10年目のメッセージ

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 18:23
あやみきです。
よろしくお願いします。
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 18:24
そしていきなりですが、タイトル外の話を。
旬なので許してください。

 
3 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:25

「もー観念しなって」
「やだよー、いーじゃん本番でなんとかなるって」
ぎゅうって抱きしめたアタシの腕の中、ひたすらじたばたするたん。
んーなので逃がすわけないじゃん、アタシが。
「アタシは仕事に妥協しないの!」
アタシの完璧好きは知ってるよね。
妥協したくないのはアンタだって同じでしょ?

念願の二人ユニット。
シングル一枚目は映画ありきの企画もの。
だから勝負はこの二枚目なんだよ!
「だいたいさー、キスシーンとかさー、狙いすぎなのさー、どうよ?」
「どうよじゃないの。狙うんだよ。ガンガン狙ってんのっ」
誰を。
何を。
ぶつぶつとたんのぼやきは止まらない。
4 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:26

PV撮影前夜、アタシんちにてお泊り会。
PVのラストはキスシーン。
そんなの出来ないとか文句たらたらなヤツに一喝。
渇入れのため。

練習しよう。

ハンディカメラも準備オッケー。

頭抱えてる腕を無理やり解いて、ぐりっと上を向かせる。
文句言う隙も与えず強引に唇を重ねた。
とたんに腕の中が、ほやん、と大人しくなった。
ちゅっちゅ、と音を立ててキスを繰り返す。
これくらいならテンションあがってるときにはする。
だけど今回はそれじゃだめ。
もっと本気のえっちぃキスを見せなきゃだめなんだ。
 
5 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:27

「観念した?」
「ん…まあ」
顔を離すとぼんやりと見上げる緩んだ顔。
ちゅーしたら大人しくなるんだよね、この子。
「みーきたん。いい?」
「ん。いい」
「カメラ回すね」
離れてくれないたんを引きずるようにしてカメラのスイッチを入れる。
「曲流す?」
「いい」
ふるふると首を振ると、ふわふわの髪がゆれた。
かわいいな、と思う。
TVで見るときつい目のキャラなのに、アタシの前では結構素直で女の子だ。
ゆっくりと髪をなでる。
嬉しそうに細められた瞳に、胸が騒ぎ出した。

いいんだけど。
このまま雰囲気作ってけばいいんだけど。
どきどき、する。
 
6 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:27

「みきたんはー、普通でいいからね」
「普通?」
「うん。アタシのこと大好きーって顔してて」
「うん、普通だね」
えへってめちゃめちゃかわいい顔してくれたりして、コイツ。
普段ならキショイ、の一言で切り抜けるどきどき。
今は、切り抜けちゃだめってのがつらい。
「じゃ、いくよ」
ごく。
一度目を閉じて心を落ち着かせる。
…なるべく、えっちぃキスを。
その先を予感をさせるキスを。
ちゅーじゃなくて、キスを。
 
7 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:28

ゆっくりと目を開く。
マジ顔で至近距離、見つめる。
たんもいつの間にか緩んだ顔ではなくなっていた。
甘い表情に、取り込まれる。

細いあごに指を添える。
視界に入るのは、同じ色に塗られた唇。
引き寄せる指の動きに、誘われるように顔を寄せてくる。
ゆっくりと閉じられるまぶたを最後まで見届けて。
 
8 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:29



…深く重なる唇。


 
9 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:29

柔らかい感触。
この子と感触を味わうほどのキスをしたのは初めてだった。

隙間なく唇を絡める。

音を立てて吸い付く。

ゆるゆるとした動きに。

ゆるゆると熱が上がる。
 
10 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:30






 
11 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:30

は…

お互いの肩に顔を押し付けあって、ぼんやりと支えあう。
ちょっと…やりすぎた。
今のはやりすぎた。
そもそもPVでは寸止めだから、ホントにする必要はない。
ただ、寸止めだと思うと絶対直前がぎこちなくなるから。
ちゃんとした雰囲気を作りたくて、本気キスをしようって思っただけだったのに。
本気、すぎた。

…『本気』になっちゃった。

カモ。
 
12 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:31

「亜弥ちゃん」
「ん、あ、な、なに?」
ってアタシ動揺しすぎ。
「もっかい、するぅ?」
「ええっ?」
な、ななな、キス?もっかい?
何言ってんのこの子っ。
し、したいの?
まさかこの子も『本気』だったりすんの?
それってそれってそれって
「…美貴もー眠い」
「っ――はあ?」
「れんしゅーもういいじゃん」
あ、ああ。
ああ、そうね、そう。練習ね。
そうだ。そうだったそうだったわ。
「そうだね、うん。あとは明日、あの、いい練習なったでしょ?雰囲気わかったよね」
「うん。大丈夫だよ」
 
13 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:32

PVの出来は上々。
スタッフさんにまでお前らやりすぎとか言われるくらい上々。


部屋に帰って、今日は一人。
テーブルには出しっぱなしのハンディカメラ。
そういや昨日せっかく撮ったのに結局見なかったな。
アタシどんな顔してたんだろ。
PVではかなり男前な顔してて満足したけど、昨日は結構どきどきだったし。
ホント練習しといて良かった。
そうじゃないとあれだけ余裕の顔は出来なかったわ、絶対。

ちょっと緊張しつつカメラをTV画面につなぐ。
 
14 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:32

『曲流す?』

あたしの声に返事するたんは、ちょっとぼんやりしている。
準備万端、向き合って精神統一しているアタシ。
ぼんやりしていたたんも表情を引き締める。

ゆっくりと重なる唇。

…けっこう余裕ない顔してんなあ、アタシ。
たんの方が普段通りって言うか…てか、これ…エロ。
音とか、やばくない?
一人でこれ見てるってなんか…。

…。
も、もういっか。撮影は終わったんだし。うん。

停止ボタンに指を乗せてリモコンを向けて。
 
15 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:33

「え?」

手が止まる。

目が、合った。
画面の中の、たんと目が合った。
閉じていたはずの片目が薄く開いている。
アタシにむさぼられてる唇がにやりと吊り上る。
小さくピースサインを作って。
その手をアタシの体に回す。

『は…』

ため息をついて髪に顔をうずめるアタシを、そっと抱き寄せるたん。
にやにや笑いのまま、カメラに向かって片目を瞑ってみせる。
 
16 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:34

な、にこれ…。
今この子何した?
余裕ないアタシにキスされて。
抵抗もなかったけど、積極的な反応もなかった。
ただ受け入れてるだけだった、のに。

ど、いうこと?

練習しようって言ったのはアタシ。
でも。

『本番で笑っちゃうかも。って言うか絶対笑う』
『本気でやりなさい!ちょっと練習するよ!』

…誘導された?

カメラ出してきたのもアタシ。
でも

『二人だけでやっても意味なくない?目つぶったら表情なんかわかんないじゃん』
『んー。じゃあカメラ回す』
『えええ?』

…誘導、された?
 
17 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:34

やら…れた。
たんのくせに。
アタシをはめるなんていい根性してるじゃねーか。

「は…あはは」

がっくりとうなだれたまま、笑いがこみ上げてきた。

ああそう、そうなの。
そういう考えなの。
そっちがその気ならこっちにだって考えようもある。
 
18 名前:キス 投稿日:2006/10/15(日) 18:35

明日会ったらとりあえず。

朝一でディープなヤツをかましてやる。

覚悟しやがれ。
これからずっと。
後悔なんかさせてやらない。


あー、楽しみだなあ♪
 
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 18:38

以上です。

き、緊張した…。
どっかに似たようなお話あがってるとは思いますが、
大目に見ていただけると助かります。


タイトルのお話は数日後にでも始めたいと思います。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/16(月) 00:24
甘いっすね
例のPV、正直ちょっと萎えだったんですが、
こんな素敵話読んじゃったら、次回からにやにやして見ちゃいそうですw
21 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/16(月) 17:11
すばらしいです(;´Д`)'`ァ'`ァ
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/17(火) 01:47
ひゃあああ(*´Д`)
本気でドキドキしちゃいました
すごく良かったです
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/18(水) 08:18
すごくイイです(*´Д`) ハァハァ
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/18(水) 11:34
GJ
25 名前:書いた人 投稿日:2006/10/21(土) 23:35
レスがいっぱいついてる…!
読んでくださったみなさん、ありがとうございます!


>>20
萎えですか〜。私は爆笑でした。
素敵なのは藤本さんと松浦さんですよ〜。

>>21
ハアハアしてもらえましたか!

>>22
ドキドキしてくれてありがとうございます。

>>23
ありがとうございます。

>>24
thanks
26 名前:書いた人 投稿日:2006/10/21(土) 23:36
さてタイトルのお話を…と思っていたのですが、すいません、その前にもう一つ
短編をやらせてください。

ネタを振りまきすぎなんですよ、あのお二人…。
27 名前:今すぐがいい 投稿日:2006/10/21(土) 23:37

「ねー亜弥ちゃあん、もっと飲んでよお」
「飲んでるよ」

なかなか減らなくなってきたグラスで絡みついてくる視線をさえぎる。
ガラス越しにゆがんだたんが唇を尖らせた。
アンタのペースでアタシが飲めないのは知ってるでしょうに。
てゆーか大抵の人はアンタのペースで飲むことは出来ない。

「もっともっともっとぉ」
「ちょ、アンタやめなよ」
細い腕がにゅうっと伸びてきてアタシのグラスをぐらぐらと揺らす。
こぼれるってばっ。

そろそろ絡みだしたかー。
もうかなり飲んでるもんな。
アタシは一口も口をつけてないワインがもう底になってきてるし。
一人で一本空ける気?
てかその前にもカクテルも飲んでたよね。

…ザル。
 
28 名前:今すぐがいい 投稿日:2006/10/21(土) 23:39

「ほーらー。飲んで飲んで飲んで♪」
「歌わなくていいから」
アタシの顔に押し付けてくるグラスをしっかりと押さえて、手から取り上げる。
こぼしそうなものはそろそろのけてかないとやばいかな。
散らかったテーブルの上をさりげなく片付けてたら、突然伸びてきたたんの手が
アタシの手をがっしりと握りとる。
「亜弥ちゃんの手〜」
何が嬉しいのかほお擦りをして指先に唇をつける。
嬉々として指の数とか数えだす。
五本じゃなかったら教えてね。

ホント何がしたいんだか。
 
29 名前:今すぐがいい 投稿日:2006/10/21(土) 23:41

「飲ーんーでー」
「飲んでんじゃん」
ループする酔っ払いの会話にはつきあってられない。
しょうがないから、ほらって空になったカクテルの缶を振ってみせた。
「…それ美貴が飲んだやつじゃん」
ちっ。まだ頭ははっきりしてんのか。
しかも今の一言だけ素なのはなんでよ。
「もー、亜弥ちゃんももっと飲んでフー♪ってなってよお」
「なってるなってる」
「なってないー。一緒にフー♪ってなって?」

なってるよ。
たんと一緒にいるだけでアタシはいっつも。
フー♪ってなってるのに。
 
30 名前:今すぐがいい 投稿日:2006/10/21(土) 23:42

べたべたと絡み付いてくる体からはアルコールの匂いがして。

ほんのり赤くなった目元とか。

熱っぽく潤んだ瞳とか。

ちょっと上ずった声とか。

あたたまった体から立ち上る甘い香りとか。

もう、くらくらする。
適度なアルコールで昂ぶったアタシには、この部屋は危険が多すぎる。


落ち着きなく目線が泳ぎだす。
でも、泳がせたところでここはただの見慣れたアタシんチ。
至近距離に絡み付いてくるのは見慣れることなんかない恋人。
 
31 名前:今すぐがいい 投稿日:2006/10/21(土) 23:43

その恋人のおかげで何も言えなくなったアタシの唇を、突然あったかい感触が覆う。
しっかりがっつり押し付けられてる唇。


「亜弥ちゃん好きー」

唇離しただけのキス距離で、たんがけらけらと笑っている。


ああもう、ホントにこの子は。
「ねえねえねえ。亜弥ちゃん、フー♪ってなった?」
なったよ。
きっとアナタが思ってる以上にね。
 
32 名前:今すぐがいい 投稿日:2006/10/21(土) 23:44

くるりと体を反して、柔らかい絨毯に細い肩を押し付ける。
自分の状況がわかってないみたいできょとんとした目に笑みを誘われながら、今度は
アタシから唇を合わせた。

舌に感じるワインの味はあんまり好きじゃないけど。
この子の味なら何でも好き。


「ここがいい?ベッドがいい?」

にやける顔で見下ろすと、たんもくふってかわいい声をもらして。
 
33 名前:今すぐがいい 投稿日:2006/10/21(土) 23:45








「  今すぐがいい。  」


 
34 名前:書いた人 投稿日:2006/10/21(土) 23:47
以上です。

最後のとこ上の空行あきすぎですね…。
難しい。

甘さ増量になってるといいなと思います。
35 名前:書いた人 投稿日:2006/10/21(土) 23:49
タイトルの話は…えっと、また数日後にでも…。
出来てないわけじゃないのですがー。

ではまた。
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/22(日) 00:13
もしかして以前にもこのハンドルネームで小説書いたことありますか?
人違いだったらすいませんけどタイトルもそれっぽい気がするので…
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/22(日) 02:02
甘々フォー!最高でございます(*´Д`)ハァハァ
もっともっとあやみきを書いて欲しいのです
38 名前:stk(書いた人) 投稿日:2006/10/25(水) 21:24
レスありがとうございます。

>>36さま
しまったー。そういえばいらっしゃいましたよね、このHNの方…。
HNというより身分を名乗っただけのつもりだったのでうっかりしてました。
ということでHNつけました。またかぶってたら教えてください〜。

>>37さま
ハアハアしていただいてありがとうございます。
次は…あんまり甘くないかもしれません。
39 名前:stk 投稿日:2006/10/25(水) 21:28
やっとタイトルの話を始めたいと思います。

今更ですが改めまして、初めましてです。今後はstkと名乗らせていただきます。
上の短編が初M-Seek、以下の話が初娘。小説になる、かなりの初心者です。

一応以下の話もリアル設定ですが、だからといって特に楽しい展開はなく、上の短編とも
繋がりはありません。
それほど長くはなりませんので、気軽にお付き合いいただければ幸いです。
40 名前:stk 投稿日:2006/10/25(水) 21:29
追加。

これもあやみきです。
多メン一切出ません。
41 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:31

しゃこしゃこしゃこしゃこ

「たんー、この帽子借りて良い?」

「んうー?」
歯ブラシをくわえたまま洗面所から体を乗り出すとひらひらと白い帽子がゆれていた。
「いいおー」
しゃこしゃこしゃこ
さっきから美貴のクロゼットチェックしてると思ってたら帽子探してたのか。
しゃこしゃこしゃこしゃこ

「ジャケットも借りるね」

「んー?」
ジャケット?ってそれ美貴もまだあんまり着てない…まあいいけど。

「ネックレスはこれかな?」

ちょっと待て。
軽く口をすすいで部屋に戻ると鏡の前でポーズをつけてる、トップアイドル松浦亜弥。
明るい朝日を背にパーフェクトスマイル。
「ん、イイ感じ」
「亜弥ちゃん、昨日してた自分のは?」
「ジャケットに合わない」
そうですか。
「ブレスレットも貸して?」
「勝手に探しなよ。美貴も着替えよっと」
 
42 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:32

開いたままのアクセサリーボックスを指差すと、亜弥ちゃんはその指をゆるくつかんで
美貴に体を寄せてくる。
にこにこ顔のままくいっと手首を反して、目線まで持ち上げた美貴のブレスレットを
指先に引っ掛けた。
「ちょっ」
「これがいい」
「触んなっつってんでしょーが」
乱暴に腕を振り解いて思いっきり顔をしかめてやったのに平然としてやがる。
亜弥ちゃんじゃなかったら拳の一つも入ってるとこなのに。
これに触られるのは本気でだめなんだよ、美貴。
それだけはもう、亜弥ちゃんであってもホントにやめて。

「触るくらいいいでしょーが」
ふてくされた声のままで、寝てるときは触ってるもん、とか言わなくていいことを言う。
そうだよね…『寝て』るときよく触るよね。
あれもホントはやめて欲しいんだけどね。
しゃべれる状態じゃないから流してるけどさ。
昨日とかもさ…。
 
43 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:33

「たん、顔がエロい」
「う…うるひゃい」
「噛むし」
いひひって意地悪そうな笑い声を立てて、顔をくっつけてくる亜弥ちゃん。
息がかかるくらいくっついて、ぎゅっと美貴を抱きしめる。
「んじゃ、ブレスレットのかわりね」



…朝からずいぶん濃厚なキスとかするんですね、松浦さん。
 
44 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:34

 
45 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:35

「ふー」

深夜のお風呂上り、パジャマを着こんでわしわしと髪を拭く。
今日も疲れたなー。でも午前中が亜弥ちゃんと一緒の仕事だったから今日はいい日だ。
亜弥ちゃん今日もかわいかったし。
自分でも呆れるほどにへにへと緩んだ顔を鏡に映しながら、はずしていたブレスレットを
付け直した。

