夢見る少女と変なシニガミ そのに。
- 1 名前:あすか 投稿日:2006/09/07(木) 18:05
- 草板で2スレ目とかほんとごめんなさいorz
夢見がちなさゆみと、おかしなシニガミ絵里のおはなし。
前スレ
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/grass/1147054814/
- 2 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:06
-
一度でいいから、その手をつないでみたかった。
- 3 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:06
- その日、さゆみがれいなのバイト先の喫茶店に入ると、なんだか空気が重かった。
「…れーな、なんか空気が重いの」
「あー…あれっちゃよ、あれ」
そう言われてれいなの指さす先を見ると、なんだかため息をついてる人が一人。
たしか、れいなのバイト先の先輩…藤本美貴さん。
普段はさばさばしてて気が強い、かっこいい人だとさゆみは思っている。
さゆみにはそれくらいしか情報がないので、なんでこんな状態かはわからない。
「藤本さんどうしたの?」
「ここ一週間くらいずーっとああなんよ…お客もたまに逃げとるし…」
「れーなは何か聞いてないの?」
「うーん…『さいきん来ないんだよなぁ、あの子』ってみきねえが気に入ってる常連さんのこと
ぼやいてたのはよく見かけたっちゃけど…」
- 4 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:07
- それを聞いてさゆみは考える。
最近来ないお気に入りの常連客。
それでもってこんなに落ち込んでいる藤本さん。
これは、ひょっとして簡単な原因かもしれない。
「わかった、藤本さんは恋煩いかもしれないの!」
「あー、さゆには悪いけどそれはない」
「なんでぇ!?」
ものすごく自信のあった答えをあっさり否定されて、さゆみは不機嫌になる。
だって、普通常連客が来なくなったくらいでこんなに落ち込むだろうか。
片思いしていたお客が来ない、寂しいという乙女チックな答えが一番ぴったりなのに。
そう思っていたさゆみは、れいなに食ってかかる。
「なんでなんで!?だって、それが一番しっくりくると思うの!」
「あー、言っとらんかったけどさ、そのお客ってさ…」
「そのお客って?」
- 5 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:07
-
「れいなたちよりちょっと上くらいの、女の子」
「…はい?」
- 6 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:07
- ここで、さゆみはフリーズしてしまう。
今れいなはなんて言った?
藤本さんが言ってるお客さんは、何だって?
いやいや、聞き間違いかも知れないし。
「もう一回言ってほしいの」
「だーかーら、みきねえが言ってるのは女のお客だって」
はい、聞き間違いでも何でもなく。
突っ走りかけていたさゆみは恥ずかしくなる。
でも、そういえば、この間見た二人は…
「あ、そうそう!石川さんと吉澤さんみたいなケースもあるし間違いとは…」
「れいなが話を聞いた限り、ものすっごく特殊なケースやとおもうけどそれ」
「うっ」
「20年来のつきあいと喫茶店での常連っちゃよ?」
「…でもあるかもしれないの。そのほうがおもしろいと思うのに…」
「あのね、さゆ…」
- 7 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:07
- れいなが呆れて藤本さんの方を向く。
彼女の目線はある一点…窓の向こうの、カフェテラスを見つめたまま。
「まあ、そのお客のこと気になってるのは間違いなさそうやけど…」
「れーなは何で言えるの?」
「みきねえ、いっつもその人が座ってた席ばっかり見てる」
「やっぱり恋煩いなの。その人のこと待ってるの」
「うるさいさゆ…ほら、今も見てる」
そう言われて、藤本さんの目線をさゆみが辿ってみる。
誰も座ってないカフェテラスのテーブル。
それを見つめたままため息をつく藤本さん。
(…やっぱり、さゆみの予想当たってそうなんだけどなぁ…)
そう思いながら、もう一度カフェテラスをさゆみが見た、その時だった。
- 8 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:08
-
テーブル席に座って、藤本さんを見ている女の子。
一瞬笑って、寂しそうな顔をして…すぅっと消えた。
- 9 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:08
- …これは、またやっちゃったのかもしれない。
れなちゃんや、吉澤さんを見つけた時のように、また。
今回はすぐ消えてしまったけど。
だから、さゆみ以外気付いてなさそうだけど…
「ま、まぁとりあえず帰るね」
「え、注文してかない?」
「こ、こんな重い空気じゃおいしくないの。バカップルオーラ感じても『エコモニ。』に行くの」
「だからここで言うか…まあ、また来て欲しいっちゃ」
とりあえず言葉を濁してお店を出る。
れいなには気付かれたか気付かれてないかはわからないけど。
今度絵里を連れてこよう。
絵里だったら、ちゃんと見えたりするかもしれないし。
そう思いながら、さゆみは『エコモニ。』に向かって歩き出した。
- 10 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:08
-
- 11 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:08
-
- 12 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/07(木) 18:08
- つづく。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/08(金) 00:33
- ドコで続けられても、ちゃんと読んでますよ。
作者さんの書かれるお話が、とても好きです。
自信持って頑張ってください♪ ノシ
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/08(金) 04:29
- あの子かしらドキドキ。
新スレおめです。
- 15 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:20
-
__________
- 16 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:20
- 数日後、れいなから藤本さんの休みを聞き出して。
藤本さんがいない日に、さゆみは絵里を連れてやってきた。
「さゆ、本当にれーなちゃんのお店で見たの?」
「ホントだってばぁ!」
「じゃあれーなちゃんは何で見てないのかなぁ…絵里と関わったのに…」
「いーじゃない!ほらこの席!」
そう言って、さゆみが人影を見た席に絵里と一緒について。
れいながジュースとか持ってきてくれた時の対応を二人でからかったりして。
れいなが去った後、絵里の表情が真面目になった。
「…さゆすごいねー、ビンゴだよ?」
「…え?」
「本当にいた。ほら」
そう言って、絵里が真向かいの席に手をかざした瞬間。
この間さゆみが見た女の子が、ふっと現れた。
- 17 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:20
- 「…なにしたの絵里」
「んー?ちょっと絵里のチカラを送っただけだよ。普通の人には見えない」
「…え?ナニナニ?あたしが見えるの?」
絵里によって見えるようになった女の子。
その当人は状況がつかめていないようで。
呆気にとられたような顔で絵里とさゆみを見つめていた。
確かにれいなの言ったように、自分たちより大人びて見える女の子。
黙っていればく大人っぽい感じがするけれど、絵里とさゆみを見比べてきょろきょろする様はあまり大人には思えない。
たぶん本当に、少しだけ年上なんだろうなぁ…なんてさゆみは考えていた。
「こんにちは」
「はぁ、こんにちは…って、あなた何者?」
「どーも、シニガミです」
「さゆみは普通の高校生なの」
「はぁ、シニガミさん…って、ええ!?」
一瞬普通に納得しかけた彼女だが、すぐに気付いてあわてふためく。
そんな彼女の様子を見て、さゆみと絵里は顔を見合わせて笑った。
- 18 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:21
- 「え、ちょっと、アタシお迎えきちゃったわけ?やだー!」
「落ち着いて…むりやり連れてったりはしませんから」
「え、はぁ…」
落ち着いてと言われて深呼吸を繰り返す彼女。
その姿を見て、さゆみと絵里はまた笑いあう。
「とりあえず、お名前聞いてもいいですか?」
「へ?ああ、うん…アタシは、松浦亜弥…てかお迎えじゃないなら何なの?」
「うーん、絵里もさゆに引っ張られてきただけだし」
「さゆみは、藤本さんが見てた席にいた人だから気になって…」
そうさゆみが口に出すと、彼女−亜弥−の表情が変わった。
- 19 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:21
- 「やっぱり、藤本さんに関係ある人だったりします?」
「…みきたん、ずーっと見てくれちゃってるんだもんなぁ」
「…みきたん?」
「あ、アタシ勝手にみきたんって心の中で呼んでたんだ。藤本美貴さんだから」
「なるほど…どういう関係だったんですか?」
「関係もなにも…ただの店員さんと常連客…だと思う。アタシが片思いしてただけで」
亜弥の口からでた発言。
それに食いついてきたのは、恋の話が大好きなさゆみ。
「松浦さんは藤本さんに片思いだったの!?」
「うん…女の子同士でへんかもしれないけど一目惚れしちゃって。
いっつもこの席でお茶飲みながらみきたん見てたの」
「それで、どうしたんですか?」
「いっつも行ってたら、みきたんが毎回お茶いれてくれるようになって、
そのあとすぐ戻っちゃうんだけど、ガラス窓越しにみきたんを見てるのが大好きでね…
でもやっぱりそれだけじゃ寂しくて、告白しようかと思ってたんだけどね…」
