くちびる
- 1 名前:ES 投稿日:2006/09/06(水) 22:48
- 6期メン中心です。
短編を並べていこうかと考えています。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:49
- 「くちびる」
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:49
- さゆみがキスする姿が浮かび上がった。
何の事はない。
さゆみは噴水から飛び上がる水を飲もうとしただけだ。
そう思ったけれど絵里の脳裏には噴水や水ではなく真っ赤なさゆみのくちびるが
頭の中にこびりついていた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:50
- 空は薄どんよりとしていて、それでも屋外での撮影は気温が高くて
汗がにじむ。
8月の真夏の遊園地での仕事だった。
「えり、やっぱり夏の収録は暑くていやだよ」
あきらかに同意を求めてるさゆみの言葉だったが、
絵里はさゆみの唇ばかり見ている。
さゆみの唇は先ほどの水に浸されて甘く潤んでいる。
それがいっそうさゆみの唇の特徴を際立たせた。
さゆみの唇は人よりも赤くて肉厚だ。
絵里は自分の唇と比べてそう思う。
やっぱりキスをするならさゆみの唇だ。
絵里は確信的にそう思っていた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:52
- 「えりは飲まなくていいの?」
噴水の側に座り込んでいるさゆみが絵里を見下ろしていった。
できればその唇から直接さゆみをのみほせればいいのに。
「いらない」
絵里はぷいと横を向いた。
絵里は、さゆみの唇から視線を移し、止まっている遊具を眺める。
真夏の遊園地でのテレビ収録、それもレーサーが着るような全身スーツを
着ていたから絵里も咽がからからになっているはずだった。
曇天の下で動かない乗り物達はそれだけで寂しそうだった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:52
- 「えり、最近何か怒ってる?」
「別に」
「あたしと目、合わせてくれてないじゃん」
「そんなことないよ」
絵里は今度はさゆみの目を見て言った。
ありふれた親友同士の言い争い。
ここからはいつもの調子だろうなと絵里は思う。
「あたし、何かえりに悪いことした?だったら謝るからさ。
元通りに仲良くなろうよ」
「え?別にさゆは何もしてないんじゃない」
絵里はひきつった笑いを見せる。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:53
- これが恋人同士だったらいきなりの口づけで魔法のように
場面を一変させてしまうのだろうか。
そうしてもいい。
だけど絵里の頭の中には実行したらどうなるか計算する余裕をまだもっていなかった。
でもそれは今だけ。
いつかその唇を自分の物にしてみせる。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:54
- 絵里は再びさゆみから目線を下にずらした。
ふくよかな赤い唇が絵里を待ち受けていた。
その間にさゆみの動揺した視線が周囲に泳ぐ。
さゆみはただ、親友に嫌われかけて不安と理由も分からない
寂しさに取り付かれていた。
目の前で獲物を淡々と狙っている亀井絵里という
野獣が自分を眺めていることを知らない。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:55
- 絵里は、黙ったままさゆみを残して噴水から離れていった。
絵里としてはさゆみが水をほおばる姿が見れただけで十分だったのだ。
さゆみの誘いにのって水を飲みにきたのもそれが目的だ。
さゆみと今話さなければならないことは何もなかった。
絵里はさゆみとの会話を完全に遮断しているわけではなかった。
メールがくればきちんと返したし、買い物の誘いにものった。
だけど完全にさゆみに心を開きはしなかった。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:56
- 絵里がそういう態度に出るようになってから
さゆみからの電話やメールがだんだん執拗になっていた。
さゆみは、今日起こったことやうれしかったことなんかを
必ず日に一度は送って来ていた。
買い物の誘いや絵里に着て欲しい服があるというメールもしょっちゅうあった。
しかし絵里はメールだけは返した。
メールの時だけは絵里はキスのことを忘れ、
さゆみと親友関係に戻れるのだった。
しかしさゆみが絵里に会うたびに自分に固執し始めていることも
絵里は感じ取っていた。
さゆみはモーニングでの行動になってもずっと絵里を見ていた。
絵里は、さゆみに会うたびにさゆみの唇をずっと見ていたし、
さゆみにはそれが何を意味しているかは知りようがないのだった。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:57
- 遊園地の仕事から何日かたった日の夜、
仕事はいつもよりだいぶ遅くなった。
モーニングでの撮影の仕事が大幅に伸びて、
一人ずつの撮影が終わった人から順番に帰宅になった。
10時すぎていたせいかテレビ局も人がまばらだった。
絵里が楽屋に帰ってきてドアを開けたときにはもうほとんどメンバーが帰っていた。
絵里は溜息をつきながら疲れたとつぶやいた。
荷物は絵里ともう一人のものが残っている。
気付くとれいなが一人パイプ椅子に座って携帯をいじっていた。
ということは、絵里が一番最後まで撮影がかかったことになる。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:58
- 「まだ帰ってなかったの?」
絵里は少し怪訝に思った。
全員が疲れて早く帰りたいと思っていたからまだ
楽屋に残って携帯をいじっているれいなが不気味に感じたのだ。
「バッグ気付かない?」
れいなは絵里のバッグを指差して言った。
「え?」
慌てて絵里は自分のバックを見る。
茶色と黄色の刺繍で編みこまれたいつも持ち歩いている絵里のバッグだった。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 22:59
- 「じゃなくて、中身だよ。さゆが帰る前に散々その中見てたよ。
誰も気付いてないと思ったんだろうね」
絵里は無表情にバッグの中身を確認していた。
確かに場所が変わっているような気もしたが特に盗られているようなものはない。
携帯も財布もいつもどおりにそこにあった。
今は、まだ物を盗って脅すまでのことはしないと思う。
さゆみはただ、絵里が日々何を考えているのか知りたいだけなのだ。
絵里は冷静に思い返す。
そこまでの余裕がまだ絵里にはあった。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 23:00
- 「どーすんの?さゆ、あんなにしちゃって」
「何が?」
どうでもいいと言いたげな様子で絵里は答えた。
「とぼけても無駄だよ。さゆ、ずっと絵里のこと見てるじゃん。
誰が見たって異常だよ」
絵里はぷっと吹き出してしまった。
「だったら異常なさゆに言えばいいでしょ?あたし関係ないじゃん」
絵里は苦笑いしながられいなを睨んだ。
「そうじゃなくて、このままだったらえり、さゆに何されるか分からないよ」
れいなはまじめな顔になって言った。
どうやられいなは自分を心配してくれているらしい。
それがおかしくて絵里は睨むのをやめて笑ってしまった。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 23:01
- 「一日に電話10回。メール20本くらいかな。
ストーカーにしてはまだまだ少ないんじゃない?」
絵里は自慢げに携帯をひらひらとかざした。
「最悪な悪魔だね。絵里は。一体どうやってさゆを誘惑したの?」
れいなはあきれたように溜息をついた。
絵里はそんなれいなを悠々と見つめた。
3人が初めて出会ってからこんな関係になるまで3年かかった。
それこそ成熟ともいえるのだろうか。
お互いがお互いに嫉妬して、欲望の焔を燃やす。
でもそんな関係が絵里には楽しくて仕方がないのだ。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 23:02
- 「でもあたしがさゆに襲われたられいなは助けてくれるんでしょ?」
絵里は自信を持った笑みをれいなに投げかけた。
絵里はこういうことを言う時一番自分がアイドルらしくなると自分でも思う。
事実、絵里の美しく細長い目がゆっくり笑うと人を誘い込むような力が働く。
仕事仲間のメンバーが見てもぞっとするほどの魅力を醸し出した。
「分かった。もうええよ」
れいなは荷物を持って席を立った。
唇を真一文字に結んで表情を押し殺しているように見えた。
「れいな、また連絡するよ」
絵里はれいなに大げさに手を振って笑いかけた。
れいなは絵里の顔をみてこらえきれずに表情を弛ませた。
絵里はれいながドアを開けて完全に出て行くのを確認した後、
再びさゆみの唇を思い出して舌なめずりした。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/06(水) 23:02
-
「くちびる」 続く
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/07(木) 01:33
- おお、なんか新しい風が…
期待してます
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/07(木) 13:48
- 良い感じの6期スレ発見!
