stkの短い話

1 名前:stk 投稿日:2006/12/10(日) 17:55
この板で『10年目のメッセージ』を書かせていただいていたstkです。
かなり迷ったのですが、新スレを立てさせていただきます。
2 名前:stk 投稿日:2006/12/10(日) 18:03
前スレ内『SF』はあれでちょうど完結でした。
読んでくださった方、ありがとうございます。
あんなにきっちり容量がなくなるなんて…。
予想外の展開にあわあわしてしまいました。

完結のお知らせができず、どうするべきかかなり迷いましたが
書きかけで止まっているお話もあるので新スレを立てさせていただきました。

そんな事情ですので、いつ更新できるかはわかりませんが更新していたら
目をとめていただけるとうれしいです。
3 名前:stk 投稿日:2006/12/10(日) 18:05
焦ッテ日本語オカシイデス。

とりあえず場つなぎに『10年目』のボツネタを。
プロローグになる予定のものでした。
4 名前:ブレスレット 投稿日:2006/12/10(日) 18:07

見上げる瞳はぼんやりと潤んで
きっとアタシを映すことさえままならない
微かに開いた唇が絶え間ない吐息を漏らす

その甘い香りに目眩がした

余裕ないアタシにふっと頬を笑みの形に歪め
ぎこちなく差し出される手のひら
探るように顔に触れられても熱いはずの指先に温度を感じないのは
自分の頬もいいだけ火照っているから

胸底からこみ上げる熱に任せ
捕らえた細い手首に無心になって唇を絡める
緩く巻かれた華奢なチェーンを唇で咥え
しかめられた熱っぽい瞳を見下ろす

ねえ、みきたん
アタシさ

こんなときでさえ
その身に着けられているシルバーに嫉妬、するよ


今このときは

アタシだけでアナタを飾って
 
5 名前:stk 投稿日:2006/12/10(日) 18:08
ちょいエロをageでやってごめんなさい。

こんな迷惑なスレ立ての仕方をしてしまって申し訳ありません。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/10(日) 23:37
『SF』完結なんですね。
すげーツボでした。さいこー!!
もしよろしければ、いつか気が向いたときにでも
続編書いていただければ幸いです。

こちらもさっそくブクマク入れさせていただきました。
期待してます!!
7 名前:A 投稿日:2006/12/11(月) 00:15
「SF」ヤバイよかったです!
続き欲しいです!
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/11(月) 01:28
10年目のメッセージとSF最高でした。
是非SFの続きをお願いします!
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/11(月) 22:33
stkさんのお話が読める新スレッドを発見できてうれしい限りです。
「SF」、続きが気になりますw
でも、もしよろしければ、リアル話も読みたいなと思ってマス。
図々しくてすみません;
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 01:45
SF私もその後が気になります。
よろしければぜひっ!!
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/13(水) 03:20
これだけ需要があることですし、ぜひともSF続きを!ww
12 名前:stk 投稿日:2006/12/16(土) 22:58
>>6-11さま。まとめレスでごめんなさい。

『SF』続編需要がありすぎてびっくりしています。
みなさんえっちぃのがお好き…?(笑)
許容範囲内かどうか心配していたので安心しました。ありがとうございます。
続編着手はしてみたのですが、あれは一気に書ききった読みきり話だったので自分の
頭の中が終了してしまっていてなかなかなかいいネタが沸きません。
何かが降りて来るまで待っていただけるとうれしいです。

ということでみきよしを一つ(ナゼ)。
タイトルは同じですが、前スレの『ネイル』との関連はありません。
13 名前:ネイル(みきよしVer.) 投稿日:2006/12/16(土) 22:59


『 ネイル(みきよしVer.) 』

 
14 名前:ネイル(みきよしVer.) 投稿日:2006/12/16(土) 23:00

「吉澤さん、藤本さん、おはようございまーす」

楽屋に入ってきた重さんは入り口近くに座り込んでいたあたし達に挨拶をすると、
そのまま奥にいた田中の方に向かって足を進める。
その白い足が通り過ぎるのを首で追って、その流れのまま美貴はあたしの傍らから
しゅるりと立ち上がった。
「しーげさん」
背後から追いかけで呼ばれてびくりと振り返った重さんの目はわかりやすく戸惑って
いた。
でもすぐにその表情がほっと和らぐ。
「見て見てー」
猫なで声とこちらから見えていなくても想像に難くない甘え顔に、本日の藤本美貴の
ご機嫌を瞬時に計り終えたのだろう。
そんな重さんのこもごもにお構いもなく両手の爪を差し出してみせる美貴。

「わあ、藤本さんそれかわいー」
感嘆の声は平坦なようでその目はきらきらしている。
重さんが喰いついたのを確認して、美貴は得意げにふふんとあごを突き出してみせた。
「でっしょお?」
「いいなあ。じゃあ昨日はネイル行ってたんですか?」
「ちっがうんだなあ、これが」
「え?自分でやったんですか?」
できるわけないじゃん。こいつが。
「ううん」
「じゃあ、誰に?」
…聞くな道重。
 
15 名前:ネイル(みきよしVer.) 投稿日:2006/12/16(土) 23:04

「亜弥ちゃんに♪」

うわあ、くねくねしてるよ。美貴がくねくね。ありえねえ。
亀に著作権料払ってからやってよそんな動き。
「松浦さん?えー、すっごおい。プロみたいっ」
あ、こらっ。
調子に乗るなよ、道重。
美貴の手に、さ・わ・る・な!
目力ビームで睨み付けるけど、気づいたのは狙いを定めた重さんではなく
その向こうで二人のやり取りをぼーっと眺めていた田中だった。
「さ、さゆ、えと…あっ、絵里らの撮影覗きにいかん?」
わたわたと立ち上がる田中を振り返って、重さんの手が美貴から離れる。
良くやった、田中。
「えー?」
「あ、ほら今日ケンタ君来とったし」
亀ちゃんよりもスタッフさんの子供の名前に反応した重さんを、田中は
引きずるようにして連れ出して行った。
 
