草花、その命
- 1 名前:いこーる 投稿日:2006/04/30(日) 17:44
- 美勇伝・Berryz工房・モーニング娘。
植物と 命にまつわる 短編集
月ごとに一つの作品を毎回読み切りで更新して参ります。
4月:あじさい階段
5月:Biolante
6月:きゃべつの皮
7月:Trust Fall
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:45
- あなたは歩いていた。
石段はさっきまでの雨を受けてわずかに湿っている。
灰色の階段はてっぺんが見えないほど遠い。
長い長い階段を
あなたは歩いていた。
ピンク色のチューブトップから大胆に背中をのぞかせて
しかもその背中は階段のためかうっすらと汗が浮かんでいた。
絵梨香はその艶かしい光景を直視するのがためらわれ
視線を灰色の階段に落としていた。
絵梨香に広がるのは無彩色の世界。
モノクロ映画に迷いこんだみたいに不確かな感覚に誘われる。
ときおり目に入るあじさいの色だけは鮮やかで
周囲の白黒から浮かび上がってくるみたいだった。
その色彩が絵梨香の脳を刺激する。
ピンク色の薄い、色っぽいトップス。
あらわな肩は透き通るほど真白で血管が浮いてくるみたいだった。
あなたの肌はあまりに白すぎて
やはりここはモノクロ映画かと錯覚する。
リアルなのはただあじさいと
衣服のピンク色だけだった。
階段を延々、気の遠くなる時間登り続けている。
この世にこんなに続く階段があったものだろうか。
まるで時間の流れから逃れたみたいに
ずっとずっと無限に続くあじさいと灰色の階段。
じっと重く濡れた世界。
この階段がどこへ向かうのか、
自分とあなたがどこへ向かっているのか、
どうしても絵梨香は思い出せないでいた。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:45
- 階段を進むたび、絵梨香は自身の体が
余計に重くなっていくような錯覚に陥ってしまう。
周囲の湿気をその体に溜め込んでいくような
重苦しい気分。
反対にあなたは軽くぽんぽんとはずむように
階段を上っていく。
白い肌。軽い体。あなたの存在は不自然すぎた。
でも絵梨香はその理由を聞けずにいる。
なぜそんなに白いのか。なぜそんなに軽いのか。
それを聞いてはいけない、聞いてはいけない。
理由はわからぬが、絵梨香はあなたに聞くことを恐怖していた。
そう、聞いたらきっと恐ろしいことになってしまう。
聞いたらきっと悲しいことになってしまう。
絵梨香の心の中でその確信だけは強く鳴り響いていた。
不思議なのは、絵梨香の精神状態だった。
なぜ、自分のことを「絵梨香」として傍観できているのか。
なぜ、他ならぬ<私>を他者として認識しているのか。
まるで、三人称小説の世界を見ているかのようだ。
客観的に自分を見下ろしているような
それはそんな感覚だった。
―――「絵梨香」であることに冷めたかもしれない。
絵梨香はそう分析した。やはり、自己を対象化した冷静な分析。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:45
- いや、……
そうではない。自分に冷めてなんかいない。
だって絵梨香はあなたを見ている。
他ならぬ、この絵梨香の目で。
絵梨香は、自身を見るときはまるで空から俯瞰するように
自分に距離をもって見下ろしていた。それが、
あなたを見るときにはできない。
あなたは、絵梨香の見た「あなた」としてしか立ち現れてこない。
絵梨香にとって、あなたは1人だけのあなたでなければいけない。
結局絵梨香は、自分の視点から自由ではないのだ。
いや、……
こう言うべきかも知れない。
絵梨香はあなたのおかげでかろうじて<私>でいられたのだ、と。
あなたのおかげで絵梨香が存在できたのだと。
やがてあなたと絵梨香は立ち止まった。
立ち止まらざるを得なかった。
「道が、途切れちゃってる」
絵梨香がそういうと、あなたは
「こんなの、なんてことないわよ」
初めて振り返った。
絵梨香は、あなたの白い顔を見るのが怖くて
目を伏せてその声だけを聞いていた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:46
- 声。他と間違えようがない。甲高く、特徴的な魅力的なその声。
絵梨香は皮膚に寒気を感じた。
寒気を感じるほど
あなたはきれいな声だった。
「さ、行くよ」
絵梨香をぞくぞく震わす声がそう言うと、
跡にはくすくす、というあなたの笑い声が残された。
絵梨香が再び目をあげたとき
すでにあなたの体はふわり、あじさいの上を弾んでいた。
「ま、待ってください!」
絵梨香はそう言うが、あなたは待ってくれやしない。
絵梨香もあなたのまねをして、あじさい階段を進もうとするが
どうしても枝に体がつかえてしまって先に進めないのだった。
―――だめなんだ……
絵梨香の中に、ふとした思念がよぎった。よぎったというより
湧いて出たかのようだった。
いや、……
湧いて出たというより、掘り起こされた記憶みたい。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:46
- 絵梨香はこの思いを、昔から知っていた。
思念はこう告げていた。
このまま、冷めた自分のままでは、あじさい階段は登れないのだ、と。
絵梨香はひとつため息をつくと、決心してあなたの名を呼ぶ。
「待ってください、石川さん!」
唐突に場面が変わった。
気がつくと絵梨香は梨華と、階段の一番上にいた。
自分が見ていない間に場面がかわり
もう絵梨香と梨華はてっぺんまで登ってきたらしい。
梨華のことを認めたことで、あじさいが道を開けたのだと、絵梨香は思った。
―――ああ、また、あじさいだ。
階段をすぎてもなお、あじさいの小道にいた。
あいかわらずあじさいは、白く、青く、黄色く、紫に。
湿った空気の中に浮かび上がる鮮やかな花たちに
絵梨香は吸い込まれるように中へと進んでいった。
梨華もとなりでずっと歩いている。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:46
-
こういう風景を絵梨香は知っている。
あれは買い物した帰りだったろうか。
どちらかが言い出して梨華と、あじさい香るお寺を散歩した。
あのとき、あじさい小道に入ると、周囲の喧騒がすっ、と遠のき
まるで2人だけの世界に入ったように錯覚した。
そこではじめて、手をつないで歩いた。
―――この景色はあのときの……
絵梨香はぼんやりと、甘い記憶に浸りながら歩いていた。
2人でよく買い物をした。
誘ってくるのは決まって梨華からだった。
何か探すものがあるとは限らず
梨華はとにかく絵梨香と出かけたがった。
なぜ自分を誘うのか、とは聞かなかった。
ただ、妙に2人は距離を意識していた。
会うたびに
歩く2人の距離が近づいて
最近ではもう、体と体がぶつかって歩きにくいほどの距離。
どちらかの体につかえて立ち止まることもしばしばだった。
立ち止まったとき、決まって梨華は
絵梨香を見やってくすくす、と笑い声をもらした。
甘く切ない笑い声は、ずっと絵梨香の耳に残ったままだった。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:46
- あじさい小道の先には、大きな河が流れていた。
小道を抜けて広い場所に2人は出た。
周囲は真っ赤な花畑だった。
赤はあじさい小道に欠けていた色だ。絵梨香は何とはなしにそう思った。
赤い中に梨華の肌だけが白く際立っていた。
―――きれい
絵梨香はしばし、見とれていた。
赤い花畑と、透き通る白のコントラストが
絵梨香の心を吸い寄せて、しばらく離さなかった。
「絵梨香……」
梨華が話しかけてくる。
息を吹きかけてくるようなくすぐったいささやき声で
こちらに背を向けたまま話してくる。
そして、冷える一言を言った。
「お見送り、ありがとうね」
「え?」
お見送り?何言ってるんですか?
絵梨香の肌がざわつく。まるで
鳥の群れが林から飛び立つみたいに
絵梨香の記憶が覚醒していく。
居心地の悪さを感じるざわめき。
心がかき乱される騒動が、絵梨香の中から沸き起こる。
そして
絵梨香はとうとう、思い出してしまった。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:46
- なぜ
あんなに長い階段を登る必要があったのか。
なぜ
こんなにあなたの肌は――白いはずないのに――白いのか。
なぜ
こんなにたくさんの赤い花が――赤い花!――敷き詰められているのか。
「石川さん……この…花たちって……」
聞いてはいけない!聞くんじゃない!
そう心の中は叫んでいたが、すでに遅い。
すでに絵梨香は
全てを思い出してしまった。
この赤い花。
それは彼岸花……
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:46
- 梨華は河のほとりにたたずんでいる。
絵梨香はあいかわらず、顔が見えない位置で梨華を見ている。
理由を知ってしまったために余計に顔が見られなかった。
白の、真白の顔を見るのが怖かった。
「絵梨香、お迎えが来たわ」
梨華の指した先を見ると、舟がゆらゆらと
こちらの岸に近づいて来た。
舟の上では船頭が、櫂を動かしてこちらを目指している。
それはよく知った顔の船頭だった。
「どうもー」
船頭が……唯がのんびりとそう言った。
「石川さんを迎えに来たで」
唯は舟を岸につけ、地上に降りて無表情のまま言った。
「さ、そろそろお別れやな」
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:47
- 「ちょ、ちょっと!」
絵梨香は唯に向かって言った。
「何でよ?何でもうお別れなの!?」
「そんなん言うてもそれがお仕事やから……」
「だめ!石川さんを連れてかないで!」
「無茶言わんといてや。もう死んでんねんで。
絵梨香ちゃんはまだ生きとる。もうお別れや」
「そ、そんな急になに言ってるの!
唯ちゃん。石川さん、あんなに仲良くしてくれたじゃん!
助けてあげてよ!」
「唯ちゃん?私は違いますよー」
そう言うと唯は、水にさしたままだった櫂をすっと引き抜いた。
「私はー」
絵梨香は息を呑んだ。それは櫂ではなかった。
先に鋭い曲線がぎらりと光っている。あれは……
「私はあの世の遣い」
鎌だ!
「死神様やで!」
唯は両手で長い柄をつかむと鎌を大きく振りかぶった。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:47
- 「やめてーーーー!」
絵梨香は咄嗟に駆け出していた。
両手を広げて唯の前に立ちはだかる。
「わっ、あぶな!」
ぶぅん、と音を立てて鎌は絵梨香の脳天から足元までをすり抜けた。
体の中を刃物が通過するとき絵梨香は体を引っ掻き回される心地だった。
胸の奥が急に痺れて思わず喘いでいた。
「は、はぁ……はぁ……」
「ちょっとー、生きとる人切ったら怒られるんやから、やめてや!」
「いきなり切ることないじゃない!なんてことすんのよ!」
「お?平気な人?ずいぶん強い心持ってんねんなー」
「な、何がよ……」
「見えへんかった?」
言われて絵梨香は、思わず一歩引いてしまった。
「あ、その反応。見えたんやろ」
絵梨香は、顔を覆った。
……見えた。
見たくもないものが……思い出したくもない光景が……
「ああ……」
「この鎌はな、心を切る鎌なんよー」
なんてこと。
絵梨香に見えたのは、自分の奥深くで蠢く、痛い記憶だった。
ひざから崩れ落ちて、絵梨香は打ち震えていた。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:48
- ――石川さん、ごめんなさい……
薄っすらと、音の遠い光景だった。色彩も乏しい。
……
楽屋で梨華が居眠りをしていた。
あとは絵梨香しかいない。
絵梨香は音を立てぬよう、戸の鍵をかけ、そこを密室にする。
カチャリ
鍵の音が予想以上に大きくなってしまい、絵梨香は焦った。
しかし、梨華は気持ち良さそうに眠ったまま。
ゆっくりと梨華に近寄っていった。
梨華は起きない。
絵梨香は何かに突き動かされるように
梨華に……
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:48
- 「いやぁ!!」
絵梨香は頭を抱えて髪を振り乱して
必死に脳裏を衝いて出る記憶をかき消そうとする。
「落ち着いて。そんなに深くは切ってないから」
「な、なんてもの見せるのよ!!」
「心の傷口から、ちょろっと出てもうただけ。大丈夫。落ち着いて」
「お、お、落ち着け?バカなこと言わないで!!」
「私の仕事邪魔するからやで。おとなしくしててやー」
「……」
自分の胸を押さえて、目を閉じて深呼吸をする。
「そうそう、心を落ち着ければ、もう流れて来ないから」
自分が顔中に汗を浮かべているのがわかった。
絵梨香は歯を食いしばって必死に理性を働かせ、胸の動きを抑える。
「さ、石川さん。今度は石川さんの番やで」
「ま、待って」
絵梨香は唯に懇願した。しかし、さっきのような勢いはない。
絵梨香の声は唯には届かなかった。唯は梨華の手を取って舟に乗せる。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:48
- 「待ってーーーー!!」
絵梨香は、震える足をどうにか立たせて舟に歩みよった。
唯は、再び鎌を振りかぶる。
「いやーーーーーーーー」
そして、ぶん、と舟の上の梨華に振り下ろした。
鎌が振り下ろされ、舟の底に突き刺さった。
切られた梨華は一瞬の間をおいてから
どさりと舟の上に崩れ落ちた。
梨華の崩れる音が聞こえたときちょうど
絵梨香は舟のもとにたどりついた。
「石川さん……」
絵梨香は舟に飛び乗って梨華の両肩を抱く。
梨華の胸からは
ドクドクと赤い液体が溢れ出ていた。
「何が心を切る鎌よ!血が出てるじゃない!」
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:48
- 「それは血やない。心の膿みです」
絵梨香は咄嗟に、梨華の傷口を押さえようとした。
「あ、待て……」
背後に唯の声が聞こえてきたが、もう
絵梨香の意識は遠い景色を見ていた。
血の赤い色と、風景の赤いものが同期して
やがてその赤の正体が知れた。
それは、小さな少女の背負ったランドセルの赤だった。
少女は、じっと前を睨みつけて歩いている。
少女からは梨華の面影が感じられ、
これが子どものころの梨華なのだとわかった。
その、10メートル先には2人の女の子が
くすくすと笑いながら手をつないで歩いている。
小さな梨華は道端の石を手に取った。
梨華の片手に収まらない大きさの石だった。
梨華はそれを持ち上げて振り上げる。
―――ダメ!
