夢見る少女と変なシニガミ。
- 1 名前:あすか 投稿日:2006/05/08(月) 11:20
- 初スレ。
意味のないものが書きたくて。
たぶん道重さん主役。
たぶんさゆえり。
ぐだぐだですがおつきあい下さい。
- 2 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:20
-
『ソレ』に初めて会ったのは、ロマンティックな月の夜。
- 3 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:21
- さゆみは、深夜のお散歩が好きだった。
誰もいないところを一人で歩くのが好きだった。
もちろんこれは誰にも内緒。
と言うより、さゆみは現実の世界があまり好きじゃなかった。
うるさいだけの雑踏とか、たいくつな授業とか。
いつもいつも、物語のような非現実の世界を求めていた。
だから、ちょっと普通じゃない空気がある深夜のお散歩が好きだった。
もちろん、深夜でもうるさい繁華街なんかに近づいたりはしない。
さゆみが目指すのは、さゆみのお気に入りの場所。
街を見渡せる、小高い丘の上。
大きい樹に守られた、小さな丘。
- 4 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:22
- さゆみが「おじいちゃんの樹」と呼んでいる樹のもと。
夜中ここに来ると、いつもいる街がただの光の集まりに見える。
そして空を見上げると、今度は葉っぱの隙間から星と月が輝いている。
さゆみは、丘の上の草むらに寝ころんで、その中にとけ込んだような気分になるのが好きだった。
しかも今日は満月。きっととても気持ちがいい。
さゆみはちょっと気分が良くて、お気に入りのピンクのワンピースのすそをはためかせながら歩いていた。
しかし、弾んだ気分で到着した場所には、先客が居た。
さゆみと同い年くらいの、セーラー服を着たショートカットの女の子。
いつもさゆみがしているように、草むらの上に寝ころんでいた。
さゆみはちょっと不満げなカオをした。
いつも、お散歩の時はこの場所に誰かいることがなかったから。
でも、女の子の制服が自分の学校と違うことに気付いてまた気分が高鳴った。
他の学校なら、さゆみの知らないことを知れるかも。
きっとさゆみと感じてることは変わらないだろうけど、それでも知らないことを知るのは好きだった。
- 5 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:22
- さゆみは女の子に近づいて、ふと不思議なモノを目にした。
女の子の隣に並ぶ、銀色に光る大きな鎌。
月の光が反射して、とても綺麗なソレは。
でも、この平和な国には不釣り合いなモノだった。
―――これは、思った以上に素敵な出会いかも。
さゆみは先ほどよりも大きくなった好奇心を胸に、女の子の隣に座る。
間近で見る女の子は、綺麗な茶色の髪にちょっとアヒルっぽい口元。
目は閉じているけど、可愛らしい子だな、とさゆみは思った。
…私ほどじゃないけどね、と思うのも忘れない。
- 6 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:23
- 「こんばんは」
さゆみが話しかけても、熟睡しているのか反応しない。
「ねぇ」
今度は肩をつかんで揺すってみる。
すると女の子が目を開けた。
「おはよう」
「…おはよう…あれ?ここはドコ?」
ぼーっとした様子でさゆみのカオを見る女の子。
その様子がおかしくて、さゆみは思わず笑ってしまう。
「ここは、丘の上」
「んー…あ、そうだ。月の光が気持ちよくてつい…って、あなたは誰?」
「さゆみ。さゆって呼んで。あなたは?」
「絵里」
そう言うと、女の子――絵里は起きあがって周りを見る。
- 7 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:23
- 「まだ暗いじゃん。絵里てっきり朝まで寝ちゃったのかと思ったよ」
「朝だったらもっと大騒ぎだよ。絵里はきっと目立つもの」
「なんで…あ、これのせい?」
そう言って絵里は横に転がったままの鎌を持つ。
さゆみも、ソレを見てうなずいた。
「何で、そんなもの持ってるの?」
「え?必要だから」
「何で必要なの?」
「これがないと導けない」
みちびく、という意味はよくわからなかったけど。
その大きな鎌でイメージするものがあって。
そのさゆみのイメージと絵里は大きく離れていたけど、思わず問いかけた。
「絵里は、シニガミ?」
「なんでそう思うの?」
「シニガミと大きな鎌はセットじゃないと」
そういうと、絵里は笑った。
バカなことを言ったせいか。さゆみは身構える。
しかし絵里の口から出たのは意外なセリフ。
- 8 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:24
- 「さゆって、するどいね」
「え?」
「けっこう大当たり。シニガミっていうのはニンゲンが勝手に付けた名前だけど」
そう言って、絵里はまた笑った。
さゆみは呆気にとられてしまった。
だって、さゆみの中のシニガミは、真っ黒な服装で、カオなんてガイコツで。
こんな、目の前で笑ってるセーラー服の女の子じゃない。
「さゆってすごいねー、こんなすぐに見破られたの初めて」
「え、さゆみは適当に…」
「適当にでも当たるはずはないんだよ、普通は」
- 9 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:24
-
だって、シニガミの鎌は普通の人にはみえないんだから。
- 10 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:25
- 「え…?」
「さーて、見つかっちゃったし行きますか」
「どこへ?」
「ナイショ」
そして、また絵里はうへへと笑う。
「でも、さゆにはまた逢える、と思う」
「何で言い切れるの?」
「だって普通じゃないもんさゆは。だから、きっと絵里に関わるはず」
じゃーね、と笑って絵里は歩いていった。
さゆみは、追いかけようと思って…でも、絵里の言葉が気になって動けなかった。
- 11 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:25
-
- 12 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/08(月) 11:26
-
- 13 名前:あすか 投稿日:2006/05/08(月) 11:26
- 続く。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/09(火) 02:16
- なんとなく雰囲気的にレスしちゃいけない気がするけど、しますw
好きですこの雰囲気。
- 15 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:14
-
__________
- 16 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:14
- さゆみは考えていた。
絵里は、なんなんだろう。
シニガミって言った。
さゆが普通じゃ無いとも言った。
…さゆも、なんなんだろう。
「…ゆ、おーい、さゆー」
「あ…れーな」
「何考えとー?」
いつの間にかさゆみの横には、親友のれいながいた。
そういえばここは学校だった、とさゆみは思い出す。
いつから呼んでいたんだろう。ちょっと怒ってるみたいだ。
「うーん…さゆみにはいろいろあるの。」
「わけわからん」
- 17 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:15
- 呆れたような声で言うれいな。
でも深くは聞いてこない。
れいなはお互いのテリトリーっていうのを解ってるとさゆみは思っている。
だから、れいなといるときは楽しい。
「ねぇれーな」
「なに、さゆ」
「れーなは、シニガミって信じる?」
「はぁ!?」
何を言っているんだ、そう言いたげな表情でれいなは声をあげる。
そりゃあそうだよね、とさゆみは思った。
- 18 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:15
-
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- 19 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:16
- 結局絵里が気になって、さゆみは今日もあの丘に来ていた。
お散歩は日課だから、そう言い訳するみたいに言い聞かせて。
でもそこに絵里は居ない。
なんだ、と思って、ちょっとだけがっかりして。
さゆみが帰ろうとした時だった。
「あれー、さゆじゃん」
絵里の声がした。
あわてて周りを見渡す。
しかし、声は聞こえど姿は見えず。
「こっちこっち」
「どこー?」
「うえー!」
そう言われて見上げると。
おじいちゃんの樹の立派な枝に、絵里が座っていた。
- 20 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:16
- 「…何してるの?」
「んー、街を見てる」
「何でそんなところで?」
「探すなら高いところの方がいいかなって」
「…何を?」
最後の質問は、聞かなくてもわかっていた気がするけど。
それでもあえてさゆみは聞いてみる。
「さゆ、わかってて聞いてるでしょ?」
「さあ、さゆみの考えが当たってるとは限らないの」
さゆみがそう言うと、絵里は笑って。
「これから死ぬ『モノ』を探してる…どう?当たってた?」
そう、さゆみに聞いてきた。
- 21 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:16
- さゆみが考えてたこと、それはだいたい絵里が言ったこと。
でも、ちょっとひっかるところがあった。
「…『モノ』?人じゃないの?」
「絵里たちが導くのは、人とは限らないよ」
「そう、なんだ…」
これも、さゆみにはちょっと意外。
だって、シニガミは人間を連れて行くイメージだったから。
「意外、って顔してるねさゆ」
「え?」
「無理ないよね、ニンゲンが作っちゃったイメージって大きいから」
そう言って、また絵里は笑った。
その顔がちょっと寂しくて、なんだか悪い気持ちになった。
「ごめんね、絵里」
「えーなんで謝るのー?」
「だって、さゆみは絵里のこと、ひとごろしみたいに思ってた」
「間違ってはないよ。イノチを持って行くっていうのは同じだから」
- 22 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:17
- よっと、というかけ声と共に、絵里が樹から飛び降りた。
大きな鎌を持っているはずなのに、羽のように着地する。
「でも、またさゆに会えて良かった」
「え?」
「さゆがここに寄りつかなくなったら終わりだもん。かっこつけた絵里がばかみたいじゃん」
そう言えば前に絵里は自信満々に『また会える』って言ってた。
かっこつけてたんだなぁ、って思うとちょっとおかしいな、とさゆみは思って。
どうやらおもわず顔に出ていたみたいで。
「あー、いまさゆ笑った。絵里のこと絶対おかしいと思った」
「思ってない、思ってない」
「笑い顔で言っても説得力無い」
そんな言い合いをしながらひとしきり笑って。
そしたら絵里が真剣な顔になった。
- 23 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:17
- 「でもね、本当にさゆにまた会えてラッキーなんだよ」
「何で?さゆみが普通じゃないって言ったよね絵里」
「うん。シニガミの鎌が見えるのはいろいろ条件があるから」
そう言って、絵里は真剣な顔になる。
「まず一つ、ものすごく霊感が強いこと…さゆって幽霊とか見たことある?」
「ううん、ない」
「じゃあ残る可能性は二つ」
絵里がぴっ、と指をピースの形にして突き出す。
「一つは、身近なところに死がある人…身内とか、親友とかだね。そして…」
嫌な予感がした。
聞きたくない。
でも聞きたい。
さゆみの心の中はぐちゃぐちゃだった。
でも聞きたくないって気持ちは結局言葉にならなくて。
- 24 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:18
-
「もう一つは、もうすぐ死んじゃう人、ってことだよ…」
- 25 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:18
- ああ、やっぱりな。
可能性を聞いた瞬間から頭にあった事実。
でも実際絵里の口から聞くと、ショックだった。
「さゆみは、死んじゃうの?」
「わかんない。さゆかもしれないし、身近なダレカかもしれないし」
「でも、身近な人が死んじゃうのもやなの」
「じゃあさゆは死にたいの?」
「それもいや」
「わがままだね、さゆは」
わがままでもいいじゃないか、そうさゆみは思う。
だって、誰でも死ぬのは嫌だし。
でも大事な人が死ぬのも嫌だし。
例えば、さゆみにとってならお父さんお母さん、お兄ちゃんにお姉ちゃん、れいなみたいな親友。
誰一人だって、いなくなって欲しくない。
「でも、もしさゆみが死んじゃうんだったら、絵里は迎えに来てくれるの?」
「そうだね。絵里はそのためにいるんだから」
「じゃあ、さゆみのことかわいいまま苦しくないように死なせてね」
「無理。絵里は導くだけなんだって…それに、死んじゃうこと前提に話されるの嫌い」
「どうして?シニガミなのに」
「シニガミだからだよ…死ぬって、悲しいことなんだよ」
そうつぶやいた絵里の顔は、なんだか泣きそうで。
さゆみは、悪いことを言っちゃったなぁと思ってしまう。
- 26 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:18
- 「絵里は、死んでいくものを見るのが嫌いなの?」
「大っ嫌い。本当は仕事もしたくない」
「変わってるって言われない?」
「言われる。さゆこそ言われない?」
「言われる。どうしてそう思ったの?」
「だって絵里のこと怖がらないじゃん」
「どうして絵里を怖がるの?さゆみは絵里に興味があるよ」
「普通はシニガミって怖がられるモノなんだけどね」
「絵里はさゆみの次に可愛いから、怖くなんてないよ」
「さゆの次にって何さー」
そう言って、二人でまた笑った。
「そういえば、絵里はどうしてこの丘にいるの?人もモノも街の方が多いのに」
「なんでだろ…死のニオイ?そんなものを感じたから。ここにさゆ以外に来る人は?」
「いないよ。ここはさゆみの秘密の場所なの…じゃあ、やっぱりさゆみが死ぬのかな?」
