A PENTAGON and A QUADRANGLE
- 1 名前:clover 投稿日:2006/05/20(土) 00:34
- 幻板の「恋の神様」の続きになります。
A PENTAGON and A QUADRANGLE
「恋の神様」の392〜始まっています。
吉澤、藤本、石川、後藤、亀井、道重、田中、保田、中澤、辻、加護、新垣
が今のところ出てきています。
引き続き宜しくお願いします。
恋の神様
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1145166583/
悲しい偶然
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1141142667/
- 2 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 14:23
- テストが終わり返却された日、田中はLOSEに駆け込んだ。
「すみません。」
田中は中澤に頭を下げた。
夏休みが入ったらバイト時間が9時半から3時までといわれていたのに。
結局、化学の授業を落としてしまって補習が入ってしまったのだ。
「まぁ、高校は出といたほうがいいからな、仕方ないやろ。」
「すみません。」
「よっちゃん。ってことで田中の補習が終わるまでは朝から出てな。」
「はーい。」
バイト中の吉澤は笑顔で返事を返す。
「吉澤さんすみません。」
「大丈夫、どうせ他にすることないし。」
吉澤は苦笑しながら言う。
「化学って藤本がおしえてたんやろ?」
「はい。」
「もっとこう、裏の手とか使って問題聞いたらよかったのに。」
中澤の言葉に田中は顔を引き攣らせた。
「いや、それはちょっ・・・。」
「まぁええわ。補習、がんばりや。」
「はい。」
これからバイトの田中は更衣室に入って着替えた。
昼を過ぎたこの時間はそれほど忙しくも無い。
中澤は田中が来たのでまた夜に来るといって帰っていった。
田中が着替えて出てくると吉澤の隣に並ぶ。
「藤本先生も今週一杯で教育実習終わりですね。」
「うん。そうだね。」
「良かったですね。」
「何が?」
吉澤は首を傾げて田中を見た。
「バイト休みの日に過ごす相手が戻ってきて。」
「はは。残念。そうは行かないよ。」
「何でですか?」
今度は田中が首を傾げた。
「大学4年生は忙しいんだよ。教員採用試験受けて、就職活動あるから。」
「へぇ大変なんですね。」
「んー。国家資格って大変みたいだね。」
「れなは勉強苦手だから無理だ。」
「あはは、もう1人の幼馴染もね看護士なんだけど試験勉強必死にしてたよ。」
「れなはそこまでしてなりたいものがまだ見つからないです。」
「まだ高1じゃん。うちなんか21歳でそうだよ。」
「ですよね。」
「ですよねって・・・。」
カランカランとドアが開く。
- 3 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 14:23
- 「噂をすれば幼馴染の看護士さん。」
吉澤は田中に小声でそう言った。
「あれ、バイト増えたの?」
「田中れいなです。」
「こんにちは、石川です。」
石川はカウンターに座ると直ぐにアイスコーヒーを注文する。
「れな、やります。」
作ろうとした吉澤に田中が申し出て作り始める。
石川は田中を観察するように目で追った。
「ごっちんはどう?」
石川の隣に移って尋ねる吉澤。
後藤が仕事を始めてから1週間が経つ。
その間、いつ病院に戻ってるか分からないのでお見舞いには行ってない。
「うん。何とかって感じだけどもう少しかかりそう。」
「そっか。」
「食べるシーンとかあるみたいで食べちゃってるんだよね。」
「痛いんでしょそれ。」
「痛いだろうね。痛み止め結構、飲んでるから。」
「あとどのくらいで仕事片付くんだろう。」
「1ヶ月はかかるみたい。」
「長いねぇ。」
そうだね。と頷く石川の前に田中がアイスコーヒーを出した。
「ありがと。」
笑顔で頭を下げる田中。
「れいなちゃんは高校生?」
「はい。」
「うちらの後輩だよ。」
「そう、圭ちゃん知ってる?」
「担任です。」
「じゃぁ美貴ちゃんに教わってたの。」
「はい・・・。」
藤本と保田の名前に田中は暗い顔をする。
吉澤は笑いながら石川に理由を教えた。
「化学、赤点だったんだって。」
「なるほど。圭ちゃん、オマケはしないからね。」
「サボったれいなが悪いんですけどね・・・1点ですよ。」
「まぁ仕方ないわね。補習頑張って。」
ガックリとうな垂れる田中。
- 4 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 14:24
- 「生徒が今ここにいるってことは美貴ちゃん今日帰り早いの?」
「今日、大学行って用事済ませてくるって。美貴ももう直ぐ試験じゃない。」
「そうだね。夕飯までには帰ってくるかな。」
「分からないって言ってた。」
田中は二人の話に耳を傾けながらこの幼馴染は本当にずっと一緒なんだと思った。
「どうしよっかなぁ。」
「寝たいんでしょ。クマ出来てる。」
「うん・・・。明日は早番だし。」
「夕飯の時、電話してあげるよ。」
「うん。じゃぁこれ飲んで帰るね。」
「そうしな。」
石川が帰っていくと田中はグラスを下げる。
- 5 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 14:24
- 「本当に仲の良い幼馴染なんですね。」
「ん?」
「家族っていうか姉妹っていうか。」
「そう?」
4人が家族や姉妹みたいな感情だったらどれだけ良かっただろう
幼馴染だから辛いこともあると吉澤は心の中で苦笑した。
「田中ちゃんたちも仲良いんでしょ。」
「仲は悪くはないですね。でも、れなは一度離れたから。」
「離れると違うの?」
「幼馴染と離れたときの環境っていかそういうの知ってますから。」
「そっか。」
吉澤は想像してみた。藤本、後藤、石川がいなくなったときのことを
だが、想像なんて出来ない。側にいるのが当たり前すぎる。
「それってどんな感じなの?」
「寂しすぎて死にそうでしたよ。れなが寂しがり屋だったのもありますけど。」
吉澤は田中が寂しがり屋には見えないなと思う。
「死にそうなくらい寂しかったのに耐えたんじゃ強いね。」
田中はニヤっと笑った。
「まぁ、大人になったってことですよ。」
「なんだそれ?」
あははと声を出して笑う吉澤に田中はなんで笑うんだと反抗の視線を向けた。
「ごめん、ごめん。だって大人になったら寂しくなくなるの?」
「そうじゃなくて、寂しさを乗り越えて一つ大人になったっていう・・・。」
「おー。なんか田中ちゃん大人に見える、見える。」
吉澤は頷きながら笑っていた。
「もぉー。見かけじゃないですから。」
吉澤は頬を膨らます田中の頭に手を置いてポンポンと叩いた。
「ホント、偉いよね。乗り越えてきたんだから。うちなんかできないもん。」
幼馴染でいたいから、ずっと側にいたいから
それぞれが、それぞれの気持ちを仕舞いこんで幼馴染でい続けている
その関係から離れた田中は凄いと吉澤は思う。
「吉澤さんもいずれはそうなるじゃないですか。」
「だねぇ。」
「怖いなぁ。」と吉澤は自分を両手で抱きしめる仕草をしながら笑った。
田中はそんな吉澤の茶化すような仕草を見ながら
なんだか違和感を感じていた。
その違和感がなんなのか田中にはまだ分からなかった。
- 6 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 14:25
-
*****************************
- 7 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 14:25
- 藤本は学校を出て大学に来ていた。
教授に教育実習の報告をしてから、サークルに顔を出した。
目的の人は面を付けて稽古をしている。
藤本は道場の中に入り端の方で正座して稽古が終わるのを待った。
「よぉ。」
手ぬぐいで汗を拭きながら藤本に声をかけてきたのは大学院にいる先輩だ。
「お疲れ様です。」
「教育実習中だってね。」
「はい。」
「どう?」
「聞きたいことあって顔出したんですけど。」
「いいですか?」と尋ねる藤本に先輩は笑顔で頷いた。
着替えてくるから駐車場で待っていろと言われ藤本は駐車場に行き先輩の車を見つけるとボンネットに寄り掛かり携帯を取り出し時間を確認した。
5時半。夕飯には十分、間に合うだろう。
携帯を仕舞うと先輩がやってくる。
「乗りなよ。」
車の鍵を開けてそう告げる先輩に藤本は首を横に振った。
「直ぐ済むっていうか、教育実習のレポートのポイント知りたくて。」
スムーズに進みすぎる教育実習から何を書いていいのか困っていた藤本
そのアドバイスが欲しいだけなのだ。
「飯でも食べながらでいいじゃん。」
「んー。」
藤本はどうしようか迷った。
良い先輩だと思っている、だから相談もしているんだ。
たまにはいいかと思うが吉澤が心配だ。1人で待っているかも知れない。
電話をしてもまだバイト中だろう。
「時間ない?教育実習の様子も聞いてから話したいって思ったんだけど。」
「大丈夫です。行きましょう。」
藤本は笑顔で返し、車に乗ると吉澤に夕飯を済ませて帰るとメールした。
- 8 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 14:26
- 「彼氏?」
先輩の質問に藤本は「違いますよ。」と呟いた。
ふと、異性と2人きりで車に乗ったりゴハンを食べたりすることが初めてだったことに気が付いた藤本はなんだが笑えて来た。
食事中もなんだが落ち着かずリラックスできずにいる藤本。
先輩からのアドバイスをノートにメモを取りながらなんだか疲れるなと思った。
「送るよ。」という先輩の言葉に甘えて送ってもらうことにした。
「藤本って好きな人いないの?」
「いますよ。」
「へぇーどんな人?」
「んー。優しくて子供みたいで・・・ほっとけない感じかな。」
そういいながら自分が微笑んでしまっていることに気がついた藤本は
横に顔を向けると苦笑している先輩と目があった。
「付き合わないの?」
「うん、側に居れれば良いかなって。」
付き合うことが出来ないならせめてそうでありたい。
「藤本、綺麗だし、可愛いし告白すれば直ぐいけるだろ。」
「そんなこと無いですって。」
「んー。じゃぁ、オレと付き合う?」
「はっ?」
即座に反応してしまい、先輩は苦笑してる。
「いやいや、そんな風に見てなかったし。」
「結構、マジだったりするよ?」
なんと言えばいいのか分からず、藤本は俯いて口を閉じた。
ナンパだったら睨んで終わりだけど、先輩にそうするわけにもいかない。
もう直ぐ、家に着く・・・藤本は俯きながら言葉を口にした。
「付き合うとか考えてないっていうか好きな人いるし・・・。」
「そっか。」
「すみません。」
家の前に車が止まると藤本はシートベルトを外した。
- 9 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 14:26
- 「あのさ。」
「はい?」
「そいつのこと好きでもいいからさ、付き合ってみない?」
往生際が悪いなと思いながら藤本は先輩に視線を向けた。
「付き合いだしたら変わるかも知れないとか思わない?」
藤本は呆れて黙って視線を送っていた。
ふと、シートに押し付けられるように先輩が藤本に覆いかぶさった。
「ちょっ。」
唇を奪おうとした先輩から藤本は顔を背けた。
バイクの音が聞こえてきた。
藤本は吉澤のバイクだと思い慌てた。
「こんな風に始まるのもあると思うよ。」
ニヤっと笑う先輩の頬を思い切り引っぱたき急いで車から降りる。
走り去るバイクはやはり吉澤の愛車だ。
「よっちゃん・・・。」
- 10 名前:clover 投稿日:2006/05/20(土) 14:29
- 本日の更新、とりあえず以上です。
>>2-9 A PENTAGON and A QUADRANGLE
やっと、話しが動き出すって感じでしょうか。
また、夜に更新できたらしたいなと・・・
深夜になる、かな?
引き続き宜しくお願いします。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/20(土) 16:03
- 続きが気になります。
深夜までまってるよ〜。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/20(土) 16:11
- 更新乙です
よっちゃんさん。・゚・(ノд`)・゚・。
続き待ってます
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/20(土) 23:15
- あばばば!!
更新待ってます!ドキドキ…
- 14 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:30
- 藤本から夕食を済ませて帰るというメールがきてから
石川と二人で夕食を済ませた。
明日が朝早いという石川は直ぐに家に帰った。
買い物に行っていないと気が付いた吉澤は
近くのスーパーで買い物をした。
近所迷惑にならないように住宅に入ったところでエンジンを切って
バイクを押しながら家に向かうと藤本の家の前に車が止まっていた。
「美貴?」
助手席に座る藤本を見つけた吉澤は運転席の人物に視線を移した。
藤本が慕っているサークルの先輩だ。
「えっ・・・。」
先輩が藤本にキスをしているように見えた。
先輩の後頭部で藤本の顔を見ることは出来ない。
吉澤は慌ててエンジンをかけてきた道を走り去った。
なんだよ・・・
付き合ってるならそういってくれれば良いのに
吉澤はバイクを走らせた。
- 15 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:31
- 歩道を歩く見覚えのある人を見かけ吉澤はバイクを寄せた。
「亀井さん?」
足を止めた亀井は物凄く驚いて後ずさりしたが
ヘルメットを被った人物が吉澤だと気が付くと笑顔を見せた。
「ビックリした・・・吉澤さんですか。」
「何してるの?こんな時間にしかもそんな格好で。」
ミニスカートにタンクトップの亀井。
「襲ってくださいといわんばかりの格好だね。」
「危ないよ。」と吉澤は注意をする。
「なんか、寝れなくて適当に来て出てきちゃったから。」
困ったようにいう亀井。
何かあったのだろう吉澤はそう思った。
「吉澤さんこそ、何してるんですか?」
「ドライブ。」
「うそっ。」
「へっ?」
怒ったような態度を取る亀井に吉澤は首を傾げた。
「さっきから、作り笑顔ですよ。何かあったんですか?」
吉澤は心の中で笑った。
亀井に見抜かれてしまうのでは石川や後藤、ましてや藤本の前で
何も無かったような顔が出来ないだろう。
- 16 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:32
- 「亀井さんこそ顔が暗いぞ。」
「まぁ、そんな日もありますって。」
エヘヘと笑う亀井。
吉澤は作った笑みを浮かべる亀井を見ながらバイクから降りて
椅子の中にあるヘルメットを渡した。
「えっ?」
「気分転換付き合ってよ。」
後ろに乗れとジェスチャーする吉澤に亀井は笑顔で頷いて後部に跨った。
「ちゃんと捕まっててね。」
「はい。」
亀井がギュッと吉澤の腰に捕まると吉澤はバイクを走らせた。
初夏の暑い中、受ける風は気持ちよく
吉澤は「わぁー。」と叫ぶ。その声はバイクと車の音で直ぐにかき消された。
それを真似て亀井も「わぁー。」と叫んだ。
「きもちーぃ。」と叫ぶ亀井の声が聞こえてきて吉澤は笑みを見せる。
そして、吉澤も同じように叫んだ。
着いた場所は海。砂浜の手前でバイクを止めると
亀井は「キャー。」と叫びながら駆け出した。
吉澤も慌てて後を追いかける。
砂浜で靴を脱ぐと波打ち際で遊びだす亀井を吉澤は流木に座って見ていた。
さっきからポケットの中でブルブルと震えている携帯に気が付かない振りをして。
「吉澤さーん。」
何かを拾ったのだろう手を掲げ吉澤の名を呼ぶ亀井。
吉澤は手を振って返した。頭の中は藤本のことで一杯だった。
鳴り止まない携帯に手を伸ばしディスプレイを見ると藤本の名前が表示されている。
- 17 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:32
- 通話ボタンを押すと藤本の声。
『よっちゃん?』
藤本の声を聞いた途端、吉澤の瞳からは涙が零れた。
『よっちゃん聞こえてる?』
「うん・・・」
『どこに居るの?』
「海、ちょっと、みた、くてさ。」
藤本の声がしばらく聞こえなかったが吉澤も何も言わなかった。
『気をつけて帰ってきなね。』
「うん。」
吉澤は電話を切ると膝を抱えて顔を埋めた。
- 18 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:33
- 亀井は吉澤が誰と電話しているのか分からなかったが
吉澤の肩が震えるのを見て泣いているのだと思った。
顔を伏せて泣いている吉澤のもとに歩み寄ると膝を着いて抱きしめた。
何してるのだろう。亀井自身が分からなかったが無意識に抱きしめていた。
そして、声を殺して泣く吉澤の背中を撫でた。
「泣きたいときは声だしてない方がすっきりしますよ。」
段々と漏れ始める吉澤の声。
亀井はしばらく吉澤の背中を撫でながら泣かせておいた。
「はぁ・・・。どっちが子供か分からないね。」
泣き止んだ吉澤は涙を拭きながら苦笑する。
人前で泣いたりしないのに、亀井の手が温かくて声が優しくて
なんだか、ホッとしてしまう。
「絵里、子供じゃないですよぉ。」
田中と同じ反応だなと吉澤は笑った。
亀井は吉澤をじっと見下ろしてから悲しそうに笑った。
「なんか、絵里と吉澤さん似てる。」
「ん?」
亀井はペタンと座り吉澤と同じ目線になった。
首をかしげている吉澤の胸に顔を埋めて抱きついた。
「今度は絵里が泣いても良いですか?」
- 19 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:34
- 吉澤が返事をする前に亀井は声を漏らして泣いていた。
亀井がしてくれたように吉澤の手は背中を撫でた。
交互に泣きながら何をしてるんだろう。
吉澤はそんなことを思いながら亀井がなぜ泣いているのか。
なぜ、自分と似ているというのか気になった。
そんな吉澤の気持ちを察したかのように亀井が口を開いた。
「聞いて、もらってもいいですか?」
涙で濡れた顔を上げて尋ねる亀井。
亀井は頷く吉澤の横に移ると膝をかけて海を眺めながた。
「早く、抜け出さないと・・・もっと辛いと思うんです。」
亀井の言葉の意味が分からなかったが吉澤は黙って耳を傾けた。
「1番好きな人とは結ばれないんですよ。」
亀井は苦笑しながら吉澤を見た。
「あなたのこと2番目に好きですって言って受け入れてくれる人っていないですよね。」
亀井は視線を海に戻すとため息をついた。
「1番好きな人は変わらないの、でも寂しいから側に居てくれる恋人は欲しい。」
「失恋したの?」
自分と同じだと思いながら吉澤は尋ねるが亀井は首を横に振った。
「1番好きな人には気持ちを伝えてませんから。」
「そっか。」
そんな相手もいるよな。と吉澤は悲しそうに亀井を見た。
- 20 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:35
- 「吉澤さんもなんかそんな感じ。」
「えっ?」
「絵里と同じような顔してますよ。」
クシャっと笑う亀井。吉澤は鋭いなと笑って見せた。
「どんな顔?」
「溢れ出しちゃいそうな気持ちを必死で抑えて苦しんでる。」
「そっか。」
「絵里、苦しくて苦しくて、今日みたいに寝れなくなっちゃうんです。」
「大変だ。」
「そう、だから、絵里を救ってくれる恋人が欲しいんですけどね。」
「けど?」
「嘘はつきたくないから、2番目に好きって言わないといけないの。」
「なるほど。」
さっきの亀井の言葉の意味を理解した吉澤は頷いた。
「吉澤さんは?」
「ん?」
「さっき泣いたのは好きな人と関係あります?」
「んー。」
「その人、吉澤さんの気持ち知ってるんですか?」
頷いてみせる吉澤に亀井は少し驚いた。
「結ばれないんですか?」
「うちは、亀井ちゃんとちょっと違うんだよね。」
「違う?」
「1番好きな人もうちを1番好きなんだ。」
「両思いじゃ、何も問題ないじゃないですか。」
「他にも大切な人がいるんだ。」
「絵里、もっと詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
吉澤は亀井の目を見て優しく笑った。
話せば楽になると思ったのだろうか、亀井が先に話し出したからだろうか
吉澤は自分たちのことを話していた。
- 21 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:36
- 「じゃぁ、2人の気持ちを知ってるから吉澤さんたちは付き合えないんですか?」
「そうだと、うちは思ってる。」
「モテ過ぎちゃって困っちゃいますね。」
笑顔で言う亀井に吉澤も笑ってしまった。
「でも、なんか分かります。だって吉澤さんほっとけないって気がするもん。」
「なんだそれ。」
「母性本能くすぐるっていうか、だからさっき無意識に抱きしめちゃったし。」
吉澤は声を出して笑った。
「絵里と付き合っちゃいます?」
「えっ?」
「お互い1番好きな人は別にいるの分かってるし、だからきっとお互いを思いやれる気がしません?」
笑みを浮かべて言う亀井を吉澤はじっと見つめていた。
自分が亀井と付き合えば藤本は堂々とあの先輩と付き合えるのではないだろうか。
自分に恋人が出来たと知った石川と後藤は新しい恋を探し始めるのではないだろうか。
《吉澤さんもいずれはそうなるじゃないですか。》
田中の言葉を思い出した。
そのきっかけを作るのは自分かもしれない。
「絵里、吉澤さんとなら上手くやれるきがするんです。」
吉澤の背中を押すかのように亀井が言葉を投げかける。
「絵里、尽くすタイプだし。甘えん坊だし、結構、可愛いやつなんですよ。」
「あはは。」
亀井の言葉が面白くて笑ってしまった吉澤。
「絵里と居るときっと楽しいですよ。」
「うちと居ても楽しくないかもよ。」
「絵里、今、楽しいもん。」
吉澤の手を両手で包み込むように握る亀井。
その視線はまるで助けを求めているように見える。
- 22 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:37
- 「うちでいいの?」
「絵里でいいですよね?」
「あははっ。」
「ウヒヒヒっ。」
「なんだよ、その笑い方。」
「ね、絵里と居るときっと笑顔になれますよ。絵里もきっとなれる。」
そうかも知れない、きっとそうだろう。
吉澤は亀井と付き合おうと思った。でもその前に一つ知りたいことがある。
「亀井さんの好きな人ってさ。」
「ん?」
「幼馴染のどっちか?」
「そうですよ。」
微笑みながら言う亀井の顔を吉澤は綺麗だなって思った。
「吉澤さんと同じです。」
「そっか。」
「でも絵里は2分の1で吉澤さんは3分の1だから絵里のバレやすい。」
「田中ちゃんでしょ。」
「えっ。」
言い当てられて驚く亀井に吉澤はしてやったりの顔を見せる。
- 23 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:37
- 「こないだ、亀井さんの田中ちゃんを見る目を見たから直ぐ分かった。」
「うそっ。」
「うちと同じ感じだから。」
「じゃぁ、絵里もきっと分かりますよ。誰なのか。」
「そうだね。分かったら応え合わせしよう。」
「じゃぁ、絵里と付き合ってくれます?」
「2番目に好きでいいなら。」
亀井は嬉しそうに笑うと吉澤の首に腕を回して抱きついた。
「絵里も2番目ですけど良いですか?」
「良いですよ。」
吉澤も亀井の背中に手を回した。
「寂しいときは側に居て、人肌恋しいときは抱しめ合って、苛立って辺ったら受け止めて。」
「うん。」
「絵里もそうしますから。」
「うん。」
「デートもしましょう。」
「うん。」
「恋人がするようなこともしましょうね。」
「キスとか?」
「はい。それ以上のことも。」
「亀井さんが大人になったらね。」
「大人だもん。」
「じゃぁ自然にそうなったらね。」
「そうですね。」
亀井は抱きついていた体を離して吉澤を見つめた。
「あの。」
「ん?」
「絵里って呼んでください。」
「絵里。」
「絵里は吉澤さんでいいですよね。」
「いいよ。」
「じゃぁ、今日から宜しくお願いします。」
「こちらこそ。」
亀井は吉澤の頬にチュッとキスをして再び抱きついた。
なんだから楽しいからこれでいいのだろう。
立ち止まっているようりは亀井と一緒に進む方がみんなも幸せになれだろう
吉澤はそう思いながら強く亀井を抱きしめた。
- 24 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:38
-
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- 25 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:38
- 藤本は自分の部屋のカーテンを開けずっと吉澤の家を見ていた。
電話に出たが、なんだかそっけなかった。
きっと見られたのだろう。
前から見たら先輩とキスをしているように見えてしまったかもしれない。
先輩なら大丈夫と思ってしまった自分に藤本は苛立った。
そのせいで吉澤を悲しませてしまった。
「よっちゃん、帰ってきてよ。」
時計に目をやるともう直ぐ12時だ。
帰ってきたのは9時だからもう3時間になる。
吉澤が帰ってきたら誤解を解かなければならないが
明日も学校に行かなければならない。
藤本はお風呂に向かった。
カラスの行水でお風呂から出て部屋に戻って吉澤の家を見るが
まだ、電気はついていない。
「遅いな・・・。」
道路にライトが当たるのが見えて藤本はその光のもとに視線を向ける。
暗くてよく見えないが吉澤のバイクだ。
直ぐに声をかけようと窓の鍵に手をかけたがその手を止めた。
「だれ?」
吉澤の隣で腕を組んでいる女性。
真っ暗で顔が見えない。
二人がぴったりと寄り添っているのがは街灯の影で分かる。
吉澤が玄関先にバイクを止める。
玄関の灯りでショートカットの女性の姿が見えるが後姿で顔が見えない。
二人で家の中に入っていった。
自分のせいで吉澤は過ちを犯そうとしているのでないだろうか
昔から先走って失敗することがよくあった。
藤本は携帯を手に取ると吉澤にコールをする。
- 26 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:39
- 「もしもし、よっちゃん。」
『あっ美貴?まだ、起きてたの?』
いつもと同じ感じの吉澤に藤本は言葉を詰まらせた。
「うん・・・電気ついたの分かったから。」
『あ、今ね帰ってきたんだ。』
「うん。」
『そうだ、美貴に報告があるんだ。』
「なに?」
『うち、恋人が出来た。』
「えっ?」
藤本は耳を疑った。吉澤が好きなのは自分のはずだ。
『美貴に一番に報告したくて。良かった、一番にできて。』
「・・・。」
『明日の朝、紹介するよ。』
「よっちゃん?」
『ん?』
「あ・・・なんでも、ない。」
『なんだよ、4人の中で一番最初に恋人できたのにぃ。おめでとうって言ってよ。』
本心なのだろうか?声を聞けば吉澤のことは何でも分かるはずなのに
今は判断が出来ない藤本。
『美貴?おーい寝てるのか?』
「起きてるよ。」
『言ってよ。』
「明日、顔見て言うよ。」
『そっか、じゃぁおやすみ。』
「うん。おやすみ。」
藤本は携帯をベッドに投げて自分も倒れこんだ。
「っく・・・。いえ、ないよ・・・。っん・・・。」
藤本は枕に顔を埋め声を殺して泣いた。
- 27 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:39
-
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- 28 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:40
- 亀井が冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出してグラスに注いでくれている。
なんで、うちの家は来客がキッチンに立つのだろうと不思議に思いながら亀井の後姿を眺める吉澤。
「そんなに見つめないでくださいよ。照れちゃう。」
視線をグラスに向けたままニコニコして言う亀井。
吉澤はなんだか亀井を見ているだけで楽しいと思えた。
鳴り響く吉澤の携帯。
一瞬、リビングが静まり返った。
「美貴だ。」
吉澤はそう亀井に言って携帯に出る。
『もしもし、よっちゃん。』
「あっ美貴?まだ、起きてたの?」
亀井はグラスを持って吉澤の座るソファの隣に来た。
『うん・・・電気ついたの分かったから。』
「あ、今ね帰ってきたんだ。」
『うん。』
「そうだ、美貴に報告があるんだ。」
吉澤は隣にいる亀井に笑みを浮かべた、亀井も嬉しそうに微笑む。
『なに?』
「うち、恋人が出来た。」
『えっ?』
「美貴に一番に報告したくて。良かった、一番にできて。」
『・・・。』
「明日の朝、紹介するよ。」
『よっちゃん?』
「ん?」
『あ・・・なんでも、ない。』
藤本の声が少し震えているような気がした
折角、何か変わるかもしれないと動き出したのにこれじゃダメだと
吉澤は言葉を続けた。
「なんだよ、4人の中で一番最初に恋人できたのにぃ。おめでとうって言ってよ。」
吉澤の顔に苦痛が見えて亀井はそっと吉澤の手を握った。
藤本の返事が返ってこない。泣いているのだろうか。
吉澤は不安を消すように亀井の手を吉澤をギュッと握り返した。
「美貴?おーい寝てるのか?」
『起きてるよ。』
「言ってよ。」
そしたら自分はきっと藤本と先輩のことを受け止めれると思う
吉澤はそう思った。
『明日、顔見て言うよ。』
「そっか、じゃぁおやすみ。」
『うん。おやすみ。』
吉澤が電話を切るのと同時に亀井は吉澤の頭を包み込むように抱きしめた。
- 29 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:41
- 「吉澤さんの1番の答え合わせしていい?」
「ん。」
「藤本先生。」
「正解。」
亀井は吉澤の頭を撫でながら他の二人の方が良かったなと思った。
藤本は身近すぎる。藤本も吉澤を好きなのにどう思うだろうと不安になった。
「絵里?」
突然、ギュッと抱きしめる手に力が入り吉澤は顔を上げた。
困った顔で笑っている亀井の頬に吉澤は手を当てた。
「どうした?」
「藤本先生、絵里をどう思うかなって。」
「ん?」
「だって藤本先生も吉澤さんを・・・。」
吉澤は亀井の頬を親指で撫でながら微笑んだ。
「美貴にもいるんだ。恋人。」
「えっ?」
「今日ね絵里に会う前、車の中でキスしてたの見た。」
悲しそうに微笑む吉澤に亀井は頬を寄せた。
ピタッとくっ付けた。
「じゃぁお互い様ですね。」
「そうだね。」
「あのぉ・・・。」
「ん?」
亀井は体を戻して吉澤を見上げた。
まだ、悲しそうな顔をしている吉澤。
「今日、一緒に寝ませんか?」
「えっ?」
「いや、あの、そうじゃなくて、寄り添って・・・。」
「あぁ・・・なんだ、大胆発言に驚いたよ。」
ほっとする吉澤に亀井は顔を真っ赤にして笑った。
- 30 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:41
- 「もぉ、絵里だってそんな意味じゃないのにぃ。エッチ。」
「えぇ、うちかよ。」
「そうですよ。」
「なんだよぉ。それ。」
それから交替でシャワーを浴び吉澤の部屋に行った。
「さっぱりしてますね。」
亀井は吉澤の部屋を見て呟いた。
広い部屋にはベッドとローテーブルとテレビと本棚にチェストしかない。
「んー。なんもないからね。」
吉澤はベッドに寝転がる。亀井もベッドの縁に座ると体をクネクネしだした。
「何してるの?」
クネクネする亀井を不思議そうに見ている亀井。
「なんか、緊張しちゃって。」
「へっ?」
抱きついてきたり、頬にキスをしてきたりするから
最近の若い子はそういうの平気なんだと思っていた吉澤だった。
「絵里、これでも恥かしがりやなんで。」
「はは、そうなだ。」
吉澤は後ろから亀井を抱きしめるとそのまま横に倒れこんだ。
「きゃっ。はははっ。」
プロレス技みたいで笑ってしまう亀井。
「なに笑ってるんだよぉ。」
吉澤は笑っている亀井の肩を掴んで向かい合った。
真剣な顔で亀井を見る吉澤に亀井も笑うことを辞めて見つめた。
- 31 名前:P&Q 投稿日:2006/05/20(土) 23:41
- 「ありがとね。」
「ん?」
「なんか、うち、さっそく救われたから。」
「じゃぁ絵里も救ってくださいね。」
吉澤は微笑むと亀井を抱き寄せた。
「んふふ。」
「また、笑ってる。」
「なんだか、久しぶりにゆっくり眠れそうだから。」
「そっか、じゃぁおやすみ。」
「おやすみなさい。」
亀井は吉澤の肩に顔を埋めるようにして眠りについた。
そんな亀井の髪を撫でながら吉澤は亀井と今日、偶然に出会えたことに感謝した。
幼馴染の4人しか居なかった輪に亀井が加わったことで。
そして亀井たちの幼馴染3人の中に自分が加わったことで
これから自分たちは変わっていくだろう。
いい形に変わってほしいと吉澤は願って目を閉じた。
- 32 名前:clover 投稿日:2006/05/20(土) 23:46
- 本日2度目の更新以上です。
>>14-31 A PENTAGON and A QUADRANGLE
深夜前でよかったw
>>11 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
>深夜までまってるよ〜。
深夜にならなくてよかったですw
>>12 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
引き続き宜しくお願いします。
>>13 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
最後までお付き合いください。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 00:05
- なんだか今すごい座布団一枚あげたい気分です…
これからも楽しみにしてます
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 00:43
- 思わぬ展開で、悲しすぎ…
2人が幼馴染の枠を早く超えてほしいです。
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 00:52
- 更新お疲れ様です。みきよし切ないですね
どーなってしまうんだろう・・(;つД`)
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 04:53
- 更新お疲れ様です
あわわわわ まさかそうくるとは…!!
いつもcloverさんには驚かされっぱなしです!
ますます続きが楽しみです
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 16:20
- 自分はみきよしより、もう片方の恋を応援してるんですが、やっぱり複雑です…
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 17:21
- 予想外に展開して嬉しかったりする
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 18:15
- ケータイだと>>19から次みれないorz
- 40 名前:ももんが 投稿日:2006/05/21(日) 21:40
- なんだかすれ違いが起きてきましたね。
これからどうなるんだろうという気持ちでいっぱいです。
- 41 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:46
- ドラマの撮影が終わり、打ち上げに参加した。
本当は直ぐに帰りたかったが主演がいないと感じが悪いと思い2次会までいたら3時になってしまった。
病院にはまだ、仕事が終わらないから昼前に戻ると連絡を入れた。
久しぶりに家に帰ると母親が心配していた。
疲れているからとシャワーを浴びて直ぐに自分の部屋に入った。
明日は吉澤の家で朝食を食べてゆっくりしてから病院にいこうと
計画を立ててベッドに横になった。
1週間以上、吉澤と藤本とは会っていない。
後藤はパジャマのまま家を出て吉澤の家に向かった。
リビングからは何か炒めている音が聞こえる。
藤本だろうと思いながらリビングに顔を出すと知らない子が居た。
「誰?」
後藤が声をかけると振り返る少女。
少女は後藤を見ると驚いたように口に手を当てた。
「あっ、えっ?えっ?うそっ。」
「いやいや、ちょっと、あんた誰?」
驚いている少女に近寄りながら後藤はそんなに驚かなくてもと苦笑した。
「えっ?本物?なに?えっ。」
行ったり来たりしながら慌ててる亀井。
後藤は亀井の腕を掴んだ。
「誰?よしこは?」
「よしこ?えっ?吉澤さん?」
「そう。」
「あ、はい。呼んできます。」
亀井は慌てて階段を昇って行った。
- 42 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:47
- 「吉澤さん。起きてください。」
吉澤が寝ているベッドに飛び乗り吉澤の腕を引っ張る亀井。
眠そうにしながらも体を起こすと「おはよ。」と笑顔を向ける吉澤。
「おはようございます。」
吉澤の寝起きの顔が子供みたいで可愛いと思った亀井は抱きついた。
「絵里って抱きつくの好きだよねぇ。」
吉澤も亀井の背中に手を回す。
「だって、絵里、ベタベタするの好きだもん。」
「はは、で?なんか慌ててなかった?」
亀井はそうだったと慌てて体を離す。
「リビングにゴマキが居るんです。絵里のこと誰って。絵里なにがなんだか。」
慌てて話す亀井を吉澤は面白がって見ていた。
「この窓開けたら美貴の部屋であっちの窓開けたらごっちんの部屋。」
吉澤は部屋にある窓を指しながら話す。
混乱した様子の亀井を見て吉澤は笑った。
「後藤真希はうちの幼馴染でお隣さんなんだよ。」
「えっ?凄いっ。凄い。」
芸能人がお隣さんなんて凄いと亀井は浮かれて立ち上がり窓の向こうを見てはしゃいだ。
しかし、浮かない吉澤の顔を見て亀井は直ぐに察した。
後藤が幼馴染ということは後藤が吉澤に思いを寄せている1人でもある。
亀井はベッドの縁に座った吉澤の前に立つと吉澤の頭を胸に抱き寄せた。
「大丈夫ですよ。」
「うん。」と頷いた吉澤は亀井の腰にしがみついた。
- 43 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:48
- 後藤はキッチンを見て作りかけの朝食を変わりに作り出した。
卵焼きを作ろうとして明らかにスクランブルエッグになったものがフライパンの中にあった。後藤は卵を足して卵焼きにして皿に移した。
吉澤は卵焼きよりもゆで卵が好きだ。だから朝食を作る人は必ずゆで卵を作る。
あの子は一体誰だろう。後藤はなかなか降りてこない二人を呼びに二階に上がった。
いつものように吉澤の部屋の扉をノックもせずに開けた途端
後藤の目には少女の胸に顔を埋める吉澤の姿があった。
唖然とする後藤。
自分たちの吉澤が自分たちの知らない子とこうしていることへの違和感。
「ごっちん。おはよ。」
冷静を装って吉澤は後藤を見た。
「おはよ・・・。」
「病院は?午後から?」
「誰?その子は誰?」
後藤は亀井に拒絶するような視線を向けた。
吉澤は戸惑っている亀井の手を握ると隣に立ち上がる。
「亀井絵里ちゃん。うちの恋人。」
その言葉に後藤は吉澤を軽蔑するように見た。
「後藤が入院してそれでも仕事してる間にそういうことしてたんだよしこは。」
「違うよ。昨日、夕べ付き合いだしたから。」
後藤は胃に痛みを感じながらも言葉を止めることは出来なかった。
「本当は朝から病院だけどよしこに会いたいと思ってきたらこれ?邪魔しちゃったね。」
「ごっちん・・・そういうことじゃなくてさ。」
「大体、梨華ちゃんもミキティも知ってるの?後藤だけ知らなかったの?」
「美貴には夕べ、梨華ちゃんはまだだけど。」
「なんで隠してるの?後藤たち隠し事しないよね。」
しばらく二人の様子を見ていた亀井だが、一方的に吉澤を責める後藤に耐え切れず間に入った。
「絵里がっ。」
間に入ってきた亀井に後藤は黙ってろと視線を送る。
- 44 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:48
- 「絵里が、付き合ってくださいってお願いしたんです。昨日の夜突然。」
「関係ないでしょ。あんたは。」
「本当に昨日の夜に突然、だからまだ皆さんにお伝えできてなくて。ごめんなさい。」
「あんたには関係ないの。黙ってて。」
「関係なくありません。絵里は吉澤さんの恋人ですから。」
亀井は強い視線でじっと後藤を見た。
「絵里・・・いいよ。ありがと。」
亀井の手を引いて自分の後ろに下げる吉澤。
「ホントに、夕べからなの?」
「そうだよ。」
「夕べ付き合いだして、その日に泊めるんだ。」
「うん。」
「そっ・・・。」
「喜んでよ。幼馴染に恋人出来たんだからさ。」
夕べ藤本に言った言葉を後藤にも言う。
後藤は精一杯の笑顔を向けた。
「なんか、テンパッてごめん。よしこ、おめでとう。」
女優の仕事をしていて良かったなと後藤は心の中で笑った。
「ありがと。」
笑みを見せる吉澤。
「その子が途中まで作った朝ごはん。後藤がその後作ったから。出来てるよ。」
後藤はそう言うとドアを閉めてリビングに降りた。
ドアが閉まるのと同時に亀井がパタンとお尻を着いて座った。
「えっ、どうした絵里。」
亀井は泣きそうな顔で吉澤を見上げる。
「後藤真希にあんなこと言っちゃったぁ・・・どうしよ。」
「大丈夫だって。」
吉澤は亀井の髪をクシャクシャと撫でて笑って見せた。
- 45 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:53
- 藤本は重い足取りで吉澤の家に入っていった。
「ごっちん?」
病院にいるとばかり思っていた後藤の靴を見つけて藤本は少しばかりホッとする。
「ごっちん、おはよぉ。」
キッチンに立つ後藤の背中に声をかける藤本。
「おはよ。」
後藤は鍋をかき混ぜながら呟いた。
その後藤の様子で藤本は吉澤の恋人という人物に会ったのだろうと思った。
「ごっちん病院は?もういいの?」
藤本は後藤の背後から鍋を覗いた。卵焼きがあるのにゆで卵まで作っている。
卵を割ってしまったのだろうか。藤本には卵焼きがあることが不自然に思えた。
「これから入院。」
「そっか。」
「ミキティは知ってるんだよね。」
背後から去っていく藤本に後藤は鍋に視線を向けたまま質問する。
「うん。昨日の夜中、聞いたから。」
藤本はいつも座る自分の席に座って応えた。
「ごっちん、会ったの?」
「うん、来たらココでこれ作ってたから。」
後藤は卵焼きを指差した。
なるほどと藤本は卵焼きがある理由を悟る。
- 46 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:53
- 階段を下りたままリビングに入ろうとする吉澤の腕を掴んで
朝、1人で散策した吉澤の家の洗面台に引っ張って連れて行く亀井。
「吉澤さん、顔洗わないとダメですよぉ。」
「えぇ、大丈夫だってぇ。」
「それに、寝癖も直さないと。」
「んー。直して。」
「甘えん坊でちゅねぇ。」
鏡越しに見つめ合い笑いあう吉澤と亀井。
吉澤はもっと早いうちに幼馴染以外との交流をするべきだったかもしれないと思った。
そこには自分たちの知らない楽しさもある。
「はい、直った。」
亀井は吉澤の髪型を見ながら笑いを堪える。
「おーい。これでいいの?」
鏡に映るオールバックの自分を見て苦笑する吉澤。
「カッコいいかと思うよ?」
「なんで疑問系?似てないし。」
「えぇ、自信あったのになぁ。」
「あはは、似てませんからぁ。」
吉澤は行こうと亀井の手を取ってリビングに入る。
「亀井。」
二人の声を聞きながらいつここに来るのだろうと伺っていた藤本は吉澤が入ってくると直ぐに反応した。
「藤本先生、おはようございます。」
笑顔で朝の挨拶をする亀井。
それでも内心は不安で一杯だった。
繋いでいる吉澤の手をギュっと握って必死で笑顔を見せる亀井。
藤本は無表情に亀井を見ていた。
- 47 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:54
- 「絵里がうちの恋人だから、宜しくね。」
吉澤が向ける笑顔に藤本は悲しい目で見つめた。
吉澤の笑顔が偽者だと藤本は気が着いていた。
いや、偽者だと思いたかったのかもしれない。
「そっか、亀井かぁ。」
藤本は亀井を一瞥してから吉澤を見た。
「おめでとぉ。良かったね。」
藤本は自分が上手く笑えているか不安だった。
それだけ告げると「ゴハンたべよう。」と吉澤に背を向ける。
「ミキティ・・・こっちきな。」
後藤の言葉に藤本は慌てていつも石川が座る席に移動した。
そして目の前には申し訳なさそうに自分がいたいつもの席に座る亀井。
「あのぉ、これ・・・。」
亀井は自分が失敗したはずの卵焼きを指差した。
「あぁ、後藤が修正した。」
後藤がそういうと亀井は面目なさ下に俯いた。
「よしこ、卵焼きよりゆで卵なんだよ。」
後藤が卵焼きに箸を伸ばしながらそう呟いた。
亀井は吉澤の前にだけ置かれたゆで卵を確認してから、吉澤に視線を向けた。
大丈夫だよ。という視線を吉澤が送る。
「それと、よしこは朝はパンだから、覚えておいたほうがいいよ。」
後藤は口をモグモグさせながら言う。
そんな後藤を藤本は苦笑しながら見ていた。
「うち、パン食なんだ。」
「そうだったんですか。じゃぁこれから一杯お話しして色々教えてくださいね。」
「うん。」
「絵里のことも一杯知ってくださいね。」
「うん。」
笑顔を向ける亀井に吉澤も笑顔を返す。
藤本と後藤は黙って黙々と朝食を口に運んだ。
- 48 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:55
- 「じゃぁ美貴行くね。」
食器をシンクに入れながら言う藤本。
「藤本先生、部活4時からですよ。」
「知ってるわよ、その前に補習があるの。」
藤本は生徒に向ける視線を亀井に向けジャケットを手に持つと
「行ってきます。」と出て行った。
「ごっちん、病院何時に行くの?」
「10時に入る約束。」
「車?」
「うん、迎え来る。」
じゃぁ送る必要はないのだと吉澤は思った。
「また、お見舞い行くね。」
「うん。」
「でも、普通のゴハン食べれるようになってよかったね。」
「まぁ、少しだけだけどね。」
後藤はフニャっと笑う。
「本物のが綺麗ですねぇ。」
亀井は羨望の目で後藤を見た。
「ありがと。」
そっけなくいうと後藤は食器を洗い始めた。
「よしこ、今日バイト?」
「休み。」
「そっか、じゃぁ夕飯の材料あるし、今日はのんびりだね。」
「うん。」
後藤は食器を洗い終えると入院の仕度があるからと帰っていった。
「絵里、後藤さんに嫌われたっぽい。」
がっかりする亀井の頭を吉澤は苦笑しながら撫でた。
後藤であの反応なら石川はもっと反応するだろうと思いながら。
- 49 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:55
-
*****************************
- 50 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:56
- 後藤は家に帰るとベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
「なんなの・・・。」
吉澤が自分たち以外となんて許せない。
何のために気持ちを伝えずに来たんだ。
後藤は携帯を取り出すと藤本に夜に病院に来て欲しいとメールを打った。
少し早めに病院に付いた。
個室に急いで連れて行かれるとベッドに寝る。
吉澤のことで胃が痛みだしそうだ。
「失礼しまぁす。」
石川の声が聞こえ顔を向ける後藤。
「なに?目が怖いよ。」
「ん、イライラしてるから。」
「ダメだよぉ。また悪くなるから。何よ原因は。」
「よしこ。」
石川の表情が変わった。
「よっちゃんがどうかしたの?」
「昨日の夜に恋人出来たって。今日はその恋人朝から居たよ。」
石川は信じられないという顔をする。
「だって、昨日、私と二人で夕飯食べたよ。」
「じゃその後でじゃない。亀井って子。」
「亀井?だれ?」
「ミキティのこと藤本先生って呼んでたから高校生じゃん。」
石川は眉間に皺を寄せた。
「あ、点滴しちゃうね。」
石川は点滴をしに来たことを思い出し慌てて準備をする。
- 51 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:57
- 「梨華ちゃん平気なの?」
「ん?」
「ラブラブだったよ。よっちゃん抱きしめられたりしてて。」
「ちょっと黙ってて。」
石川は動揺してしまい針が上手く刺せなかった。
「イタッ。」
「ごめん。ちゃんと入った。」
石川はほっとしながら点滴と管を繋ぎ調整した。
「よしこが後藤たちから離れちゃうよ。どうする?」
「どうするって。」
石川は使った道具を片しながら考えた。
本当に吉澤が亀井を好きになったのだろうか。
見た限りそんな感じではなかったと思う。
「夜、ミキティ来るから話し合おう。」
「んー。話し合ったところでよっちゃんの気持ちがそうなら仕方ないよね。」
後藤は石川の言葉が意外で驚いた。
「梨華ちゃんがあの時、みんなのよしこだから抜け駆けなしって言ったじゃん。」
「だから、それは私たちの中でのルール。周りは関係ないじゃない。」
「何それ。」
「私たちが言ってたら幼馴染じゃなくなるかも知れないから。」
「他の人のものになたらもっと意味無いじゃん。」
「そうだけど・・・。」
子供みたいな後藤に石川は困りながら道具を手に持った。
「ごめん、仕事中だから、後でね。」
それだけ言って病室を出た。
「なんだよ。よしこは後藤たちのじゃんか。」
後藤はふてくされながらゆっくりと落ちる点滴を眺めた。
「絶対、ヤダから・・・。」
- 52 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:57
-
*****************************
- 53 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:57
- 「おーい。藤本。行くよ。」
保田の声に藤本は慌てて駆け寄った。
「すみません。」
「何、寝不足?」
「まぁ。」
保田と並んで歩く藤本はボケッとしている。
藤本の横顔をみながら保田は苦笑した。
「嘘はよくないわね。」
「へっ?」
「寝不足だけじゃないでしょ。」
藤本はさすがだなと作り笑いを返して黙った。
「まぁ、若いうちは一杯悩みなさい。良い経験よ。」
保田は笑いながら藤本の肩を叩いた。
教室に入ると補習を受ける数名が既に席についてる。
その中に田中の姿もあった。
「じゃぁ始めます。」
保田は教壇に立つと教室を見回した。
補習がなければ既に終業式まで学校に来なくて良かったはずの生徒たちは
幾分、普段より暗い。
「まぁ勉強しなかったあんたたちが悪いんだけど。さっさと終わらせて遊びに行きなさいね。そのためにも、集中するように。」
保田はそういうと補習授業を始めた。
藤本は授業を見学しながら、頭の中は吉澤と亀井のことでいっぱいだ。
- 54 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:58
- 一体、いつ知り合い、親しくなり、付き合うことになったのだ。
幼馴染の関係を崩さない方法ではあるが突然すぎる。
でも、恋人が出来たら恋人が優先になるだろう
一番近くに居られるのは幼馴染ではないのだ、
ずっと側に居たいから幼馴染で居ることを選んだのに
間違えた選択だったのだろうか
後藤は明らかに怒っていた、石川はどんな反応をしたのだろう。
あの頃より随分と大人な考えになった石川だ、
もしかしたら素直に受け入れるのではないだろうか
だとしたら、自分はどうしたらよいだろうか
つい、こないだ自分を好きだと言った吉澤だ
もしかしたら昨日の自分への当てつけだろうか
いや、吉澤が他人の亀井を巻き込んだり傷つけたりはしないだろう
だとしたら・・・本当に好きになったってことだろうか
もしそうだとしたら、自分の選択は確実に間違いだったということだ
そのときは、心から祝福するしかないだろう
それが出来るかはわからないが・・・
「藤本先生っ。」
突然、目の前に生徒がいて驚く藤本。
教室を見ると補習は終わっているようだ、教室の前の扉のまで保田が苦笑している。
先に戻るという保田のジェスチャーに頷くと目の前に居る生徒、田中に視線を戻した。
「なに?」
「ボーっとしてたから、声かけてみただけです。」
生徒にまで言われ藤本は苦笑した。
- 55 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:58
- 「悩み事ですか?」
言葉を続ける田中に藤本は笑って首を振った。
「そんなんじゃないよ。」
「そうですか。」
「あっ。」
「はい?」
「ちょっとさ、時間もらえる?聞きたいことあるんだ。」
藤本の笑みに田中は首をかしげた。
「明日でもいいですか?」
田中はこれからバイトだ。
「10分、いや、5分でもいい。」
「じゃぁ下駄箱まで行きながらでも良いですか。」
藤本は笑顔で頷いて田中と歩き出した。
「聞きたいことってなんですか?」
「ん、亀井ってどんな子?」
「絵里?」
田中はなんで知りたいのだろうと不思議に思う。
「どんな子かなってさ、深い意味とかないんだけど。」
「優しい子ですよ。それに、世話好きで、狭いところが好きでジェットコースターは苦手で、お茶とおせんべいがあれば幸せって感じるって言ってた。」
藤本は苦笑しながら田中の話を聞いていた。
狭いところが好きって何だ?
お茶とおせんべいで幸せって・・・
頭の中で色々と突っ込む藤本。
「好きな人のタイプとかは?」
その質問に田中は言葉を詰まらせる。
「そういう話はしたことないです。さゆのが詳しいかもずっと一緒だから。」
「そっか、田中は福岡に行ってたんだもんね。」
「はい。」
「ありがと。気をつけて帰るんだよ。」
田中は「はい。」と返事をすると急いで帰っていった。
- 56 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:59
- 職員室に戻ると保田は補習で使うテストの作成をしているようだった。
デスクに着くと思わずため息をしてしまう藤本。
保田は苦笑しながらもテストの作成を続けた。
「ねぇ。圭ちゃん。」
「職員室では保田先生。」
「先生。」
「なによ。」
「胸が苦しい・・・。」
「病院行きなさい。」
「いや、そうじゃなくてさ。」
保田は苦笑する藤本に笑顔を見せる。
「何に悩んでるのよ。」
「大切なものが他の人のものになりそう・・・いや、なっちゃったのか。」
「ふーん。取り返せばいいじゃない。」
「それは自分のものにはしちゃいけないもで、側に置いて皆で共有するものだから。美貴ひとりがどうこうできないんだよね。」
「それが他人のものになっちゃったってこと。」
「うん。」
「そのものはさ、どこにあるのが一番いいの?」
「それはもちろん・・・。」
藤本は自分たちのところと言おうとして言葉を止めた。
それは、本人にしか分からない・・・
いや、こないだまでは自分たちのところにいると決めていた
今は違うのかも知れない、だから亀井のところに行ったのか?
「違ったら謝るけど、もしかしてそのモノって人間だったら怒るわよ。」
「へっ?」
保田の怒りの表情に藤本は少しだけ驚いた。
こんな顔を見たことがなかった。
- 57 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:59
- 「当たってるの?」
「うん。」
「吉澤?」
藤本の驚く顔でそれが吉澤だと確信した保田は藤本の手を掴むと引きずるように職員室をでて開いていた会議室に入った。
藤本は保田の行動に驚きはしたが抵抗せずに従った。
「あんたね。吉澤のことなんだと思ってるの?」
「えっ?」
「あんたたちのおもちゃじゃないのよ。あんたたちの気持ち見てれば分かるわよ。」
藤本は保田の目をじっと見ていた。
自分たち以外が知っているとは思わなかった藤本は困惑と驚きだった。。
「3人で吉澤を共有?吉澤の気持ちはどうするのよ。」
「分かってますよ。そんなこと。だから困ってるんじゃない。」
「もう、子供じゃないんだから、大人になりなさい。」
保田は優しい顔に戻ると藤本の頭を撫でた。
「吉澤だって、可哀相よ。」
「分かってる。」
藤本は俯きながらどうしていいのか分からずにいた。
- 58 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 21:59
-
*****************************
- 59 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 22:00
- 「絵里、4時から部活なので、それまで色々、お話ししましょっ。」
後藤が帰った後、これからどうしようかという吉澤の言葉に
亀井が床に座ってソファに座る吉澤を見上げて言う。
そんな亀井を可愛いと思う吉澤。
この気持ちは藤本に向ける気持ちと同じものなのか
吉澤には分からない。
ただ、近いものであって欲しいと思った。
「ねぇ、絵里はさ好きになろうと思ってうちを好きになれるの?」
「吉澤さんは絵里のこと好きになれませんか?」
「可愛いと思うよ。嬉しいし。好きだと思う。」
「じゃぁそれで良いじゃないですか。絵里もそうです。」
「でも、恋人同士なんだよね。」
亀井は立ち上がると吉澤の隣に座りなおし吉澤の肩に頭を乗せた。
「小さい好きって気持ちのままでもいいと思うんです。大きくなればそれはそれでいいと思うし、ただ、自分と同じ人が側にいて支えあって思い合い労わりあう。それでいいと思うんです。」
「うん。」
亀井は吉澤を覗き込んで笑った。
「でもぉ、絵里以外の人が吉澤さんにこんなことしてたら妬きもちやくかも。」
「なんで?」
「だって、吉澤さんは絵里の恋人だもん。」
「そっか。」
「だから、ダメですよ。」
「うん。」
亀井が悪戯っぽく笑う仕草が可愛くて吉澤は亀井を抱きしめた。
「どうしたんですか?」
「なんか、今、可愛かったから。」
「抱きしめたくなっちゃいました?」
「うん。」
亀井は吉澤の背中に腕を回しギュッと抱きしめ返した。
「そういうの分かります。ずっとそういう気持ち我慢してたから。」
「うちも。」
「同じだ。」
亀井は嬉しそうに吉澤の首に顔を埋めた。
- 60 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 22:01
- 「キスとかしても良いですか?」
亀井が恥ずかしそうに呟いた。
吉澤はそっと亀井の頬に手を添えると唇を重ねた。
「絵里、ファーストキスですよ。」
唇を離して微笑む亀井。
なんだか可愛くて亀井のオデコと鼻にもキスをした吉澤。
「吉澤さんのファーストキスはどんな味でしたか?」
吉澤は藤本とのキスを思い出して苦笑した。
「酒の味。」
「藤本先生と?」
「うん。」
「いいなぁ絵里はしたことなかった。ほっぺくらいだよ。」
「絵里は?何味だった?」
「んー。」
亀井は唇に指をあてて言葉を探した。
「レモン味とか言ってみたかったけど、タバコの臭いでした。」
吉澤の前に置かれているタバコ、バージニアスリムライトの箱を
亀井は手に取ると吉澤の目の前に翳した。
「吸いすぎじゃないですか?」
悪戯っぽく笑う亀井。
吉澤は亀井との言葉のやり取りが好きだなと思った。
「また、しようね。」
吉澤は亀井の頭を撫でながら微笑んだ。
「ウヘヘ、絵里はいつでもいいですよっ。」
「ウヘヘって。まぁいいや。」
「吉澤さんって剣道なんでやめたんですか?」
「怪我したから。」
「大学は?」
「美貴と幼馴染で居るため。一緒に大学生活過ごしたら耐えられないと思って。」
亀井は優しい顔で吉澤の手を握った。
吉澤は今まで誰にも言えなかったことを亀井に素直に全てを話した
話すだけで、重い気持ちが軽くなる
亀井が手を握ってくれるともっと軽くなる
吉澤は単純に嬉しかった。
- 61 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 22:02
- 「絵里は?」
「ん?」
「なんで、田中ちゃんに気持ち伝えないの?」
「さゆが絵里を好きだから。」
「そっか。同じなんだね。」
「だから、早いうちにそれぞれがちゃんと自立しないといけないの。」
「ん?」
「依存しあってても大人になったとき困るから。」
「なんか田中ちゃんもにたようなこと言ってた。」
「れいなはもう一度、自立してるから、絵里も早くしないとそしたらさゆもそうすると思うし。そうしないといけないと思うんです。ずっと一緒には無理だから。」
最近の高校生は偉いなと吉澤は思う。
田中と同じようなことを言う亀井。
自分たちが子供過ぎたのだろうか。
お互い料理が苦手だと知り、二人で作ってみようと冷蔵庫にあるもので
四苦八苦しながら二人で作った。その時間はお互いに新鮮で楽しいものだ。
出来上がったものはあまり見かけは良くないが美味しかった。
「あっ、もう2時だ。」
「部活だっけ。」
「はい。制服に着替えなきゃ。」
私服のままの自分を見て思い出したように呟く亀井。
「うちの貸すよ。」
「へっ?」
「うちもその制服着てたから。」
「おいで」と亀井の手を引いて自分の部屋に連れて行く吉澤。
クローゼットの中から取り出したクリーニングに出したままビニールに覆われた
セーラー服。
「なんか、吉澤さんが制服とかイメージ分からない。」
「着てたんだよ。似合わない?」
吉澤は制服をあてて見せてみる。
「なんか、カッコ可愛い感じ、でも絵里のが可愛いけど。」
「おまぇ・・・まぁそうだから仕方ないか。」
吉澤は懐かしそうにビニールを外して亀井に渡した。
「じゃぁ、お言葉に甘えて。」
「ん。」
吉澤は着替えを見ないように亀井に背を向けた。
亀井は直ぐに吉澤の制服に袖を通して着替える。
- 62 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 22:03
- 「ちょっと、あのぉ。」
亀井の声に振り返る吉澤は直ぐに苦笑した。
「こんなに短いの穿いてたんですか?」
吉澤のスカートは亀井の下着が見えるか見えないか程の短いものだった。
「いや、うちのが身長高いし。」
「腰の位置からだから身長関係ないですから。」
「いや、なんての、そん時はそんなノリだったんだよね。」
吉澤は苦笑しながら説明した。
「怒られないかな。」
「注意されたら吉澤のだっていいなよ。」
「はぁい。」
「マジ、ちょっと短いかもね。」
亀井は苦笑して下着が見えないか確認した。
「ここから、学校までどれくらいかかります?」
「送るよ。15分くらいでいけるから。」
「お言葉に甘えてお願いします。」
ペコッと御辞儀をする亀井。
「頭下げると下着見える。」
亀井は真っ赤な顔で慌ててスカートを抑えた。
「えっ、もぉ。なにしてるんですか吉澤さん。」
「えっうち?」
「そうですよぉ。もぉ。ヤダっ。」
吉澤は自分のせいにされて納得がいかないがとりあえず謝った。
「ごめんごめん。」
「いや、良いんですけどね。」
「どっち?」
「もういいんです。はい。大丈夫です。」
ひとり納得し落ち着いて笑顔を見せる亀井に吉澤はあっけらかんと立ち尽くしていた。
「4時からだから3時に行って先生たちの仕度しないと。」
「ちょっと早めに行って久しぶりにうちも学校みてもいい?」
「はい。」
- 63 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 22:03
- バイクを校舎の横に止めて亀井と手を繋いで校舎に入る。
「絵里、マジ、スカート気をつけな。」
上履きに履き替えるためにしゃがんだ亀井の背中に真っ赤になりながら吉澤が告げる。
「やっ、もぉ、見ないでくださいよぉ。」
真っ赤になっている吉澤を見て可愛いと思った亀井は笑いながら慣れた様子だった。
「行きましょ。」
「ん。」
差し出された亀井の手を吉澤は自然と掴んで歩き出した。
「絵里の教室どこ使ってるの?」
「こっちです。」
嬉しそうに吉澤を連れて行く亀井。
「ここが絵里の席。」
「一番前かぁ。よく寝れるね。」
「寝ませんから。」
「寝ないの?うち、一番前のときは良く寝たよ。案外見つからないんだよね。」
「知らないもん、寝ないから。」
亀井は「もぉ。」といいながら一番後ろまで歩いていく。
その後ろに吉澤もついていく。
「ここがさゆでこっちがれいな。」
「隣同士なんだ。」
「うん。」
吉澤は教壇に立ってみた。
亀井は田中の席に座ってみる。
「そこに藤本先生も立ってるんですよ。」
亀井は優しい顔で言った。
吉澤は頷くと目を閉じて藤本の先生をしている姿を思い浮かべるが
想像をすることは出来なかった。
- 64 名前:P&Q 投稿日:2006/05/21(日) 22:04
- 「田中ちゃんの席はどう?」
空を眺める亀井に吉澤は尋ねた。
「空がよく見えます。これじゃ、れいな授業聞かないわけだ。」
「追試だもんね。」
二人は顔を見合わせて苦笑した。
「吉澤さんはどの席でした?」
「んとね。その2つ前。」
吉澤は田中の席より2つ前の席に座って見せた。
「前が美貴で横がごっちん。梨華ちゃんは亀ちゃんと同じ席だったな。」
懐かし反面、あの頃は良かったなと悲しい気持ちもある吉澤。
亀井は吉澤の後ろに行くと吉澤を抱きしめた。
「聞いてもいいですか?」
「ん?」
「吉澤さんたちって誰も抜け出そうとしなかったんですか?」
「幼馴染から?」
「うん。」
「気持ちはあったんじゃない。仕事しだしたりしてそれなりに距離は出来たから。」
「それなのに、ずっと一緒にいようとしてるの?」
「そうだね。」
「それって、限界ありますよ。」
「分かってるよ。」
「吉澤さんが一番大変じゃないですか。」
「どうだろ?うちだけじゃないんじゃない?」
「優しいですよね吉澤さん。」
「んなことない。優しかったら・・・あんなことしないし。」
「あんなこと?」
「美貴を抱いたんだ。酔った勢いで済まされたけどね。」
「藤本先生も辛いですね。」
「うん。だから、うちだけでもないんだ。」
「じゃぁ逆に吉澤さんはラッキーですね。」
「絵里に会えたから?」
「イヒヒっ。正解。」
「凄いラッキーだね。うち。」
亀井が吉澤に体重をかけながら笑った。
吉澤も「重い。」と冗談を言いながら笑い合った。
その様子を教室の後ろの扉から藤本が見ているとは気が付かずに。
- 65 名前:clover 投稿日:2006/05/21(日) 22:14
- 本日の更新以上です。
>>41-64 A PENTAGON and A QUADRANGLE
なんだか、思った以上にこの組み合わせに反応があって嬉しいw
まだ、まだ、続きますので最後までお付き合い宜しくお願いします。
>>33 名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>なんだか今すごい座布団一枚あげたい気分です…
ん?どういった意味だろう??
最後まで宜しくお願いします。
>>34 名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>思わぬ展開で、悲しすぎ…
(ノ_-)
まだまだ続くのでw宜しくお願いします。
>>35 名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>どーなってしまうんだろう・・(;つД`)
みきよし悲しくするの自分が好きみたいで・・・(^。^;;
最後まで宜しくお願いします。
>>36 名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>あわわわわ まさかそうくるとは…!!
この反応、嬉しいですwありがとうございます。
>いつもcloverさんには驚かされっぱなしです!
えぇぇ!ありがとうございます。大したのかいてないですから(^。^ゞ
最後まで宜しくお願いします。
>>37 名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
最後まで宜しくお願いします。
>>38 名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>予想外に展開して嬉しかったりする
嬉しいです。ありがとうございます。
>>39 名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>ケータイだと>>19から次みれないorz
あれ?なんででしょう?自分は見れるんですが・・・(^_^?)ハテ?
>>40 ももんが 様
レスありがとうございます。
前スレにも最後にレス頂いてて、ありがとうございます。
>これからどうなるんだろうという気持ちでいっぱいです。
まだまだ、これからなので宜しくお願いします。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 22:40
- 亀ちゃんがすごくかわいくていいです。
これからどうなっていくのか楽しみです。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 23:13
- 更新お疲れ様です。
自分リアルでミキティと似たような状況なので切なすぎます。・゚・(ノД`)・゚・。
続き楽しみにしてます。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 23:47
- 更新乙疲れ様です
みきよし・・・幸せになってくれ(;つД`)
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 23:54
- 亀ちゃんが可愛くて仕方ない自分は少数派なんだろうな…
どう転んでも良い覚悟はしときながら楽しませて貰ってます
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 00:28
- cloverさんの小説を読むようになってから、
だんだん亀ちゃん押しになってきましたw
でもみきよしも大好きなんで、続きをハラハラしながら待ってます。
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 00:28
- いやぁ座布団一枚あげたいと言ったのはタイトルの意味を勝手に納得して感動したからなんですね
ちょっと遠回しな表現になってしまって申し訳なかったです
…それにしても亀ちゃん可愛いなぁ(*´Д`)
- 72 名前:39です…… 投稿日:2006/05/22(月) 00:38
- 更新お疲れ様です。
>>43 ←こうしないと続き見れないんです…orzこれからもやると思うけど無視しといてください
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 00:44
- 更新お疲れ様です。
昨日あたり狼のみきよ○スレでこのcloverさんの小説
が話題になってたので今日初めて読みにきました
凄いおもしろい展開で大好きです、これからもがんばって
ください!
- 74 名前:39です 投稿日:2006/05/22(月) 00:49
- >>55もっかいですすんません…PC欲しい……
- 75 名前:名無読者さん 投稿日:2006/05/22(月) 00:50
- はじめまして!!
色んなシーンがあるけどどれも設定がきちんとしてて凄いですね
続き楽しみにしてます
>72さん、意味がよくわかんないけどここから行けば見れない?
ttp://m-seek.net/imode.html
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 01:00
- 私もおととい>>73さんと一緒でこの小説しりました。
亀ちゃんも可愛いけどミキティもがんばって欲しいですヽ(゚∀゚)ノ
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 01:17
- 更新お疲れ様です!
>大したのかいてないですから(^。^ゞ
いやいやいやいや!!ホントcloverさんの作品は全部すごいですから!!!
>亀ちゃんが可愛くて仕方ない自分は少数派なんだろうな…
ノシ
>>69さんと同じ人がちゃんとここにもいますよぉ
cloverさんもですよね!?少数派では…ない、はず?
- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 01:48
- ああ…えりりんが可愛すぎる…
吉亀のやりとりを頭の中で想像してムフフ…グヘヘ…
ってすいません取り乱しちゃいました
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 02:11
- やばい!日曜の深夜に何やってんだ自分って話ですが、
かわいくて切なくて大変です。
かめきちの気持ち、わかるなぁ…
- 80 名前:ももんが 投稿日:2006/05/22(月) 12:21
- 最近吉亀の組み合わせがかなり好きです♪
前回の「恋の神様」で一気に好きになりました。
- 81 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:43
- 藤本は見回りをしている途中に話し声が聞こえる教室を覗いた。
その瞬間、昔に戻ったのかと思った。
吉澤が座っていた席にあの頃のように座っている本人。
だが、直ぐに現実に引き戻された。
亀井が吉澤を後ろから抱きしめた。
聞こえてくる亀井の声と吉澤の声。
自分と吉澤だけの秘密の出来事を吉澤は簡単に口にした。
なんだが吉澤は突然、本当に遠くに行ってしまった気がして
抱き合い笑い合う二人をこれ以上、見ていることは出来ず
足音を忍ばせてその場を後にした。
保田にも言われたとおり、自分たちのやり方が間違っていたのだろう。
亀井ですら否定をしていた。
ただ、認めたくない。
吉澤が亀井を好きだということを。
もし、自分たちが間違えていたとしても今すぐにやり直せばどうにかなるのではないだろうか、藤本はそう考えた。
- 82 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:44
- 速めに道場に向かうと吉澤と顧問の声が聞こえてきた。
「あっ美貴。」
「来てたんだ。」
亀井が直ぐに吉澤の隣にパイプ椅子を用意した。
「ありがと。」
「おい、見ろよ。この制服。」
顧問の言葉に亀井の制服姿をまじまじと見る藤本。
亀井は恥ずかしそうにスカートを抑えた。
「これ、よっちゃんの。」
「まぁ藤本と石川はもっと短かったよな。」
「そうだった。」と笑う吉澤だが、藤本は笑えなかった。
なんだか、自分たちの思い出まで亀井に取られた気がしたのだ。
「よっちゃん。折角来たんだからさ。」
「ん?」
藤本の目を見た瞬間、吉澤は藤本が何を言うのか分かった。
「勝負?」
吉澤の口から出た言葉に頷く藤本。
亀井は心配そうに吉澤を見た。
「怪我、大丈夫なんですか?」
立ち上がった吉澤の横にいって小声で尋ねる亀井に吉澤は笑みを返した。
「一試合くらい問題ないよ。」
安心する亀井。
「亀井、よっちゃんに合う稽古儀持ってきて。」
「はい。」
亀井は部室に走っていった。
- 83 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:45
- 「道重。美貴とよっちゃん試合するから用意して。他の子は見取り稽古。」
辻が喜んでいる姿を見つけた藤本。
「辻、主審できる?」
「はい。」
辻は嬉しそうに手を上げた。
「あの子が辻さんか。」
吉澤は面白い子だなと辻を目で追っていた。
「よっちゃん。着替えてきなよ。」
「ん。防具、美貴のでいい?」
「うん。」
知らない人が使った面を被るのは嫌だが美貴のならいい。
吉澤は頷くと更衣室に向かった。
道重は亀井と吉澤の様子を見て、急に親しくなっていたことに驚いた。
そして、亀井を取られたような喪失感を覚えた。
更衣室の中で吉澤の着替えを心配そうに見ている亀井。
「亀ちゃん、見すぎ。」
「あっ、ごめんなさい。」
「別に良いけど、凝視はハズイって。」
吉澤は笑いながら上半身を露わにして道着を羽織る。
亀井は吉澤の体を見ながら色が白く引き締まっていて綺麗だなと思った。
「よし。」
紺の稽古儀に着替えた吉澤は誰が見てもカッコイイだろう。
「やべぇ久々だから緊張してきた。」
「大丈夫ですか?」
「んーどうだろね。美貴は練習してるみたいだし。負けちゃうかも。」
笑いながら言う吉澤に亀井は不安な顔を見せた。
「まぁ、やるからには勝つ気でいくよ。試合は勝たなきゃ意味ないから。」
亀井の頭を撫でてから吉澤は更衣室を出た。
- 84 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:49
- 藤本が用意した防具を藤本と並んでつける吉澤。
「なんだか、こうしてると高校生に戻ったみたいだね。」
「うん。でも、うちら高校生じゃないよ。」
藤本は悲しそうに吉澤の横顔を見た。
「手加減しないからね。」
藤本の言葉に目を合わせずに吉澤は笑って見せた。
「手加減されたらムカつくんですけど。」
「だね。」
吉澤は胴をつけ終わると道場の片隅に束になってある竹刀を数本取り出して
素振りをしながら使う竹刀を選んだ。
その様子を生徒たちはまじまじと見ていた。
2本の竹刀を持って藤本の隣に戻る。
「いいのあった?」
「うん。」
自分の防具や竹刀でないだけでやり辛い。
少しハンディがあるなと藤本は思う。
亀井とビデオのセットをし終えた道重が準備体操をしている藤本と吉澤のところへやってきた。無言で行ってしまった道重のあとを亀井も追いかける。
「あの、お願いがあるんですけど。」
「何?」
藤本が聞くと道重は吉澤をじっと見つめた。
- 85 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:50
- 「うち?」
「はい。」
「何?」
「もし、藤本先生に負けたら、絵里をさゆに帰してください。」
「ちょっと、さゆ何言ってるの。」
亀井は慌てて道重の手を引っ張ったが道重は吉澤を見続けた。
「絵里はさゆの幼馴染なの、取らないで。」
泣きそうな顔で訴える道重。
藤本は自分を見ているように思えた。
「美貴、それに乗ってあげる。賭けないとつまらないし。」
吉澤は藤本を見た。
その目が本気で言っていると分かった吉澤は道重に笑みを向けた。
「いいよ。美貴が勝ったら絵里と別れる。でもうちが勝ったら認めてね。」
「吉澤さんっ。」
亀井は吉澤が勝つとは思わなかった。
藤本の剣道を見て強いと知っている。だが、吉澤の剣道を見たことがなかった。
「絵里は勝って欲しい?負けて欲しい?」
「そんなの勝って欲しいに決まってるじゃないですか。」
亀井の言葉に嬉しそうに笑う吉澤。
「でも、吉澤さん怪我したんでしょ。ずっとしてなかったんでしょ?」
「そうだね。」
「じゃぁ・・・。」
「信じてよ。勝つって。」
勝てないと言おうとして吉澤の言葉に遮られた。
亀井は吉澤の顔を見て頷いた。
その二人のやり取りを藤本と道重は複雑な気持ちで見ていた。
- 86 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:51
- 「美貴ちゃーん準備できたよ。」
辻の大きな声に藤本は苦笑して「わかった。」と返した。
「無制限、三本勝負でいい?」
藤本の言葉に頷きながら竹刀を振る吉澤。
筋肉が落ちたなと吉澤は苦笑しながら2本の竹刀を左で振る。
その様子を見る藤本は相変わらず基本が綺麗だなと感心した。
「ちょっとさゆ、どういうつもりよ。」
「いつから吉澤さんと付き合ってるの?こないだあったときはもう付き合ってたの?」
「昨日からだよ。ねぇさゆ、絵里が誰かを好きになって付き合ってもさゆと絵里とれなは幼馴染だよ。それは変わらないんだよ。」
「でも、嫌なの。」
怒っている道重に亀井は悲しい目を向ける。
「絵里はさゆに祝福してもらいたいよ。幸せだもん。恋人出来て。」
「さゆは寂しいよ。だってさゆは・・・。」
「吉澤さんが勝ったら、そんな風に言わないでね。」
亀井は道重の言葉を遮った。
「幼馴染なのは変わらないんだからね。さゆ。」
優しく微笑んでみせる亀井。
道重は悲しそうに目を伏せた。
- 87 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:53
- コートでは吉澤と藤本が向かい合って立っている。
面がねの隙間からぶつかる二人の視線。
それだけで道場がピリピリとした緊張感に包まれる。
「前へ。」
辻が指示を出すと一歩コートの中に入り互いに礼をする吉澤と藤本。
大きく三歩出ると竹刀を抜き蹲踞の構えを取る。
「はじめっ。」
辻の声に二人は素早く反応し立ち上がる。
吉澤は直ぐに上段の構えを取り藤本は吉澤の左拳に剣先を合わせた。
田中も実際の体より上段の構えを取ると大きく見えたが
吉澤は元々長身のためさらに大きく見える。
亀井は祈るように両手を合わせ見守る。
お互い、手の内を知っている二人ん駆け引きは慎重になる。
瞬きも出来ないほどの緊張感を持って吉澤と藤本は距離を取り合う。
道重のためにも自分のためにも負けることの出来ない藤本。
ここで自分が勝てばゼロから4人でやり直せると思った。
だから、石川や後藤のためにも負けられない。
状況的には自分のが有利なはずだ。
藤本は絶対に勝てると自分に言い聞かした。
- 88 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:54
- 吉澤は距離を詰めると先に仕掛けた。
藤本の竹刀を表から打ち落とし面を打つが直ぐに藤本が竹刀の腹を使って避けた。
鍔迫り合いの体制になった二人は至近距離で視線を交わす。
お互いの息遣いが聞こえてくる、全く動いていないのに二人の息は乱れていた。
それほど、お互いに気を張っている証拠だ。
身長の高い吉澤は藤本を押さえ込むように鍔を重ねさらに
その力を藤本に利用されないように注意を払った。
鍔迫り合いからの技は自分よりも藤本の方が上手い。
吉澤はここで勝負しても自分が不利だと判断した。
足を左に捌き竹刀で藤本の竹刀を抑えながら距離をとると
直ぐに上段の構えを取った。
勝たなくてはいけない。
亀井が信じて自分を見てる。
幼馴染の四角形を壊すのは自分の役目だ。
折角、壊すきっかけができたんだ、それを無駄にしてはいけない。
子供のままで居ていいはずがないんだ。
いつか、四角形のなかで4人の気持ちが爆発して壊れてしまう前に
自らそれを壊すべきだ。
それが、4人にとって一番いい方法なのだ。だから、絶対に負けられない。
自分たちと同じように三角形を壊そうとしている亀井たちのためにも。
それが壊れたら、きっと藤本も堂々と先輩とのことを言えるはずだ。
誰に気を使うこともなく堂々と。だから絶対に負けられない。
吉澤は藤本の目を見ながら息使いを観察しながら気持ちを落ち着かせた。
- 89 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:55
- 吉澤は構えの位置を変えながら藤本の剣先を左手から外そうとする。
だが、藤本も瞬時に剣先を着けてくる。
藤本の剣先を外すことに意識を取られすぎて藤本の動きに少し遅れた吉澤は慌てて構えを下げるが藤本は既に吉澤の左の胴を打ち抜いていた。
逆胴を綺麗に決められた吉澤は残心を取る藤本に竹刀をあわせると頭を下げた。
「胴ありっ。」
あまりの速さに驚いた辻は慌てて判定を下す。
道重は拍手をし笑顔を見せるが亀井は両手を組み不安げだ。
「絶対、勝つもん。」
亀井は小さな声で呟いた。
藤本は開始線に戻りながら深呼吸をした。
もう少し吉澤の反応が早かったら逆に面を打ち抜かれていたはずだ。
だが、これで精神面でも自分のが有利になった。
そう思いながら見た面鐘の隙間から見える吉澤の目から焦りは見えず
逆に自分よりも落ち着いている気がした。
「2本目っ。」
吉澤は上段の構えを取らなかった。
中段の構えのまま藤本を攻める吉澤。
藤本は驚いた。吉澤の中段の時の得意技はなんだっただろうか。
上段が当たり前すぎて思い出せない。
吉澤は落ち着いていた。手の内をお互いに知りすぎていては勝負にならい。
いや、自分が不利だ。
大学に入って中段の練習もやっていた、上段同士で勝負することが多くなったからだ。
それを藤本は知らないだろう。そう思い、中段の構えを取った。
これで、同等のはずだ。
吉澤は戸惑いを見せる藤本に容赦なく攻めた。
吉澤の方が手足が長く、跳躍力がある分、遠い間合いで勝負が出来る。
一足一刀の間合いに入ると吉澤は直ぐに中心を取った。
吉澤から剣先の中心を取り替えそうとする藤本の竹刀を吉澤は起用に返しながら中心を維持するその間に竹刀を弾いたり、払ったり、足を使って攻めて藤本の隙を作る吉澤。
- 90 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:56
- 藤本が間合いを取ろうと後ろに下がった瞬間を吉澤は見逃さなかった。
一歩目はフェイントで竹刀を弾くように小手を打つ、藤本は慌てて小手を避けるが直ぐにフェイントだと気が付き一気に後ろに下がり吉澤が届かないところまで距離をとった。
吉澤の2歩目は藤本の面に当たることなく面鐘の手前で止まった。
やっぱり、藤本の方が動きは速いなと思いながら吉澤は技を止めなかった
距離をとることに精一杯の藤本への連続技。
3歩目も面を打つが竹刀で弾かれる4歩目はフェイントをかけて剣先を少し下げる。
藤本は下がりながら打ってくる吉澤の竹刀を避けながら仕掛ける準備をしていた。
4歩目の吉澤のフェイントが面にくる思った藤本は出端面を狙い前に出た。
吉澤は面に来た藤本の手元が上がる瞬間に小手を打っていた。
「小手あり。」
辻の声が響いた。
今の技は藤本の得意技だった。相手を攻めて、隙を与えて逆に自分が拾って決める。
吉澤は藤本の技をやって見せた。藤本は焦った。
吉澤の手の内が分からない。どう反応するか試す余裕もなかった。
攻めることが出来なければ負ける。今は一度も攻めることが出来ずに吉澤に遊ばれた形だ。
そんな藤本とは逆に吉澤は落ち着いていた。
気持ちで藤本よりも数段上にいる。藤本の目を見たときに吉澤はそう感じた。
焦っている藤本が自分に勝つことはないだろう。
全てが自分の味方をしている気がした。
「勝負っ。」
これで最後だ、これを取った方が勝ちだ。
吉澤は藤本の竹刀を上から押さえるように中心を取った。
焦っている藤本は中心すら取ることを忘れているようだった。
中心を取らずに焦って面を打ってくる藤本の竹刀を簡単に吉澤は避けた。
鍔迫り合いになった二人は再び至近距離で視線を交わす。
- 91 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:57
- 「亀井がそんなに好き?」
緊迫のなか藤本が吉澤の鍔を抑えながらそう口にした。
勝負中に話しかけてくる藤本に吉澤が少し驚いたが直ぐに鍔の位置を変え藤本の竹刀を固定した。
「好きだよ。」
吉澤は心の中で「2番目にだけど。」と呟いた。
「美貴たちと居るよりいいんだ。」
藤本は鍔を押さえつけられたまま話をする。
この体制なら吉澤が打てば決まってしまうだろう。
だが、吉澤は撃たなかった放棄している相手に打っても面白くはない。
「うちら、大人にならないと。」
吉澤はそういうと全身を使って藤本を押した。
飛ばされるように後ろに下がる藤本。
吉澤が気合をかけ、間合いを詰めた。
さぁかかって来い。吉澤は藤本を煽った。
自分を亀井から取り返したいと少しでも思うなら諦めずに攻めて来い。
吉澤はそんな気持ちで攻める。
だが、藤本にそんな気力はもう、なかった。
亀井が好きだというその言葉は藤本から気力を奪うには十分だった。
吉澤の気持ちが変わってしまったのなら、もう自分に縛り付ける権利はない。
攻めてくる気のない藤本の姿に吉澤は悲しさで一杯だった。
この四角形を壊して大人にならなければならないと思う反面、
藤本に自分を好きであってほしい、亀井に妬きもちを妬いて欲しいと思うズルイ気持ち。
簡単に負けようとする藤本の気持ちはもう自分にはなく先輩に向いているんだろう。
「大人にならないと。」と言った言葉に同意したのかも知れない。
吉澤は大きく振りかぶると思い切り藤本の竹刀を叩き落しそのまま面を打った。
藤本の竹刀は床に転がり吉澤は藤本の横を通り抜けて行った。
- 92 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:58
- 「面あり。」
藤本は床に転がる竹刀を拾うと開始線に戻った。
気持ちの良い勝ち方ではなかった吉澤に嬉しさはこれっぽっちもない。
藤本に向かい合い藤本を見るが藤本の視線は吉澤には向けられていなかった。
「勝負あり。」
辻は簡単に負けてしまった藤本を目で追っていた。
藤本と吉澤の試合を目の前で見れることに大喜びだった辻。
最後の面は明らかに戦う気がない負け方だ。辻はなんだかムカついていた。
勝ちたいために勝負をしなかった部員を起こった癖に藤本も同じことをしているではないかと、矛盾を感じた。
道重は残念そうに藤本を目で追っていた。自分よりも藤本の方ががっかりしているようにも見え、責めることは出来なかった。
隣でほっとしている亀井の表情は切なさで一杯だった。
吉澤と藤本が並んで面を外す。
亀井と道重が麦茶の入ったコップを持って横に来た。
二人はコップを受け取ると飲み干した。
「これで、うちと絵里は認めてもらえるかな。」
道重に笑みを向けて言う吉澤。
道重は目を伏せて頷いた。約束は約束だ仕方ないといった表情の道重。
亀井は道重の頭を撫でた。幼馴染は変わらない寂しくないよと気持ちを込めて。
「二人とも、部活に戻りな。他の子も練習始めて。」
藤本が部員たちに指示をだす。
亀井と道重は直ぐに二人のもとを離れた。
- 93 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 19:59
- 「よっちゃん、外の空気吸わない?」
「ん。タバコも。」
吉澤はタバコを取ってくると更衣室に入っていった。
藤本は先に道場を出て外の空気を思い切り吸った。
「大人になろうよ。」という吉澤の言葉が頭のなかで木霊する。
吉澤の言う大人とはなんだろうか藤本には分からなかった。
亀井と付き合うことと何が関係あるのだろうか。
亀井を好きになったことが吉澤にとって大人になることなのだろうか。
色々と考えてみるが全く分からなかった。
「おぉ。気持ちいいねぇ。」
やってきた、吉澤がスーっと息を吸ってはいた。
「美貴、最後やるきなかったでしょ。」
「気持ちで負けたら負けだから。」
「失礼な奴だな。」
吉澤は呆れたように言った。
「申し訳ない。」
礼儀に反することをしたと思った藤本は素直に謝った。
「亀井のことホントに好きなんだ。」
「うん。可愛いでしょ。だから美貴も先輩と仲良くやんなよ。」
「はは。」
やはり勘違いしていたのかと藤本はため息交じりに笑った。
「美貴、先輩となんでもないよ。」
「うそ。」
驚いた吉澤。だが、鮮明に思い出される車の中の二人は恋人同士に見えた。
「あいつが勝手にしようとしたの。まぁ引っ叩いたからされなかったけどね。」
「そう、なんだ。」
「うん。」
吉澤は自分の勘違いに苦笑した。
だが、それもいいタイミングで自分たちのきっかけになったのだと思う。
いつまでも、気持ちを溜め込んでいたら苦しいだけだ。
- 94 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 20:00
- 「美貴も早くいい奴みつけないとな。」
吉澤の言葉に藤本は驚いた。
自惚れすぎていたのだろうか吉澤は自分が好きなはずだと。
「絵里と居るとね。楽なんだ。気持ち抑えなくていいし。受け止めてくれるし。」
吉澤は優しい目で藤本を見た。
「絵里の気持ちにも応えられるし、お互い必要としてる。」
「そう、なんだ。」
「うん。いつまでも幼馴染の中には居られないじゃん。子供の頃みたいに4人で同じ道を進めないし。そろそろ、大人にならないと。」
「ごっちんは認めてなかったよ亀井のこと。」
「そうだね。でも分かってくれるよ。うちはごっちんの側にずっと入れないし。」
「そうだけど。」
「梨華ちゃんなら分かってくれるかも。仕事をしてる梨華ちゃんは凄い大人だったから。」
学生と仕事を両方をしていた後藤はずっとあの頃と同じままで居られると思っているのかもしれない。石川は学生から社会人になった環境が変わったのだからまた、少し考え方が違ってきたかもしれない勤務中の石川は幼馴染ではなく看護士だったから。
藤本はそんな風に分析しながら吉澤の言葉を聞いていた。
「って、偉そうに言ってるけどホントは違うんだ。」
吉澤は笑って見せた。
「何が?」
「疲れた。気持ち抑えて幼馴染続けるの。やっぱり側にいたらどんどん好きになるよ。」
悲しそうに笑う吉澤。藤本は必死に涙を堪えた。
自惚れではなかったのだという安心感と間違えた選択をしたという後悔が藤本を襲う。
「絵里は全部しってるんだ。うちは絵里が2番目に好き。でも恋人は絵里。」
「なにそれ・・・。」
「お互いを思いやり、癒し、慰めあう関係、かな?」
すっきりした吉澤の顔を見るのは何年ぶりだろうと藤本は思う。
「1番好きな人じゃ、ない、のに?」
「諦めも肝心だよ。早く抜け出さないと辛くなるだけだって分かったから。」
藤本はそれ以上何も聞くことも言うこともできなかった。
吉澤の言葉はその通りだったから、幼馴染で居ることを望んだのは自分たちだ
吉澤が恋人をつくる作らないは別の話だ。
「じゃぁうち、圭ちゃんとことに顔出してくるから、着替えるね。」
- 95 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 20:01
- 吉澤が道場に入ると亀井が走ってきた。
短いスカートを気にせずに。
吉澤は笑いながらスカートを指差した。
「走ると見えるから気をつけなよ。」
「短すぎるんですよっ。」
「確かに、よくこんなの穿いてたなぁ。」
「お話し終わったんですか?」
「うん。」
大丈夫?という顔で見る亀井に吉澤は笑顔を向けた。
「着替えて、圭ちゃんとこ行こうと思って。」
「お手伝いします。」
更衣室に入ると吉澤が脱いだ胴着を畳んで洗濯する籠にいれる亀井。
「袴畳めるの?」
「はい。」
吉澤が脱いだ袴の折り目をそろえて畳む亀井を感心しながら見る吉澤。
「はい、出来ましたぁ。」
綺麗に畳めたのか、満足そうに笑う亀井。
「道重さんとは大丈夫?」
亀井は首をかしげて眉間に皺を寄せた。
「多分、かな。」
「そっか、うち話そうか?」
亀井は首を横に振った。
「さゆのこと誰より知ってるのは絵里だから。」
「そっか、そうだね。」
「でもぉ。」
「ん?」
「辛いときは助けてくださいね。」
「もちろん。直ぐに飛んでくよ。」
嬉しそうに笑う亀井。
先ほどの複雑そうな藤本の横顔が浮かんでいたが亀井の笑顔に救われる。
苦しいのは自分だけではない亀井も同じなのだと。
「部活、終わったらLOSE行きませんか?」
「ん。いいよ。」
「れいな居るかな?」
「今日は多分7時までだから。ギリギリかな。」
「早く知らせたいんですよ、吉澤さんとのこと。」
「ん。バイク飛ばせば間に合うよ。6時まででしょ。」
良かったと笑顔を見せる亀井。
吉澤はこれから、1番好きな人に自分とのことを話しに行く亀井を出来るだけ支えてやろうと思った。
「じゃぁ終わる頃にまた来るね。」
吉澤はそう言って更衣室を出ると稽古を見てる藤本に手を上げてから道場を出て職員室に向かった。
- 96 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 20:02
- 吉澤が出て行くのを見た辻は面をつけたまま走りだした。
藤本が止めるが辻は聞かずに吉澤を追いかける。
「よしざわさーん。」
階段を上ろうとしたところで名前を呼ばれて振り返ると
面を被った小さい子供が凄い速さで駆けてくる。
吉澤は身の危険を感じて身構えた。
案の定、止まりきれずに吉澤にぶつかる辻。
防具をつけている辻にぶつかられた吉澤はたまったものじゃない。
「いてぇ・・・。」
「ごめんなさい。」
慌てて吉澤から離れて謝る辻。
「辻さんどうしたの?」
吉澤はゼッケンを見て尋ねる。
「んと、んと。」
「ん?」
辻は面の中で目をキョロキョロさせながら言葉を探していた。
「さっきの試合は。」
「うん。」
「本物?」
吉澤は「本物。」という言葉の意味を考えた。
「本気でやっていたかってこと?」
頷く辻に吉澤は苦笑した。
「もしかして、うちらの試合に期待とかしてた?」
泣きそうな顔で頷く辻。
「期待を裏切ったね。でも最後の面以外は本気だったよ。」
「なんで、本気で試合しないの。死んじゃうよ。」
辻の言葉に吉澤は苦笑した。
自分と同じように考える子が居たことに驚きと嬉しさを覚える。
「刀だったら美貴は死んでたね。」
「ダメだよ。ちゃんとやらないと。」
「そうだね。」
「今度はちゃんとやってね。のん。二人の試合好きだから。」
それだけ言うと「バイバイ。」と手を振って戻っていく辻。
「変わった子、だな。」
吉澤は笑みを浮かべながら職員室に向かった。
- 97 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 20:03
-
*****************************
- 98 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 20:03
- 「失礼します。」と職員室に入った吉澤は保田を見つけると歩み寄った。
「あら、恋愛相談室かしら?」
吉澤に気が付いた保田がそう言うが吉澤は意味が分からず笑った。
「圭ちゃんそんなのやってるの?」
「やってるわよ、色恋にイカレタ高校生相手に、その前に私の方が恋愛したいわよ。」
まったく。という保田がおばさんの用で吉澤は笑う。
「へぇ。圭ちゃん頼られてるんだねぇ。」
「そう、次から次に生徒が増えるから卒業した子の面倒まで見れないわよ。」
「卒業生って誰のこと?」
吉澤は本当に分からないとういう顔で隣の席に座る。
「そこの席の子よ。」
「ん?」
吉澤はデスクを見て藤本の席だと気が付く。
「美貴?美貴、圭ちゃんに恋愛相談とかしてるの?」
「私のおせっかいだけどね。」
「ふーん。」
保田が苦笑しながら吉澤の顔を見る。
吉澤は藤本のデスクを見ながら何を相談したのかと気になっていた。
「おばちゃんおるかー。」
ズカズカと職員室に入ってきた加護は保田の席にやってきた。
「おばちゃんは辞めなさいって。ほら、卒業生に挨拶は。」
「どうもぉ、加護です。偉い、べっぴんさんやな。」
吉澤は加護の態度に苦笑しながら「どうも。」と頭を下げる。
「で、何よ加護は補習じゃないでしょ。」
「んー。音楽室借りたくてな。」
「はいはい。鍵持ってていいよ。終わったら返してね。」
「ありがとぉ。」
加護は鍵を手に取るとスタスタと職員室を出て行った。
「なんか、キャラが凄いね。」
「んー。でもあの子のピアノは凄い綺麗なメロディよぉ。」
「ピアノかぁ。すげぇな。うち出来ないから。」
「人には得意不得意があるわよ。で、今日は部活に来たんじゃないの?」
「ん。今、やってきた。」
「あら、見たかったわ。」
「んー、見てもわかんないでしょ。それに・・・。」
「ん?」
「試合したんだけど、今までで一番最悪な試合だった。」
「藤本と?」
苦笑しながら頷く吉澤。
保田はため息をつきながら吉澤の肩に手を置いた。
- 99 名前:P&Q 投稿日:2006/05/22(月) 20:04
- 「なんかあったら相談来なさいよ。」
「うん。そうだ、田中ちゃんって圭ちゃんのクラスなんだってね。」
「知ってるの?」
「バイト同じだから。」
「それってこないだの藤本との試合と関係ある?」
「オーナーが美貴に勝ったら雇うって言ったから。」
保田はなるどと納得した。
バイトは禁止だがそこは目をつぶろう
だが、田中がなぜバイトをそこまでしたかったのかは疑問に保田は思った。
「田中ちゃんたちもうちらみたいに幼馴染いるんだってね。」
「いるけどあんたたちより大人よ。」
保田は笑顔を向けるが吉澤は顔を引き攣らした。
「うちらなにげに21歳だよ。圭ちゃん。」
「精神年齢の話よ。あんたたちのがずっと低い。」
吉澤は困ったように笑った。
自分たちのが幼いと話をしていて感じていたからだ。
「田中が一番大人かな。」
「絵里は?」
「亀井?知ってるの?絵里って。」
「恋人だから。」
吉澤は笑みを浮かべたが保田の顔から笑みが消えた。
藤本の言っていた、他人というのは亀井のことだと理解した保田
吉澤たちの四角形と亀井たちの三角形が結ばれて五角形と四角形になり
さらに複雑になってしまったのだと保田は思った。
「15よ亀井。」
「うん。」
「騙されてるって知ったら傷つくわ。」
「騙してないよ。ってかそれどういう意味?」
「吉澤は藤本が好きだと思ってたけど私の勘違い?」
吉澤は苦笑いをしながら首を横に振った。
「だったら、亀井が可哀相。あんたたちの巻き添えじゃない。」
「そうじゃないよ。大丈夫。うち絵里のことちゃんと好きだから。」
保田はじっと吉澤の顔を見つめてからため息をついた。
「傷つけたら、怒るからね。」
「大丈夫だと思うよ?」
疑問系にする吉澤に保田は笑いながら頭を叩いた。
- 100 名前:clover 投稿日:2006/05/22(月) 20:46
- 本日の更新以上です
>>81-99 A PENTAGON and A QUADRANGLE
なんだか、レスが増えて驚いてます\(◎o◎)/!
うれしいことです。はい。
狼で話題になっているとレスがありそれでかと納得しましたw
期待を裏切らないようにしなければ(;^。^A アセアセ・・
>>66 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>亀ちゃんがすごくかわいくていいです。
亀井さんかわいいんですよ・・・
これからも宜しくお願いします。
>>67 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>自分リアルでミキティと似たような状況なので切なすぎます。・゚・(ノД`)・゚・。
それは・・・w(0o0)w お察しします。
これからも宜しくお願いします。
>>68 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>みきよし・・・幸せになってくれ(;つД`)
みきよし自分好きなんですけど・・・悲しくしちゃうの癖でw
これからも宜しくお願いします。
>>69 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>亀ちゃんが可愛くて仕方ない自分は少数派なんだろうな…
いや、自分もそうです。亀井さん可愛くて仕方ないんですw
でも、みきよし好きなんです。
これからも宜しくお願いします。
- 101 名前:clover 投稿日:2006/05/22(月) 20:46
- >>70 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>cloverさんの小説を読むようになってから、
>だんだん亀ちゃん押しになってきましたw
ありがとうございます。亀井さん可愛いんですよ。声とかあと・・・
下半身(^。^) ボソッ
>でもみきよしも大好きなんで、続きをハラハラしながら待ってます。
みきよし自分も一番すきなんでw
これからも宜しくお願いします。
>>71 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>いやぁ座布団一枚あげたいと言ったのはタイトルの意味を勝手に納得して感動したからなんですね
>ちょっと遠回しな表現になってしまって申し訳なかったです
あ、そこに気が付いてくれてたんですねwありがとうございます。
これからも宜しくお願いします。まだ、可愛い亀井さん出てきますのでw
>>72>>74 :39です…… 様
レスありがとうございます。
更新お疲れ様です。
>>75様のアドバイスどおりで読めると思うのですが(*^。^*)?
頑張ってみてください。
これからも宜しくお願いします。
>>73 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>昨日あたり狼のみきよ○スレでこのcloverさんの小説
>が話題になってたので今日初めて読みにきました
レスが多い理由が分かりました有り難うございます。
>凄いおもしろい展開で大好きです、これからもがんばってください!
期待を裏切らないように頑張ります。
これからも宜しくお願いします。
>>75 :名無読者さん 様
レスありがとうございます。
>色んなシーンがあるけどどれも設定がきちんとしてて凄いですね
>続き楽しみにしてます
有り難うございます。
期待に応えられるよう頑張ります。これからも宜しくです。
>>76 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>私もおととい>>73さんと一緒でこの小説しりました。
ありがとうございます。
>亀ちゃんも可愛いけどミキティもがんばって欲しいですヽ(゚∀゚)ノ
色々、展開していくので、最後まで宜しくお願いします。
>>77 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>いやいやいやいや!!ホントcloverさんの作品は全部すごいですから!!!
照れますので、調子に乗っちゃうのであまり褒めないで(*^-^*)> ぽりぽり てれるぞ・・
>>>69さんと同じ人がちゃんとここにもいますよぉ
>cloverさんもですよね!?少数派では…ない、はず?
はい、好きです。亀井さん好きです。みきよしが一番好きなんですけどねw
最後までお付き合いください。
>>78 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>ああ…えりりんが可愛すぎる…
>吉亀のやりとりを頭の中で想像してムフフ…グヘヘ…
自分もそうなんです。妄想が・・・☆〜( ^o^)o_彡☆あははっ
これからも宜しくお願いします。
>>79 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>かわいくて切なくて大変です。
>かめきちの気持ち、わかるなぁ…
有り難うございます。
最後までお付き合いください
>>80 :ももんが 様
レスありがとうございます。
>最近吉亀の組み合わせがかなり好きです♪
>前回の「恋の神様」で一気に好きになりました。
うれしいです。
最後まで宜しくお願いします。
- 102 名前:39です!! 投稿日:2006/05/23(火) 00:12
- 作者さんと>>75さんありがとうございました!!!見れました!!!
大量更新お疲れ様です
めちゃめちゃ好きなんで頑張ってください
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 08:16
- 更新お疲れ様です!
みきよし対決ハラハラどきどきしてしまいました(;´Д`)
ミキティがどーでてくるか今後が楽しみです
- 104 名前:ももんが 投稿日:2006/05/23(火) 11:10
- 今後の展開から目が離せません!
6期も85年組もどうなるか楽しみにしてます。
- 105 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:02
- 吉澤が道場に戻ると部員たちが後片付けをしているところだった。
凄いスピードで雑巾がけをしている辻を見て吉澤は笑みを零した。
「吉澤さん。もうちょっと待っててくださいね。」
亀井がやって来て笑みを見せると吉澤も笑顔で頷いた。
「よっちゃん、このあと美貴たちごっちんとこいくんだけど。」
着替えてきた藤本が吉澤の横に来て言う。
亀井は何も言わず吉澤を見つめた。
「うち、これから絵里とLOSEに用があるんだ。」
「そっか。夕飯は?」
吉澤は亀井を見た。
「絵里と済ますから。」
藤本は「分かった。」と寂しそうに頷いて去っていった。
「ちょっと、寂しそうでしたね。」
去っていく藤本の背中を見ながら亀井が小さな声で呟いた。
「ん。ってか、道重さんが睨んでるけど大丈夫か?」
片付けを終えた道重が吉澤を睨むように見ていた。
「ありゃりゃ・・・さっき、吉澤さんと帰るからって言ったから。」
亀井は困ったように笑みを浮かべて道重を見た。
「そっか、いつも一緒に帰ってたんでしょ?」
「はい。」
「怒るよね。うん。分かる、分かる。」
「ちょっと行ってきますね。」
亀井はパタパタとスカートをはためかせて道重のもとに駆け寄った。
- 106 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:02
- 吉澤が道場に戻ると部員たちが後片付けをしているところだった。
凄いスピードで雑巾がけをしている辻を見て吉澤は笑みを零した。
「吉澤さん。もうちょっと待っててくださいね。」
亀井がやって来て笑みを見せると吉澤も笑顔で頷いた。
「よっちゃん、このあと美貴たちごっちんとこいくんだけど。」
着替えてきた藤本が吉澤の横に来て言う。
亀井は何も言わず吉澤を見つめた。
「うち、これから絵里とLOSEに用があるんだ。」
「そっか。夕飯は?」
吉澤は亀井を見た。
「絵里と済ますから。」
藤本は「分かった。」と寂しそうに頷いて去っていった。
「ちょっと、寂しそうでしたね。」
去っていく藤本の背中を見ながら亀井が小さな声で呟いた。
「ん。ってか、道重さんが睨んでるけど大丈夫か?」
片付けを終えた道重が吉澤を睨むように見ていた。
「ありゃりゃ・・・さっき、吉澤さんと帰るからって言ったから。」
亀井は困ったように笑みを浮かべて道重を見た。
「そっか、いつも一緒に帰ってたんでしょ?」
「はい。」
「怒るよね。うん。分かる、分かる。」
「ちょっと行ってきますね。」
亀井はパタパタとスカートをはためかせて道重のもとに駆け寄った。
- 107 名前:clover 投稿日:2006/05/23(火) 13:03
- 「さゆ、吉澤さんのこと睨まないの。」
「だって、絵里のこと取ったんだもん。」
泣きそうな顔で亀井をみる道重に亀井は困ったなと頭をかいた。
「吉澤さんは絵里の大切な人なんだよ。」
「嫌だ。」
「嫌だじゃないって。もぉ。」
「だって、嫌だもん。」
「さゆっ。」
駄々を捏ねる道重に少し大きめの声で怒る亀井。
一瞬、道重の体がびくついた。
「絵里には吉澤さんが必要なの。でもね、さゆともれいなも必要なんだよ。大切な幼馴染だから。だから分かってよ。」
「んー。」
納得いかない道重の頭を撫でると亀井は吉澤のもとに駆け寄った。
「行きましょっ。」
「大丈夫?」
悲しそうに笑みを見せる亀井の頭を吉澤は撫でた。
道重に嫌われるのは覚悟していた。自分は幼馴染の中に入ってきた異物だから。
亀井をバイクの後ろに乗せると吉澤はバイクを走らせた。
その様子を藤本は複雑な顔で見ていた。
- 108 名前:clover 投稿日:2006/05/23(火) 13:04
- 「なんで、負けちゃったんですか。」
同じように二人を見ていた道重が藤本の隣にやってくる。
藤本は「ごめん。」と苦笑いを見せた。
「道重は亀井が好きなの?」
「はい。だから、負けて欲しくなかった。」
「よっちゃんも好きだって亀井のこと。」
「さゆみのが好きだもん。」
藤本は苦笑すると道重の頭を撫でた。
「れいななら吉澤さんに勝てるかな。」
藤本はさらに苦笑した。
「なんで、試合させて別れさせようとするわけ?」
「だって、勝負ならはっきりするじゃないですか。」
「だけど、道重がするんじゃないじゃん。」
「だって、さゆみ剣道できないもん。」
「なんで、剣道で勝負って決まってるわけ?」
「だって、吉澤さんって剣道っていうイメージだから。」
「意味が分かんない。」
田中になんてお願いしようか考えている道重を藤本は首をかしげて道重を見た。
- 109 名前:clover 投稿日:2006/05/23(火) 13:04
-
*****************************
- 110 名前:clover 投稿日:2006/05/23(火) 13:05
- LOSEでは田中に中澤がモカの作り方を教えていた。
カランカランと扉が開き中に入ってくる亀井、その後ろから吉澤も顔を見せる。
「なんや、また休みの日まできたんか?」
吉澤の顔を見て呆れる中澤。
「絵里も暇っちゃね。」
カウンターに座った亀井に呆れ顔で言う田中。
亀井は頬を膨らました。
「暇じゃないもんね。吉澤さん。」
隣に座った吉澤に笑みを向ける亀井。
「なんね、気持ち悪い。吉澤さん相手しなくていいですよ。」
「ひどぉ。」
亀井はまた頬を膨らまして田中を見た。
吉澤は亀井の横顔を見ながら亀井が無理して茶化しているように見えた。
吉澤は亀井を心配そうに見つめる。
「絵里、気持ち悪くないですよね。吉澤さん。」
「うん。可愛いよ。」
優しく笑みを向ける吉澤と嬉しそうに笑う亀井。
田中は顔を引き攣らせた。
「吉澤さん、無理して付き合わないで良いですって。」
「無理してないよ。本当に可愛いんだって絵里は。」
「絵里?」
苗字で呼ばない吉澤に驚く田中。
吉澤は「絵里。」と呼んで亀井に話すきっかけを与えた。
- 111 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:06
- 「吉澤さんは絵里の恋人なの。」
田中の反応を見逃さないようにじっと見つめて言う亀井。
田中は驚き吉澤と亀井の顔を交互に見た。
その様子をカウンターの横で無表情に中澤が見ていた。
「おぉっ、なん、いつそうなったん。おめでとぉ。」
田中は嬉しそうに言った。
きっとこれが正しい反応だろうと吉澤は思った。
亀井の横顔が寂しそうなことに気が付いた吉澤は直ぐに亀井の腰に手を添えた。
「ありがと。」
亀井は吉澤の手から伝わる温もりが、背中を押してくれている気がして笑顔を見せた。
「吉澤さん絵里のこと宜しくお願いしますね。絵里甘えん坊だから。」
ニヤニヤしながら吉澤に言う田中。
吉澤は「知ってる。」と笑顔で亀井を見た。
「もう、れなたちに甘えんで吉澤さんに甘えるとよ。」
「分かってるもん。」
吉澤は田中が凄い大人に見えた。
藤本や後藤が保田の言うように子供に思えた。
きっと自分もそうだろうと吉澤は心の中で笑った。
「ってか、絵里、そのスカート短すぎっちゃ。」
「パンツ見える。」と苦笑する田中
「それ、よっちゃんのやろ。」
中澤がそう言うと吉澤が笑って頷いた。
「えぇそんな短いのはいとったと?意外っちゃ。」
方言で言う田中に吉澤が笑った。
「意外ってなんだよ。」
「見えんと、想像できんもん。」
「うちも女子高生だったっての。」
「藤本はもっと短いのはいとったな。」
中澤の言葉に田中と亀井は驚いた。
「まぁ、そんな頃もあったってことだよ。」
「はい、これれなのおごり。」
田中は中澤にならって作ったモカを二人に出した。
「奢ってくれるのぉ?」
「絵里に恋人できたお祝いっちゃ。」
笑顔を見せる田中に亀井はぎこちなく笑った。
- 112 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:06
-
*****************************
- 113 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:07
- 石川は勤務を終え更衣室で着替えていた。
これから後藤の病室に藤本もくる。
話し合うといっても解決策は見つからないだろうと石川はため息をついた。
後藤の怒りの矛先は明らかに亀井に向けられていた。
自分も二人の姿をみたらそうなるのだろうか。
吉澤に自分たち以外の子が近づくのが嫌で見張るようなことをしていた
最近では田中というバイトが入ったが亀井という存在は把握していなかった。
田中が紹介でもしたのだろうか。
それにしても、この短い期間で親しくなるのならそれだけお互い惹かれあったのだろう。
だとしたら、本当ならば祝福しなければいけないのかもしれない。
もしも、その相手が亀井ではなく藤本や後藤だったら祝福なんて出来なかっただろう。
同じように一緒に過ごしてきて同じような気持ちを抱いた3人から、誰か1人だけが吉澤の特別になるのは嫌だった。
「よっちゃんが選んだんだもんなぁ。」
藤本はどう考えているだろうか。
着替え終わった石川は後藤の病室に向かった。
「美貴ちゃん。」
エレベータから丁度出てきた藤本に石川は駆け寄った。
「お疲れ。」
「美貴ちゃんも亀井さん見たの?」
「見たっていうか圭ちゃんの生徒だもん。」
無表情に言う藤本に石川は戸惑った。
「ごちんからなんて言われてきたの?」
「ただ、来てって。」
「そっか。」
二人で後藤の病室に入っていくと後藤は眠っていた。
「呼んどいて寝てるのかよぉ。」
不満げな藤本と苦笑する石川。
「疲れてるんだって。体力も落ちてるし。」
「入院長引きそうなの?」
「んー。あと3、4日は必要かな。だいぶ良いよ。」
「そっか。」
眠る後藤の横で会話する二人。
- 114 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:07
- 「ごっちんは別れさせたいみたいなこと言ってたけど。美貴ちゃんはどう思う?」
「美貴たちがどうこうすることじゃないと思う。」
藤本は無表情のままだった。
「美貴さっき、よっちゃんと試合したんだ。」
「え?」
「生徒たちの前で試合見せたの。」
「そっか。」
それがどうしたのかと石川は首を傾げた。
話し声で後藤が目を覚ましたが二人の会話にそのまま耳を傾けた。
「マネージャーにね亀井を好きな子が居てさ。」
「うん。」
藤本は苦笑した。
「美貴が勝ったら別れてって。」
「美貴ちゃん、負けたんだ。」
頷く藤本の顔は悲しそうだった。
ただ、石川は負けて悲しいのではないのだろうと思った。
「よっちゃん、亀井が好きだって。」
「そう。」
「うん、よっちゃんは美貴たちの幼馴染に代わりはないってこと。ただ、恋人が出来ただけ。それって美貴たちが望んだことじゃん。」
「そうだね。」
「受け入れるしかないんじゃない。」
「うん。私もそう思う。」
後藤は急に体を起こした。
「後藤は嫌。」
「起きてたんだ。」
藤本は無表情に後藤に視線を向ける。
- 115 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:08
- 「後藤は絶対に嫌だ。よしこは後藤たちのものだもん。」
「よっちゃんはモノじゃないでしょ気持ちだってあるし。」
石川が困ったように後藤に言うが後藤は不貞腐れた。
「さっきも言ったけど美貴たち幼馴染でいること選んだし仕方ないよ。」
「じゃぁ後藤、よしこに告る。」
藤本と石川は後藤をじっと見た。
「振られたら幼馴染でいられなくなるよ。」
石川は「いいの?」と後藤に尋ねる。
「振られるかどうか分からないじゃん。」
「付き合ったとしても別れたあとは幼馴染でいられるか分からない。」
藤本も「それでも告る?」と尋ねた。
「よしこが他の子と付き合うならそれでもいいもん。」
「じゃぁ、そうすれば。ただ、よっちゃんは亀井が好きだって言ってた。」
「後藤たちより?」
藤本は2番目に好きだといった吉澤を思い出し少し戸惑った。
「本気で好きじゃなかったら、よっちゃん美貴に負けてたよ。」
藤本の言葉に後藤は悲しそうに俯いた。
「よっちゃんだって恋愛するよ。私たちが好きってだけで縛り付けるのは無理だもん。」
「梨華ちゃん、大人になったね。昔なら絶対そんなこと言わなかったのに。」
藤本は石川に微笑んで言った。
「まぁね。」
「後藤は・・・やっぱり嫌だ。」
「好きにしなよ。美貴と梨華ちゃんは様子みることにするからさ。」
「うん。もうさ、あの時約束した抜け駆けなしとかやめよう。」
二人の言葉に後藤は無言で二人を見つめる。
「ってことで、そろそろ面会時間終わるし。また明日くるね。」
藤本がそう言って立ち上がると石川も立ち上がった。
「じゃぁね。」と帰っていく二人。
後藤はまだ納得のいかない顔をしていた。
こんなところに寝ていたら何も行動を起こせない。
後藤はさらに苛立った。
- 116 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:08
-
*****************************
- 117 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:09
- LOSEを出た吉澤と亀井は亀井の家に来ていた。
亀井の母親に挨拶をしてから亀井の部屋に入る。
「今日も吉澤さんの家に泊まっても良いですか?」
「いいけど、親大丈夫?」
「大丈夫、放任主義だから。それに吉澤さんのこと気に入ってたし。」
亀井はスカートとタンクトップに着替えると吉澤に借りた制服をハンガーにかけた。
「これ、クリーニングにかけて返しますね。」
「あげるよ。もう着ないしさ。2着あると便利でしょ。」
「じゃぁ遠慮なく。」
「裾はおろしなね。」
「はい。」
亀井はカバンに泊まる道具を詰める。
吉澤はボードに貼られた幼い亀井たちの写真を見ていた。
そこにはいつも三人で真ん中にいる亀井。
「絵里って地黒?」
「ちがーう。れいなとさゆが白過ぎるんです。もぉ。」
頬を膨らまして吉澤の隣にやってくる亀井。
「んー。そうなのか?」
吉澤は自分の肌と亀井の肌を比べる。
「吉澤さんも白すぎるんです。」
「まぁ、梨華ちゃんよりは黒くないか。」
「だから、絵里は黒くないもん。」
「はは、まぁ健康的でいいじゃん。」
「んー。」
「髪ながかったんだ。」
「どっちが好きですか?」
「今のがいいかな。似合ってるよ。」
甘えたように吉澤の腰にしがみつく亀井。
吉澤は笑いながら亀井の頭を撫でた。
さっきから、ハイテンションの亀井。
吉澤は亀井の体を抱きしめた。
- 118 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:09
- 「大丈夫?」
「ちょっと泣きたいかも。」
「いいよ。」
ポロポロと涙を零し始める亀井。
亀井の震える肩を吉澤はしっかりと抱きしめた。
田中があっさりと祝福してくれたことを嬉しく思う反面亀井はショックだった。
自分の気持ちは少しも田中には伝わっていなかった。
それでもいい、幼馴染として側にいられれば、そうすればさゆも側にいられる。
そして、自分と同じような吉澤がこうして自分の痛みを分かり癒してくれる。
亀井は涙を拭いて吉澤に笑顔を向けた。
「ありがと。」
「ん。」
笑みを見せる吉澤。
「夕飯、絵里が頑張ってもいいですか?」
「手伝ってもいいですか?」
「お願いします。」
笑い合う二人は心の中で「これでいい。」と同じことを思っていた。
- 119 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:09
-
*****************************
- 120 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:10
- 道重は寝る仕度をしてから田中の家に来ていた。
キッチンで自分のためにお茶を入れてくれている田中の後ろ姿を眺める。
「バイトどうだった?」
お茶を持ってきた田中は「いい感じっちゃ。」と道重の隣に座る。
こっちに帰ってきてから道重と二人きりになることが初めてだなと思いながら道重を見た。
「なに?」
「用があるけん来たんじゃなかと?」
「そうなの。」
道重はお茶に手を伸ばした。
田中は道重のペースはのんびりしていることを思い出し胡坐をかいて話しを始めるのを待った。
「率直に言うとね。」
「なん?」
「吉澤さんと剣道の試合をして勝って欲しいの?」
「はっ?」
田中は道重の言葉に驚きを示した。
「バカなこと言うんじゃなか、なんで、そんなことしないといけんと?」
「絵里を取り戻すため。」
「なにいうと?恋人同士やけん。なに?取り戻すって。」
田中は意味が分からないと道重に冷たい視線を送った。
「だって、絵里のこと好きなんだもん。」
「れなも好いとぉよ。だから、応援しとぉ吉澤さんと上手く行くように。」
道重は困ったように田中をじっと見た。
- 121 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:10
- 「さゆもいつまでも絵里にくっついとらんと、自立しぃな。」
「絵里が好きなんだもん。」
「だからって・・・。」
「れいなの好きと違うんだもん。絵里のこと愛してるの。」
田中は言葉を出そうとして口を開けたまま固まった。
道重の目には涙が溢れていた。
「そげん・・・どうしよぉ。」
田中はなんと言っていいのか分からず涙を零す道重を見て慌ててティッシュを手に取った。
「泣かんでよ。ね、落ちつこぉ。」
田中は自分にも落ち着けと言いながら道重の涙を拭いた。
「絵里はしっとぉと?さゆの気持ち。」
「多分。」と頷く道重。
田中はだからだと思った。
吉澤を恋人だと紹介したときの亀井の顔が切なそうな顔に見えた。
それはきっと道重の気持ちを知っていたからだろう。
「絵里はさゆに応援して欲しいとおもっとるよ。きっと。」
「嫌。だかられいな試合して。藤本先生負けちゃったんだもん。」
「なんそれ。今日、二人試合したと?」
頷く道重を見て田中は戸惑った。
「藤本先生が勝ったら別れてとか言ったと?」
「うん。でも負けちゃったの。」
ということは吉澤は亀井を賭けて勝負したということだ。
田中は吉澤の気持ちが亀井に対して本気なのだろうと思った。
二人は多分、互角だろう。いやもしかしたら藤本の方が上かもしれない。
こないだ試合をしたとき自分が勝てたのは運がよかっただけだ。
上段になれている藤本。さらに吉澤の手の内は全て知っているだろう。
それなのに吉澤が勝ったということは吉澤の方が気持ちで勝っていたのだ。
田中はそう考えた。
- 122 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 13:11
- 「れなが勝負しても同じっちゃ。れなは勝てん。」
「でも藤本先生より強いじゃん。」
「多分、藤本先生は吉澤さんより強いと。それにれなが勝てたのは偶然っちゃ。もう勝てんと。」
「そんなぁ。」
また、泣き出しそうになる道重の頭を田中は撫でた。
「絵里が好きになった人っちゃ。諦めると。」
「でもぉ。好きなんだよ。」
「他にいい人みつかるとよ。一杯おるっちゃ。色んな人と出会うのも大切やけん。」
道重は納得行かない顔で田中を見た。
「そげん、顔したら可愛い顔が台無しっちゃ。」
「れいなは寂しくないの?もう一緒に遊んだり出来ないんだよ。」
田中は大げさだと苦笑した。
「遊べるっちゃ。ちょっと時間が減るだけっちゃ。」
「そうかな。」
「れなだってバイト始めたけん今までより遊ぶ時間少ないとよ。同じっちゃ。」
田中はこのままではずっと繰り返しになってしまうと思い話題を変えた。
「さゆ、高校卒業してからどうすると?」
「わかんない、絵里に聞かないと。」
田中は苦笑した。
「なんで絵里がでてくると?自分のしたいこととか夢とかあるっちゃろ?」
「お姫様。」
田中は幼稚園の頃と変わってない道重に目を細めたが少し呆れた。
「お姫様の格好すればよかと。他にはないと?」
「可愛いお嫁さん。」
「じゃぁ家政科とかいくと?さゆ成績いいけん、大学いくっちゃろ?」
「うん。絵里と同じところがいい。」
「絵里とやりたいこと同じなん?」
「絵里はそういう話しないから分からない。」
「そっか。」
田中は亀井が将来の話をしないのは道重がくっ付いてきてしまうからだろうと思った。
「れなは大学もなんも行く気ないっちゃよ。」
「なんで、一緒に行こうよ。」
「れな、勉強嫌いやけん、今の高校もギリギリではいれたとよ。」
「補習だもんね。」
「うるさか。」
やっと笑った道重にほっとする田中。
「れなは自分の道さがしとるっちゃ。さゆも自分のしたいこと探さないと将来こまると。」
「ずっと絵里たちといるもん。」
「ずっとは無理っちゃ。なんでも一緒は子供のころだけやけん。大人になったらみんな別々っちゃ。その時になって困るのさゆっちゃよ。」
「れいなは意地悪なことばっかり言う。」
「意地悪じゃなか、心配しとると。大切な幼馴染やけん。」
田中が優しい笑みを見せると道重もなんだか分かったように頷いた。
「高校までは一緒やけん、絵里もれなもおるっちゃ。ゆっくり自分みつけたらよかよ。」
分かったという風に頷く道重に田中は安堵のため息をついた。
- 123 名前:clover 投稿日:2006/05/23(火) 13:18
- 本日の更新以上・・・です。
>>106-122 A PENTAGON and A QUADRANGLE
>>105 二重カキコになってしましましたorzすみません。
しかも、名前も・・・orz
出かける前に更新しとこうと思ったらこんな結果に・・・
>>102 :39です!! 様
レス有り難うございます。
>作者さんと>>75さんありがとうございました!!!見れました!!!
よかったですw
>めちゃめちゃ好きなんで頑張ってください
ありがとうございます。がんばりますよw
>>103 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>みきよし対決ハラハラどきどきしてしまいました(;´Д`)
よかったです。有り難うございます。
みきよしの絡みが少なくなってきてるけど(苦笑)
もう少ししたらでてくるはずwお待ちください。
>>104 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
>今後の展開から目が離せません!
有り難うございます。頑張りますのでよろしくです。
>6期も85年組もどうなるか楽しみにしてます。
色々、考えているので楽しみに待っててくださいw
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 14:28
- 悲しい偶然のときに発見してずっと見てます。
もぅファンです!!w
自分はごま押しなんですが、このお話ばっかりは誰を応援したらよいのやら分かりません。
毎日の楽しみにしてるんで
頑張って下さいね♪
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 15:34
- 更新お疲れ様です!
マジですかみきよし期待しちゃいますよ
いつまでもまってます
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 18:06
- 複雑な中にあって亀吉の関係が穏やかで好きです
- 127 名前:オレンヂ 投稿日:2006/05/23(火) 18:09
- あぁぁ〜寝ても覚めてもこの話の続きが気になってしょうがありません!
