LOONY
- 1 名前:YNTK 投稿日:2006/08/27(日) 12:47
- 初めまして。
アンリアルです。誤字脱字は大目に見てくださると幸いです。
高橋さんと吉澤さんが中心ですが、状況によって変わります。
高橋さんは訛っていなく、吉澤さんは、男前・女たらし・へたれ・ケンカ強い・
などとということもないので、ご了承の上お読みくださいますようお願いします。m(_\_)m
- 2 名前:〜ローリーと共に〜 投稿日:2006/08/27(日) 12:48
- 「空気が灰色だ」
都心から少し離れたところにある建物。
中・高・大とエスカレーター式の私立の女子校だが、お嬢様学校というわけではない。
むしろレベル的には中の下、スポーツにおいても輝かしい功績はなかった。
無論、スポーツ推薦などなく、生徒の中には親のコネ、または賄賂で入学している者もいる。
「あたしね、そこの女子校受けることにしたよ」
「・・・そう、頑張ってね」
吉澤の両親は理由を聞かなかった。別に娘に対して興味がないわけではない。
ただ何となくわかっていたのであろう、学校が近いということは
複雑な理由の一つだということに。
「合格したらまた梨華ちゃんと同じ学校に通うのね」
ただ何となくわかっていたのであろう、幼なじみの石川が通っているということは
複雑な理由の一つだということに。
本人でさえ理解できない感情が、想いがそこにはある。
下手に首を突っ込んで糸を絡めるわけにはいかないのだ。
吉澤もそんな両親の愛情をわかっていた。
家族は嫌いではない。
- 3 名前: 〜日光を浴びれば〜 投稿日:2006/08/27(日) 12:49
- 「合格おめでとうっっ!!・・・ってちがうちがう!!
入学おめでとう、ひとみちゃん」
「ありがとう、梨華ちゃん」
今日は入学式。二人で仲良く登校しているけれども・・・
梨華ちゃん、新入生と登校時間がいっしょってまずくないですかね?
「時間大丈夫なの?」
「うーん、多分大丈夫よ。それよりもう入る部活決めた?」
「まだ全然、とりあえず運動部に入ろうと思うけど・・・・そーいえば梨華ちゃんって何部なの?」
梨華ちゃんがこの学校に入学したのは知ってたけど、部活なんて聞いたこともなかった。
「私?私はねぇ、合唱部に入りたかったんだけど・・・・わかるでしょ?」
「うん・・・」
もちろん聞かなくてもわかります。
- 4 名前: 〜日光を浴びれば〜 投稿日:2006/08/27(日) 12:49
- 「だから諦めて演劇部に入ったの。だけど演劇部の見せ場って文化祭くらいじゃない、
活動日数も少ないし・・・そーいうわけで今はテニス部と掛け持ちよ」
「そっかぁ、大変そうだね」
「確かに大変だわ、しかし石川梨華、知っての通り困難だからこそ燃える女よ。心配はいらないわ」
いや、むしろ梨華ちゃんの肌が心配なんですけど・・・・。
「あっ!!着いちゃった。・・・じゃあちょっと待って・・」
何やら鞄をゴソゴソとあさり始める梨華ちゃん。
「はいコレ!!運動部の部活と活動日数一覧表。参考にしてね」
紙を渡されたと思ったらもう校舎に向かって走りはじめている。
なんか相変わらずだなぁ・・・そう思いながらあたしは渡された紙に目を通した。
石川もまた理由を聞くことはなかった。そして吉澤の顔には微笑が浮かんでいた。
- 5 名前: 〜熱と思想〜 投稿日:2006/08/27(日) 12:50
- その後、吉澤はバレー部に入部。初心者の中では一番上手かった。
成績もそこそこで普通に高校に進学した。
高校でも引き続きバレー部に入部したが、明らかに空気は変わっていた。
「次のテストでみんなの順位が50番以上あがったら、土日の両方練習していいって!!」
「(両方も練習しなくていいじゃん・・・一日はあけようよ)」
高校にあがると成績の落ちる生徒が何十人もいる。
吉澤もそんな生徒の一人だった。
中学では少なくても週に5回あった練習が高校では多くて週に3回になった。
高校でもバレーを続けているのは吉澤の他に二人だけで、
あとは帰宅部か違う部活に入ったか違う高校に行ったかだ。
小学校からやっていたバレー経験者もやめたため、事実上バレー部のエースは吉澤だった。
- 6 名前: 〜熱と思想〜 投稿日:2006/08/27(日) 12:51
- 「あたしさぁ、中学の時から思ってたんだけど正直勝ち負けとかどーでもいいんだよね」
クラスメイトのバレー部の子に言った本音。
「やる気ないのにエースとかマジムカツクんだけど」
「ってかなんでバレー部入ったの?って感じだし」
「意味わかんねぇ」
それがきっかけで陰口をたたかれていることを吉澤は知っていた。
「吉澤、ちょっと話があるから」
「はい・・・」
部長からの呼び出し。
「チームに一人でもちがう考えの人がいるってことは、そのチームの100%が
出せないってことなんだよ」
「・・・はい」
「じゃあ話は終わり。あと最後に・・・・」
「・・なんですか?」
「私は・・・吉澤といっしょにバレーがしたいよ」
高一の冬、吉澤はバレー部を退部した。
- 7 名前:〜賢明な判断〜 投稿日:2006/08/27(日) 12:51
- 「吉澤、本当にこのまま進学するのか?」
「はい」
「お前の頭なら東大だって楽勝だろう?なのになんで・・・」
「すみません先生、行かせてください」
「・・・・・わかった」
バレー部を退部した後、吉澤の成績は急激に伸びた。
いや、正確にいうと高二の秋から伸び始めた。
そして教師たちからは上の大学を勧められたが、
吉澤は附属の大学へと進学した。
現在、吉澤ひとみ大学三年生。季節は春。
高一の冬から高二の秋までの数ヶ月、吉澤に何があったのか?
- 8 名前:YNTK 投稿日:2006/08/27(日) 12:52
- 短くてすみません。
もう少し吉澤さんの過去の話が続きます。
高橋さんもはやく登場させたいのですが・・・・。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 01:43
- 続きに期待!!
- 10 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:32
- 今は二時間目の休み時間、ヤバイっ・・お腹がキリキリする・・・。
ガラガララァァ〜
「どうしたの?」
「ちょっとお腹が痛くて・・・」
「じゃあそこの紙に学年と組と名前を書いて、ベッドに横になってなさい」
「はい・・・」
書き終わりベッドに寝ると、保健室の先生がカーテンをしめた。
「薬はいる?」
「いえ、大丈夫です」
さっきよりは大分楽になったなぁ・・・。
- 11 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:32
- ガラガララァァ〜
!誰か入って来た。静かにしてくれるといいけど・・・。
「ねぇねぇ、吉澤さんまたサボりらしいよ」
「どっかでタバコ吸ってるんだよ・・・あっ!!もしかして・・・」
「もしかして?」
「女を抱いてる!!」
「アハハ・・ありえるありえる!!」
「ちょっとあなたたち、病人が寝ているんだから静かにしなさい」
「「は〜い」」
- 12 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:33
-
・・・先生、内容にはコメントなしですか?