「だから、簡単に死ぬとか言わないで。絵里はさゆには生きてて欲しい」
「絵里の方こそ、やっぱり変わってるの」
「うちら、変わったもん同士ってことかぁ」
そういう絵里のヘラヘラとした笑い顔が可愛いな、とさゆみは思って。
だから、絵里にはシニガミは似合わないな、とも思った。
- 27 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:19
- 「さーて、じゃあ絵里行くね」
「え?なんで?」
「さゆと話してたら、ますます仕事したくなくなっちゃう」
「そっか…また明日ね、絵里」
そう言うと、絵里は少し驚いた顔をして。
でもすぐに笑顔になって。
「また明日、さゆ」
そう返した。
また明日。
この約束をすれば、明日また会えるから。
明日は、死なずに、死なせずにすむから。
二人にとってまた明日は、普通以上に大事なあいさつになった。
- 28 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:19
-
- 29 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/09(火) 11:19
-
- 30 名前:あすか 投稿日:2006/05/09(火) 11:20
- 続く。
- 31 名前:あすか 投稿日:2006/05/09(火) 11:21
- 返レス。
>>14名無飼育さん
雰囲気だけのものが書きたかったので。
雰囲気が好きと言って下さって嬉しいです。
短い話ですがおつきあいください。
- 32 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:29
-
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- 33 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:30
- 「ねえれーな」
「なん?」
「さゆみが死んじゃったら、れーなは悲しい?」
「な、何言っとー!当たり前っちゃろ!」
次の日。
れいなにこう問い掛けたさゆみは、案の定怒られた。
「さゆはれいなの友達やけん!死んで欲しくない」
「もしもの話なの」
「さゆ変っちゃよ…シニガミがどうとか、死んじゃったらとか…」
れいなが悲しい顔になる。
それを見たさゆみは、しまったなぁとは思ったけれど、それでも気になるものはしかたない。
だって、親友だと思ってるのが自分だけだったら悲しいから。
「よかった。れーながそう言ってくれて」
「さゆ…」
「れーなが親友だって確認したかっただけなの」
「な…そんなことせんでも、れいなはさゆのこと大事だと思っとるよ」
「うん。ありがとれーな」
そして、心の中でちょっと『ごめんなさいれーな』とつぶやく。
だって、もしかしたら、このたとえ話は本当になるかもしれないから。
- 34 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:30
-
__________
- 35 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:31
- 「あー、さゆまた来た」
「絵里もまたいた」
今日も、さゆみがあの場所に行くと、絵里はおじいちゃんの木の枝に座っていた。
「絵里、そこ、気持ちいい?」
「風とかすごく気持ちいいよー」
「景色はー?」
「さいこー!」
「さゆみも登りたい!」
「危ないよー」
「でも絵里だけずるいー!登るからね!」
そう言うと、さゆみは絵里のいるところを目指して樹によじのぼりはじめる。
さゆみは決して運動が得意なほうじゃない。
でも、何だか今日は絵里と一緒に景色を見たかった。
少しずつ登り始めて、もう少しで絵里がいる枝に辿り着く…
- 36 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:31
-
そのとき、思いっきり足を踏み外した。
- 37 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:32
- 「え?」
「さゆ危ない!」
一瞬の浮遊感と、次の瞬間に腕に感じる衝撃。
絵里が、さゆみの腕を掴んで支えていた。
「もー!さゆほんと危なーい!」
「絵里…ありがと」
どこからそんな力が出るんだろう。
そう思ってしまうような力で、絵里はさゆみを自分の横に引っ張り上げた。
そしてそのまま、並んで街を見下ろす。
「綺麗だねー、景色」
「ほんとだ…ちょっと高くなっただけなのに」
「さゆは木登りとかはじめて?」
「はじめて。こういうの苦手だから」
「なのに登ろうとしたの?危ないよ」
「でも、絵里が見てるものを見てみたかったの」
そう言うと、絵里は一瞬固まって。
そのあと、なんだかにやにやしてるような笑顔になって。
真っ赤になったほっぺたを見て、照れてるんだなぁとさゆみは思った。
- 38 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:32
- 「そういえば絵里、助けてくれてありがと」
「あー…さっきのアレ?いいよー、絵里はさゆに怪我とかしてほしくないだけだから」
「絵里、優しいね」
「さゆのことがスキなだけだよ」
そう言って、うへへと笑う絵里。
「絵里、それって告白?」
「違う違う」
「さゆ可愛いからモテモテで困っちゃう」
「いやだから違うって」
かみ合わない会話。でもそれが二人には心地いい。
ずっとこんな時間が続けばいいな。そうさゆみは思っていた。
…この時間が長く続かないことも感じながら。
- 39 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:33
- 「それにしてもさー、丈夫だよねこの枝」
「さゆが産まれるずっと前からあるみたいなの。だからおじいちゃんだと思うの」
「え、絵里たちおじいちゃんに乗っかっちゃってるの?かわいそー降りなきゃ」
「おじいちゃん優しいからきっと大丈夫なの」
「そっかー。もうちょっとおじゃましまーす」
やっぱりちょっとずれた会話。
でもそれが楽しすぎて、ちょっと泣きたくなって。
さゆみは、少しうつむいた…その時。
見つけた、綺麗なピンク色。
- 40 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:33
- 「…つぼみ?」
「んー?」
「ほら、気付かなかったけど小さいつぼみがあるよ!おじいちゃん花が咲く樹だったんだ」
「さゆは知らなかったの?」
「知らなかったの。だって一度も咲くところを見たことないから」
さゆみが産まれてから、この樹が花を咲かせることなんて無かった。
大人たちも知らないこの樹、もしかしたらずっと花を咲かせてないかもしれない。
「もしかして、ずっとつぼみのまま花を咲かせられなかったのかな?」
「そうかもしれないね」
「…こういうのも、消えてったイノチなのかな」
「…そうだね」
「絵里は、こういうイノチを導いたことはあるの?」
「こういう小さいイノチは、絵里気づけないんだ」
そう言って、絵里はちょっと暗い顔になった。
小さくても大きくてもイノチはイノチ。
でも、大きい物しか気づかない絵里。
大それたことを言っていてもたいした力がない。そんな風に自分で感じてしまったのかもしれない。
- 41 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:33
- 「絵里…」
「え?ああごめんごめん。ちょっとしんみりしちゃったね…」
そう言ってぱっと顔を上げた絵里は、いつものふにゃふにゃした笑顔で。
だからこそ、さっきの絵里の顔が忘れられなかった。
「さーて、そろそろ行きますか」
「また、行っちゃうの?」
「うん。でもまた明日も来るでしょ?」
「絶対来る。絵里も来るよね?」
「うん。絶対に」
そう言って、絵里はこの間と同じようにふわりと樹から飛び降りる。
大鎌を担いでいるのに軽やかなその姿。
その姿が綺麗で、さゆみは見とれてしまう。
「じゃーねさゆ。また明日」
「…あ、ちょっと待って絵里!」
「え?どうしたの?」
「降りるの、手伝って…」
さゆみがそう言うと、絵里は爆笑して。
ゆっくり降りようとしたさゆみが足を踏み外したところをしっかりと受け止めてくれた。
- 42 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:34
-
- 43 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/10(水) 17:34
-
- 44 名前:あすか 投稿日:2006/05/10(水) 17:34
- 続く。
- 45 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:02
-
__________
- 46 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:03
- 「れーな、あの丘の上の樹が花を咲かせるとこ見たことある?」
「あのばかでかい樹?ないけど…あれ花咲く樹なん?」
「れーなのお父さんとかお母さんとか、おばあちゃんとかも知らない?」
「あのさぁさゆ…れいな中学からの転校生やけん。パパもママも一緒に引っ越してきたっちゃ」
「…あ、そうだった」
なんだか数年間なのにずっと昔かられいながいた気になっていた。
誰かといるのが当たり前になるのって、時間は関係ないのかもしれない。
そう、さゆみは感じていた。
「でもさゆ、そんなことどこで知ったん?」
「んーと、最近仲良くなった人に教えてもらったの」
本当は自分で気付いたんだけど、深夜のお散歩はナイショだから。
そう思って、ちょっとだけさゆみは嘘をついた。
絵里に会ったから木に登ろうと考えたので、完全に嘘というわけでもない。
「どんな人?今度れいなにも紹介してほしいっちゃ」
「あ、うん…今度、機会があったらね」
絵里がれいなに会う時っていつなんだろう。
れいなが死ぬときでも、さゆみが死ぬときでもなく。
たださゆみの友達としてれいなと絵里が会えたらいい。
そう、さゆみは思っていた。
- 47 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:03
-
__________
- 48 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:03
- あの丘に行くと、絵里が初めて会ったときのように草むらに寝そべっていた。
さゆみも、今日は初めてあった日と同じピンクのワンピースを着ていた。
なんだか面白くて、さゆみはそっと目をつぶっている絵里に近づく。
「こんばんは」
あの日と同じ事を言って、あの日と同じように反応はない。
「ねぇ」
そして肩をゆさぶると、ゆっくり絵里が目を開けて。
「おはよう」
「んー…あ、さゆだぁ…おはよー」
あの日と違う言葉を言った。
「また寝てた」
「ここ気持ちいいんだもん…さゆも、またそのカッコで起こしてくれた」
「えへへ。すっごいね。ぐうぜんだね」
そう言って、二人で笑った。
- 49 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:04
- 「でも今日は樹の上じゃないの?」
「うーん、今日はなんて言うのかな…下の方が死のニオイ?が濃かったから。」
「…ニオイ?」
「なんて言うのかな、なんとなくわかるんだ」
「…今日、さゆが死んじゃうのかな?」
「だから、死ぬって言わないで」
さゆみの言葉に、絵里の方が泣きそうになる。
また悪いことを言っちゃったなぁ、とさゆみは後悔した。
「そうだ。さゆみの友達が絵里に会ってみたいって」
「絵里に?なんて説明したの?」
「仲良くなった人に、おじいちゃんの樹に花が咲くって教えてもらったって」
「見つけたのはさゆじゃん」
「お散歩はナイショなの」
なんだよーもーとぶつぶつつぶやいている絵里。
それを見て笑ってしまうさゆみ。
- 50 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:04
- 「ねぇ、いつかさゆみのお友達としてれーなに会ってね」
「れーなちゃんって言うんだ。そうだね、会えるといいね」
「会えるよ。絶対会うの」
「そうだね、絶対会いたいね」
二人とも、確かめるように、約束するように、絶対会おうとつぶやき続ける。
最初は二人とも笑顔だった。
でも、やっぱりなんだか悲しくなって、目の前がぼやけてきて。
二人とも、気付いたら抱き合って泣いていた。
「やだ、やだよぉ…さゆと会えなくなっちゃうのやだ…」
「さゆみも、誰も死んで欲しくないよ…絵里と、さゆみと、れいなでちゃんと友達になりたいよ…」
いやだ、いやだと言いながらただひたすら泣きつづける。
さゆみも、絵里も、お互いのカラダから伝わってくる温度がすごく暖かく感じていて。
だから、余計に涙が止まらなくなる。
でも、泣いていても始まらないと思って、どちらともなく顔をあげる。
見上げた先には、いつものようにどっしりと構えているおじいちゃんの樹。
「この樹は、変わらないよね」
「さゆみが小さいころから…ううん、ずっと前からずーっとこの街を見てるの」
「じゃあ、きっとさゆのこともこの樹が変わらずに覚えててくれるよ」
「そうかな…おじいちゃん、さゆのこと覚えててね」
さゆみが、樹に掌を当ててそう呟いた瞬間だった。
- 51 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:05
-
まるでさゆみの言葉に応えるように。
ぶわっ、と。ピンク色が広がった。
- 52 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:06
- 「すっ…ごーい…」
思わず、さゆみは言葉を失った。
さゆみの横では、絵里が同じように言葉もなく、ただ樹を見つめている。
「これ、桜の樹だったんだ…」
目の前に広がるピンク色。
ちょっと、季節の遅れた満開の桜。
周りには月と星の明かりだけなのに、それでもすごく明るく見える。
それを見て、絵里がぼそっと言葉を発する。
「…これ、だったんだ」
「え?」
「この樹…絵里は、この樹を導くためにここに来たんだ」
わけがわからない。
絵里が導くのは、この樹?
絵里が連れて行くのは、おじいちゃん?
じゃあ、さゆみはどうして?
- 53 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:06
- 「ねえ絵里、本当なの?絵里が連れて行くのはおじいちゃんって…」
「きっと…ううん、絶対。だって、咲いた瞬間に死のニオイがしたから」
「じゃあなんでさゆみには…」
なんで鎌が見えたの?