「思ってたんだけど?」
「そう思った矢先、アタシは子犬をかばって事故で死んじゃった…みたい
あはは、アタシ、バカだからさぁ…ドジっちゃった」
「そんなこと…そんなことないの!」
亜弥の話を聞いて、さゆみがどん!とテーブルを叩いて立ち上がった。
しかし、いきなり叫んで立ち上がったさゆみに店内の視線は集中して。
なんだか恥ずかしくなったさゆみは、またおとなしくテーブルに着いた。
- 20 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:22
- 「松浦さんは、バカなんかじゃないの。素敵なことしたの」
「でも、死んじゃったら…告白もできないんだよ?デートも何も…ここでお茶すら、飲めなく…」
「なーるほど、それでずっとここにいたんですね」
いままで黙ってさゆみと亜弥の話を聞いていた絵里が、納得したようにうなずく。
そんな絵里を見て、さゆみは思い出したようにこう切り出した。
「そうだ、絵里!この間の吉澤さんみたく松浦さんを実体化って…」
「無理だよ」
「なんでぇ〜!?」
「ひーちゃんみたいに強い想いがある媒介がないもん…このテーブルは大きすぎるし」
「そんなぁ…」
「いいんだってさゆみちゃん…アタシだってずーっとここにいるのはよくないって思ってたしね」
そう言って笑う亜弥の顔は、やっぱりどこか寂しそうで。
さゆみは何とかしてあげたいと思うけど、でもいい案が浮かばなくて。
そんなさゆみと亜弥を見ていた絵里が、ふと何かに気付いたように顔を上げた。
- 21 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:22
- 「ところで松浦さん、もしかして鏡見るのが好きだったりする?」
「え?まぁ鏡は自分とみきたんの次に好きだけど」
「でもって、自分が一番大好きでかわいいと」
「あったりまえじゃない!」
「…さゆ、何とかできるかも」
「ホントに!?」
思わぬ良い知らせに、さゆみの顔がぱっと輝く。
しかし、絵里が次に発した言葉で、さゆみは固まってしまうのだった。
「あのね、さゆと松浦さんはすっごく波長があってるの。だから…」
「だから?」
- 22 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:22
- 「さゆのカラダ、借りていい?」
「へ?」
- 23 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:22
-
- 24 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:22
-
- 25 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/14(木) 00:22
- つづく。
- 26 名前:あすか 投稿日:2006/09/14(木) 00:26
- GAM発売日には間に合わなかったけどあやみきANNには間に合った…
そして全く出てませんが愛ちゃんおめです。
レス返し
>>13名無飼育さん
そのお言葉がほんと励みになります。
頑張ろうって気になれます。ありがとうございます。
>>14名無飼育さん
たぶん予想通りのこの方でした。
ありがとうございます。このスレ内での完結目指して頑張ります。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/20(水) 23:35
- どうなるんださゆっ!?ww
次回も楽しみにしております。
- 28 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 16:57
-
__________
- 29 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 16:58
- さゆみ達が亜弥と話をした数日後。
なんてことのない、平和な平日の午後。
それは、唐突にやってきた。
いつものようにバイトをしているれいなと美貴。
カラカラと客の到来を告げるベルが鳴り、「いらっしゃいませ」といつもの言葉を返して。
それから来た顔が友人であるさゆみなことに気付いて「なんだ、さゆか」などと返して。
ここまではいつものやりとりだったが。
さゆみの態度が、いつもと違った。
いつもは挨拶を交わして紅茶を頼み、雑談なんかを始めるれいなを無視して。
真っ直ぐその奥にいる美貴に向かっていくさゆみ。
そして、さらにさゆみが発した言葉がとんでもなかった。
- 30 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 16:58
- 「藤本さん、今度バイトがお休みの日っていつですか?」
「え?美貴?今週の金曜だけど…どうかした?」
「じゃあ、その日…アタシとデートして下さい!!」
勢いよく言ったさゆみと、その言葉に凍り付く美貴とれいな。
「し、シゲさん?何言ってるの?」
「だから、アタシとデートしてって」
「いや、何でいきなり」
「アタシがしたいからです」
「はぁ!?」
「金曜日の放課後、このお店の前で待ってますから!」
そう言うだけ言って、走り去っていくさゆみ。
残されたれいなと美貴は、ただただ呆然とするしかなく。
「ねえ田中ちゃん、シゲさんってあんなんだったっけ」
「さゆがわけわかんないことはよくありますけど…なんで藤本さん?」
その疑問に答えてくれる人はおらず。
次に入ってきた客に声をかけられるまで、しばらくふたりとも呆然としていたのだった。
- 31 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 16:58
-
__________
- 32 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 16:59
- そして迎えた金曜日。
美貴はなんだかんだ言って店の前に来ていた。
わざわざれいなに終業時間を聞き出し、だいたい丁度いいと思われる時間に合わせて。
…いると美貴は思っているが、実際はだいぶ早く着いていて。
しかもなんだか服装に気合いが入ってしまって、大学のクラスメートにからかわれた。
(何でこんなに気合い入れてるんだろう美貴は…相手はシゲさんだよ?)
自問自答してみても答えは出るわけもなく。
そんなことをしているうちに、制服姿のさゆみが走ってきた。
「藤本さん、待ちましたか?」
「いや、そんなことはないけど…」
ちなみに美貴が来たのはれいなから聞いた終業時間の30分前。
気合いを入れすぎだったりする。
- 33 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 16:59
- 「ごめんなさい、アタシ掃除当番でちょっと遅れちゃいました」
「いや別にいいけど…シゲさん、デートって何したいの?」
「あ」
「考えてないのかよっ!」
思わず炸裂する美貴のツッコミ。
それにひるむこともなく、さゆみはにゃははと笑ってから考え始めて。
「洋服とか見て欲しいです。お買い物行きましょう」
「おっけー」
そうして、美貴とさゆみはモール街に向かって歩き出した。
- 34 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:00
- そして2時間後。美貴は思いっきり買い物に付き合ったことを後悔していた。
試着室で始まるさゆみのファッションショー。
何着も試着しまくって、しかも着替えるのが遅い。
試着室独占状態である。
店員も、他のお客の目も怖いし、それだけやって買うものはほとんど無し。
はっきり言って、一緒にいる美貴はかなり辛い。
ただ、美貴が見て本気で似合っていると思って絶賛した洋服だけは一式購入。
しかも、そのまま着て帰るくらい気に入っていて。
そんな様子を見るとまんざらでもなかったかなーなんて思っている美貴は既に毒されている。
「さあ、もう満足したでしょシゲさん…次はどこいくの?」
「うーん、プリクラ撮りたいです!」
「わかった。もう疲れてきたから早く行こう」
「なんでそんなに投げやりなんですか!」
- 35 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:00
- そうやってさゆみに文句を言われながらも向かうゲームセンター。
そこでもさゆみは大はしゃぎで、何台も機械をはしごする。
さすがに美貴が疲れてきて、次で最後にしようと言われた機械で。
またもや、さゆみはとんでもない行動に出る。
『それじゃあ行くよ!3・2・1…』
機械から流れてくる声。
そのカウントがゼロになる瞬間。
- 36 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:00
-
さゆみが、美貴の頬にキスをした。
- 37 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:01
- 「な、なななな何すんの!」
「にゃはははー!みきたん照れてるー!」
「…みきたん?」
「あ、いやあのその…あ、さっきの印刷しちゃっていいですか?」
「勝手にすれば?」
やったー、なんてはしゃぎながら、嬉しそうにラクガキを始めるさゆみ。
その横で、美貴はちょっとした違和感に襲われていた。
そして、一度感じた違和感と、今までのさゆみの行動。
それを照らし合わせて、美貴はちょっとした賭けに出る。
- 38 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:01
- なんだかんだ言ってそれからもおとなしくさゆみに振り回され続けた美貴。
そんなさゆみを最寄り駅まで送っていってあげる、意外と優しい美貴。
(さゆみにとって)楽しい『デート』は、平和に終わる…はずだった。
「藤本さん、今日はありがとうございました」
「いや、別に美貴は何もしてないけど…アンタに振り回されてただけだし」
「ううん、そんなことないです!アタシ、すっごく嬉しかった」
「そっか…満足した?」
そして、美貴は、賭けに出る。
- 39 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:01
-
「…シゲさんの、偽物さん」
- 40 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:02
