『月と牙と恋の話。』
- 1 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:03
-
※この話は人間界の常識が通用しません。※
- 2 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:04
-
教科書に教えてもらったこととか、母親から学ぶこととか。
全部。全部通用しないような世界はどこにだって存在する。
その世界を知る時っていつだろう?
こうやって、夜中に黒いマントを広げて飛び回っている時だろうか。
当たれない太陽の下に肌を晒したときだろうか。
でも私は、この白く輝く月が好きだし。
青い空よりも、紺色の深い夜空の方が全然綺麗だと思っている。
- 3 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:05
-
影が足元に私と行きたいとゆーから、連れてった。
影ってゆーのは、自分とは唯一無二の存在。
影が消えたら、自分の存在もなくなるんだって。
これは、お母さんから聞いたんだけど…どうなんだろう。
そんな言葉に全く確証はない。
ただこうやってフワフワと飛び回る毎日が私は好きだ。
それにしても喉が渇いたな。
もっと飲んでこれば良かった。
でもおかしいな、今日もいつもと同じくらい飲んだはずなのに。
水でも飲もうかな…。
あまり潤わないけど気晴らしにはなるだろう。
ちょうど、もうすぐ池がある。
そこの水は凄く澄んでいると聞いたから。
家まではまだ少しある…太陽もまだ昇らないだろうし。
- 4 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:06
-
「月が二つだ…。」
波一つ立たない水面はまるで鏡みたいで、満月の分身がそこにはいた。
そう言えば、月を見るなって言われたことがあったっけ?
あれ?でもそれは違ったっけ??
いっぱい言われたから、よくわからないや。
この池の水は飲むなって言われた?
いや…いーや。
そんなこと自分で決められないような子供ではないのだ。
案外冷たいなぁ。
両手で掬った水は綺麗で、三つ目の月が出来た。
月を掬って月を飲むってなんだかロマンチックだ。
ちょっとらしくないことを考えるのも悪くない気がした。
なんだろう。
よくわからないけれど…喉は相変わらず渇くけれど…
なんだか、凄く陽気な感じではあった。
今日が満月だからだろうか。
- 5 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:07
-
「わぁ。月ってこんなに綺麗なんだぁ。」
自分以外の声がしたから振り返った。
こんなとこに来るのは自分以外いないと思ってたから驚いて戸惑った。
「こんにちはぁ…じゃなかった、こんばんは?」
なんだか挨拶なのにたどたどしいような。
「あれ?今は夜ですよね?こんばんはじゃなかったですか?」
「えっ…あぁうん。合ってるよ。こんばんは。」
変な子。
知らない人に声かけるなって親に言われなかったのかな。
同い年くらいに見えるけど、何をしてるんだろうこんなとこで。
もしかして、仲間かな?
いや…でも…なんか違う気もする。
人間かな??
「あのぅ。こんなとこで何してるんですか?」
「何って…水…喉が渇いてて、それで飲んでたの。」
「そうなんですかぁ。」
キラキラした水面。
でもなんかそれにも勝るような…。
- 6 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:07
-
「あなた、誰?」
そう聞くとその子はニッコリ笑った。
あっ…口元にホクロがある…暗くて気づかなかった。
「サユミって言うの。サユって呼んで?」
「サユ…はぁ、サユさん。」
「あなたは?」
「へっ?私?」
「うん。」
「エリって言います。」
「エリかぁ。可愛い名前ね。」
そうかな…よくわからないけれど。
サユの方が可愛い気がするけど。
「ホント?」
「えっ?」
「んーん。なんでもない。サユも自分の名前好きなの。」
「そっかぁ。可愛いもんね。」
「ありがとう。」
フワっと笑うからつられた。
- 7 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:08
-
なんだろう…惹きつけられるような。
困ったな…。
駄目だよ…。
あぁでも…今日しか会わないから…。
この偶然に
この偶然を
取り込みたい…。
自分自身に…。
「ねぇ?痛くしないから…」
「えっ?」
- 8 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:08
-
聞こえない…聞こえない。
まわりの音も、この子も声も。
でもどーしてもその血を飲みたい。
- 9 名前:月の話。 投稿日:2006/11/15(水) 02:09
-
***
- 10 名前:伴樹 投稿日:2006/11/15(水) 02:16
- 初めてスレ立てます。
申し訳ありませんが返レスは苦手なので割愛させていただきますが、
レス自体は大歓迎ですのでよろしければお願いします。
短めですが、どうぞお付き合いください。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/16(木) 02:55
- さゆえり!キター!!
まったりがんばってください。
良い雰囲気ですね。
- 12 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:28
-
※この話は人間界に伝えてはいけません。※
- 13 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:29
-
この世界で人間が想像したと思われるものは本当はすでに存在している。
だって想像と言わないと誰も信じてくれないから。
そのことに気がつくものが誰もいないのは何故?
- 14 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:30
-
どうしよう…。
おいしい。
なんで?いつものあの苦い人間のものなんかより数倍甘い。
サユは本当に人間?
もっともっと飲んでいたい…だけど。
「はぁ…はぁ。」
サユの苦しそうな息遣いが耳に届いて我に返った。
刺さっていた自分の歯を抜いた。
「ごっ…ごめん!私つい!」
小さく出来た二つの赤い点から、ツーっと零れる赤い液体。
その余り物ですら、飲みたいと思った自分に呆れた。
- 15 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:31
-
「あなたは吸血鬼なの?」
あれだけ吸ったわりに、しっかりした口調だから驚いた。
「大丈夫なの?」
「えっ?」
「あっ…えーっと、大丈夫なら良いや。」
「今の何か気持ち良かった。」
気持ちが良かった?
そんなこと言われたの初めてだよ。
今までずっと相手は苦しそうだった。
「また今のやってほしいな。」
「えっ?」
- 16 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:31
-
そんなこと言われたら…。
どうしよう…。
私だって、もっともっと飲んでいたいけど。
でもそんなことしたら…。
どうなる?
死んでしまうの?
それは嫌。
- 17 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:32
-
「ダメ?」
うっすらと笑う。
月が照らす。
サユの白い肌は綺麗に
そのストレートの黒髪もサラサラと。
あぁもう一回だけならって…。
「ダメなのね。」
抑えられずサユの腕を掴もうとしたら、サユの声が耳に入った。
掴みかけた手が行方に困っていたらサユがゆっくりと手を取った。
- 18 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:32
-
「冷たい手。」
反対にサユの手は温かかった。
「でもヒンヤリしてて気持ち良いの。」
「サユの手もあったかくて気持ち良いよ?」
温かさは必要ないのがエリ達、吸血鬼だった。
それは、誰に教わることもなく誰かに教わらなくても知ることの一つだった。
だから温かいが気持ちの良いことだって知らなかった。
- 19 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:33
-
「エリは、サユのこと好き?」
「え?」
「サユはエリのこと好き。」
「えっ?あっ…ありがと。」
「エリは優しいもの。」
「優しい?」
私が?
「気持ち良いこと教えてくれた。」
そのまま腕をひっぱられ、首に回される。
必然的に体が近づく。
すごく甘い良い匂いがした。
二人の胸と胸がくっついて、なんだかとても締め付けられるような感じがした。
- 20 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:33
-
片腕だったのに、無意識のうちに両腕になっていて。
サユの腕も知らない間に私の背中の後ろにあった。
あったかい…
あったかいよ。
なんでこんなことに?
こんなこと教えてもらってないよ。
「こうすると気持ちが流れるの。」
本当?
それはサユが教えてくれる世界。
「じゃあ今流れてるの?」
「うん。流れてる。」
どう聞こえてるんだろ?
- 21 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:34
-
「ねぇエリ?」
サユはそう言うと体を離した。
余韻がなんだか凄く響いた。
「何?」
「もうすぐ日が昇るよ。」
「えっ!」
もうそんな時間。
そんなに此処にいたんだ。
時の流れは一定じゃないって誰かが言ってたのを思い出した。
「ごめん。サユ。私もう行かなきゃ。」
「行っちゃうの?」
「う…うん。」
吸血鬼は日に当たってはいけない。
影がなくなるからって…。
「また会いたいな。」
「サユに?」
「うん。」
「そしたらまた気持ちの良いことしてくれる?」
「うん。サユが良いなら。」
「やったぁ。うれしい。ありがとうエリ。」
突然また距離が縮まったと思ったらキスだった。
- 22 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:35
-
今度はしっかり聞こえてる。
まわりの音も、この子の鼓動も。
でも聞こえないのはエリの鼓動。
- 23 名前:牙の話。 投稿日:2006/11/17(金) 01:35
-
***
- 24 名前:伴樹 投稿日:2006/11/17(金) 01:36
- 今回は此処までです。
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/17(金) 08:12
- 何か官能的だ
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/17(金) 23:37
- こういうさゆえり大好物です(*´д`)
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/18(土) 22:50
- 凄い期待できそう
- 28 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:24
-
※この話は人間界より汚い嘘で溢れてます。※
- 29 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:25
-
誰かを想うことと誰かを憎むことは、同じことである。それを知ってても知らないふりをする。
間違ってるって誰かが言わないと世界は壊れてしまうんだ。
それを伝えるのはいったい誰の役目なんだろう?
- 30 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:25
-
日が昇りそうだ。
怖い…怖い…。
あまり聞きなれない鳥の声が耳に入ってきた。
風にはなれないけれど風よりも早く飛んだ。
影がちゃんと付いてきているか心配なくらいに。
向こうの空はもうピンク色で自分の足元まで迫ってきていた。
太陽は絶対に見てはいけない。影が消えてしまうから。
影が消えたら、私も消えて…会えなくなってしまうのかな?
- 31 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:25
-
でもなんで…なんでまた会いたいなんて言っちゃったんだろう。
だけど会いたい。
どうして?
わからない。
自分の感情がわからなくなるなんて。
そんなことにはなりたくないのに。
自分は自分でいたいのに。
- 32 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:26
-
「た…助かった。」
自分の屋敷の重い扉を勢いよく開けて閉めた。
扉を背もたれにして、ヘナヘナと座り込んだ。
汗なんてめったにかかないのに。
そのせいで前髪が少しおでこについてるのがわかった。
「喉渇いたな…なんでだろ?」
飲んだのに…いつもより多く飲んだのに…。
暑さに負けてマントを脱いだ。
「あれ?」
クラクラと足がふら付いた。
なんだか、頭が…。
ダメだ…力も出ない。
重力に耐えられない。
「寝よう…。」
そうだ寝てしまおう。
そしてまた会うんだ。
サユに…。
- 33 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:27
-
もしサユが良いなら、他の人を飲む前に飲ませてもらおう。
決められた分量を飲むなんて…もったいない。
「でも飲んだらサユ死んじゃうかな…。」
死ぬよね…。
でもだから何?
さゆの血おいしいじゃん。
飲んでいたいよね…ずーっと。
それってダメなのかな…。
ダメだよね。
寝返っては考えて。
寝返っては想って。
- 34 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:27
- 胸が苦しくなってきた。
真っ暗な部屋だから凄く孤独だ。
思わず弱音を吐きそうなそんな空間。
自分の部屋なのにな…。
別に目を凝らせば見えるんだけれど。
なんだか弱って目が見えない。
このまま瞼を閉じて眠ってしまおう。
−約束だよ?また同じ時間に会いたいの−
うん。わかった。会いに行く。
サユそうすると笑ってくれそうだから。
そうだと私も嬉しいから。
眠っているのに誰かに縛られているような重圧を感じる。
それは錯覚のような幻覚のような。
重たいけれど心地よくて。
なんだか、まだあの甘い匂いが残ってるいるんじゃないかって勘違いしてしまいそうな。
- 35 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:28
-
こんなに想ってしまう。
どうして?
サユを感じていたい。
サユを感じさせたい。
手で触れて、口でなぞって。
まるで毒みたいだ。
何度でも飲みたい。
何度でも感じたい。
あのギュっと締め付けられる感覚を何度でも、何度でも。
やりすぎると命を落としてしまうとわかってても…とまらない。
それほどまでの快楽。快感。
全部支配してくれて、そして全部支配したくなる。
私は、サユの全部がほしい。
全部想うから全部掬いたい。
その赤い血を一滴残らず。
また…また喉が乾いてきた。
- 36 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:28
-
早く沈め太陽…。
どうしておまえは昇っているんだ。
どうして私の邪魔をするの?
「苦しい…苦しいよサユ。」
他人を想うことは幸せだと誰かから聞いた。
幸せとは苦しいことではないと聞いた。
じゅあ今苦しいのはなぜ?
それを聞いたら答えはでるのだろうか?
目を閉じても誰かを想うことが恋だって聞いた。
目を閉じても浮かんでくる人が好きな人だと聞いた。
- 37 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:29
-
浮かんでくる?
浮かんでくるのは…サユ?