カチリ

一瞬の微かな金属音と――止まない微かなメロディ。

「ん?」
横目で耳を澄ますと、判別されたのは亜弥ちゃんの着メロ。やば。
最小歩数でだかだかと部屋に駆け込んでかばんに手を突っ込む。
おそろかばんからおそろストラップ付きのおそろ携帯を探りだして耳に当てた。
46 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:35

「も」
『一生のお願い!』
しもし。くらい言わせてくれてもいいと思うんだ。
大音声に一瞬遠くなった意識が、ゆっくりと言葉を理解する。
一生のお願い…ねぇ。
「美貴、こないだもそれ聞いたよねえ」
『こないだはこないだ、今は今!とにかくアタシ困ってんのっ』
「あーそー」

今何時だっけ。
帰って少し寝ちゃってからお風呂に入ったから相当な時間のはず。
珍しくテンパった亜弥ちゃんを軽くいなしながら眉を寄せ、壁の時計を睨みつける。
んー…。メガネナイ。
三回目の瞬きの後、目の焦点が合うとがっくりと肩から力が抜けた。

「三時半…」
ですってよ、松浦さん。
アナタのテンション、深夜仕様じゃありませんから。
『だってさあ、うち帰ってからずっと探してたんだよ?でも見つかんなくて』
「ふーん」
『バカたんっ』
「は?なにそれ?」
思わず携帯を耳から離して睨み付けてしまう。通話時間25秒。
「深夜にいきなり電話してきてバカ呼ばわりとか、お願いする人の態度じゃな――」
『たん!アナタはアタシがこんなに困ってるのに助けてくれないわけっ?』
美貴の言葉をさえぎったのはえぐってしゃくりあげる声。
47 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:36

げ。

泣いてんの?
上から物を言ってるくせに、ぐずぐずと声を詰まらせる。

「いやあのぉ、助けるとか、そういうの以前の問題とか、あるじゃん?」
深夜の電話とか、バカ発言とか、こないだも聞いたお願いとか、さ。
色々問題あるんだけどさ。

くしゃくしゃの泣き顔が鮮明に浮かんできて徐々に声が弱くなっていく。
…亜弥ちゃんってば泣いてるくせにモノほしそうな顔するんだよなあ。
そういうのも計算のうちってゆーか。
『大事な彼女の一生のお願いなのにぃ』
こういうのも計算のうちってゆーか。
「彼女だけどさー」
『たんはアタシのこと大事じゃないんだ』
「大事だってばぁ」

予測どおりの反応しちゃう美貴とかも、計算のうちなんだよなあ。
ああ、もう。
耳元で泣くなってば。
 
48 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:37

「あー、…それで?何がないの?」
何この優しさ。
美貴的にありえないんだけど。
『時計ぃ』
「ちょ、何それ。こないだ美貴があげたやつのこと言ってんの?」

こないだと言うか三日とたってないじゃん。
何言ってんのアンタ。
今年こそはって誕生日前にあげたらそれかよ。
美貴の愛を返せっ。

『違う、違うよう。違うし、たんの愛は絶対返さないし!』
…声にしなくていいところが声になっていたらしい。
「あー、ああそう。なんだ、美貴のじゃないんだ」
『違うけどね、返さないけどね、なんだじゃないのっ。…ママの時計なんだよぉ』
「うぇ。マジで?」
『マジでぇ』
 
49 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:40

ピンクのごつかわいいダイバーズウォッチ。
部屋に行く度自慢されるそれは、十年前に亡くなった亜弥ママからの最後のプレゼント。
実質、形見の品。


「どこでなくしたかわかんないの?」
『わかんないよ、そんなのー』

家に帰ってしばらくしてなくなっていることに気づいた。
それから即行マネジャーさんに電話して楽屋とか今日の現場に連絡して探してもらったり、
乗った車も探してもらったりしたけど見つからず。
実は持って出てなかったのかも、うち帰ってから無意識にかばんから出したのかも、とか
考えて部屋中大捜索したけど見つからず。

『アタシどうしよう〜』
「どうしようったって」
そこまでして見つからなかったんだったらしょうがないでしょ、諦めなよ。
とはさすがの美貴にも絶対に言えない。

亜弥ママは愛娘が十歳になってすぐにこの世を去った。
おそらく残された時間を知っていたんだろう。
その誕生日に丈夫な腕時計をプレゼントし、さらにちょうど十年後、二十歳の誕生日に
メッセージが現れるようにセットしていた。
その2006年6月25日まで、あと数日。
せめてその日の後ならしょうがないとも言えたんだけど。
50 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:41

とにかく今すぐ来いと言う亜弥ちゃんを説き伏せ、朝一から仕事の合間を縫ってもう一度
楽屋と現場を大捜索。
メンバーにも手伝わせたもののやっぱりない。

だんだん暗く落ち込んでいく亜弥ちゃんを励ましながら、部屋に帰ってさらに大捜索。
やっぱりない。もう何時間も探してるけどない。
テレビボードに飾られている十歳の亜弥ちゃんと亜弥ママの写真が伏せられていて、心臓の
奥の方がちくりと痛んだ。
相当堪えてるなーこれは。

当の亜弥ちゃんはショックなのか疲れたのか、ベッドにうつぶせてぐったりしている。
たまにしゃくりあげたり鼻をかんだりしてるから寝てはいないみたいだけど、そんな様子を
見てるととても捜索を切り上げることもできず、美貴はさっきから同じところを何回も引っ
掻き回していた。
 
51 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:43

「亜弥ちゃん、お風呂入る?先寝てても良いし。美貴もうちょっと探すけど」

ぐったりしてる様子があんまりにも痛々しいのと、正直少し休憩したくなって声をかけた。
でも亜弥ちゃんからの返事はなし。
寝ちゃったかな?首を傾けて視線を離さずにいると数秒後、もそもそと背中が動きだした。
頭だけ少し起こして深いため息。

「…ぃい」

美貴の方を見もしないでつぶやいた声。
「でも明日も早いんだしさ」
「もう…いい」
「いいって?お風呂朝にすんの?」
「ちがくて…。も、いいよ。アリガト」
 
52 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:48

「あ」

小さく頭を振る亜弥ちゃんに、やっとで意味を汲む。
「良くないよ」
「いいよ。ないんだもん」
声は少しかすれていたけど意外にしっかりしていて、取り乱したような感情はいっさい
感じられなかった。
うつぶせになってぐずぐずと泣きながら、それでも亜弥ちゃんはずっとこの事実を冷静に
受け止めようとしていたんだ。

亜弥ちゃんは強い。強いけど、かわいそうだ。

ベッドの端っこにそっと座って、やわらかい髪をなでる。
言葉なく重なってきた手はちょっとびっくりするくらい熱いかった。

「…こっち来て」
「うん」
差し出された腕の中にすべり込むとぎゅっと抱きしめられる。
熱くなってる体の形をやわらかく感じながら、美貴も体に腕を回して背中をなでる。
目が腫れるからと言って亜弥ちゃんはあんまり泣かない。
そういうプロ意識高いとこも美貴は好きだけど、たまにこうやって泣くときはいつでも側に
いさせて欲しい。
 
53 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/25(水) 21:50

明日もあさってもいくらいいって言ってもまだ、美貴は探すから。
絶対に見つけるから。

亜弥ちゃんを幸せにするのは…

いつでも美貴でいたいから…


いつの間にか訪れていた亜弥ちゃんの寝息に誘われて、美貴の意識も途切れ途切れに
なっていく。


「ママ…会いたい」
亜弥、ちゃん…。
 
54 名前:stk 投稿日:2006/10/25(水) 21:53
本日ここまで。

こんな感じでだらだら進みます。
先の短編よりはかなり甘さ控えめです。
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/29(日) 06:56
切ないのに甘いよ
続きお待ちしてます
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/31(火) 13:13
ああもう…うるっときちゃったよ。
早く見つかればいいなー。
57 名前:stk 投稿日:2006/10/31(火) 23:06
レスありがとうございます。

>>55さま
切なさ出てますか?よかったー。

>>56さま
松浦さんにはもう少し寂しい思いをしてもらいます…。


更新前に。
本日更新部分から、某ガムスレと少々内容がかぶってしまっていそうな様子です…。
あちらの動きを見てからにしようかとも思ったのですが、開き直ってコソコソと続けさせて
いただきたいと思います。
ガムスレ作者様、本当にごめんなさい。
58 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:08

夢を見た。

真っ白な、上も下も右も左も前も後ろも真っ白などこかでぼーっと突っ立ってたら。
いきなり亜弥ちゃんに手を引っ張られてつんのめる。
『こっちだよ!』
数十センチ下から美貴のことを見上げる満面の笑みは少し幼い。
出会った頃よりもっと。
ちょうどさっき見たママと並んでる写真のときくらい。
『こっちこっちこっち!みきたん早くぅ』
「早くって、どこ行くの?」

『ママに会いに』

ずきん

「…あー、それ美貴も行くの?」
『みきたん来なきゃ意味ないよぅ』
は?美貴関係ないじゃん。
『だってみきたんが、アタシのママを――』

ずき…ん

美貴が…亜弥ちゃんのママ、を?
 
59 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:09


ん…。

視線を感じて重いまぶたを開く。
寝起きのぼんやりとした視界を覆う人の顔。
…またか。
なんつーかもう慣れたから。びっくりしないから。だからやめて?

至近距離で覗き込んでいる顔を押しのけて体を起こす。
やーんとか言ってるけど無視。
てかなんだこれ。体だるっ。昨日晩そんなに張り切ったっけ?
あー違う。昨日はそうだ、亜弥ちゃんの時計を探してて。
だから体しんどいのかな?
 
60 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:10

がしがしと頭をかいて、半目をベッドサイドに張り付いてる顔に向ける。
おっと。笑顔笑顔。今日くらいは優しくしてあげないとね。
「おはよ」
「おはよう、みきたん」
返ってきたのは子供みたいにさわやかな笑顔。
結構立ち直ったのかな。いいことだ。亜弥ちゃんに暗い顔は似合わないよ。
くしゃくしゃと髪を撫でてやると、一瞬びっくり目をしてから照れくさそうにうつむいた。
なんだそれ?なんか今朝はやたらかわいいんだけど。
たまらなくなってベッドの上から抱き寄せる。
ぎゅむって。

…ぎゅむ?

??
ぎゅうぎゅうとまわした腕に力を込める。
 
61 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:11

確認。


結果。
 
62 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:12

「ない!」

勢い良く突き離した体の前面を触る。やっぱりない。
何がって、胸が。
美貴と同じくらい…いや、むしろ…。
「ちょ、ちょっとみきたん」
焦り気味の声を発するのは。
「は?誰あんた?」

よく見たらなんかちっちゃいし。子供みたいな笑顔じゃないよ。子供だよこれ。
さっき夢で見たのと同じくらいか。


あー、亜弥ちゃん子供になっちゃったんだ。
 
63 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:12

…いや、意味わかんないって。

頭がんがんするし。

「誰って松浦亜弥ですよう」
拗ねたように唇を突き出す仕草。
ちょっと幼いものの明らかに亜弥ちゃんの声。
…誰なのコイツ。

「だいたいあんたいくつよ?」
「25日で10歳です!」
6月25日?ああそう。亜弥ちゃんと誕生日一緒なんだね。
で?これなんなの?夢?どっきり?
げ。TV?やばくない?美貴の反応。胸とか触っちゃったし。
だって亜弥ちゃんの胸縮んじゃったら美貴の夜のお楽しみが――

「いやいやいや、そうじゃなくて」

なんか胸がむかむかする。吐き気がする。
結構ひどい。風邪?

亜弥ちゃーん。看病してー。
 
64 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:14

「ママー、みきたん信じてくれないー」
「そりゃそうでしょ」
へ?
声のした方に顔を向けると、ちょうど部屋に入ってきた女の人に微笑まれる。
この人…亜弥ちゃんのママじゃん。
写真でいっつも見せられてるから間違いない。
昨日の伏せられてた写真はあの後ちゃんと表向けておいた。やっぱりね。

…って美貴待て。亜弥ちゃんのママって。
これもドッキリ企画?それちょっとひどい話だよ。
そっくりさんか特殊メイクか知らないけど、亡くなった人生き返らせるって悪戯が過ぎる。
亜弥ちゃんが知ったら絶対悲しむし。
しかも時計なくして落ち込んでるときに。タイミング最悪じゃん。
こっちの都合も考えて企画しろっての。
そういう勝手なとこがイライラする。

イライラして、気持ち悪い。
目眩までしてきた。
 
65 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:15

「まだ横になってた方がいいって」

くらくらする目元を片手で覆っていると、その人は手をそえてゆっくりと美貴の体を
寝かせてくれた。
そのママって感じの仕草になんかちょっとほっとして。
熱っぽい頭で見上げると、にゃはって顔を緩める。
やっぱり亜弥ちゃんにそっくりなんですけど。

「で?亜弥はなんて言ったの?」
やんわりと子供の方を振り返る。
ベッドに体を乗り出すようにしていた子供は元気よくそれに答える。
 
66 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:16

「だからあ、みきたんはタイムスリップしてきちゃったんだよって言ったの」
 
67 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:17

は?なんだって…?
「…言ってないし」
そんなこと言ってない。
「言ったよう」
「言ってない」
「絶対言ったもん」
「言ってない」
美貴の断言にひょいっと首をかしげる。
「言ってないっけ?」
「言ってない」
美貴もよく人の話聞かないって言われるけどこれは断言できる。
言ってない。
タイムスリップ?
なんだそのファンタジスタな設定。くそう、負けねーぞファンタジスタ。
 
68 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:19

「じゃあ、今言ったね。みきたんはあ、10年後からタイムスリップしてきたのさ」

10年後?ってことはここは10年前?
10年前っていつだ。
美貴は11歳。亜弥ちゃんは9歳?
ん?じゃあコイツはやっぱ亜弥ちゃん?
じゃあ美貴は?今11歳なわけ?
…じゃないな。
じゃあどういうこと?
美貴だけ21で亜弥ちゃんだけ9歳で。

「わけ、わかんない…」
ぐらぐらしてる頭じゃ現状理解さえ出来ない。
「美貴ちゃん、残念だけどこれ、現実なのよね…」
亜弥ママ(?)は困ったような顔でゆっくりと美貴の髪をなでる。

そのままゆるゆるとこの状況を説明してくれた。
 
69 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:20

曰く。

松浦家には時間移動を起こす能力を持った人がたまに生まれる。
とは言っても自分の意思で自由に行き来できるというようなものではなく、相当に強い想いと
偶然が重なったときに起こってしまう、どちらかといえば突発事故的現象なんだという。
引き合う縁も重要らしく、今回のことで言えばこっちの亜弥ちゃんと向こうの亜弥ちゃんが
いたから無事ここにたどり着けたんだろうって。
それがなければ下手したらどこだかわからない時空に取り残されてしまうかもしれないとか、
結構危険な現象らしい。
よく無事だったな、美貴。

強い想い…ってやっぱあれだよね。
 
70 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:21

『ママに会いたい』


亜弥ちゃんがそんなこと言うのを聞いたのは、本当に初めてだった。
もっと美貴たちが子供だったころ、寂しがったりしないからえらいねって言ったら、
時計があるからずっとそばにいてくれてる気がするんだって返された。
だから寂しくないって。
その時計なくしたんだから…そりゃ相当ショックだよね。

時計ないし美貴いなし、また一人で泣いてるんだろうな。

一人、だよね。
まさか誰かと一緒だったりしないよね?
よっちゃんあたり部屋にあがりこんだりしてねーだろーな。
ごっちんとかも最近やばいし。梨華ちゃん…は、どうでもいいけど。
美貴が帰るまで、誰も美貴の亜弥ちゃんに触れるなよー。
 
71 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:22

…。

「あの…私、帰れるんですか?」

亜弥ちゃんの力が自分の意思では発揮されないってことは美貴を連れ帰りには来れないって
ことなんじゃ。
恐る恐る顔を覗き込むと、亜弥ママはちょっと困ったみたいな顔をした。
無理だとか言わないでよっ。
「亜弥が自分でなんとかするのが一番良いんだけど、無理なら私がなんとかするよ。
 まあ今すぐは無理だけどね」
「え?なんで?」
強く想ってよ。美貴のために。
「その体調でやったら死んじゃうよ」
 
72 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/10/31(火) 23:23

時間移動ってのはものすごいエネルギーを消耗するらしく、今美貴がベッドに張り付い
ちゃってるのもそのせい。
連続でするなんかもっての外だとか。
わかりましたよ。おとなしく待ちますよだ。
帰れないわけじゃないみたいだし。
でも待つけどさ…どれくらいかかるんだろ。

あんま長いと仕事やばいしさ。
やだなあ。『藤本美貴謎の失踪!?』とかなってるんだろうなあ。
誰もこんなの信じてくれないだろうし、帰ったらなんて言おう。
仕事戻れるのかな。このまま消える人になっちゃったらどうしよう。
亜弥ちゃんのバカー。そうなったら養ってもらうから。

…美貴ってばなんでこんなに亜弥ちゃんに振り回されっぱなしなんだろ。
 
73 名前:stk 投稿日:2006/10/31(火) 23:24
更新終了。
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 01:10
ミキティが大変なことになってますね……これからの展開をワクワクしながら待ってます。
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 04:30
某ガムスレ作者です。

内容は全然違うし大丈夫ですよ!
自分の方はなんつーかアホっぽい話だしw
お互い細かいこと気にしないでいきましょー。

続き楽しみにしてますね♪
76 名前:stk 投稿日:2006/11/05(日) 22:08
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>74さま
もっと大変なことに…なるかも?

