dogs

1 名前: 投稿日:2006/05/21(日) 20:29
突っ込み所満載です

多分長いです

暇な方はどうぞ
2 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:31
ドガン・・・・ドシュッ・・・


ゴミ箱が転がるような音と、銃が撃たれる音

しかし、今の時代そんな事は日常茶飯事の出来事


毎日、どこかで喧嘩や暴動が起こり、人が死んでいく
吉澤ひとみは、そんな音に少しも気にする事なくコーヒーを飲んで新聞を読んでいる

新聞といっても、電話も通信機器もない為
大昔のやり方、おそらく人による伝達

その情報も、正しいのか正しくないのか怪しい情報位しか載ってはいない

それでも、世の中の動きを知る事は、
生きて行く上の力になるとこうやって嘘か本当か解らない情報を買い毎月読んでいる
3 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:33
人類は一度滅んだ

化学兵器と、自然破壊によって当然だという予言者が
きっと天国で笑っているのだろう

しかし、時は過ぎ、わずかに生き残った人々が、
大きく変動した土地を切り開き徐々に街を作り直し、自給自足の生活から始まっていった


そう・・・・

一度人類が行ってきた過程を再度繰り返したっていう感じだろうか


しかし、そこで違う事は、

一度進んでしまった文化のなごりがわずかに残っていた事

そして、生態の異変

過ちを何度も繰り返してしまう人間の愚かさは同じだったのに・・・
4 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:37
多分、ここは昔日本と呼ばれた経済国だった

今は、小さい集落が何個も有り
それをあいまいに線引きされたおのおのの王族が統治している

王族はこの国では8つ位
しかし、国と国の間を行き交う人は少ない

国と国の間には、どの国家でも受け入れられない者が多数存在し、もし行き交えば
ただ自分の欲求のみで動く輩にすぐ殺されてしまうだろう

しかし、王族を持つ国と国は
互いの土地にある物と足りない物を補う為に同盟を結び
その間の道を切り開いていった

ある国の資源をめぐる争いが起きたり
国土の拡大に乗り出す争いが起きたりしながら道が出来て行き

その後国家に守られた輸出入の物資の運搬や、
国同士の友好の為の縁談による大所帯な移動くらいで
普通の庶民が旅をする等ということは考える事ができなかった時代

その道が何本か通り、徐々に交流が進んで来た頃のお話
5 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:39
表の音は一向に収まる気配がない

ひとみは自分の家の壁を誰かが駆け抜けている音を聞き、体を伏せる

ほらみたことかというかのように窓ガラスが割れ
壁に銃弾の後がついていった

「ったく、いつまでやってんだよ」

また、壁に土を補修しなきゃなんないし、ガラスも買わないといけない
ぶつぶつと口にしながら、自分の銃を持って鉄のドアから外の様子を伺いに行った

外は人通りもなく、争う人以外
家に篭って、銃撃戦が終わるのを待っている感じ
6 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:40
銃は、この国では10人に一人が持っていると言ってもいいが
めったやたらに撃つ機会があるわけではない

一応警察のような組織があるにはあるので、殺人は処罰対象になっている

ただし、正当防衛は認められる為
正当防衛を気取る殺人が横行したりする


自分の身は自分で守る


この国の人たちは、生まれた時からそうやって生きている

それが出来ない人は死

それが当たり前
7 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:41
話は戻り、ひとみはそっと窓から外を見た

注意して伺っていた外を
狩人と呼ばれる特殊任務部隊が2人、銃を構え獲物を追って走って行った

狩人がいるという事は、生態の異変によって生まれた生物がいるという事

「ちっ、族が出たのか」
ひとみがささやくと

「ひとみちゃん、族・・・・出たの?」
部屋の奥から朝食を作って出て来た人の名前は石川梨華

「うん、そうみたい危ないから伏せてた方がいいよ」
8 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:45
関わらない方がいい、ひとみはそう判断してドアも閉め窓からも離れた

その瞬間

パリンパリンっ・・・
ドンっドンッドンッッッゴロゴロゴロ

「きゃっ」

梨華が叫ぶとひとみの近くに走って来る

さっき銃によって破壊された窓から三つの塊が転がり込んできた


「いって〜っ、おいっ加護っ、辻っ、大丈夫か?」
「「うんっ、親びんっ」」

返事を確認した親びんと呼ばれた子がひとみと目を合わせる

すでにひとみが銃をかまえ、梨華を背中に隠して三人を見下ろしていた

しかし、親びんと呼ばれる子の姿が一瞬で消え加護と辻呼ばれた子達も姿を消した
9 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:48
「・・・・悪い、すぐ出て行く、裏口がどっちか教えてくれれば何もしない」

あっという間に銃を構えていたひとみのすぐ後ろの梨華の頭に銃をつきつけていた
その動きはとても人間技ではなく、この三人が族であるとひとみと梨華は瞬時に理解した

「猫?」
「いや・・・・犬だよ」

ひとみの問に親びんと呼ばれた小さな少女が答える


「親びんっ、こっちから出れそう」

いつの間に奥の部屋に行ったのか一人が顔を出して言った
その顔には血が流れていた

「おうっ、じゃましたね」
言った瞬間に割れた窓から飛び込んでくる狩人が発砲して来た

「くそっ」

親びんがそう言うと梨華とひとみを突き飛ばして狩人の放った銃弾を避けさせ親びんは消える
10 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:49
「梨華ちゃん大丈夫?」

消えた三人を追うように
銃を乱射しながら奥の部屋に消える狩人の一人を目で追いながら
ひとみは声をかける

「う・・・うん、大丈夫・・」

外からもう一人の狩人が叫ぶ


「よしっ、一匹捕まえたぞっ」

どうやらこの家から出た所を待ち伏せされていたらしい


「梨華ちゃんはここで隠れてて、ちょっと見てくる」
11 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:52
倒されたままの梨華が起き上がるひとみの手を咄嗟に握り言う

「やめなよっ、関わらない方がいいよ」
「あ〜うん・・・・・でもさっき、あの族の子・・・・ウチらの事助けたよね」

大丈夫だよと言う様に、梨華の手を離させるとひとみは立ち上がり難しい顔をした

「あ・・・うん、何か族っていうか・・・・子供みたいだったよね」
頷きながらも考える。

ひとみは親びんと呼ばれる子と眼を合わせた時に
族にしては綺麗な目をしているなぁと思っていたのである

それに、咄嗟に私達を銃弾から助けてくれた

悪い族では無かったはず・・・・・

まぁ、自分達が銃弾を浴びそうになったのも、あの三人のせいだけどと苦笑してしまう


そして自然と奥の裏口へと足が向く
12 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:55
銃を構えたまま、足音と気配を消して出口に近づき
そっと覗くと狩人の2人が先ほど頭から血を流していた子に網をかけて銃口を向けていた

「こいつが死んでもいいのか、よくないよな矢口っ
お前はほっとけない性格だよな、だったらすぐに姿を表せっ」

「いいかっ、力を使った途端にこいつを打つ
このバーミンが少しでも光ったらこいつは死ぬぞ、いいな、出て来い」

2人は細い路地で銃口を固定したまま左手のバーミンと視線を一緒にしていた
その内一人がその動作のまま視線を上へと移していった

バーミンとは、族と呼ばれる生態の異変によって出来た生物が
その特殊な能力を使う時に発するエネルギーに反応し光る石の事である

石は天然の物で人工的に作られたものではない
これも生態の異変の不思議な所である
13 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:56
ひとみは隠れながら事のなりゆきを静かに見ていた

どうなるのだろう

網の中で悔しそうに下唇を噛み締めて涙目になっている少女は
どうみても子供のようで、噂に聞くような凶暴性はなさそうだ

それに、矢口と呼ばれている先ほどの親びんの名前には聞き覚えがある気がした

動きのない三人に目をやりながらもどこで聞いたっけなぁと考えていると

「解ったから撃たないでくれ」

上の方から声が響き、静寂が動き出した
14 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:57
それを聞いた二人がにやりと笑い

「いい子だ、おとなしくしていればこんなに運動しなくても良かったのになぁ」
「親びんっ、ウチはええんでのの連れて逃げて下さいっ」
「黙ってろっ、死にたいのか」

そうやって一発網の中の子に向って撃った

「加護っ」
銃声と同時に上から声が響く

弾はどこかに当たったのか「うっ」と言って赤い血が後ろの壁に飛んだ
15 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 20:58
ひどい

ひとみは瞬時に思う
いくら凶暴性のある族だと言ってもまだ子供なのに

「解ったからその子を撃つなっ」
矢口と呼ばれた親びんが屋根の上に姿を表すと同時に一人の銃口が発砲される
バーミンは光っていないが、矢口は弾を避けたのを見てひとみは驚く

そして汚い・・・・

ひとみはその2人を見て、何だかいらいらする気持になってしまった
治安を守る国家の特殊部隊なのに、どうみても狩人の2人の方が悪人に見えて仕方なかった
16 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:00
「おいら達をどうするつもりだ」

堂々と立って、屋根から下に向って睨みをきかせる

「決まってるだろ、お前らの国に送還し、この国にもっと水を供給してもらうのさ」
「おいら達ぐらいじゃ、そんな取引通用しないよ、それでもおいら達を?」
「それならそれで、お前らをいただいて、能力の開花させてもらうまでさ」

ひとみはハッと気づく・・・

少し前に新聞で見た名前

Mの国で、大勢の軍隊を殺して逃亡した王族の従者の名前だと
17 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:04
Mの国は、水も自然も豊かという国

ここ数年でJの国は何故か干ばつが進み、特に飲み水が少なく貴重である
国が手配した水では到底足りず
庶民は雨水を貯めたり、Mの国から大勢の商人が命がけで運んで来た水を高い金で買う

狩人が言っていた能力の開花とは
族という生物が最初に体を合わせた者の能力を数倍に引き出して行く力を言っている

たとえ純粋な人間でも、潜在能力という未知の力が宿っており
それを族との交わりにより開花させる事が出来たのだ

だから王族は、こぞって族を見つけては自分と交わりを結びたがり
実際何かしらの能力を得た者ばかりと聞く

しかし、噂では合意の上の行為でなければどちらも命を落とすと言われる

だから何年もこの時代の中の時間が進んでいく過程で
族は確実に滅亡の一途をたどっていった

その能力故に、恐れられたり凶暴化したり
能力を求め争いが起こり、殺されていくのも事実だったのだ

ひとみも実際18年位生きてきて
純粋の族を見るのも初めてなのである・・・・記憶のない時を除いて
18 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:05
「とにかく降りろ」

狩人の声を聞いて
矢口がトンッと二階の屋根から降りる

狩人が銃を両手で構え、左手に装着しているバーミンを見ながら銃口を向けて近づく

「もう一匹は?」
「あの子ならもう遠くへ逃がしたよ」

答える矢口に近づいて、激しく銃で殴った
19 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:06
小さい体は壁に吹っ飛ぶ

「親びんっ」

網の中の子が泣いて叫ぶと再び網の子に構えてた狩人が動くなと発砲する


あの矢口って人が悪人なら、きっとここで姿を表すはずなんてない
それより何より、あの眼の輝きが凶悪な殺人犯だとは信じられないとひとみは判断する
20 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:08
射撃の腕は自信があった

ここ数年で急激に普及した銃、
弾や火薬は今は水よりも安い為容易に手に入る

小さい時から、近所の子と比べても抜群に狙い通りの所に打てたので腕には自信がある

しかし、まだ人を撃った事はなかった・・・
脅しでは頻繁に使ったが

しかも相手は国家の特殊部隊
そんな人を撃ってしまっては正当防衛なんて通用するはずもない

ここの町の中での兵隊は絶対的な権力を握る
矢口を相手している方と違う男は
ピクリともしないでバーミンを見ながら網の中を狙っている

いくら族だって能力が使えないんじゃお手上げだよね・・・とひとみは覚悟する
21 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:13
矢口の両腕を片手で掴み
腰の所から縄を取り出して矢口を縛ろうとした時にひとみは行動を起こした

網の中を狙っていた男の手を撃って銃をはじかせていた
それを最初から気づいてたかのように矢口は姿を消し、
2人のバーミンが光ると、矢口を捕まえていた男が叫びながら四方に銃を乱射しひとみの腕を貫いた

痛みに襲われるひとみの耳元で「ちっ」と声がすると
ひとみは壁に突き飛ばされてそばから銃声が聞こえ、狩人の2人は目の前でゆっくりと倒れた

「あ・・・・」

腕を打たれたのも忘れるように、
目の前で倒れた男達を見下ろすひとみの前に、小さな人影が姿を表す

「こんな雑魚、殺すつもりはなかったのに・・・」

目の前で倒れた狩人を見て悲しそうに矢口が呟いた
22 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:15
「だ・・・大丈夫?」
ひとみはダラダラと血を滴らせながらも矢口に問い掛ける

「ってか、アンタの方が大丈夫?だろ、ちょっとこの服破くけどイイ?」

返事も聞かず長袖の袖口から、矢口が腰から抜いたナイフで裂き
矢口はペロペロと傷口を舐め出した

「なっ、何すんだよっ」
ひとみは驚いて矢口を突き飛ばした

「いって、折角治療してやってんのに、まぁ弾は貫通してるし
後でまた治療すっからちょっと家の中で待ってな、それとすぐ出発だよ」
「は?治療?」

くるっと踵を返し矢口は網の中の子に歩いて行きながら話し続ける

「狩人が殺されたのをあっちの家の住人が覗いてた
あんたも共犯だよ、悪いけどここから離れて違う場所で生活した方がいいね」
23 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:17
「「親び〜ん」」

網を外して貰った子は前から抱きついて
もう一人がいつのまにか矢口の背中に乗っかって泣いていた

「のんが臆病だからごめんなさ〜い」
「よしよしっ、怖かったろお前ら、いいよ辻が撃ってたらオイラの命が危なかったし、
加護も無事だし、ほら加護、傷口見せてみろ」

泣きながら「親び〜ん、痛いよぉ〜」と肩口を見せる

「おっ、でも加護、ついてるよ、かすってるだけじゃん
なんとか避けれたみたいだな、よし、そこだったら自分で出来るだろ、頭は辻に舐めてもらいな」

「「は〜い」」

加護と呼ばれた子は自分でペロペロと肩口を舐めだし、その頭をもう一人が舐めてあげている
24 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:20
矢口はその様子を優しい笑顔で見ると再びひとみの方へ向いて言う

「あれ、家の中で待ってろっつったのに
まだこんなとこで立ってたのか、早くしないと役人来ちゃうだろ」

三人ののほほんとした雰囲気に流されて、
舐めると傷が治るのか?と不思議がっていたひとみは背中を矢口に押されてさっきの部屋に戻る

すると隅の方で梨華が蹲って震えてた

「梨華ちゃん」

その言葉で入って来たのがひとみだと解ると
ガバッと起き上がりひとみに抱きつく

「ひとみちゃんっ良かった〜、生きてたんだね」
「う、うん、それでさ、梨華ちゃん」

慌てるひとみがどう説明しようかと頭を悩ませてると

「お取り込みの所悪いんだけどさ、すぐここ出てかないといけないから
身の回りの物準備してここを離れるよ」

2人のすぐ横に顔があり、梨華は驚きと恥ずかしさで下を向いて離れた・・・
そして言われた言葉を頭で整理してからやっとひとみの傷に気づく

「え?あ、ひとみちゃん腕がっ」
泣きそうな顔でひとみを見上げる梨華
25 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:22
「ほらっ、ぐずぐずしないっ、死にたくなければ支度して」

矢口の声にひとみもすまなそうに梨華の背中に手をやり二階へと導く

「なんかそういう事になっちゃったんだよね
腕はこの人が治療してくれるらしいから支度してよ、ごめんね梨華ちゃん」

「う・・うん」と頷いて二階へ上がって行く梨華

「ほら、あんたはこっち来て」
「いてててて」

傷のある腕をめいっぱいひっぱられて
さっき新聞を読んでいた場所に座らされるひとみ
26 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:25
いつのまにか入って来ていた加護と辻がきらきらした眼でテーブルの上の朝食を見ている

「「おいしそ〜」」
「お・・・おいしそうだぁ?あんたらのおかげで
壁の土が入っちゃったりしてるじゃん、そのスクランブルエッグ」

ムッとした声に何のためらいもなく答えるちびっこ

「じゃあいらんの?」
「あ?・・・まぁ」

その言葉で、すぐに上に少し被った土を器用に取って二人は仲良く半分ずつ口にほうばった

「こらぁっ、辻加護っ、いじきたねぇ事すんじゃねぇっ」

ひとみの腕を持ったまま成り行きを見ていた矢口が腕を放置して2人にげんこつを落とす
27 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:26
「「だって親びんっ、もう二日も食べてないんですよぉ」」

綺麗に2人がハモる
それを聞いたひとみが、

「あ、奥の台所にまだあるはずだけど、食べ・・・・る?」
と言った時には、辻加護だけでなく、矢口まで姿を消して

「てめっ、さっき食ったろ、次はおいらだっ」
「いくら親びんでもこれは譲れませんよ」
「せやせやっ」

ひとみの腕はさっき捕まれたままの形で宙に浮いていた
28 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:27
しばらくその姿を見ていたが急におかしくなり笑い始める

「あはははっ、あんた達まじで族?」

肉弾戦のようになって食べ物をほおばる三人が
ピタッと止まってひとみの方を向く

「うん、一応」

矢口が言うと再び食べ物に群がった


げらげらと一人笑い続けてたけど
その争いは留まる事を知らず、保存用の下の扉にまで手を出しだしたのを見て

「ちょっと、私達もまだ御飯食べてないんだから残しといてよ」
「ああ、わかってるわかってる」

矢口は腕ずくで2人の動きを封じて満足のいく食事をしたようで
ポケットから畳んでいたリュックを出すと地下の食料を詰め出した

「おいおい・・・・・」

どんどん食べられて行く食料
29 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:29
ついにひとみがキレる

「私達のもんだっつってんだろっ、ちびどもっ」

ゴンッ ゴンッ ゴンッ

三人にげんこつを食らわすと、
三人が同じポーズをして頭をさすりながら涙目で見上げてきた

その姿は完全に叱られた犬の姿で
その口からは クーン という声が聞こえそうなくらいだった

これが本当に噂の殺人鬼の族の姿なんだろうか・・・
ひとみの頭の中は?がいっぱいだった

「でもここから出ないといけないから残すともったいないじゃん」
「いや、そーでなくて、私達にも残しとけっつってんの」
「うん、だからリュックに詰めてる」
「か〜っ、何か腹立つ」

ひとみは、頭を掻きながら二階へ行き準備を手伝う事にした
30 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:30
二階へ行きながらもさっきの三人の顔がおかしくて噴出しそうだった

三人は、この家にある全ての食料をリュックに詰め込み
矢口は裏口へ行き、加護を捉えていた網と死んだ二人が着けていたバーミンと
持っていた銃、弾、役に立ちそうなものを探して身体検査した

終わって部屋に戻ると辻と加護もお腹が落ち着いたのか
椅子に座って満足げに矢口を見た

「この網、カランの蔦で編んでるんだね、だから力が使えなくなっちゃってたんだ」
「せやねん〜、それに重くて身動き取れんやったんですぅ〜」

辻が加護の頭を撫でている

「まぁ無事だったから良かったし、怪我はどう?」

頭も肩も、もう血が止まっていた
31 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:33
族と呼ばれる生命体の不思議の一つに、治癒力がある
たいがいの怪我なら舐めると治るのである


「よかった、じゃあこれしまっときな、あの2人から取った銃とバーミン、無くすなよ」
「「ほ〜い」」

加護と辻がバーミンを腕につけて、ライフル銃をたすき掛けにした

「あ、勘太の事忘れてたね、辻呼んで来て」

返事をして辻が表へ出てポケットから笛を出して吹くが
人間には聞こえない特殊な音波を発した
加護が眼を閉じてる様子を矢口は見つめて

「どう?」
「うん、こっちに向って来てます」
「よしっ、じゃあ早く行こう、そろそろ表にも人が出始めてるみたいだし、すぐ別の兵隊に見つかるよ」

銃を腰に差込み、食料の入ったリュックをからうと二階へ行った
32 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:37
「準備出来た?」
左の部屋にいる梨華に声をかける

「あの・・・・でもどうしてここを出ないといけないんでしょうか?」
バックに衣類をつめながらも矢口に問い掛ける

「まぁ・・・・・・ここにいて死んでもいいなら無理に連れてかないけどさ」
「ごめん、梨華ちゃん、私のせいなんだ
だけど、ここじゃなくてもどこでだって生活出来るよ、梨華ちゃんと力合わせれば」

ひとみが矢口の後ろからリュックをしょって自分の部屋から出て来る
そしてその言葉を聞いて梨華が少し安心した表情をしてバッグを持ち立ち上がった

矢口はさっきの様子と目の前の雰囲気から、この2人はそんな関係なんだろうと感じた
巻き込んでしまったのは申し訳ないし
目の前の梨華ちゃんという娘は、
すぐに死んでしまいそうなタイプで心配だが、後ろにいる娘が一緒なら大丈夫だろうと安堵する
33 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:39
これまでの旅で、いくつかの村を通って来たが、
この国は自分達の国よりも雨が少なく緑も少ない

商売はそこそこ発展しているようなこの村だが、食料は乏しそうだった
二日も食べ物にありつけなかったのに、この家には沢山の食料があり
何か特別な仕事か金を持っていると矢口は思っていた

だからどこに住もうときっと逞しく生きて行くだろうと判断し
即座に連れて行こうと思った

そこかしこで、争いや略奪が起きている世の中なんだから
空家なんていくらでもあるしと・・・・

「あんた達、野宿は平気?」

二人で顔を合わせると、梨華は少し不安そうな顔をするがひとみが優しく頷くと口を開く

「あぁ、大丈夫だけど、何かこれが必要ってのがあるの?」
34 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:40
そこで矢口が気づく、平然と話しをしているが
腕からは血がダラダラと流れたままだった事を

「あ、忘れてた、あんたの腕の事」
「ひっで〜」

すぐにさっき裂いた袖をさらに破り取り、また舐め出した
梨華が眼を丸くしてその光景を見ていたので、ひとみが説明する

「この人達、傷口舐めると治るんだってさ、梨華ちゃんみたいでしょ」

腕から流れた血を綺麗に舐め終わった矢口が

「え、あんたも族?」

尋ねて笑った
35 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:42
「わかんないけど、梨華ちゃんには心が癒されるみたいで
色んな人が癒して貰いに食べ物とか持って来てくれるんだよね」

梨華じゃなくひとみが答えた

「ふ〜ん、鳥族かもしんないねぇ、バーミン手に入ったし後でやってみよ
よし、血は止まったみたいだね、それとその服は着替えて出発」

ほんとだ、止まってると不思議そうに傷口を見つめながら向かいの部屋に入ってくひとみから
梨華に視線を移し矢口が梨華の荷物に眼をやる

「その荷物は何が入ってんの?必要なのは金と食料、
武器と服は厚手のを数枚と薄手のを数枚、それとスカートは×、いい?」
「スカート・・・ダメなんですか?」
「襲って下さいってなもんでしょ、動きづらいし」

荷物からゴソゴソとスカートを三枚程出す
三枚も入れてたんだと最初あきれた矢口は、
出されて空いた場所に大切な物とかあったら入れなと優しく言った
36 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:45
着替えを済まして出て来たひとみにも、同じ様に必要な物を言い確認を済ますと行くよと先に2人を降ろし部屋に何か目ぼしい物がないかチェックする


「「わぁっ」」



先に降ろした二人の声で矢口が飛んで下に行くと安堵の息を漏らす

「なんだ勘太か」

ウォンウォン【親びんなんだとはひどいっす】

「ああ、ごめん、ありがとな荷物の番」

ウォン【いえいえ】

かなりでかい犬が鞍の両脇に荷物を吊って家の中に入ってたのを見て驚いていた2人は声を合わせる

「「犬と・・・・しゃべってる」」

「親びんは犬族やもん」

加護が自分の事のようにいばる
37 名前:dogs 投稿日:2006/05/21(日) 21:47
「へぇ、族って動物としゃべれるんだ」
「ううん、犬だけだよきっと、それにウチらはしゃべられんしね」
「え?何で?あんた達も犬族でしょ?」

ひとみの頭には猫族は猫と話せるんだろうか?と思いながらも聞いてみると

「「ウチらはハーフやもん」」

って笑顔で返してくる

「ほらっ、そんな事言ってないで行くよっ」

あ、人間と族のハーフって事ね・・・
と2人は納得して矢口について裏口に行き
死体を怖がる梨華をひとみは影に隠してやって住み慣れた家を離れた
38 名前: 投稿日:2006/05/21(日) 21:51
凝りもせずにまた始めてしまいました。
文章的には稚拙でどうしようもありませんし辻褄が合わない事も
あろうかと思いますが、どうかよろしくお願い致します。
39 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:44
裏通りを足早に進み、先ほどの騒ぎの届かない所まで来ると表に出た
その頃は通りに出て騒ぎ出す人々に紛れて歩き出す

「こうして普通に歩いてれば族だとは気づかれないから大丈夫」
「じゃあ、さっきはどうしてバレたんですか?」

梨華が尋ねると、
三人が眼をあわせながら何も言わない様子を見て
ひとみはからかうように言う

「ただドジっただけじゃない?どっかの食べ物盗む為に力使って取ろうとして、
たまたま近くに狩人がいてバーミンでバレた・・
とかそんなんだよ絶対、なんか間抜けそうだもんこの三人」

無言のまま静かに足を進める三人



「もしかしてズボシ?」


げらげらと笑い出すひとみ
40 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:47
俯いて歩く三人を勘太が様子を伺いながら見上げる

ウォン【すごいっすね、この2人、的中っす】

矢口がギロリと勘太を睨み、勘太はスゴスゴとひとみの影に隠れた


「やっぱそうなんだ、大丈夫?
私達の事ちゃんと守ってってくれるんでしょ〜ね〜」

「うっさい、そんなん知るか、自分の命は自分で守るのがこの時代の鉄則だろっ
大体お前らなんつー名前なんだよ」

「ああ、ウチは吉澤ひとみ、んでこっちが石川梨華、あんた達は?」

「おいらは矢口・・・矢口真里、んでこっちの色白が加護亜依、
色黒が辻希美、で、おいらのパートナーの勘太」
41 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:48
「色黒はひどいです・・・・
でもそっちのキンキン声のねえちゃんも仲間ですね」

てててと梨華の横に近づいて親しげに辻が言うと

「うっ、そうだね・・・・・・・・キンキン・・・声・・・」
呟いて梨華が落ち込んでいった

「あ〜っと、梨華ちゃんっ、かわいい声って事だから気にしない」
慌ててひとみがフォローする

「きゃははっ、気にしてんだ、かわいいじやん、おいらその声結構好きだよ」
「ウチも好きやなぁ」
42 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:50
矢口と加護のフォローに気をよくしたのか、梨華の方から質問をしだした

「ふふっ、矢口さん達は、おいくつなんですか?」
「おいら20」
「「ええっ」」
梨華とひとみは自分達より年上なのに驚きすぐに声をあげてしまった

「んだよっ、文句あんのかよ」
「いや・・・ないけど・・・・」

それ以上は言ってはいけないと身の危険を感じたのか
2人は口をつぐみ、ひとみが加護達に話しを振る

「加護と辻は?」
「ウチは14」「アタシは15」
「私達は17だよ」
「おっ、じゃあおいらがいっちゃん年上じゃん、みんな言〜こと聞いてよね」


「「「「は、は〜い」」」」
43 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:54
それからはなんだかんだと加護と辻の誰のか解らない
ものまねショーとかを見ながら一日中歩いていた

ひとみ達は生まれてこの方こんなに遠くまで来た事がない
周りの風景は、すっかり家と呼べる物もなくなり
枯れた木の間に物資を運ぶ為の道があるだけの所を通っていた

すでに、町の中を通っていた時のように歩いていた人々は姿を消し、
自分達5人と一匹しかいない木々の間をもくもくと歩く

休憩もする事なく矢口達は、先を急ぐように歩き続ける

「あの・・・・矢口さん達はどこまで行くの?」
思い切ってひとみは聞いてみる

「う〜ん、吉澤と石川は、隣の町迄行けば
きっと普通に暮らせるようにするからそこまで頑張れ」
44 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:55
質問の答えでなく、自分達の身を案じての質問だと解釈した矢口の返す答え
それを聞いて不安の色を隠せない顔の二人

「隣の町・・・・・行った事ない」
「どれくらいで着けますか?」

気が遠くなりそうになりながら梨華が聞く

「そうだねぇ・・・・無事に着ければ4.5日くらいで着くんじゃないかな」

こともなげに言う矢口にひとみも呟く

「4・・・・5日?」
45 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:57
今日突然争いに巻き込まれ、突然旅に出させられた
あのままあそこにいれば、何の苦労もなく暮らしていけたのに・・・との心の声が聞こえそうだった

「そういえば、お礼言うの忘れてたね、おいら達を助けてくれてありがと」
「い・・・いや、なんか成り行きだったから」

ひとみは突然感謝の言葉を言われて少し照れた

「それにおいら達が族だって知ってても普通に接してくれるしね」

先頭を歩いてた辻加護も嬉しそうに振り返って話に加わる

「あ、そうだよね、今までの人達はみんな化け物みたいにアタシ達の事みてさ」
「せやせや、冷たかったよねぇみんな」

三人の背中が急に寂しそうに歩いてるのを見て
ひとみと梨華はこんなに小さい背中の子達が
ほんとかどうか解らない噂の為に
殺人鬼の扱いをされ続けて来たんだろうなぁと少しかわいそうになってしまった
46 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:59
「ねぇねぇ矢口さん、そろそろ休憩しませんか?」

梨華が空気を変えようと話をふる

「そっか、あれからずっと歩きっぱなしだね、んじゃ休憩すっか」
「「わぁ〜い、休憩だぁ〜、お腹すいたぁ〜親びんっ何かちょうだい」」

枯れた木に身を委ねて座り
リュックからひとみ達の家より取って来た食料を加護・辻・勘太に渡す

ひとみ達にはリュックごと渡して
「元々2人の家のもんだからさ、好きなだけ食べなよ」
「でもこの中の食料でこの人数の4.5日分は・・・・無理でしょ」

心配そうにひとみが言うと

「大丈夫大丈夫、村とか途中にあるかもしんないし、
そん時はちょっと失敬させてもらうから」
「なるようになりますよね親びんっ、今までそれでやってこれたし
狩りしたりアタシが食べれる物持ってきたりしますしね」
「そうそう、親切な人が食べさせてくれる時もありましたもんね」

三人はにこにこして全く不安げにはしてない
47 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 21:59
「そういえば、石川、あんたのチェック忘れてたね」

ハムを口にしながら梨華の近くに行って隣に座る

「どうやって癒してくれるの?」

邪気のない顔で矢口は梨華を見上げる

「ええっ・・・・・今・・・やるんですか?」
「こんな所じゃ無理なやり方なの?」
「いえ・・・・・そんなんじゃないですけど、じゃあ手を貸して下さい」

矢口が出した手を梨華が握る
加護と辻が、食べながらも興味津々の顔で見つめる
48 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 22:01
ひとみは勘太の頭を撫でながらもそっぽを向く

梨華が眼をつぶると矢口は梨華の体から
うっすらと湯気みたいなオーラが発せられるのを見た、
もちろん普通の人間には見えないだろうけど・・・

加護と辻がつけているバーミンがやんわりと光る

「「親びんっ、バーミンが反応したぁ〜」」

頷く矢口

試しに矢口は、過去のつらい出来事を思い出してみた
49 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 22:02


静かな時間



梨華の額に汗が滲み出すと、辻達はだんだん心配になる

矢口の体がゆらりとしだし、梨華の眉間に徐々に皺が寄り出すと
ひとみが梨華の背中に手をやりそっと顔を覗き込む



「梨華ちゃん」



もうそれ以上はよした方がいいと言うように優しく囁く

ハッと梨華が矢口の手を離すと、ぐらついていた矢口がパチリと目を開ける
心配そうに見る加護と、矢口の後ろに近寄った少し涙目の辻を見て
ほっとするかのようにその名を呼ぶ

「加護・・・辻」

「「親び〜ん」」
2人が笑顔で微笑む
50 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 22:04
梨華が口を開く

「加護ちゃんと辻ちゃんの」

そこまで言った所で矢口が遮る

「もう解ったから・・・・やっぱりあんたも族の血が流れてるね」
「・・・多分」

ひとみは驚く、梨華が自分が族である事は薄々感づいていたという事に

「でも今までよく殺されなかったね、あんまり強そうじゃないのに」
「梨華ちゃんは、やっぱり族の血をひいてたんだ・・・・・」

不思議な力におかしいとは思っていたものの
そんな族がいるなんて知らなかったひとみ
51 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 22:05
「ひとみちゃん・・・・・ごめんね」
「あ、ううん、気にしなくていいよ、随分梨華ちゃんには助けられたし
これからもちゃんと守ってあげるし」

うんと嬉しそうな梨華に、優しい顔をしたひとみを見て矢口は微笑む

「なるほどね、吉澤が用心棒だったって事か・・・銃の腕が確かだったもんね」
「それに梨華ちゃんに治療してもらった人で、梨華ちゃんを殺そうという人は出ませんからね」
「うん・・・・」
「親びん何でそうなるの?」

辻が頭を傾けて聞く
52 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 22:08
「石川は、人の心を見れるんだ、
おいらが思った事柄を見る事が出来る・・・・・だろ」

「はい」
少し疲れた顔をして頷く

「それがどうして殺されない事になんねん」
加護が納得いかないとばかりにかみつく

ひとみが加護の肩を抱いて

「加護も、昔誰かを傷つけたりして、苦しんだりする事はなかった?忘れたい事とかさ」
「ん・・・・うん・・・・ある」
「そういうのを梨華ちゃんが解ってくれたり、
記憶を消して欲しいといわれれば消してあげたりする訳だろ
そうしたら見られた方は梨華ちゃんに感謝したり
すっきりした気分になったりして族だろうと何だろうと梨華ちゃんを信頼するって事」

矢口も頷く・・・

今思っていたつらい事が、
心の中で誰かに包まれて取り出されようとしたのを感じていたから
ひとみが言うと梨華が悲しそうに頷く

「梨華ちゃんはあんまり記憶操作はしたくないんだよね、
それに梨華ちゃんがそれをすると何日も寝込んじゃう位体力消耗しちゃうし」

優しくひとみが梨華の至近距離で言うと、嬉しそうに梨華が寄り添った
53 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 22:13
「そっか、まぁ、自然が一番だしな、よしっ、
じゃあ日も暮れて来たし、そろそろ寝る所でも探すか?」
「「ほ〜い」」

確かこの先に一軒休憩所のような家があったはずと矢口が呟き
今ので梨華を疲れさせてしまったと感じた矢口は立ち上がる

「んじゃ、2人はここで荷物見ててよ、勘太置いとくからさ」
ウォン【任して下さい】

「あ・・どこ行くの?」
ひとみが立ち上がった加護達を不安そうに見上げた

「心配すんなよ、置いてきゃしないからさ
おいら達のが足早いから先の様子見て寝る所あるか探して戻ってくる」

にかっと笑って三人は瞬時に姿を消す

足音だけ残して
54 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 22:14
「・・すげ〜」

唖然と二人は消えていった木々の間の道筋を見つめた

「・・・・ねぇ、私達連れてると・・・・かえって足でまといなんじゃないのかなぁ」
「うん・・・・そんな気ぃするね・・・確かにこんな事になったのはあの三人のせいだけどね」
「ふふっ」
「あははっ」

なんとなく可笑しくなって笑い出した2人に
勘太はじゃれついて顔を舐めたりしだした

「あはっ、勘太は私達の事気に入ってくれたんだね」

ウォン

じゃれつく勘太の顔を包んで撫で回す梨華
55 名前:dogs 投稿日:2006/05/22(月) 22:15
「ねぇ、私・・・の事・・・・族って知っても・・・
今まで通り接してくれる?」

勘太を撫でながらも心配そうな梨華の顔に
少し離れてふうっと息を吐き呆れるように言うひとみ

「当たり前じゃん・・・・でもさ、族ってったって悪い人ばっかじゃないんだよ
あの三人だっていい奴みたいだしさ」
「そうだね、なんか楽しい三人だし・・・ふふっ」
「あ、さっきあの矢口って人の中見れたんでしょ、どんな事思ってたの?」
「あ〜、でもやんわり見えただけだから、ただあの加護ちゃんと辻ちゃんの家が
特殊部隊みたいなのに襲撃されている所を矢口さんが助けたのが見えた・・・・
その光景はあの2人は寝ていて見てなかった感じだけどね」
「そう・・・どこでもそんな事があってるんだね」

その時勘太が、ピクッと動くと立ち上がりひとみの服をひっぱり出した
56 名前: 投稿日:2006/05/22(月) 22:16
本日はここ迄
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 16:48
期待
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 17:58
二人の絆は強いですね!今後、どんな運命が待ち受けているのか続きも楽しみにしています。
そして、大変だと思いますが完結まで粘り強く頑張って欲しいと思います。
59 名前: 投稿日:2006/05/23(火) 21:27
57.58の名無し飼育さん
レスありがとうございます

グダグダとマイペースにやらせて頂くことになると思います
暇つぶしにやんわりとご覧下さい
60 名前: 投稿日:2006/05/23(火) 21:28
「何、どうしたの?」
「なんか、こっちにこいって事だよねきっと」

急いで荷物を全て持って勘太の後をついていったらどうやら岩陰に隠れろと言ってるようだった

「何、誰か来るの?」

ひとみが勘太に言うと黙れというような視線をひとみに向けて伏せた

二人は息を潜めて静かに隠れた。
しばらくすると今来た道の向こうから馬に乗った兵隊が数人歩いてくるのが見え出した

「ほんとにこっちに向ったのは間違いないんだろうな」
「はい、五人組と犬一匹がこの道に入るのを目撃した人がいますので、この道は通っていると思います」
「しかし、矢口達は三人組だろう、別人じゃないのか?」
「いえ、あの2人を殺した際にその手助けをしたと思われる2人組みを連れて行ったそうですから、合計五人ですね」

視線を合わせて二人はマズいという顔をする

「そうか、よし、急ごう、矢口達を捕まえてなんとしてでもわが派閥の手柄にするのだ」
「はっ」
61 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:30
遠くに去ってから話し始める

「ウチら迄、手配されちゃったんだね・・・・」
「うん・・・そうみたい」

「ごめんね・・・ウチあの狩人が矢口さん達を汚い方法で追い詰めてるの見て
たまらなくって・・・・・へんに助けちゃったばっかりに」
「ううん、いいよ、それで正解・・・・・役人だからっていい人じゃないし・・・
あの三人はいい人そうだもん・・・よかったんだよ」

心からホッとすると、ひとみは少し明るい表情で言う

「ありがと・・・梨華ちゃん・・・でも大丈夫かなぁ矢口さん達・・・
こっちに戻って来るんでしょ」
「うん・・・・でも見えないんだよね、姿・・・・」
「うん・・・・バーミンがあると近くにいるのが解るみたいだから
発見されちゃうかもしれないけどねぇ」
62 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:31
ふいに勘太が顔を上げた


「待った?」


ふわっとした風と一緒に矢口が2人の前に現れ驚く二人

「うわっ矢口さんっっっ・・・・・びっくりしたっ・・・・・
あっ、さっき兵隊が追ってが来てウチらの事探してたよ」
「うん、知ってる、ってかもうやっつけちゃって木にしばって来たから」
「「ええっ」」

ウォン【さっすが親びん】
「へへっまあね」

鼻の下に人差し指をこすりながらえらそうにポーズを取るが、少し辛そうに見える
63 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:33
口を開けて2人が矢口を見下ろしていると

「何?あいつらまだでしょ、この先にやっぱ小屋が一軒あったよ、
ちょっと遠いけど今日はそこ迄行こう、歩いてたらあの二人もきっと出て来るから」

梨華にもう平気か?と尋ねながら勘太を撫でるとよっこらしょと置いていた荷物を持とうとし
ひとみの手に遮られる

「持つよ、これくらいは、結構重いよね、何入ってんの?」
「一番重いのはさっきのカランの網なんだけど、
さすがに一日かついだだけで肩がいてぇや、吉澤は重くねぇの?」
「力持ちみたいで、これくらいは平気かな、だからウチが持ってく」

矢口の荷物をひとみが手に持ち、辻の荷物も持ってくれたので矢口は加護の荷物のみ背負う

「怪我は?」

心配そうに下から見上げた矢口ににっこりと微笑んで答える

「大丈夫」

安心したのかすぐに道に戻って歩き出した

「そっかじゃあよろしく、行こっ勘太」
ウォン
64 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:34
ひとみと梨華は可笑しい気分になっていた
きっと過去にいろんなつらい事があってると想像出来るのに
目の前の小さな体はそれを苦にするでもなく
追っ手が来ようと、この先の旅がどうなるかわからなくても楽しんでいるみたいに見えた
まるで旅行でもするように


「「親び〜ん」」

しばらく歩いて行くと遠くから二人の声
風と共に三人の前に出て来て

「ほらっ、きのこ見つけちゃった」
「ウチは芋のつるが見えたから掘ったら出て来ましたぁ〜」

はぁはぁと息をきらせながらも嬉しそう
65 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:36
矢口はさすがと言いながらわしわしと2人の頭を撫でて振り返り

「ね、食べ物はなんとかなるっしょ」
とニカッと笑う

言った途端ひとみと梨華が顔を見合わせて声を出して笑い出した

「あははっ、すごい」
「ほんとだね、なんとかなるもんだね」
「でもさぁ、そのきのこって食べれるの?」

疑っているひとみに辻は腹を立てたのか

「ののの嗅覚をバカにしたらダメだよん、食べれる物との区別はつくんだよん」
「せやなぁ、今まで食べれんかったもんないもんなぁ、ののがいいって言った物は」
66 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:38
「そ〜ゆ〜事、んじゃもうすぐ、あの兵隊の所通るから注意してね」

にこっと笑って先を急ごうとする矢口に辻が質問する

「追っ手が来たんですか?」
「うん、そうみたい」

「それで?」
「うん、やっつけて木にしばりつけてたんだけどいるかなぁ」

「生きてるの?親びん」
「うん・・・・・だって無駄な殺しはしたくないもんね」
「大丈夫ですかぁ?いっつもそれでしっぺ返しくらってるじゃないですかぁ」
「ん〜、でも殺せなかったんだもん」
「まったく親びんは甘いんやから」

加護に言われてしゅんとする矢口が

「あっ、やべっ、気がついてるみたいだ」
と言って消えた
67 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:39
矢口は目がいいらしくひとみ達には小さくしか見えなくても
結構細かい所迄見えているそうだ

「このまま歩いて行っても平気なの?」
梨華が加護に話し掛ける

「今親びんが気絶させに行ったから平気」
「ふ〜ん矢口さんは強いんだね」
「せや、親びんは強いんや、なぁのの」
「うん、すっごい強い」

そう言う二人の目はきらきらしていて
本当に矢口の事を好きなんだなぁとひとみと梨華は思った
68 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:41
枯れ木にくくられた人影と
木に繋がれた馬を撫でてあげている矢口が四人の目からも見え出した


「「親び〜ん」」


子犬のように掛けて行く二人

木にくくられてぐったりしているのは
さっきひとみ達の前を進んで行った人物に間違いない

優しい笑顔を見せて子犬達を撫でてる所にひとみ達が近づくと
梨華とひとみに銃を渡す

「こいつらが持ってた奴だけど、持ってなよ、石川は撃ち方知ってるよな」
「いえ・・・あの・・・・撃った事ありませんから」
「んじゃ、覚えて・・・吉澤教えといてよ」
「あの・・・・・こんな簡単に今日会った人に銃とか渡しても大丈夫?」

言われた意味の解らない矢口は
ひとみを覗き込むように見上げて瞬きをすると言う

「何で?一丁持ってたよな、吉澤」
「でも、もしかしたらウチらが矢口さん達をやっちゃうかもしれないじゃん」
「そうなの?」

悲しそうな目になって三人がひとみ達を見上げる
69 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:42
「いや・・・ちがうけど・・・すぐにそんな・・・
仲間みたいにしちゃうのは危険じゃないかなって」

焦るのと可笑しいので笑いながらひとみが答える

「なんだ、違うなら別に問題ないじゃん
何笑ってんだよ、ほら、それ持って急ごうよ、まだ結構遠いよ」
「「は〜い」」

ひとみと梨華は肩をすぼめて矢口についていく

幼い時から2人で生きてきて、周りの人には常に警戒心を持って生きて来たのに
それ以上に修羅場をくぐってきたはずの小さい三人が
自分達を信頼してくれているのが、不思議でもあり
なんだか温かい気持になっている事に2人は気づいた
70 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:45
月明かりしかない夜道を一時間以上歩いた所にやっと小屋が見えた

少し前に先に行って火を焚いておくと言って矢口は辻と消えてしまっていた

道々、ひとみ達は加護といろいろ話しすっかり打ち解ける

矢口達は、王族に遣えており
親善の為にYの国に旅立った姫を追って旅しているらしい

姫の不在時にMの国で、姫の弟がクーデターを起こし
王様達を殺し自分が王に君臨したのを知らせるのと
姫が実は売られた事を知り、自分達王族付も逆賊の濡れ衣を着せられ
反乱軍の手から飛び出し旅に出たんだと怒った加護が興奮しながら話した

その時に反乱軍を多数殺したのは確かなようだ
矢口の両親もそのクーデターで殺され
怒りのために暴れ回った事を寂しそうな顔で話した
71 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:47
ひとみ達が到着する時には、すっかり部屋も暖まっており
しかも掃除と食事も準備してあった
忙しそうな辻がテーブルにつくと矢口がにこやかに言う

「今日は疲れたろ、朝飯もおいら達が食っちゃったし
これ食べたら寝な、明日も早いから」

「「はい、いただきま〜す」」

ひとみと梨華が食べると、少し心配そうな三人はその様子を見ていた

「んっ、うまいっ」「おいしいっ」

さっき採ったきのこや芋の入った鍋を2人はおいしいと絶賛して
満足そうな辻は満面の笑みで矢口に嬉しさを伝える

「んじゃおいら達も食べて寝よ、勘太も」
72 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:50
すっかり綺麗に食べ終わると
三人は勘太の荷物から毛布を取り出しひとみ達に渡す

「吉澤達の家からもっと毛布持って来たかったんだけど
おいら達力ないから持ってこれなかったんだよね、次の村で調達すっから
今夜はそれ使ってよ、吉澤がこんなに力持ちって知ってれば持って来たのにさ
まぁおいら達は犬と一緒で丸まって寝る事も出来るからさ」

そう言うと本当に三人と一匹で固まって丸まった




翌朝、ひとみがごそごそと起きて三人の方を見ると
まだ丸まって三人を守るように寝ていた勘太が眼をさますが、また眼を閉じた

ひとみはその様子を見て勘太がお父さんで子犬が三匹寝ているみたいだなぁと眺めた

「ひとみちゃん?」
囁く梨華

「あ、おはよ梨華ちゃん」
少し照れくさそうに微笑むとひとみと同じように起き上がり三人を見る

「あはっ、ほんとに犬ころみたいだね、あの三人」
「うん、ウチもそう思ってみてたとこ、さ、朝ごはんつくろっかね梨華ちゃん」
「そうだね、昨日は作ってもらったしね」

矢口はその声に一度は起きたが二人のその様子を確認すると
笑みを浮かべ安心するように再び目を閉じて眠った
73 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:51
2人で布団を畳んで、ひとみは囲炉裏のような所で昨日燃やした火に木屑を乗せて
チャッカ石を擦って火をつけた

梨華が、自分達の家から持って来たハムをナイフで切り分ける
一番はしっこで寝ていた辻が、食べ物の匂いで目覚めた
しばらく寝ぼけた感じで止まっていたが、
ハッと覚醒して起き上がると梨華の所に飛んできて元気に挨拶した

「おはよっ、梨華ちゃん、よっちゃん」
「「おはよっ、辻ちゃん」」
「ののって呼んでよ」
「ん、じゃあ、のの」

呼ばれた辻は嬉しそうに梨華の手からナイフを取り上げ

「後はのんがするから梨華ちゃんはよっちゃんの所でいちゃいちゃしててよ」
「いちゃいちゃって、別に私達そんなんじゃないから、それによっちゃんって・・・」
「だって親びんが、あの2人は出来てるから邪魔すんなって言ってたもん」
「あっちゃ〜矢口さんそんな風に見てたんだぁ〜、ちゃんと誤解解いとかないとね梨華ちゃん」
「う・・・うん」

寂しそうな梨華にひとみは気づかない
74 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:54
「な〜んだ違うんだ、親びんの言う事もたまには外れるんだなぁ〜」

辻が次々と食材を切って行って、囲炉裏の火の上に鉄板を置いて
油の塊を伸ばすと持って来ていた卵を焼き始めた
人間の鼻にも美味しそうな匂いが届くようになった頃に二人も目覚める

「「おおっ、うまそうだぁ〜っ」」ウォンっ
2人と一匹が一気に囲炉裏に集まる

「「おはようっ、みんな」」
「「「おはようございま〜す」」」

途端に賑やかになり、食事を済ませ
食器や器具は草できれいにしてから勘太のリュックに詰めて出発準備をする

「準備出来た?、そんじゃ出発すっぞ」
「「ウィッス」」

矢口の号令に、加護と辻が元気に答え
ひとみと梨華も顔を合わせて立ち上がる
75 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:55
ひとみと勘太の荷物に食器や補充用の弾・水等重い物を詰め込み
軽い物を分担して持つ

三人はがんがん大きな声で歌いながら小さいくせに足早に歩を進める

?人生ってすばらしい〜♪ほら誰かと〜

「それ何の歌?」

ひとみが大声で聞くと

「姫が教えてくれたんだよねぇ〜、親びんっ」
「うん、姫が王女様から子守唄代わりに聞いてたらしいんだぁ〜」
「へぇ〜、姫ってどんな人だったの?」

梨華が言うと、加護達が矢口に注目し
一瞬戸惑った顔を見せた矢口が優しい顔になって答える

「すっごい綺麗で優しくて、思いやりがあって
国の人達の事を一番に考えてた人かなぁ」
76 名前:dogs 投稿日:2006/05/23(火) 21:57
ひとみは、その様子で気づく

「好きなんだ、姫の事・・・」

その瞬間に矢口の顔は真っ赤になり

「まっ・・・まぁ、ずっと遣えて来たし・・・・
おいらは姫の為の王族付きの族だったけど・・・・・恐れ多くてそんな」
「ふぅん、王族付きの族ってのがいるんだ」

何故かひとみの機嫌が悪くなり、怒ったように素っ気無く言った

「何怒ってんの、よっちゃん」

加護から言われて気づく

「あ?いや、怒ってる訳じゃないけどさ・・・・んで、王族付きの族って何?」
「あ・・・まぁ、いいじゃん、なんかこんな話しだしたら心配になって来た、急ごっ」
「「は〜い」」

木に覆われた山道をどんどん進んで行った
77 名前: 投稿日:2006/05/23(火) 21:57
今日はこの辺で
78 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:25
「そろそろ、山賊のいる所に差し掛かってるからね、加護、辻、ぼけっとすんなよ」
「「へいっ」」
「さ・・・・山賊?」

ひとみが不安げに呟く

「知らない?山賊、あんたらの街には降りて来た事ないの?」
「ええ・・・でも・・あの・・・噂だとどこの村にも住めずに
王族の兵隊から追われてる集団ですよね」
「そう、略奪や殺人とか、山の勢力争いをしてる集団、その頭には族がいる事が多いね、だから気を抜くと危ない」
「矢口さんでも?」

にっこりと頷く
79 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:27
「うん、族同士だと微妙だし、おいら達はすばしっこいだけで
動きを封じられたらただの人間の女の子と一緒だからね、イチコロだよ」

「「ええっ」」

ひとみと梨華が急に不安な声を出したのを聞いて、矢口は慌ててフォローする

「あ、大丈夫大丈夫、何があっても2人は次の町に着くまで
おいら達が命をかけて連れて行くから、それに今までも散々族のいる山賊と
戦って来てるけど、大体逃げ切れてるもんね」
「に・・・・・逃げる?」
「よっちゃん言ったやろ、親びんは人を殺すのは嫌なんや、だから逃げんねん
でも、本気出せば絶対勝ってるよん」
「ばか言うな加護、みんな生きるのに必死なんだから
気を抜けば誰だってやられるよ、だから常に自分の力は鍛えてかないとな」
「「へいっ親びんっ」」

びしっと敬礼しながら親びんに真顔で返事をしたと思ったら
すぐに笑顔で歌を歌い出して歩く三人
80 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:29
「大丈夫かなぁ、私達」

心細げに呟く梨華に

「大丈夫だよ、きっと」

さっきとは裏腹に晴れ晴れとした顔になっているひとみを見て
梨華はどうしようもなく寂しい気分になっていた

「あ、辻、バーミンを吉澤に一個渡しといてやんなよ
どうせお前は加護と一緒に行動するだろ、そうすれば族が近い時は知る事が出来るしな
それと吉澤と石川もいつでも銃が使えるように準備してろよ、いいな」

真剣に言う矢口に神妙に答える二人

「「はい」」

辻が腕のバーミンをひとみに渡してるそばから加護が急に矢口を呼ぶ

「親びんっ、あっちの方から音が聞こえる」

右前の山の頂上を指して加護が目をつぶっていた
81 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:30
「何人位いそうだ?」
「そんなに多くない、多分10人位」
「辻はどうだ?」
「わかんない、風向きが逆だし」
「よし、とにかく静かに急ごう、ただの山の民かもしれないし
動きがあれば知らせて、加護と辻は一番後方につけよ」
「「ラジャー」」

ひとみ達は頼もしいのかどうなのか解らない三人だけど
矢口の言った事は信じられる気がしていた

「あ、親びん、動いたよ」
「うん、おいらも見えた、どうやら人間みたいだね」
「どうして解るんです?」

ひとみが尋ねると

「なんとなく、相手の出方を見るからそれまでは何もしないように」

なんともいえない答えが返ってきたが、とりあえず頷いた
82 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:32
気にする事なく歩き続ける矢口についていく

ひとみ達の耳にも降りて来る人が踏む枝の折れる音とかが聞こえ、
雑草の中から5人の銃を持った男達が目の前で立ちはだかった

ひとみの後ろに隠れる梨華と、ひとみ達の前に移動する加護と辻

「お前らどこに行くんだ」

リーダーなんだろうか
えらそうな中年の男が大きな銃をこっちに向けて構えている

「何ですか?私達は旅をしてるだけで、何も持ってませんよ」

矢口が顔色一つ変えずに答える
83 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:33
通常は怯えるだろう女たちが
何の動揺もしていない事が山賊には不思議で、しかも不気味でならなかった

「食料・・・・持ってるだろう、全部置いて行け」
「あの・・・・これは次の町まで行くのにも足りない位しかありませんよ」
「いいから置いて行け」

今にも発砲しそうな銃口に、矢口はしぶしぶ自分のリュックから食料を渡した

「じゃあ、行ってもいいでしょうか?」
「ああ、いいぞ」

梨華はそれを聞いて少しホッとしたが
ひとみはどうしてやっつけないんだろうとイライラしていた

そして、リュックを片付けながら私達に先に行けと矢口は顔で指示してきた
84 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:37
男達の横を通る時に、そのうちの一人が梨華とひとみの手を握る

梨華が「きゃっ」とかわいい声を出してしまった
にやっとする山賊達

「お前らは、ここに残れ、ちびどもは行っていい」

驚く二人と焦る三人

「すみません、私達仲間だから、置いては行けません
じゃあ、お金も置いていきますから離して下さい」

リュックをからい終えた矢口はひとみ達の近くに行って
お金の入った袋を差し出しぺこぺこと頭を下げる

「ここでは金はあまり意味がないんでな、女なら遊べるから
こっちの2人の方がいいな」

手を差し出す男

ひとみが、男の手を振り払いながら矢口に怒りの視線を送ると肩をつかまれる

「なんだぁ、結構いきがいい女じゃねぇか
こういうのを待ってたんだよなぁ、いつもは泣くだけだからよぉ
そろそろ飽きてたんだ」

そう言いながらひとみの頬に銃をぴたぴたとくっつけた

「ほんとに勘弁して下さい、お願いします」

まだ頭を下げる矢口
85 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:39
リーダーの男は矢口の三倍あるかのように大きく
梨華を捕まえている男も大きくて強そうだった



ひとみは、悔しさに体が震えていた
決して恐怖からではない・・・・そう思おうとした

しかし、膝の下に感じる違和感は
今まであの町で梨華を守る際に色々と経験した事が
遊んでいたような感覚になった

本当の山賊なんて会った事もなかった

これはきっと恐怖・・・・

そう思いたくなくても
この大男達に犯されて殺されてしまう自分達の姿を容易に想像してしまう

「なかなかこんな上玉通りかからないからなぁ
そんなに頼まれても譲れないんだよなぁ」

リーダーがひとみの顎を掴んで頭に銃をつきつける

役人の物資輸送や対談の為の移動の時についてまわる世話役の女達には
こんな綺麗で若いのいないからなと厭らしい笑いをしている
86 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:41


「今までも・・・・こんな事ばっかりしてたんですか?」


恐怖に支配されてしまっていたひとみと梨華も
矢口の声が変わったのに気づく

「ははっ、これが山賊だろ、やりたい時にゃやって
食いたいときに食う、自分達はやりたいように生きるから山賊ってのさ
もういいだろ、お前らは助けてやるっつってるんだ、早く行けっ
俺らがこんなに優しいのは今の内だけだからな」

後ろにいた男達がいきなり銃を発砲し、「早く行けっ」と怒鳴る

びっくりして肩を窄めていたひとみが
腕につけていたバーミンから熱が伝わって来た

・・・服に隠していたがきっと光り出したんだと思った
87 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:43
いつのまに合図していたのか、
辻と加護がひとみと梨華に突進し突き飛ばすと
2人を捕まえていた山賊が動きに動揺して発砲する

リーダーも矢口に発砲していたがリュックがどさりと落ちた音だけ残し
もうその姿はなく、次の5発の銃声と共に五人はパタパタと倒れていった



「す・・・・・すげえ」
ひとみは倒されながらも呟く

「吉澤っ、ぼーっとすんな石川を連れて隠れろっ、
上から次が来るから行って来る、そいつらをちゃんと見とけっ
まだ死んでないかもしれない」

矢口が目の前に現れて叫ぶと辻と加護も姿を消して
風が上へ吹いて落ち葉を巻き上げていく

どうやら上に上がって行ったようだ。

勘太が梨華のズボンを噛み引きずって行こうとしている
ひとみは我に帰り立ち上がって梨華に手を出した

「梨華ちゃん、立てる?」

恐怖からか、腰が抜けたのかなかなか立ち上がらない梨華の腰に手を添えて引っ張る

「う・・・うん・・・・」

梨華を立ち上がらせると勘太は付いて来いとばかりに振り向きながら歩を進めた
88 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:45
ひとみは銃を取り出し、五人が倒れている所に向けながら
勘太についていく

梨華を捕まえていた男の手が動いてるのを見て
ひとみは男の頭に向って躊躇なく発砲し、その男も動かなくなった


人を殺す・・・・


初めての出来事だが、なぜか罪悪感は生まれなかった

山の上からも発砲音が立て続けに聞こえ出し
ザザァッと葉が揺れる音とバキバキと枝が折れる音が広範囲で聞こえてくる

立ち止まって山の上を見ながら

「ひとみちゃん、矢口さん達大丈夫かな」
「うん・・・・でも、大丈夫そうだよね、あの五人を・・・・あっという間だよ・・・・・すごいや・・・・族って」

ウォン

早くこっちに来いというように勘太が吠える

「あ、ごめん、勘太、すぐ行く」
勘太が岩場の陰に伏せた
89 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:46
ひとみも梨華も一応銃を構えて隠れた

梨華がもたもたしながら銃を持って
キョロキョロと周りを伺っているのを見たひとみは

「梨華ちゃん、ここの装置を外しておかないと撃てないんだ」
「これ?」

とても撃てる状態でない銃を見て微笑むとそっと指を指して教えた

「そう、それ、そして狙う時はこことここが直線になる延長線上が
狙った所になるからね」

そういえば、梨華に銃の使い方を教えてなかった事に気がついて教え出した
90 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:48
「教えとけっつったろ」
「おわっ」「きゃっ」

いきなり風と共に矢口が現れた

なんだかムカついたひとみはむくれた声で言う

「さ・・・山賊は?」
「ああ、あんまりいい奴そうじゃなかったから上にいた奴もやっちまった」

悲しそうにする矢口

「ウチ、あいつら嫌いやからいい気味です」
「アタシも嫌い」

加護と辻も口を尖らせて怒っている
91 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:49
「まぁ、おいらだって嫌いだけど
食べ物だけでやめときゃ死なずに済んだのにさ」

「でも矢口さん何で最初からやっちゃわないんだよ
強いんだから一発でのしちゃえば良かったのに」

矢口は寂しそうに小さく首を振る

「無駄な殺生はしない主義なの、それよりあの位で震えてちゃ
石川の事守れね〜ぞ」

急に意地悪な顔をして言う矢口

「な、なんだよっ、あんたがぺこぺこ謝ってっから悔しかっただけだろ」

ムキになって噛み付くひとみに、フッと笑ってさっきの山賊の所へ向う矢口
ひとみは矢口に着いて行ってさらに噛み付く

「ばかにすんなよ、ウチだってやる時ゃやるんだから」
「バカにしてね〜よ、ほら、そいつらの弾抜けよ、結構持ってるみたいだからもらっちゃお」

山賊の銃から次々に抜いて行く矢口
92 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:52
「ほら、何突っ立ってんだよ、ここまで来たなら手伝えよ
加護達は食料返して貰ってっから」


思いつめた顔をするひとみ

「・・・・・戦い方・・・・教えてよ」

「あん?そんなの必要ないじゃん
あの町でもちゃんと石川の事守ってたんだろ、それ位で十分じゃん」

「だけど・・・・・悔しいんだよ・・・・・
あんたは簡単に倒せる相手に、ウチはやられそうになってるなんて」

全員の弾を結局一人で集めてじゃらじゃらと弾をリュックに入れて立ち上がる

「おいらは人間になりたくてもなれないんだよ、
力がなきゃおいらなんてただの弱っちい女の子だし」
「あんた弱くないよ、つええよ、だから教えて欲しい・・・・ウチも強くなりたい」

ひとみは真剣に矢口の眼を見つめた
93 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:53
「・・・・強くなりたきゃ、自分でなれよ
おいらは弱いから何も教えられない」
「・・・・けち」
「けちじゃね〜よ」
「ちび」
「ぐっ」

子供の負け惜しみのように
ひとみは矢口に向ってこれだけ言うと踵を返して梨華の元に帰って行った

「あっ、ひとみ・・・・ちゃん」「親びんっ」

戻って来ていたひとみに向って梨華と二人の声が聞こえた時には
すでに矢口が後ろから蹴りを入れていた
94 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:54
見事に前に吹っ飛ぶひとみ

「いって〜、何すんだよっ」
「ちびっつーな」

ズンズンと荷物を持って先へと歩く矢口

砂を払いながら立ち上がって矢口を止めて威嚇するように見下ろすと
腕組みして負けずに見上げて睨みつけた

「ちびにチビっつって何が悪いんだよっ
さっき山賊からも子供扱いされたくせにっ、ち〜び」
「ぐわあ〜っ、このっ、超むかついたっ、このでくのぼう」
「なっ、でくのぼうだぁ〜っ」
「山賊に腕捕まれた位でびびって震えて何も出来ないでかいやつの事をそう言うんだよっ」
「なっ、このちび言わせておけばっ」

ひとみは真上から矢口を睨みつけていたが
図星をつかれると逆上したのか両手で矢口の胸倉を持って高々と持ち上げた
95 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:55
「うわっ、てめ〜でかいだけじゃなくバカ力なのかよっ」
「ばかっつったなぁ〜」

子供のような喧嘩をぽかんと見続けていた三人だったが
やがて梨華が超音波のような声で叫ぶ



「もうっっっやめなさ〜いっ」



耳のいい犬族の三人、特に加護は足がふらつく程キーンと来たらしくよろめいた

ひとみも矢口を下ろしてじいいいっと睨み合いをして同時に

「「ふんっ」」

とそっぽを向いてしまった
96 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:57
それからの道中は2人共機嫌が悪く、一言も口を聞かなくなった

梨華と加護・辻は
「子供みたい」「あほだよね」「あほだね」と心の中で呟いた

その後は山賊に会う事もなく日も暮れて来て
昨日は先を見てくれて優しかった矢口が
今日は野宿だと言って適当な岩場を探し、辻に御飯作ってと命令した


薪を探して来いと命令されたひとみは加護に

「よくあんな横暴な奴についてってるね」と言うと

「親びんの悪口言うなっでくのぼうっ」と怒られ
加護は辻と矢口が食事の準備している所に薪を持って行ってしまった
97 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 21:59
残されたひとみは仕方なく干し肉を切ってる梨華のそばにやって来て
「んだよ、あのちび達」
と呟きながら隣に座る

「でも、悪いのはひとみちゃんだよ
本当に矢口さんはひとみちゃんには戦い方なんか必要ないって思ってるんだよ」

「でも自分の身は自分で守らないといけないっつってたじゃん
強くならないと梨華ちゃんの事だって守ってあげられないし」

嬉しい気持ちになりながらも梨華は今日の出来事を振り返る

「うん・・・でもさ・・・・・今日・・・・怖かったね」

梨華がひとみの手を握る

「あ・・・・うん・・・・少しね」

「--少しじゃないくせに--」と梨華は力を使ってる訳ではなかったが
ひとみが嘘をついているのが解ったのかくすっと笑い

「矢口さん達・・・ちゃんと次の町まで守ってくれるよ」
「・・・・うん・・・」

答えたもののひとみはこのまま守られるだけじゃ嫌だった
98 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 22:01
ずっと梨華の事を守ってきたと思っていた自分が
今日無力なのを感じてしまったまま知らない町で暮らせるとは思っていなかった

しかし、次に矢口から言われた言葉は、思いやりに溢れた言葉だった

辻が作った食事をしながら
岩影の少し洞窟になったような場所で焚き火を囲んでいた時

「次の町は、石川達のいた町よりも緑も多かった感じだからさ
心配する事ね〜よ、今位銃が扱えれば十分暮らして行ける」

視線を火にやりながらも優しい顔して木を火にくべている

確かにひとみ達が暮らしていた町の周りに比べると
緑も多くなって水場も時々出てくるようにはなった

梨華がひとみに笑顔を向けて何か言いたそうにしている

「知ってるのかよ?次の町の事」

ひとみは素直になれずにつっけんどんに聞いてしまう
梨華が困ったように苦笑いして食事を続けた
99 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 22:02
「姫を送りに行った事があったからさ、その次の町からはわからないけど
次の町は結構暮らしやすそうだったよ」
「ふ〜ん」
「ひとみちゃん」

子供みたいなひとみに梨華がいさめるように呟く

「まぁ、でくのぼうでもちゃんと石川の事守ってあげられるよ
心配すんな王子様」

折角優しく言った言葉を挫かれて
さらに喧嘩を売るような言葉をつい発してしまった矢口に、ひとみはキレた

「ばかにすんなっつってんだろ、このちび犬」
「んだとぉっ、やるかぁ」

火を挟んで立ち上がる二人
100 名前:dogs 投稿日:2006/05/24(水) 22:03
「もうっやめて下さいよぉ親びんっ」
「ひとみちゃんもやめなさいっ」
ウォン【親びん大人げないぞっ】
「だってこいつがよぉ〜」
「親びんっ」

辻も食事をじゃまされて怒った声で注意する

「ひとみちゃん、私もちゃんと銃が撃てるようになるから
ひとみちゃんだけに怖い思いさせたりしないから」
「梨華ちゃん・・・・」

立ち上がった矢口も、
微笑ましい2人の姿に気が治まったのか食事の続きを再開した
101 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 22:03
今日はこのへんで
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 14:45
矢口は好きじゃ無いけど話はおもしろいと思うので続き期待しています。
103 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/25(木) 20:21
おもしろそうな設定ですね。
更新楽しみにしてます
104 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/26(金) 12:36
設定も自分好みだし今後ストーリーがどのように展開していくのかとても楽しみです。
105 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/26(金) 17:22
ワクワクしてきましたo(^-^)o
106 名前: 投稿日:2006/05/27(土) 00:38
102〜105名無し飼育さん
レスありがとうございます。

自分の中で毎日更新を小さな目標にしていましたが先日酒のせいで早くも崩れました
本日も酔ってますので、もし見苦しかったらスルー下さい。
107 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 00:40
今日も毛布をひとみ達にゆずり矢口達は固まって眠った

が・・・ひとみは寝れなかった
悔しいのもあるけど、これからの不安の方が大きくのしかかっていた

今まで梨華が襲われそうになった相手は、自分と少し格闘するだけで
びびって去って行くような普通の人間ばかりだった

山賊の迫力の前では、きっと銃口だって震えてしまって
今日みたいに矢口達がいなかったらきっと簡単に殺されてしまうと感じた



何より、初めて感じた恐怖




やはり強くなりたい
108 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 00:41
とてもじゃないけど眠れないので
そばにいた梨華を起こさないようにそっと抜け出し少し離れた場所に腰を下ろす


月明かりの中銃を取り出して木に向って構えた


眼をつぶって山賊の顔を思い出す




そして引き金を引く真似をした

妄想の中の山賊があっけなく崩れ落ちる
109 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 00:42
その時

腕のバーミンから熱が発せられ、驚いて銃を握り締めて辺りを見回す


「何やってんだよ、でくのぼう」

ふわっとした風と共に矢口が目の前に現れた

「な・・・なんだよ、ちび」

少しほっとするひとみ


「そんなに悔しかったのかよ」
「・・・・・・」

俯くひとみ
110 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 00:43
「普通の女の子にしちゃ強いよ、でくのぼうは」
「・・・普通じゃ嫌なんだよ」

銃を弄びながらちらりと矢口を見上げる

「必要ないじゃん、山賊のいる所なんてさ、旅でもしなきゃ通らないんだから・・・・だいたい旅する奴なんて今時危なくていやしね〜だろ」
「・・・・・・」

悔しそうに唇をかみ締め、ひとみは矢口を見た
それを見て、矢口はフッと微笑み

「少しでよければ教えるよ、おいらが知ってる事はさ、それでいいか?」

優しい表情に咄嗟にひとみが言う

「・・・・あんたは・・・・姫に会いに行ってどうすんの?」

突然言われて少し戸惑う矢口は、一度考え込み横を向いた
111 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 00:46
「う〜ん・・・・姫が幸せそうにしててくれたらそのまま帰るかそこで今までみたくお守りするか・・・・
でももしつらい目に会ってたら姫を連れてどこか平和な国に行くよ」

姫はきっと無事でいる・・・とでも言い聞かせるように、空を見上げている
その横顔には決意が漲ってるとひとみは感じた

「・・・・ねぇ・・・王族付きの族って何するの?」
「え?・・・・ああ・・・・別に大した事じゃね〜よ」

決意の顔を困惑させる

「何?世話するだけじゃないよね」
「ん?一生、そのお方をお守りするんだよ
おいらの父ちゃんもそうだったしおいらも生まれた時から決まってた」
「守るって?」
「そう・・・・そのお付きの人の力を引き出してあげたり・・・もちろんいろんな敵から守ってあげたり・・・・」

少し照れくさそうに
しかし少し幸せそうに言う矢口に違和感を感じてさらに突っ込む

「ね・・・噂でしか知らないんだけど
族の人って最初に体を合わせた人の潜在能力を引き出すってホントなの?」

矢口が驚いてひとみを見下ろす
112 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 00:48
「ん・・・・うん・・・・まぁ・・・・そうみたいだけど・・・・・
ちゃんと愛し合ってないとどっちも死んでしまうからね」
「へぇ・・・・ほんとなんだ」
「そ・・・・だから小さい時から一緒に育って・・・・信頼関係を築くんだ・・・・・
でも・・・能力を開花させたら役目は終わって、ただの用心棒になる
王族の人は、ちゃんと身分の吊りあう方と結ばれて
族はどこかの国から連れられて来た族の人と結婚して種族を維持する
だからどこの国の王族も、族と同じような力を持っている事が多いんだよね
もちろん死んでしまう事も多いみたいだけど」

ひとみは聞きながらも面白くなさそうに銃を弄ぶ
113 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 00:49
「なんかかわいそうだね・・・・あんた達って」

矢口の顔が曇る

「・・・・じゃ、早く寝ろよ、明日も早いから」

月明かりの中で見上げてた顔は怒ってるというよりも悲しそうだった


ひとみは言いすぎたと思った・・・・


つい言ってしまった一言が

とても残酷な事を言ってしまったんだと気づいて振り返って矢口を見たが

あまりにも寂しそうな背中に何も言う事はできなかった



「あ〜あ」

一言つぶやいて弄んでいた銃を見つめた
114 名前: 投稿日:2006/05/27(土) 00:50
とりあえず更新です
115 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:10
次の日からは、矢口が梨華に積極的に銃の使い方を教え始めた

「弾はたくさんあるから、撃っていいよ
どうせ人もしばらくいないだろうし」

始めは「ダメです、撃てません」と言ってた梨華も
歩きながら矢口が指す物を狙っては撃ち
撃った衝撃で弾がとんでもない方向に行ったりするのを
矢口から「何でそうなるんだよっ」と笑われながらも進んで行った

その際、加護と辻から、からかわれてムキになった梨華は
真剣に狙いを定めるようになり、そこそこ狙った近くを撃てるようになった

「梨華ちゃんって結構負けず嫌いやねんな」「そうだね」
加護と辻から突っ込まれた
116 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:12
ひとみはずっとその様子を一番後ろから眺めて
いや・・・・矢口の背中をずっと眺めていた

昨日悪い事言ってしまった為に
いつ話し掛けて謝ろうかとタイミングを計っていたが
当の矢口が何も気にするような素振りもしないし
朝も加護の傷口を見る時についでにと自分の傷も見てくれたりして普通に接してくれた

傷口は確かに痛いけど、また舐められてしまい思わず顔を背けた
それが負けてるみたいな気分にさせられて、ひとみとしても素直になれない原因にもなった

朝からずっと山の間を梨華が打つ乾いた銃声が響くのを聞いて進んでいたが
昼も近くになった頃、梨華が撃つ音とは違う音が遠くから聞こえ出した

「親びん・・・誰かいますね」
「加護・・・何か聞こえるか?」

眼をつぶって集中しているけど

「遠いみたいで全然・・・・ちょっと見て来ましょうか?」
「いや・・・襲って来る時は来るっしょ、石川練習はこれまでだね、お疲れ」

頷く梨華だったが、はまってしまったのか
銃を構えては狙いを定める事を繰り返しながら歩いていた
117 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:14
「辻ぃ、御飯どうする?ここらで食べるか?」
「でもさっき銃声がしましたよね、食べてる時に襲われたらやですっ」
「んじゃ、もう少し歩くか、さっきの銃声の原因がわかるかもしれないしね」
「「へい親びん」」

三人はのんきに歩き出す、しかもまた歌を歌いながら



一時間位たっただろうか、あいかわらず銃を構えたまま歩く梨華に
ひとみはなかば呆れながらも黙って歩いた

辻が急に言い出す
「親びんっ、いい匂いがする」

ひとみ達は匂いを嗅ぐが何も匂わない

「風向きがこっちやから・・・・あっちですよね親びん」
「ああ・・・いいぞ見に行って、でも気をつけろよ」

「「は〜い」」

バーミンが熱を帯びて2人は消えて行く
118 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:16


「吉澤っ、あいつらの事見えるか?」


道中一度も声を掛けてこなかった矢口が話し掛けた
ひとみは急に話し掛けられて準備も出来ていなかったが
また悔しい気持になってふてくされて答えた

「み・・・見えるわけないじゃん」

矢口が笑いながら

「だからお前はでくのぼうなんだよ」

そう言ってまた歩き出した

「・・・・んだよ、それ」

一人口ずさみながらも軽快に歩を進めている小さな背中が憎らしいとひとみは思う
119 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:17
しばらくぶすくれて歩いていると

「ほれ、帰って来たよ、嬉しそうに、ちゃんと見てみろよ、石川も」

2人でじいっと矢口が指さす方向を見ている


「「親びんっ、人がいたよっ、これくれた」」

いつのまにか鳥の足が焼かれた物を2人して嬉しそうに持って現れた

「ほい、よっちゃん、梨華ちゃん、仲良く食べな」
「親びんも」

骨のついた肉の塊を一人ずつに渡す

「なんだよ、珍しいな、さてはもう食って来たな」
「あ、ばれた?」

てへへと笑う辻
120 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:18
「さっきの銃声な、鳥を採ってる音やってん」
「と・・鳥?」

少し梨華が怯える
「あれ?梨華ちゃん鳥嫌い?」と加護が問い掛ける

「う・・・・うん」

矢口がきゃははと笑う

「だって、石川って鳥族だよね、かなり薄いみたいだけど」
「だって苦手なんだもん」

梨華が泣きそうな顔で俯くのを三人で指差して

「「「変なの〜」」」

からかうだけからかって
げらげらと笑いながら三人は歩き始める
121 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:19
「これくれた人は、この道行けば会える?」

おっ、まだあったけーじゃん と、肉にかぶりつきながら矢口が加護に言う

「はい、この山には狩で入ってきてんって
ずうっと向こうに小さな村があるからその人の家に今日泊めてくれるって」

「へぇ、村なんてあったっけ・・・・でも親切なんだね、あんた達が族ってのも知ってだよね」
「なんかね、その人昔族に助けてもらったんだって」
「へぇ、でも助かったね、野宿しなくていいじやん、何か食べさせてもらえるかもしんないし」
「「うんっ」」

おいおいいいのか
そんなにすぐ人を信用しちゃって・・・・と内心ひとみは思っていた


それからも三人は陽気に歌いながら歩く
122 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:21
「梨華ちゃん、さっき加護とのの・・・・見えた?」

小声で聞く

「ううん、ぜんっぜん解らなかった、いつのまにか目の前にいたもん」
「だよね」

梨華は銃をしまって肉にかじりついた、もちろんひとみも
さっき矢口にからかわれた事がひとみの中でくすぶる
どうしてこんなチビにバカにされてんだろうと、自分は族だから見えるだけじゃないかと

肉も食べ終わると陽気に歩く三人に
ついに梨華も交わり出して四人は楽しそうに歩いている
ひとみだけが横にいてくれる勘太とふてくされたようについていくだけだった
123 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:23
すっかり夕方になり自分達が行く道が二手に分かれる
小さい道は最近出来た道のようだ

「親びん、さっきの人が分かれ道が来たら小さい道を行けば村があるって言ってましたよ」
「遠回りにならないかな」
「なんか、村を通り抜ければこの大きい道とまた交わるんですって」
「へぇ、んじゃ大丈夫だな、行くべ」
「「へい」」

三十分ほど歩くと10軒程の家が並んでいた
ひとみ達がいた町のように土壁の家ではなく、木と土で作られているようだ
しかもどの建物も真新しい
124 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:25
「親びん、入り口に大きな枯れ木がある家ってあれですよね」
「ああ、あれしかないよな」

右の列の丁度真ん中位にその家はある
それぞれの家の中からは明かりが漏れているが、道には誰一人いない

全員の頭には、どうしてこんな山賊に襲って下さいといわんばかりの所に
集落を造ったのか・・・と浮かぶ

枯れ木の家の前で辻と加護が顔を合わせてから叫ぶ

「「こんばんは〜、ずうずうしく来ちゃいました〜」」
125 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:28
すると中から一人のおじさんが出て来て

「おお、昼間の子か、よく来れたねぇ、さ、入って入って、疲れたろ」

優しく招き入れてくれると
中には、十歳くらいの男の子とそれより小さい女の子がいた

「こんばんは、すみませんこんな大勢で押しかけてしまって
それと鶏肉ありがとうございました」

矢口はさすが大人と言わんばかりにきちんと挨拶をする

「いやいや、構わんよ、でもびっくりしたよ
こんなかわいらしい族が見れるなんて、だいたい族の方なんてめったにお目にかかれないしね」

ひとみと梨華も一応愛想良くおじぎをして子供達を見ると
恥ずかしいのか怖いのか男の後ろに隠れた

「皆さんこの家に泊まっていただくのは無理ですので
ちょっと隣に声を掛けてきます、大丈夫きっと大歓迎ですよ」
「すみません、じゃあよろしくお願いします」

矢口が男に礼を言う
126 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:30
ひとみは、何故か胸騒ぎがしてならない

隣の人がやって来て二人はこちらにと言うので
矢口は梨華だけを連れて行った、勘太もついて行こうとしたが置いていかれる

突然現れた旅人にどうしてそこまでという位
親切にごちそうを出してくれて、酒まで飲ませられた

辻と加護は、がぶがぶ飲んで早々に酔っ払い、そのまま眠ってしまう
ひとみも断るのも悪いと思い口をつけたが、何故か釈然としない

自分たちの町より緑が多いとはいえこんな山の中で水は貴重なはずなのに
どうして見ず知らずの自分らに水どころか酒まで振舞ってくれるのか


隣の家からも矢口の笑い声や、甲高い声で笑う声が聞こえる
127 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:31
お腹も満たされ、そろそろ眠ったらどうかといわれ
じゃあと奥の部屋に案内され辻と加護を主人と一緒に運んで礼を言いベッドに横たわった

矢口はどうして自分ではなく梨華を連れて行ったんだろうか

やけに優しいこの家の主人と、少し人見知りの子供達も気になるが
それもひとみには気になって寝れなかった

やはり昨日の言葉で自分の事を嫌いになってしまったんだろうかと
組み合わせ的には自分と梨華があの時隣に行くのが自然な気がしたのに
あえて梨華を指名した

もんもんとそんな事を考えていると
下にうずくまっていた勘太がひとみのベッドに前足を乗せて何かを訴えようとしてきた

「どうしたの?勘太」

勘太がドアの所に行って身構えた

ひとみは、銃を準備して寝たふりをした
人の気配がしたからだ
128 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:33
カチャッとドアが静かに開き、明らかに様子を伺っている


やっぱり

とひとみは思っていた・・・
何か企んでないかぎりあんなに通りすがりの旅人に親切にしてくれるはずがないと

薄目で暗闇の中でその様子を伺った・・・・
そして銃をいつでも出せる準備をしながら考える

人数は5人・・・・どうしてこんな大人数でこんな部屋に入って来るのか

ひとみの心臓が高鳴る
かなりのピンチだと自分でも解っていた
129 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:35
辻と加護の寝息が聞こえる・・・

どうしよう・・・・何をされるんだろうと頭をフル回転させる

「よし、やれ」

と一人の男が言った所でひとみは起き上がって銃を構えると
三人の男が驚きながらライフルでひとみに狙いを定めていた

「おとなしくしろ、そうすれば命は助ける」
「ウチらをどうする気?」

ひとみは震える心をなんとか奮い立たせ低い声で訪ねた
130 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:36
「どうするって、役人に売り飛ばすんだよ」
「山賊を殺せば金と食料がもらえるんだ」

昼間子供の族が来たという事で唯一許された馬で
すぐに報告していたと話し出した

「珍しいので生け捕りにして渡せと言われたからね」
「だけどあんたは人間らしいね・・・・・悪いが消えてもらうよ」

次々に言われて、実際疑ってはいたものの
さっきまでの優しい主人とは思えない程冷酷な眼を暗闇に光らせていた

こんなに話し声がするのに辻や加護は一向に起きる気配がない
勘太は男達の後ろで寝そべってしまっている

さっきひとみに何か言いたそうにしてた癖に
なんで今頃寝てんだよとひとみは少し腹を立てた
131 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:37
引き金を引く指が動き出した瞬間ひとみはジャンプして真ん中の男を撃った
何発か銃声が響く中、何故か布団が飛んでいた

「ぐえっ」「ごほっ」「ぐあっ」

ひとみは何が起こっているのか解らず呆然とする
目の前に転がった四人と・・・・一人ロープを持ったまま立ち尽くす男

「あいぼん、そのロープもらいましょ」
「せやな」

ひとみが撃った弾は真ん中の男には当たらず
後ろにいた男の肩に当たったらしく倒れてジタバタしていた

真ん中の男には加護が当身をくらわし
右の男には辻が蹴りを入れて、左の男の銃には勘太が噛み付いて取り上げていた
132 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:39
「ウチらを騙すんは十年はやいで」
「そうだよ、それに動きもなってないですねぇ」

お腹を押さえながら一人が銃を構え直す
それよりも先に加護が銃の先端を持って膝で男の顎を蹴り上げて銃を取り上げ
後ろで辻も手刀で銃を叩き落し足で踏みつけた

「はい、よっちゃん持ってて」

三丁ライフルを渡されると、2人は楽しそうに五人を縛って行った

「はい、おしまい、あっちに行きましょうね」
「くそっ、俺達をどうするつもりだ」
「「それは親びんに聞いてみないと」」
「こらぁ、父さんを離せ〜」

男の子が加護に向ってぽかぽかと拳を上げた
慌ててひとみが銃を置き、その子を後ろから捕まえるが足をジタバタして暴れた
女の子の方も泣いているので辻が目の前に座って困った顔をしている
133 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:41
大部屋に行くとドアが開いて
やはり縄でぐるぐる巻きにさせた男を三人連れて矢口と後ろから梨華が入って来た

「お、そっちも片付いたみたいだね」
「「親び〜ん」」

辻と加護が矢口にまとわりつく、それをあ〜うるさいっと一括して

「話してもらえますか」

矢口は最初に連れて来てもらった主人に向って話し出した

「この村に入った山賊や、おいら達みたいな族を捕まえたり殺したりする為に
ここにおびきよせて、失敗するとあなた達の奥さんが殺されるんでしょ」
「奥さん・・・・」

ひとみが呟くとそれを見て矢口は頷き
ひとみと梨華もこの集落には全員奥さんがいないという事にやっと気づいた
134 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:42
村人達は、俯いて黙り込んだ

「・・・・・・」
「まぁ、おいら達はただ明日まで泊まれればいいんで、このまま泊めてもらえないでしょうか」
「・・・・・それは・・・無理だ・・・・もうすぐ役人が来る
それにもしこんな事になってると知られれば妻は・・・・」
「おいら達には関係ない」

がっくりと肩を落として崩れ込む男達

「矢口さん」

思わずひとみが言うと
泣きながらもおとなしくなった男の子を抱えたまま矢口に近づく

梨華はひとみの様子がおかしいのに気づくが
何も言えずに矢口の後ろで立ちすくむ
135 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:44
「何?」

矢口はひとみを見上げて無表情で見つめる

「少しは・・・・何か考えてあげても・・・・・
あんたは強いんだし・・・・」

「勘違いすんな、おいら達はいくら特殊な能力があろうと
元々弱い人間なんだよ、おいらには辻や加護がいないと出来ない事も一杯あるし
強いったって、元々こんなちっこいおいら達の力なんてたかが知れてる
おいら達がどうこう出来る問題じゃないよ」

「だって、加護やののはさっきは力なんて使ってなくても
五人をあっという間に捕まえてしまったし」

加護はしゃがんで勘太をなでて
辻は女の子を膝に抱いて椅子に座って黙って見ていた

「この人達は、戦う為に訓練されてないから・・・
それだけの差だよ、兵隊や特殊部隊とは話が違う」
136 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:47


ひとみは悔しかった・・・・


もし、自分が矢口達みたいに力があれば
どうにかしたいと考え、力になれる事を考えてあげるのに

自分は、その訓練されていない人達にさえやられそうになったっていうのに

「お願いします、何か・・・・
どうすれば妻を助けられるのか・・・・何か教えて下さい」

この家の主人が呟く

「教えれるような事は何も知りません
あなた達の町の事でしょ、私は一度しか行った事がないんですよ」

矢口は表情なくそう答える

ひとみと矢口のやりとりを聞いて
わらにもすがるつもりなのか、事情を話し出す主人
137 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:49
「ここに住まされている家族は・・・・この先にある町のそれぞれの地区の長なんです・・・・
ある日いきなり役人が家に来て妻を連れて行った
返して欲しければ、言う事を聞けと・・・・・・そう言われて連れてこられたんです」

「多分、町の周りで山賊が暴れ回っているのを取り締まるのが怖いが為に
私達にやらせてるんです」

乱暴な山賊達には、下手に出て酒を勧めれば隙が出来て大抵殺せてしまうが
案の定、族にはすでに何人か殺されてしまい根こそぎ食料を取られたりしたという

「あいつら、その報酬を王様からもらって出世しようとしてるんだよ」
「俺らが逃げ出しても、次にまた町から誰か連れて来るって言うし
俺らは一応地区の長だから・・・・そんな事できないって知ってて」

次々に男達は、話し出す




「で、あなた達は、その大切な町の人達や
大切な奥さんを取り返す為に何かしたんですか?」

矢口がひとみに視線を向けたまま男達に言う
138 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:52
「え・・・・その・・・・私達にはそんな力が・・・・」

卑怯でも、ここに山賊をおびきよせて酔わせて捕まえる位・・・
いや、人間の自分達にとってこんな小さな集落で暮らすのでさえ
とても勇気がいって、毎日生きた心地がしないと訴える

「私達なりに色々考えたんです・・・・
妻がどこに監禁されてるのかとか・・・何か方法はないかとか・・・・・」

すがるような視線を受け止めて冷静に矢口が口を開く

「その程度の思いしかないんですよ、あなた達の奥さんに対する気持は・・・・
しかしおいらにはどうしても守らないといけない人がいる
その人が今にも死にそうな目に合っているのかもしれないし・・・
それさえも解らない・・・・だからおいらはこんな所で
見ず知らずの人の為に何かする時間なんてないんです・・・・・・
すみませんがおいらには何もしてあげる事はできません」

ひとみの歯がギリギリと音を発してるのが解るのか

「そんなに悔しいなら、吉澤がなんとかしてあげな、
加護・辻、縄ほどいてやんな、出発だ」
「「へい、親びん」」

男達の縄をほどくと銃を返して、矢口について荷物をからい出す
139 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:54
「それが出来ないから悔しいんだよっ、ったくあんたには心がないのかよっ
何も出来なくてもウチらより強いあんたに出来る事があるだろっ」

興奮したひとみが男の子を下に降ろして荷物を背負った矢口の胸倉を掴む

「ひとみちゃんっ、矢口さんの言う事はもっともだよ、
役人ったってどんぐらいの人数いて、どれだけ強いのかもわからないし
この人達の奥さんがどこにいるのかって一度しか行った事のない町の事なんて
わかるわけないでしょ」

「なんだよっ、梨華ちゃんまでそんな冷たい事言って
だって悔しいじゃんっ、自分の大切な人を人質に取られてれば誰だって・・・
やりたくもない事とかするのって・・・・そんなの悔しいじゃん・・・・・」
140 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:57
矢口は震える手で自分の胸倉を掴んでるひとみの手を離させて

「吉澤は、おいら達の事を人間って認めてねんだよな・・・・
おいら達だって怪我すりゃ赤い血が流れるんだ・・・
都合のいい時だけおいら達の能力を欲しがって利用して
知らない誰かの為に血を流させ、ある時は化け物だと言って石を投げつける・・・・
どっちが冷たいんだよ・・・・
山賊だってだけで、みんな荒くれ者の殺人鬼だって決め付けてんだろ
役人だからって法の元に悪行し放題なのを黙ってみてるんだろ
おいらの知ってる山賊には
おいら達がお腹がすいてると知って食べ物をくれたりする人だっていた
役人だっておいら達が族だって知っても
知らないふりして見逃してくれる人だっていた・・・・
なのにあんたらは山賊ってだけで殺したんだろ
・・・・妻の為だって言い訳をしてな・・・・
悪いな石川・・・次の町までちゃんと守って行ってやるはずだったけどな・・・・
まぁ吉澤がちゃんと守ってくれるよ、仲間なんだから・・・
そしてお前も頑張れ、んじゃな、御飯と酒うまかったです、ご馳走様でした」

全員が黙り込むのを見廻して一度微笑むと
縛っていた縄をほどきだし、加護達も手伝う

怪我した人の治療をする矢口達
141 名前:dogs 投稿日:2006/05/27(土) 15:59
重苦しい沈黙の中全員解放すると
強い視線で矢口を見る男の子の頭をポンと叩いてくるっと回転し
じゃあなとドアから出て行った

加護と辻も勘太もそれに続いて出て行った
・・・もともとひとみ達が持っていた荷物だけ置いて



静まり返る部屋の中で、重苦しい時間だけが過ぎた


ひとみの目に涙が溢れ出した
悔しいのとも怒るのとも悲しいのとも違う、別の感情

完全に矢口に負けたという思い

それこそ腕力や・・力や技術とは違う事での敗北


今までなんとなく生きて来た
人が表で死んでようと、族が捕まって殺されたと聞こうが全て他人事だった

なのに、こんな時にえらそうに矢口に向って説教し
怒りにまかせて胸倉を掴む幼い自分

矢口の言葉は全部自分の事だった

化け物は・・・・・自分だと思った
142 名前: 投稿日:2006/05/27(土) 15:59
本日はここまで
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 22:44
吉澤大人になれ
144 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 23:16
143:名無し飼育さん
ありがとうございます。おっしゃる通りです
145 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:18
外で馬のひづめの音が聞こえ出した

男達が顔を見合わせ、子供達を後ろの部屋に押しやる



「おいっ、お前ら、族は捕まえたんだろうな」

ドアを乱暴に開けて銃を構えた2人の兵隊と
後ろからえらそうにした奴が入って来た

「こいつらか・・・族っていうのは・・・・
へぇ・・・・子供じゃなく、女なんだ」

えらそうな奴が、急にいやらしい目つきでひとみと梨華を見る

ひとみは後ろ手を縛られてるように見せかけ銃を持ち
つきつけられた銃に真正面に向き合う

ひとみが涙を流しながらちらっと梨華を見ると
梨華の瞳には怯えた表情はない
146 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:20
「よくやった、後は私らがやる
明日には金と食べ物を持ってこさせるからこれからも頼むぞ」

兵隊の一人が梨華の腕を掴むが、あの梨華が抵抗を見せる
ひとみはその隙にすばやくもう一人の銃口を外に向けさせ
梨華の手を掴んでいる男に体当たりを食らわす

「梨華ちゃん逃げてっ」

2人の兵隊のお腹辺りにしがみつき
家から押し出そうと必死に向っていく背中を兵隊が銃で殴りつける

「くっ」
少し崩れ落ちながらも力づくで三人を外に押し出した

「なんだ貴様っ、われわれにたてつく気かっ」

ひとみは2人の銃を持つ手を離さずに、奥にいるえらそうな奴の腹を蹴った

「ぐほっ、っきっさまぁっ」

銃声が響く
147 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:22
「ぐあっ」

ひとみは必死に一人の体を盾にして隊長の撃った弾を避けると
もう一人を掴んでいた手を捻り銃を取り上げ、もともと自分で持っていた銃と
奪った銃をそれぞれの二人の頭に狙いを定めて構えた



しかし・・・・


表にはあと五人の兵隊が銃を構えていて愕然とする

「残念だったなぁ、おじょうちゃん・・・・
泣いても許してあげないよ、せっかくかわいがってあげようと思ってたのに」

足元でひとみが盾にした男がお腹を押さえてのたうちまわっている
それを隊長が顔色変えず撃って動かなくさせた

表には兵隊に囲まれたひとみが一人しかいない

ひとみは自分の弱さを痛感し、死を覚悟した・・・・

ただ背中側にいる家の中で怯えてるだろう梨華の無事を祈りながら
148 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:23


「まぁいい、お前は死ね、あっちのおとなしそうな女だけ連れて帰ろう」


瞬間

ガラスが割れる音とすごい数の銃声がひびく


ひとみは思わず目をつぶり蹲る・・・
しばらく続いた銃声と煙の匂いに、自分はもう死んだと思った


静まり返った空気の中、かすかに聞こえたうめき声もついに聞こえなくなる
次に目を開けると囲まれていた兵隊は無様に蹲って頭を抱えた隊長を残し皆倒れていた

ひとみはハッと自分の体を触るが、前に打たれた所以外痛い場所はない
・・・・殴られた背中がズキズキする位だ

もしかしたら矢口が助けてくれたのかと見回すがもちろん誰もいなかった
149 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:26
立って慌てて後ろを振り向くと
ドアの中から梨華が銃を構えたまま隊長を鋭い視線で捕らえ固まっていた

そして窓の中からは、村人達がライフルの先から煙を出して顔を出している


「ひとみちゃん・・・・私・・・
今までひとみちゃんに守ってもらってばっかりだった・・・・
でも、さっき矢口さんと2人になった時言われたの
守るっていうのは、腕力とか・・・銃とかを使って守るもんじゃないんだよって
だから石川は石川なりの方法でひとみちゃんの事
守ってあげなって・・・あいつは一人っきりで石川を守ってるみたいだからなって・・・
だから・・・私・・・私もひとみちゃんの事守りたいから・・・・
ね・・・・そんなにひとりで無理するのはやめようよ」

「梨華ちゃん・・・・」


蹲ってた隊長が立ち上がった
ここにいる全員の銃口を向けられながら

「おっ、お前らっ、こんな事してお前らの女がどうなるか解ってるのかっ
私達に何かあれば、向こうで待機していた我が兵が
すぐに町に知らせに言って女達を処刑するんだぞっ」

確かに馬のひづめの音が遠ざかっている
150 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:28
「おいっ、そこの馬に乗って追いかけようっ、まだ間に合う
こいつは妻の居場所をはかせる為に生かせておけっ、行くぞっ」

主人の号令で皆が「おうっ」と動き出す
村人が隊長を捕まえたり、放置してある馬に飛び乗って
ひづめの音がした方へ走って行く

「俺らの妻だ・・・・俺達が守らなくて誰が守る・・・・
そんな事さえも忘れていたよ」

主人がひとみに言うと、ひとみは嗚咽しながら泣き始める

梨華が近寄りひとみを抱き締める

「ありがとう、ひとみちゃん」
「ううっ・・梨華ちゃ・・ん」

ここにいる誰にも見えないが、2人の体はうっすら白く光っていた
151 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:30
温かいものがひとみの体を包み
今までの無力感や矢口に対する態度への後悔の心が溶けていくような感覚になる

そばに主人と子供達が近づいて来て

「吉澤さん・・・・でしたよね・・・・・ありがとう
私からもお礼を言うよ、君が真剣に私達の事を考えてくれて嬉しかった
君や矢口さんのおかげで私達のするべき事が解ったよ、さっきは襲ったりしてすまなかった」

「わ・・・私は何も・・・それに・・・・結局助けてもらったのは私だし・・・」

「いや・・・・・あなたの思いが私達の心を呼び起こしたんです
さぁ、中に入って下さい、きっと彼らはさっきの兵隊に追いついて
連れ戻して来ますよ・・・・・それを信じてこの男から情報を聞き出しましょう」

子供達から手を引かれた
さっき迄と同じ子供達なんだろうかと思える程元気に笑いながら家に入れてくれた
他の家からも、恐る恐る子供達がこっちの様子を伺っている
152 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:32
言ってるそばから馬が帰って来る音が聞こえた

そこにいる全員が暗闇の中、音のする方向を見つめる


すると


先頭の馬には前にぐるぐる巻きにされた兵隊を乗せた矢口
次の馬には加護と辻が乗っていた



「「矢口さんっ」」

ひとみと梨華が目を疑う

「うぃ〜っす、こいつらがいきなり後ろから走って来て
突然撃って来たからやっつけてやった」

後ろにも馬に乗った村人がやはり兵隊を乗せてついて来てた
トンっと馬から軽快に下りると、矢口はにかっと笑って頭を掻いた
153 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:34
ひとみは再び目に熱い物を感じていたが
さっき迄の自分が恥ずかしくて下を向いて矢口を見れなかった


「生きてるじゃん」

その声に上目遣いに矢口を見ると
にししっと緊張感のない顔で笑ってからさっさと兵隊を連れて家に入って行った

そして、ガラスの破片とかでぐちゃぐちゃになった家の中や
外の死体を弔ったりすると、全員集合し
隊長と伝達しようとしていた2人の兵隊を囲んでにらみ合う

「さて、妻達はどこにいる」

最初に世話になった家の主人は、勝田という名前で、勝田が隊長に話し掛ける
154 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:36
「たかがこれっぽっちの人数で助けられるとでも思っているのか
私の部下は総勢100名以上いる、しかも私に何かあれば他の部隊や近隣の王の兵隊も加わり
すごい人数を相手にする事になるんだぞ、わかってるのか」

ひるむ村人達に矢口が口をはさんだ

「おいらも話しに加わってもいいですか?・・・その町の人口は何人位ですかね?」

それを聞いた勝田達が入って下さいと口々に言うと
自分達のいる地区の人数ざっとを言い始めた

「へぇ〜、軽く10000人以上になるねぇ
全員が暴動を起こしたらいくら軍隊だって手をやくよね、きっと」

「その間にお前らの女は死ぬがな」

隊長はなげやりに呟く
155 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:37
「おいら想像つくよ、王族についてたからね一応
国は違うけどその世界には詳しいんだ」

村人達が、顔を見合わせ、目を泳がせた隊長は落ち着かなくなる

「ど・・・・どういう事だ」
「あんたのひとりよがりって事、王族にこんな事がばれればあんたの方が危ないって事だよ」
「あの・・・・矢口さん、どういう事ですか?」

梨華が尋ねると

「矢口・・・・お前矢口っていうのか」
「そうだけど」

にっこりと微笑んで隊長の目の前に顔を付き合わせる
156 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:40
「お前がMの国で兵隊100人以上を殺して逃亡しているっていう族か」

村人達が息を飲む音が聞こえる
それを聞いて一瞬少し寂しそうな顔をするがすぐに笑顔で答える

「まあね、逃亡ってか・・・・旅してるだけだけど
そんな事よりもう吐けよ、どこに隠したのか」

矢口がちらっと石川を見て頷くのをひとみは不思議に思っていたら
袖の中のバーミンにほんのり熱が伝わって来た

「言ったってお前らにはどうする事も出来んよ
俺は言われた任務を遂行しただけ、俺が死んでもあの方は同じ事を続けるだろう
俺のあとがまを立ててな、どこに隠してるのか、我々も知らん、すべてはあの方の指示だ」

ひとみが矢口を見ると、村人達がこそこそ相談する様子を眺めていた
そして石川の目が閉じられて集中してるのが解った
157 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:41
なすすべがなくなったのか、静まり返った所で矢口が言う

「じゃあ、あの方のいる場所に連れて行ってよ、頼みに行くから」
「無駄だよ、我々が言った所で聞く人ではない」
「ふ〜ん、どうします?勝田さん」

矢口が村人の意思を確認するように聞く

「あの方っていうのがこんな卑怯なやり方を考え出した人なんですよね
その人さえ倒せば元通り暮らせるようになるんですね」
「私達の町の兵を取り仕切ってるあの方ってのは族だ・・・・それも猫族」

にやりと隊長が笑う
158 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:44
ひとみはまずいなぁという顔をする

普通王族に遣えるのは、忠誠心が硬い犬族が通常
猫族は気まぐれで王族付きにはならないものと考えられている

それが、勝田達の町を納める役人の司令官がまさか猫族だとは
・・・・なんか嫌な予感がする


勝田達も腕を組んだりして悩んだが

「族だろうと何だろうと、あんたの話を聞くだけじゃ
その人がどんな人なのかも解らない、とにかく連れて行ってくれ」
「そうだ、話せば解る人かもしれない」
「逃亡者の族の矢口って人が、今目の前にいるこの人だったとしたら・・・・
噂なんてものはあてにならないんだよ」

村人達がそれぞれ顔を見合わせて頷くと勝田が言い出す

「その通り、みんなで行こう、その人の所へ」

加護と辻が嬉しそうに矢口を見る
勘太もしっぽをふって矢口を見上げた
159 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:46
そして勝田達が、地図を広げて色々と話し合いを始める・・・・
部屋の中は勝田達の真剣な意見の交換で活気づいていた

矢口はそれを見て少し照れたようにひとみ達の所へ歩き出し
石川を右手の親指を立てて誘いドアから二人で出て行く

ひとみは近づいて来る矢口の顔なんて見る事はできなかったが
石川だけを連れて行かれたのが少し面白くなかった

それを知ってか知らずか、加護と辻がひとみをはさんで座り
前には勘太が座ってひとみを見上げた

「よっちゃん、かっこいかったでぇ〜」
「うん、梨華ちゃん逃げてっ  だもんね」

咄嗟に言ったあの言葉を聞かれてたと恥ずかしがる前に
あれ・・・・とひとみは思う
160 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:48
「み・・・・見てたの?」
「うん、屋根の上から見てたよ」

ひとみは唇をかみ締める

「親びんがね・・・・もしここの人たちが
自分達でなんとかしたいって本気で思って行動するなら
手助けしてやりたいねって」
「よっちゃんもすぐ熱くなるから心配だって、
危なくなったら助けるはずだったんやけど、
梨華ちゃん達が頑張ったからね、親びん嬉しそうやった」

胸がぎゅっと締め付けられ、膝の上でぐっと手を握り締めると
勘太が視線の先で舌を出してひとみを見ていた





「加護・・・・のの・・・・親びんって・・・・すごい人だね」

心の底からそう思ってひとみは言葉を発していた

「当たり前や、親びんはウチらの中ではいっとうすごい人やねんっ」
「そうそう、のん達は親びんなしじゃ生きていけないもんね」

ひとみが握っていた手を開き、加護と辻の後ろに廻して二人の頭を抱き締めた
161 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:50
「あ、親びん帰ってきた」

いきなり抱き締められて、訳がわからない所だったので
加護がほっとして口に出した

「お前ら何やってんだ?」

梨華と一緒に戻って来て辻と加護を抱き締めていたひとみに気づき
近づきながら矢口は言った

「「からかってた」」
楽しそうに2人が言うと

「からかってたのかよ」

矢口から涙目になっているのを見られたくないので思わずそう言ってひとみは、
目の前で笑う矢口に顔を向ける事なく辻と加護の頭を意味なく自分の前でぶつけさせた

「「いった〜」」

ひとみの腕から離れ、同じポーズで頭を撫でてぶすくれる二人
162 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:52
「あんま、からかうんじゃね〜ぞ、こいつばか力で怖ぇから」
「「は〜い」」

アカンベをひとみにあびせる

「はいじゃね〜よ、ったく・・・ちび共が」

笑顔になっているのに気づくと、隠すように下を向いた
すぐにげんこつが飛んできて「いてっ」と見上げると、矢口が笑っていた

「うっせーよ、ちびちびって・・・
それでな吉澤・・・・悪いけど石川を貸してもらっていいかな」
「え・・・・どういう・・・事?」

内容も去ることながら、久しぶりに目を合わせる矢口の笑顔が
ひとみの胸をどきどきさせていた
163 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:54
「ちょっと考えがあるんだ、それで石川に協力してもらおうかなって・・・・
あ、おいらが石川の事命に変えても守るから」
「矢口・・・さん」

またひとみは石川だけが連れて行かれるのが面白くなく・・・
すぐに俯いて押し黙った

「だめか?」
「私・・・・やってみようと思うの、ひとみちゃん・・・・
自分の事を信じてみようかなって・・・・
それに、こんな私が矢口さんの・・ううん
ここにいる皆さんの役に立てるなら・・・・やってみようかなって」

石川が矢口と顔を合わせて微笑みあうのを見て
胸にもやもやとしたものが生まれるのを確かに感じていた

「・・・私は・・・・役に立たないから?」
164 名前:dogs 投稿日:2006/05/28(日) 23:56
そこで矢口は気づいた、ひとみの中でまだ整理できていない事柄の事

「違うよ、どうなるか解らないけど、
これには石川の力が適任だっただけで、人それぞれ持ってる物も違うんだから
今回は石川の力を借りようかなって、ただそれだけだよ」

それでも納得がいかないし、何かばかにされてる気がして
しぶしぶ了承するひとみに、梨華は不満気だった

自分の身を心配してくれるんではなく
ひとみが矢口の役に立たない事について落ち込んでいるんだと解ったから

それに、ひとみの変化にも梨華は不安になるのだった

「加護と辻は、勝田さん達の事を頼むな」
「「へい」」
「あ、このでくのぼうの事もな」

加護達は、拗ねるひとみが面白くてちょっかいを出しだした
そのうちひとみが笑顔になり出したのを見て
矢口は勝田達の和に加わり少し離れてるひとみや隊長達に聞こえないよう何かを話し出した

やがて話し終わると
とりあえず今日は一度寝ようという事になりそれぞれの家へ戻り
隊長達は勘太を見張りにたててそのまま布団だけかけて放置した
165 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 23:56
本日はこのへんで
166 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 22:52
今度は村人を信頼したからなのか、梨華とひとみが隣の家に移り
同じ部屋で寝る事になるが、ひとみは納得がいかない


「梨華ちゃん・・・・もう寝た?」

ひとみは静かになってからも気になって眠れずに話し掛けた


「・・・・・」


梨華は起きてたけど変事をする事を戸惑った


「さっき力使って何やってたの?」


返事がなくても構わずに話し掛ける



「・・・・・」
167 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 22:54
梨華はちゃんと説明したいと思いながらも
自分の身を心配してくれなかったひとみに意地悪をしてみた

だけど、あの時自分の身をていして
梨華の事を逃がそうとしてくれた事には感動していたりもする


いつもそうだった

小さい頃から、近所の男の子にいじめられると必ずひとみが助けてくれて

両親が、役人に粗相をして処刑されると

すでに一人暮らしをしていたひとみが

毎日泣いている自分の家に来てくれたり

どこからか食べ物を盗んできてくれたりしてた
168 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 22:55
そんなひとみに梨華が惚れないわけがなかった

ひとみの役に立ちたいから
あまり得意ではない他人と話す事になる精神科医みたいな仕事もやった

ひとみが好きな食べ物があれば、頑張って作れるようになった


なのに

たった何日かだけど

今、ひとみの視線の先にはいつも矢口がいて

そして、矢口は十分に魅力的な人物だと自分も思う事で余計苛立ちを覚えた
169 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 22:58
最初この集落に来た時
勝田さんの笑顔に裏がある事にはみんな気づいていた

ひとみだけが、思ったままの事が行動に出てしまう故に不審な顔をしていた為
連れて行かれた先で
その家主達が寝室の準備をしてる間の2人っきりになった時に矢口が梨華に話し掛けた

「全く・・・あのでくのぼうは、嘘がつけないんだね」
「はい・・・・まっすぐな子だから」


梨華の言葉に矢口は優しい表情をしてズバリ聞いてきた
「好きなんだ」

「・・・・・はい・・・・」
まっすぐな矢口の瞳に、するすると肯定の言葉が出ていた
170 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 22:59
矢口はにこっと笑い

「そっか、あいつの事は、加護辻が守るから大丈夫・・・
それから今夜は本気で寝ちゃダメだ、ちゃんと神経を尖らせて気配を読む」
「でも、もしかしたら本当に親切な人たちかもしれませんよ」
「それならバンザイって事でいいじゃん
とりあえず、おいらがいいと言う迄油断はしちゃダメだ・・・・それと」

首を傾け自分を覗き込むように見られると矢口は口を閉じた

「それと?」
「お前、力があるならちゃんとそれを磨け
それが吉澤を守る事にもなる・・・・そう思わないか?」

思わず俯く梨華
171 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:02
「でも・・・力って・・・・私、
族っていったって知らなかった位の力だったし、そこまですごい事なんて」

「この前石川からおいらの心を覗かれた時は、ちゃんとした能力者だったよ
でも石川の能力の場合・・・・・その事でつらい事も多いし
知りたくない事迄感じ取れてしまうかもしれない・・・・
だから石川がつらい時支えてくれる人が必要だろ・・・
でもあいつならぴったりだ、あの一直線野郎なら、
石川の事きちんと支えてあげられる気がするよ、だから大事にしなきゃな」

覗き込むように見られていた視線がはずされて矢口はそう言うと
照れくさそうに足をぶらぶらさせていた
172 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:04
「はい・・・・でもどうやればひとみちゃんを守ってあげる事が」

「今、石川はその人の体に触って心を見る事に能力を使ってるだろ
それは触らずに出来るはずなんだ、鳥族なら
お前は優しいから人の考えてる事とか解っちゃうと
自分ばっか責めたりしちゃいかねないけどさ、相手が嘘をついてるか
本当の事を言っているかが、きっとその人の心理状態から解るはずなんだ
それくらいが離れた場所から解るようになれば
きっとあの一直線野郎を守ってあげられるとは思わないかい?」


「・・・そう・・・ですね」

嘘か誠か・・・・・

それくらいわかれば・・・そうかもしれないとその時梨華は頷く
173 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:06
その時家主が寝室から帰ってきて
「いつでも寝れるよ」と再び酒を飲みだした

「ありがとうございます〜」と言いながら
矢口は酒を飲みほし酔ったふりをしながら小声で話し続ける

「じゃあ、ここで寝る事になるまであの人の心を読んでみるんだ・・・・
おいら達もそうだけど・・・・力を使うのは体力を消耗するから
長くは維持できないだろ・・・その後回復するまで時間がかかるし
だから集中して短時間で読めるように意識してみろ」

その後梨華は、たまに神経を尖らせ家の主の心を読もうと努力したが
その時はまだ何も見えなかった
174 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:09
矢口と2人で寝室に入ってからも、横になって色々話をして来た

嘘をついているか本当の事を言ってるかをとにかく試した

真剣な話題から「おいらの身長は・・・・」と明らかにわかる嘘まであったが
やはり読み取る事は出来なかった

さすがに疲れからうとうとし始めた時に、
矢口から棒でつつかれて少しすると人が三人入って来るのが解って怖くなった

だが、あっという間に矢口が三人を捕らえ、隣の家からも銃声が聞こえた
175 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:11
それからあんな事になってしまって・・・・

ひとみが兵隊に囲まれてしまった時・・・・

みんなとひとみを守ろうと立ち上がって銃を構えたとき


自分の中で何かが生まれた


目の前から矢口がいなくなってしまって

ひとみを守るのは自分だと確信した時

あの兵隊達の隊長の意識の中に入り込めた気がした

勝ち誇って、ひとみの攻撃に対して怒り
早く殺せという隊長の心情が解った気がしたのだ

その後の話し合いの場で
矢口からやってみろという視線をもらってからも
隊長の心情を読み取ろうと集中して
隊長のおびえている心情や、少し焦っているような感じが読み取れた
176 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:13
呼び出された時に、
梨華は矢口に嘘をついているかもしれないと言った

こんな事をしてたのがあの方にばれた時の事を焦っていると梨華は読んだ

それを聞いて矢口は笑顔で頷くと
明日付き合ってくれと言いだした

もしかして少し危険な目にあわせてしまうかもしれないけど
おいらが絶対守るからと

大分目線より下になる矢口のかわいい笑顔に
つい頷いてしまった梨華だった
177 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:15
はぁ〜今日は疲れた・・・
色んな事がありすぎるし、力も使いくたくただと梨華は息を吐き出す

長い間、考え事をしてしまった為忘れていたが
ひとみはきっとあきらめて寝てしまっただろうと寝返りをうって目を開けると

「やっぱり起きてた」
「あ」

ひとみはベッドの上に胡座をかいて腕組みをしながら梨華を睨んでいた

「ねぇ、何企んでんの?」
「企んでる訳じゃないの、ただ矢口さんから
ちゃんと力を磨きなさいって言われて訓練してただけだよ」
「ふ〜ん」

不服そうな返事につい口が開く

「じゃあ聞くけど・・・・
私が明日矢口さんと危険な目にあうかもしれなくっても平気?」
178 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:17
ひとみは暗闇の中でハッとする

「平気な訳ないじゃん・・・・・
ずっと一緒に育って来て・・・・・梨華ちゃんだけがいなくなるのはやだよ」
「ほんと?」

力は使わないでも解る
きっと嘘なんかじゃないって、でもあえて尋ねた

「うん、やだ・・・・・だから一緒に行きたいのに・・・・・あのちび」

くすっと梨華が笑う・・・・そうだったのかって
179 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:18
「私・・・好きだよ、あの人・・・・・
族ってもっと怖い人達かと思ってたけど・・・・本当に怖いのは私たちだよね」

だから心配なの・・・・という言葉は梨華は言えなかった
ひとみの心があの人に惹かれていくのが解るから

「・・・・・うん・・・・ウチも・・・・あのちび・・・・
すごい人だと思う・・・・ウチらの方がずっといい加減だし汚いよね」
「うん・・・・・でも・・・・私も族みたいだけどね
・・・・・・すっごい弱っちいけど」
「あ・・・そっか、でも何で気がつかなかったのかなぁウチ・・・・・
なんでみんなの心を癒せるのかってね・・・・・」

人の心は見えても、癒す事ができるのは
梨華の優しさだとひとみは解ってるんだからと言いたいが恥ずかしくて言えない
180 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:20
ひとみはまた布団に入って両手を頭の下にして目を閉じた

「ねぇ、ひとみちゃん・・・・」
「何?」

梨華は思いのたけをこのまま言ってしまおうかと声をかけた

もしかしたら明日・・・

自分も死んでしまうかも知れないから

あの時微笑んでくれた矢口は、絶対に守ってくれると思ったけど・・・・

実際はどうか解らない・・・・
181 名前:dogs 投稿日:2006/05/29(月) 23:20
矢口が何を企んでいるのかも詳しくは教えてはもらえなかった

知っているのは
明日矢口と一緒に隊長に捕まったふりして連れて行かれるという事だけ

「どしたの?」

こっちに顔を向けて心配そうに見ている

「ううん・・・・・もう寝よ、ちゃんと寝ないと明日早いし、疲れたし」
「そうだね・・・・おやすみ」
「おやすみ」

しばらくしてひとみの寝息が聞こえるのを確認すると
ようやく梨華も眠りについた
182 名前: 投稿日:2006/05/29(月) 23:21
本日はここ迄
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 01:11
梨華ちゃんとよっすぃーにはこれからも支えあって欲しいです。
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/01(木) 22:02
おもしろい
185 名前: 投稿日:2006/06/03(土) 00:44
183.184名無し飼育さん
レスありがとうございます。
186 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 00:48
「「起きろ〜」」

ひとみと梨華の上にはそれぞれ加護と辻が乗っかってにこにこと笑っていた

「ん〜、朝からうるさいなぁ、静かに起こせよ」
「もうすぐ昼だよんっ、それになんやよっちゃん、まだむくれてんのん」

思ってもいない事を言われ本気でむかついたひとみは

「朝からこんなテンションたけーと、腹立つんだよっ、ウチは」

起き上がって加護を転がす

「お〜こわっ、それにもうちょいで昼だって
んじゃ怖いから退散しよっのの、隣の家で朝食?作って待ってるでっ、はよ来てな」
「梨華ちゃんも今日が勝負やからいっぱい食べないとね、勝田さん達が今ごちそう作ってくれてるよ」

二人はきゃっきゃと出てった
187 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 00:50
確かにもう日は高い
昨日の夜ずっと話しをしてたから・・・・
と二人は寝すぎちゃったねと言い合いながら隣の家に行くと
勝田達親子と料理自慢という人が、矢口とげらげら笑いながらすでに料理を食べていた

「おうっ、おはよっ、ってかおせ〜よ。」
「はい・・・・おはようございます」

あまりの溶け込み方に驚きながらも、笑顔で挨拶する梨華。
それに対して、ぶすっとして目をあわせないひとみ

「吉澤、挨拶くらいしたらどうだ?」
「・・・・おはようございます」

その剥れっぷりに、矢口は加護辻にこそこそと
「ガキだな」といい、「「ガキですね」」と辻加護が答えた

それがひとみに丸聞こえの為、それ以降は口を閉ざしたまま声を発する事はなかった
その態度に苦笑しながらも、良かったじゃんか、良く眠れてと話しかけたが
ジト目で見られるだけだった
188 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 00:52
その後ここを退去する準備の整った村人達は
各自食事の後集合し、全員で勝田の号令に従い気勢をあげる

馬の足で走れば半日かからない位で着くだろうが
全員分の馬は無いし、荷物も多い

ここから人間の足で歩くと、今からだと夜中になってしまうかもしれないので
日が落ちればどこかで野宿し、日が昇る朝、
関所の兵隊が交代の時にでも町に着くようにした方がいいだろうと宿泊の準備も忘れなかった

荷車四つを馬に引かせ、荷物と乗り切らない子供や
捕まえた兵隊を乗せて歩き出した
189 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 00:54
矢口と梨華と隊長は一緒の馬で一足先に行くと馬を走らせた

矢口は隊長の一挙一動に目を凝らせながら
ピョンピョンと自分で若干の力を使いながら走っていく

「いいか、お前、ちょっとでも石川に何かしたらすぐこの場で殺すからな」

早駆けする馬の横を並走しながら話す

「わかってるよ、言う事を聞けばいいんだろ」
「お前にとっては、願ってもみない話だろ、手柄にはなるしな」
「ああ、しかし成功するとは思えない」
「いいから、言われた通りにすりゃいいんだよ
お前があの方と言われる人に殺される前においらに殺されないようにな」

隊長に気づかれないように勘太に後をつけさせている矢口は一度確認の為に振り返り微笑む
190 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 00:56
そして梨華は、隊長の体が後ろにあり
嫌でも触れている為時々じわりと隊長の心を見たりした

やはり、ろくな人ではない、こんな時でも梨華に厭らしい事をする想像をしている

道々色んな場合のシュミレーションだろうか
都合よく自分達を捕まえて褒められ、一緒に町に飲みに行き町娘達と遊ぶ姿を想像してたり
私達を処罰する姿や、ひとみを全裸にして部下の兵達でもて遊び切り刻んでいく映像に
梨華は吐き気をもよおしそうになる

今までも罪人達にそんな事をしてきたんだろうか

そして、隊長のシュミレーションの中であの村人達の奥さんを人質にしたのは正解だという人の姿・・・・
その人の顔までぼんやりわかる・・・単独犯ではない?