口元のホクロ…
ストレートの黒い髪…
真っ白な肌…
他には?
浮かんでくる?
甘くておいしい…あの赤い血?
恋ってなんだ…
- 38 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:29
-
わからない…わからない…。
どんな疑問も、自分の気持ちも。
でもどーしても知りたいんだ。
- 39 名前:恋の話。 投稿日:2006/11/20(月) 01:30
-
***
- 40 名前:伴樹 投稿日:2006/11/20(月) 01:30
- 今回は此処までです。
- 41 名前:通りの人 投稿日:2006/11/21(火) 23:47
- これ最高ー!!
さゆえり本当好きです!!
伴樹さん頑張って! 応援します!
- 42 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:40
-
※この話は人間界の寂しさよりも辛く苦しいものでしょう。※
- 43 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:40
-
誰もいない遠いところなんて、この世界には存在しない。
存在しないというのが嘘。存在しないという存在。
そんな場所っていったいどこと繋がっている?
- 44 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:41
-
サユの苦しそうな息遣い。
耳には入るけれど、入らないフリをして。
そこにあるのは罪悪感。
肩を掴むその手はなぜか力が入ってしまう。
離したくないから…。
想う事ってなに?
- 45 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:42
-
「エリ?泣いてるの?」
言われてやっと自分が泣いてることに気が付いた。
「どうして泣くの?」
サユが不思議そうに言うから返答に困った。
「エリはサユといて悲しいの?」
思わず首を横に首を振った。
- 46 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:43
-
だけど…思ったんだ。
私は、何も知らないんだってことに。
サユのことを何も知らないのに…
サユの体だけを求めて此処に来てる。
それは想うこと?
でも
ただ一緒に。
ただサユと一緒にいたいと思ってしまう。
サユは?
どう想っているんだろう…。
- 47 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:43
-
「泣かないで。」
サユが瞼に触れると涙が止まった。
その涙はキレイに宙を舞っている。
サユは手招きして、その滴を口に運んだ。
「涙は嬉しい時以外流してはいけないの。」
気づいてしまった。
サユ…もしかして…あなたは。
- 48 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:45
- 「エリ達は死んでしまうの?」
「死ぬなんて言葉は使ってはダメ。」
今夜の月は、丸が少しかけている。
まるで、何かの心みたいな。
心ってなんだろう。
心は存在しないものだって聞いたんだ。
だからきっと存在しないのだろう。
「まだ悲しい?」
「ううん。もう悲しくない。」
想うことが幸せなら。
こんな風にサユを傷つけはしないんじゃないかって。
傷つけて苦しげな声を漏らすことはないんじゃないかって。
でもそれが間違っていたんだ。
エリ達、吸血鬼は傷つけないと貰えない。
そしてエリ達は、傷つけることしかできない。
「それは間違ってないと思うの。」
サユの声が響いた。
- 49 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:45
-
ねぇ。天使。
ねぇ天使のサユ。
どうして私の前にあらわれた?
月を見てはいけないのは、あなた達天使だ。
それは、吸血鬼と出会わないため。
- 50 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:46
-
どうして吸血鬼が太陽を嫌うか知ってる?
サユみたいな天使に出会わないように。
お互いが想ってしまうから。
お互いがお互いを蝕んでしまうから。
「だからこんなにサユの血は甘いんだ。」
全部繋がり全部が見える。
- 51 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:47
-
「もっと、サユの体にエリを刺してほしいの。」
毒なんだ。
天使の血は毒なんだ。
すべて飲み干す頃に体中が熱くなり灰になってしまうんだ。
「どうしよう止まらない…サユ…どうしよう。」
こうやって何度も自分の牙を刺して。
サユの体に自分の存在を記し付けて。
- 52 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:48
-
「どうしてまた泣くの?悲しいの?」
「ううん。嬉しいの。サユに出会えて…」
「サユもエリに出会えて嬉しいの。」
嬉しくて胸の真ん中が熱いんだ…。
熱くて溶けてしまいそうだ。
違う。
溶けてきてるんだ…。
痛い…痛いよ。
- 53 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:48
-
「サユ…?」
「なーに…エリ?」
わだかまりも何もかもなくなって…。
知っているのは名前だけ。
他は何も知らない。
だけど惹かれて。
でも間違ってないって言ってくれたから。
それで良い気がした。
- 54 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:49
-
「エリ…もう日が昇る。」
うん…。
- 55 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:49
-
わかってる。わかってるんだ…。
もうすべて。自分の気持ちも、何もかも。
でもなぜだろう。もう怖くない。
- 56 名前:月と牙の話。 投稿日:2006/11/22(水) 01:50
-
***
- 57 名前:伴樹 投稿日:2006/11/22(水) 01:50
- 今回は此処までです。
次回で最後です。
- 58 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:34
-
※この話は人間界の恋よりも純粋なもので出来ている。※
- 59 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:35
-
運命の相手とかそんな決められたことは世の中にはない。
決められていたら、誰も他人と触れ合わない。
それを手にいれるために君ならどうする?
- 60 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:35
-
太陽が昇っているらしい。
向こうの方が少し明るい。
うっすらと開いている視界に入ってくるピンクの光。
あぁ…このままエリは消えるのかな。
- 61 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:36
-
体はくっついたまま。
肩に乗せてた顔だけ離した。
サユの顔が視界に入る。
泣いてもいない、笑ってもいない。
だけどそれはとてもキレイだ。
「ほんと?」
あぁそういえば、天使は心が読めるんだよね?
でも、サユはよく私に心を聞いてくるね。
そしてなぜか、可愛いとキレイに反応する。
- 62 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:37
-
「可愛いのが好きなの。」
「サユは、可愛いよ?」
「そうね。」
「ははっ。」
「笑った。エリは笑った方が良いの。」
それは、誰だってそうだよサユ。
違うのかな?
エリはそうだよ?
サユもそうならエリもそうだよ?
それってダメなこと?
「ダメじゃないの。」
でも良いことでもないかもしれないけどね。
きっと良いことも悪いこともないのかもしれない…。
- 63 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:38
-
サユ?
サユ?
あれ?
声が出ない…。
サユ?
もう日が昇ってる…。
キレイだね…サユ。
いつもこんなキレイなもの見てるの?
エリが見てる月よりもまぶしいね。
それは教わったとおりだった…。
目が…目が痛いよ…。
ねぇサユ?
聞こえる?
サユ?
- 64 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:38
-
「エリ…」
なにサユ?
「エリ…」
聞こえてるよ?
「サユミね…」
うん…。
「エリのこと好きなの。」
うん…知ってるよ。
でもいったい好きってなんだろね。
最後まで私はわからなかった。
もうじき灰になるっていうのに。
- 65 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:39
-
「サユもよくわからない…。」
うん…。
「でもギュっとして苦しくなるのが恋だと思うの。」
じゃあ今みたいなのが恋かな?
「サユミも苦しい…。」
サユも苦しいの?
それは嫌だな。
「でもエリと一緒だから良い…。」
そっか。
そうだね…。
あぁ…最後にサユの顔見たかったな…。
- 66 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:40
-
黒い灰と白い灰が舞っていた。
朝焼けに水面が黄色に光る池。
風が二人を引き離すわけではない。
二人がキレイに混ざり合って舞っていた。
- 67 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:41
-
天使の血は吸血鬼にはただの毒。
それは、飲んでしまえば止まらない。
最後まで飲み干すまで止まれない。
吸血鬼の牙は天使には快感。
何度刺されても、痛くは無い。
だけど死ぬまでそれを求めてしまう。
だからお互いに日を避け、闇を避けた。
- 68 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:42
-
出会ってしまったら止まらない。
出会ってしまうと愛してしまうから。
- 69 名前:月と牙と恋の話。 投稿日:2006/11/24(金) 01:43
-
**END**
- 70 名前:伴樹 投稿日:2006/11/24(金) 01:48
- 以上です。
拙い作品ですが読んでいただきありがとうございました。
レス返しをしないと表記してあるのにレスしてくださった方々本当に感謝してます。
励みになりました。
話は続きませんが、この世界観で別の話を書けたらなと思います。
気が向いたらまた覗いてみてください。
- 71 名前:伴樹 投稿日:2006/11/24(金) 01:49
- いちよう今回だけは流させていただきます。
- 72 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:22
-
※この嘘を本当にするにはあなたの心が必要です。※
- 73 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:22
-
風に渡って飛んできた噂は、いつかきっと風になってしまう。
この小さな窓から入ってくる風が伝えた言葉は、あまりにも悲しい惨事。
ねぇ、いつになった此処から出られる?
- 74 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:23
-
時なんて知らない。
此処から見える月はいつも昇ってて、あーしは太陽の存在を忘れてしまった。
聞こえるのは絶え間なく落ちる滴の音。
これは一度も狂ったことは無い。
だけど、これでは時がわからない…。
だってあーしは、ここに入った最初の時間を知らないのだから。
時なんて必要?
無くたって生きていけるじゃないか。
生きていかなきゃいけないじゃないか。
- 75 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:23
-
生きるって何?
わからない。
じゃあ生きてなくても良いんじゃないの?
これじゃあまるで、誰か…目に見えない誰かに生かされてるみたい。
生かされて、弄ばれて…。
それじゃあ生きてないみたい。
あーしは、生きていないの?
ループ。
まんまるいループ。
まるで今日の月みたいに。
月なんて消えてしまえば良いのに。
- 76 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:24
-
「あのー…誰かいますか?んー、あんまりよく見えないなー。」
誰?
あっ…あーし…声が出ない。
声を発する必要がなくなったからだろうか。
少し痛いけど、窓に近づこう。
そうしたら届くかもしれない。
体を引きずる音と一緒に流れる鎖の軋む音が。
でもあーしを見たらどう思う?
ここいるのがあーしだって知ってどう思う?
あーしだけが世界から仲間はずれにされているのに…
誰があーしに近づこうとする?
でももう一人ぼっちなのはイヤ…。
- 77 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:25
-
「何か音がする。金属の音…誰かいるんだ。」
声が出れば。
なんで出ないの?
必要が無いから捨てられるの?
必要が無ければ存在してはいけないの?
あーしは?
あーしはこんなとこに閉じ込められて。
存在してるのに…存在していないみたい。
ねぇ?
ねぇ?
あーしは此処にいるから。
ねぇ聞こえる?
聞こえるなら応えて?
「君、こんなとこで何してるの?」
何をしてるわけでもない。
何がしたいわけでもない。
あーしは閉じ込められているから何も出来ないの?
「君、喋れないの?」
うん。
そう。そうなの。
話せないの。
でもあなたの声は聞こえる。
聞こえるよ?
それで充分でしょ?
- 78 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:26
-
「風が私を此処まで連れてきてくれたんだ。」
風が?
あーしのとこに?
「この塔は、あまり良い噂を聞かないけど…。」
この塔は…。
あーしのような出来損ないを入れる場所。
誰にも必要とされないような存在が
誰にも必要とされることなく生きる場所。
でもあーしは…此処に入る前は必要とされてたの。
「君が私を此処に?」
風に頼って、あーしは歌を歌ってたよ。
それはいつぐらい前だったかな。
いつのまにか歌うことすら忘れてた。
その歌すらもう思い出せないよ。
でも誰かに届いていたのなら…。
歌っていて良かったと思える。
- 79 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:26
-
「顔が見たい。近づける?」
見ても怯えない?
あーしを拒絶しない?
鉄格子に近づくたびに、拒絶されそうで怖い。
どうして声は消えたのに感情は生まれるんだろう。
いらないと思ってもあるじゃない…。
それってまるで…
- 80 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:27
-
「ぃ…イヤや!あーし…。」
「声…出せたの?」
ほんとだ…。
声…まだ必要やったんや…。
そんなことがあるだ…。
不必要なことが必要になるなんて。
「顔見られるのイヤなの?」
だって…。
「私のことがイヤ?」
そんなこと思ってない!
だけど…。
「名前は?」
「へっ?」
「それくらい言っても良いでしょ?」
名前…。
あーしの…名前…。
「あの…。」
「ん?」
「ここからじゃ顔…見えない。」
「私の?」
「うん。」
「あっ。そっかぁ…逆光かぁ。それじゃあ見せたくないよね…。」
見えないほうが良いかも。
見えないほうが安心する。
だけどこれじゃあ…
- 81 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:28
-
「それじゃあ…。」
「あーし!あーしの名前!」
「言ってくれるの?」
「アイって言うんや!アイ!」
「アイちゃんか…素敵な名前だね。」
「あなたは?」
あっ…髪が見れた。
月の色と一緒…。
でも顔が見れない。
「マコトって言うんだ。」
「ま…マコト。マコト!!」
「そんなに大きな声で言わなくても。」
声笑ってる?
じゃあ、顔も笑ってる?
