家の主婦みたいねー」
保田は意地悪く笑ってそう言う。
「主婦って何ですかー。私、まだ結婚してませんよ〜」
プクッと頬を膨らませる石川。 
「まぁまぁ。吉澤、石川の料理どう?」
「すごく美味しいです」
コーンスープを飲みながら吉澤は満足そうに答えた。
48 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/29(土) 15:16
一方、後藤はベットの中でうたうだしていた。眼が覚めたのはいいものの、下に降りる気がしない。
市井と石川には顔を合わせづらいし、吉澤に逢ったらどうすればいいのかわからない―――のだが。


ぐうぅぅぅ。


お腹はすいていた。

「はぁ…下に降りようかな…」
(でも…みんなに逢いたくないし…)
答えが見つからない。だからこうしてベットから出れずにいる。
それから、下から楽しそうな笑い声が聞こえてくるのも下に後藤が行きづらい原因だった。
「あたしは…認めることなんて出来ないよ…もうッ!」
カバッと布団を被って堅く眼を瞑る。しばらく経つと部屋の扉がノックされた。
「後藤、入るぞ」
朝食をトレイに乗せてやって来た市井は扉を開けて中へ入って来た。
「朝飯持って来た」
ピクッと後藤は反応するが起き上がろうとはしない。
(…こいつ、起きてるな)
市井は後藤が起きているとわかっていた。そっとトレイをテーブルの上に置くと床に座った。
「…お前の受け止められない気持ちはよくわかるよ…でもさ、誰かが助けてやんねぇとあいつは死ぬ。
 …おかしいだろ?何の罪も無い奴がさ…死ぬだなんて」
後藤は市井の言葉に自然と涙を流していた。

“何の罪も無い奴がさ…死ぬだなんて”

(わかってるよ…でも…あたしには無理だよ…!)

「…なぁ、後藤。協力して欲しい。私、あいつを何が何でも助けたいんだ」
市井は立ち上がり、もう一度後藤がいるベットに視線を向けた。
「…じゃ、仕事行くから」
何の反応を示さない後藤に落ち込み、部屋を出ていく。
扉が閉まる音と遠ざかっていく足音を聞いてから後藤はゆっくり起き上がった。
「協力、か…」
テーブルの上に置かれた朝食。のろのろとベットから出て、食べ始めた。
49 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/29(土) 15:24
市井と保田は出かける支度をし、玄関にいた。
二人とも、普段のラフな格好ではなくビシッとスーツを着ていた。
「二日は帰れないと思う。留守の間、頼むな」
「ちゃんと戸締まりするのよ。知らない人が来ても出ちゃ駄目よ」
「保田さん。子供じゃないんだから大丈夫ですよ」
「アハハ。圭ちゃん、母親みてー」
「しょーがないでしょ!後藤はあんなだし、吉澤はイマイチ頼りなさそうだし。
 石川も弱々しい感じだし」
確かに、市井と保田がいなくなるとかなり不安なこの家。保田が心配になるのも無理はなかった。
「石川、何かあったら携帯に電話しろよ。些細なことでもな」
「はい」
「あ〜、もう。心配だわ」
「ホント大丈夫ですから。さ、早くしないと!」
市井が保田を引っ張って玄関の扉を開け、家を出ていった。
「ふぅ。さ、お洗濯しなきゃ」
やっと出かけて行った二人を見送り、家事に移る。まずは洗濯をしようと洗濯機がある場所へ向かう。
すると吉澤が困った顔をして現れた。
「あの…うち、何をすれば…」
「何もしなくていいよ?」
「そうゆうわけには…」
よその家に住まわして貰っている身として何かしなければと吉澤は思っていた。
「うーん…あ!ねぇ、物を作るの得意かな?」
パチンと手を合わせて石川は言った。
「物を作る…?」
「ちょっと来て」
今さっき戻って来た方向に向かって歩き出す。その先にあるのは玄関。
「あっ、ひとみちゃんの靴…」
実は吉澤がココへ来た時、靴を履いて無かった。少し考えて、靴の棚から市井の靴を出した。
「これ履いてね」
「いいの…?」
「うん。ごめんね、新しいの無くて」
「十分だよ。ありがとう」
二人は玄関を出ると家の裏へ回った。そこには小さなプレハブがあった。
「これ物置なの」
ガラッと扉を開ける石川。中は埃っぽい空気。
少し咳き込みながら中へ入りある物を持って来た。
「木材…?」
石川が持って来たのは木材。木の板や木の柱だった。
「前にね、誰かにテーブルを作って貰おうと思ってたんだけど…」
木材を地面に置いてパンパンと手を払った。
「庭が広いから、バーベキューでも出来たらいいなって」
「あぁ、それでテーブル」
「どうかな?」
(……出来るかなぁ)
木材を間の前にして吉澤は苦笑いをした。
今まで自分がこうゆう物を作ったことがあるのかないのかイマイチ覚えてなかった。
「無理ならいいの。今度誰かに」
「やる!上手く出来るかわかんないけど…」
自分に与えられた初めての仕事。何とか役に立ちたいと吉澤は思っていた。
50 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/29(土) 15:27
のろのろと朝食を食べ、着替えを済ませて下に降りて来た後藤。
キッチンで皿やコップを洗い、洗面所で洗顔や歯磨きを済ませる。
(みんないない…)
リビングには誰もいなかった。市井と保田は仕事。あとの二人は何処にいるのか。
後藤はとりあえずリビングの大きな窓に歩み寄り、そこから庭を覗いてみた。
「ん…?」
庭では誰かが木材で何かを作っている後姿が見えた。金髪なので石川では無いと後藤は思った。
「あ、ごっちん。おはよう!」
後ろから石川の声が聞こえた。
「梨華ちゃん…おはよ。ねぇ、あれさ…」
と後藤は庭の方を指差す。
「あぁ、ひとみちゃん?今ね、テーブル作って貰ってるの」
洗濯籠を持った石川は後藤の隣に立ち、庭を眺めた。
「ふーん…。あたしに言えばやったのに。出来んの、あいつ」
妙にトゲトゲしい言い方をする後藤。そんな後藤に石川はちょっと悲しそうに笑った。
「ずっと忘れてて、さっき思い出したの、テーブルのこと。それに出来ても出来なくても、
 ひとみちゃんは何かをしてた方が気が紛れるかなって…」
「気が紛れるねぇ…」
冷ややかな眼で後藤は吉澤を見た。視線の先は吉澤の背中ではなく、右手に向けられていた。
石川は昨日のこともあってか、何だか話づらく、どうしていいかわからない状況になってしまった。
「…まぁ、いいけど。あたし釣りに行って来る」
スタスタと歩き出す後藤。石川はかける言葉が見付からず、立ち尽していた。
リビングから後藤がいなくなったと思ったらすぐに戻って来た。
「…昨日はごめん。梨華ちゃんに当たっちゃって。市井ちゃんが何であたしに隠してたのかわかったから」
言い終えるとまたすぐにリビングを出て行った。
(ごっちん…)
石川は後藤が出て行ったリビングの扉をしばらく眺めていた。
51 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/29(土) 15:33
庭で必死に吉澤は木材を相手に格闘し、テーブルを作っていた。
石川が用意してくれたノコギリやトンカチ、釘などを使いながら作っていく。
「ふぅ…」
ノコギリで切るまでやっと終わった。少し休憩しようと庭の地面に腰を下ろす。
眩しい太陽を見上げながら休憩していると玄関から誰かが出て行くのが見えた。
(あれは…)
市井がもう一人仲間がいると言っていたのを思い出す。そして今は逢うのが無理ということも。
「コレのせいかな…」
右手に視線を落とした。包帯を巻かれた右手。市井から借りたシャツの下にある右腕にも巻かれている。
吉澤はそっと左手で右手の包帯を外してみた。

完全にその部分は人間では無かった。

(…何度見ても嫌なモンだな。こんな奴の傍に居たくなんかないよ…)

吉澤は“後藤はこんな自分を気味悪がって避けている”と思っていた。
ため息をつくと、包帯をしっかり巻いて立ち上がった。
「さ、やろう!」
何かを払い退けるように明るい声を出し、再びテーブル作りを始めた。
52 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/04/29(土) 15:40
エンジンを唸らせ、大地を走る車がいた。運転席には市井、助手席には保田が乗っている。   
「ちょっと!もう少しマシな運転出来ないの!?」
地形がデコボコしている為、車はガタガタ揺れ、時折ジャンプする。
しかもスピードが出ているので、更に激しく揺れるのであった。
「出来るかよ!こんな嫌な道、さっさと通り過ぎたいんだよッ!」
「あんたねぇ!こんなんじゃ事故るわよ!?」
「まわりに何もねぇんだから事故わけねぇだろ!」
荒野の大地には何も無い。その上をガタガタと車は走り去って行く。
車に乗っている二人はかれこれ一時間、この状態だった。
家を出て、しばらくは平坦な道なのだが、荒野の道になると最悪だった。
「もうヘリコプターに乗りたい気分だわ…」
「んなモン買う金何処にもないよッと!」
またグワンと車が跳ねる。
「ほーら、見えて来たよ。圭ちゃん」
ニヤリッと笑う市井。うなだれていた保田が顔を上げる。
「何かいつ見ても暗いわね、この都市は」
「全くだ」
車が向かう先には大きな都市が立ちはだかっていた。それに向かって更に車のスピードが加速する。
「ちょっと!まだスピード上げる気!?」
「大丈夫大丈夫!死なないから!」
「やっぱアンタに運転任せるんじゃなかった〜!!」
保田の叫びは荒野の大地に虚しく消えていった。
53 名前:アルマジロ 投稿日:2006/04/29(土) 15:50
本日の更新は以上です。

>46 RIMU様。
    面白いと言って貰えると嬉しいです!
    今日からまた更新するのでよろしくお願いします。
    続き頑張ります。


柴田プロジェクトについて考えました。
考えた結論としては第一章に区切りがついたら出してみようかと。
同時進行ではありませんが、そこで舞台裏をお見せすることになります。
読者の皆様に楽しんで読んで貰えるように頑張りますのでよろしくお願いします。

 
54 名前:翡翠 投稿日:2006/04/29(土) 23:39
更新お疲れ様です♪
よしこに嫌悪感?を抱いているごっちんがいいですねw(ぇ
本当は、仲の良い二人が「演じて」いると思うと更に。
ひとまず、本編楽しませて頂きます☆
55 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/01(月) 15:08
所変わって、森の西側。太陽の光が森の中に差し込んでいた。  
「んぁ…」
後藤は一人、じっと川の水面を見ていた。森の中に流れる川。
見た目はそんなに大きくはないが、深さはかなりある。
水は澄んでいて中がよく見え、そこには魚が気持ち良さそうに泳いでいた。
お手製の釣竿を握り締め、魚がエサにかかるまでじっと待つ。
いつもなら無心になり、釣糸の先にある重りを見つめるのだが今日は吉澤のことばかりが頭の中を支配していた。

(…なりたくてなったわけじゃない)

そう、奴とは違うんだ。
強さに眼がくらみ、自分の欲望を果たし、全てを破壊した奴とは違う。

…本当に?

本当に違う?

信じていいの?

「あっ!」
かかった瞬間に気付くのが遅れ、魚を逃してしまった。
釣糸をたぐり寄せ針を見ると見事にエサは無くなっていた。
「あ〜ぁ…」
肩を落とし、針に新しいエサを付け、再び水面に降ろす。

何か、自分らしくないな。
過去のことになると急に臆病になる。
それ以外のことなら、いつも真正面からぶつかって行くのに。

「不安なんだ…きっと。また裏切られるのが嫌なんだよね…」
ため息をついて、ギュッと釣竿を握り締め直した。眼をキッと水面に向ける。

でも、こんな自分、嫌いだ。

クッと重りが動いた。その瞬間、後藤は一気に釣竿を上げた。
「あはっ。やった!」
綺麗な魚が針に食い付いていた。
56 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/01(月) 15:13
後藤が魚を釣り上げている頃、吉澤はテーブルを完成させていた。
「出来たぁ〜」
組み立てが終わった後、それだけじゃ面白くないと石川にペンキがあるか尋ね、
ちょうどプレハブにあった青色のペンキを使った。
「あ!完成?」
吉澤の様子を見に来た石川が庭にやって来た。青色に塗られた木製のテーブルに眼を輝かせる。
「すごーい!」
石川は手を叩いて誉めると吉澤は照れたように笑った。
「これで庭でバーベキューが出来るよ!ありがとう!」
「ううん。結構楽しかったよ」
「あ、顔にペンキついてる」
「えっ?ホント?」
吉澤の頬に青色のペンキがついていた。
そのペンキを石川がエプロンのポケットからハンカチを出して拭ってみるが、ペンキは取れなかった。
「顔、洗わないと無理だね」
笑いながら石川は言った。   
「ちゃんと落ちるよね?」
笑う石川の反面、吉澤は不安そうな顔をして頬を触っていた。
庭に青色のテーブルを残して、二人は家の中へ入って行く。
テーブルは太陽の光を浴びて、ペンキが乾くのを待っていた。   

「ふぅー、落ちた」
洗面所で顔をバシャバシャ洗う吉澤。頬についたオエンキもすっかり落ちていた。
タオルで顔を拭きながらリビングへ向かう。
「お昼ご飯何にしよっか」
リビングのソファでは石川が本を開きながら呟いていた。その隣に吉澤が座る。
「料理の本?」
「うん。他にもたくさんあるよ」
「梨華ちゃんって料理好きなんだね」
「んー…それしかないから、私が出来ること」
パタンと本を閉じる。
「それしかない…?」
「うん。特に力があるわけじゃない、特別な能力があるわけじゃない、頭がいいわけじゃない…出来ることと言えば、
 料理や洗濯、掃除…誰にでも出来ることよ」
そう言って笑う石川を見て吉澤はその笑顔が悲しそうに見えた。
「…違うよ。誰にでも出来ることじゃないよ」
「えっ…?」
「あんな美味しい料理。梨華ちゃんにしか作れないよ」
必死な顔をして吉澤は言った。
「力や能力なんて無くていいんだよ。梨華ちゃんには梨華ちゃんにしか出来ないことがある」
「…ありがとう」

(…うちなんか…何にも出来ないんだから…)

吉澤は言葉にはせずにココロの中で呟いた。
57 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/01(月) 15:15
「―――では、これで失礼致します。また機会がありましたらよろしくお願い致します」
ニッコリ笑う市井に目の前にいた女性は頬を赤らめた。
「は、ハイ。是非また」
市井の傍にいた保田はやれやれと言った感じで部屋を出て行く。
市井も保田に続いて部屋を出て行った。
「全く、相変わらずね」
「別にいーじゃん。営業スマイルだよ。圭ちゃんも少しは笑ったら?」
「笑って利益が上がるならね」
都市にある小さなビル。ここの会社が今回受けた依頼の一つ。
「次は、夜だな」
「昼間の仕事とはうって変わって夜の仕事は危険よね」
「そっちの方が報酬はいいんだけどねぇ」
エレベーターを使い、下へ向かう。その中で話題に出たのは吉澤のことだった。
「大丈夫かしらね…吉澤」
「大丈夫…かな」
「昨日はハッキリ大丈夫って言ったじゃないの」
「意地悪だな。圭ちゃんは」
エレベーターが一階に着く。
「帰りにさ、なっちのとこ寄って行こ」
エレベーターを降りながら市井が言った。
「いいわよ」
「さぁ、仕事仕事!」
二人はビルを出て、人混みの中に入って行くとすぐに姿が見えなくなった。
58 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/01(月) 15:19
「ただいまー」
後藤は魚が泳いでいるバケツと釣竿を持って家へ帰って来た。
「おかえり。どうだった?」
リビングから出てきた石川に後藤は満足気にバケツの中を見せた。そこには三匹、魚が泳いでいた。
「わぁ、すごいね!」
「今日は市井ちゃんと圭ちゃんいないんでしょ?三匹で良かったよね?」
人数分しか釣らない。それは後藤が決めたルールだった。
自然の恵を考えずにどんどん取って行くことが嫌いなので、そうしていた。
「三匹…」
「駄目だった?」
「う、ううん!今夜はお魚だね」
後藤からバケツを受け取り、石川はしばらくその場で、バケツの中にいる魚を眺めていた。
後藤はそんな石川を不思議に思いながら、リビングに入って行った。

(…そっかぁ、三匹かぁ)

三匹魚がいるということは吉澤のことも考えてるということ。石川はそれが嬉しかった。
「…何か、嬉しいな」
よいしょっとバケツを持ち上げてリビングの向こうにあるキッチンへ向かった。
リビングでは吉澤がソファでくつろいでいたが、いきなり後藤が入って来たので慌ててダラーッとしていた身体をピシッとさせた。
「お、おはようございます…」
縮こまって挨拶をする吉澤。後藤は立ち止まって吉澤を見ていた。
「あの…何か…?」
吉澤は何も言わず黙っている後藤に不安を感じ始める。するといきなり後藤が動いて吉澤の隣に座り、吉澤の顔を覗き込んだ。
(…ど、どうしよ…)
すぐそこに後藤の顔がある。少し動けば触れてしまいそうなぐらい近い。
「…んぁ」
パッと後藤は離れた。
「あたし、後藤真希」
「へっ?…あっ、吉澤ひとみです」
「よしこでいい?」
「ハイ?」
「んじゃ、そうゆうことで。あたしのことはー…ごっちんとかでいいよ」
イマイチ飲み込めてない吉澤は曖昧に頷くしかなかった。

(……市井ちゃん、信じてみるよ)

「よしこ!」
「は、ハイ!」
「ちょっと手伝って」
「え?あ、ハイ…」
二人は庭に出て、後藤の大切な家庭菜園の世話を始めた。
「あれ…?」
昼食の支度をしていた石川は二人がいないことに気付いて窓から庭を覗いた。
信じられないことに後藤が笑って吉澤に接している。ココロの底から嬉しくなる光景だった。
「良かったぁ」
見た感じ、吉澤と後藤は年が近いようだし良い友達になれると石川は思っていた。
「……あ!コンロに火つけっぱなし!」
料理中だと言うことも忘れていた。石川は慌ててキッチンへ戻って行った。
59 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/01(月) 15:23
――――同時刻、ある開発研究施設にて。

飯田はコツコツと施設の中を歩いていた。
施設内は白衣を着た者たちが忙しそう動いている様子が見える。
コツコツ…コツ。
ある部屋の前で立ち止まる。最上階の最も広い部屋。
コンコンとノックし、扉を開けた。開けた途端に中からバッと少女が飛び出して来た。
その少女が飯田に勢いよく抱きついて来た。
「おかえりなさい!飯田さん」
「ただいま。のの」
無邪気な笑顔を飯田に向ける少女―――辻希美。
「いい子にしてた?」
ポンポンと優しく辻の頭に手をやる。
「うん!」
辻を抱き上げ、部屋の中へ入る。部屋は広く、女の子らしい内装になっていた。
キャラクターのぬいぐるみが所狭しと置かれている。奥にあるベットはまるで何処かのお姫様が寝ているようなベットだった。
「何かしてた?」
「ちょっと眠くて、ぼーっとしてたぁ。でも飯田さんが来たらそんな眠気ふっとんじゃったよ!」

(眠気…?)

飯田は眉を潜めた。辻はそんな飯田を見て「どうしたの?」と聞く。
「ううん。何かして遊ぼっか?」
「やったぁ!えーとねぇ、何しようかなぁ」
嬉しそうにはしゃぐ辻の手を何気無く飯田は見た。その瞬間、眼を見張る。

(…あいつ…!)

辻の手の甲には点滴をされたような痕がついていた。確か、昨日は無かったはず。
となると今日、自分がいない間に―――と考え、怒りがこみあげる。
「のの?」
「なーに?」
「…今日、“診察”あったの?」
辻はビクッとし、俯いてしまった。そんな辻を飯田が優しく抱き締める。
「…怖かったよね…ごめんね、傍にいてあげられなくて…」
「大丈夫だよ…全然へっちゃら!」
小さいながらも心配させまいと笑う辻に飯田は一筋、涙を流した。
60 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/01(月) 15:29
本日の更新は以上です。

>54 翡翠様。
    (;^▽^)<ごっちんの眼、ホントに怖かった〜。
    ( ´ Д `)<そーかな?
     ヽ;^∀^ノ<こいつの冷めた眼はマジで怖ぇよ。
    今回から次第に仲良くなった二人ですが…後藤さんの本当の心境は如何に(ぇ
    まずは本編を楽しんで下さいね〜。
61 名前:ミッチー 投稿日:2006/05/01(月) 21:43
更新お疲れ様デス。。。
2人が仲良くなれてよかったです。
後藤さんの過去がすごく気になりますねぇ・・・。
市井さんと保田さんの仕事も気になります。
謎がかなり多いので、先が楽しみです☆
62 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/04(木) 21:24
時は過ぎて夜。ほとんどの店のシャッターが閉まっていく。
太陽が上っている間は賑わいを見せる都市も、夜になると次第に静かになっていく。
しかし夜になっても賑わう場所はある。
「成功報酬、意外と高かったなぁ」
ガヤガヤと賑わう居酒屋に市井と保田がいた。先ほど夜の仕事を済ませ、
成功報酬を受け取った二人は無事に仕事を終えたことを祝して酒を飲んでいた。
「私たちの働きぶりが良かったってことでしょ」
「まぁ、そーかもね」
報酬が多かったことに市井は気分を良くしていつもより多目に飲んでいた。
「お待たせしましたぁ。イカの塩辛と軟骨です」
居酒屋の店員が注文していた品を運んで来た。
「おっ、結構可愛いじゃん。バイトしてんの?」
酒が入って酔ってるのか市井が早速眼をつけた。
「ハイ、バイトです。最近入ったばっかなんですよぉ」
店員は注文の品をテーブルに置いて答えた。          
「へぇ。偉い偉い!働かざる者食うべからず、だもんな。名前何て言うの?」
「ちょっと紗耶香。いい加減しなさい」
店員に絡む市井を見かねて保田が注意する。
「いーじゃん、別に」
「後藤に言いつけるわよ」
後藤という名前を出すと市井は大人しく店員に絡むのを止めた。
「ごめんなさいね。仕事の邪魔して」
「いえ!そんなん構いませんから。ゆっくりしてって下さいね」
店員は笑顔でその場を離れて言った。
(あの子…どっかで聞いたことある声ね)
保田はビールを飲みながら離れていく店員を見ていた。
63 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/04(木) 21:28
「ったく。圭ちゃんうっさい」
「うるさいとは何よ。……もっと警戒心を持って欲しいわね」
「ハイハイ…」
気を取り直して、市井はビールを飲んだ。
そしてテーブルに並べられているおつまみに手を伸ばす。
「…なぁ、圭ちゃん」
枝豆をもぐもぐ食べながら市井が言った。
「何よ。もうお酒の追加はしないわよ。アンタが酔い潰れると大変なん――」
「──あのバイトの子、前に軍にいた子だよね?」

(えっ…?)

保田はハッとして目の前にいる市井を見た。
先ほどの酔ってる市井ではなく、いつもの冷静な眼をしていた。
「…確かに聞いたことある声だったけど…」
「前よりも外見が変わってる。髪は下ろしてるし、喋り方も違う。まぁ…多少訛ってるとはあったけど」   
「いつから気付いてた…?」
「店に入って、あの子を見た瞬間から」

(…じゃ、ワザと酔っ払ったフリしてあの子に声をかけたの?)

保田は黙って市井を見ていた。市井は何事も無かったかのように酒を飲んでいた。

(やっぱり、すごいわ…アンタは)

「さっきは悪かったわ。名前、聞き出そうとしてたんでしょ」
「いや、いいよ。…それに軍と私らはもう関係無いし」
謝る保田に市井は笑って返す。しかしココロの中では悔やんでいた。

(この店に入るべきじゃ無かったな…。なるべく早く、この場所から離れた方が良さそうだ)

「ふぅ…何か、眠くなっちゃった」
市井は最後のビールを飲み干すとテーブルに突っ伏した。
「ちょ、ちょっと、こんなとこで寝ないでよねッ」
保田が市井の頭を軽く叩いた。
「うー…最高に眠ぃ…」
「じゃ、もう宿に戻るわよ」
二人は勘定を済ませ、店を後にし今夜泊まる宿に向かって歩き出した。
64 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/04(木) 21:32
居酒屋の店員は市井たちが出ていくのを見て、ゴミを出すフリをして店の裏口へ出た。
「…あの二人に間違いない…」
着けているエプロンのポケットから写真を二枚取り出した。
そこに写っていたのは紛れもなく、市井と保田だった。しかし現在と違う二人だった。


―――その写真に写っている二人は軍服姿だった。


「あ…もしもし?現れましたよ!ハイ…間違いなく、あの二人です。会話を少ししましたが、
 気付かれてはないようです。ほな、どうしましょう?後を追いますか?」
暗闇の中、店員は携帯を使い話をしていた。
「……そんな、ええんですか?追いかけへんなんて…だってあの二人は……ハイ、わかりました。あ、ののと変わって下さい」
ある人物が電話に出ると、みるみる内に笑顔になる。居酒屋の客に見せるような薄っぺらい笑顔ではなく、ココロの底から見せる笑顔だった。
「元気?…うん、うちは元気や。ごめんな、最近一緒におれなくて。もう少し経ったら逢えるから…うん…何かあったら飯田さんに言うんやで。
 一人で抱え込むやないで」
電話で話してると裏口の扉が開いた。
「加護さん!すぐに戻って下さい!」
「あ、ハイ!…のの、ごめん。仕事戻らんと。また電話するわ」
電話を切ると、店員―――加護亜依はため息をつき、居酒屋の仕事へ戻って行った。
65 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/04(木) 21:37
「二人とも〜夕飯出来たよ〜」
石川は夕飯を食卓のテーブルに並べ終えるとリビングにいる後藤と吉澤を呼んだのだが。
「だぁ!ごっちん、ズリィ!」
「ずるくないよーだ。よしこが下手なんだよ」
二人はあっという間に仲良くなり、ゲームを楽しんでいた。
「ねぇ、夕飯出来たよ〜」
リビングにある普段はあんまりつけないテレビの前に仲良く並んで座る二人の背中に石川は呼びかける。
「うわッ!バナナ置かないでよ!」
「あっは。よしこ引っかかった〜!」

ゴゴゴオォォォ。

二人の後ろでは静かに怒りを燃やし、確実にその怒りを頂点に上げている石川がいた。

(何よ!二人して!大体、あんなに避けていたごっちんは何なのよ、もう!
 気が変わったのかすぐに仲良くしちゃって!先に仲良くなったのは私なのに!)

大半の怒りは後藤に向かっているらしい。

「何か熱くない?」
「そーいえば…」
やっと熱い怒りに気付いた二人。おそるおそる後ろを見て、固まる。
「何か楽しそうね〜二人とも♪」

(ヤバイ…何か梨華ちゃん怒ってる?)
(確実に怒ってるよ…笑顔だけど眼笑ってないよ…よしこ、何とかしてよ)
(何でさ!ここはごっちんが!)

「なぁーに二人でコソコソしてるのかな?私も混ぜてよ〜」
「「ご、ごめんなさい〜!」」
二人は土下座する勢いで謝ったのだった。
66 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/04(木) 21:45
それから吉澤と後藤は慌てて石川の機嫌を直し、仲良く三人で夕飯を食べ、風呂に入る順番をジャンケンで決めていた。
ジャンケンで勝った人から風呂に入れるので、負けた二人は後片付けをすることになる。
「じゃ、お先に〜」
後藤がパー、吉澤と石川がグー。ということで後藤が一番に風呂に入る。
「ゲームでも負けて、ジャンケンでも負けるなんて…!」
よほど悔しいのか、吉澤は肩を落とし落ち込んでいた。
「まぁ、いいじゃない。さ、後片付けしちゃおう」
石川は食卓のテーブルに並んでる皿を片付け始めた。それを見て吉澤も同じく皿を片付ける。
「ねぇ、梨華ちゃん」
「なぁに?」
「市井さんと保田さんって、仕事に行ったんだよね?」
「そうだけど?」
「何の仕事してるの?」
皿などを全部キッチンへ運び、石川はスポンジで洗い始める。
「んー。詳しくはよくわかんないんだけど…“何でも屋”って市井さんが言ってたかな」
「何でも屋?何それ」
「うーん…依頼を受けるんだけど、その内容は何でもいいの。探し人の依頼とかね」
「ふーん…でも中には危険な仕事とかあるんでしょ?」
「うん…たまに、ね」
結構危険なことがあったりするので石川としてはそうゆう依頼は受けないで欲しいと思っていた。

(でも…私がそこまで言える立場じゃないから)

「梨華ちゃん?どうかしたの?」
「えっ?あ、ううん。何でもないよ」
慌ててザァーと水を出し、皿についた泡を流す石川。吉澤は不思議に思い横で首を傾げていた。
後片付けを終え、二人はリビングでソファに座って風呂の順番を待つ。
67 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/04(木) 21:50
「…あ!」
吉澤が何かを思い出し、声を上げた。
「そーいえばお礼まだ言ってなかった」
クイッと隣にいる石川の方を向いた。石川は何のことかわからず、眼をパチパチさせていた。
「何のお礼?」
「助けてくれたお礼。ほら、教会で倒れたうちを助けてくれた」
ぴょこんとソファから降りて、石川の方を向き深くお辞儀をする。
「ありがとう。あの時、梨華ちゃんが助けてくれなかったら…たぶん死んでたよ」
「ひとみちゃん…」
「本当にありがとう」
頭を上げてニカッと笑う吉澤に石川は少し悲しい笑顔を向けた。

(何でひとみちゃんが…こんな酷い目に遭わなきゃいけないの…?)

「梨華ちゃん?」
石川はそっと吉澤の右手に手を伸ばし、触れた。とっさに吉澤は右手を引っ込めた。
「さ、触らない方がいいよ。こんなモノに」
そう言う吉澤に石川は構わず近寄った。すると吉澤は後ろに下がる。
「…梨華ちゃんッ。お願いだから…うちは…汚れてるから…」
「ひとみちゃんの何処が汚れてるの?」
「だって…こんなの…人間じゃないんだよ…。獣みたいな腕と手で…」
吉澤はリビングの壁まで来てしまった。その前に石川が立つ。怯えたような吉澤の眼。

(あなたは人間…純粋なココロを持ってる人間よ)

石川はそう強く思いながら、そっと吉澤の右手に触れた。しっかりと握り、両手で包み込む。
「梨華ちゃん…」
「大丈夫。大丈夫だから」
こんな右手を握ってくれる人がいる。吉澤の眼に涙が見えた。
それは次第に勢いよく流れていった。そんな吉澤を石川は優しく抱き締めた。

一方、リビングの扉の向こうでは。

(入りづらいなぁ…)

既に風呂から上がっている後藤がいた。腕組をして廊下の壁にもたれている。
「汚れてる、か…」
二人の会話は全て聞こえていた。後藤は自分の手に視線を落とす。

(この手の方が汚れてる気がする…)

手を眺めながら自嘲するように笑った。
68 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/04(木) 21:55
本日の更新は以上です。

>61 ミッチー様。
    川σ_σ||<ごっちんの過去はチラッと次回に出てくるかもしれないわ♪
   (`_´)<もうしばらくお待ち下さいね。
    市井さんたちの仕事に関しては今回石川さんがチラッと言ってますが。
    謎多すぎですよね…(−_−; 徐々に明かしていきたいんですが、なかなか…。
    頑張ります!
69 名前:ミッチー 投稿日:2006/05/06(土) 04:26
更新お疲れ様デス。。。
ホントですか!柴田さん!!(w
ついに過去がチラッと・・・。
私は謎が多い方が面白くて好きですね(w
徐々に明かされていく謎を楽しみにしてますね^^
70 名前:名無飼育 投稿日:2006/05/06(土) 14:32
更新お疲れ様です。
梨華ちゃんの優しさが目にしみます…。怒ると恐いけど。w
なぜ4人が一緒に生活する様になったのか、
その辺も気になる所ですね。続き楽しみにしています。
71 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 16:43
夜が明け、朝がやって来た。市井と保田は朝早くに宿を出て、車を走らせていた。
保田の強い希望により、運転は保田だった。
「別に私でも良かったのに」
助手席では運転させてもらえないことに不満を抱いている市井が文句をブツブツ言っていた。
「まだ命、惜しいから」
そんな市井に保田はサラッと言った。車は無茶なスピードを出すことなく、安全運転で走っている。
まだ朝早いこともあってか、この巨大な都市は静かだった。
「なっちのとこ、寄るのよね?」
「うん」
「…吉澤のこと?」
「おっ、さすが圭ちゃん。鋭いね」
巨大な都市の道を出ると昨日来た道を戻り、また荒野を通過していく。
ガタガタガタと車体は揺れるが昨日よりは大分マシだった。


そして、こちらにも朝がやって来ていた。神妙な面持ちで吉澤はある部屋の前に立っていた。
石川は朝食の支度で忙しい。いつも後藤を起こす市井はいない。っで、後藤を起こす担当は吉澤になる。
『ごっちん、寝起き悪いの。頑張ってね』
と石川に有無を言わせないような笑顔で言われたらやるしかない。

(寝起き悪いって…どんぐらい悪いんだろ)

そう思いつつ、扉をノックしてみる。が、返答無し。
「ごっちーん…?」
おそるおそる扉を開ける。中は暗い。ということはまだ寝ている証拠。
「ごっちん〜。朝だよー」
あまり刺激を与えないように、優しく起こしてみる。
吉澤は市井ではないので荒っぽい起こし方は出来ないのだった。
ユサユサとベットにくるまって寝ている後藤の肩を揺さぶるが全く駄目だった。

(困ったなぁ…)

全く起きない後藤をどうやって起こせばいいのか。カーテンを開けて部屋を明るくさせれば、
その光の眩しさに眼を覚ますんじゃないかと吉澤は考えた。そしてカーテンを勢いよく開けた。
眩しい太陽の光が部屋に差し込む。

(さぁ、どーだッ!)

「んぁ…」
ピクッと後藤の身体が動いた、と思ったら寝返りをして再び眠りの世界へ。
72 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 16:46
(駄目かぁ…何かないかな、一瞬でごっちんを起こす方法…ん?あれは…)

ふと後藤の部屋に置いてある机の上にある物に眼がついた。吉澤はそれを手に取り、後藤を見た。

(いくらなんでも、コレなら起きるよね)

ニヤッと笑い、後藤に近付く。何も知らない後藤はぐっすり眠っていた。
吉澤が持っている物は―――後藤が家の中の観葉植物に使う霧吹きだった。

「今日の朝ごはんはオムレツ〜♪」
下のキッチンでは石川は朝食であるオムレツを作っていた。
「愛情がたくさんこもったオムレツ〜♪」
自ら作詞作曲したオムレツの歌を歌いながら完成したオムレツを皿にのっける。
「ハイ、出来上がり〜♪…ん?」

ドドドドドド!

(どうしたんだろ…?)

階段を慌ただしく降りてくる足音。先ほど、後藤を起こしに行った吉澤に何かあったのだろうか。
石川は不思議に思いながら階段の方へ向かった。すると泣きそうな吉澤とぶつかりそうになる。
「り、梨華ちゃん!助けて!」
「ど、どうしたの?」
石川の後ろに隠れる吉澤。

トントントン…。

静かに階段を降りてくる足音が聞こえた。吉澤の頬に嫌な汗が流れた。
「あ、梨華ちゃん。おはよう」
階段を降りて来たのは当然、後藤だった。
「おはよう…あっ」
石川は後藤の異変に気付いた。なんと、後藤の顔と前髪が水のようなモノで濡れていたのだ。
「よしこ…隠れてないで出ておいで?」
霧吹きを片手に笑顔で後藤は言った。
「ヒィッ!」
その恐怖の笑顔に吉澤は固まる。

(なるほど…ひとみちゃんはごっちんにあの霧吹きで水をかけて起こしたのね)

二人の間に挟まれ、石川は納得していた。
「ご、ごめん…!だって、ごっちんなかなか起きないし…どうしたらいいかわかんなくて…」
「っで、たまたま机の上に置いてあった霧吹きで起こそうというお考えに?」
「だからごめんって〜!」
「よしこのバカー!仕返ししてやる〜!」
後藤は吉澤を追いかける。追いかけられる吉澤は逃げる。
家の中をドタドタと騒がしく走る二人に石川は笑った。
「ふふっ」
早く市井と保田にこの光景を見せてあげたいと思う石川だった。
73 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 16:49
やがて吉澤は自分が後藤にしたことの仕返しをされ、やっと騒ぎは収まった。
「そんな怒んなくてもいいじゃん…」
食卓のテーブルにつき、吉澤は石川に渡されたタオルで顔をゴシゴシと拭いていた。
隣の席で後藤も同じ動作をしている。
「怒るに決まってんじゃん。全く、霧吹きで起こすなんて。バカ」
「バカ?…大体、自分で起きれないのが問題なんだよっ。うちはちゃーんと朝、一人で起きてるもんね」
「だから何?一人で起きるのがそんなに偉いわけ?」
「何だとぉ!」
ガタッと吉澤が椅子から立ち上がる。
「もう、二人とも止めなさい!」
見かねた石川がそう言うと、吉澤はしゅんとなって再び椅子に座った。
「ほら、早く食べないと冷めちゃうよ」
「「…いただきまーす」」
静かな食事が始まった。石川は味噌汁に口をつけながら、そっと目の前にいる二人を見た。
吉澤は何だかムッとした顔してオムレツを頬張り、後藤は涼しげな顔してサラダのトマトを食べていた。

(喧嘩するほど仲がいいんだよね…?)

石川がそう思ったように朝食が終わって、後片付けを済ませた後に気付いたら
二人は喧嘩をしていたことなんて忘れさせるほど、何が面白いのかゲラゲラと笑い合っていた。
74 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 16:53
―――とまぁ、そんな朝の時間の後。石川の提案で家の戸締まりをして三人は森へ散歩しに行った。
目的地は石川のお気に入りの場所である、あの教会。

(…あんなに暗い闇だったのに、太陽があるとこんなに明るいんだもんなぁ)

太陽の光が森へ差し込み明るい。そんな中を歩きながら吉澤は自分が初めてこの森へ来た時のことを思い出していた。
深い夜の暗闇の森はまさに恐怖だった。思い出すだけで背筋に寒気が走る。

(明るい内はいいけど、夜の森は絶対歩けないよ…)

もう二度と暗闇の中を彷徨いたくはないと吉澤は強く思った。
「あ、何か実が生ってるよ」
石川は木の上の方を指差した。木には赤い丸いような実が生っていた。
「んぁ…でもちょっと高いね」
見上げながら後藤が呟く。すると吉澤が腕捲りをして木にしがみつき、登り始めた。
「ちょっと!ひとみちゃん、危ないよ!」
「大丈夫大丈夫!」
結構大きな木をひょいひょいと登って行く吉澤。すぐに実が生っている場所まで辿り着いた。
「りんご…こんなとこに生るもんなんだ」
りんごを三つ取って下を見る。
「ごっちん!受け取れ!」
下にいる後藤に向かってりんごを一つ投げた。
「は?えっ?マジッ?」
りんごは後藤一直線で落ちてくる。そして無事に後藤はりんごを受け取った。
「すごーい。ごっちん、ちゃんと取った!」
パチパチと拍手をする石川。後藤はポカンとりんごを見つめていた。

(あたしが取れたのは、このりんごが一直線に落ちて来たから…あたしは少しもその場を動いてない…)

ハッと後藤は顔を上げ、吉澤を見た。

(偶然…?それとも…)

「ごっちーん!次行くよ〜」
二つ目のりんごを吉澤は投げようとしていた。

(右手…)

吉澤がりんごを投げる手は右手だった。
75 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 17:03
りんごを三つ後藤に投げ下ろした後、吉澤はひょいひょいと木を降りた。
「教会まであとどんくらい?」
満足気な笑顔で吉澤は石川に聞いた。
「もうすぐそこだよ。ね、ごっちん?」
石川に声をかけられるが、後藤は何やら考え込んでいた。

(…影響されてきてる?)