絵梨香は叫んだが、声は少女のもとには届かなかった。
梨華はその石を、前を歩く少女目掛けて……
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:49
- 「ダメやって言うてるやろ!!」
背後から抱え上げられ、絵梨香の意識がこちらに戻ってくる。
「な……何よ今の!?」
「それは石川さんの罪悪。心に溜まった、醜い記憶や。
これを流さないとあの世には行かれない」
「これが……石川さんの心の膿み」
「そう、子どものころの膿みやな」
唯がそう言って、哀れむような表情で舟に横たわる梨華を見下ろした。
「あー結構多いなぁ。これ、舟沈まんかなー」
「沈んだら、どうなるの?」
「底まで沈んで、後は地獄行きですね」
「そんな……」
―――とめなきゃ!出血をとめなきゃ!
絵梨香は再び梨華の前にかがみ込んだ。
「絵梨香ちゃん!」
「……」
背中越しに、唯の声が、哀しそうな声が聞こえてくる。
「まだ、見たいの?まだ、懲りない?」
「だって……このままじゃ、石川さんが」
絵梨香はそう言うと、目を硬く閉じて、梨華の傷口を再び押さえた。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:49
-
景色はさっきのあじさい小道だった。
さっきと同じあじさい。
ただ違うのは、あじさいが全て赤く染まっている。
まるで彼岸花のように、まるで血のように
あじさいは赤く咲いていた。そこに絵梨香は佇んでいた。
ガサッ
近くで音がしたので駆け寄る。
するとそこには梨華が立っていた。
頬に小さな笑みを浮かべている。
「石川さん」
「絵梨香。ちょうど良かった。さ、こっち来て」
梨華に誘われるままに、絵梨香は梨華の傍に歩み寄った。
「こ、これは」
絵梨香は胸を突かれたようにぎょっとなった。
あじさいの茂みの中に、唯が倒れていた。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:49
- 「石川さん?何をしたの?」
「ちょっとね……邪魔だったから」
唯の腕に赤い筋が走っている。
倒されたときに切ったに違いない。
「さ、もう邪魔はいなくなったわ」
そう言って、梨華が絵梨香の前に踏み込んできた。
不意に接近されて、絵梨香の心臓が跳ね上がる。
「唯ちゃんに……何をしたの?」
梨華は問いには答えず、そっと絵梨香の手をとった。
いつものようにさりげなく絵梨香の手を握ってくる。
その手が驚くほど冷たくて、絵梨香は恐ろしくなる。
絵梨香の怯えた表情に構わず、梨華は迫ってきた。
「石川さん?」
「ね、キスしようよ。ずっと私にしたかったんでしょう?」
「そ、そんな」
「隠したって全部知ってるんだから。
あんたが私でどんな妄想していたか私は知ってるわよ」
「やめて!」
「さ、お望みどおりキスしたらいいじゃない!」
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:49
- 梨華の唇が、ぐいと近づいてきた。
絵梨香はしびれたように動くことができずに為されるがまま。
梨華は鼻息を荒く絵梨香の頬に吹きかけると
両手で絵梨香を、あじさいの茂みに押し倒した。
倒れた絵梨香の上に梨華が覆いかぶさってくる。
「うう……ううぅぅぅぅぅ」
絵梨香の背中では、2人の下敷きにされた唯が苦しんでいた。
「い、石川さん!やめて!唯ちゃんが……」
絵梨香は必死に懇願するが梨華はふふ、と微笑むと
絵梨香にまたがった姿勢で、両手で絵梨香をまさぐり始めた。
絵梨香はたまらず身を捩じらせた。
「や……やめて……ください……」
絵梨香が動くと、下から唯が呻いて苦痛を訴えてくる。
「ふふ、絵梨香ったら喜んでるじゃない」
「やめて……」
「う……ぐうぅ……」
梨華は絵梨香にさらに強くのしかかってくる。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:51
- 「うううううううううううううう」
背中には壊れたモーターのような唯の声。
「きゃはははは!」
梨華が甲高く笑って
絵梨香の手を取って起こした。
「あら、……」
絵梨香が見下ろすと、あじさいの枝がめちゃくちゃに折られ
その中で四肢をバラバラに折り曲げられた唯が
捨てられた人形のように、哀しげな無表情のまま白目で横たわっていた。
その目は何も捉えず、生気が感じられない。
腕に走る傷の赤色だけが生々しい。
「あははははははははは!」
梨華の狂ったような笑い声がこだました。
心底楽しそうに梨華は、甲高く笑い続けていた。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:51
-
「きゃあああああああああああああああ」
そのとき絵梨香の足元がぐらりと傾いた。
気づくと絵梨香は、水の中に転落していた。
必死にもがいて浮かび上がる。
「あー、転覆させてもうたー」
唯の声が聞こえた方に泳いでどうにか岸につけた。
息を切らしていると、唯に引き上げられた。
「い、いしかわさん……」
絵梨香はしかし、立ち上がることができずに
その場に膝を着いて震えていた。
四肢に力が入らない。
今、ここにいるという感覚すら不確かだった。
「なぁ、絵梨香ちゃん。人の奥底なんて見たらあかんよ。
普通なら気が狂ってもおかしくない」
「石川さんは?石川さん……
どうしよう私が沈めちゃったの?」
絵梨香は唯の両肩につかみかかって叫んだ。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:52
- 「絵梨香ちゃん……どうして?」
唯の目がおどろき見開かれる。
「どうしてあんなもの見せ付けられて
まだあの人のことなんて気にしとるの?」
「助けて!石川さんを助けて!」
「……」
「どうしたの?あなたなら助けられるでしょう?」
「無理ですよ。どのみちあんだけ心が歪んだ人間は連れて行かれない」
「ば、ばかなこと言わないで!あんなこと……
石川さんがあんなこと考えてるはずない」
「信頼していた人があんな欲望を抱えていたなんて残念やけど……」
唯は、佇んだまま河の底をじっと眺めていた。
「あれが……人間なんや……」
その声はシンと響いた。川面は彼岸花を映していた。赤く、深く。
絵梨香も唯とならんで、その奥を茫然と眺めていた。
眺めながら、絵梨香の思考も河に浮かぶように揺らめいていた。
―――愛してた……たぶん。愛されてた……
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:52
- 赤い川が流れている。
人の体の中に、どろり赤い川が流れている。
両肩を自分で抱いて、どうしようもないおぞましさを感じていた。
ずっと気づかない振りをしていた。
この
自分の存在がどれだけ醜いか……
それを直視したくなくて
きれいなあなたに惹かれた。
澄んだ声のあなたを、必死に愛していた。
でもあなたは……
「どうしても、助けたい?」
「え?」
「また、いやな目を見るかも知れない。
それでもあの人を想ってる?」
「あ……」
唯に引っ張られて絵梨香は立ち上がった。
「当たり前でしょう」
そう言うと、唯は深くため息をついた。
「ほんなら、試してみよか」
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:52
- 「え?」
「自分の気持ちに自信があるんなら、
絵梨香ちゃんが石川さんを助けるんや」
「どうするの?」
「ほら、あそこに2つの色のあじさいがある。
白と、紫の。どちらか1つを河に浮かべれば
石川さんは助かる。間違った方を選んだら
あの人は永遠に、冷たい河の底や」
絵梨香は、あじさいの元に歩み寄った。
―――どっち?
両方のあじさいに手を触れる。しかし何もわからない。
―――どっちなの?
絵梨香はあじさいの前で目を閉じて、心を研ぎ澄ます。
―――どっち?愛してる?それとも……
そして絵梨香は白い花の枝を折って戻ってきた。
赤い河に、白いあじさいを、そっと、浮かべた。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:53
- 「い、いしかわさん?」
河は、何も反応しない。
絵梨香は河を覗き込んでいた。
涙が河に、次から次へと落ちていった。
「石川さん……」
河は、何も反応しない。
待ってみても、変わらない。
あいかわらず赤く深く流れを湛えているだけだった。
「いしか………」
絵梨香は、絶望的に顔をくしゃくしゃにゆがめて
心の底から叫んだ。
「梨華ちゃん!!!」
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:54
-
肩を強く揺すられて絵梨香は目を開けた。
梨華が絵梨香の顔を覗き込んでいた。
「だ……だいじょうぶ?悪い夢見た?」
「い、石川さん……」
絵梨香は目をこすって頭を軽く振った。
記憶が少しずつ戻ってくる。
今日は梨華の部屋に遊びに来て……
勝手ベッドに寝転がっていたらいつのまにか。
「疲れてるんじゃないの?」
梨華はそう言ってくすっ、と笑った。
「うあぁ……」
絵梨香の目から
涙があふれ
気がつくと梨華にしがみついていた。
「ど、どうしたの?」
絵梨香は首を振って否定したが
涙は止まらず次々と流れていた。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:54
- ひとしきり泣いてしまうと絵梨香はただ
「悲しい、夢だった……」
と小さく言って、ベッドから立ち上がった。
立ち上がると同時に絵梨香は、梨華をいとおしく思う気持ちが
ずっとずっと大きくなっているのを感じていた。
「どうする?疲れてるんなら泊まってく?」
梨華が心配そうに声をかけてくる、
その言葉に絵梨香は一瞬思案したが結局帰ることにした。
もう少し、気持ちを落ち着けてから、梨華に話したかった。
自分の想い。今日、本当に確かなものだとわかった気持ちを。
「ありがとう。今日は帰ります」
「そっか……」
ちょっと小さな声で言うと、梨華は玄関まで見送ってくれる。
扉を開けると外はすっかり暗くなっていた。
「じゃあ……」
「絵梨香!」
絵梨香が出て行こうとすると、梨華に呼び止められた。
「あのさ……」
「?」
一瞬、思いつめた表情を見せたが梨華は、すぐに明るい声に戻っていた。
「私たちって……おかしいよね」
「……」
梨華の言葉に、絵梨香は首をかしげ弱弱しく微笑むだけだった。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:54
- 絵梨香が部屋を出て、帰路につくのを
梨華はバルコニーから見下ろしていた。
絵梨香の後ろ姿が、闇にまぎれて見えなくなるまでずっと。
とうとう絵梨香が行ってしまうと、そのままの姿勢で小さく
梨華はつぶやくように言った。
「絵梨香……ありがとう」
梨華の目から一粒涙がこぼれて
地上までふわり降りていった。
「ごめんなさいね……」
寂しそうな表情で、涙が落ちていくのを見届けると
反対に軽くなった梨華の体は
空高く舞い上がっていく。
高く、高く舞い上がってやがて梨華は
雲の向こうで迎え待つ光の中へと吸い込まれていった。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:55
-
END
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 17:56
-
>>2-29
あじさい階段
- 32 名前:いこーる 投稿日:2006/04/30(日) 17:57
- 以上になります。
ご感想等いただけましたら幸いです。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/01(月) 21:57
- 色とか
感じる温度とか
オートマティックじゃないストーリーとか
とっても面白かったです。
- 34 名前:いこーる 投稿日:2006/05/19(金) 20:58
- >>33
ご感想本当にありがとうございます。
色が伝わればと思って書いていたので本当、嬉しいです。
- 35 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 20:59
-
お花さんみたく可愛くなって
世界中のみんなから愛されてね
何その夢。子どもっぽいよ。
いいの。もっともっと可愛くなりたいの。
はいはい、わかったから。
明日もあるんだから寝るよ。
- 36 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 20:59
- コンサートの会場になったのは
高層ビル内に設けられたホールだった。
ビルは周囲の建築物よりも頭一つ高く
ガラス張りの建物は地域のシンボルとなっている。
町そのものは決して大きくはない。
駅周辺こそ栄えているが、ちょっと行くとそこはもう田園風景だった。
それでも昨晩の公演は満席。
普段来ることのない地方での公演にはメンバーも気合が入り
コンサートは大いに盛り上がった。
翌日も同じ会場で同内容の公演が行われるため
メンバーは地元のホテルに宿泊となった。
ホテルの部屋からは、コンサート会場となるビルがよく見え、
絵里はまた明日も盛り上がろうと、気合が入る思いがした。
しかし、翌日の朝、
「Biolante」
- 37 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:00
- 絵里が目を覚ますと隣で寝ていたはずのさゆみの姿が見えなかった。
「さゆ」
寝ぼけた声で呼びかけてみるが部屋のどこからも返事がない。
「さゆ?」
絵里はベッドから起き上がった。
部屋は寝たときと同じように散らかったままだ。
さゆみの荷物は隅にまとめられている。
絵里を置いて出かけてしまったわけではないらしい。
絵里は立った姿勢のまま、両目を閉じて神経を研ぎ澄ませる。
―――さゆ……どこ?