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/11(月) 05:00
- これは良い!
- 21 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:37
- 絵里はずっと待っていた。
さゆみがいつか絵里の仕掛けた罠に落ちて、身も心も無防備にさらけ出す瞬間を。
その瞬間につけこみさえすれば絵里の念願は叶うのだった。
それがどんなに邪悪に薄汚れていても絵里はいっこうに構わなかった。
絵里はテレビや雑誌で自分を見るたびに思った。
自分の身体や持って生まれたもの、出会ったもの
それらを最大限に活かして欲望を満たすこと。
これが世の中で一番美しい生き方に違いないと思った。
- 22 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:38
- さゆみと会う前日、かかってきた電話は、絵里が待ちに待っていた内容だった。
「ごめん。どうしても明日抜け出せない仕事が入っちゃった。
でもどうしても外せない雑誌の撮影らしいんだ」
さゆみの声は悲壮に、うわずっていた。
「そうなんだ。さゆはいつもそんなふうに勝手に決めちゃうよね?」
絵里は冷静に言葉を発した。
「勝手じゃないよ。えりとの買い物はあたしもとてもとっても楽しみに
してたんだよ。でも仕事だから……」
「……」
絵里は、わざとだまっていた。
- 23 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:39
- 「えりだってあたしとの約束何回も破ったじゃない?
最近はあまり電話にも出てくれないし」
電話口で大きな声を出しているさゆみに絵里は何も答えなかった。
またしばらく沈黙が続いた。
頃合を見て絵里は言った。
「あたし、あんたがしてること全部知ってるんだよ。
あたしのいない時に勝手にあたしのバッグあさるなんて最低。
そんなのイジメじゃん。
手ごろなものがあったら盗るつもりだったんでしょ?」
低くてドスの効いた声がさゆみに伝わる。
被害者ぶった絵里の言葉は勝ち誇った悪魔の声だった。
絵里には電話ごしでもさゆみが動揺しているのが感じ取れた。
- 24 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:41
- 「あ……れはそんなつもりじゃ……
えりがどんなもの持っているのか知りたかっただけで」
「何でそんなことするの?あたしのことが気に入らないから?
そうなんでしょ?さゆは自分のことが一番可愛いから
あたしのことが邪魔なんだよ」
絵里はたたみかけるように言った。
「違うよ…えりのことが邪魔なんて、逆だよ」
「そう。じゃさようなら」
さゆみが言い終わらないうちに絵里は躊躇なく電話を切った。
- 25 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:42
- それから数日間、絵里はさゆみからかかってくる電話、メールを全て無視した。
仕事場で見るさゆみの顔は不安と焦燥に満ちていた。
ダンスレッスンや舞台の稽古中など、絵里はさゆみから見えないように
そっとさゆみを監視していた。
油断するとさゆみの視線とあっというまにぶつかってしまう。
目線があえばそれを口実に近寄ってくるに違いない。
でも今は決してそうさせてはならないのだった。
さゆみの動揺した表情の上で唇はますます赤く熟れて絵里の欲望を誘った。
待ちに待ったときが近づいているのを絵里は感じていた。
さゆ、ごめん。あたしが悪かったよ
さゆみがその言葉を待っていることが絵里にはありありと分かった。
絵里がさゆみを許さない限り、さゆみが何をどう謝ろうとこの関係は
とても変わりそうにないのだ。
- 26 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:44
- さゆみのあまりの落ち込み気味にメンバーではさゆみと絵里が喧嘩していることが知れ渡っていた。
最初は当然のように先輩達が絵里達の関係を心配した。
しかし絵里は自分が悪者にされたくないがためにわざと買い物を
ドタキャンしたのが自分であるように振舞った。
謝っても謝ってもどうしてもさゆみが許してくれないと先輩達に泣いて言った。
まるで被害者であるかのように自分を仕立て上げたのだ。
さゆみは絵里に嫌われるのを怖れて、絵里が流している言葉を
何一つ否定しなかったし、絵里に自分が嫌われているかもしれない
ということも話さなかった。
さゆみは話せばそれが既成事実になってしまうことが怖かったのだ。
そのこともあってメンバーはこの問題は二人の関係だけで、
仕事に影響もないのだからしばらくそっとしておこうという空気が生まれた。
そして他のメンバーに影響することでもないから誰も真実はどちらかなんて
問い詰めようとしなかった。
全ては絵里の計算通りだった。
- 27 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:45
- 誰にも相談できない…
その状態でもうさゆみは何するか分からないぐらい
追い詰められているようだった。あともう少しだ。
さゆみをどう料理しよう。
もう少し引っ張ってみるのもいいけどこのへんが潮時かもしれない。
仕事が終わって帰る準備しながら絵里は考えていた。
夜のテレビ局は静かだった。
着替えも準備も何かとマイペースな絵里は自然と楽屋で最後の一人になっていた。
- 28 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:46
- 一人か。つまらなそうに絵里はつぶやく。
れいながまだいたら一緒に帰ろうと思っていたのだが、
れいなも先に帰ってしまっていなかった。
今日は、さっさと帰ろうと絵里は思った。
絵里は一人が嫌いではなかったが団体用の広い楽屋で一人になると
さすがに不安な気分になる。
それにさっきから誰かが自分をじっと見ている気がしたのだ。
だんだんその感覚が強くなる。
あたりを見回そうとした瞬間、絵里は背後に人の気配を感じた。
絵里はいきなり、右腕を強い力でつかまれた。
逃げようとしたけどもう遅かった。
体中に鳥肌が立つ。
声が出せない。
- 29 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:47
- 「つかまえた」
あまりに聞きなれた声がした。
絵里がゆっくりと後ろを見るとさゆみの横顔があった。
絵里はその時、ほっとしたのと同時に初めてさゆみに対して恐怖心を抱いた。
「さゆ、残ってたの?」
さゆみは表情一つ変えずにうなずく。
きっと絵里を待ち伏せて楽屋で隠れていたのだ。
「話があるからついてきて」
有無を言わさないさゆみの言葉だった。
そう言ってさゆみの腕をまた強く握りなおす。
「え?なに?」
さゆみは絵里の右手をつかんだまま楽屋の外に引っ張り出した。
そして絵里の腕を引っ張ってぐんぐんテレビ局の廊下を歩いていった。
- 30 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:48
- 「ちょっと待って。痛い」
絵里が悲鳴をあげてもさゆみには全く介する様子がない。
あたりを見回しても誰も助けてくれるような人はいなかった。
そうこうするうちに、さゆみは適当な部屋の前に絵里を引っ張る。
「ちょっと!?何なの?」
絵里が言い終わらないうちにさゆみはおもむろにドアをあけると、
中に絵里を放り込んだ。
「きゃっ」
絵里の華奢な体は部屋の中に倒れこんだ。
床の黄色い絨毯が絵里の目に飛び込む。
中は防音が効いたテレビ出演者の控え室のようだった。
- 31 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:49
- カチリという鍵の閉まる音がする。
ドアの前にさゆみが立って絵里を見下ろしていた。
さゆみは、黒い髪をなびかせて、口元には笑みさえも浮べている。
色白な肌にあって唇だけが赤い光沢を放って、部屋のライトに反射していた。
絵里は幾分冷静さを取り戻していた。
しかし防音がきいた部屋であるうえに、さゆみが相手では力ずくでは逃げ出せそうにない。
「しょうがないじゃん。えり、あたしの言うこと全然聞いてくれないんだもん」
甲高いさゆみの声が響いた。
さゆみはにこやかに見えるぐらい笑っていた。
そしてずんずんと絵里の方に近づいて来た。
- 32 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:50
- 「ちょ、ちょっと待って。あたし謝るから」
危険を感じた絵里は床に倒れたままの態勢で言った。
さゆみは首をかしげて止まった。
「あたし、本当にさゆに悪いことしたと思ってる。
買い物ドタキャンされたぐらいで。そんな怒ることでもなかったし。
ね、仲直りしよ」
絵里は尻餅をついた状態でさゆみを見上げて言った。
さゆみは怪訝そうに絵里を眺めた。
- 33 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:50
- 「本当に?本当にそう思ってる?」
「思ってるよ。明日、うちら仕事オフでしょ。
あたしの家に遊びに来てよ。それできちんと仲直りしようよ」
まるでさゆみにお願いをしているようだった。
しかし、ここで力ずくでさゆみに何かされたら到底かなわないのだ。
それでも沈んでいたさゆみの表情が一瞬にしてぱっと明るくなるのを絵里は感じてほっとした。
- 34 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:51
- 「それだけでいいの?本当に許してくれるの?」
さゆみは絵里の前に座り込んで言った。
さゆみと絵里は目の高さが同じになる。
やっと自分のペースに持ち込めてる。
絵里はそう感じてやっと余裕が出てき始めた。
「そのかわり絶対だよ。今度はきちんと来てくれないとやだよ」
甘えん坊のように絵里は言う。
そして得意のさゆみを誘うように笑顔を振り撒いた。
- 35 名前:くちびる 投稿日:2006/09/14(木) 21:54
- 更新終わります。
>>18
何か随分この世界を離れていたので私自身も更新が新鮮です。。
今後ともよろしくです。
>>19
6期モノしばらく続きますがよろしくどうぞ。
>>20
レスありがとうございます
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/17(日) 23:58
- 更新お疲れ様です。
楽屋でのシーン、ちょっとドキっとしました。
次回も期待してます。
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/20(水) 23:34
- 立場がころころ逆転してて面白い場面でしたね。
次どうなるんだろう???