ってかその人たち完璧サボりだと思うんですけど・・・。
はぁ・・・最近こればっかりだ。
中学の時はまだマシだったけど、高校入って特にバレー部をやめてから
なにかにつけて、『タバコ吸ってる』、『女抱いてる』、『不良とつるんでる』
などとひどい噂が流れている。中にはクールでかっこいいと憧れている人たちも
いるそうだけど、某漫画のセリフを引用させていただきます。
《憧れは理解から最も遠い感情だよ》
まったくその通りです。だいたい女を抱いてるって、あたしは男も含め付き合ったことも
キスをしたこともございません。いくら女子校だからってホイホイと告白されたりなんか
するわけないじゃん。まぁ・・中にはそっち系の人もいると思うけど・・だいたいの人は合コンや、
友達の紹介やらで男と付き合ってるし。あたしが告白されたのは中三の時の最後の試合の
後に一度だけ・・・
- 13 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:34
- 「先輩!!好きですっっ!!」
「・・・えっ?」
「それでは失礼します!!」
その子はそれからすぐに転校してしまい、別に付き合ってと言われたわけではないから
返事も返さなかった。あたし・・・ノーマルだしさぁ・・。
バレー部をやめてから、あたしの日常に変化は起きなかった。
成績はギリギリ補習を受けないラインで安定していたし、
そもそも勉強するためにやめたわけではないのだから、上がるはずがない。
二年になってからは大分噂も収まってきた、というより飽きたんだと思う。
体調不良以外では学校を休まなかったから信憑性に欠けたのかもしれない。
- 14 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:34
- 「おはよう、ひとみちゃん!!相変わらず白いねぇ〜。夏休み中、ずっと引き籠ってたでしょう?」
「・・・・・まぁね」
夏休みが終わり、二学期初めの始業式。登校中に偶然梨華ちゃんに会った。
三年生になり梨華ちゃんはいろいろと忙しいらしい・・・まともに話すのは久しぶりだなぁ。
「こんなに痩せちゃってぇ〜・・・ホネホネだよ?」
「ホネホネ?」
「そう!なんか筋肉が落ちたっていうかぁー・・・」
・・・確かに骨が浮き出ている感じは前よりするかもしれない。
なんせ夏休み中は運動もせず講習もとらないで寝てましたからねぇ。
- 15 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:35
- 「っと、そんなことよりぃ〜いいものがあるんだぁ〜」
梨華ちゃん、そのニヤケ顔そーとーキモいです。
でもいいものってなんだろう?
気になる・・・
「いいもの?なになに?」
「ジャァァァーーーーーン!!!!!」
勢いよく目の前に差し出される紙。いや・・・・
- 16 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:35
- 「チケット?」
「ただのチケットじゃないわ、演劇部部長石川梨華!!!高校最後の
ラストステージ!!プレミアチケットよ!!しかも最前列ど真ん中!!」
「・・・ちょっと待って。ラストステージって文化祭だよね?指定席ってどういうこと?」
「あれ?ひとみちゃん知らなかったっけ?・・あっ!そっかぁー去年はその時バレー部は
招待試合してたもんねぇ〜」
「うん・・・そんなに人気があるの?」
「あるなんてもんじゃないわよ、もう体育館が人で溢れるほどの超満員!!
私も初めてステージに立った時は声が裏返ったわ」
その声が裏返るって・・・超音波だよ。
- 17 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:36
- 「で、部長は毎年最前列ど真ん中のチケットが貰えるの。
だからひとみちゃんにあげる!!絶対見に来てよ?」
「・・・でもそんな大事なチケットをあたしでいいの?家族とかは・・・」
「いいのいいの!!!ひとみちゃん今まで私の演劇見たことなかったから
最後ぐらいは見てほしいの。・・・それに・・主役は私じゃないわ」
「そうなの?なんで?」
「今回はミュージカルなの・・・・・・」
「・・・・なるほど」
「理解してくれたみたいで嬉しいわ・・・じゃあまたね、ひとみちゃん」
いつの間にか学校に着いていた。梨華ちゃんはちょっと走って振り向いた。
「そうそう!!いくらチケットがあっても遅れていくと立ち見のお客さんで
中に入れないと思うから、10分くらい前には入っていた方がいいよ」
「了解。チケット・・・ありがとう、梨華ちゃん」
「どういたしまして。・・・・じゃあね!!」
タタタッっと走る後ろ姿を眺めながら、あたしはチケットをなくさないように財布にいれた。
- 18 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:36
-
9月17日、文化祭当日。今日は日曜日。
あたしの学校は土曜日が中学校の文化祭、日曜日が高校の文化祭となっている。
朝9時に登校してから、ただいまの時刻1時30分。
あたしは特に何をすることもなく、自分のクラスの自分の席に座っている。
だってあたしのクラスの出し物ってパーラーなんだもん、することないよぉ。
でもバレー部だった時より全然マシ。あの時は朝早くから夕方まで用意や片付け、
試合もやって自分の時間なんかこれっぽっちもなかったから・・・。
「もう1時45分かぁ〜、そろそろ行こう」
そう言って、あたしは体育館へと向かった。
2時から演劇部のミュージカルが始まる、なぜかあたしはちょっとワクワクしていた。
- 19 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:37
-
ガヤガヤガヤ、ザワザワザワ
梨華ちゃんが言っていた通り体育館は人でいっぱいだった。
子供から大人まで大勢いて、あたしは席に着いてもなぜか落ち着かなかった。
・・・ってか舞台近いなぁ。
ブゥゥーーーーーーー
ブザーがなり、音と同時に体育館が暗くなる。
騒いでいた人たちの声もピタリとやんだ。
こういう装置があるなんてさすが私立だなぁと思っていると・・・
幕があいた。照明が一人の少女を照らし出す。
白いワンピースを着ているが肌は見えない。口以外の全ての部分が包帯で覆われている。
亜麻色の長い髪が美しかった。不意に少女の口が動く・・・
- 20 名前:〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/28(月) 11:37
-
『Together with loony』
- 21 名前:YNTK 投稿日:2006/08/28(月) 11:37
- ちょっと一区切りです。
高橋さんもうしばらくお待ちください。
それまでは石川さんが仲良くしてくださると思うので・・・。
>>9 名無し飼育さん
ありがとうございます。
放置はしませんので見守って下さると幸いです。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 03:55
- 楽しみにしてます
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 10:52
- 期待中
- 24 名前: 〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/29(火) 15:59
-
ワァァァァァーーー!!と割れんばかりの拍手が起きる。
あたしの手は頬を伝う涙を拭うこともせずに叩き続けていた。
幕がおり、あんなに大勢いた観客が見る見るうちに減っていく。
体育館はあたし一人になった。あたしはその場から動けなかった。
ただただ余韻に酔いしれていた。
涙もすっかり乾いたころ、再び幕があいた。
「あれ?ひとみちゃんまだいたの?」
梨華ちゃんだ!ぼーっとしてて声をかけられるまで気づかなかった・・・
- 25 名前: 〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:00
- 「あぁ・・うん。なんか感動に浸っててさぁ〜めちゃめちゃよかったよ!!すごい感動した!!」
「でしょでしょ!!私の男役どうだった?かっこよかった?」
「うん!舞台の上の梨華ちゃんは梨華ちゃんじゃないね。別人だよ。
すごいかっこよかったし、惚れそう」
「いやいや、そんなに褒められるとさすがの私も照れちゃうよぉ〜。
でもよかった!!ひとみちゃん喜んでくれたし、チケットあげて正解だった」
「ほんとにありがとうね、梨華ちゃん。・・・ところでちょっと聞いていいかな?」
実はずっと気になっていた。主役の彼女について。
「なに?」
「主役の女の子って誰?ってか今ここにいる?
ちょっと会って言いたいことがあるんだけど・・・・」
- 26 名前: 〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:01
-
愛する人が自分と寝ている彼女にガソリンをかけ、焼身自殺をした。
男は死亡し、幸い彼女は一命を取り留めたが全身大火傷。精神的にも狂ってしまった。
そんな時、一人の男性があらわれて・・・というラブストーリーだったのだけれど、
ここまで感動したのは彼女の存在が大きかったと思う。ほかの人たちの演技も歌も
素晴らしかったけど彼女は輝いていた。演技も歌も全て。
そんな素晴らしい感動をくれた彼女に一言お礼が言いたかった。
「主役って高橋愛ちゃんのこと?彼女はもうここにはいないわ、
今片付けをしているのは我が演劇部のみなさん」
「えっ?その高橋さんって人、演劇部じゃないの?」
「ちがうよ、彼女は合唱部。中学の時からすごい歌が上手いって評判で、高校でも
合唱部に入ったんだけど今年はミュージカルだったから、ぜひ出てほしいってお願いしたの。
演劇部の部員数もちょっと少なかったし・・・・」
「そうなんだ・・・・」
「なにか言いたいことがあったんでしょ?私が伝えてあげようか?」
「んーいいや、大したことじゃないから。・・・じゃあそろそろ帰るね、今日はお疲れ様」
「うん、じゃあまたね」
- 27 名前: 〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:01
-
舞台の上の梨華ちゃんに手を振り、体育館を出た。
玄関口のところにあたしのクラスのパーラーが出ていたので
わざわざ反対の玄関から家へと向かった。
帰宅途中、あたしはいろいろ考えた。今までの自分、今の自分、これからの自分。
あたしって影響を受けやすいのかもしれない、人に感動を与えられる人になりたいと思った。
何でもいい、人に喜んでもらえる職業に就こう!!
