パッと見、ナイトクラブ
- 1 名前:ロン 投稿日:2006/08/15(火) 16:30
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こんにちは。
草板でアホみたいな文章を書いておりました、ロンと申します。
今回で飼育二作目となります。
まだまだガチガチですが、どうぞよろしくお願いします。
- 2 名前:ロン 投稿日:2006/08/15(火) 16:30
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− プロローグ −
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:31
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真夜中でもお構いなくネオンが輝く大都会。
そんな都会でも、大通りを外れて路地裏に入れば途端に無くなる人通り。
人とは極端に孤独と暗所を嫌う生命体である。
まるで蛍光灯に群がる蟲のように、人は明るいほうへと集まっていく。
その習性ゆえに見つけられない、暗闇の楽しみ。
- 4 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:32
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- 5 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:32
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大通りから路地裏に入って少し歩いた所に、一軒のバーがある。
暗い路地裏に似つかわしくないネオン管で模られている名前。
その名は『BAR ゴロー』
チカチカと点滅するネオン管に引き寄せられるのは、決まって訳アリの客ばかり。
そんな客をもてなすのが、バーで働く”彼女達”のお仕事なのである。
- 6 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:32
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ギィィッ
- 7 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:33
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木で出来た年季の入ったドアを押し開けて、今宵も悩めるお客が一人。
ドアの向こうで待っているのは、8人の女の子たち。
- 8 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:34
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『いらっしゃいませ。ごゆっくりおくつろぎ下さい』
ふっくらほっぺと大きくて丸い目玉が特徴の女の子。
そして彼女はこの子たちを取りまとめるリーダー。名前は紺野あさ美。
- 9 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:41
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『なに、あんた・・・』
それが客に対する態度か。
客に一瞬だけ目をやり、後は澄ました顔でナナメ下を見下ろす女。
名前は藤本美貴。
- 10 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:41
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『ちょっとぉ、みきねぇ!!・・・あ、どうもすいませんでした』
慌ててペコリと頭を下げる、猫顔のカワイイ女の子。
名前は田中れいな。
- 11 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:42
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『・・・・・』
喋らない。端整な顔立ちの女の子。
名前は高橋愛。
- 12 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:42
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『あはは、どうかお気になさらず。喋らないのは彼女の性格なんです。
ここで会ったのも何かも縁。・・・なにはともあれ、ごゆっくり』
シェイカーをチャカチャカと振りながら喋るのは小川麻琴。
このバーのバーテンダー。
- 13 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:43
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『・・・・・』
先ほどの彼女とは明らかに違う。
湿った吐息と艶美な体が印象的な彼女。
名前は亀井絵里。
- 14 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:43
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『あ、どうぞどうぞ。こちらの席へ〜』
見た瞬間にしっかり者と分かる、その佇まい。
気さくな雰囲気が漂う彼女の名前は、新垣里沙。
- 15 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:43
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『あ、あの!テーブルお拭きします!!』
いかにも新人、というようなオーラを漂わせる彼女。
名前は道重さゆみ。
- 16 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:44
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どうやら来店してきた客は、少し訳アリな様子。
少し疲れた顔の女性の客は、麻琴の真正面、カウンターに腰掛けた。
早速バーテンの小川麻琴が注文をとる。
- 17 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:44
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「飲み物の方は、いかがなさいましょう」
「カシスおじゃマルを」
「では、アルコールの強さはどうしますか?」
「俄然、強めで」
- 18 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:44
-
それを聞くや否や、バーテンの小川麻琴はニヤリと笑う。
澄ました顔の藤本美貴と、その横の田中れいなが女性を睨む。
新垣里沙と道重さゆみは働く手を止め、紺野あさ美はそそくさと店の奥へ。
高橋愛はやはり無表情で女性を見つめ、亀井絵里は「あらっ!」と言いながらも鋭い眼光。
小川は、入り口付近に佇む亀井絵里に言った。
- 19 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:44
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「絵里。店の標識を”CLOSED”にしてくれ」
- 20 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:45
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そう。先ほどの会話は合言葉なのだ。
あの問答が成立した客は、『BAR ゴロー』の客ではない。
あの問答が成立した客は、『便利屋 UFA』の客なのである。
- 21 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:45
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「さてと・・・」
先ほど店の奥へと消えていった紺野あさ美が電卓片手に戻ってきた。
- 22 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:45
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- 23 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:46
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「聞きましょう・・・。あなたの依頼を。お値段次第でどんな依頼も承りますよ」
- 24 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:47
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路地裏に佇む、小洒落たBARでの話である。
- 25 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:47
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- 26 名前:プロローグ 投稿日:2006/08/15(火) 16:47
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- 27 名前:ロン 投稿日:2006/08/15(火) 16:53
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・・・とまぁ、こんな感じのストーリーです。
本編は22時から載せ始めます。
多少長めのお話になるかと思われます。
週1程度の更新で行くかと。
と言うことで、よろしくお願いします。
- 28 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:33
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- 29 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:34
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道重さゆみと言う人間は、至って普通の存在だ。ミジンコ並みの普通さだ。
どれくらい普通かと言えば、・・・とにかく普通すぎて説明出来ないくらい普通なのだ。
そして人間は通常、『普通』という言葉を嫌う。
自分だけ何かを持っているとか、自分だけ何かを知っているとか。
とにかく自分は『普通』じゃないと思いたがる。
しかし、その行動自体が『普通』なことに、人間は気づかない。
無論、普通な道重さゆみも、普通にその行動をしている。
普通から離脱したくて普通な行動を行う。考えてみればおかしな話なのだが。
- 30 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:34
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− 1 −
- 31 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:35
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「さゆみちゃん、今日カラオケ行かない?」
「あっ、ごめんね。今日用事あるんだぁ」
季節は夏。夏休みに入る直前の話だ。
さゆみの通う県立高校は3期制で、夏休みに入る前に期末テストが行われる。
周りの高校は2期制。そして2期制の高校は大抵の場合、夏休みが終わった後にテストが行われる。
2期制の高校の生徒は期末テストの不安もなく夏休みに入れる。それ自体は大いに羨ましいことだ。
しかし、夏休み中に期末勉強をするくらいなら先に終わらせた方がマシだ。
と、さゆみは考える。
- 32 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:35
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「そっか。用事があるなら仕方ないね。んじゃまた明日」
「うん、じゃあまた明日」
現在生徒達は期末テストの地獄から開放され、高校には出席を取るためだけに通っているようなものである。
逆に言うと今の期間は、先生が生徒達の書いたテストの答案に点数を付ける忌々しい期間なのだ。
- 33 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:36
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さゆみは周りから”さっぱりした性格だね”と、よく言われる。
さゆみ自身もそう思っている。だからテストの点なんてさっぱり気にしない。
そしてテストの点数も、やはりさっぱりだったことは言うまでもない。
「さてと、じゃあそろそろ帰ろうかな」
独り言のように呟いて、さゆみは自分の席を発つ。
ちなみにさゆみがカラオケを断った理由は、”みんなカラオケに行ってるから”である。
非常に単純明快な理由だ。つまり、皆と同じ行動をするのが嫌なのだ。
用事なんてこれっぽっちもない。あるとすれば家に帰ってゴロゴロすることくらいか。
ああ、夏休みの何処が楽しいのだろう。さゆみは心の中で愚痴をこぼし、家路に着いた。
- 34 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:36
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- 35 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:36
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1学期最後の登校日、同級生達が苦虫を噛み潰したような表情をする中、さゆみは一人涼しげな顔をしていた。
周囲の者は通信簿を見て絶望したり、歓喜したりする中、さゆみだけは冷静だった。
勘違いしてはいけないのが、決して『良い成績』な訳ではないということだ。
覚悟というのは凄いもで、初めから”自分は悪い成績を取る”って覚悟していれば、
実際に悪い成績をとった時、幾分かは気持ちが楽になるものなのである。
無論、さゆみはそのタイプだ。
- 36 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:36
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『いいですか、夏休みだからと言ってハメを外し過ぎないように・・・』
毎年毎年、先生が同じ事を言っている感じがするのは気のせいだろか。
無論、聞いている人など一人も居ない。
みんなバカみたいに通信簿の見せ合いをしていて、先生の話など聞き流しているに決まっている。
一生懸命に話していることに同情したくなるほどに虚しく響き渡る先生の声。
しかし、同情するような気持ちをさゆみが持ち合わせているわけもなく。
先生の話が終わる前に、さゆみは平然と、風呂にでも行くような雰囲気で教室から歩き出た。
- 37 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:37
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”やっと夏休みだね”とか、”夏休み楽しみだなぁ”とか。
そういった類の言葉がさゆみの周りで飛び交っているのだが、さゆみにはさっぱり分からない。
なんで夏休みをそんなに楽しみにしているのだろうか。
宿題は7月中に終わらすぞ、とか意気込んで、でも結局終わらなくて。
8月にはとりあえず海に行って、お祭りに行って。
お盆になったら近所で肝試し大会が開かれて、テレビをつければ心霊特番がやっていて。
気がついたら8月も下旬に差し掛かり、残った宿題に追われる。
自分達がこれからの約1ヶ月とちょっと、どんな風に過ごすのかがもう予想が出来る。
人生は先が分からないから面白いと言った人が居るとか居ないとか。
だから先が分かってしまっているさゆみは、夏休みがつまらないのだ。
かと言って夏休み中に総理官邸に殴り込んだり、天皇を人質にとって来週分のジャンプを要求したりなど、
そういうおかしなマネは決してしない。
それは単なるバカな行為だということを、さゆみは知っている。
- 38 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:37
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『人通りが少なくて痴漢が出るという噂もあるので、林道を使って下校するのはやめましょう』
・・・と先生が言っていたので、さゆみは林道を使って下校している。
林の中は人通りが少ないし、空気は新鮮で、ここはさゆみの密かなお気に入りスポットなのだ。
さゆみは目を閉じ、すぅ〜っと息を吸って、んふぅ〜っと息を吐く。
さゆみは深呼吸が好きだ。体の中の空気が入れ替わるような気がするから。
・・・もちろん、普段の呼吸によって体の中の空気は絶えず循環している。
要は気持ちの問題だ。細かいところまで気にしてはいけない。
- 39 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:38
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石ころを蹴飛ばしたりしながら鼻歌交じりで林道を進んでいると、林の中から妙な音が聞こえた。
さゆみは好奇心をくすぐられ、音のする方へと歩み寄る。ゆっくりと、慎重に。
まるで探偵にでもなったかのような気分で、さゆみは大きな木の幹に張り付いた。
変な音に聞こえたのは、どうやら人の話し声だったらしい。
真夏だと言うのに帽子を目深に被り、マスクを付けた男二人がなにやら話し込んでいた。
少しすると、片方の男が懐から小さなバッグを取り出した。
バッグの中に詰め込まれていたのは、袋に入った怪しい白い粉。
あれはもしかして・・・。
- 40 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:38
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「覚せい剤・・・?」
高校生探偵が取り引きに夢中になって後ろに気づかず、
怪しげな薬を飲まされて小学生になってしまうアニメが頭をよぎり、さゆみは後ろを振り返った。
誰も居ない。
ホッと胸を撫で下ろして、もう一度男たちの方を見ると、そこには新たに女二人が加わっていた。
皮手袋を着けた女性と、猫顔が印象的な女の子だ。
- 41 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:39
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「なんだっ!お前たち」
「あんたに用はない。あんたが抱えてるそのバッグに用がある」
「ふざけるな。お前ら誰なんだ!!」
「名乗る義務はないね」
会話から察するに、どうやら穏やかな状況ではないようだ。
その時、男が懐から黒光りする何かを取り出した。
それに関する知識があまりないさゆみでもすぐに分かった。あれは銃だ。
- 42 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:39
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チュンッ、チュィーンッ!!
