寂しい道化師

1 名前:ピエロ 投稿日:2006/08/18(金) 21:57
ちょこちょこと短編とか。
更新速度は速かったり遅かったり。

まずは一発目、マイナーでいきまっしょい。
2 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 21:58


昔、アタシがまだ地元にいて、臨時教員として中学校に雇われた時の事だった。
その頃教師になって随分経っていたけれど、アタシの経験上では今だかつて巡り会った事のない生徒と出会った。
――あれからもう、何年やろ
指折り数えてみる。思わず鼻で笑ってしまう程、あの子の存在はアタシの中で偉大なものだった。


3 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 21:59


生意気やったなぁ。けど、ええ子やった。ホンマに。
4 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:00


蝉がそこらじゅうの木にへばりつき、夏だ夏だと騒いでいる。
涼し気なプールの景色は授業中にも関わらず、アタシの視線を誘う水面がキラキラと光っていた。
田舎の学校故、特に授業に力が入っているわけでもなかった。
下らない世間話をしたり冗談を生徒と言い合ったりする。そんな会話ばかりが飛び交う教室。
あたしは若かった。生徒を叱る事もほとんどしなかったし、今で言うタメ口なんていうのも許せていた。
今はどうか、知らないけど。
5 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:00

教室の一番右後ろ、イスや机には落書きばかり。
赴任した当初から気になっていた。
あの子の何を考えているか分からない瞳が、あたしの好奇心をくすぐった。


「松浦ー」

ニヤニヤしながら男子達が後を振り返る。
ふぇ?とかバカみたいな声を漏らした途端、教室中が笑い声に溢れた。

6 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:01


「何ボーッとしとんねん。次あてるぞ」
「ぼ、ボーッとしてたんと違いますぅ!プール見とったんです…」
「同じやん」

また、どっと笑い声が湧く。
松浦亜弥は、国語の授業になるとすぐボーッとする癖があったらしく、クラス中の笑いを買っていた。
頬を膨らませてぶつぶつ文句を言い腐ったりするところは、まぁ中学生らしい。
7 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:01

あの子は、陰でアタシを嫌ってたんと違うかな。
イヤって言う程、授業であの子を笑いのネタに使てたから。

8 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:02


「中間テスト返却ー」


こういう時だけ一致団結をして、揃いも揃って落胆の声が上がる。
案の定、あの子も顔をしかめて一瞬アタシと合った目を素早く逸らした。
ニヤ、とあたしが笑うのを見逃さなかったらしい。

「最後ー、松浦」
「…はい」



9 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:02


あたしの顔を見上げるなり溜め息を吐く。


「悪くないやん。上出来上出来」
「…う、っそ?」
「漢字は酷いけどな。あとはよう出来とる」
「せんせ、オマケしてくれたん?」
「んなわけないやん。厳しくつけたで、特にあんたのはな」

笑うととっても可愛い子だということをあたしは知っていた。
嬉しそうにテスト用紙を握りしめて、無邪気に喜ぶあの子はとても、可愛かった。
10 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:03


「せんせ、あたしのこと褒めてや。こんな良い点とったん初めてやで?」
「褒めたるよ。ええこ、ええこ」


そう言って頭を撫でてやると、心底嬉しそうに「えへへ」と笑った。
そのはじめての94点のテストを胸に抱いて、その日は一日中ゴキゲンだった。



11 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:03



中間試験を終えて、しばらく経った頃。
東京の学校から本採用の連絡をもらい、アタシは一ヶ月後に臨時教員を辞める事を決めた。
同じ学年の先生は皆寂しがってくれた。もちろん、クラスの子も残念そうにしてくれた。

特に、あの子は――ショックやったんかなぁ。




12 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:04


「……せんせー?」
「ん?」
「ホンマにせんせー辞めるん?」
「先生は辞めへんよ。東京でまた国語の先生やで」
「…っそうじゃなくて!」

漢字の書き取り補習でアタシと二人きりの放課後。
あの子がはじめて、アタシに感情をむき出しにした。
唇を尖らせて、いつも愛用していたシャーペンを握りしめて。

13 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:05


「あたしのせんせーじゃ…なくなるやん」


カタン、と音を起ててシャーペンがあの子の手から滑り落ちた。
アタシは正直、あの子がそこまでアタシを慕ってくれているとは思ってもなかった。
今にも泣きそうな顔をしてあたしを睨むあの子の瞳は、いつもボーッとしている時とは違っていた。
14 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:06

「…あんたの先生を辞めるとは言ってへんよ」

気休めにしかならない言葉を、投げかけて。
あの子には見破られていたかもしれない寂しさを抑えて、あの子をなだめようとした。
15 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:08


「…離任式、サボってやる」
「そら困るわー。最終日に欠席者出したないもん」
「せんせーあたしのこと可愛くない?」
「かわええよ。かわいい教え子や」


とっても、とってもかわいい生徒。
いつまでもその想いは変わる事がないといった意味を込めてそう言ったつもりだった。
だけどあの子は泣いた。声も出さずに、アタシの目の前で、静かに。
そして、離任式にも宣言された通り出席しなかった。
16 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:09


アタシは何をしたんだろう。
アタシはあの子の何を、知っていたんだろう。
あの子の顔を見れなくなってから、そればかり考えていた。




17 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:10


「暑い…」


一人暮しにも慣れた。それでも1人は少し寂しいから、犬を二匹飼った。
いい大人が休日にテレビを見ながら、アイスをくわえてゴロゴロと昼寝をする。
クーラーが壊れたから、扇風機を強にして暑さをしのぐ。
若い頃のアタシだったら、こんな人生を歩んでいるとは思いもしなかったんだろう。
18 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:10

東京の中学校はつまらない。教え甲斐がない、とでも言うか。
中途半端な問題児の集合、勉強の出来る子出来ない子への差別視、不登校。
こどもは相変わらず好きだ。けれど今の子供は可愛いと言えないくらい憎たらしい。

物足りない毎日の中、あの子はどうしているだろうかといつも思う。
単純に計算しても高校は卒業していて、今頃大学・専門、就職でもしているだろう。

そういや、勉強嫌いやったもんな。特に国語なんかあの点数以来なんもなかったし。


19 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:11


後悔。してないと言えば嘘になる。
あの子に嘘をつくことだけは自分が許さなかった。
電話をして謝ろうとも思った。

―――何を?