>>75さま
作者様だ〜。読んでくださってたんですねっ。
暖かいお言葉ありがとうございます。
そちらもこれからどうなるのか楽しみに待ってます!
77 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:10

みきたん、行って来ます

ほっぺたに軽く触れた唇。
ん、亜弥ちゃん?仕事もう行っちゃうの?美貴は今日は…。

ぱちぱちと瞬き。

…ああ。
ここどこだっけ?とかはあんまり思わなかった。
ゆっくり体を起こすとちょっと目眩がしたけど、これは寝起きのせいもあるんだろう。
ベッドに座ったままぼーっとしてるとぐうっておなかが鳴った。

「おなか減った…」
 
78 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:11

昨日出してもらったパジャマのままふらふら階段を降りると、掃除機らしき音。
亜弥ママは掃除中みたい。
「あ、おはよう」
あけっぱなしのリビングのドアの前に立つと、タイミング良くこちらを向いていた亜弥ママに
にっこりと笑いかけられる。

…にっこりっていうか。

「ぷはっあはははっ」
おはようの途中くらいから視線が目より上に釘付けになっていたのは気づいてたけど、
思いっきり笑ってくれちゃうとこホンット亜弥ちゃんを産んだ人だなって思うよ。
「くふっ、すごい、ナニこれ、あはは」
鏡見てないからわかんないけど、ありえないくらい寝癖がついているであろうことは予測
できる。
「髪、やらかいから、ふ、癖つきやす…くくっ」
くしゃくしゃって触った後、手櫛でなでてくれるけどそんなので直るわけない。
「シャワーしてくる?」
「借りますっ」
 
79 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:12

まだ笑ってる亜弥ママをほっといてバスルームへ向かって、さっとシャワーを浴びる。
目が覚めきってもまだすこし目眩は残っていた。
目の底の方がじくじくする。
頭もぼんやりしてるし。

バスルームから出て用意されていた柔らかいタオルでわしわしと髪を拭く。
…。
なんか違和感。
あ…ないんだ。どこ置いたっけ?
なんかここんとこ探し物ばっかしてるなあ。
んー、ない。
先にとりあえず服着るか…ってさっき着ていたのないし。
早速洗濯されちゃった?
それって今から着るものないじゃん。
 
80 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:13

かちゃ

「「あ」」

下は履いていたものの上はまっぱのまま。
開け放たれたドアの向こう、服を抱えた亜弥ママと目が合う。
「ごめんごめん、服とりあえずこれ着てて。美貴ちゃんシャワー早いよー」
はいって体に押し付けられたのは、これも洗い立てっぽい部屋着。
「えと…ありがとうございます」
「ん、いいよ」

あれ?
美貴の探しものって着替えでよかったんだっけ?

「ねえ」

ん?
ドアの隙間で振り返った亜弥ママが、にやりと笑った。
なんかヤな感じ…?

「美貴ちゃんていくつだっけ?」
「は?21ですけど?」
「ふーん」

…目線が!!
 
81 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:14

顔から30センチくらい下に下がる。
手渡されたばっかりの部屋着をえいって投げつけた。
「あはは。気にしなーい気にしなーい♪」
気にするっての!うちのお母さんにあれくらいあれば美貴だってさ。
ドアで部屋着をブロックした亜弥ママはドア越しに声を立てて笑う。
ああもおむかつく。
下着が普通のブラじゃなくってスポーツブラって時点で実は失礼だよね。
…ジャストサイズでもむかつくけど。

でも昨日も手渡された下着も新品のだったし、この部屋着もどうも亜弥ママのものでも
なさそうだし。なんでそんなの準備されてんの?
 
82 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:14

「あー、うちってさ、合宿所みたいなもんでさ」

リビングに戻って見つけた亜弥ママを早速捕まえると苦笑いで説明してくれた。
いわゆる『後輩』たちが泊まりに来たりするらしい。
テレビボードには気合入った感じの子達が庭でバーベキューしてる写真。
亜弥ちゃんのご両親がやんちゃしてた人なのは知ってたけど。
「なるほど」
「ん?もしかして美貴ちゃんってそういう子だったりする?」
「あーまー昔は…たまに。私も地元いた頃は親とけんかする度『先輩』んち泊まったり…
 してましたね」

プチ家出にもならないくらいなもんだけどね。
行ったら行ったでみんながいてさ。
楽しいんだけど、だんだん後悔してきてやっぱりうちに帰りたくなっちゃったりさ。
ちょっと切ない思いをしたり…したよねえ。
どうあがいてもまだ中学生だしさ。
帰った朝のちょっとだけぎこちなく迎え入れてくれたお母さんの横顔が亜弥ママに重なって
ちょっとぼんやりしてると、にゅっと伸びてきた腕が美貴の髪をくしゃくしゃとなでた。

「そろそろお昼だね。何食べたい?」
 
83 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:15


 
84 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:17

「たっだいまー!」
一番下の妹ちゃんとあやとりなんかしてたら弾丸娘が小学校から帰ってきた。
なんか懐かしい。
さすがにもうすぐ二十歳って年にもなると亜弥ちゃんも落ち着いて来ちゃったからな。
この弾丸さはなくなってきちゃったよね。

ばたばたばた

「みきたん、ただいまっ」
「おかえ、りっ」
どかっと膝に膝の上に飛び乗ってくる。
「いってえっ」

早く落ち着いてくれ。
 
85 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:19

「亜弥ちゃん、重い」
「重くないもん」
むうっと唇を尖らせる。
小学生とはいえ女の子にこの言葉は禁句か。
「んじゃわかったからのいてよ」
「のかなーい」
押しのけようとした腕を押さえられて、それどころかすりすりと頬を寄せてくる。
ああ、もう。
諦めのため息を耳ざとく感じ取ったのか、少し力の入っていた体がゆったりと寄りかかる。
その重みは、まあ亜弥ちゃんだと思えば苦痛じゃないけど…重いのは重い。

「んふふふ」
べったりくっついた距離でにたにたと笑う。

さすが亜弥ちゃんというか、ぶっちぎりでいきなり美貴になついてきた。
遊んで遊んで攻撃で大変…。
でもなんだか期待に満ち満ちた目で見つめられると邪険にもできなくて…って向こうの
亜弥ちゃんにも同じだよね、美貴…。
いっつも最後には押し切られちゃうとことか。
 
86 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:25

「今日は何してたの?」
膝に乗っかって恋人距離で見つめられる。
見つめるっていうよりも、美貴の目の中なんか書いてある?って聞きたくなる程のガン見。
「えーと、色々?」
視線が泳ぐ。
近すぎ。
どこ見ていいのかわかんないって。
「色々お?今は?何してたの?」
「あー。あやとり?」
あやとりなんかマジ久しぶりだよ。
一個も覚えてなくて妹ちゃんに教えてもらってばっかり。

「ふーん」
亜弥ちゃんの視線が美貴の手元に下る。
今のうち…。
ソファの上で、じりじりと後ずさる。
亜弥ちゃんに抱きつかれると条件反射的に抱き返そうとしちゃうんだよね。
でも今はだめだから。
だから理性を保つためにも少し離れなきゃ。
 
87 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:26

「みきたん、それ間違ってるよ?」
なのに、さらに寄ってくる亜弥ちゃん。
「えーと、こう?」
「違うよー、こっち」
がっしと指をつかまれる。
体の向きを変えてみる美貴。
ますます体を乗り出してくる亜弥ちゃん。
88 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:29

「ねえ」

んん?
振り返るとなんか家事をしてたはずの亜弥ママがいつのまにか直真後ろに立っていた。
「はい?」

「美貴ちゃんってさ、亜弥と付き合ってるの?」

ぶはぁっ
あやとりの糸なんかほうり出して、とりあえず不思議そうな顔してる亜弥ちゃんを押し
のける。
「なな、なに言って…」
てか、なんで?なんでわかるの?
それが意味わかんない。
「あーやっぱりかあ。ふーん。そうなんだ…」
 
89 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:30

美貴と亜弥ちゃんの関係は、メンバーなんかはちらほら知ってるけど、お母さんなんか
には当然言ってない。
亜弥ちゃんはさすがにパパにはまだ言ってないけど妹には普通に言ってるみたい。
どのへんまでバレたらヤバイかなって話はたまにする。
美貴はスタッフさんとか絶対無理だし家族にも言えないって思ってるけど、亜弥ちゃんは
いつかテレビでも堂々とのろけ話したい!とか言い出すし。
美貴は…だって恥ずかしいよ。


「そっか、美貴ちゃんなんだ」
「あの…ごめんなさい」
「え?」
「美貴で」
いろんな意味でごめんなさい。
大切に大切に育ててきた娘さん…いただいちゃってます。
いや、いただかれちゃってることの方が多いけど。
 
90 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:32

「何言ってんの。美貴ちゃんなら大歓迎だよ」
ぽんぽんって頭に乗せられた手の重さが心地いい。
「美貴ちゃんならさ、任せられる。亜弥のこと」
「え…」
もしかして…知ってる、の?
固まってしまった美貴の表情を読んで、ママはやわらかく微笑んだ。
「ずっと、ついててやってね?」
「はい…」
やっぱり、わかってるんだ。
自分はずっと、亜弥ちゃんについててやれないってこと。

美貴で、いいのかな。
ママのかわりなんて、美貴にできるのかな。


「――きたん!」
 
91 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:34

「みきたんってば!」


……。
2レス分無視してみたけど。

実は隣でしがみついてずっとわめき立ててる子供が、いる。


「みきたんが付き合ってるって?」

「誰と?」

「みきたん彼氏いるの?」

10歳児にこの話題はやばかった。

「誰だれだれ?」

「どんな人?好きなの?」
 
92 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/05(日) 22:35

興味津々。
な上にすげー不機嫌。
「ちょー大好きなんだよね?」
「余計なこと言わないで下さいっ」
ホントマジで。
さっきまでのシリアスは微笑みはどこへ…。
この人マジでどうしてくれよう。

「なんでママが知ってるの?ママの知ってる人なの?」
「知ってる知ってる」
「言わなくていいからっ」
「どんな人?かっこいい?」
「聞かなくていいからっ」
「んー、かっこいいってよりかわいい?」
「答えなくていいからっっ」

亜弥ママにやにやしすぎ。
亜弥ちゃん食いつきすぎ。
もーやだこの親子。

助けて、亜弥ちゃん…。
 
93 名前:stk 投稿日:2006/11/05(日) 22:38
更新終了です。

今回はどうでもいい感じの内容でした…。
94 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:02
素敵なスレ発見!
このあやみき何か自分の好きな感じです。
続き楽しみにしています
95 名前:stk 投稿日:2006/11/10(金) 20:59
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>94さま
素敵だなんて恐縮です〜。
96 名前:stk 投稿日:2006/11/10(金) 21:01

夕飯の終わったリビングで映画なんか見てたら、亜弥ちゃんは美貴の肩に頭を乗っけて
ぐっすりと寝こけてしまった。
これって普段と立場逆転。
くふふ。信頼されてるみたいでちょっと幸せ。
亜弥ちゃんもいっつもこんな気分なのかな?
子供特有の柔らかいほっぺたをぷにぷにしてやると、亜弥ちゃんはきゅっと眉をしかめる。
ぷに。きゅ。ぷに。きゅう。
うははは。楽しいかも〜。
 
97 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:02

カチャ

「あらら、亜弥も寝ちゃったか」
亜弥ちゃんの反応で遊んでいると、下の妹ちゃんをベッドに連れて行ったママが戻ってきた。
部屋を見回したママの視線の先、もう一つのソファでこれもくったり寝こけてる上の妹。
くくっとのどを鳴らしたママはそのまま美貴の所までやってきて亜弥ちゃんの髪をなでた。
「やっぱまだ子供だよねえ。十分に」

さっき下の妹を抱っこして亜弥ママが部屋を出て行くとき、美貴に寄り添って眠そうに
している亜弥ちゃんにも声をかけた。
『あんたももう寝るでしょ』
対する亜弥ちゃんの答えは。
『アタシは子供じゃないんだからまだ起きてるもん』
だった。
当然ぷはって噴出した美貴と亜弥ママに、亜弥ちゃんは憮然とした表情を向けたんだけど。

「そっこー寝ちゃいました」
亜弥ママが出て行ってから3分ももたなかったかも。
 
98 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:03

「ね、美貴ちゃん」
「はい?」
髪をなでる手は止めずに、ちらっと美貴のほうを見上げる。
「10年後の亜弥ってどんな感じ?」
どきん。
無条件に優しい目に、心臓がむずむずした。
なんでそんなに満足げになれるんだろう。
もう、会えなくなるのがわかってるのに。
つらくないのかな。

「…どんなって」
アイドル…って、これ言わない方がいいんだっけ?
映画とかでよくあるパターンではだめだよね。
「んー、パワフルで…みんなに好かれてます」
「ホント?良かったあ」
笑いながらも遠い目をする亜弥ママ。
つらそうな顔はしない。
でも…。
 
99 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:03

…。

今ここで。

言ってみたらどうなるんだろう。
今すぐ病院行って緊急手術でもすれば助かるんじゃないだろうか。
でもそれこそ映画みたいに未来が変わっちゃったりしたら?
美貴は亜弥ちゃんと一緒にいられないかもしれない?

「美貴ちゃん」

「え?」
「運命に逆らっちゃだめ」
いつの間にか真剣に摩り替えられた視線が美貴を見据える。
運命?
亜弥ママが死んじゃうこと?
美貴と亜弥ちゃんが出会うこと?

いいことも悪いことも、初めっから決まってるの?

そんなのは、嫌だ。
美貴の幸せも不幸も、それは美貴が決める。
運命なんて言葉は、嫌いだ。
 
100 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:04

「もう寝よっか」
亜弥ママは美貴の髪をくんっとひっぱって、引き寄せた頭をがしがしとなでた。
意地悪そうに笑っているのに、どこか優しいその目を見ていると。
ただ美貴は。

この人にいなくなってほしくないと、思った。
 
101 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:05

それから何日かを美貴は松浦家で過ごした。
パパさんはちょうど長期出張中らしく、顔はあわせずにすんだ。
電話がかかってきた時に、ママが『家出少女が遊びに来ている』とだけ報告していた。
それについてのコメントは特になかったよう。
…ホントに慣れてるんだね。


買い物に行く亜弥ママに付き合ってお出かけしたり、めんどいから留守番したり、亜弥ちゃん
たちと遊んだり、子供が寝た後にはママとお酒飲んだり。
TV番組が懐かしくて思わずはしゃいじゃったり、安室最盛期で満足したり。

それなりの日々をすごして結構この生活になじんじゃったりして、早く帰らなきゃって焦りも
だんだんなくなってきて。
まあもうちょっとくらいこうしてのんびりするのもいいかなとか…そう思う原因もちょっと
わかってきた。
元の時間に戻ったら、亜弥ママはいない。
関西風の味付けのご飯とか、亜弥ちゃんばりにはじけた性格とか。
もう会えなくなるんだなって思うと素直に寂しかった。

そして、亜弥ちゃんはやっぱり強いなって思った。
 
102 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:06

「ママー、いってきまーす」
「いってきまーす」

玄関から甲高い声が二つ。
小学生の朝は元気だ。
…いつからあんな朝弱くなったのかなあ?亜弥ちゃん。
ママは洗濯物干しに行っちゃったし、じゃあ美貴がお見送りしてあげるか。
とたとたと玄関に向かう。

「あれ?ママは?」
「ん。洗濯中」
開け放たれた玄関ドアの向こう、妹ちゃんは外からぶんぶんと手を振っている。
「いってらっしゃーい」
手を振り返すと満面の笑顔。
かわいいなあ。
 
103 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:07

「みきたん」

おっと。
妹に手振ったぐらいでやきもちですか?
声のトーンが低いから苦笑いしつつ視線を落とすと。
「…どうかした?」
亜弥ちゃんは美貴のことを見てるのか見てないのかちょっとわからない視線。
「あの…亜弥ちゃん?」
「アタシね」
「う、うん」
なんか怒ってる?
やっぱ妹に手振ったから?