-
「…え?」
『さゆみ』の表情が、固まる。
楽しい『デート』は、平穏無事には終わりそうになかった。
- 41 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:02
-
- 42 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:02
-
- 43 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:02
- つづく。
- 44 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/09/28(木) 17:06
- レス返し。
>>27名無飼育さん
さゆはこうなりました。
ご期待に答えられたでしょうか…
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/29(金) 00:07
- 想う気持ちにキリは無いけど
せめて自分が存在した事を
憶えていてくれたなら。
切ない思いが心を打つんだね。
- 46 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:49
- 美貴は、さっきとは違って、冷たい目で『さゆみ』を見ている。
その美貴を見て、『さゆみ』はさらに動揺していく。
「な、何言ってるんですか藤本さん、アタシは偽物なんかじゃないですよ」
「まずさー、よく考えてみたら、まぁシゲさんが美貴をデートに誘うこと自体おかしいんだけどさ。
シゲさんって、普段は自分のこと『さゆみ』って言ってるんだよね」
「…そんな、それだけで…」
「それだけじゃないよ。アンタ、たまに美貴に対して敬語が消えてる。
普段のシゲさんならタメ口なんてきけない気がするし」
「た、楽しすぎたからつい言っちゃったんですよ」
「それに…美貴のこと『みきたん』って、何さ。なんかさぁ…いろいろと、シゲさんらしくないんだよ」
美貴にいろいろ言われて、黙ってしまう『さゆみ』
そんな彼女に向かって、美貴は続ける。
- 47 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:49
- 「アンタが何考えてるかはわかんないけどさぁ…シゲさんのフリされるっていうのはちょっと…
そんなことしなくても、堂々と美貴に話しかけてくればいいじゃん。そんな人のフリなんかして…」
「…自分として、話しかけられないアタシは、どうしたらいいのさ…」
「は?」
「このカラダは、正真正銘さゆちゃんだよ…アタシが、借りてるの」
「な、そんなマンガみたいな話信じられるわけ…」
「だって本当なんだもん!アタシは…アタシのままだったら、みきたんと一緒にいれないから!」
いきなり、半分逆ギレのように叫び出す『さゆみ』
そして、そんな『さゆみ』の様子に美貴は困惑してしまう。
「ちょ、落ち着いてよほんと…なんで、一緒にいれないって…」
「アタシは、もう死んじゃったの!でも、ずーっとみきたんが好きで、好きで…だから…」
そう叫ぶと『さゆみ』は泣き出してしまう。
美貴は、さらにおろおろしながらそんな『さゆみ』の様子を見ているしかない。
- 48 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:50
- 「ちょ、死んだって、な…アンタ…」
「アタシは…みきたんと、いっつもみきたんがいれてくれる、スペシャルブレンドが好きだったの…」
「…スペシャル、ブレンド?」
「アタシがずーっとみきたんのお店に通って、みきたんのこと見てたら、
アタシのとこ来てくれるようになって、お茶いれてくれるようになって、
そのうち、他には出してない美貴のオリジナルブレンドだよ…って」
「ちょっと、それって…何で、知って…」
「アタシの、名前は、松浦亜弥って、言います…ずっと、みきたんのお店の、テラスにいたの…」
その言葉を聞いて、今度は美貴の表情が固まった。
「…マジで?」
「マジだよ…ウソだと思うなら、会話の内容覚えてる限り言ってもいいよ」
「いや、そこまでしなくてもいいけど…」
完全に、美貴は気が抜けてしまっている。
スペシャルブレンドと、テラスの少女。
組み合わせれば、浮かんでくる人物がいる。
それも、行方がずっと気になっていた人物が。
でも、まさか、死んでいた?
「でも、ちょっと待って、いきなりで頭ついてかない」
「待てないよ!さゆちゃんのカラダにいれる時間はそんなに無いんだから!」
「いや、落ち着いて、落ち着いて話をしよう」
「話って、何の?」
「何で?わざわざシゲさんのこと使うくらい、美貴のこと好きなの?」
「うん、みきたんのこと大好きだよ」
そう言って笑う姿は、彼女…亜弥より幼いさゆみのカラダにいるせいもあるが。
いつも見ていたものより幼く感じてしまい。
亜弥の言っていることがウソでもホントでも、信じてしまいたくなる笑顔で。
- 49 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:50
- 「…ひきょーもの」
思わず、美貴はつぶやく。
「…は?」
「ひきょーだよ、アンタは…せっかく忘れようとしたのに思い出させて…しかももう会えないとか。
ひきょーとしか言えないじゃん」
「…アタシ、そんなつもりじゃ…」
「何だよ…こんな、両思いになった途端にサヨナラとか、きつくない?」
「え?」
今、美貴が何と言ったか亜弥は一瞬理解できなかった。
両思い?誰が?自分と美貴が?
そして、理解した瞬間、亜弥の目から先ほどとは違う涙が溢れてくる。
「う…みきた〜ん!!」
「ちょ、ちょっと!なんでまた泣くのさ!」
「うれしいのぉ〜!!」
「あーもうわかったから泣かないで!美貴が泣かせたみたいじゃん!」
実際美貴が泣かせていたのだが、おもいきりうろたえる美貴。
そんな美貴に涙をぬぐってもらい、ようやく泣きやむ亜弥。
そして、顔を見合わせて、笑った。
- 50 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:50
- 「…ごめんね、みきたん…困らせちゃって」
「全くだよ…」
「あー、そういう言い方なくない?」
「じゃあなんて言って欲しいのさ」
「うーん、『そんなことないよ、亜弥ちゃんに振り回されるなら本望だよ』くらい」
「いや美貴のキャラじゃないし」
「知ってる。ずっと見てたらわかるよ」
少し前まで店員と常連客でしかなかった二人。
でも、そんなことを感じさせないくらい、二人の距離は近くて。
交わす言葉も、昔からの親友や、恋人のようで。
でも、楽しい時間は、すぐに過ぎていく。
「…!」
「どうしたの?亜弥ちゃん」
「…ごめんね、さゆちゃんのカラダにいれる時間、あとほんのちょっとみたい」
「…え?」
「ねぇみきたん、最後にお願い聞いてもらっていい?」
「…いいよ、美貴に出来ることなら」
美貴がそう言うと、亜弥は微笑みながら口を開いて。
- 51 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:51
-
「みきたんと、恋人繋ぎして、さゆちゃんの家まで帰りたい」
- 52 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:51
- そう、美貴に告げた。
「…そんなことでいいの?」
「うん。ほんとはもっといろいろしたいけど、アタシのカラダじゃないから…
きっと、さゆちゃんに嫉妬しちゃう」
「そっか」
「あとね、あと…」
そう言って、少し躊躇して、次に言った言葉。
- 53 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:51
-
「アタシのこと、忘れないで」
- 54 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:52
- その亜弥の悩み抜いた言葉に、美貴はさらりと
「忘れないよ、忘れられるわけないじゃん…ほらどうぞ、お姫様」
そう言って、亜弥に手を差し出した。
そして、二人の手が重なった時。
辺りが一瞬光り、美貴の手のひらの先は、さゆみの姿から亜弥の姿になっていた。
「…え?あ、亜弥、ちゃん?」
「…あ…あははっ!そっかぁ…ありがとね」
「…何?何でこんな事起こったのかわかったの?」
「うん…優しいシニガミさんの、サービスかな?」
「…意味わかんない」
「わかんなくていいよ…さ、行こうみきたん!」
そう言って笑った亜弥の顔は、今までの中で一番輝いていて。
それから、さゆみの家までの短い時間を惜しむように、ゆっくり歩いて。
さゆみの家の前で、亜弥は美貴の手をほどいて。
- 55 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:52
-
「ばいばい、みきたん」
- 56 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:52
- それだけ言って、もとのさゆみの姿に戻る。
「…亜弥ちゃん?」
「…松浦さん、行っちゃったみたいですね」
「…シゲさん?」
「はい」
「…なんだよ、最後まで言いっぱなしってさぁ…ほんとひきょーだよ」
涙を流す美貴、そんな美貴の前に立ち「よしよし」なんて言って頭を撫でるさゆみ。
普段の美貴なら怒りそうな行動にも反応しないほど、美貴は泣き続けていた。
- 57 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:52
-
__________
- 58 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:53
- 「本当にいいんですか?」
少し離れたところ、高い木の上で、亜弥と絵里がその様子を見ていた。
「いいんです。あんまりいると、アタシもみきたんも辛くなるから」
「松浦さん、強いですよね」
「にゃはは、そんなことないって…それに…」
「それに?」
「アタシがずっと好きだった、紅茶を入れてる、みきたんの手に触れられた…それで、嬉しいんだ」
「そうですか…じゃあ、行きましょうか」
「そだね」
そう言って、絵里が銀色の鎌を振り下ろし。
二人の姿は、さっと消えた。
- 59 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:53