…なーんも、謝る事なんて無いんやけどな。




20 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:12


ピンポーン


「…はっ」


起き上がるのもおっくうな体。
反抗の意を示すように、覗き穴も見ずに乱暴にドアを開けた。
21 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:12


このドアに続く道にあの子がいたらきっと――なんてことは、考えないようにした。
22 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:13


「はいどちらさん…」


色白の肌に茶色い瞳は、ちょうどあの子にそっくりな姿を映し出していた。
まさか、アタシ夢でも見てんとちゃうか。
なぜか不自然なうすら笑いが浮かんで来て、それにつられて目の前で微笑む彼女が誰なのか確定した。



23 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:13


「おまっ…え?ちょ、待ち。ちょっと待て。え、何?何事?え?」
「…せんせー、驚き過ぎだから。あたしが誰だか分かる?」
「分かっ…わかるよ、わかるけど。まっ、松浦亜弥やろ?」
「うん」
「お前っ…」


驚く程綺麗になった。
24 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:14

アタシがへなへなと腰を抜かし玄関にへたり込むと、彼女はあたしの腕を掴んで昔と同じように笑った。
中学生だったあの子が今、アタシの目の前に現れて。
昔と変わらない笑顔を輝かせて、とても眩しかった。

25 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:14


「久しぶりだね、せんせ」
「…あ、あぁ…」
「あたし東京の大学に通ってるんだ。でね、せんせーに逢いたいなぁと思って、中学の時の先生、片っ端からあたってせんせーの住所教えてもらったんだよ」
「……そう、だったんか」

自分で家に上げておいて、何を話すべきか口がうまく開かない。
ぺらぺらと喋り出す彼女は差し出した紅茶にも手を付けず、今の生活を色々と教えてくれた、
高校ではうんと成績が伸びたことや、大学受験に向けて必死に勉強したこと、キャンパスライフを楽しんでいること。
楽しそうに話す彼女はまるで子供ではなく、立派な大人の顔をしていた。
26 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:15


「…あの、アレやな。標準語喋るようになったな」
「あ、うん。なんか関西弁すっかり抜けちゃってさ、こっちの言葉に慣れちゃった」
「…ふぅん」
「……せんせー?」
「ん?」
「………あのこと、怒ってる?」


おずおずとアタシの顔を覗き込んでくる。
あのこと。思い当たる節と言えば、さっきまであたしを悩ませていたことしかない。

27 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:15


「怒ってへんよ。なんであんたを怒るん」
「だって、あたし酷い事したから」
「分かっとるやん」
「…せんせーは、あたしの先生でいて欲しかったんだもん。他の人の先生になるのが、凄く嫌だった」


子供らしい考え。けど今のこの子は、アタシと同じ社会で暮らす大人の筈だ。


「アンタ、そんなにあたしの事好きやったん?」
「……好きやったよ。今でも、好きやもん」
「…おぉ、本性出しよった」
「子供扱いせんといて」
「してへんよ。せやからあたしも、アンタのこと――



28 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:16


「…違うよ」



押し殺すような声であたしに反抗をする。
もう昔の松浦ではなかった。正しく言えば、中学生の松浦亜弥ではなかった。



「…違うよ、せんせー」


そんな目をしてアタシを見るな。
その瞳はまるで、あの時見せたアタシへのささやかな嫌がらせのように。
扇風機で吹き飛ばされたコピー用紙。夏休み明けには中間テストがある。
29 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:17


テスト…と言えば


「…あんた、一度だけ国語で高得点たたき出したよなぁ」
「……え?」
「アタシ、嬉しかったんやで。あんた以上に」


わざととってつけたような言い方をしたら、意外な顔をしてた。
ふてくされたような表情であたしの顔と、傍に寄って来た犬の顔を交互に眺める。
なんや、犬っ鼻とでも言いたいんか。


30 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:17


「…誤魔化さんといてよ。せんせーだって、あたしの考えてる事分かってるはずやん」


グラスの紅茶が冷たい汗をかいている。
そして、あたしの背中にもヒヤリ冷たいものがつたう。
この子は侮れない。生意気な顔つきの頬を、つねってやりたくなった。

この子はアタシを好きだと言う。そら、アタシだって好きや。
せやけど。せやけど、何かいけすかんことが頭の中をぐるぐる回遊している。

31 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:19


今までアタシはずっと自分に正直に生きて来た。
受け持って来た生徒にも、そう指導してきたつもりだ。
その教え子から、まんまと脳天突き刺さるような言葉を言われてしまったのだ。


「嘘はついたらいかん。ついた分だけ傷付くのは自分やで」
「…お前」
「せんせーの受け売り。ねえ、ホントの事言ってよ」


もう逃げられない。否、逃げてはいけなかった。
いつのまにか大人になってしまったこの子を騙せるほど、アタシは賢くない。
きっとアタシは何年も前から、思い出の中にこの子を大切な宝物のように、誰にも触られぬよう安全にかくまっていた。

アタシだけの思い出になるように、何年も時を重ねて。


32 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:19



「……謝らんとあかんかったのは、この事やったんかなぁ」
「…え?」
「……可愛い教え子やったのも、かわいがっとったのも本当や」
「…うん」
「せやけど、お前のことをアタシん中で特別扱いしとったのも…本当やな」