この人があの方と呼ばれる人なのかは解らない・・・
何か矢口の役に立つ情報はないかとすでに疲労していたが静かに隊長の心を探る


早がけした馬の足だとその日の夕方には次の町についた
191 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 00:58
町に入る前に、長い間力を使った疲労を見せないようにしている矢口と
やはり力を使ってぐったりした梨華は縄に巻かれる

梨華の縄はすぐにほどけるように矢口が縛った
矢口も自分で縛ったのでいつでも抜け出せるようになっていた
梨華の体力の消耗を気づかれまいと矢口は隊長に厳しい口調で言う

「おい、縄で縛られてたって
お前の事は一秒もかからずに殺せるんだからな、変な事すればすぐ死ぬぞ」
「わ、わかってるよ」

一応隊長は、王族の軍隊を多数殺しての逃亡犯と知っている訳だし
へたな事をすればその場にいる兵は皆殺しにすると矢口は脅した

脅しの為、隊長が腕を動かしただけで一瞬にして縄を解き背後を取りナイフを首に突きた為
確かにすぐにやられるだろうと隊長は納得してしまった

こんなやり方は、もちろん本位ではないが、この際仕方ないと割り切った矢口
192 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:00
実際常に矢口の真剣な目に怯えておとなしく馬に乗り
言われた通り矢口と梨華を歩かせる

梨華の体力の具合を確かめると頷きあい、矢口が遠くの屋根の上に目をやると
勘太は前足をあげてついて行きますよとでも言うように合図した

隊長にはこう指示している

単独犯でないなら、矢口の事件を知っているはずのそのあの方って人
つまりこうやって民間人の手で山賊退治をさせろと指示した人物の所へ連れて行けと

部下は矢口に殺されてしまい、そんな矢口を捕獲した隊長はお手柄となるから・・・と

目的は勝田達の奥さんの奪還、しかし隊長にはそんな力はないと見て
とりあえず矢口達が奥さん達に近づく為に捕獲されるという事

真正面から返してくださいと言いに行っても何も変わらない気がしていた矢口はこう提案した
193 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:03
場所の選定が先決

そうなると、勝田達の奥さんのいる場所にどうやって矢口達を収監させるか
隊長でさえその場所は知らないというし、隊長の部下ではない一部の部下達が
全てその件を取り仕切ってるらしい

梨華はそれを聞いた時、単独犯ではない?と焦るが
ならばどうして隊長はあの話し合いの時焦っていたのか・・・・それが解らなかった

多分どこかの小さな建物で全員一緒に入れられ
入り口は何枚もの鍵付の扉で閉ざされ絶対に脱出出来ない仕組みだという事は知っていた隊長

ようやく鍵のありかはその建物の近くにboxが設置されているはずだという事は聞き出せた
もちろん梨華に本当の事を言っているかを探らせて・・・

だいたい何故そんな秘密な鍵を
外のboxに入れる等という事をしているのかも腑に落ちないみんなだった

中にはやっぱり自分達の希望等聞いてはくれないかも・・・
などと言う人も出てくるが、昨日団結したみんなの意思は固かったし

どうしてこんなやり方をしているのかは謎だが
先に行って必ず奥さん達を見つけるからと矢口はみんなで話し合いに行く事を勧める

そして連れてかれた時兵隊達にはそこで少し眠ってもらい
鍵を奪うと奥さん達を脱出させようという作戦

だからその指示した奴からそこに収監させる様仕向けさせろと
それがお前を生かす交換条件だと矢口はナイフを突きつけて笑った

矢口達が奥さん達を助けて逃げても
隊長が部下に渡した後の事で隊長の責任にはならないだろうから・・・という筋書きだった
194 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:07
人質が逃げてもこのやり方を続けるかどうかは隊長の言うあの方がまた考えるだろうし
勝田達がきちんと話し合いに行けばちゃんと方法は見つかるはずだと

実際誰がこの事柄の本当の黒幕なのかはっきりさせないと
同じ事が繰り返される為、梨華に黒幕を見極めさせるよう頼み
隊長はきっとどこかで裏切りをするであろうとふんで
その場で色々筋書きを変更しようといういちかばちかの行動だった


やがてあまり立派でない壁と関所を通ると
その中には広大な畑や果樹園が広がっていた



前に来た時はこの中には入らずにそこからも見える左方遠めの丘の上で
沢山のYの国の兵隊に付き人と共に姫を渡してしまったんだよなぁと唇をかみ締める矢口
その時の寂しそうな姫の顔を思い胸を痛める


ここは水も十分にあり、農業も盛んで
あってないような防御壁は役に立っていないし
干ばつの進むJの国にいる山賊からしてみれば格好の餌食だろうと納得した
195 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:09
やがて連なってくる家から出て来ている町中の人達の視線が
てくてく歩く罪人の様相の矢口達を見る

町に入って一時間位、人々の視線と興味を浴びながら、
ずっと遠くに見えていたこの町が見渡せる小高い丘の上のひときわ大きな建物に近づく

大きな広場を過ぎると、一度壁と門のようなものがあり
向こう側は兵達の住まいなのか同じ家が立ち並んでいた
さらに進むとうっそうとした森に入り、しかも道は幾重にも別れ迷いそうだ

何故ここをまとめる存在の建物がこんなに解り難い道筋で作られているのかは解らないが
民と兵隊の隔たりは結構高いと感じた

建物に近くなり、城壁の門の護衛の兵隊が隊長の帰還に直立で敬礼をして迎える
門に入ってからは作られたような背の低い木が続き
様々な花が咲き乱れている、綺麗な芝生に覆われた広い場所が出てくると
ようやく建物の入り口につく
196 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:11
建物の中に入ると、まっすぐ長い廊下があり
廊下の壁には同じようなドアがズラリと並んでいた

三人が進んで行くと、敬礼してくる兵隊の数が増えて行く・・・
隊長が族を連れて帰って来たという噂からか敷地中から見物に来たようだ
ある場所より奥を護衛する様に立っている兵に隊長が声をかける

「いらっしゃるか?」
「はっ、さっきお帰りになられました」
「そうか」

聞いたらすぐに振り返り着いてきていた兵たちに言う

「お前たち珍しい族だからと集まるな
そろそろ隊務終了時刻だろう、終わった者は帰れ」
「はっ」

兵が敬礼をし、あちこちにちらばって行く
それを見て矢口は、ここの兵達には緊迫感が無く
常々平恩な生活を送るのどかな町なんじゃないかと思ってしまう
197 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:13
一番奥の扉のすぐ右横のドアの前で隊長が止まる
矢口があごで行けというように隊長を睨みながら動かす
隊長がゴクリと唾を飲んで頷くとノックした

しばらく間が空き

「入れ」

と若い男の声が部屋の中からした
「失礼します」隊長がドアを開けて先に入った

先に梨華を入らせ後ろに矢口がつく
部屋の中では慌てて入り口付近にやってきた風情の若い女の兵隊が銃を構えて立っていた

隊長がにやりとすると矢口の視線を感じたのかすぐに真顔になって中に入っていくと
部屋の奥で机を前に腕を組んでふんぞりかえった男が振り向いた
198 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:14
矢口と梨華は、こいつが猫族のあの方か・・・・
24.5歳位?・・・隊長よりも明らかに若いなと思った時

「こいつが族か?隊長」
「はっ、そうであります」

その男は一瞬笑みを浮かべると椅子から立ち上がり
隊長の前を通りぬけ、梨華の顎を下から持ち上げて眺めた

「なかなかの美人だな」

嫌そうに顔を背ける梨華、だが触られている所から男の中を見ようと試みた
隊長に指示を出していたぼんやりした顔は、今目の前にあるこの顔に間違いないと思った

「軍曹・・・後ろの小さいほうは有名なMの国の矢口であります」

驚いて手を梨華から離し、その後ろにいる矢口を見た
199 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:15
矢口が「軍曹」という事はやはりまだ上の黒幕がいる?等と考えていると

「・・・・小さいこの少女が矢口、まだ子供ではないか、本物か?」

またしても子供扱いされた矢口の目は座った

「部下は全員こいつに殺されましたし、強さは本物でした」

いつそんなの見たんだよと
一応シナリオをちゃんと演じる隊長に座った目が崩れない

「何?・・・・・・だが隊長、よく捕まえきれたな
ちゃんと司令官に報告しておくぞ、お疲れだったなもう帰ってよい、きっと褒美がもらえるな」

隊長のすぐ耳元に近づいて、「今夜9時頃どうだ?」と
いつもの場所で祝杯でもという感じで隊長を見ると少しにやけた

200 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:16
「はっ、この者たちはどういたしましょうか」

軍曹と呼ばれる男はにやりと笑って

「そうだな、とりあえず今日のところはあそこにでも入れておけ」
「え?」

咄嗟に出たが、隊長が恐る恐る矢口達を見ると
矢口が睨みつけて隊長は口をつぐむ

「どうした、何かあるのか」

そううまく事が運ぶものかと道中矢口の提案を聞いて思っていたが
どうやら矢口の思い通りの答えが帰って来たので悔しい隊長

「いえ」

軍曹は、気にしながらも
梨華をもう一度品定めするように顎へ手を当ててじっくりと見ていた
201 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:18
梨華はあまりの嫌悪感にくらくらしそうになるが必死に男の中を見る

この男も隊長と似たようなもので、かなりの女好きのようだった・・・
しかしあまり殺戮を好むタイプではなさそうだ

さっき隊長から読み取ったような祝杯をあげている二人の姿・・・
そして自分をベッドに横たえて梨華が誘うような視線をしている事を想像していた

その映像に怒りが爆発しそうになりながらも
軍曹はある人物の前にひれ伏して褒められる姿に変わっていた

その人物は光輝く女性で神々しさに顔も解らないが
心の中の女達の中で別格のように扱われているのを見た所で手が離される

軍曹が入り口の一人の兵隊に

「草野班・・・・は、警備に行ってそのまま帰ると言ってたな・・・・・
立川も・・・・・ああ・・・じゃあ野間しかいない・・・か、野間達連れて来い」

女の兵隊は敬礼して外に出て行くのを隊長は追う形で外に出た
202 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:20
部屋を出て、隊長が舌打ちするのを矢口は聞き逃さなかった

さっきと違い人のいなくなった廊下で
出て行った兵隊は出口から外に向って走って行ってるのが見えた

そこで兵隊が周りにいない事を確認して言う

「お前・・・何企んでる、いくらここに何百人兵がいようと
おいらにかかればすぐに皆殺しに出来るんだからな」

冗談を言っているのではないという矢口の鋭い視線に

「わ・・・・解ったよ、お前の望み通り、あそこっていうのは
あいつらの女が入ってる所だよ・・・お前の計画通りだな、まぁ頑張れよ」
「ああ、それに変なこと考えたらすぐ殺す、嘘じゃない」

ちょっとした隙に梨華からの情報を聞いていた矢口

「はいはい、仰せの通りに、後の事は俺は知らんからな」

マジで最低な奴だなと矢口は心で思いながらも神経を尖らせる
こいつは絶対に背中を向けたら撃ってくるはずだと梨華に視線をやり頷く
注意しろよとでも伝えるように
203 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:22
そして、走って戻ってきたさっきの兵隊が連れてきた兵三名に
例の場所に連れて行けと指示し、縄の先を二本渡した

隊長は苦々しく矢口と梨華が連れて行かれる後ろ姿を見ていたが
もうすぐ外に出て行くであろうと言う所で通りかかった兵の銃を取り撃った

「来ます」と全ての雑音を遮断し集中して目をつぶっていた梨華は呟くと
矢口の前に動き、「オッケー」と矢口は縄を持っていた男をひっぱり盾にし
体勢を崩した兵は撃たれて倒れた

走ってきた女兵が倒れた兵隊にしっかりしろと叫ぶ
残った二人は矢口達が逃げないように銃をつきつけて動くなと叫ぶ

くそっと隊長が呟くと同時に各ドアが一斉に開くのが同時だった

矢口達が縄でしばられた状態である事で隊長が兵隊を撃っている事は歴然
アッという間にわらわらと部屋から出てきた兵隊が隊長を取り押さえた

「あほが」

矢口が小さく呟く
204 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:24
先ほどの軍曹も飛び出て来て状況を把握し

「血迷ったか、この中での銃の使用は司令官が認めていないはずっしかも仲間を撃つとは」

と頭を抱え

「おいっ野間、その族2人はすぐに例の場所に連行
隊長は後で司令官の前へお連れする迄部屋に監禁、抵抗すればその場で処刑」

その場にいる十数名位の兵が一斉に動く

「軍曹っ、あいつは危険なんです、これは罠なんだっ、だから私は司令官をお守りしようとしてっ」
「黙れっ、いいから早く連れて行け、せっかくお褒めの言葉をいただけるというのに、気でも狂ったか」

必死に言い訳する隊長は、掴まれていた兵隊に一発お腹を殴られると前かがみに苦しがる

隊長ははがいじめにされながらも叫び続け
建物の外で銃声が聞こえたのが聞こえ、矢口達は再び二人の兵に連れられ歩かされた

混乱の間にとでもいうように
集まってくる兵たちの隙をくぐるようにその場を離れ
回りの兵から隠れるように建物の裏手に歩く
205 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:25
どこへ連れて行かれるのか、建物から出て
広い敷地からも出させられると、複雑に分かれた小さなけもの道をしばらく歩き
やがて小さい窓がある建物が姿を表す

梨華と矢口が顔を見合わせる

梨華が一気に集中力を高める
きっとこの兵はたまにしかここには来ないのだろう

鍵の開け方の手順を思い出している兵隊から読み取ると
予想通り鍵のboxがあり、それはダイヤル式のboxであると判明

これなら後で来た人にダイヤルの番号さえ伝えれば出られると梨華は判断し
ここで兵をやる必要はないと首を振って矢口に伝えた


満足そうに頷く矢口
206 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:27
さらに集中しながら、二人して自分達の視線から隠すように
boxを開けている兵から必死に番号を読み取る

読まれているとは知らない兵が得意そうに鍵を取り出すと
勝ち誇ったように銃口を向けてあっちへ行けと建物に近づけさせる

入り口につくと、一人に銃口を向けられたままもう一人が鍵を開けだす

梨華はちゃんと番号を読み取れたと矢口に知らせるように頷き、矢口も頷く
ドアは3枚、すべて鉄扉、そこを開けると中にほおりこまれた

「って〜な」「きゃっ」と倒れ込む二人
「明日、司令官が判断を下す、それまでおとなしくしとくんだな」

ガチャガチャと鍵を閉めて出て行く
207 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:28
「だ・・・・大丈夫ですか?」

暗闇の中から数人の女性が姿を表す
小さな窓が三箇所しかない所から漏れる日の光は頼りない

「あ・・・あなた達が、勝田さん達の奥さんですか?」

にかっと笑って矢口が問い掛ける

「えっ、はい私・・・勝田ですが・・・・何でそんな事・・・・」

矢口と梨華が顔を見合わせて笑うと自分達で縄をほどき、奥さん達が驚く

「どうして・・・・縄を自分でほどけるならどうして逃げなかったんですか」

勝田の奥さんが言う

「ちょっと訳がありまして、助けに来ました、少し話しを聞かせてもらえますか?」

矢口は、奥さん達から話を聞きだした
208 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:30
まず、勝田達が無事で今から助けに来るという事を伝えてから安心させ
ここでの生活や情報を探った

少人数ずつで外に出て、水浴びや洗濯等も出来るようになっており
一応は人間らしく扱われているようで矢口はホッとする

話を聞くとここは兵の中でも結構秘密のようで
やはり司令官に秘密なような気がした、と いう事は軍曹の指図なのかなと矢口は思っていた

ドアや窓、壁も頑丈で脱出不可能なのが解ってるのか
兵はここで見張る事はないという、一日に二回食事を運んで来る位

「司令官はここの存在は知らないんじゃないかな」
「はい、でもあの軍曹とかいういやらしい人が隊長に指示してるのは間違いなかったです」

笑う矢口

あの男が黒幕なら、勝田達でも大丈夫かもしれない・・・・そう感じていた
209 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:31
「そっか、じゃあ黒幕はあいつか」
「はい、それであの軍曹の中に、すっごい崇拝されたような女の人がいたんです・・・・
もしかしたらその人が司令官なのかなって」
「女?ここの最高司令官は女なのか」
「ええ・・・・すごく綺麗な女の人のようでした」
「わかった、奥さん達ここの場所はだいたいどこだかわかりますか?」

持って来ていた地図を靴の中から取り出すと、広げて説明を受ける
はっきりとは解らないという奥さんたち
確かに複雑な道筋だし、森がうっそうとしててあまり方角が解らない

矢口と梨華も連れてこられる道々の場所から意見を合わせここを特定し
地図に丸をつけ手紙を書く
210 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:32
「よし勘太っいる?」

矢口が窓に向って叫ぶ

ウォン【ちゃんとついて来ました】

「よしっ、ここの場所は覚えただろ、あいつらにこの手紙を渡して
すぐ加護を連れて来てよ、早くな」

ウォン【了解】

矢口が鉄格子の窓からここの地図を書いた紙を落とすと勘太の足音が去って行く

「あなた達はいったい」
「ウチら族なんです、それも凶悪犯・・・・だから捕まったって感じです」

全員が息を飲んだ空気になり、矢口は笑い出す
211 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:34
「大丈夫、とって食いやしませんから、
昨日勝田さん達からごちそうしてもらったんで、そのお礼にあなた達を助けようとしてるだけです」
「あの・・・でも、兵に逆らったらどういう刑にされるか・・・・」

諦めの表情のまま、力なく呟く

「皆さん、だんなさん達は、兵に逆らっても自分達で奥さん達を取り返すと言って頑張ってました。
それに、こんな事はやっぱりおかしい・・・・
おかしいなら自分達で戦って変えて行こうって話し合ってました・・・・
町に帰ってみんなをまとめていい町を作ろうって」

奥さん達が互いに顔を見合わせると、少し笑みを浮かべだして頷く

「そうよね、おかしいわよね・・・・・
主人達が役人の代わりに山賊退治をさせられるなんて・・・・それも私達みたいに人質を取って」

矢口は頷く

それを見て梨華は思う・・・・・

矢口はどうしてこんなに人の気持を変えて行く力があるんだろうかと
212 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:35
「とりあえず、おいらはここから脱出するだけの力はありませんから
助けが来るのを待ちましょう、但し、ふいに兵が来てもばれないようお願いします」

奥さん達は頷く、その後わずかな食事が届くと
真っ暗な中で月明かりだけを頼りに色んな話をして眠りについた

そして、夜中過ぎにやっと加護が到着する

いつ到着するかわからないという事で全員就寝していたが
矢口が気配を感じて起きあがると声がしだした

「親びんっ無事ですか?」
「おうっ、お疲れ、大丈夫か?」
「は・・・はい・・・・・ちょっと力使い過ぎて・・・やぱいかも・・・・」
「大変だ、よし、もう少し頑張れ、ここのドアの延長戦上の森の中に鉄のboxが備えられてる、その中にここの鍵が入っているから取ってくれ」
「あ、矢口さん、鍵の番号言わないと」
「ああ、何番だった?」
「はい、1444です」
213 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:36
話し声で起きた梨華が目をこすりながら伝える・・・・
兵隊から読み取った番号はちゃんと合っていただろうか・・・と梨華は心配したが
やがてガチャガチャと鍵を開ける音がしだした

「親び〜ん」

加護が矢口に抱きついてくると頭を撫でてあげる矢口
そして梨華にもよくやったと笑みを向けた

「よしよし、よく頑張った、疲れたろ、それで辻達はどれくらいでここまでこれそうだ?」
「そうですね、結構急いで馬ちゃん達が歩いてくれてるんで
朝にはつくとおもいます、今頃少し休んでると思いますけど」
「山賊には会わなかったか?」
「一度突然襲って来たんで進行が遅れちゃって、でもみんなでやっつけちゃいました」

何人か怪我しちゃったけど大した事はなかったと言い矢口達は安心する
ひとみも頑張って戦ってたと言うと梨華もほっとするように微笑んだ
214 名前:dogs 投稿日:2006/06/03(土) 01:37
「そっか、んじゃ、加護少し横になれ
急がせて悪かったな、どれくらい離れてるか解らなかったからさ」
「でも・・・・・早く逃げないと・・・」
「大丈夫、ここから町はそう遠くなかっただろ?もう少し位寝ても大丈夫だよ」
「うん親びん、じゃあすみません」

加護はそう言うと矢口の布団に入り込みすぐに眠った
矢口が加護の体の上に腕を廻して

ぽん・・・ぼん・・・

と一定のリズムで体を叩いてあげてるのが解るのか嬉しそうな顔をして眠りだす

梨華も音に気づいて起きた奥さんの何人かも
それを見て微笑み、自分達ももう少しと横になった
215 名前: 投稿日:2006/06/03(土) 01:38
本日はここまで
月末はやはり厳しいですね・・・とほろ酔い更新
216 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:05
そして遠くの山にうっすらと日が差して来た頃
まだ暗い部屋で矢口が声をかける

「そろそろ、起きましょうか皆さん・・・・町へ降りましょう」

矢口が加護の顔に近づき「大丈夫か?」と聞くとにっこりと頷いたので頭を撫でた
全員が静かに準備を進めると、無理やり連れて来られただけあって荷物はほとんどなく
髪を整える位で全員立ち上がった

「じゃあ、静かに慌てなくていいですから
もし兵が追いかけて来ても慌てずにおいらの指示に従って下さい、いいですか?」

みんな頷き、静かにドアから出て行く

朝ごはんがあの場所に運ばれて来るまでばれる事はないと読んでいる
きちんと三つ鍵を閉めて、鍵も元通りBOXの中にも戻した

複雑な小さな道が沢山ある中、勘太頼みで歩いていくと
夜が明ける頃には町の麓まで出てこれた
217 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:11
まだ朝食の時間迄はまだあるので追ってが来る事もないだろう

兵達の出勤時間と重なるのか
次々に家から屋敷へと向って行く兵隊達を木陰から見かけると
見つからない様に迂回の道を探す

ゆっくりと町を迂回し、自分達の町へと向っていく
そして町の中心であるという広場まで来た時に
既に外に出て来た人に少し驚かれながらも、姿を現して全員が脱出出来た安心感に包まれた

遠く馬の姿が見え出した

「おっ、来たみたいですね、旦那さん達」
「あっ、ひとみちゃんもいる」

梨華の嬉しそうな顔に矢口も微笑む

「悪かったな、吉澤と離れ離れにしちゃって」
「い・・・いえ、でも良かった、無事脱出できたし」
「うん、お前が頑張ったからだよ、サンキュな
それにこれからも頑張って力を磨けよ、すごくいい能力者になると思うよ」
「いえ・・・」

ちゃんと使い道を弁えた能力者・・・・
矢口は梨華にそうなって欲しいと言った
218 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:13
「じゃあバトンタッチだ、後は自分達で勝ち取った方がいいと思う
あの軍曹って奴が黒幕ならきっと大丈夫だよ、だからこれでお前らともお別れだな」

梨華は忘れていた・・・次の町までが一緒の旅だという事を
加護も忘れていたようで、少し寂しそうな顔をした

「あの町にいられなくしたり、危険な目に合わせたり
吉澤怒らせちまったりして悪かったな・・・昨日勝田さん達にも頼んでおいたよ」
「頼んだ?」

ニカッと矢口は笑いながら頷く

「お前らの住む所とか、仕事とか・・・・ちゃんと世話してくれるって、よかったな」


梨華は胸がじんとしていた・・・・
あの状況でそこまで自分達の事を心配してくれていたなんてと

「矢口さん・・・・」

そこで、勝田達も矢口達に気づき
がらがらと荷物を引きずって注目を浴びながらみんな走って近づいて来る
219 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:15
「親び〜ん」いつのまにか辻が矢口に抱きついている
みな久しぶりの家族の再会を喜び会っていた
ある者は抱き締めあったり、キスしたりとお互いの無事を心底喜び合った

出てきていた町民が、どうしたどうしたと周りに集まってくると
久しぶりに見る顔に何があったのか聞かれていた

ひとみも馬から下りて勝田の子供を下ろすと梨華が近づいた

「よかった、梨華ちゃん無事で」

ひとみも子供が嬉しそうに母親に飛びついていったのを見ながら梨華に近づく

「うん、矢口さんが守ってくれたから」

ひとみはまだ矢口に対して腹を立ててるのか、矢口の方を見ようとはしない
220 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:18
だが近づいた矢口がいきなりひとみの胸元のシャツのボタンを外し
グイッと広げると肩の傷の具合を見て舐め出した

信じられない速度で完治に近づく傷よりも
いきなりの矢口の行動に驚いたが、そんなひとみの心等知る由も無くそれも終了しボタンを閉めると頷いて

「もう大丈夫だ、んじゃ、吉澤、石川と仲良くな」



ひとみはその時気づく

矢口とはこのままここで別れるんだと

ひとみはまだまだ一緒に旅するような感覚にいつのまにかなっていた

なのに、こんな所で・・・

しかもあっさりと別れの言葉を言う矢口にさらに腹を立て
近づこうと一歩出た所で勝田達が声をかける

「矢口さん、皆さん本当にありがとうございました
私達みんなこれから家に帰って、各地区のみんなに話しをしてこれから戦いますから」

きっとすぐに兵隊達は動き出すと思いますからと決意漲る顔で言う
221 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:20
「きっと大丈夫です。黒幕はあんまり大した奴でも無かったです。
小心者っぽいしきっとちゃんと話せば解ってくれるような人でしたし
ここの兵達はそう悪い奴ばかりじゃなさそうでしたから」

「そう・・・・ですね。俺達は今まであまり町同士で仲良くする事は無かったのですが
これからは皆と協力しあいながら、地区との交流を図っていけたらと思ってます」

「はい、皆さんならきっといい町が出来ますよ、頑張って下さいね
それとこの2人の事よろしくお願いします」

ひとみの視線が強く矢口を捉える

「はい、もちろん大歓迎します
矢口さん達も早く会えるといいですね、守りたい人に」

そういわれた矢口は少し照れながら加護と辻の肩に手を廻し

「はい、この2人が一緒だからきっと近い将来会えると思います
じゃあ皆さんお元気で」

矢口が、馬にひかれていた荷車から
元々自分達が持っていたリュックを取り出すと背中に背負った
222 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:21
「ほなな」

「じゃあね」

加護が吉澤に、辻は梨華に抱きつくと涙を溜めて手を振り
吉澤の腕についてるバーミンが熱を帯びた

「ちょっ、矢口さんっ」

吉澤が矢口を呼び止めようと近づくと
三人と一匹の姿はフッと消えてしまった

ひとみと梨華それに勝田達以外が始めて目にした矢口達の本当の能力に
その場の全員が唖然と今まで三人がいた場所を見つめた





「ずるいよ」


ひとみが呟く



「え?」
223 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:22


梨華がひとみを覗き込むとひとみは静かに泣いていた


「強くなれるように教えてくれるって言ったのに・・・・
結局何も教えてくれなかったじゃん」


「・・・・・・」


「嘘つき・・・・・」


「ひとみちゃん」




「ちび犬のばかぁーーーーーーーーーーーっ」




ひとみが泣きながらありったけの声で叫ぶのを全員が静かに見ていた
224 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:23



しかし梨華は少しだけ三人の後ろ姿が見えた気がした


気のせいかもしれない



梨華の希望が見せた幻かもしれない・・・・・




でも見えた気がした・・・







三人があの屋敷の方向に向っていくのが




勝田達がひとみの肩を抱いて、自宅に案内しようとしてくれる
子供達も道中仲良くなったひとみが泣いているのを心配そうに見ていた
225 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:25


そう・・・・


矢口達は、このまま去ってはいなかった
もう一度高台の屋敷へと向ってきちんと決着をつけたかったのである

黒幕はきっと軍曹で間違いないだろう・・・

組織というものを知っている者なら、トップの権力で変わってくるのだから

だから町の人がいくら頑張っても
あの方・・・きっと最高司令官という人物がどんな人か解らなければ、どうも心配だったのだ


「加護、辻・・・・つき合わせて悪いな」
「何言ってんですかぁ親びんっ」
「ウチらは、一心同体ですやん、
それにあのままじゃ町の人たちまた兵隊にやられてまいますし」


森の中に入ると、もう見えないだろうと
てくてく三人と一匹で山道を歩きながら話す
226 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:27
「でもいいんですか?よっちゃん達とあんな別れ方で」

あの町に向う道筋で、
旅するのもなかなか楽しいとか言っちゃってましたよと少し寂しそうな辻

「よっちゃんなんかずっと何か言いたそうやったし、梨華ちゃんだって寂しそうでしたよ」

「まぁ、あいつらと旅するのも楽しかったけど、
元々あの2人とは何の関係もないんだし、ここが平和ならあのまま勝田さんの所にいるのがいいだろ」

「そうですけど・・・・・やっぱり寂しいから」

矢口が柔らかく笑う

「お前らがあんなになつくのも珍しいな」

二人は笑顔で頷く

「「なんかあほでからかいやすいから」」

矢口は大笑いして

「そうだな、じゃあ姫に会えたらまたここに遊びにくっか、姫連れて」
「「へい親びん」」

と旅の思いでを話すうちに門の近くまで来ていた
227 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:30

「よっしゃ、んじゃ正々堂々、真正面から入ろっかね」
「「へい親びん」」
ウォン

言った途端、上の方からドドドッと地響きが聞こえ出す

「来ましたね〜親びん、すごい数ですよ」
「結構気づくの早かったよな」
「親びんの知名度が高いので心配で早めに見に行ったんやないですか?」

目の前に騎馬隊が走って来た
228 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:31
矢口達を見つけると「いたぞ、撃て」といきなり発砲してくるので
ひらりとよける三人と一匹

「ったく、死にて〜のかよ」

10名以上いる騎馬隊の後ろにも10名位の兵が銃を構えて走ってくる

三人が姿を消す

「くそっ、消えたぞっ、気をつけろっ」

そう叫ぶのは昨日まさに矢口達をあの小屋に連れて行った奴
言ったそばからぐわっとそいつが馬から落ちると
その後ろについている全員も次々と落とされた

腰を打ったり馬に踏まれたりしたらしく立ち上がる事はできない
229 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:32
再び三人姿を表して兵に向って銃を構えた

「無駄だよ、お前らじゃおいら達を捕まえる事は出来ない
死にたくなければ最高司令官の前に連れて行け」

馬が無人のまま街へと駆け降りて行く

後ろについている兵隊が銃を乱射して来るが
姿を消した三人が次々に銃を持った手を蹴り上げて銃が宙を舞っていった

そして兵達の背後から声を掛ける

「無駄だって言ったろ・・・・そんなに死にたいなら殺してやってもいいけど」

一番矢口達に近い兵隊が後ろに下がって唾を飲み込んだ
230 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:37
馬から落ちた人たちが、ヨロヨロと起き上がり
昨日の人・・・確か野間といったっけと矢口が見ていると

「わ・・・・わかった・・・・だから撃つな」
「銃を捨てて戻れ、何度も言うが、
お前らがいくらおいら達を撃っても無駄だ、あきらめな」

脇の方の兵が銃を捨てる振りして撃とうとすると
既に加護が銃口を天に向けさせて逆に頭に突きつけている現実を見て全員息を呑む

観念したようにガチャッガチャッと銃が手から離れて山道を登り始める
全員を道の脇から上へ上るのを見届けて使いやすそうな銃を取ると
いらない銃を草むらに蹴り出して最後尾からついていく

門兵に指令を出させて門に入り森を抜け広場に出て屋敷に来ると、迎える兵隊達に、
抵抗するなと野間に他の兵隊を制御させて、昨日通された廊下に入っていく
231 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:40
「あんた達はもういいよ、おいら達は司令官とやらに用があるだけだから」

入り口らへんに立ちすくむ兵隊達に背を向けて歩き出すが
やはり後ろから撃って来る気配がするので振り返ると案の定向こうから撃ってきた

弾を避けながらしょうがなく打ち返し
何人か足元を撃ったら兵達は姿を隠し慌しく「全員集合」と叫び声が外から聞こえ出す

昨日のように軍曹が飛び出て来ると
矢口はすばやく後ろを取り銃をつきつけ後ろの兵隊達に見せながら呟く

「悪いが脱走させてもらったよ、今司令官はいるかな」
「い・・・・いない」
「ほんと?」

矢口が辻と加護に背後の司令官のいると思われる扉を開けるよう指示を出し
ドアを開けるとすばやく三人で中に入ってドアを閉めた

外でドアをドンドンと叩きながら軍曹が
「司令官っ、大丈夫ですかっ、司令官には何もするなよっ」などと叫んでいる
232 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:43
軍曹の部屋の三倍はあろうかという大きな部屋の
大きな窓の前に置かれた机に向こうを向いて椅子に座っている人がいる


外の喧騒と違った静寂の中



「いつかはやって来ると思ってましたよ、矢口さん」



ゆっくりと言うとその人物はくるっと椅子を廻してこっちを向いた

軍服を着て帽子を着用し
司令官の象徴のような紋章が光っている女と目が合う

梨華が言ったようにすこしきつい目をしていたが
確かにきれいな女だと矢口は思う。

でもここをまとめるにはえらく若いと驚いた

その人物が、大きな声で一度「大丈夫、皆は通常業務を行って」と一括すると外が静かになる
233 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:44


「どうして・・・・おいらの名前を?」

「軍曹が、あの矢口を捕獲したと今朝報告に来ました
その後すぐに逃亡したという連絡がありましたけどね、どうして戻って来たんです?」

矢口を見据えて、感情がこもらないような冷静な応対をする

「どうしても会いたかったんだよね」

微笑む司令官
しかし態度は冷静を保ったまま、挑発するかのように質問する

「へぇ、変わってますね、会ってどうするんですか?」
「どんな人か知りたくって、まさか女の人とは思わなかったけど」
「軍に女の司令官がいちゃおかしいですか?」
「別に」

二人はくすりと笑いあう
234 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:45
「私、藤本美貴っていいます、あなたは矢口?」
「矢口真里、Mの国から来た」
「真里・・・かわいい名前ですね、それでどうします?決闘でもしますか」


二人は見つめあう


互いの力量・・・・それを探り合うように静かな戦い



この司令官は強い・・・
直感的に矢口は感じる


そして藤本も矢口に只者ではない何かを感じていた
235 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:48
そして

「いや、話がしたいだけ、藤本司令官がこの下の町の事をどう思っているか」

矢口が時間を進めだす

「町・・・・・私は王子からこの町を託された・・・・大切に思ってますよ
だけど、この周辺に最近山賊が多数出没して町の人を傷つけては
金品や食料を略奪して行きます・・・・・それについては軍曹にどうにかする様指示を出し
きちんと今討伐させてる・・・何か問題でも?」

「その討伐を町の人にさせているのをあなたは知ってる?」

「・・・・・・」

「町の人は、きっとこれから自分達の町を作って行こうとするよ
だからさ、その手助けをしてもらえない?」

「矢口さんの目的って、そんな事?」

「そんな事じゃね〜よ、大切な事だよ、干ばつが進むJの国にしてはここは緑も水も豊富だから
食料も沢山ある、山賊には狙われやすいよね、それを取り締まるのが兵隊の役目でしょ
だけど、兵隊の人たちだって人数に限りがあるし、一日中見回るのも出来ないとは思うけど
街の人たちと仲良く協力してみんなが安心して暮らせる町にしてほしいんだ
これって王子から託された町を大切にするって事と思わない?」

真剣な矢口の視線に
藤本は一度目を閉じた後再び目を開け優しい笑顔を向けた
236 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:50

「・・・・・・矢口さんって・・・・噂とは違うんですね」
「あ・・・ああ、王族に逆らった殺人鬼でしょ、まぁ事実は事実だから
噂と違いはしないよ」


藤本の目がきらきらしてきた

「かっこいい・・・・・」
「は?」
「矢口さん、解りました、実は軍曹のやってる事は薄々気づいてたんです。
でも一応町の人にも被害は出てないし、山賊もなんだか成敗していたので
町の為になると思っていました、それに軍曹も小さい時から美貴と育ってきて
美貴のせいで最近一緒にこの町にやって来て必死だっただろうし
彼のやり方にはきっとそれなりの訳があると黙認してました」


矢口達はすっかり子供のような笑顔になった藤本に気づいた
237 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:52
「でも結局、勝田さん達を苦しめてた事になる訳だから
これからはそういう事やめてもらいたいな、街の人の為に」
「そうですね、その件に関しては彼にきちんと責任を取ってもらおうかと思います」

藤本が矢口に近づき、通り過ぎると鍵を開けて両開きのドアをバンッと開けた

すると、軍曹と10人位の兵隊が銃を構えてドアに向って立っている

「司令官、建物はここにいる総員で包囲してます。
絶対に矢口を仕留めますから早くこちらへ」
「いや、いい、さっき通常業務に戻れと伝えたはずだが」

入り口から一人兵隊が走って来る

「大変ですっ、門の外に町民が押し寄せて来てます」
「何、とりあえずこっちはそれどころではない
町民ぐらいお前らで何とかしろ」

軍曹が銃口を矢口に向け構えたまま叫ぶ
238 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:55
「待って、話を聞きましょう、私が行きます」

すっかり、最初会った時のような冷静な対応を取り戻す藤本が言う

「矢口さん、一緒に来て貰えますか」
「いいよ、でも、もし皆に何かしたら、ただじゃおかないよ」

藤本が矢口に微笑み頷く

軍曹や兵隊の間を割って長い廊下から外へ出て
包囲されていた兵を藤本が制しながら歩き、庭と森を通過する

すると門の外から大勢の怒声や奇声が聞こえてくる
外は皆興奮しているようだった

門番の兵が敬礼をしたまま目を見開く
どうやら司令官の顔は、あまり知られていないらしい
上層部の人と内勤の人くらいにしか顔を見せていないようで
兵の中を通過する際、感動する兵たちの顔を多く見た

「門を開けてもらえますか?」
「はっ、しかし、外には大勢の町民が押しかけており危険かと」
「いいから、開けてもらえますか、それと全員こちらで整列
銃はしまいなさい、あくまでも私は話し合いの場を設けようと思っています」

木々の中で、小隊長だろうか、指揮官の号令が響き渡り
建物の周りに包囲していた兵もすべて綺麗な整列を見せた
239 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 14:57
「「親びん、すげ〜」」
「ああ、見事なもんだな」

矢口の横で軍曹が当たり前だと言わんばかりに睨みつけている
まだ門番が、ぐずっている

「早く開けなさい」
「しかしっ、本当に司令官の身が危ないと思われます」

本当に司令官の身を案じている様子に

「じゃあ仕方ない、私が行く」

藤本の姿が消える、矢口は視線を上へ向け、自分もついて行く
240 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:00
門の上に立つとすぐに横につく矢口に顔を向ける

「あんたが、みんなに何かしないか見張ろうと思ってな、嫌か?」
「ぜんぜん、じゃあ、声を出しますよ」

自分の存在を知らしめようとする前に
森の中にいる人の群集が門の上に立つ2人に気づく

「誰だっ、あいつが司令官かっ」「紋章を見ろっ、あいつだ」
「地区長をよくもひどい目にっ」「そうだそうだ」

興奮する群集
何発か発砲する人もいたが、ヒラリと2人は銃弾をよけ
何事もなかったようにしている

「みんなやめてっ、矢口さんっ、やっぱりここに来てたんですねっ、大丈夫ですか?」

甲高い梨華の声が響き渡る

矢口は真下に立つ勝田達と共に先頭に立つ少し逞しくなった石川と
怒りのオーラを漂わせて睨む吉澤の姿を捉えた

その声に銃声はやみ、群集がざわめく

「ちっ、ばれてたか、石川っ、勝田さんっ、話はつきましたよ
今から門を開けるから手荒な真似はしないで下さい」
241 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:04
少し前

矢口と別れた後、ひとみ達は一度勝田の自宅へと連れて行かれようとした

しかし、勝田の奥さんが、もうすぐ朝食を兵隊が持って来る時間だから
自分達が逃げた事を知って追ってくると言うとすぐに行動を開始する。

広場に皆を集める為、馬に乗ってそれぞれ自分達の地区へ行き事情を説明して戦おうと言おうと
ついてきてくれる者だけでいい、とにかく俺らが何かしない限り
きっとこの事態は動かないと言い行動しだす

ひとみは、それを見て本当に矢口達の思いが伝わったんだなぁと感心し
矢口と別れてしまった事を本当に寂しく思い口を開く元気がなかった

だが、梨華が以外な一言を言い出した

「ひとみちゃん、多分・・・・矢口さん達はあの館に向って行ったと思う」
「えっ、だって・・・・・・」

そこで口をつぐみ
ひとみはどうして気づかなかったんだろうとまた悔しい思いをする
242 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:07
矢口は、中途半端に事を済ましていく人ではないって事を知っていた

そうでなければ自分達を連れて旅に出て助けてくれようとするはずがない

そう考えれば、きっと三人で危険な事も承知で話を付けに行くのは予想出来ていたはず
またしても自分のばかさに気づく



広場には、予想に反し大勢の人たちが集まってきた

町民達は仲良くやっていた各地区の長の家族が突然いなくなり
山賊におびえている毎日にはもう嫌気がさしていた

これから役人達と戦おうと、自分達の手でこの町を守り
作って行こうと言う人々が溢れた


するとそこに、地響きをたてながら数頭の馬が人を乗せずに掛けてくる
243 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:09
勝田達は銃や剣、槍等を持って襲撃に構えていたが
「どういうことだ・・・・・なぜ馬だけが降りて来る」と呟く

予想が確信に変わると梨華は叫んだ

「矢口さん達、あの館に行ったんです、きっと話をつけに
だからあの馬達は矢口さん達が倒した追っ手の兵隊の奴です」

勝田達が驚く

「どうしてそこまで・・・・・
口では他人事のように言っていながら・・・・・」

馬達を群集の中の者が取り押さえ、
ざわざわと波のように広がる声に、再び馬に乗った勝田の声が響き渡り静かになる

「姿を突然消したとされる我々家族は、妻を人質に取られ
ある場所で山賊退治をさせられていたっ」

勝田に続いて、それぞれの長が汚い手で山賊をおびき出して沢山の命を奪ってきたと伝えだすと
ざわざわと群集が続きを聞こうと静かになる
244 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:11
「我々は、拘束されていた場所である族と出会った
その人は噂に名高い殺人鬼、Mの国から逃げて来たとされる矢口という人だった」

ざわめきが再び広まるが
各長がやはり馬に乗って点々と広がって皆に静かにと伝える

「彼女は我々を殺すどころか、あっというまに我々の弱い心を倒したっ
自分達は今まで妻の為に何かしたのかと」



シンと静まる広場に勝田の声は響き渡る

「そう、彼女達は我々に噂や偏見という価値観のくだらなさを教えてくれ
しかも我々と妻達を助けてくれたっ、そして今、また彼女達は
この町の為にあの館にたった三人で向って行った」

長達が全員同じ館の方向を指差す
勝田達が馬上で顔を見合わせると長達が次々に大声で叫び出す
245 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:13

「この町は誰の物だっ」


『俺達だっ』

地響きのように群集の声が重なる


「これからこの町を守るのは誰だっ」

『俺達だっ』


そしてもう一度勝田がこぶしをつきあげて声を上げる

「じゃあ行こうっ、あの館へっ、矢口さんとこの町を守る為にっ」
『お〜っ』


ひとみと梨華は目の前の力に感動していた

この群集を作ったのは矢口の力だと
あの集落で捕まえた兵達も、複雑な表情でその群集の力を見ていた
246 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:15
勝田達と共に先頭に立ち、馬を走らせるひとみ達

そして館の門の上に、司令官と思われる人物と
その横に立つ矢口が現れた

目の前で、興奮してしまった群集が放つ銃弾の数々を
何事もなかったかのようにバランスをとりひらりひらりとかわす2人を見て驚くと共に
石川の声で、その人物が矢口という事に気づくと
人々は口々に、「あんなに小さな女の子が矢口だとは」と言っている

だが、矢口の口から手荒な真似はするなと諭され
素直に武器を下ろしだした

「いいか、お前達も決して銃を抜かない様
私達は、この町の人たちと話しをする為に門を開ける」

藤本の声に「はっ」と全員の綺麗な敬礼が揃った、この声は門の外にも響いている
247 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:16
ピュ〜っと矢口が口笛を吹くと

「見事なもんだね、ここの兵隊達は」

感心する矢口に、誇らしげに藤本が言う

「ええ、一応私の部下達は優秀だと自負してますから」
「そっか、じゃあ始めようか」

2人が門の上から姿を消すと、ギギッと門が開き出す
藤本と矢口達と、勝田達とひとみと梨華が対峙する

「お前かっ、我々に山賊退治をさせていた司令官は」

勝田が剣で藤本を指しながら口を開く

「そうです、我々のせいで
あなた達町民に危険な事をさせてしまった事、心から謝罪します」

戦いもせずにあっさりと謝罪を口にする藤本に勝田達は一瞬唖然とする
248 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:20
だが拍子抜けしていた群集から
「そんな口先だけの謝罪で我々の怒りが納まるとおもっているのかっ」などと、怒号が響き渡る

「司令官っ、私がっ」

軍曹が近寄ると、藤本に制される

「いいからっ、軍曹は黙っていなさい」

そんな様子を見ていた矢口は、藤本の事を信頼しはじめていた

「勝田さんっ、藤本司令官は、皆さんと一緒にこの町を守り
作って行く事を望んでいますよ」
「しかし矢口さんっ、こいつのせいで我々はずっと辛い目に合って来たんだ
少しは文句言わせてくれ」

朝食を作ってくれた戸塚が口を開く

「そうですね、じゃあ思ってる事は全部言っちゃいましょうか」

矢口が笑いながら言うと、皆が次々と今までのうっぷんを言い出す

ひどい事ばかりを言われ
軍曹が先に「貴様ら、黙って聞いてれば」と動き出すのを藤本が睨み
頷きながら直立で皆の言い分を聞いていた
249 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:23
あらかた言い終わったのか、少し静かになった頃に

「軍曹・・・聞きましたね
私は皆さんの意見を今後の街づくりに生かしたいと思います」

まだ口を開こうとする藤本をよそに
町民の群集がざわざわとざわめき出し、人達の間に道が出来て行くのが見て取れた

兵の列にもざわめきが広がる
しかし、それはすぐに緊張へと変化する


「王子・・・・」

藤本の呟きに矢口が視線をやると
開けられた道を悠々と一人馬に乗った人物が一人従者らしき人物を従え上がってきていた
石川や吉澤の横を通り抜け静かに声をかける

「何事ですか、この騒ぎは」

兵はザザッと敬礼し、美貴が片膝をつき忠誠の姿勢を作る
250 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:24
「王子こそ、この町にはどうして」

明らかに動揺している藤本
矢口は自分が入って来た時でさえ冷静な対処をしていたのにと事の成り行きを見守った

「質問に答えなさい、この民の集まりはどういう事ですか」
「はっ、実は私の町の防衛策の誤りに抗議をしにきましたので
これからの街づくりについて話を進めようとしてていた所です」
「何、司令官の防衛策の誤りと・・・・」
「はい、私は責任を取り、現職を退く所存です」
「司令官っ、司令官は何も知らなかったではな」
「黙れ、軍曹っ」

軍曹は自分の発案の事について
こんな事になるとは思わなかったのか、慌てて発言するのを藤本に遮られた
251 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:25
藤本が顔を上げ、王子と見つめあう
矢口はそれを見て、藤本がこの王子付けの族だという事を悟る

「そうか・・・・それでは、後任はどうする」
「もし、私の意見を聞き入れてもらえるのならば、軍曹に後任を任せたいと思います」

それを聞いて石川が
「その人が今まで町の人達にっ」

よく通る高い声で言おうとして、藤本がさらに遮る

「軍曹は、この町を守りたいと言う気持が誰よりも強いのを私は知っています
これからは、いまここに集まっている皆さんと一緒に
山賊達や、侵入者にも負けない町を築いて行く事を信じています」

軍曹が信じられないという表情で藤本を見る

その目は長年思い続けた相手を見るかのような熱いまなざしだった
252 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:28
「うむ、よく解った、その件については司令官に任せよう
それでは私どもの用件を伝えるのはここでは都合が悪い
この顛末を見届けさせてもらってから話す事にするので
この事態を収集しなさい」

「はっ、それでは、皆さんの代表者を数人、館の中に入らせて下さい
これからの事を話し合いましょう」

人々が「勝田さん達に何かあったらしょうちしないぞ」
「頼むぞ」等と叫び勝田達の後押しをした

藤本と王子と呼ばれる人物、その従者が館に入ろうと兵の間を通って行く
勝田達、あの集落に拘束されていたメンバーがそれについていき、
藤本に指名された軍曹、小隊長らが館に入っていく


矢口は石川の前に行き話し掛ける

「また会ってしまったな、これからは皆の問題だから
おいらは立ち入れないよ、それにあの藤本って奴、信頼できそうだと思うが
石川的にはどう思った?」
253 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:34
「はい、嘘はついてないと思いました、
でもこの一連の事件の黒幕の軍曹にここでの権力を与えるのは心配です」
「そうだな、だけどあの軍曹は藤本の事を本当に崇拝するが故に
誤った事をしてしまったようだよ、藤本が言うならそれが黒だろうが白だろうが
あの男は従うだろう、だから心配ないと思う、それにこの町にはお前らもいるしな」

笑顔でひとみと梨華の肩を叩く
その手首をひとみが掴む

「ウチは・・・・矢口さんには何も教えてもらっていない・・・
こんな状態じゃ、ここで生活する事なんて出来ない」
「なっ、何だよ、ばか力」

余りの力強さに矢口がひるむ
254 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:37
「私を旅に連れて行って下さい」
「ひとみちゃん」
「梨華ちゃんごめん、ウチ、どうしてもこの人達と旅を続けたい、
この町の人達はもう大丈夫、梨華ちゃんもきっと幸せに暮らしていけるよ
だけど・・・・ウチ・・・ウチは、この人について行きたいんだ」

真剣な眼差しで梨華を見つめ、そのまま視線を矢口に向ける

「悪いけど、そんな事出来ない、それに石川を守ってあげないといけないだろ」
「「親びん」」

何かを訴えるように辻と加護が矢口を見ている

「梨華ちゃん・・・・・だったら・・・だったらウチのわがままだけど
一緒に旅に出よ、きっと危険な事とか一杯あるかもしれないけど
頑張ってウチが梨華ちゃんを守るから・・・・だから・・・・お願い」

矢口の手首を掴んだまま話さずに頭を下げる
255 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:39


「死ぬぞ」



矢口の言葉にひとみは顔を上げる

「覚悟してる」
「お前に付き合わされる石川の気持になってみろ」

言い放つ矢口にひとみは食い下がった

「梨華ちゃんっ、ダメかな」

梨華は内心複雑な気持だったが
こんなに自分のやりたい事を頼み込むひとみははじめてで

「いいよ、ひとみちゃんについていく・・・・
矢口さん達といると色々楽しいし、ひとみちゃんが守ってくれるんでしょ」

柔らかく微笑む梨華に、ひとみは嬉しくなってすぐに頷く

「うんっ、守るっ、命に変えてでも守るから、聞いたよね、ダメっつっても付いて行くから」
「うん、ダメだ、手ぇ離せよ」
「やだっ」
256 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:42
矢口は無視しひとみをひきずったまま踵を返して歩き出す
忘れそうになってたが、館に入って話し合いの席で見届けようとしたのだ

それでもひとみは矢口の手を離さない
離せばまたいつ矢口達がいなくなってしまうかもわからないから

それを見てもちろん梨華も加護・辻もついて行った

町代表の最後尾が部屋に入る所だったので
矢口はその後に入り込み、入り口脇で立って事に成り行きを見ようとし並んだ

藤本が「矢口さん達も座ったらどうです?」と言うと
「部外者ですので発言はしませんし、見届けるだけなので結構です」と伝えた

王子と呼ばれる人が長机の端に一人で座り
それぞれ役人側と町民側で別れて着席した

話し合いは意外とスムーズに進み、勝田達の言い分がおおよそ通った形になる

まずこの町を囲む防護壁の強化をする事
町での自衛は各自行い、すぐに兵へと報告する義務をし
兵もその報告を聞き次第すぐに駆けつける事

町の中に兵の駐在所を作り、絶えず交代で町を守る任務を作る
あくまで町民の意見も取り入れた形での自衛策を
これからも練って行くという事で、時々こうした話し合いの場を設ける等

矢口的にも満足のいく結果になった
257 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:44
話し合いが終了すると、軍曹達は王子と藤本に別室に連れて行かれ
町民達が喜んで外の町民に知らせようと出て行く中
勝田が矢口の前まで来て

「本当にありがとうございました、今日はもう夕方になってしまうでしょ
街に降りて来て私達の家に泊まって下さい、ご馳走も準備します」

先を急ぐ矢口だったが、折角の好意に素直に言う

「そうですね、じゃあお言葉に甘えて寄らせて頂きます」
「あの、勝田さん」

ひとみが矢口達の間に割り込む

「せっかくこの町で面倒みてもらえるのはありがたい事だしし
感謝もしてます・・・でも・・・私は矢口さんと一緒に旅を続けたいんです
だから・・・・・・折角だけど・・・・・」

勝田は、解っていたかのように

「吉澤さんも石川さんも、本当に見ず知らずの私達の為に色々ありがとう
気にする事はないよ、でも今日だけは君達の世話をさせてもらうよ」

そう言って出て行く勝田、それを聞いて矢口が

「誰も連れてくっつってね〜だろ、それにいつまで手ぇ掴んでんだよ、離せよ」
「やだ、絶対離さない」

加護と辻はにこにことそのやりとりを見て
梨華は少し困った顔をして見つめていた
258 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:45
「いて〜んだよっ、はなせっ」
「いやだっ」
「はなせってば」
「その口から連れてくって言うまで離さないっ」

2人の至近距離での睨み合いが続く

「どうしてダメなんだよ」
「理由がね〜じゃね〜かっ
それにおいらはこれから先お前らの命を守り続ける自信はないっ、ダメだっ」

手を振り解こうと試みながらひとみを見上げる

「守ってもらわなくたっていい
ウチがウチでいる為にあんたについて行かないと一生後悔するから」

見つめてくるひとみの瞳は真剣そのもので何を言っても聞いてくれそうにない
259 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:46
「ったくっ、勝手にしろっ」

しびれをきらした矢口は投げやりに呟く
ひとみと梨華が笑顔で顔を見合わせるが
ひとみはまだ手を離そうとはしない

「いいだろっ、もう離せよっ」
「まだ信用できない、力使われちゃどうしようもないから、まだ離せない」
「信用ね〜んだな、おいらは」

とほほと頭を下げてひとみを引きずるように館から出て行く
呆れる辻・加護、そして複雑な表情の梨華が続く
260 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:49
庭に集合していた兵隊が綺麗に敬礼してくれる中を外へ出ていく

「お〜っ、気持いいですね〜親びん」
「ほんとだなぁ〜、でも、よかったよかった、これで一件落着だな」

門の外で町民達が勝利の雄たけびを上げて勝田達も笑顔で矢口達を迎える
加護や辻を肩に乗せる大男達に、嬉しそうにする2人

矢口はひとみにガッチリと捕まってる為肩に乗せられることはなかったが
ひとみが「私が乗せてあげようか?」と言って本当に乗せようとするから

「やめろっ、はずかしい、それよっか手ぇ離せよ」

ひとみは今までの仕返しをするかのように意地悪をするのが満足なのか
ここ何日かの不機嫌もすっかり直って笑顔で矢口を見る事が出来た

それに引換え矢口は、勝田達の家に着くまで
一言も話すことなくぶすっとした表情でひとみに連れられた
261 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:51
この町は本当に水も豊富な為、矢口達は久しぶりにお風呂に入る事も出来
着る物も全部奥さん達が洗濯してくれた

さすがに色々な荷物を置いてまで矢口は逃げないだろうと思い
やっと手が離されると、ひとみ達もお風呂をいただく

夜になると、広場に誰かれかまわず集まり
お祭り騒ぎのように宴が繰り広げられる

あの屋敷の調理人だろう
大勢の人達が食料を持ち込み広場で調理しだしたから・・・

昼間睨みあった兵隊も、広場に降りて来て、町民と交流をしていた
おそらく藤本の計らいだろう

宴会の最中も、ひとみは終始矢口にひっついて
バーミンを片手に目を光らせていた

「うぜ〜よ、吉澤っ、黙って消えたりしね〜って、まじで」
「いや、信用できないっ、絶対に目を離さないからなっ」

梨華も少し複雑だ
しかし、町の若い男達が梨華に群がりひとみ達の姿を伺う事が出来ない

加護と辻は勘太と共におじさん達のアイドルになり、子供達とはしゃぎまわっていた
262 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:53
浴びるほど酒を飲んで満足していたのか
全員が勝田の家でぐっすりと眠りにつくのは夜中を過ぎた頃だった

矢口の腕は、ひとみにしっかりと捕まれたままだ



二日酔いの町民とはうらはらに、矢口達はすがすがしい顔で出発の準備を整えた
町の人が沢山の食料をくれたりして辻はにこにこしている

「じゃあ皆さん、お世話になりました
これからも大変でしょうけどいい街を作る為に頑張って下さいね」

笑顔の矢口の手が勝田に差し出される

「ええ、頑張ります、本当にこちらこそお世話になりました。
道中気をつけて下さい」

がっちりと手を握り返される

矢口のもう片方の手はまだひとみに捕まったままだで
嫌そうな顔で矢口はひとみを見上げひとみは知らんふりを決めこむ

手を振る町の人たちに笑顔で答えて歩を進めた
263 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:55
町を離れる道を進み始めてまたこの会話が繰り返された

「いい加減離せよ、吉澤、勝手にしろっつってんじゃん
現に荷物だってお前には武器やら布団やら大事なもの持ってもらってるし
黙って消えたりしね〜よ」

ひとみは矢口がまだ町に近いうちは
消えてしまうかもしれないと思っていたため、手を離すことはできない
手首を掴んでいた昨日とは違い、今日は手を繋いでいる

昨日風呂に入った後、矢口が自分の手首をひとみに見せて
青あざになっているのを見せられ、昨日の夜から手を繋ぐ事にした

梨華には面白くない、端から見ればそれは恋人同士のように見えて仕方がないから


一応ここはEの国最後の町だからか、関所がある

もちろん、藤本の発行した通行証でなんなく通行出来るが
元々矢口達にとっては町を包囲している壁等
何の障害にもならない程度の壁だったので必要も無かった

だが人間のひとみ達を連れて行けば
この先困る事もあるかもしれない・・・・・と矢口は考えていた
264 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:57


関所もとうに遠くなり再び自分達しか動くもののない世界
そんな中でひとみと加護のつけいてるバーミンが光り出す

「矢口さんっ」

ひとみが振り切られるかと思って手を握り締め叫ぶ

だが矢口は動くそぶりは見せず後ろを振り向いて
じっと一方向に目を向けていた

ほっとするひとみの耳に届く声

「矢口さ〜んっ」

えっと梨華と目を合わせていたら



矢口の前に静かに藤本が現れる・・・
矢口達が姿を表す時のように風を巻き上げてはいなかった
見えてる矢口でさえその登場に驚いてる

「おっ、お前何しに来たんだよ、まさかおいらとタイマンしに来たのか?」
「何言ってんですか、連れてってもらおうかと思ってついて来たんです」

「「「「「は?」」」」」

五人の声が重なる
265 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 15:58
「だってお前・・・・王族付きだろ、あの町の司令官は退任したけど
王の住む街にでも帰って王子を守らないといけないんじゃね〜か?」

それがお前の運命じゃないのか?という矢口の視線に

「だってつまんないんだもんっ、堅苦しくって
だいたい王族に忠誠を誓うなんて美貴には出来ないしぃ〜、やめる機会を狙ってたんだぁ」
「お・・・お前本当に王族付きか?」

梨華達や辻・加護も顔を見合す

「まぁ、さっき迄ね
でも矢口さんに出会えて絶対この人についてった方が楽しいと思って」

昨日、みんなの前で見せていた凛々しい冷静な姿はここにはなかった

「んだよそれ」
「いくら美貴達が族だって、楽しむ自由はあると思いません?」
266 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 16:01
これがこの人物の本当の姿なんだろう

「まあな」
「それに美貴がついてった方が心強いと思いません?」

笑顔で見つめる藤本に矢口は笑って答える

「そうだな、んじゃ行くか?」
「なんだよそれっ」

ひとみがそのやりとりを聞いて口を開く

「何でそいつは速攻良くて、ウチには勝手にしろとか、
あいまいな返事しかしないんだよっ、いくらウチが弱いったってこの差はなんだよっ」

二人を見ながらパチパチと瞬きを繰り返した藤本

「あれ?この人昨日町の人達と一緒に来てた子ですよね」
「ん?前の町でこいつ、特殊部隊殺しちまってさ、あ、撃ったのはおいらだけどさ、
で、あんたのあの町に移り住ませようと思って連れて来たんだけどさ
おいら達についてくるって聞かねんだ
んで、おいらが力使って消えると思って手ぇ離してくれないしさ」

にやりと笑う藤本

「へぇ、何を好き好んで危険な旅をしようって思うかなぁ」
「だろ?おいらもそう言うけど、ついて来ちまったもんだからさ」
267 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 16:03
そう言いながらも矢口は嬉しそうな顔をしているのを藤本は察して
そしてひとみをからかう

「とかなんとか言って、この人矢口さんの事好きなんじゃない?」
「「んなわけね〜よ」」

矢口とひとみの声が重なり、ひとみは思わず手を離す

「おっ?ははっ、まあいいじゃんじゃあ連れていけばさ
人数多い方が楽しいし」
「そぉかぁ、こいつ力強ぇけどでくのぼうだし、手ぇかかるんだよなぁ」

やっと離された手をブンブンと振りながら意地悪な表情でひとみを睨んだ

「ちっ、ちびがっ」

前のように接しようとなんとか突っ込むが、どうも歯切れが悪い

「すぐちびっつ〜しよ」

矢口は笑顔でひとみの頭を小突く
ひとみは、表情を見られまいと顔を背ける
そんなんじゃないんだから堂々としてればいいのにと自分に突っ込んだ
268 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 16:04
「ってか、何で藤本が仕切ってんの?
この中のリーダーは年上のおいらって決まってんだぞ」
「矢口さんいくつなんですか?」
「20」
「ええ〜っ年上〜っ」
「んだよ、文句あっか」
「いえっ、ぜ〜んぜんっ、ってかかわいいですね」
「お前キャラ違いすぎ」

いつのまにか、こんなやりとりを交わしながら2人は道を歩き出していた
加護と辻も、「ねぇねぇ、猫族ってほんと?」と言ってじゃれついて行った
269 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 16:05
ひとみはさっきまで繋いでいた手を見つめながら
少し早まる鼓動に戸惑っている

力を使わなくても、そんな動揺しているひとみの心は梨華には良く解った

「ひとみちゃん・・・・矢口さん達行っちゃうよ」
「ああ、うん」

急ぎ足で四人の後をついて行った
人に言われた言葉で意識してしまう、ただの冗談なのに

「まさか、あんなちびに」

小さく呟き、もう置いていかれないと確信できたのか
意識するのが嫌なのか、矢口の手を握ろうとする事はなかった
270 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 16:07
藤本は、あの町での姿が想像出来ない程ふざけた性格で
全員の自己紹介が終わるとペラペラと話し出す

昨日王子が来たのは、連れの男は藤本の前職の後任だったんだけど
信頼出来る男だという事で、藤本と結婚させようと連れて来たらしい

こんな時代に王族がたった一人を連れて来る事自体考えられない事
そこまで信頼している者を藤本の相手に選んだ事は
王子にとってよっぽど藤本は大切な人だったんだと矢口は思った

それとともに、その男の実力がそうとう確かだという信頼を感じた
藤本的にも解っていたとはいえ、好きだった人から結婚相手を連れてこられ
はいそうですかとはいかないと思う気持は矢口的にもわかるし
元々、国の為とかそういう精神は猫族の彼女には考えられないようだった

「町の人が沢山食べ物くれたけど、藤本の分は入ってね〜から、あんまし食わせね〜かんな」
「ええ〜っ、矢口さ〜ん、そんな意地悪な事言わないで下さいよぉ〜、少しは持ってきましたから」

背中にリュックを背負っている
271 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 16:09
「だいたいおめ〜は、あのいやらしい軍曹にあの町まかせても大丈夫って本当に思ったのかよ」
「いやらしいって、何でそんな事解るんです?」
「石川があいつの頭ん中見たら、女好きみたいだっつってたよ」

ぐるんと藤本が梨華を捕らえる

「えっ、梨華ちゃん人の頭の中見れるのっ?」
「いや・・・・・あんまり見えるって程じゃ
少し最近感じれるようになったっていうか」
「石川は鳥族の血が入ってるみたいでさ
本人次第で結構すごい人になりそうなんだよね」

藤本はきらきらした目で梨華を見て

「へぇ〜、鳥族〜・・・・・おいしそ〜」

梨華はおいしそうという言葉に少し引いてひとみの影に隠れた
272 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 16:11
「あららら、かっわいい、そしてよしこ怖っ
冗談なんだからそんな睨む事ないじゃん」
「よしこ?」

何言ってんだ という表情で藤本を見る

「吉澤ひとみでしょ、よしこじゃん」
「訳わかんね〜」

そのやりとりを聞いて矢口達は大笑いしてる

「それで、あの軍曹は大丈夫かっつー話はどうなったんだよ、藤本」
「ああ、あの軍曹、実は美貴の幼馴染で、結構いい奴なんですよ
気が小さくて、それにずっと美貴の事好きだったみたいで
美貴の言う事なら何でも言う事聞くんで多分平気ですよ
王子も時々監視に来るって言ってたし」
「なんという罪つくりな奴・・・・いつか天罰が下るよ」

なかばあきれたように呟く矢口

「あいついやらしかったんだぁ〜」
「そこかよっ、気になるのは」

藤本の呟きにつっこむひとみ
273 名前:dogs 投稿日:2006/06/04(日) 16:13
「それより、梨華ちゃん、絶対スカートの方が似合うよね
どしてズボンはいてんの?」
「え、だって、スカートじゃ襲ってくれっていうようなもんだからって矢口さんが」
「あ、そっか、絶対ドレスとか着たら似合うタイプだよねぇ〜
早くどっかの町でドレスアップさせてもらおうよ」
「ええっ、そんな・・・ドレスアップなんて」

梨華が庶民には手の届かないドレスという言葉に
少し頬を赤らめながら言葉を返した

「藤本っ、お前うるさいっ、少し黙ってろよ」

振り返りながらも突っ込む矢口は、嬉しそうな笑顔だった

「矢口さ〜んっ」

後ろから抱き付いて、じゃれついた

自分は出来ないなぁと思いながら
なんとなく少し羨ましいと思うひとみだった

藤本が加わり、賑やかになった一行

加護達は賑やかでとても嬉しそうだし矢口も内心は嬉しいと思っているのかその顔は笑顔だ


一行はわいわいと静かな林道を進んでいく
274 名前: 投稿日:2006/06/04(日) 16:15
本日はここまで
更新の量・タイミングがいまだにわかりませんが
ゆる〜く続けさせていただきます。申し訳ありません。
275 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/04(日) 19:00
面倒と言いながらも一応地位に相応しい行動を取るところが
彼女らしいというか…でも普段はあんななんですねww
あーかわいい

更新の量もタイミングも、みなさんお好きなようにされてると思いますよー
276 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/04(日) 20:09
ひとみちゃんの言葉にガッカリ。
277 名前: 投稿日:2006/06/05(月) 22:13
257:名無飼育さん
藤本さんって実物もすごく繊細でかわいらしい女性だと思うのは自分だけではないはず・・・

それと、そうですよね、好きにしてみます
一度小さな目標に挫折して、自分本位に時間がある時でいいのか?等と変に考えてしまいました。

ありがとうございました。

276:名無飼育さん
ごめんなさい
278 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:17
「藤本、知ってる?この先どれ位行けば村がある?
おいらあの街までは来たことあんだけど、先はわかんないんだ」

前来たのは馬に乗ってたから案外早かったんだけどなぁ・・・と呟く矢口
水場で休憩したり、馬鹿話をしながら一日中歩いて
そろそろ日が傾いていくのが感じられた頃矢口が聞く

「美貴もあんまり知らないけど
まだまだありませんねぇきっと、今から向うのってどこですか」
「ん。Yの国」
「はぁ〜っ?まだまだ遠いですねぇ〜」

一応持っている地図を見て藤本がため息をつく

「まぁ、のんびり行くさ、んじゃ藤本
先に走ってどこか寝る場所があるか見てきてくれよ」
「え〜、やだぁ、みんなと一緒に行きたい〜」
「ったく、んじゃ辻・加護、悪いが見に行ってくれよ」
「「へい」」
279 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:19
「お〜、早い早い」

藤本が言う

ひとみは思う
こいつには見えるんだなってそれなのにやはり自分は見えない

「吉澤っ、まだ見えね〜か?」
「・・・・・・」

またしても矢口の問いかけに、チッと口から出る

「石川は?」
「・・・・・・いえ」

石川には少しだけ
幻のようにだが後ろ姿を見る事が出来た気がしていた

だが、ひとみが見えないのに自分が見えてしまえば
またひとみが落ち込むと思って黙っていた
280 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:20
「見えないんだぁ」

藤本が言う

「悪かったね」

ひとみの機嫌がまた悪くなる

「見ようとしてないんだよ、ただそれだけじゃん」

ひょうひょうと藤本が頭の後ろに手を組んで言い放つ

「ちぇっ、勝ち誇りやがって、族だからって」
「族じゃなくても見えるはずだよ、早く動いてるだけだもん」

藤本はひとみの肩を抱いて、本当に意地悪を楽しむように言う

「くそっ」
「吉澤〜、飯の後、ちょっと運動すっか?石川はまず銃の訓練な」
「うそっ、何か教えてくれんの?」

不機嫌だったひとみの顔が輝く
281 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:22
「お前しつけ〜から、ちょっとだけ知ってる事教えてやるよ
藤本の方が強いから藤本に教えてもらったがいいかもしんないけどな」
「んな事ないでしょ〜、矢口さん只者じゃない気がするから」
「んじゃ、試してみよっか、おいらも久しぶりに全力出してみたいし」
「え〜っ、怖〜いっ」

楽しそうに並んで歩く二人を、後ろから睨むようにひとみは見ていた

「ほら、帰って来たぞ吉澤っ、見ようと思ってみて見ろよ」

ひとみはまた指を指された方向を見ていたが、やっぱり見えなかった

「親び〜ん、すっごい家がありましたよ」

加護だけが帰って来た
282 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:23
「お〜、あったか〜、よかったな野宿じゃなさそうだな」
「でもね〜、なんかおばけが出そうな屋敷やった」
「お、おばけ?」

矢口の笑顔と足が止まった

「矢口さん、もしかしてそういうのダメなの?」

藤本が喜んで突っ込む

「いや、そんなの信じてないしな、全然平気」

強がってはいるが、確実にその顔は引きつっており
ひとみは弱点見〜っけと嬉しくなっていた
283 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:24
そんなひとみのにやけた顔を見て

「てめ〜、何にやけてんだよ」
「いや、別に」

そ知らぬふりのひとみを睨みつける矢口

「ののは掃除してから食事作るって言ってます」
「そっか、んじゃ、おいらも手伝うかな、お先に〜」

平気だよんというようにそう言うと、矢口はすぐに姿を消した
無理しやがってと呟くひとみだったが

「あ・・・・そのまま置いて行かないよね、矢口さん」

ひとみが加護に言う
284 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:25
「ウチがいてるんでそれはないでしょ、よっちゃんもかなりしつこいなぁ」
「昨日、突然置いてかれたからね、三人には」
「しゃ〜ないやん、あれが親びんの優しい所やもん」
「寂しいじゃん・・・・あんなのって」

加護が顔を除きこんでひとみの拗ねた顔を眺める

「へえ〜」
「な、なんだよ」
「か〜わいいっ、よっちゃん」

そう言うと手を握ってきた
285 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:27
「親びんは嫌がってたけど、ウチはそんなにイヤやないで
手ぇ握ってるから安心やろ」

「ふ・・・はは、そうだね、出来ればそっちの手じゃなくて反対の手がいいかな
こっちはまだ怪我してて痛いんだよね」
「あ、そっか、ごめんごめん」
「あれ、怪我してんだ」

藤本がひとみに尋ねる

「うん、特殊部隊に撃たれた」
「美貴が舐めてあげよっか?」

美貴の治療は高いよ〜とおどける

「ううん、もうやってもらってるから」

昨日矢口に傷をなめてもらった時の事をまた思い出して少し慌てた
286 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:28
藤本がにやにやする

「へぇ〜、そう」

その顔にムッとしながらもぶっきらぼうに聞く

「猫も治癒力があるんだ」
「少しね、きっと犬程じゃないと思う、多分鳥は全然ないと思うけど、残念だね、梨華ちゃん」
「な、何で残念なの?」

真っ赤になる梨華に藤本は満足そうに梨華の手を取った

「べっつに〜」

突然の藤本の行動に梨華は驚く

藤本はにこっと梨華に微笑むと「今日は美貴で我慢しなよ」と耳元で囁いた
梨華が加護の事をうらやましそうに見ていたのも気づかれてたんだろうか

「いいじゃん、梨華ちゃんはみんなの心を癒せるんだからさ、ね、梨華ちゃん」

ひとみの優しい微笑みに梨華はホッとする
287 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:29
梨華は見抜かれた気持ちのお返しに藤本の中を見てみようかとも思った
でも彼女は触れたら心を読める事は知ってるんだろうか・・・・

暖かい彼女の手に、策略とかする様には全く感じられず
黙って見る事は仲間としてとても失礼だと思いなおし
結局誘惑に負けずに藤本の中を見る事はしなかった

「ねぇ、美貴ちゃん、後で勝負しよっ、どっちが強いか」

ひとみの手を握ってぶらぶらさせながら加護が振り返って言い出した

「え〜っ、いいよ〜、でも大丈夫?美貴は強いぞ〜」
「ちゃんと手加減してや」
「はいはい」

会ったばかりの藤本は、一日ですっかり溶け込んでしまった
288 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:31
のんびりと雑談をして歩いていると
ぼろっぼろの三階建ての洋館が見えて来る
辺りはすっかり暗くなって中に火が点っているので建物が浮かび上がっているようにも見えた

加護がひとみの手を離して駆けていくと
「親びーん、のの〜っ、御飯できたぁ〜?」とドアを開けて聞いた

「お〜ッ、丁度出来たとこっ
今日は豪華だぞ〜、やっぱ食料が沢山あると気持いいなぁ〜」

暖炉の近くにテーブルがあり、食器が並べられて
そこに鍋を持って矢口が皿に注ぎ分けている

加護がテーブルに走りよって目をきらきらさせていた

「ののっ、今日はえらいきばったなぁ」
「でしょ〜っ、材料が一杯あるから嬉しくってさ」
「辻ちゃん、すご〜い、料理上手なんだね〜」
「へへっ」

藤本に言われて辻は嬉しそうに頭を掻く
289 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:33
「ほいっ、食べようぜっ、一応テーブルとか椅子は拭けば綺麗になったしな
結構金持ちの家だったんだろ、いいもんみたいだ」
「でも、変ですよね、こんな何もない所にポツンとこんな豪華な家を建てるなんて・・・・
今でも珍しいレンガ作りだしそれにどうやって建てたのか・・・・」

梨華が言うと、藤本が面白そうに呟く

「やっぱ、お化け屋敷なんじゃない?」
「まっ、まさか、だいたいどうしてそういう事になんだよ」

矢口が、顔をひきつらせて突っ込む

「矢口さん、後ろ誰か立ってますよ」
「え゛゛っ」

慌てて後ろを振り向く矢口

「うっそ〜」

笑い転げるひとみ

「てっ、てっめ〜」

ひとみに走りより逃げようとするひとみの背中にぶらさがる

「ふざけたことすんなっ」
「はんっ、案外かわいいんじゃん」


そこを食べ物になるとうるさい辻がいつも慕っている矢口を一括した

「親びんっ、ほこりがたつから後でやって下さいっ」
「「はい」」
290 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:34
すごすごとひとみの背中から降りた

「食べましょ食べましょ、さめないうちに、ねっ」

そう言う梨華ちゃんはすでに座っているし
加護と藤本はもう一口食べていた

にらみ合う矢口とひとみも席について食事を始めた
終わりのない口げんかをする2人にあきれながら
食事も終わりに近づく頃、加護が不思議な顔をしだす

「どしたの?加護ちゃん」

藤本がそれに気づく

「う・・・ううん、何でもない」

そう言う加護に、まぁいいかと話をしだす
291 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:36
「ねぇ矢口さん、多分ね、明日は雨だと思うんだよね」
「そうか?確か猫って明日の天気がわかるんだっけ」
「知らないけど、そんな気がするの、それで濡れて歩くのって結構体力消耗するし
体調くずしやすいからここでもう一日ここにいた方がいいかなって」
「まぁ、この先、村も町もしばらくないんじゃな〜、野宿で雨もつらいし、そうするか?」
「でも矢口さん・・・・早く行きたいんでしょ、その人のところに」

梨華が少し矢口の顔色をうかがうように聞くと、目を爛々とさせた藤本が間髪いれずに言う

「何、何、これってそんな旅なの?」
「そんなってどんな旅だよ」
「好きな人に会いに行く旅って事でしょ〜」

藤本は実に楽しそうに言う

「そんなんじゃね〜って、でも誰か風邪ひいたりすればもっと遅れるかもしれないしな
んじゃ、雨がやむまでここにいるか」
「へい親びんっ」

いつも同時に言う辻・加護のセリフが辻だけだった事で
矢口と辻が「ん?」と首を傾げる
292 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:37


「どうした加護、さっきから変だぞ」


「親び〜ん・・・・なんか・・・・聞こえるんですよ」

矢口はその言い方も少し怖くて、ついどもる

「な・・・・なんかって・・・・・なんだよ」
「いや・・・わからへんねんけど・・・・・
上に・・・・誰かいるかもしれへん・・・・」



「「「「「え?」」」」」

全員の動きが止まる

「誰かって・・・・誰?」

ひとみが聞くと

「そんなん知らんわっ、なんかそんな気がするだけやねんから」
293 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:39
「藤本っ、見てこいよ」
「な〜んで美貴なんですかぁ」
「だって最高司令官だろ」
「意味わかんないです、矢口さん」

明らかに怖がっている矢口は矛先をひとみに向ける

「んじゃ、吉澤と2人で行ってこいよ、それならいいだろ?」
「なんでウチなんだよっ、あんたが行きゃいいだろ、強いんだから」
「うっさい吉澤っ、行かなかったらここに置いて行くからなっ」
「ぐっ卑怯だぞっ、ちびっ」
「いいからいけよっ」

しばし睨みあう二人

そして

「くそっ、行くぞ美貴」

ひとみは勘太においでと言い、眠そうな勘太を無理やり起こした後
乱暴に美貴の手を取って階段を上って行った
294 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:40
矢口がなぜか梨華の近くに寄ってきて椅子をくっつけて隣に座った

「矢口さん・・・あんなに強いのに・・・・かわいいんですね」

隣を見て微笑む梨華に、矢口はばつが悪そうに悪態をつく

「うっさいっ、苦手なんだよ、ああゆうのは」
「初めて見ますよ、そんなかわいい親びんは」
「ほんまや、なんか、かわいい」

2人もよほど珍しいのか嬉しそうににこにこしている

「お前らもうっさい、加護は耳すましてちゃんと聞いてろ」
「ほ〜い」

加護は今までと違って真剣に目を閉じて耳を澄ました
295 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:41
一方上に上がった二人は暗い部屋を一つずつランプで照らしながら進んで行く

「誰かいますかぁ〜」

足元だけ光をあてながらずんずん進んで行く藤本

「いませんよね〜」

先ほどの勢いはなりをひそめ、少しおよび腰でついていくひとみ

「よしこも怖いんじゃん」
「こわかね〜よ」

カツッ

「ひっ」

ひとみが思わす声をあげると音がした方へ藤本が光をあてる

「誰?誰かいるの?」

勘太が音の方向に歩いて一つの部屋の前に止まり座り込んだ
296 名前:dogs 投稿日:2006/06/05(月) 22:42
その部屋の中を照らし、しばらく目をこらして耳をすます2人


「う゛〜」


思わず寄り添う二人
藤本が銃を構えて冷静な声で言う


「誰?」


「う゛〜」

恐る恐る近づく二人
するとベッドの上で汚そうな布団をかぶって男が一人倒れている

「何・・・・してんの?」
「・・・・・め・・・・・・」

暗闇で見えないが二人の眉間には皺が寄る




「「め?」」










「めし」
297 名前: 投稿日:2006/06/05(月) 22:43
今日はこのへんで
298 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/06(火) 02:19
ふき出しましたwww
やっぱり藤本さんのキャラがいいなぁ〜
あ、作者さん、私も彼女は可愛くて繊細な人だと思います。
たぶん彼女がいると矢口さんは楽なんじゃないかなーと思いながら読んでます。
299 名前: 投稿日:2006/06/08(木) 21:50
298:名無飼育さん
その通りです。大分藤本さんのおかげで楽になると思います。
レスもありがとうございます
300 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 21:52
今、全員の目の前で
一人の60位の男ががつがつと私達の御飯をさらうように食べている

顔や腕等、細くなってはいるものの、元々は骨太で体格が良さそうな男

みんなは口を開けてその様子を見ており
勘太は先ほど邪魔されたとばかり部屋の隅で丸まって眠ってしまった

あまりのガッつき度に、足りないと思ったのか
辻が新たに差し出したおかずもあっというまに食べてしまった

「ふぁ〜っ、生き返ったぁ〜」

ポンポンお腹を叩き椅子の背もたれに体重をかけている
301 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 21:54
「おっさん何でここで倒れてたんだよ」

あまりの食いっぷりにイラついた感じで片肘をついて言う藤本

「いやな、人と待ち合わせしてたんだけどね
一ヶ月たっても来ないもんだから、持って来てた食料もなくなっちまって
このへんに食べ物らしき物もなかったし、動物もいないから
体力の消耗を防ごうとじっとしてたらそのまま動けなくなっちまって」

「何やってんの?」

苦笑する藤本が突っ込む

「だから待ち合わせ」
「いや、そうじゃなくって、待ち合わせに一ヶ月も遅れるってどういう事なの?」
「さぁ」

全員がコケる

「さぁじゃね〜だろっ、さぁじゃ」

矢口もたまらず突っ込む

「ここら辺は食べるものはないんだぁ」
「それじゃ、もらった食料じゃこの先足りないねぇ」
「お前らの心配は食いもんの事だけかっ」

加護と辻の呟きに今度はひとみが突っ込んだ
302 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 21:56
そのあまりにも進まない状況に梨華が言葉を発する

「あの〜、それでどなたと待ち合わせなんですか?」
「あぁ、昔の友達とね」

男が恥ずかしそう、だか嬉しいのを隠しきれない顔で言う

「昔?」
「ああ、昔・・・・そうそう、君が腕につけているのはバーミンだよね
設置用以外は特殊部隊しか持っていないはずだが」

ひとみは腕を隠す
しまった、矢口の行動を監視する為に、服の上につけたんだっけと苦笑いする

「なんでか落ちてたんですよ、道端に」

しゃあしゃあと嘘をつく矢口

「ほぉ〜、そういう君は族か、すごいねぇ、族の血をひいた子がこんな所に5人も」

ギクッとする六人
303 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 21:59
男は只者じゃない事を悟り、なかなか次の言葉が出なかったが

「な、何で解るの?」

ここにいる自分以外が全員族だとわかられたのが少し悔しかったので
ひとみが誰よりも早く質問した

「いや、私も長年族とは深い繋がりがあってね、その人のオーラで族はわかるんだよね」
「特殊部隊?」

矢口が言う

「ああ・・・正確には特殊部隊だった、が正しいかな
もうずうっと昔に引退したからね」
「ふ〜ん、それで何で今頃昔の友達に会いに来たんですか」
「ん、約束したんでな」

にこにこと満足そうな男
304 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:00
「友達って族?」

藤本が聞く

「するどいねぇ、そう、若い時、ずっと戦って、追い続けてきた」

遠い目をしていい顔をしているが、思い出したように寂しげに言う

「そいつはMの国にいってしまったんだが、今はどうしているのか」
「あれ、矢口さんと一緒の国だね」

藤本が矢口を見て言うと、矢口は歯切れ悪く答える

「う・・・うん」
「君はMの国か・・・・ん?・・・矢口?君は矢口っていうのか」

身を乗り出してくる男

「おいらのじいちゃん・・・・真之介・・・・っていうけど・・・・」

途端、男は嬉しそうに微笑む

「じゃあ君は、真之介の・・・・子?・・・いや、孫かっ」
「あ・・・はい・・・・・」
305 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:03
男は天を仰ぐ

「そっかぁ、俺は家族は持たなかったんだが・・・・
真之介に・・・・・それで真之介は?」
「・・・・・・・・・」

全員の目が矢口に向けられたが矢口は口を開こうとしなかった
沈黙が続いたが、その男は口を開く


「そうか・・・・もう・・・・いないんだね」
「・・・・・・はい・・・・おいらが小さい時だから・・・・
十五年くらい前・・・・Yの国との戦いの時に・・・・」
「じゃあ元々矢口さんの祖先はEの国の人だったんですね」

藤本の言葉に、戸惑った感じの矢口が呟く

「う・・ん、知らなかった・・・・いっつも先の事しか話さない人だったみたいだから
おいら小さかったし、とにかくいつも元気で明るかった事位しか覚えてない」
306 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:05
男はさっきまでの寂しそうな顔と違い、気を取り直したように呟いた

「・・・・もしかしたらと思っていたが・・・・・そうか・・・・」
「あれ、Yの国って・・・・・姫の・・・・」

ん?と気づいた感じでひとみが言うと

「その戦いで引き分けてからずっと国同士の交流はなかったんだけど
姫が・・・・その・・・友好の為に派遣されて・・・」

その前は色々取引してたみたいだから・・・・
と矢口は自分で呟いてからハッとした顔をした後

「それはおだやかじゃないね〜」

男が眉間に皺を寄せてしぶい顔をする
その先を言う言葉を遮るように矢口が口をはさむ

「大丈夫です、なんとなくその事は知ってるんで・・・・・
でも、じいちゃんの事・・・・すみませんでした」

何かを隠してるような矢口を感じ、男もそれ以上の事は言わなかった

「ははっ、あんたが謝る事じゃないだろ、それよりもあいつの孫にここで会えるなんてな」
「おっさ・・・おじさんは、これからどうするんです?」
307 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:09
矢口が尋ねると、しばらく考えていた男が

「そうだな、Mの国に行くよ」

加護と辻が渋い顔で見つめあい、矢口も無表情に静かに口を開く

「でも今、クーデターで内乱中だから・・・・多分治安が悪いですよ」

そうなんだぁと三人が口を開けて見ている

「いいんだ・・・・・縛られるのを嫌ったあいつが・・・・
あの真之介の守った国を見てみたいだけから」

もしかしたら、あの後真之介についてった仲間で
知ってる奴がいるかもしれないし・・・・と笑う

その笑顔が穏やかで、全員の心の中に一つの結論が出ていた

・・・この人は矢口真之介の事を好きだったんだなぁと

族と狩人そして、国の争い・・・
その宿命の為に、一緒にいる事は出来なかったんだと


それからその男は、なつかしそうに話し出した
308 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:13
約束をしたという四十数年前、ここら辺は昔Jの国とEの国の戦場だった

その少し前のEの国は、はぐれの族や組織的な族の集団がすごく多く
他の国と勝手に取引をする族が幅を利かせEの国の繁栄の原動力になっていた時代があった

またその繁栄にあやかり
移動能力のある族達がEの国に集まるようになりその取締りに国家は手を焼いていた

また、鉄鋼資源が多く取れる場所がある事がEの国の利点であり
争いを生む原因にもなった

その頃やっと刀剣等の鉄製品を作る技術が生まれた頃だったのに
そのはるか昔の書物が発見され

鉄砲の原理や、火薬の調合の仕方の発掘により
鉄砲というものの存在が明らかになる。

そして国家は国中の研究者を集めその開発・製造に力を注いだ

本をもとに大量の銃が製造出来る環境が出来上がると、すぐに普及していく。
聞きつけた各国がそれを手に入れようとし、族を使って勝手に取引を始め
そのせいで色々な国の生産品や技術が密かに輸入され金や財宝が集まり
おかげで銃等の武器が広く広まる事になった
309 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:16
族の能力によっての国の繁栄で、王族の国家の威信が弱い事が悩みだったのが
銃の開発によって族にも対抗出来るようになると

族対策に作られた特殊部隊、当事としては画期的だった兵隊達が
銃という武器によって次第に族に対抗出来る力を持ち出す

毎日悪事を重ねる族の取り締まりを精力的に行うと
反発した族は、銃の大量生産システムを破壊し、その文書も燃やしてしまった

だから今使用されている銃は、多少の改良はあるものの当事開発された物を模倣した物が多く
その後作られる銃もほとんど同じ型で、弾も銃とライフル用の二種類しかない

話しは戻るがその後、鉄鋼資源を狙ったJの国の動きがおかしくなってきて
壊されてしまった工場の技術者の生き残りをJの国が狙いだす

良くも悪くも繁栄しているEの国の栄華が
もしかしたらJの国に移る事を危惧する為、もちろん拒否。

おまけに取引上手な族達にもJの国から誘惑の手が伸びた事で
次第に戦の様相が高まる事になる
310 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:19
戦の始まる前にJの国はすでに王族と族との連携も取れており
Eの国の王族ははぐれの族との連携を取りたがると共に、恐れていた

Jと戦う前に、ある族の一つの集団に
国を奪われてしまうんではないかという不安をも抱えていた

その族の集団の一つの頭が矢口真之介だった事で
男と矢口との戦いが始まったらしい

すごい数の犠牲者が特殊部隊、族の間で出た戦いは長く
特殊部隊も数少ない人数になってしまった

追いつ追われつ、互いに戦って行くうちに
奇妙な感覚が宿っていた事に2人は気づいてしまった

きっとこんな宿命のもとでなければ、いい友人になれただろうという事に


そんな中、Jの国との戦が始まり
2人はいつしか同じ敵を相手に戦うようになっていた

この屋敷はJの国の王族が陣地にしていた場所だそうだ
311 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:23
矢口達族の活躍で自分の国が優勢に戦をすすめていき
全兵を集めこの屋敷迄追い詰めた