更新が多くて早いので読んでてすごくおもしろいです。
cloverさんの作品を読んでから亀ちゃんがかわいく見えてきて
コンサでよっちゃんと絡んでると小説がフラッシュバックしてました。
今後の展開もワクワクしながら待たせていただきます♪
- 128 名前:ももんが 投稿日:2006/05/23(火) 21:34
- れいなは大人ですね。
今回の話でれいな急上昇です(笑)
- 129 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 22:58
-
ハンバーグを作ろうとなった吉澤と亀井はスーパーによって材料を買うと家に戻った。
二人並んで挽き肉を捏ねてそれぞれの形を作る。
オーソドックなハンバーグの形を作る吉澤の横で亀井がハート型を楽しそうに作っていた。
「見て見て、ハート。」
嬉しそうに見せてくる亀井に吉澤は子供だなと思いながら笑みを返す。
「それ、割れたら嫌だね。」
「割れないもん。」
「ひっくり返すときとか割れそう。」
「大丈夫だもん。」
フライパンに乗せたハンバーグを見て言い合う二人。
会話を楽しむ二人は藤本と石川がリビングに入ってきたことに気が付かなかった。
楽しそうに料理をしている二人を見た藤本と石川は声をかけずにソファに座って様子を見ていた。
「絵里がひっくり返していい?」
「いいよ。割るなよ。」
「割らないもん。」
慎重にハンバーグをひっくり返す亀井。
「おっ、上手くいったじゃん。すげぇ。」
「ほらぁ。大丈夫って言ったじゃん。」
「ん。よかったよかった。」
「こっちもひっくり返していい?」
「いいよ。」
吉澤が作ったハンバーグをひっくり返す亀井。
「えへへ。絵里うまくない?凄いよ。」
「あはは、凄い凄い。上手いよ。」
「あぁなんかバカにしてませんか?」
頬を膨らます亀井に慌てて首を横に振る吉澤。
その仕草が人形みたいで亀井はぷっと吹き出した。
「ほらほら、こげちゃう。」
吉澤の声に亀井は慌てて焼きあがったハンバーグを皿に移した。
「よしっ。完成。」
- 130 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 22:59
- それぞれのハンバーグをさらに乗せテーブルに置こうとしたとき吉澤と亀井は自分たちを見ている藤本と石川に気が付いた。
「あれ、帰ってたの?」
驚いたように尋ねる吉澤。
「結構、前にね。ってか外で済ませてくるんじゃなかったっけ?」
藤本は歩み寄りハンバーグを覗き込みながらそう尋ねた。
「うん。なんか一緒に作ろうってなって、美貴たちは済ませたの?」
「まだ。」
亀井は済ませてくると吉澤が言ったのになぜ二人は吉澤の家に帰ってくるのだろうと不思議に思いながら藤本と石川に視線を送った。
「あっ、お二人の分もありますから、直ぐ焼きますね。」
亀井はそういうと直ぐにハンバーグの形を作りフライパンに乗せた。
「ありがと。」
藤本はそういうとコーヒーメーカーを準備しコーヒーを入れる。
ボコっボコっと音を立てながら黒い液体が落ち始める様子を藤本は黙って見ていた。
「あのぉ、初めましてですよね。」
石川は邪魔してごめんなさいというように恐る恐るテーブルに近づいた。
亀井は慌てて振り返ると石川に頭を下げる。
「初めまして、吉澤さんとお付き合いさせてもらってる亀井です。」
「あ、うん。聞いてるよぉ。ごめんね。お邪魔しちゃって。」
吉澤は亀井の手からフライ返しを取るとフライパンに向かった。
「いえいえ、多めに買ったし大丈夫ですから。」
亀井はそれ以上何を話していいのか分からず吉澤の隣に並んでハンバーグを見た。
「絵里ひっくり返す?」
「ううん、吉澤さんやって。」
「ん。」
吉澤は器用に二つのハンバーグをひっくり返しハンバーグが焼けると皿に移した。
「はい。できたよぉ。」
- 131 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:00
- 藤本は後藤の席に座っていた。石川はその隣に座り当たり前のように藤本の席に座る亀井に視線を向けた。
吉澤はそれが当たり前のように隣に座る亀井に笑みを向けていた。
自然すぎる二人になんだか居心地が悪いように感じる石川はなんだが後藤の気持ちも分かるような気がした。
本当に吉澤が取られてしまったような気がする。自分がそう感じるということは自分の低位置を取られた藤本はもっとそう感じているのではないだろうか。
ただ、藤本は以前から自分たちと同じような感情を吉澤に持っていないといっていたから違うかもしれないと石川は藤本の表情を伺った。
出来上がったコーヒーを4つのカップに注ぐとそれぞれの前に置く藤本。
亀井の前にカップを置くと「あっ。」と声を出す亀井に藤本は首をかしげた。
「絵里、ブラックダメだっけ?」
すかさず気遣う吉澤の言葉に亀井が頷くと吉澤はミルクと砂糖を用意してあげた。
「ありがとうございます。」
亀井は藤本に申し訳なさそうに呟いた。
「ごめん、気が付かなくて。」
藤本は残りのカップを吉澤と石川の前に置いた。
「なんか、野菜欲しいね。よっちゃん野菜ないとだめんだもんね。」
テーブルの上にはハンバーグとゴハンしかないのを見て石川がそう言うと立ち上がり冷蔵庫を開ける。
藤本も手を洗いまな板と包丁を用意した。
石川が出した野菜を洗って手際よくサラダを作る藤本。石川は隣でフレンチドレッシングを作り始めた。
「なんか、逆にやってもらっちゃってる・・・。」
亀井が落ち込んだように呟いた。
野菜がないとダメだという石川の言葉に初めて吉澤が野菜が好きだと知ったことも気になった。
「気にするなって、仕方ないよ二人の方が付き合い長いんだもん。」
「そうですけど・・・。」
「これから、一杯話そうって言ったじゃん。」
元気付けるように言う吉澤に亀井も頷いた。
- 132 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:01
- 石川はドレッシングを混ぜながら、言い方が厭らしいなと苦笑した。
きっと後藤もこんな感じだったのだろう。横目で藤本を伺うと無表情にレタスとトマトを切っていた。藤本もあぁは言っていたが今の自分と同じ気持ちなのだと笑みを零した。
皿に盛り付けられた野菜にドレッシングをかけると石川はテーブルの真ん中に置いた。
藤本が取り皿を用意する。
「じゃぁ、頂きます。」
重い空気を感じながら吉澤がそう言いハンバーグに手をつけると藤本と石川も「頂きます。」と言ってからハンバーグに手を伸ばした。
亀井は美味しいといってもらえるか心配そうな顔で藤本と石川を見つめた。
「絵里も食べな、美味しいから。」
吉澤が笑顔で言うと亀井は安心したように頷いてハンバーグを口にした。
無言で進む食事に耐え切れなくなったのは吉澤だった。
「ごっちん、どうだった?いつごろ退院できそう?」
「ちょっと安静必要だから4日くらいかな。」
石川がそう言う。
「そっか、じゃぁ明日お見舞い行こうかな。絵里も行く?」
「はい。昼間なら。午後から部活だから。」
藤本は箸を置くと吉澤を見た。
「亀井は連れて行かないで。」
藤本の言葉に3人が藤本を見た。
石川は藤本の表情から後藤を気遣っているのだろうと思った。
あれだけ、亀井に敵意を見せている後藤だ。
「私もそう思う、ごっちん今ストレスとかよくないからさ、身内っていうか親しい人間だけのがいいと思う。」
石川の言葉に頷く藤本。亀井は俯いた。
「絵里、やっぱり後藤さんに嫌われてますよね。」
悲しそうに呟く亀井の背中を吉澤が撫でた。
「そんなことないって。」
「でも、大丈夫です。絵里頑張るから、いつか認めてもらうから。」
力強い視線を藤本と石川に送る亀井。
吉澤は亀井にありがとうと心の中で呟いた。
「梨華ちゃんは祝福してくれるよね。」
吉澤は石川にそう尋ねた。言葉で認めさせたかったのだ。
藤本にはおめでとうと言葉で言わせた。
後藤はあからさまに認めないという雰囲気を出していたが石川は違うだろう。
だから言葉で認めさせたいと思ったそうすれば亀井の立場は少しは良くなるだろう。
「あぁうん。もちろん。」
ぎこちない笑みで言う石川に吉澤はありがとうと笑顔を向けた。
「美貴もね、おめでとうって言ってくれたんだ。」
笑顔で藤本に視線を送る吉澤だが、藤本は黙ってトマトを頬張った。
「試合、したんだってね。聞いたよ。」
「うん。すげぇ久々だった。」
- 133 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:01
- 「藤本先生。」
「ん?」
藤本はトマトを飲み込むと「なに?」と呟き亀井に視線を向ける。
「あの、さゆが失礼なこと言って済みませんでした。」
「いいよ別に慣れたし。」
慣れたという言葉に吉澤が直ぐに反応した。
「田中ちゃんも勝負挑んだしね。」
その言葉に藤本は驚いたように吉澤を見た。
「なんで、よっちゃんが田中のこと知ってるの?」
「えっ?言わなかったっけ?うちと同じバイトしてるから。」
「バイト?」
「美貴に勝つのが条件で雇うって中澤さんが言ったんだ。」
藤本はそれで亀井と知り合ったのかと納得した。
「美貴ちゃん知らなかったのバイト増えたこと。」
「だって、美貴LOSE最近行ってないし。梨華ちゃん知ってたの。」
「うん、こないだ居たから。」
なぜ、教えてくれなかったのだという表情で吉澤を見る藤本。
その視線に意味に気が付いた吉澤は苦笑した。
「うちの学校、バイト禁止じゃん。今、美貴学校行ってるし。」
「別に美貴、ちくったりしないし。」
「そうだけど、言うこともないかなってそれに田中ちゃんが勝負の理由いってなかったってことはそういうことじゃん。」
「だね。ごめん。」
気まずい雰囲気を察した亀井は慌てて謝った。
「すみません、れいなとさゆが変なことばっかり言うから。」
「なんで亀井さんが謝るのよ。」
石川が不思議そうに言う。
「絵里の幼馴染だから。」
「そう、なんだ。」
石川は自分たちと同じような境遇だと分かり、なんとなく通じる部分が二人を結ばせたのだろうと思った。
- 134 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:02
- 「亀井さんはよっちゃんのどこが好きになったの?」
「えっ?あぁ。」
亀井は突然の石川の質問に驚いたが吉澤の顔を見て微笑んだ。
「優しいし、絵里の気持ちを凄く良くわかってくれるところが。」
「よっちゃんは?」
「絵里と居ると凄い癒される。何も言わなくても分かってくれるしそ言うところが好きかな。」
吉澤は石川を真っ直ぐと見つめていった。
亀井は吉澤の手をテーブルの下でぎゅっと握る。
大切な幼馴染の自分への気持ちを知りながら隣にいる亀井を好きだと伝えることは石川をそして藤本を傷つける言葉だ。亀井は吉澤の胸は今物凄く傷ついて痛いだろうと思った。
実際、悲しそうに笑っている石川を見る吉澤の瞳は石川以上に悲しそう見える。
吉澤の手が亀井の手をぎゅっと握る。
心の中でごめんねと何度も呟く吉澤は自分が上手く笑えているか心配だった。
亀井の優しさがありがたかった。
「そっか。なんかいい感じだね。さっきもさ、二人で料理とかして楽しそうだし。ホント、良かったよ。ねっ、美貴ちゃん。」
早口にそう言って藤本に話をふる石川。藤本は「そうだね。」と石川と同じように悲しげに笑って見せた
「じゃぁ、私たち、そろそろ帰ろうか。」
石川の言葉に頷くと藤本と石川はお皿をシンクに入れて直ぐに帰っていった。
玄関まで見送った吉澤と亀井。吉澤はため息をつくと力なくリビングに戻りソファに倒れこむように座った。
- 135 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:02
- 「大丈夫ですか?」
心配そうに床に座って吉澤を見上げる亀井。
「うん。そうだ、美貴ねあの人さ恋人じゃなかった。」
「へっ?」
「車の中でキスしてたってうちの見間違え。キスされそうになって美貴は引っ叩いてたんだって。」
亀井は複雑な表情をした。
「じゃぁ、絵里と付き合いたくなくなったとか?」
「それはないよ。美貴に恋人が居ないにしてもこのままじゃうちが壊れてたし。あれが合ったから絵里に会えた。付き合いたくなくなったりしないって。」
笑って亀井の頭を撫でる吉澤。亀井はほっとしたように笑みを浮かべた。
「でもなんかやっぱり絵里たちお互いの幼馴染に嫌われますね。」
「田中ちゃんは例外だったけどね。」
「れいなはなんか1人で大人だもん。」
「さっき、よく泣かなかったね。」
「泣きそうでしたけど。吉澤さんのおかげです。」
亀井は嬉しそうに吉澤に抱きついた。
「うちもさっき梨華ちゃんの顔みてたら泣きそうだった。ありがと。」
亀井は吉澤の胸に顔を埋めて首を横に振った。
「絵里、後藤さんに会わないほうがいいですか?」
不安そうに吉澤を見上げる亀井。吉澤は困った顔で笑った。
「明日様子見てくるよ。ストレスが原因で胃潰瘍だから二人の言う通りかもしれないし。」
「分かりました。絵里、お風呂沸かしてきます。」
亀井は微笑むとリビングを出て行った。
吉澤は自分がやるという前に駆け出して行ってしまった亀井の背中を見ながら苦笑した。
どうしてこの家は家主がしないで住むのだろうと。
もし、亀井が藤本たちの様子を見てこのような行動をしているのならばそれは辞めて欲しいと思った。
- 136 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:03
- 「沸いたら、吉澤さん先に入ってください。次に絵里はいらしてもらいますから。」
戻って来た亀井が笑顔でそう告げる。吉澤は頷くと亀井の手を引いてソファに座らした。
「絵里は、お風呂掃除したり夕飯作ったり無理してすることないんだよ。うち出来ないわけじゃないからさ。」
「どうしてですか?嫌でした?」
「嫌じゃないよ。ただ、絵里が美貴たちの様子を見てそうしてるならして欲しくないから。」
亀井は困った顔で首を横に振る。
「そういうのじゃないですよ。だってさっき吉澤さん言ったじゃないですか、藤本先生たちのが付き合い長いから仕方ないって。それは埋められないし追いつかないからだから、絵里がしたいと思ったことしてるだけです。」
「そっか、良かった、絵里が美貴たちの代わりになることはないって思って。」
吉澤が安心したように言うと亀井は笑った。
「絵里は幼馴染じゃなくて恋人だから代わりじゃないですよ。」
吉澤は「そうだね。」と笑った。
交替でお風呂に入り寝る準備をして吉澤の部屋に入る。
亀井はベッドに寝て良いのか、布団を引いたほうが良いのかどちらが良いかベッドを見ながら考えた。
「なに?どうしたの?」
「一緒にねていいのかなって。」
「絵里が嫌じゃなかったら一緒に寝よ。」
嬉しそうに微笑むと早速ベッドに腰掛ける亀井。
「絵里って人にくっ付くの好きなんで。」
亀井は吉澤の手を引っ張って隣に座らせる。
吉澤は苦笑した。
ベタベタするのが好きだと分かったのはいいが、実を言うと吉澤は夕べあまり眠ることが出来なかった。誰かと一緒に寝るのは慣れているほうだと思っていたのだが、亀井があまりにもぴったりと吉澤にくっ付いて来たのだ。
高校生らしからぬ女性的な肉体。その女性の象徴でもある胸が押し付けられ不覚にもドキドキしてしまった吉澤。
無防備だから余計に意識してしまう。
「どうしました?」
そんな吉澤の心境を知らない亀井は不思議そうに吉澤の腕に絡まり下から顔を覗き込む。
吉澤の上には亀井の胸が押し付けられた。
タンクトップの亀井。胸元から覗くブラをしていない胸。
石川や後藤の方が肉体的に色っぽいかもしれないがやはり幼馴染としてしか見ていなかったのだろう、こんな気持ちにはならなかった。藤本の体に触れたいと思ったように亀井の体に触れたいと思ってしまう。
吉澤の視線に気が付いた亀井は顔を赤く指せ胸元を押さえた。
「えへへ、吉澤さんエッチ。」
「ごめん。」
吉澤は視線をそらして俯いた。
- 137 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:04
- 「でも、ちょっと嬉しい。」
「ん?」
「だって、そういう目で見てくれてるってことだから。」
亀井が優しく微笑むと吉澤が照れながら笑った。
「れいなとかじゃ絶対そうやってみてくれないもん。結構悲しいんですよね、魅力ないのかなって。」
「魅力ないことないって。あるよ。」
「ありすぎて困る。」と吉澤は心の中で呟いて笑った。
「藤本先生としたんですよね?」
吉澤は困ったように頷く。
亀井は吉澤の横顔を切なそうに見つめた。
お酒のせいだといわれたといっていた。
それは吉澤にとってそれは悲しい出来事でしかないだろうと亀井は思う。
両思いなのに望まれなかった関係。それは自分と田中よりも辛い関係だろう。
思いを寄せていたが気持ちを伝えられない自分に比べ吉澤たちはお互いの気持ちをなかったものにしようとしていたのだから。
亀井はそっと吉澤の頬に手を沿え唇を重ねた。
田中を好きなことに変わりはない。だが、目の前にいる吉澤を2番目に好きだということも確かなことだ。
「絵里を抱いたら・・・。」
唇を離し話す亀井を吉澤はじっと見つめた。
「抱いたら、藤本先生とのしたこと、少しは軽くなるかな?」
軽くなるかな。という亀井の言葉に吉澤は気持ち的になのか行為をしたという事実なのか良くわからなかった。だが、亀井が自分の体を犠牲にすることは藤本にしたことと同じ様な気がした。
「絵里・・・。」
吉澤は亀井を抱きしめた。
お互い2番目に好きなのだ、出会って間もない二人がその行為に踏み切るにはもっと時間を要するだろうと思っていた。
自分のために身を投げ出そうとする亀井を吉澤は愛しく思う。
「絵里、吉澤さんのために出来ることしたいの。絵里・・・大丈夫だよ。」
吉澤を見上げる亀井。
吉澤はまた困ったように笑みを向ける。
「絵里、ありがとう。でもね、絵里をまた・・・美貴と同じ目に合わすことは出来ないよ。」
亀井は唇を噛んでしばらく吉澤を見つめていた。
- 138 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:04
- 「絵里は、藤本先生と同じじゃないもん。恋人だもん。そういうのするの当たり前でしょ?キスは良くて体で気持ちを伝え合うのはダメなの?おかしいよ。絵里は・・・吉澤さんに抱かれたいよ。だって、れいなにはそうしてもらえないもん。吉澤さんのためだけじゃないんだよ。絵里のためでもあるんだもん。」
亀井は吉澤とのことを告げたときの田中の顔を思い出していた。
本当に心から喜んでいて田中。
亀井は悔しかったのだ。その気持ちが今、分かり亀井は自分に魅力があるといってくれた吉澤に抱かれることで晴らそうとしているのかも知れない。
亀井は自分は何をしているのかと思い吉澤から離れた。
「ごめんなさい。」
吉澤は亀井の横顔をじっと見ていた。
自分のためにも抱かれたいといった亀井の顔が寂しそうに見えた。
今、どうしてそんな顔をするのか吉澤には分からない。
ただ、藤本に気持ちをぶつけて後悔した自分と同じようになってほしくなくて、その気持ちを、ぶつける矛先が自分に向けられているのならそれを喜んで受け止めたいと思った。
「絵里?」
「はい?」
「うちら、抱き合ったら・・・見も心ももっと近づけるかな?」
亀井は吉澤の言葉から溢れる優しさを感じた。
どっちらかのためじゃなくお互いのためにと優しく髪を撫でてくれる吉澤。
亀井は笑みを見せた。
「好き・・・吉澤さん、絵里、好きだよ?」
「うちも好き。」
吉澤は亀井の唇を奪いながらゆっくりとベッドに亀井を押し倒した。
- 139 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:04
-
*****************************
- 140 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:06
- 石川の部屋に連れてこられていた藤本は先ほどから目を閉じて頭痛に耐えていた。
「美貴ちゃんなにしてるの?」
「頭痛が・・・。」
お茶を持ってきた石川に藤本は目を閉じたまま応えた。
石川は慌てて藤本のオデコに手を当てると熱がないか確かめる。
「熱ないね。」
「・・・。」
「んー脈も正常。どうしたんだろう。」
藤本の手を取りながら頭痛の原因を考える石川。
藤本はうっすらと目を開けて石川を見ていた。
「この部屋のせいで頭痛がするんです。看護士さん。」
嫌味っぽく言う藤本だが、石川は意味が分からないという顔をしている。
カーテンも壁もベッドも絨毯もクッションまでもがピンクの石川の部屋。
あまり石川の部屋に来ることがなかった藤本は石川のセンスに寒気を感じた。
「まぁ、いい。我慢できる、と思うから。」
藤本は自信なさ気に石川の部屋を見渡しため息をついた。
「そう、でも痛くなったら言ってね。痛み止めあるから。」
「うん・・・。」
心配そうに言う石川に藤本はため息をついた。
「亀井さん、いい子なんだね。」
「そうだね。」
「あそこまで仲良くされるとやっぱり意地悪しちゃう。っていうかしちゃった。」
「うん。」
藤本は二人の姿を思い出す。
お似合いといったらお似合いの二人だった。
- 141 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:06
- 「美貴ちゃんは本当によっちゃんに恋愛感情なかった?」
「まだ言ってるの?」
「だって、好きじゃなかたらよっちゃんに恋人できてもそんな顔しないじゃない。」
「それは・・・。」
藤本は自分がどんな顔で二人を見ていたのか石川に言われてなんとなく分かった。
「好きなんだよね?」
石川はじっと藤本を見ていた。
その視線に耐えるか、ここで自分の気持ちを吐き出してすっきりしてしまうべきか。
後者はない。後者を選択したら、何のために幼馴染という選択をしたのか、吉澤の気持ちを受け入れなかったのか、過ちにしたのか・・・
意味がなくなってしまう。
「恋愛感情ないって。」
藤本は石川の真っ直ぐな視線に負けない強い視線を向けて応えた。
しばらくの沈黙があったが二人の視線は強くぶつかり合っていた。
「ずるい。」
石川は藤本の視線に耐え切れず俯くと呟いた。
「へっ。」
ずるい。という意味が分からず首を傾げる藤本に石川は不貞腐れて視線を向けた。
「美貴ちゃんが認めないと私は何も言えないじゃん。」
「認めないとって・・・。」
どういう意味。と視線を向ける藤本。
「知ってるよ。美貴ちゃんとよっちゃんのこと。」
「なに、を?」
藤本は心臓の動きが早くなるのを感じた。このピンクの部屋のせいではない。
藤本は両手をぎゅっと握った。
「うちの家だけ向かいなんだよ・・・美貴ちゃんの部屋もよっちゃんの部屋もごっちんの部屋も見るんだよ。」
石川は辛そうに笑っていた。
- 142 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:07
- 「電気点いてれば・・・シルエット見えるって。」
石川は立ち上がるとカーテンを開け吉澤の家を見た。
藤本も石川の横に立ち吉澤の家に視線を向ける。
吉澤の家の一階は電気が消えており吉澤の部屋だけに電気が点いていて二人のシルエットが見えた。
藤本は視線をそらし再び床に座った。
「見えちゃうんだよ。」
石川はそういうとカーテンを閉めて藤本の向かいに座る。
自分の部屋と吉澤の部屋は窓を開ければ直ぐ隣だ。後藤の家からは吉澤の部屋は見えないはずだった。向かいの家の石川の部屋から見えるとは思っていなかった。
この部屋に来ることもなかったから知ることも出来なかった。よく考えれば子供の頃、部屋にいる石川を道路から大声で呼んでいたのだから見えるだろう。
「何が、見えちゃったの?」
「よっちゃんの部屋で、よっちゃんが美貴ちゃんをベッドに押し倒した。」
「シルエットじゃ・・・美貴かどうか分からないじゃん。」
「美貴ちゃん。」
「美貴じゃないよそれ。そんな覚えない。」
石川はとぼけようとする藤本を横目に再び立ち上がりカーテンを開ける。
「よっちゃんたちベッドに座ってる。手前にいるのがよっちゃんだよ。」
「そんなの、分かるわけない。」
「分かるよ。ずっと見てきたんだもん。よっちゃんの影も美貴ちゃんの影も。」
石川はカーテンを再び閉めて藤本の前に座った。
「分かっちゃうよ。嫌でも。」
俯いて呟く石川を藤本は黙って見ていた。
- 143 名前:P&Q 投稿日:2006/05/23(火) 23:07
- 知っててこの1年半知らない振りをしていたならそのまま知らない振りをしていて欲しかった。
自分はなかったことにした、お酒が入っていたからその過ちにしたのだ・・・
だから・・・石川にも
「その影・・・梨華ちゃんの勘違いだよ。見間違い。大体、その言われてる美貴本人にそんな覚えはないもん。」
藤本は鼻の奥がツンとしてきて涙が零れそうになった。
自分でなかったことにしたのに第三者に言葉でそう伝えることがこれほど辛いとは思わなかった。
「そっか・・・。わかった。」
藤本の必死な顔をみて石川はそう呟いた。
こんな藤本の顔を見たことがなかった。
「うん、良かった分かってくれて。」
「でも、勘違いだとは思ってないよ。」
「勘違いだって。」
「そういうことにしておいてあげる。美貴ちゃんがそうしたい理由なんとなく分かるから。」
幼馴染でいたいのだろう。思いを伝える勇気がないのは自分と同じなのだと石川は思った。
「でも、一つ教えて欲しいの。」
「なに?」
「よっちゃんは美貴ちゃんが好きなの?」
だから、吉澤が押し倒したのかそう見えたのかは分からない。
「よっちゃんが好きなのは亀井だよ。」
じゃぁ、どうして二人は寝たのだ。と口にしようとして石川はやめた。
その代わりに石川は藤本を抱きしめた。
「ちょっと梨華ちゃん何よ。」
「ん。幼馴染としてね、なんだか、美貴ちゃんを苦しめている原因の1人でもあるような気がして。」
「そんなことないよ。」
「でも、私が思うからしばらくこうさせて。」
藤本は黙って頷いた。
石川に気が疲れないように涙を零しながら心の中でありがとう。と呟いた。
- 144 名前:clover 投稿日:2006/05/23(火) 23:17
- 本日二度目の更新以上です。
>>129-143 A PENTAGON and A QUADRANGLE
東京ドームに巨人VS日本ハムを見にっていたのですが
サッポロビールを売ってる女の子が可愛くてついついその子が来るたびに・・・
結局6杯・・・飲んでしまったwその子が可愛かったのでテンション↑↑で再び更新ですw
>>124 :名無飼育さん様
レス有り難うございます。
>悲しい偶然のときに発見してずっと見てます。
ありがとうございますm(。_。)m
>もぅファンです!!w
ヤ〜ン (*ノノ)ありがとーです。
頑張りますので最後までよろしくです。
>>125 :名無飼育さん様
レス有り難うございます。
>マジですかみきよし期待しちゃいますよ
気長に待ってください。今、必死に書いてますのでw
気長に気長にお願いしますm(。_。)m
>>126 :名無飼育さん様
レス有り難うございます。
>複雑な中にあって亀吉の関係が穏やかで好きです
有り難うございます、複雑すぎで収拾つかなくなったらどうしようw
>>127 :オレンヂ様
レス有り難うございます。
>あぁぁ〜寝ても覚めてもこの話の続きが気になってしょうがありません!
あはは、ありがとうございますw
>更新が多くて早いので読んでてすごくおもしろいです。
今、更新することが楽しくなってる状態なのですw
>cloverさんの作品を読んでから亀ちゃんがかわいく見えてきて
>コンサでよっちゃんと絡んでると小説がフラッシュバックしてました。
それ、はいw
分かりますwというか、コンサで吉澤さんと亀井さん見て
実はこの話カプ変えましたw
>>128 :ももんが様
レス有り難うございます。
>れいなは大人ですね。
>今回の話でれいな急上昇です(笑)
実際どうなんだろうwとか思いますが自分のなかで発言とか大人だなってw
毎回レス有り難うございます感謝です。
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 23:50
- 2回目更新お疲れ様です!!
更新はやくてほんとうれしいです(・∀・)
今回は梨華ちゃんが・・・。・゚・(ノд`)・゚・。
みんな幸せになって欲しいです!
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 23:51
- ビール6杯…可愛い売り子さん…そらテンション上がりますな
次回も楽しみに待ってます
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 23:57
- 毎夜毎夜悲しすぎて困ってしまいます。
みきよし好きとしては…
亀ちゃんが嫌いになりそうです(笑)
美貴ちゃんがんばれっ!!って応援しておきます。
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/24(水) 00:11
- みきよしも辛いけど梨華ちゃんも辛すぎます
2人のコトしっていたんて…ますます85年組には目が放せません!
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/24(水) 00:26
- 85年組みんな切なくて毎回心臓が痛いです
cloverさん凄すぎです!!
次回も楽しみにしてます
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/24(水) 00:53
- 吉澤は本当にこの行動こそが大人になることだと思っているのでしょうか。
今の状況下で吉澤に傷付く権利があるとは正直思えません。
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/24(水) 00:54
- ageてしまいました。申し訳ありません。
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/24(水) 04:39
- でっかい子供が大人になるために試行錯誤してやってることだから、いいんじゃないかなあ?
私はこのめちゃくちゃな試行錯誤っぷりが好きだなぁ。
- 153 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:41
- 後藤は1人ベッドの上で眠れずにいた。
明日、もしくは明後日に吉澤はお見舞いに来てくれるだろうか。
それとも亀井との時間を優先するのだろうか。
お見舞に来てくれたらそのときに気持ちを伝えよう。
それの結果がもしだめだとしたら幼馴染でいられなくなるだろうか。
そしたら、今までのように接することが出来なくなるのだろうか。
石川が言っていた言葉が頭をよぎる。
気分を変えようと後藤はベッドを降りた。
ばれるから部屋から出ないようにとは言われていたがこんな部屋にずっと閉じこもっていては頭のなかのもやもやが取れず寝ることも出来ないだろう。
帽子を深く被りドアを開く。
面会時間の過ぎた院内は静まり返り廊下に人はいなかった。
後藤は廊下に出るとキョロキョロとしながら行き先を探した。
どこに行こうというあてもない後藤は談話室にいる少女を見つけた。
「ここ、いいですか?」
車椅子に座って何をする訳でもない少女に声をかける後藤。
「どうぞ。」
少女は笑顔で向かいの席に手を差し出した。
「ありがとう。」と言って座る後藤。
少女は後藤に視線を向けず、窓の外を見ていた。
目の前に、結構、名の知れた芸能人がいるのになと後藤は苦笑する。
この少女たち世代からは結構人気だけど・・・興味ないのかなと後藤は少女の横顔を見ていた。
「私の顔、なんかついてます?」
後藤の視線に気が付いた少女は首をかしげて後藤を見る。
「いや、ごめん。」
後藤はそういうと帽子を少し上に上げて顔を見せる。
少女は驚いた様子で後藤を見た。
「うそ。後藤真希?」
「あはは、そうだよ。」
少女のリアクションを面白がり後藤は笑った。
「うそ、えっ?なんで?」
「後藤、入院してるんだ。」
「あっえっ?」
状況がわらかない少女を後藤はニコニコと見ていた。
「名前なんていうの?」
「新垣、里沙です。」
「新垣さんか。何してるの?」
「あぁ、えっと、病室に居てもすることないし、私、個室だから話し相手もいないし。」
「じゃぁ後藤と一緒だね。」
後藤がやわらかい笑みを見せると新垣は恥ずかしそうにはにかんだ。
- 154 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:42
- 「入院していいことが二つに増えました。」
「ん?」
「担当の石川さんっていう看護士さんに会えたことと、後藤さんに会えたこと。」
「梨華ちゃん?」
「あれ、知ってるんですか?」
「うん、幼馴染だし後藤の担当だから。」
「あれ、じゃぁ吉澤さんがお見舞いって言ってたのは後藤さんのことだったんだ。」
新垣は納得したように頷いた。
「よしこも知ってるの?」
「こないだ中庭であって、面会時間まで少し話し相手になってもらって。」
「そっか、あれ、じゃぁよしこに会えたこともいいことにならないの?」
後藤は悪戯っぽく笑う。
「あっ、なります、はい、3つでした。」
「あはは、面白いね。新垣さん。」
「でも良いですね、幼馴染とかいて。」
「ん?」
「私、子供の頃か入退院繰り返してて外でも遊べなかったから子供の頃からの友達って居ないんですよ。」
「そっか。」
幼馴染は作ろうと思って作れるものではないのだ、近所に同世代の子がいる偶然から幼馴染が出来るんだ。その関係は後藤にとって大切なものだ。それを自ら壊そうとしているのだ。それでよいのだろうか。
「どうかしました?」
「ううん。なんでもない。」
「友達って良いですよね。私、学校にもあまり行けないから少ないんですけど。凄く助けてもらってて親とか家族とは違うところで支えてくれるじゃないですか。」
「うん。そうだね。」
「後藤さんもそうですか?」
「そうだね、色々、うん。凄い助けられてる。」
後藤は4人で過ごした日々を思い出していた。
いつだって自分の側に居てくれて自分を理解してくれてた3人。
その関係を崩していいのだろうか。
「私、もう直ぐ退院できるんです。後藤さんはいつごろ退院ですか?」
「後藤ももう直ぐ退院。」
「良かったですね。」
嬉しそうな顔をする新垣に後藤も自然と笑みが漏れた。
「私、退院したらやりたいことあるんです。」
「そっか、体大事にしてね。」
微笑む後藤に新垣は何かを決意したように頷いた。
- 155 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:43
-
*****************************
- 156 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:44
- 吉澤は亀井に覆いかぶさると角度を変えて何度も口付けをしていた。
亀井は初めての深いキスに朦朧としながら必死に吉澤の舌に応えていた。
「んっ、はぁっ。」
自分の声に顔を赤らめながら吉澤の背中にしがみ付き吉澤の舌を追いかける。
必死についてこようとする亀井が可愛くて吉澤は意地悪に逃げる。
「あぁ。」
吉澤が舌を引っ込めて唇を離すと亀井は残念そうに声を漏らし吉澤の頭を引き寄せ再び唇を重ねた。今度は亀井が吉澤の真似をして舌を入れる。
吉澤はぎこちない亀井の舌を絡め取るように吸いついた。
「んんぅっ。」
舌を吸われ苦しくなった亀井は離してくれと吉澤の背中を叩いた。
吉澤は笑いながら唇を離す。
「もぉ、死ぬかと思った。」
亀井は真っ赤な顔で頬を膨らます。
そして、唇を重ねてる間にふと思った疑問を口にした。
「吉澤さんってどうしてキスそんなになれてるんですか?いろんな人としたの?」
吉澤は、照れながら亀井の頬に頬を寄せてぎゅっと抱きしめた。
「こんなキスしたことないよ・・・なんか夢中でしてただけ。」
吉澤の言葉は本当だった。
藤本を抱いたときどうしていいのか分からずに無我夢中で藤本を無我夢中で攻めていただけだった。藤本の言うように酒の勢いも確かにあったのだ。覚えているのは自分を愛しそうに見つめる藤本の目と美しい藤本の裸体だ。行為そのものをはっきりと思い出すことは出来ない。
「だから、これからどうして良いかも本当は良くわからない。」
耳元で言う吉澤の吐息が耳にかかり亀井はくすぐったそうにしながら微笑んだ。
「絵里、初めてだからもっと良くわからないよぉ。」
亀井は肩にある吉澤の頭に視線を向けて囁く。
「でもキスは気持ちよかった。」
吉澤は顔を上げると笑みを浮かべて恥ずかしそうに亀井を見てチュッとキスをした。
亀井を抱き起こすと吉澤は足の間に亀井を入れて両手両足で抱きしめると再び深い口付けを交わす。
- 157 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:44
- 「んぅ、ふぁっ・・・。」
亀井の声が漏れると吉澤の手は自然と亀井の胸に伸びていた。
タンクトップの上から胸に触れられると亀井の体が驚いたように肩を揺らしたが直ぐに吉澤に身を任せ亀井はキスに没頭した。
「んっ。」
吉澤の指がタンクトップの上から蕾を探し出し摘むと亀井の口から声が漏れた。
吉澤は唇を離すと亀井の顔を覗き込み様子を見る。
真っ赤になった亀井の目にはうっすらと涙が見える。
「大丈夫?」
「恥ずかしい。」
亀井は吉澤に抱きつくと肩に顔を埋めた。
「なんか、経験したことない感覚なんだもん。」
思っていることを素直に口にする亀井。
聞いてる吉澤の方が恥ずかしくなってしまう。
吉澤は目の前に無防備にさらされている亀井の肩にキスをし始めた。
「あはははっ。くすぐったい。」
吉澤から離れて講義する亀井だが吉澤はの唇は離れずに肩から胸元までキスをする。
「んっ。」
吉澤の再び声を漏らす亀井の胸に手を這わした。
「あっ。んっ・・・。」
吉澤は亀井の首筋に舌を這わせながらタンクトップを捲り上げる。
「やぁ・・・。」
露わになった亀井の胸。
亀井は恥ずかしそうに吉澤の肩に手を置き目を閉じた。
タンクトップの上からの愛撫ですっかり硬く主張している蕾に唇を寄せる吉澤。
「ひゃぁっ。」
亀井は眉間に皺を寄せ唇を噛んだ。
吉澤はチュッチュッと蕾を吸い、もう片方を掌と指で愛撫する。
「んっ、あぁっ吉澤さん。」
「ん?」
亀井は真っ赤にさせながら吉澤の名を呼んだ。
吉澤は乳房に舌を這わせながら亀井を見上げ妖艶な亀井の表情にドキっとした。
切なげに吉澤を見つめる亀井は吉澤の着ているTシャツを引っ張る。
自分も脱げと言うことのなのだろうと思った吉澤は笑って見せてから自分のTシャツを脱ぎ中途半端になっていた亀井のタンクトップに手をかけた。
- 158 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:45
- 「絵里、手あげて。」
亀井は吉澤の言葉に素直に従い両手を挙げる。
吉澤はタンクトップを脱がすと直ぐに亀井の胸に顔を埋め愛撫を再開した。
「あぁっ、ん・・・。」
亀井は吉澤の背中を撫でながら真っ白で綺麗な肌で羨ましく思った。
吉澤は顔を上げると亀井の唇にキスをして再び寝かせる。
吉澤に見下ろされた亀井は恥ずかしそうにハニカミながら吉澤の体を見た。
「真っ白で綺麗・・・。」
亀井はそういうと吉澤の胸に手を伸ばす。
吉澤は恥ずかしそうに笑いながら亀井が自分の胸に触れる様子を見ていた。
「絵里って胸大きいね。」
「そういうこと言っちゃいやぁ。恥ずかしいもん・・・」
亀井は恥ずかしそうに両手を無の前に交差させた。
「ごめんね。」
吉澤は笑みを浮かべると亀井の腹に唇を落とす。
「キャハハ、くすぐったい。」
じたばたとする亀井の足。
吉澤は気にせずヘソにも舌を入れてみたり脇腹を擦ってみたりする。
「やぁ、あっ。くすぐっ・・・アハハ。」
笑い出してしまった亀井を吉澤は顔を上げて真剣な目で見つめた。
その吉澤をみて亀井も笑うことをやめ深呼吸した。
吉澤は亀井の腰に手を置くと亀井は膝を立てて腰を浮かした。
ショートパンツが脱がされていくなか亀井は目を閉じた完全に脱がされたと分かり吉澤に視線を向けると吉澤がショートパンツを床に落とすのが見えた。
吉澤は亀井の視線に気が付くと微笑み自分が穿いているジャージを脱ぎ、下着も取り払っいベッドの上に膝立ちになった。
亀井の視線は吉澤の顔、胸、腹、そして茂みへとゆっくりと降りていく。
「ハズいね。」
「綺麗・・・。」
亀井は体を起こすと吉澤のヘソにキスをする。
「あはは、くすぐったい。」
亀井は吉澤を見上げると笑った。
「ホントに真っ白。」
膝を立てている亀井、胸が膝に押しつぶされている様子を見て吉澤は本当に胸が大きい子だなと思う。
吉澤は正座すると亀井の下着に手をかけゆっくりと脱がした。
亀井も腰を上げて脱がしやすいように気を使う、自分の膝を下着が通り足を抜けて居行く様子を亀井は目で追っていた。
- 159 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:46
- 何も身につけていない二人は自然と抱き合った。
吉澤は亀井をゆっくりベッドに寝かせると再び胸から腹にかけて愛撫をする。
吉澤の手が脇腹を擦る度に亀井は身を捩った。
体を下にずらした吉澤は亀井の顔を伺いながら亀井の膝を立たせる。
反射的に膝をくっつけてしまう亀井。
吉澤は優しい目で亀井を見た。
亀井は恥ずかしさと先ほどから熱く感じているそこをどうにかして欲しいという気持ちが入り混じる。優しく自分を見つめる吉澤を前に亀井は深呼吸をした。
「優しく、してくださいね。」
真っ赤な顔の亀井に吉澤は優しく微笑んで頷いた。
ゆっくりと開かれる亀井の両足。
吉澤の目には亀井の茂みが映る。
亀井は両手で顔を覆って羞恥心に耐える。
見られいてるというだけでそこはさらに熱くなった。
吉澤はゆっくりと手を伸ばし肉襞を左右に開いた。
愛液で濡れたそこはピンク色でとても綺麗だった。
亀井の腰が少しだけビクつく。
吉澤は大きくなっている蕾を指で擦った。
「あっ、んっ。」
亀井は初めて経験する刺激に声が漏れ、耐えるようにシーツを掴んだ。
「絵里。」
聞こえてきた亀井の切ない声に吉澤は亀井の名を呼び表情を伺う。
目を閉じて切なげに声を漏らしている亀井の顔は魅力的だった。
吉澤は亀井の太腿に手を添えると茂みに顔を寄せ舌を這わす。
「やぁぁぁっ。あ、あ、あ。」
腰を浮かせ逃げようとする亀井をしっかりと抑えて吉澤はペロペロと舌を動かし蕾を吸った。
「あぁぁ、あっ。」
亀井は体を捻りシーツに顔を押し付けるようにして電気が走るような感覚に酔っていた。
「んぅ・・・よし、ざわ、さぁ・・・あっ。」
名前を呼ばれ顔を上げる吉澤。
亀井は肩で息をしながら体を起こし吉澤に抱きついた。
「はぁ、なんか凄いの・・・初めての感覚で、熱いよぉ。」
「うん。」
吉澤は亀井を抱きしめながら背中を擦った。
亀井は吉澤の肩に埋めていた顔を上げ吉澤の顔を見上げる。
鼻や口の周りが濡れて光っている吉澤の顔を見て真っ赤になる亀井。
うっとりとした顔で見上げられた吉澤は亀井の唇を奪っていた。
自然と吉澤の手は亀井の胸や背中、お尻を撫で、亀井は体を捩りながら吉澤の舌を感じていた。
吉澤は唇を離すと亀井をじっと見つめ右手をゆっくりと亀井の茂みに持っていった。
蕾を見つけ撫でると亀井は俯いて声を漏らす。
「あぁっ。」
何度も蕾を撫でられ、摘まれる。亀井の腰はその度に跳ねた。
- 160 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:48
- 「あっ、あ、ぃやっ、あつぃ・・・んっなんか、あついっ・・・。」
亀井は吉澤の肩に爪を立てて襲ってくる快感にぎゅっと目を閉じた。
「あ、あっ。あ、あ、あつぃ・・・」
辛そうに眉間に皺を寄せ硬く目を閉じて顎を上げる亀井の顔を見ながら吉澤は早く解放してあげないとと、亀井を再び横にした。
放心状態で力なくベッドに横なった亀井の足の間に体を入れると吉澤は亀井のピンク色の肉襞を指の腹で撫でながら、真っ赤になっている蕾に舌を這わせた。
「やぁぁぁっ。あぁ、あっ、んっぅ。」
背中を反らして逃げようとする亀井。
吉澤は亀井の腰を掴んで蕾を吸い上げた。
「あ、あぁぁっ。」
初めての感覚にどうして良いのか分からず体を反らす。
奥の方から溢れてくる熱い何かが亀井の意識を朦朧とさせた。
「あぁ、あっ、よしざ、わさぁ・・・あぁっ。」
吉澤がジュッっと音を立てて蕾を吸うと亀井の体が更に反り返った。
「んっ、やぁぁぁぁっっ。」
脱力した亀井を見て吉澤はそこから顔を離す。
透明の液体がそこから流れてくるのを見て吉澤は再び口を寄せて啜った。
「んっ、あっ。」
吉澤は顔を上げ亀井を見た。
目を閉じて「はぁ、はぁ。」と息をしている亀井。
全身に電気が走った感覚がまだ残っている。頭の中が真っ白で何が起こったのかさえいまいちよくわからない。
呼吸が落ち着くとやっと目を開いた。
「絵里・・・大丈夫?」
心配そうに見つめる吉澤を亀井は手を伸ばして笑顔を見せると吉澤の顔を胸に引き寄せた。
「絵里・・・逝っちゃった?」
自分で言って恥ずかしさのあまり吉澤にぎゅっとしがみ付く。
「うん。」
吉澤は見上げて微笑むと亀井からはなれ横に並んで向かい合った。
- 161 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:49
- 「もっとしたら、痛いんだよね?」
亀井の指す言葉の意味を判って吉澤はぎこちなく微笑み頷く。
吉澤はあえてそれを避けた。
出来ることならそれは一番好きな人のためにしない方がいいような気がして。
「うちら・・・これだけで十分だと思うよ。」
吉澤は亀井のオデコにチュッとキスをして微笑んだ。
「うん・・・。」
朦朧としていた亀井は吉澤の十分という意味が今日はこれで十分なのかそれともこれからもこのままで十分なのか良くわからなかったが頷いた。
「なんか、凄い汗かいちゃった。」
亀井が頬に流れた汗を手の甲で拭う。
「シャワー浴びる?」
「うん。」
吉澤は体を起こすと床に落ちたTシャツに袖を通し下着を穿くとベッドから降りて立ち上がる。
「着替え、もうないよね?」
ベッドの上で体を起こし吉澤が着替える様子を見ていた亀井は頷いた。
「じゃぁとりあえず・・・。」
吉澤はクローゼットを開き大きめのシャツを探した。
「これ、羽織って。」
肩にシャツをかけてやると亀井はそれに袖を通す。
太腿辺りまであるシャツを羽織と亀井は立ち上がり床にある下着とタンクトップとショートパンツを手に取った。
- 162 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:50
- 「大丈夫?」
「うん。行ってきます。」
亀井は笑顔を見せると吉澤の部屋を出て行った。
吉澤は、ベッドに出来たシミを見てシーツを剥がした。
ベッドマットにまでシミが出来ており吉澤は亀井の乱れた姿を思い出し顔を赤らめながらマットも外し新しいものと取り替えた。
バスルームに入った亀井は鏡に映る自分と向き合っていた。
脇腹やヘソの横、胸のあちらこちらに残っている愛撫の痕を指でなぞった。
「見えちゃうよね・・・。」
肩と胸元にある痕を見つけ亀井は苦笑した。
体を洗いシャワーを浴びながら吉澤との行為を思い出す。
吉澤の優しいさや気遣いが感じられ、恥ずかしさはあったが恐怖は全くなかった。
安心しきり全てを吉澤に任せようと思えた、だから、吉澤でよかったと亀井は思った。
昨日よりも、もっと吉澤を好きになることが出来た。
田中への気持ちに勝ることはない、田中の次だが自信を持って言える。
吉澤が好きだ、愛していると。
「絵里、タオル置いとくね。」
曇ガラスに吉澤の影が映っていた。
「はい、もう直ぐでます。」
「うん。じゃぁ次、うち入っちゃう。」
吉澤が洗濯機にシーツを入れると亀井が出てきた。
吉澤は置いてあったバスタオルを亀井に渡す。
「ありがとうございます。」
「うん。さっぱりした?」
「はい。」
吉澤はニッコリと笑って見せるとマットを洗濯機に放り込む。
亀井は自分が汚してしまったものを洗っているのだと気が付き頬を染めた。
「あ、絵里やっと来ますよ。」
「ん。大丈夫、これもついでに洗うし。」
吉澤は自分の着ているTシャツを引っ張ってみせると脱いで下着と一緒に放り込み洗剤を入れてスタートボタンを押した。
「これだけだもん。」
吉澤はそういいながら亀井を見る。
- 163 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:50
- 「そうだ、吉澤さん。」
「ん?」
亀井はバスタオルで体を拭くとタオルを体に巻きつけ丁度、鎖骨辺りにあるキスマークを指差す。
「これ、見えちゃいますよね?」
悪戯っぽく笑う亀井に吉澤は慌てて謝った。
裸で頭を下げる吉澤が面白くて亀井は吉澤に抱きつくと首筋に顔を埋めた。
「いっ。」
亀井の唇が吉澤の首もとをキツク吸う。
「これで同じだもん。」
唇を離し吉澤を見上げて笑う亀井。
吉澤は出来たキスマークを見ながら困ったなと笑った。
「これ、絶対みえるじゃん。」
「イヒヒ、絵里も見えるもん。はい、早くシャワー浴びてください。」
亀井は吉澤の背中を押してバスルームに入れた。
「冷蔵庫にアイスティとか入ってるから適当に飲みな。」
吉澤が扉を閉めながら言うと亀井は笑顔で頷いた。
シャワーのコックを捻りお湯を浴び汗を流しながキスマークを見る。
亀井の肩にも痕が残っていたのを見て無意識に色んな所につけてしまったなと思う吉澤。
藤本にも付けたのだろうか。亀井の声や表情を思い出し。藤本の甘く掠れた切ない声は思い出せても表情を思い出すことは出来ないことに気が付いた。
亀井の顔を見たいと思った自分。藤本の時はそうじゃなかったただ、気持ちを受け入れてもらえないなら体だけでも、そんな子供みたいな想いだったような気がする。
最低なことを藤本にしてしまったのだと改めて思った。それでも、欲しいと思った。気持ちを抑えきれなかった。でも今は自分には亀井が居る。自分の気持ちを全てを受け止めてくれる亀井が。そんな亀井を愛しいと思う自分が。
吉澤はなんだか嬉しくなった。こんなに素直に自分の気持ちを吐き出せていることに。
それは全て、亀井のおかげだろう。
- 164 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:50
-
*****************************
- 165 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:51
- 道重が帰ったあと、田中は補習の課題をやっていた。
だが、問題に集中できず道重が話してくれた亀井への気持ちが気になっていた。
福岡に引っ越す前と何も変わっていなかった亀井と道重。
福岡からひとり戻って来たとき、まるで昨日、公園で遊んでバイバイと別れた次の日に再会したような錯覚があった。
亀井も道重も身長は伸びて容姿も大人っぽくなっていたのは確かだ。
だが、自分たち以外とは不覚関ろうとしない。常に亀井と道重は一緒に行動していた。
そこに田中がはいるのが当たり前のように何でも一緒にしようとする。
それではいけないと思った、同じ高校に転入したのは間違いだったかもしれないと。
だから、バイトをして自分の時間が欲しいと思った。
二人と違うところで何かをしていたいと思った。
だが、道重は違うのだろう、吉澤に取られたと言っていた。
田中は亀井と吉澤が付き合いだしたと聞いて本当に嬉しかった。
亀井も自分と同じように幼馴染とは別の場所で亀井の時間が出来るのだから。
とても良いことだと思った。
だが、そうなると道重は亀井に対し失恋したことになるのだ。
亀井は道重の気持ちを知っていたのだろうか?
だからあの時、切なそうな顔をしたのだろうか。
悩んで考えても仕方ない、本人に聞いてみようかとカーテンを開けて亀井の部屋を見てみたが帰っていないのか寝ているのか電気は点いていない。
考えるしかなさそうだと机に向かわず床に座る田中。
こないだ、亀井がここに来たとき道重のことを何か言っていただろうか。
田中は記憶を探った。
「あ・・・。」
亀井が好きと言ったあとにおやすみと言って自分の頬にキスをしたことを思い出した。
あの好きという意味は確か自分は幼馴染として人間として好きだと取り自分も好きだと返した。あのキスはなんだったのだろう。バイトの仕事を覚えることに必死ですっかり忘れていた。
亀井も道重と同じように恋愛として好きと言ったのだろうか。
あの切ない顔はそれがあったからなのだろうか?
「そんなことなかね・・・。」
亀井は吉澤を好きになったんだから。
だから、出会って直ぐに付き合いだしたのだろう。
なら、どうしてあんなに切なそうに吉澤と付き合ってると言ったんだ。
「わからん・・・。」
明日、バイトで吉澤に色々と聞いてみよう。
もしかしたら、亀井も来るかもしれない。
- 166 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 12:51
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- 167 名前:P&Q 投稿日:2006/05/24(水) 13:08
- 本日の更新以上です。
>>153-166 A PENTAGON and A QUADRANGLE
一生懸命更新してるけど、ストーリ内の時間があまり進んでないというw
更新がんばろw
>>145 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>更新はやくてほんとうれしいです(・∀・)
ありがとうございます。
>>146 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>ビール6杯…可愛い売り子さん…そらテンション上がりますな
はいw
>次回も楽しみに待ってます
有り難うございます。
>>147 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>毎夜毎夜悲しすぎて困ってしまいます。
>みきよし好きとしては…
ごめんなさい(^。^;)でも自分もみきよし好きなんでw
>亀ちゃんが嫌いになりそうです(笑)
えぇぇ;-ロ-)それはダメですw
>美貴ちゃんがんばれっ!!って応援しておきます。
そうしてくださいw頑張りますのでw
>>148 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>2人のコトしっていたんて…ますます85年組には目が放せません!
はい。これからも宜しくお願いします。
>>149 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>85年組みんな切なくて毎回心臓が痛いです
おぉっ、気をつけてくださいw
>cloverさん凄すぎです!!
ありがとうございます。
>次回も楽しみにしてます
頑張りますのでよろしくです。
>>150 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>吉澤は本当にこの行動こそが大人になることだと思っているのでしょうか。
どうなのでしょうか・・・まだ、亀井さんとであって何日しか経っていない状況なので(苦笑)
なんとも言えないかなって・・・
>今の状況下で吉澤に傷付く権利があるとは正直思えません。
そうですねぇ。逃げてるだけという考えもあると思いますし。
人それぞれ考え方や受け止め方は違うと思うので・・・
今後も見守っていただければ幸いです。
>>152 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>でっかい子供が大人になるために試行錯誤してやってることだから、いいんじゃないかなあ?
>私はこのめちゃくちゃな試行錯誤っぷりが好きだなぁ。
有り難うございます。めちゃくちゃな試行錯誤w
4人の狭い世界にしかいなかったからどうしてよいのやらとそれぞれがもがいてる感じでしょうか。
今後も宜しくお願いします。
- 168 名前:clover 投稿日:2006/05/24(水) 13:51
- また、名前変え忘れました・・・orz
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/24(水) 17:16
- それぞれの幸せの形は違うだろうけど、皆が見つけられればいいな。
- 170 名前:ももんが 投稿日:2006/05/24(水) 21:38
- 亀ちゃんかわいいですね。
健気な亀ちゃん応援してあげたいです!
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/24(水) 21:59
- ミキティも気になりますがごっちんの行動もドキドキ
続き待ってます!!
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/24(水) 22:47
- かめきちいいなぁ。ほんといいなぁ。
でも、いつかは…。
何が本当の幸せなんでしょうね。。。
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 00:23
- 更新お疲れ様です
意地悪しちゃうりかみきが面白いような悲しいような・・・
がんばってください。
- 174 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:08
- 「美貴ちゃん、おはよぉ。早いね。」
石川が吉澤の家にくると藤本がキッチンで朝食の支度をしていた。
「おはよぉ。今日も補習あるからさ。」
「実習かぁ。」
石川は手を洗い藤本の手伝いを始める。
「ん。もう直ぐ終わるけどね。」
「終業式まで?」
「そう。」
二人は出来た朝食をテーブルに並べた。
藤本は後藤の席に座るとコーヒーを飲んでパンを食べ始める。
石川は席に着かずに時計を見る。
「よっちゃん起こしてくる。」
「行かないほうがいいよ。」
藤本は吉澤を呼びに行こうとする石川を止めた。
「でもバイト遅刻しちゃうし。」
「んー。亀井いるよ。」
「あっ・・・。」
石川はどうしようかと迷ったが藤本に「行ってくる。」と告げて吉澤の部屋に向かった。
ドアに耳を当てて中の様子を伺う石川。
そんなことをしている自分に苦笑する。いつもならノックもせずに勝手に入っていくのに、幼馴染以外の人間が入ってくるということはこういうことなのだと思った。
コンコンとノックをして中からの返事を待つが返事がない。
石川はそっとドアを開けて中に入った。
ベッドの上で抱き合い眠っている吉澤と亀井。
石川は泣きそうになるのを必死で耐えた。
失恋というのだろうか。石川そんな疑問が頭に浮かびふと笑ってしまう。
「よっちゃん。亀井さん起きて。」
ベッドの横に歩み寄り声をかけると亀井が反応した。
眠そうに目を擦りながらゆっくり目を開ける亀井は目を細めて声のするほうを見る。
石川はそんな亀井に「おはよう。」と微笑んでみせた。
「おはよう、ございます。」
亀井はベッドの上に正座して呟いた。
- 175 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:08
- 「石川さん?」
目を細めて尋ねる亀井の様子を見て石川は見えていないのかと思う。
「亀井さん、目悪い?」
「はい。」
亀井は吉澤の体に乗っかりながらベッドから降りる。
「うっ。」
腹に乗られた吉澤は苦しそうに息を漏らすと目を開けた。
「絵里?」
ベッドに居ない亀井の名を呼びながら部屋を見回した。
「あっ梨華ちゃん。おはよ。」
「おはよ。」
亀井はその間にテーブルにある眼鏡を手で探りかけた。
石川越しに亀井のその様子を微笑みながら見ていた吉澤。
石川はなんだが自分が邪魔な気がしてしまった。
「朝ごはん出来てるから、早くおいでね。」
石川がそういうと亀井は時計を見た。
「あっ、7時。」
石川は「早くね。」と言って部屋を出て行った。
「絵里、おはよ。」
吉澤はベッドから降りると眼鏡をかけた亀井に顔を近づけた。
「見えてる?」
笑う吉澤に亀井は照れてクネクネと体を捩る。
「近い。見えてますよぉ。」
「あはは、じゃぁ下いこ。」
「はい。」
- 176 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:09
- 石川ひとりが戻ってくると藤本は「どうだった?」と視線を投げかける。
石川は苦笑しながら隣に座った。
「仲良く抱き合って寝てました。」
「大丈夫?」
「うん。なんか私、邪魔?ってくらい仲良くて。」
階段を下りてくる足音が聞こえて二人は口を閉ざした。
そのままリビングに入ろうとする吉澤のTシャツの裾を掴む亀井。
「ダメダメ、顔洗ってからですよ。」
「んー。」
引っ張られて洗面台の前に連れて行かれる吉澤。
二人で顔を洗い、亀井は寝癖を手櫛で整えた。
「吉澤さんも、ちょっと直しましょうよ。」
ボサボサのままの吉澤の頭に手を伸ばし簡単に整える亀井。
「よし、後でちゃんとやりましょうね。」
亀井はそういうと吉澤の手を引いてリビングに入っていった。
「おはようございます。」
笑顔で藤本と石川に頭を下げる亀井。
二人は「おはよ。」とそっけなく返した。
「あ、絵里の分も作ってくれたんですか?」
用意されている朝食を見て呟く亀井。
「靴あったからいるの分かったし。」
藤本がベーコンを切りながら言う。
「ありがとうございます。」
嬉しそうに言う亀井に藤本はどうしてよいのか分からずぎこちない笑みを浮かべた。
生徒でなければもっと普通に対応できたのだろうかそれとも石川や後藤のように少し意地悪になってしまうのだろうかとにかく生徒の亀井とプライベートでしかも吉澤の恋人としてでは付き合いにくいと藤本は思った。
- 177 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:10
- 「美貴、おはよ。」
「おはよ。早く食べちゃいな。かめ・・・。」
藤本が今日、初めて亀井に視線を向けて言葉を止めた。
肩と首筋にあるキスマークに目が留まったのだ。
亀井は藤本の視線に気が付き慌てて手で隠した。
吉澤は亀井に苦笑いを見せながら慌てている亀井を椅子に座らせた。
「早く食べよう。」
笑って言う吉澤に亀井も顔を真っ赤にさせて頷いた。
そんな様子に石川は視線をそらしゴハンと食べることに集中する。
「ごめん、見すぎたね美貴。」
藤本はそういうと石川と同じようにゴハンを食べることに集中した。
無言で朝食をとる4人。吉澤はこれも仕方ないと思った。
石川はこの状況は茶化すべきだった気がしたがそんな気分になれない。
同僚がキスマークを付けて出勤してきたら普通に茶化すことが出来るのにと自分が吉澤を好きだということを再認識してしまう。
「一番好きなのは美貴。」と言った吉澤の言葉を思い出しながら藤本は吉澤をチラチラと伺っていた。恋人の亀井に自分への気持ちをぶつけてそれで抱いたのだろうか。亀井はそれでいいのだろうか。それよりもこの雰囲気がこれからも続くのかと思うと藤本は耐えられなかった。幼馴染としていると決めたのなら自分も石川も反応がおかしいだろうと。
「それにしてもよっちゃん、手が早いね奥手だと思ってたよ美貴は。」
藤本はそう言ってコーヒーを飲んだ。
いきなりの藤本の発言に3人は驚いて藤本を見た。
吉澤の視線に藤本は笑みを浮かべる。
「いや、そんなことないって。」
吉澤は無表情に言った。
石川は藤本の横顔を見ながら無理やり茶化してるのだろうと藤本は強いなと思った。
「亀井さん、無理やりされたんじゃないよね。」
石川が笑いながら言うと亀井は慌てて首を横に振る。
「吉澤さん、そんなことしないですから、優しかったし、むしろ絵里から誘ったっていうか・・・。はい、だから無理やりじゃないです。」
早口にいう亀井に吉澤たちは呆然とした。
「絵里、そんな優しかったとか言わないでいいから。」
顔を赤くして言う吉澤。
「亀井、女の子が誘ったとか言うもんじゃないよ。」
苦笑しながら言う藤本。
「ごめん、私、冗談で言ったのに。」
申し訳なさそうに言う石川。
亀井は自分の言った言葉に顔を真っ赤にさせた。
「どうしよう、吉澤さん。」
「どうしようって、もう言っちゃったしね。」
吉澤は笑いながら亀井の頭を撫でた。
- 178 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:10
- 「さて、美貴はそろそろ行くね。」
「あっ私も。」
藤本と石川は慌しく仕度をすると「行ってきます。」と出て行った。
「もぉ、凄い恥ずかしい。」
亀井は両手で顔を抑えて呟いた。
「美貴も梨華ちゃんも無理に空気変えようとしてからかったんだよ。」
「ですよねぇ。あぁ、もう絵里何言ってんだろう。」
顔を真っ赤にして食器を洗い始める亀井。
吉澤はコーヒーを飲みながら藤本がチラチラと見ていた自分の首筋にある亀井が付けたキスマークを指で撫でた。
藤本はどんな気持ちだったのだろう。それが気になった。
「吉澤さん、バイトまでどうします?」
片し終わった亀井が時計を見ながら尋ねる。
「洗濯物干して、絵里を送ってからバイト行くよ。」
「はい、じゃぁ、干しちゃいましょう。」
- 179 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:10
-
*****************************
- 180 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:11
- 後藤の病室は朝から来客があった。面会時間ではないが仕事の話だからと入れてもらってきたのはマネージャーと知らない女の人だった。
「こちらのプロダクションが移る気あるならって言ってくれてるんだ。」
入ってきた途端マネージャーが口にした言葉がそれだった。
吉澤のことで移籍の話をすっかり忘れていた後藤は少し驚いた。
マネージャーがこうして移籍の話を進めていてくれたことにも意外性を感じていた。
自分を商品のように扱ってきたマネージャーがまさか自分のために移籍先を探しているとは思っていなかったのだ。
「社長は大丈夫かな?」
「契約違反ではあるけど映画の話をすればなんとかなると思うよ。」
「仕事は?」
「映画の話だけだったから何の問題もないし、損害はないから。」
「そっか。」
今のプロダクションよりも大きなプロダクションだ。
有名な俳優や女優がいるプロダクション。
いい話には違いない。仕事の範囲も広がるだろう。
「復帰は事務所移籍後とすれば問題ないと思いますよ。あとは後藤さん次第。」
女の人がそういうと後藤は頷いた。
「アイドルって歳でもないし、これからは女優として活きたいって思ってるんです。」
「もちろん、こちらもそのつもりですから。」
「今回の映画は自分が脱ぐことが話題づくりに思えて、それで断ったんです。」
「聞いてますよ。」
後藤は深呼吸をした。
「ストーリがちゃんとしてて脱ぐ必要があるなら脱ぐのは問題ないんです。後藤は女優するならそのつもりでやってるんです。演技をもっと勉強したいって思ってる。」
後藤が自分の思いを言葉にして伝えるとマネージャーが微笑んだ。
「移籍しろ、うちにいてもそれは出来ないから。」
後藤は微笑んで頷いた。
「宜しくお願いします。」
頭を下げる後藤。
「こちらこそ、期待してますよ。」
女の人は名刺をテーブルに置いた。
「あとはこっちでやっとくから。安心して早く治せ。」
「ありがと。」
後藤がそう言って頭を下げるとマネージャーは女の人を連れて出て行った。
- 181 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:11
- 「移籍決定か・・・。」
こんなに朝早くに来たということはこれから会社に二人で行って移籍の話を進めるのだろう。マネージャーの立場は大丈夫だろうか。
「失礼します。」
石川の声が聞こえ直ぐに石川の姿が見えた。
「おはよ。梨華ちゃん。」
「おはようございます。朝から仕事の話?マネージャーさんに会ったけど。」
「ん。移籍の話。」
「移籍?あ、体温計って。」
石川は作業をしながら後藤と会話をする。
「ん、映画出ないで済むし、大手プロダクションに移籍できるから良かったよ。」
「そっか。良かったね。」
石川は後藤の手首に器具を装着し血圧を測る。
「亀井さんにあった?」
血圧を測り終えると後藤は直ぐに石川に聞いた。
「うん。会ったよ。」
器具を片しながら応える石川。
「体温は何度かな?」
「6度4分。」
「はぁい。よし、終わり。」
石川は記入を済ませると点滴を確認した。
- 182 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:12
- 「で?亀井さんどうだった?」
「いい子じゃない?」
「梨華ちゃんいいの?」
「何が?」
「取られちゃったんだよ。取りかえそうとか思わなかった?」
石川は困った顔で後藤を見下ろした。
「幼馴染でいるって決めたの自分だから。」
「諦めるの?」
「諦めるのとは違う気がする。だって、よっちゃんに恋人居なくても気持ち伝えるつもりなかったもん。だからこのままでいいって思ってるよ。」
「でもさ・・・。」
石川の言い分が正しすぎて後藤は何も言えなくなってしまった。
「ごっちんが告白したいならすれば良いよ。でも、あの二人、今別れるとかないと思う。仲良いもん、幼馴染と違う関係だもん。よっちゃんが困るよごっちんい告白されたら。」
「じゃぁ後藤の気持ちはどうしたらいい?」
「ごっちんの気持ちと私の気持ちは同じだよ?私は幼馴染でいるって決めた。」
後藤は言葉を口に出来なかった。
告白したら吉澤を困らせる。
告白しても吉澤は亀井と別れない。
告白してしまったら幼馴染の関係ではなくなるかもしれない。
自分はどうしたら良いのだ。
黙ってしまった後藤に石川は優しく微笑んだ。
「私さ、美貴ちゃんが一番影響するかなって思ったの。よっちゃんの一番近くいたのって美貴ちゃんだから、剣道も一緒にやって大学も同じところ行ったし、ごっちんは高校入って直ぐにお仕事しだしたからよっちゃん居なくても大丈夫かなって思った、私もね仕事しだしてからよっちゃんと居る時間減ったしだから無理やり時間作ってよっちゃんに会いにいったりしてたけどさ。でもいずれ自然とさ、一緒に居る時間減るじゃない。だからごっちんがそんなによっちゃんに執着することにちょっと驚いた。」
後藤は首を横に振った。
- 183 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:12
- 「違うよそれ。」
「ん?」
「一緒に居る時間減ってもね、会いに行けば何も変わらないで待っててくれるよしこがいるから安心できるんだよ。そのよしこが居なくなるんだよ。よしこが見せてくれる笑顔が一番最初じゃなくなるの。それって凄い違うんだよ。だって、急に仕事休みになったからってよしこのところに行っても亀井さんが一緒にいたりするんだよ。行きづらいじゃん、遠慮しちゃうじゃん・・・そんなの嫌だよ。」
泣き出しそうな顔で言う後藤。
石川は確かにそれはあるかもしれないと思った。
「でも、よっちゃんだって私たちがやりたい仕事してるように自分のしたいことする権利あるし、私たちだけのためにいるんじゃないんだから・・・それは私たちの我侭だよ。」
「分かってるけど・・・寂しいじゃん。」
「いつか慣れるよ。私仕事残ってるから行くね。」
石川は心配そうに後藤を見ながら部屋を出て行った。
今日は新垣が退院する日だ。お昼に母親が迎えに来る。それまでに退院の手続きをしておかなければならない。石川は慌しくナースステーションん戻った。
- 184 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:12
-
*****************************
- 185 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:13
- 「あんたなんでそんなに疲れた顔してるのよ?実習きつい?」
職員室で補習の準備をしている藤本の疲れた顔に出勤してきた保田は驚きながら言う。
「いや、そうでもないですけど。美貴そんなに疲れてます?」
「クマ出来てるし、寝不足?」
「それはあるかも。」
吉澤のことを考えていてほとんど眠ることなどできなかった藤本は指で目の下を撫でた。
「全く・・・吉澤のこと?」
「んー。圭ちゃんは何でもわかるんだねぇ。」
藤本は苦笑して呟いた。
「あんたたちを見てきた人なら大抵わかるわよ。」
「そっか。」
「また、なんかあったの?」
「そうじゃないけど、よっちゃんと亀井がいると美貴たちどうしていいのかわからなくなるんだよね。なんか疲れる。」
ため息交じりの藤本に保田も大げさにため息をついて見せた。
「吉澤が普通なのよ。あんたたちが吉澤に執着しすぎてる。私にはそう見えるけど。」
「分かってるよ。でも・・・。」
好きなんだ。という言葉を藤本は口にすることはできなかった。
「後藤はどうしてる?」
「もう直ぐ退院だよ。」
「そっか、良かった。そのことで後藤がまた倒れないように気をつけなさいよ。」
「うん。」
「補習いくよ。」保田はそういうと藤本の背中を叩いて職員室を出る。藤本も慌てて後を追った。
補修の授業中、田中は何度も欠伸をしていた。
色々考えていたら朝になってしい睡眠をとることが出来なかったのだ。
必死に睡魔と戦いながら保田の話に耳を傾け何とか授業を乗り切った。
補習が終わると教室の後ろに居た藤本を捕まえる田中。
- 186 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:14
- 「なに?」
田中に急に腕をつかまれた藤本は田中の目の下に出来たクマを見て驚いた。
「あの。さゆが・・・。」
「ん?」
「藤本先生と吉澤さんの試合にその・・・。」
言いよどんでいる田中を藤本は優しく見つめて笑った。
「美貴が勝ったら亀井と別れてってやつ?」
「はい、済みませんでした。さゆ、変なこと言っちゃって。」
「大丈夫だよ。気にすることないから。」
藤本の言葉にほっとした顔を見せる田中。
「田中も頼まれたんじゃないの道重に。」
「はい、断りましたけど。」
「どうして?」
どうして?と聞く藤本に田中は当たり前だろうという顔をした。
「絵里と吉澤さんの問題なのに、れなたちが勝手にそんなことするのおかしいから。」
「まぁ・・・そうだけど。」
「藤本先生、吉澤さんに勝つ気なかったんですか?」
「そんな試合するわけないじゃん。」
藤本はこないだ自分と試合をして田中は分かるだろうという顔をする。
「じゃぁ、なんで藤本先生はさゆの言うこと承知したんですか?」
「へっ?」
「だって、勝つ気でやったってことは別れさせようって思ったんですよね?」
藤本は言葉に詰まった。
自分のどこかで亀井と別れて欲しいと思っていたのだ。
だから、道重の言う条件をのんだんだ。田中に言われて気が付いた藤本は顔を歪ませた。
「絵里、いい子ですから。優しい子だし、甘ったれだけど面倒見もいいし。だから、その・・・認めてあげて欲しいというか・・・。とにかく、お願いします。」
頭を下げた田中に藤本は「うん。」とだけ言って去って言った。
田中は藤本の切なそうな表情が気になったがそのままバイトに向かった。
どうして道重の言う条件をのんだのかと田中に言われて答えることが出来なかった自分にショックを受けながら職員室に戻る藤本。自分の気持ちも分からないで試合をしていたら勝てるわけもないではないかと吉澤との試合を振り返る。
幼馴染でいると決めたのだ。吉澤への恋愛感情は早く捨てなければいけないなと藤本は思った。
- 187 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:15
-
*****************************
- 188 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:16
- 亀井をバイクに乗せて亀井の家まで送り届けてからLOSEに入った吉澤はいつもどおりに仕事をしていた。
昼になり、忙しくなるころに田中が制服姿でやってきた。
「お疲れ様です。」
田中は吉澤に頭を下げ、店内の様子を伺った。
「お疲れ。」
吉澤が忙しそうにしながらそう返すと田中は急いで更衣室に入り着替えて出てきた。
まだ、出されていないオーダーを確認して仕事を始める田中。
1時間程二人は無言で仕事をこなしていた。
「あぁ、やっと落ち着くね。」
「はい。」
テーブル席の一番奥に客が1人いるだけの状態になると吉澤は水を飲んだ。
「来週かられな、1人でこれやるんですよね。」
「だね。」
田中は不安というよりも頑張ろうという表情をする。
「補習は明日までだっけ?」
「はい、そしたら終業式で夏休みです。」
「そっか。」
夏休みという言葉を聞いて吉澤は亀井と少し遠出でもしようかと思う。
「絵里と出かけるんですか?」
田中は嬉しそうに聞いた。
「ん。まだ話してないけどね。」
「吉澤さん、絵里のどこを好きになったんですか?」
「どうして?」
「いや、だって凄い急っていうか知り合って直ぐだったから。」
「あぁ。」
吉澤は「そうだね。」と笑って見せ田中の表情を観察した。
亀井が田中を好きだと気が付いている気配は全く感じず、ただ幼馴染として興味を示しているように見える田中。
- 189 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:16
- 「夜にね、偶然会ったんだ。」
「夜に?」
亀井が夜中に出歩いていたことを知らなかった亀井は眉間に皺を寄せた。
「夜遊びじゃないよ。寝付けなくて散歩してたんだって。」
「なんだ。」
変なところで遊んでいたのかと思った田中はほっとする。
そんな様子を吉澤は笑ってみていた。
「うちもね、ちょっと気分が晴れない日でバイク走らせてたら絵里がいてさ。それで話してたら、なんかね、安心できるっていうか絵里の前だと素直で居られるんだ。うちの気持ち凄いよく分かってくれるし。」
「そうですか。」と田中は微笑んだ。
「絵里もきっとそうなんですよね?」
「ん?」
「絵里も吉澤さんと居るとそういう気持ちだから好きになったんですよね?」
「そう、じゃないかな?」
吉澤は優しく微笑んで見せた。
「なら、安心しました。絵里も自分の時間っていうかれなとさゆとの時間じゃない自分の時間持つようになってよかった。」
「田中ちゃんはバイトがその時間だっけ。」
「はい。あとはさゆだけだ・・・。」
田中は不安そうに呟いた。
「絵里のこと好き、なんだよね。道重さん。」
頷く田中。
「大丈夫、かな?」
「れなには分からないんですよ。幼馴染としてしか見てないから恋愛感情もつさゆの気持ち。」
吉澤は顔を歪めて水を口に含んだ。
「一番近くにいて、お互い良い所も悪い所も分かってるから好きっていう気持ちが恋愛感情と錯覚してるだけな気もしたりするんです。狭い世界に3人だけの世界に居すぎてそうなってしまうのかなって。れなは一度抜けてるけど絵里もさゆもずっと2人でいたし。でも絵里は吉澤さんを見つけて抜け出してさゆだけ抜け出せないでいるのかなって。」
田中は頭の中にあった考えを単純に言葉にしていた。
吉澤は、田中に言われそれも一理あるのかもしれないと感じた。
「吉澤さんはありますか?幼馴染を好きになったこと。」
田中はなんでもない感じにさらっと口にした。
あまりにもさらっと言う田中に吉澤は顔を引き攣らした。
自分たちはそのことでかなりの時間、悩んで苦しんでいるのだ。
「どうだろう・・・今は絵里が好きだから。」
吉澤の言い方が亀井を思って過去の恋愛を持ち出さないようにしているかと田中はそう思った。亀井の話を聞いても吉澤はきっと何も言わないだろうと田中はなんとなく思った。
「絵里のこと大切にしてくださいね。」
「うん。」
田中がやわらかく微笑むと吉澤も優しく微笑み返した。
- 190 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:17
-
*****************************
- 191 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:20
- 「絵里ちゃん、さゆみちゃん来たわよ。」
部屋のベッドに寝転がりボーっとしながら田中や道重そして吉澤のことを考えていると母親の声がした。
「はぁい。今行く。」
大きな声でそう返すと亀井は「よいしょ。」と体を起こした。
階段を下りてリビングに入ると道重が母親となにやら楽しげに話していた。
「さゆ。」
「あっ絵里。おはよぉ。」
笑顔を向ける道重に亀井は笑みを返す。
「部屋、おいでよ。」
亀井はそういいながら母親が用意していたお茶菓子をお盆に載せる。
「お母さん、これから買い物行ってくるけど。」
「うん。いいよ。」
亀井は頷いて道重を部屋に連れて行った。
部屋に入ると道重はいつものようにクッションを抱えて座り込む。
亀井の首もとにあるキスマークを見つけて顔をしかめる道重。
「絵里、見えてる。」
道重は自分の首を指して言う。亀井は慌てて首を手で押さえた。
「そういうことしてるんだ・・・。」
「そりゃ・・・ね、恋人だし・・・いいじゃん。で、なに?」
亀井はお盆をテーブルの上に置くと向かいに座った。
「もう直ぐ夏休みなの。」
「うん。そうだね。」
「プール行こうね。」
「うん。れいなのバイト休みの日にでも行こうか。」
「うん。」
嬉しそうに微笑む道重を見て亀井はなんだかほっとした。
吉澤に対して多少のわだかまりがあるかもしれないが時間が経てばそれもなくなるだろうとそんな気がしていた。
- 192 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:21
- 「れいなのバイト先行こうか。」
亀井がそういうと道重はほんの一瞬表情を固くしたが直ぐに笑顔で頷いた。
「そうだね。おやつ、あの店で食べよう。」
早速、暑い日差しの中、二人は仲良くLOSEに向かった。
LOSEのドアを開けると冷房の冷たい空気が亀井と道重を包み込み二人は顔を綻ばした。
入口で「気持ちいい。」 と言い合っている二人に気が付いたのは中澤だった。
「ほら、はよ、閉め。冷房が効かなくなる。」
中澤が言うと亀井と道重は慌ててドアを閉めてカウンターに座った。
亀井は直ぐに店内に視線を巡らせ接客中の田中を見つける。さらに視線を巡らせるが吉澤の姿がない。
「よっちゃん、今トイレいっとる。」
中澤がそう亀井に言った。
「そうですか。」
「ホットとプレーンピザ。オーダーはいりました。」
田中がそういうと中澤がピザの準備を始め田中は亀井と道重に視線を向けて微笑むとホットコーヒーをカップに入れテーブル席に持っていった。
- 193 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:23
- 「なん?また来たと?あっ絵里は吉澤さんに会いにきたっちゃね。今トイレに・・・。」
田中がトイレに視線を向けると丁度吉澤が手を拭きながら出てくる。
吉澤は田中と亀井、道重の視線に気が付き足を止めた。
「なに?なんで見られてるのうち。」
「いや、何でもないです。絵里が会いに来てますよ。」
吉澤は亀井に笑みを向けるとカウンターに入り中澤の横に行く。
「もう直ぐ焼き終わり?」
「ん。出来たで。」
吉澤はお皿にピザを乗せると伝票を確認してテーブル席に持っていった。
田中はその亀井の首もとのキスマークを見つけるとニヤニヤと微笑むが何も言わなかった。
「絵里たち何にする?」
田中が尋ねると亀井は「アイスココア。」と告げる。道重はメニューを見ながら何にしようか迷っている様子だった。田中は先にアイスココアを作り出す。
戻って来た吉澤は冷蔵庫を開けながらメモを取っていた。
「れいな、さゆみもアイスココア。」
「はいよ。」
田中は二つのアイスココアを二人の前に置いた。
「中澤さん、仕入れなんですけど。在庫これだけなので、宜しくお願いします。」
吉澤は休んでいる中澤にメモを渡した。
「了解。」という中澤。
「じゃぁうち、見舞い行ってくるからあと宜しくな。」
中澤はそういうと店を出て行った。
後藤が退院する前にお見舞いに行っておきたいといっていた中澤にもう直ぐ退院だと吉澤が継げると今日行くと言い出したのだ。
- 194 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:24
- 中澤が出て直ぐに残っていた1人の客も会計を済ませて帰っていった。
「田中ちゃん、休憩入って良いよ。」
吉澤がそういうと田中はホットドックを持って道重の隣に座りランチタイムに入った。
「あっ、それおいしそう。」
道重が田中の持つホットドックを見て呟いた。
「二人とも食べる?奢る。」
吉澤がそういってホットドックを作り出した。
道重はムスっと首を横にふる。
「さゆ。そういう顔しないの。」
「そうっちゃ、自分がおいしそうって言ったと。」
亀井と田中が道重にそういっている。
吉澤はオーブンにパンを入れながら二人の様子を眺めていた。
「いいよ、うちが勝手に奢るんだから。」
吉澤は亀井に笑ってそういうと二人の前にホットドックを出した。
「おいしそう。ありがとうございます。」
亀井が嬉しそうにホットドックを頬張った。
美味しそうに頬張る亀井を吉澤が嬉しそうに見ていた。
そんな吉澤を突き刺すように見る道重。
吉澤は道重を見て顔を引き攣らした。
「こら、さゆ。そんな目で吉澤さんをみるんじゃなか。」
田中が道重の頬を突く。
「ほら、折角やらか温かいうちに食べ。」
田中は道重の手にホットドックを持たせて笑って見せた。
「頂きます。」
道重は不貞腐れた顔で吉澤に視線を向けて頬張る。
- 195 名前:P&Q 投稿日:2006/05/25(木) 01:24
- 「んっ。おいひぃ。」
ホットドックの美味しさについ吉澤に笑顔を見せてしまった道重は慌てて視線をそらした。
「もぉ、さゆったら・・・。」
亀井は「ごめんなさい。」と吉澤に視線を送る。
吉澤は優しく笑って首を横に振った。
これだけあからさまに態度で示してくれたほうがやりやすい。
自分よりも亀井の方が大変だろうと吉澤はホットドックを食べる亀井を見つめた。
藤本たちと距離を置けば、もしかしたら田中の言うように恋愛感情と勘違いしているだけだったとなるのだろうか。いや、自分の気持ちは違う。何度も確かめた。藤本のへの気持ちがなんなのか。それは勘違いでは決してない、恋愛感情そのものだ。
亀井に対してもそれはある。夕べそれを確認した。2人の人間を同時に好きになることもあるのだ。吉澤はそんなことを思いながら亀井に笑みを向けていた。
- 196 名前:clover 投稿日:2006/05/25(木) 01:36
- 本日の更新以上です。
>>174-195 A PENTAGON and A QUADRANGLE
こんな時間から更新して見ました。
全然、みきよしが出てきてないけど(^。^?)