そう聞こうとしたときに見えた影。
ぼんやりと、樹の根元におじいちゃんが見えた。
「…おじいちゃん?」
さゆみが話し掛けると、そのおじいちゃんもにっこり笑う。
「樹の、おじいちゃん?」
『そうだよ。君は…さゆみちゃんだったよね』
「おじいちゃんは、さゆみのこと…」
『さゆみちゃんのこと、気に入っていたよ…おじいちゃんと呼んで、いつも来てくれていた
おかげでもうすぐ枯れてしまうその時間が寂しくなかったよ。』
「そんな、さゆみこそ…この丘に来るのがすごく好きだった。」
『私のさゆみちゃんを気に入ってる気持ちが、ちょっと強すぎたみたいだね』
「いいの…いいの。だって、そのおかげで絵里と会えた…ありがとう、おじいちゃん」
『…こちらこそ、ありがとうさゆみちゃん』
普通ではありえない光景。
でも、さゆみはなんだかすんなり受け止められて。
初めて話したはずなのにどこかなつかしいおじいちゃんと別れを交わす。
- 54 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:07
- そこに、ずっと黙っていた絵里が口を開く。
「…おじいちゃん、それじゃ行こっか」
『そうだね…』
「さゆ、おじいちゃんのこと忘れないであげてね。おじいちゃんはきっとさゆのこと忘れないから」
「…わかったの…じゃあね、おじいちゃん」
『じゃあね、さゆみちゃん』
そして、ゆっくりと絵里が鎌を掲げる。
そのまま、踊るように、樹の根元に向かって鎌を振り下ろした。
樹に直接当たったような、そんな感じはないけれど。
- 55 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:07
-
次の瞬間、一気に舞い散る花びら。
- 56 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:07
- その光景がすごく綺麗で、さゆみは目を奪われる。
そしてはっとして、樹に手を当ててみた。
触れたところから崩れてくる木の皮。
これが『樹が死んでいく』ってことなのかなぁ…となんとなく思う。
「綺麗だね」
「そうだね」
「もう樹に登れないね」
「一回絵里と登れたから満足なの」
「そっか」
二人並んで、舞い散る花びらを見ながら話す。
桜の花びらは、二人を埋め尽くすようにどんどん降り積もる。
「さて、じゃあ絵里はもう行くね」
「え?」
「だってお仕事終わりだもん。最後までおじいちゃん連れて行ってあげなきゃ」
「…そっか。そうだよね」
「…正直、さゆじゃなくてよかった…ってちょっとおじいちゃんに失礼か」
「さゆも、ちょっと思っちゃったの。二人とも失礼だね」
そう言って、顔を見合わせて笑った。
- 57 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:07
- 「じゃあねさゆ」
「あ、待って絵里!」
「なに?」
「また、会える?」
そう言うと、絵里はやわらかな笑顔でさゆみのほうを向いて。
「会えるよ。絶対会おう」
そう言った瞬間に、強い風が吹いて。
舞い上がるたくさんの花びらにさゆみが思わず目をふさいだ瞬間に。
絵里は、いなくなっていた。
「絶対…約束だよ、絵里」
絵里が去っていった方向に向かってつぶやくさゆみ。
ちょっとしか一緒にいなかったけど、さゆみにとって絵里は大事な大事な、内緒の友達だった。
だからこそ。
根拠のない言葉でも、絵里が絶対会おうと言ってくれたこと。
それがさゆみにとってはすごく嬉しくて、またちょっとだけ涙がこぼれた。
- 58 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:08
-
__________
- 59 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:08
- 「さゆ、おはよ」
「おはよう、れーな」
いつも通りに学校に行って、いつも通りにれいなに挨拶。
でも、さゆみの心はどこか上の空だった。
「…さゆ、なんかいつにも増してぼーっとしとるっちゃね」
「失礼なのれいな。さゆみはぼーっとしてても可愛いからいいの」
「何ね、それ…そういえばさゆ、転校生の話知っとる?」
「転校生…」
上の空なさゆみは、れいなの言葉をなんとなく返す。
そんなさゆみの様子を見て、れいなはちょっと苦笑い。
「なんか、病気で一年留年してるとか珍しい感じやったけど…今のさゆは興味なしやね」
「うん…」
転校生だろうと何だろうと、正直さゆみにはどうだって良くなっていた。
だって、絵里が来るわけじゃあるまいし。
そう、思っていた。
転校生の、顔を見るまでは。
- 60 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:09
- HRが始まって、先生が転校生を呼んでくる。
クラスのみんなは季節はずれの転校生と、なかなかの美人だったことでざわついているが。
正直、さゆみにとってはそれ以上の衝撃。
だって、入ってきた転校生は、絵里だったから。
茶色いショートカットに、ちょっとアヒルっぽい口元。
あのセーラー服じゃなくて見慣れたさゆみ達と同じ制服だけど、間違いなく絵里。
「…なんで?」
HRが終わって、転校生に集まるクラスメイトをかきわけて。
「絵里っ!」
「あ、さゆー」
絵里に話し掛けたら、いつものようにふにゃふにゃとした口調で返ってくる。
- 61 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:09
- 「なんでいるの?」
「転校してきたから」
「だからなんで、シニガミが転校なんて…」
「言ってなかったっけ?絵里この地区の担当だからおじいちゃん限定じゃないって」
「聞いてない。一言も聞いてない」
なんだか、さゆみは疲れきってしまう。
正直、あの時の涙を返して欲しい…とまで思ってしまう。
「だから言ったじゃん。絶対会おうって」
「もうちょっと感動的な意味だと思ってたの」
「いいじゃん。実際会えたんだし」
「それはそうだけど…」
「とーにーかーく、これからよろしくね、さゆ」
「…はぁ、よろしくなの」
そしていつものように顔を見合わせて笑う。
深夜の内緒の友達が、今は昼間の学校で一緒。
それがなんだかおかしくて、なんだか笑いが止まらない。
「さゆ?なに転校生と楽しそうにしとー?」
「あ、れーな!」
「へぇ、この子がれーなちゃんかぁ」
さゆみの様子を見ていたれいなが話し掛けてくる。
れいなを見て、絵里も微笑む。
そして、さゆみはれいなに向かって、とびきりの笑顔で。
- 62 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:09
-
「ほら、この間話した、最近仲良くなった人なの!」
- 63 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:10
-
- 64 名前:夢見る少女と変なシニガミ。 投稿日:2006/05/12(金) 02:10
-
- 65 名前:あすか 投稿日:2006/05/12(金) 02:10
- おわり。
- 66 名前:あすか 投稿日:2006/05/12(金) 02:11
- ぐだぐだですみません。
ぶった切りですみまん。
感想苦情どんと来い。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/13(土) 04:10
- できれば続きを期待します
- 68 名前:次回予告。 投稿日:2006/05/15(月) 01:56
-
雨の中、何かを探している、れいなを見た。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「れいな、昨日さゆがよく行く雑貨屋の近くの路地裏にいた?」
「は?おらんとよ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「…れいな?」
「誰、あんた」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「れいなって、双子の姉妹とかいる?」
「いや、おらんっちゃ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「絶対変だよね。絵里はどう思う?」
「れーなちゃんに関係のある、強い想いかもしれないね」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「見つからん…あれがないと、れな…」
「何を探してるの?一緒に探したらたぶん早いよ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ごめん、そこまで大事にしてくれたなんて気付かなくて、ごめん…」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次回。
『雨降り路地裏、ひねくれこねこ』
- 69 名前:次回予告。 投稿日:2006/05/15(月) 01:56
-
- 70 名前:あすか 投稿日:2006/05/15(月) 01:57
- 一人でも需要があったので予告掲載。
- 71 名前:あすか 投稿日:2006/05/15(月) 01:58
- へたをすれば一月単位かもしれませんが。
ストックがたまりましたらまた。
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/16(火) 23:47
- 待ってま〜す。
- 73 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/05/27(土) 00:24
-
雨の中、何かを探している、れいなを見た。
- 74 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/05/27(土) 00:25
- その日は、たしか土砂降りで。
その日は、たしかれいなはバイトがあると言っていて。
そんな時、さゆみはいつも絵里を連れまわしていた。
さゆみの好きな場所、好きなものを絵里に見て欲しかったから。
だから、その日も同じように、さゆみのお気に入りの雑貨屋さんに行っていた。
駅前の通りから少し奥に入ったところ。
そこにある小さな雑貨屋さん『エコモニ。』
お店のお姉さんの趣味なのか内装も商品もピンク中心の、
環境に優しいリサイクル品中心のお店。
ピンクで可愛い小物が大好きなさゆみにとって、ここは特にお気に入りのお店。
- 75 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/05/27(土) 00:26
- 「…うっわ、すっごいピンクだらけ」
「でしょ?可愛いでしょ?」
「いらっしゃいませ…って、さゆじゃない」
嬉しそうにはしゃぐさゆみと、ピンクだらけの店内に苦笑いの絵里。
さらに奥から出てきたピンクの洋服の店員にまた絵里は苦笑する。
「石川さん、こんにちは。今日は前話してた絵里を連れてきたの」
「あ、はじめまして」
「はじめまして絵里ちゃん…あ、そういえばさゆの好きそうな可愛いデザインの鏡入荷したよ」
「本当ですか!?でもエコって感じじゃないですよね?」
「廃材利用の品だから十分エコなのよー」
ピンクの店内ではしゃぐ二人。
そんな二人を横目に、絵里は窓際の植物がたくさんあるテーブルに非難する。
カフェテラスのようになっているこのあたりは内装も白中心で落ち着けるな…
と思いながら外に目を向けた。
- 76 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/05/27(土) 00:27
- そのとき、店の脇の細い路地裏に入っていく小さな人影が見えた。
しかもそれがさゆみに紹介された友人に似ていて。
「れーなちゃん?」
絵里は、思わず首をかしげた。
- 77 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/05/27(土) 00:28
- 結局さゆみは石川さんと呼ばれた店員さんに教えられた鏡を抱えて店を出ていた。
「さゆこないだも絵里を連れてってくれたお店で手持ちの鏡買ってたよね…買いすぎじゃない?」
「かわいい鏡は心を落ち着かせるからいいの」
「たぶんさゆだけだよ、そう思ってるの…」
さゆみの言葉に呆れ顔の絵里。
そしてふと絵里がさっきの路地に目をやると。
やっぱり、見覚えのある背中が、傘もささずに何かをしていた。
- 78 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/05/27(土) 00:28
- 「れーなちゃん…?あれ、でも…」
「え、れーな?」
さゆみも絵里の言葉に小さな路地裏を覗き込む。
「ほんとだ…何してるんだろ」
「うーん…声かけてみる?」
「うん…って、あ…」
さゆみが声をかけようとした瞬間。
れいなは立ち上がり、駆け出してしまった。
「…どうしたんだろうね、れーな」
「何かあったのかな…でもな…うーん…」
「絵里?」
何かひっかかるところがあるのか首を傾げ続ける絵里。
さゆみもその絵里を見てさらに気になったが、とりあえず帰ることにした。
れいなだったらまた明日会えるんだし。そう考えながら。
- 79 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/05/27(土) 00:29
-
- 80 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/05/27(土) 00:29
-
- 81 名前:あすか 投稿日:2006/05/27(土) 00:31
- 続く。
- 82 名前:あすか 投稿日:2006/05/27(土) 00:33
- 続編開始。
全作の雰囲気軽く壊れるかも知れませんごめんなさい。
特に絵里さんのキャラが微妙に崩れるかもしれませんごめんなさい。
亀の歩みのような更新ですがまた。
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 10:28
- 続きを希望した者です
ついに続編がきましたね
これから楽しみにしてま〜す
- 84 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:30
-
__________
- 85 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:30
- 「れーな、昨日さゆが良く行く雑貨屋さんの近くの路地裏にいた?」
次の日さゆみは、朝一でれいなにそう問い掛けた。
昨日結局なんだか気になって仕方がなくなってしまったから。
「良く行く雑貨屋って…前連れてかれた『エコモニ。』って店?いや、おらんとよ」
「でも、昨日絵里と二人でれいなっぽい人見たの」
「他人の空似っちゃろ。れいな昨日はバイトやったし」
「だよね…ちゃんと声かけたわけじゃないし」
れいなの言葉を聞いて、納得しようとするさゆみ。
そのとき、チャイムと同時に絵里が教室に駆け込んできた。
- 86 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:30
- 「ぎ、ぎりぎりセーフ」
「おはよう、絵里。珍しいね、さゆみより遅いの」
「うーん…昨日気になることがあったから」
「…あの時のれーな?」
「うん」
「でもれーなはいなかったって言ってるよ?」
「うん、だからね…」
「れいなの話題?」
絵里と二人で話し込みそうになった時、自分の名前に反応したれいなが話し掛けてくる。
「さっき聞いた、れーなのそっくりさんの話題」
「絵里も気にしとったん?」
「うん…最初に見つけたの絵里だし」
「人間、どっかに自分のそっくりさんはおるもんやし、気にせんと」
そうなのかなぁ、とさゆみは考えながらも、絵里が寝坊するくらい気にすることがひっかかって。
もう少し話していたかったけど、運悪く先生が入ってきて。
結局、れいなとそれからその話はしなかった。
- 87 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:31
-
__________
- 88 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:31
- その日の放課後はれいなはバイトで。
絵里も「気になることがあるから」ってどっかに行ってしまって。
だから、さゆみは一人で『エコモニ。』に向かっていた。
運がよければれいなのそっくりさんに会える。
もし会えなかったとしても、石川さんなら話し相手になってくれる。
そう考えながら。
『エコモニ。』の横の路地裏を覗き込む。
…いた。
なにかを探している、小さな背中。
やっぱり、見れば見るほど友人の背中に似ていて。
昨日はすぐにいなくなってしまった小さな背中に、さゆみは思い切って声をかけた。
「…れーな?」
これで無視されたら完全に別人かな。
そう思っていたら、その小さな背中が振り向いた。
- 89 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:32
- その顔を見て、またさゆみは驚いてしまう。
だって、他人の空似なんてレベルじゃない。
その顔は、田中れいなそのものだったから。
- 90 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:32
-
でも、その少女は、驚いているさゆみに向かって。
「誰、あんた」
冷たく、こう言い放った。
- 91 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:32
- 「…れーな、じゃないの?」
「なんでれなの名前知っとるん?」
その言葉を聞いて、少なくともこの少女の名前がれいなということが間違いないとさゆみは確信する。
少し普段のれいなの言い方とは違う気がしなくもないが、普段聞いているれいなの声と全く変わらない声で。
でも、目の前の少女はさゆみのことを知らない。
「…さゆみのこと知らない?」
「知らん」
「じゃあ自己紹介。道重さゆみ。よろしくね」
「別に名前は聞いとらん」
なんだか、顔や声はそっくりでも中身はだいぶ違う、とさゆみは思った。
だって、普段のれいなは口調はきついけどこんな風に完全に突き放した態度はしないから。
- 92 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:33
-
「何してるの?れーな」
「…探し物」
「何を探してるの?」
「あんたには関係ない」
「あんたじゃないよ。さゆみって言ったの」
「あーもううるさい…れなもう行くけん」
「あ…」
そう言うと、れいなは駆け出していってしまった。
慌ててさゆみも追いかけるが、差はどんどん開いていくばかり。
れいなは決して足が速いほうじゃなかったのに。そう思いながらさゆみも走って。
そして、路地裏を抜けた瞬間。
「…あれ?」
れいなの姿は、どこにもなくなっていた。
けっこう開けた道で、人通りもそこまで多いわけでもないのに。
それでも、れいなの姿はどこにも見当たらなかった。
- 93 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:33
-
- 94 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/04(日) 21:33
-
- 95 名前:あすか 投稿日:2006/06/04(日) 21:34
- つづく。
- 96 名前:あすか 投稿日:2006/06/04(日) 21:36
- >>83名無飼育さん
続きを期待して下さってありがとうございます。
ご期待に添えるかどうかはわかりませんが頑張ります。
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/08(木) 22:32
- たまらない こういうさゆえりが個人的にたまらなく好きです
楽しみに待ってます
- 98 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 22:57
-
__________
- 99 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 22:58
- 次の日、やっぱりさゆみは気になってしまって、朝かられいなを問い詰めた。
「れーなって、双子の姉妹とかいる?」
「いや、おらんけど」
「…一昨日も昨日も、本当に『エコモニ。』には行ってないんだよね?」
「しつこいなぁ…どーしたと?」
れいなが聞いてくるけど、さゆみはどう答えたものかと困ってしまう。
だって、名前も顔も同じ人物を見た…なんて、また呆れられそうだから。
「…なんでもないの」
「変なさゆ」
「失礼なの。さゆは今日も可愛いから」
「いや関係ないし」
そんな会話をしていると、昨日と同じように絵里が教室に突撃してきた。
しかも、昨日よりさらに酷い状態で、目は半分寝てるし寝癖もついたままだったりする。
…シニガミが寝癖つけて登校ってどうなの、なんて思いながら、さゆみは絵里に声をかける。
- 100 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 22:58
-
「絵里、おはよ」
「おはよー、さゆ」
「眠そうだね」
「いろいろやってたからね」
「いろいろ?」
「さゆと初めて会ったときみたいなこと」
その言葉に、さゆみの体が固まる。
だって、さゆみと初めて会ったときの絵里がしていたことって…
「絵里、それって…」
「ナイショ。さて先生来るぞー」
わざとらしくごまかす絵里。
でもさゆみは納得いかなくて。
休み時間に教室から半ばムリヤリ絵里を連行した。
- 101 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 22:59
-
「…なに、さゆ」
「絵里が朝何してたかごまかすからだよ」
「だって、さゆは死ぬとかそう言う話聞きたくないでしょ」
「それはそうだけど、でも…」
絵里がそういうことを始めたのってこの間れいなそっくりな子に会ってからで。
ということは確実にあの子が関わっているからであって。
だから、さゆみの中ではずっとひっかかっていたのだ。
言いよどみながら、それでも引く気のないさゆみ。
そんなさゆみを見て、絵里がため息混じりで言葉を発した。
「…わーかったよ。さゆも見当付いてるっぽいし」
「絵里…」
「あの、れな?って言ってた子…あの子、ニンゲンじゃない」
「はい?」
「なんであんなカッコなのかはわかんないけどね…
たぶん、れーなちゃんに関係ある強い想いだよ」
突拍子もない展開にさゆみはついて行けない。
だって、確かにれいなにあそこまでそっくりっていうのはおかしいと思っていたけれど。
ニンゲンじゃない?強い想い?