その時、Jの国と親交のあったMの国から応援が到着。

弱ったJの国に代わり指揮を取り出すMの国の王族の一人に魅せられ
真太郎はEの国を去ったそうだ

その時に、自分と約束をし
もし自分がEの国に戻る事があれば、その王族の人がいなくなった時か・・・

40年後だったらきっと何にも縛られない関係で堂々と会えるから
ここで会おうと言って去って行った



「という訳で、丁度その40年後が一ヶ月前のここだったのさ」

六人は動かずに静かに話しを聞いていた

「戦はどうなったんですか?」

矢口が聞く
「ああ、負けたよ、元々自分と真之介の連携でやっとまとまってた兵達だったから
真之介が抜けちゃ残った族達も自分勝手な行動を始めて
王族とは何の協力もし合わなくなったから当然だ。
王も死に自分はその責任を取らされて特殊部隊をやめEの国も実質消滅したからね」

負けながらも、残された真之介の仲間の抵抗で
支配される事はなかったが、以後どの王族の支配下にもなっていないと笑顔で話す
312 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:25
「そっか、じいちゃんのせいで」

すまなそうに俯くと

「いやいや、自分はそんな事は思っていないよ
あいつは間違ってなんてないし、真之介がいなけりゃEの国は最初から負け戦だったし」

我々Eの兵隊だけでは間違いなくすぐに支配されていたよと

「だから、あいつがここで出会い、わずかな間に惹かれあった人物と過ごしたMの国へ行って
それを見てみようって思うよ」
「でも、いくら元特殊部隊でも、この先の旅は少し危険ですよ、山賊も多いし」

ひとみが言う

「あんたらはこれからYの国へ行くんだろ、そっちの方がよっぽと危険だよ、何しろまだ族が多い、それも荒くれ者だ」

矢口以外の五人が顔を見合わせる
特に梨華とひとみは不安そうな顔をして互いを見るだけだ

「おっさんはここまでどうやって一人で来たんです?」

ひとみがすがるような目で尋ねる
313 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:27
「族との戦い方は体に焼き付いてるからね
銃が出来る前から特殊部隊だったんでよく戦ってたし、全て接近戦だったから」
「人間ですよね、見えたんですか?族の動き」
「ああ、見えるよ」
「どうやって見えるようになったんです」

食いつきそうな勢いで質問する

「見ようと思えば見えるよ、相手は早く動けるだけだ」

その言葉に矢口がひとみを見て微笑む

「な、言った通りだろ」
「君は見えないんだね、それじゃこれから先は真っ先に死んでしまうかもしれないね」

ひとみは立ち上がってテーブルに手をつき、

「おっさん、教えてくれよっ、どうしたら見えるようになるかっ、頼む、飯食わせてやったろ」

「そうだねぇ、おいしかったし・・・・・
真之介の孫の友達だからね、いいよ、知ってる事は教えてやるよ」
314 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:29
ひとみの必死な姿に
矢口は不思議な気分になってつい口から漏らす

「だ〜から、あの町で暮らしておけばよかったんだよ」

瞬間ひとみは矢口を睨む
そして、唇を噛み締めて俯いて外へ飛び出して行った
慌てて全員が腰を浮かせると、一足早く辻と加護が追っていく

それを見て藤本が優しく言う

「矢口さん・・・気持は解るけど・・・・・」
「いいよ、美貴ちゃん・・・・・矢口さんの言う通り
私達みたいな平凡な人間がついてくるべき旅じゃなかったんだから
でも矢口さん・・・・きっとひとみちゃんは
ほんとにこの旅で死んでもいいと思ったから・・・・矢口さんについて来たんだと思いますよ」


「ごめん・・・・・石川・・・・お前の大切な人、傷つけちゃったな」

寂しそうな顔をして矢口は呟いた
315 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:31
「矢口さんは・・・・ずっと私達がついていくのに反対してたもの・・・・
悪いのは私達、だから謝ることはありません」

ずっと見てた男が穏やかに言い出す

「君達2人は、この先すぐに死んでしまうと思っているのかい?
そんなんだったら本当に死んでしまうよ、こんなじじいでも
一人でここまで来れるんだ、君達若い人たちが行けない訳ないとなぜ思えないんだい?」

男の優しい顔に

「そうだよね、おっさん」

藤本が笑って言うと、矢口も思い直したように笑い、男に話し掛けた

「こんだけおいら達の食料減らしてくれたんだから
あいつにちゃんと役に立つ何かを教えてやれるんですよね」
「それは本人次第、それでは、ちょっと行ってきますか」

立ち上がる男に藤本が聞く

「そういえばおじさん、名前は?」


「酒巻健太郎」

そう言ったらランプを持ってよっこらせって出て行った
316 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:32
「健太郎・・・・・ああ良く父ちゃんが言ってた
親父が健太郎に会う約束があるからまだ死ねね〜って戦前になると必ず言ってたって」
「じゃああの人、本当にここで矢口さんのおじいさんを待ってたんだ・・・・・一ヶ月も」
「ああ、すごいね」

少し三人が考え込んだ為、間が空く

「矢口さん、私達足手まといにならないように頑張りますから・・・・
もう、置いて行ったり・・・・しないで下さい・・・・もちろん
私達が死ぬ事になっても矢口さんを恨んだりしません」

矢口が立ち上がって、梨華の頭をぽんぽんと叩き

「うん、じゃあ石川は、おいらが教える、それに死なせね〜よ、おいら達で守る、な、藤本」

藤本が頷いてから

「そういえば、手合わせしてませんね、ちょっと腹ごなしに運動しますか?」
「だな、じゃあ石川はまずそれをちゃんと見ようとして見る事だな」

梨華も強い眼差しで頷いた
317 名前:dogs 投稿日:2006/06/08(木) 22:33
矢口達は食器をとりあえず片付け、外へ出ると
健太郎が点けたのか等間隔に火がくべられ当たりは明るくなっており
ひとみと健太郎が並んで座って
指で辻と加護の遊ぶ場所を指差していた

「石川いいか、おいら達はあっちでやるから、行くぞ藤本」
「矢口さん、軽くでお願いしますね、軽くで」
「お前こそ本気出すなよ、おいら弱いんだから」

加護達が遊んでいる場所と違う薄暗い少し広い場所へと二人は消えた
318 名前: 投稿日:2006/06/08(木) 22:34
本日はここ迄
グダグダですみません
319 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/09(金) 05:45
一本気な吉澤さんがなんかかわいい
320 名前: 投稿日:2006/06/11(日) 21:38
319:名無飼育さん 
吉澤さんは本気でかわいいと見るといつも思います
321 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 21:40
飛び出したひとみは、暗闇の中をやみくもに走った

近くに誰が出て来るかもわからないけど
その時に死ぬのも自分の運命だからとなかばやけくそで走った

腕のバーミンが光りドキッとすると
風と共に辻と加護が前に立ちふさがった
風が吹いた時、もしかしたら矢口かもしれないと一瞬思ったが
辻と加護と解り少しだけほっとする

「よっちゃんあんまり遠くに行ったら危ないで」
「そうそう、足元も暗いからこけちゃうよ」

「なんだよ・・・・・ついてくんな」
傷ついた顔を隠そうとするひとみに二人は一瞬考えるが

「「ごめんなさい」」

合図する事なく同時に頭を下げる

「訳わかんね〜」

腕を組んで横を向き、石を蹴るような仕草をする吉澤
322 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 21:43
「親びんが今考えてる事を代わりに言ってんねん」

「んな事思ってる訳ないじゃん、あのちびはウチの事嫌いなんだから
足手まといって思ってんだよ」

ひとみは自分でもまるでガキだなと自嘲する
加護と辻は首を傾けて目を合わせて再びひとみを見上げる

「よっちゃん、いくらよっちゃんでも親びんの事悪く言ったら怒るよ」

「せや、ほんまはわかってんのやろ、いくらよっちゃんが親びんの手を離さなかったからって
親びんが本当に連れて来たくなければ、簡単に手を振り解いて消えてたっちゅうねん」

「きっと親びんは、よっちゃん達連れて行くのをずっと迷ってたんだよ
ちゃんとのん達三人で守れるかどうか全然解んないから」


「そう、だから美貴ちゃんの事、あっさりと連れて行くのに賛成したんだ
のん達はまだ族としても兵隊としても半人前だから
正直自分の身を守るだけで精一杯になると思う、だから美貴ちゃんがいてくれれば
ちゃんと2人を守ってあげられるって考えたんだよ」



解らなかった訳ではない


とにかくひとみは自分が情けなくて仕方がないのだ
323 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 21:48
だけど、今まで明るくふざけてばっかりいた2人が
真剣に話してくれているのを見ていて、このままじゃいけないと本当に思い


「・・・・・・うん・・・・・・ごめん」

素直に謝り、辻に手を取られてさっきの建物の近くまで戻ろうと歩き出す

すると、屋敷の前で男が点々と火をともしていた
丁度いいと辻と加護が力を使って軽く試合するからちゃんと見てるんだよと走り出した

その辺に落ちている棒を持って二人はカンッと合わせると姿を消す
ひとみは点けてくれた火で一番見やすい場所に座り必死に見るが
思いも寄らない所からカンッカンッと音がして一向に見えなかった

さっきの男、健太郎が近くに来て横に座り話し出す

「いいか、見ようとすれば見れると言ったけど
特殊部隊の中でも見える奴は10%にも満たない、それは何故か・・・・
人間の多くは彼らの気持を考えようとしないからだよ」

優しく二人の様子を見ながら話す男の横顔を見るひとみ

「気持?」

「彼らだって元々人間と変わりない気持を持ち合わせているし
望んでもらった力ではない、大地を蹴る足も能力は違えど我々と同じ肉体だ
早く動くだけに、着地点には気を使うはず・・・
そして、その着地点は土や木の葉が舞うだろうし空気も動く、よおく見るとはそういう事だよ」

族の気持ち・・・・ひとみは考える

「・・・・うん・・・・」

「じゃあ、私の指の先を見てごらん、そこに2人は遊んでいるから」

健太郎の指が右に左に上下左右自在に動き出す
324 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 21:51
ひとみは後ろで別の声や音がするのにも気づかずに
枝を合わせる音とどこが着地しやすそうかを見極める事に集中していた

やはり見えない・・・・

どれくらい時間がたつのかも解らない位ずっと集中する
暗闇の中で、動く風によって揺らめく炎の動き、風、
木々のしなり具合落ちてくる葉の一枚一枚の動きにさえ目を凝らし
さっき男に言われた言葉を胸に集中していたら
徐々に残像のような2人の姿が見えた・・・・ような気がした
・・・・どちらの姿なのかも人間なのかも全く見分けはつかなかったが
もう少し・・・と思って目をさらに凝らしていると
肩で息をした辻と加護は突然目の前に現れ

「「よっちゃん休憩していい?」」

棒を杖にしてぜぇぜぇ言ってる二人に、ひとみは自然に微笑んだ

「ごめん、ウチの為に」
「いいよ、あ、ほら、あっちで親びんと美貴ちゃんがやってるよ
そっち見たら?のん達より何倍も早いけど」

すでにひとみ越しにその様子を見ていた健太郎が立ち上がり
梨華が立つ場所まで歩くので、ひとみもついていく

その頃やっとひとみはカンッカンッと同じように棒が合わさる音に気づいた
325 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 21:55
「こりゃ、すごい・・・・・実に綺麗な身のこなしをする2人だね」

多少明かりが点されているとはいえ
空を見上げれば分厚い雲が隠す月の光で見え隠れし視界はよくない

小さくタッタッとどちらかの着地の音や
どこからか空気を切り裂く音が聞こえるだけ

見えないひとみは少し剥れる

そしてひとみは気づく
梨華の頭がだいたい健太郎と同じ方向をきちんと追っているような気がする事に

梨華には見えていると思うと余計に焦りが生まれる
それに気づかれたのか、健太郎は微笑んで隣に来て優しく言う

「焦っちゃ見えるものも見えなくなる、さっき言った事は忘れないで
心を落ち着けなさい」

さっきのように健太郎が指をさしてくれるが
あまりに早くて全然追いつかない

「「「あっ」」」

ひとみと梨華以外三人が言うと
木に背中をつけた状態で矢口が藤本から棒切れを首につきつけられていた
326 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 21:56
「やっぱ負けたか、強いな藤本」
「矢口さんずるい、わざと負けたでしょ」

藤本が差し出す手を取りもたれた木から背を離す

「何言ってんだよ、まじもう限界だから」
「ったく、絶対ずるいっ」
「いやぁ、よかったよ、あの町でお前と戦わなくて、命びろいした」
「なんかやだぁ、また明日やりましょうよ」
「やだ、疲れるもん、食べ物もないし明日は雨だろ、無駄に体力使いたくない」

五人の目にも二人の疲労具合が解るが
なんともさわやかな汗といった所だ

笑いあう2人に、またひとみは疎外感を覚える
327 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 21:58
いつのまにか隣には
健太郎ではなく辻と加護が心配そうにひとみを見上げていた

「よっちゃん、あの2人は特に動くの早いから
見えなくて当たり前なんやで、ウチらだってあんまり見えへんもん」

「そうそう、だからあいぼんとのんがよっちゃんの練習台になるからさ」

「うん・・・・・・・ありがと」



ひとみは2人を見ながらも梨華を意識してしまっていた
梨華も振り返ってひとみを見たので口から自然に言葉が出る

「梨華ちゃん・・・・もう見えるんだ」
「・・・・・・・うん、でもまだ全然・・・・幻みたいに断片的に見えるだけだから」

梨華は、ひとみの様子を伺うように遠慮がちに答える

「そっか・・・・・でも焦らないで頑張るよ、みんなの足を引っ張らない程度に」

ひとみが微笑んだので、梨華はホッとする
328 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:02
そこに矢口が梨華の隣まで来て

「吉澤、さっきはごめんな、もう言わないよ
だから・・・・死なないように頑張れ」

ひとみは両手をぐっと握り締め頭を下げた

「・・・・色々・・・・教えて下さい」

それを見て少し考えてから

「吉澤がおいらをちびって言わないならいくらでも教えてやんのになぁ」

声の調子を変え、ニカッと笑っている矢口

ひとみは悔しくもあり・・・・・一方で何故か不思議な・・・・
今まで感じたことのない居心地の悪い感覚になっているのを感じていた

「ちっ、ちびにちびっつって何が悪いんだよ、そんな事言わずに教えろよっ、けち」

いつものひとみにフッと微笑んで

「ったく、すぐこれだ、健太郎さん、すみませんがこのあほの事
短い時間だけどよろしくお願いしますね」

そう言いながら屋敷へと帰ろうとする矢口に
みんなついて行きながら話し出す
329 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:04
「私のようなおいぼれの言う事でよければだけど
君達の身のこなしはすごいね、しかしこの先にうろつく一般的な族にはセオリーがない
その事は頭にないと苦労するかもしれないね
しかし自分も久しぶりに見る気がするよ、ちゃんとした武術の型がある族に会うのは」

「それが欠点でもあるんですが、まぁ、体にやきついちゃってますからね」

「いやいや、さすが王族付きだね、恐れ入ったよ真之介の孫だけはある。
面影があるよ、それに君もすごかった」

健太郎が藤本を見る

「だってこいつこの先にある町の最高司令官でしたもん、王族付きで」

矢口が親指をたてて加護の隣にいる藤本を指しながらドアを開け
後ろでは健太郎が「ほぉ〜なるほど」と顎をさわって頷いている

「「親びんっ」」

まだ入らないうちに辻と加護に呼び止められたら

「ああ、いいよ、おいらは中で石川に話があるから」

何も言わなくても辻達の言う事がわかるのか
二人もひとみの手を引きまたさっきの場所に座らせた

藤本は辻と加護についていき
それぞれと勝負しようと言っていて、梨華は矢口について部屋に入った
330 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:06
「石川にはもうおいら達の動きが見えるようになるのは近いよ
だからお前は、あのばかを守る為にお前の力を伸ばして行かないとな」

「・・・・そう・・・・ですね」

「この前の事で、おいらは石川につらい事をさせちゃったし
一度は自然が一番なんて言っちゃったけどさ
こうなってしまった以上、やっぱり石川の力ってすごく助かるし
頼りになるんだよ、ごめんな」

「いえ・・・私もそう思います」

出来るかどうか・・・
いや・・・・しなければならないんだろうと石川は不安ながらも覚悟する

「だからさ、この前やったみたく今からおいらの中を見てもいいよ
もちろん触らないでな」
「で・・・・でも」

梨華はとまどう、人の心なんてそんなに簡単に見てはいけないと思うし
元々弱い力だから、詳しい事までは解らないけど
あの町で確実に人の中の感情は読み取る事が出来る様に成った

それはあの緊張感と使命感で出来た事である事はわかっているのだが

そして今はそのことよりも・・・・

もし矢口の中に・・・

ひとみの存在が特別な存在としてあったらどうしようというとまどいもあった
331 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:08
「大丈夫、石川なら出来るよ、いつもおいら達の考えてる事知られるのは
やっぱりあんまり気持のいいもんじゃないけど、きっと石川なら
使うべき所でその力を役立てる事が出来るはずだから
ま、おいらの考えてる事なんてたかが知れてるけどな」

おどけたように言う矢口に梨華は確信する・・・

みんなはきっと信じてくれる・・・

ならば

頷く梨華は意を決したように目を閉じ
目の前で何かを考えるように瞳を閉じて机に寄りかかっている人物に集中した

暗い暗い闇の中をずっと見ていると

やがて
ぼんやりとした中に、お城の庭のような場所が見えてきた



辺りがまるで存在しないかのような静けさが梨華を包む

だんだんクリアになっていく映像
332 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:11
庭には二人の少女が見えてくる
花畑の中で、首飾りを作ったりと楽しそうにしてる

小さい時でも小さいし、面影もあるので、きっとこれは矢口で
そして・・・・この人が姫なんだろう

守るような温かみのある笑みを浮かべる幼い矢口

無邪気に自分の全てを預けるような笑顔の姫

矢口の頭の中の事なのに、見てる人を暖かくさせる二人の関係


梨華は矢口の中にはいつも
その姫との楽しい思い出があるから強くいられるんだなぁと認識した

一方矢口は、姫との想い出を浮かべ懐かしく思いながらもふと目を開け
目を閉じて集中している梨華に目が行った

へぇ〜と思わず言ってしまいそうだった

まじまじと梨華の顔を見るのはこれが始めてなのに気づき
梨華がすごく綺麗な顔立ちをしているのに感心していた


すると、眉間に皺を寄せ目を開けた

「矢口さん・・・・私の顔見てたでしょ」

少し息を切らせながらもズバリ読みきった事に矢口は満足する
333 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:12
「あ・・・・ああ、綺麗な顔してんなぁって思ってさ」

自分を綺麗と言われて嫌なわけはないけど
いきなり花畑に自分の姿が出て来て驚いたのだ

「も・・もうっ、そんな事ないですよ」
「いやいや、たいしたもんだよ
あいつ解ってんのかなぁ、石川がこんなに綺麗な顔してるの」

梨華は顔を赤らめて俯く

「でも、今おいらが石川の顔見てたのも気づいたな
案外もう十分力発揮してるかもな、それだったら問題ないかな
後はやっぱ、銃の使い方と、あいつの心の掴み方だな」
「えっ」
「あいつの事好きって言ってたじゃん、頑張れお姫様
あっ、力を変につかっちゃダメだぞっ、そんなのは本物じゃないからな」
「もうっ、矢口さんは何もわかってないんだから」
334 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:16
からかわれた事でそう言った訳ではない

そしてそんな事言われなくてもしない
と言いたかった訳でもないのにそう言っていた

物心ついた時から、他人の行動が読める事が時々あり
周りから気味悪がられたり、他の子供達からいじめられたりした

もしかしたら自分は族かもしれない・・・・
今思えば、父・・・いや母がそうだったのかも・・・・とは最近思っていた

人に触れなくても人の心を見れるかも・・・

いつか父と母が一度だけ言った言葉
決して人の心を見たいと思ってはいけないよと・・・・

ひとみとの生活の為にと人と触れ合って
人の気持ちを操作するような事をする事はあっても
他人の心を見る事はタブー

かたくなにそれを守り続けてきたし
それを破る事がひとみとの生活の終止符になると感じていた

だから一度もひとみの心の中は見た事はない、いや見れなかった
そしてこの数日で確かに感じるひとみの心境の変化・・・・
そこに矢口が関わっているのを気づかない矢口に少しイラついたのかもしれないと梨華は思っていた

「んじゃ、あいつの奮闘振りでも覗いてみる?この窓から見えるよ」

ひとみの前で、縦横無尽に走り回る2人
今は加護と藤本が手合わせしてるようだ

さっき藤本vs矢口のとてつもない速さの戦いを見てからだからか
今力を発揮した余韻からか、余計に二人の手合わせがちゃんと解った

・・・・だけど嬉しい気持ちは少ない
335 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:18
梨華はひとみの必死なオーラを出している後姿を見る

「あんなに一生懸命なひとみちゃん見るの・・・はじめてです」
「ははん、なんかテキトーそうだもんな、あいつ」

確かに自分と住んでいた時は
何でもいい加減で、遊びもいい加減だった

他人にはいつも冷静で、気が向けば働き
時に何を考えてるか解らない顔をしていたひとみ

なのに梨華には優しい顔しか見せてくれずに
もちろん今まで一度も喧嘩なんてした覚えはない
ひょうひょうとこの世の中を生きているように梨華には見え
それがひとみをより強く逞しく見せていた

夜中静かにいなくなったり
たまに家に来るひとみのファンからの嫌がらせを受けても
梨華にはひとみの存在が絶対で、ひとみ以外の誰も信じる事が出来なかった

だって、そんな時は必ずひとみは梨華の味方で
そんな所で自分はひとみの特別なんだと嬉しくなっていたから
336 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:20
しかし

「矢口さんに会ってから・・・・ひとみちゃん変わりました」
「そうなのか、以前のあいつは知らないけどな」

本当のひとみの姿を引き出した矢口は何も感じていないのが
余計梨華の心に火をつける

「私・・・・負けません・・・・・・
そして・・・・・ひとみちゃんの事・・・・少しでも手助けしてひとみちゃんを守ります」
「ああ・・・・頑張れよ、お前なら出来るよ」

梨華を見上げたまま力強く笑って窓の外を眺めた
何に対して負けないと梨華が言った意味は
全然わかっていないその笑顔に
梨華は怒るどころか、何故か温かい気持になったので微笑み返す

「はい・・・・頑張ります」

少なくとも矢口の中のひとみは、まだ仲間の部類のようだ
ひとみの中は怖くて見れないが、矢口の中は姫で一杯のようだった

「ほら、今藤本が加護の動きを待ってあげてただろ
藤本は加護より倍は早く動ける、しかも音が無いんだ、あいつは強いよ」
「そこまではまだ見えません」
「そっか、断片的に見える程度って言ってたな」
「はい」
「それが、きちんと認識出来るようになれば、特殊部隊の上官にでもなれるってとこだな
旅が終わったら志願してみろよ」
「やです、そんな怖い所」
「ははっ、そっか、軍隊に入るにしちゃ優しすぎるな、お前の性格じゃ」

梨華の肩に手を置き笑いかけた
337 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:23
一瞬梨華は、置かれた手から
矢口の過去をずうっと探って行こうかとも考えたが、そこまでは出来なかった

「よかったよ、藤本がついて来てくれて
本当においらお前達2人を守りきれるのか不安だったから
特に石川、お前はあの馬鹿の巻き添えくらった形だから気の毒でな
必ずあいつといつか平和な毎日が暮らせるようにしてやらなきゃなって」

「矢口さん・・・・」

だからあんなにひとみに反対してたんだと思った
自分の足手まといとかそんなんじゃなく
本当に自分達の身を案じてたんだと

「それに、おいらもお前らと旅するのって、結構楽しかったんでな
甘いなと自分でも思うけどさ、元々おいらの我儘旅だし」

微笑みあう二人

「私、姫に会いたくなってしまいました、かわいい姫でしたね」
「あっ、そっかおいらの中見えたんだな、かわいいだろ、おいらの中の姫は」
「2人で花を摘んで遊んでましたよね、矢口さんも小さくて」

「へへっ」と途端に照れたように顔を俯かせたが、窓の外を見て呟いた

「おっ、加護達の体力の限界が近いな、この部屋しか使えそうな部屋はないから
その辺掃除して布団ひくか、きっとすぐ寝るぞ、あいつら」
338 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:26
かわいらしいなぁと思いながらも、ふと矢口の言葉に言ってしまう

「あれ、上の部屋は・・・」
「ん?お前ら、使いたければ使いな
でもおいら達はここでいい、絶対ここでいい」

梨華は笑う・・・・まだ怖がってるんだと

「ほんと・・・・かわいいですね、矢口さん」

口をへの字にしながら辺りのほこりを掃除しだした

毛布は今まで2枚しか持ってなかったが
ひとみが力持ちなのをいい事に何枚も持たせた

丸まって寝る事も出来るけど、やっぱりちゃんと寝たいんだそうだ
馬に持たせればいいと勝田達に言われたが
馬がいるとどこの町でも目立つので馬は連れて行けないと矢口は断り
ひとみが「ウチが持つよ」と言ったから、そういう事になったようだ
339 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:28
やがて矢口の言った通り、辻と加護がふらふらしながらドアを開け
布団があるのを見つけると倒れ込んですぐに眠った

「なっ、言った通りだろ」
「やっぱり疲れるんですね、力を使うと」

梨華が言うと

「まぁ、今くらいでバテてるのは修行不足なだけだけどな」

矢口は、笑って加護と辻に布団を掛けて頭を撫でた

「どうだ、少しは見えるようになったか」

心配そうに2人を見てたひとみに声をかけた

「2人は大丈夫?」
「ああ、平気平気、明日の朝にはケロッとして腹へったぁって起きて来るよ
だいたい見てみろよ藤本を、ピンピンしてるじゃね〜か」
「美貴は、毎日ちゃんと訓練してたし、加護ちゃんと辻ちゃんはハーフなんだね、じゃあ仕方ないよ」
「仕方ない?」

2人が平気と聞いてほっとしていたひとみが藤本に問う

「半分は人間だから、能力を支える肉体にすごい負担がかかるって事
まぁ、鍛え方次第でなんとでもなるみたいだけど」
「その通り、こいつらはまだ修行中なんだ、それで吉澤はどうなんだ
昨日今日ですぐに見えるようにはならないだろ
焦らないでじっくりやろうよ、もうからかったりしないからさ」

やっぱり今まではからかってたんだとひとみは矢口をじと目で見る
340 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:29
「いやいや、もしかしたらすぐに訪れるかもしれないよ
彼女は筋がいいようだ、少し見えるようになってるよ」
「ほんと?ひとみちゃん」

自分の事のように嬉しそうにひとみに近づく
ひとみは俯いて首を振るだけだった

「見えるって程じゃない・・・・・から」
「でもまぁ、少しは解るようになったって事だろ
すごいじゃね〜か、案外お前も族だったりしてな」
「そんな訳ないじゃん」

辻加護の所からひとみの前まで来て肩を叩き
矢口はテーブルに座ったが・・・自分で言った言葉に考え込んだ
341 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:30
健太郎がそれを聞いて話し出した

「いや、可能性はある、私がいくら今と同じように狩人に教えようとしても
一日で見えるようになった者はいない
それが僅かに見えるだけでもな、族ならそれは可能だ」

「族は生まれながらに決まっている能力
しかし、ある時目覚める事がある能力の持ち主は・・・・」

「もしそうなら・・・・・やはりそうなりますか、健太郎さん」

矢口と健太郎の言っている意味が梨華とひとみにはわからない

「どういう事?」
「でも・・・もうこの島にはその種族は」

ひとみの質問は、藤本の言葉でかき消される

「だから、どういう事っ、三人で話してないで
ウチらにも解るように説明してよ」

ひとみがキレた
342 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:32
「ああ、悪かったね、万が一の話じゃ、この島にいる族の多くは犬と猫・・・・
そして弱く貴重な鳥と兎・・・・・そして絶滅したといわれる・・・獅子」

「へぇ、獅子なんてのがあったんだ、まぁ、鳥と兎もいるなんて知らなかったけどね
それも近くに鳥がいたなんてね、それで?」

のんきにひとみが梨華に笑いかけて言う

「吉澤・・・・お前が獅子族じゃないかって事だよ」

矢口が真面目な顔をして言うと

「ええっ」

梨華と一緒にひとみも矢口を見る

「だから万が一の話・・・・・美貴も獅子族は絶滅したって聞いてるし
実際生きてるって話は知らないもん」
「そっ、そうだよね、まだちび達の事だって見えないのにさ」

俯くひとみに健太郎が

「明日は雨だからもう一日ここにいるんじゃろ
族との戦い方を明日じっくり教えてあげるからもう寝よう
ここは戦場だったから幽霊が出るといって、山賊も族もあまり近づかない
ゆっくり眠りなさい」

それを聞いて矢口は顔をこわばらせ、ひとみと梨華も藤本も矢口を見た
343 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:34
「大丈夫だよ、ここに一ヶ月もいるけど
一度も幽霊なんていやしなかったから」

少しほっとしたのか矢口は、うんうんと頷きながら加護の横に入り込み
加護の後ろから抱きつくように寄り添って寝る体勢になった

「ウチが後ろについてやるよ、たまにはウチにあんたの上にたたせなよ」

面白がるようにひとみがそう言うと
同じように矢口の後ろに入り込み矢口を背中から抱き寄せた

「いいよ、怖くなんかね〜から」
「いいから」

肩を動かして腕をほどこうとする矢口を優しく包み込んだ

「なんだよ、仕返しかよ」
「当たり前だよ、いつもやられっぱなしだからさ」
「ちぇっ」

その様子を三人が笑って見ていたが、健太郎も上へ行き
じっと見ている梨華の背中を押すと藤本も灯りを消して布団に入った
344 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:39
しばらく時間が経過すると
梨華は隣で背中を向けているひとみに、震えながら手を近づけようとした

ひとみの心を見ようと


初めて力を使って触ろうと集中力を増して手を伸ばし


もう少しで触れる所で藤本に捕まれた

驚く梨華は後ろを振り向く

優しい笑みを浮かべ藤本が自分の心臓の所に梨華の手を持っていき
首を振りながら見つめていた

『好きな相手なら力で気持確かめたらダメだよ』

発揮されはじめていた力によって
藤本のそんな気持が梨華に伝わって来た

梨華は、見透かされた恥ずかしさと
今日始めてちゃんと話した相手にまで自分の気持が知られている事の恥ずかしさで俯いた

藤本は握っていた手を離し、梨華の頭を撫でると
もう一度反対側の手で梨華の手を握って来た

そして頷き会うとお互いに目を瞑った

すでに梨華は力を使うのをやめていたが
その手の暖かさにもう気恥ずかしさはなく、静かに眠りについていった
345 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:41
一方ひとみと矢口も、不思議な安心感に包まれていた

とくに矢口は背中から伝わる温もりにすぐに眠ってしまった

ひとみは腕の中にいるいつも悔しい気持ちにさせられている人物が
本当に小さな人物なんだという不思議な気持ち

これからの旅の不安も何故か治まっている


なのに

ひとみは眠る事が出来なかった

矢口は寝息をたてはじめ、後ろからも2人の寝息が聞こえ出した

それでも眠れないのはどうしてだろうと考え出す
寝ようと思えば思う程眠れないのはよくある事だ
346 名前:dogs 投稿日:2006/06/11(日) 22:42
あれから大分時間が経つが、目は冴えるばかり

腕の中でもそもそと動き始めた
寝返りを打って自分の胸にスッポリと顔を埋める矢口

いきなり心臓が高鳴り出す

腕を抱え込んで自分の腕の中で丸まっている矢口の子供のような表情がうかがえた

あまりの心臓の高鳴りに
これはいけないと体を離そうとして抱き締めていた腕を緩める

腕を放すと自然に仰向けになってしまう矢口に布団を掛けなおし
横から寝顔を眺めた

どうしてこんなにドキドキしているのか自分でもわからず
矢口を見ないように眼を瞑った

とりあえず考えまいと思い直し
必死に今日教えてもらった事をおさらいするように頭で繰り返したら
いつのまにか眠っていた
347 名前: 投稿日:2006/06/11(日) 22:43
本日はここまで
348 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/12(月) 09:39
うわ、どーなるんだこの二人…
いや、三人?
349 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/12(月) 19:31
吉澤〜、そっちかあ・・・。
350 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/12(月) 21:48
1444じゃないのかぁ…
351 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/16(金) 11:21
藤本さんいいキャラですね
352 名前: 投稿日:2006/06/17(土) 00:15
348〜351:名無飼育さん

レスありがとうございます。そしてなんとなくごめんなさい
353 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:16
次の日の朝、ひとみはハッと目覚めた
腕枕のようにしていた手に矢口の重みが感じられない
起き上がるとどうやら台所で矢口が火をおこしていた
火をおこして振り返った矢口がひとみに気づき小声で

「おっ、おはよ」

いつもは憎たらしい顔が
なんだか少し照れたように言うのでついかわいいと思ってしまった

「おはよう」

普通に返してしまったので
その声で藤本と梨華もごそごそと動き出し眼を開けた

「「おはよう」」

2人の視線もひとみを捕まえて呟いた
354 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:18
「起こしちゃったね、ごめん」

ごしごしと目をこすりながら藤本がふぁ〜っと欠伸をするとのんびり言う

「ん〜っ、やっぱ雨の音するね、今日はゆっくりここで休みだね
美貴はもすこし寝るよ、おやすみ」

梨華に抱きついて眼をつぶった

「美貴ちゃん、私は起きるから離して」
「いいじゃん、もすこしこうしててよ」
「もうっ」

ひとみの視線に少し慌ててると

「なんだよ、梨華ちゃん達できちゃってんのかよ」

半身を起こしてその様子を見ていたひとみは微笑む

「そ、邪魔しないでね〜」

藤本は梨華を抱き寄せた
梨華はひとみに向けて助けて〜という眼をしてみたが
ひとみは面白そうに笑うと起き上がって矢口の所へ行った

自分の気持なんてちっとも気づかないし
妬いてもくれないんだと梨華は寂しくなる

355 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:19
すると

「今まで言った事ないの?」

抱き寄せられた耳元で寝たと思っていた藤本が囁いた

「え?」
「よしこに好きって」

この寂しい状況を作った張本人に、直球を投げつけられてひるんだ

「い・・・言えないよ」
「どうして?」
「・・・・・・・」
「怖い?」
「・・・・・・うん」
「そっか・・・・ずっと一緒に住んでたんでしょ」
「うん・・・・」
「なかなか手強い相手だね、頑張らないと」

梨華は静かに頷いて
救いを求めるように藤本に寄り添って再び眠りにつく
擦り寄ってくる梨華に、とても優しい顔をして抱き寄せる藤本
356 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:21
こんな会話をしているとも気づかず
矢口とひとみは向こうで朝から喧嘩を始めていた

「だから、お前がいなくたってぐっすり寝れたっつーの」
「嘘つけよ、怖いくせになっさけね〜なぁ〜、極悪人の矢口ともあろう人が幽霊が怖いなんてなぁ〜」
「うっせ〜っつってんだろ、でくのぼうが」
「そんな事言うと今日は抱き締めてやんね〜かんな、ちび」
「こっちからお断りだよっ」

「「親びん達うるさいっ」」
ウォンッ【そうだそうだ】

眉間に皺を寄せた二人と勘太が一瞬起き上がって叫んだ

「「はい、すみません」」

直立で謝る二人だが、すぐに再開された

「くそっ、またお前のせいで怒られたじゃね〜かよっ」
「ちびの声がでけ〜んだろ」

「「親びんっ」」

今度は起き上がりもせずに低い声が聞こえたので
今度こそしゅんと反省し答えた

「は〜い」

睨み合いでひとみと戦う矢口はやはり上から威圧的に睨まれると分が悪いのか
朝食の準備を始めた
357 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:23
「昨日の食器類を雨で洗ってこいよ
それにそこの入れもんに雨水溜めておけよ」
「へ〜い」

矢口に言われてしぶしぶ行動を起こす
健太郎も起きてきて、先に三人で食事を済ませた

「じゃあ、吉澤さん、二階に広い部屋あるから、片付けて武術の基本を教えてあげるよ」

健太郎が食器を重ねると言った

「おいらも見といてやるよ」
「いいよ、ちびは、邪魔するだろっ絶対」
「しね〜よ、からかうだけだ」
「一緒じゃんか、いこっ健太郎さん」

にこにこと2人を見る健太郎の手を引いて
二階へあがろうとするひとみに、矢口がげらげらと笑いながら声をかける

「おいらも行くから待てよ」

だけど逆にひとみが振り返り、食器を指さして

「いいから、それ片付けとけよっ、ちび」

と、ビシッと言いはなち上がって行った
358 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:24
「あ〜あ、嫌われたもんだな」

残されて独り言を呟いたら、辻がムクッと起き上がり

「もう、親びん達うるさすぎて寝れませんよぉ〜」
「ほんま、ガキの喧嘩ですやん」
ウォンッ【そうだそうだ】

勘太でさえ攻め立てる鳴き声を発する

「悪かったな、だってあいつがよぉ〜」

子供みたいな矢口に加護が厳しく言い放つ

「親びんっ」
「はいはい、おいらが全部悪いんですよ、すみませんね〜」

椅子の上で体操座りをして丸まった

「しょ〜がないですね〜、親びん達は、のん達も御飯食べよ、よっちゃんの修行にまぜてもらおうよ」
「うん、健太郎さん、結構色々知ってるもんね、色々教えてもらお」

そう言うと不貞腐れた矢口を尻目にどんどん食事の準備をして元気に食べると
藤本達の分も準備しさっさと二階へ上がって行った
359 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:26
静かになり、結局すやすやと眠る藤本達に目をやると
矢口は眉間に皺を寄せて考え始める

この先の状況、健太郎の話の中で気になる事は多々あった
二人を・・・・いや、辻や加護でさえ危ないかもしれない

頭の中で、族の集団に襲われた際のシュミレーションを繰り返すが
どうしても守りきれずに、二人を死なせてしまう事に唇をかみ締める

出来れば少しでも見えるようになってもらえれば少しはましなんだが
・・・と考えながら色々なパターンを考える

繰り返すうちに時間が過ぎ、やっと起き上がった藤本達もテーブルに腰掛

「ったくゆっくり寝れないじゃないですかぁ〜」

藤本がふてくされたように言う

「いや、お前らは寝れてたよ、ちゃんと」

まだ椅子の上で膝を抱えたまま矢口も不貞腐れた風にする
360 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:29
「何、拗ねてんです?矢口さん」
「別に」
「今日は美貴達は何しましょうかね〜」
「寝る」

幾分落ちた気分をさっき加護達に叱られた事にスイッチさせる
実は藤本も少し前に悩んでるような矢口を見ていたのでわざと拗ねてる事にしていた

「矢口さん、そんな拗ねないで」
「だってさ〜、みんな冷て〜んだもん」
「矢口さんが意地悪するからでしょ」
「ちぇっ、藤本もかよ」
「ふふっ、きっと矢口さんが人気者だからですよ、そんな拗ねないで今日は色々教えて下さい」
「い・・・石川・・・・お前だけだよ、おいらの味方は」

優しい二人の心遣いを感じ
少し機嫌の直った矢口は、二人の食事を準備し
ひとみとの喧嘩のやりとりを話しながら食事を終えると片付けして落ち着く
361 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:30
まずテーブルの上で講習会のように族の動きの特徴を説明した

「なるほど・・・そういう事なんですか」
「そ・・・だから、おいら達は弱点も一杯あるって事」
「弱点が普通の人間にはちょっと突っ込めない領域ですよね」
「でもお前は、一応族の血が流れてるんだから
洞察力以上に相手の動きが読めるよね、訓練すれば」
「うん、美貴もそう思う、相手の動きが読めれば守れるし、攻撃は美貴達がするしね」
「そうだな、あの馬鹿も守りやすくなるんじゃないかな」

いきなり話がひとみの事になった事で少し動揺する
2人には自分の気持を知られているので余計気まずかった

「ねぇねぇ、梨華ちゃん、よしこはどうなの?誰かと付き合ってたとかないの?」

そんな動揺を知ってか知らずか、藤本が質問してくる

「え?」

藤本の質問に困った梨華に矢口は明るい雰囲気を出して言う

「そういえばさ、おいら不思議だったんだけど、お前らどうしてその・・・・あの
最初お前ら見た時は絶対そんな関係だと思ってたのによ・・・違うとか言うしさ」

2人は興味津々な顔で梨華を見ている
362 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:32
「だって・・・・・・ひとみちゃん・・・・すっごくもててて・・・・
いっつも誰かに誘われたりしてて・・・・でも私の事はすっごく大切にしてくれるから
特別な感じだけで私幸せで・・・・・だから・・・・私がもし好きとか言っちゃったら
この関係が壊れちゃいそうで・・・怖かったんです」

とてもかわいらしくはにかむ梨華に矢口はさらに質問した

「あいつ・・・もててんのか・・・・そんなに」
「はい・・・・・男女問わず・・・・・」
「はぁ〜」
「やるね〜、よしこ」

感心する2人

「他人事と思って・・・・」
「あ、ごめんごめん、でもさ、石川も綺麗な顔してるし、絶対もててるよね」
「ひとみちゃんは、私に近づいて来る人には厳しくて・・・・誰とも付き合えませんでした」
「なんじゃそりゃ、あいつ自分勝手だなぁ、あいつも石川の事好きなんじゃね〜の、だったら」

矢口の言葉に嬉しく顔を輝かせた藤本

「じゃあ、まだ梨華ちゃんって誰ともやってないの?」
「え・・・・何・・・を?」

藤本はにやにやと梨華を見る
363 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:34
「またまた、とぼけちゃって、でも美貴嬉しいよ、なんか、頑張ろうって気になって来た」
「何?どういう事?」

矢口も首を傾けて藤本を見る



「なんかね、梨華ちゃんの事好きみたい」





「「は?」」

驚きは2人同時だった

「いや・・・あの・・・・でも・・・昨日初めて・・・」
「会ったのは一昨日でしょ、十分でしょ、恋に落ちるには」
「こ・・・恋に落ちるって・・・・・私・・・」
「解ってるって、よしこの事ずっと好きな事も、でも美貴の気持には関係ないじゃん
美貴も勝手に梨華ちゃんに恋したんだから」
「おお、藤本・・・・お前すげ〜なぁ・・・・でも・・・王族付き・・・・」

自分と同じ待遇のはずの藤本の奔放な発言に矢口は困惑して言った

「ああ、ちゃんと役目は済ませましたから、でも結局はいくら王子を好きでも
ずっと美貴のこと抱いてくれる訳じゃないし
なんだかんだで、美貴は引き離されてあの町の最高司令官に任命されちゃいましたからね」

思わず藤本の過去を少し知ってしまい
矢口は苦労してんだなぁこいつも・・・と思ったが
それが何故に石川にと口を開けて見つめた
364 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:37
わざと明るく振舞ってるような横顔に、なんとなく藤本の心境を察し

「時間がたったとはいえ、好きだった人に
結婚相手とか連れてこられるとちょっと傷つくしな」

矢口が言うと、やっぱり解ってくれたとばかりに嬉しそうに藤本が口を開く

「ですよね、でも、なんか寂しいときに、出会ったのが梨華ちゃんってとこかな
ん〜、なんかほっとけなくて・・・存在が」

岩陰にこっそり咲いて、しかも一際綺麗な花のイメージっていうか・・・・・
まぁ・・・・・なんか・・・・ねと最後は歯切れ悪く照れている藤本

「ほぉ〜っ、チャレンジャーだね、おい石川・・・藤本の方がいいかもな
大事にしてくれそうじゃないか、あのあほより」
「・・・・・・・・」

軽く言ってしまい、沈み込む石川の姿に矢口は慌てる

「ご・・・ごめん、石川、まぁ、これから旅していく仲間同士
あんまり険悪にならない程度に仲良くやってくれればおいら的には何も言わないから
藤本も、あんま自分の気持押し付けない程度にしてやれよな」
「はい、ごめんね、梨華ちゃん」

お互いに失敗したなぁと困った顔でフォローする二人

「ううん・・・いいよ、それにありがと、こんな私の事好きになってくれて
でも・・・・ごめんね、やっぱり」

まさかこんな自分の事本気でスキだとはとうてい思えない梨華は、丁重に断った
365 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:38
「ああ、解ってるから、矢口さんの言う通り
そんなに考えこまなくていいよ、梨華ちゃんはよしこが好きなんだし
気ぃ使わないでがんがんアタックしちゃってよ、美貴も出来るだけ協力するから」

驚く二人

「どうして?」
「そうだよ、変じゃね〜か?恋敵の為に応援するって」

藤本の言葉に梨華も矢口も疑問をぶつける

「矢口さんなら解るでしょ、生まれた時から絶対に
結ばれる事の出来ない人に思いを寄せる為に生きて来たんだから
でも自分の好きな人には、やっぱ嬉しい顔してもらいたいじゃないですか」

矢口は考えた・・・・自由な恋愛を封じられた運命だけど
今も姫の為なら何でも出来るという自分もなんとなくそういう気持だなぁと
例え姫が新しい場所で好きな人が出来ていようと・・・・と

「うん・・・・・わかる・・・・・・藤本・・・・・お前おいらと似てるかも」

そう言って何故か抱きついた
2人は同士と言わんばかりに背中を叩きあう
366 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:40
「あの・・・・・私の事・・・・忘れて盛り上がってますけど・・・・・私はどうすれば」

困惑する梨華

「いんじゃね〜の、今まで通りで、勝手に藤本が好きなだけだからさ」

さっきのあっけらかんとした藤本の言い方に、矢口も少し安心して言う

「そうそう、だってせつな〜い表情でよしこの事見てる梨華ちゃんに
胸キュンしちゃったんだから」

藤本も、片目をウィンクさせてニコッと笑う

「な・・・んか、おかしい気も」

眉毛をハの字にして呟く

「おかしくないおかしくない
梨華ちゃんはよしこの気持をゲットする為に頑張ればいいんだからさ」
「だな、でもくれぐれも力使ったりして卑怯な真似すんなよ」

ドキッとする梨華に優しく微笑む藤本

「見たくなったら美貴の心を思う存分見ていいから」

きっと梨華ちゃんが一杯だよと茶化す

「う〜ん」

納得のいかなそうな梨華
367 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:42
「いいじゃね〜か、自分の気持なんて案外わかんないもんだろ
その時々で違うのかもしんね〜し、もしかしたらおいらに惚れちゃうかもしんないじゃん」
「それだったら美貴に惚れればいいじゃないですか」

もしもの話だと解ってても口をはさむ藤本

「だから例えだろ、人の心は頭で考えるもんじゃないって事
石川は自然にその心に耳を傾けとけばいいの」

ずっと困った顔をし続けていた梨華が笑顔を取り戻す

「そう・・・・ですね、旅先で素敵な人に出会うかもしれないし」
「それもやだ、それだったら美貴にすればいいじゃん」
「お前もあほだな、たとえばの話だっつってんじゃん」

「へへ」と矢口に突っ込まれ、2人は笑いあう

「じゃあ、石川、次は銃の扱いだな、この前の復習から」
「はい」

梨華は気を引き締めた顔で窓を開けて外に向って銃を向け、狙いを定める
368 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:45
藤本が二階に射撃の訓練するから銃声がするよと言いに行き
汗だくの三人を見て驚く

そういえば話してる間中ドスンドスンという音が響き渡ってたっけ
健太郎は見るだけのようだが、口では昔のくせが出ているのかスパルタ口調で
2人ずつ接近戦の時の体の使い方を教えていた

下に降りて矢口に報告する

「矢口さん、あの健太郎って人・・・只者じゃないですね
もしかしたら私たちもやられちゃうかもしれませんでした」

「どういう事?」

「私達って、下手に傷ついても結構治るの早いじゃないですか
だから一撃でやる方法をよしこ達に教えてます」

「へぇ、まぁそうだろうけどね」

「さっき私達が梨華ちゃんに教えてた弱点をみごとに把握してますし
一人でここに来れただけありますね」

「でも美貴ちゃん達って銃の弾でさえ見切る事が出来るんでしょ」

「うん、でもね、さっき言ったみたいに、着地点が必ずあるでしょ
その間の浮遊時間には方向を変える事は出来ない」

「それに、おいら達が見えるって事は、弾筋も見えるって事
人間でそこまで能力を高めるのは相当大変な事だろ、かなり健太郎さんは
族の動きについて研究してるんだよ、きっとおいら達の力を利用して
逆に封じ込めるやり方でも教えてるんじゃないかな」

「さすが矢口さん、その通りです。
でもあの動きはかなりの柔軟な筋肉と運動神経・反射神経を要しますし普通の人間にはとても無理ですね」
「でもひとみちゃんは、近所の男の子達よりも運動神経がいいみたいで、力も強かったですよ」

パンッと一発狙いを定めて撃ってから梨華が言った

「あれだけ時間かけて狙ってから、どうしてあそこに当たるんだよ
次は右の木の枝、一番下の葉っぱが4枚ついてるやつな」

しゅんっと落ち込んで梨華はもう一度狙いを定める
369 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:46
藤本が横について優しくサポートする

「うん、そこで撃てば当たるはず、後は引き金を引く時に動かさない事だよ」

矢口はその様子を見て微笑み、呟く

「そうだな、あいつなら・・・ちゃんと石川の事守れるかもな
・・・・おいら達を倒して」

「矢口さん・・・・」

藤本がその呟きを拾う


パンッ

今度は言われた枝の近くをかすった

「おっ、石川、近くに撃てたじゃね〜か、藤本に教えてもらった方がいいな、こりゃ」
「愛の差でしょ」
「ははっ、そうだな」

藤本はまた優しく銃を持つ手を支え、コツを教え出した
370 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:48
笑いながら2人に背を向け、椅子に腰掛け矢口はひとみの事を考えた

さっき、石川が言っていた、近所の男の子よりも強い力
人間の女の子で、いくら矢口が小さいとはいえ
自分の事を軽々と持ち上げる筋力を持つ人間がいるだろうか

早く動く以外の自分では考えられない程の筋肉・・・・・
毎日鍛えても自分ならそうはならないはず

昨日言っていた事はあながち幻ではない?

しかし、絶滅した話は自分も聞いている

民間人のレベルでは知らされていない・・・王族によって滅ぼされたはずの種族
それほど恐れられていた族なんてこの世にはいらない

それどころか、自分達族の事も出きればいない方がいいと内心思っている
さっきの呟きは、ひとみのこれからの力の成長を思って思わず出てしまった言葉だった

自分達が今まで会ったはぐれの族達は
自分たちの力をいい事に悪行ざんまいの酷い輩が多かった
父母や、辻・加護の父母の他、隊の仲間や親戚は皆心優しい人達ばかりだった為
外の世界の族と会った時はショックを隠せなかった事を思い出した

そういえば藤本と石川は
国外に出て初めての信頼出来る族だなぁと微笑ましい2人の様子を眺めた
371 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:49
「当たった」
「いぇ〜い、やったね梨華ちゃん」
「うんっ、美貴ちゃんのおかげだよ」
「でもやっぱりこんなに狙うのに時間かけてちゃ殺されちゃうから
一瞬で狙った場所に撃てるようにならないとね」
「うん、梨華頑張る」

微笑みあっている

クゥ〜ンワフッワフッ【あの2人、けっこういいコンビになりそうですね】
勘太がいつのまにか二階から降りて近寄って来た

「ああ、そうだな」

ワフッワンワン【二階も鍛えられてますよ、三人】

「そうか、辻と加護も勉強になるといいな」

「矢口さん、勘太としゃべってるんでしょうけど気が散ります、少し黙ってて下さい」

ウォフッ【すみません】
「はい、ごめん」

はまってしまった梨華の迫力に矢口達は言葉を失う
矢口はしょうがないのでしばらく出来なかった腹筋や腕立てふせ等を始めた
372 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:50
「親び〜ん・・・・もうダメですぅ」

昼も過ぎた頃辻が降りて来た

「なんだ、辻、少しやせたんじゃね〜か?」
「やせもしますよ、健太郎さん鬼です・・・・・もう・・・・ダメ」

矢口に倒れ掛かってしまった

「おいっ、辻、しっかりしろっ」

矢口がよっこらせと椅子に座らせ水を持って来た

「ほら、飲め」
「あ・・・あいぼんを・・・た・・・たのみます」

水を飲んだ後机にバタリと倒れ込んだ

「なんじゃそりゃ、まぁいい、休んでなおいらが上に行って来るよ」

実は二階に行くのは抵抗がある矢口だが
まだ日も高いしみんないるから大丈夫だろうと二階へ上がった
373 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:51
思ったより広い部屋があり廊下にその部屋にあった物を片付け
何もない部屋を走り回らされている加護と、それを捕まえようとしている吉澤がいた

狭い部屋の中で十分力を生かせない事もあるとはいえ
横の壁や天井にまで逃げ回らされて、辻が死んだのも頷けた

しかし、ひとみの目は確実に加護をとらえ、
跳躍力も凄く撃たれた腕を庇いながらもバランスもきちんと取りながら追っている

加護が疲れから足を滑らせた所をひとみが捉え床に叩きつけた

「うわっ、ごめん加護」
「よっちゃん・・・・後は・・・まか・・・せ・・・た」

倒れた加護はそう言って動かなくなった

「加護ぉ、ごめんっ死ぬなぁっ」

焦ったひとみが加護を抱き締めて叫んだ

「あほか、加護はふざけてるだけだよ」
「あっ、親びん」

ぱちくりと眼を開けて微笑んだ
374 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:53
「お疲れ、辻が下で同じような事言って死んだから
おいらが代わりに吉澤の相手しようと思って上がって来た」

「こらっ、びっくりしたじゃんか、叩きつけちゃったから」
「うん、ほんと痛かったんやもん、それに疲れたし」
「ああ吉澤、ちゃんと見えてるじゃんか、すごいすごい」
「でしょ、よっちゃん最初に健太郎さんから色々説明聞いて
その後急に見えるとか言い出して、おかげで逃げ回るの必死やねん」

矢口の思いもよらない褒め言葉に
ひとみは嬉しかったが矢口に対してはやはり素直になれないのか

「はんっ、ウチが本気になればこんなもんだよ、じゃあ矢口さんが今度は相手してくれるんだろ」
「いいですか?健太郎さん」
「もちろん、今コツを覚えた所だからなるべく沢山の経験をした方がいいからね」
「攻撃は仕掛けてもいんですか?」
「どうだろう、まだそこまでは出来ないんじゃないかなぁ、始めのほうに少しコツは教えたけどな」
「いいですよ、仕掛けて下さい」
「よっちゃん、まだ早いって、親びん相手じゃ尚更だよ」
「だって、すぐ旅立たないといけないじゃん、だから早く強くなりたいんだよ」

ひとみの眼は真剣だった

「じゃあ行くよ、加護は下で休んでな」

行くよ と矢口は姿を消すと、ひとみの体が宙を舞う

「!!」
375 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:55
怪我してない腕を後ろに組まされて突っ伏し、馬乗りになっている矢口

「おいらの事見えた?」
「・・・・・・・っ」

持ち前の馬鹿力で矢口の腕を掴みなおし逆に捻り上げようとして
起き上がった所で矢口がひらりと宙を舞い腕を放させ後ろにつき
指を銃に見せかけ背中に突き刺した

「まだまだだな、吉澤」

「くそっ」と吉澤が肘で後ろにいる矢口を殴ろうと
突きながら回ると矢口はもう天井近くにいた

天井からすぐ下に降りてすぐ近づきひとみの足を払うが
それは見切ったらしくジャンプして避けた

だが、ジャンプする間に矢口は足を捕まえて床に倒し
やはり上から銃をかたどった手を顔に向けて止まった

「バン」
「くそっ、少しは手加減しろよちび」
「手加減しちゃ、お前の為にならないだろ、早く強くなりたいんならな」
「どうだね、矢口さん、筋がいいじゃろ吉澤さんは」
「そうですね、もうおいらの事もうっすらと見えてるみたいですね」

「まぁ、ここではスピードに乗れないとはいえ、これだけの動きについていってる
今日一日でこれはすごいよ、今まで私が見てきた軍隊の精鋭達でもこうはいかなかった
この身のこなし、体のバランス、見事なもんじゃよ」
376 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:56
ひとみは矢口の手を払ってひょいっと立ち上がる、そして埃を払いながら

「見事だってよ、いつか倒してやるかんな、ちび」
「調子に乗るな、本番なら確実に死んでるんじゃ
それは事実、毎日午前中した筋トレを欠かさない事だな」

矢口が言い返そうとする前に健太郎が口を開いた

「じゃあ、今からは力は使わないで相手してやるからかかってきなよ」
「えっ」
「それでもおいらに敵わないようじゃ、石川の事守れやしないだろ」
「ん・・・・まぁ、だけど、ウチの方が力は強いんじゃ」
「だからさ、おいらより力の強い吉澤に、おいらが勝つ方法は、
そのまま吉澤がこれから会うであろう敵との戦い方になるんだよ」

目玉を上にやり、一生懸命考えるひとみに

「ば〜か、いいからいくぞ」

側転でひとみの横をすり抜けると一度止まり
一瞬にして体を小さくしてひとみの懐に入り込みひとみの顎に拳をこつんと当てた
377 名前:dogs 投稿日:2006/06/17(土) 00:58
「ほれ、本当ならもう気絶してるぞ、吉澤」
「きったね〜」

顎の下に置かれた腕を掴み、逆の手で腹をめがけ拳を突き出すが
その瞬間何故かひとみは仰向けに倒された

矢口の膝がひとみのお腹に乗り
今度は上からひとみの目の前に拳を突きつけた

「な・・・なんで?」
「矢口さんは、吉澤さんの力を利用してるんじゃよ、今日教えたろ」
「そ、お前が動く力を利用してお前のバランスをくずしてんだよ
ちびでか弱いおいらにはそれしか勝つ方法はないからな」
「・・・・・どこがか弱いんだよ、くそぉっ、もいっかい」

その後、何度も繰り出す拳も、蹴りもすべて交され
いつのまにか逆に倒されていたり拳を突きつけられていたりした

矢口は力は使っていない、なのにそんな矢口にも自分は敵わない

へたりと胡座をかいて地面に座ってため息をついた

「よくわかっただろ、力を使わない弱いおいらが
強いお前に勝てるって事・・・・・じゃあ今からゆっくり説明しながらやってみよ」

「・・・・・・はい」

しゅんと俯いたひとみに、健太郎と矢口は
自分達の動きも交えてひとみの動きについて説明しはじめた
378 名前: 投稿日:2006/06/17(土) 00:58
今日はここ迄
379 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/17(土) 01:05
更新お疲れ様でーす。初リアルタイムでした♪
がんばれ吉澤!がんばれ梨華ちゃん!がんばれミキティ!!
380 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/17(土) 16:19
更新お疲れ様です。
やばいミキティが可愛すぎるんですけど!
続きも期待しています。
381 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/17(土) 23:03
ミキティがんばっておとせw
382 名前: 投稿日:2006/06/18(日) 00:26
379:名無飼育さん
リアルタイム読みと応援ありがとうございます

380〜381:名無飼育さん
藤本さんかわいいですよね

皆さんレスありがとうございます。
383 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:28
下では辻と加護が夕食の準備を始め
とり憑かれたように銃を構えていた梨華も、ようやく納得がいったのか銃を手放した

「弾・・・一杯使っちゃった」
「大丈夫、美貴も一杯持って来たし、きっと山賊からも一杯もらえるから
でもすごい集中力だね、梨華ちゃん」
「だって・・・自分の身は・・・自分で守らないと・・・・迷惑かけちゃうから」

胸の前で銃を両手で握り締め少し俯いた
その佇まいに藤本は息を飲んでしまうがすぐに我に返って

「うん・・・・きちんと狙った所に撃てるようになってるよ
大丈夫、これだけ撃てればちゃんと戦力になるよ」

「ほんと?」

嬉しそうに顔をあげた

その瞬間、美貴は梨華にチュッとキスしてから返事をする

「うん」

美貴が優しく微笑むと、見る見る真っ赤になって俯いた
唇をへの字にして、泣くのをこらえてるように美貴には見えた

「え・・・あ・・・あのっ・・・・ごめん・・・・」

慌てふためく藤本
384 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:30


「「あ〜っ、美貴ちゃんが梨華ちゃん泣かした〜っ」」


食事の準備をしてた加護と辻の2人の声によって
梨華は慌てて顔を上げて横に振った

「なっ泣いてないからっ、大丈夫っなんでもないって」

ムキになって2人に言っている梨華の横顔を美貴は眺めた
皿をテーブルに置いて美貴に近づく二人

「ねぇ、何したんっ?」
「なんか、嫌がる事しちゃったみたい、ごめんね、梨華ちゃん」
「そやそや、悪い事した時はな、ちゃんと謝れば許してもらえるって、いっつも親びん言ってるで」

辻も梨華の頭を撫でながら笑っている

「美貴ちゃんもああ言ってるから、許すよね梨華ちゃん」
「うん・・・・大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」

美貴はまさか泣くとは思わなかった

こんなに乙女チックな彼女の事だから
きっと大好きなひとみとのキスを楽しみにしていたのかもしれないと思い
自分の軽率な行動を悔いた

もしかしたらキスも初めてだったのかもしれないと
385 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:33
「もうっ、美貴ちゃん、そんな顔しないでよっ
のの、加護ちゃん、ごはん出来たの?なら上の三人呼んでこなきゃね」

「せやな、あれから大分時間立つのにいっこも降りてこないし
もしかしたら死んでんのんちゃうか?」
「見てこよっ」

2人は上へ行ってしまった

「梨華ちゃん、ごめん・・・・・なんか・・・・
ずっと横で真剣に頑張ってる梨華ちゃん見てたから
・・・・で、かわいいなぁって思って」

矢口に自分の気持を押し付けるなと言われたのに
また欲望のままに行動してしまったと落ち込んだ


「・・・・・・・謝られると・・・・どうすればいいのかわからないじゃない」

「え?」

確かにそうだ、でもさっき見てしまった梨華の顔は
実に悲しそうな顔だった


「キスくらい・・・別にどうって事ないじゃない」

梨華は微笑んで皿を並べ出した
386 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:34
さらにどうしていいかわからなくなった藤本は
静かに皿を並べるのを手伝い出す

「よしこ達、頑張ってるんだろうね、なかなか降りてこないとこみると」

なんとなく気まずくて、やっと二階の事について話を振ると
後はもう何も考えられなくなった

「ひとみちゃん、凝り性だからのめり込むと時間忘れちゃうんだよね」
「へぇ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「もう・・・・何か言ってよ、美貴ちゃん」
「あ・・・・うん・・・・」

あの町で、最高司令官という孤独な役職に無理やりつかされて
同年代の友達とあまり接してこなかった為
こんなに沢山の友達が出来たと嬉しくてはしゃいでしまっていた自分に苦笑する

嬉しいからって、あんな事しちゃダメだよね・・・と

「美貴ちゃん?」
「ああ、うん、じゃあ料理も注ぎ分けちゃおうよ、降りてきたらすぐ食べれるように」
「そうだね、へとへとになって降りてくるだろうし
ののと加護ちゃんもさっきまで死んでたもんね」

言ってるうちに上から話しながら降りて来た
387 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:36
「そっか、あそこで体を起こさないとそのまま体重がかかって倒れちゃうんだ」
「そういう事だよ、後でもいっかいやるか」
「うん、やるやる」

今朝までのけんか腰の2人ではなく
同じ目標に向けて走っている同士のように仲良く話している

「はぁ〜、すごいわ、よっちゃん、体の使い方マスターしてしもうた」
「のんたちは、あそこまでなるの大分時間かかったよね、あいぼん」
「親びんに何回言われても出来ないから泣いたりしてなぁ」
「お前らはちっちゃかっただろ、まだ、体も出来てなかったし」
「そんなにすごいの?よしこって」

藤本が矢口に問い掛けてる横で、腰に手をおいて威張っているひとみ
それを見て席につきながら

「まぁ、運動神経は良くても頭がなぁ」
「なんだよっ、それ」

それをきっかけにまたいつもの2人に戻って行った
また喧嘩を始めた二人を辻が一括し、食事を取っていく
388 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:38
食べ終わった食器を健太郎以外全員で外の雨水で洗う

二階に火を赤々と灯して、全員がひとみの成長を見届ける
健太郎と自分が教えたいと言い出した藤本でひとみに教え出すと
手の空く矢口はひとみに見とれていた梨華にも体の使い方を教えようと
辻と加護を見本にして説明し始めた

どんくさいとばかり思っていた梨華が、案外動けるのが驚きだったが
なぜ藤本は梨華に教えようとしなかったのかも気になった

梨華に銃を教えている時にはあんなに仲良さそうだったのにと



「へぇ、戦うのって、力が強いだけが方法ではないんですね」
「そうだよ、おいらだってこんなにちっちゃいのにまだ生きてるんだからさ
んじゃ次いくぞ」


この日は夜遅くまで特訓が続き、やはり一階で健太郎以外が就寝する
どうやらみんな動きすぎて疲れたのか倒れるように眠った

ひとみは昨日の事を思い出し、もう矢口を抱き締める事もせず
美貴も梨華の手を取って眠る事はなかった


三人は共にもやもやとした心のままその夜を過ごす
389 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:40
次の日は晴天になり、健太郎とも別れる事になった


「色々ありがとうございました、為になるお話も沢山教えていただいて」
「いやいや、こちらこそ、貴重な食べ物を分けてもらって
それに、真之介の孫や素敵な皆さんに会えたから良かった」
「じゃあ、くれぐれも気をつけて、あ、Mの国に行ったら
和田っていう名前には注意した方がいいですから」

頷く健太郎と矢口は握手をかわす

矢口は、祖父が昔住んでいた家の地図を渡すが
今は別の人が住んでると伝える

健太郎は真之介が魅せられた王族にも会いたいと呟くが
その人も既に亡くなり、孫の一人がクーデターを起こし、現在の王達も死んだと言う
「それでもいいから、その王族の居場所も教えてくれ」と言われ教えてあげた
390 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:41
また、Yの国に向って歩き出す一行

ひとみが藤本にあれこれ体を動かしながら質問しているようだ

「親び〜ん、食べ物が減って荷物も少なくなっちゃいましたね〜」

ひとみ達の後ろを歩いている加護と辻が振り返ってしゃべりだす

「そだな、健太郎さんこの先一日歩いて行けば
何か食べ物もあるかもしれないっつってたから大丈夫だろ」
「「そうですよね」」

そう言うと、また三人は歌を歌い出した

しかし矢口が急に振り返り
一番後ろで勘太と並んで歩いている梨華のそばに寄って来た

「なぁ、石川と藤本って何かあったのか?」
「えっ」

戸惑う梨華の顔を矢口が少し覗き込むような視線を向けたが

「あんまし意識すんなよ、あいつが勝手に石川に惚れたんだし
お前がかしこまっちゃったらあいつがつらいじゃん
お前は素直に吉澤を思って行動すればいんだよ、あいつもいつか諦めるさ
おいら達王族付きはそういう恋する運命なんだから」

そう言うと、背中を優しく叩いた
391 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:43
「・・・・・でも・・・・・今は美貴ちゃんが私から距離をおいてるから・・・・」

矢口にもそういう風に見えていた

「なんだ、寂しいのか?」
「・・・・・寂しい・・・・・のかな?」

しばらく梨華の横顔をみてたが、矢口は急に石川の手を握り

「じゃあ、おいらがお子ちゃまな石川の手を繋いでやってもいいぞ」

梨華は一瞬ビクッとする
前に握ったときには気づかなかったが、あまりにも小さい手だった事に驚き
そして暖かいことに気づいた

「いいですよ、でも端から見たら矢口さんの方が子供に見えるけどいいですか?」
「まじすか?」
「まじです」
「じゃあ、やめる、おいら子供じゃないも〜ん」

手を離して両手を自分の頭の後ろに手を組んで
まるでのんびり行こうとでも言うように歩を進めながら微笑みかけた
392 名前:dogs 投稿日:2006/06/18(日) 00:44
梨華は足を止め、散歩をするように歩く矢口と
軽快な歌に乗せて楽しそうに歩く加護と辻、その前には戦闘談議に盛り上がる2人を眺める

勘太も止まって梨華を眺めていた
その視線に気づき梨華は勘太の頭を撫でてまた歩き出した


「矢口さん」


梨華が名前を呼ぶと、頭に手をやったまま矢口が振り返り
後ろ向きに進んだ

「なんだ?」

「私・・・・強くなりますね」

矢口は一瞬驚いた表情を見せたがすぐに笑みを浮かべ

「ああ、じゃあ昨日のおさらいでもすっか?」
「はい」

とファイティングポーズともなんとも言えない妙なガッツポーズを見せた
393 名前: 投稿日:2006/06/18(日) 00:44
今日はこのへんで
394 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:00
「親び〜ん、水の音がするで」

梨華に後ろから捕まえられた場合の対処法を教えていた矢口に加護が言った

「お、川があんのかなぁ、じゃあ水筒に水入れなきゃな」

ごそごそと各自持ってる水筒を探し出す
しばらく歩くと川ではなく
道から少し離れた山肌にわきみずが流れている場所があった

「吉澤、水汲んで来てくれよ」
「ほ〜い」

重い物担当のひとみは背中からタンクと毛布を下ろし
竹を加工したタンクを持って歩き出そうとして藤本に止められた

「何?」

ひとみが不思議そうに尋ねると矢口が答えた

「ごめん、吉澤・・・・・ちょっと待ってな」

矢口が梨華を見て

「上に誰かいるよな」

と聞いた
395 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:01
眼を閉じて集中するが、集中する相手が見えない為に気配も何も読めない

「すみません、わかりません・・・
でも何か漠然と殺気・・・というかそういうのは感じる気がします」

本当にかすかな気配、梨華は自信なさそうに言う

「オッケー、加護は何か聞こえるか?」
「う〜ん、いるといえばいる気がしますねぇ」
「そっか族かもな、じゃあ藤本、辻、吉澤と石川の事頼むな」
「はい、よしこ、梨華ちゃん、銃を準備していつでも撃てるように」
「うん」
「わかった」

その様子を確認して矢口は加護に優しく言う

「行くぞ、加護」
「へい、親びん」

ひとみの腕に温かさを残し、2人は消えた

ひとみと梨華は眼をこらして2人を見ると
残像のように登っていく所が見えた気がした
396 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:02
しばらくすると上から銃声が響き渡る

上の方の木がバタバタと倒れる音と銃声が続くと
2人が風と共に帰って来た

「いきなり撃ってきやがったよ」
「矢口さん、族ですか?」
「ああ、はぐれの族みたいだった」
「めっちゃ怖い顔しとった、食料渡せってさ」

「で・・・もう・・・やっつけたのかよ」
拍子抜けしたように銃をなおしながらひとみが呟く

「ああ、2対1だし、はぐれだったからか大した技もなかったよ」
「だったらウチに相手させてくれればよかったのに」

タンクを持ってすたすたと水を汲みに歩き出した

「おいでくのぼうっ、いくら昨日褒められたからって
自分の力を過信すれば痛い目に合うのは自分とおいら達仲間だぞ」
「過信なんてしてね〜よ、でも実践しなきゃわかんないじゃん、どれくらい使えるか」

拗ねた感じで背中を見せて歩いていくひとみ
397 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:06
ったく、と矢口も自分の水筒を加護に渡し
ひとみを追わせて汲みに行かせる

「なぁ、藤本、あいつの事あんまり調子に乗せんな、死ぬぞ」
「そうですね、でも私達と違って、本当に力は強いですからね、勘もいいし」
「まぁ、実際戦ってみないと解らない事も沢山あるけどなぁ」

勘太の頭を撫でくりながら笑った
交代で梨華や藤本、辻も水筒に汲み終わり
顔を洗ったり体を拭いたりした後歩を進めた
今度は先頭を加護辻が歩き、その後ひとみと梨華が並んで歩く

「梨華ちゃんも矢口さんに色々教えてもらえた?」
「うん、でもあくまで護身術程度だけどね」
「なんかさぁ、こんなに本格的に戦法を習うなんてこの前まで考えられなかったよね」
「そうだね、でもやっぱりついて行くなら迷惑かけないようにしなきゃね」
「うん・・・・・ほんと・・・・ごめんね、ウチが付いて行くなんて言い出してしまったから」

すまなそうなひとみに、梨華は優しく笑う

「もう言いっこなしだよ、ひとみちゃんが自分から何かしたいなんて言うの初めて見たし
・・・叶えさせてあげたかったもの」

その優しい笑みに、ひとみはフッと笑って

「いっつも優しいよね・・・・梨華ちゃんは」
「だって、ひとみちゃんがいないと生きていけないもん」

と思い切って言ってみた

「そっか、約束したもんね、あの時」

ひとみは昔を思い出して言った
梨華が汲み取って欲しい思いとは別な事に静かに微笑む

そして二人はあの当事の事を思い出す
398 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:11
ひとみの記憶は
小さい時あの町の梨華の家の近くの空家に転がり込んでいた時からだった

それまでは親の存在も知らず、どこで生まれてどこで育ったのかもわからないが
気がつくと汚い格好で真っ暗な家の床で倒れていた

それを梨華の両親が見つけて世話を焼いてくれたのだ
梨華の両親のどちらかは鳥族だったのか
本人でさえ解らないひとみの過去に何があったのかを見たのかもしれないが
何故か役人に見つからないようにしていてくれた

それからは、自分で食べ物をとりに行く事も覚え
近所の工事現場とかを手伝ってお金をもらう事も出来るようになった

そして数年がたつある日事件は起きた

梨華の両親が役人に逆らったという事で
大勢の前で見せしめのように処刑されてしまったのだ

両親は何か感じ取っていたのか
ひとみの元に遊びにこさせていて無事だった梨華

もちろん処刑の場には二人とも行かせてもらえなかったが
優しい振りをしながらおせっかいな周りの人が両親がどうなったのか色々教えてくれた

かわいそうに思った隣人達が梨華の住むあの家を世話してくれた
だが残された梨華は毎日泣くばかりで、ひとみはどうしていいのか解らなかった
399 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:14
ひとみはうっすらと、自分の為に両親は殺されたのかもしれないと思っていた

何故そう思ったのかは自分でも解っていなかったが
漠然とそうじゃないかと負い目を感じていた

知らない自分に優しくしてくれた親子を悲しい思いさせてしまったのは自分だから
この子はにはもう悲しい思いをさせてはならない
だから、梨華の事は一生自分が守らないといけないと心に誓っていた

昼間は新しい梨華の家で一緒にいる事が多かったが、夜には自分の家に帰っていたひとみ
だがある日から、梨華が一人になるのが怖いと泣き出し



『ひとみちゃんがいないと生きていけないようっ、帰っちゃやだよう』

と泣かれて、結局ひとみは一緒に住む事になった



『ずっと守ってあげるから、優しい梨華ちゃんでいてね』

暮らし始めた日に泣き止まない梨華を抱きしめながら言った言葉



今より幼かった時の小さな約束



それからの2人は、その言葉通り仲良く暮らして行ったのだ




「梨華ちゃん」
「何?」
「頑張ろうね」
「うん」

2人は微笑みながら歩く
400 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:16
その様子を後ろから眺めている矢口と藤本は

「お前、石川の事好きなんじゃなかったのかよ」

「はい・・・・・でも、ちょっと調子に乗ってたから・・・・
もっと梨華ちゃんの気持考えてやらないとって思って」

「何かしたのかよ、あいつに」

「はぁ・・・・・・」

藤本は肩を落とし見る見る落ち込んだ

「どうしたんだよ」

「昨日ですね、一生懸命銃の練習してる梨華ちゃん見てたら
なんか変な気持になっちゃって・・・・つい・・・・」

「つい?」

「はぁ・・・・ついキスしちゃって・・・・・
そしたら梨華ちゃん泣いてしまったんですよ・・・・・
だから・・・・反省してしばらく近づかないようにしようかなって」

「はぁ・・・・・そうか・・・・つい・・・・・なぁ」
腕を前で組んで悩む矢口
401 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:18
「はい・・・多分・・・初めてだったんじゃないかなぁって・・・・
なのによしこじゃなくて美貴がウッカリしちゃったから」

「でもさ、お前としては好きって気持があった訳だろ
まぁ、しょうがないっちゃしょうがないんじゃね〜か?」

加護やら辻やらにしょっちゅうキスされている矢口には
初めてだからと泣いてしまう梨華の気持ちが解らず
何と言っていいのか解らないので、仕方なくそう言ってしまっていた

「ですかね〜」

落ち込んだまま肩を下げて帰って来ない藤本に

「おいらもあるよ、つい・・・・その・・・・・キスしたくなってしまった事」

しどろもどろになりながらもなんとか力になりそうな事はないかとそう言う

「あります?矢口さんでも」

少し興味があるのかさっきまで落ち込んでたのに俯いたまま
キラキラした視線を矢口に向けた

「ま・・・まぁな・・・・おいらは未遂だけどな・・・・いつも」
「その・・・・王子・・・じゃなくって矢口さんの場合は姫でしたね、その姫に?」
「ああ・・・・それ以外誰がいんだよ」

恥ずかしがる矢口に、自分の事はさておく藤本
402 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:19
「まだ矢口さんは役目を終えてないんでしたっけ?」

さらに顔を真っ赤にしている矢口を、明らかにからかいに入った

「そうだよっ、ってか何でお前にこんな暴露話しなきゃいけないんだよ
おいらはお前が落ち込んでるからだなぁ」
「わかってますよぉ、ありがとうございます」
「ったく、まじで恥ずかしいよ、こんな話」

手をパタパタと顔の前で動かしあちーあちーと言っている

「かわいっ、矢口さん・・・・でも何でまだやってないんです?」
「やってないとか言うなよっ・・・・・・・その・・・・
姫はおいらより3つも下だからさ・・・・・大切にしてあげたかったんだよ
そろそろかなっておもってたら、なんだかYの国に親善の為に行く事になって・・・・・」

そのままクーデターとかなって・・・・って一瞬悲しそうな顔をするが
雰囲気を変える様にぴゅ〜っと藤本が口笛を吹くので驚く矢口

「優しいですね〜っ、さすが矢口さんっ」
「くっそ、あっち〜っ、あの王子はいくつなんだよ、年上だろっ、おいらとは違う」
「まぁ・・・・美貴より4つ上ですからね・・・・
ずっと美貴が大人になるの待っててくれたみたいだし」

何を思い出したのか藤本も赤くなった

「いっしょじゃね〜か、だったら・・・もうやめっ、恥ずかしいっつ〜のっ、こんな話」

結局2人で赤くなって終わった
403 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:21
「だ・・・だからよ、石川には普通に接してやれよ、さっき寂しがってたぞ」
「え?」

驚きと嬉しさの顔を矢口に向ける

「ほんとですか?」
「ああ」

優しい顔で頷く矢口

「そっか・・・・梨華ちゃん・・・・そっか」

ひとみと仲良く何か話しながら歩いている
幸せそうな梨華を見ながら藤本も笑顔になっていった

「おい、だからさ、一緒に旅する仲間なんだからよ、仲良くしてくれよな」
「ええ、もちろんです・・・・そっか・・・・
まぁ、今のところはよしこには敵わないけど・・・・ゆっくり攻めますね」
「おっ、もう復活かよ、ゲンキンなやつだなぁ」
「矢口さんのおかげですよ」
「まぁいいや、元気になってくれれば」

そう言って、少し昔の事を思い出しながら歩いていると
パンッと銃声が聞こえた

矢口と藤本で瞬時に力を使ってひとみと梨華を押し倒すと
確実に今ひとみ達のいた場所を弾が通っていく

加護達はすでに木の上へ逃げていた
404 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:25
遠くの木の陰にこそこそと豆粒程の大きさの人影・・・・
20人位だろうか・・・が、姿を現した

「お前らは族か」

木陰からザッと姿を現す男が叫んでくる

「だったらどうした、いきなり撃つとは卑怯だぞ」

矢口が梨華を木の陰に隠しながら答える

「ダックスかっ、シープか、何しにこの先へ行く」

藤本もひとみを梨華と一緒の場所へ隠すと矢口の横に立ち睨みつける

「ダックス?私たちはただYの国へ向っている」

良く通る声で言う矢口

「Yの国だと?いいからこの先の町には入るな」
「入らずにYの国へ行ければ私達は構わない」

遠くにいた集団の内三人があっという間に矢口達の前に立ち
二人も微動だにせずに対峙する

バーミンが熱を帯びたのでひとみと梨華は眼をこらし
なんとかそれを捕らえる事が出来たが、もし攻撃されていたらすでに死んでると二人は感じた

矢口達以外に複数の敵の族を見た事はない二人

矢口は梨華を一度見る、力を使えという意味を梨華は理解する
405 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:28
30歳位だろうか、集団のリーダーのような人物・・・
ひとみより少し大きい位の身長の中肉中背だが
しまった感じの体をした甘い顔の男がしゃべり出した

「この先の町は俺達バーニーズの物だ、よそ者には手は出させない」
「あなた達の街に興味はありませんので
じゃあ道を教えて下さい、町を通らずにYの国へ向う道を」

絶対に通さないという静かな勢いの男に
一歩も引かずに矢口が落ち着いて言う

地図では、藤本のいた町からもう一本道があったが
すごく遠回りの為こっちの道を選択していた
Yの国へ姫を渡す際、Yの国が何故遠回りの道を選択して帰っていったのか
気にならなかった訳ではないが、こういう事かと矢口は一人納得した

「そんな道はない」

後ろにいた20歳位の四角い顔をした大柄で筋肉質の男が一言呟く
勝手に町を迂回して山から行け・・・と笑う

矢口は藤本と顔を見合す

「ちょっと町を通る位いいじゃないですか」

藤本がキレたように呟いたので慌てて矢口が言う

「本当に通るだけですので、通して貰う訳には行きませんか?」

すがるような矢口の言葉に
リーダーらしき男がしばらく考える
406 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:29
「何故、女性ばかりで旅を?」
「私の大切な人に会いに行くだけです」

矢口が男の目をしっかりと見据えて言う
その視線をしばらく受け止めていた男がフンっと鼻で笑う

「物好きだな、いいよ、その代わり俺らがあんたらが町から出る迄
な真似しないよう付いて行くがな」
「いいですよ」
「矢口さんっ」

何か裏のありそうな男の言葉に乗った矢口に慌てる藤本
藤本が言った名前にリーダーが反応した

「お前・・・矢口っていうのか?」
「そうですけど」

三人が顔を見合わせて笑い出す
407 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:31
「まさか、こんなチビが矢口」「ほんとなら軍隊も大した事ね〜な」「まったくだ」

三人の言葉に藤本が動きそうな所を矢口が腕を掴んで止めた

「私達はこの通り女ばかりです、手荒な真似はしないでもらうと助かるんですが」
「解ったよ、じゃあ行こうか」

矢口が梨華に眼をやり、梨華は頷く、嘘はついていないようだ
加護達も降りて来て、ひとみと梨華も矢口が手で合図してそばにやってきた

「誰が連れて行く?」
「俺が行くよ」
「しかし瞬さんが行けば、ここにシープの奴らやダックスの奴らが責めてきたら困ります」

三人はもめている

矢口は先ほどからの会話で旧Eの国が昔の戦で敗れた時から
王族には統治されていない国だという事は健太郎から聞いていた

一時期 Jの国の支配下に置かれようとしたが
あまりの族の多さから結局手をひいたらしい

その後は、小規模の族がリーダーとなる集団が
小競り合いを長年繰り返してるという話だ

さっきから出ているシープとかダックスとかいう名前は
その集団の名前なんだろうと矢口は理解した
408 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:33
四角い顔の男を辻と加護が見上げて様子を伺うと
ジロッと見られて矢口の後ろにひっついてきた

リーダーとも四角い顔とも違う男が梨華に近づいてにやにやしだしたので
藤本がその男と梨華の間に入りひとみが梨華を引っ張った

「何もしやしね〜よ」
「ん、なんだ辰雄、どうした」

矢口の横を歩いているリーダーの瞬と呼ばれる男が振り返った

「いや、何でもありません」

その様子を見て矢口が言う

「瞬さん・・・でしたよね、ここは町からどれ位離れてるんですか?」
「ああ、まだまだあるんだが、狩りに出た奴から
ここら辺によく敵が出没してるって聞いてるからな、何があるか調べに来たんだ」
「遠いなら何故あんな場所に出るんでしょうね」

つい思った事を口に出す矢口

「やはりそう思うか」
「まぁ・・・普通に」
「あの辺りに何かあるんじゃないかと思うんだが
あれだけの人数で探ってもまだ解らないんだ」

「何か宝物でもあるんちゃう?」

加護がこそっと呟いた

四角い男がジロッと睨む
加護達は今度は梨華の隣に逃げた
409 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:37
「いや、そうかもしれないなと思って、昔俺達の親父らの時の戦で
王族が自分達の財宝をどこかに隠したという噂はあった
何しろ城がもぬけの殻だったのは確かだからな、おっとしゃべりすぎた」
「関係ないですよ、ただの旅人ですから」
「・・・・・とりあえず、事情を話してくるから」

と言い、三人は一瞬で集団に戻った
切り立った崖のような岩肌を横に、少しずつ話しながら歩いていく

「矢口さん、あの人、なんとなく悪い人ではなさそうでした
あ、さっきの辰雄とかいう人は気持悪かったですけど」

言ってる事と同じ事しか考えてなかった感じです
と少し疲れた感じで言う

「そっか、なんか・・・仲良くすればいいのにな」
「それと、矢口さんの名前が出た時に、あのリーダーの人の頭に
老人の顔が浮かんで来たんです、もしかして矢口さんのおじいさんかなぁって」
「んじゃ、おいらのじいちゃんの顔思い浮かべるから見比べてみろよ」

梨華に手を差し出した、手に取って目をつぶり少しすると

「う〜ん・・・違う・・・かな・・・・すみません」
「いや、いいよ、何かつながりはあるのかもしんないけどな
多分おいらの悪行の方の噂で笑ってただけだろ」
「でも何であのリーダーがわざわざついてくるんでしょうかね」

藤本が聞いて来る

「おいらもそれが気になってたんだよなぁ
仲間が困るって言ってるのにわざわざおいら達についてくるなんて」
410 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:39
「この中の誰かに惚れちゃったんじゃないの?」

藤本の言葉に苦笑するみんな

「親びんどうしやしょ、嫁にされたら」

加護がのっかる

「しょうがないから涙で見送るよ」
「親びーん」

すがりつく加護

「嘘だよ、まだやらね〜よ」

大きな男の族に初めて会ったから不安なのか、加護と辻は矢口に抱きつく

「なんだよ、お前ら、大丈夫だよ」

緊張感があるのかないのか
微笑んでる藤本が瞬と呼ばれる男がこっちに来る事を知らせる

「あ、来たよ矢口さん」

だが急にひとみが言う
「あれ、矢口さん、バーミンが」

瞬という男もさっきの2人も普通に確認できる
なぜ、と思うと加護がピクッと切立った崖の上に顔を向け

「上から誰か来ます」
「瞬さん、誰か来る」

叫ぶ矢口と藤本でひとみと梨華を
とりあえず近くの岩陰に隠すと
すぐに真上の丘から二人の族が現れ集団に銃を撃ちこみ始め2人が倒れる
411 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:43
一斉に集団が見えない敵に撃ち始めるが
あちこち動きまわり当たる事はなかった

「吉澤どうだ、見えるか」
「う・・・・うん、少し」

本当に断片的にしか見えない為少し怖いと思うひとみ

「石川は」
「見えます」

梨華はしっかりとした視線で頷いた

「よし」

相手が見えるか見えないかでは雲泥の差がある
矢口はほっと胸を撫で下ろす

しだいにひとみ達は緊張感からなのか
2人の族の動きがだんだん見えるようになっていった

ひらりひらりと2人の族は集団の弾をかわす
そして、瞬達三人が応戦するからと叫び銃を撃つのをやめさせ剣を持って敵へと向った

キンッキンッとあちこちで音をたてながら戦っている

すると矢口達が隠れている側の丘の上に馬に乗った違う集団の音がしだす
それに気づいた瞬達の集団が一斉に丘の上を見る

だが丘の上から瞬達の集団へ銃撃を始めた
412 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:45
「おいおい勘弁してくれよ」

矢口が呟く
どうやらここは丘からは死角になるらしく気づかれていない

瞬達の集団もあまりの銃弾に木や岩陰に隠れ
戦っていた族の二人も丘の上へ戻り、瞬達も集団へと戻った

「おいっ、バーニーズの野郎どもっ、ここから早く撤退しろ」
「何だお前ら、ダックスか?シープか?
ここはうちのシマだ、何故ここをうろついてる」

瞬が尋ねた

「答える理由はないっ、死にたくなければどけっ」

睨み合いと、探り合う二つの集団の間で辻がこそこそと言い出す

「親びん、なんか・・・匂うんです」
「何が?」

矢口一行は辻に注目する

「風向きによると、あっち・・・・かなぁ」

瞬達がいる方の後ろにそびえる山の頂上を指差す
413 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:47
「何のにおいがするんだ?」
「何か・・・・鉄錆の匂いかなぁ、そんな感じ」

「もしかしたらそのEの国の財宝があの山の上に隠してあるとか?」
藤本が言う

「いくら辻の嗅覚がすごくても、あそこから匂いがわかる位だから
なんかすごい量なんだろうな」
「でも、そんな事今言ったら大変な事になるよ」

ひとみが矢口を見て言う

「だな、とにかく早く収まる事を祈ろう」

押し問答を続けていた二つのチームは
埒があかないのか丘の上のリーダーらしき族の男の一声で
一斉に銃弾を撃ち出した

あまりの量の多さに瞬達も動けない上に、数人が血を流し始めた
弾が無くなったのか、銃声が少なくなると瞬が一人丘の上へ上がった
相手も瞬が見えているのか的確に瞬に銃弾を集める

しかし全てギリギリの所で避けると、何人かに撃ちこみ
背後にまわったようで矢口達からは見えなくなった
414 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:52
「瞬って奴チャレンジャーですね」

藤本が感心した

「大丈夫かな」

矢口も心配しだす
相変わらず少ないながらも銃声と剣を合わせる音がしている

ふいに矢口達のいる岩場の近くに一人の男が落ちてきた
瞬ではなく、さっき見た族の一人で既に死んでいるようだった

声を出しそうになった梨華の口と目をひとみが押さえた
そして瞬の仲間の族が慌てて3.4人上へ行った

さっきの二人の内の片割れが目の前に現れ、矢口達と眼が合う
その人は死んだ仲間を抱き寄せ
涙目になりながらも矢口を睨み上へ仲間を連れて上がって行った

するとすぐに「今回はひくがまたお前らがいたら今度は皆殺しだからな」
と上からさっきの男の声がして馬の足音が遠ざかって行った
415 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 22:55
「親びん、あの人泣いてたね」
「ああ、大事な仲間を失うのを解ってるのに、何が目的であんな風に戦ってるんだろうな」

寂しそうな視線を上へ向けている矢口の視線が下へと向った
その視線の先には血まみれの瞬が2人に抱えられて降りて来た

「瞬さんも怪我しちゃってる」

美貴が瞬を見て言うと

「まぁ、族同士がやりあえば血は出るよな」

矢口は吐き捨てるように言って瞬達の後を追うように歩き出した

「ちょっ、矢口さんっ」

ひとみも矢口の後を追う

「お前は石川のそばにいろよ」

一蹴されて追い返される、それを見て美貴が

「辻ちゃん、加護ちゃん、2人の事頼むね」

と言葉を残し矢口を追うと美貴は追い返される事はなかった
416 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 23:01
「なんだお前は、関係ない奴はあっちにいろ」

一番多い集団の瞬の周りにいた一人に
銃口をむけられながら矢口は怒鳴られる

ひるむ事なく矢口は近づき
瞬が手当てを受けているのを確認すると回りを見渡す

集団が怪我人に手当てをほどこすように散らばっている
瞬はお腹と足に一発ずつ銃弾を浴びていたが
四角い顔の男から舐められて止血をしていた
辰雄も撃たれた人の傷口を舐めている

数箇所に散らばる怪我人の内、一番近くにいて叫んでいる所に近づく

「宗司っ、しっかりしろっ、宗司」

宗司という人は、死んでいるようだった
矢口はその死んでいる仲間を抱き寄せている方に近づき

「あなたも怪我してますよね、私も族なので、ちょっと傷見せて下さい」
「余計な事するなっ、よそ者には関係ない、触るな」

その言葉を気にするでもなく矢口は腰からナイフを取り出した

「なっ、何をする、来るな」と矢口に向って銃を放った

遠くで見ていたひとみが思わず立ち上がるが加護達に止められる

矢口は銃弾を避けその男の銃を持った手をゆっくりと掴み下げさせた
ナイフでその男のズボンを切り裂き、撃たれた足を見て血をふき取り、舐めると
切り取ったズボンを起用に細長く加工し傷口に蒔いた
417 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 23:04
美貴は矢口のその様子を見て、別の怪我人の所に行き

「一応、私も治癒力がありますので・・・傷、見せて下さい」

同じように肩を撃たれた人の服を脱がし、傷口を舐め出した
うめいている負傷者に四人は次々に治療をしていく

手の空いた怪我をしていない人は死んだ人を並べてすすり泣く
全員の治療が終わった頃、ずっと座って様子を見ていた瞬が矢口に話し掛ける

「矢口・・・・・さんだったよね」
「ええ」
「そんな事をしても、俺達はよそ者は信用しないよ
特に王族付きの族とか・・・無事に俺達の町を通りたかったらおとなしくしてな」

さっきの戦いで気が高ぶっているのか瞬の言葉は先程より凄みを増していた

「別に信用なんてしてもらわなくてもいいです
ただの通りがかりの旅人なんだから、な、藤本」
「まぁ・・・・・怪我人には当然の行為をしてるだけだと思いますが」

治療を終えた2人は、ひとみ達の所へ戻ろうと歩きながら瞬を睨みつける。

その視線を交互に見る瞬は、しばらくして笑い出した
418 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 23:06
「女のくせにすごい度胸だな、あんた達」
「私達も伊達に修羅場をくぐってないですからね」

にっこりと微笑んで話す矢口に瞬はみとれた
だが、顔をあげて大声を上げる

「よしっ、一旦町に全員で帰ろう、この場所にはまた改めてくればいい」

男達が「はい」と口々に言って立ち上がる
三人が死亡、半分が怪我人になってしまったようだ

怪我をしなかった男達が遠くの林に繋いでいる馬達を取りに行き
亡くなった仲間を馬に乗せる

「矢口さん達は馬には乗れるかい?」

怪我しているくせに自分で力を使って馬の所にいき
馬に乗ってもう一頭を連れて帰って来て言った

「まぁ、一応」
「あの子達は?」

まだ岩陰に隠れて様子を伺っている四人の方を向いて笑う

「ええ、乗れます」

ひとみが勝田達の所で乗っていたのを頭に浮かべた

「良かった、怪我人が沢山出てしまったからね
二人で乗らないと乗れない人や・・・・亡骸を連れると・・・・馬が余るんだ
乗って着いて来てくれるとありがたいんだが」

「こっちも助かりますから、もちろんかまいませんよ
でも大丈夫ですか?その怪我で」
「まぁ、慣れてるし、大丈夫」
「そうですか、じゃあ藤本、荷物取って来ようか」
「はい」
419 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 23:09
瞬が連れて来た馬に藤本と乗ってひとみ達の所に行ったら
四人が飛び出てきた

「「矢口さん」」
「「親びん」」
「なんだよ、お前ら、そんな顔して」
「だって心配で・・・間近で撃たれたりしてたし」

梨華が胸の前に手を組み矢口達を見上げた

「ああ、そっか悪かったよ、心配してくれたんだな
ま、見てのとおりだからさ、藤本、説明してやれよ」

「なんか、一旦町に帰るから死んだり怪我した人たちが乗ってきた馬に乗ってくれってさ
みんな馬乗れるんだね」

「え・・・・・」
梨華が声を出した

「なんだ、石川、乗れないのか?」
恥ずかしそうに頷く

「ありゃりゃ、じゃあよしこに乗せてもらえばいいじゃん」

矢口の後ろから藤本はそう言いながら降りて荷物を持ち
矢口の分を矢口に渡す

「そうだな、吉澤は乗ってたよな、勝田さん達の所で」

ひとみは頷き、矢口はそれでいいのかよという視線を藤本に送るが藤本は笑っていた
420 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 23:11
「でも大丈夫?あの人達急に襲って来たりしないよね」

ひとみに言われて瞬達に視線をやると
自分達が進もうとしていた道の先の方へと馬を歩かせて矢口達にこっちに来いと手で合図していた

「大丈夫だろ、そんな風には見えなかったよ、あの瞬って奴」
「またすぐそうやって信用する」

ひとみが肩を窄めてため息をつくと、全員が荷物を持ち歩き出した

「よっちゃん親びんは人を見る眼は確かだよ
だからよっちゃん達とも仲良くなれたし」

「せやせや、親びんが言うなら間違いない、行こ行こ
何かおいしいもん食べさせてもらえるかもしれへんし」

「またそれかよ、さっきの戦い見てたろ、そんなのんきな状況じゃないぞ
仲間が三人死んでしまったんだからさ
あんまり無神経な事を言うとお前らが食べられちまうぞ、発言には気をつけろよ」

「「へ〜い」」

瞬の側まで来ると、丁度5頭の馬が用意されていた
421 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 23:12
「すみません、一人乗れないみたいで4頭でいいです」
「そうか、じゃああの娘のかついている重そうな荷物を載せて俺が引くよ」
「瞬さんは怪我してるじゃないですか、おいらがひくから大丈夫です」

瞬は微笑むと

「じゃあ頼む、急いで帰りたいからちゃんとついて来てくれ」

ひとみの荷物を馬にくくりつけ
全員が馬に乗るのを見て瞬の号令で馬が駆け出す

辻と加護が攣られるように駆けていく

「行くよ、梨華ちゃん」
「うん」

ひとみが抱き締めるように前に梨華を乗せて
優しく言って駆け出したのを後ろから矢口と藤本が確認して最後尾に駆け出す
422 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 23:14
「藤本、妬けるか?」

「妬けますねぇ・・・・でも、梨華ちゃんが幸せそうなんで
とりあえずはよしって感じですかね」

藤本の優しい顔に矢口も思わず微笑み

「お前って奴は・・・・んじゃ最後尾はまかせたぞ
おいらちょっとあの瞬って奴と話してくる」

そう言うと、引いている馬の手綱にも器用に指示を与え
二頭の馬で同じ速度で前へと駆けていく

瞬は矢口達の事を気に掛けてくれているのか、集団の最後尾につけていた
並んで矢口が話し掛ける

「さっきの人達とは面識あるんですか?」
「いや、初めてだった」
「なんとかっていうチームの人なのかは解らないんですか?」
「ここら辺のチームは3つあるんだが、ずうっと争っているから
代表者の顔はだいたい覚えているんだが、新たな敵が現れたと考えた方がいいな」
「どうしてそんなに争うんですか?」
「君には関係ないよ」

聞いた瞬間に冷たい顔になり馬に早く走るよう指示して先へと進んで行った
423 名前:dogs 投稿日:2006/06/19(月) 23:15
本日はこのへんで
424 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/20(火) 00:24
連日更新お疲れ様です。
いしよしかと思えばよしやぐかと思えばみきりかかと思えば・・・
むむむっ
425 名前: 投稿日:2006/06/25(日) 00:44
424:名無飼育さん
レスありがとうございます

う〜ん・・・むむむむむっ
426 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 00:47
ひとみと加護がつけていたバーミンが光る

「親びんっ、族がいます」

加護が叫ぶと、瞬が集団の最後尾に近づこうとした時に
瞬に向って横から矢が飛び出て来るのが解った

矢口が咄嗟に力を使い飛び掛るとその矢をナイフで切った

すると、上から網が投げられ
矢口達前方に気を取られていた辻と加護に被さる

「!!!!!」

落馬する2人と、馬を止めるひとみ達

「「痛たたたた」」

瞬時に矢口が辻達に近づくが
網は茂みに向ってあっという間に引きずられていく

瞬も助けに来ようと馬から飛び降りたけど、怪我が痛いのか蹲ってしまった
427 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 00:50

「「親び〜ん」」
「辻ぃ、加護ぉ」「辻ちゃん加護ちゃんっ」

引きずられる綱を切ろうと、矢口と藤本がナイフを抜き網に近づいた所に
茂みから十人位飛び出てきて加護達を囲み、三人が矢口達に向ってくる

しかも矢口と藤本に切りかかるのは族だったので五人は姿を消し
ひとみ達には何が起こったのか全く解らなかったのであっけにとられて突っ立っていた

その間に引きずられていた辻加護を担いだ男達が走っていく

「「親び〜ん」」すぐに小さくなっていく叫び声と
「ウォンウォン」と追いかける勘太の声も小さくなっていく

担ぐ男達の周りの男から勘太も銃で撃たれている
何とか避けているのをひとみ達が見て追おうとするが
銃声に怯えたのか馬が言う事をきかない

ひとみ達はやっと自分達の状況をわかり
馬から下りて銃で加護達を担いだ男達を狙うが回りにいる人達は盾を持っている為防がれた
それどころか銃声と金属の当たる音が近くを飛び回る中
自分達が何も身を隠す物がない事に気づき慌てて二人で木の陰に逃げた

族と戦いながらも矢口達はひとみ達が隠れていくのを見て
まだ戦い慣れていない二人がいる事に気づく

「藤本、吉澤達を頼むつ」
「はいっ」

追おうとする矢口に、去っていく敵が
後ろ向きに走りながらも味方の族ではなく的確に矢口達に弾を集める
その攻撃になかなか追う事が出来ない
428 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 00:54
返事をしたもののひとみ達に近づく事さえ出来ない藤本は
今まで会った事のないタイプの族の攻撃に戸惑った

健太郎が言っていたセオリーの無い動きが二人を苦しめる
だが二人の心では、敵がひとみ達に目もくれていない事に少し安心しながら戦う

すでに辻と加護達を担いだ男達は見えなくなりつつあった
二人とも相手の戦闘能力の高さと敵が自分達より一人多い事に徐々に焦る

「くそっ、何なんだっ、お前らっ」

口はそう言い、隙を見て銃で遠くなっていく人達を撃つが
盾で防御され当たらなかった

組織的、計画的な全員の動きになすすべのない矢口達

相手の族も疲れて来たのか少し動きの鈍くなった隙を逃さず一人を吹き飛ばし
丁度藤本へ二人がかりで攻撃しようとした男の後ろから撃つと肩口に当たり落下していった

ひとみが梨華を後ろにかばいながら
最初に矢口に吹き飛ばされた族に攻撃してるのを見て大丈夫だろうと思い
加護達を追おうとした瞬間、新たな爆発音に立ち止まる
429 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 00:56
瞬の仲間達が、矢口達が襲われた事に気づき戻って来る所を襲われたようだ

今度は二十人位
馬に乗った人間が森の中から現れ瞬達に発砲しだす

蹲っている瞬が避けながら必死に敵を銃で撃つが当たらず
馬も何頭か倒れている
隙を突かれ次々に落馬する瞬達のグループを見て矢口は
最後の族をようやく蹴り飛ばし至近距離から足を銃で撃っている藤本に叫ぶ

「くそっ吉澤っ、石川は隠れてろっ、絶対に出て来るんじゃないぞっ
悪いが藤本、辻と加護を追ってくれっ」
「はいっ」

すぐに藤本がさっき加護達が連れて行かれた方へと消えた
ひとみは木の陰から、石川と共に瞬の仲間達を襲う敵に狙いを定め撃っている

喧騒の中、出てきた人間達は
ある程度ダメージを加えた事を確認すると
次々に加護達が消えた方向と逆方向の林の中に向って走っていく

族の内の二人も血を流しながら
今襲ってきた人間達と一緒の方向へと消えた
430 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 00:58
ようやく静けさが広がり、男達のうめき声だけが響いている

相手も数人が死亡していた

ただ・・・・
族の一人が瀕死の状態で逃げようとしている所を
矢口が胸倉を掴み問いただす

「おいっ、何でおいら達を襲った」
「・・・・・・・・」
「あの2人をどこへ連れて行くつもりだ」
「・・・・・・・・」
「おいっ、何とか言えっ」

激しく揺さぶる矢口の後ろによろよろと瞬が立ち、その男に銃口を向ける

「お前ら、ダックスだな、何が目的だ」

瞬が撃つと男の頬をかすめて地面がはじけた

「次は殺す」

すると男は自分で舌を噛み自ら命を絶った
431 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 00:59
「くそっ、どうしてこんな真似」

矢口は舌打ちをして男から手を離すと立ち上がり
辻達が消えた方へ視線を向ける

「瞬さんっ、こいつらダックスって言ってましたよね
そいつらのいる場所は?」
「行く気か」
「もちろんっ、早く教えて下さい」

矢口はすでに馬に乗っていた
ひとみ達も遅れまいと馬に乗る

「危険だ、三人で行くのは危険すぎる、一度町へ戻り、応援を呼んだ方がいいだろう」
「しかし、まだ間に合う、場所だけでいい、教えて下さい」

言いよどむ瞬にひとみがしびれを切らした

「矢口さんっ、こっちへ行ったのは確かなんだから、こっちへ行こう」

2人が連れて行かれた方を指差す
432 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 01:01
「違うっ、ダックスはむしろ逆だ、こっちへ逃げて行ったのは何か訳がある
何かが起こっている、それが解らないとへたにこの人数で
動くのは危険だろう、また亡骸が増えてしまうだけだ
あの二人を殺さなかったのも何か訳があるからだろう
早く帰って蒔絵様に相談しよう」

その言葉で少し考える矢口が、馬を落ち着かせるようにして言った

「・・・・確かにそうかもしれない、網はカランの蔦で出来ていたようだった
最初から族のおいら達、いや加護達を狙ったんだ」
「ああ、最初に俺に放たれた矢の先には、毒が仕込まれていたから
俺は確実に仕留めようとしてたのにあの子達は捕らえられたんだから」