007の映画を見た時に聞いたことがある音が鳴り響く。要はサイレンサーの音。
見ると、男がの手に持たれている銃から白煙が上がっていた。
どうやら発砲したらしい。
「腹部と脚部に一発ずつ。急所を狙っとらん。みきねぇ、あいつら素人とね」
「見りゃ分かるだろ、そんなの」
「みきねぇ、言っとくけどれなが助けんかったら重傷を負ってたとよ?」
「はいはい、ありがと」
少女の手には短刀が持たれている。
今の会話から察するに、少女が短刀で銃弾を弾いたらしい。
「五右衛門かよ!」って突っ込みを、さゆみは心の奥になんとかしまい込んだ。
- 43 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:39
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「な、なんなんだ!お前ら!!」
「名乗る必要なかね」
シュパッ・・・と、あっけない音がしたと思ったら、鮮血と共に男が一人倒れた。
「ひぃっ」
もう一人の男が弱々しい悲鳴をあげて周囲をキョロキョロする。
・・・さゆみと目が合った。
駆け寄ってくる。さゆみは足がすくんで動けない。
- 44 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:40
-
「おらぁっ!お前らぁ!!こいつ殺すぞ!!」
「なんで学生がこんなトコにいると!?」
「知るかそんなの!!」
さゆみは、どうやら人質に取られてしまったらしいことに気がついた。
米神に突きつけられた銃を見ると、それはより一層リアリティを増した。
「お前ら、こいつを殺されたくなかったら俺を見逃せっ!!」
「いや、別に殺してもよかよ?」
「はっ?」
「あたしら警察じゃないから市民守る義務ねーし」
「へっ?」
「ちょ、ちょっと待って!あたし、殺されたくない!!」
さゆみがそう言うと、猫顔の方があからさまに顔をしかめた。
- 45 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:40
-
「みきねぇ、あの子、あんなこと言っとるけど」
「・・・しょうがねぇなぁ」
ボンッと言う音と共に、隣に居た男の頭が吹き飛んだ。
「あんなザコ相手に、私のコルトパイソンちゃんを使うことになるとはね」
生暖かい男の血液が、さゆみの顔を濡らす。
首から上がない男を見たのを最後に、さゆみは意識を失った。
- 46 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:40
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− 2 −
- 47 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:41
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「で、この子は誰なんですか?」
「れいなに聞け」
「しらん!」
「・・・。だそうだ」
「はぁ・・・」
「カワイイ子だね。食べちゃおうかな」
「こらっ、亀!」
「冗談だよぉ〜、ガキさぁ〜ん」
「はぁぁ・・・」
皆のあまりの素っ頓狂っぷりにうな垂れているのは紺野あさ美。
路地裏にある、知る人ぞ知ると言う言葉が良く似合いそうな『BAR ゴロー』の店長だ。
それと、彼女にはもう一つの顔がある。『便利屋 UFA』の元締めという顔が。
- 48 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:41
-
そんな彼女がなんでうな垂れているのかと言えば、
それは美貴とれいなが店にいきなり女の子を連れてきたからに違いない。
「そう言えば、愛ちゃんと麻琴は?」
「あの二人は別の仕事で出かけてます。それよりですね・・・」
「わぁーったから。しょうがないじゃん。
気絶してる女の子を林に置いてくる訳にもいかねーし」
「ま、まぁそうですけど」
「大体元締めは細かいこと気にしすぎなんだよ」
「そうやそうや!ポンちゃんは細かいこと気にしすぎと!」
「・・・二人とも減給ね」
「「ごめんなさい」」
パチリッ。と、さゆみが目を開けたことに皆は気づかない。
- 49 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:42
-
ギィィッ
年季の入った木製のドアを押し開けて、スーツ姿の男が入ってきた。
「あなたは・・・」
「依頼した仕事、上手くいったかい?」
「ええ。上手くいきましたよ。・・・で御代の方なんですけど」
「分かっている。これでいいかな?」
男が懐から取り出した札束を見て、さゆみは目を丸くした。
- 50 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:42
-
「はぁ〜〜!!結構です結構です。はい、こちらが奪い返した品です」
それ以上に喜んでお金に飛びついているのは、紺野あさ美である。
男はそれを見て微笑みながら、バッグの中の品を見て胸を撫で下ろした様子。
「それでは、私はこれで」
「はい。今後ともごひいきに」
深々と頭を下げるあさ美。
男が立ち去ったのを確認して、れいなが口を開いた。
- 51 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:42
-
「ポンちゃん、アレって」
「ええ、覚せい剤でしょうね」
「・・・」
「れいな、私たちの仕事は飽く迄便利屋。お客様の事情にまで口出しする権利はないの」
「・・・はい」
- 52 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:43
-
「面白そうっっ!!!」
- 53 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:43
-
その場に居た全員の視線が、さゆみに向けられた。
さゆみが目を開いてから目撃した光景は、さゆみにとって美味しい餌以外の何物でもない。
そしてそこからは『普通じゃない』雰囲気がこれでもかと言うくらいに滲み出ている。
それはさゆみが興味を持つには十分すぎるほどの芳醇な香りを放っていた。
さゆみはさっぱりとした性格だ。
物事を決めることに迷ったことなどない。
「決めたっ!私もここで働くの!!」
「あらあら・・・」
と、言葉を発した絵里以外の全員は、呆気に取られていた。
ある者は口をポカンと開き、ある者は頭を抱え、またある者は拳を握り締めて。
- 54 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:43
-
さゆみはさっぱりとした性格だ。
さっぱりとした性格の持ち主は、行動も迅速で的確である。
それにはさゆみも例外なく当てはまり、次の日からさゆみは『BAR ゴロー』で働くこととなる。
無理問答であさ美を言いくるめたことは言うまでもない。
かくしてさゆみは、予(カネ)てからの夢であった『普通じゃない生活』を手に入れることが出来たのだ。
- 55 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:44
-
「あっ、いらっしゃいませぇ〜。BAR ゴローへようこそっ!えへっ☆」
- 56 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:44
-
- 57 名前:ヘンテコ少女と闇稼業 投稿日:2006/08/15(火) 23:45
-
第1話 ヘンテコ少女と闇稼業 − 了
- 58 名前:ロン 投稿日:2006/08/15(火) 23:47
-
以上で今回の更新を終了とさせていただきます。
ありがとうございました。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/16(水) 00:29
- おもろっ!ホント期待大ww
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/16(水) 08:04
- さっそくの新作、期待しております。
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/16(水) 21:22
- 好きな設定です。ものすごくage
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/16(水) 23:37
- 愛ちゃんがメチャ気になります☆
- 63 名前:ロン 投稿日:2006/08/18(金) 23:06
-
レスを頂けまして、非常に光栄です。
読んでくださってありがとうございます。
それでは、レス返しなど。
>>59 名無し飼育さん
期待して頂きありがとうございます。
少しでもご期待に副えるよう、頑張ります。
>>60 名無し飼育さん
本当に、さっそくですよね(苦笑
なんとかしてご期待に副うことが出来れば嬉しいです。
>>61 名無し飼育さん
設定負けしないように努力しようと思います。
レスありがとうございます。
>>62 名無し飼育さん
愛ちゃん、次回・・・(ry
面白くするように努力致します!(何
次回予告なんぞ・・・。
基本的に金曜に次回予告、月曜に更新という形で行きたいです。
あくまで希望です・・・(弱っ
- 64 名前:ロン 投稿日:2006/08/18(金) 23:07
-
− 次回予告 −
「ご注文はいかがなさいましょう・・・」
「お酒の強さはどうしますか?」
―――― 変わる店の雰囲気
「どういった・・・ご用件ですか?」
―――― 今宵もまた、悩める客が来店する。
「ねぇ・・・私と何処かに行きません?」
―――― 絡み合う欲望と・・・
「殺しちまってくれ!!あんなヤツ!!」
―――― 絡み合う意地・・・
「君を・・・抱くことはできない」
「何故、私ではダメなの?」
有り得ない展開、有り得ない設定。
「あ、ごめん愛ちゃん。はいこれ、今回はこの人でお願い」
「はい、全部覚えました」
―――― ここは、私みたいなのが首を突っ込む所じゃなかったのかもしれない・・・
「それで、あなたは良いんですか・・・?
分かりました。承りましょう・・・でも」
「 後悔しても、知りませんよ・・・ 」
− 次回 −
『 浮気なあなた。初仕事 』
毎週月曜更新、乞うご期待!!