「ごっちん?」
「えっ?あぁ、ごめん…ぼーっとしてた」
「さ、行こ!教会はもうすぐそこだ!」
吉澤は後藤が持ってた三つのりんごを一つ取って、それを齧りながら歩き出した。
「もう、ひとみちゃん。ちゃんと洗わなきゃ駄目よ」
吉澤の後を石川が追いかける。後藤が一人、そこに残った。

(…ううん。信じるって決めたんだ)

「ごっちーん!置いてくよ〜!」
少し離れた先で吉澤がぶんぶん手を振って呼んでいた。
「待ってよ!」
後藤は笑って二人の元へ走り出した。
76 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 17:06
保田と市井が乗っている車はある小さな村に入って行った。
この村は決して豊かには見えないが、ココに住む人々は楽しい暮らしを送っている。
ほとんどの人が田畑を持ち、家畜を育てるなどして生活をしている。
「都市とは真逆の暮らしだよなー」
窓の外を眺めながら市井は呟いた。
「私たちも似たような生活でしょ?」
ゆっくりとしたスピードで車を走らながら保田が言うと市井は「まぁね」と答えた。

(後藤好きそうだよなぁ。こうゆう雰囲気の村)

車は村の重要な役割を果たしている診療所へ向かっていた。診療所の前に着き、二人は車から降りる。


〔安倍診療所〕


そう書かれた木の板の看板。

「何度見ても古い診療所だよな」
「そりゃそうよ。なっちの故郷の里に生まれた祖先の人たちから代々受け継がれた診療所なんだから」
二人が話をしていると診療所の扉が開き、男性の老人一人が出て来た。             
「おじいちゃん、無理して畑に出ちゃ駄目だからね?」
後ろから安倍も一緒に出て来た。
「わかっとるよ。でも先生のおかげでだいぶ足が良くなったのぅ」
「だからって、また足が痛くなったら困るんだからね!」
「全く先生は心配症じゃの」
「気を付けて帰ってね」
安倍は老人を見送り、やっと市井たちの存在に気付いた。
「紗耶香に圭ちゃん!いらっしゃい!」
「相変わらずじゃん、安倍センセ?」
意地悪く笑って市井は安倍に近付いた。
「先生だなんてやめてよねー照れるんだから」         
「紗耶香、からかうのやめな。さっさと用件済まして帰るわよ。安倍“先生”の仕事邪魔しちゃ悪いわ」
「ちょっと、圭ちゃんまで!」
「あら、私はからかってないわよ?」
「もう!」
「アハハ!さっすが圭ちゃん!」
安倍は頬を膨らませ、さっさと診療所に入って行ってしまった。
市井と保田は顔を見合わせて笑い、安倍の後を追いかけた。
77 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 17:09
診療所の中に入るとすぐに待合室があり、そこに受け付けもある。奥に診察室と手術室がある。
病室は奥の通路を渡り、診療所とは別の建物が病室になっている。
ちなみに安倍が暮らす家は診療所の隣に建っている家である。
「悪ぃ悪ぃ。ついついからかっちゃって」    
「ホントに悪かったわ」
「…もう、次やったら絶交だかんね」
やっと安倍の機嫌が戻ったとこで市井は早速本題へ入った。それはもちろん吉澤のこと。
「待って。私の家で話そ」
「えっ。でも仕事は…?」
「看護士さんに患者さんが来たら電話してって頼んであるから。それに今日は少ないんだ、患者さん」
そして三人は診療所を出た。すぐ隣にある家は一分もかからなかった。
玄関に入ると靴箱の上に綺麗な花が花瓶に入って飾られていて、明るい雰囲気を作っていた。
「綺麗な花だね」
靴を脱ぎながら市井が言った。
「近所の人に貰ったの。たくさん貰って家のいたるとこに飾ってるんだけど…あ、欲しかったらあげるよ?」
安倍はそう言いながら市井と保田のスリッパを出した。
「おっ、いいねぇ」
「石川、花好きだからきっと喜ぶわ」
三人はスリッパを履いて、ペタペタと廊下を歩き客間にやって来た。
安倍の家は和風な作りをしていて、床は畳だった。
ここも診療所と同じく代々受け継がれて来た家だった。
「今、お茶の準備するから待っててね」
安倍は茶を出す為に一旦客間を出て行った。
保田はきちんと客間に敷かれているさぶとんに座るが、市井はごろんと畳の上に寝転がった。
「紗耶香、アンタは…なっちの家でもね、ちゃんとしなさいよ」
畳に寝転がる市井に保田は呆れていた。
78 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 17:12
「だって畳好きなんだからしょーがねぇじゃん。うちには無いし」
「だったら畳の部屋、新しく作ればいいじゃない。この村の畳職人に頼んで」
「そんな余分な金無いし…これからの活動資金はもっと金が必要だし」
「…活動資金ね。…いずれはあの家から離れることになるわね…」

(そうなったらもう後戻りは出来なくなる…)

保田は急に黙り込んで視線を木で出来ているテーブルに落とした。
それを見て市井は起き上がった。
「…一時的に離れるだけだよ、圭ちゃん」
「それでも、もしあの家が軍や政府に見付かってしまったら…二度と帰れないわ」
「…わかんねぇけど、大丈夫だよ。あの森が傍にあるんだから」
ケロッと笑って言う市井に保田も小さく笑った。その時、客間に安倍が戻って来た。
「おまたせ〜」
慣れた手付きで茶の入った湯のみをテーブルに置いた。それから饅頭が乗った皿も置く。 
「このお茶はこの村の村長から頂いた物で、あとこのお饅頭すっごい美味しいの!これはね、
 お隣さんの佐々木さんの奥さんが作ったの」
生き生きと話す安倍に自然と市井と保田は明るくなった。早速、茶と饅頭を食べる。
「美味い!マジで美味い!」
「ホントに美味しい。この渋めのお茶と甘いお饅頭がよく合うわ」
何をしにやって来たのか、目的を忘れ二人は饅頭を食べていた。
「お花と一緒にお土産にする?まだあるから」
「マジで?ありがとー」
「今度は後藤が喜ぶわね」
それからしばらく雑談をしたとこでやっと今日来た目的の話を市井が切り出した。
すると客間の空気が少しだけ重くなった。
79 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 17:14
「吉澤のことなんだけどさ、なっちの方はどう?」
「うーん。いろいろと調べてはいるんだけど…情報が少なすぎて、これといったデータもないし…」
「だよなぁ」
「難しいわね…それに、私たちは実際、遭遇してしまった…吉澤に」
保田の言葉に残りの二人は何とも言えないといった顔をして黙った。
「今までは良かったわ。直にサンプルにされた人間に遭遇してなかったし、その人体実験も確証はしてなかった。
 だから研究も調査も焦ることなく進めていた―――」
「だけど、吉澤が私らの前に現れた」
保田に続いて市井が口を開く。
「吉澤に遭遇することによって、人体実験に確証が持てた。論より証拠。アレを自分の眼で見てしまったら、もう疑う余地は無い。そして―――」
「時間が制限されてしまった。もう残された時間は少ない…か」
最後の安倍の言葉に保田と市井はため息をついた。
「実際に時間がどれくらいあるのかはわからないけど、そう長くはないよね」
「あぁ。吉澤がいつまで持つか…とにかく、もう動き出さないと」
ズズッと市井は茶を飲む。もうすっかり茶は冷めていた。
「…にしても、恐ろしいわね。最初見た時は眼を疑ったわ」
保田は吉澤の右手を思い出しながら呟いた。
「私も。まるで呪いでもかけられたような」
両手で湯のみを包み、思いつめたような顔をして安倍が言った。
「呪い、か…嫌な呪いだな」

(呪いを解く方法を見付け出さないといけない。…あの家から離れる時は近いな)

「紗耶香?」
「…情報が必要だ。それは私らが何とかするからなっちはその私らが掴んだ情報で研究を進めて」
「う、うん。でもどうやって…」
安倍がまだ喋っている間に市井は立ち上がった。
「大丈夫。何とかやるさ。お茶と饅頭、ごちそーさま。圭ちゃん、帰るよ」
「あ、うん。なっち、ご馳走さま」
客間から市井が出て、市井の後を追って慌てて保田が出て行く。
それをポカンと安倍は見て、すぐにハッとした。
「…あ!お花とお饅頭!ちょっと待って!二人とも!」
お土産を渡すのをすっかり忘れていた安倍は慌てて二人を追いかけた。
80 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 17:19
───森から少し離れた北側にある研究所にて。

「グォォォ!!」
分厚いガラスで出来た大きなビーカーの中で苦しそうに獣が唸り声を上げていた。
その様子を白衣を着た人間たちが眺めている。
「やはり副作用が予測してた以上に強いですね」 
研究員の男が手元にあるファイルに視線をやりながら言った。
「副作用が強い…」
その研究員の隣に立つ一人の少女が呟いた。
眼鏡をし、その奥にある眼はビーカーの中で苦しんでいる獣に真っ直ぐ向けられていた。
「…どうかしましたか?博士」
研究員が聞くが少女は黙って考えていた。
「肉体的には問題は無いはず…なら精神の問題…心の支配…」
ブツブツ呟き、ため息をついた。そして隣にいる研究員の方を向いた。
「副作用について調べて来ます」
「わかりました。あのサンプルはどうしますか?」
「貴重なデータなので地下の方に移動させて下さい」
少女はビーカーに背を向け歩き出した。その表情は硬い。
実験室から出て、エレベーターを使い、ここでの最高地位につく人間に与えられた部屋にやって来た。
81 名前:第一章 闇と光の森 投稿日:2006/05/07(日) 17:21
(強い精神…強いココロの持ち主なら上手くいくかもしれない)

デスクの上に置かれたコンピューターの電源を入れる。デスクの上は書類やファイルが乱雑していた。
その中にある人物の写真が貼ってある書類が一枚あった。

〔名前:吉澤ひとみ 性別:女 年齢:18 血液型:O 詳細:実験サンプルとして使用。
 実験報告――部分的(右手右腕)獣化、失敗作。処分検討。実験一週間後、爆弾研究開発チームの一員のミスにより、逃走した模様。未だ行方不明。
 現在、総務調査員による捜索が行われている〕

〔後の会議により、見付け次第処分が決定〕


その写真は紛れも無く吉澤だった。




第二章へ続く。
82 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/07(日) 17:31
本日の更新は以上です。

>69 ミッチー様。
    (;`_´)<すいません。ちょっと、後藤さんの過去は今回は出せなくなってしまいました。
           楽しみに待っていて下さったのに、すいません。
     本来ならば、入る予定だったんですけど…(−_−;
     第二章では必ず出て来ますので、もうしばらくお待ち下さい。

>70 名無飼育様。
    確かに何故4人が一緒に生活してるのか謎ですよね(^−^;
    その謎も第二章くらいには明かされると思います。
    続き頑張ります。

第一章が終わりました。
区切りがついたということで第二章が始まる前に例のプロジェクトを…。

川σ_σ||<久々の出番ね♪
83 名前:ミッチー 投稿日:2006/05/08(月) 03:48
更新お疲れ様デス。。。
第一章終わりましたか。う〜ん、面白い^^
過去の話楽しみにしてますね☆
ついにあのお方の出番ですか(w
こっちも楽しみですね(w
84 名前:名無飼育 投稿日:2006/05/13(土) 00:32
次はついに柴田プロジェクトですか!!
マサオさんの健闘を祈る。w
85 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/13(土) 22:22


 【柴田プロジェクト】


86 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/13(土) 22:32
柴田プロジェクトとは───。

『ココロの歌』のメンバーが『この星の大地に咲く華−残された道標−』 のそれぞれの役を演じているという柴田が提案した計画である。

本編の舞台裏を章の区切りがついたとこでお見せする物語。

川σ_σ||<久々の出番よ!本編じゃ出れない分、頑張るわよ♪
(;`_´)<えっと…読者のみなさん、こちらもよろしくお願いします。
87 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/13(土) 22:34
安倍の診療所がある村の撮影で第一章がもうじき終わろうとしていた。             
「―――カット!オッケ〜!お疲れさま〜」
柴田のOKが入り、出演者たちは本番での真剣な顔から疲れた顔になっていた。
そんな出演者たちに柴田は笑顔で「良かったよ〜」と声をかける。
「っつーかさ、もっと短く出来ねぇの?物語」
市井がダルそうに着ていたスーツの上着を脱いだ。
「出来ない」
市井の質問に柴田はピシャリと答える。
「即答かよ…」
柴田と市井の近くでは大谷が忙しそうに動き回っていた。
「お疲れさまでしたー!エキストラのみなさんはあちらに飲み物を用意してあるので、
 ご自由に飲んで下さい!」
大きな声で言う大谷。そしてまたどっかに走って行った。誰よりも忙しい人だった。
その様子を近くにいた柴田と市井が見ていた。
「何か、誰よりも苦労してんだな。大谷は」
大谷に同情しながら市井が呟く。その反面、柴田はケロッとしていた。
「当然。マサオなんだから」
そんな柴田に市井はますます大谷が可哀想に見え、大きくため息をついた。
88 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/13(土) 22:39
村にある休憩用のテントでは安倍と保田がパイプ椅子に座っていた。
二人に会話は無く、どうやらかなり疲れているようだった。
「大丈夫?二人とも」
そんな二人にアヤカが冷たい茶が入った紙コップを渡した。
「ありがとう、アヤカさん…」
「もう喋る元気も無いわ…」
この撮影が始まって、撮影現場と大学、仕事を往復する日々が続いていた。
その上、台本覚えたりするわけなので疲れて当然だった。
「あ、いいなぁ。お茶欲しい」
テントに市井もやって来た。他の二人が茶を飲んでいるのを見て自分も欲しくなったらしい。
すぐにアヤカが紙コップに茶を入れて市井に渡した。
「にしても疲れたー。早く帰って後藤が作った味噌汁飲みたい」
「いいわね。作ってくれる人がいて。私なんか帰ったらまた仕事よ」
「私も大学行かなきゃ」
それぞれ思い思いのことを口にする。すると市井の携帯が鳴った。
「おっ、電話だ」
着信は後藤によるモノだった。市井より一足先に第一章の撮影を終えた後藤が市井を気遣って電話してくれたのだと
市井は勝手に思い込んでいた。顔を緩ませながら、すぐに電話に出た。
『あ、市井さん?撮影終わりました?』
「よ…吉澤?」
電話の相手は後藤ではなく吉澤だった。
「何でお前が後藤の携帯から電話してくるんだよッ」
『えーと、話せば長くなるんですけど。そろそろ終わったかなーと思って電話しようって話になりまして、
 そしたらうちの携帯の電源が切れてて、ごっちんのを借りたんです』
「長くねぇじゃん…ってか後藤は?」
『買い物に行ってますよ。今夜は豪華に焼肉ッスよ!早く帰って来て下さいねー!みんな待ってますから!じゃ!』
「お、おい!ちょっと待てよッ……切りやがった…」
携帯から虚しくツーツーという音が聞こえた。
(…みんなって言ってたよな…まさか今夜はみんなで焼肉パーティ?)
疲れてるから静かに過ごしたかったのに、と市井は吉澤に勝手に切られた携帯電話を握り締め落ち込んでいた。
89 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/13(土) 22:45
「どうかしたの?」
後ろから安倍の声。肩を落としたまま市井はそっちへ向いた。
「今夜は我が家で焼肉パーティだとよ。ハハッ…」
「あら、いいわね。でも紗耶香は嫌みたいね」
「あったり前だろー…」
「ごっちんとイチャつけないもんね」
安倍の言葉にもはや言い返す気力も市井には無かった。まさにその通りだったから。
「考えてみると、今までの物語の中でイチャつきがあったのって、吉澤と石川だけじゃない?」
シリアスなシーンではあったが、保田が言うように吉澤と石川の抱き合うシーンはあった。
「何か、不公平だよな。後藤とのシーン、暗いんだよ。もっと明るいのがやりてぇよ」
ため息をつきながら市井はふてくされていた。
「まぁ、どんな話になるかは柴ちゃん次第だしね」
と頷きながら安倍が言った。


―――そして一方、一足先に第一章を終えた出演者たちは市井・後藤宅にて、くつろいでいた。
「あ〜…コレすっげぇイイ感じ」
最近、撮影と仕事の両立というおかげで市井は疲れを癒す為、マッサージ機を買ってリビングに置いていた。
それに吉澤が使っている。ちなみに日々忙しいので市井はまだ一度も使っていなかった。
「ひとみちゃん。それ、市井さんのでしょ?怒られちゃうよ」
傍にいた石川が後藤からまだ市井は一度も使っていないということを聞いたので気にかけていた。
「いや〜…こんな良いモノを使わずに放置するなんてさぁ…もったいないじゃん」
「もう、知らないよ?」
家の中は吉澤と石川しかいなかった。後藤は吉澤が電話で話したように買い物に出かけていなかった。
今夜は焼肉パーティ。とりあえず仲間には吉澤が連絡したが、いろいろと忙しいらしく現時点で決まっているのは
吉澤、石川、後藤、市井だった。後は保田と安倍が来るかどうかだった。
90 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/13(土) 22:49
「ふぅ。なかなか良かった」
マッサージが終了し、吉澤はマッサージ機から立ち上がった。そして自分の次にやってみたら、と石川に勧めてみる。
「私はいいよぉ。やっぱり、市井さんに悪いし」
「梨華ちゃんは優しいねぇ」
石川の優しさに小さく感動した吉澤は石川の腕を掴み抱き寄せた。
「そーいえば、こうゆうシーンあったね」
「あったね。何か照れちゃった」
「あーゆうシーンたくさん入れてくれるといいのになぁ」
「もう、ひとみちゃんったら」
二人は抱き合って互いの温もりを感じていた。そしてどちらからともなくキスをする。
(あー…自分家だったらなぁ、キスだけじゃなくて…)    
キスをした後、吉澤はそう思いながら石川を抱き締めていた。


「えーと、肉と玉ねぎ、長ネギ、ピーマン…あ、焼肉のタレもだ」
家の近くのスーパーで今夜の焼肉パーティに必要な材料をカゴに入れていく後藤がいた。
一人で何やらブツブツ呟きながらカゴを乗せているカートを押す。
第一章が終わり、その記念に豪華な夕飯にしようと思ったが、撮影が終わって疲れているので凝った料理は出来ない。
ならば焼肉にしようと思いついた。撮影現場から帰る車の中で考えていて、焼肉にするなら大勢の方がいいと思い、
吉澤と石川に焼肉を食べに来ないかと話した。
「あとは…飲み物かな」
今頃、家にいる吉澤と石川がイチャついてるということも知らずに後藤はせっせと買い物を済ませていた。
ちなみに後藤の頭の中は焼肉でいっぱいで残念ながら市井のことなど少しも無かった。
91 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/13(土) 22:51
撮影を終えた市井たちは大谷が運転する車に乗り込んでいた。もちろん助手席には柴田が座っている。
「焼肉?いいわねー♪」
保田から焼肉パーティの話を聞いた柴田が目を輝かせた。市井はまだふてくされて、ムッとした顔をしていた。
「でも残念。行きたいのは山々なんだけど、第二章の台本準備しないと」
本気で残念がる柴田。
「じゃ、私は行こうかな」
運転をしながら大谷が言う。そんな大谷を隣から柴田がキッと睨んだ。
「マサオも行けないのよ」
「何でさ。台本作りはあゆみ一人の仕事じゃん」
「…あっそ。じゃぁ、いいわよ。行けば?その代わりマサオを呪ってやるから」
大谷は頭の中で柴田が自分に呪いをかける為に藁人形を作っている姿を想像した。
(有り得そうで怖い…)
他の人が言えば「呪いなんて」って思えるが柴田だとそんなこと思えない。
「わかったよ…行かないよ」
「あら、行ってもいいのに♪」
車の後ろに乗っていた三人は前方の二人のやり取りを見て、改めて大谷は苦労人だと思った。


車は市井・後藤宅であるマンションの前にやって来た。そこで市井だけが降りる。
「第二章の撮影日時はまた後日連絡します」
運転席の窓を下ろして大谷は市井に言った。大谷の向こうにいる柴田はヒラヒラと笑顔で市井に手を振っていた。
「わかった。じゃ、また」
車は再び走り出し、次の目的地である安倍の家、その後は保田を東京へ送る。
「さて、と」
車が小さくなるのを見届け、市井はマンションの中へ入って行く。
空はもう夕暮れ時になろうとしていた。
92 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/13(土) 22:59
本日の更新は以上です。

>83 ミッチー様。
    川σ_σ||<久しぶりね♪楽しみにしててくれたの?嬉しいわ♪
    久々に出てきました、柴田さん。本編じゃ全く存在が無いですよね(^−^;
    監督だけじゃ満足出来ず、出演しちゃったり…なんて(w

>84 名無飼育様。
    (;`_´)<あ、どうも、大谷です。みなさんの期待に応えられるよう頑張ります!
    柴田さんの隣にはいろんな意味で大谷さんがいる(w

次回も柴田プロジェクトでお送りします。
93 名前:名無飼育 投稿日:2006/05/15(月) 20:57
うぅっ、マサオさんが不憫や…。w
94 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/17(水) 21:38
家では、買い物から帰って来た後藤が焼肉の準備を始めていた。
もちろん石川と吉澤も準備の手伝いをする。
「梨華ちゃん、玉ねぎ切ってくれる?」
「うん、いいよ」
後藤と石川がキッチンでテキパキと動く中、近くで吉澤はウロウロしていた。
「ねー、うちは?何か無いの?何でもしますぜ?」
自分だけ仕事が無いのが嫌なのか吉澤はアピールする。
「あー…よしこはいいや」
そんな吉澤に後藤は適当にあしらう。ガーンといった表情になる吉澤。
「そんなぁ…何かやりたい!何かやりたい!」
子供みたいに駄々をこねる吉澤を後藤は無視し、石川は苦笑いしていた。
その時丁度ピンポーンとインターホンが鳴る。その瞬間、暗い顔の吉澤に笑顔が。
「あ、帰って来た!」
仕事を見つけた吉澤がすぐさま玄関に駆け付けた。勢いよく玄関の扉を開く。
「おかえりなさい!」
「…えらく元気だな、お前は」
元気のいい吉澤に市井は笑った。
「市井さんをお迎えするのが今の仕事なもんで」
「何だよ、それ」
「完全邪魔者扱いなんですよ…」
「あぁ…なるほどね」
「納得しないで下さいよ。あ、他のみなさんは?」
「圭ちゃんは仕事、なっちは大学。柴田と大谷は撮影の台本作製に励むそうだ」
「んじゃ、四人だけかぁ」
(私は二人が良かったんだけどな)

他の人が来ないのを残念がる吉澤を見て市井はそう思っていた。
リビングのテーブルの上ではホットプレートで肉や野菜が焼かれ始めている。
「何かこうして夕飯食べるの久々だね」
後藤が肉をひっくり返しながら言った。
「うん。最近なんて撮影の現場で食べたりしてたし」
ぶんぶんと首を縦に振って、吉澤が言う。
「大きな鍋で何十人分もの豚汁を大谷が作ってたよな」
市井がそう言うと他の三人が「あ〜」と声を漏らした。
「あれは美味しかった〜。夜は冷えるから温まるし」
「ごっちん、何回もおかわりしてたよね。私、びっくりしたもん」
「だって美味しかったんだもん」
95 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/17(水) 21:47
ホットプレートで焼いた肉や野菜はみるみる内に四人の胃袋に消えて行った。
ビールやチューハイを飲みながら話すことは専ら撮影のことばかり。
「にしてもあのお弁当が無くなったのには驚かされたよね」
後藤がふにゃっと笑いながら、撮影の合間に起きた小さな事件のことを口にする。
「あぁ、アレか」
市井が思い出し笑いをすると吉澤と石川も笑った。
「確か、アレは安倍さんが撮影に合流した後ッスよね」
笑いを堪えながら吉澤が言った。

とある小さな事件は安倍が撮影に合流した後に起きた。
負傷した吉澤を市井が家に運び、駆け付けた安倍が吉澤の傷を治療するという撮影の日。
リハーサルも順調に進み、本番も無事に柴田のOKが出た。
丁度昼を過ぎた頃だったので昼食を取ることになって、用意されていた弁当が出演者に配られる。
「あれ?」
大谷が弁当の数を確認すると何かがおかしいことに気付いた。今日の撮影の出演者は六人。
だから六つ弁当があるはずなのだが…。
「五つしか、無い…」
何度数えても同じ。弁当は五つしか無い。しかしちゃんと手配したはずだと大谷は思っていた。
弁当は他にもあるけど、それはスタッフたちの分だ。
「おかしいなぁ…弁当屋さんから受け取った時はちゃんと六人分あったのに…」
「どうしたんですか?」
悩んでる大谷の後ろにアヤカがやって来た。
「あ、アヤカさん…実は弁当が一つ足りなくて」
それを聞いたアヤカは少し驚いて、弁当を見た。
「確かに一つ足りないわね…」
「…何ででしょう…?」
二人が難しい顔して「うーん」と唸る。そしてアヤカがゆっくり口を開いた。
「誰かが食べた…」
「ま、まさか〜。一体誰が食べたんですか?今日はずっと撮影だったし、休憩だってまともに取らなかったし」
大谷の言うことは正しかった。今日は朝からずっと撮影をしていて、休憩も数分。弁当を食べている暇は全くと言っていいほど無かった。
「じゃぁ、何で…?」
「…ですよね」

二人が悩んでる頃、出演者は各自休憩をしていた。
「腹減った…弁当まだ?」
木陰に用意された椅子に座って市井が言った。
「んぁ…お腹すいた…」
隣の椅子では後藤がうなだれている。吉澤や石川、保田、安倍も空腹であまり喋る元気も無かった。
近くではスタッフたちがカメラや照明などを邪魔にならない位置へ移動させていた。
「にしても…あの人たちってさ、どっから来たんだろうね」
吉澤がスタッフたちを見て呟く。すると石川が口を開いた。
「柴ちゃんが連れて来たんだよね…監督だし」
「柴田さんって何者なんだろ…」
「さぁ…私、結構長く柴ちゃんの親友やってるけど…わかんない」
二人がそんな会話をしていると本人が爽やかな笑顔を振り撒いてやって来た。
96 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/17(水) 21:53
「みんな元気ないね〜。午後も撮影あるからね!」
謎の人物、柴田は撮影が順調なせいか、かなり上機嫌だった。
「あら?まだお弁当来てない?」
柴田の声に全員が力強く頷いた。
「マサオったら何してるのかしら…ちょっと見て来るわ」
誰よりも早く出演者たちに昼食を渡すべきなのに、と柴田はズンズンと大谷がいると思われるテントへ向かった。
そんな柴田と入れ替わりに思いがけないある人物が出演者たちの前に現れた。
「よっ!元気?」

そこに現れたのは―――小さな少女、矢口真里。        

「や、矢口先輩!?」
椅子からガタッと立ち上がり吉澤が驚いていた。他のみんなも驚いた顔をしていた。
「な、何で?だって矢口先輩の出番まだッスよね?」
「ふっふっふ。甘いな、よっすぃーは」
得意気な顔をして矢口はエッヘンと胸を張って威張る。そこで市井はあることに気付いた。
(……矢口のほっぺに何かついてるな……米みたいな……)
「本編で出れないなら、裏で出ればいいんだよ♪」
「裏って…何スか?」
「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない!言っとくけど真の主役はオイラなんだからね!」

矢口が真の主役宣言をしている時、柴田は大谷から弁当が一つ足りないということを聞いていた。
「マサオ、ちゃんと手配したの?」
「したよ!出演者、六人分!」
柴田は腕組みをして「ふむ」と呟いた。
(マサオはちゃんと仕事をやってくれるはず。今までもそうだったし。だとしたら……)
何だかんだ言って柴田は大谷を信頼していた。         
「わかった。無い物はしょーがない。私のお弁当を代わりに渡して」
「えっ?でも…」
柴田の言葉に大谷は驚いていた。想像では自分の弁当を代わりに渡せと思っていたから。
「私はいいわ。監督だから出演者やスタッフみたいにたくさん動くわけじゃないし」
「いや、でも……やっぱ私のを」
「つべこべ言わない!…アンタが一番動いてるんだから、しっかり食べてエネルギー入れとかないと困るでしょ」
最後、ちょっと顔を赤くして柴田は言った。          
(あゆみ……)
大谷は感動して柴田を見ていた。そんな二人の様子をアヤカは微笑ましく感じ、さりげなくその場を離れて行った。
「ほら、早く持ってかないと市井さん辺りがキレるわよ」
「は、はい!」
大谷はすぐに弁当を持って出演者たちの元へ急いだ。その顔はしっかりニヤついていた。
97 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/17(水) 22:00
テントに柴田だけが残る。
(にしても何で一つ足りないのかしら……)
疑問に思いながらテントを出るとスタッフの一人が柴田に駆け寄って来た。
「監督!午後の撮影なんですけど―――」
「ねぇ、午前にこのテントに誰か入った?」
柴田はスタッフの言葉を遮り聞く。
「は?このテントに、ですか?」
「そうよ」
スタッフは思い出すような顔をして、すぐに「あっ」と言った。
「確か、金髪の女の子がテントに入って行ったかも」
「金髪?背の低い子?」
「はい。てっきりこれから出演する人だと思ったんですが」
(完璧にあの人だ。どうやって来れたのかしら?)
柴田はすぐに出演者たちがいる場所へ歩き出した。
スタッフの声も届かず、頭の中にあるのは例の人物のことだった。

大谷は弁当をやっと出演者たちに配っていた。そして何故ここに矢口がいるのか疑問に思っていた。
「あの、矢口さんはまだ出番では……」
「わかってるって。いーじゃん、仲間でしょ?」
矢口から笑顔でそう言いわれると大谷は何も言えなかった。
「にしても、何かすごいんだね。撮影って。オイラ、どっかのスタジオでやるのかと思ってたよ」
「あゆみの希望です。自然の中で撮りたい、と」
出演者たちはやっとありつけた昼食を食べれて嬉しそうだった。
「むっ!」
矢口が何か察知する。ヤバイといった顔。
「…じゃぁ、オイラはこれで…」
「マサオ!捕まえて!」
走り出そうとしていた矢口を柴田に命令された大谷がとっさに矢口の腕を掴み、捕えた。
柴田が恐ろしいほどの笑顔でツカツカやって来る。
「矢口さん、ごきげんよう」
完璧な笑顔で柴田は普段、普段の日常では使わない挨拶をした。
矢口はひきつった笑顔で「ご、ごきげんよう…」と応える。
「全く連絡もしてないのに来るなんて、矢口さんらしいじゃないですか♪」
「いや〜。みんな元気にしてるかな〜って」
矢口は足をジタバタさせるが大谷に羽交い締めされてしまったので無意味だった。
「そうなんですか。てっきり出番が無くて悔しいから来たのかと思いました♪」
「そ、そんなわけないじゃん〜。嫌だなぁ。…じゃ、オイラはそろそろ」
ガシッと柴田は矢口の肩を掴んだ。
「矢口さん。何か忘れてませんか?」
「な、何かなー?さっぱりわかんな…ッ!」
肩を掴んでいた柴田の手は矢口の頬に移動し、何かを摘んだ。
「これは何ですか?」
まるで英文の和訳のような言葉を柴田は言った。「あっ!」と大谷が言う。
「……ごめんなさい〜」

柴田が摘んだモノ―――それは弁当のご飯の米だった。
98 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/17(水) 22:03
「市井ちゃんは気付いてたんだ?矢口先輩にお米がついてること」
「ん?まぁな」
「ふーん。よく見てるんだね。矢口先輩のこと」
「ば、バカ。勘違いすんな。たまたま気付いたんだよ」
「どーだか」
「後藤〜」
相変わらずな市井と後藤に吉澤と石川は笑っていた。
「そーいえば、矢口さん。どうやってあの撮影現場に来たの?」
ふと疑問に思った石川に後藤が答える。
「大谷さんがなっちを迎えに行ったら、そこに偶然先輩が居て、とりあえずなっちだけを車に乗せたんだけど、
 先輩がタクシー拾って追いかけて、途中で大谷さんの車がコンビニに寄ったからタクシー降りて、何とか車に乗り込もうと企んで」
長い説明をしながら器用に肉をひっくり返していく。
「そしたらたまたま車にいたなっちは寝てて」
「大谷さんだけ降りたんだ」
「そ。っで、運転席の扉開けて後ろのトランクを開けてトランクの中に入ったらしいよ」
「まぁ、矢口先輩なら出来そうだけど…無茶するなぁ」
苦笑いして吉澤はチューハイを口にした。
「柴ちゃんに怒られた後、こってり安倍さんにも怒られてたからもうやらないでしょ」
「あぁ、あの安倍さんの怒りは凄まじいものがあったね」
思い出話に花が咲いて、四人は飽きることなく語っていた。
「あとさー、よしこが思いっきり階段から転がって落ちたよね」
「あれは痛かったぁ…もう、あの階段、恐怖症だよ」
「石川さ、泣いてたよな」  
「だって、心配で…」
「その反面、市井さんとごっちんなんか爆笑して!お腹かかえて!」
「だってさ、まさか落ちるなんてさ」
「しかもよしこの落ち方が最高過ぎて……ぷっ」
「そこ!思い出し笑いすんな!」
こうして四人の焼肉パーティの時間が過ぎて行った。
99 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/05/17(水) 22:22
一方、弁当盗み食いをした矢口はというと。
第一章の撮影を終え家に帰って来た安倍と夕飯を食べていた。
「全く矢口は…」
「うぅ…。あの時めちゃくちゃお腹すいてたんだもん…もうその話はやめようよ」
ため息をついて安倍はしゅんとなっている矢口を見た。
「まぁ、反省してるようだから許すけど」
「もう反省してます!すっごく反省してます!」
「よろしい。でも、一週間、私に触っちゃ駄目だからね」
「えぇ〜…手も繋いじゃ駄目?」
「うん。当然」
「抱き締めたりとか…」
「駄目だね」
「そんなぁ〜…」
これから一週間、地獄を見る矢口であった。

「これで全員送り届けたね」
無事に保田を東京に送り届けた大谷はそう言って少し疲れた表情を見せた。
「そーね」
「じゃ、帰りますか」
大谷は東京住まいだが、これから再び故郷に柴田を送らねばならない。
車を高速道路に向けて走らせていると柴田が「帰らなくていい」と言った。
「え?でも…」
「マサオも疲れたでしょ?」
「そりゃぁ、まぁ」
「マサオの家に帰ろ」
「…何か、今、すっごい感動してるんだけど」
「ふーん。良かったね」
素っ気無い柴田の顔は何処か赤くて、大谷はそれを見ると微笑んだ。




100 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/17(水) 22:28
本日の更新は以上です。

>93 名無飼育様。
    大谷さんが不憫なので今回はちょっと柴田さんが優しいです(w
    川σ_σ||<今回だけよ。
   (;`_´)<そ、そんな…。
    あれ、やっぱり不憫…?

次回から第二章に入ります。
第二章では何故、あの家に市井さんたちが一緒に暮らしているのか。
吉澤さんはどうなってしまうのか…などなど謎が解明されていく予定です。
101 名前:ミッチー 投稿日:2006/05/18(木) 01:32
更新お疲れ様デス。。。
柴田プロジェクトおもしろいっすねぇ!
必ず何かやらかしてくれる矢口さんがイイっすね☆
今回の柴田さんは優しくてステキですね。
でも謎なところが多い柴田さんが一番好きです(w
第二章たのしみにしてますね^^
102 名前:名無飼育 投稿日:2006/05/18(木) 17:11
当初進めていた方法よりもこういう形でドラマとその裏側が
読めるのは、どちらもひとつひとつちゃんと楽しめてお得な
感じがしてすごくいいですね♪
柴田さんの素性も気になりますがw、第ニ章も楽しみにしています。
103 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/20(土) 21:53



【第二章 呪われた人間】


104 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/20(土) 21:58
わかってることはただ一つ。

私はこの場所で生きるしか無いということ。

逃げようと思えば逃げれるかもしれない。

だけど、私は―――。


(……いけない。寝てしまった)

機械器具や本棚から溢れた参考資料、重なって傾き始めてる紙の山。
そんな部屋で少女は日頃の疲れのせいかデスクの椅子に座ったまま眠っていて、ハッと目覚めた。
「…ふぅ、少し休もう」
眼鏡を外して椅子から立ち上がる。その時、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
扉が開き、入って来たのは飯田だった。バイクで来たのか、髪を一つに縛り、片手にヘルメットを持っている。
服装は変わらず黒のスーツをビシッと着こなしていた。
「あ、お久しぶりです。飯田さん」
「久しぶり、紺野」
思いがけない来客に少女―――紺野あさ美は眼を細め、微笑んだ。
「珍しいですね。飯田さんがこっちへ来るなんて」
紺野はデスクから離れた来客が来た時の為のソファとテーブルの上に置かれてる資料や本などをどけて、
飯田が座れるようにスペースを作った。  
「ちょっと紺野に話があって」
「話、ですか?」

(一体何の話だろう…私と飯田さんの専門は全く違うし)

スペースを作ると、今度は奥にある小さなキッチンに向かいコーヒーをカップに注ぐ。
二つのカップを持って再び飯田の元へ。
「ありがと」
紺野は飯田にカップを渡すと向かい側のソファの上に置かれている資料をどかし、腰を下ろした。
「研究の方は順調?」
「正直言うと…ちょっと問題が浮上しまして」
「そっか。私が解決してあげれたらいいんだけど、生憎専門外だからなぁ」
飯田はそう言いながらコーヒーを飲んだ。紺野もコーヒーを飲む。
「えっと、あの子はどうなの?ちゃんと逢えてる?」
「いえ…最近は研究が忙しくて。向こうが今、どんな状態なのかもわからないんです…」
紺野はコーヒーに視線を落としながら答えた。その眼はとても悲しそうで、飯田は見ていて自分まで悲しくなっていた。
105 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/20(土) 22:02
「…じゃぁ、私が代わりに調べとくよ。それなら専門だから」
「いいんですか?ありがとうございます!」
カチコチという時計の音とコンピューターが作動している微かな音をかき消すようなほど紺野の声は大きかった。
「あ、飯田さん。何か話があるんですよね…?」
「そうそう。あのさ…吉澤ひとみって知ってる?」
「吉澤…って、あの脱走したサンプルのことですか?」
飯田は紺野の言葉に頷き、カップをテーブルに置いて、長い足を組んだ。
「…見付かったんですか?」
「……まだ、かな」
曖昧な顔をして笑う飯田を紺野は不思議に感じた。
いつも自信に満ち溢れてる笑顔を見せる飯田なのに今回は違う。

(何かあったのかな…)

「紺野はどう感じた?」
「えっ…」
紺野は言葉に詰まった。どう感じたと言われても、相手は実験のサンプルだ。何の感情も無い。
「…ただの失敗作しか」
「…失敗作はさ、あの後どうなる?」
「どうなるって、処分されますよ」
何故、飯田がそんな質問をするのか。飯田ならそれぐらいのことは知ってるはずなのに。
ますます混乱する紺野に飯田は真剣な眼差しを向けた。その眼はどこか悲しそうで、暗い眼だった。
「…処分、か。まだ若いのにね」
そう言って、テーブルに視線を落とす。            
「…飯田さん…?」
「私ね、わかんなくなっちゃったんだ」
飯田は立ち上がり、窓の方へ歩み寄った。
「…ううん、違う。きっと答えはあるんだ。…自分の正義を貫きたいんだけど…」

(それしか道が無いのはわかってる。私は仕事を完璧にやればいい)

「飯田さん…何かあったんですか?」
紺野はいつもと違う飯田を心配し、ソファから立ち上がった。

(…だけど、踏み込めない。迷ってる…)

「紺野…」
背を紺野に向けたまま飯田は呟いた。
「はい?」
「……この世で一番大切なのは何?」
「―――大切な人です」 
紺野の言葉に飯田は微笑んだ。

(……だよね。そうだよね)

そう思い、眼を閉じた。
「ありがと、私行くね。コーヒーご馳走さま」
ゆっくり眼を開き、紺野にそう言うと扉に向かって飯田は歩き出した。
紺野は結局飯田が何を言いたいのか理解出来なかったが、「また逢いましょう」と笑顔で言った。
106 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/20(土) 22:06
森の教会では、いつものように石川が祈りを捧げていた。
それを邪魔しないように吉澤と後藤は教会の外にいた。
「あの時は結構でっかく見えたけど、意外と小さいね」
吉澤は教会を見て呟いた。
「あの時って…血まみれになってた時、だよね」
吉澤の隣で後藤が言った。その言葉に吉澤は頷く。
「そーいえば、どっから来たの?あの時」
「…うーん。あんま覚えて無いんだけどさ、たぶん逃げて来たんだと思う」
「逃げて…ってことは監禁とかされてて逃げたってこと?」
後藤の言葉に吉澤はすぐ答えず、地面にしゃがんで近くにあった短い木の枝を使い地面に落書きをし始めた。
「わかんないんだ……あの時はすっげぇ必死だったのは覚えてるんだけど……」
「ふーん…」
後藤も吉澤の隣にしゃがんだ。吉澤の落書きを覗き込む。
「…何、それ」
吉澤の落書きに後藤は思わずそう言った。
「馬」
「馬ぁ?全然見えないんだけど。個性的過ぎて」
地面には馬とは言い難い動物が描かれていた。その馬とは言い難い動物の隣に後藤が馬を描いた。
「よしこさぁ」
ザクザク地面に馬を描きながら後藤が言う。
「何?」
「今は何ともない?右手とか」
いきなり自分の右手の話になったので吉澤は一瞬固まってしまった。
「……別に何とも」
「そっか、ならいいんだけど」
後藤が描いた馬はどう見ても馬に見えた。
「何かね、あたしの知ってる人もよしこみたいになって」
ポイッと木の枝を投げて、後藤は立ち上がった。
「その人、あたしの大切な人たちの生命、奪ったんだ」
「えっ……」
驚いて吉澤も立ち上がった。
「あたしにはよくわかんないんだけど、獣みたいになっちゃって自我が保てなくなったらしいんだ」
涼しげな顔をして後藤は淡々と言った。
その反面、吉澤は『獣』や『自我が保てなくなる』というキーワードに頭の中が混乱していた。
107 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/20(土) 22:09
「ごっちん……」

(もうヤメテ)

吉澤は助けてくれというような眼で後藤を見た。
しかし後藤は冷めた眼を吉澤に向けていた。

「もし、この先、よしこもそうなって」

(ヤメテ!ヤメロ!タノムカラ!)

「あたしの大切な人たちの生命を奪うなら」

(ソンナメデミナイデ!ウチハチガウ!ニンゲンダ!)

