dogsU

1 名前: 投稿日:2006/09/13(水) 00:06
同水版で書いていた物の続編です

突っ込み所はありすぎるし

とにかく長いので体力のある方はどうぞ
2 名前: 投稿日:2006/09/13(水) 00:08
姫・・・・



姫は今誰といるんですか?



自分はとても温かい仲間達と出会いました



姫を今守ってくれる人が優しい人であればいいと
いや、そうであって欲しいと願っています



矢口がそんな風に心で呟きながら空を見上げると
雲ひとつない夜空に燦然と輝く月

瞼を閉じると、舞うように剣を振っているひとみを思い浮かべる



必死に振っている腕から飛び散る汗



顎から一滴一滴落ちていくその輝きがやけに矢口の胸を熱くした




その目を奪われる程の綺麗な姿を、月と重ねている頃
旧Eの国にいる梨華と藤本の部屋では、一度眠りについていた梨華が目を覚まし
一緒の部屋で寝ているはずの藤本がいないのに気づいていた頃だった
3 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:11
梨華達は矢口とひとみが旅立った後
広い吹き抜けの会議室で、中澤の連れて来た族達と話をした

変な話しだけど、この先、もしかしたらこの町を自分達が守り
これから作って行かないかといけないかもいう事を中澤は告げた

ここで暮らす事になるかもとだけ告げられていた族達は
一様に不思議そうな顔をする
人里に住んだ事の無い者が多く
何のゆかりもないこんな大都会を自分達が動かすなんて事とうてい考えられなかった

しかし中澤はこれから自分達はどうしたいか・・・・・それを問うた

自分達は町で大勢の人達と一緒に住んでみたいと言う意見と
こんな訳の解らない町より中澤達が暮らしている小さな町が好きだという意見ももちろんあり
結局中澤が、焦って結論つける事はないと言い
とりあえず合同軍からの見回り等の引継ぎ事項を指示していった

明日から時間がある者はどんどん町へ出て
町の人と話してみようという事になって、豪華な部屋に分かれて泊まる事になった

食料は地下のひんやりした場所にすごい量の貯蔵庫があって
そこから拝借してみんなで調理して作った

何故かその指揮を取っているのが辻と加護の2人

あの三つの町を襲う為に集められた大勢の人達の為に
無理やりこの城に納めさせたのかもしれない

だから昨日は、町の中を馬で歩き回り、人がいる気配があれば
一軒ずつ声を掛けて行った
貯蔵庫にある食料を、リアカーに乗せて馬でひいて
困っている人に分け与えようとすると、人々は家の外に出て来てくれるようになった

他の中澤の町の人達にも協力してもらって
あまりにも多い貯蔵庫の食料を配布しながら話をしていく

とにかく、このまま時間が止まったままでは田畑は枯れてしまうし
やがて犯罪や争う人も増えていく一方だろう

一刻も早くこの町を元の町へと戻さないと、自分達だけじゃなく
多くの人達がただの難民になっていくに違いない
4 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:14
中澤達は族で、この町が大変そうだったから
ダックスやバーニーズの協力を得ながら
ここをしばらく守る事を頼まれたとアピールしていった

決して族だという事で恐怖心を煽るものではなかったのだが
族と知ると怯えた表情をする町民

ええからもうちょい色んな人と話してみぃ、と、中澤が根気よく
仲間達を励ます

一方梨華は、Jの国でしていたように心療治療をしようと何人かに声をかけて
恐怖心があまりに大きそうな人には、つらい記憶を消してあげたりしていた

その為疲れてしまい、昼を過ぎた頃には梨華は立てなくなったりして
藤本に命令され部屋に帰って休ませられた

そして今日もその眠りから覚め
今がどれくらいの時間なのか解らない頃に目覚める

確実に静かな為に夜中なんだろうけど
ふと隣のベッドを見るといつもいるはずの藤本がいない

一応護衛の為に藤本と同室なのだが
藤本がそばにいないと危険だからという理由以外の何かが梨華を不安にさせる

「美貴ちゃん?」

呼んでみるが返事はない

隣の部屋の辻と加護は、ノックをしても返事はなく
合鍵でドアを開けるとすっかり寝ているようだし
ここにいないとなるとどこにいるんだろうと不安に思いながら部屋に戻る

もしかしたらと部屋に備え付けてある浴室をそっと覗くと
チャプンという音と一緒に静かに湯船に入ってる藤本の頭が見える

なんだ、お風呂に入っていたのか・・・・と梨華はほっとするが
ドアの外の人の気配迄解ってしまうほどの藤本が
こんなに近くから覗いている自分の視線に気付いてくれない
5 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:16
ここの浴室はガラス張りになっており、外の景色が一望できる

そんな窓から差し込む月明かりが
藤本の肩のラインの美しさを教えてくれるように輝いている

いつも自分を守り、さりげなく優しくしてくれる藤本

好きだと言ってくれるのに
自分とひとみが幸せになるのを願ってくれている藤本

どうしてだろうと不思議に思う事はもうない


藤本の自分への想いは本物


そう確信出来る程、藤本は自分に解りやすく好きだと伝えてくれていた
よく言葉にしてくれていた少し前よりも、少し距離を置いて
遠慮がちに自分を守ってくれるその視線や雰囲気に
いつのまにか自分は甘えきっていた

ひとみの事・・・・確かに好きだと思う

だけど今は・・・・今は藤本がそばにいてくれる安心感の方が
・・・さっき少しいなくなった位で不安になる程
藤本に依存している自分に気付く

あまりに綺麗な後ろ姿、しばらく外から藤本が気づかないか
ドアの隙間から見ていたが全く気づく気配もなく
もしかしたら寝てるんじゃないかという位動かないので
ドアを開けて声をかける

「美貴ちゃん」

声をかけるとビクッとお湯が波打ち、藤本はそのままの姿勢で言う

「ん、梨華ちゃん・・・起きたんだ・・・・・
あ、お風呂入るんだ、美貴上がるから入ってよ」

くるっと振り向いて月明かりに逆光になった藤本の顔はどんな表情か見えないが
梨華は何故か悲しくなって

「いいよ、一緒に入りたいから待ってて」

と言ってドアを閉めたので
どうしようかと藤本があたふたしていると、梨華が裸で入って来た
6 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:19


ドクン



心臓の音が藤本の頭に直接響き
藤本は慌てて窓の方を向く

梨華が体を洗い出す音が聞こえると
藤本はザバッとお湯から出て、梨華を見ないように上がって行こうとした

「どうして?美貴ちゃん」

ドクン

その声を振り切って出て行ってしまった


泡のついたまま梨華がドアのところまで行き
体を拭いている藤本に声をかける

「一緒に入ろうって言ったじゃない、なんであがっちゃうの?」
「な・・・・なんでって・・・・」

暗いとはいえ、梨華の肌が露になっているんだからと目を背ける

ドク・・・ドク・・・

梨華は泡のついた手で藤本の手を掴み、また風呂場に戻らせた
桶で湯船の湯をすくい泡のついてしまった藤本に掛けると浴槽に入らせ
梨華はまた体を洗い出す

「可笑しいよ、美貴ちゃんが恥ずかしがるなんて」
「な〜に、それってちょっと失礼じゃない?」

すこし硬い笑い声の藤本に梨華が振り向くと
相変わらず窓の方を向いてぎこちなく笑っていた
7 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:21
体の泡を流し、浴槽に浸かって藤本の隣にひっつく

ドッドッドッドッ

「な・・・何してんの?おかしいよ、梨華ちゃん」

過剰な反応をする藤本が可笑しくて梨華は藤本の肩に頭を置く

ドドドドド・・・・・
心臓の動きは激しくなるばかり

「可笑しいのは美貴ちゃんでしょ、ボーッと外見て・・・・
ねぇ、美貴ちゃん・・・・私・・・何かした?」

ドクン

あまりの心臓の高鳴りがマックスを迎え、最後の大きな音を奏でた後
機能を停止してしまったんじゃないだろうかと藤本は思いながらも
弱弱しい梨華の言葉につい顔を見てしまう

「やっと私の顔見てくれた、ねぇ・・・・・もしかしたらJの国の事が心配なんじゃない?
・・・・・Jの国って言うより王子の事かな?」

言いながらどんどん不安になり、戸惑いながら梨華が聞く

交錯する視線に

ドクン・・・・ドクン・・・・

と再び心臓が音を奏で出すと、慌てて藤本が再び窓の方を向いて拗ねたように言う

「そりゃ心配だよ・・・初めて愛した人の事だもん・・・・・
全国統一の話しが本当なら、今頃Mの国の襲撃にあってやしないか・・・・・
・・・・もしかしたら仲が良かった町の人達とかどうかなっちゃってたら
・・・・・ううんっ、てか梨華ちゃんも心配でしょ、よしこの事」

梨華はひとみの事を聞かれても
藤本の口からはじめて愛した人と聞いた事の方が今ショックだった、だから正直に今の気持ちを言う

「うん・・・・でも、ひとみちゃんには矢口さんがついてるから大丈夫」
8 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:24
それよりも梨華は藤本の方を向いてずっと話しているのに
まだ藤本は自分を見てくれない
それが不思議で・・・しかも不安でならなかった

「ねぇ美貴ちゃん・・・・本当に私・・・・何かしたかな?」
「ん?どうゆう事?」

藤本は外を見て笑っている

「だって美貴ちゃんこっち向いてくれないんだもん、なんか寂しくって」

拗ねた感じで言う梨華の声を聞いてもまだ窓の外を見ながら藤本は笑っている

「ちょっと前から、私が触ると困った顔してしまうし
なんか・・・・・そういうの寂しい」
シープの町でもそうだったしと梨華は藤本の横顔を見つめる

藤本の手が、心臓よ落ち着けと言わんばかりに胸元に行き

「梨華ちゃん、ダメだよ、そんな思わせぶりな事言っちゃ
美貴誤解しちゃうし、我慢がきかなくなるじゃない、折角見ないようにしてるのに」

梨華が藤本の足に手を置いて詰め寄る形で近寄って言う

ドクッ・・ドッ・・・ドドッ・・・ドクッ

正常な音が聞こえて来ない藤本の心臓

「だからどうして私の顔みておしゃべりしてくれないの?
ずっと私の事守ってくれてるのは解るのに、何かよそよそしいから・・・
今だけの事じゃないよ、加藤さんと一度ここに三人で来た後からずっとそんな感じじゃない・・・」

「そっかな」

口だけ湯船につからせて、ぶくぶくとおどけた感じにしようとしている
9 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:25

「もう・・・・私の事なんて嫌いになっちゃったの?」

梨華は恐る恐る聞いてみる
すると慌てて藤本が梨華の方を向いて視線を合わせてしまう

「そんな訳ないよ、逆だから困ってるんじゃ・・・・あ・・・・」
ザバッとすぐに逆を向いて慌てて立ち上がる

もう無理だ・・・・限界が近い

藤本はそう心の言葉を掴み、梨華から離れようとする

行こうとする手をすばやく梨華が掴んで引き寄せる

よろめく藤本が梨華に覆い被さる形で向かい合うと
梨華が藤本の首に手を回す

ドッドッドッドッ

「な、何してんの梨華ちゃん、やめてよ」

余りの心音に自分の死さえ感じる気がした

「嫌?」

月明かりに上目遣いの憂いのある表情をする梨華



ツー


再び心臓の機能が停止



藤本は梨華を見ないように眼を閉じて腕をほどこうとする

「嫌なわ・・・」

突然藤本の唇に温かい感触が広がる

目を開けると梨華の顔が近くにあった
10 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:27
妙に色っぽい梨華は唇を離すと潤んだ目で藤本を見上げ赤くなっていた

「梨華・・・・ちゃん・・・・」

この表情は無意識ならやばい
どんな奴だろうとこんな表情を見たらどうにかなってしまう
・・・・藤本はもう考える事をやめた

「美貴ちゃんに・・・・お願いしたいの・・・・私の・・・・
私の傷を癒して欲しい・・・・誰でもない美貴ちゃんに」

瞬間梨華の唇は藤本に塞がれた
梨華はその唇を受け止める

ずっと恋こがれたひとみの心はすでに矢口で一杯
それを悔しい、寂しいと思う自分はもういない

それどころか、強がりとかではなく
本当に幼馴染として応援出来る自分に気付く事が出来ていた

死と隣合わせのここ数日
確実に自分のそばにいて、勇気付けてくれたのは間違いなく藤本

彼女の気持ちに応えたい
いや・・・・・・彼女にそばに居てほしい

梨華の行動は、流されてでも、同情でも
そして心の居場所がない焦りでもない本物の気持ちだった
11 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:30
藤本は一度唇を離すと一呼吸置いて顔中にキスの雨を降らせ
首筋に吸い付き抱き締めた

「梨華ちゃん」
「うん・・・お願い」

しっとりとした梨華の視線に
藤本は気が遠くなりそうな自分を必死に奮い立たせた
何度も藤本が名前を呼び、夢中で抱きしめる
その存在を確かめるように背中を何度も撫で回した後、徐々に胸に手がいく


「あん・・・」

藤本の耳に色っぽい声が届くとわれを失って行く
激しく揉み上げる手の中に想像してるより大きなやわらかい感触が広がった

湯船の中で藤本の左手に支えられて抱きついている梨華は
初めて感じる感触に頭が真っ白になっていくのが解る

少し怖くなって藤本にぎゅっとしがみつき藤本の首筋に吐息を落とす
胸にあった手をゆっくりと下の方へ滑らせ、閉じられている足を撫で
内腿から上へと上がって行くと梨華の体がびくっと揺れる

一気に快楽の波に飲み込まれそうになる藤本がハッと意識を取り戻し、体を離す

「あ・・・・だ・・・大丈夫?」

覗き込まれた状態で、梨華は少し涙目になった

「聞かないでよ、恥ずかしいから」
「じ・・・じゃあ、ベッド・・・行かない?」

くすっ

華のように笑って頷く梨華に、藤本はすぐに動き出す

梨華の手を引いてお風呂から出ると体を自分で拭きながらも
お互い真っ赤な体には目をやれない・・・・

だが逸る気持ちの藤本が拭きおわるのを確認する事もなく梨華を引き寄せて
一度キスをし、手を引いてベッドに向かい、一気にベッドに倒した

もちろん服を着てなどいないので直に互いの肌を感じあうと、唇を合わせる
12 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:32
藤本が唇を挟むようにキスして唇を開けさせると舌を入れた
ビクッと梨華が反応したが優しく舌で歯の裏を舐めて行くと次第に梨華の舌と絡み合った

梨華は族の舌には治癒力があるのは知ってる

藤本の舌と絡み合うと不思議と自分が綺麗になっていく気がしてならなかった

長い長いキス

「んっ」
チュパッ

「あっ、はぁっ」
チュ

二人の息が荒くなるとようやく唇を離し至近距離で視線を絡ませる

再び藤本の唇が首筋に吸い付き、指がすっかり尖っている胸の頂きを摘む

「ああ・・・・あ・・ん・・・・・」

無意識なんだろうか、梨華の口からは吐息が漏れる
首筋を通って唇が下へと滑って行くと
梨華は快楽の入り口にたどり着いたように思えた

尖った乳首を舌で転がし、開いた方は指で摘んでからもみ上げ
体のラインにそって下へと滑らせて行く

閉じられた足の間に手を滑らせ内腿をなでて足を開かせ
藤本の唇がお腹を滑って茂みの中入って行き、音をたててキスをする

「だめ・・・そんな所・・あ・・・・あん」

花びらの上の蕾を舌で弄ぶ

ああんっ・・・あんっ・・・あ

舐める音がどんどんねちこくなっていき
梨華の口から喘ぎ声が途切れなくなった

溢れる液体

美貴の舌が容赦なく攻め立てる
13 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:34
梨華の中で何かが爆発しそうな感覚が広がる

「み・・・美貴ちゃん・・・美貴ちゃんっ怖いどうすればいいの?」

その声で美貴が上へとずり上がって行き、梨華の頭を抱き寄せると

「はあっ大丈夫・・・はぁ・・・美貴に任せて」
「う・・・・ん」

再び唇を合わせて舌を絡ませる
梨華の呼吸が尋常じゃない位速く
声にならない息遣いが藤本の中に入り込んでくる

十分すぎる程湿った二人のその場所を器用にすり合わせると
二人の口から声が漏れる

「梨華・・ちゃん」
「美貴ちゃ・・・ん」

クチュ・・・クチュ・・・グチュ・・・グチュ

「「はぁっ」」

二人は同時に湿った場所から軽く快楽の証拠を吐き出す

はぁ・・はぁ・・・はぁ

向かい合った体勢で再びキスをし、お互いの体を支えながら
ねっとりと舌を絡ませ互いの胸を同じリズムで揉み上げる

「ああっ、美貴ちゃんっ」

一度来た波がすぐに新たな波を呼び寄せるのか、唇を離し仰け反る梨華
14 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:35
「ん・・・いいよ・・もっと出して」

言いながら寄り添うように再び梨華の上に横たわると
藤本は指をさっきすり合わせていた湿った場所に沈めていく

「あん・・・・・・何を?」

唇を塞いで舌を絡めながら、沈めていった指を出し入れして壁をこすりだす

「んん・・・んっ・・」

藤本の唇は離してくれなかった
梨華は自分の体がしびれて行くのが解る

「はあっ、美貴ちゃんっ」

やっと離された唇から呼ばれる名前に胸が熱くなる
ザラザラとした内側をこすられると、次第に梨華の腰が動き出す

はぁんっ・・・あっ・・ぁ

はああああああっ

指の出し入れを徐々に激しくさせると梨華は腰をくねらせ
美貴の名前を連呼して果てて行った

その時、梨華の体が青白く光ったような気がしたと藤本は感じた
かつて自分が王子と交わった時と同じように

「美貴・・・ちゃん・・・・」

潤んだ瞳で荒い息を吐きながら美貴にしがみつく
15 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:38


「梨華ちゃん・・・・好き」


聞こえたその声に
藤本の肩口にキスをする

チュッ

「ずっと・・・・守ってくれて嬉しかった」
「え?」
抱き寄せている梨華の顔を覗き込む

「不安な時も寂しい時も、楽しませてくれたりしてずっとそばにいてくれたよね」
「・・・・・・・」

「私も・・・美貴ちゃんが好き」

藤本の目に涙がうっすらと浮かび梨華を抱き締める

「何で・・・泣くの?」
「だって・・・・諦めてたから・・・・
もしかしたら今日を最後に諦めろって言われたりしちゃうかもって
・・・それに・・・梨華ちゃんって一応族だし・・・・
初めて体を合わせる人と心が繋がってないとお互いに死んじゃうかもしれなかったから
・・・・でも・・・・自分を止められなくって・・・」
16 名前:dogsU 投稿日:2006/09/13(水) 00:40

「じゃあ、生きてるって事は・・・通じ合ってるって事でしょ」

「・・・気分・・・悪くなってない?」

「うん、悪いどころか・・・・・なんか・・・・
人の肌の感触って・・・気持いいんだね」

ぎゅっと藤本に抱きついて来る

「こんな事・・・・聞いていいのか解らないけど・・・・
よしこは・・・よしこの事は・・・」

言いよどんでいる藤本に

「うん、ひとみちゃんの事はずっと好きだけど・・・・自分の気持伝えて
・・・ひとみちゃんの気持も聞いて、矢口さんの事を見てるひとみちゃんを見てたら・・・・
心から応援したくなって・・・・・そして・・・・
いつのまにか気になるのはいつも美貴ちゃんの事だったの
それって・・・・美貴ちゃんの事好きって事だよね・・・・
それなのに、いっつもよそよそしいから・・・ほんと寂しくって・・・・」

抱き締めている梨華の頭に唇を落とし

「ごめんね」
「何謝ってるの?こっちこそごめんね・・・・こんな私の事ずっと好きでいてくれたのに・・・」

自分の肩口の所で首を振ってしがみついてる梨華が愛おしくて

「じゃあ・・・・またキスしていい?」
「うん・・・して」

覗き込むように顔を寄せて再び距離をなくした唇は
また次第に熱を帯びて行った
17 名前: 投稿日:2006/09/13(水) 00:48
本日はここ迄

前スレの999:774様 1000:名無飼育さん
応援と温かい励ましの言葉ありがとうございます

いきなりこんな感じの2スレ目になってしまいました
グダグダ感が増していくかもしれないので大変疲れるかと思います
無理して読まずに、暇な時にゆる〜く読んでいただければと願います
レスありがとうございました。
とりあえずまたよろしくお願い致します。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/14(木) 00:44
うひゃー。今自分の中でりかみきがキてたんですっげー嬉しいです!
2スレ目もがんばってください。
19 名前: 投稿日:2006/09/17(日) 14:27
18:名無飼育さん
楽しんで頂けて嬉しいです。

しかし目立たないように底の方でこそこそと更新している自分を
見つけてくれて、レスもらえるのが不思議でなりません
本当に感謝です。
この話は無駄に長いので、ぼちぼち読んでみて下さい
20 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:31
鳥がさえずる頃
矢口達2人は眼を覚まして馬の様子を見て出発する


お互い、訓練をした事や、それを見ていた事は話題にはしなかった


疾走する小さな背中をひたすら追いかける事にも慣れた吉澤は
快調に馬を飛ばす


ほどなく走ると小さな村にたどりつく

ここから本当に昔からのYの国の領土になるらしく
町を囲む塀もあっても役に立たない位のものだが
いちおう門で見張っている兵隊に止められた、もちろん全員Yの国の兵隊になった

今度は前の町からの商人として振舞う事にした
Eの国以前では見かけなかった野菜を大量に二人は買い込み
王都へ持っていく振りをしたらすんなり入れた
保田の言っていた通りだった

田畑を通り抜け、家が多くなってくると
今までと町の様子が違っている事に気づく

なんだか、のんびりというよりぴりぴりという感じがする雰囲気

村の人達は普通に行き来しているし
店なんかもきちんと営業している感じで普通の村なのだが、何か緊張感があるのだ

矢口とひとみは馬を歩かせゆっくり通過していく

人々の視線が敵を見るような視線なのも気になった
自分達の食べ物を購入する時も、店の人の視線はどこか厳しく
こちらを探るような視線だった
21 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:33
兵隊が三人向こうから馬に乗ってやってくると
村人達は道の脇に座って頭を下げ出した

ひとみ達も馬から下りて、それを見習うと、声をかけられる

「お前らは旅人か?」

刀を出して矢口に真っ直ぐ突き出して先頭の男が言う

「いえ」
「どこから来た」

そのまま見下した感じで言われ、ひとみが答える

「パグの町です」

前の町の名前を出す

「何しにこの村へ?」
「この村ではなく、あの・・・王都へ行きます」
「何ぃ?」

刀の先が矢口の首につけられた
矢口は怯えた感じを装いひとみにくっついた
ひとみも矢口を庇うように抱き寄せ「あれを持って・・・」と馬を指し怯えてみせた

その様子と、馬に背負わせている沢山の野菜を見ると剣を鞘へ納めた

「いや、最近旅人に要注意人物がいるという噂だからな
まぁ隣の町からならもういい、行きなさい」

兵が行ってしまうと、村人達は立ち上がって普通に働き出す
ひとみ達も馬に乗り歩き出し、村を通り過ぎる際にまた兵に質問されるのを繰り返すと無事町の外へ出た
22 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:37
「なんだか、兵隊がやけに威張ってるんだな、Yの国っつーのは」

矢口がひとみを振り返る

「うん、感じ悪いよ・・・・早く行こう、後二つだろ」

そして、夜にもう一つ村にたどりつき
門の兵隊には色々チェックされたが、慣れた二人の怯えた芝居に騙され、無事通過する

村の雰囲気は前の村と変わらず緊張感が漂い
ここの村は、村の中心部でさえも人通りはあまりなかった

通過してしばらくして、月明かりの中走る事にも慣れたひとみがふと気づく

「ねぇ、ほんとに山賊とかがいないんだね、Yの国に入ってからは」
「そうだな・・・確かにいないな」

今迄通った二つの町からこっちの家は、雪が溜まらないようになのか
屋根が尖った感じの小さな家ばかりが並んでいた

そんな様子を語りながら軽快に馬を走らせていたが
馬がまた足を止めここで休みを取った

綺麗な川が流れている所があったので、そこに馬をつなぎ
自分達も顔を洗ったり布を濡らして体を拭いた

肌を見せる時、お互い体を見る事は出来なかった
暗闇に浮かぶ月の光が水面で反射する中で

互いにどうという事はないと言い聞かせるのだが
やはり意識してしまうようだ


特にひとみが・・・

23 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:39
だいたい想いを寄せる人の裸に動揺しない訳がない
だから早々に体を拭いた後すぐに横になると、目を瞑った

「あのままのんびり旅してたら、今頃どこら辺にいるかな」

ひとみがいつものように空を見ながら話し掛ける

「ん〜、まだ一つ目の村位じゃね〜か?」

同じ様にひとみの隣に横になって、矢口はひとみの横顔に答えた

「そっか・・・・ちびが始めっからこうしとけば、姫は行方不明にならなくて済んだかな」

「さあ・・・・どうだろ、さすがに体がきついしな・・・・
吉澤だってそうとうきついだろ、今日は訓練しないでいいからちゃんと寝ろよ」

途端ひとみが眼をあけて矢口を見る
まさかこっそり訓練していたのを知られているとは思わなかったから

「無理すんなよ」
矢口が優しく言う

すると再び空を見上げて眼を瞑って、ひとみはそのまま何も言う事はなかった

だから急に不安になって、しばらくひとみの横顔を見ていたが
やがて疲れからか矢口も眼を閉じて寝息を立て出した
24 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:42
その後しばらくしてひとみはまたいつものように起き出して
顔を向けてくる勘太に手を合わせると
静かに剣を持って広い場所を探し、腹筋・背筋・腕立て等を繰り返す

告白したその日から、密かに続けてきた訓練

体がきつくないかと言われれば嘘になる
馬に一日中乗って走ることは、馬はもちろんだが乗ってる方もそうとう体力を使っている
それにも増して、睡眠時間は少なく、今こうやって訓練してる時にも
泣きたい位体が悲鳴をあげているのが解る



それでもやめないのは、矢口の役に立ちたいという想いから


矢口が人を殺したくないのであれば、自分がその代わりに戦えばいい
そうすれば矢口をあの白い世界に旅立たせる事もなくなるだろう

そして、心穏やかに姫のそばにいさせてあげられるようになる気がしていた

矢口の手が血で染まる度に心を痛めるのであれば
自分は鬼にでも何でもなって矢口に手を出させない様にすること


前に梨華から聞いた矢口の言葉
守るというのは、力を使う事だけじゃない・・・・


自分では到底叶わない戦う力
だけど自分達は、自分達仲間はそんな矢口の弱さに気付いた




だから力になりたい・・・・

そんな矢口を守る・・・支える

・・・・それが自分の目標




唇を噛み締め、体からの悲鳴を受け止める

そこで突然の温もりが一瞬にして緊張を呼ぶ
25 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:45
腕のバーミンが光り、ひとみは必死に神経を尖らせると
一人の影が何かをふりかざして襲って来るのが見えた

それを見事によけて、自分も剣を振ると、スパンと枝が舞った

「無理すんなっつったろ」

そう言って目の前に立ったのは矢口だった


持っていた棒っきれを投げ出して
腕の所の服が裂けている所を見せて矢口がにかっと笑う

「危ね〜よ、見ろ、服が破けちまった」

「ば・・・・ば〜か、突然襲って来るからだろ
まだこっちは誰だかは判断しきれねんだから」

剣をだらりと下げて、横を向いて不貞腐れたように言う

「でも今おいらは本気でお前を襲った、それにきちんと対処出来てる
すごいよ・・・お前」

「まだまだだよ・・・・いいから寝てろよ
勝手にやってるだけだからさ、気にすんなよ」

矢口が月明かりの中困ったように首を傾けたが、やがて笑顔になり

「休める今はきちんと休もう、昼間の休憩の時とか
おいらが相手してやるから・・・じゃないとお前に今倒れられたら
困るのはおいらだからさ」

じっとひとみの横顔を見ていると、ひとみが口を真一文字に噛み締め

「解ったよ・・・・ごめん、迷惑かけて」

悔しそうに言うひとみに、矢口の胸が熱くなる

「謝る必要はないよ、さ、寝るぞ」

くるりと踵を返して矢口が歩き出すと、ひとみも剣を鞘に収めて、矢口の後を追った
26 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:47
次の日も、朝早くから馬で走っていくと昼過ぎに一つの村についた
やはり緊張感の漂う雰囲気は今までと変わらず、兵にもしばしば問い詰められた

しかし、慣れた感じで か弱い 商人を演じ、通り過ぎる事が出来る
いよいよ、次がYの国の拠点になる
今までは林の中に道が繋がった感じだったが
夕方になるといきなり広い草原の中に道がすうっと通っていく

匂いも変わった気がする
草原の横には切り立つ山が延々と並んでおり、もしかしたら火山なのかもしれない
硫黄の匂いが漂っている

そんな中を二頭の馬と犬が駆け抜けていくとそうとう目立っている気がした

しかし、途中から
遠い所をあちこちから同じような荷馬車が多く行き来しているのに気づく

そういえば、2人も何台か荷車を追い越した事を思い出す
商人の行き来が盛んだと聞いていたし
自分達が掛けて行くと、荷物を置いてさっと避けた為、気にする事もなかった

夜になり、続いていた草原からまた森へと入って行くと
大きな道の脇に時々わき道がある事に気づく

そして荷車が前から来たのが見えた時に
やはり逃げて行く人達に声を掛けて話し掛けた

「あの、何もしませんから、教えて下さい」

やっと話を聞いてくれる状態になって聞いてみると
どうやらそのわき道を行けば温泉の沸いている場所があると聞いた

そして、荷馬車は、近隣の村から年貢として納められる作物だったり
布だったりという事だった
疲れた顔で言ったその人達は、言ってしまった後に
この事は誰にも言わないでと怯えて訴えてくる

2人は顔を見合わせて、もちろん誰にも言わないけど、と答えると
荷車を引いてとっとと行ってしまった
27 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:52
矢口はもう夜だし、町はもうすぐみたいだから
温泉にでも入ってゆっくり英気を養い明日の朝王都へいこうと言い
小さなわき道があれば入るぞといって歩を進めた

月明かりが遮られる暗い森の中をしばらく行くと
わき道があったので入って行く
すると、岩の中に湯気がたっている広い水場が見えてきた

月明かりに照らされ湯気に覆われたその水場の中に矢口が手入れると
丁度いい湯加減だぞとはしゃいで、奥の方か深いみたいだと先に馬たちを入れた

嫌がるかと思いきや、二頭とも気持ちよさげに入っていた
とりあえず、前の町で買った食べ物を広げ、勘太にも同じ食材をあげていく

「ほんと見た事ない野菜とか果物とかあるんだな、その土地その土地で」

「うん、そういえば自分達の町じゃした事ない調理法が
バーニーズとかでもあったし、面白いよな」

「ああ」

むしゃむしゃと、粉を練って焼く一般的な保存食を食べ終わると
あーそろそろ辻の作った訳わかんないもんでも食べたいなぁと矢口は寝転がる

ああ、と勘太と視線を合わせてひとみは勘太を優しく撫でる

しばらくして勘太の頭を撫でながら
ひとみがうつらうつらとしだすのに矢口が気付くと

「風呂入って早めに寝るか、疲れてんだよ吉澤」

明日が勝負だしな・・と起き上がって笑う矢口

「つ、疲れてね〜よ、そうだな、そういや久しぶりだなぁ風呂なんて
女の子なのにな」

強がるひとみに矢口は微笑む
28 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:55
勘太はお先にとばかりザバンと飛び込み
矢口に早く入ればとばかりに吠えている

「はいはい、すぐ入るよ」

矢口も着ている物を脱いで入るとまず馬近くへ行って
馬の体をそこらで刈った草の塊で撫でてやった

「いつもありがとな」
矢口はそう呟きながらのんびりと気持ちよさそうにしている馬を撫でている

ひとみも照れてる場合じゃないと全部脱ぐと
同じように入って はぁ〜と肩までつかって空を見上げた

渕の岩に頭を乗せて上を見て目を閉じると
あまりの気持ちよさに今何をしに旅をしているのか解らなくなりそうだった

ジャバジャバと近づいて来る音が聞こえるが、ひとみは眼を開けようとはしなかった

「気持いいなぁ〜っ吉澤」
「ん?、ん〜」

「おい、寝んなよ、おいらじゃお前の事運べないんだからな」
「ん〜」

はぁ〜っと矢口は言った後、何も言わなくなった
29 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:56
ひとみがそっと眼を開けて矢口を見ると
ひとみと同じような姿勢で空を見上げたまま眼を閉じていた

ひとみの胸が高鳴る

互いに裸なので、水の中とはいえ、小さな体が露になっているし・・・・
何より静かに眼を閉じて、濡れた髪をすべて後ろに流している姿に
やはりドキドキしない訳がなかった

これではいかんと再び眼を閉じて、頭からその映像を追いやる

「なぁ・・・吉澤」

突然話し掛けられたひとみはビクッとしてしまい、湯が波打つ

「な・・・なんだよ」
「ありがとな・・・・色々」

ちらっと眼を開けて、矢口を見ると
まださっきの状態のままだったので、自分も再び目を閉じた

「気持悪いよ・・・なにがだよ」
「ん・・・色々心配かけたりしてさ・・・・・ありがたいな仲間って」
「ん」

本当は、ウチは仲間だから心配した訳じゃね〜よ・・・
とでも突っ込みたいが、もう言う訳にはいかないのでひとみは短く返事をするだけだった
30 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 14:58


しかし


ひとみの脳裏に一つ浮かんで来た事柄がある



ザバッと身を起こして矢口を見る
その音に矢口も眼を開けてひとみを見た

「まさかここまで来て、城へ行く時は一人で行くとか言い出すんじゃね〜だろ〜な」

矢口はひとみにまっすぐ見つめられて
昨日の夜のように暖かい気持になる

「大丈夫だよ、こんなわけのわかんね〜とこで
お前みたいな危なっかしいの一人置いてく訳ないだろ
そんなにおいらの事信用出来ねんだなお前は」

「出来るかよ・・・・何度も何度もおいてかれそうになってんだから」

ひとみは真っ赤になって馬の方へ向かって行き
自分の乗っていた方の馬にお湯を掛けてあげた



矢口はしばらくひとみの背中にみとれていた
勘太がそばにバシャバシャと泳いでやってくる

ウォン【吉澤って、綺麗なんですね】
「ん、ああ、そうだな」

矢口はそういえばこいつも男だったなと勘太の目に目隠しをして
 見んなよ と耳元で言ってやった

さらにウォフッ【親びんと同じ女とは思えませんね、体つきが】
 という勘太の顔をお湯に沈めた


ひとみがバシャバシャと音がしだした方を振り返ると
矢口と勘太がじゃれあっていた

「何やってんだか」

ひとみは矢口の乗っていた馬にもお湯をかけて労わった
31 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 15:01
無意識に馬の首に抱きついたりしていたら
いつのまにか服を着ている矢口に声を掛けられる

「お〜い、そろそろ寝る所を探そうか」

ひとみが振り返ると矢口が岩に座って
じっとこっちを見ていたという事に気づきザブッと首まで
浸かってお湯を矢口に向かって飛ばす

「なんだよ、見んなよ、寝るとこなんてそこら辺でいいじゃん
また朝風呂に入ってから行きて〜からさ」

真っ赤になるひとみが可笑しくて矢口はけらけらと勘太と共に岩の後ろに向かった

「ああ、そうだな、んじゃ、おいらもうそこらで寝てるから気が済むまで入ってろよ
あ、馬、ちゃんとつないどけ」

「解った〜」

頭の後ろしか見えないひとみの声に矢口は微笑む
岩の後ろが丁度いい具合に広くなっているので勘太と一緒に横になった

湧き上がる水音を聞きながらうとうとと眠りかけていたが
いつまでたってもひとみは来る気配はない

「勘太ぁ〜、あいつ遅〜よな」
ワフッ【そっすね】

勘太は寝かけているのか、投げやりな言葉を返してくるだけだった
32 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 15:03
しばらくして心配になり、裏へ行くと馬が繋がれて寝ているだけで
お湯の中にもどこにもひとみはいなかった

「吉澤〜」

お湯の湧き出る音でよく聞こえないが
どうやら勘太のいる所と逆の方で違う音がかすかに聞こえる

「ったくあいつは」

呟きながら音の方へ行くと
さらしを巻いたひとみがまた剣の練習をしていた

体から立ち上る湯気は温泉で温まったからだけではなさそうだ



矢口はまたひとみの姿に見惚れた
舞っているように剣を振り回し、したたり落ちる汗も本当に綺麗だと思った



そして我に帰る

自分には使命がある・・・

どんなに綺麗な姿に惹きつけられても

気持ちをフラつかせる訳にはいかない



姫と結ばれる迄



フルフルと頭を振り、ひとみに声をかける

「何やってんだよ、もう寝るぞ」
「今日は早いからまだ眠くねんだよ、いいから矢口さんは寝てろよ」

体を動かしながら答えるひとみに、矢口は微笑んで

「しゃ〜ね〜奴だなぁ、んじゃ、相手してやっから、どっか棒探してこいよ」

にっこりと笑ってひとみは近くの地面を探し出す
33 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 15:06
勘太は夜遅くまで、棒がぶつかり合う音を聞きながら
耳をピクピクさせる事になった

汗をかいたと再びお湯に入る矢口達は
また岩に頭を乗せて夜空を見上げていた

天気に恵まれたここ数日
こうやって毎日二人は同じ月夜を見上げて寝ていた

これからこの月を見上げる度に
お互いを思い出すんじゃないだろうか・・・・二人はそう思いだしていた

何もかも忘れ・・・・
二人でこうやって月を見上げていけたら・・・・

そんな心地いい空気を破りひとみが口を開く


「明日はさ、あの町にどうやって入る?
今までみたく正面から入ってく?それとも脇に廻ってこっそり入る?」

「お前はどうしたい?」

「ん〜、前の町でさ、Yの拠点の町へ行くって言った時
兵になりに行くのか?って聞かれた事あったじゃん
・・・・だからその手で行けばいいかなって
誰かに会いに来たっつったって今までみたくいない人をでっちあげても
すぐにばれる可能性があるだろ、商人じゃ城の中にはなかなか
近づけないらしいし、それなら山賊を装って
兵になりにこの町に来たっつった方がいいかなって」

「同感」

のんびりとした声で言うと、矢口ものんびりと答えた
34 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 15:08
「でもさ、兵を募集するっつ〜事は
やっぱどっかに戦をしにいくって事かな」

Eの国じゃなけりゃいいけど・・・とため息をつくひとみ

「ん〜、どうかな・・・・でも、それならおいらは族っつーのは隠して行くからな
余計な事はしゃべんなよ」

ひとみが矢口を見る

「何で?族っつった方が強いからよりえらい人達と会えるんじゃね〜の?」

「吉澤と離れさせられるかもしんね〜だろ
同じ部隊に入り込む為にはその方がいい」

眼をつぶったままの矢口が言っているのを見て

「そっか・・・でもさ・・・・兵隊って実際、どんな仕事してんの?」

「まぁ、色々だけどさ、市中を見回る兵もいりゃ
年貢を取り立てる為に各家を廻る兵もいるし、ひたすら武術の稽古をして王にたてつく輩を
追いかける兵もいるしな、しかしなぁ・・・本当に保田さんが言ったみたく
兵だけの王都なんて存在するんだなぁ」

そんな事ありえないと思っていたけれどと寂しそうな表情

確かにねとひとみも頷く
35 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 15:14
「じゃあ・・・・そんな中で王族に近づく兵になるには?」
「ん、強くなればいい」

ひとみの問いに矢口が力強く言い
再び夜空を見上げる

「そうだね・・・・明日・・・頑張るよ」

矢口が眼を開けてひとみを見る

「大丈夫、吉澤はもう十分強いよ・・・・ただ、兵には圧倒的に男が多い・・・・
馬鹿にされるし・・・なめられる・・・・そして体を狙われやすい
だから、スキを見せるな・・・・
悲しいけど・・・王族の軍っていうのはそんな所だと思え」

十分ひとみの剣の実力は高められている、反射神経もセンスもいい
さっき剣を合わせてみて、矢口はそう感じながらひとみを見つめた

ひとみも矢口の視線を感じながら頷く
36 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 15:16
「Mの国の軍隊もそんなだった?」

何故そんな事を聞くのか矢口は不思議だったが、正直に答える

「いや、元々のおいらの所の兵は半分は農民や町人が
何かあれば集まる感じだったからさ
おいらも工場で働いてたりしたし他の国とは違ってた
じいちゃんと王が築いた国だからあったかい町だったんだ
・・・・・あいつ達が来るまでは・・・・」

ひとみが起き上がって思い切って矢口の方を見る

「あいつ?」

「いや・・・・そんな事はどうでもいいよ
だからさ・・・・・すぐ熱くなるお前には
ちょっとばかり我慢してもらわないといけないかもなって事」

矢口もゆっくりと岩から頭を持ち上げ座るとひとみと視線を合わせる

「・・・あんたの邪魔しないようにするからさ、約束する・・・・
絶対に姫の居所を探ろう・・・・きっと上層部には情報が集まるはずだよね」

ひとみの真剣な眼差しが
矢口に何か勇気のようなものを与えてもらっている気がした
37 名前:dogsU 投稿日:2006/09/17(日) 15:19
「ああ・・・・じゃあ、明日の名前はどうする?
今度は亀田鶴子にでもするか?」

「ほんっとセンスね〜よな」

首を振って呆れるひとみに

「お前程じゃね〜よ、最初なんだっけ、与謝野やよい?」
「おっ、それ結構イケてるよね、今回もそれで行こうかな」

美貴のセンスだし、笑われたらあいつのせいにすればいい・・・と笑うと
あの時ダセーと笑っていたくせにと矢口は突っ込み

「ば〜か、だせ〜って、じゃあおいらはなぁ・・・・・
よし、今回は伊集院さつきってどうよ
大きな町の少し立派な屋敷の表札に書いてあったんだ"伊集院"って
んでなんか"さつき"ってかわいいじゃん?」

「それこそダセ〜から」

全く、と呆れるひとみ

「ダセー言うな」
「じゃあちび」

ぐっ・・・と言葉をつまらせ
バシャッ
ひとみの顔にお湯を掛けた

「ちびっつーな」
「ちびにちびっつって何が悪いんだよ」

バシャッ

そしていつもの展開
その後、お湯をかけあってはしゃぎまくったが
名前はそれに決定し
呼び名は互いによっすぃとさつきという事になったのだった
38 名前: 投稿日:2006/09/17(日) 15:20
本日はここ迄
同じ名字の方、申し訳ありませんでしたm(__)m
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/18(月) 20:28
いよいよ王都へ潜入ですね。
続き楽しみにしてます。
40 名前: 投稿日:2006/09/21(木) 00:13
39:名無飼育さん
はい、いよいよです
レスありがとうございます
41 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:15
翌朝、いつものように鳥のさえずりとともに起床し
夕べ二回もお風呂に入ったため、朝は顔を洗うだけで出発した

町が近づくと矢口達はまた驚く事になった
草原から見えていたとはいえ、いざ近づくと城壁がものすごく高いのだ

「シープの町の城壁にも驚いたけど、こりゃ入りこめね〜な」

でもあっちの山側からなら入れるかもしれないなと隣接する山を指して言うと

「うん、そだね、隙見て調べよ、それじゃ行くか、よっすぃ」
慣れない呼ばれ方にひとみは力強く頷く

颯爽と掛けて行く二人は門に近づいた
門の前に来ると矢口が馬から降りる
ガンガンとしつこく門を叩くと、小さな窓から兵が顔を出す

「何だ」
怪訝そうな顔をすると

矢口と、馬に乗ってるひとみを上から下まで嘗め回すように見て
少しにやつく

「兵隊探してるって聞いたから来たんだけど」

どうやら完全に流浪の山賊を演じるキャラを決めたと思われる矢口が言う

「お前らがか?冗談だろ」
「冗談かどうか試してみろよ」

ひとみも自分の中で勝手にキャラを作り、喧嘩口調で言ったら矢口がにやりとフォローする

「まぁ、試してみる価値はあるよ、おいら達の事」

「・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待ってろ」

窓が乱暴に閉まる
42 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:17

「大丈夫かなぁ?」

つい不安が口から出てしまったひとみ

「ん?何が?」

振り返る矢口に、ひとみの不安はわかってもらえないだろう
自分の未知数な実力・・・
さっき迄の自信ありげな態度とはうらはらな不安な気持ちなんて

「大丈夫だって、絶対おいらが守るから」

矢口が力強く微笑むのだが
ちげーよ、守ってもらいたいんじゃねんだよとひとみは心で呟きながらも
仕方なく頷いた

しばらく待たされると大きな門が開き
馬が入れる位開くと 入れ と声がして入って行く

予想してた通り、町並みはきちんとしており
歩く人達も皆兵隊の服装をしている

田畑等はなく、兵隊の家なんだろう、同じような家ばかりが並んでいた
今迄Yの国の町や村を通ってきた時の貧相な細い家とは違い
ガッチリとした立派な家々


今迄の町の人達の怯えた表情・・・・・
矢口は町の様子やこっちを見る兵の視線を見ながら考える
この国は何なんだ・・・・と
43 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:20
この国への頻繁な商人達の行き来が納得出来る
この町は、外から運びこまれる商人達からの生活用品・食料によって成り立っている

いや・・・・
民を犠牲にして成り立ってる・・・・

こんな・・・・こんな所と我が国は手を結ぼうと・・・

あいつの陰謀にまんまと乗って、こんなとこに姫を一人で行かせてしまった

姫・・・・

随分心細かったでしょう・・・・

やはり自分がもっと早くここに来ていれば・・・・・



後悔の念に苛まれながら
矢口は手綱を持つ手に力を込め
これからの自分の行動を明確に頭に描いていく


門兵が中から来た上官らしい男に志願兵ですと言うと
馬鹿にしたような顔でこっちに来いと馬に乗って走り出し、二人は付いて行く

旧Eの国の城のような立派なお城が真ん中に建っており、そこへ入った

道々また軍服を着ている男女からジロジロ見られたが
相手にせずに付いて行くと
城と思っていたのはもう一つの城壁で
その壁の向こう側の広い敷地の中に本当の城が建っていた
44 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:22
「一応、実力を試すのでここで待ってろ」

城の入り口近くの広い場所を指差されたので、馬に乗ったままそこ迄進み辺りを見渡すと
城の中から沢山の兵隊が覗いていた

「暇なんだね、兵隊って」

ひとみが言うと矢口は苦笑する

「そうみたいだな、はてさてどんな奴が試してくれるのかな」

兵達を見上げた矢口の顔には、決意が漲っている

ひとみはその横顔に少しばかりの寂しさを覚える
今から自分達がしようとしている事は、ひとみにとっては悲しい出来事なのかもしれない

ひとみはゆっくりと目を閉じる
自分は決めたはずだ、この人の力になると・・・・


しばらくしてさっきの男が数人連れて来る、全員女性のようだ

「お前らどっちが強い?」と聞かれ、当然矢口が手を上げる
皆が笑い出す、ちっちゃい方が強いんだぁといった具合だ

じゃあその弱い方から試すからと木刀を投げられ、ひとみは馬から下りる
相手は、ひとみよりも大きく、腕っぷしも太いのを見るとどうやら力も強そうだ

ひとみは内心大丈夫かなぁと思っていたが
矢口を見ると力強い視線をひとみに向けて頷いているので よし と気合を入れる
45 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:24
そしていざ対戦してみると
昨日矢口と交した剣の練習よりも格段に遅く、隙だらけだ

ひとみは余裕で切っ先をよけると、相手の手を叩いて木刀を落とさせ
相手の喉に寸止めで突き刺し勝負はつく

「だから試してみる価値はあるって言ったじゃん」

満足そうな矢口がひとみにそう言いながら近づき
ひとみの手から木刀を取って連れて来た上官に切っ先を向けた

その男も一瞬たじろぐが、目の前の矢口があまりに小さい為
フフンと鼻をならして先程の女性から木刀を受け取りすぐに踏み込んできた

しかし、矢口が宙返りをして避けると着地して
すぐに男の懐にもぐりこみ胴へと木刀を入れ少佐と呼ばれた男は前のめりに倒れた

「少佐」

口々に言いながら連れてこられた女達が少し後ずさる


「弱っ、これで少佐?もっと強い奴いね〜の?」

ニヤリと笑う矢口のキャラは完璧だ

俯き加減の女兵達に言うと
上の見物していた兵隊達から「俺が行く」等と声が上がって動き出し
近くにみるみる人だかりが出来出した

「どうだった?よっすぃ」

木刀で自分の肩を叩きながら、その様子を腕組みして見ていたひとみの隣へと行くと
その集団に対峙する

「ちょろいよ、昨日のさつきにくらべりゃ」

矢口とひとみは並んで微笑みあうと、次の相手が出て来るのを待つ
46 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:26
「何の騒ぎだっ」

と声が上がり人だかりが割れた
後ろから来る男に全員が敬礼し
さっき倒れた少佐が漸く腹を抑えながら立ち上がり報告していた

「ほう、女なのにそんなに強いのか、それでは次は誰が試験するんだ」
「私が行きます、大佐」

さっきの叫んだ男・・・若い大柄の男が名乗り出た
ざわざわと周りの兵隊がざわめく
「そりゃ無理だろ」「いくら何でも中佐には勝てない」等と聞こえて来る

「じゃあ、始めるか?」
「いいよ」

再び矢口が前に出て行く
その男が矢口の剣の先と合わせてから間合いを取る

男が すり足ですばやく矢口を突き刺して来ると、ひらりと矢口は側転をした
だがその避けて行く方向に次々に突きを繰り出す中佐
ひとみの耳に ちっ という矢口の声が届くと
矢口は側転をやめ切っ先を払うと男の間合いに入り込み突きを繰り出すが避けられた

しかしすばやく避けた男の足を払い
往生際悪く剣を振る手を叩き落して男は倒れた

すぐに起き上がろうとする男の腹に矢口は足を置いた後
眉間に木刀の先を突きつける

中佐と呼ばれた男が打たれた手首を持って痛そうな顔で矢口を見上げていた

「はい終わり」

矢口がにっこり笑って大佐と呼ばれたえらそうな人に言うと
野次馬達がざわめく
47 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:28

「お前どこの兵だ」

大佐が矢口に聞く

「どこの兵でもないけど」
「その身のこなしは、どこかの兵のはずだ、ただの山賊じゃ無理だ」

ひとみは矢口にみとれていた、強いとは思っていたが
力を使わなくてもこんなにも大きな男をいとも簡単に倒してしまうなんてと

「こんな性格だからね、2人共、規律とか守れねんだよね
だからどこも雇ってくれないから流浪の旅をしてるって感じかな」

色々な町を点々と暮らして回っている印象を与える

「なるほど、2人共少し奥で待っててくれないか」

その大佐に続いてひとみ達は馬を連れて歩いて行くと
先程迄馬鹿にしたように見ていた野次馬達は静かに2人を見送った

入り口で馬を勘太に預け、城の中に入ってくと
大佐と呼ばれるその男に次々に敬礼をする兵達

二階というにはあまりに長い階段を上り
見張りの兵の敬礼を受けながら一つの部屋に入れられた

ソファに座らされ大佐はドアへと向かった

「ねぇ・・・ここって族とかいね〜のかな」

大佐が警備兵と何かを話して出て行く間にひとみが言う

「どうだろ、あんなに弱い兵隊ばっかじゃね〜だろ
これから出て来るんじゃね〜の?」

警備兵から銃を向けられながらもその兵に顔を向けながら笑顔で言う
48 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:30
ドアが開き、さっきの大佐を従えるように一人の50歳位の男が入って来る

腕の服の中のバーミンが熱を持った時
「君達か、兵になりたいと言って来た女というのは」
「そうだけど」

矢口が言った瞬間、その男が消えたのをひとみは捕らえる事が出来なかった
その上気がつくとソファに寝かされていた

矢口は咄嗟にその男の攻撃を避け、同時にひとみを押しどけると
ソファの後ろに立った男と対峙していた

「なるほど・・・・族の動きにも対応できるのか」
ソファをはさんで睨みあう

大佐と警備兵が驚いた表情で固まっている

「きたね〜な、突然襲うなんて」

大佐が微笑む

「名前は?」
「聞きたきゃ、そっちが名乗れよ」

矢口は迫力たっぷりに吐き捨てる
49 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:31
一瞬佐久間の目に殺気が宿るが、苦々しく笑うと

「これは、勇ましい子が来たものだ、私は佐久間譲二、位は大尉、そっちは小林逸郎大佐だ」
「伊集院さつき、こっちは与謝野やよい」
「伊集院・・・いい名前だ、それで兵になって何かやりたい事でもあるのか?」

いい名前と言われフフンとひとみを見る矢口は楽しそうに言う

「別に、ただ楽して食べれるからって感じかな」
「なるほど、兵隊向きではないな」

佐久間が矢口を睨み、フッと鼻で笑う
矢口がその佐久間の目に迷いを見つけると賭けに出る
戦をするなら戦力は欲しいはず・・・押すより引く事の方が効果的だと

「じゃあ、ここも無理って事で、よっすぃ次の町に行こうか」
「そうだな」

ひとみは、いいのかよこれで・・・と戸惑ったが
矢口がすたすたとドアに近づいていくと、立ち上がって慌ててついていく

「待ちたまえ」

声を掛けられドアの所で2人は振り返ると

「君達の腕を買って、他の兵達に剣術や族との戦い方を教えてくれれば考えてもいいぞ」
「やだよ、めんどくせ〜」

矢口が頭の後ろに手を組んで馬鹿にしたように言うと
佐久間が瞬時に銃で矢口を撃った
50 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:33
しかし、まっすぐに矢口の額に向かって飛んでいたはずの弾が
後ろにいた警備の兵をかすめる
警備兵は怯え、小林も佐久間でさえも驚く

「お前・・・・何者だ」
「言ったろ、伊集院と与謝野っつーの、だてに
この世の中の山賊達やはぐれの族と渡り合って旅してないっつーの、行こう、よっすぃ」

佐久間の苦々しい顔に矢口は笑顔で答えた後、ドアを出た

ひとみはこりゃ頭に来るわ
ウチが佐久間だったら間違いなく乱射してるね 等と考えていた

でもこれではこの城の中に潜り込めないのではと矢口の背中を見つめる
廊下に出ると、ひとみ達をじろじろと見ている兵の間を通って歩き
少ししたところで後ろからドアの開く音がして矢口は微笑む

「楽して食べられるのに、そのチャンスを逃すのか?」

大尉が叫ぶので、2人は振り返る

「あんたらがおいら達を必要としてね〜から他に行くんだよ」

Eの国の方でも行ってみるか、なんだか争ってるみたいだし
おいら達を必要としてくれるかもよとひとみに話しかけると

「ふっ・・・いい度胸だ、楽して食べさせてやろう
しかも望む物は何でも取り寄せよう、だから我が隊の兵に剣を教えてやってくれ」

矢口がひとみを見て笑うので、ひとみも笑った
その後矢口が大尉を見ながらにやりと笑って

「しょうがね〜から教えてやるよ、じゃあ
とりあえずおいら達に部屋を与えろよ、豪華な部屋だぞ」

苦い顔をして大尉が矢口の近くの兵に声をかける

「おい、この2人を上の特別室に案内しろ」

その兵が ハッ と言って敬礼すると
戸惑いながら2人を先導して上へと連れて行った
51 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:35
「城の中って結構豪華なんだな」
「ああ」

Eの国には負けるけどな・・なんてこそこそ会話しながら部屋に着くと
中迄入ろうとした兵を回れ右させて

「ごくろうさんっ」
と矢口がその兵の背中を叩いて外へ出しドアを閉める

ようやく二人きりになって、きょろきょろした後
矢口は中にあるソファに腰掛けため息をつく

「あ〜、しんど、慣れない事すると疲れるなぁ〜」
「でも、すげ〜よ、完全にウチらの事一目置いたじゃん」

矢口は眼を瞑って背もたれにもたれて首を振る

「いや、あの佐久間って奴には気をつけろよ
いつやられるかわからね〜からな、完全においら達を疑ってる」

「そうかなぁ〜」
「ああ、あいつは強いし汚い感じだな、気をつけろよ」
「ン・・出来るだけ頑張るよ」

少し気弱そうに笑うひとみに、矢口はまた体を起こしてひとみに笑いかける

「なんだよ、いつもの威勢のよさはどこいった?」

ひとみは何も言わずに窓へと近づき、外のながめを見た
52 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:37
そんな様子に、矢口が振り返り背もたれに腕をついて、ひとみの姿を追う

「おい、よし・・・・よっすい」
「やっぱすげ〜な、さつきは・・・・」

窓の渕に手を置いて少し前かがみになって窓の外の下の方を見ている
そこには無数の兵隊が戦闘の訓練を繰り広げているようだ

「なんだよ、気持わりぃ」

横顔をずっと見ていると、ひとみの眼にだんだん力が漲っていくのが解り
矢口は胸が締め付けられる気持になっていた

「絶って〜、追いついてやる・・・・あんたに」

ひとみが視線を矢口に向けるときには、胸が高鳴り出していた

「・・・・・すぐだよ・・・お前なら」

しばらく見詰め合う2人の時間を、ドアがノックされた音で壊される


ひとみが歩いて行こうとするのを矢口が止めて、矢口がドアを開ける
53 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:38
やって来たのは先程の小林大佐

「何?」

矢口がするどい視線で見上げる

「どうです?ここは大尉クラスのお部屋ですが、お気に召されましたか」

最初出会った時とは確実に違う上官への態度
矢口は首を一度捻ってフフンと笑うと

「そうだね、気に入ったよ・・・それだけ?」
「いえ、折角ですから、我が軍の大尉達が挨拶したいそうです。
王族と共に他国に行っている者以外はお揃いなので、一旦下へ来て頂けますか?」

王族は今は不在・・・・落胆する矢口

「いいよ、じゃあ行く?よっすぃ」

窓際によっかかっているひとみが、矢口に向かって歩き出すと
矢口もドアから出て小林の後をついていく

下に行くとさっきの階の真向かいの部屋で
大きな長いテーブルにすでに座ってずらりと並んだ男達

年齢は様々なようだ

「私は反対だね」

年配の男がすぐに言い出す

「そうですな、わがYの国の軍隊は、誇り高き軍隊ですぞ
山賊あがりなんぞに振り回される訳にはいかんだろ、いくらその女達が強くても」

「確かに族に対抗できる人材を欲しがる気持ちは解るが、兵になりたいという理由が
楽したいからって、わが国の兵隊とは認められませんな」

ざわざわとそうだそうだという年配達に、若干若めの男達も唸っている
54 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:40
「別にいいよ、今までもそんな扱いだったし、そんなにこの国に愛着がある訳じゃないからね
それじゃおいら達はこの辺で」

ひとみの腕を掴んで部屋を出ようとすると

「とりあえず、この者達の実力を見て下さいよ、皆さん」

佐久間が言い出した

「君の部隊がよせ集めの集団だからこの女達に劣るのも解るが
我々の部隊は生粋のYの軍だからね、こんな子達相手になる訳がない」

「しかし、あなたは私にはかなわないですよね」

イラついたのか佐久間がその男に言う

「君は族だからね、比べる方が間違ってるよ」

矢口とひとみの中に、何かしっくりこない感情が渦巻く
なんか誇りとか言い合ってるけど、こいつらは一体何なんだろうと

そのうちどこの部隊が強いかという議論になっていき
矢口はくだらない事を話している事にいらいらして来た

「あのさぁ、どっちでもいいけど、おいら達って結構強いよ
試すだけ試してみたら?」

言い放った時、一瞬シ〜ンとするが、男達が失笑しだす

「まぁ、そんなに言うなら、一度試してみましょうか
ついでに口の聞き方も教えてあげませんとな」

という事で、最初に戦った入り口前の広い庭に、各部隊から代表された者達が8名揃った
55 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:42
各部隊の少佐・中佐クラスの腕自慢達

やはり上から兵達が興味深そうに見ている

さっきの女とは違う、見た目にも強そうな男達
ひとみは自分がどれ位の実力かが解らない為に、心臓がばくばくいっている

あくまでもそれを表情に出さないようにしているが
矢口にはその様子が解るのか、先に自分から行くと言うように前へ出て

「いいよ、誰からでも相手するから、じゃあ、あんたから?」

一番大きい男を指差す
男が持っている刀は、普通の剣よりも三倍は大きく、そして反っている

その男の上官らしい人物が行けと合図して前に出ると
矢口と向かい合って剣を構えた
さっきまでの木刀ではなく、真剣勝負だった

周りの男があまりの2人の体格の違いに
馬鹿にしたような笑いを浮かべていたが、すぐにそれは消え去る

大きな刃は当たれば胴体も真っ二つになる位威力があるだろうという程重そうだ
しかし矢口の目には並の速さしかなく、すぐに見切れる

しかし、ひとみの中では普通より速いと感じていた
しかもこんな重そうな剣を・・・・

男が繰り出す剣をことごとくかわすが
かわした刀が少し地面を通る度に筋を作り、矢口の服も所々切れて行く

しかし、かわしかたに余裕が見え、矢口が楽しんでいるように見えていた
56 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:45
いつもならとうに倒しているはずだからか焦りが見え
次第に男が大振りになっていき、男の額からは汗が流れ出す

最後は振りぬいた腕の後ろに矢口が回りこみ
腕をさらに押して体勢を崩すと倒れた男の顔のすぐ横の土にザクッと剣を突き刺した

「はい、次」

勝ち誇る矢口の声

別の部隊の男が指名した小柄な男は前に出てすぐに矢口に襲い掛かる
揃った男の中で一番小柄な男はさっきの男と違ってスピードがあり
矢口とはいい勝負のようだ

カンカンと剣を交す音が響き、互いに宙返りや側転で刃をかわしている
しかし矢口がじりじりとその男を追い詰めて行く様がみんなの目にはっきりと解り出す

何が違うのか、やはり矢口は相手の力を利用して先を読んでいるんだ
とひとみは思った

最後は小柄な男が焦りから不用意な突きを繰り出し
待ってましたとばかりにその剣を吹き飛ばし
喉元に剣の刃を寄せるとニヤリと笑って男から離れ、矢口は次の相手を指差す

それを見て、先程ばかにしていた大尉達が矢口を睨んで言う

「もうよい、君が強いのは良く解った、それではそっちの大きい子の方を見てみたい」

苛立たしげな大尉達

「いいよ、じゃあ誰から?」

急に来た矛先に、ひとみは動揺しているのを見せないように落ち着いて言い払う

銃の腕には自信があるが、剣を握ったのはつい最近の事だ
さっきはたまたま同じ女だったからという安堵感が
いつもの訓練での動きをさせてくれたとひとみは自己分析していた
57 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:47
ひとみはちらっと矢口を見る

矢口はそれでも大丈夫とでも言うように余裕の笑みで立っていた

演技?それとも本当に自分は大丈夫と思っての笑み?
戸惑いのひとみの心情を汲み取ったのか
矢口は笑みを浮かべながらも真剣にひとみの目を見てかすかに頷いた

矢口はひとみと棒きれを合わしながら実力を解っている
・・・・いや驚いている

健太郎と一緒に鍛えた時と比べると
瞬発力・判断力が通常では考えられない程高まっていたからだ

身内だからという贔屓目なしで間違いなくひとみは強いと矢口は感じていた

・・だから大丈夫という笑顔

ひとみもその顔に吹っ切れる



普通の体型だが、筋肉質の男が前に出て来る
するといきなり剣を振り回し始めた、しかも舞うように
男の剣は早くよけるのがやっとで攻撃どころではない
自分と同じようなタイプ

昔矢口が自分に言った言葉を思い出す

「弱いおいらは、相手の力を利用するしか勝つ方法はないからね」

そう、今矢口は目の前でその方法を自分に見せてくれていた
すぐにでも決着を付けれた相手だったんだろうが
自分の為にこういう戦い方もあるんだと教えてくれていたと気付く
58 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:50


うん・・・相手の力を利用する・・・・


ひとみは考えた・・・力では男には勝てない


・・・ならば


剣を受け止めるのではなく
相手の体重の掛け方に注目しながら常に剣を流してみた

するとある太刀筋の時、一瞬体勢が崩れたのをひとみは見のがさなかった
きっと普通の人にはわからない程度のバランスのズレ

これだと思い、次に繰り出された剣をはじいて流すと
先程のような太刀筋を作り、同じ動作を呼び込むと一瞬崩れた体勢のどてっぱらに蹴りを入れた

低い呻き声と共に、男の動きが止まり、ひとみは肩口に剣を突きつけた



矢口がにやりと笑って言う

「勝負あったね、お次は?」

戦う相手として連れてこられていたまだ対戦していない男達は俯き

大尉や中尉その手下・・・・多分大佐とかの位迄の兵達が顔を見合す

「その者は自己流のようだが、実力は・・・あるようだな」

内心ひとみはホッとしているのを悟られまいと平静を装った

「じゃあ、我々の部隊の兵に剣を教えてもらう事に文句はありませんよね」

佐久間が言い出すと

「そうだな、じゃあ、わが国の為に働いてもらおうか
位については佐久間大尉にまかせるよ」

やられた男達は矢口達を睨みながら去って行き
年配の男達も渋い顔をして去って行った

ざわめく見物の兵達もいつのまにか姿を消し
佐久間と小林のみそこに残った
59 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:51
「じゃあ昼食後に、あっちの道場に行ってもらおう
今日の昼からは私達の部隊が使用する事になっている」

佐久間が矢口に言うと

「ご褒美は?」

矢口が言い出し佐久間の眉間に皺がよる

「何?」

「なんかないの?折角やっつけてあんたのメンツ保ってやったのに
あ、それに欲しい物は何でもくれるっつったよね」

頭の後ろに手をやって矢口が笑っているのをひとみは少し後ろから見ている

「何が欲しい」

「そうだなぁ・・・・・・・もう男は飽きたんで、女がいい
・・・・うん、かわいい子がいいなぁ」

「は?」

「いるだろ、こんだけ人数いるんだから、かわいい子の一人や2人」

「勝手に見つけろ」

佐久間が去って行こうとする

「は〜い、じゃあ探させてもらうけど、おいらここの事あんま知らないから
色々聞いて廻っちゃうよ、いい?あんたの女がおいらに夢中になっても知らないからね」

佐久間は恐ろしく鋭い目をして矢口を睨んだ後、何も言わずに城へと入って行った
60 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:55
取り残されるひとみと矢口

「勝手にしろって」
矢口は振り返ってひとみに笑顔を見せる

「まぁ・・・探しやすくなったよね、かわいい子を探すって事で」

ひとみの機嫌が悪くなってる事に気づく

「どうした、よし・・・・・よっすい」
「別に」

芝居と解っていても、もし矢口がいろんな人に接触する事によって
誰かまた矢口に惚れる人が現れるかもしれない
そう思うとやはり面白くないのだ

食事は部屋に運ばれて来て、城で仕えている一般人と呼ばれる人達は
皆表情なくもくもくと働いているのが矢口は気になる

昼食をとり大尉に言われた通り、道場に行く
ひとみがスタスタと道場と呼ばれる場所を探しに歩いて行くのを
チョコチョコとついていく

歩いている兵に聞くと、驚いて矢口達をいぶかしげに見てから
無愛想に指を指すだけだった

「軍服着てないと見下されるんだね、ここじゃ」

ひとみが呟く

「そうみたいだな、とりあえずは兵隊の人達と接触して
色々話せるようにならないとな」

早く使用人と仲良く出来る方法考えないとと小声で言う
保田が使用人の方が細かい情報を持っているという事を言っていたから

頷くひとみと共に大きな円形の建物の前に着く

そこは城の入り口から反対側にあった
61 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:56
「道場って、もしかしてここ?」

出入りしている軍服の女に聞いてみる

「そうだけど、誰?一般人は入るなと言われてるでしょ、どうやってここまで入って来たの」

どうやらこの道場には一般人は入られないようになっているらしい

「おいら達、佐久間っつ〜大尉?だっけ
そいつからここで兵に剣を教えろって言われて来たんだけど」

その女が矢口の頭から足までを舐めるように見てから爆笑しだす

「あんたが?まさか」

さっき迄の城向こうの試験の事はこの兵達の耳にはまだ入っていない様だ
あまりに笑い声が大きかったのか、中から何人かそばに寄って来た

「どうした、何かあったのか」

一人の男が声をかけると、その女が説明し、周りで聞いている人達にも笑い声が広まる
ひとみが一歩踏み出した所で矢口が手を掴み動かないようにしたら
ひょうひょうと矢口が言う

「何人位いる?この建物の中」

「貴様っ、我々が寛大な心で穏やかに注意したのに
兵に向かってその口の聞き方はどういう事だ」

後ろにいた男がイキナリ怒り出しズイっと前に出て来て矢口を見下ろす
62 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 00:58
「だって、おいらの方がえらいもん
お前がどういう事?って感じかな、あんたみたいな考え方だったら」


「何だとぉ」

と男が矢口の事を掴もうと手を出した所で矢口はその手を引き倒す

「貴様っ」と次々に剣を抜いて矢口達を取り囲むと
矢口はひとみに動くなよと言い、前の兵へと走り寄る

走り寄ってきた矢口に剣を繰り出す兵を次々に避け
一人の兵の後ろに回りこんで腕を締め上げ盾にした

矢口の方が随分小さい為、盾にされた男の横から顔を出して挑発する

「ほら、どうした、一般人のおいらに勝てない?兵隊さん」


本気になった兵達が一斉に矢口に襲いかかろうとした時
ひとみの腕に熱が伝わる


キョロキョロするとあっという間に隣に佐久間が来ていた


「何をやっている」



その途端に兵隊達はその場で直立し、佐久間に向けて敬礼をした
63 名前:dogsU 投稿日:2006/09/21(木) 01:00
「この者達が、我々に剣を教える等と言い出したものですから
それに、一般人のくせに我々兵に向かって舐めた口を聞くものですから少し制裁をと」

「・・・・・・その者たちが言った事は、間違いではない、私がそう指示した」

兵達が息を飲む

「そう言ったじゃん、兵隊さん」


近くにいた兵の腕をポンと叩いて矢口は佐久間の方へ近づき
兵へと振り返ると

「と、いう事なので、これからよろしく」

とにっこり笑った


「伊集院少尉と与謝野大佐だ、皆、失礼のないように・・・
それと、その口の聞き方をどうにかするように、伊集院少尉」

隣の矢口を静かに見るその眼は
今までになく冷たく怖い視線になっているとひとみは思った

「わかったよ、佐久間大尉」

兵の中にピリッとした空気が流れる中
やはりふざけた感じで敬礼する矢口に皆は驚愕の表情を向ける

「近々出陣予定があるので、早急に伊集院少尉のように族を見切る術を教えてあげてくれ」





その日の内に、ほとんどの兵の間でこの事が伝わっていく事になる
64 名前: 投稿日:2006/09/21(木) 01:00
今日はここ迄
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/21(木) 02:11
更新待ってました。
戦いとかテンポよくって読んでてわくわくします。
ただ一つ突っ込ませてください。
将>佐>尉です。
続き楽しみにしてます。
66 名前: 投稿日:2006/09/23(土) 22:10
65:名無飼育さん
あちゃ〜っっっ、まじっすか?

すみません、全く何も考えずに適当・・じゃない無知なまま書きまくってました
お恥ずかしい・・・
どうしようかとしばらく考えましたが、前回の更新を削除してもらって書き直そうか
等、浅はかな考えを一瞬持ちましたが、今イチやり方も解らないし、
また多くの方に迷惑をかけてしまいそうなので、この話の中では

将>尉>佐
で押し通そうかと思います。

折角突っ込んでいただいたのに、何だか申し訳ありませんでした
違和感が残るかと思いますが、ご容赦下さい
でもレス本当にありがとうございました。
何分突っ込み所は満載ですので、なにとぞまた無知な自分に教えていただけたらと思います。

67 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:14
いきなり少尉に迄上り詰めた志願兵がいるという噂
族の佐久間大尉の攻撃を避けたらしいという噂等が城内や道場内を瞬時に駆け巡る事になり
その後矢口達が強いという事を知ることになった兵達はもう手を出す事は出来なくなる


先ほど入り口で揉めた人達は、佐久間が去った後、渋々頭を下げ去っていった

その際ひそひそと会話をしながら道場へ戻るのを
若干耳のいい矢口が聞きとり呟く

内容は"志願兵のくせに""品が無い"といった具合

「この国ってずぅっと兵同士で出来た子位しか兵にしなかったんだろうなぁ」

代々、兵の家柄でだけ縁を結んで生きてきたという変な誇り

「でも、近々戦するには数が少ないから仕方なく募集したんだろ」

「うん、でもおいら達志願兵がいきなり上位になるのはプライドが許さないって事」

「ふ〜ん、おもしれ〜な」

くだらない兵のプライドがやけにおかしいのか、ひとみが口の端を上げて笑う

「お、腹たてね〜のかよ」
矢口が笑うと

「や・・さつきの邪魔はしないって決めたから・・・それに、成長するんだよ、ウチもな」
「成長っていうのかね、ま、いいからよっすぃは黙って見てな」

若干間違えそうになるが、短い時間の中で互いの呼び名を言い合うのにも少し慣れて来て
軽快に行こうぜと親指を立てるとひとみもだるそうに返事を返す

「へ〜い」
68 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:17
道場に入ると、二人をすごい視線が襲ってきた

それも道場の中の半分、木刀を持って訓練している人達の冷ややかな視線
奥でもくもくと腕立て伏せをしている人達は矢口達の登場に気付きもせずに訓練していた

気付いた兵の対応が思った通りの為に矢口達は笑いたくなってしまう
道場っていう位なので、兵は体を鍛えてる訳だが、矢口の目には
体術と剣術等、実践的な訓練をしているグループが三つ
腕立て伏せ等の基礎訓練の人達の一団とに分けられていると見える

明らかに基礎訓練は志願兵の様子

その中で剣を合わせている所、三つのグループの中で
入り口近くにいたえらそうな女が若い兵に体の使い方を教えてる所に
トコトコと近づいていった

ひとみはあちこちの訓練の様子見て
体の使い方はやはり健太郎に教えて貰ったようなことをやっているんだなぁと思いながら見送る



「へぇ〜、基本に忠実なんだね」

矢口が教えている女に声をかけると

「あなたが新しい少尉ですか?」

冷たい視線を浴びせながら矢口に敬礼する
69 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:21
入り口付近で揉めた人達とは同じ部隊のようで
すでにこの場内にもその話は広まっているのか訓練をする兵の自分達を見る目も冷たい
揉めた人物は、その訓練している兵の中にいるから

「そ、伊集院さつきっての、さつきでいいよ、んであっちが与謝野やよい、よっすぃって呼んでやって」
「そ・・そういう訳には、伊集院少尉」

にこにこ笑って矢口はその女兵に言う

「いいのいいの、んで、あっちの人達にはどうして何も教えないの?」

「その者たちは町民からの志願兵で、まだ体力作りの段階です」

「でも、もうすぐ出撃の予定があるって大尉が言ってたよね
そんな事させてる場合でもないんじゃない?」

「しかし、これは代々のやり方ですから」

矢口は両手を頭に乗せて ふ〜ん というと

「ね、ウチらで教えてもいい?佐久間大尉にも言われてるからさ
とりあえず食べさせて貰える位は働かないとね」

そう言うとしぶしぶ どうぞ というその女兵の横を通り
筋肉を鍛えている人達の所へ行き声をかける

「ずっとそんな事ばっかで飽きない?」

見慣れない2人が近づいて来て
突然話し掛けられて戸惑っている志願兵達
70 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:23

「あなた達は?」

と一番近くの男に言われ、矢口はひとみに一度眼をやり、二人でにこりと笑うと

「おいらは伊集院さつき、少尉だってさ、そんでこっちが与謝野やよい大佐、これでOK」

一斉に全員が立ち上がり直立で敬礼をし

「失礼しましたっ」

と萎縮するので

「いいよ、そんなにかしこまらなくて、それより、どう?何か戦法とかさ、聞きたい事とかないの?」

何の緊張感もなく言う矢口に、皆が戸惑う

いいからいいから、と近くの木刀を二本持って積極的に話し掛けていく矢口に
そのうち少しずつ聞いて来る兵

志願兵二人に木刀を持たせ
矢口は二人の体を動かさせて解りやすく教えてあげていた

ひとみはまだ教える程何か習得している気がしなかったので
その様子を壁によりかかり見ていた

次第に矢口に対する質問が多くなって来て
小さな矢口は兵に囲まれて見えなくなる

そこに先程、矢口と会話していた女兵がひとみに近づいて来た

「あの、与謝野大佐」

71 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:25
一瞬自分の事を言われているのかわからなかったが
すぐに自分だと解りそっちを見ると
上官に対するきちっとした直立不動の姿勢でひとみの横に立って話し掛けて来た

ひとみや矢口達よりも年上だが、階級は自分が上なので
舐められないよう背筋を伸ばす

「何?」
「軍服は着用なさらないのですか?」

ひとみは可笑しくなり

「だって今日来たばっかだし、それにさつき見てよ
あんな小さな軍服なんて今から仕立てないとなかなか無いでしょ」

右手親指で矢口を指してにっこり笑うと、その女兵がくすりと笑い
 そうですね と拳で口を隠した

「しかし、早く作り着用されて下さい、規律が乱れますから」
ひとみ達だけどうみても山賊の風貌の為、目だって仕方ないので声をかけてきたらしい

「そ?解った、どこに言えばいいのかな」
「後でお連れ致します」

最初に、冷たい視線を浴びせていた女の姿はもうないが
そう言った後はまた先程の兵の所に戻り、対戦方式の訓練に戻って行った
72 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:29
質問大会は終わりを知らないかのように熱くなっていき
ひとみはいてもたってもいられなくて自分も中に入り矢口の言葉を聞いていた

そして、道場を使用する時間が終了する鐘の音が鳴ると
一斉に位の高い者を敬礼によって見送り、矢口に質問していた志願兵達は
礼をした後整備や後片付けを始める

矢口達も一応先程の女兵が「こちらへ」と連れて行くので
見送られながらついていった



連れて行かれた所では、陳列棚に軍服が並んでいて
奥の作業台でもくもくと裁縫をしている年配の女性が三人おり

自分達に気付くと一人がそそくさとやって来て、何も言わずに矢口の体の寸法を測っていく

「どうして何もしゃべらないんですか?」

矢口が声をかけると
違う人にひとみに合いそうな軍服を持ってこさせていた女兵が驚く

「この者達に敬語等必要ありません
しかも我々兵に対して言葉をかけようものなら職を失いますから」

この城内で働く一般人は幸せ者でしょう、食べ物にも困らないし
我が国のトップクラスの給料をもらっているのですからと誇らしげ


矢口達が顔を見合わせて驚く

「そこまでしなくていいんじゃないの?必要な事はちゃんと聞かないと、ですよね」

矢口はその年配の人に向かって笑顔で話すと、おじぎをして下がって行った
73 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:32
「あれでよいのです、あくまでも兵と一般人では身分が違いますから」

女兵は満足そうに言う

「どうやら小林大佐のご好意で、お二人の軍服の作成は既に指示されていたようですよ
作成ノートに名前が記されていますから」

矢口の機嫌がみるみる悪くなって行く

「解った、もういいよ、あんたは下がって」
「・・・はい」

納得いかない顔で女兵が部屋から出て行く

「ったく、なんて町だ・・・・こんなくだらない制度が横行してるなんて・・・・」

眉間に皺を寄せてもろに不機嫌な顔をする矢口に

「はは、いつもと逆だな
でも、やっぱそうでないとね、やぐ・・・・・・さつきは」
ひとみが、奥から持って来てくれた軍服に袖を通しながら言う

ひとみに着せられた服の袖丈やズボンの丈を女性達が作業する間
矢口からその女性に何度も話し掛けるが
この制度が体にしみついているのか最後は逃げるように部屋の隅に戻って作業しはじめた


益々機嫌の悪い矢口が歩いて部屋に戻る背中に、ひとみは微笑みながらついていくのだが
矢口がドアの前で止まったのでひとみはどうしたのかと立ち止まる


「誰かいる」


74 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:35
矢口が緊張した顔でひとみをドアの横によけるように言って
一気にドアを開けて入ったら、テーブルの近くに2人の少女がびっくりしていた

食事を運んできたようで、二人の少女も慌てて部屋の隅へ行って
身を縮こませて脇へと並んで頭を下げた

その様子を見て矢口が微笑み声をかけながら部屋に入ったのでひとみも続く

「そんなに怯えないでよ、何もしやしないよ」

2人は俯くだけだった

「食事、用意してくれたんだ、ありがと
でもすごい量だね、よければ一緒に食べない?」

矢口が誘うと首と手をこれでもかという程振って余計に縮こまってしまった

ひとみがその一人の方へ行き肩を抱いてテーブルへ連れて行こうとした時にドアがノックされ
瞬間その子がひとみから離れる

「どうぞ、開いてるよ」

矢口の返事を聞いて入って来たのは小林

「失礼します、伊集院少尉、本日からこの者達に少尉達の世話をさせますので
遠慮なくご命令下さい、佐久間大尉からの褒美との事でした」

「へえ〜、佐久間大尉って優しいんだね
勝手にしろみたいな感じだったのに、じゃあ2人には何してもいいんだ」

矢口の言葉に、立っている二人が前に組んだ手が
ぎゅっと握られていくのをひとみは見ていた
75 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:39
「この2人はあなた達の持ち物ですので何されようと構いません
気に入らなければ殺しても・・・・
それでは、明日は王様がご帰還される日ですのでくれぐれも失礼のないよう
お願い致します、先程仕立ての依頼をなされていた軍服は
明日の朝には出来ておりましょうから必ず着用下さい
朝食が済んだらすぐに私が迎えに参りますので
それまではここでおとなしくしてらっしゃいませ」

「は〜い」

矢口達の返事を聞いて頷くと去って行く

「すっげー、本当に軍服って明日出来るんだ」

ひとみが言うと、矢口もため息をつく

「なんか、納得いかね〜な、この国は・・・・」

矢口が改めてそばに立っている少女達に声をかける

「ねぇ、名前は?」

二人はビクッとして微かに体を震わせじっと俯いている
少女の前に行き顔を覗き込んで優しく笑いかける
ひとみもそばに行き

「名前くらい教えてよ、何もしやしないよ
それにウチらここの兵隊とはあんまり仲良くなれそうにないからね、話し相手になってよ」
76 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:42
下を向いていた子達が矢口とひとみと漸く目をあわせたら途端に赤くなり
二人で恐る恐る顔を見合わせて小さく頷くと

「亀井・・・絵里です」
「道重・・・さゆみです」

と声を聞かせてくれた

やっと口を開いてくれた事が嬉しくて矢口はひとみに視線をやり
にっこりと微笑むと

「おいら伊集院さつき」
「ウチは与謝野やよい」

すっかりこの名前にも慣れた2人は互いの前にいる子の手をむりやり握って握手する

「おいら達の世話してくれるんだね、じゃあ悪いけど
一緒にこの御飯食べてもらえないかな、おいら達には少し多すぎるよ」

「そうしてくれるとありがたいなぁ
どうせここでウチらが食べ終わるの待ってるつもりなんだろ、じゃあ食べようよ」

「でも・・・」

さゆみがしゃべろうとすると、絵里が肘でつついて止める
それを見て二人は微笑み

「いいから」

とひとみが2人の真ん中に入り肩を組むとテーブルに誘導して座らせる

「丁度いすだって四人分あるんだしさ、いいじゃん、別に食べても」

笑いかけてひとみが言うと、やはり何も返してくれない二人に
矢口は悲しい顔をする
77 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:45
「おいら達同じ人間じゃんか・・・・兵隊とかそんなのの前にさ
・・・・なのに、話も出来ないなんて悲しいだろ」

矢口がフォークとナイフを手に取りメインの肉を半分にすると
開いていた皿に載せさゆみの前に置いた

「さつきの言う通りだよ、よし、食べよ、もしかして2人が作ってくれたの?」

既に食べ初めてたひとみが言うと首を振った

「じゃあ、台所で作ったのを持って来てくれたんだ」

同じように切り分けた肉を絵里の前に置きながら矢口は優しく言うと
二人は真っ赤な顔をしてまだかしこまっていた

しょうがないなぁと矢口はまた質問する

「ここで、いつから働いているの?」

矢口は真っ直ぐに絵里の目を見て優しく言い、返事がもらえるのを期待してじっと待った
二人からの真剣な視線に耐え切れず、観念したように絵里が話す

「今日・・・からです」

返事を貰えた喜びよりも、その答えに矢口とひとみは驚く

「は?今日?・・・・もしかしておいらが言ったせい・・・か
・・・・・あちゃ〜っ、ごめんね、じゃあどこから来たの?」

「北の方のすぐ近くの小さな村から参りました」

2人の優しい態度に安心したのかさゆみがすぐに返事を返す
78 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:46
「そう・・・・・とにかく食べな、知らない町で不安かもしれないし
おいら達も今日ここに来たばっかであんまり詳しくないけど、これだけは信じて
おいら達は、兵隊とはいっても、昨日までは一般人だし
普通にしゃべってくれたりする方が嬉しいんだ」

するとずっとこわばった表情をしていた2人は顔を見合わせて
漸くほっとしたように笑い出す

「おっ、いい顔できるじゃん、ほら、食べよ」

さゆみがフォークに手を伸ばそうとしたら、やはり絵里が止める

「やっぱりダメです、さっき上の人から言われて
少尉達の食事が終わったら下の台所でみんな食事するからって言われてますから
それに、分不相応の事をすれば怒られてしまいます」

「そっか・・・」

ひとみは、矢口が本当に悲しそうな顔をして呟くのを見て

「じゃあ、明日からここには食事運ばなくていいよ
ウチらがそこへ食べに行くから、ね、それって良くない?さつき」

沈んでいた矢口が再び笑顔になる

「ああ、それはいい、ここの人たちと仲良くなりたいもんね」

矢口は思わぬ所で目的を果たせそうな流れが出来て喜ぶ
79 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:49
「いけません、兵隊の方が台所にだなんて
そんな事したら私達全員解雇されてしまいます」

絵里は席を立って、部屋の隅へと行こうとする
がっくりと肩を落として矢口が口をへの字にするのを見て、さゆみが

「あの・・・・少しだけ、食べてもいいですか?」

「重さんっ」

「重さんってのか、いいよ、食べなよ重さん、また下でも食べればいいし
お腹一杯にならないように好きな物選んで食べちゃいな」

焦って止める絵里を尻目に、嬉しそうに矢口が言い
ひとみは立ち上がった絵里を再び座らせる

「さつきはさ、皆が仲良くするのが一番嬉しいんだよ、だから諦めて好きなようにやりなよ」
「でも・・・・・」

矢口は目の前の肉を頬張りながら、ん〜と首を捻りにかっと笑うと

「大丈夫、怒られないように黙ってれば、ここには他の人はいないんだし
よし、決めたっ、この部屋ではおいら達は友達だからね」

「そっ、そんなっ、冗談でもそんな事出来ません」

「人がいる所ではしゃべらないようにすればいんでしょ、OK解った
これで絵里ちゃんと重さんには迷惑かからないよね」

「はい」

重さんが笑顔で答えると、目の前にある食事に手をつけだした
80 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:53

「もうっ、重さん」

「だって、少尉も大佐もこんなに進めてくれるし
やっぱりこんなには食べれないでしょ」

「ははっ、重さんはいい子だねぇ、あいつら思い出すよ」

「あいつら?」
重さんが首を捻っている

「あ、おいら達いろんな所をまわってきたからね
知り合いに素直でかわいい子がいたからちょっと思い出したんだ」

ひとみもその瞬間思い出す、幸せそうな顔をして食べている加護と辻の姿を

「へぇ〜、私は自分の村から出るのはここに来たのが始めてで・・・・
それに、まさか少尉様なんてすごい人の付き人になるなんて・・・・」

それから2人は不安からなのか、色んな事をしゃべり出す
矢口の質問に答えていくだけなのだが、それでも二人には勇気のいった行動なのかもしれない

この国は、ここを拠点とした軍事国で、一般の人達は普通に商売や農業
林業、工業、建築、漁業等で暮らしているのだが
労働の成果のほとんどは、王に差し出さなければならず
自分達の暮らしで精一杯という事だった

81 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 22:57
町で売られる食料や物資はとても高い為
軍人の家族等一部の金持ちな人達が物資を独占しているような国のようだ

矢口達が町に入る前に、荷車をよく見たのは
やはりそんな貢ぎ物を運んでいる人たちだったという事

そこで、苦しい生活に疲れた人々は、兵に奉仕する事を望む

それぞれの町の兵の所で働く人々も、一般的な商売人より給料も高く
納める年貢も少なくて済むのが一般的らしいし
ましてや、兵に見初められて妾にでもなれれば一生安泰という

何故妾なのかというと、兵は絶対に一般人と一緒にならないという不思議な国
やはり軍人は軍人としか一緒になれない

男同士、女同士が一緒になるのは、この時代どこの国でも問題ないのに
兵と一般人を差別するのが矢口達には理解できなかった

今回は、急に探さないといけなかった事と
矢口達が若い事からたまたま近くの村に丁度いい年頃の子がいたと
最近絵里達の村からたまたまやって来た志願兵の情報から
2人に白羽の矢がささったという事だった
82 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 23:02
少尉以上の兵には、世話をする者がつくのだが
絵里の話ではひとみは特例のようだ

誰に世話して貰うかは、それまで出世していく中で決める人もいたり
決まった人が見つからなかった人が位を上げる際には
世話人を探す特別出張等もあるらしく
各町でそれらしい兵を見た時には報酬を目当てにアピールする男女の姿があったりするという

各町にいる兵もしかり、兵の家族と共に世話役の一般人も住むのがここでは普通だという

あちこちの村の見目の良い男女がその役につく事も多く
色々な世話までさせられるのが一般的

もちろん、本人の意思は関係なく命令に従わなければ
取立ては厳しくなり一族が路頭に迷うことになる事もあるという
だが家族に支払われる報酬は普通より高いので
家族の為に我慢して尽くしている付き人も結構いるんじゃないかという話だ


矢口とひとみはこんな幼い2人でさえも、この制度がしみついており
その運命に従おうとする事に寂しさを感じる
83 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 23:03
結局、ぺらぺらとしゃべりながら皿が綺麗になるまで食べてしまった絵里達

「ああっ、重さんもうこんな時間っ、早く行かなきゃ」
「ほんとだっ大変」

しかもしゃべりすぎたと慌てる二人

「いいじゃん、もっと話そうよ」

ここの国の事はやはり兵よりも一般の人や使用人達に聞く事が近道のようだ

「いえ、すぐに片付けて入浴の準備をしないといけませんので」

と慌てまくった絵里が早口でしゃべって片付け出す

入浴は、順番があるらしく、片付けて下迄持って行った後
少し後ろの方の入浴順になりますが順番が来たら呼びに来ますと出てった

慌しく出てった二人に圧倒された矢口達は
しばらく口も聞かずに出てったドアを見つめていた
84 名前:dogsU 投稿日:2006/09/23(土) 23:05
ハッと我に返った矢口

「あ・・・どうよ、よし・・・よっすぃ」
「あん?どうって?・・・・なんか胸糞悪い話だったよね・・・・」

テーブルからソファに移ってぐったりと座る

「うん・・・・・何が嫌かって・・・・
それが普通だと思ってる2人が嫌だった・・・・」

「そうだね・・・・・これが・・・Yの国
・・・・・なんか・・・・やだよ」

ぐったりと背もたれによっかかった矢口も頷く

「明日・・・王が帰って来るって言ってたな・・・・どんな王様なんだろう」
「すっげ〜やな奴じゃない?こんな国なんだから」

ひとみが口の端を上げて吐き捨てた
85 名前: 投稿日:2006/09/23(土) 23:06
今日はこのへんで
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/23(土) 23:48
> 将>尉>佐
> で押し通そうかと思います。

自分は65さんではありませんが、そうですか…
頭の中で変換して読んでるけど、、、混乱気味(^_^;)

ついでと言ってはなんですが

> 2人に白羽の矢がささったという

「白羽の矢が立った」ですね。
小姑みたいな指摘して申し訳ないです。
でも、この作品に期待してるので…
お気を悪くなさらないで下さい<(_ _)>
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/24(日) 01:14
もしかして、伊集院少尉という響きがお好きなのでは・・・?はいからさん?

お話はテンポがあって、キャラの個性が生きててとっても気に入っています。
何より、矢口さんが主人公でこんなに生き生きと描かれているお話は他にないと思います。
応援してます。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/24(日) 01:56
更新お疲れ様です。
この二人が登場ですか。Yの国の王もどんな人物か楽しみです。
でもやっぱり階級は混乱しますね。
しばらくこの流れで続くなら今までの葉脳内変換してもらって次回更新からは
訂正した方がいいように思えますがどうでしょうか?
89 名前: 投稿日:2006/09/24(日) 14:17
86:名無飼育さん
混乱させて申し訳ありません
気なんて悪くしませんよ(笑)、元はといえば突っ込ませてしまっている
自分の馬鹿さ加減のせいなんですから
突っ込めずにイライラしている読者さんも中にはいらっしゃるかと思いますので
遠慮せずにどうぞ
レスありがとうございました

87:名無飼育さん
はいからさん?・・石川さんがドラマした奴ですかね?
もしかして沢村一樹さんの役だった人の役名って伊集院少尉ですか?
いや〜、全然気付きませんでした、思わず笑いました。
そうかもしれませんね、潜在意識の中で残ってたのかもしれません
温かい感想とレスありがとうございました

88:名無飼育さん
そうですね、おっしゃる通り、今迄の分は脳内変換して頂いて、これから
訂正してみようと思います
心配させて申し訳ありません。お気遣いとレスありがとうございました


総じて皆様に混乱を与えてしまい申し訳ありませんでした
自分、中途半端がどうも嫌な頑固な性分でして、前回更新にて一度出してしまったのを
半端に変えてしまう方が混乱させてしまうと思い込んでしまっていました
空気の読めない自分にまた反省です。
心配や嫌な思いをさせてしまった人がもしかしたらまだいるかもしれませんね
この場を借りて謝らせて下さい。申し訳ありませんでした

しかしながら何分未熟者な自分はそうそう治りそうもありませんので
また改善点や突っ込みお願い致します
(その後どうすればいいかは皆さんにまた相談でもさせて頂ければと思います)
Yの国編は既に粗で書き上げてたので、階級の変更しながら今後更新する際
もしかしたら変換しきれなかった分が出てくるかもしれませんので
再び皆さんの優しさに甘え脳内変換していただければと思います。
今回更新はとりあえずEの国の状況なので階級の心配なく読んでいただけるかと思います

最後にもう一度、申し訳ありませんでしたm(__)m


90 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:22
Eの国では・・・藤本達が中澤達と話をしていた

「今日もご苦労さんやな・・・・町の人も石川に癒してもらうと楽になるのか
外に出て来る人も増えてるようや・・・・頑張っとるな」

梨華が藤本に眼をやるとにっこりと笑う

「ここで精一杯やれば、きっとYの国に行った矢口さんの力になれるって信じてますから・・・」

「そうか・・・・・ウチらの仲間の中にな・・・ここで暮らしてもええ言う奴が出て来たん
・・・・畑もぎょうさんあるし、田んぼもちゃんと整備されてる
あの山の中と違って、人が沢山おるのがやっぱり嬉しいみたいやわ・・・・
でもな・・・・町の人が望んでくれればの話やて言うてる」

「でしょうね、でも、大丈夫です、確実に町の人たちに変化が表れています。
前を向こうとしている人がいます・・・・そしたら中澤さん達の事
・・・・・きっと必要だと思ってくれると思います」

藤本の言葉に、中澤は椅子にもたれかかって腕を組み

「さすが矢口の仲間やな・・・・・綺麗事がお好きなようや・・・・・
なぁ藤本・・・矢口達が旅立った日に、圭ちゃんが反省して帰ってったやろ
圭ちゃんは、新聞に真実を書きたいねん・・・・・なのにどうやら自分は
他のみんなと同じような偏見の眼で取材してたってな
真っ二つに分かれた意見があって、どちらが真実かを判断する時・・・・
自分は知らず知らずのうちに一般的に強い立場の方の意見を優先させてしまった
だから矢口を悪者にしてしまったと反省してな・・・・・・
だから今頃飛び回ってダックスやシープの意見を聞いて廻ってるやろ真実を探してな・・・
そして、この町に新聞が売られた時
この町がどう変わるかやな・・・・・・結論はそれからや」

「「はい」」

藤本と梨華が力強い返事を返す
91 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:26

あの日梨華と結ばれてから、梨華の力に変化が表れた

今迄使えた力を1とすれば今日は10になった・・・・
簡単に言えばそんな感じだろう

2人で町に出て、積極的に一軒一軒周り、人々の恐怖心を拭い去る事に奔走した

その際、青の軍に召集されていた人が結構帰って来ている事に気づく
その兵も、とがめられるかもという怯えが見えるが
梨華が妻の傷を癒している間に藤本が根気強く話し掛けたりして安心させていた

辻と加護は、歩き回ることが出来出した為
梨華達と町に出て、子供達と遊んだりし始める

中澤や連れて来られた族のみんなは、それぞれ町を見回り
やはり声をかけたりして、パトロールを兼ねて町の様子を確認したり
梨華達がしてるように、お城にあった食べ物等を配給してまわったりしてくれた

自給自足の生活が長いからか、野放しになっている田畑の野菜達が気になるらしく
よく世話をしてあげているようだ

一般の人と交わるのを不安げにしていたのに
族とはいえやっぱり優しい人達なんだなと梨華達は再認識する
92 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:29
そんな一日もまた終わり、日も傾いて来て藤本達が城に帰るときに、ふと加護達が言う

「な〜んか美貴ちゃん達おかしいと思うねんけど、ののどう思う?」
「うん、おかしい・・・・絶対何かあったでしょう」

ちびっこ2人の突然の質問に、2人はドキッとする

「何がおかしいの?おかしくないよ、ぜんぜん、ね、梨華ちゃん」
「うん、普通だよね」

梨華も、手を繋いでいる辻がにやにやしている事に苦笑する

「ま、ええけど、なぁ、親びんが言ってたみたいに、FかYの国の人来るかなぁ」
「うん、絶対来る、保田さんの新聞なんか見たらすぐに来ちゃうかも」
「あのおばちゃんの?」

藤本が優しく頷くと

「もうすぐ出るみたいだし、美貴達もこの町の人たちが生き返らせるのを急がないとね」

早く何か掴んで矢口さんのとこに行きたいでしょと笑う

「せやな、親びんに早く会いたいもんな、ならここの人達には早く元気になってもらわんと」

藤本が加護の肩に手を回して微笑むと加護も笑顔で頷く
93 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:31
夕飯の支度するからもう行くねという2人に
今日もよろしくと藤本と梨華は手を振り二人は人がいなくなると手をつないで部屋へと戻る

「疲れたでしょ、梨華ちゃん」
「うん・・・でも前程体力は消耗してないの・・・・あんなに力使ったのに」

ドアを閉めてソファに向かって歩きながら話、同じソファに腰掛ける

「うん、元気そうだね、よかった」

「多分ね・・・・・美貴ちゃんのおかげ・・・かなって
・・・・・・なんか・・・力が湧いてくるっていうか・・・・その・・・」

あの事を思い出したのか、真っ赤になっている

「何言ってんの?そんなしおらしい事言ってると襲っちゃうぞ」

なんて言いながら立ち上がって窓へと向かった

「いいよ・・・・」

背中から梨華の声が聞こえると、藤本は窓際に寄りかかり振りかえる

「梨華ちゃん・・・・」

ソファに座って潤んだ瞳で真赤になってる梨華に、藤本は理性が飛びそうになる
94 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:32
「梨華ちゃん、そんな優しい事言わないでよ、甘えちゃうじゃない」

言われた梨華は不思議でならない、あんなに愛してくれたのに
・・・どうして甘えちゃいけないのだろうと口を尖らせる

「甘えてもいいのに・・・・私にはそれくらいしか出来ないから」

「・・・・・実はね・・・梨華ちゃん」

梨華はすぐに悲しくなる
あの事は忘れてとか言われてしまうんじゃないかと・・・・・

自分は始めてあんな事をしたのに・・・・・
藤本を好きだと思ったから勇気を出して行動したのにと・・・・

「矢口さんがいなくなって・・・・・ものすごく不安なんだ・・・・・
美貴は矢口さんみたいに優しくないし賢くない・・・・
人の心を動かすような力だって・・・・
なのに、矢口さんは大事なあいぼんやののを美貴に託して行ってしまったでしょ」

梨華はちょっと安心する、昨日の事を言い出す訳ではなかったんだと
・・・・しかし、そんな弱気な美貴を見るのも初めてで驚く
95 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:35
「美貴って、前は優しかった王子の為に色々する為に暮らして来ただけで
王家に尽くす気はなかったから・・・・
王都では仲の良い町の人達一杯いたからまだがんばろうって思えたけど
とばされたあの町民の為にとか、結構面倒くさいと思って
部下にまかせて自分から何かしようとした事ってなかったの・・・・
でも、あの時から矢口さんのそばにいると、私達族は
人間の為に何かしてあげないといけないんじゃないかって思い出して・・・・・
昔の美貴だったら、梨華ちゃんにどっぷり甘えて楽しくやれればいいやって
考えてたかもしれないけど・・・・今は少し・・・怖いんだ・・・・
Yの国とか大きな力に対抗出来るだけの力が美貴にあるかどうか・・・
でもね・・・・その大きな力にあの小さな矢口さんが一人で向かおうとする姿に
何かせずにはいられないの・・・・こんなの初めてで・・・
そして・・・・そのために梨華ちゃんがそばにいてくれる事がすごく嬉しいの
・・・・・だから・・・・だからね」

そこで熱い視線で梨華に向かって歩いてくると、梨華が座っている横に立って話を続ける

「このまま梨華ちゃんに甘えてしまうと・・・・・・逃げてしまいそうなの・・・・
梨華ちゃんだけ連れて・・・・・・2人だけで暮らせる場所を求めて・・・」

藤本が自分の横で立ってぎゅっと握り締めている両手に
梨華は手を差し伸べて両手で掴む

「美貴ちゃん」

96 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:40
「美貴の事・・・・美貴の気持に梨華ちゃんは勇気を出して答えてくれたのに
・・・・そこにどっぷり甘えて、甘えて・・・・」

下唇を噛み締めている美貴の隣に立ちあがった梨華は
少し藤本より背が高いので美貴の事を抱き締めるように包む

「大丈夫・・・・美貴ちゃんは強いよ・・・・ねぇ・・・・
矢口さんの強さは・・・・自分の弱さとかを認めてる所から来るものだと思うの
だから、今の美貴ちゃんを見てると、私も何か力になりたいって思わずにいられないの
・・・・・でもね・・・・美貴ちゃんの事・・・・
ううん、美貴ちゃんに甘えて貰えると・・・私も美貴ちゃんの役に立ててる気もするし
・・・・私も甘えたいし・・・・・・・それに逃げたくなったら
私が叱ってあげるよ・・・・・・だから・・・・
あんまり意識して私から距離をとるのはもうやめて・・・・」

藤本は梨華の背中に手をまわし抱き締める

「うん・・・・よろしくね・・・・梨華ちゃん」

その時廊下から走って来る音が聞こえたと思ったら
ノックもせずにバンッとドアが開く

「美貴ちゃん大変やっ・・・・・って・・・・あ」

2人は瞬時に体を離すが
どうやら加護に見られたようで加護がにやけだした
97 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:41
「あ・・・あいぼん何?大変って」

「やっぱ出来てたんや・・・いつのまにか・・・・・
でも良かったね美貴ちゃん、思いがかなって」

戸惑いながら梨華と眼を合わせると少し照れた

「う・・うん、それで?」

「あっせやせや、町の人がな、城を訪ねてきてん
美貴ちゃんと梨華ちゃんに話しを聞いて欲しいって」

「ええっ、町の人が?」

2人は顔を合わせてすぐに加護に続くと
二十人位の男女が広間に通されて中澤や辻と笑顔で話していた

「あ、藤本さん、石川さん」

その人達は昨日梨華が治療した人達だった

「どうされたんですか?」

「昨日言ってましたよね・・・・
もしかしたらこの町にまた王族が乗り込んでくるかもしれないって」

その中の一人の年配の女性が話し出す
98 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:44
「なんかな、あんたらがこの町のものでもないのに
一生懸命この町の事を考えてくれてる姿に、私達が何かしないとって思い出してんって」

中澤の言葉にみんなが頷いている

梨華は藤本の手をそっと握ると、ぎゅっと握り返してくる・・・・
その手には力を使わずともエネルギーがみなぎって行くのを感じた

「まだ家を出て以前の生活に戻ろうって人は少ないかもしれないけど
今のまま暮らしていても食べてはいけません、中澤さん達が
ここで守っていただけるのならば、私達も元の生活に戻り
中澤さん達への年貢を納める事をしていきたいと皆を説得しようと思います」

「ウチらは年貢なんて王族みたく取り立てようなんて思ってないねんで
国の財政の調整方法なんて解らへんし
ただ、寂しい山奥の生活から人がようさんおる所で賑やかに暮らすのも
悪くないなぁって思ってるだけやねん、畑仕事や田植えもみんなでやってるし
どっかの国が何か悪さしにくれば、戦いに手を貸す事も考える・・・・
今そう伝えててん・・・・・したらな、どうも聞くところによると
夜になると食べ物に飢えた者達が略奪を繰り広げてるみたいやねん
ほやから、今日の夜から少し見回りを増やそうと思ってな
街と森の境目の見回りでなく町の中を・・・・どないやろか?藤本は」
99 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:46
「私も行きます・・・・・もちろん」
「もちろん私も」

「梨華ちゃんは無理、危ないから」
「何で?私も何かしたい」

「梨華ちゃんは、町の人を癒すのが役目でしょ
夜迄働いてちゃ体が持たないし力も弱くなっちゃうでしょ、だからダメ」

「美貴ちゃ〜ん」

「ダメったらダメっ、梨華ちゃんの体が心配なのっ、美貴は」

二人のやりとりを唖然とした表情で見ている中澤や辻加護、町の人達

「なんやねんあんたら、出来てもうたんか」
「「えっ、あっ、あの・・・・・・は・・・はい」」

ニヤつく辻加護をよそに、何とも言えない空気が動き始める
100 名前:dogsU 投稿日:2006/09/24(日) 14:49
「まぁ、ええけど、仲ええのもほどほどにしいや、ウチら愛に飢えてんねんから」
「「そうだそうだ〜」」

中澤に同意するように言いながらも仲良く手を繋いでいる辻加護にもチッと舌打ちし

「もうええから、あんたらもウチらも交代制で見回りしよな今夜から」
「「「「は〜い」」」」




強奪が行なわれている事は中澤達は知らなかった
しかし、今来た者達が教えてくれた

この町の第一歩が漸く踏み出せたような気がしていた

戦争で空家も増えた為、空家を狙う人達もいるそうだし
ここ一ヶ月で、商売がなりたたなくなってしまった町では
それも仕方の無い事なのかもしれないが、ここは元通りにする為になんとかしないと・・・


安堵し帰っていく町民達を見送りながら、中澤達は各々考えていた


なぜ、こんな町の為に寝る事もせずに働こうとしているのか

皆も不思議に思ってはいるのだが、矢口に会ってあの笑顔を見る為には

やはりそうしなければいけないような気になっていたのが不思議であった
101 名前: 投稿日:2006/09/24(日) 14:50
今日はこのへんで

なんか・・・穴があったら入りたいような心境です
これからもよろしくお願い致します。
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/24(日) 20:31
作者さん今回いい対応されてるなと思いましたよ
これからも読み続けますんでこちらこそよろしくお願いします

Eの国で今一番気になるのは石川さんのいろんな変化かもしれない
Yの二人にもドキドキしつつ待ってます
103 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/24(日) 22:22
嫌なら読むなよ的な対応ではなく
読者の指摘を素直に受け入れる姿勢に
作者さんがこういう人で良かったと
この作品を読み続けていた読者として嬉しく思います。
これからの展開も楽しみです。
104 名前: 投稿日:2006/09/28(木) 00:23
102:名無飼育さん
ん〜お恥ずかしいです
Yの国の二人はどうもヘタレからなかなか脱出できないのですが
これからも見守ってあげて下さい。
レスありがとうございました。

103:名無飼育さん
ただの小心者です
心配していただいてありがとうございました
それと、読んでいただいて・・・感謝です



大変申し訳ありませんが
ここで一応前の階級からの変更の確認をさせて頂きます

 矢口 伊集院少尉→伊集院少佐
 吉澤 与謝野大佐→与謝野大尉

    佐久間大尉→佐久間大佐
    小林大佐 →小林大尉

と、これから記述を変えて行きます

珍しく更新分を見返した所、この前の短い更新の中でも誤字が多数あり
再びへこみました。今迄の中での誤字の数はきっと恐ろしい事に・・・
これからはもっと慎重に見直してからの更新を心掛けます

階級の事といい、誤字といい
自分の馬鹿さにはほとほと呆れます

とにもかくにも混乱させてしまい申し訳ありませんでした。
105 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:27
食事の終わった矢口達は
とりあえず今、姫は発見されておらず無事ではないかと予測した

確信を得る情報も、まだ上層部には届いていないようだし
とりあえずここで志願兵を続けて様子を見ようという事になった


少し安心した矢口は、忘れてた、と言い勘太の所へ向かう
すっかり暗くなった城内には火が点されていた

城に集まっていた兵達が帰宅する為に城から外へと帰って行ってるようだ
既に帰宅した兵が多いのか、若干静かな城内

廊下で出入口に向かう兵たちが
矢口達を見るとこそこそしゃべって端へ寄り、敬礼をするようになってしまった


そんな状況で城の出入り口付近に近づくと、勘太が唸っている声が聞こえた

「勘太?」

言った矢口がひとみと顔を見合わせると
午前中に馬を勘太に渡した外へと急ぐ

城から出たら、兵たちが三人で勘太に向かって銃を構えている

「何やってんだっ」

矢口は一目散に走って行くので慌ててひとみも追う

「やべっ」
一人の男がそう言うと逃げ出した

その様子を遠巻きに見ていた兵達も、矢口達を見ながら足早に去って行く
106 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:30
「大丈夫か、勘太」

ワフッ【一応】

矢口が勘太を撫で回しながら会話しているのを見られないようひとみは周りを見回すと
目を合わせないようにそそくさと兵は帰って行く


勘太が怒りからか興奮したように吠えてしゃべりだす

城に犬がいるのが珍しいのか、様々な人が寄って来ては撫でて行ったりするらしい
一応矢口達の犬と馬だという事が知られてる為追い出される事はなかったが
さっきの兵のように矢口達の事を気に入らない兵が腹いせに何度かいじめに来たようだ

一方では、御飯を持って来たりしてくれる人も・・
もちろん兵がいない時に来る使用人は、勘太にどうやらぐちを言って来てたという

やはり、あまりにも横柄な態度の兵の為に働くのを苦にしている人が多いようだ
それにどうやら、ここの兵達はなにやら仲が悪いらしく
最近それが激化してる模様

他の町を多く支配下に置く事が出来た部隊が、より王に認められると思った事から
このような事態になったのかもしれないという勘太の推測だった

矢口がひとみに勘太の言葉を伝えると

「くっだらね〜なぁ〜」

とひとみが呆れた声を出し矢口も頷く

ワフッ【まったくだ】

勘太も頭を縦に振っていた
107 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:32
「ったく、とにかくここじゃ馬も勘太も何されるか解ったもんじゃね〜なぁ〜
きっと馬小屋がどっかにあるはずだよな、目立たないようにそこに入れてもらおう」

誇り高い兵達は、きっと馬小屋になんてあんまり近づかないだろうからさ
と憤慨ぎみの矢口に
あんなどんくさい兵隊にはやられないからねという勘太


だが途中で声をかけられる

「伊集院少佐っ、馬なら私達が連れて行きますので、どうぞお部屋にお戻りください」

駆け寄ってくる兵に、機嫌の悪い矢口は仏頂面で答える

「いや、馬小屋をどこか教えてくれれば自分で連れて行くよ、大切な馬だからね」

兵が一瞬戸惑うが、若干不服そうな顔でどうぞと言って城の裏の方へと連れて行く
連れられて行ったところは、馬が数百頭おり
これを世話する人は大変だろうと矢口とひとみは目を瞬かせた

やはり一般の人が世話する事になっているのだろうが
その人達も夜になって家に帰ったようだ

客人用の馬舎を教えてくれるとその兵も去って行き、二人は自分達が乗って来た馬を入れた


でも矢口とひとみの耳にはどこからか大勢の人の声が聞こえて来る事に気付く

馬小屋の後ろから音が聞こえるので、そこへと向かう
すると百名近い男女が剣を棒に替えて手合わせしていた
108 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:33
2人はその者たちの中に、昼間道場で教えた志願兵の顔を数人見つける

矢口達が近づくと、それに気づいてその人達が稽古をやめて萎縮し
敬礼しはじめ、矢口とひとみは顔を見合わせる

「続けてよ、でもこんな時間に何やってるの?」

伊集院のキャラを思い出したように、矢口はあくまでもふざけた少女を装い近づいてく
昼間いた見知った顔の何人かがお互い目で会話してから近づいて来て

「ハッ、昼間の道場ではいつまでたっても筋肉を鍛える事しかさせてもらえないので
志願兵だけで剣の練習や組み手をやってます」

他の兵達が息を呑む
ある意味、ここの制度への批判にも聞こえる報告に、皆が成り行きを見守る

その状況に矢口は静かに口を開く

「どうしてそんなに強くなりたいの?」

兵たちはそれぞれ顔を見合し、俯いて誰も口を開こうとしない
その様子に業を煮やし、矢口が言う

「じゃあ、ちょっとおいらと手合わせしてもらえるかな」

ざわめく兵達をよそに矢口は近くの兵から木刀でもないただの棒を取り
相手を選ぶ為志願兵達を見渡す

「さぁ誰から来る?」

真剣な矢口の視線に志願兵達の体は動かない
109 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:35
ひとみはそんな小さな矢口の背中を見つめ続けた

「何もあなた達をいじめようっていうんじゃない
ここでした訓練の成果を見せて欲しいだけだよ」

じゃないと何のアドバイスも出来ないじゃん・・・・・とにかっと笑う

昼間何人かには理論的な事ばかり聞かれたが
実践的なことは何も教えてはいないので、本当はこの兵達はどれくらい戦えるのかは全く解らない

恐る恐る一人が手を上げた

「オッケー、じゃあどっからでもいいよ」

矢口の言葉の後、すぐに始まるのだが
ひとみの眼からみても、矢口とはまるで相手にならない
体の使い方からして違っている

そんな相手に矢口は、これからまずここの腕の使い方に注意するといいよと
初歩的なアドバイスを優しくしてあげていた

あらためて見るとこんなに違うんだと感心しているひとみに矢口が言い出す

「ぼけっとしてないで、お前も何か教えてやれよ与謝野大尉」

その言葉に、それでは自分に、とゆっくり一人の兵が近づいてくる

自分はまだ教える事なんて出来ないと思いつつ
自分に近づいて来る兵がお願いしますと言うもんだから
皆が注目する中、ひとみも棒を受け取って、一人と対戦する事になった
110 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:38
昼間対戦した人とも比べられない程、弱い事にひとみは気づく

あっという間に勝負がつくと、皆の感嘆の声が広がる

その人のどこが悪いかなんか解らない
でもきっと重心の掛け方が違うような気がしてそう言うと
次々に私にもご指導くださいと言って来た

矢口は他の人に教えながらも、戸惑いながら教えるひとみの様子に微笑んだ

しばらくそんな事を続けている間に、さゆみと絵里が走ってくるのが目の端に見えた

「伊集院少佐っ、申し訳ありません、入浴の順番が参りました」

兵の前では決して顔を上げずに
少し遠くの兵の横で膝をついてじっとしている

よほど探し回ったんだろう、息が切れて汗びっしょりな二人に申し訳ないと思う矢口達

「うん、じゃあ今日はここまでだね、みんなは毎日ここでやってるの?」

各々顔を見合わせ戸惑っている

「別に咎めたりしないよ、何か目的があって強くなろうとしてるんでしょ、いい事じゃん」

信じられないような目で矢口達を見つめる志願兵達

全員がゆっくりと敬礼していく

「じゃ、明日も来るから、聞きたい事とかあれば考えておいて」
「あ、それと、道場でやってたような筋肉の訓練は、やっぱ基本だと思う、だから決して無駄じゃないよ」

矢口に続き、ひとみがこれだけは言いたかったとでも言うように慌てて言うと
二人で顔を見合わせ頷き合う

そしてにこやかに二人は皆に手を振り、踵を返した
111 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:40
敬礼する兵をバックに歩いてくる矢口達に顔を上げた絵里とさゆみは見惚れた

「ごめんね探させて、じゃ、重さん、絵里ちゃん行こうか」

何も言わずにおじぎをして先導し、風呂場へと案内された
前もって着替えはあるかと聞かれ、ないと答えていたので準備してくれてるらしい

すぐに地下に何個かある浴場の一つに通され
さゆみ達に2人の着ている物を脱がされそうになって止める

「いや、自分で出来るから」
「しかし、佐野様から着替えも手伝うよう言われましたから」

矢口付きはどうやら絵里らしく、赤くなりながら答えてくれた

「いいよ自分でするからさ、あ、もしかして一緒に入るの?」
「はい、お背中お流しするようきつく言われました」

「ありゃ、きつく言われたんだ・・・・困ったなぁ
出来れば自分で入りたいんだけど、おいらも恥ずかしいからさぁ
あの・・・部屋にでも行って遊んでて」

「でも・・・」

「じゃあ一緒に入っちゃえば?二人共ウチら探して汗かいてるし
それに今日からここに住むんでしょ、2人も」

ひとみに言われて戸惑う顔をする二人

「それはちょっと・・・」
112 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:42
「だったら2人はいつ入るの?」

矢口がかわいらしく絵里を見上げると、絵里が答える

「私達は昼間皆さんが稽古に励んでらっしゃる時に
ついでに掃除したりしながら入るそうです」

「それだったら一緒に入ればいいじゃん、そうすれば昼間休めたりするしさ
別に女同士だからいいっしょ」

ひとみがさゆみの服に手をかけたら、キャッと言ってしまった為
ひとみは手を上げて困った顔をする

「あ、いや、ほんとにいやなら無理にとは言わないからさ
んじゃウチら先入っちゃうね、いこっさつき」

「あ、うん」

ひとみがさっさと着物を脱いで入って行くと矢口も続く

「おおっ、すげーなここのお風呂も」
とはしゃぐ矢口

昨日一緒に入ったとはいえやはりすこし恥ずかしいとお互い思っているのだが
そんな様子は見せないようにしていた

絵里とさゆみはしばらくどうしようかと佇むが
よし と頷き、共に服を脱ぎ出す
113 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:44
浴室に入ると2人は大きなお風呂に驚く
自分達の村では考えられない大きさの浴槽

温泉が沸いてるのか壁から常にお湯と、水も流れてきている
近くに井戸もありそこの水で温度を調整しているようだ

先に入った矢口達は、浴槽近くですでに体を洗っていた

「「あの・・・・お背中お流しします」」

真っ赤になった2人が矢口達の背中の後ろに布を持ちながら静かに立って
声を掛けると慌てた矢口が声を出す

「わぁっびっくりしたぁっ、いいよ、自分でするからっ
絵里ちゃんは自分の体をあらいなよ」

「でも・・・」

「おいら達、自分で出来る事は自分でするタイプだからさ
2人には苦労かけるかもしれないけど、考え変えて自由にやんなよ」

既に自分で洗いながら言うと、絵里はじゃあ背中だけでもと言って
矢口の小さい背中をゴシゴシ洗い出した

それを見てさゆみもひとみの背中を洗い出す

「「くすぐって〜からっ」」

見事に2人の声はハモるが
絵里はくすくすと笑いながら矢口の背中を見てすぐに手が止まる

矢口の背中には無数の傷があり、それを見られたと思った矢口は

「ほらっ、もういいからこっち座って、今度はおいらが洗ってやるよ」

止まった手を取り、無理やり絵里を隣に座らせると同じように背中を洗ってあげた
114 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:46
「よっしゃ、これでOK、前は自分で洗えよ」
「はい」

返事の後、ちらちらと矢口を見る絵里に
ひとみにも聞こえない位の小さな声で囁く

「ごめんね、結構修羅場くぐってるからさ、しょうがないんだよ」

山賊だったからさとにっこりと笑うと、絵里は複雑な顔をして俯き
自分の体を洗い出した

絵里は山賊と聞いて驚かなかったのが矢口には不思議に思えた


一方のさゆみは、ひとみの綺麗な背中に布ではなく自分の手を滑らせていた
あまりの綺麗さに触らずにいられなかったのだ

「こらっ、重さんなんかやばいって、こっちゃこい、今度はウチが洗っちゃる」
「きゃっ、やめて下さいー」

きゃっきゃと二人は楽しそう

そして矢口は、湯船からお湯をすくい自分の体を洗い流すと
湯船に入ってはぁーっと息をつく

口を湯船につからせてぶくぶくと息をはくと
同じようにひとみも入って来る

絵里達はどうしたのだろうと後ろを振り返ると
こちらを見て本当にいいのだろうかと布で体を隠しながらもじもじしていた

「何やってんだよ、じゃあ、命令、こっちきて一緒に入りなさい」

優しく笑って言うと、二人がすごすごとやってくる
115 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:47
大きな湯船で矢口達から離れた所に
二人はくっついて入って行ったのが可笑しくて、ひとみはわざと近づく

真っ赤になって俯く2人の間に入り込みひとみは面白がって肩を組んだ

「そんなに恥ずかしがるとこっちが恥ずかしいじゃんか
もっと気楽にいこうよ、ウチらの面倒みてくれるならさ」

湯気を通し三人の中から無意識にひとみに目がいってしまった

ひとみの白い肌がほんのり赤くなっているのが妙に照れくさくて矢口は眼をそらす

そして、前に梨華が言っていた事を納得する

ひとみは間違いなくもてていたんだろう

それなのに何で自分なんかの事を好きだなんて言ってくれたんだろう・・・・そんな事を考えていると再び二人を連れて矢口の方に戻って来た



「ね、明日は何時に起きなきゃいけないとかあるのかな」

ひとみが戻りながら絵里に聞くと、まだ顔の赤い絵里は

「はい、昼頃に王様が帰ってこられるそうなので
早めに食事を済ませて、迎え入れる準備をさせるようにと言われました」

それに私達がちゃんと起こしに行くので大丈夫ですよと笑う

「そう、それで王様って今どこに行ってたの?」

ひとみが問いかけるのを聞いて
そういえば肝心な事を調べなかったなと矢口は苦笑した
116 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:49
「え・・・・と、どこだっけ、重さん」
「え・・・と・・・・え・・・・と」

2人が悩んでいるのを微笑んで見ている2人

「あ、Fの国って言ってたよね」
「そうそう、そんな所だった」

思い出してほっとしている2人は
今まで他の国の事なんて考えた事なかったんだろうなぁと矢口達は思う

それにFの国・・・
そういえば保田がFの国が今標的になっていると言っていた

他の上官達がここにいて、王族だけがそこに行くというのは
もう既に制圧された後か・・・と考える矢口

「じゃあさ、2人は新聞とか読んだ事ある?」

矢口が言うとやはり二人は顔を見合わせて首を振る

「そっか、じゃあこの国の事好き?」

2人は口をつぐんで話さなくなってしまった
その沈黙はしばらく続き、矢口達は顔を見合わせる

すると絵里が突然

「あっ」と言って立ち上がり
そろそろ次の順番の方が参られますのでと言われ、手を引かれて浴室を出た
117 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:51
準備されたガウンのような服を着ると
矢口には大きかったのか子供が父親の服を
間違えて着てしまったようになってしまい三人に笑われる

ずっと矢口達が来ていた服は絵里達が後で洗って持って来てくれると言った

少し機嫌の悪くなった矢口に追い討ちをかけるべく
いつまでもひとみが指を指して笑い、2人もくすくすと笑う

部屋に戻る廊下で他の兵や警備兵に会うと
この服自体が上官の証でもあるのか
一般の服を着ている時とは対応が違っていた

しかし、矢口の事は見ないようにしながらも廊下の端で
敬礼する人の顔は若干にやけているのがひとみには可笑しかった

部屋に戻るとひとみは大爆笑してソファに座った

「吉澤ってめ〜笑いすぎなんだよっ」

言ってしまった後、自分が吉澤と言った事に気づいた
絵里とさゆみが首を傾げる
やばいと思って平静を装う矢口に誤魔化すようにひとみが声をかけた

「さつきぃっ、かわいいって事だからそんな怒るなようっ」

座っているひとみに、上から頬を抓ろうとするが、ひとみの抵抗にあう

「だって、よっすぃ〜がばかにしたように笑ってるからよぉ
・・・・このでくのぼう」

子供のように手をはらい合っていたがようやく矢口がひとみの頬を捕まえた

「いぃたいって、こらっ、ちびっ」

2人がほっぺを摘み合いながら喧嘩しているのを
絵里とさゆみはにこにこと笑いながら見ていた
118 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:53
矢口が突然ひとみを突き放し
「そういえばお前らも笑ってただろっ」と絵里とさゆみに近づくと
二人の間で首をつかまえてぶらさがった


矢口は今、2人の顔が笑顔になっている事が嬉しかった

「ねぇ、2人は今日からどこに住むの?」

首に抱きついたまま矢口が聞くと

「はい、隣の部屋です」
「隣?へぇ、ここで働く人は皆ここに住んでるんだ」

「いえ、使用人はこの町で兵と一緒に住んでる人と
上官の人の部屋に泊まっている人以外は、裏の建物に住んでいるそうです」
「へぇ・・・」

そういえば馬小屋の向こうに城とは違った
無機質な建物があったなぁと思い出す

ひとみがソファに座って膝に肘をついて手を組んだまま矢口達を見ていた

「んで隣って?」

矢口が聞くと
2人が同じ場所を指差す衝立
矢口は二人の間から離れ、その衝立の裏に近づく
119 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:54
「よっすぃ〜、扉があるよ、絵里ちゃん開けていい?」
「はい」

矢口が開けるとこの部屋とは比べ物にならない程狭い粗末な部屋に
ベッドが一つ置いてあり隅に絵里達の荷物らしいものが置いてあった

「おいおい・・・えらい違いだなぁ、しかもちっちゃいベッド一つしかないじゃん
なんならこっちに来なよ、おいらソファで寝るからさ」

「「とんでもないですっ、そんなのが佐野様にばれたら大変です」」

必死に首を振る絵里達

「佐野様って誰?」

怪訝そうなひとみが聞く

「私達みたいな一般人を取り仕切ってらっしゃる兵の方です」

「まぁ・・・誰が入って来るかわからないしなぁ・・・・
本当にこのベッドに2人寝れる?」

2人は頷く

「んじゃ、今日はありがと、もう休んでいいよ、明日もよろしくね」

「「はい」」

おじぎをした2人が衝立の向こうのドアに入って行ったので
ソファの所に戻るがすぐに外の廊下に出るドアから出た様な音が聞こえる

「あいつらまだ働かされるのかなぁ、今出てったみたいだけど」

「そうだね・・・・なんかさ、ほんと変だよね
こんなに兵が威張ってるなんて」

「うん」
120 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:56
「あっ、さつき、さっき名前違ってたろ、慌てたよ・・・・
しっかり2人にも聞こえてたみたいだし」