きっとこの選択が正しかったことを証明するものは、彼女自身で。
アタシの中に閉じ込めていたその『特別』をまた掘り出すことが出来たのも、この子のおかげで。

33 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:20


「…回りくどいこと言うて悪かった。アタシも、あんたのこと忘れられへんかった。
離任式にあんたが来なかったことにも負い目感じて、あんたを忘れようと思って、色々考えた」


まくしたてるように喋り続けた。
これまでこの子に辛い思いを抱かせていたことを悪く思いながら。

「それでも、あんたはまたアタシの目の前に現れてアタシを好いてくれてる。
…ホンマはめっちゃ内気やねんで?アタシは。なのにアタシはあんたのことが」


俯いていた顔を上げて、直に視線がぶつかり合う。

34 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:20



「…好きやねん。どうしようもないくらい、好きやった」


今鏡に映るアタシの顔は、どうしようもないくらい赤くなっているだろう。
それに反してこの子ときたら、キョトンとサルみたいな顔であたしを見つめていて。
サル顔はもともとの素質やけど。なんてことを言ったらきっとさっきの言葉も嘘になり兼ねない。

好き、なんて言葉にしたのは何時ぶりやろ。
これまで年下を意中にしたことは無いし、むしろ年上との関係に憧れていた程だった。
それなのにアタシというリッパな大人が。

35 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:21

「…せんせぇ」
「………なんや」
「顔、真っ
「言うなや。全部言ったらしばく」

泳ぎ出す目をなんとか一点に集中させようにも目の前にいるのはこの子しかいない。
テーブルに放り出したままの左手が熱を持つ。
それは、触れたことがあったかないか覚えていない位儚い、彼女の体温。

36 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:21


「…あたしだって、何年越しの片思いだったと思ってんの。諦めようかと思ったんだよ?」
「急に標準語喋りだすんかあんたは」
「でも無理にでも押し掛けてきて良かった。今日先生の家に来なかったらあたし…」
「あたし?」
「スッパリ、せんせーの事忘れてたよ」


噛み合わない言葉。似合わない二人。
忘れ去られそうになったアタシ、ギリギリセーフやって。ラッキーやん。

37 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:22


「大好きやで、せんせぇ」


にゃふふ。
気の抜けるような笑い声と、放課後に補習でよく残っていた彼女の面影が蘇る。
よく恥ずかし気もなく面と向かって言えるもんだ。


38 名前:願わくば 投稿日:2006/08/18(金) 22:22

何年も何年も、この気持ちがあたためられていたおかげか知らないけれど。
年下の子供というのは扱いにくくて、常にアタシの中を引っ掻き回す存在だからこの子を選んだんだと思う。
多少手がかかっても、そこに彼女への愛おしさがなければ…この子と同じように、記憶から消してただろう。

何もないのに左手は握られたまま、ニコニコと微笑みをもらう。
なんでこんなに、笑顔が似合う子なんやろか。


「…これから、よろしゅうたのんます」
「こちらこそ」


微笑みの代わりに、アタシはそっとその左手を握り返した。



fin
39 名前:ピエロ 投稿日:2006/08/18(金) 22:25
このカプにはまったのは最近だということが否めない文体。
お目汚し失礼致しました。
松浦さんが松浦さんじゃないことにもorz
感想とかくれると嬉しいです。では。
40 名前:nanasi 投稿日:2006/08/19(土) 00:31
きゃー、いいもの発見!!嬉しいです!
先生はあのお方ですよね?この方の大ファンの私、扇風機ネタウケましたぁ。
リアルご本人は最近とうとうクーラー復活させたようですねぇ。
近いうちにまた、作者さまの新作に出会えるのを楽しみにお待ちしています。
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 05:45
松浦さんの関西弁にやられましたw 可愛いですね。
私もこのカプにはまりそうです!
次回も楽しみにしております。
42 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:43

身体中の全神経を研ぎすませて、あたしは静かに眠る。
少しでも何か別の事を考えてしまったら、そのドアの向こうから二度と美貴があたしの顔を見て笑ってくれないような気がしたから。
だからあたしは美貴が帰って来るまでこうして静かに眠る。
全神経を研ぎすませて。

43 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:44



「ただいまー」


鼻にかかった少し酔いどれな声があたしを目覚めさせる。
真夜中を過ぎてもうお日さまが現れる時刻に近いのに、美貴はまるで昼夜が逆転したような生活を送っている。
仕事だから仕方がない。
美貴の家に住まわせてもらっている以上は何も言えなかった。

44 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:44


「よっちゃん良い子にしてた?」
「うん。おかえりなさい。お酒飲んだ?」
「ふふ、ちょっとね」


顔をこれでもかと近付けてあたしの額と美貴の唇がぶつかる。
あたしはぎゅっと両目を瞑って、毎度行われるその儀式を静かに受け入れた。
ほんのりと酒気を帯びた吐息を敏感に感じ取ったあたしは、何も言わずにソファに寝転がる。
あんまり良い心地がしなかった。

45 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:44

あたしは美貴のヒモみたいな存在だ。
美貴は街で浮浪してたあたしに声をかけ、そしてあたしは世話をしてもらっているだけのヒモ。
どうしてあたしを自分の働いたお金で養ってくれてるのかと聞いた事がある。
答えはいつ尋ねても同じだった。


「だって、ひとりじゃ寂しかったんだもん」


そして、今あたしの頭を膝の上に乗せて髪をくしゃくしゃにして同じようにそう言った。
1人で暮らすには広すぎる2LDKの部屋。
美貴はそれがとっても寂しかったと言う。
46 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:45
もしあたしが変質者だったとしたら、美貴は大変な目に遭ってたに違い無い。
美貴はとても美人でかわいいから。
あたしはその事を考えただけで、胸がきゅーっと苦しくなる。
47 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:45