-
__________
- 60 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:53
- 数日後、さゆみと絵里は、美貴の様子を見に、喫茶店に訪れていた。
するとそこには、意外に元気な美貴の姿。
「…藤本さん…」
「お、シゲさんにえりえり。どうしたの?」
「いや、藤本さん…もっと落ち込んでるかと思ってた」
「うーん、落ち込んだってしょうがないし…それに」
「それに?」
「亜弥ちゃん、最後にちょっとしたオキミヤゲをくれたから」
それを聞いて、頭にハテナマークが飛ぶさゆみ。
そんなさゆみに、美貴は自分の携帯電話の裏をちょっと見せる。
「あっ!」
それは、亜弥が、亜弥の姿で、美貴と写ったプリクラ。
しかも、亜弥が美貴の頬にキスをしている写真。
- 61 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:53
- 「これって…」
「帰って、プリクラ見たらさ…全部、シゲさんが亜弥ちゃんになってたんだ
なんかさ、これ見てれば、ちょっとは元気でるから」
そう言って笑った美貴の顔は、ちょっと寂しそうだけど。
でも、大丈夫だと、感じられる顔だった。
それからちょっとお茶を飲んで店を出て、さゆみは絵里に問いかける。
「絵里、なんかしたの?」
「んー?」
「あのプリクラ!」
「あー…絵里からの、サービスかなぁ?」
「まぁ、藤本さん喜んでるからいいけど…
さゆみが藤本さんにちゅーしたプリクラちょっと見たかったの」
「さゆ…松浦さん聞いてたら怒るよ?」
「むう、絵里はいじわるなの」
そう笑いながら、歩いていく二人。
その手は、亜弥と美貴が最後にしたように、しっかりとつながれていた。
- 62 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:54
-
- 63 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:54
-
- 64 名前:ガラスのむこう、あなたのみぎて。 投稿日:2006/10/04(水) 00:54
- おわり。
- 65 名前:次回予告。 投稿日:2006/10/04(水) 00:57
-
そういえば、絵里のこと、なんにも知らなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「カメ?カメじゃん!」
「…ガキさん?」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「むかーし…といっても、ちょっと昔。難病と闘う美少女がいました」
「絵里…?」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「知らないことがあったっていいじゃない。これまでも大事だけど、これからも見てかなきゃ」
「そう、ですよね!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「絵里は、優しくなんて、ないんだよ?」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「それでも、絵里は絵里だよ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次回。
『笑顔とシニガミとまたいつか』
- 66 名前:あすか 投稿日:2006/10/04(水) 01:04
- レス返し。
>>45名無飼育さん
最初の心情的には、覚えてくれなくてもいいという気持ちがあったので。
もしかしたら、余計に切なかったのかもしれません。
目次。
ガラスのむこう、あなたのみぎて。
>>2-9
>>15-22
>>28-40
>>46-64
次の話で、いちおう本編的なモノは完結の予定。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/05(木) 18:21
- たとえ総てが一瞬だとしてもミキティは亜弥ちゃんを忘れないと思いました
次回予告を読むだけで切なくなってしまいました
更新いまかいまかと待っています
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/07(土) 22:33
- 派手でもなく熱くもなく
静かな優しさが胸を打ちます
- 69 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:28
-
そういえば、絵里のこと、なんにも知らなかった。
- 70 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:29
- それは、いつもの、なんてことない放課後のはずだった。
ここしばらくは妙なモノを見ることもなく、不思議な出来事も起こらず。
…まぁ、たまに絵里がすっごく眠そうな日があるけど見ないことにして。
普通の高校生として、普通の友達関係を送っていた、そんな時。
突然、その時はやってきた。
それは、周りから見ると、なんてことのないことだったのだけど。
- 71 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:29
-
「…カメ?」
- 72 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:29
- さゆみと絵里が二人で遊んでいた時、すれ違った女性がふとこちらにかけた言葉。
その言葉に、絵里の動きが止まった。
そして、ゆっくりと振り向くと。
そこには、長い茶髪の女性が、驚いたように立っていた。
「カメ?カメじゃん!なにしてんのこんなとこで!」
「…ガキさん?」
「そうだよーガキさんだよ!久し振り!!」
振り向いた相手が絵里だと確信を持ち明るくなる少女と、明らかに戸惑っている絵里。
そして、そんな絵里よりもさらに、さゆみは戸惑っていた。
「あの…」
「あ、ごめんごめん!カメの友達?」
「あ、うん…そだね」
「何さその言い方〜!はじめまして。このカメ…亀井絵里の幼なじみやってました新垣里沙です」
「あ、道重さゆみです!」
慌てて彼女−ガキさんこと、新垣里沙に答えながらも、さゆみはさらに戸惑っていた。
- 73 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:30
-
カメイ、エリ。
- 74 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:30
- …カメイって苗字、さゆみは知らなかった。
学校では『新垣絵里』って名乗っていた絵里。
でも、この目の前にいる彼女が、新垣里沙。
明るい彼女が、何というか、ウソを言っているようには見えなくて。
と言うことは、今までの絵里の名前は、ウソだったわけで。
「どうしたのさその髪〜!ばっさりやっちゃって」
「えー?似合ってない?」
「似合ってるけどさぁ、なんかカメって感じしない」
「なにそれ〜」
幼なじみと名乗った彼女。
彼女はさゆみが知らない絵里を知っていて。
絵里も普通の女の子みたいに話してて。
「おじさんとおばさんは?元気?」
「うん、元気してるよ〜」
絵里の両親なんか、もちろん知らなくて。
シニガミに、そんなものがいるなんて考えたこともなくて。
そういえば、絵里がどこで暮らしてるかさえ知らなかった。
- 75 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:31
- 「でもさ、引っ越し先が隣の県なら教えてくれてもいいじゃん!」
「ごっめぇん、バタバタしててガキさんのこと忘れてた」
「うっわ、それひどくない?携帯も番号変わってるしさ」
「だからごめんって」
さゆみが見ていた絵里は、明るくて、ちょっと抜けてて、でもどこかしっかりしてて。
こんな、無防備に笑いあう絵里を、見たことがなくて。
…こんな絵里、さゆみは知らなかった。
- 76 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:31
- しばらくして、里沙は友達を待たせていると行って去っていった。
残されたさゆみと絵里の間に、妙な空気が走る。
「あー…さゆ、びっくりした…よね」
先に口を開いたのは絵里だった。
さゆみは、その言葉に黙ってうなずく。
「シニガミにも、幼なじみっているんだ」
「まあねぇ」
「シニガミにも、お父さんやお母さんっているんだ」
「犬もいるよぉ」
「カメイ、って、言うんだ。ニイガキってさっきの人の名前だったんだ」
「……」
しばらく、流れる沈黙。
「…すっごく長くなるからさ、とりあえずどっか入ろっか?」
困った顔をした絵里が出した結論。
さゆみも話を聞きたかったから、素直にお店を探すことにした。
- 77 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:31
-
- 78 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:31
-
- 79 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:31
- つづく。
- 80 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/14(土) 22:34
- 最終章、開始。
>>67名無飼育さん
一瞬の想い出を、忘れられないのは幸せなのか辛いのかわかりませんが…
こういう始まりです。
ご期待に添えるかどうかわからないですが頑張ります。
>>68名無飼育さん
静かな優しさ…そんな雰囲気を感じて下さって幸いです。
- 81 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:01
- お店に入ったあとも、なんだか微妙な沈黙が流れていて。
絵里にはいっぱい聞きたいことがあって。
でも、どう言っていいのかわからなくて。
さゆみは、ただ黙っているしかなかった。
そんな空気を破ったのは、やっぱり絵里の方で。
「…さゆ、何から知りたい?」
そう、落ち着いたように言った絵里は。
何かを覚悟したような、寂しそうな笑顔だった。
- 82 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:02