「ごめん、でもお前がおいらのこの姿見て茶化すからだろ」

ガウンのポケットに手を突っ込んで俯いて拗ねている様子に
ひとみは心底かわいいと思い

「だってかわいんだもん・・・さつき」

つい口から出てしまう

「ば〜か、ざけんな」

拗ねた口をして矢口はベッドに行き自分達もそろそろ寝ようと言う

ここはとても大きなベッドが一つあるだけだが
余裕で2人寝れる為一緒のベッドでいいと思われたのだろう

そしてひとみがベッドに近づいて毛布をひきはがそうとする

「何やってんだよ」

矢口が起き上がって毛布を引き止める

「あっちで寝るんだよ」
「何で」
「さつきと一緒には寝れない・・・・悪いけど」

ぐわっとひとみが力づくで毛布をひっぱりソファへと行く
121 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 00:58
「こ〜んなに大きいんだぞ、一人で寝てるのと対して変わんね〜だろ」
「無理」

そう言ってひとみがソファに縮こまって横になった
あんたに何するかわかんね〜からだよ と心の中で呟き不貞腐れるように目を瞑った

「全く・・・・」

ため息をついて一度寝る体勢を作るが
明かりを消していなかったと、矢口は起き上がってその姿を見ると
大きな体が縮まっているのがなんとも不憫で声を掛ける

「ならさ、こっちでお前寝ろよ、おいらちっこいからそっちでも足延ばせるし」
「え、いいよ」

と、背中を向けてしまう

「なんか・・・・いじめてるみたいじゃん、だからあっち行けよ」

ひとみの腕を引っ張ってベッドに押しやると
矢口は火を消してソファに横たわった
ひとみもそっとため息をついてベッドに横になった
それからかなりの時間が経過すると
眠っていた矢口はかすかな絹すれの音に眼を覚ます

「よし・・・よっすぃ〜?」

目をこすりながらソファの肘掛から覗くと
暗闇の中ベッドの脇でひとみが腹筋している姿が眼に映る
122 名前:dogsU 投稿日:2006/09/28(木) 01:00
「あ・・・ごめん、うるさかったかな?」

腹筋をしながらひとみが言う

「ん・・・・いや・・・・でもさ・・・・今日解ったろ
お前は普通では考えられない程の速さで戦い方を覚えてるし、強い・・・
きっと才能があるんだろうな・・・・・だからさ
そんなに無理することないよ」

窓から差し込む月明かりにひとみの額の汗が光る
結構長くやってるんじゃないかって気づくが、ひとみはやめる事をしないでこう言う

「ウチの目標はやぐ・・・さつきだから・・・・気にしないで寝てろよ
ウチも後少ししたら寝るから」


矢口は不思議でならない・・・・

生まれた時から運命のように姫に尽くすために
ひたすら鍛えてきた自分とは違って
一般人として平穏な生活を送って来たひとみに
ここまでする必要がある訳ないのにと

「・・・・・・解った・・・でも無理するなよ
、まじでお前に倒れられたらおいらどうすればいいんだよ」

「・・・・うん、解ってる・・・・
健太郎さんに毎日するよう言われた分だけだから、もう少しで寝る」

ずっと矢口に視線をやる事のないひとみは、フッと微笑んで腹筋を続けた

「ん・・・・おやすみ」
「おやすみ」

挨拶の時だけ矢口に視線をやり微笑んだ
その顔がすごく綺麗だと、矢口はまた感じてしまった
123 名前: 投稿日:2006/09/28(木) 01:00
今日はここ迄
124 名前:さみ 投稿日:2006/10/02(月) 04:21
作者さん、がんばれ!
125 名前: 投稿日:2006/10/03(火) 21:42
124:さみさん
月末と決算の疲れで萎んでいた自分に
なんだか空気を入れてもらった気分です
励ましの言葉ありがとうございました
126 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 21:44

トントン

「ん」

トントントン

「んん、ぐぁ〜っ、どうぞ〜」
矢口が半身を起こして目をこすりながら声を出す


ガチャガチャと合鍵の音がすると

「「おはようございます」」

絵里とさゆみが矢口達を起こしにきた

「「おはよ〜」」

ひとみもぼんやりと起き上がった

昨日は私服のようだったが、今日は2人共付き人らしい制服になっている
その手には昨日仕立てをお願いした軍服が持たれており
二人はそれぞれの近く迄持って来た
127 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 21:46
絵里はどうして少佐なのにソファで寝てるんだろうと一瞬思ったが
この人は位には頓着がない人だというのをやっと理解してきたので何も言う事はなかった

「ここに軍服を置いておきますので、身支度を整えてて下さい
すぐに食事をお持ちします」

矢口が座るソファの前のテーブルに軍服を置く絵里

「早いね〜2人共、昨日はちゃんと寝れた?
あのベッドが狭かったらよっすぃのベッドに寝てもいいよ
おいらとは一緒に寝たくないらしいから開いてるし、三人でも平気じゃない?あれなら」

寝ぼけ眼でむくっと起きてたひとみも
矢口の言葉に頷き、何故か近くにいたさゆみの頭を撫でていた

「いえ、大丈夫です、実はどんな人のお世話係になるか少し不安だったんですけど
少佐達がお優しいので昨日は安心して寝れました」

昨日とはうって変わってよくしゃべるようになった絵里が笑顔で答える

「そ、良かった、やっぱ笑顔が一番だね、んじゃ顔でも洗って来ようかな」

矢口の言葉に絵里が慌てる

「あ、すぐお水お持ちしますから先に着替えられて下さい」
「え、いいよ、水持って来るってどこから持ってくるつもり?」

矢口が毛布をたたみながら言うと、それも絵里に取り上げられてしまう

「下からですけど・・・・・いいんです
とにかく少佐の身の回りのことはすべて私がさせていただきますから」

きつく言われてますので・・・・と頭を下げる
128 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 21:48
「え、だって水って重いでしょ、それならおいらが下に行った方がいいじゃん」
「困ります、少佐が下の水汲み場まで来られる事自体が問題になってしまいます」

矢口はまたかとはぁ〜とため息をついて再びソファに沈む

「絵里ちゃんが怒られるの?」
「はい」

笑顔でそう言う絵里に

「ん〜、んじゃよろしくね・・・・はぁ〜めんどくせ〜」
「まぁいいじゃん、それで絵里ちゃんと重さんの笑顔が増えるならさ」

真っ赤なさゆみの肩に手を回してるひとみ

「ん〜んじゃ、軍服に着替えてればいんでしょ、よろしくね」

「「はい」」

2人の顔は少し赤くなって部屋を出て行った



「なんだかなぁ〜」

矢口はそのままソファに腰掛けて胡坐をかいていた

「ほら、早く着替えようよ、やっと王様に会えるんだからさ
気合入れて行かないと目的が果たせないじゃん」

ベッドの上に置かれた軍服を手にとって広げるひとみ

「そうだな」

情報収集の為には王族にも近づかないとなぁ
と何か考えてる風な矢口をベッドサイドから静かに見つめるひとみ

よしっと気合を入れて矢口が着替えようと服を脱ぎだすと
ひとみも後ろを向いて着替え出した
129 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 21:50
一晩で出来上がった矢口の服はぴったりだったが
やっぱりかわいいとしか言いようのない姿でひとみは微笑む

そんなひとみが着替えを終えて近づいて来ると
今度は矢口がひとみを口をあけて凝視しだす

「な、なんだよ」

矢口を見てなごんでいたひとみは矢口の視線に眼をそらす

「いや〜、似合うなぁって思ってさ」

あまりに似合いすぎるひとみの軍服姿
動揺しているのを気付かれまいとしているのか、すぐにひとみは口を開く

「ま、ウチはちびじゃないからさ」

矢口は見惚れていた顔をむっとさせて口をへの字にした

「ちびっつーな」

何度言わせればいんだよとむくれてる矢口に
微笑むひとみは微かに息を吐いて矢口の横をすり抜ける

「でもさ・・・かわいいよ、なんか」

窓へと近づきながらボソッと言ったひとみの言葉が矢口には妙に照れくさい


しかしすぐにひとみが空気を変える

「ちょっ、やぐ・・・さつき、ちょっと見てよ」

窓から外を見た途端ひとみが矢口を手招きする
130 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 21:52
矢口は近寄って同じ窓から外を見ると
もうすでに兵達が式典の準備や行進の練習を始めていた

行進が一糸乱れぬ統一感で行われ
奥の部隊は全員の敬礼の角度が綺麗な角度で決まってたりと
なかなか壮観な光景

「なんかすげ〜なこの国は・・・・
ん〜この一体感が自主的なものだったらたいしたもんなんだけどな〜」

ひとみはそう言って感心している矢口の横顔を眺める
この人は、自分が信じた事なら何でも認めてしまうんだなと
例えそれが他の人から見て不幸だと思われたとしても
・・・きっと彼女は認めてしまう・・・・そう思いながらひとみは微笑んだ


トントンとドアがノックされ再び絵里達が
同じ桶を持ってよたよたと入って来た

「お、ありがと重かっただろ」

2人共すぐに首を振っている絵里達に近づいて
桶を脇にある鏡の前の台に置くのを手伝った

すみませんと言いながらも
絵里達は一瞬軍服姿の矢口とひとみに見とれたが
慌てて食事をお持ちしますとすぐに出て行く

「はぁ〜、なんか堅苦しいな、ずっと自由に旅してきたおいら達からしたらさ」
「確かに」
131 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 21:54
二人並んで桶の中の水でバシャバシャと顔を洗い出す矢口とひとみ
持って来てもらってた布で顔を拭くと鏡で自分の髪を整える

「うわぁ〜、やっぱ似合わね〜な〜、おいら」

鏡に体のあちこち映してる矢口は小動物のようだった

「まだ言ってるよ、伊集院少佐」
「げっなんだよ、与謝野大尉」
「うっせ〜よ」

なんてしばらく矢口とくだらない事で言い合っていると
世話係の二人が動く台に食事を載せて運んできた
2人はテーブルに食器を並べながら

「私達は後でいただきますので気にせずどうぞ」

矢口の聞きたそうな事を予測して先に絵里がしゃべった

「ははっ、さつき読まれてるじゃん」
「あ、うん、じゃあ、いただきます」

きちんと矢口が手を合わせて食事を始めると
にこやかに絵里達が桶を持って部屋を出て行く
132 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 21:57
「あいつらも忙しいよな、これじゃ・・・・まだ子供なのに」
「ああ、でもさつきの面倒みれるのが嬉しそうだからいんじゃね〜の?」

「そ〜か?まぁ・・・どれくらいここにいる事になるかわからね〜けど
あいつらに迷惑かけないようにしないとな」

「ん、それだよ、姫がどっち方面にいるのかの情報掴んで、とっとと探しに行かないと」

「うん、それには今日、王がどんな人なのか・・・・
それにこの国が本当は何を目的にしているのかを見極めないとな」

「ウチは、なるべく黙ってるからさ
何かやばい事しそうだったらいつものように止めてよね」

「ははっ、解ってるじゃん、大丈夫、お前の事だから臨機応変に対応してくれるって思ってるよ
たださ・・・周りの気配には十分注意しろ」

「気配・・・・」

最近その気配を読むという事が
どんなに重要で難しい事かを身を持って知っているひとみは不安そうに呟く

「そう、ここの人たちは誇りが一番みたいだからさ
すぐにおいら達に殺意をもつ奴が出て来るはず、まぁ出来るだけおいらも
与謝野大尉の事守れるよう頑張るけど、お前自身も気をつけろ、いいな」

その心情を知るかのように卵を頬張りながら
矢口は真剣な顔でひとみを見ている

「うん、大丈夫、ウチも大分気配読めるようになったはずだから」

笑いながらもひとみの顔には多少不安の色が出ていて
そんなひとみの強がりに矢口も微笑む

お前なら大丈夫だと・・・
133 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 21:59
食事が終わった頃戻って来た絵里とさゆみが

「佐久間大佐がお呼びです」と入って来たので
わかったと言って二人は出て行く

大佐の部屋は、今矢口達のいる階の使用人の部屋を挟んで隣の部屋
小林が既にドアを開けて待っていた

「おはようございます」
挨拶と共に小林が矢口に敬礼すると矢口とひとみもにこっと敬礼をして入ってみた


「おはよう、伊集院少佐、与謝野大尉」
ゆったりと座った大佐が威圧的に言ってくると

「「おはようございます」」
矢口とひとみはするどい目つきで敬礼する


「軍服を着ると性格まで変わるのかね
ちゃんと敬礼が出来るようになっているではないか」

「その辺は順応性があるんでね、なかなか似合ってるだろ」

しかし、すぐににかっと笑う矢口の口調はそのままであった

大佐の口が歪むと慌てるように小林がドアを閉めていた

まさか二人に突然襲い掛かる・・・
なんて事があるかもしれないと二人は緊張する
134 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:02
「まぁいい、しかし前もって確認しておく
私が何故君達のような山賊を兵の、しかも少佐や大尉の位につけたのかというと
少し特殊な任務を遂行してもらおうと考えていたからだ」

矢口はその瞬間、ほら来たと思いながらそのまま大佐を睨みつける
自分達で仕組んだ事ながら
思惑がなければ、この国でこんな役職に山賊あがりを置く訳がない

「Fの国から帰って来られる国王、王子には
我々部隊の中で最強と言われる部隊が同行し、任務を遂行して来た
次は我々の部隊が実力を見せる為
旧Eの国の拠点地区及び族が支配する町へと向かわなければならない
いや、我々の隊がやらなければ意味がないのだ」

すぐにでも戦いに行きたそうな佐久間に矢口は思う

他の大佐を出し抜く為だけの策なのか?
・・・・・そして本当にただの出世争いの為だけの争い・・・・・

そんな事はさせない、そんなくだらない事で中澤達・・・
それに瞬や加藤・俊樹達と対戦する事等ありえないと矢口は静かに視線を下げる

いや、しかしここは山賊あがりの自分達のキャラから
野心家を装わないと・・・と顔を上げにやりと笑いながら佐久間に言う

「じゃあおいら達に、その支配する役目を?」
135 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:07
その笑みを馬鹿にするように佐久間が答える

「そんな重要な事は我々がやる、いや、戦の際は
君達二人が切り込み隊長になってもらわないといけないとは思ってるがな
あそこが我々の支配下になれば、我々が今後進めようとしている
全国統治の為の通り道がぐんと近くなるのだ・・・
今まではあの町のせいで我々は遠回りをし、冬には雪深い北の方を迂回して
取引を行わなければならなかったんでな・・・・
しかし、どうも旧Eの国にいた王族崩れが、我々より先に族の町の支配を狙っているようだ
きっと我々の支配を恐れ、自分達の力を誇示する為だと思うが
そううまくはいかないはずだ・・・・
あの町の族は殺人者の集まりのようだしなかなか手強いとみている
とにかくその二つの町が戦をすればどちらも傷つくのは間違いない
今がEの国と族の町を同時に支配するチャンスだ・・・すぐにその戦がどうなったか連絡が来るだろう。
そこでだ、その町に多数いる族が相手では、いくら我が国の優秀な兵が戦っても分が悪い
相手が見えないんだからな
だから君達には、とにかく早急に族を見切る事の出来るコツを我が隊に伝授してもらう為に
わざわざ高い位においたのだ」

ただの兵の言う事等、我が誇り高き兵達は聞きはしないだろうからな

・・・・とうっすらと笑みを浮かべたが

二人は「え?」と驚く


加賀達がダックスやシープを襲った事をまだここの連中は知らない
それが矢口とひとみには不思議でならない
136 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:09
通ってきた町では、戦いが始まった事を知っていた。
確かにその様子を探る気配はあったし、どうなったかを調べていたはず

なのにその戦が終わった事・・・
いや、始まっていた事すらまだこの町は知らないのかと


多分この国の特徴・・・きっと一つの事柄に対する報告が
もし間違っていた場合の責任の所在等を考えた各町の上層部が
王都への報告を慎重にしている為に遅いんではないかと読む矢口

組織を厳しくしすぎた際におこる弱点だなと矢口は納得する

考え事をしていた矢口は、怪訝そうな顔で佐久間が見ているのに気付き慌てて言う

「でも、歓迎されないおいら達みたいな山賊雇うより
大佐が教えればいいんじゃない?族なんだから」

そんな事を考えてたのかと口の端を上げて笑う佐久間が口を開き

「それが出来ていれば、君なんかに頼む訳がない
私は生まれた時から見えるのだから、人間が見えるという事が重要なのだ」

だから大至急頼む・・・と威圧してくる

それを受け止める矢口は、怠慢だな・・・と心の中で呟いた
137 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:11
「そこで大事なのが、今日の王の帰還式である
君達がここに留まる為には、まず君達を王に認めさせなければならない
通常の志願兵の立場であれば問題ないのだが
今の役職で君達がいる事自体初めての事、いくら他の大佐からの許しが得られても
王族がダメだと言えばそれまで・・・
そして、認められたとしても、君達がそのままの態度を改めなければ
王族付きの松原大佐にすぐに殺されるだろう
だから今日王族の前、さらに黒岩将軍・松原大佐の前では
必ず敬語や礼節をわきまえるようお願いするよ」

「そんなに怖いの?その王族付きの族は」

言ってるそばから舐めた口の矢口に佐久間のコメカミがピクりと動くが

「そうだな・・・その口を聞いた時点で伊集院少佐の首は飛んでるかもしれんな」

意地悪な顔で笑う佐久間は、いっそ殺されてしまえとでも思っている様
しかしそれでも矢口達に願い事をしなければならない屈辱の心情がその顔から読み取れる

これ以上この男の神経を逆なでれば
矢口はともかくひとみがやばいと態度を改めようと考えた

「解りました・・・・・じゃあ、おいら達を拾った佐久間大佐に
少しだけ恩返しさせて頂きますよ、今日は」

佐久間はフンっと鼻で笑い
「言う事を聞いていれば、昨日のような贅沢な暮らしをさせて貰えるとわかったようだな」

と本当に冷たい目で矢口を見下ろしていた


・・・・その表情がひとみを少し怖くさせる
用なしになればすぐに消すぞとでも言うような視線
138 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:14
「そうですね、大佐」
そんな佐久間に、なにくわぬ顔で平然と話す矢口に
佐久間も口元だけにやりと笑う

襲って来ない佐久間にほっとしたひとみは
佐久間と矢口が笑みを浮かべながら睨み合っている所と、
後ろにいる小林に気を配りながら黙って見ていた

ふとその時、佐久間と小林の関係はどういう関係なのだろう
・・・と疑問が浮かんだが想像したくないのですぐに消した

「ああそれと、この城の中に族は私を含め五人いた
しかし、ここに残っている王子付きの族一人が最近逃亡してしまい
王子が大層機嫌が悪くなっている
その事で何か意見を求められたら、何も知らないし
王族にはむかう輩はすぐに抹殺しますと答えろ」

「抹殺・・・・へぇ〜でも何で逃亡したんですか?贅沢な暮らしなのに・・・」

姫と一緒に逃げたというのはどういう事なのか
今迄のここでの生活の中では、兵達の間で姫の事は話題に上っていないし
Fの国やMの国から姫が来ていた事さえ口に出されていない
よほどこの話題は禁句になっているんだろう

「我が国始まって以来の大失態で逃亡したのだ
見つかれば問答無用で即処刑だ、もちろんこの事を先に口にした者もな」

従順でおとなしい子だと思っていたのにと呟く佐久間

しかし何故今矢口達にそんな事を言うのか・・・・・
矢口達の性格からして、つい王族に聞いてしまうのを楽しむつもりなんだろうか

心の中で矢口はそれも面白いと一瞬思った
139 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:16
「じゃー見つかってないんだ、その人が何したか知らないけど」
馬鹿にしたように矢口が言うと

「ここ数日はFの国征服が先決だったのでな
まぁ我が国全土の町には既に誰も国外に出すなと言ってある。
特にEの国側へは警戒を怠らない様指示してあるし
見つけた庶民には賞金もあげる事になっている・・・・・・
それで思い出した、もう一人懸賞金を懸けているMの国の王族付も
仲間を増やしながらこちらに向かっているという噂もある
Fの国も一段落したし、これからEの国征服と同時進行で
その者達の捜索をしていく事になるだろう
だから我が隊のこれからの為にお前達の力が必要なのだ」

殺したいのか利用したいのかはっきりしてくれよと矢口は心の中で苦笑する
しかしどうやらまだ姫はこのYの国の中にいるのは間違いなさそうだ

でも早く見つけないと本当に危ない・・・・内心矢口は焦る

「ふ〜ん、まぁまかせとけって、でもさ、じゃあ族って後四人?」

ざっと考えるとFの国へ行っている国王付と王子付が黒岩将軍と松原大佐で二人
ここにいるまだ見ぬ王子付は姫と逃げた族、そして佐久間・・・・後一人
指折り数える矢口はとぼけた顔で言う

「あれ、じゃあ後一人は?どこかに戦いにでも?」

その質問にはもう答えてもらえなかった
いらん事をしゃべりすぎたというような顔
140 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:17
「そういう事だから、くれぐれも言葉づかい
礼節には気をつけてくれたまえ、折角いい思いさせてあげてるんだから
死にたくないだろ
お前がいくら族と戦い慣れてるとはいえ
黒岩将軍と松原大佐の強さは並じゃない、少佐の命などものの数秒だ」

聞くなという空気を感じた矢口は

「了解」
とゆっくり敬礼する

「違う、上官への敬礼は、すばやく踵をつける、帽子は小脇に抱えて動かさない、いいな」

矢口はひとみに眼をやり、にっこりと頷くと
同じ呼吸でビシッと敬礼する

大きく頷く佐久間大佐

「解ったら部屋で待ってろ」

再びビシッと敬礼する2人

出口で小林が満足そうに頷く
141 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:19
隣の部屋に戻り二人はソファに座って同時にため息をつく

「「めんどくせぇ〜」」

背もたれにぐったりともたれた顔を互いに向けて ぶぶっ と吹きだす


「こりゃ大変だ〜、う〜ん・・・・・こんな国で姫は・・・・・はぁ〜っ」

いや、姫はその王族付の人と隠れてるはずだよな・・・うん
・・・きっと大丈夫・・・まだ無事でいてくれる・・・・と
矢口が眼をつぶって祈りを込めるように頷く

この町に情報が来るのが遅いという事は
ここでのんびり待っていては手遅れという事か・・・・

いや、下手にあちこち探すより
今はここにいたほうが全ての事柄においてはベストじゃないかと考えてると
隣から心配そうな声

「そんなに怖ぇのかな、その黒岩将軍と松原大佐って」

ひとみが背もたれから体を離し前かがみになって矢口を見る

「どうだろ、とりあえずおとなしくしとこうか、へたにこんなとこで殺されてもな」

強いっていうし・・・・と頭を掻いてる
142 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:20

「でもさ、あんたがおとなしくするたまかよ」

矢口がその言葉で眼を開けてひとみの事をじっと見る
ひとみが自分を心配してくれているのが解りくすりと笑う

「お前には言われたくね〜よ、でもな、王族がどんな奴か解る迄は
とりあえずおとなしくしておくよ、なんだか根深い問題がありそうだからな」


ただの出世争いの為だけの戦なのかと少しの疑問

視線の先のひとみの目が、少しの不安に揺れているのを見ていたらひとみが口を開いた

「そ・・・だな、特にウチはすぐキレるから注意するよ」

珍しく神妙な言葉に

「お・・・なんか急に大人びたなぁ」

と優しい顔で矢口が笑う
143 名前:dogsU 投稿日:2006/10/03(火) 22:21

「ふっ、言ってろよ、ちび」
「ちびっつーな」

何度も何度も・・・・と途端に唇を尖らせる

「じゃあ、ちっこい?」
からかうように笑うひとみ

「あほか、ぜんっぜん成長してね〜じゃん」

馬鹿みたいに繰り返すこのやりとり

しかしなんだかほっとするやりとり

矢口は焦って尖った気持ちをひとみに癒された気がした
嬉しくなってひとみの頬をつねろうとした所でノックが聞こえ

二人は元気に返事する

「「はい」」

くすっと互いに肘で小突きあい、立ち上がると軍服の乱れを直し帽子を被った

「しゃ〜ね〜、舞台に上がりますか?与謝野大尉」
「ハッ、伊集院少佐」

互いににかっと顔を合わせ敬礼すると力強く頷きあった
144 名前: 投稿日:2006/10/03(火) 22:22
本日はここ迄
145 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:11
迎えに来たのは小林大尉
すっかり二人の世話人のような役割になっている

矢口がドアを開けて二人見事に綺麗な敬礼をする姿に小林は頷いた

「それでは、こちらへ、下はもう皆さんお揃いになってますので
急いで佐久間大佐の後ろの開いている場所へと入ってって下さい」

再び二人はビシッと敬礼すると、小林は再び大きく頷いた
静かな廊下を歩き、階段を下りてくと
城の一階の吹き抜けの所で各部隊の上長とみられる人達が綺麗に整列しており
その内数人が振り返って矢口達の登場を苦々しげに見てた

端っこに列を作る佐久間隊の中に丁度空間があるのでそこに入るのだろうとそこに歩いていくと
横の列からも視線が突き刺さって来た

矢口は気にせずに堂々としていて
隣の列から聞こえるチッという声にも笑顔を向けて余裕の表情

並び終わると矢口はキョロキョロと周りをチェックする

ちらほらと先日対戦した顔も見える

戦闘部隊とみられる軍服の先頭には昨日見た大佐と呼ばれた人達が五人おり
自分達の後ろに並んでいる違う軍服の人達は事務方なのだろうか
その先頭には大尉の紋章しかつけられていない

本来なら上長を少なくしなければならない組織作りのはずなのに
戦闘部隊は五つの部隊にそれぞれ一人ずつ役職が設けられてほぼ均等になっているようだ

これではなかなか全員が一つの目標に向かって進むのは難しそうだと矢口が考えていたら
前方から佐久間大佐とその隊列の中佐と少佐と思われる40代の男と20代位の男達が
矢口達を睨んでいるのに気付く

ああ、キョロキョロするな・・・ってね・・・と
矢口はおとなしくビシッと敬礼をし大佐も小さく頷く
146 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:13
佐久間の隣の大佐が「静かに」と言うと
綺麗に整列された上長たちの前に後ろから一人の男が歩いてくる
どうやら事務方の大尉のようだ

緊張の面持ちでこれからの段取りの説明をし始めた
極度の緊張からか声が震えててよく解らない説明だったが
とにかく王族を気持ちよく迎える為に敬意を表さないといけない事だけは伝わってくる

その最中に、見張りの兵だろうか、慌ててやってきて跪き
門の所迄お帰りになったと報告して来る為
矢口達の隊列の反対側に並んでいる大佐の号令で全員歩み始める

その後すでに整列の終わった城の横の大広場に歩いていくと
各隊長達の「上長に敬礼」という声が響き渡る

面白い位に揃った兵達が微動だにせず上長たちの入場を迎えてくれた

ひとみは兵隊ではなかった為、このような物々しい雰囲気は慣れず
ドキドキしているのだが、ここでビビっていてはダメだと自分を奮い立たせる

一方矢口はMの国で兵のトップにいて今のように従えていた為か
このような隊列については幾分なれているのだが
ここ迄の緊張感は無かったなぁと感心した

とりあえず矢口は背筋をのばし平然と兵を従えて見せた


隊列を組む中で、丁度真ん中に一列分開いているスペースがある為
きっとそこへ帰還してくる部隊が入ると思われる
147 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:15
事務方以外の少尉以上の上官達が壇上へ上がり
2つの部隊ずつの上官が左右に別れ、兵達を見下ろす形が出来た頃
ラッパの音が鳴り響き壇上を含めすべての兵達が壇の中央を向いて敬礼する

壇上に女王と王女?様と思われる人が後ろのテントから現れると
壇上の上官たちが跪き敬意を表し
真ん中の席を三つ残すと両端に着席し、その後上官達は再び立ちあがって前を向く

ひとみも他の人より一瞬遅れるが一応同じような行動をしていた
王族の二人の顔をあまり見る事は出来なかったが
豪華な服を着た割りには普通の婦人と普通少女のような印象を持った

ただプライドだけはその顔に表れているような気がした
気品のあるプライドでなく、傲慢そうな兵達を見下しているような顔

そんな風にひとみは思えた





シンと静まり返る広場の中で
遠くからザッザッと行進してくる音が聞こえて来る

再びラッパが鳴り響くと、全員が開いた一列の方に向かって敬礼して静止する
148 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:19
そんな中、白馬に乗った国王とみられる髭面の50歳位の男の後に
20代後半位と20歳位の王子と見られる二人が続き
次に黒い馬の男と赤い馬に乗った女が続く

その後の兵達は、馬には乗らずに綺麗に歩幅まで揃った隊列を作って入場して来た

見事に最後の兵が納まると足音がピタッと止まり
その頃には佐久間の隊からすばやく志願兵らしき兵がやって来ていて
壇の下まで来た王達の馬をすばやく連れて行っていた

王達が壇上へと登る時には再び上官全員が跪いて迎え入れ
他の兵達は壇上に向かって微動だにせず敬礼していた

黒い馬と赤い馬に乗っていた男女がすばやく王妃達の横
上官達の王族寄りに立ち王族を迎え入れるように一度敬礼すると他の上官と同じように跪く

王と王子2人が開けられた席の前に立ち振り返った後
兵を見回すと兵達はどこで指令が出ているのかザッと一斉に腕を下ろし直立の体勢で言葉を待つ・・・



国王らしき男が少し前に出て来て両手を開きながら口を開く

「我々の力と栄光がまた他の国へと響き渡った、これから後
再び愚かな他国の抵抗に合い、道を阻まれる事もあるかもしれない
しかし、ここにいる有志と共に誇りを持って戦っていけば
さらにわが国の栄光が響き渡る事は間違いないだろう
これからの我が国はさらに輝き続ける」



静かな兵達によく通る太い声が響く

一斉に兵達が踵を合わせビシッと敬礼し
国王はにやりと笑うと真ん中の豪華な椅子に座る

静かな王の言葉に続き、20代後半の細面でにやけた男が前に出てしゃべりだす

この男が多分第一王子

「その為には、ここにいる誇り高き兵の一人一人が
国王の恩ために命を投げ打つ覚悟で敵と戦わなければならない
じきに新たな戦いが始まるだろう、その戦いに勝利し我々の力を存分に他の国に見せ付ける為に
さらなる鍛錬を行なってくれ
我が軍が誇る最強の松原部隊を見習い
他の部隊も各々活躍して国の繁栄を掴み取ろうではないか」



静まりかえっていた兵達が、ハッ・・・と再び敬礼する


満足そうな王族達
149 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:21
王子の隣に、先ほど帰って来た女がスッと寄っていき
迫力ある声を出し始めた


「既にFの国の領土は我々の物、我々は勝利したっ、次はEの国であるっ
いいか他の部隊の者達、Yの国の為にも我々松原部隊へ続くのだっ
我がYの国よ永遠なれっ」

松原大佐と呼ばれた女が拳を突き上げ
その松原部隊が一斉に勝どきの声を上げた後、他の四つの軍の兵たちも拍手しだす

矢口とひとみはその光景になんとなく圧倒され
松原大佐と呼ばれた人を呆然と見てしまっていた


そして矢口の眼には、やはりこの軍が決して一体ではないと確信した

5個の部隊は本当に敵対している・・・・

ここの軍隊よりもシープやダックス・バーニーズの軍隊の方がよっぽど一体感がある気がしていた



ちらりとひとみは矢口の斜め後ろから矢口を眺めるが
矢口は微動だにせずに前を眺めて続けていた

その後王族が退場していくのを全員が敬礼して見送り
さらに上官が壇上から下がるのをも兵が敬礼して見送られると式典は終了するようだ

黒い馬に乗っていた男、きっとこの男が黒岩将軍で
その男が王の後ろに続き他の上官を率いて城の中へと入っていくので
矢口達も一応他の上官に合わせ行動する
150 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:25
綺麗な整列のまま、静かに王族の後をついていくと
王妃達は階段を上っていくが、王達は最初に通された部屋のある階の一番奥の部屋に入っていった

奥の豪華な椅子に国王が腰掛け、その脇に王子が立つ

最前列に黒岩、松原が並び
その後ろに大佐四人を先頭に各上官達が並び、跪いて頭を下げて行った

そのまま顔を下げさせた状態で国王らしき太い声が聞こえてきた

「Fの国の国王が完全に我々に屈し、Fの国民を頼むと言ってこの世を去った
なかなか賢明な判断に敬意を表すと共に、そうさせた黒岩将軍と松原大佐の強さに
ただ、敬服するのみだ
だがしかし、帰還する直前にそこで嫌な噂を耳にした」

国王がそこまで話すとそこからは第一王子が続きを話し出す

「王族付きの族のくせに、その恩も忘れ王族を殺害し
大勢の兵隊を殺して逃亡しているという矢口が
こちらに向かっているのではないかとの予測がどうやら当たっていたようだ。
あのいまいましい族の町に潜入したのではというかねてからの噂だったが
我々が仲間に入れようと打診していた旧Eの国が
あの族の町に攻め入るという浅はかな行動をした際
なんと矢口の活躍によってEの国側が敗北を喫したと伝わってきた
しかも今、旧Eの国の王都に矢口達は進軍し、どうやら占拠されたようだ」

「Fの国にいた我が隊の所に
追い出された愚かなEの国の者達がのこのこやって来てそう言っていたのだが
皆の者はこの事実を知っていたか?」

国王の低い声に、上官達が小さくざわめくと、全員が首を振る
もちろん矢口達も
151 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:29
「ではあちら方面の司令官全員処刑しろ、情報が遅い」

国王が一言呟くと
佐久間の部隊の逆側にいる部隊の後ろの方の男達が数人駆けて部屋から出て行った



矢口が下を向いたまま唇を噛み締める

これがYの国の王族・・・・



すると黒岩という将軍と松原大佐が立ちあがって振り返り
黒岩が言葉を発する

「その矢口とかいう王族付の逆賊のせいで
私や松原のような優秀な王族付きの族の名誉を地に貶められただけでなく
またしても王族に楯突く悪の権化をのさばらせてしまう結果となった
これでは国民への王の権威が地に落ちてしまう危惧がある
よって今までのような懸賞金を掛ける等という生易しいやり方ではなく
一刻も早く旧Eの国へ兵を出し、逆賊矢口を抹殺し我が支配下に置くと共に
族の町の様子を伺おうと考える」

ひとみは顔を上げる事なく矢口を上目使いに見るが
やはり自分同様下を向いて黙って聞いていた

松原大佐と呼ばれる女性が黒岩の隣でこちらを向いて立っていたが
上官達を見回すと

「何か意見はあるか?」

皆は一言も発しようとしない
152 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:33
「ならば、この策には反対ではないという事だな
いずれはあの族の町と戦わなければならない
後はMの国の王子がどれだけ我々の為に働いてくれているかという事が心配だ
我々のような誇り高い軍隊が揃っていない為にまだまだ時間がかかるに違いない
我々は時期が来る迄にまずは逆賊矢口を・・・
そしてEの国を傘下に入れながら、族に対する戦い方を十分鍛錬し
あの族の町をも我々の支配下に置いて、偉大なる国王の
しいては、誇り高きYの国の我々の前に膝間付かせて見せようではないか」

ハッと顔を上げないまま全員が声を出す


その中、突然声を発し出す右端の大佐

「国王、報告があります、その為に佐久間大佐がすでに策を練っております」

「何、どんな策だ」

国王がにやりと笑って報告する一番右端の大佐を見て言い
左端にいる佐久間に眼をやると、佐久間が渋い顔をして顔を上げているようだった

「ハッ、先日兵に志願すると言ってやって来た者に、族対策をやらせようと考えております」

矢口とひとみがピクリと動く

それを見てか、松原大佐が矢口達を見つける
153 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:37
「そういえば、見慣れない顔が二つ、この場所にいるな
しかも、少佐と大尉の紋章が肩についているではないかっ、どういう事だ佐久間大佐」

王子の声が響く

「ハッ、報告が遅れました事はお詫び致します
しかしながら彼女達は私の攻撃を避けた上、銃の弾でさえ避ける事が出来ました
人間でそこまで出来るという事は、何か鍛錬の方法を知っているのではと思い入隊を許可し
勲位については昨日他の大佐達にも了解を得て与えております」

「佐久間大佐の攻撃を?本当にそんな事がその者達は出来るのか、佐久間大佐」

今度は国王が聞いてくる

「はい、小林大尉も目撃しており、剣の腕については他の大佐も存じております」

「ほほう、それは頼もしい志願兵が来たのだな、どんな顔をしておる」

そう言う国王と二人の王子が矢口達を疑うような眼差しで見ているが
2人が顔を上げる事をしない為に

「佐久間大佐、顔を上げさせないかっ、国王が聞いておられるのだぞ」

慌てる黒岩将軍

「ハッ、おい、立って国王に顔を見せて自己紹介しないか」

矢口とひとみがゆっくりと立ち上がると、矢口の低い声が響く

「初めてお目にかかります、伊集院さつきと申します、先日少佐の位を頂きました」

「与謝野やよい、大尉の位を頂きました」

矢口の声が腹を立てている時の声だったので
矢口がどんな顔で国王に対峙しているか想像しながらひとみも低い声で睨みつけた

ふざけたキャラを忘れ、矢口のハラワタが煮えくり返っている事で
どうしてもそういう態度になってしまったようだ
154 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:39
国王達が一瞬驚くのが解る

つかつかと松原大佐が2人の横にやって来て
矢口の顎を上げて上から睨みつけると、他の上官達が息を飲むのが解る

「何だ、その眼は、一般人上がりの分際でそんな目を国王に向けるとはどういう事だ」

「元々こういう顔つきです、お気に障りましたらお詫び致します」

慌てない矢口は帽子を胸に当ててぺこりと頭を下げる


王子がそれに気をよくしたのか

「よい、それに中々いい顔をしておる、もし佐久間の言う事が本当なら
2人共これからYの国の為に是非その力を発揮するようお願いする」

「ハッ」

矢口が低い声で返事をするとひとみも無言で頭を下げ、二人は再び跪いた


なんとか王族からの許しを得られたようだ


「それに、早くMの国の姫も見つけ、抹殺する様に・・・・
我々に反抗するとは死を意味する。いかにこれからMの国と手を結ぼうと
我々の誇りは決して揺るがない、いいな、それでは解散」

ハッとまた声が揃うと、満足げに頷き三人の王族が退出していく
155 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:40
それに続いて黒岩将軍と松原大佐も退出すると、空気が変わった

全員がふぅっと息を吐くと立ち上がり出す


「佐久間大佐、なんとか命拾いしたようだな、おめでとう」

ひややかな言葉が浴びせられた


各々の部隊が、族対策と姫捜索の会議を始めるぞと大佐から告げられていた
佐久間の軍隊も上官のみを残し、せせら笑いを浮かべた他の部隊の者達は退出して行った

「佐久間大佐、どうやら無事に事が済みましたが、族対策とはいえ
やはり何故この者達のようなどこの馬の骨とも解らない輩を我が隊に迎え入れたのです」

「さっきも言ったはずだ、この2人は族が見える、そして強い、何の問題がある?」

佐久間が矢口を睨みながら言うと

「納得できません、私どもにも一度その者達の実力を見せていただかない事には
私と同じ少佐である事さえも恥ずかしくなってしまいます」

自分で少佐だと言う男
矢口の前にずっと立っていた20代の男が矢口を睨む

「いいよ、どっからでも、何で白黒つける?」

言ったそばから矢口がタッと後ろに下がり、戦うポーズを取る
156 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:43
矢口の口調が戻ったからなのか渋い顔をした佐久間が小林に眼をやり
小林がそばにいた少尉へ耳打ちすると走って一度退出し
すぐに槍のような長い棒を二本持って来て二人の少佐に渡す

ひとみは矢口が槍で戦っているのは見た事が無かった為に
少しドキドキしていた


だがそんな心配はないという位、あっという間に勝負がつく

確かにその少佐が繰り出す槍の動きは速く
普通の人なら一発突かれた瞬間吹き飛ぶような重い感じのする攻撃だった

なのに矢口はそれを苦にするでもなく
いつもの相手の力を利用するかのように懐に入り込んで棒をお腹に突き刺した後
するりと後ろに回り背中を押さえ込む

「どうだ、仲井少佐、戦ってみて」

げほげほとむせている仲井少佐は無言

「・・・・・」

にっと矢口が棒を地面に立てて他の上官に微笑む

「どこで習得した、そんな技」

40代位の中佐の男が声をかける

「生まれた時からずっと戦ってたから、自然に身に付いた、んじゃこれからよろしく」

中佐に手を差し出すとその男は握る事なく矢口の横を通り抜け、部屋を退出していく

他の者も矢口達を無視するように同じく退出してくのを見ると
矢口は手を広げ、首を窄めてひとみに笑いかけた
157 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:44
「伊集院少佐、本当にその言葉使いをどうにかしろ、実力だけではここでは生きていけないぞ
それから昼食後すぐに広場に集合、遅れるなよ」

そう言って佐久間も小林を連れて去って行った


出て行くと矢口が口を開く

「あ〜あ、悪いなよっすぃ、これで益々危険が増した
廊下や外を歩く時は今まで以上に気をつけないとやられるぞ」

矢口がひとみをすまなそうな顔で見る

「いいよ、ウチもなんか気分悪かったしね」

「シッ」

突然矢口がひとみの前にかばうように背を向けると
先程王族が出て行った方を見て気配を読んでいる

不思議そうな顔のひとみのお腹を手で押し
ゆっくりと部屋の隅のドアまで押しやると声をかける

「何か用ですか、松原大佐」

カーテンのような幕から先ほどの女、松原が出てきた

「ただの山サルではないみたいね、佐久間大佐が迎え入れるのも納得するわ」

さっきまでの威厳のある話し方ではなく、高飛車な女みたいな口調になっている
158 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:46
瞬間姿が消え、ひとみは瞬時に激しく腹を押され転がされた

必死にどこにいるか目を凝らすと
キンキンッという金属音と共に矢口と剣を合わせた形で松原が姿を表した

松原はどうやら藤本と同じ猫族のよう

「本当に、見えるみたいね、それにかわいい顔してる
そっちの子も綺麗だし、国王も王子も気に入ってたようよ、運がいいわ、あなた達」

それだけ言うとにやりと笑って踵を返し去って行った




ふうっと息を吐く矢口

「危なかった・・・・・とにかく、一度部屋に帰ろう」
「うん」

2人は周りに気を配りながら部屋に戻ると
隣の部屋からなにやら泣いている声が聞こえてきた

矢口とひとみが顔を合わせて衝立の後ろの部屋のドアをノックする


返事はもらえず
「開けるよ」と言って矢口はドアを開けると、さゆみが泣いていた

「重さんどうしたの?」

そばで俯いている絵里に話しかけながらさゆみの肩を抱く矢口

「何でもありません、どうか気になさらないで下さい」

そう言っている絵里もなんだか泣きそうな顔なので
2人はしつこく何故かを問い詰めると、どうやら他の付き人からいじめられたらしい
159 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:49
何が原因かと問い詰めてもなかなか言わない二人を根気強く話しかけ
昼食の準備が近づいた頃やっと絵里が教えてくれた

ここの付き人は、誰でも来た当初は裏で泣くのが普通なのに
2人が幸せそうに仕事をしている姿が、他の者達には面白くなかったらしいのだ

本当に面倒臭い国だなぁと矢口とひとみは思いつつ
じゃあ大佐に言って村へ帰せるように頼んでみると言うと、何故か2人は首を振り頑張ると言い出す

そんなに村にいる両親を助けたいと思っているのかと矢口は切なくなるのだが
ひとみは矢口と離れたくないだけなんじゃねーの?とつい思ってしまう

そこで2人は昼食の準備をしないとと言って
多少元気のない笑顔で廊下に出てった


なんだかなぁと2人は、今度は勘太の所へ向かった
今日はずっと会っていない

先ほど式典のあった広場とは城を挟んで間逆の位置にあるのだが
式典の片付けと、早速訓練しているらしい掛け声や銃声が城の向こうから響いている


すると、馬小屋の入り口らへんで勘太と遊んでいる少女が眼に入る

勘太が矢口に気づいて近寄ってくると、少女が矢口達を見て睨む

「誰?」

目がぱっちりと大きく強い印象を持つその少女は言い放った

「あ、伊集院さつき、こっちは与謝野やよい、よっすぃ〜って呼んで」

矢口はその様子が必死に自分を守ろうとしている姿に見えて
かわいいなぁとにっこりと笑うと

「噂の新しい少佐と大尉ってあんた達なんだ」

紋章を見てそう言ったその顔には表情がない
160 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:51
「ん、そうみたい、でもどこの子?
こんな所にいると大変なんじゃないの?名前は?」

軍服でもなく使用人の服装でもない
どちらかと言うと高価な感じのする服を着ている、王族の娘かなんかだろうかと矢口は考える




「田中・・れいな」


少し恥ずかしそうにふくれっつらで言うのでなんだか可笑しくて
勘太を撫でながらポケットに入れていた朝食の残りのパンを取り出して与えた

「よかったなぁ、勘太、遊んでもらって」

ウォン【へい、親びん】

はぐはぐと食べ出す勘太をれいなが座って眺める

「伊集院少佐の犬?」

ウチらの位を知っても敬語でない所を見ると、まじで王族か?と矢口は驚く

「うん、そうだよ、勘太っつーの、いい奴だよ」

無表情でれいなが勘太を撫でていると、遠くかられいな様れいな様と探している声が聞こえる

瞬時にれいなが姿を消す
呼ばれた反対の城の方へ向かう姿はまさに族だった

「あれ、あの子・・・・・族・・・だよね」
「ああ、ハーフっぽいけどな、動きが」

猫っぽいな・・・と矢口が言いながら
残りの一人の族はあの子の事かと納得した
161 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:53
それから勘太に、あの子は部屋に閉じ込められている子らしいよと聞く

「何で閉じ込められるんだろう、族で王族なら尚更だよね」

ひとみが首を傾ける

「なんか事情があるんだろ、まだまだ人間関係が複雑そうだもんな、ココ」
「うん、すっげー面倒臭い感じでうんざりしそうだけどね」

れいな様と叫んでいる声は遠くなり
勘太に何か新しい情報がなかったかを聞くが
矢口達の事がどうやらこの城中の噂になっているという事だけだった



そろそろ昼食をとって、午後から一応自分達の仕事・・・族対策をしないとな
・・・・と二人は部屋へ帰る

それに色んな情報が徐々に入り始めたので、一度整理したいと矢口は呟く

部屋について
誰もいないか等慎重に部屋の扉を開けたりしてから話し出す
162 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:56
「どうする、さつき、あの町に兵を出すって言ったって
あの町に兵なんていないんだし、いくら中澤さん達が行ってくれてても
もしかしたらもう帰ってしまってるかもしれないし・・・・・
美貴がいくら強くっても・・・・一人じゃ」

「いや、裕ちゃんはきっとまだいる
それにあの町の人だって生きる気力を完全になくしてしまった訳ではないよ
大丈夫、今の所すぐに兵を出す事もなさそうだし
おいら達は早く姫がどこへ消えたか情報を探らないと・・・・」

「うん・・・・とにかくもっと兵とか使用人と仲良くならないといけないんじゃないの?」

「そうだな・・・・するとやはりこのままのキャラじゃ受け入れられないかもな・・・・
ちょっくらキャラチェンジしようかな」

「じゃあウチも」

くすっと二人は笑い

「んでさ、お前が族を見えるようになった過程をここの兵達に教えるのは簡単だけど
お前程早く見えるようになるのはまず無理だろうな
ちゃんと教えるのが仲良くなる早道なんだけどなぁ
・・・・素直に聞いてくれそうもないしなぁ・・・・」

「そうだねぇ、でもさ、あんまり教えると不利にならない?」

だって敵に教えるんでしょ、裏切り者じゃん・・・・と吐き捨てるひとみ

「ん〜・・・・でもさ・・・・・あの志願兵にはちゃんと教えてやりたいなぁ」

そう言う矢口にフッと息を吐いてひとみは微笑む

「・・・・あんたらしいな・・・・まぁ・・・・
あれだけ佐久間大佐にこの役職の恩を着せられてるんだから少しは教えないとね」

とそこで部屋がノックされ、絵里とさゆみが入って来るので話をやめる
163 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 22:58
さっきのように元気が少し無いながらも食事を運んで来たので

「ねぇ、どこのどいつが絵里ちゃん達をいじめるの?」

「「・・・・・・・」」

矢口の問いかけに答えないでもくもくと食事を並べる

「くっそ、どこのどいつだ、ちょっくらウチが下へ行って探してくるよ」

ひとみが外へ行こうとすると三人に止められた

「「やめて下さい」」
「やめとけよ」

「なんでだよ、ウチこんなの大嫌いなんだよな」

苛立たしげに立っているひとみが振り返って答える

「こんな事で嫌がらせだのなんだのってのはおいらだって嫌いだけどさ
きっとこの国の制度が問題なんだろ、今のおいら達にはどうする事も出来ない
そして、この2人がいじめられてダメになるか
はたまた乗り越えていけるかはこの子達の問題だ、へたにおいら達が首を突っ込む事はできない」
164 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 23:00
頭をカリカリと掻いて片目を瞑りひとみは諦めるようなため息をつく

「ったく、さつきはいっつもそうなんだから・・・・まぁ・・・
でも・・・・あんまりひどくなったらウチが必ずそいつら見つけ出してとっちめるから
それまでに自分達で乗り越えるんだぞ、大丈夫、ウチら2人がついてるから
それに昼間下で居辛かったらこの部屋にいな、ここには誰も入らないだろ
それ位いいよねさつき」

ひとみがさゆみの肩を抱くと、さゆみは俯いた

「ああ・・・・・もちろん」

矢口も立ち上がり絵里の隣に行き肩に手をやるとポンポンと叩いて優しい笑顔を見せた

「冷たい言い方をしてしまったかもしれないけど
今の時代、人はそれぞれ何かと戦わなくてはいけないみたいだからさ
そんな世の中じゃなくなればいいけどまだまだそんな訳にもいかなそうだ
おいらもこの国で頑張るから、絵里ちゃん達も頑張れよ」

絵里は少し目を潤ませながら赤くなって頷いた

「伊集院少佐・・・・私・・・・負けませんから
・・・・そしてこれからもずっと少佐のお世話をさせて頂きます」

「私もです、与謝野大尉」

ひとみと矢口は顔を合わせて頷く

「じゃあ重さん達、今日はここで食べる?」

「「はい」」

元気に頷く2人は、持って来た自分達の皿とフォークを取り出し微笑む
165 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 23:03
昨日の付き人たちの食事は、上官達の残り物だったらしいが、
付き人の中でも古い人達から多く食事をもらえる為に
絵里達はほんの少ししか食事出来なかったらしい

朝食位はちゃんともらえるだろうと思ってたら
いじめにあって配ってもらえなかったという

負けない為にもここは矢口達の好意に甘えて体力をつけないと・・・・
と二人は思ったらしい

今日も矢口達に与えられる食事は量が多く、十分四人で食べれる量だった

矢口は皆が食べる前にとりあえず先に口をつけた
何か毒のようなものが入っていないかさりげなくチェックする為だ

どうやら、何も入ってないようなのでそのまま口をつけるみんなを止める事はしなかった


そんな中でどんどん食えというひとみ

矢口は会話しながらも考える
どうにか2人の事をかわいがってもらえるように手助けできる方法はないのか・・・・

もしかしたら自分達がここにいる人達と仲良くなれば
この子達への風当たりも少しは弱まるのではないかと思案する
166 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 23:05
昼食も終わると、早速広場に行き
佐久間の軍の兵達が端っこの方で剣の練習や銃の訓練をしている場所へと向かった

志願兵達は、訓練で使用した際に刃こぼれした剣を研いだり
銃の訓練の的を交換したりと忙しそう

各部隊にも若干志願兵がおり、同様の扱いを受けているようだ

戦が近いとの事からか、各部隊の全上官が、必死になって兵隊を鍛えている
なかにはムチでビシビシと叩いている上官もいる

佐久間が矢口達が来るのを見て遅いと一括し
剣の訓練中の兵を集合させ、矢口の説明を受けろと命令すると
兵達は睨みつけるように矢口に敬礼して来た

さてと、どうしたもんかと矢口が考えてる間に
ひとみがズイッと前に出る

「とにかくさ、族って早いんだよ
まずウチからの剣に対応出来なきゃ無利って事」


そう言って一番前で睨みつけている男に木刀を突きつける

おいおいと矢口が呟く間もなく
自分達に教わるのに納得いかないからなのか
その男もすぐに打ち込んできてひとみの剣にやられた

「何やってんだよ、こんなんで族の町に勝てると思ってんのかよっ
ええ、Yの兵隊さん」

いきなりエンジン全開のひとみに苦笑する矢口
167 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 23:06


キャラチェンジってこういう事かよ・・・と呆れたが


「まぁそういう事っ、族ってのは型も無いしどっからでも打って来る
あんた達のやってる綺麗な剣さばきもいいけど
こういうのにもちょっとは慣れといた方がいいよ」

軽く走り出し、矢口もビシビシと近くの兵達に剣を落としていく

あっけに取られていた兵達は
悔しさからか無差別に四方八方から矢口達を襲っていった

今迄した事もないような訓練・・・・というより
本当の戦いのように雑然としたその場に、他の隊や佐久間達も驚く

次々に兵を相手にしながらも、矢口はひとみの成長を目の当たりにした

受けるべき所、流す所をみごとに使い分け
広い視野で常にバランスのとれた体勢で隙を作っていなかった



シープの町の戦闘でひとみが生き残ったのは運がいいからではない


本当に彼女は強い


矢口はひそかに微笑んだ
168 名前:dogsU 投稿日:2006/10/05(木) 23:08
乱暴な教え方に同じ隊の者達も困惑したが、徐々に蹲る兵達が増えていき

「強くなりたきゃ、ウチらの言う事素直に聞くんだな」

と、矢口が蹲った兵達を見下ろして言い放った

兵達、そして他の上官達も佐久間に救いを求めるような視線を浴びせる

「私が君達に言う事は一つ、我が国
そして国王様の為にとにかく早急に強くなれ、以上」

苦々しい顔で踵を返して城へと向かう佐久間と小林

視線を落とす兵達とはうらはらに、にやりと視線を交わす矢口とひとみ

ここの兵達とはどうやら仲良くなれそうにもないな・・・と矢口達は息を吐いた

ダラダラと整列しだした兵達が矢口達の前で敬礼し
よろしくお願いしますと言って来た

他の上官達に勝ち誇った笑顔をする矢口達は
その後ひたすら兵達をスパルタ式に鍛えていった
169 名前: 投稿日:2006/10/05(木) 23:08
今日はこのへんで
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/06(金) 16:25
二人がやらなきゃいけないことはたくさんありますね
どうなるんだろう
171 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/06(金) 23:42
ますます姫の安否が心配ですね。
それと、松原大佐がこわい!メインキャラ以外では最も気になります。
172 名前:さみ 投稿日:2006/10/07(土) 02:19
更新されてるΣ(゚д゚lll)
これからの展開が楽しみです、拓さんがんばれ!
173 名前: 投稿日:2006/10/08(日) 21:10
170:名無飼育さん
やらなきゃいけない事だらけなのになかなか物語は進みませんが
もう少ししたらちょっと動きますのでしばらく辛抱下さい

170:名無飼育さん
心配なんです
自分も松原大佐怖いっす。もし近くにいたら絶対そばには寄りません

171:さみさん
がんばります!
なんだかいつも励まして頂いて、ありがとうございます

皆さんレスありがとうございました
174 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:12
志願兵以外の、割と自分達に反抗的な兵達をみっちりと鍛えた矢口達は
汗かいたぁと部屋に戻って来る

既に食事の準備の済んでいたテーブルのそばには
にこやかに絵里達が頭を下げてきた

「お疲れさん、ありがとね毎度毎度」

矢口がテーブルに座りながら言うと
もう二人は当たり前のように同じテーブルについた

「いえ、お疲れになったでしょ、上から見てました、すごい強いんですね、お二人共」

興奮したように言う二人の顔は嬉しそう

「まぁね、だって強くないと山賊なんて生きてけないじゃん」

昼間泣いていたとは思えない二人
とにかく元気になって良かったとほっとする矢口

じゃあ食べようと真っ先にまた矢口が手をつけていき毒見をする
そんな時、不思議そうな顔でさゆみが呟く

「・・・・・本当に山賊さんだったんですか?少佐達って」

三人の手が止まる
175 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:14

二人は思わず笑い、絵里が慌ててさゆみを叩く
「重さんっ、そんな馬鹿な事言わないっ」

「あぁ、大丈夫だよ、でも本当に山賊なんてこの国にはいないんだもんね〜」
「ええ・・・・・噂で聞いた事位しか・・・・お二人はどちらで山賊なんて・・・」
「ん〜、どこらへんだろ、やっぱあんまこっちには来た事無かったかなぁ・・・・」

内心二人はこの事について詳しく話はあわせてなかったなぁと思いながらも

「色んな兵がいるように、色んな山賊がいるんだよ、この世界にはさ、ね、重さん」

ひとみがあしらうように言うとさゆみも笑う

「よっしゃ、早く食べちゃお、腹減った〜」

矢口は再び手を動かし口に運ぶと、元気に食べ始めた二人を見ながら微笑む

すっかり四人で食べる事を楽しめるようになった二人
苛めてくる人のモノマネをしたりしてるので心配ないだろうとほっとする矢口達

二人はおしゃべり好きなかわいい子なんだと矢口とひとみは優しく話しを聞いてあげていた
内心では苛められるのをまだ怖がっているはずなのに二人は笑顔を作る
だから矢口達も出来るだけ楽しくなるような話をしてあげた
176 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:17
「そういえばさ、さっき教えた兵達は
帰宅して今頃体中が悲鳴あげてるはずだよな」

かわいそうに、よっすぃ〜のせいだな・・・と食事も終わりに近づくと笑う矢口

「だいたいお前のキャラチェンジがおかしいから
おいら達がまた乱暴者の二人みたくなっちゃったんだぞ」

「だって・・・・なんかここの兵達に鬱憤が溜まってたんだもん」

だいたいなぁ・・・と言いたい事を言い合う喧嘩口調の二人に
くすくすと笑いながらそのやりとりを眺めて食べている絵里達

二人もどんどん強くならなきゃと思いだしていた
もうビクビクしながら矢口とひとみの世話するのは嫌だから
二人の力になれる様に、ちゃんと一人前の付き人になろうと
絵里とさゆみは考え始めていた


食事も終わり、絵里達に怒られながら皆で片付けながら
矢口が入浴の時間を聞くと
今日は昨日よりも遅くなるという事なので
下へと向かう絵里達を励ましてからすぐに馬小屋の近くに行った

先日志願兵達に来ると言っていたからか
手には長い棒や短い棒を持った兵達が二人の登場を待っているようだ

勘太に食事を与えてからその場に近づく

近寄るとわれ先に相手をして下さいと近寄ってくるので
じゃあ自信のある人からどうぞと言って2人は相手をしだす
177 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:20
昼間の兵達に教えるスパルタ方式ではなく
昨日のようなちゃんと基本から優しく教えてあげるやり方

同じ部隊で昼間も見ていた多くの志願兵達はあまりの違いに戸惑いを感じている様だった

無謀な位挑戦的な昼間の矢口達と、本当に親身になって教えてくれる今の矢口達
いつかひとみに教えた族の弱点も含め、解りやすく伝えた




教えて欲しい事にちゃんと答えてくれる二人に
いつしか志願兵達は心を開き出す



二時間位があっという間に過ぎ、そろそろ時間だと2人は皆に言うと
明日もぜひご指導お願いしますと言われ頷いて笑顔で手を振る




帰りの城の中の廊下で何か気配を感じ、辺りに気を配りながら歩く

すると、柱の影で佐久間が柱にもたれて矢口達を見ているのが見えてきた

「志願兵にはちゃんと教えてくれてるようだな、なぜあんな者達には親身に教えるのか解らんが
あの志願兵には何を教えても無駄だろう」

「いや、そんな事ないですよ、強くなろうっていう熱意がありますからね」

若干敬語を増やしながら満足そうに言う矢口に、佐久間が口の端をあげて笑う

「そうか・・・・ならば我が軍の主力にもちゃんと族への戦い方を教えてもらえば
伊集院少佐にあの志願兵達を預けてもいいが、どうだろう」

一応役職をもらっていながら、部下のいない事を気にしているのだろうか
いや、結局志願兵が多い佐久間部隊の中で
やっかいな志願兵を自分に押し付けるつもりなのだろうと矢口は感じた
178 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:24
「いいですよ、別に・・・・・・あ・・・・それと少し聞いておきたいんですが
おいら達の付き人って替えてもらう事って出来るんですか?」

頑張ってる人たちは大好きなので志願兵を任されるのはかまわない
それより絵里達を親元に帰してあげる事が出来ないものか気になっていた

「何か気に食わない事でもしたか」

「ぜんっぜん、むしろかわいいしよくしてもらってるんで助かってるんだけど
あまりに幼い子達だからかわいそうになっちゃいまして」

「気に食わないという事なら、家族共々追放されるが、それではどんな子がいいのだ」

「いやっ、それは困ります、あの子達良くやってくれてるんで・・・・
でも、そうですねぇ・・・ん〜気に留めて頂けるのなら、
おいら的には髪の毛が長くて背はこいつ位で・・・・うん、今度は大人っぽい美人な子がいいかなぁ
・・・なんて・・・いやいや、違います、ほんとどうなるかなって思うだけなんで、替えないで下さい」

ひとみは矢口の言った言葉にあほかと心の中で呟くが
もしかして姫って今言った感じの子なんだろうかとふと考える

「まぁ、どうでも良い、それに残念だったな
少し前までそんな子がいたんだが、先日いなくなってしまった」

思わず矢口は微笑んだ

「へぇ〜っ、その人どこに行ってしまったんです?そんな美人な人なら会ってみたいなぁ」

折角の話の流れ、このチャンスに聞いてみる

「探しているが、見つかっても付き人には出来ないだろう、すぐに殺す事になっているから」

「え・・・・っと・・・・それってさっき王様が言ってたMの国の姫?それとも王族付の人?」

どう考えてもそう考えるしかないだろうから聞いてみる
179 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:27
「さぁな、しかし一体どこにいるのやら」

辺りに人がいないし、王族の必死具合からの焦りからなのかペラペラと話し出す

「我が隊以外の部隊では、前から捜索隊を出してはいるが
どこの村にもまだ潜伏しているという噂は聞こえて来ないようだし
そろそろ山間部に兵を出そうかと言っている大佐もいるようだが
そんなとこを探してもきっと見つからないだろうがな」

・・・時間の無駄だと馬鹿にするように笑っている

口には出さないが、佐久間の中ではこう呟いていた
落ちぶれたとはいえ、一国の姫として育った娘が山に等入る訳がない
・・・・というか、本人がいいと言おうと、長年王族付として
暮らしてきた奴がそんな事はさせる訳がないだろう・・・・と

馬鹿にしたような笑顔で止まっている佐久間に
何くわぬ顔で話しかける矢口

「どうして佐久間隊は捜索隊を出さないんですか?」
「ふっそんな事はお前の心配する事ではない、口を出すな」
「はい」

本気で睨まれ一瞬睨み返すが、矢口は素直に返事をして
それから馬鹿っぽく天井に視線を向ける
180 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:29
「姫かぁ・・・そそる言葉、でも美人ならもったいないじゃないですか
上品そうだし、殺す位ならおいらに下さいよ、最近恋してないんで」

山賊はあくまで山賊か・・・と
いつまでも口調の改善されない矢口に呆れるように口の端を歪ませながら

「ばかを言うな、もうよい、とにかくあの志願兵を伊集院少佐にまかせてもいいから
明日の朝にでも仲井少佐と部隊割について話してくれ」

あいつが苦労して隊分けしてあるんでな・・・・と珍しく優しい感じ
だがすぐに報告しろ・・・・と睨みつけて来た

「はい」

最後はきちんと敬礼して佐久間を見送る
階段を上っていく佐久間をしばらく二人で眺めていたが

「くそ、絵里ちゃん達はここから返されると追放されちゃうかもしれないんだ・・・・
じゃあやっぱ頑張ってもらうしかね〜な、かわいそうだけど」

矢口が悔しそうに俯くのでひとみはやっぱり面倒見がいいんだなと微笑む

「でも、これからもお世話させてっつってたからいいじゃん、きっと頑張れるよ」
「だな」

ひとみに笑顔を向けると、いつまでいれるか解らないんだけどなと歩き出す
181 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:31
部屋に戻るまで矢口は何も話さなかった
思ったよりも姫を探すのは難しそうだと思ったのかもしれない

それに下手な事をしゃべると、誰が聞いているか解らない
夜で兵達が減ったとはいえ、ほとんどの上官はここにいるのだから気が抜けないし
使用人も、もしかしたら上官達のスパイ行為をしているのかもしれない

部屋のある階に登った所で、向こうから廊下を絵里とさゆみが掛けてくる

「よかった、丁度呼びに行こうと思ってた所でした」

既に矢口達の着替えを抱えてて、すぐに入浴行こうと再び階段を下りていった
他の上官達も付き人を従えて地下の複数の浴室に入っていくのを見かける

確かに他の付き人達は、緊張感漂う表情で
絵里達のように生き生きとしてはいない

脱衣所では、絵里とさゆみももう躊躇せずに脱ぎ出して、一緒に入浴してくる
背中をお互いに流し合うのも恒例で
その後のんびりと湯船にみんなで入り、一日の疲れを流す

その時に「田中れいな」という名前の子について何か知っているかと尋ねるが
2人は顔を見合わせて知らないと首を振った
すっかりおしゃべりになった絵里とさゆみ、色々話した後
脱衣所に向かうとさっき絵里達が持っていた新しいさらしや下着類を身につける

いたれりつくせりだなぁと2人は真新しいガウンに再び袖を通すが
今日は矢口に合ったサイズが用意されていた
182 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:34
「おおっ、ぴったりじゃん、今日は」

ひとみが矢口を見て微笑む

「あ、絵里が昼間縫ってました」

また付き人の格好に戻った二人
風呂上りだからなのかさゆみがひとみに言いながらほんのり赤くなっている

「へぇ〜、ありがとぉ、絵里ちゃんは器用なんだね、すっげ〜うれしいよ、サンキュ」

絵里の頭にポンポンと手を当ててにかっと笑った

「いえ・・・・」

絵里もほんのりと赤くなっている

じゃあ、私達は下で明日の準備してから上がりますのでと
絵里達が一階の階段脇の奥に入って行くと、2人は上へと向かった

2人になると再び矢口は黙り込んで部屋へと戻っていく

廊下で何も話さずに歩く間、ひとみはその度に複雑な気持ちになる
きっと矢口は、どうすればここの兵達よりも先に姫の行方を探せるのかを考える事で
頭が一杯なはずだから
いや、きっと姫の事を考えてるに違いない・・・・と視線を落とす

歩きながらも途中で何人かすれ違う兵達が立ち止まり
矢口達に敬礼するのを矢口は笑みと敬礼で返して颯爽と上って行く

ひとみはその様子を見て、やはり王族付きの元兵隊だけあって
身のこなしが堂に入ってるなぁと思って真似をする
183 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:36
部屋に戻ると矢口は無言で窓際に行き窓の外を眺めはじめる
明日はどうやら雨になりそうだ
そう言いながら物憂げに窓の外を眺める姿に

「心配いらないよ、きっとどこかに無事でいるって」

寂しそうな背中に、ひとみは思わず言っていた

「あ?あ・・・・ああ、そうだな、なんだよ、おいらの考えてる事わかるのかよ」

穏やかな顔で振り返りひとみを見た

「解るに決まってんだろ・・・・案外単純なんだから、ちびは」

からかうような口調に矢口の心も少し軽くなる

「なっ、おめ〜に言われたくね〜よ、超単純野郎」

ひとみはフッと笑うと矢口に背を向ける形でソファに座り

「そこがウチのいいとこなんだからいいの、それよりさ
あの志願兵の人達をさつきの部隊にして何しようってんだろね」

「ん・・・・・どうだろ、ただの差別か・・・・・
あの町へ戦いをしに行った時の為の捨石か・・・・そんなとこだろ」

もしダックスの町へと襲撃に行く時は
間違いなく自分達を先発させるに違いないけど・・・・とは矢口は感じていたが
絶対に兵は出させない・・・・と闘志を燃やす
184 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:39
「なんか、他の大佐をなんとかして出し抜きたいって感じだったもんね、佐久間大佐」

そんな闘志を感じる事もなく、ひとみはそのまま矢口を見ないで話し続ける

「そうだな、力合わせりゃもっと早く王様達の願いを叶えられるとは思わないんだろうか」
「ん〜・・・・まぁウチならあんな王様の言う事なんて聞きたくないけどね」
「確かに・・・」

「でもさ・・・・・佐久間隊、ううん、あの志願兵達をまかせてもらえるって話ならさ
なんとかその志願兵の部隊でさ、姫の捜索隊をさせてもらえる様に出来ないかなぁ」

姫を早く見つけたいような、でも、見つかって欲しくないような
・・・・ひとみの心情は複雑だ


それに矢口からひとみの表情は見えないので
ひとみは表情を気にしないでいい事に少し救われた



そんな気も知らずに、矢口はひとみの提案に嬉しそうに言う

「おお、うん、そだな、それっていいかもしんない、佐久間大佐が国王からの覚えが良くなりたい一身で
姫捜索よりもEの国に攻め入りたいのはよ〜く解ったけどさ
Eの国にいるらしい矢口って奴を気にして思うように攻めきれないのなら、いっちょその気にさせてみるか」

そうだそうだ、その手もあるなぁ・・・・自分の名前を口に出すのも久しぶりだと思いながら
そのまま姫が見つかったら志願兵連れてEの国迄帰っちゃおうかと微笑む矢口
185 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:42
「う〜ん、せめてどっちの方角に行ったのか解れば、二人ですぐにでも出ていけるのになぁ」

「うん、少し作戦誤ったかもな、ただの兵隊なら良かったのに
こんな目立つ役職についてしまったばっかりにやたら注目されるようになっちまったもんな」

気軽に聞き取り調査も出来ないし・・・・と矢口は唇を噛み締める

そして無言でひとみは頷いていた

するとひとみの座っているソファの背もたれに矢口が近づき両手をついて立った

「それと・・・・絵里ちゃん達の事や、あの志願兵の人達をこのまま置いてくのも
・・・・なんとなく後ろ髪ひかれてやなんだよな・・・・やっぱ
・・・う〜ん、何か考えないとなぁ・・・・・」

ひとみが首だけ横を向いて見上げると

「そうだね、じゃあさつきのお手並み拝見させていただきますよ」

ひとみは嬉しかった、やっぱり矢口は優しい人なんだなと改めて思い、にやりと笑う

「ば〜か、ふざけんな」

後ろからひとみの首に右腕を回して左手で締め上げる真似をする

矢口の顔が近くにあり、ひとみの胸が急激に激しく動き出すのが自分でもよく解って

「やめろよ、ちびっ」
「まだまだ甘いな、後ろをとられるなんて」
「ちびこそざけんなっ」

そこへノックされる音がして絵里達だと思った矢口がどうぞ〜と軽く言うと
やはり絵里達が現れた

じゃれついてる2人を見て
「「あ・・・失礼しました」」

とすぐに出て行こうとするので、何で出てくんだよと引き止める
186 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:45
「勘違いすんなよ、それよか、何か用があったんじゃないのか?」

開けられたドアを慌てて閉めてから2人が眼をあわすと同時に口を開く

「「あの」」

一度そう言っておずおずと鍵を閉めるのを確認して再び二人で息を合わせてから

「「私達に戦い方を教えて下さい」」

と両手を前で組んで、梨華を思わせるようなポーズで
うるうるした視線を向けてくる絵里とさゆみ

「は?」

矢口は思わず声を出す
あまりの驚きで素っ気無くなってしまったからなのか
慌てて二人は両手を振り出した

「や・・・やっぱり・・・・・いいです、すみません」
「もしかして、また下で何か言われたのか?」

心配そうな矢口の言葉に絵里は首を振るが、さゆみは黙って俯いている

「それで仕返ししたいって事?」

ひとみが優しく聞くと
絵里が俯いて萎縮するので、矢口はふうっと息を噴いて絵里達に近づく
187 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:48
「最近おいら、教えてくれって言われる事が多いなぁって思ってさ
まぁそりゃいいけど、おいら結構冷たい教え方しか出来ないよ、大丈夫?」

「「はい」」

「泣いちゃうかもよ」

少し真剣に二人を見つめる矢口

「「大丈夫です」」

そう言う二人をひとみの座っている前のソファに連れて行き腰掛けさせて
矢口はひとみの隣に座る

どうしてそんな事を考えたのかと改めて聞くと
いじめた人に仕返しをするっていう事でもなく、自分が強ければその人にいじめられても
いつかやっつけてやるって思えるようになるという
なんだかよく解らない理由から来るものだった

矢口も、絵里達がこの仕事をやめることが出来ないのなら
やはり少しは自衛策として戦い方を覚えておくのもいいだろうと思ったし
ただ、し返しをするんでなく、頑張ろうという気持の表れみたいだから
笑顔でいいよと答えた

だから早速、体の基本的な動かし方について矢口がひとみを相手に手本を見せながら説明する

ウンウンと絵里は頷き、さゆみはよく理解出来ていないのかボーっとする感じで聞いている

じゃあ早速実践ね、と
矢口は絵里に、ひとみはさゆみに体の使い方を教え出す

ゆっくりと体で形を作ってみて説明を繰り返す矢口達

その内ゆっくりの動作で順番を覚えた頃に
ちょっと殴って来てみな、なんて言う矢口に言われた通り殴ると
矢口が綺麗にそれを避けて反対に絵里の手を後ろに捻り上げていた
188 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:52
「い・・・痛いです」
「こんな感じかな」

なんて軽く言ってみるが、とうてい絵里に出来る範囲ではなく、無理ですと言う

「でも、イメージは沸いただろ、最初はイメージを作って
頭の中で色々体を動かしてみるんだよ、そうすると咄嗟の場合にも体が反応するよ」

少し困った感じで絵里が頷くので

「今、始めたばっかだろ、そんな出来なくて当たり前だから
徐々にやっていこうよ」

今度は満面の笑みで絵里が返す

さゆみの方は、どうも勘的にも鈍いらしく
ひとみが四苦八苦して何度も同じ事を繰り返していた

申し訳ないとさゆみが萎縮する中
ひとみも大丈夫ゆっくりやろうと言って頭を撫でたりしていた

夜も更けていたので、矢口は早く寝なきゃ明日も早いんだろとそこ迄で2人を寝かせるよう言うと
ありがとうございましたと隣の部屋へと帰って行った

ふぃ〜っと矢口がソファにもたれて座ると
後ろからひとみが見ているような視線を感じるので
背もたれにもたれたまま顔を向けたらやっぱり見ていた

「ねぇ・・・・・ウチにも何か教えてよ」
「え?お前はもう強いからいいだろ、必要ないよ」

ひとみはブスくれてジト〜っとした視線を投げかける

「教えてくれるっつったのに・・・・」

昔した約束

「わぁったよ〜、だからそのジトッとした眼ぇ〜すんな」
「やった」

ひとみがタタッと着替えを始め、サラシとズボンを履いた姿で
ソファまで動かして広いスペースを作る

そこまで本気ですんのかよと突っ込みながらも
矢口は自分も仕方なく部屋着を脱ぎズボンと上着に着なおした
189 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:53



190 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 21:58
その頃矢口達の部屋の真上の松原の部屋では、2人の喘ぎ声が響いている

ベッドで座っている第一王子の上で松原が王子に跨って
第一王子の頭を抱え込むように髪の毛をかき乱していた

松原と王子の腰がはげしく動き王子は胸や首筋・鎖骨辺りに
しゃぶりつくように吸い付き背中を撫で回している

松原の声が絶頂の時を迎えそうになると王子は
自分のを引き抜いてから布をモノに押し当て絶頂を迎える

激しい息使いの中2人は見つめあい口付けを交すと
ゆっくりとベッドに横たわり毛布を被る

腕枕をして王子が松原の髪の毛を整える
昼間帽子の中に入れ込んでキリッとした雰囲気を醸し出していた松原は
綺麗な髪を王子に撫でてもらい満足げに微笑む

「いいんですか?お妃様がこの真上で寝ているのに、こんな事して」

「かまわん、最初から愛のない結婚なのだからな
それにあいつもどうやら若い兵の一人と出来ているようだし」

いつか尻尾を掴んでなぶり殺してやるがな・・・・と松原の額にキスする
それを聞いていじわるく松原が呟く

「ふふっ、でも今王子はあの与謝野とかいう新しい大尉の事が気になるんでしょ」

美しい者がお好きですからと王子の乳首辺りに手を滑らせる

「何を言い出す」

明らかに動揺が出ている王子

「王子は、気に入った子が抱けない時には必ず私を欲しがりますからね」
「そんな訳はない、私は松原の事が一番大事だからここに来るのだ」

「ありがとうございます、でも王子の好みは解ってますよ
あのMの国の姫様の時と違ってあのものは身分が違ってますからね、抱えてる物も違いますし
何してもいいですが、でも私の動きを少しは見えるようだったから強いようですよ
あの佐久間がいきなり大尉にしたぐらいですから」

「ふっ、かなわんな、松原には」

にやりと王子が笑って松原の唇に口付けをする
191 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 22:01
「私は小さい時から王子の事を見ているのですから・・・・
隠し事は出来ませんよ」

「ふふ・・・・怖い奴だ」

2人の顔が再び近づくと、その影が一つになっていく

再び淫らな声が響くようになった部屋の隣の部屋からこっそりと人影が出て行き
その人物は階段を下りていく

夜中の為に、昼間はあれほど人が沢山いるのに
今は居眠りしている見張りの兵隊以外誰もいないし、いれば姿を消した

長い長い三階迄ある高さのある広い聖堂のような廊下の真ん中にある赤い絨毯の上を
月明かりの方へと歩いてくと馬小屋へ向かった

どうやらポツリポツリと雨が降り出していた

ゆっくりと馬小屋に近づくその人物
勘太は矢口達が乗って来た馬の横ですでに寝ていたが
何者かの足音に首をもちあげた

「ねぇ勘太・・・・・ここで寝てもいい?」

その人物は毛布を体に巻きつけ馬小屋のわらの中に寝転がった

クゥ

勘太は何故こんな場所に今頃
割と身分の高いような子が来るのだろうと頭を傾げて見せた

「そんなに不思議がらないでよ・・・・私・・・・この国が嫌い・・・・
ううん・・・・ここが嫌いなの・・・・だからここにいさせて」

勘太は、何だかかわいそうな気持になってその子の顔を舐めてあげた

「勘太」

その子が嬉しそうに毛布で勘太を包み込み抱き締めて眠った
192 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 22:02



193 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 22:04
「だぁ〜っ、休憩」
「え〜っ、折角体あったまった所なのに」

かなり決まっているファイティングポーズをしているひとみがそう言うと
矢口は端っこに寄せられたソファになだれ込んだ

「おいらよっすぃ〜よりも年取ってんだし、それでなくても馬鹿力の攻撃避けるの大変なんだから」

それに昼から教えっぱなしだぞ、なんか疲れた・・・・・と項垂れる矢口

チェッと言う感じで、ひとみはズボンの後ろポケットに手をつっこんで窓の外を眺めた
ポツポツと雨粒が窓に当たり始めていた

「もっと広かったら力使ってもらってもっと目ぇ鍛えるのに」
「さすがにここじゃね、それにどこにバーミンが設置されてるかわかんね〜から無理だよ」
「残念」

外を見ながら微笑んでいる
その様子を見ると自分も微笑んでしまっている事に矢口は気づかない

あっそうだと言ってひとみはそのまま腹筋を始めてしまう

今これだけ動いておいて
まだ体を動かそうとするひとみにしばらくしてから声を掛ける


「なぁ・・・・・」
「何」


腹筋しながら答える
194 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 22:05


「お前ってバカだろ」



「あ゛ぁ?」


ひとみの眉間に皺がよる

その顔が可笑しくて、矢口は穏やかに笑う

「馬鹿って言ってんの」
「んだよ、そりゃウチは単純であほで、でくのぼうで・・・・
え・・・とそれから・・・・それから」

悔しいながらも認めるその言葉に
あくまでも腹筋をやめずに上に眼をやりながら考えている

回数を重ねる腹筋運動

「それに・・・・え・・・・と」


まだ考え続けるひとみに


「すげ〜奴・・・だろ」

優しく言う矢口


「あ゛ぁ?」



二度目のその顔は本当に愛しく見えてしまった
195 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 22:08
「お前みたいなバカですげ〜奴に初めて会ったよ・・・・だから焦るな・・・・
今日はそれくらいでやめてもう寝よう、明日時間があったらまた一緒に訓練するからさ」

いつも自分に無理させまいと声をかける矢口に少し不満ながらもちゃんと言う事を聞く

「うん・・・・解ったよ」

腹筋をやめてひとみはひょいっと立ち上がると
だらりと寝ている矢口に向かって、テーブルとソファを元に戻すから手伝えと言って二人で動かした

「ねぇ、風呂ってさ、今ごろって入れないのかな」
「さぁ、どうだろ」
「ちょっと見てくる・・・っつ〜か入って来るよ」

ひとみはテーブルを片付けた後、布とガウンを持って出て行こうとし
矢口が一人じゃ危ないとついて来るので2人で風呂へ向かう

真夜中過ぎの城内
シンと静まる廊下や階段、居眠りしてたのか
ハッとした見張りの兵達ににこやかに敬礼してシーッとウィンクしていく・・・

地下に入ると誰もいなくなって
ひとみはそれが気持いいのか腕を上に伸ばしたりしてのびのびと歩くが
矢口は辺りに気を配った
196 名前:dogsU 投稿日:2006/10/08(日) 22:09
脱衣所ですばやく着ているものを脱ぐとそそくさと入っていく
風呂も誰もいないので、2人は広い浴槽の端と端でだらりとつかった

「はぁ〜っ・・・・・星空が見えれば最高なのに」
「ああ、そうだな」

少し前に見た夜空を思い出していた

「夜さ、あんなにせかせか入らずに夜中にゆっくり入った方が良くない?」

「ああ、それはいいな、じゃあ絵里ちゃん達にもそう言うか
あいつらも昼間じゃ入りづらいだろうから誘おう」

「そう・・・・だね」

ひとみが少し残念そうだ

「なんだ、嫌か?」
「そんなんじゃないよ、ただ夜中入らせると寝る時間が削られるからかわいそうかなって」
「まぁ・・・そりゃそうだな、じゃ明日聞いてみよう」
「ん」

嫌な訳ではない、しかし、やはりひとみにはこんな時の2人の時間がとても心地いいのだ
二人の事だって好きだしかわいいとも思うが
やはり2人が一緒に入る事で、今のような穏やかな時間ではなく
多少気を使った入浴になるのが残念だった

「よっしゃ、汗も流した事だし、部屋帰ってすぐに寝るぞ」
「うん」

ザバッと上がって着替えるとすぐに部屋へ戻ると、体を動かし過ぎた疲れからか
王族と対面した疲れからかすぐに眠りに入っていった
197 名前: 投稿日:2006/10/08(日) 22:10
本日はここ迄
198 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 22:45
翌日、廊下の人の気配ですぐ目を覚ますと仲井少佐の部屋を訪れる

朝すぐに報告とか言ってたので言われた通りすばやく動いた

しかし見られたくない感じで少佐がドアを開けると
まだガウン姿の少佐の後ろのベッドにまだ寝ている裸の男の姿がちらっと見える

「聞いたよ、佐久間大佐から」

時間が早すぎたのだろうか・・・・・
城の中は結構兵が集まってきているみたいだからそんな訳でもなさそうだが

少ししたら朝食の時間だけど、と二人が怪訝そうに仲井少佐を見ると
バツが悪そうに言い出す

「後で伊集院少佐の部屋に行くのでそれまで待っててくれ」

バタンと閉められて2人は顔を見合す

「誰だろね、あの人」

ひとみの問いに矢口は両手を広げてさあと首を捻る

その横をさっきからバタバタと走る廻る付き人の人達が気になるので矢口が呼び止める

「どうしたの?」

兵の服装の矢口達を見て、しかも肩についている紋章を見てかなりびびった感じになり
何もありません失礼しますとそそくさと去って行った

2人はもしかして姫が見つかったのだろうか・・・と一瞬考えたが
兵ではなく付き人が焦っているのでこれは違うと思い
とりあえず暇つぶしにと勘太の所へ2人は向かう
199 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 22:47
本格的に振り出した雨
城の入り口にある誰のか解らない傘を借りて馬小屋に向かった

すると勘太が雨の中走って来て
矢口が座って傘に入れると耳元で何かしゃべっている

矢口がそれを聞いてひとみを見ると
あごでついて来いといった感じで小走りになるのでひとみもついていった


馬小屋の隅の方でわらを敷き詰めた場所に丸まっている子を見つける

「あ」

ひとみが思わず声を出してしまい、その子の目が開いた
ゆっくりと体を起こして矢口を睨みつける

「こんな所で寝て、さっきから付き人さんがやたら探し回ってると思ったら
田中がいなかったからなんだ」

矢口が前かがみになって優しい口調で話しかける

そういえば王族かもしれないのにこんな口調で大丈夫だろうか・・・・
と一瞬ひとみが心配になったが、つい

「田中って何かえらい人なの?」

矢口の後ろで柱に手をついてひとみがそう言うと
それが気に食わなかったのか憮然とした態度でれいなが呟く

「別に・・・・ただの厄介者だよ」
200 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 22:49

矢口にはその様子がなぜか可愛くみえて優しく言う

「ここの町が嫌い?」

その突然の矢口の問いにれいなはビクッと反応し矢口の眼を捉える

「あんたには関係ない」



矢口が笑う

「まぁそうだよね、でもさ勘太と友達ならおいらとも友達だから・・・・
っつったら怒るか、もし良かったらさ、おいら達の部屋に来てもいいよ」

すると再び眼に敵意が見え

「私をどうする気だ」

「はっ?何もしやしね〜よ、ウチらの部屋にもちょっとへこんだ子がいるから
その子と友達にでもなってもらえないかなってさつきは思ったんだよ、な」

矢口は自分の考えている事をひとみがズバリと言ってのけたので驚いた顔で振り向くと
してやったりの顔でひとみが笑っていた

「ま、そういう事だからさ、一昨日来たばっかの子達でさ
友達もいなくて寂しがってるからちっと相手してやってもらえね〜かなって」

勘太がれいなに行けというように鼻先で肩を押す

「あんた達がどうなっても知らないよ」
「何で?」


矢口は相変わらず優しい顔をして見ている


「・・・・・・」
201 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 22:52
「おいら達の事は気にしなくていいよ、最初からおいら達この街の人たちに
あんまり好かれない性質らしいからさ、じゃあ決まり、来なよ」

何も言わないれいなの手を引いて傘の中に入れると矢口はずんずん歩き出す

途中で手を振り払われるが
雨に濡れながらもれいなは矢口達の後ろをちゃんと付いて来る

毛布を畳んで持って来ていたひとみは、れいなを傘に入れ城に入ると
そばを通る兵達が矢口達だけで歩く時とは明らかに違う様子で
ビシッと敬礼する事に気づく


どこか腫れ物に触るような雰囲気・・・・そんな気がしていた


部屋に戻ってソファに座らせると
すぐに部屋がせわしくノックされた

鍵をしていなかった為すぐにドアが開けられ
意外な人物がズカズカと部屋に入って来た

「れいな、何やってるの、外を出歩いちゃダメっていつも言ってるでしょ」

慌てて二人は直立姿勢で敬礼する

「「松原大佐、おはようございます」」

どうして?と二人は驚く

「伊集院少佐、この子には関わるな、今日は見逃すが今度近づいたら命はないと思え」

「は?」

訳が解らずに思わず口から漏れたひとみの反抗的なその言葉に
松原が反応する
202 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 22:54
「何だ、今の応対は、大尉ごときが私にそんな口を聞いてもいいと思ってるのか?」

興奮した松原がむんずと座っているれいなの手を掴み立たせる

「あのっ大佐、私達はれいなちゃんと友達になりたかったんでここに呼んだだけです」

嫌がるれいなの手を引いて矢口の前を通り過ぎようとする頃に
矢口が言葉を発したらすぐに睨んで言われる

「れいなちゃん?何故そんな言葉づかいをしている
貴様ら志願兵ごときがなれなれしい言葉を聞ける相手ではない」

この二人は親子?一瞬頭を過ぎる
これ以上は無理じいしない方がいいと矢口は思ったが
出て行く寸前にれいなが救いを求めるような目で矢口を見たため

「いつでも来ていいからね」

手を振って笑った瞬間松原が短剣を抜いて矢口を襲った

昨日のような威嚇の攻撃ではなく本気で殺そうと剣を振って来た


かろうじて避けたが、次々に繰り出される短剣
お互い力を使わない攻防で、矢口は逃げる事に必死になっていた

部屋のあちこちが傷を負っていき
このままでは殺られる・・・・と矢口は焦る

しかし、ここで上官に剣を向ける事は謀反となり
投獄、いや処刑されるかもとここは必死に逃げ続けた
203 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 22:56
一方松原の方も焦っていた
一度避けるのでも普通の人間には考えられない

その上何度剣を振ってもかろうじて避けて行く矢口に
長期戦を強いられると思い、横目に入る大尉へと矛先を向けた

あまりに突然の展開についていけずにボーッと立っていたひとみは
松原の攻撃を予測出来なかった

確実にひとみの心臓を狙って付いて来た剣をかわす事が出来ずに
反射神経だけで体が動き、脇腹を切られた

「松原大佐わかりましたっ、申し訳ありません」

息を切らせた矢口が瞬時に後ろから声を掛けると
次の攻撃をしようとしていた松原が止まる

睨みをきかせて矢口を振り返り近づいて来る
その後ろでへなへなとひとみがソファに腰を下ろしていくのが矢口に見える

そして近づいてきた松原大佐のその眼がれいなに似ているなと矢口はやはり思った
もしかしたら本当に親子かもしれないと

睨みをきかせて矢口の横を通り抜けた
松原の背中越しに心配そうに見ているれいながいるので
松原にばれないように笑って手を振った

懲りずに声を出さないよういつでも来なよと伝えた

パンッ

出て行くとドアを乱暴に閉められ、矢口はすぐにひとみに近づく

「大丈夫か」
204 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 22:58
ソファにぐったりと座って少し息を切らせているひとみ

「あ、うん、平気、かすっただけだから」

すぐに上着を取らせると顔をしかめた

じんわりとシャツにも血が滲んでいた、それもそっと脱がすと
さらしの状態になった所で矢口は腕を上げさせる

「ツッ」
「ごめん、痛いか?」

至近距離の心配そうな矢口の顔に顔を背ける

「いや、平気」

腕を下ろそうとするひとみの手をがっしりと掴み、優しく傷口を舐め出す



脇の所、丁度さらしの上側の辺りがザックリと切られていた

「結構深いな、痛いだろ」
「大丈夫」

そう言うひとみの顔は少し痛みに歪んでいる
205 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 23:00
その後、矢口の舌先の温かさに
つい舐めている様子を見てしまい心臓が跳ねる

慌ててひとみは眼を逸らしてその様子は見ないようにして
ありがとうもういいよと立ち上がる

血を綺麗に舐めとった矢口は一応血が止まった事を確認した為に
もうその体を開放した



実はひとみは瞬間に避けてはいたが完全に松原にビビッていた
恐怖が体を支配するのがわかったのだ

自分は兵達にも負けないと自信をつけかけていた時だったので
その自信をポッキリと挫かれた

ひとみは恐怖と、そして跳ね上がった心拍数を隠すように
シャツと上着を持って隣の部屋へ行こうとする

その背中を見て矢口は複雑な気持になる

矢口の眼にもひとみの恐怖の眼が見て取れていた
こわかったんだろうなぁ・・・・と
正直あのままでは矢口でさえ力を使わなければやられていたと思ったから


丁度部屋のドアの前をひとみが通過しようという時に
トントンとノックと同時に、誰もいないだろうと開けた絵里とさゆみが入ってきた

「「キャーッ、どうされたんですかぁ〜?」」

朝食の乗った台車をほっぽらかして
絵里達の部屋に行こうとしていたさらし状態のひとみの脇腹の血を見て叫んだ
206 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 23:01
「いや・・・ちょっとヘマして、裁縫の上手い亀井に上着縫ってもらおうかなって」

結構な血がついたさらしに、オロオロと2人が慌てている



矢口は考え出す、絵里達やあの人のよさそうな志願兵達も大事だが
何よりひとみのことを守らなければならないと

そう、梨華が帰ってくるのを心待ちにしているのだから・・・・

ひとみがえらく強くなった為にそう心配する事はないと思っていたが
やはり一番守らなければならない大事な人物

声を掛けるのが少し遅れてたら、ひとみはもっと大怪我・・・
いや、命を落としていたかもしれない

自分はひとみに甘え過ぎていたと反省する



すぐに矢口はひとみに声をかける

「よっすぃ、ちょっくら佐久間大佐の所行って来る」

決意の眼差しを向けてきた矢口にひとみは心配になった

「えっ、ちょっと待ってよ、ウチも行く」

だがすでにさゆみからさらしを取られている状態で
絵里も新しいさらしを取りに隣の部屋に向かっていた為ひとみは動けなかった
207 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 23:05
矢口が廊下に出たら、丁度向こうから仲井少佐が上がって来る所だったので
佐久間大佐の部屋の前辺りで待つと話し掛けられる

「どこへ行く」
「丁度良かった、今から佐久間大佐の所に行く所だったから仲井少佐も来てよ」

ドアをノックし中から入れと声がして、失礼しますと中に入った

「2人揃って、どうした」

仲が悪いくせにと言わんばかり

「昨日大佐がおっしゃられていた志願兵を任せていただけるというお話しの事でちょっと」
「どういう編成にするかは2人で話し合えと言っておいただろう」

ゆったりとソファに腰掛けて大佐は本を読んでいる

「ええ、それは存じてますが、もしおいらに兵を任して頂けるのなら
早々に何か任務を頂けないかなと思いまして」

「任務?」

「何かありませんか?成功すれば認められるような任務」

出来れば姫捜索の任務を狙う矢口
しかし自分からこれを振る訳にはいかない

そして自分は、この町で上位を狙う野心家の山賊・・・・
そう心に言い聞かせて佐久間を睨む
208 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 23:07
最初より敬語が増えているのだが
仲井から見れば何と言うなれなれしい態度を取っているのだろうと
驚きの表情で矢口を見ている

「お前、佐久間大佐になんという口を聞いている、身の程をわきまえろ」

「あんたはおいらと同じ位だよね
大佐が許しているのにあんたに言われる筋合いは無いと思うけど」

「何ぃ、大佐、いいのですか、こんな事を許してしまえば他の兵達に示しがつきません」

「・・・・・・」

「大佐、ここの兵達は志願兵に対し、あまりにも身分差別をし過ぎています
実力主義の軍の中では、志願兵にもチャンスを与えてもいいのではないかと思いました。
その事は決して国の繁栄には悪くない事だと思うのですが」

追い込む矢口

「「・・・・・・・」」

佐久間と仲井は押し黙るので矢口は仲井を鋭い視線で捕らえてから
再び大佐の方を向いて言う

「それともこの国の兵達は志願兵の中に強い者が出る事が怖い
弱い軍隊だとでもお思いでしょうか」

馬鹿にするような表情で矢口は口の端を上げる

「そんな事がある訳ないではないか、Yの国の軍隊は最強である、貴様愚弄すると本当に許さんぞ」

興奮する佐久間
209 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 23:10
「それなら私に任せて貰える隊に何か任務を与えて頂き・・・・
そうですね、同じ任務を仲井隊と私の隊に命令し、遂行させた部隊が
佐久間部隊の主力部隊とさせて頂くっていうのはどうでしょう」

「何を馬鹿な」

「主力部隊が真っ先にEの国を盗ればいいだけの話
佐久間大佐にとっては仲井少佐の隊だろうと
おいらの隊だろうとどちらでもよい話でしょう」

自分達に任せれば、あの志願兵を族に通用する軍隊に仕立て上げますよ・・・・と
急に軍人らしい言葉遣いをしだす矢口に、仲井が少し圧される

佐久間の中には、自分が指示しなくても
仲井がそう仕組み志願兵を矢口に押し付けるだろうという予測

仲井も自分達の部隊にだけ増え続ける志願兵の部隊割りに
前から苦労していたのを佐久間は知っていたので
きっと矢口の方に志願兵を集めろという暗黙の指示を理解していた

しかし主力部隊となると話は別

各部隊の中でも、最高の技術と統率力を持つ松原隊
その中でも抜群の判断能力と、戦闘技術を併せ持つ主力部隊が存在していた

戦の中で一番おいしい職務につき、華やかな部隊となるべき主力部隊
各隊もそうやって自分達の中で主力部隊を競わせ
切磋琢磨しようとしていたのは確かだった
210 名前:dogsU 投稿日:2006/10/09(月) 23:13
それに確かに佐久間の思惑では強い伊集院を頭にして志願兵を率いさせ
Eの国にいると思われる矢口に先発で戦わせようとしていた

きっとろくに戦えない志願兵はEの国を制覇させたとみられる軍隊を率いる矢口という王族付に
あっという間にやられてしまうだろう

対抗出来るのは伊集院と与謝野・・・
その二人で強いと言われる矢口にせめて一矢報いて死んでくれるのを理想としていた

思惑どおりとはいえ、もし伊集院が主力部隊となってしまい
その主力部隊が壊滅状態となった時
後方支援部隊の仲井が制覇しても、策としてはどうか・・・・・と他の大佐への面目を考える

「再度言う、部隊割りについては二人で決めてもかまわないが
任務や主力部隊という話は少し考えさせてくれ、いいな」

「解りました、それでは仲井少佐、早速隊の者を集合させ
自分に付く者と仲井少佐につく兵とに部隊割いたしましょう」

二人はその足で大尉・中尉・少尉に伝令を出し、食事後
本日の午前中の道場使用部隊が佐久間部隊の番になっている為そこで話し合う事となった

矢口は一度部屋に行き、朝食を食べながら
ひとみや絵里達にも簡単に事情を話してから道場へ向かう

志願兵達は何故かその場にいなかった、そのかわり
雨だからか他の部隊迄道場に詰め掛け精力的に訓練している

しかしその兵達の視線はある片隅に注がれている
その片隅で隊長から少佐迄の上官が集まり話し合う場があった
211 名前: 投稿日:2006/10/09(月) 23:14
本日はちょこっとで・・・
212 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 15:55
今佐久間部隊は、隊が四つあるらしい

どうも今までの歴代の派閥や不仲等もあったり
増え続ける志願兵を均等に配分したりと結構仲井は大尉や中尉と話し合ったり苦労していたようだ

よって主力部隊と呼べる隊もなく、皆平等な扱いのよう

そして矢口達を前にしても、ここは臆せずに隊長達は仲井少佐につきたいと言う為
他の上官が矢口達を哀れみの表情で見ていた

「まぁいいけどさ、でも自分達の強さは知っての通りでしょ
もしおいらの下についてEの国や族の町と戦えば、絶対勝てるよ
したらあんたらよりおいら達の方が立場が上
さぁ、結構面白い事になるかもよ、どう?」

矢口は挑戦的な目で上官達を見回す

そう、ここで自分達の下に下手についてもらっては後々困る
そんな風に思っていた矢口は誰も手を挙げない事に安堵する

矢口はにやりと笑って

「オッケ、じゃあおいら達二人と、あんたたちの勝負だね」

仲井達は失笑する

「馬鹿な、いくらなんでも二人であの噂の矢口には勝てまい
もしかしたらバックにあの族の町もついてるかもしれないのに」

全部隊が二の足をふむ実情が浮かび上がる
213 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 15:59
自分の国の軍隊に誇りを持ちながらも、族の集団をかなり恐れている実情

「おいら達元山賊だよ、色んな族と戦って実際勝利してるからここにいる
あんたらの恐れるあの族の町だって、そばに行った事はあるし
とにかく頭さえ取りゃ戦なんて簡単なんだろ?
んじゃさ、隊員については自分達に選ばせようよ、今までの隊は結局そのままだけどさ
もしかしておいら達につきたいっつー変わり者がいるかもしんないじゃん
あんまりあんた達が自分達の誇りってうるさいからさ、なんか鼻を明かしてやりたいんだよね」

ふふんと腕を組んでいる矢口に

「なんて愚かな」
「戦を馬鹿にしすぎている」
「品が無さ過ぎる、Yの軍としてそのような振る舞いは前代未聞」
「組織としてそれは可笑しいでしょ」
「勝手な事をすれば佐久間大佐の立場がどうなるか考えないのか」

各々拒否反応を示す上官達を馬鹿にするように笑う矢口

矢口と同じようににやりと笑って視線を交わす仲井少佐は

「まぁまぁ、そこ迄自信があるのならば、彼女の言う通りするのも面白いかもしれんな」
「だしょ」
214 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:01
突然の矢口の暴走

あれ程穏便にここの人達から情報を掴む為に仲良くしようと言っていたのに
ひとみにはどうして急に自分達が孤立するようなやり方をするのか解らなかった

任務といっても、姫の捜索には行かない主義の大佐

二人で念願の姫捜索に出る事は難しい
行こうにもどこに向かうかは全く解らないのだから

それにEの国を制覇するという戦をまさか矢口が早めさせるなんて
・・・・とひとみは不安になっている

一体矢口は何を考えているのだろうか

自信たっぷりに余裕の笑みを浮かべ、仲井とにらみ合ってる横顔を見る

だがふいに矢口がひとみを見てにこりと微笑むと
心配するなとでも言うように頷いた

そこで閃く

もしかしたら誰も自分達の隊につける必要はないと思っているのかもしれない

へたに自分達について来てしまったら
きっと矢口はその人達の未来迄心配するに違いない

矢口はひとみと二人で動ける様に今画策しているのだとひとみは納得した
だとしたら次に佐久間に姫を捜索させるような任務を出させようと考えているはず

いや、主力部隊を決める任務に、姫捜索をやらせようとしているのだ

ひとみは一人そう考えて、そして少しワクワクしていた
何かが動き出す予感に・・・
215 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:07
「それでは早速、一旦訓練をやめ意見を聞こう
志願兵には城の一階で聞いてみようか、おい集めさせておけ」

少尉に馬小屋で掃除をしているだろう志願兵を集合させる様に指示を出した
掃除させていたのか・・・・と矢口は呆れる

道場では、他の部隊の注目の中、佐久間部隊の者達を集め
仲井か矢口か・・・・どちらにつくか意見を聞いた
もちろん生粋のYの兵の中に、矢口につきたいなんて人は一人もいなかった

予想通りとはいえ、仲井や他の上官、他の部隊の人達は失笑し
矢口はへらへらと笑った

「まぁいいよ、んじゃあ、後は志願兵ね」

佐久間隊の上官のみ道場を出て行くと
気になるのか他の部隊も数人が事の成り行きを見ようとついてこさせていた

廊下で矢口は仲井に言う

「要は人数じゃないんだよ、どっちが任務を遂行する力があるかだからね」

負け惜しみともとられかねない言葉に、仲井は余裕の表情を見せる

「しかし、人数は多い方が有利だろう、戦にしろ、作戦にしろ」
「志の無い者がいくらいても同じだよ」

志という兵にとっての誇りを持ち出された仲井はムッとして言う

「それならもっと自分の方が優位だね」

そう言って自信を漲らせる仲井

「まぁ見てなって」

さらに余裕の矢口の表情



大丈夫だろうか・・・・とひとみはその背中を見つめた
216 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:10
城の吹き抜け到着した頃には雨に濡れた志願兵達が集められていた
階段には他の部隊の上官や、もちろん佐久間も小林を連れて降りてきていた

「皆に問う、我が佐久間隊に心強い上官が現れた為、新しく部隊割をしなくてはならない
そして皆には選ぶ権利を与えよう」

意気揚々と仲井が叫ぶ

階段脇に二人が分かれて立ち、その横に上官がつく為
矢口サイドにはひとみしかいない

一斉に分かれてとの仲井の号令に、戸惑いながら志願兵達が動き出す
ざわざわと騒然とした雰囲気の中、予想通り仲井の方に人が集中する

そんな中に矢口の前に十人位の人が残った

しかし、ひとみも矢口も驚いていた
この国で自分達に付きたいと言えば家族や両親達がどんな目に合うか解らないのに
まさか自分達に付きたいという人がいるなんて・・・と

仲井や他の者も失笑し、それでは今までとほぼ同じ部隊割りになるがそれでいいかと聞いていた
217 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:13
そんな雑然とした中
矢口は目の前にいるその人達に温かく笑いながら問い掛ける

「ありがとう、でも何でこっちに来たの?あっちの方がちゃんとした兵隊として扱われるよ」

しばらく沈黙が続くが、一人の兵が弱弱しい声で矢口に言う

「私は、昨日伊集院少佐に戦い方を教わりました
伊集院少佐の心ある指導に感動し、こちらにつく事を決意しました」

矢口は微笑む、こんな人もここにはいるんだなと
しかし、こんなにいては自分達の行動がもろにこの者達の将来に関係してしまう

「そっか、ありがとう、でもおいらは別に強制はしません
いつでもきちんとした部隊に復帰してかまわないから
家族や、守りたい人がいれば、その人達の為になるようきちんと自分で結論を出して下さい
その事においらは何かするような事はないから」



集まった兵達全てに目をやり
心からの笑顔で綺麗に笑っている矢口をひとみは横から眺める

その姿は完全に素の矢口で
佐久間達の前で演じてみせる伊集院の姿ではない


やはり惹かれる、どうしようもなくこの人物に惹かれてしまう自分にひとみは気づく




その言葉に、十数人の兵達は少し考え込んでいた
そして、仲井の所に並んでいる志願兵の数人にもその声は聞こえていたようだ
218 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:16
「伊集院少佐、先程の話はどうするつもりだ
同じ任務を遂行するというあの提案は」

勝ち誇ったように仲井が矢口に向かって言うと矢口にスイッチが入る

「それは変わらずに大佐に考えてもらうよ、おいらは必ずその任務を遂行するし
あ、それともし後でそっちに戻りたい人がいたら受け入れてあげてよね
ちょっとした好奇心からこっちに付いた人もいるかもしんないし」

堂々と言い放つ矢口に、仲井の前にきちんと整列する兵達がざわめく

「ふっまぁいいだろう」

馬鹿にした笑みで寛大な自分を装う仲井

「それは2人でも同じ内容を遂行するという事かね」

後ろで黙って見ていた佐久間が矢口に向かって言うと
矢口はにっこりと笑ってもちろんと答える

よかろう、考えておくので、とりあえず我が部隊の隊列はこの編成で行うと言って解散した

全員がちりぢりになる中、矢口は集ってくれた十数人に、再度、自分の為に考える事
後悔しないようにねと真剣に言い残してひとみに眼をやり階段を登っていく
219 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:19
部屋に戻ると昼食の準備と共に、矢口とひとみにもう二着ずつ軍服が用意されていた
絵里達は何か噂を聞いたのか少し心配そうに矢口達に近づく

「あの・・・・伊集院少佐、どこかに戦いに行かれるのですか?」
「いや、まだそんな事は決まってないけど、何か噂でも流れてるの?」
「あ・・・・いえ・・・・」

言いよどむ絵里にさゆみも俯いて黙っている

大方、絵里達のこの仕事も、じきに終わりを告げるとでも
他の付き人に言われたのだろうと矢口が言うと
正直者のさゆみがそうですと答え、絵里が慌てて違いますと言いなおしていた

ここに一度入ると、一族が追放される以外は
違う人の付き人や、一般の付き人としてここにい続けなければならないという事が後で解った

「ね、絵里ちゃん・・・・絵里ちゃんはこの国をどうしたいって思う?」

用意された昼食に毒の入っていない事を確認した矢口が食べ物を絵里に分け与えながら言う

「・・・・・・・解りません」

同じ質問をさゆみにも言うと、やはり言いよどんで同じセリフを返した

「悲しいよね、自分の生まれ育った国を好きといえなかったり
この国に夢を持てないなんて・・・・・それは家族も同じ思いなのかな」

「「多分」」

多分という言葉も悲しかった

家族がどんな思いをしているのかも話してはいけないのだろうかと
220 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:22
「もしかしたら本当にどこかに任務で出かける事になると思う・・・・
その時はどうする?おいらは絵里ちゃん達を連れて行けるか解らない
その任務の先で死んでしまうかも解らないし・・・・・だから絵里ちゃんと重さんには
自分がどうしたいのか・・・・よ〜く考えて欲しい
でも、出来ればこの仕事から解らないように解放してあげたいとは思ってるから
そうだな・・・連れて行けるのなら、任務中に殺されたとでも言って村に帰せるように何か考えるよ」

「「いやです、私たちこの仕事につけたことを誇りに思っていますから」」

食べ物も口にせずに二人は膝にギュッと手を握って俯いた

「でも、ここに来たばっかりにつらい思いしてるじゃん
それとも両親や家族共々追放される?亀井と重さんの為に少佐は言ってるんだよ」

ひとみの優しい言い方に、絵里とさゆみは涙を浮かべて言う

「帰ってもつらい事は同じです・・・・私たちの村は、漁業が盛んだけど
毎日父達が朝早くから船を出して取って来た魚は、ほとんどこの町に取られてしまいます
そして自分達が食べる物は、その取った魚を売って少しばかり得られるお金で買った米や
物々交換で得た野菜とかで毎日暮らしていました、私がここにお仕えする事は
両親は喜んでいますし私は本当に少佐にお仕えしたいです」

困ったように矢口はひとみを見る

「とにかく食べよう、もうじきおいら達午後の訓練に行かないといけないみたいだからさ
・・・・それと・・・・今日の夜、時間が開いたらこっちの部屋に来て欲しいんだ
ゆっくり時間をかけて絵里ちゃん達に聞いてもらいたい事がある・・・・
だから今はきちんと食べて元気出そう、ね」

矢口がフォークに人参をつけて絵里の口に運ぶ、あ〜んという声と共に

絵里は驚くが、矢口の真っ直ぐで優しい視線に口を開けて食べさせて貰うと
涙を溜めた目をこすって笑った
221 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:25
「オッケー、大丈夫だよ、それと嫌がらせなんかに負けるな」
「はい」

元気に頷く絵里を隣で見ていたさゆみもひとみを見る

ひとみがその視線に、お前も食べさせてもらいたいのかい?
と聞いて同じように人参をさして口へ運んで見せ
さゆみも笑って口を開けてひとみに食べさせてもらうとへへへと笑った

その後、元気に食べ出した二人に
今日からお風呂は順番を入れなくてもいいと伝える

どうしてという絵里達に、夜中に入る事にしたと伝えると
自分達も夜中に入りますというのでそうするように段取りをお願いした

少し元気になった絵里達に後片付けをお願いすると矢口達は広場へ向かう

「ねぇ、ウチらに誰もついてこさせないようにしてんだよね」

周りに誰もいない事を確認して矢口の耳元で囁く
矢口はひとみに一度視線を合わせすぐに前を向いて小さく頷いた

「姫も大事だけど・・・・お前も大事だから」

そう言って恥ずかしそうにひとみを見ながら
「腕をあんまり動かすなよ、傷口が開くから」
と言って足早に階段を下りていった

嬉しそうなひとみが満面の笑みでついて行く
222 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:29
雨が小雨になり、道場も他の部隊の使用となる為の広場集合だったが
雨の為地盤の緩んだ広場に入る事は出来ないと
他の広場使用の部隊は部屋で戦闘論理の授業をしているようだ

既に集まっている佐久間隊は、道場寄りの廊下等で既に訓練していた
仲井がいる場所へと向かうと、矢口達の前にズザザッと駆け寄り敬礼する男達が表れた

先程矢口達についてくると言ったの十数人が五人に減っていた

「まだこんなにいるんだ、それでいいの?おいら達について来ると
もしかしたら大変なことになるかもしれないよ」

矢口は、もう誰もついて来ないんじゃないかと思っていただけに、嬉しいと共に少し困惑する
だが前に集った人達は強い目をしてお願いしますと頷く

「そう・・・・じゃあ・・・・まず話しよっか、みんなの事を教えて欲しい
どんな所で生まれて家族はどんな家族か、どんな友達がいるか」

ほとんどの者は馬小屋の横で一度は教えた事のある者達で
戸惑いながらも小さな円になり話をし出す

狭いスペースで他の人が訓練にいそしむ中
その小さな空間だけは異質で、その様子を仲井達が時折冷たい目をして見ていた

そして矢口は気づく、上から感じる視線・・・・・自分達を見ているれいなの姿がある
あそこに閉じ込められているのか・・・と矢口は確認する
223 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:32
仲井の方の部隊の志願兵は相変わらず長い槍の訓練をしている正規軍の為の武具を揃えたり
近くで基礎訓練をさせられている

いきなり話しをしようと言われ最初戸惑う五人だったが
矢口やひとみの砕けて話す姿や
2人が余りにくだらない事で喧嘩しているのが可笑しかったのか
徐々に五人は心を開き、色々話しては笑い声を出した
余り大きな声で笑うと叱られるよと言ってくすくすと笑う

五人はずっと東の方に住んでいた山の民で
冬になると雪に閉ざされるし農作物が全く取れない為
Yの国のある街へいつものように降りて来たら
去年と町の様子が違っていた事を打ち明け始めた

いつもなら秋に収穫した食べ物とお金を交換した分で
一冬過ごせる位だったのに、買取を行なう兵から脅されるようにわずかな金との交換になり
働き口を探すがとても使用人を雇うような余裕のある働き先はなかった

腕に自信はあったので志願兵になり、そこでもらった金を家族に渡していると一人の男が言い出すと
次々に似たような話を言い出した

生きる為に仕方なく兵に志願した兵達は、最初戦い方もわからないまま実力を測る為の試験で
兵からこてんぱんにやられ悔しい思いをしたようだ

きっと戦い方さえ解ればこんな奴には負けないのにと思うが指導を受ける事もなく
盗み見る事で自分達なりに馬小屋のそばで訓練を重ねてきた

なのに、それから試験のような物はなく
そのまま一番下級の兵として毎日使いっぱしりをさせられている現状に満足できず
いきなり表れた志願兵の矢口達に驚くと共に、強い憧れを抱いたと皆が口々に言い出す

ずっと聞いてる矢口とひとみはこの国の人達は決して幸せではないのだなと感じた

ひとみの眼には矢口の中で何かがまた燃え上がり始めたのを感じたような気がして
自分に気合を入れなおす
224 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:35
そんな時に、各部隊の所に伝令役が走って来るのが見える
もちろん矢口達の所にはだれも来ない為、矢口は何事だろうと眺めた

その伝令役と共に上長が城へと向かって走り出すので
矢口はお〜いと間の抜けた声で伝令役に声を掛ける

一応上長の矢口の声かけに従いしぶしぶやってくると
その様子を気にするでもなく笑って言う

「何かあったの?」

「新聞が他の町に売られ始めたらしいのですが
その内容が大変な事になっているようですぐに上官に集合をという事です」

「なるほどね、解ったありがとう」

矢口はひとみに眼をやると、皆には、そのまま親睦を深めておいてと言い残し城へと戻る兵の後に続く


最初に王様に会った場所にすでに皆集まっており、矢口達が最後であった
すぐに集まったようだなと黒岩将軍がやって来て皆を膝まつかせると
王と王子が出て来て第一王子が話し出した

「大変な事が起こってしまっている、すでに松原の部隊が出動して回収に向かっている」

黒岩が新聞を握りつぶした
225 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:39
「これにはあの族の町が一つの町に纏まった事が一面に書かれている
それに貢献したのがまたしてもあの矢口とかいう逆賊で、しかも
Mの国でのあの虐殺事件は、Mの国側に非があるように訂正の記事が載っている
そしてもっと驚いた事が、MとYの国がなにかを企む悪者のような扱いになっている
実に嘆かわしい事だ、我がYの国の威厳どころか、このような偽りの事実が世に広まるというのは」

再び王子が黒岩に続き声を出すと国王が続ける

「我が国は、我々のすばらしい国政を、他の国にも広めようとしているだけである
こんないい加減な新聞なんぞに惑わされる事はない」

その一言に、跪いている上官達はウンウンと頷いていた

「そこでもう悠長にMの国を待っている場合ではないと考えた」

黒岩が言いながらビリビリと新聞を破り捨てる

「やはり矢口達一行が旧Eの国に潜伏していると伝えている
この前の新聞と打って変わって矢口が一躍救世主のような扱いになっているのは
新聞を書くものと矢口に繋がりが出来た事を示し
このままではこの国も矢口にどういう事をされるのか解ったものではない」

破られた新聞を踏みながら言う第一王子

「Jの国のある町のエピソードも、あの族の町でのやりとり等
矢口というものは実に周りを洗脳する恐ろしい人物だと解る
予想道りどうもこの国を襲う為に逃亡しているのではないかと思われる
あのいまいましい姫を取り戻す為に・・・・
我が息子の王族付をたぶらかしたにっくき姫だが
ここはこの矢口が襲ってきた時の為にあの2人をなんとしてでも探しだせ」

国王の怒りの心情が手に取るように解る低い声で言われると

「すぐにだっ、今までは見つけ次第殺すよう言って来たが
人質にする為生かして捕らえるように今すぐ全力を尽くせ、いいな」

王に続き再び命令を下す黒岩
226 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:44
「それでは、あの旧Eの国に今潜伏している矢口には兵は向けず
向こうからやってくるのを待つのですね」

じきに兵を出そうとしていた佐久間の言葉

「そうだ、どれ位の兵を引き連れてこちらに向かってくるか知らんが
それに迎え撃つ準備をする事が一つ、それと松原が今回収に向かっているが
この一件により、わが国の村のすみずみまで今の新聞が出回る事を防ぎ
代わりにわが国で作成した新聞を配布する事を任務とする部隊を事務方に発足させよ」

佐久間の質問に、王子が答える

「付け加えて、この新聞を作った者、配布する者
購読している者を見たらすぐに殺せ、解ったな」

最後の黒岩の締めの言葉に
ハッという上官達の声・・・・・再び矢口の体に何かが生まれる

その後、王達が退出した後、各大佐が命令を下しだす
そして佐久間も、もちろん仲井と矢口に同じ命を下す

「決まったようだな、これで任務が
どちらが先にMの国の姫と族を連れて帰るか、それが任務だ」

矢口とひとみは平静を装いながらヨッシャと心の中でガッツポーズを作る

早々に各部隊が動き出しているようだ
矢口達も佐久間に敬礼をしてサッと踵を返そうと思ったが
矢口が再び佐久間に言う

「ところで、今までその姫はどこら辺にいたという噂があったんですか?」
「それは、君の腕の見せ所ではないのかな、伊集院少佐」

各部隊も情報は交換していないようだ・・・とにやりとする佐久間

「あ、そうですね、じゃあ行こうか与謝野大尉」
「ハッ」

2人はニッと微笑みあい、先程の五人の所へ戻る
227 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:47
途中、兵達がいない廊下で2人はハイタッチをしてこそっと言い合う
これでおおっぴらに姫を探せるなと

そしてさっきの場所に五人はいつのまにかいなくなっていた
あれときょろきょろしていると
今の事の説明されている仲井の集団の輪の中から志願兵の一人が、
他の兵に見つからないように馬小屋と声を出さずに教えてくれた

矢口はオッケーサンキューと手を振り、馬小屋の方へと向かった

「おいやられちゃったんだね」

と裏手に廻る矢口は本当に嬉しそうで
ひとみはその背中を複雑な思いで見つめた

2人が馬小屋に行くと、勘太が嬉しそうに近づいて来て
五人もそれに気づき敬礼して待っている

「あ、いいからいいから、そんな事いちいちやんなくて
今ね、指令が下ったんだけど聴きたい?」

ハイテンションな矢口に五人もひとみも少し苦笑する

「聞きたいに決まってんじゃん、じゃあウチが話すよ
あんた舞い上がってるから」

「あ」

口をへの字にして黙り込む矢口にアカンベをして話し出すひとみを五人は笑って見ていた

「ここにMの国の姫がいたっていう事なんだけど知ってますか?」
「ええ、一度だけ見た事があります、とても綺麗なお姫様でしたが、最近逃げて行かれたと」

シッと思わず止めに入る隣の兵
よほどこの話は禁句になっているのだと改めて思う二人
228 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:50
「大丈夫もう公に探すようになったからさ、だから、その姫様を見つけ出してここに連れて帰るのが仕事
ウチらは来たばっかで何も情報が無いから、ここにいる五人に
知ってる事を話してもらおうかな、まず」

仕切りだしたひとみに矢口は頷く

城の向こうから兵がやって来て次々に馬に乗って出て行くのを五人は横目に見ながら
知っている限りの情報を言うのだが、これは皆が知っている情報という事

逃げた方向はやはりEの国の方ではないかという事がここの兵達皆の予想でもあった
しかし、あっち方向には姫達が逃げた日から何百人のYの兵が向かっており
急速にYの国の支配化に置かれた為完全に把握出来てるはずだから
もしかしたらその追ってから逃げる為にFの国方向へと
向かったのかもと皆が言っているのを聞いた事があるようだ

確かに、通って来た町の全てにYの国の手がかかっていたのは矢口達も見てきた為
そうかもしれないと思った



「あっ」

ひとみが急に何かを思い出す

「なんだよ」

ひとみは矢口に五人に聞こえないようにこそこそと囁くが
矢口はこしょぐったくて身をよじりながら聞いていた

「少し大きな町で一度族を見たかもって言ったよね、その時確かにバーミンが反応してたんだよね」

ひとみの言葉に矢口は気づく、そういえばこのYの国には族はいない
あの時ひとみが族がいたかもと言った時に、もっと真剣に聞いていればと悔いる
229 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:52
「ねぇ、ここって本当に族の人って五人しかいないの?」

確認するように聞く矢口に

「はい、もし見つかればなんとしてでも殺してしまいますから
でも他の国もそうなんでしょ」

「・・・・・ううん、確かにそういう動きも昔あったりしたけど
おいらが見て来た町じゃもうそんな事は無かったよ」

悲しそうに答える矢口

「ええっ・・・・でも、王族付になる族の人も、代々の血筋の人を交換したりして
だから王族に関わる族以外の人が増えない様にしてるって・・・・」

「ですからあの族の町みたく危険な町が出来てしまわない様に
小さい子でも族は処刑すると決まってますから」

「何もしなくても?」

悲しみの目の矢口の問いに、兵達は複雑な気持ちになる

「ええ、それが国を守る事になるのですから」

落胆する矢口と、それを心配そうに見るひとみの姿に一人の兵が口を開く

「でも・・・・・」

ン?と視線をやる矢口

「でも族の人も、我々人間と同じように感情とか・・・・あるんですよね、佐久間大佐もそうですし」
「そうだよな、佐久間大佐は通常普通の人だもんな」

戦ったらめっちゃ強いそうですけど・・・
そういう五人は、実際佐久間が力を使った所は見た事がないらしい
230 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:55
「じゃあ本当に、この国の町に族の人がいる事はありえない?」
「はい、ありえません」

ひとみが嬉しそうに矢口を見る
矢口もひとみを見て笑い
2人は頷き合うと、五人は何が起こっているかわからずにじっと二人を見ている

早速走り出そうとするひとみを矢口が止める

「焦るな与謝野大尉、ここはじっくり考えよう、ここにいる五人の為にも」
「あ・・・・ああ、そうだね」

ひとみは再び矢口の事をすごいと思った

やっと念願の姫に会えるかもしれないのに
そんな時に自分達についてきてくれるという目の前の五人の心配をきちんとしている事を
多分絵里達の事や、もしかしたらあのれいなとかいう不思議な娘の事でさえ
心配しているのかもしれない・・・と

矢口は五人に真剣な顔をして言う、仲のいい付き人やここで働く人はいないか
いれば姫に関しての情報をこれから何でもいいから探して
明日自分の部屋に言いに来るように伝えた

そして、もう一つ、自分はYの国が好きか
ここを離れる事をどう思うか真剣に一晩考えて来るように言った

さすがにそれにはかなり驚いていた

五人はごくりと唾を飲んで互いを探り合うように見合った
231 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 16:59
「正直、おいらの下につくと言ってくれた事はすっごく嬉しかったんだ
こんな状態で明らかに不利なおいらにわざわざついてくれるなんて
でもね、おいらはここの街にはふさわしくないんだよ
やっぱ、兵が一番偉いなんて状態が横行しているこの町
・・・・いやこの国に
だから勝手だけど、別の場所を探そうと思う
おいら達がのびのびと暮らせる場所・・・・
でもあなたたち五人がおいらが逃げ出した事でつらい眼に会わされるのは嫌なんだ
こんなおいらを許せないと思えば、上官に密告してもらってもいい
おいらは真剣だからみんなも真剣に考えて欲しい」

五人の眼を見上げて一人一人に真剣に言った後
ひとみに眼をやると笑って頷いてくれた

「じゃあ、情報は掴み次第報告、ここを離れる事に関しては一晩じっくり考えて明日の朝
朝食後においらの部屋に集まって下さい、その時返事を聞きます
今聞いた時点で、怖くなったり、やっぱりこの国の事を好きだ、大切だと思う人も
心配する必要はないよ、佐久間大佐に頼んで部隊に復帰してもらえるよう頼んであげるから
何も知らなかったふりして、いやおいらの裏切り行為を密告してもいい
とにかく自分の事を考えて結論を出して下さい」

話している横を、次々に馬に乗って行く兵達の為に、馬小屋は大層寂しい状態になっていく

唖然とする五人

勘太にまた夜来るよと言うと2人はそんな五人を残して城へと戻って行く
232 名前:dogsU 投稿日:2006/10/11(水) 17:01
その時矢口は城の上を見上げた

ひとみもその様子に気づき視線を追い
廊下の窓のような所かられいなという子が見ているのを見つけた

矢口が手を振り、自分の胸元に親指を立てて「部屋においでよ、遊ぼう」と小さい声で呟いた

「何言ってんの?またあの女が来る・・・あ、いないっつってたね
でもあんな遠くから少佐の口の形なんて見えないよ」

「見えるよ、あの子は族だろ、そしておいら達の事気になってる
もしかしたら自分を助けてくれる人かもってさ」

「何でそんな事解るんだよ」

「似てるんだよ、昔のおいらに、もうずうっと昔
あの子よりもずうっと小さかったけどな」

懐かしそうな笑顔をする矢口の横顔はとても綺麗だった

「お、それと、いつでも撃てるよう銃と、剣を肌身離さず持ってろよ
すぐに旅立てるよう準備だ、絵里ちゃん達にも事情を話さないとな」

2人は、いよいよ行動開始といわんばかりにズンズンと歩いて消えて行く

残された五人がどうする?と言う顔を見合わせて立ちすくんだ
233 名前: 投稿日:2006/10/11(水) 17:01
今日はここ迄
234 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:29
城の中は、兵達が捜索に出て行った為かガランとしている
使用人位がちらほらと掃除等して働いているが、矢口達の姿を見てその内の一人が近づいて来る

「あの・・・・・」

使用人から先に話しかけるなんて事がここであるなんてと少し驚くが
矢口が優しく聞く

「何?」
「与謝野大尉の腕のボタン・・・・・取れかけてますので縫わせていただけないかと思いまして・・・」

右手を曲げて袖を見ると確かに取れかけている、きっと訓練の時に木刀でも当たったのだろう

「あ、ほんとだ、でもいいよ、後で付き人に、イテっ」

「ごめんねこいつバカだから、悪いけど縫ってあげてよ、あ、ここじゃ目立つでしょ
あなた達の部屋に行けば兵隊は入って来ないだろうからそこで縫ってあげて」

足を踏まれてピョンピョン飛んでいるひとみの横で矢口が優しく言うと
嬉しそうにその子は答えた

「は・・・はいっ」

矢口に背中を押されたひとみが矢口を睨むが
冷静に考えると確かにいい機会かもしれないと思い
顔を赤らめた子の後を黙ってついて行った

「左腕はあんま動かすなよ〜」

のんびりとひとみの背中を見て言いながらも辺りの状況を確認する
兵の少なくった今なら一人でも大丈夫だろうとひとみを見送った後部屋へと戻る
235 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:33
絵里達は隣にもいないようなので、とりあえず自分達の荷物を準備する
といっても荷物なんて何もない