- 65 名前:ロン 投稿日:2006/08/21(月) 21:49
-
月曜の夜がやって参りました・・・
それでは更新したいと思います。
若干エロい部分などが含まれているので、苦手な人はお気をつけ下さい。
では、スタート。
- 66 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:50
-
『第2話』
浮気なあなた。初仕事 − 前編
- 67 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:51
-
− 1 −
- 68 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:51
-
「聞いてくれよぉ、美貴ちゃん・・・」
「はっ?嫌だよ。なんでおじさんの愚痴聞かなきゃなんないわけ?」
「冷たいなぁ、でもまっ、そういうところがいいんだけどね」
「うわっ。キッモ!(ちょ、ちょっと、みきねぇ!)」
「うへへ、絵里ちゃん。また成長したんじゃないのぉ?」
「ちょっとぉ、やめてくださいよぉ。お触りは禁止ですよぉっ?」
「麻琴さん・・・。実は私、彼氏にフラれちゃって」
「あなたのような可憐な人をフるなんて。許せないな・・・」
「まっ、小川さんたらっ。お上手ね」
「ははっ、お世辞なんかじゃないですよ」
「はいは〜い、テーブル拭きますよぉ」
「おっ、里沙ちゃん!今日も良い仕事してるねぇ」
「・・・・・どうぞ」
「あ、ありがと」
「・・・・・どういたしまして」
「おぉっ?新人さんかい?カワイイなぁ」
「はぁ〜い、知ってますぅ!」
「名前はなんて言うんだい?」
「さゆみって言いまぁ〜す」
はぁ・・・
- 69 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:52
-
ギィィッ、カランッ。
標識を『CLOSED』にして戸締りをするのは、新人であるさゆみの役割だ。
しかし、この道重さゆみと言う女の子。今の仕事に若干の不満を持っているようである。
「さゆみも藤本さんみたいに鉄砲撃ったり、れいなみたいに刀振り回したーい!!」
その夜、バコンッ!と言う音が、静かな街に響き渡った。
- 70 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:52
-
- 71 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:53
-
夏休みに入った時に始めた、『BAR ゴロー』でのバイト。
普通な自分を変えたくて、面白いことに首を突っ込んでみたくて始めたバイト。
しかし、さゆみの求める刺激的な、所謂”裏”の仕事が舞い込んでくることは、
かなり珍しいことなのだということが分かった。
実際、夏休み中あのバーでした事といえば、会社で疲れきったおじさんの接待やら、
金を持て余したバカ富豪のセクハラ受け係やら、藤本さんのご機嫌取りやら・・・。
全くもってさゆみが望んでいたことは行われていないのである。
しかし普通でないことに変わりはなかったため、さゆみはその生活を存分に楽しんでいた。
・・・最初の内は。
結論から言うと、同じ事を続けてると飽きてくるのが人間と言う生き物の特徴だ。
現在、季節は既に晩夏を迎え、夕暮れ時に外を出歩けば蜩(ヒグラシ)の声が聞こえてくる。
その涼しげな声とは逆に、アスファルトからの照り返しによって気温に変化が見られないのが、
さゆみの飽きっぽさに拍車をかけた。
さて今回の話は、新学期を迎えたさゆみに初めて訪れた”裏”の仕事のお話である。
・・・いや、正確に言えば2回目なのだが。
- 72 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:53
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− 2 −
- 73 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:54
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秋だと言うのにこの暑さ。それはさゆみの堪忍袋を絶えず刺激し続ける。
家から学校までのわずかな距離でも、汗によってセーラー服の背中が透けて、
さゆみの綺麗な背中と、キュートなブラジャーが浮き出てしまう。
しかし逆境に強いのがさゆみの性格だ。
どうせ見えてしまうならと高をくくり、さゆみはとびきり可愛らしいブラジャーを着けていく。
ちなみにさゆみの教室は屋上を除けば最上階である4階。
なんで自分達のクラスが4階なのか。クラス分けをした先生を呪い殺したいと、さゆみは本気で思う。
目の前に蝋燭と藁人形があれば、さゆみは一瞬の迷いもなく丑の刻参りを敢行するだろう。
「あれっ?さゆみちゃん、頭にタンコブ出来てるけど・・・どうしたの?」
「ん?あぁ、なんでもない」
バーでバイト中にゲンコツされた、なんて死んでも言えない。
ただでさえバイトが禁止の学校なのに、そのバイトの内容がアレな訳なのだから・・・。
アレ、の意味は・・・まぁ大体分かって頂けるだろう。
「でもすっごい腫れてるよ?大丈夫?」
「なんでもないったらなんでもないのぉーー!!」
ちなみに後で聞いた話によると、紺野さんは空手をやっていたらしい。
それを聞いてさゆみは、もう逆らうのは辞めようと思った。
- 74 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:55
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「こんばんはぁ〜」
「あ、さゆだ。よっ!」
「よっ!」
真っ先に話しかけてきたのは、腰から物騒な短刀を二本もぶら下げている田中れいな。
夏休み中に・・・まぁ色々あって、さゆみとかなり仲良くなっていた。
店の中では藤本さんを除く全員が揃っており、イソイソと開店の準備を進めている。
そんな中、
「こらぁ〜、さゆーー!!」
と、いきなり突っかかって来たのは新垣里沙である。
里沙曰く、「来るのが遅すぎる」とのことだ。
ちなみにさゆみが店に入ったのは、約束の集合時間の30分前のはずだが。
そして里沙はこうも付け加えた。
「あのねぇ、ここで働くからには最低でも1時間前に来て色々やんなきゃいけないのよ」
”色々”って何ですか?とさゆみが質問した所、理沙は口笛を吹きながら何処かに行ってしまった。
口笛と言っても、空気が抜ける音しかしない。要するに吹けていない。傍から見たら間抜けである。
・・・まぁ先輩面をしたい年頃なんだと思うことにした。
- 75 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:56
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BAR ゴロー開店10分前。
ハァハァ、と息を切らしながら一人の男性が入ってきた。
グレーの背広を着込んだ、いかにも真面目そうなサラリーマン風情の男だ。
はっきり言って珍しい光景である。
路地裏を2回、3回と曲がらないと、このバーには辿り着けない。
来る途中にも、こんなバーよりも魅力的なクラブが幾つも点在していたはずなのだから。
「あの、まだ開店してな・・・」
「こちらの席へどうぞ」
さゆみの言葉を遮ったのはバーテンの小川だった。
男は乱れた息を整え、一つ咳払いをしてカウンターの席に座った。
「ご注文はいかがなさいましょう?」
「カシスおじゃマルで頼む」
「お酒の強さはどうしますか?」
「俄然、強めで」
さゆみはすかさず、店の看板の明かりを消し、標識をCLOSEDに裏返した。
自分が入ってから初めての”裏”の仕事の依頼。内心ガッツポーズである。
- 76 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:57
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「どういったご用件ですか?」
店の奥から片手に電卓で出てきたのは、例の如く紺野あさ美だ。
「いや、実はウチの女房が浮気しているかもしれないんだ!!
帰りは遅いし、なんか知らない男と町を歩いてたって言うヤツも居るし」
「浮気調査ですね。分かりました、承りましょう。それで・・・あの」
「分かっている、もし調査が成功したらこれを」
そう言ってサラリーマン風の男が取り出したのは、一枚の茶封筒。
気のせいか、随分と分厚いような気がしないでもないのだが。
「は、はは、はい!!喜んで承ります!!」
茶封筒の中身を見た後のあさ美の反応は、素晴らしいほどに早かった。
- 77 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:58
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- 78 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 21:59
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『株式会社 HELLO PROJECT』と書かれた高層ビルに向かう人影が二つ。
スーツ姿の二人は、入り口から高層ビルに入ろうとした。
「すみません、許可のない者は入ることが出来ないんです」
「お聞きになっていませんか?新しくココに配属されました、高橋です」
「あの、そちらは?」
「僕の部下で、道重と言います」
「は、はい。道重です」
「身分証の提示をお願いできますか・・・。はい、結構です」
『株式会社 HELLO PROJECT』は、依頼人の妻が勤めている会社だ。
そして今、その会社の警備員と話しているのは、普段は無口な高橋愛。
後ろからヒョコヒョコ付いて歩いてるのは、道重さゆみである。
警備員が立ち去ったのを確認してから、愛はさゆみに小声で語りかけた。
「さぁ、ちゃんと依頼をこなそう!頑張ろうね、道重くん!」
「は、はぁ」
正直、さゆみは戸惑っていた。
あさ美が言うには、これが彼女の”才能”らしいのだが・・・。
- 79 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:00
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話が飲み込めない人が多々居ると思うので、時間を昨日に戻そうと思う。
- 80 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:00
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「いやぁはぁ〜ん。ただの浮気調査でこんなにお金が貰えるなんてぇ〜ん」
札束片手に浮かれポンチになっているのは、紺野あさ美だ。
2日前に来た客の依頼を受ける際、受け取った前払いの額がかなりの大金だったのである。
しかも依頼内容は浮気調査。
普通の人間だったら「こんな美味しい話あるか?」と疑いも持ってもいいのだが、
そこは、何よりも金を信じるあさ美である。疑うはずがない。
あさ美の中では、
お金をくれる人=良い人
お金をくれない人、払わない人=悪い人
この二つでしか人間を分類してみていないのだ。
世の中があさ美のような人で溢れかえれば(いや、それも困るのだが)、
人種差別や、宗教差別などが簡単に無くなるに違いない。
- 81 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:01
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「さてと、んじゃあ誰に頼もうかなぁ」
周りを見回すあさ美。
こんなこと言いつつ、頼む人が限られてるのをさゆみは知っていた。
どちらかと言うと血生臭い依頼担当が、藤本美貴と田中れいな。
密偵やら情報収集やらは、高橋愛、紺野あさ美の担当。
事後処理や後方支援は、小川麻琴と新垣里沙、亀井絵里が担当している。
さゆみはまだ仕事をしたことがないので、分類分け出来ていない。
そして現在、亀井絵里は今回の依頼に必要な物を調達しに行っている。
妙な所がちゃっかりとしているあさ美は、同じ人を続けて働かせることを嫌う傾向がある。
不公平がないように、皆に仕事を振り分けているのだ。
だから亀井絵里が浮気調査に駆り出されることは、まずないと考えていい。
更に、紺野あさ美はバーに残って指示を出すことを考えると、残るはあと一人な訳で・・・
- 82 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:02
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「じゃあ、愛ちゃんお願いね」
「・・・ん」
「それと、重ちゃん。いい機会だからあなたも行きなさい」
当然のように、余裕で缶コーヒーを飲みながらさゆみに仕事を頼むあさ美。
「えぇー!!」
「私、もっと派手な仕事が良い〜」・・・と言おうとして、さゆみは慌てて口を閉じた。
何故かと言えば、それはあさ美の手のひらの中で、コーヒー缶が潰れていたからに決まっている。
無論、スチール缶である。
「う・・・う・・・あのぉ・・・」
「あ、ごめんね愛ちゃん。はいこれ、今回はこの人でお願い」
「わかったぁ」
わかったぁ・・・イントネーションがおかしい声がゴローに響きわたる。
クスクスと、バーの中で笑い声が起こっている。それほどまでに強烈な”訛り”なのだ。
その間、愛はあさ美から手渡された一枚の紙切れを凝視していた。
その紙には、身長やら体重やら血液型やら、誰のかも分からない色々な情報が書かれている。
愛が紙切れを受け取って、3分くらいが経過しただろうか・・・。