でも美貴はあたしの目を見て、こんなことも言う。


「別にいいんだよ。美貴が襲われても、その人が傍にいてくれれば」
「駄目だよ、そんなの。なんでそんな事言うの?」


美貴は困ったような顔をしてあたしの頬を撫でる。
あたしもつい熱くなって、美貴を困らせてしまった。

48 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:48


「だって、寂しいから」


あたしは身体を起こして、美貴にされるがままきつく抱きしめられた。
何故美貴があたしに執着するのか。答えは簡単に出るのに、あたしは迷い続けてた。
さみしいんだね。
ひとりがこわくて、しかたないんだね。
美貴はちっちゃくて、あたしが抱き返したらすぐに壊れてしまいそうな程華奢な身体をしている。
だから出来るだけ優しく、そっと美貴を抱きしめた。

49 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:49


「あたし、このままでいいかな」
「ん?」
「このまま美貴のヒモでいていいの?」
「ヒモって、よっちゃん何言ってんの」
「あたしは美貴におかえりって言いたい。美貴にただいまって言って欲しい、けど」



50 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:49

そしたら美貴はぼろぼろ泣き出して、あたしはびっくりしてティッシュを取りに自分の部屋へ走った。
美貴はあたしの手を握って離そうとしなかった。
涙も止まってくれなくて、何か間違った事や美貴を傷付けるような事を言ったのか不安になった。
だけど、美貴は泣きながら笑ってくれた。

51 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:50


「ずっといて。美貴のことひとりにしないで」
「うん。しないよ」
「それに、よっちゃんは美貴のヒモなんかじゃないよ」
「じゃあ何?」
「うーん、犬?」
「えぇー」

あたしは美貴が笑ってくれるのが嬉しくて、もう犬でも猫にでもなってやると思った。
それで美貴が良いならあたしだって、幸せだもの。

52 名前:待ちわびて 投稿日:2006/08/19(土) 11:50


「おやすみ」


すっかり寝入ってしまった美貴にそう呟いて、朝御飯の支度を始める。
昼夜逆転生活の美貴と、普通の生活を送っているあたしとではどうしても時間が合わない。
だから仕方なく、ひとりで朝御飯を作って、ひとりで食べる。

作るのは、ふたりぶんだけどね。



fin

53 名前:ピエロ 投稿日:2006/08/19(土) 11:50
突っ込み所満載なみきよしでした。
54 名前:ピエロ 投稿日:2006/08/19(土) 13:33

昼食の時間だったので少し間が空きましたがレス返し。


>>40nanashiさん そうです、あのお方です。あえて表記しなかったのですが分かってもらえて良かったです。

>>41名無飼育さん 松浦さんの関西弁好きなんです。かわいいですよね。レスありがとうございました。

55 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2006/08/19(土) 20:24
面白かったです。
次の更新を楽しみに待ってます。
56 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:04

ざあざあと雨が降る午後、美貴は運行停止になった電車のことで頭が一杯だった。
運行ダイヤが狂ったのは言うまでもなくこの大雨のせいである。
挙げ句の果てに、美貴がいつも利用する区間で人身事故が起き暫くは駅内で立ち尽くす羽目となった。
人混みは只でさえ嫌いだ。
それ故イライラするのも当たり前で、両手にぶら下がる荷物を今すぐ投げ出してしまいたい。

そんな中、その苛立ちを塞ぎ止めていたのは亜弥とのメールのやりとりだった。

57 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:05

『もう、たんがうちに来たいって言ったんだから早くしてよね』



画面を見た途端、美貴の頬がゆるりと縄を解いたように緩む。
期待していた筈の優しい言葉こそ見つからなかったものの、自分が家に上がることを待っているかの
ような愛おしい亜弥の顔が浮かんで思わずにやけてしまう。
こんなことどうかしてる。本人はとっくに自覚済みなのだが。

とは言っても、この遅れは全て美貴のせいではなくこの大雨と人身事故の所為である。
美貴は携帯を閉じ、大きな溜め息を吐いて改札を出た。

58 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:06

タクシーに乗り込むや否や新着メールが届く。
美貴は待ってましたと言わんばかりのスピードでカチカチとボタンを操作する。


『今日、泊まってくでしょ?』


当たり前だよ。
カチカチと再び指が動き出す。思わず頬がゆるんだ。
タクシーが動き出すのと、美貴が亜弥へメールの返信をする早さはほぼ同じだった。




59 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:06

鼻にかかった特徴のある声と、それよりもうんと高い亜弥の声が靄の中に響く。
ぱしゃん、と湯が跳ねるたびにお互いの話が違う話題に逸れていくのが楽しかった。
それでいてバランスは取れている。二人だからこそ、と美貴は思っていた。
もっとも、亜弥がどう思っているかなんて知る由もない。

「たん、肌焼けたよね」

だから、知りたくもない。

60 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:06

不意に白色の湯からちゃぷんと出てきたこれもまた白い亜弥の手が腕に触れる。
夏の間で随分肌の色が黒くなった。亜弥はそう言いたかったのだ。
なんとなく撫でられるように触られて、そのくすぐったさに美貴が身を捩ると、
亜弥が調子に乗ってくすぐり合いを始める。
その行為だけで軽く10分は過ぎていただろう。風呂を上がったのはそれから40分も後のことだ。

61 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:07



「ねえ、明日何時だっけ?」
「9時にスタジオ入りでしょ。ちゃんと覚えておいてよ」
「だって、亜弥ちゃんが覚えてればいいかなって思ったんだもん」
「バーカ」


久しぶりに横たわる亜弥のベッドは居心地が良かった。
なにより、亜弥のにおいがするから。しかしそんなことを口にしてもしょうがないと分っていたので、あえて何も言わない。
亜弥は早くも目を瞑って眠る体制に入ってしまった。
まだベッドの上でごもごもとしている美貴の腹あたりをポンポンと促し、眠りにつくことを命じた。
62 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:07