それにはまず、自分の選択肢を広げなければならない。
あたしは家に着くとさっそく勉強に取り掛かかった。
それからはもう無我夢中だった。自分にこんな集中力があったのかと驚くほどに。
結局、あれから高橋さんに会いに行ってはいない。合唱部に行けば会えるだろうけど、
そこまでこだわってもいなかった。
他の大学に行く気なんて更々ない。今のあたしを育ててくれたこの学校で
あたしはやりたいことを見つける。それだけ。
- 28 名前: 〜戻った感情〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:02
-
今、あたしは大学三年生。ちなみに入学してから気づいたんだけど、
梨華ちゃんも同じ大学の四年生。
- 29 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:03
-
はぁ・・・
風に吹かれて散りゆく桜を見上げながらあたしは溜め息をついた。
もう三年生なのにやりたいことが見つからない・・・。
気分転換にと夜桜を近くの公園まで見に来ていた。
「きれいだなぁ〜」
思わず口から出た言葉。
時計台の針は1時を指していて周りには誰もいない。
こんな美しい景色を独り占めできるなんて、わざわざ足を運んだ甲斐がある。
そろそろ帰ろうと公園の出口まで歩いていくと男三人がこちらに向かって歩いてきた。
明らかにヤンキーっぽい格好で真ん中の男はタバコを吸っている。
あたしああいう人たち苦手なんだよなぁ・・・と思ったけどここで進路を変えても不自然極まりない。
ちょうど出口のところですれ違う瞬間、真ん中の男がタバコを捨てたと思ったら、
あたしは殴られた。
- 30 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:03
-
「ガハァッッ!!!」
あたしはその場に倒れこんだ。
一瞬何が起こったのかわからなかったけど、無意識に手が殴られた左頬を押さえていた。
「なんだ・・・よく見ると可愛い嬢ちゃんじゃん」
あたしは顎をつかまれ、上を向かされる。恐怖のためか指先ひとつ動かせず、声も出せない。
男の手が赤くなっていくのを見て、初めて自分が口を切っていることに気づいた。
「殴るだけじゃ勿体ねぇな」
「そうっすよ、やっちゃいましょう!!」
目の前で行われる男たちの会話。一人の男があたしの服をつかんだその時、
- 31 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:04
- 「やめてくださいっっ!!!!」
声のした方を見ると一人の女性がいた。
「今警察呼びましたから」
だんだんと大きくなるサイレンの音。
「チッ、おめぇらずらかるぞ!!」
足早に去っていく男たち。あたしはしばらく放心状態だったが、徐々に意識が戻ってきて
慌てて立ち上がり、助けてくれた女性の方を向いた。
「あの・・助けて下さり本当にありがとうございました!!」
あたしは深々と頭を下げた。
「いえ、この時間帯は物騒ですから。私は常に防犯グッズを持ち歩いているんです」
「防犯グッズ?」
「えぇ」
女性はポケットから小型スピーカーの様なものを取り出してボタンを押した。
さきほどと同様にサイレンの音があたりに響く。
- 32 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:04
- 「これって・・・」
「そうなんです。警察は呼んでいません」
「すごいですね!!ハハ・・・っツ!!!」
笑った瞬間口の中に感じる鋭い痛み、あたしはさっき殴られたのを思い出した。
「大丈夫ですかっっ!?もしよければ私の家すぐそこなので手当てしますよ?」
「とんでもないです!!助けていただいた上に手当てなんて・・・・
もう血も止まったようですし、平気ですよ」
「だけどまたさっきの様な人たちに襲われるかもしれませんし、
心配なので最後まで面倒見させてください」
女性は本当に心配そうな目であたしを見ている。
ここは素直に好意を受け取った方がいいと思った。
「じゃあお言葉に甘え「知り合いになりましょう!!」
「えっ?」
人の話を聞いてないのか、女性はあたしの言葉を遮って発言した。
- 33 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:05
- 「見ず知らずの人を家にあげるのは危険だと言いたいんですよね!!
確かにその通りです。だから知り合いになりましょう!!
私の名前は高橋愛です。あなたの名前を教えてください」
はっ、はやいっ・・・。まるでモールス信号のようでよくわからなかった。
「えっ、えぇーっと・・・」
「名前を教えてください」
「・・・吉澤ひとみです」
「吉澤さん、これで私たちはお互い顔も名前もわかっているので
完璧に知り合いです!!・・・では行きましょう」
そう言うと、女性は公園を出て少し細い路地へと入っていった。
あたしも慌てて後をついて行く。えぇーと高橋愛さん?って言ったよね?
なんか強引な感じはするけれども、嫌な気はしなかった。
ってか高橋・・愛・・・ってどこかで聞いたことがあるような・・・
- 34 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:06
-
・・・あっ!!思い出した!!ミュージカルの主役の人じゃん!
こんな感じで会うなんてすごい偶然だ。お礼言わなきゃ。
「着きましたよ」
不意に声をかけられて顔を上げるとそこには高級マンションがそびえ立っていた。
オートロックのドアが開き高橋さんが中へ入る。
「さぁ、どうぞ入ってください」
エレベーターに乗り、高橋さんが部屋の鍵をあける。
ドアを引き中に入ると・・・
「うわぁ〜!広いですねぇ〜」
多分3LDK。すごく広い。
「こんな立派な部屋に一人で暮らしているんですか?」
「はい・・。小学校までは福井に住んでいたんですけど、父の転勤で一家そろってこちらに引越して
来たんです。でも、私が大学へ進学する時に父が本社に戻ることになり家族は福井に帰りました。
私はこっちでやりたいことがあるのでここに残り、一人暮らしをしているんです」
「・・・そうなんですか。家族と暮らしていたのでこんなに広いんですね」
やっぱり早口だなぁ〜。しかし娘一人に3LDKって高橋さんの家は相当お金持ちなんだね。
- 35 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:06
- 「っとそんなことより手当てですよ。吉澤さんはそこのソファーに座って待っていて下さい」
「あっ・・・はい」
あたしは言われた通りにリビングにあるクリーム色のソファーに座った。
三人座ってもスペースが余るほどの大きさだ。
「お待たせしました」
奥の部屋から高橋さんが出てきた。手には救急箱を持っている。
そしてあたしの隣に座った。
「ちょっと左頬を見せてください」
「はい」
高橋さんはあたしの腫れた左頬に消炎剤をぬり、シップを貼った。
シップが剥がれないようにガーゼで固定してあたしに薬を渡した。
「口の中切れてますよね?この薬差し上げるので毎晩寝る前にぬって下さい。
治りがはやくなりますよ」
「何から何までありがとうございます」
- 36 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:07
-
!そうだっ!!お礼を言うんだった!!
「・・高橋さん」
「なんですか?」
「3年・・、いや4年前に高校の文化祭で演劇部のミュージカルに出演しましたよね?」
「4年前のミュージカル・・・あっ!しましたしました!!
なんか演劇部の人たちに頼まれたんです・・・」
「あたしその舞台見たんです。それでなんかもう言葉で言い表せないくらいすごい感動しまして、
今大学へ通うことができるのもそのおかげですし、人生180度変わったと言いますか・・・・・
それからずっとお礼を言いたかったんです。高橋さん、感動をありがとうございました!!」
「そ、そんなそんなっ!!お礼なんて・・・私はただ頼まれて演じて歌っただけなんですから」
「でもあたしは本当に感動したんです!!
最前列の中央で見たことも影響してるかもしれませんけど・・・」
「そんなに近くで見たんですかっっ?!」
高橋さんは顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
んー言わない方がよかったかな?