「はい、全部覚えました」
「ん、ご苦労様。じゃあ早速、ターゲットの会社に行ってきて」
「分かった。今回のための小道具は何処にあるんだい?」
「多分行く途中で絵里が接触してくると思うから、その時に」
「よし分かった。じゃあ行こう、道重くん」
「は・・・はい?」
愛の喋り方と態度が変わったのは、もはや説明不要の事実だった。
- 83 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:03
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エントランスを抜けて、受付へと足を運ぶ。
受付に立っている二人のお姉さんは、近づいてくる二人を見つめながら、頭の上にハテナマーク。
考えてみれば当たり前のことだ。昨日まで見たこともないような二人がツカツカと歩いてくるのだから。
「あ、あの・・・。どちらさまでしょうか?」
「聞いていませんか?あぁ、当たり前だよね。急に決まったことだから」
「えっと・・・あの・・・」
「あぁ、自己紹介が遅れました。今日からこちらの会社に配属された、高橋 藍良(アイラ)です」
そういって愛は、後ろで括ってある髪の毛をファサッと揺らす。
途端に目がハートマークになる受付のお二人。
それもそのはず。
普段から中性的な、それでいて端整な顔立ちの愛がサラシを巻いて胸を隠し、
綺麗なスーツを着こなせば、それはそれはカッコイイ男性の出来上がりなのである。
肩まで届くような長い髪の毛も、後ろで括ってしまえば問題無なのだ。
「僕、人事部に配属される予定なんですが・・・」
「はい、確認取れました。それと・・・そちらの方は?」
「あ、道重です。高橋さんと同じ部に配属されるはずなんですけどぉ」
「はい、そちらも確認取れました。人事部はこのビルの7Fになります」
「そっか。ありがとう。それじゃ、君達もお仕事頑張って」
「は、はぁ〜い・・・」
しかし、なんと言ってもこの立ち振る舞い。
爽やかな香水の匂いと、少し低いけどあどけなさの残る声も相まって、
本当は女だと分かっているさゆみでさえ、クラッときてしまうほどのカッコよさなのである。
そのままエレベーターに乗るまで、愛の背中には女性社員の痛いほどの視線が突き刺さっていた。
- 84 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:07
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「高橋さんと、道重さんですね。席はコチラとコチラになります」
人事部の中に、真新しい机が二つ置かれていた。
そこがさゆみと愛の席である。
と、その前に少し気になることがある。
愛はいいとして、問題はさゆみだ。
これはすなわち『潜入捜査』なのだが、いかんせんさゆみはまだ高校生である。
2学期も始まったばかり。会社と学校の両立なんて出来るのだろうか。
「た、高橋さん・・・私、高校生なんですけど」
「大丈夫。そこらへんはコンコンがなんとかしてくれてると思うから」
「えっ?ナントカって、なんですか?」
「とにかく今はこっちの仕事に集中!」
カリカリと紙になにかを書き始めた愛だが、さゆみが紙を覗き込んでみると、
そこに書いてあったのは、なにかミミズが這いつくばっているような、そんな感じの曲線だった。
分かりやすく言おう。書いているフリをしているのである。
- 85 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:08
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呆れているさゆみを横に、一心不乱にミミズを書き続ける愛。
不意にカリカリという音が聞こえなくなったな、と思ったら、愛がさゆみの耳元に寄ってきていた。
愛がいくら女とはいえ、今は男の雰囲気を醸し出しているわけだ。
さゆみの心臓がドクンッと高鳴った。
とりあえず冷静さを取り繕わなければいけない。ということだったので・・・
「いやん、ちょっと。高橋さん、やめてくださいよ。仕事中ですよ?」
社内恋愛をしている女性OLになりきってみる。
「何言ってんの道重さん。アレだよアレ、アレが今回のターゲット!」
「はぃ?」
一気に冷めた・・・。
それはさておき。
愛が顎で指す方向を見ると、女の人が部屋の中で一番大きな机に座っていた。
これはいわゆる部長、と言うヤツだ。名札には『中澤』と書いてある。
- 86 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:09
-
「高橋くんと、道重さん」
いきなり名前を呼ばれ、少々驚きながら声の方を見る。
愛とさゆみが呼ばれた先にいたのは、他の人よりも少し大きな机に座っている人だ。
この人も愛に負けず劣らずの端整な顔立ち。ショートヘアーの女性だった。
その立ち振る舞いからは、出来る女な雰囲気が立ち上る。
その人はキリッとした顔でさゆみ達の前に立ち上がり、軽くお辞儀をした。
「こんにちは。君達の上司にあたる、課長の三好です」
「あ、こんにちは。高橋です」
「道重です」
三好は小さく頷くと、愛とさゆみの肩を順番に触り、こう言った。
「今日、新人歓迎のコンパがあるから。君達、もちろん出席ね」
「はい、喜んで出席させて頂きます」
「・・・・」
「ん?どうした?道重さん」
もう一度言おう。さゆみは高校生である。
「どうしよう・・・私、まだ高校生なのに」
「ん〜、何か手のいい理由を付けて休んじゃえば良いよ」
「えっ?あの高橋さんはどうするんですか?」
「僕?僕は、まぁ情報戦の醍醐味を味わってくるとするよ・・・」
そう言って、愛は不敵な笑みを浮かべた。
- 87 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:10
-
「はい、じゃあね、今日新しくこの会社に配属になった・・・・えーっと」
「中澤さん!前置きが長いですよ〜」
「誰や!今言ったのは!!・・・まぁええか、乾杯!」
さゆみは体調が優れないことを理由に、このコンパを欠席している。
「道重さん、体調が優れないのかぁ・・・それだったら、しょうがないね」
「はい。そうなんですよ」
「高橋くんは、お酒強いの?」
「まぁ・・・嗜む程度なら」
「へぇ、じゃあ今日は楽しめそうね」
このような潜入捜査をする場合、いきなりターゲットに近づくのは避けるべきである。
ここでヘマをして、相手に疑われてしまっては元も子もないからだ。
こういうときはターゲットの情報を出来るだけ多くしっていそうな者に取り入るのがベストなのだ。
高橋は事前に、新垣から貰っておいた薬を服用している。
胃と、腸にあらかじめ粘膜を張ってしまう薬である。
これによりアルコールが体内に吸収されてしまうのを極力防ぐことが出来るのだ。
- 88 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:11
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「はぁっはぁっは!!まだまだ若いモンにゃぁ負けられんわな!」
「何言ってるんですか!中澤さんもまだまだ若いですよっ!」
「当たり前やがな!知っとるわ!!」
中澤を始め、多くのものが出来上がってきている中、高橋は機を窺っていた。
「なんだよ、中澤のヤツ・・・裏ではあんなことやこんなことしてるクセに」
ピクリ・・・と、高橋の耳が動く。
独り言のようにボソリと呟いたのは、課長の三好だった。
「三好課長・・・、相当酔っているみたいですね。お送りしましょうか?」
「ふぇっ?はぁ・・・じゃあお願いしようかしら」
「と、いう事で・・・すみませんが、帰らせていただきます」
「おぅっ!ほな、お疲れな!!きぃつけて帰りぃや!」
「はい、お疲れ様でした!!」
- 89 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:11
-
フラフラと歩く愛と三好。
酒で相当酔っているのか、三好の足はおぼつかない。
愛の意のままに動いている、そんな感じだ。
「三好課長・・・」
「ふぇっ?」
「さっき、言ってましたよね。中澤さんのこと」
「な、なんの話?」
「とぼけないで下さいよ・・・言ってたじゃないですか。裏ではあんなことやこんなことしてるって」
「ふぁっ・・・」
三好の耳元で、まるで耳に唇が当たるのではないかと思われるような近さで、愛が呟く。
愛の誘導のもと、フラフラと歩いていた結果、ここは人気のない道。
率直に言えば、ラブホテル街へと差し掛かっていた。
- 90 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:11
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「ちょっと、一人で歩けないくらいに酔ってしまってますね。少し休みましょうか」
「えっ?あの・・・高橋くん?」
「えっと、朝までで。うぅーんと・・・じゃあ、この部屋でお願いします」
サクサクと、もう手馴れた感じで三好を部屋へと誘導する愛。
「高橋くん・・・ここって・・・」
「はい、ラブホテルですね」
「で、でも」
「はい、とりあえずこれ」
「えっ?」
愛は三好に水を手渡す。
「酔っているようなので、とりあえずお水を一杯でもと思いまして」
「あ、ありがとう」
ゴキュッと、三好が水を飲み干したのを見て、愛はニヤリと笑った。
そのまま三好をベッドの方へと誘導していく。
- 91 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:12
-
「大丈夫ですか?とりあえず座って・・・」
「は、はい」
「呼吸が苦しくなるといけないですからね」
そう言って愛は、三好の上着のボタンと、下に着ているブラウスのボタンを外していく。
上着を脱がそうとして、愛が三好の肩に触れたその時・・・
「んぁっ・・・」
「やっと効いてきたか」
「えっ?」
「いやぁ、こっちの話です。それよりも・・・」
「あ・・・いやっ・・・んっ」
飛び切りいやらしく、愛は三好の背中を撫でる。撫で回す。
もうお気づきだろは思うが、愛は三好に水に混ぜた薬を飲ませている。
新垣里沙特製の自白薬である。その名も『Orgasm to be happy』
なんというネーミングセンス。流石は新垣里沙だと言う事にしておく。
それはさておき、
この薬のいやらしい所は、その特性にある。
それは、飲まされた者の全ての性感帯が爆発的に開発されてしまうという特性だ。
飲まされた者は、押し寄せてくる快楽の中で自白してしまうという、なんとも恐ろしい・・・。
「そうだ。さっきはうやむやになって聞けませんでしたよね」
「ふぇっ?」
「中澤さんの話ですよ・・・」
「私は・・・何も知りません」
「へぇ、知らないんだ」
「あっ・・・ふぁっ・・・・・」
愛は、三好のブラウスに手をかけ、三好の乳房を刺激する。
- 92 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:13
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「あなた・・・自分が何をしようとしているか分かってるの?」
「何って、三好課長からお話を聞こうとしているだけですけど」
「そんな・・・あぁ・・・っっっ」
「ふふっ、拒否しておきながら、体のほうは正直なんですね」
スーツスカートから伸びる三好の艶やか足には、一筋の透明な液体が流れていた。
愛は尚も続ける。
「中澤さんのこと、話してくれる気になりました?」
「なっ、だから私は・・・何も知らないって」
「ふうん、まだシラを切るんですね」
「ひゃっ、あっ・・・あぁっっ・・・」
愛の攻撃は、既に下半身にまで及んでいる。
三好も体を捩って逃れようとするが、
酒が回り、自白薬を飲まされた体は、既に脳からの命令を聞くことが出来る状態ではなかった。
「ふふっ、中澤さんのことを聞きたかっただけだったんだけど・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「僕もなんだか・・・変な気分になってきちゃったな」
自分が女であることを悟られないように、ワイシャツは脱がず、上着だけを脱ぎ捨てる愛。
「待って!!待って待って!!!」
「何を待つんですか?三好課長」
「私たちの会社は、社内恋愛禁止なの!もしバレたら・・・」
「関係ないですよ。そんなこと」
「なに言って・・・あっ、ああっ!!」
「まだ夜は長いんです・・・焦らずにイキましょうよ・・・」
もう諦めたのか、三好の体から力が抜けたのを確認し、愛はまたニヤリと笑った。
- 93 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:13
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- 94 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/21(月) 22:14
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- 95 名前:ロン 投稿日:2006/08/21(月) 22:16
-
今回分の更新は以上で終了とさせて頂きます。
情報戦やら諜報戦の醍醐味は、ズバリ『エロシーン』だ!!
・・・と、僕は勝手に思っている次第です(苦笑
それでは、お粗末さまでした。
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/21(月) 22:42
- 愛ちゃんエロぉっ!!!
男前な愛ちゃん初めて見ただべよ。
キザな麻琴も気になりますな。
- 97 名前:da- 投稿日:2006/08/22(火) 00:27
- あー!中澤さんが気になるぅぅー!!
続きを楽しみに待ってます!
