むげん少女
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/16(日) 00:27
- むげん少女
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/16(日) 00:27
- 結局、人は一人ぼっちなのだ。
時間も場所も何も関係ない。どこにいようと、何をしていようと。
この街に引っ越してきて三年余り。一人暮らしを始めて三年。
前にいた福岡の街と同様、この京都も大嫌いだ。
京都の人は温かい、なんて嘯いたのはいったい誰だろう。
下手をすると、他よりも増してここの人間は性質が悪い。裏表が激しく、打算的、それがこの街の人間だ。
私、田中れいなは、やはり学校で浮いている。
昔ははっきりと罵られたり、喧嘩したりしていたが、この街の学校に通いだしてからは
私への周りの態度は変わった。
表面上は仲良くしているように見せかける。作り笑顔で接してくるが
決して私を輪に入れることはない。そして影では私の悪口を言い合って大笑いしている。
私にはわかっている。それがこの街の人間のだ。
どうせ私を嫌っているならはっきりとそう言われた方がまだいい。
気持ち悪い。
もう一度言う。私は京都が大嫌いだ。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/16(日) 00:28
- 高校三年の春ももう過ぎ、桜も散りきって暖かい季節がきた。
すでにエスカレーターで女子大への進学がほぼ内定してしまった私は、毎日を空辣な気持ちですごしていた。
今年一年を無難な成績で何事も無く過ごせば自然に進学は決まってしまう。
また四年間もこの街に住まなければならないと考えると、自分の進路決定を浅はかなものだとも思える。
しかしもうそんなことを考えるのは億劫だった。
どうせどこに行こうと変わらないのだ。場所を移せば、日本の中に嫌いな街が一つ増えるだけ。
放課後、誰に挨拶をする訳でもなく私は一人教室を出た。
クラブ活動をしているわけでもない。
毎日が学校から下宿への往復。人と会話することが一日中無い日だって珍しくない。
東山の女坂をとぼとぼと下る。この長い坂が、私の憂鬱を顕現するみたいにいつもいつも鋭く傾いている。
ここは女坂と呼ばれるくらいだから、ほとんど女しか通らない。同じ学校の生徒や
中等部、大学の生徒などが友達同士、甲高い嬌声を上げながら行き来している。
陽気の中で彼女たちは楽しそうだが、私にとっては酷く耳障りだ。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/16(日) 00:28
- 女坂を下りきり、京阪七条駅の手前のコンビニでパンとジュースを買う。
それから川端通りを渡り七条大橋を渡って暫くいくと入り組んだ道の奥に私の住む下宿がある。
古い木造の2階建ての長屋で日当たりは悪く、何よりぼろい。
家賃が2万円台ですむことを考えて入居したが、女子学生が一人で住むのに相応しいとは言い難い。
軋む階段を踏み二階へ上がる。
夏が来るとまた、鴨川で大発生した蟲がでわんわんと羽音を響かせるのだろう。
それを考えただけで憂鬱だ。
階段を上りきると、日常と違う風景が眼前にあった。
私は一瞬間息を呑んではたと立ち止まった。2階の長い廊下、その向こう
丁度私の部屋の辺りの扉の前に女の子が立っていた。
白いワンピースを着て、いかにも涼しげな麦藁帽子には黄色いリボンをつけた、長い黒い髪の女の子。
遠目に見てもわかる美少女が、じっと佇んでいる。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/16(日) 00:29
- それは何かしら、異様な光景だった。
少女の放つ雰囲気は、私の知るどんな人とも違う。その純白の衣装が全く褪せない
純粋な、穢けない雰囲気。
この建物と、この街とあまりにもそぐわない。
まるで人間ですらないかのように思われた。
ふと、我に返った。私は立ち止まってじっと見つめてしまっていた。
よく考えれば私には何の関係も無い。彼女が立っている場所も、よく見ると私の部屋の前ではなく
その隣のドアの前だった。彼女は辺りを何度か見回した後、俯いてまたじっと佇んだ。
夕刻が迫って、日当たりの悪い廊下は薄暗くなっている。しかし彼女の周りだけは何故か華やいでいた。
私は、そういえば隣に住んでいる人を見たことが無いな、などと考えながら
廊下を進んでいった。
こんなアパートに住んでいるくらいの住人と
親しくしたって身の危険に晒されるだけだ、なんてことを考えながら。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/16(日) 00:29
- 歩を進めるにしたがって、少女の姿、顔がはっきりとわかった。
やはり何か場違いな感じのする美少女だった。
私は知らん顔をして手前の私の部屋の前で立ち止まり、鞄から鍵を取り出した。
少女の視線が私に注がれているのがわかって、それが気になりなかなか鍵を取り出せない。
やっと鍵を取り出した私はちらりと少女のほうを見た。
ばっちりと視線が出会う。