「なぁ?また来てくれる?」
「ありがとう。また来るよ。アイちゃん…。」
- 82 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:28
-
約束やよ。
約束して。
あーしは、ずっとここにいるから。
いなきゃいけないから。
だから証明して?
マコトがあーしの存在を…。
あーしが生きているって証明して。
- 83 名前:塔の話。 投稿日:2006/11/30(木) 23:29
-
***
- 84 名前:伴樹 投稿日:2006/11/30(木) 23:30
- お久しぶりです。
前回とは続いていませんが同じ世界です。
短いですが、またお付き合いください。
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/02(土) 00:12
- 新作キタ!!
作者さんの世界観が好きです。
切ないさゆえり凄く良かったです(´ー`)
- 86 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:26
-
※この出来事を正しい道へあなたの手で導いてください。※
- 87 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:27
-
風の便りに従って進んで行くと、きっとどこかに着くだろう。
だけど風は気まぐれで、望んだ場所に行かせてはくれないかもしれない。
ねぇ?此処は何のためにあるの?
- 88 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:28
-
歌を歌いたい。
マコトがまた此処に来れるように。
迷わず此処に来れるように。
あーしが此処にいるってわからせたい。
でもメロディーが思い出せない…。
どうすれば思い出せるんだろ。
あーしの声みたいに戻ってくれないだろうか。
- 89 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:29
-
声戻って良かった。
マコトといっぱいお話したい。
いつぶりだろう人と話すなんて。
最後に話した相手は…誰だったかな…。
やめよう…思い出すのは。
あーしとはもう会うことは無いのだから。
あーしは今…今会えるマコトのことだけを考えよう。
でも本当に会いに来てくれるんだろうか…。
わざわざ、こんな高いところに…。
こんな…何もないところに。
- 90 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:30
-
いや…。
高さなんて関係ない。
問題は、あーしにある。
いま、あーしのことを調べてるかもしれない。
この場所がどんな場所なのか…。
なぜここにいるか…。
全部…あーしのこと、すべて暴かれてるんじゃないかって。
存在はしたい。
だけど存在を否定されたら…。
存在することが出来なくなる。
どうして、あーしの中ではこんなことしか生まれないんだろう。
こんな考えたくもないことばかり。
あーしから生まれてくるものなんて…。
こんなガラクタみたいなものばかりなんだろうな。
じゃあこの涙もきっと汚いものなのだろう。
- 91 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:31
-
「泣いてるの?」
「マコト?」
「名前覚えててくれたんだね。」
「此処にいて覚えるものなんか無いから。」
「あぁそうか…。ごめん。」
ごめんなんて謝る必要無いのに。
「今日は下弦だね。」
「下弦?」
「月の形だよ。満月の左半分だけ光ってる月のことを言うんだよ。」
「満月?」
「満月を知らないの?」
「うん…月は月やないの?」
「そうだけど。月は形を変えるんだ。」
「それは知ってる。でもなんで変わるんやろって思ってた。」
「そう言われると困ったなぁ。」
「でも太陽は形を変えんよ。いつもまぶしい。」
- 92 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:32
-
あ…。
言ってしまった。
この世界では太陽なんて存在しないのに…。
あーしは…自分の正体を自分でバラしてしまうなんて。
「太陽見たことあるの?」
「う…うん。」
これでマコトもあーしのこといらないと思ってしまう。
「やっぱり噂通りなんだね…。」
「え?」
「この塔の噂…この塔は天使が作ったって聞いた。」
やっぱり知ってるんだ。
此処がどんな場所か。
「アイちゃんは追放されたの?太陽の世界から?」
「嫌わんで…。」
「え?」
「お願い嫌わんで!あーし!ずっと一人やった!」
どれだけとか…どのくらいとか…
そんなことがわからなくなるくらい。
ここは、暗くて重くて寂しい。
そして、この鉄格子のように冷たい。
赤錆びの匂いが鼻を掠めた。
- 93 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:33
-
「どーして嫌うの?」
「え?」
「アイちゃんはまだ私に何もしていないじゃない?」
何もしていないけれど。
「だから嫌う理由なんて何も無いじゃない。」
だけど…あーしは。
「吸血鬼を一人殺したの…。」
凄く孤独で…。
誰かに縋りたい思いで…。
だけどこの世界は…あーしを孤独にする。
「マコトも…吸血鬼でしょ?」
「吸血鬼は、天使を見ると目が離せなくなると聞いたことがある。」
「だから見てほしくなかった…。」
「アイちゃんは私も殺す?」
「殺したくて殺したわけじゃなかったの…。」
痛みという名の快感を求めてしまったあーしが悪い。
だけど、ふっと我に返った時には日が昇り黒い灰が舞っていた。
あーしだけが取り残された。
- 94 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:33
-
「ならまた会いに来るよ…。」
「なんで?!」
「アイちゃんが寂しそうだから。」
「え?」
「そんなの放っておけないよ。」
今日は下弦というらしい。
まんまるい月よりも光の少ない下弦の月。
だからマコトの顔が見えるのかな…。
「マコト…。」
「ん?」
鉄格子の間から手を伸ばす、マコトもゆっくりと近づいた。
- 95 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:35
-
罰するために入れられた塔。
本当に罰するためなんだろうか…。
ふとそんなことを考えた。
「心読めるって本当?」
「もぉそんな力ない…。」
「そっか…残念だ。」
白い歯が見えて、一緒に尖った犬歯見えて。
それを見て愛おしいと思ってしまうあーしは異常で。
「あーしの血飲まないでね。」
「わかってるって。」
月の光でうっすら光る唇がもの凄く愛おしくて。
今まであった孤独や苦痛が消えてしまいそう。
だけどそれは一瞬で…。
唇と唇、舌と舌を離すことが苦痛でしかたがなかった。
「アイちゃん…。」
小さく聞こえたその声があーしの存在。
すぐに風で消えてしまいそうな…そんな存在。
あーしは、やっぱり狂っているかもしれない。
- 96 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:35
-
過ちを繰り返そうとしてるのに…嬉しいの。
マコトが証明してくれるから。
あーしはここで生きている。
- 97 名前:塔と傷の話。 投稿日:2006/12/04(月) 02:36
-
***
- 98 名前:伴樹 投稿日:2006/12/04(月) 02:38
- 少し間が開いてしまいました。今回の更新は此処までです。
この話は次回で最終です。お付き合いしてくださると嬉しいです。
- 99 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:28
-
※この愛を形にするにはあなたの知恵を貸してください。。※
- 100 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:29
-
風が集まって形になることはない。風は心と同じだから。
目に見えないけれどそこにあって、それはまるでごく普通にそこにある。
ねぇ?此処を出たら何がある?
- 101 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:30
-
一つの希望を見つけた。
それはマコトだった。
あーしは、マコトがいれば生きていられる気がした。
誰かがいて自分がいて、そんな風に生きている自分が嬉しかった。
此処に閉じ込められる前の生活を閉じ込められながらしてるみたいな感覚だった。
マコトはどう思っているのか全然わからなかった。
心が読めれば、そんな簡単なことはないのに…。
だけど読めないからこそ来てくれることが嬉しかった。
感情が消えなくて良かった。
いらないものだと思っていた。
だけどまだ必要だった。
嬉しいと思えて良かった。
あーしは自分でも思い出せないぶりに笑っていた。
- 102 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:31
-
苦しいけど笑えるから良いと思った。
苦しいばっかりだったからイヤだった。
ホントは良い事ばっかりなら良いのにって思うけど…。
どうしてそれは出来ないんだろう。
それが出来たら幸せなのに。
違うのかな…。
今日は月が黒い。
この月の名前をなんて言うんだろう。
「月が無いみたい…。」
消えろと思っていた月が黒い。
そこにあるけど無いみたいに。
- 103 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:32
-
「消えたんかな…。」
「月は消えないよ。」
マコト?
「アイちゃん、どうしよう。」
「へっ?えっ?」
あぁなんで?
なんで今更…。
月が無いせいだろうか…。
心が流れてきた。
「マコト?」
「どーしよう…。」
「あーしのこと嫌いだったの?」
「へっ?」
流れる描写は、マコトの心。
「嫌いだなんて思ったことないよ?」
「嘘や。」
だってマコト…聞こえるの。
マコトの心が流れてる。
それは間違いの無い真実。
- 104 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:33
-
「マコトは、あーしのこと殺そうとしてる?」
返事なんて聞かなくても、声に出さなくても流れてくる。
あーしはなんでまたこんな時にいらないものを掘り起こしてしまったのだろう。
「今日中に殺さないと、マコトは殺される?」
「チカラ戻ったの?」
うん。
戻った。
戻らないでほしかった。
真実なんて全部捻じ曲がっていて解いてみても良いことなんて何もない。
「アイちゃん…。あのさ。」
「これ以上先言わんで…。」
あーしはなんてことしてしまったんだろう。
あーしはなんてことをさせてしまたったんだろう。
「マコト…。ごめんなさい。」
「謝ったって戻ってくるもんじゃないよ…。」
「そうだね…。」
死とは戻って来れないこと。
あーしの声もあーしのチカラも戻ってきた。
あーしは生きていた。
- 105 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:33
-
「バレちゃったかぁ…。心が読めないからラッキーだって思ったのに。」
真実と嘘は隣り合わせだって聞いたことがある。
嘘のつもりで発していてもいつか真実になってしまうって
真実もいつか嘘になってしまうって
そんなことどうでも良いのに、頭の中に戻ってきた。
- 106 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:34
-
「不公平だって思わない?」
吸血鬼は太陽の下で暮らせないのに、天使は月の下で生きていけるなんて。
「天使だけが守られてるみたい…吸血鬼だけが世界から拒絶されてるみたい。」
天使だって拒絶されるべきなんだって。
「そう思ってたんだ。」
- 107 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:35
-
違う…。
違うよマコト…。
あーしは天使だけど独りぼっちだった。
あーしは天使だけど誰にも守られていなかった。
そう思ってた。
「あーしはこの憎たらしい壁に守られてる…あーしはマコトに守られてる。」
「ね?孤独だって思っててもアイちゃんは守られてるだろ?」
「マコトは?マコトは違うの?」
「それは私の心に聞いてみてよ。」
イヤだ…イヤだ…聞きたくない…
マコトの心は読みたくない。
黒と赤が混じったような渦が入ってくる。
「ねぇ、アイちゃん。」
今日は月が無いくせに。
そこには光があった。
- 108 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:35
-
「どうして吸血鬼は好きなものに傷を付けるか知っている?」
その痕は、小さい二つの点。
あーしの首筋にもそれはある。
禁断症状を起こす奇怪な痕。
- 109 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:36
-
「じゃあなんで天使は、それを求めるかマコトはわかるの?」
マコト…。
あーしはマコトの大切なものを奪った。
奪ったのに、マコトはあーしを受け止めた。
嫌いになる理由なんてないって言った。
あーしはそれを信じた。
それは嘘だったか真だったか、もうわからない。
- 110 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:36
-
「アイちゃんを先に見つけたのは私だった。」
この世界に堕ちてしまったとき。
あーしは本当に独りぼっちだった。
「だけど先にアイちゃんと接触したのは私じゃなかった。」
それはマコトの大切な仲間。
そして、あーしが殺してしまった吸血鬼。
「怖かった…。自分もあーなるんだって思って。」
「だけどマコトは此処に来た。」
- 111 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:37
-
「吸血鬼がなんで傷付けることしか出来ないか知ってる?」
「その方法しか知らないからやろ。」
- 112 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:37
-
それは不器用な愛情表現。
それは愛するものを守りたいと思う心の裏返し。
それは優しい心にはあまりにも残酷。
「なぁ、あーしのこと好きなんやろ?」
答えは聞こえてる。
聞こえてるからこそ耳に入れたいと思った。
それは凄くズルイこと。
「じゃなきゃこんなに困ってないよ…。」
「でもマコトのしようとしてることは間違ってる。」
「自分もしたじゃんか。」
「そっちは良いよ…。」
あーしが消えることは良いよ。
あーしはこの恵まれない場所で短い期間恵まれた。
そもそも間違ってたんだ、あーしだけが生残ったことなんて。
- 113 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:38
-
「でも私は…。」
「黙って。」
あーしは生きていた。
あーしは生きていたんだよ。
だからマコトは生きるべきなんだ。
マコトがあーしのこと忘れなければ
あーしは死なない。
- 114 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:38
-
「なぁ、マコト…。いつもこんなん飲んでるの?」
「アイちゃんのみたいに甘くないけど。」
「んーん。マコトのも甘くておいしい。」
喉に刺さるそれは、とてもとても痛かった。
足に付いている鎖なんかより、よっぽど痛かった。
そしてそれが体の中に落ちると、あーしの体は熱くなる。
- 115 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:39
-
「なぁ…マコト?」
「ん?」
「嫌いにならんで?」
「嫌いになる理由が見つからないよ。」
- 116 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:40
-
消える。
形が。
あーしの形が。
残るのは?