すると、ドアの外に人の気配がしたので矢口は注意しながらもドアを開ける


立ってたのはれいなだった

「あ、来たんだ、入って入って、いやぁ〜嬉しいよ、もう来てくれないかと思った」
「何でかまう」

睨みつけて入ろうとしない
いいから入ってから話そうとグイッと手を掴んで部屋に招き入れる

「なんか、気になるんだよね・・・・田中はどうしてここに来てくれたの?」


今まで自分を呼び捨てにする人はいなかった
・・・・この人も自分が王族の一人だというのを知っているはず

そういえば今朝、馬小屋で目の前の小さな人の連れの人も
自分を田中と呼び捨てにしていた事をれいなは思い出す

変わり者と噂の二人はただの馬鹿なんだろうか・・・・そう思いながら返答する

「・・・・呼ばれたから」

「そっか、ありがと、まぁ呼んだのはおいら達があんまり時間がないんで
少しでも話しておきたかったからなんだけどさ」

「・・・・・・・」



怪訝そうに矢口を見るれいなをよそに能天気な声

「明日さ、おいら達この街を離れるんだ
Mの国の姫を連れ戻しにEの国の方へ出かける、もし良かったらついて来る?」

「・・・・え?」

何より出かけて行く方向を聞いて驚く
そしてついて来るかとにこやかに言っている事に更に耳を疑った
236 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:38

「朝も聞いたよね、この国が嫌い?」

ソファに座って足の横に手をついて優しく聞いて来る

しかし、あまりに唐突な質問ばかりなので
れいなは口をへの字にして小さく頷く

「じゃあお母さんは?」

今度は黙って俯いて動かなくなってしまった

「本当は好きなんだよね、でも、嫌いでもある、違う?」

自分の事を見抜くように矢口の視線は鋭く刺さってくるが
何故かその温度が温かい事がれいなは不思議だった

「田中・・・・いつまでも現実から逃げてちゃだめなんだよ・・・・・自分でけりつけなきゃ」

そう言うとれいなは少し涙目になってキッと睨む

何も解らないお前みたいな志願兵に何が解るとでも言わんばかりに・・・・・




「どうしてこんな事おいらが言うか解る?」

睨んだまま動かない

「似てるんだ・・・昔のおいらに・・・・
自分の運命に気づいてもがいていた自分にそっくりだなって」

「え?」

不機嫌な表情のかすかな変化
237 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:40
「おいらも族なんだ、で、王族付き、背負ってる物は全然田中の方が重いかもしれないけどね」

えらそうだなと笑っている矢口をよそにれいなが眼と口を開けて驚いていく

「うまくいけばもう帰って来ない、だけど田中の事・・・
気になってこの国を離れる事は出来ないと思ったから呼んだ」

穏やかに言った内容はれいなには衝撃が大きかった

「・・・・ど・・・この・・・・王族付き?」

ようやく搾り出す声

「ん・・・Mの国だよ」

矢口の答えにれいなの眼はこれ以上開かない位に見開かれた






「・・・・・・・矢口・・・・」



れいなの声にならない言葉に矢口はにっこりと頷く

「そう・・・・それが本当のおいらの名前・・・・この国の人が全員嫌っているのがおいら」

するとみるみるれいなが泣き出して行く

「ご・・め・・・・ごめんなさい」
「え?」

矢口は慌てる、余りに予想外の行動で
238 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:42
「ごめんなさい・・・・姫に・・・・姫にひどい事にしようとして
・・・・あの人が・・・・だから・・・・」

手で顔を覆って泣き出すれいなに慌てふためく矢口

「いや・・あの・・・・おい、田中・・・・」

声もなく唇を噛み締めているれいなも、息を吐きながら落ち着きを取り戻し
矢口が立ち上がってれいなの隣に行き肩を抱く

「田中がどうして謝っているのかが解らない、おいらは自分が姫に会いたいからここに来た
そして今もどこかで姫はおいらを待っててくれると信じている・・・・
これがおいらの運命・・・・・
じゃあ田中はどうしたい?あの部屋にいつまで閉じ込められているつもり?」

覗き込む矢口の眼を潤んだ瞳でじっと見た

「田中には自分で何かを変えれる力があるんだよ・・・・・
おいらなんかに謝る前に、自分の運命から逃げないようにする方がよっぽどかっこいい」

肩においている手をポンポンと優しく叩く

「閉じこもってないで、仲間を沢山作ってほしいな、田中には」





「な・・・・かま」
239 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:44
頷いて笑うと矢口はおもむろに立ち上がり窓際へと向かって行く

「これでもおいらには大切な仲間って結構いるんだよね・・・・
一緒に付いて来たあのバカもそうだけど・・・・でも・・・・いいよ・・・仲間って」

窓際に手をついて外をじっと眺めていたが、ゆっくりと振り返って右手を見せる

「おいらのこの手はさ、すっごい沢山の人の命を奪ってる・・・・
おいらはこの手を見る度に真っ赤に見えて、どうしようもなく自分が嫌いになった
殺さなければ誰かを守れなかった、殺さなければ自分が死んでいた・・・・
それは全部言い訳、殺した命に変わりは無い
だからおいらは誰も殺し合いをしない世の中にしたい・・・・
綺麗事だってある人に言われそうだけど・・・・臨む位はいいと思わない?」

右手を見せたまま笑う
そしてぎゅっとその手を握り締めて胸の所に握ったまま持って行き

「田中にはこんな汚れた手にはなってほしくない・・・・・同じような運命を持ってたとしても・・・」

矢口は真剣な顔をしてれいなを見ていた


その視線に、どうしてそんな事を自分に言うのか
そして、今矢口がこんな状況で自分に身分をバラす事も不思議とは思わなくなっていた


既に涙は止まり

「随分・・・噂と感じが違いますね」

れいなが少し表情を明るくして言い出す
240 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:45
「そうか?この町ではキャラクター作ってるからさ
毎日疲れるけど、結構楽しかったよ・・・・
でもこの国にとっちゃ迷惑な話だよな、まぁ、この城騒がせて悪かったな」

頭を掻いて矢口がすまなさそうにれいなと視線を合わす

そして互いにくすっと笑いあうとバンッとドアが開き、瞬時に矢口は腰の剣に手をやり身構えた
すぐにひとみが入って来たと解るとなんだと再び窓にもたれかかった

「助けてよっ、・・って、田中、いたの」
「いちゃ悪いみたいですね」
「お?」

昨日からの態度とは違い、すぐに返答が帰って来るのに驚く

「どした、吉澤」

それを面白がる矢口

「え?」

ひとみが固まる
が、すぐにドアを閉めて慌てる

「い・・いや・・・あの・・・・え?」

本名で呼ばれた事にどう対処していいのか解らない風
241 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:48
「いいから話せよ、もう田中には包み隠さず言ってあるから大丈夫」

ひとみがれいなを見ると、泣いたような感じは残るものの、敵意は見られない

何回か見た鋭い目で睨んでいる時と違い
頷く田中の顔は少し穏やかになっているのに気づく

「あ・・・ああ、控え室みたいなとこでボタンつけてもらってたら
次々と使用人の人たちが増えてってさ、
最初遠巻きだったけどだんだんしゃべってきだして
そしたらだんだん大勢になって、誰がボタンをつけるだのなんだのって収拾つかなくなったからさ」

「あははっすげ〜・・・お前モテるなぁ、そんで何しゃべって来たんだよ」

矢口が大口を開けて笑うと、少し不貞腐れて聞かれた事に答える

「あ、なんか、松原大佐は西の方に主力部隊を連れてったもんだから
他の捜索隊は諦めて別の方向に探しに行ったらしいんだ
迷いなく向かってったからさ、松原部隊はきっと何か掴んでるんだろうって
だからFの国じゃなくて姫はきっとEの国の方ですよって・・・
んでもしウチらが探しに行くつもりなら、形だけって事で近場の北の方で十分だって教えてくれた
それと、使用人の人達は兵隊の機嫌を損ねないように必死だけど
結構色んな情報握ってるのは本当みたい、黙って仕事させられるから聞こえるんだって」

れいなが松原大佐と聞いて少しピクッとする
242 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:51

「なるほどね、あ、絵里ちゃんと重さんはいたか?」

「いた、でも2人だけ台所の掃除させられててさ、あれ、っつって近づいたら
皆慌てて手伝い出したよ、だからその隙に後でねっつって逃げて帰って来た」

それを聞いてすぐにムッとした顔になり

「ちゃんと助けて来いよ、あいつらの事」

「ああいう場合、あいつらに手ぇ貸すとウチいなくなってからあいつらが辛い目に会うんだぞ
ちびが最初言ったんだろっ、自分達でどうにかしないとってさ、ったくこれだからちびは」

呆れるように言いながら矢口に近づいて腕を組むひとみ

「んだとぉ」
「なんだよ」

窓際で上から見下ろすひとみと見上げる矢口

「あの・・・・・」
「「何」」

突然言い出すれいなに2人でへの字にした口をしたまま見下ろす
その様子が可笑しかったのか、くすりと笑いながら

「私も連れてって下さい・・・・明日」

自分で言った事に満足なのか、れいなは笑みを浮かべた
243 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:53

「・・・・・何言ってるの?」

訳がわからないひとみが田中を肩口で親指を立てて指差し、矢口に聞く

「何ってそのまんまだろ」
「・・・・・・まじ?」

「松原大佐は・・・・私の母親です、母親がどんな仕事をしているのか
この眼で見たいんで連れてって下さい」


「えええええっ」

ひとみは知らなかったので驚く


「いや、あの・・・・ウチは出来ればあの人には会いたくないんだけ・・・・」

ひとみの顎を矢口が突き上げて黙らせる


「いいよ、来な、でも母親がどんな仕事してるか解ったら、ここに戻って来るんだぞ」

れいなは頷く


「閉じこもって考えるばかりじゃ、何も変わりはしない
自分の目で見て、自分で何をすべきか考えるんだ」

再びれいなが力強く頷く




もうきっと何かが動き始めてる・・・・そう矢口は確信した
244 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 13:55
その後、田中はどうして松原大佐と名前が違うかを問うと
王子との子供だと解るとまずいという事でその時の付き人の名前を付けたようだ
その付き人は多額の報酬をもらって小さな村の富豪になっているらしい

れいなは実際に戦った事はないらしいので、矢口が自分達について来ると危ない事を言うと
強がりからなのか窓からいつも訓練の様子を見ていたので平気だという

まぁ族は族なんで、逃げる事はできるだろうと安直な考えで済ませた


途中、五人が次々と矢口達に報告に来る
来る人来る人部屋にれいながいる事に驚くのが矢口達には面白い

萎縮しながらも、矢口達の大丈夫だからとの言葉にぼそぼそと話し出す

それぞれ、知っている使用人から情報を聞いて来たという

今日は、矢口達に言われたので、上官命令だと割り切り
思い切って親しげにしゃべってみたらしい

もちろんそれは周りに人のいない、一対一の時だったらしいが
兵から話しかけるのはかなり珍しいし、最初は警戒されたが
志願兵だし兵も少ない、一番効果があったのは伊集院少佐の命令で
使用人ともっと仲良くする様にと言われた話すと結構使用人も話してくれるようになったらしい
245 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:00

そしてそれぞれ聞いてきた内容は

新聞屋がこの前ここに取材に来ていた事や
最近その時に結構城内の情報を腹いせにしゃべる人が多いという事

上官にしか伝えられていなかったはずのEの国が族の町を襲って
結果今まで三つに分裂していた族の町が一つにまとまってしまった事

その時に、Mの国から兵を殺戮して逃亡中の矢口が一役買った事

実は矢口という人はとてもいい人で、Mの国の王族を殺した犯人が矢口というのも
矢口を嵌める策略だったのかもという事

それから各町に、今の王族に反抗しようとする若者達がいるという噂迄
徐々にしゃべってくれたという

なんか初めてでドキドキしたと話す兵達は少し興奮ぎみだったが
詳しい話が出だしたら再び暗い表情をしていく



市民と兵隊のこの国に対する愛情の温度差は想像以上に大きい事を
今まで知っていながらも見ない様にしていた志願兵達

それにも増して兵達には見せてももらえなかった新聞は
実は使用人の間ではもう大分読まれているというのが
矢口達はこの国の実情をみているようで悲しくなる

短い人で半年、長い人で一年の兵隊生活の間に
いや、ここ何ヶ月の間に急激に情勢が変わった事を
兵達より、市民やここで働く人達の方が敏感に感じ取っていた事・・・・


最近のこの城の中の事がよほど我慢出来ずに、長年仕えてきた使用人達でさえ
鬱憤が溜まっているのか、もうこの国はダメだ・・・
と、新しく増えてきた志願兵
その中でも矢口達に特に期待する人が増えたという話迄出てきた
246 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:03
「こんな山賊に何期待してんだか・・・・
でも、その新聞・・・・なんとか手に入らないかなぁ」

「・・・・多分無理でしょう、命に関わりますから・・・」

王の命令が下ってから、すぐに使用人たちは呼んだ後さえ残さないように
燃やしたりこなごなにしたりして処分を始め、一切残っていないようだ

すると、悔しそうに聞いていたれいなが、ハッとして
もしかしてあるかもしれない、また夜来ますと部屋を去って行く


れいながいなくなってから、兵達が安堵の表情を浮かべた

「どうしてそんなに緊張するの?」

「噂のお嬢様ですよ、遠めでしか見た事はありませんでしたが
少しでも近づいたら殺されるというあのお嬢様でしょう、どうしてここに」

自分達はしゃべり過ぎてしまったんでしょうかとものすごく不安そうな顔をしている

「大丈夫だよ、友達になったんだ、いい子だよ、あの子」
「し・・・しかし」

五人の中で一番若い矢口位の年の男が言うと、最年長の四十代と三十代の男が続けて言い始める

「それより私は、この国以外で起こっている事を全く知らなかったのが残念です」
「私もです、むしろ使用人の方が良く知っている事が悔しくてなりません」

五人全員が頷く
247 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:05

「そうだね・・・それってどうしてか知ってる?」

矢口が言うと五人とひとみは口をん?と結び考え込んだ

「絆がないんだよ、みんなの」

そんな言葉はとうに忘れていたように五人は驚く

「自分の国に誇りを持ったり、自分が兵である事に誇りを持つって事は
おいらはとてもすばらしい事だと思う
だけど、それを押し付けているのが今のこの国でしょ
それだけじゃ絆も生まれないよ・・・・おいらはそう思う」

口を結んだ五人の兵は、ただ黙って矢口の言葉を聞くだけだった

そこへ部屋がノックされて絵里達が食事を運んで来た

「シ・・・失礼しました」

兵隊がこの部屋にいる事で驚いた二人は慌てて出て行こうとするので

「いいよ、絵里ちゃん、重さん、入っておいで」

矢口が言うとおどおどと閉めかけた戸を再び開いて深々と礼をして入って来た

この部屋は、絵里達の素でいられる場所だったのに・・・・
と少し不服ながらも、外で見せるような無口な付き人へと変身した
248 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:09
「皆、貴重な情報をありがとう、もう家に帰って食事でもしながら家族と話し合って下さい
それと、本当に無理して明日の朝決断する事はないです
明日の朝、意見を聞いた後、きちんと佐久間大佐に報告し
元の隊に戻れるようお願いしてからおいら達はここを出ます」

そう言う矢口の顔は、伊集院少佐の顔ではない


そして五人がお互いに顔を見合わせて頷き合うと

「明日まで待つ事はありません、我々は伊集院少佐についていくと決めました」

五人がビシッと敬礼する

「え・・・・ちゃんと考えていんだよ、咎める事なんてないし
家族にも話をしないと」

矢口が言うと、五人は自分達はここにきてまだ間もないし
なりたくてなった兵役ではない
しかも家族にはどうにかして元の生活に戻れないかと日々責められると口々に言うので
一度矢口は眼をつぶって考えると
旅の準備、特に食料を家族に持たせ、門の近くに集合させるように言う

目印に、全員何か赤い物を見える場所に身に着けておく事も

その際貢物の集配によく使われるようなリアカーとかは手に入るか聞いてみると
今日の明日ではなかなか無理っぽい
じゃあとにかく家族には最低五日分の食料を荷物に入れて隠れておくようにと告げる

自分達は、一応姫捜索の大義名分がある為に全員城に集合し
佐久間に出発の報告をしてから出かける事を伝える
249 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:12
兵達が矢口達に決意の視線を浴びせ出てった後
絵里達はすぐに矢口達に聞いて来る

「あの・・・どこへ行かれるんです?」

話している間に食事の準備が整ったテーブルに四人はついて食べ始める

「Mの国の姫が、ここにいる二番目の王子付きの族と一緒に逃げた事は知ってる?」
「「はい」」

ここで食べる事に抵抗のなくなった2人は食べながら答える

来たばかりのこの子達にでさえ、使用人達はすぐに伝えてしまう程
ここの城内は不満が渦巻いているんだなぁと矢口は苦笑する

「その姫の捜索においら達も出かけるんだよ」

絵里が残念そうに俯いて呟く

「そうですか・・・・・」
「いつ帰って来られるんですか?」

絵里に続いてさゆみが聞いて来ると

「多分・・・・もう帰って来ないと思う」

2人は矢口の言葉に唖然として固まった
250 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:14
「お・・・おい・・・絵里ちゃん・・・・」「重さん?」

やがてじわじわと涙をため出して

「いやです・・・何でそんな事言うんです?」
「そうです、少佐や大尉がいないこんな城には私たち仕えられません」

「絵里ちゃん」「重さん」

片手を膝の上でギュッと握り締め、もう片方で涙を拭いてぐずっている絵里と
俯いてただ涙を流すさゆみ

またこんな姿を見てしまったと慌てる矢口

「だからね、少し聞いてもらいたい事があるんだ」

矢口が言うと嗚咽しながらも、少しずつ息を整え出す
とりあえず食べちゃお、そしたらゆっくり話すから

2人に気を配りながらもひとみに何か言えと目で合図しながら食べているが
ひとみはどうすればいいんだよとでもいう目つきで睨む

ぐすぐすと高ぶった感情が落ち着いてきた所で

「絵里ちゃん、あ〜ん」

いつものように矢口がにかっと笑いながらじゃがいもを差し出すと
再び涙をためて口をへの字にした

いつものように食べてくれないので

「あちゃちゃ、う〜ん、じゃあ今話そうか?話聞けるかな?」

まるで子供に話すように優しく言う矢口
251 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:19
2人が頷くと矢口はひとみと視線を合わせ小さく頷き合う

「おいら達ね、本当はここの国に来るといけない人なんだ」

どういう事?という眼で2人は矢口を見る

「おいらの本当の名前は矢口真里っていうんだ・・・・Mの国から来た、んで」

矢口がひとみを見る

「ウチは吉澤ひとみ、Jの国だよ」

へ・・・と口を開けて2人は矢口達を交互に見ていた

情報の飛び交う使用人達の間でも、知らない人はいないという矢口という名前

「この国では結構嫌われてるみたいでさ、名前を偽って入り込んだんだ」

ほら食べなよという風に、矢口が手を差し出して進めると
のろのろと食べ始めた

「おいら、ここに来ていたMの国の姫に会う為に二人のかわいい妹分とここに向かってて
その途中で吉澤達素敵な仲間と出会ったりして旅してたんだ」

食べながら頷いている二人

「そしたら、どうも近づくにつれ、その姫がここから逃げ出したって聞いて
おいらいてもたってもいられなくってさ、怪我している仲間達を置いて
先にここに来て、姫がどこへ行ったのか探ってたんだよ・・・・
だからこの国にずっといるつもりは最初から無かった
そして・・・・・・やっと姫がいそうな場所が解ったから
・・・・そこに明日発とうと思ってる」
252 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:21
2人はそれを聞く時にはもう食べるのをやめてフォークを置いた皿の上を見て固まっていた

「不安・・・・だよね、こんな所においら達の為に連れて来られたのに」

「・・・・私・・・・」
「ん?」

絵里がやっと口にした言葉に矢口は耳を傾ける

「私は・・・少佐達と離れるのが寂しいだけです」
「どうしても行ってしまうんですか?」

矢口もひとみと顔を合わした後、すまなそうに

「うん・・・ほんと・・・ごめん」

と言って、絵里とさゆみはまた俯いてしまった



そこにノックの音が響く

「どうぞ」

ひとみが行こうとすると、矢口が立ってひとみを止め
剣を後ろ手に持ち注意しながら開ける

来たのはれいなだった、少し恥ずかしそうに立っている

矢口は即座に反省した、さっき兵達に明日逃亡するかのような事を言った事で密告され
兵が襲ってきたのかと思ってしまった

あんなに自分達を信頼して付いてきてくれると言ってくれた者達を疑った事を恥じる
253 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:23
「良かった、田中か、入って入って、紹介したい子達がいるんだ」

待ってましたとばかりに
テーブルの近くまで連れて来て

「こっちが田中れいな、そしてこっちが亀井絵里と道重さゆみ、多分同じ歳位だと思うけどな」

れいなが大きな眼を2人にやってから矢口に聞く

「どうして泣いてるんですか?」
「うん・・・・おいらが泣かせたんだ」

優しく2人を見る矢口を見てから2人の様子をじっと見つめるれいな
しばらくして洋服の中から新聞を取り出すと矢口に差し出す
ひとみが立ち上がって矢口のもとへ行く間に矢口が受け取って

「見てもいいの?」

れいなは頷く

「田中は読んだ?」

再び頷くと、矢口はひとみが見たそうに伸ばす手をペチと叩き
新聞を広げずに絵里に渡す

不思議な顔をして真っ赤になった目で矢口を見ると、矢口が頷き

「読んで」

と言う


その後、字が読めるか聞くと絵里達が頷くので新聞を渡すと
絵里達は立ち上がってソファに向かいテーブルに広げて読み出す
254 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:31
矢口は再び食事を始める、れいなにも食べるかと聞くが
もう食べて来たと言うのでぶすくれているひとみにも
「ほら座って食べよう」と言い食べ出した

れいなは2人の前に座って二人が真剣に記事を読んでいる様子を見ていた
読めない漢字や、解らない言葉を相談しながら四苦八苦している様子が微笑ましい

新聞を読み終わる頃には矢口達の食事も終了して
三人の様子を優しく眺めている

読み終わった2人が何か言いたそうに新聞を矢口に渡すと
質問は後にしてねと、読み終わった新聞を受け取り場所を交代すると
ひとみと一緒に眼を通しだす

交代に、絵里達はしばらく食事をしていたが
難しい顔をして食べる2人を再びれいながちらちらとソファから観察した

「やっぱJの国にもMの国がアプローチしてるのかぁ」

一面は、シープの町の事等が大々的に記載されているので飛ばして
次のページを見ると保田の仲間の情報らしい記事が載っている

やはりMの国は大々的に兵隊を募集しながら
西の方へと手を伸ばそうとしているのだが、抵抗に会い苦戦しているようだ

Yの国の事も、Hの国とFの国を汚い手で手中に納めた事を載せている
黒岩と松坂がかなりな悪人のような書かれ方をしており
すぐに新聞を読むものを殺せという命令も解るような気がした

あの時保田の所には、まだこの情報なんかは来てなかったのに
印刷してもうこんな遠くの国まで販売してるんだと思うと
兎族はすごく早いんだな等と2人は思っていた
255 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:33
つらつらと読み終わると、矢口は再び絵里達を見て話す

「どう・・・・思うかな・・・・自分の国の事・・・・」

絵里はさゆみを見て少し考えてから

「私は・・・・国とか・・・・そんなのはよく解りませんでしたけど・・・・
目の前にいるのは矢口さんだというのは納得しました」

「ん?どゆこと?」

少し怪訝な顔をして矢口が絵里を見る

「その三つの町を仲良くさせた・・・・っていうのが、何か少佐らしいなって」

「う〜ん、そ、そんなんじゃなく・・・まぁ・・・う〜ん
なんつ〜かさ、おいらは絵里ちゃんがどうしたいか、重さんがどうしたいか、それが聞きたい」

2人が帰りたいといえば、ちゃんと無事に暮らせるよう策を考えなければならない
あくまでも真剣な矢口の視線に絵里は笑って答える

「私、少佐についていきます」
「は?」

「私も」
「おいおい」


「「だって離れたくないんです」」
256 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:37
ひとみは客観的にその押し問答を眺めた

そりゃそうだろ、こんな面白くない城に残って、ビクビクして過ごすより
何が待ってるか解らなくても優しい矢口に付いて行った方がよっぽどいいとひとみは思う

「親は?ここでおいら達について来ると、両親はどうするつもり?」

「おいちび、それはないんじゃないの?
この年で生まれ育った国を離れようとしている子達に向かって」

「ん?・・・・ん・・・・うん、まぁ・・・・・そうだな」

どんよりと空気が鈍く流れ出して、そこへれいなが話し出す

「あの・・・」
「ん?」
「2人は、私の付き人として同行させたらどうでしょうか」

四人がれいなを見て固まる

「だって、伊集院少佐と与謝野大尉は明日、Mの国の姫を捜索しに出かけるんでしょ
それにれいなが付いて行くって言えば
この2人を付き人にする事は可能だと思いますけど」

王族の中では異色の存在となって、所在に困るれいなだが
兵の中ではもしかしたら黒岩よりも上の位のつくといってもいい

もちろん母親の松原大佐よりも・・・・

だから、れいなが連れて行くと言えば、兵隊はもちろん王族だって嫌とは言うまい

松原とれいなの関係がいいようになってくれれば
もしかしたらそのままれいなの付き人としてこの2人も平和に暮らして行けるかもしれない
257 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:44
「ん・・・ん・・・・そう・・・・だけど・・・・
元々田中がついて来る事自体に反対すると思うけど・・・・」

「自分で誘っておいて、そんな事言うんですね」

れいなが斜めに顔をやりながらにやりと笑って言っている
そこにはもうれいなの意志が感じられて矢口は嬉しくなる

「ふふ・・・・・じゃあ田中・・・・頼むぞ」

頷くれいなが絵里とさゆみを見ると
2人は一瞬びびるがぺこりとおじぎをした

じゃあこの新聞は元のところに戻しておかないと
と言って返してもらうと、王子に会いにまた部屋を出て行こうとし
出掛けに田中に頼みがあるとごしょごしょと矢口が耳元に言うとれいなは頷いて出て行く



矢口とひとみは、絵里達が片付けると言うので
訓練をしに馬小屋の所へ行く


今日は主力部隊がほとんど出払ってしまっている為
心なしかいつもより元気のいい声が響いている

予想通り志願兵は誰も姫捜索にはかり出されていないようだ
それに、見回しても今日矢口の隊につくと言ってくれた兵達五人の姿もない
今頃家族に明日の事を話したり準備をしているのだろう

だが勘太に食べ物を与えて矢口達が近づくのが解ると
少し後ずさる感じで皆が眼を逸らして俯いた

「あれ、続けないんですか?」

どうして怯えているのか解った上で、すっとんきょうにのんびりとした声を出した
258 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:47
「じゃあさ、おいらもここでよっすぃ・・・
じゃなかった与謝野大尉と剣の訓練するけどいいかな」

ひとみも少しえっという顔をするが
すぐににやりと笑って持っていた木刀でいきなり矢口に切りかかり矢口は咄嗟に祓った

広い場所で堂々と矢口と刃を交すのは
あの日温泉の近く依頼だったので、正直嬉しかった

2人の動きは速く、身のこなしはとても綺麗に皆の目に映る

一方的にひとみが攻め、それを起用に矢口が避ける
ただそれの繰り返しなのだが
やがてその動きが自分達に向けて教えてくれている事に皆が気づき始める

「あの・・・・伊集院少佐」
「ん?」

ひとみが膝元を水平に斬った刃をジャンプして避けながらその声に顔を向け
ひとみを見ていないのにひとみの刃を地面に動かなくさせた

皆が見惚れると共に、ひとみもすげ〜と呟く

「今日は・・・・その・・・少佐の部隊につかずに・・・・」
「ああ、いいよいいよ、んなの気にしなくって、おいらが逆ならみんなと同じだったよ」

259 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:49
「あの・・・・どうしてそんなに強いのに・・・その・・・・
そんなに気取らないというか・・・・我々と同じ目線にいるのでしょうか」

「同じ目線・・・・って別に同じだから不思議じゃないよね」

隣でひとみが、同じじゃないよね、下からだよと呟くと矢口がひとみの足を踏んだ

「いてっ」

痛そうに飛ぶひとみを兵達は少しリラックスした表情で見ていた


「あの・・・・あの・・・・じゃあ・・・・今日も教えていただけるんですか?」
「あ、うん、もちろん、それに今日最後かもしれないし、聞きたい事は今日聞いておいた方がいいよ」
「そ・・・それはどうして」
「明日、旧Eの国の方向にMの国の姫を捜索しに行くんだ」

ええっと全員が驚く

何故驚くかというと、もちろん松原大佐が精鋭ばかりの主力部隊を連れて行った方向であって
そこへ向かうという事は、松原に対抗するという意味を示す

「だから、もうここには帰ってこれないかもしれないからさ、今日が最後」
「そ・・・・そんな・・・・何故あえてその方向に」
「ん?・・・いきたいから」

ざわざわが再び広がる
260 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:56
わらわらと兵たちが近寄ってきて、そんな方向じゃなく
別の方向に行って探せばいいじゃないですか、とか
帰って来てまた教えて下さい
だとか、本当に口惜しむ声が口々に言われる

「なんか、嬉しいなぁ、おいら達絶対嫌われてると思ってたからね、よっすぃ」
「ほんとほんと、超浮いてたもんね」
「だけど・・・我々のような志願兵に分け隔てなく教えていただけたのは少佐達が始めてで・・・・」

それでも少佐の隊につかずに申し訳ないと思っているのか声は小さい

「ならさ、早く始めよ、おいらできる限りの事は教えるから
後は自分達で楽しく訓練して欲しいなって」

「楽しく・・・」

ざわめいていた兵たちがその言葉に考え込んだ

「人生強くなる為に生きてる訳じゃない、その先にちゃんと幸せがなけりゃ
おいらは強くなる必要はないと思う」

矢口はひとみを見て言っていた

「だけど・・・・同じ強くなるにしても
どうせなら少し楽しんでもいんじゃない?って感じでさ」

兵たちが少し笑顔になった

それが矢口には嬉しかった、ココに来て始めて見た兵たちの笑顔

「さぁ、誰からやる?」

その後は、いつにも増して親身になって熱心に教える矢口の姿があった
ひとみは教えるというには乏しい経験から、ただ相手をするだけなのだが
矢口の眼にはこいつはまだ戦う術を覚えてまもない事の方が凄いと感じていた
261 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 14:59
夜も更ける頃に、矢口はそろそろ皆家に帰らなくてもいいのかと聞くと
いいんですもっと教えて下さいという兵たち

結局夜中になってしまうが、最後に兵達が全員矢口達に敬礼をして

「伊集院少佐と与謝野大尉のご帰還を心からお待ちしております」

声をそろえて言ってくれたので、二人もビシッと敬礼をしてにかっと微笑む

じゃっ、皆元気でねと2人は去って行く、勘太にも明日な と手を振った

取り残される兵達は
どうしてそんなに晴れ晴れとした笑顔で去っていけるのかを不思議に思った

そして本当に2人が帰って来てくれるのを願わずにはいられなかった

・・・・この国を変えてもらいたい為に




部屋に帰ると、ソファで三人が寝ていた

矢口はひとみと眼をあわすとくすっと笑ってベッドから毛布をそっと三人にかけてあげる
れいながそこで起きたので、矢口はシーッと口の前に人差し指を立てて
風呂入って来るから寝てなと伝える

びくっと絵里が起き上がったのでさゆみも眼を覚ます

「ありゃ、起きちゃった」

矢口達がお風呂に行く様子を見ると絵里達も行きますとそそくさと付いて来るので
れいなも行くかと聞くと頷いたのでみんなでお風呂に入った
262 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:08
王子は父親ながらも、れいなの事をそれほど可愛がってくれる訳でもなく
れいながこの作戦についていく事に対しては反対する事はなかったという
きっと松原大佐がいたら猛反対していたのは解っているけど
お前もそろそろこの国の事を学ばないとと言ったらしい


しかしなんとなく矢口には解っていた、きっとすごく怒られたんじゃないかなと
そして母親の偉大な姿を見たいだのなんだの言って必死に説得したのだろう



ひとみや絵里達がへぇ〜と言いながら
湯船に浸かってのんびり話しを聞いているのも矢口には嬉しかった

絵里達の事もちゃんと考えてくれていて
付き人として同行する許可が下りてみんなほっとしていた

夜中ににぎやかな声が響いて、そのまま五人は楽しげに部屋に戻って来る

れいなにもここで寝ればと言うのだが
一旦部屋に戻って旅の準備をすると言って帰って行った

絵里達には最後だしこっちで寝なよと
ひとみを挟んで二人は大きなベッドに入らせ
2人は最後とか言わないで下さいと言いながらも
素直に従ってひとみの両脇に眠った

朝食を済ませる前に佐久間に今日出発する事を言うと
探す方向を聞いてにやりと笑った

佐久間の思惑通りなんだろう

気を良くしたからだろうか、最後にとでも思ったのだろうか
仲井の隊は、Hの方向へと向かったようだと教えてくれた

「ありがとうございました、佐久間大佐」

矢口は兵らしくビシッと敬礼し、ひとみも矢口の後に続いた

その後楽しく四人で食事を済ませ
さぁ出発と決意も新たに下に降りると驚く事が起こっていた
263 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:16
れいなが矢口達についていくという事で
何故か王族遠征用の宿泊馬車が準備されている

その豪華な馬車を前に佇む矢口とひとみ

おいおい、どうなってんだよ・・・・と呟く

そして残り少ない兵・・・それでも数百人がその馬車の前に列を作っていた
顔ぶれを見ると昨日教えた志願兵が大半を占めている

気づくと後ろから黒岩将軍と佐久間大佐等お付きの人を二十人位従えた王と王妃
王子と王女、弟の王子が長い赤絨毯の上を歩いてくる

城の中の兵は敬礼ではなく、脇に膝間付いてその列が過ぎて行くのを静かに見送った

矢口達と五人の兵は馬車の近くで固まって同じポーズで頭を下げた
特に五人の兵と絵里達2人は少し震えている

「伊集院少佐と与謝野大尉、自分達がどれだけ重大な責任を担うか解っているのか」

第一王子が矢口達の前に来ると挨拶もなしに持っていた杖を矢口の顎の下から持ち上げて言った

「はい、れいな様の事は、私がこの命に変えてもお守りいたします」

するとピシャッと頬をはたかれ

「貴様の命などで償える代物ではない、ただ松原の行った先である為特別に許可したようなものだ
早く松原に合流出来るよう全力を尽くせ」

「はっ」

はたかれた際の髪の乱れも直さずに言う矢口

「れいなに何かあったら、伊集院少佐の部隊は
家族共々全員自害して責任を取る位の覚悟で行ってくれたまえ」

「はっ、もちろんです」
264 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:22
その矢口の姿は完全に昔から王族に使える者の仕草のように決まっており
黒岩や佐久間が少し満足そうな眼で見ている

いや、何かが起こるのを楽しんでいるようにも見える

矢口の隣で、軍服姿で立っているれいなは
そのやりとりに少し不機嫌そうにして立っていた

「解ってるな、れいな、お前の命は国民全員で守らなければならない尊い命だ
この者達を盾にしてでも必ず生きてこの城へ帰るように
そして、今後のお前の為にも松原の偉大さをその目に焼き付けて来るのだぞ」

「・・・はい」

この騒ぎになると思っていなかった五人の兵は王たちが来る前
家族を門の近くに待たせているのが気になるのか内心そわそわしていた

矢口達は咄嗟に勘太に手紙を持たせ、門の近くにいる家族
聞けば四人だというので万が一の事を考え兵のいない場所で待てと指示した

犬に持たせる手紙に、兵達は不安の色を隠せなかった
大丈夫、勘太は賢いよと一応言ったが、そうそう信じられないようだ

このまま門までついてこられたとしたら何故家族を連れて行くのか不思議がられてしまうので
ドキドキする心臓を五人共押さえられなかった


不安をよそに、荷馬車を兵の一人が出発させると
ここで王族は見送りは終了となり
王族一行が城の中へと帰って行った後、兵達も自分達の任務へと戻って行くようだった
265 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:24
矢口とひとみで荷馬車を先導するようにはさみ
後四人は脇と後ろについて馬を歩かせる

荷馬車の中では、まさかそんなに偉い人だと思っていなかった二人が
隅に固まってれいなと無言の時を過ごす


沈黙の中荷馬車が止まる、おそらく門のところについたのだろう

門番の兵に矢口とひとみが馬を寄せ、門を開けさせるよう指示すると
何日か前に訪れたばかりの二人が少佐と大尉の勲位をつけて現れた為驚いていた

ここの内部の兵達とのコミュニケーション不足にも苦笑する。

そして門兵とやりとりをする間に、勘太に先導され荷馬車に四人が乗り込んだ

どうにかばれる事なく、家族共々この町を出る事が出来た


風間というの四十歳位の男の妻とその子供で十歳位の子と6.7歳の子
桜井という三十代の男の子供は十歳位、妻は死んだようだ
二十代の男の内背の高い方は新留
もう一人の荷馬車の運転手の二十代の男田口が恋人のようで身寄りもないという
最後の矢口と同じ歳位の男は中山といい、両親も死んでおらず
桜井に世話になりながら生きて来たらしい
266 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:27
脇にいた風間が矢口の隣に並ぶ

「あの・・・・どうしてあの方をお連れする事になったのでしょうか・・・・・
もっとひっそりと出撃するもんと思っておりましたのに」

「うん、なんか・・・ほっとけなくて・・・・でもきっとうまくいくよ、彼女がいる事によって」

いや、彼女がいてくれて良かった・・・と微笑む矢口を不安そうに見る風間
それもそうだ家族の運命が掛かっているのだから

森の中をしばらく進む、行きに通った道で
そういえばもう少し行けばあの温泉があるなぁと思いながら矢口達は歩を進めた

荷馬車の中では怯える人が増え、益々緊迫した雰囲気になっている

風間の妻が子供達を抱き締めて絵里達の反対の隅に固まり様子を見ていた

「あっ」

れいなが勘太の頭を撫でながらその沈黙を破って声を発すると
六人がびくっとするのでれいなはため息を吐く

「あの・・・・昨日少佐に言われて準備したんだけど、これに着替えて」

がさごそと荷物の中から取り出して絵里達に軍服を手渡す
絵里とさゆみが驚く

「でも・・・私達・・・・兵隊ではないし・・・・その・・・戦う事なんて・・・・」
「文句は少佐に言って、私は頼まれただけだから」

「「はい」」

れいなはまた不機嫌そうに備え付けられた椅子に座って黙り込んだ
267 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:31
昨日少佐達の部屋で、絵里達とは結構楽しくしゃべってたのに
自分が王族の血を引く者とわかるとこうもよそよそしくなってしまう事がれいなは悲しかった

それに、あんなに自分に普通に話してくれていた矢口達でさえ
あんなに畏まって、しかも父親には服従するような言葉を言っているのを落胆した

道が悪いのか馬車の中は結構揺れるため、外から矢口が声をかける

「お〜い、大丈夫かぁ、よかったらみんなおいら達の後ろに乗るか
馬車の前に乗った方が楽だと思うけど、どう?」

天の声というような感じで絵里達が
「はい、乗ります」と即答するのがれいなにはまた面白くない

一旦止めて、風間の子供2人は馬車の前の田口の両脇に
奥さんは旦那の馬に、桜井の子は父親の所に、当然絵里は矢口の馬に近づくが

「絵里ちゃん、あの人の馬に乗ってあげて、おいらは田中を乗せるよ
お、それと着替えもらわなかったか?田中に」

「・・・・・もらいました」

寂しそうに言い、誰もいなくなった馬車にさゆみと2人で戻って着替えさせると
田中をみんなに紹介する

「田中れいなは皆知っての通り王族になる訳だけど
そんなにかしこまらなくて大丈夫な奴だよ、な田中」

そう言うと田中に馬上から手を差し伸べ引き上げる

「ごめんな、おいらちっこいから後ろに乗ってくれよな、見えないから」
「そんな事言っといて、さっきのあの豹変ぶりは何なんですか」

真後ろから不機嫌な声が響く

「何で怒ってるんだよ、あの場で田中なんつったらここにいる全員殺されちゃうだろ
個人的にはおいらは田中と友達気分でいるけど、みんなの前じゃお前は
おいらにとって敬わないといけない王族なのは間違いないんだからいいじゃん」
268 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:33
そこに着替えてきた絵里達が降りて来ると

「おっ、なかなか似合うじゃんか、んじゃ、中山の馬に乗せてもらって
重さんは与謝野大佐な」

絵里は残念そうに中山の前に乗せてもらい
さゆみは嬉しそうにひとみの前に乗った

それから馬を走らせながら矢口がみんなの紹介を行なった
絵里とさゆみに矢口が紹介すると二人はぺこぺこと頭を下げた

昼過ぎになると、一面の草原が広がる場所へ出て来る

途中温泉行きたいなどとひとみと話したが
まだみんな緊張しているのか話は盛り上がらなかった

「ここは気持いいなぁ、田中は初めてか?」

「はい」

「いつまで不機嫌なんだか、こんなに風が気持いいのに
ほら、見ろよ、この青い空、白い雲、最高じゃん」

「・・・・・・・」

その会話を全員が聞いているが
あまりにれいなが来た事がショックなのかあまり口を開こうとしなかった

だからひとみもさゆみに話し掛ける

「重さん達はこの反対側から来たんだよね」
「はい」

「こんな感じなの?やっぱ」
269 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:35
「いえ・・・もっとごつごつした岩場ばっかりです・・・・・
こうやって兵隊さんに連れてこられました・・」

「怖かった?」

「・・・・・はい・・・でも絵里が一緒だったからまだ・・・」

兵達もぽつぽつと話し始める

こっち側は初めて来たとか、僕達も岩場の方から来たよと絵里に言い
絵里もどこからですかと返したりしだした

矢口はれいなを振り向いて

「この国の様子が嫌いなら、田中が変えるしかないじゃん
みんな田中が怖いんじゃない、あの国の制度が怖いんだから」

「・・・・・・・」



「じゃあ、とりあえずこれからの予定を言うよ
多分ここから三つ目の町に松原大佐の軍がいると思うんだ、だからその前までは全員一緒」

「「「「「「えっ」」」」」」

そこで全員が驚く

「松原大佐の軍隊に直接会うのはおいらと田中、そうだな・・・絵里ちゃんと重さん
後は全員松原大佐のいる町を避けて旧Eの国へ向かってもらう」

「ちょっ、聞いてないよ」

真っ先にひとみが怒る
270 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:37
「今朝決めたから言ってない、ただこれが一番安全な方法だと思ったから言ってる」

「ざけんなっ、いっつも一人で決めやがって
ここまで来て姫を一緒に探せないなんてウチはいやだよ」

「じゃあ風間達の家族は、桜井達の家族はどうする
みすみす殺されるのを黙って見てる訳にはいかないだろ」

「なんで殺されるって決め付けるんだよ」

「松原大佐は田中の事となると冷静じゃいられなくなる
一昨日、お前が襲われた時、おいらは助ける事が出来なかった」

「自分の事は自分で守る、ちびに守ってもらわなくてもいい」

突然喧嘩を始めた二人に、周りは戸惑う

「お前ら全員、途中で殺された事にしておくから、心配ない探されはしないよ」

戸惑っている兵達を見回す

「じゃあどうしてあの2人は連れてくんです?」

突然頭の後ろかられいなが聞いて来る

「あの2人にはあの国に両親がいる、さすがに死んだ事にするのは悲しい思いをするだろ
それに付き人なら何も言わなければ松原大佐も何もしないだろうし
おいら達がいなくなれば、もうおいら達の付き人ではなくなるから
村に返してもらえるかもしれないしな、いや、田中がそうしてくれるんだろ」

「・・・・・・・」

「まぁいい、絵里ちゃん重さんは心配する事ない、ちゃんと無事に帰れるよ、大丈夫」

矢口にも二人の家族迄保障する事は出来ないが
とりあえず二人は無事でいられると思っていた

田中はきっとそうしてくれる

だが絵里とさゆみを見て笑いかけても2人の表情は硬かった
271 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:40
「私のせいですね」

突然れいなが話し出す

「ん?」
「私がもっとうまく王子を説得できなかったから・・・・こんな大事になってしまって」

こんな仰々しい馬車迄用意されてしまうなんて・・・・

「あほか、おいらは最初からこうなる事は予想してたよ
ただあまりに順調なんで自分でも驚いてるだけ」

「何が順調だよ」

れいなと話していたはずの矢口にひとみがぶすくれた声を出している
さっきの計画にまだ納得がいっていないよう

「んだよ、今おめ〜と話してる訳じゃねんだよ、黙ってろ」
「何ぃ、このちび、後で覚えとけよ」
「ああやれるもんならやってみろよ、でくのぼう」

「あの・・・」
そこへ桜井が声を掛ける

「何?」
眼の座った矢口が視線を桜井に向けて不機嫌に答える
272 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:42
「あの・・・・お2人って・・・・仲イイんですね」
「「は?」」

眼をぱちくりする矢口とひとみの様子がおかしかったのか、桜井達が笑い出す

「もうここまで来てしまったのです、私達は少佐達を信じます
少佐のおっしゃる事に従います」

矢口は満足そうにひとみに向かって

「だとよ、与謝野大尉」
「・・・・・・・・」

「しかし」
今度は風間が口を開く

「ですが、どういう理由でこうなるのかというのは
後で私達にも説明していただければとは思います」

「ん、そうだね、寝る前にはみんなにきちんと話そうとは思っていたんだ
言う時期を間違ったみたいだね、だから意見があればどんどん言って」

五人は頷く、その後は緊張した雰囲気も幾分和らぎ、順調に歩を進め一つ目の村につく


もちろんここはYの国の領域なのだから
この王族の馬車のことは兵隊はもちろん町民までも浸透しており、門は近づくだけで解放され

道々は町民が道端にこれでもかと頭を下げて眼を合わせないよう見送ってくれた

その内、どこからか伝令が伝わったのか
この町での長のような者が馬に乗って矢口達の横につき焦って話し出す

突然の王族の来賓に驚くと共に、是非泊まって行けという長を丁重に矢口が断る

前日に松原大佐の一行もここを通って行った事を確認し
そこへ追いつくため急ぐという理由をつけた

では食事だけでもと言われ、それはもちろん断る事なくついていく事にした
273 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:47
家族とれいなだけは、門をくぐる前に荷馬車の中に入ってもらっていた為
れいなを仰々しく降ろす
残された家族の食事は道々の食料にと包んでもらったやつを、後から子供達にも食べて貰う事にした

ビクビクするその長の屋敷・・・・・
少し前迄の長は本当に情報が遅いという事で一族全員処刑されたそうだ

その後にその役についたその人は、それからは少しの変化も見逃さずに
きちんと町の中を見回っているし
何かあればすぐに報告しますとアピールして来るが、矢口達は苦笑するばかりだった

ようやくそれからも解放されて、その村を出た

その頃には皆も自分達の意見を言い合えるようになっていた為
こんな現状ではこの国は長く続かないんじゃないかと皆心配していた

自分達が兵になる前、時々立ち寄った町も似たような感じだったが
今みたくピリピリはしていなかったという


夜も更けた頃にようやく止まり寝る準備をする
もちろん家族や絵里達は荷馬車の中で横になってもらう

だが外で矢口達は円になって話し出した

矢口は、最初に言った
松原大佐を追って、姫捜索の為に同じルートを辿る事は
どういう事かというのを五人に尋ねる

戸惑いながらも松原大佐に対抗するという事だともちろん誰もが認識していた
それでも矢口についてくる、五人は弱弱しくもそう言う

それを聞いて矢口は自分が考えた方法を細かく六人に説明する

松原大佐は、れいなを矢口が連れている事にまず見境がなくなる事は間違いないだろう
そして、あの町へ姫を捜索に来る事をきっと不愉快に思い
きっとここにいる六人は瞬時に殺されると予想していると言う
274 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:50
それからあの城の中というのは非常に複雑で
誰が味方か敵か解らない場所だという事も覚えておくように伝える

皆に、あの国の格は黒岩の下にすぐ松原大佐のような順位と誰もが思っているようだが
矢口の目から見た時、それは違うという

そして王様と第一王子の間に、同じラインはなく
すでに別々のラインが出来てしまっている事に矢口は気づいたと言う

もちろん五人は、いやひとみも含め六人はそんな事を思いつきもしなかった

国王-王子の弟-黒岩-佐久間のラインが一つ
第一王子-松原のラインが一つだという

後の三つの大尉の隊はどこにもついていない
いわば強い方につくという感じだと矢口は見ていた

ほんの一週間位の滞在で、どうしてそこまで解るのかひとみには不思議だった
それにずっとひとみは矢口と共に行動し、同じモノを見ていたはずなのに
どうして矢口にはそんな事を感じる事柄があったのだろうかと

五人の衝撃も大きなものだった

ずっと松原が一番の権力者だと思っていたが
実は裏で佐久間が力をつけていた事に驚きを隠せないのだ

前置きが長くなったと矢口が一度一呼吸置き笑うと続きを話し始める
今、松原の精神状態は非常に危うい状態だという事、きっと松原自身
この事に気づいて焦り始めているのだろう

そこへあの新聞記事のような他の国の情報と、自国の権威の崩壊が重なれば
自分の身だけでなく、愛する王子やれいなの身も危ないという事で

今回の矢口達の行動に対してはかなり攻撃的な事になるのは間違いない

今頃、焦った松原は新聞を読んでいる者の処刑を行っているかもしれない

そしてMの国の姫をしらみつぶしで探しているに違いない
275 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:56
先程通った村では新聞は届いていなかったようで
長が処刑されビクビクする以外の混乱は見られなかったが
その先Eの国に近づくにつれ新聞が売られた場所が多くなると予想していた

それに、兵達が姫捜索にと方々にちらばった先にきっと新聞はあり
回収と見せかけて、兵達の目にさらされる時の兵達の士気の問題が出て来る

それはこの国の主力部隊とも言ってもいい松原部隊にも影響があるだろう
非常にYの国自体が今危ない状況に来ている事を告げる


そしてひとみはまた悔しい思いをする

あれだけ2人っきりの時間をすごしていたのに
そんな事を考えている事を何一つ自分に言ってもらえなかった事

自分は信頼されていない・・・・
そんな悔しさが自分の中でどんどん大きくなっていく

話を続ける矢口は、それで、自分についてくると言ってくれたこの五人とその家族だけでも
そこから脱出させてあげたいと思ったと言う
でも、それは一時的なもの、自分の生まれ育った国を離れるのはつらいだろう

そこで矢口はれいなに眼をつけた・・・と言うか、希望の光を見つけた

れいなには自分の中にくすぶっている思いがあるみたいだと矢口は見ていた
そしてそれはきっとみんなに悪いようにはならないと感じた

だから彼女が付いて来た事は国にとってとても重要な事であると矢口が語る

松原が兵達の仕事に家族を連れて来た事を脱走とみなし
即処刑する事は目に見えているし
だからひとみに旧Eの国への道案内および山賊からの防衛役として活躍して欲しいと言う

そしてこの事を中澤や藤本に伝え、もしすでにYやFの国からの接触があっていれば
十分に注意して判断するようひとみに言う

今の所Yの国側から行動を起こす心配はなさそうだが
これでは時間の問題かもと・・・・・

自分もれいなと共に頑張るつもりだが
そこへの支配を止める事が出来るのかどうか解らないと言う矢口を五人は呆然と眺めていた

その時点でもうひとみは矢口の話は聞いていないようで
憮然とした表情で地面を見ていた
276 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 15:59

そこで意を決したように風間が質問してくる

伊集院少佐達は一体何者なのですかと

ただの山賊や旅の者には見えないという事だった

ひとみはすでに別の世界に行っており、反応する事はなかったが、
自分の本当の名前は矢口だと五人に伝えると
五人の驚きはそうとう凄かったようで、誰も一言も話さなくなってしまった

そこで一言謝る、自分を信じてついて来てくれたのに
結局は騙していた事に対して

自分の隊につくと言ってくれた後、みんなの生活の事を聞いたり家族の事を聞いた時に
これは一度連れて出た方がいいと思ったと話す

生粋の兵隊ならついて来ると言っても絶対に断っていただろうがと笑う

そして五人は矢口と聞いて驚いたが、今目の前にいる人物は誰だろうと
自分達の上官に違いないと互いに頷き合い
改めてよろしくと頭を下げた

矢口はひとみに、道なき道を馬に歩かせることになるので
十分に方向に気をつけるよう地図を渡す

ひとみは無言で受け取り、地図をひろげた

五人は元々山の民だった為、方向の感覚には自信があるという
だからひたすら同じ風景の続く森の中や山林の間は得意なので問題ないと言い切った

それを聞いて安心した矢口の細かい説明を五人は受けると
就寝しようと皆が毛布を持って馬車の近くに固まって横たわる
277 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 16:01
今日は守るべき人たちが沢山いる為、矢口の眠りは浅かった

全員の寝息やいびきが響く中、音もたてずにうごく気配を感じて矢口は目を開けると
山肌ぞいに暗闇の方へと誰かが歩いて行くのが見えた

矢口も気配を消し、後をつける

今日は月も出ていない為、真っ暗で本当に人影しか見えないが
矢口には誰だかすぐに解った

いつのまにか足音も立てずに歩く術を身に付けたんだなぁと
矢口は感心しながらこっそりとつける

しかしなかなか足は止まらず、かなり遠い場所まで来た少し崖っぽい場所のにある岩に
向こう向きに腰掛け頭を抱えて足に肘をつけんばかりに俯いた

その視線の先には山と木々しか見えず、何しにここにひとみが来たのかが解らなかった
どうせまた訓練でもするんだろうとついて来てみたが
今日はその気配はまるでない



ほどなく鼻をすする音が聞こえて来る

矢口の心臓が跳ね上がる

泣いてる?
矢口の体に一気に熱が宿る

足音をたてずにそっと近づくとやはり声を殺し泣いている
震えた背中がその頃雲の切れ間から出て来た月明かりに照らされた

「そんなに・・・・嫌か?」

優しく矢口が言うと、ビクッと背中が起き上がり
顔を完全に矢口に見えない角度に向け

「来るなよ・・・・・・一人に・・・・させといて・・・・」
278 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 16:04


「何が悔しい?」

その声に再び嗚咽が漏れた




「・・・・別に・・」






沈黙が続いた後、ひとみの背中に温もりが伝わって驚く

「泣くなよ」

後ろから抱き締められた状態で耳元で囁かれると
ひとみの心臓も早く動き出す


「どうせ・・・・自分は信頼されてないとか・・・
考えてんだろ・・・・っく」

矢口の声も泣いているようだった


「・・・・・何で・・・矢口さんが泣くんだよ・・・・」
「ごめんな」


いつも自分の事を見守ってくれているひとみを傷つけてしまった事がつらかった
ひとみの拳が膝の上でギュッと握り締められる

それに合わせるかのように矢口から回された腕にもぎゅうっと力が込められる





「吉澤が・・・・大切なんだよ・・・・おいらには・・・・」




ひとみは眼をつぶる、今はそれで十分だった




だから、視線に入る矢口の髪の毛さえも見ないように
そして大きく息を吐き

「矢口さんだけだったら・・・・・生きて帰る勝算があるんだろ」

声を絞り出すと
矢口は頷いた
279 名前:dogsU 投稿日:2006/10/15(日) 16:07

「・・・しょうがないから・・・あんたの言う通りあの五人と家族を・・・
美貴達のいる町に連れて帰って待ってるよ・・・・」

再び矢口がひとみをぎゅっと抱き締める

「ちょっと・・・・苦しいんだけど」

本当はもっとこうしていたかった

でも今にも自分も立ち上がって矢口を抱き締めてしまいそう
・・・だからそうしない為に口を開いた

自分に巻かれた細い腕が解かれると、矢口には聞こえないようなため息を吐く

「ウチの事・・・・信用してない訳じゃ・・・・・・ない・・・よね」

聞こえない位の小さな声で、自分の気持を吐き出した

「あほ、めちゃくちゃ信頼してるよ・・・・・だから・・・・ごめんな」

自分の後ろにいる為に表情もわからないが、きっと俯いているんだろう

「解ったよ・・・・伊集院少佐・・・・・でも・・・
でももし矢口さんが死んでしまうような事になったら
・・・・・ウチは許さない・・・・絶対に」

背中を向けたまま拳を緩める事なく前を見て言った






すると今度は矢口の背中がひとみに寄っかかって来た

「解ってるよ・・・・お前怒らすとこえ〜からな・・・・
大丈夫・・・・きっとうまくいく」





矢口の後頭部がコツンとひとみの後頭部に当たる






「うん」




2人はしばらく頭を小突きあいながらもそのまま互いの背中の体温を感じていた
280 名前: 投稿日:2006/10/15(日) 16:08
今日はここで・・・
ほんとにグダグダで申し訳ないです
281 名前:さみ 投稿日:2006/10/17(火) 02:34
大量更新キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!
从 ´ ヮ`)<ハブられるのは嫌たい!
ノノ*^ー^)从*・ 。.・) <だって怖いんだもん!
おもしろかったデスw
拓さん、急に冷え込んでまいりましたので、お体にお気をつけ下さい。
282 名前: 投稿日:2006/10/20(金) 00:20
281:さみさん
いつもお気遣いありがとうございます
折角気を配っていただいたのに、既に風邪をひいた後でした
久しぶりに死にそうでした・・・
さみさんもどうかお体にお気をつけ下さいませ
283 名前:dogsU 投稿日:2006/10/20(金) 00:22
次の日朝早くから出発した一行は、昼頃村に到着して驚く

閉じられているはずの門は開放され、入りたい放題になっている
ほんの何日か前に通過したはずのこの村は、がらりと雰囲気が変わっていた
多少緊迫感のある村だとは思っていたが、人が一切いなくなっている

しかし一行が歩を進めていく中、注意して様子を伺うと
家の中には人の気配はある

自分達の馬の足音に気づいた町民がドアを少しだけ開けて
こちらの様子を覗いたのを矢口は見逃さなかった
相手も見られたと思ったのかガランガラッドガッと
何かにぶつかるような音をさせながら奥へ向かった音がするので
矢口は馬から下りてそのドアを叩く

「あの・・・・何もしませんので・・・・何があったか教えてもらえますか?」

わずかに開けられた隙間から覗くと
ヒイイとおじさんとおばさんが抱き合って奥で震えている

本当に何もしないと信じてもらえるまで大分時間がかかったが
なんとか話を聞く事が出来た
284 名前:dogsU 投稿日:2006/10/20(金) 00:24
予想通り松原の軍隊がこの町で新聞が出回っている事に気づき
部隊全員総がかりで新聞の撤収にかかって
その際新聞を読んだ者はひきずり出されてその場で処刑されたそうだ

そのまま松原の軍隊は次の町へ向かったようだが
その際姫捜索の為にここにいる兵も連れて行ったという

どうやら松原部隊も姫がいるのは次の町だと思っているようだ

その夫婦は、昔から我慢して来たがもう我慢出来ないので
Eの国の方へ移り住もうと町中で話している所に矢口達が来たらしい

矢口達は、今はまだEの国へ行く方は松原の軍隊がいるので
このままの方がいいですよと一応言っておいた

れいなはそのやりとりを聞いて拳をぎゅっと体の横で握り締めているのを
ひとみも他の兵も見ていた


そこへ馬がすごい速さで掛けてくる足音が聞こえて来るので
村人は家へと入り、家族と絵里達は皆馬車の中へ
れいなと兵だけでその到着を待った

案の定武装したYの国の兵隊が二人、れいなの前にひざまづき

「王より伝達があります、各地で暴動が起きているという事です。
れいな様や各地にちらばった兵達はすべて王都に至急戻るようにとのお達しがありました」

「暴動?」

矢口がその者に聞く

「はい、新聞を読んだ者に対する処刑行動に、民衆が腹を立て
立ち上がってるようです、我々は松原大佐にもこの情報を伝達しますのでこれで」

敬礼して去って行く伝令役の2人の馬が
またすごい速さで掛けていくと、矢口とひとみは顔を合わせる
285 名前:dogsU 投稿日:2006/10/20(金) 00:26
「起きるべき事が起こった・・・・って感じだね」

矢口の呟きにひとみが答える

「どうすんの矢口さん・・あ、伊集院少佐」

「そうだな・・・・なら、田中とおいらだけ残して後はここで別れよう
絵里ちゃん達も悪いけど与謝野大尉についてってくれ」

「「はい」」

2人の返事は少し嬉しそうだった

「よし、急いであの兵を追うぞ」

矢口はれいなの肩を抱き真剣な眼をして顔を覗き込む

「田中・・・・ここからがお前の正念場だ
お前がどんな風に生きて行きたいか、それをきちんと自分の中で整理しておけよ」

れいなは矢口の顔を見て頷く

「それと、姫さえ安全な所に救出すれば
すぐお前の力になりにまたYの国に行くから、約束だ」

二人は指切りをして微笑む
286 名前:dogsU 投稿日:2006/10/20(金) 00:28
矢口の目的は姫を見つける事、れいなとは違う・・・・
そう解っててもれいなにとっては矢口に頼りたい気持はあった

これから自分がYの国を変えるなんて事が本当に出来るのか・・・・

矢口が帰ってくる迄に、自分はちゃんと言いたい事が言えるだろうか

いや、しなければならない

ずっと閉じ込められて、色々教育され詰め込まれた知識

自分が成長するにつれて、自分に課せられた運命の大きさに逃げたくなっていた毎日

両親を信じられないと、反抗してもすぐに封じ込められていた弱い自分

  


   『田中には何か変える力がある』




そう言ってくれた矢口は
こうやって考えてる時にも力強い視線でれいなを見上げてくれている

れいなの体に力が漲っていくのを兵達はじっと眺めていた







「あの・・・・・」



突然桜井が言い出し皆の注目を浴びた後意を決したように言葉を続けた

「れいな様・・・・・あの・・・・・こんな事を私のような下級兵が言うのもおこがましいのですが
れいな様はきっとこの国を変えれるような気がします」
287 名前:dogsU 投稿日:2006/10/20(金) 00:30
「私も・・・私もそう思います・・・・・あの・・・・だから、その・・・・・」

新留が言いよどみ、恋人の田口が口を開く

「れいな様になら・・・・私達は少佐達と共についていきたいと心から思います」

兵達はれいなに敬礼しながら、矢口とひとみを見て笑う

照れくさそうに俯き口をへの字にするれいな

そんなれいなの頭をくしゃくしゃと撫でて


「だとよ、すげ〜じゃん田中」

「・・・・・」

「これってすげ〜事だよ、田中、気付いてる?」

「でも・・・・」

「皆が恐れる王族ではないと、もうここの皆は解ってるんだよ、それってすごいじゃん
人数とか関係なく、れいながこれから頑張ろうと思ってる事
・・・・・ここの皆は解ってるってるんだよ」

繰り返す矢口は、笑顔ながら真剣な眼差しで見つめている




「はい・・・・・れいな・・・・・れいなやってみます」



敬礼を崩さない五人
288 名前:dogsU 投稿日:2006/10/20(金) 00:33

矢口とひとみも遅れてゆっくり敬礼し

「頑張ろうな、田中」
「挫けたらすぐEの国に来いよ」

れいなは頷き、皆の心が一つになったその瞬間を
その村の人達は家の中から何が起きているんだろうと覗いていた

その後村人達は行動を起こす事になる


その村を出てから馬車の馬をはずし
荷車の中の食料等をみんなに荷物として持たせると地図を広げて五人に意見を聞く

馬車に火をつけ、パチパチと燃える横で真剣に地図を囲む全員

五人の兵は、地図を見たり天を見上げたりして真剣に何か話している

「普通に道沿いを行けば後町4つ、しかし、Yの国以外の関所を通る術もないし
直線距離でここからこっちへ向かえばかなり近くなる、でも森で迷う可能性は高い、どう思う?」

矢口の言葉に対し、五人の顔は自信に溢れた顔をして頷きあう

「大丈夫です、少佐、我々山の民をなめてもらっては困ります
子供達だって少し前までは森の中が遊び場だったんだから慣れています」

風間がそう言うと奥さんや子供達も頷く
289 名前:dogsU 投稿日:2006/10/20(金) 00:35

「与謝野大尉もいいか、ちゃんとみんなの事守ってやれよ、山賊達から」


ひとみがバーミンのついてる腕を叩いて頷きながら言う
「ああ、わかってる」

矢口からの信頼という言葉を含んだ眼差しに答えるひとみの眼にはもう迷いは無かった

「絵里ちゃん、重さん、こんな事になって悪いけど
大尉についてってしばらく様子を見てくれ
今から田中が絵里ちゃん達みんなの為に色々頑張って来るから
今度田中に会う時には沢山話をしてあげてよ・・・・友達なんだから」

田中が友達という言葉に矢口の方を見るが田中は俯いてしまう




「れいなちゃん・・・・あの・・・頑張って・・・ね」

さゆみがまず口を開く

「うん、ごめんねれいなちゃん・・・・・そんなに偉い人だと思ってなかったから
・・・どうやって話せばいいか解らなくなっちゃって」

絵里も頭を下げる




「別に・・・・・気にしてないから」



290 名前:dogsU 投稿日:2006/10/20(金) 00:36
俯いた顔のまま言う田中に再び矢口は腕を回して頭をぐりぐりして言う

「お前も大尉に似て素直じゃねんだな、昨日は三人で結構しゃべってたんだろ、色々」

「・・・・はい」

「ん、今度会った時にでも文句言ってやれよ」

「はい」

絵里とさゆみもれいなを見て笑った




「よし、じゃ、みんな気をつけて」

矢口が馬に乗り、れいなを後ろに引っ張って乗せると
全員同様に馬に乗った


「矢口さんこそ気をつけろよ、また無茶すんな」


「解ってるよ・・・・吉澤」


最後は本当の名前で呼び合い、しばし見詰め合った



「よし、行くぞ田中・勘太」
「行きますよ、皆さん」




それぞれの方向へと走り出す



矢口達は道を



ひとみ達は山間の道無き方へと
291 名前: 投稿日:2006/10/20(金) 00:37
今日はこの辺で
292 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 00:38

その何日か前の話になる


旧Eの国に新聞が配られた
本来ならきちんと販売する事になるのだが
この町の人たちには全員読んで欲しい為藤本達で手分けして配った

もうその頃には、大分人々が動き始めた頃だった

それはもちろん藤本達の懸命な活動のおかげなのだが
そこまで活気が戻る事には至っていないときであった

夕方の少しだけある自分達のゆとりの時間に大広間のソファにまったりと座って
今もらった記事を読んでいる

「でもさぁ、この記事ちょっと矢口さんがかっこよく書かれすぎだよね」

藤本が足を組んで新聞をビッと人差し指ではじくと
加護が腕を組んで威張って答える

「いや、親びんはかっこええんや」

「そう、まだまだこんな記事で親びんの凄さは伝わんないよ
おばちゃんの文章力はまだまだだね」

2人掛けのソファで加護の横にいる辻も同じポーズで頬を膨らます

「ちょっと2人とも、保田さんが聞いたら怒るでしょっ、シーっ」

梨華が微笑んで言うと、加護・辻の後ろに瞬時にその姿が現れて
藤本と梨華は息を呑む

「もう聞こえてるんだけど」
「「ああっ、おばちゃん」」
「こらっ、おばちゃん言うなっ」

加護と辻が瞬時に力を使って逃げても
所詮兎族にかなうはずもなくあっさりと捕まり説教をくらっている
293 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 00:43

「ねぇ、保田さ〜ん、Yの国の方は本当に崩壊が近いんですか?
記事に書いてるみたいだけど」

階段の踊り場で説教している保田に藤本が大声で話し掛ける

「うん、民衆の王族に対する不満や恨みが強くなってるから
近いうちに何か起こると思う、これから新聞配りついでに様子見てこようと思って」

ゴンゴンと二人に拳骨を落として姿を消した保田

「え、まじですか?」

驚いてる藤本の近くに、消えた保田が来た途端、もう二つの影が姿を表す

「うん、矢口が心配だし、この新聞をYの国の人になるべく沢山読んでもらいたいから
今回は私ら三人総動員で動くよ」

にこにこと笑っている2人は藤本も梨華も初めて見る顔だった

「あ、この子達逃げるだけが得意な兎族の小川麻琴と新垣里沙
2人は一昨日Mの国から帰って来たの」

「はい、よろしくお願いします、お噂は聞いています」
「藤本さんと石川さんですよね」

「う・・・うん、よろしく」
「よろしく」

あっけにとられていた2人だったが、すぐに藤本が2人に聞く

「で、この記事のようにMの国は完全に矢口さんの姫の弟の手に渡ったの?」

「それは間違いありません、元々Mの国はそれほど兵力が強い訳ではありませんでしたから
軍事力の強いKの国の攻略にも今現在手間取ってる状態でした」

もしかしたら諦めてJの国を先にするかもしれませんけどね
Mは弟王子が他の国を手中にしようと兵隊を増やしてるのは間違いありません
294 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 00:50
「藤本さん達のJの国は、前々から警戒を強めているので
多分対抗する為の時間と兵力は問題ないかと思いますよ」

「慎重な取引を続けてたのが功を奏してますね
水が欲しいから、違法な闇の業者の取引を見逃してるのがすばらしいですね、Jの国は」

「へぇ〜、どっからそんなの掴んで来るの?」

感心しきりの二人

「一応長年やってますんで、それぞれの町に情報屋がいますから
私達はそれを集約して記事にするだけですね」

頑張って各主要な町に印刷屋も配備しましたからすぐ配る事も出来ますしねと自信を覗かせている

「「なるほど」」

梨華と藤本は益々感心するばかり

「でもYの国はホント大変なんだよね、いつも、みんなビクついてるから
なかなか口を割ったりしないしさ、でも新聞は飛ぶように売れるよ
興味はあるんだと思う、他の国の事に・・・・
でもそれを話題にする事は公には禁止されているというか暗黙の了解で話せないようになってるし・・・
あ、でも、誰も聞いてない時とか、ウチらの新聞をよく読んでる人は
ペラペラ話してくれるけどその人達の処遇を考えたらなかなか載せれるネタはないんだよね」

保田が難しい顔をしてそう言うと

「なんか大変そうな国なんだね、大丈夫かな、矢口さん」

「うん、きっと大丈夫、あの国には族も少ないし、兵隊も処罰する事が多いから
減って行くみたいでさ、山賊だっていないんだよ」

「へぇ〜、んでこの松原っていう人と黒岩っていう人が汚い手でHとFの国を落としたんだよね・・・
ん〜、じゃあ今頃Fの国はどうなってるんだろ」

「どうだろう、Fの国も元々軍事国だったんだけど、でも国王が優しい人みたいで
争わずに国を渡したとかいう噂もあったし・・・・・・・まぁ、今はどうなってる事やら」

その後すぐに保田達は新聞を販売にYの国方向へ向かってしまった

気になるFの国からの使者が来たのはその次の日だった
295 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 00:55
使者の数は十人位で、とても疲れた顔をしてこの城へとやって来る

Yの国に支配されて、王族は全員公開処刑され
残された兵も、個人面談の後、Yの国に帰属する事を認めない者は処刑されたという

国民達も商売どころではなくなり
日々Yの国から連れてこられた常駐する兵達達に怯えた毎日を過ごしているという

労働は強要されて、自由な流通も制限され
他の国とも交流を絶たれる事になったらしい

支配される前にその事はFの国は予測できていたらしく
争いの嫌いなFの国王が、国民の安全を保障してくれるならと
最初から降伏という形でなんとか穏便にYの国に王権を譲ろうとした

だが、あまりにもYの国の国政についていけずに
この町の加賀に応援を頼みたいと言って極秘に抵抗する術を模索したのだが
加賀が変な方向へと突っ走ってしまった為に諦めるしかなかったという

そしてついに、国民を守ろうとした国王も
松原という女の策略で処刑を宣告され、強制的に集められた民衆の前で処刑されたという

軍事国ながら、穏やかに暮らしていたFの国の国民は
今恐怖と不安に襲われながら暮らしているという

しかし、青の軍がFの国へと逃げて来た為に、矢口達の存在を知り再び助けを求めに
Yの兵達の目を盗み、脱走して来たという話だった

・・・・ちなみに矢口達に負けた青の軍の人達はYの国の軍隊に全て処刑されたという



それに応対する中澤、藤本、梨華、加護、辻は長机に座り
後ろに中澤の町の族全員が立ち並ぶ

町の人たちの中で代表を買って出た十人位のおじさん達が
中澤達と同じ長机に座ってその話を黙って聞いていた

中澤は、私達は、この町の住民ではないし軍隊も持たない集団である事を先に告げる

Fの国の使者は、しかし、このままではこの町さえYの国の傘下にいずれ治まる事になってしまい
我々と同じ道を辿る事になるだろうと言った

「シープとダックス・バーニーズの兵力を期待してここに来てるんでしょうけど
私達はその町にも関係ありませんし、矢口さんも不在ですからね・・・」

藤本が唐突にそう言うと、Fの国の人たちはガックリと頭をたれた
296 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 00:58

「あの・・・・・私達の町は・・・・どうなってしまうんでしょう」

ずっとそのやりとりを聞いていたEの町の人が弱弱しく聞いて来る

「それは誰にも解らない事でしょう、ただ、この町の人たちは
自分達の町をどうしたいかを真剣に考えるべきだとは思います」

中澤が優しくその人に言う

「ここ何日か、中澤さんや藤本さん・・・石川さん達が一軒一軒話をしに回ってくれてたり
夜に空き巣に入った町民を優しく諭してくれたりしてくれているので
今町民達は元の町へ戻ろうと必死に考えてるとは思うのです
ですが・・・・私達は戦う術を知りません
もう戦はしたくないし・・・・でも町を守る為・・・その為には
やはり中澤さん達の力を借りなければ何も出来ない状態だとは思います」

最初に言った人の隣の人がしゃべりだすと、藤本達も黙って聞いていた



「動くしか・・・・ないんちゃう?」



今度は中澤が唐突に口を開く

「町の人達はやっと傷ついた所から這い出そうと必死なんは解る
でももう事態はそんな悠長な事を言ってる場合じゃないんちゃうかなぁ
て事はやな・・・・・・すぐにでも動くしかないやろ・・・・・・
あの戦へ連れて行かれたとはいえ、一応兵隊としてついてった町民が何人位おるか
武器はどれくらいあるか、今すぐ動いて調べる事から始めんと、何も変わらへんのやないかなぁ」


元ダックスの隊長候補の心が、動いた瞬間だった
297 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:00
藤本が後ろを振り向いて中澤の町の族達に話し掛ける

「みんなはどうします?」

こんな国のレベルの話は自分達には縁の無い
新聞の上だけの話だと考えていたが、その史実に自分達が関わるのが不思議な感じだと
口々に言い出す、そして、町の人達と結構話をするようになった事で
少しこの町にも情が湧いているのは確かだという

「じゃあ、とりあえず動いてみるか?」

中澤の言葉に皆頷くだけだった

てきぱきと中澤と藤本が元軍人らしく息の合った指示を与える
Fの国の使者にはとりあえず疲れを取ってもらおうと部屋を与えて休ませ
指示によりちらばった全員の中で唯一梨華だけが中澤と藤本の元に残っていた

「どやった、石川、あのFの国の連中が言ってた事は本当か?」

テーブルに浅く腰掛け中澤が腕を組んで石川を見つめる

「ええ、本当だと思います、かなりYの国は危険な国だという事が
ひしひしと伝わって来ました」

「そうか、後は矢口に期待するしかないな、この争いをやめさせるには」

「でも・・・・いくら矢口さんでもよしこと2人じゃどうしようもないんじゃ」

梨華と一度眼を合わしてから不安そうに言う藤本に

「でもあんた達六人であの何万人もいる町を動かした、それは事実やろ」
298 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:03
「あれは・・・・町の人達の力だから・・・・」

藤本が弱弱しく言うのを梨華がさらに心配そうに見つめる
いくらさっきまで颯爽と指揮をしていたとはいえ
藤本のプレッシャーの大きさと不安が梨華には解っているので心配なのだ

「ウチは久しぶりに燃えてるかもしれん・・・・・昔を思い出してな
・・・・それはあんた達のおかげやよ、自信持ち」

ポンと藤本の肩を叩いて中澤もこの部屋を後にした


◇◇◇◇◇






れいなと2人で馬を全力疾走させ続ける矢口は、必死に後ろの田中に話し掛けていた
れいながどこまで事実を知っているのかを聞き出す為に

矢口が睨んだとおり、れいなはおおよその事を知っていた

この年齢で、学校等には行かず部屋に閉じ込められたままずっと
国政の事や軍事の事について勉強させられていたという

友達や仲間という存在がどうも田中にはしっくり来ないらしく
絵里達にもどうやって接したらいいのか解らなかったらしい

考えるものじゃないよ、そんな事はと矢口は言うだけだった

そしてれいなは自分の置かれている立場に
真剣に付き合ってくれている矢口の存在にすごく心強い思いをしていた
299 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:06
王権が動く際にどんな事があるのかというのをれいなは知っている

王の失墜はイコール死に繋がる事がある事も


れいなが今の国政にはあまり賛成していなくて
いや、嫌いであっても・・・・・そんな事は関係ない

個人の好き嫌いや意見が公人の中で意味を持たない事も理解している

矢口はそんな田中が不憫で、なんとか救いたいと思っていた
こんなに若いうちから運命をつきつけられて
一人で今まで頑張ってきたこの子に何かしてやりたいと




その運命の時が近づくのを感じていた


門が近くなり、一度立ち止まる

「いいな、勘太、入ったらすぐに姫を探すんだぞ」

ウォン【解ってますって】

「おう、じゃあ田中、松原大佐に会って、ちゃんと自分の思い・・・・言えるか?」

「はい」

れいなにもう迷いはない
300 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:07
「もし松原大佐が・・・・・」

「解ってます、れいなを殺そうとしたらすぐに逃げて少佐を探します」

「ああ、とにかく姫を無事安心な場所に連れてくまで
おいらは田中のそばにいてやれないだろう
でも必ず田中の所に帰ってくるから、それ迄は一人で頑張れるな」

「はい」

決意の眼差し

「行くぞ、田中」
「はい」

元気に返事をするれいなに、矢口は気合を入れなおす


門番は、松原部隊の者が付いていたので、れいなの顔を見るだけですんなり通れ
勘太はすぐに町へと消えていった

二人は人通りの無い静かな町を中心の大きな屋敷に向かって歩いていく



その頃松原は、この最近Yの国になったばかりの少し大きな町で連れて来た軍隊と
隣町やその町の軍隊を総動員させてしらみつぶしに姫を探していた

「まだ見つからないのか」

苛立たしげに屋敷の一番広い場所でうろうろしている
301 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:10
これだけの数で探していないとなると、もう旧Eの国迄逃げたのか

しかしこの町まではYの国の兵士で管理できているが
この先はまだ様子を伺うまでの関係で完全に掌握できる状態でない事は知っている

だからこの町に入れたとしても出れるのは難しくしているので
大丈夫ではないかと誰もが推測していた

事実、Yの王都側は頻繁に輸送がある為に行き来があるが
事実Eの国方面へ出て行った者はいないという


松原は苛立つ・・・・・

どうして見つからないのか・・・・



そこへ伝令が入る
各地に暴動が起き出した為に軍隊は至急城へ戻り王族を守衛するようにと

しかし、その伝令と同じ位に町から続々と兵達が帰って来る

ここは元々Yの国ではない、最近のYの国の方針に民衆がついていけずに
この屋敷前に集まってきたというのだ

「一般人のくせに軍隊に楯突くとは、どうなっているのだこの町は、許さん、皆殺しにせよ」
「しかし、結構すごい数でしてとても・・・」

パンッ

と乾いた音がすると意見した兵隊は頭から血を流して倒れた

それを見た兵達が武器を持って外へ出て行き、町民達に向かって銃を乱射しはじめた

ドドドドという音と悲鳴が上がって逃げて行く様子が部屋の中から解る

「今から一時間の間に姫を見つけられない場合は
処罰を与える事とする、皆に伝えよ、全力で探せっ」

「ハッ」

勢い良く伝令に走る兵隊の目には恐怖と怒りが見え隠れしていた

表には何人かの死体が転がり、兵達は何か胸にもやもやとした物をかかえながら出て行った
302 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:12

再び町はシンと静まり返った

反抗すると殺されるという噂はまたたくまに広がり
皆は家の中で怯える事となる

兵達がドアを手当たり次第蹴破り中の様子を探して廻っている

そんな頃矢口達が到着し
時々、道の端で死体が転がっているその状況に再び渋い顔をする

「くそっ、ここまでするか」

ちらりと後ろに乗っているれいなを見ると
その目は悲しみを隠そうとしていなかった

隊ごとにだろう、近辺の家を捜索している兵達を見つけた
矢口は馬から下りてやめろと乱暴に民家を探す兵達を引きずり出す

「やめろっ、こらっ」
「しかし、あと三十分以内に探さなければ我々の命さえ危なくなりますから」

そう口々に言う兵達は捜索をやめようとはしなかった
それどころか松原大佐に報告しろと一人を走らせた

走り去る馬の蹄の音が消え、何も無かったように次の家の捜索に移る兵達



矢口は空に向けて銃を撃つ

「やめないか、そんな捜索の仕方」

「私達は少佐の部隊ではありませんので命令には従えません
私達は与えられた任務を遂行しているだけです」

そう言ってこっちに向かって敬礼する兵の目にはうっすらと涙が浮かんでいる
303 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:15
「だからって、兵隊が一般の人達を恐怖に怯えさせる必要がどこにある
自分の心に手を当ててよく考えろ」

優しく矢口が言うとぐっと口を結びその兵や周りにいた数人の兵も
動きを止め黙り込んだ

考え込んだ兵達を見てから
矢口は再び馬に乗り、沈み込む顔のれいなを乗せ先を急ごうとすると

そこへ血相をかえた松原が馬で走り込んできた
兵達は怯えて壁際にへばりついた

「れいなっ、何をしているっ、こんな所まで出て来て」
「話があって参りました」

松原の顔に怒りが滲み出ている
馬上で矢口の後ろから声を出すれいなの腕は震えていた

「伊集院少佐、貴様自分が何をしているのか解っているのか」
「あなたこそ、今何をしているのかお解かりですか?松原大佐」

その言葉を発したのはれいなだった
さっき迄震えていたれいなが、力強い眼で松原を捕らえて言い放つ

「何ぃ」

そう言った時には銃を抜いて矢口へと発砲していた
304 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:17
矢口は手が動いた瞬間にれいなを馬から落とし馬の尻を蹴った
弾は後ろの民家の壁に当たり土壁が崩れる

落ちた瞬間れいなが力を使って松原の所へと近づき
矢口の前に立ちふさがった

「やめて下さい、松原大佐、これは上官命令です」

信じられないという顔で松原がれいなを睨みつける

「れいな」
「私は田中れいなです、あなたより位は上です」

周りの兵達が息を飲み、緊張するのが解る

田中の存在や、その立場の難しさはここにいる兵たち全員知っているが
公には隠された存在だった

なのに自分から王子と松原の間の子供という事を堂々と暴露した事に
松原はどうするのだろうと皆はその成り行きを見つめた

いつのまにか松原軍が集合し
あちこちの家の中からも民衆がこっそりとこっちの様子をうかがっている様子が解る

「この軍は今現在より私が指揮します、あなたに指揮権はありません」
「れいな・・・・・誰にそんな事をするように吹き込まれた」

落胆する松原の視線は矢口に注がれる

「相当な策士だな、なかなかあなどれないとは思っていたが・・・・
まさかれいなに眼をつけるとは・・・・佐久間から何か聞いたのか」

「別に・・・・・誰にも何も聞いてない・・・・
ただ田中が頑張ってる姿に、応援したくなった・・・・それだけ」
305 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:20
れいなの隣に進んだ矢口と松原との睨みあいの中
遠くで勘太の声が聞こえ出す
どうやら矢口を呼んでいるようだ

「田中・・・じゃあおいら行くよ」

力強い視線をれいなに向け
れいながそれに答えるように頷く

「いいか、お前にはおいら達仲間がいる事忘れたらだめだぞ
すぐに戻るから」

「何を企んでいる、伊集院少佐」

その声にれいなが顔を向けると、一瞬松原が近くの兵に目配せをするのが見えた

その先には銃を構えた兵がおり、れいなが「あっ」と思った瞬間
矢口がちらりと後ろを見てわずかにジャンプする

同時にれいなが少し動かされた

矢口の背中が血に染まったのを兵達が見て、やはり小さくあっと声を上げた

よろめいたれいなの顔に水滴が飛び散ってくる

「え?」
306 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:24
れいなは矢口を見つめると、矢口は穏やかに笑っていた

「田中・・・・きっと大丈夫・・・お前なら出来る・・すぐに行くから頑張れ」

そう言うと膝から矢口が崩れ落ち地面に両手をついた

「小・・・・佐?」

顔についた水滴を手で拭ってみるとその水滴が赤かった事にれいなが気付く

松原が目配せした方向では、一人の兵がブルブルと手を震わせてれいなを見つめていた
まだ何が起きたか理解出来ないれいなを矢口が見上げてくると、また少し矢口が動く

「うぐっ」
「え?」

気がつくと矢口の背中を松原大佐の長剣が地面迄貫き通しており、
背中に足を置いて姿を現し、重みからズルズルと矢口の体は落ちていった

「少佐っ」

事態を理解したれいながすぐに自分の剣を取って松原に切りかかるが
所詮訓練もした事のない剣は矢口の血のついた剣にすぐに飛ばされる

「兵とは位だけではない・・・・実力も伴わなければならない、わかったなれいな」

愕然とするれいなの手を掴むと強く引っ張り松原は兵に号令を出す

「一時撤退、姫の捜索は後日また行なう、ここの兵には引き続き捜索
及びこの町から民を一歩も出すなと伝えておけ」

その間もれいなは叫び続けた

「少佐っ、起きてっ」

みるみる矢口の周りに血の海が広がる
307 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:27
「我々に逆らうとこうなるっ、皆も覚えておけっ」
「いや〜っっ、少佐〜っ」

れいなは泣きながら引っ張られていく間中
狂ったように少佐と叫び続けたが、矢口はもう動く事は無かった

兵達は矢口の姿を振り返りながら徐々に命令に従い出す

誰の目にも矢口がれいなを庇ったと映っていた
本当はよけれていた、なのにれいなの
いや自分達の仲間の兵の為によけなかった・・・・そう見えたのだ

それは、狙撃兵と矢口の延長戦上に、兵と窓から覗いていた老婆がいた事を
狙撃した兵のそばにいた者はしっかり見ていた




昨日月があまり出なかったと思ったらポツリポツリと雨が振って来た

徐々に濡れながらもれいなは叫び続けた
あまりに泣き声がうるさい為、松原はれいなのおなかに拳を入れて気絶させた

走り去る兵達の中、一人の兵が立ち止まり振り返って矢口の所まで走って戻り
矢口を抱え上げると家の軒先へと座らせた

「伊集院少佐・・・・・・ありがとうございました」

彼はそう言って去って言った
308 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:28
勘太が矢口を探し出すのに時間はかからなかった
あれから屋根の上に上り矢口達や兵の様子をずっと見ていたのだから

兵達がいなくなると勘太は矢口がいるだろう場所へと向かった
ぐったりと壁にもたれて座っている矢口を見つけると

ウォンウォンッウォフッ
【親びんっ、姫のにおいを見つけましたっ、間違いなく姫がいますっ、だから眼を覚まして】

その声にピクリと手が動くと勘太は矢口の顔を懸命に舐める

ウォン【しっかりして、親びん】



「・・・・し・・・ざわ」




呟いた後、太腿の上にあった腕がポトリと地面に落ちたのを見て

ウォフウォフッ【少し待ってて下さいっ、すぐ姫を連れて来ますっ】

勘太は走り出す、姫を探して雨の中を・・・・
309 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:28




310 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:30
ひとみ達は山中を彷徨っていた、いや、確実にEの国への道を辿っていた

さすがは山の民、山間の道なき道を迷うそぶりも見せずに突き進む
たまに平坦な場所もあるがほとんどが紆余曲折の山の中であった

本当にこの方角でEの国に戻れるのだろうか・・・・ひとみは少し不安になる

馬車を引く速度よりも格段に早く歩を進める馬達
半日程走った所でふいに雨が降り出しひとみは天を見上げた

「矢口さん・・・・」

さゆみはひとみがそう呟くのを聞いた

山の民だった彼らは、これは一時的な雨で
少しすれば上がるだろうと言うので
一時雨宿りをして雨の過ぎるのを待とうという事になった

絵里とさゆみが、ひとみの様子が変なことに気づく

「どうしたんですか?大尉」

絵里がさゆみの向こう側から顔を覗かせる

「ん・・・・なんか・・・・あのちびに呼ばれたような気がして
・・・・・何かあったのかなって・・・」
311 名前:dogsU 投稿日:2006/10/22(日) 01:31
その眼はすごく心配そうで、さゆみは思わず聞いてしまった

「大尉は、少佐がお好きなんですね」


絵里はびっくりした、仲がいいとは思っていたが
まさかそんな関係だとは思いもしなかったのだ

聞かれたひとみも驚くが、フッと息を吐くと

「ん・・・ああ、好きだよ・・・・でも・・・・
あのちびには想う人がいるんだ・・・・運命の相手・・・・その人にはどうやっても勝てないらしい」

さゆみと絵里が落ち込んで行く

「おいおい、なんで2人がしょげるんだよ、あ、まさかあのちびに惚れてたな」

さゆみが絵里を見る
その様子でひとみは絵里が矢口の事を好きだったんだと知る

「じゃあ・・・諦めるんですか?」

さゆみがさらに突っ込むと

「諦める・・・とはちょっと違うけど・・・・・ウチはずっとあいつの側にいるよ・・・・きっと」

ひとみがあまりに綺麗に笑っているのを見てさゆみも俯いた




しばらくすると雨も止み、一行は再び歩を進めて行った


312 名前: 投稿日:2006/10/22(日) 01:31
本日はここで・・
313 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/23(月) 01:21
うわ!どうなるんだあー!!!
314 名前: 投稿日:2006/10/25(水) 00:13
313:名無飼育さん
うわぁ〜!どうしよう〜!

あの、レスありがとうございます
315 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:15
れいなは馬上の松原の前にぐったりと乗せられている状況で眼が覚めた

雨に濡れている為わからなくなっているが
頬には熱いモノが流れ、止まる気配を見せないまま松原部隊の先頭で走り続けていた

ぐすぐす言い出したれいなに気付いたのか、松原が口を開く

「れいな、何をあの者から吹き込まれたか知らないが
お前の存在はこの国にとってとても重大な事である事を忘れるな
私の指令なしに、これからも外に出る事は許さない、わかったな」

怒りの声色が容赦なくれいなにかけられたが
そんな声も今のれいなには何の感情も湧き上がらせる事は無かった



自分の無力さに悔しいと思う感情も



心の支えでもあった矢口という存在がいなくなってしまった事も



初めて感じた仲間という存在がいた事さえ今はれいなの中に浮かんでは来なかった




徐々に雨が止みはじめ、一行はますます馬の足を速める


316 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:16



流れる木々の景色



視線の先の馬の頭がぼやけた視界で上下している中
時間の経過と共に、れいなの頭の中に声が響き始めた





   『この国が嫌い?』



目を閉じると浮かんでくる矢口の顔





   『田中・・・・いつまでもその現実から逃げてちゃだめなんだよ・・・・・自分でけりつけなきゃ』





徐々にだらりと下げていた右手が拳を握る
317 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:17



   『田中には自分で何かを変えれる力があるんだよ・・・・・

    おいらなんかに謝る前に、自分の運命から逃げないようにする方がよっぽどかっこいい』



左手も拳を握ったり開いたりしだす




   『閉じこもってないで、仲間を沢山作ってほしいな、田中には』




唇を噛み締めるとゆっくりと振り返り松原と目を合わせる


318 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:19


   『おいらのこの手はさ、すっごい沢山の人の命を奪ってる・・・・
   おいらはこの手を見る度に真っ赤に見えて、どうしようもなく自分が嫌いになった
   殺さなければ誰かを守れなかった、殺さなければ自分が死んでいた・・・・
   それは全部言い訳、殺した命に変わりは無い
   だからおいらは誰も殺し合いをしない世の中にしたい・・・・
   綺麗事だってある人に言われたけど・・・・臨む位はいいと思わない?』





れいなは力強く松原を睨みつけ

松原は責めるようなその視線に、苛立たしげにれいなを見下す



319 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:20


   『田中にはこんな汚れた手にはなってほしくない・・・・・
   同じような運命を持ってたとしても・・・』



そして前を向くと右腕の洋服で雨と混ざった涙を拭き右手を見つめた




   『田中・・・・ここからがお前の正念場だ
   お前がどんな風に生きて行きたいか、それをきちんと自分の中で整理しておけよ』










れいなの涙が止まり、胸の所でぐっと右手を握り締める




320 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:23

「れいな?」

何かを感じている松原




「母上・・・・私はあなたを認めません、母親としてはわかりませんが
大佐としてのあなたを私は決して認めない」

その声には確かに意志が感じられ
松原は瞬時にれいなに手を回そうとするがそこにはもうなかった

「れいなっ」

叫びながら馬を急停止させ振り向いた時には
れいながすぐ後ろの兵を蹴り落とし
続いてくる兵の間を奪った馬に乗って逆走していく背中が見えるだけだった

部隊が止まってその姿を振り返って眺め
その後、前を向きなおした兵達の刺す様な視線が松原にそそがれる


「指令に変更はない、れいなは死んだ、伊集院少佐に殺された、そういう事にする、いいな」

「・・・・・・・・」



誰一人口を開く気配がなく
松原の手に銃が握られる

「いいな」

「ハッ」


怒気の篭った声で再度聞くと漸く兵達は口を開いた
もちろん兵たちの声は明らかに迷いがある声であった
321 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:25
そして逆走するれいなは力強く走る・・・・

一刻も早く・・・・・ただまっしぐらに矢口のもとへと



門兵に門を開けさせ町に入ると
今まで家に入っていた人達が外に出て来て立ち話をしている姿が目に入ったが
れいなの姿を見ると再び逃げるように家に入って行った

気にする事なく、先程矢口が倒れた場所に馬を走らせると
もうそこに矢口の姿はなかった

「どうして?」

呟いた後、大きな声で近くを走りながら賢明に少佐の名前を叫ぶ

窓から多数の視線を感じてはそこに声を掛けていくが

矢口の姿も、情報も何も入っては来なかった




矢口の血が残る場所に再び戻ると
じわりとれいなの眼に涙が浮かんでくる

「うっ・・うう・・・・少佐」

馬上で嗚咽するれいなを、先程見ていたとみられる街の人達がひっそりと覗いていた




「あんた・・・・さっきの兵隊と戦ってた人だろ」

近くの民家の中から声だけが聞こえ出し
どこからなのか姿が見えずにきょろきょろする
322 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:27
「この近辺の者はあんたの事見てたから解るけど
その服着てちゃもうこの町にいるのはやばいよ、逃げな」

「えっ?」

すぐ近くの小窓から老婆のような目が覗いている所で視線を止めた

「あたしらはもうYの国の国王のやり方にはついていけない
その感情はもう止められないよ、早く逃げないとあんたすぐ殺される」

「あの・・・さっきここで撃たれた人は?」

「わからない、何か女の人の声が聞こえたけど見てない、とにかく早く逃げな」

関わりあいたくないとばかりにピシャッと小窓を閉められる

その様子を屋根の上から見ている眼がある事にれいなは気づかない



れいなは再び唇を噛み締め、一度空を見上げると頷いてからEの国の方向へと馬を向かった



門が近づいてくると

もちろんYの国の兵に止められる
323 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:28

「ここからは我が国の兵でも絶対に外に出す事は出来ません、お帰り下さい」

四人の兵達が必死の形相でれいなに銃を向けてくる

「私を誰だと思っている、この国の王位継承者、田中れいなだっ」
「えっ?」

まさか王位継承者とは思いもしない四人は動揺と戸惑いを隠せずに視線で会話をしている

「何をしているつ、私は先を急いでいる、早く門を開けなさいっ」
「ハ・・・ハッ、申し訳ありませんっ」

軍服に付けられた紋章はよく見ると確かに王族のものと判断出来
四人は敬礼した後すぐに門を開け出した

再び手綱を握り締め、馬の腹を蹴る



そして門を出て少し行った所で声を掛けられる

「どういう事?」

と、走りながら聞こえる声

324 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:30
だがれいなには姿が見えない

矢口からは、外の世界にはYの国にはいない
はぐれの族や山賊がいると聞いていた為身構える

見えないものに馬の手綱を握られている錯覚に陥ると馬が慌てて止まり出す

完全に止まったれいなの前にその姿を表したのは
少し目付きのキツい女性

「なぜ田中れいなが一人でいるの、それに兵隊と戦ってたってどういう事?」

馬を撫でながら馬上のれいなを見上げてくる



「あんた・・・・誰?」

さっきの町民との会話を聞かれていたんだと解りれいなは睨む


2人の強い目がぶつかり合う

噛み締める唇と強い視線に保田がふと表情を緩め

「Yの国ではきっとすぐに殺される新聞屋、保田圭」
「新聞・・・・屋」

睨んでた目が途端に不安な眼に変わる

325 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:31

「ねぇ、どうしてYの国の時期王位継承者である謎の人物
田中れいながこんな所で一人でいるの?」



確か矢口に聞いた事がある

自分が持っていった新聞を書く人物と知り合ったと
あちこち飛び回って精力的に情報を流している事を自分の事のようにすごいだろと言い
きっと彼女達はこれから各国に重要な役割を担う事になるんだよと誇らしげに笑っていた

れいなの眼に再び涙が込み上げる

「・・・・少佐が・・・・少佐が・・・・」

保田は驚く、さっきまで凛としていた王族の姿・・・・・
毅然としていた彼女が一転してか弱い普通の少女に戻ってしまった

馬から崩れ落ちるようにして降りたれいなを抱きとめ
ゆっくりと話を聞いていく

矢口に出会った事

矢口に生き方を教えてもらった事・・・

そして矢口が自分を庇って撃たれた事
326 名前:dogsU 投稿日:2006/10/25(水) 00:33
「解った・・・・大丈夫・・・・死体は無かったんでしょ
それに勘太も、矢口は生きてる、私が知ってる矢口はそんな事で死んだりしないよ」

えぐっえぐっ とまだ嗚咽が止まらない

彼女が矢口の事を理解していると思った事により
一切の警戒心を無くしてすがるように泣いた


「田中はどうしようとしてたの?この先はEの国だよ・・・
Yの国の動きにピリピリしているいわば敵国といってもいい」

「大尉が・・・・吉澤さんがEの国に向かったんです・・・・・だから・・・・だから・・・・」

必死な様子が解り、保田は少しせつなくなる

れいなの背中をさすりながら抱き寄せて優しく言う

「うん解った、私が連れて行くよ、大丈夫、矢口はきっと生きてるから・・・・
ほら、もう泣いてちゃだめでしょ、矢口に頑張れって言われたんでしょ」

「・・・はい」



保田はこの目の前の少女の背負った責任の重さに戸惑ったが
こんな少女がここまで一人で行動した事に感動していた

そして保田もれいなの馬に同乗して中澤達の所へ向かった
327 名前: 投稿日:2006/10/25(水) 00:33
今日はここ迄
328 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/25(水) 00:59
れいなと矢口さんの今後の動きが、気になります。どうなるんだろ……
329 名前: 投稿日:2006/10/29(日) 00:07
328:名無飼育さん
気にしていただいて感謝です。

本当にレスありがとうございます。
330 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 00:10
吉澤の一行が旧Eの国についたのは翌日の夜も更けた頃だった

見回りの族の一人が吉澤達に気づき、城で寝ている中澤に報告すると
中澤は飛び起きて全員を起こす様に動き出す

見回りに出ている藤本と加護を連れて来るよう報告に来た族に伝えると
またたくまに夜の街へ消えて行く

門の所で中澤達は、ズタボロな姿で歩いてくる一行を迎え入れる
まず梨華が吉澤に抱きつくと辻も抱きついた

「おかえりひとみちゃん」「おかえりよっちゃん」


「ただいま」
愛しそうに二人を抱き締める

「ボロボロやなぁ、吉澤、あれ、矢口は?」
「別行動でここから三つ離れた町にいると思います、Yの国の姫と」

2人を抱き締めたまま中澤に視線をやって答えると、そこに力を使った藤本達が帰って来る

「よしこ〜おかえり〜」「よっちゃ〜ん」

さらに後ろからひとみに抱きつく二人

どこから現れたか解らなかった絵里達は、一様に目をぱちくりとさせていた
331 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 00:15
「まぁまぁ、吉澤も疲れてるだろうからとりあえず城に入れたってや、皆も」

中澤の仲間が「へ〜い」と笑いながら
ひとみの後ろで様子を見て驚いていた絵里達から馬を取り上げ、城の中へと促す

なんやこれYの国の軍服かいな 
などと皆に服を引っ張られながら大きな会議室へと入る

絵里達はYの国の城よりさらに豪華な作りのこの城の様子に
口を開けたままキョロキョロしていた

それがおかしかったのか加護と辻が話し掛ける

「すごいやろ、このお城、ウチらもここに来た時同じ行動したよ、ねぇ親びん元気やった?」

にこにこと加護が隣にいた絵里に聞くと

「親・・・びん?」
「親びんっ、矢口さんの事」

絵里とさゆみは「あ〜」と言って

「あの・・・・ふふ・・・元気でしたよ・・・なんかぴったりですね・・・親びんって」

絵里が可笑しそうに言うと

「せやで、親びんはウチらの親びんやねん」
「あいぼんそれ意味解んない」
「なんでや、ウチらの親びんは親びんやんか」

風間家族や桜井家族・新留、田口達もその様子に眼を細める

会いたいなぁ〜と言うと、今度は風間達の子供に目をつけてちょっかいを出しだす
332 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 00:17

会議室に座った中澤達は早速ひとみからの報告を待つ

「それで・・・・どやった?姫は」

ひとみは首を振った

「ようやく姫がいると見られる町は絞り込めたんですけど
Yの国の精鋭部隊が先に捜索してて、どんな状態になっているかはまだ・・・」

「そうか・・・んで、何で矢口は一人で行ってしもたん?」

「まぁ・・・・それには色々あって・・・・」
「なんやねん色々て・・・・」

「中澤さん、とりあえずよしこも疲れてるんだし、詳しい状態は明日ゆっくり聞いたらどうです?」
「あ、ああ、せやな藤本」

「でも多分矢口さんの中では、どうやって姫を探すかの方法が頭にあって
ウチらと別行動にしたと思います」

「せやろな、矢口は何も考えんと無茶するやつとちゃいそうやもんな」

うんと頷きひとみは話を続ける
333 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 00:19
「はい、それと今Yの国はここにいると思ってる矢口さんからの攻撃に備えて
人質にしようと姫を探してたんで、Yの国は予想以上にダックスら三つの国の事や族の事を恐れてます。
だからすぐにこっちに襲ってくるということはないと思います」

「なんや、その矢口の攻撃って」

呆れてる風な中澤

「どうやら矢口さんがYとMがやろうとしてる全国統一をしようとしてるような・・・・
そんな風に思ってるようです」

「ほえ〜あほか、でもけったいな国やな、Yの国っちゅ〜のは」

妄想癖もあるんかいな・・・と
中澤の言葉にYの国から来た者達が俯く

「中澤さん、落ち込ませてどうすんですか」
「すまん、ウチこんなんやねんから、あんま気にせんとって」

すまなそうに右手を縦にして絵里達に謝るとすぐに藤本が突っ込む

「いや、別に気にもしてませんけどね」
「いやや、藤本ぉ〜、あんたはちょっとは気にしてぇ〜なぁ〜」

中澤が藤本に抱きつき藤本がいやがる、どうやら2人の息は合うらしい
334 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 00:20
中澤の仲間達がまたかと苦笑いして
梨華も加護・辻も知らないふりをしだす

「あほでしょ、あの人達」

ひとみが絵里達に微笑むと
絵里達は不思議そうにそのやりとりを見ているだけだった

きっと偉い人なんじゃないかという二人のくだけたやりとり
温かい雰囲気にYの国から来た者はまだ慣れない

Yの国ではきっと考えられない光景

「まあ、だいたいの事情はつかめたし、吉澤達も疲れてるやろうからゆっくり休み
一昨日はFの国から客人も来たしにぎやかになってきたな、ここも
んじゃ見回り戻るもんは行って、寝るもんはしっかり休み」

「へい姉御」

ゾロゾロと人が去っていくのを絵里達はポカンと見るだけだった

「んじゃ、ひとみちゃん、皆を部屋に案内するね、家族は一緒がいいよね」

梨華がこの城の見取り図を取り出して空き部屋を指差す

「うん、中山は風間家族と一緒の方がいいかな」

「いや、私は別でかまいません、家族はみずいらずがいいかと
私はどこでても寝れますので」

ビシッとひとみに敬礼しながら中山が答えるのを、加護達が真似する
335 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 00:22
「なんか久しぶりやな、兵隊さんらしい兵隊さん」
「ほんと〜、かっこいい」

中山の近くでうろうろしていた加護辻が
今度はひとみの体をペタペタ触りながら

「そいえばよっちゃんもかっこええやん、どしたん?」
「うっせ〜よ、中山が困ってるだろ、いいから見回り行って来いよ」

加護がひとみの後ろに廻ってビョンと帽子を奪うと、被って敬礼してみせる

「のんは違うもん、あいぼんは早く行けば」
「ほ〜い、んじゃねよっちゃん」

加護が舌を出して言うとあっという間に力を使って去って行った

「あ・・・・族?」

中山が思わず声を出す

「ここは族の方が多いね、今は・・・・ん?ウチだけかも、族じゃないの」


「「「「「「「ええっ」」」」」」」


Yの国組の一斉の叫び
336 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 00:23
「そ・・・・そんな所に・・・・」

風間の奥さんが言うと子供達が一人ずつ父親と母親にひっつき
絵里達も手をつないでしまった


「怖かった?あの人達」

笑いながらひとみが聞くと、全員が首を振る


梨華と辻がそれを聞いてホッとすると、こっちにどうぞと案内しだす



ひとみが梨華の雰囲気を見て気づく
柔らかい物腰でとても女らしい感じになっている

「梨華ちゃん・・・・何かあった?」
「え?何が?」
「何か・・・・綺麗になってるから」

瞬間梨華の顔が真っ赤になって先を急ぐ

「もうっ、何言ってるの?ひとみちゃん」

337 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 00:25
あれれ、ひとみが不思議な顔をすると

「あほだね、梨華ちゃん」
「なんだよ、のの」
「別に、んじゃよっちゃんはののと一緒に寝よ、あいぼん朝までかえって来ないから」

ひとみは不思議な顔で辻の部屋にひっぱりこまれると、辻はすぐに眠り
よっちゃんは勝手に風呂入って寝てねと言われ寂しく一人入浴する事になる


風呂に入って外の風景を見ながら思い出す

今頃矢口は何をやっているのだろうかと

眼をつぶると2人で過ごした時間

一緒に風呂に入って、一緒に眠って

・・・・一緒に訓練して

そういえば今日はまだ訓練していないなぁと
裸で洗い場の中で腕立てを始めるひとみだった
338 名前: 投稿日:2006/10/29(日) 00:25
本日はこのへんで
339 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:30



見慣れない天上をじっと見詰めていた


小さな部屋、しかも薄暗い、今は昼?夜?



明るさは局部的で、蝋燭に灯されているように光は揺れている
自分の状況が解らない



生きているのか、死んでいるのか




しかし、天井の模様がはっきり見えてくる頃
寝ている自分の右手に温もりを感じ
そっと頭を上げて見ると驚く




そこには久しぶりに見る懐かしい顔があった






ああ、これは夢なんだ




そう思って再び頭を寝かせて眼をつぶる



340 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:32




すると





「んあ、やぐっつぁん」

懐かしい声がする









「・・・・・ひ・・・・め?」




そんなはずはない・・・と

再び眼を開けると覗き込んでくる顔があった





「よかった・・・・目が覚めて、びっくりしたよ
勘太が超焦って私を引っ張ってったらやぐっつぁんが血だらけで座ってるんだもん」






これは・・・・夢じゃない・・・・?

そう思った瞬間矢口の眼から静かに涙が流れ出す





「良かった・・・・姫・・・・無事で・・・・・無事でよかった」


矢口は顔を壁に向けて嗚咽した



341 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:33


「やぐっつぁん・・・・・」



優しい声で矢口を呼ぶ





そこで足元で心配そうに顔を覗いている勘太を見つけた

「あ・・・・勘太・・・・ありがとう・・・姫とおいらの事見つけてくれて」

クゥ【親び〜ん】

おいでと姫に言われて頭の方へ来ると矢口に撫でて貰い
気持よさそうな顔をして腕を舐めていた







「後藤さん、目が覚めたんですか?」




矢口の耳に聞きなれない声が聞こえる


「あ、うん、今ね」



もう一つのベッドから、目をこすりながら起き上がる影が見え
寝起きのような声がする



「じゃあ、今何か食べる物持ってきますね」

族の人なら怪我した時は食べるのが一番ですからと優しそうな声



「うん、お願い」

矢口が涙を左手の腕で拭って姫の方に顔を向け
その声の主を探すがもういなかった
342 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:36

「Yの国の弟王子付きの方ですか?」

矢口が姫の目をまっすぐ見て優しく言うと

「えっ・・・・どうして知ってるの?ってか・・・・
だいたい何でやぐっつぁんがYの国の軍服着てたの?」

はじめ少し照れくさそうに言い、ごまかすように話しを変える姫

矢口がそれを見て懐かしむように微笑んで口を開く

「・・・髪・・・・切られたんですね」

そしてその存在を確かめるように姫の顔をまじまじと見つめた

「あ・・・うん、邪魔なだけだから・・・・・
ってか、私の質問に答えなさい、どうしてあの服を着てこんな所にいるの?」

姫の指差す方向には片隅にきちんと畳まれて置かれている血だらけの軍服があり
自分がさらしを裂かれた包帯だらけで上は何も着ていない事に気づく

「・・・・・・・・・・」


何から話せばいいのだろうか・・・・・

矢口の頭はぐちゃぐちゃだった
343 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:38

これまでの色々な出来事


姫の両親が死んでしまった事から・・・・

吉澤達と出会って姫に会いに旅して来た長い道のり



自分の中から溢れる感情に、唇を噛んで言いあぐねていると

「私の事・・・・助けに・・・・でしょ」

まるで何もかもお見通しのように頷いて
解ってるからと優しい顔をして覗いてくれている顔を見てまた涙が溢れた


「・・・よく・・・・ご無事で・・・」


やっとこれだけ吐き出した


「ありがとう・・・・相当苦労してたんでしょ・・・・
旧Eの国まで来ているのは新聞見て知ってた・・・・・あいぼんとののは?」

「ぐすっ・・・はい・・・旧Eの国にいます・・・・
少し怪我しましたが元気にしてると思います」

「怪我?あの2人も?」

「ほんと、もう復活してると思いますから大丈夫です」


「うん、良かった」

無事を確かめ合い、微笑み合う二人・・・・
344 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:40

そこへ

「はい、出来ましたよ〜、材料がなくて今はこれだけしかないですけど」

持って来た子は、王族付きの族というには
あまりにものんびりした雰囲気を持っていて矢口じっとその人物の行動を見ていた

その視線に気づくと、真っ赤になって俯きがちに言う

「あの・・・・紺野あさ美といいます、矢口さんのお噂は
後藤様から良く聞いてます・・・お会いできて嬉しいです」

「また様って言う、もう王族でもなんでもないんだから言わないでっ」

「あ・・・すみません、どうも癖になってて・・・」

本当にYの国の王族付の人なんだろうか
今までの上層部の兵達を見ると、その微笑ましさがどうもしっくりこない

だが、2人で微笑み合っているその間を矢口は静かに話しかけた

「矢口・・・真里です・・・・始めまして・・・・
姫の事守って頂いて・・・・本当にありがとうございます」

その言葉に照れ笑いを浮かべながら、どうぞ食べて下さいと
お盆を姫の近くの台に置き、茶碗を姫に渡す

「食べれるかな、お腹撃たれた上に刺されてたけど
まぁ紺野が治療したから大丈夫だと思うんだよね」

矢口は頷いてゆっくりと姫の手を借りて起き上がる
345 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:42

「でもさすが族だね、普通こんな怪我させられて起き上がるなんて無理だもんね」

「・・・・・ですね」

言いながらも確かに体はきつく感じていた
今まで受けた傷の中でも特に・・・

起き上がった所に無邪気に笑う姫が座り込んで来て矢口の背中に入り
抱きかかえるように矢口の脇の下から腕を出し
茶碗に入れられたお粥を姫がフーフーと覚ました

「ああ、まだ熱あるね、やぐっつぁん、キツい?」

「いえ・・・・まだ少し眠い気はしますけど、平気です」

族は食べると復活早いですからね
無理してでも食べないとと矢口は姫が運んでくれた匙に口を付ける

「なんか・・・昔を思い出すね・・・・・
やぐっつぁん無茶ばっかするから、いっつも怪我してたもんね」

銃で撃たれるのなんてしょっちゅうな時期もあったし
心配で泣かされてばっかだったもんねゴトー
と、なつかしみながら、優しい顔で覗き込むと
矢口は姫の顔の近さに真っ赤になりながら答える

「そうでしたっけ」

そうやって真っ赤になっている矢口に少しずつお粥を与える姿を
紺野はにこにことしながらも見る事はなく、勘太を撫でながらそばにしゃがんだ
346 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:45
お粥も食べ終わり、再び寝かせられた矢口は
少しうとうととしながらも姫に聞く

「でもよく見つかりませんでしたね・・・・・
さっき?おいらどれくらい寝てたのか解らないけど、松原大佐の部隊が必死で探していたのに」

「うん、昨日の昼に見つけたから丸一日ちょっとかな・・・眠ってから
・・・でも、紺野がうまく隠してくれて、2人でいろんな狭い所に隠れたりして大変だったよね」

そばに座る姫の後ろで、ベッドに座っている紺野という少女は
微笑みを浮かべながら恥ずかしそうに俯いた

「はい・・・ここまで来て見つかったら大変ですから必死でした」

そんな2人の様子は楽しそうで
矢口が心配してたような逃亡者という暗い様子では全然無かった

「早くMの国へ戻ろうとしたんだけど、なかなかこの町から抜け出せなくて
門番が厳重なんだよね、あっち方向」

「はい」

「あ、この町は?」

そこで気になるこの町や、れいなの事を漸く思い出す
347 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:46
「今日は色んな場所で集会が行われてたよね」

「はい、私達も誘われましたが、病人がいるんでって断ったんですけど
どうも他の村と一緒に国王を倒そうとしてるみたいです」

多分明日には行動を起こし始めるでしょう・・・・
とせつなげな表情で紺野が言うのだが

「まぁ、とりあえずこの町も大丈夫だから、やぐっつあんは早く良くなって」

「はい」

相変わらずマイペースな姫に矢口は微笑む

その後ろで気を取り直すようにふふっとふんわり笑っている紺野


Yの国の王族付きにしては余りにも不似合いな雰囲気を持つ少女に
矢口はホッとするが、何故か寂しさを感じ始めていた

「紺野さんは・・・その・・・どうして姫を」

眠気に襲われながらも、どうしても気になって聞いてしまうと

「あ・・・・・私・・・・・物心つく頃からあの城にいたんですけど・・・・・
どうしてもあの城の生活に馴染めなくって・・・・王子付きの族だって事も
最近までは普通に受け入れていたんですけど・・・・・
後藤さんが来て・・・・少し・・・その・・・・」

どうしようとばかりに言いよどんでしまった
348 名前:dogsU 投稿日:2006/10/29(日) 16:48
その様子を見る姫の目が優しくて・・・・

矢口はなんとなく察してしまう



彼女が姫に魅せられている事



それを姫も解っている事




もしかして姫も・・・・・



「ゴトーが話しかけまくったんだよね、だってさ
あの城の中の雰囲気にゴトー馴染めなくって、なんかやな奴ばっかなんだもん」

「はい・・・・すみません」

「謝らないで、ごめんね紺野の国の悪口言って
でもホント紺野だけだったじゃん・・・・あの城で普通にしゃべれたのってさ」

二人の信頼しあう姿に、矢口は少し寂しい気分ではあったものの
本当に無事でいてくれて、そして守ってくれている人が優しい人で良かったと安堵した


天井を見つめ、気付かれないように息を吐くと

「良かったです・・・・本当に姫が無事で・・・・」



安らかな表情で矢口はまた眠りについた
349 名前: 投稿日:2006/10/29(日) 16:48
本日はここ迄
350 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/30(月) 22:49
梨華ちゃんとミキティのことを知ったとき
よっちゃんは寂しく思うのかな
351 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/31(火) 01:29
姫を守っている族がこの人とは意外でした。
てっきり初代男前キャラのあの人かとry
いい意味で予想を裏切られました
352 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/31(火) 23:50
とりあえず矢口さんが助かってよかったです。
敬語バリバリで従順な矢口さんが新鮮です。
353 名前:さみ 投稿日:2006/11/02(木) 01:57
姫登場キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!!
これからどーなるんだろ?楽しみダー
354 名前: 投稿日:2006/11/03(金) 14:18
350:名無飼育さん
どうでしょうか、やっぱ寂しいんじゃないでしょうか
自分だったら寂しいかなぁ

351:名無飼育さん
その人もいましたかぁ・・・
そっちでも楽しいかもしれませんね・・・後悔

352:名無し飼育さん
心配おかけしました
ちょっと無理やりな感じでした?

353:さみさん
いつもありがとうございます
楽しんで頂けて光栄です

月末の多忙と、風邪の為(ここ数年病んだ事の無い自分にとって月2回は貴重)
しばらくネット出来ませんでしたが、久しぶりに見ると
レスがついててドキドキしてしまいました。
(最近レスがついてると見る迄が怖くって・・・情けな(ry )
歴史や軍事関係にも疎いまま、グダグダと妄想を披露してしまった事を
少し後悔しながら続けていましたが
読んで下さっている方がいて、しかもレスを頂けるなんてとても嬉しいと共に
感謝です。ありがとうございました。
355 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:20
次の日の朝、ひとみが眼を覚ますと
隣で寝ているのは辻ではなく加護であった

起こさないようにそっとベッドを離れ
いつもの格好に着替えると外に出て行く

すでに昼過ぎのようで、久しぶりにゆっくり寝たなぁと背伸びしながら廊下を歩く

下に行った所で中澤と会う

「おっ、起きたか、そろそろ呼びに行こう思うとってん、ちょっと話をもっと詳しく聞きたくてな
あ、飯先に食うか?食堂に大臣がいるから食べてき」

「大臣?」

「おっ、後ろのかわいいお嬢ちゃん達もこのかっこええ姉ちゃんについてって御飯食べてき」

ひとみが振り返ると階段の上に絵里とさゆみがもじもじと立っていた

「おはよう、亀井、重さん、良く寝れた?」

「「はい」」

ててててとひとみに近寄り中澤から隠れるように再びもじもじしだす


なんや怖いんかいな、と中澤が外に出て行こうと歩き出した瞬間

あっという間に2人の近くで振り返って ワッ と脅かした

2人はキャッと声を出して咄嗟にひとみにひしと捕まり、益々縮こまった
356 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:22
「何してんすか、大人げない」
「だって、こんなビビッた子ぉ見るといじめたなんねん」
「病気ですね」

ひとみが2人の肩に手を回して前にこさせると、中澤は綺麗に微笑み

「安心しぃ、吉澤にはせぇへんから」

はははと笑って外へ行ってしまった




「変な人でしょ、怖がんなくていいとは思うよ、あの人」

「でも・・・・・族・・・ですよね」

ひとみが2人の頭を撫でてから

「いこっ、おなか空いたでしょ
昨日も疲れて気づいてなかったけど一食しか食べなかったもんね」

食堂に行くと梨華や昼間の仕事組だろう中澤の村の人達が食事をしていた

「あ、ひとみちゃんおはよう、良く寝れた?」
「うん、ぐっすり、みんなはもう一仕事終えた所?」
「そう、結構この町の人達が外に出て来て協力してくれるようになったからね、いい感じたよ」
「そっか、頑張ってたんだ」
357 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:24

2人の会話をうっとりする眼差しで見ている2人に梨華が席を進める

「え・・・・と、亀井さんと道重さんだっけ、座って食べて
今日はひとみちゃんが帰って来たからののがはりきってすごいよ」

「ああ、大臣ってののの事なんだ」

ひとみが、ガッと梨華の隣に座ると、六人掛けのテーブルの片方
三つの内真ん中のひとみの向かい側に絵里、梨華の前にさゆみが座る

「よっちゃ〜ん、こっちに自分で取りに来てぇ〜」

厨房らしき所から辻の叫びが聞こえる

私達が行きますっという絵里とさゆみに
ば〜か、ここはYの国じゃね〜っつのと一緒に食事を取りに行く

お〜っうまそ〜とひとみが辻から受け取ったお膳を褒めると
辻は当たり前だよと辻がいばる

すっかりコック気取りだねののは と席に再び座って食べ始める

風間親子達も起きて来たので、ひとみがあっちで辻から適当に食べ物もらって食べてと言うと
幾分リラックスした感じで敬礼して取りに行き隣のテーブルについた



ガツガツとひとみが食べていると、ずっと横から梨華がひとみを見ている

「なっ、何見てんの、梨華ちゃん」
「ん?久しぶりだなぁって」
358 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:27

「あ、ああ、うん、でもあんま見ないでよ、恥ずかしいから」
「ふふっ、ひとみちゃんだ」
「な、何だよ」

絵里達がちらちらとその様子を見て食べている

「ほらっ、変に思うだろ、重さんと亀井が」
「重さんって呼んでるんだ、じゃあ亀井さんは亀さん?」

にこにこと梨華が聞くと

「やめて下さい〜っ、なんかやです〜」
「キャハッ亀さんだって」
「もうっ、重さんっ」

「ごめ〜ん、でも与謝野大尉は確か亀井って呼び捨てで
伊集院少佐は絵里ちゃんって言ってましたよ、確か」

頬を膨らまれせている絵里に、さゆみが面白そうに説明すると
梨華は不思議そうな顔をする

「与謝野・・・大尉?」

359 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:30

「ああ、あの町じゃウチら偽名使ってたんだ
それに矢口さんの思惑ですっげー出世した役職についてさ、
でも可愛そうに絵里ちゃん達、ウチらの世話係として
その日に近くの町から連れてこられたんだよ、すげくね?Yの国」

ガツガツと食べ続けるひとみの言葉に、心底感心するような梨華

「本当?すごいねぇ、Yの国って」

「だしょ、それに上官になれば、身の回りの世話全て
付き人がやってくれるんだ、めっちゃ不自由だった」

少し視線を落とした絵里達に気付き

「あ、絵里ちゃんや重さんは本当によくやってくれてたよ
矢口さんもウチもいっつも助けられてたからさ、二人には」

「付き人・・・・ひとみちゃんの世話してくれてたんだ、若いのに偉いねぇ」

慌てたひとみをフォローするように優しく梨華が言うと、絵里達も笑顔になり

「でも本当に良かったと私達思ってますよ、それにお二人が来られて
あの城の中の付き人や世話係の人達が城の雰囲気が変わったって
しきりに言ってましたし・・・・・」

「大尉って偉いん?でもよっちゃん、ガキだから大変だったでしょ」

開いている絵里の隣の席にいつのまにか辻がドカッと座っていた

「いえ・・・とても優しくして頂きました」

驚きながら絵里が言うと、ふふんとひとみが辻を見たが
途端、にやりと辻が笑って言う

「タラシ」

「おっ、てめ〜、どこでそんな言葉覚えやがった」

「梨華ちゃん」

ビシッと梨華を指差して笑う
360 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:32
「梨華ちゃん、何でそんな事ののみたいなガキに教えてんだよ」
「だって、本当の事じゃない」

少し怯えた感じで胸の前に手を組んで梨華が上目遣いでひとみを見る

「ちがっ、ったく、久しぶりに会ってこれかよ」

絵里とさゆみが口を開けてひとみと梨華を代わる代わる見比べている

「へぇ〜、そうだったんですかぁ〜・・・・どうりで慣れてらっしゃると」
「かっ、亀井、何言ってんだよ」
「やっぱ、Yの国でも何かやらかしてたんだよっちゃん」
「んなわけないっしょ」
「ねぇねぇ、そのバカみたいな会話、あっちにまで聞こえてるよ、恥ずかしい」

瞬時に藤本が現れ梨華の後ろに立った

「あ、美貴ちゃんおはよう、御飯は?」

梨華が後ろを向いて微笑む

「食べるに決まってるじゃん、辻ちゃんよろしく」
「あいよ」

ぞろぞろと夜間見回りだった人達が起きて来て、辻は戻って来なくなる
361 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:34


「で」


開いた辻の席に座った藤本が唐突にひとみに言う

「でって?」
「やっぱりこの男前は、Yの国でもタラシこんでたの?」

隣に座って食後のお茶をすすっている絵里に聞く

「い・・いえ・・・・でも・・・・与謝野大尉も伊集院少佐も人気はありましたよ」

「何?その難しそうな名前」
「ひとみちゃん達のYの国での偽名だって」

即行突っ込む藤本に、笑顔で教える梨華

「はい、付き人の間では2人共大人気でした」
「えっ、そうなの?」

ひとみが食いつく
362 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:35
「もうっ、また無自覚なんだから、ひとみちゃんは」
「なんやよっちゃん、また浮気したんか」
「うおっ、あいぼんいつここに座った?しかももう食べてるし、ってかいつ浮気したんだよ」

ひとみが驚く

「いや、そういう流れかなぁって」
「あほか」

がっくりうなだれるひとみ


食べ終わり、食器を片付けようとひとみが立ち上がろうとすると



「ふふ」



そのテーブルの皆の目がそこに向かう



「「ふふふっ」」



絵里とさゆみが笑い出していた


「ほ〜ら、笑われた、よしこっ、いやなんだっけ
えっと与謝野大尉の姿はもう終わったね、残念でした」

「けっ、いいの、あれは演技なんだから、大変だったんだぞ、堅苦しくって」

いつのまにか隣のテーブルにいたYの国の面々も思い切り笑っていた
363 名前:dogsU 投稿日:2006/11/03(金) 14:36
んじゃ中澤に呼ばれてるからとそそくさとその場を去るひとみに後ろから冷やかしの声が入る

「よっ、男前っ」

げらげらと笑う食堂にいる人達を睨みつけて去って行った




「皆さん仲いいんですね、羨ましいです」

絵里がポツリと呟く

「私達ももう仲間じゃない、からかってほしかったら言って」
「梨華ちゃん、この2人きっと突っ込み所満載だよ、楽しみだね」

横からにやにやと2人を見た

「気ぃつけや、美貴ちゃんああみえてよっちゃんよりタラシかもしれへんから」
「「何言ってんのよ」」

梨華と藤本の声がハモリ、すぐに加護が突っ込む

「この2人出来てるからね、近づくとやけどすんで」
「もうっ、あいぼん余計な事言わないの」

梨華の顔が瞬間湯沸し器のように真っ赤になった

「ええやん、どうせ解る事やねんから」

2人は楽しそうにその会話を聞いて笑っていた
364 名前: 投稿日:2006/11/03(金) 14:37
鼻の穴にテッシュ状態での更新でした
少しで申し訳・・・
365 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/03(金) 21:29
読ませていただいてますよ
おもしろいです。
無理をなさらず…でも更新待ってますw
366 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/04(土) 01:59
体調の悪いなか更新乙です。お身体を大切に頑張って下さい!!
367 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 21:31
365:名無飼育さん
自己満足な妄想話を読んで頂いてほんとありがたいです
レスありがとうございます

366:名無飼育さん
心配おかけして申し訳ありません
つい書かなくていい事を書いてしまって・・・
レスありがとうございました

日頃病気と無縁なものですからつい嬉しくて・・って馬鹿ですよねw
しかも酒で消毒したんで、もう治ったようです
心配おかけして重ね重ね申し訳ありませんでした m(__)m
368 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:33



「そうか・・・・王権争い・・・・やな」



領土紛争かと思いきや、そんな内部紛争に巻き込まれとったんか、ウチらは・・・・と呆れ顔

「ええ・・・・・その色が濃いんだと言ってました」
「しかも、暴動が起きてんのんかい・・・・面倒やな」
「はい」

城の門から町が一望出来る場所で中澤とひとみは景色を見ながら話す

「今までの集計の結果やけどな・・・・ここの兵力は良く見て500や」

まぁ使えるんはその半分もおらんかもしれへんけどなと難しい顔

「Yの国の王都にいただけの兵の数はざっと5000、部隊に分かれている戦闘兵は4000って所です
とにかく兵隊しかいませんでした」

「まともにいけばウチの負けやな」

「ですね、じゃあFの国は?」
「ええとこ500やそうや、大勢殺されたらしい」

ひとみは黙り込む

とてもじゃないが、戦いを挑める状況にはない

369 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:34
「Yの国の傘下にある村から兵を集められてしもたらとてもじゃないがたちうちでけへんな」
「そうですね・・・・やっぱダックスやバーニーズに相談した方がいいんですかね」

桟橋の壁に手をついて腕立てふせの真似をしながら話す

「矢口はそれを望んでないんやろ」
「・・・・今新たな街づくりを始めたあの町にこれ以上負担をかけたくないって・・・・」

フッと中澤が鼻で笑う

「あほやな、でも、もしかしたら何か考えてんのかもしれへんで」
「そうですかね」

戦の回避・・・・矢口の考える事はこの一つ
今この状態では、どうやって阻止するのかさえひとみには検討もつかない



「はてさて・・・かわええ矢口は何を考えているやら・・・」



「ですね」



矢口は大事な事はいつも一人で決める

相談されても答える事は出来ないが、たまには考えを聞かせて欲しいと思う心からか

フッと今度はひとみが自嘲的に笑う
370 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:37
「この町はすごいで、あんま知らんかったけどな、仰山ええ技術者や頭脳もっとった人間がおったようや
みんなが協力しあって、ダックスらと手を組んで物資やらの手配出来るようになれば
ここは他の国を圧倒する技術力を持てんねん
本人達も気付いてんねんけど、誰も技術を広めようとか自分から行動する奴がい〜へんのが
この町の衰退に繋がったんやってウチは思うで・・・
今までの新聞もあんま興味持って見る事はせぇへんかったみたいやし・・・
ここではあんま売れへんかったんやて少し前迄は
それにこの町を守っていた族達が、昔いっぺんに出てったのが
臆病もんになるきっかけになったようやな」

「そうですか・・・・・じゃあ、なんとかその技術と頭脳を持った人達が
今回の事態に何か手を考えてくれたら、もしかしたら何か戦を回避出来る
術が出てくるかもしれませんね」

「せやな、でも、もうちょい時間かかりそうやけどな・・・・・
こんな不安定な時期やからはよ動いた方がええねんけどな」

無理じいは出来へんからな・・・・と沢山の人がいるであろう町並みを見渡した




しかし、その少し後


保田が帰って来た事で、ひとみは我を忘れる事になる


371 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:40

「保田さん、早かったですね・・・・あれ・・・その子は?」

昼間の仕事を終えた梨華が
城の入り口でぐったりした姿で馬に乗っている少女の後ろの保田を見つけた

「ああ、石川・・・・馬に乗って移動するのって・・・結構疲れるんだね
取材って言ってもなかなか関所通してくれないし・・・」

「まぁ・・・・そうですけど、その子は?」



「田中っ」

その時、梨華と一緒に町に出ていて、先に城に入っていたひとみが
異変を感じ戻って来た



「与謝野・・・・大尉・・・」



なんともいえない表情・・・・縋るような表情でひとみを見下ろすれいな

「知り合い?」

梨華が呑気に聞くとひとみが強い眼で聞く

「矢口さんは?一緒じゃないの?」

聞かれた途端、れいなの眼に見る見る涙が溜まって行く

「ねぇ、ひとみちゃん」

梨華が聞いても、何かあった事を悟るひとみが何も答えない為に保田が口を開く

「石川、この子はYの国の王位継承者だよ、とりあえず中に入らせて、裕ちゃんも呼んで」
「あ・・はい」

驚きながらも何か嫌な予感のする梨華は慌てて城の中に走って行く
372 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:43

ひとみは保田を睨みつける

「何があったんです、保田さん」

先に馬から降りた保田が、れいなの手を取り馬から降ろす

なんやどしたんやと、中の会議室から中澤と藤本達が出て来て階段を下りてくる

保田が馬をそこらに繋ぐ間、れいなはただ佇んで俯き
ひとみはそんなれいなをじっと見つめ続けた

「何やねん、Yの国の王位継承者って、ん?誰やこれ、そして何で泣いてんねん、圭ちゃん何したん」

「そんな事言ってる場合じゃないの、裕ちゃん、とにかく落ち着く場所に座らせて、今話すから」


ひとみには何が話されるのか見えるような気がした

いや、見えないようにしたかった

あまりにも嫌な予感がする為に



場所を会議室に移す

昼間町に出てた辻や加護もYやFの国の人達も中澤の町の人達もほぼ集まった

長いテーブルの端にれいなを座らせ、その傍にひとみが立って見下ろしている
ひとみの強い視線に耐え切れなかったのか、れいなは嗚咽して泣き出していた

「田中、泣いてちゃ解らない、何があった?」

ひとみが厳しい口調で聞く
373 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:45
「吉澤っ、そんな言い方しないで、この子は頑張って来たんだから」

れいなの隣に座っている保田がひとみを見て強く言うと
ひとみも我に返ったのか、表情を和らげた後、落ち着いて話し出す

「あ・・・・・ごめん・・・・あの町に2人で行って、松原大佐に会ったんだよね」

頷くれいな

「指揮権を・・・・自分に移そうと思って・・・・そしたら・・・・そしたら・・・」
「そしたら?」

ひとみがれいなの座った椅子の横まで来てテーブルに片手を置いて顔を覗き込む

「松原・・・大佐が・・・私の前に立ってる少佐ごしの・・・兵に目配せして・・・・
そしたら・・・その兵が銃を取り出して・・・・それで・・・」

「それで?」

ひとみの声色が低くなる

「少佐は気づいてたんです・・・・でも・・・・私が・・・
怖くて動けなかったから・・・少佐は動かずに撃たれてしまって・・・
でも・・・・笑いながら・・・・頑張れって言って倒れて」


机に置かれているひとみの拳が真っ白になっていくのを全員が見つめていた

「それで、どないしたん?」

次の言葉を言えないれいなと、何も聞こうとしないひとみに
保田とは角のひとみを挟んでれいなの反対隣に座っている中澤が優しく聞いた

「倒れた所を・・・・松原大佐が・・・背中を上から地面に突き刺して
・・・・・・・・いくら私が呼んでも返事が・・・なくって・・・」
374 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:48
そこまでが限界だったのか、また何も言わなくなってしまった


  ダンッ!!!