- 102 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 23:00
-
「…さゆみ、霊感はなかったはずなんだけど」
「あー、たぶん絵里のせい」
「え?」
「シニガミ…って呼ばれる存在に深く関わっちゃうとね、感受性の強い年齢だとそういうものが見えるようになっちゃうんだ」
そういうのは始めから言ってくれ、とさゆみは思う。
たしかに人に見えない存在が見えるっていうのは漫画とかでもよくあって憧れてはいたけど。
なんの前置きもなしに持ちたくない能力だ、とさゆみは身をもって実感した。
漫画で見たそういう人が悩む理由もわかるなぁ、と感じながら。
「あー、怒んないでねさゆ。ある程度年齢がいったらたぶん見えなくなる…はずだから…」
「なんで自信なさそうなの」
「たまに一生ものの人がいるから」
「そこはきっぱり言わないでほしいの。まあさゆみはちょっと憧れてたからいいけど」
申し訳なさそうな様子の絵里を見て、さゆみもわざとらしくため息をつきながら答える。
- 103 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 23:00
-
「で、強い想いってなんなの?」
「わかんないけど…たぶんあの子の探し物とれーなちゃんが関係してると思う。それと…」
「それと?」
「このままじゃあの子、想いだけが残って離れられなくなる」
「え…?それってどうなるの?」
「ニンゲンがいうところの、地縛霊になっちゃうよ」
ジバクレイ。
それって、心霊特集とかで良く出てくるやな感じの言葉だよね。
あの子が、それになっちゃうの?
「どうしたら、あの子は…」
「探し物を見つける…今のところはそれしかないと思う」
「探し物…」
「それか、れーなちゃんに会ってもらうかだけど…それも難しいよね」
「そうだね。れーなはこういうの信じなさそうだし」
あなたにそっくりな子がいます。
その子はあなたに関係がある何かのために成仏できない魂です。
成仏させるために会ってやって下さい。
こんなセリフじゃあ、れいなはYESとは言わないだろうな…とさゆみは思う。
- 104 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 23:01
-
「だから、絵里も探し物ずっと手伝おうとしてるんだけど
…何を探してるのか教えてくれないんだよね」
「え?」
「ずーっと毎晩話しかけても『れなの思い出やけん、れなが探す』って言うばっかで」
「それじゃ、どうやって…」
「んー…根気?運?」
「…そんなんじゃあのれーな以上にどうにもならないの」
はぁ、と大きなため息。
そのままチャイムが鳴ってしまって、結局いい案も浮かばなくて。
さゆみはますます、あの子のことが気になってしまった。
- 105 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 23:01
-
- 106 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/15(木) 23:02
-
- 107 名前:あすか 投稿日:2006/06/15(木) 23:02
- つづく。
- 108 名前:あすか 投稿日:2006/06/15(木) 23:04
- >>97名無飼育さん
このさゆえりを気に入って下さってありがとうございます。
個人的にはあくまで親友関係に素敵なものを感じております。
GAMがありならさゅぇり本格デビューも考えてくれと祈るばかりです。
- 109 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:07
-
__________
- 110 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:07
- ここ数日の日課になりつつある『エコモニ。』の路地裏。
今日も雨が降っているというのに、『れいな』はそこで傘もささずに探し物をしていた。
じーっとさゆみが見ていても、必死で探しているのか気付く様子はない。
それでもずっと見ていると、『れいな』が何かを言っているのが雨音に混ざって聞こえてきた。
「…どう…よう……れな………との思い出……」
(誰かとの、思い出?)
『れいな』の言葉が気になったさゆみは、さらに注意して聴いてみる。
すると、『れいな』の声はなんだか泣いているように聞こえて。
「見つからん…あれがないと、れな…」
小さな背中が、普段学校で会っているれいなとは違ってとても脆く見えて。
思わず、さゆみは傘を差し出していた。
「…なん、あんた…」
「風邪ひくよ?れーな」
「うるさい。邪魔」
「何を探してるの?一緒に探したらたぶん早いよ」
「あんたには関係ないっていっちょろーが!」
「関係あるよ。田中れいなはさゆみのお友達だから」
れいなの名前を出すと、『れいな』の体がぴくっと動いた。
- 111 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:08
-
「な、あんた…」
「私はあなたが私の知ってるれーなだと最初は思ったんだけど、
やっぱりれーなに関係ある子なの?」
そう聞くと、今度は小さくうなずいた。
「じゃあ、さゆみはあなたに全く関係ないわけじゃないよ。ね、手伝わせて」
「何を探すかわかっとー?」
「わかんないよ」
「じゃあどうやって」
「それっぽいもの見つけたら教えるから、それが探し物だったら言って?」
「…勝手にし…」
そう言って、二人、雨の中いろんな所を探し続ける。
さゆみは最初は傘をさしていたけど、なんだか邪魔に思えて傘を置いて。
『れいな』も最初から傘がないからびしょぬれで。
他の人が見たら、ものすごくおかしな光景。
- 112 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:08
- 「これはー?うさぎのキーホルダー!かわいいー!」
「違う」
「あー、綺麗なネックレス!これはどう?」
「それでもない」
「あ、眼鏡あったよ眼鏡。れーな眼鏡ないから探せなかったとか?」
「違うっちゃ!」
「…あ、ほ○っこ。れーなこれ探してた?」
「んなわけあるかあああぁぁぁぁ!!」
こんなちょっとおかしな会話をしながら、雨の中二人で探し物。
雨はどんどん強くなってきて、まるで台風かと思うくらいで、さゆみはちょっと辛かったけど。
それでも、『れいな』の必死な顔をみると、やめるわけにはいかなかった。
- 113 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:08
-
__________
- 114 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:09
- れいながバイトする喫茶店。
普段は平日とはいえそこそこ人が入るこの店も、外の大雨でガラガラで。
大学生だというバイト先の先輩とひまだねーなんて話していたとき。
オレンジの傘をさしたセーラー服の少女が、店に入ってきた。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ…って、絵里?」
喫茶店に入ってきたのは絵里。
でもその格好は普段の制服ではなく、見たことのないセーラー服。
れいなは知らないが、さゆみと絵里が初めて会ったときの格好だった。
「絵里、どーしたと?その格好…」
「れーなちゃん、行こう」
「は?行くってどこに…」
「『エコモニ。』そばの路地裏に」
「ちょ、ちょっと、れいな今バイト中…」
いきなりの展開について行けないれいな。
そんなれいなに、先輩が助けを出す。
- 115 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:09
-
「いいよれいな、行ってきな?こんなに暇だったら美貴だけでも大丈夫だから」
「で、でも藤本さん…」
「いいからいいから…その子、待たせてるんでしょ?」
「待たせてるって、絵里が勝手に来て…」
なおも困惑しているれいなに向かって、絵里が口を開く。
「行こ、れーなちゃん…『れなちゃん』が、待ってる」
「え…れな、って…」
その言葉に反応を返したれいなと、そんなれいなを見ながら微笑む絵里。
そしてその様子を見ていた美貴という店員が、れいなの背中をやさしく押して。
「何かあるんなら行ってこい!店長には美貴が言っておくから」
「…ありがとう、ございます」
「じゃあ、急いでれいなちゃん」
そう言った絵里に手を引かれ、れいなは駆けだしていった。
美貴はその様子を優しい顔で見守ると、店長にれいなの早退を伝えるため厨房に向かっていった。
- 116 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:09
-
__________
- 117 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:10
- 雨は依然と強いままで、さゆみも『れいな』もびしょぬれで。
それでも、二人とも探し物を諦めようとはしなかった。
「なんで…なんで無いと…」
「本当に、ここなの?」
「絶対ここ…だって、ここを通り抜ける前はちゃんとあって、ここを抜けてすぐ気付いたら無くなってた!」
「じゃあ頑張ろうよ!大事なんだよね?」
「当たり前っちゃ!あれがないと、れな、見つけてもらえない!」
「え…?」
見つける、って何なんだろう?