「亜弥ちゃん、亜弥ちゃん」
「んー?」
「そっち行ってもいい?」

亜弥はもう何も言わない。静かに身を近付けて、ぽすんと亜弥の横に頭を預けた。

63 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:08


「ちょっと、止めなさい」

笑い混じりに美貴を押し退けて、亜弥は眠りの世界から現実へ引き戻される。
美貴がわざとらしく、というより構って欲しくて、自分の背中に頭付きをかましたのだ。
ジタバタと大人しくならない美貴は、とうとうベッドの中で亜弥の身体を掴まえた。
暗闇でお互いの目も見えないぶん、実行しやすかった。


亜弥は至って冷静だった。そんなこと美貴にだって最初から分っている。
分っているから、こういうことをするのだ。

64 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:08


「…止めてって。ちょっとあんた、最近レズっ気多いよ」
「いいじゃんべつに。嫌じゃないでしょ?」
「嫌とかそういう問題じゃないでしょーが」


無理矢理身体を引き離されて、亜弥が美貴に背を向けてしまう。
べつに慣れている。レズだろうが何だろうが世間でちいさな噂になっていることくらい、美貴も分っている。

案外間違いでもない。自分でもよく分からない。
それが答えなのだから、亜弥がどうしようと美貴には全く関係のないことだった。

65 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:09



「亜弥ちゃん」


面倒くさい未来のことよりも、今ここにある感情を優先するべきだ。
遠回りは嫌いだし、回りくどいことも大嫌い。だから亜弥と一緒にいたいのだと美貴は思う。
たとえそれが――


レンアイカンジョウ、というものでも。



66 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:09


「美貴のこと嫌い?」
「……ちがうよ。いいから、寝ようよ」
「じゃあこっち見てよ」
「暗くて見えないよ」
「そうじゃなくて。ねえ亜弥ちゃん」


亜弥は美貴と向き合い、暗闇の中で手探りの状態で美貴の頬に触れた。
美貴にははっきりと亜弥の輪郭さえ捉えられない。それくらい部屋の明りは落ちていた。
カーテンも閉め切っている。亜弥は呼気を抑え美貴をゆっくりと抱きしめた。
美貴も亜弥の背中にしがみつくように抱かれ、大人しく目を閉じた。


67 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:10




いつからこうなったの?
きっと、そんな答えは誰も知らない。

いつから壊れたの?
今日の大雨の所為か、それともそれ以前の事か。



じゃあ、どっちが壊れたの?




68 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:10



「…みきたん」



好き、の度合いは難しいものである。亜弥は美貴を身体から引き離し、眠ることにした。
朝になればまた今夜と同じ掛け合いが繰り返されるだけ。
最初は亜弥も、美貴の末っ子気質が剥き出されただけだと思っていた。
でも違う。

―――それはきっと、自分へのアピールだった。


69 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:11

前に、美貴が亜弥にこう言った事がある。


『二人で一つの個体だったら、孤独も寂しさも必要無いよね』


肯定も否定も出来ない。
夜が明けるのを待って、二人は静かに眠りに落ちた。朝陽が登る明日を待ちわびながら、深く。


一人よりも、二人でいるほうがちょうど良い。
ずっとずっと、美貴も亜弥も同じ気持ちだった。


70 名前:盾と矛 投稿日:2006/09/17(日) 17:11


「…こういうの、ヘンだよ。違う?みきたん」


朝がやってきた。
亜弥は美貴の寝顔を見て、自嘲気味に口にする。
美貴はぐっすりと、まだ夢の中を散歩中である。

その寝顔が愛しくもあり、疎ましくもあった。


狂おしいほどに。



fin
71 名前:ピエロ 投稿日:2006/09/17(日) 17:13
GAM熱が上がってきてます。
なのに藤→松ですみません。とことん一方通行な感情…とは違うかな?
痛いかもです。ていうか更新遅れてすいません。
72 名前:ピエロ 投稿日:2006/09/17(日) 17:14

レス返しを。


>>55名無募集中。。。さん 
面白かったですか?お世辞でも嬉しいですー。ありがとうございます。
73 名前:ピエロ 投稿日:2006/09/17(日) 17:15
GAM熱が冷めてなかったらまたあやみき書くと思います。
では。
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/18(土) 19:17
微妙な関係のあやみきも良いですね
次回も期待してます
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 13:51
友達と恋人の間みたいな感じのあやみきにはキュンときますね
次回作も期待してます
76 名前:AM 投稿日:2006/12/18(月) 22:23
77 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/18(月) 23:48
ぬぁ〜!!めっちゃドキドキしましたw
あやみきまた読みたいですw
78 名前:ピエロ 投稿日:2006/12/20(水) 12:47
ただいまです。お待たせしました。
79 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:48

朝起きると、左手を誰かに握られていることに気付いた。
見慣れた栗色の頭は寝癖でほどよく巻かれていて、あたしは無意識に
その頭にぽんぽんと触れた。
うーん、とか寝言を言いながらシーツに顔をこすりつける様は、無防備きわまりない。

あー、この子ってあたしより年上なんだっけ。
寝顔はかなり幼い。と言うより、あたしよりもずっと年下に見えるのは気のせいだろうか。
伸ばした腕にぎゅっと絡み付かれて、身動きが取りにくくなる。