テーブルがこれでもかという位叩かれると、そこにいる全員がビクッと肩を竦める

「んだよっ、ちびっ、死んだら許さね〜っつったじゃね〜かっ」

叫びながら出て行こうと走り出すひとみを慌てて中澤が立ち上がって止める

「どこに行くつもりや」
「止めんなよっ」

興奮したひとみの力は強く、中澤を引きずるような勢いであった為
れいなのテーブルを挟んで逆側に座っていた藤本達も立ち上がって近寄る

「吉澤っ、まだ続きがあるの、田中が松原に気絶させられて連れてかれてたけど
気がづいて元の場所に戻った時には矢口はいなかったんだって」

保田がれいなに変わって慌ててしゃべり出す

「え?」

そうとう興奮しているのかひとみの息は荒く
はぁはぁと息を吐きながらも動きを止め、中澤達も力一杯静止させていた手を緩めた



「生きてる可能性が高いって事よ」



死んでいたら・・・・確かにしばらくはそのまま放置されているはず・・・・


375 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:51
「もしかしてあのばか、歩いてこっちに向かってるかも」

「そうね、でも、先に出たという事はないと思う
私達はちゃんと道を通って帰って来た、ちゃんと道路脇にも眼をくばりながらね」

ひとみはドアの前で立ちすくむ

「じゃあ・・じゃあどこいったんだよっ、あいつはっ」
「落ち着けって、こんな時にあんたが取り乱してどないすんねん」

自分より大きなひとみの両肩を掴んで中澤が揺さぶるとれいなに聞く

「どれくらい時間がたった頃に戻ったかわかるか?」
「馬で・・・・走ってって二十分位かかった所・・・だから、四十分位・・・・」

泣きながらも途切れ途切れの言葉を紡ぎ出す

「せやな、生きてる可能性の方が高いな、誰か助けに来てくれてんよ、きっと
後はどこら辺を撃たれてどこら辺りに剣を突き刺された?」

嗚咽しながら、保田の背中を借りて指差す

「あっ、そういえば・・・撃たれる時も刺される時も、一瞬少佐は体を少し動かしてました」

その時の状況をはっきり思い出したのか、しっかりとした言葉を言う

「大丈夫や、急所やない、矢口はわざと撃たれたんや、間違いない、大丈夫」

「ええ、勘太もその場にいなければ、きっと勘太が誰か呼んで連れて来て
おそらく看病して貰えてると思います」

族の生命力は急所以外の場所を怪我した場合
ちょっとやそっとじゃ死にませんから、と藤本が冷静に言う
376 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:54
「せや、その可能性が一番高い、矢口は生きとる
生きる勝算があっての行動やったんや、田中のせいやないで」

優しく中澤が田中に言うと、幾分安心するように田中も頷く

「じゃあ、今からあの町に行って来ます」

そう言うひとみに保田が近寄って話し出す

「どうやって探すの?あの町は小さな町ではないじゃない
その松原が凄い人数使って姫を捜索しても見つからない位広い、人の多い場所をどうやって探すの?
大丈夫、生きてれば矢口はきっとここに帰って来る、下手に動かない方がいいと思うよ」

「ウチも賛成や、きっと矢口はこっちに帰ってくる、だからその間
ウチらはYの国に対抗出来る準備を早急に進めなあかん、復興だけやのうてな」

「うん、よしこ、その方がいい」
「ひとみちゃん・・・気持はわかるけど・・・・その方がいいよ」

ひとみは唇を噛み締めて立ちすくんだ

「「よっちゃん」」

子分である加護と辻も強い目で頷いていてひとみはその意見に従うしかなかった

中澤がひとみを席につかせると
ひとみは机に両手を組んでその上に額をくっつけて突っ伏した

「田中・・・・よう頑張ったな、事情はうっすらとしかわからんが・・・・
あんたはきっと一番戦うとつらい人と戦って来たんやな」

「ごめんなさい・・・」
「謝らんでええ、よう頑張った、少し休み」

れいなの肩に手を回し、手を取って立たせると中澤は梨華を見る
梨華が頷いて 田中をドアから連れ出して行った
377 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 21:56
2人が出てったドアを見ながら中澤が呟く

「かわいそうに・・・・あの子まだ十二・三歳やで・・・・」
「うん、立派だったよ、自分が何をすればいいか一生懸命一人で考えてた
兵隊にも毅然とした態度でこっちへの門を開かせてた・・・
吉澤に知らせるために・・・・どうしていいか解らなかったんだよ
だからどんな所なのか解らないのにこっちへ向かおうとして」

絵里とさゆみが突然椅子から立ち上がるとドアから出て行く
田中についてやろうとしているのだろう

「しょってるもんが、大きいねんな・・・あの子」

と呟いた後、さあそこで、皆で考えなあかんな と中澤が全員に問い掛ける


Yの国の崩壊と暴動、一般市民がこっちへ流出して来る可能性は高い事
追っ手の兵が迫ってくるかもしれない事
兵力の違い、今知ってる限りの情報を全て全員に聞かせた

どれくらいの人が戻っているのか
戦えそうな人がどれくらいいるのかの状況はだいたい掴めていた

だから明日からは、戦う事を決意した人達を集めて戦法の訓練を始める事にした
378 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 22:00
作戦や戦法・・・・詰めた戦い方は
素人集団の自分達には短期間じゃ出来ないだろう

とにかく、もう悠長な事は言ってられない
今出来る事から始めなければ、何も始まらないという事はそこにいる誰もが解っていた

すぐに全員で新聞を作り始める
この町の状況、Yの国の状況を知らせ・・・
今何をしなければならないのかと考えてもらう為に・・・

町で技術者を見つけ、即その人を雇ったので
すぐに新聞の原版を作ると早速印刷にかかった

絵里達やFの国の兵達は
珍しい作業に夢中になって手伝っていた

出来上がったそばから、中澤の町の族達が全部の家に配っていく
毎日毎日、交代で見回りをする中澤の仲間達に、町の人はもう警戒心は持っていないようで

簡易的な新聞に、夜遅いにも関わらず
近所で集まっての討論会がいたる所で始まったようだ
そんな町の灯が、夜遅く迄あちこちで灯されていた

中澤達は明日の朝から本格的に兵を招集しようという事で
見回り組以外は就寝する事にした・・・

379 名前:dogsU 投稿日:2006/11/05(日) 22:02
夜中も過ぎ、町も静まりだすと
加護が見回り行ってくるわと部屋を出て行く

ひとみも行くと言うが、昼も梨華ちゃんと出かけてたんだし
今日まではゆっくりしときと促された

残された部屋で、辻にひとみが問う

「辻は・・・平気なの?」
「平気なわけない・・・・でも・・・・親びんはあのれいなちゃんって子を守って撃たれたんでしょ
だったら親びんは満足してる
そしてのの達が親びんが生きてるって信じてればきっとかえってくる、絶対」


「・・・・ん・・・・だな・・・・・強いな・・・・辻は」



「だって子分やもん」

そう笑う辻の顔は泣きそうだった



ひとみは我を忘れた自分を恥じた
自分よりも年下だと思っていた辻や加護・・・
それにれいなが必死で耐えているのに・・・


ひとみはちょっと出て来ると言って部屋を出て、城の裏側の広い場所で剣を振り出す

何度か相手をしてもらった矢口の残像を相手にしながら・・・
380 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 22:02
今日はこの辺で
381 名前:dogsU 投稿日:2006/11/08(水) 22:57

「さすがやぐっつぁんだね、もう起きれるんだ」

上半身を包帯に包まれて窓の外の様子を見ている時に
外から真希が入ってくる

慌ててひざまずこうとする矢口を真希が止める

「やめてよ、もうゴトーは姫なんかじゃないし」

慌てた為か少し痛そうな矢口を気遣うように近づき
手で体を支えようとする真希

「姫・・・」

穏やかに笑って、大丈夫ですとその手を離させると、また窓の外を眺めた
外を慌しくうろちょろしている町民の手には棒やら桑やらが握られているのが見える

今まで真希達は、眠っている矢口を置いて
近所の人達が戦うかどうかの最終決断の集会に出掛けてしまっていた

「これから本気で暴動を起こす気なんだね・・・・ここの町の人達は」

すごい興奮してた・・・奥さんとか身内が殺された人とかね
・・・・と真希が寂しそうな微笑を浮かべる

「ええ・・・・争いは・・・・何も生まないのに」

そう言う矢口を真希が優しく見つめる

「変わってないね・・・・やぐっつぁんは」
「・・・・・・姫は・・・少し大人になられましたね」

矢口も真希を見つめる


「あの・・・・・」


2人が同時にドアに視線をやる
382 名前:dogsU 投稿日:2006/11/08(水) 22:59
「すみません・・・その・・・・・邪魔して・・・・」
「いや・・・いいですよ、どうかしました?」

矢口が優しく聞く

「あの・・・その・・・・矢口さんがつらいのは・・知ってるんですが・・・・その・・・・」

言い辛そうにしている紺野に矢口が微笑む

「暴動が始まらない内にこの町を出ようとしてるんですよね、ここを逃げ出す人達に紛れて」

「はい・・・その通りです・・・・で・・・・・あの・・・・・
集会では、もうこの町に見切りをつけて、旧Eの国の王都に行ってみようという人達が
結構いましたから、その人達に紛れればと思って」

「でも大丈夫?やぐっつぁん」

心配そうに覗き込む真希

「ええ、紺野さんの手当てがよかったのでしょう、大分楽になりました」

少しはにかむように真希を見上げ微笑む矢口は、ひとみ達の前で見せる姿とは少し雰囲気が違っていた

「ほんと?」

真希が疑いの眼をしている
矢口が笑いながら頷くと

「あいかわらず心配性ですね」
「いっつも心配かけるのはやぐっつぁんでしょ」

2人が微笑みあうのを見ないように、紺野は気付かれない程度に目を逸らした
383 名前:dogsU 投稿日:2006/11/08(水) 23:01
矢口にはYの国の軍服しかなかったので、紺野の服を借りるが
やはり矢口には大きくズボンは裾を捲くり、シャツもダボッとして腕を捲くった

「あいかわらずかわいいね、やぐっつあん、服に着られてる感じだよ」

あららと両手を広げて照れ笑いする矢口を紺野は本当にかわいいと思った

「よし、食事にしてすぐ出発しましょう
矢口さんは少しでも横になってて下さい。すぐ作りますから」

「ゴトーも手伝う」

仲良さそうに奥に消えていく二人に、すみませんと答えてベッドに向かい横になった



天井を見ながら思うのはれいなの事

彼女は今頃どうなっているのだろうか・・・・・

まさか殺されるなんて事は・・・・・



たった一つのYの国の希望の光

その光をどうか消さないで欲しい



咄嗟とはいえ、自分が撃たれてしまった不覚を悔いる



【親びん、本当に平気ですか?】

ベッドサイドからちょこんと顔を出して聞いてくる勘太
384 名前:dogsU 投稿日:2006/11/08(水) 23:02
「ごめんな、ほんと、心配かけて」
【ほんと焦りましたよ、全く】
「良かったよ、お前がいてくれて」
【全くです、俺っちをあてにするのもたいがいにしてください】

はいはいと頭を撫でてやるとカフッとアマ噛みして来る

「ごめんごめん、だってお前すげー奴じゃん」

当たり前だとばかりの勘太は

【だからってこんなヒヤヒヤするようなのはもう勘弁して下さい】
と少しお怒りの様

「ほ〜い」

わしわしと撫でてやると今度は気持良さそうに目を閉じていた

それから真希と紺野が食事を持って来ると再び食べさせてくれようとする真希に抵抗する矢口

「自分で食べれますから、姫に準備させるだけで心苦しいのにこんな事迄」
「もうっ、久しぶりだし、たまにはやぐっつぁんの世話したいのっ」
「もう大丈夫ですから」

結局ちゃんと起きて自分でベッドに座ったまま食べる矢口

そんなやりとりの横で、静かに笑みを浮かべながら小さなテーブルを置いて
チョビチョビとご飯を口に運ぶ紺野

矢口の世話が出来ずに、チェッと紺野の隣に座り自分も食事を始める真希

勘太にもちゃんとご飯が与えられ、和やかに食事が済むと出発の準備をして出発する
385 名前:dogsU 投稿日:2006/11/08(水) 23:05
しかし、いざ外に出てみると矢口の歩く速度は遅く、無理して歩いてるのが紺野にも解る

「町を出る迄我慢して下さい・・・・出たらどこかで休みましょう」

紺野が矢口を支え言う

「・・・ありがとう・・・・でも大丈夫です・・・・このくらいの傷は慣れてるから」

しかし実際、銃の弾が貫通するのは良くあったが、剣が貫通したのは初めてだった
思ったよりも体がキツイ事を矢口は感じていた

だが暴動が始まってしまって巻き込まれれば
矢口が危ないと思って紺野は言ってくれているのだと矢口は解ってたので明るく振舞う


通りを行き交う人々・・・人並みを避けるようにして三人は歩く
身長的に身長差が少ない紺野が肩を担ぎ真希が先導する

興奮した人々がたまに矢口の体に当たり、矢口は顔をしかめる
真希は町民が通りでごったがえす中をすりぬけ人のいない通りを探した

だんだんと荷車を引く人が増えてくる

「紺野、どこかで馬を探せないかな」
「そうですね、矢口さんを門の近く迄連れて行ったら私探してきます」
「うん、頼むね」

矢口の両脇でそんな会話をしているのが、徐々に意識を無くしそうな矢口の耳にうっすらと聞こえる
386 名前:dogsU 投稿日:2006/11/08(水) 23:07
勘太が後ろから吠えている

「やぐっつぁん、勘太が何か言ってる」
「ん・・・・」
「やっぱり無理でしたかね、昨日の今日で動かすのは」
「大丈夫・・・勘太が・・馬がいる場所を・・・知ってるって」
「解った、頑張れ・・・やぐっつぁん」

真希の声が聞こえると矢口は微笑んだ


町の中心部ではもう暴動が始まってしまったようだ
悲鳴や煙が上がり出した

「もうすぐ門だよね、門番いるかな」
「いたら私が仕留めます、今日なら大丈夫」

矢口の意識がなくなりかけているのを2人は気づいている
門が見えた所で矢口を一旦道端に寝かせると、勘太と共に紺野の姿が消える

通りはこの町を脱出しようとする荷車をひいた人達が列を作っていた
門は既に開いているようだ
387 名前:dogsU 投稿日:2006/11/08(水) 23:09

「やぐっつぁんしっかりして」

泣きそうな顔で真希が矢口を抱え込む

「だい・・・じょうぶです・・・すみません」

遠くから馬がすごい勢いで走って来るのが解る
荷車を押す人達が驚いて振り返ると、紺野が馬に乗ってもう一頭を連れて走ってきた

「後藤さん、荷車をさがしてきます、このまま馬に乗せると危険です、寝かせたまま運ばないと」
「大丈夫・・・乗れます」
「無理しないのっ、これは命令だよ」
「・・・・・はい」

真希が矢口のお腹の洋服をめくると血が滲んで来ている
すると一人の老婆が通りの向こうから荷車をひいて近づいて来る

「この子知ってるよ・・・・昨日Yの軍と争ってた子だろ」
「え?」
「なんか女の子を庇って撃たれてた子だよね、荷車を探してるんだろ?」
「え・・あ、はい」

にやりと笑うと

「さっきその子がよろよろと担がれてるもんだからさ、ひょっとしたらと思ってね」
「お〜っ」

真希が心底嬉しそうに老婆に微笑む
388 名前:dogsU 投稿日:2006/11/08(水) 23:12
「この荷車で良かったら使いなさい、私はもう老いぼれてるのでこの町から出て行く事もない
ここで死ぬのも運命じゃ、昨日はこの子ともう一人があのYの軍に一生懸命立ち向かってる姿に感動してね
ちょっとばかり恩返しをしたかったのじゃ」

「ありがとうございます」

真希が満面の笑みで老婆にお礼を言うと、老婆は優しく頷いた

「お・・ばあさん・・・・死ぬとか・・・・言わないで・・・・生きて下さい」

矢口が老婆に声をかけると

「あんたはいいこじゃね、あんたこそ生きなさい、昨日庇った子が戻って来て泣いておった、あんたを探してね」
「え・・?田中が?」

瞑っていた目をカッと見開き、身を起こそうとして真希に止められる

「ああ・・・・どこへ行ったかは解らないけどね」

ひらひらと手を振って元来た方向へと歩いて行く

そこへ紺野が力を使って戻って来ると、荷車を引いている人達が驚いていた

「ダメです、みんな逃げる為に使うみたい・で・・・あ、あったんですか?」
「うん、今あのお婆さんが持って来てくれた」
「そうですか」

ほっとする紺野

2人は頷くと馬に荷車をつないで矢口を寝かせる
一応持って来ていた毛布を上と下に敷いて・・・

紺野が荷車を引く馬に乗り、もう一頭に真希が乗って歩き出す
なるべく振動しないようにゆっくりと

人がパラパラと通る中、少し広い場所で一度止めて紺野が止血の為に矢口の傷口を見る

「すみません、失礼します」

人の目のない時を見て矢口の傷を舐め出す
血が止まると二人は頷いて包帯を巻きなおし、再び歩を進めた
389 名前: 投稿日:2006/11/08(水) 23:12
今日はこのへんで
390 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/09(木) 00:31
まだまだ心配ですね・・・。
はらはらします。
391 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/09(木) 14:34
やぐっつあ〜〜〜ん(号泣
切ない・・・
392 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/09(木) 23:44
勘太がみょうにかわいいw
393 名前: 投稿日:2006/11/10(金) 00:13
390:名無飼育さん
ご心配おかけ致します

391:名無飼育さん
本当ありがとうございます

392:名無飼育さん
こんな犬いるといいですよね
というか、犬と話せたらどんな世界になるんだろう
想像すると楽しいですねw

レス本当にありがとうございます。
励みになります。
394 名前:dogsU 投稿日:2006/11/10(金) 00:16
漸く、閉じこもっていたEの国の人達は
これからの生活の為にどうしないといけないかを真剣に考え出したようで
翌日から、町を守ろうとする庶民や旧青の軍の人達が少しずつ城に集まった

そして、ひとみは精力的にそんな町の人達に剣を教える

その様子は何かに捕り付かれたかのごとく鬼気迫るものがあり
風間達もその心中を察する

「伊集院少佐・・・・じゃなかった矢口さんの事が心配なんだね、吉澤さんは」
「仲良さそうでしたから」

共に訓練を受けている中山達も心配そうにひとみを見ている



ひとみは休憩の時でさえ、体を動かすのをやめなかった

「よしこ、少しは休んだ方がいいよ、あんまり無理するとかえってよくないって」
「ん・・・解ってる」

共に教えている藤本にそう答えてもひとみは動きをやめる事はない


武器の在庫を調べたら武器は結構豊富にあるようだと解った
しかし、使いこなせる人がいないのが問題


絵里とさゆみ、風間の奥さんも加護と辻に剣を教えられていた

Fの国から来た使者も積極的に教えてくれる
395 名前:dogsU 投稿日:2006/11/10(金) 00:18
今、ここに剣術を習いに来るようになった人は、それでも100人位だ

とてもYの国に太刀打ち出来ない数

それでも必死にその人達に戦い方を教える

元青の軍の人も少し入っているが、まだまだ本人がその気になれば数はもっといるはずだと中澤は言う




その中澤がれいなの部屋に行って話をする
昨日は一晩中梨華の胸の中で眠ったようで大分落ち着きを取り戻した

ベッドに寝ていたれいなが体を起こして、ベッドサイドに座る中澤に顔を向ける

「何か・・・考えてたんやろ、これからのYの国の事」



「・・・・・・でも・・・・もうダメです
れいなにはそんな事する力なんて・・・・とてもありませんでした」



「矢口に・・・・頑張れって言われたんやろ」



「・・・・・ごめんなさい・・・」



「中澤さん」



後ろでれいなを支えている梨華がれいなを追い詰めるなと伝えてくる


「ああ、ごめん・・・・責めてるんやない・・・・ただ・・・・
矢口の意志を継ぎたいんや、ここに矢口がおったらきっとあんたを助けようとするやろうから」



れいなの口がぎゅっと噛み締められる

梨華に矢口が撃たれた時の衝撃や記憶をやんわり取り除かれ、幾分気分は軽くなっている
396 名前:dogsU 投稿日:2006/11/10(金) 00:22


「ウチに、何がしたかったか・・・・教えてくれへんかなぁ」



すると静かにれいなが話し始める
自分と両親とで、今の制度を変えようとする事、他の国を返還し新しい兵隊のあり方を探す事
確かに子供の考える単純な事だったが
基本的には他の国では当たり前の事をやろうとしていたと話す

「解った、偉いで、田中・・・・・ウチらが協力したるわ・・・・
まぁなるようにしかならんが・・・・あんたは元気出して戦う方法を習い
どうもあんたも戦闘能力についてはまだ未熟なようやからな」

頷くれいなの横の梨華を中澤は見るが
梨華はれいなの心が若干強くなっていると感じた為大丈夫と中澤に伝えるように目を閉じながら頷く

その頃、れいなの復調を感じた保田は再びYの国方向へと向かって行った



日が暮れる頃中澤は、見回りを終え横たわる藤本の部屋を訪ねる

「なぁ、あっち方向から逃げて来る人達の事はどないしよ」

「あ〜、そうですねぇ〜・・・・ってか、昼寝しようと思ってるんですけど
・・・・見回り後あんまり寝ずに訓練して疲れてるんすけど」

ベッドで寝ている藤本の横に寝転んで話し掛ける中澤に、不愉快そうな声を出す

「ええやん、大分強奪も少なくなってるんやろ、夜明かりも点るようになってるし、で、どないする」

藤本の腰辺りをぐりぐりと人指し指でこねくりまわす

「なんでそんなにギャップがあるんです、大勢いる前では結構かっこいいのに」

藤本はわざとらしく溜め息を付くと、中澤と反対を向いて目を瞑る
397 名前:dogsU 投稿日:2006/11/10(金) 00:25


「かわええやろ」

「ええええ、かわいいですとも、受け入れたらいいんじゃないですか?
人口増えた方が町も活気づくし、家がなければ建てればいい」

「なんや、簡単に言うんやな」
「だって眠いもん」

「冷た〜、石川と対する態度と全然ちゃうやん」

背中を突っつく

「梨華ちゃんは愛する人ですから、中澤さんとは違うの当たり前です」

「そ〜でっか、ごちそうさん」




立ち上がって部屋を出て行こうとする中澤が

「あんたは大丈夫そうやな、辻と加護もそれほど気落ちしてへんし
石川も思ったより強いみたいや・・・後は吉澤やな・・・」


「・・・・・そうですね」


みんな矢口の事が心配なのは同じだった

しかし、矢口はあのれいなを助けようとした

いや・・・Yの国を助けようとしていた



それが解ったから・・・・

全員その意思を無駄にしまいと今出来る事をする事で気を紛らわせているのかもしれない


いや、吉澤の興奮が凄かった為に
かえってみんなが冷静になれたのではないかと中澤は思っていた
398 名前:dogsU 投稿日:2006/11/10(金) 00:28
日が暮れてもひとみは城の後ろの広い場所で剣を振り続けている
城の廊下の窓から絵里とさゆみがその様子を眺めていた

「あ、れいなちゃん」

部屋かられいなが出て来ると、絵里が気づく

「もう大丈夫?」

さゆみも心配そうに聞く

「あ・・・うん・・・・・・れいなでいいよ・・・・・
昨日・・・・ついててくれたんでしょ・・・・・ありがと」

昨日梨華に癒して貰って眠っているそばに
二人はずっとついていたと梨華から聞いていたので、多少ぶっきらぼうに返事をする

「ううん・・・・それに大丈夫、絶対に少佐・・・
じゃなかった、矢口さんは無事だよって、皆言ってるし」

絵里に言われて頷く

「うん・・・・ねぇ、何見てるの?」
「あ・・・吉澤さんがね・・・・・やめないの・・・・訓練」

絵里がそう言って窓の外に眼を移す

「綺麗でしょ・・・おどってるみたいで」

わざとさゆみが自慢そうに明るく言う



「うん・・・・・・」



れいなはその後はしゃべれなかった
あまりにひとみの悲しそうな姿が痛々しくて
399 名前:dogsU 投稿日:2006/11/10(金) 00:29



「吉澤さん・・・矢口さんの事好きなんだって・・・・
でも・・・矢口さんは別の人が好きみたい」

「・・・・・」


さゆみの言葉にれいなは言葉を失う


「重さん」


絵里がさゆみを肘でつつく

「・・・・・綺麗な人だったよ・・・・矢口さんの好きな人」
「「えっ、知ってるの?」」

2人は驚く


「だって王族付きでしょ、矢口さん」
「あ、そうだったね・・・・・・で・・・王族付きって?何なの?」

さゆみが不思議そうに言うとれいなが赤くなって微笑む

「教えてやんない」

そう言って歩いて行くれいなを見送り、2人は顔を見合わせると追いかける

「「どうして?」」
「自分で勉強して」

何よ〜と歩いて行くれいなをさらに追いかけて行った
400 名前: 投稿日:2006/11/10(金) 00:30
今日はこのへんで
401 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:28
次の日位から、ぽつりぽつりと移動してくる人たちがこの町を訪れるようになった

やっと外に出て来出した元々の住民達も不安そうにしていた
新聞で他の国に色々な事が起こっているのを知り
私達の町はどうなるのだろうと見回りの藤本達に聞いて来る事も多い

だが、そんな時は、何かある時の為に
自分達で自分の町を守れるようになれればいいんですがと答えるだけだった

とにかく戦える人は城へ、戦う事の出来ない人達には
今は自分達の生活を取り戻すよう諭すのである

この頃は、自分の畑を見に行ったり
店を掃除して製品の製造の為の材料のルートを聞いてきたりする事もあり
順調だと思われてた頃だっただけに再び閉じこもりはしないかと心配する

中澤と藤本は、移動して来た人達を一旦城の後ろへと集合させて
その人達がどうしたいかを聞く事にする

旅して来たそんな人たちは、この町が平和だったらこの町に住みたいと多くの人が言ってくる

きっと暴動で一度出て行った兵隊が、再び復讐して来るのを予測しているのだろう
そして再びあの緊張する生活が来るのはもう嫌だと訴える

翌日も、その次の日も移住して来る荷車が後をたたない
402 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:33
移住して来る人達がいた町は、最近迄、旧Eの国崩壊後の地元の人の手によって
納められていた独自の生活をしていた人達だった

突然Yの国の、しかもものすごい軍国主義に変わってしまった為
早々についていけなくなった人達は今回の暴動以前から移住を考え準備はしていたらしい

だからとりあえず、名簿を作成しながら城に置いてある野営用のテントを貸し出して、対応する

元々の住民も、徐々に城に戦い方を習いに来る人も増えたり
移住して来た人を世話してくれる人も出てきた

今後は空家等、開いている場所や仕事をどうにか出来ないか検討する事にした

移住して来る人のほとんどが女子供で、何も戦う手段がないからなのか
時々山賊に襲われたと血を流した人達もいた

前々からここは旧王都の為、技術力が進歩している事に興味を持った若者もいたのだが
移住する勇気もきっかけもなかったので
今回の暴動と、新聞を読んで移住を決意したり
この町にある種有名な矢口がいると思ってすがるように決心して来た人達もいるようだ

中澤達が、ここに来る迄二つ村を通らないといけなかったのではと問うと
どの村も新聞を見て矢口の評価が変わり
Yの国の脅威の方が勝ったのか、移民だと解るとすんなり通してくれたという

それを聞いて中澤と藤本は表情を険しくした

もしかしたらつい先日迄のひとみの情報
あちらから攻める事のないという状況が変化し、攻めて来るかもしれない
403 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:36

「どうする?先手を撃つか、じっと待つか」

中澤と藤本が会議室の窓から集まった人達を眺めながら話す

剣術の稽古をしていた人達は夕方になりもう家へと帰ってしまっていた

「そうですね〜、まだ町として機能しはじめたばっかですから
・・・・ここに攻めてこられちゃ立ち直れませんよね」

「こっちから攻めるにも、手が足りんな」

戦闘をするには圧倒的に不利な状況

しかも新聞を読んだ人がここにいると思っている人物・・・・

いつのまにか改革の象徴のようになっている矢口は消息不明

Fの国の人の内、半分は国に帰っていった
暴動が起きて、各村のYの兵達が撤退したと知って
Fの国の兵達も減っているかもと様子を見に行った

もし戦をするのなら、自分達も最後の力を振り絞って力を合わせますと言ってくれている

それでもYの国にとって脅威となっているダックス・バーニーズ・シープに応援を頼む以外
この町・・・そしてYの国に住む一般人の救われる道は無いのか

しかしそうなれば・・・・・

シープでの戦い以上の犠牲者が出る事は間違い無いだろう



矢口はそれを望まない・・・・・



2人はなすすべがない心境からか言葉が出ずにひたすら窓から外を眺め
う〜んと考え込んだ




すると突然バンッとドアが開く
404 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:38
驚いた二人が両開きのドアが開けられた中
強いオーラに包まれる人物を見る


「私、Yの国へ戻ります」

立っていたのはれいな

「なんや・・・・何か策でもあるんか」
「いえ・・・・でも私が直接王と王子に頼みます、もうこんな事をやめるよう、今度こそ頑張ります」

梨華に癒され、亀井や道重がいる事によって
徐々に元気を取り戻してきたばかりのYの国の王位継承者

たった一人のYの国の希望の光・・・・・

その瞳には確かに決意が漲っている



でも少し笑顔を浮かべて中澤は首を振る

「・・・・・・あんたには悪いが・・・・・
もう止まらない所迄来てる思うで・・・・・いくらあんたでもな」

中澤の言葉にれいなが唇を噛みながら俯く

「それでも、何もしないよりましです、戻ります
そして・・・・こんな風にしてしまった人達を・・・・倒します
私に出来る事はこれくらいですから」

強い眼差しで再び中澤を見る顔はもう泣きじゃくっていた子供の顔ではなかった



「平和な国にしたいんです・・・・・矢口さんが望むような・・・・それが出来るのはきっと私だけだから」



藤本と中澤がれいなの顔をじっと見て、沈黙が続く


「・・・・・・・・・なんかウチ感動してるわ・・・・ウチも行くで、Yの国」
「美貴も行きます」

中澤が、藤本を見て頷く
405 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:40
開いているドアの中で立っているれいなの後ろに
ぞろぞろと中澤達の町の人たちが現れる

「姉御、行きましょう」

れいなが驚いて振り返る
そこに集まった人達の顔は優しく微笑んでいた

「俺、この町に住みたいっす、この城の後ろの広場で畑作りたいです」

「町の人ですごい技術の建築屋見つけたんです、ここでその技術を学びたいっす」

「見た事無い機械作ってる所見つけたんすけど、材料が無いらしくて研究出来ない人がいるんす
その材料がYの国にしかないらしくて・・・」

「俺もいい女見つけたんっすよ」

「あたいもいい男見つけちゃった、昔は家具を作ってたらしいんだけど
むりやり戦に連れてかれたって・・・・でも、今は自分達の為に戦うって言ってるよ」

「姉御、族の俺らがその役に立てるなら、この人数でもいけますよ、敵の千や二千」




    俺らの力でYの国、動かしてみましょうっ!





全員の声が揃うと
中澤が、藤本の肩を叩く



「ウチらの町のやつは、あほばっかやった・・・・・忘れてた」

唖然とするれいなの後ろで皆はへらへらと笑っている

「俺らの力・・・・見せてやりましょう、姉御」
「せやな、見せ付けてやろか、ほな」

おうっと全員が腕を上げようとする所に遠くから大きな声が聞こえてくる

お〜い姉御〜と声がどんどん近くなる
406 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:42
なんやなんやと中澤の町の人達は後ろを向いて道を明ける

そこへ見張りの一人が駆け込んでくる

「姉御っ、帰って来ましたよっ」
「誰がや」

思わず中澤が言ったが、すぐに全員の口があっと開いていった

「「「「「「 !!!? 」」」」」」

そこにいる人達の頭に思い当たる人物は一人しかいない

「やっぱ生きとったんか」

途端れいながみんなの間をぬって走って行く
すぐに全員後をついていく

「みんなに知らせて来ます」

藤本は嬉しそうに瞬時に姿を消す

中澤達が門の所まで行くと、夕焼けの中、町の人達が動く向こう
・・・・遠く道の向こうに馬が二頭歩いてくるのが解る

中澤達の後ろから力を使った三人の影が人垣を飛び越えて
先に飛び出したれいなに追いつき門の外で馬が来るのを待ち構えた

階段を慌てて下りてきた梨華や絵里、さゆみや風間達も走って来ると人垣を掻き分け前に駆け出す

馬が人を避けながら急に速度を上げてこっちへ走って来る
待ち構える集団を見つけたのだろう

その人物の姿が全員の思っている人物と一致するとみんな一斉に叫び出す

「「親びんっ」」
「「矢口さんっ」」

走って来る馬の上の人物が大事そうに矢口だろうと思われる小さな体を抱き締めて
必死に走って来るのが確認できた
407 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:46
門近く迄来ていた中澤達は駆け出す準備をしながらも
矢口は誰かに抱きかかえられているので、その人物を皆が注意深く見つめる

「「姫っ」」

加護と辻が叫ぶと力を使って駆け出し、れいなも泣きながらついていくと藤本も消えた
一緒に走りかけていた全員は、えっと驚いて止まる・・・・

馬と平走する四人の中にれいながいる事に真希も驚きながらも、必死馬を走らせてくる
すぐに馬の所に行った族四人がゆっくり並走している知っている顔に気付くと
真希が泣きそうな顔で声を荒げて指示して来る

「あいぼんっ、ののっ、やぐっつぁんを早く休ませたい、準備しといて」

驚く子分2人

「「はいっ」」

全員の視線の先にいるのは、真希の腕の中でぐったりしている矢口

「「親びんっ」」「「矢口さんっ」」
「大丈夫・・・生きてる」

矢口がうっすら眼を開けて小さな声を出して笑う
それを見て安心するように加護と辻は城へと消え、中澤の前で一旦姿を表しまた姿を消した

すぐに門近くに馬が近づいてくると
中澤達の心配そうな矢口の名前を呼ぶ声を引き裂くように馬が間を駆け抜けていく

城の中に入りそうな勢いで馬を止まらせ
瞬時に取り囲む人垣の中で真希がそっと矢口を藤本に渡すと
まるで力の入らない矢口を横たえさせた

すぐに飛び降りた真希が再び矢口をそっと抱き上げ
どこへ運べばいいのと訪ね、藤本と中澤が先導する
408 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:48
「大丈夫か、矢口」

真希の横について中澤が話し掛ける

「あ・・・裕ちゃん、後で話・・・・・聞かせて」
「解ってる、こっちや、早く」

ゾロゾロと人垣が移動し、階段を上がって行くと
部屋の前で加護達がこっちです姫と叫んでいた

早歩きで部屋へとすばやく入り、ベッドに矢口を寝かせると
ベッドの周りに人が集まる

「なんだよ・・・・人が一杯いて・・・恥ずかしいじゃん・・・」
「何言ってんのや、皆あんたの事心配してんのやで」

力なく微笑む矢口を見て、皆は少し安心する
矢口がすぐそばに泣き崩れたれいなの姿を見つけると

「あれ・・・・田中・・・どうしてここに」
「ごめんなさいっ、私のせいで」

何度も私のせいでとベッドに突っ伏し泣きじゃくると

「ばか、謝るなよ」

矢口の手がれいなの頭を触ろうと手を伸ばすが
どうやら距離感がないのか、ポトリとれいなの前に落ちた

れいながそれに気付いて矢口の手を握り
「矢口さんっ、頑張って」
と叫ぶ
409 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:50
「すみません、出来れば布を沢山持って来てもらえますか?それと火と水を」

真希の隣でおずおずとみんなの様子を見ていた紺野が遠慮がちに言う
その声に、中澤がすぐ指示を出す

「解った、誰か水汲んで来て、それとあんたらは見張りや見回りの交代の時間やろ
食べる人は食べてはよ任務に戻り
むっさいのが一杯部屋にいたら矢口の怪我が治るもんも治らんなるわ、ほれっ、さっさと動くっ」

「へ〜い」

Fの国の人も中澤の仲間達Yの国の風間達も心配そうにしながら部屋を出て行く

そこで中澤が気づく、ひとみと梨華がいない事に



ひとみは城の入り口の反対側の広場側の出入り口のすぐ外に腰掛けて
足を広げた間に座っている勘太を撫でながら天を仰いでいた

勘太は撫でられながらも心配そうにひとみの顔を見上げている





「どうして会いに行かないの?」

突然聞こえた声に、天を仰いだまま顔を傾ける様子を伺うと
ひょこっと笑顔の梨華が顔を出した

「・・・・・無事だっただけで・・・・・良かったから」

静かな声で顔を下げて、勘太を抱き締め、体を撫でてあげている
410 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:51

「そばに行って、いつもみたいに言いたい事言えばいいのに」

「・・・・・・・・いいよ・・・・無事だったから」

ひとみは立ち上がり、勘太をぽんぽんと叩くと、また剣を持って広場の方へ歩いて行った



「・・・・・・姫がいたから?」

肩を落としているように見える背中に、梨華は思い切って言ってみたら
ひとみが一瞬立ち止まる

本当は駆け寄って殴りたい位の衝動に駆られていたひとみ
いや、怪我しているとはいえ、生きている姿が嬉しくて抱きしめたいと思っていた

しかし、町の人達に剣を教えていて丁度昼食にと皆が消えていった後
いつものように一人訓練を続けていた時の突然の城内の慌しい声で
ひとみがみんなの動きに気づいた時には
知らない人が矢口を抱えて階段を上がって行くのを見た所だった

そしてすぐに気づいた・・・・

その人物が姫だということに・・・・



「関係ない・・・・ちびが生きてればそれでいい」

そう言うと、すぐに歩いていって、いつものように剣を振り出す
411 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:54
梨華は唇を噛み締めると城の中に入り大広間を抜けて階段を登った

よかったよかったと出て来る人達が梨華に声を掛けて
外や食堂へ行ったり、部屋へ戻っていったりしている
どうやらさっき見た時にぐったりしていた矢口も無事なようだ

梨華がほっとしながら矢口の運ばれた部屋をノックし
中から中澤が顔を出して入れてもらうと、矢口のお腹に剣を添えている知らない人がいた

「なっ」

慌てて駆け寄ろうとする梨華を中澤が止める

よく見ると、藤本と真希が肩を抑え、辻と加護も足を抑えている

「あの剣を持っている子、王族付きの族なんやて
それに医術の心得があるらしいのや、矢口の体の中に出血した血が溜まってるから
一度それらを外に出すんやて、傷口を塞いで安静にしてれば良かったらしいんやが
途中矢口がどうしても言う事聞かんで、馬を走らせてここに戻れって言い張ったらしんや
だから体の中の傷から出た血でおかしなってるらしい」

言ってる間に、再び斬られた傷口からドクドクと血が流れて来て
用意されている布がみるみる赤く染まって行く

「「親び〜ん」」
「大丈夫だよ、紺野のまかせておけば」

切った時に一瞬体を起こしそうになった矢口を押さえた後
真希は藤本に矢口をまかせ布を水に濡らして矢口のお腹の周りを拭きながら言う

真希がきれいに拭いた後、紺野が傷口を再び舐める
血が止まったのを確認すると、包帯を巻いて
捲り上げていた服を下ろして上から布団をかけてあげた
412 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:56
「今度こそ、絶対安静にしてしばらく動かないように、いいですね矢口さん」
「はい」

もう少ししたら水をたくさん飲ませましょうと近くにいた真希に言う紺野
脇でずっと涙目で見ていたれいなが、真希と入れ替わりに再び近寄る
近寄ると矢口の手を取りすまなそうに矢口を見る

「・・・・絵里ちゃんと・・・重さんには・・・会えたか?」
「・・・はい」

ひとみ達が無事にここに着いていた事に矢口も安心する

「話し出来たか?」
「はい」
「そっか・・・・仲良くなれよ・・・・いい奴らだから」

頷くれいなは枕元をすぐそばで今か今かと声をかけそうになっている加護に譲る
矢口を挟んで反対側には辻・・・その後ろには中澤が立っている

「矢口・・・・よう帰って来たな、今日はゆっくり休み、話は体がようなってからや」

「裕ちゃん・・・・ここにFの国かYの国からの使者は来た?」

「あほ・・・・今は何も考えんと寝とき、みんな精一杯頑張ってる所や
何も心配するような事も起こってへん、矢口が怪我した以外はな」

「うん・・・・・ごめん・・・・心配かけて」

「ほんとですよ、矢口さん」
「ここは大丈夫ですから安心して眠って下さい」

足元で優しい顔をして立っている藤本と梨華に矢口も微笑むと
れいながいる事によって、自分が怪我したのを先に皆に知られてしまったと思い
心配かけたんだなと天上を見上げた
413 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 00:58
「せやっ、いっつも心配ばっかかけて、もう親びんとは呼んでやらへんよ・・・もう」
「ホント、めちゃくちゃ心配したんだから
親びんがもし死んでしまってたらどうしようって・・・・のん達は親びんなしで生きられないんだよっ」

うるうると眼を潤ませて2人が両脇から顔を近づけて矢口を眺める

「ああ・・・・ごめんな・・・ほんと・・・・ごめん」
両手で両脇の2人の頭を撫でる

真希の後ろに血のついた布とかを片付け終わった紺野がやってくる

「紺野さん・・・ほんと、迷惑かけました・・・・
もう大丈夫ですから・・・・姫を休ませてあげて下さい」

矢口が言うと、加護と辻がその時改めて気づいたらしく
辻もベッドを飛び越え姫に抱きついた後肩口にぐりぐりと額を寄せて言った

「「姫っ、よくぞご無事で」」
「うん、あいぼんもののも、随分大人になって」

真希は2人をぎゅっと抱き締める

中澤が真希に近づくと、膝間付く
それにならい、ベッドの向こうにいた藤本と一緒に近づいて来た梨華も同じように膝間づいた

「始めまして、中澤裕子言います」
「藤本美貴です」
「石川梨華です」

その流れでれいなはぺこりと頭を下げた
414 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:00
それを見て困ったように真希が辻と加護を離すと

「そんな、もうゴトーは王族でも何でもありませんから、顔を上げてください、え・・と、後藤真希です」

膝間づいている三人に少しかがんで両手を振る真希が、助けてよと紺野を見ると、慌てて

「あ、紺野あさみと申します」
深々と頭を下げた

「加護亜依です」
「辻希美です」

少しおどおどしている紺野を、2人は面白そうに覗きこんでにかっと笑っていた

「姫・・・・もうおいらは大丈夫ですから、休んで下さい、紺野さんも
悪いけど加護、辻案内してあげて」

「「へいっ、親びん」」

こっちこっち超すごい部屋空けといたからね、と手をひいて部屋を出て行こうとしたが
ドアを出る前に真希が矢口を見て何か言いたそうに止まる
それに気づいて矢口も頷く

中澤達も立ち上がり

「ほな、みんな出ようか、ゆっくり休ませたらなあかんしな
あ、時々見回りに来るで、ちゃんと寝てるかな」

ほんと心配ばっかかけるよねと藤本が笑って出て行こうとするみんな


その中の石川に矢口が声をかける

「あ・・・石川・・・・・・」

梨華が見回りに行く藤本に小さく手をあげ藤本が笑顔で頷くと
梨華だけが部屋に残る
415 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:02
「何ですか?矢口さん」
「・・・・・・・ん・・・あ・・・・あいつ・・・は?」

照れくさそうな矢口をかわいいと思いつつ、少し意地悪に聞きなおす

「あいつっ・・・・て、誰です?」
「あ・・・・・・・・・吉澤・・・帰って・・・・来てない?」

梨華を見る眼は、小動物のようで、思わず抱き締めたくなるような感覚に襲われた

「帰って来てますよ・・・・・めちゃくちゃ心配してました・・・・矢口さんの事」
「あ・・・・・怒って・・・・なかったか?」

怯えているような仕草で言う矢口を、ほんとにかわいいなぁとため息をつく

「はい・・・・すごく」

梨華がそこで言葉を止めた

「・・・・今・・・・どこにいるのかな?」
「下で剣の稽古してます・・・・・Yの国から帰って来てから・・・ずっと」
「・・・・・・・そっか」

矢口の顔は明らかに寂しそうな表情をしている

「矢口さんもゆっくり休んで・・・・早く良くなって下さいね
後で水と何か食べ物持ってきますからそれ迄は眠ってて下さい」

眠りが深いようなら邪魔はしませんから・・・・とにこやかな梨華

「ん・・・・ありがと、ごめんな・・・・心配かけて」
「いえ・・・ほんとに良かった、矢口さんが無事で・・・・そして・・・姫も見つかって」
「ああ、お前らのおかげだよ・・・・ありがと」

梨華が出て行った後
一人残される矢口はやけに寂しい思いをしている事に気づく
416 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:04
再び生きてここに戻れたら、真っ先にひとみが自分を叱り飛ばすと思っていた

もしかしたら殴られるかもしれないと・・・・・

なのに・・・・

顔も見せてくれない・・・・



れいながここにいた事は驚いた、改めて思い返すと取り囲んだ人の中に
すでに皆に馴染んだように絵里とさゆみ、風間達の姿があった事を思い出した

無事でよかったと思いつつ・・・その中にひとみがいない事がこんなに寂しいなんて


矢口はじっと天上を見上げたまま眼を閉じた



夜中になり、ひとみは矢口の部屋前に訪れる
今日は夜の見回りは辻の仕事で、加護はひとみと一緒の自分達の部屋でなく
矢口のそばにいたいと矢口の部屋に行ってしまった

ひとみも食事した後、一人夜中まで再び剣の訓練をして自分の部屋の風呂から上がると
その足で矢口のもとを訪れた

だが今は真夜中・・・・疲れて寝ていたとしたら
侵入者の気配に矢口が起きてしまうかもしれない

そのままドアを開ける事なくひとみは部屋に戻った

そしてそばに加護が眠っているベッドの中
矢口は誰かがドアの外にいる気配に気付いたが、結局ドアが開かない事に小さく溜め息をつく
もしかしたらひとみが様子を見に来てくれたのかもしれないという期待が外れた事に・・・・

417 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:06
朝になるともう一度ひとみは部屋を覗こうかと迷ったが
結局足は動かなかった


食堂で加護が食事をしながらひとみに聞く

「よっちゃん親びんに会った?」
「ん・・・会ったよ」

食事も終わって片付けを始めるひとみ

「そっか、ならええけど、よっちゃんの事やからまた親びんを怒鳴り散らしたん?」

嘘をつくひとみが解ったかのように、少し意地悪そうな顔で加護が聞いてくる

「なんでそうなんだよ、いつ怒鳴った?」
「いっつも仲良さそうに喧嘩してたやん」
「はっ、ウチはいつまでもそんな子供じゃねんだよ、んじゃ、先行ってみんなに剣を教えてるから」

さっさと食器を全て洗い場に持っていくひとみ

「待って、ウチも行くから」

食べながら後を追う加護
ひらひらと手を振り去って行こうとするひとみの前に、真希と紺野が現れた

「あっ、姫、おはようございます、よく眠れました?」

慌てて片付けた加護がまだ口をもぐもぐさせながら真希の前までくる
418 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:08
「うん、おはよう、ぐっすり寝れたよ、それにすごい豪華な城だね、ここは」
「へへ、すごいでしょ、あ、これよっちゃんです、ウチらの旅仲間」

真希がひとみを捕らえるとにこりと微笑み手を差し出した

「後藤真希です」

差し出された手をじっと見て動かないひとみに不自然さを覚えた紺野が慌てて言葉を放つ

「あ・・・・紺野あさみです」

2人の声がなんだか不安そうだったので、ひとみは少し深呼吸した後

「・・・・吉澤ひとみです」

ひとみは少し笑みを浮かべてしっかりと真希の目を見ながら握手をして
それでは訓練がありますからとそそくさと出て行った

「綺麗な人だね、どこで知り合ったの?」

ひとみの後ろ姿を見ながら真希が加護に聞くと

「はい・・・・Jの国なんです・・・・
いつもはあほばっか言ってうるさい位なんですけどね」

そう、と言って振り返る
加護があそこで食べるものもらって適当に食べて下さいと言い残してひとみの後を追った




すでに午前中しか来られないという人達が、ひとみ達を待っている
しばらく100人位に、Fの国の兵達と共に剣や、体術を教えていると、中澤が降りて来る

「吉澤、加護、昼から会議すっから会議室に集まってな、寝てる辻や藤本達にも言っといて」

「は〜い」と加護が答えて続けた
419 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:10
すっかり風間達もここの雰囲気に慣れ
のびのびと絵里やさゆみの剣の相手をしたり、ここの町の人達とも話したりしている

風間の奥さんは、ここの厨房で働きたいと言い、昨日から手伝ったりしている
子供達も、避難して来た人達の子供と元気に遊び出した

そこへ紺野が姿を表した

「あれ、こんこん、姫は?」

それに気づいた加護が話し掛けると

「こんこん・・・って・・・・あの・・・はい、矢口さんの所へ行きました
私は邪魔なのでこちらの様子を見させていただこうかと」

一瞬ひとみの動きが止まるが、そのまま紺野の近くに寄ってきた

「こんこん、堅いなぁ・・・・・
あ、そういえばこんこんは王族付きやったんやな、こんな口聞いたら怒る?」

勢い良く話し始めた加護が、少し遠慮がちに聞きだした

「いえ、全然、嬉しいです・・・・Yの国では考えられませんから」

そうなんだってねぇ、大変やなぁ等と話している加護の後ろから
ひとみが低い声を出して話し掛ける

「紺野さん、悪いけどウチの相手してもらえないかな、ちゃんと力使って」
「なんや、よっちゃん、こんこんまだ疲れてんねんで」
「あ、かまいませんよ・・・・でも・・・・いいんですか?」

紺野は自分の強さに自信が無い訳ではなかったので
力を使うと怪我をさせてしまうのではと心配だった

「うん、遠慮なくぶっとばしてよ、ウチの事」

そう言って、構える
420 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:12
紺野はひとみの力が解らない為、力は使わずにまず剣を使わずに相手をしだす

すると加護が驚く

縦横無尽に繰り出す蹴りや手刀等を、ひとみはことごとくひらりとかわしているのだ
さすがに攻撃まではまだ転じられないのか、逃げるだけなのだが
体のきれがここを離れる前のひとみと比べると格段に良くなっている

紺野が、肩で息をする

「すごいですね、初めてです、人間でここまで私の攻撃を避ける人」
「ほんまや、よっちゃんどないしたん」

壁の上でぶらぶらと足をさせながら見ていた加護も声をかける

「まだまだだよ、まだ攻撃は出来ないもん
紺野さん・・・・もしよかったらもう少し付き合ってくれないかな」

「ええ・・・・いいですよ、それと呼び捨ててもらってかまいません、私の方が年下のようですし」
「じゃあ、紺野、今度は木刀持ってもらえるかな」

それからしばらく、2人の、いや、他の人達から見れば
一人でただ舞っているかのように見えるひとみを見ていた



その頃矢口の部屋では、矢口に食事を与えた後、真希と辻が話していた

「そっかぁ・・・・なんか・・・・楽しそうな旅してたんだね、のの達は」
「すみません、姫が大変な時に、のんきな旅してて」

まだ寝たままの矢口がベッド脇の辻の頭を押さえて下げさせる

「ううん、全然・・・・・・まぁ・・・やぐっつぁんとあいぼんやのの達がいないと
なんか寂しかったし・・・・心細かったりしたけど・・・・」

Yの国へ行った時の事を思い出したのか、真希は少し寂しそうな顔をした
421 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:14
だが、それからは、あの城の制度にとまどいながらも
二番目の王子の妻になる為にここに来たんだろうなぁと解ってきて
自然とそのそばにいた紺野と話すようになったと言う

紺野があの城でとても浮いている存在だと気づき
なんだか自分と気が合うような気がして・・・・
いや、きっと寂しかったからだと思うと話す

あの城で紺野がいる事によってとても救われた気がしたと真希は懐かしそうに話した

するとドアがノックされ、辻がどうぞとドアを開けると、れいなが立っていた

「あ・・・・田中・・・ちゃん、昨日は声かけられなかったけど・・・久しぶりだね」
「はい・・・・後藤様も・・・・・お元気そうでよかったです」

そう言った後、失礼しますと部屋に入って来て
矢口のそばに膝を立てて近寄った場所で矢口に話し掛ける

「私・・・決心しました・・・・国に帰って、父と母を倒します」
「田中・・・」

れいなが真っ直ぐに矢口の眼を見て頷く

「私は、この運命から逃げません・・・・私に出来る事は・・・・
あの人達の間違ったやり方を止める事から始まります」

れいなと矢口はしばらく見つめあい
やがて真希がれいなを見て言う

「なんか・・・・感じが変わったね・・・・・田中ちゃん」
「そうですか?・・・・・・あ・・もし・・・そうなら、矢口さんと会ったから・・・・・・かな」

照れくさそうに言う田中を優しくみつめる矢口
真希と辻がその光景を見て微笑む
422 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:15
「親びんっ、ののの事も変身させてっ」
「なんだよ、お前はいっつも自由に成長してるだろ」

再び抱きついて来る辻を優しく抱き締める

「へへ」
「へへじゃね〜よ、だいたいお前より田中の方が年下なんだぞ、なのにお前はいつまでも甘えてばっかで」

むぅ、と辻がふくれっつらになり、その鼻を矢口が笑って摘む
ペシとその手をはらって嬉しそうに辻が言う

「いいもんっ、だって甘えたいんだもんっ・・・・親びんとずっと会えなかったし・・・・」
「はは、おいらもお前らがいなくて寂しかったもんな・・・・一緒かもなおいらも」

お互いに微笑みあってじゃれあう様はまさに姉妹って感じで、真希も思わず言葉をもらす

「あいかわらず、仲いいね、国にいた頃を思い出すなぁ」
「そうですね・・・・・あの頃に・・・・戻れるといいんですが・・・・」
「親びんがそんな事言うの珍しいですね」

「あ・・・・・そうだな、そんな場合じゃなかったっけ・・・・
んっと、じゃあ・・・・田中・・・・おいらも行くよ」

「えっ」

真希も辻もれいなも驚く
423 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:17
「田中の事・・・・応援しにまた・・・・連れてってくれよ」
「無理だよやぐっつぁん」
「そうですよ親びんっ」
「・・・・っ矢口・さん・・・・んくっ」
「大丈夫、明日には少し良くなってるって、紺野さんの治療のおかげで」

シーツを掴んで泣き出すれいなの頭に矢口はそう言って笑いながら手をやって撫でた

「そして親びん、その事ですけど、なかざーさん達と美貴ちゃんも一緒に行くみたいだよ
さっき聞いた、だからのの達も行きたい」

「えっ?」

今度は矢口が驚く

その時、再びノックされ、どうぞと言う前に藤本と梨華が入って来る

「どうですか?矢口さん、少しは良くなりました?」

藤本と梨華が笑いながらベッド脇まで来て横に立っている真希にぺこりと挨拶する

「ああ、すっかりいいよ心配かけたな・・・・・ん・・・・ん?何かあったか?」

「はい?」

「いや・・・・なんか・・・」

そこで辻がピンとくる

「親びん、この2人親びんがいない間にできちゃったらしいんですよ
なんかやらしぃでしょ」

矢口が眼をぱちくりさせている

藤本も照れくさそうに辻に近づいてどつく
真っ赤になった梨華も余計な事を言うなという感じで渋い顔をして俯いた
424 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:20
「そっか・・・・良かったな藤本・・・石川も」

「はい・・まぁ、それはさておき、矢口さん、美貴達田中ちゃんの国に殴りこみかけますよ」

涙を拭って見上げてくるれいなに目線をやってにこりと微笑む

「しかし・・・・・数が違いすぎるだろ」
「そうですね、でも、こっちはオール族で行きますから」
「え・・・裕ちゃんの町の人達も?」

再び驚く矢口に藤本が微笑む

「すごいでしょ、すっかりこの町を守る気になっちゃってるんですよ、みんな」
「へぇ〜、お前らの努力が実ったんだな・・・・すごいよ」

藤本と梨華が微笑み会うと

「徐々にですけど、復興に向けて外に出て活動し始めてます
畑や田んぼにも、中澤さんの所の人達と一緒に出かけてほったらかしにしてた
作物の手入れをし始めたり・・・・・そんな事をしていると
この町の人たちに情を持って助けてあげたくなったんですって」

「なるほど・・・・・いいな・・・そんなの」

本当に嬉しそうな矢口の顔があった

「明日にでも出発したいと思っています、多分今日の午後中澤さんが
正式に全員に通達する為に会議するとですけどね」

それとYの国事情に詳しい紺ちゃんとよしこに
詳しい城の見取り図を作ってもらっての作戦会議ですよと微笑む

「田中・・・良かったな、心強い仲間が増えて」

安心したように言う矢口にれいなは微笑んで頷く
425 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:22
「やぐっつぁん、なんか・・・・いろんな所で友達作ってるんだね」

そう少し寂しそうに言う姫に、矢口は困ったように言う

「姫のおかげですね、姫に会う為に旅するようになって、色んな場所で
色んな価値観の人と会う事が出来て・・・でも、やっぱり自分だけでは
力がなくって、色んな人に悲しい思いさせたりもしました・・・・
今も絵里ちゃんや重さんの家族は今頃どうなってるか・・・・少し心配てず」

そこへノックされて中澤が入って来る

「おや、首脳陣がほとんど集まってるやん、ウチは矢口が一人でいてる思て、ワクワクして来たのに」
「一人でいたら矢口さんに何するつもりだったんです?」

すかさず突っ込む藤本にみんな笑う

「何って、子供のいる前では言えんわ、恥ずかしゅうて」

皆があほかと中澤に言ったり、親びんに手ぇ出さんで下さいと言ったりして
賑やかな場所になった矢口のベッドの周り

しかし矢口はその中にまだひとみの姿がない事に、再び気づき
どうしてここに来てもくれないのだろうかとぼんやりしてしまった

「あ、矢口、午後から会議しよう思ってたんやけど、会議室来れるか?
出来れば矢口にも聞いてもらいたいし
でも動かすのはしのびないし、ウチのでかいの連れて来るけど、どないや?」

「あ・・・・いいけど・・・・おいら立てると思うんで自分で行ける」

起き上がろうとする矢口を辻が押さえつける

「親びん、なかざーさんの言う通りにおとなしくしときましょう」
「・・・・・解った・・・悪い」

「でもね、美貴ちゃんなかざーさん、親びんがね、明日一緒に行くって」

「「「ええええっ」」」

先に入っていた藤本達も驚き、口々で無理でしょと言う
426 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:24
「ほんと、大丈夫だから、おいらが行った方が細かい情報解るでしょ」
「しかし矢口・・・」

困った顔で見下ろす中澤

「お願い、裕ちゃん・・・・連れてって」
「ん〜・・・・・まぁ様子を見てからやな、とにかく今日はじっとしとき」
「うん」

嬉しそうな矢口は、まだうるうるしているれいなを見て微笑み
れいなもまた唇を噛み締め涙を流した

その後、中澤が知ってる情報を矢口に伝え
矢口も自分の知ってる限りの情報を皆に伝える

事態が深刻である事は間違いない
出てくる情報は嫌な事や困る事ばかりなのだが
中澤の強気な顔を見ると全員がなんとかなるような気分になっていく



「いや〜、でもここに二つの国のお姫様がいるのがすごいけどな」

色々な話をしながらも中澤が感心するように肩をすくめて言うと
みんなも頷いた

「ほな、昼食後に会議室集合な、全員やで、矢口は迎えに来るからな」
「うん、よろしく」

全員が昼食を取りに部屋を出て行くと、矢口の分を持って紺野と真希が再び現れるまで
矢口はひとみの事を考えていた
427 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:26
れいながここに先に来ていたという事は、自分が怪我したのを先に知られていたので
きっとひとみは、さんざん自分の事を罵ったに違いない

いつも怒りながらも何故かいつも温かさに満ちていた事を思い出す

自分のふがいなさにいつも苦しんでいたひとみ
それに今回は本当に自分でもよく生きていたなと思う位、ピンチだったなぁと振り返る

そんな自分を、ひとみはきっといつものように怒鳴り散らすと思っていた
いや、怒鳴ってほしかった・・・・それなのに・・・・

まだ顔さえも見せてくれない

カリカリと勘太のつめの音が聞こえ、勘太が起用にドアを開けて入って来た

「おお勘太、そういえば昨日ここに来てから見えなかったけど、どこに行ってたんだ?」
【ひとみの所にいました】
「え・・・あ、そっか」
【喜んでましたよ、親びんが無事だった事】
「ふ〜ん、でもまだ顔見てないし」

【俺っちも姫に抱えられて階段上がって行く親びんについて行こうとしてたんですが
遠くにひとみを見つけて・・・その・・・】

「何?」

【泣きそうだったからほっとけなくて】

「・・・・・・」

【離れられなかったんですよね、ひとみの側を・・・・全然親びんの所に行こうとはしないし】

「で・・・・・あいつは今?」

【下で食事してます、さっきまで紺野さんと稽古してましたけど
ほんとにすごい上達ぶりで、かなり強くなってますね】

「そっか・・・・・・・・・顔・・・見たいなぁ・・・あいつの」

【何度も引っ張って連れて来ようとしたんですけど・・・・】

「・・・・・・顔もみたくないってか・・・・・・・遂に・・・愛想つかされちまったのかな」

そう言う矢口は、今までに勘太は見た事がない位寂しそうな顔をしていたので
すぐにベッドの横に前足を置いた状態からドアへと走り出て行った
428 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:30
「あ〜びっくりしたぁ、勘太あんなに血相かえてどこいったの?やぐっつぁん」

入れ替わりに入って来た真希と紺野に笑って答える

「さぁ・・・・それよりすみません、姫においらの食事を運ばせてしまったりして」
「何言ってんの、まぁ、やぐっつぁんの事だから、一杯食べればすぐ良くなるだろうけどね」

紺野が手際よく矢口の頭の辺りに手を添えて、枕を積んで少しだけ体を起こしてくれる

「痛くないですか?」
「あ、はい・・・色々面倒かけてごめんなさい」

すまなそうにする矢口に優しく紺野が笑う

「プッ・・・・なんか変なの、何でやぐっつぁんいつまでも紺野に他人行儀なの?」
「え・・・・いや・・・・・あの・・・・・別に他人行儀って・・・・訳・・・・でも」

言いよどむ矢口に、ほら食べてと特別に作ってもらったお粥をフーフーして口に近づける
なんだか恥ずかしくて少し赤くなって少しずつ口にする矢口に
優しい顔をして食べさせている真希を見る紺野の顔が少し寂しそうだった


姫と王族付きの族の関係・・・・

それは何年もかけて築く信頼関係の上に成り立つものであり

紺野はあの王子との間にそんな関係は築く事が出来なかったなぁと振り返る


上の王子と違い、穏やかで大人しい王子の事は嫌いではなかった
しかし、話をしていてもあまりときめく事もなく、ただこの人にいつか自分は抱かれて
その後はどこかの姫様と一緒になられた王子を一生お守りするのが自分の運命だと思っていた

同じような関係の松原は、その後も王子と関係を続けた上に
兵隊達を取り仕切る程の手腕を発揮してそばに仕えていたが
自分にそんな事はできないと日々悩んでいた頃真希が現れたのだった
429 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:33
Mの国から友好の為にと突然現れた後藤真希というお姫様に突然心を奪われた

Yの国の王族という威張った存在しか知らなかった紺野にとって
王族というよりそこにいるだけでその場が華やかな感じになる存在感に
誰もが眼を奪われた

しかし、彼女は自分がお仕えする王子のお妃様になる存在と知るのに時間はかからなかった

Mの国から売られて来たという事を彼女は知らずに来た事
そして、彼女には国に思う人がいた事
その人は大勢の王族を殺害して逃亡するような人だという事も驚いた

なのに、少しずつ話をするようになった真希にどんどん惹かれていく自分がいて戸惑った
自分の国の権威を示す為と、積極的に戦を繰り返していた頃は、どこか城の中もおかしくなっていた

大佐達の微妙な力関係や、兵達の姑息な出世争いにもウンザリしていた

だから日々、昔この国が繁栄していた頃の本が沢山残っている城の地下室で
必死に本を読み漁った

人の姿を映す技術や、火を使わずに夜を照らす事が出来たり
馬ではない移動手段があったり
あの町から出た事の無い紺野は日々勉強する事で心を和やかに保っていられた

事務方の中には、資料を元に研究するチームもあったが
あの国での地位は低かったのであまり成果はあがらなかった

そんな城の中でも、自分のペースでいつもにこにこしている真希に惹かれた人は多かった
だけどまさか、弟のお妃候補に兄が襲い掛かるとは思わなかった

兄王子は、松原との間に潜在能力が発揮され
ちょっとした族並の戦闘能力を備えた人物であるので
真希がいくら抵抗してもかなう事はなかった

たまたま、兄王子の行動を不審に思った自分が部屋の前で
戸惑いながらも耳をすましていた為に、姫を間一髪助ける事が出来たけど
助けた事で自分も処刑対象者になった
430 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:35
それからは必死で真希を連れ出した、門番を気絶させて門を開けて出ると
貢物を運ぶ人を装ったりしてやっとあの町までたどり着いた

でもそこにたどり着くまでは、自分の知らない世界に戸惑いながらも
真希を守るのはもう自分しかいないという自負と
沢山話すようになって、本当に優しい姫だと知り、ますます惹かれる事となった

会話の中に沢山登場する、極悪非道だと言われた矢口という人物は
とても優しくてかわいらしい人物なんだと解る

日々食べるのも苦労するような毎日だったが、真希がいる事で頑張る事が出来た
それももう終わりをつげるのかなと、目の前で幸せそうにしている2人を見て思っていた

あの日、必死で隠れていた真希が、勘太の声に似ていると
自分の制止を振り切って外に出て行って勘太の名前を呼んでいた

すると大きな犬が真希に抱きついて
すぐに真希を引っ張って行くのを慌てて追いかけた

すると家の軒先に血みどろの小さな少女が座っている所に案内され
真希が見た事もないような声を出して抱き締めるのを見た

泣き叫ぶ真希を諭して、隠れ家に連れて来て治療する間中
あんな城でさえ笑っていた姫が泣きそうな顔で心配そうに手を握っていた

名前だけはよく聞いていたその人物、矢口という人は本当に小さくて可愛らしく
とても極悪非道な噂の人物なのだろうかと眼を疑った程だった

「・・んの」
「紺野」

そんな事を考えていたので、真希に呼ばれている事も解らなかった

「はっはい、すみません」

慌てて答えると

「大丈夫?疲れてるんじゃない?」

真希が、茶碗を持ったまま微笑んでいる

「いえっ、すみません・・・・ちょっと考え事してたものですから・・・その・・・何か」

矢口の心配そうな視線にも、気づかないふりをして答える
431 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:37
「あ・・・ごめん、水汲んで来てもらえるかなって」
「あ、はい、今すぐお持ちします」
「ごめんね、紺野さん」

ぺこりと頭を下げる矢口の可愛らしさに嫉妬する自分が嫌で
すぐにその場を離れようとドアを開けると

「なんだよっ、勘太っ、離せよ」

と言って袖を噛まれて引きずられてくるひとみがいた


「「あ」」

矢口は食べさせてもらいながらひとみと眼を合わせる

矢口が思わず体を起こすのを、真希は慌てて支える

「吉澤・・・・あ・・・あの・・・良かった・・・・無事ここに来てたんだな」

何だか恥ずかしい気持でおどおどと言うが、顔は嬉しさを隠せない表情をしていた

だけどひとみは、眼をあわす事なく口をへのじにして勘太の口から袖を引っこ抜いた

「うん・・・・矢口さんも無事でよかったよ・・・・しばらくゆっくり休みな、じゃ」

そう言って去って行ったのを紺野が追いかけるように出てドアを閉めた




「やぐっつぁん・・・」

あまりにも寂しそうな矢口の顔に、つい真希が声を漏らす

「あ・・・・すみません、あいつと2人でYの国に行ってたから・・・・少し心配してて」

再び横になりながら言うと、真希に笑顔を見せた
432 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:39


「吉澤さん」


ずんずんと歩くひとみの後ろを不機嫌そうに歩いている勘太を追い越し、横に並ぶ

「何?」

さらに不機嫌そうな返事が帰って来た

「吉澤さんは、矢口さんが好きなんですね」

少し笑みを浮かべて、でも少しも馬鹿にするような感じもなく言って来た

「・・・・・」

何も自分達の関係を知らない人にまで、そんな風に見られてしまう自分に苦笑する

「私も、後藤さんが好きなんです・・・・やつぱり、あの2人の様子を見るのはつらいですよね」

「・・・・一緒にすんなよ・・・」



完全に八つ当たりだと自分でも解っていた

でも、ドアの中で見る2人はやっぱり微笑ましくて
今までも解っていた事なのに、現実で自分の思いが敵わない事を見せ付けられた気がしていた
433 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 01:41
歩いていたひとみが急に止まり
紺野は少し先に行ってからその様子に気付き振り返ると驚く

ひとみがうっすらと涙を浮かべていた

「・・・ちょっ・・・ごめん」

小走りでひとみが先を駆けて行くと
紺野は勘太を見て困った顔をして俯いた



ひとみは覚悟していた、見た事のない姫が
矢口と嬉しそうに並んで歩く姿を想像するだけで嫉妬したがそれを見届ける自信があった

しかし姿を表した姫は、自分が想像するよりずっと綺麗で、優しそうだった


別に容姿が問題ではなかった

遠くない未来に、こうなる事が解ってて、心の準備をして来たつもりだったのに
いざ自分の前でその光景が繰り広げられると
自分はまだ全然弱くて・・・・こんな態度しか取れない自分が悔しかった


城の外に出て、誰もいない場所を探すと壁にもたれてずるずると座り込み、手で顔を隠して泣いた



そうだ、ずっとこうして泣きたかったのかもしれない


434 名前: 投稿日:2006/11/12(日) 01:42
今日はこの辺で
435 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 14:56


「あれ、勘太、どうしたの?こんな所でうろうろして」



藤本と梨華が食事を終えて部屋に戻ろうとした所を落ち着きなく動き回る勘太を見つけた


クーン

珍しく2人に弱弱しい鳴き声を吐き出す


もちろん2人には勘太の言葉は解らないのだが
梨華は力が増強されてから動物の気持をも少しは解る事が出来る様になった

勘太に触れて力を使うと、勘太が誰かを心配している事が解る

「もしかして、ひとみちゃん?」

勘太が頭を縦に振って頷く

「どこにいるか解るの?」

藤本が言うと、勘太はこっちとでも言うように背を向けて歩き出した

2人が追いかけると、普段誰も来ない城の側面の暗い場所で蹲っているひとみを見つけた


角の所で2人と勘太は止まって様子を眺めた

『美貴ちゃん・・・・行って来てもいいかな』

心の声で美貴に話し掛けると、美貴も黙って笑顔で頷く

ゆっくり歩き出した梨華を、美貴はしゃがんで勘太を撫でながら見送った
436 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 14:59



「ひとみちゃん」



優しく近づきながら声をかけると
一瞬ビクッとしてそのまま動かなくなった



梨華もそのままじっと見てると


ひとみがスクッと立ち上がって綺麗に笑う



その笑顔がとても綺麗で、梨華の方が何故か泣きたくなった




「梨華ちゃん・・・・ごめんね」


梨華はその笑顔にしばらく何も言う事も出来なかった


「何を・・・謝ってるの?」


じっと梨華を見つめる目はとても優しくて・・・・・


自分はこの眼がとても好きだった事を思い出す



「もう・・・・大丈夫・・・・・もうすぐ会議でしょ」



思わず自分よりも背の高いひとみの首に手を回して抱き締める


「泣きたい時は・・・・泣いた方がいい・・・・その方がひとみちゃんらしいよ」



ひとみの手が、ゆっくりと梨華の背中に廻り
一度抱き締めると、すぐに肩に手を置いて体を離した




「うん・・・・ありがとう・・・・」



437 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 15:02
ひとみが横を向いて壁から肩だけ出している人影と
ひょこっと顔を覗かせている勘太を見つけて微笑む

「ほら、美貴が嫉妬するよ・・・・・美貴と・・・・うまくいったんでしょ」

梨華はひとみにそっと頭を撫でられると
得意の胸の前で手を組むポーズで恥ずかしそうな顔をする

そんな梨華を見てひとみは微笑む

「よかったね・・・・美貴は・・・・梨華ちゃんの相手としては最高点だよ・・・・
今まで梨華ちゃんに言い寄って来た人達の中で・・・・
だから・・・・幸せになって・・・・」

面と向かってひとみとこんな話をするのは始めてだった・・・・

ひとみは決して今まで梨華の恋愛に何か言う事はなかった

言い寄ってくる人にも、梨華にはわからないように
色々と探りを入れる事はあったみたいだが、特にそれに何か言う事もなかった



初恋の人との本当の意味での卒業・・・・・



その時梨華はそういう気持になっていた



背中を押され梨華は藤本のいる方向へと歩かされる
角を過ぎるときに、俯いて地面を見ている藤本を見てひとみが微笑む


「美貴・・・・梨華ちゃんを泣かせたら、ウチが許さないから」


ひとみの顔は温かい笑顔で藤本もドキッとしてしまう
あまりに綺麗に笑っているから・・・・


「うん・・・・解ってる・・・・」


ひとみがそう言ってる藤本を引き寄せて抱き締める

「え?」
438 名前:dogsU 投稿日:2006/11/12(日) 15:05
すぐに離してすぐに意地悪そうな顔をして笑って言う

「さっきの・・・・見てたんでしょ、だからこれでおあいこ
梨華ちゃんともめないでね」

ひらひらと手を振って
すたすたと歩いて行ってしまうひとみを勘太が追いかけていった


残される二人は、何も言わずにひとみの背中を見つめていたが
梨華がそっと藤本の手を握ってきた

「よしこ・・・・・綺麗だね」
「・・・・うん・・・・だって私が惚れた人だもん」

自慢げに話す梨華を見て藤本が微笑むが・・・
やがて2人は笑顔を消して見詰め合った

藤本はすぐに梨華を角を曲がった所に押しやり、壁に押し付けて唇を奪った

「・・・妬けちゃうでしょ、そんな顔すると」

梨華が藤本を抱き寄せると、おかえしにとばかりに深く唇を奪い返す

しばらく互いの舌をからめ、貪るようにキスをすると
離した唇から梨華がかすかな声を出す

「好きだよ・・・・美貴ちゃんが」

「美貴も・・・梨華ちゃんが・・・・好き」

もう一度軽く唇を寄せると、互いに抱き締めあう
439 名前: 投稿日:2006/11/12(日) 15:06
ちょっこす更新
本当は昨日の晩ここ迄したかったんですが
酔ってるとこんな事に、しかもマダマダ誤字や文の変な所も多いっすね
申し訳ないっす
440 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/12(日) 23:06
酔ってても更新してくれてありがとう
441 名前: 投稿日:2006/11/18(土) 21:50
440:名無飼育さん
また余計な事書いてしまいました
レスありがとうございます
442 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 21:52
紺野が矢口の部屋に水を汲んで戻って来ると
矢口が何か聞きたそうに自分を見ていた

きっとひとみの事を何か聞きたいのかと紺野も感じてはいたが
何も言う事も出来ず笑顔を向けるだけだった

それから何も言わない矢口に汲んで来た水を渡すと、笑顔で礼を言う
真希が体を支えるようにして体を起こすと一気に水を飲んだ
矢口が勢いよく飲み干すのを見て慌てた紺野は
持って来た水差しの水をまたコップに注いであげる

「なんだ・・・そんなに喉渇いてたんなら早く言ってよやぐっつぁん」

あはっと真希が笑う

「あの、急に飲みたくなったんで、言わなかったわけじゃなかったんですけど
あの・・・ありがとうございます」

「いえ」

少し落ち着かない様子の矢口と、はにかむ紺野

「変なやぐっつぁん」

ひとみと話していた時の矢口を見て、何かを感じたのか
おどけた感じで真希が言うと
えへへと矢口も真希に微笑むが
内心矢口の心は沈み込んでいた

あまりにもそっけないひとみの態度に実はものすごく気分が落ちてしまっている
443 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 21:54
そんな矢口の気持が解ってるかのように真希がどうしようかと紺野に眼をやってみると
紺野もまた表情の無い顔をして下を向いていた

「紺・・・野?」


真希の笑顔も消え、少しの沈黙の後
思い悩む様子で紺野は言葉を吐き出した

「あの・・・・・・・・私も・・・国に戻ります・・・そしてれいな様の力になれればと思ってます」
「だって紺野・・・・・・帰ったら・・・・どんなめに合うか」

真希の心配そうな顔に、笑顔で答える

「平気です・・・・・私・・・こうみえても強いんですよ・・・・・自分で言うのも何ですが
本気でやれば黒岩将軍にも勝てるって思っていました」

「そりゃ・・・・紺野が強いのは知ってるけど・・・・」

にこにこしている紺野を心配そうに見つめる真希に矢口は何と言えばいいのだろうと考えた

「良かったです・・・・矢口さんのような人が、後藤さんを守っていただいてるのなら
安心してれいな様について帰る事が出来ます」

「紺・・・」
「さっき聞きました、れいな様が自分の運命との決着をつけに国に帰る事・・・・だから・・・・」

穏やかな顔を一瞬引き締め

「だから後藤さんとは明日でお別れです」

にこりと真希に向かって微笑む

「どうして?」

突然立ち上がる真希は、いつもの様子ではなかった
444 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 21:57
「どうして・・・・・って・・・・元々私はYの国の王族付きの者ですから・・・・」

紺野は笑顔のまま静かに言う
その間も矢口は真希の顔を下からずっと見ていた

「田中ちゃんの事が片付いたら・・・・・戻ってきなよ」

懇願する真希の視線から目を逸らし、紺野が一瞬矢口を見ると、決心したように言う

「それは・・・・・無理です、もう私の役目は終わりましたから
後は国の為に出来る事をするだけです」

「役目って・・・・そんなつもりでゴトーは・・・・・」

とそこで部屋がノックされ、中澤が部下を連れて入って来るので会話が途切れる

「どや、矢口、まだ食事中かいな」

真希と紺野の会話が気になりつつも、矢口は笑顔で中澤に答える

「ううん、もう終わった」

真希が何か言いたそうに紺野を見続け、紺野は目を合わせないように食器を片付け始めた

「なんや、何かあったんかいな」

なんだか重い空気に中澤が気付く

「あ、ううん」

真希を気にしながらも矢口が中澤に笑顔で言うと、じゃあ連れて行きますと大男が矢口に近づく
445 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:00
「頼むで、なるべく動かさんようにな」
「へい」

矢口は自分で起き上がり立とうとする為
ハッと気付いたような真希に押さえられる

「平気ですよ、本当に、そんな大袈裟にしなくても」
「だめでしょ、ほら、連れてってもらおうよ、この人大きいし」

真希は、さっきの紺野との会話を紛らわすように明るく言う
小さな矢口は軽々とその男に抱えられ部屋を出て、紺野もすぐに後を追う
もちろん真希もすぐに紺野に近づく

「紺野」
「・・・・・・」

じっと見る真希に視線を向ける事なく矢口を抱えた男の少し後ろから歩いていく


会議室も近くなると、運ばれる矢口をひとみが見つける

「大丈夫なのかよ、動かして」

さっきの様子が寂しかった矢口は、ひとみが声をかけてくれた事が嬉しかった

「大丈夫っ、ぜんっぜん平気だから気にすんなよ」

微笑む矢口に、ああ、と言った後、すぐにひとみは矢口の視界から消える
そしてひとみは後ろの方に真希と一緒に歩いている気まずそうな紺野の横に行った
446 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:02
「さっきはごめん」
「あ・・・・いえ、ぜんぜん」

本当に気にしないでと両手を振って笑う紺野に幾分ほっとする
紺野は紺野で、何か言いたそうな真希の隣で、話を逸らせてもらってほっとしていた

「あの・・・吉澤さん・・・やぐっつぁんと一緒にゴトーの事助けようとYの国に来てくれたんでしょ
あの・・・・・ありがとう」

「あ・・・別に気にしなくていいです、ウチが勝手についてっただけですから」

そう言って笑うひとみは、いつものひとみだった

真希は、朝といい、さっきといい、ひとみが自分に
あまり好意を持ってくれていないと感じていたので少しほっとする


そうこうしているうちに会議室に到着し、全員がわらわらと集合する

矢口がいない間も、中澤と藤本が中心となって色々な問題にみんなで対処して来た
自然と中央にその2人が座る

横の列に真希とれいながテーブルを挟んで対面で座って
その真希の横に矢口は座らせられる

全員が座ると、コホンと藤本と中澤が堰をして立ち上がり

「全員集まりましたね」

へ〜いと全員が頷く
447 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:05
「じゃあ、もうみんな知ってる思うけどな、Yの国へは明日の朝出発や」

ざわざわとするYとFの国の人達と

「よ〜しっ、いっちょやるか」
「おう、いいか、れいなは心配すんな、俺らにまかせとけって」
「ああ、俺らそうとう強いからさ」

何故かはりきって自信満々な中澤の町の人達
Yの国の王族だろうと彼等には関係ない

「あほ、お前らにまかせられるかいな、これから今迄掴んだ情報言うから
一回聞いた事も一緒に復習して、悪い頭でよぉ〜く考えるんやで、ええな」

へ〜い

「暴れに行くだけやないんやで」

へ〜い

なんだか楽しそうな中澤の町の人達と苦笑いするれいな

「大丈夫や、こいつらこんなんやけどめちゃめちゃ強いで
それにこんな言葉使いしかできへんけど優しい奴らやねん」

「解ってます」

れいなが中澤と町の人達にも微笑む
それを見て今度はFの国の人達が口を開く

「あの・・・・最初から言ってましたが、ぜひ私達も一緒に戦わせて下さい」

「先に様子を見に行った者達も帰って来ません
おそらくYの国の兵が減っている可能性の方が高いです
だから多分今がチャンスなんだと思います、我々の国王の無念を晴らす為には」
448 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:08
Fの国の2人が言うと、藤本がすかさず言う

「しかし、私達はYの国との戦争はなるべく避ける方向で行きますよ」

Fの国の人達は、ひとみや藤本達が戦術を教えるのを手伝ってくれたり
この町の復興にも積極的に協力してくれたり自分達の事をちゃんと見てくれていた

「解ってます、皆さんが本当は争いを嫌っている方々だというのも、ただの族の集団ではないという事も」
国に帰って、皆にちゃんと話します、皆さんの事・・・・とやはり戦う気満々

「色々あなた達にも協力して頂きましたが、今はあなた方も無理しない方がいいかと・・・」

しかしあくまでも藤本はFの国をあてにしないスタンスでいくようだ

「いえ、我々の国の民は、本当にYの国の傘下に入るのは御免なのです。
今こそ私達兵が勇気を出さなければ」

「ええやん藤本、Fの国かて必死なんや、ここは協力しようで、こっちは絶対的に数が足りんのやし」
「そりゃ、美貴達は助かりますけど・・・・」

あくまで、Fの国の事を思っての藤本の言葉はちゃんと皆に伝わっている

「私達は、我が国の国王の無念の為と、自分達の穏やかな生活の為に今戦わないといけないと判断したのです
藤本さんが責任を負う事はありません」

最初にここに来た時の恨みの篭った顔とは少し違った顔である事が皆の目にも解る

「・・・・ありがとうございます。じゃあ、私達は軍としては素人集団です。
戦についてあまり詳しい人はいませんので、是非助言していただけたらと思います」

「はい、喜んで、力になれる事なら我々は出す事を惜しみませんので遠慮なく言って下さい」
「ありがとうございます」

藤本が頭を下げ、中澤も微笑みぺこりと頭を下げた

それを見て矢口も笑顔だ
449 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:09
「それじゃ続けんでぇ、今聞いた通り
ウチらは戦をしに行くんやない、田中を応援しに行くんや」

れいなが唇を噛み締め頭を下げる

「とにかく、自分達は数が少ないんや、あの国のやり方を変える為の戦いに勝つには
被害者の数を最小限にせんといかん」

「その為には・・・・」

中澤に続き、藤本の心配そうな顔がれいなに向けられる

「大丈夫です、続けて下さい」

れいなが2人に強い言葉で言う

「うん、とにかく、王族を撃つ・・・・それが一番てっとり早い」

皆が頷く

「ほやから、なるべく兵に見つからんように王族を拘束して
一度田中と話し合ってもらおう思うねん」

「だから皆にはもっとYの王都を知ってもらいます」

そう言って藤本が立っている後ろの壁に、なんともいえない図を張り出して話を進める


  王都の中での城の位置や町の状況
  城の見取り図
  警備状況は?
  いつもの王族の行動は?
  隊の役割は?


れいなや紺野が率先して話しだす
450 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:11
生まれながらにあの城に住んでいた二人は、さすがというほど詳しく説明し
藤本の図はさておき、みんなの頭には城の造りが鮮明に浮かんだ

しかし人物の説明になると、さすがにれいなは少し無口になった

5人の大佐が率いる軍隊、その中で松原の軍が一番精鋭が揃っているのは確かで
しかも松原の軍の兵達は他の兵達と違い特別プライドがあると言う

他の部隊は、兵隊なのをいい事に、あまり努力せずに過ごしている人も多いが
松原の軍隊だけはバカみたいに自分達の体を鍛えるらしい

「と、言う事は?」

中澤が紺野に言うと

「その通りです」

紺野は頷く


何も言わずともその場の全員が狙いは松原の部隊だと気づく


「頭とその部隊を叩けば、Yの国はしまいや」

中澤が締める

「夜こっそり行くんはええけど、門はどないして開けるつもりなん?」

開ければ門番なんて軽くあしらえるし、バーミンはYの国には存在しない事も解った

「外から開ける方法があるんですが、ここでは説明が難しいです
しかし山側からなら多分の族の方なら侵入出来ると思います」

紺野の答え、そして藤本が

「じゃあ問題は暴動だね、今どうなってるんだろ
かなり美貴達の行動に影響あるよねきっと」

「せやな、それはその場で攻め方考えんとあかんちゃうか、だからいくらかパターンを考えとかんとな」

確かに・・・と皆があーだこーだと話し出す
451 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:14
暴動の人達が城へ詰め掛けていなければ、そのまま静かに城に潜入し
城に住む兵を全て抑えた上で
出来れば中澤と藤本・紺野・田中・加護・辻で王族との話し合いを行おうという当初の話を指針とし

もし他の国や、町の人達が城へ攻めてきて混乱になっていれば

止める?加勢に回る?
可能性が高い方、それは民衆を率いて直接対決とする・・・つまり戦

だが・・・そこが問題だと皆が頭を捻る

直接対決するとなれば、犠牲者がかなり出る事は必至で
自分達の動きも民衆が絡めば予想通りいかなくなるだろうと誰もが解っていた

中澤や藤本達は、戦はどうしても避けたかった

しかし興奮する民衆をどうやって抑える?

長年の恨みつらみ、自分達に抑える事が出来るか・・・・

ましてや自分達を味方だと思ってもらえるのか・・・・

「その辺りは矢口さんの名前を出せばなんとかなりそうじゃないですか?」
「まぁ、あの新聞読んでれば、多分興味は持ってくれる思うで」

なんとなく視線が矢口に集中すると

「あの城には抜け道はないの?」

ずっとみんなの話を聞いていた矢口が突然口を開く
452 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:16
れいなも紺野と見詰め合ったが、首を振るだけだった

「実は、噂は聞いた事あるんです・・・・・でもその事は秘密になっていて
・・・・多分王族でも王と王子・・・黒岩将軍と松原大佐位しか知らないんじゃ」

「その四人は知ってるんだね」

矢口がそう聞きなおすと、紺野は微妙に首を傾けながら頷く
はっきりとは解らないようだ

あればそこから進入する手があるかも・・・・・・いや
もし民衆が押しかけていたら、
その怒りがそれほどすざましい勢いだったとしたら
もう城に王族はいないかもしれないと全員の頭にそう浮かぶ

そうなるとYの国も自分達も、向かう先が全く解らなくなるだろう
それこそ無駄な戦になってしまう

いずれにしても今の状況が解らなければ何の作戦もたてようはないと沈黙が続く

しばらくしてから沈黙を、中澤が破る

「で、何か考えでもあるんか?矢口」

「考えっていうか・・・・なんていうか・・・・・あの・・・・・おいらあの国で約束して来たんだ」

全員の注目が集まると、矢口は斜め前に座ってずっと黙っているひとみに眼をやる
ひとみも何だっけと渋い顔をして俯いていると

「姫と紺野さんを連れて帰ったら、おいら佐久間大佐の軍の中での主導権を握れるんだよ」

崩壊する国の主導権を握ってどうしようというのだろう・・・・・・皆の頭にそう浮かぶ

「あの〜、矢口さん、そんな約束っていうか・・・・・
多分そんな事自体もう忘れ去られてるというか・・・・」

あんまり意味がないというか、藤本が申し訳なさそうに言う
453 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:20
「うん・・・・多分、そうかも・・・・でもね・・・・あの町には
真剣に国を変えたいと思って志願した兵隊達がいたんだ・・・・
だから・・・・彼らの為に志願兵としてもぐりこんでたおいら達が主導権を握れたら
・・・・きっと彼らに希望が見えて来ると思うんだよね」

いや、希望がどうとかとかでなく・・・と突っ込みたそうな藤本
そしてそれを聞いて驚いた顔をするYの国から来た5人

「矢口・・・・ウチらはあの国を倒そう思うてこの会議してんねんよ」

中澤も、なかばあきれたように矢口に言うと

「・・・・・倒すにしても・・・・希望のある倒し方にしたいんだ・・・・
おいら達はあの国を乗っ取ろうとしている訳ではないんだから」

真剣な目をして中澤を見た

「まぁ・・・そやけど・・・・どうしたいねん・・・・それで矢口は」
「紺野と田中・・・・それに吉澤で城の中に行きたい・・・・
もし、民衆が襲っていなければ、おいらに主導権を握らせた上で
田中に王と話しをしてもらって、王族の処遇も、兵や民衆に判断してもらって
出来れば田中をきちんと王位につかせてやりたい

そして民衆が城を襲っていたら・・・・・
なんとしてもあの志願兵達を助けてあげたい・・・・・そして志願兵と一緒に
・・・・もう一度兵と民が仲良くなる方法を見つけるよ
だから、とにかく早くYの国に行きたい」

あんな国にしている王族を処刑せずに、敵の兵を助けたい?
何を甘い事を言い出すんだという全員の雰囲気

だが一人・・・
いや、2人だけ途中から何も聞こえなくなってしまっていた

その内の一人、ひとみはその四人の中に自分がいる事に驚く・・・・
族でもない自分を何故連れて行ってくれるのかと・・・・・

そしてもう一人、田中が驚く

「私が・・・・王位・・・ですか?」

田中自身は、あの国を変える為の捨石になるつもりでいた決意

「おいらはそれが一番いいと思う・・・・
あの国の人達の為にも・・・・この町にもFの国にも」

難しくない?と言わんばかりの中澤の町の人達
454 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:23
そんな中でまた田中が言い出す

「無理です・・・・私にはそんな力はありません」

一同が、少しため息をつくような空気を流し出す

「なぁ・・・田中・・・・悪いが、あんたは王族や・・・・
その血は欲しい思っても、手に入るものではない・・・・・
選ばれた人が今、そんな弱音はいたらあかん思うが」

昨日の決意はどないしたんや・・・・・と優しく言う

「私は・・・・どんな卑怯な手を使っても、最悪刺し違えて王や王子・・・
松ば・・・母を倒そうと思っただけで・・・・王位とか・・・・そんなのは全然」

「裕ちゃん・・・ごめん・・・・おいらが田中を追い込んだんだよね・・・・・
まだこんなに幼いのに・・・・・でもおいらがあの国で見ていた田中は
ちゃんとあの国や、兵達・・・・・それに、他の国の人の事を考えていた
・・・・・田中にはちゃんと王位につく器があると思う
その辺はおいらを信じておいらに責任を課せてもらえない?」

中澤が矢口を睨みつけ、しばらくして可笑しそうに笑った

「やっぱおもろいわ、矢口・・・・・何考えてるかようわからんし甘いなぁ思うけど
・・・・なんでやろ、おもろい事になりそうでワクワクするなあ・・・
だってあんたら全員あの国で処罰対象な訳やろ、戻った時点でアウトやで・・・・
なのに主導権て・・・・・しかも兵と民を仲良うやて」

ゲラゲラと笑い続ける中澤
中澤の町の人達が顔を見合わせる

「裕ちゃん、けどね、あの町の中は組織でがんじがらめで・・・・・
多分処刑にしても何にしても兵が決断する事ってまずないと思うんだ
だからもし、あの城に入れれば、おいら達・・・
特に田中の事を突然殺そうとする兵はいやしないと思う」

「じゃあ、暴動があってたとするやん、暴動の中で、あんたがあの国の兵を助けたとするやん
したら今度は民衆があんたを殺そうと思うんやで」

いや、ウチらをな・・・・と笑いながら意地悪く言う
455 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:24
「・・・・うん、悲しいけど、きっとそうなるね」
「やろ」

あらら、もう終わり?と中澤のつまらなそうな顔

「けど・・・・けど、おいらは志願兵を信じたいんだよ
きっとあの国を変えてやるって思って一生懸命訓練していたあの兵達を・・・・」

感動の表情のYの国の人達

「矢口さん、気持は解るけど」

さすがに藤本も納得いかないようだ

「まぁええやん」
「中澤さん」
「藤本・・・・悪い、でも大丈夫だ・・・・説明出来ないんだけど・・・・なんつ〜か・・・・・
今頃きっとあの城の中で志願兵達は何かを考えているはず・・・・」

それはこの国にもFの国にも悪い方向には向かわない・・・・・
そう呟く矢口の根拠のない思いは、今この部屋の人達には伝わらないようだ

そんな中、おもろいおもろいと笑う中澤

「裕ちゃん」
456 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:27
無謀な申し出を必死に納得させようとする矢口に、中澤はにこやかに笑い

「やけどな矢口・・・・・他なもどんなシナリオ書いてるか知らんが
ウチらの出番もちゃんと考えとってや・・・・・脇役でもええさかい」

「中澤さんっ」

容認と思われる言葉に藤本は少し戸惑い、矢口は嬉しい顔でみんなを見渡す

「何言ってんの、むしろ主役はここにいる皆だから」

それを聞くそれぞれの顔が自信に満ちている

その後、矢口は全員の役割分担をする
とにかく民衆が押し寄せていようがいまいが、先に城の中に入るのは自分達で行くと

とりあえず中澤達には
あくまでも田中のバックアップという形で行動しながら様子を伺っていて欲しいという

5000対4でなく、ここにいる全員で5000人と戦うという安心感を与えて貰えるからと矢口は中澤を見た

2人は笑いあう、そしてその場にいた誰もが矢口の言っている事を無謀だと思った
そんな事であの国が簡単に変わる訳がない
ましてや田中が王位につくなんて絶対に無理だと思った

なのに

面白そうにしながらも強気な中澤の顔と
矢口がそれぞれの人物への信頼の顔を見ると
何故か、そうなってしまうような気にさせられているその場の人達

そこで矢口はおおよその考えを話し出す
457 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:30
藤本と中澤を頭にして二つの集団に分け、王族を抑える任務と
一般兵達を抑える任務と別行動にする

多分矢口達の一番最初の関所は松原か佐久間
もしその2人が有無を言わさず四人を襲えば、一旦逃げて王族を拘束に向かい中澤達の作戦へ変更

だがそうでなければ、矢口が主導権を握る事が出来る様に交渉し
佐久間隊によってYの国の改革を行う要求をしようと言う

そしてれいなが、ちゃんと王族と対話出来る場を要求し実現させる

だからその2人との交渉を行っている時間で
中澤達にはいつでも王族の拘束が出来る様に準備をしておいて欲しいという

藤本には、町にいる兵達を徐々に拘束してもらい
もし侵入者だと騒ぎになれば、城の外になるべく兵を出して欲しいという

相手には族の姿は見えない、うまく流れが出来れば
兵は藤本達を追って場外へ追跡を始めるだろう

出来るだけひきつけて全員で姿を消して門に戻り
なるべく多くの兵を締め出して数を減らそうという魂胆

その行動については、なるべく松原や佐久間に知られない様に
静かに行って欲しいという無茶な要求をする矢口

一番重要なのは今の状況

既にYの国がこちらに攻撃する為に向かってきていれば
もちろん全員で迎え撃つ

5000対60人

数的には不利になるが、族の能力はやはり並ではない
単純な数の差で戦況は決まらないという事

なにより通っていく町での情報収集は欠かさない様にしなければならない

それと、今のYの国の状況が全く解らないのだが、多分暴動が起こっているとすれば
王都のライフラインは完全に絶たれ食料不足になっているだろう

もし既に反逆の村への報復や、略奪行為が起きていれば・・・・

当初の中澤の言う通り、有無を言わさず王族や首脳陣の処刑をするのが一番いいのかもしれない
458 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:34
いずれにしろ行動は早い方がいい
そうでなければ王都の食料不足から民衆ならずとも兵迄暴徒と化す可能性が高いから

どう転んでも、それぞれの人物が、その場で判断し
状況を読まないといけないという事を要求されている

ここにいる全員のお互いの信頼関係が一番重要な鍵を握る

「多分出来ます。今ここにいる人達は、皆それぞれ何かを守ろうとする人や、志を持っている人達ですから」

矢口がそう締める

その様子を矢口の隣で矢口を見ながら
ずっと真希が愛しそうな顔をしているのをひとみはみていた

「姫はYの国の五人の家族と、梨華ちゃんとここにいて、あ、絵里ちゃんと重さんもここにお留守番ね」

「どうしてです、私達の住んでた国の為にこんなに真剣に皆さんが戦おうとしてくれているのに
どうして私達は留守番なのです」

風間が言うと他の人達もうなずく

「申し訳ないけど、あなた達の腕前では、殺されてしまう可能性が高いと思います・・・・
それよりここで姫を守ってもらえないかと
そして、あなた達が今まで身につけた事を、この町で新たに兵隊として町を守ろうとしている人達に教えていて欲しいし
この町の見回りを頼んだ町の人達をバックアップしてあげて下さい」

「せやな・・・その件はこの人らにまかせよか、ウチらが帰って来るまで」

「じゃあ・・・本当にそれでいいですね
田中ちゃん・・・きついとは思うけど・・・・皆ついてるから・・・・頑張って」

藤本がそう言うと田中は歯をくいしばって頷く

「大丈夫・・・・仲間を信じて・・・・」

矢口が念を押すように言うと、田中は笑みを浮かべて再び頷いた
459 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:37
「でも矢口さん・・・・明日出ますけど、本当に大丈夫ですか?体は」

藤本が心配げに矢口に聞くと、もちろん大丈夫
今日一日ゆっくり寝れば動けるし、向こうにつくまでには回復すると思うと言う

「無理しない方がいいんじゃない?やぐっつぁん」
「大丈夫ですって、こんな怪我慣れてますから」

なんとなく微笑ましい2人にみんなが笑みを浮かべる、2人を除いて

「あの・・・やぐっつぁんって呼んでるんですね」

矢口の隣にいる梨華が真希に話し掛けた

「あ・・・・だめ・・・ですか?公の場以外はずっとこう呼んでたんですけど」
「いやっ、全然っ、ただかわいい呼び方だなって思っただけです」

真希が梨華と微笑み

「梨華ちゃん、姫の事、よろしくお願いします、あ、でも姫って結構強いからね、安心して」

「力はあるみたい・・・・それにやぐっつぁんに結構遊んでもらいながら色々教えてもらってたから
普通の兵隊位の力はあると思う」

矢口に続いて真希が照れくさそうに言うと梨華は微笑み
矢口に見られないようにひとみにちらりと眼をやって様子を伺いながら話を続ける

「へぇ〜、お姫様なのに・・・・すごいですね」
「ま、そういう事で明日の朝出発、とにかく急ぐ旅や
今日の夜は早めに寝て疲れを取っておくように、特に夜間見回りで寝てた時間帯の不規則な奴は注意せぇよ」

だから悪いけど今夜からYの国の人達見回りよろしくと笑う

中澤が解散の言葉を言うと
皆、ざわざわと何やら状況確認や、作戦の事を話しながら皆退出していく
460 名前:dogsU 投稿日:2006/11/18(土) 22:39
「姫、すみませんがここに残ってこの町の事・・・・助けてあげて下さい」
「うん・・・ゴトーに何が出来るか解らないけど、出来る事なら何でもするから」

矢口が一言会話すると、連れて来てもらった男の人が近づいて来て
矢口をそっと持ち上げ連れて行った

加護と辻が心配そうに矢口の後をついていくと
真希は一人出て行こうとする紺野を捕まえて何か言いたそうに廊下へと出た

「ねぇ、美貴ちゃん・・・・私も行ったらだめかな」
「だめだよ、梨華ちゃん、この前みたいにうまくいくとは限らないんだからここにいて」

部屋に残った藤本と梨華がそう言って話しを始めてる間に
そそくさと全員出て行った


一方真希が小さな部屋に紺野を連れ込む

「どうしてもう帰って来ないとか言うの?」
「ですから・・・・私はYの国の王族付きですから」
「でも、もう・・・・」

真希が真っ赤になって紺野を抱き締める

「知ってますから・・・・・私の事を大切に思っていてくれるのは・・・
でも・・・これは運命です・・・・最初からこうなる・・・・だから・・・もう会えません」

「やだよ・・・・」

真希の腕の中で紺野はやはり赤くなっている

その腕から逃れるようにして、紺野は無言で部屋を出て行き
真希は俯いて部屋に佇んだ





そしてひとみはすぐに庭に出て一人剣を振り回す

矢口は自分を城に連れて行ってくれるという
しかしはっきり言って自分にはまだ矢口やれいなを守る自信がない
それどころか、かえって足手まといになってしまうかもしれない
その不安と重圧がひとみをひたすら剣をふりまわす原因になっていた
461 名前: 投稿日:2006/11/18(土) 22:39
今日はここ迄
462 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:31

「親びん・・・ほんまに大丈夫?」

部屋に戻って再び寝かせられた矢口は
ベッドの脇に仲良く並んでチョコンと両手をつき顔を出して座っている加護と辻を見て笑っていた

「ああ、もう平気だよ、辻は昨夜は見回りだったんだろ、不規則になるけど大丈夫か?」

「はい、のんはいつでも寝れるし
今日きちんと寝るようにしますから・・・・でもYの国迄遠いんですよね」

「そうだなぁ、馬で一日中走って行っても4.5日はかかるな」

「「そんなにぃ〜」」

矢口は眼を細めて頷く

「それに、お前らこそもう体は平気なのか?」

「もう何日たったおもてんですか、こんなに時間たってあの傷がなおらんかったら
ウチらは族を語る事はできへんでしょ」

「はは・・・そうだな、あの時はお前らがいなくなっちまうんじゃないかって我を忘れたよ
・・・・でも良かった、元気になって」

「親びんこそ、田中ちゃんから・・・親びんが刺された後
い〜へんようになったって聞いた時はもう泣きそうやってんから・・・・」

加護の言葉に辻も怒ったように頷いている

「ああ、心配かけてすまなかった・・・・まだまだ甘かったよ
おいらあそこでやられるなんて・・・・」

「いいから、今日迄はおとなしくじっとしてて下さいね」
「ああ」

今日はここで寝てもいいかと二人は聞いて来るので
もちろんいいよと言うと、嬉しそうに旅の準備してから来ますと出て行く

入れ違いに真希が入って来た
463 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:35
矢口を見るとうっすらと笑って矢口の具合を聞いた後、近くのソファに座って窓の外を眺めている

「姫・・・・紺野は?」
「・・・・うん・・・・」

きっと一緒にここに来ると思っていたから聞いてみただけだった
それが矢口にとってとても大事だった事に今は気づかなかった

「あいぼんとのの・・・・・大きくなって・・・・
なんだかたのもしくなってた・・・・まだ二ヶ月位しか離れてないのに・・・」

「え・・・・ああ・・・そうですね・・・・
あいつらにも大分手をやきますけど・・・・・助けられる事が多くて・・・」

「それと・・・・中澤さんや藤本さん石川さん・・・・それに・・・吉澤さん・・・・
なんかいい人そうだし・・・・やぐっつぁんと本当に信頼しあってるって感じだしね」


窓の外を見ながら少し寂しそうに言う真希の事が愛しいと思う


昔、こんな顔をして良くお城の庭のブランコに乗って空を見ていた真希の事を思い出す

そんな時はいつも自分が見つけて・・・・
一緒にブランコを漕いであげてたっけ

おてんばな真希は父親の言う事を聞かずに怒られた時や
執事に怒られた時・・・・学校で友達と喧嘩した時などによくこんな表情をしていた

「いい・・・奴らですよ、本当に」

「ゴトーが過ごしていた時間の分だけ・・・・
やぐっつぁんにも色んな事が起きてる・・・・・当たり前だけどね」

「ええ」

一瞬真希が考えた風に間をあけると

「ゴトーもみんなと仲良くなりたいなぁ」

窓の外を穏やかに笑いながら見ている真希
464 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:37
真希から眼を離してベッドの天井を見ながら笑って言う

「すぐ仲良くなれますよ・・・・そうですねぇ裕ちゃんや藤本は
誰とでもすぐに昔からいるみたいな口を聞いて来て馴染み易いし、石川もああみえて
結構話し好きだし、吉澤は・・・なんつ〜か、直情型ですぐ熱くなる奴で・・・・・・・・」

そこまで言うと矢口はそのまま固まった

話を聞いていた真希が、矢口の異変に気づいて

「やぐっつぁん?」
「あ、ああ、え・・・・と、ああ、きっとすぐに仲良くなれますって、姫なら」

「・・・・・・うん・・・・・」

久しぶりの再開・・・・それも互いに大切な存在であることに変わりはなかった

ひたすら真希の無事を祈り、少しでも早く会いたかった矢口
絶対に矢口が自分の事を迎えに来てくれると信じていた真希

その気持に少しも変わりはない




なのに、何かが違っていると感じていた


2人はそのまま口を開く事なく静かに時を過ごした
465 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:40
その後矢口の部屋には代わる代わる誰かが訪れた

れいなと絵里とさゆみが一緒に訪れて心配していったり
Yの国の風間親子や、田口達も心配そうに訪れたり
急に先生になるプレッシャーからか戦い方の復習をしたりしていく

食事の時間となったのか
加護達が呼びに来て再び真希が食べ物を運んで来てくれた

食事や城の管理は、前にやっていた町の人達が指示しに来てくれるようになったから
と藤本が矢口に伝えてくれと真希が伝言してきた



なんだか恥ずかしいと言う矢口に、面白がってかいがいしく真希が食べさせたり
旅の準備が済んだと加護達や絵里達も部屋にやって来たり
藤本達も訪れ今までの事柄を矢口達に話して賑やかになった


しかし、そんな中、真希と矢口は、ひとみと紺野がいない事に寂しさを感じていた


その2人は、食事の後も一緒に剣を合わせていた

「少し休憩しましょうか」

一心不乱にやっていたので気がつかなかったひとみが紺野の言葉に慌てる

「ごめん、力を無駄に使わせて、疲れるんだよね、力使うと・・・・ほんと・・・ごめん」

「いえ、いいんです・・・・でも本当に時間がたつごとに
私に対する攻撃も的を得て来てますから末恐ろしい感じですね」

「まだまだ、ウチの目標はあいつだから」

階段の所に腰掛けながら言うと
体を後ろに反らせ上の段に肘をついて天を仰ぐ
466 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:42


「あいつって、矢口さんの事ですよね」


ひとみの横にちょこんと座って紺野が聞きなおす

「ん、うん」
「どうして吉澤さんは矢口さんの側にいるんですか?」
「どうして・・・・って、あいつのそばにいるとおもしれ〜からさ・・・」

紺野がそれを聞いて膝を抱えて階段の下の土を見つめている


「矢口さんの運命を知ってても?」

「運命?」

その後王族付きの事を言っているのだとやっと気づいたひとみは頷いた
それを横目で見るとまた下を見てため息をつく


「これからもずっとそばにいて・・・・・つらく・・・・・ないですか?」

「・・・・・・・」



ずっと下を向いていた紺野がクイッと空を見上げた

「私はつらいです・・・・後藤さんが矢口さんに優しい微笑みをしてたり・・・・
楽しそうに話していたりするのを見るのは・・・・・
だから・・・・・もう会わないようにしようって・・・・
明日でお別れにしようって・・・・言いました・・・・」
467 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:44
少し後ろからひとみは紺野の横顔を見ていた

きっとこの子はずっと姫と別れが来る事を知っていて
矢口が現れない事を祈って今まで姫のそばにいたに違いないと思った


それは自分も同じで・・・・

違うのは自分は矢口のそばに一生つきまとっていたいと思っていた事

「後藤さん・・・・本当に矢口さんの事好きみたいでよく話してくれました・・・・・
その話を聞いている時、正直つらかったです・・・でも・・・・
一人ぼっちであんなに遠い国に・・・・
しかも、あまり優しい人のいないあの場所でつらかったんだと思います・・・・だから・・・・
たまたまあの国で浮いている私が心の拠り所になってただけで・・・・・
勝手に私が勘違いしてただけで・・・・それに・・・
・・・・・私が絶対に矢口さんには勝てないというのも解ってましたから」


「じゃあいいんじゃない?それで」

紺野がひとみを振り返ると、ひとみが冷たい目をして紺野を見据えていた

「紺野は逃げたいんだろ、あの2人から・・・・じゃあウチとは違う
つらいと思ってもウチはあいつのそばにいたい・・・つらくてもね・・・」

「でも・・・・今吉澤さんは逃げてますよね・・・二人の姿を見ないように」

紺野が負けずにひとみを見据えた

「・・・・・痛いとこつくね・・・・そ・・・・今ウチは逃げてる・・・・
だけどもう・・・平気だよ・・・・・・・つらいのは・・・・あいつと離れる事だから」

ひとみの眼に温かみが戻ってくると、紺野の眼にうっすらと涙が溢れてくる

「・・・・・・・好きなんです・・・・・こんなの初めてなんです・・・・」

抱えた膝に額をつけて小さく肩を震わせる紺野を
ひとみはそのまま肘をついて一言言うだけだった

「・・・・・うん」


468 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:46

「もう会えないなんて嫌なんです・・・・ほんとは・・・」

「うん」

解るよ・・・・その気持はと心でつぶやく


ぐずぐずと泣き出した紺野に右手を延ばして頭を撫でてあげた

「ウチは、何もしてあげられないし・・・・ウチも同じだし・・・・・ごめんね」

首を振って涙を拭いて少し微笑んで見せてくれた

「いっそウチの事でも好きになってみる?」
「何でそうなるんです?それに吉澤さんでも一緒じゃないですか・・・・」
「あ・・・・そっか・・・はは、そだね」

紺野がくしゃっと笑ってひとみから眼を離して足を伸ばして前を見た

「ねぇ・・・紺野はYの国に帰って田中を守ってあげるの?」

「そうですね・・・・れいな様の事もずっとそばで見ていましたから・・・
ずっと・・・・・かわいそうだなあって」

「かわいそう?」


眼を真っ赤にしたまま前の広い場所を見ながら話し始める
469 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:49
あってはならない王族と、王族付きの族の間の子供

王位継承者と一応なるものの
王族の間では絶対にならせてはならないとやっきになっている中
正式な王子と王妃の間には後継ぎは今のところ生まれず
そのせいだとも思われる弟王子・・・・つまり紺野のご主人様に期待が持たれた中での
中途半端な立場でずっと腫れ物に触るように育てられて
でも久しぶりに見たれいなは別人みたいだったと語る

久しぶりに見るれいなは自分の運命と戦おうとしているように見え
そんなれいなの事を助けたいと自分も思うようになったと話した

「紺野は、その弟王子の事は好きだったの?」

「・・・・・好きか嫌いかと言われれば、好きだと思います・・・・
でも・・・・後藤さんへの気持とは・・・全然違います」

真っ暗な目の前の広場を見ながらもその気持は嘘でないと解る

「でも・・・もう会わないんでしょ、って事は
これからもその王子の為に生きていかないといけないんでしょ」

その運命の相手を倒す事になるのかもしれないけどね・・・・
とひとみが心で呟く

「・・・・・そうですね・・・・もし許されればそうなると思います・・・・・
でもその前にあの国を変えなければ」

横から見る限り、紺野の眼にも力が入っており
本気で国と戦い、真希との決別を決意した事を十分に伝わらせた
470 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:50
「紺野にも貴重な時間を使って練習相手になってもらったし・・・・
矢口さんの言ってたように、ウチと矢口さんと紺野と田中で話し合う時には
足手まといにならないよう頑張るよ・・・・だからさ・・・・
ちゃんと今、限りある時間を後藤さんと過ごした方がいいんじゃない?」

「・・・・・・・・」

少し元気になっていた紺野から笑みが消える


ひとみが立ち上がって紺野の腕を引き上げて立たせると
両肩を掴んでくるっと振り返らせて背中を押した


「ほれ、思い出作ってきな・・・・・一生頑張って行けるだけのさ」

押されて二段上がった場所で止まって顔を振り返らせると

「思い出・・・・」

「思い出にするんでしょ、後藤さんとの事・・・・・
だったら思いっきり素敵な思い出作れよ・・・・これからの自分の為に・・・・」

ひとみが綺麗に笑いかける

「ほら、早く、今日はありがと、付き合ってくれて」

紺野は何も言わず、階段の途中何度か振り返って城へと帰って行った


それを見送るとひとみも一度ため息をつき、再び剣を振り始める
471 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 13:59



472 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 14:01

矢口の両脇に、加護と辻が眠っている


真希も大分前そろそろ寝ると自分の部屋へと戻っていった

夜中になるのに寝付けず、ふと窓から月を眺めた


起き上がって、加護と辻が起きないように慎重に起き上がる
さすがに一日体を動かさずにいたのだから、かなり回復していると感じた
それでなくても怪我した日からはもう何日も立っているのだから・・・・



一度窓から外を見る、夜空を見上げると・・・・・
自然とひとみを思い出す


会議の後もここに来てはくれなかった
そうだ、ひとみとちゃんと話をしたい・・・だから眠れないのだ

そろそろとドアを開けてひとみがいると思われる元々辻達が使っていた部屋をノックした

だけど誰もいる気配はなく、ドアも開かなかった
ドアをそっと開けて中を見ると、本当に誰もいなかった


「どこ・・・・行ったんだよ」

ため息をついて廊下の窓へと近寄り再び夜空を眺める



自分の部屋に帰ろうと視線を落として窓際に手をついた時
城の下の広場で動き回っている人影を見つけた

「あいつ・・・・」

矢口ははやる気持を押さえながらも、足が勝手に動きだす
473 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 14:04
一階まで降りると、裏口の重いドアをなんとか開けて外に出て階段を降りようとした


でも・・・・

そこで足が止まる

ひとみがいつものように汗をびっしりかきながら
相手にはきっと族を想定して剣を振っている

いつからやっているのだろう・・・・

若干寒くなって来ているのに、服にも汗じみが出来ているのが暗闇でも解る



あまりに一心不乱にやっているひとみに矢口の足は止まり
そのままじっとひとみを見ていた



やがてひとみが息を切らせて遠く向こうの方を見て止まってしまった

それからしばらく俯いていたが、ハッとしたように夜空を見上げ
手元を見る事なく剣を鞘に納めて振り返ると矢口のいる方に戻ってくる

階段を登り始めた時、矢口の存在に気づいて立ち止まった

「おわっ、なっ、何してんだよ、寝てなきゃダメじゃね〜か」

慌てて矢口のそばに駆け寄り、一瞬ひとみが抱き上げようとする素振りを見せたが
その手を止めた後、迷ったように手を動かすと矢口の手をひいてゆっくり歩き出した

全く・・・
とひとみは黙って手を引いて城の中へ入っていく

すると、後ろから剥れた声が聞こえ出す

「・・・・お前が・・・・ちっともおいらを叱りに来ないからだろ」
「・・・・・・・・・」

「寂しいじゃん・・・・怒ってくれないと」
「・・・・・・・・・」

「ちゃんと・・・・・話・・・・してくれよ」

ひとみは黙って手をひくだけだった、城内の階段を登り出した頃
一度様子を見る為に振り返ると驚く

矢口が眼を真っ赤にして口をへの字にしていたから
474 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 14:06

「な・・・何で泣くんだよ・・・・」

小さい子をあやすように顔を覗き込む


「悪かったよ・・・・・心配かけて・・・・・
だから・・・・おいらの事許してくれよ」

思わず抱き締めてしまうひとみ、あまりに可愛らしくて愛しくて

「何だよ・・・・・」

それだけ言うのが精一杯だった、傷ついた体にあまり触れないよう
矢口の頭を抱え込むように抱き締めていた体を離すとそっと抱き上げた

矢口がぎゅっとひとみの首に手を回して抱きついた

「お前がいないと寂しいんだよ・・・・・おいらが馬鹿したら
・・・・・ちゃんとお前に怒鳴ってもらわないと」

ひとみは頭が真っ白になってしまいそうだった・・・・
矢口の口からこんな弱弱しい言葉を聞いたのは初めてで

「そりゃ・・・・矢口さんが行方不明になった時は腹も立てたけど・・・・・
一応生きて帰って来たじゃん・・・・・それにウチの事今度は
重要な場所に連れて行ってくれるし・・・・・足ひっぱんないように・・・・
って思ってただけだから・・・・怒って・・・ないから」

そう言うと矢口がキュッと抱きしめてくる

もし矢口が元気な体ならここで自分の部屋に連れ込んで襲っている所だった・・・・
いや・・・・もう限界に来ていた

矢口の部屋の前にたどり着いたがひとみはドアノブに手を出す事が出来ない

まだ自分にしがみついている矢口が愛しくて
ひとみは無意識に首筋に唇を落とし吸い付ていた
475 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 14:08


ひとみの鼻に矢口の匂いが届きどんどんひとみの野生を取り戻させていく

チュッ

「・・・・よし・・・ざわ?」

首筋のその感触に動揺した矢口が腕を緩めるとひとみと見詰め合う



ひとみが無意識のうちに顔を近づけようとしたとき
矢口も無意識に目を閉じていた


そこでバンッとドアが開いたのでひとみが意識を取り戻すように顔を離した

「あ、親びんっ、良かったぁ、いてへんからびっくりしたわぁ」
「あ、ああ、ごめん、一日中寝てたから、寝付けなくって」
「もうっ、あんま心配させんといてやぁ」

加護が矢口の姿を見つけてほっとしている後ろで辻はひとみを見ていた

「ほんとほんと、よっちゃん運んでくれたんだ、よかったぁ、親びんを早くこっちに寝させて」
「あ・・・・・うん」

ひとみは唇を噛み締めて部屋に入ってそっと矢口をベッドに寝かせた

「吉澤っ・・」

すぐに出て行こうとして背中を向けたひとみに声をかけた
476 名前:dogsU 投稿日:2006/11/19(日) 14:11
辻と加護が矢口からひとみへと視線を移す

さっきまで少し思いつめた顔をしていたひとみが、綺麗な笑顔をして振り返る

言葉が出ない矢口

「ごめん、ウチ汗かいてたっけ、矢口さんの傷に響かなければいいけど・・・・んじゃおやすみ」


「「「おやすみ」」」


ドアをじっと見ている矢口をベッドの両脇から見ていた加護と辻が
顔を見合わせて一緒のタイミングで布団に入り矢口にまとわりつく

2人がじいっと矢口を見ると

「親びん、ウチは親びんがいっとぉ好きや」
「ののも、親びんが大好き」

抱きつかれた矢口は、何を言い出すんだろうと戸惑って言う

「な・・・・いきなり何だよ」

再び加護と辻の頭を抱き締める矢口はさっきのひとみの行動に動揺を隠しきれないでいた

・・・きっとその動揺をこの2人は感じ取ったのだと思った

「「だから、親びんには笑っててほしいの」」

2人は矢口の肩口をキュッと掴んで眼を瞑った

「お前ら」

「どんな親びんでも、ウチらついてきます」
「うん、のんも」

この2人の言いたい事が解らない矢口・・・・だけど、これだけは解る


自分の幸せを願ってくれているのだと


「ああ、ありがと」

2人の髪の毛を撫でながらふうっと一息ついて目をつぶる



眼をつぶるとひとみがさっき唇をつけていた首筋が熱く
少し違和感を感じた


そして近づいてくるひとみの優しい眼差しに
心がギュッと掴まれた感じがして体が熱くなるのを感じたまま意識を無くしていった
477 名前: 投稿日:2006/11/19(日) 14:11
今日はこのへんで
478 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/19(日) 23:07
ドキドキします・・・。
479 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 14:01
連日更新お疲れ様です。
期待と緊張で続きを待ってます!
480 名前: 投稿日:2006/11/26(日) 22:24
478:名無飼育さん
自分もドキドキです・・・。

479:名無飼育さん
今回少し間が空いてしまい申し訳ありません
少しでも早く更新出来る様に努力します。

レス本当にありがとうございました。
481 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:28
翌日早朝、中澤達一行と共に再びYの国を目指す

中澤の町の族達の中には、あの町で出会った恋人と一晩中愛し合ったのか
眠そうな人達もいて中澤がぼやいていた

藤本と梨華も同様だったのか、梨華には目の下に隈が出来てて
藤本もだるそうな体をやっと動かしている感じだった

「大丈夫かよ、美貴」

にやにやして笑うひとみに藤本が苦笑する

しかし出発する時の2人は間違いなく恋人同士だったなぁとひとみは思う
小さな頃から、いつもびくびくして、いつもひとみの後ろを付いて来ていた梨華も
旅に出てとても強くなっていた

自分の行動にすぐに影響される梨華を少しうざったく感じた頃も今は懐かしい

多分自分の為に亡くなってしまった梨華の両親の代わりに
一生梨華を守らないといけないという勝手な自分の責任を
この旅で知り合ったとても頼もしくて優しい仲間に託せた安堵感

一方ではいつまでも成長しない自分と違い、すっかり自分の手を離れ
愛する人と結ばれた大人の女性になってしまった梨華の成長に少し焦り
少し寂しくもあるひとみの複雑な心境

そんなひとみはあの後、風呂に入ってからしばらく寝付くことは出来なかった

本能的に、運命の相手がいる人を抱いてしまいそうになり成長してない事を感じた

それに、何度か抱き締めたことのあるあの小さな体の感触が消えなくて
とても眠る事は出来なかったのだ
482 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:30
一方ひとみとはまた違った夜を過ごした紺野

ひとみに背中を押され、月明かりに照らされた部屋に帰ると何も言わずにベッドに入った

こうやって何も話さないようにといつまでもひとみの訓練につきあっていたのだが
思い出になるような会話も、もう見れなくなる真希の顔も見る事もなく夜が過ぎていく事に
もう少し早く戻れば良かったと後悔していたその時

「紺野・・・・」

寝ていたと思っていた隣のベッドの真希が突然振り返って静かに話し掛けて来てドキッとする




ひとみが言う思い出の意味が解らない・・・・・


でも・・・・



もうこの人の隣で眠る事はない



そう考えただけで泣きそうだった





横目にじっと見られている視線を感じる

「紺野」
「はい」

二度目の呼びかけに、思わず返事を返す紺野にくすっと真希が笑う

「ゴトー嫌だから・・・・・もう紺野と会えないの」

じわりじわりと真希の言葉を理解していく紺野






   『じゃあ、いいんじゃない、それで』





さっきひとみに冷たく言われた言葉が頭の中を駆け巡る
483 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:32

帰って来て・・・


そう言ってくれる真希に、ちゃんと言葉を伝えられないのは



矢口に負けているから?