- 37 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:08
- 「・・・石川梨華って覚えてます?その人からチケットもらったんですよ」
「もちろん覚えてますよ。普段やらない男役だったそうなのですごく努力してました。
私それを見て感心しました、すごい人だなぁって・・・」
「そうですか・・・あたしも梨華ちゃんのそういうとこ尊敬してます。
あたしと梨華ちゃ・・石川さんは幼なじみで仲が良いんですよ
あたしの方が一個下なんですけどね」
「じゃあ吉澤さんは私の一個上じゃないですか!!敬語なんてやめて下さいよぉ〜」
「へっ?そうなの?いやぁー高橋さんすごく大人っぽいからてっきり年上かと思って・・・」
そっかぁ〜年下だったのかぁ・・あたしもある意味結構年上に見られるんだよね・・・。
「あと高橋さんって呼ばれるのもちょっと・・・・」
「うーん、・・・友達からはなんて呼ばれてるの?」
「・・・普通に愛ちゃんとかですよ」
「じゃ、あたしもそれで!!で・・愛ちゃんはあたしのこと吉澤さんって呼ぶの?」
「もちろんです!!」
「でもそれじゃぁ・・・ってことは敬語もありなの?」
「もちろんです!!年上ですから」
あれ?愛ちゃん合唱部だったよね?なんか体育会系のオーラを感じるんですけど・・・
「吉澤さん今三年生ですよね?専攻は何ですか?」
「あたしはねぇ・・・・」
- 38 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:09
-
それからあたしは愛ちゃんといろいろ話した。
大学に進学しても人付き合いは苦手なままだったので、梨華ちゃん以外の人とこうして
話せるのは驚いたけど・・・・・すごく嬉しかった。
ふと視線を逸らすと時計の針が3時をまわっていた。
さすがに泊まるわけにはいかないのであたしは立ち上がる。
「そろそろ帰るね、もう結構な時間だし・・」
あたしの言葉に愛ちゃんは時計を見た。
「そうですね・・・帰り道に襲われないように気をつけて下さいよ」
「うん。今日はほんとにいろいろとありがとう!今度はあたしの家に遊びに来てよ、
ここから近いんだ!!親がいるけどね・・・・」
「ではお言葉に甘えさせてもらいます。あっ!あとこれ!」
愛ちゃんはあたしに先ほどのとは少し違う形の小型スピーカーの様なものを渡した。
- 39 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:09
- 「やっぱり心配なんで・・それあげます」
「ありがとう!!じゃあまたね」
「はい」
返事を聞いてからドアを開けて外に出る。
家に帰るまでの間、あたしの心は温かな充実感で満たされていた。
- 40 名前: 〜狭隘の中で〜 投稿日:2006/08/29(火) 16:10
-
あたしの右ポケットには小型スピーカー。
そして左ポケットに入っている携帯のメモリーは一つ増えていた。
- 41 名前: YNTK 投稿日:2006/08/29(火) 16:11
- ようやく過去から現実へ、
そして高橋さんも登場させることができました。
>>22 名無飼育さん
ありがとうございます。
なるべく早い更新を心掛けます。
>>23 名無飼育さん
ありがとうございます。
期待外れにならないように頑張ります。
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 18:24
- 面白いっす
頑張ってくださいねー
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/05(火) 01:12
- これからの展開が楽しみです。
- 44 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:53
- 先週の土曜日、でも12時過ぎてたから日曜日?に愛ちゃんに会ってから一週間が経った。
今日は愛ちゃんと二人で吉澤家で遊ぶ予定。もちろん親もいますが・・・・。
怪我について親は何も聞いてこなかった。
あたしがそうさせているんだと思うけど・・・・
ピーンポーン
モニターが明るくなり、愛ちゃんの顔が映し出される。
「今行きますね」
エレベーターが降りてきて、オートロックのドアの向こう側に愛ちゃんがいる。
たとえお客さんであっても主の許可無しには建物の中に入ることさえ許されない。
さすが高級マンション。
- 45 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:54
- 「頬の腫れ、大分ひきましたね」
「うん、口の中も薬ぬったら痛くなくなってきたよ」
「それはよかったです」
左頬はまだ少し赤み帯びているけど、ほぼ治りかけていた。
あたし達はそのまま吉澤家へ直行した。
「着いたよー」
「おぉ〜・・・ではお邪魔します」
あたしの家は本当に普通の家だから・・・愛ちゃん、リアクションに困ったんじゃないかな?
梨華ちゃんの家みたいに屋根も壁もピンクだったらツッコめただろうに・・・。
「二階に上がってすぐ左があたしの部屋だから。
先に入ってて!麦茶持って来るね」
「はい」
台所に行くとお母さんがいた。
あたしは目もあわせず、冷蔵庫から麦茶を取り出して二つのコップに注ぐ。
コップをお盆にのせて二階へと向かった。後ろから声は聞こえてこなかった。
- 46 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:54
- 「お待たせ〜」
「吉澤さんの部屋ってシンプルなんですね」
「いやいや・・・ただ何もないだけだから」
「そんなことないですよぉ〜、カッコいいじゃないですか!」
必要最低限のもの・・・ベッド、テレビ、タンス、机、ソファー
etc・・しかないから掃除はしやすいけどね。
「あれ、持って来た?」
「はい!!」
「じゃあさっそく見よっか、DVDそこに入れて〜」
「ほんとに感動しますよぉ〜
めちゃめちゃカッコいいんですから!!」
「はいはい」
愛ちゃんが持って来た宝塚のDVD。
すごくお勧めらしくぜひ見てほしいらしい・・・
まぁ、あたしはインドア派だからDVD鑑賞は好きだけどね。
愛ちゃんもよく見てるってことはインドア派なのかな?
- 47 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:55
-
「はぁぁ〜やっぱええわぁ〜
かっこええなぁー水夏希さん。
よしざーさんもそう思うやろ?」
「うん、宝塚ってすごいね・・・・・・・えぇっっ!?」
あれ?今標準語じゃない言葉が聞こえたんだけど・・・気のせい?
「あの・・愛ちゃん今なんて言ったの?」
「あぁっ!!しもうた!!・・・・じゃなくてですね。
興奮したりすると出ちゃうんですよ、訛りが・・・・」
「あー、そういえば小学校まで福井に住んでたんだっけ?
ってことは福井弁?」
「そうです。ずっと直そうと思っているのになかなか直らなくて・・・」
「えぇ〜直さなくていいよぉ。
その方が可愛いし面白いし」
「可愛くなんかないですよ!!中学の時、田舎もんって馬鹿にされましたし・・・」
「んじゃあ、あたしといる時はそれで」
「それじゃあいつまでたっても直りません」
昼下がり。
あたしの部屋に響く二つの笑い声。
あたし達はそのままダラダラしながら時間を過ごした。
- 48 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:55
- 「それでは失礼します」
「道わかる?覚えた?」
「大丈夫ですよ、今日はお邪魔しました。楽しかったです!!」
「こちらこそ。いいもの見させていただきました」
「ですよね?やっぱり水さんが・・・・」
「はいはいはい、また今度ね!!」
結局あれからはずっとトーキングタイム。
と言っても愛ちゃんが宝塚の魅力と水さんのカッコよさについて話していただけだけど・・・
やっぱりすごく楽しかった!!
- 49 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:56
-
ミーンミーン、ミンミンミーン
蝉が鳴いている。
あたしが愛ちゃんと初めて話した日から4ヶ月。
ただいま夏休みというやつです。
あー大学生は夏休み長いんだよね、やりたいことが見つからないあたしは
暇を持て余さなければならないし。
でも今年は愛ちゃんがいるもんね!ってか今から遊園地で遊ぶもんね!!
夏休みに入ってすぐに愛ちゃんから電話があった。
「吉澤さん、急なんですけど明日空いてます?」
「明日?空いてるよ、どーしたの?」
「大学の近くに遊園地があるじゃないですか、そこに遊びに行きません?