みきよし好きなんです。と言っておこうw
よしかめも好きなんです。と言っておこうw
>>169 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
そうですねぇ。色々、下書きしてあるので、考えながらやりたいと思ってます。
最後まで宜しくお願いします。
>>170 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>亀ちゃんかわいいですね。
>健気な亀ちゃん応援してあげたいです!
かわいいんですよ・・・
だから、だから書き始めるとよしかめが長く・・・
みきよし出てきてない言い訳してみましたw
最後までお付き合い願います。
>>171 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>ミキティも気になりますがごっちんの行動もドキドキ
後藤さんも行動しますのでw
>続き待ってます!!
有り難うございます。最後までお付き合いください。
>>172 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>かめきちいいなぁ。ほんといいなぁ。
ですよねw止まらないんですw
>でも、いつかは…。
(/。-)
>何が本当の幸せなんでしょうね。。。
なんでしょうねぇ・・・自分もわからないですw
最後まで宜しくです
>>173 :名無飼育さん
レス有り難うございます。
>意地悪しちゃうりかみきが面白いような悲しいような・・・
女の子ってそういうのしませんか?しますよねw
おいおい、って感じのをw
>がんばってください。
ありがとうございます最後までよろしくです。
- 197 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 01:48
- 更新お疲れ様です
さゆのキャラがなんか可愛いです
みきよしのほう期待してます(´Д`;)ハァハァハァハァ
- 198 名前:ももんが 投稿日:2006/05/25(木) 08:51
- みきよしもかめよしも捨てがたい!
今はみんなが辛い思いを抱えてますが、これからどうなるのか楽しみです。
静かに見守っていきたいです。
- 199 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 21:04
- 自分もひそかにみきよしを期待してしまいます・・・
でもどうなるのか、まじ楽しみです!
- 200 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 21:18
- このモヤモヤ感は何でしょうか・・・
本当にこれでいいのか考えさせられます。
毎日P&Qを楽しみに帰宅してます。
頑張ってくださいね!
- 201 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 22:38
- みきよしの気持ちも分かりながら、かめよしに感情移入してしまう自分がいます。
連日楽しみでもあり、先を考えると不安になったりして…
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 23:05
- 作者さんのおかげでかめよしにハマりそうですw
若者たる故のやるせない空気がたまりません
更新お疲れ様です
- 203 名前:オレンヂ 投稿日:2006/05/26(金) 00:30
- かめよしにハマりつつ、それぞれの思いが届けばいいのにと
心のどこかで思いながらドキドキして読んでます
これからどうなっていくのか楽しみにしています
- 204 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:47
- 「良かったね、夏休みに間に合って。」
退院の準備が出来て新垣の母親が迎えに来るのを石川と新垣は二人で病室で待っていた。
「石川さんのおかげです。」
笑みを向ける新垣に石川は嬉しそうに首を横に振った。
この仕事をやっていて良かったと思える瞬間だった。
「ガキさんが頑張ったからじゃん。何もしてないよ私。」
「そんなことないですって。本当に感謝してますよ。」
「ありがと。」
石川は素直にお礼を言った。
「でも、多分・・・。」
「ん?」
「きっと直ぐに戻ってきちゃいます。」
「ダメだよ。そんなこと言ったら。今、安定してるし大人しくしてれば大丈夫だよ。」
新垣は困ったように笑って見せた。
「退院したらやりたいことあるんです。」
「ん?」
新垣は嬉しそうに笑って見せた。
「そっか、いいね、若いんだし頑張りなよ。」
「若いんだしって石川さんだって若いじゃないですか。」
「まぁそうかな?あはは。」
「はは、変なの石川さん。」
新垣の母親が迎えに来て新垣は退院して行った。
石川は嬉しそうに新垣を見送ってから後藤の病室に向かった。
- 205 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:47
- 「失礼します。後藤さんお昼残したってね。ダメだよ。」
ベッドに横になっている後藤は「んー。」とだけ頷いた。
「なんか、梨華ちゃん良いことあった?」
嬉しそうな顔の石川を見て後藤が不思議そうに尋ねた。
「うん、あった。担当していた子がさっき元気良く退院して行ったの。」
「新垣さん?退院しちゃったんだ。」
「ガキさん知ってるの?」
「こないだ、談話室?で会ったから。」
石川はなるほどと頷いたが直ぐに後藤を鋭い視線を向けた。
「ちょっと、なんで談話室に行ってるのよ。ダメじゃん入院ばれちゃうよ。」
後藤はシマッタという顔をして布団で顔を隠した。
「もぉ、明後日、退院でしょ。大人しくしててよ。」
「大人しくね・・・。」
後藤は顔を出すと石川に意味ありげな視線を向けた。
「なに?」
「大人しくしてるじゃん。ココに居る人って大人しく意外出来ない人のが多いし。」
「へっ?」
「早く動き回りたいって思ってるのに出来ない人に向かって大人しくしてて言うのなんか微妙。後藤、今ちょっと頭来たもん。」
石川は自然と口にしていた言葉なのにそう思われていることに胸が痛んだ。
新垣がさっき微妙な顔したのはそのせいだろうか・・・。
「ごめん・・・。」
「幼馴染だから許してあげる。」
笑顔を向ける後藤だが石川の気持ちは晴れなかった。
「なに、そんなくらい顔しないでよ。」
「うん、私、ガキさんにも同じこと言っちゃった。大人しくしてれば大丈夫って・・・ガキさん、ダンスしたいのに我慢してたのに・・・皆とはしゃいだり出来ないのに・・・私・・・どうしよぉ。」
「大丈夫だよ。あの子なら、梨華ちゃんに出会えてよかったって言ってたもん。それにやりたいことあるって嬉しそうだったし。」
「うん・・・。」
こんなとき、後藤の笑顔よりも吉澤の笑顔を見たいと思ってしまう石川。
後藤が今朝言っていたのはこういうことなのかも知れないと石川の頭の中はゴチャゴチャになっていた。
- 206 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:48
-
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- 207 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:48
- 「美貴ちゃん。」
雑務を済ませ中庭でコーヒーを飲みながら空を見てゆっくりしていた藤本の元に勢い欲駆け寄ってきたのは辻だった。
「あれ、部活まだまだじゃない?どうしたの?」
「なんだ、コーヒーか。」
辻は藤本の手にあるカップを覗き込んで残念そうに呟く。
「よし、本当はいけないけど奢ってやろう。」
藤本は横にある自販機にコインを入れる。
「どれにする?」
「ありがと。」
オレンジジュースのボタンを押す辻。
亀井より年上には見えないなと藤本は目を細めた。
「あぁ。生き返る。」
走ってきたのだろう辻はこめかみに流れた汗を拭いながら美味しそうにジュースを飲んだ。
「で、美貴ちゃんなにしてるの?」
「いやいや、美貴が先に聞いたんだって部活まで時間まだあるのに。」
「あいぼんのピアノ聴こうと思ってさ。」
「加護の?」
「うん。美貴ちゃんは?」
「美貴はブレイクタイムってとこかな。」
「へぇ。で、ブレイクタイムって何?」
藤本は苦笑しながらため息をついた。
「休憩。補習だったから。」
「美貴ちゃんも補習かぁ。大変だね。」
可哀相にという顔で藤本を見る辻。
「まさかとは思うけどさ。」
「なに。」
「美貴が補習を受けていたとか思ってないよね?」
「違うの?」
藤本は両目を瞑ってため息をつく。
「補習の子に授業をしていたの。分かる?先生だから美貴。」
「見習いでしょ。」
「くそぉ・・・。」
「美貴ちゃん、顔が怖い。笑っていたほうが幸せになれるよ。」
「お前が怖い顔にさせてるんだよ。」
「じゃぁ、美貴ちゃんもあいぼんのピアノ聞くといいよ。凄い優しい気持ちになれるから。」
「はっ。えっちょっと。」
辻は「行こう。」と藤本の手を取る。
「まってこれゴミ捨ててから。」
辻は二つの紙コップをゴミ箱に入れると再び藤本の手を取って走りだした。
- 208 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:49
- 「まって、走るなって。速いよ。痛いしっ。」
辻は藤本を引きずるようにして音楽室まで走っていった。
「はぁ、はぁ。痛いし・・・。」
音楽室の前に息を切らせる藤本に辻は口の前に人差し指を立てて「しー。」とやってみせる。
辻がそっと音楽室のドアを少しだけ開けると中からピアノのメロディが聞こえてきた。
辻はドアの前に体育座りをすると目を閉じてそのメロディに耳を澄ました。
藤本も辻の隣に座って同じように目を閉じる。
柔らかいメロディ。
心が落ち着くような安心するようなそんな感じに陥る藤本。
しばらく二人は加護の奏でる旋律に耳を傾けていた。
加護は一曲、引き終えてドアが少し開いていることに気が付く。
辻がいるのだろうと加護は笑みを零すと再び鍵盤に指を走らせた。
数曲を弾き終えると加護はドアを完全に開けた。
「なんや、二人そろって。」
辻の隣に藤本が居たことに驚いたが加護は笑って見せた。
「のん。これから部活?」
「うん。あいぼん明日も弾きに来る?」
「くるで。」
辻は立ち上がると嬉しそうに笑った。
その横で藤本は顔を伏せたままで居た。
「美貴ちゃんなにしとるん?」
藤本は泣いていたのだ。加護の声が聞こえて慌てて涙を止めようとしたが止まらずに顔を上げられないでいる藤本。
辻は藤本が時折零す嗚咽に気が付いていたが気づかない振りをしていた。
「あいぼん。」
辻はそっとしておこうと合図を送り藤本を残してその場を去った。
- 209 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:49
- 二人の足音が完全に消えると藤本は顔を上げて涙を拭った。
それでも溢れてくる涙。
加護のピアノの音色がなんとなく似ていたのだ吉澤の見せる笑顔に。
たった、数日それを見ることが出来なかった藤本はきっとどこかで我慢していたのだろう。加護のピアノを聴いてあふれ出してしまった吉澤への想い。
好きで好きで仕方ないのに・・・続くか分からない恋愛関係より一生続く幼馴染の関係を選んだのも自分なのに・・・。
今、泣けるだけ泣いておこう。出せるだけの涙を出しておこう。
そしてこの気持ちは終わらせよう。吉澤の前で幼馴染でいるために。
藤本の嗚咽は誰も居ない廊下に響いていた。
- 210 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:49
-
*****************************
- 211 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:50
- 「なんも食べれんって聞いてたから花しかもってこんかったわ。」
中澤は花瓶に花を生けると後藤の隣に座った。
「来てくれただけでいいのに。明後日退院だし。」
「手ぶらってのもな。夕方、よっちゃんが来るっていっとった。」
後藤が嬉しそうに頷くと中澤も微笑んだ。
「吉澤が土産のがよかったか?」
中澤がからかうように言うと後藤は困ったように笑った。
「裕ちゃんも亀井さんに会ったことある?」
「あるよ。」
「後藤はさ、よしこのこと好きなの。」
「見てれば分かるわ。」
「そっか。」
後藤はクシャっと鼻に皺を寄せた。
「告白したらさ、気持ち伝えたら、もう幼馴染で居られないのかな?」
「どうやろう。最近4人そろったとこ見とらんからな・・・。」
「そっか。」
「でもな、ウジウジしてるなら、気持ち伝えた方がすっきりしてえぇで、昔のあんたら言いたいこと全部言いあってたやない。遠慮せんと言い合って喧嘩してたやろ?」
「そうだったね。」と後藤は懐かしむように笑った。
「ほら、そういう風に笑えるんとちゃう?今、ごっちん良い笑顔やで?気持ち伝えてその時は色々あるかも知れんけど、いつか時間が経てばそうやって笑えるようになるのが幼馴染やないんかな?」
後藤は優しい顔で微笑んだ。
- 212 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:50
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- 213 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:51
- 中澤が帰ってくると吉澤は時計を見た。
バイトの時間は既に終わっている。
「よっちゃん行くんやろ?」
「うん。」
更衣室に入っていく吉澤を亀井が目で追っていた。
「これからデート?」
田中が亀井に小声で尋ねると亀井は首を横に振った。
「お見舞い。」
「あぁ、そうっか。絵里も行くと?」
「行かない。」
中澤は二人の会話を聞きながら亀井が行くといったら止めようと思っていた。
行かない。という言葉に亀井の様子を伺う中澤。
「じゃぁ行ってきます。」
「お疲れ様でした。」
出てきた吉澤に頭を下げる田中。
「絵里、また明日ね。道重さんもまた。」
「はい。」
笑顔で返事をする亀井とそっぽを向く道重。
田中は道重の頭を軽く叩いた。
そんな様子を吉澤は笑いながら見て店を出て行った。
「心配か?」
不安そうにしている亀井に中澤が声をかけた。
「えっ?」
「よっちゃんのこと。」
「いや?」
亀井はそんなことないという顔をしてみせる。
「幼馴染のお見舞いっちゃなんも疚しいことなか。」
田中がそういうと亀井は「分かってるよ。」と頬を膨らませた。
この子は後藤の気持ちを知っているのだろうと中澤は思った。
きっと吉澤が帰ってきて亀井に連絡が入るまでこの子はこうして不安な顔をするのだろうと。
「じゃぁ、絵里もさゆみと遊ぼ。れいなもバイトもう直ぐ終わるんでしょ。」
「意味がわからんっちゃ。」
田中は呆れながら道重を見た。亀井はぎこちなく笑っている。
「いいじゃん。3人で夕飯食べに行こうよ。」
道重が提案すると亀井仕方ないなという顔をする。
「そうだね。」
亀井がそういうと田中も「しょうがなかね。」と承知した。
- 214 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:51
-
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- 215 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:52
- 「ごっちん具合はどう?」
「いい感じだよ。」
笑顔の後藤を見てホッと息をつく吉澤。
「よしこが来てくれれば元気になるし。」
吉澤は困ったように笑ってベッドの横の椅子に座った。
「そうだ、後藤、事務所移るんだ。」
「移るって?」
「今のところ辞めてもっと大きな事務所に行くの。」
「そっか。良かったね。」
嬉しそうに笑う吉澤に後藤も嬉しくなる。
「先輩の女優さんたちが一杯いるからもっと演技勉強して女優一筋でいけたらいいなって。」
「うん。頑張って応援してるから。」
ナースステーションでは落ち込んでいる石川を先輩看護士が慰めていた。
勤務時間が終わった石川をゴハンでも食べに行こうと誘う先輩だが石川はそんな気分になれないと帰ることにした。
「よっちゃん?」
駐輪場の端にある見慣れたバイク。
石川は無意識バイクに歩み寄るとその横に小さく座り込んでいた。
たわいもない話しに花を咲かせていた吉澤と後藤。
「じゃぁ、ごっちんそろそろ帰るね。」
「うん。ありがと。」
「明日はバイトが8時までだからこれないけど、明後日、退院するとき迎え来るから。」
「うん。」
笑顔を見せる後藤に手を振って吉澤は病室を出た。
普通に話しが出来たことを嬉しく思いながらバイクに向かう吉澤。
「梨華ちゃん?」
バイクの横に座り込んで顔を伏せているが石川だと分かった吉澤は駆け寄った。
「どうした?」
吉澤の声に顔を上げた石川は涙をポロポロと零し吉澤に抱きついた。
「梨華ちゃん?どうした?」
声を上げてただ、泣く石川を初めてみた吉澤は驚きながら必死に抱きついてくる石川の背中を撫でた。
- 216 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:52
- その様子を部活を終え後藤の見舞いに立ち寄った藤本が反対側の道路から足を止めてみていた。石川が泣いていると気が付いた藤本は二人に慌てて駆け寄った。
「どうしたの?」
藤本が吉澤に尋ねるが「分からない。」と首を横に振る吉澤。
「梨華ちゃん。落ち着きな。」
藤本が呼びかけても石川はただ泣き続けた。
しばらくして石川が落ち着くと、後藤に指摘されたこと。それを新垣に言ってしまったことを力なく話す石川。
「ミスっていうか、それも勉強じゃん。最初から完璧な人なんていないし。」
頷く石川だが、また涙を零す。
藤本は吉澤に任せたほうが良いだろうと思った。
「美貴、折角来たからごっちんの顔見てくる。面会時間終わっちゃうし。」
「あっ、うん。」
藤本は吉澤に笑みを向けて「よろしくね。」と石川を指差して病院に入っていった。
吉澤は困ったなと石川の頭を撫でた。
- 217 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:53
- 亀井たちは3人で家の近くのファミレスに入っていた。
亀井は仕切りに携帯電話を気にしている。
道重はそれが面白くないとずっと不機嫌だ。
田中はそんな二人を困った顔をしてみていた。
「ほら、絵里、携帯気にせんで、食べるっちゃ。」
「あ、うん。」
後藤のことで吉澤が困ったりしていないか、悲しい思いを、辛い思いをしていないだろうか亀井はそれが気になって仕方なかった。
田中が食べろと皿を押した。
「そんな気になるなら行けばいいじゃん。」
道重そういうと亀井は悲しそうに笑った。
「ごめん。もう気にしないから。」
亀井は携帯をバックの中にしまった。
「絵里はそんなに吉澤さん好き?」
道重は寂しそうに呟く。
「それ、れなも聞きたかったとぉ。どこに惚れたと?」
亀井は円らな瞳をキョロキョロとさせた。
「どこって・・・安心するの、吉澤さんの優しさに。」
田中は「そっか。」と嬉しそうに笑って見せる。亀井はそんな田中の顔を見て辛そうな笑みを浮かべる。
「なんでそんな顔するのよ。好きな人いて両想いで付き合ってるの、なんで?」
道重が強い口調で言う。亀井は一瞬驚いたが、道重の言葉に頷いている田中を見て田中もそう思っているのだろうと感じた。
一体自分はどんな顔してるのだろう。
「そんな顔って?」
「辛そうっちゃ。」
道重の質問に田中もそれが聞きたかったと思い頷いた。自分がどんな顔をしているかすら分かっていない亀井に少し驚いた。
- 218 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:53
- 「そう・・・じゃぁそれは、きっと吉澤さんが今、側に居ないからかな・・・。」
亀井は自分の気持ちを悟られてはいけないと思い理由を言った。
吉澤のことが気になっているのは本当だが、きっと表情に出ているのは田中への気持ちが原因だ。亀井は二人は今の理由で納得しているか不安だった。
切なげに吉澤が側に居ないからだという亀井に道重は自分の想いより亀井の吉澤への想いの方が大きい気がした。
「吉澤さんのところいきなよ・・・。」
「へっ?」
突然優しい顔で言い出す道重に亀井は驚いた。
道重の隣で田中も驚いている。
「絵里が辛い顔してるの見てたくないもん。吉澤さんと居て楽しいならさゆみそれの方がいいから・・・いきなよ。」
田中は亀井に優しく微笑むと道重の肩を抱いた。
「絵里、いきな。」
田中は困っている亀井に行くように促した。
道重が大人になろうとしているんだ。だから早く行け。田中はそう思いながら亀井を見つめた。
「じゃぁ、行く。ありがと。」
亀井は店を出た。もう、自分が一番好きなのは田中なのだと知られることはないだろう。
自分と吉澤だけが知っているこの気持ちはいつか消えてくれるのだろうか。
亀井は零れだしそうになる涙を堪えて吉澤の家に向かった。
- 219 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:53
-
*****************************
- 220 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:54
- 「どうしよう。」
「大丈夫。ガキさん梨華ちゃんのこと凄いいい看護士さんだって言ってたから。そんな風に悩まれてるって知ったらガキさんが悲しいよ。ねっ。だから大丈夫だよ。」
優しく微笑みながら石川の頭をなでる吉澤。
見る見る笑顔になる石川。誰の言葉よりも吉澤の言葉が一番効果があるのだ。
石川はやっぱりこの笑顔と声を亀井だけのものにされてしまうのは辛いなと思ってしまう。
「落ち着いた?」
「うん。あはっ、私、凄い泣いちゃったね。ごめん。」
吉澤のTシャツに出来た石川の涙の染みを見て謝る石川。
「直ぐ乾くよ。」
「うん、あーもぉ。」
石川は子供のように泣いてしまったことを恥ずかしがって吉澤に抱きついた。
「えっ?なにどうした?」
「ちょっとだけこうさせて。恥ずかしいから。」
「梨華ちゃん子供みたいだよぉ。」
困った顔をしながら石川の頭を撫でる吉澤。
藤本に先に帰るとメールをすると吉澤は石川をバイクの後ろに乗せて家に向かった。
夕飯は食べたくないという石川。早く寝たほうが良いと吉澤は石川を自分の家に帰らせた。
「梨華ちゃんおやすみ。」
家に入っていく石川に吉澤は明るく声をかけると石川は笑みを浮かべて中に入っていった。
吉澤は藤本を迎えに行こうかと電話をかけた。
「美貴、今どこ?」
『丁度、病院でて携帯の電源いれてメールみてた。』
「だから出るの早かったのか。」
『うん。梨華ちゃんどう?』
「多分、大丈夫。」
『そっか、よかった。ごっちんも心配してたから。』
「うん。迎え行こうかと思って。」
『ホント?』
「うん、そこで待ってて。」
『わかった。』
携帯を切って病院に向かおうとバイクの向きを変えた吉澤の目にこちらに向かって走ってくる人影が見えた。
「よし、ざわさんっ。」
はぁはぁと息を切らし吉澤の胸に飛び込んできた亀井。
勢いのあまりバイクを倒しそうになり吉澤は慌ててバイクと亀井をしっかりと支えた。
「どうした?」
「さゆも絵里たちのこと応援してくれるみたい。」
「うん。」
それだけではないだろうと吉澤は亀井の頭を撫でる。
「っう・・・っく。」
嗚咽を漏らしだした亀井。
「中はいろう。」
吉澤は亀井の背中を押しながらバイクを庭先において家に連れて入った。
- 221 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:54
-
*****************************
- 222 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:54
- 「さゆ、もう少し声、小さく泣いて。」
ファミレスの店内、亀井が帰った後に子供のように大声で泣き出した道重。
客たちが迷惑そうに又は興味津々と行った感じで視線を向けてくる。
田中はタオルで道重の涙を拭きながら必死で慰めた。
「だって、だって。告白、あぁぁぁ前に、終わ、うぇぇぇっんっ。」
「だぁぁ、分かったけん、喋らんでいいと。」
田中は半ば道重の口を押さえるようにタオルで道重の顔を覆った。
「んっうぅぅっ。」
「鼻で息できるっちゃ、落ち着くまでだから。」
田中は参ったなと周りの客に頭を下げながら田中の口を必死で押さえていた。
- 223 名前:P&Q 投稿日:2006/05/26(金) 01:55
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- 224 名前:clover 投稿日:2006/05/26(金) 02:08
- 本日の更新以上です。
>>204-223 A PENTAGON and A QUADRANGLE
また、深夜の更新になりました・・・。
月末って残業増えますよね(ノ_-)
でも、寝る前に更新したいと思ってしまう(苦笑)
読んでくれてる皆様を考えさせてしまったりしているけど・・・
下書きあるけど最後どうしようかとか実は決まってなかったりするw
>>197 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>さゆのキャラがなんか可愛いです
ありがとうございます
>みきよしのほう期待してます(´Д`;)ハァハァハァハァ
どうなりますかw最後までお付き合いください
>>198 :ももんが 様
レスありがとうございます。
>みきよしもかめよしも捨てがたい!
よっちゃんもう1人いてくれると助かるんですがw
>静かに見守っていきたいです。
有り難うございます。よろしくです。
>>199 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>自分もひそかにみきよしを期待してしまいます・・・
>でもどうなるのか、まじ楽しみです!
楽しみにしていてくださいw最後まで宜しくです
>>200 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>本当にこれでいいのか考えさせられます。
自分、あまり深く考えないで数年前とかこんな感じで恋愛してたなぁ
程度で書いてたり・・・m(。_。)m
>毎日P&Qを楽しみに帰宅してます。
有り難うございますw頑張ります
>>201 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>連日楽しみでもあり、先を考えると不安になったりして…
軽い気持ちで読んでくださいw
>>202 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>作者さんのおかげでかめよしにハマりそうですw
ありがとうございますw
>若者たる故のやるせない空気がたまりません
嬉しいですw若いときって色々ありますよねw自分、ありましたw
>>203 :オレンヂ 様
レスありがとうございます。
>かめよしにハマりつつ、それぞれの思いが届けばいいのにと
>心のどこかで思いながらドキドキして読んでます
ドキドキしてくれてありがとうですw
>これからどうなっていくのか楽しみにしています
最後まで宜しくお願いします。
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/26(金) 02:13
- 残業後の更新乙彼様です!
ほぼ毎日の更新うれしいです
いいところで終わってますね(*゚∀゚)=3ハァハァ
梨華ちゃんめちゃくちゃネガですねw
続きまってます!
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/26(金) 02:21
- 仕事、更新お疲れ様です!!
最近これ読まないと寝れませんww
次回悪い予感がしますが当たらないことを願います(´ε`;)
それにしてもさゆがかわいいですね〜
- 227 名前:ももんが 投稿日:2006/05/26(金) 08:52
- 健気なさゆかわいいです!
確かによっちゃんがもう一人いればみきよしかかめよしか悩まないですよね(笑)
- 228 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:42
- 「これ、飲める?」
どこから走ってきたのだろう、暗くて分からなかったが着ているタンクトップに汗で染みが出来ている。吉澤は冷たい麦茶を亀井に渡して一緒にソファに座ると様子を伺った。
「んっ・・・。」
麦茶で咽る亀井の背中を優しく擦ってやる吉澤。
亀井はもう一口麦茶を飲むと指で涙を拭った。
「落ち着いた?」
「うん・・・ごめんなさい。押しかけちゃって。」
「大丈夫だよ。どうした?」
優しく見つめる吉澤の顔を見てまた涙が溢れそうになる亀井。
「うっ・・・もう、絵里・・・。」
「うん。」
言葉を詰まらせながら必死に話そうとする亀井。
吉澤は急かさずに黙って耳を傾けた。
「れいなへの、きも、気持ち・・・。」
「うん。」
「ぜった、い、つたえ、られな、い。」
「どうして?」
「伝える、つもり、なかった。」
「うん。」
亀井は深呼吸をして息を整えて吉澤を見た。
「絵里、ずるいの。」
「ん?」
「伝えないって決めてたのに。でも、もう絶対に伝えられないってなったら後悔してるの。本人に伝えられないままこの気持ち消さないといけないってそんなの辛いって。」
「そっか。」
吉澤は亀井の頭を撫でると胸に抱き寄せた。
自分は気持ちを伝えて後悔した亀井は伝えないで後悔した、結果は同じことだ。
だからこうして二人で慰め合えばいいじゃないか。
「うちは美貴に気持ち伝えて後悔したよ。同じだね。」
「じゃぁ絵里、さゆにもそうさせた。気持ち伝えられるの避けて・・・さゆも後悔してるかな?」
「絵里のせいじゃないよ。本人の意思だもん。それでも伝えたければ伝えてたと思うよ。」
「うん。」
「それに、後悔するのはずるいって言わないから・・・。絵里はずるくなんてないよ。」
亀井が「ありがと。」と笑みを見せたのと同時に吉澤のポケットから携帯の着信メロディが聞こえてきた。
- 229 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:43
- 「ちょっとごめんね。」
吉澤は亀井から少し離れて携帯を見て通話ボタンを押した。
『よっちゃん、遅い。』
怒っている藤本の声が聞こえてくる。
吉澤は亀井の様子を見て落ち着いてはいるが今は一緒にいるべきだと判断した
「ごめん、美貴。迎えいけなくなっちゃった。まじごめん。」
『梨華ちゃん大丈夫じゃなかったとか?』
「梨華ちゃんじゃない。絵里が来てて・・・。」
『そっか、恋人優先だよね、普通。うん。分かった。タクシーで帰るよ。』
「ごめんね。」
『気にしないでいいよ。じゃっ。』
電話が切られると吉澤は作った笑顔を亀井に見せた。
「ごめんなさい。絵里のせいだよね。」
吉澤は首を横に振った。
「絵里は恋人じゃん。これって当たり前だよ?」
「でも・・・。なんか・・・。」
藤本さんは違うと亀井は思った。
石川や後藤ならそうであっても藤本は吉澤にとって1番好きな人だ。
「絵里はそうしてくれないの?田中ちゃんと約束があってさ、うちが絵里に側に居て欲しいって思ってるの分かったら絵里は田中ちゃんとこ行っちゃう?」
亀井は考えた。
吉澤の気持ちを受け止めてあげられるのは自分だけだ。
田中には自分のほかに道重も居る。もしかしたら自分の知らない人もいるかもしれない。
「吉澤さんのところに飛んでいきます。」
「でしょ。今の絵里、1人に出来ないもん。」
吉澤はそういうと亀井を抱きしめた。
きっと、田中と道重の前では泣けないのだろう。強がって田中に自分の気持ちを知られないようにして我慢して我慢してここまで走って耐えてきたんだ。そんな亀井の側を離れてはいけないと吉澤は思った。
「吉澤さん。」
「ん?」
「絵里ね、最近、思うんだ。」
「何を?」
「吉澤さんと恋人同士になってね、まだ何日かだかけど絵里が1番好きなのはれいななのに吉澤さんの方が好きだって思うときがるの。」
吉澤は何も言えず田中の言葉が思い浮かんだ。
恋愛感情と錯覚してるんじゃないかと言った田中。
- 230 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:44
- 「絵里、幼稚園のころから男の子に苛められるといつも助けてくれたれいなが大好きで転校しちゃってからもずっと好きだったの。ヒーローみたいな感じで。ずっとずっと好きだって思ってたの・・・意地?みたいなのかな。れいなを好きで居続ける気持ちが。」
「いいじゃん。意地でも・・・ずっと好きでいるのって難しいことだもん。」
「でも・・・」
亀井は困った顔で吉澤を見上げた。
「意地だったら・・・そしたら絵里・・・吉澤さんのこと1番好きになっちゃうかもしれないんだよ?」
「そしたらそれでいいんじゃないの?」
「無理だよ・・・そしたら終わっちゃう。」
「どうして?」
亀井はぎゅっと吉澤の腰を掴み胸に顔を埋めた。
「だって吉澤さんは違うもん・・・1番好きなのは藤本先生だもん。」
海で言っていた亀井の言葉を思い出した。
2番目に好きだと言って受け入れてくれる人は居ない・・・
「やっぱり絵里はずるいですよね。」
亀井は何も言わない吉澤から離れると俯いて顔を覆った。
「絵里が言ったのに・・・お互い1番好きな人は別に居るからって・・・。」
吉澤はどうして良いのかわからなかった。
嘘をつきたくないから2番目に好きだといわないといけないんだと亀井はあの海で言っていた。嘘をつきたくないから、吉澤が1番になってしまうかも知れないと打ち明けたのだろう。そして、2番目に好きだといって受け入れてくれる人はいないということは亀井もそうなのだろう。吉澤に1番好きになってもらわないとこの関係が終わってしまうのだ。吉澤は顔を覆って嗚咽をもらう亀井をじっと見ていた。
「田中ちゃんが言ってた、道重さんがね絵里のこと好きだって気持ちは恋愛感情の錯覚なんじゃないかって。」
亀井は涙を拭いながら顔を上げ吉澤を見た。
「ずっと側にいて、良い所も悪い所も分かっててずっと一緒にいすぎて回りを見ていないから幼馴染として好きって気持ちを恋愛感情の好きの錯覚してるんじゃないかって。絵里もそうかもしれないんだよね。人の気持ちって環境で変わるんだよ。きっと。だからさ・・・うちも、絵里が1番になるかも知れないじゃん。」
吉澤は優しく笑ってみせる。
「絵里だってまだ確実にうちが1番なわけじゃないでしょ?」
頷く亀井の手を吉澤は握った。
「だから、もう少し、恋人で居てよ。今、絵里にいなくなられたらうちかなり辛い。」
「れいなが言ってたみたいに、絵里の気持ちが錯覚で、吉澤さんが1番になったら、そのときは打ち明けてもいい?吉澤さんが1番好きって言ってもいい?」
「うん。そのときはうち、嘘つかないから。ちゃんとその時の気持ち絵里に言うから。」
「わかった。」と微笑む亀井。
吉澤は心の中でごめんと謝った。
亀井が1番になることはないのだ。藤本への気持ちは錯覚ではないから。
ずるいのは亀井ではなく自分だ。亀井が与えてくれた受け皿を良い様に利用しようとしているんだ。きっと亀井が1番好きだと言ってきたとき嘘をついてしまうだろう。全てを知っている亀井に甘えてしまうだろう。
- 231 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:44
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- 232 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:44
- 藤本はあまりに遅い吉澤が事故でも起こしたのではないかと電話をかけた。
亀井が来たから迎えにいけなくなったという吉澤に寂しさを感じた。
でも、泣かないと決めたのだ、藤本は動揺したものの明るい声で吉澤に気にしなくて良いと言えた自分を心の中で褒めた。そして、加護のピアノを聞かせてくれた辻とピアノを弾いてくれた加護に感謝した。
タクシーを家の前で降りると吉澤のバイクがいつもと違う留め方で庭先にあるのが見えた。本当に突然、亀井が来たのだろう。リビングの電気が点いているからまだ亀井がいるのだと藤本は自分の家に入っていった。
「あら、珍しいわねこんなに早く戻ってくるなんて。」
リビングに居た母親が出てきてそう言った。
「うん。よっちゃんちに寄ってないから。」
「あら、喧嘩でもした?」
「してないよ。よっちゃんの恋人来てるから美貴じゃまでしょ?」
藤本はそういいながらリビングに入っていく。
「どんな人なのよ。美貴も早く恋人作りなさい。もういい年なんだから。」
「はいはい。ゴハンある?おなかすいた。」
「あるわけないじゃない。いつも食べないんだから。お父さんも帰ってこないしお母さんいつも1人で済ましちゃうもの。」
「お父さん帰ってきてないの?」
「出張だ、残業だでこのところ全く帰ってこないわよ。全く。」
「そうなんだ・・・。美貴、お風呂入って寝るね。」
藤本は自分の部屋に向かった。
カーテンを開けて石川の部屋を見る。電気が消えているからもう寝ているのだろう。
「梨華ちゃん、美貴たちよっちゃんにあんまり頼らないようにしないとね。」
藤本は石川の部屋を見ながら呟いた。
吉澤はもう3人だけの吉澤ではないのだ、亀井の恋人になったのだ。優先順位は簡単だろう、たった一人の恋人と4人の幼馴染。幼馴染は吉澤だけではないのだ。
- 233 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:45
- お風呂に向かう前にリビングを覗くと母親が1人酒を飲んでいた。
このところ1年位だろうか、母親のアルコールの量が増えている。
仕事をしていない専業主婦。これと言って趣味もない。
藤本が高校生の頃は料理を作ることに専念していたが、大学に入ってからは藤本が吉澤の家で食べるようになり、帰ってくるかどうか分からない父親のために料理に腕を振るっていたがいつからかそれもしなくなってしまった。
「美貴もたまには飲もうかな。」
食器棚からグラスを取り母親の前に座り笑顔を見せる藤本。
「初めてじゃない、美貴が家でお酒飲むの。」
「うん。」
藤本は寂しそうに笑う母親に罪悪感を感じた。
あまり、干渉してこなかった母親。幼馴染と何でも同じだから安心だと言っていた母親。だが、いつも剣道の試合は見に来てくれて、いつも応援してくれてて優しく見守っていてくれていた母親。いつからだろう、おはようしか言葉を交わさない日が当たり前になってしまったのは。
ビールを注いでくれる母親の顔はやっぱり寂しそうだ。
「乾杯。」
藤本のグラスにカンとグラスをぶつけてビールを飲み干すとまた直ぐにグラスにビールを注ぐ母親。既にビールの空き缶が5本もある。
藤本は飲みすぎだと思うが止めることは出来なかった。
「美味しい。夏はビールだね。」
藤本が笑って言うと母親は「そうだね。」とだけ言って再びビールを注いだ。
「お母さんさ。」
「なに?」
返事をしてまたゴク、ゴクとビールを飲み干す母親に藤本は精一杯の作った笑顔を見せた。
「体、大事にしてね。」
「ん?」
「お風呂、入ってくる。」
藤本は残ったビールを飲み干すと直ぐに立ち去った。
シャワーを浴びながら藤本は心の中で母親に謝っていた。
髪と体を洗い、湯船に浸かる先ほどの母親の姿が蘇る。はっきり言って惨めだと藤本は思った。だが、そうさせてしまったのは父親と自分だ。
母親を思いやれなかった、もっと早く母親の寂しさに気が付いてあげるべきだった。父親があまり帰ってこなくなっていたのは知っていたのに気が付かない振りをしてしまった。父親に最後にあったのはいつだっただろう。大学に入る頃だっただろうか。
元々、仕事が趣味のような人間だったから仕事が忙しいのだとばかり思っていた。
高校生になった頃だろうか、仕事だけではないかもしれないと思ったのは、でもその頃、家族のことを考える余裕なんてなかった、吉澤たちと過ごす時間の方が大切だったし、部活も受験もあったのだ。
吉澤に恋人が出来たことで一緒に過ごす時間も減るだろう、これからは母親との時間も大切にしよう。
そう、しなければいけないと藤本は思った。
- 234 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:50
-
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- 235 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:53
- 亀井は朝から吉澤の家に来ていた。
まだ、吉澤は起きてないらしく、石川がキッチンに立っていた。
「おはようございます。」
声をかけながら石川の横に立つ。
「あ、おはよう、早いね。亀井さんの家って近いの?」
今日は靴がなかったから居ないと思っていた亀井が朝の7時から来るということは近いのだろう。卵焼きを作りながら尋ねた。
「歩いてくると30分くらいですかね。走れば15分くらいです。」
「じゃぁ6時半に家出てきたの?」
「はい。」
笑顔で頷く亀井に石川は、若さって凄いなと思いながら苦笑した。
「そんなによっちゃんに会いたい?」
「会いたいっていうか・・・側に居てあげたい。」
「どういう意味?」
石川は出来た卵焼きを皿に載せながら亀井に視線を向けた。
「いや、深い意味は、ない、ですよ?」
笑ってみせる亀井。
田中への気持ちが薄れていく中で吉澤への気持ちが大きくなる。それはそれでよいことだと亀井は思っている。本当は自分のためには吉澤への気持ちが大きくなって抑えきれなくなる前に吉澤から離れたほうがきっと楽で傷つかずにいつかいい思い出なっていくのだろうと思う。だが田中への気持ちを薄れさせて、救ってくれたのは吉澤で吉澤を巻き込んだのは自分だ、吉澤がまだ救われていないで苦しんでいるのに自分を守って離れてしまうのはずるい。だから今は吉澤の側に居よう、そして吉澤との時間を楽しもうと吉澤に田中への気持ちが薄れてると打ち明けたあと、亀井なりに考えた結論だ。
「それより、今日は藤本先生いないんですね。」
「ん、今日、日曜日だもん、学校ないからまだ寝てるんじゃない?」
「そうっか、日曜日か。」
「生徒はテスト休みだっけ?」
「はい。もう明後日終業式で夏休みになります。」
「いいなぁ夏休み。」
「石川さんたちはないんですか?」
「んーあるよ。5日間だけど。」
「短いんですね。」
「普通の会社も土日くっつけて9日とか10日とかにする程度だから変わらないよ。」
「へぇー。」
「よし、出来上がり。」
手伝おうと思っていた亀井をよそに、石川は朝食を作り終えて満足そうにしていた。
「よっちゃん起こしてくる。」
「あっ。」
吉澤を起こしに行こうとした石川は亀井の声に足を止めて振り返ると亀井を見て苦笑した。
「ごめん。亀井さんが行くよね。なんかいつも起こしてたから、習慣?ごめんね。」
「いえいえ。」
亀井は笑って首を横に振ると石川の横を抜けて吉澤の部屋に駆け上がっていった。
- 236 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:54
- 「はぁ・・・気使うな・・・。」
石川はコーヒーをカップに入れながらため息をひとつついてからコーヒーを一口だけ飲んで時計を見るとポケットから携帯を出し藤本にコールする。
「もしもし、美貴ちゃん、おはよー。」
『んっ。おはよ。』
「朝ごはん出来たからおいで。」
『あぁ、昨日から朝ごはん家で食べてるんだ。よっちゃんから聞いてない?』
石川は昨日は朝が早かったため朝食は一緒に取ることが出来なかった。
「まだ、よっちゃん起きてないから。」
『そっか、そういうことなんで。食べたら行く。何時にでる?』
「10時に退院だから、9時には出るかな。」
『わかった。』
藤本が携帯を切ると石川も携帯を切った。
なんで、急に家で食べることにしたのだろう、亀井ん遠慮しての行動だろうか。
だったら、自分にもそうしないかと相談しても良いものだ。
「あ・・・。」
大泣きした後だから言う暇もないか、いや、それでもメールくらいしてくれてもいいだろう。石川は携帯をしまいながら他に何かあったのだろうかと考えた。
- 237 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:55
- 亀井は吉澤の部屋のドアをそっと開けると足音を立てずに中に入りベッドの横に膝を付いた。
ぐっすりと眠っている吉澤の寝顔を優しい眼差しで見つめる亀井。
「んっ。」
亀井が吉澤の真っ白な頬を指でチョンチョンと突くと吉澤はくすぐったそうに顔を背けた。
起きる気配のない吉澤。薄っすらと開いた唇からはスースーと息が聞こえる。
亀井は悪戯な笑みを浮かべると吉澤の唇に自分の唇を重ねた。
「んんっうっ。」
しばらくして息苦しさに目を開いた吉澤。
亀井は唇を離すと体を起こして深呼吸している吉澤を笑った。
「おはようございます。」
「普通に起こして、うち、死んじゃうから。」
笑って言う吉澤に亀井も笑みを返した。
「普通じゃつまらないもん。」
「つもらないもんって、じゃぁ優しく起こして。」
お願いする吉澤に亀井は頬を膨らました。
「絵里のキスは優しいもん。」
吉澤は苦笑すると悪戯っぽく笑った。
「まぁ、絵里から激しいキスをしてもらったことはないね。確かに。」
吉澤はそういうと素早くベッドから降り、亀井を見下ろして笑った。
「もぉ、いいもん。今度するから。」
「おっ。楽しみだ。」
亀井は吉澤の肩をポンと押して「意地悪。」と呟いた。
「もう、行きましょ。石川さん朝食作ってくれてますよ。」
「うん。ってか絵里、来るの早くない?」
「早起きしましたから。今日、バイト休みでしょ?」
「うん、休みだけど。無理しないでね。」
「来たいから来てるだけ、眠かったら寝てますよ。」
微笑む亀井に吉澤は安心したように微笑んだ。
「そうだ、今日バイトは休みだけど、ごっちん退院するから迎え行くんだ。」
「あっ・・・じゃぁ絵里、待ってますよ。」
後藤は自分が行ったら気を悪くするだろうと亀井は遠慮した。
「いいじゃん。一緒に行こう。そのあとLOSEで快気パーティするんだ。中澤さんが夕べやるって言い出して。夕方から貸切にしてくれるんだって。」
「へぇ。でも、後藤さん絵里のこと・・・。」
「大丈夫だよ。それに・・・。」
吉澤は情けない顔で亀井を見た。
その顔を見た亀井は吉澤をぎゅっと抱きしめる。
「行きます。側にいます。」
「ごめんね。ありがと。」
一昨日、亀井が突然吉澤を訪ね、そのまま泊まった翌朝、藤本は朝食をとりに来なかった。夕飯も母親と食事に行くと言い、石川は遅番だったため亀井と二人で食べた。
吉澤は藤本を迎えに行けなかった日以来、とはいっても1日半だが、藤本に会っていない。避けられているのかたまたまそうなったのか亀井には分からない。だが、吉澤は気まずく思っているだろう。
「藤本先生もきっと普通に接してきますって。」
「美貴、やっぱり今日も来てない?」
亀井は吉澤から離れると困った顔で頷いた。
「とにかく、行きましょう。」
亀井は吉澤の手を引いて部屋を出た。
- 238 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:55
- 「だからぁ。顔洗ってから。」
そのままリビングに入ろうとした吉澤を亀井は叱りながら洗面所に連れて行き、顔を洗わせ、その間に寝癖を直してやった。
石川は廊下から聞こえてくる二人のやり取りに少しだけ胸が痛んだ。
藤本や後藤が吉澤にするときはなんともないのに。3人の吉澤ではなくなってしまったからだろう。この胸の痛みを早く治す薬があるなら欲しいくらいだ。
「梨華ちゃん、おはよ。」
いつもと変わらない吉澤の笑顔に石川は笑顔を返す。
「おはよ。あのさ、美貴ちゃん朝食家で食べるって、どうして?」
吉澤は用意された4人分の朝食を見て申し訳ない気持ちになりながら席に座った。その横で亀井が吉澤にコーヒーを入れ自分には麦茶を用意する。
「ごめん。うち、2人分食べるから。」
「あぁ、それはいいけどさ。なんで急に?」
「お母さん、いつも1人で可哀相だからってうちも電話でそれだけしか聞いてないんだ。」
「そっか・・・。」
石川は母親が前に、藤本の母親の姿をあまり見かけないと言っていたのを思い出し心配になった。
「梨華ちゃん?」
「あっ、うん。私たちってなんかお互いの家族のことってあんまり話題にしないから知らないなって思って。」
「そういえばそうだね。」
亀井は不思議そうにその話を聞いていた。
お互いの家に行けば誰かしらその家の家族に会うことがあるからそこで話をしたりするものだろう。実際、道重の母親とも良く話すし自分の母親も田中や道重が来れば話しをしている。
「最近、美貴の両親見かけないもんね。ごっちんと梨華ちゃんのお母さんはよく会うけど。挨拶くらいしかしないもんね。」
「うん。なんか親たちが気使って私たちだけにするしね。」
「それあるね。」
「ほとんど、よっちゃんの家に集まっちゃうし。」
「そうだね。」
吉澤の家にばかり集まるから親たちとの交流はないのだと亀井は納得して頷いた。
「ん?絵里どうしたの?」
「えっ?」
「頷いてたから。」
「いや、えっ?そうですか?」
吉澤と石川が頷くと亀井は恥ずかしそうに笑った。
「イヒヒ、この卵焼き美味しいなって。」
「変なの。」
吉澤が笑うと亀井はヘラヘラと笑いながら卵焼きを頬張った。
- 239 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:56
- 「そうだ、LOSEでやるのに準備とかいいの?」
石川が思い出したように吉澤に尋ねた。
「あぁ、2時くらいから準備するって言ってたけど田中ちゃんと中澤さんだけじゃ大変だよね。」
「そうだね。ごっちん、家に帰ったら事務所に挨拶行くって言ってたから手伝いは行けるね、私たちのほかに誰来るの?」
「圭ちゃんと田中ちゃんでしょ、あと道重さんも誘ったってあと絵里。」
「そっか、じゃぁ中澤さん入れて9人?」
「んーだね。」
「あ、そうだ、田中ちゃんと道重さんはごっちんが後藤真希だって知らないから。」
「ん?」
「サプライズって中澤さんが。」
「れいな、凄いファンだから。」
「なんだって。」
「じゃぁごっちんファンサービスしないとね。」
石川が笑うと。亀井は微妙な笑みを見せていた。
「9時にごっちんのお母さんが車出してくれるって言ってたから。」
「うん。」
石川が食べ終えた食器を片しながら吉澤に告げる。
「私、ちょっと美貴ちゃん心配だから、様子みてくるわ。」
「あ・・・うん。お願い。なんかあったら電話ちょうだいね。」
吉澤が心配な顔で言うと石川が笑顔で頷いて出て行った。
- 240 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:56
- 「藤本先生って毎日、ここでゴハンなんですか?」
「うん。」
「兄弟は?」
「うちら皆一人っ子だけどなんで?」
「私も一人っ子なんですけど、うちのお母さん良く言うんですよ。娘だから話が出来てよかったって。」
「ん?」
「男の子だったら、母親とお茶の見ながら色んな話しないだろうからって。寂しいよねって。」
「あぁ・・・。あれ、じゃぁ絵里、うちにばっか来ててお母さん大丈夫?」
「大丈夫ですよ。うちのお母さん朝はお父さんより起きるの遅いですから。ちゃんとお茶のみ付き合ってるし、たまにさゆも一緒にいますもん。」
笑いながら言う亀井に吉澤は今度自分も一緒にその場にいたいなと思った。
「うちら、親の話とかホントしないんだよね・・・うちの親がまだ居たときもさ、うちの親が特別なんだろうけど干渉してこないっていうか、4人同い年で常に4人でいたしさ高校も一緒だったし。子供の頃からあんまり親が入ってこなかったんだよね。」
「安心だったんでしょうね。」
「そうだねぇ。会えば分かるから挨拶するくらいだし、隣とかだから朝とか会うからね。」
「近所ですもんね。」
亀井は自分たちの皿を片しに席をたった。
吉澤は藤本の母親に会ったのはいつだったか思い出せずにいた。大学に入ってからはあっていないから高校の卒業式が最後だろう。確か、石川の家は両親で来ていて父親がビデオカメラを構えていたのを覚えている。後藤の父親は自分たちが中学生の頃に事故で他界している藤本の父親はいつ会っただろうか。卒業式には居なかった。幼稚園の頃だろうか。小学生の頃だろうか。定かではないがもう随分と会っていない。小学生の頃の剣道の試合にも姿を見せたことはなかった。
「美貴のお父さん、家にいるのかな?」
「えっ?」
「いや、ずっと会ってないから・・・。学生のときも家、出る時間一緒になったこともなかったし、試合の応援も来てないし。居るのかなって。」
「藤本先生、居なかったら言いますよ・・・ね?」
幼馴染には言うだろうと亀井は疑問系にしながら吉澤の隣に座った。
「だよ・・ね?まさか離婚とかしてたら当然言うし美貴の苗字も変わるもんね。」
「ですよぉ。もう悪い風に考えるの辞めましょ。」
「だね。」
- 241 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 00:56
-
*****************************
- 242 名前:clover 投稿日:2006/05/27(土) 01:01
- 本日の更新以上です。
>>228-241 A PENTAGON and A QUADRANGLE
やっぱり更新しないとなんかすっきりしなくて寝れないw
>>225 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>ほぼ毎日の更新うれしいです
こちらもレスいつもすんごい嬉しいですw
頑張るので宜しくお願いします。
>>226 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>最近これ読まないと寝れませんww
自分も更新しないと寝れませんww
>次回悪い予感がしますが当たらないことを願います(´ε`;)
どうでしたでしょうか?
>それにしてもさゆがかわいいですね〜
まだまださゆにも色々ありますからw
>>227 :ももんが 様
毎回レス感謝してます。ありがとうございます。
>健気なさゆかわいいです!
さゆにもまだありますのでwもう少し可愛いかな?どうかな?
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 01:05
- 今夜も更新お疲れ様です!
ママティキタ━━━━━ !!
みきよしはどんどんすれ違っていってますね。・゚・(ノд`)・゚・。
寝る前ここチェックするのがもう日課になっちゃいましたw
- 244 名前:& ◆nUAf8iFlPs 投稿日:2006/05/27(土) 01:35
- あぁ〜切ないですねぇ〜
誰に感情移入しても泣いてしまいそうです(´Д⊂)
ここの更新を読まないとすっきり眠れませんw
- 245 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 11:40
- みきよし・・・・
- 246 名前:ももんが 投稿日:2006/05/27(土) 21:40
- 亀ちゃんの気持ちも変わってきましたね。
何が起こるか予想がつかない展開なので、更新楽しみです!
- 247 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 22:04
- かめちゃんに幸あれ!