俺達の集団への攻撃も確実に殺そうとした攻撃だったと・・・・



「美貴ちゃんは・・・・・」

梨華がつぶやく

「ああ、藤本・・・・・追いついたかな・・・・・
とりあえずおいらはここでしばらく待ちます、藤本か勘太が何か知らせに戻ってくるかもしれない」
「・・・・解った、じゃあ俺も一緒に待つ、皆は先を急げ、父上と蒔絵様に報告してくれ」

矢口と瞬がにらみ合う
433 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 01:04
瞬を信じる事にする矢口はすぐに視線をひとみに移す

「吉澤、石川を頼む、後から行くから」

当然自分達も待つと思っていたひとみと梨華は顔を見合わせ
ひとみが反論する

「ウチらも一緒に待つよ」

一瞬考える矢口だが、

「瞬さん、こいつらは見ての通りまだ戦いなれてないんだ
ちゃんと守ってもらえると約束してもらいたい」

「ああ、辰雄、力也、この2人を無事に町へと連れて行ってくれ
二度も助けてくれたし、俺達を気にしたばっかりに
仲間を追う事を躊躇させてしまった、それに、我々もこれ以上仲間を死なせたくない
日が暮れないうちに早く町へ」

新たに怪我をした仲間の傷口を舐めていた2人の族に命令し
四角い顔の男、力也が答えた

「はい、解りました、瞬さんも気をつけて」

矢口と今離れるのは心細いのもあるが
瞬と2人でここに残らせるのも気になった為ぐずる

「吉澤、早く行け」
「だって」
「いいから、早く行け、藤本も馬鹿じゃない
何かあれば必ず何か知らせをよこすはずだ、ある程度待って知らせがなければすぐに追いかけるから」

ひとみ達はその強い口調にしぶしぶ馬の足を進め梨華に廻す手を強めると
ちゃんと集団についていった
434 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 01:06

「また・・・・・仲間が死んでしまった」

ひとみ達が去ってしまった後、瞬がぽつんと呟く
矢口も頭を抱えて道の端に座り込む

「矢口さん達は何者なんだい?本当にあの噂の矢口と同一人物なのか?」

確かに強かったみたいだけどと瞬が強い視線を向ける

「噂って・・・・軍隊を皆殺しにして逃亡中の族って事ですか?」
「ああ、とてもそんな英雄には見えなかったからね」

矢口のそばに立って見下ろしながら尋ねる

「英雄・・・ですか、悪党ではなく」
「我々は王族が嫌いでね、その軍隊をやったんだから
我々の中では英雄扱いだったんだが・・・・こんな小さな女の子とは」

「人を殺したんだから・・・悪党の方でいいですよ」

矢口は俯いて呟く・・・・
頭の中は加護や辻の事が心配で会話は上滑りしているだけだった
435 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 01:08
その様子を見て、瞬が隣に座る

「大丈夫だよ、きっと殺しはしない
わざわざこんなに人間を犠牲にしてまで生け捕りにしていったんだから」

それを聞いて矢口は顔をあげ、真剣な眼差しで瞬に話し掛ける

「もう一度・・・聞きますが、どうしてそんなに争うんですか?」

隣にいた瞬が立ち上がり
向こう側で草を食べている馬を足を引きずりながら連れて来て話し出す

「関係ないとは・・・・もう言えないようになってしまったようだな
・・・・・親父の代に大きな戦争があったのは知ってるか?」
「ええ、昨日聞きました」
「昨日?誰に」
「酒巻健太郎さんって人と昨日会って色々教えてもらいました」

名前を聞いた瞬間に瞬の目は見開かれた
436 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 01:09
「酒巻・・・健太郎?」
「知ってるんですか?」
「ああ、シープの頭だった人だ」
「え?そんな人だったんですか、あの人」

瞬が詮索するような眼差しで驚いてる矢口を見ている

「そんな人とどうして知り合いに?」
「知り合いっていうか、寝泊りしようとしてた家にその人がいたんです
でも偶然私のじいちゃんの昔の友達だったみたいで驚きました」

瞬も驚いた表情をしてさらに聞く

「君の名前・・・・矢口・・・・もしや矢口真之介の・・・・・」

矢口も祖父をこの人も知っている事に驚き、

「あなたも・・・・じいちゃんの事・・・・・」

頷くと再び隣に座り話し出した
437 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 01:13
頷くと再び隣に座り話し出した

昔、Eの国の王族が滅んだ時の戦は
矢口真之介の裏切りにより負けたという事は健太郎からも聞いていた

その際分裂した族のリーダー格は、元々仲が悪く
矢口の存在によって一つに束ねられただけの集団だった

戦で死んだ王の息子が、負けた責任をそのリーダー格と軍の上層部の責任とし追放
その後Jの国に取り入り、再び支配下におこうと画策するが
邪魔する様に各リーダーが小さな集落に拠点を置きだし、逆にEの国の王都で残った王族を抹殺

小さな集落は徐々に変貌を遂げ、追放された瞬の父親と
もう一人の族のリーダー、それに酒巻健太郎が追いやられた人達と
それぞれ独立した町を築いた

瞬の父親がバーニーズの町

もう一人がダックス

そして元軍隊の町シープを酒巻健太郎が率いた

元々王都の繁栄は族達が築いてきたもの
それを知る王都の人達はその村の親しい長の所に集まりだし、徐々に大きくなっていく

バーニーズは鉄鋼が盛んで、ダックスは農業や林業、シープは海の町と
それぞれ土地を生かした街づくりをして来たが
それぞれの足りない物を補う為に、金や物々交換で流通が始まる

その際色々と争い事が起こり、仲良くなる事はなかった

それぞれの町の境目では、常に臨戦態勢が出来ており
物資の交換の際には必ず争いが起こった為、犠牲者の家族にとっても
互いの町は憎い存在として語り継がれ、歩み寄る事はなかった

昔は流通の拠点となっていた王都での繁栄を造った族達がいなくなった旧Eの国とも
その時から関わりはなくなり、閉鎖された独自の世界の中での生活が続くという
438 名前:dogs 投稿日:2006/06/25(日) 01:17
「じゃあ、じいちゃんはどこの町からも裏切り者として語り継がれてるんですね」

瞬の頭には矢口の名前が出た時、誰か老人の顔が浮かんだと梨華が言うが
きっとその話してくれた人の事だろうと勝手に納得した

「いや、それが違うんだ、親父達に言わせると
君のおじいさんのことは仲間として話される事はあっても憎まれている事はない」

穏やかな瞬の顔

「そうなんですか、よかった、おいらじいちゃんは大好きだったんで」

話を聞きながらも、連れ去られた2人が
何故狙われたのかのヒントを探るように聞いていた矢口は、少し笑顔になった

その様子を見て、瞬は不思議な気持になっていた
・・・その後は優しく矢口に質問する

「あの2人や、さらわれた仲間もMの国の王族付きだったのかな」
「いえ、さらわれた2人は、おいらにとっては子供みたいな存在で
もう10年位一緒に暮らしていますが、純粋な族ではないし王族とは無関係です
先にやった二人は、Jの国のある町で特殊部隊に追われてる所を助けてもらって
そして捕まった二人を追いかけた子が、ここから一番近い町で知り合ったんですが
みんなおいらの旅について来るって言ってついて来てしまったんです・・・だから、特に先にやった
2人はどうしても守ってやらないといけなくて、さっきも判断を誤ってしまいました」

「誤る?」

「ええ、すぐに加護達を追いかければ良かったのに、吉澤達も気になってしまって
その為に次の攻撃に対応するのが遅れた、おいらのミスです」

「いや、あれはしょうがないよ、矢口さん一人のせいではない
それを言えば私のミスが全てだ」


矢口は首を振り、再び頭を抱えた
439 名前: 投稿日:2006/06/25(日) 01:18
本日はこのへんで
440 名前:dogs 投稿日:2006/06/26(月) 22:20
その頃、捕まった二人は馬に乗せられある町へと連れて来られていた

藤本は力を使って勘太が追いかけている馬の集団を見つけるが
だだでさえこちらは一人しかいなく、体力的にも不安で助ける事を断念し
気づかれないように後をつけた

町はかなり高い塀で囲まれており、海に面しているようだ

全力でかけていく馬達に
ほどほどの力を使って追いかける藤本の体力は限界だった
朦朧とする意識の中、塀の所に武装して終結している50人位の人と共に
門が開くのを待っている所で止まった

敵が増えすぎた為なすすべがない

勘太も同じようで少し離れた集団の後方で敵と睨みあうだけのようだった

しばらくするとギギッと門が開きだす
門が開くと、辻と加護が降ろされ
代わりに向こうから縄で縛られた女の子が現れる

しかし、その後ろにはものすごい数の兵隊が待機していた

藤本は、あの子と引換えに加護と辻が連れて行かれるんだと思い
この場で助けに行く体力がない事は
下手すると加護達まで危ない目に合わせてしまうと悩んだ

それに敵は人間だとしてもすごい数でかないっこない
441 名前:dogs 投稿日:2006/06/26(月) 22:23
お互いの代表者に引きずられるように各集団の前に出され向き合う

すると中にいた武装した集団がいきなり全員発砲し
外の族達も兵も一度ちりぢりになる

一気に中の兵達が外に出てきて辺りに発砲しながら加護達を囲み
その子も加護達も中にひきずられて門が閉められた

唖然とする人達

我に返ったのか外の人達が門を叩き口々に叫ぶ
約束が違うじゃね〜か、汚ね〜ぞ 
などと門に向って発砲を繰り返すが鉄製の門では相手にならない

高い外壁はまっすぐではなく、外側に反り返って作られている
これでは族も侵入できそうに無い

何人か負傷者も出たらしく、死者も連れて引き返してくる

「戦争だ」「今度こそここの奴らを皆殺しにしてやる」
等と言いながら馬に乗って怒りの形相で帰って来る
442 名前:dogs 投稿日:2006/06/26(月) 22:27
先頭の男が藤本が乗っている木の前を通ると
キッと突然藤本を睨みつける。

枝を見上げ話し出すと集団が止まり
勘太が回りこんで藤本の下にやってくる

「ついて来てるのは解っていた、残念だがお前の仲間も役には立たなかったな」
「あの子はどうして捕まってるの?それに私の仲間をどうして」

藤本は、そのまま木の上から話し掛ける

「あの子はうちの最高司令官のお嬢様で、この前の定期交渉の場でさらわれた
君の仲間の事はどうしてだか俺達にもわからん」

先頭の男の隣の若い男が言うと

「あんた達には気の毒だが
これから帰って全面戦争の準備をする事になるので先を急ぐ、じゃあな」

去ろうとする男が馬を動かしだすと
藤本は最後の力を振り絞って勘太の隣に降り立ち、その先頭の男に近づく
近くの何人かが藤本に銃をむけたがひるまずに話し掛ける

「ちょっと待ってよ、あの女の人を救えばいいんでしょ
勝手に私の仲間連れ出しておいて、それはないんじゃない?
どうせ助けないといけなくなっちゃったし
あの子も一緒に連れ出せば戦争なんてしなくてもいいでしょ、だからもう少し時間を頂戴」

藤本には何の計画もなかったし
どうやって救い出せばいいのかの検討もついていない状態でのハッタリだった
443 名前:dogs 投稿日:2006/06/26(月) 22:31
しかし、これだけの人数相手に一人で
堂々と男の前に立つ藤本に脅威を覚える男達

「出来る訳ないだろ、俺達でさえあの中には今まではいる事は出来なかったのだから
それに、最近のシープの悪行は目に余るものがある
わが町の兵力であの壁を壊し、この町を乗っ取る
これは長年の私達の争いの最終決戦となるだろう、お嬢様の事はただのきっかけだ
遅かれ早かれ戦争は開始される運命にあった、今更止める事は出来きんよ
・・・・まぁ・・・しかし、お前の事を試してみるのも面白い
そうだな、二日やろう、二日後の朝までに
お嬢様を我々の町まで連れてこれたら戦はとりあえず延期しよう」

「二日?そんなんじゃ何も出来ません」

「ああ、だから無駄だ、我々の戦の準備期間なだけだ
それにどれだけの時間あってもお前には何も出来はしないだろうし、元々貴様らには関係ない」

「ふざけないでよっ、何も関係ない私達の事襲って来ておいて
何も関係ないとか何も出来ないとかおかしくない?」

闘志むき出しで睨みつける藤本の迫力に押されたのか
関係の無い者を巻き込んだ負い目なのか、銃をつきつける周りの人達を制する動きをし

「じゃあどれくらい必要だ?俺達もそんなには待てん
お嬢様がその間に殺されるかもしれんのだから」

「何勝手な事言ってんの?あんた達がこんだけの人数かかって今まで助け出せなかったのを
私達四人でやろうとするのよ、一週間はいるでしょ
それでも短い位なのに、それに今まで生かしてるのは確認出来てるんだから
また何か言ってくる迄無事に決まってるじゃない、それ位頂戴よ」

鋭い眼光に押される感じの男は息を呑む
444 名前:dogs 投稿日:2006/06/26(月) 22:33


「解った・・・・じゃあ一週間やろう、それ以上は待てん」



その一言に少し冷静さを取り戻した藤本は

「ありがとうございます。でも、どうやっても戦には持ち込むつもりなんですね」
「ああ、そういう運命だ、我々は長年その機会を狙ってきた、今がその時だ」

何を言っても無駄だと藤本は思ったが、その争いに加護と辻が巻き込まれるのは避けたい

「わかりました一週間ですね、それと、私はこの町の事何も知りません
できれば何か教えて下さい」

「本当に何も知らない旅人だったのか、バーニーズに連れられてたから
てっきり奴らと関わりのある奴とばかり思っていたが」

首を振る藤本に、先頭の男がもう一人の若い男を藤本に付き添わせる事を命令した

そしてその若い族らしき男一人と馬を一頭残して
藤本達がやって来た道とは違う道から去って行った
445 名前:dogs 投稿日:2006/06/26(月) 22:35
「さてと、どうするつもりだい、俺は加藤 勝」

若い族があきれたように言うと
藤本は緊張の糸が切れたのかへたりと座り込み、勘太が近寄り顔を舐める

「はぁ・・藤本美貴です、じゃあ、今からさっきの場所まで帰ってもらえますか?」
「ああ、でも悪いが君の仲間は俺らの仲間から殺された可能性が高いと思うが」

あの子達を連れて行くとき振り返ってチラッと見てたが
予定通りの動きだったし・・・おそらくもう・・・・と言うと

「いや、矢口さんは絶対生きてます」

へたりこんでいながらも強い視線で男を見る
446 名前:dogs 投稿日:2006/06/26(月) 22:37
「矢口・・・・矢口ってあの矢口かMの国で軍隊を殺戮して逃亡してるという」

藤本は何もいわなかったが、男は無言を肯定と取り納得した

「どうりで戦い慣れてるはずだ・・・・でもなぜバーニーズと一緒に」
「あそこの近くで争ってる場面に出くわして
彼らの町を通って旅する所だったんで連れられてただけです」

ようやく足に力が入りだしたのか
立ち上がって土を払うと残されていた馬に乗った

「早く乗ってください、時間がありませんから、走りながら色々聞かせて下さい」

藤本が前に乗り手綱を握る
447 名前: 投稿日:2006/06/26(月) 22:38
本日はちょこっとで
448 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/27(火) 23:43
更新乙です。
最近見つけて一気に読みました。
作者さんの更新スピードに頭が下がります。

矢口がとても魅力的ですね。
わんちゃんたちの過去や今後の展開もとても気になります。
次回更新も楽しみにしてます。
449 名前: 投稿日:2006/06/28(水) 22:23
448:名無飼育さん
ひっそりしてるのに見つけて頂きありがとうございます。

一応出てる人物が皆魅力的に見えたらいいなとは思ってるんですがなかなか・・・

ちなみに昨日読み返してみて突っ込み所がありすぎてヘコんでます、間違い多いし・・・

グダグダと続いてきますんで暇つぶし程度にご覧下さい
450 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:26
加護と辻、そして元から捕まっていた女の子と共に
目隠しをされ歩かされると悪臭漂う場所に連れて行かれた

特に鼻のいい辻は泣きそうな顔をしていたが、目隠しを取られて床に転がされる

兵隊達が鉄の格子に鍵を閉めて出て行くと
二人はキョロキョロと辺りを見渡す


どうやらここは牢屋のようだ


暗くてよく見えないが他にも何個か牢屋があり
人が何人か入っている気配がある


「あいぼん、のん達どうなるんだろ」

辻が加護の腕にからみついて不安そうに聞く

「大丈夫、きっと親びんが助けに来てくれるって」
「うん・・・・・でも、何で連れて来られたんだろ」

「さぁ・・・・・何でやろ、あの網は確実にウチら2人を狙ってたもんなぁ
あ〜あかんなぁウチら・・・あの矢に気を取られてて気づくのが遅かったんや」



「あの・・・・」

先程から加護たちの話を聞いていた女の子が話し掛けて来た
451 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:28
「あなた達は族?」

にこっと笑いかけてくる

「ハーフです、完全な族じゃないんやけど、あなたは?
さっきウチらと交換されようとしてたのにまた捕まってしもうて」

「そうなの・・・・あ、私はダックスの安倍なつみって言います
なっちって呼んで、あなた達は?」

牢屋の中に閉じ込められているのに
とても明るい笑顔をして話し掛けて来るこの人に、加護達も警戒心はなく

「加護亜依です、あいぼんと呼んで下さい」
「辻希美です、ののと呼んで下さい」

と友達にでも自己紹介するように笑って答えた

「あいぼんとののはバーニーズ?」
「Mの国から来ました、何ですのん?そのバーニングとかガッタス?とかは」

演技とは思えない間違えっぷりにクスりと笑ったが
てっきりバーニーズから連れて来られた子達とばかり思っていたなつみは首を捻る
452 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:30
「町の名前だよ、ここの町は3つに別れてるの
昔はひとつの町だったらしいけど父が若い時に別れて以来
ずっと争いを続けているの」

「なんかそんなような事言うてたな、健太郎さんも」
「健太郎?酒巻健太郎?」
「うん、何で知ってるん?」
「だって・・・・ここシープの頭だった人だよ」
「そうなん?」「そうなの?」

知らなかったね〜と二人は感心してしまっていた

「そっちこそどうしてそんな人と?」

少し疑う感じで見てくるので
昨日宿まった所に偶然居合わせた事を言うと、なつみは再び首を捻る

「そう・・・・・じゃあどうしてここに連れて来られたの?」
「それはこっちが聞きたいんですぅ」

言ってる所でガチャガチャとまた人が入って来る音がしだした
453 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:32
「ちび達、桂様がお呼びだ」

鍵を開けて銃をつきつけられながら両腕を後ろでに縛られ
再び体をぐるぐる巻きにされて目隠しをされ2人は連れて行かれる

その様子を見ていたなつみが
桂・・・・秀子・・・・と呟くのを加護は聞き逃さなかった

そして、大きな屋敷の中で大勢の兵隊が綺麗に整列する中
赤いじゅうたんの上に座らされた所で目隠しを取られる
目の前には豪華な椅子に座る一人の老人、そしてその横には老婆が杖をついて立っている

「桂様、この者達が、わが町に災いをもたらすという子供達に間違いはないのですね」

老婆が杖を加護達に向けて目を瞑り、しばらくして頷く

「東条様をこの地へ迎え入れ、この災いの主達を生贄にし
竜神様の怒りを解けばこの町に栄光が訪れるとお告げがありました」

加護達は生贄という言葉にビビるし、どうして自分達が災いの主なのか訳がわからない
454 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:36
「うむ・・・・お告げ通り、東条様もここに現れ
また6人組の旅人が現れるという予言も当たった、その内子供が2人いる事も当たっている
桂様はどういうお方なんです?」

尊敬の眼差しを向ける老人に、謙遜するように老婆が言う

「ただのおいぼれ預言者です、後は、牢やの娘と
後に現れるであろう娘を戦わせ、勝った方をお孫殿の嫁にすれば
最強のご子息が生まれるでありましょう」

「ふぉっふぉっ、聞いたか、よかったな、俊樹、あの娘もなかなかの器量よしだし
これから現れる娘も楽しみじゃないか」

「・・・・・・・・」

加護と辻は、老人や周囲の視線の先にいる兵隊の列の一番前にいる人を見た
まだ二十代後半の、細面でなかなかの男前だったが、返事をする事もなくただ黙って立っていた

「なんだ、何か意見でもあるのか 俊樹」
「お言葉ですが、健太郎様がいなくなられてからというもの、父上は変わられました」

2人は健太郎が本当にこの町にいた人だったんだぁ〜とのんびり思っていた

「何、私に意見すると」

「いえ・・・・ただ最近町で強盗や、強姦が多発しております・・・・・
この町の栄光は・・・我々の手で築くものではないかと・・・・・」

「お前は、何も解っておらぬな、治安が悪いからこそ
こうして桂様や東条様に手伝っていただいて皆を幸せにし、強大な町を作るのじゃ」

「しかし父上、今日もダックスとの約束を破ったせいで、ダックスは黙っていません
きっと大群でこの町を襲うでしょう」

「ええい黙れ、この前からお前はわしにたてついてばかりではないか
もうよい、俊樹は下がれしばらく部屋から出るな」

加護と辻は、その途端に老婆がにやりと笑うのを見逃さなかった
455 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:37
「それでは、この子供達は、後日竜神様に差出します
それまで牢に入れておけ」

再び目隠しをされてなつみのいる牢へと戻る
二人は匂いや音を注意深く記憶しながら帰った

牢から誰もいなくなった所で加護は話し出した

「こんな時親びんがいたらなぁ、どうするのの
このまま生贄になるのをここで大人しく待っとくしかないんかな」
「生贄?」

なつみが話しに入って来る

「そうなんです、なんか占い師みたいな老婆がのの達が来るのを予言して
のの達を竜神?様に差し出せば町が繁栄するみたいな」

真剣な表情で二人の話を聞くなつみ

「やっぱり・・・・桂秀子・・・・ダックスの町にも来たわ
父のとりつかれた霊から守るとか言って近づいて来て・・・でも父は信じずに追い出したけど」

「「あの婆さんインチキ野郎だったんだ」」

二人は顔を見合わせて頷く
456 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:39
「あの俊樹・・・やったっけ、あの人はそれを見抜いてるけど
どうしようもない感じやったしな」

「どうしよう、あいぼん、なんとかこの事を親びんに知らせる事は出来ないかなぁ」

「う〜ん、せめて勘太がここにいてこのことを知らせてくれてれば・・・・
だいたい親びん達は無事やったのかなぁ、網の中から見たらいっぱい人が
出て来て撃ちまくってたし・・・・・それに・・・・・・
よっちゃん達は銃弾なんて見えへんもんなぁ・・・・ウチらの事だって未だ見えへんかったし」

「そんな事言わないでよっ、あいぼん、大丈夫、よっちゃんも頑張ってたし
梨華ちゃんだって一杯銃撃つ練習してたもん
きっと平気だよ、みんな生きてるっ、そしてきっと助けに来てくれるよ」

しっかりとした眼差しで見詰め合う2人の様子を見ていたなつみは
思わず2人に近づき抱き締めた

「こんなに小さいのに・・・それに生贄なんて今時・・・・
よし、なっちも根性入れなきゃね、大丈夫なっちがついてるから
これでもなっち一応、族だから、チャンスを絶対に作って逃げ出そう、ね」

「「うん」」

初めて会う人だが、その腕の中はほっとするのを覚え
何の戸惑いも生まれる事なく2人は頷いた
457 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:39



458 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:44
藤本は馬を走らせる間、ダックスとシープの確執等を聞きながら馬の足を急がせた
暗くなった頃、襲われた場所に漸く近づいて来た

一方、待つ間ずっと町の確執の話や互いの情報を話していたが
矢口はどんどん加護達が心配になり無口になっていった

やがて気を紛らわすように矢口は立ち上がって
近くに落ちてる枝を拾い林の中で土の柔らかい所を探すと穴を掘り出した

何をしてるのかと瞬は思うが、どうやら矢口はダックスの亡骸を埋める為の穴を掘り出したと知る
瞬は始め馬鹿にするように矢口の様子をずっと見ていたが
辺りが暗くなる頃には何も考えないうちに体が動いていた

「怪我人だし、無理しない方がいいんじゃないですか?」
「いや、このまま待つのも暇だし、怪我はもう治ったよ」

一応怪我人だからあまり力は入らないが
ヨロヨロと少しずつ矢口がほぐした土を手でかき出す瞬を見て矢口は少し微笑む
そしてずうっと2人は無言のまま穴を掘り続けた

矢口は掛けてくる馬のひづめの音に気づき
瞬と目を合わせると静かに掘った穴に入りしゃがみこむ
その方向を見つめ銃を準備するが
影が見え藤本と解ると安堵の表情を浮かべ立ち上がり道へと出て行く
459 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:46
藤本も、暗闇の中影が二つ出てくるのが見えた

「矢口さんっ」

笑顔を見せる藤本

「藤本っ、良かった無事で、それで加護と辻は」

馬から飛び降りた藤本が矢口に飛びつく
しっかり抱き締めた後体を離して報告を聞こうと見上げた

「はい、とりあえず無事です、シープという町に連れていかれました」
「シープ?」

と言う瞬が、藤本と一緒に来た男と睨みあう

「お前・・・若林か」
「そういうお前は、ダックスの加藤だな」

汗をびっしりとかいた瞬が睨みをきかせさらにドスのきいた声を発する
460 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:48
「どういうつもりだ、こんな女子供を襲って、しかも何故シープに連れて行く」

2人の間に藤本が割って入った

「瞬さん、この人たち、シープの町に大事な娘さんをさらわれたらしいんです
その娘を返してほしければこの道を通りかかる6人の旅人の中の子供を
2人連れて来いと言われて、その通り加護ちゃんと辻ちゃんを連れて行ったんです
・・・なのに返してもらえなくって」

「加藤・・・・みすみす騙されるなんて、お前達も落ちたな」
「お前らだって、怪我人ばかりだったじゃないか、お前もそんなざまだしな
誰と戦ったか知らないが」

至近距離で2人がにらみ合うのを藤本と矢口は口を開けて見ていたが

「あれ、矢口さん、梨華ちゃんとよしこは?」
「ああ、ここにいる方が危険なんで、先に瞬さんの仲間に町に連れて行ってもらった」
「そうですか」

藤本がそれを聞いて一度瞬に眼をやるが
瞬が安心しろという感じで頷いてくれるので少しほっとした
461 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:49
「藤本、それで何か策があって戻って来たんだろ、あれ、勘太は?」

「はい、それがすごい城壁に囲まれた町で、とても中に入る事が出来なかったんで
一度矢口さんに相談しようと思って戻って来たんです
勘太には、門の所で見張ってもらっています、中に入るチャンスがあれば入ってもいいって言って」

「さすがだな藤本、それにほんとに無事で良かった」

ポンと二の腕の部分を叩く

「ええ、加藤さんの上司が私のお願いを聞いてくれて
でも矢口さん・・・・あと一週間の間に、その娘さんを助けないと
戦争を起こすそうです」

「何?シープとダックスがか?」

それを聞いた瞬が叫び、藤本が頷く

「だから、それまでに加護ちゃん達と一緒に助けないと、どうなるか」
「加藤・・・本気か?」

加藤を鋭い目で聞く瞬の顔色は悪いが辺りが暗くてみんなには解らない
462 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:51
「本気だ、最近のシープの悪行は目に余る・・・・
なつみさんを少しでも傷つけたらそれこそ本気で皆殺しだ」

「シープって健太郎さんのいた町でしょ、どうしてそんなに急におかしくなったんだろ」

矢口が腕を組み頭を傾ける

「それは酒巻健太郎がいなくなったからだけど・・・・それだけかな
ダックスは何か知らないのか、例えばこの先の場所を最近シープの奴らが
何かを探して出没しているんだが、それはどうしてかとか」

「いや・・・・何も知らない・・・・・一体シープで何が起こっているのか」



四人はシープのある方向を見る


「とりあえず、バーニーズの町へ行こう、加藤さん・・・は
藤本に協力してくれる為に来たんですよね」

「まぁ・・・見張りのような感じになるのかな
俺らはまずなつみさんが無事に帰ればそれでいい」

「瞬さん、いいですよね、加藤さんをバーニーズに連れて行っても
それともダックスとシープの争いや、加護達の事は自分達には関係ない事だと」

矢口のするどい視線が月明かりに照らされる
463 名前:dogs 投稿日:2006/06/28(水) 22:53
「・・・・・・いや・・・・何か起こってるのは感じている
これは他人事ではない、加藤、この際今までの事は忘れて町に来てくれ」

加藤は複雑な表情をするが、ようやく頷く

「その前にあと1人分、埋めてやりたいから手伝ってくんない
もうへとへとだよ、穴堀ばっかやってて」

矢口が藤本と加藤に棒切れを渡すと二人の手が土で汚れているのに気づく

「埋めてくれてたんだ・・・・・仲間の亡骸を・・・」

並べてある亡骸を見て、それが誰か解ると少し加藤が目を潤ませている

「謝りはしませんよ、襲って来たのはそっちです・・・・
でも、そのまま放置するのは気の毒だから」

瞬は矢口を見るが、矢口が踵を返して元掘っていた穴へと近づき続きを掘り出す

しばらく四人で無言で作業し、ようやく全員を埋め終わると
四人は手を合わせて馬に乗り月明かりを頼りに道を駆け出した
464 名前: 投稿日:2006/06/28(水) 22:53
本日はここ迄
465 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/29(木) 16:13
なんか今回大変そうだぁ…
466 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/29(木) 19:45
おもしろい
続き楽しみにしてます
467 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/29(木) 22:37
更新乙です。
いや、もちろんみんな魅力的ですよ。
さてさて新しく登場した彼女はなに族なのか楽しみです。
468 名前: 投稿日:2006/07/02(日) 00:51
465〜467名無飼育さん
レスありがとうございます

う〜ん、大変な状況にしてしまいました

これからチョコチョコ色んなメンバー出していけたらと思ってますので
楽しんで頂けたら光栄です

469 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 00:56
ひとみ達がバーニーズに到着する頃には、とっぷりと日が暮れてしまった
死者と怪我人が増え、そうそう早駆けもできない為ペースが落ちた

また突然襲われはしないかという緊張と
やはり矢口と藤本がいない事でひとみと梨華は明らかに不安になっていた

加護や辻の、苦しそうに助けを求めている姿が容易に想像できる事も嫌だった
どちらかが、あの2人大丈夫かなぁと口に出す事で、それが現実になってしまいそうで何も話せない
だからバーニーズに着くまでの長旅も一言も会話をしなかった

バーニーズも高い塀に囲まれている
鋼鉄の門が開くと中は沢山の家が立ち並び、人通りこそ夜で少ないが
かなりの人口がいるように思えた

馬の足音を聞いて人々が通りに出て来るが
知っている仲間の死体を見ると泣き出したり、怪我人で知り合いがいれば大丈夫かと声をかけ
その中にいるひとみと梨華の事は
まるで敵に対するような眼でみんな見ていた

「なんか・・・怖いね・・・みんなの視線」
「うん・・・でも、ウチら悪い事してないんだから堂々としてればいいんだよ」

亡骸を家族に返すと言い、馬達はちりぢりになっていく
そうして残った力也に連れられ町の真ん中ぐらいにある塀に囲まれた場所にたどり着く
470 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:00
壁に囲まれた広い領地の中にある大きな屋敷の庭へと馬をつなぎ
中に入れられた

「遅かったな、瞬はどうした」

中から出て来た60ぐらいの男と、その横に10歳・・・
もう少し小さい男の子が出て来ると、帰って来た男達は膝をつき頭を下げた

「はっ、例の場所であいついで敵に襲われ
その際居合わせた旅人の一人とその場所にて策を練ってます」
「何、やはり襲われたか、シープか、ダックスか」
「最初の襲って来た集団は見た事のない集団で瞬さんの攻撃で退散していきましたが
しかし、後で襲って来たダックスは旅人を誘拐、我々を攻撃し立ち去りました」

それを聞いて頷くとひとみ達を睨む

「この女達は」

梨華は、矢口の名前を出した時に瞬の頭の中に浮かんでいた顔と
目の前の男が一致する事に気づき、矢口のおじいさんとの繋がりがあると解った

「ただの旅人のようです、この者達の仲間を誘拐されてしまい
その為戦闘能力の無いこの者達だけ連れて帰れと瞬さんの指示で・・・
怪我の治療をしてくれたり、ダックスを倒すのも手伝ってくれた人の仲間なので
丁重に扱って欲しいと若林様に伝えろと」

「そうか・・・・・・あいつは義理堅いからなぁ
しかしこの世の中に戦闘能力も無く旅をするとはよっぽどのアホか、命知らずだな、名前は」
471 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:02
「吉澤ひとみです」
「石川梨華です」

二人は臆することなく静かに言う

「なかなかの器量だ、まぁいい瞬が言うなら一応客人として家に泊まりなさい
それで力也あの場所には何か見つかったか」
「いえ・・・・・何も、それと、宗司や・・・他に3名が死にました」
「宗司が・・・・・あいつはやっと子供が生まれたばかりなのに・・・・・
奥さんや家族のもとに返してあげたか?」
「はいっ、今手分けして連れて帰ってあげてます」
「そうか・・・・・残念だ・・・・お前も疲れたろ、今日はもう休みなさい
明日じっくり事情を聞き、蒔絵様に報告しよう、それに葬儀の宴もしなければ」

梨華は神経を尖らせ、この主人の中を見た

しかし、瞬を心配してるようだし、言葉と感情の差はなく
まっすぐな人物なように思えた

ひとみは瞬の父親の後ろにいる男の子と眼が合う

「ん?」

とひとみが言うと、瞬間に姿を消した
472 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:04
族のようで力を使って蹴りを入れて来たのだが、子供という事ではっきりその眼で見る事が出来た
梨華もはっきり見えたので二人は咄嗟に横へ避けて男の子を見た

「こらっ、亮っ、やめなさい」

ひとみと梨華が眼を合わせるのをみはからって
亮と呼ばれる男の子が普通にひとみのお腹を殴って奥へ消えて行った

「ぐへっ、な、なんだよあのガキ」

あまりに子供らしい攻撃に避ける事もできなかったひとみは思わず声を漏らす

「ひとみちゃんっ」

子供の家族が目の前にいるのにっ、という眼でひとみを睨み肘でつつくと
目の前の若林という人に頭をさげる

「すまない、母親が死んでからこの家に町の人以外の女の人が来るのははじめてなもんだから
少し興奮してるんだろう、とりあえず中に入って話を聞かせてもらえるとありがたいのだが」

「「はい」」

2人は家の中に入った
473 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:06
ここは、目の前の若林峰男と呼ばれる人が頭になっており
峰男の奥さんらしい人もおらず、息子の瞬と孫の亮とで暮らしていると自分で説明してくれた

この屋敷に隣接された建物に護衛のように力也や辰雄等独身の兵が住んでいる
その隣接されている建物で空いてる部屋が沢山ある為
そこに泊めてもらえるらしい

その前に、峰男の屋敷の広間に連れて行かれ
いつもは会議等に使われているだろう広いテーブルの端と端に対峙して座っている

もちろんひとみ達の荷物や、武器は没収された

「それで、君達はどうして旅をしている」
「・・・・・・私達は・・・・ある人に会いに行く旅をしています」

ひとみは何はしゃべってもいい事なのか
どこまで話せばいいのかの判断がつかなかった

「ある人?誰かねそれは」

それを見て梨華が話し始める
474 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:09
「私達は6人で旅をしていて、その中のリーダーの人が
大切な人と訳あって別れ別れになってしまったので、その人と会う為に
命をかけて旅をしているんです、だから、この町やダックス・・・だとか
そんな争いには全く無関係なんです」

「6人の内4人もダックスに誘拐されてしまったという訳か」

あくまでも探るような視線を梨華へと向けていた

「いえ・・・・その内2人で・・・・一人はその2人を追跡して
一人は瞬さんと一緒に襲われた場所で追跡した子からの連絡を待ってます」

「君達は見た所人間のようだが、他の子も人間なのか?」

そして机の上に手を組んで、梨華に向って目を逸らさず静かに質問する

「いえ・・・・四人は族です、だから、私達が危険な目に会うといけないので
瞬さんの事を信頼したうちのリーダーが先に私達をこの町に・・・・」

自分も族だという事は告げなかった
族とはいえ何の戦闘能力のない自分が族だというのも気がひけるし
鳥族だとわかると色々面倒な気がしたのだ

「うむ・・・・良く解った、どうやら本当にダックスでもシープでもなさそうだ
我々の町は互いに探り合って長年争って来たのでな
よそ者の事は信用しないんだが、瞬が君達をここによこすという事は
君達はよほど気に入られたんだろう、しかもその仲間と一緒に
この町の外で、見ず知らずの子の為に何かをするなんてよっぽどの事だ」

ひとみは思わず口を開きそうになった

きっと息子は矢口に惹かれたからですよ・・・・と
475 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:11
ひとみがそんな事を考えている間に梨華が口を開く

「あの・・・・・・どうしてその・・・・ダックス・・・とかと争ってるんですか?」

「まぁ・・・・単純に昔から仲が悪かった・・・・それだけだな
昔我々はこの先にあるEの国の王都に住んでいたんだが
王族の言う事を聞かなくてな、戦やら色々な事があったり
悪さばかりしてたから結局追い出されてしまったんだが
まぁ、俺達族の中でも一際強くて優しい男が王族の特殊部隊と仲良くなってしまってな」

ひとみと梨華がハッと何かを気づいたのを峰男は見逃さなかった

「何か知ってるのか」

途端に少しすごみの聞いた声を発した

「少し前・・・それと似たような話を聞いて・・・」

ひとみは思わず口に出す
476 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:13
「少し前?誰に」

峰男の片繭がぴくりと動く

「名前言っても知らないよね、きっと」
「うん・・・・酒巻健太郎さんって人と会って」
「健太郎と?どこで会った、あいつは一月以上前に姿を消したと聞いたが」

2人共目の前の人物が健太郎と知り合いだというのに驚く

「知ってるんですか?」

その反応に峰男の方が驚く

「知ってるも何も、その男がシープの頭だった奴だよ」
「「ええっ?」」

峰男は2人の驚きが面白かったのか

「君達は本当にこの町の事について知らないんだな
よくそんなんで旅をしているなぁ」

「「あ・・・・はい・・・・すみません」」

何故か謝る二人に、少し和まされたのか笑顔を見せ出した
477 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:17
「謝る事はない続きは明日にしよう
君達が敵でない事は十分解ったからもう寝なさい
その仲間も瞬がついていれば無事着くだろうから」

どうやら峰男はひとみ達に対しての警戒心は解いてくれたようだ


しかし、ひとみは解せなかった、健太郎を語るその顔は
敵の事を語る顔ではなかったような気がしたから

そして信頼を裏付けるように没収された荷物もひとみ達に返してくれた
それも武器まで

一番奥の部屋を私達に貸して貰えるらしく、一人の男に隣接する建物に続く長い廊下へ案内され
そこ迄で二人きりにされ歩いていくと、途中の部屋から背の高い整った顔の男が顔を除かせた

ひとみは梨華を後ろに隠し咄嗟に銃を握り「何だよ」と睨んだ

その男がひとみを下から上まで眺めると何も言わず扉を閉めた

二人は何だ?と首をひねりながら顔を見合わせ、ひとみが梨華の背を押して歩き出し
指定された部屋へは警戒するように勢い良くドアを開けて端に一度隠れてから中を伺う

誰もいなかったし、梨華に気配を呼んでもらってから
先に梨華を入れて扉を閉め鍵を掛けた
478 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:19
中はベッドが二つ置いてあり、少し前までは人が住んでいたと思わせた

「ここに住んでた人・・・・死んじゃったんだね、きっと」
「うん、そうみたいだね・・・・・ねぇ梨華ちゃん、何か解った事ある?」

緊張が解けた2人はコソコソと話し出す

「ううん・・・・ただあの若林さんって人、悪い人じゃないと思う・・・・・
あっ、さっき顔出した人はひとみちゃんの事気に入ったみたいだったけど」

「やめてよ、あんな訳わかんない男・・・・・それよりどうして加護達が狙われたのか
何が起こってるのか全然解んないんだもん」

そうだねと頷く梨華

「最初に瞬さん達に会った場所の事・・・・若林さんに言う?
のんちゃんの鼻があの山頂に鉄の匂いを感じた事」

「でも、鉄の匂いでしょ、別にそれを探して争ってる訳でもなさそうだし
・・・・関係ないんじゃないかなぁ」

「矢口さんだったら、どんな風に考えるのかなぁ・・・・・」
「うん・・・・」

ひとみは矢口という名前を聞いてすぐに窓の外へ視線をやる

「とにかく私達は何も出来ないんだから、休んで少しでも体力つけておかないと」
「そうだね・・・・矢口さん達が来た時に足手まといになりたくないからね」

ひとみが言った後、2人は口を聞く事はなかった
479 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:21
梨華は自分の口から矢口を思い出させるような事を言い
すぐにその反応は現れた事によって一人先にベッドに入った

ひとみは矢口が心配だった

もちろん加護達の事も心配している・・・だから口には出せない
だが、瞬という男の矢口を見る眼が途中で変わったのをひとみは見逃さなかったのだ

今頃2人きりで何をしているのだろう・・・・

そんな事を今考えるべきではないのは解っているのに
頭に浮かぶのはその事ばかりだった

ひとみはベットからずっと窓の外を眺め
梨華は布団を頭迄かぶったまま眠れぬ夜を過ごした
480 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:22



481 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:24
矢口達が岩場の影で横になっている

早駆けしだした後
馬の上で意識を失いかけている瞬を藤本と2人で乗っていた馬の上から気づき
止まらせ横にならせたのだ

その際瞬が、町に早く着きたいので行くというのを矢口が強引に寝かせた
そして穴掘りで動いた為に開いたと思われる傷口をもう一度舐めて治療し
矢口の持っていたリュックを下にひいて藤本が一枚持っていた毛布を瞬に掛けてあげた
後の三人は、近くで丸くなり休んだ

しかし、しばらく時間がたつと矢口は体を伸ばし
木々の間から見える月を眺めた

かさかさと体を動かした際に聞こえるかすかな音で
くっついて寝ていた藤本がこそこそと話し掛ける

「寝れないんですか?矢口さん」
「あ、ごめん、起こしたか?」
「いえ・・・・美貴も寝れなかったから・・・・何、考えてたんですか?」
「ああ・・・・・加護達今頃お腹すかしてないかなぁって思って」
「あは、あの2人食いしん坊でしたもんね」
「だろ・・・襲われる前に何か食わしてあげてたらよかったなぁって」
「・・・・・・ですね」
482 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:27
矢口が懐かしそうに月を見ている横顔を
藤本は何と言って励ませばいいか考えたが、そのうち矢口が静かに語り出す

「あいつらさ・・・・・まだ小さい時に両親を殺されて
・・・・おいらの家に来てからは泣いてばっかで大変だったんだ」

「へぇ」

「あの2人が何も食べずに部屋にこもってずうっと泣いててさ・・・・
おいらもその頃十歳位だったし、姉妹なんてものもいなかったし
どうしていいかわかんなくてさ・・・・・でも3日目にどうしてもお腹がすいたみたいで・・・・・
おいら達が食べてる所に照れくさそうに近づいてきてさ・・・・
母さんが渡したパンを俯いて食べ出したんだ・・・その後 恥ずかしそうに笑ってさ
・・・・おいしいって呟いたんだ」

「・・・・・かわいいですね」

あまりにらしくてくすりと笑う藤本は呟く

「あいつららしいだろ、その後はもう2人共両親の事は一切口にしなくなってな
そのうち父ちゃんがおいらに武術やら戦う事を教えてくれる横で
おいらの真似をしだしたんだ・・・・あいつらなりに強くなりたかったんだろうって・・・・
それから父さんとおいらで厳しく鍛えたんだ
そしたら訓練を嫌いになったり反抗したり色々あったんだけどさ・・・・・・
結局おいら達についてきてくれて、いっつも一緒にいて・・・・・だから・・・・
こんな風に離れ離れになった事なんてなくてさ・・・・・・
もし・・・もうあいつらに会えなくなったらって考えると・・・・・怖くて・・・・」

上を向いている矢口の目に光る物が溜まっていくのを藤本はずっと見ていた
483 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:29
藤本はそんな矢口にどんな言葉をかけていいかわからずに
矢口の首に腕を廻して抱き締めた

「ごめんな・・・・こんな弱気な事おいらが言っちゃダメなのに」

そう言うと藤本の手を離させてありがとうといった感じに腕をポンっと叩いて
再び丸まって寝る体勢になった

「でもあいつら2人で連れてかれたのはある意味ラッキーだったよ・・・・
2人で協力して何か考えるだろう、あいつらコンビは最強だから
案外もう逃げ出して先にあの町へ来てたりしてな」

藤本に向って微笑むと眼を閉じた

「そうですね」

優しく言うと藤本も目を瞑った

瞬と加藤もそのやりとりを聞いていたが
しばらくすると静かに眠りに着いた
484 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:31
そして太陽が姿を表した頃、瞬が起き上がる

「矢口、そろそろ行こうか、すまなかった俺の体調のせいで」

昨日色々話しをする間に、
自分の事はさん付けしなくてもいいですよとつげ
その後矢口と呼び捨てにされるようになっていた

「ん・・・おはようございます、もういいんですか?傷口見せて下さい」

寝ぼけ眼で瞬に近づき服をめくり出す

「あ、血は止まってますね、でもあんまり無理しない方がいいですよ
お腹の中の傷までは力は届きませんからね」

自分のお腹を舐める矢口を見て、少し赤くなっている瞬に藤本が気づく

「でももう大丈夫、早く町に行って何かが起こってる事を知らせないと」

自分を取り戻すように瞬が毛布を畳んで藤本に返し
立ち上がって下にひいていた矢口のリュックを返すと馬へと飛び乗った

「じゃあ、行こうか」

三人も馬に飛び乗り、早速駆け出した
485 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:33
やはり町まで遠く、あのまま歩いていたら
何日かかったんだろうなぁと矢口は考えていた

疲れも見せずに走り続けてくれる馬に感謝しながらも
町の門へと着いたのは昼過ぎだった


一方ひとみ達は朝頃にうとうと眠りに着けたが
ばたばたと他の部屋の人たちが集合していく音で起き上がり
自分達も急いで身支度を整え部屋の外へと出た

何が起きたのか解らない2人は
昨日峰男と話した長机のある部屋に集合していくのを見て部屋の様子を外から伺った

「ようやく起きたか、君達も入りなさい」

中から峰男の声がし、昨日部屋から一度覗いた男がドアを開けて
ひとみ達を中へ入れると全員の目がひとみ達に向けられた

そんな中、ひとみ達の反対側の出入り口からパタパタと入ってきて
峰男の前で膝をついて何か報告しだした

その男の報告は、元Eの国の領土だった土地の王族の軍隊が
近辺の山賊やはぐれの族を捕獲しているとの情報が入った という事だった

「そうか・・・・ご苦労、引き続き監視してくれ」
「はい」

その男は出口へと歩き出て行った
486 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:36
「この町以外の場所で何かが起こっていると感じるのは私だけかな
皆はどう思う?」

峰男が皆に問いかける間、梨華は必死に皆の気配を読もうとした

すると梨華の中にはっきりと話し掛けて来る声が聞こえた

『お前、鳥族なのか?』

梨華は眼だけで、全員の顔を見回すが誰もそんな事を話し掛けて来てる顔ではなかった
ハッと後ろを振り向くとさっきドアを開けてくれた色男がにやりと笑っていた

「どうしたの?梨華ちゃん」

ひとみがこそっと聞いて来る
ううん、何でもないと言って前を向いた

一応心の中で呟く

『あなたは私に話し掛けてるんですか?』

『そうだ、鳥族って犬族と違ってばれにくいからね
でも、きみの行動が不審だから覗いてみた普通ここまではっきりしゃべれないよ人間だと』

『そうなんですか・・・でも・・・・薄い鳥族ってところです』

『完全じゃないんだ・・・・
じゃあ他の人が何を考えてるのかとかはあんまり解らないんだね』

『・・・・・・』
487 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:38
『まぁいい、俺もこんなに力を使ってると疲れるからもうやめるが
せいぜい俺達を甘く見ない事だな』
『甘くなんて・・・見てません』
『ならいいが、せいぜい気をつけるんだな』

思わずひとみに少し近づく
ひとみはどうしたんだろうと梨華の顔を覗き込むがキッと凛々しい顔をする梨華の姿に
すぐに峰男の話に興味を移した

力男と峰男が皆に説明を兼ねた感じで
これまで解っている事柄についてまとめていく

まず、あの場所には何かがあるのは確かだという事
シープでもダックスでもない第三の敵がいるという事
町の外で元王族の軍隊が何やら始めようとしている事
ダックスが自分達の町じゃない方向に、旅人である加護達をさらって行った事

「しかし、これだけの情報じゃ、一体何が目的なのかは解らん
・・・・蒔絵様はまだここにおいでにならんのか」
「はい、もうすぐいらっしゃると思います」

「蒔絵様?」
思わずひとみが呟く、昨日も瞬がそんな名前を口にしていたなぁと

その呟きを峰男が聞き、ひとみに答えた

「この町の最高齢者でもあり、予言者でもあるお方だ
何しろ歳なのでここに来るのも大変なんだよ」

そこに丁度「蒔絵様がおいでになりました」と部下が入って来た
488 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:41
その後、すごく小柄で杖をつきながらしわしわの顔をした老婆が入って来た

「峰男、何かあったのか?」

入って来た老婆を、峰男は今まで自分が座っていた椅子へと導き
自分は隣に立った

「はい、蒔絵様がおっしゃられた通り、例の場所に行った所
何者かに襲われたらしいんです、それに王族崩れが町の外で何かを始めていると」

老婆はそれを目を瞑って聞いている
杖を支えにして両手を杖の上に置きしばらく黙り込む

梨華はその老婆の中を必死に見ようとするが
ガードされているのか何も見る事は出来なかった

『無駄だよ、蒔絵様の中は俺も見る事は出来ない』

梨華の行動に気づいたのか、また後ろの男が話し掛けて来る

『鷹男、いたずらに力を使うなと言っているだろ、それにあんた
・・・・あんたはまだ未熟だ、きちんと力を使わないと自分の身が危ないよ』

『え・・・・はい・・・・すみません、気をつけます
・・あの・・・蒔絵様は・・・鳥族なんですか?』

『いや、わたしゃ人間だよ』

驚く梨華はビクッと顔を上げてしまい
ひとみが怪訝そうに梨華を横目で見ていた
489 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:44
周りの人間は、梨華と蒔絵がそんな会話しているとは夢にも思わず
じっと蒔絵の事を見ている

蒔絵は顔を上げ、静かに話し始める

「心配はいらん、多少の犠牲が出るが
ある人の出現でこの町の危機は救われるだろう」

「ある人というのは」

「ああ、もうじき姿を表すだろう
彼女達のひらめきを大切にしなければならないとだけ言っておこうかね」

そう言うと梨華とひとみの前にスススッとやって来て老婆は微笑み
そして何も言わず帰って行った、梨華は老婆を追おうとしてひとみに止められる

さっき言った彼女達というのは矢口達の事なんだろうかと
ひとみと梨華は思っていた

「蒔絵様が、この町の危機と言ったな・・・・・
やはり何か不吉な事が起ころうとしているのか・・・よし、町の警備の強化と防壁の点検を怠るな
後は瞬が帰り、話を聞いた後判断する、皆は昨日犠牲になった者達を弔う準備をするように」

「はいっ」

梨華に力で話し掛けた男と峰男以外全員が部屋を出て行く

「さてと、皆の食事の準備でも始めますか、もちろん手伝ってくれるんですよね」

鷹男と呼ばれた男がひとみ達を見下ろし、ついてこいと言わんばかりにドアを開けた
490 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:46
仕方なく台所らしきところに連れて行かれる途中ひとみに話し掛けられる

「何してたの?バーミンが反応してたけど」
「あ・・・・あの・・・・会話してたの・・・・あの人と蒔絵様と
・・・・鷹男さんって言うんだって前にいるあの人」

聞こえてたのか力を使ってるのか
少し離れて歩いているのに振り返ってひとみに微笑んだ

「会話なんて出来るんだ」

面白くなさそうにひとみが言う

「鷹男さんも鳥族なんだって・・・・でね、蒔絵様は人間みたい・・・
なのにどうしてそんな事出来るんだろうね」

「長く生きたら何かしら力がつくってもんじゃないもんね」

不機嫌なひとみがそう言った途端、台所に入るなり脛を蹴られた

「いって」

咄嗟に梨華を背中に隠すが、すぐに敵があまりにも小さい事に気づき
その敵ににじりよりながら思い切り上から睨みをきかせてすごむ
491 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:47
「昨日から何かつっかかってくるけど、ウチが何かしたかな」

その子は力を使おうとしたのかバーミンが熱を帯びたのを感じ
その子の手を掴んだ

「おい、逃げようったってそうはいかないぞ、何か言えよ」

捕まれた手を離そうとしてもがくが
離してもらえないと知るとひとみの向こう脛をさらに蹴ろうと足を蹴り上げた

「うおっ、あっぶね、ここは蹴られたら痛いんだぞ」
「離せよっ」
「なんだ、しゃべれるんじゃん」

あっという間にひとみに抱えられてしまいジタバタともがいている

鷹男と呼ばれた男は止めるでもなく、笑顔でその様子を見ていた
492 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:51
勝手戸から長い髪の女の人が入って来ると
亮はおとなしくなり、それに気づいたひとみも下に降ろしてあげた

「あら、亮君どうしたの?」

「かおりっ、こいつらよそ者が僕らの事騙して父ちゃん達をまた悲しませるに決まってる
かおりも騙されるなよっ」

「もうっ、亮君は、わかったよ、だから紹介してよ、誰なのか」
「知らね〜よ、父ちゃん置いてとっとと帰って来やがったんだから」

亮はそう言うとかおりと呼ばれた綺麗な人が入って来た戸から出て行った

「いつも素直でかわいい子なんだけど
昔旅人と名乗る族の一団に母親を殺されてしまったから」

「そう・・・なんですか」

梨華は一言言うとひとみと顔を見合わせると鷹男がくすりと笑い口を開いた

「かおりさん、この2人の仲間がダックスからさらわれたんで
人のいい瞬さんが手助けしてるみたいなんです」

「また?結局いっつも騙されたり裏切られたりするのよねぇ、瞬さんは」

「私達は騙したりしてません」

そのやりとりを見てひとみはついカッとなってかおりに言い放った
493 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:54
それを梨華が慌てて止めようと腕をつかむ

「あ、ごめんね、あなた達がどうのって事じゃないの
気を悪くしたならごめんなさい」

「いえ・・・でもウチらは本当にただの旅人で・・・・
この町の人に何かするつもりもなくって・・・・」

ひとみはばつが悪そうにしながらも、まだ腹の虫が納まらないのかぶつぶつと呟いた
さらに鷹男はにやにやとその様子を面白そうに見て

「そろそろ食事の準備始めないと、みんな腹すかして帰って来ますから
始めましょうか、かおりさん」
「そうね、ここに来たって事はあなたたちも手伝ってもらえるのかしら」

その笑顔はうっとりするくらいに綺麗に笑っていた
そして米を研ぎ出したひとみと、野菜を切る手伝いをする梨華に話し掛ける

「私は飯田かおり、ここの隣に住んで代々ずっとこの屋敷の手伝いをしているの」

「あの・・・吉澤ひとみです・・・・さっきはすみません
ついカッとなって・・・Jの国から来ました」

「私も同じくJの国から来た石川梨華です
私達ほんとにこの町とかについては何も知らなくて騙そうとか・・
そういうのじゃ」

「ううん、こちらこそごめんなさい、亮君も心では解ってるんだろうけど
やっぱり小さい時に経験した怖い事や悲しい事はなかなか忘れらないみたいね」

釜で火を焚いている鷹男は、ひとみの中を覗き見たのか

「まぁ、男なら、ぐじぐじそんな事悩まないで強くなりなよってか」

ひとみははっとして米を研ぐ手を止め鷹男を睨む
腕を動かしていたのでバーミンが熱を帯びているのに気がつかなかった
494 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:56
「君は面白いね・・・・驚くほど真っ直ぐだ・・・・珍しいくらいにね」

梨華は仕返しに鷹男の中を見ようとした

「無駄だよ、君くらいの力じゃ俺の中は見る事は出来ない」
「何、石川さんも鳥族?」

力を使うのをやめた梨華と鷹男を苦々しく睨んでいたひとみは顔をあげた
・・・も・・・という事は、2人の頭の中は同じだったようだ

「いえ・・・・そんなに血は濃くないみたいで・・・・もしかしてかおりさんも?」
「ええ、家は代々鳥族だったけど、段々鳥族も少なくなって
この町には私達家族と鷹男さんだけなの、嬉しいわ仲間に会えて、吉澤さんは?」

その質問をされると、俯いてまた手を動かし

「ウチは・・・ただの人間です」

こんなに力を入れて米を研ぐとなくなっちゃうよという位ガシガシと研いでいる

「悪かったね、人間で」と心で呟いたのも鷹男に聞かれていたのか
鷹男が楽しそうに笑っている
495 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 01:57
「仲間がダックスにさらわれたって言ってたけど・・・・何人で旅をしてたの?
あなた達だけじゃすぐ殺されちゃうでしょ」

「ええ、6人いました、後の四人は族なんで・・・いつも守ってもらって
・・・でも2人浚われて・・・今ごろどうしてるか・・・・」

何も話さなくなったひとみのかわりに梨華が答える

「そう・・・それは心配ね、でも、瞬さんが力になるって言ってるんでしょ
だったら大丈夫、きっとまた会えるわ」

梨華はかおりの言葉に頷き、瞬の事を聞く

「はい・・・今助けようと頑張ってる二人も頼りになるし・・・でも・・・・・
あの・・・・瞬さんってどういう人なんですか?」

「そうね、一言で言えば優しい人よ・・・とっても」

かおりの顔は、瞬の事が好きなんだなぁと丸わかりの顔で
ひとみはその顔を見る事なく俯いて大根を洗っていた

「解ります・・・最初は冷たい事を言われたけど・・・・・
結構私達の面倒を見てくれようとしてたし・・・・」

「そうなのよね、でも怪我したって今日聞いて驚いたわ
あの瞬さんが怪我するなんて、大丈夫なのかしら」

「大丈夫ですよ、かおりさん、瞬さんは並の体の持ち主じゃありませんから
撃たれてすぐ馬に乗ってたというし」

鷹男とかおりは笑い会って食事の準備を進めて行った
496 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:00
そして色んな場所にちらばっていた仲間が集合し会議室の広いテーブルで
皆との食事が終わろうとする頃に外から警備の兵が入って来た

「瞬さんが帰って来ましたっ、ですがっ・・・・その・・・」

慌てて入って来たその男は言いよどんでいるのを見て峰男が眉間に皺を寄せた

「どうした、何かあったのか」
「ダックスの加藤が・・・・一緒について来てまして・・・」
「何ぃ?なぜダックス・・・しかも加藤が」

そう言った所で瞬が会議室に入って来た

「父上、ただ今帰りました」

その後ろから矢口と藤本、それに加藤が入って来ると
全員が立ち上がり銃に手をやる

それを見て矢口と藤本が加藤の前に立ち庇う形で全員を見渡した
497 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:02
「瞬・・・・どういう事だ、ダックスの・・・しかも加藤を連れて来るとは・・・・」
「はい、これには訳があります、みんなも銃はしまえ、彼は何もしない」

戸惑いながらみんなが銃を締まっている際に藤本が加藤にこそっと呟く

「加藤さんって有名なの?」

加藤は少し微笑んで首をすくめるだけだった

ひとみと梨華は、矢口達が無事でここに来た事で安心し
そしてまだ加護と辻を連れてはいない事にがっかりした

矢口と藤本も、ひとみと梨華が別に拘束されもせずに
皆と食卓についている事でほっとしていた

互いに視線を合わせると笑って頷き合った
498 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:05
まず瞬からの情報である程度の地理は頭に入っていたが
矢口は正確に知りたいので地図はないかと峰男に尋ねテーブルを片付けた後机に広げた

それから四人も座りその場にいる全員が大きなテーブルに広げられた地図を見ながら
今まであった事を話し出した

瞬や峰男、矢口達の情報を聞いていたその他大勢は黙っていたが
ダックスとシープが戦争を起こすという所では少しざわついた

「うむ、確かにおかしいな、シープがおかしいと思っていたが・・・・
今のを聞くとやはりその背後に何かあるのは間違いない」

全員が頷く

「それで加藤、シープとは本当に戦うつもりなのか?」
「ああ、俺らの町ではもう準備が始まってるだろう、剣を持てる男達はすべて出陣する」
「噂では聞いていたが、定期の商談の席で安倍の娘を拉致するとは、何を考えてるんだシープは」
「それだけじゃない、商談で決まった鮮魚類も約束の日にも渡さないし
俺らの農作物だけはうちの農民を殺して奪って行った
さらに、ウチの町に侵入し、作物を荒らしまわった上
農民の女を襲ったり殺戮を繰り返した、もう許せないんだあいつらを」

「今までもそんなひどい事を?」

矢口が口をはさんだ
499 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:07
「いや、ここ一ヶ月くらいの話だ」
「瞬、健太郎がいなくなったのは聞いてるか」
「はい、矢口に聞きました、それで道々彼女達と話したんですが
そのバックが誰かを探さない限り、事態は解決に向わないと思いまして」

峰男が矢口の名前を聞いて一瞬ピクッとするが
再び腕を組んで頷きながら言う

「確かにそうじゃが、何か策があるのか?」

矢口と瞬が顔を見合わせて頷く

「明後日、定期の商談取引で、この町からシープに鉱石と布が売られて行くと聞きました
それでその中に私を紛れ込ませて欲しいんです」

矢口が言うとすぐに

「矢口さん、また一人で行く気ですか?」

話を聞きながら峰男の隣で終始不機嫌だったひとみが
思わず身を乗り出して声を出す

「まぁ・・・でも、それを運ぶのを手伝ってもらうのは吉澤、お前に頼もうかと思ってな」

思わぬ要請にひとみは驚く
500 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:12
「しかし、ダックスとの商談の際のケースで行けば
今度の商談の場でも何してくるか解らないではないか」

「ですから父上、その際の立会人は、いつもの町民ではなく
辰雄と力也、それと兵隊で行う、何かしてくれば逆にそいつらを捕らえる」

「何事もなければ、私がそのまま潜入して様子を探り
必ず何か情報を持って帰ります、それに旧王族が町の外で山賊とかを捕獲してるんですよね、
だから、藤本と石川・・・すまないがダックスの町へ行って
さらに、ダックスの向こうの町まで足を運んでもらいたい」

「それにはもちろん俺がついていくよ」

矢口に続いて加藤が言う

地図を小さな指で指しながら矢口は作戦を説明する

バーニーズからJの国がある方向と逆側にダックスがあり
その向こうは元Eの国の支配下にあった町へと続く

目の前に広げられた地図も、3つの町の外はあまり詳しく書かれてはいないので
本当に長い間この3つの町での交流しかなかったようだ

峰男も他の兵も、朝方蒔絵様の言った事が頭にあり
誰も反対出来ないでいる

鷹男も矢口の中を見るが、その口から語られた事以外に他意はなく
何の裏もない事を峰男に目で知らせた
501 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:14
そんな峰男に矢口はするどい視線を投げかけ静かに言う

「そして、若林さん・・・・あなたはダックスの安倍さんに会うべきだと
私的には思うのですが」

部下達が、この町の長の若林になんとえらそうに小娘が話をするのか
とでもいうように身を乗り出して睨みつけた

そしてそれを制するように矢口を後押しする瞬に、皆が眼を見開く

「父上・・・・私もそう思います・・・昨日ずっと矢口と話していて・・・
私たちも何か変えなければいけない時期に来たんじゃないかと・・・・」

「・・・・・・・・・」

何も言わずに目を瞑って口をへの字にしたまま固まっている

ひとみと梨華も成り行きを静かに見守る
梨華ももう力を使って何かを探ろうとする事はしなかった
それはすべて鷹男に筒抜けになる為、自分の分をわきまえた行動を取る事にしたのだ
藤本はもし矢口に何かする人が出てきたらいけないと、神経を尖らせた
502 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:18
「君は・・・・矢口・・・と言ったね・・・・もしや最近噂になった・・・・」
「父上、どうもその様です」

途端に部下達がざわめく

「こんな小さな子がMの国の有名人なのも驚くが、それより君は矢口真之介を知っているかね」
「ええ、私の祖父です」

さらに一同がざわめく
一瞬峰男の顔が綻ぶのを横目でひとみが見ていた

「そうか・・・・・・瞬、ダックスやシープの事はじっくり考えるとしよう
一応今日は昨日の犠牲者の弔いの宴をするから、
それまで体を休めなさい、加藤君も矢口さんもな」

矢口の答えに返事はもらえず、若林が奥の部屋へ戻って行く
残された部下達が戸惑った顔をしながら顔を見合わせた
503 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:21
矢口は瞬に眼をやり、首を捻った
瞬はそんな矢口に微笑み

「大丈夫、父上はきっと安倍と会う
そしてこれから新しい俺らの町になるよ、きっと」

瞬の笑顔に矢口も微笑んだ
ひとみと梨華はその様子を遠くから見ていた

「なんか・・・・あの2人いい感じだよね」

つい梨華がひとみに言った言葉に、返事はもらえなかった
そんな2人に、矢口と藤本が近づいて来る

「良かったよ、お前ら2人共ちゃんと正当な扱いされてて
先に行かせたものの少し心配だったんだ、瞬さんは残ってしまったから」
「なんだよ、だからウチらも残るっつったじゃね〜か」

矢口を見ようともしないひとみは
不満だった気持と無事で良かったと思う気持からなのか
藤本にぶつけるように藤本を抱き締める
504 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:23
思わぬ抱擁に驚く藤本は
視線の先で、胸の前に手を組んで嬉しそうにしている梨華を眺めた

「ほんと良かった、美貴ちゃんが無事帰って来て」

梨華の言葉に藤本が微笑み
ひとみは藤本から体を離すと、藤本の後ろの加藤へ眼をやる

「あ、この人加藤さんっていうんだけど、美貴の教育係
色々教えてもらったんだ、ここらの町の事」

「なりゆきだけど、何か面白い事になって来て驚くよ
でも期限は一週間、その間は協力するけど、それが過ぎれば俺も戦闘に参加しに帰るよ」

「私達が取り戻せないと思ってるんだ
大丈夫、絶対なつみさんは取り戻しますから、ね、矢口さん」

「ああ、それに加護と辻も・・・・
だからもう少しそれぞれの行動について詰めたい所だけど
おいら達に少し休憩する時間をくれ、すぐにでも動き出したいけど
取引の日にちは変わらないし、体力つけないと動けないからな」

そう言って微笑む矢口に

「じゃあ、昨日私たちが借りた部屋へ行きましょうか」

梨華が先導しようと歩き出すと、廊下で亮が瞬に飛びついていた

「父ちゃん、なんで昨日帰ってこなかったんだよぉ」
「なんだ、亮、寂しかったのか」

傷口が痛むのか、少しよろめいて抱き上げていた
505 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:26
「ちがうやいっ、父ちゃんが心配やったんやっ、怪我したって聞いたからっ」

瞬が亮のおでこに額をくっつけて

「そうだな、すまん心配かけて、ほら、もうピンピンしてるよ」

四人が立ち止まってその親子の様子を眺めているのを気づいたのか

「矢口、紹介するよ、こいつ俺の息子で亮
亮、あの小さい人が父さんを助けてくれた矢口真里さんと藤本美貴さんだ」

抱きかかえられたまま亮はするどい視線で矢口達を見た

「おっす、亮君、それと瞬さん、小さい人ってのはなしにして下さい
傷つきますから、それに助けてもいないし」

そのやりとりに笑いながら藤本が言う

「へぇ〜、瞬さんって子供がいたんですね、奥さんは?」

その言葉に少し悲しそうな顔を一瞬したが、すぐに笑顔になって

「ん?ああ、死んだよ、こいつが5歳の時かな
そんな事より部屋を用意しないとな、吉澤さん達はどこに昨日泊まった?」
「あ、一番奥の部屋に泊めて頂きました」

不機嫌なひとみに代わり梨華が答える

「そっか、じゃあ、矢口達は一番手前が開いてるからそこで休んでくれ
加藤は俺の部屋でいいか?」

三人は頷き歩き出す
506 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:28
「じゃあ吉澤、石川もさっきの事を少し話し合っててくれ
それに何かいい作戦があったら教えてくれよな」

2人は離れの宿舎の一番手前の部屋に入りドアを閉めた
ひとみが体から不機嫌のオーラを放ちながら歩くと
視線の先で鷹男がドアによっかかって腕を組んでいた

どうも2人は彼がにがてだと思うのである

「どうやら瞬さんは、矢口さんに心奪われてしまったらしいね」

クククと笑ってひとみを見ている

「あんたさ、昨日から感じ悪いけどウチらに何か恨みでもあんの?」

機嫌が悪い所に更に追い討ちをかけられ、我慢できずに言い返した

「いや、別にないよ、恨みどころかとても好意をもってるんだ
だから、どうぞ部屋で作戦について話し合って下さいよ
俺にも関係あるんで後で教えてくれよな」

明後日矢口について取引場所に行く際、鷹男も一緒についていく事になっていたのだ
ひとみはその事についてはシカトをし、
ツカツカと部屋に戻っていき、梨華もすぐに後を追った
507 名前:dogs 投稿日:2006/07/02(日) 02:30
ベッドにどさっと寝転びひとみは壁に向って横になる

梨華は声をかけようかどうか迷ったが
ひとみが不機嫌な原因が痛い程わかってしまい、落ち込みそうなので

「ひとみちゃん、私、かおりさんの所に行ってくるね」

それを聞いてガバッと起き上がって

「どうして?明日からの事考えるんじゃなかったの?」

「ごめんね、でも鳥族の人に会った事なかったし
色々聞きたい事もあって・・・・私皆に迷惑かけたくないから」

「・・・・迷惑なんか掛けてないじゃん・・・・大丈夫だよ」

不機嫌だったひとみが、急に優しい口調になる

「ううん、私の力って結構面倒で
きちんと使いこなせないとかえって危険だって、蒔絵様にも言われたの
・・・・だからちょっと行って来る」

「・・・うん・・・・じゃあ・・・気をつけてね」

頷いてドアを出て行った



一人残された部屋で、ひとみは頭の後ろに両手を組んで寝転がった

自分が子供のように不機嫌になっている間に
梨華は一生懸命自分の出来る事をしているのにと、反省した


だいたい何故不機嫌になるのかも自分で解ってはいなかった
508 名前: 投稿日:2006/07/02(日) 02:30
本日はここ迄
509 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/05(水) 00:02
なんだか壮大な話になってきました
静かに期待してます
510 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/05(水) 23:45
吉澤なかなかつらいところですね
511 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/05(水) 23:45
吉澤なかなかつらいところですね
512 名前: 投稿日:2006/07/08(土) 00:40
509〜511?名無飼育さん
レスありがとうございます

ん〜、なんとなく自分も不安になっている今日この頃です
513 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:43
そのころ加護と辻は牢屋の中で地図を作っていた

昨日あの後、すぐにまた目隠しをされて今の牢屋にやって来たから
ここがどこだかさっぱり解らないし、一番の理由は暇だから

昨日の牢は誰か他にも入っている気配がしていたが
ここには二つしか牢屋がなくかなり古い
しかも自分達の入っている所の前の牢屋には誰もいない

どうやら俊樹と呼ばれた男が、なつみの牢屋に頻繁に差し入れをしていた事がバレ
加護達が来た事もあり昔使用していた牢屋を使用する事にしたと
ぶつぶつ連れてきた兵隊が言っていた

ここは町から遠いし、見張りの交代も食事の輸送も面倒という事のようだった

わずかな朝御飯を持って来た兵隊に
「おしっこしたなったらどうすんねん」と言ったら
「いつでも呼べ、連れて行く」といわれたので
何度も呼びつけ、ここに見張っている人数を探ったり
周りの様子を探ったりした

もちろん目隠しと、カランの綱でぐるぐる巻きにされたままの外出
それに常時二人は銃を構えて見張っている気配がする為
逃げ出す事は困難なようだった

荷物も加護がつけていたバーミンもすべて没収され
紙も筆もない為、用をたした際に足元にある小石で地面に彫る地図が精一杯である
514 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:45
なつみの知識でおおまかな位置関係は解っているとはいえ
ダックス以外の町の中についてはやはり詳しくない

目隠しされる時にわずかに周りを見る機会があるが
道もなくどこを見ても同じ風景の中にある建物の為
もし逃げてもどっちへ向うかさえ検討がつかなかった


加護達は、遠いと呼ばれた自分達のいる場所の選定に頭をひねらせた

確かに目隠しされて馬に乗せられてからそうとうな時間がかかっていた

土の上に書かれた見難い地図の中になつみが最初に捕らえられていた屋敷の場所を書き
それからここへの移動時間の事を考えて丸く範囲を決める

乗せられた馬の歩くテンポ、環境からどれくらいの距離なのか推理した

辻の鼻の証言から、民家が距離的に半分くらいで途切れ
それから森の匂いと海の匂いが多くなった事

加護の耳からはやはり生活音がある民家は距離的に半分くらいで途絶え
それから段々と木々のざわめきと海の音がしだしたという

だいたいの地理の知識からなつみは
ここかここじゃないかと推定するが、それが屋敷を中心として全く逆の位置を示す為にわからない
515 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:46
それよりなつみは自分も犬族でありながら
ハーフと呼ばれた二人の嗅覚と聴覚に驚いていた

「すごいねぇ、2人とも、なっちはここが海の近くだなんて全然わからないもの」

「ウチらは半人前やけど、親びんが自分の得意な事で一つでもよっしゃって思えるもんがあったら
それでいんだよっていう言葉信じて鍛えたんだよね」

「うん、のんは食べるの大好きだし、そのせいで鼻がよくなったみたいだけどね」

無邪気に笑いあう2人
516 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:47
「ねえ、外に出た時、その匂いとか音ってどっちから聞こえる?」
「え〜と、左の方からかな」
「のんも左、でも、この建物がどっち向きで建ってるかわからないよね」
「そうだね、せめて太陽でも見えれば方向が解るのにね」

三人はう〜んと考えて

「よっしゃ、解らなん時は聞く、いっつも親びん言ってるやん、聞いてみよ」
「でもそんなの教えてくれるかなぁあいぼん」
「すいませ〜ん、おに〜さ〜んっ」

そう言ったあまりに素直な加護の言葉になつみは少し驚いた

加護の言った事に同調するのか、ばかでかい声でさらに見張りを呼ぶ辻
517 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:48
しばらくしてガチャガチャと扉を開く音がして

「またおしっこか、ったくじじいじゃあるまいし近いんじゃないか?」

一瞬ムッとしたが、すぐに笑って加護が言った

「ちゃいます、東西南北を教えて下さい」
「は?」

何を言い出すんだろうと、持っていた銃を下げて近づいた

「だから方角、それともここがどのへんにあるのか教えてもらえます?」

一瞬唖然とするが、少し間をおいて大爆笑する男の声に
2人の兵隊が銃を構えて入って来た
518 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:49
「どうした、何かあったのか」

笑ってお腹を抱えている男は答えた

「いや、方角を教えろとかこのちびどもが言うもんだから可笑しくてな」
「何でやねんっ、じゃあウチらが生贄になる竜神って何か教えてや」

加護が頭に来たのか仏頂面で言い放つ

「知らないよ、桂様が目に見えないこの町の守り神が
最近お怒りになられてると言っておられるだけで我々も解らないのだ」

「まぁいい、かわいそうだから教えてやれよ、こっちが東
後はわかるだろ、そんな事知ってどうする、どうしようもないだろ方角を知っても」

「ええやん、暇なんやもん、じゃあ何か遊ぶもんちょうだい」

「いい加減にしとけよ、自分の立場が解ってるのか」
一人が銃口を牢の中に向け、威嚇のためか一発撃った

加護と辻も一瞬肩をすくめ目をつぶり
なつみも立ち上がって加護に近づく
519 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:51
「あっ、あっぶね、こんな狭い所で撃つなよ大事な生贄を」

仲間が撃った兵をいさめる

「何かあったら、加賀様から始末されるのは俺らだぞ
子供の戯言にいちいち怒るな」

「解ったよ、だいたい酒巻様がいなくなってからおかしいよ
いくらなんでもさ、こんな子供を町の人全員の前で処刑するだなんて」

「「えっ、町の人全員?」」

思わず加護と辻が声を出す

「余計な事を言うな、俺らは命令通り動けばいいんだ
だけどまぁ、何か持って来て欲しいものはあるか、内緒で持ってきてやるから」

俯きがちだった2人はにかっと笑顔になり

「じゃあ、紙と書く物が欲しい、お絵かきすんねん、それと遺書も書かな死にきれへんし」

笑顔の二人を見て、三人は眉間に皺を寄せて相談を始める
520 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:52
「どうする?」
「遺書とか言うけど、誰に書くつもりなんだ?だいたいそんなの誰に届けるんだ」
「でもかわいそうじゃないか?」
「お前は丁度この子ぐらいの子がいるからなぁ」
「まぁ、それで気がすめばいいじゃないか」
「そうだな武器になる訳でもないし」

会話は中の三人に聞こえないようにしているようだが
丸聞こえだった為に、期待した

「よし、俺の子供も丁度同じ位の10歳だ、せめてお前達の希望くらい聞いてやるよ」

「「やった〜、おじさん達優しいね、ありがと」」

無邪気に笑う2人に、三人の兵隊はかなりショックを受けた

あまりにも子供子供している2人を
本当に殺してしまうんだという事に罪悪感が芽生えた

そして、馬が走って行く音がして
夕食の時には紙と筆を持って来てくれる事になる
521 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:53
一方なつみも驚いていた、もうすぐ殺されるかもしれないというのに、この無邪気さを保っている2人に
兵隊が出てってからすぐに声をかける

「ねぇ、あなた達は何者なの?普通こんな状態であんな態度は出来ないでしょ」
「あの人たち、そんなに悪い人に見えへんかったもんなぁのの」

部屋の中に座りながら辻へと視線をやる

「うん、途中からのんもいい人って思ったもん」
「でもウチらの事10歳くらいと思ってんねんて、あの人達」
「失礼だよね、そんな子供じゃないもん」

加護の隣に座った辻も笑って加護と微笑みあっていた
それを聞いていたなつみも

「じゃあ、あいぼん達はいくつなの?」
「15と14、もうガキちゃうねんで」

威張っている2人に、なつみは本当に優しい笑顔になり
絶対にこの子達を死なせてはいけないと思った
522 名前:dogs 投稿日:2006/07/08(土) 00:56
それから食事と一緒に届いた紙に
地面に書いていた地図を写し、東西南北を示す

「すごい・・・だいぶ絞れたね・・・・・
ぶんこのあたりになっち達はいるって事だよね」

ここ出たらどっち行けばいいのか・・もね・・・・と頷く皆

「よっしゃのの、じゃあ次、こっから逃げ出す事考えよか」
「うん、この町にいる事は絶対親びんは知ってくれてるよね」

「うん、勘太と多分美貴ちゃんだと思うけど
ウチらの後を追って来てくれてる足音聞こえたもん
町に入ってからは聞こえないけど」

「あいぼんは勘太の足音だけは聞き分けられるもんね
じゃあ、親びんが来るのが先か、のん達が自分で逃げるか競争だね」

「おうっ」

右手をあげた2人に





「頼もしい」

「「え?」」

なつみが笑顔できょとんとしている2人を見る

「なんか元気倍増、負けてられないねなっちも」

三人は、途中で脱線しながらも楽しく逃げ出すシュミレーションを繰り返した
とてももうすぐ殺されるとは見えない二人と共に
523 名前: 投稿日:2006/07/08(土) 00:56
ちょっこす更新です
524 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/08(土) 05:36
お〜いい感じ
ここののんちゃんは東西南北わかるんやねぇw
525 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/08(土) 23:14
更新乙です。
前回2重かきこしてしまったようですみませんでした。
なちののぼんいいですね。
この組み合わせ何気に好きなんですよね。
次回更新お待ちしてます。
526 名前: 投稿日:2006/07/09(日) 13:31
524:名無飼育さん
 ののちゃんは奇跡ですから

525:名無飼育さん
 全然気にしないで下さい。
 自分もこの三人好きです。

レスありがとうございます
 
527 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:33
昨日あまり寝ていなかったせいか
いつのまにか寝ていたひとみも眼が覚めた時には既に日が傾き夕方になっていた


そして近くで笑い声が聞こえる

声の主は見なくてもわかる
起き上がって窓から外を見たら、やはり予想通りで
一緒に遊んでいるのは自分には決して見せてくれなかった笑顔を見せている亮だった

「ほらっ、こっちだ、捕まえてみろよっ」
「卑怯だぞっ、大人のくせにっ」

どうやら鬼ごっこをしているようだ

「さっきその大人に向ってちびっつったろ」
「ちびにちびって言って何が悪いんだよっ」

嬉しそうに憎まれ口をたたく亮は
ひとみといつも繰り返している喧嘩と同じような事を言っていて
ひとみは自分がこの子と同じ精神年齢なんだなと頭を掻きながら微笑んだ
528 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:34
しばらく飛び回るその2人の様子を見ていたが
同じように母屋の屋敷の窓から瞬がのぞいているのに気づく

瞬もひとみに気づいて微笑んでペコリと頭を下げてきた

ひとみも頭を少しさげて窓から離れた

丁度そこに梨華がそーっと入って来る
「ひとみちゃん起きたんだ」
「あ、うん、いつのまにか寝てたみたい」
「うん、一度戻って来たら気持よさそうに寝てたから」
「ごめん、今までかおりさんの所に?」
「うん、いろいろ教えてもらってた、やっぱり純粋な鳥族の人は違うね、私なんか歯がたたないよ」

落ち込んだ感じで力なく笑う梨華に、ひとみは近づいてそっと抱き締めた

「大丈夫、梨華ちゃんなら出来るから・・・・」
「ひとみちゃん・・・」

梨華は思いもよらず、抱き締めてもらった事に驚く
529 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:37
ひとみもなぜそんな行動をするのか自分でも解ってなかった

最近、自分がおかしい事には気づいている
感情をうまくコントロールする事が出来なくなっている

今は、梨華が落ち込んでいるので慰めるという気持もあるが
それよりも何よりも自分が誰かによりかかっていたいという心境だった
梨華の力なく笑う顔が、何故かすごく強く感じたから


梨華は、最初嬉しくて浮かれてしまいそうだったが
途中で様子がおかしい事に気づいた

途端バンッとドアが開いて藤本が入って来るが、

「うわっ、ごめん」

2人が抱きしめあっている事に気づきすぐにドアを閉めた

「みっ、美貴ちゃん違うからっ、大丈夫」

梨華がひとみから体を離し
ドアを開けるともう藤本は廊下を抜け小さくなっていた

「ごめんね、梨華ちゃん」

そう言いながら矢口のいる庭へと向おうとしていたのでもう一度叫ぶ

「大丈夫だからっ、美貴ちゃん、何か用事があったんじゃないの?」
530 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:39
壁から片目だけ見せてこっちを伺っていたが
梨華が手でおいでおいでをするので、すごすごと近づいて来た

「う・・・うん・・・・あのね、私達よそものは弔いの宴には出ないようにって言われて
その間ちょっと詳しく話し合おうって伝えようとしただけだから」

上目遣いにそう言うと後ろに下がって、また去ろうとしていた

「美貴ちゃんっ、どうしてそんなにおどおどしてるの?美貴ちゃんらしくない」

梨華はあれから美貴とは気まずい空気だからあまり話していない事を思い出した

「そうだよ、入りなよ、さっきのは梨華ちゃんを励ましてただけだしさ」

梨華の頷く笑顔は少しせつなかった
やっぱりこの笑顔にきゅんと来るものがこみあげる

「うん、じゃあ入っちゃうね」

ここであんまり変な行動をするとかえって気まずいとおもい
戻っていくとすんなり入った

「変な奴」

ひとみは、梨華に抱きついて少し落ち着いたのか笑ってベットに腰掛けた
531 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:41
すると窓からひょいっと亮が顔を出して窓を叩いた
梨華が窓を開けると亮の下には肩車する矢口がいて

「お〜い、起きたならこっちで遊ぼうぜっ、なぁ亮」
「うん、しょうがないから遊んでやるよ」

すっかり仲良くなった2人の様子に三人は頷きひとみが言う

「おいおい、でもさぁ、亮、ウチの脛蹴ったじゃんかぁ
その仕返しはさせてもらうよ」

言ったそばからひとみは立ち上がると窓から飛び出し矢口から亮を取り上げた

「やるかぁ、でかいの」
「おい、吉澤っつー名前があんだから名前で呼べよっ、亮」
「わかったよ、吉澤っおまえなんかやっつけてやる」

昨日と違い、よくしゃべるようになった亮は父親が帰って来た事で落ち着いたのか
矢口の人徳のせいなのか少しひとみ達を受け入れる事にしたようだ

亮が力を使って飛び回るのをひとみは確実に見る事が出来
亮の攻撃をことごとく避けた

その様子を窓の下で見ていた矢口と
窓の中から肘をついて眺める梨華と藤本は自然に笑顔になっている

「あいつ、見え出したんだな、それに丁度いい練習相手になってるじゃんか」

腕を組んで、二人がじゃれて戦っている様子を眺める
532 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:43
「ほんと、いつのまにかよしこも成長してますね」
「ああ、あ、石川、脛蹴られたとか言ってたけど、あいつら仲悪かったの?」

首だけ上を向けて石川を下から眺めた

「なんか、お母さんを小さい時によそ者に殺されたらしくって、昨日は敵意剥き出しでしたね」
「そっか、そういえば、おいらの部屋をそ〜っと覗いて様子みてた時も敵意って感じだったな」
「覗いてたんですか、美貴全然気づかなかった」
「お前、寝る時熟睡しすぎ、まぁ寝れるって事はいい事だけどな」
「だって、昨日は力使ってめちゃくちゃ長い距離走って疲れたんですもん
途中も仮眠程度だし、それに色んな事があって精神的にもきつかったし」

それを聞いて矢口はひょいっと窓に飛びつき中に入った

「そうだな、おいらも疲れてたからやっと気づいた・・・・・・・
でも・・・亮と遊んでるとつい、加護達と遊んでるみたいで楽しんでたけど
・・・・加護達はここにはいないんだもんな」

矢口が入って来るのを避けて二人は中に入った寂しそうな矢口をみていた

あの二人とは家族のように過ごして来たんだから矢口は心配で堪らないはずだ
すぐにでもシープという町に乗り込んで、加護達を助けたいが
それも叶わないので明日からの作戦前のはやる気持ちを紛らわす為に
亮と遊んでいたんだろうと二人は感じた
533 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:46
「亮っ、そろそろ行くぞっ」

向こうから瞬が亮を呼ぶ声がした
ひとみがそれを聞いて亮をはがいじめにして捕まえた

「ほら、時間だってよ、行ってらっしゃい、仲間とちゃんとお別れしてこいよな」

ひとみを見上げて矢口達がいる窓に眼をやると
窓の中から三人が笑って手を振っている

亮は、少し恥ずかしくなったのか、力を使って屋敷の方へと入って行った


この屋敷のすぐ隣にあるという大きな広場では
人が沢山集まっているざわめきが聞こえている

ひとみも汗を拭いながら窓に近づきスタッと入って来た

「あ、そういえば、瞬さんが宴の近くには寄らないようにって言ってたから
お前ら近づくなよ、一応よそ者に殺されたし酒も入るし
町の人が興奮しておいら達を襲うかもしんないってさ
加藤さんなんかさっき危ないからって母屋の内鍵がかかる部屋に連れてかれてた」

「あ、さっき美貴から少し聞いたから、それより詳しく聞かせてよ
さっきの場じゃおおまかな事しか言ってなかったじゃん」

ひとみが矢口に向って苛立たしく聞く

「な、何怒ってんだよ、吉澤」

一晩振りに無事を確かめあって嬉しかった矢口に対して
吉澤はあくまでも機嫌が悪いままなので矢口は苦笑いする

しかし、気を取り直しベッドに座った吉澤の横に矢口も腰掛け
藤本と梨華も隣のベッドに腰掛け2人ずつ対になった形で話し始めた
534 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:49
「怒ってね〜けど、わかんね〜事が多いからさ、ウチ頭良くないし
ちゃんと説明して欲しいんだよ」

どことなく喧嘩口調のひとみに、梨華と藤本も顔を合わせて苦笑する

「そっか、でもおいらも解らない事が多いんだよ、だからさ
今回は皆少し危険な目に合わせてしまうけど、ちょっとずつ謎を解いていかないと」

「よしこは明後日、矢口さんが隠れた取引の品を
絶対にシープの町へともぐりこませるのが第一の仕事
なんか取引の品はだいたい検品されるらしいんだ
それをさせないようにするのはよしこが考えないといけないでしょ」

口を硬く結んで頷くひとみ、そして

「梨華ちゃんと美貴は、どうしてダックスとその向こうの町へと行くの?」
「ダックスの加藤さん、なりゆきで美貴についてきちゃったから
一緒にちゃんとこの事を途中報告して、なんとか若林さんとの対談を実現させる為に二つの町に
同じ情報を渡して、仲良くさせたいんだよね、矢口さん」

矢口が軽く頷いて

「まぁ、それで、藤本達には本当に負担がかかるけど
ダックスより向こう側ではぐれの族のふりをしてもらってたら、
絶対に誰かが藤本達に近づいて来ると思うんだ
そいつがシープの裏の奴に繋がるんじゃないかなぁって」

「そこで、梨華ちゃんは相手の腹を見極めるために美貴達に同行してもらうんですよね」

梨華もどうして藤本と共に行くのかあまり解っていなかったのか
口を開けて責任の重大さを噛み締めているようだった
535 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:51
「ああ、そして、吉澤はおいらをシープへ潜入させた後
おいら達が瞬さんに会った場所で辻が言ってた匂いの場所を探してみて
何があるのかを探ってもらおうかと思ってな
ほら、力強いから・・・・どうだろう、いやかな」

ひとみの顔を心配そうに覗き込んで矢口が言うと
ひとみはまた不機嫌になって

「嫌な訳ないじゃん、あいぼんとののを助ける為なら何だってやるよ、もちろん」
「そっか、よかった、それに吉澤は明日までに、え〜と、なんて名前だっけ、鳥族の男の人」
「鷹男?」
「そう、その人とちゃんと話し合いしとけよ、お前が危ない時は知らせてもらうようにな
吉澤だけ一人になってしまうからな」
「・・・・はい」

ひとみは、重い返事を返す

「大丈夫、あの場所に行くのは瞬さんもついて行くし
おいら達がいないと寂しいかもしんないけどな」

肩を叩いて笑いかける

ひとみは、そんな事で返事が重いんじゃないんだよと思っている
それにそんなに瞬を信頼してしまったんだとも考えていた
536 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:52
「あの、矢口さん、でもあの鷹男って人、なんか気持悪いんです・・・・
悪い人ではないと思うんですけど・・・・何か」

何も言わないひとみに代わって梨華が話すと
ひとみが余計な事を言うなとでもいうようにすぐに話し出した

「大丈夫、あんなやつに負けね〜から、それと一人でも大丈夫だし
それよりみんなの方が心配だよ」

言い切ったひとみの顔を、矢口がじっと見ている

「な・・・なんだよ」
「いや・・・・まじで、みんな気をつけてくれよな・・・・・
一人でもいなくなっちゃうのは・・・・やっぱキツイから」

真剣な顔でみんなを見た後立ち上がり、窓に近寄ると犬笛を吹いた

「あ、勘太」

藤本が忘れていたかのように矢口に聞く

「ああ、まだ近くにはいないみたいだ、たまに笛吹いて
おいら達の居場所を知らせてるんだけどな、まだ聞こえるようなところにはいないみたいだ
でもあいつは本当に賢い犬だから、もしかしたらもうシープの町に入って
加護達の居場所を探してるかもしれないな」

「ですね、そう信じましょう」

藤本も矢口と頷きあう
537 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:54
「ああ、だからさ、仲間が一人でもいなくなって欲しくないから
もし危ないと思ったら逃げてくれよ、無理して戦わなくていいんだから」
「矢口さんも」
「そうだよ、あんたが一番心配だよ」

藤本が言った言葉にひとみが続く
へへっと頭に手をやって笑っている

その後暗くなってからも、地図を取り出してあーだこーだと作戦をたてていると
外で大きな怒鳴り声が聞こえ出した

なんだなんだと、全員で廊下に出て母屋の中へ入ってみると
一人のおじさんが加藤の入れられた部屋を蹴っていた

「こらっ、出てこいっ、ダックスの奴がここにいるのは解ってるんだっ
宗司の敵を撃ってやるっ、出て来いっ」


「あのおじさん酔っ払ってるよ」

ひとみが言うと矢口はすたすたとそのおじさんの所に行く
ふらふらしながらドアをけり続けるおじさん

弔いの宴の光から、民衆が宴を繰り返している声や音が盛大に鳴り響いている
このおじさんがここに入り込んだ事なんか全くわからないんだろう
538 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:56
「おじさん、ここにはダックスの人なんかいないよ
宗司さんとちゃんとお別れしないと」

優しくおじさんに話し掛けるが、そのおじさんは

「なんだお前?見ない顔だな・・・・よそ者か?ヒック」
「忘れちゃったの?かおりだよ、このお屋敷の隣に住んでる
ほら、悲しいの解るけどちゃんとお別れしよ」

おいおい何言い出すんだよ・・・・と、三人が心の中で叫ぶ


「か・・・かおりさん?こんな小さかったっけ?」

遠くで見ていた三人が噴出した

その声に反応したおじさんが三人の姿を捉える
隣の矢口があちゃ〜という顔をすると

「ん・・・・・あぁ?あの子達も見ない顔だけど・・・
おいっ、かおりさんがこんな小さい訳ね〜じゃね〜かっ」

矢口に捕まれていた腕を乱暴に振り払うと
油断していたのか矢口は窓を突き破って庭へと吹き飛んで行った

「「「矢口さんっ」」」

叫びながら藤本が力を使っておじさんに当身を食らわせ気絶させた
ひとみと梨華は同時に庭に出て矢口に近寄る

加藤も部屋から出て来て藤本の様子を確認すると矢口に近寄った
539 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 13:59
「いてて、お前らがあそこで黙ってればうまくいってたのに」

ケロッとした表情で立ち上がる

「行くかよ、無理ありすぎだっつーの」
「矢口さん、よりによってかおりさんを装うって」

駆け寄った2人は笑いをこらえる事をしていなかった

「かおりさんって、あの髪の長い綺麗な背の高い女性だよね
・・・・・そりゃ無理あるよ」

加藤も肩を震わせて笑っている

「加藤さんまで・・・・」

藤本も廊下におじさんを座らせて矢口の方へ向おうとした


その時

「親父に何をしているっ」

4.5人の男女が廊下の端に現れ、突然藤本が撃たれた

「藤本っ」「美貴」「美貴ちゃん」

矢口が瞬時に藤本に駆け寄る
藤本は自分で気づき間一髪腕をかすった程度で済んでいた

ひとみ達もすかさず廊下へと戻り隠れるようにガラス越しにその様子を眺めた
540 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:02
「お前ら親父に何をしたっ、宗司を殺しといて親父まで」
「違います、この人は酔っ払って暴れたから少し眠ってもらっただけで」

銃を持ったまま言う男に
藤本は矢口の後ろで両手を 違う というふうに振る

おじさんの奥さんらしいおばさん、銃で撃った人の奥さんらしい人
子供を抱いている宗司と言われた人の奥さん、銃を構えた同じ年くらいの女が並び全員睨んでいた
その後ろから瞬と峰男が慌てて入って来る

「銃声が聞こえたと知らせがあったが、何かあったのか」

瞬が言うと

「瞬さん、この女達が親父に」
「違いま・・・」

藤本が言いかけると、矢口が手を藤本の肩に置いて首を振り銃を構えている人を見る

「すみませんでした・・・・あの・・・・
本当にこの人は眠ってるだけですので・・・・」

矢口が言うとおばさんと同じ年くらいの女が矢口達を睨みながらおじさんに近づいて
「あなた、立って下さい」「父さん立って」と言うと
気がついたのか朦朧とした中「んぁ」言って二人に抱えられた
541 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:05
「瞬さん、なんでこんなよそ者をこの屋敷に入れてるんだ、仲間を殺されたんだぞ」
「この人達に殺された訳じゃない、むしろ助けてもらったんだ」

瞬が撃った男とにらみ合う

「しかし現に親父がこうやって乱暴されたじゃないか」
「乱暴って」「吉澤っ」

ひとみが怒って言おうとするのも矢口は睨んで止めた

「どうすれば、許していただけますか?
確かによそ者というのは否定しませんけど
ただそれだけで悪者にされるのはやっぱり悲しいんで」

瞬は窓が壊されている様子と、矢口の洋服に外の土がついているのを見て
だいたいの事を察した

悲しそうな顔で銃口の前に立つ矢口
瞬がその男の銃を下げさせる

「今日は宗司を見送る日だろ、修司や清子が兄弟を殺された悲しみは解るし
両親の悲しみも、そして奥さんや小さい子供の無念も解る、
俺も妻をよそ者に殺された悲しみを忘れた訳じゃない
だけどこの人達にその悲しみをぶつけても何も変わらないだろ」

「じゃあ、シープと戦おうっ、今度こそシープとダックスと全面戦争だっ、瞬さん」

藤本は横目で加藤をちらっと伺う

「修司・・・・・とにかく今日は宗司や、死んでしまった他の四人との
最後のお別れの宴だ・・・・ここで死人を増やすのは得策ではないだろ」

峰男もダックスの加藤がいる事を懸念してか、彼を諭す
542 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:08
怒りを押さえきらないまま修司達がしぶしぶ玄関へと戻りそうな所を
矢口が引き止める

「これでは修司・・・さん?の気が納まらないんじゃないですか?」

瞬が修司の背中を押しながら、余計な事をっという顔をして振り返った

「矢口・・・せっかく」
「いいんです、悲しいのは解るから、おいら・・・
ただ私は修司さんに私達の事許してもらいたいんです」

ひとみ達も何を言い出すんだろうという目で矢口を見ている

「どうすれば、あなたの許しをもらえますか?」

修司の目の前まで歩いて行き見上げた
修司がぎゅうっと眼をつぶり、拳が震え出した

梨華はひとみの腕にしがみつく
ひとみが今にも矢口のもとに駆け寄りそうな事と
自分も人の悲しみを怖いと思った事に誰かにしがみつかないと安心しなかったから

藤本もいつのまにか加藤に手を捕まれ動かないようにされていた





しばらくの静寂の後


「うわぁぁぁぁぁっっ」

という叫びと共に矢口は腹をめいっぱいの力で殴られ
廊下の端の藤本の所まで吹っ飛んだ
543 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:12
「ぐはっ、げほっ」
「矢口っ」「「「矢口さん」」」

瞬は叫んで修司を止め、矢口にはひとみ達が駆け寄る

おばさんや、宗司の妻達も驚いている
まさか修司が本当にこんな小さな女の子を殴るなんて思わなかったのだ

矢口はよろよろと立ち上がって、悲しそうな笑顔でまた修司の前に歩く

「何やってんだ、矢口」
「矢口さんっ、その人挑発して何やってんだよ」

瞬やひとみの驚きの声が響く

「挑発じゃね〜よ、おいらはこの人に許してもらいたいだけ」
「だって悪いのは酔っ払って、加藤さんのいる部屋に乱暴してたこのおじさんだろっ
矢口さんは止めようとしてその窓突き破って飛ばされてただけじゃんか」

とうとうひとみがブチ切れて梨華を振り切り
そう言いながら修司につかみかかった

矢口は今にも殴りそうなひとみの腕を離させて

「吉澤っいいんだよ、この人達の悲しみは今は何をしたって癒される事はないんだよ
もう死んでしまった人は帰ってこないんだから・・・
でも人間ってのは弱いんだ、だから、その悲しみや怒りはどこかにぶつけたくなる事もあるんだよ
それを止める事は誰にも出来ない・・・・
それなのに今度は親が乱暴された所を見せられちゃ、黙ってられないだろ
その人は間違ってない、だからちゃんと許してもらいたいんだ」

矢口がひとみの前に割り込んで修司に頭を下げた

「すみませんでした」

奥さんやおばさん達の目に涙が浮かび、泣き崩れた
544 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:15
修司はよろよろと再び壁にもたれた父親と
その傍らに座り込んでしまった母親のそばにいき父親を背負い、
それを見た矢口は「すみません」と言いながら奥さんと母親を立ち上がらせる

「矢口さん・・・でしたっけ・・・・・・こちらこそ・・・・すまなかった」

力なく言う修司に
矢口はすまなそうな顔で手を振って「ぜんぜん」と言うと
とぼとぼと、泣いている奥さん達を連れて帰って行った

それを峰男と瞬は目だけで追い、振り返って矢口に話し掛ける

「すまなかったな、矢口さん」
「大丈夫か?矢口・・・・しかしあいつ・・・無抵抗な女を殴るなんて・・・」
「あ、平気ですよ、こんなの慣れっこですから
でもやっぱ・・・悲しいですよね・・・・大切な人を亡くすのは
あの子も生まれたばっかりみたいだったし」

ため息をついて踵を返したが
振り返ったら窓がぐちゃぐちゃに壊れているのが眼に入ったのか、再び振り返り

「あ、それと、窓・・・・壊しちゃいました・・・・・すみません」

また頭を下げた

「いや、いいよ、事情は解ったし、君のせいでもない
これから私達はまた宴に戻らないといけないが・・・・・窓はそのままにしてゆっくり休んでてくれ」
「あ・・・じゃあ・・・・すみません」

そんな様子をひとみは怒りで矢口を見る事が出来ない
545 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:18
藤本と梨華は矢口に詰め寄る

「もうっ、何やってんですかっ、へたすると死んでますよ」
「ほんとですよ、あの人の中は怒りと恨みで一杯だったんですから」
「まぁ、いいじゃね〜か・・・・ん?ってか
お前らが最初においらの演技を笑わなければこんな事にはなってね〜んだからなっ」

そう言って二人のおなかに軽く拳を当てた

峰男と瞬はその様子を見てから宴へと戻っていった

「演技ってか、詐欺ですよね、あれは」

藤本は、少しあきれながらも矢口のお腹を見ようとして服をひっぱったが
矢口に手を叩かれる

「だ〜いじょうぶだから、ほれ、部屋に戻って話の続きしようぜ
あ、加藤さんも来ます?あの部屋より安全かも」

みんなの視線が加藤に集まるが・・・・
加藤はしばらく矢口を見ていたらしく・・・・やっと口を開いた

「人の悲しみは・・・・どこでも一緒だよな・・・・・
昨日・・・・・仲間を埋めてくれてありがとう・・・・
あの場所はバーニーズの領域だから、下手に俺らは入れないんだ、通常は・・・・・
だから、あのまま放置されてしまう所だった・・・・」

ちょっと複雑そうな顔をして

「きっと・・・・あの人たちの家族も今頃悲しんでるのかもしれませんね
・・・・だからあんまり殺したくないんだよねおいら」

俯く皆が部屋に戻ろうとすると、ひとみがいない事に梨華が気づく

「あれ、ひとみちゃんがいない」

きょろきょろとする四人の視線の範囲にはいなかった
546 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:21
「どうしたんだろ・・・・またおいらに腹立ててるみたいだったもんなぁ・・・・
あいつどうしてそんなにおいらを嫌うんだろ」
「よしこは、悔しいだけでしょ、きっと矢口さんみたいになりたいんだよ」

藤本の言葉に梨華は心で「違うよ、美貴ちゃん」と突っ込んでいた

「そうかなぁ、んじゃちょっと探して来ようかな
さっきおいらの事守ってくれようとしてたし・・・・そろそろあいつとも仲良くしたいからさ」
「あ、この屋敷の敷地から出ないようにしろよ、またさっきみたいにからまれるぞ」

加藤が矢口の後姿に声を掛けると「は〜い」と振り返らずに手を上げた

「よしこは子供だね、まぁ、そこがいい所だけどさ」

歩きながら藤本が言ったセリフに頬を少し染めて「うん」というのを見て
藤本は梨華から少し離れて先に吉澤達の部屋へと入った

矢口はまず玄関から出て、馬とかが数頭繋がれていたりする広い庭を見渡す
騒がしい宴会の声が響き渡った静かな庭
壁際は見難いが人影みたいな物はなく、しばらく暗闇に眼をこらしたりしていたが
もしかしてと道路へと向った

門を出ようと扉に手をやったが、門の外にかなりの人の気配がしたため
門から出たとは考えられず引き返そうとした

すると門が開く音がして、すかさず力を使い馬の影に隠れた

「矢口?」

瞬の声がしたので、隠れていた場所から姿を表した

「あ、瞬さんだったんですか、良かった
また町の人が乗り込んで来たかと思ってびっくりしましたよ」

月明かりの中矢口が笑って出てくるのを確認出来た

「ほんとにお腹は大丈夫か?かなり力一杯殴られてたけど」

すぐにぽんっとお腹をたたいて笑って答える
547 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:24
「あ、まじで平気ですから、こんなの日常茶飯事だったし
それより吉澤見ませんでしたか?あいつ直情型ですぐキレるから
さっきのおいらに腹たててどっか行ってしまったんですよ」

「ははっ、それはあの子が矢口の事を好きだから心配してキレてるんだよ
あの様子はどうみてもそうだったね」

そうかなぁと首を傾けて辺りを見回して

「まぁ・・・・心配してもらうのはありがたいんですけどね
で、瞬さんはどうしたんですか?」

「ああ、矢口が心配になってな・・・・・やっぱり戻って来てしまった」

「あちゃ、すみません、ほんとにおいらバカみたいで、心配ばっかかけてますね」
頭を掻きながら、うなだれる矢口をしばらく眺めていた瞬が

「なぁ・・・・矢口は大切な人に会いに行く旅をしてるんだよな」

突然、姫の事を話されて少し動揺する

「え・・・あ・・・はい・・・・」
「その旅が終わったら・・・・この町に住まないか?」

驚く矢口

「は?あ、気持はありがたいんですが、たぶんおいら達はここには住めません」
「どうして?」
「同じ仲間同士が争っている町に、姫を住まわせる事は出来ませんから・・・・・
出来れば平和な所でのんびり暮らしたいんです」
548 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:26