心?
魂?
なんだろう…。
涙が、あーしの灰に滲みれば良い。
マコトの涙があーしに滲みれば良いと思った。
- 117 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:41
-
それはある塔での出来事。
月しか昇らない世界に、いてはいけない天使を閉じ込める塔。
吸血鬼は近づいてはいけない。
近づいたものは罰せられる。
自分の牙を抜いて。
それを天使に飲ませなくてはいけない。
牙の無い吸血鬼はどうやって生きていくんだろう。
それは天使の残り香を辿って生きていくのだろう。
- 118 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:41
-
だからあれほど言ったんだ…
吸血鬼と天使は出会ってはいけないと。
- 119 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:42
-
**END**
- 120 名前:塔と傷と愛の話。 投稿日:2006/12/10(日) 00:42
-
***
- 121 名前:伴樹 投稿日:2006/12/10(日) 00:45
- 以上です。タイトルはいちよう『塔と傷と愛の話。』です。
世界は、『月と牙と恋の話。』と同じと考えてください。
レスくださった方ありがとうございます。
読んでくださった方ありがとうござます。
この世界でまた書けたら良いなって思います。それでは。
- 122 名前:名無し 投稿日:2006/12/12(火) 00:33
- とても面白かったです。
できれば、また読みたいです。
- 123 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:31
-
※欲しいモノが手に入るとは限りません。※
- 124 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:32
-
耳を澄ますと、聞いてはいけないものが聞こえてくる。
だからあなたの腕を掴んで引き留めたのに。
どうして私の声は、聞いてくれないの?
- 125 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:32
-
新月は嫌い。
悲しさで、月を満たそうとしてしまうから。
満月も嫌い。
悔しさで、月を蝕んでしまうから。
人間界の空は嫌い。
紺でも灰色でも無い色が、無償に心を苛つかせる。
この空を好きな者なんて聞いたことがない。
空は繋がっているのに、まるで別の物のよう。
どうして同じ物なのに違う物になるのだろう。
私はそれが物凄く嫌いだ。
- 126 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:33
-
私も私でいたい。
ずっと。
これからも。
どう生きたら、そうならないのか。
どう生きれば、自分の理想に追い付くのか。
望むうちに、私なんていなくなって。
願ううちに、私なんて消えてしまって。
知らないうちに、全てのモノを嫌いになった。
- 127 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:34
-
信じるモノ。
感じるコト。
二つとも形にはならない。
水のように目の前を流れていく。
流れていくのに。
全て流れていくのに。
一つだけ。
一つだけ流れないモノ。
それを忘れようと私は今日も人間界に降り立った。
- 128 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:34
-
「いつ来ても汚い。」
黒い煙のようなモノが浮いている。
それを纏っている人間を狙ってはいけない。
あの黒い煙が肺を蝕んでいくから。
だがそれは、天使の血のように死には至らない。
だけど、天使の血のように甘くもない…らしい。
天使の血が甘いと知っている吸血鬼は存在しない。
知ってしまった頃には、消えてしまう。
そんな吸血鬼を私は知っている。
エリも
マコトも
二人とも天使のせいで。
天使なんて消えてしまえば良い。
どうして天使だけが、吸血鬼の邪魔をするのだろう。
どうして天使と吸血鬼は、このような呪いがあるのだろう。
出逢ってしまったら消えてしまう。
それなら何故存在してる?
そんな無意味な関係。
なんて馬鹿なのだろう。
「存在が消えてしまうのに会うなんて、どうかしてる。」
- 129 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:35
-
私には、そこまでしてしまう意味が理解出来ない。
私は自分の存在が何よりも大事だから。
だから消えたくない…。
「消える?」
「誰!?」
「珍しい格好だね。」
気付かなかった。
降りた場所に誰かいたことを。
「飛んできた?」
「私が見えるの?」
「んーん。見えない。」
「人間?」
「変な質問。人間以外他にいるの?」
人間か…。
人間だよね。
でもなんだろ。
何か違う。
- 130 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:36
-
「煙…。」
「煙?」
「煙が無い。」
「どこか燃えてんの?焦げ臭くなくない?」
違う。
そうじゃない。
「誰?」
「二回目だね。」
そう言うと人間は、手を伸ばした。
私のマントを掴み、近付いた。
マントをなぞりフードを外すように私の頬に触れる。
「見えた。」
そう呟いた。
- 131 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:36
-
「なーんだガキじゃん。」
「はっ?」
「ガキんちょって言ったの。」
人間は笑った。
笑うとこだろうか?
「ガキんちょがこんなとこで何してる?」
「餓鬼ではない!」
叫ぶと同時に手を祓った。
相手の瞼が少し動いたのを感じた。
祓われた手は、何かを掴むようにゆっくり閉じられた。
口角は上がったままだった。
「餓鬼なんかと一緒にされても…。」
「そういうところがガキっぽい。」
餓鬼なんて。
まるで私を馬鹿にしたように。
人間のくせに。
- 132 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:37
-
「よしよし。」
また触れられた。
今度は髪。
「こっちおいでよ。美貴と話そう。」
「話す?」
何を?
誰と?
私と?
「これもなんかの縁だしさ。」
そう言って、人間は腰掛けた。
なんて失礼な人間なんだろう。
私は吸血鬼なのに。
吸血鬼…。
だからなんだろう?
「ガキんちょ。どーした?」
人間は自分の隣の空間を手で何回も叩いた。
それは催促の合図。
私は何も返事をしていないのに。
相手の中では返事は決められてしまっているらしい。
- 133 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:37
-
「何を話すの?」
「なんでもいいよ。」
なんでも?
なんでもって?
「美貴は色々聞きたいんだよ。」
「私はあなたの暇つぶしなんかじゃない。」
「暇つぶし?」
不機嫌そうな声が耳に入った。
「美貴にとっては大事なことなの!ほら!さっさと座る。座らないならそこから落ちろ。」
指差す方の遥か下には、黒い地面。
そこに走る奇妙な鉄屑。
月とは違った橙色の光。
- 134 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:38
-
「それは嫌だ。」
「だよね。さすがにこんな高い場所から飛び降りれないよね。ならほら?」
「飛び降りることは平気だ。ただ、この下はとても汚い。」
「平気?ここビルの屋上だよ?」
「ビル?ビルって何?」
「ビルを知らないの?!」
「知らないといけない言葉?」
そう言ったら、お腹を抱えて笑われた。
どうやら楽しいらしい。
「さっきから私を馬鹿にしたように笑う。」
「馬鹿にしてない。でもおもしろい。」
おもしろい?
おもしろいことなんて一言も言ってない。
どうして笑う?
笑えることなのだろうか?
「変な奴。やっぱりお話しよ。」
立ち上がり、マントを捕まえ引っ張られる。
抵抗するわけでも無く引き摺られる。
なんだか風が透き通ってる気がした。
人間界なのに。
人間界のくせに。
- 135 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:38
-
「変なのは、あなただ。」
「美貴で良いよ。ガキんちょ。」
「美貴…。」
「ん?」
「リサ。私にだって名前がある。」
「そうかそうか。リサって言うのかガキんちょ。」
また髪を触られた。
今日は何故か三回も人間に触れられた。
人間の手は汚いのに。
汚いはずなのに。
この人の手も汚いはずなのに。
- 136 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:39
-
「私の話を聞いてくれるの?」
「話したいならいくらでも?」
なら聞いて。
私が思うすべてのことを。
誰にも言えなかったすべてのことを。
私の言葉を呑み込んで。
- 137 名前:街の話。 投稿日:2006/12/20(水) 22:39
-
***
- 138 名前:伴樹 投稿日:2006/12/20(水) 22:41
- お久しぶりです。
今までお話の世界のまま今回は人間界が舞台です。
また今回もお付き合いしてくださると嬉しいです。
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/21(木) 01:45
- 新作ガキみきだー!!
好きです♪
更新乙です、楽しみに続き待ってます。
- 140 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 01:54
-
※希望だけが救いとは限りません。※
- 141 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 01:54
-
手を伸ばすと触れてはいけないモノに触れてしまう。
それがあなたに刺さらないよう、腕を掴み遮ったのに。
どうして私の手は祓ってしまったの?
- 142 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 01:55
-
口から溢れる言葉を、頭の中で探す必要なんて無かった。
溢れ出てしまって、手で抑えないと止まらない気がした。
だけどその手はそれを遮るように握られている。
私の思考は脳から口へ、口から外へ流れていく。
人間に言ったって、なんら意味の無いことなのに。
ただの空想で物語にしか過ぎないのに。
- 143 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 01:55
-
「それで?その吸血鬼は結局どうなったの?」
視線をこちらに向けて、私の話だけを聞いている美貴という名の人間。
その瞳は、私を捕えてるように見えた。
「二人とも消えた。一人は灰に、もう一人は姿を消した。」
「悲しそうだね。作り話なのに。」
「この結末に納得がいかない…。」
「消えてしまうこと?」
「うん。」
消えてしまうとわかっているのに。
まるでそれを望んでいたかのように。
世界がそれを幸福だと認めているみたいで。
私には、理解できない。
「消えちゃったら、不幸じゃないかって思う。」
「そうだね。悲しいことだね。美貴がガキんちょの立場だったら悲しい。」
「私は、引き留めたのに…。」
そう言うと美貴は、クスクスと笑った。
- 144 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 01:56
-
「笑えること?」
「んーん。でもこれで色々納得した。」
「納得?」
「ガキんちょって吸血鬼なんだ?」
「なっ…。あっ…しまった。」
握られてない手をオデコに当てた。
「頭叩いた?」
「え?うん。」
「当たった。」
「今のは?」
「ん?」
目を細めて笑っている。
それはなんら違和感の無い仕草。
なんら違和感の無い動きに、何故か違和感を覚え始める。
- 145 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 01:59
- 「吸血鬼は鈍感?」
「普通の人間がどんなのかわからないだけ。」
「人間は特別に敏感。特別と言うか異常?少数?なんだろ?なんて言えば良いかなぁ…。」
そうらしいね。
人間の心は、とても固い。
一つのモノに縛られて。
それ以外を認めない。
「私もそうかもしれない…。」
手を触っていた美貴の手は、腕を伝ってスルスルの上ってく。
肩に触れて
首に触れて
髪に触れて
躊躇うように頬に触れた。
「そうでも無いよ。」
「何故?」
「美貴と話してくれるから。」
「あなたが話そうって言ったじゃない。」
「吸血鬼は、きっとみんな優しいんだよ。」
「優しい?」
「美貴もそんな恋をしたい。」
恋?
あれが恋?
愛し合うこと?
違う。
あんなの。
「恋じゃない…。」
「違うの?」
天使を見ると惹き付けられてしまうんだ。
そんなの呪いと一緒じゃないか。
二人の間に何も無いのに。
- 146 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 02:01
-
「あったかもしれないじゃん。」
「え?」
「何かその二人にもあったかもしれない。」
「何かって?」
「美貴もよくわからない。あれば良いなって思うから。」
「あれば良い?」
「美貴もガキんちょもその何かを知らないんだよ。」
それは知らないといけない何かなのか。
それとも知らなくても良い何かなのか。
どちらかさえもわからない。
ただ確かに、私には無い何かを感じて二人は消えてしまったんだ。
「でもその何かは、脳を狂わす。」
「それはとっても怖いね。」
「まるで別の誰かのよう…私はそれが怖い。」
風が吹き始めた。
生ぬるい風。
それはとても湿った風。
「怖いか…吸血鬼にもあるんだね。吸血鬼は此処では怖いモノなのに。」
「人間の勝手な戯言だ。」
「そうだね。ガキんちょは全然怖くない。」
「威厳が無いとはよく言われる。」
「そうかもね。」
風の中。
また笑い声が聞こえて、でももうそんなに苦じゃなかった。
- 147 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 02:02
-
「最初はもっと凄いモノだと思ってた。」
「凄いモノ?」
「殺人鬼かなんか。」
そう言うと美貴はマントを掴み、それを鼻に当て匂いを嗅いだ。
「血の匂い…だよね?」
「人間の血は今日はまだ飲んでいないのに。」
「それでもする。だから、美貴も此処で殺されるのかと思った。」
マントを掴むその手は、マントなんかでは物足りないみたいに掴んでは開きを繰り返す。
「そのわりにあなたは勇敢だ。」
「ん?」
「殺人鬼を前に悲鳴すらあげない。」
「あげる余裕もなかったよ。」
- 148 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 02:02
-
不思議だ。
この感覚が楽しいだとしたら、私は人間といて楽しいと思ってる。
口元が緩んで、自分の目が細まっていくのがわかる。
楽しいとか、苦しいとか
悲しいとか、嬉しいとか
これら全部を感じることに、誰がとか何がとか関係無いのかもしれないな。
楽しければ笑うし
悲しければ泣くのだろう。
感情は生まれてしまうのだから、それを受け入れるのも悪くない気がした。
美貴の手首を返して私のマントを巻きつけた。
二人の顔の距離が少しだけ縮まって、私の目は美貴を捕らえる。
美貴の目も私を捕らえられれば良いのに。
- 149 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 02:03
-
「ガキんちょは、美貴の血を飲む?」
小さな声でそう聞こえた。
なぜだか急に喉が渇き始めた。
さっきまで気にもしなかったのに。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「美貴が人間だから。」
血を飲む行為。
それは、何も躊躇いも無くごく当たり前に行われてる行為。
私もそうだ。
人間の血を飲むことに何も躊躇うことはなかった。
何も思考せず、ただそこにあるものを飲んでいた。
- 150 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 02:03
-
「飲んでも良いの?」
「ガキんちょの心を満たせるならいくらでも。」
なら止めて?