しかし、さゆみの返事は聞こえて来なかった。
絵里はふと、部屋に設置されたデジタル時計に目をやった。
時刻は朝の5:55。まだ、出かける時間ではない。
絵里は焦燥を感じながら上着をして部屋の外に出た。
廊下に出るとそこへ、ひとみと美貴がいた。
まだ朝が早い。2人は何をしているのだろう。
「さゆ、見ませんでしたか?」
絵里は2人に声をかけた。しかし、2人は知らないという。
- 38 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:00
- 「いないの?」
「はい。寝るときは一緒だったのに
気がつくといなくなってました」
そう言うと2人の表情が曇った。
「ねぇ……まさか」
美貴がひとみの袖を引いて言った。
「あれと関係あるんじゃ……」
「まさか。どういう関係が……」
「でも……」
2人は困惑した表情で話していた。
絵里は事情が飲み込めない。
「あの……あれって?」
絵里は2人に促されて自室に戻ってきた。
やはりさゆみはいない。
「亀井ちゃんが起きたときには、もういなくなってたのね?」
「はい」
「ねぇよっちゃんどうする?
みんなに知らせといた方がよくない?」
美貴がそう言った。
- 39 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:00
- 「藤本さん。まだ行方不明ってわけじゃ……」
「いや、そっちだけじゃなくて」
絵里が首を傾げていると
ひとみが窓のところまで歩み寄って、カーテンを開けた。
窓の外に広がった光景に絵里は口を開けたまま固まってしまった。
窓の正面には、コンサート会場である例のビルが見える、はずだった。
しかしそこに……
「な、なにあれ?」
巨大な蔦がビルを覆うように絡み付いていた。
外側をぐるぐると太い蔦が巻きつき
そこから分かれた無数の枝が、民芸品のように細かな網目を作っている。
建物は緑色の蔦に支配され、ほとんど外壁が見えない。
そして蔦の一番てっぺんには、
トラック一台分はありそうな大きな黄色い花弁が乗っかっていた。
毒々しい原色の黄色。
動物の舌のようにべろりと広げられた花びらは4枚、
先端が屋上からはみ出して、建物の外側に垂れ下がっている。
花弁の表面には、赤い斑点がうっすらと見えた。
「うちらも起きてあれ発見してさ」
「昨日は……なんともなかったのに……」
- 40 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:00
- 絵里の胸に、ざわりと訴えかけてくる。このざわめきは、あの花からだ。
―――さゆ?
絵里は目を閉じて精神を花の方へ向けた。
閉じた眼に、再びざわりと伝わってきた。断片的なイメージでしかないが、
女の子の眼光、小さな心臓の鼓動、
―――さゆなの?
絵里は匂いをつかみ取ろうと鼻から小さく息を吸った。
すると、匂いがつかめた。
―――これ……髪の匂い……
「さゆだ!」
絵里は、目を開けてそう言った。
「亀井ちゃん?」
2人が怪訝そうに絵里の顔を覗き込んでくる。
「こんなに遠くから感じたのは、はじめて。
でも間違いない。さゆは、あそこにいる!」
「ちょっと……何わけわかんないこと」
- 41 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:00
- 「私を呼んでるんだ!」
美貴が伸ばしてきた手を遮ってそう言うと絵里は部屋の外へと飛び出していた。
背後からひとみの声が聞こえてきたが絵里は止まらずに、ホテルの外に出て行った。
屋外へ出る。朝の空気はいつもより湿っているように感じた。
ただ、建物の狭間から覗くグロテスクな黄色い花だけが異様だった。
外に出た途端に、絵里は雰囲気の変化を感じた。室内とはまるで違う。
さっきまで届いていたざわめきは、一層強い波となって
絵里の胸を振るわせていた。それは明確なメッセージとなって
絵里のところまで聞こえてきた。
たすけて
これまで、経験したことのないほど強い思念。絵里は総毛立った。
―――さゆ
絵里はまっすぐに、巨大な花を睨む。
ここからは奇妙な建築物のオブジェのようにも見えた。
黄色い花の光景は、周囲から隔絶された妙な存在感を放っている。
「さゆ、今行くからね」
絵里は花に向かって走り出した。
- 42 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:00
- 街の中を会場目指して駆け抜けていく。
途中で会う人はみな、突如現れた巨大な花を
茫然と口をあけて眺めているだけだった。
たすけて
近づくたびにさゆみの声はより強くなって響いてくる。
そのことが絵里の焦燥を煽っていた。
絵里たすけて
段々とメッセージもはっきりとしてくる。
―――さゆ、どうしたの?
絵里は走りながら目を閉じてさゆみに送信する。
すると、意外な答えが戻ってきた。
たすけて……虫が……
「……虫?」
思わずその場に立ち止まってしまった。虫とは何だ。
正面には、あいかわらず高くそびえる黄色い花がある。
絵里は、それをしばらく、ただ見上げていた。
- 43 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:01
- ―――さゆ、虫って?
じっと、目を閉じて花へと心を向ける。
―――さゆ?
メッセージが遠くなっていく。絵里は固く目を閉じた。
しかしさゆみの声は、意識の霞の向こうへと遠のいていく。
―――さゆ!!どうしたの!?
絵里はさらに神経を集中させ、遠のくメッセージを聞き取ろうとした。
しかし、響く声、届くイメージは次第に薄くなっていった。
―――さゆ!!!
絵里は全神経を傾けてさゆみに送信した。
そのとき
絵里は感じた。目を閉じたまま、はっきり感じた。
開いた花の中央に何かが溜まって溢れそうになっている。
―――何?
突然、花から強烈なイメージが飛んできた。
まるでトンネルから急に出たときに視界が光で満たされるように
一気にイメージが、受け止めきれぬほど大量に絵里の中に流れ込んできた。
- 44 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:01
- ドクン!
絵里の心臓が大きく脈打ち、呼吸が乱れる。
その恐怖と興奮が一緒になった情動に絵里の足元はふらついた。
―――い、いまのは……
絵里は両手を自分の頬に当てていた。
顔が異常に熱い。心臓も呼吸も、まだ収まってくれなかった。
それほどショッキングなイメージだった。
きつい匂いと一緒に、さゆみが心に流れ込んできたのだ。
初めての気分ではない。前にも何度か感じた事のある
しかしその何倍も強大な情念だった。
「……さゆ」
脳の襞に鮮明に残っている記憶。
……。
さゆみと一緒のベッドで寝た明け方
絵里が先に目を覚ますことがしばしばあった。
すると隣からは、さゆみの匂いがして絵里を戸惑わせる。
起きているときには感じられないような
濃厚で濃密な、甘く官能的なさゆみの匂いだった。
その匂いにくすぐられながら絵里は
自分の身体がわけもなく火照ってしまうのを
必死に深呼吸をして押さえるのだった。
- 45 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:01
-
それと同じイメージが今、はるかに強くなって絵里の中に飛び込んできた。
―――さ、さゆ……一体……
絵里は疼く胸を両手で抱えながら、目を閉じて震えていた。
―――熱い……
耐えられないほど強く感じた。さゆみの、生命の熱さを。
絵里は深く息を吸い込み、どうにか心を落ち着けようとする。
しかし、さゆみの身体のイメージは
ドクドク鳴る赤い鼓動を伴って絵里に迫り続けてきた。
そのとき
突如、複数の悲鳴が鳴り響いて絵里の意識が現実に引き戻された。
―――悲鳴……大勢の人の……
悲鳴は次第に大きくなって行く。絵里の前方からだ。
「花粉だー!」
誰かの絶叫がした。
それと一緒に、ゴーという強風のような音も近づいてくる。
- 46 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:01
- 「花粉?」
絵里は正面に目を向けた。その目が驚きにさらに大きく見開かれていく。
―――ウソ……
花のある方向から黄色い砂嵐のようなものが勢いよく近づいてくる。
砂嵐はビルを覆い隠し、道路を呑み込みぐんぐん迫ってきた。
「きゃあ!」
絵里は思わず背を向けて眼を閉じた。
たちまち絵里の身体も黄色い風に包まれてしまった。
薄目を開けてみても、視界はただ黄色いだけで何も見えない。
風が強くて思うように呼吸ができない。詰まりそうな息苦しさだった。
絵里は目を硬く閉じて顔を下に向けて花粉が去るのをじっと待った。
―――く、くるしい……
ゴーという音が周囲を覆う。絵里の意識が遠のきかけた。
ようやく花粉の波が去ったとき、絵里はぐったりと四つん這いで
床に張り付いてぜぇぜぇと息を切らしていた。
- 47 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:02
- 「大丈夫?」
肩を叩かれた。顔を上げると見知らぬおばさんだった。
「だ、大丈夫です」
絵里は立ち上がって周囲を見渡した。
あちこちで人が倒れている。
「花粉が飛んできたら、どっか屋内に避難しなさい。
花粉はもう今朝から4度目だよ」
おばさんは、強い口調で絵里に行った。
「でも、あなたは平気そうね」
「何がですか?」
絵里が尋ねるとおばさんは、悲しそうな表情で遠くを見やった。
絵里もその視線を追って遠くを見た。そこには女の人が倒れていた。
げっ、げっ、と断続的に呻きながら、のたうちまわっている。
「アレルギーが出ると、ああなる」
「あれがアレルギー!?」
「見てみ。身体が真っ赤になってる。ああなると、もう助からない。
息絶えるのが先か、虫に食われるのが先か……」
- 48 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:02
- 「虫?」
「あなた、家に入って休んでな。外にいたら危険だよ」
絵里は、ゆっくりと首を振った。
「友達を……助けに行かなきゃ」
「無理言うな。あなたも虫に食われちまうよ」
おばさんは絵里の腕を強く引いた。
「いや!離して!」
絵里はその手を振り解くと、再び花に向かって走り出した。
大きな路地を、黄色い花目指して全力で走る。
まださっきの花粉が残っているのか、周囲の光景は黄色くけぶっている。
「げっ、げっ、げっ、げっ」
道の真ん中で、アレルギーに苦しむ男性がのた打ち回っていた。
「きゃあ!」
絵里は悲鳴を上げた。
男の真っ赤になった顔のあちこちにどす黒い斑点がうかんでいる。
- 49 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:02
- ―――何?こんなになっちゃうの!?
あまりの気味悪さに、絵里は思わず後ろに引いてしまった。
驚愕に襲われ唖然となる。
絵里は、いまさらに自分の置かれている状況の異常さを認識した。
おかしな花が咲き、花粉を浴びた人の中には気持ちの悪いアレルギー症状を呈す者もいる。
そして、変な虫まで湧いているらしい。
絵里は
男の壮絶な様子に気を取られてしまっていた。
そのため背後から近づくゴリゴリという音に気づくのが遅れてしまった。
何か硬いものが擦れる音。それが絵里のすぐ背後まで迫っている。
―――え?
絵里の身体が影に入った。絵里はようやく異変に気がつき振り返った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
目の前に現れたそれに、心臓が飛び出そうになった。
自動車ほどの巨大な昆虫が絵里に襲い掛かろうとしている。
緑色に光る甲殻の下で、6本の脚が互いに意思を持っているかのように蠢いていた。
頭部は人間の頭ほどと小さい。
「きゃああ!」
- 50 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:02
- 絵里は咄嗟に逃げようとした。
しかし、突然のことに足が思うように動かず、もつれてその場に転んでしまった。
虫の前足が絵里の頭上に迫った。
絵里は、身体を転がす。すると前足が絵里の頭のすぐ脇に降りた。
地を踏むときにゴリゴリと路を削る音が聞こえた。
絵里は恐怖に身体を凍りつかせる。
あんなのに踏まれたら自分の骨が砕かれてしまうかもしれない。
絵里は逃げることもままならず、その場で身を丸めた。
絵里の耳元に再びゴリゴリという音が聞こえた。
中足がかすめたのだ。絵里は一層身を小さくした。
!!
突然、絵里の背中に激痛が走った。
虫の後ろ足が背中を掠り、衣服ごと絵里の皮膚を引き裂いたのだ。
「いっ……」
あまりの痛さに呼吸が締め付けられ、悲鳴すらあげられない。
と思ったら、今度はものすごい勢いで絵里の身体が引きずられた。
アスファルトに容赦なくこすり付けられ、むき出しの手足に、焼けるような痛みが走る。
- 51 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:03
- 「ぎゃあぁぁぁぁああああぁぁ」
何が起きたかわからなかった。自分の身体が、虫と一緒に移動している。
―――引きずられてる!