それとも勘違いしているのを突きつけられるから?

なにより自分はどうしたい?


ひとみが言う様に・・・・・これから生きていけるだけの思い出を作ればいい?


良くなんかない・・・・・
真希にいくら自分の気持を薄々知られているとはいえ、自分の口からちゃんと何か言った事はない


それで自分は満足するの?

後悔は?


紺野の中ですざましい勢いで自問自答が繰り返される



紺野を見たまま言葉を待ち続ける真希


ゆっくりと起き上がって、真希の方を向くと

まだ真希が寝た体勢のままこっちを見ていた


「私・・・・」

何も言わず真希がじぃっと見ている



「私・・・・後藤さんの事が・・・・」


言ってどうする・・・・一瞬にして決心が揺らぐ



それでも何も言わず待ち続ける真希の真剣な目が紺野を突き刺す



「私・・・・後藤さんの事が・・・・」

もう一度繰り返す声が、聞き取れない程小さな声となると
ムクっと真希が起き上がり、ゆっくりと紺野の隣に腰掛ける
484 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:34
真希の行動に、紺野の心臓が早く脈打ち出す

「な・・・何でもありません、ごめんなさい」

王族付の族である自分の立場を十分に知っている紺野



「紺野」
「すみません」


心臓が頭にあるんじゃないかと思う位、紺野の脈打つ血管の中は忙しく血液が運ばれていく

そんな紺野を見て真希は思う

あの国で王子に襲われた自分を
自分の立場を省みず助けてくれた紺野を本当にありがたいと思った事

国を脱出する時に感じたとても年下とは思えない位頼りになる行動力と
色々な事を考えながら説明してくれる頭脳を持つ優しい彼女を
いつのまにかずっとそばにいてくれるものだと思い込んでいた



真希は、今迄矢口に対する気持をずっと恋だと思っていた

いや、そう思うのが運命だと思っていたし
実際矢口の事はとても大事で、とても大好きだった




なのに




久しぶりに再会した時に感じた違和感




確かに愛しいと思う矢口への感情と


紺野に対する感情




この違いが真希にもわからなかった




485 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:39

ただ・・・・・


明日でお別れですと言われた時に
どうしても押さえきれなくなった手放したくないという思い

自然に、唇を噛み締めて膝の上に拳を握り締めて何かを伝えようとしている紺野の頬に手を添え
顔を真希のいる方に向けさせていた

「帰って来て・・・・・お願い」

暗闇ながらもはっきりと解る目の真剣さに紺野は吸い込まれそうになりながらも
ゆっくりとその眼が近づいて来る事に気がつかなかった

「ん」




柔らかい感触が唇に感じられ、紺野はようやくそのことに気がつく


ブワッと咄嗟に力を使って壁迄離れた紺野

真希の手は寂しそうに宙に浮いたままだった

「ゴトーの事・・・やになっちゃったんだね・・・・・紺野は・・・」

真希が浮いた手を下ろし、俯いて動かなくなる



「そんな・・・・そんな訳ないじゃないですか」

動かない真希の横に紺野が慌てて戻ってきてベッドの上に正座した
486 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:42
寂しそうなまま動かない真希に、紺野は必死に声を絞り出す

「私・・・・後藤さんの事が好きなんです・・・・だから・・・・・
だからもう・・・・そばに・・・・これ以上そばにいちゃいけないって
・・・・・そう・・・そう思って」

「・・・・やぐっつぁんの事?」

「・・・・・・・・・・」

紺野の恋敵は運命の相手

そして自分の気持が解らない真希


「・・・わからないの・・・・やぐっつぁんの事は大好きだし・・・・
ずっとそばにいてほしいし・・・・いるのが当たり前だとも思ってる
・・・・・・でも・・・・でも紺野も・・・・紺野の事も・・・
本当に何が違うか解らないの・・・・ゴトーがやぐっつぁんに対する好きだという気持ちと
紺野に対する好きという気持ちの何が違うのか・・・」

正直に自分の気持を伝えてくれている真希をじっと見つめる紺野

「ゴトーの側にいるの・・・・・つらいの?」

小さく頷く紺野


「・・・・・やぐっつぁんと・・・・会わなくなれば・・・・・紺野はそばにいてくれるの?」

悲しそうな顔をしている真希を見て、紺野は眼だけ少し見開き

しばらくしてゆっくり首を振る



「わからないんです・・・・私も・・・・・でも・・・・
優しい顔をして矢口さんと微笑んでいる後藤さんを見るのは・・・・・つらいんです」



「どうすれば・・・・・いいのか・・・・・全然思い浮かばないけど・・・・・
我儘でも自分勝手でも・・・・ゴトーは今紺野にそばにいてほしい
だから・・だからお願い・・・・
やぐっつぁん達とYの国と戦った後・・・・・ここに戻ってきて・・・」



紺野は俯いて何も言えなかった
487 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:44

見つめていた膝の上の拳、ふいに真希の手で包まれた

堅くなった拳を真希が柔らかく持ち上げて固さを解すと
紺野の手の甲を真希の口へと持っていき唇を落とす

「後藤さん」
「解らないの・・・・・どうしてこんな事をしたいのか・・・・・」

引き寄せられる紺野の体は、あっけなく真希の腕の中に収まる


真希の左手に支えられた紺野は
見上げた真希の顔がすごく寂しそうで真希の頬に手を添える

「帰って来ても・・・いいんですか?」
「帰って来て・・・ってずっと言ってるじゃない」

そう言って近づいて来る真希の顔に、自然と紺野は眼を閉じた

合わせただけの唇が次第に何度もついばむように動かされた時に
意識が戻った紺野が再び体を起こし真希から離れた

「紺野・・・・・・」

再び寂しそうな顔をする真希

「あ・・・・あの・・・・さっき吉澤さんと剣の訓練して・・・・・
汗・・・・かいたままだったなぁっ・・・て」

寂しそうだった真希の顔が、その言葉にくしゃっと笑顔になった


「・・・・・お風呂・・・・入ってから寝ないとね・・・・・」


「はい」


488 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:48
自分と真希がそういう風になってしまうのを望んでいる自分と
少し恐れている自分に紺野は戸惑う

自分はYの国の王族付きの族・・・・・
そして同じように王族付きの族を持つ身分の真希・・・・・

違う運命の2人がこんな事にしてもいいのか

きっとその答えは誰も解らないだろう
それでも真希が自分を必要としてくれることが嬉しかった

ひとみが言った言葉が今、妙に納得出来た
   

   『あいつのそばにいられない事の方がつらい』


   『思い出にするんでしょ、後藤さんとの事・・・・・
   だったら思いっきり素敵な思い出作れよ・・・・自分の為に・・・・』



嫌だ、思い出になんかしたくないと思った


絶対に離れたくない・・・・・そう思った




自分もそばにいよう、辛くても・・・・

ひとみのように自分の大切な人の側に




「後藤さん、帰って来ます・・・・私・・・・・後藤さんの側にいたい・・・・・
だから・・・・・だから帰って来ます」

そう言うと、優しく真希が自分を抱き締めてくれた



「うん・・・・待ってる」



その後、風呂に入って部屋に戻って来ると
安心したのか真希は自分のベッドですやすやと眠っていた


寝ている真希の顔がかわいらしくて
戸惑いながらも思い切って額にキスをすると
紺野はドキドキしながらも次第に眠りについたのだ
489 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:51
走りながらも、思い出して顔がにやついているのを紺野は気付かない

紺野は朝、ひとみに「思い出作れたか」と聞かれた時
思い出にはしませんと言うと、大笑いして去って行った

そして、真希は自分達を見送る時、「待ってるから」と言った

それだけで頑張れる、紺野はそう思った

生まれ育ったあの国をこれから崩壊させたとしても
この事に後悔する事はない

だから今前を走っている小さな背中にもついていこう、そして守ろう



そう思えたのが不思議だった



そう・・・真希は自分に口付けしてくれたから・・・・・

自分にこうしたいと思ってくれたのだから・・・と




そして、紺野の横で馬を走らせるひとみは
やはり目の前で走っている小さな背中を見つめる

ほとんど眠れずに朝を迎え、朝矢口を見た時のこの胸の高鳴りに
これからまた危険な事をしにいくというのを忘れてしまいそうだった



矢口も朝ひとみと挨拶を交す時に
近づいて来るひとみの顔を思い出して目をあわせる事が出来ずにいた

しかし自分は今かられいなや真希
それに絵里達やFの国の運命を握る事になるのだと気分を切り替え
いつも通りに振舞わなければと思った


それぞれが、色んな感情で馬を走らせる


490 名前:dogsU 投稿日:2006/11/26(日) 22:57
一つ、二つ村を通る頃

今まで二度程通って来たこの町が、どんどん変化していくのを矢口は感じた



時代が流れ出している・・・・

町へ入る時、矢口の名前を出すとすぐに入れてくれるのがその証拠



数週間前に通った別の名前を語った人物と矢口が同じ人物とは誰も気付かなかった



その移動の間、山賊やはぐれの族は現れる事はなかった

旧Eの国へ移り住もうという人達の波もそこそこ落ち着いて来てたし
真希と紺野が矢口を連れてあの町へと急ぐ時に出て来た者達は
あっという間に紺野にやられたのだが
自分達が行き来する間に始末して来た為、もう出てこないようになったのかは良く解らない



そして道々、中澤がEの国には、山奥の置いてきていたミカやアヤカを中心とした人達を
密かに呼んでいたのを聞いて矢口達は感心する

事の大きさに、少し硬い表情の矢口とひとみ、紺野、藤本を安心させる為に
ひそかに連絡をとっていたと言った


これで残された真希や梨華、そしてあの町の人達の事も安心だろうと言う中澤を
やはり優しい頼りになる人達だという事を皆実感していた


そんな心遣いに、四人は吹っ切れたように馬を走らせた
491 名前: 投稿日:2006/11/26(日) 22:57
今日はこの辺で
492 名前:dogsU 投稿日:2006/12/02(土) 21:01
二日後には、矢口が刺された町へと到着する

門は開放されていて、兵の姿は見えない
暴動が起こり多くの兵を殺害されたようだ

町の若い人達は逃げ出した兵を追ってYの国へと向かったと
警戒心を持ちながらも町の人達が教えてくれた

残されたのは、女子供等が多く、年配な男や老人達は
矢口達から町を守ろうと必死な感じだった

だから矢口達一行が通ると、今迄の町と同じように多くの人達が何事かと外へ出て来て眺めるが
違うのは、その視線がやけに殺気だってた事だった・・・
なかには桑や棒を持って立っている人もいる


矢口がその中の一人に眼をやると急に馬を止めて、ある老人の前に来る
一行も矢口の異変にその先で馬を止めだし、近くの人達から話しかけられだした


そんな矢口は馬上から優しい表情で話し出した

「あの時はありがとうございました、おかげでこうやって動けるようになりました」

その後馬を降りてペコリと頭を下げると、その老人の周りの人達が声をかけてくる

「あなた達何しに私達の町へ来たの?」

「この町には何もしません、安心して下さい」

矢口の近くにいた馬上の藤本がよく通る声でそう言うと
その中の一人が矢口を指差して声を発する

「あっ、あんた、Yの国の兵隊の服着てた人・・・・・えらそうな女に刺された」
493 名前:dogsU 投稿日:2006/12/02(土) 21:03

一人で偉い兵隊に楯突いてた子だよとざわざわと伝えていく

あんだけ刺されて生きてるのかという驚きの声も同時に聞こえる

「ああっ、あの私達の事を助けようと乱暴する兵を止めたっていう・・・・・
でも、あの時はYの国の軍服着てたんじゃなかったかい?」

勇敢な兵がこの国にもいるって嬉しかったと言う

「ええ・・・・おいら矢口っていいます、元々Yの国の者じゃありません」

周りの人達がさらにざわめく
族だから刺されても生きているのかと小声でざわめいているのも聞こえてくる

「ついにこの国を攻めるのか?」

おじさんが声を荒げると矢口は悲しそうな顔をし
それでは先を急ぎますのでと馬に乗って歩かせる

中澤はそんな矢口を見てフッと笑い、藤本にも行こうと促し手綱を動かす

そんな中、挨拶した老人が矢口の後姿に声をかける

「矢口さん・・・・あんた・・・あんたは生きなきゃいけないよ・・・・
あの時みたく、私みたいな老人をかばって撃たれたりしちゃいけない」

あの時も言われた"生きろ"という言葉が再びこの老人の口からこぼれた

だがそれよりも矢口は驚いていた

あの時自分が動けなかった理由、れいなの後ろにこの老人と兵隊がいた事
その為によける事が出来なかった一瞬の出来事を
この老人が気づいていたなんて・・・と
494 名前:dogsU 投稿日:2006/12/02(土) 21:06
中澤達が既に先を急いで掛けていく足音を聞きながら足を止めた矢口は
何と言えばいいのかと考えた

しかし何も答えることの出来ない矢口にさらに老人が言う



「あんたなら出来るよ、きっと、だから気をつけておいき」



この老人はきっと族だ・・・・何故だか矢口はそう思った

そして長い間この老人は何かに耐えながら暮らして来たんだろう
この町にも、いや、きっとどこの町にもいたる所に人間と共に生きる族達がいる

人間と共存していく事を願う族達が他にもいる事を知らせてくれた

矢口はまたこの老人に助けられた気がした

「ありがとうございます」

矢口に笑顔が戻ると元気に返事を返した

去ってしまった集団の中、中澤やひとみ・田中・加護辻、藤本、紺野が矢口を待っていた

「知ってる人ですか?」

藤本がすかさず聞く

「うん、おいらの事助けてくれたの、ね、紺野・・・はいなかったっけ」

急ごうと馬を走らせながら答えると、後ろから紺野が聞いてくる

「もしかして荷車貸してくれた」
「うん、そう、あの人」

あ〜と紺野が思い出して、どういう事?という藤本が紺野に説明を受けていた
495 名前:dogsU 投稿日:2006/12/02(土) 21:11
藤本はこの二日、紺野と接してきて
その突っ込み所の多さに結構仲良くなっていた

加護と辻も当初の目的を忘れたかのように
馬を走らせながらも初めて見る風景に心から旅を楽しんでいるようだ

あと三日、早ければ二日も走ればあの街へたどり着くだろう

そんな夜、矢口達の前に保田達が現れた

「私達が廻った町はほとんど暴動を起こして、そしてそのほとんどの反乱軍が
今一つに集結しようとしながらも、何故か皆矢口に会いたがってるの」

自分達が配った新聞のせいで幾人もの命が奪われた事が
相当堪えているようで三人の表情は暗い

「おいらに?」

そろそろ少し寝ようとして寝床を準備していた皆が突然現れた保田達を取り囲んでいた

小川と新垣もその後ろで頷いている

「私達の新聞を読んで、どうやら矢口に助けてもらいたいって思ったんじゃない?
それで私達が矢口を知ってるって事で頼まれたんだけど・・・・
矢口は今行方不明だって言ってたから、皆がっかりしてて、だから本当に矢口が生きてて良かった」

少しキツめの目を優しく輝かせて矢口を見ている保田

「圭ちゃんらを恨む人達はい〜へんかったんか?」

そんな保田に心配そうな声をかける中澤

「うんまぁなんとか、やはりYの国の王族達への恨みの方が強いみたい
長年苦労させられてたみたいだから」

と、今度は保田が心配そうに田中を見ると

「れいなもそうですけど、矢口さんにはなんか、この国を変えてもらえるって気がするんです」

だから町の人達の気持解ります、と力強い視線で保田に大丈夫だと頷きながらも
その言葉の後は少し悲しそうに笑いながら俯いた
496 名前:dogsU 投稿日:2006/12/02(土) 21:14
「なんや矢口、ほんまに救世主みたいになってるやん」

中澤の言葉に今度は矢口が俯く

「まぁ、あんな記事見れば、期待したくなりますよね」

藤本が矢口を見て微笑むと、矢口は余計ぶすくれた

「別に、おいら何もしてないし・・・・何も出来ないし、今迄の事はみんなの力じゃんか」

吉澤は少し離れた場所から微笑みながら矢口の横顔を眺めていた

「まぁええやん、それでその反乱軍とやらはどこにおんねん」

「とりあえず、みんな他の町の人達と合流して連携を取りながらあの城へ向ってると思う
まだ王都には着いてないと思う、歩きだし・・・・まぁ武器はほとんどないけど、人数は結構いるはずだよ」

「武器なら、Eの国のやつをけっこう持って来たで、でも矢口はそれ使いとないねん、な」

「まぁ・・・・出来れば話し合いで決着つけたいんだ、だから反乱軍の人達には少し待っててもらいたい」
それも最初は四人で・・・と名前を保田に告げると

保田がそれを聞いて、う〜んと唸っている

「難しいと思うよ・・・・・反乱軍はかなり感情的になってるし
今までの恨みもあるからなかなか押さえはきかないんじゃないかな」

それに各町の兵達も大分殺されたらしいし
今はあの王都に食料が行ってないからねぇ・・・と難しい顔の保田

矢口は唇を噛む

「わかった、その人達に会わせて、で、とりあえず今日はこのまま寝よう
みんな走りっぱなしで疲れてるし、馬も疲れてるから」

「せやな、圭ちゃんもガキさんも小川も疲れてんやろ、とりあえず寝よか」
497 名前:dogsU 投稿日:2006/12/02(土) 21:17
ここの所生活が不規則だった中澤の町の人達も
それぞれの思いに寝付けなかった矢口達も、疲れからか野宿だというのに熟睡出来ていた

もとより族の集団、襲われたとしても負ける気はしないのだから安心だ

そんな中、ひとみはいつも皆が寝静まった夜中に一人起き上がると
人のいない場所を探して訓練を繰り返していた

矢口はそれにいつも気づきながらも、近寄る事も出来ず
ひとみがいない時間は戻って来る迄木々の間から見える夜空を延々と見上げていた

「矢口さん、よしこいっつもあんななんですかね」

すぐ隣に寝ていた藤本が、ふいに小声で話し掛けて来る

「ああ・・・・・いつも・・・・やってたよ・・・・・ああやって馬鹿みたいに」

「・・・・迷惑ですね・・・・でも・・・・ちょっと相手して来ていいですか」

「うん・・・・そうしてやって・・・みんなを起こさないようにな」

瞬時に姿を消す藤本を見送り、再び夜空を見上げた


矢口は気づいていた


ひとみへの想いが
仲間に対する愛情と何か別のものとなっているんじゃないかって事

姫と再会して、やっと役目を果たせると想っていたのに・・・

姫を愛しいと想う気持に変わりはないのにと
498 名前:dogsU 投稿日:2006/12/02(土) 21:21
旅に出てからの数日、ひとみは前と変わらないように接してくれている

もう何日前になるだろうか、この道を2人っきりで進んで行った頃
その時もいつも、自分を守ろうと必死になっていたひとみ

族でない人間のひとみが、族の自分の事を必死で守ろうとしていた

ましてや戦いの力についてはまだまだ矢口の方が強いのに
これからもずっとそうやって守って貰えそうな気になるのが不思議だった




幾人もの命を奪ってきた自分



ただ姫という存在の為のみにある命のはずだった

加護と辻の成長を見届ければ・・・・
自分の命なんて姫の幸せの為以外には何の価値もない

旅に出る前迄はそうやって生きていた気がする

いや、小さい頃から多くの悲しい人達を作ってきた自分には
孤独の道しかないとも思っていた


なのに旅で出会ったこの優しい仲間達といると・・・・

自分は一人ではない・・・・・漠然とそう思えた



そして・・・・


その仲間の中でも、ひとみの事を考えるといつも胸が熱くなっている事

それが何なのか、矢口は今それを気づかないようにするしかなかった


499 名前: 投稿日:2006/12/02(土) 21:21
今日はここ迄
500 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/03(日) 01:09
緊迫してきたので、指先が冷たくなりそうです。
が、心は温かくなってきます。みんな怪我しないでください。
501 名前: 投稿日:2006/12/04(月) 00:10
500:名無飼育さん
温かい気遣いありがとうございます
寒くなって来ましたので風邪等ひかないように・・・

レスありがとうございました
502 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:13
次の日、次の村でも松原軍から受けた暴行に対し憤慨し
反乱軍への参加をしに戦える者達が向かった事を聞いた

そして、新聞の配布されていなかった次の村
ここでその反乱軍はYの兵隊を皆殺しにして王都へ向ったのも次の日に解る

この問題を話し合いで解決するのはやはり無理だなと全員が感じていた

矢口も、もしかして無理かも・・・・と
中澤達が言うように、王族を倒し、松原軍を倒す、それしか方法はないかのように思えていた

田中も再び死ぬ覚悟をしていた
こうなってしまった以上、自分も王族として
この民の恨みの対象として死ななければ事態は収集しないのではと感じた

Eの国を出発する時、絵里とさゆみが言ってくれた言葉
「頑張って、れいなが新しい国を作ってくれれば、自分達も必ずYの国へ戻り、れいなの為に働くから」
と言ってくれたのを思い出して苦笑する

「田中」

そんな時、声が掛けられた



横を向くと矢口がいた



「あきらめるなよ」


何故唐突にそんな言葉を自分に掛けてくれるのかが解らなかったが
その一言で、ふっと自分の心が軽くなった気がした

「はい」

田中が微笑んだ事に矢口は安心する、死ぬ覚悟をした苦笑を矢口は感じ取っていたから

そして、その言葉は自分にも言い聞かせた
何かまだ方法はあると

中澤や藤本、保田達やひとみ達もそのやりとりを聞き
矢口の思うとおりにさせてやりたいと願わずにいられなかった
503 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:16
紺野も矢口の魅力に引き込まれていた

こんな人に自分が敵うはずはない
しかし、真希の為にという気持、それだけは負けないと自分に言い聞かせる



それぞれの想いを乗せた馬達が
やっと王都が見える広い草原にたどりつく


皆はその美しい光景にしばし馬の足を止めた


保田がその空気を破り、あっちに反乱軍がいるはずと矢口や中澤達を連れて行こうと促す


青い空と白い雲、その中のこの草原の中を馬で掛けて行く気持ちよさを全員が感じていた



しばらく行くと、その草原の中に人の集団が見える
遠目にざっとみてもその数は五千

集結を待っているのか、テントのようなものがあちこちに張られ
小さく集団を作り何かを話しているように見える

中澤達は拍子抜けする、どれだけの人数で反乱を起こしていたのかと思えば
たったのこれだけかと

藤本もその数の少なさに愕然とする
あのEの国に集まっていた時に感じた圧倒的な数と比べ、やはり心もとないと感じた

だが裏を返せば、暴動を制止しやすくなるという風にも考えられる
直接対決を望んでいる訳ではないのだから


保田達三人が姿を消して先にその反乱軍へと入って行った
すると小さな集団が徐々に移動し集まり出している


とにかく集団の王都側へ馬を進めて行けば会えるからと言われたので馬を進める
504 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:18
近づいてみると、反乱軍というのは随分若い集団だというのに気がつく

総勢60人位の矢口達がこの集団の横を通る時
ギラギラとした若者達の熱気が感じられた

各町の代表者達のような若者の集団の中に保田達がいたのでそこで馬を止める

その代表者の人達が矢口達を見て驚いている
女の多さに驚いたのだろう

「行方不明になってたMの国の矢口って人は、どの人」

血気盛んなリーダー的存在の若い男が保田に聞く

「おいらだけど」

保田の紹介を待たずに矢口が声を出す

それを聞いた代表者達や、それが聞こえた周りの男達迄失笑をもらす

「なんや、あんたら矢口にすがりたかったんちゃうん」

中澤が怒ったようにその代表者の一人を睨みつけると若者達はズイッと前に出てくる

すっかり矢口達を仲間と思っている中澤の町の男達もズイッと馬を前に出す

雰囲気は一触即発
505 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:20

「いいよ、裕ちゃん、こんなのいつもだから、で、こんなおいらに何をして欲しい」

穏やかに矢口が代表者に笑いかけると緊迫した雰囲気が解ける

「あの城の奴らをぶっ殺しに行くから手伝って欲しい」
「ふ〜ん、それで殺してどうするの?」
「この国を変えたい」

反乱軍のみんなが頷く

「もう一度聞くよ、あんた達は変えるっていうけど、殺してどうするつもり?」

横にいるひとみが突然口を開く

「決まってるよ、ここにいるいろんな町の同士達と共に
あの城の奴らを皆殺しにして、俺らでこの国を治めるんだ」

「芸がないね、若いだけじゃ無理やで」

中澤がばかにするように言うと、怒ったように言い返して来た

「何で無理なんだよ、これだけ人数がいればあの城の中の奴らより多いはずだ、勝てない訳がない」

俺達がこの国を治めた方が国の人皆幸せなんだよと興奮する

「武器もなく、技術もなくってどうやるつもり?今後の国づくりの策は?」

今度は藤本が睨みながら言う
506 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:22
「あんたらよそ者に俺らの国の苦しみの何が解る
俺らが小さい時から兵に怯えて生きてきたこの国での苦しみの何が解る」

若者達が怒りの眼で頷きながら拳を握り締めていた


「その兵になってこの国を変えようとは思わなかった?」

矢口がその空気を破って柔らかく言う

「俺のダチも、そうやって志願兵としてあの城へ入って行った・・・
だが風の噂では志願兵は召使い同然の扱いしかされず、この国を変える所の話ではないと聞く」

そうだそうだっ、そんな事でこの国は変わらないっと代表者達を取り囲む若者達が言い出す

「頑張ってたけどな、志願兵たちは・・・な、吉澤」
「うん・・・・・毎日、隠れて訓練して、いつかあの町の兵達を変えてやるって感じだった」
「なんだよ、見てきたのかよ」

リーダー的存在の若者が鼻で笑って言う

「この仲間にはYの王族や王族付きの族、少佐と大尉がいるんだ、同じ目的でね」

一同がざわめく中、リーダーの若者が叫ぶ

「なんだとぉ、それに王族ってどこのどいつだよっ」
「私です」

田中がズイッと前に出ると、群集の眼の色が変わった
507 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:24
「田中に何かしてみろ、お前らの目的は一生かなわなくなるぞ」

それ迄穏やかだった矢口が厳しい顔をして田中の前に回り
ゆっくりと男達を見回し憎しみの目を受け止めた

中には兵から奪ったんだろう銃を構えた人もいたから藤本や紺野達も神経を尖らせる

「それとおいらはYの軍で少佐をしていたし、あの中の事は少し見てきた」

ざわざわとした後、若者達がこそこそと話し出す

「じゃああんた達はどうやってあの城に入って、この国を変えようとしてくれてるんだよ」
「おいら達は、あの城の王族の人達と話し合いに来た」

すぐに「話し合って解るような奴らじゃねんだよっ、それで解決してたら俺らだってこんな風にしてない」等とヤジが飛ぶ

「じゃあ、争って殺しあって、何が残る?」

突然大きくて低い声が響くと矢口も驚く
自分が言おうとしている事、それをひとみが言い放つ

「ウチも少し前ならあんた達みたいにいきりたって力ずくで解決しようとしていたよ」
「お前は何なんだよ」

若者の一人がひとみに問う

「ウチはJの国のただの一般人、何の力も権力も持たないただの吉澤ひとみっていう女だけど
・・・・ウチもあの城の中を見てきた、矢口さんと一緒に」

ひとみが矢口に視線をやり微笑む
508 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:26

「俺ら一般人じゃ、何も出来ないっつー事かよ、親父達みたく、無駄な事はやめろって」

「いや、こうして立ち上がることは決して無駄じゃないと思う
ただそのやり方を少し考えた方がいいと言ってる」

矢口も藤本も中澤も驚く

ひとみはこんな事を言えるような奴ではなかったはずだ

いつでも感情で突っ走って、それが一生懸命で微笑ましくなってくる、そんな奴だったのにと

「吉澤の言う通りやな、とにかく今は少しウチらに任せてもらえんやろか
あんたらの代表者として・・・・・決して悪いようにはならへん思うよ」

にやりと自信たっぷりな中澤

「その人数で何が出来る」

どうやら矢口達の事を余り信用していないような男達に、中澤はため息をつき

「あんたら、生の族・・・・見た事あるか?」

そう言って中澤が手を上げると、中澤の町の全員の姿が消える

代表者達一人一人と、その近くにいる前列に並ぶ男達の背後に回りこみ
全員のど元にナイフを突きつけられた為、その周りの群集が距離を置く

「どや、見えたか?」

中澤が言うと全員の目に恐怖という文字が浮かんだ

「この人数でどこまで出来るか解らん、銃を乱射されたらウチらかて避ける事は難しい・・・・
でもな、守りたいもんがあるからこんな遠く迄来たんや、あんたらと同じようにな」

再び中澤達の後ろに仲間が戻ってきて頷く
509 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:28
「その思いは田中も一緒だよ・・・・・
その田中がおいら達と一緒に話し合いに行く、もう悲しむ人達を出さない為に」

田中も唇を噛みながら矢口に視線をやって頷く

「この田中があんたらYの国のたった一つの希望の光だとしても田中を殺したいと思う?」
「ここで田中ちゃんを殺したらもっとYの国は変わらないよ」

矢口に続いて藤本も男達を睨みながら言い放つ

どうする?と顔を見合わせる群集と、代表者の集団はリーダー的存在の男に次第に注目する

「解ったよ・・・・あんたらにとりあえず任せる
ただし・・・・夕方迄に何も変わらなかったら全員で襲撃を開始する」

あんたらの持ってる武器を貸してもらうぞ・・・と強い視線

「よし・・・・それで行こう・・・・・
夕方迄に何か変化を与えればいんだな・・・・じゃあ行くぞ田中、紺野」

矢口はすぐに飛び出そうとひとみにも眼をやり手綱を握ると

「「親びんっ、ちょっと待ったぁ〜」」

突然加護と辻が叫んだ

「な・・・なんだよ、お前ら」

もちろん群集も注目する
510 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:30
「とりあえず、腹が減っては戦はできませんっ、御飯食べてから行って下さい」

真剣な顔をして辻が言う

中澤達も矢口達もがっくりと首を前に垂らす
反乱軍の男達も口を開けてしまった

「こう見えて親びんは病み上がりやねんっ、ちゃんと食べてもらわんと良くならへんのや」

一変してしまった雰囲気に不服なのか加護が腕を組んで威張った感じで矢口を睨む

くすっと笑う矢口

確かに昼時だし朝早くに食べてからは何も口にしていない
自分の体を案じてくれる可愛い子分に思わず笑みが漏れる
体は順調に回復していたが痛みは無くなっている訳ではない

「うん、ありがと加護、じゃあ御飯にしよっか
みんな、確かに決戦は腹ごなしが済んでからだよね」

気が抜けたように笑い出す中澤の仲間達も各々自分のリュックから食べ物を取り出す

反乱軍は、突然そのゆるい空気に呆れた声を出す

「なっ、なんなんだよあんたら・・・・ほんとにここに戦いに来たのかよ」
「そうだっ、ピクニックじゃねんだぞ」
511 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:32
まぁまぁと笑いながら矢口達が輪になって食べ始めるのを見て
さらに口々に突っ込み出すと、矢口は笑いながら言い返す

「まぁ、いいじゃん、どっちみち戦って来るんだから
今はこいつらと楽しく食事させてくれよ、もしかしたらもう会えなくなるかもしれないんだからさ」

さらっと言った言葉に、矢口達の決意が見えて
呆れてた反乱軍も確かにそうかもなと自分達のテントに戻り食事をしだす


男達はちらちらと矢口が田中と笑いながら食べている姿を見ている

王族が仲良くこんな感じで食べるのが珍しいのか
はたまた矢口という噂の人物がこんなに小さな少女なのがまだ信じられないのか・・・

そして、その興味の現れか、反乱軍が次第に中澤達の周りに集まり
話し掛けるようになった

矢口は嬉しかった、あんなに殺気立っていた群集が
加護達のおかげでこんな風に話せるようになった事が・・・


矢口は加護達に近づいて、めいっぱい頬張っている2人の頭を撫でた

「ありがとな、やっぱお前ら最高だよ、とても敵わない」

「「親びん」」
同じポーズで鼻の下をこする

「後は藤本と裕ちゃんの言う事聞いて、しっかりやれよ」

にっこりと笑って頷く2人



なんだかんだで、話し出したみんなとの時間が長くなり
気がつけば一時間以上話し込んでしまっていた
512 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:35
反乱を起こし、兵達を殺したり追い出したりしたものの
その時に一緒に反抗していた自分達より年上の人たちは
長年のこの生活に慣れすぎてしまっていたからか
報復として兵達に再び襲われる事を恐れて攻める事に賛成してくれる人は少なかったという事を聞くと
圧迫され続けたこの国の人達の苦しみが中澤達にも伝わる

そこで若者のみが立ち上がりここまで来たものの
戦うなんて事をした事のなかった集団である事に不安を覚え
新聞に載っている矢口という人物に、今迄何故一人で戦えたかを聞きたかったという

それを聞いた時、この集団も心から争いを望む人はいないのではないか・・・・と感じた

その問いに対しもちろん矢口は、一人で戦ってる訳でもなく
王族を倒すとかそんな大それた事を考えていた訳でなく
なりゆきで巻き込まれただけだと言った

ただ、困った時、自分を助けてくれた仲間がいた事がとても大きく
決して自分が何か特別力を持っている訳ではなかったと伝える

今度の事だって、言い方は悪いがYの国の事に首を突っ込むつもりもなく
ましてや自分がこの国を乗っ取るとかそういう風に見られている事を
不思議に感じていると話した

反乱軍のリーダー格の男も、代表者たちも考え込むだけだった


その間、ひとみは口を開く事はなかった、ただ矢口達が話している横で黙って話を聞いていた
513 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:37
藤本はJの国の王族付きで、紺野も王族付きという事で
興味の眼から質問攻めに会うが、困り続ける紺野に代わって藤本が面白おかしく
周りの若者達に話しているので、かなりの笑い声を誘い人気者となっていた

その藤本がハッと気づき、矢口に声を掛ける

「矢口さんっ、こんなのんびりしてる場合でもありませんよ
一応夕方迄に何かしらの成果を見せないとこの人達の無謀な行為を
止められなくなりますよ」

言ってから全員が気づく

自分達がここに戦いに来ている事を・・・

和やかになりすぎた為矢口が気合を入れて立ち上がると
荷物を捨てて馬に乗る

「そうだったな、じゃ、今度こそ行くぞ、田中、紺野、吉澤」
「「「「はい」」」」

四人も慌てて馬に乗った

「勘太、裕ちゃんの言う事聞くんだぞ」
ウォン【解ってます】

今回勘太は中澤にまかせる事にした
514 名前:dogsU 投稿日:2006/12/04(月) 00:39
「矢口っ、ええか、あんまし無茶すんな
無理やったらすぐにウチらに助けを求めるんやで、作戦通り待ってるから」

矢口が放り投げた荷物の場所へと同じく各々荷物を捨て
仲間達と共に馬に乗りながら中澤が言うと、矢口は笑って頷く

「解ってる、無駄に田中を危険な目に合わせるようにはしないよ、じゃあそっちは裕ちゃん頼んだよ」
「ああ、任せとき、こんだけの精鋭はどこの国にもおらんよってな」

当たり前ですっ姉御、とがははと笑う男達と共に
みんながそこで頷いていた

既に戦が始まってしまっているという最悪の事態は避けられた為
全員ほっとしているのは確かだった

ゆるい空気を払拭するように各自がこれからの役割について真剣に確認しながら話している

その様子を反乱軍が見て、本当にこの人達は自分達の為だけでなく
Yの国の人達の事も考えてくれていると感じた




「じゃあいくで、みんなこれからが正念場なんやからしっかりするんやでっ、ええなっ」

おうっ・・・・雄雄しく響くその声を合図に
中澤と藤本を頭とした部隊が左右に走り出すと、真ん中を矢口達四人が走り出した




突然現れた頼もしい人達の後姿を、若者達はただ期待を込めて見つめた

どうかこの国に本当に希望の光が射しますように・・・・と

515 名前: 投稿日:2006/12/04(月) 00:39
今日はこのへんで
516 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/04(月) 03:04
面白いです。
517 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/05(火) 14:31
カッチョイイです矢口さん。
518 名前: 投稿日:2006/12/10(日) 23:38
516〜517名無飼育さん

もったいない言葉をありがとうございます
年末の忙しい季節、寒さと酒に気をつけてお過ごし下さい
519 名前:dogsU 投稿日:2006/12/10(日) 23:41
矢口以外の三人は、捨てた荷物から抜き取っていた軍服を途中で着用した
矢口達を見た兵達が、一見任務中だと思ってくれる事を狙う為だ

森を抜けて走るとしばらくして門にたどりつく
王都の門は三つあり、矢口らが今まで出入りした門とは違う正面の門
門の上の方ではバタバタと走り回る音も聞こえて来た
矢口達が帰って来たのを伝令しているのだろう

紺野が馬を下り、門の横の柱へ近づくと一つのブロックを押し
次々にブロックを移動させたらハンドルが出て来た
ほぉ〜、と三人が馬に乗ったまま見ているとギギっと大きな門が開き出す

中にはすでに門兵達の報告からか十数人の武装した人垣が出来ており
入って来た矢口達を見て驚きの表情を見せていた
どよどよと伊集院少佐達が帰って来た れいな様や紺野中佐もいる 等と口々に言っている

門兵が戸惑いながらも槍を交差させ矢口達を止める

「通してもらえるかな、任務の遂行結果をしに城に行きたいんだ」

矢口が優しく言う

「紺野中佐の捕獲報告・・・・・ですか?」

集まっていた兵達の銃が紺野に向けられ、矢口がそれを制すように手をかざした
兵が銃を下げ出した為、戸惑いの表情ながらも
まだ自分の処遇は少佐だと思ってくれているようで少しホッとする

矢口の言った通り、いきなり処罰される事は、大佐達や王族に会う迄なさそうだ

「捕獲って・・・・・まぁ、連れて帰ったんだけど・・・・」

矢口も苦笑して紺野を見る

「とあえずどいてくれるかな、急いでるんで」

強引に歩き出す矢口にしぶしぶ道を開ける

進み出した後、後ろで門兵がなぜ開けたのだと上官に叱られている声が四人の耳に届く
520 名前:dogsU 投稿日:2006/12/10(日) 23:45
注目を浴びながら城へと馬を走らせるていると
同じように城に向かっている兵達が矢口達を振り返っては驚きの表情を見せた

城へと到着し、馬を入り口につないで城へと入る

兵の数は少ない・・・というか、事務方の兵しか見当たらない
矢口達が姿を表すと、城の中が一瞬シーンとして
そこに居合わせた人々は矢口達を見ないように俯いて逃げて行く

広場の方に兵が向かっているのが見て取れ
先ほど城に向かっている兵も同様に広場に向かっているたかと四人は思った

自分達が堂々と帰ってくれば、処罰しようと銃を向けるような
独自の判断を下す人物はやはりここにはいなさそうだ

「ん〜、でもどういう事だと思う?あれからどんな指示があってるか知らないけどさ、紺野
少し位おいら達に銃を向ける人がいてもいいんじゃない?」

「そうですね、れいな様がいる事も一つですが、やぐ・・・・伊集院少佐と私が
生きて帰って来た事の驚きがかかわらない様にと逃げさせてるんでしょう
・・・・それよりも民の暴動の沈静化が急務・・・・皆そう判断しているのだと思います」

町の中を通って来て気づくが、前はちらほらと民間人がいて
物資や食料を運ぶ姿が見られたが、暴動が起こったからだろう本当に兵隊しかいなかった
それにいつも銃を携帯し、いつでも戦闘態勢に入れるように言い聞かされているという感じだった

すぐに階段を登って、話し合いの場を設ける為
王族がいるであろう階へ四人で登ると、二人の護衛の兵に止められる

これだけ大騒ぎになっていてこの階の護衛が二人とは・・・・と四人は気が抜けていた

「困ります、あの・・・・れいな様とはいえ、もうこの階への出入りは出来ません
もう何日もここへは誰も入れない事となっております」

松原から指示が出ているのであろう、もし万が一れいなが戻ってきても決して入れるなと
でなければ、一兵が王族に逆らう事はまず無い

だがこの二人を気絶させるのは簡単、三人がそう思った瞬間
矢口はニッと笑って

「解った、じゃあ呼んできてよ・・・・全員」

と、その二人に意地悪をして楽しむように言う
521 名前:dogsU 投稿日:2006/12/10(日) 23:47
志願兵達に会いその心の言葉を聞く迄は
王族に会い話をするのが優先事項にはなっていない
もとより王族の事は中澤隊に任せているのだからここで無理する事はない

「む・・・・無理です、私の命もなくなってしまいます」
怯える二人の兵

矢口が紺野を見ると、やはり引いた方がいいと眼で伝えてくる

「そ、んじゃ先に佐久間大佐のとこに行くよ、じゃあね」

ひらひらと手を振って田中の肩に手を回して階段を降りる

「こんなキャラでしたっけ、伊集院少佐って」

佐久間のいる元自分達がいた階に着くと、田中が回された手に戸惑いながら赤い顔をして笑う

「確かこんなだったよな、与謝野大尉」

後ろについて来ているひとみに顔を向け笑う

「うん・・・こんな感じだったと思うけど・・・・こんな事してて大丈夫?
すぐにでも兵を出して戦闘開始って感じの雰囲気じゃない?」

佐久間の部屋より先にあっち行った方がと
ひとみは視線を逸らしふと窓の外を見て言う

今まだ集合がかけられたばかりの様子の広場に
佐久間はまだ部屋にいるだろうと矢口はひとみに言う

「まぁ、とにかく間に合ったって事ですよね」

紺野がぶすくれるひとみに微笑む

階段の窓から見える広場にはすでに兵達が集合し
今から出撃とばかりに剣を振り上げている兵もいる
まさに今から各町に報復攻撃をする士気は上がっているようだった

先に自分達の部屋に行き、まだ元通りの部屋の様子に
矢口は自分の軍服を探し発見するとすばやく着用する

これで四人の事を知らない人達にもYの国の軍人に見えるだろう
522 名前:dogsU 投稿日:2006/12/10(日) 23:49
その後矢口は注意しろよとばかりに三人に視線をやり
大きく佐久間の部屋をノックする

「どうぞ」

声が聞こえドアを開け、中で外の様子を見ている佐久間大佐と小林大尉を見つける
すぐに下に降りるつもりだったのだろう、帽子も装備も準備万端だ

「・・・・・・・伊集院」

迎えの兵だと思っていたのか、矢口の姿を見て2人の眼が見開かれる

「入ってもいいですか?大佐」

矢口がビシッと敬礼すると、ひとみも紺野も後に習う

佐久間が平静を取り戻そうとして矢口の横の紺野の姿を確認してさらに驚いていた
すぐに平静を取り戻し、小林を見てから2人揃って矢口を見る

「伊集院少佐は死んだと聞いたが?」
「運よく紺野中佐に助けられました」

「・・・・・・・・運がいいなほんとに
・・・・・・・・まさかまだこの国に貴様のポストが残っているとでも?」

「もちろんです、ちゃんと任務を遂行して来たのですから
褒められても罰せられる事はないと思いますが」

四人の顔を一人ずつ見ていきながら難しい顔をして佐久間が聞いてくる

「Mの国の姫は?」
「・・・・・・・紺野中佐だけでしたけど」

佐久間の眉間に皺がより、眼が細くなる
523 名前:dogsU 投稿日:2006/12/10(日) 23:51
「一緒に逃げたのでは・・・」
「・・・・・・いえ」

「嘘をついているではないか、伊集院っ何故問い詰めない」
「何故問い詰めなければならないんです」

「馬鹿者、姫がいなければ当初の目的、矢口をおびき寄せる事も
人質とする事も出来ないではないか」

ついに小林も自分より上官に向かい感情的に言い、佐久間も厳しい表情のまま矢口を睨む

同時にバタバタと部屋の前の廊下に兵達が銃を構えて集まってくる

「やっと帰還してきたのに物騒ですね、ちゃんと任務を遂行したのに」

ひとみがれいなと紺野を部屋に入れて部屋の中からドアの外の兵達を睨むと
その内三人が走って去って行く

「伊集院少佐達もれいな様も死んだと聞いている
下にいる松原大佐が確かめに行って来いとでも言ったのであろう」

戦闘になると血が騒ぐのかすぐに兵達のそばに行き
士気をあげる為に激を飛ばすのが松原大佐だと教えてくれる

だが言い終わった途端佐久間が睨んで来ると矢口も睨み返す

れいなは自分は死んだ事になっているのを知り、俯いた

小林が佐久間を見て困っている、佐久間が怒り始めているのに気がついたのかもしれない

「田中の事を死んだ事にするのはちょっとひどくないですか?」

矢口は口を尖らせ、佐久間に言う

「その口の聞き方は死んでも治らないようだな、任務遂行だと言い張るのであれば
罪人紺野をすぐに牢屋に入れて表へ向かえ、そして、れいな様はとにかく自分の部屋にお戻り下さい」

佐久間は再び冷静さを取り戻したように落ち着いて言う
524 名前:dogsU 投稿日:2006/12/10(日) 23:54
「私でさえ上階には入れてもらえなかった。一体この国はどうなってるの?」

腹をたてたようなれいなの声が佐久間に発せられる

「全く、伊集院が来た頃からどうも城内、いや、この国がおかしくなってしまいました。
だから我々は、わが国の平穏の為に妙な考えの輩を排除しなければならないのです」

矢口を睨んでお前もだとばかりな口ぶり

「なるほど、では、その為においらは尽力しますよ
その為おいらとの約束は守ってもらえるんですよね」

「約束・・・・とは?」

佐久間の顔がまた一段と険しくなる

「佐久間大佐の部隊の内、主力軍をおいらに任せて頂けるという約束です」
「ばかな・・・・Mの国の姫がいないのに任務成功とでも言うのか」

それに本気でそんな約束信じていたのかという嘲笑も見られる

「もちろんです、おいらの仲間になった紺野中佐を危険と知りつつ
ここに戻って来てもらったんですから、是が非でも認めていただかないと」

「仲・・・間・・・だと?」

苛立っている佐久間に矢口は笑って念を押す

「そうです、大切な仲間です。だから牢屋へは入れさせません
それと任務遂行へのご褒美として佐久間軍はおいらにまかせていただきますけど、よろしいですか?」

「馬鹿を言え」

ゆっくりと佐久間が矢口に銃を向けると、矢口は笑みを浮かべたまま自分も銃を構える

矢口の動向を見ようとする佐久間に堂々と矢口も受けてたった
525 名前:dogsU 投稿日:2006/12/10(日) 23:56
「伊集院少佐・・・上官へのそのような言動及び行動は処罰対象になります」

耐え切らなかったのか、あたふたと小林が慌てて言うと

「じゃあ、後ろの兵達も処罰対象だよね、元より先に銃を抜いたのは大佐ですよ」

冷たい声で矢口は佐久間への視線を動かさずに言い、後ろの兵達がビビリ始めた

「なんという無礼な・・・」

小林の狼狽をよそに、ひとみと紺野、れいなは、いつ誰が発砲しても逃げられるよう
2人の気配に神経を尖らせる

「まかせてもらえますよね」

さらに念を押す矢口に冷たい声で答える

「貴様・・・何者だ・・・・ただの山賊ではないだろ・・・・」
「Yの国を思うただの山賊あがりの佐久間部隊の一少佐です」




対峙し、二人の銃口がお互いを狙い静止したまま
緊迫した空気が辺りを包む




二人の視線の中で髪の毛一本でも動けば引き金が引かれるという程の緊迫感




佐久間は考える
いくら前に脅しの攻撃を避けたと知っている矢口でも
本気なら族である自分に勝てる訳がない
しかし、族である紺野とれいなが加われば自分の方が危ない

まがりなりにもれいなは王族・・・・
死んだ事になっていたとはいえ、今手を下してしまうのが本当に得策なのか・・・・
長い時間をかけて、自分はこの地位迄上り詰めて来たのだから・・・・
と四人の視線を受けながら考えていた
526 名前:dogsU 投稿日:2006/12/10(日) 23:58


一方ひとみ達は気配を気にしながらも佐久間がどう矢口に決断を下すのかハラハラしていた



「ふっ・・・・・・前に希望者を聞いた際は五人だったな・・・・
今回も兵自身に選ばせた者についてはまかせても良い・・・・ではどうかな」

迷った上の佐久間の決断
だが今回は一人もいないだろうと鷹をくくっている様子が見て取れる

「いいですね、それではおいらについて来てくれる人には
主力部隊として自由に活動させて頂きますよ、これからのYの国の為に」

「だが私の命令に従わなければ処罰だ」
「そうなりますね」

まだ2人は銃口を向け合ったままで、しかもピクリとも動かずに静かな時が再び流れる
長く続く寸分の隙もない二人の睨み合い

ここで刺し違えてもという四人の真剣な想いが佐久間に突き刺さっているのを小林も感じていた

「王が何と言うか解らんし・・・・お前達が何をしたいのか解らないが
たった四人で何が出来るか・・・・楽しみにしておくとしよう」

緊迫した空気を和らげたのは佐久間からだった

佐久間は一瞬屈辱の顔をして銃をしまい
小林も幾分ホッとしたような表情を見せたが眉間には皺が刻まれていた

冷静を装ってはいるが、佐久間が矢口をお前と言う等、かなり感情的になっている様だと矢口は感じていた

「あ、そうだ、田中と紺野はおいらの上官としてついてもらいますから、それでは失礼します」

矢口も銃をしまいながらひとみ達に親指を立て部屋を出るジェスチャーをする

「何だと?」

指令系統を無視するような発言は、火に油を注ぐようだとひとみは呆れる

睨み合いながら再び銃を取り出しそうな佐久間を見たまま後ずさり敬礼をして
一瞬の笑みを浮かべた後静かにドアを閉めた
527 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:01
今度佐久間と会う時が本当の勝負・・・・矢口はそう考えていた

くるっと振り返るとれいな達に対峙し
震えながら銃を構えている五人の兵達がビクッとして、さらに大きく銃口を震わせた

佐久間に対しての今の態度が五人にはどうにも恐ろしくて震えているようだ

「今の聞いたよね、早く松原大佐に報告して来なよ」

矢口が言うと、五人がどうする?と目で会話した後、全員一気に走って行った


三人はふぅ〜っとやっと息を吐く

余りにも綱渡り的な矢口のやり方が
どうにも心臓に悪いと特に紺野が胸に手をやって息を切らせている

「大丈夫かよ、あんな事言って」

ひとみが矢口に聞く
田中を危険な目に合わせないとか言っておいて今危なかったじゃんと言わんばかり

「さぁ、なるようになるっしょ、それより裕ちゃん達はうまくいってるかなぁ」

あっけらかんと言う矢口は、今佐久間が撃って来ないのが解っていたかのよう
何でそんなに自信があるのか三人は不思議でならない

ひとみは今までの様な矢口のやり方に
また誰にも内緒な何かを隠しているのではないかと少し寂しく感じていた

「多分大丈夫ですよ、中澤さんの町の人達はどうもそんな事に慣れてるっぽかったし」
「そうなんですか?」
紺野の言葉にれいなが驚く

「なにげに言うよな、紺野って、んじゃ、次は下に行くか?」

今度は皆にちゃんと意見を聞かないとな・・・
と矢口は松原との対決も視野に入れて再び気合を入れる
528 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:03
佐久間隊に多くいるという志願兵

下で集まっている兵の中の志願兵の力を矢口は信じているのだと三人は知っている

だがやはり誰もついて来ないのではと思ってしまう
・・・・きっと誰が予想してもそれは正しい判断

それでも四人は、矢口と一緒に本気でこの国を変えたいと思う兵の心を信じる事にしたのだ

よし、と四人は意識を高めながら階段へと向かう



階段を降りていくと上から男が階段を駆け降りて来る

「あさ美」
「お・・王子」

困ったように紺野がその王子を見つめて固まった

弟王子の声を矢口とひとみは初めて聞いた
れいなは今までの癖なのか、肩膝を軽く曲げ右手を胸の前に置き一礼する

「れいなも、死んだと聞いていたので驚いたよ、でも良かった・・・・無事で」

でも父上や兄上がひどく悲しんでいた、ちゃんと謝りなさいと穏やかに言って来る
れいなと挨拶を交すその姿に、兄王子とは違い結構優しそうな人だなぁと矢口とひとみは思った

「真希さんは?」

王子の問いに首を振る
死んだと勘違いしたのか、一度俯くが、紺野を見て少し嬉しそうに言う

「じゃあ・・・・戻ってきてくれたんだね」
「・・・・・・いえ・・・・私は一度この国を裏切ってしまいましたので
・・・・元のように戻る事は出来ません」

悲しそうな顔をする王子は、きっと紺野の事が好きだったんだろうなぁと矢口達は見ていた
529 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:05
「しかし、この国の為に出来る事をとれいな様
そしてここにいる伊集院少佐と与謝野大尉について来る事にしました」

視線を矢口達に向けると、王子が少し厳しい顔つきになる
その視線は、今まで紺野に向けている優しい眼差しではなく、さげすむような視線

れいながそれを見て話し出す

「父と王に会えませんか?」

「馬鹿な、もうすぐ民衆の処罰に向かう為王も兄上も直前迄休んでおられる
れいなの事でも毎日心痛のようだったのだ、今は無理だ」

「何故民を処罰しなければならないのです、王子には国民が苦しんでいるのが解りませんか?」

今にも掴みかからんばかりに近づこうとするれいなを矢口が押さえる

「今苦しんでいるのは私達王族だぞ、何を言っているのだれいな」
「どうしてっ」

悔しそうなれいなをついに背中に押しやり弟王子の前に出る矢口
その矢口を王子が苦々しく見下ろす

「君達は何かと話題の志願兵だよね」
「ええ、何が話題か解んないけど」

キャラを崩さず普通に会話する矢口に、益々機嫌を悪くする

「そもそも志願兵ごときがあさ美やれいなと馴れ馴れしい口を聞いてもいいと思っているのか」

ついに声を荒げてしまった

「そんな事を言うのをやめて下さい、れいなは伊集院少佐と与謝野大尉を信頼しています
こんな風に会話してくれるのを嬉しいとも思っています」

れいなが必至に言う
530 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:07
「なるほど・・・・・・松原や佐久間が、危険人物と言うのが解る気がするよ
れいなまで手懐けてしまうとは・・・・綺麗な顔をして恐ろしい」

「王子っ、私もこのお2人をとても信頼してます
王子にもきっと解ってもらえると思います、人は皆仲間になれるという事を」

紺野が笑って弟王子に懇願する様に言う

「志願兵ごときを仲間とは・・・・・変わってしまったな・・・あさ美
・・・・・Mの国の姫と会ってから・・・・本当に変わってしまった」

「れいなは紺野中佐の事を、悪く変わったとは思いません
きっと元々こういう人なんだと思います」

王子はれいなにも悲しい顔を向け

「はぁ、一体この国はどうなってしまうのだろうか」

と呟き、寂しそうな背中を向けて上へと戻って行った





四人はしばらくそこで佇んでいたが、矢口の一言で空気が動き出す

「大丈夫か?紺野・・・田中」

その声に2人は顔を見合わせてすまなそうに頷く

特に紺野は自分が付いている王族の王子が、自分では何もしない人だと矢口達に知られてしまい
なんとなく恥ずかしいという気持になっていた

真希が来る前の紺野とれいなは、お互いにこの人は他の人と違うと思っていながらも
それほど親しく会話するほどの関係ではなかった

れいなの立場が特殊である事が主な原因でもあるのだが
紺野も今の弟王子のようにこの国の風習に逆らう程の気力は持ち合わせていなかったのだ

矢口と出会い、自分が本当はどうしたいのかが解った
だからきっと下に集まる兵達の中にもこんな自分達みたいな人はいるはず

そんな事を考えていると、二人の様子からか、矢口が先に中澤と会うか
さっき佐久間に言われたように下へ行ってあの兵達に紛れ意見を聞くか聞いて来た

二人は、気丈に言う、今迄の方向性通り下へ行って
新聞を読んだであろう兵達の今の気持を探った方がいいのではないかという結論になった

「んじゃ、吉澤、気配に気を付けて、下に行くぞ、紺野は田中を守ってやってくれよな、何かあったら」

「解ってるよ」「はい」と2人は矢口の後をついて下へ向かう
531 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:08



532 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:11
その少し前、中澤班は城壁の一番端っこまで来て山を登っていた

普通の人間なら絶対に登れない断崖絶壁を
全員ピョンビョンと力を使って一気に登る、もちろん勘太も

そして、距離的に城壁の一番近くになった場所から一気に城壁の上へと飛び移り
目に付く限りの見張りの兵を一気に気絶させ縛って行く

「ちょろいな、簡単やん、こんな城に入るん」

中澤の言葉に全員が頷く

全部で30人の部隊だけど、中澤はこのまま戦っても勝てるんちゃうかと思っていた

見張りの兵隊の銃を全部もらって紺野に教えてもらった通り
城の裏から入る中への道を行こうとするが

「ちょいまってぇな、なかざーさん、下の様子がおかしいで」

耳のいい加護の言葉に
向こうの方に点々といる見張りの兵達に見つからないよう壁に隠れていた全員が
くびれている城壁の間から下を覗く

中澤達の入った場所は町の方とは違い城の後ろにある馬小屋や使用人の住居の方で
沢山の兵に囲まれた使用人の姿が見えた

「ほんまやな・・・何やってんやろ」

眼を瞑って加護が神経を尖らせる
533 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:12

「なんか・・・・見せしめとしてどうのこうの言ってるで、あのえらそうな兵隊さん」

それを聞くと隠れたままこそこそと中澤達は集合する

「考えられるのは、あの集合してる反乱軍が攻めて来た時に
あの人達を処刑するつもり・・・・逆らうとこうなるでってな
反乱が起こってどれくらいか知らんが
きっとここに入って来る物資や食料が底をつきはじめてんちゃうかな
それで焦って勝負に出るって事かな
ウチらに言わせればあほかっちゅう感じやけどな」

「ひどいっすね・・・・でもあの位の人数だったら
俺らで全員やっちまえますよね、行きましょうか」

「う〜ん、しかし、騒ぎは起こすなって矢口に言われてるしな」

結構頭に来る事の多い国だから、冷静に対処してねと矢口にきつく言われている

「予定通り、城へ入って矢口らの様子見て王族を拘束する方がええかもしれへんな
あれ位ならいつでもやれるし、ほな行くで」

下へ降りる階段の所へと隠れながら移動を開始する
534 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:14
一方藤本班は、森の中で城壁の上の見張りの兵から隠れながら城壁へと近づいていた

「ココまでが限界だね、見つからずに近づけるのは」
「そーだね、じゃあそろそろ行って来ま〜す」

藤本がそう言う辻の肩に手をやって心配そうに言う

「気をつけてねのの」
「ほ〜い」

心配そうな藤本にのんきに返事をして
一人で一瞬のうちに城壁に沿って離れた場所に力を使って飛んで行き
姿を表すとてけてけと城壁に近づく

「何だっ、お前はっ、どっから来た」

城壁の上から兵の声が響く

「あの〜お父さんに会いたいんです」
「はぁ?」

藤本達の近くにいる見張りの兵達が辻と話している兵に気づきすばやく近寄って行く
535 名前:dogsU 投稿日:2006/12/11(月) 00:16
藤本が合図すると、中澤の仲間の中で牛追いの投げ輪の名人と名乗る人が
力を使って飛べる所まで行き縄を投げ城壁の窪みにうまく縄をかけた

藤本は口笛を吹いてしまいそうだった

あまりに完璧に縄がひっかかったので

すぐに一人がするすると縄をつたって上に登り
城壁の上にスタンと降り立ち回りを見回し続けと合図する

三人が登った所で、辻の所に向っていた兵達の一人が帰って来る気配を見せ
まだ下にいた仲間が少し離れて辻を見守っていた藤本に言う

藤本が上に向かって手でやっちゃえと合図すると
その瞬間戻ってきた兵の姿が消えた

どうやらうまく音をたてずに気絶させれたようだ

そして辻を相手にしている兵達も次々に姿が見えなくなる

兵達がいなくなり、仲間が顔を出したので
辻も手を振ってからてけてけと藤本の所に駆けてくる

「美貴ちゃ〜ん、怖かったよぉ」

抱きついてくる辻

「えらいえらい、よく頑張った、うまくいったよ、さ、早く登っちゃおう」

すべての仲間が登った後、辻と藤本が登り
最後に縄に結んでいた武器を引き上げてから縄を外した

その城壁の上にいる見張りの兵をすべて縄でしばり
隠れながら下への階段へと向う

中澤達が入った城壁と真反対の場所
そこの城壁の中は兵達の住居とみられる町が広がっていたが兵らしき人影は無かった
536 名前: 投稿日:2006/12/11(月) 00:16
今日はこのへんで
537 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/13(水) 03:35
待ってました。すごく面白いので頑張ってください。
538 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/16(土) 12:12
今晩あたり更新されるかな?
いよいよですね。楽しみに待ってます!
539 名前: 投稿日:2006/12/17(日) 14:48
537〜538名無飼育さん

なんだか楽しんで頂けてるようでとても嬉しいし
励みになります。

レス本当にありがとうございます。
540 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 14:52
城の下へ降りた所でついに誰もいなくなってしまった広い吹き抜けの
廊下の先の出入り口に松原が現れる

「お前、生きていたのか・・・・」
「ええ、松原大佐が急所を外してくれたおかげで一命を取り留めました・・・
しかも紺野中佐に助けていただきましたし」

それを聞いた松原の怒りの視線が隣にいるれいなを捕らえ
矢口がその視線から庇うように出て松原を見てニヤリと笑う

四人がいつ松原が襲って来てもいいようにと銃に手をやり臨戦態勢に入る

松原は鼻で笑うと

「紺野中佐も・・・・・よくここに姿を見せれたものだな」

と呆れる様子なだけで攻撃してくる様子は無かった

「はい・・・・・大変申し訳ない事をしたと思っています・・・・・
しかし、この国に少しでも恩返しが出来ればと思い帰って参りました」

「恩返しだと?ふざけた事を・・・・それに佐久間の下につくつもりか牢屋ではなく」

元々中佐として松原の下にいたという紺野

「はい・・・・ですが佐久間大佐の下ではありません、れいな様の下で手伝わさせていただきます」
「ハ?そんな勝手な事・・・まかり通る訳あるまい貴様は罪人なのだ」
「そんな事させませんっ」

松原が一瞬発言したれいなを睨み、れいなの強い眼差しに視線を下げた

ひとみは今までのすべてのやりとりを冷静に見る事が出来ていた

それぞれの人生のそれぞれの戦いが始まっているんだと

そして、自分はその戦いに役に立てるようにと銃を握る指に力を込める
541 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 14:55
キッと再び松原の視線に精気が戻り

「れいな・・・・・もうこの城にお前の居場所はなくなっているのだ
何も出来ない子供は黙って私の言う事をきいていれば良かったものを」

自分の娘は本当に死んだ・・・・・そう言い聞かせるような表情

「そうでしょうか、田中はあなたの人形でいる事を苦痛に思っていたのではないかと思いますが」

矢口の言葉と同時に松原の剣が空を切る

矢口は瞬時にれいなを押しやり横へと避け撃とうとして銃を取り出したひとみの手を止めた

人間では絶対に避ける事は出来ない速さだった為、松原が気づく

「怪しいとは思っていたが・・・怪我の治りといい、その判断力といい・・・・貴様、族だな」

松原の怒りが表情に表れる

「ええ・・・・だから生きていられました」

紺野・れいな・ひとみの手にすばやく銃が構えられ
少しでも松原が動こうものならすぐに相手をする体勢に松原はピクリとも動く事ができない

松原にとってこの国の中では味わった事と無い危機感

・・・・いや、今迄感じた事の無い身の危険

ギリギリと悔しそうに噛み締める口がしばしの沈黙の後、開かれる

「佐久間大佐の部隊の事に口を挟む事は出来ないが
そううまく貴様の思い通りに行くと思ったら大間違いだと思え
わが国の誇りを守る戦いがじきに始まる」

隙あらばすぐにでも始末するぞという視線
ただ横暴なだけではなく、従順なYの国の兵を演じている風な姿だったが
実は逃げたのだと四人は思った

松原は四人の強さを認めた

それともいくらでもチャンスはあるとでも思っているのかもしれない
だから、この五人しかいない空間でのここでの処遇を諦めたようだが
この四人は危険だ・・・・とギリギリと歯を噛み締める


又は今迄命がけで守って来た我が娘が矢口達を守ろうとしている姿が
他の人には解らない程の衝撃を与えていたのかもしれない

この国の一兵がこんな事をすれば瞬時に殺されるに違いないのにそれをあきらめさせる程
542 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 14:58
追い討ちをかけるようにそれを聞いてれいなが聞く

「なぜ民と戦わないといけないのですか、松原大佐」
「一般人が我々に逆らうとどうなるか、見せ付けないと国は治められない、お前たちのような奴らにもな」
「そんな事はないっ、争う事では何も解決しないっ、私がそんな国を変えて見せますっ、この人達と」

松原の目が恐ろしいくらいに見開かれ、言葉を発したれいなを凝視する

「れいなはもう死んだ・・・・・好きにすればいい・・・・・
但し・・・・私は認めないし、王族も断じてお前を認めないだろう
いずれにしろ死はすぐに訪れる事になる、覚悟しておけ」

松原が本当に娘と決別した瞬間だった

松原が踵を返し再び城から出てった


ようやく緊張が解けると、ほっと息をつく矢口達

「田中、大丈夫か?」

れいなの背中をポンと叩く矢口と、ひとみが田中の頭を撫でると
田中は手を小刻みに震わせていた

「れいな様・・・・私が命に変えてもお守りしますから、頑張りましょう」

紺野もれいなと眼を合わせてうなずき合う

王族との話し合いの場へは、まだまだ道が険しいようだ

とにかく集まっている兵の今の心を知らなければならない・・・
松原の後を追うように広場へ向かう
543 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:02
そこには今まで知る事の出来なかった数のこの国の兵が集まっていた
確実に今まで予想していたより多い人数である

色々な町を納めていた兵隊がここへ逃げて来たのだろう
そして事務処理の人達も借り出されてるに違いない

しかし、旧Eの国がシープに攻めて来た時は推定1万五千
ダックスとバーニーズへの攻撃の兵も加えて考えると5万人はいたと考えられる為
この国でこれが全員かと思うと少し少ない気がしてならなかった

よく見ると、周りを取り囲んでいる地方から来た部隊は怪我をしている人ばかり
それに一様に疲れており、隊列を組む事無くぐったりと座り込んでいる

兵と城の間には帰還式の時にも使用されていた壇が設置されており
壇上王族達の椅子の後方に大佐が三人椅子に座っている
その壇の向こう側には、隊列とは別に松原軍が隊列を見回すように整列していた

そんな中に綺麗に隊列を組んで真ん中の方に固まって座っている王都の兵達がざわめく
松原軍の兵達の中にも驚きの表情が広がっていた、他の兵達同様、矢口達の姿を見たからだ

松原が壇に戻り既に座っている大佐の横に座って睨む中
矢口達は平然といつも端っこに隊列を組む佐久間の隊列の横へつき同じように座ると、久しぶりの空気に包まれる

先に会ったであろう松原の若干後ろから歩いて来た為に、帰還を許されたのか?と戸惑う兵達

なにより死んだと聞かされたれいな
逃亡中で指名手配中の紺野が平然と矢口と共に隊列を組むのだ

「死んだかと思ってたのに・・・・」

すぐに仲井少佐が戸惑いながらも冷たい顔をして矢口に言う

「残念でした〜、それにおいらの勝ちだよね、紺野中佐探して来ちゃったもんね〜」

にかっと笑う矢口の前でひきつる紺野とれいな、そして後ろにはあきれ顔のひとみ

志願兵の意見を聞くどころじゃなくなってしまったその場の雰囲気

それに、今の態度に仲井少佐も中佐もキレたようだ

「今どういう事態になっているのか解っているのか」

少し大きな声で言った為、もとから注目されていたのにさらに広範囲の兵達の視線が注目する
544 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:04
「大きな声出さないでよ、それでこんな風に隊列組んで今から何しようっての?」

既に知っている事をあえて聞く矢口

「そんな事より、紺野中佐・・・・よくここに平気で顔を出せますね」

仲井が紺野に冷たい視線を浴びせて大きな声で言うと松原が壇上でにやりと笑った
下の兵同士で争わせるのを楽しむかのよう

「あれ?上官にそんな口聞いていいの?おいらずっと上官に生意気な口を聞くなって怒られてるけどさ」
「ふっ、何をばかな、謀反を起こした兵がここに戻って無事なわけはあるまい」

せせら笑うように周りにいる上官達も頷いている
頷いている松原の姿を横目で見ていたからだろう

「へぇ〜、まぁ、無事でいられるのは確かだよ、んで、何すんの?」

あまりに自信たっぷりに矢口が言う為、上官達はあっけにとられる

「あの・・・・城壁の外に集まっている一般人を始末しに行くんです」

矢口達の後ろから、おずおずと小さな声で志願兵が言う

「おっ、ありがと、でもおいら今外の人達に会って来たけどなぁ」

矢口の一言にどよめきが広がる
紺野が慌てて矢口の腕を触り、そんな事を言っていいのかという眼で見た

だが矢口はもう志願兵の意見を引き出しにかかっている為止まらない
545 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:07
「でもさぁ武器もろくに持たない、この国を支えている人達を始末したら、困るのはここの兵達だよね」

それを聞き、仲井が剣を抜き矢口に向って立ち上がると真っ直ぐに突きつける
人の集まる場所での銃の使用は危険だと兵達も解っているのだろう

王都の隊列では一番端っこだが
すぐ周りには地方兵の人達が冷めた目で矢口達を見ていたから

「貴様のような、ただの志願兵ごときが、我々誇り高き兵を愚弄するとはっ
もう許さんっ、この前は遊びだったが今度は許さんぞっ」

仲井少佐の言葉の後立ち上がる矢口

ここで仲井少佐をやるのは簡単・・・だが・・・と矢口が一瞬迷うと
下から腕を引っ張られひとみが立ち上がり矢口の前に出てくるので皆驚く

「伊集院少佐の敵じゃないですよ、ここは田中部隊、大尉の私が相手しましょう」

後ろから背中を見ている矢口は目を瞬かせて驚き、それを見てさらに激怒した仲井が怒鳴る

「貴様ごとき大尉が、俺に敵うはずがないだろうっ、どけっ」

剣を振った少佐の周りはザザッと空間が開き
ひとみが、そばで立ち上がり笑って見ている仲井の上官の中佐に聞く

「先に剣を抜いたのは仲井少佐ですが、私がここで剣を抜いた時は謀反という事になるのでしょうか」

いつも感情的なひとみの冷静な対処に矢口は成長を感じていると共に少し寂しい思いを抱く

「・・・・・・・・まぁ・・・・志願兵ごときが仲井少佐に勝てる訳はなかろう」

はっきりと言わずに暗に処刑を先刻する中佐に上官達が頷くと、ひとみは視線を矢口にやり頷く

「皆さん聞きましたよね、じゃあ死んでも文句はありませんね、許しが出たって事で」
546 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:11
れいなが心配そうに矢口を見たら
矢口が大丈夫と言うように紺野と頷き合ってるのを見て少し安心する

矢口も紺野も仲井少佐の実力は解っている、それにひとみの実力も・・・・
二人共ひとみの努力の結果は少佐に勝ると思ったのである

遠くで松原がほくそえんでいるのをひとみは見て、かなり悔しいと思ったが
矢口達が自分を信じてくれる事で冷静になれた

そして二人は睨みあいながら前に少し歩き、広い場所へ行くと
全員が注目する中で剣を構え真剣勝負が始まった

一方的に仲井の攻撃が続き、ひとみはそれをきちんとかわし続けた

ひとみの中では始まった瞬間に勝利が見えていた
ここでこいつを殺すのがいいのか、ただ負かしてしまえばいいのかで攻めあぐねていた

矢口は犠牲者を少なくしたいとひたすら願っているのだから
こんな奴だけど、殺してしまってはいけないだろうと心を決めた
一撃で戦意を失わせるには・・・・と

すぐにその後決着がつけた、ひとみが舞うように身を翻した瞬間
仲井の剣を持った手をが飛び、同時に繰り出された蹴りで倒されると
のた打ち回る仲井の背中に足を置き剣を目の前の土に突き刺した

あまりに華麗な身のこなし、そしてその剣の速さが見ている沢山の兵達の口を開けさせた

「どうやら田中部隊の方が、格が上のようですね」

仲井の悲鳴に近い声を足蹴にして、ひとみの低い声が響く

「与謝野大尉っ」

その直後矢口の声と共に姿が消えひとみが突き飛ばされると
寝ている仲井の体に数発の銃弾が打ち込まれ動かなくなった

同時に紺野がれいなを庇うように座らせた途端
立っていた仲井の上官の中佐の額にも銃弾が打ち込まれていて
ゆっくりと倒れてしまった
547 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:16
「松原大佐っ」

紺野に支えられたれいなが叫ぶと、その戦いを見ていた兵達の視線が松原へと注がれる
撃ったのは松原だと全員が認識した

「他の部隊の事に口出しはしたくないのだが、あまりに佐久間部隊が滑稽で
そんな姿をさらした二人にはそのまま消えてしまった方が本人も幸せだ」

このまま好き勝手にはさせないとばかり
いつのまにか壇中央に出ていた松原が片方の口を歪ませて笑う

飛ばされたひとみは、上にのしかかる矢口が少し痛そうな顔をしているのに気づき

「傷・・・・まだ痛いんじゃ」
「しっ」

小声で言うと黙ってろとばかりに立ち上がった

さっき一瞬矢口の姿が消えたのを見て、兵達が驚くと共に
松原が仲井を殺した事や、また何か恐ろしい事が始まる予感に再び沈黙した

立ち上がった矢口がキッと松原を睨み、すべての兵達の注目を浴びながら
つかつかと壇上に上がろうと、松原の元へと向かって行ってしまう

向かってくる矢口に一発銃弾を浴びせると、苦も無く矢口はそれを避け何もされていないかのように
ただ怒りのオーラだけを身に着けて壇上へと上っていく

やはり強い・・・と松原は皆の前での戦いを迷う

「お前の望み通りになったのだ、感謝しろ、これで佐久間大佐の主力部隊は実質貴様のものだ
だから伊集院少佐は、黙って自分の部隊へと戻れ
その手腕で表の奴らを始末しまくるのだ、これは王の命令、背けばもちろん罰する」

・・・・と何故か求心力のある矢口達をあえて容認し、自分の度量の大きさを誇示した松原

矢口達が次に自分達や王族に背き行動を起こせば即刻死刑

兵達の目に解りやすい構図が出来上がった

だから松原の行動に、佐久間の部隊がざわめく

矢口はどちらを選ぶのか
548 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:20
だが壇上に上がった矢口は、そんな事をもう気にしていない
怒りのオーラをまだ纏い、松原に堂々と対峙した

「なぜ仲井少佐を殺したんです・・・・・与謝野大尉が折角わざと殺さなかったのに」

「だから殺した、格下の志願兵などに情けをかけてもらう仲井少佐のような馬鹿者は
このYの国の誇り高き兵には必要ない」

矢口に突き飛ばされたひとみも立ち上がりその様子を見つめ
れいなや紺野もハラハラしながら心配そうに見つめた

そしてその言葉を聞いていた兵達がこそこそと周りの兵達と話し出した

「誇り高き兵とは何ですか?仲井少佐だって仲井少佐なりの誇りを持っていたと思います
たとえそれが滑稽だろうと間違っていようと
その誇りに決着をつけるのは、あくまで自分自身で決める事が兵隊としての誇りではないでしょうか」

睨みつける矢口に近づき、さらに威嚇するように上から睨みつけ松原が口を開く

「この前までただの山賊、いやはぐれの族だった貴様に兵の何が解る
族だったという事を隠し、我々をだまして少佐になった貴様のような
志願兵本来なら即刻死罪っ、それを免罪にしてやっているのだから
黙って我々の言う事を聞いておればいいのだ、それ以上私に意見すると本当に首を飛ばす」

兵達は矢口が死を選択したと思うと共に
小さな・・・本当に忘れていた何かが心に蘇ったのを感じた

「飛ばしてみればいい、おいらは族だけど、与謝野大尉はついこの間まで戦う事を知らないただの一般の人間だった
それが仲井少佐のような生まれてから戦う事を教え込まれた人に勝てるまでになった
それなのに与謝野大尉の誇りを、努力を・・・
今松原大佐は汚した・・・・
与謝野大尉が判断した、仲井少佐を殺さずに倒すという判断を松原大佐が勝手に決着をつけてしまった
おいらはそれが許せない」

そう言って後ろに少し離れ、真っ向から松原に剣をつきつけた矢口の背中をひとみは熱い視線で見つめた
549 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:23
「この兵達の前で今、お前は謀反を起こした
殺されても文句は言えなくなった・・・・・それでもいいのだな」

「かまわない・・・・おいらは松原大佐に勝つから・・・・
そうすれば、ここに集められた兵達を城壁の向こうで生きる為に必至になっている・・・
この国を支えている人達を死なせなくていいと思っている・・・
それは・・・・それはおいらの誇りだっ」

最後の力強い言葉に、集まった兵達はシンと静まり返る

壇上の後ろで座っている三人の大佐や、前列にいる他の部隊の上官達も
どうなるのだろうと静観していたが、その眼は笑っている

決して松原を応援しようなどという仲間思いの目ではない
やっかいな志願兵を相手にしてしまった馬鹿な松原を面白がるような視線

それが矢口には腹が立ってならない、誇り高きYの国の兵達は
仲間が自分のようなはぐれの族上がりの兵に戦いを挑まれているのに
どうして松原を応援しようとしないのか・・・・・

「そこに座っている大佐達は、松原大佐と同じ思いですか?」

矢口が松原を睨みながら、高みの見物をしようという三人の大佐に向って声をかける
急に話しを振られた大佐達は一瞬固まるが、すぐに冷静を装い答える

「もちろんだ、松原大佐はわが国の誇りを背負って反逆分子である貴様の勝負を受けてくれると言っている
貴様は相手をしてもらえる事に感謝しなくてはならないな」

「それにもう戦いは開始されている、お前ごとき志願兵、例え族であってももう止まりはしない
城壁の向こうにいる反逆者達はきちんと始末する、でなければわが国の誇りは保たれない」

「たった2人でこの流れを変えようなどという馬鹿な誇りは捨てて
我々の為にその族の力を発揮した方が賢いと思うがな」

三人が口々に矢口を馬鹿にする様に話している時に
佐久間と小林がいつのまにか近づいていて、この様子を眺めている事に松原が気づいた
550 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:26
「佐久間大佐、見ての通り、あなたの部隊の少佐がこんな大それた事をしてしまってるぞ
部隊の違う私が彼女を始末する事に対して何か反論はあるか?」

「もちろんありません、私がこの者達の実力を買ってあげたのに
恩をあだとするような事をしでかしてくれ、まさに私が始末しようとしていた所ですので感謝する位です」

頷く小林を従えてそう言いながら他の大佐の所へと歩いた

れいなや紺野は姿を消して瞬時に壇上に上がり
それを見たひとみも壇上に走り寄り壇上のれいな達に並び矢口の後ろに立った

「伊集院少佐だけを戦わせる訳にはいかない、少佐の上官は私です、少佐は私の命令に従って下さい」

れいながそう言ってズイッと松原と矢口の間に立った

「田中・・・」

「そうですね、城壁の向こうにいる人達やこの国の為に
みすみす伊集院少佐を殺される訳にはいきません、先に私が相手致します」

「紺野・・・」

やはりれいなに並び矢口の前にでる紺野

「たった四人でこの人数相手に何が出来る・・・・馬鹿が」

松原も剣を抜くと、思わぬ所から声が上がり始めた

「四人ではないっ」
「俺らも共に戦うっ」
「そうですっ、たった四人ではありませんっ」
「私達も元は自分の国の人達の為にとここに来た者です、伊集院少佐と共に戦います」

等と佐久間軍の列から志願兵達が次々に声を上げ立ち上がり出した

その輪が他の部隊にいる志願兵にも広がる
551 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:32
「ふっ、やはりいつかはそう言いだすと思っていた
丁度いい、その者達を捕らえろ、裏の者達と一緒に見せしめにする」

「裏の者?」

矢口がそう聞きなおす時には
志願兵の近くにいた他の兵達が捕まえようと動き出し、集団は騒然としだす

抵抗する志願兵を殴りつけ、捕らえようとするが
逆に志願兵が他の兵を捕らえ出す

「志願兵といって馬鹿にするがっ、我々だって毎日訓練していたのだっ
いつまでも弱いと思ってもらっては困る」

なかなか騒然とした雰囲気が治まらない中で松原が動かないかと気配をみながらも
脇の方でぐったりしていた他の町からの兵達の視線が
怒りの視線になっている事を壇上の矢口達が気づいていく

それと同時に争う兵達に向かって隊長らしき声の号令を合図についに松原軍が一斉に動き出す

争いを仲裁に各自がムチを持って争いの中に入っていき、次第に沈静化しだした
松原隊は、誇り高きYの兵が見苦しいと厳しくムチを振るう

立ち上がった志願兵の気持ちが嬉しい四人だったが
まだ松原軍の壁があった事にどうしようかと頭をフル回転させる

兵は今ここに集まり、町の中にはきっともう誰もいない
ならば兵を少なくする為にあっち方面に向かった藤本達は無駄足

紺野に頼み藤本達を連れてきてもらい松原隊と直接対決するか・・・・
などと考えている間に徐々に騒動が沈静化されていった

壇上の五人がその様子を見ていたが
松原は自分の部隊が効果的に動き出した事に満足しているような表情をし、
矢口に強い視線を浴びせながらも近くにいた兵を手招きして呼びつけこそこそと何か指示をしていた

また松原が動き出す

今、四人を攻撃する素振りを見せない松原だが
どうするつもりなんだろう・・・矢口達は後手に回っているのかと頭を悩ます
552 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:37
紺野が矢口の耳元に囁く

「中澤さん達はどうしましたかね」
「うん、多分今頃上の王族と話してるんじゃないかな、でも裏の者ってどういう事だろう」
「見に行って来ましょうか」

一番戦闘能力の低いれいな、だが動きは族の為早いと判断したのかれいながその会話に加わる
だが矢口は三人の大佐達の横に座る佐久間に目をやりながら

「いや、松原が今何かし始めたみたいだからすぐに解るはず、それより佐久間の動きに注意しとけよみんな」

どうやら今は中澤達にも応援を頼む気はないようだ

三人も頷き、後はこの騒動がどうなるのかを心配そうに見つめた

やはり紺野も位置的に近い場所にいるだろう中澤達と合流し
松原隊と直接対決してみないといけないのではないかと思っているようだ

静まって、いつのまにか志願兵が前へと突き出され集合させられ
銃を構えた松原の兵達に囲まれた

人数の減った中央部分の王都の兵達が勝ち誇ったように前方の志願兵達を睨む


やはりこの国の兵達の意識を変えるのは難しいのか?

矢口達はさっきより余裕の表情になった松原を睨みつけたまま動けない




すると



効果的に働いた松原軍の隊長達三名が壇の下へ来て
矢口に視線をやると敬礼しだす


矢口は瞬間その中の一人があの時に見た顔だと気づく

「伊集院少佐、我々はどうすればいいでしょうか、どうかご指示を」

隊長の真ん中の男が矢口に聞くと、王都の兵達がどよめき、大佐四人も驚きの顔をした

そして一番驚いているのが、満足そうな顔をしていた松原だった
553 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:41
「何・・・を言っている、お前達は私の下であろう」

「いえ・・・・我々部隊は、誇り高きYの国の兵隊であります
よって伊集院少佐に指示を頂きたいと思います」

松原軍の後ろにいる志願兵達もただただざわめく、何が起こっているのか全く解らずに

れいなや紺野も予想出来ない展開に眼が見開かれていたが
一人だけ、ひとみだけはやっぱりという表情をして優しい眼差しで矢口を見る

「おいら達は、そこにいる勇気ある志願兵の人達と城壁の外にいる人達と協力して
各町への信頼回復に力をそそぎたい、それに協力してもらえるんですか?」

矢口が落ち着いた声で真ん中の隊長に言うと
矢口が見た事のある顔と思っていた右にいる隊長が敬礼を崩さないまま言う

「ええ、私の部隊の部下の命を、自らの命を懸けて迄守って頂いた伊集院少佐と共に
わが国の為に働きたいと、皆思っています」

あの時、自分とれいなの延長戦上にいた兵の一人、そしてあの町のおばあさんの事を庇った事
それをこの人は見ていたんだと気づく

「ありがとう・・・・・なんか・・・・すごく嬉しいです、それにあなたは私が刺された後
戻ってきて雨に濡れないように軒下まで運んでくれた方ですよね
あのおかげで私は今ここにいます・・・・本当にありがとう」

矢口は感動の面持ちで右の隊長と微笑み会うと、三人に頭を下げた

その姿に松原軍が満足そうに笑みを浮かべ、その姿が実に誇らしげだと他の部隊には見えてしまった

志願兵も、他の兵達もさっきまでの矢口のふざけた態度が
自分の部下ではないが確実に自分より位が下の兵達にきちんとした態度を取っている事に
不思議な気持を持つとともに、矢口という人物の本当の姿を見た気がした
554 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:44
その雰囲気を壊すように、ワナワナと震える松原が低い声で言う

「私を・・・・裏切るのか」

壇上から紺野とれいなが隊長達を庇うように壇の下に移動し、松原を睨む

「私達は、この国に仕えています、あなたにこれ以上
私達の国の権威をおとしめてもらいたくない・・・・・そう考えました」

真ん中の隊長が少し怯えながら言うと、松原は壇の後ろにいる大佐達に視線をやり

「・・・・・・わかった、大佐達・・・・この者達も処刑してもかまいませんね」
「・・・・あ、ああ、それも致し方ない、松原大佐ご自慢の精鋭部隊が抜けるとわが国としても痛いが・・・・・これもこの国の他の兵に示しがつかない」

一人がそう言うと、少し困ったように隣の大佐が言う

「しかし、松原部隊がいなくなると・・・・・」
「国王の判断に任せては」

次第に弱気になる大佐達に、矢口が口を開く

「佐久間大佐・・・・兵自身に選ばせた者についてはまかせてもらえるんですよね、先程伺った話では」
「伊集院少佐について来る人については、自由に活動してもよいと、私はこの耳で聞きました」

矢口に続き、紺野も佐久間に話し掛ける

「確かに・・・しかし私は、謀反のお前達をもう少佐とは思っていないし
最後は王の判断に任せると、そう伝えたはずだが」

佐久間が平然とそう述べると、城の裏から兵達に銃を突きつけられ
連れて来られた二人の使用人達が現れるのが矢口達の目に入る

「「あっ」」

れいなと紺野が声を出す
555 名前:dogsU 投稿日:2006/12/17(日) 15:49
「佐久間大佐の言う通り国王の判断に任せるのが一番いいだろう
私としてもこんな事はしたくないのだが、この2人と同じ使用人が裏に集められてある
どうせ見せしめとして殺す前に、この者達の意見も聞いてみよう
伊集院少佐が言うわが国を支えてくれる人達の代表としてな」

矢口の耳にれいなが自分達の付き人ですと伝える
どうやられいなと紺野がここにいた時に世話してくれていた人らしい

「お前達は、ここで働かせてもらいながら、本当は自分達がこの国を支えているとでも思っているのか」

壇上に上げられた二人の前に立ち聞く

「そんな・・・・そんな風には考えた事もございません
私達は兵隊様のために使える事を喜びと考えてますので」

「そうだろう、ならば、そんな健気なお前達を槍玉にあげて
正義を振りかざすようなこの者達の事をどう思う?」

「・・・・め・・・・迷惑です・・・・伊集院少佐達は
先日いらしたときから、私達に話し掛けては、使用人を困らせてばかりで、
私達は、兵隊様の為に喜んで働かさせていただいているのに・・・・」

「どうだ・・・・・伊集院少佐のやってる事が必ずしも正義とは言えないという事だ・・・・
この者達のような国民が各町に沢山いるのに、城壁の向こうにたむろしている
わずかな若者達の一方的な思い込みの言葉に惑わされた少佐は
やはりこの国にはふさわしくないのではないだろうか・・・・・・
その上私の部隊までそそのかす始末・・・それをふまえて国王に判断してもらうおう
・・・・・まぁお前達にはもう死しかないがな」

なんとも言い難い松原の苦しい言葉に
れいなと紺野、その後ろの松原軍の隊長が反論しようと口を開きかける時
付き人の二人が連れて来られた場所の方から声が響く
556 名前: 投稿日:2006/12/17(日) 15:50
どこで切るのか解らなくなったので、とりあえず今日はここ迄にします
557 名前:538 投稿日:2006/12/17(日) 20:10
いやいやいや!めっちゃ気になりますから!

続き下さい〜(T-T)
558 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/26(火) 17:33
同じく気になってます
お待ちしてますー
559 名前: 投稿日:2006/12/26(火) 22:54
557:538さん
何度もお待たせして申し訳ありません

558:名無飼育さん
気にして頂き感謝です

中途半端に切ってしまいすみませんでした
焦らす程の内容ではないのに本当に申し訳ないですm(__)m


560 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 22:57


「あんた、随分自分勝手な人だよねぇ」

「そうだそうだ、大人のくせに、子供みたいにっ」


松原も大佐達も声のする方に注目



「いい?今から起こる事とか、この国にとって、ううん
自分にとってきっと重要な事になると思うからちゃんとその目で見て、自分で考えて下さいね」

ぞろぞろと怯えるながらついて来ている使用人達に言いながら歩いてくる藤本と
腕を組みながらムスっとした顔をして歩いてくる辻
その人達を守るように前を歩いてる中澤の仲間達も頷きながら意気揚々と現れる


矢口とひとみ、そしてれいなと紺野が一瞬目を合わせる

何も言わずとも計画を変更し、行動してくれた仲間の登場に矢口達は少し笑顔になる



「何者だっ、誰かあいつらを取り押さえろっ、侵入者だ」
「お前達早く捕らえないかっ」
「なぜ侵入者がいるっ、後日警備兵を処罰だっ」

もとはといえばたった二人の侵入者が次々に思いもよらない事件を引き起こした為
イライラしていたのか松原に続き他の大佐達も大声で叫ぶ
561 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:00
だが壇上をただ見つめる地方兵はピクリとも動かず
一番藤本達に近い王都の部隊が一瞬戸惑った後
「おとなしくしろっ」等と藤本達に声をあげながら部隊二つが一気に剣を抜いて駆けていく

後一歩で兵達が藤本達に達する瞬間

藤本達全員の姿が消え、あっという間に百を超える兵達がごろごろと転がり唸り声を上げた
しかも全員剣を叩き落され、銃も遠くに飛ばされてしまっている

何が起こっているのか壇上の数人以外には何も見えていなかった

本当に一瞬の時間での出来事に
他にも動き始めていたすべての兵達の動きが止まり
再び姿を現した藤本は既に壇上近く

歩きながら剣を松原に突き刺しながら叫ぶ

「矢口さんの言った通り、ここの国・・・・いや、この城の人達めちゃくちゃ頭に来ますね」

よく通る藤本の声に一瞬シンとなる



そしてその後一斉にざわめきが広がる

その原因は誰もが聞いた事のある名前

新聞でしか見た事のない名前の人物がここにいる?

そんなどよめき



「貴様何を言っている」

大佐の一人が叫ぶと、ざわめきも静まる




隣の佐久間がハッと矢口に目をやり呟く

「怪しいと思っていたら・・・・・・お前が矢口だったとは」


にこっとする矢口

「だから言ったでしょ、Mの国の姫は必要ないって」


矢口が佐久間に言いながらも、怒りのオーラを漂わせている松原を監視するように再び睨む
562 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:03
元松原隊も、志願兵達もこれよりも目が開かないという位の驚きの表情をしている


矢口はそれを感じ

「ごめんね、おいらみたいなどこの誰とも解らないおいらの事信じてくれたのに・・・・・
でもさっき言った事も田中や紺野を助けたいと思ったのも全部本気だから・・・・・
だから・・・・私達は絶対に、戦は開始させないっ」

松原に対し強い口調で言った矢口


今度は前に集められていた志願兵の後ろの方から声が響く

「その通りやでっ」
「せやっ、ウチの親びんの言うとおりしてればみんな笑顔になれんねんっ」


王と王子2人、女王と王女
そして黒岩将軍や王族を呼びに行ったであろう護衛の兵達迄が縄でしばられ
中澤達にそれぞれ腕をつかまれて現れた


今迄この国の人達が誰一人見た事も想像した事もない

"王族"が縛られている映像

ここにいる兵や使用人にはとても信じられない光景だった





「国王っ、王子っ」
「裕ちゃん、加護」

瞬間、松原の声と矢口の声が重なる
563 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:06


信じられない光景に一人の大佐が呟く

「黒岩将軍ともあろう方が・・・・どうしてそんな奴らに・・・」
「うるさいっ」

苛立つ黒岩将軍



王族以外では一番の地位を確立し
実力も群を抜いていると皆が信じていた将軍が
突然現れた輩にあっけなくやられたという事実

「ははん、ちょっと年取り過ぎてしもたんや、しゃ〜ない事」

王の綱を持つ中澤は余裕の表情で言う為
兵達が、まさかこの女に負けたのかと信じられない表情を見せる

「強かったんやけどなぁ・・・・ちょっと現場から離れ過ぎてたなぁ、将軍はん」

これでもかと中澤を睨む黒岩将軍はワナワナと震えている
佐久間が一瞬動こうとすると

「おっと動くなよ、見ての通りウチら全員族やねん、まぁそれでも勝負するっつーなら勝負すんで」

言い放ちながら王を引っ張り銃を王に突きつけ笑う

隙の無い視線に
ピクピクと佐久間は中澤と矢口を交互に睨み唇を噛み締める
564 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:10
どうやら今迄の矢口達のやりとりは、中澤達や藤本達に全部見られていたようだ

難しい事をいとも簡単に成し遂げる仲間達・・・・
壇上の四人は本当に頼もしい仲間がいてくれて良かったと心を熱くした

大佐達や松原も、藤本に続き中澤達の登場にはもう口を開きっぱなしで
何の言葉も発する事が出来ないようだ

「でもほんま頭くんねんっ、藤本の言う通りな
いきなりなんやけど自己紹介させてもらうで、うちは中澤裕子
中には聞いた事ある奴もおるかもしれへんが
族の町とされている三つの町の近くで
はぐれの族だけを集めて町を作ってるもんや、よろしゅうな」

既に壇上近くに来ていて呆然としている大佐達に向かって
笑みを浮かべながら王族達を引っ張る中澤

「私は、Jの国の王族付きをしていた藤本美貴
矢口さんに出会って一緒に旅をしているんだよね」

やはり壇の反対側には既に近づいていた藤本達が中澤達と合流し壇上に上ろうとしていた

「「んでっ、ウチらは矢口さんの子分や」」

一瞬で矢口のそばにやってくる加護と辻は
矢口の前に斜に構えて立ち松原を睨んだ

そして一斉に両方から「全員矢口さんの仲間だっ」と叫ぶ族達に
兵達の顔がキョロキョロと行き来し唖然としている

ゆっくりと中澤達が大佐達に銃を向け、動かない様にと睨みながら王族を壇上に上げると
中澤の町の族達が佐久間達の後ろに銃を構えてずらりと並び睨みつける


とても大勢が集っているとは思えない程シンと静まり返っている広場
565 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:12

そこへ

「大変でありますっ、見張り兵が全員・・・・・・何も・・・の」

遠くから空気も読まず突然一人の兵が叫びながら走って来たが
すぐに状況を察して立ちすくんだ後慌てて踵を返し走り去った



「大丈夫ですかね」

心配するれいなが呟く

「大丈夫だよ田中ちゃん、もうあっちの町の中には城壁の上で縛り付けた見張りの兵位しかいないから
裏の兵も全員縛ってる
こんな状態なら多分全員で美貴達にかかって来たって勝ち目ないでしょ」

藤本は若干今の状況を楽しんでるように見える

「あぁ、そうです・・・ね」
複雑な心境のれいな

「そ、後はこの状況をどうするか・・・・ですよね中澤さん」

「せや、まぁあんたらの国がどうなろうと、ウチらは全然かまへんのやけどな
この矢口がここの中に幸せになって欲しい人が出来てしもたから
わざわざこんな遠くまでウチらは来たんや」

「ほんとですよ、美貴は旧Eの国の復旧に関わってしまったばっかりにほっとけなくなって
愛する人をおいてまでこんな遠くまで来てしまったし」

矢口と睨みあいながら動けない松原の後ろに立ち監視するように睨みつける藤本


「ちょっといいかな」

突然話し出す吉澤に、矢口も一瞬振り返り
ひとみは矢口と視線を交わした後松原や王達を見回す

「ずっとあんたらが言ってた事、矢口さんがこの国に報復してくるだの攻撃するだの
いい加減にしろっつーの、だいたいあんたらの思い込みで矢口さんを悪者にすんなっ
ってずっと言いたかったんだ・・・・・
ちなみにウチは吉澤ひとみっつー本当の名前があるんだけどね」

にやりとひとみが佐久間を見るとやはり眉間に皺を寄せ矢口を睨んでいた
566 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:15
「さぁ国王さんよ、さっき矢口がそこのおっさんとやりあってた
主力兵をまかせるという話はどうすんのん」

中澤に押されて数歩動き、壇上の松原に近づく国王

「ま・・・・・・・松原・・・・いいからこの者達を早く始末しろ」
「言ったはずやで、全員族だって、まともにやりあえば、死ぬのはそっちや」

多数の銃を突きつけられて動けない佐久間達の後ろにいる中澤の町の族達も頷く

集まっている兵達もさっきの人数の兵があっという間にやられたのを見て、それを実感していた
やられて蹲っていた兵達が立ち上がれずにまださっきの場所に転がっているから

「ほらっ、そこの使用人の二人もさっきの発言は本心?
今のウチだよ、ずっと溜まっていた事、今言っちゃえ」

藤本が壇上の紺野とれいなの付き人に言う

「「・・・・・・」」

ここで言う事が出来ればこの人達だっておとなしく付き人はやっていなかっただろう

二人共下を向いてしまって静かな時間が流れる




「俺らの町の人達はいつも怯えていたっ」

その静寂を破り、以外な所から声が聞こえて来た

「民はいつもこの王都に貢物を運ぶ為に寒さに耐えっ、飢えに耐えて運んでいたんだぞっ」

遠くの方から地方兵達が叫び出す
567 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:16
「それを俺らは見ぬふりをしながら強要して来たっ」

「貢ぐ為に苦労するなら、逆になろうと志願兵になったが、ずっと・・・・ずっと苦しかったっ」

「新聞だと俺らだけこんなに苦しんでるじゃないかっ」

「この国だけでなく、他の国を苦しめてるのが本当に自分の国なのかと新聞で見て目を疑ったっ」

「俺らはこんな滑稽な事を誇りと思って上からの指令を守って来たのかっ」


王都と違って地方兵は、代わる代わる王都からやってくる上官以外は志願兵が多いのが現状
暴動で上官の方が先にやられてしまった為、直属の上官がいないせいか、口は軽いようだ

「もう兵の誇りが何なのかとか解んね〜よっ」

「仲間の命を返せっ」

「だいたいお前らはあの民衆の切羽詰った怒りの目を見たのかっ」

「殺されてった仲間の兵達が、どれほど悔しい思いをして死んでいったか
王都の兵達やお前らは解るのかっ」

そうだそうだと地方兵が叫ぶ
568 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:19

そんな声が飛び交っている中、矢口が国王に言う

「国王の為に民衆がいるのではない、民が幸せに暮らせるように国王がいるのです
その事に田中は気づいた・・・・そして一人で苦しんでいた
だから、おいら達は応援した
紺野も一人で苦しんでいた・・・・だから協力した
・・・・・・それはおいら達が仲間だから」

矢口に後押しされるようにれいなが切羽詰った声で話し始める

「国王、父上、私は矢口さんや、皆さんに色んな事を教わりました
仲間の大切さや本当の誇りが何かを・・・
だからもう、これ以上国民の・・・・城壁の外の人達を殺さないで下さい」

れいなの必死な姿声で、矢口達の声を聞こうと地方兵も徐々に静まっていく

王都の兵も戸惑ったように壇上の行方を見守っていた


すっかり静まると


「れいな・・・・・残念だ・・・・・」

ポツリと呟かれた王の言葉にまたれいなが俯く


一斉に矢口達はため息をつく

「なんで残念やねんっ、自分の孫がこんなに立派に国の事考えてんねんで
しかもまだ子供やのに、ウチは褒めてやってええ思うねんけどな」

国王の綱を持った中澤がちょっと引っ張りながら言っている

王に普通に突っ込む中澤に兵達は驚きを隠せない
569 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:21
「私は国王だ、貴様達のような奴に屈し、今までの国のあり方を否定する事は出来ない」
「そうだ、わが国の誇りの為に、早くこいつらを何とかしろっ」

王に続き、中澤の仲間達に捕まれたままの第一王子が、前にいる王都の兵達に言うと
銃を持ってどうしようかとざわざわして、隊長の何人かが構えておけなどと指示しだす

ここで一斉に撃ったとしてもきっと目の前の族達には適わないと誰もが感じていた
だが今迄王族の命令に背いた者はここにいる人たちには一人もいない



この国と、王の為に・・・・



今迄それが当たり前で、それが自分の誇りと思ってきた



真の誇りとは?兵達の中にもそんな思いが渦巻いていく




先程の王と王子に続いて弟王子も紺野を見て悲しそうに言う

「あさ美・・・・本当になぜこんな恐ろしい人達と仲間だなんて・・・・・
そのままおとなしく国王の言う事をきいていたら・・・・死ななくてもいいのに」

何の時代の流れも見えていない弟王子にまた紺野は悲しい顔をし

「私は、王子のようにただ自分の運命を人任せにするような人生を歩みたくないのです
・・・・・王子もそれに早く気づいて欲しい」

その王子が怒ったような表情を浮かべる頃には、前の兵達の中で銃を構える人が多くなる

並んでいる大佐達や王族を盾にしながら同じように銃を構える中澤の仲間達
570 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:26
「私はあさ美の為を思っているのに・・・・」

繋がれたまま唇を噛み締める弟王子に矢口が言う

「ずっと言いたかったけど王子、大切なら
大切な人程自分で守ってあげたいと思いませんか?
この国や、国王達に紺野を守ってもらおうと思っているだけでは
紺野の事を本当に大事にしているとはおいらは思えない」

「せやで、そしてな、あんたらに解ってほしいんは、大切な人がおるんは自分達だけやないって事や
ここにいる兵達にもきっと大切な人がおる思うねん
そしてこの国に住んでる人たちにもな、それは皆一緒やで」

そんな中一瞬の人影が城の入り口方向の城壁に隠れたのを藤本が見つける

「その通り、そして中澤さんっ、矢口さんっ
さっきの見張りの兵の人達が来たみたいですよ、何か報告したい事でもあるんじゃないですか?」

王達や大佐達もその方向をちらりと見る

「何もせぇへんから、こっち来てこの現実をよう考えや、それとも何かあったんか?」

中澤が微笑みながら優しい声でその方向に叫ぶと

城壁に隠れていた人影がまたさっと隠れたが
やがて観念したのか一人・・・・また一人と出てくる

緊迫した雰囲気となったその場所に、先程城壁の上の兵がやられた事を伝えに来た兵を含めて
ぞろぞろと歩いてきた

「おはようさん、お目覚めのようやな、見張りの兵隊さん」
571 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:29
中澤の声に松原が話し出す

「お前達が、この者達の侵入を許したのだな」
「・・・・・・姿を見る事もないまま、気絶させられて・・・・・・それより外が大変なんです」

自分の窮地を感じ、イラつく松原に向かって兵が少しムッとして答える

「自分の落ち度をごまかそうとしているのか」
「そっ、そんなつもりはっ・・・・ただ、Fの国とHの国の兵達が集結しているものですから」

松原の怒りを見た兵は慌てて言う


その頃には王都の兵達は、はっきりとどっちが不利なのかを感じながら
今、この状況を王達はどうするのかを探るような目をして立っている

自分達が本当にやばい立場にいると解って来ているようだ

「へぇ、Hの国も来たんか・・・・Fからはウチらんとこに使者が来たから来る思てたけどな」

きっとFの国に置いてきたここの兵達はもうおらへんで、あんたらのせいでな・・・・と中澤

「貴様らっ、やっぱりこの国をのっとろうとしているだけではないかっ
いいから撃てっわが国の為にこいつらを殺すんだっ」

王の言葉と同時に中澤が指示を出すように頷くと
大佐達の後ろにいた中澤の仲間以外が待ってましたと一瞬にして消え
銃を構えている前列の上官兵の銃を
見事なまでに蹴り落としては壇の前に銃を投げて、兵達を次々に蹲らせていった
572 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:32
銃に手にやる者を見逃さない仲間達

兵達は怖くて引き金さえ引くことが出来ない


風と共に見えない何かに襲われる恐怖が兵達を襲う
本物の族に初めて触れて感じる恐怖

身動きが取れなくなった兵達はもう静かにするしかなかった


銃を取り上げていた中澤の町の族達が壇の周りに次第に姿を表す

「言うたやろ、戦って死ぬんはそっちて、おとなしく矢口や、志願兵?達に協力してあげれば
外とも戦わんでええねん、その為にはあんたがここの皆の為に
まずは表の民衆との戦をやめると決断をしてやればええねん、なんやねんっ、乗っ取るって」

「そう、だいたいここの使用人の人達にもちゃんと感情があって
この人たちがいないと兵達の生活もままならない事を認めないと始まらないっしょ」

中澤に続き藤本が睨みを聞かせて国王に言う

「・・・・・・・・」

だが国王の口は開かれない


「伊集院少佐・・・・もとい矢口さん、どうか我々にご命令下さい」

元松原の隊長三人が今こそ号令をとれいなと紺野を前に置いて命令を待っている

その顔は、もう迷いはない

とるべき道を決めたという決意の顔
573 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:34
元松原の兵達及び志願兵も一歩乗り出し矢口を見つめている

「黙れっ貴様らっ、謀反の罪は重いぞっ、いいから誰か早くこいつらを捕らえないかっ」

松原のイライラは頂点を極め
聞いた事のない声で叫ぶが、その声はもう兵達には届かないようだ

「王が・・・・・この国がどうなってもいいのか・・・・」

動き出したこの国を実感し始め

ついに松原の目から涙が溢れだす


背後の藤本、前方では矢口や紺野、れいなに迄銃を構えられたまま動けない松原は
がっくりと膝から崩れる

それを見て国王・・・・王子達もがっくりと膝をついてから座り込んだ

隊の前の方にいる上官達は中澤の仲間の族にほとんど銃を取られ
地方兵達は立ち上がって怒りの視線で王都の兵を取り囲んでいる


すると王都の兵達からも不満の声が上がり出す


「自分達だって好きで新聞を見た人たちを殺したりしていた訳ではない」

「そうだっ、俺達だって王族達のせいで毎日ここでビクビクしていたんだっ」

「だいたい他の国迄手を出す必要無かったんだっ」・・・・とここぞとばかりに言い出した


騒然としてきたその場を矢口達は寂しい気持になって見ていた
574 名前:dogsU 投稿日:2006/12/26(火) 23:35


戦意を無くした松原への銃を下ろし、ただ騒然とする広場を眺める



さっきまで、ここにいる上官達に絶対服従するように語っていた兵達が
不利だとわかると手のひらを返し出した集団がなんだか悲しかった

松原はがっくりとしながらも涙ながらに兵達に向け怒りのオーラを発し
佐久間達大佐も小林と顔を見合わせて、悔しそうに眉間に皺を寄せていた




矢口をずっと後ろから見ていたひとみが肩口まで顔を寄せ囁く

「ウチらがついてるから・・・・」

振り返るとひとみが優しい顔で微笑んでいる


矢口にとっては後ろ向きな変化は悲しい事でしかなく
まさにそんな変化になってしまった為に弱気になっていた時の事だったので
とても温かく背中を押して貰った事に感謝する

そして、あの夜以来、こんなに近くにひとみが顔を近づけて来た事に少し動揺していた・・・


こんな状況にあるのに関わらず・・・
575 名前: 投稿日:2006/12/26(火) 23:35
今日はこのへんで
576 名前:538 投稿日:2006/12/26(火) 23:44
お待ちしておりました!
更新お疲れ様です。
毎回毎回先が気になって仕方ありません。
次回も楽しみにしてます!
577 名前:777 投稿日:2006/12/27(水) 00:57
更新乙です!
毎回楽しみにしてます♪
やぐっちぃいいいいいいいいいさぁあああああああああん!!
578 名前: 投稿日:2007/01/01(月) 22:02
新年あけましておめでとうございます

576:538さん
 いつも楽しみにしていただいてありがとうございます。

577:777さん
 なんだかパチンコに行きたくなりました
 すみません、変な事言って
 レス本当にありがとうございました。
579 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:04
「矢口さんっ突破口は開けたんじゃないですか?もう後はまかせた方がいいかと思いますけど」

壇上にいた2人の使用人を、いつのまにか向こうの使用人達の所に戻した藤本が
矢口の近くに寄ってきて言うと兵達が静まっていく

「せや、ウチらはここの国を乗っ取ろうとしてる訳やあらへん、自分らの決着は自分達につけてもらお」

「うん・・・・・国王・・・・まだ間に合います・・・・無益な戦いを回避出来たんです
これからこの兵達や、国民が笑顔で暮らせるように・・・本当の誇りを持てる国になる様どうか努めて下さい」

矢口がそう声を掛けながら松原と同じように崩れ落ちていた国王達の
しばられた綱を取り上げナイフで縄を切って行く

大丈夫?と心配の視線の中澤達をよそに王族の縄を切り終わると
まだがっくりと膝をつく松原に声をかけた

「松原大佐には、とても誇るべき娘がいる・・・・大事にして下さい」

今までの伊集院少佐の時のキャラと違い、いつもの矢口の言葉に戻っている


王族達の縄を切ってしまうリスクより、国王達のれいなへの愛情を信じた矢口
中澤達からの助言をきっと理解してくれると踏んでの行動だった

もしそれでも今迄のようにするのであれば・・・・
見守る兵達はもうこの王族達をこの国の代表者だとは認めないだろう


れいなが壇の下から声をかける

「母上・・・・一緒に・・・・・この国を作り直そう」
580 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:06
そんなやりとりについに兵達が拳をあげて叫び出す

「何言ってるっ、こんな状態にしたのはその国王だろっ」
「そうだっ、やっぱり許してはだめだっ」
「国の混乱と、今迄犠牲になった仲間達の命の責任を取れっ」

そうだそうだっ・・・と
国王の糾弾と上官の責任を問うという声が上がりだす

今迄押さえつけられていた感情が壇上にぶつけられる



すると突然

「私は何もしていないわっ、こんな事になるなんてっ
全くこんな国になんて来なければ良かったっ」

「私だってこんな国の事好きじゃなかったものっ」

騒然とする中、私達は王達とは関係ないわっ
と女王達が次々に言葉を発すると力を無くしていた王達が刺すような視線を女王達に向ける

矢口とひとみ達がおそらく次に行動するであろう佐久間の気配を気にしていると
がっくりと落ちていた松原の姿が消える

しまったと矢口と中澤が一瞬反応し遅れた時にはすでに松原が銃の山へとたどり着いて
両手で銃を持ち王女達や大佐達に向かって乱射していた

瞬時に姿を消す矢口や藤本・中澤達
ひとみは加護と辻に守られるように壇の下に倒されていた
581 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:09
矢口と中澤より少し、ほんの一瞬早く松原に向かって動いていたのは紺野

壇上には真っ赤になって次々に倒れる人間達

弟王子の視線は松原の前にいる紺野に
そして小林は逃げていった佐久間に視線を向けやがて動かなっていく
大佐達や王女達は、悲鳴を上げながら倒れすぐに動かなくなった

紺野のすばやい行動に気づいた矢口は佐久間を

中澤は国王達を視線に捕らえ追っていた


紺野は松原の心臓辺りを前から一突きにしていた
動きの止まった松原は紺野に抱きつくようにゆっくりともたれかかる



騒然としていた兵達が、突然の銃声に声を失う

シンとなったその場で、唖然とするれいなの眼が見開かれ、やがて叫ぶ



「母上っ」



すまなそうな顔で、松原を寝かせる紺野は走り寄り立ちすくむれいなを黙って見るしかなかった

れいなの悲痛な叫びを聞き舌打ちした矢口は
松原の銃弾からいち早く逃げていた佐久間の前に回り込んで動きを止め、銃を構えあっていた

一方国王達は、壇から城の入り口へと少し行った所で中澤と藤本に先回りされ動きを止められた
国王達は能力を開花させていたからだろう、人間にはとても無理な速さで、王女達を置いて姿を消したのだ
悔しそうな顔で立ち尽くす国王と王子・・・国王を守るように前に立つ黒岩将軍
582 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:12


今までのすべての動きは、ほんの数秒の出来事

とても人間にはついていけない世界



一瞬の間に、今迄恐れていた松原が紺野に刺され

壇上で今迄力を持っていた第二王子や王女・大佐達が血まみれになって倒れ

城の入り口付近にはこの国を握っていた人達が矢口達に今息の根を止められようとしている


兵達がこの人達・・・・
矢口達に勝つのは無理だと思うのに十分な状況だった


だが何よりこの国の王が、兵達も妻達も置いて逃げようとしたのだ

矢口達に指示を仰がなくても決断は下る

呆然とするれいなの後ろに立っていた三名の隊長が

国王達の近くにいた元松原兵に向かって指令を下す

「王族を処刑せよ」
「佐久間及び各部隊上官を捕獲っ」

ハッという声と共に中澤達が離れ、元松原軍が一斉に射撃

松原軍の銃弾に、再び逃げようと後ろを向いた国王と王子があちこちから血を吹きながら倒れていく
のたうち回り、振り返った王と王子の顔は恨みが募った表情
撃った兵達がひるむ位恐ろしい形相であったが・・・・やがて息絶えた

その銃弾さえも避け逃げようと離れた黒岩将軍には
中澤と藤本の剣が襲い、赤い血が噴出する
583 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:15
松原隊の射撃兵以外は既に志願兵へと動きを指示し、上官達を捕獲しようと剣を抜く

抵抗する上官の剣と松原軍の剣が音を立てだす

苦戦する志願兵を元松原隊がフォローしていき
整列していたYの兵達も上官捕獲に手を貸していた

その様子が気になった矢口が目を離した一瞬の隙に佐久間が動く

「チッ」とすぐに矢口が追い、それを見ていたひとみも追う

「よっちゃん親びんなら大丈夫やでっ」
「行かない方がいいかもっ、二人にさせてあげてっ」

背中から意味ありげな子分達の言葉・・・・・

矢口は何を隠しているのだろう

まさか二人は昔からの知り合いだとか?