そう、さゆみがふと思った瞬間、手に何かが当たる感覚。
指先の方を見てみると、ぼろぼろの紫のリボンがついた小さな鈴が落ちていた。
「…れーな、もしかして、これ?」
「…え…ああっ!それ!」
さゆみの方に走ってきて、さゆみの手から鈴を奪い取る『れいな』
その態度にさゆみは少しむっとしたけれど、
鈴を見つめる『れいな』の安心した顔を見ると何も言えなくなる。
- 118 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:10
- 「よかった…見つかった…」
「れーな、それ、何?」
「これは、れなとご主人様との思い出…それに、れながれなってわかってもらうためのもの」
「ご主人様…?」
さゆみの脳裏に秋葉原あたりのああいうカフェが浮かんだが、とりあえずその想像を打ち消して。
「ねえれーな、そのご主人様って…」
「れなっ!!」
『れいな』にさゆみが話しかけようとしたとき、後ろから大きな声。
さゆみと『れいな』が振り向くと、そこにはオレンジの傘をさした絵里と、田中れいなが立っていた。
- 119 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:11
- 「あれ…れーな…」
「ご主人様ぁっ!!」
さゆみが二人のれいなに戸惑っている間に、れいなに抱きつく『れいな』
抱きつかれたれいなも、少しパニックになりかけている。
「え、何?れいなが二人??」
「ご主人様…れな…れな、もう見つけてもらえないかもって…」
「れーなちゃん、この子が、れなちゃん」
「え…れな!?だって、れいなが知ってるれなは…」
「ご主人様、れな、ずっと探してて、やっと見つけた…」
そう言って、『れいな』がれいなに見せた手のひらには、さっきのリボンと鈴。
それを見て、れいなの表情が変わった。
- 120 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:11
- 「これ、れいながあげた…本当に、れな?」
「うん。れな、ご主人様に会いたくて、でも鈴をなくしちゃって、会いに行けなくて…」
「れなちゃん、もうほとんどイノチが残ってないのに、ずっと雨の中探してたんだよ」
やさしい笑顔で絵里がれいなに話しかける。
そして、絵里の言葉にれいなははっとした顔をして。
「イノチが、残ってない?」
「もともと、カラダが弱かったのかな…でも、本当はもう消えてるはずなのに
れいなちゃんへの想いだけで生き続けてる」
「え、それって…」
「れなちゃんにとって、れいなちゃんはそれだけ大事だったんだよ」
絵里がそう言うと、れいなの目から涙が溢れて。
「何で…何でそこまで無理して探すと!?れいなは、公園でお前を見つけただけっちゃろ!?」
「でも、れなのこと気にして、いっつも来てくれたのはご主人様だけ」
「れいな、れなに何にもしてあげとらんよ…」
「鈴をくれた。れなって名前もくれた…それだけで十分たい」
「でも、でもれいな…」
「誰が何と言おうと、ご主人様は、れなの大事なご主人様っちゃ」
泣き続けるれいなと、そのれいなの頭を抱えてなでている『れいな』
その姿を見ていた絵里が、ゆっくりと二人に近づいていく。
- 121 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:11
-
「…れなちゃん、満足?」
「うん!最後にご主人様に会えるなんて思ってなかったから」
「そっか…じゃあ、もう行こうか」
「…行く?」
「うん…れな、そろそろ行かないとダメなんやって」
そう言った『れいな』の顔は少し寂しげだけど、確かに笑っていて。
「ご主人様がいてくれて、れな寂しくなかった。短い間だけど、すごく嬉しかった」
「れな…」
『れいな』の息が少しづつ苦しそうになって、黒い髪の間から黒い耳が生えてきて。
「れなは行っちゃうけど、ご主人様のことは、きっと忘れない」
黒いしっぽも伸びてきて、目がすっと細くなって。
「じゃあ…お願いするっちゃ、シニガミさん」
「うん…れーなちゃんも、れなちゃんのこと忘れないでね」
そう言って絵里が手を上にかざすと、オレンジの傘が銀の鎌になって。
そのまま、踊るように鎌を振り下ろす。
一瞬、大きな水しぶきが上がって…
- 122 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:12
-
次の瞬間、れいなの腕の中には、息絶えた小さな黒猫がいた。
- 123 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:12
- 「…これが、れな?」
「そうっちゃ…れいなが公園で見つけて、れなって名前つけて…」
「…れなは、れーなのこと、すっごく好きだったんだね」
「ごめんれな…こんなに大事にしててくれたって、気付かなくて、ごめん…」
ずっと見ていることしかできなかったさゆみは、泣き続けるれいなをやさしく抱きしめた。
そして、そんな二人を、絵里が抱きしめて…3人で泣いた。
- 124 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:12
-
__________
- 125 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:13
- 思いっきり3人で泣いた後、雨の冷たさに気付いて『エコモニ。』に飛び込んで。
石川さんはびしょぬれで飛び込んできた3人に驚きながらも、
何も聞かずにタオルと暖かいカフェオレを出してくれて。
れいなが抱えていたれなをのことも、
「晴れたらお墓を作ってあげようね」とタオルを敷いたバスケットに寝かせてくれた。
「…れな、ちゃんと行けるかな?」
「絵里のこと信用してないの?さゆ…」
「んー、でもイノチが無くなってるって言ったでしょ?間に合ったのかなって…」
「だーいじょーぶ。純粋な想いは少しならイノチの代わりになるんだから」
「…ふっつーに会話しとるし、さっきはそんな余裕なかったけど…絵里、さっきの何?」
さっきから黙っていたれいなが口を開いて。
その言葉に絵里とさゆみは顔を見合わせる。
- 126 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:13
- 「あー…そういえばれーなには言ってなかったの」
「絵里ねぇ…人間がいうところのシニガミなんだ」
「ふーん…シニガミ…って、えええええ!?」
「ちょっとれーな、声がおっきいの」
「な、ちょっと、普通は驚くっちゃろ!?」
「さゆは驚かなかったよね」
「ねー」
「さゆを基準に考えるなぁぁぁぁ!!」
その後、3人そろって石川さんに「うるさい」って怒られて。
一番怒られたれいなはなんだかぶつぶつ言ってたけど。
それがなんだかおかしくって、今度は3人で笑った。
- 127 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:13
- それから、れなを預かってくれるという石川さんの好意に甘えてバスケットを置いて。
紫のリボンと鈴も、ちゃんと首に付けてあげて。
3人でれなに声をかけてから『エコモニ。』を出る。
きっともうすぐ、晴れる日が来るから。
その時はちゃんとまた、れなにお別れをするから。
そう言ったとき、眠っているようなれなの顔が、笑ったような気がした。
- 128 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:13
-
- 129 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:13
-
- 130 名前:雨降り路地裏、ひねくれこねこ。 投稿日:2006/06/20(火) 22:13
- おわり。
- 131 名前:次回予告。 投稿日:2006/06/20(火) 22:21
-
君がくれたのは、コーヒーの味と、綺麗な目のお人形と…寂しい気持ち。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「よくブラックコーヒーなんて飲めますね」
「ふっふーん、これがオトナの味ってものなのよぉ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「無理しちゃって…ミルクたっぷりじゃなきゃ飲めなかったのに」
「…誰ですか?」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「あたしも、連れてかれるの?」
「そんなことないよ…だってあなた、死んでないでしょ?」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ひーちゃんは売り物じゃないし、いくら積まれても売れないよ」
「すっごく大切なんですね、その人形」
「うん…大事な人からの、プレゼントなんだ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ごめん、ずいぶん待たせちゃったね」
「ばかばかばかばかぁ!!寂しかったんだよ!!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次回。
『君とコーヒーとアンティークドール』
- 132 名前:あすか 投稿日:2006/06/20(火) 22:26
- きりのいいところでage更新。
現在までの目次。
夢見る少女と変なシニガミ。
>>2-10
>>15-27
>>32-41
>>45-62
雨降り路地裏、ひねくれこねこ。
>>73-78
>>84-92
>>98-104
>>109-127
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/22(木) 22:37
- さゆえりが微妙にクールに描かれてるのが返ってリアルに思えるんですよね
続いてのお話も楽しみに待ってます
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/30(金) 22:08
- 雰囲気がやわらかくて好きです。
次回も楽しみに待ってます
- 135 名前:あすか 投稿日:2006/06/30(金) 23:21
- 続きも書かずに(自分の)息抜きれなえり短編を。
- 136 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:22
-
『コアクマネムリヒメ。』
- 137 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:22
- 地方でのコンサート終演後、今日は絵里と二人部屋。
さゆにちょっとだけ「いいなー絵里と一緒でー」とか言われたけど、
そのさゆもみきねぇと一緒の部屋に決まったとたんに「さゆみ幸せすぎる」とか言っていた。
…まあ現金なさゆの話は置いといて。
とにかく今は絵里と二人っきりになるわけで。
いやでもれいなの緊張は高まっとるんやけど。
…いいムードも何も出ないような散らかりっぷりの部屋。
まあ絵里と同室って時点で覚悟しとった。
…さすがに下着とかは転がっとらんよな。ちょっと残念…って思ってない!絶対思ってなか!!
そしてれいなよりも先に部屋に入って散らかしまくった張本人は思いっきり寝とるし…
二人っきりで緊張してるのをごまかすために、ぽんちゃん達の部屋にずっと遊びに行ってたれいなも悪いんやけど…
- 138 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:23
- 「絵里、えーり、起きんしゃい」
「ん…」
ちょっと肩をゆすってみると、『うるさい』とばかりに手をはねのけられた。
何ね、この態度…
と言うか絵里の今の状態。
布団も何もかぶらずベッドの上に寝てるわけで。
しかも絵里が着てるのは、最近ピンクに目覚めた絵里のお気に入りらしい
半袖と膝丈ズボンのピンクのパジャマ。
いくらあったかくなってきたからって体に悪いっちゃ…
「絵里、せめてちゃんと布団に入り…風邪ひくっちゃよ」
「…ふぅ…ん…」
…なに色っぽい声を出してますか亀井さん。
まったくもって心臓に悪か…
しかも口がうっすら開いてたり、目を閉じてるせいか普段よりぐっと大人っぽく見えたり…
…やば、変な気分になってきそう。
ここで本能に負けて襲うといかんので、せめて毛布か何かかけて
そのままれいなも絵里を見ないようにして寝てしまおう…
そう思って、動いたときやった。
- 139 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:23
- 「…んぅ…」
今まで丸まってた絵里が寝返りをうった。
うん、そこまではいい。
寝返りをうったせいでちょっとパジャマがはだけて。
絵里のおへそあたりが見えて。
しかも寝ぼけながら着替えたのか知らんが上の方のボタンが一つ取れてて。
そこから胸元も覗いてて。
はっきり言って、これはやばい。
「え、絵里…」
「んー…」
絵里はまだ思いっきり夢の中。
はっきり言って無意識って一番タチが悪い。
「…襲うぞコノヤロウ」
そんなことをつぶやいてももちろん起きるわけもなくて。
れいなは今度はそっと絵里に近づいてみた。
最近少し長くなった髪がさらりと頬に落ちて、黙ってれば綺麗だなぁ…なんて思っていたとき。
- 140 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:24
-
絵里が、ぺろりと自分の唇を舐めた。
- 141 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:24
- これが絵里のクセだっていうのは知ってるけど、けど…
ごめん、れいなもう限界。
絵里の顔の横に手をついて。
ゆっくりと絵里に覆い被さるようにして。
絵里の唇に、触れた。
重ね合わせるだけのキスをして。
最後にちょっとだけ絵里の唇を舐めて。
…やっぱ、寝てる絵里をどうこう…ってのはできんと。
さすがにそれは、ちょっとヒキョーやん。
そう思って、れいなも寝ようとしたときやった。
- 142 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:24
-
「…へたれーな」
- 143 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:25
- 「なっ、絵里!お、起きてたと!?てか何ねへたれいなって!」
「うん…れいなへたれじゃん」
ちょっとふくれたような顔の絵里が、れいなをじっと見とった。
「い、いつから…」
「れーなが帰ってきたときから。ちょっとからかおうと思って寝たふりしてた」
…全部寝たふりですかアナタ。
「じゃあ…」
「襲ってもよかったのに、ばか。へたれーな」
「そ、そんなん、ホントに寝とったら怒るやろ絵里」
「絵里はぁ、れーなだったら怒んないよ、ばか」
それからもばかばか言い続けてくる絵里。
ものすごい言われようやん…
- 144 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:25
- 「…てか、起きとったんなら部屋片付けんしゃい」
「いいの片づけはあとでやるのぉ…って話そらすなばかー」
「…れいなに何してほしかと絵里は」
ちょっとため息混じりで言うれいな。
だだっ子モードになった絵里は止まらん。
「…もーちょっとれーなの方から何かしてよ」
「は?」
「襲っても何されてもいいの絵里は。れーな何もしてくれない」
「え、ちょっと…」
「今も嬉しかったのにキスしかしてくれない」
「…」
まあ、確かにれいなからってのは絵里が起きてるときとかはあんまなかったけど。
「へたれーな。こんじょーなし。ばかー」
「…あんまり言っとーと、後悔しよるよ?」
「へ?…んっ…」
れいなも、絵里にいろいろシタイとは思っとるんよ?
- 145 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:26
- 絵里に覆い被さるように、さっきより深いキスをして。
唇が離れる頃には、すっかり絵里の表情がぽーっとしてて。
「…そんなこと言ってると、ホントに襲うぞ」
「ふぇ?」
「いいっちゃろ?絵里は…」
「…明日もコンサートだから、やさしくしてね?」
「わかっとー」
それからは、秘密。
とりあえず言えるのは、絵里がばり可愛かったってこと。
- 146 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:26
-
たまには、れいなから行動した方が、いいかもしれんね。
- 147 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:27
-
- 148 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:27
-
- 149 名前:コアクマネムリヒメ。 投稿日:2006/06/30(金) 23:27
- おわり。
- 150 名前:あすか 投稿日:2006/06/30(金) 23:28
- 実はれなえり大好きです。
実はよく書くのはこんなノリです。
へたれいなちゃいこー。
- 151 名前:あすか 投稿日:2006/06/30(金) 23:31
- レス返し。
>>133名無飼育さん
クール…ですか。自分ではそんな自覚なかったです。
さゆえりっぽい、と思って頂けると嬉しいです。
>>134名無飼育さん
当初書きたかったのは雰囲気『だけ』の話です(え?)