「あたしは容赦無く、よしこを」

(チガウンダ!ケモノナンカジャナイ!)

「殺す」

後藤の言葉はあまりにも鋭く、残酷だった。
吉澤は頭を抱え、苦しそうに呼吸をしていた。

「ち…がう…うちは…人間…」

よろよろと後退りをし、ドサッと尻餅をつくように地面に倒れる吉澤。
そんな吉澤を後藤はギュッと唇を噛み、辛そうな顔をして見ていた。

(ごめんね…よしこ)

それから後藤は吉澤に歩み寄り、しゃがみ込んだ。

「ごっ…ちん…?」

息も途切れ途切れに吉澤は後藤を見た。

「ごめん…」

後藤は吉澤の身体を起こした。そしてさっきの冷徹な眼ではなく優しい穏やかな眼を吉澤に向けた。

(ごっちん…泣いてる…)

後藤の眼から涙が溢れていた。吉澤は次第に正常な呼吸を取り戻し、そっと後藤の涙を指で拭った。
108 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/20(土) 22:13
―――丁度、その時祈りを終えた石川が教会から出てきた。
「ごめんね、二人とも―――」
長いこと祈りを捧げていたから外で待ってる二人は飽きてしまっているだろうと思いながら石川は謝るが。

(……)

地面に二人は座った状態。後藤は何故か泣いていて、吉澤がそんな後藤の涙を拭っている。

(……ど、どーゆーこと!?)

何がどうなってこんなシチュエーションになったのか石川にはさっぱりわからなかった。
呆然と立って、二人を眺めるしかなかった。
「ごっちん…泣かないで?」
「…でも…あたし…」
「もう…いいからさ…」

(何がいいの!?)

「よしこのこと…好きだよ…?でも…」
「わかってるよ……」

(好き!?えぇ!?)

二人の会話を聞いて、ますます混乱する石川だった。


車を走らせ、家へ帰る市井と保田。運転はもちろん保田だった。
安倍に貰ったお土産を抱えて、市井は疲れたのか助手席で眠っていた。

(……眠ってると静かなものね)

市井が眠っている為、車内は静かで、車の走る音が静かな空間の唯一の音だった。
保田は左手を伸ばし、ラジオをつけた。ラジオからはクラシックの音楽が流れる。

(帰ったらどうするのかしら。吉澤に全てを話す……まぁ、吉澤の気持ち次第ね。吉澤に話すことはどれも残酷なことばかりだし)

アクセスを強く踏んで、家へ車は向かう。

(何よりもまずは、ゆっくりベットで寝たいわ)

しばらく走ると徐々に森が見えて来た。保田はバシバシと隣で寝ている市井を左手で叩いた。
「…いてぇ…何だよぉ…」
「もうすぐ着くわよ」
「普通に起こせよ…」
市井は欠伸を噛み締め、眼を擦った。それからしばらく黙って、窓の外の景色を眺めていた。
保田もそんな市井に何も言わず、黙って運転をしていた。


「んぁ、梨華ちゃん」
家に戻った三人。昼が近くなったので、石川は昼食作りを始めた。
すると後藤が自分の家庭菜園からトマトを持って来て、石川に差し出した。
トマトは鮮やかな赤色をしていた。見ただけで、絶対美味しいトマトと思えてしまうほど。
そして、このトマトの色と同じく後藤の眼は赤かった。
「ありがとう」
「何か手伝うことある?」
「今は無いかな」
「わかったぁ」
後藤がキッチンから出ていった後、石川は受け取ったトマトを見てため息をついた。
109 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/20(土) 22:20
(あの後、何も無かったかのような雰囲気になっちゃったし…もう、何があったかなんて聞きづらいじゃない。
 しかもごっちん、ひとみちゃんに好きって言ってたし。告白じゃない!アレは完璧に告白だわ。
 ……あれ?ごっちんが好きなのは市井さんじゃなかったっけ…?)       

一人で何やら考え込む石川。すると鍋の中の水が沸騰し、噴き溢れた。
「あっ!」
慌てて火を弱火にする。

(…本当に何があったんだろ…)

沸騰した鍋にパスタの麺を入れる。そこに今度はキッチンに吉澤がやって来た。
「梨華ちゃん」
キッチンにやって来た吉澤に石川は気付かず、鍋の中で茹だっていくパスタの麺を見ていた。

(あとで聞いてみようかな…)

「…梨華ちゃん?」

(それに何で私がこんなに怒ってるんだろ…別にごっちんがひとみちゃんを好きになっても…)

「あのー…?もしもし…?」

(…でも嫌だ。そんなの困る…)

自分の呼びかけに気付いて貰えない吉澤は困った顔をして石川の後ろにいた。
そして思いきって石川の耳に息を吹きかけてみた。
「きゃっ!」
「やっと気付いてくれた?」
「…もう、ひとみちゃん!」
ニヤッと笑う吉澤を睨む石川。でもその顔は笑っていた。
「ごめんごめん。だって呼びかけても全然気付いてくれないんだもん」
「だからって耳は駄目だよぉ」
「あ、弱いんだ?耳」
「誰だって弱いよ」
石川の言葉に吉澤は「あぁ、そーかも」と納得していた。
「…っで、何か用だったの?」
何故吉澤がここへ来たのか理由が読めない。
石川は後藤から受け取ったトマトをボールの中に入れて更に冷水を入れてトマトを冷やしながら聞いた。
「あ、そうそう。今、市井さんから電話かかって来て、もうすぐ着くって」
「そっか。帰って来るの今日だったね。じゃぁ、もう二人分追加しなきゃ」
そう言ってパスタの麺を更に二人分追加した。
「梨華ちゃん」
いきなり吉澤が後ろから石川を抱き締める。
「ちょ、ちょっと…」
「しばらくこのままでいさせて」
あたふたする石川はしばらくすると大人しくなった。
「…梨華ちゃんはうちのこと、どう思う?」
「えっ!?どうって…」
ギュッと抱き締める力が強くなるのを石川は感じた。
「こんな人間…どう思う…?」
吉澤の声は今にも消えてしまいそうな声だった。

(…ひとみちゃん…)

さっきの森で後藤と吉澤に何があったかはよくわからないが、
きっと吉澤がこんな風に聞いて来るのはそれが原因だと石川は思った。
そして、吉澤の方を向き抱き締めた。それが石川の返事だった。
110 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/20(土) 22:31
バタンと車の扉が閉まる音が響く。市井と保田はやっと家へ帰って来た。
「ふぅ、長旅だった」
軽く伸びをしながら市井は言った。保田は「そんな長旅じゃないわよ」と言って、玄関の方に向かって歩き出した。
苦笑いをして市井は保田の後を追った。保田が玄関を開けるとそこには後藤が待ち構えていた。
「おかえり、圭ちゃん」
「ただいま」
まずは保田が靴を脱ぎ、上がって行った。
「おう、後藤!ただいま!」
市井が元気よく言うと、後藤は何も言わず市井に抱きついた。市井は思わず手に持っていた土産を落としそうになる。
「後藤…?何だよ、寂しかったのか?」
「……違う」
「違うのかよ〜」
「…よしこは、アイツみたいにならないよね」
後藤は市井の肩に顔を埋めて呟いた。

(よしこ…?あぁ、吉澤のことか。いつからそんなに仲良くなったんだ)

どうやら自分がいない間に何かあったらしいことに市井は気付き、優しく後藤を抱き締めた。
「ならねぇよ」
「ホント…?」
「ホントだ。だから、これから戦うことになるけどな」
ポンポンと後藤の背中を叩き、市井は後藤を離した。そして靴を脱いで、玄関を上がって行く。
その場に残った後藤は小さく笑って、軽く頷き市井の後を追った。


食卓のテーブルには吉澤がせっせと昼食のパスタを乗せた皿を運んだり、コップを運んだりしている姿があった。
「あ、保田さん。おかえりなさい」
「ただいま。美味しそうね」
「もちろん!梨華ちゃんが作りましたから!」
自信満々に言う吉澤。

(少しは明るくなったみたいね)

保田はそんな吉澤を見て安心したように笑った。
市井と後藤もやって来て、食卓のテーブルを囲む。
「あ、石川。これ、お土産」
市井が安倍から貰った花と饅頭の入った箱を石川に渡した。
「綺麗なお花!ありがとうございます」
「市井ちゃん、そっちの箱何?」
「あぁ、饅頭だよ。なっちに貰ったんだ、両方」
「なっち?帰りに寄って来たの?」
「そーだよ」
頷く市井に後藤は「いいなぁ」と羨ましそうに呟いた。後藤は安倍がいる村に興味を持っている。
一度も行ったことはないが、安倍や市井の話で聞く限りはのどかで自然豊かな暮らしを村の人々は送っている、と。
話を聞いていく内に行ってみたいという願望が後藤の中に出来ていた。
「さ、食べましょう!」
吉澤が言うと市井が「何でお前が仕切ってんだよ」とツッコミを入れた。
「慣れたかしら?ココの暮らしに」
保田の問いかけに吉澤は笑顔で頷いた。
111 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/20(土) 22:42
本日の更新は以上です。
今回から第二章が始まりました。

>101 ミッチー様。
     (〜^◇^)<オイラが主役なんだからね♪
     (●´−`)<(まだそんなこと言ってるべ…)
     面白いと言って貰えることが一番嬉しいです(w
     私も謎な柴田さんが一番好きですね〜。
     
>102 名無飼育様。
     お得な感じですか?良かったです(^−^
     自分でもこのように進めた方が読者の皆様に良いと思いました。
     柴田さんの素性気になりますね〜。
     川σ_σ||<私の素性知ったら、ただでは帰さないわよ…?
     …知らない方がいいかもしれません(゜〜 ゜;

112 名前:ミッチー 投稿日:2006/05/21(日) 00:48
更新お疲れ様デス。。。
後藤さんの言っている「アイツ」って誰のことなんでしょうね。
勘違いしてる石川さんが面白かったっス(w
今さらですが、ここの石川さんって料理上手いんですね(w
次回も期待してます^^
113 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/21(日) 21:21
昼食を終えると各自思い思いに午後の時間を過ごしていた。
石川と吉澤は後片付けを終えると仲良く土産の花を花瓶に生けていた。
保田はのんびり風呂に入っていて、市井は疲れたのか自分の部屋で寝ていた。
「暇…」
後藤はというとリビングのソファに寝そべって暇なのかボーッとしていた。
廊下の方から石川と吉澤の楽しそうな声が聞こえてくる。
「市井ちゃんは寝てるし…圭ちゃんはお風呂…」

(梨華ちゃんとよしこは何だか楽しそうだし…)

ゴロンと寝返る。しばらくそのままでいると眠気が静かにやって来た。
どうせやることも無いので後藤はその眠気を素直に受け入れ、眼を閉じた。


(―――夢…?)

眼を開くとそこはリビングのソファーの上では無く、地面の上だった。
後藤は地面の上に立っていた。少し驚きつつも、コレは夢なんだと後藤は冷静に思っていた。

(夢なんて久々に見るなぁ)

そう思っていると、いきなりフワッと身体が浮いた。ゆっくり空に向かって上がって行く。

(うわぁ、すっごいなぁ)

青い空に向かって上がって行く自分の身体。地面から少しづつ離れていく。
後藤はすっかりこの夢の中を楽しんでいた。しかし、綺麗な青空に雲が広がり急に天気が悪くなってしまった。

(えー…せっかくいい天気だったのに〜)

しかも雨まで降って来たが、夢の中だからか後藤は全く雨には濡れない。
後藤が不思議に思っていると地面の方の視界が変わり、後藤は小さな村の上に浮いた状況になった。

(…見たことある風景)

その村が自分の生まれ育った村だと気付くのにそう時間はかからなかった。

(あたしの村だ…)

都市のようにたくさん人がいるわけではないが、そこに住む人々は活発で明るい。
いつも賑やかな村。海が近いので、漁業をする家が多かった。
今、後藤が見下している村は雨が降っているせいか漁業に出る人はいないようだった。
114 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/21(日) 21:26
(あっ…)

ある家から男が一人、出て来た。黒い傘をさして玄関の方を向く。

『じゃぁ、漁業会議に行って来る』

(お父さん…)

その男は後藤の父親だった。

『お父さん!ほら、お弁当忘れてってるよ!』

また家から少女が出て来た。

(あたし、だ…)

その少女は後藤だった。

『おっ、忘れてた!ありがとう、真希』

父親は笑って後藤の頭を撫でた。

(お父さん…!)

弁当を受け取った父親は歩き出した。雨は止みそうに無く、むしろ強くなるばかりだった。
父親を見送った後藤は強くなった雨から慌てて家の中へ入って行った。

(…そうだ。あの日は雨が降ってたんだ…)

宙を浮いていた後藤はグッと口を堅く閉じ、これから先起こる事件を予測していた。

(…確か、夕方頃だったかな)

また視界が変わり、朝の時間帯から夕方の時間帯になった。
しかし雨は相変わらず降り続いていた。後藤の浮いていた身体がゆっくり地面へ降りて行く。

『グォォォ!!!』

村中に獣のような唸り声が響き渡った。

(…来る)

村の真ん中に浮いていた身体が着地する。すると真正面から何かが近付いて来た。

『何だ!?今の唸り声は!』
『何かの動物か!?』

村の人々が驚いて、家から出て来る。

(駄目!みんな出てきちゃ駄目だよ!)

後藤は必死に村の人々に叫ぶが全く伝わらない。
現実の世界では無い夢の中では後藤の言葉は誰にも伝わらなかった。

『ば、バケモノだぁ!逃げろ!』

ドスン、ドスンと明らかに人間では無い足音が重く響く。雨が降っているせいで近付いて来る何かはよく見えない。
村の人々が徐々に騒ぎ始めた。男の避難を指示する声や女の悲鳴、子供の泣き声。とにかく村はパニック状態になろうとしていた。
そんな中、後藤はただ立ち尽くしていた。しっかり前を向き、その眼は冷たく、鋭い。

(アイツが…来る)
115 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/21(日) 21:31
『グォォォ!ウォォ!』

後藤の前に姿を現した正体は───熊のような姿、しかし熊よりも大きい身体をした獣だった。
爪は鋭く、口から牙が剥き出しになっていた。眼は赤く放ち、ギラギラさせている。

『女、子供は家にいろ!男は武器を持ち村を守れ!』

そう叫ぶ声の主は後藤の父親。その右手にはしっかり銃が握られていた。

(お父さん!逃げて!敵う相手じゃないんだよ!)

後藤は駆け出し、父親を止めようとしたが父親に自分の声は届かない。
銃を持った男たちは父親と共におぞましい獣に銃を向けた。銃を撃つ音が雨の音に混じり響いた。

(どうにかしなきゃ…!)

もはや夢の中だと忘れている後藤は自分の家に向かって走り出した。もう一人の自分に逢いに向かったのだった。

(確か屋根裏に…)

家の一階には母親がいた。心配そうに窓の外を見ている。そして両手で銃を強く握り締めていた。
父親がもしもの時は、と母親に銃を持たせていたのだった。母親の横を通り抜け、階段を上がり二階へ。
自分の部屋に入ると屋根裏への階段が下ろされていた。

(お父さんに言われて屋根裏に隠れてた)

階段を駆け上がると、薄暗い空間に自分がいた。
耳を塞ぎ、眼をギュッと瞑り、うずくまっている。

三年前の後藤がそこにいた。

(ねぇ、お願い!みんなを止めて!このままじゃみんな死んじゃう!アイツに殺されちゃう!ねぇ!早く!)

泣きながら、三年前の自分に訴える。しかし後藤の声は三年前の自分にも届かなかった。

『怖いよ…怖い…』

(怖いなんて言ってる場合じゃないんだよ!みんなを止められるのは“あたし”しかいないんだよ!お願い!わかって!)

発砲の音が途端に止んだ。後藤はハッとした。

(ヤバイ―――)

『…終わったのかな…?』

(違う!終わってなんかない!)

『お父さんたちが倒したんだ!』

(…ううん、アイツはまだ…生きてる)

三年前の自分が笑顔を見せ、屋根裏から去って行く。後藤も後を追った。
これからどんな光景が待っているのか、後藤には全部わかっていた。
116 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/21(日) 21:38
雨に濡れた地面に血を流し、倒れている男たち。ピクリとも動かず、完全に心臓が止まっていた。
その身体はどれも右腕が無かったり、頭が無かったりと悲惨な姿をしていた。

血の海が広がっていた。

『…えっ?』

三年前の後藤はその光景に驚愕していた。
発砲が止んだのは父親たちが獣を倒したからじゃないのかと眼の前の光景を素直に受け入れられずにいた。

(発砲が止んだのは、みんながアイツに殺されたから…)

後ろに後藤は立っていた。三年前の自分を悲しそうに見ていた。それからそっと右の方を視線を移した。
そこには右足が無惨にも無くなっている父親の姿、そしてそんな父親に寄り添うように背中から血を流している母親がいた。

『お父さん!?お母さん!?』

両親の身体を揺さぶり、泣きながら呼びかける自分。何度呼んでも両親は眼を覚まさない。
三年前の後藤の悲鳴が村に響いた。それはとても悲しくて、虚しい、たった一人の少女の叫びだった。

『グォォォ…』

獣は銃弾による致命傷は無かったが、血を流し、苦しそうに唸り声を上げていた。
まわりを見渡せば、何人もの村の人々が死んでいた。

『アイツが…みんなを…お父さんを…お母さんを…!!』

怒りが満ち溢れ、三年前の後藤が父親の銃を握り獣の方を向く。
雨で全身びしょ濡れ、涙は止まらず、歯を食い縛り、銃を獣に向けた。

(殺したいほど憎いよね…でも、アイツの正体は)


ダァン!!


一人の少女の叫びと共に、村に銃の発砲の音が響いた。
117 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/21(日) 21:43
『グガァァァ!!』

銃弾が獣の頭に当たった。獣は苦しそうに倒れた。そして動かなくなった。
三年前の後藤がその獣に近付いて行く。三年後の後藤も近付いた。
獣が倒れている傍にペンダントが落ちていた。

『ペンダント…写真が入ってる…?』

何処か見覚えのあるペンダント。開けると中に写真が入っていた。

『嘘…でしょ…?』

笑顔で写っている男とまだ幼い娘の写真。その男は父親と同じ漁業をしている村人だった。
昔に妻を亡くし男手一つで娘を育てて来たが一年前に海で娘を亡くしてしまっていた。
それからこの男は行方不明。村の人々が懸命に探したが、結局見つから無かった。

『コレが…おじさんなの…?』

たとえ、このペンダントがたまたま落ちていたとしてもそれは有り得ない。
その男は一年前に村からいなくなったのだから。
何処からどう見ても獣にしか見えないが、その獣はかつて人間だったのだ。

『そんな…!何で…!?』

ペンダントを落とし、混乱するもう一人の自分から後藤は眼を背けた。


(そう、あたしは―――人を殺したんだ。この手で…)


そっと手に視線を落とす後藤は泣きながら笑っていた。

後ろにいるもう一人の自分は張り裂けそうな想いを抱えて、泣いていた。


雨が止むまで。


三年前の後藤と三年後の後藤は。


お互い背を向けて泣いていた。
118 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/21(日) 21:45
「―――後藤ッ!おい!後藤!」
後藤が眼を覚ますとそこには市井が必死な顔をして後藤を呼ぶ姿があった。

(…嫌な夢見ちゃった)

ボーッとリビングの天井を眺めると視界が歪んでるのに気付き、泣いていたんだと自覚する。
「大丈夫か?ずいぶんうなされてたぞ」

(…何か前にもこんな感じがあったような…)

「何か言えよ。頼むから」
「あ、ごめん…大丈夫だよ」
後藤はソファーから起き上がると保田、石川、吉澤も傍にいることに気付いた。
「ごっちん…大丈夫?」
今にも泣き出しそうな石川が言った。
「アンタ、異常なほどうなされてたわよ…」
続けて保田が言った。吉澤は何も言わず黙っていた。

(かなり心配かけちゃったなぁ)

暗い顔をしている仲間に後藤は笑顔を向けた。

「大丈夫だよ。昔の夢見ちゃってさ…アハハ、結構リアルだったからさ。
 まぁ、夢だし。あたしは大丈夫だから」
「…昔の夢」
市井が呟く。
「全く、嫌になっちゃうよね。どうせなら楽しい夢、見たいのにさ〜。美味しいもの食べる夢とか」
明るく話す後藤が全員には痛々しく見えた。
119 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/21(日) 21:50
昼過ぎ、石川と吉澤は花を花瓶に生けて玄関の靴箱の上に飾ってリビングへ戻るとソファーの上で後藤が寝ていたので、
二階からタオルケットを取りに行き後藤にかけてあげた。それから二人で庭にいた。
保田は風呂から上がり髪を乾かし、自分の部屋で読書をしていた。市井は部屋で寝ている。
だんだん空が暗くなり、庭にいた吉澤と石川がリビングへ戻ると後藤の様子がおかしいことに気付く。
眠っているが、かなりうなされている。顔は苦しそうに歪んでいて、涙を流していた。
石川が慌てて部屋にいる市井と保田を呼びに行き―――今に至る。

「ごっちん…昔の夢って、今日話してた…」
吉澤がおずおずと後藤に言った。
「…うん。あたしの大切な人たちの生命が奪われた時の夢…」
後藤は感情を露にすること無く、冷静に答えた。
吉澤は今日の午前に後藤が言っていた『獣』や『自我が保てなくなる』という言葉を思い出していた。
そしてギュッともはや人間では無い右手を握り締めた。

(自分のこと、もっと知らなきゃ…いつまでも逃げてるわけにはいかない…この右手と右腕に向き合って、戦わないといけないんだ!)

“自分に何が起きているのか”

吉澤はゆっくり市井の方を向いた。

「市井さん。教えて下さい」

その眼は“覚悟”を決めた眼をしていた。

「うちの、この右手と右腕のことを。全て教えて下さい。お願いします」

ゆっくりと頭を下げる吉澤。そんな吉澤を見て保田はポンッと市井の肩に手を置いた。

(ついに決心したか…吉澤、ありがとう)

市井は保田に頷き、吉澤の方を向いた。

「わかった。全て話そう」

ハッキリと力強く市井は返事をした。
120 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/21(日) 21:57
本日の更新は以上です。後藤さんの過去の話でした。

>112 ミッチー様。
     後藤さんが言っていた「アイツ」の正体が今回明かされました。
     彼女が何故吉澤さんに対してあんな事を言ってしまったのか。
     今回、それが明らかになったかなと思います。
     (0^〜^)<モグモグ…梨華ちゃん!コレ、美味しいYO!
(;^▽^)<え?美味しい?良かったわ♪(本当に作ったのは大谷さんなの…)
     (0^〜^)<〜♪(←出演者の中で唯一気付いて無い人)
     …こんな裏話もあったり(w

121 名前:ミッチー 投稿日:2006/05/22(月) 02:45
更新お疲れ様デス。。。
後藤さんの過去は暗いですね・・・。悲しいです。
これから明かされる真実が気になりますね。
後藤さんと市井さんは同じ村の人じゃないんですね。
裏話に笑いました(w
122 名前:名無飼育 投稿日:2006/05/23(火) 12:11
ごっちんの過去。それを二度と繰り返させない為によっすぃーがついに決意しましたね!
それによって大きく物語が動きだしそうな予感…。続き楽しみにしています。

>裏話
知らない方が幸せなこともありますわな。w
123 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/26(金) 21:31
辻は体調が悪いのか、自室のベットの上で眠っていた。明らかに顔色が良くない。
そんな辻を加護はココへ来てからずっと心配そうに見守っていた。

(のの…)

今日の昼過ぎ、自分がココヘやって来た時は既に辻はベットに横になっていた。
時折苦しそうに顔を歪ませる。細い右腕には点滴の針が挿されていた。         

(昨日の夜に電話で話してた時は元気やったのに…急にや…)

ベットの傍の椅子から立ち上がり窓の外を眺めた。
「…飯田さん。はよ帰って来てくれへんかな…」
この場所で信じれる大人は加護にとって飯田だけだった。
しかし飯田は今、何処かへ出かけていてココにはいなかった。
「うぅ……あ…いぼん…?」
ベットの方から辻の声が聞こえ、加護はすぐに振り返った。
「のの、気付いたんかッ?」
「…ごめんね…せっかく来て、くれたのに…」
辻は呼吸するのにも辛そうだった。そんな辻を加護はまるで自分も辛いかのように顔を歪ませ、
眼にジワッと涙をにじませた。
「そんなん、ええから…うちの方こそごめんなぁ…もっと早く帰れば良かった…」
「ののは大丈夫だよ…?あいぼんはお仕事でしょ…?」
辻が無理に笑おうとすればするほど加護は胸が痛くなった。
「今日はずっと一緒に居るからな…傍に居るよ」
そう言って辻の手を加護が握る。辻は安心したかのように笑った。
その時、部屋の扉がノックされ開いた。
「目覚めましたか?」
紺野のように白衣を身に纏い、カツカツとベットに向かって歩いて来る少女。
その少女を見て加護はあからさまに嫌な顔をした。
「先ほど睡眠から目覚めた反応があたしのコンピュータに届きまして」
「いちいち見に来なくても、うちが傍にいるから大丈夫ですよ」
少女の前に加護が立ちはだかる。まるでその少女に辻を見せたくないような振るまいだった。
「いえいえ。あたしはこの子の担当を任されてますし。第一あなたでは無理ですよ。何の知識も無いんですから」
完璧な笑顔で少女―――松浦亜弥は言った。
124 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/26(金) 21:34
「診察をするのでそこを退いてくれませんか?」
加護は仕方なく退いた。悔しかったが自分は松浦が言うように何も知識は無い。
辻が苦しんでいても治療方法がわからない。だから松浦に託すしか無かった。
「ちょっと呼吸が乱れてるね…痛いとこある?」
「少し頭痛がする…」
「他には?」
松浦の言葉に辻は小さく首を横に振った。その後、松浦は辻に水分を補給させたり、
細かく脈拍を調べたりしていた。加護はただ邪魔にならないように後ろの方に立っていた。
「亜弥ちゃん…注射は嫌だよ…?」
涙を浮かべて辻はビクビクしながら言った。松浦は優しく笑って辻の頭を撫でた。
この笑顔は後ろにいた加護には見えていなかった。
「…大丈夫だよ。注射、しないからね」
「ホント…?」
「うん。頭痛もすぐに無くなるから、ね?」
その会話も加護には届かず、加護はイライラしていた。

(何やねん!さっさと終わらせんかい!)

なかなか終わらない診察は加護を苛立たせていた。
しかし松浦の後ろ姿を見て、とある人物を思い出し始めていた。


『大丈夫ですか?痛いとこがあったらすぐに私に言って下さい』
『加護さん、彼女に少しでも変化があったらすぐに私に報告して下さい。加護さんの方が一緒にいる時間が多いですから』
『外に散歩、ですか?少しなら大丈夫ですよ。あまり長時間は駄目ですから1時間くらいなら。加護さんが一緒なら私も安心です』


(あさ美ちゃん…今、どないしてるんやろ…)

辻の担当は松浦の前は紺野が担当していた。
その当時は加護にとって飯田と紺野がこの場所で信頼出来る人物だった。


(何か無茶やらかしてどっかに飛ばされたって聞いたなぁ…元気にしてるやろか…)


窓の外を眺め、加護は小さくため息をついた。
125 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/26(金) 21:39
「―――んじゃ、まずは吉澤のその手と腕について話すか」
食卓のテーブルを全員で囲んだ。後藤と保田、吉澤と石川が向かい合うように座り、残った場所に市井が座った。
重たい雰囲気が五人の間に漂っていた。
「四年くらい前、かな。政府と軍隊がある実験をしていると噂があったんだ」
喋る市井を他の四人は見つめていた。
「その実験って…」
石川が少し身をのり出して言った。
「…人間を使った実験よ」
眼を伏せて保田が代わりに答える。
「…私が最初聞いた時は単なる噂だと思ってた」
ガタンと市井が椅子から立ち上がった。
「でも、どっかに建てられた研究所が火事になった事件があった。その中からある焼死体が発見された。
 火傷が激しくて酷いもんだったらしい…が、その焼死体が妙なとこがあった」
「み、妙って…どうゆうことですか?」
吉澤が聞くと市井は「大きさを見て“それ”が人間だと断定出来た」と歩きながら話した。
「だけど、人間とは明らかにかけ離れた部分が見つかった。それは―――」
「牙、よ。その焼死体の歯形を調べた際に、まるで動物のように鋭い牙が見つかったのよ。
 これは明らかに人間ではない、と当時の新聞の見出しに載ってたわ」
市井に続き保田が言った。吉澤と石川は真剣な眼差しで聞いていた。
後藤は冷静な態度で、しかしその眼は市井と保田にしっかり向けられていた。
「その火事の原因は結局解決しなかった…けどそれがキッカケとなって、噂は真実だと騒がれ始めた。
 政府と軍隊は裏組織を作り、何らかの目的で人体実験を始めた。火事になった研究所も政府が建てた物で何らかの原因により、
 その研究所を燃やして証拠隠滅させようとした…まぁ、当時は本当かどうかわからなかったけど」
一気に言うと市井は大きくため息をついた。
「新聞やニュースを見ただけじゃ、それが本当かどうかはわからなかった。実際に自分の眼で見たわけじゃない……
 それに政府や軍隊がそんなことをしてるなんて…信じられなかった」
ギュッと拳を握る市井を保田は見ていた。

(それは私も……同じよ)

「…でも今、私は確証を持てた」
市井が吉澤を見る。吉澤は少しビクッと身体を震わせた。
「吉澤と出逢ったことにより、噂は真実だと…」
自分の右手を見つめ吉澤は思いつめたような顔をした。隣にいる石川がそっと吉澤の肩に手を置いた。
126 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/26(金) 21:42
「ねぇ、市井ちゃん」
ずっと黙っていた後藤が手を挙げた。
「よしこの右手と右腕、治せないの?」
後藤の言葉に市井は力無く首を横に振った。
「実験の方法や使っている薬とかがわかれば治せるかもしれない。でも、情報が無い。
 政府や軍隊のコンピューターはガードが固くてなかなか入り込めないんだ」
「そっか…」
ここで一旦区切りをつけ、一息いれようと石川が提案し全員に紅茶を出した。 
「んぁ。美味しい」
「でしょ?」
紅茶を飲んでいる中、吉澤はあまり紅茶を口にしてなかった。

(……とんでもないことに自分は使われたんだなぁ…)

はぁとため息をつく。
「ひとみちゃん…大丈夫?」
そんな吉澤を石川は気遣って声をかけた。
その眼は“辛いならやめてもいいんだよ”と訴えるような感じだった。
「…大丈夫。最後まで聞きたいんだ」
石川に微笑んで吉澤は言う。

(よし、最後まで聞くんだ。にしても市井さんと保田さんは物知りなんだな…さすがって感じ。
 ごっちんも結構黙ってたから知ってたのかな。梨華ちゃんは知らなかったみたいだけど……ん?そーいえば…)

紅茶のカップに口をつけながらふと吉澤は思った。
「あのー…」
おそるおそる手を挙げてみる。
「何?」
「何となく気になったんですけど、みんなは何で一緒に暮らしてるんですか?
 見た感じ家族ってわけでもなさそうだし…」
「あぁ。まぁ、変だよな。家族にゃ見えないし」
「家族だとしたらあまりにも似てない家族よね」
笑ってそう言う保田を見て、市井は「まぁ、もう家族みてーなもんだけどな」と言った。
「結構成り行きだったんだ。私が偶然、圭ちゃんと知り合って…まぁ、お互い思ってることが一緒だったから
 何となく一緒にいて…その頃ささっきの噂が広まりつつあった時で、二人とも政府や軍隊に不満を持ってたんだ」
市井は保田の眼を見てバトンタッチした。           
「っで、意気投合した私らはあるチームを作ろうと考えたのよ」
保田の言葉に吉澤は首を傾げた。
127 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/26(金) 21:45
「チーム、ですか?」
「おう。政府や軍隊に反抗する組織だ。あれから政府や軍隊の嫌な噂は後を絶たなくなった。
 正直、今のあいつらのやり方は気にくわねぇ…とにかく、あいつらに反抗する為にチームを作った」
ニヤリッと市井は笑い、間を置いた。

「名前は―――“Back Lush”」

「バックラッシュ…?」
「異国の言葉だ」
「…何かカッコイイですね!」
「この私が考えたからな!当然!」
何やら騒いでる市井と吉澤を後の三人は眺めていた。保田は呆れたように笑い、石川はニッコリと微笑んでいた。
「ねぇ、他の二人のことはいいの?」
後藤は自分と石川のことが出てないのが気になったらしくそう言った。
市井は「あっ、悪ぃ」と呟き騒ぐのを止めた。
「えっと、後藤は……」
話かけて市井は言葉に詰まった。保田が慌ててフォローする。
「倒れてる後藤を紗耶香が見つけたのよ」
「んぁ…あたし、正直その時のことあんま覚えてないんだよね。気付いたらこの家にいて、市井ちゃんと圭ちゃんがいた」
後藤がそう言って、市井と保田はホッと胸を撫で下ろした。保田はちらっと市井を見てバカと言いたげな眼を向けた。
そんな保田に市井は苦笑いし、肩をすくめた。
「あたしは村は壊滅状態になっちゃったから他に行くとこないし、政府や軍隊大嫌いだからBack Lushに入ったんだ」
後藤の後は石川が喋り始める。
「私はね、Back Lushに助けて貰ったの」
「助けて貰った…?」
石川は小さく頷くと語り始めた。自分の過去を―――。
128 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/26(金) 21:56
本日の更新は以上です。

>121 ミッチー様。
     暗いですね。前回のココロの歌とは違ってこの物語は全体的にすごく暗いような…。
     柴田プロジェクトのおかげでちょっとは明るいような(w
     ( ´ Д `)<んぁ、同じ村の出身じゃないよー。
      ヽ^∀^ノ <今回明かされてねぇけど、私と後藤はもっと重たい感じなんだよな。
     ( ´ Д `)<詳しくはまだ話せないんだけどね〜。

>122 名無飼育様。
     これから大きく物語が動きます!まずはいろいろと説明が入りますが…。
     川σ_σ||<柴田プロジェクトはまだまだ先ねー。急ピッチでやっていくわよ!
    (;`_´)<無茶言わないで…スケジュール調整すんの大変なんだから。


129 名前:ミッチー 投稿日:2006/05/27(土) 01:58
更新お疲れ様デス。。。
吉澤さんでかした!気になってたこと聞いてくれてありがとう☆(w
市井さんと後藤さんはもっと重いんですか・・・。
詳しく話してくれるまで気長に待ちますよ(w
柴田プロジェクトのおかげで少し明るいですね^^ココロの歌の皆が明るいおかげで(w
次回も期待!
130 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 12:37
一気に読みました!おもしろい!
続きが気になりますねぇ
131 名前:名無飼育 投稿日:2006/05/27(土) 17:22
続きが気になりますな〜、梨華ちゃんの過去。
まだまだ謎はありますが入り口が見えてきたって感じですね。
引き続き楽しみにしています♪

ps.マサオさん乙。w
132 名前:かなぁ 投稿日:2006/05/30(火) 21:54
面白いッス
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 22:23
>かなぁ
sageレスって分る?
今度からageないようにな。
134 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/31(水) 14:56
「私が住んでた村はココから遠く離れた深い山の中にあったの…」

忍者の里のようにひっそりと石川が住んでいた村は存在していた。石川は村長の娘で外見は大人しそうに見えるが
好奇心旺盛で子供の頃はしょっちゅう山の中を村の友達と一緒に探索していた。
山の中は川が流れてたり、様々な種類の山菜が採れたり、野生のタヌキに出逢ったりと子供にとっては楽しい遊び場だった。

「この家の傍にある森に似てるかな…静かで、心地いい。その村も山も大好きだった。でも…」

穏やかな空間は一気に脆く崩れた。普段の日常では有り得ないことが起きた。


ダァン!!


静かな山の中に銃声が響いた。
たくさんの足音が地響きをし、それは明らかに村に近付いて来ていた。

「とっさに気付いた私の父が村のみんなを避難させたの。万が一の為に作られた村の少し離れたとこに、
 地下の避難所があって、村の人全員がそこへ避難したわ」

元々人が少ない村だったので地下の避難所に全員入ることが出来た。
村長が銃声が収まるまでの辛抱だと言って村人を落ち着かせた。
しかし、事態は急変する。地下の避難所が村を襲って来た奴らに見つかってしまった。

「村の父や男の人たちが武器を持って何とか阻止しようとした…でも無理だった…」

使っていた武器は槍や弓だった。襲って来た奴らの銃には勝てない。
村人たちは奥へ行き別ルートで外に出ようと試みた。何とか外には出られて、山の中を走る。
しかし奴らしつこく追いかけて来た。

「父は母に私を遠くへ連れて行けと言ったわ…母は私を連れて逃げたけど途中で銃に足や背中を撃たれたの」

他の村人も銃で撃たれて次々と倒れていった。何とか二人は洞窟の中へ逃げ込んだ。
しかし、そこで母親がガクッと倒れた。
『お母さん!?』
『…もう、梨華も18になったわ…話してもいい時期ね…』   
『喋っちゃ駄目!血が…!』
『……梨華、心してよく聞いて…実はあなたは本当の娘ではないの…』 
『えっ…?』
『今まで黙っていて…ごめんね』
『嘘でしょ…?』

「母は眼に涙を溜めて何度も私に謝ったの…」

そして母親は昔、ある森で村長がまだ赤ん坊の石川を見つけたと話した。
こんなとこに置き去りにされた赤ん坊を可哀想に思い、自分の村に連れて行き、自分たちの娘として育てた、とも。
『じゃぁ…お母さんは…本当のお母さんじゃないの…?』
『ええ……だけど…私もあの人も…あなたのことが可愛いの…たとえ血が繋がってなくても…』
母親は微笑んで、石川の頭を撫でた。石川の眼から涙が溢れ出す。
『お母さん…!』
『私たちの大事な娘よ…ずっと…』             
『お母さん!!!』
最期、母親は微笑んで静かに息を引き取った。石川は声を上げて泣いた。
もう動かぬ母親を抱き締めて。すると足音が聞こえ始めた。
石川はハッとして顔を上げた。             
『このままじゃ…』
せっかく母親や父親が自分をここまで守り抜いてくれたのに。
こんなとこで死んではいけないと石川は考えた。
『洞窟に誰かいるぞ!』
『出て来い!』
『おい、もしかしたら例の奴かもしれない!むやみに撃つなよ!』
男が三人。洞窟に入って来た。石川は立ち上がり息を潜めてじっと待つ。
キッと自分の先にある闇を見つめて。
135 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/31(水) 15:02
『いたぞ。女だ』   
黒い甲冑を身につけた男たちが石川の前に姿を現した。
ランプを石川の方に向け『例の奴か?』『若い女で黒髪…当たりだな』と何やらコソコソ会話をしている。    

「怖かったけど…私は村長の娘として、守り抜いてくれた母の娘として、聞かなきゃいけないと思った…」

何故、この村を襲って来たのか。
何が目的なのか。一体何者なのか。

聞きたいことは山ほどある。

『…何故、この村を襲うのですか…?』
『上からの命令だ。お前を連れて来い、とな』
『私を…?何で…』
『詳しいことは本部で聞け』
男たちは石川を強引に捕まえ、洞窟から出た。石川の抵抗は意味無く、ズルズルと連れて行かれる。

「ココロの中で何度も助けてって叫んだ……誰か助けてって」

しかし石川が何度も助けを願っても村人はほぼ全滅状態。誰も石川を助けることが出来なかった。
謎の男たちに腕を掴まれて山を降りていく中で石川はもう駄目だと諦めるようになってしまった。


―――その時だった。


『オイオイ、泣いてる女の子無理矢理連れてくなんてひでぇな』
上からそんな声が降りてきた。バッと男たちは一斉に上を向いた。木の枝に誰かが立っている。
『誰だッ!貴様は!』
『あ、あいつ…!反政府組織の―――!?』
『おっ、よく知ってんじゃん!』
木の枝から―――市井は軽々しく飛んだ。当然下に落ちてくる。
市井は右手に持っていた銃を男たちに向け、落下しながら何発も発砲した。            
『ぐはッ!』
『お、おい!大丈夫か!?』
三人の内一人が胸を撃たれ倒れた。硬い甲冑を見事に穴を空けた市井は地面へ怪我することなく着地する。            
『Back Lushの市井だ』
カチャリと銃口を一人の男の額に当てる。
『このっ…!』
もう一人の男が接近戦用の剣を抜き、市井にめがけて振り下ろそうとした。が、次の瞬間背中を何発も撃たれ倒れる。
『仲間がいること、忘れちゃ駄目よ』
奥から保田が姿を現す。石川は驚きのあまりその場に座り込んでいた。
『んぁ、大丈夫?』
そんな石川を保田の後ろからヒョコッと姿を現した後藤が手を差し出した。
136 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/31(水) 15:08
『さーて、話して貰おうか』
ニヤリッと市井は笑い、そう言った。男はヒィッと小さく叫ぶ。
『アンタらは何者だ?』
市井は男を鋭く睨みつけ低い声を出した。しかし男は何も答えない。
『大方予想はつく。どうせ軍隊の裏組織だろ?……まぁ、いい。何であの村を襲った?』
『……極秘任務だ。外部に洩らすわけにはいかない』
『ふーん…極秘任務、ねぇ』
『…貴様、我々をこんなことにしてしまったんだからタダじゃ済まないぞ…』
『バッカじゃねーの?お前らなぁ、たくさんの生命奪っといてよくそんな言葉が言えるよなぁ!!』
市井の銃を握る右手が強くなる。それを見た保田と後藤が慌てた。
『紗耶香!撃っちゃ駄目よ!』
『市井ちゃん!そいつ死んだら何も聞けなくなっちゃう!』
二人の声により市井は引き金を引くことを抑えた。
『…さっさと話せ!撃つぞ!』
更に睨みを効かせ、銃口をもっと近付ける。市井の怒りは頂点に来ていた。
『わ、わかった…わかったからその銃を下ろしてくれないか…?』
仕方なくゆっくり銃を下ろす市井。男はニヤッと笑った。
そして素早く何かを取り出し、それについているボタンを押した。
市井がとっさにそれに気付き『離れろ!』と叫ぶ。


ドガァン!!!!