- 「…んーと、まず…ガキさん、って何者?あの人も…シニガミなの?」
「ガキさんは言ってた通り絵里の幼なじみだよ。で、ガキさんは普通のニンゲン。
多分、絵里がこんなことしてるのも知らないはず」
「次に、絵里の家族って…」
「ふっつーのニンゲンだよ…こっちも、絵里は普通に学校に通って、普通に過ごしてると思ってる」
「じゃあ、絵里はなんで…」
そう言うと、絵里は小さなため息をついて。
意を決したように、話し始めた。
「むかーし…といっても、ちょっと昔。難病と闘う美少女がいました」
「絵里…?」
その話し口は、すこしおどけた感じで。
でも、絵里の目はどこまでも悲しそうで。
だから、さゆみは、ちゃんと聞かなくてはいけない気持ちになった。
- 83 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:02
- 「少女が幼い頃、彼女は自分が病気だなんて知りませんでした。
走ること、歌うこと、踊ること…そんなことが好きな、普通の女の子。
運動会でリレーの選手に選ばれ続けるのが、ちょっとした自慢でした。
でも、少女が中学生になった時、環境は激変しました。
大好きだった体育の時間、胸が苦しくなって、突然倒れて、意識を失って…
そのまま運び込まれた病院で、心臓に大きな欠陥があることが、判明しました…
それからは、運動も禁止されて。
発作におびえる生活が続いて。
ドナーを探したけど見つからなくて。
日に日に、病状が悪化していって。
少女は、それでも明るく笑っていました。
本当は怖くて仕方ないのに。
そして、少女がそんな生活の中、幼なじみに支えられ、誘われて、入った高校。
なのに、半年もしないうちに、少女の病状は一気に悪化して。
ついに、夏休みを迎える前に、入院生活が始まりました…
辛くて、苦しい治療の毎日。
でも、きっと乗りこえればまた学校に戻れる。
前みたいに、走ることだってできる。
大好きな幼なじみと、遊びに行くことだってできる。
そうだ、高校で新しくできた友達とも、遊びに行く約束をしていたんだから。
でも、少女のそんな思いとは裏腹に、カラダは日に日に弱っていって。
とうとう、起きあがれなくなって。
『今夜が峠です』なんて、おきまりのセリフを言われるようになって。
そこで、『ああ、私、死ぬのかな』なんて思った、その時でした。
- 84 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:02
-
…天使の声が聞こえました。
『あなたは、生きたいの?』って。
- 85 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:03
- だから、少女は、生きたいと答えました。
『ヒトのタマシイを糧にしてでも、生き続けたい?』
その言葉はちょっと怖かったけど、やっぱり生きたいという気持ちが強かったから。
だから、少女は、シニガミとなり…
そして、さゆに出会いました」
一気に話し終えた絵里は、やっぱり悲しそうな笑顔だった。
- 86 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:03
- 「だから、絵里はもともとはニンゲンで、でも生きるためにシニガミやってるの。
チカラも鎌もイノチも、全部天使からの借り物。
天使の満足のいく働きが出来たら、ようやく借り物じゃないイノチに戻れる。」
その後の絵里の話は、こうだった。
シニガミというのは、特殊な声が聞こえるニンゲンが、死の間際になれるもので。
絵里には、その才能があって。
そして、シニガミは、それからは天使の絶対的な意志の元動くことになる。
この土地に行けと言われたら行かなきゃならないし。
これだけのタマシイを狩れと言われたら狩らなくてはならない。
そして、シニガミは、生前大事だった人のもとにいてはならない。
絵里はまだ若いから家族だけは許されてるけど、高校を卒業したら消えるつもりだと。
偽名の理由も『亀井絵里』と親しいニンゲンを作らないためで。
御都合主義的なチカラが働いて、引っ越しもできるし親は亀井で学校に通っていると思っていると。
…だから、さっきガキさんに見つかってしまったのは、起こってはならないことだと。
そう、絵里は話した。
- 87 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:04
- 「…もし、会っちゃったら、どうなるの?」
「わかんないけど…たぶん、もうすぐ絵里はここからいなくなるよ」
「…なんで?」
「ガキさんに見つかっちゃったのもあるし…さゆが、知っちゃったから。」
「さゆみが?」
「そう、さゆが…『亀井絵里』のことを知ってしまったら、『亀井絵里』の大事な人になっちゃうから」
- 88 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:04
-
だから、いっしょにはいられない。
- 89 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:05
-
そうつぶやいて、絵里はさゆみを置いて、店を出て行った。
残されたさゆみは、ただ呆然とするしかなかった…
- 90 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:05
-
- 91 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:05
-
- 92 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/10/28(土) 22:05
- つづく。
- 93 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/28(土) 23:54
- あああああ
始まってしまいましたか……
- 94 名前:通りの人 投稿日:2006/10/29(日) 13:15
- ?新だー!ありがとうございます。どんどんおもしろくなりますね。
次の?新お待ちしております。
何か切ない話になるんじゃないかなーと思います。
- 95 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:56
-
__________
- 96 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:57
- さゆみは、何も知らなかった。
絵里が抱えてるもの、絵里が考えてること。
「はぁ…」
考え込んで、ため息一つ。
くらーい気持ちで、テーブルに突っ伏す。
「こーら!」
そうやって浸っていたら、丸めた雑誌で頭を叩かれた。
「きゃ…石川さぁん…」
「こんなとこでずーっとため息つかないでよ…お客さん逃げちゃうじゃない」
「もともとあんまりいないじゃないですか」
「なんですってぇ〜!?」
「…イエ、ナンデモアリマセン」
さゆみだってお客なんだけどな。
そんな言葉を飲み込んで、口調は怒ってても優しく見つめている石川さんに向き直る。
- 97 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:57
- 「どうしたの?そんなため息ばっかりついて」
「…さゆみ、考えなさすぎたのかなぁ」
「…さゆ?」
「さゆみが何も考えないでやってたことが、絵里を傷つけてたかもしれないの…」
さゆみは、絵里が今までどれだけ辛かったかなんて考えなかった。
今までの友達とか全部捨てて。
家族もいずれ捨てなきゃならなくて。
さゆみとも離れなきゃならないかもしれなくて。
さゆみと仲良くしてるのも辛いかもしれなくて。
そんな絵里の気持ち、さゆみには想像も出来ない。
「絵里ちゃんと、何かあったの?」
「絵里、さゆみと一緒にいられないって、いなくなっちゃうって…」
「それが、どうして絵里ちゃんを傷つけてるのと繋がるの?」
優しく、聞いてくれる石川さん。
さゆみは、シニガミとかそういうことは話せなかったけれど。
絵里がいなくなっちゃうこと、今までも大事な人と離れてきたこと。
絵里のこと、何も知らなかったこと。
絵里のこと、わからなくなりそうなこと。
知らなかったことで、傷つけたかもしれないこと。
そんな不安を、一気に話した。
- 98 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:57
- 最後の方は、少し泣き出してしまって。
でも、そんなさゆみのことを、石川さんはずっと優しく見ててくれて。
だから、ある程度の不安を、話しきることができて。
さゆみが話し終わると、石川さんは、くすっと笑った。
「…なんで笑うんですかぁ」
「いやー、青春だね」
「なんですか、わけわかんないですよ」
笑ったと思ったらいきなり青春とか。
さゆみにはよくわからなくて、なんだかむかっときて。
でも、石川さんの言葉はバカにしてる感じではなくて。
「だって、さゆは絵里ちゃんに『大切だから一緒にいられない』って言われたんだよね」
「そう、ですけど…」
「だったら、気にすること無いじゃない。なんで一緒にいられないことになるのかわからないけど…」
- 99 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:57
- そうだけど…そうだけど。
でも、絵里は。
絵里は、普通の人と、違うから…
「絵里ちゃんがさゆを大切に思ってる気持ちは、本当だと思うなぁ…あたしは」
「なんで、言い切れるんですかぁ」
「だって、絵里ちゃん一人で来た時はさゆのことばっかり話してるもん」
「へ?」
「ほんっとに楽しそうだったよ、絵里ちゃん。さゆのこと大好きなんだなぁって」
そんなの、知らなかった。
石川さんに、さゆみのことばっかり話してたなんて。
自然と、さゆみの頬はゆるんでしまう。
「だから、気にすることないんじゃない?それに…」
「それに?」
「さゆだって、絵里ちゃんに教えてないこと、絵里ちゃんが知らないこと、いっぱいあるでしょ?」
「あっ…」
そうだ、そうだった。
さゆみだって教えてないこと、いっぱいある。
- 100 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:58
- 「そんな、みんなのこと完璧に知ろうなんてできるわけないんだよ?