やわらかい、と思って頂けると幸いです。
- 152 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:52
-
君がくれたのは、コーヒーの味と、綺麗な目のお人形と…寂しい気持ち。
- 153 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:53
- 『エコモニ。』の裏にひっそりと作られた、れなのお墓。
そこに少しのキャットフードを添えてお祈り。
これが、週に1度のさゆみ達の決まりみたいになっていた。
今日もれいなと、絵里と、さゆみの3人でれなのお墓参りをして。
『エコモニ。』の中に入ると、石川さんがコーヒーをいれていた。
「あー、石川さんさぼっろうとしてますね!」
「あらいらっしゃい…ってさぼりじゃないわよ!休憩よ休憩!」
「お店の中のテラスにお菓子までばっちり準備して休憩ですかぁ?」
「…わかったわよ、あなたたちの分も用意してあげるから」
「やったぁー!石川さんやっさしい!」
「みんなカフェオレにしちゃっていいのよねー?」
「いいでーす!」
そんなこんなで、石川さんにさゆみたちの分までコーヒーを用意させる。
さゆみは、石川さんがたまに作ってくれるカフェオレが好きだった。
だから、こういう石川さんの『休憩時間』を捕まえられると本気で嬉しくなる。
- 154 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:53
- 「うーん、やっぱり石川さんのカフェオレはそこらの喫茶店のよりおいしいの」
「…さゆ、れいなのバイト先知ってて喧嘩売っとる?」
「知ってるよ。紅茶はれーなのお店のが好きだけど、カフェオレは石川さんなの」
「さゆ…だからってれいながいる前で言い切らんでも…」
「れーなちゃん、落ち着いて…」
こんな、他愛もないやりとり。
それを、石川さんはコーヒーを飲みながら、優しい笑顔で聞いていた。
これは、最近よくある光景で、さゆみはこの時間がとても好きだった。
「でもさゆみもうちょっと甘いのが好きなの…シュガーポット取って」
「げ…さゆ、これ丁度いいじゃん…」
「甘党にもほどがあるっちゃ…」
「さゆー、あんまり砂糖入れると太っちゃうぞ」
「むー…すっごく細い石川さんに言われると注意しなきゃって思っちゃいます…」
そう言って、いったんは手を伸ばしたシュガーポットを戻すさゆみ。
その様子を見て、石川さんはまた笑っていた。
- 155 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:54
- 「…そういえば石川さんは、お砂糖入れてないですよね?」
「あー…そうねぇ…もうけっこう前からブラックばっかり飲んでるから」
「よくブラックコーヒーなんて飲めますよね…さゆみ絶対無理」
「ふっふーん、これがオトナの味ってものなのよぉ」
「…石川さん、キショイです」
「なんですってぇ!?」
胸を張って言う石川さんと、小さく返すさゆみのツッコミ。
それに石川さんが怒ったフリして、また笑い会う。
そんな時間が、とても楽しかった。
- 156 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:54
- 楽しい休憩時間を終えて、石川さんが仕事を始めようとしたので帰ることにする。
ドアを開けて外に出ると、見慣れない人影が立っていた。
白い肌に大きな瞳、短い黒髪の中性的な人。
窓際に立って、お店の中をじっと見ている。
「…お客さんかな?」
「うちらがお茶してたから入りにくかったのかなぁ?」
「悪いコトしちゃったかもしれんね…」
そう言いながらその人の横を通ろうとして。
ふと、聞こえたその人のつぶやき。
「無理しちゃって…ミルクたっぷりじゃなきゃ飲めなかったのに」
それは、明らかにお店の中の石川さんを見て放たれた言葉で。
そうなると、休憩の様子をずっと見ていたということで。
…もしかして、ストーカー?
そんな思いが、3人に浮かぶ。
- 157 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:54
- 「…誰ですか?このお店に用がある人ですか?」
石川さんに何かあってはいけない、とばかりにれいながその人に向かって話しかけた。
さゆみも絵里も、その人のことを後ろで見つめている。
「あ、何で、あたしのこと…面倒なことにならないうちに行こうかな」
「面倒な事って…あんた!」
「勘違いされてそうだから言っとくけど、あたしはストーカーとかじゃないから。
梨華ちゃんとはちゃんとした知り合いだよ」
「じゃあ、堂々と入ればいいじゃないですか!」
「…それができればね…じゃ、行くから」
「いや、ちょっと!!」
少しだけ暗い顔をして、またへらっと笑って歩き出す。
れいなはなんだかまだ納得いってないような顔で。
その人が見えなくなってからも、まだ怒りが収まらないようだった。
- 158 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:54
- 「何ね、あいつ…わけわからん」
「どっかで見たような気がするの…」
「さゆ?」
さゆみは、れいなとは違ってなにかひっかるものを感じていた。
石川さんとか関係なく、さっきの人物はどこかで見たような気がして。
でもどこで見たのか、それが思い出せなかった。
「………」
そして絵里は。
何も言わず、たださっきの人物が行った方を見つめていた。
その目は、普段笑っている目ではなくて…たまに見せる、真剣な目だった。
- 159 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:55
-
- 160 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:55
-
- 161 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/09(日) 22:55
- つづく。
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/10(月) 18:37
- このシリーズ大好きなので新しいお話もこれからがすごく楽しみです
ほのかにティタイムの香りが漂ってきそうな雰囲気で続きはどうなるのでしょう
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/19(水) 23:59
- 六期メインを探してて見つけました♪
やんわりとした雰囲気、時折クール、いい感じです。
愛読スレに加わりましたので、続きを期待してます♪
・・・なんとなく、「グリーングリーン」を思い出しました。
- 164 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:09
-
__________
- 165 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:10
- 次の日、さゆみはちょっと不機嫌だった。
せっかくのお休みで、一日中寝てやろうと決めていたのに。
お母さんからいきなり
「近所の小学校で廃品回収があるから手伝って」
との声。
他の家族は出かけていて、さゆみしかいなかったのが災いして手伝い要員。
すぐに終わるだろうというさゆみの思惑とは裏腹に、用意された新聞や雑誌は膨大だった。
「もー、どうしてこんなにためてるの!?」
「けっこうしょっちゅう廃品回収来てたから、ごみとして捨てるのはもったいないじゃない」
「だからってこんなに一気にやらなくても…さいあくー!」
文句を言いながらもちゃんと手伝うさゆみ。
そのさゆみの手が、あるスポーツ新聞を取った時、止まった。
お父さんがたまに買ってくるスポーツ新聞の、一面に躍っていた文字は。
- 166 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:10
-
『女子サッカー日本代表・吉澤ひとみ 交通事故で重体』
- 167 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:10
- この文字と、昨日『エコモニ。』の前で会った人の写真だった。
「この人って…」
こんな所に載っていた人。
だから見覚えがあったのか、と思うのと同時に。
確か退院したというニュースは見ていなかった気がして。
もしかして、またやってしまったのかという思いがよぎる。
新聞の日付を見るとおよそ3ヶ月前。
明日、れいなにこのニュースを知っているか聞いてみよう。そうさゆみは決意した。
- 168 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:11
-
__________
- 169 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:11
- 「ただいまぁ」
『エコモニ。』を閉店後、1人暮らしのアパートに戻って。
石川梨華は、誰もいない室内に声をかける。
鍵も自分で開けて、電気もついていないから、声が返ってくるわけはないとわかっていても。
もう、それが習慣になってしまったから。
部屋着に着替えて、店でいれているのと同じようにコーヒーをいれて。
一口飲んでから、部屋の隅に置いてある新聞を読み返す。
『女子サッカー日本代表・吉澤ひとみ 交通事故で重体』
このニュースを見た時は、気が遠くなりそうだった。
3ヶ月前まで、ときどき梨華が声をかけると返ってきた声。
たまに鍵をかけたり、電気を消したりして驚かせてくれた声。
その声の持ち主が、いなくなるかもしれない。
- 170 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:12
- 梨華とひとみは、幼なじみだった。
昔から可愛い物が好きな女の子っぽい梨華と、どちらかというとさっぱりして男らしいひとみ。
そんな2人の接点は、実家が向かい同士だったことと、サッカーだった。
外見に似合わず負けず嫌いな梨華と外見通りのスポーツ少女ひとみ。
同じ女子サッカー部でレギュラー争いなどをしていくうちに、さらに2人の仲は深まっていった。
『あたしはぜってープロになって活躍してみせるから、梨華ちゃんはかっけー店作ってよ』
『わかってるわよ。よっちゃんこそ挫折すんじゃないわよ』
卒業してからもサッカーを続けたかったひとみは、プロを目指し。
梨華は幼い頃からの夢を叶えるため、経営学を学びに進学して。
ひとみがプロのサッカー選手に、梨華が小さな雑貨屋の経営者になってからも、2人の交流は続いて。
お互い、どこかで繋がっているのが当たり前だと思っていたから。
失うなんて、考えられなかった。
- 171 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:12
- どこの病院にいるのか問い合わせたが、友人と言うだけでは教えてもらえなかった。
せめて容態や、退院の日を聞きたかったのだが、それも断られた。
当たり前かも知れないが、梨華は少し悲しかった。
自分はひとみとの深い絆を証明する術も持っていないのだと。
そして、それから3ヶ月、この部屋に声の持ち主が戻ってくることはない。
「ばかよっちゃん…早く戻ってきなさいよ…」
誰もいない部屋で、梨華はまたつぶやく。
「ずっと、ずっと待ってるんだぞ…」
その声は、とても弱々しくて。
それからまた口にしたコーヒーの苦さに、梨華は顔をしかめた。
- 172 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:12
-
- 173 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:12
-
- 174 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:12
- つづく。
- 175 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/07/20(木) 16:17
- レス返し。
>>162名無飼育さん
このシリーズを好きになって下さいましたか…ありがとうございます。
毎回優雅なティタイムというかコーヒーブレイクという雰囲気では無い話ですが、おつきあい下さいませ。
>>163名無飼育さん
やはりどこかクールに見えてしまうのですか。
「グリーングリーン」は読んだことが無いですが…
今回6期以外の人もおおいに関わって参りますが…
愛読して頂けると嬉しいです。
- 176 名前:163 投稿日:2006/07/22(土) 01:52
- クールというかシリアス?
シメるトコロはシメてる、といった感じですかね。w
「グリーングリーン」はこの飼育ではなく、
昔、狩板で「白昼夢」という方が書いたAA小説です。
検索すればどこかで保存しているかも。
六期のみが良い、というワケではありません。
理想は円氏や和泉俊啓氏のような形態が好みですが、
あすかさんは、あすかさん独自の世界観を通して下さい。
ワタシは既に愛読者ですよ。(笑)
- 177 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:42
-
__________
- 178 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:43
- 「れーな!これ知ってる!?」
さゆみは次の日、登校するや否やれいなを捕まえ、見つけた新聞記事を見せていた。
「なん?いきなり…って、これ!!」
「そーなの!この間『エコモニ。』にいた人なの!」
「有名人やったと…あの人…」
れいなは、威勢良く啖呵を切った相手が有名人だったことに驚いている様子で。
そんなれいなを見てさゆみは、れいなも知らなかったんだ…と思ってしまう。
「で、この人有名なら退院した時のニュースもあるかなぁ、と思ったんだけど…」
「…どうだったん?」
「なかったの。ねえれーな、これって…」
「…さゆ、あんまり続き聞きたくない」
さゆみの様子を見て、れいなは次の言葉を何となく察してしまう。
れいなは、こう見えてもビビリで普通の人生を望んでいるのだ。
あまりこういうことに首をつっこみたいと思っているわけではない。
だが、目の前にいるさゆみは。
自分から首をつっこんでいくタイプであって。
れいなが断っても、止まるわけがないのだ。
- 179 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:43
- 「これって、こないだのれなちゃんと同じで…幽霊みたいなもの、見たってことだよね?」
「だーかーら、聞きたくないって言っとるやん!」
「さゆみは話したいの」
「れいなを巻き込むなぁ!」
ぎゃいぎゃいと騒いでみて、ふと教室を見渡す。
…その時れいなは、完全に自分を巻き込んだ元凶がいないことに気付く。
「…あれ、さゆ…絵里は?」
「あれ?そういえば今日は来てないの…れなちゃんの時みたいに寝坊かもしれないの」
「ふーん」
そう言って、またれいなとさゆみは言い争い…とも言えないじゃれあいを繰り広げて。
そんなことをしている間に、担任が来てしまったけれど。
それまでに、絵里が駆け込んでくることはなかった。
- 180 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:43
-
__________
- 181 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:44
- 絵里は、ひとり『エコモニ。』の前に来ていた。
いつもの制服ではなく、セーラー服を着て。
手には銀色の鎌を持って。
ここで佇む人物に会うために。
「こんにちは」
「…こんにちは。やっぱりあんた、普通じゃなかったね」
「お互い様じゃないですか」
そう言って、笑い会う。
佇んでいる人物−吉澤ひとみ−の、目線は絵里の持つ鎌にあるままで。
「なに、あんた…最近流行りのシニガミってやつ?」
「流行り…なんですかねぇ?」
「流行ってんじゃん。映画化とかされてさぁ」
「あーいう話と一緒にしないで下さい」
ひとみがからかうように言うと、絵里が膨れる。
ひとみも、世間一般にいろいろ映像化される物と絵里が違うなというのは何となく感じていたけど。
それでも生来の性格か、からかってしまうのだ。
絵里の雰囲気が、見た目は全く違うけど、
ずっと見つめている彼女に似ているせいもあるかもしれない。
- 182 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:44
- 「で、そのシニガミさんが何の用?」
「んー、あなたにお話がある…ってところですかねぇ」
「なに…あたしも、連れて行かれるの?」
「そんなことしないですよ…だってあなた、死んでないでしょ?」
絵里がそう言って、急に真剣な顔になった。
「…でも、このままだと…戻れなくなりますよ」
「何でそんなことわかるわけ?」
「ヒトには、肉体と魂のつながりがある…肉体が死んでしまった時それを断ち切るのが絵里。
でも、魂がずっと離れていたら…つながりが消えてしまう」
そう言った絵里の目は、泣き出しそうになっていて。
「あなたには大切な人がいる…なのに、何で戻らないんですか?」
「…戻っても、あたしには…」
「…怖いんですか?」
「あたしにとって唯一だった物が、奪われたんだ」
「戻らなかったら、きっと大切な人が悲しみます」
「わかってる。今も悲しませてる…でも、勇気が出ないんだ」
- 183 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:44
- そうして、二人の間に流れる沈黙。
少ししてから、その沈黙を破ったのは絵里の方。
「…わかりました…でも、本当に危ないと思ったら無理矢理にでも絵里が戻します」
「何で?絵里ちゃん…だっけ?の仕事とは反対じゃない?」
「絵里は、ちょっとしか会ってないですけど石川さん好きですから」
これ以上悲しませたくないんです。そう言って絵里は笑った。
そうして、セーラー服のスカートを翻し、絵里は去っていった。
後に残されたひとみは、もう一度店内を見る。
そこには、一生懸命働く梨華の姿。
「…あたしだって悲しませたくない、けど…梨華ちゃんは、あたしが…」
最後の言葉は、消えそうなくらい小さな声だった。
- 184 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:44
-
- 185 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:45
-
- 186 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/03(木) 23:45
- つづく。
- 187 名前:あすか 投稿日:2006/08/03(木) 23:49
- レス返し。
>>163さん
し、シリアス…になりきれてるんでしょうか?