「ママのことが大好きなの」

ずきん。
 
104 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:08

「そう、だね」
美貴も大好きだよ。
「でもね、みきたんのことも好き。…なんだっけ…大切な…人なの」
「あーそう、なの?」
何かを思い出すようにして言葉を選ぶ亜弥ちゃん。
まあ、大切な人って小学生のボキャブラリーにないよな。
「…だからやっぱり…お願いは、できない」
「お願い?」
何のこと?
「うん。しないことにした。約束だし。みきたんのこと、大好きだし」
「ねー、意味わかんないんだけど」
何言ってんの?
そういう独り言みたいなのはやめてほしい。
「いいの。大好きだから。パパも、妹も、おばあちゃんも。だからアタシは大丈夫だから。
 ――いってきます!」
美貴が口を開くよりも早く、亜弥ちゃんは体を反転させて外に飛び出していった。
待っていた妹に小突かれながら走っていく小さな背中。
 
105 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/10(金) 21:08

意味わかんない。
けど。

お願い。

約束。

あの子、なんか知ってんのかな?
そういや美貴のことも最初っから知ってたし。

ママの言うところの『運命』を、あの子は美貴よりも知ってるんじゃないだろうか。
 
106 名前:stk 投稿日:2006/11/10(金) 21:11
更新終了。

少ないですがちょうど折り返し地点だったので、ここまでにします。
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/11(土) 01:22
小さい亜弥ちゃんが言ったことがとても気になります……
今後の展開をドキドキして待ってます!!
108 名前:stk 投稿日:2006/11/13(月) 21:36
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>107さま
あのセリフの意味は、最後の最後までわからないかもしれません(苦笑)

それと、>>101の前後には空レスを一つずつ入れる予定でした。忘れていました。


前半を読み返していて、あやみきと言いつつ二人の絡みが全くないのはいかがなものかと
思い立ったので、お話の途中ではありますが短編を挟ませていただきます。
本編との関連性はありません。
109 名前:ネイル 投稿日:2006/11/13(月) 21:37

二人きりの部屋はくらくらするほどのキツイ香りに満たされていて、頭がぼんやりする。
香水なんかとは違う、独特の甘ったるさ。
アルコールやエタノールのような薬品的な匂い。
美貴、この甘ったるい匂いは苦手なんだよね。

甘い匂いで好きなのは。

頭をのせている太ももにほっぺたを擦り付けて、大きく息を吸い込む。
…うん。甘い。
調子に乗って唇を寄せる。

ガツ

「動くな」

「あやぢゃん…」

こめかみに肘打ちって結構痛いんですけど…。
手加減とかして欲しかったんですけど…。

亜弥ちゃんの両手は美貴の右手にかかりっきりでふさがってるのはわかるけど。
でも肘って…ひどいよ。
恨みを込めた涙目で見上げたけど、すでに真剣に戻ってる亜弥ちゃんと目が合うことは
なかった。
美貴の爪先を飾ってゆく亜弥ちゃんの目は怖いくらい集中している。
…男前度30%UP。

「…たん」
「え?…何?」
甘い香りの中、その顔をぽおっと見上げてたら突然亜弥ちゃんの声が落ちてくる。
視線は爪のまま。
「別にアタシに見とれててもいいけどさ」
む。
別にそーゆーわけじゃ…。
「今度動いたらこれ、デコに刺すからね」
先の尖ったピンセットをきらりと光らせる。
「…はい」
 
110 名前:ネイル 投稿日:2006/11/13(月) 21:38

「出来上がり〜♪」
「ありがと〜」
えへへ。
目の前にかざす指先がキラキラと光る。
「かーわいっ」
これでしばらくは会えなくてもこれを眺めてにやにやすればいい。
亜弥ちゃん好みな感じのキラキラを。
「ネイルくらい可愛げ出さないとね」
「そうだねー」
テーブルに広げたネイルグッズを片付ける亜弥ちゃんは、邪魔なはずな美貴の頭を
ひざから下ろそうとはしない。

んふふ。
もういいよね。
太ももに顔をうずめて唇を這わせる。
甘い香りと甘い味に誘われて。

「亜弥ちゃん、ベッド行こうよぉ」

めいっぱい甘い声でおねだり。

「だーめ。ネイルとれちゃうじゃん」
「えええええっ」
こんっなに甘い匂いさせといてんなこと言う!?
体を起こして喰いついた美貴の顔は、亜弥ちゃんの両手にがっしりと固定される。

ふいうちで襲われたキスの激しさにいいように乱されて。

…やっぱりしたかったんじゃん。
とろける頭の中で考えられるのはそんなことだけ。
 
111 名前:ネイル 投稿日:2006/11/13(月) 21:39

熱っぽい視界に意地悪そうな笑みを映した時にはすでに、亜弥ちゃんの腕の中で横抱きに
されていた。
とろとろになった体でどうにか亜弥ちゃんにしがみつく。
「どっ…ちよ」
したいのか、したくないのか。
「だーめ」
んなこと言われても、美貴の体はもう後戻りできないよ。お願いだよ。
泣きそうになりながらその目を見つめる。

「アタシがせっかくしてあげたネイル、とれちゃうじゃん?」
やっぱだめなの?
がっくりと肩を落とした美貴の鼻先に、ぺとっと亜弥ちゃんの鼻先が押し付けられる。
至近距離、にやりと笑う。

「だからさ。今日はアタシが、してあげる♪」


そして今夜も美貴と亜弥ちゃんは

甘い甘い匂いに満たされた部屋で

甘い甘い時間を過ごしたのでした


大好きだよ、亜弥ちゃん♪
 
112 名前:stk 投稿日:2006/11/13(月) 21:43
以上です。
ラスト数行が殴ってやりたいくらいイタイですね…。
113 名前:stk 投稿日:2006/11/16(木) 20:25
読んでくださった方(いたとしたら)ありがとうございます。
後半更新いきます。
114 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:26

「美貴ちゃん、買い物つきあってくれないかな」

子供みんなが学校に出払っている昼間、亜弥ママに声をかけられた。
美貴の体調もほとんど元に戻ったみたいなもんで暇してたから即OK。

いよいよ明日は亜弥ちゃんの誕生日。

亜弥ママはずっと体を悪くしているから確かに痩せて顔色も良くないけど、とてももうすぐ
亡くなる人とは思えない。
亜弥ちゃんはママが亡くなった前後の記憶があいまいだと言っていた。
たぶんすごく急ですごくショックだったんだろうな。
今思えばこの数年後に再会した時美貴のことを覚えてなかったのもそのせいなんだろうけど。
このままいけば美貴も亜弥ママが亡くなる瞬間に立ち会うことになるかもしれない。
それは美貴にとってもかなり…ツライ。
 
115 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:27

意外に大きいデパートは、結構老舗なんだよって亜弥ママは自慢げに言った。

「亜弥ちゃんの誕生日プレゼント?」
「そうだよー」

時計、か。
黙っておいたけど、予想通り亜弥ママは時計売り場へ。
目星をつけていたらしく、すぐに店員に声をかける。
ショーケースから取り出されたのはピンク色のベビーG。
流行ったなあ、この頃。

手持ち無沙汰にそのやりとりを眺めていたら、亜弥ママがくるりと振り返った。
「美貴ちゃんもどう?」
「へ?」
「メッセージ。10年後の亜弥に」
にやってやらしー笑いをするけど、それ亜弥ちゃん見れないんですよ?
「いや、私はいいです」
「そお?…まあ、伝えられることは直接伝えた方が良いよね」
「…」
どきっとすること気楽に言わないで欲しい。
美貴だってアナタのこと、大事に思ってるんですから。
 
116 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:27

もうひとつ、お直しか何かをしていたらしいアクセサリーを受け取ってお買い物は終了。
まだちょっとしんどい美貴と元々体の強くない亜弥ママは他にうろうろすることもなく
家路についた。
ゆっくりと手をつないで歩く晴れた六月は、結構暑かった。
こないだよっちゃんが昔はこんなに暑くなかった、異常気象だとか言ってたけど…暑い。
10年前も暑かったって戻ったら言ってやろう。

…戻ったらか。

向こうの亜弥ちゃんからのアクセスは今のところ成功していない。
こっちに来てすぐの頃はたまに帰れるんじゃないかって気配がむずむずしてたけど、なかなか
現実にはならなかった。
たぶんその気配が亜弥ちゃんからのアクセスなんだろうけど、イマイチ弱い。
がんばってよねー、向こうの亜弥ちゃん。
ここんとこサボリ気味だし。

帰りたい。
亜弥ちゃんに会いたい。美貴に触れて、美貴の名前を呼んでほしい。
そう切実に願う一方で、今現在つないだ右手の先にいる人に同じことを願ってしまう。

この二つの願いが同時にかなうことは、ない。
 
117 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:28

小さくついてしまったため息を聞きとめたのか、半歩前を歩いていた亜弥ママが美貴を振り
返って立ち止まった。
「美貴ちゃん、これあげる」
「へ?」
いきなり差し出されたのは、それさっき買ったアクセサリーショップの紙袋だよね。
うわ、美貴にプレゼントだったんだ。
普通にすごい嬉しい。
「え、なんで?いいの?」
「うん。受け取ってほしい」
にやりと笑った顔にちょっとひっかかったけど。

少し歩いた先のベンチに座って包みを開く。平べったい箱をゆっくり開くと中にうずくまる
のはシルバーのブレスレット。
「うわー、かわい…い?」
目に映る華奢な輝きに、反射的に自分の左手首をつかんだ。
 
118 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:28

ない。


あるはずの感触が右手の中になかった。
はずすことの方が珍しいくらいずっと身に着けている美貴のブレスレットが。
ない。

冷たいような熱いような感覚がすうっと通り抜ける。
すごくお気に入りで。誰にも、亜弥ちゃんにさえ触らせないくらい大切な大切なモノ。
なんで?いつから?…ここに来たとき?
わかんないけどとにかく、ない。

それが。
なんで今、ここにあるの?
なんでこの人がくれるの?
どういうこと?

ここは10年前、美貴は何歳?
――21だよ。

でもでも。
あれっていつから持ってた?何年前?
そんなこと思い出せないよ。
思い出せないくらい当たり前にこの手にあって、ずっと肌身離さず大切にしてきた。

だってあれは――。
 
119 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:29

「美貴ちゃん?気に入らない?」
「え、ちが」
すぐそばで聞こえる不安げな声に、びくりと肩をすくめる。
「そうじゃないよ。すごい気に入った。ありがとう」
早口に言って無理やり笑って見せる。
震える指先でそっと取り出すと、それは輝きこそ違うものの見慣れた記憶と寸分の
違いもない。
くるりと一周まわす。
間違いない。

ただ同じデザインなだけ?
偶然?
本当に?
 
120 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:29

「ぁ」

微かな声。
不意をつかれて数瞬遅れで隣を振り返る。

「え、どうし」
顔を向けると、すでに亜弥ママは胸の辺りを押さえて体をかがめていた。
「やば、美貴ちゃん、手、離さないで」
切れ切れの声。
言い終わるより早くブレスレットを握ったままの右手で差し出された手を握り締めた。

――冷たい。

「だ、大丈夫?」
具合が悪くなったのかな。
ってそういやこの人もうすぐ死んじゃうんだった。
大丈夫なわけない。
 
121 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:30

「救急車――」
「ううん。だいじょぶ。…それよりさ」
前のめりのままの亜弥ママは立ち上がりかけた美貴の手を引く。
大きく息をついて、美貴のことを見上げた。
額ににじんだ汗。
「亜弥はさ…幸せ、かな?」
「は?…はい」
息が詰まりそうなになりながらも、その目の真剣さ、優しさに、美貴も素直に言葉を返す。

今も、それから10年後も。
あなたがいなくなっても。
亜弥ちゃんは自分で幸せを作っていける人です。

「そっか。良かった。じゃあさ」
ぎゅって握られた手に力がこもった。
「帰ろうか」
「は?」
言葉の意味をめぐらせながら、淡い色味の瞳を見つめる。
あんまりにも亜弥ちゃんにそっくりで。

焦ってひとつ、瞬きをした。
 
122 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:30

ほんの一瞬閉ざされた視界が戻ると。
世界はぐにゃりと、歪んでいた。
「な、にこ」
れ。
まるで水槽の中から外を見てるみたいに、周りの景色が緩んでいる。
ゆらゆらゆれて。
目眩がしたんだと思った。
でもいつまでたっても落ち着くこともなく。

はあ、はあ

きょろきょろ首を回す美貴の隣で、亜弥ママの呼吸はさらに荒くなっている。
「だ、大丈夫?」
「ん…だいじょぶ…」
言う亜弥ママの呼吸はかなり苦しそう。
その手に握られていた時計の紙袋が足元にずり落ちた。
それを拾って、背中をさする。
「美貴ちゃんは…絶対に帰すから」
上下する背中を丸め、苦しそうな息の下で聞こえたつぶやき。
 
123 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:31

帰すって…元の時間に?
じゃあこれって、時間移動しようとしてるってこと?
「ふ…く」
苦しそうな声に、こっちまで切羽詰ってくる。
こんな苦しいんだ。
そりゃ美貴だって何日も体つらかったはずだ。
てか体悪いのにやばいんじゃない?
そんなやばいんだったら美貴を帰すためにこんな力使わなくてもいいよ。

――美貴のために?

つまり、それって。

――美貴のせいで。

「っ!」
さあっと音を立てて血の気がひく。

寒いと、思った。
 
124 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:31

「やめて!」
叫んで、亜弥ママの肩を揺さぶった。
手に余るくらい、細い。
「やめて、いやだ!そんなの嫌だ!」


つまり。

亜弥ママが亡くなった原因は。


「美貴ちゃん、これが、私の…運命だから」
「違うっ。ちがあうっ」
叫んで、立ち上がる。
手を振り解こうとしたら、亜弥ママは焦ったように手に力を込めた。
「だめ、美貴ちゃん離したらだめ!」

じゃあ、離せ。
 
125 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:32

『だってみきたんが、アタシのママを――』

ずき…ん

美貴が…亜弥ちゃんのママ、を
 
126 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:32

死なせた。
 
127 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:33

「美貴がっ。亜弥ちゃんから…ママを奪った」
「ちがうよ美貴ちゃんっ」
苦しそうな呼吸をする亜弥ママは、少し咳き込んで胸の辺りを押さえた。
その仕草に胸が痛んだのは美貴の方。
違わない。何も違わない。

「美貴、帰らない」

びっくり目で亜弥ママが美貴のことを見上げて、とたんに視界の揺れも止まった。
力が止まった?でも水の中にいるみたいな感覚はまだ変わらない。
「だ、だめだよそんなの。何言ってるの?」
「帰らない。美貴が帰らなかったら、そしたら…亜弥ママは助かるし、そしたら
 亜弥ちゃんは――」
「悲しむ、でしょ?」

悲しむ…。
美貴が帰らなかったら。
亜弥ちゃんは…確かに悲しむだろうな。
また泣いちゃうかも。
でも、ママがいたら?
美貴とママ、亜弥ちゃんにとって大切なのはどっち?
 
128 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:33

黙り込んだ美貴の髪を、亜弥ママが優しくなでる。
「私がいなくても…亜弥は大丈夫だよね?」
亜弥ちゃんはママがいなくても、強い人。
だけど。

「それに…未来に、美貴ちゃんのこと待ってる人、亜弥の他にもいるでしょ?」

待ってる、人。
今この世界にも、北海道には美貴がいる。11歳の美貴がいる。
そこにはお父さんもお母さんもいて。
でもそのお母さんは、美貴のお母さんじゃない。
美貴のお母さんは、10年後の世界で美貴のことを待っているであろう人。
「でも、でも…」
気持ちが揺らぐ。
世界も再び揺らぎ始める。
 
129 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:33

亜弥ちゃんが会いたい人は誰?

美貴を待っている人は誰?


美貴が会いたい人は


でも…でも…。
 
130 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/16(木) 20:34

「わかって。これは私の運命なの。ここで力尽きるように、私の運命は決まってるの」
「ちがうよ…だって美貴がここに来なかったら」
「でも、来た。それも運命」

そんな…亜弥ママを死なせるためにここに来た、それが美貴の運命?
やだよそんなの。
運命ってなんだよ。
いらないよ、そんなの。

「最愛の娘に大切な人を送り届けるために、私は今まで生きてきたんだよ」

そんなの、そんなのは、納得できない。
美貴のせいで誰かが犠牲になるとか許せない。

「…それにもう、止められない」
脂汗の浮いた青白い顔でくいっと正面を見据えて。


揺らいでいた世界が真っ白に塗りつぶされる。
 
131 名前:stk 投稿日:2006/11/16(木) 20:36
以上です。
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/17(金) 00:50
やばい
泣きまくり
続き気になるわぁ

作者さんの文章とかストーリーの作り方とか最高です
133 名前:stk 投稿日:2006/11/20(月) 21:35
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>132さま
そ、そんな…もったいないお言葉ありがとうございます。
134 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:36

そこは真っ白な。
上も下も右も左も前も後ろも真っ白などこか。
これって、いつか夢で来た所と同じだよね?