「・・・・・・ここは平和じゃない?」




「ええ、おいらにとっては・・・・だけど、瞬さんや亮君
若林さんの事とかは好きですよ、いい人と会えて良かった、加護達を助けてくれるのも
真剣に考えてくれたりして・・・・感謝してます」

すると突然瞬に抱き締められる

「なっ・・・・瞬さん・・・・どうしたんです?」
「・・・・・・平和な町にするよ・・・・俺達がきっと」
「え?」

全く状況がわからない矢口は、なすがままだった
ぎゅっと抱き締められたまましばらくして

「俺・・・今日、少し怖かったよ・・・・・修司にお前が殺されるんじゃないかって
・・・・・・よそ者であるはずの矢口が・・・・俺の仲間に・・・・って
そして思った・・・・大切なのはこの町の人間だからじゃない・・・・・
どこの町の人だろうと、大切な人は大切なんだって・・・・・今まで何も
疑問を持たずに争って来た事が間違っていた事に・・・・争っても・・・
悲しい人間を増やして行くだけなんだよな」



「そうですね・・・・きっとみんな気づいてますよ・・・・・瞬さんみたいに・・・・」

抱き締められたまま答える
549 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:29
「矢口・・・・王族付きの族は・・・・その王族と結ばれる事はないんだろ・・・・・
だったら・・・・その姫に会った後・・・・・ここに来て一緒に暮らそう
今捕らえられている大切な子達も、吉澤さん達も一緒に・・・
だから・・・・・・考えてくれないか」

瞬にとっては、それは最大の愛の告白であった


時間が宴の喧騒を消してまで静かに流れた



そして

「そうですね・・・・姫と一緒に考えます・・・・・でもおいらと吉澤達は
旅の仲間だけど・・・ずっと一緒ではないでしょう、
ずっと友達ではいたいですけどね、あいつらにもあいつらの人生があるし
でもいつか、この町が平和な町へと変わった時
どこの国の人でも自由に旅や商売が出来る時代が来たら
きっと姫やあいつらとこの町を訪れる事が来るかもしれませんけどね」




瞬がこの町の呪縛を解くように決心して言った言葉は、矢口には伝わらないようだった


・・・・・ゆっくり矢口の体が離される


「・・・・そうか」


瞬の視線が熱い、それをかわす事なく矢口は受け止めた
何の邪気もなく

「いい町になるといいですね」

そう言って笑う矢口に、瞬は笑顔で返す

「明後日・・・・無事でいろよ・・・・・俺らはきっと平和な町をめざして
まだ見ぬ敵と戦うから」

瞬が宴へと帰って行く


・・・・その後姿は少し寂しそうだった
550 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:31
矢口がハッと思い出す

ひとみを捜そうときょろきょろすると
何の気配もなく屋敷の入り口の片隅で梨華が立っていた

「おわっ、びっくりした、石川お前気配を消せるのかよ」

笑って梨華へと近寄る

梨華はあの後ひとみを追った矢口が気になって
藤本がとめるのを振り切って追いかけて来ていた

「消したりしてません、矢口さんが動揺しすぎて気づかなかっただけでしょ」

いつもの梨華と違う事にとまどう矢口

「見てたのか・・・・でも・・どうしたんだよ石川、何か怒ってんのか?」
「怒ってませんっ、ただあきれてるだけです」

梨華の目の前で、首をかしげてきょとんとする矢口にさらに追い討ちをかける

「もうっ、どうして気づかないんです、瞬さんは矢口さんにプロポーズしてたのに」

矢口が驚く

「プ・・・プロポーズ?今のが?」

がっくりとうなだれる梨華

「それ以外どうとれって言うんです・・・・それなのに姫と一緒に考えますって
・・・・・瞬さんかわいそうです」
「瞬さん・・・が?・・・・え・・・・おいらに?何で?」
「もういいですっ、ひとみちゃん探してきますっ」
「おいっ、何で、お前が怒るんだよっ、石川っ」

梨華が裏の暗闇へと消えるのを矢口は追いかけた
551 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:34
その頃門の近くの置石の裏のひとみは
一人自分の胸倉を掴んで立ち尽くしていた

一部始終のやりとりを聞いて
自分は矢口にとっては本当にただの旅の仲間で
そして、誰だろうと姫にはかなわないという事を思い知る

すると、「くっくっくっ」と可笑しそうな笑い声が聞こえる


逆の門柱の近くの置石の横から矢口が姿を表す

「なっ・・・なんだよっ、いつそんなとこに来たんだよ」
「おいら族だよ、力使えば訳ないよ」

瞬の行動と、それに対する矢口の言葉ばかりに気をとられて
バーミンが温かいことに気づかずに何の疑問も持たなかった

「吉澤・・・・お前おいらの事好きなのか?」

瞬間眼を見開き矢口を見ると、すぐに後ろを向いた

「そんなわけないじゃん、ちびの事なんか」
「ふ〜ん、おいらお前の事結構好きなんだけどなぁ」

いつのまにか近寄ってきていて顔を覗き込まれる、しかも至近距離で
その身長が矢口よりはるかに大きい事は
ひとみの頭に疑問を持たせる事はなかった
552 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:35
「ざけんなよ、あんたは姫が一番なんだろ、変な事今更言うなよ」

にやりと笑って矢口が口付けるとひとみが後ずさる

「なっ、何やってんだよ、ふざけんなよ」

思いも寄らないキスに、どうしていいかわからずに顔をそむける

その顔を指で正面に向けられると、まっすぐに矢口にみられていて
いつのまにかその距離がなくなっていた

そして、矢口からの積極的なキスにこたえ出す自分に
今までもやもやしていた気持がはっきりと解った



自分が矢口を好きなことに




深く深く求められた唇に、自然と舌をからめて答える

「んっ・・・あぁ・・・っ・・・」

ひとみの口から色っぽい吐息がもれ
矢口の手が徐々にひとみの胸を揉み上げた

「あ・・や・・・やめ・・・ろよ・・・」

言葉とは裏腹に襲い来る快感はひとみの体を支配していく
553 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:36
途端、聞きなれた声が叫ぶ

「やめて〜っ」

それは梨華の声だった
飛んでくる梨華が、矢口を突き飛ばした

「何してんのよっ、こんなやり方してっ、汚いよっ
ひとみちゃんが好きなら好きで何で正々堂々と言わないのよっ」

ぜぇぜぇと一気にしゃべった後、ひとみの前に立ちふさがり
倒れた矢口に向って睨んでいる

「り・・・・梨華ちゃん?」

梨華が振り返ってひとみの胸元を掴んで揺さぶる

「ひとみちゃんしっかりして、この人は矢口さんじゃないんだよ」
「「え?」」

と、ひとみは飛ばされた矢口を見る・・・・

その姿はもう矢口ではなく、いつも何を考えているか解らない鷹男だった
554 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:39
・・・そしてもう一人自分と一緒に「え」と言った人物が眼の端に入っている
鷹男は力を使っていたからか、ひ弱な梨華にも容易に飛ばすことが出来たようだ

「え?」

ひとみがもう一度言った「え」の時には
服についた土を払いながら鷹男が立ち上がって梨華に向って言う

「君も吉澤さんが好きなんだね・・・・・どうも鳥族はこういう人種に弱いらしい」

今まで秘めていた自分の気持をこんな形でばらされるとは夢にも思わなかった梨華は
もう後戻りは出来ないと思い精一杯叫ぶ

「そうよっ、でも私はあなたみたいに力を使ってひとみちゃんの事手に入れようなんて思わないっ
もうひとみちゃんに近づかないでっ」

肩で息をしながら、ひとみの前に立ちふさがり、鷹男を睨みつける

「それはどうかなぁ、明後日は一緒に取引現場に行かないといけないしね
明日は君もいなくなる・・・いくらでもチャンスはあるよ」

ひとみは騙されていた事に気づき、あっという間に梨華を押しやって鷹男を殴っていた
再び倒れた鷹男にひとみは銃をつきつける

「っざけた事すんなよっ」

真っ赤になったひとみがそう言うと鷹男の顔をかすって銃声が響く
確実に鷹男の頭をぶち抜いたつもりだったが
本物の矢口がいつのまにか近くにいて銃を持つ手をずらしていた

その顔も暗い中でも解るほど真っ赤で、そんな矢口を2人は見た事がなかった

「やめろって・・・また瞬さん達が来るぞ」

言われたひとみは、今までの事を全て見られていたんだと改めて感じて、体が熱くなった
555 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:41
矢口がひとみの手から銃を取り上げ
真っ直ぐに鷹男の眉間辺りに照準を合わせた

「今度こんなふざけた真似したらおいらが殺す
もう吉澤に近づくな・・・・行け」

ひとみも梨華も聞いた事がないほど冷淡な声だった

端正な顔を歪ませて口元の血を拭って立ち上がり
つきつけられた銃口に向き合ったまま鷹男は矢口を見下ろす

「俺は本気だ・・・・やり方はどうあれ、こんな面白い女にはなかなか会えない
それに瞬さんの気持に気づかない鈍感なお前には言われたくない」

鷹男はしばらく矢口と睨み合いを続けるが
またしても銃声に気づいた峰男達が門から入って来たら矢口は銃を下げた

「鷹男、どうしたんだ、何かあったのか?」

峰男が聞くと

「何でもありませんよ、ただ矢口さん達と仲良くなりたくて話してただけです
銃の扱い方を習っていたら暴発してしまって、すみません」

しゃあしゃあと嘘をつく鷹男に、三人は拳を握る

2人が四人に視線を移すが誰も視線を合わさない
ただならぬ雰囲気に2人はなんとなく何があったか察した

だから「そうか、気をつけなさい」と二人は鷹男を連れて去って行った

矢口はさっき瞬から言われた言葉がプロポーズだと梨華に教わり
申し訳ないというかどうしていいか解らす瞬の顔を見る事は出来なかった

そして、ひとみの顔も
556 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:43
三人は、再び誰もいなくなった庭で、ただ宴の音を聞いていた


ひとみが耐えられなくなったのか、何も言わずに館に向って走って行った
去っていくひとみの背中を2人で見て

「なぁ石川、あいつ・・・・・・おいらと思ってあんな顔してキスしてたのか?」
「・・・・・・・・・」

梨華の何も言わない顔が余りにも悲しそうで、自分が言った無神経な言葉に気づく

「・・・・・ごめん」
「矢口さんは残酷です・・・・・誰よりも優しいけど・・・・・誰よりも残酷だと思います」

涙を溜めて梨華はひとみに続いて屋敷へと入って行った




残された矢口は一つため息をついて庭石によりかかって星空を眺めた
557 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:45
走って来る梨華に加藤と藤本が話し掛ける

「り・・・梨華ちゃん、どうしたの?何があったの?
よしこが部屋に帰って来たと思ったら、出てってって追い出されて・・・・・」

腕を捕まれた梨華がやはり泣いてるので、藤本は加藤と眼を合わせる

「何でもないの、ごめんね、今日はもう話し合いは出来ないと思う」

そう言って梨華はひとみのいる部屋へ入って行った



梨華が入ると、ひとみはベッドで頭から布団を被っていた
どうしようかと佇むが、灯された火をゆっくりと一つずつ消して
ベッドに座り話し掛けた

「ひとみちゃん・・・・」
「・・・・・・・・・」

「ごめんね・・・・ひとみちゃん・・・・許してなんて・・・・もらえないよね」

ひとみの思いを矢口にばらしてしまった事に対しての後悔が心の中に渦巻く

「・・・・・・・・・」

「明日・・・・・美貴ちゃんと一緒に頑張って来るから・・・・・
ひとみちゃんも頑張ってね」

「・・・・・・・・・」

ひとみはそのまま何も言ってくれなかった
558 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:48
梨華は自分の気持をこのまま
あんな風に伝えられたままじゃ嫌だったので今しかないと思い勇気を出す

「私ね・・・・ずっとずっと・・・・ひとみちゃんの事好きだったの・・・・・
ってかもう知られちゃったね・・・・でもね・・・ひとみちゃんの気持も知ってた
あ・・・・力なんて使ってないよ・・・・・・信じて・・・・・
今までひとみちゃんが色んな人と付き合ったりしてたの見てきたけど
矢口さんに対するひとみちゃんは・・・・初めて見るひとみちゃんだったから
・・・・きっと本気なんだなって・・・・だから・・・・頑張って・・・・」

「・・・・・・・・・」
「おやすみ」

このままひとみとは気まずいまんま別れてしまうんだろうか・・・・・
もしかしたら明日自分も殺されてしまうかもしれないのに
そう思うと後から後から涙が出て来て、泣いているのがばれないように梨華も布団を被って横になった




梨華が声を殺して泣くのに疲れて眠りそうになった頃に
うっすらと声が聞こえた

「ウチこそごめんね」

ひとみは、あんな場面を見られた上に
やっと気づいた自分の気持を速攻で矢口に知られてしまった事が
死んでしまいたいくらい恥ずかしかった

それより何より、あんな奴に弱い所をつけこまれた自分にも腹を立てていた

しかし、声を殺して泣いている梨華の気持には薄々気づいていた
だけど、梨華の事は自分が今まで遊びでつき合って来た子としてきたような事は出来なかった

梨華の事は本当に大事で、絶対に幸せになるまで自分が守らないといけない存在だったから
汚れてしまっている自分がその思いに答える事は一生できないと思っていた
だから、梨華が自分に何も言って来ないことで少しほっとしていたのは確かだった
559 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:50
なのに・・・・梨華は正直に自分の気持をひとみに向って話してくれた
それも子供のように布団の中で一人の世界に閉じこもろうとしている自分に向って

しばらく考えたが、やはりこれではいけないと自分に渇を入れて起き上がり
布団を被っている梨華に勇気をふりしぼって言った言葉だった

「・・・・・・・・・」

今度は梨華が何も答えなかった

「ウチ・・・・梨華ちゃんの事・・・・すごく大事だから・・・・
これは・・・・信じて欲しい・・・・だから死なないで・・・
明日から離れ離れになるけど絶対に無事で帰って来てね・・・・
ウチも頑張る・・・・・それと・・・・・
さっきは守ってくれてありがとう・・・・おやすみ」


梨華はそれを聞いて新たに涙を流す
560 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:54
その頃、少し沈んだ矢口が部屋に帰って来て
藤本と加藤は部屋で策を練っていた

「よし、じゃあ町があったら騒ぎを起こしてみよう」

加藤が言うと藤本も同調する

「うん、絶対その方が敵が近づいて来るはずだね」

二人が真剣に話し合ってる姿に加護達の事を思い出し矢口は心を切り替える

「とにかく、敵が、何を目的としているのかを掴んだらさっさと逃げて来るんだぞ
あまり不審がられるような行動もしないようにな」

「わかってますって、それより矢口さんこそ無茶しないで下さいね」

「それこそしつけ〜から、ちゃんと加護達を連れ戻して
シープが何を目的としているのか探って帰ってくるから」

「でもあの外壁は族だろうと出入りは不可能だ、中の地理も詳しくは知らないからな」

「そうですよ、聞いた所によると、あの町には族がいない分
バーミンを持った元特殊部隊がたくさんいるらしいし、犬と猫も一匹もいないらしいですよ
スパイと見分けがつかないから、飼わないようにしてるんですって
知らなかったけど徹底してますよね、勘太が心配になりました」

「ああ・・・・そんな空気はその場で感じる事が出来る奴だから
うまく隠れながらやってくれてるはずだ」

「中に入れた事を前提に話しているが根拠はあるのか?」

加藤の言葉に待ってましたとばかりに矢口は答える

「勘太もある意味犬では 族 なんだ、早く動けるのにどういう訳かバーミンには反応しない
だから門さえ開けば必ず気づかれずに中に入ると思う」

「そうか・・・・初めて聞くなぁ、犬の族なんて、でも賢い犬らしいし入ってる可能性は高いな
それに門が開く回数は多いはずだ、問題の場所へ行く為に」

頷く矢口
561 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:57
「だから中で勘太と合流して、勘太に手紙を持たせるよ
シープの中の状況とか、何をしようとしているのかとか」

「じゃあ、美貴達はどうします?矢口さんに連絡を取る方法はないですけど」

加藤に顔を向けた

「俺らは自分で掴んで帰ってくれば、矢口さんの連絡が入ってて若林と話し合えばいいよな」
「あ、そっか」

2人は笑いあう

その時すごい歓声が巻き起こった
三人が驚いた後、少しして、屋敷の中に峰男達が帰って来る音が響く
どうやら宴が終わったようだ

「終わったみたいだな」

加藤は出て行こうとするが、藤本が止めた

「また町の人が入って来てるかもしれないので
出ない方がいいかもしれませんよ、加藤さん有名人みたいだから」

「そうですね、も少し落ち着いてから帰って下さい
それと明日は早い方がいいでしょうから早く寝て下さいね」

「ああ、昨日は思いがけずずっと敵同士だと思ってた瞬と一緒の部屋で少し語ってしまったが
・・・・俺らは何か間違ってるのかもしれないな」
562 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 14:58
今日一日色々バーニーズの人と関わりを持ったりしたことで
加藤の中の意識も少しずつ変わろうとしている

藤本と矢口が笑って頷きあう

「なつみさんも、絶対おいら助け出しますから
その後は戦争なんてやめるように説得して下さい
・・・・もう仲間が死んでしまわないように」

「それは・・・・・・約束できないけど・・・・とりあえず俺の中では
・・・・争う事ばかりが全てではないって気がしているよ、君達のせいでな」

それを聞いて藤本がふいに話し出す

「ねぇ、加藤さん奥さんとかはいないんですか?」
「ん?あ・・・ああ、まだいないよ」

自分の事を質問された加藤は少し動揺する

「へぇ・・・じゃあ言っちゃおっかなぁ・・・・・加藤さんってなつみさんの事好きでしょ」
「い・・・・そんな事はない、なつみさんになんて恐れ多くて・・・・」

「「へぇ〜」」
思わず2人の声がハモる

「な・・・なんだよ」
ニヤニヤする二人に、仏頂面でそそくさとドアに近寄り外の様子を伺い
離れに兵達が入り込んでいく音を確認し静かになってからドアを開けていた
563 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 15:00
「いいじゃないですか、頑張りましょうね、加藤さん」
「ああ・・じゃあおやすみ」
「「おやすみなさい」」

加藤が逃げるように帰って行く

2人も火を消していってベッドに入った・・・・するとすぐに藤本が話し出す

「さっき・・・・何があったんですか?」
「ん・・んん?何って?」

明らかに動揺している矢口

「解りやすすぎです、矢口さん」

くすくすと笑っている藤本は、しかしそれからは何も聞こうとはしなかった
564 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 15:01
しばらくの静寂の後・・・矢口が話し出す

「おいらって・・・・・鈍いかな」
「え?」

暗い中で藤本が矢口の方を見ると、矢口は天上を見たまま静かに口を開く

「石川がさ・・・・怒るんだ・・・・おいらの事・・・・・最高に残酷だって」
「梨華ちゃんが?」

「ああ・・・・・なんか・・・瞬さんと吉澤・・・・おいらの事
・・・・なんか好きみたいなんだ・・・・・
なのに・・・・・おいらが無神経な事ばっかりして傷つけるから・・・・」

「全然気づきませんでした?」
「全然」

藤本も天上を見上げる

「そうとう鈍いですね・・・・でも・・・・
それで傷つく傷つかないはその人の勝手です、矢口さんが気に病む事ではありませんよ」

いつか矢口さんが言ってくれたセリフですよと藤本が笑う
565 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 15:03
「・・・・ああ・・・・・でも気に病むよ・・・・・石川だって傷ついてるし
・・・・吉澤だって・・・・・それにお前だって」

石川がずっと心に閉まっていた大切な気持ちを吉澤に知られてしまったし・・・・と呟く

「だって矢口さんが好きなのは姫なんでしょ」
「・・・・・う・・ん・・・姫・・・・・しかいない」

改めて自分に確認するように呟く

「だったら全然問題はありません、みんな解ってる事でしょ
みんな好きな人が、誰を見ているかなんて」

「・・・・・・ごめんな・・・・藤本・・・・こんな事お前に話しちゃって・・・・」

矢口が今度は藤本を見た

「残酷・・・か・・・・・梨華ちゃんも今頃泣いてるんでしょうね、きっと」
「ああ・・・・だろうな」

しばらくするとザッと半身を起こして藤本が矢口に言い出した

「あ、矢口さんも泣きたければ美貴の胸で泣いてもいいですよ
美貴も少し人恋しいし」

暗闇で眼をあわせると、少し笑って

「ば〜か、何されるかわかったもんじゃね〜」
「ほんとは寂しいくせに」
「言ってろよ・・・・・・・・・それと・・・・・藤本・・・
石川の事・・・・頼むな・・・・・」
566 名前:dogs 投稿日:2006/07/09(日) 15:05
笑いあった後、同時に天上へと視線を向けて
「ええ・・・今日も・・・・よしこにせつない視線を投げかけてる梨華ちゃんに・・・・
くらくら来てしまいました・・・・・絶対よしこのもとに戻してあげます」

矢口はフッと笑うと

「変な奴だな・・・・お前は」
「矢口さんに言われたくありません」
「だな」

それからはもう口を開く事はなかった


そして矢口の脳裏に、あの時の風景が蘇る

梨華が何か嫌な感じがすると言って、裏庭へと行った所で引き返し始めたので
自分も梨華のカンに従い玄関先の広場へと戻った

すると宴の騒がしさとは違う話し声が聞こえて、門近くのその声の方へと近づいた時
鷹男という男がひとみと貪りあうようなキスをしている所が目に入った

その時のひとみの横顔や、少し色っぽい喘ぎ声が耳から離れない

いつも怒った所ばっかり見ていたから・・・あんな姿を見せられ衝撃を受けた

あの表情が、相手を自分と思ってやっていた事が何より不思議だった
嫌われているとばかり思っていたのに・・・・・

明日は藤本と梨華はこの屋敷からいなくなってしまう・・・・
ひとみとどうやって顔を合わせればいいのか

その日、矢口は胸のどきどきをおさめる事ができずに眠れない夜を過ごした
567 名前: 投稿日:2006/07/09(日) 15:06
本日はここまで

それとなんとなく先に謝っておきます。ごめんなさい
568 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/09(日) 17:59
やっぱりやぐよし?
569 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/09(日) 22:11
鳥族ってなんでもありというかなんというか…すごいなぁ
ドギマギやぐちさんが面白かったです
でも吉澤さんのとこでは一緒にドギマギしてしまいましたw
570 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/09(日) 23:38
なぜあやまる?
571 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/07/10(月) 18:06
みんなが心揺らいでいるので、大怪我したりしないか心配です。
気持ちを切り替えて、辻加護となつみさんを無事救出できますように。
572 名前: 投稿日:2006/07/12(水) 15:40
568〜571名無飼育さん

レスありがとうございます
ドキドキして頂いたり、心配して頂いたり、感謝です
それに訳の解らない事を書いてしまい申し訳・・・
573 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 15:44
翌朝梨華は、ひとみに気づかれないようそっと起き出し
なぜか少し不機嫌なかおりと朝食の準備をした

梨華は毎日の日課の朝食作りより少し早い時間にもかかわらず
梨華達が調査に行く話を聞いて早起きして支度してくれるかおりに感謝した

そのうち矢口と藤本も起きて来て手伝おうとする

「おはよう・・・石川、かおりさん」「おはよ、梨華ちゃん、かおりさん」

「おはようございます」「おはよう」

微妙な空気を出しながらも挨拶をして矢口と梨華は微笑みあった

「石川」

矢口が話し掛けようとすると、梨華が首を振って微笑んだ

「昨日はすみませんでした」
「何言ってんだよ、おいらの方こそごめん」

俯いて佇んでいる2人を見てかおりが

「何やってんの?ほら、早く朝食作らないと日が昇っちゃうよ、時間がないんでしょ」

そう言うと、じきに起き出して来るであろう人の分の朝食を全員で準備した
574 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 15:45
いつもは鷹男が手伝いに来るらしいが
今日は来なかったのでかおりはおかしいわねぇと首を捻る

準備も終わり、他の人はまだ寝ているので、自分達と加藤だけ先に食べた
そして、出発の準備も終わり、その頃起きて来た峰男や瞬も見送る中
玄関の馬に荷物を積んで挨拶を交わす

「君達は我々三つの町の運命を変えようとしてるのかもしれない
くれぐれも気をつけてくれ」

峰男の優しい言葉に加藤が少し感動していた
それに付け加えるように瞬も穏やかな顔で言う

「何か掴んだらすぐに逃げて帰って来るように、無理はしないように」

三人が頷く

「・・・・ったく吉澤は何やってんだ、見送りに来ないなんて」

矢口が小さな声で呟く

「矢口さん・・・ひとみちゃんの事・・・・よろしくお願いします」
「ん・・・あ・・・ああ・・・・」

矢口の返事のキレは悪い事に少し苦笑する梨華

すると奥から誰か走って来た
そしてはぁはぁと何も言わずにしばらく梨華を見ていた
575 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 15:47
峰男達も皆注目する中
ひとみが息を切らせて馬の上で藤本の後ろにつかまっている梨華に話し掛ける

「梨華ちゃん・・・絶対・・・・・・絶対無事で帰って来てね」
「うん・・・・ひとみちゃんも」

ひとみと梨華は笑顔で頷きあう
ひとみは梨華の眼の下にすこし隈が出来ている事に気づき少し悲しい顔をするが
すぐに藤本に向って力強く視線を投げかけると

「美貴・・・・梨華ちゃん死なせたら許さないからな・・・それと美貴も」

ひとみの思いに答えるように力強く頷く

「うん、わかってるよ、じゃあ行って来るね」

二頭の馬の上で三人は手を振りながら門を出て行った
玄関先で、手を振り続ける2人と、黙って見守る峰男と瞬
576 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 15:49
誰も口を開こうとしないし動こうとしない中、瞬が口を開く

「じゃあ、矢口、俺が飯を食ってから明日の取引の品の所に連れて行くから、少し待っててくれ」
「あ・・・はい」

瞬は昨日の事は何もなかったように話し掛けて来たので少し安心する

「じゃあ、後で部屋に行くよ」

そう言って笑って玄関の中に入ったら
小さな足音が近づいて来て亮が「じいちゃん父ちゃんおはよう」瞬に抱きついている

「お、起きたか、顔洗って来い、矢口達が御飯作ってくれてたから食べよう」

おはようと峰男にも微笑まれて
瞬に抱きかかえられた亮が背中越しに矢口達を見て

「矢口ぃ、吉澤ぁ、おはよ〜」

と明るく挨拶するので

「「おはよう」」

2人で声をハモらした
思わず顔を合わせるが、お互いにすぐ顔を逸らしてしまった
577 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 15:51
「あ・・・・部屋・・・・戻って武器の手入れするよ」
「じゃあ・・・・ウチも朝食食べて来る」
「ん」

視線を合わす事なく矢口は先に家に入って行く
その背中をひとみは見つめた後、みえなくなって動き出した

その後瞬達数人と、ひとみは食事を取っていた
すっかりこの二日で、離れに済む十数人の兵隊にもひとみ達は受け入れられ
昨日の宴で飲みすぎただのという雑談をして溶け込んでいる

しかし、鷹男が起きて来ると、その会話も上滑りした感じに空気が変わった
どうやら鷹男は、この兵隊達の中で浮いた存在のようだった
瞬と峰男と亮以外はそそくさと片付け始める
ひとみもその流れにのって片付けようと立ち上がった

「吉澤さんっ」

瞬が声をかけ、鷹男に一瞬視線を移して

「昨日何があったかは知らないけど、明日は矢口を無事シープに送り出す為に
ちゃんと連携が取れるようお願いするよ」
「はい・・・・わかってます」

2人には何もかもバレているようで気持悪かったけど
そんな事で矢口が危ない目にあってしまう事は避けたい為、素直に返事をした
578 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 15:53
食器を台所に持って行くと
かおりは他の兵隊達と楽しく会話しながらも食器を受け取っている
同じ鳥族で、どうしてこうも扱いが違うのか不思議だった

「あ、吉澤さんももういいの?」

ひとみの食器を受け取り洗い出す
矢口がいた時とは違って昨日までのかおりになっていた

「はい」
「もう梨華ちゃんは旅立っちゃったんだね、かおりも見送りに行きたかったけど
みんなが起きて来ちゃったから行けなくって」
「あ、梨華ちゃんに色々教えてもらったみたいで・・・・ありがとうございました」

かおりは洗い物をやめて

「あの子はかわいいねぇ、何か健気でさ
同じ鳥族から心を見透かされない壁の作り方とか教えたら
必死になって頑張ってたわ・・・・でも・・・・
私達の力ってやっぱり他の人からすると嫌われる力なんだよね
だいたい心を読まれるなんて不愉快でしょ」

「ええ・・まぁ・・・・でも梨華ちゃんは、やたらと人の心を見たりしませんから」

かおりは微笑んでまた洗物を始めると、ひとみは手伝い出す

「あ、ありがと、そうね、私も必要な時以外は絶対に見ないように心がけてるし
でもね・・・・こんな力持ってると、自分が弱った時に
どうしても使ってしまいたくなってしまう時って出てくるの・・・・それが今の鷹男さんね」

鷹男の名前が出た事で、少し不愉快な気分になる
579 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 15:55
「鷹男さんは、ここにはよそ者として入って来たの、元は山賊の一人でね
綺麗な顔してたから山賊からも可愛がられてたみたい
でもね、鷹男さんが12.3歳位になった時・・・・色んな山賊の男から
体を狙われるようになったみたいで、山賊の集団から飛び出してはぐれの族になったの
そして、瞬さんが狩りに行った時に衰弱した彼を見つけて連れて来たって訳」

かおりは今ある洗い物は終了し、手ぬぐいで手を拭いた後皿を拭き出す

「あの・・・・別に知りたくありませんから、あの人の事なんて」

そう言うとひとみもすすぎ終わったので、皿を拭き出した

「この町に来てからも、誰にも心を許さなかった彼に・・・・
二十歳位だったかな、好きな子が出来たみたいなの、そしていつしか2人は恋人同士になって
1年くらい・・・・順調に交際してたみたい・・・・
だけど、彼はあの容姿だから他の女の人や男の人から言い寄られるようになって
それを信じる事が出来なくなった彼女が、別れを切り出す時に言ってはいけない事を言ったみたいなの
人の心を見れる人とは安心して暮らして行けないって・・・・・・
でもその子もその後山に山菜を取りに行った時、山賊に殺されたわ
それからね、彼が人の心を弄ぶようになったのは」

全て拭き終わったひとみは、そんな話から解放されると思い

「私には関係ない話ですから・・・・じゃ」
「待って、私・・・・あなたなら鷹男さんの事救ってあげられると思ってるの」

そう言って去ろうとしていたひとみの腕を掴んだ
580 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 15:58
「・・・・・・・・・」
「あなたは、すごく綺麗な心をしてるわ、とても真っ直ぐな・・・・
だから梨華ちゃんも鷹男さんもあなたに惹かれる・・・
もちろん私もね・・・あなたの近くにいると、何故だか心が休まるの・・・・
裏表のない人ってなかなかいないから」

「あの・・・・・今かおりさんは、ウチの中を見てるんですか?」

かおりは首を振る、ひとみもそれはわかる、バーミンは熱を帯びてはいない
もしかしたら本物の鳥族の人はバーミンに反応しない方法だって知っているのかもしれない

「見てなんていないわ、多分梨華ちゃんもずっとあなたのそばにいたのに
一度も見た事なんてないと思う・・・・でも空気で感じてしまうの
邪悪な心のある人の空気や、笑っているのに心に黒い影のある人からは
力を使わなくても感じてしまう・・・だからあなたのそばはすごく心地いい・・・・・
そうね・・・・あなた達・・・と言った方がいいかしら
あなた達みんな、とてもいい空気が流れてる」

私達6人はすごくいい感じの集まりで・・・
それを認められた事は嬉しかった・・・・
でももうそれも長くはないのかもと思ったりもして苦笑する
その私達の関係を壊した張本人の鷹男をどうして好きになれよう・・・
そう思って口を開く

「ウチはあの鷹男って人は、あまり好きになれません・・・・
だから、かおりさんが期待するような事は出来ません、すみませんが疲れてるんで」

「ごめん・・・大事な作戦の前に変な事言ってしまって・・・
でも、あなたが鷹男さんと同じ作戦に同行するって聞いたから・・・
少し教えておいた方がいいかなって」

「・・・・・・・ありがとうございます、参考に・・・・させていただきます」

礼をして台所を後にしようとした時に、瞬が亮と一緒に食器を抱えて入って来る
581 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 16:00
「あ、吉澤さんもすぐ支度して、矢口と力也と辰雄で出かけるから」
「はい」

「俺も行っていい?父ちゃん」
「お前はかおりと留守番、帰って来たら遊んでやるから」

ひとみは部屋に帰ろうと廊下に行った時に
後ろでこんな会話を聞いて遠ざかっていた、瞬は悪い人ではなさそうだと本当に思えた

そしてひとみは矢口の部屋の前を通る時・・・
一瞬立ち止まるがすぐに自分の部屋へと戻った

一応、寝巻きのような格好から、いつもの格好へと着替えると
銃の弾を確認して腰に挿し、バーミンも目立たないようにつけナイフも身につけた

矢口がドアの外から声を掛けてくる

「吉澤、準備が出来たら行くぞ」
「はい」

ドアを開けたら、矢口は前のように笑っていた
582 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 16:01
瞬間、吉澤の体には何かが走って行く


そしてやっぱりこの人が好きだという事

そして・・・・自分でも気づいたばかりなのに、もう知られてしまったという事も

「どうした?行くぞ」

さっき迄の態度とは明らかに変わって、今までの矢口に戻っているようだった


矢口は一人になり、ひとみとはこれまで通り接する事を心に決めた
美貴達も行った事のない場所にたった三人で乗り込んで行かせてしまい
まだまだ自分達の事をよそ者と思っている兵達の中に
ひとみを一人で置いていく事を考えれば、自分がみんなの事を大切に思う事は変わる訳はなく、
その為にはひとみとここでぎくしゃくしてる場合ではないと思った

なにより大切な加護と辻を取り戻さないといけないのだから
583 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 16:03
そして、馬に乗って瞬についていくと
2人が思う以上の品物の数々が着々と準備されている場所に着いた

町民達が、矢口とひとみを見て誰だろうという視線を浴びせながら
荷車を押してその広場へ次々品物を置いていく

鉄鋼の町と聞いていたのに、繊維業や木工も盛んなのか
家具や綺麗な布が持ち込まれている

「さて、矢口、これらはあの二列に並んだトロッコに乗せられて
レールに乗ってシープの町に入る、その際すべての品物をチェックされる」
「どんな風に?」

矢口が尋ねる

「例えばあれら鉱石なんかは、危険回避の為、両方の町の人の手で尖った棒でくまなく突き刺して行く
一人だけが棒を持つと武器になるからな、
そして布なんかは一枚ずつすべてめくられるし、もちろん家具は中を開けて運ばれる」

「吉澤、何か考えて来たのか?」

瞬の話を聞いて突然矢口に話を振られる、一応少しは考えていた

「要はそのチェックする奴の注意をひいて調べさせなければいいんだろ」
「そういう事だな」
584 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 16:06
ひとみの問に瞬が答えると、力強い目をしてひとみが矢口に言う

「ウチが相手の奴を誘惑するってのは?」

矢口が驚く

「お・・・・おい、そんな事できるのかよ、お前の性格で」
「・・・・出来るか出来ないかじゃない、しなきゃいけないんだろ」

ひとみは瞬へと視線を移す

「そうだな、いつも取引は男が行なっているし・・・・
少し不思議がるかもしれないがたまに女性も入るから大丈夫だろ
いつもはお互い十人ずつ、兵が3人と町民が7人ずつ、そう決まっている」

と言う瞬に続き、力也が口を開く

「しかし、ダックスの時の取引のようにすべて兵隊が来てたら
吉澤さんや町民の人達は全て守りきれるかどうか」

「こっちの兵の三人は全て顔を知られているメンバーだし
相手は警戒を強めてるはずだ、きっとチェックも厳しい」

力也や辰雄の不安そうな言葉に瞬が
「こっちも全員兵で行くか、変装させて・・・・」と呟く
585 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 16:08
「大丈夫です、少なくともウチは自分の事は自分で守りますし
だから矢口さんはこの役をウチにやらせようとしているんでしょ」

ひとみは矢口を見ると矢口は頷く

「まぁ・・・油断だけはすんなよ・・・・じゃあ、おいらはどれにもぐり込もうか」
「今回は、鉱石も多いが、調度品が多いのが気になる、何か祭典でもあるのかなぁ」

瞬が並べられた取引の品々を見て呟く


品物は相手がリクエストして来た物を、相手の品の質や量で決めるらしい
こちらがもらう物は魚介類や装飾品が主である
どちらも相手の品のチェックを6人でして、チェックを見守る人を4人ずつつけるらしい

見守る人にひとみと鷹男がつく事になっている
どこに兵が来るかもわからないし全員兵で来るかもしれない
586 名前:dogs 投稿日:2006/07/12(水) 16:09
「やっぱりこの布の下がいいでしょう、石の下じゃ矢口さんがつぶれてしまいます」

上げ底に見せかければ空間も作れますしと呟く

唐突に力也が言い出したが、布の中は容易にめくられてしまうんじゃないかとひとみは思った
だが、重い石の下はやはり矢口がかわいそうだと思って言う

「確かに、石の下はつらいですよね」

ひとみが言った時に、早掛けした馬がやってくる

「瞬さんっ、やはりおかしい、監視棟からシープともダックスとも違う集団が
山の上を遠回りしながらJの国の方向に行ったという情報が入った」

「あの場所に行ったんだな、何があるんだあそこに・・・・・
財宝以外は考えられないんだが・・・でも財宝を何に」

「明日その場所に行く時・・・・気をつけて下さいね」

そのやり取りを聞いて矢口が瞬と吉澤に眼をやりながら言うと二人は頷いた
587 名前: 投稿日:2006/07/12(水) 16:09
とりあえず更新
588 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:11
藤本達はその頃ダックスに入っていた

ダックスの町は、バーニーズとは違い、町中が戦闘ムード一色で
加藤が帰って来ると誰かれかまわず声をかけて激を飛ばす

   「勝っ、誰だっ、その女達は、女にうつつ抜かしてね〜で、なつみさんの為に戦う準備しろよ」
   「おいしい目にあってんじゃね〜だろ〜なっ」

なんて言葉が次々と浴びせられ
梨華は怖かったのか藤本にぎゅっと捕まっていた

「大丈夫だよ、加藤さんと一緒にいる限り襲われたりしないから」

「うん・・・・解ってるけど・・・・なんか怖い・・・・・
悲しみと恨みがこの町に充満してる感じ」

「あ・・・そっか、力使わなくても感じちゃうんだね・・・・・
じゃあさ、美貴が楽しい事考えてあげるからさ、美貴の中覗いててごらんよ」

梨華は返事の代わりにぎゅうっと抱きついて力を使い始めた

藤本の考えている事は
昔、王子と暮らしている時の幸せな過去で
その時起こったお付きの人のドジな姿や
王子が乗馬の練習をしている時、かっこつけていたばっかりに落馬した事
そんな微笑ましい事ばかりが浮かんでは消えて行った
589 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:13
いつのまにか梨華の心には、恐怖というものがなくなっている

耳には、町の人達の怒号が響いているのに静かだと感じ始めていた




そして、安倍という人が住んでいる屋敷へと到着すると
すごい兵隊が集まって談笑したり、剣の練習をしていたりしている

その中に加藤が姿を表すと

「帰ってきたかぁ」「その子達は?」という声があちこちから聞こえ

「なつみさん奪回の為に協力してもらってるんだよ」と軽快に馬の足を進め
屋敷の前で兵へと馬を渡して藤本達にも下りてと言う

「大丈夫、安倍様は、みかけは怖いけど優しい人だから」

加藤が言うと二人は頷いてついていく

広い部屋に入って行くと、藤本はズラリとテーブルについている兵隊の中に
前に辻と加護を連れて行った時に見た族の人を見つける

「一週間と言ったが、もうあきらめたのか?」

その男が藤本ににやりと笑って聞いて来た

「いえ・・・・絶対に助けます」

言い切る藤本
590 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:15
「だそうですよ、安倍様」

隣にいる大柄でひげをはやし、睨んでいる男に話し掛けた

「じゃあ、どうしてこの町へとのこのこやってきたんだ、加藤
なつみを連れて帰ってくれるんだろ、その娘は」

「安倍様・・・・正確にはこの娘達・・・と言った方がいいかと」

安倍は顎をつまむようになでながら、加藤を見た

「で・・・・・加藤、取り返してくれそうなのか、その娘達は」
「はい、きっとなつみさんを助け出せるでしょう」

加藤が言い切った所で、兵達はざわめく


梨華はその間 安倍と呼ばれた人の心を読もうと力を使い出す

そしてかおりさんに昨日教えてもらったように、読んだ事柄を藤本に伝えようと思っていた
鷹男やかおりのような鳥族とは心で会話出来てもまだ鳥族以外と会話する力はない

その第一歩、他の人に言葉を伝える事もまだ自信がなかったが
責任感から必死にやってみようと試みていた

そして、安倍は明らかに私達2人を疑っている事が伝わってくる

「なつみが連れ去られたのを知って一番腹を立てていたお前が
どうしてこんな娘達の事を信頼しているのか解らんが、期限を決めたにもかかわらず
ここに来た理由を聞こうか?我らの同胞を多数殺した奴の仲間だしな」

それを聞いた近くの兵が銃を構えそうになるのを加藤が制す

そうして、加藤は、バーニーズにも知らせた出来事と
バーニーズが今から何をしようとしているのかを報告した
591 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:18
「それでお前達は、旧Eの国の拠点近くにある町へと今から向うのか」

「はい、必ず何か起こっているはずです、何か良くない事が・・・・
ですから、その途中経過を報告に立ち寄りました」

「何が起こってようと、我々がシープを叩き潰すのは変わらないし
お前らの出方によってはお前らも敵とみなす」

「はい・・・・しかし、何も知らないまま戦うのと
何が今から起ころうとしているのか知って戦うのとでは違うと私は考えました
そして・・・・・この2人と、今バーニーズにいる2人の仲間は
必ずなつみさんを助けてくれると私は感じました」

この状況で加藤が2人を擁護し
しかも信じている言葉を言い切った事に安倍は驚く

安倍にとって加藤は、実直でまじめな男だと信頼を寄せていたから

「うむ・・・・よかろう、何かあれば、バーニーズと同じ情報を得られるのだな」
「安倍様、信じるのですか?こんな娘達の事を」
「私は加藤を信じているだけだ、それにまだ一週間の期日は来ていない
今の所我々は計画通りに事を進めていて、何も問題はない」

安倍の表情に少し変化が表れたのを2人は感じたし
梨華にも、「まぁお手並み拝見」という心情が伝わってきていた

少し疲れた顔の梨華は頷いて藤本に微笑む
そしてまだまだ誰かに心情を伝える事が難しいと思い知る
592 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:20


「早く行きなさい、時間がないのだろう」



安倍は微笑んだ

その顔は先程までの威圧感十分の顔と違い
父親のような顔で加藤に言ってくれた

「はい・・・安倍様・・・それと、明日シープに潜入するこの二人の仲間の名前は
矢口と言います・・・・・矢口真之介の孫でMの国の兵を殺戮し逃亡中の娘です・・・・
噂とは異なり・・・・・なんというか、漠然と期待させる何かを持った人物でした」

梨華は以前矢口から真之介の顔と言われた時に見せてくれた顔が
安倍の中に現れたのを確認した

「真之介の・・・・・・そうか・・・・・解った、早く行きなさい」

そう言った安倍の心には、先程までの半信半疑の様子はなくなり
これから何が起きようとしているのかを真剣に考え出したように思えた
593 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:20



594 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:22


「ねえねえ、その式典っていつあんのん?」



食事を持って来た兵隊に
すっかり、友達のように話し掛けるようになってしまった

「明日の夜だよ、東条様の到着式典と一緒にあると聞く」

すると加護の横から辻が割り込み、兵隊の顔を書いた絵を差し出した

「これ、兵隊さんの顔だよっ、似てるでしょ」

兵隊は、辻からその絵を受け取る

「・・・・こんなに不細工じゃないよ、俺は」

無表情で紙を返して言う男に

「そうかなぁ、のんは似てると思うんだけどなぁ」
「似てへんわ、ほれ、ウチの方が男前に書いてやってん、どや」

近くに置いてあった紙の中から加護が一枚取り出してにかっと微笑むと
男は下を向いて、黙って立ち去った




それを見ていたなつみは、兵隊が確実に2人に情を持ったのを見た
595 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:24
「なんやねん、似てるとおもたのに」
「いや、のんの方が似てる」

2人はなつみへと振り向いて

「「どっちが似てる?」」


と真剣な表情で聞いてきた

なつみはおかしくなって

「どっちも似てない、なっちが書いた方が似てるって」
「「え〜」」

そういって加護は、今聞いた「祭典は明日の夜」と紙に書いた後
食事を取り出す

少しずつ兵隊から情報を聞いて書いていくのだが、まだまだ確信をつくような事は解らない
596 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:26

解った事は

東条様という人は、Eの国の王族の末裔で
今後このシープの町に王制復活させ、加賀様にその冠位を授ける為に来るらしいという事

最近、強盗や事件が多くなって来たのをその東条の部下の人たちが捕まえてくれた事

ぐらいである

しかし、この牢屋の中では、この情報を確認する方法も
誰かに伝える方法もなかった

「ねぇ、のの、あいぼん、このままここでお絵かきしてても逃げられない
やっぱりなっちが今度用を足しに行く時にあの兵達を倒すね」

筆と箸を持って、どうやって武器にしようと頭を捻らせていたが
2人が浮かない顔をしてなつみを見る

「でも・・・・ウチらが逃げたら、あの兵隊さん怒られるんちゃう?」

加護は御飯を頬張りながら呟く

「何言ってるの、逃げないと二人は殺されちゃうんだよ」

なつみはあきれた
597 名前:dogs 投稿日:2006/07/13(木) 22:27
「でもあのカランの蔦でしばられたままだと力使えないし
目隠しされてちゃ何もできないでしょ、いくらなっちだって」

辻に言われてなつみは俯く
どうシュミレーションを繰り返しても、最後はやはり捕らえられてしまう結論に至る事に

何か違う事考えたら何かひらめくかもと
お絵かきして気晴らししていた頃だった

「やっぱ親びんが来るのを待つしかないんちゃう?」
「うん、親びん、早く来ないかなぁ」
「・・・・・・・」

さんざん今まで矢口の話や、ひとみ達の話を聞かされてたが
どんなに矢口がすごい人物でも、この塀に囲まれたこの町には入り込めないと
なつみは知っている

それでも来てくれると本当に思っているのがすごいと思いながら
幸せそうに御飯を食べる二人を見ていた
598 名前: 投稿日:2006/07/13(木) 22:28
今日はこのへんで
599 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:06
ひとみ達が若林の屋敷に帰って来た
ひとみと矢口は、何も話す事なく屋敷に到着する

「矢口さん・・・・ウチちょっとかおりさんの所に行って来るよ」
「あ・・・ああ、じゃあおいら部屋にいるから、何かあったら言えよ」

しっかりとひとみの眼を見据えて言った

しかし、ひとみは矢口を見る事なく手を少し上げて
かおりの家の方へと歩き出す

ポリポリと頭を掻きながら矢口が屋敷に入り、離れに行く前の渡り廊下のような場所で
亮が留守番の鷹男と棒きれを使って遊んでいるのが見えた

鷹男の顔には青たんが出来ており
昨日の出来事は夢ではなかったんだなと思った

亮が矢口に気づき

「あ、矢口ぃ〜」

と言いながら近づいて来た
600 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:08
「おうっ、何して遊んでんだ?」
「剣の使い方教わってんだ」
「一応鳥族とはいえ兵隊だからね、子供に使い方を教えるくらいは出来るよ」

鷹男も近づいて来る

「へぇ、じゃあおいらと手合わせお願いしようかな」

矢口が鷹男の眼を見据えて言うと

「矢口剣使えんの?」

矢口に背中を預けてもたれかかり
矢口から抱き締められていた亮が上を向いて質問する

「おいらこう見えても元兵隊だったんだぞ」
「へぇ〜、じゃあ見せて見せて」
「いいですか?鷹男さん、手合わせしてもらって」
「お手柔らかに頼みますよ、矢口さん」

亮が持っていた子供用の小さい木刀を矢口が借りると
広い所に出て両手で下段の構えをしてカンと鷹男が片手で持っている木刀と合わせた
601 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:10
先手を打ったのは鷹男で、いきなり袈裟懸けに切りつける
ひらりとそれをかわし、下から帰って来る剣に縦にして止め、跳ね返す

「矢口さんは、こういう時は何も考えないんだね」

言いながら踏み込んで上から叩きつけるように降ってくる剣をさっとよける

「あなたが鳥族だというのを知ってますから、来た刃に反応させるだけですね」
「それは懸命だ」

鷹男が続けざまに木刀を振り回し切り込んだが、矢口は片手で地面に手をついて
くるりと回りすばやく低い体勢で鷹男の胴に打ち込んだ

「うぐっ」

お腹を押さえて鷹男が膝をつく

「大丈夫ですか?打ち込む瞬間に力は抜いたはずですが・・・・」
「矢口すげ〜」

亮がそばに寄る
602 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:12
「さすがMの国の矢口さん・・・・参りました」

鷹男が膝間づいたまま爽やかに笑うと、矢口も微笑んで

「慣れてるだけですよ、あなたが人を操るようにね」
「キツイね、矢口さんは」

亮が2人の間を交互に見てる頭に矢口は手を置いて亮に微笑みながら言う

「今度おいらの仲間を傷つけた時は許さないから覚悟しといてくださいね」

木刀を杖のようにして鷹男も立ち上がる

「ああ・・・・でも俺が彼女に惹かれる心は止められないけどね」
「でも、傷つけた・・・・」

立ち上がった鷹男を見上げる

「・・・・・・・解ってるよ、これからは正攻法にするから」
「ねぇ、何の話してんの?」

矢口は亮の質問に置いていた手でくしゃくしゃと撫で回し

「子供にはわかんね〜話」

と顔を近づけてアカンベをしてみせた
603 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:13
「なんだよぉ、ちびのくせに」
「またちびっつったな、こらっ亮」

力を使ってそこらへんの木を飛び回る亮を矢口も追いかけた
鷹男がフッと笑って木刀を持って渡り廊下の方へと行くと瞬が声をかける

「お前またいつもの手を使ったのか?」
「・・・・・・・」
「町の女にいくら手を出そうがかまわないが
これから一緒に戦う仲間に手ぇ出してどうするんだ」

昨日の出来事を憶測しての言葉だったが

「・・・・・・・瞬さんも一緒ですよね」

瞬の横を通り過ぎながら鷹男は微笑みながら言うと
部屋の方へと歩いて行った
604 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:15
少しムッとしたが、気を取り直して飛び回る二人に声をかける

「矢口ぃ、ちょっと出かけてくるから亮を頼むな」

瞬の前にふわっと2人が表れる

「どこ行くんですか?」

「ああ、明日俺は取引場所には行けないし、その間にちょっと各地区の長のを集めて
話しようかと思って今から連絡しに行くよ」

「地区の長がちゃんといるんですね」

「まぁ、これだけの人がいれば父上だけではまとめられないからね
父上の昔の戦友達がそれぞれまとめてくれてるんだ
明日は若手の兵を出してもらうし、その挨拶もかねてな」

矢口を送り出した後、早速先日の場所へと精鋭を連れて行く事になっていた

シープとかダックスとかを敵視するのは別として
若林を中心に、団結して自分達で町を作っている姿には感心していた
605 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:17
「ここの町って、いい町ですよね」
「昨日は住んでくれないって言ったその口で言うか?」

矢口は、思い出した・・・梨華が瞬はプロポーズのつもりでその言葉を言っていたと

「あ・・・・・・よそ者とかこだわるのには疑問を持ちますけどね・・・・って感じで・・・・」
「矢口って、この町は嫌い?ダックスやシープの方がいいの?」

亮が話しを聞いて話に入ってくる

「ううん、そんなんじゃないんだよ・・・・
でもさ、シープとかダックスとかさその土地の人たちに会って話すと好きになるよ、亮もきっと」
「なんや、矢口も敵やったんか」

その言葉に矢口は悲しい顔をして亮に目線を合わせて言う

「亮・・・・この町の外にもいっぱい優しい人や楽しい人がいるよ
・・・・おいらは知ってる」

亮は困ったように瞬を見上げる

「それは亮がその眼で見て感じる事だから、父さんは何も言わないよ」

矢口はそれを聞いて、この人は暖かい人だと感じた
606 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:20


亮は口をへの字にして俯いていた


「おいらは好きだよ、亮の事」

膝に手を置いたまま亮の顔に近づいて微笑む
その様子を見て瞬が優しい声で言う

「俺も好きだよ・・・矢口の事・・・・」

矢口と亮はハッと顔をあげた

「父ちゃん?」

亮の両手を握ってしゃがんだ瞬が

「亮、父さん矢口の事が好きなんだ、この町の人じゃなくてもな・・・・
きっとこの町の人じゃなくても仲良くなれるんだよ」

言いながら横の矢口に微笑んだ

矢口はゆっくりと体を起こし瞬を見下ろすと
口を開けたままだったが、にっこりと微笑んだ
607 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:24
「矢口は?」
「ん?」

亮が矢口を見上げて聞く

「矢口は父ちゃんの事好き?」

一応平気な顔をしながらも心は動揺しまくっている
鷹男がいれば笑いまくるだろう

何と言えばいいんだろうと迷うが、嫌いではない、むしろ好感は持っている

「うん・・・好きだよ」

亮が嬉しそうにするのを見て瞬が

「でもな亮、矢口には一番好きな人がいるらしいんだ
だからその人の所に行く旅をしてるんだってさ」


「そうなの?」

悲しそうに言う亮に、微笑んで頷く

「シープに捕らえられている矢口の仲間を助けたらお別れだ
だから今の内に遊んでもらいな」

亮は微笑んでいる矢口を見た後
力を使って屋敷の方へと消えてしまった
608 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:27
「あいつ、寂しくなったもんだからかおりの所に甘えに行ったんだよ、きっと」

「あの・・・・瞬さん・・・・・昨日は・・・ごめんなさい
瞬さんがそんな気持でおいらに言ってくれてたのに気づかなくって
その・・・・・・傷つけるような言葉言ってしまって」

頭を下げる矢口に

「ああ、かまわないよ、ただ久しぶりに自分の気持を正直に言いたかったから・・・
でも・・・気づいてなかったのか?」

矢口が赤くなって俯く

「あの・・・・すみません」
「はははっ、気づいてなかったのか・・・はは・・・・
もっとちゃんと言えばよかったな、それじゃ行って来るから」

笑いながら庭を歩いて行ってしまった
609 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:28




610 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:30
その頃ダックスの町を出てから馬を走らせて
隣の町への山道を駆け抜けていた梨華達三人

ダックスを出る際に山賊に見えるよう、山賊の服に着替えたりした

「やだ〜、なんか臭いよこの服」

藤本はあからさまに用意してもらった山賊の服を嗅ぎながら文句を言い、手を離す

「ちゃんと洗ってるみたいだけどな」

加藤は一応慰めの言葉を言うが
藤本と梨華は自分達で自分の服を地面に寝転んで汚し出した



それからなんとか山賊に見える三人は出発したのだった

山間に町が見え出すと
辺りから色々な気配がしだすので三人は顔を見合すと頷いた

しばらくして、町に近づいた所で突然銃で襲われた

加藤と藤本が咄嗟に反応して姿を消す
美貴はもちろん梨華を連れて動き、馬だけが町へと走って行った
611 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:36
加藤が襲って来た集団の内何人かもう始末してしまってたので
藤本は加藤一人で大丈夫だろうと木の陰に梨華を隠して様子をみた

「撃たないでくださいっ、わかったから、すみませんでした突然襲って」

加藤に銃を頭に突きつけられた男が言うと、怯えるように周りの男達も頷く

「何で撃った」

迫力たっぷりに低い声を響かせる加藤は
今まで見て来た山賊の様に迫力を醸し出していて
なかなか様になっているなぁと藤本は微笑みそうだった

「あの・・侵入者はとりあえず撃てというふうに言われますんで
しかし、旦那達は何しにあの町に向かってるんですか?」

加藤は睨みつけながら吐き捨てる

「別に、何か食い物がないかなぁって思っただけだ、お前ら何か食べる物持ってないのか?」

もちろん今の所そこまで腹など減ってはいないが
彷徨っている事を印象付けようとした加藤の演技だった

「こ・・・・ここにはないんですが、あの、解りました
あの城まで行けば食べさせますので、その銃を下げてください」

加藤が銃をさげて周りを囲んでいる十数人の男達を見回し、

「お前らのせいで馬がいっちまった、連れて帰ってこいよ、歩くと余計腹減るだろ」

というと、数人が馬を追いかけて行った
612 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:42
「おい、美貴、もう出て来ていいぞ」

一応、ずっと一緒に行動しているはぐれの族という事で名前を呼び合う事にしていた

「ったく何なんだよ、突然襲いやがって、腹減ってるのにさ」

藤本も加藤の演技に負けない位不機嫌に男に近づき蹴飛ばした

「す・・・すみませんすみません、今連れて帰って参りますので」

梨華は唖然と2人の変貌ぶりに乗り遅れた形になったが
自分も演技しなくちゃいけないんだという意識で蹴られた男達を睨みつけた

もう小さくなった全速力の男達に、怯えた男が早く連れてこいと叫ぶ

ほどなく連れて帰って来た馬に乗り
歩くその男達の先導によって町へと入って驚く
夕方とはいえまだ日も高いのに誰一人町をうろついていない

「なんだよ、町に誰もいないのかここは?」

「いえいえ、ちゃんとおりますよ旦那、ここの町の者達はほとんど兵隊なんで
明日の決戦にむけて集合して広場で宴を繰り広げてるんです」

「決戦?」

「旦那達も行きますか?旦那のような強いお方が入っていただければ
王も喜びますよきっと、褒美も沢山出ますから」

「褒美がもらえるのか」

加藤は食いついて見せた

「ええ、ええ、それに女も・・ひひ、あ、
旦那にはお綺麗な女性が二人もおいででしたね、まぁ、悪い話ではありませんよ」

「そうか、じゃあ会ってやる、連れて行け、それと食いもんを準備しろよ」
「はいはい、解っておりますとも」
613 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:48
町に入って騒ぎを起こす予定ではあったが
入る前に向こうの方から寄って来るのはありがたいと思いながら
町の様子が気になる三人だった


振り返りながら調子いい事を話してくれる男

梨華は必死に力を使い始める・・・・だが、その男の頭には
泣き叫ぶ女子供の前で殺される男の人や、泣いている男の前で犯される女の姿が見えている
しかし、どうも襲われるのは特定の家の人で
今から連れて行かれる人へ反抗している家の者が始末されている映像だと考えた

まだあまり他人の心を読めない自分がこれほどはっきり読み取れるという事は
この人物がこの事を楽しんでいるという事で
これから加藤にも同じ事をさせようとでも考えているのだと思って怖くなった

梨華は2人に一生懸命心で話し掛けようとしていた
かおりから教わったように言葉を糸のように相手になげかけるイメージを作る

『加藤さん・・・聞こえたら右手を頭に乗せて』

眼をつぶって藤本に抱きつきながらも
梨華の中ではっきりと加藤への糸が伸びて行くのが見えたので目を開けた

すると加藤は右手を頭に乗せた為、梨華は嬉しくなりもう一度眼をつぶり
さっき見た光景の話を送った
614 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:50
どんなひどい集団の中に入っていこうとしているのかを
梨華は伝えたかったのだが
やはり力を使うと疲れるのか美貴に捕まる手に力が入らなくなった

眼を開けると、加藤が梨華へと視線をやっていて頷いてくれる
どうやら伝わってくれたようでほっと息を吐く

そして美貴が話し掛けて来た

「梨華ちゃん、大丈夫?」
「う・・うん、平気」

梨華の手に力が入らなくなったのを感じたのでそう言ったのだが
そのやりとりを聞いていた横で歩いていた男がにやにやと話し掛ける

「後ろのお方は具合でも悪いんですか?」

パンッ

藤本がいきなりその男の足を撃つ


ぐぎゃ〜っ


全員が注目する中

「何するんだ、具合を聞いてただけじゃね〜かっ」

周りで歩く男達が、撃たれた男の肩を支えて怒鳴る
615 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:54
「いやらしい眼でこいつが言うからだろっ、撃たれたくなければ私達に近づくな」

迫力の視線を浴びせる藤本

男の一人が藤本に銃を抜こうとすると
それよりも先に藤本が馬から消え銃を持った男の手を
綺麗に切り落として首元に剣を突きつけて止まった

ひいいいっと叫ぶ腕を失くした男の声に負けないくらいの音量で
加藤を先導していた男が叫ぶ

「すみませんっ、どうかもう殺さないで下さい
わかりましたからあなた方が強い事は、お前らっ、失礼な事をするなっ」

泣いている腕を失くした男の腕を縛っている男にはもう先ほどの威勢もなく

「女だからってなめてもらっちゃ困るんだよね」と残った男達に睨みをきかすと
男達はすっかり怯えて少し離れて歩き出した

加藤も心配そうに梨華を見ているので梨華は大丈夫と疲れた顔を笑顔にした
美貴が消えて、力が入らないながらも馬の手綱を持つ為前にずれた梨華の背中に
藤本が帰って来て耳元で囁く

「ごめんね、怖かった?」

梨華は美貴より少し背が高い為に肩から顔を出す形になる

梨華は、美貴が突然撃ったりして驚いたが
なんとなく美貴が背中にいる事に安心して首を振ると体を預けた

「もう力使わないでもいいよ、きっと加藤さんが何か考えているだろうから」

誰にも聞こえないように耳元でひそひそと囁く藤本に
ただ梨華は頷いて町の中を進む
616 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 21:57
ここはさすが繁栄を極めた王都らしく
町並みは美しく高度な技術をもとに造られた家が立ち並んでいた

時々、家の中から子供が顔を出すがすぐに誰かに引っ張られ姿を消す
そんな光景が繰り返されるのを横目で見ながら何やら大勢の声が響く場所に近づいていく

日も暮れた頃、町が一望できる丘の上の大きな城壁に囲まれたお城へと到着する
馬をつないで大きな門を開かせると
地鳴りのような人々の声はこの城の向こう側から聞こえて来てるようだ

「お前っ、見張りはどうしたんだ」

城の中に入った所で大きな刀を担いだ男に声を掛けられる

「あ、郷田様、この者達、はぐれの族のようなのですが
それがもう恐ろしく強くて、明日の作戦に戦力になるのではないかと連れて参りました」

すると郷田は加藤にいきなり刀を振り回した

郷田と呼ばれた男は、族ではないにしろ、族の動きは見えるらしく
加藤が動く先々に先回りするように刀を突きつける

間一髪の所で刃をよけるのを藤本は見ていて
そうとう族と戦いなれているなと考えていた
617 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:01
漸く諦めたのか、刀をしまう郷田は加藤を見据えて言う

「なるほど、普通の族はだいたいこの攻撃で多少傷つくもんだが
それにこの女達は?」
「俺の連れだ、俺は食べ物をもらえるというのでここに来ただけだ
文句があればお前を殺してこの先で食べ物をもらうがいいのか?」

先程まで先導していた男が慌てて郷田に話し掛けた

「旦那達はお腹がすいてるようでして、機嫌が少し悪いようなので」

おどおどと言う男が見つめると
郷田は加藤、藤本、梨華へと視線を移していき一度考えるような間を作ると口を開く

「じゃあ、あっちへ行けばいくらでも好きなだけ食べれる
その後上の大広間に来い、みんな集まっている」
「え・・・皆さんですか?」

男が怯え出した、何やら何かが始まろうとしている中に
自分達は入り込んでしまった事に改めて気づく

そして連れて行かれた城の裏には、山に囲まれた広大な広場に
一体何万人の人がいるんだろうかという一面青い人の波だった

あまりに人がいすぎて圧倒されるが
藤本は梨華に「絶対に力使っちゃダメだよ」耳打ちすると手を握る

ここには人々の邪気が渦巻いているような気がして
梨華の心が壊れてしまうのを恐れた藤本の配慮だった
618 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:04
人が行き交う階段を下りていき近づくと
右の前方は王族の兵隊っぽく青い軍服を着た集団
一番人数の多い遠くの方は町民をただ連れて来た様な兵隊
左の前方は明らかに山賊やはぐれの族達の集まりのようでただ青いマントをつけている集団
その向こう側、広場脇の木々の中からは淫らな声がかすかに聞こえてくる

よく見ると、酒を飲みながら愛し合う男女や
男同士・女同士の姿を眺めて楽しむ山賊の集団や、それを盗み見る王族の兵隊や町民
ある場所では剣で戦って殺しあっているのを
回りでヤジを飛ばしながら笑っている男女の姿等が見受けられた

「どうぞ、ご自由にお召し上がり下さい、その後は先程の場所までご自分達で戻って下さいね
それじゃ私どもはまた見張りに帰ります」

人々の好奇の目にさらされ、とりあえず脇の方に寄り
近くに盛られている食べ物を手にとり、三人はこそこそと話し出す

「なんなんだ、この青い集団は」
「明日が決戦ってどういう事でしょうね」
「何かやだ、この人達・・・・」

梨華はそう言うと俯いて藤本の手を握って離さない
619 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:08
「決戦って事は、これからどこかと争うって事ですよね
だったらここから近いシープやダックスの事じゃないですか?」

「ああ・・・・やばいな・・・・これだけの人数でこられちゃ
俺らの町はひとたまりもない・・・・どうして今頃」

加藤は自分達が3つの町だけでちまちまと争っていた事が
かわいい事のように思えて少し笑った

「笑ってる場合じゃありません、とにかくみんなに伝える為に帰らないと」

「ああ、でもとりあえず何か食べるか、今日は本当に朝から何も食べてないし
一応さっきの奴らの所にいって何か探って帰ろう」

食べ物の山に近づいて食べ出すと

「お前ら族か?」

と男が一人突然姿を表す、どうやら族らしい

「だったらどうした」

加藤がその男を睨み返す

「お前はいんだよ、そっちの女達、俺らの仲間が仲良くなりたいってうるさくてさ」
「やめとけ、俺の女達だ、近づくな」

加藤が言うとピューッと口笛を吹いてその男が笑う
620 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:11
「いいねぇ、あんた、こんなかわいい子達いっつもはべらかせて
あんたらはぐれなんだろ、俺らの仲間に入らないか」

男が親指を立てて肩辺りで集団の中で固まってこっちを見て笑っている男女の集団を指差した

「なんでお前らの仲間にならないといけないんだよ」

加藤がいらだたしげに答える

「いや、仲間は多い方が楽しいじゃないか
なんか明日戦が終わったらすげぇ報酬がもらえて
なんとかって町で暮らせるらしいし」

「この集団はそういう集団なの?」

藤本がその男に言う

「さあ、知らないが、あの軍服を着た奴らと奥の方にいる
下の町から無理やり連れて来られた奴以外はそんなもんだと思うけど」

「明日ってどこと戦うつもりなんだ?」

「ああ、なんか仲の悪い三つの町がこの先にあるらしいんだが
その町にいる王族にはむかう輩を倒すんだと、まぁ俺らは王族だろうが何だろうが
山の中じゃなくて、人の住んでる町に住みたいんだよね
そしたら今城の中にいる奴が準備してくれるっつったからよ」

「へぇ・・・それはいいね」

言いながら藤本と加藤は顔を見合わせた
621 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:12
「だろ、んでこの人数見てみろよ、きっと争いが多くなるだろうからさ
今の内にみんなと仲良くなっとかないとって思ってる訳、いい心掛けだろ」

「なるほどね、いいよ仲良くしとこうよ勝」

藤本が加藤にウインクして言う、それを見て加藤が笑って答える

「その前にその城の中の奴から呼ばれてるから行って来ないとな」
「ああ、なんかやなヤローだったよ、あいつ、ほら、このマントくれるんだ、ダセーだろ」
「うんダサッ」

藤本が突っ込む

「じゃあ美貴、もらって来ようか、そのマントでも」

三人は食べ物を食べながら、さっきの男に背を向けて階段を上った

「完全に俺らの町の事だな、やばいよ・・・・どうやって知らせるか」
「うん・・・・・・・でも、知らせるより、この集団を止める方法を考えるってのは?」
「すごい人数だよ、三人じゃ止められないよ美貴ちゃん」

そんな話をしているうちに城に入ると、さっきの男が待っていて上へと連れて行かれた
622 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:17
豪華な階段を登り、長い廊下を歩くと大きなドアが三つ並んでおり、真ん中を開けた
入るといきなり銃声が響き、加藤と藤本は梨華を倒してよけた

「ったくここの奴らは突然撃つやつばっか」と藤本が呟く

加藤はその間に姿を消して、一番上座に座っている60位の男のそばに行き銃をつきつけた

「何をする」

加藤が背後から言うと、一斉にそこらに立っている兵隊が加藤に銃口を向けた

「すまんすまん、君らが本当に族かを確かめようとしたんだ
強いと聞いてたもんだからね、いや、大したもんだよ、さすが族だね」

「ずいぶんなめた真似してくれるじゃね〜か」

兵隊がズラリと並んだ状態のこの緊張感で、加藤は堂々と言い放った

加藤はダックスでかなりの使い手として一目おかれているだけあって
その俊敏な動きや読みもなかなかのものだった

しかし、藤本は梨華の肩に手を置きながら加藤に何かあったらと兵隊や
えらそうな男の脇に座っている二人に神経を尖らせる

「東条様から離れろ、お前が強いのはわかったから
突然撃った事は謝る、話を聞いてくれないか」

加藤がそれを聞いて、兵隊達に睨みをきかせながら離れると
座っている男に隣に座れと言われ、藤本達にも近くに来いと合図された

「梨華ちゃん、力使える?」

起き上がる時に耳元で言うと梨華は頷いたので2人は近くに寄っていく
623 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:20
「これはまた綺麗な族の子達だね、明日の戦が終わったら
お前達は私たちの城で暮らしなさい、不自由はさせないよ」

「は?」

思わず藤本が睨みつけて言ってしまう

「なんだ、せっかく東条様がおっしゃってくれているのにその態度は」
「私達、今まで自由に暮らして来たんで、別に城で暮らしたいとは思わないんだけど」

あまりにも威張っている目の前の人物に、ガンを飛ばして言う藤本

「それは残念だ、折角贅沢させてかわいがってやろうと思っていたのにな」

くくっといやらしい笑いをしながら視線を加藤へと向けた

「君が羨ましいよ、こんな2人を毎日いただけているのかと思うとね
もう食事は済んだのだろ、まさかこのまま立ち去るつもりでもあるまい
明日だけでも我々の戦いに力を貸して行ってくれないか、報酬は準備しているんでな」

加藤に視線をむけながら、脇の方にいた兵隊に指を鳴らしてマントを持ってこさせた

梨華はその人物が私達を横に並べているのを考えているのを見ていた
そして、加藤を殺している映像も、やはりこの人はいい人ではない、そう思った
624 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:27
マントを受け取り、三人は入り口付近に向う

「君達は使えそうだ、下の烏合の衆とはどうも違っているな
どうだ郷田、明日はお前の下につけては」

「そうですね、心強いですね、あの集団をまとめるには
話しの出来る人物が欲しいと思っていた所なんで」

絶対に自分達より下に見下して見ているのがムカつくので
思わず藤本が言い返してしまう

「誰があんた達の下につくなんて言ったんだよ
私達の方が強いんだから私達の下にあんたた達がつけよ、明日戦わせたいなら」

何を生意気なっと言ってついに郷田が藤本に刀を振り下ろした

梨華をぐいっと引き寄せ避けると郷田にではなくナイフを偉そうな男に向って投げる
そして藤本が投げたナイフを加藤が叩き落す
瞬きもしない間の三人の動きに、東条も兵隊たちも息を飲む

圧倒されるその場の兵達に勝ち誇るようにナイフを拾うと加藤が口を開く

「やめとけ美貴、俺らの方が強いんだからこれは弱い者いじめにしかならん
これでもあんたらの下につけるか」

東条達が顔を見合わせて苦笑している
625 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:29
「わかった、君らに明日はシープへの軍の指揮を任せる事にしよう」
「東条様っ」

郷田が悔しそうに東条を見る

「それでは郷田は・・・え・・・と名前は何というんだ」
「加藤だ」
「加藤さんの下につき、加藤さんの命令に従いなさい
加藤さんは明日の朝ここにまた来てくれ、作戦会議に出席するように」

東条の頭には、しっかりと作戦が終われば始末すればいいという考えが浮かんでいるのを梨華は掴んでいる

「ああ、じゃあ今日は豪華な部屋にでも泊めてもらおうかな
ずうっと山で暮らしていたので久しぶりに風呂にでも入りたい」

加藤の言葉に頷く東条は横に立っている兵の一人に
こそこそと指示を出すと、兵がやって来てこちらにどうぞと先導してくれる

注目を浴びながら三人は部屋を出た後、部屋にはざわめきが広がっていたのを聞き三人は頷きあう

兵が先導しながら廊下を歩いていると「部屋は一つですか?二つですか?」と聞いて来るので
藤本が一つでいいですと答え加藤を驚かせる
626 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:34
兵に先導され、2個ベットがある豪華絢爛な広い部屋に案内されると
兵は一礼して去って行った

とりあえず加藤と藤本が何か仕掛けはないかと部屋中をチェックし
何もない事を知ると、大きなソファへと腰掛けた

「シープって言ってたけど、じゃあバーニーズやダックスに行く軍もあるわけだよね」

窓からはすごい下の方に、まだすごい群集が騒ぎまくっているのが見える

「この集団が三つに分かれると、多分我々の町の人口と同じ位ずつの比率になるな・・・・」
「でも今日来たばかりの美貴達に、よくその軍の指令をまかせるよね、あの王様も」
「加藤さん達の力を利用して明日の戦いが終わったらすぐ始末すればいいって考えてたみたいだよ、あの人」
「だろうと思った、ねぇ、美貴がこの事矢口さん達に知らせに行って来るから、梨華ちゃんの事よろしくね」
「え?美貴ちゃん?」

梨華が不安そうに手を胸の前で組んで藤本に近寄る

「だって、朝迄にここにかえってこないとおかしいでしょ
じゃあ今から出ないとさ、ここまで半日以上かかったよね」

「ああ・・・・でも風呂くらい入っていけよ
せっかくこんな贅沢な部屋に入る事が出来たんだから」

部屋をチェックする際に、豪華な風呂があるのを見て加藤はのんきに言う
627 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:37
しかも、美貴もすぐ、そうだね、ここで少し時間が遅れても
道々取り返せばいいかと、部屋についているバスルームに入る

「梨華ちゃ〜ん、来てすっごいよ、このお風呂、一緒に入ろうっ」

とすぐに出て来たと思ったら驚く梨華の手をぐいぐいひっぱって入った

微笑んで見ていた加藤は少し想像したのか赤くなったが
すぐに窓の下の群集を見て考え込んだ

ここは温泉がわいているのか
お風呂はブクブクとお湯を噴出しずっと溢れている
「「どうなってるの?」」と信じられない技術に感嘆する二人だが藤本がさっさと服を脱ぎだす

「何恥ずかしがってんの?女同士じゃない、それに
加藤さんがお風呂に入ってる時梨華ちゃんが一人で部屋にいるの心配なんだもん」

「美貴ちゃん・・・・・でも・・・じゃあ・・・2人っきりにするのは平気なの?」

すでに裸になり中に入って体を洗っている藤本に
眼をそらしながらやっと一枚脱ぎ始める

「だって、加藤さんがもし明日間に合わないと、どうしていないのかって話しになるし
私が少し遅れる位ならごまかしがきくはず、
加藤さん今日見てたらすっごい強いし、梨華ちゃんの事襲ったりしなさそうだもん」

「ほんとにそう思う?」

やっと脱いだ梨華がお風呂に入って来て言う

「うん」

と梨華を見た瞬間に、藤本の動きが止まる
628 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:40
「な・・・何?」

梨華が聞くと藤本が真っ赤になって俯きお湯を頭からかぶった
そしてザバッと湯船に入りガラス張りになっている外を向いた

「梨華ちゃんがあんまり綺麗だからドキドキしちゃったじゃない・・・・もうっ」

瞬間また恥ずかしくなって急いでしゃがんで石鹸をあわ立てた

「な・・・何よ、そっちが女同士だから恥ずかしがることないって言ったんじゃない」

お互いに気恥ずかしいのか、静かな時間が流れ
梨華はその間気まずそうに体を洗っていた




すると藤本の背中が震え出した



「ははっ、あはははっ」

梨華が体を洗いながら笑い出した藤本に どうしたの と尋ねる

「梨華ちゃん・・・・・この前ごめんね・・・・キスしちゃって」

外を向いて言い出す藤本
629 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:43
「え・・・まだそんな事気にしてたの?」
「うん・・ちゃんと謝りたくって、もうしないから安心して」

そう言って微笑む藤本の横顔を見つめると
梨華もザバッと頭からお湯をかけて藤本の隣に入った
そしてしばらく黙って俯いた後

「今日ね・・・・ずっと美貴ちゃんの後ろにいて・・・・
すっごく心強かったし・・・・安心してたよ・・・
楽しいこと考えてくれたりしたし・・・ありがと」

ゆらゆらと立ち上る湯気の中で綺麗に微笑む梨華を藤本は少し見た後見れなくなった

「よし、じゃあ早く行かないと帰ってこれないからもうあがるね」

「え、だって私が一人だと心配なんでしょ
一緒に上がって加藤さんがお風呂に入る間いてくれるんだよね」

動揺からか、梨華に突っ込まれたのもショックだったのか、湯船に沈んで行った

「み・・・美貴ちゃん?」

プハッと出て来て笑う
だが藤本はあくまで梨華の事は見ようとしない

「だって・・・・襲ってしまいそうで怖いんだもん
じゃあ早く上がって交代しよっ」
「ふふ・・うん」

その様子が愛しくて、上がって行く藤本の背中を見た
630 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:45
さらしを巻いたりした後服を着ると、加藤と交代しようと部屋に戻る

「加藤さんっ、気持いいですよ、早く入って下さい」

せかす藤本に、負けるように加藤は入っていった
藤本がほかほかの体で窓の下の群集にするどい視線をやる
それを見て横から梨華が話し掛ける

「美貴ちゃん、どこから抜けるの?表の門はもす閉まってるよねきっと」

「うん、さっき裏の集団の所の横は山の中に抜けるの自由に出来るみたいだったから
そっから行くよ、周って町に入ってどっかで馬を盗んで行く」

「さすがだね美貴ちゃん・・・・あんな状態でもしっかりそんな周りの状況見てる」

「まぁ、職業病みたいなもんだから
でも今日馬に乗ってて急に力がなくなってたよね、どうしたの?」

「あ・・・・うん・・・・・昨日かおりさんから人に自分の言葉を伝える練習したから
さっき使ってみたんだけど、一応加藤さんに聞こえてたみたい
でもほんのちょっとの時間だったのに、全然力が入らなくなっちゃって
・・・・あんまり使いこなせないみたい」

一生懸命な梨華の姿に思わず微笑む藤本
631 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:47
「そっか・・・・頑張ってるね、梨華ちゃん・・・・・」

「ううん、私なんて全然・・・・何の役にもたてなくて・・・・・
今日も美貴ちゃんに一杯助けて貰って・・・・ほんと役にたたない」

藤本が、いつものポーズで胸の前においている梨華の手を掴みそうになったが
止まって自分の頭を少し掻くと

「梨華ちゃん、だめだよ、そんな風に考えちゃ
今日は梨華ちゃんがそばにいてくれてすっごい心強かったんだからさ美貴」

「ほんと?」
「うん、ほんとほんと」

本当にそう思ってるように藤本がにかっと笑っているのを見て梨華は安心した

いつもの梨華に戻ってほっとすると
藤本は銃に弾をつめて腰からナイフを取り出し刃こぼれをチェックした

「美貴ちゃんって本当に強いんだね・・・・今日びっくりした・・・・」

「だってあいつら梨華ちゃんの事すっごい厭らしい眼で見ててムカついたし
あんまりいい奴らじゃなさそうだったから」

「うん・・・・すっごいひどい人たちだった・・・・ありがと、守ってくれて」

「よしこに約束したもんっ、絶対に梨華ちゃんを守るって・・・・
よし、準備ok、じゃちょっとここにいてね」

ん?という梨華を部屋の隅に追いやり、美貴はドアを開けた


すると部屋の前に、兵隊が2人立っていた
632 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:49
「何やってんの?あんた達」

その2人は敬礼をして

「新しい大佐のお部屋を護衛するよう頼まれまして、警護いたします」
「順応性があるんだね、でも必要ない、あんた達も下に言って楽しんできなさい」

どうせ何か企んでるんだろうけどねと
あまりにも自分達を受け入れるのが早いこの兵隊達が「ですが・・・」
というのを遮ってナイフをつきつけ「必要ない」と迫力の目つきでもう一度言うと
二人はすごすごと去って行った

ドアを閉めて再び梨華の元に戻る

「美貴ちゃんいつ気づいたの?」

「今なんとなくね、でもここで話してる内容はあそこには聞こえないはずだし大丈夫」

「すごいね・・・・美貴ちゃんも・・・・矢口さんも・・・・ほんとにすごい・・・・」

「だ〜から職業病みたいなもんだからさ、なれるとあんなんなっちゃうんだよね
じゃあそろそろ行くね、加藤さんもうすぐ上がって来るから」

言った所で加藤が風呂から出て来る
633 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:52
「行くのか、美貴」
「ええ・・・・ほんと梨華ちゃんの事頼みますね」

「ああ、解ってる、お前こそ気をつけろ、森の中にもごろごろいるぞ、変な奴が」

「うん、大丈夫、それよりほんっと梨華ちゃんに手なんか出したら
いくら加藤さんでも美貴ただじゃすみませんからね」

胸の前で手を組んで眉毛をはちの字にした梨華を見て加藤は微笑んだ

「大丈夫、お前の変わりにしっかり守るから」

藤本はにっこり頷いてドアに耳をつけると少しドアを開け
様子を見ながら外に出て行った

梨華はすぐに窓へと近づく
するとさっき出てったはずの藤本が集まっている群集の脇の道を
軽快に去って行く姿が見えたが、その後ろを何人かの族がついていくのも見えた

「加藤さんっ、美貴ちゃんの後ろを族の人が何人かついていった」

助けてとすがるように共に窓から見ていた加藤を見上げる

「ああ、見てたよ、でも大丈夫、ついてった奴の動きは美貴に劣っているし
動きが雑だった、多分純粋な族じゃないんだろう」

あれだけ見てすぐにそこまで判断できるのかと
梨華は頭から湯気を出している加藤を見上げた
634 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:54
加藤はああいった手前、梨華に手を出してはいけないと思い
梨華を見ないよう努めた

一応健全な男だから、若い、しかも加藤から見ても
綺麗だと思っている子と2人きりになってしまい動揺しない訳はないのだが
これではいけないと、眼を一度瞑り、明日の事を考えるようにした



一方藤本は、群集から離れた場所で族が何人かついて来ているのを感じていて
その中の一人が声をかけてきた

「どこいくんだよ」

ちっ と小さく呟き仕方なく止まって振り返ると
さっき自分達に話し掛けて来た男だと気づく

「ちょっと急用があって、すぐ帰ってくるからほっといてくれる?」
「後の二人はどうしたんだ?」
「お城にいるけど」

にやりと笑って男が近づいて来た

「じゃあおれと気持いいことす・・・・・」

言い終わる前に男の首から血しぶきが上がり、藤本はもうそこにはいなかった
それを見ていた仲間の族と思われた二人が藤本を追いかける

「急いでるのにっ」

一応ストップするとすぐに追いつく2人の族はすぐに切りかかってくるが
その動きは族の中でも遅く
藤本はあっという間に2人を落ち葉の中に鎮めるとすぐに走り出し街へと到着した
635 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:55
町は真っ暗で、とても人が住んでるとは思えないほど静かだった

そして、どこかに馬はいないかとダックスの町の方へ向かいながら家々の様子を見る

すると、どこからか悲鳴が聞こえた

急いでいるのでどうしようか迷うが、とりあえず悲鳴のする方へと向かった
ドアが開けっ放しの家の中で
女性が酔っ払った青いマントを被った男に襲われて上半身裸になっていた

「何やってんだよ」

男が「なんだぁ」と振り返ると藤本が女なのを見てにやりと微笑み立ち上がった

「なんだ・・・お前も俺に抱かれてぇのか、いいぞ、かわいがってやる」
「ったくこの町はこんな男しかいね〜のかよ、じゃあこっちでする?」

そう言って男を誘うように外へと連れ出し力を使って姿を消すと

「お前族かっ」

きょろきょろする男を吹き飛ばし、人気のない所に行くとナイフを突き刺した
636 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 22:57
すぐにさっきの女性の所に行って声をかける

「大丈夫ですか?」
「はい・・・ありがとうございます、あなたも青の軍の人なんですか?」

震えながらも女性は聞いて来る

「青の軍?ああ、そういえばあのお城の後ろにいた人たちは全員青い服を着てましたね」
「あなた・・・夕方あのお城に向かって行ってた人ですね」

上着を着ながらおどおどと藤本の顔を見て言った

「ええ・・・・この町はどうなってるんです?人はいるのに死んだ町みたいになってますよね」
「知らないで来たんですか?」
「色々ありまして、それよりあの東条という男のせいでこんな町になってるんですか?」

「ええ、でもこんなにひどい町になったのはつい最近で
どうやらYの国からの使者が来てからこんな風になってしまったみたいです」

「Yの国・・・・・、どういう事です?」
637 名前:dogs 投稿日:2006/07/17(月) 23:01
「ええ・・・詳しくは解らないんです・・・・でも、Eの国が崩壊して
のんびりと暮らしていた私達の父親の代の時にあの東条がFの国からやって来て
あのお城に住み出した頃からおかしかったんです、私達の年貢で贅沢ざんまいで
でも年貢さえきちんと納めれば、あんまりひどい事はしてこなかったんですけど
その使者が来てから、戦える男女は兵隊に連れて行かれて・・・・
もし逆らえば辱めを受けたり、殺されたりしました・・・・・・だから・・・・・
この町にはほとんど男の人はいません、そして近くの山賊とかを集め出して
だからたまにあの上に集合している山賊やはぐれの族がこっちにやってきて
私達女性を襲って行くんです・・・でも襲われても誰も助けてくれる人はいないんです
だから出来るだけ気配を消して人がいないと思わせないと」

そこまで言って涙を流し出した

「そうですか・・・・・それはひどいですね・・・・・
明日あの兵隊達は別の町を襲いに行くようですよ
そこにこの町の人たちも連れて行かれるようですね
・・・・・・なんとかしないと・・・・・」

必死に考えている藤本を見てその女性が声を掛ける

「あなたは・・・・」

「私はJの国から旅をしている者なんですが
訳あってこの件に首を突っ込んでしまいまして・・・・・
少し急いでますので馬を貸して貰えませんか」

「馬・・・・ああ、確か、この前殺された人の家に馬がいたはず
ここを出て左に行って二件目を右に行った突き当りの家に・・・」

「わかりました、ありがとうございます、ではドアを閉めて鍵をかけて静かにしてて下さい・・・
もう少しの我慢だとは思います」

そう言うと慌しく消えて行った後、言われた通りの場所で馬を手にいれ
眼一杯足で馬の腹を蹴って急がせた

町を出て行く際に行きで道先案内してもらった男達がいたのですべて死んでもらった

「大変だ・・・急がないと」

周りの様子に神経をすり減らしながら呟くと懸命に走った
638 名前: 投稿日:2006/07/17(月) 23:01
本日はここ迄
639 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/19(水) 22:29
わくわくしてきました
640 名前: 投稿日:2006/07/19(水) 22:46
639:名無飼育さん
どもです。レスありがとうございます
641 名前:dogs 投稿日:2006/07/19(水) 22:48
そしてその頃暗い牢の中で、あまりの暇さにゴロゴロしていた加護が
ガバッと起き上がって声を出す

「勘太っ」

「え、勘太?あいぼん勘太がいるの?」

暇な為にそろそろ寝ようとしていた辻が同じようにガバッと起き上がると
2人は顔を輝かせる

「何?誰?勘太って」

横になってうとうとしていたなつみが言う

「あれ、なっちには言ってなかったっけ、親びんの相棒の犬の事」
「しっ、ちょっ静かにしてや」

加護の言葉に全員が息を飲む

「いるいる、絶対勘太やっ」

大喜びする2人
642 名前:dogs 投稿日:2006/07/19(水) 22:50
加護が勘太に気づいて貰えるよう指笛を拭く
すると監視の兵隊が明かりを点してやってきた

「何事だっ、何かあったのか」
「あ、何でもありません、ちょっと退屈で指笛の練習してたら鳴るようになったんです、ほら」

辻が見せてやれと言うと嬉しそうに加護が指笛を鳴らす

「とにかくうるさいっ、静かにしてろ」

何故か兵隊がイライラしていた

「「は〜い」」

人差し指を口の前に置いて二人がくすくすと笑う





そして

「勘太?」

少し小さめの声で月明かりが漏れている上の方にある小さな鉄格子に話し掛ける



トンッとなつみの耳にも何かが跳ねる音が聞こえた

窓から顔を覗かせてすぐに消える勘太を三人ははっきり確認した

希望に顔を輝かせる三人
643 名前:dogs 投稿日:2006/07/19(水) 22:52
「やった、勘太っ、良く解ったね、ここが、親びんは?近くにいるの?」

「キュ〜」と悲しそうな声が小さく聞こえる

「そっか、いないのか、じゃあ勘太親びん連れてこれる?」

またしても悲しそうな声

「無理そうなんだ・・・・」
「じゃあ、その親びんに手紙を渡せるか聞いてみたら?」

なつみが期待を込めて見つめて聞いてくる

「うん、ねぇ勘太、じゃあお手紙書くから親びんに渡せそう?」

ワフッ 小さく吠えた

勘太は、なんとかこの町から出て
襲われた場所まで戻ってあの道をたどればきっと矢口達に会えると思っていた
644 名前:dogs 投稿日:2006/07/19(水) 22:53
三人はこの場所の地図と、今まで書き溜めた情報を書いた手紙を
高い窓にジャンプして外に落とした

カフッと咥えた音が聞こえたので

「勘太、頼むよ」と加護が言うと
もう一度窓にジャンプして顔を覗かせた後去って行った

「ちょっと勘太すごいねぇ、ちゃんと静かにしないといけないの知ってるみたいだったね」
「そうや、勘太ってすっごい頭いいねん、それに強いし優しいし」

自分の事のようにいばっている加護になつみは感心するばかりだった

「へぇ・・・すごいねぇ」
「でもこれで安心だね、きっと親びんが助けに来てくれる」
「うん」

安心して三人はぐっすりと眠る事が出来た
645 名前:dogs 投稿日:2006/07/19(水) 22:53



646 名前:dogs 投稿日:2006/07/19(水) 22:57
その少し前矢口は夕食も済まし部屋で体を鍛えていた
・・・・何も考えないようにもくもくと体を動かす

ひとみも同じように部屋で、健太郎から教えてもらった訓練をして過ごした



お互いに何かを吹っ切るように集中する時間が経過して
そろそろ寝ようかと思った時に矢口の部屋がノックされた

「はい・・・・」

銃を構えて返事をすると


「吉澤だけど・・・・」

少し落ち着いた声が聞こえた


ドクンと矢口の胸の鼓動が高鳴る




キィ・・・とゆっくりドアが開く

「な・・・どうした?寝れないのか?」

ベッドに腰掛けてた矢口は、ドアを開けたひとみに先に声を掛けた
647 名前:dogs 投稿日:2006/07/19(水) 22:58



「明日・・・・ウチ頑張るから・・・・その・・・・
心配しなくていいから、じゃ」



俯きがちにぼそぼそとドアの所から話してドアを閉めようとする


「ま・・・待てよ、吉澤」

呼び止めてどうしようというのか矢口は全く考えていないのだが
とりあえず明日自分もひとみを信じる事を伝えたかった

「明日・・・・どうやって相手の兵隊の邪魔するのか楽しみにしとくよ」

ドアまで来てひとみの眼を見て笑って言った




「・・・・・おやすみ」

ひとみは俯いてそれだけ言うとドアを閉めた






「・・・なんだよ、そんだけかよ」

矢口は独り言をつぶやいてベッドへ戻った
648 名前:dogs 投稿日:2006/07/19(水) 22:59
自分としては、今まで通り振舞ってるつもりだが
ひとみはあからさまに矢口を避けている気がした

しかしある意味しょうがない、あんな所を見られてしまったんだから




もし・・・

もし自分が姫にそんな所を見られたとしたら・・・・


きっと姫に一生顔向けできないほど恥ずかしいだろう



寝転がって頭の後ろに手を置いて深いため息をつく

「こんな時・・・加護達がいればなぁ」

こんな変な空気なんかあっという間に壊してしまうのに・・・と思って目を閉じた
649 名前: 投稿日:2006/07/19(水) 23:00
ちょっこす更新
650 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 15:55
月明かりが森の中の道筋を照らし
運命の後押しを受けるかのように藤本は駆け抜ける

そんな藤本が夜中過ぎにダックスに到着する

「門を開けて下さいっ、藤本ですっ、昼間加藤さんと一緒にこの町に来た藤本ですっ」

しばらくして門が開けられると、事情を聞こうとする門兵を振りきり
静まり返っている町並みの中へ駆け出す

あまりの藤本の勢いに門番の兵の中で慌てて二人追いかけさせる
そして、兵が集まっている安倍の屋敷につくと
あまりの馬の勢いになんだなんだと戦闘準備の兵隊達がテントから出て来る

「安倍さんっ、大変ですっ起きて下さいっ」

門番だった兵も追いつき取り押さえるように藤本を掴むとあっという間にその兵が倒れこみ気絶した

「ゴラァ何やってんだお前っ」

違う兵隊が近くに集まり出している中
ゼェゼェと息を切らしながらも真剣な目で玄関を叩き続ける藤本

「一大事なのっ、早く開けて下さいっ」

灯りを持った安倍が現れ玄関を開けると
周りの今にも藤本に襲い掛かりそうな兵達を制した
651 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 15:57

「安倍さんッ、大変なんですっ」

倒れ込む藤本に、安倍が水を持って来いと近くの兵に指示した
水を飲んだ藤本が、息を整えて安倍に話し始める

「旧Eの町?に、元王族と名乗る人物が兵を集めています
それがすごい人数で、この三つの町の人口と同じ位の人数が集められていて
明日この町に攻めて来ます」

「何?ここに?」

「はい、三つの町全てに一斉に戦いを仕掛けるようでしたので
多分ここの町の人口と同じくらいの人数が襲って来ます」

「・・・・・」

腕を組んで藤本の言葉を聞いている安倍に

「安倍様っ、こんなよそ者の言う事を信じるのですかっ」

周りを囲んでいる兵の一人が言うとざわざわとざわめく
652 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 15:59
「・・・・信じる・信じないは、あなたの勝手ですが
加藤さんがシープへの攻撃軍の指揮官に任命されました
これはチャンスだと思うのですがこちらは三人しかいませんので
攻撃を止めるのは期待出来ません
私は朝までにその町へと帰らないといけないし
急いで同じ事をバーニーズに伝えに行かないといけませんのでこれで」

そう言って藤本は一礼して踵を返した

「わしも行くっ、そして町の者を明日の朝避難させるよう各長に連絡し
戦える者以外は全員町から退去する」



   えええっ



安倍の言葉に周囲にいた全員が驚愕の声を出す

「そんなっ、町の民を全員避難だなんて、今まで一度もした事はないんですよ」
「こんなよその者に振り回されるんですかっ」

などと、反対の声があいつぐ

そんな中、安倍が優しい顔をして呟く

「私はこの娘を信じるよ、じゃなければ夜中に一人で
こんな兵隊だらけのこの屋敷にのこのこ来るはずがない」

みんながぐっと声を飲み込むと全員しぶしぶ行動を開始する
653 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:03
そして安倍と族の仙田それに何人か兵隊がついてくるようになり
馬を走らせた


バーニーズでも門の前で叫ぶ

「今朝出発した藤本ですっ、とり急ぎ報告する事がありますっ
門を開けて下さい」

開けられた門から藤本達が駆け込んでいく
今度の門番は安倍達がいる事に驚き慌ててついて来た

屋敷の門は藤本が力を使って中に入り安倍を入れる為に開けると
すぐに玄関に向った

鍵の開いている若林邸の玄関を開けると叫ぶ

「若林さんっ、矢口さんっ起きて下さいっ」

追って来た兵や、屋敷の門番も慌ててそばに寄って来て
安倍に向って銃を構えるが藤本がやめさせる

「緊急事態です。安倍さん達は話し合いに来てくれただけですので
銃をしまって下さい」

ぐっと門兵達がダックスの兵を睨みつけ
かかってこいとばかりにダックスの兵達は安倍を守ろうと睨みあう

「おい藤本っ、どういうつもりだ」

門兵の一人が一躍有名になった藤本の名前を呼ぶと
無視して安倍に少し待ってて下さいと言い
一人玄関からずかずかと中に入り込む
654 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:05
「藤本っ」

飛び出してくる矢口と鉢合わせた近くの大部屋へと向かい
隣の離れからぞくぞくと兵隊達も起きて来る、もちろんひとみも

若林達も起きて来ると「緊急事態です」と全員を大部屋に座らせ
藤本は玄関から安倍達や門兵達を連れて来る

「安倍っ」

ありえない出来事に、全員が驚く

「若林、久しぶりだな」

睨みつけるような表情だが、かすかに懐かしんでる様子が見える

矢口達が望んだ二つの町の党首会談
それが思わぬ形で実現しようとしている

2人はしばし見詰め合うが藤本がその空気を破り

「とにかく急いでいます、私が勝手に話させてもらいますけどいいですか
今日行った町に兵隊が集められています、ここの三つの町を合わせた位の人数だと
加藤さんが言ってました、そして、その軍隊が明日三つの町を襲うそうです」

「何?」

若林が呟くと矢口が続く

「藤本、梨華ちゃん達はどうしてんだ」

「ひょんな事からシープを攻撃する軍の指揮官に加藤さんが就任しましたので
高待遇でその城の一室に今2人でいます、心配ありません無事です
しかし、集められた兵隊というのが、はぐれの族や山賊が多数含まれていて
とても軍隊と呼べるようなものじゃありません」

矢口とひとみは一応2人が無事だという力強い言葉に安心する
655 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:07
「とにかく、何の統率もとれていない軍隊なので、町の人に何をするか解りません
現にその町は戦える者はすべて兵隊にさせられ、残った人達も
毎日集められた山賊から襲われたりして暮らしているみたいでした
・・・・死んだ町・・・まさにそんな感じで・・・
何が目的なのかはまだはっきりしないのですが、その町に
どうもYの国からの横槍があるようで、何か不気味なんです」

手をテーブルにつきながら力説していた藤本ががっくりと頷くと

「若林・・・・俺の所は全員町民を避難させる事にした、今頃伝令が走り回っているだろう」

「・・・・安倍」

全員が峰男に注目する

「瞬・・・・ウチらも避難だ、伝令を各長に出せ、翌朝出発
避難場所は追って連絡すると伝えろ」

おおっ、と言って瞬と鷹男、かおり以外は戸惑いながらも慌てて全員出て行った

「父上・・・・どうやら嫌な予感は当たっていたようですね」

「そうだな・・・・直前とはいえ、事前に知る事が出来たのは君達のおかげだ
明日の取引はどうする、中止するか」

「いえ・・・・シープは何も知らないんだと思います
シープにも知らせないと、それに加護と辻、なつみさんだってその町にいるんですから」

シープが取引にどういうスタンスで来るのかも見たいし・・・と
矢口が峰男に言うと皆うなずく
656 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:09
「矢口真之介の孫というのは君の事かい」

峰男に向いていた顔を
言葉を発した安倍の方へ振り返り頷く

「そうか・・・・・若林・・・・・・・なぁ、昔を思い出さないか?」

「ああ・・・・健太郎がいないが・・・・・昔のライバルが揃ったな・・・・」

少し2人が顔を綻ばせる

「昔のように、いっちょ暴れるか・・・・矢口さんも一緒に」

これから大変な事が起きようとしているのに
この二人はかかってこいとばかりに力を漲らせていて
矢口はそんな2人を交互に見る

「真之介は・・・・今?」

安倍が聞くと

「もうずいぶん前に死んだそうだ」

矢口の前に峰男が答える

「そうか・・・・死んだか・・・・」

まったりとした空気が流れる所を藤本が止めた

「とにかく私は急いで町に戻らないといけません、これで失礼します」
657 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:12
今の状況を思いだすかのように矢口達はハッとする

「ああ、藤本、くれぐれも気をつけるんだぞ、無理だったらすぐ帰って来い」

矢口がてててと藤本に駆け寄る

「はい・・・・あ、それと道々考えたんですが、前に瞬さんが襲われた場所
・・・・やはり財宝があったんだと思います。
だけど多分財宝はもう無いんじゃないかと思うんです」

「どういう事だ?」
瞬が尋ねる

「あの時襲って来た集団には族がいましたよね、そしてシープには族がいない
そしてダックスとも違う・・・・そしたらその集団は今回の青の軍の人たちの事
・・・・・・そして、寄せ集められた族や山賊は
報酬がもらえるという事で集められています、だとしたらその報酬は
隠されていた財宝だったんじゃないかと・・・・」

そこにいる全員が考え込むと矢口が

「そうだな、それしか考えられないな・・・・・じゃあ明日
瞬さん達があの場所に行くのはかえってこの町をがら空きにしてしまうって事だな」

「そして、ののがあの山の上から鉄錆の匂いを感じたのは
掘り起こされてしまっていた為に匂っていたって事?」

矢口に続いてひとみが言うと、頷いて藤本が去り際に叫びながら言う

「なんとか加藤さんと梨華ちゃんで協力して、戦を回避出来ないか考えますけど
あの人数に三人では期待できません、だけど、なるべく町の人が死なないよう
皆さんどうか考えて下さい、じゃあ、馬借りて帰ります
行きの馬はもう疲れちゃってるから置いていきますっじゃあ」
658 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:13
矢口とひとみが追いかける

「藤本っ、頑張れっ」
「美貴っ、梨華ちゃんを頼むっ、死ぬなよっ」

庭につながれている馬に乗って開けっ放しの門から
振り返らずに手を上げて去って行った

玄関先で2人佇むと、顔を合わせる

「あいつ・・・・すげ〜奴だな」

矢口が笑いかけると、ひとみも頷いて微笑んだ

「それに、すげ〜いい奴です」

あれからひとみの笑顔を見たのは初めてで矢口は少し嬉しくなった

「おいら達も頑張ろうっ、吉澤っ」

パンッとひとみの背中を叩いて入って行った
659 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:14
矢口は感じていた

藤本の体からは血の匂いがしていて
きっと今日いろんな戦いをして来たんだろうと察する事が出来た

なのに、自分の事よりこの町や人の為に一生懸命やってる姿に
自分もひとみの事や瞬の事でうじうじしてる場合ではないと気づく
大切なのはみんなの命、辻や加護、勘太とまた姫の所への旅へと連れていく為に
ここは自分の力を最大限に生かさないといけないと決心する

そしてひとみは、小さなリーダーに・・・・
この力強いオーラが出ている背中についていこうと改めて思った

朝、矢口の笑顔を見てやはり好きだと気づいた時
同じように矢口を好きな瞬の想いを断っていた矢口の姿は未来の自分に見えたし
しかも
自分の気持を知られた上にあんな所を見られてしまったひとみは
この事件が解決したら旅についていくのを終えようかとも考えていた

梨華が本当に自分との生活を望むのなら梨華の気持ちを受け止め
一緒にこの町で暮らしてもいいかなと思い始めていたのだった

だけど今、目の前の小さな姿が、いや、仲間達みんなが必死に色々考えていて
しかも自分達が生き残る事を信じてる姿に
やっぱりこの人達と離れる事はできないと思ってしまった
660 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:16
大部屋に戻ると、若林・安倍の町の代表者が
避難先について検討し、どこで兵を迎え撃つかについて話し合っている

矢口が席について話に入ろうと、話の流れを探っていると

「しょうがない、じゃあダックス側で合同軍にするより
こっちのバーニーズに来ると思われる山側の道に先回りして別々に戦うしかないだろう
全然向かってくる相手よりは少ないが、こっちには瞬や力也達若手や
その他何百人分位働く族の精鋭が揃っている、きっと大丈夫だ」

「ウチにも加藤や仙道達精鋭が揃っている、そのへんの山賊の寄せ集めには負けない」

圧倒的な人数の差も気にせずに絶対の勝算を見込み
どちらか早く決着つけた方が応援に向えば、と、闘志漲る党首二人の熱い視線

2人の旧友が、今同じ相手を目標に力を合わせている姿に矢口は嬉しくなった

「あの・・・・少し口をはさんでもいいですか?」

言い出す矢口に瞬も「なんだ?」と聞く

「どうせ力をあわせるなら、シープとも力を合わせませんか?」

驚く峰男と安倍
661 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:18
「シープも敵と同じなんだぞ、どうして我々がシープを助けなければならない」

「そうでしょうか、今お2人が力をあわせてそれぞれの町を守ろうとするように
町を守ろうとする気持が誰よりもあるのがシープの町だとおいらには見えるんです」

「そりゃ、自分の町だからな」

鷹男が何故か口をはさむ

「瞬さんが言ってました、自分の大切なものは、この町のものだからではないって
・・・・きっとその心って皆さんの心の奥にきっと眠ってる
だから、それぞれの町を守る事と同じように、何も知らないシープの人たちの事
・・・・・守ってあげられませんか?」