破れた衣服に虫の後ろ足が引っかかってしまっていたのだ。
後ろ足が再び動くと、絵里はまたしても地面を数メートル引きずられた。
ひじの皮が裂け血が路面に赤い筋を作った。
「助けて!!」
そしてもう一度。
―――いやぁ!
絵里は、擦られる面をできるだけ減らそうと身を捩じらせ
虫の脚にしがみついた。
脚の動きと一緒に身体がふわりと宙に持ち上げられ、落下する。
落ちるときに背中を打ちつけた。
呼吸が詰まるような痛みがあったが、引きずられるよりはいくぶんましだった。
絵里はもう一度、脚をしっかりと持って引きずられまいとする。
身体が持ち上げられ、落ちる。
息をつくまもなく絵里の背中は何度も何度も地面に叩きつけられた。
- 52 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:03
- ふと、脚の動きが止んだ。
―――止まった!
絵里は急いで背中に手を回し、服の引っかかっている部分を破り取った。
絵里の身体は虫から離れてごろんと転がる。
―――どうして止まったの?
絵里は立ち上がって虫を見た。
―――!!
虫の頭が低く降りている。その先には
「げっ、げっ、げっ、げっ」
さっき苦しんでいた男が、身体をひくひくと痙攣させていた。
絵里は咄嗟に目を閉じた。
「げっ、げっ、ぐっ!!…………」
男の声が止む。その後、何かが砕かれる嫌な音がした。
絵里は虫に背を向けて涙を流しながら逃げていった。
- 53 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:03
-
どこをどう走ったか。絵里は目的を見失ってただひたすらに逃げていた。
どこへ言っても、高くそびえる黄色い花だけは見える。
まるで、見下ろされている気分になる。
―――さゆ……
さゆみは、あの虫に襲われているのだろうか。だとしたら、助けに行かなくてはならない。
しかし、自分ひとりの力で、あんな大きな虫と向かい合うことなんて考えられなかった。
―――なんで……
絵里はさきほどの虫の行動を思い返していた。
虫は絵里に襲い掛かってきたわけではない。
たまたま通り道に絵里がいただけだ。絵里が身をかわすとその脇を通ろうとした。
そして、あの男に食いかかったのだ。つまり、人間を誰も彼も襲うというわけではない。
―――どうして……
だとしたら、さゆみはどうなのだろう。
さゆみは今、どういう状況に置かれているのだろう。
「やっぱり、行かなきゃ!」
絵里は黄色い花を再び見上げ、その方向へと歩みを進めた。
- 54 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:03
- そのとき
絵里の背後から、車の音がして、絵里のすぐ脇で止まった。
「亀井ちゃん!」
「吉澤さん!」
軽自動車には、ひとみと美貴が乗っていた。
「早く乗れ!」
絵里が後部座席に乗るとすぐに車は出発した。
「亀井ちゃん、怪我してんじゃん!」
「大丈夫です。それより、みんなは」
「まだホテルにいる。うちらは内緒で出てきた。向こうでもパニックだよ」
「吉澤さん、あれは?」
絵里は花を指して言った。
もう、さゆみの声の聞こえなくなった花を。
「わからない。ただ虫はあの花に群がって行ってるみたい」
「群がって?……たくさんいるってこと?」
絵里は、さきほどの緑色の虫を思い出して、身を震わせた。
- 55 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:04
- 「アブラムシの一種じゃないかって話だよ」
「アブラムシ?」
「そう、あの花に寄生しようとしてるんだろう。
アブラムシは一日で十倍に繁殖するから」
絵里は涙声になって言った。
「人が食べられてた」
「え?」
美貴が、後ろを向いて聞く。
「あの虫に、さっき人が食べられてました」
「あれ……人を食べるの?」
絵里は、無言でうなづく。
「ねぇ、さゆを、助けにいかなきゃ!」
「亀井ちゃん、どこにいるかわかるの?」
「ちょっとまって」
絵里は、目を閉じてさゆみに送信してみた。
―――さゆ?
返りは、ない。
- 56 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:04
- もう一度やってみる。
―――さゆ、どこ?
絵里は固く目を閉じてさゆみを探った。
何か、届いてくるものはないか。
そのとき
「きた!」
再び、イメージの波がわっ、と絵里の元へ押し寄せてきた。
濃厚に凝縮されたさゆみの匂い。絵里の胸がわけもなく高鳴る。
さっきと同じだ。絵里の額に玉のような汗が浮かぶ。熱い。身体が、胸が熱い。
さっきはこの直後に花粉が飛んできた。
「また、花粉が来る!」
絵里はひとみに向かって言った。
ひとみはブレーキを踏んで停車させる。
するとほどなくして黄色い風が猛スピードで突っ込んできた。
窓ガラスの外が黄色い風で一寸先も見えなくなった。
- 57 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:04
- 「あぶねぇ。亀井ちゃんが教えてくれなかったら事故ってた」
絵里は目を閉じて鼓動を落ち着かせる。
花粉の前兆となる、あの匂いは一体なんだ?
なぜ花粉が飛んでくる前に必ず、さゆみをあんなに強く感じるのだ?
―――まさか……
「よし、花粉が止んだ!亀井ちゃん、どっちに行けばいい?」
絵里は、後部座席から運転席へ手を伸ばして、行く先を指し示した。
「あそこ」
「え?」
ひとみが驚いた表情で振り返る。絵里はひとみの目を見ながら言った。
「あの花のところにさゆがいる」
ひとみはしばらく逡巡した。
花に近づく危険性を考えているのだろう。
「ミキティ、どうする?」
「……」
美貴が無反応なのを確かめると、ひとみは「行くか」とつぶやいて車を発進させた。
- 58 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:04
- 「亀井ちゃん、さっきあの虫が人を食べてたって行ったよね?」
「うん」
絵里はうなづいた。直接見たわけではなかった。見られなかった。
しかし、男が痙攣して直後、ぐしゃ、と頭を砕かれるような音がしたのだ。
「わっかんないなー。アブラムシだとしたら
あの花に寄生するために現れたはずなのに……」
「でも、関係ないかも」
「そんなことあるかな?確かに、あの虫だけ見たら人食いの怪獣と思う。
けど、虫の発生と、あの花の出現は同時に起こったんだよ」
ひとみの言いたいことはわかる。虫が花と無関係なはずがないのだ。
無関係に二つの怪獣が同時発生するなんて、考えられない。
しかし、絵里はあの男が襲われるのを目撃している。
「ミキティ、どう思う?」
「……」
「ミキティ?」
その時になってようやく、絵里は美貴の異変に気がついた。
シートの上で身体がピンと張っている。まるでヒステリーだ。
- 59 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:05
- 「藤本さん!どうしたの?」
絵里は、美貴の肩に手を伸ばそうとした。しかし
「…げっ、……げっ、」
「ミキティ!!」
ひとみが車を急停車させた。絵里はその場に固まってしまった。
「アレルギーだ……」
「なんでだよ!ミキティ一度も車から出てないのに」
「え?出てない?花粉を浴びてないの?」
「うん……」
絵里は、じっとうつむいて床を見ていた。
その目には薄っすらと涙が溜まっていた。
「……ごめんなさい」
「亀井ちゃん?」
「きっと絵里のせいだ。絵里、さっき花粉を正面からかぶったから
服にもいっぱい花粉がついてたはずだよ」
「じゃあ……」
絵里は無言でうなづく。
美貴は絵里が車内に持ち込んだ花粉でこうなったとしか考えられない。
- 60 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:05
- 「げっ、げっ、げっ、げっ」
見ると美貴の頬には、黒い斑点が浮かび始めている。
「畜生!!」
ひとみが窓ガラスを叩いた。
「助けないと……」
「どうやって?」
「……」
アレルギーの対応など知るはずもなかった。
さっきのおばさんも、助からないと言っていた。
―――息絶えるのが先か、虫に食われるのが先か……
そのとき絵里は、美貴の腕に斑点とは別のあるものが発生していることに気がついた。
そして、とうとう悟った。あの虫がなぜ、アレルギーの男に向かっていったのか。
「よ、吉澤さん……、やっぱりあの虫、花を食べに来たんだ」
「え?」
絵里は、泣きながら美貴の腕を取ってひとみに見せた。
- 61 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:05
-
そこには、黄土色の繊毛が生え始めていた。
「な、なんだよこれ!」
「げっ、げっ、げっ」
「これはアレルギーなんかじゃない。花になっちゃうんだ!!」
さっき、虫は絵里には見向きもせずに男のもとへ向かっていった。
おばさんも、アレルギーになると虫に食われると言っていた。
「ねぇ、花は何のために花粉を飛ばすの?」
「……種を作るため」
「そう、そうなんだよ」
「ま、まさか……」
「藤本さんは、受粉しちゃったんだ!」
ひとみは絶句した。呆然の表情で、遠く黄色い花を見ている。
あの花はこの街にはびこるつもりなのだ。
人間を温床として種を広げるつもりなのだ。
「……さゆ」
そこで、ようやく絵里は思い至った。
花から感じたさゆみの匂い。あの甘く刺激的な匂い。
- 62 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:05
- ―――子どもを作ろうとしてたんだね……
「吉澤さん。もう、止められないよ」
絵里は遠い目をして言った。
「え?」
「あの花は花粉を人間につけて子孫を増やそうとしてる。
もう、何人もの人が花粉を浴びてしまった」
人々は、虫と花粉の恐怖から逃げ出すだろう。あちこちに。
車や、電車を使って。
「げっ、げっ、げっ、げっ」
服についていた花粉でさえ、美貴はここまでになってしまった。
花粉はもう、すでに周囲に広まり始めているかもしれない。
「街中が、黄色い花で埋めつくされるんだよ」
「ば、ばかなこと言うな!」
街中で済めばいい方かも知れない。
中には、飛行機で逃げる人がいても不思議ではない。
絵里は目を閉じた。
閉じた目に浮かんできたのは
世界中が、黄色い花に染まった光景だった。
人間が住む空間の全てを、花に奪われたデストピア。
- 63 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:06
- お花さんみたく可愛くなって
世界中のみんなから愛されてね
―――さゆ……やりすぎだ……
いいの。もっともっと可愛くなりたいの。
―――何も、ここまで人を巻き込むことないのに
もっともっと可愛くなりたいの。
―――でも……
絵里はビルにそびえる黄色い花をいとおしげに眺めた。
―――さゆらしい
「げっ、げっ、げっ、げっ」
美貴の顔は、もはや繊毛に覆いつくされて見えなくなっていた。
ひとみが、それを哀しげな表情でそっと撫でる。
ひとみの目には、涙が溜まっていた。
- 64 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:06
- 「吉澤さん。花を、咲かせよう」
「何を言って……」
「藤本さんが花になるんだよ。虫に食べさせたりしちゃだめだよ。
ね、藤本さんを連れて逃げて!遠くまで行けば、まだ虫はいないかも」
「ミキティ……」
ひとみは、美貴の手を強く握る。カサカサと、草の擦れる音がした。
「亀ちゃんは?」
「私は」
絵里は、ドアに手をかけて言った。
「さゆの所へ行く」
さゆみの想いを、途中で終わらせたくない。
さゆみに群がる虫を一匹でも退治しなくては。
「ばか、虫に殺されるぞ!」
「どうせみんな死ぬんだ!私はさゆのところへ行く!」
ひとみはじっと、絵里の目を睨んでいた。
しかし、絵里の意思は揺らがなかった。
- 65 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:06
- 美貴からはもう、声がしなかった。完全に植物になったのだろうか。
ひとみは、大きくゆっくり息をつく。
「わかった、花のところまで送るよ」
「え?」
「あそこに行けばいいんだろ?」
「でも……」
絵里は、美貴の方をちらりと見た。
「ミキティだって、そう思ってるよ。
亀井ちゃん……」
「何?」
「ごめんな。こんくらいしか、してやれなくて」
絵里は、目にいっぱいの涙を溜めながら首を振った。
「ありがとう」
ひとみは絵里の肩を一つ叩くと、前に向き直った。
「よし、行くぞ!」
その声を合図に、黄色く咲いた花を目指して、
車は大きな音とともに走り出した。
- 66 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:07
-
END
- 67 名前:Biolante 投稿日:2006/05/19(金) 21:08
-
>>35-66
Biolante
- 68 名前:いこーる 投稿日:2006/05/19(金) 21:09
- 5月分は以上になります。
やや表現があれだったので不快に思われた方はすみません。
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/09(金) 04:55
- 楽しみにしています。
- 70 名前:いこーる 投稿日:2006/07/01(土) 21:35
- >>69
ありがとうございます。
お待たせしております6月分、更新します(7月になっちゃった……)
- 71 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:37
- 「モーニング娘。 VS Berryz工房!