明日は都心で新しいテーマパークが開園するのでこっちの方はすいてると思うんです」
そういえば梨華ちゃんが観覧車の景色がきれいだったぁ〜って言ってた気がする。
あたしは行ったことないけど・・・・いつもお互いの部屋で遊んでいるあたし達には珍しい提案だ。
- 50 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:57
- 「いいよ!!あたし行ったことないから楽しみだなぁ〜」
「そうなんですか?じゃあ私がいろいろと案内します!!」
と、こんな感じ。
ちなみに今は遊園地付近の駅前で待ち合わせ中。
「よーしーざーわーさぁぁ〜〜ん」
愛ちゃんが手を振りながらこちらに走ってくる。
あたしも手を振る。
「すみません!!待ちました?」
「ううん、ホントにホントに来たばっかし!!」
「アハハ・・なんでそんなに強調するんですか」
「えぇ〜そこ笑うとこなの?
せっかく愛ちゃんが心配そうな顔してたから安心させて
あげようと思ったのに・・・」
「それはご親切にどうも。早く行きましょう」
到着したのは古いけど結構な広さの遊園地。
- 51 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:57
- 「人少ないねぇ〜言ってた通りだね」
「人間は新しい物に惹かれる生き物ですから・・・大人二枚下さい」
「はい、あたしのチケット代」
「どうも・・・じゃあ最初はやっぱりこれでしょう!!」
愛ちゃんの視線の先には・・・・・ジェットコースター。
・・・・忘れてました。やつの存在を。
遊園地だもんね、ない方がおかしいね。
ってかどうしよう、あたし絶叫系めちゃめちゃ苦手です・・・
「吉澤さぁ〜〜ん、はやくはやくー」
愛ちゃんの目がキラキラしてる。
きっと絶叫系好きなんだろうなぁ〜・・・しょうがない、ここは覚悟を決めます!!
『それでは発車します!!』 プーーーーーー!!
- 52 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:58
-
「苦手なら最初に言って下さいよ、ビックリしたんですから」
「・・・・ごめん。愛ちゃんがすごく楽しそうだったから言い出せなくて・・・
それに、愛ちゃんと一緒だったら克服できるかもと思って」
「・・・・もう、私なにか冷たい飲み物買ってくるので休んでて下さいね」
「・・・はい」
愛ちゃん怒ったかな?
結局あたしはスタートしてすぐ気絶しかけて、降りても愛ちゃんの肩借りて
酔っ払いのような千鳥足でベンチに座った。
あぁ〜あ、やっぱりダメだったか。あたしはガックリと頭を下げた。
「ひゃっっ!?」
頬に冷たい物が触れた。
「これ飲んで元気になったら、絶叫系じゃないの乗りましょう!!」
「愛ちゃんかぁ〜、ビックリしたよー」
「楽しまないと来た意味がありませんからね」
- 53 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:58
-
それからはほぼ一日をかけて全部の乗り物を制覇。
ただし、絶叫マシーンとお化け屋敷以外ね。
どうやら愛ちゃんはお化けがダメらしい。
そしてあと残っているのは・・・
「おっきいねぇ〜」
「はい、イルミネーションがきれいです」
もちろん観覧車です。
梨華ちゃん曰く、夜景が絶品らしいから・・・ってか昼間乗る人の方が少ないよ。
ギィー、ガタン
あたし達は向かい合わせに座った。
「よくさぁ〜一番上にきた時にキスするカップルいるよね」
「いますね、見てるこっちが恥ずかしいですもん」
暫しの沈黙。
愛ちゃんといる時はよくあることだ。
あたしはこういう沈黙が結構好きだったりする。
- 54 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:59
- 「・・・吉澤さん」
「なに?」
「今まで付き合ったことってあります?付き合っている人とかいます?」
・・・・・驚きすぎて声も出なかった。
愛ちゃんとはいろいろな話をしてたけど、
こうゆう話・・・つまり恋愛話は一切話したことがなかった。
お互い何も聞かないから何も話さない。
あたしはそれでいいって思ってたけど・・・・
愛ちゃんは話したかったのかな?
「・・・付き合ったことはないよ、だから今付き合っている人もいない」
ようやく喉から声が出た。
「そうですか。・・告白されたことはあります?」
「一度だけ・・・部活の後輩に」
「・・・私は今まで四人の人と付き合いました。もちろん男の人ですよ?
友達の紹介やナンパされたりで・・・・」
「・・うん」
どうしたんだろう?なんか胸がモヤモヤする・・・・
これ以上、愛ちゃんの話を聞きたくない。
- 55 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 20:59
- 「私って結構尽くすタイプなんですけど、猪突猛進で振り回したりもしてて
それが相手にはうざいらしく、告られて振られるの繰り返しでした」
やだやだやだ!!あたしその男の人たちに嫉妬してる。
・・・・・そっかぁ、あたしは愛ちゃんのことが好きなんだね。
今まで気づかないフリをしていただけで、ずっと前から好きだったんだね。
「でも・・・懲りずに私は今恋をしています。
生まれて初めて女の人を好きになりました。
吉澤さんが好きです!!私と付き合ってください!!」
愛ちゃんは真剣な目でそう言った後、頭を下げた。
へっ?あたしのことが好き?本当に?
「あっ、あたしも・・ずっと愛ちゃんのことが好きでした」
どもりながらも気持ちを伝えることができた。
あたしの言葉に愛ちゃんが顔を上げる。
しかし、その目は少し潤んでて表情からは怒りが感じられた。
- 56 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 21:00
- 「あーしのこと好きって本気ですか?」
「えっ?もちろんだよ?」
どうしたんだろ愛ちゃん、訛りもでているし。
「・・・よしざーさん、全然分かってないやろ?
男と女が遊び半分で付き合って半年もしないで別れて、あーそんなこともあったね
なんてのとはわけが違うんよ。後悔しない自信があるんか!!
大学の人たちにバレたら軽蔑されるし、そのせいで就職だってできないかもしれん。
外国に行って結婚しても子どもは産めんし、
あーしは子ども好きやけどよしざーさんと一緒やったらそんなもんいらん。
25歳くらいになって、ほな、そろそろ結婚せなアカンから別れるなんて気持ちじゃないんよ!!
あーしはずっとおばあちゃんになるまでよしざーさんと一緒にいたいんやよ!!
本気なんよ!!よしざーさんはそこまで考えて言ってるんか!!」
・・・・・・・・・。
愛ちゃんは目を真っ赤にして涙を流しながら叫んだ。
- 57 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 21:00
-
「愛ちゃん、あたしは初めて恋をしたから信用できないかもしれないけど・・・
あたしは愛ちゃんが大好きだよ。
この気持ちは永遠に変わらない自信がある、信じてほしい・・
子どもなんていらない、就職できなくてもいい、愛ちゃんと一緒にいられればそれでいいんだ。
本気だよ?だから・・・うぅー・・ひっくひっく・・」
「よしざーさん!!!」
いつの間にか愛ちゃんが隣にきてて、泣き始めたあたしを力いっぱい抱きしめた。
「疑ってごめんなさい!!あーしがアホでした。
あーしもよしざーさんが大好きです!!!」
「・・・ううん、女同士だもん。
不安になって当たり前だよ、ありがとう。
愛ちゃんが本気だってことすごく伝わってきたからあたし嬉しくて・・・・
そしたらなぜか泣いてて・・・・」
「よしざーさん・・・」
- 58 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 21:00
-
しばらくの間、あたし達は抱き合っていた。
だんだんと地面も近づいてきた頃、あたしから体を離した。
「プッ!!愛ちゃんひどい顔だよ」
「吉澤さんこそ」
「・・・じゃあ改めてこれからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
帰り道、あたしと愛ちゃんは手をつないで帰った。
- 59 名前: 〜ベールを脱ぐ〜 投稿日:2006/09/05(火) 21:01
-
二人とも顔が涙でぐちゃぐちゃだったけど
今までで最高の笑顔だった。
- 60 名前:YNTK 投稿日:2006/09/05(火) 21:01
- 高橋さんの福井弁は許して下さい。
やっと話が進展しました。
>>42 名無飼育さん
ありがとうございます。
嬉しい限りです。
>>43 名無飼育さん
ありがとうございます。
急展開が多い作者ですが、これからも
お付き合いして下さい。
更新が遅くてすみません。
申し訳ないのですが少しスピードダウンしてしまうと思います。
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/10(日) 01:39
- 更新お疲れ様です。
両思いになりましたねこれからどんな展開になるのか楽しみです。
更新はYNTKさんのペースで行ってください。
まったり、待っているので。
- 62 名前:〜分岐点or?〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:08
- 見事に恋人となったあたし達ですが、よく考えて話し合った結果
愛ちゃんの家で同棲することになりました。
家賃は愛ちゃん持ちで、その他のガス、電気、水道、食費などは半分ずつ。
お金がないあたしはコンビニのバイトを始めることに。
愛ちゃんもやる?って聞いたら合唱サークルに入ってるから無理だそうで、
それほど歌が好きで上手いのになんで音大に行かなかったのかなぁ?