- 248 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 22:41
- かめちゃんも幸せになってほしいけどやっぱみきよしに・・・
- 249 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:23
- 藤本の家のインターホンを押すと藤本が口をモゴモゴさせながらドアを開けた。
「おはよう、美貴ちゃん。」
「ん・・・おはよ。どした?」
「上がっていい?」
頷く藤本を確認して、石川は家に入った。
「まだ、ゴハン途中なんだ。」
藤本はそういいながらリビングに石川を招きいれた。
「おはようございます。朝からすみません。」
食事中の藤本の母親に頭を下げる石川。
「あら、梨華ちゃん、久しぶりね。綺麗になっちゃって。」
「いやいや、よく言われます。」
満面の笑みで応える石川を藤本はため息をついて椅子に座らせた。
「梨華ちゃんコーヒーでいいよね。」
「うん。ありがと。」
藤本はコーヒーを石川に出すと残りの朝食を食べ始めた。
石川は藤本が作っただろう朝食と藤本の母親の前にある缶ビールに視線を向けた。
藤本はパンを頬張りながら石川の視線に気が付き苦笑した。
「お母さん、美貴これから梨華ちゃんたちと出かけるから。」
「そう、遊びに行くの?」
「違う、ごっちん入院してたんだ、今日退院だから迎えに行く。」
「あら、そうだったの、大変だったわね。良くなってよかった。」
藤本の母親はそういうと缶ビールに口を付けた。
石川は二人の会話に少し驚いた。
後藤が入院していることも話していないということは二人は全く会話をしていなかったのだろう。朝から当たり前のようにビールを飲んでいる藤本の母親の姿を石川はなるべく驚きを見せないように見ていた。
「ご馳走さま。」
藤本は手を合わせると席をたち食器を洗った。
「梨華ちゃん、美貴の部屋行こう。」
「あっうん。じゃぁまた。」
石川は藤本の母親に頭を下げると藤本のあとに着いていった。
- 250 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:23
- 「驚いたでしょ。」
部屋に入ると直ぐに藤本が苦笑しながら言う。
「うん、ちょっとね。」
「まぁ座りなよ。」
藤本が椅子に座ると石川はベッドに腰掛けた。
「美貴もね、今日初めてしったんだ。朝から飲んでるって。」
「えっ?」
「よっちゃんちで食べてたから知らなかった・・・。」
藤本は悲しそうに笑った。
石川は何も居えず、黙って藤本を見ていた。
「美貴さ、大学行ってから家であんまりゴハン食べないしさ。冷蔵庫も水があればいいから他に何があるとか気にしてなかったんだけど。今日、朝ごはん作るのに冷蔵庫あけてビックリだよ、コンビニで買えるものしかないしさ。買い物もコンビニしか行ってなかたんだろうね。全然、気が付かなかった。」
苦笑しながら言う藤本。
「夕飯の仕度はお父さんに作ってなかったの?」
「最近、美貴会ってないんだよね。」
「えっ?」
「お父さんに。大学行ってから会ってないかも。ハハッ。」
「会ってないって何それ?」
「朝はもちろん会わないでしょ。美貴よっちゃんちいっちゃうし。夜もよっちゃんとこで遅くまで居て帰ったらお風呂入って寝るだけだったしさ。」
「私だってそうだけど、会う、よ?」
「うん。普通会うよね。一緒に暮らしてればね。」
石川は驚いて聞いて良いのか悪いのか迷いながら口を開いた。
「暮らして、ない、の?」
藤本は困った顔で笑みを浮かべる。
「暮らしてなくはないんじゃない。たまにしか帰ってないみたい。それも昨日、お母さんから聞いて知ったんだけどね。」
「別居?じゃないよね?」
「多分、美貴もわかんない。お母さんがあんなふうになってたのも知らなかったくらいだから。」
「そっか・・・それでこれからはお母さんと朝食するってことにしたんだ。」
「うん。食べてないっぽいし。」
そういえば、高校の卒業式にあったときよりも随分と痩せていたと石川は思った。
「それでお酒ばっかり飲んでるみたいなんだよね。」
「体に悪いよ。辞めさせないと。アルコール中毒になったら大変だよ。」
「でもさ・・・辞めなって言えなかったんだ。」
「なんでよ、体壊したら大変じゃない。」
藤本は力なく笑うと悲しそうに石川を見た。
- 251 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:24
- 「なに?」
藤本の視線に何か意味があるのだろうが石川は分からずに首を傾げる。
「夜中にね、1人でお酒を浴びるように飲んでるお母さん見てさ、美貴・・・。」
藤本は一息ついて上を向いた。涙が零れそうになってしまったのだ。
石川はそんな藤本にかける言葉が見つからなかった。
「惨めだなって、思っちゃってさ。自分でも思ってるんだろうね。美貴と話してるときも目とか合わせないんだ。娘の顔見れなくなってるんだよね。そんな人にさ、言えないよ。」
「お父さんは、知ってるの?」
藤本は俯いて首を横に振った。
「昨日さ、電話したんだ。お父さんの携帯に。初めてかけたんだけどさ。お父さん美貴の声聞いて、誰?って言うんだよ。ありえないよね。一人娘だよ。まぁ美貴もお父さんの声だけじゃお父さんって分かるかどうか分かんないけどね。」
涙目で話す藤本を見て、石川は1人じゃどうにもならないと思った。
「よっちゃん呼ぶね。」
「いいっ。呼ばないでいいよ。亀井来てるんでしょ?」
「来てるけど。よっちゃんにも相談しようよ。」
藤本は石川の隣に移動すると石川の手にある携帯をしまわせた。
「これは、家族の問題だから、相談してどうなることじゃないから。梨華ちゃんに聞いてもらっただけで美貴は気持ち的に凄い楽になったし。大丈夫。」
「でも・・・。」
「皆に相談して解決すると思う?」
「それは・・・。」
石川は俯いた。
「ありがと。心配してくれて、でも本当に大丈夫。ほら、もうごっちんとこ行く時間だよ。」
「行こう。」と藤本は石川を連れて部屋を出た。
- 252 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:24
-
*****************************
- 253 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:25
- 藤本は石川を連れて吉澤の家に入る玄関から吉澤を呼ぶと亀井と二人で出てきた吉澤。
「おはよ。」
藤本が笑顔で言うが吉澤は石川と藤本を交互に見た。
泣いたのだろうか、藤本の目が少し赤くなっている気がした吉澤。
その視線に気が付いた石川は気まずそうに微笑んだ。
黙っていろということなのだと思った吉澤は何も気づかない振りをする。
「おはよ。絵里も一緒に連れてくから。」
「おはようございます。」
吉澤の横で同じように藤本の様子が気になっていた亀井も声をかける。
「うん。じゃぁごっちんのお母さんところ行こう。」
藤本はそういうと1人足早に後藤の家に向かった。
「美貴、泣いたの?」
石川に心配そうに尋ねる吉澤。
「泣いてないよ。大丈夫。」
泣いてはいない、涙目になっただけだ。
石川は悟られないように笑みを返し藤本の後を追った。
「吉澤さん。行きましょう。」
1番好きな人が何か隠し事をしている。
今までなら、何でも話してくれていたのだろう。自分が恋人になったから吉澤に頼ったりしないようにしているのだろう。それは吉澤にとって好きだという感情を大きくはさせないが傷つき辛いものだろう亀井はそんな気がしていた。
亀井は吉澤に笑顔を向けると手を引いて藤本たちのもとへ向かった。
「初めまして、亀井絵里です。」
門に立っている後藤の母親に挨拶をする亀井。
「よっちゃんの恋人です。」
後藤の母親の隣に居た石川がそう付け加えた。
「初めまして真希の母親です。ひとみちゃんに恋人がいたとは知らなかった。真希ちゃん知ってるのかしら。」
笑顔で言う後藤の母親に吉澤は苦笑しながら「知ってますよ。」と応えた。
セレナに乗り込み病院へ向かう途中、後藤の母親が今回の後藤の入院中、吉澤たちがお見舞いに行ってくれって助かった、石川が担当の看護士でよかったっと感謝の言葉を病院に到着するまで1人で話した。後ろの座席にいた4人は後藤の母親がお喋りな人でよかったと内心、皆思っていた。
病院につくと石川が先頭を切って4人を連れて後藤の病室に向かった。
- 254 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:25
- 今日は休みだった石川の代わりに先輩看護士が退院の準備を済ませ後藤に付き添っていた。
「あら、石川さん来たんだ。」
「はい。」
「じゃぁ、あと大丈夫だね。」
石川は笑顔で頷くと資料を受け取った。
「じゃぁ後藤さん、あんまりストレス溜め込まないようにね、応援してるから。」
先輩看護士はそういうと「退院おめでとうございます。」と頭を下げて出て行った。
後藤はベッドから降りると5人頭を下げた。
「色々とご心配、ご面倒お掛けしました。」
「ホントよ。梨華ちゃんたちに感謝しなさいよ。」
母親はほっとしたほうに微笑んで後藤の頭を撫でた。
「でも、退院できてよかったよ。」
藤本が嬉しそうに言うと吉澤も嬉しそうに頷いた。
「はい、じゃぁここでこうしててもなんだから・・・。」
石川は後藤の母親に歩み寄ると資料を見せる。
「これ、下の会計で済ませてもらっていいですか。」
「はい。じゃぁ車の鍵渡しておくわね。」
後藤に車のキーを預けると母親は病室を出て行った。
「荷物これだけ?」
ボストンバック2つを指差して尋ねる吉澤に後藤が頷く。
吉澤は両手に一つずつボストンバックを持つと藤本と亀井が同時に手伝おうと手を出してお互い顔を見合わせた。
「軽いから、大丈夫だよ。」
そんな二人を見て吉澤は苦笑した。
「じゃぁ、行こう。」
石川が後藤に寄り添って病室を出た。
後藤は横目で亀井を見ると「ありがと。」とすれ違い際に呟いた。
一瞬、驚いた亀井だが直ぐに笑顔を見せ首を横に振る。
「よかったね。」
隣に居た藤本が笑っていった。
吉澤はそんな様子を後ろから見ながら随分と自分たちの関係が変わってきたと思った。
「吉澤さん、行きますよ。」
亀井は立ち止まっていた吉澤の腕を引いて病室を出た。
- 255 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:25
- 5人でエレベータに乗り込むと石川が口を開いた。
「ごっちん事務所行くって言ってたじゃん。」
「うん。」
「それ、終わったらLOSEで皆で夕飯食べない?」
「うん。いいよ。7時くらいになるかも。いい?」
「うん。」
「甘いココアが飲みたいな。」後藤は嬉しそうに呟いた。
- 256 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:26
-
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- 257 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:26
- 後藤と別れた吉澤たちは一足早くLOSEに向かった。
「げっ・・・。」
藤本が見せに入ってきた途端、田中がそう呟き背を向けた。
「何が、げ、だって?こら田中。」
藤本は睨みながらカウンターに歩み寄ると田中の前に立った。
吉澤は「お昼たべさせて。」と中澤に告げ、テーブル席に3人で座った。
「いらっしゃいませぇ。」
田中は顔を引き攣らせながらそう口にする。
「全く、美貴に勝ったらココでバイトできるって条件だったんだってね。」
「まぁ。」
「もう、中澤さんも美貴に何やらせるんですか。」
田中の隣にいた中澤をも睨む藤本。
「うちは、藤本が勝つと思って言ったんよ。」
中澤は意地悪そうに言う。
「勝負はしてみないと分からないですから。」
藤本は頬を膨らませてそういうと田中に視線を向ける。
気まずそうに笑う田中。
「まぁバイト禁止だけど見逃す。っていうより美貴、明後日で実習終わるし。」
笑みを零す藤本に田中は嬉しそうに笑って見せた。
「ありがとうございます。」
先にテーブル席についていた3人のもとに藤本も加わると田中がメニューを持っていった。
「藤本ええやつやろ?」
カウンターに戻って来た田中に中澤が笑って言うと田中も笑って頷いた。
- 258 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:27
- 「田中ちゃんオーダーいい?」
吉澤が声をかけると田中は「はい。」と駆け寄った。
夜はご馳走があるからとピザを注文し4人でそれを食べる。
その間に数人の客が帰って行くと中澤がCLOSEの札をかけると皆で準備に取り掛かった。
「藤本先生、いつもと変わらないですね。」
石川と準備をしている藤本の様子を見て亀井が吉澤だけに聞こえるように小声で言った。
「うん。」
気にかけてくれている亀井に吉澤は笑みを返す。
そんな様子を田中は微笑んでみていた。
夕方になり、道重がやってくると吉澤に駆け寄る道重。
亀井と田中は何をするんだろうと心配そうに歩み寄った。
「吉澤さん。」
「ん?」
道重の真っ直ぐな視線に吉澤は困りながら首を傾げる。
「こんにちは。」
「こん、にちは。」
「絵里のこと、泣かせたらさゆみ許しませんからね。」
「うん。」
「辻先輩に頼んで、ブラのホック外しとスカートまくりの刑にしてもらいますから。」
「はぁっ?」
亀井と田中は何を言っているのだとため息をついた。
吉澤も意味が分からず首を傾げる。
「絵里のこと宜しくお願いします。」
そんな吉澤に道重は頭を下げた。
吉澤は笑みを浮かべた。
「ありがと。道重さん。」
「さゆかさゆみんって呼んでください。」
道重は吉澤にウインクすると田中と亀井のもとに駆け寄った。
「さゆも大人になったっちゃ。」
「うん、うん。さゆみん偉いぞ。ありがとね。」
二人で道重の頭を撫でる。
「なんか、あの子たちのが大人だね。」
藤本は3人の様子を見ながら石川に言う。
「だね・・・。」
石川は苦笑しながら頷く。
亀井は嬉しそうに吉澤の隣に並んだ。
「よかった、道重さんに認めてもらえて。」
「さゆみんですよ。そう呼んであげてください。」
笑みを向ける亀井に吉澤も笑みを返す。
「お似合いって言えばお似合いだよね。」
藤本が言うと石川も「そうだね。」と頷いた。
「ごっちん迎えに行こうか。」
「うん。」
藤本は中澤に後藤を迎えに行くと伝え石川と二人で店を出て行った。
- 259 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:28
- 「後藤さんってどんな人ですか?」
田中が吉澤に聞いてくるが吉澤は笑みを返すだけで応えはしなかった。
「なんそれ。」
「絵里は会ったことあるの?」
頬を膨らます田中の横で道重が尋ねると亀井も吉澤と同じような対応だった。
「二人とも感じ悪いの。」
道重が田中と同じように頬を膨らます。
「焦らんでももう直ぐ来るから、はよ準備せ。」
中澤の言葉に4人は頷くと店内の明かりを暗くして入口の横に身を隠した。
吉澤が石川に準備完了とメールして数分後、LOSEの扉が開いた。
LOSEに足を入れた途端、パン、パン、パン、パンとクラッカーの音がして後藤は身を守るように体を丸め耳を塞いだ。
「なっなに?」
慌てている後藤の背中を石川と藤本が押して完全に店の中に入れる。
「せーの。」と吉澤が口にする。
「退院おめでとう。」
全員が声を揃えて言った。
「あーもぉ、ビックリしたぁ。」
後藤は胸に手を当てて笑顔を見せると「ありがと。」と口にする。
吉澤が電気をつけると店内が明るくなる。
「わぁっ。」
後藤の姿が明らかになると田中が声を上げる。
「えっ。」
道重も手を口に当てて驚きを示す。
「あれ、初めて見る顔。」
後藤が藤本に言うと藤本は笑顔で応えた。
「亀井の幼馴染で、こっちが田中、ここでバイトしてる。でこっちが道重。」
「田中さんに道重さん。よろしく、後藤真希です。」
後藤は笑顔を向けた。
「あぁ、あ、田中れいなです。」
「道重さゆみです。」
緊張しているのだろう、ぎこちない笑みの二人の肩を亀井が叩いた。
「ごっちん、今日は好きなの食べて、飲んでゆっくりしってってな。」
中澤が笑みを向ける。
「中澤さんが発案してくれたんだよ。」
石川が言うと後藤は中澤に抱きついた。
「ありがと。」
「えぇねん。これくらいしかしてやれんしな。」
後藤の頭を撫でながら微笑む姿はまるで母親のような中澤。
「乾杯するで。」
中澤がそういうと田中たちはグラスにそれぞれ飲み物を用意し快気パーティが始まった。
- 260 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:29
- 田中と道重は後藤を挟み歌を歌ってくれだの、ライブに行きましただの話しかける後藤は嬉しそうに笑顔で話を聞いていた。
1時間ほど遅れて保田がやってくる。
「持ってきたわよぉ。」
遅いと怒る卒業生の教え子たちに保田が高級ワインとシャンパンを見せた。
「おぉ。ってかうちらそんなに飲まないよ。」
吉澤が言うと保田は「そうなの?」と残念そうに呟いた。
「あ、でもぉ・・・。」
藤本が椅子に座り1人皆の雰囲気を楽しみながら酒を飲む中澤を指差す。
「中澤さん、大好きだよ。」
保田は中澤に歩み寄り挨拶をすると直ぐに意気投合し、楽しく酒を飲み始めた。
「独身同士でお似合いじゃない?」
石川がそういうと吉澤と藤本は苦笑しながら頷いた。
「絵里、後藤さんが歌ってくれるとぉよ。」
田中が嬉しそうに駆け寄ってきた。
中澤が大好きだといって購入したが喫茶店で活躍することもなくオブジェとして置いてあったカラオケ機材を今日は役立つと張り切って用意してたその前で後藤は苦笑いを浮かべながらたっていた。
「おっ、スペシャルコンサートか。いいな。」
中澤が酒を持って移動する。
「最近、聞いてないものね。」
保田も高校生のころはよく準備室で口ずさんでいたものだ、新曲なんだと振りまで見せてくれたと懐かしそうに目を細め席を移動した。
「うちらも久しぶりだよね。」
吉澤が言うと藤本と石川も懐かしそうに頷いた。
田中と道重は一番前を陣取り目を輝かせている。
亀井は吉澤の隣で懐かしそうに後藤を見る吉澤にほっとしながら吉澤を見ていた。
「えぇっと、なんか人前で歌うのも3年ぶり位だから緊張するけど、今日は感謝の気持ちを込めて歌うので、聞いてください。」
後藤はそう言ってハニカムとボタンを操作して曲を入れた。
- 261 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:30
- 後藤の歌声に耳を傾ける吉澤たち。
亀井は、そんな中、1人難しい顔をして吉澤を見ていた。
嫉妬だろう、後藤に向ける吉澤の視線が自分の胸を苦しめる亀井はそんな自分に困っていた。そんな優しい目で後藤を見ないで欲しい、出来ることなら吉澤のその視線を自分だけのものにしたい、だからと言って吉澤が1番好きとはまだ言い切ることは出来ない。頭と胸のなかがゴチャゴチャしていた。一度、知ってしまった吉澤の優しさとぬ無森が欲しいという欲張りな気持ちだけなのだろうか。亀井は歌声に耳を傾けながら色々と考えていた。
「ありがとうございました。」
拍手のなか3曲ほど、歌い終えた後藤は笑みを浮かべ頭は下げた。
「やっぱり、後藤さん、うまかねぇ。」
田中が感心して言うと後藤は「ありがと。」と笑みを浮かべ一番後ろで亀井と並んでいる吉澤のもとへ向かう後藤。
真っ直ぐ視線を向ける後藤をそれぞれが息を呑んで見つめていた。
後藤の目が、皆に何も言わせないという雰囲気をだしていた。
吉澤をその視線を真っ直ぐと受け止めて入るが左手は亀井の手をぎゅっと握っていた。
誰もが後藤の目を見て何をしようとしているのかわかった。
その目からは気持ちが溢れている。吉澤を愛しいと思う後藤の気持ちが。
「よしこ・・・。」
「ん?」
吉澤は口の中が乾いて声がかすれた。
亀井が吉澤の手をしっかりと握りなおし後藤の横顔を見た。
その横顔はとても綺麗で儚く亀井は見とれそうになる。
「後藤ね、よしこが好き。幼馴染としてじゃなくて、好き。」
吉澤は涙が出そうになった。
大切な幼馴染の素直な気持ちを受け止めてやれたら楽なのに、それは出来ない。答えることの出来ない胸の痛み。
何も応えない吉澤に後藤は僅かな笑みを浮かべた。
「よしこ、後藤と付き合ってくれないかな。」
後藤は亀井に一瞬だけ視線を向けると直ぐに吉澤に戻す。
「それは・・・。」
吉澤は掠れた声で視線を下に向けた。
「吉澤さん・・・後藤さん自分の気持ち真っ直ぐにぶつけてきてるんですよ。ちゃんと応えてください。」
亀井は優しく微笑むと吉澤を立たせ背を押して後藤の前に押しやる。
「頑張って。」
亀井は吉澤の背中に声をかけた。
吉澤は振り向いて亀井を見る。頷く亀井。
テーブルに手を伸ばしグラスを取ると吉澤はそれを飲み干し息を吐いてから後藤に視線を向けた。
- 262 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:31
- きっとこれから自分は後藤を悲しい顔にしてしまうのだろう。傷つけてしまうのだろう。吉澤は耐え切れないといった顔をする。
「ごっちんの気持ちは、ごめん。応えられない。うちは・・・絵里が、好きだから。」
吉澤は後藤の顔を真っ直ぐに見ていた。
亀井が好きだからということで石川、藤本をも後藤と同じ気持ちにさせているのだろう。
大きな後藤の瞳から頬を伝う2本の涙の筋。
「そっか、分かった。」
涙を零し笑みを浮かべる後藤は痛々しい。
吉澤は、溢れそうになる涙を堪えきれずに「ごめん。」と呟いて駆け出した。
LOSEを飛び出す吉澤の後を追う亀井。
石川は後藤に駆け寄り、藤本は亀井だけでは心配で吉澤と亀井を追いかけた。
「藤本先生っ。」
店を出た藤本を呼び止め腕を掴んだのは田中だった。
「何、放して見失うじゃんか。」
田中は首を横に振り藤本を真っ直ぐ見た。
その目はまるで藤本を哀れんでいるようで藤本は目をそらした。
「絵里がおるけん。幼馴染の出番じゃないとよ。」
同じ幼馴染を持つ者として、田中は藤本と対等の立場で物を言った。
「吉澤さんは絵里に任せるっちゃ、後藤さんの側におってあげて。」
「そうだね、ちょっとテンパった・・・。」
藤本は笑顔を向けるとLOSEに戻った。
1人外に残った田中は壁に背を当てると力なく座り込む。
後藤が告白しようとしたとき藤本か石川が止めると思って二人を見た。吉澤には亀井がいるのだ、亀井がいるその場でそんなことをしたら亀井が可哀相だと。だが、二人を見たとき田中は直ぐに気が付いた。二人も後藤と同じように吉澤が好きなんだと。そして、亀井はそれを全て知っていたのだろう。だから吉澤の背中を押してやったのだ。
田中は空を見上げた。目じりから涙が零れる。
- 263 名前:P&Q 投稿日:2006/05/27(土) 23:31
- 「悲しいっちゃね・・・。」
夜空を見上げながら田中呟く。
後藤はどんな気持ちで告白したのだろうか、吉澤が逃げるように立ち去ってしまったということは今までのように幼馴染ではいられないだろう。
好きだという一言で貴重な幼馴染を失うことになった、後藤と同じ想いを抱いている藤本と石川はどんな気持ちで後藤を慰めるのだろう。
吉澤たちの幼馴染という異様な四角形を亀井が五角形に変えた。長い間、その辺の長さを平等に保っていた後藤は上手く五角形の辺には対応できなかったのだろう。だが、吉澤に想いを伝えた後藤をかっこ悪いなんて思わないむしろ、勇気があるカッコイイ行動だ。
「れいな。」
戻ってこない田中を心配して出てきた道重は涙を流してる田中の姿を見て少し驚いたが何も言わず隣りに腰を降ろす。
田中は道重を見て苦笑した。
「後藤さんどう?」
「うん。保田先生と中澤さんが慰めてる。」
「石川さんと藤本先生は?」
「ん・・・なんかそれぞれの世界っていうかなんか辛そう・・・。」
「そう・・・。」
道重は膝を抱えると顎を膝の上に乗せた。
「なんか、辛いね・・・」
「そうっちゃね。」
田中は再び空を見上げた。
「吉澤さんが一番可哀相かな・・・。」
「絵里がいるっちゃ。」
「うん。」
二人はしばらく外の空気に当たっていた。
- 264 名前:clover 投稿日:2006/05/27(土) 23:39
- 本日の更新以上です。
>>249-263 A PENTAGON and A QUADRANGLE
日付変わる前に更新できてよかったo(^∇^o)(o^∇^)o
話の中で時間があまり動いてないんでよしかめが長くなってる
のだと思うwきっとそのはずw
>>243 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>寝る前ここチェックするのがもう日課になっちゃいましたw
早めに更新するのでw寝不足には気をつけてくださいな。
>>244 :& ◆nUAf8iFlPs 様
レス有り難うございます。
>ここの更新を読まないとすっきり眠れませんw
今夜は早めに寝れるでしょうかw
>>245 :名無飼育さん 様 1
レス有り難うございます。
>みきよし・・・・
すみません、まだ出てきてないですねw
>>246 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>何が起こるか予想がつかない展開なので、更新楽しみです!
有り難うございます。最後までよろしくです。
>>247 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>かめちゃんに幸あれ!
まだ、話は全体の前半って感じなんでw
>>248 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>かめちゃんも幸せになってほしいけどやっぱみきよしに・・・
まだ、あと中盤と後半がある。いや後半だけかな・・・
だから、きっとみきよしもあるw
- 265 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 23:45
- ごっちん・・・。゚(゚´Д`゚)゚。
ミキティも梨華ちゃんもせつねーよー
支えてくれる亀ちゃんがいるよっちゃんはある意味幸せなんですかね
- 266 名前:オレンヂ 投稿日:2006/05/27(土) 23:47
- 更新お疲れ様です
スイマセン、244は自分でした。名前入れたんですけどああなっちゃって・・・
今日は早く眠れ・・・ません、このあとどうなるか気になりすぎてw
みんなが幸せになってくれればなぁと思いながら続きを楽しみにしてます
- 267 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 01:06
- 本日も更新乙かれさまです!
ミキティも切ないけどごっちんも・・・( >Д<;)
つづきまってます。
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 01:17
- なんだかんだいってもミキティが一番辛そう・・・
続きが気になります。
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 01:31
- なんかみきちゃんが可哀相すぎます
作者さんなんとか幸せにしてあげてくださいコ(-人-)
- 270 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 02:17
- 支えてあげる全ての役割が恋人にあると考えてたとしたら、それは間違いじゃないでしょうか?
生意気言ってすみません。
これからに期待してます。
- 271 名前:名無し飼育 投稿日:2006/05/28(日) 07:38
- >>270
もちろんそうだろうね
でもこの物語の設定では
れいなはまだ恋も知らなくて「恋人」というものに単純に実際以上の価値観を持ってる感じがするし、
ミキティは亀井に遠慮しよっすぃへの気持ちを抑えてる状況。
そういう中でれいながあの発言をし、ミキティはあのように答えざるを得なかったと考えてはいかが?
以上作者でもないのに弁明w
- 272 名前:ももんが 投稿日:2006/05/28(日) 10:01
- やはりさゆかわいいです!
亀ちゃんを応援してあげようとする姿勢が健気ですね。
今回ごっちんが切なかった…
- 273 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 17:02
- ミキティが切なすぎて・・・
- 274 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:18
- 通りを抜けて大通りに出るとやっと吉澤は足を止めた。追いかけてきて肩で息をしている亀井を抱き寄せると亀井の肩に顔を埋める。
直ぐ横を車が何台も取りすぎていく音に吉澤は感謝し声を出して泣いた。
そんな吉澤を亀井はしっかりと抱きしめ背中を撫でた。
歩道を歩く人が自分たちを好奇の目で見ていくが亀井はそんなことを気にはしなかった。
誰が見ていたっていい。吉澤は今、とても辛いんだ。人を、大切な人を傷つけてしまったから、あの場で泣かなかった吉澤は偉いんだ、頑張ったんだ。
だから今こうして歩道の真ん中で声を上げて泣いているんだ。ずっと我慢して泣きたい気持ちを抑えて涙も流せない人間より、今の吉澤の方がよっぽど人間らしいじゃないか。
吉澤の辛い気持ちが悲しい気持ちが切ない気持ちが・・・
吉澤の震える体がかた自分に流れ込んでくる様な気がする。
本当に流れ込んで来てくれればいいのに、そうすれば少しは吉澤の負担が減るのに。
「ごめんね。こんなところで。」
落ち着いた吉澤は腕で涙を拭いながら呟く。
「全然、いいですよ。」
亀井は笑顔で吉澤の手を取ると大通りに向かって手を上げた。
空車と示されているタクシーが亀井たちの前に止まると亀井は吉澤を先に乗せた。
どこに行くのかと思いながら亀井を見ていた。
二人で行った海岸に行くように運転手に告げると亀井は吉澤の頬をハンカチで拭いて微笑んだ。
「海に気晴らししに行きましょ。」
吉澤は真っ赤な目で微笑むと亀井の手を握り窓の外の流れる景色に目をやった。
亀井はそんな吉澤の横顔をじっと見ていた。
- 275 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:21
-
*****************************
- 276 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:21
- 「すっきりしたやろ?泣きたいだけなけばええねん。」
中澤は涙を流す後藤の頭を撫でながら笑顔を見せていた。
テーブル席で別々に座って俯いている藤本と石川。
後藤を慰めようとしたのだろう、吉澤が出て行くと直ぐに後藤に歩み寄った石川だったが出てくる言葉はなく奥のテーブルに行ってしまった。
吉澤と亀井を追いかけて出て行った藤本だったが田中が出て行った後に直ぐに戻って来た、きっと田中が止めたのだろう。その田中が戻って来ないと道重が様子を見に行ったまま二人はまだ戻ってきていない。戻ってきても居づらいだろうと保田は難しい顔をしながら後藤の隣にいた。
いつか、この幼馴染の関係は終わるのだと思ってはいたが保田の思っていた形とは全く違うものだ。吉澤と藤本がくっ付き、石川と後藤はそれを温かく見守るようになるだろうと思っていた。吉澤が亀井と付き合い出した時点でこの子達が選択した道は間違った方向に行ってしまったのだろう。その道をこの子達は修正することは出来るだろうか。
後藤が吉澤へ気持ちを伝えたことで、さらに違う方向へ行ってしまいはしないだろうか。
4人の中で最も繊細な吉澤は後藤に対して幼馴染という関係を続けられるだろうか、続けたとしても今までのようには出来ないだろう。
すっきりしただろう。と言う中澤だが、すっきりしたからと言って今後どうするのだ。保田は心配そうに後藤を見つめた。
石川は涙を流し立ち尽くす後藤に声をかけようとしたが何も言える言葉がなく、テーブル席に逃げた。そして、自分は気持ちを伝えなくて良かったと思ってしまう自分に嫌悪し、吉澤があれほどまで悲しい顔をするなら、いっそのことこの気持ちごと消してしまったほうがいいのだと思った。
吉澤は自分たちを幼馴染としてしか見ていないなら、自分たちもそうするべきだったのだ。もっと早くそうしていればよかったのに、あの時、3人で吉澤を共有しようと提案してしまった自分を恨み、怒りがこみ上げる。
吉澤と藤本の関係を知った時点で自分は知らない振りをしてはいけなかったのだ、藤本にもずっと嘘をつかせないで済んだのではないだろうか。
自分の家族の変化に気が付かないほど藤本は吉澤を見てきたのに、もしかしたら自分や後藤よりも吉澤を愛しているのではないだろうか。
吉澤を共有するという自分の幼い考えで皆を巻き込み苦しめてしまったのではないだろうか。石川は零れてくる涙をそっと指で拭った。
田中が止めてくなかったら自分は吉澤を追いかけて何をするつもりだったのだろう。
亀井が居るんだと教えてくれ、止めてくれた田中に感謝をする藤本。
後藤の様子が気になったが中澤と保田がついていてくれて内心ほっとした、後藤を気遣う言葉など思い浮かばない。告白したいならすればいいと言ったが本当にするとは思わなかった。これから二人はどう接するのだろう。真っ直ぐに後藤の気持ちに返答した吉澤はまるで自分たちに決別する言葉を言っているように藤本には感じられた。
このまま別々の道にそれぞれ進むのだろうか、もう4人で笑い合うことも出来ないのだろうか、保田の言っている大人になりなさいということはこんなことなのだろうか。
あの日・・・自分が先輩の車に乗らなかったら。家まで送ってもらわなかったら、吉澤と亀井が付き合うこともなくて、今までのように吉澤を3人で想い4人で上手くやっていけたのではないだろうか。
何が、どこで間違えてこんな風になってしまったのかはっきりと分かればもとに戻れる気がして藤本はそれを探そうとするが見つけるには頭が混乱していた。
- 277 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:22
- 「ねぇ裕ちゃん。」
落ち着いたのか後藤は涙を拭きながら中澤に声をかける。
「なんや?」
「後藤、よしこにどんな顔して会えばいい?見た?よしこの顔。あんなさ、悲しい顔されて、後藤どうしたらいいかな。」
「時間が経てば笑え・・・。」
「どのくらい?どのくらいで笑える思い出話になる?」
中澤が言う前に後藤が泣きそうな顔で言う。
保田は後藤の背中に手を伸ばし撫でた。
中澤は困った顔で後藤を見ている。
「どのくらいかは分からん。けど、よっちゃんも後藤と幼馴染でいたいと思ってると思うんや、大切にしてるやんか、だから、絶対逃げたりしないでちゃんと返事したんやないんかな。だからいつかきっと笑えるようになる。」
後藤は困った顔をして中澤を見ていた。
「あんたたちね、子供過ぎるのよ。」
保田が奥にいる二人にも聞こえるように少し大きめの声をだした。
「幼馴染って辞書で引いて勉強しなさいよ。どこにも4人の世界で生きろなんて書いてないから。まったく・・・早く、大人になりなさいよ。4人で甘えあってるんじゃないわよ。吉澤に頼りすぎよ。吉澤だって自分の人生があるんだから、あんたたちは自分の人生進みながら吉澤もそれに巻き込んで、吉澤が自分たちからちょっと離れたら引き戻そうとして。何やってるのよ。」
保田は3人の様子を伺った。それぞれ俯いている姿はまるでホームルームで叱られている高校生のようだ。
保田はため息をつくとさらに言葉を続けた。
「幼馴染で恋愛したっていいじゃない。クラスメイトと変わらないでしょ。クラスメイト好きになって告白して振られたらもうクラスメイトじゃなくなるの?違うでしょ。また次の恋すればいい。それだけでしょ。幼馴染だって一緒よ。難しく考えすぎなのよ。うまく行ったら行ったでいいじゃない、幼馴染じゃなくて恋人になれば。いつか恋人で要られなくなったとしても幼馴染は幼馴染で変わらないのよ。あんたたちならそうなれるでしょ。お互いのこと大切に思ってるんだから分かり合えるでしょ。」
保田は微笑むと後藤の頭を撫でた。
「これは私の意見。あとはあんたたちで考えてどうするか決めなさい。」
保田はそういうとテーブルのあった田中と道重のカバンを手に取った。
- 278 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:22
- 「ご馳走様でした。」
保田が中澤に頭を下げる。
「さすが、教師やね。」
中澤がそう言って笑みを浮かべると保田は首を横に振りながら店を出た。
出て直ぐ横に座り込んで顔を埋めている道重と空を見上げている田中を見つけて保田は微笑んだ。
田中が転校して、一時期3人ではなかったからこの子たちはあの子たちとは違った関係になったのだろう。
「はい、カバン。」
保田はピンク色のカバンを道重に渡し、黒いカバンを田中に渡した。
「保田先生凄いの。」
「ん?なにが?」
道重が感心して保田を見上げた。
「こっちがさゆのバックだって分かった。」
「あんたね・・・。」
どう見ても、その蛍光ピンクのバックは道重しか持たないだろうと苦笑いする。
その横で田中も顔を引き攣らしていた。
「れな、それだけは持てんっちゃ。」
「なんで、可愛いじゃん。」
自分のカバンを可愛いと見つめる道重を見て保田は石川なら同意するかも知れないと笑った。
「もう、遅いからあんたたち帰りなさい。タクシーで送るから。」
「おいで。」と保田は大通りに向かって歩き出すと田中と道重はその後に続いた。
- 279 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:22
- 「さて、これは明日の朝片すことにして、帰るわ。」
中澤はそういうと立ち上がりカウンターに鍵を置いた。
「鍵、ココ置いとくな。最後締めてな。」
石川は中澤のもとに駆け寄ると「すみません。」と頭を下げ鍵を受け取る。
「あとで、返しにきますから。」
中澤は笑顔を向けると店を出て行った。
石川は後藤と藤本に視線を向けると俯いた。
「ごめんね。後藤が告白とかしちゃってこんな感じになっちゃったね。」
後藤がそう呟く。
石川は後藤の隣に座ると俯いたままの後藤の背中を撫でた。
「ごっちんだけのせいじゃないよ。4人の問題だもん。」
石川の言葉に後藤は「ありがと。」と呟いた。
藤本は深呼吸をしてから立ち上がると二人のもとに歩み寄った。
「圭ちゃんの言うとおりさ。ちょっとそれぞれ考えて後で話し合わない?ココでこうしてても仕方ないし。」
二人の背中に言う藤本。石川は振り返ると頷いた。
「ごっちん、とりあえず帰ろう。美貴ちゃんの言うとおりだし。」
石川が後藤の腕を持って立たせると藤本も手を貸して3人で家に向かった。
- 280 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:23
-
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- 281 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:23
- 海に着くまで吉澤も亀井も何も言葉を交わさなかった。
吉澤と亀井は手を繋ぎゆっくりとした足取りで浜辺に向かう。
既に日付は変わっており二人以外誰も居ない太陽は顔を見せていないのこないだ着たときよりも暑さを感じた。
亀井は吉澤を見上げるが暗闇のなかでは表情がよく見えなかった。
吉澤が足を止めると亀井も合わせて足を止める。
「なんか、絵里には泣いるとこばっかり見せてるよねぇ。」
吉澤は月が映る海を眺めながら言う。
亀井は首を横に振った。
「絵里も泣いてるもん。お互い様ですよ。それに、嬉しいし。」
「嬉しい?」
吉澤は亀井と視線を合わせた。
頷き笑顔を見せる亀井。
「だって、絵里の前でしか泣かないでしょ。だから嬉しい。なんか特別な気がして。」
「そっか。」
吉澤は笑ってみせると視線を海に戻した。
1番になってしまうかも知れないと泣いた亀井。
それでいいのではないかと今は思ってしまう吉澤。
後藤や藤本、石川の視線に耐え切れず、3人の前で泣いてはいけないと思って飛び出してきてしまった。言葉で後藤にはちゃんと返事をしたが結果的には逃げてきたのだ。
今頃、どうしているだろう。ココに車で3人のことをずっと考えていた。
なぜ、後藤は今になって気持ちを伝えてきたのか、藤本と石川はそれを知っていたのだろうか。3人の気持ちが分からなかった。
このまま、亀井といたら藤本と一緒にいる時間も藤本のことを考える時間も減って藤本への気持ちは薄れていくのではないか。
恋とはそういうものだろう、1つの恋が終わり、また次の恋をして、それまでの恋を思い出すことはあってもまた、恋をするのではないだろうか。
実際、出会ったばかりの亀井を好きになったのだ。
「絵里さ、こないだ、うちが1番好きになるかも知れないって言ったじゃん。」
「はい。」
亀井はずっと吉澤の横顔を見つめていた。
「そのときが来てさ、うちがまだ美貴が1番好きでもさ、側に居てよ。」
「でも・・・。絵里は2番じゃ・・・。」
「1番好きになるから。」
「へっ?」
吉澤は亀井を大きな瞳で真っ直ぐと見た。思わずその真っ直ぐな瞳に引き込まれそうになる亀井。
- 282 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:23
- 「うちもきっと絵里を1番好きになる。」
「ホント?」
「なる。だからそれまで待ってて。辛い思いさせちゃうかもしれないけど。」
亀井が側に居てくれれば、きっと自分は後藤に幼馴染として会えるだろう。藤本にも石川にもきっとそうして向き合える。それからきっと一緒にいる時間が減り亀井を好きなっていくんだ。
少し悲しそうに顔を歪める吉澤に亀井は笑顔を向けると抱きついた。
「吉澤さんのこと1番好きになったら、絵里きっと一杯我侭言うよ。」
吉澤の胸に顔を埋めて言う亀井。吉澤の手は亀井の背中に回りしっかりと抱きしめた。
「いいよ。我侭聞くから。」
「凄い、独占欲でちゃうよ。」
「うん。大丈夫だよ。」
「きっと、好き好きってべたべたするし。」
「うん、今もしてるじゃん。」
「そっか・・・。」
亀井は顔を上げると笑った。吉澤も笑みを漏らす。
だが直ぐに、亀井は笑みを消し真っ直ぐ吉澤を見た。
「もう一つ。」
「ん?」
「絵里、きっと藤本先生と比べちゃう。」
吉澤はどういう意味だと首をかしげた。
「藤本先生より絵里のことが好きかって確かめちゃう。」
亀井は悲しそうに吉澤を見ていた。
藤本だけではないかもしれない、幼馴染と自分のどっちが大切かどっちが好きか比べてしまうだろう。田中への気持ちが自分にもあったのにそれでもきっとそうしてしまうだろう。
吉澤は返答に困った。亀井が確かめるたびに亀井を1番好きになるまでは亀井を傷つけることになる。自分の我侭で側に居させて待たせて、そんな思いをさせていいのだろうか。
- 283 名前:P&Q 投稿日:2006/05/28(日) 17:24
- 「吉澤さん・・・嘘ついてくれますか?」
「えっ?」
「絵里がまだ1番好きじゃなくても1番好きって・・・。」
切ない目で見つめる亀井の視線を吉澤は真っ直ぐな目で捉えた。
「そしたら絵里、頑張れる。待ってられるって思う。」
吉澤は亀井を抱き寄せ、肩に顔を埋めた。
「吉澤さんに嘘つかせちゃうけど・・・いいですか?」
亀井は囁くように訪ねた。
「絵里に辛い思いさせちゃうけどいいですか?」
「大丈夫ですよ。絵里が嘘ついてそうさせるんだもん。」
「そっか・・・。」
「だから、嘘・・・ついてくれますか?」
「いいですよ。」
吉澤は抱きしめる腕に力を込めた。
この刹那に亀井を愛しいと思う気持ちがいくつも固まって大きくなってくれればいい。
自分のつく嘘が亀井の望む嘘ならばきっとそれは愛情になり嘘をつくたびにそれは大きくなればいい。
そしていつかきっと藤本への気持ちより勝る気持ちになればいい。
- 284 名前:clover 投稿日:2006/05/28(日) 17:55
- 本日の更新以上です。
>>274-283 A PENTAGON and A QUADRANGLE
ハロモニに藤本さんも亀井さんも出なくてショック・・・
亀井さんの写真集メイキングDVDながしながら更新してますw
>>265 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>支えてくれる亀ちゃんがいるよっちゃんはある意味幸せなんですかね
そうですねぇ。よっちゃんには今亀井さんおられますからねw
>>266 :オレンヂ 様
いつも、レス有り難うございます。
>今日は早く眠れ・・・ません、このあとどうなるか気になりすぎてw
今夜はどうでしょうw
>>267 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>つづきまってます。
有り難うございます。さいごまでよろしくです。
>>268 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>なんだかんだいってもミキティが一番辛そう・・・
えぇそうなんです。今、藤本さん追い込んでますw
>続きが気になります。
ありがとうございます最後までお付き合いください
>>269 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>なんかみきちゃんが可哀相すぎます
はい、可哀相なんですよ藤本さんごめんなさいw
>作者さんなんとか幸せにしてあげてくださいコ(-人-)
はいwします。させてくださいw
最後まで宜しくです
>>270 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>支えてあげる全ての役割が恋人にあると考えてたとしたら、それは間違いじゃないでしょうか?
そうですね、それはそうです。はい。友達にしか支えられない部分もあると思います。
でも、まぁ田中さんの行動をさしてるのだと思うんですが。藤本さんを引き止めたところはですね田中さん的に藤本さんの気持ちに気がついているわけでして、亀井さんを思ったら行かせたくないかなと自分の判断です。
>生意気言ってすみません。
いえいえ、ありがとうございます。
>>271 :名無し飼育 様
レス有り難うございます。
>以上作者でもないのに弁明w
ありがとうございますw
最後までお付き合いください。
>>272 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>やはりさゆかわいいです!
まだ、出てきますので道重さんw
最後までよろしくです。
>>273 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>ミキティが切なすぎて・・・
藤本さんもうしこし耐えてもらいます・・・
最後まで宜しくです。
- 285 名前:ももんが 投稿日:2006/05/28(日) 18:35
- 亀ちゃんとよっちゃん依存しあってますね。
かめよしもみきとしも好きなので、かなり楽しんでます♪
圭ちゃん大人で、かっこいい!
- 286 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 19:25
- 更新お疲れ様です
あぁ〜何か……切ないような……。
これ見ながら「銀色の永遠」と「ボーイフレンド」聞くとやばい…(ノ△T)
- 287 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 20:47
- 更新乙です
よっすー亀井に逃げんなよぉ・・・・
色んな感情がグルグルします(´・ω・`)
カオリンの「ありふれた奇跡」も所々歌詞が結構きますよw
- 288 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 20:57
- 更新お疲れ様です!
なんかよっすぃは凄い自分勝手でムカツクw
ミキティの方が幼馴染になることを選んだんですけどやっぱカワイソすぎる
- 289 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 21:22
- 早くミキティに幸せになってほしいなぁ。
- 290 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 21:29
- 勇気あるごっちんを褒めてあげたい。
ごっちんやさゆみたいに自分の気持ち素直に吐き出そうよ
よっちゃんとミキティお互いの気持ちわかってる2人なのにこのままだと
2人の幼馴染の関係も壊れてしまいそう。
2人がくっつくのが1番自然だと作者さんそっちのけで
勝手にストーリーを考えてしまいます…(^^;
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/29(月) 00:34
- その時はその時で精一杯の選択をしてるつもりでも後から思えばなんでだろうと思うことってありますよね
それは若さの一つの形でそれが成長の足跡だと思いました
この作品を読みながらそんなことを思って人間臭い良い作品だなぁって思います
ってまだ途中ですけど、今のところの感想です
色々な意見や思惑ありますが更新がんばってください
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/29(月) 00:54
- おぉぉぉぅ(号泣
なんつーか、もう、どーしようもねぇ
映画化してください(素
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/29(月) 00:59
- 吉澤のやってる事って本末転倒
亀井に逃げることによって人間関係の規模を広げてるだけのような・・
どのような展開に持っていくのか期待して待ってます。
- 294 名前:名無し 投稿日:2006/05/29(月) 02:37
- 前の作品のよしかめは好きだったけど今回はどうなんでしょ。
今回の作品のよしかめは二人とも愛すべきキャラという風にはみれません。
理解できる関係ではないですね
- 295 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/29(月) 07:51
- 読んでると、本気で腹が立ってきます。
裏返せば、それだけ作者様の文章力がおありということ。
手ごたえのある作品に巡り合えて、嬉しいやらありがたいやら。
毎日の大量更新、お疲れ様です。
くれぐれもムリはなさらずに。
- 296 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:11
- 石川はLOSEの鍵を持って吉澤の家の前に立っていた。
いつも玄関の鍵が開いてなければ合鍵で開けて入っていた。
石川は鍵のかかった玄関のドアに合鍵をさしいつものように家の中に入った。
玄関にない吉澤の靴。帰っていないのだろうか。
石川はリビングを覗いてみるが誰も居ない。吉澤の部屋を覗くべきか考えたがそのまま玄関に戻ると家を出て鍵をしめた。
病院にいかなければならない、夕べ色々考えて全く眠れなかった石川はあまり働かない頭でLOSEに向かった。まだ朝早い時間帯、LOSEは開いているはずもなく石川はLOSEの鍵をバックにしまうと病院に向かった。
夕べ、藤本たちと別れたあと、保田の言葉を思い出し自分なりに導き出した答えは幼馴染で居ることだった。亀井との仲を見守ろう。そしていつか自分もまた恋をする時期がくるはずだ、それまでは仕事に専念しようそ決めた。
早いほうがいいと思って今日、仕事に行く前に吉澤に会いいつものように「おはよう。」という言葉だけでも交わしたかった。
仕事が終わったらLOSEに行こう。石川はすっきりした顔を見せ病院に入っていった。
- 297 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:12
- 後藤は朝早くに迎えに来た車に乗り込んだ。新しいマネージャーは病院であった女性だ。
「おはようございます。」
笑顔で挨拶をする後藤にマネージャーは「おはよう。」と笑みを返す。
「今日から宜しくお願いします。」
バックミラー越しに言う後藤にマネージャーは意外な表情を浮かべた。
「なんか昨日の様子と違うね。いいことあった?」
後藤は笑顔で首を横に振った。
「失恋したの。」
マネージャーは訝しげな顔を見せるが後藤は笑みを浮かべる。
「ダメだって分かってたけど気持ち伝えてすっきりしたんだ。それだけ。」
「そっか。スキャンダルは気をつけてね。もう大人だから恋愛するなとは言わないけど。報告は欲しいかな。」
「うん。でもしばらくないと思う。仕事に専念するから。」
マネージャーは安心したように微笑んだ。
後藤はシートに体を埋めると外の景色を見た。その横顔はすっきりした顔だ。
幼いときに親しくしていたこと。または人。
幼馴染を辞書で引いたらそう記載されていた。
自分と吉澤の関係はまさにそれだ、だから何があってもそれは変わらないのだ。
だから、吉澤の気持ちの整理がつくまで距離を置こうと決めた。
中澤の言う通りきっと必ず笑って話せる日が来るのだ。それまでに吉澤に元気をもらわなくても大丈夫なように強くなろう。仕事に自信を持てる大人になろうと後藤はそう決めた。
- 298 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:12
- 藤本は朝食を作ると母親と二人で食べた。ビールを飲む母親を哀れむ目で見つめる藤本。
夕べも帰宅したときに母親は1人深夜番組を見ながらウィスキーを飲んでいた。
付き合ってあげられる気分でもなく藤本はこれからの4人のことを考えた。
あの日、加護のピアノを聴いた日。自分は吉澤への気持ちを消したんだ。だから悩む必要なんてない、幼馴染としてなんでもない顔をしているだけでいいのだ、顔を会わす機会だって減るはずだ。何の問題もないだろう。あとは後藤や石川がどうするかと吉澤の後藤への対応だろう。保田の言うとおり難しく考えることはないのだ。3人の恋は終わった。それだけのことだ吉澤は亀井が好きなのだから。それに今は目の前にいる母親と帰ってこない父親のことを考えなければならない。
「今日で教育実習終わるんだ。」
サラダをつまみにビールを飲む母親に話しかけるが。「そう。」という返事で終わってしまう。
「月末の試験終わったら美貴、夏休みだから久しぶりに一緒に旅行でも行こうか。」
「無理してお母さんに付き合わなくていいわよ。朝ごはんだって、無理しなくてもいいのに。」
無表情に言う母親に藤本は苦笑する。
「無理とかしてないし。よっちゃん恋人いるから美貴邪魔じゃん。だから、家で食べてるだけだから。」
「そう。」
「だから、旅行行こうよ。気晴らしに。」
「いつも梨華ちゃんたちと行ってるじゃない。」
興味ないといった顔の母親に藤本はしつこく誘った。
「梨華ちゃん仕事しだしたから夏休み短いでしょ。ごっちんも仕事だろうし。学生なの美貴だけだからさ。美貴に付き合ってよ。」
「考えとくわ。」
そう言ってビールを飲む母親に藤本は少しだけ笑って見せた。
「今日、代理店でパンフもらってくるね。」
そう言うと藤本は食器を洗って学校に向かった。
- 299 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:12
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- 300 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:13
- 吉澤と亀井は二人で並んで砂浜に座わり海を眺めていた。
吉澤は高校時代のことを色々話した。保田の準備室で授業をサボったことや、通学列車で痴漢をボコボコにした話。後藤と一緒に写真を撮られて週刊誌に掲載された後の騒動。
時折懐かしそうに微笑みながら話していた。それから剣道を始めたのは時代劇を見て憧れたからだとかやってみたらチャンバラと全く違ったとか、剣道の話を色々している吉澤は子供みたいに目を輝かせて話していた。亀井はそんな吉澤を微笑みながら話に耳を傾けて、いつの間にか吉澤の肩に頭を乗せて眠りにおちていた。
肩に重みを感じた吉澤は亀井の寝顔を見ながら亀井が隣に居ることで安心している自分がいることに気が付いた。
剣道を辞めて大学も辞め藤本も諦め何もすることがなくしたいこともなくバイトに明け暮れる毎日、直ぐ側で後藤の活躍、女優という仕事に専念している姿を見て、看護士になって命の現場で働いている石川を目の当たりにし、教師という夢に着実に近づいていく藤本を見て自分だけが取り残されていく焦りを感じていた日々。それに加え藤本への気持ちを抑えなければいけないという重圧感と石川と後藤の気持ちに気付かない振りをしなければならなかった苦痛。亀井と出会いこうして恋人になったことで全てが取り払われたような気になる。このまま静かに時が流れてくれればよいと吉澤は段々と明るくなっていく海を見ながらそう願った。
「ん・・・。あっ、絵里寝ちゃった?」
顔を上げた亀井に微笑む吉澤。
「太陽が顔見せた。」
吉澤がそういうと亀井は青く輝く海を見て顔を綻ばせた。
「綺麗だね。」
「うん。」
「夏って感じ。」
「もう直ぐ夏休みでしょ。どこか行こうか。」
「うん、夏や・・・あれ?えっ?まって、落ち着け。」
「どうしたの?」
慌ててキョロキョロしながらカバンを覗いたり吉澤を見たりする亀井に吉澤は笑いながら首を傾げる。
「まって、えっ?落ち着け絵里。夏休みだよ。うん。夏休み。そうだよ。終業式があって通知表もらって夏休みだよ。うん。そう、終業式がね・・・・。」
「終業式がどうした?」
亀井は吉澤を見ると泣きそうな顔になる。
「今日だよ・・・。どうしよう。」
「今日って、今日?」
吉澤も顔を引き攣らした。
「間に合うかな?」
不安そうに聞く亀井に吉澤は微妙な表情をする。
「取り合えず、大通りに出てタクシーで帰ろう。」
「うん。えっ今何時?」
「6時になる。行こう。」
吉澤は亀井の手を取ると走り出した。
「はやっ、はやっ、はやいよぉー。」
亀井が叫ぶが吉澤は走った。なんだか楽しくて亀井の手を離さないようにしっかりと握って走った。
- 301 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:13
- 「はぁはぁ。死ぬかと思った・・・もぉ速いですよぉ。」
「ごめんごめん。なんか楽しくて。」
汗をかきながら爽やかに笑う吉澤に亀井は見とれてしまった。
「っていうか、車の通りがないです・・・。」
静まり返っている大通りを指差す亀井。
「うん。朝早いからね。タクシー会社って何時からかな?」
吉澤は携帯を操作しながらタクシー会社を検索し営業時間内の会社を探す。
「おっ、個人タクシーならやってるみたい。」
吉澤は亀井に笑顔を向けると電話をかけてタクシーを手配する。
「オッケー15分くらいで来てくれるって。間に合うね。」
「よかったありがとうございます。」
ほっとした顔を見せ、街灯の柱に寄りかかった。
吉澤もほっとしてポケットからタバコを出すと火を点け煙を吐き出した。
「タバコ似合いますよね。」
「そう?」
フーっと煙を吐いて首を傾げる。
「ちょっとカッコイイ。」
「ちょっとなんだ。アハハ。」
「違う、凄く。だけど体に悪いよぉ。」
少し焦った顔で言う亀井に吉澤は笑った。
「んー。タバコ嫌い?」
「煙いですよ。」
眉間に皺を寄せて言う亀井。
「辞めてほしい?」
亀井は少し悩んだ。
「辞めなくてもいい。カッコイイから。でも減らして欲しい。」
「なんだそれ。」
吉澤は笑いながらタバコを携帯灰皿にもみ消した。
「体に悪いから辞めたほうがいいけど、カッコイイからたまには見たいかなって。」
- 302 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:14
- 「わっ、何?えっ。ちょっと苦しい。」
「体に悪いのに見たいからって辞めさせないのかよぉ。」
「へっ?っくるじぃ。」
「絵里はうちが体壊してもいいってことだな。」
「違う、ちがっ。まってギブっ、ギブ。」
吉澤は腕を緩めるとそのまま後ろから亀井を抱きしめ亀井の肩に顎を置く。
「あはは、なんか眠くてテンションがおかしい。」
「もぉ。ビックリしたぁ。」
亀井は胸の前に組まれた吉澤の手に手を重ねた。
「あっ、あれじゃないですかタクシー。」
「うん。」
タクシーに乗り込むと亀井の家に向かうように告げた。
車が動き出すと直ぐに亀井の肩にもたれかかる吉澤は寝息を立てていた。
亀井は吉澤の寝顔を見て微笑むと自分も吉澤の頭に頭を乗せて目を閉じた。
- 303 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:15
-
*****************************
- 304 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:15
- 「吉澤さん?」
亀井の家の前に立っていた吉澤を亀井を迎えに来た道重が見つけて駆け寄った。
「何してるんですか?」
道重は中に入らないのかと亀井の家に視線を向けた。
「今、帰ってきたとこでね、絵里、今シャワー浴びてるからもうすこ・・・。道重さん?」
吉澤が亀井が出てくるまでももう少し時間がかかると言おうとすると顔を真っ赤にさせてモジモジとする道重。吉澤は不思議な子だと思いながら見ていた。
「エッチなこと言わないでくださいよ。もぉ・・・さゆみ、先にれいな迎え行ってきます。」
道重はそういうと頬に手を当てて隣の家に入っていった。
「なんだあれ・・・。」
吉澤は一人首を傾げた。
- 305 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:16
- 亀井は何も言わずに朝帰りしてしまったことに罪悪感を感じ、そっと家に入った。
父親はもう家を出ている時間だし母親はまだ寝てるだろう。直ぐに忍び足で部屋に向かうと制服を手に取り再びしのび足でバスルームに向かった。
急いでシャワーを浴びるとバスタオルを体に巻いて髪を乾かして制服を身にまといまた部屋に向かう。
「カバンっと、あとメイクは・・・時間ない?」
時計を見るともう7時半だ。いつもなら道重が迎えに来る時間。
「電車の中でするか・・・。あ、時間ないんだ。」
亀井は慌てて家を出た。
「絵里、朝帰りとぉ?ヤラシイっちゃねぇ。」
家の前で吉澤と一緒にいる田中と道重。
出た途端、田中がニヤニヤしながら田中が亀井の肩を突く。
「はっ?何?」
道重は顔を真っ赤にさせて亀井を見ている。
意味が分からず吉澤に視線を向けるが吉澤は首をかしげて笑っていた。
「まぁ、後でゆっくり話きくけん、取合えず遅刻するけん行くっちゃ。」
「あ、うん。」
亀井は吉澤はにこの後どうするかと視線を向ける。
「うちもシャワー浴びてバイト行くね。3人とも遅刻するから早く行きな。」
「後でお店行きますね。」
笑顔を吉澤に向ける亀井を横でニヤニヤと見る田中と顔をずっと赤らめている道重。
「れなも学校終わったらバイト行きます。行ってきます。」
田中が手を上げると亀井と道重も「行ってきます。」と手を振り駅に向かって歩き出した。
吉澤はしばらく3人の後ろ姿を見ていた。田中に肩を叩かれたり突かれたりしてその度に体をクネクネさせている。
吉澤はそんな亀井たちの姿が見えなくなるまで微笑んでみていた。
- 306 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:17
-
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- 307 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:17
- 「おはようございます。」
明らかに飲みすぎましたという顔で職員室に入ってきた保田に藤本は顔を引き攣らして挨拶をした。昨日のことでお礼を言わないと思っていたが保田自身がそれど頃ではなさそうだ。
「おはよ。」
隣に座る保田からはアルコールの臭いが漂って藤本は思わず顔をしかめた。
「酒臭い?」
「だいぶ・・・。」
「我慢しなさい、あんたたちが原因だから。」
保田は苦笑しながらそう言った。
「はい・・・昨日はありがとうございました。」
頭を下げる藤本。自分は我慢したとして生徒や他の職員には関係なく臭うだろうと同情した。
教室に入ると直ぐに前の席の生徒たちが鼻を手で覆う。
保田は苦笑しながら教壇にたち藤本は入口の近くに立つと苦笑していた。
教壇の目の前の亀井はアルコール臭に耐え切れず息を止めた。
「保田先生、お酒臭い。」
思わず言ってしまう亀井に保田は情けない顔を見せた。
「ごめんね。ってことで、私が喋るともっとお酒臭くなると思うから、あと藤本お願い。」
「えっ、あ、はい。」
保田はそういうと藤本の肩を叩き教室の外に出るとドアに寄りかかって教室の中の様子を伺った。
- 308 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:18
- 教壇に立った藤本は教室全体に視線を巡らす。
田中の視線と亀井の視線を生徒の視線には見えず藤本はため息をついた。
「えっと、これからロングホームルームで夏休みの注意点とか話しますそのあとこれね、通知表を配ります。」
教卓にある通知表を見せる藤本は通知表ときいてざわめく生徒に少し時間を与えた。
「もういいかな?静かにしてー。で、その後に体育館に移動して終業式になりますね、それが終わったら今日は終わりで、夏休みになります。」
再びざわめく生徒たち。藤本は自分はこんなにはしゃがなかったなと思いながら生徒を見ていた。夏休みの注意事項と、登校日の確認をし終えると藤本は通知表を手に取り生徒に一言言いながら配り始める。静かに見る生徒も居れば大声を出す生徒もいる。
「道重さん。」
道重が前に出てくると通知表を手渡す。
「両立して頑張ってるね。マネージャー1人だけど頑張ってね。」
「はい。」
返事をして席に戻っていく道重。
教卓の前の席の亀井は気まずそうに俯いた。マネージャーを道重一人にしてしまった張本人だ。部活に出るより吉澤の側に居たほうがいいと思った亀井は部活を辞めた。自分が辞めたら道重も辞めてしまうだろうとかと思っていたが道重は辞めずに続けるといったそれは意外なことだったが田中がいい傾向だと笑ってくれて亀井は少し救われた。田中が剣道部に入るからとマネージャーに誘ったには自分だった。
「次は、田中さーん。」
道重の通知表を見せてもらっていた田中は前に駆けて出てくる。
「はい、田中はぁ、担任の教科がんばりなよ。あと気が向いたら辻の相手してあげてね。あの子、待ってるからさ。」
田中は苦笑しながら頷くと通知表を持って席に戻って中身を拝見する。道重の成績とは比べ物にならない自分の成績に仕方ないと納得する。横から覗いてきた道重は逆に田中の成績の悪さに苦笑した。
- 309 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:19
- 「はい、亀井さん。」
「はい。」
亀井は立ち上がると一歩横に出て藤本と向かいあう。
「成績もいいし、部活は残念だけど、言うことなし。夏休みハメを外さないようにね。」
「はい。」
亀井は通知表を開いていつもとかわらなぬ成績だと確認して田中たちの席に移動した。
「絵里、どうっちゃ?」
田中が亀井の手にある通知表を取って中を見ると「すごか。」と呟いた。
「オール5?」
道重が尋ねると頷く亀井。
「おぉーさゆ体育と音楽以外4だった。2年になったら音楽ないからいいけど。」
田中は体育と音楽は勝ったと心の中で勝利を1人喜んだ。
「れいなは?」
「ボロボロっちゃ。」
田中は自分の通知表を亀井に渡す。
開いた亀井は2と3ばかりの数字の列に苦笑した。音楽だけが4だ。
「はい、席ついて。」
通知表を配り終え藤本は大声で叫ぶ。
生徒は渋々と席に着き藤本に視線を向けた。
- 310 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:20
- 「はい、じゃぁもう少ししたら体育館に移動ですが、その前に少し私に時間ください。えっと、今日で皆と会うのも最後になるわけです。短い間でしたが、楽しい時間を過ごせたし、実際にね、こう教えてみて色々勉強にもなりました。そうですね、私が高校生だったろって行っても3年くらい前なんですけど、なんか懐かしく思ったりもして。皆に迷惑かけていたかもしれませんがそこのところは保田先生がね、フォローしてくれると思うのでもし、私が教えたところで分からないところがあったら保田先生を訪ねていってください。今日はちょっとねお酒臭いとか言われて教室の外で待ってたりととかしてますが。凄い頼りになる先生で信頼できるし。自分のことのように考えてくれる、某ドラマシリーズにもなってる先生の女版みたいな先生ですから。何かあったらね、1人で悩まずに友達に相談したりして解決できないこととかあったら保田先生を頼ってみてください。あのぉ、手遅れになるとね、大変だから。勉強以外でも何でもそうだと思うし、自分だけの意見で押し進めないでいろんな人の意見きいたほうがいいと思うので、はい、以上です、お世話になりました。」
藤本は軽く頭を下げた。
「えぇっとね、じゃあはい、体育館に移動してください。」
生徒たちが教室を出る前に藤本がさきに出ると保田が飛び切りの笑顔でウインクをして見せた。藤本は顔を引き攣らせながら「ありがとうございました。」と頭を下げた。
終業式が終わり教室に戻ると今度は保田が生徒たちに最後の確認をして解散となった。
数人の生徒が別れを惜しんで話しかけてきてくれたが亀井たちはその中には居なかった。
職員室に戻ると保田がお茶を入れてくれた。
「あとは大学の方に提出しておくから、それで終わりだね。」
「はい、宜しくお願いします。」
「昨日のは?考えたんでしょ、すっきりした顔してたから。」
「まぁ、辞書はひきましたよ。美貴、やっぱり幼馴染でいるって決めました。いつか忘れるだろうし、一緒に過ごす時間も減るだろうし。」
「そう。」
すっきりした顔で話す藤本に対し保田は寂しそうに頷いた。
「たまにはまた来なさいよ。私、夏休みでもいるから。」
「はい、部活みにきたりしたいし絶対来ます。」
「うん。」
保田と別れ武道場に向かった。
道場に入ると駆け寄ってきたのは辻だった。
- 311 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:20
- 「美貴ちゃんもうこないの?重さんが言ってた。」
「重さん?・・・道重か。」
「うん。こないの?」
「毎日は無理かな美貴も大学生に戻るし。たまには来るよ。」
泣きそうな顔で見る辻に藤本は嫌な予感をした。
「っう、ほんと、にくるっ?」
「うん。来る。絶対くる。まて、まて、なく・・・。」
絶対に来るといっているのに声を出して泣き始める辻。
藤本は慌てて辻の頭を撫でたり両手で頬を擦ったりしたが一向に辻は泣き止まない。
「ちょっと、17才でしょ。泣かないでよ。」
藤本が困っていると顧問の防具を抱えて入ってきた道重が泣いている辻を見て慌てて駆け寄った。
「ちょっと、藤本先生何したんですか。」
「えぇぇ。私じゃないから、辻だから。」
「もぉ。辻先輩ほら。泣き止んで。」
道重は辻を赤ちゃんのように胸に抱き背中を擦りながら「よしよし。」と言っていた。
「ちょっと、辻、年上でしょ・・・。」
「泣き止みました?よかったぁ。何されたんですか?」
「何もしてませんから・・・。」
辻はヒクッヒクッと息を詰まらせているが泣き止んだようだ。
「美貴ちゃんもう来ないって言うんだもん。」
「おい、来るって言ってるだろうが・・・。」
「ヤンキーれいなもいつか来るって言ってこないもん。だからこないもん。」
辻は道重の胸に顔を埋めた。道重は甘えられてまんざらでもなさそうに辻の頭を撫でている。
確かに田中のことはそう約束したけれど田中の気持ちしだいだから自分はどうにも出来ないと藤本は困った顔をした。
「れいなはさゆみが連れてきますから。さゆみのことは信じてくれますよね。」
辻の頭を撫でながらニッコリと笑ってみせる道重。辻も笑顔で頷く。
「付き合ってられない・・・」
藤本はそう呟くと二人を残して奥にある顧問の部屋に向かった。
- 312 名前:P&Q 投稿日:2006/05/29(月) 23:21
- 「失礼します。」
顧問に声をかけながら入っていくと顧問に笑顔で迎えられ鳥肌をたてる藤本。
「なに、いつもムスッとしてるのに怖いですその笑顔。」
「お前なぁ・・・。」
「お世話になりました。また、自分の試験とか落ち着いたら顔出しますので宜しくお願いします。」
「はいはい。生徒もお前のこと待ってるしな。」
「最後に一つだけお願いあるんですけど。」
「お前のお願い聞き飽きた。」
藤本は苦笑してみせるがするに鋭い目を顧問に向けた。
「なんだよ。言ってみろ。」
「辻は強いです。ちゃんと分かるように教えてあげれば分かるし直ぐに身につく。剣道に関しては人一倍勉強もしてる。ノートに色々書き込んで自分なりにわかるように書いてたし、だから、正当な試合で選んであげてください。今度のインターハイ予選楽しみにしてますから。」
藤本は笑みを浮かべると部屋から出て行った。
「なに?」
出た途端、辻と道重が待ち構えていた。
「いつ来るか約束してください。」
道重は腕を組んで強気な姿勢を見せる。藤本は苦笑しながら頭の中のスケジュールを探る。
「んと、インターハイ予選は絶対見に行く。稽古は・・・来月、何日かは約束は出来ない。これでいい?」
藤本が辻を見て言うと辻は頷いて笑った。
「そのとき、また、あいぼんのピアノ一緒に聴きに行こうね。」
藤本は辻の頭に手を乗せると「ありがと。」と呟いて道場を後にした。
- 313 名前:clover 投稿日:2006/05/29(月) 23:44
- 本日の更新以上です。
>>296-312 A PENTAGON and A QUADRANGLE
色々なご意見が出てきてるみたいで、どうしよう・・・
みたいな感じで嬉しいやら複雑やらな感じですがw
取りあえず完結目指して頑張ろうかな。
>>285 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>亀ちゃんとよっちゃん依存しあってますね。
んーちょっと違ってくるんですけど、お楽しみにしてくださいw
>かめよしもみきとしも好きなので、かなり楽しんでます♪
有り難うございます。最後まで宜しくお願いします。
>>286 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
>あぁ〜何か……切ないような……。
まだ、色々予定してるので
最後までお付き合い下さい
>>287 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>よっすー亀井に逃げんなよぉ・・・・
吉澤さん・・・ちょっと考えとか色々子供なんでw
最後までお付き合いください
>>288 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>なんかよっすぃは凄い自分勝手でムカツクw
すみませんw
>ミキティの方が幼馴染になることを選んだんですけどやっぱカワイソすぎる
藤本さんも嘘ついてるんでw
最後までお付き合いください。
>>289 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>早くミキティに幸せになってほしいなぁ。
いつかはきっと・・・w
最後までよろしくです
>>290 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>勇気あるごっちんを褒めてあげたい。
褒めてあげてくださいw
>2人がくっつくのが1番自然だと作者さんそっちのけで
>勝手にストーリーを考えてしまいます…(^^;
あはは、そうですねw
最後まで宜しくお願いします。
>>291 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>この作品を読みながらそんなことを思って人間臭い良い作品だなぁって思います
有り難うございます。
色々な意見や思惑ありますが更新がんばってください
ありがとうございます。頑張ります。
最後までお付き合いください。
>>292 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>なんつーか、もう、どーしようもねぇ
そうなんですよw
>映画化してください(素
ありがとうございます。最後までよろしくです。
>>293 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>吉澤のやってる事って本末転倒
そうですね
>亀井に逃げることによって人間関係の規模を広げてるだけのような・・
この話自体をってことでしょうか?
>どのような展開に持っていくのか期待して待ってます。
期待にこたえられるよう頑張ります。
最後までお付き合いください。
>>294 :名無し 様
レス有り難うございます。
>前の作品のよしかめは好きだったけど今回はどうなんでしょ。
>今回の作品のよしかめは二人とも愛すべきキャラという風にはみれません。
>理解できる関係ではないですね
人それぞれ捕らえ方があるかと・・・
よろしければ、最後までお付き合いください。
>>295 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>読んでると、本気で腹が立ってきます。
申し訳ないです。
>裏返せば、それだけ作者様の文章力がおありということ。
>手ごたえのある作品に巡り合えて、嬉しいやらありがたいやら。
・・・なんと返したらよいのだろう・・・w
>毎日の大量更新、お疲れ様です。
>くれぐれもムリはなさらずに。
有り難うございます。最後までお付き合いください。
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/29(月) 23:56
- …亀ちゃん可愛い(*´Д`)といつも言ってるアホです
完結までずっとついてきますんでどうぞマイペースにがんばってください
- 315 名前:名無し読者 投稿日:2006/05/30(火) 03:27
- 日々の更新お疲れ様です。
『悲しい偶然』からずっと拝見させて頂いてます。
毎回、どうなるのだろう?とワクワクして読ませてもらってますよ!
そういう、読者が右往左往するような作品を書けるのは素晴らしいと思っています。
私も書く人なのですが、読みながらいろいろと勉強させてもらってますw
いろいろと大変かもしれませんが、完結まで頑張って続けてくださいね!
更新、楽しみに待っています。
- 316 名前:ももんが 投稿日:2006/05/30(火) 08:46
- 亀ちゃんとよっちゃんの関係がどう変わってくるか楽しみにしています♪
完結目指して頑張ってください!