もう少しだけ、あやしてあげてもいいかな。

80 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:48


「ふあぁぁ」


それから彼女がベッドから這い出てきたのは、あたしがシャワーを
浴び終った直後の事だった。


「たん、おはよ」
「おぁよ」
「あくびする時はどうするんだっけ?」
「…ん?ああ、ごめんごめん」
「別にいいけど。あんた一応女の子なんだからさ」
「んへへ、そうだったそうだったぁ」

81 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:49

にへっ、と笑われちゃあ注意を促したあたしの言葉もまるで意味がない。
当の本人は、だらんとソファに座ってまだ眠そうな瞳をうつらうつら、テレビに向けている。
あたしは母親かっつーの。
と一人でブツブツ文句を唱えながら、ある事を思い出す。

「ちょっと、あんた何でいるのよ」

彼女はまた、にへっと笑った。


82 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:50


「暇だったから忍び込んでやろうと思って。そしたら、亜弥ちゃんが寝てたから」
「一緒に寝よう、って思ったの?」
「うん」


何気なく隣に座り、ココアを飲むあたしの横顔をまじまじと眺めながらそう言った。
ミキも飲みたい。てっきりそう言いたいのかと思って、何も言わずにカップを差し出す。
83 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:50


「へへ、ちがうよ」


あたしはぴくりと眉をひそめた。
ああ、そういうことね。

84 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:51




「あまっ」
「そりゃそうでしょ。ココアだもん」
「ミキはどんな味した?」
「んー、歯磨き粉?」
「なんかヤだな、それ」
「しょうがないじゃん。たんも飲む?」
「ううん、コーヒーがいい」


普通のカップルだったら、そのままどっちかがどっちかを押し倒してピンクな秘め事に
突っ込んで行く所なのかな。と、いつも思う。
あいにく、あたしと彼女はそういう事よりもなるべく軽いじゃれあいを求める。
キスして、ちゅうして、またキスして。まあ、それがエンドレス。

もちろん、お互いに触れたことはある。
でもそれは滅多に起こらない。
彼女が梨華ちゃんに面と向かって『可愛いね』と言う事くらい滅多に起こらないのだ。

85 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:51

理由はわからない。
ひとつの道に走ることを、あたし達はどこかで拒んでいるからなのかもしれない。
一度はそう思ったけれど、それは間違いだった。
行ける所まであたしは彼女と行けたら良いと思っている。だったら、その道を拒むことなんてないからだ。
じゃあ、何があたし達を阻んでいるんだろう?

86 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:52



「難しい質問するね、今日の亜弥ちゃんは」



湯気の立つインスタントコーヒー。
猫舌の彼女はふーふーと息を吹き掛けて、それを冷まそうとしていた。


「難しいかな?」
「難しいよ。そんなこと、考えた事もなかった」
「そうだろうと思ったよ。だから、あえて聞こうと思ったの」
「…うーん」

87 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:52

ことん、とテーブルに置かれた彼女のカップは、たんがあたしにプレゼントしてくれたものの一つだ。
ペアでくれたのは良いんだけど、なぜか二つともあたしの家に置いてある。
持って帰らないの?と尋ねると、彼女は頬を赤らめてこう言ったのだ。

『だって、一緒に使いたいじゃん』

あたしはそんな彼女が可愛いと思った。否、今も思っている。
ココアが冷めてしまったので、レンジでチンしようと思ったままキッチンに置きっぱなしのあたしのカップ。
あの頃は、こんな関係じゃあなかった。

88 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:52


「ミキ達って、付き合ってんの?」


純粋で、無神経な彼女が可愛くて、あたしは彼女と過す時間を大切にしている。
でもそれがあたし達に何かいけない影響を及ぼしているなら、べつだ。


「…付き合ってる、のかな」


恋愛じゃない。とは言い切れない。
曖昧なまま、あたしは彼女のことが好きになっていた。
それはもちろんあたしだけじゃない。あたしの隣に座る、この脳天気な寂しがり屋も同様だ。

89 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:53


「たん、コーヒーもう飲めるよ。いい感じになってきた」
「…あ、ホントだ。ありがと」
「いいえ」
「ねえ亜弥ちゃん?」
「ん?」
「ごめん、ミキ変なこと聞いちゃったよね。ごめん」


じれったく蒸気していた湯気は消えて、程よい温かさのカップを両手で包み込む。
あたしは静かに首を横に振った。すると、甘えるようにぎゅっとしがみついてくる身体。
不安なの?
そう訪ねる暇もなく、あたしはカップを置いて、その身体を抱きしめてやる。
何か言葉をかけるより、行動で示したほうが早いからだ。
90 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 12:54


少なくとも、さっきの話題に触れた所で、あたしは彼女を不安にさせてしまうだろうから。


「ごめんね、亜弥ちゃん」


謝ることなんて何もない。あたしはすべすべした彼女の頬にそっとキスをした。
それでも不安そうな瞳の色は拭え無かった。ああ、あたしの勇気ある行動さえ意味をなさないなんて。
今まで何気なく口にしていた言葉が全て嘘ならば、あたしは彼女を騙していたことになる。
自己嫌悪に陥るのも、そろそろかもしれない。
91 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 13:14

好きだなんて言わなければ良かった。
好きになんてならなければ良かった。

それはホントなの?
あたしにそう訊ねるのは、ほかでもない彼女だから。
92 名前:幸せの延長線 投稿日:2006/12/20(水) 13:14



「なんで謝るの?」
「だって、亜弥ちゃん、気分悪くしたかなって思ったから」
「そんなことないよ。ほら、早く飲まないと冷めちゃう」



そう言ってあたしは彼女の身体を引き離した。
抱きしめていた両手は、行き場がなくなって膝の上に置いた。


あたし達の関係の延長線の上に、一体何があるんだろう。
その答えを探す為に、あたしは今日も彼女を好きだと思う。



fin
93 名前:ピエロ 投稿日:2006/12/20(水) 13:18
御無沙汰してます。生きてました。
スランプに陥ったことにより更新を一時停止していたこと、最初に
お詫び申し上げます。
好評だったようなので、あやみきを書いてみました。
文が適当過ぎる箇所が多々、というかほぼなのですがorz