知らないことがあったっていいじゃない。これまでも大事だけど、これからも見てかなきゃ」
「そう、ですよね!」
そうだ、そうなんだ。
知らないことがあるのはあたりまえだし。
絵里以外にも、知らないことが沢山ある友達がいる。
勝手に絵里が特別だって思ってて、勝手に落ち込んでたけど。
何も、絵里のことだけ無理に知ろうとする必要はない。
…まぁ、絵里の隠してたことは特殊すぎたけど。
- 101 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:58
- でも、それでも。
絵里の言葉、絵里の態度。
それを疑ってまで知ろうとする事じゃなくて。
「石川さん、ありがとうございます」
「別にあたしは何もしてないよぉ」
そう言って笑った石川さんの顔は、やっぱり優しくて。
さゆみは、なんだか気持ちがすっきりしたのを感じた。
そんな時、ドンドンドン!とお店のドアを叩く音。
びっくりして振り向くと…
- 102 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:58
- 「ちょ、梨華ちゃん!これ重…ドア開けれないって!」
「もう!ドア叩く元気あったら開けなさいよ!」
「無理言うなぁ!」
…大荷物を抱えた、吉澤さん。
しかも石川さんの態度から言って、完全に尻に敷かれてる。
「梨華ちゃん、あたし一応入院してたんだから…」
「もう何ヶ月も前でしょうが。リハビリリハビリ」
「リハビリにしちゃきつすぎるって」
「…ふふっ」
そんな言い争いを続ける姿がおかしくて。
思わず笑ったら、吉澤さんににらまれた。
「シゲさんなに笑ってんだよ〜!ほら手伝え!」
「やですよー!じゃあ失礼しますね…石川さん、ありがとうございました!」
「あ、じゃあねさゆ。絵里ちゃんによろしくね!」
「はい!」
「シゲさ〜ん…」
そんな、吉澤さんの情けない声を後ろに聞きつつ。
さゆみは、スッキリした気持ちで『エコモニ。』を後にした。
- 103 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:59
-
__________
- 104 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:59
-
その数日後、HRで絵里の転校が言い渡されて。
その夜、さゆみは絵里を、あの丘に呼び出した…
- 105 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:59
-
__________
- 106 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 22:59
-
- 107 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 23:00
-
- 108 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 23:00
-
- 109 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 23:00
- つづく。
- 110 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/05(日) 23:02
- >>93名無飼育さん
始まってしまいました。
終わりも近いですが、どうぞおつきあい下さい。
>>94通りの人さん
お待たせいたしました。
切ないかそうじゃないか、あと少しおつきあいください。
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 01:12
- 絵里行っちゃ嫌だよぉー(´;ω;`)
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/07(火) 04:25
- 大好きな話になりました。
続きをまっています。
- 113 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:38
-
__________
- 114 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:39
- 星のきれいな深夜。
絵里と出会った丘。
…おじいちゃんの樹は、もうないけれど。
あの日と同じ、ピンクのワンピースを着て。
さゆみは、絵里を待っていた。
絵里は、来てくれるかな。
さゆみと、話してくれるかな。
何も言わずにさよならなんて、しないよね…
ぐるぐるさゆみが考えていると、カサリと草を踏む音。
そして…
「おまたせ、さゆ」
「遅いよ、絵里」
あの日と同じセーラー服で、絵里が立っていた。
- 115 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:39
- 「絵里、そのかっこ…」
「さゆこそ、そのかっこ」
「寒くない?」
「寒いよ。さゆは?」
「寒いよ」
そう言って、また二人で笑う。
ひとしきり笑った後、絵里が草むらにごろりと寝ころんで。
そのまま空を見上げて、話し始めた。
「…ほんとはね、来ないつもりだったんだ」
「うん、来ないんじゃないかと思ってた」
「でも、やっぱさ…絵里、思ってた以上にさゆが大事みたいで」
「うん」
「さゆを置いてこのままサヨナラとか、やっぱ無理だった」
そう言って、絵里はうへへ、と笑った。
- 116 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:40
- 「ねえ絵里、さゆみ考えたの」
「んー?」
「さゆみね、絵里にいっぱいウソつかれてたって知った時、すっごい悲しかった」
「ゴメンね、さゆ」
「それに、一緒にいられないって言われた時も、なんでってずっと思ってた」
「うん…」
絵里の笑顔が寂しそうになる。
ずっと、ウソをつき続けていた絵里も、辛かったはずだから。
「でもね、さゆみ思ったの…絵里だって、さゆみのこと全部は知らないでしょ?」
「そうだね」
「だから、さゆみも絵里と同じなの。秘密にしたいこと、言いたくないことは、たくさんある」
「さゆ…」
「さゆみは待つよ…絵里が、教えてくれるまで」
そう言って、さゆみはやわらかく笑う。
「さゆみの知ってる絵里は、絵里の一部。だから、さゆみはさゆみが見た絵里を信じるの
さゆみが見た、優しくて、不思議で、ちょっと…どころじゃないかもしれないけどドジな絵里を」
- 117 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:40
- さゆみが微笑みながらそう言うと、絵里はちょっと暗い顔になって。
起きあがって、膝に顔をうずめて…ぽつぽつと、話し始める。
「ずるいよ、さゆ…」
「へ?」
「ずるいよ、そんなに何でも許して、優しくて…
絵里は、絵里はさゆが信じてるような子じゃないんだよ。
絵里がいろいろやってるのも、自分が生きたいからなんだよ。
絵里は、優しくなんて、ないんだよ」
絵里の声は、とぎれとぎれで。
小さく、泣いていて。
でも、さゆみはそんな絵里を、後ろからそっと抱きしめて。
- 118 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:40
-
「それでも、絵里は絵里だよ」
- 119 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:41
- そう、一言告げる。
「絵里は、絵里?」
「そう。だって、生きるだけならならタマシイを狩るだけでいいじゃない。
れなちゃんをれーなに会わせたり、吉澤さんを助けたり、松浦さんにさゆみのカラダを貸したり…
そういうことを考えたのは、絵里の優しさだよ。」
さゆみが言うと、絵里は涙に濡れた顔を上げる。
そして、さゆみに向き直り。
「さ、さゆぅぅぅぅぅ!!」
「よしよし…」
思い切り、涙を流した。
- 120 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:41
-
- 121 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:41
- 「…こんなにコドモみたいに泣く絵里、初めて見たの」
「…そうかな。シニガミになってから泣かないようにしてたから」
「そうなの?」
「そうだよぉ、ほんとの絵里は、ビビリで弱虫で泣き虫なんだから。
シニガミの絵里は、強くならなきゃ…って頑張ってる絵里」
そう言って、真っ赤な目で笑った。
「…さゆは、優しいよね」
「へ?さゆみが?」
「うん、さゆは絵里のこと優しいって言ったけど、さゆも優しいよ…さゆに会えて、よかった」
「絵里…」
絵里は、すっくと立ち上がり、さゆみに向き直る。
- 122 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:41
- 「絵里、絶対戻ってくるから」
「絵里…」
「さゆのところに、絶対戻ってくる。
何年かかるかわかんないけど、天使の言ったことが本当なら、
絵里は普通のニンゲンに戻れるから…
そしたら、絶対さゆのところに戻ってくる」
「うん、さゆみも…待ってる」
さゆみが、絵里の手を取って笑った。
絵里も、さゆみに微笑み返した。
「じゃあねさゆ…また、いつかね」
「いつか…いつまでも、ここで待ってるから」
「うん、絵里も、この丘に探しに来るから」
じゃあね、と手を振って、絵里は丘を降りていった。
さゆみは、絵里の背中が見えなくなるまで、手を振って…
- 123 名前:笑顔とシニガミとまたいつか。 投稿日:2006/11/23(木) 21:42
-
そして、次の日。
絵里は、さゆみの街から、姿を消した。
- 124 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:42
-
__________
- 125 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:42
-
あの日から、さゆみは深夜のお散歩を再開した。
絵里を、待つために。
- 126 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:43
- あの日から数年が経って。
さゆみは、ハタチになった。
あの頃の制服じゃなくて、大学になんか通ってて。
でも、よくピンクのワンピースを着て、深夜にあの丘に寝そべっていた。
そして、その日は、初めて絵里と会ったような、ロマンチックな月の夜。
あの日と同じワンピース、あの日と同じワンピース。
すそをはためかせ、あの丘へと歩く。
あの丘には誰もいなかったけど、さゆみは草むらに寝そべって。
月と星を眺めて、絵里を想う。
あの日、絵里はこんなふうに寝てたんだっけ。
セーラー服姿で、銀の鎌を隣に置いて。
短い茶髪を、風に揺らして…
あの日の絵里のように、目を閉じる。
ゆらゆらふわふわ、意識が浮いて…
- 127 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:43
-
「…こんばんは」
「…ねぇ」
- 128 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:43
-
誰かに肩を揺すられてる。