- 317 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 14:03
- 毎日の更新お疲れ様です。
毎回それぞれの登場人物に思いを馳せつつひとりで百面相みたいになりながら読み耽り、
ドップリここの世界に嵌まり込んでいます。
タイトルにもなっていますがそこに込められた様々に錯綜する想い。
一体どこに向かって進んで行くのか、じっくりと見守らせていただきます。
- 318 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:24
- 田中からLOSEの片付けをしないで帰ってきたと聞いて吉澤は家には寄らずそのままLOSEに向かった。田中の言うとおり店内は夕べのままだった。
吉澤は直ぐに片付けを始める。
大体片付け終わったところで中澤がやってきた。
「おはよ。早いな。片付けようと思って早くきたのに。」
中澤は夕べは何もなかったような顔で入ってきた。
「おはようございます。あの、夕べ済みませんでした先に帰っちゃって。」
吉澤が申し訳なさそうに言うと中澤は「ええんよ。」と笑顔を向ける。
「よっちゃんは亀井が好きなんか?」
「はい。」
「藤本よりも?」
吉澤は藤本を持ち出さないでくれという気持ちなる。
「美貴は・・・幼馴染ですから。好きなのは絵里です。」
吉澤に悲しい顔をさせてしまったと中澤も悲しそうに吉澤を見た。
「そうか・・・。ごめんな変なこと聞いて。」
「いや・・・心配かけてるのとか分かってるし。」
「ん。じゃぁええ。よっちゃんがそう決めたんやもんな。」
「ありがと。」
吉澤はやっと笑みを見せた。
「朝ごはんたべたんか?」
「まだです。」
「じゃ、一緒にたべるか。」
「はい。」
「作ってあげるから、そこすわっとき。」
「はぁい。」
中澤を母親みたいだなと思いながら吉澤はカウンターに座った。
- 319 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:24
- 「あの。」
「んー?」
「ごっちんあれからどうでした?」
「なんや、今朝は会ってないんか?」
「家、帰ってなくて。」
「そっか、よっちゃんは幼馴染としているって決めたんやろ、それでええねん。きっと皆もそう思ってるから。」
中澤が微笑む、吉澤はその笑顔に安心した。
幼馴染でよいのだと。
それから二人で朝食を食べて開店の準備をした。
- 320 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:24
-
*****************************
- 321 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:25
- 終業式が終わり道重は部活に行き、田中と亀井は二人で帰る。
「絵里も色々と大人になったっちゃね。」
「ねぇ、朝かられいなもさゆも何いってるの?」
「朝帰りしたっちゃろ?」
「うん、海見ててそのまま朝になっちゃったから。」
「はぁ?」
「なに?」
「その、そういうことしてて朝帰りになったんじゃなか?」
「そういうこ・・・。ばかっれいなのエッチ。」
亀井は田中の肩を思い切り叩いた。
「痛い、だって、さゆが顔真っ赤にさせていうけん。」
「もぉ。」
亀井は笑顔だった。田中とそういう話をしても胸が痛くない。
薄れていく田中への気持ち。
「なに?ニヤニヤしとぉ?」
「れいなとさゆと幼馴染でよかったと思って。」
「なんね、改まって。」
「なんかそういう気分だったの。」
「そうだ、さゆ、なんや辻先輩となかよぉなったとよ。」
「へぇ。さゆ、絵里がやめるっていったらさゆもって言うと思ったんだけどな。意外だった。」
「なんで、絵里がやめるとさゆもやめるとぉ?絵里は絵里。さゆはさゆっちゃ。」
「そっか、そうだね。」
亀井は笑うと田中も笑った。
「じゃぁれなバイトやけんここでバイバイっちゃ。」
亀井に手を振って家とは別の方向に歩いていく田中。
亀井はニヤニヤしながら、その後を歩いていく。
「なんで、絵里まで一緒にくると?」
田中が後ろから聞こえる足音に気が付いて振り返ると笑顔の亀井がいた。
「吉澤さんいるから。」
「ラブラブっちゃね。」
「ラブラブっすよ。」
- 322 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:25
- 亀井は田中の前で平気な顔をしていられるだろうと思った。
田中を思い続けている自分に酔っていたのだろうか。一体、何年悩んだのだろう。
今は田中とこうして普通に話せることの方が亀井は嬉しく感じられる。
1番好きなのは吉澤になるかもしれないと告白したがそれは無いだろう。
吉澤の気持ちはきっと自分には向かないから。
自分は吉澤といて田中への気持ちが薄れたのか、その関係に悩んでいる自分に酔っていたのか分からないが確かに自分は田中への恋愛感情は消えている。田中が言っていたというように錯覚だったのかも知れない。
でも、吉澤は一向に藤本への気持ちは薄れない。それだけ、本当に好きなのだろう。
自分が吉澤を1番好きになったと言ったとき吉澤は本当に嘘をつくだろうか。
嘘をついてまで守りたい幼馴染の関係なのだろうか。
嘘をつかないと壊れてしまうような関係なのだろうか。
後藤が告白したことによって、後藤との関係は壊れてしまうのだろうか。
逃げたした吉澤の気持ちはなんとなく分かる。自分が道重に気持ちを伝えさせないように逃げていたから。受け入れてあげれないことで相手を傷つけてしまう加害者になりたくないと思っていた。吉澤もそうだろう。なんとなく、そんなところは似ている気がする。
責任を取りたくない。自分ではどうすることも出来ない。弱さというよりずるさ。
もしも、告白したのが後藤ではなく藤本ならきっと吉澤は受け入れていただろう。
自分だって田中から告白されたら受け入れていただろう。でも自分からは言えない。もしもだめになったとき、気まずくなったのは自分のせいにはしたくないから。
でもそれじゃいけないと、吉澤は気がついていないだろう。だから、夕べ逃げ出したんだ。
気がつく前に自分が恋人ごっこのようなもに誘いこんでしまった。
自分が吉澤に逃げてしまったがために巻き込んでしまった結果なのだろう。
だとしたら、吉澤が守ろうとしている関係を自分も一緒に守ってあげたいと思う。
吉澤が自分から藤本へ気持ちを伝えられるときまで支えてあげたいと思う。
恋愛感情ではない償いなのかもしれない亀井はそんなことを思いながら田中の隣を歩いていた。
- 323 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:26
- 「涼しぃ・・・。」
LOSEに入ると亀井は思わず口にする。
「おはようございます。」
田中は中澤と吉澤に声をかけると更衣室に入っていった。
吉澤は入口で微笑む亀井に笑みを返すとカウンターに座るように促した。
「通知表はよかった?」
「親みたい。」
カウンター越しに笑い合う二人を中澤は目を細めてみていた。
吉澤があんなふうに笑うのは亀井のおかげなのだろうこのまま自然と納まっていくのだろう。中澤は吉澤が笑っていられればそれでいいと思った。
「すごっ。」
通知表を見た吉澤は驚いた。
「えへへ。褒めて褒めて。」
吉澤の右手を掴んで自分の頭に乗せる亀井。
吉澤は笑いながら頭を撫でてやった。
「アホか・・・。」
中澤は二人を見ながら呟いて笑った。
「絵里、何食べる。ご褒美に奢ってあげる。」
「やったぁ。朝から食べてないからペコペコ。」
「じゃぁスパゲティとかにする?食べたことないでしょ。」
「うん。」
「飲み物は?」
「アイスティがいい。」
「了解。ちょっと待ってね。」
嬉しそうに口を半開きにして頷く亀井。
普通に可愛い子だと吉澤は笑顔を見せた。
「吉澤さんが作るんですか?」
「そうだよ。バイトだもん。」
「こないだ料理下手でしたよね?」
「作れるのココのメニューだけだもん。」
苦笑する吉澤に亀井も苦笑した。
- 324 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:26
- 「手伝います。」
制服に着替えてきた田中がやってくる。
「じゃ、絵里にアイスティ。」
「はーい。」
楽しそうにスパゲッティを作っている吉澤の様子に二人がいい感じなのだということが分かり田中は藤本や石川、後藤も自分と同じようにこの二人を温かく見守ってくれることを願った。
「はい、アイスティ。絵里どうかしたと?」
「えっ、なんでもないけど?ありがと。」
吉澤の姿を切ない目で見ていた亀井は田中の言葉に慌てて首を振ると出されたアイスティをゴクゴクと呑んだ。
「なんね、吉澤さんに見とれてたと?アハハ。」
笑う田中に吉澤は田中への気持ちが亀井を苦しめてはいないかと心配して亀井に視線をやる。
「はい。スパゲティ。」
亀井の前に皿を置きながら吉澤は「大丈夫か?」と視線を亀井に投げる。
「美味しそう。」
嬉しそうに微笑む亀井に吉澤はもう亀井は田中への気持ちはないのだと知り、自分が1番になったのか、それとも田中と同等になったのかと亀井を見つめた。
「んっ、おいしい。」
そう言って吉澤に微笑む亀井。
「よかった。」
嬉しそうに微笑み返す吉澤。
「なんか見せ付けられとると。」
「だって、絵里と吉澤さんラブラブっちゃ。」
「はいはい、ラブラブっちゃね。」
田中は投げやりに言うと布巾を持って奥のテーブルを拭きに言った。
亀井はおかしそうに田中を目で追いながら微笑んでいた。
吉澤も客がやって来て仕事に戻ると亀井はスパゲッティを頬張りながら吉澤を目で追う。
- 325 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:26
- 「絵里、この後どうするの?」
吉澤がひと段落つき、亀井の皿を片しながら訪ねる。
「吉澤さん何時までバイトですか?」
「6時。」
「じゃぁ、一度家に帰って6時ごろにまた来ます。」
「大変じゃない?うち迎えにいくけど。」
「大丈夫、待ってるより来るほうがいいから。」
微笑む亀井に吉澤も頷く。
「じゃぁ、また後で。」
「はい、6時に来ますね。」
吉澤にそう言って微笑むと亀井はテーブル席を片している田中に視線を向ける。
「れいな、帰るね。」
「おぉ、バイバイ。」
「ご馳走様でした。」
亀井は中澤に頭を下げると店をでた。
「ホントにラブラブですね。」
田中が嬉しそうに吉澤の隣に立つ。
吉澤はただ、微笑んだ。ラブラブと言われればそうなのだろう。
亀井を愛しいと思い必要としているのは確かだし、出来れば常に隣に居て欲しいと思う。
藤本への気持ちがいつ溢れ出すか分からない。そんな時、亀井が居てくれないと自分はどうなるのだと不安に思う。
「心配事あるんですか?」
田中は昨日の後藤のことかそれとも後藤と同じ気持ちであろう石川と藤本のことかと心配そうに吉澤を伺った。
「ないない。」
慌てて笑ってみせる吉澤。
「絵里のこと傷つけないでくださいね。大切なれなの幼馴染やけん。」
「うん。」
頷き仕事に戻る吉澤の横顔を田中はしばらくみていた。
- 326 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:27
-
*****************************
- 327 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:27
- 「あいぼんのピアノってなんですか?」
部活を終えた道重は防具を片す辻を手伝いながら尋ねる。
「あいぼん、ピアノ凄い上手なんだよ。音楽室でそれ聞くの。」
「今度、さゆみも連れて行ってください。」
「いいよ。」
微笑む辻の笑顔に道重は嬉しそうに笑った。
いつも部活で1人で居た辻。
自分の興味があるものにしか感心を寄せないといった感じだった辻が1人でマネージャーの仕事をしている道重に声をかけた。
ただ、こんがらかってしまった胴紐が取れないから取ってくれと言ってきただけだったのだが、道重は頼られたことが嬉しくてそれからは辻の面倒を見ることに楽しさと嬉しさを見つけてしまった。
藤本のおかげで他の部員とちゃんと試合をすることが出来たのが嬉しいと素直に喜んでいる辻を見て道重は純粋だなと思う。普通なら今まで卑怯な試合をしていた部員を見下すとかするだろうと。だが、辻はそんなことは気にせず、剣道が出来ることを単純に喜んでいた。
喜怒哀楽を素直に表現する辻が羨ましく、純粋に笑う辻を見ていたいと思った。
「よし、重さん帰ろう。」
「はい。」
帰る支度が出来ると辻は道重と手を繋ぎブンブンと手を振りながら楽しそうに今日の練習について話しながら駅まで向かう。そんな辻を道重は微笑みながらたまに突っ込んだりして楽しんでいた。
「辻さんはどうして剣道始めたんですか?」
「のんね、苛められっこだったんだ。」
「あぁ。でしょうね。」
さらっと言う道重に辻は道重のスカートを捲って頬を膨らませる。
「きゃっ、ちょっと道路では辞めてくださいって。」
道重はスカートを抑えて顔を赤くする。
- 328 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:28
- 「だからのんは空手とかボクシングとかやりたいって言ったの。」
「喧嘩に勝てそうですもんね、苛められなくなるし。」
「うん。でもお父さんが剣道にしろって。それで剣道始めたの。」
「あの、なんで剣道かって理由が抜けました。」
「だって、理由分からないもん。」
笑う辻に道重は顔を引き攣らせる。
「それで、苛められなくなったんですか?」
笑ったまま首を横に振る辻。
「中学まで苛められたよ。」
「えぇ、じゃ意味ないじゃないですか。」
「あったよ。登校拒否しなくなったし、苛められても嫌じゃなくなった。」
「どうして?」
「わかんない。けど、大丈夫になったからいいじゃん。あっカキ氷。」
駅前のあるカキ氷という旗を指差す辻。
「食べていきましょうか。」
道重は微笑んだ。
「カキ氷、カキ氷。」
辻は繋いでいた道重の手を引っ張って駆け出した。
- 329 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:28
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- 330 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:28
- 藤本は教授に教育実習の報告を済ませると夏季試験の日程をメモにとり道場に向かった。
既に何人かが練習を始めている。そのなかに、1人の姿を見つけ藤本はため息をつきながら更衣室に向かい着替えた。
準備体操をする間、ずっと感じる視線。
「あの、藤本さ・・・。」
「なんですか?」
藤本は目を合わさずに横にきた先輩に返事をする。
「こないだのことだけど。」
「こないだ?なんかありましたっけ。」
藤本の言葉にその男はほっとした顔を見せた。
「教育実習どうだった?なんかあったらまた相談しろよ。」
藤本は先輩に冷たい視線を向けた。
「二度と相談はしないと思います。」
藤本はそういうと面を被り練習している輪に加わると無心に稽古を始めた。
- 331 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:28
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- 332 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:30
- 早番だった石川は仕事を終えLOSEに向かった。
ドアを開けると中澤と直ぐに目があった。
優しく微笑む中澤に石川も笑みを浮かべた。
「昨日、ありがとうございました。」
そう言って鍵を中澤に返す。
石川の姿を見つけた田中は丁度、奥のテーブルにコーヒーを運びに行っている吉澤に視線を向けた。
「こちらにどうぞ。」
接客している吉澤を見ている石川に田中は声をかけいつも石川が座るカウンターの席に座らした。石川はその田中の様子に気を使わせてしまっているなと苦笑する。
カウンターに戻ろうとして石川の後姿を見つけた吉澤は一瞬足を止めたが中澤が微笑んで頷いているのに気が付き石川に声をかける。
「あれ、梨華ちゃん今日、早番だったんだ。」
「うん。アイスコーヒーちょうだい。」
吉澤のいつもと変わらない様子。それはそうしようとしれされているものだと分かりながら石川もいつもと同じように吉澤にオーダーをする。
「はい。ちょっと待ってね。」
心配そうにしている田中に吉澤は笑みを向けるとカウンターに入りアイスコーヒーを石川の前に出した。
「今日、朝さ行ったんだけど。」
石川が緊張した顔で吉澤に尋ねる。
いつものように、どこ行ってたのと聞いてよいのか、どこまでが自分が入り込んでよいのかいまいち分からない。
「あぁ、ごめん。絵里と海に行ってて。」
- 333 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:30
- 吉澤もぎこちなく笑いながらそういう。
田中は二人の様子にもどかしさを感じる。必死に幼馴染で居ようとする二人。
聞きたいことは聞けばいいし、言いたくないことは言わなければ良い幼馴染じゃなくて友達でもそういうものだろうと田中は思った。
「絵里なんか、今日、終業式って忘れてたみたいで慌ててましたよ。メイクする時間もなくて電車でしてたし。今もココでイチャイチャ惚気てるし。」
ニヤケながら言う田中に吉澤は苦笑しながら田中の肩を叩いた。
「イチャイチャはしてないだろう。」
「してましたよ。二人で見詰め合って笑ってたじゃないですか。」
田中がわざとそういう話をしようとしていることに気が付いた吉澤。
絵里が田中に自分たちの事情を話すわけがない、だが、田中は石川の顔色を伺いながら自分と絵里の様子を伝えようとしているのはなぜだろう。
「いいじゃんかよぉ。」
「いや、見てるれなのが熱かった。」
「ばーか。なんで田中ちゃんが熱くなるんだよ。」
「幼馴染がイチャイチャしてるところ見るの初めてやけんこっちが恥ずかしくて熱くなるっちゃ。石川さんも覚悟しておいたほうがいいですよ。」
ニッコリと微笑んで言う田中に石川は作り笑顔で頷いた。
「あぁ子供だと思っていた幼馴染が大人になったって寂しく思うっていうかなんていうか。」
田中は石川を真っ直ぐと見ながらそういうと優しく微笑んだ。
「お互い幼馴染として応援しましょうね。」
石川は田中を見て困った顔をして頷いた。
年下のまだ15歳だか16歳の子にそんな風に言われてしまい、恥ずかしく思う反面、自分たちのことを何も知らないくせにと思ってしまう。単純な幼馴染なら誰だって吉澤たちの恋を応援できた、でも自分たちは違ったのだ、それでも色々それぞれが悩んで、やっと、応援しようと、決めれたのだ。
- 334 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:30
- 「もちろん。応援してるよ。亀井さん良い子だし。」
石川は田中に笑って見せてからトイレに席を立った。
田中は言い過ぎただろうかと不安そうに吉澤を見る。
「田中ちゃんって真っ直ぐだね。」
笑う吉澤に田中は苦笑する。
「先に、耳で聞いといたほうが、いきなり見るよりなんだろう・・・クッションっていうか想像できてたからショックが少ないかなって、石川さんの気持ちも見てればわかるから。」
田中は辛そうに俯いた。
「そっか・・・。」
吉澤は田中の頭を撫でると微笑んだ。
この子は周りをよく見ているのだ。幼馴染だけにとらわれている自分たちとは違い、広い世界に目を向けている。
トイレから戻って来た石川は残っていたアイスコーヒーを飲み干した。
「さて、私は帰るとするかな。」
「あ、うん。」
田中が石川の会計をする。
「すみません、生意気なこと言って。」
おつりを返しながら呟く田中に石川は首を横に振って帰っていた。
「田中はたいしたもんやな。」
中澤がそう微笑むと田中は首を傾げた。
- 335 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 19:31
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- 336 名前:clover 投稿日:2006/05/30(火) 19:45
- 本日の更新以上です。
>>318-335 A PENTAGON and A QUADRANGLE
レスの数が以前に戻ってほっとしている自分がいたりするw
なんで突然ふえていたのだろうか・・・と疑問だったんですが・・・。
レスがあることは嬉しかったんだけど、レス返しがやたら長くなってたからw
まぁいいやw
毎日更新は今月まで終わりになるかなと思います。
更新楽しみにしていてくれた方、すみません。仕事の都合上、家に帰れない日が続くので・・・
>>314 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>完結までずっとついてきますんでどうぞマイペースにがんばってください
有り難うございます。マイペースに頑張ります。
>>315 :名無し読者 様
レスありがとうございます。
>『悲しい偶然』からずっと拝見させて頂いてます。
有り難うございます。
>そういう、読者が右往左往するような作品を書けるのは素晴らしいと思っています。
いやいや・・・自分、だらだら妄想をタイプしてるだけですのでw
最後まで宜しくお願いします。
>>316 :ももんが 様
いつも、レスありがとうございます。
>完結目指して頑張ってください!
はい、頑張りますので温かく見守ってくださいw
>>317 :名無し飼育さん 様
レスありがとうございます。
>タイトルにもなっていますがそこに込められた様々に錯綜する想い。
これも色々と取り方あるかなって思ったりしてるんですがw
>一体どこに向かって進んで行くのか、じっくりと見守らせていただきます。
最後まで宜しくお付き合いください。
- 337 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:15
- 亀井は母親と再放送のドラマを見ながらお茶を飲んでいた。
「絵里ちゃんさっきから時計ばっかり気にしてどうしたの?」
ドラマを見ながら時計をチラチラと見ている娘を母親は微笑みながら見ていた。
「あっ、なんでもない。6時に待ち合わせしてるんだ。」
「吉澤さんとデートだ。」
微笑む母親に亀井は嬉しそうに頷いた。
「朝帰りするときは言ってね。」
ニヤっと微笑む母親に驚いて母親を見る亀井。
「もう、高校生だし、お母さんもね若い頃はそりゃ色々遊んだけど、まぁ相手が女の人じゃ避妊の心配はないけど、夜遊びはやっぱり心配だから。」
亀井は優しく微笑む母親を見ながら何か思考が違うと思いながら苦笑した。
「やっぱりもう、吉澤さんとはしたの?」
「ちょっと、お母さん・・・。」
ストレートに聞いてくる母親に亀井は頬を赤らめる。
「そっかそっか、絵里ちゃんも女になったのねぇ。」
感慨深く良いながらお茶を啜る母親。
こうやってオープンに何でも話せる親子関係はよいと思うが物凄く恥ずかしい。
亀井はさらに頬を赤らめる。
「れいなちゃんとさゆみちゃんも早く出来るといいわねぇ。れいなちゃんは福岡で居たのかしら、いそうよね。なんか大人びて帰ってきたものね。1人暮らしもしっかりしてるし。」
ひとり納得しながら話す母親を見ながらそういえば福岡で田中は得に仲の良い人は出来なかったといっていたが恋人が居たかどうかはいわなかった。
「居たのかな?」
「聞いてないの?」
「うん。」
「聞けば良いじゃない、幼馴染なんだから色々聞いて絵里ちゃんも吉澤さんとのこと色々話しなさい。何でも相談できて支えてくれるのが幼馴染なんだから。」
「うん。」
母親の言うとおりだ、こないだまで田中に好きな人がいるのかどうかすら聞けずに居たが今は聞けるだろう。吉澤に会ったときに田中がふざけて普通に自分たちに吉澤を進めたように自分も軽い気持ちで二人に聞いたりしてみよう亀井は微笑みながらおせんべいを頬張った。
- 338 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:16
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- 339 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:17
- 石川は家で母親が夕飯の仕度をしている姿をテレビを見ながら横目で見ていた。
そういえば一緒に食卓を囲むことは最近なかったなと思う。
吉澤の家に行くことが当たり前になっていたがそれでも週に2回くらいは一緒に食べていた。仕事の時間が不規則なため1人で母親が取っておいてくれたものを食べることもある。これからは家族と食べることが当たり前になるのだろう。
「手伝うよ。」
石川はテレビを消して母親のもとに行くと手を洗って手伝いを始める。
母親は嬉しそうに微笑みながら一緒に料理を作った。
「ひとみちゃんところいかないの?」
「うん。よっちゃん恋人できたから。」
「あら、じゃぁ邪魔しちゃ悪いわね。」
「うん。」
石川は苦笑して頷いた。
- 340 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:17
- 藤本は大学からの帰り道、旅行代理店で国内旅行のパンフレットを手に入れ、買い物をしてから家に帰った。
リビングでは母親がコンビニで売っている安物のワインを飲んでいる。
藤本はため息をつくと既に飲み終わり空いている瓶2本を手に取ると軽く濯いでキッチンの隅に置いた。
「うちで食べるの?」
夕飯の仕度をする娘に尋ねる母親。
「うん。美貴つくるから一緒にたべよう。」
笑ってみせる藤本に母親は作った笑みを浮かべた。
娘に同情され惨めだと感じずには居られない。
その気持ちを酒で紛らわせるように母親はグラスにワインを注ぐといっきに飲み干した。
藤本は料理を作りながら鼻の奥が痛くなるのを感じるが涙は出てこなかった。
加護のピアノを聴いたときに涙は全て出し切ったのだろう、藤本は苦笑しながら料理を作る。
父親はいつ帰ってくるのかすらわらならい。
電話をかけたとき、娘の声も分からず、いつ帰ってくるのかという質問には仕事が忙しいと答えてきれた。普通の父親なら元気かとか最近はどうだとか一言聞くだろうと思ったりもしたが、聞かれたところで気を使っていると思ってしまうだろう。言葉を交わした日さえはっきりと覚えていないのだから。
だが、このままで良いわけもなく、父親が帰ってこないことには話し合いすらできない。
頭を悩ませることが一杯だなと藤本はため息をついた。
- 341 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:17
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- 342 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:18
- 亀井は5時にLOSEに着いてしまい、あまりに早いと仕事の邪魔になるだろうと隣にある公園で時間を潰した。いつも待ち合わせは遅刻ばかりしてる自分が吉澤に会いたいという気持ちだけで1時間も早く来てしまったことに亀井は笑った。
ブランコにのりながら子供の頃は良く近所の公園でこうして道重とブランコを乗ったことを懐かしんだ。
2つしかないブランコで、いつも田中が自分たちに譲ってくれて喧嘩になることはなかった。
田中はいつも自分たちよりちょっとだけ大人だった気がする。
田中が引っ越すと聞いておお泣きする自分と道重を慰めたのも田中だった。
田中の方が泣きたい気分だっただろう、ひとりになるのだから。
でも自分たちはいつも田中には甘えてしまうのだ。
1人公園で懐かしむと時間は直ぐに経ってしまった。
6時丁度にLOSEのドアを開けると吉澤の姿はなく、カウンターで中澤と田中が亀井を笑ってみていた。
「れなの負けっちゃ。」
「肩揉みな。」
カウンターでそんな会話をする二人を亀井は不思議そうに眺めながら近寄る。
そんな亀井を見て田中が笑った。
「絵里が6時までにくるかどうか賭けしてたと。絵里は遅刻魔やかられなが勝つとおもったとぉ。ぴったしに来るけん。肩揉みになったっちゃ。」
中澤の後ろで肩を揉みながら説明する田中。中澤は気持ち良さそうに揉まれている。
「愛の力は凄いんやで、まだまだ、田中も青いな。」
頬を膨らます田中だが中澤とも楽しそうにやっているのだと亀井は目を細めた。
「お疲れ様でした。」
と言いながら朝と同じ格好をした吉澤が出てくると亀井は嬉しそうに微笑む。
「あっ、来てたんだ。」
「はい。」
「じゃぁお先に失礼します。」
吉澤は亀井の手を引いて店を出た。
6時だというのにまだ外は明るく、暑さがまとわりつく。
「どうしよっか。」
店を出たのはいいが、これからどうするかに困る吉澤。
いつも、家で過ごしていたため、遊ぶといってもどこに行けばいいのか分からない。
「どこでもいいですよ。」
笑顔で言う亀井。
高校生だから、カラオケとかゲームセンターとか渋谷あたりをプラプラするのがいいのだろうか。それともファミレスあたりで夕飯を食べて、まったりと過ごすのがよいのだろうか。剣道ばかりしていてあまり遊びという遊びをしたことのない吉澤は色々と考える。
亀井は吉澤の横顔を見ながら何を悩んでいるのだろうと不思議そうに見ていた。
「カラオケ・・・行く?」
悩んだ挙句に亀井に言ってみる吉澤。
「いいですよ。カラオケ好きなんですか?」
「いや、めったに行かない。」
苦笑する吉澤。
「絵里もあまり行かないです。」
どこに行こうか悩んでいるのだと察した亀井は吉澤の手を引いて歩き出すと隣の公園に入っていった。
「これやりながら、何するか話しましょう。」
亀井は吉澤をシーソーに座らせるとそう言って反対側に自分も座ると地面を蹴った。
吉澤も地面を蹴って二人は上下しながら笑う。
「久しぶりだよ。シーソーとか。」
「絵里もです。で、どうしましょうか。これから。」
「ぶっちゃけ、あんまり外で遊んだことないから連れて行ってあげれるところってないんだよね。」
申し訳なさそうに言う吉澤に亀井は笑う。
「いいですよ。絵里もさゆと買い物に行くくらいだもん。あっでも今度プールとか行きましょうね。」
「うん。いいよ。」
「じゃぁ、今日は絵里が子供の頃遊んだところ案内します。」
「うん。遠い?」
「ここからだと少し。」
「じゃぁバイク取りに一回家寄ろう。」
「帰ってないんですか?服着替えてないし。」
「うん。そのまま、店に行ったんだ。」
- 343 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:18
- 二人は手を繋ぎながら吉澤の家に向かうと吉澤のバイクにのり亀井が道を案内しながら神社の階段の前にやってきた。
バイクを降りると亀井は吉澤の手を引いて階段を昇り始める。
「あの公園って吉澤さん子供の頃遊びました?」
「んーあんまり行かなかった。剣道ばっかりしてたから。」
「そうなんだぁ。絵里はよく公園とか行きましたよ。ここもよくきたし。」
階段はかなり長く続いており、いつの間にか吉澤が亀井の手を引く形になっていた。
やっと最上階につくと亀井は息をきらしていた。
「絵里、歳かも・・・。」
胸を押さえ深呼吸する亀井の姿に吉澤は笑った。
「もぉ、笑わないでくださいよ。運動苦手ではないんですからね。」
「はいはい。」
「むー。」
亀井は頬を膨らます。
吉澤は亀井の頬を指で押して空気を抜いて笑った。
「はは、可愛いな。」
「知ってますよぉ。こっちです。」
亀井は照れながら吉澤の手を引き境内の奥へと連れて行く。
林を抜けると街が見下ろせる場所にでた。
「ここでよくかくれんぼしてて、そのとき見つけたんです。」
懐かしそうに「久しぶりにきた。」と呟く亀井。
吉澤は優しい目で亀井を見ていた。
「多分ね、ここでれいなを好きになったの。」
亀井は吉澤に微笑むと石にちょこんと腰掛けて辺りを見回す。
「さゆが鬼で、かくれんぼしてて、絵里はここに隠れてた。でもなかなか見つけてもらえなくて、小学3年生だったかな。そしたられいなが絵里を見つけてくれて。絵里大泣きしちゃって。抱きしめてくれたんだ。れいながいるから泣くなってそれで多分好きって思った。」
吉澤は微笑みながら話す亀井を優しく見守っていた。
「田中ちゃん、子供のころからしっかりしてたんだね。」
亀井は笑って頷いた。
- 344 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:19
- 「絵里ね・・・。」
亀井は立ち上がると吉澤の胸に顔を埋めぎゅっと抱きしめる。
吉澤は亀井の背中に自然と手を回した。
「絵里、吉澤さんが1番好き・・・こんなに早く1番になっちゃうなんて思わなかった。」
「うん。」
「れいなと居ても苦しくないの。」
「うん。」
吉澤は切なそうに顔を歪めながら亀井を力強く抱きしめた。
「吉澤さんは・・・誰が1番好き、ですか?」
吉澤を見上げた亀井の目には涙が溜まっていた。
今にも零れそうな亀井の涙を見て吉澤は優しく微笑む。
「絵里が1番好きだよ。」
お互い嘘だと分かっている言葉。
それでも亀井はその言葉を望み、吉澤は亀井の存在を必要とする。
二人を繋ぐ大切な嘘の言葉。
「ありがと。」
そう言って笑って涙を零す亀井。
吉澤も優しく微笑みながら亀井の頬を伝う涙を指で拭った。
きっと吉澤はこの涙の本当の意味を分かってはいないだろうと亀井は吉澤の目を見ながら思う。
本当に嘘をついて自分が1番好きだという吉澤。
そこまでして吉澤が守りたいものは幼馴染の関係なのか藤本のことなのか亀井にはまだ分からない。でも自分を必要としているなら、自分も一緒に吉澤の大切なものを守ってあげよう、もうしばらく恋人ごっこを続けようと亀井は思った。
「お腹空かない?」
吉澤は微笑んで言うと亀井も微笑んで頷く。
「うちで食べませんか?」
「えっ?」
「うちのお母さんの手料理ですけど。」
微笑む亀井。
「突然行って迷惑じゃない?」
「大丈夫ですよ。あっ。」
「なに?」
「あの、うちのお母さんオープンなんで驚かないでくださいね。」
亀井はそういうと吉澤の手を引いて来た道を戻る。
「オープンって何が?」
「いや、何っていわれると、難しいんですけど・・・。」
前を歩く亀井に尋ねるが亀井は首を傾げながら歩き続ける。
「何、気になるんだけど。心の準備とかさ、あるじゃん。」
「まぁ、大丈夫です、話してれば分かりますから。」
「えぇ、怖いんだけど。」
「大丈夫ですって、アハハ。平気、平気。」
亀井が楽しそうに笑うから吉澤もつい笑ってしまう。
亀井とこうしているときは藤本のことを忘れられる。
目の前で色んな顔を見せる亀井に気が行ってしまう。
こうして手を繋いで笑い合っていると先ほどの嘘の言葉さえ本当の言葉に思えてくる。
これでいいじゃないか、吉澤はそう思った。
- 345 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:19
-
*****************************
- 346 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:19
- 「こんばんわぁ。」
田中はバイトを終えて自宅には入らず道重の家に入った。
迎えてくれた道重の母親に挨拶をしてなかに入れてもらう。
「さゆみ、今、お風呂入ってるから。」
「はーい。」
テーブルに並べられた夕飯をみて夕食の時間に来てしまったことに気が付いた。
「ごめんなさい、夕飯ですよね。れな出直します。」
「いいのいいの、どうせさゆみと二人だし、れいなちゃんも食べてって。」
「でも、悪いし。」
「何言ってんの。おばさんに気なんて使わなくていいの。一人暮らしじゃ大変でしょ。」
「まぁ、でもコンビニって結構色んなお弁当あるし。」
「おばさんの料理のが美味しいと思う。」
笑う道重の母親に田中は微笑んだ。
「じゃ、お言葉に甘えて。」
「そこ、座ってて。おばさん作っちゃうから。」
「はい。」
席に座ると道重の母親は田中に背を向けて夕飯の仕度を再会する。
子供の頃もこんな風にいつも誰かの母親がおやつを作ってくれるのを3人で待っていたなと田中は懐かしく思えた。
「れいなちゃん随分大人っぽくなってたからビックリしたわよ。いきなり茶髪で帰ってくるんだもん。」
背を向けたまま話す道重の母親。
田中は自分の髪を見ながら笑った。
「福岡ではそれが普通だったから。こっちに来てピアスもダメとか言われて、折角あけたのに塞がっちゃうよ。」
「ピアスもしてたのぉ。凄いねぇ。」
「普通っちゃ、みんなしとぉよ。」
ついつい出てしまった田中の博多弁に道重の母親は振り向いて笑った。
「れいなちゃん無理して標準語使わないでいいのよ。」
「皆まねするとぉ、恥ずかしかよ。」
「可愛いじゃない。」
道重の母親は微笑むと再び田中に背を向ける。
「絵里ちゃん恋人出来たんだってね。それも年上の。」
道重が母親に話してることを意外に思う田中。
「さゆから聞いたとぉ?」
「うん、カッコイイ人だって言ってたわよ。剣道が強いって。」
「うん。」
「さゆも剣道強い人が好きになったって言ってた。」
「へっ?」
「聞いてない?」
「うん。」
「今日、帰ってきたら、そう言ってたわよ。」
「へぇ。」
田中は誰だろうと思いながら剣道部の面子を思い出そうとするが辻しか思い浮かばない。辻はないだろうと田中は苦笑した。
- 347 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:20
- 「あ、れいな来てたの?」
髪をタオルで拭きながら現れた道重は田中の隣に座った。
「さゆ、好きな人できたと?」
「えっ、あ、お母さん言ったのぉ?」
料理をしている母親の背中に責めるように言う道重。
母親は振り向くと恍けた顔をして笑う。
「言ったらダメなんて言われてないわよ。」
そういうと再び背を向ける母親に道重は頬を膨らます。
「自分で言おうと思ってたのに。」
呟く道重を田中は笑いながら頬を突く。
「誰?剣道強い人って剣道部の人?」
「うん。誰だと思う。」
「れな、部活行ってなかったけん、辻先輩しか知らんとよ。」
頬を赤らめる道重を見て田中は少し体を後ろに引いて目を見開いた。
「辻先輩とぉ?あり得ん。なんで?どこが?」
「なんで、いいじゃん。可愛いし。」
否定する田中に道重は頬を膨らます。
「だって、ガキっちゃ。スカート捲くりするとよ。ブラとか外すとよぉ?」
「可愛いじゃん。恥ずかしいけど。」
頬に手を当てる道重を見て、何かをされたのだろうと思う田中。
「さゆって、いつから変態になったと?」
真顔で言う田中の太腿と叩く道重。
「変態じゃないもん。可愛いじゃん。小さいし純粋だしなんか、ギュッ抱きしめてあげたくなっちゃうの。わかる?今日なんかね、泣きそうな顔してまた胴紐からまったから解いてってくるんだよ。きゃー可愛い。とにかく可愛いの。」
田中は悶えながら言う道重を引き攣った顔で見ていた。
「それにね、今日なんかね、駅前のお店のカキ氷って看板みて子供みたいに嬉しそうにはしゃぐんだよ。可愛いのそのはしゃぎ方が。」
「子供みたいじゃなくて子供っちゃ・・・。」
「あとね、一緒に電車乗ったんだけど定期とか首からかけてるんだよ。無くしちゃうからとか言って。」
「痛い、痛いっ、さゆ。こら、叩くな。」
道重の中で辻がたまらなく可愛く見えるのだろう。
興奮しながら、田中の腕をバシバシと叩く。亀井のけんからこんなにも早く立ち直ってくれたし、これだけ辻を気に入っているのだから良いのだろうと田中は微笑んだ。
- 348 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:20
- 「はい、出来たわよぉ。」
道重の母親がテーブルに並べてくれた料理に3人にで箸を伸ばした。
「れいなちゃんも知ってるのさゆみが好きになった人。」
道重の母親は興味深々に尋ねてくる。
「れいなと同じくらいかれいなよりちっこい人っちゃ。」
「あら、そう。」
「可愛いの。」
道重が母親に微笑む。
「さっきスカート捲くりとかブラがどうっとか言ってたのは?」
娘にではなく田中を見て尋ねる母親。
田中は、さすが母親だと思った。
道重の性格を良く知っているなと。
真っ直ぐになったら突っ走ってしまう。
その娘に聞いても道重の言いように解釈された言葉が変えてくるだけだろう。
「小学生みたいに高校生になってもスカート捲くりとかする人っちゃ。」
「あら、変わった子ね。」
「でも、可愛いの。」
「剣道は強いの?」
「それは分からんとぉ、剣道見たことないけんね。」
道重は田中の言葉に思い出しと箸を置き田中に体を向けた。
「れいな。」
「なんね?」
「試合して。」
「はぁ?誰と?」
「辻先輩と。」
「だから、れなもう剣道部じゃなか、試合とか意味分からんっちゃ。」
「だって、待ってるんだもん。れいな来ないから、今日、藤本先生のこと嘘つき扱いしちゃったんだからね。」
「それ、れなのせいじゃなか。」
「れいなのせいなの、辻先輩泣いちゃったんだから。」
田中は辻が子供のように手足をばたつかせて泣く姿を想像して顔を引き攣らせた。
「可哀相でしょ。」
「いや、れなのが可哀相っちゃ・・・。」
辻が勝手に自分と試合をしたがってるだけであって自分には何も関係ないのだ。
田中は道重の贔屓目に呆れた。
「いいじゃん、れいな剣道好きでしょ。」
「剣道は好きっちゃけど辻先輩と試合する意味なか。れな試合するために剣道してるんじゃなかもん。」
「あ、そうだ、バイトいつ休み?」
「明後日。」
「よし、明後日ね。明後日、さゆと遊び行こう。」
突然、話題を変えられた田中は訝し気に料理を食べ始める道重を横目に見る。
「どこ行くの?」
母親が口を挟む。
「あとで、決める。9時に迎え行くね。」
道重は笑顔でそう言った。
- 349 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:21
- 食事を終えて道重の部屋でまったりする二人。
道重はベッドに寝転がり田中は床に座るって仰向けになりお腹を擦っていた。
「久しぶりにいっぱい食べた・・・。苦しい。」
「れいな、もっと食べたほうが良いよ。細すぎ。」
道重がベッドの上を這って顔を出し田中を見下ろして言う。
「そんなことなかよ。」
田中は着ていたシャツを捲くりお腹の肉を掴む。
「全然ないじゃん。嫌味っぽーい。」
そう言って笑って田中の白い腹を突く道重。
「でも、れいな細い代わりに胸もないもんね。」
田中は頬を膨らませて腹を突く道重の手を叩いた。
「うるさかっ。まだ成長期っちゃ、もう少し大きくなるとよ。」
「頑張れ、れいな。」
道重が苦笑しながら言う。田中は「ほっとけ。」と体を起こした。
「それより、れいな今日どうしたの?」
「あぁ、さゆの様子みにきたっちゃ。」
「様子?」
首を傾げる道重に自分の心配は無用だったと苦笑した。
「絵里のことがあったけん心配して見に来たっちゃ。でもいらんかったみたい。」
「あぁ、うん。もう大丈夫。辻先輩のが可愛いし。さゆ頼られてるから。」
「よかったとね。」
あんだけファミレスで大声で泣いたくせに、まぁ良いかと田中は笑った。
3人で居ることに執着せずに外にも目を向けてくれたことが嬉しかった。
それが辻だったとしてもいいだろう。何かあったら、自分も亀井も道重に手を差し伸べるだろうと田中は思った。
「絵里はどんな感じ?後藤さんのこと気にしてた?」
「大丈夫っちゃ、絵里きっと知っとったけん。後藤さんの気持ち。」
「うそっ。」
道重は驚いた様子で体を起こすとベッドから降りて田中に向かい合って座った。
「だって、知ってたけん、あの時、吉澤さんにちゃんと応えてあげてって背中おしたんじゃなかと?」
「あぁ・・・。」
道重は思い出すように呟く。
「絵里って凄いね、そんなに好きなんだ・・・吉澤さんのこと。」
「そうっちゃね、なんかあったら支えてあげんとね。」
「うん。」
微笑み頷く道重に田中も微笑んだ。
- 350 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:21
-
*****************************
- 351 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:21
- 「おかあさん。吉澤さん連れてきたぁ。」
亀井が玄関を開けながらそう叫ぶ。
近所迷惑じゃないかと吉澤は辺りをキョロキョロと見回した。
亀井に手を引かれて亀井の家に入ると母親が小走りにやってくる。
「はいはい。いらっしゃいませぇ。」
飛び跳ねながらスリッパを出す亀井の母親に吉澤は面白い人だなと笑う。
「丁度ね、今、夕飯食べてたの。吉澤さんも食べてって。」
「すみません。」
頭を下げる吉澤。
亀井は玄関にある父親の靴を見つけた。
「お父さん早くない?」
「そう?ほら、立ってないで入りなさいよ。」
母親に言われて亀井は吉澤を連れて食卓に連れて行く。
「おじゃましまぁす。」といいながら亀井に着いていく吉澤。
「お帰り。」
父親は夕飯を食べながら亀井に告げる。
「ただいま、吉澤さん連れてきた。絵里の恋人。」
ストレートに父親に告げる亀井に吉澤は苦笑した。
娘が女を恋人といきなり言われたら父親的に辛いだろうと吉澤は俯きながら亀井の父親に頭を下げる。
「吉澤ひとみです。」
「どうも、娘を宜しくね。」
微笑む父親に怒られると思っていた吉澤は気の抜けた顔をした。
「カッコイイじゃないか、絵里に勿体無い。」
そう言う父親に亀井は唇を莟めた。
「ほら立ってないで座りなさいよ。吉澤さんもここ座って。」
亀井の母親の言葉に二人は席についた。
「はい、どうぞぉ。」
用意してくれた母親に頭を下げながら食事に参加する吉澤。
亀井は吉澤の皿におかずを取ってやったりするとその度に目を合わせ微笑む二人。
母親はニコニコしながらその様子を見ていた。
- 352 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:22
- 「吉澤君はいくつなの?」
父親の言葉に吉澤たちは一斉に父親の顔を見た。
敬称を君ということは男と勘違いされているのだと吉澤は苦笑した。
「21になります。」
「大学生?」
「中退しました。」
「なんで?」
「お父さん、いいじゃない。質問攻めにしないでよ。」
亀井が父親に質問するなと講義するが吉澤が亀井の頭を撫でて微笑んだ。
「大丈夫。いいよ。」
吉澤はそういうと亀井は心配そうに吉澤を見てから父親を睨んだ。
睨まれた父親は気まずそうにおかずに箸を伸ばす。
「剣道でスポーツ推薦で入学したんですけど、怪我をしてしまって出来なくなったので辞めました。今は喫茶店でバイトしてます。そこで田中さんも一緒に。それで絵里さんと知り合いました。」
きちんと説明する吉澤に父親は微笑んだ。
「そうかそうか。うん。あれ、吉澤君お酒飲める?母さんグラスグラス。」
「あっ、はいはい。気が付かないでごめんなさい。」
席を立とうとする母親を吉澤は慌てて止める。
「いいです、自分、バイクなんで飲めませんから。」
「あら、泊まっていけばいいじゃない。ねっ。」
微笑んでグラスを取りに行く母親の横で父親は難しい顔をする。
「いや、泊まってくっておい、母さん?」
まだ、それは風紀上まずいだろうといった顔で母親を見る父親。
「いいじゃない。交際してるんだから。」
「いや、絵里はまだ15だぞ。高校生だぞ。」
吉澤は如何わしいことをするという前提で会話をする亀井の両親に頬を赤らめる。
亀井はなんでもないように二人をしらっとした目で見ていた。
「高校生の私に手を出したのはどこのどなたでしたっけ?」
母親の言葉に父親は黙ると吉澤のために持ってきたグラスにビールを注ぎ吉澤の前に置いた。
「お父さん・・・情けない・・・。」
亀井は顔を覆ってため息をついた。
- 353 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:22
- 「吉澤君、泊まっていきなさい。」
「いやでも・・・」
吉澤はこの状況どしたらいいのだと亀井を見る。
「絵里の部屋ちょっと散らかってるけど・・・。泊まってってくださいよ。」
「そぉ・・・じゃぁお言葉に甘えて。すみません突然きて泊めてもらっちゃって。」
吉澤は亀井の両親に頭を下げる。
「そうして、そうして。大丈夫。絵里の部屋だけ2階だから。」
満面の笑みで言う母親に吉澤は顔を真っ赤にさせ引き攣らした。
亀井の言う、オープンというのはこれのことかと亀井を見る。
「ハハ。いつもこんな感じなんです・・・。」
そう言って亀井も頬を赤らめる。
「いや、あの、節度っていうものもあるからね、吉澤君。」
父親が居心地悪そうにビールを飲んだ。
「あ・・・はい。それは、もちろん。」
吉澤もそう言ってビールを飲む。
「いいじゃない。若いうちは燃え上がるのよね。絵里。」
「知らない。」
同意を求める母親を亀井は冷たくあしらう。
「いや、でもね母さん。娘にそういうことはさ。」
「燃え上がってたわよね?今はそうでもないけど。」
「いや、子供の前でしかも恋人の前でそういうことを・・・。」
「あら、いいじゃない。家族で隠し事はなしでしょ。」
「隠し事って、それは違うだろ。」
「絵里も子供じゃないんだからいいのよ。」
「そうだけど、デリカシーってのがあるだろう。」
「色々経験してきた親からのアドバイスだから良いの。」
「アドバイスってなぁ。あ、吉澤君。避妊はそのあれだぞ、大切だぞ。」
夫婦の会話をあっけに取られてみていた吉澤はいきなり話を振られしかも避妊と言われ苦笑して頷いた。しなくてもできないですと心の中で呟いて亀井を見て二人で苦笑する。
- 354 名前:P&Q 投稿日:2006/05/30(火) 21:23
- 「ほら、あなただって絵里の前で言ったじゃない。」
「そりゃ、15の娘が妊娠したら大変だろうが。」
「あら私は高校の卒業式の時には絵里がお腹に居ましたけど。」
「それは、その、結婚考えてたし同意の上の行為だろうが。」
「そうよ、燃え上がってたものねぇ。毎日腰がだるくて大変だったわ。」
「母さんから誘ってきてたときもあっただろう。」
「そういう年頃なのよ、高校生って。ねぇ。絵里。」
亀井は「さぁ〜。」といいながらゴハンを食べた。
そんな亀井をすげー家族だなと思いながら吉澤もゴハンを口に運ぶ。
「いつもこんななの?」
「はい・・・。」
「オープンだね。」
「はい・・・。」
「でも、いい家族じゃん。」
「まぁ。」
二人は夫婦の会話を聞きながら小声で会話して苦笑した。
「実は絵里たちもうしてるのよね?」
いきなり亀井に話しを振りだす母親に亀井は「さぁ。」と恍ける。
「あら、恥ずかしがっちゃって。分かってるんだから。」
ニタニタしながら吉澤を見る母親に吉澤はすこし恐怖を感じ目をそらした。
「これ、美味しいです。」
吉澤はから揚げを箸で掴んで会話を変えようと試みる。
「それ、自信作だから。で、絵里は美味しかった?」
吉澤は口に入れたからあげを詰まらせむせた。
亀井が慌てて吉澤の背中を叩いて自分のお茶を飲ませる。
「もぉ、お母さんっ。」
非難の声を上げる娘を母親は笑いながら見る。
「あら、絵里も自信作よねぇ。お父さん。」
「まぁ、そうだな。最近はかなり良く出来てきてるんじゃないか。」
「お父さん、スケベ。」
亀井の体を見る父親を睨む亀井。
「あぁ・・・死ぬかと思った。」
「大丈夫?」
「うん。」
やっと飲み込めた吉澤は息を吐きながら胸を押さえた。
「で、私とお父さんの共同傑作どうだった?」
興味深々な目で吉澤の言葉を待つ母親と控えめに吉澤に視線を送る父親。
「いや、あの・・・。」
「応えなくて良いですからね。もう、バカじゃないの。二人とも。」
「娘の成長を知りたいじゃないのねぇ。お父さん。」
「振るな・・・。」
娘にスケベと言われショックな父親とまだ諦めない母親に亀井は大げさにため息をついた。
「絵里、まだヴァージンですから。」
亀井は無表情にそういうとから揚げを口に入れた。
吉澤は確かにそうだがそれを両親に報告するのもどうかと思うと苦笑する。
「そうなの?だって、絵里こないだ友達の家に泊まるって言って腰だるそうに帰ってきたじゃない。吉澤さんのところに泊まったんでしょ。」
さすが母親、凄いなと思いながら亀井は「知らない。」と白を切る。
「まぁいいわ。吉澤さん明日の朝、お味の評価くださいね。」
笑顔を向ける母親に吉澤は苦笑した。
- 355 名前:clover 投稿日:2006/05/30(火) 21:26
- 本日2度目の更新以上です。
>>337-354 A PENTAGON and A QUADRANGLE
時間あったから、もう少し更新してみました。
読んでくれている方の負担になったらごめんなさい。
- 356 名前:ももんが 投稿日:2006/05/30(火) 22:16
- 更新お疲れさまです。
よっちゃんより亀ちゃんのほうがちょっと大人になってきましたね。
更新は気長にお待ちしてますんで、お仕事頑張ってください!
- 357 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 22:55
- 負担とかとんでもない。
亀ちゃんのお父さん、さりげなく時々会話に乗っちゃってますよねw
いいキャラだなあこの家族。
- 358 名前:オレンヂ 投稿日:2006/05/30(火) 23:56
- わ〜い♪いっぱい更新されてる〜♪
更新お疲れ様です
亀井家がおもしろすぎて爆笑しながら読んでました
続きも楽しみにしております
- 359 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 00:20
- いつも楽しく読ませて頂いてます!
余計な事は一切言わない、見守る中澤さん、いいっすねぇ!!
- 360 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 00:53
- 一気に読ませてもらいました。大量更新お疲れ様です!!!!
亀井家やばいww
あんな母親ほしいなぁ
- 361 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 01:07
- 大量更新お疲れ様です。
6期はみなさん少しずつ成長してきてますね。
ってか、ののさゆ好きなんですよねぇ。ののさゆに癒されました!
お仕事もお忙しいようなので無理はせず頑張って下さい。
次回も楽しみにしています。
- 362 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:49
- 藤本は母親と二人で夕食を済ませると洗物を済ませた。
「お母さん、これどこ行きたい?」
代理店から持って帰ってきたパンフレットを母親に見せた。
「どこでも、どこ行っても同じだし。」
パンフレットに目もくれず、空いたグラスにワインを注ぐ母親。
「折角だし、美貴も就職したらいけなくなるだろうかさ、お父さんも誘おうと思うんだ。」
「あの人は来ないわよ。」
「なんで?」
母親は分かるだろうといった目で藤本を見るとワインを口にした。
「夏休みいつだか聞けばいけるよ。美貴あとで聞いておくからさ。」
「来ないわよ。あの人は来ないっ。」
母親は陽気に笑いながらグラスを持ってソファに移動した。
藤本はため息をつく。これじゃ、話にならないだろうとお笑い番組を見て笑っている母親を見た。
「じゃぁ勝手に決めるからね。」
藤本はそう母に言い残しパンフレットを持って自分の部屋に入る。
携帯を取り出しため息をつきながら父親の番号を呼び出しコールする。
- 363 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:49
- 「もしもし、美貴だけど。」
『なんだ?』
やっぱり、元気かの一言もないのかと藤本は苦笑した。
「今日も仕事で帰ってこないの?」
『今に始まったことじゃないだろう、なんなんだ急に。』
苛立った様子で言う父親。確かに言われて見ればそうだ。
藤本は苦笑しながらパンフレットをベッドに投げた。
「まぁそうだけど、帰ってこないのはおかしくない?」
『仕事だから仕方ないだろう。誰が稼いでると思ってんだ。』
「それは、父さんだけどさ。いやでも家あるし、会社から遠くもないでしょ?」
『それは・・・。とにかく仕事だから。』
浮気をしていることくらい藤本にでも分かる。
もう、小学生や中学生ではない、父親が浮気をしているからと言ってショックもない。
男ならするだろうくらいで受け止められる。
「会社にずっと泊まってるの?それともホテル?」
『なんなんだ?久々に電話してきて帰ってこないのかだのそんなことばかり言って。』
「お母さん、可哀相だから。」
『なっ何がだ。』
「別に美貴はいいよ、お父さんまだ若いし、男ってそういうもんだって思ってるし、浮気の一つや二つくらいしててもショックじゃないからさ。」
『な・・・。浮気、なんかしてない、仕事だといってるだろ。何言ってるんだお前は。』
図星なのだろう、父親が声から焦りを感じ藤本は苦笑した。
「まぁ、してないならしてないでいいけど。家には帰ってきてよ。」
『だから仕事で帰れないって言ってるだろうが、しつこいぞ。』
女と一緒に暮らしてでも居るのだろうか。藤本はため息をついた。
「着替えとかどうしてんのよ。」
『それは・・・。』
「下着とか洗濯したり買ってきてくれる人いるわけでしょ。」
反応しない父親に藤本はさらに言葉を続ける。
- 364 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:50
- 「いいよ、いるなら居るで。でもさ、ルール違反じゃん。お母さんと結婚してるわけだし、美貴という娘もいるわけじゃん。で、家もあるわけでしょ。そこに帰ってきてってお願いしてる娘がいるんだからさ、1日くらい帰ってきてよ。お母さんだってさ、気がついてるに決まってるじゃん。バカじゃないんだから。ちゃんとお母さんとは話し合ってくれないかな。お母さんお酒に頼っちゃってさ。結構、ボロボロになってるんだ。もしさ、この家に帰ってくるのが嫌ならさ、美貴、お母さん連れて旅行するから、そこに顔出すだけでもいんだけど。どう?来てくれる?」
父親が鼻で笑うのが聞こえ藤本は怪訝な顔をする。
「聞いてるの?」
『子供が生意気なこと言うんじゃない。』
「はぁ?美貴子供じゃないし。ってかどっちが子供?分かりきった嘘ついて帰ってこないで。」
『馬鹿馬鹿しいっ。』
「ちょっ・・・。」
切られた電話を藤本はベッドに投げつけた。
「あったまくる。」
藤本はカーテンを開けて向かいの家を見た。
石川の部屋の明かりがついていることを確認すると今投げた携帯を手に取ると石川へ電話する。
「もしもし、梨華ちゃん?」
『どうした?』
「ちょっとそっち行ってもいい?」
『いいけど、どうしたの昨日のこと?』
「それもあるけど、ちょっと正常な人と話がしたくて。」
『フフ、何それ。変なの。いいよおいで。』
「んじゃ、今いく。」
藤本は直ぐに家を出た。向かいの家の玄関の前に立っている石川。
- 365 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:50
- 「ごめんね。」
「いいって、どうぞ。」
石川に連れられて石川の部屋に入り石川と並んでベッドに座る。
「よっちゃんの家に行かなくなるとさ、連絡取り合わないと私たちってあんまり会わないよね。」
「だね。今も美貴が電話しなかったら普通に一日会わないもんね。」
「たまには会おうね。」
寂しそうに言う石川に藤本は頷いた。
「たまに、よっちゃんの家に行けば4人で会えるしね。」
石川の言葉に、幼馴染でいることに決めたのだと藤本は思った。
「そうだね、美貴たち幼馴染だし。」
石川は藤本を見た。
「美貴ちゃんもそう決めたんだ。」
「うん、って言うか美貴はほら恋愛感情もともとないし。」
「この期に及んでまだ言うか。」
「言ったら、ホントになるじゃん。」
そう言って微笑む藤本に石川は優しく微笑んだ。
そう言った時点でその気持ちがあったという事実を認めているだ。ただ、言葉には出さないだけで。そうさせてしまったのは自分だと石川は思った。
「あのぉさ、うん。美貴ちゃん今から神父さまになって。」
「はぁっ?」
藤本は何を言い出すんだという顔で石川を見る。
- 366 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:51
- 「ほら、よく教会とかにあるじゃん。顔みせないで懺悔するやつ。」
「あるけど、何するの?」
「美貴ちゃん神父様。前向いてて。」
石川は藤本の顔を前に向けるとその横で両手を組む。
「今から私、ちょっと懺悔するからさ。」
「だから、なにやらせんだって。」
「前向いて、顔見ちゃだめなんだから。」
「もぉ・・・。」
藤本はため息をつきながら前を向く。石川目を閉じて深呼吸した。
「私の謝った判断で、大切な人を巻き込んでしまいました。」
藤本は横を向き石川を見た。胸の前で手を組み目を閉じて話す石川。
藤本は前を見て目を閉じた。
「私の子供じみた独占欲のせいで、両思いの人たちが嘘をつかなければならない状況を作ってしまい、苦しめました。今も苦しめています。本当にごめんなさい。どうか許してください。」
藤本は目を開けると微笑んだ。そしてまだ目を閉じて目じりから涙を零す石川の頭に手を乗せた。
「許します。っていうかそれは梨華ちゃんのせいでもないし、そんな事実ないと思う。もし、そうだとしてもね、その梨華ちゃんの大切な人は梨華ちゃんを責めたりしないし、そう思われてるほうが辛いかな。だから、そんな風に思わないでいいと思う。」
石川は目を開けると「ごめん。」と呟いて笑った。
「つーか21にもなって神父さまごっことかやらせないで。はずかしいから。」
藤本はそう言って笑うと石川も笑った。
- 367 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:51
- 「あ、そうだ電話で言ってた正常な人と話したいってなんだったの?」
「あぁ忘れてた、ってか忘れたからいいや。」
「何それ、気になるじゃない。」
「なんだったか忘れちゃったんだも仕方ないじゃん。」
藤本は気分転換が出来ただけで満足だった。
家のことを石川に話して心配させるのは嫌だ。
看護士という仕事で精神的にも疲れているであろう石川に負担をかけたくなかった。
「さて、笑ったことだし、美貴、帰るね。」
「ちょっと、なにそれ。」
「明日から大学だし。」
「教育実習終わったんだ。」
「うん。これから試験が待ってるのよ。」
藤本は嫌な顔をして見せた。
「待ってるって言っても美貴ちゃん成績いいし楽でしょ。」
「まぁ、落とすことはないね。」
「そこまで自信あり気に言わなくてもいいですから。」
「はいはい。じゃぁねおやすみ。」
藤本が立ち上がると石川も立ち上がり藤本の腕を掴んだ。
「美貴ちゃんとよっちゃんをさ・・・私、今なら祝福できる・・・今更こんなこと言ってさ、なんかあれだけど・・・美貴ちゃん気持ち伝えたら?」
藤本は寂しそうに微笑むと石川の腕を解いた。
「もう、遅いよ。」
「いいの?」
「いいもなにも・・・。」
藤本は苦笑した。そんな藤本を石川は怪訝そうに伺う。
- 368 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:52
- 「美貴さ・・・よっちゃんに負けたって言ったじゃん。」
「試合?」
「うん。」
「それは関係ないじゃん。そんなの試合で決めないでよ。」
「美貴、勝負のときさ・・・戦う気途中で無くしたんだ・・・。」
石川は眉間に皺を寄せた。
勝負云々より礼儀を重んじる藤本が試合中にそんなことをすることが信じられなかった。
相手に失礼な行動なことくらいマネージャーの自分でもわかる。吉澤もきっと分かったはずだ。その藤本に対して勝負をした吉澤は一体なにを考えていたのだろう。
勝敗にこだわる吉澤だから勝負をしたのだろうか。
それとも亀井と別れる気が本当になかったのだろうか。
「よっちゃんてさ・・・自分じゃないも決められない子だったじゃん。」
「そうだね・・・。」
再びベッドに腰を降ろした藤本に石川も腰を降ろして藤本の話に耳を傾ける。
「初めてじゃない、亀井と付き合うって自分で決めたの。」
「そう、かも。」
「何も言えないよ美貴。」
「だね・・・。」
悲しそうに笑う藤本と石川。
「やっぱり、私があの時さ・・・変な約束とか・・・。」
「3人で決めたんじゃん。梨華ちゃんの責任じゃないって。」
「でも・・・よっちゃん美貴ちゃんのこと好きだったんだよね?」
藤本は笑った。
亀井と付き合う前にはっきり好きだと言われたことはない。
自分がそういう気持ちなら受け入れると言われただけだ。
亀井という恋人が出来てから自分が1番好きだと言われた。
結局、自分と付き合う気は無いということだ、だからあの時、美貴の面を思い切り打ったのだろう。
幼馴染で居させていたのは自分だが今回は吉澤が自分で決めたことなのだ。
「どうかな?」
「わかんないの?」
「わかんない・・・帰るね。ありがと。」
悲しそうに笑うと部屋を出て行く藤本。石川は黙って玄関まで送った。
部屋に戻った石川はカーテンを開け明かりのついていない吉澤の家を眺めた。
「よっちゃんが決めたこと・・・か。」
なんだか、後味が悪いなと石川は顔を歪めて明かりの点いた藤本の部屋を眺めた。
- 369 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:52
-
*****************************
- 370 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:52
- 「すみません・・・あんな両親で。」
夕食を済ませ亀井の部屋に逃げ込んできた亀井と吉澤。
ベッドの上で疲れきって胡坐をかいている吉澤を亀井はベッドの下から顔を覗き込んで様子を伺う。そんな亀井に吉澤は笑ってみせた。
「凄いオープンなご両親で、ちょっと驚くけど。慣れたら楽しそうだよね。」
「楽しいのは楽しいですけどね。」
苦笑しながら吉澤の隣に登る亀井。
「デリカシーないから困りますよ。」
笑う亀井の膝に吉澤は頭を乗せて横になった。
突然、膝枕をすることになった亀井は驚いたが吉澤を愛しそうに見つめ頭を撫でる。
「疲れちゃいました?」
「ちょっと、眠い。」
目を閉じてそう呟く吉澤。寝ていないことを思い出し亀井は吉澤の白い頬を撫でた。
「少し寝て良いですよ。」
「でも絵里退屈する。」
「大丈夫、吉澤さんのことみてるだ・・・。」
余程、疲れていたのだろう亀井の言葉の途中で眠りに落ちてしまった吉澤。
起きたら、お風呂に入ってゆっくりしてもらおうと亀井は微笑みながら吉澤の寝顔を見ていた。
- 371 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:53
- 20分くらいだろうか吉澤が寝返りを打ちながら目を開く。目を擦りながら亀井を見上げる吉澤に亀井はニコッリと微笑んだ。
「ごめん、寝た。」
「可愛い寝顔見ちゃった。」
亀井は吉澤の鼻を人差し指で撫でた。
吉澤は恥ずかしそうに体を起こすと「んー。」といいながら伸びをする。
「お風呂、入ってきてください。」
「ぁ、絵里の後でいいよ。」
「お客さんが先だもん。」
亀井はベッドから降りると吉澤の手をひいて浴室に連れて行く。
脱衣所には亀井の母親が吉澤のために用意してくれたのだろう新品の下着と甚平がおいてあった。
「これ、お父さんの甚平。」
「はは・・・。まぁ、たまに着るし。」
「新品だから・・・お父さん着たやつじゃないですから。」
亀井が不安そうに言う。
「大丈夫だって、気にしないしそういうの。」
「んー。絵里のじゃ、小さいですもんね。」
「大丈夫、気にするなって。」
「じゃぁ、はい。絵里、部屋で待ってますね。」
吉澤が頷くと亀井は部屋に戻って吉澤が戻ってくるのを待った。
程なくして、甚平姿で戻って来た吉澤を見て亀井は明るい顔をする。
「凄い、似合ってる。カッコイイ。」
髪をゴシゴシと拭いている吉澤にまとわりつく亀井。
吉澤は、藤本も最初、自分の甚平姿を見たときに同じ反応をしたなと思いながら笑った。
「ほら、絵里も入ってきちゃいな。」
はしゃぐ亀井を風呂に向かわせ吉澤は再びゴシゴシと髪を拭いた。
髪が乾ききる前に吉澤は拭くことを辞めて床に座る。
甚平姿にはしゃぐ亀井を藤本とダブらせてしまったことに苦笑した。
亀井は亀井であって、藤本ではないのにバカだなと自分を自嘲する吉澤。
- 372 名前:P&Q 投稿日:2006/06/01(木) 00:53
- キャミ姿で戻って来た亀井は座り込んでいる吉澤の前に腰を下ろす。
「どうかしました?」
「ううん。なんもないよ。」
亀井の濡れた髪に手を伸ばし髪を指で掬いながら微笑む吉澤。
「濡れた髪が色っぽいね。」
「はは、何言ってるんですかっ。」
吉澤は亀井の顔を引き寄せて唇を塞ごうとするが亀井が体をのけぞらせて避けた。
なんで?という顔をする吉澤。
「お母さんたちの言う通りになっちゃうもん。」
そう言って笑いながら吉澤から離れベッドに乗っかる亀井。
「お風呂上がりの絵里が誘惑しました。」
子供が言いつけるように言う吉澤に亀井は微笑むと吉澤の頭をポンと叩く。
「絵里してないもん。」
微笑む亀井に吉澤は笑った。
「吉澤さん、眠いでしょ。早く、寝ましょっ。」
隣においでとベッドをポンポンと叩く亀井。
吉澤は微笑みながら隣に移動して横になった。
亀井も横になると吉澤を胸に抱きしめる。
「絵里?」
吉澤は亀井の胸に頬を当てながら呟く。
「絵里がいるから・・・」
「ん?」
「さっき、絵里がお風呂行く前、凄い寂しそうな顔してたから。」
藤本を思い出してしまったときだ、よく見ているなと吉澤は目を伏せた。
「ありがと。」
亀井は微笑むと吉澤の頭を撫でた。
なんだか、凄い大きな子供のように見える吉澤。
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
吉澤は亀井の胸に抱かれながら眠りにつく。
そんな吉澤を亀井はしばらく切ない目で見ていた。
- 373 名前:clover 投稿日:2006/06/01(木) 01:01
- 本日の更新以上です。
>>362-372 A PENTAGON and A QUADRANGLE
日付変わっちゃったけど・・・(ノ_-)
6月からは更新できるときにしていきますので
長い目で見守ってください。
なるべく週1で更新できるといいな・・・。
>>356 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
>よっちゃんより亀ちゃんのほうがちょっと大人になってきましたね。
そうですねぇw
>更新は気長にお待ちしてますんで、お仕事頑張ってください!
有り難うございます。最後までよろしくです。
>>357 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>負担とかとんでもない。
有り難うございますw
>いいキャラだなあこの家族。
自分も好きですこういう親。
最後までよろしくです。
>>358 :オレンヂ 様
レス有り難うございます。
>わ〜い♪いっぱい更新されてる〜♪
そう言ってもらえると嬉しいです。
>亀井家がおもしろすぎて爆笑しながら読んでました
ありがとうございますw
最後までよろしくです。
>>359 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>いつも楽しく読ませて頂いてます!
ありがとうございます。
最後まで宜しくお願いします。
>>360 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>一気に読ませてもらいました。大量更新お疲れ様です!!!!
ありがとうです。
>あんな母親ほしいなぁ
欲しいですw
最後まで宜しくお願いします
>>361 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>6期はみなさん少しずつ成長してきてますね。
そうなんですw
>ってか、ののさゆ好きなんですよねぇ。ののさゆに癒されました!
ののさゆですw
最後まで宜しくお願いします。
- 374 名前:ももんが 投稿日:2006/06/01(木) 08:51
- 美貴ちゃんとよっちゃんと亀ちゃんの関係が今後どうなっていくか楽しみにしてます。
なんか亀ちゃんが切ないです・・・。
- 375 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/01(木) 22:27
- 梨華ちゃんいまさら遅いよ…でも、
梨華ちゃんなんとかして〜w
- 376 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/01(木) 23:10
- もどかしいなぁ。
作者さん、これからも期待してます。
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/02(金) 01:16
- いやーもういいです更新ペースなんて気にしないんで!
それにしても、亀子…大人だなぁ。
どーなるんだこれから…4人、というか帝と吉がどーなるか、気になります!