視界が何も映さない。
押しつぶされるような不安感にぎゅっと亜弥ママの手を握りしめた。
握り返された力の弱弱しさにその顔を振り返ると、亜弥ママはがくん、と膝をついた。
苦しさに歪む頬。
激しく咳き込んで、体を二つに折り曲げた。
親子って体つきも似るんだなって、なんか冷静にその背中を見下ろす。
亜弥ちゃんに、あんまりにも似すぎている。

だからもう、美貴は迷わない。
 
135 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:37

言うべき言葉は何も浮かばなくてただ、黙ってその細い体を押しやってかたく握られた
手を力いっぱい振り解く。
びっくりして美貴のことを振り仰いだ亜弥ママが――消えた。
「だめっ。美貴ちゃん動かないで!どこにいるの?そこから動いちゃだめ!!」
すぐ近くに気配はするのに、姿は全く見えなかった。
手を離すなと言った亜弥ママ。
そういえば前のときも触れられたとたん亜弥ちゃんを見ることができたんだっけ。

手を離す。

これだけでもう、美貴は亜弥ママの世界から切り離されたのだろう。
「亜弥ちゃんのところに帰って」
言いながら踵を返して、がむしゃらに走り出す。
どこに向かっているかもわからない。でも走る。
「美貴ちゃん!!」
痛いくらい耳に残る叫び声から、とにかく遠ざかる。
 
136 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:38

亜弥ママに帰る力がまだありますように。
10年後も亜弥ちゃんとすごしていますように。
…それが可能性として低いことはわかっている。
苦しそうに膝をついていた亜弥ママ。
あのままで元の時間に戻る体力があるとは思えなかった。

「はあ、はあ」
息が、苦しい。心臓が痛い。美貴、ここで死ぬんだ。
こんな何もない誰もいないところで。
餓死かな?やだなそんなの。
死ぬ前に焼肉おなかいっぱい食べときゃ良かった。
お父さん、お母さん、家族にも、友達にも、仲間にも、もう一度会いたかったよ。

亜弥ちゃん、やっぱりあなたからママを奪うことになりそうです。
ごめんなさい。もう会えないけど、言葉を伝えることはできないけど。
許して。
美貴もママと一緒にずっとずっとキミのことを、見守るから。
 
137 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:38

「くっ」
足がもつれて立ち止まり、そのまま膝をつく。
「はっ…く」
さすがに苦しい。だいたいここ、なんか空気薄いんだよ。
倒れこんで胸をつかもうとして。

「あ」

初めて気づく。
「だめ、じゃん」
亜弥ママのプレゼント、美貴が持ってちゃ。
紙袋は全力で走ったせいか、もうくしゃくしゃになってたけどラッピングされた箱は
落ちずに残っていた。
これ、なんとかして亜弥ちゃんに届けないと。
10年後、亜弥ちゃんはこれをなくしちゃうけどきっと見つかる。もう見つかってるかも。
亜弥ママの思いは絶対に届くはずだから。
 
138 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:39

――。

「そう、か」
胡坐をかいて座り込み、ラッピングをバリバリと解いて、ケースの中のベビーGと説明書を
取り出した。
メッセージの入力…。と。これか。ここを…。

ぴ、ぴ、ぴ、ぴ…

これで入った?入った。多分。
「よし」
休んだせいで重くなった足をふらつかせながら立ち上がる。
お願い、届いて。
「亜弥ちゃんのとこにぃ、いっけえ!」
スローインさながらに両手で力いっぱい投げだす。
真っ白な空間の中、一瞬でそれは見えなくなった。
 
139 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:39

「はあ…はあ…」

亜弥ちゃん。
もう一度会いたかった。
ずっとずっと一緒にいたかったよ。
一緒にいれると思ってた。

恥ずかしくて言ったことなかったけどさ。
一生を共に過ごす人だと思ってたんだよ。
ホントだよ。

「ぅく」
涙がこみ上げる。
ぬぐおうとして持ち上げた右手を、だらりと下げた。
「う…あああああっ」
泣こう。
誰も見てない。
それで泣き疲れて死ぬのも良いかもしれない。
ぺたんと再びその場にしゃがみこむ。
そのままごろりと体を投げ出した。
 
140 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:40

「亜弥ちゃんっ、亜弥ぢゃああん!」

亜弥ちゃんはいっつもわがままばっかりで。
でも美貴が甘えたら抱きしめてくれて。
『みきたん』
なんて恥ずかしい呼び名で。

とろけるような笑顔で。

甘い声で。

「亜弥ちゃん…」

会いたい。
帰りたい。
もう一度。
もう一度だけでいい。

抱きしめてほしい。

そして名前を呼んで。
  
141 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:40

『たん?』

『たんってば泣いてるのぉ?』

「泣いて、るよおっ」

えぐえぐと子供みたいにしゃくりあげる。

『あら素直。めずらしー』
そりゃこんなときぐらい素直になるよ。

ねえ、もっと呼んで?

『みきたーん』
「亜弥ちゃん」

美貴のこと。
キミの好きな言葉で呼んで。
 
142 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:41

『た――』
「たん?」

もっと。

「そこにいるの?」

声を聞かせて。

「…たん?」

もっと、もっともっと、も――

――ちょっと待て。

「ホントにたん??」

「…マジ?」
これ、生声。
がばっと顔を上げてあたりを見回す。
涙で視界がにじむのがウザくてぐしぐしと顔をぬぐう。
クリアになった視界で目を血走らせて見渡すけど、やっぱり何もない空間。
 
143 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:41

「亜弥、ちゃん?」

恐る恐る問いかける。

「たん!?」

声に。
心臓が大きく音を立てた。
いる。
この空間の中に。
どこに、どこに、どこに?
必死になって腕を振り回す。
声はそれほど遠くない。
 
144 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:44

「っ!!」

指先が何かを、掠めた。

そして白の中に飛び込んでくる、極彩色。

何よりも明るく派手で強い光。

「みきたん!!」

抱きしめられる体の感触に、匂いに、目眩がした。
何度も何度も呼ばれる名前に返事のひとつもできない。
叫びだしたいくらい心には震えがあるのに。
声の出し方が、わかんない。
亜弥ちゃんを手に入れることで声を失うんなら構いはしない。
だからお願い。

離さないで。

抱きしめあったまま、亜弥ちゃんは背中をそらして美貴の顔を見つめた。

「たんだぁ」

唇を寄せて、確かめ合うやわらかい感触。

「も、帰ろ?」

涙交じりの声に、意識が遠くなった。
 
145 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:44


146 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:46

うぁ…。

まぶしさに眉をしかめる。
はあっ、はあっ。
自分の荒い呼吸が耳につく。
息、また苦しいし。やんなるなあ。
胸が押しつぶされるみたいにむかむかする。

「たん?」

耳鳴りに押し込められて、それでも確かに聞こえた声。
ああ、亜弥ちゃんの声だ。
声に出して名前を呼んだつもりが、唇の動いた気配もない。
てか体の感覚もなくて、でも唯一亜弥ちゃんの手を握り締めてる右手だけは感じられた。
それを堪能しようと力を込めたら。
「みきたん!?」
ばしばしとほっぺたを殴られて…ほっぺたにも感覚復活。
もう少し優しくできないのかね、この人は。
美貴めちゃくちゃ気分悪いんですけど、今。
吐きそうに気持ち悪いんだけどその気力もない。

なんとかしてまぶたを開こうとしても、開いたっぽい感覚はたまーにあるんだけど、
すぐ閉じちゃうし視界は何も映してくれない。
ただもっと気持ち悪くなるだけ。
 
147 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:46

「うっそ!マジ!?」
耳だけはしっかり機能しているらしく、耳元で叫ぶ声がたまらなくうるさいことは認識できた。
「っ」
しかも。まぶたをぐりって無理やり開かれる。
さすが亜弥ちゃんですよ。
見えなくても間違いなく亜弥ちゃんですよ。
「見える?たんアタシ見えてる?ああ、白目むかないで!」
そんな無茶なこと言ったってアンタ。
美貴の体になってみてから言いやがれ。

それでもぼんやり、なんとなく。
だんだんと、はっきりしてくる視界に。
真っ白な肌が、見えた。

…亜弥ちゃんだ。
 
148 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/20(月) 21:47

名前を呼んだつもりだったけど、声はやっぱり出なかった。
でも今度は唇は動いた。

「たん、起きたの?起きたんだよね?ねえ、なんか言って?ねえってば」
ぐいぐいとまぶたを開かれて、つながれた右手はゆさゆさと揺らされる。
まぶたが閉じなくて目が乾く。
揺すられると気持ち悪い。
なんか言ってたって、とりあえず。

「ぃた…ぃ」

「っ!みっきたああん!!」

いや、手を離してほしいんだよ。
 
149 名前:stk 投稿日:2006/11/20(月) 21:50
更新終了。藤本さん、お疲れ様でした。

展開速すぎて申し訳ない。余韻とかないし。
話膨らませる文章力が欲しいです…。

後は収束に向かうのみ。1,2回で終わります。
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 21:54
リアルタイムで読ませてもらいました。
あと1、2回で終わってしまうんですか。
まだまだ読みたい気持ちもあるんですが…。
ここは大人しく更新待ってますね。
151 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/21(火) 16:11
短編とと本編続きキテタ━━━━(゚∀゚)━━━━
本編のほうはクライマックですか!
どうなるんだろう、ドキドキしながらお待ちしております
152 名前:stk 投稿日:2006/11/25(土) 23:40
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>150さま
リアルタイム…なんだか恥ずかしいです(笑)
最後まで楽しんでもらえるとうれしいです。

>>151さま
短編は見なかったことにしてください。…正直やりすぎました(笑)


今回結構多目更新になります。
最後まで突っ走りますので、よろしくお付き合いください。
153 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:41

美貴が心配していた『藤本美貴、謎の失踪!?』にはなっていなかった。
かわりに『謎の昏睡!?』になってたようだけど。
もちろん表向きはただの体調不良。
向こうに行ってる間も体はこっちにもちゃんと消えずに存在してたけど、意識は一つしか
ないみたいでこっちの美貴はひたすら意識不明。

戻ってきた美貴は、前回より遥かに体がつらくてまともにしゃべることもできなかった。
それでも点滴されたり少し眠ったりしたら多少は回復して、深夜目を覚ましたときには
起き上がるのはまだつらいものの、抵抗なくしゃべれるくらいにはなっていた。

仕事が終わって現れた亜弥ちゃんは(昼間は仕事の合間に様子を見に来ていたらしい)、
今日は泊まって行くという。
ママもこの数日間まともに寝てなかったみたいで、亜弥ちゃんに丸め込まれてうちに
帰って行った。

深夜の病院は嫌になるくらい静かだったけど、ここは個室だしちょっとくらい話こんでも
大丈夫だろう。
 
154 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:42

亜弥ちゃんが言うには、あの数日前から時間移動の力が発動しそうな予兆はあったらしい。

「なんか頭ん中がうずうずしてさ、目の前がゆらゆらする感じ?目眩とかじゃなくて」
でも制御する方法も知らないし、急にどうにかなるものでもないだろう思っていた。

そして狙ったように無くなった時計。

10年前に、ママがいた頃に戻りたいと強く願った亜弥ちゃん。

ゆえの、発動。

あの真っ白な空間自体には亜弥ちゃんも入って、子供の自分にも会ったという。
美貴を一人置いてきてしまったのは激しく後悔したものの、一応子供の自分に美貴のことは
託したし、そこにはママもいるし、何よりも力がなくなって迎えに行くこともできない。
亜弥ちゃんには待つしか方法はなかった。

そして今日、急に力が身近に感じられた。

「これがさ、なんかみょーに主張してくるんだよね」

ちょっと苦笑い気味に、白い腕を美貴の視界まで持ち上げる。
「あっ、それっ」
そこにあるのは。
(美貴の主観で)ついさっき力いっぱい投げ出したごつかわいいデザインのそれが、
亜弥ちゃんの手首に巻かれているのを見るのは実は初めてだった。
なんだ、全然似合うんじゃん。
「どこにあったの?」
「…たんのかばんの中」
「は?」
てへって舌を出すところを見ると美貴が自分で入れたんじゃないよね。
 
155 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:43

あの朝、美貴が目を覚まさなくって焦った亜弥ちゃんはとにかく美貴のお母さんと事務所に
連絡。
とりあえず病院だろうということになって、保険証を探そうとかばんをあけて。

「アタシが時計なくした日さ、おそろだったじゃん?」
あの日、午前中は一緒の仕事で。そういえば楽屋についたらかばんがかぶってた。
まあ、おそろのものが多すぎるから良くあることなんだけど。

「でえ、そん時にアタシ時計持ってたの。そろそろ誕生日だなー、ママのメッセージ早く
 見たいなーって。で、たん来てすぐ部屋出たじゃん?荷物おいて」
…まさか。
えへって、コラ。
「間違えてそっちに入れちゃったみたい」
マジですか?あんなに大捜索したのに…。
そりゃ亜弥ちゃんのかばんは中身全部出して調べたけどさ。
美貴の方はあけるわけもないよね。

…はあ。
美貴の努力を無にしてくれるとは。さすが亜弥ちゃんだよ。アンタにしかできないよ。
がっくり肩を落としたけど、ふにゃって力抜けきった笑顔見ちゃうと…まあ、いっか。
美貴もなんか、ちょっとほっぺたが緩む。
今回は許してあげる。
だってまた会えたから。
もう二度と会えないんだって、美貴死んじゃうんだって思ったのに生きて会えたから。

死…んじゃう?

あれ?
美貴なんか忘れてない?
えっと…。
 
156 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:43

――!

「ちょ、今何時?てか何日だ」
やばい。まずい。やばすぎ。
かあって顔が熱くなった。
熱くなったら目眩がしたけどそんなことには構ってられない。
「今?えっとね、12時前だよ。24日の。あ、もうすぐ誕生日だー」
よかったあ、みきたん間に合って。
そう、間に合った。ギリだよ。間に合ったからっ。

「それよこして、時計!」
「はあ?何言ってんの?ママからのメッセージが届くんだよ?一番に見るのアタシだもん。
 絶対だめ」
「だめじゃなーいっ」
あと何分?
美貴が入れたメッセージ消すの間に合う?
「返すから!12時までには返すから!」
大きな声出したら息が上がってきやがった。
時間移動ってやつはマジでしんどい。
もう絶対にやりたくない。
美貴のただならない様子に亜弥ちゃんは目をぱちぱちするけど。
「無理だよ。だってあと…」
差し出されたデジタル時計は、無常なカウントダウン。

23:59:48

「どきどきするぅー」
どきどきっつーか、美貴はばくばくしてます。
顔を真横に並べて一緒に時計を覗き込む亜弥ちゃん。
美貴も見ていいよってことか。
いや、美貴は見たくないから。

「57。58。59。…」
 
157 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:44

キラって文字盤が光った。
HappyBirthdayのアニメーションのあと。

[あや、はたちのたんじょうびおめでとう。あやがいつでもしあわせでいられますように。
 ママより]

「なにーめっちゃ普通じゃーん」
いやでもさ、それを見守れない人にとってはどうしても伝えたいことなんだよ。
うん。それでさ。
「あ、もっかい?」
ちがうんだよ。二つ目のメッセージはさ。
見れない。顔を背けて、っていうか背中向けちゃえ。
うわあああ。恥ずかしすぎる。
だって美貴死ぬんだと思ったからっ。もう会えないと思ったからっ。

[あやちゃんがいきてるかぎり、ミキはそばにいるよ]

やば。くさ。ださ。もさ。
いつの時代の人だよ美貴。
意味わかんねえ。
なんだそれ。

亜弥ちゃん、黙ってるなよおおお。
なんか言ってよ。
いつもみたいに遠慮なく笑ってくれ。
「み、みきたん…」
ってなんで涙声?
感動したんですか?そうですか?
それとも笑いこらえすぎですか?

「たんにプロポーズされちゃったあ」
「ちが!はあ!?」
光の速度で体を反転。
目眩は無視して目を見開く。
って亜弥ちゃんマジで泣いてるし。
「何言ってんの?違うからねっ」
そうとも受けとれる文章なのはわかってるけど!
「あれはね、美貴もう戻れないと思ったから!それにほら亜弥ちゃんのママのことも
 あるから、だからママのかわりに美貴が――」
 
158 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:46



「あ、メール」
「美貴が、あ?」
ああ、おめでとうメール?
あっさりと携帯に飛びつく亜弥ちゃんに拍子抜けして肩ががっくりと落ちる。
泣いてたくせに。
転換早いっすね。
なんつーかこの人の意識は美貴だけに向かうことは無いんだな…。

てか病院では電源切れよ。
次々に届くメールに嬉しそうに返事を返す亜弥ちゃん。
ぼんやりとその横顔を眺めながら乱れた呼吸を整える。
この人が二十歳か。

「…誕生日オメデトウ」
ぽつりとつぶやいた言葉に、亜弥ちゃんは横目でにひっと笑ってピースサインを出す。
その視線はすぐに携帯に落ちて、指先は高速に文字盤の上を滑る。
一番乗りじゃなくても。
美貴だけをずっと見てくれなくても。

今ここにいるのが。
美貴と亜弥ちゃん。
 
159 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:47

「ねえみきたん」
「ん、何」
携帯に視線を落としたまま口を開く亜弥ちゃん。
ぱたん
それを閉じて。
顔を上げた亜弥ちゃんの目がきらっと輝いた。
なんかやな予感。亜弥ちゃんの目が輝くときは経験上ろくなことがない。

「これ。もらってい?」

差し出された左手にはピンクのベビーGと――美貴のブレスレット。
「あ!いつの間に」
自分の手首を見るけど当然ない。
左右どっちにもない。
やっぱり向こうに行ったとき、ブレスレットはこっちに残ってたんだ。
てか勝手に取りやがって。

なんでそれだけこっちに残ったんだろう?服とかはちゃんと着てたのにな。
でももし持ってたら向こうで亜弥ママにもらったときややこしいことになってたよね。
…だから残ったのかな?
そういや向こうでもらったやつもこっちに持ってこれなみたいだし。
や、違うわ。
向こうでは確か亜弥ママにもらったあと、すぐに苦しそうに手を握ってって言われて
とっさにブレスレットごと握っちゃったんだよね。
そのあと手を離したときに一緒にブレスレットも落としたんだろうけど。

それで…それでどうなったんだろう?