「グリーングリーン」はAA長篇でしたか。
名前は聞いたことあったんですが。
和泉さんはあまり読んだことがないですが、円さんの作品は私も大好きです。
「テクノの娘」とかすごい一気に読んだなぁ…
…すみません脱線しました。
雰囲気だけの話ですが、愛読者になって下さるというお言葉が嬉しいです。ありがとうございます。
- 188 名前:163 投稿日:2006/08/08(火) 00:12
- 雰囲気を醸し出すのが、あすかさんの特色と言えるでしょう。
和泉さんのはこちらから。ttp://mseek.xrea.jp/sea/1055693170.html
個人的には、円さんの「君は僕の宝物」に並びます。
では、無駄にスレ消費しては何なので、ROMに戻ります。頑張ってください♪
- 189 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:32
-
__________
- 190 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:33
- 結局、絵里は学校に来なかった。
さゆみはどうしたんだろうかと思いつつ。
バイトに行くというれいなを置いて。
結局れいなに聞いてもよくわからない、吉澤ひとみという人のことを考えながら。
石川さんに会いに、『エコモニ。』の扉を開けた、時だった…
「あ、さゆー、いらっしゃーい」
「あれー?さゆ来たの?」
思いっきり私服っぽい絵里が、テーブルについてコーヒーを飲んでいた。
石川さんも一緒に。
「…何してんの?絵里」
「んー、サボリ?」
「さゆみに聞かれてもわかんないよ」
「絵里ちゃん、2時間くらい前からずっといるのよ」
手伝ってもらっちゃったりねー、なんてのんきに話してる石川さんと。
石川さんに頭を撫でられて、うへへと笑っている絵里。
そんな様子を見て、さゆみは大きくため息をついた。
そのままさゆみは絵里の隣の椅子に座り、絵里にこっそり話しかける。
- 191 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:33
-
「…何で、学校さぼってまでここに来たの?」
「うへへー、ナイショ」
「…あの人のこと?」
「どうかなー…さゆも、なんかわかったみたいじゃん?」
相変わらずにやにやクネクネしながらはぐらかす絵里。
別にさゆみに嘘つく必要なんてないのに…なんてすねていた、その時だった。
「お邪魔しますよ」
「いらっしゃいませー…あっ」
お店に、人が入ってきた。
ピンクだらけの雑貨屋にはちょっと不似合いな初老の男性。
どちらかというと優しそうに見えるその男性を見て、石川さんの顔色が変わった。
- 192 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:34
-
「…あのぉ…ひーちゃんのことは、お断りしたんですが…」
「いやしかし…あんなに立派なものは…」
「それでも、私は…手放すなんて出来ません。」
「少しの間だけでも…せめて、アンティークドール展に数日間お貸し頂くだけでもいいんです!」
「ひーちゃんを見せ物にすることもできませんから」
横で聞いているさゆみと絵里にはまったくわけがわからない。
しかし、石川さんは『ひーちゃん』と呼んでいる何かを手放せない。
この男性はその『ひーちゃん』が欲しい。
それでこじれてるのかなー。くらいのことを察することは出来る。
「勿体ない…あなたが知らないだけで、しかるべき鑑定に出しさえすれば…」
「お金とか、世間的価値とかじゃないんです!!」
他にも人がいますから、と言って石川さんはその男性を追い出してしまった。
こんなに怒った石川さんを見たことがなかったさゆみは、すこし驚いてしまった。
- 193 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:34
-
「…石川さん、すっごい…」
「え…あ!ごめんねさゆ、絵里ちゃん!こんなとこ見せちゃって」
「いやいいんですけど…何だったんですか?今の人」
「あー…県立美術館の館長さん」
「「…は?」」
これにはさゆみも絵里も間抜けな声を上げてしまう。
だって、店内には失礼だが美術的な価値がある物は見あたらない。
「アンティークドールの展覧会を別館でやるみたいで、あたしの持ってるひーちゃんをね…」
「…さっきから気になってたんですけど、ひーちゃんって何なんです?」
「あー、絵里も知りたいですよー」
「あー、さゆが来るようになってから出してなかったかなぁ?ちょっと待ってて」
そう言って、石川さんは店の奥に引っ込んでしまった。
そして次に持ってきたのは、立派なガラスケースと、その中に入ったお人形。
- 194 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:34
-
「これが、ひーちゃん…可愛いでしょ」
「うわぁ…ピンクのドレス…さゆみもこんなドレス着てみたいー!」
「さゆ、見るとこ間違ってる。でもすごいですねぇ、これ」
「しばらく前まではカウンターの後ろに出してたんだけど、売ってくれって人が多くてね」
石川さんはそう言って困ったように笑った。
「ひーちゃんはあたしのお守りみたいなものだから…売り物じゃないし、いくら積まれても売れないよ」
ガラスケースに触れながら微笑む石川さんの顔は、とても優しくて。
さゆみも絵里も、石川さんが『ひーちゃん』を大切に思っていることがよくわかって。
「すっごく大切なんですね、そのお人形」
「うん…大事な人からの、プレゼントなんだ」
「へぇ〜…もしかして、彼氏ですか?」
何となく聞いたさゆみの言葉に、今度は少し寂しそうな顔になる。
- 195 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:35
-
「彼氏、とは違うかなぁ…言葉じゃ上手く言えないけど、大事な人」
「大事な、人…」
「で、唐突な人。あたしが半分冗談でずーっと欲しいって言ってたのに
『ばーちゃんの形見だから』って言ってかたくなに断っててさぁ。
それなのに高校の卒業式の日いきなりくれるんだもん…何考えてんだか」
「そ、そんな大事な物もらっちゃったんですか…」
「そうなのよ。あたしも本当にいいのか聞いたんだけど…『いいんだ』の一点張りで」
「すっごい人ですね、ホント」
絵里と二人で、石川さんの話に出てくる人に感心してしまう。
「『これをウチだとおもって、お互い夢の実現に向かって頑張ろう』ってさー…
頑張るしかないじゃん?だからお守りなわけ。
あたしはそのときしてたちっちゃなハートのネックレスしかあげれなかったけど…」
「でもお守り交換ですよね?ロマンチック〜!」
「でしょ?だからぁ、相手の名前を取って『ひーちゃん』って呼んでるんだ、あたし」
「『ひ』がつく人なんですかぁ」
そこまで言って、さゆみははっと思い出す。
確か、『エコモニ。』の中を覗いていた人の名前は…
- 196 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:35
-
「ねえ石川さん、その人の名前って…」
「あーっと!!絵里たち用事があるんだったぁ!!しっつれいしましたぁ!!」
吉澤さんのことを聞いてみよう、そう思って話し出そうとしたさゆみを。
大声を上げた絵里に制される。
しかも腕までがっちり握られてしまっている。
「え?ごめんねーつきあわせちゃって」
「いえいえー、じゃあさゆいこっかー」
「ちょ、ちょっと待って絵里」
「ごちそうさまでしたー!!」
そして、さゆみは絵里に引っ張られて『エコモニ。』を後にしなければならなくなった。
- 197 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:35
- 「…何で止めたの、絵里」
「あのねぇさゆ、石川さんの古傷えぐってどうすんの」
「別にさゆみは…」
「石川さんは表に出さないけど傷ついてる。絵里にはなんかわかる」
「なんで?」
「第六感!!」
わけのわからない絵里の理屈。
それにまたため息をつくさゆみ。
でも、次の瞬間の絵里は、とても真剣になって。
「でも、あの人形贈ったのは吉澤ひとみさんで間違いないよ…想いが強く残ってる」
「想い…」
「だから、あれがあれば…石川さんも吉澤さんも、幸せになれるかもしれない」
「どうやって?」
自信たっぷりに言う絵里と、わけがわからないさゆみ。
そして次の絵里の言葉にさらにさゆみの目は点になる。
- 198 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:36
- 「てなわけで、さゆ、吉澤さんの説得もしくは捕獲よろしく」
「え?ちょっとどうしてそうなるの!?」
「絵里の説得聞かなかったしあの人。最悪無理矢理引っ張ってくれたらいいから」
「無理!さゆみ絶対無理だから!」
「あと石川さんにひーちゃん自宅に置いておくように頼んどいてね。絵里準備があるから」
「だから、無理だってぇ!!っていうか、何の関係があるの!?」
だいじょーぶだいじょーぶなんて言って絵里は去っていき。
残されたさゆみは、どうしていいかわからず立ちつくすのだった…
- 199 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:36
-
__________
- 200 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:36
-
- 201 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:36
-
- 202 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/17(木) 22:37
- つづく。
- 203 名前:あすか 投稿日:2006/08/17(木) 22:39
- レス返し。
>>163さん
雰囲気が出ている、と思って頂けでも嬉しいです。
そしてそんな名作と並べちゃいけません(汗)
どこまで続くか自分でもわからなくなってきましたが、おつきあいくださいませ。
- 204 名前:名無し飼育 投稿日:2006/08/21(月) 02:57
- ああおもしろい
今俺が生きているのはこれを読む為かもしれない
・・・ってくらいおもしろい
作者さん頑張れ
- 205 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:06
-
__________
- 206 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:07
-
さゆみは、ものすごく疲れていた。
絵里に言われた通り、いぶかしがる石川さんをなんとかかんとか言いくるめて。
どうやらひーちゃんをちゃんと家に持って帰ってくれたようなのだが。
石川さんの説得だけでも面倒だったのに、これからさらに面倒が待ちかまえていて。
しかもその相手は、明らかに自分たちにしか見えてなくて。
他の人に見られたらおかしな光景でしかないのに。
…でも、石川さんのことは気に入っているから。
だから、さゆみはその大問題の前に立っていた。
「…こんにちは」
「お、この前の絵里ちゃんと一緒にいた子だね」
「道重さゆみです。吉澤ひとみさん、ですよね」
「さゆみちゃんかぁ。あたしのことは…知ってたか」
そうやって笑う吉澤さんはとても美人で。
これが生き霊じゃなかったらなぁ…と思えて仕方ない。
- 207 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:07
-
「さゆみちゃんもなに、シニガミさんだったりするの?」
「さゆみは違います。まあ、絵里に頼まれて動いてるんですけど」
「んー?どんな頼み?」
「吉澤さんを連れてきてって。無理なら引きずってきてって。石川さんと吉澤さんを幸せにするために」
石川さん、の名前を出した瞬間。
吉澤さんの表情がちょっと変わった。
さゆみは気付いていたけど、知らないフリしてさらに続ける。
「石川さん、吉澤さんからのお人形すごく大事にしてたから、幸せにできるって」
「絵里ちゃんが…そっか…でも…」
「吉澤さん、石川さんのことが気になってるからここにずっといるんですよね?」
「まあ、それはそうだけどさぁ…」
苦笑しながらさゆみから目をそらして。
窓の向こうの石川さんを見つめる。
そんな吉澤さんの胸元に、ちいさく輝くもの。
「…吉澤さん、それ…」
「ん?ああこれ…」
そういって吉澤さんが見せてくれたそれは。
ちいさく光る、ハートのネックレス。
- 208 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:08
-
「それ、石川さんがくれたものですよね?大事にしてるんじゃないですか」
「そりゃあたしのお守りだから…これは…でも、あたしが約束守れなかったから…」
「石川さんも、お人形をお守りって言ってました。何をそんなに遠慮してるんですか?」
そう言うと、また吉澤さんの表情が、変わった。
「あたしは、もう…梨華ちゃんと一緒にいた頃のあたしじゃないから」
「どういうことですか?」
「あたしはもう、約束を守れないから…あたしだって、頑張るって、約束したのに」
「約束…?」
「あたしはプロで、梨華ちゃんは立派な店を…
梨華ちゃんは頑張ってるのに、あたしはこんなんだから。
こんな、途中でだめになって、きっと梨華ちゃんは呆れてる…」
「何で、そう思うんですか?」
さゆみがぽつりと問いかけると、吉澤さんははっとした表情になる。
「だって、梨華ちゃんが見てたあたしには戻れないから、だから、怖いんだよ…」
「何がですか?」
「まともに動けもしないあたしを見て、梨華ちゃんが離れてしまうのが…」
「今のうじうじしてる吉澤さんのほうが、きっと石川さんは嫌だとおもうの」
「…何だよ、梨華ちゃんのこと知ったように…」
「知りませんよ。でもそれは吉澤さんも同じじゃないですか。
石川さんのことなんて石川さんしか知らないんだから。石川さんに聞かなきゃ」
- 209 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:08
-
それは、とても当たり前のこと。
でも、自信を失いきってるひとみには考えもしなかったことで。
そして、絶対無理と思いこんでいたことで。
「無理だって…あたし今梨華ちゃんに見えてもいないんだよ?」
「その辺はきっと絵里がなんとかしてますから。あとは吉澤さんが行くだけなんです」
「なんとかって、本当になんとかなるわけ?」
「つべこべ言ってないで行きましょう!さゆみ、そういううじうじしたの嫌いです!」