16 名前:ネイル(みきよしVer.) 投稿日:2006/12/16(土) 23:04

重さんと田中の出て行った楽屋は美貴とあたしの二人きり。
あたしの隣に戻って座り込んだくせに、それでも美貴の視線は自分の爪先。
にまにまと頬を緩める。
どうしろってのこの空間。
「ちょっと美貴にはかわいすぎるんじゃないかなって言ったんだけどお、
ネイルくらいしかかわいげ出ないんだからちょうどいいでしょって
亜弥ちゃんが言うからさあ」
松浦…。
ひどい言われようだなおい。
しかもそれをそんなに自慢げにしゃべるのはやめてほしいんだけど。

「よっちゃんもしてもらう?」
やっとあたしに向いた美貴の目は、すでに『二人きり』を強調していた。
切り替え早いっすね。
「…それはなにかい。あたしにもかわいげがないってことかい?」
あえて気づかないフリで(別にあたしがヘタレなわけではない)顔を
しかめてみせる。
「うん」
て、おい。即答かよ。
「かっこいいよっちゃんがかわいいネイルってなんかよくない?」
あたしの指先をつまんでいた美貴の手が、するりとあたしの頬をなでる。
思わず息を呑みそうになるのをすんでで抑えた。
「かっこいいっすか」
「かっこいいっすよ」
 
17 名前:ネイル(みきよしVer.) 投稿日:2006/12/16(土) 23:05

鼻にかかったくすくす笑いのまま、あたしの肩に寄りかかってくる。
遅れて届く香りに、今度は息を呑むことを堪えられなかった。
ごくりと鳴ったあたしののどに指先を這わせる。
「かっこいいからさあ…ね?」
甘え声のまま顔を寄せて。
おねだりですか。
こんなとこでおねだりですか。
「や、だめだって。みんな戻って来るし」
「ちょっとだけだよお」
…って言いながらいっつもちょっとですまないじゃないですかアナタ。
ほらもう、ひざを伸ばして座ってるあたしの上にまたがって。
両手で顔を向かせて。

有無を言わさずがっつりと重なる唇。

ちょっとですます気なんかこれっぽっちもない唇に、あたしは本能の
まま…いやいや、愛のままに溺れていく。
進入してくる体温にくらくらして、体から生気を吸い取られてる気分。
だってほら、美貴がどんどん元気になっていく。
魔女じゃなくて吸血鬼だよこの人。
もう勘弁して。ひーちゃんひからびっちゃう。
はいもう終了終了。


ピロン♪

終了の合図は間抜けた電子音だった。
 
18 名前:ネイル(みきよしVer.) 投稿日:2006/12/16(土) 23:08

「なっ!?」
残りかすの腕力でひっぺがした美貴はきょとんとしてて、もしかして
聞こえなかった?
今の音はたぶん。
「スクープ!モーニング娘。リーダーとサブリーダーの禁断の愛!」
大声で叫ぶなっ。
外に聞こえたらどーすんだよ。
こっちの焦りなんかお構いなしに高らかに叫んで、デジカメの画像を
確認しているのは。

「あれ?亜弥ちゃん?」
なんでこんなとこにいるんですかアナタ。
しかもカメラ持参とか。
「たんのネイルの写真撮ろうと思って来たんだけどー」
すっごいの撮っちゃった。
こっちに見せてくれたちっちゃい液晶の中で。

「う、わ…」
「これ…美貴?」
あんた以外ありえない。
ナイスカメラアングル。
明らかにあたし達だってわかるよ。
でこれがまた。
「二人とも、激しすぎ」
AVかって勢いで絡み付いてる美貴と、おされ気味で情けない顔に
なってるあたし。
 
19 名前:ネイル(みきよしVer.) 投稿日:2006/12/16(土) 23:08

「そっかあ、たんが攻めだったのかあ」
「ま、松浦、さっさと消してよっ」
恥ずかしいよりも情けなくなって、カメラをつき返す。
「えー?…いくら出す?」
「は?」
「一大スクープだもの。雑誌にでも売れば…」
「おいおいおいっ」
いや、本気じゃないことはあたしにだってわかってるけど。
こいつはホントきつい冗談が好きだから。
むちゃくちゃなりきって言うんだもん。どきどきするよ。
関西人って…。

「えーと、じゃあ美貴が一晩お付き合い…」
「美貴!」
「あ。それいいかも」
「松浦!!」
じゃいこっかって手を繋いで楽屋を出て行く二人。
「よっすぃ、あとよろしくね」
「よろしくねん」
 
20 名前:ネイル(みきよしVer.) 投稿日:2006/12/16(土) 23:09

「何をよろしくだあああ!!」


てか美貴、本気で出て行くなよ…。
ひーちゃんひとりっきりじゃんか…。

ぐすん。
 
21 名前:stk 投稿日:2006/12/16(土) 23:10
以上です。

このスレタイ結構恥ずいですね…。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/23(土) 21:49
おもしろいです
23 名前:ななし 投稿日:2006/12/29(金) 22:58
また作者さんのあやみき読みたいです!!
24 名前:stk 投稿日:2006/12/31(日) 16:53
読んでくださった方(いた…良かった)、ありがとうございます。

>>22さま
ありがとうです。

>>23さま
ではあやみきを…。


注)以下、微かにえっちぃかも?
25 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:54

『 夢 』
 
26 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:54

「たんっ。おーきろー」
ゆさゆさと体を揺さぶられてどんよりと瞼を開く。
「…起きてる」
「アンタのそれは『目が覚めてる』って言うのっ」
朝から理屈っぽい突っ込みに睨みを効かせる気力もない。
普段は自分の方がぐずってなかなか起きてこないくせにさ…。

