喪失の葬列

1 名前:石川県民 投稿日:2006/05/03(水) 20:10

 初めまして&お久しぶりでございます。
まこあいの短い話を何個か書きます。
マコさんの御卒業のショックで思いついた話ばかりですので、
( ^▽^)>ハッピー! な話は無いです。暗いのばっか。
更新は激遅いですので予めご了承願います。
2 名前:1. 誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:12


1.誰が為に君は泣く?


3 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:12


 娘。を卒業することになった。


4 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:12

 あたしは、そのことをメンバー全員に伝える前に、愛ちゃんにだけ先に伝えておきたいと言ったら、それはあっさりと許可が出て、事務所にある小会議室に愛ちゃんを呼び出してもらえた。
 さて行こうとソファから腰を上げたら、一緒に卒業を告げられたあさ美ちゃんがあんまり笑わずに、
「歯の一本や二本、折られる覚悟をしといたほうがいいよ」
なんて、あんまり笑えないことを口にしたもんだから、いやいや大丈夫だってぇ……大丈夫だよぉ……大丈夫、じゃないのかなぁ……って、不安で胸をいっぱいにしながら愛ちゃんのいる小会議室へ向かうハメになった。
 廊下を歩きながら、何て話を切り出そうかな、とか、歯医者を今のうちに予約しといたほうがいいのかなぁ、とか考える。――考えが上手く纏まらないまま小会議室の前まで来た。
 ドアをノックしながら開ける。
「麻琴? 改まって何やの」
愛ちゃんが不思議そうな顔でこっちを見ながら立っていた。

5 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:13

 ぃやぁそのぉ、なんて口をモゴモゴさせながら中に入る。愛ちゃんに先に伝えようって思ったときから付きまとう後ろめたさは相変わらず消えなくって、あたしが呼び出したのに、今すぐ回れ右をしてここから出たい気持ちになった。
「実はさ、」
 対峙しても、顔を見れなくって、愛ちゃんのスカートから出てる膝小僧を見ながら話を切り出す。
「さっきね、あさ美ちゃんと一緒につんくさんに呼び出されて、……あさ美ちゃんは七月に、あたしは……八月に娘。を卒業することになったの」
 ぶるり、見つめていた膝小僧が大きく震えた。
 恐る恐る顔を上げる。愛ちゃんは何かを堪えるかのように唇を震わせていた。
「そおなんか……」
 それだけ呟いたかと思うと。
「いやーそろそろ五期メンからも卒業者が出る頃やなぁとか考えとったけど正直麻琴に先を越されるとは思わなんだわぁ絶対あーしの方が先に卒業すると思っとったさかい。おめでと麻琴」
 こっちを見ずに堰を切ったように話し出した。

6 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:13

 あたしと視線を合わせないまま愛ちゃんの言葉は続く。
「まぁ卒業なんて言ってもこの業界狭いからちょくちょく顔合わせると思うがし、そん時は――」
「違うんだよね」
 止まらない愛ちゃんの言葉を遮ると、訝しげに、そしてようやくあたしと目を合わせた。
「あたし留学するんだよね」
 さらに、「芸能界復帰するかも微妙なんだよねぇ」って暗くならないように無理矢理明るい声で付け足した。
 愛ちゃんは。
 口を開け閉めして、苦しそうに眉間に皺を寄せて。何度も掌をグーパーさせた。
「……なんやの」
「うん」
「なんやのお、それぇ」
 うん。本当に何だろうね。

7 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:13

 愛ちゃんは、震える唇を無理矢理真一文字にさせて奥歯を噛み締め瞳を強く閉じる。あたしはただそれを見ていた。
 やがて。
 はあっ、て大きく息を出すと、堪えきれなくなったのか強く閉じたままの瞳から涙が零れ落ちた。
 そして観念したのか目を開けてぼろぼろ泣き出した。
「麻琴ぉ」
 泣いたまま抱き着いてきて、あたしの首元に顔を埋めた。何度もグーパーさせていた手はあたしのシャツを強く握る。――肌に感じる愛ちゃんの吐く息はとても熱かった。
 抱き締め返すか迷って、結局止めて、腕を力なく垂れさせたままにする。
 愛ちゃんは小さな子どものようにあたしを抱きすくめて泣きじゃくる。そして「麻琴、麻琴ぉ」って何度もあたしの名前を呼んだ。