その男の胸の辺りが爆発した。どうやらそこに爆弾をしかけておいたらしい。
保田と石川を抱えた後藤は何とかすぐに遠くへ離れたが、市井だけは爆風に巻き込まれて飛ばされ、木に背中をぶつけ倒れた。             
『市井ちゃん!!!』
後藤が慌てて駆け付け、市井を抱き起こす。
『いててて……クソッ…自爆しやがった…』
最後の一人だった男は地面に倒れ、二度と動くことはなかった。
『仕方ないわ。このお嬢さんが助かったんだからよしとして、帰りましょう』
保田が明るくそう言うと、市井は『そうだな』と短く答えた。
137 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/31(水) 15:14
「もし市井さんたちが来てくれなかったら…私は何処かに連れ去られてた…」

市井たちはとりあえず村へ戻った。村が戦場にはならなかったようで、いつもより静かな村がそこにあった。
しかし襲って来た奴らが荒らした跡が虚しく残っていた。市井たちのおかげで数人の村人が生き残ったが怪我が酷かったり、瀕死の状態の者もいた。
『…もう少し着くのが早かったら…!』
村の状態を見て後藤は唇を噛み締めて悔しさを感じていた。そんな後藤に保田は後藤の頭をそっと撫でた。
『…村の人たちはあの家にいる。怪我がひでぇから私の知り合いの医者が診てるよ』
市井は石川にそう告げると村人をがいる家―――村長の家に向かってズンズン歩き出した。
石川は放心していて保田が声をかけるまでずっとその場に立ち尽くしていた。

「一瞬にしてたくさんの大切な人を失ってしまった…何も考えられない状態になっちゃったの。
 これからどうすればいいか…全てが真っ暗で絶望的だった」

それから石川は一人自分の部屋にこもり、二日が過ぎた。
一階では怪我人たちもだいぶよくなり、少しは動けるようになっていた。
しかしココロの傷は大きかった。そればかりは市井たちや、医者―――安倍にも治せることは出来なかった。

「ずっと真っ暗な部屋でうずくまってた…これが夢だったらいいって…そんなことばかり頭の中にあったの。でもある日―――」

夜中にふと眼が覚めた石川は喉の渇きを覚え一階に下りた。すると誰かが家を出ていく音が聞こえた。
『こんな時間に…誰だろ』
家の時計を見れば午前二時。石川は気になり玄関から外へ出た。
月明かりで誰かが村から出て行くのが確認出来た。小走りで後を追いかける。
『…こっちは地下の避難所がある方…』
自分が歩いてる道がこの前、避難していた道と同じだと石川は気付いた。そして山の道を歩くこと数分。
ザクザクという音が次第に聞こえてきた。スコップで地面を掘るような音。近付いて、石川は眼を見張った。
スコップで地面を掘る市井の姿がそこにあった。その傍にはいくつもの穴がある。
『…あ、あの』
『ん?あぁ、誰かついて来てんなと思ったらアンタか』
『何をして…』
『…墓、だよ。立派なもんは作れねぇけど…せめてな』
スコップをグサッと地面に突き立て、市井は額の汗を拭った。
しばらく二人は黙ったまま、その場にいた。
138 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/31(水) 15:25
『…どーすんだ?これから』
静かな空間の中でふと市井が口を開いた。        
『…わかりません』
今にも消えそうなぐらいの小さな声で石川は答えた。市井は何も言わずまたスコップでザクザクと地面を掘り始めた。
『私…ホントにどうしたらいいかわかんなくて…だって、父も母も…もうこの世にいないし…村はあんなになっちゃったし…』
涙を流しながら石川は呟くように話した。するとザクッとまたスコップが地面に突き立てた音が響いた。
ハッとして石川は顔を上げると腕を組んで自分を睨んでる市井がいた。
『…確かに、アンタは両親を亡くし、村もめちゃくちゃになった。辛い状況にいるだろうよ。
 でもな、厳しいこと言うけどそんなウジウジしてても、状況は変わんねぇんだよ!むしろどんどん辛くなるだけだ!
 アンタは今の状況を受け入れてない!受け入れようともしない!ただ逃げてるだけだ!』
市井の怒鳴り声が静かな山の中に大きく響いた。もしかしたら村にも届いたかもしれない。構わず市井は続ける。
『それで何になる?ずっと泣いて暮らすつもりか?そのまま生きて行くのか?…村の人たちを見たか?
 最初は怪我をして生きる気力を失ってた…けど今はな、前向きに生きようとしてんだよ。
 この怪我が治って動けるようになったらまた一から頑張って行こうって』
その場に石川は泣き崩れた。市井はしゃがんで石川の頭に優しく手を置いた。
『…アンタも、一人の人間だろ?自分の生きる道を自分で決めてみろよ。親がいないから何にも出来ない、なんてのは甘えだ』 
市井の言葉に石川は泣きながらも強く首を縦に振った。それを見て市井は微笑む。
『顔、上げて』
顔を上げるとそこには先ほどの厳しい眼をした市井はいなかった。優しい眼差しを向けて微笑んでいる市井がいた。
『この先、アンタがどう生きて行くか…村に残るか、村を出ていくか…それは私にはわかんねぇ。
 でも、ココで私はアンタに一つの道を提案する』
『提案、ですか…?』
『Back Lushに入ること、だ』
『えっ…?』
『村を出て、私たちと一緒に行くか…いろんな可能性があれ中の一つの道だ。
 もしアンタが来るなら私たちは盛大に歓迎するよ。まぁ、反政府組織だけどな』
立ち上がって市井はスコップを手に取る。
『明後日、私たちは村を出て行くよ。その頃は村の人たちも普通に生活出来るようになるだろ』
つまり、その時まで考え返事をしろと市井は言った。
『ヤベッ、明るくなって来た』
石川は空を見上げた。空は夜から朝へと変わろうとしていた。
朝陽が上り、青い空がだんだん見えて来る。
139 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/05/31(水) 15:32
昨日とは違う今日がやって来た。
そして今、確実に石川のココロは変化している。

『なぁ、アンタ…えっと名前は』
『石川です。石川梨華』
『石川、ね。私は市井紗耶香。まだちょっと作業続けるからさぁ
 先に帰って朝飯の準備してよ。腹減りまくりで帰ると思うからさ』
石川は笑って『はい!』と大きく返事をした。

「もっと前を向こう、現実を受け入れようって思うようになって…いくら泣いても落ち込んでも、何も変わらないから。
 市井さんの言葉が私を変えてくれた」

この日、そして次の日。石川に笑顔が戻り、そして無事に墓も出来上がり無念の死を迎えた村人の冥福を全員で祈った。
そしてその次の日、市井が言った通りBack Lushのメンバーは村を出て行こうとしていた。 
『みなさんには本当に感謝してます。こうなってしまったことは残念ですが、生き残った私たちで精一杯頑張って行こうと思ってます』
最後に村の入口で村人が集まって別れの言葉を告げていた。そこに石川はいなかった。
『んぁ、頑張ってね』
『今度は美味しい山菜の料理を食べに来るわよ』
『無茶しないでね。特に鈴木さん。まだ足の怪我完治してないから無理に動いたら駄目だよ?』
それぞれ最後の別れを告げる中で市井は黙って村の奥を眺めていた。
『市井ちゃん?』
黙ってる市井を変に思い後藤が声をかける。
『…玉子焼き、美味かったな』
『梨華ちゃんの?うん、あれは絶品だったね。でも何で?』
『いや、何でもねぇ。じゃ、行くか!』
山の中まではさすがに車では来れなかったので今から山を下りて、近くの村で預かって貰っている車のとこまで向かう。
市井たちは村に背を向けて歩き出そうとした。

『ちょ、ちょっと待ってー!!!』

甲高い、アニメのような声が響く。
その瞬間、市井はニヤリと笑った。

『り、梨華ちゃん!?その格好どーしたの?』
石川の姿に後藤は驚いた。石川はいつものお嬢さまのような服では無く、何故か迷彩のパンツスタイルで、
背中にはパンパンに膨らんだリュック、頭には迷彩のヘルメット。まるでどっかのジャングルへサバイバルしに行くような格好をしていた。
その姿に市井もギョッとする。
『私も連れてって下さい!お願いします!』
お辞儀をしたらリュックが重くてバランスを崩す石川に市井は大笑いした。するとその笑いが全員に浸透していく。
『アハハ!ったく、その格好で何処行くんだよ!』
『えっ?だって、戦うんじゃ…』
自分はとんだ間違いをしてしまったと全員の笑いから石川は気付き顔を赤くした。
『気に入ったわ!この私を大笑いさせてくれるなんて大物よ!』
保田はバシバシと石川の肩を叩いた。後藤と安倍はよほどツボにハマったのか腹を抱えてまだ笑っていた。
『この道を歩くことを決めたんだな?』
『はい。決めました』
『わかった。歓迎するよ』
ギュッと石川と市井は握手を交す。そして石川はクルッと村人たちの方を向いた。
『本来ならこの村の長の娘としてみんなを引っ張って行かないといけないのかもしれません。
 でも、真剣に考えて決めました。私は村を出て行きます』
ごめんなさいと石川は頭を下げる。村人たちはみんな笑顔だった。
『ちょっと寂しいけど、石川さんが決めたのなら笑顔で送り出すよ』
『俺たちはここで頑張るからさ。そっちも頑張れよ』
『世界はここだけじゃない。もっと世界は広い。しっかり見て来なさい』

『みんな…ありがとう。行って来ます!』

こうして石川は村を出て行き、新たな道を歩き出した。
そして、Back Lushは新たなメンバーが一人追加した。
140 名前:アルマジロ 投稿日:2006/05/31(水) 15:47
本日の更新は以上です。

>129 ミッチー様。
     (〜^◇^)<オイラのおかげで明るいな!!
     (;^▽^)<は、ハイ!(むしろ迷惑かけてるような…)
     現場裏は賑やかなのに、物語は暗過ぎますねぇ。
     早く明るい場面を書きたいです。

>130 名無飼育さん様。
     川σ_σ||<面白いって言って貰えるのが一番よね♪
    (;`_´)<そうだけど…あの、早く話の続き書いてよ…キノウカラススンデナイヨ…。
     これからもよろしくお願いします!

>131 名無飼育様。
     今回石川さんの過去オンリーでお届けしました(w
     まだ結成当時のBack Lushも出てきましたが。入口にやっと入ったかな。
    (;`_´)<あ、ありがとうございます。頑張りますので何とぞこの物語を
           よろしくお願いしますね。

>132 かなぁ様。
    (0^〜^)<そう言って貰えるとすごく嬉しいYO!
    ( ^▽^)<これからもよろしくお願いします♪

141 名前:名無飼育 投稿日:2006/06/01(木) 16:25
なるほど、梨華ちゃんにもそんな悲しい過去があったんですね。
梨華ちゃんの存在や秘密が今後どのように事件に影響していくのか
という部分にも注目していきたいです。
引き続き更新楽しみにしています♪
142 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/02(金) 21:19
「…ってかさ、市井ちゃんが梨華ちゃんにそんなこと話してたの初耳なんだけど」
石川の話が終わった後、後藤が不機嫌そうに呟いた。
「私もよ。あの時は石川の衝撃的な姿のせいで、石川が一緒に来ることが不思議に思わなかったけど」
「保田さん!衝撃的な姿ってひどいです!あれでも真剣だったんですから!」

(衝撃的な姿の梨華ちゃん…すっげぇ見たい…写真とかないのかな)

石川が甲高い声で騒いでる中、吉澤はのんきにそんなことを考えていた。
その向かい側では後藤が膨れている。

(何か面白くない…)

後藤が膨れているのを市井は。
「何だよ、その顔。フグみてー」
その発言のせいでますます後藤の機嫌は悪くなる。
「市井ちゃんのバーカ…」
「…バカっつった方がバカなんだよ、バーカ」
「市井ちゃんだって今、バカって言ったじゃん。そっちがバカなんじゃないの?」
「何だとぉ!もっぺん言ってみろ!」
「何度でも言ってあげるよ!バカバカバカバカ!ハゲー!!」
「は、ハゲは関係ねーだろぉ!」

パシン!!パシン!!

「二人ともいい加減にしなさい!!」

いつの間にか持っていたハリセンで保田が二人の頭を素早く叩き、怒鳴った。
市井と後藤は素直に黙るが、二人ともフグのように膨れていた。
143 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/02(金) 21:27
────飯田が辻の元を訪れると、ベットで辻と加護が寄り添うように眠っていた。
二人の小さな手はしっかりと握られていて、それ見て飯田は微笑んだ。

(ふふ…双子の姉妹みたい)

少しズレている白色のかけ布団を直して、飯田は傍にある椅子に腰かけた。
今日は紺野の所へ行って、それから色々と調査をしていたのでハッキリ言って疲れていた。
しかし妹のような可愛い二人の寝顔を眺めていたら疲れも癒され、穏やかな気持ちになっていた。
ふと窓の外を見ると空はすっかり暗くなり始めていた。

(…紺野に今日の調査結果を伝えるのは酷なことかもしれない)

紺野に頼まれたある人物の現在の状況を飯田は調べた。
その結果、紺野にはとても酷な結果になってしまった。
「…残酷でも伝えなきゃね」
窓ガラスに写った自分に飯田は言った。
「んっ…?…あ、飯田さん…?」
ベットで眠っていた加護が眼を覚ました。そこに飯田がいるとわかると嬉しそうに笑った。
辻と繋いだ手を気持ち良く眠っている辻を起こさないようにそっと離し、ベットから降りる。
「飯田さん、今日、ののの調子悪かったんです」
「うん。ココに来るまでに松浦に会って聞いたよ」
「…そうですか」
松浦という名前が出て、加護は少し不機嫌になった。そんな加護に飯田は笑って加護の頭を撫でた。
「松浦のこと、嫌い?」
飯田の問いかけに加護は頷いた。
「…確かに、前の紺野と比べるとキツイとこあるかもしれないね。でも、今ののの身体を一番わかってるのは松浦なの」
「…だけど、うちは好きになれへん!最近は外に出ることさえ禁止されるし…ののが可哀想や…!」
ギュッと拳を握る加護を飯田は優しく抱き締めた。
「飯田さん…ののはいつになったらココから出れるんですか?」
少し震えた加護の声。
「…もうすぐ、だよ…」

(きっと…もうすぐ)

辻が起きるまで二人はそのままでいた。
144 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/02(金) 21:32
「よし、とりあえず何で私らが一緒に住んでるかわかったか?」
気を取り直した所で市井が言った。
「はい」
「じゃぁ次は……おそらく次に話すことは吉澤にとって最も辛いことだと思う」
市井の言葉に全員が黙り込んだ。特に吉澤はそれを聞いてかなり動揺していた。
今までの話も当然、吉澤にとって辛いモノだった。石川の過去の話もまるで自分のことのように辛く感じた。
それを上回る話がまだ残っていたのだ。吉澤のココロは今までと比べ物にならないほど動揺していた。
「…ひとみちゃん、今日はもう休む?」
微かに冷汗をかいてる吉澤に石川が聞いた。しかし吉澤は無理に笑って「大丈夫」と答え、市井の眼を見て頷いた。
「…私が調べた結果によると、だな」
市井が今までコツコツと調査してきた結果。それは安倍の診療所で話していたこと。
「…ハッキリ言う。もう、お前の生命は―――時間が限られているんだ」
後藤と石川、吉澤は眼を見張った。事前に知っていた保田は眼を伏せた。
「時間が限られているって…市井ちゃん、どーゆーこと…?」
あまりにもの驚きで後藤は思わず椅子から勢いよく立ち上がった。
「つまり…吉澤の生命は長くないってことだ」
しんと静まりかえる空間。誰も何も言えなかった。
「…獣化した人間の生命はそう長く持たない…ある研究所のパソコンに侵入した時にそうゆうデータがあったのよ。
 完全に獣化した人間より、吉澤はまだ部分的な獣化だったから限られている時間は長いんだけど…」
保田が説明をする。吉澤は放心状態で、そんな吉澤を石川は強く横から抱き締めた。
「そんな…嘘でしょ…?」
後藤が震えた声で言ったが市井は力無く首を横に振った。
「だって…そんなの…酷いじゃん!…勝手に実験に使われて…酷い身体にされてさ…!そんな…酷いよ!」              
荒々しく言葉を吐く後藤。
「あぁ…酷いよな。許せねぇよな」
市井の言葉も力が入っていた。
145 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/02(金) 21:36
自分の運命を知ってしまった吉澤は絶望な気持ちになっていた。
どうして自分がこんなになってしまったのか。眼を強く瞑り、悔やんだ。

(何でだよッ…!どうして…!)

後藤が何か喚いていたが吉澤には届かなかった。しかし、ふと吉澤は思った。

(どうして…?どうして自分がこうなった…?)

ここで初めて吉澤は自分の過去を思い出すが、上手く思い出せない。
頭の中で記憶の映像が映し出されてもすぐに消えてしまう。

(これも人体実験のせいなのかな…)

「ひとみちゃん、どうかした?」
吉澤の様子の変化に気付いた石川が心配して吉澤の顔を覗き込んだ。
それまで喚いていた後藤がピタリと止まって吉澤の方を見る。
「いや…何で自分がこうなったのかを思い出そうとしたんだけど、何か思い出せなくてさ」
「きっとそれも、実験のせいだよ!もう、頭にくる!」
「後藤、落ち着けって。…なぁ、吉澤。お前、あの森に来る前何処にいたのかも思い出せねぇのか?」
市井の言葉に吉澤は黙って、必死に思い出そうとしていた。

(森に入る前……どっかの建物…壊れたガラス…大きな音…食べかけのみかん…)

キュルキュルとテープを巻き戻すように消えそうな記憶を探る。
「…爆発」
そして閃いたような顔をしてポツリと吉澤は呟いた。
「爆発?」
聞き返す市井。吉澤は市井の方を向いて「爆発があった!」と言った。
146 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/02(金) 21:39
「爆発でガラスが割れて…たぶん、そこから逃げて来たんです」
「…爆発、か。これは結構有力な情報だ」
市井がいつものニヤリッという笑顔を見せる。
「市井ちゃん、何で?」
「研究所やそうゆうとこじゃ、そうそう爆発でガラスを割るなんて危険なことはしない」
「でも、紗耶香。研究所なんてたくさんあるのよ?もしかしたら他にも爆発なんかが起きたとこがあるかもしれないじゃない」
得意気な市井に保田は言った。
「でも、そんな多くはないだろ?吉澤がいた研究所がわかれば、吉澤の実験データもあるはずだ」
ガタッと市井が席を立つ。その顔は戦いを前に勝利を眼にした戦士の顔をしていた。
「それにそこの研究所はきっと獣化に関するデータがたくさんあるはず。それを手に入れれば、吉澤の腕と手を元に戻す方法が見付かるかもしれない」 
「ホント!?」
後藤が嬉しそうに言った。市井は大きく頷く。石川と吉澤も小さな希望に少し笑顔を見せた。
「確かに吉澤がいた研究所がわかれば、の話ね。まずはそれを調べないと進めないわ。でもコンピュータからじゃ、もう限界だし…」
冷静な保田は腕を組んで、黙った。そこに市井が両手を食卓のテーブルにバンッと音をたてて、ついた。
147 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/02(金) 21:42
「―――本部に乗り込もう」


………。


三秒くらいの間。

「ちょ、ちょっと!何でいきなりそうなるのよッ!」
一番にハッと我に返った保田が慌てる。
「研究所を管理してるのはおそらく軍の裏組織だろ?なら、軍の本部に乗り込んで…」
「敵の陣地に足を踏み込むのよ!?見付かったらどうすんのよ!」
「見付かんないように作戦を考えるよ。それにコンピュータからの侵入はもう限界って圭ちゃん言ったじゃん」
「それはッ…そうだけど!もし“私たち”ってバレたら―――」
「―――私は構わないよ」
保田が止まる。静かになる食卓のテーブル。
他の三人は市井と保田についていけず、言い合いする二人をハラハラしながら見守っていた。

(紗耶香……アンタ、そこまで…)

(圭ちゃん。私はあの場所から去った時から覚悟してたから。生命をかける覚悟を…)

真剣な眼差し、しかし何処か暖かい眼差し。保田はそんな市井の眼差しに何も言えなくなってしまった。
「…わかったわ」
長い沈黙の後、保田はため息をついてそう言った。
「ありがと、圭ちゃん」
市井は笑って、感謝の言葉を口にした。
148 名前:アルマジロ 投稿日:2006/06/02(金) 21:49
本日の更新は以上です。

>141 名無飼育様。
     石川さんの存在、秘密とは何なのか…早くそこを書きたいです(^−^;
     ( ^▽^)<私、まだ知らないのよね…自分の役なのに…。
     (;`_´)<ホントにごめんね。まだ台本が出来上がって無くて…。
     次回もお楽しみに♪

    
149 名前:名無飼育改めTea Break 投稿日:2006/06/03(土) 16:27
マサオさんは悪く無いよぉ
柴ちゃんが悪いとは恐ろしくて言えないですけど。w

今度のアタックで保田さんと市井さんがなにか掴んできてくれる事を祈りつつ、
次回の更新も楽しみにしています♪
150 名前:ミッチー 投稿日:2006/06/04(日) 13:17
更新お疲れ様デス。。。
石川さんも辛い過去があったんですね。
石川さんを助けるときの市井さんの登場の仕方がかっこよかったです☆
膨れてる後藤さんはカワイイっす(w
次回も期待してます♪
151 名前:アルマジロ 投稿日:2006/06/08(木) 19:23
だいぶ更新が止まってしまいましたが、ここ一週間風邪をひいてしまい
更新が出来ない状況になっていました。今はだいぶ良くなりました。
近々更新したいと思います。そして、レスありがとうございます!
とても励みになります、ホントに。続き頑張ります!
お礼レスは次の更新の時にします。それでは。
152 名前:Tea Break 投稿日:2006/06/09(金) 01:40
それは大変でしたね。今は快方に向かっているという事で安心しました。
マッタリ続きを楽しみにしています♪^^
153 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/11(日) 15:25
今夜はもう話を終え、遅い夕飯を食べ、各自就寝の支度をした。
吉澤は風呂から上がるとすぐに部屋に引き上げた。
「…怖いなぁ…まるで爆弾抱えてるみたいだ」
真っ暗な部屋の中でハッキリは見えないが自分の右手を眺めた。自分が抱えてる爆弾。
コレのせいで自分の生命はもうそう長くは無い。
「こんなの…無きゃいいのに…こんなの…いらないよ…!」
右手を抱えてるようにしてうずくまった。
身体はガタガタ震え、迫り来る恐怖が自分のココロを襲う。
その時、部屋の扉がノックされた。
「ひとみちゃん?入るよ?」
扉が開くとそこには石川が立っていた。
風呂から上がるとすぐに部屋に行ってしまった吉澤を心配し訪ねて来たのだった。
「梨華ちゃん…」
ムクリと起き上がり正座をしたような状態で吉澤はボーッと石川を見ていた。
石川はとりあえず部屋の電気を付けて、部屋の中を明るくした。
「電気はちゃんとつけないとね」
吉澤の傍に歩み寄り、座る。しばらく会話は無く沈黙が流れた。
石川は吉澤が口を開くまでずっと待つ。そしてゆっくり吉澤の口が開いた。           
「…うち…怖いんだ…市井さんや保田さんに話聞いて…すっげぇ怖くなった…」
もう話を聞いてる最中に恐怖はあったが最後まで聞かねばと思い必死に耐えた吉澤。
そんな吉澤を隣から見ていた石川にはわかっていた。
「怖いよね…でも、ひとみちゃんは一人じゃないわ。私がいるし、市井さんや保田さん、ごっちんに安倍さん…みんなが傍にいるよ」
石川はそっと吉澤を自分の方に抱き寄せる。吉澤はそのまま身を任せた。
「一人で怯えないで…」
石川の暖かさに吉澤は救われるような気持ちになっていた。
「梨華ちゃん…ありがとう」
吉澤が安心して眠れるまで石川はずっと吉澤を抱き締めていた。
154 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/11(日) 15:27
市井はリビングで酒を出して飲んでいた。
「市井ちゃん、お酒はほどほどにしてよね」
と言いつつも酒を注ぐ後藤。
「…こんな日は飲みたくなるんだよ」
そう呟いて市井は手に持っているグラスの中に入っている酒をグイッと飲んで空にした。
「いろいろ、話したもんね」
「まぁな…」

(まだ話して無いこともあるんだけどな……)

市井はぼんやりと空になったグラスを眺めてそう思っていた。
「あーぁ、あたしも一緒に飲めたらいいのに」
酒の瓶を眺めて後藤が言う。
「市井ちゃんも一緒に飲む相手がいた方がいいでしょ?」
そう言う後藤を市井は素直に可愛い奴だと思い、笑った。
「んなことねぇよ」
酒が飲める飲めないなんて関係ない。ただ傍にいてくれるだけでいい。
後藤が隣にいてくれる、市井はそれだけで充分だった。
「そうかなぁ。あ、圭ちゃん呼んで二人で飲みなよ」
ソファから後藤が立ち上がる。市井は保田を呼びに行く後藤の腕をすぐに掴んだ。
「いいから。ココにいろ」
そう市井に言われ、後藤はキョトンとした顔をしていた。
「大体さ、さっき酒はほどほどにってお前言ったじゃん…」
そうブツブツ呟く市井を後藤は見て笑った。すとんと元の座ってた位置に戻る。
「じゃぁ、ココにいよっと」
「あぁ。そーしとけ」
こうして夜は更けて行った。
155 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/11(日) 15:30
翌朝――保田はいつもの時刻にキッチリ目を覚ましていた。顔を洗う為に部屋を出て、下の階へ向かう。
すると、いつもはもう石川が朝食を作っている音が聞こえるはずなのに今日は全く物音がしないことに気付いた。
何かあったのかと焦ってバタバタと音をたて階段を下りる。リビングに入るとそこにはソファで寄り添うように寝ている
市井と後藤がいた。テーブルの上には酒の瓶。
「こんなとこで寝たら風邪ひくじゃないのよ」
ぐっすりと眠っている二人を見て保田は呆れて笑った。そして次は一階にある吉澤の部屋へ向かった。
「あらあら…こちらも」
吉澤をギュッと抱き締めるようにして眠っている石川。吉澤は安心したようによく眠っていた。
保田は二人にそっと布団をかけて起こさないように静かに部屋を出て行った。
それからまた二階に上がり、薄い毛布を持って下りた。
「今日はよく寝てなさい」
薄い毛布はリビングのソファーで眠っている二人にかけられた。
そして保田はキッチンに置いてある石川愛用の可愛いピンク色のエプロンを手にした。

「今日は圭スペシャルモーニングねッ!」

156 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/11(日) 15:33
午前十時頃―――眠りから覚めた四人は食卓のテーブルにて固まっていた。
「こ、これは……」
市井は頬をピクピクさせながら目の前に置かれた物体を見ていた。
「何だろーね…」
あまりのすごさに後藤は眠気がすっかり覚めて驚いていた。
「……保田さん、どうしたんでしょうか…」
目の前に置かれた物体を見て石川は絶望的になっていた。
「これ…食えるんすか…?」
泣きそうな吉澤の問いには誰も答えてくれなかった。

黒コゲになった何かが皿の上に乗っている。
茶碗に入ってるご飯は何だか少しベチョベチョしている。

「みんな♪どーしたの?食べていいのよ?」
トレイに味噌汁が入ったお椀を乗せて保田はやって来た。
「ほらほら、冷めちゃうわよ!」
かなりの機嫌がいい保田は張り切ってお椀を四人に渡す。
「や、保田さん…起こしてくれれば私がやったのに」
「いいのよ。たまにはアンタも遅くまで寝たいでしょ?」
「ってか圭ちゃんも遅くまで寝てれば良かったのに〜」
「いいの。眠くないから」
「んぁ…圭ちゃんってホント決まった時間しか寝ないよね」
「そうしないと調子が狂うのよ」
なるべく会話をして保田が作った朝食を食べるのを先延ばしする三人。
「ほらほら、食べなさい!」
しびれを切らした保田が言う。すると四人は力無く「いただきます」と言い、箸を持った。
吉澤はおそるおそる目の前に置かれた黒コゲ物体に箸を伸ばした。そしておそるおそるそれを口に持っていく。

もぐっ……。

みるみる内に吉澤は泣きそうな顔になる。

「まずっ……」

慌てて向かいに座っている市井が吉澤の口を手で塞いだ。
「どうかしたの?」
保田がそんな状況に首を傾げる。
「い、いや?吉澤があまりの美味しさに叫びそうになってたから」
しどろもどろで市井が答える。
「そう。あ、それね、スクランブエッグよ。ちょっと焦げたけど、ま、初めてだから許してね♪」

(いや、ちょっとじゃなくてかなりです)

誰もがそう感じていた。
157 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/11(日) 15:38
最悪の朝食の始まり。

ご飯はベチョベチョ、味噌汁はしょっぱい、スクランブエッグは黒コゲ。唯一、救いなのはサラダだった。
四人はちょびちょびとサラダをつつきながら、保田がその場から離れるのを待っていた。
「あ、今日って佐藤さん家からお米を貰う日じゃない?」
思い出したように保田が言った。

佐藤さんというのは、安倍がやっている診療所の村に住んでる人。
よく市井が佐藤さん家の屋根の修理や田んぼを手伝ったりしていて、そのお礼にと米を貰うのだった。

「あ、そうだった。ヤベッ、確か昼に貰い行く予定だった」
ガタッと席を立つ市井の肩に手を置いて保田も席を立った。
「私が行って来るわ♪アンタはゆっくり朝食を食べなさい」
教会のシスターのような暖かい笑顔で保田は言い、出かける支度をしに行った。
「…何か、今日の圭ちゃん、変」
後藤の呟きに他の三人は同時に頷いた。

保田が出かけると、かなりヤバイ保田が作った朝食は片付けられた。
本来ならば自然の恵みを無駄にしてはならない。だが、今回はあまりにも酷かった。
全員でごめんなさいと謝り片付けられた朝食。そしてさすがにサラダだけでは満腹にならないので
石川が作った冷やしうどんを食べ、一同はやっとホッと一息ついていた。
「にしても、アレはヤバかった」
食後の茶を飲み、市井はため息をついた。
「圭ちゃんの作った料理初めて見たよね〜」
「やっぱり私が早く起きてれば…」
「梨華ちゃんは悪くないよ!アレは……保田さんが悪い…のかな」
「吉澤、アレは明らかに圭ちゃんが悪い。まぁ、本人気付いてんのかわかんないけど」
「そーいえば、圭ちゃん全部食べてたよね」
「自分で作ったからやっぱり自分は全部食べなきゃと思ったんじゃない?」
「でも…アレが普通に食べれるなんて、かなり味音痴なんじゃ」
保田の料理はもう二度と食べたくないと誓った四人だった。
158 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/11(日) 15:42
―――実験室にて紺野は飯田が早く来ないかとそわそわしていた。
今朝早くに飯田から電話があり、すぐにこちらへ向かうと連絡があった。            

(きっとあの話だ…早く聞きたい)

前に頼んでいたある人物の調査の話だと紺野にはわかっていた。
「紺野博士、この数値なんですが…」
研究員が実験結果の書類を持ってやって来たが紺野は気付かない。
「…あの?」
気付かない紺野に研究員は何度も声をかけた。
「…あっ、すみません!私としたことが…」
七回目の研究員に声かけでやっと紺野は気付いた。
「いえ。お疲れですか?なら休まれた方が…」
気遣う研究員に紺野は微笑んで「大丈夫です」と言い、実験の研究に戻った。

それから一時間後、飯田はやって来た。
その表情は固く、いつもの穏やかさは無い。暗い面持ちで紺野の部屋に向かった。
紺野はというと、飯田が来たという報告を受けるとすぐに実験室から出て行った。
廊下を走る彼女は珍しく、廊下にいた研究員たちを驚かせていた。
焦る気持ちを抑えながらエレベーターに乗り最上部へ向かう。
「飯田さん!」
エレベーターが着き、扉が開くと見覚えのある後ろ姿が紺野の眼に飛び込んで来た。
飯田は振り返り、いつものように微笑んだが紺野には少し違和感があった。
そんな気持ちを抱きながら飯田の元へ駆け寄る。    
「走って来たの?」
走ったことにより髪が少し乱れている紺野に飯田は優しく紺野の髪を撫でた。
「はい」
「…そっか」
紺野は見逃さなかった。飯田の眼に一瞬だけ悲しみの暗い影がよぎったのを。

(何かあったのかな…)

妙な胸騒ぎを抱えながら奥にある部屋に向かった。
159 名前:アルマジロ 投稿日:2006/06/11(日) 15:58
本日の更新は以上です。

>149&152 Tea Break様。
         風邪はもうすっかり良くなりました(^−^
         次のアタックで大きな進展がありそうですよ(w
         続き頑張ります〜。

>150 ミッチー様。
     登場人物は全員何かしら暗い影みたいのがありますから、
     結構みんな辛い過去を持ってたりするんですよね。
     この物語の市井さんはかっこよくっていうのがモットーです(w
    
今回何だかほぼギャグな更新でしたが…シリアスなの最初と最後だけ(−_−;
次回ではまた新たなメンバーが増えます。っていっても名前だけですが。
では、また次回に!
 
160 名前:Tea Break 投稿日:2006/06/12(月) 18:27
回復されたんですね!良かったです。^^
圭ちゃんの料理が出てきた時は思わずサスペンスが始まるのかと思ってしまいました。w
次のアタックに注目ですね!その前に圭ちゃんのアタックで全滅しそうでしたけど。(苦笑)

 |.∀´)y-~~ 聞こえてるわよ

次の更新も楽しみにしてますんで頑張って下さい♪
161 名前:ミッチー 投稿日:2006/06/13(火) 02:09
更新お疲れ様デス。。。
風邪引かれてたんですね><;偶然です。私も引いてました(w
保田さんの料理にビックリですね。
もう保田さんが石川さんよりも早く起きることがないように願います(w
次回も楽しみにしてます☆
162 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/17(土) 21:42
「紅茶でいいですか?」
「うん」
紅茶の用意をする紺野を眺め、飯田は眉をひそめた。

(…本当のことを話したら、この子はどうなっちゃうの…)

今ならまだ引き返せる―――他愛のない話をして、帰ればいい。
まだ“あの話”をしに来たとは言ってはないのだから。
飯田はココロの中で迷っていた。
「飯田さん?」
ハッと我に反り飯田は顔を上げた。そこには既に紅茶の用意を終えた紺野がいた。
紺野の眼は飯田に真っ直ぐ向けられていた。そして、ゆっくり口を開いた。
「―――話して下さい。たとえそれが残酷な話だとしても」
その言葉で紺野は今日何の話をしに来たのかわかっていたことに飯田は気付いた。
今日話そうと思っていた話は決して笑って語れることではないことを。

(顔に出てたかな…)

飯田は頷いて、静かにソファに座った。
「今日来たのは、こないだ紺野に頼まれた調査についてのこと」
紺野も向かい側のソファーに腰かけ、飯田の言葉に耳を傾けていた。
飯田は目の前のテーブルに置かれたカップの中の紅茶に視線を向けた。
「率直に言うよ」    
「はい」
飯田がゆっくり息を吐き、少し間を置く。紺野は膝の上で両手をギュッと握っていた。
「紺野から頼まれた───小川麻琴の現在状況は症状が悪化し、もうほとんど歩けない状況だった…」
紺野はギュッと眼を瞑り、俯いた。
「…元気に…元気にしてましたか…?」
紺野の声は消え入りそうな小さな声だった。
「うん…そんな状態になっても、笑ってたよ…笑ってた…」
飯田は涙ぐみながらも微笑んだ。
163 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/17(土) 21:46
家の縁側では市井と吉澤が何処からか見つけて来た将棋をしていた。
庭で後藤はいつものように野菜たちの世話をし、石川も後藤のように花たちの世話をしていた。
「王手」
パチンと市井は王手をかけた。 
「わ、ちょっと、待っ」
吉澤が慌てふためくが市井はニヤッと笑って「待ったなし」と言った。
「大体、お前もうちょい先まで読めよ」
「んな!?さっきルール覚えたばかりなんすよ?無理ッスよぉ」
二人がぎゃぁぎゃぁ言い合っているとそれぞれの世話を終えた後藤と石川が縁側へやって来た。
「もう終わったの?」
「さっき始めたばかりなのに」
市井と吉澤が将棋を始めてそんなに時間はかかっていなかった。
「吉澤負け。っつーわけで今日の風呂掃除は吉澤ってことで」
「はぁ!?そんな賭けしてない!大体、市井さんでしょ?今日の風呂掃除は!」
グワッと立ち上がって吉澤は騒ぐ。
「新入りはそーゆー家のことを率先してやるもんなんだぞ」
腕組みをしてうんうんと頷きながら言う市井。すると後藤は市井の耳を引っ張った。
「へぇ、よく言うよ。家のことはほとんど梨華ちゃんとあたしがやってるのにねぇ」
「イテテテ!痛てぇ!後藤、引っ張んなよッ!」  
「唯一、家のことやるのはお風呂掃除ぐらいだよねぇ?」
更に強く引っ張る後藤に市井は降参した。そんな市井に後藤は涼しい眼で
「市井ちゃん、一週間お風呂掃除ね」
と言って再び庭の方へ向かって行った。
「ちくしょー、マジ痛ぇ」
耳を痛そうに押さえる市井に吉澤は爆笑していた。
するとムカッときた市井が吉澤に蹴りを入れる。その蹴りは綺麗に吉澤に当たった。
「何するんですか!」
「何かムカつくんだよ、お前」
「ひっでぇ。梨華ちゃん、市井さんってずっとこんななの?」
吉澤の言葉にまた市井の蹴りが入る。今度は綺麗に吉澤は避けた。
「うん」
「うんって…石川、そこは否定するとこだろー?」
「だって本当のことだし。それに市井さんはごっちんには弱いんですよね」
石川の笑顔に何も言えなくなった市井は立ち上がって
「…こうなったらピカピカに磨いてやる!」
と言ってずんずん歩いて行った。
164 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/17(土) 21:51
「ってかまだ風呂掃除には早い時間帯じゃ…」
まだ外は太陽が昇っていて、のどかな午後の時間帯だった。
「まぁ、いいじゃない。市井さんやる気になってるみたいだし」
そっと石川は縁側に腰かけた。その後ろで吉澤は将棋の駒を片付けていた。
「いい天気〜」
青く広がる空を眺めて石川が言う。
「梨華ちゃん嬉しそうだね」
そんな石川を見て吉澤は微笑んだ。駒を片付け、将棋板の上に
駒を入れた箱を乗せる。石川は顔だけ吉澤の方に向けた。
「だって何か天気がいいとウキウキしない?」
「ウキウキかぁ…まぁ、確かにするかも」
「でしょ?」
「じゃぁ、雨は嫌い?」
「うーん…やっぱり気分が晴れないし、洗濯物も乾かないから好きじゃないかなぁ」
「そっかぁ。うちは結構好きだよ」
吉澤は石川の隣にあぐらをかいて座った。
「雨はさぁ、確かに気分が晴れないけど、自然にとっては大事なもんなんだよ。
 森の木とか植物とか村の畑や田んぼ…自然が育つには水が必要だから雨は重要な役割を果たしてる」
「そっか…この家の庭にあるごっちんが育ててる野菜とか私が植えた花は、私たちが水をあげてるから育ってるけど、
 あの森とかには雨が必要だもんね」
納得して頷く石川に吉澤は嬉しそうに笑って「それにね」とつけ加えた。
「雨は喜ぶ気持ちをくれるから」
「喜ぶ気持ち?」
「ずっと降っていた雨が止んだ時。雲の隙間から太陽の光が差し込んで、大地を照らす。
 青い空が徐々に広がっていく。運が良ければ虹も見ることが出来る。雨が止んだ時にしか味わえない喜びがそこにある」
吉澤は言い終えると口を閉じた。
165 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/17(土) 21:56
(……誰かが教えてくれた言葉。一体誰が教えてくれたんだろう…)

かつて誰かに教わった言葉。
声はハッキリ思い出せるのに、それが誰かがわからない。
吉澤はその誰かが思い出せないのが悔しかった。
きっとその人のおかげで雨が好きになれたのだから。 『雨って悪くないでしょ?』

一体この人は誰なんだろう?