確かに最近の美貴は寝起きが悪い。
でも前までの亜弥ちゃんと比べたらそんなにひどくないと思う。
美貴が寝起き悪くなったころから亜弥ちゃんの寝起きは良くなっている。
ような気がする。

まあなんだっていいんだけど。
「う”〜」
ベッドの上でなんとか四つんばいに体を起こしたものの。
腰が重い…。
「いてぇ…」
「また腰?アンタほんとに21?」
腰に手を当てた美貴を見下ろして、亜弥ちゃんの呆れ声。
「亜弥ちゃんは26?」

ばふっ

ぼふっ

どふっ

枕(美貴の)枕(亜弥ちゃんの)ぷーさん(座高100センチ)の三連弾に、美貴は再び
ベッドに突っ伏した。
 
27 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:55

「だから腰痛いって言ってんのに…」
「アンタがいらんこと言うからでしょ」
楽屋のソファで、まだ機嫌悪そうな声なのに亜弥ちゃんは美貴の腰をさすってくれる。
だから美貴はやっぱりこの人好きだなーって思う。
「てかさ、最近腰ひどくなってない?」
こうやってちゃんと心配してくれるとことか。
「そうなんだよねー」
「寝起きも悪いし、ちゃんと寝れてんの?」
う”。
「んん…まあ」

寝てるのは寝てるんだけど…。
なんつーか、夢見が悪くて。
たぶんそれで寝起きも悪い。
さすってくれてる手にもちょっと後ろめたい。

「でもアンタ昨日うなされてたよ?」
「え!?どんな風にっ?」
「は?どんなって…うーとかあーとか?」
亜弥ちゃんは何にもない白い壁に向かって眉をひそめながらそう言った。

…良かった。
やばい声出してたのかと思ったよ。
 
28 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:55


それは決まって亜弥ちゃんとお泊りをした日にやってくる。
一人の時にはないから、やっぱりすぐそこに人肌があるのがまずいんだろうなあ。
あんな夢、見るのは。


『…、……』

初めはちょこっとキスとかその程度で、ここんとこ亜弥ちゃんべたべたしてくんなく
なっちゃったから美貴寂しかったんだろうかとか苦笑いした程度で済んでたんだけど。

『……っ』

ここまで来ると笑えない。
美貴の体を滑る亜弥ちゃんの唇は、火照った肌を一瞬ひやりとさせて、より熱くさせる。
自分が発する自分では制御できない熱にたまらなくなって亜弥ちゃんにしがみついた。
亜弥ちゃんのくれる快楽にただ溺れて、美貴は全身をきしませる。

『…、……、…』
 
29 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:56

これもう美貴どんだけ欲求不満なんだよって話だよね。
こんな夢ばっか見るから腰にくるし、朝全身だるくて起きらんないし、亜弥ちゃんの顔
見ると申し訳なくなっちゃうし。

解決する方法がないわけじゃない。
単純な話。亜弥ちゃんと一緒に寝なければいい。
…ヤダ。

それに比べれば断然…正直言えば…そっちは…ヤじゃない。
ヤじゃないどころか亜弥ちゃんが美貴にあんなことしてくれるのが結構嬉しかったりして、
美貴これやばいぞとか思うけど、起きてる時に亜弥ちゃん本人にどうこうされたいとか
したいとかは思わないからいいよね?
…いいのかな?

……バレなきゃいっか。
 
30 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:56

『……、…っ』

そしてまた今夜も、呼吸の甘苦しさに美貴の意識は夢の中へと覚醒する。

『…、…』

たまんない。
もどかしくて、切ない。
全てを開放してしまえば甘い声が漏れやしないかひやひやするし、自分から求めてしまうと
意識がはっきりしてきて…起きちゃうのはもったいないとか思う。

結局美貴はいつも亜弥ちゃんにされるがままあるがままにこの行為を受け入れる。

ぴんと張り切った糸がぷつりと切れて、美貴はベッドに体を沈ませた。
おなかと腰のあたりにまとわりつく甘鈍い痛み。

ああ…明日も腰痛か。
 
31 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:57

夢意識から無意識へ落ちていく道程で、美貴は亜弥ちゃんのくすくす声を聞いていた。
つぶやく言葉はいつも音声としか認識できない。
低く染み込む声音が心地いいということしか認識できない。

そして美貴はゆるゆると、深い眠りへ沈んで行く。

ごめんね亜弥ちゃん。でも美貴…ここから抜けらんない。
 
32 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:57
 
 
33 名前: 投稿日:2006/12/31(日) 16:57

「なんでここまでして起きないんだよばかー」
抑えきれない苦笑いがこぼれると、彼女の口元がへらりと緩んだ気がした。
そこに唇を寄せて、しょうがないなーってため息。

おやすみ、アンタもいい夢を。

アタシは今夜もよく眠れそうだよ。

…腰、ごめんね?
 
34 名前:stk 投稿日:2006/12/31(日) 16:59
以上です。

『あみやき本舗』という焼肉屋の看板を見る度にどきどきしてしまうstkがお送りしました。


2006年最大の収穫は娘。小説に出会えたことでしたが、
2006年最大の失敗は娘。小説にはまりすぎたことでした…。

2007年もよろしくお願いします。


それでは皆様、良い初夢を(笑)。
35 名前:ななし 投稿日:2006/12/31(日) 21:35
今年最後に素敵なあやみきありがとうございました!
あやちゃんのいたずらに起きないみきたんもすごいw
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/03(水) 16:26
今年もステキなあやみきをよろしくお願いします。
年末はあやみき紅白で終わり、彼女たちなら今年もきっとやってくれる!と思っておりますw
37 名前:stk 投稿日:2007/01/08(月) 22:13
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>35さま、>>36さま
本年もよろしくお願いします。