次も楽しみに待ってます♪
- 38 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:34
- やっとこの関係に終止符がうてる。
部屋を片付けてさゆみを迎える準備をしながら絵里は思った。
今日まで散々さゆみに追い掛け回されたけど、さゆみの唇さえ奪ってしまえば
二人の立場は入れ替わるのだ。
もう逃げも隠れもする必要がなくなる。
これまでの成果が全て発揮される。今日はその日なのだ。
玄関のチャイムが鳴った。
さゆみは時間よりも30分早く部屋にやってきた。
「あ、さゆ早かったね」
絵里は玄関のドアを開けて言った。
- 39 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:35
- 絵里は間近でさゆみを見てはっとなった。
真っ白な肢体が最初に目に入る。
なんてきれいな体なんだろう。
さゆみは今どき誰もかぶらないような白くて大きな帽子をかぶり、
白のワンピースを着ていた。
絵里にはさゆみがわざと自分を誘惑しているよう思える。
唇が赤く絶妙なアクセントになっていた。
「うん。ちょっと早くですぎちゃった」
「そうなんだ。上がって。何か飲む?」
緊張しているのを悟られぬように絵里が尋ねる。
「何か冷たいものがいい」
さゆみは昔のように自然に言った。
「オレンジジュースでいいよね?」
「あ、さゆみオレンジジュース飲みたーい」
さゆみと普通に会話するのは本当に久しぶりだった気がする。
最近、さゆみと会話するときは常に緊張しっぱなしだったのだ。
- 40 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:37
- 絵里が台所でジュースを入れている間、
さゆみはリビングを見回していた。
「えりの家、来るの久しぶりだけど何も変わってないね」
「うん。座っててよ。今行くからさ」
絵里はさゆみの動きに注視して言った。
絵里は手早くオレンジジュースをつぐと、リビングのテーブルの上に置いた。
そばにあるソファにさゆみが座っている。
絵里はさゆみの隣に腰掛けた。
「さゆってさ。最近すごく可愛くなったよね」
さゆみの横顔をまじまじと見つめて見て絵里は言った。
「何それ?前はあたしのほうが可愛いとか言ってたくせに。
もしかしてそれがあたしを避けてた理由?」
「違うよ」
絵里はうつむいて言った。
さゆみは納得できないというようにオレンジジュースをストローで一気にすする。
- 41 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:39
- 絵里は、上目遣いでさゆみの唇に突き刺さっているストローをまじまじとみつめた。
何の変哲もないストローが美しいアクセサリーに見える。
絵里はさゆみの唇と自分の唇が重なり合う瞬間が近いことを想像して
思わず身震いした。
絵里は言って黙ったままうつむいていた。
まるで怒られている子供のようだった。
こめかみに力を入れていた絵里はやっと目に涙が
あふれてくるのを感じた。
「何か違うの?」
絵里の様子を見てさゆみが優しく聞いてくる。
「実は……あたしはさゆのことが好きなんだ」
絵里はぼそっと言った。
「友達として好きとか…そういうんじゃなくて…」
「うそ……」
さゆみは、絵里の言葉を聞いて絶句している。
今まで悩んでいたことが実は悩む必要が全くないことになってしまうからだ。
さゆみには絵里の言葉が信じられなかった。
- 42 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:40
- 「うそ…でしょ?えりがあたしのこと好きなんて」
さゆみは、事実を確認したくて「うそ」という言葉を繰り返す。
あともう一押しだ。
絵里は涙をためながら顔をあげた。
「…嘘じゃない…ドタキャンなんて全然怒ってない。
そんなことよりさゆのことが好きすぎて。
さゆのこと考えてたら一日中何も手につかない。仕事もできない。
だからあたしはさゆを避けてた」
絵里が顔を上げてまばたきした瞬間、涙が一滴こぼれ落ちた。
さゆみはそれを見て抑えられない感情が湧きあがってきた。
顔が見ていても分かるぐらいどんどん紅くなっていく。
「うそ…でしょう…」
絵里は、感情が爆発する寸前のさゆみの顔を見て、
もはやどうすることもできない感情の渦に自分達が巻き込まれていることを知った。
- 43 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:41
- 絵里の両肩が強い力でつかまれた。
痛かったが絵里は何も声を出さなかった。
さゆみは、絵里が抵抗しないことを確認すると強引に
絵里の体を持ち上げてソファに押し倒した。
絵里の体をがっちりと固定すると獣のようにさゆみが駆け上ってくる。
さゆみの息遣いをすぐそばで感じて、絵里はゆっくりと目を閉じた。
- 44 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:43
- その瞬間、唇に分厚い感触とともにさゆみの味が口全体に広がっていくのを感じた。
くちびる同士が重なっている。
それを感じただけで絵里もすでに頭の中がとろけていきそうだった。
さゆみのキスは今までの鬱憤を晴らすように激しかった。
舌を貪欲に絵里の中に進出させて次々と絵里の口の中を蹂躙していく。
さゆみの舌は獰猛極まりないのに、口の中は甘い。
さゆみとキスするのは初めてなのに、
さゆみの味はずっと前から知っている味のように思えた。
二人の唾液が時間が経てばたつほど溢れ出てきて絵里の口の中でからまっていく。
次第に二人の唾液が溢れ出てきて、さゆみが舌を動かすたびにぴちゃと音を出した。
絵里は、からまった甘い液体をごくりと飲んだ。
それでもさゆみはキスをやめようとはしなかった。
絵里はあまりの心地よさに気を失いそうになった。
- 45 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:43
- 絵里自身、自分のファーストキスがこんなに激しいものになるとは
想像もしていなかった。
さゆみは、絵里の中に容赦なく入ってくる。
さゆみとのキスはするというより犯されているという感じがした。
キスを始めて何分ぐらいたっただろうか。
さゆみの唇が離れて絵里はようやく、現実に戻ってこれた気がした。
- 46 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:44
- 胸元が何だかすうすうした。
そこで初めて絵里はさゆみがブラウスのボタンを外していることに気付いた。
「体はダメ!いやっ」
絵里は叫んでさゆみに背中を向けた。
さゆみはキスの満足感からかにっこりと微笑んでいる。
「えりはあたしのこと好きなんでしょ?だったらいいじゃん?