- 98 名前:ロン 投稿日:2006/08/28(月) 22:07
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月曜の夜がやって参りました。
と言うことでレス返しをば・・・
>>96 名無し飼育さん
貴重なエロシーン。
男前な愛ちゃんは、もうリボンの騎士に影響されまくりでした(汗
キザな麻琴は・・・まぁキャラですから(苦笑
>>97 da-さん
中澤さん・・・。中澤さぁーーん!!(謎
楽しみに待って頂けるのは、とてつもなく嬉しいです。
それでは、今回の更新を。
- 99 名前:ロン 投稿日:2006/08/28(月) 22:08
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- 100 名前:ロン 投稿日:2006/08/28(月) 22:08
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『第2話』 浮気なあなた。初仕事 − 後編
- 101 名前:ロン 投稿日:2006/08/28(月) 22:09
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〜〜〜〜〜〜♪
〜〜〜〜〜〜♪
静寂に包まれる早朝の『BAR ゴロー』に、けたたましい呼び出し音が鳴り響く。
そんな音を聞いて、あさ美は真っ白な敷布団と薄ピンクの掛け布団から、
まるで某ホラー映画のワンシーンかのように這い出して受話器を取った。
「あぁっ!?」
『はいもしもし』とか『こちらBAR ゴローですけど』とかそういった類の言葉は、
どうやら今の彼女からは紡ぎ出されないようだ。
現在彼女の心を支配するのは、ただ純粋な邪念。
そう、紺野あさ美の寝起きの悪さは天下一品なのである。
「あ、コンコン?高橋だけど・・・」
「おめぇ今何時だと思ってんだよ!カラスすら活動始めてねぇーぞ!」
「ごご、ごめん。でも、ちょっと重要な話が・・・」
「うるせっ!」
ガチャンと、あさ美は乱暴に受話器を置いた。
- 102 名前:ロン 投稿日:2006/08/28(月) 22:09
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〜〜〜〜〜〜♪
〜〜〜〜〜〜♪
「だぁーーーー、うるせぇぇーーー!!!」
あさ美は、素晴らしい速さで電話線を引っこ抜いた。
電話線を抜いた後のあさ美の満足気な顔は、多分A級戦犯ですら癒されるに違いない。
- 103 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:10
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「ううー・・・。参ったなぁ、コンコン出ないなぁ」
さっきからどれだけゴローにリダイヤルをしても、
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』
と、なんとも腹が立つ無機質なアナウンス音しか流れなくなってしまった。
至極簡単な話だ。恐らくあさ美が電話線を抜いたのだろう。
視線を後ろにやると、ベッドの上で無防備に寝ている三好課長。
そして愛の体に付きまとう極度の脱力感。
結局三好を吐かせるまで2時間近くかかった。なかなか口を割ろうとしない三好だったが、
しかし愛の必殺技が炸裂したことにより、三好はついに口を割ったのだ。
格ゲーだったら間違いなくゲージ4本を使用する、究極の技だった。
技の名前は・・・。言わないおこう。
- 104 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:11
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- 105 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:11
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警察の目すら届かないような暗い道を突き進み、男は乱暴にドアを開けた。
そのドアの先にあるのが希望だろうが絶望だろうが、男は構わなかった。
ドアを開けたその先にいたのは、一人の女だった。
「お前、誰や?」
「お前か!お前が裕子をっ!!」
「裕子・・・。あぁ、中澤のことか」
「裕子の名前を気安く呼ぶなっ!!」
「おーおー、殺気だっとるなぁ」
「なにをっ!?」
悠然と椅子に座っている女に掴みかかろうとして、男は歩みを止めた。
男が歩み寄ろうとするその女は、物騒な黒い筒を持った屈強な男達によって護衛されていた。
その黒い筒がライフルであることを、男は瞬時に理解する。
そして自分が現在置かれている状況も、男は瞬時に理解した。
女の前に立つ三人の男は、完全に戦闘慣れしているように見える。
恐らく軍隊、あるいはそれに順じた組織で、それ相応の訓練を受けてきた者達だろう。
完璧な間合い、完璧なフォーメーション、不足の自体に備えて腰に巻かれたアーミーナイフ。
どれを取っても、男が勝てる要素が見つからない。
それに加えて男はサラリーマンである。本格的な戦闘の技術を持っているわけがない。
しかし、男にはそれを冷静に見極める判断力など、既に残っていなかった。
- 106 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:12
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「お前、何故だ!何故お前らの組なんかに裕子がっ!!」
「ちょいとな、HELLO PROJECTの帳簿を盗んできて欲しかったんや。
そんで手の良い奴を見つけてたんやけどな、そこに浮上してきたのが中澤やった。
・・・それだけの話や」
「バカな・・・。アイツは、昔から正義感が強かったのに」
「お前を殺す・・・」
「なに?」
「・・・って言ったらな、案外簡単に言うこと聞いてくれたわ」
男の手が握り拳に変化する。
米神は、今にも弾けてしまうのではないかと言うくらいに筋肉が踊り、
奥歯からはギリギリと音が聞こえてくる。
自分が愛している女をコケにされて、我慢していろと言うのが無理な相談だった。
「・・・・このやろぉぉぉおお!!!」
- 107 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:12
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- 108 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:13
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電話であさ美に怒鳴られてからもう1時間が経過しようとしている。
愛は、気持ちの良い朝日と、心地良いベッドの感触にまどろんでいた。
〜〜〜〜〜〜♪
〜〜〜〜〜〜♪
次に愛が目を覚ましたのは、さゆみからの電話が入った時だった。
寝ぼけ眼を擦りながら、愛は会話ボタンを押す。
「ふぁふっ・・・あ、もしもしぃ」
「高橋さん!?寝ぼけてる場合じゃないですよ!会社はどうしたんですかっ!」
「ふぇっ?会社?・・・って、はっ?はっ?」
携帯電話を放り出して、愛は部屋の壁に掛かっている時計に目をやった。
現在の時刻 → 午前9時。
愛の頭の中 → 真っ白。
気づくと、隣に寝ていたはずの三好課長の姿が見当たらない。
荷物も無くなっていた。
- 109 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:13
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「あああ、アカンて!!!なんでもっとはよぉに起こしてくれんかったのぉ?」
テンパるとキャラが戻るようである。
「高橋さん!落ち着いてっ!とりあえず中澤部長がカンカンです!!」
『中澤部長』と言う言葉を聴いて、愛はピタリと動きを止めた。
同時に愛の頭の中で、昨夜に三好が吐いた言葉がリピートされる。
『中澤裕子は・・・平家組に・・・』
三好が最後の最後に吐いた言葉である。
この平家組と言うのは、ここら一帯を取りまとめる任侠集団。所謂ヤクザである。
先代の平家みちよが収めていた頃は、義理と人情を重んじる素晴らしい任侠集団であったのだが。
しかしその平家みちよが不慮の事故で亡くなり、稲葉貴子がその後を襲名した時からその悪名が蔓延り始める。
噂では、平家みちよの事故死も稲葉によって工作されたのではないかと、実しやかに囁かれていたようだが。
単なる浮気調査として始めたこの件に、まさかヤクザの組の名が出てくるとは。
これは愛にとっても予想の範囲外だった。
- 110 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:14
-
「もしもし、聞いてるんですかっ?オイコラッ!!猿顔!!」
「なんやとぉっ!?」
「高橋さん、とりあえず会社に来てくださいよぉ。私一人じゃ心細いです」
「分かった。すぐ向かうわ・・・てかあんた今、猿顔って!!」
「・・・プー、プー、プー」
「うーわっ、切っちゃったよ」
猿顔と言われたのが余程に遺憾だったのか、愛はそのまま窓からラブホテルを脱出。
チェックアウトの電話に反応が無いのを不審に思った従業員が部屋に来た時、
そこはすでに蛻の殻となっていた。
- 111 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:15
-
「高橋くん!一体何してたんだ!!」
「すみません。渋滞に巻き込まれてしまいまして・・・」
「三好と言いお前と言い・・・。今日はそんなに混んでなかったはずだぞ?」
「はい。以後気をつけます」
愛が三好を見る。
一瞬目が合った後、三好は気まずそうに視線を逸らした。
・・・まぁ当たり前の反応か。
そのまま席へ戻り、愛は昨日と同じくミミズを書き始めた。
さゆみもそれに習う。
- 112 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:16
-
カリカリカリ・・・・
カリカリカリ・・・・
ミミズがB4のルーズリーフの裏表にギッシリ描かれたその時、
ターゲットである中澤の行動に変化が見られ始めた。
頻りに時間を気にしだす。明らかに何か用事があるように見えた。
その動作から少しして、中澤は席を発った。
どうしましょうか、といった表情でさゆみは愛を見る。
愛は口を真一文字に結び考える。現在PM12:30。
バッグを持っていったことを考えると、トイレに行くわけではないことは確か。
先ほど弁当を食べているのを見ているため、食事ということでもないだろう。
そう考えると・・・
「あぁ〜、お腹すいた」
愛が不自然なまでに声を張り上げる。
キョトンとするさゆみ。
「ちょい外食でも行くか」
愛がさゆみに指でチョイチョイと合図する。
その合図を見て若干慌てながら、さゆみもそれに乗った。
「た、高橋さーん。私も行きますー」
「おぅ。じゃあ奢ってやるか」
「わ、わーい」
酷いほどに不器用なさゆみの演技。
まぁ初めての潜入捜査で、しかも高校生。仕方ないと言えば仕方ないのだが・・・
- 113 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:17
-
「ちょっと待って、道重さん。あなたは残ってこの仕事やっちゃって」
「えぇっ!?」
さゆみに向けて睨むような視線を送っていたのは、三好絵梨香だった。
廊下を見ると、中澤はエレベーターに乗る所。
さゆみが三好に捕まっているのを横目に、愛は中澤を追うことに決めた。
間一髪で中澤と同じエレベーターに乗り込み、迷うことなく中澤の背後に立つ。
子どもの頃から演技に磨きをかけてきていた愛には、相手の些細な変化も見落とさない自信がある。
人が周囲を意識する時、顔や手、息遣いなどが微妙に変化する。
そんな細かな変化に、愛は反応出来るのである。
中澤に自分の存在は絶対に気づかれてはいない、その自信が愛にはあった。
(さて、これからどういう行動に出るのかな、中澤さん)