・・・・・まぁ、もし愛ちゃんが音大に行っていたらあたしと出会うことはなかったんだけど。
「吉澤さぁーん、このタンスはベッドの隣でいいですか?」
「いいよぉー」
「ではこちらへお願いします」
空いている部屋を一つあたしの部屋にさせてもらって、
ただいま業者さんがあたしの荷物を運んでくれています。
と言ってもベッドとタンスだけだけどね。
- 63 名前:〜分岐点or?〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:09
-
「「ありがとうございました」」
業者さんが帰って、やっと落ち着くいつもの空気。
ふと窓の外を見ると紺碧の空で、あたしは親が家を出て行くことについて
何も聞かなかったことをぼんやりと思い出した。
「ねぇ愛ちゃん、ほんとにいいの?」
「なにがですか?」
「家賃、全部払ってもらって・・・やっぱりあたしも半分出すよ」
「いいんですって!親のお金ですし。それに・・・・」
「・・・・うん、そうだよね。目玉が飛び出る金額だよね・・・
ごめんねぇーあたしお金無くて」
あたしはちょっと自嘲気味に笑いながら頭を掻いた。
- 64 名前:〜分岐点or?〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:09
- 「吉澤さん、私はお金なんか無くても吉澤さんがいてくれるだけで幸せなんです」
・・・・・顔の熱が上がっていくのが自分でもわかる。
「顔が赤くなってますよ?」
「あっ、愛ちゃんが恥ずかしいこと言うからだよっ」
「だって事実ですもん」
「・・・ありがとう。・・・・あたしも愛ちゃんがいてくれるだけで幸せだよ」
まだまだぎこちないあたし達。
だけど暫しの間お別れです。あたしはバイトの面接に行ってきます。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい!!いってらっしゃい」
面接の場所まではそう遠くない。
歩き始めて少し経った頃、後ろから声が聞こえた。
- 65 名前:〜分岐点or?〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:10
-
「よっすぃー!!」
「!・・・矢口先生?」
聞き覚えのある声に振り返ってみると、そこには高校の国語教師で
中・高のバレー部の顧問の矢口先生がいた。
背が低く身体は小柄だけど、バレーはすごく上手いし生徒からの信頼も厚い。
「奇遇だね。お散歩中?」
「いえ、これからバイトの面接なんですよ」
噂によるとあたしが部活をやめたのを気にしていたようだけど、
こうして普通に接してくれるのはとても嬉しい。
「バイト?よっすぃーバイトしたいの?」
「はい。・・・ちょっとお金が必要なので・・」
「ちょうどよかった!!おいらも人手が足りないんだよぉ〜
よっすぃー、高校の数学の教師やらない?」
「はいぃ?!いやいや無理ですよっ!!高校生に教えるなんて!!」
「大丈夫大丈夫!!そこらのバイトなんかより全然給料高いし
教師っていっても教えるのは3年生だから、よっすぃーは生徒が過去問や問題集解く間
座ってて、質問にくるやつらにその優れた頭脳で答えてくれればいいわけよ。
どう?やらない?やるっしょ?」
・・・・どうしよう。確かにお金は欲しいし簡単そうだけど・・
- 66 名前:〜分岐点or?〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:10
- 「迷ってるの?・・・実はね、安倍先生が入院しちゃったんだ」
「えっ・・・」
「だからこうしてお願いしているわけなんだけれども・・・・
ダメかな・・・」
「いっ、いえ、やらせてください!!」
「ありがとう!!!よっすぃーならそう言ってくれると思ったよ
じゃあ、9月の始業式に来てね!!」
あたしの肩を軽く叩いて矢口先生は行ってしまった。
安倍先生が入院したって本当かな?どうしたんだろう・・・・
あっ!バイト先に断りの電話しないと・・・
あたしはもと来た道を引き返しながら携帯に耳を当てた。
「ごめんね、よっすぃー・・・」
矢口が小さく呟いたのを吉澤は知らない。
- 67 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:11
-
「吉澤さん教師なんてすごいですね!!かっこいいですよ」
「いやぁ〜ただ座っているだけなんだけどね」
あたしが教師を始めてから2週間近く経った。
毎日授業があるわけではないし、質問をしに来る生徒も少ないので
大学生活との両立は難しくはなかった。
今日は9月14日。愛ちゃんの20歳のお誕生日です。
いつもより早く帰ろうと帰り支度をしていると、職員室のドアの向こうから声がする。
「失礼しまーす、吉澤先生はいらっしゃいますか?」
「はいはい、質問かな?」
- 68 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:12
- ドアの向こうから現れたのはショートカットの女の子。
笑うとなくなる目とアヒル口が印象的で、あたしが教師になってから毎日質問に来る
頭のいい子。名前は亀井絵里さんといいます。
「はい、この問題なんですけど・・・」
「どれどれ・・・あーこれはね・・」
結局いつもと同じ時間になってしまった。
亀井さんは頭がいいから問題も難しくて、説明するのに時間がかかってしまう。
「ありがとうございました!!・・・先生、今日は用事があるんですか?」
「えっ?なんで?」
「さっきから時計を気にしているようなので・・・
引き止めちゃって大丈夫でしたか?」
「あぁー全然大丈夫だよ、気にしないで」
まずい・・生徒に気を使わせてしまった。
教師としては失格だなぁ〜。
「では失礼しました」
「はい、さようなら」
- 69 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:13
-
帰り道、あたしは愛ちゃんの好きな苺がたっぷりのったケーキと
少しだけお酒も買って家に帰った。
「ただいまぁー」
「おかえりなさい」
「愛ちゃん、お誕生日おめでとう!!」
「フフッ、もう10回くらい言ってますよね」
「うん!何回でも言うよぉー
ケーキ買ってきたから食べよう!!あとお酒もね・・・」
二人で仲良くケーキを半分ずつにしておいしくいただきました。
- 70 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:13
- 「吉澤さん、顔にクリームがついてますよ」
「へっ?どこどこ?」
「とってあげますね、目つぶってください」
あたしは言われた通り目を閉じた。
・・・・・。
唇に柔らかい感触がした。
・・・いっ、今のって・・・・
「き、キス?!」
「どうですか?甘かったですか?」
笑顔で聞いてくる愛ちゃん。
なんか恥ずかしいよ・・・
- 71 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2006/11/07(火) 02:14
-
「・・・・・とっても甘い苺の味がしました」
あたしの初めてのキスは苺の味でした。
ちなみにプレゼントは苺のクッション。肌触り抜群!!
- 72 名前:YNTK 投稿日:2006/11/07(火) 02:15
- 大変遅れましてすみません。
>>61 名無飼育さん
ありがとうございます。
お待たせしてしまいました。
そう言って下さると嬉しいです。
これからもお付き合いのほどお願い致します。
- 73 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:29
-
・・・ひたひたひた・・・ひたひたひた・・・・ひた
閑静な廊下に響く足音。
夜の学校は・・・怖い。
ってなんであたしがこんなことをしないといけないんですかっ!!
まだ教師始めてから一ヶ月しか経ってないのに・・・・・
いわゆる日直っていうやつです。
生徒が残ってないか確認して、戸締り・電気の消灯
そして最後に鍵をかける。
・・・こんな大役を初心者のあたしにやらせていいんですか?
泥棒に入られても知りませんからね!!
さて、次の教室で見回り完了。
あれ?電気がついてる・・・・まだ生徒がいるのかな?