ここまできて引き返せるわけないでしょ」
さゆみは、強い力で絵里の体をこっちに向かせようとした。
どうやらさゆみは絵里の言うことを聞く耳は全く持っていない。
- 47 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:46
- 「い、いやああ」
絵里は、ソファから強引に抜け出した。
立ち上がってその場から逃れようとする。
しかしさゆみが絵里の体を離すはずがなかった。
ソファを離れようとした絵里の体をもう一度引き寄せると、
無理やりソファに絵里の体を叩きつけた。
さゆみは絵里の細い両腕を後ろに回してそれを左手でつかんだ。
右手は絵里の体を抱きしめて逃げられないように固定する。
「えり、このまま逃げないんだったら優しくしてあげる。
でも抵抗するんだったら無理やり犯すわよ」
勝ち誇ったかのようにさゆみは言う。
絵里は必死で首をふりながら時計を見た。
さゆみは絵里の後ろから両手を伸ばすと、左右から絵里のブラウスを引きちぎった。
- 48 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:46
- 「やめて!」
絵里の声とともに遠くのほうではじけとんだボタンが落下する
音がカランと聞こえた。
そのままさゆみは絵里の体をまさぐる。
絵里は必死に全身を硬くした。
そのとき絵里は突然自分の体が軽くなるのを感じた。
さゆみの体がすっと離れたのだ。
- 49 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:47
- 「そろそろキスごっこもおしまいかな」
絵里はれいなの声を聞いてほっと胸を撫で下ろした。
急いでさゆみから離れ、ブラウスの前を閉じる。
れいなはつかんでいたさゆみの体をゆっくりと離すと絵里を守るように
さゆみの前に立ちはだかった。
「えり、どういうこと?」
さゆみはまったく状況がつかめずにきょとんとしていた。
「えり、怯えてるじゃん。さゆがこんなひどい人だとは思わなかったな」
れいなは絵里を一瞥してからさゆみに冷たく言った。
- 50 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:49
- 「こんな誘惑するような格好しちゃってさあ」
れいなはゆっくりとさゆみに近づくとワンピースの袖から出ている
二の腕をさらっと撫でた。
「やだっ。触んないでよ」
さゆみはれいなの手を振り払ってれいなを睨みつけた。
完全に立場逆転だ。
絵里は無表情で二人のやり取りを見ていたが、その様子を見て心の中で
密かにほくそ笑んだ。
「ふん。えりには無理やりひどいことしといて自分には触んないでって。
人を馬鹿にするにもほどがあるよ」
後ろから息あがっているれいなの表情が、絵里には手にとるように分かった。
れいなは楽しくてしょうがないらしい。
よっぽど今までのことが鬱積しているんだろうなと絵里は思った。
だからこそれいなをこの場に呼んだのだ。
- 51 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:50
- さゆみが、れいなから視線をそらして目があいそうになったから絵里は
慌ててうつむいた。
「えり、今日はもう帰る。れいなが来て気分悪くなっちゃった。じゃあね」
絵里は上目遣いでさゆみの動きをじっと見ていた。
さゆみはてきぱきと自分のバッグを手にとると、れいなと絵里を残して立ち上がろうとした。
「あれ……」
さゆみは手をこめかみにあてたかと思うとその場にどさっと崩れ落ちた。
絵里とれいなは思わず見つめあった。
お互いに目配せしてうまくいったことを確認する。
絵里は立ち上がるとさゆみの側にかけよった。
- 52 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:51
- 「さゆ、どうしたの。急に」
絵里はにこやかに笑いながらさゆみを抱き起こして言った。
「あたし……、一体…」
絵里を見るさゆみの目はうつろだ。
不安からだろうか。
息も次第に荒くなっている。
「大丈夫。しばらく体に力が入りにくいだけだから。
実はさっきさゆが思いっきり飲み干したオレンジジュース、
薬いれといたんだ。そろそろ薬が効いてくるころかなと思ったんだけど」
絵里の笑顔はさっきから全く変わらない。
何を言っても許されるような絵里の笑顔は悪魔そのものだった。
- 53 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:52
- 「何で…こんなことするの…あたしを…どうするつもり…?」
「ん?これかられいなに思いっきり可愛がってもらったら?
あたしに暴力ふるった罰としてね」
絵里が何の抑揚もなく言った。
さゆみは、今になって自分が追いかけていた美少女の本当の恐ろしさを感じた。
れいなが横から舌なめずりをしつつ近づいてくる。
さゆみは思いっきり首をふる。
そして懇願するような目で絵里を見つめた。
- 54 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:53
- 「えり?あたしが今までれいなにどんな目に合わされてきたか知ってるよね?」
「もちろん知ってるよ。れいながさゆを好きだってことぐらい。
だからあたしはれいなに協力してあげてるんだよ」
絵里は、れいながさゆみをいつとなく付け回していることを知っていた。
れいなには、さゆみの情報を流して、れいなにさゆみを追わせ、
さゆみにはれいなから逃げるようにアドバイスした。
二人の葛藤を知っていながら絵里はそしらぬ顔で二人の話を聞いていた。
ただ、最近は絵里もさゆみに追い掛け回されていたから、
れいなの絵里への対応もひどく冷淡なものになっていた。
だからこそ、絵里はれいなに魅力的な提案をしたのだ。
さゆみを「くちびる」とそれ以外で分けて所有しようという。
- 55 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:55
- 絵里はさゆみを両脇から抱きかかえた。
れいなはさゆみの両脚をしっかりともつ。
さゆみは力が入らないみたいで二人の為すがままだ。
絵里達は、慎重にさゆみを抱きかかえてリビングから出すと
隣のベッドルームまで運んでいった。
そこには真っ白で真新しいシーツがひかれているベッドがある。
二人は勢いをつけてさゆみの体をどさっと振り落とす。
さゆみの体がぐたっと広がった。
「れいな、分かってるよね?れいながさゆみを自分のものにしたら、
さゆの唇だけは絵里のものにするって約束」
絵里はれいなに念押しした。
「分かってるって。あとさゆにキスしてもダメなんでしょ?