年頭なのにちと暗いっぽいのいきます。
38 名前:願い 投稿日:2007/01/08(月) 22:15

『 願い 』
 
39 名前:願い 投稿日:2007/01/08(月) 22:15

夢の合間に薄く意識が浮上したとき。
ベッドの上で体を起こして、亜弥ちゃんは美貴のことを見下ろしていた。
月の光を背に、彼女のむき出しの肌は青白く発光している。
その影に入った美貴からはその表情は伺えなかった。
もどかしく思うのに、頭はうっすらと霧がかかったままで。

明日は早朝ロケだから勝手に出てくね

彼女の声を聞いたのはいつだったか。
そのとき自分はどんな反応をしたのだったか。
あいまいな記憶の中に閉じかけた意識を慌てて持ち上げる。
そんなのはどうでもよくて。
もっと言いたいことがあるのに。

意識は、浮かんで、沈んで。

明かりをつけて。
顔が見えない。
触れたいのに体が動かない。
声が聞きたいのに声が出ない。
 
40 名前:願い 投稿日:2007/01/08(月) 22:16

…アンタはまだ寝てな

無感情に低められた声。
しゅるりと衣擦れの音がした。

やだよ。起きてたいよ。
おいていかないで。
話を聞いて。

触れて。
キスをして。
抱きしめて。

お願い。



目が覚めたときそばにいて
 
41 名前:願い 投稿日:2007/01/08(月) 22:16
 
42 名前:願い 投稿日:2007/01/08(月) 22:17

二人きりの部屋に差し込む月の光が明るくて、アタシは深みへと堕ちる。
こんなところまで。
侵食される。
細い寝息の単調なリズム。
体を起こしてアタシの影を重ねる。

光を奪う。
全てを奪う。

食い破って、爪のひとかけらまで飲み込んで。
それでこの子の全てがアタシのものになるのなら、とっくに食い尽くしている。
抱きしめあうと時に訪れる、二人の境界線が曖昧になる瞬間。
人としてどうかと思うくらいに恍惚の瞬間。
その瞬間へと、アタシは堕ちる。
ずっとずっとずっと。
四六時中行為にふけっていられたらいいのに。
食い尽くしてやる。
この子から光を奪う。
光からこの子を奪う。
アタシの中にだけ、いればいい。
 
43 名前:願い 投稿日:2007/01/08(月) 22:17

暗い影の中でゆるゆると瞬きを繰り返して。
彼女の瞳がうっすらとアタシを捉えては逃す。
意識の端で何かを訴えようと懸命になっている。

…アンタはまだ寝てな

あなたの心は見せないで。
だってアタシの心はあなたに見せられない。

ベッドを抜け出してカーテンの隙間を閉じる。
月の光がさえぎられ、とたんに部屋は暗い闇に沈んだ。
振り返るとすでに規則正しい寝息。

お願い。



アタシが戻るまで眠っていて
 
44 名前:願い 投稿日:2007/01/08(月) 22:19

『 願い 』  終わり
 
45 名前:stk 投稿日:2007/01/08(月) 22:21
以上です。
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 16:44
情景が浮かびますね
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/16(火) 16:57
可愛らしい藤本さんに対して深い松浦さん
願うものは同じなのかな
作者さんのお話、期待してます
48 名前:sage 投稿日:2007/01/16(火) 22:34
ちょっと切ない雰囲気だけれど、きれいな世界ですね。
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/16(火) 22:36
間違って入力してしまいました。
申し訳ございません…
50 名前:stk 投稿日:2007/02/05(月) 01:42
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>46さま
例のPVにこんなシーンがあったような気がして…。

>>47さま
おお。まさにそれがテーマでした。

>>48,49さま
ありがとうございます。age,sageはこだわってないのでお気になさらず〜。


間が持たないのでどうでもいい小ネタを。
がきえり?
51 名前:がきえり 投稿日:2007/02/05(月) 01:43

「で、ここでこう…そしたら光井ちゃんはこっちで…」
「はい…あ、そっか…」
ページ数も内容もうすっぺらい台本を挟んだお向かいで、身振り手振りで
丁寧に解説をしてくれる新垣さん。

私よりも小柄なのにこの存在感、かっこいいわぁ。
意外とりりしいんです。かっこいいんです。

「そのあとは――」
「がーきさーん♪」
新垣さんの真後ろから駆け寄って来る満面の笑顔。
「おはようございます、亀井さん」
「がきさん、光井ちゃん、おはよー」
「……。で、ここは吉澤さんがこっちで…」
「え、あの」
亀井さんを振り返ったのに、絶対目が合ったはずなのに
(だって亀井さんにこーって幸せそうな顔したもん)、返事も返さずに
私の方に向き直る新垣さん。
「ええええー。がきさあん…」

むうって唇を尖らせた八の字眉、かわいいわぁ。
存在自体が甘いお菓子みたいにかわいいんです。
 
52 名前:がきえり 投稿日:2007/02/05(月) 01:44

「カメ邪魔だから。バイバイ。…で、ここはぁ」
「ええええええ」
そんな切ない顔で私を見られても…。
新垣さんはもう亀井さんの方を見もしないで手で制する。
「聞いてがきさん、絵里昨日ね」
無視する新垣さんを無視してその手に向かって話し始める亀井さんはきっと。
「かぁめぇ。アンタも台本読んできな。…あとで聞いたげるから」
新垣さんがそう言うのがわかってるんだろうなあ。
不満そうに唇を尖らせたものの、その端っこがにゅうっとつりあがる。
「絶対だよぅ?」

緩みそうな頬をひくひくさせながらの上目遣い。
………。


ちらりと窺うと、新垣さんの耳は真っ赤になっていました♪
 
53 名前:stk 投稿日:2007/02/05(月) 01:46
以上です。
ホントにどうでもいいです。ごめんなさい。
ボウリングでチーム違うのに『ガキさんガキさん』言いすぎな
亀井さんがステキで…。
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 14:17
がきえりイイ!
55 名前:stk 投稿日:2007/02/08(木) 21:03
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>54さま
今がきえりがアツイ!