キャベツの皮ゲーム、ガチンコバトルーーーー」
そのキンキン声に、ブリザード級の寒い空気がスタジオを支配していた。
そんなシンと静まり返ったスタジオの中で
きゃー、と一人太陽の笑みで拍手をしたのは梨華である。
自己主張をさせたら右に出るものはいない暴走司会者、梨華のテンションが
モーニング娘。メンバーはもちろんのこと、Berryz工房陣営までもしらけさせる。
後輩ユニットでさえも、あからさまにうざい顔をせざるをえない梨華。
その破壊力たるや、ポセイドン号を転覆させる大波、
火星人の乗ったトライポッドも敵うことはない。
石川梨華。ノリのつかみにくさでいえば、金魚すくいの金魚、
どじょうすくいのどじょうでさえも一目置くと言われているのだから、
生身の小中学生がドン引きするのは世の理、
旧約聖書に載っていないのが不思議なくらい当然の摂理であった。
しかしそこには単に「引く」を超越する力が働いて、
Berryz工房たちが「この人ちょっとすごい」と、
一瞬でも考えてしまったことは否めない。
殊に桃子は冷や汗をたらたら流しながら、梨華の「うざったさ」にある種、
畏敬の念を覚えたほどであるから、チャーミー冥利につきるというものだ。
桃子はしきりに石川先輩の芸風をみて
「なるほどこういう風に前へ出ればインパクト抜群だわ」とうんうんうなっていた。
うなりすぎてどうかしたかと、背中をさすろうとした茉麻が、結局手を引っ込めたのは、
「バカ違うよ」という桃子のするどい睨みを受けたからである。
それにしても、通行人に叩かれたペコちゃん人形のごとく、かくかくとうなづく桃子に
他のBerryz工房は「何よ桃ちゃんまだウザくなる気かしら」と不安を隠せなかった。
- 72 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:37
- 「さて、世紀の大決戦がいよいよはじまりますぅ。
みなさん、今日はアイドルであることを捨て去って熱い戦いを繰り広げてください!」
藤本美貴が梨華の様子を見ながら、
6・7期の後輩に後で自分の所に来るように言ったのは
ウザい人が得するハロプロであってはならぬということを
たっぷり分からせてやろうと思ったからである。
そのことを思い知らせるためなら、実力行使も厭わぬ。
特にさゆみには少々痛い思いをしてもらってでも、
ウザキャラを更正させるつもりであったのは、さすが泣く子もだまる美貴様であった。
そもそも、このキャベツの皮ゲームであるが
後輩たちのチームワークを試したいと提言したひとみに
美貴がそれならと考案した超過激ゲームである。
ルールは以下のとおりである。
- 73 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:37
-
<キャベツの皮ゲーム>
各チームは以下の人数にメンバーを配分する。
・キャベツの芯:2名
・キャベツの皮:3名
・害虫(攻撃):2名
芯2人はお互いの身体が離れないように抱き合う。
その周りを皮の3人が取り巻き芯を守る。
つまり芯と皮、合計5人が守備となる。
害虫は敵陣営の皮を剥いでいき、芯の2人を引き離す。
より早く、相手の芯を引き離すことに成功した方の勝利となる。
相手に攻撃を加えられるのは害虫のみである。
皮は味方の身体にしっかりつかまり、剥がされるのを阻止する。
- 74 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:37
- スタジオでアイドルたちがドタバタの大乱闘を繰り広げる。
美貴らしい企画であった。
何せ、美貴様といえばスキンシップ大好き。
いらぬところでベタベタベタ。身体を密着させることだけは
先輩後輩構わずに、また本番もオフも関係なしに引っ付きまくるのだから
その光景を始めてみた久住小春は開いた口がふさがらず、あまりに口を開けすげてしまい
さゆみにあごを押して、口を閉じてもらわねばならないのだった。
それほどすさまじい美貴様のおさわりは、
敵のエネルギーを吸収する魔人ブゥ、セクハラパブで目を垂らす中年親父である。
しかし肝心の美貴がメンバーに入ることができなかったのは、
決 し て 年齢制限からではなく、モーニング娘。の火薬庫と呼ばれる美貴が
危険なゲームの最中に大人気なくマジギレすることが危惧されたからである。
さらに、身体能力の高めなひとみもメンバーからは外れることとなった。
これでモーニング娘。は8名。Berryz工房が7名であるからあと1人抜けねばならぬ。
年齢順でいけば次は高橋であるが、
カンペには極太マジックで「小川さんは応援席です!」
と特大ビックリマーク付きで書かれていた。高橋愛が
「なんでやろ?ああ、まこっちゃんが誰かに抱きつくのは画がキツイからかぁ」
と一人納得してしまったのには、5期の友情も危ぶまれようというものだが
愛の短絡的な思考回路はいつものことなので5期の誰も、気に留めないのであった。
- 75 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:38
- さて、各陣営の作戦会議である。
モーニング娘。勢は芯となる2人を決定しているところであった。
ジャンケンで2人決めようかと思っていたところが、
7人のジャンケンで愛1人がグーを出して「おろ?」っと1人負けをしてしまった。
ではあともう1人を決めようかというとき、
「しっかたないなぁ〜」
と妙に張り切り顔で新垣理沙が一歩前へ出た。
ガキさんはああ見えて、照れ屋さん。
親友の愛ちゃんの頭をなでなでしたり、肩を抱いたりはしょっちゅうであったが
それ以上進展しない2人の関係に、本当の想いを表すことができぬ。
だ が ゲ ー ム な ら い け る !
このゲームは芯の2人さえ離れなければ負けることはないのだから
里沙は意地でも愛に抱きつき、一生離れない覚悟であった。
ぜったいぜーったい、愛ちゃんは離しませんよー。
当の愛はというと、そんな里沙の片思いにも微妙に気づいていたが
さゆみに堂々と抱きつかれる恐怖を考えたらまだまし、と
里沙と一緒に芯となることを承諾したことは、里沙には内緒である。
・キャベツの芯:高橋愛・新垣里沙
・キャベツの皮:紺野あさ美・亀井絵里・道重さゆみ
・害虫(攻撃):田中れいな・久住小春
- 76 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:38
-
かわってこちらはBerryz工房の作戦会議。
こちらの作戦の焦点はただ一つ。怪力茉麻の使い道である。
なんとなれば茉麻一人で3人の守備を剥ぎ取り、
芯を引き離すことも造作ないことではあったが
なにかとトロい茉麻がその作業を終えるまで、こちら側が持つかどうかが心配だった。
そこで雅がこう提案した。
「攻撃力は、バカ力だけじゃないよ!面白いこと言って相手を笑わせてもいい!」
実にいとけなきアイデア、意味不明であるが雰囲気に流されやすいBerryz工房は
この案を採用してしまった。
「ギャグセンスなら私が……」
と立ち上がろうとする千奈美を全会一致で跳ね除け
Berryz工房の攻撃陣営には佐紀と雅の暴走コンビが当たることになった。
- 77 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:38
- さて、今度は守備陣営を決定せねばならぬ。ここでも焦点は怪力茉麻である。
茉麻を芯にして鉄壁の守備を用意するのはどうか、という案は
熊井友里奈によって全力で否定された。
友里奈にとってみれば、
1.身長バランスからいって、自分が茉麻とコンビを組まされる可能性が高い。
2.引き剥がされそうになったら、茉麻は後先構わず自分を抱きしめてくるだろう。
3.友里奈の背骨は、まこと残念ながら鉄骨ではない。
これは自分の脊髄を守るためには絶対に茉麻を芯にするわけにはいかないのである。
そこで結局、茉麻は皮として芯を守ることとなった。
友里奈と桃子が芯となり、それを外側から茉麻が、がばっと抱え込む作戦である。
・キャベツの芯:嗣永桃子・熊井友里奈
・キャベツの皮:徳永千奈美・須藤茉麻・菅谷梨沙子
・害虫(攻撃):清水佐紀・夏焼雅
- 78 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:38
- さて、いよいよバトルスタートである。
田中「前から言いたかったんやけど……」
清水「何?」
田中「ギャグ100回も言えんくせに!!」
清水「ギャグでなくたってBerryz工房はいつでも幸せを届けるわ!」
田中「そういや、ハッピーもパクったよね」
清水「あれはもともと桃ちゃんの芸」
田中「こら小さい人。歴史を捻じ曲げるな!」
清水「恣意的な歴史こそがメッセージ。それに……」
田中「何ね?」
清水「漢字は日本文字じゃないぞ!」
田中「ふっ。モーニング娘。は日本の文化。あんたたちにまねできるかしら?」
清水「そろそろ世代交代の時期だわ」
田中「来い!」
清水「覚悟!」
- 79 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:38
- 決戦開始とともに、攻撃手たちがいっせいに、相手陣営目指して走り出した。
田中れいなは全力で走っていたつもりだったが、
彼女のガニ股フォームは驚異的な遅さである。
そんなことだから、先にBerryz工房の攻撃隊がモーニング娘。に仕掛ける方が早かった。
「よし、みや行くぞ!」
「おー」
と2人して飛びついたは紺野のせなかである。
2人は紺野の腹から手を回してせーので引っ張る。
しかし紺野さん、普段フットサルで鍛えた足腰をうんと踏ん張ってビクともしない。
佐紀も雅も顔を真っ赤にして引っ張るが、どうにもならなかった。
「すみませーん!!」
雅が司会者の姿をさがした。
梨華は「まぁ私が呼ばれてるわ!」。ツツツーと前に出てきた。
「これくすぐりはダメですかー?」
「ダメです!」
「えー」
雅は大いに不満顔である。
さっきまで面白いギャグで笑わせようなんて言っていたくせに
いきなりくすぐりに頼ろうとは、相変わらずの身勝手さであった。
- 80 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:38
- 「しかたない。佐紀ちゃん!」
雅は佐紀を呼んで、耳元でなにやらごにょごにょごにょ。
「よし、行けー!」
そしてBerryz工房が再び攻撃開始。
なんと2人は紺野の足を取った。佐紀が右足。雅は左足である。
両足を同時に引っ張られては、さすがの名キーパーも踏ん張りが効かぬ。
足をすくわれ、
ゴンっ!
両膝をしたたかに床に打ち付けてしまった。
吐き気を伴った地獄の苦しみがあさ美を襲う。
ひざを同時に打ったのである。さすがに痛い。痛すぎる。
中学生ごときに与えられたこの苦しみをどうしてくれよう。
あまりの辛さにあさ美は、手を離してしまった。
【残り皮2枚】
- 81 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:39
- さて、所変わってBerryz工房のきゃべつ。
こちらにようやく到着したれいなはつかつかと千奈美の背後についた。
「小春ちゃん小春ちゃん!」
れいなは後輩を手招きすると、千奈美の腰を背後から取るように命じた。
「いよいよ引っ張られる!」。千奈美に緊張感が走り
手は茉麻の腕をしっかりと掴んでいた。
するとれいなは、突然
「バカーーーー!」
耳元で叫んだ。
何の脈絡もない。いきなり「バカ!」である。なんだこの先輩は!
予測だにしなかった事態に千奈美は恐怖した。
「手ぇ離せよこら!」
続けて脅しである。これには千奈美も竦みあがってしまった。
「おい、離せっつってんだろーが!」
元ヤンの脅しはさすが、半端なものではない。
あまりの恐ろしさに、千奈美の両手から力が抜けていく。
そのタイミングを待っていたかのように小春がぐいっ、と千奈美の腰を引っ張った。
「あーーーーーー」
千奈美は体勢を立て直す間もなく、するりと剥ぎ取られてしまった。
【残り皮2枚】
- 82 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:39
- 雅と佐紀はさゆみに飛びついた。
腕力が弱いとの事前情報を得ていたため、
今度は策を弄さずに、背後からさゆみの身体につかみかかって引く。
「あー、ダメなのダメなの〜」
さゆみは聞きようによっては色っぽい悲鳴を上げながら
しかし、力が入らず為されるがままになってしまった。
「ダメ〜〜」
あっという間にさゆみん大ピンチ!
さゆみの腕が離れそうになったそのとき
ガシっ!
反対側を守っていた絵里の手が伸びてさゆみの手をつかんだ。
「えりりん!!」
「さゆ、しっかりつかまって!」
救世主登場!絵里は向こうから強い力でさゆみをひっぱり返す。
芯の2人をはさんで、さゆみの綱引きが始まった。
- 83 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:39
- 芯をやっている愛と里沙は、さゆみと絵里の身体にサンドウィッチ状態である。
暑苦しいことこの上ないが、ここは後輩の危機。じっと耐えるしかなかった。
愛の背中には絵里のむっちりした身体が密着している。
頬には絵里の呼気がかかり、くすぐったい。
それが、愛の神経を微妙に参らせてしまったらしい。
「ちっくしょー」。愛は意味不明の叫びを上げて里沙をぎゅうときつく抱きしめた。
里沙はというと、背中にさゆみの甲高い悲鳴を聞きながら
愛に締め付けられて息がくるしい。「ぐえぇ」と色気のない悲鳴はいつものことである。
と、そのとき、急にさゆみを引く力が止んだ。
どうやら2人は諦めたようである。危機が去ってさゆみはほっと一息ついた。
反対側では
絵里はじっと愛の身体につかまりながら、
小さな2つの足音が、自分の背後にテテテテと回りこむのに気がついた。
―――こっちに来た!
2人は、絵里の足を取った。あさ美をやったときと同じ作戦である。
「ちょっとキミたち、足なんか引っ張ったら怪我するでしょう!」
- 84 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:39
- 絵里は冷や汗を垂らしながら、中学生たちを説得しようとするがまるで聞かない。
「だいたい、ただのゲームなんだからなにもそこまで、うがぁ!」
最後の「うがぁ」は足を引かれた際の悲鳴である。
ごんっ!