要するに首から下は全部オッケーってことね」
れいなは薄く笑ってさゆみの全身を眺める。
- 56 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:56
- 「えり?今までの全部嘘だったの?あたしのことが好きなのも全部嘘なの?」
さゆみは、窮屈そうに首を動かして言った。
口だけはまだまだ動かせるようだ。
「嘘じゃないよ。あたしはさゆのことが好き。
ただしあたしが好きなのはさゆのくちびるだけ」
「だったらいくらでもキスさせてあげる。だからお願い。
れいなとだけは嫌だ」
「何で?れいな可愛いじゃん」
絵里はにこやかにれいなとさゆみを見つめて言う。
さゆみは必死に体を動かしてベッドから降りようとする。
だけどその力はあまりにも弱々しくてすぐにれいなに捕らえられた。
- 57 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:57
- 「きっとさゆはキスをひきかえにあたしの全てを奪おうとする。
さっきだってそうじゃない」
絵里が冷淡にさゆみに言う。
その間に、れいな獲物をとらえた獣のようにさゆみを抱き寄せた。
れいなが、さゆみの後ろに回りこんでワンピースのファスナーを下ろす。
そしていかにも邪魔げに白い布を剥ぎ取っていくと、
白いさゆみの白い上半身があらわになった。
「さゆ、3年間ですごいきれいな体になったね」
絵里は脱がされていくさゆみを満足そうに見つめていた。
「許さない。えりのことだけは絶対に許さない」
さゆみは初めて絵里を睨みつけた。
「ごめんね。さゆ。でもあたしはね。
本当にさゆのくちびるだけが欲しいんだ」
絵里はさゆみの悲鳴を残して、部屋を出て行った。
絵里の脳裏に先ほどの激しいさゆみとのディープキスの感触が消えないでいた。
- 58 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 22:57
-
くちびる 「完」
- 59 名前:くちびる 投稿日:2006/09/26(火) 23:00
- >>36
レスありがとうございます。
緊張感、味わってもらえたならうれしいです。
>>37
今後も立場がくるくると入れ替わる小説を書きたいと思います。
よろしくお願いします。
次はあやみきを書こう練っているところです。
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/27(水) 01:02
- このドロドロがどこまで行くのか見てみたかった・・・けど面白かったです
次作も楽しみにしてます
- 61 名前:作者 投稿日:2006/10/03(火) 16:48
- >>60
レスありがとうございます。
続編も書こうかとは思ったのですが、まだ練り中です。。。
- 62 名前:biky 投稿日:2006/10/03(火) 16:50
-
「ビキャク」
後藤1人称の、あやみきです。
- 63 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:51
- 何をそんなに焦っていたんだろう。
一体何にイラついていたんだろう。
そんなふうに今あたしは思う。
あたしは風のように毎日走っていて、その度に胃のあたりがキリキリ痛んでいた。
目指す目標は常に一番になることで、走っているその目の先は、
結局どこを見ていたのか未だに思い出せない。
ただ、あきらめてしまうのが怖くて、立ち止まる勇気なんて持っていなかった。
モーニング娘。だったあたしは、いやソロになったあとも無我夢中で疾走し続けていた気がする。
- 64 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:52
- 今になってあたしはまた思う。
仕事のことは少しだけ置いといて、立ち止まってみることも
たまには大事なんじゃないかって。
そしたら芸能界って特殊な日常ってものを
もっともっと見ていけるように思う。
新しく挑戦する仕事もこれから出会う人も、
もしかしたらこれまで一緒にやってきたハロプロの
仲間だってまた違う面が見つけられるかもしれないのだ。
- 65 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:52
-
後藤真希 20歳。
あたしの物語はまだまだ終わらない。
- 66 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:54
- 「DEF.DIVA」の後のユニットのことなんやけど。
今年の秋にまたやるで。と春にもさしかからない真冬の2月に
つんくさんに突然切り出された。
「今回のユニットは二人で行こうかと思ってる。
具体的には後藤ともう一人やな」
「誰なんですか?」
「まだ決めてない。けど多分、松浦か藤本」
- 67 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:54
- その話を聞いたとき、あたしはあまり驚かなかった。
毎年のユニットはだいたいメンバーは固定している。
だからまっつーとかミキティとユニットを組むのは不思議でも何でもない。
しかしあたしの頭には?マークが並んだ。
つんくさんのその「多分」って言葉が妙にひっかかったし、
(多分て何だ、大事な仕事でそのあいまいな言い草は)
そして普通はユニットが決まってからメンバーが呼ばれるんじゃないの。
とキャラじゃないからそういうミキティ的な突っ込みは言わずにおいて
おくとしても、あたしにはつんくさんが考えていることが正直分からなかった。
しばらく気まずい沈黙が続く。
この気まずさは決してあたしが作り出したわけじゃないと
妙に反抗的に押し黙っていたらやっとつんくさんが口を開いた。
- 68 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:55
- 「で、お前はどっちとやる?」
「はあ?」
誰かにそっくりな声が出た。
まずい、これじゃミキティととキャラがかぶる。
でも何でこんなにミキティのことばかり頭にあるんだろう。
こんなにミキティのことばかり考えていたらまっつーに誤解されてしまう……。
と複雑な乙女心を抱いていたら、今度はあたしが気まずい沈黙を作り出していた。
- 69 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:57
- 「え?あたしが決めるんですか?
ていうかそんなのあたしが決めるのっておかしくないですか?
それに選ばなかったらそれはそれで気まずいし」
「それは別に、俺が決めたってことにすればええし。
今回のユニットは俺としては後藤にまかせてみたいと思ってる。
それでお前が作ったユニットから曲のイメージ決めてもらいたいんや。
後藤はアーティストとして、実力もあるしもうそういう時期やと俺は思う」
あたしはつんくさんの言葉を聞いて黙りこくってしまった。
たしかに今のあたしは自分にプレッシャーをかけることもなく、
自然に新しいことに挑戦できるようになってきている。
それはとてもよいことだと思うし、だからあたしもできれば言われたことはやってみたい。
そしてつんくさんにも自分がアーティストとして認められているのだとしたら
それはそれですごくうれしいことだった。
- 70 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:58
- しかしこれはもしかしたら結構責任重大なのかもしれないのだ。
二十歳のあたしが言うのは生意気かもしれないけど、
まっつーにしても、ミキティにしても今の時期のお仕事は
年齢的にも大事な時期だと思う。
今年、あたしとユニットを組むことはきっと二人の将来にそして未来に
影響すると思う。
今までは、上に言われたとおりに歌って踊っていればいいから
一生懸命そうしてきただけだけど、今度はそうは行かない。
何せあたしがデュオを組む人を決めて曲のイメージだって決めなきゃならない。
それにあたしはハロプロのみんながどれだけ苦労してファンのみんなに答えようとしてきたか
知っている。
それを分かりすぎるくらい分かってるだけに……
これってやっぱり責任重大?
- 71 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 16:59
- そう考えるとデビュー6年目、物怖じなんてしない
あたしの気持ちが揺らいだ。
「どや、とりあえず考えといて」
「はい…」
思わず言ってしまうあたし。
後の祭りになってからあたしは思いっきり顔をしかめた。
- 72 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:01
- 来た仕事を今出来ないからって断ったらその仕事は二度と来ない。
努力してできるようにすることまで考えて引き受けなきゃダメなんだ。
CDを五万枚手売りしたことの意味ってそういうことでしょう。
カオリや裕ちゃんのバカみたいに真っ正直な教育の成果が今になって
発揮されている。
つんくさんはもうその気になっている。
嬉々とした顔の表情を見れば分かる。
冗談じゃない。
出来ない仕事がきたら、なっちや市井ちゃんだって即効断っていた。
そんなモーニング娘。にあたしはいたはずだ!いやいたかった。
- 73 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:02
- 「ああ、それからユニット名だけはもう決まっとるから」
部屋を出て行く寸前につんくさんはそんな大事なことを言う。
「脚のきれいなやつっちゅうことでビキャク」
足がきれいだからビキャク。
またそんな単純系かあ。
ごまっとうも後浦なつみも単純だったしなあ。
それにしてもDEF.DIVAみたいにもっとカッコいい英語の名前はないんだろうか…。
あたしだったらもう少しカッコいい名前をつけられそうな気がするのに。
あたしは少しばかり溜息をついた。
そしてつんくさんに返す言葉もなく話はすむと、
つんくさんは部屋を出て行った。
それがあたしの大きな悩みの始まりになることさえ知らずに。
- 74 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:03
- 一人残ったあたしは、そのまま事務所の一室で悶々と考えた。
あたしは、まっつーとミキティどちらと組むべきなのか。
ユニット名はビキャクだから、まあたしは問題ないっつーことにして
まっつーもミキティも足はすごくきれい。
どちらと組んでも問題ない。
特にミキティは足長くてスタイルはあたしよりいいかもしれない。
少し悔しい。
だけど今はそんなことどうだっていい…。
歌唱力は…二人ともあるなあ。
ハロプロでもトップクラスだと思う。
ごまっとうの時に一緒に歌ったしよく知ってる。
人気…これはどうだろう。
まっつーはソロやってるからミキティよりもファンは多いのかもしれない。
- 75 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:05
- いやいやいや。
そこまで考えてあたしは首をふった。
今、あたしはどっちと組んだら得かを考えている。
どっちと組んだらあたしが売れるか。
そういうジコチュウ的なのってやっぱよくない。
かといってあたしが相手のために尽くすってのもなんか違う。
要はユニットとして成功することが最優先なのだ。
うん。それが仕事をする大人ってもんだ。
でも、二人とも実力的には申し分ないわけだし、
ユニットとして成功するためにはどうしたらいいんだろう?