矢口が真剣な顔で瞬を見る



「父上、俺、昨日加藤と一晩一緒の部屋にいて色々話した時気づいた
加藤も俺と同じだって・・・・そして多分・・・・シープの三浦も
きっと同じ思いでいると信じている・・・・・
父上達の確執に囚われた我々の代の戸惑いに・・・・」

瞬もずっと隠していた父への反抗心の一旦を吐き出し始めた




かおりはその様子を立って部屋の隅から見ていたが
瞬が矢口に惹かれる訳がなんとなく解り始め
朝からの矢口への態度に少し反省し口を開く

「若林様、私の力を生かす場所を提供して下さい
矢口さんと私を一緒にシープへ送り出してもらえませんか?」

かおりが突然言い出した事により矢口も他の人も驚きを隠せなかった
662 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:20
かおりは今まで力を使う事を恐れ
戦いや他の町との交渉の場所で使用する事は鷹男にまかせっきりで
自分は蒔絵のそばであくまで通訳程度の事しかしてこなかった

でも梨華に会い、自分の能力に悩んでいる梨華や鷹男の葛藤を色々考えるうちに
自分も何かやらなければならないと思いだしていた

「かおり・・・お前は争う事を嫌い、今まで戦う訓練等一切しようとしなかったではないか
それなのに危険なシープに行かせるなんて・・・・
もし何かあったら君の父上にも母親にも顔向けが出来なくなってしまう」

矢口はかおりを見ていた

かおりが今日どことなく自分に冷たくしている態度を見て
この人は自分の事を嫌っていると感じていたのだが
その人物が自分と一緒にシープへ行きたいというなんて思いもしなかったから

矢口の目にもかおりの決意が伝わる

「かおりさんの事はおいらがちゃんと守ります
それに相手の心が読める人が近くにいれば、何かと役に立ちますから」

かおりも矢口を驚いて見ている

視線が合うとお互いに微笑んだ
その様子を見て峰男が頷く

「よし、かおり、矢口さんをしっかり助けなさい、そして無事に帰って来てまた世話をしてくれ」
「はい、解りました」

かおりが嬉しそうに微笑んだ
663 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:21
「じゃあ矢口さん、なるべく足手まといにならないよう頑張るからよろしくね」
「矢口でいいですよ、よろしくお願いします」

そして、矢口はかおりと、峰男と安倍、瞬、ひとみと鷹男は
別々に話し合いを始める




年寄り達は、自分の息子達世代の成長に複雑な気持を抱きながらそれを眺めていた



664 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:21



665 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:23
朝がやってきて、食事を済ませると取引場所へ行く為に集合する

あれからかなりの時間かけて作戦を練り
朝方近くに安倍達はダックスに帰り、他の人は仮眠をした
だからさすがに眠そうな矢口や兵達

なのにそんな眠気を吹き飛ばすかのように全員が驚くのがひとみの姿だった

「お・・・・おい・・・その格好」

矢口が口を開けてそう呟くと見上げたまま固まった
体にフィットしたロングのドレスにスリットが入っていて
かなり女性っぽい服装に集まった全員が驚くと共に見とれていた

「な・・・・なんだよ、昨日かおりさんに貸してもらったんだよ
文句あるのかよ」

あまりに矢口が唖然として自分を見上げている上
ただでさえ着た事のない服を着て恥ずかしいのに
さらに恥ずかしくなり真っ赤になって俯いた

「な・・・・ないけどよ・・・・そ・・・その
いつもと・・・違いすぎて・・・・」

「うっせ〜よ、ちびをちゃんとその町へ送り出す為だろっ、もう見んなよっ」

いたたまれなくなって馬の方へ大またでがんがん歩き出す
666 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:25
矢口も何故か照れていたが、ひとみが前のように自分と接し出してくれたのが嬉しくなって
後をついてって頭をはたいて言う

「孫にも衣装だよなっ」

言った途端ひとみに叩かれた
頭を撫でながら視線を鷹男にやると、ただでさえいい男の顔を
ますます色男にしながら優しく微笑んでひとみを眺めていた

なんとなく面白くなく、早々に出発しようと声を出す

「それじゃ行って来ますね、皆さんよろしくお願いします」

矢口が言うと、静かに全員が頷き
峰男と瞬・亮が見送る中出発

残った瞬達は町民の移動の為に駆け回ろうと準備を始める



矢口は後ろに横座りになったひとみを乗せて馬を歩かせる

「いや〜、びっくりしたよ、吉澤があんまり綺麗なんで」

道々矢口が声を出す

「やめろよ、恥ずかしい、こんな格好二度としないからな」
「いやいや、すげ〜よ」

2人が真っ赤な顔して馬に乗っている姿が微笑ましくもあり
可笑しくもありと横でかおりも力也も笑っていた
667 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:29
荷物の発着場につき、既に積み込まれたトロッコの布が乗っている二両目に矢口
最後の両にかおりを隠して出発した

トロッコの前と後ろにトロッコを漕ぐ車両があり
その脇に漕ぐ人意外はその車両に捕まって取引先へと進んで行くようだ

速度は余り速くはなく町の城壁を抜け森の中を抜けて
シープとバーニーズの間の森の中の小屋で取引を行なっているらしい

緊張の中取引場に到着すると、すでにシープの連中は着いていた、6人は町民という事で
町民の服を着てはいるが、やはり若い兵隊っぽい

最初にお互いの武器のチェックをすると
早速お互いの品物のチェックに入った

兵隊の中に有名な族の力也と辰雄がいる為に、相手は最初からびびっているようで
念入りに周りを見渡していた

バーニーズの品物を相手の町民4人、兵が2人で計6人が手分けしてチェックしはじめる
鉱石は鋭い棒で相手兵が鷹男と一緒にザクザクと突き刺された

そしてひとみの前の兵隊らしき若い二枚目の町民が
乱暴に一両目の布をがさがさとめくっていた

「あ、もっと優しくお願いします」

ひとみが、聞いたこともないような色っぽい声でその男に近づく
うるさいなと顔を上げたはずのその男が瞬時にひとみに眼を奪われ、手が止まる
668 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:32
見張り側の町民役の鷹男からの声が聞こえる

『いいぞ、その調子だ、そいつがお前の事を綺麗だと想っている』

その声を聞いてひとみはしめたと思い
上目遣いになりながら二両目の矢口のトロッコの布をひとみがめくる

「こうやって、優しく・・・優しく・・・・
私達が一生懸命織った布ですから優しくお願いします」

完全にひとみに興味が向いたシープの町民・・
いや兵隊はひとみに近づき、ひとみの腰に手を廻し
手を重ねて共にめくり出す

一応二枚目なので、きっと女には自信があるのだろう
実にスマートにリードされた

「こういう風でいいのか?」

顔を近づけて言う若い兵隊に、ひとみが内心煮えたぎった思いを抱きながらも
恥ずかしがってるように装い赤い顔をして俯く

「あ・・はい」

矢口のいる所までもう少しという所で手を止めて、次の車両へと恥ずかしそうに手を引いた

『くくく、もう少しの我慢だよ、もうそいつはお前しか見ていない
品物にはもう注意は持ってないよ』

こちらには視線をくれていないはずの鷹男からの伝言が頭に入る
三両目も同じように2人でめくっていると
他のトロッコのチェックをしていたシープの兵隊から茶々が入る

「何やってる、きちんとチェックしないか」
669 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:34
瞬時にひとみから離れると、やはり兵隊だったのかつい敬礼をしてしまい
声をかけた男の顔が歪んだ

『こいつは帰ったら懲罰決定のようだ、こいつもやばいと思ったのか
きちんとしないとって思い直している、どうする?』

矢口は無事免れたが、目の前でまた隅々までチェックに入ったこの人を
どうしようかとひとみは悩む

そして梨華のお得意の胸の前で手を組んだポーズで
しばらくして再び声を掛けた

「すみません・・・なんか・・・・怒られてしまいましたね」

静かな場所で気づかれないよう顔を近づけて耳元に囁く
再び男がにやっと笑って

「いいよ、君のせいじゃない」

チェックの手を進めながらもひとみをちらちら見ている

「あの・・・・次の取引もあなたが来るんですか?」

至近距離で男の顔が蒸気していくのがわかる

「いや・・・・・でも君が来るならまた来るよ」

ひとみは頬を赤くして俯きがちに答える

「ほんとですか?」

男がたまらなくなったのか他の人にばれないようひとみの手を握る

「ああ」

繋いだ手と反対の手で布をめくっている
670 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:38
『落ちた、完全にお前に惚れたよ・・・・まいったね
あと2こあるがもう大丈夫だな』

ひとみはホッとして

「じゃあ、また一生懸命布を織りますね」

またひとみと共に布をめくり、次はかおりのトロッコの所で
ひとみがその男の手を取ると、男はもうチェックしなくなった

「君、名前は?」
「ひとみです・・・吉澤ひとみ」

柱の影になる場所に誘われるように手を引かれ他の兵隊から身を隠す

「いい名前だ、俺はユウキ、初めて取引に来たけど良かった
君のような人に会えて」

『おい、そいつもうお前に隙あらばキスしようとしてるぞ
離れた方がいいんじゃないのか』

ひとみは一瞬躊躇するが、またチェックに戻られても困るからと、肝を据えた

「私も会えて嬉しい・・・・・また・・・・・次の取引で会いましょう」

男の肩に顔を預けた
男がひとみを抱き締めた所で声が響く

「終わったか?ようしっ、出発だ」

柱の影からユウキはサッとトロッコ戻り乗り込むと
内心ホッとしているひとみにウィンクする

ひとみが、小さく手を振ると真っ赤になって彼はチェックしたトロッコに戻っていく

力也達も相手の品物のチェックが終わり
魚介類の入ったトロッコに乗って戻って来た
671 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:39
そして何事もなく取引は成立

ひとみ達はシープから来たトロッコに乗って帰る事になった
ひとみは振り返り相手のトロッコを見るとユウキが手をあげた

ひとみも手を一応あげたが
心は矢口達がみつからなくて良かったと安堵の心境でほっとしていた

「恐れ入ったね」

後ろから声をかけられる

振り返ると、力を使ったせいなのか多少気分の悪そうな鷹男が見下ろしていた


はぁっと大きなため息をついてがっくりと肩を落とす

「最低」

ひとみは吐き捨てる


「君は素敵だよ、間違いない」

鷹男が顔色の悪いまま今まで見せた事のない爽やかな顔で笑っていたので
ひとみは今の行動が恥ずかしくて真っ赤になって前を向きバーニーズに戻っていった
672 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:42
一方矢口はそうっと布の脇を抜け出してから眼を出して
前後の兵隊の様子を見る、シープの城壁をくぐった事を確認し
前のトロッコは全員前を向いていて、後ろでトロッコを漕いでいる人も
その隣で後ろをボーッと眺めている男も荷物の事は見ていないのを確認
下の様子を確認すると荷物から飛び出す

かおりがその心情を読んで矢口の後に続き荷物から飛び出した

落ちた時の深い草むらがガサッといった音に気づき
兵隊が「おい、何か音しなかったか」と上で言い出している

それを聞いて
しばらく草むらの中で動かずにトロッコが去って行くのを待ってから矢口が声をかける

「大丈夫?かおりさん」
「もうっ、かおりでいいよ、それより吉澤さんがすごくてさ」

さっきの一部始終を聞いていたかおりが興奮気味に話し出す

「何?何かあいつの声じゃない声が少し聞こえたけど
布の下だしおいらのところから離れたら聞こえなくなって心配してたんだ」

「いや〜、びっくりだよ、もう相手の兵隊がメロメロになっちゃって
すっごい色っぽいの」

「へ・・・へぇ」
673 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:43
矢口が口を尖らせると

「あいつは、そっちの方向に行けば暮らしていけるんじゃね〜のか?」
「何?妬いてるの?」

面白そうにかおりが矢口の顔をのぞいた

「ち、違うって、それより行こっ、加賀って人の家にまず行かないといけないんだよね
悪いけどここは森の中だから少し走ってもらわないと」

そこで矢口は気配に気づく、かおりも気づいたので草むらにまた身をひそめる

「誰かいるね」
「うん、すっごい嫌な事考えてる人よ、この先の町に強盗したりしてるみたい」
「そこまでわかるの?」

相手の姿も見えないのに、その人の内面まで解るんだと驚く

「梨華ちゃんより血は濃いからね、いつもは絶対こんなに力使わないようにしてるけど
相手は四人、え・・・・と、今日までの我慢だとか考えてる」

「今日まで・・・・という事は、青の軍とつながりがあるよね」

「そうだね、青の軍とシープはつながってるの?
あ、待って、夕方には軍と合流しないとやばいって思ってるみたい」

どうして族でさえ入り込めない鉄壁の城壁の中に山賊がいるのかもわからないが
とりあえず時間もないし矢口は急いで言う

「じゃあ、敵だよね、おいらちょっと行って来る、かおりはここで待ってて」
「矢口?」

そう言ってるそばから矢口が消える
674 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:46
しばらくすると矢口が帰って来た

「やっぱりその青の軍に入った山賊の一行だったみたい
この先の民家の人を殺そうとしてたから全員始末してきたけど、どうゆう事なんだろう」

何とも納得がいかなくてため息をつく

「はやっ、それと詳しくはわからないけど、この町はところどころにバーミンが設置してあるはず
族が力を使ったらすぐに解るように」

「あ、そう言ってたね、解ってる、なるべく力は使わないようにするね
ばれたら大変なんでしょ」

頷くかおり

話によると、バーミンが反応すると、それに気づいた人が
いたるところに設置してある鐘を鳴らして町中に知らせるらしい


2人は森の中を走る、そして町が近づいて来ると、矢口は犬笛を吹いた

「絶対勘太はこの町の中にいる、時々この笛吹くのを忘れないようにしないと」

独り言のように呟きながら周りに眼をやる矢口

2人はさりげなく町の中に入ると、ここの町の人と違わないように振舞いながら歩く

町は祭りムード一色で、人々がせわしなく動き回っている
今日ここに大群が襲って来る事など全く知らない事を物語っている

さりげなくあたりの様子を見ながらも街の中心部へと歩を進める
675 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:47
かおりが突然言い出す

バーミンに反応しない程度の力でそれ位は出来ると前置きしてから

「町の中の人たちの考えてる事を少し探ってみたの」

「うん、何か解った?」

「今日はどうやら加賀が王位をもらう式典を行なうらしいの
町中の人を集めて盛大に行なうらしい」

「式典?・・・・王位・・・・?町中の人って・・・それ危険だよね」

「あ、昨日この町の中に犬が紛れこんでて大騒ぎになったらしいの
だからその勘太って子やっぱりこの街にいるのよ、きっと」

矢口が嬉しそうに犬笛を出してまた吹き始める

「勘太っ、やっぱりここにいたんだ、さすが勘太っ、どこにいるんだろうっあいつ」

「加賀の屋敷に行けば、加護さん達もいるはずだよね、きっと近くにいるよ」

本当に嬉しそうに頷く矢口の笑顔が、かおりをも嬉しくさせた
676 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:49
「でもさ、かおり、ここって健太郎さんの町だったんだよね
いなくなっていきなりその人が王位ってちょっと急だよね」

「うん・・・・それにEの国は崩壊したし、どこからの王位なんだろうね」

「・・・・そうだよね・・・・何かおかしいよね
ここの人って王族についてた兵が沢山残ってる町だったよね
やっぱりまだ王族についてたいって思っちゃうのかなぁ・・・・
王位になんてつかなくてもいいのにね、別に」

矢口が難しい顔をしてそう呟くと、かおりも本当にそうだなぁと思っててくてく歩いていく



一時間位歩くと、加賀の屋敷らしき場所の近くになった
庶民の家と違い、綺麗に整列した屋敷が増え、人通りも少なくなり
兵隊達の住む街に入ったと思わせた、歩く人も兵隊が多くなる

「なんかここ歩くと目立っちゃうね」

矢口が言うと、かおりも答えた

「うん、さっき通り過ぎた兵隊も
こんな所に町民が入っていいと思ってるのか?みたいな感じだった」

「じゃあ、ちょっと町民の所に帰ろうか」

疑われないようにさりげなくその通りを抜ける
677 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:51
咳き込む振りをして犬笛を吹き続ける矢口の耳に勘太の足音は聞こえない

「ここいらにはいないのかなぁ、勘太」

兵の館が並ぶ所に近い民家の軒先で、近づけない事に焦った


「時間もない事だし、正面から加賀って人に会いに行ってみようかな」

決意の顔で矢口が言い出す

「ええっ、危ないって、時間ないけど、ここら辺うつろいている兵隊から
もっと情報集めてから加護さん達の居場所を特定しなきゃ
それから加賀って人に会いに行けばいいんじゃない?」

「解らない事は聞けばいい、だから思い切って会いに行くよ」

矢口が決心している所に、一人の若い兵隊が歩いて出て来た

「三浦様っ、いよいよ今日ですね、もう準備は済んだんですか?」
という町民の声がその人に次々とかけられ
寂しそうに笑顔で「はい、一応」等と適当に挨拶をしていた


矢口とかおりが顔を見合す
678 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:55
それから突然頭の中にかおりが話し掛けてきて驚く

『三浦って、瞬さんや加藤さんのように加賀一族と共に
次の町を仕切るのはこの人だって感じのリーダー的存在の人よ』

まさか鳥族は言葉を使わずに人に言葉を伝えられるとは思っていなかったが
頷き合い彼の後をつける二人

小声で矢口が「力使って大丈夫?」と聞くと

「うん、すごい集中すればバーミンに反応しない方法でも
頭で矢口とも会話出来るわ、後でやってみて」

自慢げに笑うかおりは綺麗だったが、矢口は真の鳥族の力に脅威を覚える
三浦は自分達が取引場所から来た道とは逆の山の方へと時々止まりながら歩いているが
ほどなく行った場所で引き返し始めた

矢口達は一瞬ドキッとしたが怪しまれないようにそのまますれ違った

『矢口、あの三浦って人、逃がそうかどうしようか迷ってる
誰ってのは解らないけど、それってなつみさんか加護さん達の事じゃない?』

『逃がそうって迷うって事は・・・・この人はきっと
町で何か起こってる事についての何らかの情報知ってるよね
それに、こっちに歩いて行くって事はこっちの方に逃がしたい相手がいるって事だね』

矢口はかおりと視線を合わせ、とりあえず犬笛を吹いて辺りを見回す

すると、どこからか悲鳴が聞こえた
679 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:57
帰って行った三浦も、通りを歩いている人たちも一斉に声のする方を見る

矢口達からは通りが一本違う所で起こった悲鳴のようで
家と家の間から向こう側の人たちが走っているのが見える

三浦がその通りへと向かったので
矢口達も家の間をすり抜けると三浦が矢口達の前を通って行った

人だかりの方に三浦の後ろについて走っていくと
一人の女性とその女性の母親のような人が謝っている

「ごめんなさい、すみませんでした、何でもありません」

集まった人たちも口々に人騒がせなと呟きながら散って行く

しかし、三浦はその女性に話し掛けた

「一体何があったんですか?」

母親と娘が、声の主を確認するとびっくりして後ずさりする

「これは三浦様っ、何でもないんですよ、うちの娘が犬を見たって言うもんだから
私達も辺りを見回すんですが、いやしないんですよ」

「すみません、見間違いだったようで、でも確かに
そこの木の陰から顔を出してたように・・・・」

「これっ、ほんとにもうすみませんねぇ三浦様にまでご迷惑をおかけして
皆さんごめんなさいねぇ」

「いや、先日から犬の目撃情報は耳に入っているので
あながち見間違いとは言い切れません、そんなに謝らなくても大丈夫ですよ」

三浦の言葉にその親子はホッとした表情を見せ
少し残っていた人たちにも頭を下げて謝っていた
680 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 16:58
『矢口、勘太がそばにいる』
『うん、きっと隠れてる、見つかったらやばいのに気づいて』

2人は他の人に注意を払いながらも
他の人が道々辺りキョロキョロするように
矢口もキョロキョロして勘太を探した

違うのは他の人やかおりが見ている地面ではなく
さりげなく屋根の上を見る

すると、三浦のいる屋根の上に鼻先を出して様子を見ている勘太を発見した

『かおり、いたよっ、三浦のそばの屋根の上、あっ、見ちゃダメ』

かおりがその心の声に反応して上を向きそうな所を止めた

『解った、どうする?三浦はきっと屋敷に帰るだろうし
勘太との接触はここでは出来なさそう』

三浦がその親子に手を上げて挨拶し、また屋敷に向かって歩き出して
矢口が三浦と眼を合わしてしまう

『矢口っ、三浦が見ない顔だなって思ってるよ』

「あのっ、三浦様」

『ばかっ、矢口声かけてどうするの』

「なんですか?」

明らかに疑うような顔で矢口を見下ろす
681 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:00
「加賀様は、今日ははりきってらっしゃるんでしょうね
ほんとにおめでとうございます」

矢口が深々と頭を下げた

「あ・・・ああ、ありがとう、朝からお忙しそうにしていらっしゃるよ」

顔色が曇っている

『矢口っ、この人加賀を見限ってるよ、なんか絶望した感じ』

「今日の式典楽しみにしていますので、頑張って下さい」

矢口がにっこりと微笑むと

「ああ」

と少し不機嫌そうな顔で去って行った

『楽しみになんてしなくていいよ、この町が終わるんだからって思ってる
絶対この人が裏切り者だよ』

『そうかな、何か変だよね』


矢口が人目を気にしつつ勘太のいる既に人が散った屋根の下に行くと
カサッと紙が落ちて来た
682 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:01
2人はそれをさりげなく拾って路地に隠れて読み出す

『手紙だ、これ加護と辻の字・・・・やった、やっぱり生きてる』

矢口が涙ぐむ

『良かったね矢口、で何て?』

たどたどしく、そこで掴んだ情報らしい事が綴られていた
そして二枚目には多分この辺と書かれた地図がある

『あいつら・・・・成長しやがって』

そして三枚目には自分達の似顔絵だろう三人の顔が書いてあって
『親びん助けて〜』っと楽しげに書かれていた、矢口の涙は溢れ出す

『矢口、感動してる暇ないよ、場所がわかったら早く行こう
加護さん達すごい情報くれてるし、三浦はもう屋敷に帰るし
行動するしかないでしょ』

『うん、じゃあこの地図本当に合ってるか解らないけど
これがこうとすれば、こっちの方向に間違いはないね』

『行こっ、早歩きだよ』

2人は笑顔で頷き歩き出す
683 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:03
しかし、すぐにかおりの息が荒くなった

「どうしたの?」

具合が悪そうにしているかおりを路地裏の軒下へ連れて行って座らせる

「ごめん、少しだけ待って、ちょっといきなり力を使い過ぎたみたい」

矢口は気づかなかった、バーミンに反応させない事
自分に声を使わずに言葉を伝え、読み取る事
それは自分が力を使って戦う事と同じく
かなりの体力を奪う事に気づいてやれなかった

「ごめん、気づかなくって、いいよ大丈夫だから少し休もう
しばらく力は使わないで、おいらどっかから水もらってくる」

そばの家に訪ねていって、病人がいるので水をくださいと言いに行き
その家の人も心配して出て来てくれた

「どうしたんだい?この辺じゃ見ない顔だけど」
「ええ、あっちの遠い所から少し遠くに来てみようって歩いたら疲れちゃって」
「今日は祭典だから興奮しちゃってるのかい?家に来て休んでくかい?」
「いえ、少し休めば大丈夫だと思うんで、ありがとうございました」

コップを持って家の人は入っていった
やはりどこの町の人でも、親切な人はいるし
どうして仲良くしないのかと改めて矢口は思う
684 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:04
しばらく休むとかおりは立ち上がって言う

「よしっ、復活、ごめん、時間がないのに、行こうっ矢口」

2人は頷き合って歩き出す



町並みから外れ、ぽつぽつと家が減って来た所で
人目につかないように森へと入った
すると勘太が姿を表し、矢口にのしかかってきた

「勘太ぁ〜」
ウォンっ【親びんっ会いたかった〜】

しかと抱き締めあう2人?

勘太の顔をムチャクチャに撫で回し、勘太も矢口の顔を舐めまくる

「よく頑張ったなぁ、よくあいつらの事見つけたよ」

ウォンッウォフッフン【この町、犬はダメみたいで隠れながら探すのに時間がかかりまして】

「いや、すごいよっ、さすが勘太っ、お前腹は?腹減ってないか?」

ウォンウォフッウォン【大丈夫ですっ、夜中に色々家の中に入って残り物とか取ったりしてました】

「そっか、良かった・・・・無事で」
685 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:05
ウォフッ【親びん、この背の高い人は?】

「ああ、かおり、バーニーズって町でお世話になってる鳥族の人」

かおりは2人が会話している姿にあっけにとられて口を開けて固まっていた

「や・・・矢口・・・・犬と会話出来るの?」
「うん、あれ?犬族って会話出来るんじゃないの?」
「聞いた事ないよ、瞬さん達も犬族だけど、話せないし」
「・・・そうなんだ、まぁいいや、これ勘太、おいらのパートナー」

ウオン【よろしく、かおり】

矢口が頭を撫でながら通訳する

「よろしくってさ、かおり」
「あ、よろしく、勘太、飯田かおりです」

かおりが勘太の頭を撫でる
686 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:06
「よしっ、じゃあ急ごうっ、勘太案内出来る?」
ウォン【もちろん】

三人がダッシュし始める

地図は、微妙に違いながらも、目隠しされた状態で
良くここまで予測出来たもんだという位、位置的には正確だった

勘太は走りながら、もう少しで兵が出入りしている門から出そうな時に
笛が聞こえたので慌てて町に戻って来たと教えてくれた

そして、海が近い森の中になってしばらくすると、小さな小屋が目に入った
矢口と勘太の足が止まる

「どうしたの?」
「何か変・・・・・人の気配がしない」

矢口の嬉しそうな顔が曇る

「そういえば、何も感じない・・・・人がいれば何か解るもんね」
ウォン【でも昨日の晩は確かにここでした】

三人は入り口を探し静かに回り込むと、兵隊らしき三人が既に死んでいた
687 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:08
「どういう事だ?あいつらがやったんだろうか」

矢口が中に入ると、血の匂いがしだして矢口は焦って走りこんだ

「加護ぉ、辻ぃ」

少しばかり光の入る牢屋をキョロキョロし眼をこらすと
牢の中で黒い山が動き声が聞こえた

「う・・・ん」

聞こえたその声は2人の声ではなく、矢口は頭に血が昇って叫ぶ

「誰?」

後からついて来たかおりが、倒れている人の心の声を口にする

「安倍・・・・安倍なつみだって、この人なつみさんだよ」

牢屋の鍵が閉まっているのを銃で壊し
矢口は中に入るとかおりとなつみを抱えて外に連れ出す
688 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:09
なつみはお腹を三発銃で撃たれており、血が流れ続けている

慌てて服をめくり、矢口は自分の服の一端を破ると大量の血を拭ってから舐め出す
心配そうに見守るかおりと勘太

みるみる血は固まって行くが、ずっと血は流れていたらしく
危ない状態のようだった

「なつみさんっ、しっかり、なつみさんっ、だめだよ負けちゃ」

矢口が叫ぶ

「くそっ、遅かったのか・・・・加護達はどうしたんだろ」
「あ・・・・や・・やぐ・・・ち・・・・さん?」

なつみの口が開いた

「そうです、矢口ですっ、なつみさん助けに来ましたよっ、頑張って」
689 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:11
「なつみさん、しゃべらなくていいから、私が読み取るから
何があったか教えて」

かおりがそう言うと、なつみが色々心で話し出したらしく
その様子を心配そうに矢口は見守った

「わかった、加護さん達は私達にまかせて、あなたはしっかり意識を持つのよ」

「かおり、何だって?」

「その手紙にも書いてるでしょ、生贄になるって
その準備の為に朝連れて行かれるのをそこの兵隊さん達が一生懸命助けようとして
迎えに来た兵隊と言い争いしてたらしいの、それでその人たちが逆に殺されちゃって
自分達も抵抗したんだけど、牢屋の中だし、武器もなかったから
外から銃でやられて、でも2人は生きてるはずだって
生贄だから生きてないと意味がないらしくって
一発ずつ撃たれて気を失ってる所を連れて行かれて、多分加賀の屋敷だろうって」

「くっそ〜、なんでそんなひどい事・・・・」

明らかに矢口の顔色が変わる

「矢口?」
690 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:16
「かおり、なつみさんはきっとここにじっとしてれば
もう少ししたら気がつくと思う、彼女も犬族でしょ
急所も外れてるし血さえ止めれば回復は早い
勘太も置いていくから、ここで待ってて、おいらちょっと行って来る」

「行って来るって、一人じゃどうしようもないでしょ
夕方になれば若林様達がきっと城壁を破って助けに来てくれる
それまで待ちましょ、屋敷にも近づけない事が解ったし、これ以上は無理よ」

峰男や安倍たちは、戦う事の出来ない町民や家畜を山奥にへと無事に全員避難させ
山賊達から守る為に同行した後
旧Eの国と逆側のシープの門を破壊し町へ入って
シープの町の人たちも逃がそうと計画を立てた

山を二つ位越えた場所に昔広大な草原があったと峰男が言い
野営用の兵達のテントを張れば二・三日は生活出来るだろうという事だった

それに矢口達も加護達を奪い返す事が出来れば
なんとか門を中から開けて町の人たちを説得し逃げてもらおうと思っていた
691 名前:dogs 投稿日:2006/07/23(日) 17:17
「もし、瞬さん達と連絡を取れるような事が出来れば
その手紙の事を知らせてあげて、おいらもう一度三浦さんに会って来る
勘太っ頼むぞっ」

ウォン【親びんっムチャです】

「矢口っ」

言ってるそばから力を使って消えてしまった

そしてしばらくすると、かおり達の耳に
族の進入を知らせる鐘の音が聞こえ出す

「矢口・・・・むちゃだよ、一人で」

かおりは意識のないなつみを抱き締めたまま勘太の頭を撫でてうなだれた
692 名前: 投稿日:2006/07/23(日) 17:19
スカパーのグッドウィルを見ながらウルウル更新

そして今日はこんこん最後のステージ
ののちゃんは怪我して残念でしたが、最高のステージになればいいなと
遠く地方から祈っています
693 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/24(月) 20:31
ワクワク
694 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/26(水) 03:04
>>666
孫×馬子○
なっちどうなるんだろう?
続き楽しみにしてます。
695 名前: 投稿日:2006/07/29(土) 13:15
693〜694:名無飼育さん
レスありがとうございます

えへへ、他にも間違い多々あると思いますんでまたよろしくお願いしますね(^-^)
696 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:18
少し時は戻って早朝の旧Eの国
梨華と加藤が浅い眠りについていた所にノックの音が響く

梨華が飛び起きてドアを開けようとすると
同じように飛び起きてた加藤が待てと言って銃を持ち梨華を制し
少し離れろという視線をしてから鍵を開けると慎重にドアを開けた

両膝に手をついて肩で息をしている藤本の姿

「美貴ちゃん!!」

すかさず駆け寄る梨華

「良かった無事で帰って来てくれて」

と、加藤の横で梨華がいつもの両手を胸の前で組んだポーズをしていると
ふらっと藤本が倒れてきた

慌てて抱きとめる梨華
加藤がこっちに寝かせよう と言って抱き上げてベッドに横たわらせた
697 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:21
「大丈夫か、美貴」
「うん平気」

「美貴ちゃん」
起き上がろうとする藤本を梨華が押さえる

「へへ、ちょっと・・・・下の森でからまれて・・・・てこずってた、疲れてたし」

よく見ると、藤本の服にかなり血が飛び散っている

「美貴ちゃん」

泣きそうな程に心配そうな梨華の顔を見て
藤本が寝ながら微笑んで大丈夫だよ頷くと、加藤に眼をやって話し出す

「行きに殺しちゃった人の仲間で・・・覚えてる?
昨日話し掛けて来た族の・・・仲良くしようって言ってた
その人夜殺しちゃったから、帰って来る時、その仲間にちょっと捕まって・・・・
大丈夫、他の人たちには気づかれてないと思う、みんな寝てたから、それに森の奥に誘ったし」

「ばかっ、そんなのいいんだよ、どうしてそんなむちゃする
無視して帰ってくれば良かったのに」

加藤が少し怒りぎみに言い隣のベッドに座り
梨華は靴を脱がしたり、お風呂に行って布をお湯で濡らして来て
藤本の顔や、血のついた手を拭いた
698 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:24
「少しでも兵の数減らしとかなきゃって思って・・・・
特にたちの悪そうな族は・・・・・表の町の人たちを襲うのも
下にいる寄せ集めの族達みたいだし」

拭きおわって心配そうに覗き込んでいる梨華に微笑んだ

「町の人たちは襲われてたのか・・・・だから昨日俺達を怯えた目で見てたんだな」

「うん、多分、兵隊の中の町民の人達は嫌々連れてこられてるみたい
あの東条って人に・・・・・それと、なんかYの国の使者が来てから
東条がおかしくなったって表の町の人が言ってた、東条は元々Fの国から来たらしくて
その辺の関係性はまだ詳しくわからない」

「そうか・・・・それで、安倍様や若林さん達には」

「うん、知らせた、どっちの町の人も明日全員避難させるって
それに、二つの町が協力して作戦を考えるみたい」

そうそう、安倍さんがバーニーズに来てくれてねと嬉しそう
加藤と梨華も嬉しそうに微笑む

藤本がいない間に、加藤から瞬と話をした時の事や
町同士がいがみあっている事に疑問を感じ始めていた事を加藤が話し出し、
2人でどうにかならないかなと話していたから・・・

だからそこの長同士が・・・

協力しあう事が・・・

加藤の思いが通じたようでなんだか嬉しく感じたのだ
699 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:25
「よく頑張ったな、美貴」

隣のベッドに座っていた加藤が藤本の頭を撫でる

梨華も手を握った

「でもまだ、あの町を救えた訳じゃない、もう朝だよ
東条達がどんな作戦たててるか知らないけど、美貴達に考える時間はないもん」

「そうだな、でも今、美貴は体を休めろ
もうじき俺はその作戦会議とやらに出てくるから、その間だけでも寝ておけ
じゃないと梨華の事守れないぞ、少しでも体力を回復しとかないとな」

加藤が微笑むと藤本も頷き、梨華に視線を移して言う

「よしこがすごく心配してた、大丈夫とは伝えておいたけどね」

梨華ちゃんを頼むってさ・・・・と手を離させる
700 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:27


「うん・・・・美貴ちゃん、もう寝て、疲れてるんだから」

梨華が藤本へと布団を掛けると自分も横に入り、藤本を抱き寄せた

「梨華ちゃん?」

驚く藤本が顔をあげると、梨華は優しくその頭を抱え込む

「いいから寝よ、私は十分眠ったから」

藤本は微笑み、すぐに温かい胸の中で意識を無くしていった

それを見て梨華は加藤と微笑む

それから梨華はまたうとうとと眠りにつき小一時間位すると
一人武器の手入れをしていた加藤を呼びに来る使いの兵の声がした

「加藤様、作戦会議を始めるそうです、至急お越し下さい」

加藤が気合の入った顔で立ち上がり顔だけ起こす梨華に微笑みながら言う

「朝早いんだな、それじゃ行って来るよ」

梨華が「気をつけて」と小さく呟くと、加藤は出て行った
701 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:30
昨日と同じ広い部屋

壁際には既に青い服を来た兵隊がずらりと並び
昨日は無かった長いテーブルにも加藤の父親位の年の人がずらりと座っていた

「来た来た、彼が第三軍の指揮を取るようになってる加藤大佐だ
昨日来たばかりだが、実力、才覚共に優れた人材のようだ、郷田の上につく」

東条の言葉に年寄り達がざわめく

「東条様、彼ははぐれの族でしょう
そんな彼にいきなり大切な戦の指揮をまかせるのはいかがなものかと」

「まぁまぁ、彼は族といえども
下に集まっているごろつきどもとはどうも違っている
連れの子達もきちんとしていたしね」

言い終わる東条の言葉の後
加藤の耳にコソコソと近くの兵隊達の声が聞こえ出した

 【やっぱりそうだろ】
 【どうやらすごく綺麗な子達だったらしい】
 【目的はそれか】
702 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:34
「彼の下には郷田もいるし、実力は昨日郷田や大田達も見ていた通りだ
彼ならあのごろつきどもも大人しく言うことを聞くだろう
今必要なのは圧倒的な人員、そしてそれを制する事の出来るリーダー
今がその時、これで長年の我々の屈辱を晴らすことが出来るぞ」

にやりと長老達が口の端を上げて笑い出す
「まぁ、そうですな」

言い終わる頃ずらりと並んで座っている年寄り達が立ち上がる

そして、その中の一人が言い出す

「Eの国を追われ、Fの国でどれだけの屈辱を我々が受けてきたか
逃げるようにこの町へ帰って来てただFの国のいいなりになっていた時代は
今日で終わるのだ、そして我々に歯向かい続けた
あの町の野郎共に今こそ我々王族の誇りを見せ付けようぞっ」

老人が力強く拳を突き上げると



   「Eの国復活!」




一人が叫び次々に同じセリフを言い出す年寄り達




加藤は何も言えなかった

空しさ

自分があまり知らない父達の世代の確執がここにも脈々と流れていて
その恨みの対象が自分達の町という事がどうしようもなく空しくなっていく

そう、加藤は少し前の自分達の姿を見ている気がしていた・・・・
703 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:36
部屋に戻った加藤は、ベッドに気持よさそうに寝ている2人を見る

ハッと梨華の方が起きて声を出さずに口だけで
「終わったんですか?」と聞いて来た

力なく笑い頷く加藤

行く前と違って、沈んで帰って来た加藤に梨華は気づく


梨華が力を使いはじめると、加藤は一人出発の準備を始めた

加藤の中に渦巻く、絶望と無力感を感じる

そして、迷い・・・・

さっきまでの加藤と明らかに違っている


加藤の心は何も考えていないのか、考えるのを拒否しているのか
マーブル模様が渦巻いてるよう

なぜ加藤が急に落ち込んだのか、加藤の心からは全く理由がわからなかった
704 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:37
やがて藤本も起こし、出発となった

あの街へ向かって何万人という人の波が続く
祭り上げられたような指揮官の大佐という事で馬に乗り、ゆっくり歩いた

藤本も加藤の様子がおかしい事に気づきながらも
梨華と二人馬に乗っても何も話す事は出来なかった
近くにあまりにも人がいすぎる為に、へたな事は話せないのだ

前には正規のEの国の部隊が整然と行進していて
自分達は族達の先頭を陣取っている

藤本達の後ろは、飢えた獣のような山賊やはぐれの族達がいて
いつ襲われるか解らないと緊張を隠せなかった



「ねぇ、何か加藤さんの様子おかしいよね」

こそこそと前に乗せた梨華の耳元に話し掛ける
705 名前:dogs 投稿日:2006/07/29(土) 13:39
「帰って来た時からそうなの、何か迷ってるみたい
っていうか絶望してるっていうか無力感っていうか、考えたくないって感じ」

「ふ〜ん、美貴はせっかく梨華ちゃんの胸の中で眠れて気持ちよかったのにさ」
「ばかっ、何言ってるの?」

梨華が少し声を高めた為に、周りの男達が藤本達を見る

藤本が負けじと男達を睨み返すと
すぐに眼を逸らした、どうやら自分達はかなり強いと思われているらしい

「まだまだ道のりは長いから、楽しい事でも考えようか」
「もうっ、美貴ちゃんは」

藤本は梨華の不安を取り除こうと勤めて明るく言う
梨華は真剣に加藤の変化について考えてほしかったのに
今朝までのりりしい緊張感溢れる藤本からいつもの藤本に戻って少しがっかりした

でも、なぜだか心はほっとしている・・・
まだあの町に着くには時間がたっぷりある
その間に何か解るかもしれないと楽天的に考えられるようになった
706 名前: 投稿日:2006/07/29(土) 13:40
ちょっこす更新

また月末がやって来た・・・て感じです
707 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/30(日) 16:31
ばたばたしてて久しぶりに読めました
やっぱすっごいドキドキする
あっちもこっちも大変ですけどそれが面白いです
708 名前: 投稿日:2006/07/30(日) 21:12
707:名無飼育さん
忙しいのに読んでいただいてどもです
709 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:16
ひとみ達は取引後町へ戻って町の人達の避難を開始した
もちろんひとみはいつもの服装に着替えた、瞬達の反対を無視して

どれくらいの避難になるか解らない為
慌てる町民は食料や水、財産や燃料を荷車に詰めるだけ詰めて牛や馬にひかせていた

途中、町の人が瞬や若林に詰め寄る場面が何度も見られる

どうしてダックスと同じ場所へと向かわないといけないのか、とか
若林よりも年上だが、共に昔戦った老人が自分も戦うと言い峰男に説得される

「この町の未来を担う子供達や、女の人を守る為にその力を貸して下さい」と言うと
だいたい納得して歩いてくれた

人々の帯は長く続き、やがてダックスから来た帯と合流する
先頭の峰男と安倍がうなずき会う

町民が始めて顔を合わせる互いの姿に戸惑いながらも並んで歩いて行く
それぞれの兵も町民を挟んでにらみ合うが、何も言わず誘導して行く

ひとみはほぼ先頭辺りにいたが、ほどなく目的地の広い草原に入った所で声をかけられる

「おいおい、大勢で我らの場所に入ってこられちゃ困るんだけどなぁ」

地平線から馬に乗った一団がぞろぞろと出て来る
その数はざっと200人以上はいそうだ
710 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:18
「誰だ、あいつらは、知ってるか?安倍」
「いや、知らん、すごい数だな・・・・全員族ならやっかいだが」

すると2人の女性がいきなり近くに姿を現す、どうやら族らしい

「ここはあたしらの場所だよ、町の連中が来る場所じゃない」
「やられたくなければ、おとなしく町へ帰りな」

髪の長い巻き毛の女と、その女より小さい短い髪で青い目をした女が言う

「君達の場所を奪うつもりはない、ただ町が危険な間だけ避難させてもらいたいんだ」

「「避難?」」

2人が首を捻る



「おい大丈夫か〜?二人共〜、今から行くぞ〜」

遠くから彼女達の戸惑ってるのが解るのか男達が叫ぶ
その後その男達も振り返り言い出す

「あねごぉ、大丈夫ですから、あねご達の手をわずらわす事はありませんぜ
俺らがやりますから」

すると大勢の男女が瞬間目の前にずらりと立ちはだかった
711 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:20
ひとみはすごい数の族が現れた事で少しびびった
しかし、族とはいえ、完全ではないのか、矢口達に比べると遅いのか
ひとみの目はなんとか姿を捉えることが出来た

すぐに女性の声が遠くから聞こえる

「あかんっ、この人達ただもんやないんやからウチが行くでっ」

その集団の間が開かれ、一人の金髪で眼の青い綺麗な女性が腕を組んであらわれた

「あんたら、下でちまちまと争いを繰り返してる奴らやろ
ウチらはあんたらの町からはみ出されたもんとかの集まりやねん
今頃そんな町の奴らの避難場所を提供してやる義理はないわな」

峰男と安倍は見た事があるような顔がちらほらいる事に気づく
そして安倍は後から現れた女性を思い出す

「君は・・・・・中澤ん所の」

「そうや、ウチの兄がダックスにいるにもかかわらず
バーニーズの女に恋をして追放された中澤学の妹、裕子や」

安倍が驚く

「中澤・・・・学・・・・・」

安倍の脳裏に数年前自分の近くで兵として働いていた中澤が
取引所でバーニーズの町民の娘に恋をしてしまい
それがばれて、地区長等先輩達から処分を迫られ、追放した事を思い出す・・・

そしてその後、同じく兵隊だった裕子も、その家族も消えてしまった事も

「思い出してくれたようやな、安倍さん」

峰男達の後ろから続いてくる町民の流れが止まり、後ろからざわざわと声が広がる
712 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:23
「そういう事やから、避難したいなら別の場所行ってや
この先はウチらの町やねん、あんたらよそ者に踏ませる土地はあらへんねん」

中澤裕子と呼ばれる女が大声で言うと
安倍や峰男の後ろについていた老人達の顔が上がる

ひとみのすぐそばにいた鷹男は中澤という女の中を見ようとしたが
壁を作られていて読み取る事は出来ない

鷹尾から漏れた「ちっ」という声
ひとみはそれを聞いて中澤の心を読む事が出来ないんだなと思った

痛い所をつかれたと思ったのか安倍が俯いて黙り込んだのを見て峰男が話し出す

「しかし、ここまで来て引き返す訳にはいかん
そこをなんとかお願い出来ないだろうか、少しの間でいい」

敵の攻撃が治まる迄でいいんだ・・・と言った後

「ウチらには関係ないことや、ウチらは何もない荒れ果てた大地を
少しずつ皆で力を合わせてこの先に生活出来る場所を作って行った
山賊やはぐれの族とも戦ったり、仲間になったり
ウチらは自分達で築いたのこの場所と仲間が好きなんや
ちっぽけな歪んだ愛情のあんたらに汚されたくない」

   
  そうだそうだ  帰れ帰れ  


中澤の後ろの族達が声を上げる
713 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:26


「じゃあ、あんたもちっぽけな歪んだ愛情の持ち主だよね」


ひとみが突然大声で言う
瞬達が驚いて振り返る

「なんや、あんた」

不愉快そうな顔で中澤が聞く

「自分で言ってるじゃん、ここにいるちっぽけなおじさん達と一緒で
ちっちゃいおばさんって事をさ」

安倍達の後ろの老人達と中澤の眉間に皺が寄る

中澤は瞬間、安倍達の上を飛び越えひとみの胸倉を掴んで馬から落とすと
首にナイフを突きつけた

一瞬

瞬きをする時間位の出来事



ひとみはそばに近寄る姿を捕らえる事が出来なかった
圧倒的な族との力の差・・・
矢口や藤本に対して感じるように恐怖を覚える

これで死んだなと覚悟をして心の中で梨華ちゃんごめんと呟いた

顔を出す恐怖に打ち勝ち、矢口達と共に戦う意地という名のプライドが
最後の勇気を搾り出すように中澤との視線の戦いを繰り広げる
714 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:28
だが、目の前から笑い声が響く

「あんたアホやろ」

瞬達が馬を下りてから中澤に銃を構え、中澤の仲間の族達も銃を構えだす

「よく言われるよ、でもくだらない事をくだらないと
ウチはちっぽけな人たちに伝えたいと思ったんだよ、死ぬ前に・・・
そして、そのちっぽけな人達の町の為に、必死になって戦っている大切な仲間の為にね」

「もう死ぬんか?若いのに」

ニヤリと笑って中澤が言うと、するどい視線のままひとみが言う

「そのナイフが少し動けばそうなるよ」



それを見ている全員が息を飲む



「あんたオモロイな、下の町の奴とはちゃうねんな」

「まぁ、でも、ウチは本当にでかい人を知ってるから解るんだよね
あんた達のちっちゃさが」



静かな・・・

息を呑んでその場の誰もが注目する時間が過ぎていく
715 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:31
再び中澤が大笑いしながらナイフをしまい、ひとみを立たせると見上げた

「そうか・・・でもな、ウチはちっちゃいねん、そこの奴らが何らかの変化を見せてくれへんと
そうそうこの大切な場所を提供出来んねん・・・大切な兄貴の魂の為に」

瞬がその言葉を聞いて慌てて言う

「父上っ、安倍さん・・・・俺は、加藤や・・・・ダックスの人達と争うのはもういやです・・・・・
元々は一つの町だったのに変に壁で区切られた・・・今の町は、俺が望む町ではありません・・・・・
父達が昔色々あった事は忘れない、いや忘れなくていいと思う・・・でも・・・・・
町の人みんな幸せだったと言えますか?・・・・恨みが恨みを呼んでいる今のこの状態を・・・」

安倍と峰男は目を合わせて優しく笑い出す

後ろの地区長の老人や町民が不思議そうな、しかも不愉快そうな顔をする

「ちっちゃいな・・・確かに」
「ああ・・・・ちっちゃいよ・・・・」

峰男と微笑み会う安倍が尋ねる

「中澤さん・・・・学はどうした?」
「とっくに死んだ、ウチら家族を守る為にはぐれの族にやられて」
716 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:33
安倍が馬から下りて中澤の前に行って土下座する

「すまなかった、君達を追放してしまって」

中澤は見下ろすと踵を返して仲間の元へ帰って行く

「中澤さん、今日の夕方にはあの町に旧Eの国の大群が攻めて来るんだ
、我々は力を合わせて町を守ろうと思っている、だからお願いだ
戦う事の出来ない者や子供達、年寄りの事をここに置いてやってくれないか」

安倍の隣に同じように、峰男も土下座し、瞬も続いて座り込んだ

戻っていった中澤の背中に投げかける言葉

それを聞いて中澤が振り返り最初に自分達の前に表れた2人の肩に手を廻して

「ウチらん所にも来たよ、その軍に入らないかってね
その使いっぱの奴がものごっつ嫌な奴でな、速攻追い返してやった」

土下座をした三人が それで?って感じで中澤を見上げる

「ええよ、その代わり、ウチの大事な仲間やこの大切な場所を汚すような事をあんたらがした時には
ウチら全員あんたらの事どうするかわからんで、ウチはちっちゃいおばさんやねんから」

中澤がひとみを見て微笑む

「姉御」「姉さんっ、いいんですか?」後ろの族達が声をかける

「どうもウチはちっちゃい上にアホやねん、ええんちゃう?
困った時はお互い様・・・そうやろ、そこのでっかいお嬢ちゃん」

ひとみは中澤の微笑みに笑顔で答える
717 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:35
三人はすぐに立ち上がり、中澤に向かって頭を下げる

「ようしっ、早く全員避難しろっ、時間がないぞっ
それとここは中澤さん達の大切な場所だ、失礼のないようにっ」

不機嫌な町の長達や、おどおどする町民達が
族達の間を通り出すと中澤がひとみに近づいた

「あんた・・・・名前は?」
「吉澤ひとみです」
「おばさんはひどいと思うねんけど」

腕を組んで睨んでいるが、決して怒っているふうではない

「ですよね、ついカッとしちゃって・・・・
こんなに大勢の人が死ぬかもしれないのにって思ったら・・・つい・・・すみません」

確かに売り言葉に買い言葉だったけど、言いすぎだと反省する

「・・・・・・大切な仲間は今どっかで戦ってるんやな、この人達の為に」
「はい、大切な人たちなんです・・・・誰も死んで欲しくないんです、誰一人」
「そうか・・・・・その心は大切やな、あんたはどこの町の奴なん?」
「どこ・・・・って、ただの旅人です、旅の途中でなんだかこんな事になっちゃって」

頭に手をやって照れくさそうにひとみはまた馬に乗った
718 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:37
「あんたも死んだらあかんで、あんたみたいなオモロイ奴には
なかなかめぐりあえんから、そしてその仲間と今度遊びにきぃ」

「そうですね、やっぱり仲間達に会うまでは死んでも死に切れませんね」

ひとみは次の作戦に向けて町民の波に逆らうように馬を進め出す
それを瞬達が追って行った

「本当にありがとう、まさか君がここで暮らしてるとは・・・」

安倍が中澤に近づく

「別にええです、過去は過去ですし、本当はウチはあの町を出て良かったと思ってますから
こんなにたくさんの仲間と出会う事が出来て」

族の人たちが微笑む

「我々も・・・・変わらないといけないな・・・・瞬達若い者がこれ以上憎みあわないように」

峰男が安倍の肩を叩く

「ああ、それじゃあ、なつみを助けて、敵の襲撃に耐え
共に新しい街づくりを始めよう、若林」

頷きあい馬に乗ろうとする所を中澤に止められる
719 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:39
「今、何て言いました?」
「何・・・って」
「なつみを助けてって・・・・・そういえばなっちがいませんね」

安倍は思い出す、よくなつみが中澤と手合わせをしていた事を

「今シープに捕らえられてるんだ、それをあの吉澤さんの仲間と
バーニーズの子が先に潜入して助けてくれようとしている
我々も今からシープに行かなければならない
それじゃあ、生きていたら礼をしに伺うよ、ありがとう中澤さん」

安倍を待っていた峰男と共に、互いの自分の町民に声をかけながら逆走して行った



「裕子さん・・・・」

長い髪の族が中澤に話し掛ける

「なんや、アヤカ」
「なつみさんって、いつも気にしてる人ですよね」

「せやな、元気でいてるやろかって気にはなってたけど・・・・
まさか捕らえられているなんてな・・・まぁ・・・・関係あらへんか、ウチらには」

「・・・・・いいんですよ、助けに行っても」

「ミカ・・・・・会わへんようになってもう何年たってるとおもてんねん
それにあの吉澤って奴の仲間も助けに行ってるんやろ、心配ない」

自分より小さいミカの頭を撫でて
続々と広場の中に集まって行く町民の波を見ていた
720 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:39


721 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:42
町がちょっとしたパニックになった

点々と設置されている町のはずれに設置されていたバーミンが確かに光ったのだ
鳴り響く鐘の音を聞いて、矢口は力を使い屋根を走る
キャーキャーと家路を急ぐ人たちに目をやりながら屋敷へと急ぐ

 「加賀様の屋敷の方へ行ってるんじゃないかっ、誰か知らせろ」
 「どっから入ったんだいったい」
 「それより家へ入れ、いつ襲われるか解らないぞっ」

祭りムードの町の雰囲気がガラッと警戒モードに変わり
徐々に静かになっていく

加賀の屋敷の近くの兵隊の家が連なる場所に関しては
家から飛び出す兵隊で騒がしくなっている

  「族の姿を見れる者のそばへ行けっ、生贄のいる部屋から眼を離すなよっ」
  「特殊部隊に集合をかけろっ」

矢口が屋敷近くの木が生い茂った場所迄近づくと近くの兵達が叫ぶ
 「バーミンが光ってるっこの辺りにいるぞっ、バーミンに注意しろ」

兵隊がバタバタと走り回っているが
茂みの中に入った矢口には気づく事が出来ていない
722 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:47
矢口は加護達の手紙の中の 俊樹 という人物か、さっき会った三浦を探そうとしている

兵隊の気配が消えると
ひょいっと壁に上り中を伺って屋敷の中の茂みに入る

加護程耳や鼻は良くないが懸命に加護達の声や匂いを探しながら
屋敷の周りに続いている長い廊下を兵隊達がせわしなく動き回る様子を注意深く見ていた

 「こんな忙しい時に族の進入だぁ?」「だいたい見た奴いんのかよ」
 「犬騒ぎといい、この町には誰も侵入できないっつーの」

などとブツブツ言いながら、誰かに指示されたのか
外へと向かっているようである

何人かは矢口のいる中庭のような場所の中でうろうろと様子を伺ったりしている

そこについに

「誰かいたか」

さっき会った三浦が2人組みの兵隊に声を掛けて来た

「いえ、三浦様、この町には例え族だろうと侵入できないんですよ
ただの見間違いです」

「しかし、最近の強盗や泥棒の多さや、最近の治安の悪さは
わが町の民のせいだけとは言い切れないだろう」

「そうですね東条様が捕まえたとされる男達も、既に殺されて
町外に葬られていて真実は解らないけど、もしかしたら
この町の人じゃなかったかもしれないし、注意を怠らないように裏口を見て来ます」

「ああ頼む」

その兵が去った後、三浦は一人立ち止まり顎のしたに手を置いて考え込んでいた
723 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:51
その様子を矢口は見て、この人とはやはり絶対に話しをしないといけないと感じた

自分の知りうる出来事と
加護と辻が必死で掴んだ情報すべてをパズルのように組み立てると
この人と俊樹という人以外話が出来る人はいなさそうだった

我に返った三浦が屋敷の中の廊下に入った所で力を使い
外の兵隊から死角になる場所に姿を表した

三浦も反応するが矢口の動きの方が一瞬早い

矢口は銃を顔に突き付け静かに言う

「あなた達と争うつもりはありません
ただ仲間の2人を返して欲しいんで今こういう事をしてます」

三浦は壁を隔てて、兵隊が慌しく走り回っているのに
こんな中にまで気づかれずに入ってこれた事に驚いた

それに真っ直ぐに見つめられたその目はとても澄んでいて正直怖くない

そして気づく、少し前に町の中で話し掛けて来た人物だという事を

「どこかで少し話しを聞かせていただくか、二人の所に連れて行ってもらえますか?」
「解った」
静かに矢口が言うと、静かに三浦も答えた

自分が今から向かおうとしていた奥への廊下を行かず
すぐ隣の部屋の扉を開け矢口を中へと案内した
724 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:53
「君はさっき会った人だよね」

入ってドアを閉めると唐突に聞いて来る

「はい、実はあの時あなたをつけていました、もしかして仲間の所へ行くんじゃないかって」

すぐに三浦が苦笑する

「君達の仲間には気の毒だが、もう俺には止められないよ、この流れを・・・・
そう思ってあの子の所へ行くのを諦めたよ」

それに戻ってきたらその子達は
もうここに連れて来られてしまっていたみたいで驚いたしね・・・・と自嘲気味に笑う

あの時は知らなかったという事は
三人を助けようとあの場所へ向かっていたという事だろう

という事は、あの時かおりが、この人の事を裏切り者と言っていたけど
やっぱり自分が感じたようにこの人は悪い人ではないのではないかと思えた

「何故諦めるんですか?」
「俺には力がないから・・・・それだけだ」

絶望・・・・

この男からはそれだけが感じられた

この人もこの町の呪縛に囚われた一人なんだと感じる・・・・
だからこの人の事は今そっとしておこう、そう思った
725 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:55
「そうですか・・・・・解りました・・・・・
じゃああの2人のいる場所を教えて下さい」

三浦は真っ直ぐに自分を見る小さな女の子に
漠然と何か期待させられてる自分の気持に気づく

「今大勢の人たちから準備させられてて、近づけないぞ」

俺もさっき見に行って警備の厳重な事を確認させられて来たと呟く

「・・・・・・・それでも教えて下さい・・・・
あいつらだけ生贄になんてさせない・・・・それも大勢の前でなんて
三浦さん・・・・気づいてるんでしょ・・・・・桂とかいう人の策略に
・・・・・じゃないとなつみさんの所へ行こうと考えはしないはず」

2人の手紙の中の桂という老婆が怪しいと書かれていたのを思い出す




見つめられている少女からの視線が強くなっている

「君は、この町にどこから入って来たんだ?」

触れられたくない事をズバリ指摘され
動揺したのか焦るように話題を変える

「それより、あなたは知ってますね・・・・この街が今日襲われるって事
だから早く教えて下さい、みすみす殺されないように」

三浦は何を言われているのか解らない

「襲われる?ここが?」
726 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 21:57
矢口は不思議がる
かおりがこの人が絶望してるっていう意味は絶対に知ってると思ってたのに

「知らないんですか?旧Eの国から来る数万人の兵隊の事・・・・」
「東条・・・・・・」

三浦が呟く

「そうです、その人がこの町を襲おうとしているって事
それに侵入者はいないと思っているこの町の人達は、私がさっき見た山賊の存在を
早く知るべきだと思います、確かに何者かが侵入して機会を伺っている事を」



三浦の中で何かがつながっていく気がしている



考え込む三浦に、矢口が優しく言う

「あなたにはまだ何か出来る事があるはずです
あなたにしか出来ない事が何か」

難しい顔をしたまま、矢口の顔を見る

その顔ににこりと微笑み再び聞く

「私にはやるべき事が沢山あります、これからこの町を救おうとして
この町に向かってくるバーニーズの若林さんやダックスの安倍さん
それに、私の大切な仲間もこの町の事をなんとか救おうと
危険をおかして戦っている、だからまずあの2人がどこにいるか教えて下さい」
727 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:01

眼をつぶって考えている三浦が、漸く口を開く

「君は何を知ってる?どこまで信用すればいい」

それを聞いて矢口はすぐに答える

「あなたより知らない事だらけです、でも私は諦めません
例えあなたと私がここで戦う事になっても必ず生き残り
あの2人を救いに行きます」

すると隣の部屋から声が聞こえ出す

2人は咄嗟に息を殺し壁際へと隠れるように動く

兵達がうろうろしている廊下ではなく
この部屋を挟んだ奥の廊下から聞こえて来る
この部屋で矢口達はあくまで小さな声で話していた為誰もいないと思ったのだろう

「ばかものっ、あの娘を撃ってしまっただと?
あの娘には今から東条様が連れて来る娘と戦ってもらわないと
わしの予言が成立しないのだぞっ
早く、今すぐ連れてきなさいっ、夕方には東条様がやってくるのだからなっ」

「「「はいっ」」」

三人の足音が廊下に響いて小さくなっていく

「ったく、ばか者どもめがっ」

独り言を言っている老婆らしき声

そして矢口達がいる部屋のドアが開き
丁度開けたドアの裏の二人に気づかずそのまま通り抜けて反対のドアを開け
外へと出て行った
728 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:03
「今のが桂秀子ですね・・・・あの人はダックスの町にも行って
安倍さんには霊がついているとか言って近づいて来たようですよ」

加護達の手紙に書いてあった事を伝える

「・・・・・・・・」
「もう行きますね、あなたは教えてくれそうもないので自分で探します
あの2人も怪我してるみたいなので心配ですから」

矢口が桂の後を追って廊下に出るドアを開けようとする

「そっちじゃない、こっちだ」

さっき桂が出てきたドアを三浦が開けてくれたので矢口も続くと三浦が廊下で呟く

「なつみさんは、撃たれたのか・・・かわいそうに」
「あ・・・・大丈夫、多分少しは元気になってるはずですよ」

そこで矢口は一瞬考える・・・
今兵隊があの場所に向かって行ったとすると・・・・
かおりが危ないな・・・・・と

「どうした」

ドアを入った所で声をかけられた

「あ・・・いえ、なつみさんのそばに
もう一人仲間をつけてるけど少し心配になって」

まぁ、勘太もいるし、かおりも状況は把握できるだろうし大丈夫だろうと
三浦について行こうと奥の廊下に出て歩き出したら三浦が小声で言う

「隠れろ」

瞬時に力で天上の柱の影に隠れる
729 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:05
「やぁ、三浦、今日の準備は進んでるかい」

ひょろっとして色白で、明らかに威張った感じの男が
廊下の奥から取り巻きを従え三浦を見つけて近づいて来る

「は・・・・・みんな精一杯働いてます」
「そうか・・・まぁお前の処遇もこれからどうなるか解らないしな
せいぜい活躍しとかないと危ないぞ」

三浦が頭を下げる肩をポンと叩いて去って行った
取り巻きは三浦に頭を下げて通り過ぎる

三浦が廊下を奥まで進んで、下から手招きするので柱から降りると近づいて訪ねる

「あの人は?」
「ああ、加賀様の次男の元様だ」

「あの・・・俊樹って名前の人はいますか?」

手紙に書いてあった俊樹と呼ばれる人が
この陰謀を止めようとして怒られてたと書いてあった

「ああ、加賀様の長男・・・・俺ら一部の秘密なんだが血は繋がっていない・・・
健太郎様が養子縁組を小さい時にしていらしたんでな」

「健太郎さんが・・・・」

矢口が健太郎を知っている風なので三浦が驚いて見る
730 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:09
「知ってるのか?健太郎様を」
「ええ・・・少し前に会いました」

驚く三浦
そしてどこでと聞いてももうどうにもなるまいと落胆している

「健太郎様がいれば・・・・こんな事には・・・・矢口のせいで・・」

一瞬自分の名前が出て驚くが
まだこの人に名前を言ってないのでどうしてだろうと考えていたら
自分の祖父の事だと気づき

「すみません・・・・私・・・矢口真之介の孫で矢口真里といいます
・・・・健太郎さんはMの国へ向かいました」

「何だと」

途端に矢口の胸倉を掴み壁へと叩きつける

「お前が・・・お前の祖父のせいで健太郎様がこの町を去っていかれたのだぞっ
どうしてくれるんだっ」

突然大声を出し始めたので
警戒にあたっていたその辺の兵隊が集まってくる

「三浦様っ、どうかなさいましたかっ」

矢口は手をふりほどき力を使い再び屋根近くの柱の上へ隠れる

「いや・・・・何でもない引き続き近くを警戒しておけ・・・・
侵入者がいるのは間違いなさそうだ」

「「「「はっ」」」」
敬礼をしながらパタパタと走っていく
731 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:13
誰もいなくなったのを確認してまた三浦が話し掛けて来る

「すまなかった・・・・・
健太郎様がいつも矢口真之介の事を嬉しそうに話していたから
・・・・・どんな男なんだろうと皆言ってたんだ
この町を捨てて迄、その男との約束を果たしに行くなんて
よほど魅力的な男だったんだろうなぁって」

帰ってくるとはおっしゃられていたものの
そうか・・・Mの国へ向われたのか・・・・と肩を落とす

「・・・・・・魅力的かどうかは解らないけど・・・・
じいちゃ・・・祖父はとても強くて優しくてあったかかったです」

「・・・・・・だろうね・・・・・」

「あの・・・・それで俊樹さんって方は今?」
「加賀様の機嫌を損ねられて、今部屋に閉じ込められている」
「息子さんなのに・・・・・例え血が繋がらなくても」

矢口が本当に寂しそうな顔をして言う為、不思議な気持ちになる

「さあ早く行こうか、あの2人はこの角を曲がって突き当たりの部屋にいる」

気を取り直した三浦が先を歩き出す
どうやら協力してくれそうだと矢口はホッとする

そして三浦が角を曲がる前に様子を見ると矢口を制し声を出した

「加賀様」
732 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:15
三浦の背に隠れるようにいた矢口がその声を聞いて再び屋根近くへと隠れる

「おお三浦、お前も生贄の顔をおがみに来たのか?
いくら桂様が申される事でわが町の繁栄の為とはいえ
あんな子供の命を奪ってしまうのはちと気がひけるもんだな
だがしかしこれも町の人達の為とあの子達に言って来た所じゃ」

「・・・・・・・・」

「わしはこれから仮眠するので、誰も近づけんように警備を厳しくしておくのだぞ
何やら表が騒がしいようじゃから」

「はっ」

加賀が横を通り過ぎようとした時
後ろについていた取り巻きの一人が加賀に耳打ちをした

三浦は何だろうと見ていると、加賀とその取り巻きがキョロキョロと周りを見回しだした

それを見て後ろの取り巻き達も上を見上げ出して
いくら小さくても柱におさまりきれない矢口の姿を捉えた

瞬間全員の銃が火を噴く

どうやら取り巻きの一人が持っていたバーミンが光ったようだ

そして、三浦の目からも矢口の姿はいなくなった
733 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:19
「何をしている三浦っ、お前が率先して追わなくてどうする
族が侵入したんだぞっ、この屋敷にっ、早く追えっ」

「はっ」

三浦は矢口が出て行った方向へと走ったがすでにもう姿は見えなかった




生贄の近くにはすごい数の警備が並び、近づく事は出来なくなる

それどころか、本当に族らしき人影がいた事が
何人もの特殊部隊の眼にさらされた為、すみずみまで兵隊が配備され
警戒を解こうとしていた屋根の上の狙撃兵は再び銃を構え目を凝らしだす

矢口はなんとか力を使って屋敷から離れて行った

屋根の上の兵隊は、バーミンの光の移動により
どっちへ向かったのかを知ると上層部へ報告した

もうすこしの所まで来てたのにと悔しかったが
今はしょうがないので未だ警戒中の静かな町の中をかおり達の元へ急いだ
734 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:19



735 名前:dogs 投稿日:2006/07/30(日) 22:21
「のの・・・・聞こえる?」
「う・・ん・・・あいぼん」

自分達が気絶している間に服の上から綺麗な衣装を着させられ
衣装に血がつかないようにだろうか幾重にも布が巻かれ
その上からぐるぐるとカランの蔦で縛られていた

これから死ぬ娘にはもちろん何の治療もほどこされていない

「今・・・・親びんの声が聞こえた気がすんねん」
「うん・・・・親びんの匂いがした気がするね」

向かい合わせに床に投げられたままお互いを見て苦笑いする
そんなはずはないと解っているのだ

「痛いなぁ・・・のの・・・・でも頑張んねんで、きっともうすぐ親びんが助けてくれる」
「う・・・ん・・・あいぼんも頑張るんだよ」


「「なっちは大丈夫かなぁ」」

周りに人が沢山いようともう関係なかった

自分達をかばって撃たれたなつみを思い出し沈みかけたが
2人は頷いてお互いを励ましあった
736 名前: 投稿日:2006/07/30(日) 22:22
本日はここ迄
しばらくグダグダの内容が続きそうで申し訳
737 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/31(月) 00:50
ゆうちゃんの登場、待ってましたー!!これから活躍してくれること期待!
738 名前: 投稿日:2006/08/04(金) 14:58
737:名無飼育さん
 レスありがとうございます
 裕ちゃん多分かっこいくなります。多分・・・
739 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:02
後方から狙撃される音が聞こえ、兵達の声もし出したがすでに遠い

これで町中に兵が見回りに出るだろうから
もう町には力を使って戻る事は出来ないと思いながら
さっきの場所まで行くと、いるはずのかおり達の姿がない

「あれっ、勘太?かおり?」

近くを探すがどこにもいない
いくらなんでもなつみがこんなに早く回復して遠く迄歩けるようになるとは思えない

それにあの時出て行った兵達が馬を走らせたとしても
時間的に帰ってくる馬達の姿位目に付くはず
ここに来るまで、かおり達を連れた兵隊達は見つけられなかった

矢口には訳がわからない

犬笛を吹くがしばらくしても勘太は表れなかった

力を使って壁際の遠くの山の中まで笛を吹きながら探すが見当たらない
740 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:09
兵隊も見えず、かおり達も消えた

どういう事なのか・・・・・

別の敵でもいるのか・・・・

まさか入り込んでる山賊に?・・矢口は解らずに焦る


今度は、加護達が閉じ込められていた牢屋から海の方へと向かって同じように探す

しかし誰もいない

長い長い砂浜
だんだんと砂浜から陸に入る場所が高くなっていき
やがて崖のように切立っていくと大きな屋敷が低い崖の上に立っている
浜辺は長く続く低い崖の為に町からは浜辺には入れないようになっているんだなぁと気づく

海沿いは町から離れており、近くに民家はないし
バーミンらしき物も設置していないのか力を使っても平気なようだと駆け出す
町側から町の中心に近寄れないのなら
もしかしたらこちら側から崖を上る事が出来るかもしれないと走る

この町の特色である漁へ出るための港は
大きな屋敷からEの国側へとまっすく向かった場所にあるんだろう
今矢口がいる辺りからは丁度大きな屋敷の下の海にせり出す崖で死角になって見えない
741 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:15
唇をかみ締めて時々振り返りながら海沿いを駆けていると
ちらりと後方にひっかかる風景があった事に気づくがそのまま走った

屋敷が崖の上に立っている場所に近づく
すると、再びさっき後方でひっかかったのと同じ風景
それはその崖に洞窟のような穴が開いている事に気づいた

すぐに近づくと、中から生暖かい空気が流れて来る
力を使わずにゆっくり自分の足でその中へ入り
真っ暗になった所で一度眼を閉じ、目を慣らした

五感を最大限に活動させ、神経をはりつめて少し上り坂になっている洞窟の中を慎重に進むと
やがて少し明るくなって来た

穴は普通に大きな大人が立って歩ける程広く
漏れてくる明かりによってちゃんと補強してあるのが解る。

その明かりは上へ抜けるようになっている穴から漏れていた
明らかに最近作られた洞窟だ

そして、穴の下からジャンプして外の様子を一度伺うと
さっき見た風景に良く似た風景が眼に入った
742 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:27
矢口は気づく
崖の上の大きな屋敷は加賀の屋敷だという事に
しかも最初に自分が入って来たところのすぐ近くの茂みに隠されていた

少し前に矢口が力を使って山の方へと向かった為に
バーミンが光って遠ざかっていくさまを兵隊が見たのだろう
もう屋敷にはいないと解ったのか、屋敷を囲む塀の向こう側の方がやけに騒がしい

庭にもこの場所にも誰もいなくなっていたので普通に侵入し
さっき通った通り廊下を進んで二人が閉じ込められている部屋へと向った

しかし、先程見つかった場所から角を曲がった先を見ると
障子張りの部屋にやはり数名の見張りがはりついている

この程度の人数ならすぐに気絶させられるが
中の様子がわからなければかえってあの2人を危険な目に合わしてしまうかもしれない

そこへ逆の方から誰かが歩いてくるのが解り
今度は力を使わずに柱の上へと隠れて身をひそめる
743 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:33
「三浦、本当にやるのか」
「はい、俊樹様、どれくらいの兵が私について来てくれるかわかりませんが
私はやってみようと思いました」

2人が矢口の下の所で見つめあい
そして頷き合うと角を曲がったので天井から見つからない様に覗き見る

加護達がいると言われた部屋に2人は歩いて行き
三浦は敬礼する見張りの兵に言った

「ここはもういいので、式典の準備をするようにと
加賀様がおっしゃっているので早く行くように」

「しかし、三浦様、私どもは絶対にここの持ち場は離れるなと
きつく言われておりますので」

中を気にするようにおどおどという兵

「これは命令だ」

三浦の言葉と同時に障子がバンッと開くと
桂秀子と言われていた老婆が姿を表し見張りの兵達が頭を下げる

「これは三浦様、俊樹様お揃いでどうされたんですか」

2人がちょっとずつ後ずさっていた
そして矢口はその様子の向こうに転がされて
向かい合ってぐったりしている2人の姿を見つける

あまりの顔色の悪さに思わずすぐに駆け出してしまいたくなるのを
必死にこらえる
744 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:36
「桂様・・・こちらにおいででしたか」

「生贄が怪我をしていると聞いて様子を見に来ました
先程族が侵入したようなのでまめにチェックに来ようかと思いまして」

2人が次々に声をかけると
桂は彼らの動揺を見透かしたように揚げ足をとった

「それにしてはおかしいですなぁ
見張りにここはもういいとおっしゃるのは」

矢口は中にあと三人の男が加護達に銃を構えているのを見た
そしてその内の一人は見覚えがある男だった

どこで見たのか・・・・矢口は必死にその顔を見て思い出そうとする

「私達が見張るのでもういいと言ったまでです
桂様達がいらっしゃるなら問題ありません、よろしくお願い致します」

「俊樹様はお部屋から出ていらしたという事は、お父様のお許しが出たんですね」
「はい、今日の準備を進めるようにと」

にやりと笑って桂が言う

「それでは準備へと向かって下さいませ、わたし達がこの子達を見ておりますから」

一礼をして2人は廊下を引き返してくる
にやりと笑う桂は2人の後姿を見ながらす〜っと障子を閉ざしていった
745 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:37
「まさかあそこに桂がいるとは、それに桂の付き人達・・・・
彼らは俺が思うに族だと思う」

矢口の隠れた場所の下で俊樹と言われた男が三浦に言う

「やはりそう思いますか、私もです、それに彼らは決して私達
いや、桂にも心を許していない気がしてならないんです」

矢口は2人がそう言いながら廊下を遠ざかっていくのを見て
さっきの自分の言葉が少し三浦に通じたんじゃないかと感じた

それと後ろの人物が族ではないかという言葉を聞いて思い出した

あの彼はあの時、瞬と初めて会った場所で瞬達を襲った集団の族で
瞬に殺された仲間を泣きながら連れてった男だという事

瞬が彼らの集団ははじめて見たと言っていた

その彼らがここにいるという事は・・・・
746 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:38
今一解りそうで解らない矢口は
解らなかったら聞けばいいといつも加護達に言っていたので
自分も聞こうともう廊下の角を曲がった2人を追った

一応、角を曲がる前にまた様子を見て
二人以外に人がいない事を確認して声をかける

「三浦さんっ」

三浦がハッとして振り返る
そして、見ず知らずの少女が突然現れ俊樹が顔をしかめる

「誰だ、三浦」

一度周りを見回してから小さな声で俊樹に言う

「先程お話した矢口さんです」
「何?・・・・こんな小さな女の子が・・・・・」

矢口はてててと2人の前へ歩く

「とにかく俺の部屋に入ってくれ、ここじゃ誰がいつ来るかわからない」

2人が向かっていた方向とは違う方の廊下へと促される
その廊下の角を曲がった突き当たりの部屋に入れられた
747 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:41
「どうやって戻って来たんだ」
「なつみさんがいたはずの場所にいなかったんです
私がその場所へ行く際には町の人はほとんど家の中にいたので
かなり屋根から町の様子を把握出来たんです
なのに先に行ったはずの桂の手下はいなかった、それなのに2人は消えた・・・・
だから町からは見えない浜辺の方を探してたら、見つけたんです
崖の所にある洞窟を・・・・・
そしてその洞窟を入ってきたら、この屋敷に繋がってました
お2人は知ってましたか?」

2人は顔を合わせる

「「いや、知らない」」

「やっぱり」

矢口が言うと三浦が不思議そうに見る

「やっぱりとは?」

三浦ではなく俊樹が尋ねた
748 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:42
「あの穴は桂って人達が使ってるんですよ、穴はまだ新しい感じだったんで・・・・
そしてお2人に内緒ってのはおかしいでしょ」

「しかしそんな穴をあの人達が何に使っているんだ?」

「海岸に出て、浜辺をJの国側に行った所にもう一つ穴があると思います
確認した訳ではありませんが、多分あります」

「それは?」

何を意味しているのか三浦も解ったのか聞きながらも確認する感じだった

「はい、この町から外に出る穴だと思います
あの桂という人の後ろで辻と加護のそばに立っていた人達は
最初から三人でしたか?」

「ああ、いや四・五人だったけど・・・・
確か東条様へ使いに出されたと・・・」

「あの中の一人は、前に瞬さんを襲った集団の一人で族でした
その時の集団は20人以上いたと思われます・・・・
もちろんこの城壁の外での事です」

「・・・と・・・いう事は・・・・・」
「町には族や山賊が自由に入れる」

三浦が俊樹に力強い視線で言う
749 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:43
「はい・・・・私はその穴から入った訳ではありませんが
きっとその穴から多数の山賊達が入って来ていると思います」

「そうか・・・・・それで急に町が治安が悪くなったのか・・・・・」

2人は腕組みをすると考え込んだ

「先程の二人の話を盗み聞きしてしまいましたが
お2人は何をするつもりだったんですか?」

「ついて来てくれる兵を連れて、君が言っていたように襲って来る奴らがいるか確かめ
もしそうなら・・・・」

「桂を撃ち、父上も・・・・・切る」

2人は強い視線を矢口に投げかける

「・・・・・それではこの町に敵を作りませんか?」

少し寂しそうに矢口が答える
750 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:45
「しかし、君が言うようにすごい大群が来るとすれば
すぐにでも町民を避難させる事が先決だろう」

「その為には桂と・・・父上が邪魔になる・・・・・
ならば方法は一つしかない・・・・」

「その前にダックスやバーニーズと協力する事はできませんか?」

2人は顔を見合わせて組んだ腕を組みなおす

「我々がダックスを騙してなつみさんを返さなかったんだぞ
その前に浚ったし・・・・向こうが協力しようとは思わないだろう」

「いえ・・・・俊樹様・・・・それが矢口さんの話だと
今若林や安倍達が色々この町を救おうとしてくれてるらしいです」

「そう・・・なのか・・・・」

矢口に視線をやると矢口が頷く

「きっと皆同じですよ、ここの町が三つに分かれている事や
争っている事に疑問を持っている事は」

「どうすればいい?矢口さん」

「今、お2人と同じように
この町がおかしいと感づいている人はどれくらいいると思いますか?」

しばらく考えてやっと言い出した言葉は2人には難しい問だった
751 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:46
2人のようにずっと王族について軍隊を率いてきた者にとって
その王族に逆らうことは最大の謀反として罪になる

今はEの国ではないにしろ
彼らの父親の代やその前は代々王族について兵隊をやっていたものも多く
とても王族・・・すなわち加賀にたてつく人なんていない




「君は・・・・何故王族に逆らい兵を殺したんだい」

自分に投げかけられた質問には答えずに逆に矢口に問う・・・
俊樹も矢口の噂を知っているのだった

「・・・・・・王族だろうと・・・・・やっていい事と悪い事があると思いましたから・・・・・
でも・・・・間違った事をしたと自分でも思ってます
何故人は恨むのか・・・・何故人は欲望に囚われてしまうのか・・・・・
そして争うのか・・・・
だから・・・・人が争いで沢山死んでしまう前に
出来るだけの事をしようと考えるようになりました・・・・
だから今回もなるべく死人は出したくありません」

悲しい顔をして唇をきつく結ぶ・・・・

何も話さなくなった三人の空気の中で、矢口がハッと顔をあげる
752 名前:dogs 投稿日:2006/08/04(金) 15:48
「あの・・・・・今捕まってる二人から手紙をもらいました・・・・・
それにはあの小屋を見張っている兵隊を殺さないでくれって書いて在りました
自分達の事を色々世話してくれて、優しい人達だからって・・・・・
自分が捕まって・・・しかも生贄という普通じゃない殺され方をされようと
しているあの子達がそんな事を私に頼んで来るんです・・・・・
私たちはこの町の争いに巻き込まれただけだけど・・・・
この町や若林さん安倍さんの町の事を嫌いだとは思いません・・・・
ただ無駄な争いはしたくない・・・・・それだけです」



俊樹は考える

今朝、あの子達を迎えに行った際、反逆した兵隊を処刑したと報告があった


悪いのは?

戦うべきは?


俊樹が自問自答を繰り返す




「三浦、真っ向勝負だ、矢口さん、あの部屋へ行こう」
753 名前: 投稿日:2006/08/04(金) 15:48
本日はこのへんで
754 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:33
半日以上歩き続け、兵たちが不満を口にしだす

「指揮官、この者達をどうしますか?」

郷田がお手並みは意見とばかりに楽しそうに加藤に言う
藤本も梨華も心配そうに加藤を見る
特に梨華は時折マーブル模様の心の中を見ながら美貴を不安そうに振り返る

美貴の目にも加藤はあれからずっと悩みながら進んでいる気がした為
その成り行きを見つめる




そしていきなり加藤が空に向かって銃を乱発し始めた


東条達青の軍本体も驚き少し隊列を乱し、美貴達も驚く

「帰りたい奴は帰れ、無理に来いとは言わん、今すぐ去れ」

山賊や町民達の青い人並みがざわざわと後ろの方へと今の事を伝達しているのがわかる

「何を言っている、貴様っ」

郷田が言った瞬間に加藤が力を使い
瞬時に郷田を馬から引き摺り下ろし地べたに押し付けて
剣を顔の横に突きつけた

「誰にモノを言っている、貴様より俺の方が強い」

青の軍隊より銃を構える音が聞こえるが
加藤はそいつらを一睨みして郷田に言い、視線の争いを続ける

周りで文句を言っていた山賊達が
ピィ〜ピィ〜と口笛を吹いて加藤を応援しだす

加藤を本当に撃ちそうな奴がいないか
藤本や梨華は周りの様子に気をくばりながら加藤の様子を見た
755 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:37
東条がその様子を見てにやりと笑う

この男を入れて正解だったと感じていた
この男ならこの烏合の衆を束ねる事が出来ると

しかしこの計画が終了してからがやっかいだなと考え始めていた

東条がゴホンゴホンと咳払いをして倒れている二人に近づき声を出す

「加藤大佐、これからは計画通り我々が先に行く、それでは大田・澤田、頼むぞ」

加藤が突きつけていた剣を抜いて立ち上がり何も言わずに頷くと
郷田も苦々しい顔で立ち上がり東条に敬礼をした

バーニーズ・ダックスへ向かう大田と澤田と呼ばれた指揮官も
加藤を睨みながらもそれぞればらけて進み出した

そこまで一緒だった青い人の波が別れて進み出す

ほとんどの青の正規軍はシープへと向かい
後の二つの町へは山賊や町民が主体となった編成になっている

どうやらシープで東条が何か企んでいるので
そこへ絡む山賊の軍隊はただの当て馬的な役割らしく
しかし失敗出来ない役割になっている為
烏合の衆を束ねる加藤に白羽の矢が立ったという事

後の二つはとにかく町を破壊し
暴れ回ればそれでいいという事でそういう編成になっていると
加藤は朝の作戦会議で予測した
756 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:40
東条達の正規軍が行ってしまってからの進軍となり、しばしの休憩となった


唇をかみ締める加藤、それを見守る藤本と梨華

だが急に加藤が立ち上がり
その場にいる山賊達に向って加藤が声をあげた

「もう一度言う、戦う気のない奴はこの場から去れ、とがめる事はない」
「指揮官っ、何を」

唯一残った正規軍の一部の内
再び郷田が加藤に詰め寄る所に藤本の馬が入る

「指揮官にはむかうのは軍隊の組織としていかがなもんでしょうか」

藤本が郷田に冷たい声で言う

「はぐれの族に軍隊の事を言ってもらいたくはないが」

藤本に向かって睨みをきかせる

「なんなら勝の代わりに私があんたを殺してもいいよ、あんたより私の方が強いのは確かだからね」

上官への反抗の為だといくらでも面目はたつと言い切った後
梨華をかばうように背中方面に郷田を置いて睨みつける

またしても周りの山賊がいいぞいいぞと騒ぎ立てる
757 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:43
どうやら山賊達は加藤や藤本を自分達のリーダーだと認めたようだ

チッと郷田が藤本から視線をはずす

「これが最後のチャンスだ
これから戦う気のないものは今すぐこの場を去れっ、とがめる事はないっ」

再び加藤が声を響かせると藤本も声をはりあげた

「指揮官が、こう言ってるんだから死にたくない人は早く帰った方がいいよぉっ」

今まで見えていた青い軍隊の波がそれぞれ去ってしまった為に
やけに少なく感じられるが、軽く2.3千人は越えた人数がここに残っている

そして加藤の言葉に迷っていたのかざわざわと話していた後ろの方の町民兵が
一人走って去って行くとそれに攣られるように大勢が走って行く

「指揮官っ、人数がいてこそのこの計画にこんな事をしてっ、どういうつもりですか」

漸く上官と認めたのか
腸を煮え切らせているのかはわからないがきちんとした言葉遣いで加藤に言い寄る

あれよあれよと町民兵のほとんどがいなくなってしまい
軍隊の数は半分以下になってしまった

「やる気のないものはかえって邪魔だ、これですっきりしたろ」

加藤は郷田に吐き捨てた後、にやりと笑って

「そろそろ行くぞ、郷田」

と、馬を進め出した
郷田は拳を握り締めると深呼吸して馬へと戻り後をついていく


藤本達や残った山賊がよし行くぞぉと意気を上げ進軍し始める

「加藤さん・・・荒れてるね・・・・なんか焦ってる」

梨華がこそこそと振り返って藤本に言う

「うん・・・・でも、この軍の数が減ったのは良かったよね
さて、これからどうしよっか・・・・迷って焦ってる指揮官様をどう助けようかねぇ」

藤本が優しく梨華に囁く
758 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:44



759 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:47
バーニーズとダックスに青の軍が分かれて攻めて来るという事で
進軍してくる道を予測し、それぞれが町に入る前に待ち伏せする為兵を集結する

バーニーズは瞬を中心とし
ダックスは仙田を中心とする精鋭達を揃えた

その数、多く見積もっても約2000ずつ・・・・
青の軍の想定一万を超える集団にたいして圧倒的に不利な人数である

しかしながら、瞬や力也等純粋な族以外にもハーフの族となる兵隊は多く
人間相手なら軽くあしらう事が出来る人材は多い

戦い慣れている両方の町の兵達は
一人で力を使って動く範囲が決まっていたり
人間の兵隊は端の方で戦う等
持ち場や役割を理解している為
統率のない相手には負けないと自負していた

それに守るべき町人達も避難させ、何の躊躇もなく戦える事も強みといえるだろう

その道々の脇の草むらへと延々と潜んで
横から一斉に奇襲攻撃していく作戦をとったバーニーズ

それにひきかえダックスは正面の道から来ると解っているが
広い森林の中の道の為潜む場所はなく
町の中、城壁の上から待ち伏せし全面対決へと持ち込む事に決めた

そして安倍や峰男は、鷹男やひとみ等少し年な兵隊を連れ
Jの国側からシープへと向かう、その数100
二つの町からの合同軍である

鷹男が蒔絵を載せて馬を走らせる
鷹男が力を悪さに使わないかという事と、何かやりたいことがあると言い出したからだ

この軍には安倍と峰男以外 族の兵隊はいない
戦闘を目的としていないからだ
760 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:51
「勘太っ」

突然ひとみが叫ぶと兵たちが一つの動く物体に注目する

ひとみが馬を止め
飛び降りた途端飛びついてくる勘太を抱きとめる

ウォン

わしゃわしゃと頭を撫でて、勘太もひとみの顔を嘗め回す
首輪に手紙が巻きつけられているのを見つけると、すぐさまそれを取り読み
読んだ後手紙を蒔絵に渡す

「くそっあのちび、また無茶しやがって」

ウォン

勘太がまったくだとでも言うように吠えた


加護達の手紙の他に、かおりからの手紙もついていたので
次々に峰男達が手にする
なつみの脱出に安倍がホッとしているのを峰男が肩を叩いて祝福すると
再び手紙に目を通しだす

それには、加護と辻が加賀の屋敷へと連れて行かれたのを知り
矢口が一人で乗り込んで行った事と、なつみも撃たれて怪我をしているが
矢口が治療して、今、回復を待っている状態だという事
回復ししだい自分達も屋敷へと向かう事等書かれていた

夕方から式典があり
東条はその時に王位を加賀に与える為に入って来るようになっていて
全く町の人は襲われる事を知らなそうな事や
侵入者がいないはずのこの町の中に多数の山賊が入り込んでいる事も書き加えられていた
761 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:54
当初門を爆破して潜入しようと考えていた一行だったが
山賊が入り込んでいる事を知り、もしかしたら何か抜け道があるんじゃないかと思い出す

しかし今から探して間に合うか、と悩むが時間がない為
そのまま当初の予定通りシープへ向かう事にした

だが急に蒔絵が話し出した

「吉澤さん・・・ちょっといいかい」
「は・・・はい」

吉澤は話をした事がほとんどないこの老婆からの誘いに戸惑う

「峰男達はこのままこの兵を率いてシープの門の前迄行き
予定通り爆破の準備を進めなさい、私と吉澤さんはちょっと寄り道をするよ」

頷いて峰男達と別れたひとみと蒔絵・・・
それに勘太はJの国の方へと向かって行く

「このワンちゃんが持って来た手紙と地図を見て
何故か気になる場所が出来てしまってな、あんたについて来てもらおうかと思って」

蒔絵を前に乗せて馬を走らせる

「はぁ・・・・それでその気になった場所というのは?」

加護達が書いたなんとも怪しい地図の中をフフッと蒔絵は指を指す

「えっと、そこは・・・・一体どうやって行けば」

さっぱりどこら辺なのか解らないひとみに

「この地図を書いた三人はすごいね、確かにおかしい事も沢山あるけど
ダックスのなつみがいた事が大きいんだろうね」

「はぁ」

まったく掴めないひとみ
762 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:56
「吉澤さん、あんたは随分と真っ直ぐな人物なんだねぇ
鷹男が惹かれる気持も解るよ、ばあさんもくらくら来てしまいそうだからね」

「は?」

楽しそうにこっちだよと指を指しながらひとみを誘導する

そして随分と森の中を走って行くと、ある場所に着いた
小さな山を二つ位越えて来た海のにおいのする場所

ひとみが気づく・・・・
もしかしたらここは、瞬と最初に会った時
丘の上から現れた集団が消えて行った延長線上位ではないだろうかと

そして勘太が何かに気づいてひとみを誘導する
勘太が止まった場所には海のにおいが漂ってくる洞窟が掘られていた

爆破後等も見られ最近掘られたような洞窟で
馬まで入れるような大きな洞窟だったが、長い為先は見えない

「誰もいないようだね、目をならしながらゆっくり入りな」

蒔絵が言う前に勘太は早くと言わんばかりに入って行った
馬が多少怯えたが、落ち着かせるように蒔絵が撫でると大人しく進み出した

少し下り坂になっており、しかも眼もあまり見えない為ゆっくりと進むと
やがて明かりが見えて来る

馬の足も速まり出て行くと海が広がっていた
763 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 21:58
「見てごらん、海からの進入を見張るための小屋がこの上に在り
ここは全くの死角、しかもここから町方面は見張り小屋から見えない
ここから入れば山賊はシープの町に入り放題だね」

「ほんとだ・・・・・誰がこんな穴を・・・・」

「東条の一味だろうね、そして桂秀子・・・・
この手紙に書いてある黒幕と思われる人物は私の妹だよ」

「ええっ」

ひとみの驚きが伝わっているのか、蒔絵は楽しそうに笑っている

「もう随分と会っていないが、まだ生きていたようだ・・・」

ふふっと浜辺から森へと誘い、やがて牢屋みたいな建物と、兵達の亡骸を見つけ
こっちだよと蒔絵が言う通り歩くと
手紙にあったなつみ達がいるはずの場所は血の後を残して誰も見当たらなかった



う〜んと悩んだ蒔絵が何か一生懸命気配を読み
連れ去られたようじゃと呟くと、今度はこっちじゃと誘導する


しばらく走ったところで蒔絵がこっちに走れと指示を出す
764 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:00
また森の中に入り、しばらくすると高い城壁が見え出す

外から見た壁は外側に反り返って来ているが
今見る壁は逆に見える為本当にシープの中に入ったんだと思わせた

蒔絵が地図をさして
「さっきのこの辺りにかおりはいたはずだね」と言うと
今度は指を動かし鷹男達がいるであろう門の場所を教えてくれた

「一度峰男達と会わないとね」
と皺皺の顔を綻ばせてくる蒔絵

こんな緊迫した状態でどうしてそんなにのんびりしているのかとも思うが
小さな老婆に頼るしかない自分は焦る気持ちを静めて言う通りにする

これでもかと馬を走らせると門が見えてきたのだが
まだかなり遠くで少し丘になっている所で様子を見た

民家からは大分離れているようだが
門の近くは広場のようで何も隠れるものは無く気づかれずに近づく事は出来ない

そして町の方では何やら町民が中央の方へ歩いて行っているのが遠めに解った
765 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:01
「ここから撃つかい?あまりに遠いから当たらない所か
あっちの住民にも聞こえてしまうかもしれないねぇ」

ひとみがどうやって門番を倒すかを楽しむようにひとみを振り返って見上げる

「自分が町民を装って近寄ります・・・・無理でしょうか?」

かなり危険な事は自分でも解るがそれ以外思い浮かばない
自分に何も力がない事がひとみを悔しくさせる・・・
こんな時矢口なら簡単にやりとげてしまうだろうにと


「ふふふふ・・・・あんたは私の力を知ってても
利用しようって考えもしないようだね」

そんな事もこの人にはバレバレなのだろうか
見上げていた顔をくしゃくしゃにして微笑んでいる

「あ・・・・・・・・」

「そこが、素敵なところだよ・・・・吉澤さん
このまま下に降りて門へとゆっくり向かいなさい、あとは私が何とかしよう」

「・・・・はい・・・」
766 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:01




767 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:02
矢口達三人は、堂々と加護達がいる部屋へと向かった

ダレがいようと、二人を解放し
加賀と話し合いをしようと覚悟を決めた足取り

しかし、もうそこには誰もいなかった
あの後すぐに式典の壇上にも運ばれて行ったようだ

すると屋敷の外から歓声らしきものが聞こえ始める

「くっ、今の間にっ」

矢口が悔しそうに言うと、俊樹が言う

「きっと桂が俺らの行動を怪しんで早めに連れ出したんだ」
「俊樹様っ、じゃあまず式典をぶち壊しましょう」
「ああ、それしかないな、行こう」

奥の廊下を進んで行く



時折すれ違う兵が矢口を見て不審がる

「あのっ、俊樹様っ、その少女は」
「客人だ、怪しいものではない、それより父上はどこだ」
「はっ、もう式典会場へと向かわれました」
768 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:05
足早に兵の間を抜け、会場へと近づくと歓声が大きくなっていく

「何だ、まだ式典は始まってはいないはずだが」

近くの兵に尋ねると

「俊樹様、どこへ行っておられたのですか、加賀様が探されておられましたよ
式典前の俊樹様の花嫁候補を決める戦いが始まってます」

「何ぃ」
三人は顔を見合わせる


大歓声の中式典の壇上の裏に到着すると
今朝バーニーズから輸送されてきた調度品等が神輿のような物に載せられたりしていた

あれこれ準備に追われている兵から早く壇上へとせかされる俊樹達だったが矢口は止められてしまう

「その人はいいっ、離せっ」

取り押さえようとする兵に
邪魔するなとすぐにも殴りかかりそうな矢口の手を三浦がひっぱり壇上脇へと上がっていくと


壇上には青い顔をしたなつみと
ガタガタと震えているかおりが派手な衣装を着せられて剣を持っていた


目の前に徐々に集まってきている町の人達が
どっちが勝つかを一生懸命叫んでいる



余興の盛り上がりに矢口は眩暈がしそうだった

どうしてこんなばかげた事を繰り広げているのだろうかと
そして壇反対側で吊るされている加護と辻を見つけて我を忘れて叫ぶ

「加護ぉ、辻ぃ」
769 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:09
歓声の中にかすかに聞こえたその声に
壇上で一番真ん中に座って満足そうにしていたえらそうな老人が声を出す

「なんだその女は、何をしている早く引き摺り下ろせっ
それに俊樹っどこに行ってた、今お前の為の戦いが目の前で行なわれているんだぞっ」

「父上っ、これは罠ですっ、東条は父上に王位を渡す気などありませんっ」

その声は歓声にかき消されて
町民達にもかおり達にも何も聞こえない、もちろん加護や辻達にも

しかし、耳のいい加護には矢口の声がかすかに聞こえた気がして目を開ける

吊り下げられている加護の眼に壇上の端っこで
必死に兵隊達ともみあってこっちを見ている矢口の姿が見えた

「のの・・・のの、親びんや・・・・親びんが助けに来てくれたで・・・」

辻の返事はない

大分巻かれた布も通り越し、衣装に赤いしみが広がり始めていた
眼のいい矢口は2人のそんな様子を見て三浦に叫ぶ

「あの子達を降ろして下さいっ、出血しすぎて危ないっ」

三浦は、矢口がすぐにでも力を使って兵達をやってしまいそうな勢いを見て
きっと自分達の立場を考えて我慢してくれているのだと思い俊樹に目配せした後走り出す
壇の下へと急ぎ広い壇の向こうへと
裏から吊るしているロープの所にいる驚いた顔の兵隊の所へ行った

矢口も自分が力を使ってあそこへ行けばいいかとも考えたが
これだけの兵と人がいれば無防備なあの2人が危険かもと三浦にすがった
770 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:11
『ごめん矢口・・・・捕まってしまって・・・・
私達が戦わないと加護さんと辻さんを殺すって脅されて』

やっとかおりが矢口の存在に気づき力で話し掛けて来た

『いいから、おいらが何とかするからかおりは余計な体力使わないで』

頷くかおりは弱弱しくうな垂れた
三人から取り押さえられている矢口を俊樹が救い一緒に加賀の近くへと歩く

「何やってんだよ兄上、大事な式典をぶち壊すつもりか」

弟の元がばかにしたような笑いで椅子にふんぞりかえっていた


観衆が壇上の異変に気づきだしてざわめく

  「何があったんだ」「何をしてるんだ俊樹様はっ」 
  「その小さい少女はもう一人の花嫁候補かっ」
  三人で争わせろ、などとヤジが飛び交う

「俊樹、見苦しいぞ、早くここに座れ」

こそこそと俊樹に言うと今度は大きな声で話す

「民よ、俊樹はやっと花嫁が決まる事で興奮したようだ
これ娘達よ、早く決着をつけなさいっ」

俊樹の目には、民には見えないように加賀がなつみ達を銃で狙っているのが見える

なつみとかおりはお互いを見て俊樹へと視線を移すが
俊樹は唇を噛むばかり
観衆も早くやれとあおり出す
771 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:13
その中で俊樹が意を決して加賀の頭に銃をつきつける
もちろん驚く加賀や元と近くの兵達

「みんな聞け〜っ、この町は今狙われているっ
王位を授けると言って近づいて来た東条はこの町を破壊しようとしているっ」

町人の喧騒に掻き消されてそばにいる人達にしか聞こえていない

「何を言っている、俊樹っ、気でも狂ったか」
「兄上っ」

元も立ち上がり、兵隊達も後ろや横の広場からこの様子を見てざわめき出す

「何をおっしゃっておられる、俊樹様
早く竜神様への生贄の進呈をして東条様を迎え入れなければこの町は大変な事になりますぞ」

加賀の向こう側に座っていた桂も慌てるように言う



矢口はこのやりとりの間になつみに近づき体を支えようとしたが

「大丈夫大分復活してる」

と言われてしまう、でも怪我人を装わせる為やはり支える
そこに怯えて震えるかおりも近づいて来ると

「何をしているっ、早く決着をつけないかっ」

気づいた加賀が叫び、近づこうとしていたかおりの足元を銃で撃った
772 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:16
「それにいい加減にしないか俊樹、早く座りなさい、すぐに東条様がいらっしゃる」

やっと健太郎もいなくなり、ついに私が王権を復活させ、これから東条様と共に
世の中に我がEの国の力を見せつけようというのに・・・と呟く

冷たい東条の視線が俊樹を捕らえ
言う事を聞かなければ今すぐ娘達を殺すとでも言うように睨み付けている

王座への執着、長年の執念なのか、この迫力に俊樹は屈し銃を下げた

町民達が加賀の行動にもざわめいたが徐々に落ち着いていく
なつみ達の争いがどうなるのか、俊樹の様子がおかしいのを見てざわざわしていた民が
どうなるんだと静かにし始めると、遠くから足音が聞こえてくる

突然ファンファーレのようなラッパが鳴り響き出し
壇上の空気が再び動き出した


戦闘意欲を挫かれた俊樹に、後ろにいた兵達が銃を構えて
俊樹を所定の場所に座らせた

結局何だったんだとでもいうようにざわざわと式典の為に整列しだす町民や兵達
裏では走り回る兵達の足音

壇上と町民達の間には大分距離があり
きっとここに東条の率いる兵隊達が入って来るのだろうと
一斉に町民達が壇上から見て右を向きだした

「全く・・・東条様が来てしまったではないか・・・・
まぁいい、共にこの顛末を見て頂こう、さぁ、一度とりやめて東条様をお迎えしよう」

皆のもの静かに、静かにと加賀や兵達が叫ぶと

町民は、ざわざわと少し間を置いて静かになる
773 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:19
かおりが再び矢口に近寄り共になつみを支えると
兵が三人を囲み拘束した

そして、加護達のロープの所に行った三浦も
そこにいた兵隊達から拘束された

三人は縄で縛られた後、壇上の端っこの兵達の足元に転がされる

「矢口さん・・・・ごめん・・・ののとあいぼんを守りきれなかった」

なつみが悔し涙を流しだす

「大丈夫、ありがとう加護達を助けてくれて」

なつみに微笑む矢口を見てかおりは涙を浮かべる

「ごめんね矢口、いきなり思いもよらないところから族がやって来て
あっというまに捕まってしまったの」

「やっぱり・・・でも大丈夫だよ泣かなくて、それより勘太は?」

「通じるか・・・ぐすっ解らなかったけど、きっとこの道にいるからと・・・
ずっ・・地図で説明して吉澤さんの所へ手紙を持たせたの」

「助かった、さすがかおりだね、これで中の状態を伝えられる
後はあいつが何とかするだろう」

キッと足音のしている場所を睨みつける矢口達
そこに東条が入って来る


1万を越える兵隊を引き連れて綺麗な整列を見せ町民を圧倒する
774 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:21
兵隊達の間に、綺麗な金塊の山や、宝石、莫大な財宝の山を披露した

久しく目にしていない昔を思わせる王族の権威と、兵達の統率力
町民達や、横に整列していたシープの兵が思わず拍手してしまう程見事な入場だった

王権の復活、その権威がまざまざと町民に見せ付けられる
先頭の東条が壇の近くで兵の整列が終わるのを見届けると壇上に近寄り
真ん中の階段をゆっくりと登ってくると加賀は立ち上がり
誇らしげな笑顔で近づき壇の真ん中で握手しようと手を差し出す

その手を握らずに東条は振り返って両手を広げた





「シープの町の諸君っ、今この瞬間から、この町は我々の支配下となった・・・・
我々はEの国を復活させるっ」






シーンと静まり返った町民






「と・・・東条様・・・・?」

その声ににやりと笑い、振り返りざまに
東条が舞うように加賀の首を飛ばした


ごろんごろんと加賀の首が転がり、体がゆっくりと後ろに倒れる



静まり返った町民達が、やがて悲鳴をあげ出すと
遠くで爆発音が聞こえた
775 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:24
それを合図にするようにもっと遠くでも爆発音が響き出す
突然八方に散り出して剣を振るい出す青い軍服達

パニックを起こす町民達と、シープの兵達


矢口が縛られながらも立ち上がり、俊樹も訳が解らなくて叫ぶ元や
にやりと笑う桂が逃げていくのを見ながら矢口達に向かって走り出していた

壇上から東条が笑いながら矢口達のそばを通って奥へと入って行くと
あっけにとられていたシープの兵達が東条を追って壇上を駆け抜けて行く

俊樹が矢口達の縄を解くと矢口は、争いだした兵達を避けながら
かおりとなつみを連れて加護達の所へ行く

矢口は悲鳴と怒号が響かせ争う人達の向こう側
ここから見える城壁が爆破されたのを確認、ひとみ達が来たのだと確信した

三浦が妨害していた兵隊を殴り飛ばし、襲い来る青い軍服を切りながら
2人が吊るされている後ろのロープを切り、ゆっくりと降ろそうとしていた時

ほっとして駆け寄るなつみ達と襲ってくる兵の攻撃を避けながら近づく矢口の前で
辻と加護のお腹辺りに銃弾が当たった・・・

「辻ぃっ、加護ぉっ」



振り返ると矢口は見た、流れ弾と思っていた銃弾が
俊樹の弟、元から発射されたものだという事を
776 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:26
「矢口っ・・・」