彼女は円らな瞳で私を見ていた。私は、何だか後ろめたい気がして手をすばやく動かし鍵を開けると
ドアノブを握って力任せに押した。
私が部屋の中に足を踏み入れるときもう一度少女のほうを見ると、彼女はそれに気づいて
ニコリと微笑んだ。
私はドキリとして、急ぎ自分の部屋に駆け込んだ。
鞄を放り、ベッドに身を投げ出す。何故だか鼓動が早かった。
少女の笑みは信じられないくらい綺麗なものだったが、やはりなにか異質なものだった。
そしてそれは、現実と幻の境を曖昧にしてしまうような、不思議な…
私はそんな妙な感覚に陥りながら、すぐに眠ってしまった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/16(日) 00:29
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- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/17(月) 02:17
- 面白そうなのみーっけ(・∀・)
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 22:34
- 目が覚めると辺りは真っ暗だった。
夢を見て、魘されていたが、目が覚めると同時に一切を忘れてしまった。
その夢の残滓と、失ったということが私に不快感を齎した。
そのとき私は、部屋の前で会った少女のことも夢の一部だった気がしていて、彼女のことをすっかり忘れてしまった。
電灯を点けると夜の一時半という中途半端な時間で、私はひどくお腹を空かしていた。
それで鞄を開けるとパンが入っていたので、とりあえずそれを頬張る。
それから、寝汗でべとべとしているのに気付いて、部屋が蒸し暑いことに気付いた。
私は窓を開け放つと、外の空気を一つ吸ってからシャワーを浴びた。
シャワーを浴びている途中、何かしら奇妙な、夢の続きにいるような感覚が続いた。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 22:35
- シャワーからあがってもまだ私はぼんやりしていて、何か座っているのも億劫だったから
髪も生乾きのうちに再びベットに体を投げ出してしまった。
日頃の、煮え切らない気持ちとか、つまらない学校のことだとか
そんなことも全部忘れて、何かしら新鮮な不快感に苛まれながら私はまた眠りに堕ちていった。
朝、目が覚めた。
目が覚めてから、目覚まし時計をセットするのを忘れていて、私は飛び起きた。
しまった、寝過ごしたかもしれない、そう思って慌てて時計を見ると、幸いにも起きるべき時間よりもまだ
大分早い時間だった。
ほっとすると同時に、私って凄いかも、と一人ごちる。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 22:35
- 外はよく晴れているようだった。私の部屋には直接日光は入らないけれど、窓から見える空は澄んだ青色をしている。
漸う冴えてきた頭で考えた。またいつもと変わらない一日が始まる。
学校に行って片耳で授業を流し聞いて、放課後になればまたぶらぶらと家に帰る。
昨日は殆ど夕ご飯も食べなかったし、今日は食材を買って帰って何か作らないと。ただでさえ痩せっぽち
と陰口されているのがもっと細ってしまう。
一頻り考えてから、こんな馬鹿馬鹿しいことを考えるのなら、早起きなんかするんじゃなかったと
変な自己嫌悪に陥った。
そもそも、そんな非生産的な日常を過ごしている自分に大いに問題があることはわかっている。
でも、それが変えられるのならば変えているという話だ。
ともかく、私はあまり無駄な、ネガティブな考えを膨らまさないように
身支度を整えることにした。せっかくの清清しい朝が勿体無いというもの。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 22:36
- 結局は身支度もすぐに終わり、ずいぶん早い時間に家を出ることにした。
部屋にいてもすることがないし(といっても早く学校についたってすることは無いんだけれど)
とにかく出てみることにしたのだ。
五条大橋から、河原に降りてみると、春の陽気を受けた鴨川は活き活きとしていて
水面は日光を照り返していた。その光景は私をしても気持ちいいと感じた。
暫く河原でぼんやり座り込んでいた。
ふと、視線を感じて振り返った。誰もいない。
何だか嫌な感じがして、辺りをよく見渡したが、やっぱり誰もいなかった。
そんな些事が、少しだけ私を不愉快にした。
私は立ち上がり、橋を渡ると学校へと続く坂を上り始めた。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 22:36
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- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 00:28
- 面白そうデスね!!
頑張って下さい〜
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