絵里はひざをしたたかに打ち付けてしまった。やっぱり痛い。これは痛い。
しかし、我らがえりりん!
両膝に走る激痛の中でも、しっかりと愛の太ももにしがみつき離れないばかりか
「あら愛ちゃんのお尻って意外と硬いわ」なんて感想まで持ったのはさすがである。
それでも雅と佐紀は絵里の足を離さない。
綱引きの要領で思いっきり引っ張った。
絵里は両腕に渾身の力を込めて愛の太ももを抱えた。
身体が宙に浮いて水平になっても、しばらくその状態で耐えていた。
愛の太ももから、真横にぴーん、と絵里の身体が生えている。
実に奇妙な光景であったが、やがて絵里の腕も限界を向かえ
スルスルと身体は愛から離れていった。
佐紀はしばらくそのことに気づかずに、
絵里の身体を無駄に3メートル引きずってしまい、その顔に多大な被害をもたらした。
【残り皮1枚】
- 85 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:39
- さて、Berryz工房の陣営でも、さきほどのさゆみと同じ状態になっていた。
すなわち、れいなに剥ぎ取られようとする梨沙子の手を
茉麻が反対側からがっちり掴んで離さないのだった。
「小春!何とかして!!」
命じられた小春は、茉麻の指を一本一本はがしにかかった。
これには茉麻もピンチ。握力女王ではあっても手先は不器用。
手早く指をはずされては為すすべがない。
結局、梨沙子から手を離してしまった。
【残り皮1枚】
- 86 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:40
- そのころ非力なさゆみんは
子どもたちに引っ張られ
とっくに脱落をしていた。
語ること何もなきこそあわれなり。
実にあっけない最後であったとだけ伝えておこう。
【残り皮0枚】
- 87 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:40
- さて、ここからが大変であった。
Berryz工房に残った茉麻は、まるで全く動かない。
れいなの脅しも、意外な盲点によって失敗した。
茉麻は夢中になると、人の言葉が耳に入らないのである。
小春とれいなの2人で取り付いて引っ張るが茉麻は腕をぴくりともさせずに
じっと動かないのである。
れいなと小春は絶望しながらも、必死に茉麻を引っ張り続けた。
すると、茉麻の顔が痛みにゆがみはじめた。
小春が延々引っ張るものだから、皮膚が赤くなってひりひりしだしたのである。
茉麻は痛みを紛らわそうと、腕に力をこめて芯を抱え込んだ。
ボキボキボキ!
茉麻に締め上げられた桃子と友里奈の骨が音を立てた。
「ま、まあ……まぁ…落ち着いてぇ〜」
友里奈と抱き合いながら、桃子は自分たちの身体が危機にさらされているのを感じ取って
テンパった。
「そんなに、力入れなくても大丈夫だから、ね、ね」
桃子と友里奈、必死になって茉麻を説得するが残念。
茉麻は夢中になると、人の言葉が耳に入らないのである。
「ぐ、ほんとに苦しい!!」
「死ぬ〜〜〜〜!!」
広いスタジオの中で、2人は儚い命を散らす寸前であった。
- 88 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:40
-
モーニング娘。の方はというと、皮を全てはがされ芯の2人だけになってしまった。
愛と里沙はがっちりと抱き合う。
佐紀が愛の背後に、雅が里沙の背後につきせーので引っ張った。
「あ、あいちゃんっ!」
里沙は目を閉じて、全力で愛にしがみついていた。
しかし、雅の力の方が、佐紀の力よりも若干強い。
したがって少しずつ、芯の位置がずれていき
それにつれて愛と里沙もまっすぐ立ってはいられず傾いていく。
「佐紀ちゃん、ちゃんと引っ張って!」
「やってるよ!」
しかし、一度崩れたバランスと取り戻すことはできず
結局、芯は横倒しになってしまった。
バサッ
と愛の身体が、倒れた里沙の上に圧し掛かる。
「ガキさん!大丈夫!」
「平気だよ。それより、離さないでよ」
「おう!」
- 89 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:40
- 倒れても決して2人、離れたりしない。
むしろ2人が倒れたことで、さらに守備は堅牢なものとなった。
体重を支えなくてよい分、脚をも絡ませることができる。
里沙は脚を使って愛をカニばさみ!さらにその身体を密着させる。
雅と佐紀は芯の身体を転がそうとしていた。
愛が上に乗っかったままでは、引き離すことはできない。
「でぇい!」
ごろんごろんと、愛と里沙はもつれたまま転がった。
しかしカニばさみまでしてつかんだ身体は、簡単には取れなかった。
困ってしまった雅と佐紀。横倒し状態では、力を入れて引っ張ることもできない。
「ねぇ」
愛がすぐそばの里沙にしか聞き取れぬ声で、話しかけてきた。
「今のうちらの間抜けな格好、撮られちゃってるよ」
間抜けといえばこれほど恥ずかしい格好もない。
なんせカニばさみである。腰の辺りを両足で丸抱えである。
いくら仲良しだからって、やりすぎだ。
彼女たちがアイドルでなかったら、とても放送できない光景である。
- 90 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:40
- 「しょうがないだろ、負けるわけにはいかないんだから。
うちらにモーニング娘。の勝利がかかってるんだよ!」
そういうと、愛はさらに声を小さくして言う。
「もう、うちらしかいないんだね」
「そうだよ!私たちがしっかりしなくちゃ!!」
里沙は知らず、愛の背中をさすっていた。ゆっくり、子どもをあやすように。
「かっこ悪くたっていい。みっともなくたっていい。
私たちは何があっても、ここに残って戦い続けるんだ!
どうしてみんな、剥がされてバラバラにならなきゃいけないの?
どうして一緒に、最後までいられないの?」
「里沙ちゃん……」
「私たちは、ずっとずーっと、一緒だからね!」
「もちろん!」
「モーニング娘。は不滅だぁ!!」
- 91 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:41
- そのとき、雅と佐紀、最後の攻撃が始まった。
里沙と愛の身体を無理やり抱き起こして双方から引っ張ってきたのである。
「ぐおぉ……離れるもんか〜〜」
里沙と愛は、これまでにない力で抱きしめあった。
雅と佐紀も、最後の力を振り絞って思いっきり引っ張る。
2人の身体は宙に持ち上げられた。しかしその手は離さない。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
- 92 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:41
-
Berryz工房の方はというと、いよいよ茉麻の力が強くなってきた。
人間にこんな力が出せるのかと、れいなは畏怖せざるをえなかった。
締め上げられた桃子と友里奈はたまらない。
「ゆ、友里奈……」
「桃ちゃん?」
「短い間だったけど、楽しかったよ」
「桃ちゃん、しっかりして!」
「結構大変なことあったけどね。おなか痛いの我慢してレッスンしたりさ。
でも、いろんなステージに立てて、生きてて良かったって思えた。
こんなふうに思える中学生なんていないよ。すごいことだよ。
みんなと一緒だからやってこれたんだって思う。
だから、茉麻や友里奈に抱かれて死んでいくのも、怖くない」
桃子の目から涙がぽろりとこぼれた。
「Berryz工房があれば、私は何も怖くないよ!」
「桃ちゃん!死んじゃダメ!まだ死なないで」
「だって、茉麻の腕、本当に苦しいんだもん」
「やだよ!私たちにはまだ、桃ちゃんが必要なんだよ。
つまらないギャグ言ってるときでも、桃ちゃんいつだって
ちゃんとメンバーのこと見てるじゃん!考えてくれてるじゃん!
だから、まだがんばって。まだ死なないで!」
- 93 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:41
- 「桃ちゃん!」
「友里奈ー!」
「愛ちゃん!」
「里沙ちゃん!!」
「あー久しぶりに里沙ちゃんて言われると照れるー!」
「ちょっと茉麻!殺さないでー!人の話を聞けー!」
なんたる壮絶!2つのユニットの存亡をかけた世紀の我慢合戦!
一体、どのような結末を迎えるのか、全く予想もつかない。
とそのとき
汗ばんでしまってグリップの効かなくなった佐紀の手が、愛の身体からするりと離れた。
勢いあまって佐紀の身体が後ろに反り返った。
そして
不幸なことに
そこには梨華の顎があった。
- 94 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:41
- 梨華はカメラに映るポジションを探してスタジオ内を
ウロチョロし続けていたところであった。
清水キャプテン、小さくたって石頭である。
ゴン!!
猛烈な音を立てて
佐紀の頭突きがクリティカルヒット!
梨華の意識は昇天して、バタン!梨華は倒れてしまった。
怪我人がでたためゲームは中止。
里沙と愛は、最後まで一緒にいられたことを喜び合い、
友里奈と桃子は、お互いの命の無事を讃え合った。
- 95 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:41
- こうしてバトルは
本当に予想もつかない結末を迎えた。
「あー面白かったー」
見学していた吉澤が立ち上がって伸びをした。
「結構、面白かったね。こんこんのひざ、大丈夫かなぁ」
美貴も後につづく。
「いやー、私参加しなくてよかったー」
麻琴も後に続いて退場した。
梨華のことを心配する者は誰1人としていなかった。
桃子ただ1人が
「これだけのバトルの落ちを1人で持ってくなんて、なんておいしいんだろう」
と畏敬の念を覚え、その恩恵に授かろうと、床で伸びている梨華に手を合わせたのだった。
- 96 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:42
-
ただしこのバトルは、もう1人不幸な犠牲者を出していた。
長時間、小春に引っ張られ続けて腹が真っ赤になってしまった茉麻が
憤慨あまって小春に文句の一言でも言ってやろうと立ちふさがった。
身体のでかい茉麻に迫られては、
さすがに何かリアクションがあるだろうと思っていたのだが
茉麻が何か言う前に小春がへろ〜んとした顔で
「メアド教えて!」
と迫ってきたため、茉麻はついうっかり自分のアドレスを教えてしまった。
その夜から小春は「やったぁ、ハローで同学年の友達ができたぁ!」と張り切り
数十通に及ぶメールを送りつけて茉麻を寝不足に追いやったのであった。
- 97 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:42
-
「おわり」
- 98 名前:きゃべつの皮 投稿日:2006/07/01(土) 21:43
- >>71-97
きゃべつの皮
- 99 名前:いこーる 投稿日:2006/07/01(土) 21:44
- 以上になります。
更新遅れまして、お待ちいただいた方にはご迷惑おかけしました。
待っていただいただけのものに仕上がっていると良いのですが……
- 100 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/07/01(土) 23:19
- 実際に見たいゲームですね
その場合美貴さまもぜひ参加の方向でw
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/02(日) 01:56
- すっごいおもしろーい!