亜弥ママがあの空間の中で亡くなっても、体は元の時間に残ったはず。
こっちに残ってた美貴の体と同じように。
じゃあブレスレットは?どっちの時間に残った?
もし向こうの時間に残ったとしたら。
そのあと誰かがあれを手にすることになるだろう。
その人はあれを、どうするだろう。
…全ての事情を知っていたなら、亜弥ママの意思を継いで美貴に届けようとするかも
しれない。
そしてその美貴は、11歳。
 
160 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:47

そこまで考えが及べば、記憶はするすると巻き上がって。


そうか、あれ11歳のときだったんだ。
夏だ。見慣れない宅急便の箱。
美貴宛に宅急便なんか珍しくてすごく嬉しかったこと。
一目で気に入ってすごく大切にしてきたこと。
そして白い――。
 
161 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:48

「ねーいいでしょお?」
微かな記憶をたどる美貴の腕を、亜弥ちゃんがぐいぐいと揺らす。
ちょっとくらい落ち着いて考えさせてくれ。
「だめ」
答えは決まってるんだから。
「ええっ。けちぃ」
「だめです。美貴がそれどんだけ大切にしてるか知ってて言ってんの?」

あの日箱から取り出したブレスレット、きっと美貴の目も同じ色にきらめいていた。

これだけはだめ。
いきさつ知った今ならもっとだめ。
美貴にとっての亜弥ママの形見じゃん。
てか触るなっつってんのに、聞いてくれよ。
その腕から取り上げようとしたら、ひらりとかわされる。

小学生の腕ではするりと抜けてしまいそうで、いつも神経を尖らせていた。

「知ってるよお。だから言ってんの」

大事に大事に。想いを込めて。誰にも触れさせない。だってこれは。

「だあめ。それはね、大切な人にあげるためにずっと美貴が守ってきたものなんだよ」
いくら亜弥ちゃんとは…言え?
あれ?
「えー。それってアタシのことじゃん」
あれ??
「…美貴、今なんて言った?」
「は?」
『大切な人に』??
なんか勝手に口をついて出たけどそんな大それたもんだっけ?
てか人にあげる気なんかさらさらなかったんだけど。
…てかアナタさりげなく何言いました?
「えと、大切な人のために守ってきた?みたいな。でもその大切な人ってアタシだし」
一分の疑いも見せずに言い切る亜弥ちゃん。
 
162 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:49

ちょっと待って、なんか。
そう、さっき亜弥ちゃんに邪魔されてぶつぎられた記憶の糸をつなぐ。

同封されていた、白いメッセージカード。

『いつか大切な人ができるまで、しっかり守っていて』

書かれていたのはそんな感じの言葉。
守るとか、小学生にしてみれば甘くない響きの言葉だったけど、あとあと良く考えると
それってエンゲージリングみたいなもの?って気づいて、それから誰にも触らせない
ようになった。…すっかり忘れてたけど。
だいたい自分でも変だと思ってたんだよ。自分のものにも自分のことにも執着しない美貴が、
これにだけは異常なほど執着していたこと。
その答えは。
…自分のものじゃないから。
美貴が一番、大切に想う人のものだからだ。
そりゃ執着するっての。

大切な人。
美貴にとって一番大切な人は。

「…いいよ」
「え?」
「亜弥ちゃんに、あげる」
「やりぃ!」

あげるじゃないね。
亜弥ちゃんに返すよ。
10年間、美貴が大切に預かってたそれを。
ってかあのメッセージカード、いったいどこまでわかっててそんなことを書いたんだろう。
律儀に10年間も持ってる方がおかしいよね。
逆に覚えてたら他の彼氏とかにあげちゃってたかもしんないし。

でも結果亜弥ちゃんの手に渡ってるんだよねえ。
なんかしてやられた感…。
 
163 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:49

「ねえねえ、これなんて書いてるの?」
なかなか触らせてもらえなかったそれを、嬉々として眺め回す亜弥ちゃん。
「あーわかんないのそれ」
真ん中につながれたプレートに刻まれているモノ。デザイン化されすぎた文字列。
むしろただの模様の可能性も高いと思ってる。

「ふーん、あ、でもこっちは…んん?」
諦め早っ。
裏っ返すとそっちはまだましかなって筆記体。
「m?…最後y?」
うん、美貴もそれくらいしかわかんない。
「mは美貴のmじゃない?」
「うーん、そうかなって思っても」
そのあとがわかんないんだよね。
 
164 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:50

ピロ

へ?

ピロ、ピロ、ピロ

「あれ?まただ?」
腕時計を顔に近づける亜弥ちゃん。
ちらって部屋の時計を見上げると12時10分ちょうど。
亜弥ママメッセージ二つ入れてたのかな?
壁時計から戻した視線が間抜けな感じに停止した亜弥ちゃんを映す。
「なに、これ??」
「え?なになに?」
顔くっつけて覗き込むと

[――トあげてくれた?]

「はあ?」
「いや、あの、あ、もっかい」
意味わかんないって顔したら、ぐいって時計を突きつけられる。
リプレイされる文字列。

[みきちゃん、あやにプレゼントあげてくれた?]

プレゼント…ってもしかしてブレスレットのこと言ってる?
「くれたよね。っていうかなんでたん宛メッセージ?」
「さあ。そんなの美貴にわかるわけ――っ」
「ちょ、いたっ」
突きつけられた手首をひっくり返す。
ブレスレットの表の文字は、じーって見るけどやっぱわかんない。
でも裏は。

…真ん中…to、だね。
ってことは残りの文字は。
…。
…やっぱりか。
「やら、れた」
してやられた感、100%。完敗。
さすが亜弥ちゃんを産んだ人だよ。
大切な人ができるまでだあ?最初っから誰から誰に渡すか決まってるもん握らせやがって。
エンゲージリングだとか恥ずかしいこと考えて。
てかこれじゃあ表はなんて書いてあるんだろ。
…。
ああ、ここloveっぽい。
 
165 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:51

「みきたん怖い」
「ふえ?」
亜弥ちゃんをして怖いと言わせるとは。
どんな顔してたんだろ。
腕離したら赤くなってたし。
「あ、ごめ」
「もー力強すぎ」
むうって全然怖くない顔でにらまれて、ちょっと噴出しちゃったとき。



ん?また携帯?
「ママからだー…もしもし?…うん、見た見た…ありがとー」
出るのかよっ。

しかし病院にいることわかってるくせにかけてくるかねえ。
まあ、愛娘の誕生日だし?ラブラブ親子だから声聞きたいのもわかるけどさ。
前に東京来てからまだ一ヶ月も経ってないんだし、今日は美貴に独占させてくれても
いいじゃんねえ?
あんなメッセージ10年前から用意しといて、美貴のこと嵌めるほど二人のこと認めて
くれてる――の、に。

にゃはにゃは笑ってたはずの亜弥ちゃんの声がいつのまにか停止している。
ふらっと視線を上げると、たぶんおんなじ表情をしているであろう亜弥ちゃんと目が合う。
「マ…マ?」

そーだよー

能天気な声が、静かな部屋にかすかに聞こえた。
 
166 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:52

亜弥ちゃんのママは10年前に亡くなった。
上京してくるときは妹たちが心配でたまらなかったと亜弥ちゃんが言った。

亜弥ちゃんと仲良くなって、しょっちゅう東京に出てくる亜弥ママとも何度も会うように
なって。いつも作ってくれる関西風の味付けのご飯。
美貴がそれを食べたのはいつ?
10年前か。いや、昨日か。それとも一ヶ月前か。
一ヶ月前?それは違う、いや、違わない…と思う。けど、なんで。それって。

「ちょ…とま、なんか、美貴おかしい」
「あ、アタシのがおかしい」
携帯からなんか言ってるらしき声。
「いるよ。てかママ、アタシ…え?うん」

亜弥ちゃんは携帯を耳から離すとボタンをいくつか操作した。
腕を伸ばして美貴と亜弥ちゃんの正面に携帯を開いたまま構える。

小さな画面に亜弥ママ。さっきまで会ってた人…10年経ってもあんまりかわんない。
っていうか10年経ってる?経ってない?もしかして美貴帰ってこれてない?
いや、それはない。
亜弥ちゃんいるし。美貴のママにも会ったし。
マネージャーにも会ったし。
さっきはよっちゃんがお見舞い来てくれたし。
 
167 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:53

ってことは亜弥ママは
 
168 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:54

『美貴ちゃん』
「へ?はい」
『ほんっとにありがとう』
「はあ?」
なんの感謝?意味わかんない。
それより聞きたいことすごいいっぱいあるんですけど。

『って色々言いたいことあったのに10年も経つと忘れちゃったよー』
「待って待って待って!それより美貴すごいなんか変なんだけどっ」
「アタシもっ、ママ、生きてるの?」
ストレートだな、おい。
『じゃあなにかい?君たちは今幽霊としゃべってるわけ?』
けらけらと笑われる。

アタシはママ死んじゃってるんだよー。さらっと言っちゃう亜弥ちゃん。

たんママがアタシのママだもん。無邪気に美貴のママを取っちゃう亜弥ちゃん。

ママが来たからプリクラ撮ったんだ。勝手に美貴の手帳に何枚も貼る亜弥ちゃん。

ママからたんにおみやげ。一週間も経ってからお菓子を持ってくる亜弥ちゃん。

こん、らん…する。
『大丈夫大丈夫。すぐになれるから。二回分の10年間生きたんだから得したって思いなよ』
けらけらと機械質な笑い声。
軽い。
軽すぎる。
「あの…どう、なったの?」
美貴が帰ってこれてるってことは亜弥ママが力使ったってことでしょ?
美貴帰して自分も帰るだけの体力、あるようには見えなかったけど。
 
169 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:54

『多分…って言うかこれは確信なんだけど、美貴ちゃんも時間移動能力を持ってるんだよ』
「はあ?美貴が?そりゃないでしょ」
顔を見合わせると、亜弥ちゃんもきょとんとしてる。
いきなり何言うんだか。

『あるの。美貴ちゃんさ、10年前着いて何日か体つらかったでしょ?あの時はたんに
 無理矢理時間移動させられたからだと思ってたけど、あれ実は美貴ちゃんが力使った
 からだと思う』
「えー??でも美貴時間移動するやり方なんかわかんないよ?」

どうやって移動したの?
お母さんとか親戚にもそんな力持った人がいるなんか聞いたことないし。
美貴だけ突然変異?
そんなのありなわけ?
その力って遺伝じゃないの?

『そんなの私たちだってよくわかんないもん』
…そっすか。

『ね、美貴ちゃんあのとき10年前に戻りたいって思わなかった?』
「思ってない」
思ったのは亜弥ちゃんでしょ?
『うん。亜弥も思った。で、美貴ちゃんも思ってるはず。そのとき強く思ったことよーく
 思い出して?きっと二人分の気持ちが合わさって美貴ちゃんは過去へ行ったんだよ』

えー?えーと、あの時は…。

亜弥ちゃんが…時計はもうあきらめるって落ち込んでて。
美貴は…なんとか元気付けてあげたくて。
どうしたらいいかなって。
何が一番喜ぶかなって。

だから…。
ママに、会わせてあげたいって。

…ママが生きてたらよかったのにって。

――。
 
170 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:56

『  だってみきたんが、アタシのママを   』


『  助けて くれるんだ から   』
 
171 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:57

は、はは…。
ははは…。
そか。
そうなんだ…。
そうだよ。
美貴のせいで人が不幸になるなんかありえないね。
そうだよ。
絶対にない。

「たん?」

つないでいた手にぎゅっと力をこめる。
亜弥ちゃんを幸せな気分にするのは、いつだって美貴なんだ。

『あの時私を元の時間に戻したのも、美貴ちゃんだと思うの。だから美貴ちゃんは私に
 とって命の恩人だよ。本当にありがとう。いくら感謝しても足りない。ありがとう』
少し涙声になった亜弥ママ。
そうだ。あの時は何よりもそれを願った。
亜弥ちゃんのところに帰ってって。
そして次に願ったこと。
亜弥ちゃんに会いたいって。
すべてが、美貴の意思。

運命なんかじゃ、ない。
 
172 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:57

「ねえ、ところでさ、このブレスレットはママが買ったの?」
肩を震わせて笑う美貴を無視して、腕を持ち上げてみせる亜弥ちゃん。
『お。ちゃんと貰えたね』
はいはい。まんまと罠にかかりましたよ。
そんなニヤニヤしないで下さい。
『入院中にパパに送っといてもらったの。ちゃんと大切にしてくれてたみたいだね』
「何あの手紙。ちょっとひどくない?」

手紙って何?何?

ってしつこい亜弥ちゃんは無視。
『買ったときはここまでロマンチックなことになるとは思ってなかったんだけどね。
 まあいいんじゃない。亜弥とずっと一緒にいてくれるって事でしょ?』
「え?」
「はあっ?何言ってんの!?意味わかんないしっ」
大切な人、だけどずっと一緒とか、いやそのつもりだけど、でもなんで亜弥ママがっ。
「たん、うるさい」
そういえば、ここ病院。
むぐって口を押さえられる。

「んじゃあこれってさ」
そのままの手で器用にプレートを指差す亜弥ちゃん。
「なんて書いてあんの?」
『あれ?美貴ちゃんわかってて渡したんじゃないの?』
わかってないない。
口を押さえられたまま首を横に振る。
『えー?私が言っちゃっていいの?』
「言っちゃってだめなことなの?」
『ま、普通だよ。そういうのにしては』


『        』
 
173 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:58

 
174 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/25(土) 23:58

―――。

「――たん?たんってば」
軽く肩を揺すられて意識を取り戻す。
いつのまにかベッドに横になっててお布団もしっかりとかけてあった。
亜弥ちゃんがしたのかな?

本人はベッドサイドのいすに座って美貴のこと穏やかに見つめてて。
「大丈夫?」
は?あれ?なんだ?今のなし?
携帯、切れてる。
亜弥ママと電話…してたよね?

それで。

「ん?ママ?」
美貴の視線に気づいたのか閉じたままの携帯を掲げてみせる。
「たんがなんか倒れちゃったからとりあえず切っちゃった」
「そ…」
やっぱり現実か。
…くらくらする。
だってまだ体しんどいんだし。
それで、あんなこととか。こんなこととか。
美貴、気失っちゃったんだね…。

ってか松浦さん普通っすね。

「んー?嬉しすぎてなんかよくわかんないや」
にこって。
柔らかい笑顔で見下ろされる。
もそもそと腕をお布団から出したら、何も言わなくても自然な動きできゅって握られる。
 
175 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/26(日) 00:00

その手の感触に、10年前の世界で亜弥ママに聞いた話が頭をよぎった。
時間移動に重要な要素の話。
ひとつは時を越えたいという強い想い。
もうひとつは…二つの時空を繋ぐ強い縁。
美貴がこの世界に帰りたいと願ったとき、亜弥ちゃんが美貴のことを呼び寄せてくれた。
それが美貴と亜弥ちゃんの、縁。
きっと亜弥ママだって、あっちの亜弥ちゃんが一生懸命呼び寄せたから無事帰れた。
夢にうなされたような空間で、それでも強く引き合ったのは、それぞれの縁だったんだ。

亜弥ちゃんとママの親子の縁。

亜弥ちゃんと美貴の…。


絡めた指先から伝わる、あったかい気持ちがじわじわと美貴の体を満たしていく。
緩んだ頬をうつむかせると、亜弥ちゃんがにゃはにゃは笑いながらほっぺたをつつく。

知り合ってまだ5年目。
守ってきたメッセージは10年目。
次の10年目にも、その次の10年目にも。
ずっと一緒にいるためのメッセージ。
…まあぶっちゃけ嵌められて握らされてたメッセージなわけだけど。
時計のメッセージと根本的には同じ意味だった。
それってなんかすごくない?
運命じゃなくて、それが縁だよ。
 
176 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/26(日) 00:04

「ね、ちゅーしてい?」
「うん。してー」

緩むほっぺたを柔らかい手のひらが包む。
ベッドに寝たままの美貴に、かぶさるように亜弥ちゃんが顔を寄せてくる。
その唇も笑みの形に緩んでいて。

ねえ、亜弥ちゃん。
美貴してほしかったんだよ。
ずっと。
これからも。
ずっとだよ。

唇を重ねて。
重ねた想いは10年目の、メッセージ。
177 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/26(日) 00:06


『  mk to ay  』

『  永遠の愛をあなたに   』

 
178 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/26(日) 00:07

二人で幸せになろうぜ。

179 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/26(日) 00:07

 
180 名前:stk 投稿日:2006/11/26(日) 00:09
以上で本編終わりです。

あとエピローグというか、補足が少しだけ。
一呼吸おいて更新したいと思います。

ご挨拶はその時に…。
181 名前:stk 投稿日:2006/11/27(月) 22:08
読んでくださった方、(いたとしたら)ありがとうございます。

補足部分です。
最終更新になります。
182 名前:10年目のメッセージ・補足 投稿日:2006/11/27(月) 22:09

「亜弥、いいか。ママに何かがあったらまず、救急車を呼ぶ。1・1・9な。いつもの病院に
 行って下さいって言うんだ。病院の名前と先生の名前覚えてるな?
 病院に着いたらパパにも連絡をくれ。いいな。
 亜弥が一番お姉ちゃんだからな、パパがいない間、ママのこと頼んだぞ」

お手製の救急リストを前にパパの真剣な声。

「うん。大丈夫だよ」
「よし。いい子だ。…誕生日、一緒にいれなくてごめんな」

パパが出張に出かけた夜、ママは少しだけ発作をおこした。
パパの救急リストを握り締めるアタシに、ママは大丈夫だからと顔を引きつらせて笑った。
苦しそうに上下する背中をさすりながら、涙が止まらなかった。

誰か。
誰かママを助けて。
もうすぐ来る誕生日のプレゼントは何もいらない。
来年もその次も、10年後も20年後も何もいらない。

だからママを、アタシから取り上げないで。
 
183 名前:10年目のメッセージ・補足 投稿日:2006/11/27(月) 22:10

気がつくとアタシは真っ白なところにぽつんと立っていた。
となりで手をつないで立っているのは――10年後のアタシ。

ねえ、ママは?アナタがママを助けてくれるの?