- 76 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:05
- そうだなあ。
つまりあたしがどっちとだったらうまくやっていけるかってことだ。
相手だってウマが合う人と組んだほうがいいと思うに決まってる。
まっつーとミキティ、どっちの方があたしと仲がいい?
どっちが好き?
どっちとだったら一緒になれる?(あくまでユニットとして…)
あたしは自分自身に聞いてみる。
- 77 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:07
- まっつーはすごい女の子っぽくて可愛い。
最初は目を合わせてくれないとか何とかであたしを怖がってたみたいだけど
今ではすっかり仲良しになってる。
あたしは性格はさばさばしてるけどベタベタな女の子が決して嫌いなわけじゃない。
梨華ちゃんだってきしょいぐらいに女の子だけどあたしは好きだ。
それは多分、あたしにも女の子らしさっつーのがあって、
まっつーみたいな子とつきあってるとそれを確認できて安心する
みたいなのがあるんだと思う。
それにまっつーは可愛いだけじゃなくて、
あたしをいろいろと慕ってくれる。
年上の後藤としてはそういうのがうれしいのだ。
まっつーと二人で組んでもあたしはきっとうまくやっていける。
- 78 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:08
- ミキティは…ていうかミキティはすでに友達だしな。
ミキティは3年前のごまっとうで初めて話すようになった。
それまでハローのメンバーではミキティは何だか怖いイメージが
あって近寄りづらそうだった。
でも物怖じしないあたしにはそんなの関係ない。
話しかけたらすぐに仲良くなれた。
性格はさばさばしてて気が強い。
突っ込みが激しくて梨華ちゃんなんか一言返す前にぼこぼこにされてる。
でも何故かあたしには優しいのだ。この子は。
一つ学年が上で頼りにもなるし、実は思いやりがあってとっても頼れる。
ごまっとうのとき、娘から卒業して不安なあたしを一番助けてくれたのもミキティだ。
- 79 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:09
- あたしはがさごそとお気に入りのバッグに手を入れて携帯を取り出す。
メールの履歴を見てみると何件かミキティからのメールが表示された。
最近になってもご飯に一緒に行こうとか最近、
仕事はどんな感じ?とかメールを入れてくれている。
うん。あたしは、はっきり言ってミキティと仲がいいと思う。
- 80 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:10
- そうなると…じゃあ結局どっちでもいいんだ。
心の中のあたしが自分に向って冷たく言い放つ。
はい。あたしは松浦亜弥ちゃんも藤本美貴ちゃんもどっちも大好き。
どっちとだって仲良くやれます。
ライバル意識?
お互いに高めあっていけるような競争心は当然もってますけど、
そんな目と目を合わせてバチバチって特にないし。
もうあたしと組んでくれるんだったらどちらでもOK!
って何かその正統派アイドル的な八方美人、今までのあたしと違うくないか…。
ぶっきらぼうで言いたいこと言って、
小生意気で笑わないっていう元々のあたしのイメージに合わなくない?
- 81 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:11
-
…自分で考えてて溜息がでた。
今までのあたしの一番で一番中心でなきゃやだっていう
孤高のプライドは、だんだん失われている。
大好きな歌とライブがあればいいやってぐらいに落ちてきている。
武道館でやりたいとかもっと人気が出たら広いところでやりたいっていうのは
それは聞いてくれるファンの人数によるんであって、
結局あたしの願望なんて関係ない。
だからそんなことどうでもいい。
別にあたしは歌うこと以外なんて考えなくていいんじゃないって心の底から思う。
だからあたしはユニットをどうするかなんて本当は決めたくもないし、
考えたくもないんだ!
- 82 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:12
-
ダメだ。何か愚痴っぽくなってる…。
それにしてもどうしよう。どっちと組んだらいいんだろう。
あたしは携帯をいじりながらまた溜息をついた。
やっぱ仕事なら性格がさばさばしてるミキティがやりやすいのかなあ。
まっつーか。ミキティか。どっちか。
待てよ。
あたしの頭が今度は別の問題をはじき出してきた。
- 83 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:13
- よくよく考えたらまっつーとミキティは親友同士。
いやあたしから見ると親友以上の関係。
ごまっとうの時二人の会話を聞いてたらお互いを完璧に分かり合えてるって感じ。
二人ともいつもベタベタくっついていてそのまんま恋人同士みたいだった。
特に甘え上手なまっつーは本気でミキティのことを恋人だと思ってる。
それにまっつーはとっても独占欲が強いんだ。
もしミキティと組んでまっつーに変な誤解されたりしたら…。
二人のうち一人と組むってことはそれを一番考えなきゃいけないじゃん!
ハロプロでも一番分かりやすい人間関係をあたしは見逃そうとしていた。
あたしとしたことが。
うん。
てことは、性格もさばさばしてて嫉妬しないミキティを残して、
あたしがデュオを組まなければならないのはまっつー。
- 84 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:13
- そうだ。
あたしは松浦亜弥とディオを組みばいいのだ。
後藤真希&松浦亜弥、ユニット名は「ビキャク」。
名前はやっぱりいけてないけどとりあえずあたしの結論は出た。
まっつーに恨まれたくないがための超打算的な決着。
ちょっとあたしらしくないけど、
そんな波風立たない結論ってのもありだと思う。
- 85 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/03(火) 17:14
- 決まったら即行動がモットーのあたしは、さっそくデュオの相手をつんくさんにメールで伝えた。
相談されてからなんと30分弱での決断。
後は、まっつーに会っていろいろ曲やユニットのイメージを決めていけばいい。
最初はすごく悩んだけど、さすがあたしだけあって意外にサクサク進むなあ。
あたしは結構上機嫌だった。
とりあえず、スケジュールが空いていたからさっそくまっつーとは
次の日会うことにしてマネージャーさんに予定をいれてもらった。
まっつーには一緒にユニット組むことになりそうだともう教えておいた。
決まったら何もかもオープンにするのもあたしのモットーなのだ。
しかし、そのことが世にも恐ろしい出来事の幕開けになるなんて思いもよらなかった。
- 86 名前:作者 投稿日:2006/10/03(火) 17:16
- 更新終わります。
後、1,2回更新して、完結する予定です。
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/04(水) 05:28
- 続きが気になります
次回の更新も楽しみにしております
- 88 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 21:42
- その日、あたしは久しぶりに日の出ているうちに家に帰った。
夕日を浴びて川沿いの歩道をあたしはとぼとぼと歩く。
そんなとき、あたしは女の子らしくちょっと感傷的になる。
「全力で走るのをやめて、ふっと周りを見てみたら突然すっごい
きれいな景色が見えたりすることだってある。
何かを達成してゴールってのもありだけど、
大切な何かに気付いた瞬間にゴールってのもいいもんだよ」
- 89 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 21:43
- 昔、モーニングの先輩の誰かが言ってるのをあたしは聞いたことがある。
その時は確かソロシングルを出す前で、とにかく無我夢中で仕事していた。
だから言っていることの意味なんて考えもしなかった。
そして周りなんて見てなかった。
いや見ようともしなかったのかもしれない。
- 90 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 21:44
- でも急にその言葉が思い浮かんでくることがある。
そして一人ぽつんと夕日を見て佇んでいる自分に気付くことがある。
そんなときに自分のことより何よりも、
もっと周りのみんなのことをよく見てみたいって思う。
その瞬間は目立ちたがりやのあたしが、自分の存在が薄く感じてしまっている
時なのに、それはそれで快感だったりする。
でもそれはきっとあたしが確実に成長している証拠なんだ。
だからあたしはまだこのままじゃ終わらないって自分に自信を持って言える。
- 91 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 21:47
- あくる日、事務所の部屋でまっつーを待っていたらまっつーと何と
不機嫌そうなミキティが一緒に入ってきた。
もうびっくりしてあたしは動揺しまくりだ。
「ね、ごっちんさあ。ユニット組むの結局あたしなの?それとも亜弥ちゃん?」
ミキティが怖い目であたしを見て言う。
「う」
ミキティがあたしの心臓を正確に突いた。
「つんくさんからさあ。今度のユニットでミキがごっちんと二人で組むことになったって。
最初につんくさんからメールあってさあ。
でも亜弥ちゃんはごっちんから二人でユニット組むってメール、ごっちん出したでしょ?