「―――とみちゃん!ひとみちゃん!?」
吉澤がハッとすると心配した顔の石川が自分の顔を覗き込んでいるのに気付いた。
「あぁ…ごめん」
「大丈夫?」
「うん」
吉澤の笑顔が見れると石川はホッとした。
「自然って言えば、ひとみちゃんは太陽だね」
石川の言葉に吉澤は?マークを浮かべた。すると石川は吉澤の髪に触れた。
「綺麗な金色の髪。太陽みたいに眩しくて」
サラサラとした髪は石川の手からすり抜けて行く。
「あぁ、そーゆうことか」
「それに」
つけ加えて石川は吉澤の首筋辺りに顔を埋めた。
「り、梨華ちゃん!?」
いきなりの行動に慌てふためく吉澤。
「ほら、お日様の匂いがする」
石川は笑ってそう言い、離れた。その時吉澤は少し名残惜しそうな顔に一瞬だけなった。
「太陽かぁ…梨華ちゃんは何だろう」
吉澤は庭の方をチラリと見て、ひらめいたような顔をした。
「梨華ちゃんは花だよ。ほら、あの花みたいな」
吉澤が指差したのはピンク色をした可愛らしい花だった。
「花かぁ。いいね」
「名前にも華ってあるし」
石川は立ち上がって先ほど吉澤が指差したピンク色の花の前まで歩いてしゃがんだ。

(ピンク色の花もいいけど、もっと好きな花があるんだよね)

そっと花に触れ微笑む。

「梨華ちゃん、何してんのー?」
その場に靴が無い吉澤は庭に出ることが出来ずにいた。
石川はスクッと立ち上がり吉澤の元へ歩み寄った。
「ううん。何でも無いよ」
笑って靴を脱いで縁側に上がる。
「市井さんまだ掃除してんのかなぁ」
そう言って吉澤は立ち上がって将棋板を持ち上げた。
「まだしてるんじゃない?ピカピカに磨くって言ってたし…あ、そうだ、何かおやつ作ろっか」
ポンっと手を合わせて石川が言った。
「市井さんきっと頑張って掃除したらお腹すくと思うし」
「…市井さんの為に?」
ムスッとした顔で吉澤は言った。
「そうじゃないけど…ひとみちゃんも食べたいでしょ?」
何故吉澤がムスッとした顔になるのか石川は不思議だった。
「…出来たらうちが一番に食べる!」
そう言って将棋板を持って先に行ってしまう吉澤。
「ひとみちゃんったら食いしん坊なんだから」
クスッと石川は笑って早速おやつ作りをしようとキッチンへ向かった。
166 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/17(土) 22:05
「圭ちゃん!」
車を飛ばしてやって来た保田に安倍は嬉し気に近寄って来た。
「どうしたの?一人で」
「お米を貰いに来たついでになっちの顔でも見て行こうかなって」
診療所の待ち合い室に人はいなく静かだった。
「相変わらず暇そうね」
待ち合い室を見回して保田は言った。
「平穏でいいじゃん」
少しムッとした安倍。でも眼は笑っていた。
「そうそう。なっちに報告しとかないと」
「ん?何?」
「―――そろそろBack Lushが動き出すわ」
保田の言葉に安倍は一瞬止まった。
「……そっか。吉澤さんには全部話したの?」
「うん。大体は。っで、軍の本部に乗り込むことになったから」

………。

「えぇぇ!!?」

少し間を開けて安倍が叫ぶ。
「乗り込むって!?」
「そう、軍の本部にね」
「な、なっ…何で…!?」
「吉澤がいた研究所を見付ける為に本部に乗り込むのよ」
安倍は眼をパチパチさせ、ついでに口もパクパクさせていた。
「まぁ、紗耶香が言い出したんだけど」
苦笑いをして保田は言った。
「…圭ちゃん…危険過ぎない?だってさ…圭ちゃんと紗耶香が本部に乗り込むなんて…誰かに見付かったら」
昨日、保田が市井に言った言葉を今度は安倍が保田に言っていた。
「危険よ。見付かったらタダじゃ済まないわね。でも…」
保田は安倍に微笑んだ。
「紗耶香は頑固だし、一度決めたらそのまま突っ走るから。あのバカを暴走させとくわけにはいかないしね。
 私も行くって決めたわ」
清々しいほどの保田の笑顔に安倍は「…わかった」と苦笑い交じりで言った。
「なっち、サポートよろしく頼むわ」
「うん」

167 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/17(土) 22:18
飯田は泣いている紺野を抱き締めようと近付いた。
その時、飯田のスーツのポケットに入っている携帯が鳴り響いた。
飯田はため息をついて携帯を取り出し、電話に出た。
「―――飯田です」
『飯田さん!?大変なことになってるんですよッ!』
電話は加護からだった。かなり慌てた様子の加護に飯田は眉をひそめた。
「何かあったの?」
『実はですねっ、先ほど南に位置する開発研究所の実験に成功した獣化人が暴走し、
 研究所の地下から脱走したと報告があったんです!』        
加護が説明をしている最中に部屋に備え付けられている電話が鳴り響いた。すぐに紺野がその電話に出る。
「はい、紺野です」
紺野の電話も飯田が加護から聞いた内容だった。紺野が飯田を見て頷いた。
「っで、数は?どのくらい?」
飯田が聞くと加護は言い出しにくいのか『いやぁ、それが…』と言った。
「何よ、早く言いなさい」
『は、ハイ!報告では、数は―――30です』
「さ、30…!?」
飯田は思わず携帯を落としそうになる。
「暴走している獣化人が向かっている方向は何処ですか?」
飯田の後ろでは紺野が受話器を耳に当てながら冷静に地図を広げて話していた。飯田もその地図を見る。
「北ですか…」
「このまま暴走すればいずれは何処か近くの街や村を襲うかもしれない…!」
『と、とにかく緊急に集結し内密に処理をしろと上からの命令です!』
「わかった。私はそのまま現場に向かうよ」
『はい!こちらもすぐに向かいます!』
飯田はすぐに携帯を閉じ、スーツのポケットに入れた。紺野は既に電話を終えていた。
「…紺野、また今度ちゃんと話しよう」
「はい。また」
強く頷く紺野を見て、飯田は急いで部屋を出て行った。
168 名前:アルマジロ 投稿日:2006/06/17(土) 22:31
本日の更新は以上です。

>160 Tea Break様。
     ヽ^∀^ノ<確かにアレはサスペンスだよな。
    ( ´ Д `)<危うく死にかけるとこだったねぇ。
     サスペンスドラマ始まっちゃいますよね(w
     石川さんの料理は大谷さんが作ってますが、保田さんの料理は
     本当に本人が作ったそうですよ。ヤバイです。

>161 ミッチー様。
     ミッチー様も風邪をひかれていたようで…今年の風邪はヤバイですよね。
     マジで死にかけたというか…なかなか治らなくて困りました(−_−;
     (;^▽^)<もう二度と保田さんに料理はさせないわ…。
     ( `.∀´)<何か言った?石川?
     (;^▽^)<い、いえ!何も言ってませんよ!
     石川さんも大変です(w

169 名前:ミッチー 投稿日:2006/06/19(月) 02:21
更新お疲れ様デス。。。
やっぱり、市井さんは後藤さんに弱いんですね(w
このほのぼのとした雰囲気も、本部に乗り込んだらなくなるんでしょうね・・・。
飯田さんの会話に出てきた小川さんは、どういう状況なんでしょうか?
気になりますねぇ。
今、開発研究所で大変な事が起こってますね。
次回も楽しみにしてます☆
170 名前:Tea Break 投稿日:2006/06/19(月) 14:03
更新お疲れ様です。
思わぬ事態がBack Lushのアタックと重なりそうですね。
ひょっとしたら運が転がり込んできたのでしょうか?
あとはタイミング次第ですね。

それにしてもよっすぃーのジェラシーがカワイイなぁ。w
是非ともよっすぃーに一番におやつをあげてね!梨華ちゃん♪
次の更新でなにやら動き出しそうですね。楽しみにしてます!
171 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/23(金) 20:39
野菜たちの世話をしていた後藤は何かを察知したらしく動かしていた手を止め、顔を上げた。

(何だろ…ピリピリした感じの空気…嫌な気配…)

何となく感じるモノ。後藤はしばらくそのままでいた。
そして庭を離れ、家の中へ入って行った。
「あれ、市井ちゃんは?」
キッチンでおやつを作っている石川と吉澤に声をかける。
すると市井は風呂を掃除していると吉澤が答えた。
それを聞くと後藤はすぐに風呂場へ向かった。
「市井ちゃん!」
「おう、後藤。どうだ?すごく綺麗になっただろ〜!」
浴槽だけでいいはずの風呂掃除。なのに市井は床も壁のタイルまで磨いて綺麗にしていた。
「そんなことより」
「そんなことってお前…こんな頑張ったのにそんなことって…それはひでぇだろ…」
後藤はグイッと市井の肩を掴んだ。
「何か変だよ。空気が変」
後藤の言葉に市井の表情が変わる。
「嫌な気配がする…どっかで何かあったのかも」
市井は持っていたブラシを投げ出し自分の部屋へ向かった。後藤も市井の後をついていく。
「後藤、圭ちゃんに連絡とって」
「うん、わかった!」
市井は自分の部屋から通じている地下に急いで向かい、パソコンを立ち上げた。
素早くキーボードを押し、ある場所の通信を聞こうとしていた。    

『……緊急集結……の研究所から…獣化人が脱走…その数……』

途切れ途切れに聴こえる緊急集結命令。市井には何があったのか理解していた。
「後藤が感じたのはコレだな…」
市井は机の引き出しからあるモノ――銃を取り出した。
172 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/23(金) 20:46
ドドドドドド!!!

最高速度のスピードを出して走るバイクが一台。

それに乗ってるのは飯田は現場へと急いでいた。
バイクに内蔵されていく通信機を作動させ、随時連絡が入るようにしていた。

『こちら加護!あと三分ほどで現場に到着します!』
『こちら研究開発の者です!あと五分ほどで現場に到着致します!』


(どうやら私が一番みたいね)

飯田はヘルメットの中から先をキッと見つめた。
遠くで“何か”が地響きと砂煙りをあげてこちらへやって来るのがわかった。
飯田は右手で腰に装着されていた銃を手に取った。
銃口を近付いて来る何かに向けて、グォンとバイクの速度を更に上げた。

(…この暴走を止めるには、殺すしかなさそうね…)

完璧に獣化した人間は貴重なサンプル。出来れば殺さずに元の場所へ戻したい。
だが、眼の前にいる暴走した獣化人を見て飯田はそれが無理だと判断した。

「―――こちら飯田。ただ今現場に到着」


銃声が一つ、晴れた空の下で響いた。
173 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/23(金) 20:48
保田は後藤からの連絡を受けるとすぐに車に飛び乗った。運転しながら携帯で電話するのは危険なため、
車に内臓された無線を使って後藤と電話を代わった市井と会話をする。
「全く、迷惑極まりないわッ!」
最高速度で車は大地を駆け抜ける。
『軍隊の方から緊急集結命令が出てたよ。向こうも焦ってるみたい』
「軍も余計なことをするからこうなるのよッ!とにかく、街や村に被害は出てないのね?」
『まだそれらしいニュースは無い。まぁ、多分軍の方がそうなる前に片付けると思うけど』 
「わかったわ、あと数分で戻るから」
『了解!』
保田は左手で無線を切り、運転に集中する。

(もし、あの家に近かったらマズイわね…今、軍隊に見付かるわけにはいかないのよ)

グッとアクセルを踏んで、保田は一刻も早く家に帰ろうと急いだ。
174 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/23(金) 20:59
加護は現場に到着し、すぐに車から降りると眼を見開いた。一面、血の海となっていたからである。
後に車から降りてきた者たちもその光景に思わず言葉を失った。

血を流し倒れている獣化人たち。

その傍で飯田が立っていた。感情が読み取れない、そんな眼をしていた。
「飯田さん!」
加護が駆け寄ると飯田はゆっくり加護の方を見た。
「…全部、飯田さんが…?」
加護の言葉に飯田は小さく頷き、悲しそうに微笑んだ。
「もうこの暴走は殺さないと止められないって判断したよ…」  
「そうですか…」
元は人間だった。だからこそ飯田はココロを痛めていた。
それはしっかり加護には伝わっていた。
「数の確認頼むね…」
飯田はそう言うとフラフラと自分のバイクに向かった。加護はそんな飯田を心配そうに見ていたが、
すぐに倒れてる獣化人たちの遺体の数の確認を後からやって来た総務調査員たちと共に行った。
すると驚いたことに三体足りないことに気付いた。
「い、飯田さん!数が足りません!27体しかないんです!」
飯田はバイクの傍で休憩していたがすぐに立ち上がった。
「…どっかで進路変更したのか。厄介ね。とにかく見付けないと大変なことになるわ。
 加護、二つにチームを分けて、片方は獣化人の遺体回収。もう片方は車に積んであるレーダー探知機を作動させ、追跡して」
「はい!」
「私はバイクで近くを探してみるから何かあったら連絡して」
飯田がバイクに乗り、すぐさま行ってしまった。
加護は飯田に言われた通り、二つにチームを分けて獣化人の遺体回収とレーダー探知機による追跡を始めた。
「ここから北西に約2キロ離れた場所に反応がありました!」
「了解!すぐに現場に向かって下さい!」
加護は飯田のことが気にかかるせいかレーダー探知機の追跡のチームにいた。
残りの獣化人がいる場所がわかるとすぐに飯田に報告を入れた。それからこの周辺の地図を広げる。
「特に街も村も無い場所やな…ただ近くにやたら広い森があるだけか…」
街や村を獣化人が襲ったら、大騒ぎになる。騒ぎになってしまったら、もしかしたら獣化人体実験がバレテしまう可能性がある。
仮になったとしても野生動物による突然変異として対処すればいいのだが、やはりそれはどうしても避けたいところだった。
近くに街や村が無いことを知り、加護はホッと安心した。
175 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/23(金) 21:08
吉澤はただならぬ雰囲気にオドオドしていた。いきなり市井が切迫詰まったような顔をして、全員をリビングに集めた。
さっきまで和やかだった空気が一変していた。後藤もいつになく真剣な眼差し。
「…市井ちゃん、ヤバいよ」 
何かを感じたのか後藤は真剣な眼差しを市井に向けた。
「近付いてる…確実にこっちに」
「よりによってこっちに来るなんてな…最悪だ」
苛立ちを隠せない市井。
「それに、何かまた別な気配もするよ」
「それはおそらく軍の奴らだろ。…本部に乗り込む前にこんなことになるとは思ってもみなかったな」

(何が起きたんだろう…)

吉澤はただ石川の手を握っていた。そうすることで自分を落ち着かせていた。
「あの、何があったんですか?」
石川も吉澤と同じように不安な気持ちを抱えていた。
「何か、嫌な感じがして、それがどんどん近付いてる」
後藤が少し焦った顔をして答えた。
「さっき軍の通信を聞いたんだ。そしたら、どっかの研究所で獣化人が脱走したらしい。
 後藤が感じてるのは、おそらくそれだ」
市井が言い終えると、外から車の音が聞こえた。市井はすぐに玄関へ向かった。

(獣化人が……)

市井の話を聞いて、吉澤は石川の手を少し強く握った。

「後藤が言うにはこっちに近付いてるわけね?」
帰って来た保田がそう聞くと、後藤は頷いた。
「あぁ、もう。こんな時に厄介だわ…あ、コレ貰ったお米よ。
 あと美味しい炊き込みご飯のレシピも頂いたわ」
お米を吉澤に渡し、レシピの紙を石川に渡す。      
「全くな。こっちに近付いてるとなると当然“おまけ”もついて来る」
「まぁ、とにかく迎え撃つしかないわ。紗耶香と後藤、準備しときなさい」
保田は準備の為に一旦自分の部屋に向かった。後藤も自分の部屋に向かう。
もう準備が済んでる市井は吉澤をチラッと見た。
「…大丈夫か?吉澤」
少し顔が強張っている吉澤は小さな声で「はい…」と答えた。
「吉澤と石川は家の中にいろよ」
市井はそう告げると、バタバタと階段を降りてきた保田と後藤と共に外へ出て行った。
「大丈夫かな…みんな」
石川が三人の背中を見送るとぽつりと呟いた。

「―――ッ!!」

石川が呟いた後、急に吉澤が顔を歪ませ、右手を左手で強く押さえた。ガクッと膝を床につける。
「ひとみちゃん!?どうしたの!?」
いきなりのことに石川は驚いて、吉澤の肩に手を置いた。

(右手と右腕がめちゃくちゃ痛ぇ……ッ!!)

あまりにも激しい痛み。まるで電流が走ったような痛みだった。
「……近付いてるから…?」
「え?」

吉澤のココロに恐怖心が一気に広がった。
176 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/23(金) 21:13
外に出た三人は家から少し離れた大地の上に並んで立っていた。

方角は南。森とは反対の方。 

「獣化人か…元は人間なんだよな」
ふと市井が呟いた。
「でも、今は…人間じゃないわ。被害が出る前に暴走を止めないと」
保田がしっかり正面を見据えて言った。後藤は気配を読み取るのに集中してるのか、眼を瞑り黙っていた。
そして後藤の眼がカッと眼を開いた。
「…三つ!気配が三つある!」
後藤がそう言った瞬間、遠くから地響きが聞こえて来た。微かに大地が揺れている。
「…じゃ、一人一体ずつな」
市井が言うと各自、右手に銃を握った。徐々に大地の揺れが大きくなって来る。
遠くから何かがこっちへ向かって来るのが市井たちには見えた。

その何かが―――獣化人が見えた瞬間、市井は少し眼を見開いた。そして隣にいる保田を見た。
保田は市井が何に驚いて自分の方を見たのかわかっていたが、何も言わず真っ直ぐ前を見ていた。

(…あ、あれが獣化人なのか…!?)

市井はこの時、“初めて”完全に獣化した人間を見た。

しかし、それは市井にとって“初めて”見たわけでは無かった。

そう、市井は数年前に―――獣化した人間を見たことがあった。

「紗耶香、躊躇わずに撃ちなさい!」
ダァン!と銃声が響く。撃ったのは後藤だった。
「市井ちゃん、本気でやらないと死ぬよ」
後藤にはもう過去に獣化人を銃で撃ったことがある。
だから獣化人がどれくらい強いのか、恐いのか、全てわかっていた。
「……ちくしょー…」
市井は悔しそうに言い、大きく息を吐いた。そして、スッと銃を構えた。
隣にいる保田も同じく銃を構える。
「後藤!圭ちゃん!行くぞッ!」
市井が走り出す。残り二人も走り出す。
市井のココロには怒りと悲しみが広がっていた。
177 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/23(金) 21:26
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
吉澤は苦しそうに呼吸をしていた。額には冷汗までもかいていた。
「ひとみちゃん!…どうしよう…!」
吉澤の傍で石川は突然、吉澤の様子が異変してオロオロしていた。
「どうしよう…!…あ、安倍さん!」
思い浮かんだのは診療所の安倍だった。急いでリビングにある電話に向かう。
後ろで吉澤は床にうずくまって苦しそうにもがいていた。
「安倍さんの番号は…ええと…」
焦りのせいかなかなか思い出せず電話の横にある様々な電話番号が記入されているノートを開いた。
安倍の電話番号を見つけ、やっと番号を押し電話をかける。
「安倍さん…お願い、早く出て…!」
祈るように眼を瞑り、受話器を強く握る。

その時、石川は気付かなかった。
リビングから吉澤がいなくなっていたことを。

『ハイ!なっちだよ!』
5回目のコールで安倍が電話に出た。
「安倍さん!石川です!ひとみちゃんが!ひとみちゃんが急に苦しみ出して!」
石川は必死に安倍に状況を伝えた。
『わかった!今ね、ちょうどそっちに向かってるから!もうちょいで着くよ!』
「わ、わかりました!待ってます!」
石川は電話を切り、後ろを向いた。そこでやっと吉澤がいなくなっていることに気付いた。
「ひ、ひとみちゃん!!?何処!?」
慌ててリビングを見回したが、吉澤は何処にもいない。リビングから出て吉澤の部屋に向かう。
そこにも吉澤はいなかった。次は二階に上がり全ての部屋を見たが吉澤はいない。

(何処に行ったの…!?)

階段を降りて、一階も全て探した。
キッチンを見た時、石川はあることに気付いた。
「裏口の扉が開いてる…!」
キッチンにある裏口の扉が少し開いていた。
178 名前:アルマジロ 投稿日:2006/06/23(金) 21:40
本日の更新は以上です。

>169 ミッチー様。
     ( ´ Д `)<もう市井ちゃんなんか知らない!
      ヽ^∀^;ノ<ちょっと待てって!おい、後藤〜…頼むから話を…。
     いつも強気な市井さんも後藤さんの前ではこんな感じになっちゃう(w
     小川さんについてはまだ名前だけということで…詳しくは次の章ぐらいになるかもしれません。
     
>170 Tea Break様。
     (0´〜`)<…(梨華ちゃん、市井さんの為におやつ作って…うぅ、市井さんめ)
     ( ^▽^)<今日のおやつはドーナツ♪(←吉澤の気持ちには気付かない)
     (0´〜`)<…(楽しそうだな…梨華ちゃん…そんなに市井さんが…(←激しく勘違い))
     ( ^▽^)<ハイ、ひとみちゃん♪味見してみて?
     (0^〜^)<え?いいの?やった〜!
     やっぱり鈍感なこの二人(w 『ココロの歌』でもそうでしたが。
     Back Lushアタックの前にちょっとハプニングですね。
     軍隊と接触してしまうか、それとも逃げ切れるか、見所です。
  
179 名前:ミッチー 投稿日:2006/06/24(土) 02:39
更新お疲れ様デス。。。
市井さん達3人は無事に戻って来られるのでしょうか。
心配ですね。
吉澤さんは一体どこに・・・?
180 名前:Tea Break 投稿日:2006/06/24(土) 18:42
更新お疲れ様でッス!

ほのぼのとした午後のひとときが…。
さらなる事態の急変で一気に緊張感が高まりましたね。
何気に孤立した梨華ちゃんが一番危ないのでは。(呼ばれちゃったなっちもw)
続き気になります。楽しみに待ってます!
181 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/28(水) 16:27
外で三人は苦戦していた。獣化人三体中一体は倒せたが、その一体を倒すのにかなり時間がかかっていた。
「くそっ、こいつら強ぇ…!」
全長四メートルほどの大きさ、鋭い爪と牙、ギラギラした赤い眼。
熊のように全身は体毛が伸びていて、もはや人間とは思えない姿をしていた。
「グォォォ!!」
「ぐぁッ!」
獣化人が市井を殴り飛ばした。
「市井ちゃんッ!…この〜市井ちゃんに何すんのッ!」
後藤が銃を発砲しながら市井の元へ駆け寄る。
「いてぇー……」
「市井ちゃん大丈夫!?」
倒れてる市井に後藤は手を差しのべ市井の身体を起こした。
「大丈夫だ…」
「あたしが前に戦った時よりかなり強くなってるよ…」
よろよろと市井は立ち上がる。目の前では保田が銃を休む暇もなく撃っていた。

(確かに…強くなってる…“あの頃”よりも…)

市井はグッと歯を食い縛り、右手の銃を握り直した。
「後藤!眼狙えるか?」
「やってみる!」
後藤が保田の方に走り出す。市井は反対の方に走り出した。そして獣化人の後ろの方にに回った。
「グァァ!!」
後藤が発砲した弾が獣化人の眼に当たった。獣化人は眼をやられ、苦しそうに唸り声をあげた。
「圭ちゃん!心臓狙って!」
声の限り市井は叫ぶ。市井の声を聞いた保田はすぐに心臓を狙って発砲した。
市井も後ろから心臓を狙って発砲する。獣化人は血を大量に流し、その場にゆっくり倒れた。
獣化人が倒れると三人は黙り、複雑な気持ちを噛み締めていた。
「あれ、あと一体は?」
後藤がハッと気付いた。大地には二体倒れている獣化人がいる。

───もう一体がいない。

「ヤバい!もしかして家の方か!?」
少し離れた場所に家がある。まわりを見渡していないということは家の方に行った可能性がある。
三人は慌てて家の方に向かって走り出した。
182 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/28(水) 16:30
吉澤は床を這いずるようにしてリビングからキッチンへ向かった。

(右手と腕がめちゃくちゃ熱い…何かが動いてるみたいだ…ッ!)

息も荒く、心臓の鼓動が速い。キッチンの裏口の扉を開く。
倒れるように外へ出た。裏口から出ると森が見える。
今の吉澤にはその森が闇にしか感じなかった。

(恐い…ッ!恐いよ…ッ!)

もう闇には戻りたくない。

もうあの場所は嫌だ―――

「うぁぁ…嫌だ…嫌だ…!」

呻き声が響く。

光のある場所を求めていた。

(…梨華ちゃん!梨華ちゃん!何処!?)

吉澤は石川を思い出し、キッチンの裏口へ戻ろうとした―――が。
ふっと影が吉澤に落とされた。
「グォォォ…」
低い唸り声が吉澤の耳に届いた。

(……な、何…?)

吉澤が振り向くとそこには最後の一体である獣化人がいた。
「……これが…獣化人…!?」
この瞬間、吉澤の右手と右腕に異変が起きた。

(何だ…これ…!?)


ドクン、ドクン、ドクン。


右手と右腕の血管が大きく脈打つ。

燃えてしまうような熱さ。

ナイフで刺されたような痛み。

「うあぁぁぁぁ!!!!」

吉澤の叫び声が辺りに響く。

身体は恐怖で震えていた。
183 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/28(水) 16:34
「ひとみちゃん!?」
裏口の扉が開いていることに気付いた後すぐに吉澤の叫び声が聞こえ、
石川は慌てて裏口の扉に手をかけた。
「ひとみちゃん!大丈夫―――ッ!?」
目の前の光景に石川は驚いた。思わずその場に座り込みそうになる。

(…ひとみちゃんなの…!?)

右手と右腕が明らかに人間の大きさではなかった。その部分のシャツが破けている。
爪が大きくて鋭く、掌は顔と同じくらいの大きさになっていた。
「ぁあ…うぁ…!」
そんな状態になってしまった吉澤は苦しそうに唸っていた。

(どうして…そんな…!)

石川はどうすることも出来ず、ただその場で吉澤の名前を呼び続けた。
しかしそれが吉澤に届くことは無かった。
「グォォォ…」
獣化人の唸り声。その時初めて石川は獣化人の存在に気付いた。

(何あれ…!?…もしかして…あれが獣化人…!?)

獣化人が吉澤に巨大な腕を振り落とそうとしていた。
石川はこのままじゃ吉澤の身が危険だと思い、近くに置いてあった使っていない空の植木鉢を獣化人に投げつけた。
植木鉢は大きく音をたて、割れた。
「グォォォ!!」
獣化人の関心が吉澤から石川へ変わる。ギラギラした赤い眼が石川を捕える。

(ひとみちゃんから関心を動かせたのはいいけど…それからどうすればいいの…!?)

獣化人がゆっくり石川の方へやって来る。石川は後退りをするが、家の壁があり逃げ場を失ってしまう。
「嫌…来ないで…!お願いだからどっか行ってよ!」
「グァッ!」
獣化人の巨大な手が石川の首を捕まえ、持ち上げた。石川の足が宙に浮き、首を絞められた状態。
石川は足をバタバタ動かしたり、手で獣化人の手を叩いてみるが効果無しだった。
184 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/28(水) 16:38
(…梨華…ちゃん…が…!)

その後ろで吉澤は急激に変異する自分の身体の一部に苦しみながら
獣化人が石川の首を絞めているのを見ていた。

(梨華ちゃん…を助けなきゃ!)

辛うじて身体を起こし立ち上がる。その時、石川の身体が地面に叩きつけられた。
獣化人が石川を地面に投げたのだ。吉澤は眼を見開いた。石川は地面に倒れ、動かない。
「梨華ちゃんッ!?」
吉澤が言う事のきかない身体を何とか動かして駆け付け、石川を抱き起こす。
石川の頭から赤い血が流れていた。

(血…赤い血…梨華ちゃんの…)

「うっ…うぁ…」
吉澤はゆっくり地面に石川を置くと、自分の頭を抱えた。


リカチャンガチヲナガシテル。

ダイジナヒトガチヲナガシテル。

ダレガヤッタ?

ダレガキズツケタ――――?


その後の吉澤の動きは速かった。吉澤の巨大化した右腕と手が獣化人を捕え、壊していく。
まずは手足を切り裂き、内蔵をめちゃくちゃにし、最後には頭を―――。

その時の吉澤の眼は温かみが感じられないほど冷たい眼をしていた。
そして獣化人は原型を留めない、悲惨な姿へと変わり果てた。

「うあぁぁぁぁ―――!!」

悲しい叫び声は地面を震わせ、森まで届いた。
空はその叫びに反応したのか雨を降らし始めた。

吉澤は何度も雨空に向かって叫んでいた。
185 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/06/28(水) 16:42
「雨……」
辻はベットに横になっていた身体を起き上がらせ、窓の方を向いた。
今日は朝から体調が優れず、今点滴を受けていた。ベットから降り、窓の外を眺める。
さっきまで天気は良かったはずだが、急に雨が降り始めていた。
「まだ起きちゃダメだよ」
部屋に松浦が入って来た。辻は松浦に一瞬視線を向けたがすぐにまた窓の外に戻した。
松浦はやれやれと肩をすくめ、辻の隣に立った。
「さっきまで天気良かったのに、残念だね」
松浦がそう言うと辻は点滴の針が刺さっていない左手を伸ばし、窓に触れた。


「誰かが……泣いてる…」


(大地を…自然を潤してくれる雨じゃない…この雨はとても悲しい雨…)

辻が呟く声を松浦はしっかり聞いていた。

(…やっぱり、この子は他の人間とは違う人間なのね…)

松浦はココロの中でため息をつくと辻の肩に手を乗せ、ベットに戻るように促した。
辻はベットに横になると松浦の手を握った。
「…亜弥ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「―――ごめんね」
辻は悲しそうに言った。その眼はとても悲しい色をしていた。
「何で謝るのかな?」
松浦は微笑んで、辻と手を繋いだままベットに腰かけた。
「……ののがいると、みんなに迷惑かけちゃうんだね……」
松浦の質問には答えず、辻は天井を見上げて誰にともなく呟いた。
「…そんなこと、ないよ」
そんな辻の頭を繋いでない方の手で松浦が撫でる。すると辻はゆっくり眼を閉じた。

(もしかしたら…この子は全てを知っているなかもしれない)

しばらく辻の頭を撫で続け、辻が眠りについたのを見て起こさないように手を離しベットから立ち上がった。

「ホントに……何だか悲しい雨」

冷たい雨が大地に降り注ぐ。窓越しに雨を眺める松浦。
その窓ガラスには静かに涙を流す松浦が写っていた。
186 名前:アルマジロ 投稿日:2006/06/28(水) 16:50
最近、Back Lushの家(アジト?)の間取りを描くのが好きなアルマジロです。
そして、本日の更新は以上です。

>179 ミッチー様。
     三人は無事でしたが吉澤さんは如何に…。
     (〜^◇^)<何か今回の更新は暗いな!
     
>180 Tea Break様。
     かなり緊迫した感じで更新です(^−^;
     石川さん何かヤバイかも…?吉澤さんも。
     
     
187 名前:ミッチー 投稿日:2006/06/29(木) 00:33
更新お疲れ様デス。。。
石川さんの安否が気になります!ダイジョウブなんでしょうか!?
吉澤さんも何だかおかしいし・・・。
う〜ん、どうか無事であって欲しいですね。
188 名前:Tea Break 投稿日:2006/06/29(木) 17:09
更新お疲れ様です。
大変だ!!ホントにヤバイ。(汗
梨華ちゃんの事も気になるし、よっすぃーがどうなってしまうのかも…。
圭ちゃん達が現場に駆け付けた時、どう思うんだろうとか色々心配ですね。
続き楽しみにしてます。
189 名前:アルマジロ 投稿日:2006/07/05(水) 15:10
こんにちは、アルマジロです。

7月に入り、もうじき大学のテスト期間の時期となって来ました。
テスト勉強とレポート作成のため更新が出来ない状況になってしまいました。
アルマジロとしましては更新をしたい気持ちでいっぱいなのですが…。
なのでしばらく更新出来ません。せっかくレスを書いて待っているのに、すいません。
もし、時間が空いたら更新しようと思ってますが…(^−^;

それでは。
190 名前:Tea Break 投稿日:2006/07/06(木) 01:10
こればっかりはいくら柴田さんでも無理ですもんね。(^^;)
テストと課題の提出で大変でしょうが学校の方頑張って下さい。
落ち着いたらまた更新して下さいね!楽しみに待っています♪
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/31(月) 15:43
そろそろかな?楽しみに待ってますよ!
192 名前:アルマジロ 投稿日:2006/08/02(水) 21:13
こんばんは、アルマジロです。

えーと、無事にテストもレポートも終わり夏休みになりました!
まさに地獄の日々でしたが…それももう解放です!
前に更新してから期間がかなり空いてしまい、楽しみに待って
下さってる読者の方々、申し訳ありません(´〜`;)
今週中にはこうドバッと更新…出来たらいいな…と思っております。
(〜;^◇^)<オイ!ちゃんと更新しろよ!オイラの出番早く出せよ!
ドバッと出来るかはわかりませんが、更新は必ずします。

では、その時にまた。

アルマジロでした。
193 名前:Tea Break 投稿日:2006/08/03(木) 23:02
テストお疲れ様でした!
更新を今か今かと楽しみに待っています♪
194 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/04(金) 21:11
市井たちは家に戻る途中、吉澤の異常な叫び声を聞いた。
「気配は…キッチンの裏口!」
走りながら後藤が言う。雨に濡れながらも、庭から裏口の方へまわった。
そして三人は息を止めた。そこにはピリピリとした空気が漂っていた。

悲惨な姿になった獣化人。

雨空に向かって叫ぶ吉澤。

ぐったりして倒れている石川。

何が起きたのか、三人は一瞬でわかった。
それは明らかに吉澤の右腕と右手が異常だったからだった。
「…後藤、石川頼む」
「う、うん」
後藤が石川を抱えて家の中に入った。残った市井と保田は眼を合わせ頷き、吉澤の傍に歩み寄った。
「吉澤…おい、吉澤?」
市井が吉澤の肩に触れようとした、が吉澤は身体をビクッとさせ市井の手を強く振り払った。
吉澤の眼は怯えていて、ひどく混乱している様子だった。
「うぁ……触る、な……」
涙が雨と混じって吉澤の頬を伝う。
「吉澤、もう終わったんだ。家に入ろう?」
市井が手を差し延べる。しかし吉澤は右手でその市井の手を払い退けた。
市井の手の甲が吉澤の鋭い爪により赤い血を流した。それでも市井は諦めず、吉澤に近寄る。
「ほら、このままだと風邪ひくだろ」
「来るな…来るなッ…!」
座ったまま後ずさる吉澤。保田は厳しい顔をして市井を止めた。
「かなり混乱してるわ。何を言っても無理よ。なっちに頼むしかないわ…」
市井は「そうだね」と呟き、悲しい眼をして吉澤を見た。
195 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/04(金) 21:15
飯田は大地の上に何かが倒れているのを発見し、バイクを止めた。
「これは…」
死亡している獣化人が二体。確認するとすぐに加護に連絡を取る。
『なんや、おかしいと思ったんです。いきなり生命反応が無くなったから…』
「二体しかないんだけど、もう一体は?」
『それが、途中でその二体とはぐれたんですけど…それから行方が掴めなくなってしまいまして。
 機械がよう動かへんくて。すいません』           
「そっか。今、生命反応出てるの?」
『いえ、出てません。おそらくもう一体も死亡したかと…』
「わかった」
通信を切ると飯田は獣化人が何故死亡しているのか原因を探った。
最初は投薬による副作用の内蔵破裂かと思ったが、どうやらそうではないことがわかった。
「銃弾…死亡の原因はコレか」
獣化人の身体に銃弾の痕が残っていた。
「一体、誰が…」
雨の中、飯田は呟いた。

一体誰がこんなことをしたのか―――。


(綺麗に心臓を狙ってる…)


飯田の頭の中にある人物が浮かび上がる。


(まさか…あの二人が…?)  


飯田はしばらく考え、眼を瞑り首を横に振った。
そして加護たちが来るのを雨の中、待つことにした。
196 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/04(金) 21:21
「やっぱり来て正解だったよ」
安倍は石川の治療が済むと、やれやれと呟いた。保田がしていた電話から何やら嫌な予感がし、後を追いかけた。
その途中で石川から電話があり、家に着くと後藤がぐったりした石川を抱えて泣きそうになっていたのを見つけた。
「梨華ちゃんの傷は塞いだから、もう大丈夫だよ」
リビングのソファでは傷が治った石川が横になっていた。その傍には後藤が安心した顔をしていた。
「なっち、吉澤が」
リビングに保田が入って来た。安倍はすぐに立ち上がる。
「わかってるよ。ちょっと荒治療じゃないと無理かな」
白衣の裾をを翻し、キッチンの裏口へ向かう。裏口から出ると雨の中に市井と吉澤がいた。
「なっち…」
「紗耶香、それ…」
安倍は市井の手の甲から血が流れているのを見つけた。市井は「あぁ」と呟く。
「私は後でいいからさ、先に吉澤を頼む」
「…わかった。ちょっと離れててね」
安倍は吉澤の傍に立ち、白衣の内側のポケットから注射器を取り出した。右手に注射器を握り、吉澤に見せないようにする。
「えーと、吉澤さん?聞こえるかな?今からちょっと眠ってもらうからね」
素早く注射を吉澤の首に打ち込もうとしたが、吉澤が更に素早く反応し避けた。
「嫌だ…やめろ…触るな…!」
「大丈夫だよ。少しチクッてするだけだからね」
再び注射をしようとするが、吉澤は右手で振り払い、避ける。
「やだ…やめてよ…嫌だよ…イイダさん…ッ!」
両手で自分の頭を抱え込むようにして、吉澤はうずくまる。
吉澤の言葉に安倍と市井と保田は反応した。


(((イイダ―――?)))