ということで、エリ&ガッキーのどうでもいい小ネタ第二段ー。
56 名前:『 +藤本 』 投稿日:2007/02/08(木) 21:04

あー疲れた。マジやってらんねえ。すんげー眠いし。
ちょっと休憩。
ってまた楽屋うるせーなあ。
どっか落ち着けるとこ…。
お。いいもんめっけ。
「がーきさーん♪」
「…何?」
ん?機嫌悪いな。
まあいいや。
壁際で雑誌を読んでいるがきさんの隣に座って、その肩にもたれ――。

「うわっ」
「……」
「よっけんなよオマエっ」
「………」
なんだこのやろう。美貴のことシカトしやがった。
バランスを崩して倒れこんだ下から睨み上げてやろうとしたらすでに冷たい目で
見下ろされていた。
57 名前:『 +藤本 』 投稿日:2007/02/08(木) 21:05

…あれ?がきさんマジに機嫌悪い?
珍しいな。
ってか怒ってる?美貴に?
えーと。
「あのさ、美貴まじで疲れてんの。ちょっとだけ肩かしてくんない?ね?」
かわいくお願いしてみたのに。

「…セクハラ」

「はあっ?」
何?肩かすぐらいいいじゃんっ。
「もっさんのセクハラ親父っ」
「は?って、ええええ?」
ばんっと雑誌をたたきつけて楽屋を出て行くちっちゃい背中を呆然と見送る。

なんで?なんでセクハラ?しかも親父?
そりゃどっちかって言うと親父っぽいのは認めるけど。
21歳の、22歳までカウントダウン中の乙女に言う言葉?
っていうかアイツなんだ?
いつもだったらマジでセクハラしてもお約束の反応してくれるのに。
そんなの…そんなの……寂しい…。
58 名前:『 +藤本 』 投稿日:2007/02/08(木) 21:06

「はあ…」
がしがしと頭をかいて、胡坐で座りなおす。
ちらちらとこっちを見ているメンバーをとりあえず一睨みしてため息。
てかマジで意味わかんないし。
何怒ってたんだろ。
美貴なんかがきさん怒らすようなことしたっけ?
何が原因なんだろ。
んー。心当たりないぞー。
「藤本さん、がきさんにまでセクハラー?」
「はあ?カメちゃんまで何言ってんの?」
どこからともなくひざ立ちで近づいてきていたカメちゃんがにやにやと
美貴の顔を覗き込む。
「だいたい美貴セクハラなんかしないし」
「するよー」


「絵里のお尻触ったりするじゃんー」


――それが原因か。
59 名前:stk 投稿日:2007/02/08(木) 21:08
以上です。
ちなみにハロモニ2週遅れ地区在住です…。
60 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/08(木) 23:30
ニヤニヤしました。かめがき熱いですね!
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/09(金) 03:27
むくれちゃうガキさんもなにげにわかってなさそうな亀もきゃわ
セクハラしたもっさんGJ・・でいいのかな?
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/09(金) 11:59
録音ドキみき聴きながら読んでしまい…
甘えティにニヤニヤが止まりませんでしたw
63 名前:stk 投稿日:2007/02/14(水) 22:55
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>60さま
熱いですよね〜。Let'sかめがき!

>>61さま
がきさんが意外とかわいく書けたので気に入っています(笑)。

>>62さま
裏テーマは『口も態度も悪いけど甘えティ』でした。


世間では縮小ムードですが季節モノを。
一応前スレ『SF』の続き?ですが、ご期待はなさらぬよう…。
64 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 22:57

『 SF214 』
 
65 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 22:57

2月13日


すっごい人…。
もわもわと色づいた催し会場から数メートル、アタシたちは立ちすくむ。
年々減っているとは聞くけれど、やっぱ…すごいわ。
なんともいえない生暖かさと独特の香りが充満した群集が目の前に広がる。
「…あたしここで待ってる」
「ダメっ」
おびえたような声を出す吉澤さんの手を引いて、強引に人群れの中に引っ張り込んだ。
 
66 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 22:58

食事もよく一緒に行くけど、実はアタシとたんは食べ物の好みがかなり違う。
アタシは甘いもの大好きで、でもあの子はあんまり甘すぎるお菓子は苦手。
コーヒーなんかお砂糖とミルクで半分に割ってもアタシは飲めないのに、あの子はブラックのまま平気で飲む。
だから今日は、味見役に比較的たんに味覚の近い吉澤さんをつれてきたんだけど。

「これは?」
「んー。普通」

「これ」
「…イマイチ」

「次これ」
「おいしいけど…」

難しいなあ。
こぶしを握りしめていざ出陣してみたものの、なかなかコレだってのがない。
それでも二人で首をひねりながらどうにか選び出したそれは、わりとポピュラーな日本のお菓子メーカーのものだった。
結局そこに落ち着くってなんか芸なくない?

「うん、でもおいしいよコレ」
眉を寄せているアタシに気を遣ってか、吉澤さんの柔らかい声音。
これ以上付き合いきれないって気持ちの裏面な可能性の方がむしろ高いけど。
 
67 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 22:59

二つ分のお会計を済ませ、離れて待っていた吉澤さんにひとつを差し出す。
「ハイ」
実は結構照れながら押しやったのに、吉澤さんは悲しげな顔をして見せた。
ん?なんだ?
こんなカワイイ子からチョコ貰っといて失礼なヤツだな。
「…この上荷物持ちですか?」
「ちっがーよ、ばか」
マジばか。
「ばか…ばかって言った…」
長身を縮めてがっくりとうなだれる吉澤さん。

会社入った頃はなんてかっこいい先輩なんだと思ってたのよ。
イロイロ仲良くなって、話も面白いし…えっちも上手で、スマートな人だなあと思った。
今は…へたれで変で、でもなんて多彩な顔を持った人なんだろうって思う。