- 114 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:17
-
中澤は、仕切りに時間を気にしながら早足で会社を出た。
その15メートル後方を愛が歩く。
平日の昼間。それもお昼時。町はサラリーマンやらOLやらでごった返していた。
何かに追われているように早足で人ごみを掻き分けていく中澤。
一瞬気づかれたかとも考えたが、不自然な点が見当たらないため、愛は尾行を続けた。
歩き続けて5分くらいが経過した時であろうか。
中澤が急に脇道に反れた。
急いで後を追い脇道に曲がりしばらく行くと、中澤は携帯を取り出し、誰かと話し始めた。
そして話し始めてすぐ、明らかに中澤が後ろを意識し始める。
愛はビクリと肩を揺らす。
中澤が後ろを意識したと言うことは、明らかに愛を意識したと言うことだ。
では何故、愛に気づいたのか。
愛は正真正銘のプロだ。今まで何度も死線を潜り抜けてきた実績もある。
自ら気配を出すようなマネは絶対にしない。そしてそれは今回も同じだった。
相手も同じプロでない限り、感づくことは不可能に近い。
- 115 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:18
-
(・・・・・プロ)
愛はハッと思いつき、周囲の視線に気を配る。
そして、チッと愛は舌打ちをした。
威圧するような3本の視線が、愛に突き刺さっていたのだ。
何故、愛がこの視線に気づかなかったのかと言えば、それは相手もプロだったからである。
その視線に気づき、愛の太ももに装備してあるサイレンサー付きのワルサーP38に手をかけた時、
既に黒い筒が愛の背中に突きつけられていた。
それを確認して、愛は両手を上げた。
その気になれば身を翻して後ろの奴を倒すことくらいは出来ただろう。
だが先ほども言った通り、相手は3人である。
例え1人を倒したとして、残りの2人に蜂の巣にされると考え、愛は降伏を選んだのだ。
「何故中澤をつけた?」
「なんでだろうね」
「・・・・」
「・・・・」
「答えろ」
「嫌だと言ったら?」
「しょうがないな」
首筋に衝撃が走り、愛は意識を失った。
- 116 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:19
-
- 117 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:20
-
ブーー、ブーー。
さゆみの携帯が規則的な振動音を奏でる。
慌てて携帯電話に手をやり、音を止めようとしたさゆみだが、
すでに周囲からは冷たい視線が突き刺さっていた。
ピッと三好が廊下を指差す。恐らく話すなら廊下で、と言う意味なんだろう。
三好に軽く頭を下げたさゆみは、足早に席を立ち、廊下に出た。
「はい、もしもし。さゆみです」
『分かってるわよそんなの!』
「は、はい!すみません」
電話はあさ美からのものだった。
気のせいか、電話の向こうのあさ美が少々苛立っているように感じられる。
「あの・・・」
『中止!!』
「えっ?」
『中止!!浮気調査中止!!」
「ど・・・どういうことですか?」
- 118 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:20
-
掻い摘んで説明するとこういうことだ。
あさ美の話によると、どうやら今回の依頼主が何者かによって殺されたらしい。
そして殺した犯人も大方予測出来ているようなことを言っていた。
『とりあえずバーに戻ってきて』
「あ、はい。でもあの、会社は・・・」
『それはこっちで適当にやっとくから。さゆは早く戻って来なさい』
「わかりました」
さゆみはキョロキョロと周りを見渡し、絶妙のタイミングでエレベーターに乗り込む。
デスクの上に置いてあるミミズだらけのルーズリーフを見て、どんな風に思われるだろう。
と、そんなことを思案しながら、さゆみはバーへと向かった。
- 119 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:21
-
ギィッと、立て付けの悪いドアを押し開けると、そこに立って居たのはあさ美だった。
もっと正確に言うと、仁王立ちしていた。
「愛ちゃんはどうしたの?」
「あ、あの、中澤さんの尾行に・・・」
「あちゃー」と声を出しながら、大袈裟に上半身を仰け反らせるあさ美。
この反応にさゆみは疑問を抱く。
大体、中澤の浮気を突き止めるのがさゆみ達二人の役目だったはずだ。
定石通りに尾行をして、頭を抱えられる意味が分からない。
「大丈夫かなぁ・・・愛ちゃん」
「あのぉ、全然話が読めないんですけど」
「えっ?ああ、ちょっと考えないといけない事態になってきちゃったわけよ。
さゆ、とりあえず皆に連絡入れておいてもらえる?私はちょっとやることがあるから」
「えっ?はっ?あの・・・はい?」
「んじゃ、よろしく頼んだよ?さゆ」
さゆみは口をポカンと開けている。
そもそも話の流れが全く分からない。大丈夫かなぁ・・・って、何が。
あさ美はもう走り去ってしまったので、詳しいことを聞くことも出来ない。
とりあえず皆を呼ぼうと、さゆみは携帯電話に手を伸ばした。
- 120 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:33
-
- 121 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:34
-
愛は、ただただ天井を見つめていた。
ゴロンと大の字に寝転がり、特に何があるわけでもない天井を見つめた。
時折、面倒くさいなぁ、などと呟きながら・・・。
気づいたらこの部屋の中に入っていた。
足首やら手首やらを拘束されるわけでもなく、口にタオルを詰め込まれるでもなく、
完全に自由な形、イッツ ア フリースタイルで放置プレイされていたのだ。
最初はなんとか脱出を試みようとした。
だがカードキータイプの分厚い扉をそう簡単にこじ開けられるはずもなく、
愛は寝転がることを選択したのだった。
・・・・・。
それにしても何もない。ホコリの一つでも落ちていて良い様な気がするのだが。
愛が閉じ込められている部屋には、ホコリはおろか、キズ一つ発見できなかった。
これは単にこの部屋が一回も使われずにいただけなのか、
それとも管理者が異常なまでの綺麗好きなのか。少なくとも後者はないだろう。
全く、金を持て余してるヤツってのは無駄なことに金を使いたがるものだ。
使いもしないカードキータイプの部屋を作るなんて。
愛は溜息を吐く。
- 122 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:35
-
「ったぁ〜〜、何すんねん!!客人やねんぞっ!」
「黙れっっ!」
随分遠くの方で、男と女が言い争っている音が聞こえる。
最初は気にも留めていなかった愛だが、その声が段々と近づいてくるのが分かり、
ドアの前まで移動した。
ガションッ!!
「ふぎゃっ」
ピ〜ッと、カードキーのロックが外れる音がして、ドアが開く。
愛はその衝撃でドアに鼻を打ち付け、倒れた。いや、のた打ち回っている。
そんな愛の横に、ゴロンと人が転がってきた。
「ったくもぉ〜。人の扱いを覚えさせなアカンで、アイツら。
・・・あ?あんた、なんで転がりまわってるん?」
「ふぇっ?」
転がってきたその人物は、先客としてそこに居た愛を見て目を見開いた。
「たたた、高橋っっ!!なんでこんなトコにおんねん」
「あ、中澤裕子」
「呼び捨てかいっ!」
転がり込んできたのは中澤裕子だった。
- 123 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:36
-
- 124 名前:浮気なあなた。初仕事 投稿日:2006/08/28(月) 22:38
-
これで今回の更新を終了させて頂きます。
引っ張るなぁ〜、第2話。(苦笑
次回が完結編です。便利屋UFA、平家組に討ち入りじゃぁーーー!!!
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/04(月) 13:07
- 続きが気になる・・・今夜更新かな?
楽しみにしてます!
- 126 名前:ロン 投稿日:2006/09/12(火) 01:17
- >>125 名無し飼育さん
申し訳ありません。
色々と立て込んでいたこともあって、月曜更新をお休みさせて頂きました。
もうちょいすれば更新再開できる予定です。
本当に申し訳ないです。
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/20(水) 23:36
- 天然愛ちゃんキャワス!
作者さんのペースでマターリ頑張って下さいね。
- 128 名前:さみ 投稿日:2006/09/22(金) 03:11
- おもしろい!
作者さん頑張って下さい。
- 129 名前:ロン 投稿日:2006/09/23(土) 19:31
- >>127 名無し飼育様
すみません。自分に甘えてしまいました(汗
>>128 さみ様
努力します!!努力します!!!!!
面白くなりますように!!!(懇願
・・・すみませんすみませんすみませんすみません。
と、いうことで今回の更新です。
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/23(土) 19:31
-
- 131 名前:仕事 of 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:32
-
恐らく今の私は『唖然』と言う言葉が世界一似合っているに違いない。
棒立ちのまま特にすることも思い浮かばず、目の前の光景にただ唖然としてる。
足が動かない。脳が正常に働かない。目の前で起きていることを理解したくない。
目の前に広がる光景、緑色のカビのようなものに体が侵食され、朽ち果てていく光景は、
正に地獄絵図と形容するに相応しいものだった。
なによ、なんなのよこれ!!
何をするでもなく立ち尽くしている私を現実に呼び戻したのは、右腕に感じた違和感からだった。
「藤本さぁん・・・小春たちどうなっちゃうのぉ?」
小春?・・・あぁ、小春か。そういやさっき拾ったな。そんなの。
- 132 名前:仕事 of 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:33
-
しっかし簡単な依頼だからパッパと終わらせてね、とか言ってたコンコンの顔が憎たらしいな。
どこが簡単な依頼なのよ。何これ。何この状況。バイオハザードの実写版と言っても誰も疑わないよ。
あ、言うまでもなくコンコンって言うのは私たちの元締めである紺野あさ美の略称ね。
以後、覚えておくようにしなさい。
「ちょ、ミキティ・・・・・・・・・」
おっと・・・。文句の一つもたれてる余裕すらないんだった。
つまり目の前でのたうつ人々にも十分ビックリなんだけど、その中に新垣里沙も含まれていることに私は驚いているわけだ。
気づいてくれた人も居るだろうけど、点をたくさん使って、この苦しそうに私を呼ぶ声の主こそが新垣里沙。
それだけなら良いんだけど、問題はこの症状が発症したらすぐに抗生物質(ワクチン)を打たないと死亡してしまうということ。
UFA専属の医師(藪だけどな)で、薬師のガキさんが言うんだから間違いはないと思う。
「ミキティ・・・・・・お願い。ワクチンを・・・・・・」
「うん、分かった。すぐ持ってくるよ」
後30分もすれば確実にガキさんの下に天使が舞い降りて、なんの躊躇いも無く天へと誘ってしまうだろう。
賭けてもいい。あと30分でガキさんは死ぬ!
・・・しょうもないこと言ってる場合じゃない。落ち着け、私。
他に賭ける人がいないんだからいくらBetしたって儲けにならない。
てゆーかガキさん薬師だったら簡単にこんな病気にかかってんじゃねーよコノヤロウ。
- 133 名前:仕事 投稿日:2006/09/23(土) 19:34
-
「藤本さん・・・」
「大丈夫、小春ちゃんはここで待ってな。すぐ戻ってくるから」
「イヤ!小春も行く!」
それまで私の手を握って離さなかった少女、”小春”の手を、私はそっとほどいて頭を撫でた。
周りを見渡すと、そこら中に同じ症状で息絶えた人達の死体が転がっている。
いや、それよりもこんな軽々しく「大丈夫」なんて口にしちゃって良いのか?