安倍はすぐにハッとし、吉澤に今度こそ注射をした。次第に吉澤は抵抗しなくなり、眠りへ堕ちた。
市井と保田の二人で吉澤を家の中に運ぶ。
「ねぇ…イイダって」
安倍が言うと保田は「私が知りうる限りでは一人しかいないわね」と言った。
市井は何か考え込んでいるのか黙ったまま吉澤を布団の上に寝かせていた。
197 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/04(金) 21:30
石川が眼を覚ます頃には、外はすっかり夜になっていた。

(私……どうして…)

何故自分が部屋で寝ているのか。しばしボーッと考えて石川はハッとした。
慌てて起き上がるとベットに頭を乗せて眠っている後藤を見つけた。
「あっ…ごっちん」
石川が呟くと後藤が眼を覚ました。
「んぁ……梨華ちゃん?」
「ごっちん、起こしちゃってごめんね」
「ううん。それよりどっか痛いとことかある?なっちが治療してくれたけど」
「何処も痛くないよ。大丈夫」
石川が微笑むと後藤はふにゃっと笑って「良かったぁ」と呟いた。
コンコンとノックがして部屋の扉が開く。そこから市井が入って来た。
「起きたか?どう?具合は」
「大丈夫です。すいません、心配かけて」
「いや、いいんだよ。仲間ってそうゆうもんだろ?」
市井が笑って言うと石川も笑った。
「市井ちゃん。よしこは」
「眠ってるよ」
「そっか。あ、梨華ちゃんお腹すいてない?今日はあたしが作ったんだよ、夕飯」
「そうなの?食べたいな」
「じゃ、支度するね」
バタバタと後藤が部屋を出て行く。市井は黙って窓際に立った。
「市井さん…ひとみちゃんは」
市井と二人になる途端、石川は泣きそうな顔をして市井を見た。
さっきまでは後藤がいたから、後藤に心配かけたくなくて泣きそうになるのを我慢していた。
「ひとみちゃんは…獣化人を見て戸惑ってました…私は植木鉢を投げてひとみちゃんから気を反らそうとしたんです…
 けど、私には獣化人と戦う能力は無くて…」
ギュッと拳を握り、俯く石川。
「私が獣化人に首を絞められて、地面に叩きつけられて…そしたらひとみちゃんは……」
石川の瞳からボロボロと涙が流れ始めた。

(大切な人を傷付けられたことによって、吉澤は突然変異したのか…)

市井はそう思い、泣いている石川の頭に手を置いた。
「私にもっと戦う力があったら…!」

そしたら自分が吉澤を守れるのに。

「…石川、じゅーぶん吉澤を守ろうとしたじゃんか」
「でも、私がやったことは大して戦力にはなってません…」
大きく石川は首を横に振った。

(獣化人に襲われた恐怖よりも自分が吉澤を守れなかったことに対する悔しさの方が大きいなんて…やっぱり見込んだだけあるな)

「石川、その気持ちが大事なんだよ。吉澤を守りたいって気持ちがいつか自分を強くさせてくれる。
 今は何も出来なくても…いつかは何か出来るようになる。その気持ち忘れちゃダメだ」
市井は石川の眼の高さに合わせてしっかり石川の眼を見て言った。
「…はい、市井さん」
「よし。じゃ、飯食え。しっかり食べないと何も出来ないからな」
「ごっちんが作ったんですよね、今日は」
「あぁ、最初圭ちゃんがかなりやる気出して作ろうとしてて。止めるの大変だったよ…」
石川は保田が夕飯を作ろうとするのを必死に止める市井と後藤を思い浮かべ笑った。
198 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/04(金) 21:40
石川が部屋から出て一階に降りる。市井は一緒に下には降りず、保田の部屋へ向かった。
扉をノックすると中から「どうぞ」という保田の声が聞こえた。
「圭ちゃん。あのさ」
市井が部屋に入ると保田は椅子に座ってファイルを開いて読んでいた。
「…紗耶香が何を聞きたいか、わかってるわよ。その前に石川、どうだった?」
「大丈夫そうだったよ。まぁ、なっちが治療してくれたから傷口も塞がってるし。痛みもないみたい」
「そう。良かったわ」
「私の手の怪我もこの通り完璧に治ってるしね」
市井は吉澤の鋭い爪でやられた手の甲を見た。そこには傷なんてモノは無かった。
そして、保田は持っていたファイルを閉じて、市井を見た。
「さっき圭ちゃんは私が何を聞きたいかわかってるって言ったよね…じゃぁ、圭ちゃんは…知ってたのか…」
肩を落とし暗い表情に市井はなった。そんな市井に保田は今、自分が読んでいたファイルを市井に渡した。
市井は不思議そうに保田を見て、ファイルを開いた。
「…私は全てを知ってたわ。まぁ、全てを知った時はもう手遅れだったけど」
保田が椅子から立ち上がり市井の前に立つ。その表情は市井と同じく暗かった。
「圭ちゃん…コレって」
ファイルを読んでいた市井が眉をひそめ、保田を見た。
「私たちがまだ“あの場所”―――軍隊で生きていた頃の獣化人体実験の計画よ」
保田に渡されたファイルには獣化人体実験のことが細かく記されていた。
「…紗耶香がまだ軍隊に入ったばかりの頃からこの計画は始まっていたわ」
「私が入ったばかりの頃から!?」
「…覚えてる?訓練のこと」
保田がそう聞くと市井は小さく頷いた。
「いつも射撃の訓練や武術の訓練をやってたけど、ある時に特別訓練が増えたことがあったわね」
「あぁ…実戦も必要だって聞いたけど」
「そうね。確かにいざ現場に出て訓練のように出来なきゃ意味はない…私も実戦は必要だと思った」
でもね、と保田は付け加えた。そして堅く眼を閉じた。
「私らが特別訓練で戦った相手は獣化人だった……」
市井は保田の言葉を聞くとガクッと床に膝をついてうなだれた。
「やっぱり…そうだったんだ。さっき獣化人を見た時すげぇ嫌な予感がした。もしかしたらって思った。
 見た目はあの時と変わってたけど、あの赤い眼だけは同じだった…」
「あの頃はまだ研究が進んだばかりだったから、大きさも小さかったし強い力もなかった。何より二足歩行じゃなくて四足だった」
「だから…動物だと思ってた。まさか獣化人―――人間だったなんて…!」
ドンッと市井は床に拳を叩きつけた。保田は床に落ちたファイルを手に取るとため息をついた。
「私が軍隊を辞める時、こっそりコピーして持ち出したの、コレ。すぐに紗耶香に見せたかったけど見せたらきっとあんたは怒って、
 敵の陣地に乗り込もうとすると思ってね」
ファイルを机の上に置いて保田は「ごめんね」と謝った。
「…いや、正解だったと思うよ、その判断は」
市井は立ち上がり、小さく笑った。
「今めちゃくちゃ怒ってっから。まぁ、あの頃の自分だったら暴れてたかも」
笑ってそう言う市井を見て保田も笑った。
「ま、とりあえず吉澤の様子を見て、本部に乗り込む計画を進めるか」
「……何か、あんた成長したわね」
「あれから何年も経ってんだよ?成長もするよ」
二人は顔を見合わせて小さく笑っていた。
199 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/04(金) 21:44
吉澤は眼を覚ますとまずすぐに自分の右手を見た。右手と右腕は変異する前の状態に戻っていた。

(良かった……)

ホッとし、そして今自分が布団に寝かされていることに気付いた。
ゆっくり身体を起こすと少しダルさが感じられる。ゆっくり眼を閉じた。

全てとはいかないが、何が起こったのかは思い出せる。

獣化人のこと。

石川が獣化人に攻撃されたこと。

石川の赤い血。

張り裂けそうな痛み。

突然変異した身体の一部。

我を忘れた自分――――

気付いたら獣化人が地面に悲惨な姿で転がっていた。

「自我を失って……うちが殺した」

殺した獣化人も完全に自我を失っていた。

(……もしかしたら、いつか)

自分もあの獣化人と同じようになってしまうんじゃないか。

自我を完全に失ってしまったら。

仲間を殺してしまうかもしれない。

恐い――――

吉澤は両手で自分の顔を覆った。悲しいぐらいにココロが張り裂けそうだった。




────その翌日、吉澤の姿が家から消えた。


200 名前:アルマジロ 投稿日:2006/08/04(金) 21:57
あんまり大量ではないですが、更新しました。

>187 ミッチー様。
     (●´−`)<なっちが責任持って治療したから大丈夫だべさ。
     身体の傷よりもココロの傷の方が問題のようです…。
     (●´−`)<ココロの傷ばかりはなっちじゃ治せないべ…。
     続き頑張ります!

>188 190 193 Tea Break様。
     テストもレポートも無事に終わりついに更新しました!
     吉澤さんが何だかヤバイ状況になってますが…(´〜`0;)ドウナッチャウノ?
     続き頑張ります!

>191 名無飼育さん様。
     長らくお待たせしました(´〜`;)
     (;`_´)少ない更新ですが、これからも頑張りますので温かく見守ってて下さい。

レス感謝です。すごく励みになります!
これからもこの物語をよろしくお願いします。
201 名前:ミッチー 投稿日:2006/08/05(土) 03:32
更新&テストお疲れ様デス。。。
ココロの傷は相当深そうですね。
それはやっぱなっち天使でもムリですか(w
吉澤さん、一体どこに・・・。
市井さん・・・ステキ☆(w
次回も期待してます!
202 名前:Tea Break 投稿日:2006/08/06(日) 15:04
更新お疲れ様です!
かおりんとの接触も近いのかもしれませんね。
圭ちゃんらとの因縁も気になりますが、
よっすぃーの方はかなり深刻ですね。
梨華ちゃんの気持ちが伝わって欲しいと願いつつ
次回の更新も楽しみに待っています♪
203 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/06(日) 22:13
石川は目を覚ますと何だか嫌な胸騒ぎを感じた。

時計を見るとまだ起きるには早い時間。
ベットから降りて、まだ寝間着の上にカーディガンを羽織りそっと部屋を出た。
二階は静かで、まだ後藤と保田は眠っているようだった。石川は階段を降りて一階に向かう。
リビングには誰もいなかった。

いつもと同じ雰囲気の家。

何も変わったとこはない。

だけどまだ嫌な胸騒ぎは治まらなかった。

「…ふぁぁ…あれ、早いじゃん」
眠そうな市井が起きて来た。
「何か目が覚めて…」
「私もだよ。何か年寄りみてぇだなー」
市井は顔を洗いに洗面所に向かって行った。

(気のせいなのかな…)

嫌な胸騒ぎは自分の思い過ごしかもしれないと思い、リビングのソファに座った。
しばらくすると顔を洗った市井がリビングにやって来た。
「…どうした?何か浮かない顔してんな」
石川の様子が変だと感じた市井は首を傾げた。
「起きたら…何か嫌な感じがして」
石川は曖昧に笑って答えた。
「嫌な感じ、か…まぁ、昨日あんなことがあったしな」
「多分私の思い過ごしだと思います…あ、コーヒー飲みますか?」
「おぉ、サンキュ」
石川はコーヒーを用意しにキッチンへ向かった。市井はソファに座り、滅多に見ないテレビをつけた。
ニュースが映ったが昨日の獣化人についての報道は無かった。キッチンから珈琲の匂いがしてくる。

(にしても…昨日、よく軍にここの場所が見付からずに済んだもんだな…)

ぼんやりと市井はそう思い、テレビを消した。
そこへコーヒーを入れたカップを持って来た石川が来た。
「コーヒーです」
「ありがと」
コーヒーを石川から受け取り市井はカップを口につけた。
石川は再びキッチンに戻り、朝食の支度を始めた。
204 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/06(日) 22:17
次にリビングへやって来たのは保田だった。既に起きている市井と石川を見て驚く。
「早いわね、二人とも」
「圭ちゃんもね」
保田は市井の隣に座り、テーブルに置いてあるさっき市井が持って来た新聞を手にした。
「ニュースも新聞も昨日のことについて触れてなかったよ」
「そう…知られる前に軍が対処したか、或いは報道を制限したのかもしれないわね」
二人がそう話していると次は保田のコーヒーを持って石川がやって来る。
「保田さん、コーヒーです」
「あ、ありがとう…ってあんた動いて平気なの?昨日の今日だし、寝てたら?」
「大丈夫ですよぉ。もう何処も痛くないし、安倍さんが治療してくれましたから」
「でも休めばいいのに。朝食なら私が…」
そう言いながらソファから立ち上がろうとする保田を市井は力いっぱい止めた。
「何よ、紗耶香」
「い、石川はもう平気みたいだし、ほら寝てばかりじゃ気が滅入るだろ?な、石川?」
市井が石川に同意を求めると石川は慌て強く頷いた。
「大丈夫ですから!保田さんはのんびり待ってて下さいねっ」
石川はそう言うと急いでキッチンに戻った。市井はやれやれと思いながら元の位置に座り直す。
「変ね。何で二人ともそんなに慌てるのよ?」
保田はジロリっと市井を見た。
「それは圭ちゃんの料理がまずっ……!」
市井は気が抜けたせいかとんでもないことを口走る。ハッとして口を手で抑えた。
「何?」
どうやら保田には聞こえてなかったらしい。
「いやぁ、圭ちゃんの料理はさすごく美味いから、食べ過ぎちゃうんだよ。
 んなことしょっちゅうあったら腹壊すだろ?」
ある意味腹を壊すような料理だったなと市井は言いながら思った。
205 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/06(日) 22:20
朝食の支度が済むようなので市井は後藤を起こしに二階へ上がった。
後藤の部屋に入ると予想通り後藤はスヤスヤ眠っていた。
「後藤、朝だよ」
肩を揺するが後藤が起きる様子ではない。これも市井にとっては予想通りのことだった。
「…ったく、いい加減一人で起きろよな…」
そう呟き、窓のカーテンを一気に開いた。部屋の中が明るくなる。
そして市井は後藤の傍に歩み寄り、後藤の耳元に顔を近付けた。
「お前の好きなオムライス、早くしねーと食っちゃうからな」
ボソッと耳打ちすると後藤の眼がパッと開き、かなり早いスピードで後藤は起き上がった。
「んぁ……」
寝惚け眼で市井を見る。
「もう朝だぞ。さっさと起きて朝飯食え」
市井はそう言うと部屋を出て行った。後藤はまだ眠たげな眼を窓の方に向けた。
「……んぁ…?」
ピクッと眉毛が動く。それからカバッとベッドから降りて窓を開けた。

(よしこ……?)

後藤は慌て部屋を飛び出した。
「やっと起きた?」
「全く相変わらずなヤツだよ」
下で市井と保田が話していると上からドタバタと階段を降りる音が聞こえた。
市井はやれやれと肩をすくめ、「後藤、もう少し静かに――」と言いかけて止めた。
「よ、よしこはッ!?」
後藤の様子がいつもと違うのは他の三人にとって一目瞭然だった。
「いや…まだ起きてねぇけど」
市井がそう言うと後藤はリビングを飛び出して一階にある吉澤の部屋に向かった。
後藤の後を市井と保田が追い、コンロの火を消し少し遅れて石川も追う。
「よしこ!」
バンッと後藤が勢いよく扉を開けた。後藤は中を見渡すとヘニャヘニャと部屋の真ん中に座り込んだ。
市井と保田、石川も中に入って来た。


この部屋に吉澤の姿は無かった。


部屋の隅には吉澤らしく律儀に布団が綺麗に畳まれて置かれていた。
206 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/06(日) 22:24
「よしこ…何で…」

後藤は俯いて呟いた。しばらく誰も喋らず、ただ沈黙だけが流れた。
石川は今にも泣きそうな顔をして吉澤が使っていた布団に歩み寄った。

(ひとみちゃん……)

その時、石川は布団の上に紙が置いてあるのが眼についた。
その紙を手に取り、窓の方へ移動する。

「……“ごめんなさい”…」

石川はその紙に書かれたたった一言の言葉を読んで、涙を流した。
市井がその紙を取り、読んでため息をついた。
「ごめんなさい、か……あいつ、多分自分が私らの傍に自分がいることが危険だと思ったのかな…」
市井は昨日一時的に自我を失った吉澤にやられた手を思い出した。 
「いつか自分も昨日の獣化人になるかもって考えたのね…」
保田がそう呟くと後藤は立ち上がって声を張り上げた。   
「そんな!でもまだ大丈夫じゃん!よしこは人間だよ!元に戻せる方法だって必ずあるよ!
 それを見付に行くのに本部に乗り込むって決めたじゃん!なのにさ…!」
石川は起きた時に感じた嫌な予感は吉澤がいなくなってしまったことなんだと思っていた。

(ひとみちゃん…!!)

「石川!?」
突然石川は部屋を出て行った。保田の声も届かないまま。
「…今更、困るんだよな」
三人になった部屋の中で市井が呟く。
「あいつはもうBackLushのメンバーなんだ」
「市井ちゃん…」
「途中で抜けるなんて、絶対認めねぇ」
市井の言葉に後藤はぶんぶんと首を縦に振った。保田も微笑んで頷いた。
「よし。吉澤を探しに行くぞ!」
残り三人も石川に続いて部屋を出て行った。最後に部屋を出た後藤は一瞬だけ、振り向いた。

(よしこ…)

複雑な顔をしたが、すぐにまた真剣な眼つきをして走り出した。
207 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/06(日) 22:29
石川は森の中を走っていた。

吉澤がこの森にいるかわからないが、石川は何となく吉澤がこの森にいる気がしていた。

(ひとみちゃん!お願い、いなくならないで)

涙を流しながらも懸命に石川は走る。何度も木の根に足を捕られても、転んでも、立ち上がって走り続けた。
しばらく走り続けると石川の視界に見慣れた建物が入った。石川はそのまま走って、その建物の―――教会の扉を開いた。
肩で息をしながらゆっくり歩いて行く。
「……ひとみちゃん…ッ!」
泣くのを必死に堪えて、石川は十字架の下の床に横たわっている吉澤を見た。
すぐに駆け寄り吉澤の頭を自分の腕の中に入れた。見付かって良かったと石川は安堵のため息を洩らし、ギュッと吉澤の頭を強く抱き締めた。
吉澤はどうやら眠っているらしく、石川に気付かない。
「…ひとみちゃん…」
石川はゆっくりと上を見上げた。


―――どうか、お願いです。

ひとみちゃんを助けて下さい。

元の姿に戻れるようにして下さい。


「…んっ…」
吉澤の瞼がゆっくりと開けられる。自分の目の前に石川の顔があるとわかると眼を見開いた。
慌て石川の腕の中から逃れようともがく。だが石川は逃れようとする吉澤を離さない。
「離してよッ!」
「離したらひとみちゃん逃げるでしょ!?」
石川にそう言われ、吉澤は「そうだけど…」と呟いて大人しくなった。
石川に後ろから抱き締められている吉澤。石川はそっと吉澤の背中に頭を傾けた。
「何でいなくなるのよぉ…!」
「……傷付けたく、ないから…」
吉澤の言葉に石川は顔を上げた。
「大切な人たちを…うちは将来、傷付けるかもしんない…そんなの嫌だから…」
吉澤は自分の右手に視線を落とした。
「ひとみちゃん……」
「梨華ちゃん…昨日見たでしょ?…うちが自我を失った姿…今はこうして保ててるけどさ、
 そんなのわかんないじゃん……いつ、また自我を失うかわかんない…だったら今の内にさ、離れた方がいいんだよ…」
石川は吉澤から手を離し、吉澤の前へ移動した。吉澤と同じ眼の高さに合わせて、ジッと見つめた。
「私は確かに昨日、ひとみちゃんが自我を失った姿を見たわ」
さっきまで泣いていたのに石川の声は力強かった。
「だからってひとみちゃんから離れたいなんて思って無いの」
「梨華ちゃん…」
「あの時、私にもっと戦う力があったら私がひとみちゃんを守れたのに…すごく悔しかった」
そっと石川の手が吉澤の右手に触れる。
「だからね、私、強くなる。ひとみちゃんを守れるように強くなるから」
石川は吉澤の右手を自分の両手で包み込んだ。吉澤の眼からポロリと涙が溢れた。
「…私にもひとみちゃんが背負ってるモノ、背負わせて…?一緒に戦おう…?」
吉澤は泣きながら「ありがとう」と言った。泣きながら言ったから上手く言葉には出来て無かったが、その想いは十分石川に伝わっていた。
208 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/06(日) 22:38
後藤は少し涙ぐみながら森の中を走っていた。

(あたしのせいかも…)

前に吉澤のことを信じてみようと思った時に後藤は吉澤にある言葉を言っていた。


―――もし、あたしの大切な人を傷付けるようなら殺す、と。


(よしこ…!お願い!いなくならないで!)

あれから一緒に生活していく中で吉澤は後藤にとって大切な仲間になっていた。
今では信頼出来る仲間の一人にまでなっていた。

足をもつれさせながらも後藤は走った。市井と保田はそれぞれ別なとこを探している。
後藤はまず自分がよく行く川の方へ行ってみたが吉澤の姿は無かった。落胆しながらも走り、教会へ向かった。
すると教会から出て来る石川と吉澤を見付けた。
「よしこ!」
慌てて駆け寄る後藤。
「ごっちん……」
後藤は吉澤が見付かったことに安堵し、その場にへなへなと座り込んで本格的に泣き始めた。
「よし、こ…ごめ、んね…ッ…あたし…よしこ大好き、だよ…前に…ッ…言ったことなん、か嘘だからぁ…」
石川は何のことだかサッパリわからずとにかく後藤を泣き収めようと後藤の背中をさする。
吉澤はしばらく考え、後藤に前、言われた言葉を思い出した。
「いや、ごっちんのせいじゃないから!うちが勝手に思い込んで…」
「でも、あたし、よしこに酷いこと言ったぁ〜…ッ」
「気にしてないから…泣かないで…?」
声を上げて泣く後藤を吉澤はアワアワとしていた。すると後藤は吉澤にギュッとしがみつく。
「あたし、よしこを絶対元の姿に戻してみせるから…!一緒に戦うから…!」
「ごっちん…」
「もし、またよしこが昨日みたいになったら…あたしがそれを止めるからぁ…!」
吉澤の眼にまた涙が浮かぶ。吉澤が石川を見ると石川は微笑んでいた。吉澤も微笑んで、後藤を優しく抱き締めた。
「ありがと、ごっちん」
吉澤のココロは暖かいモノで満たされ、これ以上ない穏やかな気持ちになっていた。

そして後藤が落ち着きを取り戻した頃。
「あ、いた!圭ちゃん!いたぞ〜!」
教会の前に市井が姿を現した。すぐ後に保田も姿を現す。
「ったく、何処行ってたんだ!」
「全く、心配したのよっ」
ツカツカと歩み寄り二人は吉澤に怒った。
「ごめんなさい」
吉澤はペコッと頭を下げて謝った。
「あのなぁ、吉澤。お前はもうメンバーの一人なんだよ。勝手に抜けられたら困るっつーの」
「人数少ないし、これから忙しくなる時にいなくなるなんて、迷惑よ!」
怒られているのに吉澤は嬉しそうに笑っていた。後藤も石川も同じだった。
「一緒に戦うって決めたんだ。リーダーの決定事項には従って貰うからな!」
「さ、早く帰って作戦考えなきゃね」
市井と保田は言いたいことを言うと家に向かって歩き出した。
怒ってはいたものの二人共、吉澤が無事だったことに安心していた。
「市井ちゃんも圭ちゃんも素直じゃないんだから〜」
後藤は笑顔でそう言うと二人の後を追いかけた。
「ひとみちゃん、帰ろ?」
「…うん!」
吉澤と石川は手を繋いで歩き出した。


一緒に戦ってくれる仲間がいる。


自分の居場所がここにある。


(ありがとう…みんな)


時にはくじけそうになる時もあると思うけれど。

仲間がいてくれるから大丈夫。


(戦おう、本当の自分を取り戻す為に―――)


吉澤は前を向いて歩き出した。


仲間と共に、歩き出した。
209 名前:アルマジロ 投稿日:2006/08/06(日) 22:49
本日の更新は以上です。

>201 ミッチー様。
     ヽ^∀^ノ<え?素敵?そんな、照れるな〜。
    ( ´ Д `)<…あたしの前じゃヘタレにしか見えないけどねぇ。
     無事に吉澤さん帰宅(早すぎ?)ココロの傷も仲間たちがいるから大丈夫、かな?(ぇ

>202 Tea Break様。
     川‘〜‘)||<…(早く出番来ないかなぁ)
     そうですね、飯田さんとの接触も近いですね〜。
     多分、次の章くらいにはあると思います!
     今回で、石川さんの気持ちは吉澤さんに伝わったはず(w
        
210 名前:ミッチー 投稿日:2006/08/07(月) 00:35
更新お疲れ様デス。。。
保田さんは料理作る気満々ですね(w
市井さん、もう少しで本当のことを言っちゃうところでしたね(w
吉澤さんは、すでに皆にとって大事な仲間になってたんですね。
仲間がいるから大丈夫ですよね!
次回も期待してます☆
211 名前:Tea Break 投稿日:2006/08/07(月) 20:42
更新お疲れ様です!
本当の意味でみんながそれぞれの荷をお互いに背負いあい
手に手を取りあう事が出来たのかも知れませんね。
今度の事件でもうそろそろアジトにはいつまでも居られなくなりそう。
かおりんの動向も含めて大きな歯車が回りだしそうな予感がしてます。
次回の更新も楽しみに待っています♪
212 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/09(水) 14:20
飯田は獣化人の脱走による長時間の会議を終えると自室に戻った。
会議は徹夜で行われ、正直クタクタになっていた。スーツのままバタッとベッドに倒れ込む。
「飯田さーん」
飯田の部屋に加護が入って来たが飯田はそのまま動かない。
「そのままで寝たら風邪ひきますよ?」
加護はやれやれと思いながら持って来た資料を部屋の机に置いた。
「資料、置いときますね」
加護はそう言って、部屋から退室しようとしたが何も反応しない飯田を
不思議に感じてベッドに近付いた。
「飯田さん?」
飯田の肩を揺さぶってみると飯田はゆっくり起き上がった。
「…大丈夫ですか?」
明らかに疲れた顔を飯田はしている。なのに飯田は無理に微笑み、頷いた。
「ちょっと寝るね。加護はどうすんの?」
ベッドから下りてスーツの上着を脱ぐ。
腰に装備していた黒光りした銃が加護の視界に映る。
加護は自然と昨日見た獣化人の遺体を思い出し、顔には出さないが少し憂鬱になった。
「うちはののに逢いに行きます」
「そっか。私も後で行くよ」
「ほな、行きますね。失礼しました」
頭を下げて加護は部屋を退室した。扉を閉めると加護はしばらくその扉の前にいた。

(…なんや、飯田さん変やなぁ)

会議でもいつもより口数が少なかった。昨日の獣化人について必要最低限しか発言しなかった。
いつもの飯田なら獣化人に関してはうるさいはずなのだが。
「疲れてるんかなぁ…」
そう呟いて加護は長い廊下を歩き出した。
そして、疲れてる飯田に何かプレゼントをしようと考えていた。
「疲れてる時って何が効くんやろ…?」

(ののに相談してみよ)

加護も飯田と同じく昨日の事件やその後の会議で全く寝ていないが元気よく走り出した。
213 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/09(水) 14:27
松浦は自室にてパソコンを起動させ、カタカタとキーボードを叩いていた。
静かな室内はキーボードを叩く音しか存在していない。
「ふぅ……」
手を止め、肩で大きく息をした。それからいつも首から下げているペンダントに手を伸ばした。
ペンダントを開くとそこには松浦と松浦と同じくらいの年の女の子が笑顔で写っている。
「……早く逢いたいよ」
自分の隣に写っている彼女に呟いてみる。
そう呟く松浦の眼は悲しそうな光を放っていた。
「ねぇ…今、何処にいるの…?」
そっと写真に指で触れる。しかし写真の中の彼女はただ笑っているだけで何も答えない。

少しだけ焼け焦げた痕がある写真。

これが松浦にとって最高の宝物だった。

「絶対…迎えに行くから待っててね」

写真の彼女にキスをし、ペンダントを閉じた。
その時机に置いてある電話が鳴り響く。すぐに松浦は受話器を取った。
「―――ハイ、松浦です」
『あ、紺野です。おはようございます』
電話の相手は紺野だった。
「どうしたの?」
紺野からの電話は久しぶりだなと松浦は思った。
『えっと…昨日起きた獣化人の』
「あぁ、脱走したっていうやつ?」
それなら昨日の内にすぐに耳に届いていた。
『はい。昨日、私、飯田さんと逢ってた時にその知らせが入って来て。
 ちょっと気になって…松浦さんなら本部にいるから何か情報が届いてるかなと思いまして』
「うーん、あんまり詳しくは知らないけど。内容が内容だし。この件に関して上は内密に処理したいだろうしねぇ。
 本部に配属してても、総務課とは仕事、別だから」
『そうですか…すいません、突然』
「ううん。こっちこそ役に立てなくてごめんね」
『いえ!そんな、松浦さんが謝ることじゃないですよ。あ、辻さんの容態、どうですか?』
辻という名前が出てきて松浦は目の前にあるパソコンの画面に視線を向けた。
「…どんどん、悪化してきてる。今はそんな目立った症状はないんだけどね。体は確実に弱ってきてて」
『そうですか…やはり回復は無理なのでしょうか』
「わかんないよ。でも諦めたらそこで終わりだし、頑張らないとね」
ギュッと右手でペンダントを握る。

(あたしは諦めない。どんなことも諦めたりなんかしない――─)

『そうですよね!…あ、それと左腕の調子はどうですか?』
紺野にそう聞かれ松浦は白衣で隠れている左腕を見た。
「大丈夫…ちゃんと動いてるよ」
『何か支障があったらすぐに言って下さいね』
「うん…ありがとう」
『それじゃ、また』
受話器を耳から離してゆっくり置いた。白衣の上から右手で左腕を触る。
「……どんな体になってもいい…逢いたい人がいるから」
そう呟くと辻の診察の為、椅子から立ち上がり聴診器を首から下げると部屋を出て行った。
214 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/09(水) 14:36
───その一方、反政府・軍隊組織であるBack Lushはというと。

「んじゃ、作戦開始日は今から一週間後の深夜」
朝食を食べ終え、軍の本部に乗り込む作戦会議を早速していた。
テーブルの上には市井が作った軍隊の本部の見取り図が広げられていた。
「…市井ちゃん」
「何だ?後藤」
見取り図を眺めて後藤が不思議そうな顔を市井に向けた。
「この見取り図さぁ、かなり細かいね。どうやったの?」
ギクリ。市井が固まるが、すぐに「ハハハ」と乾いた笑みを浮かべた。
「そ、それはだな、私のパソコンの侵入テクニックが素晴らしいってことだな!な、圭ちゃん?」
後藤にかつて軍隊に入っていたことを市井と保田は隠している。
いきなり話をふられた保田は動揺しながらも「そうね」と強く頷いた。
「ふーん」
後藤はそう言って、それ以上は聞いて来なかった。

(軍隊にいたから本部の内部は全部知ってる…なんて今更言えねぇよ…)

後藤が大の軍隊嫌いということもあり、市井と保田は隠していた。
しかし、別に隠すことはないだろうと考えるようになったが、やはりもう後藤と出逢ってから何年も経っていた。
本来なら出逢ってすぐに言わなければならないことなのだ。

「つ、次に進むぞ。侵入についてなんだけど、固まって動くよりもバラけた方がいいと思う」
市井は指で侵入するルートを三ヵ所指した。
「データもあちこちの場所にあるから手分けして探して、後で合流する。メンバー分けは私、圭ちゃんと石川、後藤と吉澤。
 この三つに分ける。この図はかなり正確だからこの通りに動けばまず迷うことは無いと思うけど、もし迷ったり何かあった場合は…」
市井はテーブルの上に三つ、四角い形をした機械を置いた。保田以外が覗き込む。
「小型の無線だ。ボタンを押せばすぐに他の無線に繋がる。だけど必要最低限のみ使用すること。
 深夜っつっても、人はいるからな…何か質問は?」
市井が聞くと後藤が「はーい」と手を挙げた。
「もし敵に遭遇した場合はー?」
「なるべくなら避けたい…が、もし遭遇した場合は止むを得ない。犠牲は出したくないけどな」
市井は難しい顔をして腕を組んだ。
「でも気を付けて。銃を発砲したらその音で他の奴らも来るかもしれないわよ」
市井に続いて保田が言った。
「そ、圭ちゃんの言う通り。銃もなるべくなら使わない。…まぁ、接近戦での武術や剣術を優先に戦って欲しい」
「…何か今までのミッションで一番難しい」
後藤は面倒な顔をしてテーブルに頭を置いた。
「とにかく、今から一週間後だ。各自トレーニングちゃんとしとけよ。以上、作戦会議終わり」
市井はガタッと席を立つとリビングを出て自室へと向かった。
その市井を保田は眼で追ったが、小さくため息をついて保田も二階の自室へ向かった。
215 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/09(水) 14:38
「なーんか市井ちゃんも圭ちゃんも変」
後藤は不満気な顔で頬杖をついた。
「変?何で?」
不満気な後藤の言葉に吉澤は首を傾げて聞き返す。
石川もテーブルに置かれているカップをカチャカチャと片付けていたが、意識は後藤の言葉へ向いていた。
「…何か妙にピリピリしてる」
「そう?別に普通だったと思うけど」
「うーん…何か軍隊のこととかに関する話だといつもそうなんだよね」
後藤は頬杖を止めて椅子を後ろの方に斜めに傾けた。天井を見上げてため息をつく。
「こら、ごっちん。危ないでしょ?」
トレイに全てカップを乗せた時、石川が後藤の椅子の座り方に注意をする。
後藤は「ハーイ」と返事をし、傾けていた椅子を直した。
「…あ、ねぇ、トレーニングって何すんの?」
思い出したように吉澤は言った。
「あぁ、よしこは初めてだから知らないか。んーと、まぁ、体力つけたり、接近戦の訓練とか、銃の練習とか」
「接近戦の訓練……銃の練習……」
それを聞いて吉澤は改めて思った。

本当に別世界にやって来たのだと。

もし自分がこの獣のような右腕と右手が無ければおそらく踏み込むことの無い世界だった。


(…やるしかないか)



もう後戻りは出来ない。

前に進む道しか残されてはいない。




―――作戦開始まであと一週間。



216 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/09(水) 14:45
加護は辻に逢いに行こうとする途中で最も嫌いな人物にエレベーターで出逢ってしまった。
「うわわっ」
エレベーターの扉が開いた途端にその人物が見えたので、ついそんな言葉を洩らしてしまった。
「…あのねぇ、いくらあたしのことが嫌いだとしてもそんな言葉言わないで貰えます?とても不愉快です」
と、松浦は最高の笑顔で言った。

(うわ…笑顔だけど、ある意味こっちの方がめっちゃ怖いわ、この人)

加護は「すみません」と謝り、エレベーターに乗り込む。
そのまま会話は無し。加護は静かに苛立ちと気まずい気持ちを抱えながら早くエレベーターが着かないかと待っていた。
斜め前にいる松浦をチラッと見るが表情が見えないので何を考えているのかサッパリわからない。
エレベーターの機械音だけが響いていた。
「昨日」
松浦が突然呟いて、加護は驚いて顔を上げた。松浦は前を向いたまま。
「獣化人が脱走したそうですね」
本部や研究所にいる人間なら誰もが知ってることだったので加護は「はい」と答えた。
「原因は解明されました?」
「…何でそんなこと聞くんです?」
松浦の仕事には関係無い質問に加護は眉を潜めた。
「紺野博士が気にしていたようだったので」
「紺野って……あさ美ちゃん…いえ、紺野博士と面識あるんですか?」
松浦と紺野が連絡を取り合う仲だとは、と加護は驚いた。
「そりゃ、担当する患者が同じだし、いろいろと連絡ぐらい取りますよ」
そう言う松浦の隣に加護は移動した。
「あの、紺野博士は今何処に…?」
少し必死そうな顔をする加護に松浦は視線を向けた。
「あたしの質問は?」
冷ややかにそう言う松浦に加護は内心、舌打ちをした。
「…原因は獣化人を入れていた部屋の扉の鍵が壊され、脱走したと」
「鍵が壊された…?それは獣化人によって?」
「はい。明らかに人為的に壊されたのではなかったので」
松浦はそれを聞くと「そう」と興味無さ気に呟いた。その時、エレベーターが最上階に到着した。
ゆっくり扉が開く。松浦がエレベーターから降り、加護も続いて降りた。
「次はうちの質問に答えて下さい」
「…何でそんなに知りたいんですか?」
長い廊下をコツコツと松浦は歩いて行く。
「また質問ですか。さっさと答えて下さいよ!」
加護が松浦の数歩後ろで怒鳴った。すると松浦はピタッと止まり後ろを振り向いた。
「あなた総務課の一員でしょ?なら人探しは得意中の得意じゃない」

(また質問かい…!いい加減にせーや!!)

加護はギュッと拳を握った。しかしここは辻がいる階の廊下、騒がしくはしたくない。
「…飯田さんに禁止されてるんです。紺野博士について調査することを」
「ふーん…」
松浦は再び歩き出した、がその顔は複雑な顔をしていた。

(飯田さんは何でそんなことを…?…飯田さんがそうしてるならむやみに教えない方がいいのかも)

飯田は何か考えがあってそうしているのだと松浦は思った。
「あの!うちの質問――」
「――研究所」
加護の言葉を遮り松浦は言った。
「え?」
「何処かの研究所にいるらしいですよ。まぁ、何処かは知りませんが」
「研究所……」
加護を残したまま松浦は目の前にある辻の部屋の扉のドアに手をかけたがすぐには扉を開けようとはしなかった。
「今朝、電話で話した時は元気にしてましたよ」
そう言って、左手でノックをして扉を開いた。加護は扉が閉まって行くのをぼんやり眺めていた。

(元気、か…元気ならええんやけど)

ポリポリと頬をかいて、苦笑いをした。
「…何や、あの人は」
案外そう悪いヤツじゃないかもな、と加護は思い部屋の扉を開いた。

───のだが。

「あいぼん!」
「のの!今日はちょっと相談があるんやけど―――」
「加護さん。まずは診察をするので退いてて下さい。邪魔です」

(…やっぱこいつ嫌いや!!)

少しでも良いヤツだと思った自分がバカだった、と加護は後悔したのだった。
217 名前:アルマジロ 投稿日:2006/08/09(水) 14:55
本日の更新は以上です。
…今回、松浦さんの出番が多いなぁ。

>210 ミッチー様。
     (0^〜^)<仲間がいるから大丈夫だYO!
     ( ^▽^)<梨華がいるから大丈夫よ!
     …何なんでしょうね、この二人(笑)
     仲間がいるから頑張れる。素晴らしき仲間パワーです。

>211 Tea Break様。
     ヽ^∀^ノ<アジトから離れるのは心配だけどな〜。
    ( ´ Д `)<あたしの花壇の水やりどうしよう…。
     大きな歯車が動き出します。今からドキドキですよ(ぇ

218 名前:アルマジロ 投稿日:2006/08/09(水) 14:58
…お礼レスでミス発見(泣)

(;^▽^)<ごっちん、花壇じゃなくて野菜畑でしょ?
( ´ Д `)<んぁ…ホントだ。
 ヽ^∀^ノ<全く、間違えるか?ふつー。
( ´ Д `)<…作者が悪いんだよ。

ってなわけで、ごめんなさい(´〜`;)
219 名前:Tea Break 投稿日:2006/08/10(木) 12:11
自分で気付かれたんですね。w ミニコントが見れて得した気分です。ww

さて、今回はもう一方の様子が見れた訳ですが色々と見え隠れしてますね。
あややも?…って感じですが、だとすれば現状のよっすぃーとの違いは?
…と、謎が謎を呼んでいます。(笑)
大きな歯車が動きだしますか!こっちもドキドキして続きを楽しみにしてます♪
220 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/17(木) 20:52
作戦会議の翌日、早朝五時。

まだ完全に陽が昇らない中、静寂な森の中で後藤は眼を閉じていた。
服装は普段よりも動きやすい格好をしていた。


(――――ッ!!)


後藤は何かを察知し、右に飛んだ。
そのすぐ後に後藤がさっきまでいた場所に銃弾が撃ち込まれた。
後藤はそのまま走る。後藤を追いかけるように銃弾が迫って来る。

目の前に木がある。このまま走れば衝突してしまう。
しかし後藤は避けようとはせず、そのまま走った。
そして木に足をかけ、思いきり高くジャンプし太い枝に足を乗せた。
そのまま止まること無く、次から次へと木に走り移る。
もう銃弾は止んでいたが後ろから迫り来る気配を後藤は感じていた。


(……降りるか)


後藤は突如、木の枝から地面に降りた。
すると後ろの気配も後藤を追いかけ降りた―――が、そこに後藤の姿は無い。
キョロキョロと後藤の姿を―――保田は鋭い眼で探した。

その時、上からガサッという音が保田の耳に届く。

保田はとっさにその音がした方向に銃を撃った。
ダァン!という銃声が森の中に響く。しかし後藤の姿は見えない。
保田の動きが一瞬だけ止まる。その時、保田の後ろに後藤が上から落ちて来た。
後藤は着地すると同時に保田に蹴りを放った。保田はすぐに反応し、その蹴りを避けた。
すかさず次は拳を打つ後藤。しかしこれも保田に避けられる。

しばらくその繰り返しが続いた。
221 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/17(木) 20:59
(むー……)

何度自分が攻撃しても相手に当たらない。後藤は次第に苛立ちを覚える。
そして腰に装着していた銃とは別に装着していた短剣に手を伸ばし、素早くその短剣を保田に向かって投げた。
短剣は保田の肩をかすめ、その後ろにある木に刺さった。微妙に保田のバランスが崩れ、後藤はその隙を狙い保田にめがけて走った。
後藤はそのまま保田を地面に力任せに押し倒す予定だったが、後藤が保田に接触する瞬間、保田は少し横に飛んだ。
自分の横に飛び込んで来た後藤の首の後ろを手刀でトンっと打った。
後藤はそのまま地面へうつ伏せに倒れた。

カチャリ。保田はゆっくり銃を後藤の頭に向けた。

「ゲームセット。私の勝ちね」
そう保田は呟き、銃を元の位置へ装着する。後藤はゆっくりと起き上がった。
そして軽やかに立ち上がり、ふにゃっとした笑顔で保田を見た。
「やっぱ圭ちゃんは強いや」
「アンタ、攻撃の仕方がまるわかりよ。大体、武術が当たらないからってイライラしないの」
「あ、バレてた?」
「バレバレよ。すぐに違う攻撃にしてくると思ったわ」
「肩大丈夫?ちょっと当たったみたいだったけど」
「服をかすっただけ。怪我はしてないから」
後藤はスタスタと歩き木に刺さった短剣を抜いた。丁寧にそれを元の位置に戻した。
「にしてもアンタ、素早さが一段と上がったわね」
保田が腕を組んで嬉しそうに笑った。
「そう?自分じゃよくわかんないけど」
「だってまさか短剣が肩にかするなんて思って無かったもの。あの時は少し動揺したわ」
「へぇ。じゃ、その時バランス崩したのはそのせい?」
「あれは違う。ワザとよ。あーすれば後藤のことだからすぐにその隙をついて来ると思ったのよ」
「むー。あたしをハメたんだ」
「騙される方が悪いのよ、この場合は。さてと、向こうはどうなってるかしら」
「よしこ?…市井ちゃんスパルタだからねぇ…泣いてたりして」
しばらく話をして二人は早朝のトレーニングを終了し、家へと戻り始めた。
222 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/17(木) 21:04
───後藤の予想通り、家の近くにて吉澤は半泣きしていた。
「吉澤!止めるな!」
「もぉ、無理ッスよ〜…」
まず新入りは体力をつけることからトレーニングが始まる。
「そんなんじゃ勝てねーぞ!」
「でも〜…」
「腹筋あと百回!」
「マジ…?」
「大マジだ!」
吉澤はひたすら腹筋をする。空は次第に明るくなって行く。
早朝からやっていたのでもう全身に汗がびっしょりかいていた。
「あの〜市井さん」
近くで吉澤を見守っていた石川は小さく手を挙げた。
「私もトレーニングしたいです」
そう言う石川に市井は「あぁ」と思い出したように呟いた。
「石川はな、体力を鍛えるんじゃなくて、知力を鍛えて貰うから」
「…えっ?知力、ですか…?」
石川のココロに不安がじわじわと溢れ出す。それが顔に出ていた。
市井は笑って石川の肩を軽く叩く。
「大丈夫だって。覚えれば簡単だから。石川は午後に教えるから、朝飯の支度してて」
市井にそう言われ、石川は吉澤に「頑張って!」とエールを送り家の方へ走り去った。

石川が朝食の支度を済ませ、先に帰って来た後藤と保田が朝食を食べ終えた頃、市井とボロボロになった吉澤が帰って来た。
「もぉ…ダメ…」
ソファにぐったり倒れる吉澤。石川が慌てて吉澤に駆け寄る。
「市井ちゃん、厳し過ぎるよぉ」
後藤が食後の茶を飲みながら隣の席に座る市井に言った。
「これぐらい厳しくしないと駄目なんだよ」
市井の言葉を聞いて、後藤と同じく茶を飲んでいた保田が共感するように頷いた。
「確かに、そうね。自分の生命に関わることだし」
自分の生命は自分で守る。それがこの組織の鉄則だった。
「後藤の時も同じくらい厳しくしてたしな」
市井がそう言うと、後藤は「あ〜、そうだったね」と懐かしむように言った。
「でもあたしは辛いとか思わなかったなぁ。もう全てが憎くて仕方なかった頃だったし。
 その憎いっていうのを全部市井ちゃんとの訓練にぶつけてた」
苦笑いを浮かべる後藤に市井はその後藤の眼を直視出来なかった。

「ひとみちゃん、大丈夫?」
心配そうな顔をして石川は吉澤の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫だよ…ハハハ…こんなんでヘコたれるなんて情けないね…」
吉澤は無理に笑い、そう言った。すると石川は「そんなことない」と首を横に振った。
「まだ始めたばかりじゃない。少しずつ重ねて行けば必ず大きな力に変わるから、ね?」
「梨華ちゃん…」
二人が見つめ合っていると「吉澤!さっさと朝飯食え!」と市井の声が飛んで来たのだった。
223 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/17(木) 21:08
朝食が終わると少し休憩を入れ、すぐにまたトレーニングが始まる。
相変わらず吉澤は腹筋、腕立て伏せ、走り込みなどの繰り返し。
市井も今度は吉澤を監督するだけでは無く自分も吉澤と同じメニューをしていた。
市井は吉澤と違って余裕でメニューを消化していく。
そんな市井を見て吉澤は“負けたくない”という対抗心をメラメラと燃やし、弱音を吐くことなく黙々とトレーニングに励んだ。

(絶対…負けたくない!)