さゆみ、寝ちゃったのかな。
起きなくちゃ、風邪ひいちゃう…
そう思って、目を開けると。
- 129 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:43
-
「おはよう」
「お…は、よう…」
- 130 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:44
-
絵里が、いた。
あの日とは違って、セーラー服じゃないけど。
髪も黒くて、長くなってて。
でも、さゆみが待ってた、絵里だった。
- 131 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:44
- 「えり?」
「そうだよ…帰って、きたよ」
なんだかもう、さゆみの目は熱くなって。
涙が、溢れてきて。
そんなさゆみを、絵里はやさしく抱きしめて。
「ただいま、さゆ」
そう言って、笑った。
「…おかえり、絵里!」
- 132 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:44
-
- 133 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:44
-
そしてまた、はじまる。
- 134 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:44
-
- 135 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:44
-
- 136 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:45
- こんどこそ、おわり。
- 137 名前:エピローグ。 投稿日:2006/11/23(木) 21:45
- …というわけで、完結いたしました。
半年以上こんなつたない作品に付き合って下さった皆様方。
本当にありがとうございました。
- 138 名前:あすか 投稿日:2006/11/23(木) 21:46
-
一応、ちょっぴり次書きたいもの予告。
次は85年組中心で。
予告かこの話の番外編が出来たらひょっこり現れます。
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/24(金) 00:08
- お疲れ様でした。
役柄の割には優しすぎる絵里、
振り回されつつ、付き合いのいいさゆ。
そんな二人がとても好きでした。
次回作も楽しみにしています。
- 140 名前:通りの人 投稿日:2006/11/24(金) 00:19
- 暖かいですねー 良かった、また会えて…
是非またさゆえり書いて下さいー
- 141 名前:ais 投稿日:2006/11/24(金) 00:55
- お疲れさまでした。
少し不思議な優しい物語でしたね。
また次回作も楽しみにして待ってます。
- 142 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:30
- 私には、物心ついたころからっずっと一緒の親友がいた。
幼稚園からずーっと一緒。クラスすら離れない腐れ縁。
高校こそは…と思っていたのに、結局同じ所受けやがって。
しかし、その親友は、1年の途中で入院生活を余儀なくされ、そして…
5年前、親友がいきなり引っ越した。
2年前、その親友が失踪したと親御さんから連絡があった。
そして今、私の家の前に、カメがいた。
- 143 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:31
-
番外編1。
えりとガキさんとコタツな時間。
- 144 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:31
- カメと言っても本物の亀ではなく。
先程言っていた親友というやつであって。
そいつは、へらへらと笑いながら家の前に立っていて。
「うへへ…ガキさぁん…ひさしぶりぃ」
のんきに、そうやって切り出した。
やっぱり、そのカメの顔はへらへら笑ったまんまで。
なんだかむかついたので。
「こんの…バカカメぇ!!」
思いっきり、頭を殴ってやった。
そして、そのままカメの腕を引っ張って家の中に入る。
- 145 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:31
- 「ちょっと、ガキさん!なにげに絵里の手引っ張ってる!」
「引っ張らないとあんたついてこないでしょーがぁ!」
いや、引っ張らなくてもついてきただろうけど。
一回失踪なんぞしてる友人を離したくなくて。
なんとなく、引っ張っただけなんだけど。
そのまま、部屋のコタツに押し込むと、カメはものすごく幸せそうな顔をする。
「ガキさーん、お茶とかないの?」
「あんたはぁ!いきなりそれ!?」
「だってぇ…コタツったらお茶とおせんべでしょ?」
はいはい、あんたの好みは知ってますよ。
なんだかんだで用意してやる私は、間違いなくこいつに甘い。
- 146 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:31
- 「…で」
「ん?」
「今までどこで、何してたのさ」
「んー…」
お茶をすすり、おせんべをかじってるカメにそう聞くと。
いきなり、視線がいろんな所を彷徨い始める。
まあ、失踪してたんだし、言いにくいんだろうけど…
「んー…ナイショじゃダメ?」
「ダメに決まってるでしょあんた!あたしらがどんだけ心配したと…」
そう言うと、カメが見るからに落ち込み始める。
あー…あたしが悪者みたいじゃん…
- 147 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:32
- 「…あー、怒鳴ったのは悪かった…でもさ、ほんとおじさんもおばさんも心配してたよ」
「うん…それはすごい、悪いことしたと思ってるよ…」
そう、カメがいなくなった時のカメの両親の取り乱し方はひどかった。
高校の卒業式の、次の日に姿を消したカメ。
どうやっても、その足取りがつかめなくて。
あたし達も何とかして探そうとしたけど、目撃証言すらつかめず。
諦めかけていた、そんな時だった。
「おじさんやおばさんには、連絡したの?」
「したよぉ。そしたら毎日電話かかってくる」
まあ、いい機会だからワガママ言って、大学編入させてもらったけど…なんて笑うカメ。
そんな状態なのか…おじさんもおばさんもこっちに連絡くれてもいいのに…
「でね、でね…」
「ん?」
ちょっと考え込みそうになった時、カメがなんだか言いづらそうに。
こっちの顔色をうかがいながら、話しかけてきた。
- 148 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:32
- 「あのね、絵里ね…今日、ガキさんに、謝りに来たの」
「え?」
「いっぱい心配させて、連絡もしなくて…ごめんなさい」
一番連絡できなかったの、ガキさんだから。
そう、カメは言った。
「お父さんとかお母さんは、高校生のうちは一緒にいたけど、
ガキさんには5年も連絡しなかったから…だから、その…」
どんどん、コタツ布団の中に言いながらもぐっていくカメ。
本当に、申し訳なく思ってるのがその様子から見えて。
…ああ、そういえば昔から、ケンカしたこと謝る時は、カメはいつもこうだったなぁ…
- 149 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:32
- そう、ふと思って。
あたしは、昔みたいに、カメの頭をぽんぽんと叩く。
「…んぇ?」
「ほーら、またコタツにもぐるんじゃないの…ったく、変わんないね、カメは」
「うへへ…ガキさんも、変わんないね」
そうやって、笑った。
言ってやりたいことはまぁ、いろいろあるけども。
とりあえずは、久し振りに会った親友と、再会を喜び合うことにしましょうか。
- 150 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:32
-
- 151 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:32
- 「…ところでさ、カメ…あんた、今はどこに住んでんの?」
「んー、隣の県だよ?ほら、一回会った…」
「あー、あの近く?」
「うん。今度来てよ…でね、あっちの短大卒業判定もらったから、
春からこっちの大学の3年に編入するの」
「…どこ?」
「道徳女子」
「…マジ?」
「ガキさん…?」
「うちの大学だよ、そこ…」
…どうやら、久し振りに会っただけじゃなく。
また、腐れ縁の再開になりそうです…
- 152 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:33
-
- 153 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:33
-
- 154 名前:番外編その1。 投稿日:2006/12/17(日) 23:33
- 番外編1・おわり。
- 155 名前:あすか 投稿日:2006/12/17(日) 23:38
- レス返し。
>>139 名無飼育さん
結局、二人とも優しいんです。
そんなさゆえりが書きたかった。
おつきあいありがとうございました。
>>140 通りの人さん
最後のおはようと、ただいまとおかえりはかなり前から決めてました。
さゆえりはいつになるかはわかりませんがまた書きたいです。
>>141 aisさん
優しいと思って頂けると幸いです。
次回作、いつになるかわかりませんが…頑張ります。
まだ構想のある番外編の予告をちらっと。
「お前、れいなに似てるね…こっちおいで」
「にゃー」
−れーなとれなとリボンと鈴と。−
いつか、いつかニンゲンに戻って。
かならず、帰るから。
−きみにあいにいく。−
更新は未定です。
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/11(日) 00:23
- 一気に読みました。
全体的に優しくて暖かい感じがして、だけどたまに笑わせてくれる
部分もあってすごく好きです。
番外編、まったりとお待ちしております。
- 157 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:01
-
れながご主人様と会ったのは、ちょうどこんな雨の午後。
- 158 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:02
-
番外編2。
れーなとれなとリボンと鈴と。
- 159 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:02
- れなが、まだれなって名前になる前。
れなは、ひとりだった。
れなは『のらねこ』ってやつだから、家族はもういない。
ママはれながちっちゃいときに死んじゃった。
れなはしばらくひとりで生きてて、でもちっちゃいれながひとりで生きるのはつらくて。
毎日ゴミ箱をあさってなんとか生きてたけど。
他のおっきい犬とか猫にいっぱいいじめられて。
さむくていたくてさみしくておなかすいて。
雨の中、公園のベンチの下。
ひとりで鳴いても、誰もれなになんか気付かなくて。
あきらめて、またごはん探しにゴミ箱あさりに行こうとした。