みんなからは見えない場所
既に城の入り口辺りの広場から銃声が聞こえ、ひとみは釈然としないまま走る



先程松原が乱射した弾は近くの上官の兵達数人をも殺しており
使用人達はキャーキャーと逃げていった

実力的に強いとされる上官達が数の差に徐々に捕らえられると
今迄静観していた一般兵達が逆上し、捕らえられた上官に向かって今度は暴行しだす。

今までよくも威張り腐ってくれたなと、今までのうっぷんを晴らすように蹴ったりしている
今度はそれをやめさせようと中澤達の仲間達も志願兵達も忙しそうだ




「なんか・・・・この国ややな」
「うん、醜いね、親びん悲しそうな顔しとったし」

加護と辻が騒然としたその状況を壇上から見て呟く
584 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:17
そんな雑踏を遠くに聞きながら城の入り口付近

誰一人いない場所で佐久間を捕らえた矢口

さっき互いに銃を撃ち合ったが双方が巧みに避けあい当たらなかった


互いの銃の弾が無くなると同時に剣を抜いたが
一瞬矢口が早く剣を喉元につきつけ動きを止めた

「逃げるなんてどういう事ですか?佐久間大佐」
「貴様が矢口だと気づいていれば、あの時止めはしなかったのだが」

剣を突きつけられて苦笑している



「もしかしたらさ」

そこまで話した所でひとみが走ってきた


ちらりとそれを見た時にスルリと佐久間が突きつけられた剣から身を逃がしたが
すぐに気づいた矢口は再び剣を交わしながら対峙した後、言葉を続けた

「佐久間大佐・・・・本当にその名前は自分のもの?」

突然の質問に動揺したのを矢口は見逃さなかった

「貴様とは違う、誰に聞いても解るはずだが」

ひとみもそのやりとりを見て驚く、やはりまた矢口は自分に言わなかった事を言っていると

「和田っ・・・・て名前ではないですよね」



佐久間は答えなかった
585 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:18
そして佐久間が腰に隠していた自分の銃を取った為、矢口が一瞬離れ
ひとみの場所を確かめながら佐久間への攻撃の糸口を探ると
佐久間は自らのこめかみに銃を当てて撃っていた

「佐久間っ」

撃たれると思って離れてた矢口は、その行為を止めるのが一瞬遅れる



こめかみから血を流し、目を瞑ったままゆっくりと後ろに倒れていく佐久間大佐


「くそっ、聞き出せなかったか・・・」

黙って倒れた佐久間の死体を見つめる




「矢口さんっ、どういう事?」


「・・・・・・・」


駆け寄ったひとみに矢口は何も答える事は出来なかった



「また・・・・・隠し事かよ」

ひとみが悔しそうに呟くと踵を返して雑踏へと戻って行った


「よ・・・吉澤」

矢口は追いかけて話し掛ける
586 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:21
「待てよ、隠し事じゃねんだよ
おいらの勝手な思い込みだからまだ話す段階じゃなかっただけで」

「いいよ・・・・別にそんなに慌てなくて、いつもの事じゃん
それよりあのどうしようもない兵達はどうすんだよ」

いつもの事と言われ矢口は言葉を失い

それを見てひとみが行こうと言う

動揺しながら矢口が雑踏へと視線を移すと
上官を蹴り飛ばす兵達を、中澤や藤本、加護や辻、それに中澤の仲間達
元松原隊や志願兵がまだ止めていた

地方兵達は、その光景を呆然とただ眺めているだけだった

れいなは紺野に支えられて呆然と松原の死体を見つめている

だんだんと志願兵を罵るYの兵達は縄に巻かれていく
族と解っている人の言う事に聞く耳を持たないという程、今まで溜め込んでいたのだろうか

「こんなはずじゃ」
矢口が呟きながらひとみと走る

矢口達が走って戻る頃、中澤と藤本が壇上で天に向って何発もの銃声を響かせる

「やめぇ言うてんのやっ」
「見苦しいよっ」

「裕ちゃん」

ひとみと共に壇上に駆け寄る矢口

「どないしよかっ、なんか胸糞わるいここの兵達」

銃声に驚く兵達が徐々に静かになっていく
587 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:25
「矢口さん、ここは私にまかせて下さい、そして間違ってたら言って下さい」
紺野に支えられたれいなが真っ赤な眼で言う

「うん」

優しく答える矢口に、だんだんとれいなも落ち着いてくると

れいなが紺野の手から離れ
背筋を伸ばしてきりっとした顔を丁度近くにいた元松原隊の隊長達へと向ける

するとすばやく次の指令を聞く為に元松原隊隊長が前にやって来る

全員の注目を浴びるれいなが前に出てス〜ッと息を吸い込むと

「私は、今まで父達が行なってきた事で沢山の町の人達を悲しませた事に対し謝罪し
城壁の外の人達と共にこの国を作ってくれる人以外・・・・・
兵から民になってもらいます、その為に一人一人の意見をあなた達の部隊と
最初に勇気を出してくれた志願兵に見極めてもらいます」

そこまで話すと一度矢口を見る

「うん、いいと思うよ、田中」

その言葉を聞いてから隊長達が聞く

「れいな様・・・・・その役目を私どもに一任してくださるのですか?」

「はい・・・・あの中で、勇気を出してくれたあなた達は、私は信頼出来ると思いました」

隊長達が一度矢口を見て頷くと

「わかりました、それでは部下に指令致します、志願兵への指示は?」

壇上付近が注目を浴びだした為に、志願兵達も松原隊も前に集合してきだしていた

すべての上官が今捕われの身となり、今までの命令系統は意味をなさない

「それはおいらが言いに行くよ、田中の命の素に同じ事をね
これからのYの国を作るのはここにいる田中を中心にしたあなた達なんだから」

矢口が田中に微笑む
588 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:29
「ようし、こうと決まったら、ウチらはまだおかしな事する奴らがいぃへんか
監視させてもらうとしよか?」

「そうですね、それともう夕方ですし
外の人たちにも知らせに行かないとあの人達が動き出しちゃいますよ」

「ああ、伝令にはおいらが行くよ、それと、門はしばらく開放しよう
出て行く兵は勝手に出て行けばいいし、もしかしたらこの国を造っていきたいって兵も増えるかもしれないしな
どうだろう田中・・・・そんな所で」

「はい、その通りでいいです」

それぞれが行動を開始し、矢口は一旦志願兵に伝令を伝えに行くと
よく帰って来てくれました等としきりに歓迎の声をかけられた

矢口を中心に円になる志願兵に説明をしてから壇の近くに帰って来る

壇の近くで王族の死体を片付けている元松原隊の人たちを目で追っている田中に声をかける

「ここにも民間の人たちが暮らせるようにした方がいいよ
兵ばっかりじゃここは暮らしていけない、今までのやり方を変えるのなら
まず民が暮らせる家を沢山作らないと、それと、下の森の中に沢山温泉があるだろ
あれを生かせばいいよ、きっと人が集まる」

「せやな、それに、あの使用人達も生かすといいかもな」

中澤がその話に入って来る

他の人たちは武器を全て取り上げられ、志願兵達と元松原軍とをペアにして面接を行なった

殴られていた上官や、前のやり方に固執する人については一度縄で縛って
ここの広い牢屋へと入ってもらう事にし、れいなに協力してくれる者達は家に帰らせる

事務方についてはほとんどが進んでれいなの国造りに協力してくれると言ってくれた

地方から逃げてきていた兵達には、今から城の外にいる民を連れてくると言う
自分達の町の人たちがきっといるから
ちゃんと話し合うようにと言ってまわり同意を得た
589 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:33
解放される門には中澤の町の族が門番としてつき
矢口は中澤、藤本と共に反乱軍へと馬を走らせた

すでに戦闘態勢になっていた反乱軍とFとHの国の軍からも
矢口達の姿が見えたのか代表者が何人か近寄って来た

FとHの国の人たちには、もうYの国から兵が行く事はないと説明し
帰って自分達の国を繁栄させるように言う

Hの国が、幾分納得いかないような感じでぐずったが
もとはのんびりした国の為、Yの国が反省してもうこっちに来なければいいと引き上げ出す

その二つの国にも、矢口は念を押す、これからは国と国の交流をもっと盛んにして
仲良くやれるよう今後代表者に立つ人に伝えてもらえないかと

それから、反乱軍が王族達の失脚に勢いづいて戦いたがる若者達に
もうあっちの兵達に戦う気力は残っていないと伝え、一緒にあの中に入って欲しいと言う

武器は取り上げてあるので、自分達の町の兵達がいればその人たちと話し合い
自分達が中心となって街づくりして欲しいと伝えると、ぞろぞろと全員城へと続いてくれた

保田や新垣・小川は待っている間それぞれ他の国の取材をしており
結果を聞いて中澤達に詳しく話しを聞いた後すぐに第一報の新聞を作りに帰っていった

反乱軍とYの兵達の話し合いは夜通し続き
途中喧嘩になりかけるのを中澤の町の人たちや矢口達が仲裁・助言をして
日が昇った頃にはなんとか話がつき
すぐにそれぞれの町へ帰って話し合いをするという事に落ち着いた

王都の旧松原軍と志願兵、その他れいなの国造りに賛成してくれる兵も
共に地方兵や反乱軍に混じり話し合いに加わる事にしており
今迄意見する事が出来なかった国政についての話し合いは白熱した

残るはほとんど考えを変えない上官や元々兵の家に生まれ
この制度が身に付いてしまっている兵達をどうするかだった

まだためらっている多くの兵達はきっと牢に入り
自分達がきちんと国を造っていけばきっと賛同してくれるだろうと踏んでいたが

新しい国づくりやれいなに断固としてついていかないと断言する者達
特に今迄権力を欲しいままにしていた上官達は
決してれいなに賛同しないだろうというのがほとんどの意見だった

590 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:36
だから朝方には、一旦休憩の後昼過ぎに民や地方兵と共に
松原軍と志願兵達が各町へと出発する前に、全員処刑するべきだとする意見で一致していた

れいなや紺野、中澤や藤本、中澤軍の人もその意見に合意するが、
矢口と加護・辻だけは何か納得いかない

しかし、多数決で圧倒的な意見になった為、有無を言わさず処刑する方向で決着する


一応の決着がついた朝方、すべての者達は眠気に襲われその場でうとうとしだし
広場では既に各テント等で眠りについたりしていた

もちろん中澤達もその場で眠りについていた

そんな中、矢口は一人起きだしさっき多くの人が入れられた牢に向かっていた

特に処刑される上官達の元へ行き、何か話し掛けていた

ひとみが眠い中よたよたと近づき耳を澄ますと
矢口は起きている上官達に、家族はと話し掛けていた

処刑される事を告げ、家族の為にれいなに協力してあげられないかと説得して廻っていた

だが、そこは誇りがあるのか、家族がどうなろうと今までの自分はこういう生き方をして来たので
いくられいなが指揮しようと、一般人に協力するなんて出来ないとの一点張りだった

起きていた人達に罵られながらも矢口は声をかけ続けたが
意見は変わる事はなくがっくりとして牢から帰っていたら
入り口からひとみが見ていた事に気づく
591 名前:dogsU 投稿日:2007/01/01(月) 22:39

「あ・・・吉澤・・・・さっきは」

声を掛けた時にはもうひとみは踵を返して歩き始めており呆れたような声を出す

「いいよもうその事は、それより体休めよう、あと一仕事終えたらすぐ帰るんだから」

「あ・・ああ、でも・・・」

「いいって、早く帰りたいだろ、姫も待ってるよ」

スタスタと歩いて行く素っ気無い吉澤の背中に
とても寂しい気分になり、とぼとぼとついていった

田中が勘太にもたれるようにうとうとと寝ている姿が見えた所でひとみが振り返る

「今、一番つらいのはきっと田中だよ、ウチらはすぐ帰って行くし
残された兵達の中でもきっとまだまだ戦わないといけないんだから」

振り返ったひとみは優しい顔で笑っており、矢口の寂しい気分も幾分和らぐ

「・・・そうだな・・・・・だから・・・・おいらだけもう少しここに残ってもいいかな」

ひとみはそれを聞いてやっぱりと満足そうに言った

「そう言うと思ったよ、ウチも残る、きっとあいぼんとののもその気だと思うよ」

笑顔を残し再び背中を向けた吉澤の背中が今度は温かく感じていた


「うん・・・・ありがと」

小さく呟いて今度はてけてけとついていく
592 名前: 投稿日:2007/01/01(月) 22:39
本日はここ迄

相変わらずの駄文ですが、本年もよろしくお願い致します。
593 名前:777 投稿日:2007/01/02(火) 08:46
更新乙です新年からやぐっちゃんカッコエエです!!
594 名前: 投稿日:2007/01/03(水) 00:22
593:777さん
いつも労いの言葉とレスありがとうございます


それと、とうとう来るべき時がやって来ましたね

 よっちゃん卒業

突然のニュースに驚きましたが
自分の駄文の主人公の一人でもある彼女の今後の活躍を願うばかりです
595 名前:dogsU 投稿日:2007/01/03(水) 00:28
その日の昼過ぎ、眠りから覚めたれいなと共に国を造ると言っている兵達全員で
城の後ろにそびえる山の奥にて上官達の処刑が行われた

矢口はそれに一応立ち会うが、唇を噛み締め眼を赤くして見つめているだけだった

れいなは気丈に射撃の合図をしながら
やはりその顔には涙が流れ続けていた

一応見ているすべての兵達は、処刑者に対し敬礼で見送る
昨日迄の混乱はもう見られない

王族や大佐達は一応、生前に建立される王族の墓というのが最近出来上がっていた為、そこに埋葬された

その山中に遺体をすべて埋め終わってからがまた大変だった
処刑された兵達の家族の自殺があいつぎ、その処理にもせつない思いをした

それからが本当に大変で忙しかった

今までの流通をすべて見直し、書類の整備、人事組織の改定
やるべき事は沢山あり、紺野と矢口を中心にした会議が頻繁に行われる

中澤達はそれを見て自分達もあの旧Eの国での整備を早く始めないといけないという事で
二週間程したら一応王族付きでその方面にも長けた藤本と仲間達を連れて帰って行った

その別れ際、矢口は中澤に絵里やさゆみが、ここに戻って来る気があれば連れて来て欲しいと言った
まだ日は浅いとはいえ、あの2人はきっとれいなを助けることの出来る仲間になると思ったからだ

すると先に帰った保田にそれは頼んであるので大丈夫だと言われ、中澤と微笑み会った
596 名前:dogsU 投稿日:2007/01/03(水) 00:31

あの日から少しすると城には民が頻繁に訪れる様になる

保田達が作った新聞の第一報が各町にも出回りだし
各町に元松原隊や志願兵達と反乱軍や地方兵達が
謝罪や混乱の収集に向かったのが影響しだしたからだ

各町の混乱をどうするのかという各町の代表者達やただの野次馬
新たな志願兵や自らの政策を持ち込む民
民の間にも今迄とは違う反応があり、混乱していた兵達も徐々に意識を変えていく

事務方はほとんど全員残っており、兵とはいえ、隊列の組まれなかった自分達は
肩身の狭い思いをしてきたが国を思う気持ちは負けないとなかなか熱いようだ

そして、浪費の激しい王族・上官等の無駄遣いに、意見も出来ず
無理と知りながらも民の税を上げるしかしなかった事等を反省する

矢口やひとみ、辻や加護のフレンドリーな態度に
使用人も今まで我慢していた事をおずおずと意見しだした

れいなが率先して今までのような上官の命令は絶対ではなく
あくまでも自分の意見を言えるような雰囲気作りに努めたのも実を結ぶ

そうやって過ごすうちに、やはりその部門部門でリーダーシップをとる者が出て来て
段々指令系統が固まってくる

紺野は事務処理に非常に才能を発揮し、流通の確保に忙しく過ごした

そのおかげか、ほとんど底をついていた食料や物資が届くようになり
兵達も幾分明るい表情をしだす
597 名前:dogsU 投稿日:2007/01/03(水) 00:34
兵達と民の壁を一番壊したのが入浴

兵達の中で手の開いた者を見つけては外の温泉に連れ立っていき
男女を区別して整備したり、民と一緒に入ったりして交流を深めたりした

使用人同士や、兵同士でもあまり仲良くしゃべる事の出来なかったこの国の人達が
少しずつ今までどんな考えをもっていたかを知る事になり
だんだん仲良くなっている様が矢口には嬉しくてしょうがない

なのに、やたらと人の集まるひとみの人気はすごくて
ほとんど話す機会にも恵まれないままずっと過ごした事が寂しかった

あの日から、吉澤に対する気持の変化には気づかずに
一人城の中であちこちの調整をしてまわるだけだった

上官がすべていなくなった事で部屋が空き、一人部屋になっていたので
兵や使用人達の相談から開放された深夜に戻る広い部屋でぽつんとする毎日

最初は勘太がそばに来てくれたりしたのだが
賢いと知られた勘太は紺野の使いで各町に伝令を伝えに走り回る事が多く
辻と加護もやたらと使用人に人気者になり、各部屋に遊びに来てくれとひっぱりだこだった為
矢口は一人窓から外の月を眺める事が多かった



そんな月が綺麗なある夜、矢口は思い立って馬で出かけた

出かけた先はいつかひとみと2人で入った温泉

細い路地を入ると、人がいないと思ってたのに馬が一頭お風呂に入っていた
先約がいたのかと、帰ろうとすると、かすかに音がするのに気がつく
598 名前:dogsU 投稿日:2007/01/03(水) 00:36
その音は少し前迄ずっと聞き続けていた音だったので
矢口は馬を進めて温泉に入れるとその姿を探す

前に見た時と一緒の場所でその姿を見つけ
そばにある棒きれを持って姿を消した

前と同様にスパンと枝が切れて飛び

「何やってんだよ、ちび」

ひとみが既に次の攻撃に備える為に矢口に向かって剣を構えて怒っている

「すっかり見えるようになったんだな」

切られた棒の先に指を沿わせながら感心した

「まぁ・・・・いろんな人に協力してもらったからね、で、何でこんなとこに来てんだよ」

照れくさそうにするひとみは剣をさやに戻す

「それはこっちのセリフだろ」

「だって毎日忙しくて昼間は訓練できないし、夜、部屋じゃ狭くて感じ出ないし
城の近くだと誰かに見つかるとめんどそうだからさ」

噂はよく耳にしている、ひとみを誘う為に使用人や兵達が隙を狙っているようだと

「いつも・・・・来てるのか?」

「まぁ、最近時々・・・な・・・あ、風呂入りに来たんだろ、邪魔しね〜からさ
ゆっくり入って疲れを取りなよ、色んな人に眼をくばって大変みたいだし」

そういいながら、ひとみが水場へと歩き出した
599 名前:dogsU 投稿日:2007/01/03(水) 00:41

「なんでだよ、一緒に入ろうよ」

「え・・・・・もう疲れてるし、明日は朝から近くの町に行く約束してるし、帰って寝るよ」

ひとみが本当に困っている為、矢口はがっくりする
久しぶりにゆっくり話しがしたかったのにと

「・・・・・そっか・・・じゃあ・・・気をつけて帰れよ」

「大丈夫、なんかここの人達もやっと普通の町みたく話しやすい人が多くなったし
顔見知りも増えたからさ、矢口さんのおかげだね」

ひとみの馬を温泉から出して鞍を着けて乗っかると笑顔で去って行った

しばらく矢口は佇むが、どうしようもない寂しさに
温泉につかって空を見つめる頃には目にうっすらと涙が溢れてきた

旧Eの国で再会してから感じている距離感

それとは逆に今更ながら感じるあの時の・・・・あの抱きかかえられてしがみついた時の安心感を思い出す

だがどうもその日からもっとひとみが距離を置いてるように感じること
それが妙に寂しい事に矢口は気づく

だからそこで思う、もしかしたら自分は吉澤の事を好きなのかもしれない・・・と

でも人を好きになるという事自体が矢口には解らない
加護や辻・・・・藤本や梨華だって今の自分にとっていなくなったら寂しいと思える存在
好きという気持ちはそんな寂しさの事を言うのだろうか

あの日シープの浜辺で吉澤が矢口に言った好きだという意味も
実の所余り良く解らなかった

王族付の族には他の民のような恋愛には無縁だったから
いくら仲間の兵達から胸を焦がすような恋愛話を聞いてもピンと来なかった

なによりも、大体自分は姫が好きなはず・・・・
いや、そうでなければならないのだから・・・・とお湯に顔を沈めた
600 名前:dogsU 投稿日:2007/01/03(水) 00:43
次の日、ひとみは本当に朝から他の兵達と近くの町に行ってしまった

いつそんな約束をしていたのか解らない

だからいつものように、他の兵達や使用人と共に食べる朝食の時に
丁度居合わせた紺野に聞いてみる

「吉澤さん、亀井さんと道重さんの両親の様子を見に行ったみたいなんです」

矢口は驚く、そっか、その問題があったかと

しかし、そんな事を自分に教えてくれなかった事もなんだか寂しく
それと共に、自分がいつもひとみに考えている事を言わない事が
こんなに寂しい思いをさせていた事に気づいた

「亀井ちゃんと重さん、この国に戻って来てくれますかねぇ親びん」

隣にいる辻が食べながらも聞くと、自分の世界に入って行きそうだった矢口の意識が戻って来た

「そうだな・・・・どうだろ、きっと裕ちゃん達が説明してくれてるよ
こんなに変わったんだよって、それに田中と友達になってたからな
来てくれると嬉しいんだけど」

その後次々と使用人や兵達が矢口に意見を求めて話し掛けて来る

れいなの食事をどうするかとか、新しい上官にはどうすべきかとか
そんな事なのだが、ようやく自分達の行動を自分で決める事が出来出した人に
矢口は丁寧に聞いてあげると、こうしてみたらとかでなく
自分はこうされたら嬉しいとかあなただったらどうすれば嬉しいかって感じで答えていった
601 名前:dogsU 投稿日:2007/01/03(水) 00:45
それをみて紺野がまた辻に負けない量の食事を前にしながら言う

「矢口さんは人気者ですね、みんな矢口さんと話したがってるんですよ」
「せやなぁ、なんか寂しいわ、ウチの親びんが離れてしまいそうで」
「ほんとほんと」

「何言ってんだよ、加護や辻だってちっともおいらの部屋に来ないで
みんなの部屋にひっぱりこまれてるじゃね〜か」

「だって親びんとこは・・・・その・・・・」
「なんだよ」

いいよどむ辻に、何か訳があるのかと矢口は思い少し驚いて耳を傾ける

「ええのっ、親びんは鈍感やからこのままほったらかしとけば」
「なっ、何だよそれ、ったまくんなぁ、ほったらかすなよっ、寂しいからさ」

加護の言葉に、口をへの字にして拗ねると、紺野が話の流れを止めて話し出す

「それで矢口さん、残った兵達や、反乱軍の中のリーダー達とも少し話してたんですけど
そろそろ私達も戻る準備を始めないといけないといけないので
きちんと各リーダーに新しい役割の位を授けてはどうかという事なんですが」

まだまだ食べ続けながらもその内容は真面目で
矢口的にはおっととバランスをくずしそうになりながらも笑いながら答えた

「そうだね、今まで階級が多すぎたとは思うけど、やっぱり上下はきちんとしとかないと
組織として成り立たないのは確かだからね」

「それで近々会議を開いて決めようと思います、もちろん民間人、志願兵
兵隊関係なく、その仕事に長けた人を集めたり情報を掴んでから選びたいと思います」

「「「いいねぇ〜」」」

矢口と加護・辻の声が重なると、紺野は笑顔で頷きまた食べ始めた
602 名前: 投稿日:2007/01/03(水) 00:45
なんとなく更新です
603 名前:777 投稿日:2007/01/03(水) 20:03
おぉ!なんとなく更新されている!!
お疲れ様です♪
文章が読みやすくて大好きです。

マイペースでがんばってください。
604 名前: 投稿日:2007/01/06(土) 17:15
603:777さん
もったいない言葉と、こんなグダグダな駄文を読んで頂いて感謝です
もうしばらくグダグダと続きますので、ゆる〜くご覧下さい
605 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:17
少し時は戻り、中澤達を送り出した旧Eの国では
梨華が自分がしっかりしないととからまわりしそうな所を
真希がうまくコントロールして、Yの国の風間達や絵里達を使って
兵の数の把握や組織作りに手腕を発揮していた

毎日2人で暗くなった部屋で月明かりの中互いのベッドに入って話すのが2人の日課にもなっている

「真希ちゃんってやっぱりすごいんだねぇ」

「え、そんな事ないよ、ただ慣れてるだけだし、やぐっつぁんに比べると甘いって思うもん」

ここ何日かで2人はめきめきと仲良くなり
互いに寂しかったので一緒の部屋で寝泊りするようにしていた

今までは今後の街づくりのことについてよく話していた
一応藤本や中澤達が築いた事がみんなのやる気を引き出していたし
いなくなった事で個々が責任感を増したのか
町の人達が積極的に城に通ってくるようになり
問題点や希望を話してくれるようになった事で物事を進めやすくなっていた

それに中澤達があの山中の町に置いてきた
アヤカやミカという仲間達が応援に駆けつけてくれた事も大きい

敵だと恐ろしい族も、味方になった時には安心感が違う
606 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:18
そんなこんなで、順調な街づくりも一息ついた夜に、思い切って切り出す

「ねぇ、矢口さんって昔からあんな感じ?やっぱやんちゃな子?」

「え?・・・う〜ん、なんかやんちゃっていうか・・・・
ほんと、とにかくいっつも元気だったよ、でも無茶ばっかりして」

「ふふ、そんな感じする、きっとちっちゃくてかわいかったんだろうなぁ」

「うん、だってゴトーが物心ついた時からゴトーの方が大きかったもん」
だけどいっつも頼りにしてたなぁ・・・と

なつかしそうに目を細める真希に、ずっと聞きたくて聞けなかった事を聞いてみる

「・・・・なんか想像出来る・・・・ねぇ、真希ちゃんは・・・矢口さんの事好き?」
「うん、大好き」

街づくりの重責から幾分ホッとしたのか早くも眠そうな真希は幸せそうに微笑んで言う

「そうだよね・・・矢口さん・・・ほんとに魅力的だもんね」
「でもああ見えて結構繊細で傷つきやすかったりするんだよ」

「ふふ」
梨華は思わず微笑む

607 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:20

「じゃあ、紺野ちゃんは?」



「え・・うん・・・・・好き」

さっきと違い、何か戸惑ったようなその言い方が気になる梨華ではあるが
こんな時には絶対に力を使ってはいけないと矢口や飯田にも言われていたし
使う気もなかったので本当の所、真希がどんな気持ちなのかは解らない

それにも増して、まだ付き合いの浅い真希が
鳥族の自分を信じて何の警戒心も持たないでくれているのが解るのが
嬉しくて人の心を覗くなんて出来なかった

町の人には結構警戒される時があるのが悲しかったから・・・・

「ゴトーの事より、梨華ちゃんって藤本さんとはどうなの?」

真希は、あまり触れたくない場所に話しがいったのが嫌なのか、梨華の話を振る

「えっ、うん・・・・優しいよ、美貴ちゃん」

もちろん離れ離れになってあの危険な国でどうしてるのか
たまに考えると心配で堪らなくなったりする

ひとみへの心配ももちろんあるが、あんなに真っ直ぐに愛してくれる美貴の存在は
もう梨華にとって掛け替えの無い存在であるのに間違いは無かった

「なんか楽しそうな子だったよね、やぐっつぁんと旅に出る前も一緒にいたの?」
「そっか、あんまりまだ話してなかったね」

それから梨華は、今までの事を話し出す
608 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:22
自分はひとみと一緒に住んでて矢口が突然現れた事や
美貴との出会いやバーニーズとかの闘争の事等をゆっくりと振り返るように・・

その話を頷いたり驚いたり、時には笑ったりした後で
やっぱり眠そうな顔ながら、ふいに真希は一言呟く

「吉澤さんっ・・・て・・・・綺麗だよね」

幾度となく話に登場してくる矢口とひとみの喧嘩してるような楽しい掛け合いに
やはり気になったのかもしれないと梨華は思う

「うん・・・あ・・・・実はね・・・・私ずっとひとみちゃんが好きだったの・・・・」

「・・・・へぇ・・・・でも藤本さん・・・吉澤さんの事はどうしてあきらめたの?」

質問されてから梨華はしまったと思った
ひとみが矢口を好きなことは決して自分から言うべきではないと思っていたから

「うん・・・・・美貴ちゃんが・・・・結構強引で・・・・ふらふらっと」

「ふ〜ん、ふらふらっとねぇ〜・・・・・梨華ちゃんは押しに弱いんだ」

眠りコケながら笑っている

「うん・・・・そうかも・・・・でも美貴ちゃんほんとに優しくて」
「あはっ、わかった、もうのろけはやめてもう寝よ、明日も頑張らないと」

「うん、おやすみ」

これ以上突っ込まれなかったことにホッとして
その後すぐに寝てしまった真希に続き梨華も眠りについた

その後すぐに保田からの一方が入る事になり、この町の復興が益々加速した
609 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:23



610 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:27
連日の会議もそろそろ終盤を向え、矢口達は帰らなければと思い出していた

あの日から気丈にしていたれいなが
時々ものすごく寂しそうにしているのが矢口には心配だった

覚悟はしていたとはいえ、両親、祖父母、親類と呼べる人が一度にいなくなって・・・・・
いや、自分がその命を絶たせてしまったのだからそれも仕方ない

紺野もしかり、自分が物心つく頃から運命の相手と思っていた相手を・・・
さらに、れいなの母親の命迄奪ってしまったのだからしばらくは元気が無かった

ただ矢口が感心するのは、れいなにしても紺野にしても、国政について実によく勉強しており
周りの大人達を納得させる発言をよく会議で発していた

紺野は松原大佐の下で参謀役として信頼を得ていたのがよく解った
知識に関しては他の古い使用人や兵達を上回る程で、他の国の事にも非常に濃い知識を持っていた
しかも穏やかで優しい性格を知っているのか
旧松原隊も絶対的な上官と思いながらも彼女を慕っていたようだ

この国の王族付としての期待を一身に浴びていた事も兵達から聞き
真希と共に国を離れた事が王族や松原達の逆鱗に触れた事は矢口もなんとなく解るような気がした

それと、松原がれいなに厳しく色々教育していた事も
第一王子かられいなに王権を譲らず思惑に乗りやすい第二王子を押す黒岩、佐久間へと王権が移るのを
なんとしても防ぎたかったと思われる松原の思いが伺われた

松原が自分の地位を確保したいという心ではなく
本当にれいなの身を案じての母親としての愛情からの行動だったのだと矢口達に思わせたし
れいなも心を痛めた
611 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:32
長い時間をかけてMの国と手を組みたがる佐久間の霧に包まれた陰謀を察知し
特に最近は王権を守ろうと必死になっていたのが
今頃になって解る気がしていた

Yの国に育った二人は、失くしてしまってからそんな想いに気づいた事で
一層きちんとした国を造らなければと毎日頑張った

役職は、正式に今まで話し合いをする際にリーダーシップを取る人がやはり選ばれ
事務的要員、戦闘要員、特殊部隊とやはりそれぞれ区切られた

だがその隔たりに上下関係は一切なくして
誰でも能力があればその役職に付けるようにした。
使用人も自由に城から出入りを許されるようにし、その管理は事務方に任された

戦闘部隊は、これから各町の治安維持の為に定期的に出歩き
要請があれば特殊部隊も派遣するというシステム

民間人を王都に住まわせるという事には、やはり民の方が抵抗あるようで
まずは王都に市場を開き、各町からの物資交換の場を作り
使用人の家族を最初に受け入れ、徐々に色々な人を居住させたいと決まった

犯罪を取り締まる事や、公共的な建築や国同士、町同士の話し合いについては
やはり今は兵達がするより方法はなく
その為の税金徴収率は時間をかけて十分話し合っていくようだ

そんなある日、風間達が家族もみんな連れて帰って来る
もちろん絵里やさゆみも連れて城に入って来ると、れいなと矢口達は出迎える

絵里は矢口に、さゆみはひとみに抱きついて喜ぶ

「「よかったぁ〜、本当に無事だったんですねぇ〜」」

「ああ、田中がめちゃくちゃ頑張ったんでな、裕ちゃん達も無事ついたみたいだな」

抱きついたまま、れいなを見て微笑む2人にれいなも照れくさそう

「はい、あの町も後藤さんと石川さんを中心に町の人達みんなで頑張ってます」
612 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:37
その様子を廻りの兵や使用人達が見ているのに気づき慌てて離れる

「「すみません」」

「何謝ってんだよ、よかったよ、絵里ちゃん達も元気そうで
とりあえず上に一旦集まってEの国の状態も聞かせてもらえるかな」

絵里よりも小さい矢口が手を伸ばして絵里の頭を撫でると
真っ赤になった後矢口についていく

それをニコニコ見ていた風間達に、志願兵の仲間だろうか何人か話し掛けて来る
「ほんとに生きてたんだ」等と言いながら、話し掛けて来る顔が生き生きしているのに気づく

矢口も絵里達を近くの使用人を呼んで紹介する
後で連れて行くから頼むと言うと笑顔で他の人にも伝えておきますと去って行った

「2人は田中の付き人って事でいいかな」

歩きながら話しかける矢口

「「はい」」

その元気な返事を聞いてれいなも嬉しそうにしている

「あの、伊集院少佐は・・・・あの・・・・いつまでここに?」

絵里が恐る恐る聞くと

「はは、もう矢口でいいよ、皆知ってるから・・・
そして大分ここも落ち着いたし、そろそろ帰らないとって思ってる所なんだ」

心配しながら待っててくれる人もいるだろうしという矢口を
ひとみは後ろからひとみは優しく見ていた


「そうですか」

2人は寂しそうにして俯いた
613 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:40
「そうだ、お前らの両親に会って来たよ」
「「えっ」」

ひとみが思い出したように言うと驚いた顔を向けた
その顔が面白くて笑いながらひとみが言う

「心配してたよ、お前らの事、でもちゃんと言っておいた、今は別の国に行ってるけど
帰って来ますよって、だから一度帰って顔みせといで」

「あ・・・はい・・・・じゃあお母さん達も無事だったんですね」

「ここから近いから心配してたけど、のんびりしたいい町だつたから
反乱もかわいいもので、兵を追い出した後はみんなでどうするか
必至に話し合ってたよ、今は新しい町にしようって兵達と頑張ってる」

さゆみの頭をポンポンと叩き、優しい顔をしてひとみは頷いた

その後、階段を上ったり廊下を歩く際には
近くを歩いている兵や使用人達が矢口に笑顔で挨拶する光景に絵里達は嬉しくなる

上へ向かうにつれて矢口達に話し掛けて来る人が多くなり
あれをどうしようだのこれをどうしようだの聞いて来る使用人や兵達に
いちいち絵里達を紹介してった為、かなりの時間を要してしまった

会議室にたどりついた時には、すでに絵里達や風間達にもこの国がどうなったのかわかったらしく
Eの国がどうなったかの報告が行なわれる

その後、風間達は元住んでいた場所に戻り、絵里達も田中の部屋の隣に住む事になった


れいなと絵里とさゆみは
久しぶりの再会だが、互いの身に起こった事を話して楽しそうにしていた

矢口とひとみと紺野は、それを眼を細めて見ていたが
静かに三人を置いて外に出ようと矢口が親指でドアを指す
614 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:42
外に出て三人はホッと息をついて互いに眼をあわせて笑う

「「よかったなぁ〜」」
「よかったですね〜」

同時に言うと矢口が二人の肩を叩いて

「じゃあ、帰る準備するか」
と言い部屋に戻ろうと歩き出したら
そこに加護と辻がやって来る

「親びんっ、亀井ちゃん達が帰って来たってほんと?」

使用人に話しを聞いて飛んで来たらしい

「お前らどこいってたんだよ、今三人で楽しそうに話してるから邪魔すんな」
「え〜、ウチらも仲間に入れてもらうねんっ」

とあっという間に部屋に入っていってしまった

「きっと台所で、料理してたんですよ、あの2人、つまみ食いしながら」
「ほんっと食いしん坊だなぁあいつら」
「まぁ、仲間が無事に戻ってくると嬉しいからな、で、紺野と吉澤は今から何すんだ?」
「私はまだ残務整理がありますのでそちらに向います」
「ウチも、兵隊に剣を教えてって言われてっから行ってくるわ」

聞いた途端矢口が寂しそうな顔をするので2人は顔を見合す
615 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:44
「なんなら、ちびも来る?みんな喜ぶと思うし」

先に口にしたのはひとみ

「うん、いいのか?行って」

誘われた事が嬉しくてにかっとした矢口に、ひとみも笑顔で答える

「ちびが毎日会議で忙しいもんだから、ウチがみんなの相手してやってたんだよ、しょうがなく
ほんとはちびに教えてもらいたいんだってさ」

「ちびっつーな、ちびって」
「じゃあ少佐?」
「やだ」

むくれた矢口に、バーカと笑ってから

「ほら、行こうよ、みんな待ってるし」

そう言って歩き出すひとみを追って矢口が走り、笑って手を振る紺野を置いて道場に向う


距離を感じていたひとみと普通に会話出来る事が矢口は嬉しかった
そしてひとみの方も、あれから少し意識して距離をおいてしまったが
やはりなんとか前と同じ感じになりたくて話し掛けたのだ

道場に着いてから矢口は驚く
そこには兵だけではなく、使用人や、事務の人たちもいてひとみが来ると
近寄ってきて口々にお願いしますと言って来た
616 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:47
矢口に気づくと、嬉しそうに近づいて矢口さんも教えてくれるんですかと言って喜んでいた
すっかり教える事に慣れ出したひとみも、矢口も知っている限りの事を丁寧に教える


日も暮れた頃、一階の奥に作られた食堂にがやがやと集まりだす

最近ではここの食事は、平等になる様にとお金を取るようにして
使用人でも誰でも同じ値段で食べるようにした

給料も決め、役職的な階層は少なくしたが、等級を定め
それにしたがって給料を決めて行くように紺野が計算した

だから食事をしたければ、朝から夜のある時間までにいつでも食べに来て良く
訓練や仕事の間に使用人達が食べたりするようになった

メニューの開発には、加護と辻が色々と案を出して活躍したようだ
今迄の町での各地の料理を入れたりと、食も大切な文化だと二人は情熱を注いだらしい

入浴も、温泉を引かれた大浴場はいつでも入浴可能で
、誰が入っていようと関係なく入浴する事が出来るし
もちろん、外の森の中にある数多くの温泉に入りに行くのも自由になった

矢口や紺野の考えでは、もっとこの状況に慣れてくれば
自然にここに人が集まるようになり、物の流通の拠点がうまく機能すれば
この国はもう安泰だと思っていた

商売する人がここに集まり、その商売がうまく進むよう監視する為に
ここの兵達がサポートし安心して取引出来るようにすれば、自然に税も安定してくる

れいなもそれを解っており、新しい人事で幹部になった人たちと
仲良くなりながら薦めていきますと矢口に言った


食事を取りながら、ひとみや加護、辻、紺野に二日後位に出発しようかと提案する

そんな中、紺野はもう少しだけ待って下さいと言う
FとHの国に出していた使者が遅くとも三日後には帰って来るという
その結果を知らないと帰る事が出来ないそうだ
617 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:51
紺野が他の国との仲をこれからも良くする為に
今使用している道の他に最短距離で通る道を作れないかという提案を出しているらしい

幸い、このYの国には、王族の贅沢や戦争の資金源とする為に
強欲なまでの取立てによって集められた金が非常に沢山あり
制度改革や各町への復興資金以外のお金をどうすれば有効な活用が出来るかと
事務方で話し合った結果、道路を作ろうという事になったようだ

そうすれば、その作業の為に、職が無くて困っている人たちの雇用や
それに伴う商売が盛んになるのではというのだ

矢口も薄々その事は聞いていたが、実現に向けて
もうそこまで動いていた事に紺野のすごさを感じた

だからその使者が帰って来るまでここにいるように変更した

その際、風間達をその計画の長にするようにと矢口は提案する
山の民である彼らなら、きっとその培われた方向感覚できっと道路を作る事が出来ると思ったからだ

絵里達は、向こうで実際風間達と仲良くなり、その仕事ぶりに感心したという
戦闘には向かないかもしれないが
確実に土地の利を感じ取る事には長けていると教えてくれた

そして、城や町を開放的にする為に、はぐれの族や山賊の対策として
特殊部隊を想定したのだが、その教育をその間でみっちり教えようという事になった

それについては、矢口やれいなが会議づけになっている際に
ひとみが各村や町に伝令を出し公募したというのだ
そして明日その人たちがここに集まるらしい

兵隊の中からだけでなく、なりたい人については誰でもOK
相手は族を敵とする事になり危険な為に手当ては高い設定にした

しかし、それそうとうの適正がなければならない為
明日ひとみと加護、辻でテストをするらしい
618 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:54
矢口はそれも知らなかった為に驚いた

「いろいろやってくれてたんだな、お前ら」

嬉しそうにみんなを見ると、辻と加護は鼻の下に人差し指をこすって威張ったように笑う

「あんまり矢口さんや田中に負担かけないように、ウチら色々考えたんだよ、ない頭でさ」

ひとみが優しく言う

「そっか・・・・・すごいよ、ほんとに、んじゃおいらもまぜてよ、おいら暇になったから」

「もちろんいいけど、もういいの?色んな町のお偉いさんとの会議」

「ああ、もうおいらには口出す問題は無くなった
後はこの国の人たちが自分達で考えてこの国を作ればいい」

もともとおいらが会議に出る必要なんてなかったんだしさと言う矢口に頷く四人

そしてその会話を周りで食事しながら聞いていた人もそわそわと近寄ってきて話しかけ出す
質問と共にもう帰ってしまうんですかとの声もかけられ、いつものように長い食事となる

その後、家に帰る兵が城からいなくなると
矢口は、いつものように使用人達や絵里達と仲良く入浴した

この制度になった当初は抵抗があった使用人達も
矢口達が気軽に入っては話し掛けるので、わいわいと入浴するようになる
もちろん男女は別の浴室になるのだが、兵達も色んな人と入るこの時間を楽しみにしている様だ

湯船に入って、矢口にいろんな国の事の話を聞く事により
他の国にも興味を持ったり、心底れいなに協力しようという気になっていった



だが、やはり夜になると
矢口は加護達も絵里達もいない為に寂しくなるのであった
619 名前:dogsU 投稿日:2007/01/06(土) 17:58
みんながいろんなことを考えて行動している事を嬉しく思うのに
教えてもらえなかった事に少し寂しく感じ
改めて謝ろうかと思い切ってひとみの部屋を覗く事にした



しかし、ひとみはいなかった


この頃、ずっとひとみを捜している自分に気がつく

これは前に思ったようにひとみを好きだからなのだろうか

昔、Mの国の兵隊に聞いた事がある、好きな人の事をいつも考えてしまうと
その人がいると眼で後を追ってしまう自分がいたりするもんだ・・・と

それがこんな気持なのだろうか、物心ついた時から姫しか見ていなかった自分を
今更変えることはできないという自分も確かにいた
だから、ひとみに好きだといわれた時にも答えるような事は言えなかったし
その事をひとみは十分解ってくれていたから

でももうあの時とは何かが違う、何度となく彼女を怒らせ
何度となく寂しい思いをさせていたに違いないと考えると、どうしようもなく心が痛む

姫も見つかり、後は自分の勤めを果たすだけなのだが
姫の存在は自分にとって絶対的なものだったのに
どうももやもやしている自分をあのEの国にいる時に感じていた

Mの国ではお互いの視線が重なり合っていたと感じれていたし
見えない何かが確かにあった


だが再開した時に感じた違和感


それを寂しいを思うより、もうひとみがそんな自分の事なんか
何とも思っていないだろうなと感じた事に寂しさを矢口は感じていた



ドアを閉めた後

「ふっ・・・・何やってんだろ」

と呟くと

とぼとぼと自分の部屋に帰り大きなベッドに入ると眠りについた
620 名前: 投稿日:2007/01/06(土) 17:58
今日はこのへんで
621 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/06(土) 20:35
更新お疲れ様です!
矢口さんの気持ちが揺れてますねぇ…無事に二人がくっつく事を楽しみにしてます!
622 名前: 投稿日:2007/01/08(月) 02:39
621:名無飼育さん
揺れてるんです。
そうですね、無事そうなるように努力します
レスありがとうございました
623 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 02:41
再び時が少し戻りEの国のある日の夜

中澤達が戻って来て、絵里達や風間達にYの国であった事を話す

梨華からみんながこの国の人達の為に一生懸命働いていたと聞き
ここに残ってもかまわないと言うが
絵里達はれいなのそばにいて助けると約束したと話し、あの町に帰りますと決心した

風間達も、国を自分達で作る楽しみをここで学んだのか
あの国が本当に変わるのか、いや、自分達で変えていけるのかと思いだしたらしく
家族と共にあの国へ帰りますと中澤達に伝える

絵里とさゆみもすっかり真希と梨華になついて
梨華が町の人を癒してあげるのを興味深げに見つめたり
真希が料理をしているのを隣で見ていたりしていただけに真希と梨華も寂しがる

中澤が、そんな2人に、また遊びに来りゃええがなと言うと
そうですね、じゃあ馬に乗れるようになりますと2人は微笑んだ

ひととおり話終わり、絵里達や風間達は帰る準備をしに
中澤達も旅の疲れを取る為にと部屋に戻った
624 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 02:43
もちろん藤本も部屋に戻るがすぐに梨華に抱きつきキスを交す
一通り求め合い藤本が話し出す

「はぁ〜っ、ほんっ・・・と会いたかったぁ〜っ、梨華ちゃん」
「私も、でも本当に良かった、前に保田さんからうまくいったのを聞いて安心してたけど、やっぱり顔見るまではね」
「でもやっぱ緊張したよ、いつどこから撃たれるか解らなかったもん」

ケロッとしたように笑いながら言うのだが、かえってなんだか不安になり梨華が抱き締める

「もうそんなとこにみんなを送り出したくないよ・・・・出来れば私も連れてって欲しかった」
「ダメッ、梨華ちゃんは銃は少し扱えるようになったけど、まだ危なすぎる」
「だって」
「もうっ、そんなのはいいからさ・・・」

梨華の手を振り解き、起き上がって逆に手を掴むと風呂場へと向う

「久しぶりに一緒に入ろうよっ」
「え〜っ、恥ずかしいよっ」
「な〜に言ってんのっ、ほらっ、会いたくてしかたなかったんだからっ」

久しぶりに会えた事がよほど嬉しかったのか、いつもよりはしゃいでいる美貴がかわいくて、つい顔がにやけながら連れて行かれる梨華だった
625 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 02:44



626 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 02:47
次の日のYの国の朝、城の前の広場は大変な事になっていた
特殊部隊に入りたいという人達で溢れたのだ

各町から帰ってきていた旧松原部隊の隊長達はすでに適正があり
ひとみ、加護・辻・紺野、れいなと矢口で集まった人達と軽く手合わせを行なう

ほとんどの人に適正はないのだが、この国を守りたいという意欲のある人については
兵になる事を薦めるようにした

すごい人数の中から、十数人の人達が、すごい運動神経を持ち合わせた人であった

旧松原軍の人もいたし使用人からも出て来たし
農業をしていたという民の姿もあった

その人達には、一応開いた家を提供し、矢口達がここにいる間にみっちり基礎を叩き込む事にした
その後、一度自分の家に戻ってから改めてこの街に住んでもらうようになる

ひとみと加護が持っていたバーミンと
使うかもしれないとずっと持っていたカランの網もここに置いて行く事にした

Yの国では族が少ない為、バーミンの存在自体知らなかったらしいが
その石と蔦なら見た事あると風間達が言い、特殊部隊に選ばれた人達は
これを捜索する事から特殊部隊の仕事が始まりそうだ



一通りの事が終わり、その事を決める頃にはもう夜がふけていた

あの加護や辻、紺野でさえ食事する暇もなく
適正をみるために力を使ったり相手をしたりした為に
ぐったりと皆疲れてしまい皆すぐに部屋で休んだ
627 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 02:50

夜中過ぎて矢口は眼が覚める

今日は汗をかいたにもかかわらず入浴せずに休んでいたから
入浴は窓の外から綺麗な月が見えてふと思いつき、あの場所へ行こうと馬小屋に向う

いつも自分の乗っている馬もその事が解るのか嬉しそうに駆け出した



到着したらまた馬が入浴しているのが目に入る

矢口は急いで馬から降りると
馬は自分で勝手に入浴していったので逸る気持ちであの場所へと姿を消す

再び棒切れを持ってひとみに襲い掛かると
スパンと棒を切って、なんと矢口の腕を捕まえた状態で止まった

「うっ」

あまりのスピードで動く矢口の腕を捕まえたので
止められた矢口の体に衝撃が走り、思わず治ったばかりのおなかを押さえて声を出す

「だっ、大丈夫かよ」

ひとみが心配そうな顔をして近づくと、矢口はドキッとして離れた

「ああ、もちろん大丈夫、でも強くなったなぁ・・・・もうでくのぼうじゃね〜な」

思わず耳を疑うような矢口の言葉

しかしひとみは

「ふんっまだまだだよ、ウチはもっと強くなる」

持っていた剣を目の前に立てて力強い眼で見つめた
628 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 02:53


何のために?


その言葉を矢口は飲み込む

幾度となく繰り返されたこの押し問答



矢口は唇を噛み締め

月明かりに照らされひとみに見つめられているその剣を見つめた




「今日は疲れただろ」

ひとみが何も言わない矢口に不思議そうな顔をして話し掛けて来た

ハッとしてひとみを見ると
少し照れくさそうにまた剣を眺めた

「いや、お前こそまたこんな所で無理して、今までちゃんと休めてたのか?」

「ああ、ウチは基本的に体力だけはあるし、矢口さんや紺野みたく
いろんな事を瞬時に判断する頭や人の気配や洞察力もそんなに鋭くないから
こうして馬鹿みたく体を鍛えるしか役にたたないだろ
だから、へばっちゃ役立たずだし、へたばるような無茶はしないよ、大丈夫」

頭を掻きながらそっぽを向いて苦笑いし
もう片方の手は剣を下げ足元で小石を蹴るような仕草


すると少し距離があったはずの矢口の体が、下ろした剣を持った手ごと抱き締めて来た







「や・・・矢口・・・さん?」



頭を掻いたままの手をひとみは降ろせなかった
629 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 02:56

矢口は何も言わずにただ自分にギュッと抱きついている



静かな・・・

少し遠くに水音だけが聞こえ、ひとみはただ呆然とした





「吉澤」

いきなり呼ばれた自分の名前にどきりとする

「な・・・・なんだよ」

鎖骨あたりに額をこつんとあてて矢口は小さな声を出す

「ごめんな」

途端に剣を落とし、矢口の手を振り解き小さな矢口の両肩を掴んだ

「また・・・・また何か抱えこんでんのかよ、またウチをおいてどっか行くのかよ」

驚いて見開かれた矢口の目と、真剣なひとみの目が合う
ひとみが勘違いをしていると思った矢口は首を振って再びひとみに抱きつく

「違うよ・・・・だから離れるなよ・・・・もうお前を置いてどっか行ったりしないから」

ひとみの胸に顔をうずめてギュッと抱きつく







どうしていいか解らないひとみの腕は空を彷徨い

ひとみの意識が遠のきそうだった
630 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 02:57

このまま矢口を掻き抱いて、命を失ってもいいとさえひとみは思った

その途端真希の顔が浮かぶ

目を瞑ってぎゅっとこぶしを握ると、消えそうになる意識を必死で取り戻す



ふぅ〜っと天に向かって息を吐き、大きく息を吸い込んで落ち着いて言う

「気持わりぃよ、ちびがそんなかわいい事言うなんて」

矢口を自分の体から離してから、落ちた剣を拾って刃を月にかざして傷を見た

さやに納めて、あいかわらず口をへの字にしてその場に佇む矢口の頭を優しい笑顔をしながら撫でた

「離れないってずっと言ってるじゃん、だったら何で謝ってんだよ」
「怒ってるんだろ、おいらの事」
「は?」

俯いたまま言う矢口は、端から見ると完全に叱られた子供で
思わずかがんで覗き込む
631 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 03:01
「おいらがいつも自分勝手に行動して、怪我して・・・・
秘密にするみたいに憶測で考えてたりするおいらの事・・・・」

泣いてはいないが、泣きそうな顔で唇を結んでいる矢口に心の中でひとみは言う

どうやってこんなかわいいあんたを怒ればいいんだよと

「そんなんじゃね〜って言ってるじゃん
そういえばこの前からウチがあんたの事怒ってる怒ってるって言うけどさ
ほんとに怒ってなんかねんだよ、だから気にすんな」

「じゃあっ、じゃあもっと前みたいにおいらと話してくれよっ、もっと喧嘩しようよ・・・・・」

またかわいらしい事を言うなぁと思わず矢口の頭を小突いて笑う

これが数日前にYの国を変えた人物と同一人物なのだろうか・・・とひとみは思う

「いいけど、あんたもすぐムキになるからさ、他の兵や、使用人達に
示しがつかなくなんじゃね〜の?憧れの矢口様だからさ、あの城じゃ」

「なっ、何だよそれ」

言いながら馬のいる温泉に戻ろうとするひとみの洋服の裾をひっぱる

「気づいてね〜のかよ、あんたが今どんだけあの城の中で人気者なのか
だから気ぃ使ってイメージ壊さないようにしてやってんだろ」

「知らね〜よ、そんなの」

ひとみは矢口の手から裾を引っ張って離すと再び馬へと近づく

「知らない?鈍感もいいとこだな、まぁ、そういう事だから矢口様の為にさ
しばらく化けの皮をはがないように近づかないようにするよ」

馬の手綱をとった所で殺気を感じたが
すでに矢口に背中を蹴られて大きな音と共に温泉に吹き飛んだ為、馬たちが驚く
632 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 03:03
バチャバチャと体勢を立て直し、思わず飲んでしまった水にむせながら振り返って怒鳴る

「ゲホッっ何すんだよっ、このちびっ」
「どっちが人気者だよっ、吉澤様っ、そんなんじゃねんだよっ
おいらはお前がそばにいればそれでいんだよっ」

怒った顔で両腕を脇で握り締め温泉の渕に仁王立ちしていた

「やりやがったなぁ、このちびっ、ざけんなっ、何が吉澤様だっ、矢口様っ」

そんな矢口の手を引き温泉に引きずり込んだ

「くわっ、てめっ、これからちゃんと気持ちよく風呂入ろうと思ってたのにっ」

「何勝手な事ぬかしてんだよっ、お前が先に突き落としたんだろっ
しかもめいっぱい蹴りやがって、いてーじゃね〜か」

「知るかっ、お前が何度言ってもわかんね〜からだろっ」

「ぬぁにぃ〜、ちびのくせに」
「そっちだってあほのくせに」

互いの胸倉をつかみ合い、そこまで言った所で二人は顔を見合わせて止まる


一瞬の間の後

「「ぷっ」」

同時に噴出して大声で笑い出す


すると矢口の中にずっと消えなかった寂しさがすぅ〜っと消えていた事に笑いながら気づく

ひとみも笑いながら久しぶりに矢口と喧嘩出来た事が嬉しくてたまらない
633 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 03:06
それから濡れた服を脱いで力持ちのひとみにしぼってもらうと木に干して湯舟に浸かった

月明かりに照らされる矢口の事を見る事は出来なかったが
一応傷とか大丈夫なのかと問い、もう平気だよと答える

そして二人は岩に頭を乗せて、夜空を見上げた

いつかのように

「あの時を思い出すなぁ、こうやって風呂入ってさ、明日からどうなるんだろうって考えてさ」

ひとみが夜空を見ながら言う

「へぇ〜、お前不安だったのか」

「そりゃ・・・・行った事もないとこだし
どんな奴がいるのかも解らない国だったし、自分の力だってあんまよく解んなかったから」

「そっか・・・・」

いつも自分に無条件でついて来ると言っていたひとみ
そんなひとみにいつも甘えて、自分がなぜそんな行動をするのか説明もしない自分

「あのさ、佐久間の行動がおかしいと思ったのはさ・・・」

矢口はひとみに話し始める
634 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 03:08
いつも上官が集まった時に感じた佐久間の国王を見る冷たい目だったという

決して国王に忠誠を誓っていないと感じさせる眼

そして何故か気になる小林の存在

自分がMの国である人物に感じた嫌な予感、それを佐久間から感じていたという

だからその人物との共通点が、一つずつ増えて行くたびに
いつか確認しようと注意を払っていたと言う

そしてあの時、佐久間は逃げた

あの国の大佐の立場で王族が殺されたのに逃げるのは、兵隊としておかしいと思ったと話す

「ちゃんといえばよかったな、ごめん」

「いいよ、言われてもウチにはそんな事はわからなかっただろうし
自信もなかったんだろ」

「ん・・・うん」

「ちびがウチがいないとダメだっつーのも解ったしな」
「ん?」

ザバッと湯から上がり、干している洋服の所へ向う背中を矢口は見れなかった

つめたっ、キモッ等と言いながら濡れた服を着だしたので、矢口も同じようにぶつぶつ言いながら服を着た

「早く帰ろうぜっ、これじゃ風邪ひいちまうっ、ちびのせいだかんなっ」
「ふんっ、お前が風邪ひくたまかよっ」

言い合う2人の顔は笑顔のままだった
635 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 03:08




636 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 03:10



   『離れないってずっと言ってるじゃん、だったら何で謝ってんだよ』



矢口は部屋に帰りつき着替えて寝る時に思い出す


そう言って優しく笑ってくれたひとみの顔を


そしてまた2人であの夜空を見上げる事が出来た事に微笑みすぐに眠りにつく
637 名前:dogsU 投稿日:2007/01/08(月) 03:12
同じ頃ひとみも思い出している


   『違うよ・・・・だから離れるなよ・・・・もうお前を置いてどっか行ったりしないから』

そう言って自分の体に抱きついて来た感触


   『どっちが人気者だよっ、吉澤様っ、そんなんじゃねんだよっ
    おいらはお前がそばにいればそれでいんだよっ』


洋服のままつき落とされて

また一緒に入浴してしまい目を奪われそうになる体


今度2人きりになってしまったらもう我慢できないかもしれないと思っていた



しかし




「お前がそばにいればそれでいい・・・・・か」

胸にきゅんと来る何かを感じながら眼を閉じた
638 名前: 投稿日:2007/01/08(月) 03:13
本日はこのへんで
639 名前:777 投稿日:2007/01/09(火) 00:57
更新お疲れ様です。
毎度毎度本当楽しませてもらってます^^
640 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/09(火) 23:58
またドキドキしてきました。
でも、まだまだ一件落着にはなってないようなので、そちらも気になります。
もっと気になるのは、矢口さんとよっすぃーと姫と紺野さんの未来です。
641 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/11(木) 07:11
考えないってことに慣れきってた国ですから、色々大変なんでしょうね
そしてメインのドタバタ鈍感コンビは……ww
642 名前: 投稿日:2007/01/13(土) 21:08
639:777さん
毎度毎度嬉しい言葉ありがとうございます。

640:名無飼育さん
気にしていただいてありがたい気持ちで一杯です。

641:名無飼育さん
ほんとに・・・このドタバタ鈍感コンビは・・・
どうしても二人はヘタレなイメージなので申し訳ないです。

そして・・・・
本日更新しようと思っていたのですが
あるニュースが突然飛び込んできて
どうしてもそんな気分になれずに返レスのみさせて頂く事をお許し下さい。
好き勝手、マイペース更新させて頂いてて本当に申し訳ないです

とりあえず、自分に出来る事は何もありませんが
ただ・・・ただ今日はどうしてもこれだけ伝えておきたくて・・・


心よりご冥福をお祈り致します

643 名前:777 投稿日:2007/01/13(土) 22:03
私もショックでした。
作者さまの書く気持ちになれるまで待ってますので。
どうぞマイペース更新のまま続けてくださいませ。
今回のことは本当に本当に衝撃でした。
私も心よりご冥福をお祈りいたします。
644 名前: 投稿日:2007/01/14(日) 22:59
643:777さん
暖かい言葉ありがとうございました。
本日気丈にいつも通りのパフォーマンスで2公演を終えたとの事
本当に彼女はすごいと思います

うまく伝える自信がないので多くは語りません
自分として出来るのは遠くからでも暖かく彼女を見守り続ける事

そして
普通に・・・通常通りにしようと思いました。

という事で
こんな情けない自分の妄想話を
少しでも楽しんでいただけたら幸いと願いながら、マイペースに続けさせて頂きます

レスありがとうございました。
これからもよろしくお願いします
645 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:02
FとHからの連絡隊が予定していたより数日遅れて帰って来た

Fの国は矢口達の事を実際会って、どういう人物か知っている為に
お互いの国からの道路を作り交流する事に関してすんなり話はまとまったが
やはりHの国の猜疑心はなかなか根深く、かなり時間がかかったようだ

のんびりとしていた国に、ふいに騙すようにYの国が現れ
今までの国王を殺され、さんざん国をかき回されたのだから当たり前だろう

しかし、もうYの国の兵達は違っていた

王族と多くの上官、今までの制度に誇りを持って死んで行った人たちのために

絶対にいい国を作るんだという熱意

使者の兵達が試行錯誤した努力が

多くのHの国の人に伝わったという事


報告を聞く会議室で、れいなも新しい幹部の人達も手ごたえを掴んだ気がした

「本当に遠い国迄重大な使命を果たしていただいてありがとうございました
しばらくゆっくり休んで下さい
それでは企画班、今の両国の意見を基に、さらに具体的な計画を詰めていきましょう」

「ハッ」

「それでは解散」

れいなの立派な仕切りで矢口達が参加する最後の会議も滞りなく終了した

れいなが率先して帰ってきた使者に労いの言葉を掛けに行くのを見て矢口は微笑む
この国はもう大丈夫だと

そして少し心を痛める

王や王子・・・松原の姿がここにいれば・・・・

こんなに立派な娘を持った事・・・・・きっと誇りに思うはずだったのに・・・・・と
646 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:05
企画班のリーダーが資料を持って紺野と矢口の近くに寄ってくる
どうやら相談に来たようだが、ざっとその内容を見て

「それは当主に相談した方がいい、頼もしき若きリーダーに」
「そうですね」

近寄ってきていたリーダーが頷きながらも、寂しそうにれいなを見ると
使者の所にいたれいなも寂しそうに矢口達の近くに寄ってくる

矢口達が使者が帰ってくる迄の滞在だというのは公表されていなかったものの
皆が薄々感じていた

「あの、矢口さん達は、すぐに帰ってしまうんですか?」

「ああ、明日でお別れだ、もう大丈夫だろ紺野」

「はい、この国の周りの国との友好をこれからも薦めていければ大丈夫だと思います」

「ほら、お前とここにいる・・・ううんこの国の皆が頑張ったからだよ、これからも仲間を大切にな」

会議室にいる幹部、兵達、使者が柔らかい笑顔で敬礼する
その顔は実に誇らしげだ

矢口と紺野もにこやかに敬礼を返す

「よし、じゃあ明日出発だ、紺野、帰り支度しよっ」
「はい」

れいなの肩を叩いて矢口達はドアを出た
647 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:08
近くにいたリーダーは

「れいな様、本当に矢口さん達は帰ってしまうんですか?」

「・・・・・うん・・・・でも・・・・・また会える
この国を矢口さんに恥ずかしくない国にすれば、またここに遊びに来てもらえるはず」

れいなの顔が・・・

目が・・・

力強く輝いているのを見てそこにいる全員が力強く頷く

「そうですね、それでは頑張らないといけませんね」

その中の一人がポツリと言うと、しみじみする会議室だったが



「あっ!」

とれいなが急に叫びだす

「どっ、どうしました?」

「とにかく会議終了!」

何か思いついたのか慌ててドアから出ていったのを皆は呆然と見つめた



れいなはその足で絵里達を探し、その思いついた事を言うと
「気づくの遅いよ」と笑われ、みんな同じ思いだったからもう準備を始めていると二人は話す

「そっか、みんな同じ気持ちだね」

嬉しそうにれいなが言うと、三人は笑いあった
648 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:10
一方、自分の部屋に戻ろうとする矢口と紺野が廊下を歩いていると
あちこちから声をかけられる

矢口には剣を指導して下さい・・
紺野には計算の仕方等を聞くために追いかけるようについてくるので
それぞれ言われるままについていく

矢口が道場にたどり着くと、新生特殊部隊を集めて色々説明するひとみの姿があり
気づいたひとみが手をあげたので笑顔で答える

内容は健太郎から教わった事そのままを伝えている様だが
横で辻と加護による実践が行なわれ、時には笑いも起きている

矢口に教えてと言って来た兵達は、元々志願兵として馬小屋近くにいた兵達であり
昨日もその前日も矢口達が特殊部隊につきっきりなので
近々帰ると噂される矢口に最後に教えてもらいたいと、会議から出て来るのを待っていたようだ

特殊部隊に漏れた一般の兵達も、少しでも教えてもらおうと群がってくる

じゃあ一人ずつ と近くの人から話を聞き始め
その質問に答えるのを他の人も真剣に聞いている

内容が自分の聞きたい事ではない人は近くで手合わせしだしたり
なかには特殊部隊のひとみの方を見てボーッとしている人もいた
649 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:13
活気のある声が響く道場もかなりの時間が経ち
うっすらと暗くなって来たと思ったら、道場に明かりが灯され出した

「あれ、ここって夜も使用出来るんだ」
矢口が次々と火を点けていく使用人達に気づく

ひとみと加護・辻もそろそろ終わろうとしていたのか
キョロキョロと明かりが点るのを不思議そうに見ていた

すると今度は入り口から次々に使用人が料理を持って入って来だす

矢口達は近くにいた兵達に「何が始まるの」と聞いたが
兵達はにこりと笑い言葉を濁すだけだった


どんどん人が集まりだすと
今まで教わっていた人達がこっちにどうぞと矢口やひとみを連れて行く

何?と怪訝な顔をしながら四人はひとつ所に集められて設置された台に乗せられる

「なんだよ、これ」

眼をぱちくりさせながら矢口が呟く

「親びんっ、何か怖い」
「怖いって何やねん、見てみぃ、ごちそうが一杯入ってきてんでぇ、なんか楽しい事あるんやない?」

対照的な子分達
650 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:15
そんな中、入り口の兵達が敬礼しだすと
笑顔のれいなが紺野の手を引いて台へと近づいて来る

「田中・・・・どしたんだよ」

後ろからは絵里達がちょこちょこついてきてて
台の下からにこにこと笑顔でれいなの代わりに言う

「準備が整うまでちょっと待ってて下さいね」
「加護さん・辻さん、まだおあずけですよ」

道場の壁際にあれよあれよとテーブルが運び込まれて続々と料理が登場し
中に入ってくる兵達であっという間にギュウギュウ詰めになる

これから各町のリーダーとなっていく人達の姿も見え
新体制の隊長や事務方の長、
使用人の中の長等が前に集まってきており
各々が皆に静かにと叫ぶと、やがて静かになっていった

ずっと口をあけて台の上からその様子を見ていた四人と
連れて来られた紺野の横に
れいなが立って咳払いをするとさらにシンと静まった
651 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:21
広い道場の中にぎっしりと人が詰まって、外にも人が溢れている

皆の注目が集まったのを確認したれいながすうっと息を吸うと静かに話し出す

「えっと・・・・・皆さん
私達このYの国に住む人にとって信じられない事が起こりました
隣にいる人を仲間と思う・・・・そんな簡単な事に気づけなかった私達に
そのすばらしさを教えてくれ、戦ってくれたここにいる五人
今ここにはいませんが、協力してくれた藤本さんや中澤さん達
勇気を出して行動した町の皆さんやFとHとEの国で協力してくれた人達
私は、いえ、私達は感謝してもし足りない程だと私は思っています

つらい事も沢山ありました、きっと皆さんも悲しい事や悔しい事があった事でしょう
しかし、これから私達Yの国民が
ここにいる五人や他の国の方達に教えてもらった事を生かして頑張れば・・・・
きっとこの国を本当に誇りに思える日が訪れると確信しています

いえ、こんな私のような子供に、知恵をくれたり協力という最大の力を貸してくれた
ここにいる皆さんを・・・本当に誇りに思います。
だから・・・
明日帰って行ってしまう矢口さん達に、私達Yの国より
ささやかながらお礼の宴をと・・皆で準備しました。
だから今日は楽しんで下さい。最後に一言、国民を代表して、本当にありがとうございました、では」

と、一旦れいなが入り口付近の兵に目配せをすると
再びすうっと今度は大きく息を吸って

「祝砲を撃てっ」

よく通るれいなの声に続きこの時代にはかなり貴重な大砲の音が響き渡り
その場の者達が拳を振り上げて歓喜の声を上げた

盛り上がる道場の内外

「「「「すげー」」」」

唖然とする四人と、にっこりと微笑んでいる紺野
652 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:24
それも落ち着いてきた頃、れいながその場を静めると

「あの・・・・出来れば一人ずつ皆に挨拶していただければ嬉しいんですけど」

と言ってくるれいなに、五人が顔を合わせ
首を振ったり指で×を作ってムリと訴える

そして四人が矢口にじとっとした眼を向けると観念したように矢口が一歩前に出て

「え〜っと・・・・その、おいら達は、みんなにこんな風にしてもらえる程偉い訳でもないし
なんか驚いてますけど、とにかく、皆さんは個人ごとにも
いろんなつらい思いをして来た事でしょう、だけどみんなで掴み取って生まれ変わったこの国で
この若い代表者と・・・そして今となりにいる仲間達と共に、一人でも多くの人が
笑って暮らせる国にしてもらえたら嬉しいです
それと・・・ここに来て本当に良かった、皆さんありがとうございました」

矢口が頭を下げると、同じように四人も頭を下げる

パチパチと拍手が起こり、やがてまた歓声に変わる

絵里達がすばやく五人にグラスを渡して、みんなも既に持っていたグラスを顔の前に上げる

「この国の繁栄と五人の今後の活躍と幸せを願って」

れいなが笑顔で言うと

『乾杯!!』

と全員が乾杯と声高々にグラスを掲げた


すし詰め状態の道場から外に人が出て行き
人々が徐々に食事に手を付け出した、外にも沢山料理があるようだ
653 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:25
次々に壇を下りた矢口達の周りに人が寄って来て
また来て下さい とか ありがとうございました と乾杯していき
五人は次第に酔っ払い出す

矢口の隣には常に絵里が陣取り、ひとみの隣にはさゆみがぴたりとマークし
矢口達以上に早いペースで飲んでいる

「おいおい、絵里ちゃん飲みすぎじゃない?」

矢口に体をもたれかける絵里に言う

「だぁいじょぶですぅ〜っ」
と、とろんと眼を瞑って来る姿に

「もうやばいでしょ、俺らが部屋に連れて行きますよ」
と、次々に挨拶に訪れていた兵の中の一人が言うと

「やだっ、まだ矢口さんのそばにいるのっ」と言って矢口に抱きついた

あちゃ〜と、困りながらも笑う兵達

同様にさゆみもひとみにくっついて離れようとしないようだ

「重さんっ、そろそろ寝るぞっ」

そんなひとみもそうとうキテるようで、ヨタつきながらさゆみを立ち上がらせる

「だ、大丈夫か?吉澤」

矢口が絵里にひっつかれながらも振り返って心配する
654 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:28
「ま〜かせろってちび、ほれいくぞ」
「はぁ〜いっ、おやすみなさぁ〜い」

心配して近寄る兵達に平気平気と手を振り外へ出て行こうとするのを見て、矢口も絵里を抱えて立ち上がる

「よっこらせっ、ほいっ、絵里ちゃんっ、おいら達もいくぞっ」

えへへと笑い続ける絵里を小さな体で支える


「「親び〜んっ、どっこいっくの〜」」

少し離れた壇の上で、かなりの人数を集め歌を歌っている加護と辻が
矢口達の動きを見て声をかけた

「絵里ちゃん寝かせてくるからぁっ、お前らは飲みすぎんなよっ」
「「へ〜いっ」」

れいなも紺野と、兵達に囲まれながら2人を見て笑って飲んでいるようだ

あちこちで火を囲んで盛り上がり、楽しそうにしている広場を見ながら
城内で人が沢山飲んでいる下の階をなんとか過ぎ階段をヨタヨタと登ると
ほとんど人のいない自分達の階にやっとたどりつく

とりあえず自分の部屋に連れて行こうと歩く
矢口はもう一階上に連れて行く体力はないと判断した
655 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:30
途中ひとみの部屋の前を通過すると、ドアを開けたまま
さゆみと2人くっついてベッドに寝ているのがちらっと見えた

「おいおい」

矢口が呟くと、絵里も目を開けてドアの中を見たようだ

「ふふっ、やってるやってる」

嬉しそうにまた目を瞑り矢口にもたれかかる

「こぉら、絵里ちゃんっ、もうちょっとだからしっかり立って」
「ふにゃ〜っ、やっぐっちさ〜ん」
「はいはい、ほらっドアあけっぞ」


矢口もドアを開けて絵里をベッドに寝かせる

「ふぃ〜っ、ゆっくり休めよ、酔っ払い
じゃあおいら、もちっと顔出してさよなら言ってくっから」

と行こうとすると、絵里がグワッと手を掴んで引き戻す

「おわっ、ちょっ」

寝ている絵里の上にのしかかりそうになり、慌てる矢口

見下ろす絵里がトロンとした目で見上げてきて、それが何だか色っぽくて矢口の喉が鳴る
656 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:32


「え・・・絵里・・・ちゃん?」

開けっ放しのドアに矢口がそこで気づき、体勢を直そうと試みる



「矢口さ〜ん・・・・好きです」

突然辛辣な目で言い出す絵里にドギマギする矢口


「あん?あ、ああ、ありがと、ドア閉めて来るからちょっと離して」

だが、自分も酔っている為あまり力が入らない

「い〜や〜で〜すぅ〜っ、帰らないで下さいっ」

グイッと引っ張られて絵里の上にさらに覆い被さる
密着する二人の体

絵里に首に手を回されたところで、矢口の体がグワッと離れていった



「10年はえ〜んだよ」


声と共に表情を無くしたひとみが矢口の襟首を掴んで立っていた


「吉澤さ〜んっ、邪魔しないでくだすわい〜」
「生意気言うなっつ〜のっ、だいたいちびもそんな事に関しては隙がありすぎっ」
「そんな事ってなんだよっ」

ずっと首を掴まれて人形のようになっている矢口がひとみを睨みつける
657 名前:dogsU 投稿日:2007/01/14(日) 23:34
「すぐ雰囲気に流されやがって、行くぞっ、まだ飲みたりね〜っ、子供は早くねろっ」
「おいおい、お前まだ飲むのかよっ」

のたのたと起きようとするが体が動かないのか、絵里が必死に矢口に向かって手を伸ばす

「あ〜んっ、矢口さ〜んっ、大好きですぅ〜」

絵里の言葉を残してひとみは襟を持ったまま引きずって部屋から出るとバンっとドアを閉めた



「ったく、油断もスキもあったもんじゃね〜」
「そんな怒る事ね〜じゃん、折角かわいい事言ってくれてるんだから」
「あほかっ、ありゃ本気なんだよっ、中途半端に答えんじゃね〜っ、ガキッ」

ズンズンと廊下を歩くひとみに、爪先立ちでよたよたとつれられながらも抵抗をみせる

「なんだよ、ちっとおいらよりでかいからって子供扱いしやがって、離せっ、あほ」
「ちっとじゃねんだよっ、ガキはおとなしく姫と仲良くしてろっつのっ」

ひとみが怒った表情で言った途端に矢口の姿が消える

すでに階段の下まで行ってしまった矢口が叫ぶ

「ガキじゃね〜よっ ば〜かっ」


既にそこからもいなくなってしまった階段の下を見ながら
右手を宙に浮かせたままひとみが呟く

「ちびっ」

むすっとした表情でひとみは道場に行く間にもまた色々話し掛けられ

その後矢口と会う事はなかった
658 名前: 投稿日:2007/01/14(日) 23:35
今日はこのへんで
659 名前:777 投稿日:2007/01/19(金) 01:47
おー!更新乙です!!
なんとか6期まとまって・・・・・夜這いするさゅぇりカワイイです^^
また次回も楽しみにしてます♪
660 名前: 投稿日:2007/01/20(土) 02:15
659:777さん
いつもレスありがとうございます。
6期の子達の魅力を自分の未熟さで表現しきらない事が悔しい
しかも、今回更新はこんな風にしちゃいました。ごめんなさい

それと石川さんは一日遅れですが
石川さん、矢口さん、共に誕生日おめでとうございます。
661 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:17
気がつくとひとみはさゆみに抱きつかれた状態で眼が覚める

思わず自分が服を着ているかチェックし苦笑する

『あっぶね〜』

と内心呟くとさゆみが起きないようにそっとひきはがしてそろりと顔を洗いにドアから出た

下ではごろごろと人が寝ていた
いっつもこんな風景を見るなぁ、別れの時、と頭を掻きながら水場に行き顔を洗っていたら

「吉澤さん、昨日じゃましましたよね」

なんだか怒気を含んだ声

慌てて声のする方を見ると腕組みをした絵里が仁王立ちして見上げてくる

だいたいさっきの声に驚く
わりと高めの声の絵里が低い声で唇を尖らせぶすくれた表情

「邪魔・・・って、ああ、でも酔った勢いであんな事しちゃダメでしょ」

顔を拭きながら困った顔でひとみが言うと

「だって今日帰ってしまうから、最後に思い出が欲しかったのにっ
それに自分は重さんとベッドに入り込んで抱き合ってたくせに」
662 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:19
おとなしいと思っていた絵里の怒った声を聞いて
周辺にいた兵達が驚きの声や、にやにやとした視線をよこした

「ばかっ、何変な事言ってんだよっ、重さんとは別に何もしてないって」

じとっとした上目遣いでひとみを見続ける絵里

「ほんとですか?」
「ほんとほんと、何でウチが重さんにそんな事しないといけないんだよ」

すると突然絵里が泣き出す

「なっ!な〜んで泣き出すんだよ」

おろおろするひとみに、周りの兵から「もてるねぇっ、男前っ」と声が上がる

「いやっ、そ〜じゃなくってね、そのっおい亀井」
「重さんかわいそう・・・何もしてもらえないなんて」

しくしくと目元で手を動かすと
それを聞いてひとみが、がっくりと頭を下げる

「あ・・・あのさぁ・・・・ま、いいや、悪かったよ、邪魔して、んであのちびは?」

聞かれた途端

「もうっ、ちびって言わないで下さいっ、かわいいじゃないですかっ
昨日吉澤さんに連れてかれた後飲み過ぎたみたいでまだ寝てますっ」

その顔はもう泣き顔でなく迫力のない怒り顔
663 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:21
ウソ泣きかよ・・・・と少し呆れたが、本人はいたって本気っぽくて
でも、ひとみはなんだかからかわれただけだと解るとさっさと踵を返す

「そ、んじゃあいぼんとののの所にでも顔出してくっかな」
「もうっ待って下さい〜っ」

それに不服な絵里はぐいっとひとみを引っ張る
そして絵里が顔を洗うのを待たされた後、自分達より一階下の加護と辻の部屋に行くと
沢山の使用人達の中にうずもれた2人を発見し、そのままドアを閉めた

「どういう状況であんなに人が入ってったんだろ」
「2人は人気者ですから」

さっき迄の不機嫌さが嘘のようににこにこしながら
何故かちょこちょこ後をついてくる絵里

「・・・・・・・・・なぁ、亀井の部屋っても一つ上だよね、どうしてついて来るの?」
「え・・・だって矢口さんが心配だから、看病しようと思って」
「二日酔いだろ、ほっときゃ治るって」
「ダメですっ、少しでもそばにいるんだからっ」

一瞬くらっとしながら、そ〜ですかと絵里が矢口の部屋に入るのを見てため息をつきながら呟く

「子供なんだか大人なんだか・・・」

自分の部屋に帰ったひとみはさゆみがまだ眠っているので静かに荷物をまとめる
といってもほとんど何も持って来ていないのでいつものリュックを用意するだけなのだが・・・

ふいに窓に眼が行き近づいた
窓際に行き下を見ると、昨日の片付けをする使用人達でごったがえしていた
664 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:22


665 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:24
その頃矢口の部屋で矢口が目覚める

横を向いて寝ていた矢口がふと視線を感じて眼を開けると
ベッドサイドに両手をついて絵里がにこにこと矢口を見ていた

「絵里・・・ちゃん?」
「はい」

にこにこと笑顔で返事をする絵里

「あ、そっか、昨日はここに寝てたんだ」

ごろんと上向きになって腕を額に乗せた
気を抜いていた上に酒のせいか、絵里が起きた事も何も気づかない自分に苦笑する

「はい、気分悪くないですか?」

覗き込むようにベッドに乗ってきて絵里が聞く

「うん平気、絵里ちゃんは?」
「ぜんぜん平気です、お水持って来ましょうか?」

その優しさに、腕を額に乗せたまま笑う矢口が

「いいよ、でも元気だねぇ絵里ちゃんは、昨日結構飲んでたみたいだけど」
「へへ」

照れたように笑うのを見ながら、再び目を閉じる
666 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:25
「あ、おはよって言ってなかったね、おはよう」

頭痛がひどいのか、目を瞑ったままけだるく話しかける矢口

「おはようございます」

至近距離で言う絵里の気配を感じながらもそのまま動かずにいると
すぐそば・・・・それも至近距離に絵里がいる気配がして目を開ける

「絵・・・・里ちゃん?」
「あっ・・・へへ」

少し離れてしまったが、確実に絵里は自分と唇を重ねようとしていた事を感じた
慌ててガバッと起きて絵里から離れる

その行動が悲しくて絵里は俯く

「いや、あの・・・・・絵里ちゃん・・・・その」

何と言っていいか解らず慌てる

俯いたまま動かない絵里に居心地の悪さを感じて
絵里のいない方からベッドを降りようとして手を掴まれた

「矢口さんっ」
「はいっ」

ドギマギする矢口
667 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:27

上目遣いで矢口の手を掴んだまま再び沈黙する絵里

潤んだ瞳がかわいくて、矢口は徐々に落ち着いて来た

何か言いたそうな口元だが、言葉はなかなか出てこない



「ん?どした?絵里ちゃん」

顔を傾けて笑う矢口に


「矢口さん・・・・私・・・・れいなのそばでこれから助けて行くって約束しました」
「あ・・・・うん・・・」
「だから、もう矢口さんに付いて行くって言いません」
「・・・・」
「でも・・・・このままお別れするのは嫌なんです」
「ん?」

なんだろうと絵里の揺らいでいる瞳を見つめていると



「キスして欲しいんです」



にっこりと赤い顔をしながらもしっかりと矢口の目を見据えて微笑む

「えっ?」

パチパチとせわしなく目を瞬かせる矢口
668 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:31
「矢口さんの事を好きだった子がYの国にいたって覚えていて欲しいんです」
「いや・・・・・その・・・・・覚えてるから」

不自然な体勢で手を掴まれている矢口は赤くなって俯き困っている
絵里は手を掴んだまま矢口が降りようとした方に移動してベッドから降り立つと矢口を立たせた

「お願いします」

手を握ったまま絵里は真っ赤になって目を瞑って待っていた

掴まれていない手でぽりぽりと頭を掻き、絵里の顔を眺める
かわいらしいと矢口も思うが、これでもキスはあまり経験がない

小さい頃は近所の男の子とふざけてしたり、加護や辻にはしょっちゅう奪われたりしているが
よく昔の仲間達が言っていたような気持ちいいという感覚はなかったし
何でみんなこんな事をしたがるのかはあんまり解っていなかった矢口

唇を合わせる位、挨拶のようなものじゃないか・・・と内心思う

ちゃんと好きな人としないからだという仲間達に言われて
姫が寝てる時にしてみようかなと思った事はあるが勇気がなくてやめた

だがその時、一瞬ひとみがあの夜に顔を近づけてきた事を思い出してしまった

どう考えてもあの時自分は彼女・・・ひとみの唇が近づいてくるのを感じていたし
迎え入れるように自然と目を瞑ってしまったんだっけ・・・と考え込む
669 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:34


「そんなに・・・嫌ですか?」

絵里が待ちくたびれて眼を開けて悲しそうに俯いたので我に返る

「や・・・嫌じゃないんだよ・・・・でも・・・・その・・・・
そんな事で絵里ちゃんにキスしていいのかなって・・・・」

あたふたする矢口

「そんな事・・・って・・・・矢口さん・・・・・絵里は矢口さんの事・・・
好きだから・・・・矢口さんに後藤さんがいるのも・・・知ってますけど
私・・・・最初にキスするのは矢口さんが良かったから・・・・・
矢口さんじゃないと・・・・絶対やだったから・・・・」

手をやっと離して、絵里は悲しそうに俯く

「あの・・・だって・・・いいの?・・・そんなんで絵里ちゃんは・・・
その・・・・満足なの?悪いけど、おいらは絵里ちゃんの気持に答えられないんだよ」

また吉澤の顔を思い浮かべてしまったが頭を振る

しかし矢口は加護達とふざけてやってるのと一緒だよなと簡単に答えを出そうとした

「はい・・・・それでこれから頑張っていけます」
「・・・・・・そっか・・・じゃあ」

本当にこれでいいんだろうか、戸惑いを隠せないながらも真正面に向き合う
互いに真っ赤になりながらも絵里の両肩を掴んで絵里を見上げて顔を見た

絵里が赤い顔をして頷くと目を閉じるので、矢口は少し背伸びをして顔を近づけ
絵里が自分の肩に少し力が入った重さを感じていると、柔らかな感触が唇に降りて来た
670 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:35

ほんのちょっと触れるだけのキス

眼を開けるとさらに赤くなった矢口が目の前で笑っていた

「な・・・なんか恥ずかしいな」

矢口が口にした瞬間絵里ががばっと抱きつく

「大スキです・・・矢口さん」
「・・・・ありがとう、絵里ちゃん」

絵里にぎゅっと抱き締められた肩口で矢口は言うと、背中に手を回して優しく抱き締めた

「はい」

「これからも頑張れよ」
「はい」

「本当にありがとう」
「必ず遊びに来てください」

「・・・ああ」
生きていられたら来るよと心で呟き

しばらく抱きしめあった後身支度を整え二人で仲良く食事にむかった
671 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:35




672 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:40
一方食事が終わったひとみの部屋では
さゆみの攻撃が始まっていた

「だ・・・だからぁ、本気の子とはそんなのしないって決めてるのっ」
「でも絵里と約束したんですぅっ、絶対に好きな人とキスしよって」
「いや、・・・・なんか違うから」

さゆみが俯いて何か考えている

ひとみは何故か危険を感じ、そろりと側を離れてドアへと向おうとしたら
声をかけられてしまい、ピタリと動きを止めた

「わかりました、本気じゃなければいんですよね
私、吉澤さんとは遊びです、だから大人のキス、教えて下さい」

背中から聞こえる突拍子もないお願い

「は?・・・・いや、なんかそれも違いません?」
「違いません、遊びですから」

すぐにさゆみに回り込まれて抱きつかれる

顔を覗き込み間近で見るさゆみは、確かにかわいく
昔の自分だったら迷わずいいよと速攻押し倒して事に及んだだろう

あの温泉で矢口に抱きつかれた時の心臓と今の状態との動きの違いが
すぐに自分に真実を自覚させる

「ん〜、ごめん・・・・・重さんの思いには答えられないんだ・・・・
ウチ・・・好きな人いるし・・・・」

ひとみの胸の中で、真っ赤な顔をして唇を噛み締め
背中に回した手が洋服をぎゅっと掴む
673 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:45
「それでもいいんです・・・・私はこの気持ちを大事にしたいから・・・
吉澤さんとキスしたいって思ってる今の自分を大切にしたいだけなんです」

まったく絵里といいさゆみといい、子供なのに大人びた事を言うもんだと感心する

「じゃあ・・・・・重さん・・・・今日でお別れだけど、今までありがとうのキスって事でいい?」
「はい」

にっこり笑って上を向いたさゆみに唇を寄せ、優しくキスした

「こんなんで良かった?」

ひとみの予想に反し、さゆみはキョトンとしてしまっている
そんな様子に、してって言ったのはそっちだろと言ってしまいそうだったがなんとか抑えた

「し・・・重さん?」

何を考えていたのか解らなかったさゆみの思考が次の言葉で解明出来た

「・・・・はい・・・・でも・・・・その・・・・
よく兵隊のお兄さんが言ってる深いキス・・・・って何です?」

「は?」

ひとみは今、自分に抱きついているかわいい少女がまさか快楽を求めていたなんてと少し動揺した

「良くみんなが教えてくれるんです、キスは深くないと気持よくないって
・・・キス・・・って気持いいんですか?」

じゃあ今のは気持ち良くなかったのかよ・・・と思わず突っ込みそうなひとみ

だが確かに互いの気持ちを伝える手段の時以外では
今のようなキスでは気持ちよさとか感じないのかもしれない・・・

そしてウルウルと見つめてくる瞳があまりに清らかで、ただ純粋なだけなんだろうと思わせた
674 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:47
「あのさ・・・・それはほんとに好きな人とすればいいじゃん」

自分を棚において説教じみた事を口走った自分に苦笑する

「だってほんとに吉澤さんが好きなんです・・・・だから吉澤さんに教えてもらいたいんです」

必死な表情で見上げてくるさゆみ

「ん〜」

誰だよそんな事子供に言う兵隊ってと困るひとみだったが
確かに自分もこの子ぐらいの時にどんな事だろって思い
やっぱり年上の人に教えてもらったなぁと思い出す

「しゃ〜ね〜、教えてやるか」
「はい」

と頷くさゆみの腰に片腕をまわし、開いた腕でさゆみの顎を上げさせると唇を寄せてキスする

「いいんだね、本当に」

一度離した唇、返事をしようとした唇に再び唇を寄せる

すぐにさゆみの顔がとろんと力なく緩み、唇が開いたところに舌を入れてみた
さゆみがビクッと体を震わせると再び唇を離して優しく微笑む

「怖くないよ」

昔良く言ってたなぁと思いながら囁いて再び吸い付くと、ひとみ自身もなんだか妙な感覚になって行く
675 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:50
ひとみは頭の中でやべっと叫ぶ

朝から何やってんだろという自分と
どうせ今日迄なんだし、ずっとご無沙汰だったしいいかといういい加減な自分が蘇る

遠慮がちだったさゆみの舌が快楽を知り始めたのかしっかりとひとみの舌と絡まる

「んっ・・・んふっ」

声を出しながらひとみの舌の動きを真似てくる


互いに欲望に飲み込まれ始め

いつのまにか
二人は角度を変えたりして夢中で貪りあっていた


堪らないというさゆみの甘い声がもう当たり前に聞こえて来た頃
ノックと共にバンっと矢口達が入って来た

「そろそろ帰・・る・・・・ぞ」
「あ」

一瞬にして驚いた表情になる矢口と絵里

唇はノックと共にすばやく離してはいたひとみだが
体を委ねているさゆみはひとみの胸のところで密着した上、とろんとした顔をしてひとみを見ている

何をしていたのか想像するのは簡単だった
676 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:52
「ごめ・・・・し・・・・下で待ってるから・・・」

矢口は絵里をつれてドアを閉めた

「あっちゃ〜」

渋い顔をして、ひとみがさゆみを引き離そうとすると
さゆみがへなへなと座り込む

「おいっ、だ・・・だいじょぶ?重さん」
「はい・・・気持よかったです」

ぽわんとした顔をしてひとみにベッドに腰掛けさせてもらう

その前に立ったひとみは、ポリポリと頭を掻きながら

「重さん、ほんと今までありがとね
これからは田中と亀井と協力し合って、いい国にしなよ」

「はい・・・・大好きです、吉澤さん」

夢見る乙女の顔でにっこりと笑いながら言うさゆみ

「・・・・・・・ありがと」

ひとみが優しく頭を撫でる


なんとなくまずったかなぁという思いを残しながら
まだ夢見がちな顔をしてふにゃっとしたさゆみを連れてリュックをからうと下へ向った
677 名前:dogsU 投稿日:2007/01/20(土) 02:55
下に行くと、加護も辻も紺野も勘太も揃っていて
れいなが矢口に抱きついている所だった

「矢口さん、本当にありがとうございました
これから色々あるとは思いますけど、みんなと頑張りますから
本当にまた皆さんと遊びに来て下さい」

「そうだな、ぜひまた来させてもらうよ
そのうちHの国とかも旅出来たらいいしな、じゃあみんなお世話になりました」

二日酔いの人や、使用人がぞろぞろと城の前に集まって来ていた
特殊部隊や志願兵、元三坂兵もここに昨日戻って来ていた為敬礼して並んでいる

そばにいる人達にお礼を言いながら握手して周る仲間達

絵里は矢口を、さゆみはひとみをうっとりとした視線で見つめる中、全員馬に乗った

矢口は絵里に視線をやると、ありがと と言い手を振った
絵里は真っ赤な顔で馬の近くに行き矢口を見つめて寂しそうな笑顔で見上げてくる

さゆみはひとみが手を振っている姿をうっとりとした表情で見てたが
無意識の感じでフラフラと馬について行きそうになるのをれいなに止められた

集まっている兵が敬礼している中を、皆に手を振りながら五人は城を出て行った

「行っちゃったね」

れいなが近くにいる絵里を見ると涙を溜めていなくなった方を見つめ
さゆみはぼうっとした顔で同じくいなくなった方を見つめていた

「また、絶対会えるって」

そんな2人の肩に手を置いてれいなが言うと
絵里は頷き、さゆみは見つめたまま「うん」と呟いた
678 名前: 投稿日:2007/01/20(土) 02:56
本日はここ迄
679 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/20(土) 09:25
今年も矢口さんの誕生日に更新してくださってありがとうございます。
矢口さんも絵里ちゃんもしげさんもかわいくて微笑ましいですが、よっすぃだけはオトナですね・・・。
24歳の矢口さんおめでとうございます。
680 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/20(土) 11:51
おいおいw
いやあ今後が楽しみです
そして矢口さんおめでとう!梨華ちゃんもおめでとう!
681 名前: 投稿日:2007/01/21(日) 14:51
679:名無飼育さん
まさか前作も読んで下さった方がいらっしゃるなんて驚きです。
前回も今回も需要が少ないCPの上にこそこそ続けているので
見つけて読んで下さるの方がいるが本当に嬉しいし、本当に感謝ですm(__)m
今回はまたかなり長い話にしてしまい
大変申し訳なく思ってますが、よろしければもうしばらくお付き合い下さい
かなり長くて疲れるかと思いますので、無理せずほどほどにご覧下さい

680:名無飼育さん
おいおいって感じですよね、まったくww
それになんだか期待を裏切りそうで非常に怖いです・・・

レスありがとうございました

一つ間違い訂正を入れさせて下さい
677: 中頃
 × 元三坂軍
 ○ 元松原軍
小さなミスはまだまだ多数ありますが、これだけはちゃんとしなくてはと
訂正させて頂きました。大変申し訳ありませんでした 
682 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 14:55
一方出てった五人は城を出て門にたどり着くまで集まった人達に手を振っていた
解放された門を出てもしばらく人垣が続き、やっと人もいなくなった頃矢口が話し出す

「昨日お風呂入れなかったし、温泉入ってから行こうよ」
「「いいねぇ〜」」

と加護と辻は嬉しそうにして
紺野は恥ずかしそうに、ひとみも即座にいいよと言う

その場所に着くと、矢口とひとみの馬はもう知っているように温泉に自ら入りのんびりしたが
後の三頭の馬は入る事を嫌がってそばの草を食べ始めた
加護と辻がパパっと脱いだら、勘太と共にドバッとダイブして二人して気持い〜と叫ぶ

「あんまはしゃぐなよ、二人とも」

笑顔で言うと矢口達もゆっくりと脱ぎ、静かに入った

何も言葉を交わさなくても矢口とひとみは、いつもの定位置で自然に青空を見上げた

城を出てからの二人はまだ会話をしていなかった
ひとみはなんだかさゆみとの事を見られてしまったので気弱になっており
沈黙に耐えられず、恐る恐る話しかけた

「なぁ、いっつも星空だったけど、青空もいいなぁ」
「そうだね」

その問いかけに矢口は言葉少なに答えた

ひとみにはその声が冷たく感じて思わず矢口を見る
683 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 14:57
今まで夜でも意識して矢口の体を見る事のなかったひとみは
あまりの冷たい声につい矢口を見てしまう

薄暗くもなく青空の中にはっきりと映し出される矢口の体には無数の傷があり
今回の松原から受けた攻撃の傷はどれなのかもう解らなくなっていた

岩に頭を置いて空を見たまま目を瞑っている矢口の体に見いってしまったが
すぐにひとみは赤くなって顔を逸らし、もう矢口の方を見る事はなかった

しかし今は、冷たくされた事よりも
さっきのさゆみとのキスで自分の中の欲望が顔を出した事に気づいた事に心を占拠されていた

昔、まだ梨華と住んでいたJの国では、欲望のままに抱いたり抱かれたり
とにかく声をかけてきて、変な奴と好みでない奴
それと本気な奴以外なら誰とでも寝ていた自分を思い出す

いつも欲望が顔を出すと、抱きたい時は抱かせてくれる女が二・三人いて
抱かれたい時にも二・三人の男がいつもいた
一人と長くは続かず、幸せになりたいと一人・二人と離れて行っても
すぐに代わりは見つかり、不自由した事なんてなかった

それが矢口達の旅に同行するまでのひとみ

忘れていた感覚を、さゆみとのキスで少し思い出してしまった
684 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:00

矢口とキスがしたい

矢口の全てを知りたい

今目に入った傷跡の一つ一つに迄

自分の唇で・・・

指で・・・・触ってみたいという欲望

ただでさえ2人きりになる事は避けなければどうなるか解らないと思っていただけに
ひとみは点けてはいけない自分の中のろうそくに火を灯してしまったと気づいた


矢口は矢口で、あの場面を目撃してしまって、ひとみに少しイラ立つ自分がいる事に気づく

だいたい自分には真希という運命の相手がいるのだから
ひとみが誰と何をしようとかまわないはずだ・・

前に自分に言った「好き」って言葉だって・・・・
彼女にとっては日常使っていた言葉だったのかもしれない・・・と

だから・・・・

あんな子供にまであんな表情をさせるひとみが少し嫌だったんだと思おうとした

かといって、ひとみがそばにいないと寂しいのはここ数日で嫌という程感じていて
これからどう接すればいいのか自分でも解らない

一人のんびり入っていた紺野は、その2人の微妙な空気を見て首を傾げる
685 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:03
そんな三人をよそにはしゃぎまくる2人
その水しぶきが三人にかかりだすと矢口がキレる

「こらぁっ、お前ら、もっと静かに入れよっ、馬だって入ってるんだから
見てみろっ、睨んでるじゃんか」

馬が本当に辻と加護を見てて、加護達がありゃごめんねと馬を撫でに行った

「ごめんな紺野、同い年なのにガキで」
「ふふ、楽しいですよ、でもこれから通る町はどうなってるんでしょうね、今頃」

二人の空気が微妙なのに気を使ったのか、紺野が顔を洗いながら話を振ってくる

各町に今回の事態の収拾に向かった兵達の報告では
各町も新しい町づくりを始めだしたという報告しかなかった

「そうだなぁ、一応生き残ったYの地方兵達も戻って行ったし
反乱軍の若者とも話し合ってたみたいだから、なんとか通常に戻ってるんじゃないかな
紺野と会った町だって、Yの国の領土になる前にも
Eの国の王都みたく長い間ひどい目にあった訳でもなく、一応は普通に暮らせてた町だしな」

きっと大丈夫だよと体を起こした矢口は紺野に向かって微笑む

「ええ、そうだといいですね」

紺野が柔らかく笑う
686 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:07
「よしっ、そろそろ行くか、まだ次の町までは距離あるし
出来れば暗くなる前にでも次の町へ着きたいしな」

「はい」「「へ〜い」」

持って来ていた布で各自体を拭くと服を着て
さっぱりとした体で森を駆け抜け、草原を駆け抜けた

「親びん気持い〜っ」
「ここは何度走っても気持いいなぁ」

青空と、冬に向けて随分茶色の草が増えた草原の中を
気持よさそうに五人と勘太は駆け抜ける

次の町に着くと、矢口達を見て反乱軍だった人なのか
知人のように声をかけて来た

「矢口さ〜んっ、御飯食べて行きませんか〜」


門では軍服を着用していなくても敬礼してそのまま入れてくれるし
待ち構えていたように人が寄って来たのだ

いつかここを通ってEの国に帰って行くだろうという事で
毎日町民と兵が交代で見張りを立てていたようだ

もちろんご馳走になりにその町の中心の屋敷にお邪魔する事にした
これからの町の為の話を熱く語る人たちの話を五人は聞いてあげたり
戦い方を教えたりと結局泊まるはめになった
687 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:10
Yの国の兵の上官が使用していた場所、二人部屋を3部屋、五人に提供してくれる

紺野が一人でいいと言うのに、ひとみはどうしても一人部屋にしてくれと頼み込み
一人で泊まらせてもらう事になった

一人では寂しいだろうと勘太がひとみと泊まってくれるようだ
だいたい一度火の点った体は、矢口と一緒の部屋にでもなれば
もうこらえきれないと確信していたから絶対に阻止しなければと
ホッとしながらも部屋で勘太を抱きしめる
まだ自分の欲望で彼女を死なせる訳にはいかないと心で呟きながら・・・

そして矢口は、紺野と相部屋になり、2人はゆっくりと話をする

「ねぇ、紺野・・・・おいら、Eの国へ帰ったら
出来ればすぐMの国へ戻ろうと思ってるんだよね、まぁ姫がなんと言うか解らないけどね」

「ええ、気になりますよね、やっぱり」

今迄も薄々Mの国の事情は話していた・・・・
急に早まったJの国の干ばつに興味を持ったりと違う視点を持つ紺野に尊敬さえ抱く

「うん、吉澤達や藤本のJの国も少し心配だし、その時はもちろん紺野も来てくれるんでしょ」

共に布団に入って天上を見上げながら話し出す

「ええ・・・・でも・・・・いいんですか?その・・・・私なんかがついてっても」
「何言ってるの、いいに決まってるじゃん」

「・・・なら・・・・お供させてもらいますけど・・・」
「・・・・けど?」
688 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:13
紺野は、自分が真希を好きだという事を矢口が知っても許してくれるのかが怖かった

「いえ・・・・何も」

矢口にとって自分はただの恋敵で・・・・
あの日真希が口付けてくれたのはどういう事なのか、自分でも解らないままだった

あの時はとにかくまた真希に会いたくて・・・・
真希もそれを望んでくれているから今戻っているだけだから
自分が今後Mの国へ向かうだろう真希に連れていってもらえるのか判断出来なかった

「ただね・・・Jの国は・・・ううんMだって今はまた族とみるととりあえず一度全て捕まえたり
殺したりするかもしれない、特殊部隊が出て来て、しつこく追いかけて来る時もあるかもしれない・・・
そんな旅だけど・・・・一緒に姫を守ってもらえる?」

「それはもちろん」

2人は微笑みあう

「それに・・・・実は前に聞いてたJの国の干ばつの話・・・・・少し調べてみたんです」

「そうなの?忙しいのによくそんな時間」

「調べ物は得意だし、なんか好きなんです、まだ私の中でまとまってないのでお話出来ませんが
なんだか厄介な事になる予感がするので・・・・
その・・・・是非連れて行ってもらいたいな・・・と」

「うん、ありがと、それに慌てなくていいよ、まとまったら教えてね」
「もちろん」

その後、紺野が何か考え出した風なので、しばらく黙っていたら
矢口はそのまま眠ってしまった
689 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:15
朝になると紺野は、矢口と一緒に部屋を出る前に

「昨日考えたんですが、またすごく気になる事があるんですよ
色んな事を組み合わせたら、その為にちょっとこれから行動してみたらどうか・・・とか
・・・ちょっと思うんですけど、でもそれをお話させていただくのはもうしばらく待って下さい」

と言って恥ずかしそうに笑った

「うん、一生懸命考えてくれたんだね、ありがとう」
「いえ」

照れている紺野を見て、この子は本当に真面目で優しい子なんだろうなあと目を細めた


出発した矢口達は、結局町を通る度に宿泊していけと熱く言われ
そのたんびにその町の兵に戦い方を教えたり、役人や町民から相談に乗ったりして帰った為
結局野宿は一度もしなかったものの、今までよりもかなり時間をかけて帰っていくはめになった

しかし、その間矢口とひとみは必要最小限の会話しか出来ていなかった

矢口は、さゆみとの現場や、そのまた昔の鷹男との現場を目撃した時の衝撃が蘇り
なんとなく不機嫌な感じになっていたし

ひとみはひとみで、あの事を見られたせいできっと矢口は
自分を軽蔑しはじめているんではないかと気が気ではなかった

そんな微妙な空気の中で、やっとEの国迄たどり着くと
なつかしい人物が来ていた
690 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:17
「「矢口ぃ〜」」

城に近づくと門の所にかおりとなつみが走ってきていた

「あれっ、飯田さんとなっちやんっ」

加護と辻も嬉しそうに叫んで、皆、馬の足を速めて近寄ると飛び降りた

「どうしたのっ、ここに来てて大丈夫?」

矢口が言うと、二人は笑って

「だって新聞見て驚いたもんっ、また矢口達がやっかいな事に巻き込まれてるしっ」
「そうそうっ、水臭いよねって瞬さんと一緒に怒ってたんだから」

それを聞いた時、城の入り口に立ってこっちを見ている瞬や加藤、鷹男の姿に気づく

「あれっ、瞬さんも加藤さんも、鷹男さんもいる」

皆で手を振る

「そうだよぉ、なっち達に声かけないでYの国なんかに行ってるから
そろそろ戻って来るんじゃないかって怒りに来たのっ」

へへっと笑う矢口は
なつみ達と話しながら馬をひいて城の入り口迄来て馬を繋ぐと、近づいてくる瞬たちに挨拶する

「お久しぶりです、もう町は落ち着きましたか?」

「ああ、すっかり楽しい町になったよ、皆互いの街を行き来して買い物を楽しんだり
海に遊びに行ったりしだした」

今まで互いの町単位で行っていた取引も
自由に個人で出来るようになったし商売が盛んになってるよと笑う
691 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:19
「シープの俊樹達も本当は来たいって言ってたんだけど、あの町が一番被害が大きかったからね
まだ忙しいらしくって、援助物資だけ持っていけって」

加藤が矢口に微笑みながら続いた

「援助物資?」

「せや、ここがひどい状態やから、何か足りないもんがあれば
持って来てくれる言うて連絡があってな、遠慮なく甘えさせてもろたんや」

出世払いやと笑いながら登場する中澤に矢口は嬉しそうに声を上げる

「裕ちゃんっ、ただ今」

中澤に続き城の中から真希、藤本や梨華も出て来る

「「「おかえり、みんな」」」
「「「「「ただいま」」」」」

再会に喜ぶ明るい笑顔が交わされる

加護と辻は姫と梨華にひっつきにいき
ひとみも辻に抱きつかれた梨華と隣で微笑んでいる藤本に微笑む

紺野の視線も真希に行き、真希も紺野に微笑んだ
692 名前:dogsU 投稿日:2007/01/21(日) 15:20
矢口も、藤本と梨華の隣へ近づき肩を叩くと、中澤が仕切り出す

「再会も嬉しいとは思うけど、落ち着いて話さへんか?」
「あ、そうだね、じゃあ、会議室にでも?」
「せやな、とりあえず行こか」

皆が動き出すと、矢口は真希と眼が合い微笑みながら頷き合う

やはり二人には特別な空気が流れ、誰も入れないような錯覚に陥る
その様子をそう思いながら見るひとみに鷹男が近づいて来る

「久しぶり、なんかすごい活躍だそうだね」
「いや、それほどでもね〜よ」

一瞬嫌そうな顔をするが
すぐに逃げるように足を進め鷹男から離れていき、鷹男は後ろから付いていく

「ふっ、あいかわらずだな、で、姫を見させてもらったよ
・・・・これはまた綺麗なお姫様だったんだな」

「うるさい」

うざったそうにするひとみは足を速め
そんなひとみを鷹男が優しい目で見て肩を竦めた
693 名前: 投稿日:2007/01/21(日) 15:21
今日はここ迄
694 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/21(日) 17:19
初めてレスします。
今迄読むだけ、それも倉庫ばかり見ていましたが、先月、前スレを読み出し、止まらなくなり倉庫から抜け出て来ました。
今では土日、週明けには欠かさずチェックさせていただいています。
そろそろ大詰めかと思いましたが、どうやらまだまだ続くようですね、安心しました。
作者さんのペースで長くお世話になりたいと思っています、がんばってください。
695 名前: 投稿日:2007/01/27(土) 00:12
694:名無飼育さん
初レスありがとうございます。
なんだか励みになる言葉を頂けて嬉しいと共に申し訳ないような変な気分です。
長すぎるといつ苦情が来るかと内心思っているだけに
大変ありがたいなぁと感謝感謝です。
前の返レスでも妙な文になってるし、まだまだの駄文ですが
これからも決して無理せずにお付き合い下さい。ありがとうございました。
696 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:15
矢口達の前に新聞が置かれ五人は読みふけっていた

既にこの町の役人及び兵になっている中澤の仲間達も
手の空いた人達が会議室に集合し矢口達の話を聞こうと静かに見守っていた

保田の次の新聞がすでにダックスやバーニーズには出回っていて
Yの国での詳しい事柄や作戦が再び紙面を躍らせている事から会議室での話は始まる


「う〜ん」

真っ先に読み終えた矢口が唸る

「どないや、圭ちゃんの記事は・・・すごいやろ?」

実際あの場に保田達はいなかったのに、その場にいたかのように
細かなセリフ迄記述されていて感心するしかなかった

しかも読んでて自分がその場にいるような臨場感溢れる表現
あの場の緊張感や、個々の戦い・悲しみ等が伝わってくる文面だった

聞いた所では、これを書いた頃には、中澤達はまだ到着していなかった

帰ってきた頃、丁度刷り上ったので近場のシープやダックス・バーニーズと
このEの王都に先に販売した後だったそうだ

なんでも同じ事柄を見ていた人達に何人も何人も取材して
真実だと信じた事を載せたと保田は胸を張り中澤に言ったそうだ

「うん、すごいよ・・・・本当に・・・・良くこんな細かい事まで
・・・・これをYの国の人達が見たら、必ず田中に協力してもらえる人が増えるね」

本当にすごい・・・・と感心する矢口達

「けど今回はMの国の事は載ってないんだね」

静かに矢口が呟くと

「だって圭ちゃん達三人今回はYの国に付きっきりやったし
書いてへんけど結構各町の連絡係として飛び回ってたみたいやで」

取材兼ねてやけどな・・・と中澤は保田達の活躍をちゃんと見ていた

「ほんと、すごいや」
697 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:18
新聞には暴動後の各町での兵と町民との話し合いの様子が実にリアルに載っていて
すぐに平穏に向かっていった訳ではない各町の葛藤が書かれている
保田達はその目で見た事、聞いた事の真実を克明に書き綴っていた

「そっか、だからYの地方の町のエピソード迄・・・・すごいや圭ちゃん・・・で、圭ちゃんは?」
「今度はMの国へ向ってったで」

「くわぁ〜タフだね」
思わずひとみが呟く

Yの国の方向に今頃、小川が新聞配って回ってんやないかな、ガキさんは逆方向やな・・・と中澤

「それにだいたい、おいらこんなに褒めてもらえるような奴じゃないし
そろそろやめて欲しいんだよね、矢口って名前聞くだけでなんだか色んな事言われるの」

寂しそうな矢口を見て、瞬が口を開く

「そういや、俺らも最初矢口って聞いてあの矢口かって聞いたもんな」

殺人鬼にしてはイメージが違い過ぎてなと笑う

「でしたね、でも今回はここにいる皆、裕ちゃん達や紺野・田中・絵里ちゃん達迄、ちゃんと名前載ってるね」

だがひとみと梨華、藤本の名前だけ載っていない

「せやで、だいたいこんな時代にこんなに頑張っとる
ウチらみたいな奴がおるっちゅうのは、ちゃんと世の中に知らせんとな」

もうこの町でも結構名前覚えられてんで、みんな・・・・となんだか嬉しそう

「あ、でも梨華ちゃん達は載せないでってゴトーが頼んだんだ」

真希は梨華に向かって微笑み、梨華も微笑んで頷いた
698 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:20
「その方がいいでしょ、やぐっつぁん」
「・・・・・・・」

見透かすような真希の視線を受けて黙る矢口は、しばらくしてから微笑みを返す

どういうつもりで真希がそう言ったのかは、その時も・・・そして今も誰も解らなかった

でも・・・・

そこにいる誰もがこの二人の絆のような、繋がっているような何かを感じていた

ひとみは静かに視線を逸らす

「この姫さんは、理由は解らんとかむちゃくちゃなんやけどな、それ聞いて
圭ちゃんが矢口達がこれからまた戻るならその方がええやろって
記者としての何かカンみたいのが働いたとか言い出してしもたんや、一体、何のカンやろな」

含みのある笑いの中澤に笑顔を曇らせ、眉を顰めた矢口は

「ならおいらも、名前載せたくなかったんだけどな」
「なんかな、あんたの名前が載ると、新聞の売れ行きが違うらしぃで
矢口の名前だけは匿名に出来んかったらしいわ、残念」

と、明るく笑ってはいるが
それから何も言ってこなくても何かを予感している中澤や藤本達の視線

きっと矢口は何か始めようとしている・・・・と

「まぁええ、ウチらはとにかく誰にもでけへんような事して来たんやと思うで」

「俺もそう思う、矢口は皆の幸せを願ってただ動いてるだけかもしれないけど
実際の話、これだけの事をやろうと思って出来る奴なんていやしないんだから
矢口はそれを誇りに思っていんだよ」

瞬の熱い視線を受けながらも、矢口は首を振る
699 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:23
「おいら・・・・そんな大それた事なんて、する気じゃなかったもん
今回だってここにいる全員の思いがあって、田中の頑張りがあって
Yの国の人たちが頑張ったから、やっと自由に国づくりを出来出したんだもん
だから圭ちゃんに会ったら、なんかあっても、もうおいらの名前は載せないでって
言っておいてよ」

しゅんとする矢口に皆の目が細くなる

「全く、かなんなぁ、矢口には、んで、これから矢口達はどうするん?
もうこの町はYの国の侵略に会う事もなくなったんやし、ここに住んでくれるん?」

挑戦的な視線で中澤はもう結論が解っているのに敢えて聞いて来る・・・
というより今までの含みのある視線をようやく言葉にしたという所だろうか

微笑んでいるゴトーに一度視線を向けた矢口は、次に紺野に視線をやり、紺野も頷く

「おいらは・・・・その・・・・Mの国へ戻ろうと思ってる
姫は無事だったからもう安心だし、やっぱおいらの育った国だから、どうなってるか心配だし」

それと・・・気になる事もあるし
・・・・と矢口が再び真希に向かって探るように視線を向けると真希は微笑んだ

中澤もニヤっとして

「やっぱりな、まぁ何が気になるか知らんけど、まぁ片付いたらまたここに戻ってきてもええんやしな」

「うん、ありがと・・・・・でも・・・・・・・・姫・・・・は、どうされますか?」

矢口も答えの解っている事を、この場で真希に聞いてみる

再会後の真希の変化に少し様子を伺っているが
自分の知っている真希なら・・・と敢えての質問

真希の祖父母、両親・・・・もちろん真希も、Mの国の民の事を一番に考え、いつも行動していた

だからそんな王族を守る為にのみ自分達は存在する
だから自分が生きている価値がある
そう祖父母や両親から身をもって教えられてきた・・・・
700 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:25
殺されてしまった両親の・・・家の外で聞いた最後の言葉もそう
蜂の巣状態になっても必死に叫ばれた使命


”お前は死んでも誰を傷つけても姫を守れ”


優しかった父の最期の叫び声

自分が白い世界にいく・・・・スイッチにもなった言葉

王が死んだ時にも父親が悔し涙にくれながら
弱弱しく両肩を掴まれて、何度も何度もこの言葉を繰り返された

王族付きの族は主を亡くせば生きる資格はない
父は殺される時にはもう抵抗もしなかったらしい
主である王の死によって・・・・・自分の生きる理由はもうなくなったと覚悟を決めていたのだろう

藤本や紺野を見て、同じ王族付きでも自分とは少し違っていると思っていた・・・・・というより
自分達家族の方が特殊で、あまりに王族との絆が強すぎたのかもしれない

そんな父が王を殺したりしていないのは解ってる
それまで表向き平和な自分達の国が、長い年月を掛けて
ある人物の陰謀によって変えられてしまっている

王族は民の為に・・・・そんな環境で育った真希が今
なんだか怪しい動きをしているMの国に帰らないはずがない

城の入り口で交わした視線では、強くそう伝えてきていた

そして遠く離れた場所にいても、これから矢口がどうするかを予感していた真希の姿に
矢口も予想を確信に変えていた

ただ矢口の心配は、真希の中の紺野の存在がどう影響するかだけだった
701 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:27
「もちろん行くよ、やぐっつぁんが行くのに、ゴトーが行かない訳には行かないでしょ」

力強く矢口に向かっていうが、
その後ちらりと紺野を見てどうするのか探っていて
その視線に気づいた紺野が小さく頷くとホッとした表情を見せていた

それを見て矢口は複雑な気持ちになりながらも小さく頷きシャキッとした声を発する

「姫・・・・じゃあ、明後日頃出発しましょうか」

力強く頷く真希


「そんなに早くなのっ?矢口」

その矢口の言葉に一番初めに反応したのはなつみだった

「まぁ、やっとみんな集合出来たし、明日ゆっくり体を休めさせてもらったら出発かなって」

なつみのえらい剣幕に声を小さくしてぼそぼそと答える矢口だったが
それを見てカオリが助け舟とばかりに話し出す

「でもどうせダックスとバーニーズ通ってかなきゃいけないんだし
カオリ達も一緒に帰って泊まってもらえば長くいられるじゃない」

「ん〜」

「そうだな、矢口達が帰ってこなければ、ほんとは明日位に帰るつもりだったんだが
俺らも明後日までここにいさせてもらって一緒に帰ってもいいかな」

瞬が中澤に聞く

「もちろんええけど、じゃあ、ここにいる新米兵達にまた剣術教えたってな、明日は」
「ああ、いいよ」

なんだか仲良さげな雰囲気の漂う二人に
おっ と矢口は思った

もしかしてこの2人って結構気が合うのかもしれないと
702 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:30
その時やっと新聞を読み終わった加護と辻が、新聞をバンッと机に置いて叫ぶ

「かっこええわぁ〜、親びん」
「うん、さすが親びんやなぁ」
「「でも何が一番ってかわいい子分達の活躍が光ってるわ〜」」
ピッカピカやな・・・と

2人同じポーズで腕を組んでうんうんと唸っている

「まぁ、中澤さんや美貴ちゃんもよっちゃんもコンコンも田中っちもかっこええけど、やっぱウチら最高っ」
「ばっ、何言い出すんだよっ、加護辻っ」

机の向こう側に並んで座ってる2人に真っ赤な顔をしてやめろと前のめりになって矢口叫ぶ

「いいじゃないですか、あいぼんとののにとっては、矢口さんが一番なんだし
三人のチームワークは最強だって十分知ってますから」

藤本が笑って矢口に言うと、へへへっと2人も笑った

「でも矢口さん、一応聞きますけど、その旅に美貴ちゃんや私、ひとみちゃんも連れてってもらえるんですよね」

梨華の強い視線にドキッとする矢口

さっきから藤本達が何か言いたそうにしている事はこの事だろうと予想はしており
Yの国から帰って来る道中もずっと考えてはいた

このまま皆ここに暮らさせてあげた方がいいのかも・・・と考えない訳ではなかった

703 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:31
だがしかし

「あ、ああ、もちろん・・・・・いや・・・・なん・・・か信用ないんだよなぁ、おいらって」

頭をぽりぽりと掻きながら矢口が口をへの字にすると
横から腕組みしたひとみが矢口を見ずに突っ込む

「ちびが何度もおいてけぼりくらわしてるからだろっ」
「ま、まぁ、そうだけどよぉ、解ったよ、悪かった、だから是非一緒に来て下さい」

机に手を置いてぺこりと頭を下げると一同から笑いが起きる


ひとみはその旅にどうやら連れて行ってもらえるようだと静かに安堵の表情を見せた



それに反し、矢口の心の中にはまだ迷いがあった

本当にいいのか・・・・と

真希はそんな矢口を心配そうに見つめる
704 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:34
その後、この町でYの国のように町の機能の事での相談が相次ぐ

真希や藤本が一応だいたいの事を推進してくれてはいるものの
MやJの国とは全く経済状況も流通も手法も違うし
ここにはここのやり方をと、手探り状態のようだったが集まっている皆の表情は明るい

山の中で好き勝手に暮らしていたとは思えない程、難しいながらも色々な事を考えるのが楽しいようだ

瞬達がここに来たのは、矢口達が帰って来るのを待つのもあるが、
今まで独自に町を造りまとめて来た事を改めて教えてもらう為に中澤は安倍にも若林にも頭を下げに行き応援を頼んだという
やはり自分達の生活のみ考えてきた狭い知識では限界があり
頼みの真希や藤本も、若い上にそこ迄経済や流通について知識を持ってる訳ではなかったから

今日迄、皆の相談役としてこの国に来てもらっていて、だいたいのレクチャーは終わっていると話す
教えてもらった事を皆で調整し、こうしたいと話しながら矢口達の意見を求める

順調なEの国の状況を知り喜ぶ矢口達

遠慮がちながらも、紺野が皆の質問に対するアドバイスは的確で
やはり人並みはずれた才を持ったYの国の主要人物だったと皆は感心した

「あ〜っ、きりあらへんやん、矢口達はやっと帰って来たばっかやで、今日はこのへんでしまいやっ」

遠くに座った族達が、矢口達に群がりあれこれ聞くもんだからついに中澤が切れた
もちろん絶対的信頼を持った中澤の一言にすぐに全員が「へい」と笑いながら答えて

「じゃあまた明日教えてくれよな」
「ゆっくり休めよ」
「真希さんもまた後で教えてくれよ、さっきの所」

等と声を掛けながらガヤガヤと皆が出て行き
それに続き、瞬と中澤・なつみ・かおりが掘り下げた話をする為に
矢口の部屋に行きたいと言い出し会議室を後にする
705 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:36
藤本と梨華は、加護と辻を捕まえてじゃれあいながら部屋から出て行き
加藤と紺野が挨拶を交していた

ひとみはそんな皆を見ながら一人出ていこうとするがドアの所で真希につかまる

「吉澤さんは、どうしてやぐっつぁんと旅をしてたの?」

唐突な質問に、ひとみは何故か不愉快になり、顔に思い切り出てしまっていた

「どうしてっ・・・て」

それに気づいた真希は、何か怒らせるような事を言ってしまったのだろうかと焦って続きを話す

「あ、いきさつは聞いてる、やぐっつぁんが吉澤さん達を危険な目に合わせてしまったんだよね
でも、そんな酷い目に合ってるのに私の事を助けてくれようとするやぐっつぁんに付き合って
危険な旅を続けてくれたから・・・・・悪いなぁって思って
それと、ありがとう、今までやぐっつぁんを守ってくれて」

綺麗に微笑む真希に、どうしようもなくどす黒い心が顔を出す

解っている、真希が感謝の気持を自分に伝えようとしている事

なのに、先ほどの矢口と通じ合っているような雰囲気にどうしようもなくイラついて

さらに、矢口が真希の持ち物のように話される事は
今かなりムリした精神状態のひとみにとって、不愉快以外の何者でもなかった

「別にあんた達の為にあのちびについてってた訳じゃない
ウチはウチのしたいようにしてただけ、それだけだよ」

そこで紺野が加藤との挨拶を終えて突然ひとみと真希の会話に入って来る

「あのっ、後藤さん、私達今帰ったばっかりで疲れてて
それよりここで後藤さんが何をされて過ごしていたのか教えて下さい
吉澤さんお疲れ様でした、失礼します」

紺野が真希の心配そうな顔をひとみから引き離すように背中を押して廊下へと出て行った
706 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:38
ドアから出て上へと続く階段を上りながら悲しそうに呟く

「ゴトー・・・・吉澤さんに嫌われてるのかなぁ」

唐突に紺野に引き離された事でまた何かを感じた真希

「いえ、あの・・・・・そうではないと思いますよ・・・・・
ただ吉澤さんは今少し苦しんでるから、余裕がないんだと思います」

ひとみと同じような心境の紺野は穏やかに答えた


一方残され佇むひとみに、鷹男が声をかけた

「悪気はないんだろうなぁ」

もう誰もいないと思っていたこの部屋にまだ誰かいた事に驚いたが
それがあの鷹男だった為に露骨に嫌な顔をし

「わかってる・・・・ウチが悪い」

とひとみはそそくさと部屋を出た


イラつく気持ちを振り払う為に体を動かそうと、再び広場へ出て
剣を振るおうとすると、ここを出発する前とは違う雰囲気の活気ある兵達の姿

人数も増えて、精力的に剣を合わせている

先に出てった加藤が教え出した何人かがひとみが降りて来る事に気づき
おかえりなさいと声をかけた

なぜかほっとして、ただいまと笑顔を見せる
新聞読みました、大変だったんですねと人が集まって来る
そのうち一人が稽古をつけて下さいと言うと、すっかり人に教える事になれたひとみは
OKと笑い、次々に相手をしだす
707 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:38
その様子を、城の上階の廊下に差し掛かっていた矢口達が見つけて

「あいつ、今帰って来たばっかでもうあんな事して」
「ほんまあほやな、吉澤は」
「よっちゃんらしくていいけど」
「でも、俺らの町に来た時とは別人のように強くなってる、彼女は何者なんだろう」

瞬の質問を聞いた時、矢口は前に感じたことを素直に口に出した

「あいつ・・・・もしかしたら獅子族なんじゃないかって・・・・おいら時々思うんです」


「「「「獅子族?」」」」


「あ、知らないか、まぁ知る訳ないですよね、もうとっくに絶滅してしまった種族
あまりに強すぎて、恐れられて裏切られ続けた悲しい種族」

「へぇ、そんなんいたんや、でも吉澤は族の姿も見えへんかったんやろ」
708 名前:dogsU 投稿日:2007/01/27(土) 00:40
「うん、でも獅子族はおいら達とは全く違って、生まれながらに能力が携わってる訳じゃなく
ある日突然能力が現れるんだって
だから、それに驚いた自分自身を押さえる事が出来ずに
やりたい放題好き勝手になってしまうから、困った人達はご機嫌を伺いながら近くに寄って
騙すように殺すしか多くの人たちの命を救う事が出来なかったという悲しい種族
・・・・だからとうに絶滅しちゃったって教えられた」

「ふ〜ん、なるほど、まぁ、ウチら族も同じようなもんやんか、特殊な能力持ってもうたせいで
人間達からは恐れられ、族自身も横暴になって暴れ廻る輩がようけおるやん
そのせいでウチらがどんだけ普通の人間と一緒の感情持ってんやでって言っても解ってもらえへん
だからはぐれの族が増えて、ひっそりウチらの町みたく山奥に住まなあかんようになってしもたん」

「そうだな、俺らの町はまだ族が多いし
ちゃんと族を律する人達もいるから人間をやたら殺すなんて事ないし
人間の方もそれが普通の中で育ってるからあんまり意識した事ないけど
よその国ではやはり族には馴染みが薄いようだしな」

「うん・・・Yの国はもう田中しか族はいなくなってしまったしね」



鬱憤を晴らすように
生き生きと兵達を相手に木刀を振るうひとみを見ながらしみじみしてしまったが

矢口が空気を変えて、ここの状況と、三つの町の状況を詳しく聞かせてと
自分の宿泊場所となる部屋に入れた
709 名前: 投稿日:2007/01/27(土) 00:41
本日はこのへんで
710 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:07
矢口と中澤、瞬達はその後
シープの復興の様子や互いの交わり方についての詳しい話を始めた

そしてこれからのE・Yの国との交流の仕方について、どうすればいいのか
ダックスやバーニーズにいる安倍や若林のような年配の人達が非常に興味を持っているようだ

紺野が前に言っていたYの国に多く残っているという過去の先端技術の古い図書・記述を参考に
Eの国の技術力と、ダックスやバーニーズにある豊富な資源と輸送力
それから藤本から聞いた所によると、Jの国は経済・流通が非常にうまいらしいのでその辺りを含め
新たな国の交わり方が出来ないだろうかという事

これからは、ただ国内だけを見据えた世界だけでなく、各国で協力し
新しい技術や製品等を開発出来るのではないかと各町の年配者達も相談しに来る程だという

Mの国も資源が豊富だが、真希が既に失脚したも同然な身の上
今のところ国交出来る状況ではないにしろ、どうすれば各国が正常に機能出来るか
とにかく安倍や若林が、若い意見と、各国の現状を見た数少ない経験者の矢口や藤本、紺野と
話しがしたくてたまらないみたいだよとなつみやかおりが呆れたように話してくれる

「まぁ、焦って進める事ではないけど、明後日は久しぶりに
人が違うように元気な父上達と話してやってくれ」

「はい、話すだけしか出来ませんけど、なんか・・・いい感じですね、とても」

ここ最近の戦闘や戦いのような悲しい出来事が
かえって逞しい人間本来の力を見せつけているようで矢口は微笑んだ

「よっしゃ、堅苦しい話はこれでしまいや、矢口
久しぶりに町の中見てきいや、前とはすっかり違ってるで」

中澤が矢口の肩を抱いて微笑むと矢口も頷いた

なつみやかおり、瞬も微笑みながら中澤と視線を交わしていた
711 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:09
食事の前に矢口は言われた通り町へ馬を走らせると
本当にここを出る前と違い、人々が店を開け始め外に沢山人が出ている事が見て取れた

そしてその表情は明るい。


「人は立ち直れる、何度でも」



そう呟いて矢口は町を散歩する





見回りは中澤達がいなくなってから、隠れていた兵達が現れて自分達がやると言ってくれた事で
交代で行い、食料が流通し始めると、やがて落ち着いてきた人達は略奪をしなくなったようだ

そんな姿を見て、矢口は自分とひとみの中に漂う微妙な空気の事なんてすっかり忘れて
すがすがしい気分で城へと帰った


その日の夕食は、わいわいと食堂で繰り広げられる

町から、ここで働きたいと、昔加賀の時にここに使えていた人達が戻って来たらしい

加賀達が見せしめのように財宝をシープに持っていった奴を、俊樹が全て返してくれたという
少しでもここの経済の足しになればいいという事だった
その金で人を雇い、市場を整備した結果だった

元々シープは独自の経済がきちんと出来上がっている町の為
財宝はそれほど必要でもなく、交流ならしばらく金品の駆け引きでやる事もないと
瞬や加藤が矢口に教えてくれる

「今だけはな」と優しい顔で
712 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:11
食事が終わると、バーニーズで一番うまい酒を持って来たと
瞬に俺の部屋に来てくれと誘われる

じゃあ、風呂に入ってから尋ねると言い矢口は部屋に帰った


窓の外に広がる山々と町並みを見ながらゆっくりと入浴していると
自然にあの温泉を思い出す

ひとみを蹴って温泉に落として、ばかみたいにお湯をかけあった事や
二人で岩に頭を置いて夜空を見上げた事

フッと笑いながらお風呂を出ると、ここに置いていた荷物の中から自分の洋服を出して着る

明日洗濯しなきゃな
なんて考えながら田中が持たせてくれた自分用のYの国の軍服に眼をやる

これも思い出かなと荷物へと忍ばせた



瞬の部屋に行くと、瞬以外誰もいなくて驚く

「あれ?他の人はいないの?」

「ああ、後から来るってさ心配すんな、さ、座って、長旅ご苦労様
それとこの城、本当すごい部屋だなぁ、最初驚いたよ」

「ええ、おいらも驚きました、すごいですよね」

お酒を矢口のグラスに注いで、ソファに腰掛ける

「それに・・・・」

そこで瞬は一度矢口を見て静止

「何です?」

首を傾けてパチパチと瞬を見つめた
713 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:13
「姫・・・・驚いたよ、あまりに綺麗で」
「あ・・・ああ、まぁ」

視線を逸らして言葉を濁す

「これなら矢口が惚れるのもムリないなって、思ったよ」

瞬は穏やかに笑う

「・・・・・・・」

そういえば瞬は自分に好意を寄せてくれた人だったっけ・・・・
と、矢口は何と答えればいいか頭を悩ませた

「それに姫なんて、世間知らずで何も出来ないと思ってたら
この町の経済や、流通の事にも意見したりして、すっかり町の人達と仲良くなってる」

「ええ、姫は昔から、民の気持になって色々考えてくれる人でしたから
それにおいら仕込みの剣の腕も確かですし、力はおいらより強い」

瞬をとても素敵な人だと確かに思う矢口

そんな瞬が姫を認めてくれる事が何より嬉しい


嬉しそうに話す矢口に、瞬は温かい顔をする

「そっか・・・とにかくなんか吹っ切れたよ、やっとこれから2人は一緒にいられるんだな」
「ええ」

それは間違いないと速攻で答える
714 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:14
突然バンッと扉が開き

「「親びんっ、どーん」」

矢口の両脇に2人が飛んできて抱きつく
後ろから苦笑しながら加藤と藤本と梨華、鷹男が現れる

「だぁ〜っ、苦しいっ、2人共っちっと離れろ」
「「ほ〜い」」

笑顔で見ている皆にグラスが配られあれよあれよと話が弾んで行く


少し遅れて中澤が真希と紺野を連れて入って来るといきなり矢口達に駆け寄り三人を抱きしめる

「あらあら三人揃ってかわええなぁ〜っ」
「なんやおばちゃんっ」

嫌がる加護と辻が暴れてその手から離れ

「ウチらはペットやないでっ、おばちゃんっ」
「そだそだっ」

瞬に助けてとばかりに、二人が纏わりつきながら捨て台詞

「おばちゃんやてっ、こらっ」

あっという間に中澤に捕まる二人はゴンッとげんこつをくらわされてしまった
715 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:16
「「うわ〜んっ、おばちゃんが殴った〜っ」」
「だあほっ」

泣きまねのような二人の演技に一言浴びせ、笑いながら矢口の近くへと戻ってくる中澤

「あはっ、裕ちゃんっ、怖いよ」
「なんやてゴトー、お前の教育が悪いから生意気なガキになってんやでっ責任取れっ」

一瞬にしてにぎやかな部屋に変わっていく
楽しそうな真希を見て、柔らかく微笑んでいる紺野も楽しそうだ

矢口の隣に来た中澤は抱きついてずっと「かわいい」を連発しながら
必死に矢口に近寄る人を追い払っていた

楽しい宴会の場に、皆の話はつきない


だが・・・ここにひとみが姿を現す事はなかった
矢口は気になってはいたが梨華にも誰にも尋ねる事が出来ない

そろそろ部屋に帰ろうと皆が動き出し、片付けをすると廊下に佇む鷹男を藤本が見つける

鷹男は瞬の部屋に来て共に飲んでいたのだが
トイレに行くと部屋を出てから戻って来ていない事に誰も気づかなかった

「どうしたの?鷹男さん」

藤本が、酔っ払った梨華を抱えて話し掛けると、窓の下を指差して聞く

「あいつ、いっつもあんな事してんの?」
716 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:17
梨華を支えながら窓から下を覗くと

「ああ、よしこ、うん、いっつもやってる
Yの国へ行く時も毎晩遅くなって皆が寝た頃動き出してやってた」

「ふ〜ん」

優しい声を出して微笑む姿は、月明かりに丹精な横顔をさらに美しく感じさせると藤本は思った

「美貴ちゃ〜ん」
「あぁ、梨華ちゃん今寝かせるからちょっと待って、じゃあおやすみなさい」

ぐったりと美貴に抱きついていた梨華が甘えた声を出すと慌てて美貴は連れて行く

その横を、酔った中澤をなつみと支えた矢口が
ちらりとその様子を見ながら連れて行った

何か予感めいたものをその横顔に感じながら・・・・



その頃最上階の一際豪華な部屋

一足先に部屋を出てった真希と紺野

ふにゃっとした笑顔で瞬達を魅了しながらも
やがてケラケラと笑いが止まらなくなり、お開きのきっかけとなった程の酔っ払い

ドサリと真希がベッドに寝転がされ
ふぅ〜っと紺野が額の汗を拭う
717 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:19
寝転がり眠りこけながらも幸せそうな顔で微笑んでいる
その姿を見て微笑み、なんだか幸せな気分になりながら優しく声を掛ける

「後藤さん、水持って来ますから、ちょっと待ってて下さいね」

行こうとした瞬間紺野の手首がギュッとつかまれる
振り返った紺野が、真希を見た途端グイッと引き寄せられた

その顔にはもうさっき迄の笑顔はなく、近づいた視線は
何かに怯えるような小さな子猫のようだった

「多分ね・・・・」
「はい」

ドキドキと激しい音を奏でる紺野の心臓

「ゴトーとやぐっつぁんはきっと一緒の事考えてる」

どうして突然そんな残酷な事を言うんだろうという紺野は
さっき迄の幸せな気分か落ちていくのを感じ視線を落とした

帰ってきた城の入り口での二人の視線

会議室で見た二人の絆

自分の気持ちを知ってるはずなのに
他の人・・・・それも生まれてから決められている運命の人との絶対的な絆

それを見せ付けられて内心落ちている自分にどうしてこんな事を言うのだろう

続きを聞きたくなくても至近距離では聞かない訳にはいかない
718 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:20
「ゴトー達は、決められた運命を背負ってるから・・・・・
共に悔しい思いと・・・・心配する気持ちがあって」

「・・・・はい」

「・・・・・もしかしたら・・・・」

「・・・・はい」

その後の言葉がなかなか聞こえてこない


あの会議室で矢口が真希がどうするか聞いた時
真希から自分に向けられた一瞬の視線で、まるで自分がどうするのか聞かれ
存在を・・・ついていくのを確かめられたのではとの嬉しさから、思わず小さく頷いた自分を見て
ほっとしてくれたように見えたのがとても嬉しかったのに
あれはどういう意味だったのだろうと悲しくなる