これも市井の作戦の内だと吉澤は気付いて無かった。


後藤はというと呑気に庭にある野菜たちの世話をしていた。
「んー…いない間どうしよ」
一週間後、この家の者は皆外出してしまう。その間、野菜たちの世話をしてくれる人がいない。
前の時はそんなに野菜が無かったから、出来た野菜は全て採っていた。
だけど今回は野菜の種類が多く、まだ熟してない野菜が多いのでそうもいかない。

(すぐに帰って来れるかなぁ)

「ごっちん、どうしたの?」
洗濯籠を持って石川が庭にやって来た。
「いない間、野菜どうしようかなって」
「あ、そっか」
「一日ぐらいじゃ大丈夫だけど…」
「私の花壇も…」
後藤は「諦めるかぁ」と残念そうに呟いて野菜畑から離れて縁側に座った。
「雨が降ればいいけど」
石川はそう言って、洗濯物を干し始めた。
「雨……あっ!」
後藤が閃き、立ち上がった。石川は驚いて振り返る。
「雨だよ!雨を降らせばいいんだ!」
「ごっちん…?でも雨って思い通りには……あっ」
石川はある人物が思い浮び、ピタッと動きが止まった。
後藤はふにゃっと笑い「いるじゃん。雨を降らせることが出来る人」と言った。

早速二人は安倍に連絡を取りに電話へ向かった。
224 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/17(木) 21:18
保田は自室にて愛用の銃の点検をしていた。
「コイツとも長い付き合いわね…」
軍に入隊してから今まで、戦う時はいつもこの銃と共に戦って来た。
保田にとって戦友である銃だった。
「…また頼むわよ」
部屋には保田お気に入りのクラシックの曲を流す。銃の点検が一通り終わると、銃を丁寧に腰に装着した。
今から銃の練習に入るのだが、曲を止め部屋を出て行こうとした時、少しだけ開いた机の引き出しに眼が行った。
昨夜ちゃんと閉め忘れたのだろうと思い、机に近付く。机の引き出しを開くとそこには資料のファイルやノートが整頓されて置いてある。
保田はファイルを一つ手に取った。ゆっくりそれを開く。


《研究所火災事件》


まだ保田、市井が軍隊にいた頃起きた事件。
そしておそらくこの研究所では獣化の人体実験が行われていたと考えられる。


《不自然な焼死体。鋭い爪及び牙が発見される。その数、五体》


《この件に関して、政府や軍隊は関係性を拒否。この研究所について詳しく調査していくというコメントをした。
 しかし、後に調査をしたが何も解らなかったとコメントをし、調査を打ち切りにした》


《個人的な調査により火災事件が起きた研究所に行ってみたが、何も残されていなかった。
 だが、近くの街で何人かの街人が行方不明になっていたことが判明。男が五人、女が二人。
 今回発見された焼死体はこの街人だと思われる。発見された焼死体は酷い火傷をしていたので性別は不明。
 しかし体の大きさからして焼死体、五体は男だと思われる。火災があった研究所からは他に遺体は見つからなかった為、
 残りの女二人は行方不明》

225 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/17(木) 21:23
「…結局、よくわからない事件だったわね…」

この事件に対して当時、保田は深い疑問を持っていた。
調査をするとコメントとした政府と軍隊は本当に調査をしたのか、もしかしたらその研究所と関係性があるのではないか。
日に日にその疑問と不信感が膨らんで行った。その当時、その件に関して話すことは禁止されていたので保田はその疑問を誰かに打ち明けることは出来なかった。
なので個人的に調査した。この調査がバレたら処罰に値するが、保田は政府や軍隊をまだ信じていたのでさっさと疑問や不信感を無くしてしまいたかった。
そう思った上での調査だった。

長期の休みを利用して、火災が起きた研究所に行ってみたがそこには焼け焦げた建物があり、何か判明するものは無かった。
そこでの調査は諦め、近くにある街で宿を取ることにした。すると保田はそこで思わぬ人物と出逢うことになった。

「確か…空いてる部屋が無かったのよね…」

その日、宿屋の部屋が何処も人が泊まっていた。
その中で一つだけ二人部屋に一人で泊まっている客がいたので、
保田は一緒に泊まらせて貰えないか交渉する為にその部屋に向かった。
トントンとノックをすると、扉がゆっくりと開く。
『えっ…!?や、保田隊長!?』
驚いたことにその部屋に泊まっていた人物は軍隊の新入りである市井だった。
226 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/17(木) 21:28
市井は快く、相部屋を受け入れた。そして詳しく話を聞くと市井も保田と同じ理由で長期の休みを利用しここへ来たと言う。
『まさか保田隊長が自ら調査をするなんて、驚きですよ』
『アンタ…その隊長って言うの止めなさい。軍隊ってバレたらマズイでしょ』
『あっ、そうッスね。じゃ、保田さんで』
保田がこうして自分の部下と話をするのは初めてだった。いつもは訓練という現場で、上下関係がハッキリしている。
だから部下と話をする暇なんて無かったのである。

『保田さん…すっげぇ情報が手に入ったんですよ』
『何よ』
『今日、街中聞き込みしたんです。したら、この街で男が五人、女が二人行方不明なんすよ』
『行方不明…まさか』
『行方不明になる前ぐらいに街の人の話によると例の研究所が出来てたみたいで』
『……なるほどね』
『でも焼死体は五人で、体の大きさからして性別は男。なら残りの女二人は何処に行ったんだろ…』

ベッドの上であぐらをかいて考え込む市井。保田はそんな市井を見て苦笑いをした。
苦笑いしている保田に気付いた市井は眼をキョトンとさせた。

『何ですか?』
『アンタ、本当にいいの?こんなことして』
『……いいんです。だって自分の眼で見なきゃ、信じれないから…特に自分が信じてるモノに対しては』

真っ直ぐな眼だなと保田は思った。

『…もし、この件に政府や軍隊の関係性があるという結果になったら?』

保田がそう問いかけても市井は真っ直ぐな眼で保田を見て言った。

『それが真実なら受け入れるまでです』
227 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/17(木) 21:33
『それで、どうするつもり?』
『まずはあの研究所が何の目的で作られたのか調べますよ』
『それから?』
『それがこの星の為にあるかどうか判断します』
『…もし、この星の為にならない場合は?』
『―――その時は軍隊を辞め、政府や軍隊と戦います』

「まさか、本当にそうなるとはね…」
笑いながら保田はファイルを元の位置へ戻した。
結局あれから二人で散々、火災が起きた研究所や行方不明になった人々について調査したが、
政府や軍隊に関係性があったかはわからなかった。行方不明者の名前を街で聞き込みをしてみたが、
その事件のせいか街人の警戒心が強く教えては貰えなかった。
「でも、あの研究所はきっと政府や軍隊が裏で作ったモノ…」

何の証拠が無くても、確信がある。

だから今、戦っているのだ。

保田は銃にそっと触り、気を引き締めると部屋を出て行った。


午後、石川は市井の部屋にいた。市井の部屋に入るのは滅多に無いので石川は少し緊張しながら市井の話を聞いていた。
「パソコンの中に入っている情報を見て、獣化に関わるようなデータだけを保存する。それが石川の仕事だ」
市井はパソコンを起動させ、カタカタとキーボードを叩いていく。その叩くスピードが速いので石川は唖然として市井の手元に見入ってしまった。
「今回、メンバーを二人ずつに分けた理由がコレなんだ」
市井は手を止め、石川を見た。
「一人が周りを監視し、もう一人がデータを調べるっていう具合にな。圭ちゃんと石川なら石川が、後藤と吉澤なら後藤が」
「…市井さんは一人ですよね?」             
「あぁ、私は慣れてるから。一人でも大丈夫」
市井が椅子から立ち上がり、石川を椅子へ座るように促した。石川はおそるおそる椅子へ腰かける。
「難しいことじゃないから、大丈夫だよ」
「は、ハイ」

(…ひとみちゃんも頑張ってるんだから、私も頑張らなきゃ!)

石川はキッと顔を引き締めると、市井の説明に真剣に耳を傾けた。
228 名前:アルマジロ 投稿日:2006/08/17(木) 21:40
本日の更新は以上です。

>219 Tea Break様。
     色々と見え隠れしてますよねぇ。ホントに謎が謎を呼んじゃってます(w
     今回も前にチラッと市井さんと保田さんが話していた火事があった研究所について
     触れてますが…また謎が増えたかな(^〜^;
     
さて、第二章も終盤に入ってます。
おそらく次回で『第二章 呪われた人間』は終わります。
そんな終わりにあの人が登場する予定です!

(〜^◇^)<ん?呼んだ?

では。
229 名前:ミッチー 投稿日:2006/08/18(金) 01:04
更新お疲れ様デス。。。
吉澤さんも、石川さんも頑張ってますね。
市井さんと保田さんの出会いも見れて嬉しいっす☆
後藤さんと市井さんの関係が気になってます・・・。
え?つ、ついにあの人が登場ですかッ!?(w
楽しみにしてます!
230 名前:Tea Break 投稿日:2006/08/20(日) 21:43
よっすぃーしごかれてますね。w
大切なもの、そして自分自身が強く在る為に頑張って欲しいですね。
梨華ちゃんも家事以外の本格的なBack Lushとしての仕事ですね。
ほとんど非戦闘員だった梨華ちゃんも危険を伴うアタックですが
無事帰って来て欲しいです。野菜畑と花畑の事もあるし。(笑)

いよいよ第ニ章も終わるんですね。とりあえずどうなるのか楽しみにしています♪

>あの人
個人的には出さないで欲しいかなーって。裏での楽しみ(なんとか出演しようとあれこれ画策する様)が減るんで。w
231 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/31(木) 22:06
「ねぇ、おっちゃん!まだ着かないのー?」

ガタゴトと揺れながら走るトラックの荷台から小さな少女は前の運転席に向かって言った。
「もうすぐ着く頃だ!しかしお嬢さん、アンタあんな都会に行って何をする気だい?」
トラックを運転している筋肉質な男は少女にそう聞き返す。 
「ちょっと文句を言いに行くの!」
少女は―――矢口真里はそう言うとムスッとした顔で荷台にあぐらをかいて座った。
若草色のマントが風でバタバタとなびく。
「ったく、こんな若い歳でリストラなんてふさげんなっつーの!あぁ、腹立つ!」
腕を組んで怒りを露にする。このトラックに乗る前から矢口はあることに腹を立てていた。
「たかが爆発させたぐらいでクビかよ!別にいーじゃん!死人も怪我人も出なかったんだから!」
ブツブツ文句を言っていると「おい!見えて来たぞ!」と運転手の男の声が聞こえた。
矢口は慌てて立ち上がろうとしたがデコボコ道を走るトラックの振動により足がふらついた。
ガシッと荷台の淵を掴み遠くに見えて来た巨大都市を睨みつけた。

「こうなったら直接文句言ってやるんだからな〜!」


荒野の大地に矢口の叫び声が響いた。
232 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/31(木) 22:19
安倍は車を飛ばしBack Lushのアジトに来ていた。
訪問の目的は吉澤の右手、右腕の診察と後藤と石川の頼み事の為である。
まずは吉澤の部屋で吉澤の診察を行う。
「痛みを感じる時はある?」
包帯を取り露になった右手と右腕を触りながら安倍が聞く。
「特に無いです」
「そっか。…ってか何か全体的に筋肉ついた?」
安倍がそう聞くと吉澤は嬉しそうに笑い「わかります?」と言った。
「体力つけてるんですよ、今」
安倍に力こぶを見せる吉澤。意外と筋肉がついているので安倍は「すごい!」と連呼していた。
安倍の反応が良いので吉澤は得意気になる。
「……何か変わったね」
「へ?そうッスか?」
「うん。変わった」
安倍の言葉に吉澤は目をキョトンとさせた。
「何かふっきれたような感じ」
安倍はそう言って微笑んだ。
「んー…今はもうやるしかない!っていう気持ちなんですよ」
吉澤は自分の右手と右腕を見て明るく言った。
「今は全て受け入れて、前に進むしか無いって。この前までは完全に受け入れるのが怖くて…でも、気付いたんです」
「何を?」
「……一緒に戦ってくれる仲間がいるってことを」     
照れたような笑みを浮かべて吉澤は言った。
「そっか」
安倍はニコッと笑うと吉澤の右手を握った。
「なっちも仲間だからね。一緒に頑張ろ」
「ハイ!ありがとうございます!」

───その頃、吉澤の部屋の外では。
「…んぁ。梨華ちゃん…何やってんの?」
後藤は吉澤の部屋の扉に耳を当てている石川に言った。
石川は「シーッ!」と唇に人差し指を立てた。
「…中が気になるなら入ればいいのに」
「…安倍さんの診察、邪魔しちゃ悪いと思って…」
ボソボソと言う石川に後藤はやれやれと肩をすくめ、その場を離れた。
石川は変わらず扉に耳を当てて中の様子を窺っている。

(安倍さんとひとみちゃんが二人きり…あぁ、もう。会話がなかなか聞こえないよ!)

石川としては吉澤は特別な存在であり、出来ればこんな密室な場所に他の誰かと二人きりにはなって欲しくないというのが率直な気持ちだった。
「…アンタ、何やってんの?」
次に石川に声をかけたのは自室に行こうとしていた保田だった。石川は慌てて扉から離れた。
「い、いえ!何でもないです!」
顔を赤らめ、眼をキョロキョロさせている石川を見て保田はすぐに石川は吉澤と安倍が気になっているのだと気付いた。
「気になるなら入ればいいじゃない」
先ほどの後藤の言葉と同じ言葉を保田は言った。
「いえ、安倍さんの診察を邪魔しちゃ悪いですから」
「…そう?」
「ええ、ハイ」
首を傾げながら保田は廊下にある階段を上がって二階へ向かった。
保田が二階へ行く背中を見届け石川は再び扉に耳を当てようとした。
その時、扉が内側に開く。
「え?…キャッ!」
石川の体勢から当然、石川は部屋の中に倒れ込む。
「り、梨華ちゃん!?何してるんだべ!?」
いきなり倒れ込んで来た石川に安倍は眼を丸くさせた。
安倍の後ろから何事かと吉澤が顔を出した。
「へ?梨華ちゃん?」
石川は慌てて立ち上がり「何でも無いです!」と言い、物凄い速さで階段を上がって行った。
嵐のように去って行った石川を見て残された二人はポカンと口を開けていた。
「…梨華ちゃんって不思議な子だべ」
「そう…ですね」
安倍は後藤に用があるからとリビングの方に向かって行った。
吉澤は石川のことが気になり階段を上がって二階にある石川の部屋に向かった。
233 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/31(木) 22:25
(…梨華ちゃん、どうしたんだろ?)

首を傾げながら石川の部屋の扉を軽くノックした。しかし中から応答が無い。
吉澤はもう一度ノックするが結果は同じだった。
「梨華ちゃん?入るよ?」
扉をゆっくり開ける。石川はベッドに顔を埋めていた。
吉澤はどうしたものかと困った顔をしながら石川の傍にしゃがんだ。
「梨華ちゃん?どうしたの?」
「…今、顔見られたくないの」
何故顔を見られたくないのか。おそらくそれは先ほどの石川の行動と繋がっていると思うが
石川の言葉の意味が吉澤にはよくわからなかった。
「…何で?」
わからないので尋ねてみる。しかし石川は顔を横に振り、それを拒否する。
吉澤はどうしたらいいのかわからず黙ってしまった。

(梨華ちゃんが言いたくないなら無理に聞かない方がいいかな)

しばらく考えて結論を出した。そしてベッドに背を預けて足を伸ばした。
「…さっきね、安倍さんに言われたんだ」
少し間を置いて吉澤は話始めた。
「変わったねって。前に会った時と全然違うって。…まぁ、自分でも変わったなぁって思うけど」
石川はベッドのシーツから少し顔を離した。吉澤の方は向かずに背を向けたまま話を聞く。
「やっぱ…前向きになれたっていうかさ。もう今の現状を受け入れるしかないし。…でもねそうなれたのは、Back Lushのメンバーが居てくれたからだし」           
吉澤は石川の背中に視線を移した。
「何よりも梨華ちゃんが居てくれたから、さ…」
吉澤の顔はトマトのように赤くなっていた。
「だから…その…すごく感謝してるよ…ありがとう」

(何か恥ずかしいー!心臓バクバクいってるし!)

吉澤はスクッと立ち上がり「じゃ、行くね」と部屋を出て行こうとした。
「待って!」
石川が振り向き、部屋を出て行こうとする吉澤の手を握った。
しかし引き留めたのはいいが、吉澤に何て言えばいいのかわからず石川は困惑した顔で吉澤を見上げていた。

(…そんな眼で見ないでよぉ)

石川の上目使いに吉澤も困惑していた。
「…さっきね、気になって」
突然石川が話出した。吉澤はとりあえず床に座って石川を見た。
「安倍さんと…ひとみちゃんが二人きりでいるのが…何か気になっちゃって…でも安倍さんの診察邪魔しちゃ悪いし…」
石川が小さな声で吉澤と繋いでいる手を見ながら呟いた。
やっと石川が何であんな行動をしたのか理解出来た吉澤は優しく笑った。
「…そうだったんだ」
「恥ずかしくて、何か子供みたいだし。だから顔見られたくなかったの…」
吉澤は可愛いなぁと思いながら繋いでないもう片方の左手で石川の髪を撫でた。
「…うちだって気になっちゃうことあるんだよ?」
「えっ?」
「市井さんと梨華ちゃんが二人きりになる時」
市井と石川が二人きりになる時といえば市井が石川にパソコンについて教えている時。
「結構、気になってんだよねぇ。腹筋しながら」
「そうだったんだ…でも、あれは」
「わかってる。市井さんにパソコンを教わってるだけだって」
だから梨華ちゃんもわかってたでしょ?と吉澤は付け足す。すると石川は小さく頷いた。
「なら、おあいこだね」
「だね」
顔を見合わせて二人は笑った。
234 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/31(木) 22:35
後藤はリビングに安倍が姿を現すとソファから立ち上がった。
「いきなり呼んでごめんね」
「いいっしょ。ちょうど診察もしたかったし」
鞄をソファに置いて安倍は後藤に微笑んだ。後藤も微笑み「ありがとう」と言った。
「あ、お茶飲む?」
そう言ってキッチンへ向かう後藤を安倍はすぐ引き止めた。
「ちょっとあんま時間なくてさ」
申し訳なさそうに言う安倍。
“診療所を長く空けとくわけにはいかない”と直接後藤には言わないが後藤はそのことをわかっていた。
「そっか」
「えーと、庭の方に雨を降らせばいいんだっけ?」
「うん」
二人は玄関を出て庭の方に回った。安倍は庭にある野菜畑と花壇を眺めた。
「作戦が上手く行けば一日かそこらで帰れると思うんだけど…」
「わかった。大丈夫、心配しなくていいよ」
そう言いながら白衣のポケットから小さな石を取り出した。
綺麗に磨かれ、丸い形をした小さな珠。見た目はビー玉に似ている。色は濃い蒼色で、太陽の光に反射しキラキラと輝いていた。
「それ何?ビー玉か何か?」
初めて見るモノに後藤は興味深々といった眼を向けた。
「これはねー、自然と波長を合わせる為に必要なモノ。宝玉って言うんだよ」
「宝玉…自然と波長を合わせる…?」
安倍がその珠を左手の掌に乗せ、右手をその上にかざした。
するとその石は蒼白く光り出す。太陽の光の反射による輝きでは無くその珠自体が輝きを放っていた。

(綺麗……)

すっかり後藤はその珠の輝きに見とれていた。
「この珠は雨の精霊を呼ぶことが出来るの」
「…それって、さっき言ってた自然と波長を合わせて呼ぶの?」
後藤の言葉に安倍は頷き、野菜畑の傍に立った。
「この珠は人と自然を繋ぐ橋みたいなモノでね、私たち一族はこの珠を通して自然の力を借りてるの」
「へぇ…何か、すごいね」
「うん…でも自然も結構気まぐれだから、なかなか波長が合わない時もあるんだけど」
もう一つ安倍は同じ珠を白衣のポケットから取り出し、さっきと同じように輝かせる。
そしてその二つの石を野菜畑と花壇の真ん中の土の中に埋めた。
「これで私が力を注げばこの辺り一帯に雨が降るようになるよ」
波長が合えばだけどね、と安倍が付け足す。
235 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/31(木) 22:39
後藤は「ありがと」と礼を言い、気になってることを聞いた。
「なっちがいつもやってる治癒もこの珠が必要なの?」
「うん。でも治癒の場合はちょっと特殊で、この力を使えるのは限られた人たちだけ」
安倍は立ち上がり空を仰いだ。今日はよく晴れている。
空の精霊の機嫌が良いのかなとぼんやりと安倍は思った。
後藤も安倍と同じように空を仰いでいた。

「癒しの精霊、白き力。この力を授かりし者は真の自然を感じ、真の平和を願う者なり」

遠くまで届きそうな澄んだ声。

いきなり安倍が言うので後藤は少し呆気に取られていた。
「この言葉が代々伝わってるの。お祖父ちゃんがね、私がこの力を使えるようになった時に教えてくれた」


(“決して自然に背いてはならない。悪に惑わされてはならない。必ず平和の為に使いなさい。白き力では無く、他の力でも同じこと”)


今は亡き祖父が自分に残してくれた言葉を安倍は思い出し、遠い眼をしていた。
「ねぇ、なっち」
「ん?」
「白き力があるんならさ、黒き力もあるの?」
後藤の何気無い言葉に安倍の顔がこわばる。
その様子に後藤は気が付き、聞いたらマズかったかなと不安になる。
「一応、あるんだけどね…この力も限られた人しか使えないの。って言っても私が知る限りじゃ一人…逢ったこと無いけどね」
「そっか。あ!なっち、野菜貰っててよ。結構豊作でさー」
後藤は明るくそう言い話を変えた。彼女なりの気遣いを安倍は感じ「じゃ、貰おうかな」と笑顔で答えた。
野菜を採りに行く後藤の背中を眺めながらふと思う。

(確か…その力を使える人は女の人でその人が若い時に男の人と里を出て行ったってお祖父ちゃんが言ってたっけ…)

実際、黒き力について安倍はよくは知らなかった。禁止の力であったし、この力は封印するべきだと決められていた。

「……黒き力、か」

安倍はそう呟くと向こうで野菜を採っている後藤の元へ歩き出した。
236 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/08/31(木) 22:46
市井はというと車を飛ばし近くにある街まで買い物に来ていた。買い物といっても銃弾などと物騒な物ばかりだが。
行き着けの店で買い物をしていると、店主が世間話をし始めた。
「昨日、ちょっと都市に用事があってよ。トラックで行こうとしたら」
市井は店に並べてある銃を触りながら聞いていた。
「小さい女に都市に行くなら連れてって欲しいって頼まれたんだ」
さほど興味のある話では無いので市井は適当に相づちしながら聞き流す。
「んでよ、都市に行ってどうすんだって聞いたら、軍の本部に殴り込みすんだと。
 今時なかなかいねぇよなー。あんなとこに殴り込みなんて」
ピタッと市井の手が止まった。銃を丁寧にショーケースのガラスの上に置いて店主を見た。
「お前以来かもな。軍に殴り込みたいなんて言う奴は。まぁ、行ったとこで入口の警羅隊に払われるだろうけど」
店主は苦笑いしながら店の商品を磨く。市井はズイッとショーケースに身を乗り出して「理由は?」と聞いた。
「理由?その女をトラックから降ろした時に聞いたな…確か、飯田って奴に文句があるとかって言ってたっけなぁ。
 ずいぶん恨みがあるようだったぞ」

(小さな女……覚えおくか)

「この銃二丁とあと銃弾をいつもの数、買うよ」
「おっ、新調すんのか?珍しいな」
「いや、新しくメンバーが入ったんだ」
「ほぉ。まぁ、うちは商売だから嬉しいけどよ。あんま危険なことすんじゃねぇぞ」
「わかってるよ」

市井は買い物を済ませて店を後にした。この街は長い付き合い で、知り合いも多い。
武器屋が多かったりするのであまり治安は良く無かったりする。
でも市井はこの街の豪快な人たち―――例えば先ほどの店主のような人柄が好きでよくこの街に来る。
そんな市井の反面、保田は前に一度来て二度と来たくないと嘆いていた。
治安はあまり良くないのは市井にもわかっているので市井は一度も後藤を連れて来たことは無かった。
237 名前:アルマジロ 投稿日:2006/08/31(木) 22:51
次回で第二章は終わると書きましたが…終わりませんでした(^−^;

ヽ^∀^ノ<何で終わらなかったんだ?
( ´ Д `)<終わりまで書いてた文章のデータを作者が間違って消しちゃったらしいよ。
ヽ^∀^ノ<うわぁ、ドジだなー。

…一瞬、人生が止まりました(泣)

238 名前:アルマジロ 投稿日:2006/08/31(木) 23:02
>229 ミッチー様。
     ついにあの方の登場です。ホントにちらっとですが…。
     そうですねぇ、市井さんと後藤さんの関係についてあんまり触れてないですね。
     第三章にでもこの二人の出逢いの場面を書ければいいのですが(^−^;
     今回はいしよしの絡みだったので早くいちごまの絡みを書きたいです。

>230 Tea Break様。
     …出ちゃいました、あの人(^−^;でも裏では色々あったらしいですよ(ぇ
     まだ第二章が終わるまで、もうしばらくかかりそうです(苦笑
     これが終われば久々の柴田プロジェクト。(〜^◇^)がジタバタする様が見れますよ(笑 
239 名前:ミッチー 投稿日:2006/09/01(金) 01:19
更新お疲れ様デス。。。
あの方、登場しましたね(w
いちごまの絡み楽しみにしてますよ!
でも、焦らずに書いてくださいね^^
240 名前:Tea Break 投稿日:2006/09/08(金) 02:14
更新お疲れさまです。
梨華ちゃんとよっすぃーはほのぼのというか、何だか見てて
気恥ずかしくなるような幼気な恋って感じですね。w
っていうか、挙動不振な梨華ちゃんが可笑し過ぎ!(笑)

それにしてもなっちが少しだけ明らかにした”力”の存在。
他にもあるんでしょうか?気になりますね。

それでは続き楽しみにしています!
241 名前:アルマジロ 投稿日:2006/09/10(日) 19:35
アルマジロです。
なかなか更新が出来てなくてごめんなさい。
今、サークル活動や合宿で忙しくて…(´〜`;)
早く更新出来るよう頑張るので、もうしばらくお待ち下さい。

川σ_σ||<ちょっと早く柴田プロジェクトに入りなさいよッ!
(;`_´)<人にはそれぞれ事情があるんだから…チョットアバレナイデ。
242 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 22:08
飯田は朝から会議に出席していた。

連日こんな調子なのでなかなか辻に逢いに行く時間が無いということと、
会議で上司と言い合いになってしまったことのおかげで苛々していた。
「全く…あのハゲ上司…ッ!」
エレベーターの中で苛立ちを隠せず言葉を吐き出す。
飯田の後ろにいる加護はハラハラしながら飯田の背中を見つめていた。
「飯田さん…?大丈夫ですか…?」
遠慮がちに問いかける。すると飯田はハッとし加護の方を向いた。
「…大丈夫。ごめんね」
弱々しく笑って言う飯田に加護は首を横に振った。
「いいんです。飯田さんが苛々してしまうのも仕方ないですもん。うちの前では隠さないでどんどん発散して下さい」
「…ありがとう」
エレベーターが着いて二人が降りる。長い廊下を歩いて行きながら加護が午後の仕事について飯田に説明する。
「最近、獣化人体実験の計画もドタバタしてますから会議が多くなりますね」
「うん…それに戦争が終わった今でも各地でまだ争いが絶えないし」
「それについても午後の会議で議題に出ると思いますよ」
廊下をコツコツと歩いていると飯田の部屋の前に誰かが座り込んでいた。
飯田はハッと眼を見開いてすぐに駆け出した。
「のの!」
座り込んでいたのは辻だった。膝を抱えるように床に座っていて、膝に額をつけて下を向いていた。
飯田が辻の肩に触れる。
「何でののが…」
加護も駆け寄り、心配そうに辻を見つめた。
「のの?」
肩を軽く揺すっても辻は反応しない。

(のの…?)

飯田は焦り、慌てて辻の顔を上げた。辻は辛そうな顔をしていて、汗を流していた。呼吸も乱れている。
飯田はすぐに辻を抱き上げ部屋に入った。辻の異変に加護も気付き、スーツのポケットから携帯電話を取り出し松浦へ連絡を取った。
243 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 22:12
『ハイ、松浦―――』
「あの!ののの様子が変なんですよ!」
『今、何処ですか?』
「飯田さんの部屋です」
『わかりました。すぐに行きます』
加護は電話を切ると床に何かが落ちているのに気付いた。
綺麗にラッピングされたそれを拾い上げる。

(飯田さんにコレを届けたかったんやな……)

加護が持っているのは辻と加護が一生懸命作ったクッキーが綺麗にラッピングされた袋だった。
前に加護が疲れてる飯田に何かプレゼント出来ないかと辻に相談したところ、なら食べ物が良いと辻が言い、二人で作ったのだった。
最近飯田は忙しくなかなか辻に逢えなくて、それは加護も同じだった。
だから辻は自分で届けに行こうとしたらしい。
「……飯田さん、コレ食べたらきっと元気になる…ね、のの」
加護はそう呟くと飯田の部屋に入って行った。

松浦は加護から連絡を受けて、数名の助手を引き連れて飯田の部屋に向かった。
ストレッチャーと少し医療器具を運びながら走る。

(おかしい…あの子が部屋から出たらすぐにパソコンに反応が来るはずなのに)

眉を潜めながら松浦はとにかく走った。バンッと勢いよく飯田の部屋の扉を開いた。
辻はベッドに横になり、呼吸は更に荒くなっていた。
ベッドの傍には辻の手を握り泣きそうな飯田がいて、その後ろに加護が思いつめた顔をして立っていた。
松浦は聴診器で辻の心臓の音を確かめ、それからすぐ辻に点滴をした。
「至急検査をします」
ストレッチャーに辻が乗せられ数名の助手たちによって運ばれる。松浦も後ろから後を追う。
残された飯田はついに泣き出した。何度も辻の名前を呼び、両手で顔を覆った。
「飯田さん…のの、コレを飯田さんに届けたかったんやと思います」
加護が持っていたラッピングされた袋を飯田に差し出した。
「コレは…?」
「うちとのので作ったクッキーです。最近飯田さん疲れてるからコレ食べて元気になって貰おうって…」
「そっか…」
涙を流しながらも飯田は袋を受け取り開いた。クッキーを一枚取り出し、一口食べる。
「…うん、美味しい。すごく美味しい」
飯田を見て加護は「良かった」と呟いた。
「ののならすぐに元気になりますよ」
「ん…そうだね」
飯田は涙を拭うと、大事そうにクッキーをまた一口食べた。
244 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 22:18
診察室では慌ただしく人が動いていた。そんな中、松浦は一人腕を組み考え事をしていた。

(一体原因は何なの……?)

すぐに片っ端から検査をし原因が何なのか調べたがこれといった結果は得られなかった。
「松浦先生、脈が安定しました!」
助手の言葉に急いで診察台に横になっている辻を見た。

(…呼吸が元に戻ってる…)

先ほどまでの荒い呼吸は正常に戻り、発熱も治まり始めていた。
「…集中治療室に移して、こまめに様子をチェックして下さい」
松浦はそう言い、フラフラと治療室を後にした。

原因がわからない。

辻は元々、体が丈夫では無く、体力も無かった。
人より病気にかかりやすく人より治るのが遅い。
今まで病気にかかっても、松浦は一生懸命治療し、治してきた。

しかし今回はいつもと違った。

いきなりあんなに呼吸が乱れ、体全体が熱くなり、意識を失う。
それは今まで見たことないパターンだった。
「……すぐに原因を解明させないと」
松浦はすぐに紺野に連絡を取ろうと考えた。
これは今の自分一人では解決出来ない問題かもしれない。
とりあえず今は飯田に辻が安定したと伝えなければと飯田の元へ向かった。
245 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 22:19
「ちくっしょー!ジョーダンじゃないっつーの!」
バンッと酒の入ったコップをテーブルに叩くように置くのは小さい女―――矢口だった。
「姉ちゃん、えらく機嫌悪ぃねー。何かあったのかい?」
昼間っから酒を飲んでいる矢口に居酒屋の店主は苦笑いしていた。
「昨日、軍の本部にちょっと文句言いに行こうとしたらビルの入口で警羅隊の奴らに追い払われたの!」
「あー、そんな場所に乗り込もうとしたんかい」
「だってさぁ、聞いてよ!オイラいきなりクビにされたんだよ!?」
「そいつは気の毒だな〜。まぁこれ食って元気出せよ」
気の毒に思った店主はサービスで軟骨の唐揚げを出した。
「オイラは諦めないよ!絶対直接文句言ってやるんだから」
「でも軍隊に関わるなんてやめた方がいいんじゃないかい?」
「オイラに不可能は無いの!昼が駄目なら夜忍び込めばいいし!」
矢口はそうきっぱり宣言するともぐもぐと軟骨の唐揚げを食べ始め「美味い!」と叫んだ。
246 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 22:33
───時は過ぎ、いよいよ明日の夜中に作戦開始となる日までやって来た。

この日の夜、リビングでは内密な打ち合わせが行われていた。
「ビルの裏口から侵入し、エレベーターを使うと監視カメラとか面倒なことがあるから非常階段を使い各フロアに行く」
何処からか出して来たホワイトボードには様々な書き込みがされていた。ホワイトボードの前に市井が立ち最終確認を行う。
「建物内の移動は通気孔を使う」
「通気孔ってあの狭い…」
後藤が嫌な顔をし、呟いた。
「狭いけど、ちゃんと人間が通れるぐらいだ。それに見付かりにくいし」
市井がそう言うと後藤はやれやれとため息をついた。
「とにかくデータを集め次第、ビルの裏口から出て、少し離れた空き地に集合。
 ビルの各フロアが多いから大変だと思うけど夜明けまでに回収すること」

タイムリミットは夜明けまで。
とにかく多く獣化に関わるデータを集めること。

市井の説明が一通り終わると次は保田が椅子から立ち上がりリビングの床に置いておいたダンボールを持ち上げ、テーブルの上に置いた。
市井と保田以外は不思議に思いながらダンボールを見た。
「あの、何すか?」
吉澤がそう聞くと保田はニコッと微笑んだ。その微笑みに吉澤、後藤、石川は寒気を感じた。
「戦闘着、よ」
保田がそう言うと市井は「そこまでしなくてもなぁ」と力無く呟いた。

数分後。各自着替を済ませたBack Lushのメンバーはリビングに一列横になり並んでいた。
「何で“ツナギ”なんすか!」
吉澤が誰よりも早くツッコミをいれた。保田が言う戦闘着は黒の半袖のツナギだった。
胸元にはちゃんとBack Lushのロゴが入っていた。      
「んぁ…あたしは別に何でもいーけどさ、何でツナギ?」
後藤がそう聞くと保田はニコッと笑った。
「ホントはもっとこう、戦闘着って感じなのが良かったんだけどね。まぁ、それはいいとして
 今、メンバー全員が一つになる時なのよ」
保田が語り始めると市井はやれやれとソファーに座った。
「だからこうやってお揃いのモノを着て団結力を高めるのよッ!」
今までにないほど保田の眼に力が入っている。思わず吉澤と石川は後退りをした。
「…あの、でもこのお金はどうしたんですか…?」
おずおずと石川が手を挙げて保田に聞いた。実際問題、この反政府・軍隊組織には資金に余裕が無い。
毎日の生活、主に食事に関しては石川があれこれとやりくりをし、後藤が野菜を作ったり、川に魚を捕りに行ったりして何とかやっている状態だった。
戦闘着であるツナギは見た所、発注したモノのよう。一体何処からそんな金が出てきたのか。
「もう一人いるじゃない」
保田がニヤリとして答える。
「もう一人って…なっちのこと?」
後藤がそう言うと保田は右の腕の袖を指差した。
「「「あっ!」」」
三人の声が揃う。

【安倍診療所】

右の腕の袖にしっかり刺繍されていた。
「スポンサーっすか?」
「そうよ」
「…でも宣伝の意味無いと思うよ?」
後藤の言う通り、敵陣に踏み込むのであり、しかも敵に見付かってはならないのである。
誰に宣伝するのか謎なとこだった。
「い、いいのよ。そんな細かいことは!」
「保田さん…団結力を高めようとか言って、ホントはただやりたいだけなんじゃ…」
「な、何言ってんのよ!石川!」
「だからなっちに無理に頼んで…」
「あんたたちの為に考えたのよ!それになっちも喜んで引き受けてくれたわ!」
「保田さん…見損ないました」
「あぁ、吉澤まで!」
シラーっという視線が三人分保田に向けられる。
「ちょっと!紗耶香も何か言ってよ!」
助けを市井に求める。市井はソファーから立ち上がると面倒くさそうな顔をして。
「ちなみにツナギっていうのはなっちの提案だから。つまりなっちも乗り気だったってこと」とリーダーらしく締めた。
市井が言うと三人はやっと冷めた視線を保田に向けるのを止めた。ホッと保田が安心する。
247 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 22:41
「んぁ…もう作戦会議終わり?」
後藤が眠たそうに眼を擦った。
「あ、あと一つある」
市井がメンバーの顔を見ながら真剣な表情で「約束して欲しい」と言った。
市井の真剣な表情とその言葉にメンバーの顔に緊張が走る。
「…もし、仲間が敵に捕まることがあってもタイムリミットまでには必ず集合場所に戻ること」
シンと静まる空間。最初に反応したのは後藤だった。
「…それって、仲間を見捨てろってこと?」
「…あぁ」
後藤は「何で」と市井を睨みつけた。吉澤と石川は戸惑いを隠せず、動揺して市井を見ていた。
そんな中、保田だけが冷静にしていた。
「…それが安全だからだ」
市井が低い声で呟く。その次の瞬間、後藤は市井の胸ぐらを掴んだ。
「何それ!?仲間を見捨てるのが安全!?そんなの自分だけじゃん!ただ逃げてるだけじゃん!大切な仲間を見捨てるだなんて…あたしには出来ない!」
先ほどまでの眠たそうな顔から一変し今の後藤の顔は迫力があった。睨む後藤の眼を市井は冷静に見る。
互いの鼻がくっつきそうなほどしかない距離で後藤に怒鳴られても市井は決して動じなかった。
その態度も後藤にはイライラさせるものだった。
「……じゃぁ、一つ聞く」
静かな空間に市井の声が響く。
「もし、今回の作戦のパートナーである吉澤が敵に捕まったとしたら、助けられるか?」
「当たり前じゃん!」
自信満々に豪語する後藤に市井の眼が鋭くなる。      
「確実にか?絶対?確証はあるのか?」
市井の鋭い視線に後藤が少し怯む。市井はゆっくり自分の胸ぐらを掴む後藤の手を離した。
「…いいか、よく聞け。向こうにはもっと強い奴がいる。今は昔みたいに軍隊が前線に出ることは少なくなったけどな」
後藤は何か言いたげだがなかなか声が出せなかった。
「後藤、確かにお前は強いよ。力もあるし、スピードもある。銃の扱いも上手い。…でも時には勝てないこともあるんだ」
軍隊に居たからこそ、地獄のような戦いを経験してきたからこそ、市井は一旦退くことの大切さを伝えたかった。
「後藤…わかるか?」
「…でも、あたしは仲間を見捨てるなんて出来ないよ…ッ!」
後藤は吐き出すように言うとリビングを出て行った。しばらくしてバタンと扉が強く閉まる音が届く。
どうやら玄関から外へ行ったらしい。
「全く…」
黙って聞いていた保田が苦笑いを溢す。
「昔のアンタにそっくりね、後藤は」
保田がそう言うと市井も苦笑いして頷いた。
「っで、今のアンタは昔の私にそっくりよ」
「…圭ちゃんから教わったからね」
言い終わると市井が小さくため息をつく。
「後藤も…きっとわかってるはずなんだよな。でも仲間を想う気持ちが強いから」
「…そうね。ほら、早く行ってあげなさい。どっかで拗ねてるはずよ」
市井は頷くと走って後藤を探しに行った。
248 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 22:45
保田は「さてと」と言い、未だに困惑している吉澤と石川の方を向いた。
「紗耶香が言いいたいことわかった?」
保田の問いに二人は小さく頷いた。
「一旦退くことも必要ってことですよね…?」
吉澤が遠慮がちに言うと保田は笑顔で頷いた。
「そう。一人で助けに行くんじゃなくて、一旦退いて他の仲間と対策を考えて、みんなで助けに行くのよ」
「それが一番安全な方法…」
石川が呟くと吉澤は「でも自信ないな」と呟いた。
「大切な仲間が目の前で捕まったら、動揺してパニックになりそう」
「…ひとみちゃん」
吉澤は石川が獣化人に襲われた時のことを思い出していた。
「冷静で居られるか…不安です」
保田は優しく吉澤の肩を叩いた。
「もし、そうゆうことに遭遇したらゆっくり眼を閉じなさい。自分がどうするべきなのか、よく考えるのよ」
難しいけどね、と保田は付け足しリビングから出て行く。
「ひとみちゃん、大丈夫…?」
心配そうに吉澤の顔を石川は覗き込んだ。
「…大丈夫。自分が出来ることを精一杯やってみるよ」
吉澤はニコッと笑うが手は微かに震えていた。