そのときだった。
- 160 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:03
-
「お前、こんなとこで何しとー?」
- 161 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:03
- 声が、聞こえた。
見上げるとそこには青空みたいな水色。
それは、ご主人様の傘の色。
「にゃー」
「お前捨て猫かー?首輪しとらんしなぁ」
ベンチの下を覗き込んで、れなのことをじろじろ見るご主人様。
最初は、ちょっと怖かった。
でも。
「っと、うわちゃー…濡れたぁ!失敗したっちゃ…」
そんなことを言ってる、意外にドジなご主人様。
そんなご主人様を見て、なんか怖くなくなった。
そのまま、まあいいやなんて言いながらご主人様はれなのことを見てたけど。
なんだか笑顔になって、こう言った。
- 162 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:03
- 「なんかお前れいなに似とるなあ、目つきとかソックリっちゃ」
れいな、って言うのがご主人様の名前だって最初はわかんなかったけど。
その後のご主人様のひとりごとを聞いてて、なんとなくわかって。
「ほら、こっちおいで」
こんなことを言ってるご主人様。
ちょっとびっくりしたけど、なんだかご主人様は大丈夫って思って。
「にゃー」
「おっ、よしよし」
れなは、ご主人様の腕に飛び込んだ。
ご主人様の腕はあったかくて、撫でてくれる手が気持ち良くて。
れなは、なんだかママといるみたいな気持ちになった。
- 163 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:04
- 「今日はバイト直行やけん、パン買ってあるけど…食べる?」
「にゃ、にゃー!にゃー!」
すごくお腹がすいてたから、いるよっていっぱい鳴いた。
そしたら、ご主人様はいっぱい笑った。
「あっははは、そんながっつかんと…雨宿りできるとこいかんとね」
そう言ったご主人様がれなを連れて行ったのは、屋根みたいになってるおっきなすべり台の下。
そこで、れなにパンを食べさせてくれた。
ご主人様は、パンを食べてるれなをにこにこしながら見てた。
「うーん、かわいいけどれいなのマンションペット禁止っちゃ…うーん…」
なんだか悩んでるご主人様。
でもなんとなくわかるのは、れなを連れて行けなくて悩んでる。
「ノラっちゃねぇお前…明日もここにおる?」
ご主人様に聞かれたから。
ここにいるよって言いたくて。
「にゃー」
そう一声、鳴いた。
- 164 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:04
- 「そっか、いるかぁ…じゃあれいなが見つけられるように…そうだ!」
そう言うとご主人様は髪につけていた紫のキレイなリボンをほどく。
そして、カバンについていた小さな鈴を、そこに通して。
れなの首に、つけてくれた。
「これでなんか飼い猫っぽく見えるっちゃ。さて、名前もつけないとなあ…何がいいかなあ…」
また悩んでるご主人様。
そして少しして、ぽんと手を叩いた。
「よしっ、れいなに似てるからぁ…れな!かわいいっちゃろ…ダメかな?」
れな。
ご主人様とそっくりな名前。
すごくうれしくて、ご主人様をぺろぺろ舐めた。
「ちょ、くすぐったい!というかちょっと痛い!…そっか、気に入ってくれたかあ」
ご主人様は、また笑った。
れなもなんだか嬉しくなって、にゃーって鳴いた。
- 165 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:04
-
- 166 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:04
- その後ご主人様はバイトっていうのに行っちゃったけど、それから毎日来てくれた。
だから、れなはご主人様が来ると思った時間。
お昼のちょっと後は、ベンチの下にいた。
ご主人様はれなのこと見て、いっつも笑ってパンをくれた。
れなも嬉しくて、ご主人様にじゃれついたり舐めたりした。
ご主人様はバイトっていうのがある日はすぐ帰っちゃったけど。
たまに『さゆ』って子と用事があるって帰っちゃったけど。
でも、なんにもない時は一緒にいてくれた。
だからそんなとき、れなはご主人様が撫でてくれる手を感じながら、いっぱいお昼寝。
ご主人様にいっぱい撫でてもらうのが、大好きだった。
ご主人様と一緒の時はすごくあったかくて、楽しくて。
だから、れなは忘れてたんだ。
れなは、やっぱり『のらねこ』だってことを。
- 167 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:04
-
- 168 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:05
- 今日もご主人様はバイトがあるって言って、すぐに行っちゃって。
れなは、ご主人様がくれたパンをひとりで食べてた。
そのときだった。
れなの前には、でっかいガラの悪そうなねこがひとり。
その後ろに、でっかくないけどガラの悪そうなねこがなんにんか。
れなの、パンを狙ってる。
のらねこは、ご飯を食べられるかが大事だから。
れなはちっちゃいしつよくないから、狙いやすかったんだ。
パンをくわえて逃げる。
れなはちっちゃいから、細い道だって逃げられる。
でも、でっかいねこもムリして入ってくる。
むこうのほうがでっかいから、なんだか足も早い。
ダメ、にげなきゃ、ご主人様…
でも、れなが逃げても、足の早さではかなわなくて。
しかも、まわりみちしたねこにはさまれて。
- 169 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:05
-
おもいっきり、たいあたりされた。
そのとき、ちりんというおとがした。
- 170 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:05
-
れなはひっかかれてかみつかれてパンもとられて。
ぼろぼろになって、かなしくて。
そのとき、ふと気付いた。
れなのリボン、ない。
- 171 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:05
-
どうしようどうしよう。
ご主人様のリボンが。
れながみつけてもらうためのリボンが。
さがさなきゃさがさなきゃ。
ちりんというおとがしたのは、確かせまい路地裏。
さがさなきゃ、さがさなきゃ…
- 172 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:05
-
- 173 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:06
- ずっとさがしてた。
ご主人様が来る公園に行かずに、ずっと。
そのうち雨の降る季節になった。
雨は冷たいけど、さがさなきゃさがさなきゃ。
変な子にれーなって呼ばれた。
なんでれなの名前知ってるんだろう。
それを口に出したら、にゃーってれなの声じゃなく、ご主人様みたいな声。
びっくりした。でもご主人様みたいになったらみつかるって信じて。
いっぱい探した。
- 174 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:06
- 別の変なのが来た。
シニガミって言った。
れなは死んでるって言った。
そんなことない。だってさがしものできてる。
変なのも手伝ってくれるって言ったけど、なんかこの変なのはニガテ。
だから、突き放してまた探した。
- 175 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:06
- この間の変な子がまた来た。
自分のことを『さゆみ』って言った。
多分、ご主人様が言ってた『さゆ』だ。
『さゆ』は探したいって言った。
だから勝手に探させた。
そして…
- 176 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:07
-
「れなっ!!」
- 177 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:07
-
変なのが、ご主人様を、連れて来てくれた。
ご主人様はやっぱりあったかくて。
ああ、れなはご主人様に出会えてよかった。
変なのが、キレイなぎんいろを降り下ろす。
れなのカラダは、ふわりと浮いた気がして。
そこから、めのまえがまっしろになって…
- 178 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:07
-
気付いたら、変なのに抱かれてた。
- 179 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:07
- 「れなちゃん、お疲れ様」
「…なん、れなは…」
「いっぱい、頑張ったね」
「ご主人様からもらった大事なもののためやけん…リボンは?」
「ここにあるよ。これからはれなちゃんとずっと一緒」
そう言って、変なのは笑った。
あのぎんいろみたいにキレイな笑顔。
ニガテって思ったの、悪かったと思った。
- 180 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:08
- 「変なののなまえ、何?」
「変なのって…ひどいなあ、絵里だよ」
「えり…ありがとう、えり」
「どういたしまして…じゃ、行こうか」
「どこに?」
「…あったかい場所」
あったかい場所か。それならいいや。
いつか、ご主人様も来てくれるかな。
「来るよ…それは、果てしない時間の後かもしれないけど」
「そっか、じゃあ、れなは待つ」
そう言ったら、また変なのは笑った。
そして、まためのまえがまっしろになる。
- 181 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:08
-
…ああ、ご主人様。
れなは。ずっとずっと、だいすきです。
- 182 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:08
-
- 183 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:08
-
- 184 名前:番外編その2。 投稿日:2007/03/28(水) 22:09
- 番外編2・おわり。
- 185 名前:あすか 投稿日:2007/03/28(水) 22:11
- レス返し。
>>156名無飼育さん
みんなどこか優しい、そんな世界を目指しました。
優しく感じて下さって幸いです。
待って頂いた甲斐があるものになっているでしょうか…
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/29(木) 02:48
- 最後涙が出てしまいました。
感動しました。
- 187 名前:& ◆sQw2IvQ8pg 投稿日:2007/03/30(金) 00:42
- じんわりときますね。
私も感動させていただきました。
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