で、結局どっちなのって話しになって」
ミキティは席にも座らないであたしを見下ろして言った。
- 92 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 21:49
- 「それで、つんくさんに直接電話して確かめたんだ」
まっつーが無表情で続けた。
あたしの額にはきっと冷や汗がたらたら流れてる。
「そしたら、後藤が決めたのは亜弥ちゃんだって。
間違えたごめんみたいな」
「つんくさん。。。%$W〜##&%!」
当然あたしは針のむしろ。
あたしはまるで叱られてるみたいにうつむいてしまった。
もう煮るなり焼くなり好きにしろ。そんな気分。
- 93 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 21:49
- 「あー。ごめん。誤解しないで。あたしはごっちんに文句言いに来たんじゃないから。
ていうかあたしは、別にユニットに入れてもらえなかったからって怒ったりしない」
ミキティはあたしの前の席にくるっと座って言った。
それをまっつーが胡散臭そうにミキティのことを眺めている。
- 94 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 21:53
- 「それよりあたしが、言いたいのはごっちんのためにも亜弥ちゃんは
やめといたほうが言いってことだよ。あたしとなんて組まなくてもいいよ。
でも亜弥ちゃんはやめたほうがいい」
何故かいきなりケンカ口調のミキティ。
なんだか普段あたしが知ってる二人とはだいぶ雰囲気が違ってる。
「ねえ。みきたんみきたん、それどういう意味かなあ?」
まっつーが笑いながらあたしの斜め前の席に座った。
その笑顔が怖い。ていうかあたしが知ってるまっつーじゃない。
- 95 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 21:54
- 「決まってんじゃん。あんたなんかと組んだらごっちん可愛そうじゃん。
そりゃさあ。3、4年とか前のかわいいかわいい亜弥ちゃんだったら
いいと思うよ。今、松浦亜弥でーす。
何て言ったってさあ。ひくってフツー。
それにその言葉自体がすでに痛いしね」
ミキティのまっつーに対する言葉とは思えないんですけど…。
あたしは思いっきりひいた。
まっつーが泣くんじゃないかと思って。
でも、あたしは信じられない光景を目にした。
まっつーが体を乗り出してミキティの頭をつかむとそのまま
肘でミキティの首を締め上げた。
- 96 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:02
- 「どの口がそんなこと言ってんのかなあ」
まっつーがかるーく言ってた。あたしの前にいるのは本当に松浦亜弥?
「亜弥ちゃん、嘘です。痛い、苦しいって。ごっちん、助けて」
「ちょっと、まっつー」
あたしは驚いて止めに入る。
「冗談だって。ほんのスキンシップ」
まっつーはかるーく言う。
「だから、やめといたほうがいいんだって。亜弥ちゃんは」
ミキティが首をおさえて苦しそうに言った。
「まだ言う?」
それを見てまっつーがミキティを威嚇している。
- 97 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:05
- ていうかこんな修羅場になると思ってなかった。
それにまっつーはキャラ設定違うし。
何よりごまっとうの時と全然違うし、DEF.DIVAの時とも違う。
えっとあたしの可愛い妹分だったまっつーだよね…。
「でさあ、今日はごっちんにお願いがあってみきたん、連れて来たんだけどさー」
今まで怖い目でミキティを睨みつけていたまっつーがやっと
あたしのことを見てくれた。
「この子、ユニットに入れてやってくんない?」
まっつーがミキティを指差して言った。
- 98 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:06
- 「え、でもユニットは二人だから」
「だから、みきたんと二人でユニットやりなよ」
「どうして?」
「たんが焼きもち焼くから」
まっつーがミキティを指差してさばさばと言う。
「はぁ?焼きもちなんか妬かないよ。
あたしの方がスタイルよくて可愛いからでしょ?」
「あっそう。じゃあごっちんが言うとおり、あたしがユニットやるよ」
まっつーはひょうひょうと答えてる。
「えー。やっぱりそれは嫌だ」
今度はミキティが駄々っ子のように答える。
- 99 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:07
- あたし、もしかしたらまっつーに嫌われてるのかな。
一瞬そう思った。
「たんはあたしがユニット入ったら、ごっちんにあたしをとられちゃうと
思ってるんでしょ?」
まっつーってこんな嫌味な言い方する子だったっけ。
こんなこと言って突っ込み王のミキティに通用するはずがない。
「そりゃ寂しいとは思うけどさ…」
ところがあのミキティがまっつーに押されてた。
こんなミキティも初めて見る。
「分かってるって。あたし達、二人で一心同体だもんねー」
そしてまっつーとミキティが声をそろえて言った。
さっきのケンカは一体どうなったんだろう…。
- 100 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:08
- どうやらあたしが嫌われているわけではないらしいことが分かった。
二人がユニットを決めるために天秤にかけられて、
怒ってわけでもなさそうなことも分かった。
ただ何より、あたしは目の前にいる二人を知らない。
二人のキャラを知らない。
出会って何年にもなるけどこんな二人は知らない。
知らないよ。
どうしたらいいのつんくさん。
あたしは今の今まで怒りの矛先を向けていたつんくさんに心の中で助けを求める。
- 101 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:09
- 「じゃ、ごっちんとあたしのデュオってことで決まり!」
ミキティがやったーと言ってあたしに抱きついた。
「亜弥ちゃーん。焼きもち妬くなよー」
「妬かないよ」
「絶対妬く」
「妬かない」
その間にあたしはミキティに羽交い絞めにされ、
気持ち悪くなるまで体を揺らされた。
二人とも。なんていうか…話が違うんですけど。
- 102 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:11
- 何ていったらいいんだろう。
例えば新婚のカップルで旦那さんが、今まで可愛くって、女っぽかった
奥さんが実はがさつで男っぽい一面を見てしまったみたいな。
奥さんが今までカッコよくて男らしいと思っていた旦那さんが
実は、甘えん坊で子供っぽかったのを見せ付けられたみたいな。
なんだか意識が遠ざかっていく。
ミキティ、ふざけてあたしに抱きついているんだろうけど。
首、絞めてるから。
「ちょっと、たん、ごっちんが苦しがってる」
まっつーの一言がなかったらあたしは無邪気なミキティに絞め殺されてた。
- 103 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:12
- 結局あたしは、ユニットのメンバーを決めることもできず、
あたしらしいクールさなんて全く発揮できなかった。
打算的な計算から相手を決めようとしたあたしも悪かったのかもしれない。
でも一応揉め事にならずに?決まったのだから喜ぶべきことなのかもしれない。
でもやっぱりあたしは冷めてる。
あたし自身、はっきり言って今回のユニットはどうでもよくなってきていた。
もともとこういう話は好きじゃない。
そんなことより、やっぱり、ドラマとか歌の話がきたほうがよっぽどおもしろい。
- 104 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/09(月) 22:13
- 「なんだかんだ言って仕事って楽しいよね」
あのネガティブ梨華ちゃんの言葉だ。
確かに自分が試されてるって感じがする仕事は楽しい。
けどこういう仕事は楽しくない。
大体あの二人は一体何なんだ。
あたしは言いたい。
まっつーもミキティも一人でいる時とキャラが違いすぎる。
だから未だかつて会ったことのない人たちにどんなリアクション
をしていいのか分からない。
そんなことを思っていたところをまっつーからメールがあった。
とっても短いカタカナメール。
「ハナシアリ!アヤ」
- 105 名前:作者 投稿日:2006/10/09(月) 22:16
-
次回で完結にします。
なるべく早く更新します。
- 106 名前:作者 投稿日:2006/10/09(月) 22:17
- >>87
レスありがとうございます。