- 378 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/02(金) 21:29
- 頑張れー としか言えないですけど頑張ってください
- 379 名前:P&Q 投稿日:2006/06/03(土) 23:58
- 藤本は朝早くに携帯電話の着信音に目が覚めた。
「なに?」
起きるにはまだ早い時間。藤本は折角の睡眠を邪魔されて不機嫌に電話にでる。
「もしもし、誰?」
『美貴ちゃん?のんだよぉ。グットモーニングっ。』
耳を劈くような辻の声に藤本は携帯を耳から遠ざけ、ため息をついた。
『もしもーし。もーしもーし。』
「聞こえてる、何朝から。なんで携帯しってるわけ?」
とりあえず、聞きたいことを聞いてみる藤本。
『ケメちゃんから教えてもらったぁ。』
藤本は再びため息をつき「で、なに?」と辻に用件を述べるように促した。
『あのね、明日10時に学校の道場きて。』
「はぁ?昨日、言ったよね?美貴、教育実習おわったの、意味分かる?」
『うん、分かった。明日10時ね来なかったら絶交だよ。バイバイ。』
「ちょっまて切るなっ・・・。」
プープーと携帯から聞こえてくる。
藤本は髪をボサボサと掻きながら困った顔で携帯を見た。
「人の話を聞けよ・・・。」
一方的過ぎるだろ。せめて10時に何があるのかを教えてくれ辻。
藤本は辻に心の中でお願いした。
折角の休日・・・まだ6時だ。
藤本はため息をつくと枕に顔を埋め眠りについた。
- 380 名前:P&Q 投稿日:2006/06/03(土) 23:58
-
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- 381 名前:P&Q 投稿日:2006/06/03(土) 23:59
- 「おはようございます。」
「お母さん、おはよ。」
亀井と吉澤は顔を洗って身支度を整えてからリビングに顔をだしテレビを見ている亀井の母親に朝の挨拶をする。8時を過ぎていて亀井の父親が居ないことにホッとする吉澤。
「おはよぉ。朝食、食べちゃいなさい。」
テレビに夢中らしくそれだけ言う母親に亀井は苦笑しながら吉澤をテーブルに連れて行き、二人で朝食を取り始めた。
亀井の母親が直ぐ後ろにいるのでなんとなく亀井と会話がしにくい吉澤は食べることに専念する。亀井はその様子を微笑みながら見ていた。
「で?吉澤さん。」
「あ、はい?なんでしょ。」
突然背後から亀井の母親に呼ばれ口に入れようとしていたベーコンを皿に戻し振り返る吉澤。その目にはニタニタとした亀井の母親の顔が映り、吉澤は顔を引き攣らせる。
「なんでしょうじゃなくて、絵里のお、あ、じ。」
最後にウインクを飛ばす亀井の母親。
亀井はため息をつき吉澤の肩を掴むと前を向かせた。
「相手しなくていいですから。」
「あ、うん。」
小声で話す二人の姿に亀井の母親はテレビの電源を切り二人の前に座った。
あからさまに亀井は邪魔だという表情をするが母親は無視をする。
「したんでしょ?夕べ。」
「いやいや、してませんから。」
真正面で真っ直ぐ見られて質問され吉澤は苦笑しながら答えた。
「うそぉ・・・ごめんね絵里・・・。」
いきなり肩を落とし亀井に謝る母親に吉澤と亀井は納得してくれたのかと微笑み合う。
「絵里に魅力が・・・失敗作だったのかしら・・・でもいい身体になってきたってお母さん・・・自惚れてたのかな・・・。吉澤さんには魅力感じなかったんだもんね、きっとそうよね。絵里が悪いんじゃないの、お母さんが悪いの。ごめんね絵里。」
顔を覆い呟く母親に亀井は冷たい視線を送るが隣の吉澤は母親が泣いているのかと思い慌てた。
「いや、魅力的ですから、大丈夫ですから。いい身体だってうちも思いますから。っていうかいい身体でした。」
吉澤の言葉に母親は顔を上げニヤっと微笑む。
「やっぱりしてたじゃない。」
「あ・・・。」
母親の言葉にはめられたと気が付いた吉澤はがっくりと肩を落とし俯いた。
- 382 名前:P&Q 投稿日:2006/06/03(土) 23:59
- 「っとに、お母さんは何やってるのよ。」
「だって、二人して隠すんだもん。知りたいじゃない。二人がどこまで進んでるのか。」
「もぉ・・・」
「絵里だって吉澤さんがいい身体だったって言ってくれて嬉しかったでしょ。」
「それはまぁ。」
嬉しそうににやけ、頬を赤らめて吉澤を見る亀井。
肩を落としてうな垂れたままの吉澤を見て慌てて吉澤の肩に手を置いた。
「吉澤さん、大丈夫?お母さんこんなんだから、まともに相手しなくて良いですからね。」
「うん・・・。」
「酷い、たまには相手してくれないとお母さんグレちゃうぞ。」
「馬鹿じゃないの。ホント。吉澤さん元気だしてね。」
「うん。」
吉澤は亀井の親子の会話に少し笑いながら頷いた。
「全く、絵里がヴァージンだなんて嘘つくからでしょ。」
「だって、ヴァージンだもん。」
「だって、したんでしょ。」
「最後まではしてないもん。」
「なんでよ。」
「色々あるのよ。」
「しなさいよ。」
「どこの母親がそんなこと進めるのよ。」
「良いじゃない、ここに居るわよ。」
「ばーか。」
「アーホ。」
「ブース。」
「お母さんがブスなら絵里もブスでしょ。お母さんの遺伝子なんだから。」
「はぁ〜?絵里のどこがブスなのよ。」
「絵里がお母さんをブスって言ったんでしょ。」
「言ってないもん。」
「今、言ったでしょうが。」
「言ってないもん。耳遠くなったんじゃない?」
「言ったでしょっ。」
「言ってない。」
吉澤は確かに亀井が言ったよと思いながら二人の親子喧嘩をいつまで続くのだろうと心配しながら見ていた。
- 383 名前:P&Q 投稿日:2006/06/03(土) 23:59
-
*****************************
- 384 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:00
- 田中はバイトに行くために家を出た。
鍵を閉めると隣の家から聞こえてくる亀井の声に学校が休みなのに早起きだなと感心しながら亀井の家の前を通り玄関に視線をむけると吉澤の姿があり微笑む田中。
「吉澤さんおはようございます。絵里もおはよぉ。」
「れいなおはよ。」
手を振る亀井。
「あ・・・田中ちゃんおはよ。バイト行くの?」
バイクを押しながら田中に歩み寄る吉澤。
「はい、今からいくとこです。泊まったんですか?」
昨日、いや一昨日から同じ洋服の吉澤を見て尋ねる田中。
「あ、うん。」
「お泊りのときは着替えが必要っちゃ。」
笑う田中の腕を亀井が叩く。
「お母さんが急に泊まってけって言ったんだもん。」
着替えていない理由を説明する亀井に田中は「はいはい。」と笑って頷く。
そんな二人の様子を見て、亀井は本当にもう田中をなんとも思ってないのだと再確認する吉澤。
「田中ちゃん乗せてくよ。」
「いや、絵里がみとぉ。遠慮しますまだ、死にたくないけん。」
田中は苦笑しながら歩き出す。
吉澤は頬を膨らます亀井を苦笑しながら見た。
「じゃぁ、また。明日、定休日だからさ行きたいとこ決めておいて。」
「はい。」
「夜、電話するから。」
「はい。」
「じゃぁね。」
「またぁ。」
バイクを押して歩き出す吉澤を亀井は手を振って見送る。
少し先を歩く田中に吉澤が追いつくと二人は並んで歩き出した。
亀井は二人の姿が見えなくなるまで見送った。
- 385 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:00
- 「絵里、意外と嫉妬深いですね。」
苦笑する田中。
「でも、れなのがもっと嫉妬深いっちゃ。」
田中はさらに苦笑しながら言う。
吉澤は田中の横顔を見ながらそうは見えないと思った。
「田中ちゃんってどちらかといえばさっぱり系に見えるけど、そうなの?」
「れな、クラスの友達と話してるのも見るのいやっちゃ。」
「それは無理でしょ。」
笑う吉澤に田中は笑って頷いた。
「だから見ないようにしよる、そうすると興味ないって思われて進展ないまま終わりっちゃ。」
自嘲する田中に吉澤は優しい目で微笑んだ。
「あ、そうだ、絵里の両親ってさ、いつもあぁなの?」
「あぁって言うのは?」
「あの、オープンていうか何でも言葉に出すって言うか。」
田中は亀井の両親の姿を思い浮かべながら少し笑った。
「デリカシーにかけてるってことですか?」
「うん、まぁ・・・。」
言葉を濁す吉澤に田中はニヤニヤと笑う。
「色々聞かれたとぉ?」
「まぁね。」
「あはは。絵里のお母さんぽい。」
「昔からそう?」
「そうですよ。恥じらいがないっていうか。」
「へぇ。凄いよね。あの親子の会話。」
「面白いですけどね。」
「まぁ確かに。」
「絵里がね、生理になったってさゆの家にお赤飯もって行ったとぉ。れなは福岡に引越しちゃってたから電話がかかってきたっちゃ。おめでたいことがありまして。って絵里のお母さんから。」
田中はおかしそうに笑った。
「今時めずらしいね。」
吉澤も笑う。
田中は吉澤の横顔を見ながらふと、藤本たちの顔が浮かんだ。
- 386 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:01
- 「あのぉ。」
「ん?」
「聞いても良いですか?」
「なにを?」
「こないだのこと。」
「こないだって?」
「後藤さんの・・・。」
吉澤は一瞬、切ない顔をするが直ぐに笑顔に戻る。
「こないだ、ごめんね。うち先に帰っちゃって。」
「いや・・・。」
吉澤は苦笑しながら田中から視線をそらし前を向いて歩いた。
田中は聞かないほうが良いのか迷ったが亀井のことを思うと聞かずには居られなかった。
「吉澤さん、気持ち知ってましたよね?」
「ん?」
視線を合わそうとしない吉澤に田中はこの人は嘘が下手だなと思った。
「後藤さんの気持ち、絵里も知ってましたよね。」
「なんで?」
「絵里、あの時、後藤さんの告白に驚かなかったけん。わかるとぉよ。」
吉澤は苦笑しながらまいったなぁと田中を一瞬だけ見て直ぐに前を向く。
「それに、藤本先生も石川先生も・・・。」
田中の言葉に吉澤はそれ以上言うなという目で田中を見た。
その視線に一瞬、言葉を詰まらせた田中。
「吉澤さんのこと好いとぉように見えたと・・・。吉澤さんもそれ知っとるっちゃね?知らんかったらあんな顔・・・。」
吉澤の目にうっすら涙が見えて田中は驚いた。
後半の言葉は鎌をかけるつもりで言ったのに、こんな反応をされるとは思わなかった。
聞く相手を間違えた、確信を持てている藤本に聞く質問だったのだろう。
田中は悪いことをしてしまったと後悔をした。
- 387 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:01
- 「ごめんな、さい。れな・・・どうしよぉ・・・。」
「大丈夫・・・それ、もう終わったことだから。」
「へっ?でも。」
「終わったの。確かにそうだよ。でもね、うちは絵里が好きで付き合ってる。ただ、美貴たちが幼馴染だっただけでさ・・・どこにでもある三角・・・四角関係だよ。」
「絵里もそれしっとぉと?」
「うん。」
心配そうに尋ねる田中を見て亀井を心配しているんだろうと吉澤は涙を堪え笑って見せた。
田中はしばらく黙って俯いて歩く、吉澤も同じようにして歩いた。
「あの、もう一つ・・・」
良いですか?と気まずそうな視線を向ける田中。
吉澤は苦笑しながら頷いた。
「藤本先生たちからも告白されたんですか?」
「ごっちんだけ。」
前を向いたまま言う吉澤の横顔を田中はじっと見た。
「3人の気持ち知ってて、初めて気持ち伝えた人に・・・吉澤さん逃げたんですか?」
吉澤はキツイことをはっきり言うなと思いながら苦笑した。
何も言わず歩く吉澤の腕を田中は掴んで足を止めた。
「吉澤さん、本当に絵里のこと好いとぉと?愛しとぉ?」
「好きに決まってるじゃん。」
「じゃなんで逃げたと?好いとぉなら逃げないで絵里と二人で堂々としとればよかと、幼馴染なら余計にそうっちゃ。逃げられたら幼馴染にも戻れんと。笑えんっちゃろ。なんで逃げたと?」
「戻れるよ・・・幼馴染に。幼馴染でいるって決めたんだから。」
無表情に言う吉澤。
自分たちが決めたことに田中に否定されたくないと思った。
- 388 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:01
- 「決めるってなん?幼馴染になるとかいるとか決めることじゃなかっちゃろ。何いうと?」
「田中ちゃんには分からないよ。それに、うちも大人になるって決めたんだ、いつまでも美貴たちと一緒にいられないからね。田中ちゃんも言ってたじゃん。」
吉澤は早口に言うと歩き出した。
田中は信じられないといった顔で吉澤を追いかけ再び腕を掴んだ。
「なんだよ。バイト遅れると中澤さんに怒られるよ。」
苛立ったように言う吉澤に田中は冷たい視線を送る。
「藤本先生たちと一緒にいられんからって絵里とおると?絵里と居たら大人になれると?大人になるってそういう意味でいっとぉと?」
吉澤は田中の手を振り払うとバイクに跨った。
「なんで答えんと?」
ヘルメットを被った吉澤は田中を真っ直ぐと見た。
亀井を心配して言っているんだと吉澤もよくわかっている。
亀井を利用している形になっているのも良くわかっている。
亀井と一緒にいるからと言って大人になるわけでもないことすら判ってる。
ただ、あの日、藤本に恋人がいると勘違いした夜、自分の側で自分を救ってくれたのは亀井で幼馴染の枠から解放してくれたのも亀井なのだ。
それにもう今更、後戻り出来ないところまで来てしまっているんだ。
「絵里を傷つけたりしないから・・・絵里のこと好きだから。約束する。傷つけないって。だから、心配しないでよ。」
田中は吉澤がバイクを出さないように手で押さえて首を横に振った。
田中は幼馴染で居ると決めたという言葉がひっかった。それだけは知っておきたいと思った。
「幼馴染で居るってなん?どういう意味と?幼馴染は幼馴染っちゃ他になにがあると?」
返事をする気がない吉澤はエンジンをかける。
田中は答えるまでは行かせないとバイクの前に立ち両手でハンドルを押さえた。
- 389 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:02
- 「危ないって。どいて。」
「答えてください。幼馴染でいるってどういう意味と?」
二人はしばらく目を合わせたが反らしたのは吉澤だった。
吉澤はため息をつくと苦笑した。
田中と剣道の立会いをしても自分は勝てないだろう。
刀でやったら確実に殺されると思った。
「うちも幼馴染を好きだった・・・でも今は・・・絵里が好き。だから、幼馴染で居る。これでいい?どいて。」
田中はゆっくりと左に避ける。
「田中ちゃんも遅刻するから急ぎなね・・・。」
驚いた様子で吉澤を見ている田中を置いて吉澤は走り去った。
「それ、絵里はしっとぉと?」
走り去る吉澤の背中を見ながら田中は呟いた。
吉澤も幼馴染の中に好きな人がいたなら、両思いではないか。
どうして結ばれなかったのだ。
道重のように錯覚することがあっても吉澤たちくらい長く一緒にいたらそれが錯覚なのか本物の恋愛感情なのか分かるだろう。
分からなかったとしても付き合ってみれば分かるはずだ。
田中は不思議に思った。
- 390 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:02
- 藤本は目覚まし時計の音で目を覚ました。
二度寝は気持ちのいいものだとふと起こされた辻の電話に感謝をしようとした自分に苦笑した。
「一体なんなんだあの子は・・・。」
ジャージのまま下に降りると母親は夕べのままの姿でテーブルにうつぶせて寝ていた。
ずっと飲んでいてそのまま寝てしまったのだろう。
父親も父親だが母親も母親だ、どっちもどっちだなと思いながら藤本は朝食を作ろうと手を洗ったが、作るのも面倒に感じ。昨日、買っておいた食パンを焼いてマーガリンを塗って食べた。
9時になっても起きない母親を藤本は心配になって顔を覗いてみた。
「息はしてる、ね。」
酒を飲みながら泣いたのだろうか母親の頬には涙の跡が残っていた。
どうしてやったらよいのか藤本にはわからないがとにかく父親を連れ戻し話をしないことには何も解決しないのだと藤本は思う。
藤本は母親のために食事を作りラップをかけると着替えて家を出た。
夕べ石川の家に行くときにはなかった吉澤のバイクがあることに気が付き朝ごはん食べたかなと心配しながら藤本は駅に向かった。
- 391 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:02
- 吉澤は田中から逃げるように家に帰るとそのまま部屋に駆け込みベッドに倒れこんだ。
亀井と居れば大人になれるのか、なんで逃げたんだと田中に言われ苛立った。
年下の田中に自分と同じようにしたいことが見つからないといっている田中に言われたのだ。
情けないなと吉澤は自嘲する。
「どうすればよかったんだよ・・・。」
吉澤はシーツを握り締めながら呟いた。
あのまま藤本の横で幼馴染を演じていれば良かったのか?
後藤と石川とは幼馴染でいれるだろう。
でも、もう藤本とはそうはいかない。一線を越えた時点でそうはいかない。
過ちだといわれてもそれじゃ済まない。
このままで居たら気が狂いそうだったんだ。
そんな自分に差し伸べられた亀井の救いの手に縋って何が悪い。
全てを知って理解してそれで手を差し伸べてくれているのだ。
藤本と先輩のことが自分の勘違いでなければ、亀井が側にいてくれることで自分は心から藤本を祝福してやれただろう、大切な1番好きな人の幸せを願ってやれただろう。
それだけで、少しは大人になれる気がしたのに、それすら勘違いで終わってしまったのにどうしたらよかったのだ。
逃げたのだって自分が最低な卑怯な行動だと分かってる。
でもあそこで泣くわけには行かなかった。そんなことしたら、石川と後藤は気が付いてしまう。自分が藤本を好きだという気持ちに。それはしてはいけないんだ。だから、自分たちは気持ちを隠してきたんだから。
今は田中の亀井を大切だと思う気持ちを気遣っていられるほど余裕がないんだ。
- 392 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:03
-
*****************************
- 393 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:03
- 道重は鼻歌を歌いながら制服に着替えていた。
着替え終わると鼻歌を歌いながら母親に亀井の家に寄ってから部活に行くと告げ家を出た。
インターホンを鳴らし亀井の母親に招き入れられ中にはいる道重。
その間もずっと鼻歌を歌っている道重を亀井の母親もそのメロディを真似しながら歌って笑い合う。リビングに入ってきた二人を亀井は苦笑しながら見ていた。
「バカじゃないの二人とも。」
「ひどぉい絵里もやってよ。」
「はぁ。ってかお母さんもうそのわけの分からない歌いいから。」
「ひどぉい絵里もやってよ。」
道重の言葉を真似する母親に亀井はため息をついた。
吉澤が泊まっていったおかげで朝からえらいテンションが高い母親。
亀井はため息をつくと道重を連れて部屋に向かった。
「さゆ、部活でしょ?」
制服を着ている道重を部屋に入れると床に座らせて尋ねる亀井。
「そうだよぉ。部活なの。」
嬉しそうに言う道重に亀井はどうしたのだそのテンションはと笑った。
「部活楽しいの?」
「うん。ねぇねぇ。明日さ。」
「明日?」
「そう、明日ね、れいなと遊ぶんだけど。」
「うん。」
「絵里も来てくれない。」
「明日、吉澤さんとでかけるんだ・・・。」
「あ、それ丁度良い。吉澤さんも一緒に連れてきて。」
「おいおい。既に絵里行くことになってない?」
「9時にね家出るからさ。吉澤さんにも10時には着くように来てもらってね。」
「だから、待って。」
「で、あっ制服ね。制服着てきてね。」
「こらこら。ちょっと待ちなさいって。」
勝手に話しを進める道重の両肩に手を置いて話を止める亀井。
- 394 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:03
- 「なに?」
「なにじゃなくて、勝手に話進めすぎだから。」
「いいの、取りあえず明日ね。」
「いいのじゃないでしょ。」
亀井は苦笑して道重の頬をペシペシと叩く。
「まず明日どこに行くわけ?」
「学校。」
「何しに?」
「剣道の試合。」
「なんでれいなと絵里も行くわけ?部員じゃないけど。」
「れいなが試合するんだもん。」
「誰と?」
「辻先輩。」
嬉しそうに微笑む道重に亀井は不思議そうな顔で道重を見る。
「れいながするって言ったの?」
「れいなにはどこに行くかまだ教えてない。」
「まって、れいなに教えてないってどういうこと?」
「だって、辻先輩と試合するの嫌だって言うんだもん。だから、さゆみ昨日いいこと思いつたの。」
亀井は先に昨日からの話を最初から全部詳しくしてくれと苦笑した。
「何を思いついたの?」
「明日ね部活休みだから道場空いてるの。」
「うん。で?」
「れいなも明日定休日だって言ってたから遊ぶ約束したんのそれで学校に行って辻先輩と試合させようと思って。」
「騙して、連れて行って無理やりやらせるってことだ。」
「そうなの。絵里するどーい。」
嬉しそうに言う道重の額を亀井はペシっと叩いた。
「れいな嫌がってんのに無理やりそういうことさせないの。」
「もう、遅いもん辻先輩も喜んでたから今更、ドタキャンできないもん。」
「もぉ・・・さゆぅ・・・。」
辻のことだ約束を破ったと大騒ぎするだろう。
亀井は困ったもんだと腕を組んで考えた。
- 395 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 00:03
- 「れいな連れてけばなんとかなると思うの。」
「それ。れいなが可哀相でしょ。ってか何でさゆが辻先輩とそんな約束してるのよ。」
「だって辻先輩可愛いんだもんっ。もぉ、たまんないの。」
亀井は体中から好き好きオーラーを放つ道重を見て安堵を感じた。
自分への気持ちはもうないのだと。
「好き、なの?」
「うん。もぉねぇ全てが可愛い。言うこともやることも。甘えられたら抱きしめたくなるの。」
「そ、そうなんだ・・・。」
亀井は辻の行動を思い出すがいまいち道重に同意できる点は見つからず苦笑する。
「じゃぁれいなに本当のこと言って協力してもらうしかないんじゃない?」
「だって、嫌がるんだもん。」
「今日、バイト帰ってきたら絵里からもお願いしてみるよ。」
「うん。お願いね。絵里も明日来てね。」
「吉澤さんと相談して決める。」
「わかった。じゃぁさゆみ、辻先輩に会いに行ってくるね。」
立ち上がる道重に亀井は「部活でしょ。」と正すが道重は気にせず亀井の部屋を出て行った。
亀井は苦笑しながらも良かったと思う。
時計を見るとまだ9時だ。吉澤のバイトは午後からだ。
電話をかけて道重の話しをしても良いのだが寝ているかも知れないと亀井は吉澤からの電話を待つことにした。
- 396 名前:clover 投稿日:2006/06/04(日) 00:10
- 本日の更新以上です。
>>379-395 A PENTAGON and A QUADRANGLE
>>374 :ももんが 様
いつも、レス有り難うございます。
>美貴ちゃんとよっちゃんと亀ちゃんの関係が今後どうなっていくか楽しみにしてます。
はい、そろそろ終盤に向かおうと思ってます。
最後まで宜しくお願いします。
>>375 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>梨華ちゃんなんとかして〜w
んー。どうなるか・・・w
最後まで宜しくお願いします。
>>376 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>作者さん、これからも期待してます。
期待にこたえれるといいですがw
最後まで宜しくお願いします。
>>377 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>いやーもういいです更新ペースなんて気にしないんで!
有り難うございます。
>それにしても、亀子…大人だなぁ。
どう、なんでしょうねw
最後までよろしくお付き合いください。
>>378 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>頑張れー としか言えないですけど頑張ってください
はいw
最後までよろしくです。
- 397 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/04(日) 01:17
- 更新お疲れ様です。
れいなの一点の曇りも許さないかのような純粋さと強さ
それがひどく傲慢で煩わしく感じる自分は嫌な「大人」だなと思ったり・・・
続きを楽しみにしています。
- 398 名前:ももんが 投稿日:2006/06/04(日) 20:55
- れいなはまっすぐな子ですね。亀ちゃんを心配してるのがよく伝わってきます。
強引なさゆはやはりかわいいです(笑)
これからの終盤の展開楽しみにしています。
- 399 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:44
- 藤本は都内の高層ビルが立ち並ぶその一つのビルのロビーでソファに座っていた。
受付の人に父を呼び出してもらい既に15分が経っているが父親はまだ現れない。
藤本はイライラしながらロビーを行き交う忙しそうなサラリーマンやOLを見ていた。
「あ・・・。」
突然現れた父親に藤本は立ち上がり向かい合った。
「なんだ、その格好ははしたない。」
ミニスカートにキャミソールのどこがはしたないのだと藤本は軽蔑する目で自分を見ている父親を睨んだ。
「こっちに来なさい。」
父親はいきなり藤本の手首を掴むとビルの外に連れ出した。
手を離すと先に歩き出す父親の後を藤本は手首を擦りながら追いかけた。
オフィス街にある喫茶店に入っていくと2階の人目に付きにくい席を選んで座る父親。藤本は向かいに座るとまじまじと父親を見た。
こんなに歳を取っていただろうか、いつからあっていなかっただろう自分の記憶ではもっと若々しい父親だった気がした。
「アイスコーヒー2つ。」
メニューを持ってきたウエイトレスに先にそう告げる父親。
ウエイトレスが下がると藤本は直ぐに本題に入った。
- 400 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:45
- 「家に帰ってきて欲しいんだけど。」
タバコに火をつける父親を藤本はじっと見ていた。
「ねぇ。聞いてる?」
何も返事をしない父親に苛立ちながら睨みつける。
「大声を出さなくても聞こえてる。」
「じゃぁ答えてよ。」
「仕事が忙しくて帰る暇がない。」
「毎日、会社かホテルに泊まってるわけ?」
「そうだ。」
「ホテルに行く時間あるなら家に帰れるでしょ。」
口を閉ざす父親だが目をそらすことはしない。
「電話でも言ったけどさ、よそに女がいるならいるで良いからさ、お母さんとちゃんと話してよ。」
ウエイトレスがアイスコーヒーを持ってくると藤本はいったん話をやめコーヒーに口をつけた。
「お母さん、あのままじゃアル中になるよ?美貴じゃどうしようもできないから。取りあえず帰ってきて。」
「それは出来ない。」
「なんでよ。父親でしょ、夫でしょ。なんで出来ないの?」
「言いたいことはそれだけか?」
父親はそういうと伝票を手に取り席を立つと藤本も慌てて立ち上がった。
「ちょっと待ってよ。」
「さっき、母さんと電話で話したよ。」
父親はそういうと立ち去っていった。
藤本はなんだ、とほっとして椅子に座った。
「先にそう言えよ・・・。」
二人で話したのなら大丈夫だろう。藤本はほっとした表情でコーヒーを飲んだ。
- 401 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:45
-
*****************************
- 402 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:46
- 中澤は吉澤と田中の様子を不思議そうに見ていた。
いつも楽しそうに話しながら仕事をしていた二人が何も言葉を交わさずに仕事をしている。
昨日は普通に楽しそうだったはずだと首をかしげる中澤。
田中は自分が来たときから様子が変だった。
何かに怒っているような険しい顔つきでひとり仕事をしていた田中に「どうかしたか。」と尋ねてもなんでもないとしか言わなずそれ以上、中澤も何も聞かなかったが吉澤の態度を見て二人の間に何かあったことは直ぐに分かる。
「あんたら、いつまでそうしとんのや?」
中澤は笑いながら二人に言う。
吉澤と田中は苦笑しながら顔を見合わせる。
「別に、れなは・・・。」
「うちも・・・気にしてないし。」
目をそらす二人を見て中澤は苦笑する。
「まったく、なにしとんねん。うちこれから用事あるからまた夜くるな。」
中澤はそういい残し店を出て行く。
再び気まずくなる吉澤は仕事を探してその場をしのいだ。
- 403 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:46
- 田中は面白くないといった表情で吉澤に視線を向ける。
「絵里はしっとぉと?」
田中は吉澤の背中に投げかける。
吉澤はため息をつきながら振り返れるとうんざりだという顔を田中にした。
「れな、言いますよ?」
「絵里も知ってる。全部話してあるから。」
絵里もそれを分かっているのなら良いのかと田中はふと思う。
亀井が好きだと断言しているのだ、何の問題もないのかもしれない。
「なんで急に絵里が好きになったと?」
浮かんだ一つの疑問を田中は言葉にした。
吉澤は既に田中に背を向けて仕事をしている。
「いいじゃん、好きになったんだから。」
吉澤は切なそうにそう呟く。田中はその横顔を見て何も言えなくなった。
なぜ、そんなに切ない顔をするのだと田中はなんだが吉澤を可哀相に思えた。
吉澤は田中にもう何も言うつもりはなかった。
言ったところで自分たちの関係は分かってもらえないだろう。
間違ったことをしていると否定されるだろう。
自分が田中に否定されるのは良いがそれでは亀井が可哀相だと吉澤は思う。
- 404 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:46
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- 405 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:46
- 後藤はホテルで記者会見を開いていた。
自分を取り囲む名高い俳優、女優陣の真ん中にいる後藤は笑顔でフラッシュを浴びている。
事務所を移籍して直ぐに来たオファーは大抜擢となるものだった。
スタップも含め豪華な顔ぶれが後藤をサポートする形になるのだ。
後藤への期待が高まる、反対にアイドル上がりの後藤に主演を任せて大丈夫なのかという批判の声。だが、後藤はそれらを笑顔で受け止めた。誰かのためにやるのではない、自分のためにやるのだ、折角の演技派たちが自分をサポートしてくれるそこから学ぶものは大きいだろうと後藤はワクワクしていた。
母親とお茶を飲みながら待ったりしていた亀井はテレビの中でフラッシュに囲まれる後藤の会見を羨望のまなざしで見ていた。
「やっぱりこの子すごいわね。」
「うん。」
バリバリとおせんべいを食べながら言う母親に亀井は微笑みながら頷いた。
先日の悲しそうな面影はどこにも見当たらない。
堂々と受け答えするその姿は誰もが知っている芸能人の後藤真希だった。
後藤がこうして表舞台で活躍する姿は本当に嬉しい吉澤はこの姿を見て安心するだろうか。
少しでも楽になれるといいなと亀井は思う。
「あ、お母さん。」
「なに?」
「夕飯一緒につくてもいい?」
「花嫁修業?」
「どうだろ。」
嬉しそうに微笑む亀井に母親は笑顔を見せた。
「じゃぁ買い物いこうっか。」
「はーい。」
二人は直ぐに買い物に出かけた。
- 406 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:47
- 田中が先にバイトをあがり1人で仕事をしていた吉澤は戻って来た中澤に苦笑してみせる。
「仲直りしたんか?」
カウンターに戻って来た吉澤に尋ね中澤。
「別に喧嘩とかじゃないと思う。」
「なんなん、あの空気は。」
「ん?なんだろう。田中ちゃんは絵里が心配なだけかな。」
「あんたなんか酷いことしたんか?」
「まさか・・・。」
吉澤は笑いながら食器を洗う。
中澤は吉澤をカウンター越しに伺う。
亀井といて吉澤が楽しそうに見えるからそれで上手くおさまるのだと思っていたのにそうはいかないのかと中澤はため息をついた。
「なぁ、よっちゃん。」
「ん?」
「あのあと藤本と後藤とはあったんか?」
「会ってない。」
吉澤は作業をしながら俯き中澤とは目を合わさない。
中澤は苦笑した。
「そうかぁ。よっちゃんはあれやもんな昔から自分からはなんもせーこんやったもんな。」
「なにそれ?そうだった?」
吉澤は一瞬顔を上げ中澤を見ると笑ってみせ再び顔を俯かせた。
- 407 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:47
- 「そうやったよ。剣道も藤本がやるって言ってはじめたんやろ?」
「あぁ。そうだったかも。」
「高校決めるときも藤本と石川がきめとったやないの。」
「うん。別にどこに行きたいとかなかったしね。」
「大学も藤本が行く大学に決めて学部だけ選んだじゃない。」
「はは、そうだった、だめになっちゃったけど。」
「なんで自分で決めて行動せーへんの?」
「だって・・・別に何でもいいから。」
「警察官になって剣道したかっただけか?」
吉澤はカップを取り出し中澤にコーヒーを入れて出した。
「それはしたかったけどもう出来ないしね。」
「亀井にはどっちから告白したんや。」
「絵里かな。いや・・・お互いになるのかな。」
「全部人が決めたことやんか。」
「ってかなんの話してるんですか?」
「よっちゃんはいつしたいこと見つけるんかなって話や。」
吉澤もコーヒーを入れて一口飲むと悲しそうに中澤を見つめた。
「いつまでもここに居ていいって言ったじゃん・・・。」
「えぇけどな、うちは全然、えぇねんけど、よっちゃんのためにはならんな。」
「別にいいようちは。」
「あんなぁ、うちは夢を見つけていく様子を見たくてやることない子雇ってるんよ。」
「田中ちゃんが見せてくれるよ・・・。」
吉澤は笑ってコーヒーを飲む。
中澤は寂しそうにそんな吉澤を眺めた。
「そやな、でも。よっちゃんひとり取り残されるで?」
「絵里が・・・居てくれるからいい。」
「なんもない人間み何の魅力もないと思うけどな・・・。」
吉澤はカップを置くと中澤を見た。
悲しい目で見る中澤から目を逸らし荒いものを始める吉澤。
中澤はため息をついた。
- 408 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:47
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- 409 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:48
- 夕方、藤本が帰宅するとリビングに母親の姿はなかった。
寝室を覗いてみるが姿は見えない。一通り家の中を探すがやはり姿はなかった。
「買い物かな・・・まさか、家出?」
藤本はまさかなと思いながら母親のクローゼットを開く、一箇所だけなくなっている衣類。慌ててタンスも見るが同じように衣類が消えていた。
リビングに戻った藤本は直ぐに母親の携帯をコールする。
ピピピピッ
直ぐ近くから聞こえてくる着信音。
ソファの上で鳴り響いてる携帯を見つけ藤本はため息交じりに携帯を切った。
「持ってないと意味無いじゃんかよ・・・。」
まさか本当に家出なのだろうか。
藤本は夕食を作って母親の帰りを待った。
インターホンがなり時計を見ると9時を過ぎたところだ
母親が帰ってきたと思った藤本は玄関まで駆けていきドアを開けた。
「美貴ちゃん、どうかしたの?」
焦った表情でドアを開けた藤本に石川は驚いてみていた。
「ううん。なんでもない・・・どうぞ。」
藤本は力なくリビングに戻っていくその後を石川も追った。
「なんか飲む?」
「うん、ありがと。」
藤本はアイスティをグラスに注ぎ、ソファに居る石川に渡す。
「ありがとぉ。出来ればその夕飯も食べたい。」
「いいよ。食べてないの?」
二人でテーブルに移動すると石川は「おいしそうじゃん。」と箸を手に取った。
「あれ、美貴ちゃんも食べてないの?」
手の付けられていない料理を見て石川は不思議そうに尋ね母親が居ないことに気がついた。
- 410 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:49
- 「お母さんもう寝たの?」
「いや、どっか出かけてるみたい。」
「そっか。」
自分の母親も夜に出かけたりしているので石川はあまり気にすることはなかった。
「んっ。美味しい。」
石川は気にせずに料理を頬張る。
藤本はぼーっとその姿を見ていた。
「今、帰ってきたんだ。」
「そう、今日、一日勤務だったからねぇ。明日は久々の休みなんだ。で、美貴ちゃんと買い物でも行こうかなって。」
「買い物は行かない、趣味違うし。」
即答で却下された石川は不満な顔をする。
「じゃ、どっか行こうよ。」
「美貴、明日、高校行かないといけないみたいなんだ。」
「なに、みたいって。」
「朝っぱらに生徒から来いって電話あって。」
「ふーん。あ、じゃ私も行く。久しぶりだし。いいよね。」
「うん。いいんじゃない。夏休みだから先生はあんありいないと思うけど。」
「そっか。まぁいいや。」
藤本はすっかり忘れていた辻の電話のことを思い出し一体何があるのか不安だった。
加護のピアノを聞かせてくれるなら素直にそういうだろう。
用件を言わないということは何か企んでいるに決まっている悪戯な子供だから。
藤本は自然と笑みがこぼれた。
「何、笑ってんの?」
「いや子供っていいよなって。」
「ん?子供欲しいの?」
「そうじゃなくて、癒されるよね。」
「あぁ、そうだね、小児科の子とかと話すると疲れ取れるもん。」
「うん、いいよね・・・」
素直に気持ちを表す辻を見ていると疲れるけど癒されるなと思う藤本は明日が楽しみになってきた。突拍子もないことをして、すっきりさせてくれるといいなと思う。
「明日10時に学校だから。」
「じゃぁ9時半ごろ美貴ちゃんち来ればいい?」
「うん。」
「楽しみだなぁ。」
微笑み石川に藤本も微笑んだ。
- 411 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:49
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- 412 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:49
- 亀井は夕飯を済ませると田中の家に向かった。
「なんね、窓から来ればよかのに。」
「だって、スカートだし。」
「誰が見ると?」
田中はそういいながら冷蔵庫からサイダーを取り出し亀井に渡す。
二人並んでソファに座ると田中は一口サイダーを飲み「はぁー。」と息を吐いた。
「用はなん?」
吉澤のことだろうと思っていた田中は真剣な顔で亀井を見る。
亀井はその横で爪を割らないように慎重に缶を開けていた。
「明日のことなんだけどね。」
「へっ?」
吉澤のことではないのかと田中は気の抜けた声を漏らす。
「えっ?さゆから遊ぼうって言われてない?」
「あぁうん。9時に迎えくるっちゃ。絵里も行くと?」
「そのことなんだけどね。」
「なんね?」
田中は首を傾げてからサイダーを口にする。
「さゆ、辻先輩と試合させようとしてるの。」
「なんっそれ。」
「だからぁ。辻先輩にれいな連れてくるって約束しちゃったんだって。」
「あの、アホ。勝手にれなを巻き込むな・・・。」
田中はうな垂れてソファに背を預けるとため息をついた。
この様子だと試合をしてくれるのだろうと亀井はほっとして笑みを浮かべる。
田中はいつも結局は自分や道重の我侭を聞いてくれるのだ。
「辻先輩と試合する意味がわかんっちゃけど・・・仕方ないなぁ。」
「ありがと。」
亀井は嬉しそうに微笑んだ。
- 413 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:50
- 「絵里も来ると?」
「吉澤さんとこれから話して決める。」
亀井はそういうとソファからズルズルと床に下りて膝を抱えて微笑んだ。
「そう・・・ねぇ絵里。」
「ん?」
「吉澤さんのことちゃけど。」
「うん。なに?」
「藤本先生と石川さんもあれっちゃろ・・・。」
亀井は困ったように笑って顔だけ田中に向ける。
「あれっちゃろって?」
「吉澤さんのこと・・・好いとっちゃね。」
田中は辛そうに顔をゆがめて呟いた。
「うん。そうだよー。吉澤さんモテモテなの。」
ふざけた口調で言う亀井に田中はさらに辛そうに顔をゆがめる。
「れいながそんな顔しないで。」
亀井は身体を田中に向けると田中の頬を撫でて笑ってみせる。
「吉澤さんから聞いたの?」
「無理やり聞いたっちゃ。文句も言ったとぉ。」
亀井は吉澤を思って悲しそうな顔をした。
「吉澤さんもその中の誰か好きっちゃろ?今は絵里のこと好ぃとっても・・・。」
「藤本先生だよ。吉澤さんが1番好きな人。絵里のことは2番目かな?」
田中は固まったように亀井をじっと見つめた。
「何いうと?」
亀井は困った風に笑う。
- 414 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:50
- 「絵里がね・・・んー。絵里も好きな人いたの。でも勇気なくて告白しなかったんだ。」
悲しそうに亀井を見つめる田中。
「で、まぁ絵里がね自分と状況が似たような吉澤さんに提案したの。恋人同士になろうって。」
「バカっちゃね・・・。」
亀井は苦笑する。
「結構、あの時はそれしかないとか思って必死だったんだよ・・・。」
「好きなら好きって言えばいいと。それでダメならダメで次に行けばいいっちゃ。」
そんな風に素直に言える強い人間はあまりいないだろうと亀井は笑った。
「怖いんだよ・・・。それまでの関係壊れないかなって・・・。」
「そういう時、支えてあげるためにれなとかさゆがおるんちゃろ?」
悲しそうに言う田中に亀井は「そうだよね。」と優しく笑った。
「さゆはさ・・・絵里のこと好きだって思ってたかられいなが慰めて側にいてあげたんでしょ?」
「そうっちゃ。」
「絵里はさ当事者だからさゆのこと慰めるとか出来なかったじゃん。」
「そうっちゃね、れなが絵里の分まで側にいたけん。」
亀井は深呼吸してから田中を真っ直ぐと見つめた。
「じゃぁさ、絵里たち3人がそれぞれ当事者になったら?」
「それは・・・えっ?」
「さゆは絵里が好きで絵里がれいなを好きだったら・・・。」
そうなのか?と驚きの様子を亀井を見つめる田中。
亀井は微笑んだ。
「気付かなかったと・・・。」
田中は亀井をぎゅっと抱きしめた。
「ごめん。れな、絵里のことそういう風にみとらんっちゃ・・・応えられん。」
「分かってたし、それに、もう絵里もそういう風に見てないからいいよ。」
亀井は田中に笑顔を向ける。
- 415 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:51
- 「でも、言ってくれれば良かったと・・・れな逃げたりせんとよ。亀井絵里っていう人大好きちゃけん。ずっと幼馴染は変わらんとぉ、壊れるとか思われるほうが悲しかよ。」
悲しそうに言う田中。
「そうだよ・・・。れいなからしたらそうなんだよね。言われるまでわらか無かった・・・。絵里、自分の気持ちばっかりで・・・あは、アハハハッ。」
亀井は笑い出した。
言ってしまえば、ちょっとだけ頑張って言ってしまえばこんなにも簡単なことだった、それに気がつくのにどんだけ遠回りしたのだと亀井はおかして笑った。
「なに?なに笑っとぉ?」
「あはは・・・なんでもないの。絵里さ吉澤さんと恋人になってされいなが好きなのかどうか分からなくなってきちゃってね・・・。れいなに恋してる状況に恋してたみたいなかんじ?分かる?」
田中は笑いながら話す亀井を既に自己完結されているのだと呆然と見ていた。
「恋がしたかっただけっちゃろそれ・・・。」
「そうかもね。あはは。」
田中は真剣な顔になると笑い続ける亀井の手を取った。
「早く、吉澤さんと別るっちゃよ。」
亀井は微笑んで首を横に振った。
「なん、恋人ごっことかバカっちゃろ。それとも絵里は本当に吉澤さんを好いとぉと?」
「そうじゃないと思う。」
「なんで、やめんと?」
「絵里、知りたいんだと思う。」
「何を?まって、絵里が入ると吉澤さんたち余計にごちゃごちゃになるっちゃ。入らなんでよかよ。」
怒った顔で言う田中に亀井はまた微笑んで首を横に振った。
- 416 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:51
- 「そうじゃないよ。絵里が入ったから、後藤さんは気持ち伝えたんじゃん。それに、絵里もさゆもれいなもいい関係になれたじゃん。」
「それはそうかも知れんけどぉ。でも、おかしいっちゃろ?別れないといけんよ。」
「絵里たちだけ落ち着いて・・・それは嫌だ、絵里が始めたんだし。」
「はぁ・・・何を知りたいと?」
「吉澤さんが守ろうとしてる大切なもの。」
「なにそれ。」
亀井はんーと腕を組んで首を捻る。
「なにそれって言われてもね・・・。お互い好きって分かってるんだよ。吉澤さんと藤本先生って・・・。」
「そうなん?なんで付き合わんと?」
「だからそれだよ。お互い好きなのに、必死に嘘ついて守ろうとしてるの。」
「幼馴染でいることっちゃろ。いる、とか分けわからんし。」
「ん・・・。」
「大体、吉澤さんが告白すれば済むっちゃろ?石川さんだって後藤さんだって身、ひくっちゃろ?」
吉澤に対して怒りを見せる田中に亀井は悲しそうな目をする。
「無理だよ。吉澤さん・・・甘えん坊で臆病だもん。」
「弱虫っちゃ、卑怯者っちゃ。」
言いすぎだろうと亀井は苦笑を漏らす。
「れいな、言いすぎ。」
「そんなことなか、言いたくないこととか都合が悪くなると逃げようとしたっちゃ。憧れてたのにがっかりっちゃ。」
田中はがっかりとした表情で亀井を見る。
「石川さんだって、今日、普通にしとったけん、皆、吉澤さんのこと大好きっちゃよ・・・。幼馴染としても・・・。」
「分かってるよ・・・。でも・・・吉澤さんは絵里みたいに怖いんだよ・・・きっと藤本先生も石川さんも。吉澤さん、絵里に側に居て欲しいんだよ。ウソ、ついてまで。」
苦笑する亀井に田中は目を細めた。
- 417 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:52
- 「なんね、ウソって。」
「絵里ね、吉澤さんが1番好きになったらこの関係、終わるって言ったの、そしたら、吉澤さんも絵里を1番好きになるから待ってって。」
「どこまで、甘えとるん・・・」
呆れた顔をする田中に亀井は仕方ないだろうと微笑む。
「絵里がウソついてって言ったの絵里が1番好きになったらウソでも吉澤さんも1番好きって言ってって。」
「絵里・・・何、いっとるっちゃ。」
「だって、ウソついてまで絵里が必要にされるって思わなかったんだもん。」
「それだけ、弱いんだよ。」
「違う気がする・・・。」
田中は何が違うんだという顔で亀井を見る。
「それだけ・・・藤本先生のこと好きなんだよ。絵里は、そんなに好きになる関係ってどんなのか知りたい。れいなも知りたくない?っていうかれいなは好きな人いないの?」
「今は居ないけん、好きになった人はおったよ。」
亀井は興味深々といた様子で田中に近づくと顔を覗き込み照れて顔を背ける田中の顔を追いかけた。
「どんな人?」
「福岡にいたときのクラスメイトっちゃ。」
「告白したの?」
「振られたと。」
突然、表情を曇らせる亀井に田中は笑う。
「中学のころの話っちゃ。れなの話はいいけん。絵里が吉澤さんと別れる話が先っちゃ。」
「あ・・・だからまだもう少し付き合うの。」
亀井は膝を抱えて微笑む。
「吉澤さん巻き込んだの絵里だし。」
「はぁ・・・」
田中はため息をついて亀井に微笑む。
「れなも協力するっちゃ・・・。絵里ひとりじゃ、心配やけん・・・。」
「そういってくれると思った。」
亀井は微笑むが田中は呆れた顔で亀井を見ていた。
「あっ、吉澤さんから電話くるんだ、絵里帰るね。」
田中は「はいはい。」と出て行く亀井を心配そうに送る。
「なんかあったらすぐ言うっちゃよ。」
「うん。」 と笑顔で帰っていく亀井。
道重も亀井も心配ばっかり掛ける。
田中はため息をついた。
- 418 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:52
-
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- 419 名前:P&Q 投稿日:2006/06/04(日) 23:52
- バイトを終えて風呂を済ませるとベッドに座り亀井に電話をかけた。
『はいはい、えりりんでぇす。』
電話を待っていたのだろう、ワンコール前にでた亀井のハイテンションに吉澤は微笑んだ。
「はいはい、吉澤です。」
『ウフフっ。いいですねぇ。電話というもの。』
「うん。明日はどうしよっか。」
『あ、そうだ、明日なんですけど。学校行きませんか?』
「学校って高校?」
『はい。辻先輩とれいなが試合するんですよ。』
「へぇ・・・」
吉澤は田中とどんな顔をして会えばいいのかとベッドに倒れこむように横になって目を閉じた。
『あの・・・れいなと・・・あのれいなから聞きました。』
「そっか、ちょっとね、うちもなんかムキにっていうか当たっちゃって。」
『ちゃんと説明しましたから、大丈夫ですよ。れいなさっぱりした性格だし、寝たら忘れちゃう単細胞だから。』
「はは、酷い言い方だね。単細胞って。」
『いいんです。ホントだもん。だから、行きませんか?明日。』
「うん、そうだね。行こうっか。」
『やった、じゃぁ9時半ごろ吉澤さんちいきますね。』
「迎え行くよ。来てもらってばっかりだから。」
『だって、吉澤さん顔洗ってって言わないと洗わないで来ちゃいそう。』
吉澤は苦笑した。
いつから自分はそういうキャラになったのだろう。
中学、高校までは綺麗好きだといわれていたのにいつの間にかだらしないキャラになってた。
「大丈夫だよ、子供じゃないんだから。9時半に絵里の家に行くから。」
『じゃぁ8時半ごろモーニングコールしてもいいですか?』
「それはお願いします。」
『ラジャー。』
「じゃぁそういうことで、今夜は早く寝よう。」
『はい、おやすみなさい。』
「おやすみ。」
吉澤は亀井が携帯を切るのを待つが一向にきれずに苦笑した。きっと亀井も自分と同じように自分が携帯を切るのを待っているのだろう。
「絵里?」
『はい?』
「切らないの?」
『エヘヘ、吉澤さんから切ってください。』
「んっ。分かった。おやすみ。」
『はい、おやすみなさい。』
吉澤はゆっくりとボタンを押して携帯を切ると眠りにおちた。
- 420 名前:clover 投稿日:2006/06/04(日) 23:57
- 本日の更新以上です。
>>399-419 A PENTAGON and A QUADRANGLE
また、週末あたりに更新予定してます。
>>397 :名無飼育さん様
レス有り難うございます。
>それがひどく傲慢で煩わしく感じる自分は嫌な「大人」だなと思ったり・・・
そうですね、まだ田中さんはあまり世間をしらないっていうか、田中さんも子供なんですよねw
>続きを楽しみにしています。
有り難うございます。最後まで宜しくお願いします。
>>398 :ももんが様
いつも、レス有り難うございます。
>強引なさゆはやはりかわいいです(笑)
はい、人の話聞かないって勝手にイメージさせてもらってますがw
>これからの終盤の展開楽しみにしています。
有り難うございます。最後まで見も待ってやってください。
- 421 名前:ももんが 投稿日:2006/06/05(月) 08:53
- 更新お疲れ様です。
6期3人は大体かたがついたみたいですね。
よっちゃんと美貴ちゃんがこれからどうなるか見守っていきたいです。
- 422 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/06(火) 18:10
- 久しぶりに引き込まれる作品に出会えました。
よっちゃんの頑張りに期待します。
- 423 名前:亀かめカメ 投稿日:2006/06/06(火) 23:44
-
更新ご苦労様です。
自分としてはこのまま絵里と頑張っていってほしいです。
が、そこはどうなるかわからないので
これからの話も楽しみにしとります
- 424 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/08(木) 00:08
- れーなは正論だけど
やっぱり人間は弱いもので
流されちゃうんだよぉぉぉぉ。・゜(ノд\)゜・。
- 425 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/09(金) 21:15
- 頑張れー
- 426 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/06/09(金) 23:24
- 更新お疲れ様です。
読み進めるたび、毎回引き込まれてしまいます。
少しずつ進み始めたそれぞれのカタチをドキドキしつつ見守ります。
- 427 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:29
- 「れいなごめんね。」
田中の家にやってきた道重は不機嫌そうな顔を見せる田中にまずは謝った。
「もぉ、さゆはいっつもそうやけん、慣れたと。」
田中はそう言って笑うと道重の頬をペシペシと叩く。
「辻先輩のためっちゃろ?今回は協力しちゃるけん。」
「ありがとぉ。れいな大好き。」
ぎゅっと田中を抱きしめる道重。
身体の小さい田中は道重の胸に顔を押しつぶされ苦しがった。
放せと道重の背中をたたく田中。
「ごめん、れいな大丈夫?」
体を放し心配そうに胸を押さえながら深呼吸をする田中を覗き込む道重。
「苦しいっちゃもぉ。行くっちゃよ。」
田中は防具を手に持つと竹刀袋を道重に渡し家を出た。
その後を嬉しそうに着いていく道重。
「れいなが小さいんだよ。」
「そげんことなか。辻先輩のがちっこいっちゃろうが。」
「いいのぉ。辻先輩が大きかったら可愛くないもん。」
「なんそれ。」
田中は呆れた顔をしながら辻について語る道重の手を引いて学校に向かった。
- 428 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:30
- 道場に入ると辻がひとり道場の雑巾がけをしていた。
田中は関心しながら見ていると道重が駆け出して行く。
「おはようございます。手伝います。」
「もう、終わったよぉ。」
立ち上がりにこりと微笑むと辻は道重に抱きついた。
「重さんありがとぉ。のんちょー嬉しい。」
「さゆは約束まもりますもん。」
道重も嬉しそうに辻を抱きしめた。
「はぁ・・・。」
お似合いと言えばかなりお似合いなのかもしれない。
ある意味二人の世界ができてる。田中はため息をつきながら更衣室に向かった。
道着に着替えていると辻と道重が入ってくる。田中はなんとなく前を慌てて隠した。
道重や亀井に見られるのはなんとも思わないが辻はなんとなく意識してしまう。
「ヤンキーれいなものんと同じだね。」
笑いながらブラウスを脱ぎ始める辻。
道重は首をかしげながら辻に胴着を渡してやる。
田中も何が同じなのだと訝しげに辻を見た。
「なん?同じって。」
「ぺちゃぱいだよね。のんたち。」
道着を羽織、ブラを外してニコッと笑う辻。
その横にで道重は可愛いと悶えている。
田中は苦笑しながら何が可愛いんだと道重を見ながら道着の紐を結び、袴を穿いた。
「重さんはおっきいよね。」
「そんなことないですぅ。きゃっ。」
辻は道重の乳房を鷲?みにすると道重が真っ赤になって後ろにのけぞった。
「やっぱり大きいじゃん。いいなぁ。のん全然大きくならないんだよね。」
辻は道着の前を開いて道重に見せる。
道重は顔を真っ赤にして視線をそらしながら辻の道着の紐を結んでやった。
「辻先輩、袴、穿きましょっ。」
真っ赤の顔のまま辻に袴を渡す道重。
なんでもないといった感じで辻はスカートを脱いで袴を穿いた。
田中は二人を見ながら自分には理解できないといった表情で静かに更衣室を出た。
「よし、出来た。」
辻が袴の紐を締め終えるまで道重は母親が子供を見守るように見ている。
「のん、上段の人とやるの初めてなんだ。チョー楽しみ。」
ワクワクとしながら更衣室から出て防具をつける田中のもとに行く辻。
道重は試合の準備をしにいった。
- 429 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:30
- 藤本と石川は10時前に道場にやってきた。
防具をつけて準備体操をしている辻と田中に「おはよ。」と声をかける藤本。
「美貴ちゃんおはよー。」
藤本に駆け寄る辻。
「おはようございます。」
田中は藤本と後ろにいる視線を向け頭を下げた。
辻の頭を手で掴み、田中に視線をむける藤本。
「辻と試合する気になったんだ。」
「さゆに無理やり連れて来られたんですけどね。」
田中はぎこちなく笑ってみせる。
「美貴ちゃんもしようよ。」
藤本に頭を掴まれている辻は必死にその手をどけようとしながら言う。
藤本はその辻の様子を見て笑いながらもう片方の手で辻の両頬を掴んだ。
「美貴はあまり早起きじゃなんだよ。朝早くにわけのわからん電話してくるな。」
「いらい、いらぁいっ。」
藤本はそういうと手を離し辻を開放した。
「ねぇねぇ美貴ちゃんもやろう。」
全く、人の話を聞いていない辻を藤本は呆れて笑った。
「今日は辞めとく。」
夕べ帰ってこなかった母親が心配だからなるべく早く帰らなければならない。
「いいじゃない、私も久々に美貴ちゃんの剣道みたい。」
石川が言うと藤本は余計なことを言うなという視線を向けた。
「キーキー声の人だれ?」
辻が石川を見ながら藤本のスカートを引っ張る。
藤本は笑いながらショックを受けている石川に視線を向けた。
「美貴の幼馴染。石川梨華さん。」
辻が石川に歩み寄ると石川は膝を曲げて辻と視線を合わせた。
「石川です。辻さんよろしくね。」
「なんで、そんなにキーキー声になったの?」
石川は苦笑しながら辻の頭を撫でた。
ビデオカメラと試合に使うストップウォッチをもって戻って来た道重は二人のやり取りを見て辻を石川から奪い辻の頭を撫でる。
「なったんじゃなくて、もとからなの・・・。」
「そうなんだ。」
悲しそうな顔をする辻と道重を見て石川は自分の声は可哀相なのだろうかと悩む。
そんな様子を藤本と田中は苦笑いしてみていた。
- 430 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:31
- 程なくしてバイクの音が聞こえ石川は藤本に視線を向けた。
「あ、絵里と吉澤さんだ。来てくれたんだぁ。」
道場に手を繋いで入ってきた吉澤と亀井に手を振る道重。
「吉澤さんも重さん呼んだの?」
辻が嬉しそうに道重を見上げる。
「絵里ですよ。」
「なんでなんで?」
「絵里の恋人だから吉澤さん。」
道重が目を細め羨ましそうに二人を見た。辻は道重の手を握った。
「これで、同じだよ?」
吉澤と亀井の手を指差し笑う辻に道重は嬉しそうに頷いた。
亀井は道重と辻が楽しそうにしているのを見てなんだかお似合いだと微笑んだ。
その横で吉澤は亀井を見て微笑むその姿を藤本は無表情に見ていた。
きっと吉澤からは自分に声をかけないだろう。
小さい頃からそうだった、吉澤はいつも4人の中で穏やかにその場にいて吉澤からどこかにいくことはしないのだ、やってくる自分たちを優しく微笑んで待っていてくれる子だった。
「よっちゃんも来たんだ。」
藤本は吉澤に声をかけると微笑んだ。
「うん。美貴も?」
微笑んむ吉澤に藤本の隣にいた石川も微笑む。
「辻に呼ばれたの。」
「そっか。」
2日ぶりに会うのにそれ以上に会っていなかったように感じる吉澤。
心配そうに自分を見ている亀井に笑みを向けると吉澤は藤本たちのもとに向かった。
藤本の横で困ったような顔をして自分を見ている田中に視線を向けると「おはよ。がんばってね。」と声をかけた。
「れいな、おはよ。」
微笑む亀井に田中も「おはよ。」と返し。素振りを始めた。
辻も慌てて田中の隣で素振りを始めた。
- 431 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:31
- 吉澤たちは素振りをする二人を観察した。
「あ、藤本先生と吉澤さん、審判してもらっていいですか?」
いいよと答える前に審判旗を二人に渡す道重に藤本はある意味この子も辻とにているなと苦笑する。
「はいはい、じゃ、二人とも面付けてください。」
道重が二人に声をかけると二人同時に面を持って神前に向き合い正座をする。
それぞれが手を組んで目を閉じる瞑想にはいる。
同時に目を開けると神前に頭を下げ向かい合い頭を下げあうと面をつけ始める。
それを見た吉澤と藤本は靴下を脱いでコートに入った。
「よっちゃん、主審お願い。」
「うん。」
吉澤が上手に上がり主審の位置につくその向かいに藤本がたった。
巻かれていた旗を広げて待つ。
「私、時計やるね。」
ビデオの準備をしている道重の隣に座りそういう石川。
「はい、審判がやめって言ったら止めてください。再会したらまた計り始めてくださいね。」
説明する道重の話しを笑顔で聞き終えた石川。
「私、中学から高校まで剣道部のマネージャーしてたの。」
「えっそうなんですか。先に言ってくださいよ。」
先輩ぶってしまったことをてれる道重に石川は微笑んだ。
「さゆ、辻先輩の試合見てなよ。絵里ビデオやってあげるから。」
「やった、ありがと。」
道重はコートの端に座るとコート際で面をつけ終えピョンピョンと跳躍する辻に視線を向けた。
- 432 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:32
- 「前へ。」
吉澤の声でコートに一歩踏み入れ試合が始まった。
道重の辻を応援する声を聞きながら田中は寂しさを感じた。
辻の動きは藤本よりも早い。
田中の喉元にしっかりと付けられた剣先は田中が動いても外れることはなく、隙が出来ない。
田中は辻の一足一刀の間合いは近間だろうと考え遠間からフェイントをかけるが辻は反応すらせず自分の間合いを取りに来る。
間合いに入れば打ち合いになり、離れれば攻め合いになる。
田中は辻のスピードについてくのが精一杯に見える。
「時間です。」
石川の声に吉澤は両方の旗をあげた。
「やめっ。」
開始線に戻る二人。吉澤は辻のもとに歩み寄る。
「どうする?延長する?」
面を横に動かす辻。
このまま続けても勝負はなかなかつかないだろうと吉澤は思った。
辻に笑顔を向けると元の位置に戻り旗を交差させる。
「引き分け。」
田中は面を取ると辻に向かって頭を下げた。
隙が全くなかった辻。どちらかの集中力、体力が切れない限り決着できなかっただろう。
引き分けだったが、田中は辻との立会いに満足感を得ていた。
剣道の話なら会うかもしれないと少し辻の印象が変わった。
「辻先輩。はい、お茶です。」
道重は面を取った辻に冷たいお茶を持って駆け寄る。
「ヤンキーれいな強いねぇ。凄い楽しかった。」
満足そうにお茶を飲む辻に道重も嬉しそうに微笑んだ。
辻はお茶のカップを道重に返すと藤本のもとへ駆け寄った。
「美貴ちゃんのん、どうだった?」
藤本は審判旗をクルクルと巻いて辻についてきた道重に渡す。
「んっ。凄いよかった。引き技とかもう少し勉強すると打つ機会も増えるかな。」
辻はゼッケンからノートを取り出しメモをする。
「辻・・・あまり重いものはそこに入れないでね。危ないから。」
「うん。美貴ちゃんありがと。これあげるね。」
再びゼッケンの中に手を突っ込み取り出した飴を藤本に渡すと田中のもとにかけていく辻。
藤本は掌に乗った飴を見て苦笑している道重に渡す。
「今度、あの中身全部出しておきなね・・・。お守りくらいにしとけって。」
「はい。」
吉澤から受け取った審判旗を亀井が道重に持ってくる。
「来週から合宿だからこれから辻先輩と買い物行こうっかな。」
道重は嬉しそうに更衣室に駆けていく。
- 433 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:32
- 「道重は辻に惚れたのかぁ?」
道重を目で追う藤本に亀井は頷いた。
「みたいですね。可愛いんですって。」
自分もそうやって直ぐに誰かに惹かれることがあれば良いのにと藤本は思いながら石川と吉澤に歩み寄った。
亀井は3人を横目に見ながらビデオを片しだす。
「梨華ちゃん、帰ろうか。」
「あ、うん。」
吉澤は藤本の顔色が良くないなと藤本に視線をむけた。
藤本の家のことを石川に聞いたが、大丈夫みたいだと言われたが藤本の顔を見る限りなにか心配事がある気がしてならない。
「じゃ、美貴たちそろそろ帰るね。」
藤本の言葉に石川も頷く。
手を振り帰っていく藤本と石川。
「バイバイ。」
吉澤は手を振って二人を見送る。
「藤本先生も普通でしたね。よかった。」
吉澤のもとにやってきた亀井が微笑んだ。
「うん。」
幼馴染で居られるのだと吉澤も微笑むが藤本の疲れた顔色が気になってしい吉澤は表情を曇らせた。
- 434 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:32
-
*****************************
- 435 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:33
- ヘトヘトになって家に帰ってきた吉澤。
藤本と石川が帰ったあと、5人でお昼をしに行くことになった。
辻と道重のテンションに何故か亀井まで加わり吉澤と田中は店内でかなり恥ずかしい思いをしながら食事をした。辻の食べる量が半端なく、奢ることになった吉澤の財布の中身がすっからかんになりその場で解散すると。
駅に置いていったバイクに亀井を乗せて家まで送ってやっと帰ってきたのだ。
ソファに座ると目を閉じてしばらく寛ぐ吉澤。
楽しいし飽きないが、辻と道重のテンションについていけない自分は歳なのだろうかと思ってしまう。
藤本の部屋が気になり、カーテンを開けるが藤本が部屋にいる気配はなかった。
いつも家に居るときは部屋に居ることが多かったはずの藤本。
石川とでかけたてまだ帰っていないのだろう。
何か悩んでいることがあるのなら力になりたい。そう思うことくらい良いだろう。
- 436 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:33
- 石川と昼食を外で済ませて帰ってきたが、母親はまだ帰っていないようだった。
警察に届けたほうが良いのだろうか。藤本は心配しながらリビングで1人待つ。
先ほどから父親に電話をかけているが着信を拒否されているようだ。
一体なにをしてるんだと苛立ちが募る。
家の中で1人になってみて家族のありがたみを知ることになった藤本。
家族団欒した頃を懐かしく思う。
吉澤と居られればそれで良いと思ったがそれも出来なくなって自分は1人になってしまうのかという心細さと怖さ。
藤本はソファの上で膝を抱えて丸くなり膝に顔を埋めた。
やっぱり涙は出てこなかった。
いつの間にか眠ってしまった藤本は携帯の音で目を覚ました。
無意識にテーブルに手を伸ばし携帯を耳に当てた。
「お母さん?」
母親からだと思い込んでいた藤本はそう呟く。
『うち・・・だけど。』
「よっちゃん、どうしたの?」
母親ではない落胆と吉澤の声に安心する藤本。
『美貴、お母さんって?どうかした?』
「あ、うん。出かけて行ったからお母さんかと思っただけ。そっちは?」
『家、行ってもいい?』
「いいけど、どうした?」
『じゃ、今行く。』
電話が切られると直ぐになるインターホン。
藤本は玄関に向かうとドアを開けた。
「何かあったの?」
不安そうな顔で立っている吉澤に上がるように促しながら尋ねる藤本。
藤本の電話の声がおかしかい気がして心配になって来た吉澤は笑顔を向ける藤本に戸惑いながらリビングに通される。
いつも、直接、藤本の部屋に通されていた吉澤はなんとなく落ち着かずにお茶を用意する藤本の背中を見ていた。
「お母さん、買い物?」
「うん、そうみたい。」
アイスコーヒーを出しながら藤本は床に座った。
「で?よっちゃんはどうした?」
「いや・・・なんか美貴、悩んでるようにみえたから。」
真っ直ぐと藤本を見つめる吉澤。
藤本は直ぐに目をそらし、藤本の行動に吉澤は悲しい目で藤本の横顔を見た。
悩んでいることを悟られないために目をそらしたのか、それとももう自分に心配されることを拒否したのか吉澤には分からなかった。
「何も悩んでないよ。試験勉強も順調だし、得に悩む要素がないもん。」
「そっか・・・。」
吉澤はコーヒーを口にした。
藤本は膝の上に顎を乗せて俯いた。
- 437 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:33
- 今は優しくはしないで欲しい。甘えてしまうだけじゃ済みそうにないから。
大丈夫、自分は1人でも大丈夫だ。藤本は自分に言い聞かせていた。
「今日の、辻と田中の試合よかったね。」
藤本はいきなり話題を変えた。
「そうだね、うちらあの歳のときもっと弱かったよね。」
「いやそうでもなくない?」
「えぇうち、高1のとき、あんなフェイントのからの仕掛け早く出来なかったと思う。」
「そう?でも田中はよっちゃんから真似してるところ多いからね。」
「いやいや、真似されてもうちより動き速いもん。」
「それは身長でカバーできるし。」
「ぇえでも美貴だってさ、確実に辻さんより動き遅いよ。」
「はぁ、辻より美貴の方が持ってる技は多いし。」
「や、でも辻さんはまだこれから伸びる可能性高いね技覚えれば。」
夢中で剣道の話をしていたことに、藤本はいきなり笑い出す。
吉澤もこの状況に笑い出した。
「久しぶりに、昔のビデオ見ながら剣道談義でもしますかっ。」
藤本の言葉に頷く吉澤。
「ビデオとって来る。」と藤本は自分の部屋に向かった。
1人ソファに座って待つ吉澤の気分は晴れていた。
剣道が自分と藤本を幼馴染として繋いでくれていることやこうして夢中になることで藤本が一時でも悩みから開放されてくれれば良い。
「おまたせぇ。」
藤本は楽しそうにビデオをセットする。
「あれ、これ、高3のインターハイ?」
「そう、高校最後の試合。」
先鋒だった藤本と大将だった吉澤。
整列して挨拶するところから流れ始める。
二人は懐かしそうに見ながら、ここが悪かっただの、これはいいだの、試合を撮影する石川の声が高いと笑いながら、技の出し方や攻め方の言い合い始めた。
準々決勝辺りになるとうとうとしだす吉澤。準決勝が始まる頃には眠りに付いていた。
藤本はボリュームを下げ最後の吉澤の試合を見る。
- 438 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:33
- 最後の試合、準決勝。
先鋒の藤本が1本取られて2本勝ち、次鋒が1本負け、中堅が2本負け、副将が引き分け、この時点で大将の吉澤が2本勝ちしたとしても本数で負けが決まっている試合だった。
それでも、2本きっちりとって勝ってきた吉澤。藤本が1本も取られずに勝っていれば代表戦になった、藤本はあの日、自分を責めたなと思い出した。
誰のせいにもしないで大将としての役目を果たした吉澤。
いつも、先鋒か次鋒だった藤本は結果が決まった試合をしたことがなかった。
自分より勝つことにこだわる吉澤は一体どんな気持ちで試合をしていたのか自分には分からない。団体戦と言っても他のスポーツとは違って剣道の場合、個人戦と同じだ、コートに入ったら誰かが助けてくれるわけではない、ただ自分の役割をしっかりと果たし次に選手に繋げるしかないのだ。藤本は吉澤まで勝って繋げることをいつも考えていた。自分が勝てば、吉澤への負担は減る、吉澤まで繋げれば吉澤は絶対に勝ってくれるそう信じていた。それを裏切られたことは1度だってなかった。あの日、吉澤はどんな気持ちで戦っていたのだろう。
ビデオが終わり藤本は眠る吉澤の寝顔を愛しそうに見た。
吉澤が来るまで孤独感と不安で一杯だったがそんな気持ちはもうなかった。
気持ち良さそうに眠る吉澤に藤本はタオルケットを掛けてやりソファの前に座る。
目の前に眠る吉澤は無防備で幼い頃と何も変わらない。
自分のこれからしようとしていることは自分だけの罪だ、眠っている吉澤には何の罪もない、藤本はそう心の中で呟き藤本は吉澤の唇にそっと自分のそれを重ねた。
「ごめんね、よっちゃん。」
藤本はそう囁き立ち上がると電気を消してシャワーを浴びてから自分の部屋で寝むりについた。
- 439 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:34
-
*****************************
- 440 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:34