降ろされた加護達を受け取るかおりの声を振り切って
矢口は元の所にあっという間に飛んで行き胸倉を掴む

周りで壇上の後ろから次々に兵が広場へと進んで行く中で
そこだけ止まった感じになっているのをかおりや三浦は見ていた

なつみは懸命に加護と辻の縄をほどき巻かれている布を剥ぎ取り
撃たれた箇所を舐めている




「何で撃った」

突き飛ばそうとする元の手を避け

「あの子達を何故今撃った」
「あいつらが災いの子供達だからこんなことになったんだぞっ」

矢口の目が徐々に色を失なっていく



ゆっくりと元から離れ矢口は銃を構える

「ひいいいっ」

元が近くの兵に誰かこの女を殺せと叫ぶ


俊樹も三浦もそれを静かに眺めていた




パンッ

元の頭に矢口が打ち込むと
近くでその音に気付いた兵隊達が矢口に発砲しだす
777 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:30
瞬間矢口の姿が消え、近くで銃を撃った兵隊達の群れが
綺麗に血しぶきを上げてごろごろと倒れて行く

族の姿を見る事が出来るかおりとなつみ・三浦と俊樹だけは
矢口が近くの兵隊の剣を抜いて撃って来る兵の腕や首を切っていくのが見えた


吹き上がる血しぶきの中にいるその顔は
今まで見ていたかわいらしい少女の姿ではなく
綺麗な鬼のような姿だった


「君っ、この子達をあの壇の下へ隠しなさい」
俊樹が叫ぶ

矢口が叫びながら青い兵隊の中へ消えて行くのを見ると
俊樹が三浦と共に声を上げながら剣を抜いて壇の周りを埋め尽くす青い軍団へと駆け出していった

かおりとなつみは共に一人ずつ抱えて壇の下へともぐりこみ
懸命になつみが声をかけた

町民達がにげまどっている背中を青い兵隊が切りつけていく

女子供関係なしに


あちこちで火の手があがり出し
パニックを起こした町民達が将棋倒しになったりと悲鳴が響き渡る





向こう側では、馬に乗った100人位の兵達が町民を誘導していた
もちろん峰男や鷹男達の率いる集団である

「早くあの壁から逃げて下さいっ」
「早く逃げろっ」

町民の波がその兵達に気づいて守られるようにわれ先にと逃げて行く
逃げる町民を追う青の軍に峰男達はかかって来いとばかりに切りかかる
778 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:33
そして見渡す限りの青い軍団に、シープの兵隊が混じって行く頃
新たに青いマントを背負った兵隊や、族達が入って来る

「切れ切れっ、我が王国に刃向かう輩は皆殺しにしろっ」

先頭を走っていた男が叫んでいたが、急にその男の首が飛ぶ

入ってくる青い兵隊、族達を切っていた矢口は東条を探しながら見ていた
切ったのは青いマントを脱ぎ捨てた加藤だという事を

しかし辺り一面で青いマントをまとった山賊や族達が
次々と町民やシープの兵を殺して行く



矢口は一度立ち止まり、その様子を静かな顔をして見る
襲って来る青い兵に顔を向けずに剣を突き刺しながら


加藤が馬を降り、青い兵を次々と切って行き
藤本も青の兵から奪った盾で梨華を守りながら
見事な手綱捌きで馬の上から剣で切っていた

梨華も盾を藤本の持っている手と逆に構え
隙間から銃で確実に近くの青い兵隊を撃っている
779 名前:dogs 投稿日:2006/08/06(日) 22:36
しかし数が多すぎる、矢口は襲って来る兵隊をよけながら辺りを見回す



次々に倒れて行く人間達


空中戦を繰り広げる族達


町民の女の人や子供の悲鳴



矢口は真っ白になっていく自分に気づく
いつか感じたあの時の自分になっていく

ダメだと自分に言い聞かせるのにその勢いは止まらない



どんどん白くなって・・

やがて

真っ白になっていった

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

矢口は叫びと共に町人に襲い掛かっている青いマントの族や
山賊の群れへと飛び出す

藤本や梨華がかすかに聞こえた矢口の声の方向にその姿を捉えた

「美貴ちゃんっ、矢口さんがいるっ」
「うんっ、美貴達も行くよっ、梨華ちゃん弾ある?」

弾を詰め替える梨華は頷く
780 名前: 投稿日:2006/08/06(日) 22:40
う〜ん、自分の思わぬ方向へと話が進んでいきます。

しかもしばらく所要で更新出来ません。でも必ず完結させますので

あの・・読んでいる方がいらっしゃるかどうか解りませんが、少しお待ち下さい。
781 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/08/06(日) 22:49
更新お疲れ様です。
いしよしにひかれて読み始めましたが、今ではCP関係なく物語に引き込まれてます。

いつまでだって待てますので、作者さんのペースで頑張ってください!
782 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/07(月) 02:12
めっちゃおもろいです。次回更新を楽しみに待ってます。
783 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/07(月) 18:00
感想あんまり書けないけど、いつもドキドキしながら読んでます
更新のんびりお待ちしてます
784 名前: 投稿日:2006/08/20(日) 00:57
781名無し飼育さん
782〜783名無飼育さん

待って頂ける事、感謝です。
CP関係なしとか、おもしろいと思って頂けたりとか、ドキドキしていただけると嬉しいですね

こんな自分の妄想話、しかも娘。小説なのにやたらオリキャラ出して
ややこしくしてしまったり、心理・状況描写も下手だしと反省するばかりなのに
優しい言葉ばかりで・・・m(__)m
本当に、レスありがとうございました

漸く所用(前に所要と書いて間違ってるのを見て再び落ち込みました)も終わって
再びマイペースにやらせて頂く事になります。
またよろしくお願い致します。
785 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:01
俊樹と三浦は青い兵隊の中にはいない東条を探す

「くそっ、どこへ行った」
「屋敷の中じゃないか?」

争いが続く庭や通路から、誰もいなくなった屋敷へと戻る
二人は二手に分かれ、俊樹はいつも使っている大広間に駆け込むと
一人の男がいつも加賀が座っていた場所に悠々と座っていた

「貴様っ、よくも我々の町民をっ」

この町がもう自分の物だとでも言うような顔に
怒りが込み上げる俊樹は心底叫ぶ

「やあ、やっと来たね」
座っている男、東条は余裕な笑みを浮かべ手をあげた

俊樹が瞬間銃を取り出し撃とうとして体が動かなくなった

「これは俊樹様、東条様に銃を向けるなど」

これは王族への謀反ですよとほくそ笑む人物、桂秀子

「桂っ・・・・・貴様っ何をしたっ」

パンッ

東条がゆっくり銃を取り出しほくそ笑みながら俊樹の肩を撃ち血が噴出す

「君達やダックス・バーニーズの町民は、王族にたてつきすぎた
この辺りできちんと王族の下についてもらってわきまえてもらわないとねぇ」

銃声に気づき、バタバタと三浦がそこへ入って来るが
すぐに桂の仕業で同じ様に動けなくなってしまった
786 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:06
「桂っ、やはりお前は・・・・」

「ほほほ、お2人は気づいてらっしゃったのに、愚かな加賀への忠誠心で
私の事を追い出せませんでしたねぇ、誠に残念でしたなぁ」

高らかに笑う桂の横、にやりと笑いながら東条が三浦の肩にも銃を撃つ

「さあ、私に詫びてもらおうか、今までEの国の事を裏切り続けてすみませんと」

すぐには殺さない

じっくりと嬲り殺してやるとばかりの顔に二人は恐怖を覚える


いや、恐怖ではない

自分達も先祖がEの国に追い出された兵隊ながら
健太郎といつか再び王都へと帰り
誇りをもって王家を守る事が出来る軍隊となる為・・・・
そして自分はそんな兵の一人になりたいとこれまで苦労してダックスやバーニーズと争ってきたり
さらに党首を務める者が族でない為最初は虐げられていた我が町を
長老達が対等になる迄に苦労して来た事だって代々聞いている

しかし最近、長年争い続けたダックスやバーニーズとの事、裏切り者と少しは思いながらも
共に小さいながらも町を築けて来た事で
二つの町がそれなりにEの国の事を思ってしてきた事だと思える時だってあったにもかかわらず
やはり族、いや、民間人と協力しての国家造りにやはり抵抗があったのは
昔国家の軍隊であったという誇り故

なのに結局その王家からは自分達も裏切り者と呼ばれた事に
全身から空しさと悔しさが噴出す
787 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:09
しかし今思うと健太郎が常々、安倍や若林の事を悪く言う事は無かったし
実際他の国から侵略されずに独自の町を築けているのは
二人のおかげとさえこっそり自分には言っていた

だけど民が取引の際の小競り合いで二つの町への嫌悪感を示し続けていたので
健太郎の気持ちを言う事は自分達への反感を買うかもしれないとの配慮から
いつか仲良くしたいとの気持ちを身内での酒の席でのみ時折楽しそうに語っていたのを思い出す

そう、自分や三浦の世代がこの町を率いる時

そしていつかEの国が復活した時・・・・
自分達が安倍や若林の次の世代の子達とうまく付き合えるようになっていれば
再びEの国は繁栄し、かつてそうだったように
各国の先頭に立っていける国が出来るであろうと・・・

実質的には党首であった健太郎が
加賀という旧Eの国時代に上流階級であった男を立てながらも
特に最近そう自分達にしっかりと国作りを教えてくれていた訳

そんな健太郎の想い

自分達は尚、Eの国の兵隊だという自負

そして、小さな村を一から町へと成長させる為に
これ迄苦労して来た仲間の事を、目の前の王族が切り捨てる



「裏切った・・・・つもりはない」

溢れる悔しさは震える声で一言だけ言葉を吐かせる
そう言った俊樹に向かって、今度は反対の肩へと銃を放つ

「やれやれ、どうも加賀といい君といい、ここには頭のいい人間はいないようだね」

やはり身分の低い所からの成り上がりものはダメだなぁと
馬鹿にした笑いを浮かべている東条と桂を
心と体から血を流しながら、動けない二人はギリギリと歯で音を立て睨むしかなかった
788 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:14


その時




「そこまでにしときなさい」



広い空間に優しい声が響き渡る

「こ・・・この声は・・・・」

信じられない表情で、ものすごく動揺している桂に東条は声を掛けた

「なんだ、桂、どうしたんだ」

開けっ放しのドアからひとみと蒔絵、勘太が悠然と姿を表す

「蒔絵・・・・生きてたのか」

「久しぶりだな、秀子・・・・まだこんな事をしておったか」

蒔絵が手をかざすと俊樹と三浦がフッと動けるようになり
痛みからダラリと腕を下ろした

「誰なんだ、桂、うっ」

反対に体が動かなくなったらしく少し焦る東条に
蒔絵に対抗しようと手をかざしながらも苦々しい表情で呟く
力の差は歴然のようだ
789 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:17
「わ、私の姉です・・・もう死んだと思っていたのですが」

言いながら渋い顔でそろそろと出口へと動き出そうというのが四人には伺えた
両腕が上がらない俊樹を見て、三浦が撃たれた肩と違う方の手を上げて銃を構えた

まずは東条へと

「どうやら形勢逆転のようだな、東条」
「や、やめろ、撃つな」

動けない東条はさっきまでの余裕はなくなっている
途端に桂が後ろに向かって叫び出した

「お前達っ、早くあいつらを始末しろっ」

術では勝てないと思ったのだろう
三浦はすばやく銃を東条から声を掛けられた方へと動かす

すると柱の影からスッとあの三人が現れ
先頭の一人が力を使って俊樹へと向って来た・・・・
しかし蒔絵が瞬時に何かをしたのだろう
俊樹の前でぽとりと失速し、気を失ってしまった

三浦とひとみが、その状況を見てひるんでいる後ろの二人を銃で撃つと
二人の急所へと的確に命中し倒れた

両肩を撃たれたまま立ち尽くした俊樹は
涙を浮かべゆっくりと剣を抜き歩み寄ると、寝ている族の急所を刺し貫き息の根を止めた
790 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:20
蒔絵が男を寝かせた際に束縛が解けたのか
動けるようになったと気付いた東条が、同じように逃げかけている桂を押しのけ逃げ出す

パンッ

ドアの所まで行った所をノブを撃って掴ませないひとみ

「あんた自分のした事解ってんの?」

怒気を含んだひとみの声に

「私はEの国を復活させようとしただけだ、私を撃てば、逆賊となる
そう、私は王だっ・・・貴様ごとき庶民に無礼な口をきかれる覚えはないっ」

まだこの場で自分が劣勢だとは思いたくないのか
捨てゼリフを吐いて去ろうとまた動き出すとひとみが叫ぶ

「待てよっ、あんたのせいで表では沢山の人が死んでる・・・
いいかあんたのせいだっ・・・・ウチが逆賊になってもあんただけは許さない」

ひとみが再びノブを撃って動きを止め、次はお前だと睨みつけ

引き金を引こうとした瞬間、俊樹が叫ぶ

「待てっ」

撃たれて血の止まらない震える右腕を上げてひとみに眼をやる

「頼む、俺にやらせてくれ、この始末は俺がしなければいけない
我々三つの町は、間違いなくEの国の中心、そして新しい国を我々が作っていくんだから」

ひとみが頷くのを見て俊樹が引き金を引くと
恐怖に怯えた顔であっという間に東条は倒れた

こんなに人が死んでしまっている事態を作った張本人は
じつにあっけない最後をとげた

そして逃げようと逆へと体を向けた桂はひとみと三浦の銃弾に倒れた
791 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:20



792 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:24
その頃ダックスの仙田の一団は
シープの方からの爆音と共に一斉に気勢を上げ出した青い集団を迎え撃つ

「お前らぁ、死にたくなければ逃げろっ」

そう言いながらまず族の一団が一斉に飛び出し
次々に先頭の正規の青の軍へと向かっていった

同時刻、バーニーズへと向かう兵達も
始まったぞと急げと駆け出す号令をかけそうな指揮官らしき男の首を瞬が刎ねるのを合図に
攻撃を開始する

辿り着く前なのに道の脇の草むらから大勢の兵隊が表れひるむ青の軍

おのおのの攻撃に数少ない青の正規軍の兵達が
姿の見えない相手に続々と倒されていきそれぞれ出鼻を挫かれる

ダックスの町の壁際では、それでも当初の作戦なのか青いマントの族達が飛び回り
その援護を元に青い軍服の男達が壁を爆破しようと爆薬をセットし一気に爆発させ壁を壊した

出鼻を挫かれた兵達は、これで勢いに乗ると思いながら
必死にダックスに入り一様に驚いた表情を見せる

予想では逃げ回る町民を
切って切って切りまくっていくはずだった町の中には人一人いない

それどころか、バッチリと戦闘の準備が出来た兵達が
かかって来いとばかりに大勢待ち構えていた
793 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:28
一方バーニーズの攻撃には、完全に予想外なのか
何の抵抗も出来ずに逃げ惑う町民兵や、狂ったように襲い掛かる族が
何の策も無くただやみくもに剣を合わせているだけだった

「いいかぁ、逃げる奴はほっておけ」

瞬や仙田は同じ頃違う場所で同じ事を言っていた

同じ族同士や、人間同士が剣を交える

藤本が言っていた通り、軍隊と言うには程遠い
大多数が何の戦法も持たない町民がただ武器を持っているだけの集団だった

やっかいなのは山賊とはぐれの族だったが
日頃族と触れ合っている瞬達の兵隊は見事に見切る事が出来る為
数も問題ではなく一歩もひかなかった

作戦の一つに、町民達と見受けられたら声をかけろとあった

「俺達は、あんた達と戦う気はない、早く逃げろ」・・・と

年寄り達は反対した、戦うとは相手も誇りを持って戦ってくるのだから
逃げろと声をかけるのは相手にも失礼だと・・・・

しかし矢口が必死に説得した

「無理やり連れて来られた兵隊に誇りはありません・・・」と

生死のかかる場所で、人は人でなくなる・・・・

誇りだとかではなく全員が修羅となる・・・・

それが戦争・・・・

だから少しでも自分は人間だと思い出させればその言葉は形になっていくと・・・・

そのばかげた事と年寄り達に鼻で笑われた作戦は徐々に効果を表して行く
兵の数がだんだんと減って行ったのだ

恐怖から逃げ帰る町民兵達
そして圧倒的な数の差がみるみる逆転していく

元々個人の戦闘能力はダックスやバーニーズの方が圧倒的に強い
押されていると解った頃には山賊やはぐれの族達が青いマントを脱ぎ捨てて山へと去って行く


二つの軍はほぼ同じ頃 勝どきの声を上げてシープへと向かう
794 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:29



795 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:30
かなり疲労感漂わせ、ひとみに支えられた蒔絵は
再び三浦と俊樹について表の広場へと出て来て愕然とした

見渡す限りの青い軍隊、そして赤い血、屍

三浦が叫ぶ、怪我した手で東条の首を掲げて

「東条は討ち取った、青の軍は負けたっ、戦うのをやめろっ」

近くの青い兵隊が三浦に発砲すると太腿から血が噴出す

「我々は王族の復活の為最後まで戦うっ」

その声は呪いのように青い兵隊へと広がって唸り声となった

愕然とする俊樹や、足も撃たれてしまった上に放心状態の三浦を
壇の下からなつみが出て来てひきずるように連れて行く
ひとみ達もその後について壇の下へ行くと加護と辻が動かなくなっているのを見つける

「ののっあいぼんっ」

駆け寄って揺さぶろうとしている所を蒔絵に止められる

「ちゃんと生きてるよこの子達は、動かさない方がいい」

頷くひとみ、そしてハッと我に返る

「や・・・矢口さんはっ?」

必死の形相でかおりを見ると

「・・・・うん、戦場に・・・・」

俊樹を支え無念そうに呟くかおりを見て、ひとみは拳を握り締める
796 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:33
なつみがその間に三浦のズボンを傷口迄切り
傷口を舐めて治療していく

一方さっきから必死に勘太が加護や辻の顔についている固まった血をなめて綺麗にしている
その様子を何も言わず見ていた俊樹と三浦が突然がっくりとひざをつく
慌てて支えるかおりとなつみ

「俺のせいだ・・・・俺がもっと早く父上の事を止めなかったから」

「俊樹様のせいではありません、我々も気づいていながら・・・
おかしいと気づいていながら誰も何も出来なかったんですから」

「すまない、三浦」

「いえ、俊樹様、元々はやはり加賀様の・・・・」

今度はかおりに脱がされて呆然としている俊樹の両肩をなつみが治療し
かおりがなつみの治療を終え涙にくれる三浦の足の傷に切り取ったズボンの布を巻いている間中
反省しきりの二人を見てひとみが口を開く

「あんた達が・・・・・あんた達が今そうやってぐじぐじ言ってる間に
あんた達の大事な兵隊が死んでるんだよっ」

悔しそうにそう言って戦場へと飛び出して行き、慌てて勘太もついていった

「吉澤さんっ」

かおりはまた止める事は出来なかった、矢口の時と同じように・・・
797 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:37
「かおりさんなっちも行って来るっ、後は頼みますねっ俊樹さん、三浦さん」

まだ顔色が悪いながらも力強く言うと
うな垂れる二人にそう言い残して飛び出していく

「なつみさんっ、あなたもまだ怪我がっ」

かおりが二人の傷口に巻き終わったのか立ち上がって叫んだ




ひとみは勘太のフォローを受けながら健太郎に教わった事を生かし
見事な剣さばきを披露していたが、切っても切っても青い軍団は一向に減る事はなかった

なつみも痛む傷を我慢しひたすら飛び回り切りまくる

シープの兵隊は徐々に屍に変わっていき
青い軍隊のあちこちから「もう少しだっ、この町は我々の物になるぞっ」と聞こえてくる

ひとみは向かってくる青い軍服を切りながら懸命に矢口の姿を探す
しかし視界に入るのは青い服だけだった



そんな時間が過ぎていく頃

焼けてしまった民家の為視界が開けた中
遠く峰男達の誘導する町民達が逃げて行く壊れた城壁から
暮れかけた空に向かって撃つ銃声と共に新たに馬に乗った集団が入ってくる

広場や、破壊活動をしている町の中で戦っている全ての人達の耳にそれは聞こえる程の馬の足音
その数は4000人を超える
798 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:39
先頭には瞬と仙田がいるのを見て、ひとみは小さくガッツポーズをする

「矢口〜っ」

瞬が叫びながら突進してくると
すでに疲労している青い軍隊がその数にひるみ後退しだす

辰雄や力也らの族があっという間に青い兵の首を飛ばして行った
形勢が一気に逆転し、だんだん青い軍服が撤退していく

広場から町並へ入っていく道筋に合同軍が分散されていき
次々に散らばっていた青の軍へと襲い掛かる
そのうち瞬達の合同軍が青い軍隊を追い出すように町中の道を駆け回る

広場では仙田が真っ先に綺麗な衣装で飛び回っているなつみを見つけ
テンションが上がったのかダックスの軍から歓声のような雄たけびがあがる

「なつみさんは無事だっ、早く援助しろっ」

おおっと近くへと寄っていった
799 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:42
壇の近くのまだシープの兵が多少残って争っている場所へと近づく瞬の隣にいた鷹男が
ひとみの姿を見つけた

「あそこに吉澤さんがいますっ」

「ああっ、吉澤さんっ、大丈夫か」

瞬がすかさず近寄るとひとみは肩で息をしながら勘太と瞬達を見上げる

「はい、ウチはなんとか、でも矢口さんがいないんですっ」

その周りの兵達も合同軍が追い出していくのを見回してから

「よしっ乗れ」

ひとみは瞬に手を掴まれ後ろに乗せられた後
広場の隅、撤退して行った青の軍の方向でまだ戦っている
山賊らしい青い集団を見つけて駆け出した

すっかり争いあう人が居なくなった広場は屍が無数に転がっていた

うめき声と、嗚咽・・・・唸り

侘しさと絶望感が漂う空間が広がり始めた


そんな中走る合同軍

瞬と仙田は民家に残った敵がいないか
部隊ごとに怪我人の救助をする様に等指示し、指示された者達は屍の上を散らばって行った
800 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:46
瞬達の集団のみ、今尚争い続ける戦闘地域へと急ぐ

瞬たちが近づくと
山賊達は近づく足音の数の多さに気づいたのか、逃げ出して行く



そして残ったのは、馬の上にいる藤本と梨華・・・・加藤・・・・
そして屍の中に立ち尽くしている小さな後ろ姿の矢口が残った

逃げていく青の軍に、この戦いの終了を感じた藤本は
ふぅっと安堵の息を吐くが
前に乗っている梨華がまだ手を震わせながら唇をかみ締めてるのに気付き
手にひっついてしまったかのように固まっている盾と銃
それを藤本が手をほぐして離させ優しく手をさすってやった

「よく頑張ったね、梨華ちゃん」

「・・・・・終わったの?」

へなへなと藤本に体を預けてから、今度は唇が震え出したが
藤本が優しく抱きしめてから
大丈夫、もう大丈夫と耳元で暗示をかける様に囁くと、梨華は漸く笑みを浮かべた

「うん、あっ、ほらっ、よしこも無事だよっ
良かった・・・・良かったね、梨華ちゃん」

抱きしめていた体を離し
ひとみが無事な事が、梨華の為の喜びとばかりに嬉しそうな藤本

「・・・・・うん」

確かに目によって、ひとみと矢口の無事な姿を確認して
よくこんな状況で生きていられたなと心底嬉しい梨華・・・・・
801 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:50

梨華は藤本の態度に対しての自分の気持ちへの違和感に・・・

藤本も安堵の気持ちとの他に、いくばくかの空しさに・・・

そして二人の中にある戦う矢口の姿への不安からなのか、すぐに二人から笑顔を消していった

「よし、美貴の一番の責任は果たせた、じゃあ馬動かすよ」

直後、何故か藤本は馬を降り
手綱を引いて歩いて瞬やひとみの元へと向かった

そして近づいてきた藤本や梨華に笑顔を向けるひとみ

「梨華ちゃんっ、美貴、良かった無事で・・・怪我は?」

ひとみの問いかけに、二人は言葉も無く首を振る
そして2人がゆっくりと視線を矢口達に向ける



瞬たち全員が動かないまま血で真っ赤に染まった矢口と加藤に注目する


802 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:52
ひとみはしばらく見つめていたが
やがて馬から飛び下り死体を避けながら立ちすくんでいる矢口の背中に駆け寄った

「矢口さん」

背中から声をかけるがピクリとも反応しないし返答もない


慌てて矢口の前に回りこんだひとみが驚く

血しぶきのかかった顔は無表情で・・・・
その赤い頬には涙の筋が出来てさらに流れ続けている



「矢口さん・・・終わったよ」

優しく声を掛ける

反応はないし、その顔に生気はない



ひとみが軽く頬を叩き

「矢口さん、ののも加護も生きてるよ、美貴も梨華ちゃんも・・・」

ぴくっと動き、色の無い目でゆっくりと視線をひとみに向けた
目の焦点がゆっくりとひとみに絞られているのが解り
ひとみが優しく笑って頷いた瞬間
矢口の眼が閉じられ自分に向かって倒れこんできた

咄嗟に抱き寄せる

覗き込んだ顔は白い・・・それしか表現できない
焦るひとみはすぐに抱え上げ、助けを求めるように瞬の方へ視線をやると
瞬と勘太が近づいて来たので瞬に矢口を渡す
803 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:55
瞬がぐったりした矢口を前に乗せて祭壇のある場所へと帰りだすと
みんなもちりぢりになって怪我人の探索や残った敵がいないかを探りに行った

心配そうに吠えまくる勘太を連れて帰る道すがら瞬が険しい表情で言う

「鷹男っ、シープや我が町の町民を呼び戻せ、食料や包帯
役に立ちそうな物を持ってこさせろ、それと特に医者は急いで連れて来いっ」

峰男や安倍も壇のそばで同じような指示を部下に与え、何頭か馬が駆け出していく



祭壇へと向かう一行の背中を見ていたひとみと藤本達が加藤に近づく

「加藤さんっ、終わったよ・・・・・」

振り返らない加藤だが、静かに声が聞こえた

「ああ・・・・・そうだな」




それから何もしゃべらない加藤に梨華が話し掛ける

「加藤さん・・・あの・・・何に絶望してたんですか?」

ハッと梨華を見る
804 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 01:58
その目が悲しそうで、辛そうで
見ている方が泣きたくなるような顔だった

「あ・・・・ああ・・・・俺達・・・・間違ってたんだなって・・・・
ずっと・・・・ずっと」

加藤は唇をかみ締める

ひとみは歩いて近づいて来て
そんな加藤の背中を押し祭壇のある方向へと歩かせる

「美貴・・・・今日の朝な・・・・この青い集団が
我々の町の事を恨んで一斉に声を挙げ出したんだ」

「うん・・・・」

加藤が歩いている横を歩いている藤本に
もう演技しなくてもいいのに美貴と呼びながら辛そうな表情で話し出し
藤本も優しく答える

「何故か俺達の姿にそれが被って・・・・だけど・・・・・
俺の目にはその姿を醜いとしか見える事はなくて・・・・・」

「うん」


「生まれてから・・・・ずっと俺たちの姿は
他人からこう見られていたのかと思うと・・・・恥ずかしくて・・・・
悔しくて・・・・・でもこれからも・・・
こんな姿を見ながら俺は生きて行かないといけない」

ついにはらはらと加藤の目から涙がこぼれ落ちた
そしてかみ締めている唇はもう開かなかった
805 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:00
三人がかける言葉を失くしていた・・・・・
だが藤本がふいに前を向くと何かを見つけて優しく言い出す

「勝・・・何言ってんの?美貴達と一緒に戦ったバーニーズや
ダックスの人達はもう醜くなんてないよ、見てみてよ」

美貴が指差す先には、ダックスやバーニーズの兵が
怪我をしたシープの兵隊や町民、さらには青の軍の人に手を差し伸べ
肩を貸して祭壇の方へ向かっている姿だった

「そうですよ・・・・それに私達の事を
ずっと守ってくれた加藤さんの後ろ姿はかっこよかったです」

梨華も優しく加藤に言うとしばらくその風景を見て一言呟いた

「・・・・・・・・・ありがとう」

ひとみはそんな三人の姿に
今まで三人で過ごした時間の濃さを感じずにはいられなかった




そんなひとみ達は、少し前にこんな時間を過ごしていた
806 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:03
ひとみは蒔絵を乗せ、門の所でゆっくりと門番に近づくと
すぐさま銃口を向けられた
ひるむ事なくひとみが笑みを浮かべながら近づいた為兵は撃つ事ができず
そして蒔絵が何か術をかけたのだろうか、次々と門番達が気を失っていった

中から門を開けると峰男や鷹男たちが爆薬を仕掛け丁度爆破しようという所だった

「吉澤さん、来るような気がして爆破を待ってもらってた所だったんだ」

鷹男が綺麗に微笑んでひとみに笑いかける
不思議とその姿にもうこの男を嫌うという感情は消え
共に戦う同士として少し信頼関係を築けた気がしてならなかった

「峰男、その爆薬は向こうの明るい場所に集めさせられている町人の避難口を作る為にでも使いなさい
今は騒ぎを起こさない方がいい、皆それでいいかい」

峰男、安倍、さらに100人の男達は頷くと爆薬をまた馬に積み上げ出し城壁に沿って走らせた

鷹男達半分は城壁の中を行き、鷹男の力で外の峰男
安倍達へと伝令を飛ばして場所の確認やタイミングを図るようにした

もちろん、そこへ行く際、門番には鷹尾の力で眠ってもらい
全ての門を開けさせていく事も忘れてはいなかった

そしてひとみと蒔絵はまた別行動で式典の行なわれている場所の近くの
加賀の屋敷へ行こうと蒔絵の勧めで馬を走らせる
807 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:06
町の中は誰一人、人がおらずに
時折バーミンをチェックしている様に見える見回りの兵がいるのを
蒔絵が術をかけて静かに眠らせて行く

静かな町並みの中、遠くの喧騒はあるものの馬の足音だけがひとみの耳に入る
やがてすごい歓声が聞こえ出し、遠目から壇上で女の子が2人戦わされている姿が眼に入る

「あれ、かおりさんですよね」
「ああ、そのようじゃ、ん〜少し急ぎなさい、向こうからは青い災いの元が近づいている」

言われた通り町並みを疾走していると
やがて拍手と歓声が悲鳴と地鳴りのような人々の足音が聞こえだした

爆音が響き、鷹男達がいると思われる場所とは違う場所から炎があがって地響きが聞こえて来て
その後鷹男の所で爆音が響いた

屋敷近くになると青い軍服と茶色のシープの軍服を着た人達が
争いを始めており、ひとみ達は気づかれないように裏口から屋敷へと入った

蒔絵はこの中に来た事があるかのように複雑で長い廊下を
迷いもせずにスイスイと歩いていった

前に若林の屋敷で一度見た時には
ヨロヨロとしていた老人と同一人物とはとても思えない速度で歩いている蒔絵についていく

銃声が聞こえた時、蒔絵と顔を見合わせその音の方向へと急いだ

そしてあの場面へと表れたのであった
808 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:08
四人がそれぞれの思いを抱きながら祭壇へと近づくと
沢山の怪我人が運び込まれ、治療に当たる族の人達が懸命に舐めたりしている

もちろんなつみや瞬や辰雄・力也も飛び回っている

町の人もいたり、かおりや俊樹・三浦も怪我人へと近寄り声をかけたり
布や包帯を巻きつけたりしている

藤本は梨華を馬から下ろし馬を繋ぎに行くと、怪我人へと歩み寄って治療に参加し出した
加藤もそれを見て歩いて行く



ひとみは梨華の手を取りさっき辻と加護がいた場所へと向かった

「梨華ちゃん、こっち、ののとあいぼんがいるのは」
「うん」

たった二日位会えなかっただけだが
自分の手をひいてくれているひとみの背中がなつかしく思えた

祭壇の下にさっき見たままの姿で加護と辻が寝かされ
その隣に矢口も寝かされていて蒔絵の隣で心配そうな勘太が見守っていた

「ああ、吉澤さん、生きておったか、よかった、この2人はもう大丈夫じゃ
きっとこの小さい子が近くにいるのが解るんじゃろ、生きる力が湧いてきている」

2人はほっとして三人を見る
809 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:10
クゥ〜

勘太がひとみに近づき見上げてくる

「大丈夫だよ、三人はすぐ元気になるから」

そう言って勘太の頭を撫でると
小さく吠えて近くにいる血に染まった矢口の顔を舐め出した

「あんた達は、すごい光を持った子達だね、きっとこの子が引き寄せたんだろう」

蒔絵がその様子を見て矢口を指差して微笑んだ

「蒔絵様・・・・矢口さんは大丈夫でしょうか」

ひとみがそう言うのを梨華は不思議そうに見た
梨華の眼からは矢口は血で真っ赤な体をしていたが
どこにも怪我らしい怪我はないように思えるのに、何が大丈夫なのだろうかと

「ああ・・・・・あんた達がそばにいれば大丈夫じゃよ、力になっておあげなさい
今は少し真っ白な世界へと旅立っているようじゃがな」


「真っ白・・・」

梨華が呟く
810 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:11
ひとみが矢口のそばに近づき膝をついて心配そうに手を握った

蒔絵が梨華に視線を向ける

「石川さんと言ったね・・・・あんたにはまだ眠っている何かがある
かおり達みたいにもう発揮されている力ではない何かがね
これからも焦らずに力を使いこなしなさい、そばに支えてくれる子達がいるのじゃから」

何が見えるのだろう、この人は自分は人間だと言っていたのに・・・
梨華が思いながら頷く

「はい」

外から大勢の声が響き出した

「町の人達が帰って来たのじゃろう、これからがこの町は大変じゃよ
そして私達の町もな・・・年寄り達の呪縛がようやく解かれる瞬間が来たようじゃ」

ひとみも梨華も蒔絵の言葉に頷くだけだった


町の人達が帰って来た事で、手当てする人や、死体を運ぶ人達が増えていく
月明かりと、あちこちで壊された廃材を集めた灯り火の中での静かな作業
時折すすり泣く人、怒り出す人等、ただ悲しみがこの町を包んでいた
811 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:14
徐々に片付き始めて瞬達が祭壇に帰って来れだしたのは夜中

そして、ダックスやバーニーズの避難していた長老達や
町民の中で医者や薬を持った人達がシープにやって来た

外でガラガラとうがいの音がすると思ったら
水筒を持った藤本が辻の隣へ倒れ込んだ

「あぁ〜っ、疲れたぁ〜、舌がおかしくなっちゃうよっ、こんなに一杯怪我人がいたら」

蒔絵と一緒に三人の様子を見ていた梨華が藤本に近寄る

「お疲れ、美貴ちゃん」

梨華が優しく藤本の髪を撫でる
矢口のそばにいるひとみがその様子を見ている事に気づき

「ありがと梨華ちゃん」
そう言うと、梨華の手を掴んで一度手をギュッと握って
梨華の膝に梨華の手を戻して立ち上がった

少し寂しそうに藤本を見上げる梨華

「まだへたばるのは早かったよ、若林さんと安倍さんが
この壇上まで来てるからちょっと行って来る、あ、蒔絵様もいらっしゃって下さい」

「そうだね、じゃあ行って来るとするかね、私達の町の未来の為に」

「私も行きます、梨華ちゃん三人を頼むね」

ひとみも握っていた矢口の手をお腹の上に置いて立ち上がって言った

「んじゃ、行こっよしこ」

藤本とひとみ、蒔絵は出て行った

残された梨華は、蹲ってる勘太に近づき悲しそうな顔で頭を撫でた
812 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:17
出て行くと沢山の怪我したシープの兵隊の周りに
ダックスやバーニーズの兵士が集まり、しかも三つの町の町民も集まっていた

一面にあった死体はもうどこかへ移動しており
血の後が広がる地面に三つの町の人達が入り混じって、疲れた表情で座って壇上を見上げていた

そして、青の軍の怪我して置いて行かれた人達も・・・・・
治療され包帯を巻かれた状態で見上げている

静かな壇上には、各町の年寄りが集まり椅子を持って来て腰掛け
リーダー的存在の人物が背後に顔を並べて立っている

「さてと・・・・・まずこの事態をどう受け止める」

安倍が口火を切る

「わが町の被害はほとんどない犠牲者ももちろん出たが最小限の被害だ
安倍の采配が良かったからだろう、その点は評価する」

ダックスの長達が頷く

近くの人からこそこそと話し合いの内容が後ろへと回っていく
813 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:18

「そんな事を今言わなくてもいいと思います」

いきなり加藤が怒り出した

「私も今そんな事を聞いた訳ではありません、この事態が何故起きてしまったか・・・
それを考えていただきたい」

加藤を静めるように安倍が静かに語った

「そ・・・それは旧Eの国の王族くずれとシープの加賀の欲のせいだろう」

今度はバーニーズの長達が呟く

俊樹と三浦が俯く
この場には、シープの人間は二人しかいない
今迄の加賀の一派はどうも戦で亡くなってしまっているようだ

静まる壇上
こそこそと集っている群衆が話しをまわしている声だけが壇上に伝わる
814 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:21
「あの・・・私は不覚にも定期交渉の場でシープに捕まってしまいました
捕まった直後は悔しくて、憎くて絶対に脱出してシープの人達に復讐してやると思っていました・・・・
でも、今、私の中にそんな気持ちがないんです・・・
それどころかさっき私はシープの軍と共に青の軍と戦っていた・・・・
不思議でした・・・・・それは何故かというと、ある2人の子供達に会ったからなんです」

なつみはかおりの隣に立っていたのだがいてもたってもいられないのか突然話し出した

「彼女達は何もこの町と関係がないのに連れてこられて
なのに全然めげなくて、シープの兵達と会話しだしたんです
そしてすぐにシープの兵隊はその子達に情を持ちました
生贄なんてばかげた事で殺されそうになっているのにその子達は明るくて
必ず仲間が助けに来てくれると信じていました
そしてシープの見張りの兵隊の人達は最後にはその子達をかばって死んでしまった・・・・
私は何が憎いのか解らなくなりました、小さい時から疑う事のなかった
バーニーズやシープは敵という意識がどうして植え付けられたのか」

なつみの言葉を聞いて加藤も思いつめた様子で話し出した
815 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:23
「俺も全く一緒です、俺はこの一連の事件でなつみさんを助ける為に
巻き込まれた子の見張り番としてこの事件に首を突っ込む事になりました
最初はどうせ何も出来ない小娘達を高みの見物でもしておけばいいと思っていました
なつみさんを浚って俺らを騙したシープを絶対に許さないと
だが、その子達が色々と情報を掴んで、敵と思っていたバーニーズの若林さんや瞬と話をするようになって
何かが変わっていきました・・・そして
いつのまにか青の軍に潜入して、今日の朝、自分達にそっくりな集団を見て愕然としました・・・・
青の軍の作戦会議で我々の町を
憎んで・・・恨んで・・・・その為に兵を集めて襲撃しようとしている青の軍に・・・・
これではダメだと思いました」

「どう・・・・ダメだと思ったんだ?加藤」

隣に立っていた瞬が声を掛けた

「争いは何も生み出さないって事です・・・・・
そして自分にはそれを止める力もない・・・・相手の懐にいながら結局襲撃を許してしまった」

「そんなっ、加藤さんは精一杯頑張ってました、私はずっとその様子を見てました」

「美貴・・・」
816 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:25
藤本が加藤に向かって頷くと話し出す

「皆さんは自分達の大切な人が殺されたりした事で憎む事になっていったんでしょう?
でも私達が潜入した青の軍には、そんな事とは関係なしに
自分の欲の為や、Eの国とかの為でなく家族を助ける為だけに
いやいや参加した兵が多く混じっていました・・・
そして争いが起こりまた沢山の命が奪われた
また恨むんですか?今度は青の軍を恨んで・・・憎んで・・・・
そうやって生きて行く・・・・それでいいんでしょうか?」

その場の全員が静まり返り、リアルに聞きたいのか
いつのまにか壇上の周りに立ち上がった人達がぎゅうぎゅうと囲んで集まり
自分達の話し合いに耳を傾けている
遠くにいる人に迄、今迄のやりとりが伝えられていくと、再び静かになる


そんな中、青いマントを着た近くにいた兵が唐突に声をあげた

「その指揮官は、俺らに言ったよ、俺は青の軍に無理やり入れられたただの町民兵だが
その人の隊に入れられて・・・・その人は沢山の俺らの町民を助けてくれた
彼が皆に戦う気のない奴は去れと何度も言ってくれたおかげで、俺らの仲間が沢山帰る事が出来た
俺はついてきちまったけど、今あんた達の話し合いを聞いたりすると
指揮官について来てよかったって思えるよ」

その男の隣にやはり怪我してぐるぐる巻きになっていた青いマントの男が
その男の肩を叩いていた
817 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:28
それを聞いて集まる人すべてに聞こえるように大きな声で俊樹が話し出す

「これは我々の弱さにつけこまれて起こってしまった・・・
そのことはどうお詫びしていいのか解りません
私達が過去に囚われる事なく矢口さんの意見にもっと早く耳を傾けていれば・・・・
いや・・・・それよりももっと早く気づいていたのに行動を起こさなかった
私達に責任はあります・・・・・私達はどうなってもかまいませんが
どうかここの町民や死んでしまった多くの兵隊の為に力を貸して下さい」

俊樹が頭を下げると三浦が横で同じように頭を下げた

しんと静まり返ったその場で、峰男が沈黙を破り
やはり皆に聞こえるように大きな声で自分の町の老人達に声を掛ける

「私は、シープの為だけでなく、わが町の若者の為にもシープの町の復興に
力を貸そうと思っているが、長達はどうでしょうか?」

「私も協力したいと考える・・・・長老達の考えをお聞かせ願いたい」

安倍も大声で自分達の長老達に問い掛けた




ダックスの中の一人の長老が静かに話し出す
周りの目が、何を言いたいのか伝えてきている事に気付いて

「そうだね・・・・・我々がこの戦を招いてしまっていたんだね・・・・・
我々が避難していた場所で、沢山の町民が集まったことに興味をひかれた
山賊やはぐれの族が近づいて来た時、我々が追放した中澤さん達が追っ払ってくれたよ・・・・・
ちっさい我々の為にね」

その長老はひとみを見て微笑んだ
818 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:30
囲む兵や町民達には、長老の言葉が伝達されながら
言葉以外の何かが隅々迄広がっていた

ダックスの長老達が、静かに頷き出し、一人が声を出した

「よし・・・・・安倍と若林さんの意見に賛成の人は、この場で起立しようか」

すると、渋い顔をしていた老人達が全員が立ち上がる

それを見ていた町民や兵隊の中から
どこからともなくパチパチと拍手があがり出し、やがて歓声へと変わっていった

「矢口さんに聞こえてるかな・・・・この歓声が」

ひとみが嬉しそうに藤本に話し掛ける

「うん、聞こえてるよ、きっと」

壇上の全員が拍手する町民や兵達を見ていたが、瞬と加藤と俊樹が頷き合った

ゆっくり剣を抜くと、三人は歩き出し

真ん中で剣を合わせると天に突き上げた

大きくなっていく歓声・拍手

翌日、この話し合いの内容は
その場にいなかった三つの町の人達に、詳細に伝わっていく事となった
819 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:32
より一層の歓声に包まれ
ひとみのとなりでは蒔絵が微笑んで頷いており、ひとみに語りかける

「あんた達のおかげだよ、ありがとね」

ひとみと藤本は頭を掻いて首を振る

「蒔絵様はこうなるのは解っていたのですか?」

藤本が尋ねる

「いやいや、そんな事は見えてはおらんかったが
ただ三つの光が集まって大きな光になるのは見えていたよ」

「へぇ〜っ、すご〜い」

あまりにも呑気な藤本の言葉に蒔絵は微笑む



峰男と安倍が顔を見合わせると立ち上がり

「これからこの三つの町は生まれ変わるっ
その為にはこの悲しみを乗り越え我々は力を合わせ生きていかなければならないっ」

「この町は再びEの国として動き始める、それでいいな皆」

おーっと民衆が手を挙げ再び拍手が鳴り響く

「さぁ、自分の家に戻れる人は戻って下さい、戻る家のないものはその場に座ってて下さい
医師の方も後で町民の方達に協力してもらって宿泊場所を探します
バーニーズやダックスの町民や兵は一時自分の町へと帰り、明日からまた協力お願いします」

峰男の号令に皆が動き出す
820 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:33
「瞬はどうする、帰るか?」
「そうですね・・・一度帰ります、亮も気になるし
明日また救援物資の調達をしないといけないでしょうから」

峰男は瞬に聞くと、そう答えた、その瞬にひとみが話し掛ける

「あの・・・私達はここに残ってもいいですか?
あの三人は今あまり動かさない方がいいかと思いますので」

「ああ、もちろん、また来るがその間しっかり看病してあげてくれ」

瞬はひとみに握手を求めた後、蒔絵を連れて帰って行った
瞬はひとみの気持に気づいているのかいないのか
その握手は矢口を頼むと言う意味にひとみは捉えていた

鷹男もひとみに声をかける

「もうこれからは俺が力を使う事もなくなりそうだな、吉澤さんにはまた使ってみたいけどな」
「やめとけよ、あんたじゃウチは落とせないよ」

鷹男がフッと微笑んだ後強い視線を送るひとみの肩をポンと叩き去って行く
821 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:35
その隣では加藤が藤本に近づいていた

「お前に会えて良かったよ、美貴、俺帰ってから言うつもりだ
あの町に兵を出してくれって」

「あ・・そうだよね、青の軍がきっとあの町に帰ったからね
少し心配だよね」

頷く加藤

「梨華にも言っておいてくれ、三人で戦った事は忘れないって
そして矢口さんにもありがとうって」

「うん・・・・解った」

ガッチリと握手する加藤と藤本

ひとみがそんな藤本の肩に手を置いて行こうと促す

壇の下には俊樹や三浦が三人を運ぼうと
シープの兵隊を連れて担架のような物を持ってこさせていた

先に壇の下に向かったかおりやなつみも心配そうに見ている

「君達は我々の屋敷に泊まってくれ、客間が沢山あるのでそこに入ってくれないか」
「「いいんですか?」」

俊樹の言葉にひとみと藤本の声が重なる

「当たり前だろ、わが町・・・いやここの三つの町の救世主だ
丁重にもてなさないとな」

三浦が担架に寝ている矢口を見て微笑んでいる
822 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:38
加護と辻、矢口は同じ部屋のベッドに寝かせられ
ひとみ達も隣の部屋を与えられたが、ひとみは矢口のそばを離れようとしない

五人がかりで三人の血で染まった洋服を借りた服に着替えさせたり
体を拭いてやったりした後もずっとひとみは矢口を見ている

「よしこ、矢口さんまだ起きないよ、私達も明日から色々大変だし、もう寝ないと」
「うん・・・・解ってる」

藤本はそんなひとみを見ている梨華を置いて先に部屋に戻った

「ひとみちゃん?」
「うん・・・・もう寝るから・・・・」

ゆっくりと立ち上がって梨華の立っているドアへと向かった
部屋に戻ると、突然ひとみは梨華を抱き締める

「良かった・・・・梨華ちゃんは無事で」
「あ・・・うん・・・・ひとみちゃんも」

すでに布団に入っていた藤本が横目でちらっとその様子を見てまた眼を閉じた
体を離して藤本にも話し掛ける

「美貴・・・・ありがと、梨華ちゃんを守ってくれて」
823 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:40
こっちを気にするなとでもいうように体を動かして背中を向けて言う

「いいよ、よしこの為に守った訳じゃないもん
美貴は梨華ちゃんが好きなんだから当然だよ」

「え・・・・」

さらっと重大発言をする藤本に驚く

梨華を見ると、梨華は知っていたかのように落ち着いて上目遣いでひとみを見ていたが
戸惑っているひとみを見てふぅっと微笑み困ったように藤本へと声を掛けた

「・・・美貴ちゃん」

途端、藤本がガバッと起き上がって、にっこりと笑う

「ほらっ、早く寝よっ、今日は疲れたでしょっ、みんな
梨華ちゃんこっちで一緒に寝る?朝してくれたみたいに」

「ばっ、ばかっ」

梨華が真っ赤になって焦ってる姿に、ひとみはなんだか微笑ましくなり

「寝よ寝よ、すっげえ疲れたわ、まじで」

そう言って三つ在るベッドのドアの近くのベッドに飛び込み布団にくるまった

「そうだね」

梨華がフッと微笑んで真ん中のベッドに入り、三人はすぐに夢の中に入って行った
824 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:42
隣の部屋ではなつみとかおりも一緒の部屋で休んだ
2人は興奮して寝る事が出来なかったのか、ずっと今までの事や矢口達の事
この町の未来を話して夜は明けていく



次の日の昼近くになって目覚めたひとみ達はすぐに矢口達の部屋に行く

そっとドアを開けたら、真ん中のベッドの加護が眼を覚まして
ベッドに前足を乗せている勘太の頭を寝たまま撫でてキョロキョロしていた

「あ、よっちゃん・梨華ちゃん・美貴ちゃんだぁ・・・・
良かったぁ、皆無事やったんや・・・・んで、ここは?」

「加賀の屋敷だよ、良かった目が覚めて」

「加賀の?何で?・・・まぁいいや、それより親びん、怪我したん?」

首だけ矢口のベッドの方を向いて心配そうな視線を送る

「ううん、怪我はないよ、大丈夫、加護は?」
「うん、平気や、でもお腹すいた」

三人は微笑む

「そっか、じゃあ何か持って来るね」

梨華がそう言って外に出ると藤本も手伝うと言ってついて行った
825 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:44
「よっちゃん・・・・・何があったん?」

「ん?何もないよ、加護が連れ去られてから矢口さんはお前らの事
必死で取り返そうとしてた・・・・ただそれだけ」

加護が微笑むとひとみは頭を撫でた

「のの、ちょっと心配やねん、吊り下げられてる時も返事してくれへんかった・・・・
大丈夫やろか・・・それになっちも」

「ああ、大丈夫だよ、ののもちゃんと生きてる、なつみさんは昨日ちゃんと走り回ってた」

「走り回って?なっちが?」

驚く加護にひとみは微笑む

「ああ、族ってすごいな」

加護達はハーフの族、純粋な族とは治癒力でもその差がある
加護が頷いてから思い出したように聞く

「そういえばよっちゃんも怪我してたやん、もういたない?」
「ああ、矢口さんの治療が良かったんだか、ウチが丈夫なのか、もう痛くないよ」

ぐるぐると肩を回す

「へへ、よかった、ウチもすぐようなるから、早く姫のとこにいかなな」

ポンポンと頭を叩いてひとみが優しく言う

「ば〜か、矢口さんが聞いたら怒るぞ、そんな事考えないでゆっくり休めってな」
「へへ」

その時部屋がノックされ、ひとみがどうぞと言う
826 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:45
ドアからなつみが顔を出す

「なっち・・・・つつ」

起き上がろうとした加護が痛がる

「あいぼんっ、良かった、気がついたんだね」

駆け寄るなつみにひとみは場所を譲り
一緒についてきたかおりと挨拶がわりに笑みを交わす

無事を喜び合うちっこい2人、それから勘太にもなつみは太陽のような笑顔で挨拶している

一方、背の高い二人が矢口を見下ろしている

「矢口・・・・よっぽど疲れてたんだ、全然起きそうじゃないね」

寝顔というより、死人のような顔をして横たわっている為
どうしても胸騒ぎがしてならない

「はい・・・・でも、疲れとは・・・違ってる気がします・・・・なんとなく」
「・・・・ん〜・・・・・・・それと彼女って何者?」
「え?」

かおりに向かって首を傾げる

「いや・・・・ただ・・・・すごい人だなぁって」

そう言うかおりの顔は、とても穏やかだった
827 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:47
「ああ・・・・私も知らないんですよ、よくは・・・・でも・・・・すごい人です」

ハッとかおりがひとみに言う

「あなたもすごいわ、族でもないのにすごい活躍だったじゃない」
「・・・・ウチは何も・・・・ただ必死なだけで
・・・・私・・・矢口さんにおいつきたいんです・・・・」

ひとみは矢口に優しい視線を投げかける
なつみが加護のそばから振り返ってひとみを見る

「あなたがよっちゃん?安倍なつみです、今回はどうもありがとう・・・・・
そして昨日は挨拶してなかったね、始めまして」

立って太陽のように笑いながら手を差し出した
ひとみがかしこまって直立し、握手しながら顔を見ると
かっわいい、と心の中で叫んでしまった

「はじめまして・・・吉澤ひとみです・・・良かったです、あなたも無事で」
「ありがと・・・あいぼんとののから話は良く聞いてます、わかりやすいアホな奴って」
「わっ、なっち、そんなん本人に言うてどないすんねんっ」

慌てて加護が叫ぶ

「加護ぉっ、お前そんな事言ってたんかっ」

逆サイドに回りこみ、ベッドに乗っかると加護のほっぺをつまんだ

「いたいがなっ、よっちゃんウチ怪我人っ」

部屋に笑い声が響く
828 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:49
カチャっとドアが開いて、梨華がおぼんに湯気を立てたおかゆを持って帰って来る

「なんか楽しそうですね、あ、かおりさん達も来てたんですか?」
「うんおはよう、梨華ちゃんも大活躍だったね
そっちの・・・藤本さん?だったよね、2人共ね」

なつみの前を通って加護のそばに行こうとすると
なつみが梨華からおぼんを受け取って加護に食べさせようとそばの机に置いた

「かおりさん、私に色々教えて下さい、時間がある限りでいいです
今回の事で自分の未熟さを感じてしまって」

なつみにお盆を渡したのでかおりのそばに行って頭を下げる

「何言ってんの?美貴は梨華ちゃんにすごい助けてもらってたと思ってるんだけどなぁ」

藤本はかおりを間にはさんで梨華を見つめ、頭の後ろに両手を組んで笑ってみせた

「ふふっ、2人っていいコンビだね」

かおりが笑っている

「んん・・・・ん・・・ごはん」

その時辻が目を覚ます

ひとみが加護のベッドから辻へと振り返り辻の手を握る

「のの、気がついた?」
「あ・・・・・よっちゃんだ・・・・あれ、ここどこ?」

みんながベッドを囲む
829 名前:dogs 投稿日:2006/08/20(日) 02:51
「ほら、あのえらそうな人の屋敷だって」

加護が顔だけ向けて微笑んだ

「あいぼん・・・・なっちも無事だったんだ・・・美貴ちゃんや梨華ちゃんも・・・
良かったぁ・・・あれ・・・あ・・・・あの・・・・」

囲んだ人物に順に視線をやってかおりの所で誰だか解らなかったらしい

「始めまして、飯田かおりです、矢口と一緒にここにやってきたのよ」
「始めまして・・・・あ、親びんは?」

笑って挨拶するとひとみに視線をやって矢口の事を聞く

「ああ、無事だよ、加護の向こうに・・見えるかなぁ、まだ寝てるよ」

少し頭を起こして矢口を見るとほっとして微笑んだが

「怪我してるの?」
「ううん、大丈夫、お前らほんとそっくり同じ事聞くんだなぁ
それにお前、起きてすぐなんつった?」

辻の頭を撫でて優しく言う

「あ〜、あいぼんずるいっ、私もおなかすいたぁっ」

「「「「「・・・・・」」」」」

そこにいる全員が黙り込み、少しして大爆笑した

「のの、すぐ同じ物作って来るから待ってて」

梨華が行こうとするとかおりが私も行くと今度は2人が出て行く
830 名前: 投稿日:2006/08/20(日) 02:52
お待たせしてこんな内容ですみませんが本日はここ迄で・・
831 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 22:14
よかったねぇみんな…(感涙)
でも(0T〜T)にはまだ心配なことが残ってますね…私も心配
832 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/21(月) 01:02
再開嬉しいです。
一段落ついてまた新しい展開でしょうか?
楽しみです。
833 名前:782 投稿日:2006/08/21(月) 01:46
大量更新お疲れ様です!やっぱおもろいっすわぁ…物語に引き込まれてます。情景が目に浮かぶってゆうんかな?
次回も楽しみにしてます。
834 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/22(火) 18:41
現実世界とは違い、矢口さんの人望が厚いのがいいですね♪
この世界ならではという感じがあってとても面白いです。
835 名前: 投稿日:2006/08/23(水) 22:51
831:名無飼育さん
 自分も心配です。。。いや自分が心配(T_T)

832:名無飼育さん
 お待たせしました

833:名無飼育さん
 いつも嬉しい言葉ありがとうございます

834:名無飼育さん
 それがアンリアル (^^)

いつもレスありがとうございます。
どうも最近クドい文章になってしまっているので読むのが疲れるかと思います。
暇〜な時にでもゆる〜く読んで頂ければ幸いです。
836 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 22:53
加護がなつみからフーフーしたおかゆを食べさせてもらっているのを
辻が羨ましそうに見ているのを、ひとみと藤本が笑っている

「ほんと辻ちゃんは食いしん坊だなぁ、矢口さん言ってたよ
さらわれる前に2人に御飯食べさせとけば良かったぁって」

「親びん・・・・」

藤本が言うと、辻は嬉しそうに呟く
ひとみが藤本に辻の側を譲って矢口に近づく

「何やってんだよ、ちび、早く起きろよ」

寝ている矢口の足元から矢口に呟いた


加護に食べさせているなつみも

食べさせて貰っている加護も

藤本に頭を撫でて貰ってる辻も

撫でてる藤本もそれを聞いて微笑む
837 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 22:56
同じ食事を持ってきた梨華が辻に食べさせようとすると
かおりがやらせてと楽しそうにそばに寄った

食べてる辻を面白がるかおり
みんなに笑顔を与えている辻がおかゆを食べ終わると
それぞれが昨日あった事を報告しだす

牢屋で過ごしていた三人は
外でそんな事があってたなんて事知りもしないので、それでそれでと聞きまくっていた

加護や辻には、昨日沢山の人が死んだ争いが起きた事は
誰も何も話さなかった・・・なんとなくみんな話せなかったのだ

そして昼を過ぎても矢口は眼を覚ます事はなく
藤本はあの町が気になると言って加藤と共に旧Eの国に行くと言い出す
838 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 22:58
シープの町は昨日の戦闘の後を復旧すべく
三つの町の人が集まり片付けが始まっていた

気の遠くなるような作業

しかし人々の表情には暗さは感じられない



新しい町へ

新しい国へ

悲しみを希望に変えて皆が協力しあう



バーニーズやダックスからの計画的な援助物資や食料
そして人々が次々とやってくる

初めて訪れるシープの町
初めて顔を合わす互いの町の人々にはもう敵意は感じられなかった
839 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:03
俊樹達はほとんど寝る事もなく、怪我をおして指示を与え
他の町の代表と話し合いの場を作る

シープの代表者だった健太郎に身内はおらず
権限を渡された加賀の親族は俊樹しか生き残っていない・・・
といっても血は繋がっていないし
俊樹は今回の事で責任を感じ、後始末を終えたら三浦に代表を譲ろうと漏らしたが
三浦や生き残った兵、各地区の長の意見で再び新しい代表者となる

シープの兵隊や兵の家・家族を中心に大勢の死者が出てしまった。
そして町の人々も多数犠牲になっている為、まずは合同慰霊祭の準備が忙しい

そんな中、瞬と加藤がシープを訪れ
旧Eの国へと兵を派遣すると報告に来たので
藤本もそれに同行すると準備しだす

梨華も行くと言ったがもう必要ないし危険だから
ときっぱり藤本に断られ少し落ち込んだ・・・
そしてまだ怪我が治りきってないなつみが行くと言い出し藤本と出て行く
840 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:05
ダックスやバーニーズから食材を運んで来た町の奥さん達が
家を壊されたりして集会場や学校等に集まっている食べ物の無い人
働いている皆にふるまう為
フル稼働で加賀の屋敷の台所や祭壇の周りで調理していた

もうそこにも町の確執は見受けられず
仲良く調理するおばさん達の声が響く

ひとみや梨華はその後
手足に怪我をした俊樹や三浦の手足となるように町中を駆け回り、町の為にと働く


夕方になっても矢口は目を覚ます事はなく、さすがに皆心配し出した
841 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:07
「親びん・・・・どうしたんだろ」
「・・・のの・・・・あの時に似てない?」
「何?あの時って」

ひとみが加護のベッドに座って矢口を眺めている

「うん・・・・親びんを有名にした事件の後・・・・今みたいに起きへんかったんだよね」
「あ、そうだったね」

思い出したのか寂しそうな顔の辻
それを見てひとみが口を尖らせて言う

「ふ〜ん」

Mの国で大勢の兵隊を殺した後って事か・・・とひとみは思った

昨日山のような屍の中にポツンと立っている矢口を思い出す
昨日矢口は泣きながら何人殺してしまったんだろうか
・・・・・きっと100人ではすまないはずだ・・・・

矢口は優しい・・・・

そしていつも人を殺したくないと言っていた・・・・・

なのに、殺さなければいけない状況に追い込まれた・・・・
842 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:10


急に不安になる・・・・

矢口はもう起きないんじゃないだろうかって

「ねぇっ、その時はどうやって起こしたの?」

あまりに急に振り返って言うひとみに、加護が驚く

「なんやねんっ、びっくりするわぁ」
「いいからその時矢口さんはどうやって目覚めたの?」

まさか矢口がまた沢山人を殺してしまったと二人に言う訳にはいかないと
答えを急がせた
843 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:12
自分だって人なんて殺したのはこの旅に出てからで
昨日初めてあんなに人を斬ってしまった事にとまどいはある

だけど、自分を守るのが精一杯で、技術的に、そう多人数を斬る事はできなかった
勘太のフォローがなければ
後ろからの敵の攻撃にすぐに死んでしまっていたかと思うと
昨日実は怖くなっていた

そして、この手に残る人を斬る感触は、やはり気持のいいものではなかったし
もう斬りたくないとは思っている


人の人生を止めてしまう・・・・
それどころかその周りにいる全ての人から
その人の記憶がそこでストップしてしまう出来事

やはりそんな事・・・・どんな理由があろうとしてはいけないのだ
・・・・とひとみは心底思い始めていた

身内がいない自分はいつ死んでもいいなんて
自暴自棄になって遊びまくっていた時期もあり
梨華以外の誰が死んでも何の感情も抱かない自信があった

しかし実際に死に直面した事で、命という本当の意味を理解した気がして
その頃の自分を少し恥じた
844 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:13
そんな事を考えていたひとみに

「どやったっけなぁ、のの」

「あいぼんっ忘れちゃったの?叩いても揺らしても起きなくて
寂しくなって2人で親びんに抱きついて泣きながら眠ったら朝起きてたじゃん」

「ああ、せやったせやった、必死でMの国から逃げた時
滝の近くの洞窟の中でやったなぁ・・・・思い出すわぁ
・・・あん時は寂しかったなぁ・・・・でも親びん何でそん時と同じになってん」

加護が心配そうに聞くと
ひとみ達三人は視線を合わせ、皆が柔らかく微笑む

「ン〜?何でだろう、じゃあ加護、また矢口さんに抱きついて寝てよ
このままじゃ起きないかもしれないじゃん」

「吉澤さん、それは無理よ、この2人は長く血を流しすぎてたから
あんまり無理な体勢させると悪化しちゃうでしょ・・・だから吉澤さん抱き締めてあげたら?」

かおりが面白がって言った
845 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:15
梨華が一瞬ぴくっとするが

「そうだよ、ひとみちゃん前も幽霊が怖いって矢口さんが言ったら
抱き締めてあげてたじゃん」

「へぇ、こんなに強いのにおばけが怖いんだぁ、かっわいい」

かおりがいきなりベッドに入り込み矢口の頬をなでて添い寝をする

その姿がすごく色っぽくてひとみは少しイラついた

「じゃあかおりさんお願いしますよ、矢口さんが起きないとマジつまんないから」
「あれ?よっちゃんいっつも親びんと喧嘩してたのになぁ」

にやにやしてる加護
846 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:16
「喧嘩相手がいないとつまんないっつったの」

口を尖らせてひとみが言うと、かおりはさらに楽しそうに言った

「あら、2人は喧嘩ばっかりだったの?そういえば若林様のお屋敷でも
あまり話している所は見なかったわねぇ、まぁかおりは今日バーニーズに
帰るから無理ね、若林様のお世話やみんなの世話もあるし
蒔絵様の世話だってあるもの、一度帰って様子を見てくるわ」

「そうなんですか、でもまた会えますよね
旅立つ前にきちんとみんなとお別れしたいんで」

かおりはベッドから立ち上がって髪を掻きあげると微笑んだ

「もちろん、明後日の夜の葬儀の時にもまた会いに来るわ
この町は代々死者を送るために宴会するようになってるから今回は合同だからすごいわよ」

噂だとシープが一番派手みたいだよと教えてくれる

「「宴会?」」

加護と辻が笑顔になる
847 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:18
「お前らは怪我人だろ、欠席」
「「いや〜っ、宴会したいっ」」

ひとみが意地悪に言うと二人が叫びみんな笑った

「じゃあ吉澤さん、梨華ちゃん、辻ちゃん加護ちゃん、ゆっくり休んでね
矢口が目覚めたら言っておいて、ありがとうって」

「「はい」」

かおりが出て行くのをひとみ達は見送りに行く

「なぁのの、皆は言わへんけど
ウチらを助ける為に親びんそうとう無理したんちゃうかな
・・・・もしかしたらあん時みたく・・・・」

「うん・・・・皆は気を使って言わなかったけど・・・・
めちゃめちゃ兵隊がいたのはうっすら覚えてるんだぁ、あの人たちと戦ったのかなぁって」

「ウチが親びん見たのは、かおりさんとなっちが戦ってて
その横で親びんが叫んでる所迄かなぁ、後は気絶しちゃってたのかわからへん」

「もしかしたらあの沢山の兵隊の事・・・・・」

「うん・・・・親びん、人殺すのめちゃめちゃ嫌なのに
・・・・ウチらを助けようとして・・・・」

「親びん・・・・早く目覚めてよぉ」

2人は一生懸命矢口が目覚めるのを祈った
848 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:19
見送りに出たひとみは、部屋では言えなかった思いを言い出す

「かおりさん、力を使って矢口さんの苦しみを取り去っていただけないでしょうか」

「どういうこと?」

「・・・・矢口さん・・・・泣いてたんです・・・・
きっとずっと泣きながら戦ってたはず・・・・
もう・・・・人を殺したくなくて
・・・・だから意識的に寝てるんじゃないかなって・・・・・
勝手に考えてるだけですけど・・・・」

だからもう・・・・
目覚めるのは嫌なのかなって・・・・とひとみが沈み込んだ
849 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:20
かおりがその言葉を聞いてから少し考えて

「蒔絵様は何か言ってた?」

「・・・・・白い世界にいるっ・・・て言ってたかな・・・・」

「うん・・・・言ってた・・・・なんか私達がいれば大丈夫
・・・みたいな事言ってたよね」

それを聞いてかおりは笑みを浮かべ静かに言う

「そう・・・・じゃあ私は何も出来ない
梨華ちゃんも矢口の中見ても何も見えないはずよ
白い世界・・・そこは自分以外は誰も入れない
確か昔おばあちゃんから聞いた事があるから・・・・・・
でも、あなた達がいれば矢口はちゃんと帰って来る、大丈夫よ
・・・・じゃあまた来るわね」

そう言って去って行った
850 名前:dogs 投稿日:2006/08/23(水) 23:21


「・・・・・・白い世界っ・・・て・・・・どこだろ」


ひとみはぽつりと呟く

「うん・・・・でもひとみちゃんが言ってる事・・・・遠くもない気がする
・・・・美貴ちゃんと一緒に矢口さん見てたら・・・そんな感じだった」

ひとみは、思い出したように言う

「そういえば美貴・・・・梨華ちゃんの事・・・・・・・気づかなかったよ」

梨華は何も言わずに胸の前で手を組むと俯き
ひとみを置いて部屋へと帰った

「梨華ちゃん・・・・」

廊下で一人梨華の背中を見送った
851 名前: 投稿日:2006/08/23(水) 23:22
今日はこのへんで
852 名前: 投稿日:2006/08/26(土) 00:23
翌日、戦があってから二日目も朝から忙しく働く梨華やひとみ

加護達は徐々に起き上がれる位に復活し
時々世話をしに見に来てくれる兵やおばさん達とすぐに仲良くなっていく

とにかく忙しいシープの復旧作業

各家の被害状況の把握、それに付けこんだ犯罪の防止策
止まってしまった商業の今後の展開の方法
遺族・孤児の救済・・・

俊樹達首脳陣と共に慣れないひとみ達は必死だった

それはダックスとバーニーズの支援なしではこの町の復旧はありえなかったと
シープの兵や町の人達は心底感謝しだす

それなのにその日の夜になっても矢口は目を覚まさない

俊樹や三浦も忙しい中心配になって見にきた
加護や辻も心配で晩御飯はいらないと言う程だった
ひとみと梨華で、体を治す為に食べないとダメだと言って食べさせたが
当の二人も今日ばかりは心配で食欲はなかった
853 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:25
遅くまで働いたひとみ達が漸く一息ついて
寝る支度が出来たらすぐに矢口達の部屋へと駆けつける

ひとみは心配で夜中迄ずっと矢口の右手を握っていた
その手の温もりは、いまにも消えてしまいそうでひとみは必死に手を握る

加護も辻も、痛む体を起こして矢口の足元まで来て座り込み両手を組んで祈る

ひとみがどんな思いで矢口の手を握っているのか・・・
梨華はもうひとみの中を見たいとは思わない

手を握って顔を眺めるその眼は真剣で
ひとみが矢口の事を好きだという気持は力など使わずとも痛い程伝わってくる

そんなひとみを母親のように温かい視線で一度見ると
梨華は矢口の左手を握って目を閉じた
早く矢口が目覚めますようにと
854 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:27






【矢口さん】

ん?






【お〜いっ、矢口さん】
【親びんってば】

んん?




【返事してよっ親びん】
【黙ってね〜で返事しろよっ、ちび】



矢口は真っ白な中に立ち、その声だけ聞こえて来た為きょろきょろしていた




最初の声は石川?

そして藤本・・・・

加護・・・・辻・・・・

そして吉澤・・・ってお前ちびっつーなっつってんだろ
855 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:33
  【矢口さん】

   だからどこにいんだよっ石川っ


  【親びん助けてくれるって信じてたのにっ】

   え・・・辻?




  【親びん来てくれへんかったから死んでもうたやん】

   加護?


  【残酷な矢口さんのせいで怖い思いばっかりっ、ひとみちゃんの事とっちゃうし】

   い・・・・石川?



  【矢口さんがはっきりしないから梨華ちゃんがつらい思いばっかりしてるんでしょ】
 
   藤本・・・・



  【ちびが目の前に現れてからろくな事がね〜よっ
   ちびが表れなければウチらはうまくいってたんだっ】


   吉・・・・澤




  【人殺しっ】
   すまん

  【人殺しっ】
   おいらが悪い

  【人殺しっ】

   いなくなるから




  【人殺しっ】

  すぐいなくなるからっ


  【人殺しっ】

   許して



白かった世界が徐々に暗くなって行き

矢口はごめん・・・・許してくれ・・・・と言いつづけた
856 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:33



857 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:35
ひとみ達は手を握ったまま眠ってしまっていた

そしてひとみが気づく・・・・小さく唸っている矢口に


「矢口・・・・さん?」

ずっと何の表情も浮かべていなかった顔が苦しそうにしている
そんな矢口の閉じられた目から涙が流れた

「矢口さんっ」

握っている手をさらにぎゅっと握って声をかける
反対側の手を握る梨華も起きる・・・そして加護達も

「矢口さん?」「「親びんっ」」
「許・・・・して・・・・」

矢口の口が開き、聞き取れない程の声でしゃべっている

「な・・・何謝ってんだよっ」

ひとみが握っていた手を離して矢口の両肩を掴む
加護達も体を起こし、ヨタヨタと布団の上で矢口に近寄る

「「親び〜ん」」
「か・・・ごぉ・・・・つ・・・じ」

自分達の声に反応したと思ってより大きな声で呼ぶ
「「親びんっ」」
858 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:36


やはり意識は戻っていないのか苦しそうな顔でまた呟き出す

「ごめん・・・・・ごめ・・・ん」
「何言ってんのっ、親びんっ」
「何で謝ってんねんっ」

辻と加護が布団にしがみついて揺さぶる

「ゆ・・・・るしてくれ」
「もうっ、何言ってんだよっちびっ」
「い・・しかわ・・・じもと・・・・・もう・・・・いいから・・・・」
「何言ってるんですっ、矢口さんっ、何がいいんですかっ」

梨華も矢口の顔の近くで叫ぶ

「「親びんっ」」
「・・・い・・・から・・・・ろせ・・・」
「おいっ、ちびっ、どこいってんだよっ」

ぴたぴたと頬を叩く
859 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:38







「こ・・・ろせ」






その言葉を理解すると四人の目から涙が溢れる

「何でそんな事言うねんっ親びんっ」
「やだよっ親びんっ、おきてよっ」

自分達の怪我も忘れて矢口のベッドに乗っかって
矢口の太腿辺りをたたき出す

「・・・・し・・・ざわ・・こ・・ろし・・てくれ」

瞬間ひとみがぐわっと左手で胸倉をつかんで右手で思い切り頬を叩く

「何言ってんだよっ、白い世界ってどこだよっ、そんなとこ行ってないで早く帰ってこいよっ」

そんな声は聞こえないとばかり何の反応も起こさない小さな体

「矢口さんっ、帰って来てっ」
「「親びんっ、早く起きてよっ」」
860 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:39
ひとみが服を掴んでる手を揺さぶるが、だらりと手を下げて
頭も後ろにぐらりと反らせゆらゆらとするだけだった

加護・辻はベッドに乗ったままひとみに掴まれて
体を浮かした矢口の足を布団の上から叩いてる

「起きて〜、ぐずっ、親び〜ん」

辻は力なくベッドから落ちてしまい、加護は足の上に覆いかぶさるように泣きつく
梨華も手を離して床にぺたりと座り込んでしまった

ひとみは泣きながら矢口を抱き締めた、これでもかという位の力で

「早く起きろよ・・・そんなばかな事言ってないで・・・・起きろよ・・・・ちび」

しばらく四人のすすり泣く音だけが響く




ひとみの涙が


そして三人の涙が顎や瞳から矢口の体に零れ落ちたその時


床に座った梨華の視線の先にあるだらりとたれている矢口の左手の指がピクリと動く
861 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:40


「矢口さんっ?」



梨華が顔を上げてひとみを見る
加護と辻もガバッと近づいて再び呼ぶ

「「親びんっ?」」

またも梨華の前の指が動く

「動いてるっ、ひとみちゃん」

矢口の体を離し、体勢を変えて矢口の左肩を
自分の左手で掴んで体を支えみんなで覗き込む

ひとみが右手で自分の胸にもたれかかって泣いている矢口の顔を軽く叩く

「矢口さんっ、矢口さんっ」

ぴたぴたと頬を叩き
四人が顔を覗き込む
862 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:42

「・・・・・う」

「「矢口さんっ」」
「「親びんっ」」



ぐぐっとみんなが寄ると、ゆっくりゆっくりと眼が開く

加護の向こうらへんをみているような視線を
ゆっくり加護・・・辻・・・梨華・・・そして顔を上げてすぐそばのひとみを見る

「わ・・・わかる?矢口さん・・・ウチらの事見える?」

ひとみが優しく聞く

「・・・な・・・いて・・・る?」

四人の顔は涙でぐちゃぐちゃである

「ああ・・・ああちびが変な事言うからだろっ」

ひとみの泣いている顔を見ながらしばらく止まっている
矢口の左手がゆっくりひとみの頬に伸び涙を拭く

「ごめんな」

瞬間ぶわっと涙をながして再び矢口を抱き締める

「だから何謝ってんだよっつってんだよ」

ひとみがそう言った瞬間、加護と辻と梨華がひとみの上から抱きつく


「「親び〜んっ」」
「矢口さんっもうっ、矢口さんのばかぁっ」

三人の涙も止まらない
863 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:45
「く・・・・苦しい・・・」

矢口が呟くと、三人が離れて袖で涙を拭ったり大声で天に向かって泣き出したりした

「・・・・・みんな・・・生きてるのか?あ・・藤本がいな・・・藤本はっ」

矢口の体に力が入り、ひとみの胸倉に掴みかかった

「大丈夫、元気ですよ、今旧Eの国に
加藤さんや瞬さん達と一緒に様子を見に行ってます」

矢口の背後から梨華が優しく教えた

「あ・・・そ・・うか・・・よかった・・・・」

へたへたとひとみの左手にまたもたれかかる

「良かったじゃね〜よっ、ちびが一番心配かけやがって」
「え?」

きょとんとひとみを見上げる仕草にひとみはカアッと熱くなり
矢口の体をベッドに投げるように離した
864 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:46
そしてすぐ立ち上がり、まだぐしぐしと涙を拭いている加護を
お姫様だっこしてベッドへと戻しにかかる

「そうですよ、二日ですよ、矢口さんが寝てしまって」

優しく言う梨華の横から今度は辻をベッドに連れて行った

「ふ・・・二日?」

ひとみに静かに寝かされた加護がふてくされたように言う

「せや、ウチらがとっくに起きたってのにずう〜っと眼ぇつぶって」
「ほんとだよっ、親びんのくせに子分に心配かけないで下さいっ」

辻も袖でゴシゴシと目をこすりながら怒っている

「ごめんな・・・心配かけて」

ベッドの上で起き上がるとちょこんと正座して加護や辻に頭を下げる
865 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:48
辻を寝かし終えたひとみが梨華の手を取って立たせる

しゅんとしている矢口を見て、四人の心の中にさっきの矢口の様子が蘇る

泣きながら自分を殺せという矢口の事を・・・

「なぁ親びん・・・ウチのベッドで寝てくれへん?」

加護が言い出す

「あいぼん、このちびは寝すぎだからもう寝れないっつーの、起きて働かせとこうか」

ひとみが梨華と並んで笑って言った

「いややっ、ずっと親びんと離れててんっ、ウチのそばにいて〜や」
「ずるいっあいぼんっ、そしたらのんの所にもっ」
「な・・・なんだよ、お前らいきなりガキになりやがって」

矢口が足を崩して二人を見ている

「だって・・・もう何日?親びんとしゃべってないねんから、寂しかったんやもん」
「のんだって寂しかったもんっ」
「・・・・・・・」
866 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:50
「ほれ、ちび、どけよ、ここはウチが寝るからアッチ行け」

ひとみが矢口を引き摺り下ろす

「なんだよっ」

口を尖らせている矢口を無視し、加護を抱えて辻のベッドのそばに連れて行くと顎で指示する

「ほらっ、何やってんだよ、ちびは真ん中、じゃないと二人が喧嘩しちゃうだろ」

辻が嬉しそうに壁際へとずれて行き、しぶしぶ矢口が辻のベッドに入った
ひとみが狭そうな辻のベッドに無理やり加護を降ろすと
真ん中のベッドを辻のベッドに押しやり、梨華を誘導する

「これであいぼんも落ちないだろ、梨華ちゃんもいいよね」
「うん」

梨華が頷くと、加護と辻が怪我している体を
うんしょと動かし矢口にのしかかる

「なんだ、余計辛いだろ、そんな体勢じや」
「ええのっ、親びんとひっつきたいねんっ」
「そうそう、何日かぶんちゃ〜んと甘えさせてもらいますよ」

矢口の脇に体を寄せて縮まると矢口は2人を交互に見て、微笑んだ
867 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:52
「「あ〜落ち着く」」
「なんだそりゃ」

見事に加護と辻はそのまま速攻眠ってしまう

ひとみと梨華はそんな様子を微笑んで見ている

「梨華ちゃん、ここで寝ちゃお、まじ疲れた、明日もきっと忙しいよ」
「うん、じゃあ矢口さんおやすみなさい」

それからひとみが一つ離れたベッドに入り
梨華も元の加護のベッドで加護の隣の布団に入った

「な、なァ吉澤・・・石川・・・・シープは・・・どうなった?」

加護と辻の頭を撫でながら小さな声で聞いて来た

「大丈夫です・・・・今復興に向けて動き出してます
・・・・ダックスやバーニーズの協力のもとに」

梨華が言うと、矢口はハッと寝ているひとみ達の方へ顔を向ける

「・・・・三つの町は・・・もう争わないのか?」
「・・・・・・・」
868 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:53
ひとみが何も答えない為、梨華が優しく答える

「はい・・・・町の人も今協力しています、青の軍の人だって手伝ったりしてますよ」
「そっか・・・・・良かった・・・・」

しばらくの沈黙を破って梨華が言う

「みんな・・・矢口さんにありがとうって言ってました」
「・・・・・・・」

「大変だったんだぞっ、あんたが寝てる間に色んな事あってっ
だからちびは一人でウチらが寝てるのを見てなっ
ウチらがあんたをずっと見ててやったんだからさ、ったく、おやすみ」

ひとみは怒ったように言って眼をつぶった

「ふふ、おやすみなさい、あ〜よかった、これでぐっすり寝れる」

梨華もそう言って体を横に向けて矢口に背中を向けた

「ごめんな、おやすみ」

一人取り残される矢口は、辻と加護の寝顔を見ながら髪を撫でている事で
自分もまた眠ってしまった
869 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:55



月明かりが差し込む中、静かに時が過ぎていく





ひとみと梨華はあんなに泣いた後の為興奮して眠れないので
寝息が聞こえ出した位に同時に矢口の様子を見る

矢口が2人に挟まれてやや加護側にもたれかかって眠っている
暗闇ながらも月明かりで見えるその顔は
さっき迄の無表情で生きていないような寝顔ではない

さっきまでの矢口は寝息もたてていなかった


梨華がひとみを見ているのが解る

梨華がそろっと音がしないように起き上がり、一度矢口の様子を見ると
立ち上がってドアに向かった

ひとみも静かにそれを追う




見張りの兵位しかいない廊下を静かに歩いて
中庭の縁側まで行くと梨華が座って俯いた
870 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 00:58
「どうしたの?梨華ちゃん」

ひとみは不思議に思いながらもついてきてしまったので、問い掛ける
すると、座って俯いたままため息をついてゆっくり話し出す

「・・ひとみちゃん・・・・少しね・・・・ショックだったの」

何がショックなのか解らずに、胸がドクンと高鳴る

「な・・・何が?」
「だって・・・・・矢口さん・・・・殺してって・・・・
意識ないのに・・・殺してって言ったんだよ」


縁側の渕に両手をついて
足をぶらぶらさせている梨華の太もも辺りに水滴が落ちたのを見た

「うん・・・・そうだね」

何の事か解ったひとみは、自分も同じだと息を吐き出した

「矢口さん・・・・苦しんでるんだね・・・・自分の力に・・・・」
「・・・・・うん・・・」




沢山の人を一瞬にして殺してしまう能力を持つ族、矢口

自分の意思とはいえなくても
それでもどれだけの人の命を奪ってしまっているのか解らない程修羅場を経験している



姫に会う為だけに、今その命はあるのだ・・・・・・

と二人は痛感する
871 名前:dogs 投稿日:2006/08/26(土) 01:01

ひとみは梨華の隣に座って後ろに手をついて月を見上げた

「・・・・・助けて・・・・あげられないかな・・・」
「え?」
「ひとみちゃんが・・・・助けてあげて」

真っ赤な眼でひとみを見る

「・・・・・・・」

「私・・・・ひとみちゃんの事好きだけど
矢口さんの事も大好きなの・・・・・矢口さんに会って・・・・
色んな事あって・・・・危ない目にもたくさんあったけど
・・・・・今まで生きて来た中で一番生きてるって感じるようになったの・・・・・
それは矢口さんが教えてくれたから・・・・・
その・・・・その矢口さんが・・・・自分の事・・・・殺してくれだなんて・・・・・だから」

「ゴメン・・・・・ウチには無理だよ・・・・・
多分・・・・・それが出来るのは・・・・姫だけだから・・・・」

言葉を遮られた梨華がゆっくり頭をひとみの肩に乗せる

「・・・・・ひとみちゃん・・・・・・・・頑張って・・・」

ひとみは乗せられている梨華の顔を見て

・・・・涙が流れているのを見る

「・・・・・・梨華ちゃん・・・・」

右手を梨華の頭に後ろから回し自分も頭をひっつける




そのまま2人はずっと月を眺めた



872 名前: 投稿日:2006/08/26(土) 01:02
今日はこのへんで
873 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/08/26(土) 06:51
矢口さんが無事戻って来れてよかったです。
みんなをもっと頼りにして、こんなに悲しいことになりませんように・・・。
私はリアル矢口さんもまっすぐで強い人だと思ってます。
874 名前: 投稿日:2006/08/27(日) 00:45
873:名無し飼育さん
そうですね、自分もそう思います。
ただ、時々すごく弱い時もありそうですけどね
875 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 00:46
次の日、加護達に起こされた矢口は
加護達に無理やり食べさせられた上
怪我した体を押して矢口にべったりひっついていた

「お前ら大人しく寝てろよっ」
「やだっ、親びんと一緒にいる」
「ウチもっ」
「うっと〜しぃ〜んだよっ、いきなりガキに戻りやがって」
「ガキだもんっ、親びんがいないと生きていけないもんっ」
「せやせやっ、離れてた分しばらく一緒にいてもらうねんっ」
「だぁ〜っ、うざいっ、離れろっ」
「「親び〜ん」」
876 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 00:48
その姿は子供の押しくら饅頭のようで微笑ましいのだが
ひとみ達は加護達の中にも
昨日の矢口の事が少なからず尾を引いていると感じた

「いいじゃん、のの達頑張ったんだし、甘えさせてやれば」

ひとみはわざと明るく言う

「そうだよっ、ののとあいぼんは頑張ったもん、ご褒美くらい欲しいよね」

梨華も洗濯物をリュックに詰めながら言う

「なんでご褒美がこんなにひっつきまわる事になんだよっ」

「「だって親びんが大好きなんだも〜んっ」」

すぐに2人は矢口の肩にゴリゴリと頭を摺り寄せギュッと抱きつく

「ったく・・・・いつまでもガキしてんなよ
・・・・・・・・・・・・今日だけだぞ」

「「親び〜ん」」

矢口を2人でベッドに押し倒すと
2人は「いった〜いっ」と言って丸まり
矢口がオロオロと「大丈夫かっ」と言って服をめくって傷口を見た

その様子が嬉しかったのか、2人はくすくすと笑って矢口にひっつく

「「親びん大好き」」

矢口が2人の頭にコツンと拳を落とし「ったくお前らは」と言って抱き寄せた
877 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 00:50
ひとみと梨華は、矢口の心を癒すのはこの2人かもしれないと
顔を見合わせ頷いて笑った

「じゃあウチは俊樹さんと三浦さんの手伝いして来ます」
「私も」
「あ・・・おいらも・・・」

ひとみと梨華が行こうとする所を矢口は追いかけようとしたが
2人に止められた

「今言ったばっかだろ、今日ちびは2人のものだからさ、じゃあね」

ひらひらと手をふって梨華と共にドアから出て行く



俊樹と三浦は、矢口が目覚めたのを知って喜んでいた
そして一度矢口の部屋に行った時に
ちびっこ三人が団子になって寝ている姿に笑ったと言いながら帰って来た

ったくどれくらい寝れば気がすむんだよ・・・と突っ込みそうなひとみだったが
きっとあの二日位は寝ていたのではなく
本当に白い世界って所に行ってるだけだったんじゃないかと思って言えなかった
878 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 00:54
俊樹達の作業は、昨日迄にひとみ達や残った兵達が調べた犠牲者をまとめ
全員の名前を祭壇に書き出させたり、火葬場所に運ばせたりと忙しい

三つの町を囲むあちこちの山から遺体を焼く煙が立ち昇り初めて
もう三日目になるが、なかなかその人数の多さに作業は終わらなかった
青の軍の犠牲者については、誰なのかつかめる事は難しいので
特徴等を記述した後に焼かれた
そして纏めて成仏してもらえるよう後日大きな石碑を作る事にしたようだ

勘太は何故かすでに町の人たちの郵便屋となって大忙しのようだ、
人の言葉が解ると知れると、あちこちから
これをあそこに持っていけだの色々頼まれてバテている
ひとみや梨華も、町の人達や兵達と協力しあって仕事を進めた

そして今日の夜、葬儀には瞬達の兵も帰って来るはず
少ないとはいえバーニーズやダックスにも犠牲者が出ていて
その人たちの分も合同で葬儀する為に
シープの町は過去最高の人数が集まる事になるだろう


そして、三つの町の間にあった壁はこれから徐々に形を変える事になる
879 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 00:55
加護達は知っていた、この町で戦闘があった事をちゃんと感づいており
自分達は大丈夫だからと葬儀にも出席するらしい

そして、夕方になって瞬たちが帰って来たと連絡が入り
加護と辻以外が外に出て出迎える

「藤本っ」「「「美貴ちゃん」」」「美貴」

藤本の乗った馬に皆が群がる
まず矢口の姿に藤本は笑顔を浮かべ

「良かった、矢口さん目覚めたんですね」
「ああ、ごめんな心配かけて」

矢口は自分が本当に心配をかけていたんだなぁと心底謝る

「いえ・・・・でも・・・・」

矢口の無事を喜んだ後、藤本の顔が少し暗い

「どうした?美貴」

ひとみが馬から降りて来る藤本に聞く

「う・・・うん・・・・やっぱりもう少し早く行けばよかった」

口が重いようだ
瞬や加藤の顔も一様に暗い
880 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 00:57
「何があったの?」

梨華が藤本に心配そうに聞くと

「うん、後で話す」

疲れた顔で無理に微笑んでいるように見える
少し離れた場所で瞬が矢口に話し掛けている

「矢口、良かった・・・・あのまま目を覚ましていないと聞いて少し心配してたんだ」

「ああ・・ちょっと疲れてたみたいで、すみません心配かけて
もう大丈夫です、それより何かあったんですか?あの町で」

「うん・・・・・・やはり少し、青の軍の残党が暴れてて
我々が制圧したが、あの町の町民だけじゃ
まだ隠れてるかもしれない青の軍のような兵隊には対抗できない」

「また・・・いつ同じような事が起こるかっ・・・て事ですか?」

瞬が頷く
881 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 00:59
「あの町には、東条一派以外代表になるようなリーダーがいない
それにここと同じように周りにははぐれの族や山賊が多すぎる
青の軍が崩壊した今・・・・誰があの町民達を守る事が出来るか・・・・」

「・・・・・心配ですね・・・・」

「とりあえず半分兵を残して来たが、あの町の町民の心理状態が非常に良くないよ
・・・・かなりひどいめに会ってたみたいだから」

「そうですか・・・バーニーズは大丈夫でしたか?」

今日は加護達がずっとひっついていた為に
あまり戦闘の事なんかも話せずにいたので聞く

「ああ、少し犠牲者が出てしまったが、矢口が言ってたみたいに
逃げろと敵に言っていたら、徐々に兵が減って来たからな、すぐに決着がついたよ
その時逃げ帰った町民達が少し青の軍に報復されてたけどな・・・・・」

「・・・・・・・・・何でそんな事するんですかね、悲しいだけなのに・・・」

俯く矢口の頭をくしゃくしゃと瞬がなぜて

「これからは俺たちも、加藤も加賀も三浦もなつみさんだって様子を見に行くし
心配すんな、矢口はこれからも無事に旅する事を考えろよ」

にこやかに言うと、俊樹の方へ向かって行った

「無事に・・・か」

矢口は不安そうに俯いた
882 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:01
シープの町が人で溢れ、三つの町の僧侶が
一斉にお経のような言葉を唱える声が響き渡る

矢口達も全員脇の方に出て手を合わせ
その後若林・安倍・加賀俊樹の三人が代表して挨拶をし
これから町が変わっていく事を宣言すると
すごい歓声に包まれ
前にいる各地区の長である老人達も町を意識せず互いに言葉を交しだしたようだ

はじめは互いに少ししこりを残しているような町民達だったが
酒が進む程、祭りのように町は大騒ぎになる

あちこちで、各町での伝統の踊りや音楽を繰り広げる
互いの文化や生活の違いもあるみたいで話に花が咲いているようだ


かおりやなつみも俊樹や三浦、瞬、加藤らと色々話しては
今までの溝を埋めているようだった


そこで怪我人にもかかわらず大食いしている加護達が気づく

「あれ?親びんは?」

その場にいる人たちが全員キョロキョロするが
小さな姿はどこにも見当たらない
883 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:03
「用でも足しに行ってるんじゃないの?」という美貴に
瞬達は、そうかもなと言って気にする事はなかったが
あの夜あの場所にいた四人は、どうにも心配で必死に辺りを伺う

「吉澤さん、何かあったのか?」
あまりにも四人があたふたしているので不思議がって瞬が聞いて来る

「あ・・・・ちょっと・・・・でも矢口さん強いから心配いらないっすね、すみません」
「なんだ、気になるじゃないか、探しに行こうか?」

「・・・・・・」

「ひとみちゃん、私探してくる」

ひとみが返事を戸惑っている内に梨華はもう立って探しに行った

「何、何かあったの?」
藤本が梨華についていく


結局そこにいた全員が矢口を探す事になった
884 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:05
屋敷中を大人数で探すが、見つけられないので
そこらの兵にも探せと命令を出し、ちょっとした騒ぎになる


ひとみと一緒に探していた三浦が

「もしかして・・・」
と言って中庭の端っこの草むらへと向かった

「どこいくんです?」

「いや・・ここにな、桂達が作った抜け穴があるらしいんだ
海岸に抜ける事が出来るって・・・・二度目にここに矢口さんが表れた時に
ここから入って来たって言ってた・・・・
もしかしたらここから裏に抜けて行ったのかも」

説明しながらランプをかざして穴を探すと
茂みの中に穴らしい黒い丸があったのを見つけ、2人は入って行く

「こんなに広いのか」

怪我をしてる三浦が気をつけろよ、などと言うと
あんたがなとひとみが突っ込んだりして穴から入ったら、随分と深くて驚く

ちゃんと足場がついていて、地面に着くと十分広い穴がずっと続いている
しばらくランプの明かりをたよりにゆっくり歩くと本当に海岸に出て来た
885 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:07


月明かりの闇の中から波の音が聞こえる


屋敷の向こうの、一昨日は戦闘の場から
今日は葬儀会場のものすごい明かりがうっすらと届き、波打ち際の白い泡が見えている

「いくらなんでもここにはいないか」

三浦が言うと

「あ・・・・あれは?」

あまりに遠くで、しかも探しているのは小さい矢口なので見つけにくいが
波打ち際に、人といえば人がいるような影が見えた

2人が静かに近寄ると確かに人の影・・・しかも小さい

ひとみは三浦に帰ってみんなにいたって伝えて下さいと言ってそばに向かった

ザッザッと砂を踏みしめて近づくと
本当に矢口が足を海の方へ投げ出して手を後ろについて座っていた
886 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:08
ひとみは少し離れた後ろまできたが
なんとなく声をかけれなくて静かに後姿を眺めた





「なんだよ」

しばらくすると矢口の方から話し掛けて来るが
顔は海を眺めたままだった・・・
誰が近づいて来たのかわかったのだろうかとひとみは思う

「なんだよじゃね〜よ、みんな探してるよ」

ひとみが言うとゆっくりひとみの方に向いたがまた海を向いた

「ん・・・・ごめん、すぐ帰るよ」
「ああ」

ひとみはそれだけ言うと黙ってしゃがんだ




沈黙が続き、やがてそれが心地よくなってくる
887 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:10
その間に、ひとみは矢口とであってからの出来事を思い出していた

悔しい思いをした事や怖かった出来事

そして楽しかったみんなとのやりとり





だいぶ時間がたった頃、ひとみが声をかける





「あのさ・・・・」




矢口は少しどきんとする

「前にさ・・・・あんたの事かわいそうっつった事あったよね」
「ん?・・・・あったっけな」


延ばしていた膝を抱え、肩越しに眼だけひとみを見ていた
888 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:11
「忘れちゃったか・・・・でもいいや
ウチずっと謝りたくってさ・・・・・・・
矢口さんはかわいそうなんかじゃなかった・・・・ごめん」


「・・・・覚えてない事謝られてもなぁ・・・」

少し鼻で笑うように言う


「ごめん」

まっすぐにひとみが視線を向けて謝ると
暗闇でひとみの表情もわからない顔に向かって呟く

「だから覚えてないっつ〜の、ってか気持わり〜よ
吉澤がそんなにおいらに素直なのは」

矢口の表情もうっすらとしかわからないが、笑っているのは解る

「そっか・・・・だな・・・・」

ひとみもフッと笑う
889 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:12
「んじゃ、そろそろ行くか・・・・
今日はずっと辻と加護にべったりひっつかれてて一人になりたかっただけなんだ」

矢口がお尻の砂を払いながら立ち上がった

「矢口さんの事が本当に好きなんだよ、あの2人・・・・いやウチらもさ」

「・・・・・・ん、ありがと」


ザクッザクッとひとみの前を通り洞窟へと向かっていく矢口





「最初で最後にするから言わせてもらってもいいかな」


今度は逆にシルエットになった矢口の背中に静かに話し掛ける

「ん?・・・なんだよ」

矢口はまた何かひとみに突っかかられるのかと振り返って微笑んだ

890 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:14





「ウチ・・・・矢口さんが好きです」





暗闇ながらもひとみの視線がまっすぐに矢口に届く


「あ」

途端にドキドキして、あの時の事が矢口の脳裏に蘇った
891 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:16
「あの日、初めて気づいて・・・・すぐに終わったけど・・・・
ウチはあのまま自分の口から伝えられないでいるのはいやだから
・・・・・答えも解ってるし・・・・・・・でも・・・・
ウチは矢口さんにずっと生きて幸せになってもらいたいって願ってる
それだけは嘘じゃない・・・・信じて欲しい・・・・
それと本当によかった・・・矢口さんに出会えて
・・・それに生きててくれて」

ひとみがゆっくりと矢口に近づく

矢口の顔が解る所まで近づいていくと矢口が声をかけてくる

「あの・・・・さ・・・」
「うん」

まっすぐ視線を向けるひとみの事を見れない矢口が下を向く

「・・・・あ・・・ありがと・・な」

照れているんだろうか、困ってるんだろうか・・・・
多分両方なんだとひとみは思う

「ん・・ごめん、困らせるようなこと言って・・・
でも今じゃないと言えない気がしたし・・・・
ずっともやもやするのはいやだからさ」


ひとみは笑顔だった
892 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:17
ザバッザバッと大きく歩いてひとみが去っていくと
ちょこちょこと矢口がついていく


「んぁ〜っ、スッキリしたぁ〜っ、やっと謝れたしっ」


大声で両手を天に突き出して背伸びしながらひとみが歩いている

矢口がなんともいえない気持で見つめていた背中が、急に振り返った

「まさかっ、またウチらをおいてけぼりにしようなんて考えてね〜だろ〜な」
「え?・・・いや・・・・」

まだドキドキが止まらない

「ったく、ぜって〜離れね〜かんなっ、あんたといるとおもしれ〜もんっ」
「・・・吉澤・・・・」

そして洞窟に入る手前でひとみが歩きながら言う

「ウチ絶対強くなるから・・・・
もうあんただけに悲しい思いはさせないように頑張るよ」

それだけ言ってさっさと洞窟の暗闇に消えて行った
893 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:20
矢口は気づく・・・・

自分がいたあの世界で起こっていた事をひとみは・・・・
ひとみ達は知ってるんだと

あの時、誰もいない世界から戻って来たら泣いていたあの四人は
ずっと自分の事を呼び戻してくれていたんだと

多くの命を奪ってしまう自分の事を・・・・必要としてくれている
・・・・矢口はどうしていいのかわからなかった

ランプがない為に壁を手探りで進んでいき
穴の周りで梨華や藤本達が心配そうに覗き込んでいる所を飛び出た

「矢口さんっ、心配するじゃないですか、子供と見間違えられて誘拐されたかと思いましたよ」
「美貴、笑えね〜から、それ」

よいしょと出てきたひとみが突っ込み、瞬や加藤達も笑っている

「まぁよかったよ、無事で、矢口も来いよ、一緒に飲もう
今日は死者を送る日だから盛大に酔わないとな」

「そうだよ、それに吉澤さんの事、鷹男さんに詳しく報告してもらわないとねっ
もうすごかったんだから」

かおりが言い出すと慌ててひとみが口を塞いだが遅かったようだ
894 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:21
「おう、少し聞いたぞっ、すごかったらしいな」

瞬が言うとすばやく美貴も反応し
続いて辻加護、それになつみまで食いついた

「何、よしこっ、どういう事?」
「「そやそや、一昨日も教えてくれへんかったし、よっちゃん、すごいって何がすごいの?」」
「この前聞いたシープ潜入作戦の時の話?」

動揺して油断したひとみの手をはずしてかおりが

「そうなのよなっち、もうすっごい色っぽくってさぁ、声しか聞こえなかったんだけどさぁ」
「わぁぁぁぁぁっ、かおりさんっ」

再び手でかおりの口を塞ぎ真っ赤になっていた

「じゃあゆっくり、そこの所を聞きましょうか、皆さん」

三浦が言い、俊樹もみんなを誘導し、先程の宴の場へと戻った
895 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:23
矢口はその様子を見て胸が熱くなるのを感じていた

仲間という存在に・・・・

そして・・・こんな自分の事を好きだと言ってくれたひとみにも



結局、鷹男がすべてを暴露して、ひとみは手で顔を隠して真っ赤になり
終いには不貞腐れて酒をがぶ飲みしだした

「すげ〜んだな、吉澤って」

両脇を辻加護に挟まれた矢口がひとみに笑いかける

「そうだよっ、ひとみちゃんはす〜っごいっ、ものす〜っごい綺麗なんだからっ」

色々ひとみの話題が進んでいる隙に、すでに梨華は酔っ払ってしまっていた

「わかってるって、梨華ちゃんっ、こらっ飲みすぎっ」

ぐびぐび飲んでる梨華を藤本が止める

皆も大分飲んでいたが、梨華は酒が弱いのか
はたまた心が弱っているのか、すぐにきたようだ
896 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:25
「これが飲まずにいられるかっつーのっ、こらっ矢口さんっ」
「な・・・なんだよ」

両脇では嬉しそうにまだ食べている二人をよそに
グラスを傾けていた矢口がたじろぐ

「矢口さんはぁ〜すごいっ、梨華はぁ〜っかなわないっ」
「梨華ちゃんっ、ほら、もう寝ようか、疲れてんだよね」

自分も酔っていたが、梨華の様子を見て酔いの吹っ飛んだ藤本が
からみそうな雰囲気の梨華を後ろから抱え上げようとしてふりほどかれる

「疲れてる?そりゃ疲れてるっつーの、みんなさぁっ私に心配ばっかしかけてっ
私だけぇっみんなに何もしてあげられないしぃっ
私だって〜っ矢口さんの事守ってあげたいっつ〜のっ、力になってあげたいっつ〜のっ、もうっ」

膝を抱えて膝に顔を埋めて何も言わなくなった

「梨華ちゃん・・・・」

藤本がしゃがんで梨華の頭を黙って撫でて
それを見ている瞬達も温かい眼差しを向けていた
897 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:26
ひとみがふらふらしながらも梨華に近づき、梨華を抱えようとしたが
皆に止められ、そばにいた俊樹が近くの兵隊を呼んで梨華を抱えさせて連れて行った

藤本と矢口も立ち上がって心配そうに梨華についていった

廊下を歩きながら俊樹が言う

「矢口さんは、仲間に恵まれてるんだね」
「はい・・・・・最高の奴らです・・・・」

満面の笑みで矢口は俊樹を見る、そして気づく

「あ・・・・弟さん・・・・おいらが・・・・」

「仕方ない・・・あれは弟が悪いよ・・・・
それに俺はあの2人の考え方には共感する事はできなかったから・・・気にしなくていい」

矢口はそれを聞いて少しほっとする
898 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:27
一方残されたひとみを鷹男が支えた

「んだよ、触んなっ」
「解ったよ、だから座れ、危ないから」

鷹男に毒づきながら座らされていた

「「よっちゃんも梨華ちゃんも、えらい酔っ払いやなぁ・・・・なんとなく解るけど」」
「「どゆこと?」」

なつみとかおりが2人に聞くと、瞬や加藤達もどういう事かを聞いて来る



「・・・うん・・・・親びんがな・・・」


加護はそこまで言うと言いよどみ、箸を咥えたまま黙り込む
899 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:29
「どうしたの?」

「起きひんかった時うなされてな・・・・・自分を殺してっ
・・・てウチらに頼んで来たんや・・・・
ずっと泣いて謝りながら・・・なぁのの」

「うん・・・・でも、自分は覚えてないと思う・・・
意識のない時の事だから・・・なんか余計悲しくなって・・・・」

「矢口がか?」

それを聞いて瞬が屋敷の方を向く

2人は食べるのをやめて頷く

「・・・・・矢口は・・・・人を殺したくないのに・・・・
私達の町のせいで沢山殺す事になっちゃったから・・・・自分を責めてるんだね・・・」

かおりは悲しそうに言う

「・・・そうだな・・・・俺たちが・・・・
いつまでも親父達に自分の気持伝えるのをためらって・・・・
争ってばかりの町を変えようとしなかったから」

加藤が呟く

「瞬さん・・・三浦さん・・・私達でもう争わなくていい町をつくりましょうね」

なつみが皆に視線を向けながら微笑む
900 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:30
「そうだな・・・・もう矢口に人を殺させたくないな・・・・」

瞬も頷くと、加護がまた箸を動かしながら元気に言い出す

「せや、それで十分や、それに親びんにはウチらかてついてるっ
よっちゃんや梨華ちゃん・・・美貴ちゃんも」

「だからもう親びんだけにつらい思いはさせないように
ウチら頑張んだよね、あいぼん」

「うん、みんな心配せんとって、それに親びんには今の内緒にしとってな
悲しませたくないねん、もう」

2人が元気に笑っているので、みんななんとなくほっとして
静かにまた飲み出した
901 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:32
そんな話を聞いていたが、その輪から少し離れた場所に座らされているひとみに
鷹男がこそこそと話し掛ける