- 74 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:29
-
ガラガラガラァ〜
「お〜い、もう下校時刻は過ぎてるよぉー」
「吉澤先生」
教室の奥の窓に寄りかかるようにして彼女は立っていた。
その様子からして勉強をしていたわけではないみたい。
「亀井さん、どうしたの?一人?」
彼女に近づきながら質問をする。
窓から差し込む月の光に照らされている彼女は
どことなく妖艶な雰囲気を醸し出していた。
「待っていたんですよ、吉澤先生を」
「あたしを?勉強のこと?」
彼女―亀井さんはあたしの問いには答えず、逆に問いかけてきた。
「えりのこと覚えてますか?」
- 75 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:30
- あたしが口を開く前に亀井さんは話し続けた。
「えりが中一の時、バレー部の仮入部で当時高校一年生だった吉澤先生に
いろいろと教えてもらったんですよ。
でもえりが入部しようと思ったときには吉澤先生はあんまり部活に来なくなっていて
バレー部の子から退部したって聞きました」
・・・そういえばそんなこともあった気がする。
でも仮入部に来てた人は大勢いたし、覚えてないよぉ〜
「そっかぁ〜、ごめんね覚えてなくて」
「いいんですよ。教えてもらったのは二週間くらいですし
髪もばっさりと切りましたから、わからなくて当たり前です」
そう言うと亀井さんは目を細めて笑った。
無垢な瞳があたしにフォーカスをあわせる。
「吉澤先生は綺麗ですね」
「えっ?」
- 76 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:31
-
首に冷たいものが触れたと感じた瞬間
「ぐっ!!・・っ・・・・かっ・・ぁ」
・・・なに・・こっ・・・れ
息が・・・でき・・ない・・声も・・・・
抵抗しようと動いたあたしの手は空を掴んだだけだった。
「フフッ」
亀井さん・・・笑ってるの?
霞む視界に映る彼女は口元に笑みを浮かべていた。
無垢な瞳は姿を消し、狂気に満ちた眼差しがあたしを捉えて放さない。
一層彼女の手に力が込められた。
眩暈がする・・・・あいっ・・ちゃ・・
- 77 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:31
- 「がハぁ!・・はぁはぁ・・ハァ・・っ」
首の圧迫感が消えた。
あたしは必死に酸素を取り込もうとするけど、うまく呼吸ができない。
「やっぱり肌が白いと映えますねぇー
赤い線がこんなにくっきりと」
そう言いながら亀井さんは右手であたしの首についているだろう
赤い線をなぞった。
あたしはその手を振り払うこともできず、乱れた呼吸を
整えるので精一杯だった。
「まだ殺しませんよ
でも愛する人が死ぬ寸前までえりを見ていてくれるなんて
最高の殺し方だと思いませんか、吉澤先生」
問いかけではない。
自身に確認するような言い方。
- 78 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:32
- 「えり、吸血鬼になりたいと思っていた頃もあったんです
愛する人の血を全てえりの身体に流し込んだら
まるで二人は一つになったように感じるんじゃないかなって
所詮ファンタジーの世界ですけどね
・・・それに血を飲んでいる時は顔も見れませんし、なにより殺し方が美しくないです」
・・・・なにを言っているのだろう?
あたしの目の前で目を輝かせながら語っている少女は
なにを言っているのだろう?
美しい殺し方?
殺すのに美しいもなにもない。
・・・おかしい・・気が狂っている・・・はやくこいつから離れろ
逃げるんだ・・はやく!!
あたしの身体はあたしの命令に従ってはくれなかった。
頭から足の指先までぴくりとも動こうとしない。
どうして・・・?
恐怖?狂気?困惑?
状況が理解できていないの?
- 79 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:33
- 「逃げないんですね」
!思考が現実に引き戻される。
あたしの視界に彼女が映った刹那
心臓から全身へと血が一気に溢れ出す。
血と一緒に脳からの指令も駆け巡る。
あたしは踵を返す
「もう遅いですよ」
・・・ことはできなかった。
ドンッッ!!!
派手な音とともにあたしは壁に押し付けられた。
両手首を痛いくらいに締め付ける彼女の手。
壁に強く打った後頭部がじんじんしている。
不意にぐいっと顔を近づけてきた。
・・・鼻先が触れてしまいそうなくらい近い
- 80 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:33
- 「高橋さんとはどこまで進んでいるんですか?」
えっ?・・・なに・・今・・なんて・・・
「どうして・・・何で愛ちゃんのこと・・」
「そんなに驚くことじゃないですよ
えりは吉澤先生をずっと見てきたんですから」
微かに笑いを含んだ口調で彼女は言った。
あたしは口元に吐息を感じたけれど、そんなことは気にならなかった。
「どうしたいの?・・・愛ちゃんに・・何かするの?」
あたしの声は震えていた。
ワカラナイ・・・・彼女はなにをするかワカラナイ・・
もし愛ちゃんになにかあったら、あたしは・・・
急に視界から彼女が遠ざかった。
そして口が歪み始め
「あハっ!あははハァああァ!!」
- 81 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:34
- 大声で笑い始めた。
それはいつもの唇の端を吊り上げる笑い方ではなくて
あたしがかつて見たこと無い彼女の笑い方だった。
「ククッ!!最高ですよ
怯えた表情、潤んだ瞳、震えた声
実に綺麗です」
恍惚な視線に耐えられなくてあたしは顔を背けた。
彼女の感情はどこから湧いてくるのだろう・・・・
あたしに向けられているのは愛?憎しみ?
どちらにしろ狂っている。
「高橋さんには何もするつもりはありませんよ
先生次第ですけどね」
「あたし・・次第・・・」
「そうですよ
入院くらいじゃ済まないかもしれませんね」
入院・・・・!!それってもしかして・・・!
- 82 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:34
- 「じゃあ安倍先生は・・・」
「安倍先生?あぁー・・そうですよ、えりが入院させました
今頃気づいたんですね、フフッ」
小馬鹿にしたような笑い。
しかし彼女の表情は実に楽しそうだった。
「安倍先生と仲の良い矢口先生をちょっと脅したら
吉澤先生が教えに来てくれました
フッ、人間なんて皆そういうものです
誰かを守るためには誰かを犠牲にしなければならない、そうでしょう?
矢口先生にとって吉澤先生は一人の生徒に過ぎなかったんですよ」
「・・・・どうしてほしいの?」
「えっ?なんですか?
「そうまでしてあたしにどうしてほしいのっっ!!!」
悲鳴に近い叫び声だった。
ただこれ以上彼女の声を聞くのは嫌だったし
この部屋にいたくもなかった。
- 83 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:35
-
「してほしいことはありませんよ」
あたしの声に驚く様子は一切なく、彼女は冷静に言った。
「吉澤先生はえりの愛を受け入れてくれればいいんです」
愛?・・・この狂気に満ちた感情が愛?
人を殺そうとした行為を愛と呼ぶ?
あたしが愛ちゃんに抱く想いで
愛ちゃんがあたしに抱く想い・・・
それと同じ・・・・・
「ちがう・・・これは愛じゃない」
- 84 名前:〜芯の黒さ〜 投稿日:2007/01/05(金) 03:35
-
「なに言ってるんですか
愛に形はありませんよ
全ての愛が偽りで全ての愛が真実なんです
誰も愛を知ることなんてできないんですから」
- 85 名前:YNTK 投稿日:2007/01/05(金) 03:36
- 更新ごとに遅れていますね。
お詫び申し上げます。
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/09(火) 01:03
- 更新お疲れ様。
なんだか怖い感じになてきましたね。
よっすぃ〜ガンバレ!!!
更新はYNTKさんのペースで良いですよ。
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/21(水) 03:16
- 待ってますです
- 88 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:06
- 「・・・・愛を知る・・・?・・」
彼女の言葉を理解することはできなかった。
未だにあたしの手首を締め付ける彼女の手は緩むことはなく
指先の感覚が麻痺していた。
再び彼女の顔が近づいてきたとき
トントンッ
普段この部屋には似つかわしくない音が響いた。
途端に彼女は不機嫌そうに口を尖らせ
あたしからゆっくりと顔を離していった。
「どうぞ」
少し怒りを含んでいるような冷淡な口調で
音がしたドアの方を一切見ずに彼女は言った。
- 89 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:07
-
ガラガラ・・ガラ
静かにそして慎重にドアが開き始める。
華奢な体つきに燕尾服を着ているがさらさらとした長い髪の女性が
深々とお辞儀をした。
誰でも良かった・・・助けてくれるなら
誰でも良かった・・・彼女から解放してくれるなら
なのに縋る気持ちで見つめた先は・・・・
「失礼致します。絵里お嬢様」
味方ではなかった。
「タイミング良すぎじゃない、ガキさん
もしかしてわざと?」
- 90 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:07
- 今度はガキさんと呼んだ女性のほうをしっかりと見て言った。
それと同時にあたしの拘束も解かれた。
指先から血が堰を切ったように流れ出す
あたしもその流れに乗ってドアへと駆け出そうとしていた。
今しかないっ!!