アタシはアタシを見下ろして、小さく首を振った。

アタシじゃ無理。

そんな…助けてよ。お願いだよ。

泣きそうになりながら見上げたアタシは、腕をすっと持ち上げてずっと向こうを指差した。
そのアタシと同じくらいの年恰好をした女の子が、猫背気味にぼんやりと突っ立っている。

あの人…誰?

みきたん。…あの人がね、ママを助けてくれるかもしれない。

ホントっ!?

でも、それはとても危険なことかもしれない。たんの命にかかわることかもしれない。
たんはアタシにとってすごく大切な人。失いたくない。きっと…ママと同じくらいに。
だからアンタも、たんにお願いはしないで。ママを助けてとは言わないで。
…ただ、ママのところへ連れて行って。

でもでも、あの人は、みきたんはママを助けることが出来る人なんだよねっ?

…うん。
 
184 名前:10年目のメッセージ・補足 投稿日:2006/11/27(月) 22:10


  彼女がそう、望むのならば

 
185 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/27(月) 22:12

 
186 名前:10年目のメッセージ 投稿日:2006/11/27(月) 22:13



  10年目のメッセージ  完
 
187 名前:stk 投稿日:2006/11/27(月) 22:25
以上、『10年目のメッセージ』終了いたしました。

>>107さま、>>104のちっちゃい松浦さんの言葉はこの補足部分から来ていました。

読んでくださった方がもしいたのなら、本当にありがとうございました。
自分なりにがんばって書いたのですが、結局は内容も文章もぐだぐだ、テーマは絞れていない、
とても読みにくいものになってしまいました。読んでくださった方、ごめんなさい。
あやみきと言いつつ松浦さん最初と最後しか出てこないし…。
予定では松浦さんサイドでも色々あって二元中継っぽくするつもりだったのですが、そっち
サイドにあまりいいネタがなかったのですっぱり切り捨てました。
補足はその名残のようなものです。

結局あまり読者様に楽しんでいただけるものにはなりませんでしたが、書いた本人が楽しかった
ので良しとしましょう。
(でも実は本編よりも甘い短編の方がもっと楽しかったり:苦笑)

最後になりましたが、管理人様、作家陣のみなさま、M-Seekいつも楽しませていただいています。
こんなにたくさんのお話に出会う機会を私に与えていただいたことを、感謝しています。

ありがとうございます。
188 名前:stk 投稿日:2006/11/27(月) 22:31
付け足し感謝で申し訳ないですが。

管理人様、このような娘。小説にさえなりきれていないつたない話に貴重なスペースを
お貸しいただきありがとうございました。

ほんの少しでもこのスレを読んでくださった方にもう一度感謝して。


 ―― stk でした。
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/27(月) 23:13
このお話、今読んでる中で1番好きでした。
きれいにまとまっていて、何回も鳥肌が立ちました。
この話が終わってしまうのはさみしいけど、完結お疲れ様です。
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/28(火) 00:30
完結お疲れさまです。すごく良かったです。
毎回更新が楽しみな作品でした。
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/28(火) 02:04
すごく引き込まれる素晴らしい作品でした
また作者さんの作品が読みたいです
192 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/28(火) 02:20
月並みですが、お疲れさまでした。
毎回の更新が楽しみで仕方ないお話の一つで、全体的にはシリアス展開なのに要所要所で小ネタで笑わせてくれるという、とても満足感のある代物だったと思います。
機会があれば、是非またあやみきを書きにいらしていただけたら、嬉しい限りです。
お疲れさまでした。
193 名前:stk 投稿日:2006/12/10(日) 17:16
感想下さった方、ありがとうございます。

>>189さま
この良作群の中でここまで気に入っていただけると本当に嬉しいです。
まとまってましたかー。辻褄合わせに必死になったかいがあるというものです。

>>190さま
ありがとうございます。読者の方に楽しんでいただけることが何より勝る喜びです。

>>191さま
ありがとうございます。以下にもう一つ掲載しますが、期待に添えるかどうかは…。

>>192さま
『シリアスになり過ぎないように』は一応気を付けた点だったので、そこを指摘して
いただけると嬉しいです。満足していただけてありがとうございます。


容量が気になりますが、もいっちょいきます。

またもあやみきですが、今回は吉澤さんが少々登場。(石川さんも一応存在)
内容はありがちエロ小説、でも直接表現はあまりなし。
それでもいいという方のみお進みください。
194 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:17

 『 SF 』
195 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:19

不測の事態で鬼残業。
終了時刻午前一時。
ぐったり…。
…してる場合じゃなーい。
終電なくなっちゃうよっ。
ばたばたと机の上を片して席を立つ。
サーバー落とした、戸締りオッケー、エアコンオッケー、カードキー持った、あとは…。

「って休憩室電気ついてるしっ」
消して帰ってよね!
ドアを大きく開けてぐるりと見回す。
窓閉まってる。エアコンオッケー。ポット…オッケー。
じゃっ。
カチ。

、カチ。

一瞬消えた明かりがコンマ数秒で再び点る。
「はぁ?」
なんだそれ、意味わかんない。
ソファにはいつも通り半目でスカーッと寝こけてくれちゃってる大親友が一体。
「ちょっと、何してんの?」
とりあえず時間がない。
ゆさゆさと強くゆするとたんはんーって眉をしかめる。
まぶたをこする仕草がやたらめったら子供っぽい。
「亜弥ちゃん…?」
「そうだよ。てかアナタ何してるの?」
もう一時過ぎてんだよ?

「待ってた」
え。
アタシのこと、だよね。
普通にすごい嬉しい、けど。
「こんな、時間ま…えっ、ちょ」
ソファにねっころがったままぐいって抱き寄せられて、その上に倒れこむ。
「ちょ…んぅ!?」

バランス、わる。

腕付くとこも、膝立てるとこもなくて。

だから、抵抗、できな。

い。
196 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:20

「ん、ぅ」

二人の距離はマイナス値。
キス。
アタシの中に、いるたん。
な、にこれ。
…やば。
きもち、い。
結構久しぶりだったりとか、するけど。
たぶんそういう問題じゃなくて、これ。
女の子だから?
この子が上手いの?
…この子だから?

心臓がどきどきして。
ってかばくばくして。
体とか、ふにゃふにゃになる。
どれくらいしてたのかはよくわかんないけど、多分結構長い。
途中何回も中断して呼吸整えたもん。マジで。

やっと気が済んだらしきたんの胸の上で、頭ぎゅって抱きしめられて。
アタシはただ。
乱れた呼吸とふにゃけた体ととろけた頭で。
そういえばこの子は『遊び人』だったことを思い出していた。
「んふふ」
鼻にかかった含み笑い。
そりゃこの顔でこんなに上手けりゃ引っ掛け放題だよね…。
てか、引っかかった。
これかかったんじゃない?アタシ。
だって。

「お持ち帰りけってー」

終電。
行っちゃった。
197 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:21

たんは会社近くの結構いいマンションで一人暮らし。
一応都市部といえる土地で、広くはないものの2LDK。
親戚が不動産をしているとかで安く借りてるらしいけど、それすらも親の金。
実は隠れお嬢だったりする。
今までにもしょっちゅう遊びに行ったりお泊りもしてるけど。
「♪」
鼻歌なんか歌ってるたんのチャリに乗せられて、アタシってば只今お持ち帰られ中。
これ単なるお泊りで終わんないよね?
何してんだアタシ。
するの?アタシたんとするわけ?それでいいの?

この子は、誰とでも…ってわけじゃないけど気に入った子とはすぐに寝ちゃう。
相手は主に女の子。
進行形でセクフレ何人もキープしてる。
そのうち痛い目にあうからやめとけって言ってるんだけど、大丈夫大丈夫ってそればっかり。
でもアタシに手を出してくることは、一応今までなかった。
冗談で迫られたり、冗談でちょこっとキスとか、ホントその程度。
それがなんで急に。
エレベータの扉が閉まったとたん、すばやく抱きすくめられて唇をふさがれる。
カメラとか…ないんだよね?
てか誰か乗ってきたら…まあ午前一時過ぎじゃそれもないだろうけど。
ちゅ、くちゅ
緊張して、音が耳に響く。
想定内。
エレベーターでキスとか何考えてんだよコイツ並に想定内。
でも。

ちん

間抜けた音に。
「ちょ、亜弥ちゃーん」
腰くだけ…。
意外と力持ちなたんに抱きかかえられるみたいにして部屋まで連れて行かれる。
「ここでお姫様抱っことかしたらかっこいいんだけどなあ」
それはさすがに無理。
…アタシのが体重あるし。
でもでも身長だって1,2センチ高いもんっ。
 
198 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:21

たんは細い指先でパチパチと部屋の電気をつけながら奥へと進む。
その後ろをふらふらついて、リビングの方に入ろうとしたら。
「亜弥ちゃんはこっちー」
「え”」
心底嬉しそうな顔でベッドルームに押し込められる。
ちょま、いきなりっ?
「ちょっとだけ待ってて」

待っててって…すんごいヤな時間取られたなこれ。
こりゃあ間違っても『じゃあおやすみ』って事態にはなんないわ。
って言うかシャワーとかしたいんだけど…って言ったらヤル気満々みたいだしなー。
いやでも、残業でヤな汗かいたし、いくらあの子相手でも体のお手入れくらいはしたいし。
…とか考えてる時点でヤル気ありすぎっていうか。
「ああもうっ」
とりあえずその辺の堂々巡りからは逃避。
ベッドは視界にも入れたくないから部屋の隅っこでメールチェック。
鬼残業にいたわりメールがいくつか来てたからひとつずつ返していく。
ありがとうみんな。
サーバートラブルでアタシのデータだけ消えちゃうとかありえないよね。
しかも明日朝一で必要とかなんかの陰謀としか思えないよね。
10時くらいまでは手伝ってくれてた人もいるから、メールもそのあと届いたものがほとんど。
心配してくれたみなさま。
でも実はそのあとこんなことになっちゃってね。
…元気だよねアタシも。
 
199 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:22

かちゃ。
「ん?何?なんでそんなとこいんの?」
「あ、いや…メールとかさ」
「はあ?まあいいや。おいでよ」
げ。
ぽふって当たり前の顔でベッドに腰掛けるたん。
にっこにこ顔で腕を広げる。
するんだ。するんだよね。やっぱり。
そんでそんな普通の顔してするんだね。
なんか恥ずかしいね、とかそういう会話もないんだね。
「美貴、一回亜弥ちゃんとやってみたかったんだよね」
ああそう。そうなんだ。嬉しそうだね、ホント。

割りきり割り切り。
アタシだってほら、ちょっと興味あるし、みたいな?
たんだったら別にヤじゃないし?
なんだかんだ言ってアタシには弱いから酷いこととかしないだろうし?
上手いってウワサだし?
「もー、はやくぅ」
「わぁかったよ、もうっ」
こんなとこまでついてきてるんだから、それなりの覚悟と…期待もないわけでもない。
避ける事だってできるのをあえて避けてないんだから、この子のせいにするつもりもない。
同意、的行為。

ぎこちなく隣に座ると、たんはアタシの方にしなだれかかってくる。
くふくふと笑いながらアタシの肩に頭を乗せて甘えてきた。
「き、キショイよ。何笑ってんの」
首筋に触る前髪とか、すごいドキドキするんですけど…。
「ひどーい。だって嬉しいんだもん」
「…何がよ」
「亜弥ちゃんとえっちできるから」
言った唇が首筋に押し付けられる。
「っ。な、んで」
 
200 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:22

「だって好きだもん」

さらさらと肌の上をすべる唇。
甘いささやき。
首筋に、耳にかかる吐息。

「好きな人とえっちしたいって動物的本能じゃん?」

好きってアナタ…。
ぐらりと傾きかけた思考を力ずくで立て直す。
待て待て。
好きなんて言葉、毎日のように言われてんじゃん。
そんで違う子とえっちしてんじゃん、この子。
深く考えちゃ、だめ。
それよりも。
「んー。亜弥ちゃんの匂い〜」
耳に届くとろけたような声に、まずいことを思い出した。
「た、たん…ちょ、アタシ、シャワーしたい…」
そろそろ本気で首筋を這い回る唇に、切れ切れの言葉。
慎重に口を開かないとヤバイめの声とか出そうで。

「だめ」
「はあ?」
「亜弥ちゃんの匂い、落としちゃやだ」
や、それはちょっと困るんだけど。
アナタも女の子としてさ、わかるでしょ?

「…っ…ふぁ」
アタシの主張なんかおかまいなしに絡み付いてくる唇に。
言いたい言葉はもう何も言わせてもらえなくなってて。

舌先で感じる甘いキスに溺れながら、アタシはゆっくりと肌をさらされる。
 
201 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:23

  ( ※ 各自脳内補完願います )
 
202 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:23

う、うまい。

肩で息をするアタシを、たんがぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「あーもー、亜弥ちゃんサイッコー!」
何が?何がですか?わかんねーってば、もう。
だってもう、ホントにわかんなくなっちゃったんだもん、途中から。
「ね、もっかいしてい?い?」
「え…無理」
うわ。声がらがら。
喉からから。
そういやすごい汗。
ベッドがしっとりしちゃってる。
アタシそんなに汗かき体質じゃないんだけど…。

「まあ、無理って言ってもするんだけどぉ。…とりあえず水でも飲む?」
「飲むぅ」
全く疲れを感じさせない動きでベッドからポーンと飛び出すたん。
…浮かれモード全開。
鼻歌とか歌いながらキッチンに消えていく。
もちろん素っ裸。

…したねぇ。
しちゃったねぇ。
あのヒトと。
マジで上手かったね。
ウワサは真実だったね。
鬼畜系って聞いてたけどむしろ優しいくらいだったから、それはウワサと違うけど。
えーと。
じゃあ事実確認も終わったところだし…。
あとはオヤスミキティってことで。
 
203 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:24


カシ

…ん?何の音だっけコレ。

唇に硬いものを押し付けられる。

んん?

口の中に入ってくる、モノ。

「んくんっ」
げほ。
げほげほげほ。
な、なんだよ!?
にやにや笑うたん。
なにアタシもしかしてマジで寝てた?

「えっちして即寝とか若さがないなあ」
若さ?そういう問題?
にやにやしながらまたペットボトルを押し付けられる。
今度は少しずつ流れ込んでくる量にあわせて飲み込んでいく。
冷たい水がぐんぐん体に吸い込まれていく。
きもちいー…ってなんでそんなガン見なんですかアナタ。
「えろーい」
そんなうっとりした目で見られても。
ちらって見上げて動揺したアタシの頬を、とろりと滴が垂れて行った。

その滴をたん細い指がぬぐいあげて。
そのまま、唇をわって。
進入してくる指先。
「ん…」
「…えろーい」
熱っぽい目。
舌先をなぞる指先。
その動きに。
ぼーっとする。
…る?
…なんかこの味。
まさかだけどさ。
右手中指。
まさかだけどさ。

アタシの中に入ってた指なんじゃないの!?