8 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:13

 あーあ。
 あたしが愛ちゃんを泣かせちゃった。
 あたしが。

 目頭が熱くなって鼻の奥がツンとしてきた。

9 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:14

「……ぐす」
 愛ちゃんは体を離してあたしを見る。そして涙を流したまま呆れ顔になった。
「なんで麻琴が泣くんやぁ」
「愛ぢゃんが泣いでるがらじゃん」声が震える。
「あーしの所為かい……」
「ぞうだもん」
 ここに来るまで、不安で胸がいっぱいだったのも。後ろめたかったのも。今泣いてるのも。
「全部愛ぢゃんのぜいだもん」
 どんなことでも愛ちゃんのこと泣かせたくなかったのに。なのに泣かせちゃったから。だから、だから、だから――、
「う゛ー」
 想いは言葉にならなくって、口からは変な唸り声が出た。

10 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:14

「泣くなまいや」
 目じりを親指で拭われ、頭をヨシヨシって撫でられたけど、その掌の柔らかさが余計に瞳から涙を零れさせた。
「あぁもう」呆れと愛しさが半々になったような声を出したかと思うと。
 ちゅっ、て目頭の涙を吸われた。
「うぉほっ!?」
 びっくりして涙は引っ込んだ。
 間近で見る愛ちゃんは、まだ頬に涙の筋が出来ていたけれど、その表情は穏やかに笑っていた。
「あーし、どんな麻琴でも好きやけど、笑顔の麻琴が一番好きやよ」
 頭に置かれた掌はまだヨシヨシって撫でてくれている。
「麻琴の笑顔は、見ているこっちも嬉しくって幸せになるさかい、麻琴にはなるべく笑顔でいてほしいんよ。あーしが泣くと麻琴も泣くんなら、あーしはもう泣かんようにする。だから麻琴ももう泣かんでや」
「愛ちゃん……」
 あたしはそっと指を近づける。
 愛ちゃんの目じりの涙を擦り取った。
「泣かないようにするとか言ってるくせに泣いてるじゃん」
「もう少しくらいならいいやろ」
「そうかな」
「そうやよ」
「そっか」

11 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:14

 だから、もう少しだけ二人で泣いた。

12 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:15

 それから。
 備え付けのティッシュで鼻をかんで、瞳に残る涙を拭き取った。メイク崩れたわー、とか言ってる愛ちゃんは取り敢えず放っておいた。
「さて、と」
 自分の両頬を叩いて気合をいれる。
「みんなのところに行って報告するよ。一緒に言うって約束してたあさ美ちゃんも待ちくたびれてるだろうし」
「あーしも一緒に行くわ」
 とことこ歩いて傍に来てくれたので、二人で小会議室を出た。そのまま並んで控え室に向かう。
「麻琴」
 どうやって報告するか考えていると、愛ちゃんが前を向いたまま話しかけてきた。
「泣いたらいかんよ」
「……うん」
「特にれいなの前では気張らんと、絶対あの子泣くがし」ええ
「だろうねぇ」
 あたしモテモテだもんね、なんて続けると「調子に乗るなま」って脇腹にチョップを入れられた。
 脇腹を抑えて悶えると、愛ちゃんはアホの子を見るような表情を向けて立ち止まってくれた。
 一通り悶えてから。
「ねえ愛ちゃん。……やっぱいいや」
「なんやが。気になるわ」
「だぁって、ねえ」
 言葉を濁し、何も無かったように足を進めた。愛ちゃんもあまり深く気にせず付いてくる。

13 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:15

 だぁって、ねえ。
 傍にいてね――なんて言わなくても傍にいてくれそうだもん。

 ねえ。愛ちゃんがいてくれればあたしは笑えるから。
 だから。
 だからもう少しだけ傍にいてね。

14 名前:誰が為に君は泣く? 投稿日:2006/05/03(水) 20:16

「「おはよーございまーす」」
 それから、二人で控え室のドアを開けた。



  終わり。
15 名前:石川県民 投稿日:2006/05/03(水) 20:17
 第一話更新終了。
 次回はアンリアル。今回のよりもうちょっと長め。
 五月中に更新できるといいなぁ。