ってか客観的に見て大丈夫なもんか?この状況は。
目の前で呻いてるガキさんには悪いけど、大丈夫じゃない確率の方が格段に高いと思うね。
我ながら無責任なことを言ったなぁと思う、マジで。後悔。
「ついてきても良いけどだね。
・・・足手まといになるようだったら容赦なく置いてく。例えあんたがどうなろうとも」
これを聞いて、小春の表情は「ヒッ」と言う効果音が付きそうなくらいの怯えた表情に早変わり。
目には涙まで浮かべている。
あぁ〜あ。だから苦手なんだよ、ガキンチョは。
まぁ私も精一杯に怒気を込めて言った訳なんだけど。何故そんなことをしたのかと言えば、
死にたくなかったら付いてくるんじゃねぇ、と言う意味を分かりやすく伝えるためにしたのだ。
しかし、次の瞬間に彼女から紡ぎだされた言葉は
「はい!小春、頑張りますっっ!!」
だった。
あぁ、面倒くさい。何なのこの子。
そんなこんなで、私と小春は暗い夜道を走り出す。
走りながら私は、この仕事の依頼を受けた時のことを思い出していた。
- 134 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:36
-
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『仕事 オブ 藤垣』
川 ’ー’)< えっ、解決編は・・・?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 135 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:37
-
某日・・・
サラリーマン風の男から浮気調査の依頼を受けて二日後のこと。
我らが大将である紺野あさ美はと言うと、大金をせしめた反動から半ば錯乱状態へと陥り、
無駄に私達に絡んできたり、夜になると部屋から笑い声が聞こえたりと、
何かに取り憑かれてるんじゃないかと思わせるような行動が目立っていた。
まぁ、私はあのサラリーマンのことを疑ってるけどね。
大体ただの浮気調査なのにそれだけの大金を渡してくること自体、もう既に怪しい匂いがムンムンする。
こんな話は、そうそう有り得るもんじゃない・・・。
そう思ったのは私だけじゃなかったらしく、隣に居るガキさんも怪訝そうな表情を浮かべ、
ふと周りを見回せば、実はゴロー内に居る全員がそんな表情を浮かべていることに気付く。
カウンターの麻琴は苦笑、れいなは顔をしかめ、新人のはずの道重ですら口をポカンと開けていた。
まぁこの新人さんは、まさか自分がこの仕事に放り込まれるとは思ってもみなかっただろうに。南無。
- 136 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:38
-
「ポンちゃん、また調子乗ってますね」
絵に描いたようなヒソヒソボイスで私に語りかけてきたれいなは、チラリとあさ美を見やって溜息を吐いた。
私はそれに対して苦笑いをし、自分も激しく大きな溜息を吐く。誰だってこの状況になれば溜息を吐きたくなるもんよ。
自分は溜息を吐かない自信があるって人はコチラまでご一報を。代わってやる。
・・・とまぁ、本当に皆がリアクションに困るくらいのフワフワ紺野っぷりなのだ。
そのフワフワっぷりときたら、仕事の依頼が入ってることをさっぱり忘れてるんじゃないかと錯覚するほどだ。
「ふぇ?ああ、仕事ね」
「コラコラ・・・何その『今思い出しましたよ』的なアレは」
私の言葉に、コンコンは慌てたような笑顔でこう答えた。
「は、はは。そ、そんなわけないじゃない。さてと・・・じゃ、じゃあ誰に頼もうかなぁ」
動揺が見てとれることから推測すると、本当に忘れてたことが予想されるな。まったく、信じられない。
「えっとぉ・・・、うーんとぉ・・・」
コンコンはゴローの中を一通り見回した後、
「よしっ。愛ちゃんお願いね」
「ん。」
浮気調査と言う名目の依頼に関して言えば、亀井絵里が居ないこの状況から考えると、
能力的、経験的な問題からしても高橋愛が選ばれることは必然であったわけだけど、
しかし次に呼ばれたもう一人の名前は、当の本人を困惑させる要因として十分だったらしい。
- 137 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:38
-
「あ、あと道重ちゃん。あなたも行ってきなさい。何事も経験だから」
「え、ええぇーー!私、もっと派手な仕事が・・・」
ちょっと可愛らしい声を出してすぐさま抗議する道重を、コンコンは鋭い目で見つめ、
次の瞬間には手の内にあるコーヒーの缶がグシャッと言う音をたてて潰されていた。
補足を加えておくけど、スチール缶だよ。鬼握力だよ。
「ひっ」
これまた可愛らしい声を出してすぐさま抗議行動を取り下げた道重。とてつもなく理不尽で可哀想だ。
旧日本の実情を知らないけど、多分これが圧政ってヤツなんだと私は思った。
コンコンそれは酷いよコンコン。
それからコンコンはいつものように、愛ちゃんに仮想人物情報が書き込まれた紙を手渡し、
愛ちゃんはそれを頭の中へと叩き込む作業に没頭する。
- 138 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:39
-
「はい、全部覚えました」
・・・そうこうしている間に、愛ちゃんの記憶タイムは終了したようだった。
目の前には、先ほどまでとは打って変わり、少しハスキーで低めの声色をもった愛ちゃんと、
その光景に目を白黒させている道重の姿がった。
まぁ初めて見たら驚くだろう、この状況には。
高橋愛を分かりやすく説明すると、『リアル怪人百面相』と表すのがもっとも適切だと私は思う。
なりきってもらいたい人物の情報さえ覚えさせれば、すぐにそれに準じた性格へと適応することが出来る。
それが高橋愛の特異能力だった。いやむしろ変態的な能力と言っても過言じゃないかもね。
依頼の度にコロコロと人格が変わるのは、見ている方はあまり良い気はしない。
はっきり言って気持ちが悪い。
あれだけ可愛い容姿を持ってるのに、なんであんなに無口なのか・・・。
未だに私の中に存在する不思議なことランキングのベスト4にランクインするくらいに謎な存在なのだ。
「じゃあ、早速ターゲットの会社に行ってきて」
「分かった」
急すぎるコンコンのお願いを、愛ちゃんは素晴らしい笑顔で了承した。
- 139 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:39
-
さて、愛ちゃんと道重が仕事に行くのを笑顔で見届けたコンコンは、
思いっきり満面の笑みで、
「さぁ、それじゃあ打ち上げにでも行きましょうか!」
などと言い始めた。
コンコンの言うこと逆らうor無視するor口答えすると、問答無用で減給が言い渡されるシステムなので、
私は半ば強制的に、渋々付いていくことになる。
「ゴロー全員での打ち上げですよ!はい、乾杯〜!!」
コンコンは出走前のサラブレッドのようにいきり立ちつつ、乾杯の音頭をとる。
ここは某焼肉店。コンコンが全員分を奢ってくれるんだとさ。ああ珍しい。
でもちょっと考えてもらいたい。全部をコンコンが奢ってくれるなんてことは今まで無かった。
金にうるさいコンコンがこんなことをするってことは・・・。
一体どれだけの金を持ってきたんだ、あのサラリーマンは。
- 140 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:39
-
それにしても一つ気になることがある。
ゴロー全員での打ち上げ、とさっき言ったが、仕事に行った愛ちゃんと道重は勿論居ないわけだ。
出来ればこういう祝い事は、全員が揃っている時にやりたいもんだ。
だから今日の今日にあの二人をムリヤリ仕事に行かせる必要は無かったんじゃないか?
・・・まぁ何故そうしたかって言うのは、大体見当がつくんだけど。
「ん?二人分の食費を浮かすためです。決まってるじゃないですか」
さも当然のようにケロッと言ってのけるコンコン。
まぁそう言うだろうとは思っていたけど、実際言われてみると人を人と思ってないような発言だな。
この場に本人達が居たらどれほど落胆していることか。
そんなことを思いながらレバ刺しを頬張る私。説得力のかけらもない。
私は6人前のレバ刺しをペロリと平らげ、カルビへと手を伸ばした。
今になって考えると・・・何の気なしに食べまくってた私を憎らしく思うね。全く。
何故憎らしく思うかと言えば、それは焼肉パーティーが終わった後のやりとりを聞いてもらえれば分かると思う。
コンコンは、パーティーが終わった後、こんなことを言い出した。
- 141 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:40
-
「さてと、それじゃあ仕事が入ってるんで、美貴ちゃんとガキさん。仕事に向かってください」
「はっ?」「へっ?」
私とガキさんの頭上にハテナマークが浮かび上がる。
いやまぁ、仕事は仕事だ。100歩譲って受け入れよう。
なんとか気を取り直して、私は場所を尋ねた。
「中国に飛んでください」
「はっ!?」
ま、まぁ・・・。北極とかじゃなくて逆に良かった。安心した。
うん。1000歩譲って中国に行ったとしよう。・・・依頼内容は?
「えーっと、あのぉ。向こうに行けば、分かる・・・かな?」
「・・・ふざけんなぁ!!!」
これはどう考えたってコンコンの方が悪い。
まぁ世間一般レベルで考えたとして私の反応は間違ってない。これはちょっと酷すぎる。
でも目の前に居る理不尽ほっぺ女は、なんの気負いもなしにこう言い放った。
「えっ?この仕事受けない気ですか?」
「全くその通りだよ。訳が分からなすぎる!」
隣で既にパスポートなんかを用意し始めてるガキさんは軽く無視だ。
「あらあら、あなたにそんな権限はないはずですけど?」
「大体ね、意味不明な仕事を請け負いすぎなんだよ!コンコンはっ!!」
「あの人から貰ったお金のね、半分が消えたんですよ。・・・あんたの食費でなっ!!!!」
「・・・・・」
ガキさんが凄いスマイリーな感じで私にパスポートを渡してきた。
私はそれを無言で受け取る。ああ、食べ過ぎなきゃよかった・・・おぇっぷ。
- 142 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:40
-
そうこうしてる間に成田空港。
「それじゃ、行ってらっしゃ〜い」
・・・それにしたってどういう神経してんだろうね、あの元締めさんは。
中国へ強制輸送される私たちに対しての後ろめたさとか、そういう気分は少しもないらしい。
悪いけどあたしゃそんな笑顔にゃなれそうもないね。
今にもあんたを絞め殺したい気分だよ。
「あら、やってみる?」
その言葉に対して、私は素直に飛行機に乗り込むことで答えることにする。
コンコンを殺したら、それこそ日本中のその筋の人から命を狙われることになる。
そんなことになったら面倒くさいことこの上なし。ごめんこうむりたい。
ってことで私に残された選択肢は潔く諦めて中国へ飛ぶことしかなく。
私は泣く泣く飛行機の搭乗口へと向かう。もちろんエコノミークラス。ファーストクラスにしやがれ。
そんなことを思いながらもう一度コンコンの方を向く。
捜し求める姿はもう居なかった。大方、近くの喫茶店かなんかでケーキを頬張っているのだろう。忌々しい。
まったく・・・あの人は私たちのことをなんだと思ってるんだ。
まぁ、どうせ男爵芋くらいにしか思っていないんだろうね。
- 143 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/09/23(土) 19:40
-
そこからが大変だった。
中国へ着くまでの間、ずっと騒ぎ続けるガキさんの相手をして、さらに1時間半前後からガキさんが飛行機に酔いだし、
運の悪いことに機内食をバカみたいに食べまくっていたガキさんはトイレに直行して全て吐き出し、
あまりにもトイレに篭ってる時間が長すぎるために、待っている他の乗客の怒りの矛先は私に向けられ、
何故か私が謝るはめになって、中国に到着するまで私は述べ回数に換算すると100回以上は「すいません」と言ったと思う。
私の隣にバカ寝顔を晒して眠りこけてるガキさんをどうにかしてやろうと思ったけど、
冷静と情熱のスレスレで思いとどまることが出来たことは褒めて欲しい。
「ミーーキティーー!!すごいよぉーー!中国だよぉーーー!!!」
軽く殺意が芽生え始めているのは私だけだろうか・・・
私があんたのためにしてあげたことに対する自責の念とかはないのか?