「吉澤さんにあげる分だよ。どうせ明日はいっぱいもらうんだろうけど、まあ今日付き合ってもらったお礼ね」
「え?マジで?うわ、ちょー嬉しいんだけど」
縮めていた身長を伸ばしてでっかい目を見開いてぱあっと顔を輝かせる。
単純…。
梨華ちゃんはこの単純無垢なところに惚れたんだろうなあ。
 
68 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:00

ニコニコ上機嫌になった吉澤さんを引き連れて、次はリカーコーナー。
チョコとワインって意外と合うらしいってことで。
アタシはあんまり飲めないから、これは完全に吉澤さんに選んでもらう。
ソムリエスタイルのいかにもっぽい店員さんとの間に地名だかなんだかが飛び交っている。
全く意味わからん。

「これ、かな?」
チョコよりも断然真剣な顔つきでボトルを構えて眺める。
「おいしい?チョコに合いそう?」
「うん。いけるいける。軽めだから松浦でも飲めるだろうし」
ふーん。
一緒に飲んでやると喜ぶしな、アイツ。
それもいいか。

「じゃあコレお願いします」

ソムリエ風の店員は、ちょっとぞっとするほど丁寧な笑顔を見せた。
 
69 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:00

帰りの電車の中、隣に並んだ吉澤さんはチョコ効果がまだ続いてるようでかなり機嫌良さげ。
耳に気持ち良いアルトの声を聞きながらくるくると表情を変える横顔をぼんやりと見上げていた。
綺麗な顔だなあ。
アタシも色白は自慢の一つだけど、この人は顔立ちも西洋人みたい。
絵画の中の人物のような、陶器で出来た人形のような、どこか現実離れした綺麗な顔。
…なのに言うことはおっさんくさいし、セクハラ三昧だし、女にだらしないし。
天は二物を与えないってこういうことか。

「松浦はさあ」
「…ん?」
「手作りとかしないの?」
「は?…しないしない」
ぽーっと見上げていた顔ににやにやと覗き込まれて一瞬遅れて首を振る。
手作り?それはない。
「そーなの?」
「だって買った方がおいしいじゃん」
正論。
ご飯くらいは作るけどさ、お菓子とかは買った方が手軽だしおいしいじゃん。
「あーでも梨華ちゃんは無駄に張り切ってやりそうだね、手作り」
ふと思いついて出した名前に、吉澤さんはわざとらしく暗い顔をしてみせる。
「んで失敗しそう」
「…わかってんなら一言言ってやってよ〜」
「あはははは。ヤダ」
「なんでよー」
「いいじゃん、それも愛だよ」
アタシにはないけどね、その愛は。
いいじゃん、思う存分オンナノコさせてやりなよ。
 
70 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:01

「…まあ、松浦も明日がんばれよ」
「おお」
暗い声でため息を吐きつつアタシの頭にぽんぽんと手を載せる。
「邪魔はしないし」
「当たり前っ」
この人は、がんばれとか言ってるくせにいまだにたんとしてるんだよねえ。
公約どおりアタシとはしてないけど。
「でも美貴モテるからなあ。誰か来るかもよ?」
「え…」
そうか、そうだよね…。
ヤツは悔しいかなまだフリーの身。
あの子の義理チョコ嫌いは知れ渡ってるから意外と数はもらわないらしいけど、それってもらうのはかなりの確率で本命ってことでしょ?
家まで押しかけて来るヤツがいないとも言い切れない。
「いいんじゃね、一緒に楽しんじゃえば」
「それはない」
絶対にない。
「松浦は独占欲強いなあ」
あきれた声で言うけど、いや、これが普通でしょ。
あんたたちの方がおかしいんだよ。
「吉澤さんはさー、梨華ちゃんがたんとするのヤじゃないの?」
「んー?…どうだろ?すっげーブサイクとか全然知らないヤツは勘弁してほしいけど美貴が相手なら別に」
その基準がわかんないよ。

吉澤さんはたん以外にもいろんな子としてるけど、梨華ちゃんは吉澤さん以外でしてるのはたんだけみたい。
…アタシとは最近してないしっ。
てか吉澤さん自分が遊びたいからって梨華ちゃんがたんとするのけしかけてるとこあるからなあ。
勘弁してほしい…。
 
71 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:01

2月14日


今日は行くねって言ってるから家にいるはず。
家に置いといたチョコとワインを取りに寄ったから少し遅くなっちゃった。
待ってるよね。ごめんよマイハニー。

鼻歌交じりに合鍵を取り出して鍵を開ける。

勢い良く扉を開く。

玄関ちらかってんなー。

散乱している靴を押しのけて。

「たんー。ダーリンが来たよーっ♪」

勢い良く開いたリビングのドアが壁に当たってがしゃんと音を立てた。
 
72 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:02

「…は…ん…あ、亜弥…ちゃ…」




………。

待てやコラ。
 
73 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:03

最中の潤んだ瞳で梨華ちゃんがアタシを見上げる。
たんも別に慌てた風もなく梨華ちゃんのむき出しの胸から顔を上げる。
「あ、お帰り」
「ただいま」
うん、あのさ、アタシ今結構ムカついてんだけど。
そりゃ今更驚くような関係でもないけど。
それでもかなり、煮えくり返るくらいにはムカつくんですけど。
「…おかえ、り」
ふうっと息をついてあからさまに不満げな声の梨華ちゃん。
うん、ただいま。
でさ、アナタなんでここにいんの?
こんな日に。

中断はしたもののやめる気はないらしく、ソファから体を起こそうともしない。
たんの首に回された腕もそのまんま。
「吉澤さんは?」
ぎょろりと部屋を見回すけどとりあえず見当たらない。
邪魔しないとか言ってて、それでこの状態だったら本気であの人の信用なくすけど、一応確認。
というか説明しろ石川。
「知らない」
「へ?」
「もう別れたもん、あんなヤツ」
はあ?別れた?吉澤さんと?
昨日は…普通だったし、今日も別に何も言ってなかったけど…。
じゃあ仕事終わってからアタシがここにたどり着くまでの1時間ほどの間に別れ話が勃発して成立したんですか?
 