「なっ!うじうじって」
「してるじゃないですか!だいたいどこ行くのさ!」
「…どこだろう?」
「おいおい…」
肝心なところでどこか抜けているさゆみ。
本当にこの子達に頼んで大丈夫なのか…思わず別の不安が浮かんでくるのだった。
- 210 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:08
-
__________
- 211 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:09
- 昨日あたりから、よく店に来ているさゆみがなんだかおかしかった。
なんかそわそわしていたり、この間見せたひーちゃんを家に置いてみたらと言ってきたり。
一度くらいはと思って従ってみたけど何も変わらなくて、疲れながら梨華は家に帰り着いた。
「ただいまぁ」
外から見ても真っ暗だった部屋。
誰もいるはずがないと。
言葉が返ってくるはずもないと。
わかってはいたけど、やっぱり日課になってしまったその言葉。
今日もいつもどおり、誰の声も戻ってこなくて。
また寂しい気持ちのまま、コーヒーをいれるのだろう。
そう思って、電気をつけた時だった。
- 212 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:09
-
「おかえり」
- 213 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:09
- 部屋の中から、声が返ってきた。
それも、ずっと待ち望んでいた声。
聞き覚えのある、その声と…
「よっちゃん…」
ずっと待っていた姿が、そこにあった。
「え、何で?何でここに!?」
「いやーあたしにもわかんないんだけどさー」
「入院中でしょ!?」
「そのはずだけどさー。なんか梨華ちゃんに会いたくて来ちゃったみたい」
「…ばかよっちゃん」
そう言って、二人で笑った。
それは、よくあった光景だけど、ここしばらくは無理だった光景で。
ちょっとしたそんな空間が、とても嬉しかった。
- 214 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:10
-
「あ、何か飲む?コーヒーでいいよね?」
「いや、別に飲み物は…」
「いいからいいから。よっちゃんに会ってない間腕を上げたんだから!」
そう言ってキッチンに駆け込む梨華。
今までの寂しい気持ちとは違う、はずんだ気分でいれるコーヒー。
そのコーヒーのカップの中には、梨華の分だけたっぷりミルクと砂糖が入っていた。
「やっぱり、そうじゃなきゃ飲めないんだね梨華ちゃんは」
「だって、甘い方がおいしいじゃない」
「やっぱその方が梨華ちゃんらしいよ。ブラック似合わねーもん」
「…うん。よっちゃんのマネしてブラック飲んでみたけど、やっぱダメだった…って何で知ってるのよ」
「いや…あの…」
思わず口ごもるひとみ。
さすがに、自らがしていたストーカー寸前の行為を白状する余裕はない。
- 215 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:10
- 「まあいいけどね…本当に、どうしてここにいるの?」
「え?」
「よっちゃんまだ入院中でしょ?退院したの?それならどうして教えてくれなかったの?
…本当に、本当のよっちゃん?」
梨華の目が、また不安げなものに変わっていく。
そんな梨華の手を、ひとみはそっと、取ろうとして…
その手は、空を切った。
「…え?」
「…まぁ、こういうこと。本物とは…ちょっと違うかな」
「幽霊?よっちゃん死んじゃったの?」
「まだ生きてるよ…でも、起きられなくて…体は、治ってるらしいんだけど」
「どうして…どうして無理なの?」
「ごめん…あたしが、怖かったんだ」
「怖い?」
すでに涙目になりかけている梨華。
その梨華の目を見て、ひとみはゆっくりと話し始めた。
- 216 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:10
- 「あたしは、こんな…動けなくなって。梨華ちゃんとの約束も守れなくて。
そんな状態で梨華ちゃんに会うのが怖かったんだ…
梨華ちゃんに、こんなとこ見られて、こんなんじゃなかったのにって、思われるのが…」
「よっちゃん…」
「梨華ちゃんには、負けたくなくて…失望されたくなくて…嫌われたくなかったんだ…
でも、このまま起きても、情けない状態を見せるだけだから…」
「…この、ばかよっちゃん」
「はい?」
先ほどまで泣きそうだったはずの梨華。
しかひとみが話したあと、明らかに梨華の声は怒っていて。
表情を見ると、顔も思いっきり怒っていて。
「あたしがいつよっちゃんにそんなこと求めたのよ!」
「いや、だって…」
「よっちゃんの思いこみでしょうが!あたしはねぇ、あたしは…」
怒りながらも、その目にはどんどん涙が溜まっていって。
そして、その涙が、こぼれた時だった。
「あたしはねぇ、よっちゃんがいてくれるだけでいいんだから!!」
梨華が、思いっきり叫んで。
触れられないとわかっていても、ひとみにむかって飛びついた。
そのまま、ひとみに縋るように、近くに座り込み、涙を流す。
- 217 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:10
- 「どれだけ、待ってたと思ってるのよ」
「…ごめん」
「病院も、チームも、よっちゃんのこと教えてくれないし」
「…ごめんね、ずいぶん待たせちゃったみたいだね」
「あたりまえじゃない!ばかばかばかばかぁ!!寂しかったんだからぁ!!」
「ごめん、ごめんね…あたしの思いこみのせいで…」
「謝るんじゃないわよばかぁ!」
- 218 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:11
- 泣き続ける梨華と、暖かいまなざしで見守るひとみ。
そして、ひとみがぼそりと口を開いた。
「朝比奈総合病院、1444号室」
「え?」
「あたしの病室…あたし、戻るよ」
「戻る、って?」
「今度は、梨華ちゃんに触れられるように。だから、来てよ」
「…うん、わかった…今度はちゃんと、触れられるよね?」
「うん、ちゃんと」
そう言うと、二人で微笑み会った。
「じゃあね。ちゃんと来いよ!」
「わかってるわよ!言われなくても押しかけてやるんだから!」
そう言うと、ひとみの姿は薄れていった。
しばらく経ってから、梨華はすっかり冷めてしまったコーヒーを口にする。
久しぶりに飲んだ甘いコーヒーは、冷めていてもなんだか美味しかった。
- 219 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:11
-
__________
- 220 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:11
- 「うん、うまく行きそう…吉澤さんのココロが、体に戻ったみたい」
「わかるの?」
「わかるよぉ」
石川さんのマンションの外、絵里とさゆみが見守っていた。
「話さえ出来れば大丈夫だと思ってたからね。実際上手くいったし」
「面倒なことをした甲斐があったの」
「さゆ、おつかれさまー」
「もう…絵里は何してたの?」
「んー、体力回復?」
「…さゆみにめんどうなこと押しつけて…」
「なに言ってんのさー!物を媒介に実体化って体力使うんだから!」
「でもずるいー」
「いいじゃん、上手くいったんだから」
「まぁ…そうだね」
そう言って、二人は帰っていく。
仲良く微笑んで、手をつないで。
きっと、これからの石川さんの表情が、もっと素敵になると信じて。
- 221 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:11
-
__________
- 222 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:12
- 朝比奈総合病院・1444号室。
ひとみは、ゆっくりと目を開けた。
「…り……か…ちゃん……」
体の自由がきかない。
これだけ寝ていれば当たり前だろうけど。
それでも、早く彼女に会える状態になりたいから。
震える手で、ナースコールを鳴らした。
- 223 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:12
-
__________
- 224 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:12
- 数日後、『エコモニ。』の前で、髪をばっさり切った石川さんと鉢合わせした。
「あれ、さゆごめん!今日はもう閉めるんだ!」
「いや、いいんですけど…どうしたんですか?」
「これからよっちゃんのリハビリなんだー。あ、よっちゃんってひーちゃんをくれた人なんだけど」
「いや、それもそうなんですけど髪…」
「あー、これね。イメチェン…かな?待ってたあたしはもういないってね」
「そうなんですか…でも、似合ってます」
そう言うと、石川さんは花が咲くような笑顔で「ありがとう」と返してくれた。
それから慌てたように遅れちゃうって走っていったけど。
さゆみが見てきた中で、一番の石川さんの笑顔だった。
「…よかったですね、石川さん」
ふとつぶやいて、そのまま『エコモニ。』を後にする。
きっと、吉澤さんが退院した後は『エコモニ。』で会えるんだろうなぁ、なんて思いながら。
それまで、石川さんのカフェオレはおあずけだろうけど。
それでも、きっといい気分。そう感じられた。
さて、午後の時間つぶしに、れいなのお店で紅茶でも飲もう。
石川さんのコーヒーがダメなら、そっちがあるんだから。
歩き出すさゆみは、石川さんに負けないくらいいい笑顔だった。
- 225 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:12
-
- 226 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:12
-
- 227 名前:君とコーヒーとアンティークドール。 投稿日:2006/08/28(月) 11:13
- おわり。
- 228 名前:次回予告。 投稿日:2006/08/28(月) 11:15
- 一度でいいから、その手をつないでみたかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「最近来ないんだよなぁ、あの子」
「藤本さんは恋煩いかもしれないの」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「あたし、バカだからさぁ」
「そんなこと…」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「さゆのカラダ、借りていい?」
「へ?」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「こうして、手をつないでみたかった…」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次回。
『ガラスのむこう、あなたのみぎて』
- 229 名前:あすか 投稿日:2006/08/28(月) 11:18
- いしよしが書きたかった。
反省はしていない。
予定している話はあと2話+番外編。
これだけ長くなると思ってませんでした。
他の板に立てればよかったと思う今日この頃。
たぶん次回から新スレです。
次回のタイトルにちょっとしたこだわりが。わかるかな。
ヒント:藤本さん。
- 230 名前:あすか 投稿日:2006/08/28(月) 11:19
- レス返し。
>>204名無し飼育さん
そこまで気に入って下さるとは…光栄です。
こういう一言が励みになります。
つたない文章ですが、楽しんで下さると幸いです。
- 231 名前:あすか 投稿日:2006/08/28(月) 11:22
- 目次。
君とコーヒーとアンティークドール。
>>152-158
>>164-171
>>177-183
>>189-199
>>205-227
- 232 名前:あすか 投稿日:2006/08/28(月) 11:23
- 書き忘れ。
まこっちゃん卒業おめでとう。
…こんこんの時は会場で燃え尽きて書けなかったので。
- 233 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 23:57
- リアルの娘達も、ココの娘達も、
みんなを幸せに導いてくれる為に存在しているのです。
その事を表現できる作者さんは素晴らしい。
これからも頑張ってください。
- 234 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 19:22
- 良かったです、面白かった。
亀井さんと道重さんもキャラが立ってて微笑ましいですね。
石川さん好きなんで、また準レギュラーみたいな形で出していただけたら嬉しいです。
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/31(木) 20:26
- ん〜、おもしろい!!
それに読みやすかったです。
次はミキティなんですね。
楽しみにしてます。
- 236 名前:あすか 投稿日:2006/09/07(木) 18:14
- 感想ありがとうございます。
返レス。
>>233名無飼育さん
私が書いてるものは現実の娘。からもらった幸せの
数百分の一くらいにしかなりきれてないと思いますが…
そう感じて頂いて嬉しいです。ありがとうございます。
>>234名無飼育さん
キャラ立ってますか?ありがとうございます。
さゆと絵里が混ざらないようにするのに必死です(汗)
石川さんは…まぁ、ほんっとにちょこちょこですがこれからも出る…かもです。
私も石川さん大好きなので…
>>235名無飼育さん
読みやすいですか。ありがとうございます。
一人称と三人称まざりかけてたり場面によって呼び方変わったり。
反省することしきりですが…
次は藤本さんとあの人です。楽しんで頂けたら幸いです。
- 237 名前:あすか 投稿日:2006/09/07(木) 18:16
- 草板で次スレとかorz
残りは他に立てるには短いけどこのスレじゃ足りない、そんな感じで。
もうほんとごめんなさい。最初から森あたりにすれば良かった話ですね。
次スレ
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