「なぁ・・・・矢口さんにきちんと思いは伝えられたか?」
「ん〜っ、言ったよぉ〜・・・・そして終わった〜っ」

にこにこして眼を瞑って木にもたれかかる

「だと思った・・・・随分すっきりしてたから・・・・
それと・・・この前は騙してしまってすまなかったな」

そばに座ってグラスの中の酒を回して遊んでいる

「ん・・・・しゃ〜ないよ・・・・ウチが魅力的だからさ」

眠りそうな声で眼をつぶったまま答えた
それを見て鷹男は微笑んだ、そして真剣な顔をして言う

「矢口さんのそばがつらくなった時はここに戻ってこいよ・・・・歓迎するから」
「無理・・・・ウチはあいつのそばにいて〜から・・・・」

鷹男はため息をついて、やがて微笑む

「気持いい位、きっぱり言うんだな」
「そんなもんだろ、人を好きになるってのは」
「すき・・・・か」
「そ・・・好き・・・」

そう言ってひとみは寝てしまった
902 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:36
くくっと鷹男が笑い、ひとみを抱えあげ
瞬達に寝かせてくると言って屋敷へ入る

「なんだ、吉澤も寝ちまったのか」

石川を寝かせて部屋を出て来た三人に会い、矢口が声をかけた

「ああ、どうやら胸の仕えが取れてほっとしてしまったのかもしれないね」

再び矢口達も鷹尾が吉澤を寝かせる様子を見に部屋に入る
もしかしたら吉澤に何かするんではないかという猜疑心

だがひとみを寝かせて、前髪を整えてあげている姿は
鷹男がひとみを愛しいと思っていると知らせるに十分な光景だった

明かりを消して部屋を出て行く四人

「君達が旅人なのが本当に残念だよ、いつまでもいてもらってかまわないのだけど・・・・
いつ・・・出発の予定なんだい」

俊樹が言う

「加護と辻の体に無理がかからなくなったら行こうかと」
「そうか・・・・残念だ」
903 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:38
「矢口さん、少し気になる事が・・・・・」

藤本が言い出す

「ん、それは後で聞くよ」
「でも・・・」

矢口が藤本に向かって頷く

「何か?藤本さん」

今度は鷹男が言う

「何でもありませんよ」

答える矢口に、でも・・と言う藤本
・・・・矢口は笑顔で首を振って行こうと促す

「ちゃんと考えてるから」
こそっと藤本に呟いて笑って宴会の場へと戻って行った
904 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:40
帰ると瞬やかおりがわらわらと矢口を囲み、さあ飲みなおすぞとグラスを渡す

そして、今回の事で、二つの町の避難先にすごい数の族の集団がいた事とかを話し出し
明日ひとみを貸してくれと瞬に頼まれる

「おいらも行っていいですか?」

すごい数の族と聞いて、矢口は少し興味を持った
そして、町の人たちがお世話になったならちゃんとお礼を言わなければいけないと言う

自分の町でもないのに・・・・と突っ込みながらも
もちろん瞬も快くOKを出し、藤本も行きたいと言い出すとみんな行くと言う

「中澤?ねぇ勝さん、中澤ってあの裕ちゃんだよね」

瞬の口からその名前が出ると途端になつみが食いつく

「そうですね、きっとあの中澤裕子さんですね」

なつかしそうにする加藤と、キャーキャーと騒ぎ出すなつみ

「何?知り合いなの?勝」

藤本が加藤に聞く

「ああ、昔ウチらの隊長の妹で、その人も時期隊長候補だった」
「へぇ〜」
905 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:41
2人が会話していると、かおりが

「そこの2人もすっかり仲良くなったみたいね」
「ほんと、藤本、もう芝居しなくていんだぞ、勝とか言っちゃって」

少し動揺する加藤に比べ、藤本が笑って言う

「なんかくせになっちゃって」

加藤の肩に手を回してグイッと酒を飲み干すとグラスを加藤の前に差し出し

「ねぇ勝ぅ、ほらっ次注いでよ」
「あ、ああ、美貴もあんま飲みすぎんなよ、梨華達みたく」
「いいのっ、飲みたい時もあんのっ」

906 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:42
するとなつみが感心するように言う

「勝さんって、こんなキャラじゃなかったんだけどなぁ
藤本さんとウマが合うんだねきっと、この際付き合っちゃえば?」

藤本がそれを聞いてバッと肩に置いていた手を離し

「言っておきますけど安倍さんっ、美貴は梨華ちゃんが好きなんですぅっ、今の所片想いですけどぉ」
「ええっ、そうなのぉっ?」
「ありゃりゃ、かおりもビックリ」

矢口は加藤を見ると、少し寂しそうな顔をしていた
なつみとかおりがもりあがって話している所で、藤本が加藤にごめんと謝っている

加藤がなつみを好きだと思っているので
気ぃ使いだなぁ藤本はと関心していると、両脇からちび2人が寄りかかってくる
907 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:43
「親びん・・・眠い」
「ウチも」

矢口が真ん中でおいおいとうろたえていると、鷹男と加藤が

「じゃあ、連れて行くよ」

と立ち上がって二人を抱え上げ、連れて行ってしまった


両脇が寂しくなった隣に瞬がやってくる

「矢口・・・・本当にありがとう・・・・この町に来てくれて」

「え・・・いや・・・・別になりゆきだし
結局おいらはなつみさんも救えなかったし・・・」

右足を立てひざにして腕をついて座っている矢口は俯く
908 名前:dogs 投稿日:2006/08/27(日) 01:45
「あれ、矢口さん、なっちは助けてもらったよ
あいぼんとののは最後まで矢口さんが来てくれるって信じてたから
なっちも希望を持っていられたし
かおりと矢口さんがあの牢屋に来てくれなかったらあの場所で死んでた、ありがとう矢口さん」

「かおりも矢口が来てくれて、一杯色々教えてもらった気がする・・・・
それが何ていうんだろ・・・自然に矢口が行動してる事がすっごい深かったりしてさ
それになんか・・・・あったかいんだよね・・・・」

「な・・・なんかやだ、おいらももう寝るね、明日連れてって下さいね、瞬さんっ」

そそくさと屋敷に入って行ったら
藤本もおやすみと皆に告げて矢口の後をおいかけた

「照れてる、かわいい矢口」

「うん・・・・なっちが牢屋の中で思い描いてた人とはちょっと印象が違ったけど
・・・・でも・・ずっとここにいてもらいたいね」

「ほんとだよ・・・・ここに戻って来て欲しいな、みんな」

瞬の言葉に2人も三浦も俊樹も、本当にと心底頷いていた
909 名前: 投稿日:2006/08/27(日) 01:46
本日はここまで
910 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/31(木) 23:30
大量更新お疲れ様です。
酔っ払い梨華ちゃんの本音の吐露がなんか良かったです。
911 名前: 投稿日:2006/09/02(土) 11:52
910:名無飼育さん
 リアル酔っ払い梨華ちゃん・・・・
 見てみたいっすよね
912 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 11:55
朝まで続いた宴会の朝
広場全体に町中の人やバーニーズの人・ダックスの人がゴロゴロと人が寝ている

やがて起き出した人たちに峰男と安倍が声をかけ
帰るぞと促してぞろぞろと壊れた壁や門から人々が出て行ったり
この町の人たちも自分達の家へ戻る人と、出てきて片付けをする人達が入り乱れる

瞬達は矢口達がいなくなった後も、かおりやなつみ
加藤、俊樹、三浦、鷹男と話をしながらそのままそこで寝てしまっていた

そんな朝、部屋で矢口はふと目を覚ます
加護と辻の方を見ると、昨夜沢山食べたからだろうか
幸せそうな顔をして眠っている

昨日の朝の目覚めは二人から元気に叩き起こされて、
久しぶりに会話をする子分たちは息つくまもなくなつみとの牢屋での出来事を話したり
部屋を訪れる人達との挨拶や世間話
それに二人の世話で忙しかったり
二人から延々この町の兵達や町民との交流を聞かされ
自分を振り返る事は少しも無かった

浜辺で一人になった時には
ただ波が押し寄せるのを見ているだけで
何かを考える事が怖くて、拒否するように無心に眺めていただけだった
913 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 11:56
ふうっと息を吐いて天井を見上げた

二日も寝ていたという自分

逃げ惑う人を切りつける青い兵隊
増えていく死体

そこからはもう記憶がない


誰も居ない真っ白で
孤独な世界の恐怖から目覚めると吉澤達が泣いていた

Mの国を追われた時もそう・・・・加護達が泣いていた

怒りが頂点に達するとそこで記憶は消え

自分は覚えていないが、その後の自分は多数の兵を殺したと聞く


もしかして今回も・・・・
と考えるとどうしても気分が落ちていく
914 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 11:58
だけど昨日の出来事を頭に浮かべて微笑む

ずっと昨日ひっついて来た二人は
多分自分を心配してくれていたから楽しい話をしてくれてたんだろう
一生懸命自分に笑顔と元気を与えてくれた


酒に飲まれながら、自分を守りたいと怒ってくれた梨華
そんな梨華は矢口に優しさをくれた


自分の国でもない旧Eの国を心配して、大好きな梨華を置いてでも
あの町へ向かった藤本には
自分の使命と責任・・・そして勇気を思い出させてもらった


そして告白してくれた吉澤には
自分の存在を認めてもらえたようで
生きる事を許してもらえたような気がしていた


昨日改めて感じた仲間の存在の大きさ

再び目を閉じて思う言葉



  感謝




本当に仲間の存在を心強く・・・そして大切だと矢口は思った
915 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 11:59
そこへバンッと扉が開いて吉澤が現れる

「おはようっ、おっ、まだ寝てんのかよ」

ごそごそと動き出した加護辻

「ん〜・・・・うっさいわ〜、よっちゃん」
「朝はもっと静かに起こしてよ〜」
「な〜に言ってんだよ、先飯食い行ってくるから早く起きて支度しろよっ、んじゃな」

バンッと出て行く

「よっちゃん元気やな」
「うん・・・アホだからだよ」

二人の言葉にくすっと笑い矢口も呟く
「ああ、そうだな」
916 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 12:00
くわ〜っと伸びをする二人は
痛かったのか同時に体を縮め「いてて」と言った

「大丈夫か?」
「「うん」」
矢口は微笑む

それから息ぴったりに言い出す二人

「「親び〜ん、お腹すいた〜」」
「あほかお前らっ、昨日あんなに食ってたくせにっ」

二人に笑いながら言う矢口

「昨日の事やんっ親びん」
「そうですよ、早くあほよっちゃんみたく元気にならないといけないでしょっ」

優しく微笑む矢口

「はいはい、今持って来てやっからちょっと待ってな」
「「は〜い」」

三人は笑顔だった、そして矢口はその笑顔のまま台所へと向かう
917 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 12:02
俊樹が、台所で作ってくれている各町の人たちに労いの声をかけていて
そんな中おばさん達も矢口にも声を掛けてくる

「おはよう矢口さん、さっき吉澤さんと藤本さんがあっちに行ったよ」

俊樹も矢口に気づき声をかけると
指を指した場所は特設で作らせた兵や応援に来てくれた人達の食堂

しかし矢口は部屋の怪我人がウルサイから食事を届けてから行きますといい
結局俊樹に一つおぼんを持たせて運ばせた

「すみません、俊樹さんにまでこんな事させてしまって」
しかも肩を怪我してるのにと申し訳なさげ

「いやいや、わが町の救世主の為だからね、お願いしたいくらいだよ」

矢口は一度照れたように笑いながら

「それと今日おいら達は出かけますけど、二人の事頼みますね」

「ああ、まかしとけ、三浦に相手をさせとくよ、あいつも怪我人なのに
ゆっくりさせてやれなかったからあの子達と一緒に休ませないと」

「あちゃ、でもあいつらと一緒だとかえって疲れさせちゃうかもしれませんよ」

「あははっ、そうかもしれないね、でも心配しないで行っておいで
馬は自由に持っていってかまわないから」

「はい」
918 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 12:03
部屋につくと、二人は準備万端に起き上がって待っていた
その様子に俊樹も微笑み、言葉を交わした後俊樹は仕事へと向かっていった

矢口がその後食堂のような部屋に行くと
山のような食事をかきこんでいるひとみと
水だけ置いてぐったりと頭を抱えている藤本がいた

ひとみは他のテーブルに座っている人たちが
すっかり有名になった矢口に声をかけるので入って来た事はすぐにわかった

目が合い、お互いに少し照れくさそうに微笑みあった

バンッと藤本の背中を叩いて藤本の隣に座る

「二日酔いか藤本っ」
にこにこと矢口がそう言うと

藤本は突っ伏した状態で髪の毛の中からするどい眼だけみせて

「ウィ〜」

とだけしゃべると再びうつぶせた
919 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 12:04
少し様子を伺うように矢口は視線をひとみに向ける

するとひとみがもぐもぐしている視線の先の食事の量に
くすりと笑い呆れながら言う

「お前は大丈夫なんだな」
「ウチは酒強いからぜんぜん平気
梨華ちゃんは起きれないみたいだから今日は置いて行くよ、矢口さんも早く食べたら?」

食べながらも爽やかに言われて少しほっとする矢口

「美貴も留守番しとく・・・梨華ちゃんと」

ひとみが元気に言う前で、くぐもった声が横から聞こえた

「ああ、じゃあ加護と辻の事も頼むな藤本」
「ウィ」

なんだか面白くて矢口は笑いながら食べ始めた
920 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 12:06
昨日まっすぐ自分を見て好きだと言ってくれたひとみ

自分の気持ちなんて考えた事もない矢口

運命によって決められている相手
姫を心から大切だと思う自分に嘘はない

ひとみが何故昨日の言葉を発したのかは解らないけど
運命の相手がいると解っていながら好きだと言ってくれた強さと潔さに助けられ
今、目の前でガツガツとごはんを食べてにこにこしているひとみに
温かさを感じずにはいられなかった

昨日の言葉通り、ひとみは例え殺人鬼だろうと
自分を必要としてくれるんじゃないかって錯覚しそうな程だった

とにかく姫を早く迎えに行かなければ
やはり今はどこにも動けないと思った

特に、色んな情報が入り出した為
大切な姫の安否が楽観出来る状況でない様だと感じ、不安は募るばかりだったから
921 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 12:07
一方ひとみも、自分の気持ちを認め
正直に言うすがすがしさの余韻が体中に広がっていた

生まれてから一度も目標というものを持っていなかった自分

〜矢口を助けてあげて〜

梨華から言われた言葉

梨華と月を見上げ続けた時
何故かそれが自分の使命かのようにそう思い始めた

はじめて目標を持つというわくわく感になんだか充実した気分になっていた

姫の為に生きる矢口・・・・・

元気で明るい矢口の裏に、本当は悲しい部分を隠している

そんな危うい矢口を支えてあげたいと・・・・
922 名前:dogs 投稿日:2006/09/02(土) 12:09
「なつみさんも早いね、怪我なおるの、やっぱ族って違うんだなぁ」
「あ〜、うん、そうだな、今日も一緒に行くっつってたし」

矢口は食欲がないのか、一皿しか持って来てなく
あっという間に食べ終わる

ひとみがその様子が少し気になったのか、元気づけるように言う

「中澤さんの事知ってるみたいだったしね
あ、矢口さんと気が合うと思うよ中澤さん」

「へぇ〜、どんな感じの人?」

「う〜ん、なんかでかい感じ、あんたみたいに」

ひとみは澄んだ目で矢口を見てそう言った




「かいかぶんなよ」

矢口はその視線に耐えられずにすぐに藤本に話題をふる

「ほら、きつかったら寝てろよ、今回お前が一番頑張ってたからな、少し休め」
「ウィ」

話を逸らされたひとみが一瞬俯いてから微笑むと
立ち上がって藤本に肩を貸す

矢口もひとみが食べた食器を片付けて
梨華の為の水とコップを持って後を追った
923 名前: 投稿日:2006/09/02(土) 12:09
ちょっこす更新
924 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:13
その後、瞬と鷹男・加藤、かおりとなつみと共に
一度バーニーズに寄り矢口達の荷物を取ると峰男と安倍も合流してあの避難場所へと向かった

一同が軽快に馬を走らせると、山間の広い草原の中に出て来た
ひとみはつい先日ここまで来た事をなつかしく思い出す
そして草原を突っ切って行くと驚く光景が目に入る

町と言うにふさわしい、ちゃんと木やレンガで作られた家が立ち並び
回りには畑や田んぼが広がっている
町に近づくと一人の族の男が矢口達に気づいて姿を消して行くので
その方向へと追いかける

人々が顔を出してひとみ達を確認すると
次々と武器を持って後をついて来る
そして、最初の男が真ん中の方にある大きな家へと入って行くと
中澤が姿を表した

「なんやねん、みんなしてこんな所にまで」

腕を組んで怪訝そうに出迎えるが
ひとみとなつみの姿を捉えると笑顔を見せてそう言った

「君にお礼を言わなければと思って今日は来たんだ」
安倍が馬を降りて頭を下げる

ここを襲いに来た訳ではないと解ったのか
武器を持った人達はぶつぶつ言いながら戻っていった

中澤も手をシッシッとジェスチャーしながら
「いえ、でもなっちが無事で良かった、捕まったって聞いてたから」
と安倍の横にいるなつみに懐かしそうな顔をして笑っていた
925 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:15
「裕ちゃん・・・ほんとに裕ちゃんなんだ・・・・
こっちが良かっただよ、姿を消しちゃったから・・・
どうしてるかずっと心配してた」

中澤になつみが近づき抱きつくと、さあ中にはいりとうながされ
一同もついていく

「なつみ・・・あの事をお願いしなきゃな」

安倍がなつみに言うと、なつみが言い出す

「裕ちゃん・・・・戻って来て・・・・もうあの町同士が争う事はないと思う
瞬さんや俊樹さん・・バーニーズとシープの代表者の事なんだけど
ここにいる人たちの事も当然迎え入れるように準備するから」

歩きながら話しているが、中のテープルに腰掛け
一同にも座ってと言う仕草をしながら中澤はゆっくり口を開いた

「それはウチは決める事やあらへん
ここにいる仲間は皆どの町からも疎まれた族ばっかなんや
みんながそう望めばそうするけど
みんながいややと言えば、ウチはこのままここで生活していく
ここはずっと山賊やはぐれの族とかとしか会えないようなへんぴなとこやけど
十分に生活出来る場所でみんな気に入ってんねん
ありがたいけどその返答はもっと時間をもらわんとできひん」

矢口はその様子を見ていて、嬉しい気持になっている
926 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:17
「ああ、もちろん時間はたっぷりかけてもらってかまわないよ、ダックス・・・
いや新しい町には君達を受け入れる受け皿がある事だけ
覚えておいてくれればいいから、なぁ若林」

「そうだな・・・・我々も仲間を大勢無くして寂しいから
人が増えてくれると嬉しいよ」

「争い事は解決したんですか?なっちもおるし・・・・
吉澤もすっきりした顔で座ってるし」

中澤がひとみに眼をやり微笑むと
ひとみも笑顔を返すのを見て安倍が言い出す

「中澤さん、犠牲者も多数出てしまったけど
少なくとも我々二つの一般の町人たちには一人も犠牲者が出なかった
君のおかげだ、ありがとう、感謝するよ」

瞬と加藤、それに峰男やなつみやかおりも頭を下げる

「やめて下さい、当然の事をしただけですから」

照れくさそうに言うと他の話題を探すように視線を彷徨わせ
その様子を見ているひとみに中澤は目を止めた
927 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:20
「吉澤・・・・その後ろにいるちっこいのがあんたの大切な
死なせたくない仲間の一人かな」

ひとみが笑って振り返って矢口を見ると
いきなりちっこいと言われ驚いた顔をしていた矢口の事が可笑しくて笑いながら答えた

「そうです、他の仲間も一応みんな無事でした
今日はここには連れてこれませんでしたけど」

ひとみの影であんまり見えなかった矢口の姿が
しっかり見えた途端に顔がでれ〜っと笑ってこう言った

「またえらいかわいい子やんかぁ〜」
「裕子さんっ」

中澤の後ろで立っていた
あの日最初に若林達一行に近づいて来た2人の女の背の高い方がたしなめる

「あ、ああ、まぁそういう事なんで、これからゆっくりみんなに話してみます
安倍さん達がこうして私なんかに頭を下げに来たのがなんかおかしいやら
嬉しいやら・・・変な気分やけどな」

和やかに今までの経緯や、今後どうしていくかを話した後
若林達が帰ろうとすると、矢口が突然少し話しをしたいので先に帰ってくれと言い
ひとみとなつみとかおりを残して去って行った
928 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:21

「なんでちゅか〜、ウチに話って〜、もぉかわええなぁ」

若林達がいなくなってすぐに
見送りに玄関迄来てた中澤は矢口を抱き締めて頬擦りしながら言った

「ちょっ、な・・・中澤さんっ、は・・離して」

ジタバタと腕の中でもがいている矢口に

「なんや、テレんでええねんで、もぉ〜っかわええわぁ〜
こんな子があの噂の人物なんてなぁ〜、裕ちゃんびっくりやわ」

離そうとしない中澤に
ついにひとみが2人の肩を掴んでグイッと引き離して
矢口の手を取り中へと入る

「さっ、中に入りましょうよ、中澤さん」
「ちょっ、吉澤っなんやねんっ、折角なごんでるとこに」

去っていく三人になつみ達は苦笑する
929 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:25
「裕ちゃん変わってないなぁ〜
昔から捨て犬とかすぐ拾ってきてかわいがってたから」

「矢口は捨て犬?」

笑ってかおりがなつみに言う

「なんかちっちゃくてかわいいんじゃない?
裕ちゃんには一緒の感覚なんじゃないかな」

「そうです、私達もそんな裕子さんに拾われました」
「わっ、びっくりしたぁ」

突然2人の前にさっき中澤の後ろに立っていた二人が顔を出す

「すみません、私はアヤカで、こっちがミカ
裕子さんと一緒に暮らしています」

2人は裕子からはぐれの族でうろうろしている所を拾われ
孤独な生い立ちを可愛そうに思ったのか、ここで一緒に暮らしているらしかった

とにかく裕子の面倒見は飽きれるくらい良くて
ここの町の人たちはほとんど裕子に拾われたようなものだと話す

昔と変わらない裕子になつみは嬉しく思いながら中に入ると
何やら真剣な顔をした矢口と少し怒っているひとみ
子供を見るような顔をしている裕子がもう立って話しを始めていた
930 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:26
「せやなぁ、矢口の言う事もあながち外れてはおらんかもなぁ」
「何何?何の話?」

なつみが近寄って聞く

「ん?ん〜、何でもあらへん、今回の事ももうじき他の国に伝わるなぁ
矢口のMの国の事が知れわたってるのと同じようにな」

「どういう事ですか?」

「あれ、不思議に思った事はあらへん?
あんな遠い国の事がどうしてみんなに知れ渡ってるか」

ひとみと顔を合わせて頷く

「新聞は読んだ事あるか?」

四人は頷く

「あれな、うちらの町の子が作ってるんよ」

アヤカとミカも頷く




「「「「えっ」」」」

四人が驚く
931 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:28
「この町に族はたくさんおるけどほとんど犬族や
しかし、兎族が三人おってな、その子達が駆け回って作ってんねん」

「兎族・・・・その子達は今ここには?」

考え込む矢口の一言

「おらへん、いろんなとこに取材にいってんねん
でももうそろそろ一人位は帰って来る頃やな」

「へぇ、なんかすっごい近い場所に新聞屋さんがいたんだねぇ」
かおりが呑気に言う

「うん、もっと遠くの国の人が作ってると思ってた・・・・
一月に一回位の割合で配達されてくるから」

なつみの言葉を聞き、ひとみもよく新聞を楽しみにしていたのを思い出して頷く

「じゃあ、この町のこの前の出来事は今度の新聞に・・・・」
矢口が呟くと

「一面確実やな・・・・また矢口の名前が広まるで」

「ちょっ、待って下さいよ中澤さん、あの時の記事は矢口さんが
えらくひどい人・・・・あの・・・その・・・真実はどうかって事は・・・」

ひとみが言い出し、自分で言っている事に自分でまずいと思って言いよどんでいると

「いいよ、吉澤、おいら極悪人ってのは本当の事だから
また有名になるって事でよかったよ、あ、今度はお前らの名前も載ったりしてな」

笑っている矢口にひとみは泣きそうになる
932 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:29
「あの時はひどい奴もおるなぁって思っとったけど
目の前のこのかわいい子がなぁ、圭坊の取材も考えもんやな」

「たくさんの命を奪った事は本当のことだから
おいらの事はやっぱり悪人として載せといてと言って下さいね」

かおりもなつみも昨日加護や辻から聞いた事で、その顔は複雑だった

「それと・・・・中澤さんに一つ提案があってここに残ったんですが」

矢口が再び真剣な顔で中澤に言うと
ひとみもなつみ達も全く何の事か解らずに聞き入る

「旧Eの国の町に移り住める人はいませんか?」
「ん?ど〜ゆ〜事や?」

折角ダックスとかに受け入れる準備が出来てるらしいので
若林さん達の前では言いにくかったのですがと前置きし

「あの町には、誰も町を守れる人がいないらしいんです
でもここには族の人が沢山いると聞いて、誰か助けてもらえる人はいないかと思って」

出来れば中澤さん・・・・あなたがいいんですけど
・・・・・と真剣な表情で中澤に聞いている

「なんや、おうてもおらんウチに、そんな事を頼みに来たんか」

あくまでも中澤の顔は子供を見るかのようにデレッとしている
933 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:31
「なんか吉澤とのやりとりの話しを聞いてたら
頼んでみようかなって思っただけなんだけど・・・・無理ですか?」

少し照れた感じで言う矢口がかわいかったのか
中澤がまた近寄って抱き締めようとした為
「で、無理なんですか?」
言いながらひとみが中澤の顔を押しやる

「ったくなんやのんっ、邪魔ばっかして
もうっ、あんたがでっかいのは解ったから邪魔せんとって」

「あの・・・・中澤さん・・・それで・・・・どうでしょうか」

何か調子の狂う相手に矢口はとまどいながら聞きなおす

「せやなぁ、まぁ、ウチらは自由に生きてるからなぁ
なんやしらん王族やらそんな争いに巻き込まれるのは嫌やけども
まぁ、その町を見てからやな
それと矢口、ウチの事は裕ちゃんって呼んでや
なんか中澤さんってあんたに言われるとサブいねん」

と、言って再び矢口を抱き寄せようと一歩前に出た所で
吉澤の手が中澤の肩を止める

「裕ちゃん、矢口さんに近づかないで下さい」
「吉澤、あんたは裕ちゃん言うな、あんたには言われとうない」
「なんだよ、それ」

矢口はそのやりとりを聞いて微笑む
934 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:32
「吉澤、ウチらも出発の準備しようか、加護達の様子見てからだけど
あいつらの食欲だったら明後日頃出発だな」

「えっ、そんな早く?もっとゆっくりしてきなよ矢口」
「そうだよ、なっちの町にもちゃんと来て欲しかったのに」
矢口の言葉を聞いてかおりとなつみが焦る

「おいら達はただの旅人だから、長居は出来ないでしょ」

なつみが納得いかないような顔をしていたが、かおりがなつみを止めて

「矢口達は目的が違うもんね、でもまた会える、そんな気がする」
「何?蒔絵様の真似?」

なつみが笑う

「そう、この予言はきっと当たるわ、ね、矢口」

かおりが矢口に向かって微笑む

「うん・・・そうだね」
935 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:34
「それじゃ、帰りましょうか、そろそろあの2人も二日酔いから復活してるだろうし
出発の事、話さないと」

ひとみが中澤に睨みをきかせて言う

「そうだな、じゃあ中ざ・・・・裕ちゃん
明後日の朝、ダックスの東側の門迄来て下さい、一緒に行ってもらえますか?」

「解った、何人か連れてってもええんやな」
「ええ、なるべく沢山連れて来て下さい、真剣に考えてもらいたいんで」
「解った」

中澤の町を後にして、シープへ向かって走り出す

途中でなつみはダックスへ、かおりはバーニーズへと帰って行った





「なんであの2人には内緒にするんだよ」
ひとみが矢口に馬を走らせながら聞く

「ここの町にはまだ自分達の街づくりが先決だろ
この先の町の揉め事に巻き込まれる事もないだろう」

「でも、元々巻き込まれたのはここの町で
ましてウチらなんて全く関係ないじゃん」

「ああ、でも今幸せになろうって頑張ってる人たちに
これ以上無理させてどうする」

「それなら矢口さんだって姫に会って幸せにならないといけないんじゃん
矢口さんがみすみす揉め事に巻き込まれる事はない」

ひとみの眼はあくまで真剣なようだった
936 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:36
「おいらは、姫の幸せの為にこの揉め事に首を突っ込もうとしてるんだぞ」

ひとみの想い、優しさ・・・・
それを知った上で矢口はこう言うしかなかった

「・・・・・・・でも・・・まだ憶測の段階だろ
先に姫に会いに行った方がいいんじゃ」

「吉澤・・・・ありがとな、でも、リーダーはおいらだ
従えないならお前はここに残ってもいんだぞ」

言われた瞬間、ひとみはカッと頭に血が昇るのを感じた

「またそんな事言うっ、だからあんたの事腹立つんだよなぁ・・・
全く・・・・いいよ、解ったよリーダー」

矢口はにっこり微笑み、馬の腹を蹴る

ひとみはぶつぶつ言いながら矢口の背中を見つめた




矢口はひとみに、余計な事はしゃべるなと言って中澤の町に向かった
何が余計な事なのかわからなかったが
中澤達をダックスらの町に迎え入れようとする若林や安倍の言葉には
賛成も反対もせずにただ黙っていた

若林達を帰らせて、なつみ達が残ってしまったのを少し残念がる矢口に
あの町の人には知られたくない事を中澤に聞こうとしている事が解る
937 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:39
なつみ達が離れたその短い間に、矢口は中澤に端的に話し始めた

族が多数いるこの町にFの国かYの国から接触がなかったか

それはYとMの国が全国を統一国家にしようとする企みがあって

もしかしたら戦争を起こそうとしているかもしれないと

言葉少なに話したからだ・・・
そして中澤もありえなくはないと言ってなつみ達にも隠した

何故そんな話を始めて会ったばかりの中澤にするのかも
ひとみにはわからなかったが
矢口特有のカンがそうさせたのだろうと勝手に納得した

藤本があの町で妙な噂を聞いて来た為に、矢口はそういう行動をしたらしい

昨日帰って来た藤本が、瞬や加藤とは別行動で
町の人たちにあれこれ聞いていたら
Fの国の姫が友好の為にYの国に派遣されたらしいと解った

東条がYの国からの使者が来てからおかしくなったという話を
どういう使者だったのか探ろうと、戻って行った町民兵を中心に聞いていた

すると、ある一人の兵からYの国が脅して来たと言い出した
内容は自分達の配下になるか、町の壊滅かという内容だったらしい

同時期に同様の脅しを受けたFの国はMの国を習い姫を差し出し、友好を求めた

しかし東条にはそんな姫もおらず
しかも王という位にこだわるがため自分の勢力を見せつけようと
シープの町らの乗っ取りを計画したらしい
938 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:41
矢口はMの国で実際の経験者だから
何かその話を聞いて感じたのかもしれないとひとみは考えた

なぜYの国が距離的にも遠いMの国と友好を結びたかったのか
なぜそれが姫を差し出す事なのか
MとFの共通点が、何か矢口をかきたてる引き金になったのだろうと

Yの国に行った姫が
非常に危険な状態でいるかもしれない事を確信とする何かを感づいてしまった

きっと何か考えている・・・

姫を助ける為に

そして矢口のする事に自分もついていかせてもらえる事をひとみは喜んだ



シープの町に着いた矢口とひとみはすぐに俊樹と三浦に明後日出発を告げる
同様に引き止められるが、ただの旅人を強調する事で終始押し通した

藤本達は二日酔いから復活したのか
加護達の部屋で話している所に入って行った

「「おかえり親びん、よっちゃん」」

「「おかえりなさい、矢口さん、よしこ(ひとみちゃん)」」

ウォン【おかえり】

「「ただいま」」
939 名前:dogs 投稿日:2006/09/03(日) 13:43
まず藤本と梨華の二日酔いを茶化してから復活の報告を聞くと
すぐに加護と辻の様態を聞き、明後日の朝出発するという事を報告する

「そっかぁ、またみんなとお別れやね、せっかく仲良くなれたのに」
「ああ、でもまた遊びにくればいいだろ、姫連れてさ」
「「うん」」

ここにいる仲間には、どうして旧Eの国の町へと向かうのか
矢口は自分の考えている事を正直に話した

藤本もその考えには同調し、加護達はただそうかなぁと聞いてるだけだった

そしてやはり、町の人たちには言わずに出発しようと全員に釘をさす

バーニーズから持って来た自分達の荷物と
取り上げられていた辻の加護の荷物も返して貰って出発の準備をする

藤本は汚れた洋服の洗濯をさせてもらいに行かなくちゃと言い
ひとみは武器の補充・梨華と辻と加護は食料の調達を明日しなきゃねと言うが
矢口が、明日からあの町へは馬で行くからそんなに食料はいらないかもしれないと言い
矢口はバーニーズとダックスにお別れを言いに行こうと言う

全員が頷き、じゃあ一番あの町にダックスが近いから
ダックスに泊めてもらおうかと藤本が言い出すので
お礼も含め、俊樹にまた全員で言いに行った
940 名前: 投稿日:2006/09/03(日) 13:44
グダグダ感たっぷりですみません
本日はここ迄
941 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:05
次の日の朝、俊樹と三浦は四頭の馬を自分達に提供してくれた

まだまだ忙しく働いている兵や町の人達が
屋敷の門から出てきてくれて見送ってくれた

少し治りの遅い辻を藤本が前に乗せ
矢口、加護、吉澤と梨華でゆっくりとバーニーズに歩いていく

町中の人が自分達を見かけると笑顔で見送ってくれる

ここ数日の間に自分達の行動が町中の人に広まり
どうやら6人は町の救世主と思われてしまったようだ

それは、バーニーズの町に入ってからも同じで
もう厳重な警備のなくなった門から六人が入ると、若林の屋敷に行くまでに
町の人たちが色々声をかけてくれだした

矢口達はなによりそれが嬉しくて、笑顔でその言葉に返答したりする

屋敷に着くと若林達が出て来て、中に入れと言うが
挨拶だけだという矢口を強引に中に入らせてかおりに食事を作らせ始めた

さんざん会議した広い部屋にまた通されていく時

「矢口ぃ、ほんとに行ってしまうの?」
と矢口の背中に飛び乗ってくる亮に

「うん、亮、せっかく仲良くなれたのにな」
と、言葉を返しじゃれあう姿に、辻と加護が嫉妬する

「なんやねんっ、このガキは」
「親びんになれなれしい」

等とからみだして、ついには三人で庭で鬼ごっこを始めてしまった
942 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:07
「亮じゃないけど、もっとゆっくりしていけばいいのに」

それを微笑んで見ていた矢口に近く迄寄って来て瞬が言うと首を振り

「よかったです、ほんとの意味でこの町が平穏な町になってくれたみたいで
これでまた遊びに来ようって思いました」

その様子を近くで見ていたひとみが
藤本達を連れて先に行こうと促して部屋に入って行った


2人きりになった廊下で瞬がまた熱い視線を向けて矢口に言う

「それも君達のおかげだよ・・・だから・・・
もし・・・ここで暮らしたいと思った時は、遠慮しないで帰って来い」

「はい・・・・その時は御願いします・・・・」

瞬の手が差し出されて硬く握手をした後、矢口達も部屋に入った


瞬達が入ってくる部屋と逆側の入り口で、丁度鷹男がひとみにちょっと来てくれと言ってる所で
梨華が心配そうにひとみを見ている時だった
943 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:08
二人が出て行くと

「梨華ちゃん、大丈夫、きっと最後だから、思いのたけを伝えようとしてるだけだよ」
「うん・・・わかってる」

藤本が慌てたように梨華に声をかけていた
それを見て思わず

「なぁ、石川、もしお前達が望めば、ここに残ってもいんだぞ・・・・
おいらは連れて行きたいけど・・・・やっぱ危険な事も多いしな
今回みたいに全員生き残れるとは限らないし」

藤本と石川が座っている後ろで間から矢口が声をかけると

「もうっ、矢口さんいい加減解って下さい、私達はもう仲間なんだから
そんな事聞かれると寂しくなっちゃいます・・・・それにもしここに
ひとみちゃんがいたら大変な事になってますよ、また矢口さんの胸倉つかんで泣いちゃうから・・・」

キッと矢口を睨んで言う梨華に、矢口は笑いながら

「そうだな・・・・ごめん、良かったあいつがいなくて
でもさっき言ったみたいになんか変な事になりそうでな、こんなにこの町の人たちが歓迎して
くれてるなら、お前達だけでもって、ちと考えちゃって、ごめんな」

そこへかおり達がおまたせと言って食事を運んできだして
蒔絵や若林、その他力也や辰雄等の兵隊達もやって来て賑やかになった
944 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:11
その頃鷹男は、家の門近くまでひとみを連れて来てあの時と同じ場所で静かに話し出した

「本当に行ってしまうんだな」
「あ、まぁ、最初からここは通るだけだったし」

なんとなく気まずくてひとみは逃げ腰のまま鷹男の端正な顔を見る

「お前のあのドレス姿、一生忘れないよ、それとここでキスした事」

ひとみは瞬間真っ赤になり、苛立たしげに睨んだ

「もし、ウチに今術をかけて同じような事しようとしたら、ぶち殺すからな、今度は」

瞬間鷹男が笑顔になって

「はは、怖いな、あんたの方が強いからな、きっと
でも・・・・俺忘れないよ、お前みたいな奴がいたこと」

「ったく・・・・ウチのどこが気にいったのか・・・なんか良く解んないけど
・・・あんたももっと思ったまま生きればいいんじゃね〜の?腹ばっか探ってないで」


「ああ」


鷹男が一歩近づき、ひとみは一歩下がる

「逃げんなよ、最後に一度お前の事抱き締めたいって思ってる・・・・
今言われたみたいに思ったままに行動してるんだから」

「そ・・・・そんな事は思ったままにしなくていんだよ・・・・たこ」

くくくっ、といつものようにバカにしたような笑いをしながらひとみの手を掴むと抱き締められた
945 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:13
「お前といると・・・・心がまっさらになるみたいで嬉しかったんだ・・・・
お前みたいに・・・・ありがとう、こんな気持を思い出させてくれて」

その時は、何も抵抗せずになすがままになりながら

「あ・・ああ、なんか解らないけど・・・・頑張れよ」

あの時や取引場所で見たひとみとは別人のように色気のない返事に

愛しい・・・

手放したくないという思いが込み上げ無言でひとみを抱き締めた



「そ・・そろそろ離してくれないかな・・・・矢口さん達心配してっかもしんないし」

少しドキドキしながらひとみが言うと、腕を緩めてひとみを見つめた


「好きだ」


素直な鷹男の眼がひとみの胸にささる


「ごめん」


そんな鷹男にひとみは素直に謝った


「くく・・・はははっ・・・・最後にいいこと教えてやる・・・・・
矢口さんは、あんたの事必要にしているよ・・・・間違いない」

謝ったまま鷹男の靴を見ていたが
ちらりと鷹男の眼を見ると、すごく澄んだ目をしてひとみを見て微笑んでいた

「・・・・ありがと・・・・じゃ・・・」

ひとみはどきどきしながら鷹男に背を向けた、背中に刺さる熱い視線を感じながら
946 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:19
ひとみが矢口達のいる部屋は賑やかに食事を始めていて
その中でもやはり矢口に眼がいく

なにやってんだよ、すげ〜ごちそうだぞ、早くいただこう 
と自分の隣の席を空けておいてくれた矢口に ぶっきらぼうに返事を返し席に着いた

ひとみは今まで、恋愛には慣れていたつもりだった
告白される事も多く、不特定多数の人とつきあったりしていたので告白なんて事は日常茶飯事で
最初に抱かれた時のように、今更ドキドキなんてしないと思っていたのだが
やはり矢口に本気になったと気づいてから、何とも思っていない鷹男からの
率直な気持を告げられた事でさえドキドキする気持が芽生えた

昔は好きになる気持をなんとなくばかにしていたのかも・・・と反省した
いい加減な自分に変化を与えてくれた矢口や
そんな自分を真っ直ぐな奴と言って好きになってくれた鷹男

今は変にすがすがしい気分になっていた

「何笑ってんだ、吉澤、早く食えよ」
「うっせ〜な、ちび、今から食べるんだよ」
「ちびっつーな、でくのぼうっ」

肘で小突きあうと、加護達から怒られ、かおり達からは笑われ

矢口とひとみは、少し前までの自分達の関係に完全に戻れたと思い、心の中でほっとしていた

ふいにひとみは、好きだと言ってくれている大切な梨華の様子が気になった
梨華に視線を移すと、藤本と仲良く話している姿が目に入る

藤本が梨華の事を好きならば
もちろん自分より藤本の方が強いし、いい奴なのも知っている

梨華には申し訳ないが、こんなに矢口に惹かれている自分ではダメだと思い
藤本がこのまま梨華を幸せにしてくれればいいのに・・・と願った
947 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:21
なごやかな食事の時間も過ぎ、興奮冷めやらぬ兵の人達との会話も弾んだ後
そろそろいくぞと矢口が声を出す

別れを惜しむ人達へ皆一人ひとり挨拶をし終える

若林邸の門をくぐり振り返ると、峰男や瞬、亮
かおりや蒔絵、鷹男・力也・その他の兵達が笑顔で見送ってくれる

「じゃあ、皆さん、色々ありがとうございました、これからも仲良く頑張って下さいね」

矢口が言うと

「こちらこそ色々ありがとう、是非また遊びに来てくれ、なぁみんな」

お〜っと兵達が声を上げる
六人と一匹が頭を下げて馬に乗ると、みんなが手を振ってくれた
ダックスへと続く門へ向かう間も町の中をみんなが手を振って送ってくれる


「なんか信じられないね、ちょっと前まではみんなウチらの事
敵を見るみたいに見てたのに」

馬に乗っているひとみが前に座っている梨華に話し掛ける

「ほんとだね、不思議だよね、人間って・・・・」

そして、夕方になってダックスにつき、また歓迎を受けた
また歓迎の宴をしてくれるという安倍家のもてなしに矢口が釘を指す

「おい、そこの三人、今日は飲みすぎんなよ、明日の朝早いんだから」
「「「は〜い」」」

藤本・梨華・吉澤は首をすくめて小さく返事を返す
948 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:23
夜もふけてごちそうと、酒が準備され、安倍家の中は賑やかな状態になっている
安倍が矢口の話を興味深げに聞いており、ひとみは何故か仙田から格闘談議を受けている
加護と辻はなつみと牢屋での事を振り返ったりと楽しい時間を過ごしていた

その中で、加藤が藤本を連れ出すのを群がってくる兵の相手をしながら梨華は見かけた



連れ出された藤本は笑顔で聞く

「どうしたの?勝」
「あのさ・・・・明日・・・俺もついてったらダメか?」
「は?」
「あの町に行くんだろ、俺もあの町の事、気になるんだ・・・・何か」

加藤の目は真剣だった

「でもさ、勝はこの町の為に今は色々しなきゃならない事があるんじゃない?
あの町には矢口さんが行ってくれるし、何か考えてるみたいだし
心配いらないよ、それにまだあの町にも合同軍の人たちが護衛してくれてるじゃん」

矢口さんの計画では入れ替わりになっちゃうみたいだけどさ
・・・と藤本の言葉に少し考えながら

「もしかしたら・・・俺・・・美貴と離れたくないのかもしれない」
「え?」

「お前とずっと一緒に戦ってて・・・・お前と一緒にいるのが
・・・・なんかすっげ〜心強くて・・・・」

「あ、美貴も心強かったよ、勝と一緒で」

笑って言った途端ぐいっと抱き締められた
949 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:25
「なら、ここに残れよ・・・美貴・・・・ずっと俺のそばにいろよ」
「え・・・・勝?」

思ってもいない状況に戸惑う藤本

「俺、美貴が好きだ・・・・ここに残ってくれ」
「ち・・・ちょっ・・と」



それから何も言わずにずっと抱き締められていたが


「ごめん」


静かに言う美貴の言葉で、加藤は腕を離す


「解ってる・・・梨華が・・・好きなんだもんな」

頷く藤本


一度唇を硬く結んでから、加藤は笑顔を作る

「何をしようとしてるか知らないけど・・・・・死ぬなよ・・・・
そして・・・・いつか無事な姿を見せてくれ」

「うん」

加藤は笑みを浮かべ藤本の肩をそっと叩くと屋敷へと向かっていった




その夜は、それぞれの想いを胸に静かに過ぎて行った
950 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:25



951 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:28
次の日の朝、安倍達の送別を受けた六人が
朝早い静かな町を抜けてダックスの門を抜けた所で待っていると
すごい音の集団が掛けてくる

「矢口ぃ〜っ、待ったかぁ〜」

「姉さんっ」「裕子さんっ」「姉御っ」

突進する裕子を突っ込む後ろの20人位の笑い声

「ほれ、見てみぃ、あんた達、この矢口のかわええ事・・・
あらら、あらぁ、そっちにも2人かわええのがいるやん」

矢口に向けていた目が
二人で馬に乗っている辻と加護を捕らえ再びデレッとした顔をしだす

「「お・・・おはよ・・・ございます」」

怯える2人

「ほら、早く行きますよ、中澤さんっ」
呆れるひとみは中澤に言い放ち梨華を乗せて走って行く

「またかい吉澤っ、お前ちょっと冷たいねん
ウチはあんたの命助けてやってんけどなぁ」

遠くでうっさいと言って小さくなるひとみ達を
まず加護達が追いかけゲラゲラと笑いながらみんなで追いかける




「矢口、一昨日言ってた兎族の子の一人が帰って来たんよ、面白いことがわかったで」

走りながら中澤が矢口に話し掛けると
矢口にも見えない速さで中澤の後ろに風と共にストンと人が乗って来た


「「!!!」」
952 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:30
裕子の服を掴んで笑いかける女性

「はじめまして、私は保田圭、矢口さんの事は
いろんな場所で聞いて興味があったの、会えて嬉しいわ」

「は・・・はぁ・・・よろしく」

矢口と藤本は、族の自分にも見えない速さで動いてた事に驚きを隠せない

「な、圭ちゃんかわええやろ、あんたの事みえへんで眼ぇ白黒させてぇ〜っ、もうっ」

でれでれしている裕子にあきれながら、保田は鋭い目つきで裕子に突っ込む

「裕ちゅん、病気だよ、そこまで来ると
それに兎族は早いのだけがとりえなんだからしょうがないでしょ、見えなくて」

「おいらにも見えないって、兎族って相当早いんですね」
兎族初めてなんですみませんと頭を下げる

「そうね、犬族の5倍は早いわね
だからいろんな場所に早く行って取材する事が出来るって訳
持久力も犬族とは比べ物にならない位あるしね、でもあなた達みたいな
戦う力はからっきしですぐやられちゃう、逃げる専門ね」

そうやって鋭い目で笑っている

「そんなもんなんですか、早く動けるならめちゃめちゃ強くなれそうですけどね」

矢口の呟きに中澤が笑って教える

「ウチらみたく色んな状況に瞬時に反応する力がないんや
走り出したら一直線、ただ突っ走るのみやねんな、圭ちゃん」

「裕ちゃん、それちょっとひどい、でも当たってるけど」

仲が良さそうな二人に矢口は笑う
953 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:32
「それで保田さんは今回どっちの方に行ってたんですか?」
「私はYの国の方よ、どう?知りたい?」

矢口は眼を輝かせる

「もちろんです、私達はそこへ向かって行こうとしてるんですから」
「それがな、この前矢口が言ってた事・・・・どうやら当たりっぽいのや」

矢口の顔は明らかに落胆の表情を見せる

「どうやらYの国が、近隣の国をどんどん襲ってるのは間違いないの
Yの国の向こうの国はもう制圧されたわ」

「やっぱり」

うっすらと見えている顛末に、矢口は悔しそうに言う

「それで、ウチらをあの町にやってどないしようっておもてんねん」

それを見て中澤が怪訝そうに問うと、矢口は真剣な声で伝える

「あなた達であの街を治めてもらえないかなと思って」

「はぁ?住んでほしい、助けて欲しいってそういう意味やったん?
あの町に何の関係もない矢口が・・・」

「はい」

迷いなく言う矢口に今度は保田が聞く

「なんで裕ちゃんなの?だって会ったのも最近なんでしょ?」

何か企んでるんじゃないの?という保田の視線

「だってあれだけの町を作った人ですよ、すごい人ってすぐに解る」

矢口は中澤の目を見ながら馬を走らせ、さらに
「そして、強い」と付け加える
954 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:34
中澤は前を向いて笑い出す

「ははっ、本当にそないおもてんやったら解るやろっ
ウチらは自分の町の事が好きやねんっ、あそこがウチらが生きる場所や」

「でもなか・・裕ちゃんは来てくれた、優しい人ですよね」

中澤の後ろで捕まっている保田は、不思議な思いを巡らせている
自分が前にクーデターが起きたMの国で取材していた時
町の人たちが口々に矢口は王様に逆らうような子ではないと言っていた

町の人達が、王族の付きの族・・・
兵で言えば軍のトップにあるその人物を
親しみを込めて「子」と言っていたのをその時不思議に感じたのを思い出す

なのに、その王族の兵隊からは、残虐非道の極悪人だという言葉しか出てこなかった
クーデターを起こし、王族を殺したのも矢口一家なら
兵隊を殺したのも矢口・・・・そして逃亡した

結局自分は、そばにいたであろう兵隊の意見を信じて新聞に載せたのだが
その極悪非道な人物は今目の前にいる

昨日中澤からシープの町の争いを聞いて
そして何故か中澤を連れて行こうとする陰謀の疑い・・・自分は間違っていたのだろうか

「あんたはウチらが族の集団やから近寄ったんやろ、それは他の国と一緒やんなぁ」
「そうですね」
「そして、そんなウチらを利用しようとしてんのも一緒やんな」
「はい」
「でもウチが不愉快な気分にならんのは、あんたの力やよ、矢口を信じてみよ思てん」

中澤はそんな矢口との会話を保田に聞かせるように言った
955 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:37
「そっか・・・・だから裕ちゃんは今まで
どこの国から誘いがあっても行かなかったのに今回は動いた・・・・」

保田が確認するように中澤に言った言葉に、矢口は複雑な表情を見せ

「保田さん、Yの国で何が起こってたんですか?」
「そうね・・・・裕ちゃんが矢口を信じるなら、話してもよさそうね
Yの国が兵隊を各国へ出動させて、近隣の町から攻めて行きどんどん支配下に
おいていってる、最近はFの国が標的になってるわ
Fの国も他の国から逃げて来た人や私達の新聞で情報を掴んでるから
最初から降伏したけどそれも無駄な抵抗みたいね
Fの国から人質のように連れて行かれた姫はもう殺されたって話だもの」

ずっと黙って三人の話を聞いていた藤本が矢口の向こうから口を出す

「あの・・・・じゃあMの国の姫は」

矢口が聞きたくても怖くて聞けない事を聞いてくれた

「Mの国・・・・Mの国とは本当に同盟を組むって話よ・・・・
でも、城で働いてる給仕の話では行方不明になったとか・・・」

「「行方不明・・・」」

「どうやら西からMの国、東からYの国が制圧して行って
やがて二つの国で全国を統治しようって腹みたい」

藤本が少し焦って言う

「じゃあJの国は・・・」
「それは今別の子が取材に行ってるからそれを聞かないと今どうなってるかは解らない
でもね両国のネックになっているのがあの三つの町の事・・・
族の多いこの地区が一番のネックになってるのは確かよ
だから今から行く町が三つの町を制圧する動向がYの国では注目されてた」

「「なるほど」」

矢口と藤本は同時に頷くが、矢口が言う

「おい・・・・大丈夫か?お前帰った方がいいんじゃないか?」
「・・・・・・」
956 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:40
「なんや、そっちの子ぉはJの国の子なんか」

「はい、藤本は、Jの国の一番端っこの町の最高司令官だったんです
でも面白がっておいら達についてきちゃって」

「知ってる・・・・貴重な猫族なのに唯一王族付きの族から地方へ飛ばされたって有名人」

保田が呟くと、藤本がいたたたと顔をしかめる

そして

「矢口さん、私はこのまま矢口さんについていきますよ
王子のいる町には族も兵も沢山いるし、地方は少ないけど・・・・
帰って何かするよりこっちですべき事がきっとあの国を救うと思います
・・・・まさかこんな事態が起こるなんて思ってもみなかったけど・・・・」

「ああ、おいらもただ姫を連れて帰る所じゃなくなってしまったようだ
・・・・行方不明なんて・・・・・」

沈んでいく2人の様子に中澤が渇を入れるように言う

「なんやのんっ、あんたらウチを巻き込んどいて今更弱音は聞きとうないで
まぁ、遅かれ早かれ巻き込まれとったやろけどな
ダックスやバーニーズは閉鎖された状態やからウチらの町の事は知らんかったみたいやけど
うちら結構有名みたいやねんっ
悪いはぐれの族や山賊が、他の国に情報流してるっつー噂やな、圭ちゃん」

「そう、私達の新聞には載せた事ないし
だいたい族の数が戦の勝敗を分けると言っても過言じゃないんだもの
私達の町は格好の標的よ
それに、王族はことごとく失敗してるけど
族との接触で能力の開花してる人間を集めたりしてよその国も必死だもんね」
957 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:42
矢口はそれを聞いてまたため息をつく

「矢口さん・・・・」

藤本が心配そうに見る

「どうして争うんだろうなぁ・・・どいつもこいつも」

中澤がそんな様子を見て顔を綻ばせ

「かわええなぁ〜矢口」
「裕ちゃん」

矢口に愛玩の眼を向けている中澤に後ろから保田がつっつく

「あ、はいはい、でもな、ウチらがいくら族が多いって言っても
その町にはまだ町民がぎょうさんおるんやろ、どうやってウチらの下につけんねん」

「あの・・・下っていうんじゃなく・・・・その・・・・
一緒に他の国に対抗出来るような基盤を作ってもらえれば・・・って思って」

あなたが少しずつあの町を作ったように・・・・と笑いかける

「ただの人間の町民やろ、戦う術も知らない人たちが
何年も訓練してる兵隊にかなう訳ない思うのが普通やわな」

特にYの国は軍事国って話やで、兵が一番えらいねんて・・・・と教えてくれる

「まぁ・・・でも自分達の町を・・・家族を守ろうとすれば
きっと力以外の何かが違って来ると思うんです」

「・・・・・綺麗事やな・・・・きっと矢口の言う事は理解してもらえんと思うで」

「でも中澤さん、矢口さんは実際、美貴の町の町民達を一丸とさせて美貴の兵達と連合させたり
あの三つの町をまとめたりしてますよ」

藤本がちょっと怒ったように言い、保田がその話を鋭い目付きで聞いている

「いや、あれはなるべくしてなった運命だよ、おいらの力じゃない」

冷静に矢口が藤本をたしなめる様子を見て、中澤はふふんと笑う

「へぇ〜、じゃあお手並み拝見させてもらおか、圭ちゃん」
「うん」

藤本に余計な事を言うなと囁いて、矢口は前を走っているひとみ達の所へ馬を進めた
958 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:44
ひとみと梨華の乗る馬の横につくとすぐに質問する

「そういえばさ、お前らあの戦いの中でどうだったんだ?」

誰がどこでどんな事をしてきたかなんかは、なんとなくみんなで話した事で把握していたのだが
ひとみ達は元々ただの町民で、戦うなんて考えたことのない子達だったと思い出した

「どうってなんだよ」
「いや、そのあれだけ兵隊がいてさ、怖くなかったかなって・・・・ちゃんと戦えてたのかなって」
おいら見てなかったから・・・・と少し悲しそうな矢口

昔は、戦う必要がないと言って何も教えなかったのに
なんだかんだで戦闘に巻き込んでしまった手前、余計気まずくてごちょごちょと言う

「私は、ずっと美貴ちゃんが守ってくれてたから怖くは・・・それに必死だったし
・・・・自分の見える範囲の人を撃ってただけです」

「ウチは・・・・どうなんだろ、そん時は怖・・・くはなかったかも
・・・よくわかんないけど生きてるからなんとか戦えてたんじゃない?」

後で考えたらもの凄く怖くなったけど・・・・とはひとみは言えなかった

「こんな事になるなら、もっと早く色々教えておけばよかったな・・・・」

「どうしたんだよ、ちびらしくない・・・・ウチら、結構楽しいよ
色んな事が毎日起こって・・・・そりゃ不安な事も一杯あるけどさ・・・ね、梨華ちゃん」

「うん・・・・私・・・・なんかここ何週間ですごく強くなった気がする
・・・・強いって・・・力とかじゃなくて・・・なんか生きてく力っていうか・・・」

「ああ・・・石川はほんと最初は絶対一人じゃ生きてけない感じがしてたからな
・・・・でも、案外逞しくて・・・そうだな・・・・おいら達についてこなかったら
今頃どうなってたのかな・・・・」
959 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:46
梨華とひとみは前後で顔を見合わせる

「ちび・・・・おかしいぞ、何か不安な事でもあんの?」

ひとみの問いには首を振るだけで何も答えず
今度は先頭は自分達だぞと追い越していった加護達の馬に近づいて行った

「どうしたんだろうね・・・・なんかいつもの矢口さんらしくないね」
「うん・・・・・・まさか・・・また白い世界に」
「まさか、ちゃんと帰って来てくれたじゃない」

振り返ってひとみを見ると、悲しそうな顔をしてひとみは前をむいていた

「う・・・うん・・・・でもさ、なんか・・・・消えちゃいそうなんだよ・・・・あいつ・・・・」

梨華は鞍を掴んで言う

「・・・じゃあひとみちゃんが消えないようにしっかり捕まえとけばいいよ・・・・」

梨華の肩口から覗き込む

「え?」
「きっと矢口さんの力になれる・・・ひとみちゃんなら」

のぞいた梨華の横顔は淋としていてとても強い感じがした


「・・・・・・」
960 名前:dogs 投稿日:2006/09/05(火) 21:47
その頃藤本が中澤に話し掛けていた

「中澤さんは、矢口さんが今から何をしようとしてるのか解ってるんですか?」
「そうやなぁ・・・わからへんなぁ」

矢口がいたときと違って、冷静な顔になっている中澤に気づく

「意地悪ですね、中澤さんは」

それを聞いてた保田が笑っている

「そや、それ知ってあの子はウチを頼ってんねん」
「・・・・ええ」

藤本は中澤を怖いと思いだしていた、何か底知れぬ怖さをこの人から感じる

「あの子は変な子ぉやな・・・・自分の事は嫌いやねん・・・・周りの人の事は大好きなのにな」
「・・・・・・確かに」

少ししか会っていないはずなのに・・・・何故そんな風に思うんだろう
藤本は今言われてから、そうかもなぁと気づいたのに

「あんたの言う通り、ウチは意地悪やねん、苦しんでもがいてる子ぉ見ると苛めたなんねん」
「裕ちゃんっ」

保田にたしなめられる

「なァ圭ちゃん、かわええやろぉ矢口」

冷静な顔をまたデレデレさせて、保田は肩をすくめてため息を吐いた


またある意味で中澤は怖い人だと藤本は思った
961 名前: 投稿日:2006/09/05(火) 21:47
今日はこのへんで
962 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 00:06
更新お疲れ様です。
いろんな意味でさすが裕ちゃんですね。
それにしても・・・兎がこれほどに合わない人もw
・・・・どう見ても獅子ry
ってそれはおいといて、続き楽しみにしてます。
963 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 02:16
更新お疲れ様です。
裕ちゃんの活躍が楽しみです!
964 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 15:06
ほんっとに裕ちゃんはミニモニ大好きですねw
それとは別に、裕ちゃんの凄みが感じられてイイです
965 名前: 投稿日:2006/09/07(木) 00:14
962〜964:名無飼育さん
 レスありがとうございます

裕ちゃんかっこよくしたいんですよね〜
しかし圭ちゃん・・・・兎似合わないっすか(ry (^^)
疲れる文章で申し訳ありませんが、まだまだ続きますので
たまに覗いてやって下さい
966 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:18
昼には旧Eの国の王都に着く
藤本の言う通り死んだ町・・・まさにそんな感じだった

しかし、誰も歩かない町並みの中で
集団で馬に乗っている人たちの中に藤本がいる事によって、何人か近づいて来る人が出て来た

「藤本さんっ」

近づいて来た数人の中年の女性に馬から下りて話し掛ける

「どうですか?あれから青の軍や山賊達は来ましたか?」
「いえ・・・・加藤さんや若林さん達が置いて行って下さった方達が
定期的に見回ってくださってるのでなんとか無事です」

東条の残党ももういないって聞いたんでみんな少し落ち着いてはいますが・・・と言葉を濁らせる

「そうですか、それで少しは皆さんで話し合っていただけましたか?」
「・・・・・・・・それは・・・・」

一行がその様子を馬上から見つめているのが怖いのか
その女性は小さく震え出す

「まだ皆さんは、外に出るのが怖いんですよね、解ってます・・・
大丈夫ですので無理しない程度に時間を作って真剣に話し合ってみて下さい」

また食べ物を城に皆で取りに来るとか話してみては?と言うと
女性は頷いてそそくさと家に入って行く

「話通り随分怯えてるんだな・・・ここの人たちは」

矢口が近寄って言う

「そうですね・・・どれくらいの割合で
兵に連れて行かれてた人たちが戻って来てるのかはいまだにわかりません」

「青の軍の人たちも帰って来てるだろ、きっと」

「そうですね・・・でも美貴達が二日いた位じゃ・・・
しかも人数的にも少なかったんでとても一軒一軒見回る事はできませんでしたから」
967 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:20
そのやりとりを聞いて中澤が口を開く

「ウチはしんきくさいのは嫌いやねん・・・・
矢口がウチをここに連れて来て何をさせたいか知らへんけど、ここに暮らしてもええなぁと思わせる
何かがここにあらへんと、とても住む気ぃにはならへんやろ、自分らだって」

「まぁ・・・そうですよね」

矢口もそう頷き、ひとみたちもうんうんと頷く

その時、合同軍の人物が近づいて来る

「藤本さん、矢口さん、来てくれたんですか」

自分達もそろそろ帰ってここをどうするか
若林様や安倍様に相談しようって言ってた所なんですよと続ける

「ご苦労様です、それでどうです?少しは町の人たちは協力してくれるようになりましたか?」

矢口がそんな兵に話し掛けた

「はあ・・・・まぁ、いたる所にあった死体なんかの処理は
こちらから言えば手伝ってくれたりしますけど・・・・
何か、まだかかわりたくないって感じで」

「そうですか・・・・・自分の町の事なのに・・・」

矢口が呟く

「とりあえず、城に案内しますよ、すごい贅沢ですよ
東条ってのはそうとう悪人ですね」

「お願いします・・・あ、藤本は知ってるんだよな」
「ええ、梨華ちゃんも知ってますけど、豪華ですよ、あの城は」

梨華も頷き、城へと歩き出した
968 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:22
もちろん中澤達もついて来るが、中澤達はきょろきょろと辺りを見回し不機嫌そうだ

「東条というのが、どないな悪人か知らんが・・・・こんなに色々揃ってんのに何の不服があんのやろか」
戦争なんか起こして・・・・と呟く

「ですよね姉御」と仲間も見た事もないような町の建物を見て頷いている

矢口がそれを聞いて微笑んでいるのをひとみは不思議がる

町並みを抜けて到着した城の外で馬を降り自分達で馬場に連れて行ってから
城に入るとひとみ達は驚く

「すっげ〜、まさにお城って感じだな」

吹き抜けの広い場所で全員がぐるりと見上げた

「お部屋も豪華だったよ、いっつもお風呂が沸いてるの」
どうやってお湯が沸いてくるのか不思議なんだよと威張り

「へぇ〜」
と梨華の言葉にひとみと加護と辻は口が開いたままである

「今ここに青の軍は?」

矢口が聞くと、藤本が答える

「いません、残っていたじいさん達は、抵抗して来た人を
バーニーズの族の兵が一人やっつけたらあっという逃げていきました、
そんな馬鹿達がこの町をこんな風にしたなんてムカついたんで
みんなでここを合同軍の宿舎にしようって乗っ取っちゃいました」

ここを侵略しに来たみたいじゃんか・・・・と藤本は矢口に怒られるかと思っていたが
矢口は中澤を見ていた
969 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:24
ニヤリと笑った中澤が、ふいに自分を見上げている矢口を見下ろして

「じゃあ矢口、ここにウチらが住んでええねんな」
「まぁ・・・そういう事になりますね」

聞いた途端またしても矢口に抱きつき

「もぉっ、敬語なんて使わんでええねん、もっと親しげにしてや」

がっくりする中澤の町の人達

「んじゃ裕ちゃん、上見てみようよ」
ひとみがまた間に入って言うと中澤が怒る

「あんたは敬語つかってや、年上やねんからちゃんと敬わなな」
「ウチも矢口さんと同じじゃん、全くばばあのくせにでれでれしやがって」

中澤について来た族達の顔がひきつって後ずさった

「「わ〜い、おばちゃんおばちゃん」」

加護達が面白がって言うと、さすがに矢口もやばいと思ったのか
止めに入ろうとした時、殺気に気づいた二人は
痛い体を無理して力を使って広い城の中を逃げ出した
が、螺旋階段を上っていった所で捕まったのだろう「痛〜い」と叫ぶ声が聞こえる

「あ〜あ、裕ちゃんまじギレだわ、ありゃ」
「あっぶね、まだウチは中澤さんの事はっきり見えね〜わ」

ひとみがほっとしているのを梨華も矢口も微笑んで見ていたが、藤本だけは難しい顔をしていた
970 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:28
「おいら達も上に行ってみようか、一体ここは何階建てなんだ?」
そんな藤本に矢口が問いかけ階段を登り出す

「10階建てですね、とにかく見た事ない技術が沢山使われたお城ですよ」
さすが昔、時代の先端を行った町ですね・・・と渋い顔

「せやなぁ、建築の技術はたいしたもんや・・・・
それに町の作り方もなかなかやな、よぉ考えられとる」

再び表れた中澤が矢口に笑いかけると小さく呟く

城を中心に建てられた家々・・・・町を囲む壁はないものの地平線の辺りには
見渡す限りの畑のようなものが見え、
山賊や侵入者とかが入ってくればすぐに解るようになっていた

町に来て暴れる位なら、少し位畑から持ってってもかまいませんよ
・・・・という事で結果的にこの町の中にむやみに入る事はないそうだ

藤本の話によると、畑には等間隔でバーミンが設置されており
族の見えない人も近くにいる事を知る事は可能みたいだ

「せっかくいい町なのに・・・・もったいない」
「んで、どないしたいんや」

意地悪に顔を覗き込む

「じゃあ、とりあえず皆はここで休んでもらって、裕ちゃん、散歩にでも行きませんか?」

会議室のような場所を見つけて皆をそこへ入れゆっくりしてたらと促す

「おっええなぁ、デートかいな」

けらけらと笑い出す中澤に、ひとみは渋い顔を投げかけると

「ウチも行きます」
「なんでや、デートは2人っきりがええねん、なぁ矢口」
「え・・・あ・・・うん」

ふふんと、ひとみに勝利の笑顔を浴びせるとひとみは口をへの字にして黙った
971 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:31
まぁまずゆっくりしよかと中澤が言い、東条と加藤達が話し合いをした場所で
城の見取り図を囲み宿泊場所の取り合いや中澤の町の人の紹介やらを始めた

とりあえず皆協力してくれるようで
陽気な族達の特技合戦やらで賑やかになった所で
さっき会った合同軍の人が仲間を集結させてきた

若林や安倍には事情を話してあるので帰ってここの実状を報告して
ここから何か言って来たらまた援助をよろしくと頼み
この町には中澤達がしばらくいてくれるから安心して帰るよう促すと
簡単な引継ぎをしていくと帰っていった

その後矢口がひとみや藤本にも町を見回るように伝えると
しぶしぶ馬に乗って出かけて行く

中澤も連れて来た族達に、ちょっと散歩してき と伝えた

みんなが出て行ってしまってから矢口は加護達を寝かせ
勘太にちゃんと見張るように言うと、中澤と共に歩いて出かけた

城から町へと出てくると誰も歩かない町の中を
2人は周りの家から覗いてくる視線を気にしながら話し出す

「今日はええ天気や、田んぼで働いたら気持ええやろなぁ」

あまりに似合わない言葉を中澤から聞き驚く

「なか・・裕ちゃんも田んぼに出るの?」
笑顔で矢口が聞く

「ああ、もちろんや、自分の食べるもんは自分で作らんとな」
優しく笑って答える

「そうだよね・・・・」

少し微笑んで、死んだ町の中を見回す矢口に
ゆっくりとした口調でつぶやく


「あんたはさ・・・・どうやって生きていきたいん?」


ハッとして矢口は中澤を見上げた

「・・・・どうっ・・・・て」

俯いて何も言わなくなる
972 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:34
「自分が族で生まれたんは、もう変えられへんのやで」
「そ・・・そんな事は・・・・わかってます」

にやっと笑って中澤が続ける

「あいつ・・・・吉澤がな・・・・・ウチをちっちゃいおばはん言うたんや
・・・・・初対面のウチに向かって」

何故か矢口はそれを聞いて可笑しくなる・・・・自分にはちびと言う吉澤の事を思い出して

「それにな・・・・あいつ・・・・でっかい奴を知ってる・・・って
ウチが首にナイフを突き刺して、今にも殺されるという時に言うた・・・・
ウチとは違う本当にでかい奴・・・・それって矢口の事やろ」

「・・・・・・・・」

「矢口の力以外に・・・・そう言った吉澤がすごく輝いて見えてな・・・・
そんな吉澤の言葉におもろいなって思ってついて来てみたんや・・・・
ウチはおもろい人生を歩みたいからな」

不思議な魅力を持つ人物に、なぜかホッとさせられた

「そうですね」
「もうっ、敬語はいややっちゅ〜たやん」

途端にいやいやのポーズをしだす中澤に笑みがこぼれる

「裕ちゃんは・・・・自分を怖いと思った事・・・・ある?」

弱い矢口の視線を受け、フッと中澤が笑うと

「あるに決まってるやん、みんな言うで、裕ちゃん怖いって・・・・・
やけにみんな姉御だの姉さんだの言うし」

自分の欲しい答えとは違っているが
しばらく拗ねた感じで話す中澤の顔をみてから中澤を優しい視線で見上げて言う

「・・・・ありがと」

きっと中澤は、質問の意味を解った上でこうゆう茶化した言い方をしているのだと矢口は思った
973 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:35
「なんやのん・・・・何でありがとやのん・・・・
でもかぁええなぁ〜、ホンマ・・・・」

そう言って近づいて来て歩きながら後ろから抱きつく

「や・・・やめ・・・」
再びジタバタする矢口を離さずに頬擦りすると

「だあっ、やめろってば」
「ええやん・・・減るもんじゃなし」
「だぁ〜っ、さわるなっつーの」

嫌がりながらも、矢口の声は嬉しそうだった
中澤が体を離したと思ったら、優しい顔をして言われる


「あんたの思う通りしてみぃ」

「え?」
急に言い出した事で矢口の顔から笑顔が消える

「だけどな、あいつらの事大切に思ってるなら、ちゃんと話さないとダメやで」
「・・・・・・」

視線を歩く先へと向け、少し俯いてしまう

「ウチの町のみんなはな、よその町で受け入れられへんかったけど
一般的に思われてるような悪い族達とはちゃうで
多少気は荒かったりする奴もおるねんけど、本当は優しい
そして孤独な寂しい奴らばっかやった、もちろんウチもな」

でも今はみんな陽気でめっちゃおもろいやろと笑う

「・・・・うん」
974 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:38
「あいつらがここに住みたいといえば、ウチかて考える
あいつらがいやだと言えばやっぱりあそこでひっそりと暮らす
あそこもな、のんびりしてええとこやねんけど、やっぱ人が少ないと寂しいし
自分達だけじゃ作れないもんや足りない物も多いねん、圭ちゃんに取材に行った先で
色々買い物してもらったりしてるけどな・・・・
そして自分の思いは自分の口からみんなに伝えるし、聞きたいねん・・・・仲間やから」

「・・・・・うん」

歩きながら静かに話しを聞いている

「そやから、一人で旅立つとしても、皆で力合わせてこの町を救おうとするにしても
・・・・ちゃ〜んとあいつらに話してやり」

矢口が中澤の顔を見ると優しく矢口を見ており

「あいつらは矢口がめちゃめちゃ好きなようやしな、悲しませたらあかん思うで」
「・・・・・・うん、ありがと」

矢口の顔から、今までのような張り詰めた物が取れたように感じられると中澤が話し出す

「よっぽど怖いめぇにあってんやなぁ、ここの町の人たちは・・・・・
今後どうするつもりなんやろなぁ」

「そうだね・・・・でも
最近までは普通に商売とかしてた家もたくさんあるよ、ほら・・・・・」

あんな道具見た事ないよね
と感心しながら金物屋と思われる店を指差して言うと

「かわええなぁ〜矢口」

矢口の頭をなで出す
975 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:40
「ま・・・ま〜たっ、裕ちゃんってば」
「せやな、最近迄はきっと普通の町やってん
この町も・・・・・誰かが狂わせてしもたんやな」

矢口は中澤に触られていた手を掴んで離すと




「おいら・・・・・Yの国へ行こうと思って・・・
今までみたいにのんびりした旅でなく、出来るだけ早く・・・・
その為には・・・やはり一人がいいかなって」

「そうか」

そのセリフを待ってたよとばかりに優しく頷く

「おいら吉澤から裕ちゃんの話聞いた時・・・・ピンと来たんだ・・・・・
あいつらをまかせるのはこの人しかいないって・・・・」

ひとみや安倍から色々聞いていたら、不思議とそう思い出していた

「会ってもないウチにか?」

「うん・・・・・まったくのカンなんだけど・・・・会って・・・・
やっぱりこのカンは合ってるって自信持ったよ」

「そりゃどーも・・・・でもな、何度も言うけどあいつらは矢口が好きなんやで
・・・・この町が好きな訳やない、あいつらが矢口を一人で行かす訳ないけどな
あいつらが守りたいんはこの町の人じゃない・・・矢口や・・・・・
ウチはそういう風に思うけどな」

矢口は口を半開きにして中澤の言葉を聞いていたが
やがて口を真一文字に結び

「おいらも・・・・あいつらの事大好きだから・・・・だから・・・・
姫にはおいら一人で会いに行く・・・勘太を連れて」

「ま、話してみ、そんなんで納得してくれるかな」

それからは、まとわりつく中澤に終始突っ込みながら遠くまで歩いて
違う道からぐるりと廻って城へと戻った

町の人たちはその様子を影から眺めてる気配はあるものの
まだ外に出て来て何かしようという気にはならないらしい
976 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:43
城に戻って豪華な加護達の部屋には既にみんな集まっていた
ベッドには加護と辻が寝ていて、辻のそばには梨華と藤本、加護のそばにひとみがいる
どうやら加護辻は、さっき無理して体を動かした為に気分が悪くなったようだ

五人は矢口が部屋に入って来た時に、元の矢口に戻ったような気がしていた
白い世界に行く前の矢口に・・・そして
ひとみの隣に来て、矢口が今の自分の気持を言うと
やはり皆反対した、とくにひとみがまた掴みかかる

「おいてかねぇっつったじゃね〜かよ」

興奮した口調のひとみに対して冷静に言う

「置いて行くんじゃないよ、様子を見に行って来るだけだから帰って来る、出来れば姫を連れて」

「じゃあ、どうしてこの町に来たんだよ、意味ね〜じゃんかよぉ」

「そうですよ、美貴は矢口さんが
この町に来るはずのYの国の人達と接触して、姫の居所を探るのかと思ってた」

「それも考えた・・・・でも・・・姫が行方不明・・・・
それを聞いてじっとしていられない・・・・だからこれから昼夜問わずに走って
すこしでも早く姫の近くに行きたいと思った・・・・・・
だから・・・・加護達はまだ怪我も完治してないし、吉澤と石川には体力的に無理だろう
ここの町だってまだまだ心配だし、そして・・・
藤本にはそんなこいつらの事を頼みたい・・・・・だから一人・・・」

この町の事もなんだかほっとけないしなと笑う

「わかんね?よ、ぜんっぜんわかんね?」

つかんでいた肩口を離してひとみは呟く

「「親びん」」
977 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:46
悲しそうにする加護と辻、そしていらついてるひとみに梨華が静かに話し掛ける

「私はわかるよ・・・・矢口さんの気持・・・・・なんとなくだけど
・・・・きっと矢口さんはこの町にFかYの国の刺客が来ると思ってる
だけどこの町にはそれに対抗すべき兵も、交渉出来る人材もいない
瞬さんやなつみさん達にはこれからあの町をガッチリ固めてもらう事に
集中してもらった方がいい、中澤さんを連れて来たのは
私達では圧倒的に人数が少ないし、中澤さんのリーダーシップに
惹かれたからだと思う・・・・・それに・・・・
やっぱり好きな人が危険な目にあってると思えば
やっぱりすぐにでも駆けつけたい
その気持は・・・・私にも解るから・・・・・だから矢口さんを信じて
・・・・ここで私達に出来る事をしながら矢口さんを待つのも仲間かなって」

優しい顔をしてひとみに諭すようにして言う

「石川」
矢口がそんな梨華をありがとうという眼差しで見る

「「親びん」」
まだ何か言いたそうにしている二人にも

「加護、辻・・・・お前らの体が良くなってくれないと心配なんだよ・・・
おいらの家族はお前らしかいないんだから・・・だから今回はここで待っててくれ」

「ウチはついてくよ、絶対」

加護達に話し掛けている矢口にひとみは言う

「無理だよ、寝る事も食事も最小限で走ってくし、山賊や族に襲われても
相手にしないで逃げるようにするんだぞ、悪いがお前じゃついてこれない」

「でも、力を使って走るのは体力的に無理なのは矢口さんにも解ってるんですよね
馬で走っても馬だって生きてるんだし、少しは休ませないと
それならよしこを連れて行くのは無理な事じゃないでしょ」

「美貴・・・」

思わず藤本が味方をしてくれる事が意外でならないひとみと・・・考え込む矢口
978 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:47
「美貴ちゃん」

藤本はそう言って悲しそうな顔をする梨華に向かって
ごめんねと謝るような視線を送ってから言う

「この町に来るかもしれない王族の残党とか刺客は美貴が見極めます
ちゃんとこの町の人達を守ってくれるような人物か、もし東条のようなひどい仕打ち
ばかりする王族なら、美貴が何としてでも支配を阻止します・・・・
中澤さんにも手伝ってもらえるよう努力します・・・だから・・・・
よしこを連れて行ってあげてもらえませんか?
それに、姫の情報が何か解った時には、すぐに追いかけますから・・・・」

「藤本・・・・・」

矢口は藤本の強い視線についに頷いた

「じゃあ・・・・吉澤・・・・ついてきてくれるか?」

ひとみの顔が瞬時に嬉しそうな顔に変わり力強く頷く

「もちろん」

矢口は複雑な表情をしながら梨華へと視線を向ける

「石川は・・・・それでもいいのか?」

向けられた視線に、一瞬戸惑って俯くが
一度藤本の励ますような顔を見てすぐ笑顔になり、矢口にすがすがしい笑顔を見せる

「ええ・・・・だから姫を・・・・ちゃんと見つけてあげて下さい」
「・・・ああ」

梨華の眼差しに眼を瞑って頷く
979 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:49
「矢口さん・・・くれぐれも、無茶だけはやめて下さいね」
「解ってるよ、藤本」

「親びんっ、絶対・・・・絶対帰って来てね・・・
親びんがいないと生きていけないんだから」

「せや・・・もし・・・・帰ってきぃひんかったら一生恨んでやるで
・・・だから・・・・姫を・・・・連れて帰ってな・・・・」

優しく笑って加護の頭を撫でると、ののにもと言って辻が拗ねるので
ベッドを回りこんで辻も撫でてやる

「じゃあ・・・行くよ、吉澤」
「ええっ、もう?」

皆も驚くが、ひとみの口からすぐ言葉が出てしまった為

「やっぱ残るか?」
矢口が少しからかうように言うと

「まさか、じゃあ今までの荷物はいらないか」
「そうだな・・・食料も最小限でいいし、水も途中にあるだろうからいいだろう」

早々に準備をすまし、矢口はまず中澤と保田のもとに行き
知りたい情報を聞き出すと、下へ行き、丈夫そうな馬を選ぶ

武器庫で弾を補充し、真剣に剣を選ぶ矢口は
ひとみに合いそうな短剣を見つけるとそれを渡す

何度も、矢口達に心配の声をかけるみんなに、わかったわかったと相槌を打ち
加護は藤本、辻は梨華に支えられて門まで見送る
980 名前:dogs 投稿日:2006/09/07(木) 00:51
「じゃあ藤本・・・頼んだぞ、それと裕ちゃんの事・・・信用していいと思う」

馬上から矢口が元気に言う

「はい」

「それと石川・・・・お前の力を生かして・・・町の人たちの心を癒してやれよ」
「はい」

「加護・辻、いい子にしてるんだぞ」
「「はい」」

「じゃあ行ってくる」
「あっ、矢口さんっ」

加護達の返事に頷き行こうとする矢口に藤本が声を掛ける

「なんだ?」

さぁ行くぞとばかりに足を出そうとしていた矢口が振り返る

「必ず・・・・・必ず二人で生きて帰って来て下さい」

四人の真剣な眼差しに矢口とひとみは微笑む

「ああ」「うん」

力強くそう言うと

「じゃあ、行って来ます」

矢口はひとみに眼をやり、ひとみが頷くと馬を走らせ勘太も同時に走り出す
ひとみも矢口についていこうとするが、一度止まって梨華に眼をやる

「ひとみちゃん」
「梨華ちゃん・・・・行ってきます」
「うん・・・気をつけてね」

頷いてひとみは矢口を追った
981 名前: 投稿日:2006/09/07(木) 00:52
今日はここ迄
982 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:02
矢口の走らせる馬のペースは速く、ひとみは追いつくのにしばらくかかる
勘太も必死のようだ



矢口はそれ程焦ってる

それは姫がとても大切で心配だから



解っている事実だとはいえ、そんな背中を見る度に
必死に追いかけるひとみの胸には痛みが走る

途中声を掛けてくる元青の軍らしき山賊達も無視し
自分達をめがけて発砲して来ようものなら、矢口は容赦なく山賊達を撃った
銃の腕は確かなひとみも走らせながらも的確に山賊を撃っていた


そして夕方・・・半日も走ると村が見えてきた

矢口は馬を走らせる速度を緩め
関所の見張り兵に見えない位の所で矢口が振り向いた

あまりに早く走らせてた為、もう半日口を聞いていない

「吉澤、保田さんに言われたんだが、こっから先はおいらの事矢口とは言うな
どうやら懸賞金が掛けられてるらしい
面倒な事になって遅れると困るんでな、ほれ通行証」

各村の関所で出す通行証は、M.J.Eの国の用紙(本物)に
元々藤本がやっていた事をもとに本物そっくり、いやまさに本物を作ってくれた
983 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:07
薬商人を装う為、籠のようなもの
・・・もちろん城にあったよくわからないが見た目効きそうな薬を詰めて
背中にからっていた

馬上で籠を下ろし中から紙を出し吉澤に渡す

「いや〜、良かったよ、藤本と保田さんがいてくれて」

保田が流した新聞でこんな事になってしまったのを保田に詫びられるが
矢口は気にしなかった、それに地図や町の情報も教えてくれたので
渡された通行証を見ている吉澤の前に地図を広げ
今ここらで、ここへ向かおうとしていると指差して説明する

矢口が中澤や保田と話しをしている時には
あまりの展開の速さに頭がついていけず
ただその様子を眺めていただけだったのを矢口は見抜いてたんだろう

いや、姫の現状が、様子を見るという旅の展望から救出へと転換し
矢口が自分の運命を全うしようという姿にただ見惚れて、
矢口をぼーっと見つめていたのを気付かれていたのだろうか
そう思うとひとみは自分の情けなさに少し落胆する

Mの国からのお遣いで、ダックスら三つの町を通らない道から来た事にし
名前は矢口が"白鳥真里"、ひとみが"与謝野やよい"という設定

矢口はMの国の元兵隊である・・・新聞で有名になったその事実に
あえてMの国からのお遣いとしたのは、
Yの国がMの国とどうやら同盟を組むという保田の情報からと
矢口特有の勘・・・・それ以外の理由は無かった

「一度Yの国に入れば、王都へは結構行きやすいらしいよ
商人の行き来が激しいらしいから商人装えば簡単だって
だからこの名前は入る迄の名前だな」

・・・・となんだか照れくさそう

「与謝野・・・・やよい?」

「そう、なんか閃いたってさ
藤本が、よく話してた合同軍の人の名前をくっつけたみたい」

お前のに頭使って疲れたからおいらのはめんどかったんだとさ
馬鹿だろ?と振り返って笑いながら言う

「じゃあ、呼び方は真里でいいかな」
「え・・・あ・・・ああ」

一瞬矢口がドキッとする

下の名前で呼ばれるのは、両親と祖父位だったので
多少戸惑うが、ひとみがそう呼びたいのなら別にかまわない

ひとみも、少し照れくさかったが
そう呼ぶ以外ないと思ったので素直に言ったまでだった
984 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:10
「あ、そうだ、腹減ってないか?金は俊樹さんがくれたんで結構あるから
入ったらこの町で何か食って行くか?」

もう夕方だしと笑った

「急ぎたいんだろ、何か馬に乗ったまま食べられる物を買って
馬が走らなくなったら食べようよ」

「ん・・・・そうだな」

矢口はひとみに笑顔をむける

族対策なのか、旧Eの国の王都と違ってがっちりとした高い塀が現れる

緊張しながらも通行証を見せると、まだ同国の範囲のせいか
はたまた本物の王家の通行証だからかすんなり入れてくれた

田んぼや畑が所々に広がり、牛や鳥等家畜を飼っている家が多そうだ
しばらく馬を走らせその村の中心部の市場らしき場所に来ると
馬を引き、歩きながら持ち運びしやすそうな食べ物を探す矢口達

そこに2人組みの兵隊らしき人達が遠くから馬に乗ってやってくるのが見えた
ひとみ達に向かって近づいて来ているのが解る、そばにいた勘太は遠くへ隠れる

「お前らどこへ行くんだ?」
「はい、Yの国へ向かってます」

矢口は笑顔で答える

「名前は?」
「白鳥真里です」
「そっちは」
「与謝野やよいです」

持っていた通行証を見せる

2人の兵隊がこそこそと話している
 違うんじゃないか? 6人組だろ噂によると 等と話している
985 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:12
「有名な族の町や旧Eの王都は大変な騒ぎらしいじゃないか
そんな最中に旅するなんて珍しいな」

「はい、Mの国の貴族様の親戚の方への薬を届けろとの事で
私達もこんな世の中二人で旅するのは嫌だったんですけど命令ですから、
それと戦?遠目で見ただけですが、すごい騒ぎで大変そうでしたけど
そんな中だったからすぐそこで彷徨ってる馬がいて助かりました」

「じゃあその争いを見てたんだな、お前ら」

興味ありげに聞いて来る兵隊に、矢口達が戸惑いながら頷くのを見て兵達も頷きあい

「ちょっと来てもらおう」
「あの・・・急いでるんですが」

慌ててひとみが言うと

「ちょっと人に会って行って貰うだけだ、時間はとらせない」

苛立たしげに答えた

「しゃ?ない、いくかよし・・・・・よっすぃ」
「あ、ああ真里」

なんだよ、よっすぃって
お互い慣れない為に二人共心で突っ込んでいた

村の中心部に連れて行かれる様子を村人は軽く兵に頭を下げながら見ていた
最近こんなのばっかだなぁとひとみは矢口の背中を見ながらついていく

ここはのんびりした村らしく、兵隊の数も少なそうだ
勘太も出て来て大丈夫なようだったので
共に中心部の中で少し大きい屋敷の中に通される
986 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:18
「Mの国から来た旅の者を連れてきました、争いの中を通って来たらしいです」

のんびりと椅子に座っている老人が振り向く

「何、それでその者達、どんな様子だった」
「どんな様子・・・って怖かったですけど」

矢口は怯えた表情で言う

「そんな事じゃないんたよ、加賀はどうしたか知っているか?それにあの族の町の事」
「加賀さんなんて知りませんし・・・族の町・・・ってあの閉鎖された町の事ですか?」
「ああ、何も知らないのか?」

呆れるように言う

「だって・・・あの町は通りませんでしたし
山越しの遠目でしたけどすごい人数が戦ってるのかなぁというのを見た位で何も」

実際遠回りした道から見えるのかさえ解らないのだが
とりあえずそう言っておけばいいんじゃないかとの適当な言葉

「まぁ・・・確かに女の子2人じゃ怖かっただろうが
・・・・じゃあ矢口とかいう逃亡者の事は?」

Mの国から来たくせに知らないのか?と聞くその顔は
役立たずだなぁと言わんばかり、その問いに

「「ぜんぜん」」

2人は首を振った

「そうか・・・じゃあ気をつけて行きなさい
矢口という名前を聞いたらすぐに逃げるんだぞ
どうやらどんどん仲間を増やしてるらしい」

「はい、わかりました、じゃあ」

くすりと笑って、なんとかごまかせた事にほっとした二人

そんな二人に
もう夕方なので食事して行きなさいと言うのでお言葉に甘えるか
と勘太共々いただいて、しかも泊まっていけばというのを丁重に断り屋敷を出た

その食事の間、この村の事を聞くと、最近Yの国からの使者が良く行き来して
色々情報をくれるらしい
小さい村な為、王族とは関係なくのんびりと暮らしている村なので
王都の争いの後、何か争いに巻き込まれやしないかという事で警戒しているだけのようだった

山賊も加賀のおかげか最近は減ってきて
最近は安心してみんな商売や生活をしているという素朴な村だった
987 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:20
「なぁ、いい村だったな」

軽快に歩を進めながら矢口が話し掛ける

「うん、でもさ・・くくっ・・・やっぱちびに白鳥はないだろ」

やっと自由にしゃべれるようになって思い出したのか
ひとみは笑いながら言う

「いや、お前の与謝野やよいよりはいいだろ」

楽しそうに笑っている

「こっちこそ勘弁しろよ、かよわそうな演技してるあんた見てると
突っ込みたくなってしょうがなかったよ」

「しょうがないだろ、こんな世の中旅してるのに不思議がられない訳ないんだから」
「それに、よっすぃって苦し紛れに言い出して、誰の事言ってんのかわかんなかったよ」
「ったく、めんどくせ?なぁ」

少し照れたように拗ねる矢口の事をかわいいと思いながらも見ていた

「でもさ、元Eの国だった村だろ
あんな感じで王族と無関係に暮らしてる村がたくさんあるんだろうな」

「だね、小さい村や町は直接王族と関わる事って少ないからね
ウチらの町もわりとそうだったけど」

ひとみは懐かしそうに言っていた

「お前もJの国の王様とかに会った事はないんだ」
「あるわけないじゃん、あんな小さな町の庶民が」
「まぁ、そうだな」

夜もふける頃になると、矢口は神経を尖らせているのか無口になって行った
988 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:22
一度Yの国から偵察の兵隊と思われる人達とすれ違い
再び尋問されEの国の争い事を聞かれたりまだこの辺りは
少なくなったとはいえ、はぐれの族がたまに出ると聞いたから

一応ひとみの腕にはバーミンがついてるので
族が出たらいち早く気づく事は出きる
でも暗闇の中で族の動きが見えるかと聞かれれば
多分ひとみはまだ見えないと言うしかないだろう

保田の情報でも、この先徐々に族や山賊は少なくなっていくみたいだ
Yの国は、もうじきすごく寒くなり、人が暮らすには家がないと凍死してしまうとの事

旧Eの国付近が最も山賊やはぐれの族が出る地域
なので旅や政府の物資のやりとりでさえあの近辺は通らない
ダックスら三つの町は独自の暮らしが長く続いた理由はそこにもあった

Yの国に入れば流浪の山賊ではなく
山の民位しか出ては来ないんじゃないかと教えてくれた

月明かりに、細々と続く道を走り続け、夜中近くになると
馬がもう走るのを嫌がってるのか足を止め出した

丁度水場があるのがわかるのか、馬は自然にそちらへと走っていき水を飲みだす

「ごめんな、あまり休ませてあげなくて、じゃあ、今日はここらで休むとするか」
馬から下りて首の所を撫でてあげている矢口

荷物の中から毛布を取り出し落ち葉がたくさんある場所に寝ころばって
ひとみは夜空を見上げて手を頭の下に組んだまま見上げた
989 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:24
矢口も顔を洗った後ひとみのそばに寝ころび同じポーズで夜空を見上げると
勘太もそばに来て矢口のお腹に頭を乗せて腹ばいになる

「さすがに疲れたな、大丈夫か?吉澤」

勘太の頭を撫でながら首だけひとみの方を伺って声を掛ける

「ウチは平気だっつってるだろ、あんたこそ神経を尖らせ過ぎて疲れるんじゃね?の?」

ひとみは眼を瞑って言っている

「いや・・・でも後、町を五つも越えないと
Yの王都には入らないんだな・・・・遠いなぁ」

自分が神経を尖らせている事を知られている事を気遣うひとみの優しさに
つい甘えた事を言ってしまう

「焦んなよ、とりあえず集中して寝ないと疲れ取れないぞ」

ひとみから言われる言葉に首をすくめたが
上を向いて目を瞑っている横顔が綺麗だなぁと思いながらふいに我に返り挨拶をする

「ああ、おやすみ」

吉澤の優しい言葉だったが、矢口は訓練で意識を残したまま寝る事が出来るので
心配しなくてもいいよと心で呟いた



そして我に返ると胸に広がる不安

姫・・・・今どこにいるんですか?

無事でいますか?

こんな今の状態では意識を残して寝る事さえ出来そうにないなとしばらく月を眺めた
990 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:24




991 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:26
鳥のさえずりが聞こえ出すと2人は同時に目覚めた
互いに首を向け合うと同時に眼が合って少し苦笑いする

「「おはよう」」

何だか照れくさくなって2人はすぐに顔を洗いに行った

ひとみは自分の事を好きだと言ってくれた
そして今回自分にこうしてついて来る事を少し嬉しく思う自分もいる

本当なら梨華のそばにいさせてあげたかったのだが
ひとみを送り出す時の梨華の綺麗な笑顔を思い出す

梨華はどうしてあんな綺麗な笑顔をしていたのだろうか

大好きなひとみが自分みたいな族に着いていくというのに

でも梨華はシープでもあの王都でも、凛とした美しさと強さを
・・・・自分本来の力を見出せている気がした

成長する仲間達、自分も成長しなくてはと気合を入れる

とにかく早く姫を見つけ出し
ひとみを梨華の元に戻さなければと新たに心に誓う


すぐに出発し、馬も言う事を聞いてくれだした
そしてすぐに次の村が見え出す、若干低いと見られる塀が山賊の減少を物語り
通行証でなんなく関所を通過する

朝早い為、誰も起きていないのか田畑も町は静かだ
町民を起こさないように馬をゆっくり走らせて
保田にもらった地図での最短距離を進んだ

小さな村なので三十分もすれば村を通り抜け、再び馬を掛けさせる

そしてまた半日掛けたところで一度馬を休ませる為に水場を探した
992 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:29
所がひとみがつけていたバーミンが光る

「矢口さんッ、バーミンが」

というと、すでに矢口の姿は消えており
うっすら残った残像から右へ行ったと思い顔を向けると、何やら一人と争っていた

「吉澤っ」
声と共に矢口とは違う影がひとみに近づいて来るのが見えて咄嗟によける

振り返ると、同じくそばを通っていった矢口が
族から奪った剣をその族の背中から地面に突き刺して立っていた

「よかった、ちゃんと避けれてたな、一気に決着付ければよかったけど
なんか躊躇してしまって、すまん」

振り向きすまなさそうな顔をする矢口

「ウチこそ、足手まといにならないようにするつもりだったけど
やっぱまだ矢口さんの事守れるまでなってないや、ごめん」

少し落ち込みぎみのひとみに大丈夫だよと笑顔を向けて
また馬にまたがり掛け出したのでひとみも同様についていく

矢口は水場を見つけて馬に飲ませてそばの岩に腰掛ける
勘太も水を飲んで岩のそばに伏せた

そして、ひとみが水を飲んでいる馬の首をずっと撫でている様子を座って見ていた

「お前もこっち来て座ってれば?」
「ん・・・うん」

矢口の座っている岩に腰掛けるのではなく
岩を背もたれにして地面に腰掛けた

何も話さないひとみに矢口は

「何で落ち込んでんだよ」
「ん・・・落ち込んでなんかないよ」

声を掛けられたひとみも優しい笑顔を矢口に向けた後馬の方を見る
993 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:33
「一人じゃなくて良かったよ、やっぱ仲間がいると心強いな」

矢口は再び馬の方を見ているひとみに向かって言ったが
ひとみからの返事はもらえなかった

「梨華ちゃん達、今頃何してるかなぁ」

ひとみがそばにある草をむしりながら呟いた

「ああ、心配だよな」
「ん?、心配っていうんじゃないよ、なんつ〜のかなぁ
梨華ちゃん達があの死んだ町をどうやって生き返らせるのかなぁって」

じっと前を向いて、草をぶちぶちちぎっているひとみの顔は穏やかで
矢口も岩を降りてひとみの横に腰掛けて眼を瞑った

「そうだな・・・・帰るのが楽しみだな」

矢口は呟いてひとみに干し肉を渡すと昼寝をしだした
干し肉にかぶりつきながら、膝を抱えてひとみは矢口の寝顔を見る

「うん」

そう力なさげに呟くと、食べる事をやめ、膝に額をつけて俯いた


やはりひとみの中には、自分の未熟さに落ち込んでいる自分が渦巻いており
でも矢口にそんな様子を見せてしまっては心配させると思いじっと耐えた


再び出発した二人は、話す事もなく馬を走らせる
途中で二度程、山賊に襲われたが、ひとみは対等に渡り合い
10数人いた山賊の内2人位を倒せた

もちろん矢口は他の者達をあっという間に倒してしまうのだが
それでも矢口はひとみに声をかける

「もっといい山賊はいないのかな、みんな女と見れば眼の色変えて近づいて来るし」

政府の遣いの二人と知ると
丁度いい、たまには自分達と楽しもうと涎を垂らして剣を抜いた山賊達

「しょうがないんじゃね〜の?ウチら魅力的だからさ」

おどけていうひとみに、矢口はほっとして笑う

「そうだな、じゃあ行こう、町が近いんだよ、この辺りに山賊が出るって事は」
994 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:37
矢口が言った通り、そこから少し走ったら今までと違って
少し大きな町に入ろうとした、もちろん門で止められる

本当はもう一つ先からがYの国の領土なのだが
ここはもうじきYの国の領土になると保田から聞いていた

今迄の関所より多くの質問と、銃や剣を持っている為にその理由を繰り返し聞かれ
薬草の効用等について迄根掘り葉掘り聞かれる

Yの国の兵と、今迄のここの兵隊だろう、二人の言い争いが続き
とにかくYの国から誰も出さなければいいという事が今の優先事項と落ち着いて
やっと通してくれた

二人は最短距離をつき進んで行く

人がいる場所はそんなに馬を走らせられないし
馬を連れているのさえ珍しい為、すぐによそ者と解り目立っているのか
姿を見ると眼を合わせようとしない上、逃げるように去って行く

「気分悪いなぁ、何か」

ひとみが呟くと

「こんなもんだろ、ただでさえ物騒な世の中なんだから
一目でよそ者とわかるおいら達には関わり合わない方が賢いよ」

まあなと答えるひとみの耳に、争う声が聞こえ出す

「貴様っ、まだこんな国の物を大事に持っておるのか」

矢口達がいる通りの隣の通りから聞こえて来るので、馬を降り
勘太に綱を噛ませて馬を頼むと言った後、家の間を通ってそっとうかがうと
Yの国の制服の兵隊が、年寄りの老婆を蹴飛ばしていた

思わず2人は駆け寄って老婆を抱きとめる、兵隊を恐れてか、人通りはなく
その老婆と老婆の娘らしいおばさんがいるだけだった

「大丈夫ですか?」

矢口が尋ねると、その老婆は頷いて 早く離れなさい と小さな声で呟いた

「なんだお前は」
「このおばあさんが何かしたんですか?」

矢口がそう言うと、慌てて見ていたおばさんがしゃしゃり出てきて言う

「荷物の整理をしてたら、出て来ただけなんです、本当なんです」
「ならいいが、これからこの町はYの国の支配下になるんだから注意しろよ」
「はい、すみません」

兵隊達は矢口達を睨んだまま、去って行った
995 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:41
姿が見えなくなってから、矢口とおばさんがおばあさんを立たせて

「何があったんですか?」
と聞く

最近Yの国の領土になるという事を
今までの長から聞かされたばかりだったので荷物を整理していたらしい
そしたら大昔のEの国の国旗が出て来て
捨てようとしてたところに丁度兵隊がいて見つかってしまったようだった

しかし、今みたいな乱暴な国の物になるのかと思うと先が思いやられると
おばさんはため息をつき、矢口達に礼を言った

ここは旧Eの国の端っこながら人口も多い為、年貢徴収も多く
兵隊も小さな村のようなお巡りさん的存在ではなく、整備された軍隊のようだ

足りない産物や、原料等は、昔からの司令官が代表して
Fの国やYの国等近隣の町と取引を行なうらしい
だから長く王族とは無縁の所で暮らしていた町民達は
高い税率に多少不満ながらも歯向かう事もせずに過ごしていた

山賊や族ら、周りからの来襲にはきちんと対応してくれているし
それなりに楽しく暮らせていたようだと保田が教えてくれた

一応旧Eの国時代の総司令官が統治しているようだが、
他の町を侵略しようとかこの町を大きくしようという野望がある訳でもないし
自分自身年を取って、子供もここを統治するような度量がないと解っているのか
近隣と折衝するのも困難になっていった為
今回、Yの国からの要請に応じて、支配下に治まる事になったようだ

もちろんそのままその役職を変わる事はないという条件でという事である
その町の中を目立って歩いていると、不審がる町民の中で
ひとみは族らしき影が逃げて行く残像を見た気がした
しかもバーミンが熱を帯びていたので確かだと思った

「今、族がいたみたいだけど」
「そうか?少ないとは言ってたけど、中には隠して住んでる族もいるんじゃないか?」
「ん〜、そうだな」
「殺気は全然感じなかったから、追っ手とかスパイとかでもないだろう、気にするな」

のちに解る事になるが、矢口はこの時の判断を誤った事になるのは
二人にはまだ解っていなかった
996 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:45
町を抜ける前に、食べ物を購入してから町を出る
あと3つ町を抜ければYの国の本拠地に着く

再び馬を掛けさせて馬が嫌がるまで走り続ける
夜中になるとやはり馬が嫌がり出し、足が止まる
森の中に入り、眠れそうな場所を探して馬を繋ぐとすぐ横になる

昨日のように落ち葉もあまりなく、土の上での就寝になる
横になってひとみの方を向いて話し掛けた

「Yの国の支配になると言ってたけど、あの町もそんなにひどい状況じゃないよな
だったら別にそんなに反対しなくてもいい気もするな」

「うん・・・・ちょっと気にはなるけど
あんたはみんなが幸せになればどこの支配下だろうとかまわないんだろ」

あいかわらずひとみは矢口の方を向こうとせずに
夜空を向いて眼を瞑ったまま答える

「まあ・・・・そうだけど・・・・
あ、あの町で買い物する時にちらっと聞いたんだけど
どうやらYの国の兵隊がとにかく必死で姫を探しているらしいんだ」

「まぁ、Mの国の人質だからしょうがないよね」

「いや・・・・王族付きの族と一緒に逃亡したらしく、その族を奪い返す為らしい」

ひとみが矢口に顔を向け、心配そうに言う

「Yの国の・・・それも王族付きの族と一緒に逃げたって事?」

「ああ、でもそれ聞いて安心したよ・・・・一人なら心配だけど
族と一緒ならその人が守ってくれてるかもしれないからな」

この国は族が非常に少ないみたいだし、王族付きなら実力もあるだろ・・・・と笑っている
997 名前:dogs 投稿日:2006/09/09(土) 16:47
ひとみは強がりでもそんな事を言ってる矢口に
少しほっとしてまた上を向いて目を瞑った

「どこにいるんだろうな、姫、きっと矢口さんの事待ってるよ、どこかで」

矢口はそんなひとみを見て、また不思議な感覚に襲われていた
そして、寝息を立て出したひとみに、自分も寝なくてはと思い目を瞑る


しかしほどなく矢口はふいに目が覚める
あの町からこっちにはもう山賊もはぐれの族も出てこないはず
・・・なのに何か音が聞こえるから

横を見るとひとみはいない、勘太も馬も眠っている
山賊や族が襲って来たのであれば、必ず勘太は気づくし
意識を残して寝ているので殺気みたいなのには敏感

絶対に今襲われる事はないと思うが
ひとみは気配を消して迄どこに行ったのか・・・・
少し心配になりながら矢口は立ち上がってキョロキョロする

真剣に耳を澄ますとやはり音がするので、そちらへと向かって歩き出す

すると、月明かりの当たる少し広い所で
スポットライトを浴びるようにひとみが剣の練習をしている

多分健太郎に教わった型だろう、額にはびっしり汗をかいて
その汗がキラキラと輝き、吉澤ひとみという人物を綺麗に見せていた

もしかしたら昨日もやっていたのかもしれない

あれから毎日

・・・・欠かさずに

矢口は踵を返して元の場所へ行き横になった
998 名前: 投稿日:2006/09/09(土) 16:53
本日はここ迄

このスレはここで終了になりますが、また新しいスレを立てさせて頂くと思います
ここ迄の長い間、ダラダラとつたない文章を載せてしまって申し訳ありませんでした

途中レス頂いた方々、本当に感謝です
もしまだ気力があれば、新しいスレにも遊びに来て頂ければと思います
長い間ありがとうございました
それではまた・・・
999 名前:774 投稿日:2006/09/10(日) 01:38
最初から読ませていただきました
かなり自分は好きな感じなので
更新いつも楽しみにしております
もちろん新スレのほうにもついていきますよー
1000 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/10(日) 05:00
更新お疲れ様です。
次スレでもお付き合いさせていただきます。
大変でしょうけどがんばってください。
1001 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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