>>74名無飼育さん
どっちつかずな二人がグッと来ますよね。書いてて面倒だけ(ry

>>75名無飼育さん
キュンとしてもらえたようなので嬉しいです。気が向いたらまた書こうかと。

>>77名無し飼育さん
ドキドキするような展開は描けていたでしょうか…滅相もないです。

94 名前:ピエロ 投稿日:2006/12/20(水) 13:19
次は何にしようかな。
あやみき、よしみきのどちらかでリクを受け付けたいと思います。
設定付きで。おねがいしまーす。
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/20(水) 13:40
あやみきリアルでメロディーズPV撮影時の
裏側っぽいのなんて書いていただけたらサイコーです。
96 名前:ピエロ 投稿日:2006/12/20(水) 15:47
休んでたぶん連続して更新したいと思います。
先に言っておきます。結構適当です。
97 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:48


「あのさぁー」
「ん?」


亜弥ちゃんにとってはなんてことなかったのかな。
だって、あれが初めてだったわけじゃないだろうし。
嫌だよね。ふつー、あれが初めてだったら。しかも親友としちゃったんだから。
ん?親友?…そっか、美貴と亜弥ちゃんは親ゆ…


「にゃんだよう」
「いてっ」
「そっちから話し掛けたくせに、フリーズしないでくれる?」
「…ああ、ごめん」
「あのさぁー、何?」
「……ううん、なんでもない」
「は?意味わかんない」
「…美貴も意味わかんないよぉ」


98 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:49


どうしてわからないんだろう、この恋は。


99 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:49





美貴だって亜弥ちゃんだって、一応年頃の女の子だし、それなりに経験はある。
キスだってそれ以上のことだって、なくもない。
あるとは、言い切れないけど。あんな付き合い、恋愛って言わないだろうし。

困ったことに、美貴は亜弥ちゃんが大好きになっちゃって。
亜弥ちゃんは美貴のこと大好きだろうけど、それは友達以上にってことだけで。
恋とか愛とか、そういう感情はないんだと思う。
…きっと、他に相手がいるから。

100 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:49


「お疲れさまでしたー」


いつものように颯爽と撮影を終らせて、楽屋に戻る。
あーあ、あんなことの後によくそんなにも清清しい表情ができるもんだ。

みきのきもちなんてなにもしらないくせに。

101 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:50


「…なに仏頂面してんの?」
「え?」
「たん、疲れてんの?顔赤いけど」
「や、そんなことは」
「熱あるんじゃない。こっちおいで」


伸べられた白くてすらりとした手は、いつも以上に優しかった。
美貴がおどおどして戸惑ってると、ぷっと吹き出して亜弥ちゃんが笑った。
なにキョドッてんだよー。
ぽん、と頭を撫でられてから、ぐって引き寄せられる。
102 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:50


ねえ、このどきどきがつたわったら、どうしよう?

そんなことばかり考えてて、亜弥ちゃんの話なんてちっとも聞いちゃいなかった。

103 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:50


「たん、いいにおいすんね」
「えっ」
「さっきした時に、なんか甘いにおいしたから。香水?」
「…ううん、ちがうけど」
「………なによ、テンション低いな。おなかでも痛いの?」
「ちげーよ、亜弥ちゃんのばか」
「はっ?ばかにばかって言われたくありまっせーん」
「うるさいよ。…ばか」


めんどくさい。恋ってこんな面倒くさかったっけ?


104 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:51


たった一度のキスで、あんな風に感じるなんて。
美貴がおかしいのかな?亜弥ちゃんのこと、今更そんな風に見るなんて。
ずっと前から抱いてた気持ちとは全然違う。それどころか、それ以上の気持ち。

あいしてる、って気持ち。


105 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:51






「……あんた、この間からなんなの。なんかあるならさっさと言えばいいじゃん」



話し掛けられても、うんとかすんとしか答えない美貴にとうとう亜弥ちゃんは怒った。
というか、ほとんど呆れてるようだった。溜め息を吐いて、美貴を視界に入れようとしない。
あれは怒ってる時の顔だ。何年も一緒にいた美貴にしか分らない、亜弥ちゃんの表情。

これは本格的にまずい。

106 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:51


自分から突き放したくせに、ちゃんと距離もおけないなんて。
亜弥ちゃんが笑うたびに、亜弥ちゃんが美貴に触れる度にドキドキしてる。
だから、少しでもドキドキしないようにしなきゃって思ってたら、ついには呆れられて。

ばかみたい。ばかだよ、みきは。


107 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:54



「…あやちゃん」


何も言わない背中に、じわじわと心が傷んで行く。


「ごめん、あやちゃん」


返事くらいしてよ。無視なんてしないでよ。
ごめんね、美貴が亜弥ちゃんの事好きになっちゃったから、美貴、どうすればいいのかわかんなくって。
話聞いてなくてごめんね。亜弥ちゃんのこと、好きにならないようにするから。

ねえ、こっち向いてよ。


108 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:54



「あ…や、ちゃぁ…」


亜弥ちゃん。


「み…きがっ、悪っ…かった、からぁ、こっち、向いっ…て」
「……ちょ、たんっ?」




ぎょっとした瞳を見開いて、慌てて駆け寄ってくる。
泣くことしか出来ない美貴を抱き上げて、背中を優しくさすってくれた。
「あんた、なんで泣いてんの」って、さっきみたく強い口調でも、亜弥ちゃんは優しかった。
109 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:54