勝手に希望的観測をしてしまっただけだったのだろうか・・・と今後の事が不安になる


それからの沈黙がより不安を高め

紺野はずっと逸らしていた視線をつい真希に向けてしまう

そこにはきっと自分よりも不安に揺れている瞳

「紺野・・・」

「は・・・い」

ゴクリと紺野の喉が鳴る
719 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:21



「紺野は・・・・・・ゴトーとどうなりたい?」



「え?」



不安そうな瞳で、色っぽい表情をしながら至近距離で紺野を見る真希から眼を逸らした

「ねぇ・・・・紺野」


「・・・・・・・・・」


「ん?」

と覗き込んで優しく微笑む真希
720 名前:dogsU 投稿日:2007/01/29(月) 00:22


「すみません・・・・答えられません」

「何故?」


紺野の髪の毛を撫でると紺野を反転させて
上からトロンとした視線を投げかける


「後藤・・・・・さん」

「ゴトーは紺野がいなくなってずっと考えてた・・・・・ずっと」


そこまで言うと真希の顔は紺野に近づいて行き、唇に触れた


「んっ」

紺野が驚いて真希の肩を押そうとする


「今、ゴトーは、紺野にこうしたい・・・・

やぐっつぁんではなく・・・・紺野に」




再び寄せられる唇は、しだいに紺野の口内へと侵食する

真希の手が紺野のシャツのボタンを外していくと

紺野の意識が徐々に薄れて行く
721 名前: 投稿日:2007/01/29(月) 00:23
今日はここ迄
722 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/29(月) 01:18
うわぁここでとめるんですか!?
次回も楽しみにしてます!
723 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/30(火) 04:03
同じくビックリです
でも考えてみたら毎回ビックリヤキモキドキドキしながら読んでるので、
いつも通りのような気もしますw
724 名前: 投稿日:2007/02/02(金) 23:04
722:名無飼育さん
すみませんっ、空気読めなくて!!
レスありがとうございます。

723:名無飼育さん
毎回モヤッとさせてしまってるようで
大変申し訳ないです。

レスありがとうございました。


725 名前:dogsU 投稿日:2007/02/02(金) 23:05
中澤を送り、自分の部屋に戻った矢口は、
月明かりの光だけが映し出す部屋で一人窓から町を眺める

そんなに遅い時間ではないのか、町の家々にはまだ明かりが点っている

【どうしたんです?親びん】

一人部屋で眠っていた顔を上げて勘太が眠そうな声で聞いてくる

「あ、起こしたか?悪い」
【いえ】

再び前足に頭を置いた



「なぁ・・・・勘太」

【なんすか?】


再び顔を上げて窓からの光で逆光になっている矢口のシルエットを若干眩しそうに見る勘太
726 名前:dogsU 投稿日:2007/02/02(金) 23:07



「おいら・・・・何やってんだろうな」



そう言う矢口を信じられない目でパチパチさせている勘太は

【なんか・・・・初めて見ます・・・・そんな親びん】

呟くと首を傾けた



「おいらも初めてだよ・・・・今まで生き方が揺らいだ事なんて一度もないのに・・・・」

沈んだ表情で矢口は再び窓から外を眺め
勘太は黙って矢口を見上げてたが、やがて優しい声を出す

【いいと・・・思いますよ、人間らしくて】

矢口がその言葉に微笑みムクッと起き上がった勘太に近づいて頭を撫でる


「人間・・・か」

笑みを浮かべた顔とは裏腹に寂しそうな声に

【どんな親びんでも・・・・俺っちらは・・・・・加護も辻もずっと一緒ですからね】
727 名前:dogsU 投稿日:2007/02/02(金) 23:08
共に特殊な生き方しか出来ない運命ですからと言いながら矢口の顔を舐める

「ありがと」

目を細めて勘太を抱きしめた時

一瞬窓の外が明るくなり矢口と勘太は視線を窓に向ける

光が消えた後、思わず視線を合わせる勘太の瞳が一瞬揺らぐ




「心配すんな、大丈夫だよ」

【へい】

「・・・・おいらは大丈夫」





言い聞かせるように呟く矢口は、優しく勘太を抱きしめた。




728 名前: 投稿日:2007/02/02(金) 23:09
今夜はちょっこす
729 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/02(金) 23:17
みんな、いっぱい悩んで大きくなってください。
見守っています。
730 名前: 投稿日:2007/02/03(土) 20:35
729:名無飼育さん
見守っていただけて本当にありがたいです。
しかし、少しネタばれになるかもしれませんが
徐々に見守っていただけない状況になる・・・・・かもと、
かなりビビッております。
ん〜、どうしよう・・・。
731 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:38
一方ひとみはあれから夜中まで一心不乱に剣を振り続け
すっかり寒くなった空気に、体から湯気が出る程夢中になっていた

クタクタで限界になってから部屋に戻ると入浴を済ませ早々に眠りにつく



今は何も考えない

考えたくない

とりあえずまだ矢口とは一緒にいられるんだから・・・と



そしてやっぱ体動かすのが自分には一番合ってるなぁと
一人納得しながら疲れた体は意識を無くしていった




そんなひとみは次の日も、瞬達と朝から兵達に剣を教える

午前中は一緒に教えていた矢口達も
午後には何か話があると、中澤・藤本・紺野で城内に行ってしまった

それよりひとみが気になるのは、自分の様子をにこにこ見ている階段の上の真希の視線

なんとなく気に入らないが、無視して稽古をつける事に集中する
732 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:40
一方、矢口の部屋では、矢口と紺野と中澤・藤本が地図を真ん中に置いて悩んでいる

「ムリやろ、そりゃ」
「いえ、この地形をうまく遣えばきっと干ばつは止まります」

というか、何故干ばつになんてなっているかの方が不思議なくらいですと腕を組んで地図を眺める

「ほんとかなぁ、紺ちゃん」

中澤に続き半信半疑の藤本の視線に、困ったような顔で必死に話し始める

「あの・・・・私達がまだ小さい頃の話ですが、その頃からぼちぼち交流を始めていたYの国が
Mの国へと向かう為の迂回路・・・本当はダックス等あの族の町を通りたかったらしいのですが、
なかなかうまく通らせてもらえない為に迂回して使っていたらしいんです。
そして丁度その頃、迂回道近辺の町が、洪水や土砂崩れ等の被害等が相次ぎ、
さらにそのせいか疫病が流行ったりしたと記述が残ってました
だから一時期は、さらに遠回りな北の道から交流し続けていたらしいのですが
・・・・その頃と干ばつが始まった頃が一致してるんです。」

「ほお」

思わず声を出す中澤
733 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:42
「もしかしたらJの国の干ばつと何か関係があるんじゃないかって私は思ってます。
先ほどの地理的な説明も、Yの国にあった資料に基づいた憶測ですので、
実際はどうか解りませんが、うまくいく確立は高いです。
だいたい私達Yの国が何故あんなに遠いMの国と交流するのかも謎なんです。
更にその頃実際交流しているのに、矢口さんや後藤さんは知りませんでしたよね」

頷く矢口に注目する中澤と藤本

「そもそもそれがオカシイのですが、ここに来て後藤さんがYの国に来る事が急に決まるのも変だし
今思えばYの国サイドも慌てて後藤さんを迎え入れた感じでした
やはり憶測ではあるんですが、矢口さんの睨んだ通り、佐久間大佐と
Mの国でクーデターを起こした後藤さんの弟さんの裏で手を引く和田って人の接点が鍵だと私も思います。
佐久間大佐が実際Yの国に来たのがいつかは定かではありませんが
Yの国の研究仲間には引き続き調査してもらっていますので、何か解ればきっと連絡が来るでしょう」

もしかしたら新垣さんや小川さんに頼んでだりするかもしれませんけどねと微笑む紺野

「ほんとに紺野はすごいよ・・・ほんとに」

感心しきりの矢口に何故か紺野は視線を合わせない

「それでですね、あの、最近Mの国がやけにJの国へ使者を向けている事を考えれば、
Mへと向かうよりもまずJの国へ向かった方がMの国の真意が解るのではと思ってます」

「ふ〜ん」

藤本も何か考えている風に頷く
734 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:45
「今回のYの革命で、Mの国との繋がりは今の所絶たれたし、
あの、国王達に聞こうにも私達のせいでもう聞く事も出来ません。
中澤さんや保田さんの取材の話、MとYの国が手を組んで
他の国を支配していく計画があるというのは、私達Yの国側では
昔から強く進めて来た事なのですがMの国側は知らなかった・・・
後藤さんや矢口さんはMの国の中枢にいたにも関わらず知らなかったのは、
そのクーデターを起こした後藤さんの弟さんと和田さんという人が
実際Yの国と交流していた事になります。
だからJの国に近づく方法を考えたら、今は水の問題・・・
干ばつ問題が一番Jの国のネック。それをどうにか出来ないかと考えていたら、
ここに川が出来るんではないかって気がついてYの国の仲間達と色々研究したんです
そしたら、色々不思議な事が多くて・・・・、
やっぱりおかしいってみんなで調べたんですけど・・・・・
まぁ・・・あの、とにかくMの国の王・・・
後藤さんの父親の時代には好意で水を供給したりしてたみたいですが
今はとても高いお金で水を売買していたりと、ギクシャクしているようですし・・・
その・・・・・だからですね・・・・あの・・・・・それでですね・・・・・
その・・・・さっきも言いましたが、
とにかくこの地形ならここにちゃんと川が出来るはずなんです」

ずっと前から色々考えてくれていた事が伝わってくるのだが、なかなかうまく説明出来ないようだ

「うん、おいらは信じるよ、紺野の言う事」

なのに必死に説明してくれている紺野は、なんだか朝から矢口の顔を見ようとしない
それどころか、どこか避けられている気がして、何かしたかなと少し悩んだ矢口だったが
自分達の事をこうやって思いやってくれる紺野の姿と
昨日部屋から見た一瞬の光に、あるひとつの予測が出来ていた
735 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:47
「じゃあ、美貴はJの国の王子にこの事を相談するって事かぁ〜、大丈夫かなぁ美貴」

あまり要領をえない紺野の話をイチ早く理解した藤本の発言に、嬉しい顔をする紺野

「その方法についてはまだまだ情報が足りません、Mの国も絡んでくるし、
いくら藤本さんが元王族付きでも、すぐに王族に会えるとは限りませんし、
ちゃんと考えないとなかなかJの国の人達は難しそうですから」

「だね」

藤本は言いながら紺野と矢口に微笑む

「はぁ〜っ、ウチみたいなアホにはとうていこんな事思い浮かばへん」

ソファの背もたれにもたれて頭に両手を乗せて仰け反る中澤

「この為には工事する為に膨大な資金や材料・技術がいります
多分普通ならこんな事に賛成する王族はいないでしょう
今なら、Yの知識、Eの技術、ダックス・バーニーズらの資源と、
ちゃんと揃ってますし協力もしてもらえますよねきっと」

「なるほどな、そこで今のこの状況を使って、Jの国に金を出させるっちゅう事か」

中澤が紺野をするどい視線で見る

「なかなかの策士だね、紺ちゃん」

藤本の視線もするどく紺野を見る

「ずっと考えてくれてたんだよ、紺野は、ここに帰る途中ずっと、ね、紺野」

2人の鋭い視線に挟まれる紺野を矢口は優しく見た

「え・・・ええ、考えるのは小さい頃からずっと得意でした
あの閉鎖されたお城で、周りの人達の思惑に負けないようにって生きてきたから」

俯く紺野に、みんなの視線は優しい
736 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:49
「ま、でも、良かったんちゃう?こんなめぐり合わせやけど、
みんなそれぞれ無いもん補い合っていくっちゅうのも」

「うん、そんなのって、最高だよね」

中澤が柔らかく笑うと、矢口も微笑む

「ほな、ウチらはその川作りの為の技術を持ってる人探しからやな」

「ありがと、裕ちゃん」

「ええって事、ほなとりあえずウチは夕方迄寝るわ、昨日飲み過ぎて頭痛いねん、悪いな」

「美貴の部屋には来ないで下さいね、まだ寝てる梨華ちゃん介抱しますんで」

「解ったよ、全く少しは人目とか気にしろよ
いっつもイチャイチャしてるらしいじゃんっ、ここの人達困ってたぞ」

「は〜い」

笑顔の四人は席を立つ


そして、三人が部屋を出て行く時、矢口は最後に出て行こうとしている紺野に話し掛ける

「紺野・・・・・」

「はい」
その時も、なぜか真っ赤になって矢口を見る

中澤と藤本は一瞬振り返るがすぐに出て行った
737 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:50
明らかにおかしい紺野の態度と、今の反応で、姫と何があったのかを悟る矢口だった

一度深呼吸するように息を軽く吸い込んでから

「姫を・・・・・よろしく」

優しく呟く

「え?」

もしかしたらの矢口の予測を口にする

「おいらにとって・・・・大事な・・・本当に大事な姫です・・・・・だから、大切にしてあげて」

矢口の視線は怒っている風ではなく、本当に姫の幸せを願う顔で、
でも寂しそうな表情に見えてしまい、紺野はたまらず矢口を抱き締める

「はい・・・矢口さん」

「おいらは大丈夫だし・・・・気にしないで」

「・・・・・・はい」

「これからもよろしくね」

「はい」

そんな紺野の背中をポンポンと叩いて、しばらくして体を離した紺野は、
さっきとは違った力強い視線を矢口に投げかけると部屋を出て行った
738 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:52
一人矢口はソファに座って窓の外を眺めた


ずっとそばにいると誓っていた運命の相手
その相手には、もう別に守って貰える人が出来たようだ

いや・・・・元々こういう運命だったのかもしれない

だがある意味助かったのかもしれない・・・・・

これから自分がしようとしている事・・・・

いや、多分そうなる事を考えれば・・・・と
一人苦笑する矢口

それを日向で寝転がったままの姿勢で見つめる勘太


するとドアがバンッと開き勘太が瞬時に構えるがすぐに状況を知り再び寝転がる

加護と辻が矢口の両脇に座って来て抱きつく

「「親び〜んっ、あっそぼ」」

そんな二人に呆れた声を出す矢口

「はぁ〜っ、そんな気分じゃねんだ、藤本と石川に遊んでもらえっ」

矢口の肩に頭を乗せて唇を尖らせている

「だってあの2人ラブラブであっついねんもん」

「そうそう、よっちゃんはバカみたいに兵隊さんに戦い方教えてるし、
なかざーさんは二日酔いとかいって部屋にいっちゃうし」

「コンコンは部屋でなんか書類作るって戻ってっちゃったんだもん、つまんない」
739 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:54
かわいい顔でぶすくれている二人の子分にクスッと笑い

「ああ、わかったよ、何すんだ?」
「あんねぇ、鬼ごっこ」
「あ?」

眉間に皺をよせていると、すぐに姿を消した

「あのっガキっ、あれで紺野と同じ歳かねぇ」

ため息をついて矢口も姿を消したのを、勘太は見送った後欠伸をして再び目を閉じた



辻を捕まえたり、加護を捕まえたり、城中をかけまわっていると、
なんだか何も考えていない自分がいる事に気づく

楽しそうに駆け回る子分達・・・・
というか掛け替えのない大切な妹達に感謝し、本格的に遊び始める


そして夕方になると、町レベルで繰り広げられる鬼ごっこの中で、
城の入り口で町を一望出来る塀に登って座っている2人を見つけた


「つ〜かま〜えたっ、これでおいらの勝ちぃ〜っ」

2人の間に座ると二人の肩を抱いた

「「さっすが、親びん、参りました」」

矢口の両肩に頭を乗せて2人が言うと、手を回した後、
二人の頭にコツン、コツンと自分の頭を当てて矢口が微笑む

「あほか」

2人もへへへっと体を預けたまま町を眺めた
740 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:54
「明日でこの町ともお別れだな」
「うん、もうここものん達の町って言ってもいい位です」
「せや、毎日歩き回ってすっかり道も覚えてしもた」
「そうだな、お前らはおいらよりずっと長くここにいたんだもんな」
「「うん」」
「じゃあ、また戻って来ようか、Mの国が片付いたら」
「「ほんと?」」

キラキラした二人の視線

「ああ、みんながいいって言ったらな」
「「へへっ、大好き、親びん」」
「ばっか、おいらもだよ」

ぎゅっと2人を抱き寄せて

「きれいな夕焼けだな」
「「うん」」

と眺めた後三人は静かに町を見渡す
741 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:56


しばらく時間を忘れるように三人は夕暮れの中ずっと町並みを見ていた


城の中から、裏の広場に向おうとしていた藤本と梨華がその姿を見つけた

「シッ・・・あれ、梨華ちゃん見て、あそこに子犬が三匹黄昏てるよ」
「ふふっ、さっき迄廊下とかあちこち走り回ってたのに」

その2人の後ろには、いつのまにか訓練を終えた瞬達や沢山の兵達が集まってきていて、
三人の姿を静かに見て笑っていた


夕焼けの赤い空に向かって、本当に子犬が肩を寄せているような姿に皆の顔が綻ぶ



「かわいい、矢口さん達」

階段から降りて来ていた紺野が一段上にいる真希に微笑む

「うん・・・・かわいい」

裏口のところから、訓練しおえた兵達の後ろでひとみも、みんなと静かにその姿を見ていた
742 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:57
そんなに沢山後ろから見ているなんて気づきもしない三人はこんな事を話していた

「親びん・・・・そろそろ気づいて下さい」
「ん?何に?」
「自分が誰を好きか・・・きっと親びんだけですよ、気づいてないの」
「・・・・・・・・」
「言いましたよね、ウチらは親びんが幸せならそれでいいって」
「せやせや、だからその相手は姫じゃなくてもいいんですよ」
「加護・・・・辻・・・・・」

大人なんだか子供なんだかわからない子がここにもいた・・・・と笑う矢口



「お〜い、そこのおちびちゃん達、そろそろ宴会すんでぇ」

真希の後ろから階段を降りて来てみんなの視線を見た中澤の声に振り返り、
三人は驚く、みんながにこにこ自分達を見ていた事に

「「お・・・親びん」」
「み・・・見てんじゃね〜よ、恥ずかしいから」

三人は飛び降りて、駆け寄り中澤や藤本、梨華に肩を組まれて裏へ向った
743 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 20:59
そこには沢山の人・・・

ここに働きに来てくれだした人達や、町の人達がいた


矢口が肩を抱いている中澤を見ると

「どや、こんだけ人が出て来るようになってん、
後藤と石川や・・・そしてここにいるみんなが頑張ったからやな」

「うん、ようやく動き出したね、ここも」

「せや、元々藤本がみんなの心の扉をこじ開けて、石川がそれを癒した
そしてみんなで考えた結果や、そのきっかけになったあんたらが明日いなくなってしまうから、
昨日皆で手分けして町の人達に知らせて、ここに来れる人は来てもええでって言って廻ったんや」

嬉しそうな矢口の横に、ミカとアヤカが来て

「その為に中澤さんが私達をダックスやシープに送り出して、食料の調達して来たんですっ」

自慢げに2人は矢口を見た

そういえば帰って来た時には二人がいたのに、夜から今まで見てないと矢口は気づく
744 名前:dogsU 投稿日:2007/02/03(土) 21:01
「そっかぁ、ありがと、ミカ、アヤカ」

「いえいえ、ホントに嬉しいんです
私達もこんなに沢山の人達の中で暮らせるようになるのかって」

「そうです、中澤さんがこんなに楽しそうにしているのも嬉しいし、
この広い場所にも畑を作ろうってみんな楽しみにしています」

「うん、なんか・・・おいらも嬉しい」

再び中澤に微笑むと「かわええなぁ〜」と抱きついてから、
ミカとアヤカに怒られ、ウンっと咳払いをして声をはりあげた

「みんなええかぁ、飲みながら皆で料理して楽しくやろなぁ〜」

へ〜いと中澤の町の人達が叫び、民兵と町の人達に混じって
いろんな場所に火を焚きだした

矢口も中澤やなつみ、かおり、加護・辻・瞬らも兵隊や町民らと料理を作る

もちろん後藤と紺野、藤本、石川、加藤、鷹男も別々の所で火を焚いた

場所場所で、いろんな料理が作られて行き、
中澤の言った通り飲みながら作業する為、楽しい声が響き出す


みんながだいたい作り終え、食べ始めた頃、
矢口達はいろんな集団から声がかかり、こっちも食べに来てと方々に連れて行かれる


酒も進み、あちこちで踊りや芸が繰り広げられている中


矢口は無意識にひとみの姿を探した
745 名前: 投稿日:2007/02/03(土) 21:01
本日はこのへんで
746 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/04(日) 00:10
いろいろ動きだしたみたいですね・・・ドキドキ。
747 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/04(日) 01:22
更新乙です。
元祖ミニモニの3人に癒されました^^
やぐっつあんと妹分の子犬が大好きです。
748 名前: 投稿日:2007/02/05(月) 00:05
746:名無飼育さん
動きだしたのはいいのですが・・・・

747:名無飼育さん
今回の展開前に、自分に癒しが欲しかったが為のミニモニ登場でした。
自分も大好物です。

レスありがとうございました。

749 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:08
ひとみはあいかわらず町の若い女性や、男に囲まれていた

視線を落とす矢口

中澤の町の男に、「感動しました、矢口さん」等と声をかけられながらも、
時々ひとみを見ては、その都度違う人に手を取られて別の集団に連れて行かれるひとみを捕らえた

贔屓目なしに、やはりひとみは人目を惹く容姿

最近いつも目にする剣を振るう姿が、いつも他の人の目を奪っているのは当然だと思う
鷹男や瞬、加藤と並ぶととても見目に美しく、
チンチクリンな自分がなにやら恥ずかしいような気にもなってしまう

今までそんな気持ちにはなった事はない

だって自分は生まれてから一人の人の為のみの命だったから・・・・

他の誰かを愛したり・・・

愛されたり

そんな事は無縁な人生に何の疑問も持った事はなかった


自分の役目に忠実に生きて、しかも相手は一国のお姫様で・・・・
それに幸運な事にその相手は優しく、美しい姫だったから
何の努力も苦労もなくその責務を全う出来ていて・・・そしてこれからも続くはずだった

なのに今・・・・

お互いに、役目とは違う感情になってしまう人が見つかり
恐らく姫はもう一つの答えを導き出してしまっただろう
750 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:10
一方自分は・・・・・と、グラスの中の液体を見つめる

少し遠くで、ひとみに嬉しそうに話しかけている同じ年頃の町民に
熱い視線でひとみを見守るように遠くから見ている鷹男の視線に
ひとみをそんな目で見ないで欲しいと思ったり
見つめられているひとみは、一体どんな事を考えているのだろうかと聞いてみたくなったりと
何故か胸にこみ上げてくる不安

そんな事を考え、視線を落としていると、後ろから声が聞こえる

「やぐっつぁん、飲んでる?」

グラスを持った真希が一人で矢口の所に来ていた

「姫」

驚いて立ち上がる

キョロキョロと紺野の姿を見回すがどうやら近くにはいないようだ

「もう姫じゃないし、昔みたいに呼んでよ」
「そ・・・・それは・・・・」

後藤さんっ、どうぞどうぞと周りの男達が場所を開けると

「あ、嬉しいけどちょっとだけやぐっつぁん借りてっていいですか?」

魅力的な笑顔で男達に言うと
もちろんどうぞと言う男達はデレデレと手を振ってくれた
751 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:13
優しい顔で矢口の手を引く真希

なんだか寂しい気持ちになっていた矢口に温もりを与えるような笑顔に
矢口も自然に笑顔になる

笑い合うとやはり安心出来る人

自分にとって姫は、どうしようもなく大切な人

手を引かれながらそう感じていた


だが階段の所まで来ると、矢口を座らせると
隣に座ってせわしなく髪を触ったり、
グラスをみんなに掲げるようにして透かしてみたりと落ち着かない真希

「どうしたんです?姫」
「だ〜からもう姫じゃないって・・・・ただの後藤真希なんだから」

みんなももうごっちんとかごっつあんとか呼んでくれてるよと嬉しそうにしてて
そうですねとくすくすと二人で笑い合う

「でも・・・・・」
「いいからこれからはそう呼んでよね」
「・・・・・・・・」

みんなの中央に焚かれた大きな大きな炎も、
あちこちで焚かれた炎の光も、階段の所にはあまり届かない

やっと互いの表情が見える程度の明るさに、二人は次第に落ち着いきを取り戻していく
752 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:14

「感じてる?」

「はい?」

「再会してからさ・・・・・やぐっつぁんと・・・・・
ゴトーが・・・・なんとなく重なっていないな・・・・って」

「・・・・・・・・」

戸惑っている矢口に微笑む真希

「なんだろ・・・・・だって・・・・
生まれてからこんなにやぐっつぁんと離れた事・・・・・なかったもんね」

「ええ」

「なのに、考える事はやっぱり手に取るように解る」
「・・・・・・・・」

「やぐっつぁんがどういうつもりでMの国に帰ろうと思ってるのかは今は聞かない・・・・・」

ドキッとする矢口

「だけど・・・・」
「・・・・・・・・」

「これだけは言っておくよ」
「は・・・・・い」

「ゴトーにはやぐっつあんが必要」
「・・・・・・・・」

真希の視線がとにかく力強く矢口に届く

まるでこれから戦いに行くかのように・・・
753 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:16
じっと矢口の心を読むような視線を一転させ
突然ふにゃ〜っと笑い出して再び話し出す

「ね、やぐっつぁんはさ、ゴトーがちっちゃい時からそばにいて、
物心ついた時からごっつぁんの弱虫っとか、いくじなしっ、とかいっつも叱ってさ
ずっとずっとゴトーの事見守っててくれたよね」

「む・・・・昔話はやめましょうよ、恥ずかしい」

あの頃はおいらも子供だったんですよ・・と
座った足を自分の方に引き寄せて顔を埋めるようにして矢口は恥じらう

「ほんと、ちっちゃい頃、どうしてこの小さい人は
ゴトーの事いっつも怒ってるんだろうって思ってたもん」

「ひ・・・姫、小さい人って・・・・」

ひどいとばかりに再び足を下ろして真希へと向き直し、
真希の膝にちょこんと手を置いて口をへの字にした

「ふふ、でもね、外に出たがってたゴトーを、
いつも大人に怒られると解ってながらも連れてってくれて」

「でしたね」

真希の膝から手を戻し微笑む矢口から視線をはずし、手元を見る真希は静かに続きを話す

「大勢の民がどんな暮らしをしてるのかを一生懸命ゴトーに見せようとしてくれた」
「・・・・・・・・」
754 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:18
「でね、ちっちゃいやぐっつぁんが、内緒で連れ出してくれた外の世界で、
からかってくる自分よりもおっきな男の子をやっつけたり、
外に連れてってくれる時にはちゃんと下見とかしてくれてたりして
綺麗な場所や楽しい所とか、色んな場所見せてくれたり、
馬の乗り方や剣の使い方を教えてくれて・・・・・
ほんといっつもゴトーはやぐっつぁんの背中を見てた」

「・・・・・・・・」

「たまに襲われたりした事もあったけども、傷だらけになりながらも
助けてくれるやぐっつぁんの小さくてあったかい背中についていけば、
どこに行くにも全然怖くなかった」

「・・・・・・・・」

真希が懐かしそうにグラスを傾けて眺めている横顔を矢口はじっと見ていた

「だけど・・・・ゴトーが10歳になった時・・・・・
ごっつぁんって言って一緒に遊んでくれたやぐっつぁんは、姫と言ってゴトーに変な言葉を使い出した」

「・・・・・・・・」

「今考えると、その頃やぐっつぁんは自分の運命を受け入れたんだね・・・・・
やぐっつぁんのお父さん達とゴトーの父上達がどんな関係だったのか・・・・・
この国だけでなく、族という人種がどういう位置づけにいたのか・・・とか
ゴトーはただ、少し寂しくなったけど・・・・やがてゴトーもそれを理解した」

「・・・・・姫」

真希と矢口は見詰め合う

これから何を真希が話そうとしているのか、矢口にはもう予測が出来ていた
755 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:20
「運命・・・・・そんなのなくっても、ゴトーはやぐっつぁんが大好きで、
やぐっつぁんさえそばにいてくれれば、それでいいって思ってた・・・・
だけど、少しよそよそしくなったやぐっつぁんは、もうゴトーを叱ったり、
怒鳴ったりする事は無くなった・・・いっつも優しくて、いっつも見守ってくれてて
そのうち、ゴトーが年頃になったら、きっとゴトーはやぐっつぁんを抱くんだ・・・・
それが運命なんだって、そう思って疑わなかった」

「・・・・・おいらもです」

2人は微笑みあう

「でも・・・・城の中がおかしくなって・・・・ゴトーはどうしてかYの国に行く事になってしまって、
やぐっつあんは反対していたのに、少し反抗期だったゴトーは、
それも自分の役目だって思って行ってしまった・・・・
弟の策略に気がついた時にはもうゴトーは知らない国に一人ぼっちで、
耳に入る情報は嫌な事ばかり・・・
やぐっつあんがあんなに大切に思ってた兵達を沢山殺して逃亡したって聞いて
・・・・・・もう駄目だ・・・・もう会えないって・・・・そう思ってた」

「はい・・・・おいらも・・・・思いました」

真希はグラスを置いて立ち上がり、矢口は背中を見つめた

「だけど、一人ぼっちだったけど・・・・ここで弱みを見せちゃダメだって、
こんな事で弱音はいちゃきっとやぐっつあんに叱られる・・・・
そう思ってあの階級にこだわるあの城の中で、笑っていようって思ったの・・・・・
負けられないって・・・・・・やぐっつぁんはいつもそうやってたから・・・・・
でもね、そんな時紺野が声をかけてくれたんだ
いつも笑ってなくていいんですよって・・・・・
矢口さんはきっとこっちに向ってます・・・・って、
誰にも気づかれないように」

「はい」

真希の視線が、藤本に指を指されて笑われている紺野に向けられている
756 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:23
「それから紺野に眼がいくようになったの・・・・紺野はあの城の中で浮いた存在だった
・・・・・いっつも松原って人や佐久間って人に怒られて・・・・
他の上官達にも影で笑われて・・・・・でもいつでもそんな後、
キッと前を向いて顔をあげる紺野を何度も見たの・・・・・
それを見てゴトーは・・・・守ってあげたい
そう・・・・・思った・・・・・
なのに、自分は何も出来なくて、あの王子に襲われて・・・・・
もうダメだっ て、やぐっつぁんの顔が浮かんだ時、王子が倒れたの・・・・・
何が起きたかわからなかった・・・・・
だけど後ろに口をパクパクさせた紺野が自分でした事に驚いて立ってたの」

再び矢口に眼をやって、矢口の隣に座る

「逃げようって何も考えずに紺野の手を握って部屋を出てた・・・・・
だけど、あの城の事を何も知らないゴトーには何も出来なくって
結局紺野が、門番を倒してあの城を脱出してくれたの・・・・・・
その時思った・・・・この子は強い・・・・って、なのに、初めにたどり着いた町でも
嘘がつけずにおどおどしている紺野に代わって、ゴトーが芝居して泊めてもらったり、
やぐっつぁんが刺されたあの町にやっとたどり着いても
あそこから出る事が出来ずにイライラしていたゴトーに、
のんびり行きましょう、チャンスは来ますって、どっかから食べ物を盗んできたり
この子に助けられてるのに・・・・
この子を守りたい・・・・・不思議とそう感じてる時にやぐっつぁんが現れた」

真希が膝の上で両手をギュッと掴むのが矢口の視線に入る

「そう・・・・だったんですか」
757 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:25
「うん・・・・・たった数週間だったけど、二人で過ごして・・・・、
今まで感じた事のないお互いに必要としているっていう感覚・・・・
やぐっつあんの事は本当に大好きで・・・・
大好き過ぎて困る位好きって気持ちで一杯だったのに、
少し大人になったゴトーは、その裏でゴトーの存在が
とても迷惑をかけているんじゃないかって思い出してたから」

「そんなっ、私は一度も」

「解ってるよ・・・・そんなのは解ってる・・・・・
でも・・・・叱っても怒ってもくれなくなったやぐっつあんに・・・・
ゴトーの為に無理とか無茶ばっかりしてるやぐっつあんに、
ゴトーがしてあげられる事って何かな・・・って
いつも考えるようになってたんだ・・・・・
なんだろ・・・勝手に負い目を感じてたっていうか・・・・・違うな・・・・う〜ん」

自分の事を思って一生懸命考えてくれている真希に愛しさを感じながらも、
矢口の頭には何故かひとみの顔が浮かんでいた

いつも喧嘩ばっかりして・・・・
それでも楽しくて・・・・・
一緒にいれば自然に楽しかった相手

「えっと・・・・やぐっつあんがやぐっつあんらしくいて欲しかったんだと思う・・・・・
だから、ちょっと前はわざと怒らせるような事したり・・・・
それはゴトーが子供だったからだけど、
それも余計やぐっつあんを困らせただけで終わったけど・・・・ゴトーは・・・・」

自分の為に一生懸命言葉を選ぼうとして何も出てこない真希

「ゴトー・・・は」

「はい」
758 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:27
必死な顔に矢口はただ感謝の心で一杯になっていた

「ゴトーは・・・・やぐっつぁんらしく・・・・もっと・・・・
もっとやぐっつあんらしく生きて欲しいって・・・・そう思うの」

「はい」

「運命とか・・・・勤めとか・・・・そんなんじゃなく・・・・
やぐっつあんが、やぐっつぁんらしく幸せになれるようにって」

「はい」

「紺野と二人で色々苦労したりしたけど・・・・その間もゴトーは笑ってて・・・・
ゴトーはとても・・・・とても幸せだったんだ・・・・」

「はい」

真希の目に映る広場の炎の光が揺らぎだす

「食べ物も着る物も、城で何不自由なく暮らしてた時よりも、
何も無かったんだけど・・・・この先の未来も何も見えなかったけど
ただほんわかした笑顔で・・・・・自分を本当に必要としてくれている瞳が近くにあって・・・・・
それだけで・・・・ゴトーは幸せっ・・・て思えたんだ」

「はい」

同じように矢口の目の中の炎も揺らぐ

「今この瞬間も、Mの国では大変な事が起こってたりするかもしれないけど・・・・
ゴトーがしないといけないっていう責任から逃げてるだけなのかもしれないけど・・・・・
ちゃんとこの目で国の幸せを確かめたいって思う気持ちに嘘はないけど・・・」

「はい」

真希の目についにうっすらと涙が浮かんできた
759 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:29
「今、この時を・・・・自分の為に大切にしたいって思ってしまう・・・・・
我侭な駄目娘だけど・・・・」

「いえ」

「再会して・・・・そして・・・解ったの・・・・・
ゴトーは・・・・・紺野を抱きたいって・・・・」

「・・・・・・はい」

矢口の目にもそれは溢れて来ている

「やぐっつぁんの事・・・・・大好きだけど・・・・・
ゴトーは決められた運命より、自分で運命を掴みたい・・・・・・だから昨日紺野を抱いた」

「はい」

うすうす予感していた事なので、柔らかく微笑んで真希を見た

「やぐっつぁん」
「はい」

2人は再び見詰め合う

「だから・・・」
「・・・・・」
760 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:29


「ゴトーから解放します・・・・・・

やぐっつぁんは・・・・

やぐっつぁんの運命を・・・幸せを捕まえて下さい」





「はい・・・・・ごっつあん」




しっかりと見つめあい、頷き合う二人



761 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:31


あはっと笑って真希が泣き出す


「やぐっつぁ〜ん」



「はい・・よ」


矢口が一段上に座り直し、顔を覆ってしまった真希の頭を抱き締める





「やぐっつぁん・・・・大好き」

「おいらも・・・・・・ごっ・・・つあん」
762 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:33

2人の影がしばらく重なっているのを、遠くからひとみは見ていた・・・
いや・・・真希に手を引かれて行く所からずっと見ていた


二人が見つめあう度・・・・

微笑み会う度

心の中に燃え盛る嫉妬の嵐に、どうしようもなく心が支配されている



解ってた

解ってたはずなのに・・・

ついに・・・・

ついに来てしまったとひとみは思う


そばにいる真っ赤な顔をした女達に、少し気分が悪いからと言い傍から離れ、
足早に人のいない所へと向った



だめだ・・・また泣いてしまう

今すぐ一人にならないと、周りに心配かけてしまう

誰にも見つからないように・・・・

早く・・・・

光の届いてない真っ暗な土手をおぼつかない足で登り、
何度もすべっては上へと上がる・・・・

視界が涙でぐにゃりと曲がる

遠くに騒ぐ声を聞きながら静まり返る城の壁に手をついて

ヨタヨタと部屋に戻ろうと必至に歩く、誰かに見つからない事だけを祈りながら
763 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:34

もう沢山だ

あの二人の絆を見せ付けられるのは



心で何度も何度もそう呟く



やっと城の入り口についてふらふらと階段を上がり、
やっと自分の部屋についたと思った時

「つらい時は戻って来いって、伝えておいただろ」

優しい男の声が響く

ドキッとして思わず立ち止まってしまった

背後からゆっくりと鷹男がひとみに近づいて来るのがちらりと見える

「そばに寄るなよ」
「・・・俺で良かったら・・・・力になるよ」

何の他意も感じられない優しい声

「いらない」

がくがくと震える体を自分で抱き締めて睨む
764 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:36
「あれからずっと力は使っていないよ・・・・・
今だって・・・・・でも俺なら力になれる」

「どういう事だよ」

震えるひとみの体を優しく抱き締める

「抱いてやるよ」

ふざけるな・・・と言おうとして唇を塞がれる

拒否の姿勢を貫きたくても・・・ひとみにはもう力がなかった



だって今日・・・・

矢口は真希に抱かれてしまう

あの小さな体にある無数の傷に・・・

真希のあの綺麗な唇が・・・

あの手が触れてしまう



力を無くした唇に、容赦なく舌が入り込んで、
思考能力を手放した頭と体を容易に快感へと誘う

さゆみに昔を思い出させられて、中途半端に体がうずき出したひとみに、
さらにさっきのあの2人の姿が再び火を点けていた

どんどんひとみの体が熱くなるのを感じて鷹男は
ひとみの部屋のドアを開けて一気に中に押し込んで壁に押し付けた

ゆっくりとドアが動き

パタン・・・と閉まる



その閉められたドアの向こう側に・・・・・

矢口が立ち尽くす



一筋の涙が矢口の右目から流れ、

しばらくしてそれを拭うと踵を返して静かに下へと降りていった
765 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:36




766 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:37
あの真希との話し合いの後
二人は手を繋いで宴の輪に戻り、矢口はすぐにひとみの姿を探す

自分の運命を切り開く為に、今ひとみと話したいと思っていた

自分のひとみへの気持ちが何なのか

解放された"王族付きの矢口"の体は・・・・これからどうすればいいのか



”お前は死んでも誰を傷つけても姫を守れ”


亡き父の遺言




姫が誰と結ばれようと変わる事のない自分の使命

だが、共に真希と国の行く末を見届けた後、
自分はどうやって生きていくのか

いや

だいたい自分は自国では犯罪人・・・・

多くの仲間を殺し・・・・苦しめている極悪人

帰れば命はないだろう

767 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:39
そんな未来だけど

いや・・・・

それでもMの国に帰ろうとしている自分を理解し

もしかしたらそれでもついて来てくれると言ってくれる

そんな自分を見届けてくれる・・・・
そんな人がいてくれたらと無意識に求め続け・・・・

そして今・・・・・

ひとみがそうであって欲しいとものすごく心が求める


だから、ひとみと絶対に会わなければと思っていた



   『ウチ、矢口さんが好きです』



シープの浜辺で言ってくれた言葉



この意味は?


そのまま素直に受け取って



『姫を守る為に生きる自分のそばに、生きている間だけでもずっと一緒にいてくれるか?』



そんな自分勝手な願望をキラキラと輝く未来を持ってるひとみに尋ねてみてもいいのか・・・・



でも今会えば、何か違う自分に・・・

何か違う未知の世界が見えるかもしれないと必死にひとみの姿を求めた
768 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:41
藤本達に真希と手を繋いで登場した事をからかわれながらも
視線はさっきまでいたはずの場所のひとみを探していた

目のいい矢口が一通り集団の中を見ると、何故かひとみはいなくて焦る

ふと、城に戻ったのかと上を向いた時、ヨロヨロと城の中に入って行くひとみを見つけた

思わず笑みが出た姿を藤本が見ていて

「どうしたんですかね、よしこ」
「また酔っ払ったんだな、あのあほ」
「矢口さんっ、優しくしてあげて下さいね、ひとみちゃんに」
「馬鹿っ、何言ってんだよ石川」

と皆で笑っていた時に、鷹男がその後をついていったのは見逃してしまっていた

「じゃあちょっくら様子見てくるよ」

歩き出した矢口の後ろ姿に

「よっちゃんに襲われないようにねっ親びんっ」
「いつもの癖でやっつけちゃ駄目だからねっ」

嬉しそうな子犬二人の声が響き、周りの人が爆笑する

「あほか」

そう笑いながら呟き、ドキドキしながらも階段を上って行った

皆の笑顔が臆病な自分の背中を押してくれる
769 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:43
うるさい程鳴り響く心臓を抑えながら、
ゆっくり・・・ゆっくりと心を落ち着かせるように城の中へ入り階段を上っていった

いつものやりとりのように・・・

馬鹿みたくならないように

ちゃんと、自分の今の気持ちを伝えられるようにと一歩一歩ゆっくりと歩く


数分前、抱き締めた真希が「吉澤さんの事・・・・好きなんでしょ」と言った

夕方、加護達が言ったのも、きっと自分の気持を2人は気づいているからだと思う




   自分はひとみが好きなんだ




やっと辿り着いた一つの答え





子供と思っていた二人は、自分の気持にも気づかない自分よりも
大人かもしれないと苦笑しながら上り着いた階段の上

そしてそこから歩いて部屋へと続く廊下が見えた時に、
ひとみは鷹男とキスして部屋に消えていってしまった

パタン・・・

と冷たく響くドアの音だけを残して



それからどうやって藤本達の所に戻ったのか、矢口は記憶がなくてわからない
770 名前:dogsU 投稿日:2007/02/05(月) 00:44
気がつくと宴会の場に戻って立っていて

「よしこどうでした?」

ボーッと立っている矢口に気づいた藤本が笑顔で聞いてきたとこで意識が戻った


そして


「ああ、大丈夫そうだからほっといてきた」
と、平然と笑っている自分がいた

「もうっ、親びん、ついててやって下さいよぉ、
いっつもよっちゃんはついててくれるじゃないですかぁ」

「いんだよっ、あいつは酒強いとか言って、すぐつぶれるんだから、
それで明日はケロッとした顔して飯食ってるんだ、心配するだけ損って事」

「ったく親びんは、よっちゃんの事となるといっつもそうやねんっ」

「喧嘩する程、仲がいいって言うのにねぇ」

加護の言葉に梨華が追い討ちをかける

「んなんじゃね〜からさ、おいら達」

まったまたぁ〜と笑う皆にうっさいと叫び、酒を飲む



そう・・・・・


ちゃんと矢口は笑っていた


771 名前: 投稿日:2007/02/05(月) 00:44
今日はこのへんで
772 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/05(月) 00:51
こんなにせつない更新は初めてです・・・二人が心配
773 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 02:19
泣いてもいいですかーやぐっつああああああああん。・゚・(ノД`)・゚・。
774 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 17:23
だーもうお前らああああああぁぁぁぁぁぁぁ……

……イラつきつつ、小説としてはすげーエンジョイして読んでる自分がいます(小声)
775 名前: 投稿日:2007/02/09(金) 23:22
772:名無飼育さん
本当に心配です

773:名無飼育さん
どうぞ泣いて下さい。

774:名無飼育さん
すみませんっすみませんっ(汗っ
と思いながらも、楽しんでいただけて嬉しい自分(超小声)

皆さんレスありがとうございます。
もし前回の流れから気分を害された方がいらっしゃれば
今回遠慮なくスルーして下さい。
重ね重ね申し訳ありませんでした。
776 名前:dogsU 投稿日:2007/02/09(金) 23:27




ただひたすら・・・・


頭の中の矢口と真希を追い払うかのように貪り続けた行為


そんな二人の激しい動きは・・・・



何度も矢口の名前を呼びながら絶頂を迎え・・・・



そして静まっていった



その後



漸く相手が鷹男だと気づいた頃、彼が泣いていた事に気づく






これで何人目だろう
泣きながら抱いてくる男を見るのは・・・・・



互いに荒い息を交わしながら目を合わせた



「ウチ・・・・サイテーだね」

「ああ・・・・卑怯だな」
777 名前:dogsU 投稿日:2007/02/09(金) 23:29

「・・・・・・・・・・・・・・・・・お前に言われたくね〜よ」

お互い様だろ・・・・と視線を逸らす


途端に鷹男がギュッと抱き締めてきた

「・・・・・それほど・・・・矢口さんを好きなんだろ」

俺も同じ状況だと言わんばかりの力強い抱擁


「・・・・うん」


さっき迄の二人の行為は余りに激しかった

互いに狂ってしまっていたということだろう



という事は・・・・・



そんな風に鷹男は自分を好きだと思ってくれてるのだと感じた


本当の恋というのは人を狂わせる


生まれて初めてそう実感できた
778 名前:dogsU 投稿日:2007/02/09(金) 23:30


「俺を・・・・矢口さんと思って抱かれて・・・・・どうだった?」

辛そうな声が耳の傍で囁かれる



今の鷹男は
昔バーニーズで矢口に身を変え、ひとみの気を惹いた時とは違っている

こんな状況にも力を使わない彼に、本当の優しさを感じた気がした


「あいつはこんなにでかくねぇよ」

益々罪悪感は募り、苦笑しながら茶化すようにそう言うと

「じゃあ俺と思って?」

切なげな声をかけられ、一瞬絶句する



「・・・・・・ごめん・・・・・誰でも良かった」





くすっ

耳元の空気が動き

ゆっくりと鷹男が体を離す




「馬鹿みたいにまっすぐな奴だよな・・・・吉澤さんは」

そこがいいんだが・・・と小さく呟く
779 名前:dogsU 投稿日:2007/02/09(金) 23:31

その後すぐにベッドサイドで頭を抱えて、大きなため息をついた鷹男


「・・・・ごめん」

再び謝る




鷹男はふらふらと立ち上がり服を着た後、ひとみの服を持ってくると

シーツを身に纏って起き上がったひとみに近づき

そっと頬に手を添えた


「頑張れよ・・・・」


と優しい顔をして見下ろされるひとみ

視線を上げる事も出来ずにいると、すぐに鷹男は手を離して踵を返し

足早にドアへと向かい出て行った

この部屋にはもういたくないとばかりの彼の行動に見えた

780 名前:dogsU 投稿日:2007/02/09(金) 23:35

こんな事をしても誰も幸せになんてなれないと解っていながらの行為


だが

「・・・ありがと」

出て行ったドアを見つめてひとみは呟いた





「はぁ〜っ」

ベッドに仰向けに倒れこみ天井を見上げる



不思議な事に、なんとなくもやもやしていた体がすっきりした感じ・・・・・

確かに鷹男に力になってもらったようだ



だって今日は・・・

ひとみの中では、今日は恋焦がれた矢口に抱かれたと思っていたから


自分でそう思ってみて、くくくっと苦笑する


781 名前:dogsU 投稿日:2007/02/09(金) 23:36

本当に狂ってるな・・・・と自分に呆れるひとみ


さっき絶頂を迎える迄、頭にあったのは間違いなく矢口だった
触れる指や唇の温もり等、全ての感触をすべて矢口にすりかえていた

自分の馬鹿さと弱さに苦笑しか漏れない


こんなに一人の人に心が占拠された事なんてない

そんな自分に感動すら覚えた


そして思う

今この時にも、恋焦がれた人が、運命の人の腕の中にいたとしても

それは今日迄の運命

明日からはまた違った運命が始まるはずだ

多分自分との未来を始める・・・・そんな都合のいい運命




ほんとかよ・・・・

自分に突っ込みながら服を身に着け、いつものように体を鍛え出した
782 名前: 投稿日:2007/02/09(金) 23:37
ん〜、申し訳ない気持ちで一杯ですm(__)m
783 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/10(土) 01:20
いやとんでもない
確かに嫌な人はいると思う内容ですけど自分は好きです
次お待ちしてます
784 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/10(土) 02:27
更新乙です。
毎回楽しませてもらってます。
ただ、やっぱり・・・・・やぐっつああああああああああん。・゚・(ノД`)・゚・。
あと吉澤さんも。・゚・(ノД`)・゚・。
785 名前: 投稿日:2007/02/11(日) 22:07
783:名無飼育さん
そうですか、安心しました。
最初そんなに登場して来ない役のはずの人物(鷹男)で
適当な名前つけてただけの人だったんですが、後でこうなると解ってれば
ハロメン・・・例えば元祖男前のあの人・・・とかにしてたらもう少し楽しめてもらえたのになぁ
・・・・と後悔していたので少しホッとしました。
レスありがとうございます。

784:名無飼育さん
叫ばせてしまい申し訳ありません。
少しでも楽しんでいただければと思ってるのですがなかなか・・・
レスありがとうございました。

またしばらくグダグタになりますので、ゆる〜く
疲れない程度にご覧下さい。
786 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:09
矢口はその夜
加護達の部屋に酔っ払った振りをしてもぐりこんだ

とてもじゃないが・・・今夜は一人じゃいたくなかった


いつもなら、昔ならすぐに眠る事の出来た家族の温もり
二人の温もりに包まれてもちっとも矢口の心は温かくならなかった

やがて眠る事を諦めると、そっと起き出してソファに座り窓から外を眺めた



今、何をすべきか・・・

そんな事さえも今は考えられないし、考えたくない




ただ静かに眩しいばかりに輝く月を眺め続け

そして静かな朝を迎えた





食堂に集う面々
起きる時間はだいたい揃えていた為に、皆が集ってくる

一足早く食事を終え、瞬や加藤達と共に鷹男が食堂から出てくる所に、
入れ違いに矢口やひとみ達が入ってくる
787 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:11
「今から食べるのか?じゃあ馬の準備しといてやるから後でな」
「すみません、じゃあ早く食べてすぐ行きますから」

瞬の言葉に、矢口がすまなそうに答えると

「いや、ゆっくりでいいよ、急ぐ旅でもないだろ」
「そうそう、瞬が興奮して早く起きすぎただけだからさ」

加藤が茶化すように言うと、瞬が少し顔を赤らめて

「何言ってんだ、加藤、行くぞ」

仲良さげな感じで足早に三人で去っていく


その際、ひとみと鷹男が一瞬、目を合わせて頷き合うのを見てしまった矢口は
無意識に目を逸らした

「すっかり勝も瞬さんと仲良くなっちゃってるよね」
「うん、確かに」

藤本も梨華とそう話しながら食事を取りに向かってから席に着く
788 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:13
昨日迄は若干機嫌の悪そうだったひとみが、
食事中には、すっかり元のように戻って、
楽しそうに加護達とじゃれあっていた

「もうっ、酔っ払いよっちゃんは近づかんといてっ」
「なんでだよぉっ、だいたい酔っ払ってないし〜っ」

じゃれあう二人に隣のテーブルから声がかかる

「そういえば吉澤の姿あんま見なかったなぁ、昨日」
「いや、町の女に囲まれてたの見たぜ」
「くっそ、何で俺よりもてるんだかなぁ」
「しょうがね〜だろ、熊みたいなお前よりやっぱ綺麗な方がいいだろうからさ」
「ちぇっ」

等と中澤の仲間達にも話しかけられ、
食堂で働く人達にも出発を惜しまれながら
なんだかんだと、楽しく食事していくみんな
789 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:15
「よしっ、馬鹿やってないで食べ終わったら早く部屋戻るぞっ、
荷物の準備が出来たらすぐ城の入り口に集合っ」

あんまり待たせちゃ悪いだろ、と矢口はそんな仲間達にいつものように声を出す

真希や紺野にも笑いかけると
「よし、ゴトー達も準備しよっ」と元気に後片付けを始めた

笑いかける真希に、照れくさそうな紺野が元気に「はい」と頷いて、
仲良さげに立ち上がる

それを優しい眼差しで見送る矢口を、ひとみは不思議な面持ちで見つめた

そんな視線に気づき

「何見てんだよっ、おいら達も準備すっぞっ」

矢口は何かを感じながらも、自然に今までどおり接する事が出来た



ほら大丈夫・・と自分に呟く矢口


一晩何も考えずに月を眺めていたので冷静になれたのかもしれない・・・

だいたい自分みたいな人殺しには人を好きになる資格も・・・・

好きになってもらえる資格さえもないんだし、それが当然なんだと・・・



立ち上がった真希が、矢口に向かっていたずらっ子のような顔をする

「じゃあ、やぐっつあん、競争とかしちゃう?」
「もうっ、ひめっ・・・・っとと、ごっつぁんっ、子供みたいな事言わない」

満面の笑みで笑い合う二人

「「わ〜いっ!競争競争っ!」」

楽しそうに片付けて、すぐに消えていく加護と辻
790 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:17
「またほらっ、すぐ乗っかるんだからっ、あ〜あ〜っ」
慌てて食器類を片付けようとしてガチャガチャと転がしてしまう矢口

「あはっ、やぐっつぁんおっ先〜っ」
紺野の手を引いてさっさと行ってしまう真希

「もうっ、姫っ」
不服そうに呟くと、すぐに片付けてから力を使って消えた矢口

「やぐっつぁんずるい〜っ」
食堂の外で響く真希の楽しそうな声


笑顔で見てた他の人達も片付けを始めた

そして取り残された梨華と藤本とひとみ

「ふふっ、ああやってあの四人はMの国で過ごしてたんだろうね」
「だね、なんつ〜か、あんなすごい革命を起こした中心人物達とはとても思えないね、あ〜やってると」

微笑みあう梨華と藤本も立ち上がる

「ほんと、ね、置いてかれちゃうよ、私達も早くしないと」
「うんっ、ほらよしこもっ」
「あ、うん」
791 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:20
急ぎ片付けた後、
仲良く手を繋いで足早に歩く二人の後ろをひとみはゆっくりと歩いていく


さっき真希は紺野の手を引いていた

どういうことなのか解らない

それでも悔しい位仲良さそうな真希と矢口の姿には、やはりため息しか出てこない。

あ〜あ、とうとう矢口は真希に抱かれてしまったんだ・・・・と

しかし2人は結ばれても
それぞれ身分の釣り合うパートナーを見つけなければいけない運命なはず


・・・・ホントに?

今はもう、真希は王族でない

矢口だってもう王族付きの族とかでもないはず・・・
じゃあこれからも共に歩く事を許される関係ではないのか?

紺野と自分はこのままずっと平行線の様に、
二人の横を走って行かないといけないのだろうか・・・・

それが辛くて堪らないのなら、鷹男の言うとおり
あいつから離れればいいだけ・・・・

それだけ・・・・・

昨日考えないようクタクタになるまで体を鍛えて眠ったのに、
もうそんな事を考えてしまう自分に一つため息を落とし、部屋へと向かう
792 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:23

各々に出発の準備をした矢口達8人と、瞬達5人

いち早く準備を終え、城の入り口に仁王立ちする加護と辻は

次々に集合する仲間達に「「遅いっ」」と怒る


「はいはいお前達にはかなわね〜よ」

結局最後迄張り合ってから、ちょっとの差で負けた矢口は本気で悔しそう


「あ〜もうかわええなぁ、あんたらは」

最後迄デレデレと矢口を抱き寄せる中澤

「こらっ、親びんを離せっ」
「おばちゃんには親びんはやらへんっ」

「ったくこのガキどもはっ」

毒づきながらも楽しそうにしている。
793 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:25
「じゃあ裕ちゃん、おいら達行くね」
「ああ、例の件はまかしとき、それにちゃんと田中とも連絡取り合うよってな」
「うん」

矢口の頭を撫でて名残惜しそうな中澤

「大丈夫やで、きっと」

「・・・うん」

何もかも解っているような視線に矢口は何故か安心する


「じゃあまた来るよ、中澤さん」
瞬が先に馬に乗ってそんな二人に話しかける

「ああ、これからも色々お世話になります」

なつみやかおりもオッケー等と言いながら騎乗する


ダックスやバーニーズ、シープと、
ここEの王都はもう完全に一つの意識で固まったように見え矢口は微笑む


「よしっ、じゃあ行こうか、やぐっつあん、みんな」
「はい」

真希の号令に、おうっと全員が馬に乗った。
794 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:29
昨日城に集まってくれた人達や、中澤の仲間達が手を振る中、一行は出発する

「矢口ぃ〜、戻って来るんやで〜」

中澤が叫ぶ

「裕ちゃんっ、色々ありがとう〜、またね〜」
「「みんなまたね〜」」
「「「皆さん元気で〜」」」

加護達も藤本達も寂しそうだ



「親びん、ええ感じになってよかったですね」
「ああ、本当に良かった、お前らのおかげだな」

走りながら加護に言う

「それはそうと親びん、昨日よっちゃんおっかけてって何してたんです?」

にやけた眼をして加護が聞いて来ると、ドキンとしながらも聞き返す

「何・・・って、どういう事だよ」

並走する二人、他の人達には聞こえていない事を確認すると

「またまたぁ、よっちゃんの首筋に痕ついてますやんっ、親びんでしょっあれつけたの」

思わず振り返り少し距離をおいて、かおりと並んで走っているひとみを見ると
視線に気づいたひとみが不思議そうな顔をしたので目を逸らす

「いや・・・・違うよ・・・・それに加護っ、そんな事は皆に言っちゃだめだぞ」
「まった照れちゃって、親びん結構ガキやからなぁ」

後ろからひとみと馬がスピードを早めて寄って来た
795 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:32
「何だよ、2人してウチの顔ジロジロ見て、気になるじゃね〜かよ」
「べっつにぃ〜、よっちゃんがもてもてやっちゅう話」

加護がにやけたまま言い、なんだよと二人言い合う時に、
矢口はシャツに見え隠れしているひとみの首筋を見た

確かに赤くなっている

しかし矢口は、鷹男とひとみは本当にそういう関係になったんだなぁ
と冷静に見てしまっていた

ひとみはバーニーズの町でも
鷹男の事を嫌ってるような素振りを見せていたのにどうして?という疑問はある

だが、もし二人が一緒にいたいと言い出せば・・・・・

途端にズキズキと胸が痛むのを感じたが
ひとみにとってはその方が幸せなのかもと思い始めていた

元はといえばどうしてひとみは自分達についてきたいと言ったんだっけと矢口は記憶を辿る
そういえば、自分が弱っちいとからかってしまったせいだったっけと唇を噛み締めた

そんな静かな矢口に、置いてかないでよぉと
かおりが近づいて来て話しかけてくる

「吉澤さんの事はかおりの町でもちょっと話題になってて、
まぁみんなの事もなんだけどね、今日行けば解るけど結構な人気者なのよ」

「へぇ〜」

かおりの言葉に矢口は人事のように返事をすると

「もうっ、矢口の事もだよっ、知らないからね、浚われても」
「おいらは子供扱いかよっ」

かおりに向って微笑む


うん、笑えてる・・・・大丈夫と矢口はクンッと顔を上げる
796 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:35
今日はなつみと加藤もバーニーズへ泊まる事になったそうだ

その前に一度ダックスの安倍に会って行って欲しいという話だったので
一行はダックスへと向かう

梨華は、藤本達がYの国に行ってしまった後の待っている間に、
姫に馬の乗り方を教わったりして、一人で乗れるようになったと威張っていた。

だが逆に、藤本は一緒に乗れなくなって寂しそうだ
馬の為にはやはり一人で乗った方が負担が少ないのは確かだからと納得はしているのだが、
なかなか複雑な心境とふてくされる

そんな風にわいわいと話しながら半日も走ると、ダックスに到着する

「お帰りなさい、お嬢さん、加藤さんっ、おおっ、みんなもおかえりっ」

門番にそう言われて門が開けられ、しばらくして見えてくる町の人達が矢口達を見てざわめく
「帰って来たのかぁ」や「新聞で知ってるよっ、すげー事やらかして来たんだなぁ」
と道々声が掛けられ、ゆっくりと歩を進めた

安倍の屋敷の傍に来ると、門番の兵が慌てて中に入って行くのが見える
門から入って全員が馬を降りる頃、安倍が中から出て来て手を軽く挙げた

「お〜っ、矢口さん達よく戻って来てくれた、さぁ中に入って話を聞かせてくれ」

いつも渋い顔をしている男が、今日は機嫌がいいようだ

「お父さんっ、今日はこれからバーニーズに行くから挨拶だけなのっ、
明日にはJの国に行ってしまうんだから」

なつみに言われた安倍が、あからさまに寂しそうな顔をして「そうか」と呟く
797 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:38
「で、なっちも勝さんも今日は瞬さんのとこに泊めてもらうから」
「何?若林の所に?」

眉間に皺を寄せた安倍を見て、
まだこの親父達にはしこりが残っているんだろうかと矢口達は苦笑しながら見つめていた

「そ、せっかく矢口達といられるのに一緒に泊まらない訳ないじゃない」

なつみがかおりの所には頻繁に泊まっているのをいつも寂しがっているのか、
安倍が小さな声で聞く

「かおりさん・・・またなつみがお邪魔してもいいのかい?」
「それはもちろんかまいませんけど」

かわいい娘をいつも自分がとりあげてしまって、少し気の毒だけど、
矢口達ともっと話しをしたいと、なつみはきっと思っているだろうからそう答えた

「ならば・・・・その・・・・・・もう一部屋泊まる場所はないだろうか?」
「は?」

なつみが何言い出すんだろうと声を挙げる

「わしも行く」

はぁ?

瞬や勝、安倍の家に集まっていた兵達まで、ほぼ全員の声が揃う

「そ・・・・そんなにおかしい事言ったか?わしは」

少し照れたように、しかも不機嫌に言うと、
笑みを浮かべた瞬が快く来て下さいと言い、みんなもそんな安倍をかわいいと目を細めた


あの争いの前は、足を踏み入れようともしなかった場所、
しかも敵視していた相手の家に泊まりたいと言い出した事で、
本当に仲良くなれたんだと矢口は嬉しかった
798 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:45
「いいから、なつみ、準備してくれ、それまで少しお茶でも飲んでてくれたまえ」

照れている安倍に中に通され、テーブルに座ると、
兵達がたむろして来ては、隣に座ったりして話し掛けて来る

新聞でおおまかな事は知っていたが、
もっと細かい事を聞きたくてうずうずした感じだった

結局、暇な人は今夜バーニーズに来るという流れになってしまった為
夜営用のテントの準備をしに皆ちらばっていく

真希と紺野にとっては初めて会う人達なのだが、
もうよそ者や王族と睨む人はいない

矢口達と同じように人が寄って来ては、
「あんたが矢口さんの国の姫かぁ」、と感心されていた

お茶を飲み終わる頃、安倍がなつみを従えて勝に荷物を持たせて現れる

「じゃあ、いこうか」

そう言うと、今駆け込んできた兵が、「安部様、でも今日は長達と会合が」と慌ててた。
だが「そんなのは明日でもいいだろ、俺は矢口達の話を聞きたい」と一蹴し、ずんずんと玄関に行った



「なっち、お父さんってあんなキャラだったんだね」
「そうなの、けっこうかわいいでしょ」

矢口はなつみに微笑み、頷く
799 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:55
町を抜けながら少し驚く
互いを仕切っていた壁が無くなっており、新たに簡易的な門が出来てたりした

三つの町は、互いの足りない物資や食料を自由に買いに行く事もでき、
そのおかげで新しい商売を始める人も増えたようだ

道々声をかけられながらも、安倍と瞬を先頭にバーニーズに入る
バーニーズの人々も安倍達の姿を見ると、一様に礼をする。

その後ろに矢口達の姿を見つけると、家の中に叫んで知らせる人や、
馬に並んで話し掛けて来る人もいて結構な騒ぎになった


人々の歓迎を受けながら、ようやく若林の屋敷に着いた

大喜びする若林だったが、横に安倍が立っている事で、落ち着きを取り戻し
瞬が説明すると、「かまわない、好きな部屋に泊まれ」と踵を返し中に入っていった

会議室に通され、若林は集まってきたここの族の兵達に
部屋を片付けて来いと命令すると、一斉に部屋へと向って行った

ダックスの兵達も、自分達の宿泊用の夜営のテントを張りに行ってくると庭へと案内してもらっている


「あの、おいら達別にどこでも寝れるし、なんなら庭でも寝れますからおかまいなく」
「馬鹿者っ、もう君達は私の娘も同然なんだから、だいたいこの町の恩人なんだし、大事にしないと」

そう言って笑った、そして矢口は瞬に、
「あんな人だったっけ」とこそっと聞き、「あれがいつもの親父だよ」と耳打ちした


すると奥から眼だけ出して恥ずかしそうにしている亮をひとみが見つける

「あっ、亮、いたんじゃん、元気だった?」

ひとみの声に出て来たと思ったら、
ひとみの脛を蹴って消えて行ったのを見て
加護と辻が顔を合わせて、面白そうな子がいたねと追っかけて行った

「って、あいつっ」

ひとみが足をあげて脛をさすると皆に笑われた
800 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:57
「何やられてんだよ」

矢口の突っ込みにひとみが剥れる

「なんであいつはウチにばっかあんな態度なんだよっ」

「ははっ、やりやすいんだよ、きっと吉澤さんは、
悪いな、亮恥ずかしがってるみたいだ」

「年頃だからね、それにしてもよしこ 隙在り過ぎ、
あんな子供にやられちゃダメでしょ」

「ちくしょ、油断した」

藤本が楽しそうにひとみの肩に手を置いて言うと、
悔しそうにひとみが呟き、梨華が藤本に楽しそうに言う

「美貴ちゃん、前もひとみちゃんああやってよく蹴られてたの」
「きゃははっ、まだまだだねぇよしこ」

そこで再び笑い声が響くと、若林がまあ、座ってゆっくり話そうと言う

着席しながら真希と紺野を見て、
この人たちは?と矢口に聞き、矢口が説明すると、ほぉと感心していた

そこで矢口が口を開く、

「あの、すみません、話はみんなにでも聞いてもらえばいいので、
おいら少しシープに行って来たいのですが」

「シープに?」

みんなも不思議がり、ひとみは睨んでいる
801 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 22:58
「ダックスやバーニーズは実際にこの眼で町の様子を見れたので、
出来ればシープの復興を見たいと思って」

藤本と梨華に向って言うと

「そうですね、今から行けば夕方には帰って来れるし、じゃあ美貴達はゆっくりしてていいですか?」

疲れてるし、と言いながらも梨華に厭らしい視線を向け、
もう、と呆れるようにしながらも嬉しそうな梨華

「ああ、そうしろ、これから先はまた大変になるかもしれないしな、
若林さんと安倍さん達にも色んな事聞いておけよ」

「ウチも行くよ」

ひとみがそう言い出すと、一瞬ドキッとした矢口は笑って首を振り

「今回は、お前を置いてく訳じゃないし、
別に戦いに行く訳でもねんだから一人で平気だろ、それにもう一度海も見ておきたいし」

今は二人きりになりたくない・・・・そんな無意識の気持ちからの言葉

「「海?」」

だがそこで真希と梨華の声がダブル

「あれ、姫・・・あ、ごっつぁん・・・は知らないかもしれないけど、
石川はあの時見てなかったっけ?」

「はい、あの時はそれどころじゃなくて、なんか独特の匂いがしてるし、
波?の音がしてるのは聞こえてたけど・・・・見れなくて」

キラキラとした視線を矢口に向ける二人
802 名前:dogsU 投稿日:2007/02/11(日) 23:00
「じゃあ・・・一緒に行くか?」

「「行く」」

元気に頷いて返事した

矢口はにこっと笑ったが、紺野と藤本に眼をやると、二人はどうぞとばかりに頷いていた
若干藤本が不服そうながらも、顔を輝かせている梨華に何も言えないらしい

「あの・・・・ウチは?」
ひとみがおずおずと聞くと

「お前は海見たじゃんか」
笑って矢口は立ち上がり、真希と梨華も続く

「まぁ・・・・そうだけど」
「じゃあ、夕方までに帰って来ますね」

と、とっとと矢口は2人を連れて出てってしまった

「ありゃりゃ、よっちゃん、置いてかれちゃったね」
なつみが笑うと

ちぇっとひとみは口を尖らす

「いいじゃんよしこ、美貴達とまったりしてようよ、若林さん達にも色々聞きたい事あるし」
「何?聞きたい事って」

ひとみが藤本に聞きなおすと、若林達も何だろうと耳を傾けた
803 名前: 投稿日:2007/02/11(日) 23:00
今日はこのへんで
804 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/11(日) 23:41
痛々しくてせつないけど、でも見守っています。
みんないい人ばかりだから受け入れられないことなんてないです。
805 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 05:48
遠慮しすぎなだけなのになぁ二人とも…
それもこの師弟コンビらしいんですけど、もどかしい

ところで>>785
……じゃあ後で元祖さんVer.妄想してみていいですか(笑)
806 名前: 投稿日:2007/02/17(土) 15:56
804:名無飼育さん
いや〜、ありがとうございます。
いい人ばかりという見方をしてくれる方の方がいい人だと
自分は個人的に思います。感謝です。

805:名無飼育さん
遠慮しすぎというか不器用というか
この師弟は・・・

ところで妄想・・・・どんどんして下さい。
きっと楽しむ為のこの飼育ですから(笑)

レスありがどうございました。
807 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 15:58
三人は馬で町を抜けて、
門で何も言わずとも通行証をもらうと、バーニーズの門を出ていく

新しく出来たと瞬に教えてもらった道には、荷物を背負った町人らしき人が多数行き来している。

そんな中、矢口を知っている人等には、声を掛けられながら森を駆け抜けると、
やがて高い壁が見えてくる

最短距離ながらバーニーズとダックスの町より少し離れており、
新しい道でのシープへの入り口は、あの戦闘の際、鷹男達に爆破された壁の所にあった。

一応は綺麗に瓦礫等は取り除かれていたが、いずれこの壁は破壊し、
新しく三つの町を囲む様に新しく作り直すという


侵入者に備えてか、幾分大人数の門番が、行き来する人達に声を掛けていた

少し前に青の軍だったはぐれの族や山賊が戻ってきて、
入り込もうとしたらしいから、ちゃんと警備しているという
シープで暮らすようになった青の軍の人達も実際にはいるらしいので、
その人格次第という判断らしい

とにかくあの戦闘でシープの兵達は多く死んでしまったので
残った人達が必死に建て直しを行っている

真面目に訪問者をチェックするシープの兵達の後ろにいるのは
ダックスとバーニーズから派遣された兵達だろう、仲良さげに談笑しながら座っている

多分族の対抗策としての派遣

ちゃんと三つの町が協力しあっているようだ

808 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:00
そんな所に近づく

「あれ、矢口さんに石川さんじゃないですか?」
「おおっ、ほんとだっ、おいっ誰か俊樹様と三浦様に知らせにいけっ」
「はっ」

いやっあの・・・・と、戸惑う矢口達をよそに
颯爽と若い兵が馬を走らせていく

残った兵達も、「どうです、大分復興してるでしょう」と
自慢げに敬礼してくれたり手を振ってくれたりしている

他の人は持ち物を一応チェックしたりするみたいだが、
矢口達は何もせずとも通行証を渡すだけで入れてくれた


門を通り抜けてしばらくすると、真希がニコニコしながら矢口に話しかける

「すごいねぇ、やぐっつぁん」
「・・・・・ええ、ほんとに」

昔のここの状態を、新聞を見たり中澤達から聞いて知っている真希が、
ちゃんと機能している町の姿に感心したと思っている矢口の返事に

「違うよ、やぐっつあんの人気にだよ」

と優しい笑顔を向ける真希

「もう、そんな事ありません、やめて下さい、ほらっ、行きますよっ」
「全く・・・・・・よ〜し、やぐっつあん、また競争する?」
「しませんっ、だいたいどこが目的の屋敷かわかんないでしょ」
「わかるよぉっ、一番大きな屋敷探せばいんでしょっ、今若い兵隊が走ってった方向だろうしっ」

なんとなく見える青い水平線の方角へと、
「わ〜い、海だ海だ〜っ」と無邪気な顔で走り出していく真希に、二人は笑顔で頷いてついていく
809 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:02
二つの町同様、矢口達を見てざわめく民衆達

矢口の先導で、戦闘のあった広い場所を、町を横目に見ながら突っ切るように走ると、
元加賀の屋敷に近づく

町の方に入り込み、門に着くと、「お前らは仕事していろ」と
後ろからついてこようとしている大勢の兵を追い返す素振りをしながらも、
すでに俊樹や三浦が出て来ていた

喜ぶ兵達をバックにしながら嬉しそうに話しかけてくる

「「矢口さんっ、石川さんっ・・・と」」

もう一人見慣れない真希を見て言葉につまる

「ああ、後藤真希、おいらの国の姫です」

おお〜っ、これは美しいと感心しきりのギャラリー

「ど、どうも、この人が・・・」

どもる俊樹

元・姫です・・・とにこやかに真希が笑うと、
俊樹も三浦もどぎまぎして笑う

「手ぇ出さないで下さいね、大事な姫なんですから」

若干赤くなりながらも冷静を装う二人

「え・・・もちろん、あ、それはそうと矢口さん、町の具合見てくれたかい?」

気を取り直し、矢口に聞く俊樹
810 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:04
「はい、すっかり修復が進んで、いい感じになってましたね」

ダックスやバーニーズとも仲良くやってるみたいですしと言うと

「ほんとほんと、前は今通って来た所の家とか壊されちゃってガランとしてたのに、
もう家があるし、良かったですね、俊樹さん、三浦さん」

梨華も興奮ぎみにしゃべり、真希も振り返ってへぇ〜と眺めた

「まぁ、まだまだ課題だらけだけどね、これも矢口さん達のおかげだし、
なんだか町の人達も色んな場所に行けるようになって楽しいみたいだよ」

知らない技術や文化が結構あるみたいで、同じ職種同士でも情報交換に忙しいようだと嬉しそう

「へぇ、ほんとに良かった、今頑張ってる旧Eの国にもそのうち気軽に遊びに行けるといいですね」

「そうだね、でもそれは近い将来必ずそうなる気がするよ、
時々瞬達と話すんだ、もっと他の国とも自由に行き来するのもいいなぁって」

昔は、族の人達が盛んに行き来して技術や文化を交流させて来たみたいだからねと笑う

それを見てた矢口は、
ずっとこの三つの町の中だけで生きてきた人達が自由な生き方を見つけている様子に嬉しくなる

「はい、きっと近い将来そうなりますよ、絶対」

矢口は梨華と真希にも微笑みかけると三人で頷く

興味深げにきょろきょろする真希を連れて、
とりあえず人払いをして、中の大広間に俊樹と三浦と五人で入った
811 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:07

ここで生き残った兵達のもっぱらの夢についての話が始まる


俊樹や三浦の世代よりもっと前

昔まだEの国が繁栄していた頃のような、他の国の先端を行くような感覚に近いものを、
今、町中の人達が感じているようだ

銃を広めたり、現在各国で使われている通貨も実はEの国が統一したという

その是非は別として、何かを始めるという感覚が人々を生き生きとさせていく

現在使用されている金貨も実はEの国が大昔に作った物であり、
製造がストップしている事から限られた金貨が各国の国内で流通しているだけの現状

昔、分裂したEの国の中で、多分バーニーズの鉱石と、
恐らく何か特殊な材質とを組み合わせて出来た金属で、
夜になるとうっすらと光る、模造すら出来ない製法による金貨

技術者は分裂の際行方不明になったのか、はたまたどこかに隠れているのか、
とにかく各町と中澤達とでこれから極秘で捜索する予定という

手順書もどこかにあるはずなのだが、機密事項として扱われた上、
東条や若林、安倍共に知らなかったとみられ全く手がかりがない

城のどこかに隠し部屋のような場所があるのではないかとのシープの老人からの情報があり
昔Eの国の王族に遣えていた老人達を連れて近々中澤達を尋ねるという

造幣の事は、ダックスやバーニーズ、それに中澤達の中で、幹部でしか話し合われていない超機密事項
矢口達は中澤にもそれを聞いていたし、とにかく慎重に事を運ぶようにと伝えた

そんな込み入った話をしていたが、何かと忙しい俊樹や三浦に、
度々ノックする兵達が指示を受けにやってくる為、早々にその話はきりあげる事になった
812 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:11
いつの間にか集まって来てそわそわしている兵達が
ドアの外に気配をアピールし続け、俊樹の許しが出て入室を許された途端に
大広間に兵達が入り込んで来る

「石川さん久しぶりです」、「矢口さん新聞見ました」、「この人は?」、等と聞かれて説明したりと、
ガヤガヤとしばらくうるさかった

なんだかんだで時間が過ぎて、矢口がハッと気づく

「あの、俊樹さん、あの穴、まだあります?」
「ああ、すっかり気に入って、階段作ったり、火を焚けるようにしたりして結構使ってるよ」

興奮する兵を仕事に戻そうと困っていた俊樹が答える

「そうですか、じゃあ、海・・・・見てきてもいいですか?
この2人はまだ海見た事ないみたいで、見せてあげたくて」

はずかしそうにする2人は、もう行こうとするばかりだが、
楽しみな雰囲気を醸し出すように、爛々と目を輝かせる

「もちろんいいよ、行っておいで、俺らは仕事に戻るから、好きなだけ見ておいでよ」

はい、と三人は兵達に手を振り庭へと急ぐ

あの時は茂みに隠された小さな穴だけだったのに、
茂みが移され、子供でも入れるような階段が出来上がっている

中にはちゃんと浜風にも負けないように囲われた炎によって明るく照らされていた

矢口が念のためと俊樹に持たされた松明を消えないように立てかけている間に、
2人はもう砂浜に駆け出していた
813 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:12
「すっご〜いっ、やぐっつぁん、これが海?」
「ええ、そうですよ」
「キャーっ、すごいすごいっ、矢口さんっすごいよっ」

叫びながら2人は既に遠くに駆けていき小さくなっていた

矢口は笑顔でゆっくりと二人に近寄っていく


波打ち際で靴を脱いだ2人は、手を繋いで恐る恐る水に足をつけていた

「やぐっつぁ〜んっ、砂が動く〜っ」
「面白〜いっ」

そんな微笑ましい2人を、矢口は砂浜に座って足を投げ出して見て笑う

「あんまり濡れないで下さいね、加護達にバレますよ、海行ったでしょって」
「もう濡れちゃったぁ〜っ、矢口さ〜ん」

すぐに返答して来て矢口は微笑む

真希がすぐに「じゃあもうしょうがないよねっ」て水を掛けだすと、キャーキャーと梨華が騒ぐ
814 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:16
そんな楽しそうな2人を見ながら、矢口は思い出す

この場所でひとみが言ってくれた言葉を・・・・



最初で最後にするから言わせてもらっていいかな・・・・
と前置きをして言ってくれた言葉


   『ウチ・・・矢口さんが好きです』


暗闇の中だったけど、まっすぐに自分の目を見て言ってくれた


実際その時の矢口の感情は"困る"という感情が占めていた気がする
姫という運命の相手以外に気持ちをふらつかせてはいけない運命だったから

その時何も答えるような事も、気の聞いた事・・・・
とにかく何も言う事は出来なかった

なのにうっすらと見えたひとみの表情は、実にスッキリとしたいい笑顔だった

あの時たどたどしくしか言えなかったありがとうという言葉を、
やはり今もひとみに言ってあげたい気分になる


寄せては返す波打ち際を見ながらも、次第に自分の世界へと入っていく



でも、あれからかなりの時間が経ち、人の気持は変わるのかもしれない

鷹男と消えて行ったあの部屋で何があったのかは解らない
815 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:18
しかし今の矢口には多分悲しい事



真希に対する自分の思いと、ひとみに対する思いの違い



ようやく気づきかけた心を、ひとみに伝える事はもう無いのだろうか



何かを掴みかけていた手のひらから、
今触っている砂のようにパラパラとその何かが零れていく

そんな事を考えていると、いつのまにか梨華が隣に座っていた事に気付かなかった



「矢口さん」

ビクッとすると梨華は笑った



「どうしたんですか?昨日から・・・・
ううん、怪我して帰って来た時からおかしいです・・・・矢口さん」

「そうか?」

矢口はあぐらをかいてえへへと微笑む

そんな顔を梨華がじっと見つめた

「な・・・なんだよ、そんな見んなよ、恥ずかしいから」

矢口は視線をまだ波打ち際で貝殻を見つけている真希に向けた
816 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:19
波の音だけが聞こえる沈黙を経て

「私・・・・美貴ちゃんが好きです」

梨華の口から発される唐突な言葉に慌てる

「あ・・・あ?わ・・・解ってるよ、んなの見てれば」

再び足を投げ出して手を後ろにつく

「でも・・・・・ひとみちゃんも好き・・・・・それっていけませんか?」

「・・・・・・・・・・・・・・い・・・いんじゃね〜の?・・・おいらには解んね〜よ」

再びじっと矢口を見る
その視線に気づきながらも、矢口は真希を見続ける


「気づいているんでしょ・・・・自分の気持・・・・・」
「・・・・・・」

「言ってみたらどうです?」
「・・・・・・・・」

「きっと言ってもらえるまで、ずっと待ってると思いますから」
「・・・・・・そうかな」

体の横の砂を掴んでサラサラと落としては、繰り返す矢口
817 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:20
「・・・・見てて・・・・痛々しいんです・・・・ひとみちゃん」
「・・・・ん?」

落ちる砂の事を見ながら、梨華は優しい顔をしてくれている

「私が美貴ちゃんに愛されて幸せなように、ひとみちゃんにも幸せになってもらいたいんです」

「・・・・おいらもそう思うよ・・・・吉澤も・・・姫・・・ごっつぁんも、
もちろんお前達や加護達も・・・・みんなずっと笑ってて欲しい」

「なら」

梨華が矢口が遊んでいる手を握って矢口の眼を見る

一瞬梨華に心を覗かれたらどうしようと思ってしまう矢口
そんな自分に驚いた
梨華はやたら心を覗くような事はしない、とすぐに思い直し俯く

やんわりと手を振り解いて、首を振って、
手の砂を掃いながら矢口は立ち上がる

案の定、何を考えてるのだろうと不思議そうな顔をして見上げてくる梨華
818 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:21
「最近・・・・よく考えるよ・・・・・・あいつとは喧嘩ばっかりしてて、
それも結構楽しくて・・・・・・そして・・・・そばにいないとやけに寂しいんだ・・・
だけど、あいつが色んな人に好かれてるのを聞いても、別にどうも思わないし・・・・
でも・・・うん、そりゃそうかなって・・・・
あいつ・・・綺麗だし・・・優しい奴だし色んな人に好かれるのも納得できる・・・・・
だからさ・・・・・・おいらじゃない方がいいのかなっ・・・
て・・・・本当に思うんだ」

「そんな」

梨華も何か言いたそうに立ち上がると、穏やかな目をして矢口が見上げる




「あいつが笑うには・・・・おいらじゃなくてもいい」



口にして漸く消化できた矢口の思い




「どうして」




梨華が責めるような表情をした途端、矢口は穏やかだった表情を硬くした


819 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:23
「だってあいつ・・・・・ずっと体鍛えてる・・・・あいつは元々兵隊じゃない・・・・
石川を守る役目だってもう・・・・・藤本に渡してるはずなのに・・・・
それなのに・・・・・毎日毎日馬鹿みたいに・・・・・・・・
旅してる時もずっと夜中に一人で起きてさ・・・・・ほんと・・・・馬鹿みたいに体鍛えて・・・・・
おいらのせいだろ・・・・・おいらがいるからあいつ無茶して
おいらが最初ばかにしちまったもんだから・・・・意地になって強くなろうとしてる・・・・・
けどもういいよ、もう十分強いし、もうそんな必要もないだろうし・・・・・だから休ませてやりたい
おいらのそばにいちゃ・・・あいつはずっと無茶し続けるだろうから・・・・・
本当なら明日・・・・うん、明日にでも別れていいけど・・・・それじゃきっとあいつは納得しないだろうし
中途半端においら達Mの国のいざこざに首を突っ込ませてしまったみたいだしな・・・
でも・・・・でもMの国へ戻って、何かしらの決着がついたらお前らとはお別れだ・・・・・
もちろんそれまでは命がけでお前らを守る
おいらが絶対死なせない・・・・・だからその後は・・・・
お前らも吉澤も・・・・好きなように生きた方がいい」

「矢口さんっ」

「そしてもう・・・・おいらには関わらない方が幸せだよ」

話しているうちに、どんどん矢口の顔色がつらそうな顔に変わって行った

そして言い終わる頃には、矢口の眼にうっすらと涙が溜まっていた
820 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:25
視線を落とす二人




嫌な沈黙が続く




「矢口さん何も解ってない」

突然梨華が怒って肩を掴む

「解ってるよ」
「解ってないっ、ぜんっぜん解ってない」

梨華の声がどんどん大きくなっていく

「解ってるって」

涙を拭いてにっこりと矢口が笑いかけると

パシッ

梨華の手が矢口の頬を叩く
821 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:26
銃弾でさえ避ける矢口が、避ける事をしなかった

歯を食いしばっているような顔をしている梨華の目にも、みるみる溜まってく涙



そして、

「矢口さんの弱虫っ」

梨華は悔しそうにそう言って洞窟へと駆けて行ってしまった


「い・・・・石川」

ぶたれた頬に手を当てて、梨華の小さくなって行く背中を見る


その背中は昔、バーニーズで「最高に残酷」と怒られた時の梨華の背中だった





「やぐっつあん?」

遠くにいた真希が、いつのまにか後ろに寄って来ている事にさえ気がつかなかった

2人の様子がおかしいのに気づいた真希は、途中から近くに来て話しを聞いていた

「・・・・・怒られちゃいました」

なんともいえない顔をして俯く
822 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:28


「素直じゃないからだよ・・・・・やぐっつぁんが」

小さくため息をつきながらも、優しく矢口を見る



「・・・・・・・・・ええ」

頬に当てていた手を下ろすと照れくさそうに俯いた


「昨日・・・・吉澤さんに言わなかったの?」

真希の幸せに喜び、ひとみと話して、自分の気持を確信に変えたかった矢口

もう消したはずなのに、鷹男と消えて行ったドアの閉まる音がまた矢口の中に木霊する

だいたい、今、ちゃんと冷静になれてるし、
今日もひとみと普通に接する事が出来る自分がいる

きっと好きなら、嫉妬という感情をひとみにぶつけるようになるものだと思っていた

あの時も今も、涙を流すのは悲しさからなのか、
怒りからなのか、それさえも解らず・・・・ただ
・・・・・少しほっとしている自分には気づく事が出来た

これが運命なんだと・・・・・自分のような人殺しが・・・・
誰かと幸せになってはいけないという神様の教えなのだと
823 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:29



「・・・・・・解らなくって」




小さな声に真希は聞きなおす

「え?」


「自分の気持が・・・・おいらは解らない」


矢口の眼にはさっきまでの穏やかな目はもう存在せずに、
ただ絶望の色だけを落としている

「うん・・・・みんなそうだよ」

弱弱しい矢口に真希はとまどい、優しく言う

「・・・・・本当に・・・・解らないんです」

固まった矢口の横顔に、言葉を失う
824 名前:dogsU 投稿日:2007/02/17(土) 16:31

初めて見る矢口の姿

ずっと共に育って来て、
たのもしい背中と、明るい矢口の姿しか見た事がなかった事に気づく





「やぐっつぁん」


消えてしまいそうな矢口を思わず抱きしめようと一歩近づくと、

矢口の眼が一旦閉じて、唇を噛み締めた跡、真希を見上げて笑顔になる

「ごっつぁんっ、帰りましょっか、紺野も心配するでしょうし、石川にも謝らないと」
「・・・・うん」

近づこうとする真希の体が止まる

今は矢口には触れてはいけない・・・・とそう感じて
825 名前: 投稿日:2007/02/17(土) 16:31
本日はこのへんで
826 名前:サク 投稿日:2007/02/17(土) 22:06
初デス【o__】ノ

拓様,天才デス!!!

A人に幸ぁれ。゚【p´ロ`q】゚。
827 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/17(土) 22:47
やぐっつああああん。・゚・(ノД`)・゚・。
切ない!切ねぇええよぉおおおおお。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。
作者さん更新乙です!。・゚・(ノД`)・゚・。
ジワリとキますね。・゚・(ノД`)・゚・。やぐっつぁああああああんんん!!!!
828 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/18(日) 03:09
上げちゃダメ。
829 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/19(月) 00:51
一気に読ませさていただきました!面白い!!
830 名前: 投稿日:2007/02/19(月) 22:41
826:サク様
初レスありがとうございます【o__】ノ
恐れ多い言葉にドキドキです。恐縮

827:名無飼育さん
ジワリとキますか・・・
ヘタレ同士すれ違ってばっかりですが、どうか見守ってやって下さい。
レスありがとうございます。あの・・・喉・・・お大事にw

828:名無飼育さん
も・・・もしかしてこのスレ一番上にあったりしました?
あわわ、大変ですっ
下げていただけたのなら大変感謝です。
いや〜、ビビった〜(汗
どなたか存じませんが、ありがとうございました。
自分小心者で、下〜の方でないと落ち着かないのです。

我侭で申し訳ありませんが、上に持っていかない様に
どうかよろしくお願い致します。

829:名無飼育さん
一気すか?ほ、本当にありがたいです(感涙)
疲れませんでしたか?それに嬉しい言葉迄いただけて感謝感謝です。

まだもうちょいグダグダが続きますから、気が向いた時にでもまた遊びに来て下さい。
831 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 22:47


ひとみはその頃、紺野と風呂に入っていた


なぜそんな事になったかというと、先ほど迄会議室で藤本が
若林と安倍の昔の事等を、二人に質問をしていたのだが
中澤の所でもほとんど会議に出ていなかったひとみには訳がわからず
度々話の流れを止める質問を藤本に投げかけた為に、
藤本から「風呂にでも入ってくれば?」と追いやられた

最初の方は紺野が優しく説明してくれたりしたのだが、
追い出す事に反対した紺野も同じく追いやられるはめに・・・


仕方なく台所で食事の準備をしているかおり達の所に行くと、

「今日はお客様が多いから今からお風呂入ってもらうと助かるわ、
安倍様にも後からすぐに入らせるからって言うから早く入って」

みんなが来てすぐに当番が掃除して沸かしてたからもう沸いてる頃よと、かおりが優しく言ってくれた


最近誰かと入浴する事の多かったひとみは、何も気にせずに入ったのだが、
紺野は慣れていないのか、なかなか服を脱がずにもじもじしていた

あまりの恥ずかしがり方に苦笑しながら、先入るねと脱衣所から浴室に消えて行く


「湯かげんどーすか?」
ザバザバと水の音が響き始めると、浴室の上の方に開いてる窓から声が聞こえる

「は〜い、丁度いいで〜す」
「ぬるかったら言ってくんなまし、ウチら隣にいますから、そこの紐ひっぱればすぐ火をくべに来やすから」
「ありがとうございま〜す」

カツカツと外にいた人が去っていくのを聞きながら、ひとみは早速珍しい匂いのする植物で頭を洗い始める
832 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 22:50
頭を洗い終わってもまだ入って来ない為に、
「早く入りなよ、怒るぞ」とひとみが叫ぶとようやく入って来た

入って来た時は、ひとみは体を洗っていたから紺野が入って来ようと気にする事もなく、
それに安心したのか紺野も隣でやっと頭を洗い始めた

ひとみが体を洗い流し、浴槽に入る頃に、漸く紺野も体を洗い始めた

ひとみが洗い場の方を向いて入っているものだから、ものすごく恥ずかしげにしている

「紺野さぁ、そんな恥ずかしがる事ないじゃん、女同士なんだし、
なんか紺野の裸見ても、亀井とかと一緒に入ってる感覚だからさ」

襲わね〜から安心しな、と苦笑しているひとみ

「は・・・・はぁ、私・・・・人と2人きりで一緒に入るのは・・・・
苦手で・・・・しかも人と入るのもこの前の温泉が始めて・・・かな」

ひとみは突然不思議に思う

「確か・・・・Yの国って、付き人が体洗ってくれたりするよね」

身の回りの世話全部するとかって・・・と呟くと

「わ・・・私は恥ずかしいからって断ってました・・・・・付き人の人もそれを解ってくれてる人でしたから」

「へぇ〜、でもほんと良くあの国で紺野みたいな奴が生きて来れたよねぇ・・・・
いや、強いのは知ってるけどさ・・・・なんつ〜か、あまりにもあの国の人達と違い過ぎてるよなぁ」

そういや、紺野は両親共小さい頃に死んでるんだっけねと優しい顔で天井を見上げる

「はい、顔も知りません」
「ふ〜ん、ウチと一緒だね」

話しかけられる事でリラックスしたのか、普通に体を洗い出した紺野

ひとみは、そんな紺野に、にこっと笑い、
大きな浴槽の縁にめいっぱい手を広げてもたれると、天を見上げて目を瞑る
833 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 22:54

「ふぁ〜っ、気持ち〜な〜」
「はいっ、ふふ」

浴槽でのんびりしているひとみ

ザバッと体を流す音がしだしたのを感じて頭を起こし、
体の泡を流している紺野の体をぼんやり見てて気づく

「あ・・・あれ?」

何だろうと顔をひとみに向け、見られている事にまた恥ずかしげに縮まったかと思うと
慌てて洗い流して、でーんとしているひとみから離れた所に、小さくなって入り込んだ

「あの、あまり見ないで下さい」
「はいはい、ったく何もしね〜っつの」

真っ赤になった顔と体でさっきの痣が薄くなったのか、
気のせいだったのかと再び両手を伸ばし、でーんと構えた



すると

「あの・・・・吉澤さんはまだ・・・・」

おずおずとお湯の中を移動してくる



「ん?」

「あの・・・・まだ矢口さんの事・・・・」

ドキッとするひとみ
834 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 22:55
「な、なんだよ」

「好き・・・ですよね」
気まずそうに俯いて小さな声を出した

「あ?ああ、当たり前だろ、そんなに早く気が変わる程、
ウチは不真面目じゃないんだよ、最近は・・・・」

言ったそばからなんとなく後ろめたい気分になるひとみ

「そうですよね・・・」

ホッとしている様に見える紺野を不思議に思ったが
ふと赤みの消えた白い肌に眼が行く

やはりさっきのような痣・・・・

肩口や鎖骨・・・・胸元

自分の経験からその痣の形は・・・・



「ね・・・ねぇ・・・・紺野さぁ」
「は、はい」

浴槽に入って落ち着いたのか、赤くなっていた顔が
すっかり戻って体育座りで穏やかにひとみの顔を見た

そして紺野も気づく

「あれ、吉澤さん・・・・その・・・首筋」

再び赤くなる紺野に、ひとみは首筋を押さえてハッとする

もしかして自分にもついているのだろうかと、だからここに来る時矢口や加護の視線が・・・と顔を強張らせる
835 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 22:57
「ウ・・・ウチは虫に刺されただけだよ、紺野こそ・・・・・」

紺野にも見える場所にある腕の付け根を指差す

すると一瞬にして体中が真っ赤になって湯船に顔を沈めた

「おっ、おい、紺野っ、あぶね〜って、ばか」

二の腕を掴んで引き上げる


「みっ見ないで下さいっ」

真っ赤な背中をひとみに向けて俯いているが、
その背中にも二つその印はある

「こ・・・紺野・・・・もしかして・・・・・・・・姫?と?」

黙って向こうを向いているが、小さく頷く

「う・・・・嘘だろ?」

小さく首を振る紺野

「まじ?」

コクンと今度は縦に振る

「そ・・・・そっかぁ・・・・そっかそっか、良かったじゃんっ、紺野っ」

スゲーッと、はしゃぐひとみは思わず後ろから紺野に抱きつく

「やっ、やめて下さいっ、よっ、吉澤さんっ」
「だって嬉しいじゃんっ、紺野の思いが叶ったんだろっ、姫と」

ひとみの心が躍りだす
836 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 22:59

真希は紺野を選んだ

結ばれた今も、二人はちゃんと生きている

真希の王族付きの意味も、違った形で達成されたし
もう王族でもないのだから、これから真希は紺野と共に生きていくはず


離れようと抵抗する柔らかな肌を抱きしめながら、嬉しさに心が弾む

昨日真希と矢口は結ばれなかったんだ・・・
そして、これからも結ばれる必要はないんだと

でもそこで一つ疑問が浮かぶ・・・・
昨日確かに2人は階段で抱き締め合っていた

互いに愛おしそうな表情で、二人で何か話して、互いを見詰め合って
暗い階段が二人がいる事でほんわかと明るい炎に包まれているようにピッタリとした空気を漂わせて・・・・・

紺野の肩口に顎を乗せたまま、ひとみが固まっていると、紺野がおどおどと言う

「あ、あの・・・・・吉澤さん・・・は・・・・矢口さんと?」

その・・・首筋の・・・・・とおどおどと聞く紺野

「ん・・・・ん?ああ、ウチのは虫に刺されたって言ったじゃん、あいつとは何もない」

だいたいあのチビとすぐにそんな色っぽい事なんて出来る訳ねーじゃんか・・・
あいつガキなんだから・・・と紺野を抱きしめる

「そうですか・・・・・あの・・・・・私・・・・
信じられないんです・・・・・自分がこうなってしまった事・・・・」

「うんうん、そうだよね・・・・思い焦がれた相手に抱かれたんだもん・・・・信じられないよね」

羨ましそうにまだ抱き締めていると、紺野が再びもぞもぞと嫌がる
837 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 23:00
「ほんと・・・・離して下さい・・・・・その・・・・誤解されると困ります」
「ああ、ごめんごめん」

すぐに離れてはぁ〜っよかったなぁ〜と天上を見上げる

「・・・・・あの・・・・・吉澤さん」

「ん?何?」

「頑張って下さいね・・・・・あの・・・・矢口さんも知ってます・・・・
昨日・・・・後藤さんがちゃんと話したからっ・・・て、教えてくれました」

膝を抱えて、すがるような眼で紺野はひとみを見ていた

紺野は結ばれた今でも不安なのだ・・・・
矢口の存在が・・・・・・そういう風にひとみには見えた

いくら真希の気持ちを手に入れても・・・・そばにはずっと矢口がいる

誰も間に入れない程の絆を持った、"王族付きの族"という運命の相手

しかし・・・・
こうなった以上、もう矢口は二人の邪魔をする様な事はしないだろう
そんな事をするような人ではない

だから・・・・

「ねぇ紺野・・・・・心配する事はないよ・・・・お前は姫を信じればいいだけじゃん」

軽い感じで笑いかけた
838 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 23:02
ひとみのその顔を見ると、ほんわかしたいつもの紺野の笑顔に戻った

「はい・・・・そうですね」
「そうそう」

そこでひとみは気づく・・・・

そうか・・・2人は昨日そんな事を話していたのだ・・・と

勝手に自分で勘違いして、
昨日、ついに矢口が真希に抱かれてしまうと妙な想像してしまった

ずっと覚悟して、矢口が役目を終えた後、
もしかしたら自分にチャンスがあるかもしれないと、かすかな希望を持っていたから・・・・

だから、矢口がとっとと抱かれる事を望みながらも、
結局弱い自分は、想像するだけで嫉妬の炎に体が蝕まれてしまった




「はぁ〜っ」

鷹男を利用して、自分の欲望を満たした事を後悔する

知らず知らずのうちに大きなため息をもらしたひとみに、まだ赤い顔をした紺野が覗き込んでいた

「吉澤さん?」

「あ、ああ、そっか、紺野がねぇ・・・・」

「・・・はぁ・・・・ほんとに」

「ははっ、良かったよ、ほんと」

言いながら少し気になりだす・・・・
当の矢口は落ち込んでいないのだろうかと
839 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 23:04
矢口はずうっと真希が好きで、真希の為に命がけで旅をして
なのに、やっと出会えた真希には紺野というかわいい恋人が出来てしまってた

そういえば、今日の矢口は少しおかしい気がした

いつもの通りなのだが・・・・・何か違う・・・・

ひとみは人の不幸を喜んだ事を恥じる



シープから帰って来たら、矢口のそばにいてやりたいと思った

矢口が悲しんでいたら、楽しい話をしてあげよう

あいつの事だからそんな顔はしないだろうけど・・・・
でも最近ずっと自分とはギクシャクしてしまってるし

ここは一つ、喧嘩でもふっかけてみたら
あいつの事だからすぐムキになってノッてくるに違いない

そうやってバカをして、喧嘩すれば少しは気が晴れるかもしれない


そう・・・こんな時ほど自分が力にならなければ



急にそう思い立ち、ひとみは紺野に「もう上がるね」とザバッと立ち上がり
スタスタと浴槽を出たら慌てて服を身に着ける

渡り廊下の中央辺りにある風呂場から、会議室に向かい母屋に入った廊下の所で
後方の宿泊する建物の影に藤本と梨華がコソコソ隠れるように話しているのを見つけた

見つけた途端に、くるっと振り返って再び元来た渡り廊下を歩く

梨華がいるという事は、矢口達も帰って来てそこにいるのかもしれないと2人に近づいた
840 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 23:07
しかしすぐに矢口の姿は無いようだと解るが、何やら深刻そう

梨華が、怒った表情で、
背中を向け建物の角の壁に腕組みした感じに寄りかかった藤本に
一生懸命何かを訴えている

シープで何かあったのだろうかと、ひとみは静か近づきながら耳を傾けると声が聞こえて来た

なんとなくバレないように、丁度お風呂場の入り口を通り越した辺りで、
建物の影に隠れて様子を伺った

「・・・・・だって頭に来たんだもんっ、私達は自由に生きればいいって
矢口さん達にはもう関わらない方が幸せだって」

「え、どういう事?それって」

藤本が即座に突っ込む

「Mの国とかの事が落ち着いたら・・・・私達とはお別れって・・・・
もう自分には関わらない方がいいって、また昔みたいな矢口さんに戻っちゃったんだもん・・・だからっ」

梨華が顔をあげた瞬間、藤本から視線を後ろへと向け、覗いているひとみに視線を合わせた

「ひ・・とみちゃん」

藤本も振り返ると、そこに紺野がドアを開けてお風呂から出てきた

「なんだよ、それ」

紺野が声をかけようとしたその前に、
ひとみがズンズンと梨華に近づいて行って怒気を含んだ声で聞く
841 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 23:13
「あ・・・・あの・・・・あのね」

言いよどむ梨華の手をひとみが握る

「今のどういっ」
「あ、紺野さん上がった〜?父さん先にさっさと風呂入れちゃおうと思ってさぁ」

そこへひとみの声を遮り、
紺野の後方から大声をあげながらなつみが現れた

ひとみは手を離し唇を噛み締めると、
今日泊めてもらう予定の一番奥の部屋へと行ってしまった

背中に怒りのオーラを漂わせて・・・



「何?何かあった?あれ?梨華ちゃん、いつ帰って来たの?」

何か空気のおかしいのに気づいたなつみの言葉に

「何もありませんよ」と明るく藤本が言うと

梨華は「あ、今帰って来ました」となつみに微笑む

なつみも紺野と視線を合わせて首をかしげた

そこへ、安倍が母屋から布を肩から下げて登場して来たので、
全員笑顔で「お風呂どうぞぉ〜」と言う

安倍が、いぶかしげな表情をしながら浴室へと消えると、
紺野はなつみと首をかしげながらも会議室の方へ向い、再び藤本は梨華と2人になり苦笑する
842 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 23:16
「絶対やばいよね」
「うん、でも、矢口さんが悪い・・・・絶対矢口さんもひとみちゃんの事好きなのに」

素直じゃないんだもんっと、まだ怒っている梨華

そこに玄関の方から、今帰って来た矢口が、廊下を走って来ているのが梨華から見えた

会議室近くでなつみ達に話し掛けられ、「大分復興してるねぇ」等話すと、
矢口が藤本と梨華に気づく

後ろからついてきた真希には風呂上りの紺野が赤い顔をして嬉しそうに近づいて行った

矢口がなつみに、ちょっと石川に話があるからと、早々に会議室前から梨華達に向かって叫ぶ

「石川っ」

力を使って庭を横切り、慌てて近寄った矢口にプイッとそっぽを向くと、
藤本は苦笑しながらも矢口を見下ろして言う

「あの・・・矢口さん」

だが矢口は何を言われるかが解るかのように遮って

「ごめん、おいらが悪い、ほんと・・・・・ごめん」

小さな体をめいっぱい前に折り曲げて石川に謝る

ちらりと梨華が矢口を見て、またそっぽを向く
843 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 23:20
「さっき言ったのはおいらの考えだけど、
決めるのはおいらじゃないもんな・・・・ほんと・・・・ごめん」

矢口の視線の先には、硬く握り締められた梨華の両手が震えていて、ますます縮こまる

「だからっ、考えとかじゃなくって、私は矢口さんが正直な気持ちをっ・・・・・」

振り返ってしゅんとしている矢口に怒鳴りつけるように言い出す梨華

「梨華ちゃんっ」

そう言って真希が瞬時に矢口のそばに立つ

藤本も梨華も驚く、真希は人間じゃなかったのかと
族の速さ程ではないけれど、あきらかに人間離れした動き

その驚きで、梨華は自分が何を言おうとしているのか解らなくなってしまった


「梨華ちゃん・・・・やぐっつぁんを・・・・許してあげて・・・・」

「真希ちゃん・・・・」
844 名前:dogsU 投稿日:2007/02/19(月) 23:23
矢口だけでなく、真希の目迄も悲しそうで、
梨華はそれ以上話しをする事が出来なかった

そして遠くから心配そうな顔で見つめる紺野も視界に入り、
益々口を開く事が出来ない

頭を下げたままの矢口を藤本が起こす

それでも上目遣いで梨華にすまなそうにしている矢口に、
梨華は思わずかわいいと呟きそうになる

藤本が、梨華の雰囲気が変わった事にホッとするように矢口の肩に手を置き

「矢口さん・・・・今日はよしこと相部屋です・・・いいですよね」

矢口の眼に一瞬動揺が走るがすぐに落ち着いて笑う

「いいよ、何で?」

「じゃあ、あの一番奥の部屋だそうです、ごっちんは紺野と一緒で向こうから三番目、
美貴達は一番こっち、あいぼん達はかおりさんの所だそうですよ」

真希が心配そうに矢口を見ると矢口は心配いらないとばかりに柔らかく笑う


藤本と梨華はそれを見て、不思議な気持になっていた

やはりこの2人には、誰にも見えない強い絆がある


そう思わせられる事に・・・
845 名前: 投稿日:2007/02/19(月) 23:23
今日はここ迄
846 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:21
その後、矢口と藤本と紺野の王族付きトリオは、
会議室で若林と瞬、安倍、加藤に捕まり、人払いをして何だか込み入った話をしだす

かおりやなつみ、加護達、真希と梨華は夕飯の準備を手伝い始めた
その際真希と梨華は、亮と屋敷の外に出て近くの子達と遊んでいた加護達に、
海の匂いがすると言われ、矢口についていった事に文句を言われていた

そして順番にお風呂に入ったりする中、そのうち、かおりがお酒を持って来て、
会議室に閉じこもっている皆を庭へと追い出し、先に飲んでてと庭に準備されたテーブルに料理を並べた

若林と安倍は、矢口に他の国の事をあれこれと聞きながら、ご機嫌に酒を飲み始める

この町も、外交に力を入れたいようで、
中澤達や、Yの国にも交流の仕方、これからの展開を熱く語っている

古株の老人達の戸惑いが、漸く時間を経て昔の事を思い出し、
小さな事で争い対立した事を反省しているという

Jの国は、今現在あまり様子が解らない為、
会議室で先ほど聞いた事・・・・矢口達がJの国でやろうとする事には興味があるようだ

内容は先に藤本がおおまかに話していた為、だいたいの事は解っていたのだが、
それでも矢口の独自の見解が聞きたいのか、若林親子と安倍や加藤は子供のような表情で話していた

とにかく、さっき藤本が若林達に話しを聞きたがった昔の仲間の話
Mの国に、矢口の祖父を慕ってついていった族と人間達
族の中でも最強の男といわれた奴が仲間にいた事
そして・・・・・
矢口のよく知っている男も実は昔、Eの国にいた仲間という事
藤本が一度聞いていたから、藤本の意見と共に話をすり合わせていく
847 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:22
出来上がった料理を次々に運んでくるなつみやかおり達に混じり、
梨華や加護・辻達も皿を運んだりと忙しそうに動き回っていた

そんな中、ふと矢口は気づく、鷹男がいないという事に

もちろんさっきからひとみの姿も見えない

話を続けながらも、矢口は思う

これからの旅に、ひとみはついて来るのかどうかを、ちゃんと聞かなければいけないと・・・・




そして
その頃二人は矢口達が泊まる一室にいた
848 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:24
少し前

さっきの梨華との会話の後、ひとみは部屋に入り
梨華が言った言葉に一瞬でカッと来た事で、やっぱり成長できない自分を感じ
ベッドに寝転がると大きなため息をついて天井を見上げ、時を過ごしていた

なんとなく無力感に襲われながら一人考える

矢口は真希に振られ自暴自棄になってるとか?

まさか自分の役目が終わったと悲観して、ウチらと別れ、
Mの国に帰って罰を受ける覚悟を決めたとか?

それはない・・・・加護達・・・・はきっと連れていくだろうから・・・
あいつらも巻き添えに自ら罰せられに行くつもりではないだろう

聞いていた話だと、なんだか腹黒い奴に踊らされている
真希の弟王子も心配だとかなんとか言ってた気が・・・

でも当の真希は、操られる弟が悪いし、
そんな自分も全く気がつかなかったから同罪とか言ってたし・・・・

若林や安倍に、藤本が必死になって昔の事を聞いていた所をみると、
これからの計画は着々と出来上がっているように思えた

本当なら自分達の手の届かない王族やら貴族やらのお話は
関係のない天の上の話、ひとみには正直、面倒臭くて堪らない

藤本の話を、紺野が説明してくれたJの国の話だって
複雑でチンプンカンプンだし、どうしてそれがMの国の為になるのかさえ解っていない
849 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:25
ひとみが行動した今までの事は、すべては矢口の為

矢口の仲間になりたくて・・・・矢口の笑顔が見たくて

そして、自らの目標をはっきり確認出来たあのシープでの浜辺

もう矢口を絶対にあの白い世界に行かせない

真希の為にだけ生きている矢口だけど、そんな矢口の支えになりたいと誓ったあの日

それから着実に自分は矢口の仲間に・・・
そして加護や辻のように家族のように自然と傍にいられるようになったと思っていたのに
梨華の言葉で全てが無駄だったかのように思えてしまった

どんなに頑張ろうと所詮戦う力では矢口に敵わない

あれだけ命を懸けた戦いを共にして来たはずなのに
自分と矢口の距離は縮まってはいなかったのだと気づかされてしまったのだから

再び大きくため息をついた頃、部屋にノックの音が響いた

「・・・・・・はい」

まさか矢口?と身を起こす
850 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:27
「鷹男・・・だけど・・・」

僅かな動揺と共にベッドサイドに座り直し、小さくため息をついて返事を返す

「・・・・・ああ、何?}


「入って・・・・いいか?」


「・・いいけど・・・何?」


素っ気無いひとみの言葉と同時にすぐにドアが開く



「随分冷たい言葉だよな」

昨日の恩を忘れたのかよと言わんばかりの顔で、
薄笑いを浮かべながら部屋に入ってきて、
ひとみの様子を見ながらゆっくりと窓際に歩いていき寄りかかった





「悪いと思ってる・・・・ウチの我儘で」

あまりの気まずさについ謝りから入ってしまう

「いや、いんだ、昨日の事なら・・・・・まぁ・・・・一生忘れらない夜だけどな」

頭を掻いて照れたように笑う




共に体を熱く交し合った仲


一夜だけだと解っていた関係の、気まずい沈黙の後




「鷹男・・・・・なんでウチなの?」

ベッドに腰掛けて俯いていたひとみが、ふいに顔を上げて窓によりかかる鷹男に聞く
851 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:29
「人を好きになるのに、理由がいるか?
じゃあ吉澤さんは矢口さんのどこが好きなんだよ」




理由・・・・

そんなの無い・・・・


気がつくと好きになっていた・・・とひとみはすぐに感じた



「・・・・・・・そうだね・・・・理由なんて・・・・いらないよな」

履き捨てるひとみ


ひとみの空虚を感じてか、鷹男は優しく笑う

「もうやんなったか?追いかけるの」

「・・・・・そうかもね」



そう言って力なく笑うひとみに、鷹男は寂しくなりつい口をすべらす

「じゃあ、俺の女になれよ」


ひとみがそれを聞いて鼻で笑うと、瞬時に鋭い視線を鷹男に投げかけ

「一生、ウチがあいつへの思いを抱いたままの体でいいなら、それもいいかもな」

そう言って見詰め合うと、鷹男が笑い出す

「悪いが、俺はそんなに強くないよ、昨日だって死ぬ程辛かったんだからな」

茶化すような言葉に

「だから謝ってるじゃん、しつけ〜なぁ」

ひとみも笑いだしてしまった
852 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:31



「それでもいいって言ったらどうする?」

笑っていた鷹男が急に真面目な顔をして見つめてくる



そんな視線に耐えられず

ひとみが眼を逸らす



矢口が自分がついていく事を望まないなら・・・・

そう考えない訳ではない



なのに、生まれて初めてちゃんとした目標というか

矢口を守りたいという目標を持ったのに

今、挫折してしまってこれからの自分に何が残るというのだろう




ひとみがそんな事を考えている内に

鷹男は窓際からひとみの隣に座り、ひとみの顎に手をかける

強引に顔を向かせられ、視線が鷹男とぶつかる


無力感に包まれた自分に注がれる熱い視線に、
また過ちを犯しそうな自分を感じた




「俺が忘れさせてやろうか」

そう言って唇を寄せられたところでドアが勢い良く開く


853 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:32

「よっちゃ〜んっ、そろそ・・・・ろ・・・・・」

加護が二人を見て固まってから慌ててドアを閉めて出て行った





至近距離の鷹男は、涼しげな顔で言葉を発する

「見られちまったな」

「・・・・まぁ・・・いいよ」

そう言ってひとみは鷹男の手を払い立ち上がる



「今日、ここに一緒に寝るんだろ」

すぐに言葉で追いかける鷹男

「ああ・・・・まぁあいつが他の人に連れて行かれなければね」

皮肉気味に言うひとみに、くすりと笑い

「俺が誘ってみようか」
854 名前:dogsU 投稿日:2007/02/24(土) 07:33
端整な顔で、挑戦的に笑う鷹男に

「フッ、何ばか言ってんだよ」

ひとみが鼻で笑うと、一瞬間をおいてから真剣な顔で鷹男を見て

「でも、鷹男がふざけて誘うなら」

そう言ってドアの前まで歩くと振り返り
そんなひとみの姿を追って鷹男が立ち上がったら








「ウチはあんたを殺す」





冷たい目でそう言ってひとみが睨んだ後ドアから出て行き

鷹男はただ佇んだ
855 名前: 投稿日:2007/02/24(土) 07:33
今日はこのへんで
856 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:32
ひとみが出て行くと、母屋や庭はもう人で溢れかえっており、
台所から梨華やかおり達が料理を庭に運んでいるようだ


なつみが運びながらひとみに気づく

「よっちゃん、何やってんの、始まるよ」
「あ、はい、それ持ちます」

近寄って大皿の料理を持ってあげると嬉しそうに微笑んだ

「ありがと、じゃあまだあるから先に持ってって」

あのテーブルに運んでと背中を押され、なつみは台所へと帰って行く

がやがやとうるさい庭の一角のテーブル、
矢口達がいる所だけが触れてはいけない所のように人が寄り付いていない

すでに若林や安倍は出来上がっており、まだ矢口達を離そうとはしないようだ

周辺に集まった人達は、矢口達にちらちらと視線をやりながら、
時々かおりに話し掛けては火を焚いたり、酒樽を担いで来たりと準備を手伝ってくれているようだ

指定されたテーブルに持っていた料理を乗せて、
自分も台所から運ぶのを手伝おうと踵を返すと他の兵達に呼ばれる

近寄るとYの国の事を教えてと言われ、質問に答えたりしていたら、
俺にも教えてと、またたくまに人だかりができてしまっていた
857 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:35
いつのまにか全員集合していたらしく若林が大きな声を出す

「久しぶりに帰って来てくれたこの町の恩人に最高のおもてなしをしてくれ」と言うと、
兵達が「へい」と声をあげ酒を汲んでひとみ達に渡す

矢口が代表してお礼の言葉を述べると、
後はあちこちから笑いの起こる騒がしい状態になっていく

ダックスもバーニーズの兵も関係なく酒を酌み交わす

そんな中、王族付きトリオがまだ若林達から解放されない事で、
寂しい状態の梨華が真希に話し掛ける

「真希ちゃん、さっきはみっともない所見せちゃってゴメンネ」
「んあ、別にみっともなくないよ、あれはやぐっつぁんが悪い、ゴトーもそう言ったもん」

柔らかく真希が笑う

「ねぇ、どうして矢口さんは自分が幸せになろうとする事はしないの?周りの幸せばっかり願って」

その言葉に真希は悩む

「う〜ん、どうしてだろうね・・・・・でも昔からそんな感じだったよ、
ゴトーの為には命まで掛けてくれるし、だからいっつも心配してた」

解る解る、と梨華は頷く

「そ・・・それと、真希ちゃんは・・・・その・・・・・
能力を・・・・開花させたって事は・・・・・その・・・・」

「あ・・・・うん、そうだね、さっきもすっごく早く動けたんでビックリした、
ああいう事なんだね族の人の感覚って」

にっこりと自分も驚いたぁというような顔をして笑った
858 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:37
「だから・・・・その・・・・矢口さんと・・・・・」

そこで梨華が聞きたい事を理解する

「あ、違うよ・・・・」

そう言って視線を紺野にやった
2人のおじさんと瞬、加藤とまだまだ熱い話をしている紺野に思わず微笑む

「そうなんだ・・・・」

梨華の思いは複雑だった、2人で留守番している時に良く紺野の話は出ていて、
本当にこの2人がくっついてしまうなんて少し驚く

ずっと思い続けていた矢口は、だからあんな事を言い始めたのだろうかと感じずにはいられなかった

「やぐっつぁんの事は、大好きだよ、本当に・・・・・
そばにいなくなるなんて考えられないし、いて欲しいけど・・・・抱き締めたいのは紺野だった」

「・・・・うん」

「やぐっつぁんが悩んでるのは、ゴトーの事じゃない・・・・
さっき梨華ちゃんが言ったみたいに、やぐっつぁんはみんなが幸せなのが嬉しいんだ
だから、吉澤さんに幸せになってもらいたいんだよ、本当に心から」

「そのために、矢口さんにはひとみちゃんの胸に飛び込んでってもらいたいのに・・・・・
関わらない方がいいって・・・・」

梨華が再び怒りを蘇らせるように口を尖らせる

「あんなやぐっつぁん見るの初めてだった・・・・あんなにつらそうなやぐっつあん・・・・
だからそっとしておいてあげよ、周りが何をしても
なるようにしかならないよ、決めるのはあの二人だし」

「・・・・・うん」

あまりに真希の顔が真剣で、
沸きあがってきていた怒りを梨華は静めるしかないような気がしてきた

そうすると、わらわらと2人の周りに兵達がまとわって来た
ずっと2人の隙を狙っていたようだ

二人は笑顔で応対する
859 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:39
そんな中、加護は一人で庭の隅の岩にグラスを持って不機嫌に座っている

辻は兵達に相変わらずの人気で、勘太や兵の子達とはしゃぎまわっていて楽しそうだ


そんな加護に気付き、ひとみは近づく

「あいぼん」
「・・・・・よっちゃん」
「そこ、座っていい?」

加護を見上げて、返事も聞かず、隣に少しスペースがある岩に座ろうとする

グラスを門側にある平面の所から、コトッと加護の横に置いて、
岩の後ろからよじ登る

「いいって言ってへんやん」

唇を尖らせて加護がひとみを睨んだ

「もうすわっちゃったもんね〜」

笑うひとみに、加護が少しイラつく
機嫌を取るかのように覗き込んでくるひとみはいつものひとみで、加護はさらにイラつきだす

「よっちゃんは・・・・・よっちゃんは鷹男さんが好きなん?」

イラついたからか、ストレートに聞いて来た

「ううん、全然」

その質問を予測していたかのように即答する
860 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:41
「じゃ・・・・じゃあ何であんな事してたん?」

俯く加護をひとみはさらに覗き込む

「何もしてない・・・・誤解だよ」

チラッとひとみを見る

「・・・・・ほんま?」
「ああ・・・・ほんまほんま」

覗き込んでいたひとみが、安心したかのように後ろに片手をついてグラスに口をつけ
今度は加護が、笑って空を見上げたひとみを覗き込むように見ている

「よっちゃん、ウチはな、いっと〜親びんが大事で・・・・ののとずうっと親びんについていくん」
「うん・・・・知ってるよ」

「親びんがどこに行こうと、ずっとやねん」

「うん・・・・・羨ましいよ、
ウチらなんてまた置いてけぼりくらわそうとしてるみたいだし・・・・あいつ」

「え?よっちゃん達を?」

加護が驚いている

「そ・・・・・またあいつ、Mの国の事が一段落したらお別れって言い出してるみたいだよ」
「親びんが?」

「うん・・・・いつまでたってもウチらはあいつの家族にはならないみたいだ」
「・・・・・・・」
861 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:43
「だから・・・羨ましいよ、あいぼんとののが」

ほんとに羨ましそうな視線を加護に投げかけるひとみを見て、
何故まだ2人は通じ合っていないのだろうと首を捻る

「昨日・・・・親びん何も言いに行かへんかった?」
「え?いや、別に」

「そっかぁ・・・・よっちゃん酔ってたって言ってたもんなぁ・・・・・・・
もうっ、何であんな大事な時に酔っ払ってんねんっあほ」
「は?」

突然のお叱りに全く意味が解らない

「おかしいなぁ・・・・じゃあまだ親びん言うてへんの?」
「だから何を?」

ひとみの首筋をチラッと見て、やはりキスマークがあるのに・・・と、
加護は腕を組んでう〜んと唸る

唸っていた加護の視線がひとみを見ながら止まり、
しばらく見ている加護の視線にひとみはなんだか居た堪れない

「ほんまに、鷹男さんとは何もない?」

一瞬ドキッとする、気持的には何もないが、体の関係にはなってしまった
862 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:44

正直なひとみは、つい言葉につまる

「何か・・・・あるん?」
「いや・・・・ないよ」

不自然な間と、ひとみの表情
もしかしてと思って加護はまた不機嫌になる

「やっぱりよっちゃんには、親びんはやらへんっ、なんか・・・・やだっ」
「な・・・・何言ってんだよあいぼんっ」

叫ぶひとみを置いて、加護は「知らんわっ」と言って岩から飛び降り掛けていった

加護を目で追うと、すぐに矢口のとこに行って
真剣な話をしている場の空気も読まずに矢口に後ろから抱き付いて怒られていた

「なんだかなぁ」

呟いてグラスを持つ手を見つめる

すると狙ったように真希が横に現れ座って来た

「おわっ・・・びっくりした」

集団に背中を向けて、門から外を眺めるように立っている岩の上だから、
全くの無警戒だった

しかも人間離れした跳躍力で現れ、紺野の言っていた事が証明された気がした
863 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:45
「ごめん、驚かせちゃったね」

そうやって微笑む真希は、近くで見ると本当にかわいくて綺麗だった

「・・・・・・何?」

なんとなく気まずくて視線のやり場がない

「吉澤さんの事・・・・これから何て呼べばいいかな」

「え・・・・・別に何でもいいけど・・・・」

「梨華ちゃんと美貴ちゃんは、すぐにそう言えたんだけど・・・・
なんかひとみちゃんって感じでもないよね」

「さぁ、解んね〜けど」

何がいいかなぁ、と真剣に考える真希を、怪訝そうな顔をして見ていたが、
あまりに真剣に悩んでてどうすればいいのか解らずとりあえず言ってみる

「美貴はよしこって呼ぶけど」

するとパッと顔が輝き

「おっ、いいねぇ〜それ、うん、なんかしっくり来るよ、
じゃあゴトーはよしこって呼んでもいい?」

「勝手に呼べば?」

鼻で笑って、岩から降りようとした所を止められる
864 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:48


「ゴトーの事嫌い?」


飛び降りようと片足を立てていた所で右手を掴まれて、綺麗な笑顔で言われた




「・・・・・そんな事ね〜けど」
「けど?」
「あんまり後藤さんの事知らないから、嫌いにもなれないし」
「真希でいいよ」
「・・・・・・真希・・・は仲間だし、別に・・・・その・・・」

真希はどうして嫌われてると思っている相手の所にわざわざ来るのだろうか

うっすらとは感じている、きっと矢口との事を聞きたいのだろう

「仲間と思ってくれるんだ、なんか嬉しい・・・・
ってか、みんないい人ばっかりだよね〜、やぐっつぁんの仲間は」

「あの・・・・何か・・・・・・話でもあるの?ウチに」

「ううん、何も・・・・だってやぐっつぁんの連れで
あんまり話してくれないのよしこだけだから・・・・仲良くなりたいなぁって」

無邪気な笑顔でひとみを見上げてきた
865 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:50
「あいつ・・・・あ、矢口さんウチらの事もうおいてきぼりにしようとしてるみたいだし
・・・・別に無理して仲良くならなくてもいんじゃね〜の?」

そう言った瞬間、真剣な顔になってひとみの目をさらに見てきた

「それ、本気で言ってる?」
「・・・・・・」

なんだよ、説教かよ・・・・と思わず口を尖らせた

その様子を真希はじっと見て、

「ゴトーのやぐっつぁんをあんまり泣かさないで」

そう言って一度笑うと岩から飛び降りた

「なっ」

言い返そうとした時には、もう梨華の所に戻ってしまっていた




泣かせるなだと?泣かされてるのはこっちだよと毒づく
ひとみも岩から降りて、集団へと戻ると、男達が群がる

せっかく矢口達が帰って来たのに、若林達にがっちり押さえられ、
話をする事が出来ずにいた輩が待ってましたとひとみに話し掛ける

なつみとかおりが、ガードするように皆を諭すが、
やはり他の国での事を詳しく聞きたいという気持と、ただひとみと話したいという願望からだろう

亮は父親と矢口がくっついてくれないかなぁと、
一生懸命梨華に話しているし、それを見て真希も笑っている

別の輪の中に鷹男の姿もある、あれからここの仲間達と
少し打ち解けはじめたようで、仲間と一緒に酒を飲んでいた
866 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:53
この町のトップ集団の話もようやく終わりを迎えようとしていたのか、
安倍と若林はそうとう酔いがまわり若林が上機嫌で瞬に言う

「ほらっ、瞬、話も終わったんだしっ、少し静かなとこにでも行って話して来なさい」
「あ・・あの父上っ」

瞬がうろたえると、藤本が面白そうに言う

「あれ〜っ、瞬さんかわいっ」

椅子に足をぶらぶらさせて言っている藤本に視線をやり、
今度は安倍が加藤の背中をバンッと叩き、無言でどっかへ行った

「いって」と顔をしかめて小さく呟くと、そんな加藤を見ていた藤本と視線を合わせる

年を取った実力者達は、後継者の嫁にぜひ矢口と藤本を迎え入れたいと思っているに違いない

そんな妙な空気が流れ出したテーブルの空気を紺野が引き裂く

「あの〜、若林さんの前にあるそのお肉食べてもいいですか?」

若林も酔いながら空気が変わった事にまずい事を言ったと思ったのだろう、
笑っていいよいいよ、食べなさいと皿をよこした

「ほんっと紺ちゃんは良く食べるね〜」

一瞬のうちに笑いが起こるテーブルで藤本が突っ込みながら、真希を探して席を立つ

そして藤本に連れて来られた真希と紺野は眼を会わせ、
やっと話せるようになったと藤本の座っていた席に座り照れながら食べ続ける紺野を眺めた
867 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:55
亮もようやく話が終わったと、矢口に飛びついてくる

「矢口ぃ〜っ、なげ〜よ話」
「なんか、若林さんたち酔っ払って色々聞いて来るから」

自然に瞬が矢口のそばにやって来て亮を撫でる

加藤も席を立って、梨華の所に行ってしまった藤本が話している場所へと向った


そこへ蒔絵がやって来た

若林が立ってテーブルへと導いた後、若林は近くの兵隊の所へ行く
蒔絵に気づいた兵達も一様に頭を下げ、かおりが飛んで来る

「蒔絵様、来るなら来るって言わないと」

「おやおや、あの町から帰って来て、
私の所に報告にも来なかったかおりがそんな事を言うのかい?」

笑ってそう言う蒔絵に、あちゃ〜と肩を竦めて片目を瞑っているかおり

「それで、吉澤さんはどこだね」

かおりに言うと、再びかおりが連れて来ますとテーブルを離れた
868 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:57
若林がいた席に座らされる蒔絵、隣に座っている矢口の逆側の耳に、瞬が耳打ちする

「どうやら蒔絵様は吉澤さんが気に入ったようなんだ」
「へぇ〜」

矢口は亮を膝に抱えて抱き締めながら笑うと

「瞬、余計な事は言わなくても良い、ほれ、矢口さん、そこをどいてくれないかい」
「あっ、はい、すみません」

すっかり蒔絵のペースになって、
矢口は亮を下ろして立ち上がり、その頃来たひとみに席を譲った

その蒔絵の向こう隣で真希は、蒔絵に興味津々の顔をさせきらきらした眼を輝かせていた

「ちょいとそこのお嬢ちゃん、そんなに見ないでもらえるかね、わたしゃ見世物じゃないし」

「あの、おばあさんは・・・・偉い人なんですか?」

亮に手を引かれて、その場を去ろうとしていた矢口が、真希の言葉に笑って言う

「ごっつぁん、蒔絵様はここのご意見番なんです、
いろんな事が見えるそうですよ、先の事とかね」

「へぇ〜っ、そうなんですかぁ〜」

もっときらきらした眼で蒔絵を見だした

「ごっつぁんって面白いね〜、もっとおとなしいかと思ってたけど」

ひとみを連れてきたかおりも笑っている
869 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 05:59
「矢口ぃ、こっちで遊ぼうよっ」

亮が矢口を引っ張る

「あ、うん、じゃあ蒔絵様、ごっつぁんの事いじめないで下さいね、あんまり」

引かれて行く矢口は捨てゼリフを履きながら笑って去って行く



「おやおや、矢口さんはわしの事をどんな怪物だと思ってるのかね〜」

座らされたひとみは、矢口に何もかまってもらえないままなのが寂しいのか、少し不満げな顔をしていた
そんなひとみをよそに、真希が蒔絵に話し掛ける

「蒔絵様、今どんな未来が見えます?」

蒔絵が真希を見て微笑む

「それは・・・・そうだね・・・・よいしょっ、ほれ吉澤さんにだけ教えようかね」

途中で立ち上がった蒔絵に真希がブーと膨れると、
皺皺の顔で笑う蒔絵はポンと真希の頭を撫で、ひとみの手を取ってその場から離れる
870 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 06:00


「あ・・・あの、蒔絵様?」

ひとみが戸惑いながら言う

「言ったじゃろ、あんたみたいなタイプは、わしらみたいな者にはくらくら来るんじゃよ」
「は・・・・はぁ」

ひとみは何が何だか解らないが、きっと蒔絵は自分を気に入ってくれているんだろうと普通に解釈した

庭の喧騒が薄れた静かな場所につれてこられると蒔絵はひとみから手を放し、
真剣な顔で下から熱い視線を浴びせた

見透かすような視線に居心地の悪さを感じていたが、
再び蒔絵が笑顔に戻り一度頷く

「うん、吉澤さん、焦る事はない、ただね・・・・弱い気持になった時、
負けちゃいけないよ、相手を思う気持をきちんと伝えなきゃね」

何が見えるのだろう、この人には

「それと・・・・・守っておあげなさい、あんたにしか出来ないだろうから・・・・・
これから何があっても離れちゃだめだよ、解ったね」

「蒔絵様・・・・」

ポンポンと今度はひとみの頭を撫でて、
真希が恥ずかしそうな顔で食べている紺野を見て笑っているテーブルに戻り、真希に話し掛けていった
871 名前:dogsU 投稿日:2007/02/25(日) 06:02
ひとみはテーブルの向こう側にいる矢口と亮、そして瞬に視線を移す

一見しあわせそうな家族にも見える、そんな風景

これが弱い気持になった時・・・・・
なのだろうか、最近ずっとこんな気持だから、もう麻痺しそうだ

自分の気持を・・・・・ちゃんと伝える


でも自分は、もう矢口に伝える事は出来ない

あの日・・・

あのシープの浜辺で最初で最後と言って告白したのだから


じゃあどうすれば伝えられる・・・この思いを

これほど恋焦がれるこの気持をどうやったら矢口に伝えられるだろう

じっと自分の手のひらを見つめて、ぎゅっと握り締めた
872 名前: 投稿日:2007/02/25(日) 06:02
今日はここ迄
873 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/25(日) 22:50
加護ちゃんは敏いなぁ…
でもどこか吉澤さんと同種の危なっかしさも感じたりして。

いつも危なっかしい吉澤さんと矢口さんはもう、
遠い目見守りモードに入ってますw
874 名前: 投稿日:2007/03/02(金) 00:21
873:名無飼育さん
ん〜
やっぱ危なっかしいですか?
今回更新の際の内容を予知されたみたいで、少しドキっとしてしまいました。

あ、それと見守らせてしまい申し訳ありません。
875 名前:dogsU 投稿日:2007/03/02(金) 00:24


「美貴達の事は新聞で見て驚いたよ、ほんとに」

漸く自由に話せるようになった加藤が、
若林と安倍がいなくなってホッとする様に語りだす

「そうですよね、加藤さんと行ったあの町に中澤さん達を連れてって、町を再興させようなんて」

梨華が笑うと、加藤が複雑な表情で続く

「何でそこで俺達に相談しなかったのかっていうのが、俺達の悔しい所なんだよな」

「もう勝、それ耳にたこ出来る位聞いたから、安倍さんや若林さんにもさんざん言われ、
かおりさんやなつみさんにも言われ」

うんざりという感じの美貴に、加藤が笑う

「ああ、でもな、実際あの後、ここらの町でも統合に反発する人達の説得に
結構大変だったんだよ、やっぱり根深い問題だから」

俺達が面倒みてたら共倒れになりかねなかったかもと瞬も頷く


「そうなんだ、やっぱ矢口さんはすごいね、
何かと大変だから言っちゃダメだってバッサリ言ってたもん」

「うん、なんか解ってる感じだった・・・・
ほんと・・・・すごいよ・・・・矢口さんって」

梨華と藤本がしみじみしている
876 名前:dogsU 投稿日:2007/03/02(金) 00:26

「本人は、あんまり結果を確信して動いてる風じゃないんだよね、
ただ・・・・何故か結果うまくいってる」

「確かにそうかもしれない、でもさっき親父達と話していた時にも思ったんだが
・・・・今の矢口に少し危うさを感じたのは何故なんだろう」

「うん、前の時・・・・・シープに加護さんや辻さんを人質に取られた時の作戦の時に感じた
妙な期待感が・・・・・今はない」

瞬の言葉に、加藤も心で思っていた事を言い出す



「多分それは・・・」

梨華が突然言い出す


だが、言いかけて止まり、注目する三人は耳を傾けて言葉を待った



「梨華ちゃん?」

「・・・・・うん・・・・迷ってるんだと思うの・・・・矢口さん」

「よしこ・・・・の事?」

瞬の目が一瞬、少し遠くで亮と遊んでいる矢口を見る



「・・・・・・ううん・・・・・なんか・・・・真希ちゃんを助ける迄は、
確固たる覚悟と信念が矢口さんを支えてたように見えてたんだけど・・・・・」

「今は生き方さえ迷ってる・・・・・って事?」

藤本の言葉に梨華は頷く
877 名前:dogsU 投稿日:2007/03/02(金) 00:28
「美貴ちゃんは見てないかもしれないけど・・・・・
シープの町で矢口さんが白い世界に行った時・・・・本人が言った言葉」

「自分を殺せって言った事?」

加藤が梨華に続きそう言うと、悲しそうに梨華も頷いた

「今、瞬さんが危うさを感じるのは・・・・・多分それと似た感じなんだと思う」

なんか・・・・自分は使命を終えたっていうか・・・・呟く梨華


黙り込んで俯く四人



「はぁ〜・・・・俺が・・・・支えてやりたいんだが」

思わず呟いた瞬の言葉に、ハッと顔をあげる藤本達

「あ、いや、俺はもうフラれてるからさ、
まぁ親父達がちょっと期待してるみたいだけど、その気がないのは嫌でも解る」

せつなげにまた亮と遊んでいる矢口をまた見つめた


「・・・・・瞬さん」

梨華が悲しげに瞬に呟くと、まずいと思ったのか明るい声で言い出す

「あ、でも、藤本さんや石川さん達が支えてやってるのがよく解るよ」

さっきの話を聞いててもさ、と納得顔


「うん、美貴がよくフォローしてる、矢口さんの詰めの甘い所を考えてやってる美貴と、
豊富な知識を持ってる紺野さん、それにかわいい子分達が心を癒し
優しい石川さん達がちゃんと傍にいるんだから、これからもきっと大丈夫だな、うん」

すっかり仲良くなってる加藤のフォローが入る
878 名前:dogsU 投稿日:2007/03/02(金) 00:31


「そうだよ、美貴達がついてるんだから、何も心配ないって」


瞬達に見えないように隣にいる梨華の手を後ろに持って行き手を握った

梨華の心情を汲んだこの行動に

「そう・・・だね、だから私達一緒についていくんだもんね」

そう言って気を取り直した梨華も藤本に微笑む



「それに矢口さん、国に置いてきた仲間の兵達の事も、
時々口にして心配してたりしたから、まだ大丈夫だよ」

「うん」


「でもさ、梨華ちゃん矢口さんの事怒ってたんじゃ」

すっごい心配してるじゃんと笑う

「あ・・・・うん、でも・・・・すごいのは変わらないし・・・大好きなのも変わらないもん」

2人はさらに微笑みあう


その様子を見て加藤は何か感じたらしく

「良かったな・・・・美貴、思いが通じて」

優しく言われた美貴は一瞬驚くが

「あ、うん・・・・・自分でもびっくりって感じ」

へへっと照れた笑いで加藤を見る
879 名前:dogsU 投稿日:2007/03/02(金) 00:32



それを見て少し梨華は複雑な思いをしていた



三人であの町へ行った時に感じた2人の息の合い方は本物で・・・

藤本の事を信じていても、もしかしたらと考える自分がいる事に・・・




藤本の解りやすい愛情表現に、
何も不安がる事はないのに、それでも誰かが言い寄れば心は乱れる


矢口とひとみはまだ互いの気持ちを伝えてもいないのだから、
お互いが不安で言い出せないのもしょうがないのかも・・・・


そう思いながら梨華は飲み物に口をつけた
880 名前: 投稿日:2007/03/02(金) 00:32
今夜はここ迄
881 名前:dogsU 投稿日:2007/03/03(土) 16:37
瞬達が話しをしている所から少し離れた場所で矢口と亮は
土の上に絵を書きながら遊んでいる

そんな二人を、徐々に酔い始めた藤本達の話しを聞きながらも
優しく見ていた瞬が、亮がうとうとしはじめたのに気付く

「亮、眠いんじゃないか?」
そう叫ぶと

「ううんっ、眠くないっ」
枝をブンブンと振って、顔も振る

「眠いんだ、じゃあもう寝ようよ、亮」

言いながら笑った矢口が立ち上がると、瞬も傍によってきて笑顔を交わす


首を振り続ける亮を、瞬が抱き上げると

「眠くないってばっ、父ちゃんっ、まだ矢口と遊ぶんだから」
「いいから、もう寝よう、ほれ矢口におやすみは?」
「やだまだ遊ぶ〜」

矢口〜とバタバタと足をばたつかせ、矢口に手を上げる瞬の背中を叩くが
そのまま連れて行かれた

882 名前:dogsU 投稿日:2007/03/03(土) 16:39
「おやすみ、亮」

手を振る矢口に

「やだっ、矢口ぃ〜」

わめく亮を有無を言わさずに連れて家へと入って行った




ニコニコと屋敷に向かって手を振っている矢口

そこへ後ろから声を掛けられた

「随分亮に気に入られてるんだね、矢口さんは」

振り返ると鷹男が笑って近づいてきていてドキンとする

「あ、どうだろ、おいらちっこいから同年代の友達とでも思ってるんじゃないですか?」
「ははっ、そうかもな」

優しげに笑う鷹男がなんだかやけに眩しく見えるが

「普通、そんな事ないよ、とか言ってくれるんじゃないんですか?」

矢口は鷹男に不服そうな顔をする

「そうだね、すまない」
883 名前:dogsU 投稿日:2007/03/03(土) 16:42
くすっと笑って謝る鷹男の顔が、
すうっと真顔になり、一度ため息をついた後こう言い出す

「突然だけど俺、吉澤さんの事好きだから・・・・・本気で」

突然の告白に、昨日の映像がちらつく

視線を落とした矢口に、
しばらく何も言わず鷹男は矢口の言葉を待っていた

矢口の反応を伺っているという方が正しいかもしれない

「言わせてもらうけど・・・・力・・・・・使ってあいつを傷つけたりしたら・・・・」

俯いていた矢口は

「おいらが許しませんから」

前に見た風景も思い出して顔をあげ、矢口は力強く睨む

それに対し

「前にも言ったろ・・・正攻法で行くって・・・・」

ニヤリと笑みを浮かべ、矢口の視線を受け止める

「なら、いいけど・・・・おいら達にとって・・・・
あいつはすごく大切な奴だから・・・・変な気持ちで近づかれると・・・・嫌なんです」

「大切?」

嘘つけとばかりの鷹男の言葉に矢口はムッとする

「大切ですっ、全員すごく大切な仲間だから・・・・だから」

本当はもう近づくなとでも言いたかった

884 名前:dogsU 投稿日:2007/03/03(土) 16:45
なのに・・・・・・

なのに、もしひとみが目の前の綺麗な男を好きならばと考えるとどうにも複雑で、
それから何も言う事が出来なかった


唇を噛み締める矢口




「俺はあいつを幸せにしてやりたいと思うよ・・・・今すぐにでも」

強い視線で見下ろしてくる鷹男の心は、純粋に矢口に伝わる


「そっ・・・そう・・・ですか・・・・・
じゃあ、後はあいつの気持ち次第ですよ・・・・・・・頑張って下さい」

矢口は今すぐここを離れたい気持ちで一杯になる

そんな気持ちを知るかのように、勝ち誇ったような顔をしていた鷹男は

「知らなさそうだから教えてやるよ・・・・・」

嫌な予感に、矢口は思わず俯いて足元を見る

「今あいつを傷つけてるのはあんただよ」

思った言葉とは違う言葉が振ってきて思わず顔を上げると
さっき迄笑みを浮かべていた顔が一変して
傷ついたような冷たい目をしながら鷹男は、他の仲間達の所に去って行った
885 名前:dogsU 投稿日:2007/03/03(土) 16:46

傷つけてる?