あなたに伸びる私の腕を。
あなたしか気づかないほどの小さな震えを。
私はあなたを呑み込めない。
- 151 名前:涙の話。 投稿日:2006/12/28(木) 02:04
-
***
- 152 名前:伴樹 投稿日:2006/12/28(木) 02:06
- 今回はここまでです。
時系列として前ニ作のその後だということを頭の隅にでもおいておいてください。
新垣さんは、亀井さん小川さん二人と知り合いだったということです。
ではみなさん、良いお年を。
- 153 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 04:59
-
※結論だけが正しいものとは限りません。※
- 154 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:00
-
口の中に広がる味わってはいけないあの味を。あなたは、どうしてもほしがっていたね。
私は、それが嫌であなたの口を塞いでしまったのに。
でもどうして手を離してしまったのだろう…?
- 155 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:01
-
口は開かずに、歯と歯の隙間だけが開いたり閉じたり。
自分の牙が妙に邪魔くさい気がした。
美貴の目が私を捕えてるのがわかるから尚更自分は前を向けない。
飲みたい。
飲みたくない。
こんな葛藤を誰が認める?目の前にいるのは、吸血鬼にとって餌。
感情を持った餌。
吸血鬼は一体どんな時に血を求めるのだろう。
ふとそんなことを考えてしまった。
- 156 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:01
-
「…飲めません。」
何故だかこれを言うことに、精一杯だった。
「美貴は、美味しくなさそう?」
悲しいことに
それはとても甘そうだ。
推測で確証も無い。
だけどそう思ってしまう何かがある。
何かって何?
「みんなそうなの?」
「え?」
「餌を前に手すら出さない。違うよね?」
違う…と思う。
私は、違った。
「人間は喋るし、感情もある。」
うん。
吸血鬼と同じだね。
「でも全部聞いてたら、ガキんちょは生きられないよ?」
生きられない。
それは嫌。
だけど…
- 157 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:02
- 「でも嬉しいな。」
握られたマントを外し、その奥へ。
ゆっくり捕まれた私の腕。
「勘違いかもしれないけど、その特別は好きかもしれない。」
「特別…?」
「これが本当の特別なのかもしれないね。これが何かなのかな?」
何か…。
何かって何?
ないけどあって、あるけどない。
見えないのに、あると錯覚する。
触れていないのに、温もりがあると困惑する。
自分じゃない自分が感情を産み出す。
「私の顔見えてますか?」
「見えたら良いなって思うよ。」
「私もあなたの顔が見えない。」
滲む。
霞む。
そして濁る。
- 158 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:03
-
「美貴…?」
「ん?」
「あなたは、天使に会ったことがありますね…」
「昔ね。黒い髪に口許にホクロがあった。」
「その時、何を奪われました…?」
「なんで聞くの?」
やっぱり。
あなたは特別だ。
天使に会ったことがあるなんて。
だから…あなたのまわりは澄みきって綺麗だ。
ううん。
あなたの手も。
あなたの髪も。
私を映すその瞳だって。
「天使は、あなたになんて?」
「苦しみを頂戴…って。」
「それで一緒に奪われて…」
続きは言えなかった。
美貴の人指し指が唇にあたったから。
「違う。美貴があげたの。」
なんでそんなことを…
あなたはいつから…
いつからあなたは…
「特別も何もない。」
そこから産まれる感情も
あなたが持つ言葉も
すべて…無…。
無なんだ…。
「でもね。どうせ一緒だった。治らないってわかってたし。」
遮る指を強く握って遮った。
- 159 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:04
-
「だからって感情を捨てることはないのに。」
「あったら不便じゃん。」
そうかもしれない。
そうなのかもしれない。
だけど…
それって正しいこと?
「ガキんちょだって美貴飲むの躊躇ったじゃん。」
確かにあの時、感情が邪魔をしたかもしれない。
でもそこに何かがあったから。
だから私は、あなたに触れないでいた。
「…死にたいの?」
だからあなたは、こんな場所で一人でいる。
だからあなたは、私が血を飲むことを願っている。
「…あなたは生きたいのでは?」
あなたの思考は読めない。
私は天使じゃないから。
でも私は、こうだったら良いなと思っている。
だから。
「あの…。」
「ん?」
「私の眼をあげます。」
「はぁ?」
馬鹿げたことを言っている。
それは自分が一番よくわかってる。
私はなんでこんなことを言ってしまったのか。
自分の口からこんな言葉が零れるなんて…昨日まで思いもしなかっただろう。
- 160 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:05
-
「私に血をくれるなら私は美貴に眼をあげます。」
嘘。
本当は眼を与えることなんて出来ない。
でも、美貴の視力は回復することが出来る。
天使に奪われたものを吸血鬼は返すことが出来る。
違う。
返すわけではない。
新しく与える。
新しい眼を、新しい命を。
吸血鬼が痛みではなく与えれるものがあるんだ。
「それでガキんちょはどうなるの?」
「言えません。」
「美貴はどうなるの?」
「言えません。」
ただ言えるのは…
あなたの前に現れた天使は二度と太陽を見れなくなったということ。
私はたぶん…
もうあの綺麗な月の下を飛び廻ることが出来なくなるのだろう。
- 161 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:05
-
「吸血鬼も天使も変だよ。」
思考と言う暗闇の中、声が聞こえた。
それは綺麗な黄色い光のような色だった。
「他人の苦しみを背負うなんて馬鹿だよ。」
他人のために生きてるなんて、これっぽちも思ったことはない。
「あの天使なんて最後笑ったんだよ。もう元の場所に帰れないのに。」
「あなたの黒い煙が、その天使にはほっとけなかったんだよ。」
「美貴のことなんて、どうでも良いじゃん。」
そうかもしれない。
吸血鬼や天使にとって、人間のことなんてどうでも良いかもしれない。
吸血鬼や天使にとって、人間はただの餌だ。
だけど人間が思ってるほど私達は残酷では無いし、天使は優しくは無いのであろう。
その天使がそうであったように。
この吸血鬼がこうであるように。
「美貴?」
この質問に答えれらないかもしれない。
答えたくないかもしれない。
「吸血鬼は、どうして喉が渇くかわかる?」
美貴の眼に写る私は、きっとこんな顔をしてるだろう。
今にも泣きそうで困惑した顔をしてるだろう。
私は困惑してても、それで良いと思ってる。
この選択は自分で決めたことなんだ。
間違っているはずがない。
例えそれが自分ではない自分でも。
あなたを助けてしまいたい。
- 162 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:06
-
伸びる腕を遮られても決して止めたりなんかしない。
あなたの首筋に二つの傷をつけましょう。
それは、あなたの望みではなくても…それが私の願いだから。
- 163 名前:夢の話。 投稿日:2007/01/06(土) 05:07
-
***
- 164 名前:伴樹 投稿日:2007/01/06(土) 05:09
- 今回は此処までです。
あと数回ですが、飽きずにお付き合いください。
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 02:42
- どういうことだろう…
とにかくガキさんにドキドキした
- 166 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 21:47
- 冒頭の一文が毎回素敵です。
続きが気になる…楽しみに待ってます。
頑張ってください!
- 167 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:35
-
※生きることだけがすべてとは限りません※
- 168 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:35
- あなたの視界を遮ることは簡単だ。私は、それを幸福なことだって思っている。
だけど私の手は濡れてしまったんだよね。
私の手ってなんのためにあるんだろう?
- 169 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:37
-
生まれてから今まで、私はどれだけモノを見てきただろう。
いろんなモノを知り
いろんなモノを理解し
そしてすべてを諦めた。
私の体は、いつからこんなに締め付けられていたんだろう。
吸血鬼には天使と違って羽根は無い。
だけど私の背中にあったコウモリのような翼が、大きく広がることは無くなった。
まるで紅い紐で締め付けられてしまっているような。
背中だけじゃない。
手首にも、腕にも、脚にも。
「淋しいんだ…。」
「淋しい?」
「吸血鬼も天使も孤独なんだ。」
「人間もだよ…。」
「人間なんて!」
人間の孤独なんて!
吸血鬼に比べたら、なんでも無いじゃないか。
「じゃあなんで美貴に構うの?」
何かを辿りたくて。
首を締め付けるこの紐を解きたくて。
「あなたのためじゃない。」
私のために。
「それなら良いよ。」
誰かのために自分を犠牲には出来ない。
「私が自由になりたい…。」
そのために私はあなたを吸収し、私はあなたに吸収されたい。
- 170 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:38
-
「あなたに不幸を押し付けて…私が幸せになりたい。」
だけどもうあなたに会えないのかなって思うと…
凄く寂しいんだ…凄く。
あなたは私に、また会ってくれるのかな。
「消えちゃうよ?」
「うん。」
「嫌なんじゃないの?」
「嫌…。」
「じゃあなんで?」
何か。
何かを辿っていった友は、みんな姿を消してしまった。
私の孤独を拭うすべてが拭われることなく消えてしまった。
「何かがあれば良いと思うから。」
その何かは素敵なものだと聞いた。
目の前で笑う人間が、吸血鬼の私にそう言った。
「あなたが言うから信じる。」
きっと…
あなたを信じることが、何かだったら良いのになぁ。
- 171 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:39
-
「馬鹿だぁ…。」
「馬鹿ではない。」
悲しいことにあなたには、これから先孤独が待ち受けていると思う。
私と同じ孤独が…。
「リサがいないから、今よりずっと寂しいんだろうね。」
何を言う。
あなたがそんなこと思わなくて良いのに。
「触れても良いですか?」
「良いよ?」
ちょっと前から触れたいと思っていた。
触れるときっと傷付けてしまうから躊躇っていた。
でもあなたが私に触れてくれるから、私もあなたに触れても良い気がした。
ふわっと香るのは血の匂いではなく、とても甘い匂いだった。
私の匂いは、相手の鼻を刺しているのかな。
「なんでこんなに冷たいの?」
「人間の体温が高すぎるんだよ。」
だけど熱いというわけではないね。
あったかくて気持ちが良い。
「こういうことは誰にも教わらなかったなぁ…。」
「人間だって教わらないよ…。」
「人間だけ知っているなんてズルい。」
「人間だって知れたら良いなって思ってるんだよ。」
生きている間に、こんなことを知れるモノっていったいどれだけいるんだろう。
知りたいと思って生きているのは、一緒かもしれないね。
吸血鬼も…天使も…人間も…
- 172 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:40
-
「美貴の血飲む?」
「飲んでほしいのなら?」
「生意気。」
クスクスと転がしたように笑われて、私も同じように笑った。
「最初は痛い…と思う。」
「思う?」
「私は飲まれたことは無いから…でもみんな痛そうにする。」
「じゃあ痛いかもね。でも大丈夫だから。」
マントを握っている手は少し震えているように見えた。
それを掬って、口にすればきっとまた生意気だって言われてしまうだろう。
言われても良い気がした…だけど言うのはやめておこう。
口に含んだ言葉が、口内で楽しそうにはしゃぐから少しおもしろかった。
- 173 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:41
-
「なんで笑うのさ?」
「なんだか少し嬉しくて。」
「美貴が痛がるのが?」
「違う…そうじゃない。」
なんだか心が軽いんだ。
私のすべてを締め付けてた紅い紐が、もうどこにも見当たらないんだ。
人間界の空をフワフワと浮遊してるんじゃないかって、そんな錯覚をしてしまっている。
あなたも、そんな気分を味わってほしいんだ。
あなたには、あの紅い紐で縛り付けられることが無いように。
沢山祈るから。
沢山願うから。
あなたには、この白い光が差し込んでくれますように…。
- 174 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:42
-
「ねぇ?ガキんちょ?」
「はい。」
「今、空は何色?」
「濁った紺色…。」
「美貴にもそう見えるかな…。」
「此処でなければ、もっと綺麗な紺が見えるよ…。」
「そっか。」
綺麗な紺。
私には、もうその色を見ることは許されない。
さようなら。
白い月。
さようなら。
紺色の空。
「でもまた、リサとこの空が見れたら良いなって思う…。」
できるかな…。
できるといいね…。
できないかもしれないけど…。
できるといいと思うから…。
できるかもしれないと期待してしまうんだ。
- 175 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:42
-
「いたっ…。」
人間界だけど、なんだか凄く静かで…。
あなたの声だけが聞こえてくる。
私の耳だけイカレしまったみたいに。
あなたの声だけ聞こえてくる。
「甘い…ね…。」
今まで飲んだどの血よりも甘い。
きっと天使の血に限りなく近いそれ…。
人間の血だけど毒かもしれない。
じゃあ私が消える前に…。
私がしなきゃいけないこと。
美貴の傷に私の牙を埋めましょう。
あなたの目が見える頃。
あなたが私の姿を見ることは無いでしょう…。
- 176 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:43
-
でもきっとあなたが最初に見るものは。
今まで見たどの月より綺麗に見えることだろう。
私が見てきた、白い月と同じそれをあなたの瞳で確かめて。
- 177 名前:街と涙の話。 投稿日:2007/01/13(土) 22:44
-
***
- 178 名前:伴樹 投稿日:2007/01/13(土) 22:47
- 今回は此処までです。
ガキミキ編次回で最後です。
- 179 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 00:33
- 文が綺麗で内容も惹かれますねー!