優しくしてもらうだけ、どんどん切なくなっていく。
冷たくされるだけ、どんどんわがままになっていく。

みきだけわがままで、ごめんね。


110 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:55


「…あんた、最近ずっと上の空だったから、ちょっと心配になっちゃって。
でもあんた、あたしに何も言わないから…むかついて。ごめん」


ティッシュ箱を片手で引き寄せて、もう片方で美貴の涙を拭ってくれる。
まだぐすぐす泣きべそをかく美貴に、亜弥ちゃんは苦笑いしてずっと背中を撫でてくれた。
美貴が泣くことはさすがの亜弥ちゃんも予想外だったらしく、亜弥ちゃんも辛そうだった。

ごめんね。あやまらなきゃいけないことで、いっぱいだよ。

111 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:55


「で、何があったか、言って?」


びくん、と身体が震える。
美貴が怖がらないように、そっと、優しい声が耳元で囁かれる。


嫌われても構わない。好きになってもらえなくても構わない。
亜弥ちゃんが、美貴に笑顔を向けてくれるなら、それで構わない。
あとで泣いても構わない。どれだけ傷付いても、構わない。

もう二度と恋ができなくても、構わなかった。



112 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:55





「…す、き…なの」
「……ん?」
「あや、ちゃんが」
「…うん、知ってるよ」
「ちが、くて」
「……たん?どした?」
「美貴が思ってる好きと、亜弥ちゃんが思ってる好きは…ちがう」


音をたてて崩れて行く友情。ここで幕がおりれば、バッドエンドで終了。
希望は持ってなかった。そのかわり、絶望も抱けなかった。

美貴の背中を撫でる一定のリズムが止む。亜弥ちゃんが、ふっと小さく笑った。

113 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:56



「…ばーか、知ってるよ」
「ち、違っ…」
「分かってるから。あんたの言いたい事は、全部わかってるよ」

亜弥ちゃんの頬がピンクになって、美貴に向けていた目を逸らす。

114 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:56


「…あんたさ、あたしがどんだけ悩んだか、わかってんの?」
「え…え?」
「あんなキスして、あんな態度とられて、どんだけ不安だったか」
「…亜弥ちゃん?」
「あんたがあたしのこと好きなのは知ってるよ。でも、あたしだって」



「あたしだって、たんのこと好きなのに」



ぎゅ、と強く握られた手はあたたかくて、亜弥ちゃんは美貴の肩に顔を埋めてた。
熱くて、溶けてしまうんじゃないかってくらい、亜弥ちゃんの手はどんどん熱くなっていく。
握り返された手はしばらく黙ったままで、美貴が切り出すまでずっとそのままだった。
115 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:57



「…キス、嫌だったんじゃないの?」
「…は?」
「だって亜弥ちゃん、あの人と付き合ってるんじゃ」
「あんた何馬鹿言ってんの?ぶつよ?」
「えぇ、だって…」
「あんなの嘘に決まってんでしょ。だれがあんた以外と…っ


引き離した身体はまたくっついて、亜弥ちゃんの顔が目の前に来る。
どき、としたのはほんの一瞬で、あっというまの出来事だった。
116 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 15:58

あの時のキスは、なかったことにしなくていいの?
そう訊ねようとしたのに、亜弥ちゃんは、美貴の唇に触れて。
引き寄せられた身体を離したくなくて、唇もくっついたり離れたりを繰り返していた。
目が合うと、照れたように笑う亜弥ちゃんが可愛くて、愛おしくてしかたなかった。


…キスなんか、するかっつーの」


美貴が親友だから、亜弥ちゃんは美貴のことを好きなんだと思ってた。
でも、唇に感じた温度は確かに偽物じゃなかった。

117 名前:line 投稿日:2006/12/20(水) 16:07


「…もっとしていい?」
「……ばっか」



このキスに、もう嘘はないんだから。




fin
118 名前:ピエロ 投稿日:2006/12/20(水) 16:08
ああああなんかこういうのは書き慣れなくてすいません。
しかも希望に添えてたかどうかさえ不安。

>>95名無飼育さん
リクありがとうございました。なかなか難しかったです。


じゃあ次はみきよしでも。
詳しい設定つきで、みきよし限定どなたでもリクお願いしまーす。
119 名前:AM 投稿日:2006/12/20(水) 19:03
わーい更新♪
次もあやみきがいいっ><わがままw
120 名前:95 投稿日:2006/12/20(水) 21:35
うわぁ!!
こんなに早く書いていただけるなんて思いませんでした。
しかもめちゃくちゃストライクだし。
あやみきサイコー!!
ありがとうございます!!!!
121 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/20(水) 21:52
みきちゃんが可愛くってたまりません
超萌えました
ありがとうございます!
122 名前:サラマンダー 投稿日:2006/12/21(木) 01:11



初めまして。
いつも連載お疲れ様です。
早速なんですが、みきよしをリクしたいんですが・・・・・。

設定は、ハロモニの収録とかを入れて、結構リアルにお願いします。ミキティ→よっちゃん的な感じで。最終的には→←な感じでお願いします。
m(__)m
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/24(日) 23:07
あやみきカワ!!!
この2人はやっぱイイです。
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/26(火) 17:48
ちょい遅いですが「幸せの延長線」、真剣に女の子と付き合おうって
考え始めた頃の感覚に似てて、ドキドキしました

…想像力欠如のためリクは他の方にお任せしますw
125 名前:ピエロ 投稿日:2006/12/29(金) 08:55
わぁ、レスがたくさん笑
今年は更新出来そうにないので、1月半ばくらいにはうpできそうです。
>>122リクありがとうございます。お時間頂きますが。

では、よいお年を。
今年の紅白はぎゃむが見どころですね。録画録画です。
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 21:32
待ってます
127 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 21:55
あげてしまいました
すみませんorz
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/07(水) 01:50
お待ちしております。

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