- 藤本が朝食の支度をする気配で目が覚めた吉澤。
自分が寝てしまったと気が付くと吉澤は時計に目をやる。
まだ、7時だったことに安心すると体を起こした。
「あ、おはよ。」
「おはよ、寝ちゃったんだ。」
「うん。美貴には運べないからそのままでごめんね。体痛くない?」
「うん。」
吉澤は伸びをしながら立ち上がる。
「美貴のお母さん帰ってこなかったの?」
「うん、不良母だよね。全く。」
笑う藤本だが、吉澤には不安と心配が入り混じって見えた。
「食べてく?それとも亀井くる?」
「いや、頂こうかな。」
「ん。」
心配そうに見る吉澤に藤本は視線を合わせずに吉澤にコーヒーを入れてた。
「どうぞ。」
「ありがと。」
無言の食事。
藤本が先ほどから目を合わせないことが気になる吉澤だが何も言えずにいた。
「あのさ・・・」
「ん?」
食べ終えた食器を片し母親の朝食にラップを掛ける藤本。
吉澤の声にやはり目を合わさない。
- 441 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:35
- 「美貴のお父さんも帰ってきてないの?」
「うん、仕事忙しいみたいだよ。こないだ会ったときもそう言ってたし。」
「そっか・・・。」
心配そうに見つめる吉澤の視線を感じながら藤本はなんでもない顔をする。
自分の食事が済むと残ったおかずにラップを掛け冷蔵庫にしまいにいく。
「美貴、大丈夫?」
藤本は冷蔵庫を閉めると大げさにため息をついて吉澤を見た。
「大丈夫だってば。美貴、大学あるから。」
吉澤には藤本が大丈夫そうには見えなかった。
無言で立ち上がる歩み寄る吉澤を藤本は不思議そうに眺める。
吉澤は優しい顔で藤本の前にくると藤本を引き寄せて自分の腕の中に閉じ込めた。
一瞬、目を閉じて吉澤の温もりを感じる藤本。だが、直ぐに吉澤の体を押し返し逃れた。
「やめて・・・そういうの。」
悲しそうに見詰め合う二人。
「諦められなくなるから。」
藤本はそう呟くと吉澤に背を向けた。
「それ・・・どういう意味?美貴が言ったんだよ、幼馴染でいようって。」
「分かってる、だから、抱きしめたりしないで。」
自分から抱きつくのはいい。でもされるのは耐えられない。
吉澤は亀井が好きなんだと思いたい。
藤本は自分の体を抱きしめ背を向けたまま呟いた。
「我侭だから・・・美貴。」
「美貴の心配もしちゃ駄目なの?元気付けてあげるものダメ?」
藤本は深呼吸してから振り返り微笑んだ。
- 442 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:36
- 「そんなこと無い。ありがと。ここに来てくれただけで十分、元気でたし、安心も出来た。」
悲しそうに見つめてくる吉澤から藤本は視線を逸らし時計に目を向ける。
「そろそろ、帰って・・・。」
「でも・・・。」
藤本との距離を一歩縮める吉澤に藤本は避けるように退いた。
顔を歪めて絶望したように立ち尽くす吉澤。
「ごめん・・・帰って。」
藤本がそういうと吉澤は頷いて帰っていく。
藤本は切なそうにその後姿を見ていた。
玄関が閉まる音が聞こえると藤本はその場に座り込んだ。
「美貴、最悪・・・。」
藤本はひとりキッチンで笑った。
抱きしめて欲しい、側にいて欲しいと思う心と脳から発せられる言葉の矛盾。
石川や後藤はどうして整理がついたのだ。
頭の中で整理ができても心は出来そうにない。
弱っている今、吉澤に優しくされたら止められなくなる気がした。
- 443 名前:P&Q 投稿日:2006/06/10(土) 01:36
- 吉澤は家に帰るとそのままシャワーを浴びた。
熱めのお湯を頭から浴びながら吉澤は涙を流した。
藤本に拒否されたことが吉澤の胸を締め付ける。
藤本の言うとおりにしたのに、幼馴染で居ようと言われたからそうしたのに。
どうしてこんな風になってしまうんだ。
亀井と付き合ったのが悪かったのだろうか。
それならどうして試合を放棄したのだ。
- 444 名前:clover 投稿日:2006/06/10(土) 01:48
- 本日の更新以上です。
>>427-443 A PENTAGON and A QUADRANGLE
>>421 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>6期3人は大体かたがついたみたいですね。
んー。そうですねぇwでもぉ・・・
>よっちゃんと美貴ちゃんがこれからどうなるか見守っていきたいです。
はい、やっとみきよしがちょっと出てきましたw
最後まで宜しくお願いします。
>>422 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>久しぶりに引き込まれる作品に出会えました。
有り難うございます。えぇ、文才がないのと、変換ミス等が多いですけど(苦笑)
修正しろよって話ですが(;^。^A アセアセ・・
>よっちゃんの頑張りに期待します。
はいw最後までよろしくです。
>>423 :亀かめカメ 様
レス有り難うございます。
>これからの話も楽しみにしとります
はい、ありがとうです。
最後までお付き合いください。
>424 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>流されちゃうんだよぉぉぉぉ。・゜(ノд\)゜・。
そうなんですよねぇ。
弱ってるときとか特に・・・
最後までお付き合いください。
>>425 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>頑張れー
最後までよろしくでーす。
>>426 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
>読み進めるたび、毎回引き込まれてしまいます。
有り難うございます。(〃^ー^〃) テレテレ
最後までよろしくです。
- 445 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 20:22
- ヤバイ。
なんか泣けてきた。
みんな素直になろうよ。
- 446 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 20:24
- 更新お疲れ様です。
やっとみきよしキタ━━!!でも・・・つらいですね
続きまってます。
- 447 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 15:01
- (ノ△T)
- 448 名前:ももんが 投稿日:2006/06/11(日) 19:54
- 6期3人もまだこれから何かあるんですねえ…。
さゆはやっぱりかわいい♪
みきよし切なすぎます。パソコンの前でヤキモキしてます。
- 449 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:54
- 朝から頭痛がして、市販の痛み止めを飲んだが昼を過ぎても痛みがとれず藤本は病院に向かった。
内科で受付を済ませて診察の順番を待っている間ですら頭痛が引かず俯いて自分の名前が呼ばれるのをじっと待っていた。
藤本の名前が呼ばれ診察室に入り医師に状況を説明する。
診察してもらい医師の診断は神経性のもだろう、外傷はなさそうだし中で血管がきれている症状もない。
藤本は3日分の痛み止めを処方され会計待ちをしていた。
カルテを抱えた石川が藤本に気がつき小走りに駆け寄る。
「美貴ちゃんどうかしたの?」
「頭痛かったんだってか・・・。」
石川の高い声が頭に響き藤本は顔をゆがめた。
「梨華ちゃんの声が響いていたい・・・。」
「ごめーん。」
石川は小声でなるべくトーンを下げるように気にした。
「で、大丈夫だったの?」
「うん、薬だけもらった。直ぐ治るだろうって。」
「よかった。」
「石川さん、直ぐ来てっ。」
駆け寄ってきた看護士が険しい表情で言うと石川は「はい。」と駆け出していった。
患者の様態が急変したのだろうか、大変だなと思いながら藤本はこめかみを押さえた。
- 450 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:54
- 会計を済ませ院外薬局で薬を受け取り帰ろうとする裏口に回ると石川と先ほど呼びに来た看護士が遠くを見ていた。二人の視線の先から聞こえてくる救急車のサイレン。
医師らしき白衣を着た男性も掛け出てきた。
藤本はサイレンの音に頭痛が増し奥歯をかみ締めて耳を塞いだ。
救急車が入口の横に止まると救急隊員たちが後ろのドアを開けストレッチャーを降ろす。
「ガキさんっ。」
そう声を掛けて駆け寄り横たわっている少女に声を掛け続ける石川。
その顔は泣いているようにも見えた。
「ガキさん、目、開けて。お願いだからっ。開けてよっ。ガキさん。」
石川は患者に呼びかけるというより叫んでいるように藤本には見えた。
入院していた患者なのだろうか、藤本は様子を見ていた。
叫び続ける石川が叫ぶことを辞めたのはもう1人の看護士にビンタされてだった。
「落ち着きなさい。」
そう一言、言うとその看護士は管を付け替えたり隊員と母親らしき人に何か尋ねたりしている。医師も同じように少女の状況を確認していた。
「石川さん手、貸して。」
看護士に言われ泣きながら呆然としていた石川は慌ててストレッチャーを運ぶ医師と看護士に加わり院内へ入っていった。
心配した藤本だったが、それよりも頭痛の方が酷くタクシーを拾うと自宅へ向かった。
救急処置室に新垣を連れて入ってきた石川は何をしたらいいのか分からず、出てくる涙を必死に拭いていた。
目の前には意識のない新垣がいる。
人工呼吸器を付けられている新垣がいる。
それでも、何をしたら良いのか石川は戸惑っていた。
- 451 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:54
-
*****************************
- 452 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:55
- LOSEに吉澤が顔を出すと既に田中がバイトに来ていた。
吉澤はカウンターに座っている亀井に気がつき微笑む。
「絵里、来てたんだ。」
「はい。」
亀井が微笑むと吉澤は更衣室に入っていった。
最近、吉澤が悲しそうにしていたり、寂しそうな顔をすることが多いことを亀井は気にしていた。笑顔を作り笑顔。自分が笑いかけないと吉澤から笑うことはない。
中澤はタバコを吸いながら3人の様子をながめている。
吉澤が来る前に亀井と田中がコソコソ話していた内容をきにしながら。
「田中ちゃん、お昼はいったの?」
「はい。」
着替えて戻って来た吉澤に田中は笑顔を向ける。
吉澤はよそよそしく「そう。」と微笑みながら亀井に視線をむけた。
「あの、絵里とれいなで話してたんですけど。」
「ん?」
亀井が嬉しそうに吉澤を見て話し出す。
「バーベーキューしませんか?ここの町内の花火大会の日。」
「バーベーキュー?」
「そう、土手で。昼間にバーベーキューしてその後、花火見るの。」
「いいけど、二人でバーベキュー?」
亀井が田中に視線を向けると田中は悪戯っぽく微笑んだ。
「れなとさゆも行くっちゃ。」
「吉澤さんも藤本先生たち誘ってくださいね。」
「さゆは辻先輩も誘うっていってたけん。」
「そういうことなんで。」
微笑む亀井と田中に吉澤は戸惑いながら頷く。
「裕ちゃんは誘ってくれへんのか?」
会話に参加してきた中澤に田中が慌てて笑う。
「今、今、誘おうと思ってたとぉ。中澤さんも行きましょう。」
「そうそう、保田先生も誘いますから。」
田中と亀井が慌てて言うと中澤は嬉しそうに笑った。
- 453 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:55
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- 454 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:55
- 一命を取り留めた新垣が個室に移された。
石川は眠っている新垣の顔を見つめる。
「なんで、ダンスとかしたのよ。」
眠っている新垣に石川は呟く。
「ダンスやりたいなんて聞いたことないよ。」
ドアが開く音がすると小川が入ってきた。
「あ・・・いいですか?」
オドオドしながら尋ねる小川に石川は「どうぞ。」と笑みを浮かべる。
頭を下げながら新垣の枕元にぬいぐるみを置く小川。
いつも新垣が持っていたぬいぐるみだ。
「新垣さんと帰ったんじゃないの?」
荷物を取りに帰ると言った新垣の母親と一緒に帰っていった小川。
「ガキさんこれないと落ち着かないの思い出して、家ここから近いからおばさんより先にもってこれるかなって・・・」
小川は寂しそうに新垣の髪を撫でた。
「凄いんですよ、ガキさん。ステップとか全部覚えてて・・・いつも見てたから覚えてたのかな・・・ずっとやりたかったんですきっと・・・いつも踊って見せてって、それでいつも凄い凄い、カッコイイって喜んでくれて・・・。見るのが好きなのかなって思ってたけど・・・踊りたかったんですよね・・・初めてあんなに嬉しそうな顔見た。ビデオ・・・ガキさんビデオ撮ろうって言って撮ったんです・・・お母さんにも見せてあげたいって・・・こうなるの分かっててガキさん・・・」
小川の瞳からポツポツと落ちる涙。
「ダメだよって止めたんです・・・けど、今しか出来ないから、後悔とかしたくないからって、それで自分がもしも死んでも、やらないよりそのが良いんだって、ガキさん笑って言うんです。だから、それ以上、止めれなかった。凄いですよね・・・強いっていうか、ガキさんいつも私のこと、やりがいのあること見つけて夢を追いかけてカッコいいって言ってくれてたけど、私よりもガキさんの方が凄い格好良いって思ってたりするんです。きっとガキさんだから、神様はこの病気を与えたんだって。」
石川は小川の言葉を聴きながらそうかも知れないと眠る新垣に視線を向けた。
- 455 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:56
- 「後で、私にもそのビデオみせてね?」
「あ・・・今、あります。」
小川は涙を拭いながら笑顔で持ってきていたビデオテープを差し出す。
「ガキさんが目覚ましたら、直ぐに見せてあげられますか?」
「うん。」
石川は微笑んで頷くとそっと病室を出てトイレに向かい個室に入ると声を殺して泣いた。
- 456 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:56
- 藤本はソファに横になり眠っていた。
薬のおかげだろうか、何も考えずに眠れた。
携帯の着信音が鳴り響き藤本は目を閉じたまま無意識に携帯に手を伸ばし耳に当てる。
「はい・・・。」
『後藤だけど、ミキティ今どこ?』
「家。」
『あれ、具合悪い?声がだるそう。』
「大丈夫。寝てた。」
『そう?家いっても良い?』
「うん。今、開ける。」
藤本は携帯を切ると起き上がり、こめかみに手をあてた。
完全に痛みが引いたわけではなかったのだ。
玄関の鍵を開けドアを開けると後藤が笑顔で立っていた。
「ケーキ買ってきた。コーヒー入れてね。」
「おう。」
二階に上がろうとする後藤の手を掴んでリビングを指差した。
「そっち、誰も居ないから大丈夫。」
「ん。」
後藤と二人でリビングに入ると藤本はお湯を沸かしコーヒーを入れ氷を入れてアイスコーヒーを作る。
後藤はテーブルにケーキを広げ嬉しそうに微笑んだ。
「ミキティ、テレビか新聞見てくれた?」
「ん?」
コーヒーを差し出しながら藤本は首をかしげた。
「だよね見てたら最初にいってくれるもん。」
「なにを?」
「おめでとうとかよかったねとかすごいねとか。」
「なんかあった?ごめん。」
藤本は疲れた顔で申し訳なさそうに謝る。
「いいのいいの。」
後藤は微笑みながらケーキを頬張った。
- 457 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:56
- 「で、なにがあったの?」
テレビや新聞で取り上げられるくらい凄いことなのだろうと藤本は嬉しそうに尋ねると後藤は嬉しそうに笑った。
「映画、超大作映画の主演に大抜擢されました。」
「おぉ、凄いじゃん。」
「豪華キャストだよ、大物ばかりが後藤をサポートしてくれるの。頑張らないと。」
「そっかそっか、凄い、頑張ってね。」
「頑張るよ。よしことは会った?」
「うん。会ったよ。」
「どう?」
不安げに言う後藤に藤本は微笑む。
「大丈夫だよ。」
「そっか、よかった。よしこって何気に一番弱いじゃん。」
「ん?」
「精神的にっていうか、子供の頃からさよしこっていつも傍観者って感じしてなかった?」
「輪の外にいたね。」
「そう、で後藤たちがさその輪の中にいるのが疲れてくると、よしこのところに行ってほっとするみたいな。」
幼い頃を思い出しているのだろう懐かしそうな顔をする後藤に藤本は目を細めた。
「臆病ものだったよね、よしこって。」
「そうかもね。」
疲れて顔で笑う藤本に気がついた後藤は心配そうな顔をした。
「ミキティ、顔色悪い。」
「大丈夫。ちょっと頭痛くてさ。」
「大丈夫?」
「うん、病院行って薬もらったから。」
心配そうに見る後藤に藤本は微笑んだ。
「ごっちんさ・・・」
「ん?」
「後悔とか、怖さとかないの?」
「告白したこと?」
「うん・・・。」
聞いた藤本は悲しそうな顔をして後藤を見た。
- 458 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:57
- 「なんで、ミキティがそんなの聞くの?」
「えっ?」
「梨華ちゃんが聞くなら分かるよ。よしこのこと好きなんだし。」
後藤は藤本をじっと見た。
「そーだよね・・・なんとなく、どんなの気持ちなのかなって知りたくてさ。」
そう言ってケーキを口に頬張る藤本。
「後悔とかないよすっきりした。もしろん悲しいとかあったよ。でも今は仕事に気持ち向けようって思えたし。もっと早く行動してれば、なんか違ったのかなとか思うけどね。」
「そっか。」
微笑む後藤に藤本は複雑な顔をした。
あの時、自分たちが石川と後藤の話を聞かなければ、あの時、子供じみた約束をしなければ、そんな後悔が藤本に浮かぶ。
「よしこの次に臆病なのってミキティだよね?」
後藤は笑いながらケーキを頬張った。
「美貴?梨華ちゃんかごっちんでしょ。」
「違うな。梨華ちゃんは顔にでるから後藤は言葉に出しちゃうタイプ。ミキティは平気な顔して隠すタイプ。」
後藤は「でしょ?」と藤本を見た。
「美貴、平気な顔とかしてる?」
笑って頷く後藤に藤本は胴だろうと首をかしげた。
「梨華ちゃんに聞いてみな。」
「あ、そういえば今日、梨華ちゃんさ・・・。」
藤本が病院で見たことを話すと後藤は顔色を変えた。
「新垣さんかな・・・。」
「知ってるの?」
「入院してるときにちょっと話したんだ。梨華ちゃんのこと慕ってた子。」
「そっか・・・。」
「大丈夫かな・・・梨華ちゃん。」
後藤は心配そうに俯く。
病院で仕事をしていれば元気になっていく人ばかりではないだろうと藤本は思う。
後藤の携帯が鳴り後藤が耳に当てる。
「はぁい。隣の隣の家にいるんだ。うん、今行く。」
「仕事?」
「うん、雑誌の取材とコメント取り何件か残ってて。」
残っていたケーキを急いで口に入れるとモグモグとさせたまま立ち上がる。
藤本は元気になってよかったと嬉しそうに後藤を見た。
コーヒーでケーキを流し込んだ後藤は胸をたたきながら足踏みをする。
「んじゃ、行くね。」
「うん。」
藤本は玄関まで後藤を見送った。
夜にでも石川の様子を見ながらケーキを持っていこうと冷蔵庫にケーキをしまった。
- 459 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:57
-
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- 460 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:57
- パジャマ姿で田中の家に集合した亀井と田中。
田中と亀井から吉澤と亀井のことについて聞かされた道重。
「面倒くさいね、好きなら好きでいいのに。」
呟く道重に田中と亀井は苦笑した。
「で?バーベーキューしてどうするの?」
「どうもしないっちゃ。」
道重は首をかしげた。
「吉澤さんたちの中にさ、絵里が入っちゃったからおかしくしちゃったじゃない。」
亀井の言葉に頷く道重。
「完璧に元に戻すのは無理だけど、もっと良い四角形に出来ないかな?」
道重は首をかしげた。
「四角形って、吉澤さんと藤本先生と石川さんと後藤さんだよね。」
「うん。なんだろう、吉澤さんの抑えてる気持ちをさ爆発させれたらな、みたいな?絵里がいるからあんまり4人で居なくなってるじゃん。だから4人でさ、絵里たちもいるけどね。集まる機会みたいなの出来たらって思って、別にバーベキューじゃなくても良いんだけどね。」
「面白そうだね。」
微笑む道重の頭を軽く叩く田中。
「面白がることじゃないっちゃ。」
「ごめーん。」
「吉澤さんから自分の本当の気持ち引き出して言葉にさせれればいいっちゃ。」
「そう。藤本先生もだけどね。」
亀井と田中が頷いて微笑む。
「あの二人がいけないのか、あと、絵里も。」
苦笑しながらいう道重に亀井は笑って見せた。
「あの人たちも色々考えはしったっちゃよきっと・・・。考えてした行動がタイミング悪かったのかもしれんと・・・。」
田中は優しい顔で言うと微笑んだ。
- 461 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:58
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- 462 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:58
- 藤本は後藤が帰った後、父親の携帯に何度かコールしてみたが着信拒否をされていた。家の電話から掛けても同じだった。仕方なく、会社に掛けてみたが打ち合わせ中だの外出中だのと言われ父親に取り次いでもらえなかった。
娘からの電話を着信拒否する父親って一体なんだと藤本は苛立った。
母親の行きそうな場所すら思いつかない、実家とは縁を切ったと聞かされ母親の実家がどこかなのすら藤本は知らなかった。
窓から石川の部屋の明かりが点いているか確認してみるがまだ帰っていないようだった。
藤本は携帯を取り出すと石川に駆けた。
「あ、梨華ちゃん今どこ?」
『あと10分くらいで家かな。』
元気のない石川の声を聞き藤本は眉間に皺を寄せた。
「うち寄りなよ。ごっちんが昼間ケーキもって来てくれたんだ。」
『うん、わかった。』
石川が携帯を切ると藤本は玄関に行き座り込んで石川がくるのを待った。
程なくしてインターホンがなると直ぐにドアを開ける藤本。
「はやっ。」
作った笑顔を見せる石川を藤本は笑顔で迎える。
「どれがいい?」
何種類かあるケーキを見せて皿を渡すと石川は一つを皿に乗せる。
「ごっちん家に帰ってきてるなら呼べば?」
「仕事だってこれ置いて行っちゃったんだ。」
「そっか。」
石川がケーキを食べる様子を藤本は黙ってみていた。
食べ終えた頃合いを見て藤本は口を開いた。
「梨華ちゃん大丈夫?」
「んー?」
明らかに目が腫れていたことに触れずにいた藤本。
「泣いたでしょ。」
「あぁ。ちょっと仕事でね。」
「あの子、大丈夫だったの?」
「ん?」
首をかしげる石川に藤本は気まずそうな表情をする。
- 463 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:59
- 「病院から帰るとき丁度救急車きてさ、見たから。女の子運ばれてきたの。」
石川の表情が見る見る悲しさに染まり涙が零れた。
「ごめん。大丈夫?」
「うん、ごめん。あーこいうのってさ、看護士失格だよね・・・。取り乱しちゃって何にもしてあげれなかった・・・。」
「悪いのあの子?」
石川は少しだけ微笑んで見せた。
「今回は助かった・・・心臓が悪いの・・・。ダンスなんかしたら危ないのに。ガキさんさ、退院するとき直ぐ戻ってくるかもって笑ったんだ。」
石川は涙を拭いながら笑った。
「大人しくしてなねって私言ったの。ごっちんに言わないほうがいいって言われる前にね言ったんだ。」
悲しそうに笑う石川の姿が痛々しくて藤本は目を伏せた。
「小さい頃から皆と追いかけっことかプールとか行った事ない子にこれ以上どう大人しくしてろって言うんだって感じだよね。」
「梨華ちゃん・・・。それはさ・・・。」
「うん、患者さんのこと思って言ったのでもさ・・・ごっちんの言うとおりだよね。私、入院とかしたことないし、健康だし。患者さんの気持ち分かってなくてさ。ビデオ見せてもらったんだ。」
「ビデオ?」
「ダンスしてるガキさん・・・凄い楽しそうでさ。なんか・・・ガキさんの友達がね、止められなかったって言ってたの分かる気がした。」
藤本は石川を優しい目で見ていた。
「思い出が欲しいって・・・高校生の思い出、皆とダンスしたって思い出欲しかったんだって。きっと一番楽しそうな顔してると思うって言ったんだって。・・・思い出よりさ・・・命のが大切じゃない・・・生きてればさ・・・他に思い出つくれるじゃない・・・わかんないよ・・・。私。」
藤本はなんとなく分かる気がした。
- 464 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:59
- 「人間だから・・・じゃない?」
「えっ?」
「人間だから・・・想像力があるじゃん人間って。未来のこと想像するの。その子はさ、もしかしたら数十年先の自分を想像して今の思い出が欲しいなって思ったんじゃない。だから欲しい思い出作ろうとしたんじゃないかな。」
石川は険しい顔をして藤本を見る。
「運動したら命に危険があるんだよ。」
「それでも・・・したかったこと出来ずに・・・数十年後に後悔するよりその子はダンスしたかったんだよ。なんか無責任に言ってるけど・・・」
石川だってきっとまだ気持ちの整理とかがあるだろう、常に人の命と向き合ってる仕事なのだ。簡単に自分の思ったことを口にしてみたが自分の知っている人が、身内がそうなったら自分はどう思うのか分からない。
「そっか・・・。そうだね。ガキさんにとってそのほうが幸せだったんだよね。」
「そう思う。」
「なんか、つかえてたの取れた感じ、ありがと美貴ちゃん。」
藤本の言葉が十分な効果を自分にもたらした、まだ、色々、考えることがあるが石川は藤本が幼馴染でよかったと微笑んだ。
「美貴ちゃん、頭痛は?」
「うん、だいぶ良くなった。」
「そっか・・・お母さんは?」
藤本は苦笑しながら首を横に振った。
「帰ってこないんだよね。」
「大丈夫なの?」
「携帯、置いてっちゃってるし、大人だし大丈夫だとは思う。」
「なんかあったら言ってね。」
「ありがと。」
藤本は微笑んで見せた。
- 465 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:59
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- 466 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 22:59
- 閉店したLOSEで中澤と夕食をとる吉澤。
「あぁ、そうだよっちゃん保田さんと連絡とれるか?」
「ん?」
「こないだ、飲みたりんかったから飲みたいなぁ思って。」
「あぁ・・・。」
吉澤は携帯を取り出すと保田に電話を掛けた。
1人夕食と済ませて飲んでいたという保田は直ぐに来ると言って電話を切った。
「圭ちゃん、1人で飲んでたって、直ぐここに来るってさ。」
「そうか。」
微笑む中澤に吉澤も微笑む。
保田が来るということで中澤は店にある材料でつまみを作り出した。
吉澤はタバコを吸いながら浮かない顔をしている。
「よっちゃんがそういう顔するのは藤本のこと考えてるときやんな。」
料理を作りながら視線を合わさずに言う中澤。
吉澤は煙を吐き出し俯いた。
「亀井がおんのに、なんなん?」
「別に。」
「よっちゃんがそういう態度とると周りが困るやろ。」
吉澤は気まずそうにコーヒーを飲みながら俯いていた。
中澤もそれ以上、何も言わずに料理に専念する。
しばらくしてやってきた保田。
吉澤を取り残し二人はアルコールを胃に流し込み楽しそうに話に花を咲かせる。
1人でビールをちびちびと飲む吉澤を保田は苦笑しながらみていた。
「吉澤さぁ。そういう顔してたらどうしたの?とか言ってもらえるとか思ってたら大間違いだからね。」
保田がそういうと吉澤はつまらなそうに保田を見る。
「なに、その目は。」
「別に・・・。」
吉澤はそう言って視線を逸らすとテーブルの上で震える携帯を手にして耳に当てる。
- 467 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:00
- 『吉澤さん、藤本先生たちどうでした?』
聞こえてくる亀井の質問に吉澤は意味が分からずに言葉に詰まる。
『バーベキュー。』
「あぁ、まだ、話してない。」
『あれ?話し声聞こえてきてるけど皆さんといるんじゃないんですか?』
「LOSEで中澤さんと夕飯食べて、圭ちゃん呼んで飲んでるんだ。」
『いいなぁ。』
楽しそうという亀井の声に吉澤は苦笑を漏らした。
「絵里も来る?」
『いいんですか?』
「遅いから気をつけておいでね。」
『はい。』
電話を切った吉澤を横目に保田が険しい顔をした。
「ホント、吉澤は甘え上手だね。」
「なに、さっきから圭ちゃん酔ってるの?」
「これくらいじゃ酔えないわよ。」
呆れた様子で保田は笑った。
「藤本たちも呼ぶか。」
中澤の提案に保田が「いいわね。」と携帯を取り出し藤本に電話を掛けた。
後藤は仕事だが石川は一緒にいるからくるということを保田は吉澤と中澤に伝える。
吉澤は気まずそうな顔をしながらタバコに火をつけた。
- 468 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:00
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- 469 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:00
- 吉澤が困った様子の声に聞こえた亀井は着替えてそっと部屋を出て道重の部屋を窓から覗く。
「寝ちゃってるか・・・。」
忍び足で家を出るとそのまま隣の家のインターホンを押す。
直ぐにドアが開きパジャマ姿の田中が出てきた。
「なにしとぉ?」
「れいな、LOSE付き合って。」
「はぁ?」
「吉澤さん中澤さんと保田先生といるみたいんだんけど、困ってるみたいで。」
お願いと言う亀井に田中は渋々頷き。着替えて戻って来た。
「困ってるからって行くのもどうかと思うけんね。」
田中は歩きながら亀井に文句を言った。
亀井は俯きながら「ごめん。」と呟いた。
- 470 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:01
- 藤本の携帯がなり、母親かと思い慌てて出る藤本。
保田からの呼び出しだと苦笑する藤本に石川は微笑んだ。
「気晴らしにいいかも、行こうよ。」
藤本は頷くと保田に行くと告げて携帯を切った。
「LOSEってワインないんだよね。」
買っていこうと言う石川に藤本は飲むのかと苦笑いしながらスーパーに寄ってからLOSEに向かった。
- 471 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:01
- 亀井と田中がLOSEに入るとテーブルに中澤がビールを飲んでる姿が目に入る。
その隣で保田と吉澤が気まずそうに座っていた。
「吉澤さん?」
微笑みながら吉澤に歩み寄る亀井に保田は呆れてため息をつく。
気まずくて亀井を呼び出したのかと田中も保田と同じ表情で見ていた。
「早かったね。」
そう言って微笑む吉澤。
「亀井も手のかかる恋人で大変だね。」
亀井に微笑みかける保田。
「そんな・・・。」
なんでそういう言い方をするのだろうと亀井は困ったように俯いた。
「絵里が悪いんじゃなかと・・・。」
田中の言葉に保田は微笑み「そうだよね。」と吉澤を見た。
「なんで、うち見るの?」
「あんたが不安な顔してどうしたのって言ってくれるまで待ってるから私は怒ってるのよ。」
保田が怒る姿を初めて見た亀井は田中にどうしようと視線を投げた。
田中は吉澤の行動をじっと眼で追っている。
「圭ちゃんやっぱり酔ってるでしょ。」
言いながら立ち上がる吉澤。
「また、逃げると?」
- 472 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:02
- 田中の言葉に吉澤は足を止めて田中を見た。
沈黙に包まれる店内に藤本と石川が入ってくる。
吉澤がいることに藤本たちは顔を見合わせ、店内の空気が気まずいことに首をかしげる。
「あのぉ、中澤さん?どうかしたんですか?」
石川が作り笑顔で中澤に小声で尋ねる。
「ん?よっちゃんがな保田先生に怒られたらから帰ろうとしたんよ。そしたら田中に逃げるのかって言われたところや。」
吉澤は気まずそうに椅子に腰を降ろした。
藤本と石川は怒られることを吉澤がしたとは思えず吉澤に歩み寄る亀井を目で追っていた。
「吉澤さん・・・帰ります?」
「絵里っ。」
田中は亀井の腕を引っ張り吉澤から遠ざけた。
「なによっ。」
「逃げ癖つけさせたらだめっちゃ。」
「あらら、田中にまで言われてるのに、何にも言い返せないんだ。」
俯いたままでいる吉澤に保田はしらっとした顔でビールを飲んだ。
「辞めましょうよ・・・。」
亀井が言うが田中に黙っていろという目で見られ口を閉ざす。
- 473 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:02
- 「自分から言える口ないわけ?亀井が助けてくれるまでそこで座ってるの?」
藤本は無意識に保田の腕を掴んでいた。
「なに、藤本が助けるの?」
疲れている表情の藤本に一瞬驚く保田だが、保田は薄笑いを浮かべ藤本を挑発する。
「美貴にはどうしてこういう状況になったか分からないから、何とも言えないけど。」
「じゃぁ、やっぱり亀井が助けるわけ?」
亀井に視線を向ける保田。
吉澤の表情が曇っているのは亀井と藤本のことだとろうと思っていた。
煮え切らない吉澤の表情を見てこれでは亀井が可哀想だと思った。
この場ではっきりさせて亀井を開放してやるべきだと保田は亀井をじっと見つめた。
「絵里は・・・吉澤さんがそうして欲しいなら。」
亀井はそう言って吉澤の背に視線を向ける。
「だって、吉澤。」
吉澤は悲しそうな目で保田に視線を向ける。
全ての視線が吉澤に集まる中、吉澤は席を立った。
扉に向かおうとする吉澤の腕を田中が掴んだ。
「れいな、辞めて。」
亀井が吉澤と田中の間に入り首を横に振りながら田中を見た。
泣きそうな顔をする亀井を見て田中は掴んでいた手を離した。
「吉澤さん帰りましょう。」
亀井は俯いている吉澤を覗き込んで手を引こうとした。
「大丈夫ひとりで帰れるから。」
微笑む吉澤を見て亀井は手を離した。
「吉澤さ、呼び出しといてその行動はおかしいでしょ?」
保田は立ち上がると吉澤の肩を掴み自分に向かせた。
「圭ちゃん・・・うるさいよ。さっきから。」
- 474 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:03
- 睨むつける吉澤。
吉澤以外の人がその表情に驚いた。
いつも穏やかな印象が強い吉澤。
「ちょ・・・よっちゃん。」
藤本が間に入ろうとすると吉澤は藤本から視線を逸らし横を通り抜けて扉に向かう。
石川は不安そうに吉澤を見ているが吉澤は俯いたまま視線を合わせず店を出た。
カランカランと扉が閉まると石川は慌てて追いかけようとするが中澤が石川の手を掴み首を横に振った。
戸惑いながらも追いかけることを辞めた石川は亀井に視線を向けた。
亀井は田中に視線を向け、困った顔をする。
「最悪っちゃ・・・。」
田中も困った顔をしながらそう呟いた。
保田は藤本をじっと見ていた。
俯き、疲れきった表情の藤本を心配する保田。
「あんたたちが高校生の時に怒っておけばよかったわ・・・。」
保田はそう言って椅子に座るとビールをいっきに飲み干した。
保田の言葉の意味に首をかしげる石川。
「どうして、私たちが怒られるわけ?」
部活に明け暮れる毎日で悪いことなんかした覚えは無いと保田に歩み寄る石川。
「あんたたちだけが悪いんじゃないのよ、私たち、大人も悪いの、そこにいる中澤さんも含めてね。」
中澤はチラッと保田を見ると苦笑する。
石川はやはり意味が分からずに首を傾げた。
- 475 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:04
- 「あんたたちがいつも4人でいて4人だけの空間で生活してたでしょ。他の同級生の意見なんて取り入れない、それ以前に接触もしないようにしてたじゃない。自分たちで何でも決めてそれが正しいって思ってて4人でそうしてるとこっちもそれでいいんだろうって思えた。でも、別々の進路になって、少しは外と接触するようになったからマシになってきたのよ、石川も後藤も藤本も。でも吉澤だけは違ったのよ、自分を守りながら外と接触しないように4人だけの世界にいようとした。」
保田は吉澤が座っていた席を眺めながら悲しそうに微笑む。
「でも、何かがあったんだろうね、亀井という外の人間と関ろうとした。それが正しいと思い込んで、それすら、4人の世界を守るためなのかもしれないけど・・・。」
保田は俯いている亀井と藤本に視線を向ける。
「吉澤はさ、いつも部外者の顔しているじゃない、でも人当たりは良いのよね。一見、何でも話してくれて、聞いてくれるから。でも、肝心なことを言われたり、聞かれそうになると避けるの。今もそう。私がそれをしたから、吉澤は怒った。」
保田はため息をつくと微笑んで石川を見た。
「でも、あの子はさ、寂しがりやなのよ、本当は聞かれたいの。でもね、どうして良いのかわからない。あんたたちが吉澤をそうしたし、私ももっと早く気がつくべきだった。」
石川はその通りかも知れないと顔を歪め俯いた。
中澤がタバコの煙を吐き出すと口を開いた。
「ちょっと、違うで。」
そう言って保田に視線を向ける。
- 476 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:04
- 「あの子はな、先生の言う外との接触を避けたわけじゃないんよ。高校のときはどうやったか知らんけど、大学入ってから剣道を通じて自分も外に出ようとしたんよ。警察官目指してな。それが、あの子に逃げ場でもあったんやろ。」
中澤は藤本をチラッと見て視線を落とした。
「何もなくなったんよ。あの子。4人の世界があったんだったら。それがなくなりかけてやっと見つけた剣道もなくなって、それでここに逃げ込んできたんや。うちもあんたらもそんなよっちゃんを甘やかしたんや。よっちゃんのことを本当に考えたら先生の言うとおり怒らなあかんかったんやろな。でも、笑っててくれれば良いってうちは甘やかした。」
藤本はため息をつきながら椅子に座る。
吉澤が飲んでいただろうグラスにビールを注ぐとゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。
なんとなくアルコールに逃げてしまう母親の気持ちが分かる気がした。
「別に・・・よっちゃんそんなんじゃないって。よっちゃんは優しすぎるんだよ、誰にでもね・・・。それに、単純すぎるの。別に外の世界がどうとかじゃないんだよ。単純に4人のことしか考えられなかっただけ。大人になるとか言い出してさ・・・。」
藤本はくすぐったそうに笑う。
「大人になるイコール美貴たちから離れるだと思ったんじゃない?恋人つくってたりして。単純なだけだよ・・・それってさ美貴は純粋なんだと思うけどね。そう見えないかもしれないけど。」
藤本は保田を見て微笑んだ。
石川も亀井も藤本の吉澤を思う気持ちには勝てないだろうそう思った。
それほど、吉澤を語る藤本の表情は愛しさが溢れている。
「なんで、止めんかったとぉ?」
田中が不思議そうに呟いた。
「なにが?」
藤本が田中に視線を向け首を傾げる。
- 477 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:05
- 「絵里と付き合うって言いよぉとき・・・。好ぃとぉっちゃろ?」
藤本は真っ直ぐと田中を見つめた。
「どうして、止めんかったと?」
藤本が言葉を発しないのを見た石川。
「それは、試合に負けたから、でしょ?」
石川がそう言葉を口にするが田中は藤本から視線を逸らさずに藤本が答えるのを待った。
「先生、本気でやったら吉澤さんより強いちゃろ。腰、悪くした人に先生負けんっちゃろ。」
腰が基本の剣道だ。負けるはずがないと田中は真っ直ぐに藤本を見る。
「初めて、よっちゃんが自分で決めて行動したの。亀井と付き合うって。」
藤本は優しい顔でそう言った。
田中はそんな藤本を冷めた目で見る。
「好きなら好きって言えばいいっちゃ、どうして皆、捻くれとぉ?」
保田は苦笑しながら田中を見た。
素直になるにはそれなりに勇気もいる、誰かを傷つける覚悟もいる。
「絵里が・・・吉澤さんに甘えたから・・・でも、吉澤さん凄い助けを求めてました。絵里もそうだったから・・・。」
保田はため息をつく。
「済んだことを今更、言っても仕方ないのよ、これからどうするか。」
「そんなん、もう、わかってるっちゃ。吉澤さんが逃げずに自分の気持ちに正直になればよか、簡単な話しっちゃ。」
石川は不安そうに俯いた。
吉澤の性格を考えたら、後藤のこともある。現在、亀井という恋人がいるのだ。
そう、簡単にできるのだろうか。いや、出来る人間なら、こんなことにはなっていないはずだ。
- 478 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:05
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- 479 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:05
- LOSEを出た吉澤はバイクを走らせていた。
最低な行動。
全てが悪い方向に動いている気がした。
どこで、どうして狂ってきたんだ。
藤本に拒否され、保田や田中に自分を否定された。
藤本も自分を否定しているのだろうか。
保田や田中になんと思われようがどうでもいい。
藤本だけには自分を分かっていて欲しい。
1番好きなこと、心配していること。
なのに、どうして・・・。
吉澤は、一晩中バイクを走らせた。
- 480 名前:P&Q 投稿日:2006/06/11(日) 23:06
- 微妙な雰囲気のままLOSEを後にした藤本と石川。
帰り際に亀井に、花火大会の日にバーベーキューをしようと誘われた。
行けたら行く。と答えて別れてきた。
家に入った藤本は父親に電話した。
母親が一向に帰ってこない。非通知に設定して、何度も掛けた。
やっと出た父親に藤本は少しだけほっとした。
「美貴、だけど。切らないで。」
名前を言った途端に舌打ちをした父親。
藤本は悲しくなった。
『なんだ。』
「お母さん、ずっと帰ってこないんだけど。」
『俺は何も知らない。』
「お父さんと話してからいなくなったんだけど、何言ったの?」
『離婚してくれと言った、実家にでも帰ったんじゃないか。離婚届は実家にって言ってたから。』
「実家って・・・付き合いないじゃん。」
『実の娘にはあるだろ。肉親なんだから。』
「どこ?」
『北海道だ。』
「住所、教えて。」
藤本は父親から聞き出した母親の実家の住所と電話番号をメモすると電話を切った。
母親の実家と言っても深夜に電話するのは迷惑だろうと藤本は携帯に番号を登録するにとどまった。
- 481 名前:clover 投稿日:2006/06/11(日) 23:15
- 本日の更新以上です。
>>449-480 A PENTAGON and A QUADRANGLE
なんか吉澤さん一人が悪者(*^。^*)?
また、週末に更新予定です。
>>445 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>みんな素直になろうよ。
そうなんですよね・・・。
最後までお付き合いよろしくです。
>>446 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>やっとみきよしキタ━━!!でも・・・つらいですね
まだ、素直にならないというw
>続きまってます。
有り難うございます。
最後までよろしくです。
>>447 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>(ノ△T)
あららw
最後までよろしくです。
>>448 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>6期3人もまだこれから何かあるんですねえ…。
どうでしょw
>さゆはやっぱりかわいい♪
道重さんは辻さんで落ち着いてますねw
>みきよし切なすぎます。パソコンの前でヤキモキしてます
もう少しヤキモキさせてしまうかもw
最後まで宜しくです。
- 482 名前:名無しさん 投稿日:2006/06/12(月) 00:04
- いつも楽しみに読ませてもらってます。
やっぱり85年組いいです!ごっちんが好きなのでごっちんにもみんなにも幸せがくればいいなと思います。
あと差し出がましいですが看護士ではなく看護師です。一応看護師の卵として気になってしまい…気を悪くされたらすみません。
これからも頑張ってください。
- 483 名前:亀かめカメ 投稿日:2006/06/12(月) 00:49
- 更新お疲れ様です。
簡単に見えて複雑、複雑すぎる関係・・・・・・・
がんばれ作者さん
がんばれよっちゃん
がんばれ亀井さん
- 484 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/12(月) 04:12
- れいなあんたは偉いよ
みきたん、よっちゃん頑張れ
お互いに素直になれるように
- 485 名前:ももんが 投稿日:2006/06/12(月) 10:16
- 素直になるって難しいですよね。
圭ちゃんがいろいろ言うのもわかる気がします。
- 486 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/12(月) 22:52
- よっちゃんとミキティの弱さが皆を巻き込んでる。
素直になってほしいですね。
これからどう強い大人になっていくのか…
- 487 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:33
- 藤本は何度か母親の実家に電話をしてみたが、繋がることは無かった。
大学の試験を終え、辻たちのインターハイ予選を見に行ったりして過ごしていた藤本。
母親が帰ってこなくなって1週間以上が過ぎた頃、藤本の家に書留が届いた。
差出人は母親だった。中に入っていたのは通帳とカードと印鑑にメモ書き。
通帳の残高は1千万ほどだった。添えられた紙にはしばらく留守にするので生活費に当ててください。と母親の字で書かれていた。
消印は北海道、母親の実家のものだった。
テーブルにそれらを置いて藤本は呆然とそれを眺めていた。
一体、この親たちは自分にどうしろというのだろうか。
ある意味、捨てられたのではないだろうかと思うと悲しくなってくる。
気分転換をしにLOSEに行くと田中がひとり仕事をしていた。
田中は頭を下げるとテーブルにいる客にピザを運んでいった。
藤本はカウンターとテーブル席どちらに座ろうかどうしようか迷いカウンター席に座った。
「アイスコーヒー。」
戻って来た田中にそう告げた。
「バーベーキュー来れそうですか?」
「まだ、分からない。」
「吉澤さんにはあれから会いました?」
「美貴、試験とか色々忙しかったから。」
会ってないという疲れてた表情の藤本を田中は訝しげに藤本を見ていた。
「後藤さんすごかですね。映画。」
「うん、本人も喜んでたよ。」
田中は少しだけ表情を強張らせた。
「もう、こないだのことは大丈夫と?」
「うん。かなり大丈夫みたい。二人のこと幸せになって欲しいって。」
「よかったと。」
微笑む藤本を田中は真っ直ぐ見つめる。
「後藤さんも早く他に好きな人できると良いっちゃね。」
「ん?」
「さゆは辻先輩に夢中やけん可愛い、可愛いってはしゃいどる。楽しそうっちゃ。」
「そっか。」
道重と辻の姿を思い出して藤本は優しく微笑んだ。
田中も微笑む。
「藤本先生。」
「ん?」
田中は優しい表情で藤本を見た。
- 488 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:34
- 「辛いときに、独りで抱え込むと悪いことが起こるっちゃ。」
藤本は苦笑いを浮かべながら田中を見ていた。
「先生の周りには石川さんも後藤さんもおると、幼馴染がおると。それに、愛する人、愛してくれてる人も、なんで頼らんとぉ?」
頼ってくれることを拒んだりはしないだろう。寧ろ、頼って欲しいと自分なら思う。
田中は寂しそうに視線を向ける。
「頼っても、無駄なこともあるんじゃない?」
「例えば?」
藤本は苦笑しため息をつくと笑った。
「それ言ったら美貴、田中に相談することになるじゃん。」
「聞くだけっちゃ、れなはなんも助けてあげれん、なんも出来んもん。」
「田中ってさ、おせっかいだよね、見かけは冷たそうなのに。それに、真っ直ぐ過ぎて、強い人間だからちょっと美貴にはキツイよ。田中の心って鈍いのかもね。」
ごちそうさま。と微笑んで席を立つ藤本。
田中は苦笑しながらお金を受け取る。
「たまには田中の話しも聞かせてよ。」
藤本はそう微笑むと店を出て行く。
田中は微笑み藤本の背中を見送った。
心が鈍いのだろうか。それは優しさに欠ける部分があることだろうか。
田中は藤本の使った食器を下げながらひとり考えた。
- 489 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:34
- ここ数日、吉澤はあまり喋らなくなった。
自分と一緒にいても自分をあまり見なくなった。
だからといって自分から吉澤に話しかけたりもしない。
亀井はただ、吉澤の側で見守っているだけ。
吉澤から呼び出すこともなく、亀井は夕方になるとLOSEに出向いて吉澤がバイトが終わるまで待って夕飯を食べに行ったり、吉澤の家で食べたりしていた。
黙って側にいる亀井に対して吉澤はなんとなく安心感を味わっていた。
見捨てずに側に居てくれるという感心感。
それに甘えている自分も同時に感じていた。
藤本に拒絶された以上、吉澤にとってもう、全てがどうでも良く思える。
亀井が居れば孤独ではない、それだけで良い。
午後からバイトにやってきた吉澤に田中は朝、藤本が来たことを伝えた。
「そう。」とだけ応える吉澤に表情はない。
ここのところずっとこの調子の吉澤に田中は呆れ、中澤は心配をしていた。
仕事が早い時間にひと段落した後藤はLOSEに向かってくれとマネージャにお願いをした。
石川から色々と話しを聞いて心配をしていた後藤。
石川も仕事が忙しくて最近は会えていないと聞き、あの日以来会っていないがこちらから様子を見に行こうと決めた。
吉澤が受け入れてくれなかったらと不安に思いながらLOSEのドアを開ける後藤。
「久しぶりやな。」
声をかけてくる中澤に微笑み頷くと後藤は吉澤に視線を向ける。
「いらっしゃい。」 とぎこちなく微笑む吉澤に後藤は微笑み、一番奥のカウンター席に座った。
「後藤さん。こんにちわ。」
テーブル席を片付けて戻って来た田中は後藤を見つけて嬉しそうに声をかけた。
「おっ、頑張ってるね。」
「はい、後藤さんも映画頑張ってください。」
微笑む田中に頷く後藤。
吉澤は後藤の嬉しそうな横顔を見ながら、安心する反面、後藤には仕事に打ち込むという選択があることを羨ましく思った。
「後藤、アイスカフェオレもらおうっかな。」
微笑み、吉澤に注文する後藤。
吉澤は頷くとグラスにカフェオレを作り出す。
無表情な吉澤の顔を優しい眼差しを向ける後藤。
「はい、どうぞ。」
「ありがと。」
- 490 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:35
- 後藤にカフェオレを出すと吉澤はキッチンの掃除をしたりして後藤に話しかけようとはしなかった。
そんな吉澤を田中は呆れた様子で見ている。
後藤はカフェオレを一口飲むと吉澤に視線を向けた。
「よっちゃん亀井さんとは上手く行ってる?」
「うん。それなりに。」
下を向いたまま応える吉澤に後藤は苦笑した。
「そっか、良かった。後藤真希を振ったんだから上手くいっててもらわないと困るけどね。」
笑う後藤に吉澤も少しだけ笑みを見せる。
後藤は吉澤の本当の気持ちを知らないのだと驚いていた。
「あ、ミキティどうしてる?お母さん帰ってきたって?」
吉澤は無表情に首を横に振り「しらない。」とだけ応えた。
後藤は吉澤を不思議そうに見つめた。
カランカランとドアが開く音がし、田中が視線を向けると亀井が入ってきた。
吉澤が亀井に視線を向けると亀井は微笑みカウンターに歩み寄る。
微笑んで手を振る後藤を目にした亀井はニコリと微笑んで隣に座った。
「お久しぶりですね。映画、順調ですか?」
「まぁ、今のところ。」
亀井は後藤の表情に安心し、吉澤に視線を向けた。
吉澤は亀井に無表情に「何にする?」と尋ねる。
「アイスココア。」と微笑み言う亀井。後藤は二人は本当に上手く行っているのだろうかと不安な表情で亀井を見た。
「ん?」
不思議そうに自分を見ている後藤に亀井は首をかしげる。
「あ、なんでもない。」
後藤は慌ててカフェオレを口に運ぶ。
亀井は不思議そうに田中に視線を向け「何だろう?」と首を傾げてみせる。
田中は吉澤が不自然なんだと苦笑をもらした。
「あ、後藤さん。今度の花火大会の日ってお仕事ですか?」
亀井の質問に後藤は「ちょっと待って。」っとカバンから手帳を取り出し開く。
- 491 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:35
- 「んー。あ、仕事午前中だけだ。」
「良かった。」
「多分、だけど。何かあるの?」
「バーベキューしようって計画してるんです。」
「へぇ。」
田中は無表情に亀井にアイスココアを出す吉澤を黙ってみていた。
「藤本先生はまだ来れるか分からん言いよぉとよ。」
田中が口を挟むと後藤は不思議そうに田中に視線を向ける。
「午前中、来たときそう、言ってました。」
「そうなんだ。ミキティ元気そうだった?」
「疲れてるように見えましたけど。」
後藤は「そっか。」と俯いた。
「今夜、夕飯誘ってみませんか?」
突然、亀井は吉澤に視線を向けて言う。
吉澤は困ったような顔をして亀井を見た。
「折角、後藤さんも居るんだし、皆で食べましょうよ。れいなも一緒に行こう。」
亀井は後藤と田中に視線を投げる。
「れなは暇やけん、良いっちゃよ。」
亀井に微笑む田中。
バーベーキューにもしも藤本が来られないなら今夜でも良い。
田中はそう思っていた。
困った顔をする吉澤を不思議そうに眺める後藤。
- 492 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:36
- 「よしこ、やなの?」
「えっ?あぁ・・・別にそうじゃないけど。」
「じゃぁ、決まりっちゃ。どこに食べいく?」
仕切る田中を見て亀井はなんとなく田中の考えが分かった。
今夜、はっきりさせるつもりなのだろう。
「あ、さゆも呼んであげないとイジケルっちゃ。」
「そうだね。後で電話しとこ。」
話を勝手に進めていく亀井と田中に吉澤はさらに困った顔をしていた。
なるべくなら、今はまだ、藤本には会いたくない。
会えば、心配してしまう、どうしたのだと尋ねてしまう。
放って置くことなんてできるはずがない。
そして、また拒絶されたら・・・吉澤はそう思うとやはり藤本に会う気にはなれない。
「後藤が、作ってあげる。料理好きだし。」
「ホントですか。やったぁ。」
後藤の申し出にはしゃぐ田中と微笑む亀井。
「きっと、さゆも喜ぶとぉ。」
「うん。」
微笑み合う、亀井と田中。
後藤は石川と藤本にメールを打ち出す。
「6時でいいかな?」と吉澤に尋ねる後藤。
吉澤は「うち、バイト8時までだから。無理っぽい。」と安堵する。
「えぇよ。今日は早よあがり。」
様子を見ていた中澤が直ぐにそう言う。
嬉しそうに「ありがと。」と言う後藤と複雑な顔で中澤を見る吉澤。
中澤は苦笑しながらタバコに火をつけた。
「よし、じゃぁ6時によしこの家に集合。久々に後藤の手料理食べれるぞ。」
「送信。」と言いながら携帯を操作し微笑む後藤。その隣で亀井も道重にメールをした。
直ぐに、「辻先輩も良いか?」と言う返信に亀井は「いいよ。」と返し、田中にOKとジェスチャーをしてみせる。
「亀井さんさ、買い物付き合ってくれない?」
「いいですよ。」
「よし、じゃぁ。早速、買出し行こう。」
「はい。」
亀井は田中に道重とここで待ち合わせして、と告げ吉澤に手を振って後藤と店を出た。
田中は了解とウインクして二人を見送り吉澤に視線を向ける。
困った顔で俯いてる吉澤を田中と中澤は顔を見合わせてため息をついた。
- 493 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:36
- 病院を出た石川の表情は明るかった。
新垣が回復しだし、車椅子で移動できるまでになっていた。
ダンスのビデオを一緒に見ることも出来た。
看護士という仕事にやりがいを感じれる一時だった。
携帯に届いていた後藤からのメールを見て石川は少しだけ不安そうな顔を見せる。
後藤と吉澤は普通で居られたのだろうと安心する一方、こないだの吉澤を思うと心配になる。仕事が忙しくて全く連絡を取ることも出来なかったし、藤本からも何の連絡もなかった。
取りあえず、行ってみないことには何も分からないだろうと石川は藤本を誘って行こうと家に向かった。
後藤とスーパーにやってきた亀井。
後藤が色々な食材をカートに入れていく。
一体、何が出来るのだろうとワクワクしながらカートを押す亀井。
後藤が会計を済ませて二人で荷物を持って吉澤の家に向かって歩く。
帽子を深く被り、前を見ずらそうに顎を上げて歩く後藤。
亀井は芸能人って大変だなと思いながら隣を歩く。
「よしこのことさ。」
突然、喋りだす後藤。
「はい?」
「まぁよろしく頼むわ。」
「あぁ・・・。」
後藤は俯く亀井を不思議そうに見た。
「そんな返事じゃ大事な幼馴染任せらんないぞぉ。」
前を見ながらぶっきらぼうに言う後藤。
亀井は何とか笑顔を作ってみせる。
「うまく行ってるんでしょ?」
「まぁ。」
「まぁって。」
亀井のはっきりしない態度に後藤は苦笑いを浮かべる。
- 494 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:36
- 「よしこのこと好き?」
「好き、ですよ。」
亀井は恋愛感情はなくはない、ただ側に居てあげないとという使命感のようなものだと自分の吉澤への気持ちをそう捉えていた。
「なんか、困ってることとかあったら言いなね、後藤の方が多少、よしこのこと知ってるし。」
吉澤の本当の気持ちも知っているのだろうか。
亀井は後藤の横顔を見つめた。
「なに?」
亀井は「いや・・・。」と首を横に振る。
田中ならきっとはっきりと訪ねるだろうなと苦笑した。
「なんか、初めに見た頃よりも、ラブラブ感が減ってるよね?」
亀井は苦笑した。
「なんかあった?」
「あったといえばあったし、無かったといえば無かったような・・・」
亀井の困った顔を見て、後藤はフニャっと笑う。
「なんか後藤、困らすこと聞いてるの?」
亀井はどういって良いのか、変なことを言ってまた、おかしなことになっては困ると色々、考える。
「後藤さんは・・・吉澤さんの側にずっと居てあげてください。友達として。」
やっと出てきた亀井の言葉に後藤は優しい笑みを浮かべて頷いた。
- 495 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:37
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- 496 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:37
- 「辻先輩。今日、これから皆で夕飯食べに行きませんか?」
「皆って?」
「絵里とかれいなと藤本先生たちとかです。」
遠征先から学校に戻り家に帰る途中、亀井からのメールを見ながら道重は辻を誘った。
「のんもいいの?」
「もちろんです。」
遠慮気味に言う辻に道重が笑顔を向ける。
「重さん、大好き。」
辻は笑顔でそう言うと道重と手を繋ぎ歩いた。
道重は頬を赤く染めながら辻の横顔を盗み見る。
思った言葉をそのままストレートに言葉にする辻を道重は羨ましいと思った。
「さゆみも辻先輩のこと大好きですよ。」
辻の横顔を見ながら呟く道重。
「ありがと。」
嬉しそうに照れながら微笑む辻はとても可愛らしく見える。
「夕飯なんだろうね。」と嬉しそうに道重を見上げる辻。
道重はもう少し、この関係を楽しみたいなと微笑んだ。
- 497 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:37
- 藤本の家のインターホンを押すとしばらくして藤本が出てきた。
石川は疲れた表情の藤本に笑顔を向ける。
「美貴ちゃん、メールみた?」
石川の顔を不思議そうに見ている藤本。
「ごっちんからメール来てるよ。よっちゃんちで皆で夕飯食べようって。」
「そっか、見てないや。」
吉澤の家ということは吉澤もいるに決まっているのだ。
藤本は僅かに表情を曇らせながら石川に中に入るように促し、テーブルの上にある通帳などを引き出しにしまった。
「お母さんまだ?」
石川は心配そうに藤本の背中に尋ねた。
「実家に帰ってるみたい。」
石川はそれを聞いて行方不明よりは良いだろうと僅かな安心が生まれた。
「そっか、居場所分かっただけでも良かったね。」
「まぁね。」
「そろそろ、よっちゃんち行かない?」
お茶を入れようとする藤本にそう告げる石川。
藤本は時計に目をやりもう6時になることに気がついた。
「時間決まってるの?」
「一応、6時。」
「あ、そうなんだ。」
藤本のぎこちない表情を石川は不思議に思いながら視線を送る。
「行きたくない?」
「そうじゃないよ。」
「いく、いく。」と戸締りをしだす藤本。
石川は訝しげに藤本を見ていた。
「よし、いこっか。」
笑顔を向ける藤本に石川も頷きながら一緒に家をでた。
- 498 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:38
-
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- 499 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:38
- 道重と辻がLOSEにやってくると田中は気乗りしていない吉澤に家まで連れて行ってくれと頼み、中澤に行ってきますと告げて店を出た。
「なんで、機嫌悪いの?」
辻が吉澤の顔を見て道重に尋ねる。
道重は苦笑しながら首を傾ける。
「なんでですかね?」
「皆でゴハン食べれて楽しいのに。」
辻は不思議そうに吉澤の顔を眺めた。
その横で田中はこのまま藤本と合わせて大丈夫だろうかと心配になってきていた。
吉澤が家のドアを開けると美味しそうな匂いが漂ってくる。
辻は思わず匂いの元へと駆け込んだ、慌てて道重も着いていくと田中は立ち止まる吉澤の手を引いた。
「行きましょ。」
吉澤は苦笑しながら中に入っていく。
リビングに入るとキッチンで後藤を見つけて喜んでいる辻と辻の勢いに困っている後藤が居た。
「ねぇねぇ、ごっちん。歌ってよぉ。」
後藤の腰に手を回し抱きついている辻と抱きつかれて困っている後藤と辻を微笑んでみている道重。
「いやいや、後藤、今ね、料理を・・・」
「辻先輩、後にしましょうよ。」
亀井がそう言って辻を引き離すとふくれっ面の辻は道重の手を引いて吉澤たちとソファに座った。
「サンキュー亀ちゃん。」
後藤は亀井に笑顔を向けると再び料理を再会した。
この数時間で亀井が面白く、天然だと分かった後藤は亀井の突拍子も無い料理の仕方を見て笑いながら教えてあげていた、いつの間にか亀井さんから亀ちゃんと呼ぶようになっていた。
「なんか、仲良くやってますね。」
田中がキッチンにいる二人の背中を見ながら言う。
「のんもごっちんと仲良くなりたい。」
「直ぐなれますって。」
道重がそういうと辻は嬉しそうに微笑む。
吉澤はそんな辻を見ながら後藤真希という存在は凄いんだなと改めて思う。
- 500 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:39
- 「おじゃましまぁす。」という石川の声が聞こえると辻は玄関までかけていきで迎えた。
辻の笑顔に救われた藤本は辻に手を引かれてリビングに入った。
石川はほっとした表情を見せてそのあとをついていく。
「おっ、来た来た、丁度、出来たところだよぉ。」
後藤が料理をテーブルに並べながら二人に向かって言う。
辻は藤本の手を離し出来上がった料理に目を輝かせた。
「椅子、足りないね。」
取ってくると吉澤が席を立った。その後に石川も付いていく。
「ミキティ、大丈夫?」
後藤が藤本の表情を伺いながら尋ねた。
藤本はぎこちない笑みを浮かべて頷いた。
その様子を亀井、田中、道重は心配そうに見ている。
誰がどう見ても藤本の顔色は優れない。
「後藤の料理食べればちょっとは元気になれるよ。」
「うん。美味しそう。」
吉澤たちが折りたたみの椅子を持ってくるとテーブルの周りに詰めて並べた。
石川、藤本、後藤と並びその向かいに吉澤、亀井、道重と座る。
両サイドに道重の隣に辻が座り、向かいに田中が座った。
「よし、じゃぁ皆さん、召し上げれ。」
後藤が言うと辻が「頂きます。」と大きな声を上げ料理を皿に取り始める。
後藤は美味しそうに頬張る辻を嬉しそうに眺めていた。
他の皆もそれぞれ料理を口に運び、その美味しさに頬を緩めた。
- 501 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:39
- 誰とも目を合わせようとしない吉澤に石川も後藤も気が付きながら触れずにいる。
藤本はあまり料理に手をつけず、石川たちは心配そうに見ていた。
「なんか、吉澤さんって優しい人っぽく見えてめっちゃ自己中っちゃね。」
会話の弾まない食卓に田中が呟いた。
田中が吉澤に対してこんなことを言うのを初めて見た後藤と道重は驚いた様子で田中に視線を向けるが辻に至っては何のことか分からず不思議そうに皆に視線を向けていた。
「れいな、そんな風に言わなくても。」
田中が吉澤に対して素直になればいいと促そうとしているのは亀井には分かった。
だが、吉澤の性格を考えたら田中のやり方は逆効果な気がした。
「何ね、絵里もそう思うっちゃろ?この、空気の原因って吉澤さんっちゃ。」
田中は吉澤を見て言うが吉澤は一向に目を合わせない。
「ヤンキーれいなうるさいっちゃ、今はゴハンたべろっちゃ。」
辻がそう言うと皆が苦笑して黙り再び食事を始める。
一通り食べ終えると石川が皆にアイスティを入れた。
「美貴ちゃんはどうして元気ないの?」
辻が心配そうに尋ねるが藤本は「そんなことない。」と笑みを浮かべた。
「誰が、どうみても顔色悪いですよ。」
道重もそういうと藤本は困ったように笑った。
石川たちは一度、大丈夫と伝えればそれ以上は詮索してこない。
けど、この子たちは違った。
- 502 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:40
- 「確かに、顔色は悪いかも疲れてるから。色々とね。」
藤本はそう言って道重を見た、もうこれ以上は聞くなと意味を込めて。
それに気が付いた道重は口をつぐんだ。
「いつも、こうやって言わないんですか?藤本先生も。」
田中の言い方に藤本は少し苛立ったように視線を向ける。
「どういう意味?」
「幼馴染、幼馴染って言ってる割に吉澤さんも肝心なこととか言わないみたいやけん、藤本先生もそうっちゃねって思っただけです。」
「田中さ・・・昼間も言ったけど、無駄なことを言う必要はないじゃん。田中は確かに正しいこと言ってる。でも美貴にそれを押し付けないで。」
藤本はそういうとため息をついた。
「でも、言わないと分からんことだってあるっちゃ・・・。」
「れいな・・・。」
亀井が気まずそうに止めるが田中は耳を傾けなかった。
「言わんけん、おかしなことになるっちゃ。」
「わかった。」
藤本はそういうと心配そうに黙ってみていた石川と後藤に笑みを向けた。
「来週辺りに北海道に行こうって思ってる。お母さん実家にいるみたいでさ。住所分かったから、様子見に行ってくる。」
「ひとりで平気?私、仕事休めないからな・・・。」
石川が藤本を気遣う。
「後藤もスケジュール一杯だ・・・。」
石川と後藤の視線が吉澤に向けられるが吉澤は悲しそうに藤本を見ていた。
「うち、休めるけど、一緒に行くのは美貴が嫌なんじゃないかな。」
それだけ言うと吉澤は席をたちソファに移動する。
後藤と石川は不思議そうに二人に視線を向けた。
そして、亀井と田中は顔を見合わせる。
- 503 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:40
- 辻は残ったおかずを1人で食べ漁る。
道重はそんな辻を見ていた。
藤本は困った顔をしながら吉澤を見ていた。
「なに、今の言い方。」
吉澤があんな言い方をすることは初めてに等しいことだったため、後藤は驚いていた。
「さぁ、どうしたんだろうね。」
苦笑する藤本だが、吉澤の態度の理由は分かっている。
もう、元には戻れないかもしれない。
「美貴ちゃん、あいぼんのピアノ聞きに行く?」
藤本が辛そうに見えた辻はそう訪ねた。
「ありがと、そうだね、そのうち行きたいかな。」
「あいぼんにいつ学校に行くか聞いとくね。」
微笑む辻の頭を藤本は撫でた。
「よっちゃん、休めるなら一緒に行ってよ。美貴ちゃん別に嫌とかないから。」
そうだよね。と石川が藤本を見るが藤本は微笑む。
1人で行くより誰かに着いてきてもらいたいとは思うが吉澤が嫌だと言えば1人で行くしかないのだ。
吉澤は聞こえないふりをしているのか何も言わずタバコをすっていた。
「吉澤さん、一緒に行ったらどうですか?」
亀井が吉澤の隣に座ってそう言うと吉澤は意外だという顔をした。
「行く、べきだと絵里は思いますよ。」
「でも・・・。」
二人の様子を見ていた田中は吉澤の煮え切らない態度に苛立ちが募る。
「でも、じゃなか、幼馴染やったら一緒に行ってあげればよか。それだけっちゃろ?」
幼馴染で居ると決めたならそうするべきだし、好きでもそうするべきだ。
亀井だってそう言ってるじゃないか。
田中はそう視線を吉澤に向ける。
- 504 名前:P&Q 投稿日:2006/06/17(土) 20:41
- 「吉澤さん。」
亀井の呼びかけに無理だと泣きそうな顔で俯く吉澤。
亀井は田中に視線を向けると首を横に振った。
「また、逃げるっちゃね、吉澤さんの得意技やけん。後藤さんのときも逃げて、藤本先生が困ってるときも逃げるっちゃね。ホント、最悪っちゃ。」
後藤は最初、田中を不思議そうに見ていたが吉澤を責める田中に次第に怒りが募る。
石川と藤本はこないだの再現だと、困った顔で田中を見ていた。
「また、なんも言わんと?」
田中に視線を向けた吉澤だったがその目が悲しみだけが映っていた。
「吉澤さんがそうしてるの見るとイライラするっちゃ。」
吉澤は田中がそう思う前に自分もそうだと苦笑して再び俯いた。
「ちょっと、田中さんさ・・・言い過ぎって言うか。何のつもりで言ってるの?よしこのこと何も知らないくせに。逃げるとかイライラするとかさ。」
後藤が田中を睨むと石川はオドオドしながら止めようとする。
「ごっちん、今はさ、辞めようよ。」
「なんで、梨華ちゃんよしこがこんな子にあんな風に言われてままでいいの?」
「それは・・・でも、今はね。」
藤本は後藤と石川に挟まれ笑い出した。
「あはは、はははっ。」
皆が驚いて藤本に視線を向ける。
「ねぇ、美貴がさ北海道に行くって言ったからこうなったわけじゃん。」
藤本はそう言って田中に視線を向けた。
「全部、話したからってどうにもならないって言ったじゃん。美貴、1人で行くからいいよ。大丈夫。これでこの話は終わるでしょ?ごめん、美貴疲れてるから帰る。」
そう言って席を立とうとする藤本。
「なんで?藤本先生まで逃げると?」
「逃げてるんじゃないよ。これ以上、話しても仕方ないし疲れてるってだけ。」
「嘘っちゃね。だって・・・」
「それ以上、言わないでくれるかな。田中には関係ないことだし。」
田中の言葉に被さるように藤本がそう言う。
「ごっちん、ご馳走様、先帰るね。」
後藤と石川にそう告げると藤本は吉澤には目もくれずリビングを通って玄関に向かった。
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