リアルにあってほしい見たいゲームです。
ガキさんの全然さりげなくない愛ちゃん目当ての芯への立候補が可愛いw
- 102 名前:いこーる 投稿日:2006/07/17(月) 12:11
- >>100
> 実際に見たいゲームですね
> その場合美貴さまもぜひ参加の方向でw
美貴様は大人気なく子どもを蹴散らしてくれるかもしれないっすねw
>>101
実際あったら危ないゲームでしょうが、
絡みは見てみたいですねー。
- 103 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:12
- 小春はロケバスの窓から山道のがけを見下ろしている。
真夏の強い日差しに、山の緑がくっきりと浮かんでいるように見えた。
だから、崖の底までよく見えた。
急なカーブに差し掛かったところでバスが速度を落としていた。
見えたのは、背筋がぞっとするほど急ながけだった。
底まで50メートルはあるだろうか。
その斜面の中腹あたりに、2本の木が生えていた。
絶壁から横方向に伸びた太い幹。そこから複雑に広がる枝。
もう枯れているのか
夏だというのに葉がついていないのが小春には不気味だった。
この2本の木が数分後
自分たちの生死を分ける命綱となるとは
小春はもちろん、バス内の誰も予想していなかった。
- 104 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:12
-
Trust Fall
- 105 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:13
- 恐竜遺跡探索ツアーと称される企画にモーニング娘。10名が
5人のスタッフとともに出発したのはその日の朝6時だった。
もちろん実際に遺跡発掘などできるわけないが
モーニング娘。が恐竜博覧会イベントの宣伝を行っていたため
せめて格好だけでも恐竜に触れられたら、と考案された企画である。
雰囲気を出すため、大型のロケバスが用意されていた。
席には余裕があったので、1人で2人分の席をのんびり使うことができた。
バス内の様子も撮影するため、メンバーは皆、後方の席についていた。
列 左座席 │ 右座席
・
・
16 藤本 │ 吉澤
17 新垣 │ 久住
18 紺野 │ ×
19 高橋 │ 小川
20 道重 亀井 田中
―――――――――――
リアガラス
さゆみ、絵里、れいなが、最後列がいいと3人揃って主張したため
あさ美の隣が空席となり、このような配置となった。
このことが、後に災いする。
- 106 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:13
- 午前8時23分。
「なんかジュラシックパークみたい」
ひとみの耳にそんな美貴の声が聞こえてきたのでひとみは左を向いた。
見ると美貴が、缶入りの紅茶をカップホルダーに戻したところだった。
「あんな遊園地みたいじゃないでしょう。
どっちかっつーとロストワールドだよ」
さっきまでメンバーは皆、居眠りをしていたのだが
山道に入ってからは全員がリクライニングを起こしていた。このことは後に幸いする。
後方からは里沙たちの声が聞こえる。
「ねぇ、このお菓子開かないんだけどー」
「あ、私はさみ持ってるよ」
「お、あさ美ちゃんサンキュー……
ていうかあさ美ちゃん何で、はさみ持ってるの?」
「だからがきさん、お菓子の袋開ける用だよ」
仕事が始まるまでの暢気なやり取り。
こういった何気ない会話がメンバーの絆を深めていることを
ひとみは経験から知っていた。
だからこうして後輩たちのくだらない会話が聞こえてくると
ひとみの心は不思議と和んでくるのだった。
- 107 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:14
- 特に、5期のこうした会話の中には
お互いへの絶対的な信頼と、相手への敬意が表れていた。
5期メンバーは毎回、仕事で会うたびにお互いの服装や髪型などに敏感に気づき
それを評し合う。
彼女たちはだから、まずカメラを意識する前に必ず、
同期の仲間からどう見られるかを意識して
その日の格好や髪型を決定していた。
今朝も、久しぶりに編み込みお下げをしてきた新垣を
みんなで評価し合っていたのだ。
- 108 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:14
-
9時30分。
ドン、となにかを轢いた音がしてバスが急停車した。
運転手が慌てて車外に飛び出していくのがひとみにも見えた。
その後、スタッフたちも続々と外に出て行った。
マネージャーは最後まで躊躇していたが
外の様子が気になったのだろう、メンバーに
「そのまま待ってて」
と言い残して出て行ってしまった。
実はバスが轢いたのは野生の鹿であった。
しかしそれがわかるまでは、人を轢いたのではないかと皆が戦慄していた。
一番慌てたのは当然、運転手である。
彼はあまりに焦っていた。そのため上り坂途中であるというのに
ギアをニュートラルにし、手ブレーキをかけただけで飛び出ていってしまったのである。
バス内には10人のみが残された。
- 109 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:14
-
9時35分。
10人はみな、座席に腰掛けたまま声を発することなく待っていた。
誰かが戻ってくるまでは、騒いだところで何もわからないのだ。
9時36分。
「ねぇ」
美貴が沈黙を破った。普段にはない鋭い声で。
ただ事ではない美貴の調子。全員に緊張が走る。
ひとみは美貴を見た。美貴の目線は、カップホルダーに注がれている。
ひとみも美貴の視線を追った。
そこにある缶が、なぜかカタカタと音を立てて振動している。
「うごいてない?」
美貴のその声に全員が窓の外を見た。
「うごいてる……」
「うそ……」
窓の外の景色は
確かにそろりそろりと移動している。
- 110 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:14
- そのときバスがガタンと揺れた。
「きゃあ!」
バスは、少しずつ速度をつけながらバックして坂を移動しはじめた。
「え、なんで?」
「ブレーキが……」
「やばいよ!!」
「ちょっと、止めて!」
バス内が騒然とする中、小春が立ち上がった。
通路に出て、運転席に向かおうとする。
しかし、再びバスが大きく揺れた。小春は通路でバランスを崩して
里沙へと倒れこんでしまった。
「大丈夫?」
「ご、ごめんなさい!」
バスは相変わらず動いている。標識が勢いよく窓の外を流れていく。
もうかなりのスピードになっていた。
小春は慌てて自分の身体を起こした。
小春は見た。
リアガラスの向こうにガードレールが迫っている。
その先は、さっき目撃した断崖絶壁。
- 111 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:14
- 「ぶつかる!!」
小春の声がバス内に響き渡ると同時に
ガリガリガリ
悲鳴をかき消すほどの轟音を立ててバスがガードレールに突っ込んだ。
衝撃が走った。
がくん、と身体が投げ出されメンバーは座席の背もたれに打ち付けられた。
通路にでていた小春の身体は勢いよく後方に
あさ美の座席の位置まで投げ出され、狭い通路に倒れた。
ひざから倒れ、小春は「うう」と打ったひざを抱えて身体を丸くした。
9時37分。
バスはその車体の半分をガードレールの外に突き出した状態で止まった。
車内では、時間が凍りついたようにみなが動きを止めて
目だけが忙しく周囲に動いていた。
フロントガラスの向こうで、大人たちがこちらに駆けてくるのが見える。
ひとみは後ろを向いて声を張り上げる。
「おーい、大丈夫か?」
- 112 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:15
- 美貴が言った。
「ねぇ、前に移動しよう。このままじゃ……」
「そうだね。みんな動けるかー?」
「平気です!」
「こっちも大丈夫」
「小春、大丈夫?」
あさ美は床に倒れたままの小春に声をかけた。
「小春?」
「だ、いじょうぶです。多分……」
「歩ける?前に移動するから」
「……え?」
あさ美の言葉に、小春は顔を強張らせた。
「バス、落ちるんですか!?」
大声を張り上げて飛び起きる。
「大丈夫だから。落ち着いて」
あさ美も立ち上がって小春をなだめようと
その肩に手を置いた。そのとき……
- 113 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:15
- ギギギギ……
バスが軋み音をたててゆっくりと車体を傾け始めた。
メンバー全員が後部の席にいたことが災いした。
「落ちる!」
誰かが叫んだ。
あさ美はその声にはっ、となって戦慄した。
このままバスが落ちたとしたら、通路立っている自分たちは転落してしまう。
小春は、今にも泣きそうな顔であさ美にしがみついている。
床が徐々に坂となって、バランスが保てない。
まずい。このままでは2人とも転げ落ちてしまう。
あさ美は小春の身体を
ドン!
シートへと突き飛ばした。
小春は「きゃあ!」と悲鳴を上げてシートの上に倒れる。
車体はさらに大きく傾く。
ギギギギギギギギ
- 114 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:15
- 絵里は最後尾から、その恐るべき光景を見た。
床がどんどん傾斜をつけ、フロントガラスが天を向く。
真夏の日差しがバス内に差し込み、強い光に満たされる。
あまりの眩しさに目を閉じる直前、
前方――もう、前ではなく上――でバランスを崩すあさ美が、
黒いシルエットとして絵里のまぶたに焼きついた。
直後、身体がふわっ、と浮く感じがした。
「落ちる!!!」
絵里は左右にいるれいなとさゆみの身体をしっかりとつかんだ。
「きゃああああああ!」
全員の悲鳴が重なり騒然となる。
振動と落下していく感覚に、絵里は仲間の身体を強く握り締めた。
ガクンとなって、全身が背もたれに叩きつけられた。
ガシャン!!
リアガラスが大きな音を立てたが、目を開けられない。
何度も背もたれに叩きつけられた。
胸をぶつけ、腕をぶつけ、頭をぶつけた。
あまりの痛さに、悲鳴が何度もつまった。苦しい。
- 115 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:16
- 全員の身体が大きく宙に浮く。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
誰かの悲鳴。そして
バキバキバキバキ……
バスが木の枝の間を通っていった。
身体の底に響く轟音とともに身体が落ちる。
絵里は頭からシートに墜落した。
意識がふぅ、と遠のき、その後強烈な吐き気に襲われる。
時間の感覚が飛んだ。
9時40分。
絵里が再び目を開けると、バスは垂直な状態のまま止まっていた。
2本の木にはさまれ、バスの落下が止まったのだ。
上から、誰かの呻き声が聞こえる。誰かの泣き声が聞こえる。
絵里は目をこすり、周囲を見回した。
れいなは横たわったまま動かない。
さゆみは起きていた。恐怖を顔に貼り付けたまま、絵里をじっと見ている。
- 116 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:16
- 「れいな……」
えりは、れいなの身体をゆすった。
「うう……」
れいなは低く呻いて、身体を起こした。
続けて絵里はリアガラスを見た。
「紺ちゃん!」
その光景に絵里は心臓が飛び出そうになった。
割れかけたガラスの上にあさ美が倒れている。
ガラスは蜘蛛の巣状にひびが入り、その中央にあさ美が
まるで蜘蛛にとらわれた蝶のように横たわっている。
肩が定期的に上下していた。
―――生きてる!
絵里は身を乗り出した。
とりあえず今は割れないでいるが、いつガラスが割れるかわからない。
あるいは意識を取り戻したあさ美が、下の奈落を見たら
パニックに陥るだろう。そのときに、ガラスが耐えられるか……。
- 117 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:16
- ―――早く助けなきゃ……
絵里は、
「さゆ、れいな、お願い」
あさ美に聞こえないよう小声で言った。
「絵里の身体を支えて!」
2人が取り付くのを確認してから、絵里は上半身をガラスの上へ移動させた。
手をつくとミシミシとガラスが軋む。
―――ダメ!
絵里は、ガラスに刺激を与えないようにゆっくり
身体をあさ美の方へと這わせていった。
ガラスの向こうが見えた。
―――こんなに高いの?
絵里は心が竦みあがった。
こんなところから落ちて、無事ですむはずがない。
- 118 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:16
- 絵里は首を左右に振るとあさ美を向いた。
今は、下を見てはいけない。
早く、あさ美のもとにたどり着かなくては。
あと少し。
もう絵里の上半身は完全にガラスの上にあった。
さゆみとれいなは、ガラスが落ちたときに絵里を支えられるように
足首にシートベルトを絡ませ、両腕で絵里の太腿を抱えていた。
絵里が、さらに身を進める。
ピキピキと高い音がした。
息を呑む絵里の目の前を、新たなひびが、左から右に伸びていった。
―――急がなきゃ……
絵里はうん、と声を出して手をめいいっぱい伸ばした。
あさ美の袖をつかんだ。
―――お願い、目を覚まさないで
袖を引いて腕をこちらに持ってくる。
あさ美の右腕を、両手でしっかりと握った。
- 119 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:17
- 「う、ううん……」
―――起きちゃだめ!!
あさ美が目を開くのが見えた。
「紺ちゃん……」
「ん、んん……」
まだ、意識が完全に覚醒していないようだ。
あさ美が身体を少し動かした。
その瞬間ビシッと、ひびが窓全体に広がった。
「紺ちゃん、じっとしてて……」
「な、なに?」
「いいから!目をつぶってじっとしてて!!」
「へ?」
「ダメ!!!」
あさ美が身体を起こして、下を見てしまった。
「え……きゃああぁぁ!」
- 120 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:17
- あさ美はパニックを起こして立ち上がろうとする。
絵里はとっさの判断であさ美の腕を思い切り引っ張った。
そのとき
ガラスが砕け、穴があいた。
「紺ちゃん!!!」
あさ美の身体が落ちる。
絵里は歯をくいしばって両腕に力を込めた。
絵里の身体が持っていかれそうになるのを
れいなとさゆみが、必死に引っ張って支える。
絵里は上半身を折まげて、バスの外のあさ美を両腕でぶら下げていた。
「しっかりつかまって!!」
絵里は手をあさ美の腕に食い込むほどつく握りしめた。
あさ美も、絵里の腕を強く握る。
絵里は力を込めてあさ美を引き上げようとする。
しかし
「持ち上がらない……」
絵里の力では今の体勢を支えるので精一杯。
引っ張りあげることができない。
「た、助けて!誰か助けて!!」
絵里は、上にいる誰かに向けて、叫びを上げた。
- 121 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:17
-
「コンコン!!」
ひとみは座席から下を覗き込むように、顔を出した。
見えたのは、絵里の両足に抱えついているれいなとさゆみの姿だけだった。
「今行くからな!!」
ひとみは言って、下へ降りていこうとした。
手すりに足をかけ飛び降りようとしたとき
反対側から美貴の声がした。
「よっちゃん!振動させちゃダメ!」
「……」
ひとみは踏みとどまった。
今、バスは木に挟まって止まっているだけの状態だ。
飛び降りたときの衝撃で落ちてしまうかも知れない。
仮に運良くバスが持ちこたえたとしても、
ぎりぎりの状態でぶら下がっているあさ美が
振動に耐えられるかどうか……
- 122 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:17
- しかし、ゆっくり降りている暇はない。
それに
縦になった椅子をはしご代わりに降りることは
思った以上に厳しそうだ。
背もたれは足場にするにはやわらかすぎる。
バスを揺らさないように降りるのは簡単ではない。
でも
一番下にいるれいなとさゆみは、絵里の身体を支えるだけで手一杯だ。
誰かが降りていかなくてはならない。
―――無理か……
そもそも窓にあいた穴はそれほど大きくない。
絵里の他にもう1人、誰かが下に降りたとしても
身を乗り出して手を伸ばすことはできないだろう。
れいなたちに加勢して、絵里を支えることくらいしかできない。
バスを揺らすリスクを負ってまで、やるべきことではない。
途中にいるメンバーに、何かできないだろうか。
あさ美の近くにいる愛か麻琴。
あるいは、ひとみのすぐ下にいる、里沙か小春……
- 123 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:18
-
「紺野さん……」
小春は、その光景を泣きじゃくりながら見ていた。
あさ美は自分を突き飛ばして助けてくれた。
あの間に、自分がシートに逃げることもできたはずだ。
―――私のせいだ……
小春は、身体を震わせて泣く。
「……」
―――そうだ!