引き続き頑張ってください
- 180 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 17:01
- 物語が綺麗で深くてそういう事だったのかって
毎回納得してます。この作品が大好きになっちゃってる一人です
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/16(火) 00:38
- めちゃくちゃ好きです
- 182 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:33
-
※見えているもだのだけが真実とは限りません※
- 183 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:34
-
私の掴んだモノってなんだったんだろ。
そういえば、あなたの腕を掴んであなたの行き先を遮ってばかりだったね。
本当はあなたの手を取りたかったんだよ?
- 184 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:35
-
目を覚ましたら、部屋は真っ暗だった。
どうやら電気もつけずに私は、眠ってしまったらしい。
でもいったいいつから眠っていたんだろう。
ベッドから体をお越し、そのまま光を辿って窓の側へ。
外は、やっぱり夜で…夜だけど此処は街の真ん中。
外はとっても明るくて、明るいけど昼より暗いから夜だった。
「外…寒いかなぁ。」
触れている窓ガラスは冷たかった。
近くで息を吐けば、吐いた分だけガラスは白く濁った。
別に外に用事があるわけじゃない。
ただなんとなく一日中、家にいたという窮屈感から解放されたくて
着ていた服の上から一枚コートを羽織り
首には、この前買ったばかりの赤いマフラーを何重にして巻いた。
玄関まで向かって素早く靴を履き
爪先で何回か地面を蹴って、勢いよくドアを開けた。
「さむい!」
吐いてた息は、綺麗に白くなった。
空気は、突き刺さるように冷たかった。
自分の指を掴み、あっためた。
自分の手は冷たいから困る。
早く温度差がなくなれば良いと思う。
- 185 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:35
-
本当だったらこのまま階段を下がっていって、どこかへ出かけるんだけど。
今日は違う。
何故か足は上を向いて
疲れるとわかっていてるのに、おもいっきり足をあげて上る。
何段も
何階も
白い息は私の前を走るけどすぐ追い越して、私の後を追い掛ける。
でもまた知らない間に前にいて、そんなことの繰り返し。
一番上に着いた時、やっぱり息は私の前にいた。
「はぁ…なんでこんなとこ…来たんだろ?」
意味もわからず息をきらして
意味もわからずおもしろかった。
私は、そのまま壁に引きずりながら、その場へ座り込んだ。
「つかれたぁ…。」
今日は満月。
星は、オリオン座くらいしか見えない。
見えるのは、此処より下に広がるキラキラと光るイルミネーション。
覗けばきっと綺麗だろう。
- 186 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:36
-
「綺麗なのかなぁ?」
綺麗に見える時と見えない時がある。
空も今日の私には綺麗でも明日の私には汚く見える時がある。
右目で見れば綺麗な気がする。
左目で見れば…。
「真っ暗じゃん。」
真っ暗。
真っ暗だけど時々見える気がする。
見えれば良いなって思うから…
「見えてれば良いなぁ…。」
「見えるよ。」
誰もいないと思っていた場所に誰かいた。
- 187 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:37
-
「変な格好ですね。」
「流行りなんだってー。」
マントをはおった女の人。
黒い世界に黒が現れた。
「夜って感じですね?」
「ん?見えてる?」
「声だけ聞こえたら怖いじゃないですか。おばけなんですか?」
そう言うとケタケタと笑われた。
なんだか楽しそうに笑う人だなって思った。
「こっち寒いね…向こうはまだマシだったのに。」
マントを引っ張って小さくなっている。
私より薄い格好してるから、きっと私より寒いのかも。
「ガキんちょがこんな夜中に何してるの?怪しい人に声かけられるよ?」
「ガキって!それに怪しい人はあなたじゃないですか!」
からかわれてるなら不愉快だ。
不愉快だけど、相手が楽しそうに笑うからそれで良い気がした。
- 188 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:39
-
「突然だけど、左目だけで見てみてよ。」
「え?」
そう言うとこの人は、自分の左手で自分の左目を押さえた。
「ほら、アンタもやって!」
意味不明な行動の催促。
でも相手は大真面目みたいで。
私も言われるまま、言われた通りに自分の右目を押さえた。
「なんか見える?」
「うーん…。」
暗い。
黒い。
見えるはずがない。
見えたことがないんだから。
「見えないかぁ…。」
「嫌がらせですか?」
「まさか。」
じゃあなんだって言うんだ。
見えないのに見ろというのは、頭がどうかしてるとしか思えない。
こんなとこで、こんな格好してるんだからきっと変な人なんだろう。
「この空の色は?」
「見えません。」
「そっかぁ…。違う奴だったのかなぁ…。」
「人違いなんですか?」
「うん。そうみたい。探してる人に凄くよく似てるんだけど…。」
変な人。
ホント変な人。
右手を離した。
視界がボヤボヤと揺れて、相手を写した。
あれ?
えっ…。
- 189 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:40
-
「汚い。」
「何が?」
「空です。さっきまで綺麗だった。」
「どんな色?」
「濁った紺色。」
変な色。
気持悪い。
黒いモヤも浮いてる。
たくさん。
あんなにたくさん。
ミキ…?
ミキ?
ミキって誰だ?
- 190 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:40
-
「やっぱりそうだ。」
「やっぱり?」
「探してた。」
「私を?」
「うん。」
「知らない人なのに?」
「うん。」
変な人。
なんか怖い…。
んーん。
やっぱり怖くない。
「昔ちょっと会ったんだよ。」
「私と?どこで?」
「此処で。」
「そんなわけない。」
此処には初めて来たのに。
自分が住んでいる場所の上だけど此処に来る必要なんか無い。
だから一度も此処に来たはずがない。
じゃあなんで今日は此処に来た?
- 191 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:41
-
「実は、夢の中で会ったんだよね。」
「夢!?」
「夢だけど現実。現実だけど夢。」
「よくわかりません。」
「まぁ…よくわからないことだらけだからね。」
よくわからないことだらけ。
それはイヤだよ。
常に何か明確で透明で確信が持てると良いのに。
「よくわからないことだらけだけど話聞いてくれると嬉しいんだけど。」
「もしかして夢の話ですか?」
「まぁ。そんなとこ。」
「それってこの空と関係してます?」
よくわからないけど、そんな疑問が思わず溢れてた。
私はいったい、何を言ってるんだろう。
- 192 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:42
-
「なーんだ、また会えたじゃん。」
- 193 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:44
-
空はなんでこんな色かわからないけれど、きっとこの人が教えてくれるだろう。
今、私の目の前で感情を一度忘れてしまったような不器用な笑顔のこの人が。
「ミキ?」
「ん?」
手を差し出したら捕まれた。
それは私なんかより冷たい手。
このまま時間が経てば温度差が溶けていくだろう。
よくわからないけど笑顔が零れた。
- 194 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:46
- それは人間界での街の話。
そこは天使が人間の煙を吸う為に飛び廻る場所。
そこは吸血鬼が人間の血を飲むために跳び回る場所。
人間は苦しみを吸われ、痛みを与えられる。
このバランスを崩してはならない。
崩してしまったなら直さなくてはいけない。
崩した者は直せない。
もう二度と帰ることは出来ないのだから。
じゃあいったい誰が直すのだろうか。
それは決まっていないのだ。
直してしまった者は見つからない。
記憶が消えてしまうから。
思い出すことは二度とない。
だから誰も痕跡を残すことは出来ない。
そこには何も無いけれど、何かを辿れば何かがあるかもしれないんだ。
でもだからといって決して希望を持ってはいけないってあなたの心に刻んでください。
- 195 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:46
-
**END**
- 196 名前:街と涙と夢の話。 投稿日:2007/01/19(金) 01:47
-
***
- 197 名前:伴樹 投稿日:2007/01/19(金) 01:52
- 以上で今回のお話を終わりにしたいと思います。
タイトルはいつものとおり、「街と涙と夢の話。」です。
話が抽象的でイマイチわかりにくいかもなんて書き終わってから反省しています。
レスしてくださった方々、本当にありがとうございます。
前2作とは終わり方が違うので、ご期待に添えれたか心配です。
とにかく伝えたかったことは「何か」なんですとだけ言っておきます。
ではまた次のお話でお会いしましょう。
- 198 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/19(金) 23:03
- 面白かったです。
この世界について考えるのも感情移入してドキドキするのも楽しかった。
次、お待ちしてます。
- 199 名前:777 投稿日:2007/01/20(土) 02:31
- 更新乙です
ゾクゾクドキドキしました^^
- 200 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/20(土) 14:14
- この話好きです。
次の話もワクワクしながら待ってます
- 201 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:36
-
※また一つあなたは何か喪ってしまうでしょう※
- 202 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:37
-
どれくらいとか、どれだけとか量ることは出来るのかな?
あなたの物差しと私の物差しって同じなのかな?
人間ってなんて曖昧なんだろう。
- 203 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:39
-
陽気で暖かい今日。
お気に入りの曲を聞きながら、街中を縫いながら歩いてる。
足取りは軽いような、軽くないような。
一人で歩いてるから比べられんけど。
他人より遅い足取りを見ると実は軽いかもしれん。
空には太陽と雲があった。
今此処でこれを見てるのは、れいなだけかもしれん。
そのくらい、周りは世話しなかった。
みんないったい何にそんな急ぐ必要があると?
予定も無いれいなには全くわからん話で、まぁ理解したいとも思えんし、思わん。
ただ呑気に音楽を聴いて、呑気に歩いてることにした。
無造作に上着のポケットに手を突っ込むと、左にはプレイヤー。
右には?
「これ何?」
思わず取りだし、足を止めた。
それと同時に後ろの人とぶつかり、それを落としてしまう。
それは、コロコロと音を立て転がったけど誰も立ち止まりはしない。
「ちょぉ!何すると!?」
左手で片方のイヤホンを外し、後ろに因縁。
だけど相手は、下を向いたまま少し頭を動かしたかと思うと、そのまま行ってしまった。
「なんアイツ。ムカツク奴っちゃね。謝ってけよ。」
- 204 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:41
-
それにしてもさっきのは何?
あんなのいつ入れた?
そもそもあんなの持っとったかなぁ?
「どこいったっちゃろ?」
下を向いたけど、足元には見当たらない。
誰かに蹴られたかもしれん。
どうでも良いものだけど
どうでも良かったらポケットに入っとらんかもなんて思って、めずらしく必死に探した。
「あった!」
それはキランと光り、道の端にポツンといた。
掴もうと手を伸ばしたら、誰かの靴が視界に入ってそれは消えた。
「マジかよ…。」
キラキラ。
コロコロ。
それは暗い細い脇道へ入っていく。
脇道というより、建物と建物の隙間のような。
別に通れなくも無いけど、れいな小さいし。
でも、なんでれいなは、あんなのために必死になってると?
隙間を覗くと、ちょっと先は真っ暗だった。
その真っ暗になる寸前のところにそれはあった。
「しょーがないっちゃね。」
ブツブツと文句を言うのがれいなの癖で、
それでもちゃんとやりきるのがれいなの良いところだと思ってる。
中途半端は嫌いやけん。
やると決めたらやる!