おいらが?

何故?



苦笑する矢口は、その場で佇むしかなかった





呆然と仲間の方へ笑顔で戻っていく鷹男の背中を見つめていると

「矢口さ〜んっ、こっちに来て一緒に飲みましょうよっ」

遠くから藤本が叫んでくる




愛する仲間達が、温かい笑顔で矢口を見ておいでおいでと手招きをしてくれている



しかしその中にひとみの姿は無い




フッと一度笑った後

「お前らあんま飲みすぎんなよ」

笑って近づいた
886 名前: 投稿日:2007/03/03(土) 16:46
今日はこのへんで
887 名前:名無し飼育 投稿日:2007/03/03(土) 21:36
あぁぁぁーじれったい…
こそっと矢口さんに教えてあげたいじれったさです
けどこのすれ違いがまたイイ(゚∀゚)!!のですね。
888 名前: 投稿日:2007/03/04(日) 00:39
887:名無し飼育 様
じれったいですよね。
自分でもイライラしますもん
なのに優しい言葉を頂けて、ありがたいです
レスありがとうございます。
889 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 00:43
矢口が近づくと、まず梨華に眼をやり、
一瞬戸惑った梨華は、ゆっくりと笑って頷く

その顔に矢口はほっとした表情をして、嬉しそうに笑った



しかしその後、再び飲みすぎた梨華は、矢口にからむ

「だいたい矢口さんは水臭いのよっ」
「こ〜らっ、梨華ちゃん」

なだめる藤本
瞬達やかおり達も、暖かい目で見守っている

机に突っ伏して矢口にどよんとした視線を投げかける梨華

「はい、すみません」

謝る矢口はちっちゃい体をさらに小さくさせてすまなそうに梨華を見る

「みんなの事考えてくれてるのはいいけど、ちょっとは相談して下さい」
「ちょっと梨華ちゃん」

藤本が立ち上がって梨華を連れて行こうと腕を掴んだら、その腕をはらわれる
890 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 00:44
「ヒック、ほんと全然梨華の気持ち解ってくれないんだからっ」
「はいはい」

再度梨華を立ち上がらせようとすると

「私の大事なひとみちゃんがさぁっんむぐっ」
言い出す梨華に慌てて、藤本が梨華の口を手でふさぐ

「よしっ、梨華ちゃんもう終わり、ほら、眠いんじゃない?」

そうやさしく顔を覗き込むと、ようやく突っ伏してた体を起こし、
塞いでいた藤本の手をはずす

「やだっ、このわからんちんにはちゃんと言わなきゃわかんないっつのっ」

ビシッとちっちゃくなっている矢口を指差し口を尖らせる

「梨華ちゃんっこらっ、すみません、矢口さん」
「いや、いいよ藤本」

優しい顔で梨華を見ている矢口を見てまた梨華が攻撃を始める

「ほらっ、いいってよ美貴ちゃんっ、だいたいねぇっ」
「もうっ、ほら行くよ」

強引に腕を引き上げ、体を入れ込むが何分藤本の方が体が小さい為に抱えきらない
891 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 00:46
「俺が運んでやるよ、美貴」

見かねた加藤が近寄って来て藤本をどかせ、梨華の腕をとると
ダンっと反対側の手のグラスを机に置いて、取られた腕を引っ込め

「やだっ」

と言い放ち、梨華はふくれっつらで加藤を睨んだ

「ごめん勝」

すまなそうな藤本に不服なのか

「何で謝るの?」

椅子から立ち上がり藤本に近づこうとしてヨロけたのを、藤本が慌てて座らせる

「危ないって梨華ちゃんっ」
「美貴ちゃんは梨華のなのっ」

加藤に座った目をして睨みつける

「え?」

何を言い出したか解らない藤本が梨華を覗き込む
892 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 00:48

「美貴ちゃんは梨華だけを見てればいいのっ」

子供のような言い方でふくれっ面
突然ジェラシーを表に出し始めた梨華に一同が唖然とする

「あ、はい」

答える藤本は嬉しそうに笑い始める

「こらっ、解ってるのか藤本っ」

子供のように剥れている梨華に、これ以上ない位優しい笑顔で腕を掴んだ

「解った、解ったから梨華ちゃん、美貴が一緒に眠ってやるからさ、もう寝よっ」

デレデレした顔の藤本は、全員の注目を浴びても隠す事なく梨華への好意を表情出した

「ほんと?」
「ほんとほんと、だから行こっ」

「うん、美貴ちゃ〜ん」
甘えたな声で藤本の首に手を回す

「はいはい」

優しく抱きしめて藤本が立ち上がらせ、触られるのを嫌がられた加藤ではなく、
瞬から背中に乗せてもらうと、

「じゃあ皆さんお騒がせしました、おやすみなさい」

嬉しそうな藤本は、挨拶を済ますと小さな体でよたよたと運んでいった
893 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 00:50
全員がその後姿を見ながら微笑む

「いや〜、今日も荒れてるねぇ〜、梨華ちゃん」

ずっと二人を見てケラケラ笑っていたかおりが微笑む

「なんか、この町じゃおいらいっつもからまれてる気がする、石川が酔った時」

小さくため息をついて矢口はグラスに口をつける

「そんだけ心配してるんだよ、矢口の事」

同じように笑っていたなつみも矢口の頭を撫でて微笑む

「・・・・うん」

「でもさ、今日はちょっと違う子がもう一人酔っ払ってるよ」

ほら、と瞬が席に戻りながら親指で指す

そこには、違うテーブルに突っ伏して眼を座らせた加護がいた

あれ、ほんとだと矢口が立ち上がり近寄って行った


さっき話し合い中にまとわりついて来た時からおかしかった加護に、何かあったのかと心配になった

辻と勘太と真希と紺野が一緒に加護の相手をしていたようだが、
あまりに訳が解らない為、どうしたものかと困っているようだ
894 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 00:51

「どした?加護」

矢口が頭を撫でながら加護を覗き込むと

「あ・・・親びん」
ウプッと言いながら不適に笑う

「なんかね、よっちゃんはあほやとか、親びんのばかとか言ってるだけで何も解らないんです」

辻が、相方の荒れ方に困っている

矢口が、自分の事でこんなに荒れているのだろうかと、なんだか気の毒になり

「加護、部屋に行こうか、一緒にいてやるから」

すると今まで誰の言う事も聞かなかった加護がうんと頷き、三人は安堵した

加護の肩を担いで、ふらふらと部屋へと戻る後ろ姿は、
子供が酔っ払った真似をしているようで何だか可笑しい


「あいぼんどうしたんだろ」

いつも一緒にいる辻が、加護の行動を解らない事はなく、なんだか寂しい表情をしている

「のの、大丈夫だよ、ちゃんと後で訳を話してくれるって」
「・・・・はい・・・・」

真希の言葉に少し笑顔になる辻だった
895 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 00:55
矢口は自分の部屋に加護を連れて行き、
よっこらせと加護を寝かせると自分もベッドに腰掛加護の頭を撫でる

「どうしたんだ?なんか嫌な事でもあったのか?」
「・・・あった」
「おいらに・・・・話せる?」
「話せへんっ」

あまりの即答にくすっと笑う

「そっか・・・・話せないか・・・・
んじゃ、しょうがない・・・・おいらの話でも聞いてもらおうかな」

「親びんの?」

口を尖らせてはいるが、話を聞いてくれそうな顔はしてくれた

「そ・・・・おいらの話・・・・聞いてくれるか?」
「・・・うん」

加護は驚いていた、矢口はあまり自分の気持を言葉にするタイプではない

特に、自分と辻には、子分だからなのか、しっかりした所しか見せなかったし、
もちろん矢口自身の相談なんて、した事はなかった

仕事の上では、これからどんな事をするとか、作戦の時等、どういう事をしたいのかちゃんと言ってくれていたり、
自分達の意見もちゃんと聞いてくれるし、自分達の気持だって大切にしてもらっていた

だから、仕事での矢口の行動はある程度予測出来るようになったし、気持も解る

だが、プライベート的な事・・・・
真希や生き方に対する本当の矢口の気持ち等は、実はどうだとかは聞いた事がなかった

なのに目の前の矢口は、いつもの逞しい親びんの顔ではなく、
一人の女の子の顔になっていた
896 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 00:57

「おいらさ、藤本や石川、吉澤に出会って・・・・本当に良かったと思ってるんだ」

「ウチもです」

加護の不機嫌な顔はその頃には穏やかになっていた

「でもやっぱ、あいつらにとっちゃ、おいらに出会わなければ、
吉澤達はまだあの町で穏やかに暮らしてただろうし、藤本もこの先の街で
まだ最高司令官として、いや、王都に戻ってもっと上の位になって活躍してたかもしれない・・・
おいらに出会っていなければ・・・・・この町の争いや
Yの国での争いに巻き込まれて危険な目に合わなかったはずだからさ・・・・・
時々・・・それで良かったのかとか・・・そう考えて・・・・・つらいんだ」

「でもっ、みんな親びんについてきたくて来たんでしょ」

頭に置かれた手を加護が握り言う

「・・・・・・・そうだな・・・・不思議な奴らだよ・・・・・・
おいらみたいな奴についてたって、危ない目に会うだけなのにさ」

「ええやないですか、それでもウチらと一緒に来たいて言うてくれてるんですから」

頭を撫でてくれていた手を矢口に返し手を離す
もう子供じゃないとばかりに

「うん・・・・・だからさ・・・・・大切にしてやりたいんだ・・・・あいつらの事・・・・」

そう言って笑う矢口は、今度は加護の頬を手の甲で触り、加護は頷いた
897 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 01:00
「親びん・・・・・」

「ん?」
優しく見つめる



「よっちゃんの気持・・・・応えてあげられへんの?」

矢口の目に動揺が走るが、そのまま優しい表情でゆっくりと口を開く

「さあ・・・・どうだろ・・・・・
あいつはもう他に好きな奴見つけちまったかもしれないし・・・・・
だいたいおいらの気持も解らないから」

鷹男とのあの場面を見た加護には、すぐ否定する言葉は言えなかった

何かあるの?と聞いた時のあのひとみの動揺、
大人の表情が嫌な予感をさせてしまってなんとなく嫌だったから

自分に正直に気持を話してくれる矢口に、
こんな話をさせてしまって申し訳なく思ってしまう

「あいつが他に好きな奴が出来て、それで幸せになるのなら、
その方がいいって本当に思う・・・・・・
それは・・・・おいらがあいつの事を好きじゃないという事なのか・・・・・・
でも・・・・・あいつがそばにいないと寂しいと思う気持は・・・・
好きなんだろうか・・とか・・どっちも本当で
だからこそ・・・・・・自分の気持が解らないんだ」

「・・・・そう・・・・やったんですか・・・・」

「お前らが一生懸命応援してくれてたのに・・・・ごめんな」

「・・・・ええんです・・・ウチこそ・・・すみません、生意気言って」


再び頭を撫でて、嬉しそうに笑って言う

「大人になったなぁ」


898 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 01:01
あまりに優しい顔をして言ってくれたので、思わず涙が溢れる

「親びん」
のそりと起き上がって矢口の首に抱きつく


「親びん大好き」

「ああ、おいらもだよ・・・・だからもう寝よ、
お前らはずっとおいらのそばにいてもらうんだ、明日からまた何があるか解らない世界に行くんだから
せめて穏やかに過ごせる時には、ぐっすり寝よう」

「はい」

ぎゅっと抱きついて来る加護の背中をポンポンと叩く


その後すぐに加護を寝かせ、
自分もそばに横たわり加護のお腹辺りに手を回して歌い出す

矢口を見るとにこっと笑って、加護も一緒に口ずさむ

Mの国で怖い夢を見たと寝れずに、矢口の布団に潜り込んでいた加護と辻に
いつも歌ってくれていた子守唄

その頃に戻ったように、加護はすやすやと眠りにつく


しばらくその寝顔を眺めながら、歌いつづけた


ありがとう・・・という気持で


899 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 01:03


キィ・・・

辻が心配そうにドアを開けて来たのに気づいた


「寝たよ、心配ない、少し疲れてたみたいだから」
ひそひそと話し掛ける

矢口がベッドから降りて辻を手招きする

「片割れがいないと寂しいだろ、ここで寝なよ」

辻は笑って隣に潜り込む

優しく辻の頭を撫で、矢口は立ち上がりドアから出ようとすると

「親びん・・・・あいぼん・・・・何かやなもの見たみたいなんです」
「やなもの?」
「でも、ののにも教えてくれなくって」

寂しそうな顔で加護を見た

「ん、そっか、でも大丈夫だよ、本当にその事が辛くなった時は、ちゃんと辻に言ってくれる」
「はい」

部屋を出ようとする矢口に辻がどこに行くんです?と聞く

おいらはかおりの所に行くから気にせずにそこで寝ろ、と笑ってから静かにドアから出て行った
900 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 01:04
庭に戻ると片付けが始まっており、蒔絵や若林達はもういなかった

「どうだった?やぐっつぁん」

真希と紺野が心配そうに近寄ってくる

「ええ、もう寝ました、なんかおいらの事が心配で荒れてたみたいです」

「そう、心配かけすぎだよ、やぐっつぁん・・・・
まぁ、今日色々みんなから話聞いて、そりゃみんな心配するなぁって納得した」

「ほんとです、無茶しすぎです、矢口さんは」

真希に続いて紺野までそんな事を言い出してしまった

「はい、すみません」

笑いあう三人に、瞬が話し掛けて来る
901 名前:dogsU 投稿日:2007/03/04(日) 01:06
「そういえば吉澤さんがいないけど、もう寝たのかな」

「ああ、蒔絵様から誘惑されて連れてかれた後から見えなくなったね、そういえば」

真希が呟く


つい鷹男を探す矢口

そして片付けをしている鷹男を見つけてホッとしている事に戸惑う


「部屋にはいなかったけど、多分どっかで剣でも振ってるんですよ」

矢口が答えると、瞬が納得した、ああ、毎日の日課だったなと

そしてかおりに寝る所を加護達に取られたので
かおりの所にお邪魔させてくださいと言い、ついて行った

ひとみにちゃんと聞く事は今日は出来なさそうだと矢口は思う


なつみは最近良く泊りに来るらしく、矢口こっちだよと先導していく
かおりやなつみと横になって話をしだすと、なかなか話はつきなかった
902 名前: 投稿日:2007/03/04(日) 01:06
今夜はここ迄
903 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 01:22
もどかしいけど二人にはお似合いかも知れませんね。
矢口さんには誰であってもなかなか手を出せなさそう・・・。
石川さんの嫉妬もかわいいし、ちょっと大人になった加護ちゃんも素敵です。
904 名前: 投稿日:2007/03/05(月) 00:11
903:名無飼育さん
最初の頃と違って、矢口さんのキャラが
なんか危ういキャラになってしまいました
もっと元気なキャラだったはずなのに・・・
石川さんもいつも酔っ払いにしてしまい申し訳ない
加護ちゃんも、もう大人です。

レスありがとうございました。
905 名前:dogsU 投稿日:2007/03/05(月) 00:12

その頃

ひとみはやはり人のいない母屋の裏で一人剣を振っていた

やはり自分にはこれしか出来ない
こうするしかないという結論に達したからと必死に剣を振る


蒔絵からの言葉を聞いて、冷静に考えてみた



今現在の矢口の幸せとは?

そう考えた時
真希と繋がっている矢口の幸せ・・・
それは真希の幸せだと、きっと矢口は迷わず答えるはず・・・・・・・

ならば自分だって真希を守り、矢口を助ければいい


906 名前:dogsU 投稿日:2007/03/05(月) 00:17

だけどもう一つの可能性

今の所自分達は、真希の弟を国王から引き摺り下ろすような事は考えてはいない

真希だって王族に戻るような事は計画してない

矢口はただ、元自分の部下達の今の状態が気になっているだけのようだったし
別に真希だって、民が幸せそうにしていれば、そのままでいいと言っていたとなれば
ちゃんと矢口達の目でMの国の状態を確かめたら、
どこか真希と穏やかに暮らせる場所を探すのかもしれない

Mの国でなくても、ここで瞬と家族を作り、幸せに暮らす可能性だってある
真希達と共に、ここで亮や加護・辻と一緒に新しい幸せを・・・・

そして自分よりも大人な瞬は、
きっとそれを含めて優しく、そして大きな心で受け止めてくれるだろう

既にその親である若林がそれを望んでいるのだから


それに自分とは違い・・・・
もしかしたら新しい命だって生まれる可能性だってある

男女の結婚ではなく、同姓同士でも結婚は認められていても、
新しい命は男女の組み合わせでしか生まれない

真希の事が一番の矢口なら、
もしかして真希達に子供が出来なければ自分が・・
とか変な使命感からそう考えたりするかもしれない
907 名前:dogsU 投稿日:2007/03/05(月) 00:19
あらぬ妄想が広がり
ズキズキと心臓が痛い

それならウチはどうやってその傍にいる事ができるのだろう

自分を欲してくれている鷹男に体を満たしてもらいながら
ずっとこの恋心を隠して矢口のそばにいる事が出来るだろうか・・・・



ダメだ・・・

そんなんじゃダメだ

蒔絵様はそんな時に弱い気持になっちゃだめだと言ってくれているんだ



焦る事はない

改めて気付かされた思い・・・・

背中を押してくれた蒔絵


国とか・・・経済や流通とか・・・
そんなの解らないけれど・・・・


たとえ矢口が気付いてくれなくても

もう、矢口一人であの白い世界になんて行かせたくないと本気で思ったし

自分は矢口を・・・・

矢口の本当の笑顔を守りたいと強く思った事は紛れも無い自分の心
908 名前:dogsU 投稿日:2007/03/05(月) 00:22



だから・・・・・


そう・・・強くなる・・・・



それが今の自分に出来る唯一の事



ネガティブな思考

そんな自分の弱い心は、自分の振る剣によって切り裂かれていく気がした

そういう感覚にもなり、ただ一心不乱に剣を降り続ける


息が上がり、腕も重い

手の平ではもう何度も潰れた肉刺がまた出来てしまってズキズキと痛む


一人夜空を見上げて、乱れた息を整える



すると庭が静まってしまったことに気づき、剣を鞘に戻し庭に戻る
既に綺麗に片付けられた庭には、もうテントから響くいびきしか聞こえない

ため息をつき、静かに部屋に帰る

矢口と同室という事で、多少緊張しながらそっとドアを開けると、
どうも2人いる気配がする

暗闇の中、目をこらして良く見ると、加護と辻が寝ている事に気づく

ほっとするようで、少し残念だと思う
909 名前:dogsU 投稿日:2007/03/05(月) 00:23
あの夜の温泉以来

二人きりで話す事のなかったひとみは、やはりきちんと話をしたいと思っていた


ふぅとため息をついて、ベッドに入り天井を見つめた



今夜2人きりになっていたとしたら・・・

矢口が自分が戻るのを待っていてくれたとしたら・・・・・

不安定な今の自分は、たまらず気持を押し付けて

欲望のまま、矢口の気持も聞かずに押し倒していたかもしれない



そして矢口は志半ばで命を落としてしまう・・・





はぁ〜っ

大きなタメ息しか出ない



910 名前:dogsU 投稿日:2007/03/05(月) 00:26


蒔絵様が言った、思いを伝えるとはそんな事ではないはずだ




ふいに真希の強い視線と共に言われた言葉を思い出す

『ゴトーのやぐっつぁんをあんまり泣かさないで』


真希はまだ矢口の事を縛り付けるつもりなんだろうか、

真希にとっては紺野と結ばれた今でも大事な矢口の事





『昨日・・・・親びん何も言いに行かへんかった?』

そして加護の言葉も思い出す



今日はやけに、訳わからない事を言われる日だったなぁと振り返るが

・・・・どう考えても解らない


矢口を泣かすなんて・・・・泣かされる方しか思いつかないし

昨日別に矢口に何か言われた覚えもないし酔ってもない


ただ解るのは・・・・

自分がどうしようもなく矢口が好きだという事だけだった


911 名前:dogsU 投稿日:2007/03/05(月) 00:27

そしてふと気づく

自分と一緒の部屋がいやで加護達をここに寝かせたのだろうか



だって自分の気持は前にちゃんと伝えている

真剣に、そして真っ直ぐに自分の心を吐き出したのはシープの浜辺


だから真希との決着がついて、
ウチが迫ってくると思って逃げてる・・・・とか


もしかして避けられだした?

心臓がズキンと痛くなる


そんなネガティブな事が浮かんで来た事を後悔する



そんな事はない、自分がそばにいればそれでいいと言ってくれた


そう・・・・・・

そう言ってくれた




思い直して目を瞑った


912 名前: 投稿日:2007/03/05(月) 00:33
本日はこの辺で

それと、私事なのですが、どうも転勤が決まり
身辺が慌しくなるようです。
やっと月末が終わり、今月は決算だからとなるべく頑張って更新してみたのですが
どうもなかなか時間が作れなくなりそうです。
お待たせするような内容の話ではないのですが、少し更新速度が遅くなりそうです。
ですが必ず完結させますので、出来ればまた〜りと待っていただければと思います。

我侭ばかりで申し訳ありませんが、たまに覗いてもらえたら幸いです。
913 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/05(月) 00:38
更新乙です。
いつも楽しく読ませてもらってます。
やぐっつぁんも人間、悩むこともありますよね。
何気に酔っ払い梨花ちゃん好きです。
後、最近少なかったミニモニ。の絡み、良いですね。
この3人の絡みはなんだか心があったまります。
なにかとたいへんそうですが、まったりとお待ちしております。
914 名前: 投稿日:2007/03/11(日) 00:37
913:名無飼育さん
心遣い感謝です。
人間たまには悩む事もありますよね
どんなに強い人だって・・・・
本当にレスありがとうございました。
915 名前:dogsU 投稿日:2007/03/11(日) 00:38
翌朝8人は出発の準備を整え、
皆が見送ってくれる門の前でお礼を言っていた

今回は皆、馬で行く為、荷物も沢山持って行ける
食料や水、毛布も馬に積み込み、準備は万端だった


若林と安倍が、一緒に行きたいと言わんばかりにため息をついて言う

「じゃあ矢口さん、みんなも気を付けて」

全員が心配そうな若林達と握手を交わし
各々「はい」と元気に答えると、馬に乗り込む


その際矢口は鷹男をちらりと見てしまう

一人離れた場所で壁にもたれ、静かにひとみを見つめいてた
唇をかみしめてせつない表情をして、どうにも出来ない思いに心を痛めているように見えた

このままひとみを連れて、ここを出てしまっていいのだろうかと思わずにいられない
916 名前:dogsU 投稿日:2007/03/11(日) 00:41
朝、ひとみと会っても、出発の準備で忙しく、
挨拶を交わす程度で、結局矢口達について来るのか改めて聞く事は出来なかった

いや、ちゃんと聞く勇気も・・・・・実のところ今の矢口には無かった

それに当然のようにひとみは出発の準備を進めていたのが矢口には不思議でならない

だいたい矢口が今それをひとみに聞く事が、
ひとみにとっては傷つく事だという事も矢口は気づいてはいない


そして、当のひとみは、矢口を見ている瞬を見ていた

瞬が前にいる亮の肩に手を置いたまま、
心配そうに、そしてとても優しい目をして矢口を見ている事に胸騒ぎがしてならなかった

嫌な妄想と共に、思い出さなくていい事迄思い出してしまい唇を噛む

ダックスやバーニーズの兵達の中で、矢口と藤本は瞬と加藤の伴侶にと期待されている為に
自分達は手を出せない存在になっているという話

だからという訳ではないが、ひとみや梨華、
今回現れた真希や紺野に人気が集中してしまったのは確かだった

実際、昨日ひとみも沢山の兵や、紛れ込んでいた町民に迫られて困ったから・・・
917 名前:dogsU 投稿日:2007/03/11(日) 00:43
気付かれないよう、ため息と共に瞬から視線をはずすとそこには加藤がいた

同じように加藤も藤本に視線をなげかけていて、
恋人の梨華は意識してその顔を見ていない事にひとみは気付いた

一人の女となり、今藤本という心の支えを見つけた梨華でさえ、
思う相手に好意を寄せる異性の存在は、やはり心穏やかに過ごせる存在ではないという事だろう

なのに藤本は、そんな梨華の心配をよそにデレデレの笑顔を向け、
これからの旅の準備に余念が無さそうで、ひとみはなんだか可笑しくなる

素直に表現出来る藤本をちょっぴり羨ましくも思う




いよいよ出発

かおりとなつみが叫ぶ

「「また遊びに来るんだよ〜っ」」

「うん、皆さんも元気で」

頷いて笑う矢口は、手を振って馬を走らせ、
みんなも頭を下げてすぐに追いかけていった

「「なっち、かおりんまた来るね〜」」

加護達も笑いながら去っていった
918 名前:dogsU 投稿日:2007/03/11(日) 00:43
完全に8人が見えなくなると

「あ〜あ、行っちゃったね」
「うん、でもきっとまた戻って来るよ、Mの国が落ち着いたら」

なつみとかおりが呟くと、
その横で若林が安倍に目をやり真剣な表情に戻り

「瞬、加藤君、ちょっと話しがある」

言いながら頷き合う代表者二人が、
不思議そうな顔をしている若きリーダー達を連れて会議室に向って行った
919 名前: 投稿日:2007/03/11(日) 00:44
本日は少しで
920 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/12(月) 00:19
お忙しい中の更新おつかれさまです。
みんな気持ちが不安定でちょっと心配ですね。(藤本さん除く)
921 名前: 投稿日:2007/03/25(日) 14:18
920:名無飼育さん
お気遣いとレス、ありがとうございます。
922 名前:dogsU 投稿日:2007/03/25(日) 14:20


馬を走らせる8人

「この分だと、あの空家につくのも早いですよね」

すっかり馬を走らせる事に自信がついた梨華が、共に先頭を走る矢口に話し掛ける

「ああ、うまくいけば今日の晩にでもつくんじゃないか、すっげー馬に頑張ってもらえばの話だけど」



「そうですね・・・・・・・・・
あの・・・・矢口さん・・・・・その・・・・」

昨日酔ってからんだ事を朝、藤本から聞いて、
謝りたいと思いながらも朝から話しをする機会もなく、思い切って話し掛けた

矢口の方も言いよどんでいる梨華が、何を言いたいのか解ったのだろう

「いいよ、昨日の事は、大丈夫、心配させてしまってるおいらが悪いんだから・・・・・・
でも、お酒はほどほどにしとけよ、藤本に愛想つかされてもしらないからな」

「・・・・あ・・・・はい」

気まずそうに答える梨華に、矢口はにかっと笑う

「嘘だよ、あんな石川もかわいんだとさ、お熱い事で・・・・」
「もうっ、また叩きますよっ、そんな事言うと」

真っ赤になって照れている梨華

「げっ、そりゃ勘弁、まぁ仲良くやってくれよな」

頬をさすりながら笑う矢口に、梨華は少しほっとして微笑んだ
923 名前:dogsU 投稿日:2007/03/25(日) 14:21
2人の後ろに、紺野と辻が走り、食べ物の話をして盛り上がっていて、
その後ろで、ひとみが加護の機嫌をとっている

「なぁ、何でそんなにウチに冷たいんだよ」
「あんなとこ見せといて何やねんっ、ずうずうしいっ、しばらくよっちゃんとは話せぇへん」
「うっそ、何で?何もないのにそんなぁ〜」
「昨日即答できへんかった」

それこそ、あまりの即答に、おっ・・とひとみは思う
昔、付き合っていた少女によくそんな事を言われていたなぁなんて少し思い出して笑ったら、
加護がそれを見てさらに逆上する

「ほんまに、よっちゃんがそんな奴とは思わんかったっ、がっかりやっ」
「だから誤解だって、あいぼん許して」
「ふんっ」

あくまでも唇を尖らせ、馬を急がせて前の紺野達の横につくように走っていく



「あ〜あ」

ポツンと一人になって呟く剥れた顔のひとみの両脇に、真希と藤本が走ってきた

「何喧嘩してんの?」

藤本の可笑しそうな顔をして言われた言葉に、落ち込んだように言う

「いや、何か誤解してるみたいでさ」
「なんかあったの?誤解するような事」

元々鋭い藤本に迂闊な事を言ってしまったと、ドキッとするひとみ

「いや、別に・・・・何もないけど」
924 名前:dogsU 投稿日:2007/03/25(日) 14:24
その様子に、藤本も怪しいと思えだしてくる

「よくあいぼん達言ってるじゃん、間違った事したら、
ちゃんと謝れば許してくれるって親びんが言ってるって」

「・・・・・・・・はぁ」

ため息をついて無言になるひとみに、
藤本と真希は何があったんだろうと不思議そうに見つめた




「ねぇ、美貴」

黙り込んでいたひとみがふいに話し掛けた

「何?」
「美貴はどうやって梨華ちゃんを手にいれたの?」
「は?」

あまりの驚きに声を続ける事が出来なかった

「うん・・・・今は見てて呆れる位二人は熱いけどさ、梨華ちゃんは・・・・その・・・・」

にやっと笑って藤本が言いたい事を察する

「ああ、よしこの事好きだったんだよね、
でも、梨華ちゃんが言ってくれたからね、美貴ちゃんが好きって」

「そうなの?」

「うん、じゃないと美貴からはいけなかったよ、
これ以上傷つくのが怖くて・・・・だから梨華ちゃんの勇気のおかげ」

梨華ちゃんってああ見えて、結構強いんだよね・・・とずっと前を走る梨華の背中を愛しそうに見つめる


その後、その時の事を思い出しているのか、一人にやにやする藤本に、う〜んと悩むひとみ

あの引っ込み思案だった梨華が、自分から言うとは信じられなかった

でも前で矢口と並走しながら話している梨華の横顔は、
なんだか大人びて見え、そして輝いていた
925 名前:dogsU 投稿日:2007/03/25(日) 14:26


「ゴトーはね、気がついたら抱き締めてた」

いきなり何も話しを振っていない真希が、話し出す

「「え」」
「紺野を手放したくないから」

にこにことそう嬉しそうに話す真希

Mの国とは、こんな奔放な感じの姫でいいんだろうかと2人は耳を疑う

「でも、難しいよね、自分の気持を知るのも、伝えるのも」

妙に納得するような言葉を、真希が言うと二人は頷くしかなかった

「あ、真希、ウチ矢口さんの事泣かしてないから・・・・
どっちかっつ〜と泣かされてる方、それもちょっと言いたかったんだよね」

「そ?ならい〜けど、いくらゴトーが紺野と結ばれたって、
やぐっつぁんの事大事なのはぜんっぜん変わらないんだからね」

昨日のように強い視線で見据えた後ニカッと笑うと、紺野達三人を追い越して矢口の隣へ走って行ってしまった

「なんじゃあいつはっ、昨日から訳わかんない」

やっぱお姫様なんて人種は庶民には理解出来ないもんなのかよと呟く
不服そうなひとみに、藤本は笑いながら言う

「美貴は解るけどな、なんとなく」
「何が?」
「矢口さんの事好きなんだよ、ごっちんは」
「何?二股?」

眉間の皺を深くしてひとみが言う

「さあ、どうだか、梨華ちゃんが美貴とよしこを大切にしてくれるのと同じなんじゃない?」
「・・・・・・・・」
926 名前:dogsU 投稿日:2007/03/25(日) 14:28
不適に笑う藤本に睨みつけるように聞く

「それで・・・・美貴はいいの?」

「いいよ、だってよしこが梨華ちゃんのそばからいなくなれば、
梨華ちゃんの笑顔も減るもん、美貴は梨華ちゃんが笑っててくれればそれでいい」

「ふ〜ん、余裕だね、結ばれると」

なんとなく聞いてられなくなり、ひとみは途中から流し出す

「だって、愛し合ってるも〜んっ」

デレッとした笑顔で矢口と話している梨華を見つめる

「はいはい、おめでと」

やってらんね〜と、ひとみはもう藤本と話すのをやめた


だがさんざんその後、梨華との事をのろけまくった藤本は、
休憩するまでひとみをけっそりさせるのである


半日も走った頃

水場で馬に水を飲ませながら、ひとみは岩場を背もたれに座ってぐったりしていた

「どしたの?ひとみちゃん」
覗き込むように、優しく話しかける梨華

「あ、美貴に梨華ちゃんとののろけ話しばっか聞かされてぐったりしてんの、
ちょっとほっといてくれる?悪いけど」
と手をシッシッとさせるように追い払われた

追い払われた梨華が藤本の所へ行って何話してたのと怒ると

「ちょっと刺激しようと思ってさ、ん〜これ以上追い詰めるとかわいそうだけど、
まぁ、美貴なりの応援なんだよね」

「もうっ、あんまり苛めないで、美貴ちゃん」
「は〜い」

にこにこと藤本は食事しようと梨華の手を取って木陰へと向った
927 名前:dogsU 投稿日:2007/03/25(日) 14:31


一方

「親びん、昨日はすいませんでした」
「ん?何が?」
「酔ってしまって」

加護が矢口に頭を下げると、その頭をポンッと叩いて軽く背中を押す

「気にすんな、それより辻と一緒にいてやれよ」
「はい」

矢口の言いたい事が解り、紺野と真希の所にいる辻の所へと向かった

仲良さそうに話し出すのを見たら、ホッとするように馬に近づく

そして水を飲んでいる馬の首を撫でていると、岩場にひとみを見つけた

「あ」

思わず矢口は声を出してしまい、ひとみも気づく

一瞬目を合わせたが、互いに視線を逸らしてしまう
928 名前:dogsU 投稿日:2007/03/25(日) 14:32
そして矢口は、見つけた瞬間に憂いのある表情をしていたひとみにドキっとし
その表情がもしかしたら鷹男と離れてしまった為に出た表情かもしれないと思うと
どうしていいのか解らないでいた


だが少し沈んでいるように見えるひとみを見て思い切って話しかける

「昨日、また剣の訓練してたのか?」

優しく笑いかける矢口に対して、ひとみはほっとしたように笑った

「うん・・・・もう癖になってるから」
「そっか、あんま無理すんな、楽しめる時は楽しめ」

言いながらも馬に視線を向け、優しく首を撫でてあげている

「・・・・・ああ」

とりあえず避けられていない事がひとみは嬉しい




自分の気持が矢口の重荷にならなければいいと、改めてひとみは願い

矢口はそんなひとみを見て複雑な思いをしながら馬を撫で続けた
929 名前: 投稿日:2007/03/25(日) 14:33
本日はここまで

久しぶりの更新作業に妙にドキドキしました。
このような駄文をダラダラと続けて心苦しいのですが
再び間が開いてしまいそうですのでまたりとお待ち下さい。
930 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/26(月) 03:25
更新お疲れ様です。
駄文・・・ではないですよ^^
ドラマ感覚で読んでます。

色んな展開がおきておさまってまた新しい章へ進む
この物語が私は大好きですよ。
作者様のペースで更新お待ちしてます。
931 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/08(日) 19:01
作者さん、お元気ですか。
いろいろお忙しいのでしょうか2週間が過ぎました。
急かすつもりは無いのですが毎週楽しみにしていましたので待ち遠しい感じです。
よいお話が出来るのを祈りつつお待ちします。
932 名前: 投稿日:2007/04/12(木) 00:25
930:名無飼育さん
労いの言葉と、もったいない言葉、ありがとうございます。
お待たせしてすみませんでした。
優しい感想とレスありがとうございました。

931:名無飼育さん
はい、なんとか生きてます。
お待たせして申し訳ありません
楽しみにしていただけてとても嬉しい気持ちです。
ん〜・・・・しかし
よいお話は、自分の今の力量では・・・・とかなりのプレッシャーを感じています。

そして、お待たせしていて心苦しいのですが、今しばらく間が開く更新が続くかと思います。
出来るだけ頑張りますので、のんびりお待ち頂ければと思います。

最後に、吉澤さん、誕生日おめでとうございます。
933 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:30
再び出発、一気にかなりの道のり走ると、
夜遅くなってからあの健太郎と過ごした家へと到着する


「「あ゛あ゛〜、疲れた〜」」

加護と辻が火を灯してテーブルに突っ伏す


「誰が疲れたって、馬達が一番疲れるはずだよ、この距離を一回の休憩で駆け抜けたんだからさ」

皆頷きながら窓の外を見ると、もう寝てしまったのか、
馬達がじっとして仲良くお尻を向けているので皆で微笑む

今回、瞬達と出会った場所を抜けて、ただ走り抜ける8人と一匹に、もう襲って来る山賊はいなかった

「遅くなったし、お腹も空いたから、分担して料理する人とここの片付けするの決めて、
ちゃっちゃと寝ようよ、明日は少しゆっくり出発すればいいし」

藤本が仕切ると、

「そうだね、こっからだと勝田さん達の町は馬で走れば結構早く着くし」

と矢口が同意し、藤本・紺野、ひとみで片付けを

加護・辻・真希・梨華で料理を開始した



「健太郎さんは今頃Mの国で何してるかなぁ」

藤本が言うと、紺野以外はそうだなぁと首を捻る

「多分元気だよ、ほれさっさとやっちまお」

掃除はこの狭い場所を四人でするとすぐに片付き、寝る場所はこの前みたくここじゃ狭いよねと言うひとみ

「でも上は怖いんですよね、矢口さんは」
「うっさい」

面白がる藤本の視線と言葉に一括

「何ですか?怖いって、上に何か?」

紺野が2人の会話を聞いて、不思議そうに言うと

「このちび、おばけが怖いんだってさ、だからこの上におばけがいそうでやなんだって」

ひとみが紺野にコソコソと耳打ちすると、矢口がジロリと睨む
934 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:33

「怖くなんてね〜からっ、じゃあおいら上で寝るからいいよ」

思い切り頬を膨らませていう矢口に、藤本とひとみはにししと笑う

「まぁこのテーブルちょっと動かせば、ここで8人寝れるでしょ、
矢口さん、今日は美貴が背中抱いて寝てあげますよ」

藤本の言葉にひとみと矢口はドキッとする

そういえばひとみは、あの時ふざけて抱きしめて寝た際に、初めて矢口への気持に気づき始めたっけと思い
矢口はあの時何故か安心して眠れたっけと思い出す

だが

「あほかっ、そんなん石川にまた怒られるしっ、第一ぜんっぜん平気だしぃ〜」

ふふんと藤本に背中を向けて腕を組む矢口に紺野は笑う

「ふふっ、矢口さんかわい〜ですね」
「いやっ、ほんとぜんっぜん平気だから、紺野」

その頃、出来始めた料理を運んで来た真希が聞いてくる

「何,楽しそうだね」

テーブルに料理を置いた後、真希が紺野に優しく微笑みかけると

「後藤さん、なんか矢口さんおばけが怖いらしいんです」
「いやいや、ぜんっぜん平気ですから」

強がる矢口の言葉を聞きながら、真希は後ろに回り込むと、抱きついて面白そうにからかいだす
935 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:35
「あいかわらずだねぇ、やぐっつぁん」
「昔からなんですか?」

紺野がそんな真希に聞く

「そう、兵達にからかわれて怖い話聞かされたら、
す〜ぐ理由つけてゴトーの布団に入り込んで来たんだよね〜っ、やぐっつあん」

「もうっ、黙ってて下さいよっ」

わたわたと慌てる矢口に、真希は優しい顔で面白がる

「あはっ、恥ずかしがってるぅ、かっわい〜」

「う〜っ」

ふくれっ面の矢口の頬を、後ろから抱きついたままツンツンと突いてまだ面白がってる真希

にこぉって暖かい笑顔で矢口達を見ている紺野や、仲良さそうに微笑みあって笑う藤本と梨華


そんな中、みんなと笑いながらも、ひとみはその心中を密かに嫉妬で焦がす

とても仲の良さそうな二人
紺野は笑っているけど、何も思わないのだろうかとひとみは紺野を見つめる

「はいは〜い、出来たから早く食べよ〜」
食事についてはうるさい辻が一括し、全員テーブルに着き出す

Yの国での調理法や、Eの国での調理法を織り交ぜての料理が並び
久しぶりの仲間達だけの食事に、なんだか落ち着く8人

真希は料理が上手いだの、紺野に向って全員が食べ過ぎないように突っ込んだりだの、
楽しい時間が過ごせた
936 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:38
全員で片付けをすると、しばしまったりとした時間を過ごす

もう夜も遅い時間なのだが、今まで激動の時間を過ごした為、
この仲間達でゆっくりと会話を楽しんだ

ここでひとみが、落ち込んで加護達が世話しただの、
藤本が梨華にキスして泣かせただの


ひとみ達の知らない事も暴露されて皆が笑っていた



そんな楽しい時間が過ぎ

一階で全員が寝る準備を始めだすと、矢口に向かって藤本がまた面白そうに言う

「ほんとに抱き締めてあげなくても平気ですか?」
「平気だっつーの、ばか藤本」

剥れる矢口

しかし、矢口は真ん中の位置を取り隣の辻にぴったりとひっつき、皆は微笑む



ひとみは一番端っこで頭を両手に乗せて天井を眺めるようにして寝転んだ


おやすみと全員が寝転がり、やがて一人・・・二人と寝息をたてだす




寝静まった所で、ひとみは再びそっと外へ出て剣の練習を始めた

ここに今、山賊でも出て来てもらい、腕を試したい、
そんな自惚れを持ちながら、剣で目標を定めた難しい場所の木の枝を落としたりして型を続ける
937 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:42



「小さな枝切っちゃかわいそうだろ」

そんな声と共に矢口が暗闇から現れた


「でも・・・・」

また止めさせられると思ったひとみはなんとか訓練を続けられるようにと言葉を捜す

そんなひとみに呆れたようにくすりと笑い

「ここじゃ剣を合わす音が響いてみんな起きちゃうから、接近戦になった時の体の使い方でも教えてやるよ」

と優しく矢口が言うと歩き出すので、
ひとみは剣を鞘に戻し、暗闇の中を歩いていく矢口の背中についていく

「とにかくさ、体力的に力のない者にとって体のしくみを知る事は大切なんだよ」
「あ・・・・うん」

と会話しながら、あまり木のない月明かりの当たっている場所で、
しかも地面に草が生えている場所にやって来た

「相手の力を利用するのと同じように、知識と共に、体に、そして感覚に叩き込むんだ」

剣を合わせる時にも感じる力の差、
今まで教える際にも、特に小さな人や女性には何度も言ってきた事

今更ながらも、これから大切な事を教えてくれようとする矢口に対して、
ひとみは落ち着かない気持ちになっていた

心の準備もなく二人きりになった事にも動揺するが、

それよりも今はひとみの中にある疑問が浮かんでしまう


「んじゃ、もし腕を掴まれた場合な」

剣をしっかり持っていろよと言うと矢口は腕を掴む

いいか、一つはここを押さえて、こうすると・・・・・と実際にひとみの体を使い説明していく矢口
938 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:45
「ってて」
「ほら、案外力が入らなくなるもんだろ?」
「あ、うん」

あっさり剣を取られてしまった

「お前の馬鹿力だって、Yの国で実際屈強な男の兵隊に会ってみて解ったと思うけどさ、
いくら頑張って鍛えたって所詮女の力じゃ男には勝てっこないんだ
しつこく言うけど、ここをとられたらこうする、こうされたらこうする
・・・・って体で覚えとかないと、咄嗟に反応なんて出来やしない
おいら達「族」は、人間相手に力使えばある程度は逃げる事が出来るけど、
お前はそうはいかないだろ、だからこれからはそういうのも覚えとくといいと思うよ」

剣の腕とか、銃の腕だけじゃなくてさと優しく言ってくれてから、次の動作に入ろうとする矢口に

「ねぇ」

と話しかける

ひとみの持っている剣を取ろうとしているのか、腕を掴んでいる矢口

「ん?」

とすぐに優しい声が返したが、矢口は腕の一部を押さえた

「珍しいじゃん、くっ、そんな事ウチに教えてくれるのっ、あっ」

そして本気で抵抗しながら問いかけるひとみの腕から再び簡単に剣を奪った

「かもな、だいたい、もう強くなっちまったからな、吉澤は」

教えるような事はもうあんまないし、とニカッと笑いながら取り上げた剣をブラブラさせている矢口
939 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:49
握られた腕の肘の所を少し押されただけなのに、
手から力が抜けてしまったのを不思議がるひとみに再び剣が渡される

「はぁ〜、これでも?」
「ああ、お前はほんとにすげーよ」

反射神経も、剣の速さ、使い方、体重移動もカンの良さも申し分ないよと笑い
体のあちこちを押さえたり、捻ったりして、説明を続ける

ひとみに教えた事を一通り実践させると、
今度はちょっとした攻撃に対する反撃の仕方なと突然ひとみに襲い掛かる

ひとみの腕の袖を引いて体勢を崩した後、
矢口は吉澤を後ろから倒すと拳をひとみの目の前で止めた

「くそっ、やっぱつえ〜」

圧倒的に力ではひとみの方が勝ってるのに、こうも簡単に転がされて本気で呟く

倒されても、ふさふさとした枯れ草の上で体に痛みはない

「だからここで、こう体勢を崩されたら、そこに乗っかるんだよ、そして逆に相手を引きずり込む」

「うん」

やってみろと、今やった手順を繰り返す

体勢を崩された時、立て直さずにそのまま一度転がり、
そこに攻め立ててきた矢口の力を逆に利用し引き寄せると、矢口の腹に拳が突き刺す事が出来た

「うっ」
「あっ、ごめんっ、大丈夫かっ」

手ごたえを感じたひとみは矢口をすぐに起こして顔を覗き込む
940 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:50
「いてて、そう、今の感じ、流れに身を任せる時と、止める時を間違えるな」

矢口はにっこりと笑う

「・・・・はい・・・・あ・・・腹は」
「ああ平気、じゃあ次は違うパターンな」

またしてもやけに親切に、解りやすく教えてくれる

それがどうにも不思議でならない


仕掛けてくる矢口の蹴りをよけながらひとみは言う

「ねぇ、もうすぐお別れだから、教えてくれるのか?」

矢口の動きが止まる

「え?」
「また・・・・ウチらをおいてけぼりにするんだろ」

ひとみは既に動くのをやめて佇み、
まっすぐに、そして寂しそうに矢口を見ていた

その目は捨てられる大型犬のようにしゅんとした視線

今のひとみのどうしようもない素直な気持ちが口から出ていた
941 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:52
矢口は微笑み首を振る

「石川にも言ったけど、それを決めるのはおいらじゃない、
とりあえずおいらは、お前達と一緒にいるのが楽しいからもう追い返したりはしないけどさ、
これからどうするかは、お前らが決めればいい」

さあ、続きするぞと、再び仕掛ける

だったらおいてけぼりにされるのはないのかなと、ひとみは少し嬉しくなり、
繰り出される蹴りを避ける事に専念する

戦いにセオリーはない、だからどんな状況でどう戦うかの判断を瞬時に行なうために、
いろんな状況を体験する事は決して無駄じゃないと・・・・

そう言う矢口は次々と違うパターンの技を繰り出しながら少しホッとしていた

どうしてかは解らないが、
ひとみは自分について来たいんだと思ってくれているようだから・・・





その後、一時間位繰り返された後、

「ふぅ〜っ、よしっ、もう今日はこれで気が済んだろ、そろそろ寝よう」
「はぁっ、はぁ・・・んぐっ・・・・うん」

肩で息をするひとみは膝に手を置いて息を整える

返事を聞いてにこっと笑うと、さっさと踵を返して歩き出して去っていく
942 名前:dogsU 投稿日:2007/04/12(木) 00:55


あ〜疲れたと、家に戻る小さい背中に


ひとみは静かに呟く


「離れね〜から」



矢口の背中にもそれは届いていたが、今はあえて聞こえないふりをした

『何故?』

そう聞く事も今の矢口には勇気が無い
聞けば何か嫌な言葉が返されてしまいそうだったから・・・


そんな思いも知らないひとみが部屋に戻ると、
矢口はすでに辻の背中に抱きついて眠っていた

ひとみはくすっと笑い再び端っこに寝ると、天井を見上げて目を瞑った
避けられている訳ではないのだと安心して眠りにつく

矢口も、思い切って話し掛けてみてよかったと思う
どういう理由でそんなについて来たいのか・・・・それに強くなりたいのか解らないけれど
とにかくひとみは自分達の旅について来たいと言うのだからそれでいいのではないか


もちろん自分は、ひとみにそばにいて欲しいと思うのだから



だから

ひとみがどんな事を考えていたとしても

もうしばらくの間は一緒にいられる気がしていた
943 名前: 投稿日:2007/04/12(木) 00:56
今日はこの辺で
944 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/13(金) 00:37
おとなしく待ってますのでどうぞゆったりしたペースでお願いします。
なんだか嵐の前の静けさに似たほのぼの感が、逆に不安となっております。
みなさんに幸あれ。
945 名前: 投稿日:2007/05/06(日) 00:45
944:名無飼育さん
いやはやっ(汗
大変お待たせして申し訳ありません。
嵐の前の静けさなのか、しばらくほのぼのというか、グダグダが続きます
お言葉に甘えて、しばらくまったりと続けさせていただきます。
お気遣いやレスありがとうございました。
946 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 00:47


翌朝、加護はまだひとみを許してないのか、
一人だけひとみとは口を聞かない

何があったんだよと、みんな不思議がる中、
食事をとってゆっくりと出発する




夕方前には、藤本の治めていた町に着く

門番は驚き、すぐさま門を開けて敬礼し、
何も見せなくても笑顔で町に入れてくれたので皆でありがとうど礼を述べる

徐々に街に近づくと

「なんかなつかしぃ〜」
と無邪気に町を駆け抜けようとする藤本

そんな藤本に矢口が言う

「あの山の上の屋敷に寄らなくていいのか」
「うん、別にいいかな、軍曹、違った、新司令官がちゃんとやってるでしょうから、今更美貴が顔出しちゃ嫌でしょ」

からっとした笑顔で、全く過去の役職にも未練を持たない藤本に、皆微笑む

それに、密かに保田に、取材の際のこの町の様子を聞いたり、何かと気にしていたのを梨華も皆も知っている

表には出さない藤本の優しさを仲間達は皆感じていたのだった


それから新たな保存食になりうる物を求め、店を探す
947 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 00:49
藤本がこっちだよと進む先には、この街の市場が広がっていた

野菜や果物等、食材も豊富に店に並んでいる
そろそろ片付けを始める市場の人達に紛れ物色を始める皆

紺野が食事をする店を見つけるたびに、
キラキラした目をして名残惜しそうに通り過ぎたりするものだから

「やぐっつぁん、とにかくさ食事だけでもここで済ませて行かない?」

真希が言った途端に紺野の顔が輝き、加護・辻も喜んだ

「そうですね、じゃあどこか店に入りましょう」

微笑む矢口の言葉に、藤本も笑顔で考える


食事の出来そうな場所を探しに、一応元ここの司令官である藤本についていこうとすると
大声と共に数人がこちらに向かって、人混みをかきわけ走ってくるのが見え、
全員が咄嗟に銃に手をかける

「矢口さんっ」

だが、そう叫び近づいてくる人を良く見ると、走ってきたのは勝田達だった

町を馬で歩くだけでも目立つのに、乗っているのが矢口達なものだから、
すぐに情報がまわったようだ

「あ、勝田さん、お久しぶりです、お元気そうで、子供さん達も元気ですか?」

馬に乗ったままだが、銃から手を放しホッとした笑顔で話し出す

「見ましたよ、新聞、すごいですね、前はここの事も載ってたし、
みんなでこの人達と知り合いになっちゃったんだって喜んでたんですよ」

それに名前は載ってなかったけど、
前司令官も絶対一緒だと皆で噂してたんですよ・・・と藤本にも笑いかける

そしてつい先日、Yの国の出来事の載った新聞が売られ始めたばかりだという
948 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 00:52
嬉しそうに話し掛けて来ると周りにも、なんだなんだと町の人達が集まってきた

「とりあえずこちらに来て下さい、今日は泊まって行ってもらえるんでしょう?」
と嬉しそうに聞いてくる

矢口はどうするかと仲間達を見回す

ひとみや加護、辻、藤本達の顔は笑顔で、真希も「いんじゃない」と笑顔
じゃあお言葉に甘えるかとついていく事になった

勝田の家に着くと、馬たちを家の後ろの庭につなぎ、家へと招かれる

その頃、昔あの小さな集落に集まっていた各町の長達が集まって来る
一様に嬉しいという顔で矢口達と握手をかわしていき、新聞で活躍を聞いていると一通りの挨拶をしていた

この町はどうですか?山賊とかに襲われてはいませんかと尋ねると、
自警団を結成して、交代で見回りをしていると聞いて安心する

その自警団には、兵隊がいつもサポートについてくれるらしいし、
三交代制で門兵を配置する場所も人数も増えたようだ

矢口達の満足いく内容に顔が綻び、うっすらと事情を知っている真希と紺野も微笑んでいる

この町にも秋も深まり冬が近づいた今、
収穫期を迎えた作物を、冬の間保存させる為の加工作業が今、忙しい最中だという


しかし、その後、この国の話になると勝田達の表情は影を落とす

ここは、Jの国の端っこだし、のんびりとした田舎町だからそうでもないが、
王都や近辺の町ではもうMの国と争うかどうかで大変らしいという噂ですと教えてくれる

この国のMの国側の町では季節がらもあるが干ばつがさらに進み、
その進路は確実に王都に近づいていっている

だから、距離的にも近いMの国や他の町へと移住する人も増えているという
949 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 00:59
そして、ひとみと梨華が暮らしていた町にもその波は訪れているようで、
この街へ移住してくる人が最近増えて、兵や勝田達はその対応にも忙しいようだ

とにかく大勢で移動してくる為か、途中、山賊から襲われる事は無かったという

干ばつの町へと輸送する程の大量の水は、この街や近隣の町にはない為、
Mの国から購入しているのが現状

その為立場が微妙で、さらに民衆の流出を防ぐ術もなく、
Mの国が持ちかけてくる何やら怪しい合併話にも、ノるかどうか迷っているそうだ

合併?と眉を潜める一行

Mの国からJの国に、頻繁に使者が行っていた理由は合併
そんなうさんくさい話、ここにいる矢口達の仲間には信じる人はいない

そして、そんな状況下の王都の中では今、
王族と貴族の争いが激化しているようで、内部紛争の様相を呈しているとも流れて来ていた

近隣の貴族派の町ではもう王都への集合が兵達にかかっているとの噂

今までずっと仲良くやってきた国からの合併話

合併に同意するか・・・・

それとも・・・・・戦闘か・・・・・

移り住んでくる人達の口からもそんな話は出てきて

王族派の町にも、戦闘になった場合の準備を怠らない様にと
伝令が走り回っているとサポートしてくれる兵達からの話が漏れてくるという

そこへ兵隊達が勝田の家の前に集まってきだしたと
矢口達が泊まる部屋を準備していた奥さんから報告が来る

視線が藤本に集中すると、ため息をついて藤本がやれやれと外に出て行った
その後ろを皆ぞろぞろと外に出て行くとなんだか壮観な風景

綺麗に整列している兵達

新司令官以下が敬礼して出迎えてくれた

「お久しぶりです、司令官」

前に黒幕と言われた男が嬉しそうに敬礼してくる
950 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:01

「もう司令官ではないのですが、司令官」

対する藤本は、一応敬礼を返した後、笑顔を浮かべて見渡す

「ここの町は、司令官のおっしゃる通り、住民と一緒になり平和に過ごしております」

本当に嬉しそうに報告してくる新司令官

「ええ、今、勝田さんから聞きました、矢口さん達とも今喜んでいた所です、
きっと司令官がいい仕事をしているからと認識してます」

すっかり司令官の時の顔になっている藤本に、矢口達も感心する

藤本達が勝田達の所に矢口が泊まるのを聞き、是非城にと言う司令官に、藤本が首を振る

「折角ですが、私達一般人をそう簡単にあの屋敷へと泊めるのはどうかと思いますよ、
それに私達は勝田さん達にお世話になる事になりましたのでどうかお気遣いなく」

「ですが司令官は」

過去の栄光を知っている新司令官にとって崇拝している藤本を民家に泊める事をしぶる様子に

「私は藤本美貴・・・・司令官という役職ではもうないのです。ありがたくお気持ちだけお受けいたします」

藤本の横顔には少しの驕りも後悔も見られない

「・・・・・それでは我々の気持ちが」
「ありがとうございます、本当に気持だけで・・・・」

もしかしたらこの町にも王都から様子見の族が来ているかもしれません、
その際私達に構っているのはこの国の兵としては良くない事だと小声で言う藤本


寂しそうに敬礼をし続ける新司令官は、しばらく考えた後、兵を動かし出す

どうやら、あの広場にて宴会をしてもてなそうとしてくれているらしい
951 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:04
「あの・・司令官」

言いながら困った顔をする藤本に

「私達は、この国の兵として、住民たちと共に生きていこうとあれから何度も
ここにいる勝田さん達と話し合いを繰り返してきました。
そして、兵とは?国とは?と兵達で考えるきっかけを与えてくれた矢口さん達や、
勇気を出してくれた勝田さん達ともっと仲良く、そしていい街にしたいのです。
それから・・・・・もしかして我々はもうすぐここを離れるかもしれません。
今の所、王都からの使者による通達による戦闘の訓練に落ち着いていますが
出撃要請がくれば我々兵は出て行くのです。だから、帰ってくる迄、
ここを平和に維持していくのはここにいる勝田さん達や、町民達。
ですから、もしどんな監視の人が見に来ていたとしても、
町民との親睦を深めるのに何の問題もありません、だからほら、お前達早く準備を」

慌てて出て行ったさっきの兵達を追わせるように、残った兵達も動かしだす

「私達は、国王に従事していますが、この国を支えているのは
ここにいる人達のような国民です。我々兵と同じ一国民なのです」

それに守るべきここの街娘達にも、かわいらしい娘が沢山いるのですよ

「・・・・・司令官」

呟く藤本が、幼馴染の成長のようなものを見ている様は、少し誇らしげで微笑ましい

一応、王都からずっと一緒について来てしまう程、藤本に思いを寄せていたこの男は、
やはりただの女好きかもしれないと少し可笑しい

それにこの男がこんなに単純でいい人とは・・・・と矢口達は驚きつつ・・・・
前に藤本が言っていた「小心者でいい奴」というのが頷ける気がした

「だからいいですよね・・・・この街の為に司令・・・
藤本様の言葉や思いを兵達にももっと聞かせてもらいたいのです」

なかなか出来ない経験をしてきた方達の話も聞きたいし・・・・と自分の指令に満足げ
952 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:07
戸惑っていた藤本も、それではと司令官の計らいを受け入れる表情をし
また宴会かぁと加護と辻が喜んだり
矢口がポンと藤本の肩を叩くと、藤本もついに頷いた

真希達も、なんだか美貴ちゃんってすごいねぇと微笑んでいた


夜が近づいてくると、兵達や町民達が一斉に準備するものだから
早々に準備が整い、兵の家族、町の人達も集まって来る

「いいかぁみんな、この国がこれからどうなろうと、我々の町は、人は、共に助け合い、共に生きていくっ
新しい住民も、これから戦場に向かうかもしれない兵もっ、身近にいる大切な人を守る為にこれからも頑張ろうっ」

司令官の力強い言葉に、おお〜っと、群集が飲み物を掲げて声を上げ始まる宴


矢口と藤本に他の国での活躍の話を聞こうと集まる人だかり
加護達や勘太に集まる子供達
梨華やひとみ・真希や紺野の気をひこうとする若者が陽気に酒を飲み群がる

そんな中、藤本は、さりげなく自分が矢口達についていった事が
王都にも知られているかを司令官に探ろうとした

するとそれに気づいた司令官は、ニヤリと得意げな顔で

「司令官が、矢口さんと共に族の町やE・Yの国で大活躍しているのは予想しておりましたが
へたな事が王都にバレれば、ここに司令官が戻られた際困ると思い、報告は致しませんでした
いや〜、でも新聞にも司令官のお名前は載ってはいないものの、
絶対に矢口さんと共に活躍されていたはずだと町の皆は思っておりました」

当たったでしょとばかりにフフンと威張った顔をする新司令官が可笑しくて矢口達はクスクスと笑う
953 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:09
「すばらしい判断ですね、さすが新司令官、この町をまかせて正解でした」

いつもとは違う顔で相手をする藤本に、さらに矢口達は可笑しさを隠せない

「それで、王都から他に何か情報は入っていますか?」

もう何を聞いても良さそうだと藤本は単刀直入に聞き出した

「そうですねぇ、何やら王都は慌しいようですよ、
私どもにはEの国方面から何か情報があれば、すぐに報告しろという事で、
族の方でしょうか、たまに様子を見にいらっしゃいます。
ですが、まだ王族派には召集はかかっておりませんし、
最近では山賊等もめっきり減ったようですし、わが町は至極平和ですよ、な、勝田さん」

「ですね、司令官」

スケベで女好きだと梨華に見透かされた男を、再び見直す一行

そして・・・・・この男は一生ここでのんびり暮らすのだろうと微笑んだ

遅く迄続く宴に、勝田が締めの言葉を発し、終了させた

全員で片付けると、酔った男女が帰宅していき、矢口達も勝田の家へと戻る

8人の中に今日は酔っ払いは出なかった
あまりの歓迎ぶりに戸惑い、飲まされるのを必至に押さえた結果だった
954 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:11
勝田の家に8人では多すぎると、近所に分散して泊まる事を勧められるが、
一応元姫もいるし、王都から族の人が来ているといけないし、
何があるか解らないので出来れば同じ部屋で泊まりたいと言った

それではと勝田の家の一番大きな部屋に大き目のベッドを準備してもらい、
そこに3人ずつは寝れると言われたが
真希と紺野と梨華と藤本を寝かせる事で合意し、
後はドア付近に干草を敷き、持って来ている布団で寝る事になる

床で寝る準備をし寝転がる四人


その中で加護がひとみの隣に寝るとこそっと呟く

「親びんの近くにはいかせへんで、ええよね」

矢口とひとみの間に加護と辻が挟まる形で寝る事になった
そんなに警戒しなくてもいいのにとひとみは苦笑しながら横になる

もう夜も遅くなり、長旅の疲れもある為、すぐに眠りに着く



そんな中、再び寝静まった頃にひとみは抜け出す

毎日の日課の為に広場へと向った

一人剣を振り続けるひとみ

そして、矢口は今日も現れた

「ほんと、日課だなぁお前」

ポケットに手を突っ込んで広場の噴水のところに座った
955 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:13


「なぁ、加護と何があった?」

剣を振り続けるひとみに話し掛ける

「別に、何も」

「そっか・・・・なんかあいつが苦しんでるみたいだからさ、おいらも関係してるみたいだし」



鷹男のせいで・・・・
いや、自分の弱さのせいで加護が苦しんでいるのもかわいそうだと思い、正直に話そうかと一瞬考えた

しかし何と言えばいいのだろう

矢口に恋焦がれる為に、矢口が真希に抱かれると思って鷹男と寝ました
鷹男にキスされそうになっている所を加護に見られただけで、別に鷹男とは何でもありません
第一、加護が何故苦しむのかもわかりません

そういえば矢口は納得するのだろうか

いや、絶対に納得するはずがない、そんな事は言うべきではない

ただ、矢口がこの事で加護を心配しているのなら、とりあえず誤解だと伝えれば済む、ひとみはそう思った

「加護は誤解してるんです、ウチが鷹男と何かあるんじゃないかって」
「え?」

矢口には思ってもいない言葉だった

誤解?どこが?

もう考えまいとする矢口の記憶がドアの音と共に蘇る
956 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:16
あまりの驚き方に、ひとみの方が驚く、何故そんなに驚くのか

「若林さんの家に泊まった時、部屋で2人で話していたから」

剣を振るのをやめて、矢口のそばに座る
その間に微妙な距離を開けて

「そうか」

ポケットに手を突っ込んだまま座った形で、延ばした足先を見つめた

「だいたい、ウチと鷹男に何かあったって、加護が怒る理由もないのに、
もちろん何もないけど、なんか・・・・怒ってんだ」

嘘つけ・・・・

ふいに矢口は思ってしまう

まっすぐな奴だと思っていたひとみの口から出てくる嘘に矢口は悲しくなる



「ん・・・・・解った・・・・加護の事・・・・
嫌いにならないでやってくれよ、ただおいらの事心配してるだけだから」

力なく笑って矢口はひとみを見た

「ま・・・まぁ・・・嫌いにはならないけど・・・・嫌われたとは思ってる」

そこにはしゅんとした横顔のひとみ

するとけらけらと笑って矢口は空を見上げる

「嫌やしね〜よ、加護は、むしろお前の事が好きなんだよ・・・・おいらには解る」

そう・・・・ひとみは大切な仲間、それは間違いないと矢口は心底思う
957 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:18
「そうなのか?・・・まあ・・・・でも、なんで矢口さんの心配してるからって、
ウチが怒られないといけないんだろ」

「・・・・・・さぁな・・・」

空を見ながら、矢口は加護にすまないと思う

自分に言えないと言った加護

辻が、加護は嫌な物を見たと言っていた

ひとみと自分が一緒になって欲しいと加護が望んでいるから言えなかったのだと確信したから



ひとみが嘘をついていると解り
あの場所でも2人は部屋にいたのかと知って、自分は今どう思っている?

本当に誤解?
じゃああのキスマークは?

疑う自分・・・・これは嫉妬?

ゆっくりとひとみへと視線をやった

ひとみは心配そうに矢口を見ていたが、矢口からの視線を受けると剣を再び持って振り始めた



矢口が力を使ってひとみの剣を奪う

「あ」

きょとんとするひとみに

「油断大敵、隙だらけだぞ」

矢口がにこりと笑う

「ずりぃ」

昨日教えてやった相手が剣を持っていた場合の対処の仕方を、ひとみに復習すると言い出す
958 名前:dogsU 投稿日:2007/05/06(日) 01:21
今日も体を触れさせる事が多い

昨日は必死に教えてもらった事を頭に叩きこんでいたから思わなかったが
矢口を投げたり、腕を掴んで逆手に取ったり

近くでちらちらする矢口の顔やさらさらと動く髪の毛を見る度に、
ひとみの心は乱れた

昨日よりも厳しく指導する矢口

矢口は、気づかないうちに、
イラつく気持ちをついひとみにぶつけてしまっていたようだ

それに乱れた心では矢口の相手になる訳もなく、
今日は落第と矢口に言われて、ひとみはがっくりと頭を下げた


「ぜってぇ〜いつかあんたを負かしてやっかんな」

ひとみは矢口にまっすぐ剣を突きつけて言う

その視線を矢口は受け止めて

「ああ、楽しみにしてるよ」

と言うと、勝田の家に帰って行った


熱くなった心で、しばらく佇んだひとみは、やがて矢口を追って勝田の家へと戻った
959 名前: 投稿日:2007/05/06(日) 01:23
本日はここ迄

そして今日、ついに吉澤さんが旅立つ日がやって来ました。
なにかと大変な役回りの多い吉澤さん
素敵な卒業式になりますようにと、遠く地方よりお祈り申し上げます。
960 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 00:36
次の日発つ際に、勝田達は十分な食料と水を持たせてくれた

この先はひとみ達が住んでいた町になり、だんだん干ばつになっていく為だ

なんでも移住して来た人達から聞いた情報では、
もうあの街には兵隊の姿は無く、ある意味無法地帯
干ばつも進み、治安も悪化し人もどんどん減っていっているらしい

昨日は新司令官の成長に関心しきりだったが、
改めて考えると、軍の司令官としての報告義務は大切だと思い
見送ってくれる新司令官には、藤本が王都へ向かっている事を報告して下さいとお願いする

但し、矢口が一緒なのだけは報告しないで欲しいと伝えると快く頷いてくれた


兵や町の人達に見送られながら出発

再び矢口達だけで駆け抜けていく

そして、馬で駆けながら矢口は確認する様にみんなに伝える

この先の町からは、自分達はこれまでのように歓迎されるような状態に無いという事

真希でさえも、きっとそうだろうと、
だから今までみたく気を許してはいけないと気を引き締めさせた

兵がいないとは聞いているが、
族である事も特殊部隊に狙われる対象である為、気をつけるよう紺野に伝える


一日中走ると、勝田達が山賊退治をさせられていた小さな村へ着いた

宿泊した家は全部開いているので使ってくれと言われていたが、
どうやら山賊が今は住みついてしまっていたようだ
窓に明かりが漏れており、中からガハハと笑うごつい男達の声がしている
961 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 00:43

「先約がいるようですね、矢口さん」

集落から離れた場所で、厳しい表情をしながら振り向く紺野


「う〜ん、どうする?引き返して野宿するか」
「そうですね、そうしましょうか」

「「わ〜い、野宿だ野宿だ〜」」
どんな状況も楽しめる加護と辻の声と共に一行が後戻りしようと馬を動かす

だが、がやがやと後ろから声がしだし、部屋から出て来たと思われる男達に見つかる

「女だ、女がいるぞっ、それもたくさんっ」

全員が振り返ると、その声に反応した男たちがぞろぞろと各部屋から出て来ていた

100人近くの若い男達が出て来て銃を持って近づいて来るのを
矢口達は若干後ずさりしながら馬に乗ったまま対峙する形で静観した

「結構人数いたんですね」
「そうだな、見つかったならしょうがない、少し話ししてから行こうか」

真希達を後ろに下げさせ
矢口・紺野・藤本が先頭に立ち男達を出迎える

どうやらリーダーらしき男が、一番前に三人出て来た、
服装の違いから三つの山賊の寄せ集めらしい、そのうち右の厭らしそうな髭もじゃの男が言う

「こんなにかわいい女達がどうしてこんな所にいるのかなぁ?」

今言った男の仲間だろうか、その言葉を聴きながらにやにやした男達が
真希達に近づこうとして紺野とひとみに剣をつきつけられ止まった
962 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 00:46

「おっとと、いきなり戦闘開始かい?」
それとも俺らといい事したいってか?

ギャハハと楽しそうに話してくる山賊

「前に旅した時にここに来た事があって、ちょっと寄ってみたんですが、
皆さんがいらっしゃるのなら無理な様ですので、あきらめます。それでは・・・」

矢口が話すと、にやりとその男は笑うが、
真ん中の男が髭の男を見ながら一度チッと言い黙らせると話し出す

「ちょいと待ちな、前に通ったとは、最近なら結構多いんだが珍しいな、
それにE国側からこっちへ向かう奴は、今の世の中なかなかいないし、住みにくいぜ、この先の街は」

何かを勘ぐっている視線を矢口達は受け止めると
今しゃべった男の左側にいる、右目を隠しバンダナを巻いた男が話しだした

「ああ、こいつの言う通りだ、それにここを通って行ったと言われるのは、
二ヶ月位前に、矢口って世間を賑やかせている女しかいなかったと記憶するが、どうだ霧丸」

振られた真ん中の霧丸と呼ばれた男が矢口を睨みつけ

「ふん、まさかこの女達の中の誰かが矢口だって事になるのか?」

見回している霧丸が矢口に視線を止めて睨むと、矢口は睨み返す
もちろん紺野や藤本もその男や周りの男達の様子に気を配る

「ええ・・・私が矢口ですけど・・・・それが何か」

瞬間どっと全男達が沸く、大声で笑ったり、驚いたりと反応は様々だ

矢口達は馬の上から見回す、なんなんだろう・・・と
963 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 00:49
ひとたか笑い終わった男達が、静まった頃、再び霧丸が話し出す

「どんなすごい奴かと思ったら、まさかこんな小さな少女だとは・・・・で、これから何をするんだ?今度は」
「どういう意味です?」
「どうやら、世直し気取って世間を騒がせているそうじゃないか、俺らの事もなんとかしてくれよ」

髭の男がそう言うと、霧丸が睨んで黙らせた

「なんとかってどういう事です?・・・・・
だいたいどうもしませんよ・・・・ただ、自分の国がどうなってるか見に行くだけです」

落ち着いて矢口は男に言う

「俺達は、Jの国の国王に恨みがあるんだが・・・・・・
どうだろう、あんたが本当にあの矢口なら、俺らと組んであいつらをやらないか?」
霧丸が一歩近づく

「悪いけど・・・・恨みつらみで私達は動いてる訳じゃないですから・・・・すみませんが失礼します」

集団の横を通ろうと矢口が手綱を操りだすと、髭面の男が銃で撃とうと手を動かしたので、
矢口は仕方なく力を使い、そいつの銃を持つ手を撃つ前に瞬時に切って馬へと戻った

切り下ろされた手に持たれた銃口から、男たちの方向へと銃が発射され慌てる男たち

慌てた男たちがシンとなり地べたで「ひぃぃ」と声が響く

だが、転げ廻る手を無くした髭男を、霧丸が冷たい目をして撃ち殺した
964 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 00:52
逃げる準備をするように矢口達は視線を合わせると
元々が一触即発の状態の山賊達だったのだろう
「何しやがんだてめぇ」
と死んだ男の仲間が霧丸へと剣を抜き掴みかかる

「お前らとは山賊としての格が違うんだよ、野蛮なだけなお前らとはな」

胸倉を掴まれても慌てる事なく落ち着いて言い放つ霧丸

「んだとぉっ、山賊にそんなのあるかっ、
いっ、いくらあのレオンの仲間だって山賊には違いないだろっ」

「俺らレオンはお前らとは違う」

冷ややかな視線で再び言い争っていた男に銃の照準を合わせ、怯える男を撃った

「くそぉっ、いいからやっちまえっ」

殺された男の仲間が暴れ出し、騒然としだしたので、矢口達は後方へと馬を走らせた

梨華や真希を先へと走らせ、
矢口や藤本と紺野は後方で争う男達に気を付けながらゆっくりと歩を進める

すると、霧丸とバンダナを巻いていた男が、矢口達の行く手に姿を表す

どうやら2人は族のようだ

「ちょっと待てよ、せっかく会えたんだ、少し話して行く時間位あるだろ」と言ってきた
965 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 00:54
後ろで争い続ける仲間達を止めようともしないで
自分達の所にやってきた2人に、矢口はこう言った

「仲間の事を大切にしない人と、何を話しても
おいら達と話が成立するとは思えないので、すみませんが失礼します」

すると顔を合わせた後、2人の姿が消え、騒ぎ出していた男達・・・・
さっき殺された男の仲間だろう男達を次々と切って殺していく

圧倒的な強さで静かにさせた二人は、自分たちの仲間に何か声をかけた後
再び矢口の前に戻って来て言う

「これでいいだろ、話くらいは聞いてくれ」

先に行かせた真希や梨華、ひとみと加護、辻は、遠くからこっちを見て止まっている

「どうする藤本、紺野」
「話だけ・・・・聞きますか?」
「ああ、だけど、今あなた達が殺した人達も仲間じゃないんですか?」

「いや、あいつらは俺らがいるここに後から乗り込んできて、
移住する人達とかをただ殺したいとか、女とみればただ襲おうとするとか
くずで腐れた奴らだったから丁度良かったんだ」

俺らがいなければ、この先の街へと移住する人達は無事ではなかったはずだと
プライドを覗かせるように、矢口を睨みながら言う

2人の仲間が、後ろで怪我した人達の手当て等をしたり、死人を片付けたりしている

「どうだ・・・・少し位話をしてみないか?」

そして、家に入るよう薦められるが、まだ信用出来ないと矢口は思い、外で話を聞く事にする
966 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 00:57
70人位になった男達と対面にして、矢口達は馬をそばにつないで座り、話を聞く事になった

右目を隠したバンダナの男は譲という名前で、生まれた時から山賊として育ったが、
Jの国の表の仕事と違う裏の仕事をさせられていたらしい

兵が殺せるのはあくまでも罪を犯した者達や、現行犯だけ・・・・というJの国の掟

王族や貴族の中で、いらない人物や、スパイの容疑者等、
自分達では手の出せない人達を、時々山賊を使って殺したりしているという

その報酬は金や物品、それを持って山に戻るという生活だったが、
最近のMの国とのいざこざで、譲達の存在がバレるとやばい貴族の人が
兵を使って山賊狩と見せかけ襲って来た事に腹を立てているらしかった

その際、ずっと育ててくれていた親代わりの人を殺され
仲間が半分になったと興奮ぎみに話した


一方、霧丸は元々Jの王都に住んでいて、もう10年以上昔の少年時代に
両親が族って事だけで殺され、自分だけでも助けようと命がけで
外へ放り出され助かったらしい

だが子供だったので生きる術がなく、空腹と空虚、死の恐怖から、
生きる為に盗みを繰り返し、とうとう兵隊に追われる身になって山に入ったという

そこで飢えて死にそうになった所を拾われた山賊の親方から、
戦い方を教わったり、食料のとり方を教わったりして山賊として暮らしていたらしいのだが
譲のように、親方が裏の仕事を任されるようになり、
やはり最近裏切りにあって、世話になった親方を殺されたようだ

ひとみ達は、王都でそんな事があっているとは全然知らない一般人だった為に驚く
967 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 00:59
矢口と紺野は藤本を見る

藤本は、Jの国の実情を話す際に、この話はちゃんと皆に伝えている
中澤と若林達にも、その事は話してあったが、ひとみ達には黙っていた

藤本は一応、少し前まで王都で暮らしていた為、その辺りの事情は噂で良く聞いていた

一見のんびりして見える城内で、
いつ狙われるか解らないJの国の王都の張り詰めた生活が゛嫌だったのもこのせい

事実1回襲われて、返り討ちにした事もあったという

「で、あなた達はどうしたいのですか?」

矢口の質問に、先程の言葉が帰って来る

「だから・・・・あいつらに仕返しがしたい」

強い視線で語りかけてくる


ずっと黙っていた紺野が、矢口に耳打ちすると、矢口は一度梨華に目をやる
既に梨華は力を使い始めていたので小さく頷く

そして、矢口は一度目を瞑り何かを決断すると、顔を上げて霧丸に向って言う

「私達は、世直しや王族達を殺す事を目的にしている訳ではありません、
ただ皆が幸せになれるように動いているだけです
だから、ただ仕返しするだけなら、私達とは会わなかった事にして下さい」

「ただの山賊の頼みはきけないってか、お前も一緒なんだよな結局」

馬鹿にするように言ってくる事に腹を立てたひとみが、何か言い返そうと動き出したが、
すぐに矢口が腕を握って止めた
968 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 01:01
「そう思うなら、そう思ってくださって結構です、
それではお力になれなかったという事で私達は先へ行きます」

矢口が立ち上がりみんなも立ち上がると、霧丸が立ち上がって銃を構えた
後ろの連中もズイッと立ち上がり銃を構えたり、剣を抜いた

藤本が梨華を、紺野は真希を庇うようにして、加護達が前に出て来る中、矢口が冷たい声で言う

「あなた方は自分の思い通りにならなければ、私達みたいな女でも殺す方達なんですね・・・・
それではあなた達も恨んでいる王族や貴族達と一緒って事
そんな人達は、そんな人達で争い続ければいい、
ただ、ここでみすみす殺される訳にはいきません、覚悟はいいですね」

矢口達全員の強い視線のあまりの迫力に、後ろの山賊達がたじろぐ
それを感じて霧丸が矢口を見下ろしながら銃を降ろした

「どうすれば・・・・俺達の恨みを成仏させられるんだ?」

霧丸が、切羽詰った顔をして矢口をじっと見る

「あなた達次第だと・・・・思いますが・・・・そうですね・・・・条件を出しましょう」
「条件・・・」

霧丸の表情が険しくなる

矢口が紺野に目をやると、ハッと感づいた紺野が地図を広げる
ひとみも何が始まるのだろうかと矢口の横顔を見ていた

「私達は、これから王族に会って、ここに川を作るように要請するつもりです、
この先の干ばつを止める為に、何か出来る事をと考えました」

「は?」

霧丸は目を丸くして固まり、後ろの山賊達もざわめく
969 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 01:03
間を置いて爆笑しだす山賊達

「おっ、お前ら馬鹿か、そんな事出来る訳ないだろうっ」

霧丸が笑いながら馬鹿にする


笑い声が響く中、ひとみは再び前に出て殴りださんばかりの勢いで歩き出す所を
矢口に腕を掴まれ止められる

「吉澤、怒る事はない、黙っていろ」
「だって悔しいっ」

矢口はそんなひとみに微笑む

「馬鹿にされると誰だって悔しい、
そんな気持をきっと霧丸さん達はいつも味わってるんじゃないか?」

「え?」

ひとみは矢口を見て止まる

笑い声の中霧丸と譲がその言葉のやりとりを聞いていた

「この人達は悔しいだけなんだよきっと、だけどさ、ここでお前がその人達を殴るのと一緒のように、
この人達が王族に対して復習するって事はきっと同じ無駄な事だ、
こんな事でお前を殺されたくないからおいらは止める、だからおいらはこの人達に協力出来ない・・・だろ」

ひとみはまたも矢口にやられたという思いを抱きながら下がった

それを見て矢口は微笑むと、再び梨華を見る

梨華は何も言わずに頷く
彼らの心境の変化を感じたようだ
970 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 01:06
笑い続ける男たちに向かい

「お前ら黙れっ、静かにしろ」

霧丸が叫んだ後、山賊達は静まった


「矢口・・・その川を作る事と、お前が国に戻って行く事と、何か関係でも?」

さっきまで笑っていた霧丸の表情は打って変わって真面目な表情をしている

「ある事を私達が行う事を条件に、
Jの国に川を作る為に働いてもらう人達への報酬を出してもらうよう交渉します」

矢口がこれからの作戦をこんな山賊に話す事にみんなは驚く、特に藤本は驚いている

山賊も目をぱちくりとしていて、霧丸と譲にも驚きの表情が見て取れる

「それで、俺たちへの条件って何だ」

霧丸が言うと矢口はにこりと笑って地図に指を指しながら説明しだす

「ここら辺一体の山賊を取り仕切っている根来集が、
この大きな湖の周辺いると聞いてますが、あなた達はその仲間ですか?」

「・・・・・・・ああ、その集団を・・・・・レオンと呼んでいて、
その中の小さな集団が俺達みたいな山賊だ」

「そうですか・・・・なら話は早いです。私達の条件というのは、
はるか遠くにあるというその大きな湖から水を引く道のりでの工事の際、
山賊やはぐれの族達に妨害されないように話をつけてきてくれれば、
あなた達を騙して襲ってきた人を特定し、
その人達と話をさせてもらえるよう交渉の条件に付け加えましょう」

そこで文句があれば、文句を言えばいいじゃないかという事だった

「こんな所で、ぐちぐち言って過ごすより、その本人ときちんと話をする事が出来れば、
殺された親方だって少しは浮かばれるって事ではないでしょうか」

そう締めくくった矢口の提案に、霧丸と譲はしばらく黙り込んだ
971 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 01:11
なんだか大きな組織の山賊の根来集がいて、湖の番みたいな事をして王族とよく衝突している集団がいると
若林と安倍から聞いていた

そこの大将は昔、自分達と共にJの国と戦ったが、矢口真之介の逃亡と色々な揉め事によって
仲間割れを起こし姿を消した男と教えてくれた

「あんた達、今日はここに泊まってってくれ、明日の朝に返事をしよう・・・・どうだ?」

矢口は皆を見てから最後に梨華に視線を止める
梨華は大丈夫そうだと小さく呟いた

「そうですね、私達も最初ここに宿泊するつもりでしたからかまいせんよ、
では明日の朝という事で、良く考えて下さい」

それで私達はどこの家を貸してもらえるのかとたずね、今死んだ人達のいた家を二軒貸してもらえた

しかし、一応危険かもしれないので一軒に8人で泊まる事を言い、一番端の家を借りる事にした



入ってすぐに藤本が矢口に言う

「大丈夫ですか?あの人達に計画をバラしちゃって」
「大丈夫っしょ、な、石川、悪い人ではなかったんだろ」

「ええ、そんな悪いことした過去もなかったし、
山の中でみんなで仲良く暮らしてる感じでしたから、言っていた事は本当かなって」

どうやらレオンとは、中澤達がはぐれの族や山賊と呼ばれる人達を集めて
集落を作った事と同じ様な理由から組織を作っている集団のようだ

しかし、中澤達の資金源は新聞だったりするが、
今の所その湖の近くの集団がそういう事をしている形跡はないし、
とにかくお金は持っているらしいという噂だった




それからすっかり力を使いこなせるようになった梨華に、
藤本もひとみも加護達もすごいなぁという視線を梨華へと向けていた
972 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 01:12
「それにしてもさすがやぐっつぁんだね、お見事って感じ」
「な・・・何がです?」

恥ずかしそうに真希を見ていた矢口に

「いや・・・・・すごいなぁって」

真希も少し照れたように矢口を見ていた

ひとみはその様子を見ないように荷物の整理をしだし、
紺野は口をいつ出そうかと口をパクパクさせていた

「何?紺野」

真希が紺野のその様子に気づき、面白そうに尋ねる

「あの・・・・もし、あの人達が協力するって言ったら・・・・
私・・・ついていってもいいですか?」

「えっ・・・何で?」

慌てる真希をよそに、矢口は困ったような顔をして、一度考え込む

「あの・・・・・この地図ではわかりにくい地形とかあるなら、
計画通りいくのか・・・ちゃんと目で見ておきたいなぁ・・・と・・・・思っ・・・・て」

心配そうな真希の視線に絶えられずに、だんだんと小さな声になっていく紺野

その頃何かひらめいた風な矢口は、その様子に微笑み
紺野は本当に優しい人なんだと再認識していた
973 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 01:15
「実はごっつぁん・・・・おいらもそれは考えてて、
出来ればここで二つに分かれて行動するのもいいかもと思い出してたんです」


「やぐっつあん」「「「矢口さん」」」「「親びん」」

みんながまた始まったとでも言いたそうに名前を呟く

「また始まったよ・・・ちびの思いつきが」
「ほんとほんと、計画もあってないようなもんだからね、矢口さんの場合」
「うん、でも結局うまくいっちゃうんだよね、それで」

ひとみと藤本と梨華の言葉を聞いて、真希もふぅっと息を吐いて観念する

「一人じゃ行かせないでしょ、もちろん」

紺野を心配そうに見ながら真希が矢口に聞く

「そうですね、8人いますから4人ずつって事なら少しは安心でしょう」

真希は頷く、じゃあ、どう分かれるの?となり、矢口は藤本に意見を求める

「美貴が行きたい所なんですが・・・・王都には美貴が行った方がいいでしょう?」
「ああ、それに石川も出来れば王都組に欲しい」

ひとみは自分かなと思って言おうとした所に

「じゃあゴトーが紺野について行ってもいい訳だよね」

突然言い出した真希に、紺野は戸惑った表情を見せるが、
やはり真希がついて来てくれるのは素直に嬉しいらしく笑った

「親びん、ののとウチもこんこんについてきますわ、王都とか堅苦しい所はあんま行きたくないし、
どうせまた後で会えるんやし」

「じゃあ、決まりか、紺野の方にごっつぁんと加護と辻、
おいらの方に藤本と石川と吉澤・・・・でいいか?」

矢口は紺野の瞬間の判断力の弱さを真希がカバーし、加護達がきっと真希を守る事が出来ると思った
974 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 01:17
しかし

「ごっつぁん、でもそっちは随時野宿とかになりますよ、平気ですか?」

矢口が聞くと、真希も笑う

「あは、ぜんっぜん平気、紺野やあいぼん達がいれば平気でしょ」

笑いあってうなずくと、霧丸達の返事次第で分かれる事に決まり、
その条件が受け入れられない時には当初の計画通りみんなでJの国へ行く事になった

みんなでわいわい食事の準備をして、
明日からの食料や水は紺野達にほとんどやる事にするなど話しながら食事を楽しむ

霧丸達も話し合っているのだろう、遠くの家から話し声がいつまでも聞こえていた


矢口はひとみ達にも、自分達の作戦を事細かに説明する事にした
今までは全員一緒にいる為に、王族付きトリオでその都度判断していこうと
伝えていなかった事も多かったのだが、分かれるからには、
少しでも何かあった際の判断する材料になればと全員に同じ情報を与えておくように考慮したのだ

思わぬ交渉のカードがもう一枚手に入ったという事で、藤本と矢口は思案していた
王族・貴族の腹の探りあいに一石を投じる、霧丸と譲という名前を手に入れた事も、
もしかしたら大きいのではという事だった

話が終わり頃になると、ひとみは一人、外に出かけて行った

どうしたんだろと心配する梨華だったが、
矢口が剣を振りに行ったんだよというと、さらに心配そうに言う

「まだ山賊の人達起きてますよね、大丈夫かなぁ」

「まぁ、見た所、あの霧丸って人と譲って人以外は人間だし、
あいつは前とは違いかなり強くなってる・・・心配ない」

そう言って藤本と紺野と、再度確認の為と話の続きを始めた
975 名前:dogsU 投稿日:2007/05/13(日) 01:19
それも一段落した頃、そろそろ寝ようかという矢口に、
外の気配を一生懸命気にしていた梨華が心配そうな視線を投げかけた

矢口がそんな梨華に頷くと外へ出て行った

10軒程ある家のはずれの真っ暗な木々の中で、やはりひとみは一人剣を振っている

「夜中も困るけど・・・・・石川が心配してっぞ」

いつものようにポケットに手を入れてそばの木にもたれかかって言うと、剣を鞘に納めてひとみが言う

「・・・・・解った」
「今日はいいのか?教えなくて」

珍しく大人しく言う事を聞くひとみに笑いかける

「ん、まあ・・ね、それより明日は別れる姫と、
色んな話しとかなくていいのか?ウチなんかに構ってないで」

「ああ、みんなもう寝る準備しだした、
いつものように今日は夜中にお前に起こされないからたっぷり教えてやれるのに」

「・・・・・・・」

何も言わないひとみに、くすっと笑って矢口が言い出す

「今日、久しぶりにお前らしい所見たな、すぐカッとなって、
でも助かったよ、あれで効果的に話す事が出来た」

「そんなの考えてた訳じゃね〜から・・・・まだまだダメだなウチは」

唇を結び、引き返そうとするひとみに、矢口は優しく声をかける

「お前はすげーよ、落ち込む事じゃない、また頼むな明日から」
「ああ」

仏頂面で短く返事をして戻っていく背中を、矢口は暖かい目をして見ていた
976 名前: 投稿日:2007/05/13(日) 01:19
今日はこのへんで
977 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/13(日) 20:08
更新お疲れ様です。
一体どうなるの?って感じですね。王都も山賊も大変そう(笑)
皆の活躍を期待して次回もお待ちしてます。
978 名前: 投稿日:2007/05/20(日) 00:10
977:名無飼育さん
どうなるんでしょうか?
自分が一番不安です。
レスありがとうございます。
979 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:13
翌日、その条件をのんだ霧丸達に、紺野と真希、加護と辻はついて行く事になった


「加護・辻、解ってるな、ごっつぁんを頼んだぞ」

「「へい親びん」」
ビジッと二人並んで敬礼し、ニシシと笑って緊張感の欠片もない

微笑みながら矢口は一息つき、今度は紺野に視線を向けると

「後藤さんの事は、矢口さんの代わりになるかわかりませんが、絶対に守ります」

とその視線に、紺野が力強く答える

「うん、頼んだよ、紺野」
「はい、命に代えても」

がっちりと握手を交わし微笑みあう



地図を渡して、じゃあ十日後にJの国の王都の城の前でと紺野に念を押した

ここから川の主水源となる湖へと向かい、
川を引く道沿いを下ってくるという行程を、三人でおおよその予想から期限を決めた



「じゃあやぐっつぁん達も気をつけて」
「ええ、ごっつぁんも」

真希と矢口が視線を熱く絡ませ、互いに頷き合った後
紺野達はその山賊らと山へと入っていき、それを見送った後、矢口達も道を進んだ
980 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:14
なんか急に人数が半分になると寂しいという梨華に、藤本もそうだねと答える

途中二度程山賊に遭遇する
誰も今まで移住する人達が襲われていないというのは、どうやら間違っていて、
なかには襲われてしまった人もいたようだ

だいたいの目的が、食料とか女子供の体目当ての様なので、すぐに矢口と藤本が相手をし、
一度はひとみが自分にやらせてと言いだしたのでまかせると
一人で五人をあっという間に倒してしまった

「ひとみちゃん・・・・すごい」

驚く梨華、実際にひとみの戦う姿を見たのははじめてで、
毎日訓練する姿と同じ綺麗な身のこなしで次々と山賊を倒した事に目をキラキラさせていた

藤本が、少し不服そうな顔をするが、あえて何も言わなかった


前は二日掛かってたどり着いた小さな小屋にも、馬のおかげで夜には着いた

「今回は野宿が少ないなぁ、やっぱ馬のおかげだね、でも次のお前らの町でも目立つよなぁ、どうする?」
「目立ってもいいっしょ、目立つ為に行くようなもんだし、今更隠れてもしょうがないでしょうしね」

藤本が矢口に答える

その時、梨華がひとみを見て少し不安そうな顔をしていたのが矢口と藤本は少し気になった
981 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:17

今日は四人で食事の準備をして食べる

明日は元々住んでいた梨華達の家に、人がいなければ泊まり翌日には、次の町へと、
そして、予定通り作戦がうまくいけば次は王都へと着くだろう

矢口がこっちに来た際は王都は通らずにまっすぐMの国から来た為、
ひとみ達のいた町から先は藤本しか知らない町となる



山の中で誰の目を気にせずに食後ひとみは剣を振り続ける

連日の宴会に、少し運動不足も重なり、体が動かないといけないから、
藤本が相手してやるかと力を使ってひとみに攻撃を仕掛けた

動きまくる藤本を相手に、一人で踊っているようにくるくると動くひとみを、
矢口と梨華は少し離れた場所から座って見ている

「もう藤本の事も見えるんだろ、石川」
「ええ、見えます」
「そか、なら安心だ、それにお前の力もパワーアップしてるみたいだしな」

感心する矢口に、梨華も微笑む

「はい、美貴ちゃんのおかげです」

嬉しそうに美貴の動く姿を見ていた
982 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:21
成長し続けるひとみの動きを見ながら微笑む二人だったが

「余計な感情が入って来てつらくないか?」

ふいに優しく矢口が聞くと

「いえ、入らないようにする壁の作り方もかおりさんに教えてもらったし、
そんな時は美貴ちゃんが楽しい事考えてくれるから、平気なんです」

「へぇ〜、いいなぁお前ら・・・すっかりラブラブなんだな」

照れる梨華に、羨ましい視線を浴びせる矢口

「矢口さんだって・・・・ちょっと素直になれば・・・・・」

そこまで言ったら、梨華は言葉を飲み込み
それを見た矢口は、そうだった、ここにも自分とひとみが、そういう事になる事を望んでいる人がいるんだと苦笑した


「すみません」
「いいよ、別に・・・・でもあいつ・・・・もうおいらの事なんて愛想つかしてんじゃね〜かな」
「そんな事絶対ないっ」

ふらっと口にした言葉に、梨華はキンキン声で速攻否定した
いきなりの声に、ひとみと藤本が止まってこっちを見たが、
矢口と2人で何でもないと手を振ると再び訓練を開始した


「そう怒るなよ、でも解んね〜じゃん、人の心なんてさ」
「私は解ります・・・・あ、力は使いませんっ、こんな時は絶対」
「あ〜、それは解ってるけど・・・・」
「・・・・・・・・・でも解ります」
「・・・・・・・・・」

口を尖らせて梨華はひとみの姿を見ていた
983 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:23
複雑な心境の矢口も二人が剣を合わせているのを見続けたが、

しばらくすると

「ねぇ矢口さん?」
「ん?」
「一言だけ・・・・言わせてもらっていいですか?」
「な・・・・なんだよ」

内心ドキドキしながら矢口は梨華を見た
梨華は、真剣に、そして優しい目で矢口を見つめていた

「ひとみちゃんは、意地で強くなろうとしてる訳じゃありませんから」

そう言ってから、また少しぶすくれた表情でひとみの方へと視線を移した

「・・・・・・・・・・」

どうすればいいのだろう、矢口は本当に迷う、梨華が言う事が本当なら、
このままそばにひとみを置いておく事は、あいつにとっていい事なのか悪い事なのか

ひとみが自分を好きだと言った事が本当なら
じゃあ、鷹男との事は何なんだろう、やはりひっかかるのはそこだった

確かにひとみは自分の中で特別な存在になっているのだが、
これがひとみを好きだという事なのか、まだ確信が持てないのだった

それに・・・・

自分のそばにいて幸せになれるのだろうか・・・・と

一人考えこんだ矢口のその横顔を、梨華は心配そうに伺った
984 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:25
そこへよろよろと二人の影が近づいてくる

「いやいや、よっちゃんってまじ凄い、絶対嘘だよ、人間でこんなに強いの」

へとへとになった様子で矢口達のもとに歩いてくる藤本

「フフン」

ひとみが藤本を上から偉そうに見る

「まぁ、美貴が本気出せばすぐやっちゃうけどね」
「あっ、それ言うんだ、くそっ、見てろよ」

ひとみの体に火をつけそうになる前に矢口が言う

「おいっ、藤本、あんま余計な事言うな、これ以上安眠妨害されたくね〜だろ」
「誰が安眠妨害だよ」

ひとみが近寄って矢口の上から睨みつける

「お前だよっ、今日はもう気が済んだろ、もう寝るぞ」

矢口も立ち上がり下から睨みつけ腕を組む


なんだかんだ言って、仲いいんだよね、この2人は、と藤本は梨華の手を引いて中に入って行った

985 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:26
2人きりになる前に、ひとみも「ちび」と呟き後を追う

昔こんな事あったなぁなんて思い出しながら、矢口は動き出す
クスッと笑いながらも矢口が後ろから蹴りを入れようと飛んだ所で、
ひとみがそれを読んでいたように避けた

「けっ、いつまでもやられると思うなよ、ちび」

あかんべをしてニヤリと笑った後、ひとみは部屋に入っていった


一瞬驚いた矢口は、プッと噴出してがら大笑いして、
中へと入り皆が布団に入る横に横たわる




そばにいればそれでいい、やはりそんな関係が心地よかった


986 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:27





987 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:29

一方、霧丸達についてった紺野達は、野宿している

道々真希が霧丸と話しをして、矢口が言うように悪い人ではないと感じ出していた

ただ、これから会う事になる根来集の親方は、
ものすごく恐ろしい人であるという事だけはしつこい程言われた

ここら辺は正確には親方のテリトリーではないが、
王都の奥の方一体は、レオンと呼ばれる山賊達が仕切っていて他にはぐれの山賊はいない

もしいれば、仲間になるか縄張りから出て行くか・・・・
荒らすような事をすれば死・・・・という事らしい

バラで動く少人数の山賊やはぐれの族は、
町の女や男が目的だったり欲望のままに動くのが一般的だが
組織的に動く自分達のような山賊は、
だいたいその親方の許可を得て行動しなければならないそうだ

それで、霧丸達は一度兵から狙われた為に少し遠くに離れておけと言われあの場所にたどり着いたという

その為、今そこへ戻る事は、その親方への反逆とも取れる行為で、
もしかしたら自分達の命も危ないかもと教えてくれた

なら何故戻るのかと真希が言うと、
やはり自分達を利用してバカにした奴らを見返したいという気持がみんなの中に強くあったと漏らす

それほど、それぞれの親方の事を慕っていたという事

紺野もそれを聞いて、難しい顔をしていた
988 名前:dogsU 投稿日:2007/05/20(日) 00:30


紺野の中にはすごい重圧が押し寄せている



矢口のように始めて会った人の心を掴むような事は自分には言えそうに無い

自分が言い出した事なのだが、真希を連れて、
そんな恐ろしい人と会うようになったが本当に大丈夫なんだろうかと

大所帯の山賊と共に岩陰に身を寄せる四人

加護と辻は、
こんこん大丈夫、ウチらがついてる 
と何故か声をかけて勘太に抱きついてすやすやと眠ってしまった

良く聞くと同じ歳だったこの2人は、年下じゃなかったのにも驚くが、
何より、訳が解らない所で頼りになる所がすごいと思っていた


そんな紺野の手を横で寝ていた真希がそっと握って来た

「ゴトー・・・結構頼りになるよ・・・・一人で背負い込まないで」

そう言ってギュッと手を握った後、目を閉じて行った

「はい」

そう言って一度息を吐くと、紺野も眼を瞑る




きっと大丈夫、きっとうまくいく・・・と
989 名前: 投稿日:2007/05/20(日) 00:31
今日はここ迄
990 名前:dogsU 投稿日:2007/05/26(土) 00:03
ひとみ達が元住んでいた町に着いた

やっぱり噂に聞いた通り、人が少ないような気がしていた

昨日今日と、ここから移住していくような民間人にはすれ違う事は無かったが、
道々荷車が準備されている所があったりするので、そのうち本当にここの街は無くなってしまいそうだった

そんな中、馬に乗った四人が町を歩くのはとても目立つ存在で、中には指を指して見ている人もいた

「やっぱ目立つなぁ、前はこっそり出て行けたのに」
「知り合いとか、多かった?梨華ちゃん」
「う〜ん、私はそうでもないかも・・・・患者さん位」

俯く梨華は、ちらりとひとみを見る

矢口と藤本は、私は、という言葉から、ひとみは多かったのだろうかと二人は思ったが
どうしてなのか解らないが、今は聞けなかった


兵隊達が詰め寄って来る事もなく、無事にひとみ達の家に到着した
というより、兵自体もうこの街にはいないのかもしれない

窓ガラスは割れたままで、誰かが乱暴に空家と紙を張っている
中を覗くと出てった時のまま放置されているっぽい

馬四頭を裏に連れて行き、餌を食べさせる

梨華はなつかしそうに裏から入ると、早速埃だらけになっている部屋を片付け始めた

ひとみも見回して微笑むと、割れた窓に何か張らないと、と二階へ行き布切れを持って来る
991 名前:dogsU 投稿日:2007/05/26(土) 00:06
上も埃だらけだよ、とひとみが梨華に言うと、
洋服着替えようと嬉々として二階へ行った

降りて来た梨華は、スカートを履いて来たのでいつもより女の子らしく見える

特に藤本はそんな梨華に釘付けで、その後ちょこまかと掃除する梨華を、口を開けてずっと見ていた
そんな藤本の頭を軽くどつき、矢口はおいら達も片付け手伝おうと笑う

そこへ、人が駆けてくる音と共にドアがバンッと開けられ、
瞬時に警戒した四人は身を伏せ銃を構えた

入って来た女は驚き一瞬固まったが、ひるみもせずに窓のそばのひとみを見つけると
嬉しそうに駆け寄って抱きついた

勢いが凄すぎて、さすがのひとみも支えきれず後ろに倒される程

「ひとみ〜っ、もうっ心配したんだから〜っ」

矢口と藤本は、目をぱちくりとさせて銃を構えたまま、ひとみに抱きついた女を見ているが、
梨華はしまったぁという顔をしていた

「って〜よサエ、でも、元気だったか?」

座ってしまっても抱きつかれ、後ろに寝転がったひとみがサエと呼ばれた女を立ち上がらせて
自分もお尻の汚れを払いながら立ち上がる

立ち上がり、体を離させられたサエはキョロキョロとして梨華を見つけ手を振る

「あ、梨華もいる、おひさ〜、この人達は?お客さん?帰ったばっかなのに人気だねぇ〜」

その頃銃をしまった2人は立ち上がって、手を振るサエにペコリと頭を下げる

「違うよ、今一緒に旅してる仲間、それに帰って来た訳じゃないから」

ひとみがうざったそうに言うと、再びひとみに抱きつき甘えた声を出す

「え〜、何でぇ〜っ、せっかくまたひとみと付き合えると思って嬉しくて飛んで来たのにぃ〜」
「ばっ、ばかっ、ちょっ、外に出て話そっ」
992 名前:dogsU 投稿日:2007/05/26(土) 00:08

2人は口を開けたまま、ひとみが出てったドアを見る

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねぇ、梨華ちゃん」

藤本が唖然とした表情のままぼんやりと梨華に聞く

「は・・・・はい?」

ビクッとした梨華が台所を背にして台の上に載せた手を落ち着きなく動かす

「よっちゃんって・・・・遊び人?」
「・・・・え・・・・いや・・・・・その・・・・・」

梨華が矢口にちらりと目をやりながら、藤本に首を振る

「・・・・・すげ〜な、あいつ、他にもいっぱいあんなのがいんの?」

矢口が今度は梨華に笑いながら聞いて来る

「さぁ・・・・いないと・・・思いますけど」



梨華が目を逸らして小さな声で言うと、ひとみがため息をついて入って来た

「おうっ、男前っ、今日はここで泊まるんだし、久しぶりなんだからさ、遊んで来てもいいぞ、何もする事ないし」

矢口が笑って言うと、ひとみの胸に小さな痛みが起こる


やはり馬に乗って帰って来た事は、かなり目立っていたみたいで、それからひとみを尋ねて来る男女が四人来た
993 名前:dogsU 投稿日:2007/05/26(土) 00:10
その度に、外に一度連れて行って何か話しては、バツが悪そうに戻ってくる

梨華の様子も見に来るおじさんやおばさんも訪れるが、
それは患者さんって感じで、梨華も久しぶりと世間話をしていた

この町も、兵達が急に少なくなり、それに漬け込む人も増えたから最近物騒だとか、
自分たちは王都に移ろうと考えているとか
どうやらMの国と何かあるらしいと新聞に書いてあったよと教えてくれたり
この矢口って子と仲間達はすごい子達だねぇと世間話に花が咲く

その新聞に載っているのが自分達の事とは思いもしないようだ

近くで笑って話を聞いている小さな女の子の事も梨華の患者と思っているのか
世間を騒がせている矢口とは知らずに話し続ける

梨華とひとみが、特殊部隊に何かして、追われる身になった事は知っているようで、
兵隊が少なくなった事を知って戻って来たんだろう・・・・と
その程度の感覚で話に来ていた



夕方になるとやっと誰もいなくなり、矢口が口を開く

「お前ら、なんか人気者だったんだなぁ、この町で」

椅子に座って両肘をついて手に顎を乗せて微笑んでいる

「そんなんじゃね〜けど」

ひとみが言いよどむと何も話さなくなる

梨華と藤本が料理を運んできて、そんな2人の様子を伺った

「さ、食べましょ食べましょ」

藤本が明るく言うと、そうだなと矢口も手を合わせて食べ始める
994 名前:dogsU 投稿日:2007/05/26(土) 00:12
ほとんど食料を真希達に渡してしまっていたが、
バツが悪かったのか、ひとみが買い物をして来たり、
梨華達のおかげか、食べ物を持って来てくれる人がおり、食卓には豪華な食事が並んだ


「いやぁ、こうやって暮らしてたんだなぁ、お前ら」

矢口がにこにこして梨華を見ている


梨華はちらりとひとみの様子を伺うが、何も言う事は出来ない

「ここで暮らした方がいいかもな・・・とでも言うんじゃね〜だろ〜な、自分でここに転がりこんで連れてったくせに」

ひとみが無愛想に呟くが、内心しまったと思っていた

・・・・・・・・・・・・矢口がまた考え込んでしまったから

「矢口さん・・・さっきおじさんが言ってたみたいに、
ここもどうなるか解らないんです、それに真希ちゃんや紺ちゃんとも」

慌てて言う梨華に全部は言わせなかった

「解ってるって、おいらだって2人がいなくなっちゃ困るんだから、ついて来てもらうけど
・・・・でもさぁ・・・ここでお前らがこうやって暮らしてたって想像出来て、
なんか楽しいじゃんか・・・・石川を頼って話に来る人達や、
吉澤を慕って友達が訪ねて来てくれるこんな生活・・・・」

にこにこと梨華に語りかけると、梨華も矢口にやっと微笑みを返せた


しかし藤本は、ひとみを睨んでいた

ひとみを尋ねて来る人達は、友達ではないんじゃないかと・・・・・
今までは一途に矢口を思っているひとみしか知らなかったので
こんなにふしだらな奴だったのかと少し腹を立てだしていた

しかも矢口は、鈍いのか何なのか、友達とかいって喜んでるしと、矢口に変わって睨みつける
995 名前:dogsU 投稿日:2007/05/26(土) 00:19

「おいらが壊しちゃったんだよなぁ〜」
「だから、矢口さんっ、私達矢口さんに会えて良かったってほんとに思ってますから」
「ん・・・・そう言ってもらうと助かるよ・・・」

少し悲しそうな顔になった矢口に、ひとみは胸騒ぎがしてならない

「よっちゃん、終わったらまた訓練するんでしょ、どっか人目につかない場所ってあるの?」
「ん、裏に少しいったらある・・・何、今日も付き合ってくれるの?」
「うん、もちろん、今日は気合入ってるよ」

藤本の目が少し怖かったひとみは、戸惑いながらも食器を片付け、裏から出て行った

なんか変だなと言う矢口も、片付けを始め
梨華がちょっと離れた場所に流水場があるから水汲んで来て体でも拭きましょうかと言い、
2人はバケツを持って水場へと向う

バーニーズを出てから風呂には入れていなかったが、体だけでも拭けるのは嬉しい

飲み水は、勝田達からもらった分に、水場でちょこちょこ汲んだり、その時に都度体を拭いたりしてるのだが、
やはり体くらいは綺麗にしたい

出かけた道々で、ここの干ばつも進んだ感じがすると梨華が言い、
水を求める人達の行列に並び、やっとたどりついた水場の水の出方も前の半分位しか出ないようだ

その上、やはり水は貴重なので、お金がいるという。
一応、公衆浴場があるにはあるが、あまりに高い為になかなか入浴なんて出来ないし
ひとみと梨華が矢口達に連れられる前の時より、そうとう高い値段になっているので、
移住しようとする人の気持ちが汲み取れた

えっちらおっちらと水を運んで来て、梨華が奥の部屋で体を拭いている時にも、人が尋ねてきた。

銃を後ろ手に持ち、矢口が慎重に開けると

「あれ、ひとみが帰って来てたと思うんだけど」

唐突に、男が話し掛けて来る
996 名前:dogsU 投稿日:2007/05/26(土) 00:20

「あ、今出かけてますけど、何か?」

兵隊ではなくて矢口がほっとして言うと、

「じゃあ、いいです」

と去って行った



テーブルに座って天井を見上げる
本当にもてるんだなぁ、あいつ・・・と口を結んだ

さっきはああ言ったけど・・・・このままここに置いて行ってあげた方がいいのだろうか
もう特殊部隊から追われる事もないのかもしれないと考える

しかし、今あいつらがいなくなるのは、やはり寂しい

梨華がここに残れば、藤本も離れないだろう



はぁ〜とため息をつくと梨華が戻って来た

「誰か来ました?」
「ああ、吉澤を訪ねて男の人が来た」

矢口が笑うと、梨華が弱った感じで言う

「あの・・・矢口さん・・・・・前も言ったけど・・・・・ひとみちゃんってモテてて・・・・
でも、矢口さんに会って本当にひとみちゃん変わったんです」

「ん・・・・いいよ、別に・・・・あいつがもてるの解るから、それに石川が気を揉む事じゃないよ、ありがと」
「でも・・・・」

なぜ矢口は妬いたりしないのだろうと梨華は困る

やはり矢口自身が言ってるように、矢口の気持が解らない

絶対矢口はひとみの事を好きだと思うのにと

「おいらも体拭いて来るよ、あ、誰が来てもドア開けるなよ」

そう言って奥へと消えて行った
997 名前: 投稿日:2007/05/26(土) 00:31
この辺で今日はやめておきます。

なんだか中途半端な感じがする上に、これ迄2スレも使って、ただただ長い駄文を

載せてしまったりして、申し訳ない気持ちで一杯です。

もし良ければ、またどこかの板に続きのスレをたてさせていただきたいと思います。

終了迄の文の量等検討しながら慎重にスレを立てる事にしますので、

もし、まだ根気強く読んでいらっしゃる方がおられれば、今しばらくお待ち下さい。

最後に、つたない妄想話にレス頂いたり、ここ迄お付き合い頂けたりと

本当に感謝です。ありがとうございました。

998 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/26(土) 03:42
私は長編大好きです。
無理に短くまとめようとせず、存分に書きまくってください。
今のJ国、M国はもちろんF国やH国にも行ってみてもらいたいし、
吉澤の正体や本当の敵の正体など複線も楽しみです。
何なら新キャラ増やしてでも続けて欲しいです、楽しみにしています。
999 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/26(土) 09:46
長いのがいいか短いネタみたいなのがいいか、何にしろ人それぞれですし
私はどっちも好きなのでむしろこちらこそありがたいです
次スレゆっくりお待ちしてます
1000 名前:977 投稿日:2007/05/26(土) 23:30
根気強くもなにもめちゃくちゃ楽しんで読んでますよ。だっておもしろいもんw
次スレも楽しみにしてますね。マイペースで更新してくださいな(^ー^)
1001 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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