74 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:03

「あーあ。私美貴ちゃんと付き合えばよかったな」

…っ。
テメェ…何言った今?

ため息混じりにつぶやいた梨華ちゃんの言葉に眉間のしわが深くなる。

「お。それいいね」

ちょ、たんまでっ。

「でしょお?もお付き合っちゃおうよー」

ざけんなこのアマ。

むき出しの体と甘えた声でたんをひきよせる。

「そしたらこの体は美貴のモン?いいね〜それ」
「……っ」
ちゅーとかしてる後頭部にワイン振りかぶる自分を想像するだけで気を紛らわせたアタシってばなんて理性的♪
 
75 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:04

「ま、とりあえず服着なよ」
ニコニコしていた顔を無表情に一変させて梨華ちゃんの上からどくと、たんはソファの下に落ちていた服を梨華ちゃんの上にぽいぽいと投げ上げた。
「えー?いいじゃん、亜弥ちゃんも一緒にしよ?」
アタシにまで甘え目線。
いや、それ普通にキモイから。
「ヤダ。美貴おなかすいた」
アタシが口を開くよりも早く、梨華ちゃんを振り返りもしないで、でもアタシの方も見もしないでたんが冷たく言い放つ。

その声色にどきりとした。
ちょっと待って…それなんか…。
それ、アタシとするのがヤダって意味じゃないよね?
梨華ちゃんとはしたいのにアタシとはなしってこと?
いやいやいやいや。それはないでしょ。ないよね?違うよね?
軽くショックを受けながらたんを見やると、なんかちょっと…機嫌悪げ?
ちょっと待って。
この状況、邪魔なのは…アタシなの?
そうなの?
マジデスカ?

「亜弥ちゃーん、手伝ってー」

一気に重量を増したショックを背負ったまま、アタシはたんの待つキッチンに向かった。
 
76 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:04

「で?なんでケンカ?」

パスタメインの簡単な食卓を三人で囲む。
この三人って珍しい。
梨華ちゃんにはもれなく吉澤さんが付いてたもんな。
ご飯も当然のように四人分作っちゃったし。

「そうっ。亜弥ちゃん聞いてよ、ひっどいんだよっ。あのね――」
「もらったチョコを自慢されたんだって」
梨華ちゃんのキンキン声をたんのうんざり声がさえぎる。
ナイスミキティ。
て…はあ?
それだけ?
「チョコだけじゃないもんっ。すっげーかわいい子にもらったんだとか言うしっ。しかもすっごいしつこいのっ。ムカつくから無視してやったわよっ」
鼻息荒く梨華ちゃんが熱弁を振るう。

ああ、的確に想像できるよ。
あの人梨華ちゃんをからかうことに関してはメッチャ子供だからなあ。
んで対する梨華ちゃんもかなりお子様。
バランスは取れてるんだけどはた迷惑極まりない。
 
77 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:05

「そう、ちょうどコレとおんなじヤツだわっ」
さっきご飯食べだす前にチョコとワインがたんに見つかっちゃって、あまりにもそっけなく手渡しされてしまったそれを梨華ちゃんが燦然と掲げる。
「へえ。そうなんだ。有名なやつ?」
たんの手が梨華ちゃんの手からひょいっとチョコを奪ってしげしげと眺める。
いたって普通のお菓子メーカー。
知名度は高いけど、この日に気合入れて買うメーカーでないのは確か。
…ん?ってことは。
「梨華ちゃん、それもしかして吉澤さん昨日のうちに貰ったとか言ってなかった?」
「え…、あ、そういえば…言ってたかも」

ったく。
何考えてんだかあの人は。
まあ、大体わかるけど。
手作りチョコがもらえるってんで浮かれてたんだろう。

「梨華ちゃん、それたぶんアタシがあげたやつ」
「ええっ?」
…へ?
びっくり目でこっちを見ているのは…たん。
あれ?
アタシまずった?
「そうなの?」
「えと…うん」
梨華ちゃんまでびっくり目。
そしてため息?
 
78 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:05

「そうなんだ…やっぱり亜弥ちゃんはひとみちゃんが好きだったんだ…」
「違う」
ものすごく違う。
しかもやっぱりって何だよ。

「仕事で色々お世話になってるから」
同じ部署同じチームの一年先輩である吉澤さんは必然的にアタシの教育係的存在で、お世話になってるのも事実。
でも好きとか絶対無いから。
ないんだからねったんっ!
ちらりとうつむいた顔を窺うと、ぶすっとしたままのろのろとパスタを口に運んでいる。
「アタシが好きなのは吉澤さんじゃないからね」
あ。今の微妙な言い回しだ。
ちょっと部屋の空気が固まった。
とき。
 
79 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:06

がちゃ

「ういーす。石川さんいますかー?」

玄関先から響いてくる能天気な声。
「んだよ、いるんじゃん。返事しろよー」
リビングに入ってくるととたんにへらへらと笑う吉澤さん。
…無理しちゃって。

「いません」
ちょ、梨華ちゃん、そっぽ向いてほっぺた膨らますって。
そんな怒り方生で見たの初めてだよ。
ぶはって噴出す声が聞こえたから視線を向けると、たんはさっきまでぶすくれた顔をしていたくせに床につっぷして肩を震わせている。
…なにぃ、機嫌悪かったんじゃないの?
それってなんかムカつく。

「えー?うっそまじでー?絶対ここにいると思ったんだけどなあ。石川友達いないし」
梨華ちゃんの膨らんだほっぺたをニヤニヤと眺めながらオーバーリアクションな吉澤さん。
ちょっとお、迎えに来たんじゃないわけ?
煽らないでよ〜。
「石川さんにはすごーく仲良しなお友達がいっぱいいるのでここにはいません」
梨華ちゃん…。いいから素直に帰って。
どうでもいいけど声低くしてるつもりなんだろうけどやっぱり高いね。
 