しかし視界に入った光景があたしの動きを止めた。
ドアの向こう側には何人ものがたいのいい黒服を着た男達がいた。
「とんでもございません
お邪魔をしてしまったようでしたら申し訳ありませんでした」
ガキさんという女性はあたしを一瞥してから
彼女に謝罪をした。
「なーんてねっ、わかってるよ
もう帰る時間だよね」
へらっと笑って彼女はドアの外に出た。
いや、今の笑い方、表情・・・あたしの知っている亀井さんだった。
「はい、下に車を止めてありますので」
「わかったぁー!!先に帰ってるね
吉澤先生さようなら」
- 91 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:08
- ぺこりとあたしに頭を下げた亀井さんは
二人の黒服の男と一緒にこの部屋を去って行った。
どういうこと?
あたしはさっきの目を忘れることができなかった。
あれは・・あの無垢な瞳は間違いなく亀井さんの・・・
じゃああたしの首を絞めていたのは・・?
ポンっと肩を叩かれた。
茫然としていたあたしは驚いて振り返る。
「絵里お嬢様がご迷惑をおかけしたようで
誠に申し訳ありません」
先ほどの女性があたしに深く頭を下げている。
意味がわからない・・・今こうして謝られていることも
あたしは混乱していた。
「申し遅れました
私は新垣という者です。
ここでは話づらいので場所を変えましょうか」
あたしの気持ちを察したのかそうでないのか
周りを黒服の男達で囲まれているあたしに選択肢はなかった。
- 92 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:08
-
新垣さんに言われるままあたしは車に乗せられた。
あたしの隣には新垣さんが座っていて黒服の運転手に指示を出していた。
口を開けば殺されるっっ!!
張り詰めた空気が車内に漂っていた。
握り締めた手の平に汗が滲む。
「大丈夫ですよ。あなたに危害は加えません」
微笑みかけた新垣さんの瞳がとても優しくて
凍っていた緊張が溶け始めた気がした。
「あの・・・・あなたは?」
思わず話しかけていた。
大丈夫・・・・
この人は悪い人じゃない・・・と思う
- 93 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:09
- 「私は亀井家に仕える者です
執事のようなものですね
ちなみに彼らはボディーガードですよ」
そう言うと再び顔を前へと向けた。
車は比較的住宅の少ない郊外に向かっていた。
「着きましたよ」
発せられた声と同時に車が止まる。
大きな門。
それしか言いようが無い・・・
「・・・・ここは?」
「お嬢様のご自宅です
旦那様の許可は得ていますのでご安心ください
今、門を開けますので」
新垣さんが門の前でよくわからない機械を操作している間
あたしは彼方に聳える建物を眺めていた。
すごい・・これが豪邸というものかぁ
- 94 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:09
-
ギギイィィィィィー
門が開き始めた。
新垣さんも車に乗り込み正門から玄関まで移動する。
車から降り玄関を通ると奥の部屋に案内された。
「そこのソファーに腰掛けててください
どうぞくつろいでくださいね」
50畳ほどはあろうかという客間。
あたしはソファーに浅く腰掛けた。
広すぎて却って落ち着きませんよ・・・・
「紅茶を淹れて参ります」
「あっ!!いや・・・大丈夫ですので・・
話って・・何ですか?」
早く帰って愛ちゃんに会いたい
親切にしてくれる新垣さんには悪いけど
あたしはあまりゆっくりとしたくはなかった。
- 95 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:10
- 「そうですね
さっそく本題に入りましょう」
言いながらテーブルを挟んで向かい合わせのソファーに座る。
「吉澤さんは・・・・養子ですよね」
っ!一瞬驚いたけどすぐに平然な気持ちになった
亀井さんに仕えているのだ、あたしの全てを知っていても不思議ではない。
「・・はい、そうです」
物心ついた時には理解していた。
だからなるべく両親に迷惑をかけないように生きてきたつもりだった。
心なしか新垣さんの表情が曇って見えた。
「吉澤さんと絵里お嬢様は種違いの姉妹なのです」
- 96 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:10
-
・・・・・えっ?・・・・・姉妹・・・?
「旦那様から吉澤さんにお伝えするように言われています
これからお話しすることは全て事実ですので・・・・」
あたしはただ漠然と新垣さんの口から流れる言葉を聞き続けていた。
あたしは奥さんの浮気相手との子供。
旦那はそれを知りつつも見て見ぬ振りをした。
しかしまだ1歳にも満たないあたしに奥さんは虐待をしていた。
それを知った旦那は大金を払ってある夫婦に育ててくれるように頼んだ。
ほどなくして旦那と奥さんの間に亀井さんが生まれた。
今度は見張りもつけて慎重に育てていた。
何年か経ち、もう大丈夫だろうと見張りをはずした途端
再び虐待は始まった。
しかし少し気づくのが遅く、一年近く経ってのことだった。
さすがに奥さんとは離婚して旦那が亀井さんを引き取り
今に至るということらしい・・・・
- 97 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:11
-
「お嬢様は少々精神的に不安定でして・・・・」
あたしは何とも言えない気持ちだった。
・・・・虐待・・・同情しているのかもしれない
既に血が繋がっているという驚きはなくなっていた。
「旦那様はご夫婦に一つ条件を出しました」
「条件?」
「はい、21年後に吉澤さんを旦那様の元へ帰すようにと」
かえすって・・?・・亀井さんの家の子になるってこと?
「そして約束の期日が明後日なのです」
えぇっっ!!
いや、ちょっと待ってよ
「いや・・・い、いきなりそんなこと言われても・・」
あたしは目をパチクリしながら焦って言った。
- 98 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:12
- 「わかっています
吉澤さんには高橋さんがいますし
ただ名字が変わり旦那様やお嬢様に挨拶をしてくれれば
いいと仰っていました」
なんだ・・・そうだよね
あたしは安堵の胸をなで下ろした。
「しかし先ほども申し上げた通りお嬢様は精神的に不安定です
そこで旦那様が二週間でいいので吉澤さんにお嬢様の
お側にいてほしいとお願いなさっているのです」
亀井さんの側にいる・・・・
あたしはさっきのことを思い出した
自然と戦慄がはしる
「・・・無理・・・・です」
言葉こそ震えはしなかったがやはり怖かった。
「旦那さんはその・・亀井さんがあたしにしたこととか
知らないからそんなことを言うんでしょう!!」
- 99 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:12
- 少し語尾が荒くなった。
だってそんなの無責任すぎるよ!!
あたしの気持ちも少しは考えて欲しい
「はい、知りません
吉澤さんとお嬢様は先生と生徒の関係だと思っています」
「なら、やっぱり無責任だよ!!
娘が自分の手に負えなくなったからって
人に任せるなんて!!」
「しかし・・・」
新垣さんが真剣な目つきになった。
光が増したような強い眼差しにあたしは少し怯んだ。
- 100 名前:〜メイドインなんちゃら〜 投稿日:2007/03/27(火) 18:12
-
「これは私からのお願いでもあるのです」
- 101 名前:YNTK 投稿日:2007/03/27(火) 18:13
- あれ?
書き方が変わってしまったような・・・
>>86 名無飼育さん
ありがとうございます。
亀井さんが予定よりも怖くなってしまいました。
吉澤さんなら頑張ってくれると思いますので・・・
温かいお言葉ありがとうございます。
>>87 名無飼育さん
ありがとうございます。
これからもまったり待っていて下さると嬉しいです。
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/10(火) 22:07
- よっちゃん、亀ちゃんの傷を少しでも癒してあげて。
ガンバレ!!よっちゃん。
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