「おいし?」
なわけない。
…でもこの人は、あの、まあ…おいしいとか…言いやがったね、さっき。
やばい。
思考回路が、そっちに軌道修正中。
えっちに方向転換中。
アタシのそんな目を素早く見て取って、たんはにやりと笑みを浮かべた。
わざとゆっくりとした動きでベッドにあがって、アタシの上に乗りあがる。
「ん」
指は口の中に突っ込んだままで、うなじに丹念に舌先を走らせる。
今の体にはちょっとした刺激が何倍にも感じられて。
「は…」
空いた手で体を撫で回されるともう、むずむずする。
もぞもぞしちゃう。
少しの身じろぎで肌がこすり合わされて。

やばい。
もう。

気持ちいい。
 
204 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:25

もう一回もう一回って甘えた声を出すたんにつられて。
てかもう、いろんなことがどうでもよくなって。
人ってこうして堕ちてゆくのかもしれないとか、そんなことまで思って。
「は、あっ」
うごめく指の動きにあわせて腰を揺らして。
快楽をむさぼる。
もっと。
もっと。
もっと。
胸先にかじりつくたんの頭を抱え込んで。
「た、んっ、アタシ、も…」

ピン、ポオーン

――っ。

硬く閉じていたまぶたをかっと見開く。

ピンポンピンポンピンポン

「あっ、ちょ…」
たんは一瞬動きを止めてチッて舌打ちしたけど、それだけ。
すぐに胸に顔をうずめる。

ガチャガチャガチャ

「あ、んんっ」

ほっとくつもりみたいだけど、まだガチャガチャやってるし。
ちょっと…。
なんかしつこい。普通の感じじゃない。
何?やっぱトラブル起こしてんじゃないの?
修羅場とかやめてよ。
アタシ関係ないからね。
…ってこの場に踏み込まれでもしたら言い訳も出来ないけど。
ちゃんと人は選んでるって言うけど、その辺で引っ掛けた子ともしてるみたいだし。

「は…」
指先の甘い動き。
ホント…上手い。
「ふぁ」

ん?静かになった?
あきらめた?


がちゃ。


…へ?
 
205 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:25

「うおーい。美貴っ。留守かあ?」
「なっ!?」
なんで?なんで人が入ってくるのっ?
鍵閉めたよね?
閉めた。
じゃあなんでっ?
「あっあ、うっ!?」
ちょま、冗談じゃない。
体を起こそうとしたアタシを押さえつけるようにたんがのしかかって来て、甘くいじっていた
指先が一気に突きこまれる。
「ダメ、んんっ」
必死で声を押さえる。

「マジで留守?…梨華ちゃん、水飲む?」
っ。
この声。吉澤さんだ。しかも梨華ちゃん一緒?
どっちも会社の先輩で…たんのえっち友達。
鍵、なんで…合鍵?なんで?
「ぅ、ふっ」
口を手でふさいで。
でもでもでも。

ぐちゅっぐちゅっ
って死にたくなるような音が部屋に響く。
コイツ絶対わざとだしっ。
アタシを見下ろすたんはにやにやと唇をゆがめる。
「美貴ー?寝ちったの?よしざー今日は手土産つきよ?」
声が近い。
コンコンってノックの音。
血の気が引く。
たん、お願いっ。
涙目で必死に訴える。
「手土産ってどうせ梨華ちゃんなんじゃん」
――!
何普通に返事してんのよっ。

かちゃ。

…死んだ。

「なによっ。美貴ちゃんったらひど…あれ?」
わざとらしい(でも結構似てる)梨華ちゃんのモノマネが中途半端で途切れる。
アタシは限界まで顔を背けた。
体は無理だけどたんが乗っかってるからそんなに見えないと思う。
そういう問題でもないけど。

とにかく。

ぐちゅっぐちゅっ

って音だけはやめて。
もうホントに。

死ぬ。
 
206 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:26

「ん、ぅ」
「ありゃーいい音さしてんねえ」
うそ、普通に部屋入ってくる!?
吉澤さんの気配が近づくと、たんは少し体を起こした。
ちょっと待って、それアタシの体見えるっ。
「うおっ、いー体。誰よこれ?」
「松浦、亜弥でえす」
「っ、言うなっ!あ、はあっ」
口を押さえてた手をすばやい動きで除けられて、顔を覗き込まれる。
涙目の視界でにやにや笑っているのは間違いなく、吉澤さん。
「おおー、とうとうモノにしたか」
「うん。やっとねー」
普通に会話しないでくれる?君たちっ。
「ふあ、う」
声、押さえらんない。
顔が熱い。意識が遠くなる。
「いいね。初モノ。よしざーにも分け前あり?」
「えー?どうしよっかなあ」

ない!!
絶対にないから!!
たんもどうしようとか冗談でも言わない!
じょう…冗談、だよね?
梨華ちゃんは吉澤さんの恋人。
だけどたんともえっちはしてる。
まさかだよね?
いや、別にアタシがたんの恋人なわけじゃないけど。
…だからこそよりヤバイ状況なわけで。

「ん!?」
一瞬遠いところに行きかけた(行きたかった)アタシの呼吸が奪われる。
具体的に言うと。
まあ、なんだ。
キスされてる。
…。
吉澤さんに。
だってたんは、
「よっちゃんずるーい。していいって言ってないよー」
とか言ってるし。
アタシの口の中いっぱいに広がる吉澤さん。

ちょっと待ってこれ。

…たんとはまた違う、上手さ。

「んう!」


でさ。

上手いのはわかったからさ。

キス以上のこともさ。

だからってさ。

なんで二人がかりで攻められてんのよーっ。
 
207 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:26

あれからほぼ毎日お持ち帰りされてる状態。
吉澤さんと梨華ちゃんとも、まあ、なんだ。
…しちゃったり、シテマス。
いや、なんつーかさ、相手女の子じゃん?しかもよく知ってる人じゃん?
危機感とか薄いじゃん?
それにアタシだって一応貞操がとか言わないくらいには過去の人もいるしさ。
んでやっぱ…気持ちいい、し。
勢いで攻めにまわってみたらこれがまた結構はまっちゃったりとか。
梨華ちゃんの体はすげー気持ちいいし、たんの反応はやばい気持ちになるくらいかわいい。
吉澤さんはあんましやらしてくんないけど。

…若いってすばらしいね。

そういうことにしといて。
 
208 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:27

「ねー、まだ終わんないのぉ?」
「もうちょっと…」
アタシの机にかじりついて上目遣いにふくれっつらのたん。
…かわいい。
まずいんだよね、最近。
藤本さん、そのかわいさをアタシに軽々しく振りまくのやめてくんないかな。
…ほかの人に振りまくのやめろって言いたくなっちゃうから。

はあ。不毛だ。
わかってますよ。
この気持ちがどんなけ不毛かさあっ。
でも止めらんないじゃん?
そういうもんじゃん?

「…今日はもう、帰りなよ」
とか一応言ってみる。
自分の身の安全のために。アタシの明るい未来のために。
って、おろ?黙った?
そろっと横目で伺うと…おおう。唇突き出した不満顔が。
かわいすぎます。
「ヤだ。だって亜弥ちゃん昨日も来てくんなかったじゃん」
言ってることと言ってる顔はすんごくかわいい。
でもさ、行ってすることはアレなわけで。
「…疲れるからヤダ」
できるだけ小声でぼそっと言う。
みんなに聞かれないように。
あと、ちょっとかっこ悪いから。
「え?ヤなの?」
…んなびっくり目で言われても。
「ヤっていうかぁ…今日火曜じゃん?アタシ今週土曜出勤だし…」
うちの会社は持ち回りで土曜出勤が月一だけある。
「んー。わかった」
あれ?そんなあっさり引くとは思ってなか――。

「じゃ、今日はしない」

「は?」
「だから、来て?」
「いい、の?」
「いいよ?」
あ、あれ?そんなのもアリなんだ。
まあえっちする前は普通にお泊りとかもしてたんだし。
行く度にする方がおかしいといえばおかしいのかも。
 
209 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:27

「松浦、もうあがっていいよ」
狭い通路をふさいでべったりとアタシの机にへばりついてるたんがいい加減邪魔になって
きたのか、主任から優しいお言葉。
それに甘えてさくっと片付けに入る。
あがるってわかった瞬間、たんも上機嫌で片付けを手伝いだす。
「ねーなんか食べてこ?美貴焼肉がいい!」
…げっそり。
たまには違う選択肢をくれよ。

給料日後だったため、おなかいっぱいに肉を詰め込んで、これ以上ないくらい上機嫌なたん。
ビールもかなり入ってるし…これさあ。襲われるよね。約束とか忘れてるよね。
…はあ。

部屋に入ると案の定べたべたとくっついてくる。
でもお風呂入ってるときも絡み付いてくるものの行為にいたることはなく。
ほっぺたにちゅーくらい。
意外と理性とかあるのね。
って思ってやったのに。
お風呂も上がってだらだらとTVとか見てたら、いきなりぎゅうって抱きつかれた。
「ねえ、亜弥ちゃあん」
な、なにその甘え声。
どきどきするじゃないかあっ。
…ってあれ?どきどき?
「亜弥ちゃんってばあ」
むうって唇を尖らせてぐいっと顔を近づけてくる。
さらにどきどき。
こ、これはその、そう、襲われそうで、貞操の危機ってヤツだよ、うん。

「し、しないよ(;^▽^)?」
「えー?ちゅーだけ、ね?」
は?ちゅー?ま、まあそれくらいなら。
アタシのOKの表情を読み取って、たんがすばやく唇を合わせてくる。
「…ディープは?」
ぐ…。聞かれると答えにくい。
いつもは強引に押し切られてるからなあ。
「だめえ?」
しゅんとしちゃった仕草が、かわいすぎる。
「ちょっと…だけなら…」
「やったあ。亜弥ちゃん大好きっ」
大好きってアンタ…。
 
210 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:28

甘く絡む唇の感触に。
高まってくるモノと否定するモノ。
せめぎ合う気持ちに思わずあごを引くと、追うように強く唇を押し付けられて。

そして入ってくる。

赤ちゃんが何でも口に入れるのは、手先の感覚よりも舌の方が鋭いから。
舌先が、たんを感じる。
敏感に。びりびりと。
体が震える。
心臓が震える。
絡みとられる動きに。

アタシはたんに、絡みとられる。

くちゅくちゅとえっちぃ音を立てて。
たんがアタシの中を泳ぐ。
は…はぁ…。
呼吸が上がってくるのは、唇をふさがれてるからだけじゃない。
心の奥のほうから高まってくるモノで。
心臓が、苦しい。


激しく攻めるわけではない、ただ優しく甘いキス。
そんなのされたら抑えが利かなくなる。
「うあーがまんできねー」
…アナタとは違うものがね。
「ねーいいでしょ?しよ?ね?」
がっくりしているアタシに気づきもしないで、ごろごろと擦り寄ってくる。
そのつむじを見下ろして、ムカつく気持ちがアタシに口を開かせる。
「…覚悟決めるつもり、あんの?」
今のアタシに手を出すってことの意味。
わかってないくせに。
ちょっと声を低くして問うと、一瞬きょとんとした表情を見せた。
「は?んと…あるある♪」
コイツ…適当に答えやがって。
まあわかって言った答えがこれだったら蹴りのひとつも入るところだけど。
今日のところは勘弁してやる。
余計な追求をしてこっちが追い込まれるのも面白くないし。
「…ちょっとだけだよ?」
「マジ!?やりぃっ」
早速首筋を唇が這い回る。
「は…」
そのふわふわの髪に指を絡めて。

…先に覚悟を決めるのはアタシの方なんだよなあ。
 
211 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:29

ふあ。ねむ。
席についてPCが立ち上がるまでの時間で机につっぷす。
昨日は一回しかしなかったからそんなに遅くはならなかったんだけど、先に寝ちゃった
あの子の寝顔見ながら考えることは堂々巡りで。


えっちで情が移るってなんだかなあ。
アタシってそんなバカだったかなあ。
しかもその気が全くない相手に。
ないくせにアタシだけをその気にさせるバカに。
あ、バカ同士でちょうどいいのかもね。

そのバカのせいで…おかげで、最近アタシは吉澤さんたちとあんまりしてない。
アタシがいるときに二人が来てもたんが追い返す。
亜弥ちゃんといるときは二人きりがいい…とか、そういうこと無防備に言っちゃうとこも
我慢ならなくムカつく点でもあるんだけど。
今あの子がキープしてる『お友達』の中で、アタシが一番近い位置にいることは間違いない。
でも順位を付けるってことは二番三番がいるわけで、アタシといないときは他の子としてるん
だなって思うとそれもまたムカムカして。
結果、アタシの泊りがどんどん増えていく。
しまった…毎日のようにやってんのはアタシのせいなんじゃん。
もっと言えば、他の子からたんを引き離すために…攻めも…がんばってますよ。
それなりに満足してくれてると…思うんだ、たぶん。
たんがめちゃくちゃかわいくて、アタシむしろこっちのが向いてんじゃないかって思うし。


たんのかわいい声とか思い出してにやつきつつ、横倒しのフロアをぼーっと眺める。
朝一だからみんなせわしなく行き交っている…中で一人眠そうにぽてぽてと給湯室へ向かう
背の高い人影。
でも考えてみれば、あの人とか梨華ちゃんとはえっちしても情はこれっぽっちも湧かない。
だからやっぱりする前から好きだったんだよ。
うん。
そういうことにしておこう。
女の子としてはそれが無難だ。
その結論に思い切ることにした。
よし。覚悟決めたぞ。

アタシは、たんが、好き。

んーじゃ宣戦布告といきますか。
 
212 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:29

給湯室のドアを開けると、うまい具合に吉澤さん一人しかいなかった。
でもこの時間帯、今すぐ誰かが入ってきてもおかしくない。
ちょっとタイミングとしては良くないけど、こういうのは勢いが肝心だし。
「ん?お。松浦じゃん。どした?」
「おはようございます」
「おはよー」
コーヒー片手にかじりかけのパンを掲げてみせる。
朝ごはんかな?
どうせまた出掛け寸前までやってたんでしょ。

「吉澤さんはアタシの気持ち…知ってますよね?」
「ん?んー。まあ」
お?
いきなり切り出してやったのに、即答が返ってくるとは思ってなかった。
「じゃあ、あの子アタシに下さい」
「ヤ」
一文字かよ。
「だって美貴かわいいんだもん」
むかっ。
一瞬吉澤さんに攻められてるたんを思い出してしまった。
ムカつくうっ。
「まあそうカッカすんなよ〜」
差し出されたパンに大口でかぶりつく。
むぐむぐむぐ
「うちらも結構長い付き合いだからね。そう簡単には譲れないねえ」
吉澤さんもむぐむぐやりながらのんびりと言い放つ。
「でも…美貴が松浦一人に絞るってんなら、ひーちゃんは泣く泣く身を引きますよ?」
「え…」
「その代わり」
にやつく顔がぐいっと寄せられて来て、思わず身をすくめる。
な、何?
そのままきつく抱き寄せられて唇が重なる。
「んん!?」
いきなり乱暴にかき回されて、心音が跳ね上がる。
こんなとこでっ、人来たらどうするつもりなのこの人!?
とっさに手を伸ばしてドアを押さえた。
とにかくドアの外が気になって、抵抗らしい抵抗もできないままいいように扱われて。

「は…は…。な、何するん…ですかっ」
「キス収め」
「は…はぁ?」
「美貴の事はそう簡単には譲れない。でも、松浦にはもう手を出さないよ」
がんばりなー。
気の抜けた声でひらひらと手を振ってキッチンを出て行く。
後ろ姿を見送って。

意外にも。
この人はアタシの味方なのかもしれない。
と思った。
 
213 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:29

立て続けに何度もしたらさすがに疲れちゃったのか、アタシの腕の中で大人しくなっている。
まだ余韻の残る目元で、アタシのことを見上げてくふくふと幸せそうな笑み。
ちくしょーもー。マジでかわいいなあ、コイツ。
愛しいって気持ちが、ホント体の底からあふれ出す。
思わず抱きしめる腕に力を込めると、同じように抱き返された。
「亜弥ちゃん、すきー」
「…っ」
ああ、もう。
そんなこと言われたら。
もう誰にもやりたくないとか思っちゃうじゃん。
なっんでコレがアタシのモンじゃないかなあっ。
欲しい。
コイツの全てをアタシだけのモノにしたい。
湧き上がる支配欲をやんわりと抑えながら、ゆっくりと柔らかい髪に指を絡める。

「たん、アナタね」
「…うん?」
「アタシのこと好きじゃん?」
「うん。好きー」
アタシのことを見上げる目が、ふにゃりと緩んだ。
ほんっとこの子はアタシのこと好きだよなー。
でもアタシのことだけを、好きなわけじゃない。
「んじゃさ…他の子とするのやめなよ」
「は?なんで?」
うーん。まあそう来るよね。
緩んでたはずの目元が鋭く変わった。
別に睨みつけてるわけじゃなくて、ただ素になっただけなんだけど。
「いや、だってアナタアタシとするの好きじゃん?」
「大好き!」
「んじゃやっぱ他の子とするのやめなよ」
「…意味わかんない」
ふてくされた顔するところを見ると、言いたいことは通じている様子。
それはそれでこっちが不利だ。
「だって美貴、亜弥ちゃんと付き合ってるわけじゃないもん」
その通りです。
予想通りとはいえ、『そんなのごめんだ』と言わんばかりの声音に若干へこむ。
「ん〜。そうだよねぇ」

じゃあ付き合おうよ。

って言ってオッケー貰える可能性、ゼロ。
…今の段階では。
 
214 名前:SF 投稿日:2006/12/10(日) 17:30

まあいい。
今日はアンタに宣戦布告をしただけだから。
このアタシ。
勝算のない勝負はしない。
明日っからはガシガシ行かせてもらうし。

近い将来にはアタシはアンタを独占してみせる。

松浦亜弥をなめんなよっ。
 

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