  それでは。 拝。
16 名前:安曇 投稿日:2006/05/04(木) 14:58
前スレからROMってました。
石川県民様の書くお話が大好きです。
次回も必ず読みます。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/29(木) 15:30
マダカナー
18 名前:石川県民 投稿日:2006/08/10(木) 21:03
16>どうもです。ただ旧黄板で書いたようなもんを期待されると、絶対私は裏切りますのであしからず。
17>カイタデー。


 構想2分の物ですがドゾー。
19 名前:無。 投稿日:2006/08/10(木) 21:04

 ちょっとだけ、高を括ってたんや。あの子が離れるはずないって。

 ちょっとだけ、自惚れていたんや。あーしのほうが先やって。

 ちょっとだけ、嬉しかったんやよ。あの子が甘えてくれると。

 ちょっとだけ、ムカついたんやよ。あの子が他の子と話してると。

 ちょっとだけ、幸せやったんやよ。あの子が笑うと。

 ちょっとだけ、気にしてほしいんよ。あーしを見て。

 ちょっとだけ、
 ちょっとだけ。



 ちょっとだけやなく、大好きやったんや。
 だーい好きやよ、麻琴。


20 名前:無。 投稿日:2006/08/10(木) 21:04

 麻琴、麻琴。まぁーこと。
 何べん呼んでも飽きない名前。


 でも、もう呼べない。
 呼んでももう麻琴はいない。
 あーしの手が届かんとこに行ってもうたがし。

 行かんで。行かんでよ。
 何べんも、何百べんも叫べば何かが変わったやろうか。
 うぅん、そんなことは無い。あーしは無力やから。
 なにも、変えられない。
 それでも、
 今でも思う。考える。

 な、麻琴。あーしの声は聞こえとる?

21 名前:無。 投稿日:2006/08/10(木) 21:05



 今でもあーしは唄う。麻琴に届くことをひたすら願って。
 願って、祈る。
 情けない祈り。
 けど、捧げずにはいられない。
 な? 麻琴?

 あーしの想い、届いとる?
22 名前:石川県民。 投稿日:2006/08/10(木) 21:08
 こんな鬱々とした気持ちで8月を迎えるのは初めてのことでございます。
4月から沈んでた気持ちがマリアナ海溝にまで落っこった感じどす。
 卒業してもきっとずっと彼女達が好きなんだと思います。
だから、どんなに遅くても二人を書き続けます(小さく決意)

 ではまた。拝。
23 名前:お月様 投稿日:2006/08/27(日) 01:42
夜、お月様を見ていると寂しくなって。声を聞きたいって思いが堪えきれなくなって。電話に手を伸ばす。
『…ふぁい?』
間の抜けた声に安心して、別に用があったわけやないんやけど、って前置きしてから本当に中身のないことを話す私。
『うん』とか『へぇ〜』とか小さな相槌でも喋ってることか嬉しくて。
 ――でも。
 傍にいないことに寂しさを感じはじめて。あぁなんて欲張りなんやろうか。さっきまでは声が聞けただけで幸せやったのに。
きゅ、ってこぶしを作って。受話器の向こう側に聞こえないように深呼吸して。
「なぁ…会いたい」
重くなった想いを口にする。
言った直後はすごく緊張する。断られたらどうしようっていつもドキドキしてる。
――でも。
『いーよ。今から行くね』
ふにゃりとした物言いで私のワガママを聞いてくれる。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/27(日) 01:44