人混みの隙間から今度は壁と壁の隙間を縫い始める。
服も鞄も壁に擦ってるし…。
「やっと捕まえたけん。もう!勝手にどっか行ったらいかんやろ?」
なんて言ったって、返事がくるはずもない。
可愛い子ぶって見たけど、ちょっと空しくなってきたと…。
- 205 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:42
-
「それにしても狭いなぁ。」
れいな一人が入って、ギリギリの隙間。
挟まって抜け出せない奴とかおりそう。そのくらい狭い。
ふと、さっきまでいた通りを見た。
そっちは、こっちと違って明るくて眩しい。
人は相変わらず世話しなくて、視野の狭くなってるれいなにはめまぐるしく何かが動いているように見えた。
「早送りみたいっちゃね。」
よくわからんけど、なんかちょっと怖い感じがすると。
あの中に、れいなも入るかと思うと…。
「こっちのがよかと。」
この隙間の方が、よっぽど良い気がする。
この隙間の先には何があるんだろう。
何も無いかもしれんし、何かあるかもしれん。
もしかしたら、またあっちみたいに世話しない世界かもしれない。
だけど、今見える此れからどうしても離れたい気分になった。
拾ったそれをポケットにまた突っ込んで、視線を先に。
そこは、なんだか真っ暗だ。
なんでこんなことしてるっちゃろね?
だけど特に予定も無かったし誰とも繋がらなかったし、冒険みたいで楽しいかもしれん。
「なんか迷路みたい。」
隙間は建物と建物の間なのに真っ直ぐじゃなくゆっくり弧を描いた曲線みたいな道。
ちょっと進んで振り返ったけど、もうあの世話しない世界は見えなかった。
光が無いってのも、ちょっと怖い気がした。
見上げてみて、細い隙間から見える青空と白い雲がれいなを安心させた。
「今日は変なことばかりっちゃね。」
そんな日もあるんだなって思った。
今日に限って予定も無くて、日が沈めば誰かに会うかもしれんけど別にこれといって会う人もおらん。
よく考えたら、いつもそうかもしれん…。
でもそれでなんとかなってきた。
- 206 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:43
-
「どうしてしまったと…今日のれいなは。」
この道を進むと一緒に、どんどん思考も奥に進んでいくみたい。
あんまりそういうこと考えたくなか…。
凄い嫌な気分になってしまうけん。
右のポケットにあるそれを上着ごと掴んだ。
なんだか急に不安になった。
何も知らない場所にれいなだけ。
でもこの感覚は何かに似てた。
「光っとる。」
やっと先が見えた。
今まで何も見えなかったのに、急に見えるようになった。
それは、最初に見た光とは似ているようで似ていない気がした。
見えた場所は、世話しないあの世界じゃなかった。
- 207 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:44
-
「なん此処?」
回りはみんな煉瓦の壁。
綺麗に小さな正方形のスペース。
そこ一面に草と白い花があった。
真ん中にれいなの高さと同じくらいの木があった。
葉っぱが一枚も付いてない。
その下には
「こんなとこで何してると?」
その木にもたれかかるように座っていた女の子は、小さく反応し振り返った。
それと同時に何羽もの鳥が飛んでいき上から降る黄色い光の中に溶けていった。。
「なんかれいな、悪いことしちゃったみたいけんね。」
動物に好かれる質では無いけど、ちょっとショックだった。
「此処何?」
どうやら相手は、寝ていたか何かでれいなが来たことに驚いてるみたいだった。
- 208 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:45
-
「こんにちは?」
「あっ…こんにちは。」
「右手に持ってるの綺麗っちゃね。」
「なんで此処に入ってるってわかったと?」
相手はニッコリ笑って手をのばした。
「これがほしいと?」
なんでこんなものがほしいと?
れいなには意味がわからん。
意味がわらんけど、どうでも良いものならほしいなんて思わんと思ったから差し出した。
それは黄色の光の中薄く青く光った。
- 209 名前:君の話。 投稿日:2007/01/26(金) 23:45
-
***
- 210 名前:伴樹 投稿日:2007/01/26(金) 23:49
- こんばんは。
今回のこのお話で最後にします。
今まで通り、世界観だけは前作品と同じです。
続いてはいませんが、今回だけは最初のお話「月と牙と恋の話。」を読むことを推奨します。
ではまたお付き合いください。
- 211 名前:僕の話。 投稿日:2007/01/30(火) 23:23
-
※また一つあなたは何かを忘れてしまうでしょう。※
- 212 名前:僕の話。 投稿日:2007/01/30(火) 23:24
-
見せたい部分だけ見せたいのに見せたくない部分が出ちゃうのはどうして?
あなたの好きな私と私の嫌いな私が同じなんておかしいと思わない?
人間ってなんて勝手なんだろう。
- 213 名前:僕の話。 投稿日:2007/01/30(火) 23:24
- さっきからこの子は、れいながあげたモノを手の中で楽しそうに転がして
時々ちょっと悲しそうな目で見ているように見えた。
「それ、そんなに気に入ったならあげる。」
「えっ…?」
「いらん?あっ。わかった!れいなが知らん人だからっちゃろ?知らん人だから貰うの躊躇っとるけん。」
「れいな?」
「れいなは、田中れいなって言うと。アンタは?」
「サユミ…。」
「サユミ。言いにくいっちゃね。サユでよか?」
「サユ……うん。サユってカワイイ響きっちゃね。」
「自分の名前やろ?カワイイとか…でもれいなもカワイイ名前けん。」
「うん。」
フワフワ。
ニコニコ。
不思議な子やけん。
こんなとこにおるから変な子だとは思うけど
まぁ、れいなもおるかられいなも変な子かもしれん。
- 214 名前:僕の話。 投稿日:2007/01/30(火) 23:25
- 「ところでサユ。」
「ん?」
「此処、何?」
「天国?」
「天国?れいなまだ死んでなかよ。サユはおかしなこと言うっちゃね。」
「れいなのが変だと思うけど?こんなとこに来るなんて。」
「それは、サユも一緒やん。」
「サユミは別。れいなは特別。」
何言ってると?
ホントにおかしな子っちゃね。
こういう子はれいなの周りにあんまおらんけ、どうして良いかわからんと。
「これ何処で拾ったと?」
さっきまで握っていた手を開いてれいなに見せる。
さっきより綺麗に光ってる気がした。
上から降る光のせいかもしれん。
「拾ったも何もいつの間にか入っとったけ、小さい頃に買ったんかもしれん。キラキラしとって綺麗だし。」
小さい頃から綺麗なモノとかカワイイモノ好きやけん。
れいなも持ってれば綺麗になったり可愛くなったりすると思っとると。
だから小さい時のが今頃出てきたかもしれん。
でもなんで、今頃?
「同じっちゃね。」
「何が?」
「サユミも綺麗とか可愛いが好きやけん。」
「マジ?気が合うとね。」
「これ売っとるの?」
「売っとるっちゃろ?見たことなか?駄菓子屋とかで網に入っとるけん。」
「駄菓子屋?」
「知らんの?お菓子売っとるとこ。今度れいなが連れてってあげると。」
「それは無理な話なの。」
「なん?」
「此処以外でサユミに会えないと思うの。」
会えたことですら凄い…
そう付け加えられた。
- 215 名前:僕の話。 投稿日:2007/01/30(火) 23:27
-
「どういう意味?」
「れいなにはわかんない。」
「なん!馬鹿にしとると?!」
「してない。でも、もしかしたらわかるかもしれん。」
サユは、人指し指と親指で挟んでいたそれをれいなの目線の前まで持ってきた。
「これなんだ?」
「なんって…見ればわかるけん。ビー玉っちゃろ?」
「ブッブー。」
唇を尖らせて言うサユは、見た目こそふさげているように見えた。
「これサユミのなの。」
「はっ?」
「サユミ、天使なの。」
「はぁ!?」
何言ってるんだ。
やっぱりちょっと危ない子かもしれん。
「危ないなんて失礼っちゃね。」
え…?
れいな、思ってること口に出してたと?
「さっきから勝手に聞こえてきとるけ、おかしいとか危ないとか人間の秤で測らないでほしいっちゃね。」
「まさか…サユ本当に…。」
「口では、そう言っとるけどまだ信じてないっちゃね。
天使に羽根が生えとるとか人間が勝手に決めたことやけん。まぁ…サユミに羽根が無いだけだけど…。」
「他の天使にはあると?」
そう尋くと、瞼を少し下げ悲しそうに頷いた。
それは、さっきまでこのビー玉を見ていたサユと同じだった。
- 216 名前:僕の話。 投稿日:2007/01/30(火) 23:27
-
「れいなは、苦しいとか悲しいとか思ったことある?」
顔をあげて急に真剣な質問。
れいなに言わせれば苦しそうで悲しそうなのは、今のサユの顔だと思うけん。
「サユミのことじゃなくて自分のこと…。サユミは悲しくも無いし苦しくも無いの。」
「れいなのこと…。」
何があるっちゃろね…。
苦しみとか
悲しみとか
考えるだけでも嫌な感じせん?
あるかもしれんし
ないかもしれん
「でもれいなにも黒い煙出てるよ。」
「煙?」
「人間界で言う苦しみとか悲しみとか…?人間には黒い煙が巻き付いてる。」
「ホント?」
「サユミは嘘ついちゃいけないの。」
「天使だから?」
またサユは悲しそうに頷いた。
「それは大変っちゃね。嘘つけないと不便に思わん?嘘付くの嫌いだけど。」
「ついたことないからわからないの。」
なんか天使って大変っちゃね。
というよりサユが大変なのかな…。
- 217 名前:僕の話。 投稿日:2007/01/30(火) 23:28
-
「でもサユは辛いこと隠してるんじゃなか?」
「それは、れいなのことなの。」
れいな?
れいなが?
れいなは、なんも思っとらんと。
「何も思わんって幸せなことなの?」
でもそれでどうにかなってきたと。
だから良いと思うけん。
「なんでサユは、勝手に人の心掻きむしると?」
「天使だから。」
意味わからん。
全く理解できん。
「黒い煙がサユミには、ほっとけないの。」
サユは、そういうとビー玉を返してくれた。
れいなの手の中でもそれは綺麗に薄く青く光った。
- 218 名前:僕の話。 投稿日:2007/01/30(火) 23:28
-
***
- 219 名前:伴樹 投稿日:2007/01/30(火) 23:31
- 今回は此処まで。
実はこれサユレナでした。
この話残り後二回です。
- 220 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/31(水) 18:34
- おお?どういうことだろ…
楽しみに待ってます。
- 221 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/01(木) 02:17
- なんとなく・・・・・・うわー展開気になるぅ!
でもここのシリーズで今までと違うカンジですね。
れいにゃぁあああああ!!
- 222 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 01:58
-
※また一つあなたは何かを壊してしまうでしょう。※
- 223 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 01:59
-
必要の無いものと必要のあるもの、二つを使い分ける方法ってないの?
泣きたくないのに涙が出て、笑いたくないのに笑顔が溢れてしまうのはなんで?
人間ってなんて不器用なんだろう。
- 224 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 02:00
- サユは、ゆっくりと話始めた。
それはれいなが知らん、れいなを知らん世界の話だった。
理解しようと頑張ったけど、理解したくない気持ちが邪魔して納得できんかった。
「サユは消えると?」
「うん。」
「なんでそげんことすると!?消える必要無いっちゃろ?」
「でももう元いた場所に帰れないの。」
帰れない…だから何?
「羽根が無いと帰れん。」
「羽根は戻らんと?」
「必要が無いものは戻ってこないの。」
「必要が無いの?」
「うん。」
「それは、サユがその世界にってことも含まれとる?」
「うん。」
だから消えると?
それって自殺と一緒やろ?違うと?
エリって吸血鬼は、それを知ってるの?
「知らない。でもサユミ…エリのこと好きなの。」
「それって本当に好きと?サユはそれでよか?」
れいなには、よくわからん。
一人の人間を善意で助けたら、羽根が消えて帰れんくなって
必要がなくなって彷徨ってたら、吸血鬼に会って
そしたら恋に堕ちた…。
でも消えてしまう。
この話のどこに何があると?
この話を聞いて、「はい、そうっちゃね。」って納得出来ると?
天使では常識?
吸血鬼なら理解する?
れいなにはさっぱりわからん。
- 225 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 02:01
- 「サユ…?サユの好きって何?」
「じゃあ、れいなの好きって何?」
れいなの好きは…。
れいなの好きは…。
「今探しとるけ、まだわからんと。」
「そっかぁ。」
「でもサユは間違っとると思う。」
「じゃあれいなが天使になって間違いを正してよ。」
れいなが天使に?
間違いを直す?
「れいなは、れいなたい。天使になんかならん。」
「ケチ…。」
「ケチとは何!?間違いだと思っとるならサユがどうにかすればよか!」
「れいなだって孤独だったくせに。人混みの中の独りが嫌だったくせに。」
「勝手に人の心覗かんといて!」
「覗けなかったら、こんなことにはならんかったかな?」
覗けなかったら…そうっちゃね…そうかもしれんね。
れいなは、時々心が覗ければなって思っとったけ…でもサユ見とったら、嫌になってきた。
人間って便利に出来てるっちゃね。
れいなはれいな自身が幸せだなって思っとるわけじゃない。
でもれいなが不幸だなんて、これっぽちも思っとらんと。
街中で好きな音楽聴いてポツポツと歩くのも別に嫌いじゃなか。
でも時々…ホントに時々っちゃよ?