(怖いけど……大丈夫。きっと)

現場でパニックになって自我を失ってしまったら―――と恐怖が吉澤のココロを支配していく。
吉澤は何度も“大丈夫”と自分に言い聞かせた。

(今日まで市井さんと訓練してきたから…前よりも少しは強くなれたはずだ)

「…梨華ちゃん」
「なぁに?」
「うち、頑張るよ」
「…うん。私も頑張る!」
二人は笑いながら互いの健闘を祈った。
249 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 23:02
後藤はというと家の裏の方にいた。
「……市井ちゃんのバーカ」
そう呟いて足元にある石ころを蹴飛ばした。石ころは勢いよく転がり夜の闇の中に消えた。
ため息をついて家の外壁に背中を預ける。

(…頭じゃわかってるんだけどね)

でも大切な仲間だから、失いたくない仲間だから。
もうあの頃の悲劇を繰り返したくない。

後藤は家族のこと、村の人たちのことを考えていた。

(あの時、あたしは一人隠れてた。耳を塞いで怯えていた。大切な家族が、村の人たちは戦ってたのに。あたしは逃げたんだ…)

逃げてないで何かをしていたらみんなを助けることが出来たかもしれないのに、と後藤はギュッと唇を噛んだ。
その時、後藤を探してた市井が現れた。
「ココに居た…」
「市井ちゃん…」
後藤は何を言ったらいいかわからず俯いた。
「後藤…私が言いたいこと、わかってんだよな…?」
市井の言葉に小さく後藤が頷く。
「でもね…あたしは…もう同じことを繰り返したくない」
後藤の声は少し震えていた。
「大切な人が…捕まって辛い思いしてたら…一旦退くことなんか出来ないよぉ…」
市井は後藤が何故そう言うのかわかっていた。

(家族と村の人たちを思い出してんだな……)

ポタッと後藤の涙が地面へ落ちる。市井は優しく後藤を抱き締めた。
「なぁ…後藤」
優しく優しく、市井は後藤に語りかける。
「村が獣化人に襲われた時、お前の親父さんはお前に生きて欲しいと思ったから隠れてろって言ったんだよ」
「……市井ちゃん」
「そこにはお前を想う親父さんの気持ちがあった…わかるか?」
「うん…」
「確かに村は残念なことになった…でも後藤が自分を責めることはない…後藤は何も悪くない…まぁ、大好きな家族や村の人たちだから…そう思うのは難しいけど」
後藤はギュッと市井の背中に手を回した。
「…後藤が仲間を想う気持ちは十分わかるよ。それと同時にみんなも後藤のことを大切に想ってる」
市井は自分の額と後藤の額をくっつけた。
「…仮に私が捕まったとしたら、私は後藤にすぐにその場から離れて欲しいと思う」
「……市井ちゃん…」
「お前の親父さんと同じ気持ちだ。強い敵を相手に無謀に突っ込んで欲しくない…大切な人だから生きてて欲しいと願う」
後藤の涙を市井が指で拭う。
「だから、一番安全な方法を取りたいんだ…一旦退いて、メンバー全員で…助けに来て欲しい」
後藤は何度も「うん」と呟き頷いた。そして更に強く市井に抱きつく。
「市井ちゃん…大好き!」
「ぐぇ…ちょっと、苦し…」
250 名前:第二章 呪われた人間 投稿日:2006/09/17(日) 23:08
市井と後藤の様子を陰で保田が見ていた。少し心配だったので来てみたがどうやら心配するほどでもなかったようだった。
「…これなら安心ね」
微笑んで玄関へ戻ろうと歩き出す。

(……でもちょっと寂しいわね)

市井はもう自分がいなくても立派に成長している。
そんな市井に後藤を任しておけば安心。
吉澤は心配だけれど傍には石川がいる。
「私が出る幕もないみたいね」
まっ、それはそれで楽だからいっかと保田は思い玄関の扉を開けた。



作戦開始は明日の午前零時。


タイムリミットは夜明けまで。



第三章へ続く。
251 名前:アルマジロ 投稿日:2006/09/17(日) 23:22
本日の更新は以上です。長らくお待たせしてすみませんでした!(−_−;
ようやく『第二章 呪われた人間』が終わりました。

>239 ミッチー様。
     ハイ、焦らず書きたいと思います(^−^;
     今回ほんとに少しですがいちごまの絡み入れました(w
     あの方もチラッと出てます。

>240 Tea Break様。
     ( ^▽^)人(^〜^0)は何だかほのぼのって感じですね(w
     石川さんは吉澤さんのことになると挙動不審になります(笑)
     力についてですが…まぁ、他にも色々とありますよ。
     でも一番重要なのは白き力と黒き力ですね。

次回は『柴田プロジェクト』をお送り致します。
252 名前:Tea Break 投稿日:2006/09/25(月) 01:15
更新お疲れ様です。
シビアな内容の作戦に今度のアタックのリスクの高さが垣間見えますね。
よっすぃーはまた自分が同じ過ちを繰り返すのでは無いかと不安にぐらい
ホントにもう、梨華ちゃんが大切な存在なんですね。
柴田プロジェクト楽しみにしています♪二人は裏ではどんな様子だったのか気になります。w
253 名前:Mirai 投稿日:2006/10/06(金) 13:49
第2章終了お疲れ様です。
いよいよって感じですね。緊迫したシーンだけど、いちごまやいしよしの
絡みがあって・・・。
第3章とは別に、柴田プロジェクトの方も凄い楽しみにしてます!
254 名前:ミッチー 投稿日:2006/10/07(土) 02:13
更新お疲れ様デス。。。
いよいよ作戦開始ですね!
いちごまありがとうございます(w
柴田プロジェクトも楽しみにしてますね^^
255 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/10/13(金) 21:55
「えーと、一旦休憩挟んで本番に入りまーす!」

撮影現場に大谷の声が響き渡る。
出演者たちは疲れた顔をして休憩所へと向かい、スタッフたちは本番撮影の準備を始めた。
「マサオ!」
慌ただしく動き回る大谷を柴田が引き止める。
「何?」
「コレ、誰かに渡しといて」
柴田は手に持っていたデジタルカメラを大谷に渡した。
「何で?」
「メイキングを作るのよ。出演者の誰かに渡して適当に何か撮影しといてって頼んで」
「何か撮影って…何撮れば?」
「撮影現場よ、撮影現場」
わかったらさっさと行け!と柴田に厳しく言われ大谷はすぐに出演者たちが休憩しているテントへ向かった。
テントの中ではぐったりしている人や疲れた顔して台本に目を通す人、誰かと話をしている人さまざまだった。

(せっかくの休憩なのになぁ…)

無茶なスケジュールで撮影に励んでいると思うとなかなか手に持ってるデジタルカメラを誰かに渡すことが出来ない。
テントの入り口で困っているとトイレから帰って来た後藤が大谷の肩をポンポンと叩いた。
「何してんの?」
「あ、ごっちん…」
後藤はすぐに大谷が持っているデジタルカメラを見つけた。
「何?何か撮るの?」
「あ、監督にメイキング作りたいからコレを出演者の誰かに渡して撮らせてって…」
「メイキング?ふーん」
「でもみんな疲れてるみたいだし、止めた方がいいみたいだね」
そう言って大谷はその場を立ち去ろうとした時、後藤が「あたしやろっか?」と言った。
大谷が後藤を見て目を丸くする。
「いや、でも…せっかく休憩なんだし」
「別にいいよ。それやんないと困るんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど…」
後藤はひょいっと大谷からデジタルカメラを奪う。
「なら決まり!」
「ごっちん…」

(あぁ…ごっちんが天使に見える…!ありがとう!ごっちん!)

歓喜で体を震わせながら大谷は後藤の手を握った。
「ホントありがとう!」
「あはっ、今日はあんま眠くないから」
「これであゆみに蹴りを食らわずに済むよ!」
「……苦労してんだねぇ」
後藤は柴田にこき使われている大谷を哀れむような目で見た。
256 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/10/13(金) 21:58
後藤と大谷がそんな会話をしてる中、ぶすっとしている人がテントにいた。
「市井さん、何怖い顔してんですか?」
怖い顔している市井に傍にいた吉澤が気付いた。
「うっせー吉澤」
「うわ、ひどっ!」
「……誰がひどいって?」
「いえ、何でもないです…」

(市井さん機嫌悪いなぁ…早く退散しとこ)

危険を察知した吉澤は市井から離れ石川の傍に近寄った。
市井はまだ後藤の手を握っている大谷に向かってずんずん歩き出した。
「おい」
「あ、市井ちゃん」
「大谷、お前何してんの?」
市井が指摘すると大谷はハッとして慌てて後藤の手を離した。
「大谷〜?今、何やってたんだぁ?」
「す、すみませんっ」
大谷は後藤に「それじゃ、よろしく」と言うとすぐにその場から離れて行った。
「市井ちゃん、何怒ってんのー?」
ニヤニヤしながら後藤が尋ねる。
そのニヤけた後藤を見て市井はため息をついた。

(こいつ…確信犯じゃんか…わざと大谷に手を握らせてやがったな…)

「別に」
「えー。つまんない」
まだ不機嫌な市井はスタスタ歩いてテントから出て行った。
後藤が市井の後を追いかける。
「ねぇ、妬いた?」
「妬いてねぇよ」
「妬いたんでしょ?」
「妬いてねぇっつってんだろ」

(もー、素直じゃないんだから)

後藤はそう思いながら市井の腕に自分の腕を絡ませた。
「大丈夫。あたしは市井ちゃんが大好きだから」
「……バーカ」
市井はふと後藤が持っているデジタルカメラに気付いた。
「何だ?それ」
「メイキング作るんだって。出演者たちが適当に撮っていいみたいだよ」
「ふーん。っでお前がやんの?」
「うん!何か面白そうだし。市井ちゃん手伝ってよ」
「えー」
不満げな市井の腕を引っ張って後藤は撮影現場となっているBack Lushの家(アジト)へ向かった。
257 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/10/13(金) 22:01
「ふっふっふ…話は聞かせてもらったぜ」

さっきまで市井たちが居た場所から少し離れた所にポツンとダンボールがあった。
その中から不気味な笑い声が響いていた。

「あのメイキング撮影を監督である柴ちゃんは見るわけだ…コレはアピールする絶好のチャンス!」

読者の皆さまもお分かりのようにこの声の主は未だ出演予定が無い矢口だった。
また懲りずに撮影現場に侵入。たまたま捨ててあったダンボールを使って身を隠していたのだ。

「よし!行くぞ!」

ちなみにこのダンボール、底は切り取ってあり、矢口が立ち上がると足が見えるという何とも間抜けな格好になる。
矢口は立ち上がると自分で空けた穴でまわりを確認しながら市井たちを追いかけた。
258 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/10/13(金) 22:03
「撮影現場といったらココだよね」
「そうだな」        
家のリビングに市井と後藤はいた。
後藤は早速デジタルカメラの電源を入れ撮影を始める。
まずは電源を入れたそれをを自分に向ける。
「えー、こんにちは。ごとーです」
そして次に市井に向け「市井ちゃんでーす」と言った。
「そんな自己紹介でいいのかよ」
「いーの。これがあたしのやり方なんだから」
自己紹介を終え、リビング内を撮影していく。
「これがいつもご飯を食べてるテーブルです」
「ちなみに後藤と吉澤は本気食いをしてます」
「えー?してないよぉ。普通じゃん」
「何杯もおかわりするのが普通なのかよ。大体そこ大幅にカットされてるから」
「でも美味しいんだよねぇ」
次に奥のキッチンへ入る。
「梨華ちゃんがよくいる場所」
丁寧にキッチンを撮影していき市井が冷蔵庫を開けた。
「あ、ビールがある」
「市井ちゃん飲んじゃダメだよ」
「こんな昼間っから飲まねーよ」
キッチンの撮影を終え再びリビングへ戻る。後藤はリビングの縁側に出て庭を映す。
「あたしが心を込めて作ってる野菜の畑と梨華ちゃんが大事に育ててる花壇です」
「無農薬?」
「もちろん」
デジタルカメラを後藤は市井に向けた。
「ねぇ、市井ちゃん。家で野菜作りたい」
いきなりそんなことを言う後藤に市井はあからさまに嫌な顔をした。
「家でって…何処で」
「ベランダしかないじゃん」
「却下。狭いから無理」
「じゃ、畑の土地買う」
「あのなぁ…家の近所に無いだろ」
「じゃぁ…市井ちゃんが一軒家買うとか」
「無茶言うな」
ことごとく市井に却下された後藤は頬を膨らませた。
「ホラ、次行こ」
苦笑いをしながら市井は歩き出した。市井の後を文句を言いながら後藤が追った。
259 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2006/10/13(金) 22:05
「むぅ、オイラ上手く映ってんのかなぁ」

庭の隅に置かれた明らかに不自然なダンボールの中から声が響く。
とりあえず市井と後藤がリビングに来た時にリビングの庭に通じる窓の近くを二人にバレないようにウロウロしていた。
「あんまし派手に動くとバレるし…バレて、柴ちゃんにでも知られたら強制送還されちゃうよ」
ダンボールの中でしばし作戦を練る。
「でもオイラだって出たいし!なっちと共演したい!」
ムクッと勢いよく立ち上がる。
またもやダンボールの底から不自然に足が見えた。
「よし、行くぞー!」
走り出した矢先。
「うぉっ!?」
石につまづいて矢口は派手に地面に転んでいた。
260 名前:アルマジロ 投稿日:2006/10/13(金) 22:18
久々の更新、少ない更新ですみません…本日は以上です。

>252 Tea Break様。
     (0^〜^)<梨華ちゃんが一番大事だYO!
     (*^▽^)<きゃぁ!私もよ!ひとみちゃん!
     表ではシビアな内容なので裏は面白く(w
     しばらく面白担当の柴田プロジェクトをお楽しみ下さい〜。

>253 Mirai様。
     いよいよ三章でBack Lushが動き出します!
     柴田プロジェクトを楽しみにして頂いてるようで嬉しいです。
     川σ_σ||<存分に楽しんでね♪
    (;`_´)<あの、早く第三章の台本を…。

>254 ミッチー様。
     いよいよ作戦開始です!
     ( ´ Д `)<んぁ、あたしより市井ちゃんの方がNG出してるよねぇ。
     ヽ;^∀^ノ<バ、バカ!んなことここで報告すんなよッ!
     しばらくは柴田プロジェクトを楽しんで下さい〜。

前の更新からだいぶ日が経ちまして…ごめんなさい。
学際や研究室決めで毎日ドタバタしてます(−_−;)
更新のペースが遅くなると思いますが暖かい目で見てやって下さい。
261 名前:ミッチー 投稿日:2006/10/14(土) 02:05
更新お疲れさまデス。。。
柴田プロジェクトいいっすねぇ!
段ボールから出ている足を想像するだけで笑えてきますw
ヤキモチ妬いてる市井さんも素敵☆
今は忙しい時期だと思いますが、ゆっくりと頑張ってください^^
262 名前:名無し読者 投稿日:2006/12/29(金) 12:38
もう、年内の更新はなしかな?
次回の更新も、楽しみにしています。

では。よいお年をお迎え下さい♪
263 名前:アルマジロ 投稿日:2007/01/02(火) 21:39
新年あけましておめでとうございます!

だいぶ更新が止まってしまいすみませんでした。
去年の暮れは本当に忙しく…(汗
無事に研究室の方も決まり、年を明けたということで。
更新再開と致します。
次回の更新は出来れば今週中に行いたいと思います。
もうしばらくお待ち下さい。

それでは、みなさん今年もよろしくお願いします!

アルマジロでした。
264 名前:Mirai 投稿日:2007/01/09(火) 12:28
あけましておめでとうございます!!
私も、年末は忙しくてPCに触れませんでした。
更新、楽しみにしてます☆
今年も、頑張って下さい。
265 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/01/11(木) 21:44
吉澤は気分転換に休憩用のテントから出て散歩をしていた。

鼻歌を歌いながらBack Lushのアジトである家に近付く。

「ん…?」

庭の方に“何か”が動いてるのが見えた。
目を凝らしてそちらの方を見る。


ダンボールに、足…?


吉澤が見ていたのはダンボールに隠れている矢口だった。

「あの靴…矢口先輩、だよな…?」

慎重に歩いてるダンボール(矢口)に吉澤はゆっくり近付く。
数メートル離れたとこで立ち止まり「矢口先輩ッスよね?」と声をかけた。
ダンボール(矢口)はビクッとなり、立ち止まった。

「あの…?先輩…?何してんすか?」

しばらく間を置いてダンボールの中から低い声が響いた。

「…オイラの姿を見た奴は生かしておけない…!」

「えっ?」

ダンボールの事前に開けておいた穴から腕が素早く出て来た。

「うわぁ!?」

矢口の手はしっかり吉澤の腕を掴み、吉澤は引きずられて行った。
266 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/01/11(木) 21:47
「ひとみちゃん、何処に行ったのかな〜…」
一方、散歩に出た吉澤を石川が探していた。
なかなか吉澤は見つからず石川のテンションは下がっていた。

「あれ?梨華ちゃん。何してんの?」

おろおろしている石川の前に柴田が現れた。

「あ、柴ちゃん!ひとみちゃん知らない?」

石川の問いかけに柴田は「知らない」と即答えた。

「そんな即答しなくても…もう何処行っちゃったんだろ…」
「どーせ呑気にそこらへんで遊んでるわよ」
「でもいないんだよ?」
「あー、じゃ、神隠しだ。神隠し」
「ちょっとは真剣に考えてよぉ…」
「…わかった。見かけたら梨華ちゃんのとこに行けって言っとくから」

ポンポンと石川の肩を叩き、柴田は「大谷ぃー!」と叫びながら早足に去って行った。

「ホントにひとみちゃんどうしたんだろ…」

不安を抱きながら石川は吉澤を探しに再び走り始めた。
267 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/01/11(木) 21:48
さて、ダンボール(矢口)に拉致された吉澤はというと。

「な、何でこんなモノ被らなきゃならないんですか…!」
「人質は黙ってオイラの言うこと聞けッ!」


何処から持って来たのか、ダンボール。

もちろん、吉澤サイズの。


「よし、コレで上を開けて…」
「ねぇ、先輩。そんな出たいんならうちから監督に頼みますよー」

いそいそと森の茂みの中でダンボール作りに励む矢口の背中に吉澤は言った。
すると矢口はくるっと振り向いた。

「人の力は借りないの!」
「いや、今じゅーぶんうちを利用しようとしてますよね…?」
「グダグダ言うな!それでも男か!」
「いや、うち女っすよ…」

矢口は怒りながらダンボールを吉澤に渡した。

「…ホントに被るんですか」
「当たり前ッ!さぁ、早く時間が無い!」

吉澤は渋々ダンボールを受け取り被った。
ちなみに上も下も開いた状態。
もちろん腕を出す穴もある。
矢口と同じく足は丸見えだった。

「…すっげーダサい…」
「うん、よく似合ってるよ!後輩!」

そして矢口もダンボールを被った。



でこぼこダンボールコンビ、ここに誕生。

268 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/01/11(木) 21:50
「…っで、何するんすか…」
「しゃがめ!」

吉澤がダンボールの中でしゃがむ。
そこへ矢口が勝手に現場から持って来た脚立を用意する。

「先輩、何を…?」
「肩車!」
「えぇ!?こんな状態で!?」
「オイラの辞書に不可能という文字はない!」
「無茶苦茶っすよ!」
「いーからやれ!」

吉澤が矢口を肩車する。
二つのダンボールが繋がる。


合体!


「おー、いい眺め〜」
「せ、先輩…じっとしてて…」
「よし、進め!」
「…あの、腕が出せないんで、ダンボール持ち上げられないし進めないんすけど」
「…あー、じゃぁ引きずって行こう!」
「確実に転びますよね!?」
「さぁ、無限の彼方へ!」
「何処へ行く気なんすか…」


不自然なダンボールがふらふらしながらも動き出した。

269 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/01/11(木) 21:52
森の中から突如現れたダンボールモンスター。

ふらつきながら向かう先はアジトの庭。

「いい?玄関にはスタッフが何人かいるから庭から二階へ侵入するんだ!」
「そんなの危険っすよ〜…」

強気な隊員一号に弱気な隊員二号。

「とにかく今、ごっちんが撮ってるメイキングにオイラが写ればいいの!」
「だからって出演出来るわけないじゃないっすか〜…」

そんな二人の前を見つけてしまった可哀想な人が一名。

「何だ…?あれ…?」

その人物とは、玄関付近にてスタッフと打ち合わせをしていた大谷だった。


大谷の運命や如何に!?


270 名前:アルマジロ 投稿日:2007/01/11(木) 22:07
何故かアクセスするとエラーになってしまい、本日ようやく更新(^−^;
長らくお待たせしました…。
しかも、なんかしょっぱなから変なコンビでごめんなさい…。

>261 ミッチー様。
     矢口さんに引き続き、吉澤さんまでも…(w
     (〜^◇^)<さぁ行け!
     (0;´〜`)<無茶っすよぉ〜…。
     こんなですが(笑)今年もよろしくお願いします。

>262 名無し読者様。
     大変お待たせしました!ようやく更新しました。
     ( ^▽^)<今年もよろしくお願いします。
     (〜^◇^)<よろしく!オイラの活躍(?)見てくれ!
     今年もよろしくお願いします。

>264 Mirai様。
     そう言って頂けると嬉しいです。今年も頑張ります!
     ヽ^∀^ノ<今年もよろしくな〜。
     (〜^◇^)<オイラのとこだけはしっかり見てくれよ!
     今年もよろしくお願いします。

ようやく更新が出来ると思ったら、後期の試験が近づいております…(´□`;
なんとかたくさん更新出来るように頑張りますので、気長にお待ち下さい。
それでは。     
271 名前:ミッチー 投稿日:2007/01/12(金) 01:07
更新お疲れ様&あけましておめでとうございます!
でこぼこダンボールコンビって(w
吉澤さん、頑張れ!
そして、可哀想な大谷さんも頑張れ!(w
もう後期試験の時期ですねぇ・・・。
お互いに頑張りましょう!
272 名前:ぷー太郎 投稿日:2007/02/06(火) 14:17
更新はしないんですか?〜〜作者さ〜〜ん
273 名前:Mirai 投稿日:2007/02/06(火) 18:51
大学生は、後期試験の時期ですからね〜。
友達(大2)の学校は、今日終わったようで実質春休みに
入ったようですが・・・取っている授業によって、違うだろうし。
私は専門学生なので詳しくは、ないんですが・・・(^^;
まったり、更新待ってますね。


274 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/12(月) 16:48
「市井ちゃん市井ちゃん」
「何だよ」

二階では相変わらず後藤がメイキングを撮っていた。
市井は疲れたのかベットに横になっている。

「もー、真面目にやろーよー」
「疲れたんだよ…そんぐらいでいーじゃん」
「ダメだなぁ」

二人は今、後藤の部屋に居た。

「なぁ、ちょっと休も?」

市井の言葉に後藤は「しょーがないなぁ」と笑いカメラを机の上に置いた。
そしていきなり市井が寝転んでいるベットにダイブした。

「おわっ!?…お前な、危ないだろ」

何とか横にずれてダイブして来た後藤を市井は避けた。

「あはっ、楽しいねぇ」

ふにゃっと無邪気に笑う後藤。その笑顔に市井も笑った。
そのまま市井が後藤に腕枕をする体勢になった。
275 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/12(月) 16:49
「市井ちゃん」

「ん?」

「呼んだだけー」

「何だよ」

「えへへ」

「ったく…」

「市井ちゃん」

「…また呼んだだけとか言うんだろ」

「違うよぉ」

「じゃぁ何」

「大好き」

「……」

「市井ちゃん、顔赤いよ?」

「う、うっせーよ!」
276 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/12(月) 16:49
「後藤、この撮影が落ち着いたらさ」

「うん」

「どっか行きたいとこある?」

「んー…たくさんある!」

「例えば?」

「温泉に、遊園地に、水族館に…あ、あとハワイ!」

「…ホントにたくさんだなぁ。一番行きたいとこは?」

「やっぱ…ハワイ、かなー」

「んじゃ、行くか。ハワイ」

「えっ!?いいの!?」

「おう。ずっとこの撮影と仕事ばっかで結構金が貯まってるから」

「…でも、仕事休み取れるの?」

「なんとか取るよ」

「やった!じゃぁ、約束ね」

「あぁ、約束する」
277 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/12(月) 16:50
「なんかさぁ」

「ん?」

「こうやって市井ちゃんと一緒に居るじゃん」

「うん」

「なんか…幸せだなって」

「そーだな。私も後藤と一緒に居て幸せだし」

「すごいよね。ずっと続いてるんだよ」

「続いてるなぁ」

「これからも続くといーね」

「ずっと続くだろ」

「世界の終わりが来ても?」

「…唐突だな。…そん時が来ても続く。ってか続けさせる」

「どーやってさ。世界の終わりだよ?地球滅亡だよ?」

「だから…アレだ。ほら、ドラえもんの道具に出てくる救助ロケットみたいなやつ。
 それで脱出する」

「…市井ちゃんってさ」

「ん?」

「よしこ並にアホだよね」

「なっ!?あんな奴と一緒にすんな!」

「だってさー、ドラえもんなんていないじゃん」

「わかんねーだろ。未来でドラえもんとか出来るかもしんないじゃんか」

「いや、でもさぁ…」

「大体、後藤が世界の終わりがどーのって言うから。そっちだって十分非現実的だろ」

「…ドラえもんが発明されるよりは可能性はあると思うけど」

「とにかく!この幸せはずっと続くんだよ。以上!」
278 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/12(月) 16:51
「あー…なんか眠くなってきた」

「うん…あたしも」

「まだ休憩時間だよな?」

「多分…ちょっと仮眠しよーよ」

「ま、いっか…おやすみ、後藤」

「市井ちゃん、おやすみ…」


すやすやと眠る市井と後藤。

そんな二人を机の上に置かれたカメラはしっかり撮影していた。
279 名前:アルマジロ 投稿日:2007/02/12(月) 17:02
だいぶお待たせしてすみません!
本日の更新は以上です。
何故か甘甘のいちごま(w

>271 ミッチー様。
     (〜^◇^)<ん?気に入って貰えた!?やったー!
     (0;´〜`)<だから、暴れないでって!転ぶから!
     吉澤さんと大谷さんは大変です(笑)

>272 ぷー太郎様。
     長らくお待たせしてすみません!
     これからはたくさん更新出来るので頑張ります。

>273 Mirai様。
     まったり更新待ってくださってありがとうございます(嬉泣)
     ようやく後期の試験もひと段落しました…。
     これからは更新出来る状態なので頑張ります。

ようやく後期の試験も終わりました。
試験のことは振り返らず(ぇ
この物語を続けることに集中して行きたいと思います(w
280 名前:ミッチー 投稿日:2007/02/13(火) 02:52
更新お疲れ様デス。。。
おぉう!甘甘ですねぇ(w
いつまでも幸せでいてください☆
カメラにしっかりと撮られちゃってるって、恥ずかしー(w
後期の試験お疲れ様でした。試験のことは忘れましょー!(w
281 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/22(木) 22:29
市井と後藤が仲良く眠っている頃、でこぼこダンボールコンビはというと。

「ちょっと斜めってる!ちゃんと真っ直ぐ歩けよッ!」
「んな無茶言わないでください!こっちだって必死なんすから!」

二人のコンビ仲はどんどん悪化していた。
ふらつきながら庭へと侵入する。

その時だった。

「うわっ!!?」

吉澤の足が地面にあった石につまずいた。
当然、バランスは崩れダンボールは前のめりになる。

「なっ!?」

矢口も慌てるが、吉澤がバランスを崩した以上当然の如く道連れとなる。
二人は派手に地面へ倒れた。

「…?」

不審なダンボールに大谷が近付いた。

「いたたたた…」
「いってぇー…」

合体も解除され、ダンボールの中から二人が出て来る。
その二人を大谷はポカンとした顔で見ていた。
282 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/22(木) 22:31
「よっすぃーがちゃんと歩かないから」
「ちょっと待って下さいよ!先輩が上で暴れるからでしょ!?」

ぎゃーぎゃー騒ぎ始める二人の近くにしゃがんで大谷はじっと待っていた。
すると二人はピタッと騒ぐのを止めて、ハッと大谷を見た。

「えーと…その…何か楽しそうですねー」

どう言えばいいかわからず笑って大谷が言った。
すると見つかってしまった二人も大谷に合わせて笑った。

「…何でここに矢口さんが…?」

大谷の言葉にピキーンと矢口の笑いが止まった。
すぐさま立ち上がり大谷のスーツの胸倉を掴んだ。

「こうなったら…奥の手だ!」
「え?」
「よっすぃー!手伝え!」
「今度は何すか…もう梨華ちゃんとこ戻りたい…」
「いいから!こいつを拉致るぞ!」
「えぇー!?ちょ、矢口さん!?」
「これやったら戻っていいっすか〜…?」

でこぼこダンボールコンビは大谷を引きずって庭から消え去って行った。
283 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/22(木) 22:33
その頃、柴田のイライラは頂点に達していた。
「ちょっとマサオは何処に居んのよ!?」
いろいろと確認して起きたいことが山ほどあるのに、と柴田は大谷を探していた。
「携帯も通じないし…」
大谷の携帯にかけても大谷は出ない。
すると同じく人探しをしている石川に出くわした。
「あ、柴ちゃん」
「何?そっちもまだ見つかってないわけ?」
柴田の言葉に石川は眉を下げて小さく頷いた。
「全く…一体何なのよ」
マネージャーの大谷は見つからない上に出演者である吉澤も見つからない。
これでは撮影が押してしまう。
「ねぇ、柴ちゃん」
「何よ?」
「神隠しじゃないよね…?」
石川の目は真剣だった。
「なわけないでしょ。バカ」
「だってぇ〜…」
石川が泣きそうになっている時、柴田の携帯が鳴り響いた。
「マサオだ!」
着信は大谷からだった。
「もしもし!?マサオ?あんた何して───」
『ふっふっふっ。お宅のダンナは預かった』
聞こえる声は大谷の声ではなかった。
『返して欲しければ、矢口真里を出演させろー』
その声はかなり高音の声で、明らかに自分で声を変えていた。
「…矢口さん、何言ってるんですか?」
そして紛れもなく矢口の声だった。
『なっ…矢口ではない!マリーだ!』
「いやいやいやいや、矢口さんでしょ」
『と、とにかく!お宅のダンナを人質にした!』
「へぇー」
『あ、危ないぞッ!こちらの要求に応えないとただじゃおかないぞ!?』
「ほー」
柴田は携帯を耳に当てたまま歩き出した。
石川も柴田ついていく。
しばらく歩いて森付近の繁みの中から大声で騒ぐ声が聞こえてきた。
『矢口真里を出演させれば、人質は返してやる!どーだ!』



「直にお話を聞きましょうか、矢口さん?」



柴田は矢口の後ろに立っていた。
284 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/22(木) 22:36
「っで、何なんですか?」
監督専用のテントで矢口は柴田の前で正座させられていた。
「マサオさん…何でうちらまで…?」
「さぁ…とりあえず、あゆみには逆らわない方がいいよ」
ついでに吉澤と何故か大谷も。
「だって…オイラだけ…なんか、仲間外れみたいじゃんか…」
正座してる膝の上に置いた両手をギュッと握って矢口は小さく呟いた。
「みんな撮影でさ…忙しくて…」
矢口の声が微かに震えているのに、ここにいる誰もが気付いた。
「…寂しいんだよぉ…!!」
俯いて矢口が泣き出すのを見て、吉澤が「監督」と言った。
「矢口先輩も一緒に出演させてもらえませんか?…やっぱり、仲間だから」
お願いします、と頭を下げる吉澤。
「なぁ、あゆみ。私からも頼むよ」
大谷までも頭を下げ、最後は矢口自身が土下座する勢いで頭を下げた。
柴田はやれやれ、と軽くため息をついて笑った。


「…わかりました」


「え?」と三人が顔を上げる。

「矢口さん、これから忙しくなりますから覚悟してくださいね?」

柴田はそう言うと「マサオ、リハ始めるわよ」とテントを出て行った。
285 名前:柴田プロジェクト 投稿日:2007/02/22(木) 22:38
「…オイラも出れるの?」
「みたいっすね…」
「…やりましたね」

ポカンとする三人。
テントの外から「マサオ!」と柴田の声が聞こえ、大谷は慌ててテントを出て行った。

「先輩!やったすね!」
「う、うん!」
正座したままハイタッチで喜ぶでこぼこダンボールコンビ。
「よっすぃー!ありがとー!」
嬉しさのあまり吉澤に飛びつく矢口。
その勢いで地面に倒される吉澤。
「ちょ、矢口先輩…痛いっすよー」
「だって嬉しいんだもーん!」
吉澤に引っ付いたままはしゃぐ矢口を吉澤も本当に良かった、と嬉しげに眺めていた。


そんな時。


「ひとみちゃん、お話終わったの?…って」


抱き合って喜ぶ二人の元へ何も知らない石川がやって来た。


………。


「ひとみちゃんのバカー!!」

ショックを受けた石川はそう叫んで走り去った。

「え?えぇ!?梨華ちゃん!?」
「いぇーい、修羅場〜♪」
「な、何てこと言うんすか!ちょっと退いて下さい!」
「えー、どーしよっかなー」
「邪魔です!」
「邪魔言うなッ!」

こうして無事、矢口も出演することが決まった。
286 名前:アルマジロ 投稿日:2007/02/22(木) 22:46
本日の更新は以上です。
こんな矢口さん出演の裏話(w


>280 ミッチー様。
     試験のことは忘れましょー(w
     ヽ;^∀^ノ<後藤、お前…カメラ回しっぱなしじゃんか。
     (;´ Д `)<んぁ…ホントだ。どーしよう。
     こんな裏話も(w

次回からようやく第三章に突入です。
いよいよBuck Lushが動き出します。
287 名前:ミッチー 投稿日:2007/02/23(金) 01:26
更新お疲れ様デス。。。
矢口さんよかったですね!
かなりドジな場面がありましたが(w
石川さんが勘違いしたままですが、大丈夫でしょうか?
まぁ、何とかなるでしょうケド(w
次回から第三章ということなので、楽しみにしてますね☆
288 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 12:59
矢口出るんですか… orz
289 名前:第三章 始動 投稿日:2007/03/01(木) 21:25




【第三章 始動】



290 名前:第三章 始動 投稿日:2007/03/01(木) 21:29
「………月、だ」

とある荒野の真ん中に人間が一人立っていた。
全身黒の衣服で、更にフードの付いたコートを羽織り、深くフードを被っていた。
そして夜空に浮かぶ満月をボーッと見上げていた。


『ねぇ、見て。今日は満月だよ』


その人間はかつて自分より大事だった少女を思いだし、静かに泣いていた。

もう二度と出逢えない、と嘆きながら。

「…何処かで元気に生きているなら…それでいい」

人間は満月を背にし荒野を歩き始めた。
しかし、すぐに足がもつれ大地に倒れる。

「ぐっ…!」

全身に痛みが走り、必死に自分の身体を両腕で抱き締めて抑え込む。

「……まだ終わるわけには行かない…ッ!」

ダンッ!と大地を拳で叩きつけた。
その眼は鋭くここではない何処かへと見据えられていた。

「復讐を果たすまでは…絶対に死ぬもんか…ッ!」

その人間の黒いコートの袖から見える両手が満月の光に照らされる。



―――まるで獣のような両手がそこにはあった。

291 名前:第三章 始動 投稿日:2007/03/01(木) 21:30
飯田は思いつめた表情をして廊下の窓の近くに立っていた。

「飯田さん?」
辻の診察を終えた松浦が飯田に気付き声をかける。
「どうかしましたか?」
「…いや、ちょっとね。月が出てたから」
窓の向こうには満月が見える。
松浦も飯田の隣に立ち飯田と同じように眺めた。
「満月、か…」
松浦の呟きに飯田は松浦を見た。
松浦が今にも泣きそうな顔をしていたので「どうしたの?」と問いかける。
「満月を見ると…思い出すんです。大切な人を」
「…そっか」
松浦が自分のことを他人に話すことは滅多に無い。
飯田は驚きながらも嬉しく感じていた。

(…にしても、不気味なくらい綺麗な満月)

もう一度、満月を見て飯田は心の中で呟いた。

「あたし、戻ります。辻ちゃん待ってますよ」
「うん」
コツコツと松浦の足音が遠ざかって行く。

「…何も起こらなきゃいいけど」

(嫌な予感がする)

完全に松浦の足音が聞こえなくなったとこで松浦とは逆の方向に飯田は歩き出した。
292 名前:第三章 始動 投稿日:2007/03/01(木) 21:33
満月の夜空の下。荒野の大地を一台のバイクと車が走っていた。
バイクには市井が乗っており、車には運転する保田と石川、後藤、吉澤が乗っていた。
「あのバカ。スピード出し過ぎよ!」
爆走するバイクを見て保田が言った。
「んぁ…」
助手席で後藤は眠りこけ、後部座席では吉澤と石川が緊張した面持ちで座っていた。
「ちょっと、そんな辛気臭い顔してたら勝てるものも勝てないわよ!」
隣では寝てるヤツが、後ろにはずっと黙り込んでる二人が。
こんな感じでかれこれ一時間続いていた。
保田はうんざりするようにため息をついた。
「うぅ…大丈夫かな」
「ひとみちゃん…きっと大丈夫だよ」
不安気な吉澤の手を優しく石川の手が包み込む。
その様子を保田はバックミラー越しに見た。

(甘いわ!ったく、いちゃつくんならここで降ろすわよ!?)

更にアクセルを踏み、前を爆走するバイクを追いかけた。
293 名前:第三章 始動 投稿日:2007/03/01(木) 21:33


作戦開始は午前零時。


タイムリミットは夜明けまで。


戦いが今、始まる。


294 名前:アルマジロ 投稿日:2007/03/01(木) 21:39
ようやく第三章が始まりました…。
短いながら本日の更新は以上です。

>287 ミッチー様。
     (〜^◇^)<ありがとう!オイラ出れるよ〜!
      まぁ、石川さんは何とかなるとして(w
      本日から第三章へ突入しました!今後ともよろしくお願いします!

>288 名無飼育さん様。
     矢口さん出ちゃいます…(^−^;
     当初、一応出す予定だったもので(焦


第三章ではまた新たな登場人物が出てきます。
って、もう早速出てますが…。
タイトルにもあるように色々、動き出します。

295 名前:ミッチー 投稿日:2007/03/02(金) 02:04
更新お疲れ様デス。。。
新たな人物の登場ですね。
松浦さんの過去も気になります・・・。
色々と動き出しているようなので、今後が楽しみです♪
296 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/27(火) 22:18
早くいちごま来ないかなぁ(*'ェ`*)ポッ
297 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/23(土) 07:16
待ってます。
298 名前:hitomiマリちゃん 投稿日:2007/07/06(金) 12:33
私はうれしかったよダンサーです。ごめんなさい
299 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 20:25

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