電話を切ってからはすっごいソワソワする。部屋を片付けたり髪を整えたりお月様を見たり。
今同じお月様を見上げてるのかなぁって思うと雑誌を片付ける手も止まる。口元も緩んでしまう。
ベランダに出て下の道路を見てはソワソワ、見上げてお月様を見てはソワソワ。
頼りない一つの灯りが道路の向こう側からやってきて、きっこきっこと自転車を漕ぎながらやってきた。
見上げて私を発見してくれたら、お月様に負けないくらいの輝く笑顔で私にぶんぶん手を振ってくれた。
玄関のロックもチェーンも解除して、あの子がドアを開けるのを待つ私。……どっちが犬っぽいのやら。
 ドアノブが回ってドアが開いた瞬間に私は抱き締める――だってもう一秒でも待ってられない。彼女もびっくりしたよぉなんて言いながらも強い力で抱き締め返してくれる。
その腕の強さが。そのじんわり汗で湿った体が。その熱い呼吸が。私一人だけが会いたかったわけじゃない理由だと感じさせてくれる。
幸せを、感じさせてくれる。
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/27(日) 10:32
>>23-24

このスレは放置されているのではないんですけど。
26 名前:石川県民 投稿日:2006/08/28(月) 19:33
>>25 名無飼育さん様

 すみません、私です。石川県民です。携帯電話から書き込んだら途中で
書き込みができなかったんです。

 もう一回改めて書きます。
27 名前:お月様 投稿日:2006/08/28(月) 19:33
夜、お月様を見ていると寂しくなって。声を聞きたいって思いが堪えきれなくなって。
電話に手を伸ばす。
『…ふぁい?』
間の抜けた声に安心して、別に用があったわけやないんやけど、って前置きしてから本当に中身のないことを話す私。

『うん』とか『へぇ〜』とか小さな相槌でも喋ってることか嬉しくて。
 ――でも。
 傍にいないことに寂しさを感じはじめて。あぁなんて欲張りなんやろうか。さっきまでは声が聞けただけで幸せやったのに。
きゅ、ってこぶしを作って。受話器の向こう側に聞こえないように深呼吸して。
「なぁ…会いたい」
重くなった想いを口にする。

言った直後はすごく緊張する。断られたらどうしようっていつもドキドキしてる。
――でも。
『いーよ。今から行くね』
ふにゃりとした物言いで私のワガママを聞いてくれる。

28 名前:お月様 投稿日:2006/08/28(月) 19:34

電話を切ってからはすっごいソワソワする。部屋を片付けたり髪を整えたりお月様を見たり。
今同じお月様を見上げてるのかなぁって思うと雑誌を片付ける手も止まる。口元も緩んでしまう。

ベランダに出て下の道路を見てはソワソワ、見上げてお月様を見てはソワソワ。
頼りない一つの灯りが道路の向こう側からやってきて、きっこきっこと自転車を漕ぎながらやってきた。
見上げて私を発見してくれたら、お月様に負けないくらいの輝く笑顔で私にぶんぶん手を振ってくれた。
玄関のロックもチェーンも解除して、あの子がドアを開けるのを待つ私。……どっちが犬っぽいのやら。
 ドアノブが回ってドアが開いた瞬間に私は抱き締める――だってもう一秒でも待ってられない。彼女もびっくりしたよぉなんて言いながらも強い力で抱き締め返してくれる。
その腕の強さが。そのじんわり汗で湿った体が。その熱い呼吸が。私一人だけが会いたかったわけじゃない理由だと感じさせてくれる。
幸せを、感じさせてくれる。

29 名前:お月様 投稿日:2006/08/28(月) 19:34


――誰も何も入り込めないくらいに抱き合うことが幸せやったのに。


30 名前:お月様 投稿日:2006/08/28(月) 19:34

今夜も空を見上げてみる。お月様は下界のネオンに圧され、申し訳なさそうに空に佇んでいた。
お月様に向かって手を伸ばし、掴んでみる。当たり前やけど手は虚しく空気を掴むだけやった。


 ねえ。
 今なにを考えてる? 私と同じように寂しさや空しさを抱えてる? 問いたくても問えない、声を聞きたくても聞こえない、抱きしめてほしくても抱きしめてもらえない、このどうしようもない哀しさをどうすればいいんやろう。

 だからせめて、私と同じお月様を見上げていてほしい。
31 名前:石川県民 投稿日:2006/08/28(月) 19:35


  反省ochi


 それではまた。 拝。

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