励みになります。
今後もよろしくです。
- 107 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:31
- 一体何?今さら、あたしの誘いを断っておいて。
あまりにマイペースすぎるまっつーにあたしは少しお怒りだった。
今さら、あたしと組みたいとか言い出したら今度はあたしが
まっつーの首を絞めてやる。
ミキティに羽交い絞めにされ、
危うく意識をぶっとばされそうになったのをまだ根にもっている
あたしはそう思った。
それでもさっそく事務所に呼び出されてしまったあたし。
- 108 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:32
- 「やっぱさあ。ユニットあたしと組んでよ。お願い!」
そしてまっつーの第一声はまさしくそうだった…。
「やだ」
あたしははっきり言ってやった。
「だって二人が来て勝手に決めたんじゃん。
今さらあたしに言われても困るっていうか」
でもまっつーは無反応。
昨日のペースには絶対のらないぞ。
これ以上言うんだったら本当首絞めてやる・・・。
あたしが思っていたところに部屋のドアがあいた。
黒いミニスカートにソバージュのロングヘアがカッコよく決まってる。
- 109 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:33
- 「亜弥ちゃんさ、こういうのミキいらいらするんだけど」
ミキティやっぱり登場するんだ…。
ミキティの登場によってあたしは絶望的な予感さえした。
「ばれたか」
まっつーはいたずらがばれた子供みたいな顔をしてた。
もう私には何がなんだか分からない。
あたしも堪忍袋ってのがきれたかもしれない。
いつもぼんやりとしてるごとーだけどちょっと二人には言わせてもらいたい。
- 110 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:33
- 「あのさ。二人とも、あたしをおいてけぼりにするのはやめてほしいんだけど。
一体何がどーなってんの。ユニット組みたいって言ったりやっぱやめるって言ったりさ」
うまく行った。
二人ともきょとんとあたしを見てる。
やっとあたしが会話の中心になれる。
こうでもしないとあたしみたいな本当にぼーっとした人間は
いつも話しにおいてかれてしまうのだ。
「あたしには何がどーなってんのかわかんないんだけど」
まっつーもミキティも真剣な表情であたしを見てくれている。
ごまっとうの時と同じみたいに。
これはやっぱいけてる。あたしはいけてる。
でも次の瞬間にまっつーがにゃははと声に出して笑って、
あたしのリズムは一気に崩れた。
- 111 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:35
- 「ごめん。ごめん。昨日、たんと一緒にごっちんの新ユニットについてジューヨーな
話し合いをしたわけさ。でもって、やっぱりごっちんと組むのにふさわしいのは
やっぱあたしかなって」
「ていうか、わけわかんないし」
あたしよりも先にミキティの突っ込みが入る。
「こういうのは最初が肝心なんだって。
やっぱ最初ごっちんはあたしを選んでくれたわけですし。
それにあんたみたいな甘えん坊のおもりなんてごっちん
やってられるわけないでしょ?」
「昨日のケンカのお返しってわけ?」
やっとあたしは話がよめた。
つまりは、二人はケンカしてその腹いせにこのユニットを巡って言い争ってるというわけか。
- 112 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:36
- こういうときこそあたしは二人にガツンと言ってやらなきゃいけない。
ごまっとうの時は、卒業したばかりで二人に助けられてばかりだった。
だけど今は、ハロプロの先輩でもあるしこのユニットのリーダーでもあるんだ。
「二人とも…」
「じゃあさ、ミキがユニットから外されて仕事もこなくなったらどーしてくれんの?」
言いかけた瞬間、やっぱりミキティに邪魔された。
番組のトークでもいつもいつもいつもあたしがしゃべろうとするとこーなんだ。
「いいじゃん。事務所首になってさあ。
路上で歌でも歌ってたら。売れないアイドル、藤本美貴って。チョー楽し」
「最悪」
あたしは、二人の顔を交互にきょろきょろと眺めるしかなくなってた。
- 113 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:37
- 「でもどっちかっていうとミキのほうが足長いよね。ビキャクだったらミキのほうだよね」
「そうかな。それより並んで立ったらあたしのほうがバランスいいと思う」
まっつーが無理やりあたしを立たせて横に並んだ。
「ほら、やっぱりごっちんとあたしが一番お似合いかなあ」
まっつーが横で誇らしげに言ってる。
「そんなことないよ」
そう言いながらミキティがあたしに近寄ってくる。
動物的な危険をあたしを感じた。
ミキティがあたしのスカートの裾をつかむと、
思いっきりめくり上げた。
- 114 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:37
- 「ほらっ。ごっちんのほうがこんなに足長いし、スタイルいいんだよ」
「ちょっと%$W〜##&%!」
あたしはパンツは二人の前で丸見えだ。
「そうかなあ」
止めもしないまっつーがあたしの足を覗き込んだ。
あたしはスカートを抑えて部屋の隅に逃げこんだ。
とりあえず、逃げよう。
今すぐにこの部屋から。
でも残念ながらドアのところには二人が通せんぼするように立ってる。
- 115 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:38
- 「で、ごっちんはさあ。結局どっちと組みたいの?」
声をそろえて二人は言った。並んで立つ二人をぱっと見てあたしは直感的に、
衣装はピンクがいいという何の根拠もないことを考えていた。
- 116 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:38
- 「ごっちんってやっぱりギャップがある人だよね」
あたしは同じことを梨華ちゃんからもよっすぃからも言われたことがある。
我が強くて我侭なキャラなのか癒し系なのか時々分からなくなるっていうようなことだった。
だけど二人とは出会ってもう5年になるのにまだ同じようなことを言われる。
そうなってやっとあたしは、自分が走ってきたギャップに気付くのだ。
全力疾走してるくせに、一生懸命な自分が嫌いで、
なるべくゆったりとした癒し系の印象を周りに植え付けたかった。
- 117 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:39
- だからいくらほんわかしてるからといって、
あたしという人間は本当は癒しになんかならない。
多分、仲良くしてくれている梨華ちゃんなんかはそういう癒しを
一番あたしに求めてるんだろうけど、それは多分間違ったあたしの使い方だ。
本当のあたしは、本当の自分を隠したいだけで結局、
自分勝手なだけなのだ。
- 118 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:40
- いつも自分の都合のいいように物事を考えて、
そんなふうにしか他の人も見ることが出来ない。
あたしには、人や物をいろんな方面から見ることが昔からすごい苦手で、
結局思い込みとか、あたしの勝手な判断で決め付けてしまう。
それを今までずっとやめようやめようと思ったんだけど直し方が分からなかった。
でも最近になって気付いたことがある。
それは少し立ち止まって人や物を見るようにすると、
こんなあたしでも少しは独り善がりから脱出できる気がするのだ。
そして立ち止まったあたしだからこそ、実現させたいことや
見てみたいイメージがあって、
それが本当になったらあたしはとってもうれしい。
- 119 名前:ビキャク 投稿日:2006/10/21(土) 15:41
-
To つんくさん
件名:新しいユニット。全部あたしが提案してもいいですか?
ユニット名「GAM」
意味は、Great Aya and Miki、英語で足のきれいな人って意味もあります。
もちろん、メンバーは亜弥ちゃんとミキティ。
あたしは今回はやりません。
衣装はなるべくピンク系。
シリアスなトーンの曲でありつつ、
世の中に感謝するみたいなギャップのある曲が
二人には合うんじゃないかなと思います。
後藤真希
- 120 名前:作者 投稿日:2006/10/21(土) 15:41
-
「ビキャク」 終わり
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