れいなの周りには沢山誰かがおるのに…急に一人になったみたいになる。
別に気にせんようにしようと思っとる…けど思ってしまうと。
寂しいって。
だかられいなはれいなであることよりも、人であることがイヤやったけん。
- 226 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 02:03
- 「でもサユミは、そんな人間になりたい…。」
「なれんの?」
「なれん…。なれるかもしれんけど、方法がわからん。」
「見た目は人間そっくりっちゃよ。」
「それでも天使。」
人間は馬鹿っちゃね。
こんなに苦しんでるもんがおるのに、自分のことばっかっちゃね。
れいなも自分のことばっか…。
サユは他人のことばっか…。
しかも何も知らん人間のことばっか…。
だからきっと天使も馬鹿っちゃね。
「天使と人間の境目なんて見えないから…みんな一緒なら良いのに。」
サユを見てたら胸の真ん中あたりがもじゃもじゃ…。
黒い細い線がぐちゃぐちゃ…。
れいなのチカラではどうすることも出来なくて、どうしようも無いからサユに抱きついた。
サユは、拒否することなくれいなを受け止める。
ホントは、離したくないけん。
ホントは…。
だけどサユは、れいなが止めても行ってしまうやろ?
約束したんやろ?
吸血鬼が待っとるんやもんね。
月なんて昇らんとけばいいのに。
だけどれいながそう願ったって、太陽は沈みおる…。
エリっていう吸血鬼は、太陽に早く沈めって思っとるかもしれん。
じゃあれいなの負けっちゃね。
決められとるけん…サユが吸血鬼に会うことは。
サユが消えてしまうことは。
- 227 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 02:04
-
「痛そうな傷っちゃね…これ。」
「見た目だけなの。」
「痛くないならよか…。」
サユの首にある二つの小さな赤い丸。
れいなの顎にザラザラと感触だけ残りおる。
「エリって奴は何も知らんから可哀想っちゃね。」
「エリが可哀想なんてサユミはイヤ…。」
「でも言わん方が幸せだと思う。」
好きなら尚更。
恋なら絶対。
ただれいなだったら、どっちがよかろうか…。
好かれてるなら、どっちでもよか…。
うん…絶対そうやけん。
- 228 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 02:05
- 「ビー玉…だっけ?」
「そうっちゃよ?」
「持っとってね。」
「れいなが?」
「うん。」
ハッとした。
ビー玉が消えたんじゃないかと重い焦って手を広げた。
そこにはちゃんと水色が光ってた。
「れいなにあげるから。」
「あげるも何も最初かられいなのやけん。」
「信じてなかったの?」
「わかっとって聞くってのは、れいなは好かん。」
サユはフワっと笑った。
そして、れいなの広げた手をまた両手を使って閉ざした。
それはれいなの手を包み込むように。
れいなの手の中のビー玉を包み込むように。
「これはね…。」
「ん?」
「道標なの。」
「道標?」
「此処から抜け出せるように、道を教えてくれるの。」
それって、れいなに必要?
れいなが持ってる方が良いと?
「本当はサユに必要なんじゃなか?」
「どうだろう…。サユミには必要無いと思うの。」
そうかな…。
そうなの…?
あんなに悲しそうに見とったのに。
それでも必要なか?
- 229 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 02:06
-
「目閉じて。」
「え?」
「良いから…。」
ギュっと閉じた。
広がる闇。
「れいなありがとう。サユミもっと早く出逢えれば良かった。」
なんね?それ。
サユ?
サユ?
「此処を出た時、れいなはきっと…。」
きっと?
「んーん、なんでも無いの。これから出逢う人を大切にしてね。」
え?
「じゃあね?」
頬に何かが掠った。
たぶんそれは、サユの手だった。
離れていくように触れるから焦って目を開けた。
そこにはもう誰の姿も無かった。
- 230 名前:羽の話。 投稿日:2007/02/06(火) 02:07
-
***
- 231 名前:伴樹 投稿日:2007/02/06(火) 02:12
- 今回は此処までです。
読んでくださってる方で気づいてる方もいらっしゃるみたいなので一言。
実はこれ、番外編のつもりで書きました。
だから今までのと少し作風が違うと感じるのでは無いかと思われます。
基本的に吸血鬼が出ない話は本編では無いかなって私の独断で決めてまして
結局本編としてageたので、その辺りに違和感があるのでは無いかと思います。
一言のつもりが長々と…このスレ次回で最後です。
- 232 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 03:07
- ワクワク。
- 233 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/07(水) 03:06
- 更新乙です。
この物語全体通して大好きです。
- 234 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:04
-
※また一つあなたは先へ進むでしょう。※
- 235 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:05
- 人間は曖昧で、自分勝手。それでいて単純で不器用。
だけどそうじゃないと、消えてしまうかもしれん。
天使も吸血鬼も人間が羨ましいのかな?
- 236 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:07
-
上から差し込む黄色い光は無くなった。
代わりに白い光がれいなの目に染みた。
満月になりそこねた月の光。
下におる白い花は、月の光を反射してうっすらと青白く光っとる気がした。
もうサユは此処にはおらん。
おるのは、れいな一人。
あるのは、花と枯れた木。
天国にしては、殺風景。
天使にしては、生意気。
「なんで天使の癖に博多弁話すと?」
真ん中に寝っ転がって、れいなは独り言。
ビー玉は持っとる…。
両目を隠しとる右腕の先の右手にちゃんと。
「悪い夢…。」
そうならよか…。
そうならよかよ…。
でもれいなは起きとるし生きとる。
「アンタのせいっちゃよ。バカぁ。」
右腕を伸ばして
目を開いて
ビー玉と月を重ねた。
「綺麗っちゃね…。サユの目の色みたい…。」
れいながそう言った瞬間だった。
- 237 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:07
-
「サユ…?」
ビー玉は突然、何の前ぶれも無く皹が入った。
そして弾けるように割れた。
体を起こして、手の中を覗く。
粉々になったそれ。
一粒一粒がフワっと浮いた。
「どこ行くと?」
ホタルとは違うけど、風に乗るように宙を舞う。
「サユ…?」
消えてしまうと?
消えたらどこに行ってしまうと?
天国は此処やけん。
だからまた此処に戻ってくるやろ?
れいなは、サユを行かせたくなかったと。
掴めるもんなら、サユの服でも良いから握っときたかったっちゃよ?
ビー玉なんかじゃなくて
サユを掴んでいたかった。
- 238 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:08
-
「…でもそれも割れちゃったよ。」
サユとの最後の繋がりも一緒に消えてしまう。
青い光の粒。
壁と空の境目でピタッと止まる。
それは月しか無い空にあるはずの星のようだった。
「れいながやっぱ、正しかったけん…。」
浮いてる星は星じゃなく形を変えた。
それは、きっとサユが探しとったモノ。
なんでれいなとサユが会えたか…わかったよ。
「サユ?…あったよ此処に。」
わかっとったんやろ?
これがサユの失くした羽根だって。
だからあんな悲しそうに見とったんやろ?
だかられいなは、此処に来れたと?違う?
「れいなは、もうサユが天使だって信じとるけ、戻ってきて?」
戻ってこんけど。
わかっとるけど。
言わないと気持ちが収まらんから声に出した。
浮くことのできなかった羽根は降りてくる。
一枚一枚ヒラヒラと。
それは何かに似とった。
- 239 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:09
-
サユ…?
必要無いもんは、戻ってこんって言っとったね。
でも羽根は、戻りたがとったみたいっちゃね。
だから、れいなは此処に引っ張られたんやろ?
なのにサユときたら、れいなに押し付けて。
自分だけ、いきなり消えやがって。
「バカぁ。」
これさえあれば、サユは戻れたかもしれんのに…。
帰りたい場所に…れいなの知らないれいなを知らないサユの世界。
「戻りたくなかったのは、サユやんか…。」
羽根は、もうれいなの目線の高さまで降りてきとった。
掴もうと思ったけど、きっと羽根は此処を出ることは出来んと思った。
「れいな…もう行くね。」
誰に言うわけじゃないけど、誰かに聞こえるように呟いた。
地に落ちた羽根は、白い花になっとった。
枯れていた木にも、白い花が咲いていた。
「ホントに此処は天国やったっちゃね…。」
人間のための天国じゃなくて。
天使の羽根が帰っていく場所。
此処にある花を咲かせていった天使はどれくらいおったんやろう?
数えられないくらいおるんやろうか…。
それだけの人間が天使に助けられているのかな。
「じゃあね!バイバイ!」
考えるだけで無性に悲しくなったから。
そう言って背を向け、れいなは走り出した。
- 240 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:10
-
またあの真っ暗な道。
進めば進むほど、頭の中でスーっと冷たい空気が通っとる気がした。
ビー玉は、道標。
だけどそれはもうない。
でも道は真っ直ぐ。
迷うはずがなかった。
天使…。
羽根…。
白い花…。
サユ…。
わかる単語が頭の中で並びおる。
寂しい…。
悲しい…。
怖い…。
孤独…。
嫌な言葉が飛び交いだす。
真っ暗な道が怖くなる。
光が目に入って、思わず右腕を伸ばす。
伸ばした右手を誰かが掴む。
それは少し冷たい手だったけど、熱が上がってるれいなにはちょうど良かった。
「田中っち!どうしたの!?びっくりしたぁ。」
人混みの中、手を取ってくれたのはれいなの知ってる人だった。
れいなを知ってる人だった。
- 241 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:11
-
「新垣さん……新垣さん!うぐっ…」
「どうしたの!?泣いてるの!泣くなんて田中っちらしくないね。しかもいきなり壁から出てくるし。」
壁?
後ろを向くと隙間はなかった。
れいなはいったいどこにいたと?
「うっぐ…うぅっ……」
「ホラホラどうした?」
「悲しいことがあったけん…でも何が悲しいのか…何があったんか思い出せん…。」
「そっかぁ。よしよし。」
道端でしゃがみこんでるれいなを見て、新垣さんもしゃがんでくれた。
手は握り締めたままだった。
「田中っちなんか甘い匂いするなぁ。香水変えたの?」
大泣きするれいなをあやすように優しい声だった。
「壁からだと思ったら隙間あるじゃん。」
「隙間?何のこと?」
「えっ?」
顔を上げて新垣さんを見ると、一瞬だけ目が赤く光った気がした。
「じゃあ、この羽根も見えない?」
新垣さんは、三本の指で何かを掴んでいる仕草をしとる。
「れいなをバカにしとるんですか?」
「してないしてない。」
「ホントですかぁ?」
「うん。なんでもない。でもこれあげる。」
そう言って握っていたれいな手を持ち上げて広げさせる。
そして何かをあげるフリをする。
「じゃあ…貰っときます。」
「うん。じゃあせっかく会ったし、どっか行こっか?」
「れいなカラオケが良いです!」
「よし。じゃあ行くよ!ほら立って。」
また手を取って貰って立ち上がる。
れいながフラついたから、笑われた。
- 242 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:12
-
「そう言えば知らない間に夜ですね。」
「夜どころか夜中だよ。田中っち。」
「れいな何しとったんやろ?」
「今日は一段と変だね。」
なっ…!
でもホント何しとったんやろ?
とっても悲しいことが会った気がする。
でも気がするだけで何もなかったかもしれん。
ホントは悲しいことではなかったかもしれん。
よくわからんかったから、新垣さんの服の袖をギュッと掴んだ。
新垣さんは、たぶんこんなれいなをよくわかっとらんと思う。
だけど何も言わず手を握ってくれた。
そしてれいな達は、人混みの中に溶けていく。
- 243 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:12
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***
- 244 名前:君と僕と羽の話。 投稿日:2007/02/10(土) 23:12
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**END**
- 245 名前:伴樹 投稿日:2007/02/10(土) 23:19
- 以上で最後のお話「君と僕と羽の話。」を終了とさせていただきます。
そして一緒にこのスレも完結という形にさせていただきたいと思います。
返レスはしないという形を取ったにもかかわらず
レスをしてくださった方々には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
こんな新参のスレに目を通してくださった方にも感謝です。
それではみなさんまた違う世界でお会いしましょう。
本当にありがとうございました。
- 246 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/11(日) 02:50
- まだこの物語の世界は終わることはないんじゃないかな?
と思う位これからも延々と読み続けていたかったので
完結がとても寂しくなるくらい素敵な作品でした。
感動をありがとう、とゆいたいです。
- 247 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/11(日) 04:17
- 寂しいなぁ
読後感もそんな感じで泣きたくなったし、
終わっちゃうのも寂しい
れいなに感情移入しちゃったし
ガキさんに「待って!」って言いたくなった
でもほんとこの話を読めて良かったです。ありがとう。
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