侘びの言葉の一つでもあるだろうに。
「あっはは。それにしてもミキティがワンピースねぇ。無い胸がもっと露呈されちゃうよっ!」
それが侘びの言葉ですか。そーですか。
私はリバーブローから鳩尾への素晴らしいコンビネーションを決めてこう言い放ってやった。
「おめぇに言われる筋合いはねぇよ!!」
・・・・ペッタ〜ン。
- 144 名前:ロン 投稿日:2006/09/23(土) 19:42
-
これにて今回の更新を終了します。
えっと・・・前回の続きは?(自分で言うな
- 145 名前:さみ 投稿日:2006/09/29(金) 03:31
- 面白いです、がんばって下さい。
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/10(火) 20:48
- 同時進行かな?総力戦の予感。
- 147 名前:ロン 投稿日:2006/10/13(金) 00:15
- >>145 さみさん
申し訳ありません。頑張っています><
>>146 名無飼育さん
同時進行ではないということが悔やまれます。言い訳のしようがないです(滝汗
大学生ってことで、学校が始まった途端にこれですよっ!(泣
申し訳ありません。物語自体はしっかりと書き進めております。
時間が空いてしまうと読んでいる方も飽きてしまうかもしれませんが、
お待ち頂けると非常にありがたいです。
「放棄はしないのっ!!」
- 148 名前:ロン 投稿日:2006/11/19(日) 02:10
-
大学の文化祭や、レポートなどの問題が相まって全く更新出来ない日々が続いてしまいました。
本当に申し訳ありません。
2話の途中のエキストラエピソードの途中と言う、なんとも中途半端な時期の長期休載。
これまた本当に申し訳ありません。
放棄はしないと↑でも書いています。絶対に放棄はしません。
とりあえず色々なことがひと段落ついたので、また更新を再開します。
それでは、これからもよろしくお願いします。
- 149 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:11
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「お降りの際は、足下にご注意下さい」
「はい、どうも〜」
「あっ、お客様っ」
「なんですか?」
「今日は、”間違い探し”が幸せを呼ぶ行動ですよ」
「は、はぁ・・・」
―――スチュワーデスで占い師ってか?・・・なんのこっちゃ。
- 150 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:12
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『仕事 オブ 藤垣』第02話
- 151 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:12
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ノープランな元締め、紺野あさ美によって中国へと駆り出された私とガキさん。
ここでの問題を上げるとするならば、私達は一体何をすれば良いと言うのだろうか、ということだ。
周りを見渡しても、情報屋やその類の人物の姿は無い。居るのはどう見ても一般市民の中国人だけだった。
「誰も居ないねぇ〜」
アホみたいな声を出してる隣のマメ顔女は放っておこう。気が狂いかねない。
とりあえず空港を出て、私達は適当に歩き始める。
「おいしいですよ〜」
肉まんやら小龍包やらを買い食いしながら付いてくるマメは軽く無視だ。殺意を覚えかねない。
それにしても本当に誰も居ないと言うのはどういうことなのだろう。
いくらノープランな元締めと言っても私の知る限り、仕事に関しては真面目だ。
とても義理堅く、そして温情深い。
そんなコンコンが適当な仕事を請け負うはずがない。
心の底で私はそう確信していた・・・。していただけあって、今の状況は少し不安でのあるのだ。
- 152 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:13
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「ほふほふっ。ほれにひてもおかしいれすねぇ」
食べながら喋るな、汚らしい。
「んぐっ。いやぁ、おかしいんですよ」
「なにがよ」
「あの太極拳やってる人・・・。あれ間違ってるんですよねぇ。メチャクチャですよ」
「んなもん・・・」
知るかよっ、と言おうとして私は口を止めた。
ガキさんが見る方へと目をやると、そこには太極拳(ガキさんが言うには偽者)を淡々とこなす老人が居た。
何故か強烈な既視感を覚えた私は、記憶を飛行機から降りる時へと逆戻しする。
間違い探し・・・。確かスチュワーデスの女はそんなことを言っていた気がする。
そこで私はピンッと閃いた。
思い立ったが吉日。私は右足に力を込めて思い切り踏み出し、えせ太極拳を披露している老人との距離を詰める。
「はっ?はっ?えっ?ちょ、何やってんのミキティーー」
後ろからガキさんの声が聞こえた気がしたけど、そんなことはお構いなし。
そのままの勢いで老人の鳩尾に縦拳を見舞い、前のめりに倒れかけた老人を抱えて人目の付かない所まで一目散。
我ながら素晴らしい仕事ぶりだと歓心した。さて、後は洗いざらい吐いてもらうだけだ。
- 153 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:13
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「おらっ、吐け。お前アレか、案内人かなんかか?」
「ゲフッゲフッ・・・」
「咳き込んでんじゃねぇよ!!早く言え!!!」
全く貧弱なじいさんだ。
「ミキティのせいで咳き込んでんでしょぉぉーーーー!!」
いつのまにか追いついていたガキさんに突っ込まれる私。
そういえば。
憑き物が落ちたような爽快感で気づかなかったけど、結構本気で突きをかました気がする。
自慢じゃないけど、私の拳はコンクリくらいなら容易にぶち割れる。
普通の人間だったら立っていることさえ、・・・というよりも死んでるはずだ。
・・・ってことはこのじーさんは。
- 154 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:14
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「げふっ。はぁ・・・紺野さんが言っていた通りのお嬢さん達だ」
「何?あんた、元締めを知ってるの!?」
「ちょっとしたお遊びのつもりだったんだ、許しておくれ」
目の前の老人は、先ほどまで咳き込んでいたとは思えないくらい息が整っていた。
「んで、あんたは誰なの?」
「依頼主に”あんた”呼ばわりは少し失礼じゃないのかね?藤本美貴さん」
老人が何気なく私の名を呼んだことに反応し、私は目を細めた。
何故かと言えば、私はこっちの世界じゃ『剛拳のミキ』って言う通り名でしか知られていない。
つまり私のリアルネームなど知られているはずがないのだ。
さすがに元締めも身内の情報を垂れ流すような勝手なマネはなさりますまい。
一瞬、食べ物で釣られたら・・・なんて考えたけど、有り得ない話だ。
「何してるんですか?」
事の重大さに全く気づかないお気楽ガキさんを無視して、私は話を続けた。
「あんたにちょっと話があるんだけど」
「何かね。藤本美貴さん」
「あんた・・・。なんで私の名前を知ってるの?」
老人はその質問には答えず、胡散臭さ漂う紳士的な振る舞いで横を指差した。
- 155 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:14
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気がつくと私達の隣に一台の車が停まっていた。
車高が低く、無駄に長い高級車。ジャガー・・・だと思う。車は詳しくないもんでね。
目の前の老人はにこりと微笑み、私達を車の中へと案内した。
流石は高級車、と言いたくなるような快適さ。
曲がる時に体にかかる負荷、地面からの振動も最低限に抑えられた車内。
私達と老人は向かい合わせに座っている。
私はと言うと、いつ先ほどの話を切り出そうか、タイミングを計っているところだ。
「ところで・・・」
老人に先手を打たれてしまった。
「今回の仕事の件なのですが」
「その前に私の質問に答えて」
「どのような質問でございますか?」
「とぼけないで!なんで私の名前を知っているの?」
私は、私が持ち得る最高の殺気を放ちながら老人に質問を投げ掛けた。
並みの人間ならば恐怖に身が竦んでしまうことだろう。
現に隣に居るガキさんは、小刻みに震えながら俯いてしまっている。
しかし目の前の老人は・・・
「おやおや、そんな殺気を放たれても困りますなぁ。
お連れの方も怯えてしまってらっしゃる。ここはひとまず、穏便に。穏便に」
私の殺気に全く臆することなく、柔らかな提案を差し出してきたのである。
私は言われたとおり、殺気を消して、もう一度質問を繰り返した。
- 156 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:14
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「なぜ、私の名前を知っているの?」
ゆっくりと、相手を威圧するように私は尋ねる。
すると老人は困ったような顔つきになり、こう答えた。
「”なぜ”・・・と申されましても、これが私の職業なもので」
「そんなものは答えになっていないわ。どういうルートで私の情報を手にしたの?」
「答えかねます」
それは、柔らかな佇まいと紳士的な口調の老人に似合わない、明確な拒否だった。
「それよりも、今は仕事の話をしましょう。あまり他人の事に漬け込むのはプロとしてどうかと思いますが」
沈黙をもって、私はその意見を了承した。
そして沈黙する私を確認し、老人は少し目を細めると紙を二枚を取り出した。
「それが、今回の依頼内容です。目を通しておいてください」
手渡された紙を見てみる。
- 157 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:15
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『仕事内容は、とある村、並びに村民を救うこと。報酬は働きに見合う金額を払う。
またこの仕事に関することで、心身に異常をきたしてもこちらに責任はない。
出来れば腕の立つ者、並びに薬士が居れば申し分ない。
仕事の終了は、そちらの判断を持って決するものとする』
大まかに言ってしまえば・・・
1.仕事内容 → 村の救済
2.報酬 → 働きに応じて
3.保険 → なし
4.必要条件 → それなりの実力者と薬の専門家
5.仕事の続行、終了は私達に決定権がある
とまぁ、こんな所である。
それから、4に関しての『それなりの実力者』と『薬の専門家』と言うのが、それぞれ私とガキさんのことである。
私はこう見えても(すっごいカワイイ外見でも)、結構な死線を潜ってきた。
それなりの経験、勘だってある。『剛拳のミキ』って言えば誰もが分かるレベルにまで達したと思う。
ガキさんに関しても、家が代々『薬士』の家系であり、薬に関する知識が並外れているのは事実だ。
まぁ家の方で一悶着あって、今はUFAで仕事人なんてやってるが、薬士としては世界レベルの腕を持っているのである。
つまりは適材適所と言う訳だ。まぁ、コンコンのことだからな。完璧なのは当たり前か。
- 158 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:15
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「で、仕事内容についてもう少し詳しく聞きたいんだけど」
「とりあえず何故に薬士は必要なのかを聞きたいです。
なにか病原菌の類の問題でしたら、予備知識があったほうが助かります」
それを言うと、それまで終始ポーカーフェイスを貫いてきた老人の顔が少し歪んだ。
「ええ、そのことなのですが・・・。実は私も仕事の依頼を受けた身でして・・・」
「つまりあなたは私達を村の場所まで導くことしか出来ないってこと?」
「さようでございます」
「えっ、ちょっと困りますよ。誰からの依頼なのかはっきりしていただかないと」
隣のガキさんは不安そうだ。
それもそのはずである。UFAでのガキさんの役割は主にバックアップに事後処理。
つまり仕事現場での経験があまりないのだった。
「ええ、この件の依頼者は私です」
「まぁ、そういうことになるわね」
「そんな・・・」
- 159 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:16
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こういうことは良くあることだった。
業者(便利屋、始末屋、各種事務所)が、自分達で手に負えなくなった仕事を抱えたとき、
それに応じた専門家がいる機関にその仕事を頼むのだ。
しかしそのような場合は、私達にとっての依頼人の依頼人、つまりこの老人の依頼人の素性は、
前の業者を通じて私達に降りてこなければならないのである。
今回の場合は、それが全く無い。内容も分からない。
つまりは『異常』なのである。
「異常であることは、私自身、重々承知しております。
いや、だからこそ紺野さんに頼んだのですが・・・。見当違いでしたかな?」
いちいち勘に触る爺さんだな。
「受ける、受けるわよ。ただちょっと・・・」
「・・・・・」
「はぁ、受けていただけるんでしたら、私はそれだけで十分でございます」
隣にいるガキさんの表情が浮かない。
それに関して言えば、私も納得していない節がいくつもある。
しかし、それ以上に私の心にあるモヤモヤはなんなのだろう・・・
いや、答えはわかっている。
それは私のちょこっと長いキャリアから来る悪寒。
そう、まぎれもない『不安』だった。
- 160 名前:仕事 オブ 藤垣 投稿日:2006/11/19(日) 02:16
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- 161 名前:ロン 投稿日:2006/11/19(日) 02:19
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今回の更新はここまでとさせて頂きます。
とりあえずこのお話は2話の間に起こったストーリーです。
結構長めです。無論ですが、本編と密接にリンクしています。
次回からはしっかりとした定期更新です。
それでは、ありがとうございました。
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 00:38
- 中澤さんはその後どーなっちゃてるんでしょう?
気がかりです。
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