小春は、シートを四つんばいで移動して、窓際に寄った。
窓から下を覗き込む。
木から伸びた枝が、バスを抱え込むように伸び広がっている。
小春は、窓を開けて木の枝に飛び移った。
―――紺野さん
- 124 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:18
-
あさ美は必死に腕に力を込めていた。
さっきから山風が身体を揺さぶってくる。
そのたび、あさ美と絵里が力を込めてどうにか持ちこたえてきた。
しかしもう片手で支えているのは、限界が近い。
「紺ちゃん、がんばって……」
あさ美の腕に何かが這う感覚があった。
見ると、赤い血液が絵里の腕を伝ってあさ美の手に流れてきていた。
「亀ちゃん!腕、大丈夫!」
「平気!」
しかし平気という声は、苦痛に震えていた。
割れたガラスに腕をこすりつけたのだ。
血は次々と流れて絵里の腕を真っ赤に染めている。
あさ美は目を閉じた。
このままでは、2人とも落ちてしまう。
「亀ちゃん……」
あさ美は目を開けると、絵里をまっすぐ見て言った。
- 125 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:18
- 「あ、足から降りれば、怪我するけど死にはしない」
「え…な、何言ってるの?」
「手、離してみて」
絵里は必死に首を振った。
「こんなところから落ちたら、紺ちゃん死んじゃうよ!」
「大丈夫、ね。もうわかったから……」
絵里は泣きたくなった。「もうわかった」なんて、何を言い出すのだ。
「だめ!絶対離さないからね!」
あさ美は手を握る力を抜いた。
すると反対に絵里の方はさらに強く握ってきた。
「亀ちゃんダメ。離して」
そのとき、あさ美の視界に信じられない光景が飛び込んできた。
「紺野さん!」
小春が枝を伝って、こっちに来ようとしている。
その枝の下には何もない。はるか遠く谷底が見えるだけである。
- 126 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:19
- 「小春……それ以上来ちゃダメ!」
そう言うが小春は止まろうとしない。
「枝が折れたらどうするの!?」
「だ、だって、紺野さんが……」
小春は顔を涙でくしゃくしゃにして叫んだ。
「紺野さんが……」
あさ美の目から涙があふれた。
―――だめ。小春まで危険な目にあうなんて……
あさ美は絵里を睨み付け、腹の底から叫び上げた。
「離せ!!」
その声に絵里はびくっ、となった。
あさ美のものとは思えない恐ろしい怒鳴り声。
こんなに声を荒げるところなど見たことない。
- 127 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:19
- ―――……紺ちゃん。
この先輩は、自分たちを守るために、犠牲になろうとしている。
「離せ!」
「やだ!!」
絵里はむきになって手を握り締める。
「いやだよ!!」
とうとう、あさ美は足をバタつかせ絵里の手をほどきにかかった。
―――なんてこと……
あさ美に暴れられては、支えきれない。
「紺ちゃん、やめて!!」
「亀ちゃん、ありがとう。うれしかったから……」
「や、やだよ。私たちを置いてかないでよ!」
「ごめんね……」
絵里の顔は涙で乱れていた。
ごめんねだなんて、絶対にだめだ。
絶対にあさ美を離したくない。
しかし、あさ美はいよいよ激しく足を動かして暴れた。
「ダメーーーーーーー!紺ちゃん!!!!」
- 128 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:19
-
そのとき、絵里の頬のすぐ横を
黒い物体がゆっくり降りていった。
「あきらめるな!!」
見ると黒いコードを束ねて作ったロープだった。
美貴が座席のところにあったマイクのコードを引き抜いたのだ。
「コードは中が金属だから引っ張っても簡単には千切れない」
「でも、一本で大丈夫?」
ひとみにそう言われ、美貴は愛にもう一本のコードを取らせ束ねた。
それを下段の愛が受け取り、あさ美のところまで降ろしている。
あさ美はそれを見ると、離しかけていた絵里の手を強く握りなおし
ロープへと手を伸ばした。しかし、あと少しのところで届かない。
「と、届かない」
あさ美は再びロープを取ろうと手を伸ばす。
しかし今度はその反動で
絵里の手からすべりそうになってしまった。
- 129 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:19
- 「だめだ……」
「よっちゃん、そっちにコードない?」
「もう届くところにはない」
「カーテンの紐は?」
「ばか、太すぎてコードに結べないよ!」
コードに巻きつけるのに、布は太すぎた。
シャツもベルトも同様に使えない。
「何かないの?」
「無理、こっちにはない!」
「お……おちる……」
ひとみの耳に絵里のかすれるような声が聞こえてきた。
「畜生!」
そのとき、すぐ下でザッ、と音がした。
「愛ちゃん、これ……」
里沙が愛に何かを渡している。
- 130 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:20
- 「お、何かあった?」
「細い編み込みだけど、丈夫なはず」
「がきさんお前……何やって……」
里沙は自分のおさげを切って愛に渡していた。
さきほどお菓子の袋を開けるのに使ったはさみで
編み込みの片方を切ったのだった。
「バカやろう!」
ひとみは怒鳴った。声に涙がまじる。
「結べた!」
愛が言ってロープを下ろした。
先端がほんのちょっと、あさ美に近づいた。
あさ美は再び、手を伸ばした。
愛はロープに手ごたえを感じた。
「あさ美ちゃん、つかめた?」
「つかんだ。つかんだよ!」
- 131 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:20
- ひとみが身を乗り出して叫ぶ。
「高橋、亀井、せーのでひっぱれ!」
「はい!」
「田中、道重!
亀井を支えろ!」
「はい!」
「いくぞ、せーの!!」
あさ美の身体がふわりと持ち上がった。
絵里は身を起こしてあさ美を引き寄せる。
あさ美は絵里から手を離し、シートベルトをつかんだ。
絵里はあさ美を脇から抱え込み、持ち上げた。
あさ美の身体は
バスの中へと戻った。
「や、やった……」
バス内の全員が安堵のため息をついた。
「紺ちゃん、よかった。死んじゃうかと思ったー」
れいながあさ美に抱きついてわんわん泣いた。
あさ美はれいなの頭をぽんぽんと撫でながら自分も泣いた。
- 132 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:20
- 「よし、このまま助けを待とう。
麻琴、小春の様子を見て!」
「……」
「麻琴?」
「吉澤さん!まこっちゃんが……」
愛が言った。
麻琴の顔が青い。
その顔にびっしり汗を浮かべて右足首を押さえていた。
「まこっちゃん!足どうしたの?」
「ひ、ひねった……」
「今そっち行く!」
愛が反対側のシートに移ろうと身を乗り出した、そのとき
ギギギギギギギギギギギギギ
不気味な軋み音がバス内に響き渡った。
全員、息を呑んでその音を聞いていた。
ギギギギギギギギギギギッ
- 133 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:20
- 「きゃああ!」
ガタン、とバスが3メートル程落下して止まった。
しばらくして再び
ギギギギギギギギギギギギギ
さゆみが甲高い声で叫んだ。
「バスが落ちる!」
その後、異様に長い沈黙があった。
ただ軋み音だけがずっと続いていた。
「逃げなきゃ……」
里沙が言った、そのとき
ガンガン!
ひとみの座席の窓が鳴った。ひとみは窓を開ける。
「み、みんな、早くこっちに!」
- 134 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:21
- 小春だった。
「ここなら太いからみんな乗れる。早く!!」
「よし、みんな急げ!!」
「よっちゃんから逃げて!」
「あたしはここでみんなを引っ張る。ミキティも手伝って。
下にいるやつから登って来い!」
「わかった」
そしてメンバーは移動を開始した。
あさ美から順に愛が引っ張り、下に残ったメンバーが身体を持ち上げる。
あさ美はその後、愛に助けられながら、もう一段上に登った。
あさ美が元いた座席である。
絵里、さゆみ、れいな。次々と登っていった。
愛からあさ美、あさ美から里沙。里沙から美貴、そしてひとみへとメンバーを渡していく。
小春の誘導でメンバーは外の木へと避難していった。
「次、まこっちゃん!」
「私、動けない」
「時間がないの、がんばって」
愛は麻琴へと手を伸ばした。
しかし麻琴は身体を動かさない。
- 135 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:21
- 「愛ちゃん、先に逃げて」
「え?」
「みんな先に行ってて。
私が登るの待ってたら時間がかかりすぎる」
「でも、まこっちゃん」
「私はいいの!みんなから先に行って!」
「バカ!!」
愛は、麻琴の頬を叩いた。
「麻琴が逃げないなら、みんなだって逃げないよ!」
「……愛ちゃん」
「そうに決まってるでしょう!!
うちらをバカにするな!麻琴を置いて逃げるわけないだろ!」
愛は麻琴を強引に引っ張った。
「痛っ…」
「我慢して!ほら、あさ美ちゃんに手を!」
麻琴は震える手で、上に手を伸ばした。
あさ美の手を取って自分の身体を引きあげる。
愛が後ろを押してくれた。
- 136 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:21
- 今度は里沙の手をとり登る。
そして美貴の手に引かれ、ひとみの方へ渡った。
続けて愛を避難させ、あさ美、里沙と順に外へと脱出した。
「よっちゃん、行って。すぐ行く」
「わかった」
ひとみが外に出るのを見てから
美貴がシートの反対側に飛び移った。
そのとき
美貴は全身から力が抜けるのを感じた。
ガリガリガリガリ
バスが再び落ちた。さっきまで外にいたメンバーは見えない
崖が見えるのみである。
―――ダメか……
「ミキティ!」
「藤本さん!」
上の方からメンバーの声がした。
遠い。さっきのでバスがここまで落ちてしまったか。
- 137 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:21
- 窓から顔を出して見上げると、枝に乗ったひとみがこちらに手を伸ばしていた。
「時間がない、跳べ!」
「え?」
「こっちでつかまえるから、思いっきり跳べ!」
美貴は窓のふちに足をかけ下を見た。
ひとみの手をつかめなければ、谷底に落下する。
窓枠は細く、ふんばりが効かない。
この細い足場からジャンプして、ひとみのところまで届くだろうか……
「無理に決まってんじゃん……」
美貴は首を横に振った。
「無理だよ」
バスの中に戻ろうとする。
「なんですぐ諦めるんだよ!いっつもそうじゃねぇか!!
お前がそんなんで、後輩たちどうするんだよ!!」
- 138 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:21
- ―――意味わかんない……
美貴が泣いていた。
―――意味わかんないよ、よっちゃん
まただ。また意味不明なひとみの勢いに励まされている。
いつもいつも。ひとみのかけ声で、自分が何度救われたことか。
どんなに無理そうなことでも立ち向かってきた。
ひとみが応援してくれた。
自分に声をかけてくれる。
―――そうだよ……
ここで彼女を信じないでどうするのだ。
彼女に応援されてる自分を信じなくては。
美貴は再び窓枠に足をかけた。
身体を縮める。反動をつけて窓の外へと思い切り跳んだ。
美貴の身体がぴん、と伸びる。その手をまっすぐにひとみを目掛けて。
美貴が飛び出すのと同時に
バスは木の間を抜けて大轟音とともに奈落の底へと転がっていく。
空中の美貴を強い風が煽った。
- 139 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:22
- ひとみが身を限界まで乗り出して伸ばした右手の先に
美貴の手が触れた。
ガシッ
2人は手に力をこめて握り合う。
全ての力を振り絞って腕を折り曲げて身体を持ち上げた。
左手で枝をつかんだ。
身体を枝に乗せるとメンバーたちの手が自分を支えてくれた。
美貴が枝に乗って下を見下ろす。
ちょうど、自分たちを乗せたバスが底に落ちるところだった。
大きな音を立ててバスが大破するのを全員が無言で眺めていた。
- 140 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:22
- それから救助がやってくるのはすぐだった。
一人一人、崖の上まで引き上げられるのを眺めながら
皆が涙していた。
美貴がひとみの身体にぴったりとくっついて離れない。
いつもよりも強く、抱きしめられていた。
その感覚のなかでひとみは考えていた。
ここにいられてよかったと。
こうして、ここにみんなといられて本当によかったと。
ふと見上げると
山の間から見えるのは、いつまでも続く青空だった。
- 141 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:22
-
THE END
- 142 名前:Trust Fall 投稿日:2006/07/17(月) 12:23
- >>103-141
Trust Fall
- 143 名前:いこーる 投稿日:2006/07/17(月) 12:25
- この短編集はフィクションであり
物語中に登場するいかなる人物、団体、出来事も
現実のものとは一切関係ありません。
- 144 名前:いこーる 投稿日:2006/07/17(月) 12:29
- 以上で予定していた短編の全てを終えました。
スレッド完結です。
応援いただいたみなさま、本当にありがとうございました。
4作とも、感想いただけると作者はたいへん喜びます。
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 01:16
- 作者様、お疲れ様でした。
泣きそうになりながら読みました。
とても感動しました。
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 01:34
- この時期にこれとは・・・泣いた
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