80 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:06

吉澤さんはもう一度梨華ちゃんをちらっと見下ろして、鼻で笑ってからキッチンへ長い首を向ける。
「あ、うまそー。美貴ぃ。これあたし食べて良いの?」
「い、いいよ。なんかいつもの癖で作っちゃって」
二人のやりとりに笑い転げながらも嬉しそうに吉澤さんのご飯の支度をしてあげているたん。
…えー。
「いいねえ。美貴と松浦の愛のこもった手料理。石川料理全くだからさー。まあ、作られても食べられたもんじゃないからやってくれない方が助かるんだけどね」
もういい加減冷めちゃってる夕飯をテーブルに、吉澤さんは梨華ちゃんの正面にどかっと胡坐をかく。
梨華ちゃんはぷるぷると肩を震わせながら何もない壁をにらみつけていた。

「お、美味いじゃん、これ。石川には絶対無理だね」
「ああ、そんな感じだね」
ちょ、たん…。
フォローしてよ。
んでさっさと帰ってもらおうよ。
「そんなこと…ないんじゃないの?」
アタシはフォローのつもりでちらりと梨華ちゃんを窺ったけど。
顔が赤いってことはそんなこともあるんだろうか…。
そういえばみんなでご飯食べるときも梨華ちゃんってたいしたことしてなかったな。
でもそれは、吉澤さんがさせないからであって。
 
81 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:07

「あるんだよー。しかもアイツ作ったら作ったでキッチンとか全然片付けねーし」
「っ!それはっ」
ばんっ
テーブルをたたいて体を乗り出した梨華ちゃんに、三人の視線が集まる。
「……」
すとん、とぎこちなく腰を下ろす梨華ちゃん。
にやにやと笑う吉澤さん。
「だから片付けはいっつもあたしがするんだよねー」

「…あたしがするからいいって…ひとみちゃんが言ったんじゃん…」
ぼそぼそとそれでも甲高い声。
だろうと思ったよ。

ちらりと吉澤さんの横顔を伺うと、すでにニヤニヤ笑いが引きつっている。
このへたれ。
自分で振っといてあっさり玉砕かよ。
 
82 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:07

「掃除もろくにしないし…」

「梨華ちゃんの手が埃にまみれるのなんか見てられないって言ったんじゃない」

「も、モノ多すぎるし…」

「ひとみちゃんが毎日毎日何かしらくれるからでしょっ」

……。
知らなかった。
意外とバカップルなんだ。

「いらないんなら捨てればいいじゃんかっ」

「捨てれないから増えてるんじゃないっ」

「そういう取捨選択できないところが梨華ちゃんの――」


「ひとみちゃんがくれたものは紙切れ一枚捨てらんないのっ!」
 
83 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:08

「…そ……」

「……」

「………えと」

「チョコ…亜弥ちゃんに貰ったヤツなの?」

「…うん」

「どうせ他にもいっぱい貰ったんでしょ?」

「え…うん」

「……」

「でもまだ…貰ってない…」

「……」

「……梨華ちゃんから…貰ってないもん…」

「……」

「…」

「…家にあるから」

「……帰る」
 
84 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:08

 
85 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:08

はあ。
ったくホントはた迷惑なヤツラ。
もそもそと二人が帰っていったあと、アタシとたんはまったり入浴中。
しかし、吉澤さんって梨華ちゃんと二人のときはあんななんだなー。
『梨華ちゃんから貰ってないもん』って。
駄々っ子かっちゅーの。
思わず軽く噴出してしまって、ふと正面を窺う。

「…たん?」

「んー」
向かい合ってお湯に浸かっているたんは、なんかちょっとぼんやりとしていた。
なんかさっきからずっとこんな調子。
いつもは二人っきりになったらふにゃふにゃと甘えてくる子が珍しい。
どした?
んー。
会社では普通だったよね。
お昼に『今日来るよね?』ってとろけそうな笑顔で確認されたし。
かーいかったあ…。
じゃあ家帰ってから……ってまさか中断させたから?
そんなに梨華ちゃんとしたかったの?
あんな笑顔見せといて?
「…さっきはお邪魔しちゃって悪かったね」
「………」
え?そこで黙るっ?
はあ?とかそんなことないよ、とか言おうよっ。
一応ネタ振りだったんですけど…。
 
86 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:09

「えーと、ホントごめん」
「……」
うわ…更に反応なし。
いやでもさ、邪魔したのはしたけどそんなのアタシがいるのもかまわずやっちゃって良かったんじゃん。やめたのはアンタじゃん。
…梨華ちゃんと二人っきりが良かったって、こと?
マジ?
アタシと二人っきりがいいって吉澤さんたちを追い返していたたん。
アタシのことが大好きなたん。
それってつまり…。
それって結構…キツイ。

「……よ別に」
「え?」
「別にいい。その代わり」

ちゃぷん

たんの顔がぐいっと近づいてきて、目を閉じる暇もなく唇を重ねられる。
何気に本日初ちゅーじゃん。
嬉しいんだけど、ちょっと複雑。
こんな時間までちゅーのひとつもなかったことに。
さっき、梨華ちゃんに触れていた唇だと言うことに。
『代わり』でしかない自分の唇に。
 
87 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:09

「ん…ふ…」
とろりと舌先を絡められて。
両手で全身を探られて。
のぼせ…る。


お湯の中でくったりしてしまったアタシを引きずるようにしてたんはベッドに向かった。
髪とか濡れたままでやだなって思ったけど、なんかいつもと違うたんに何も言えなくて。
イライラしてるのがその指先から伝わる。
いつもよりも乱暴な行為に、アタシの頭はどっか冷たいままで。
この子が一番好きなのはアタシのはずだったのにどうして。
この子を一番好きなのはアタシなのにどうして。
どうして。


何度目かの頂点から、アタシは意識を投げ出した。
 
88 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:10

「…亜弥、ちゃん」


ぼんやりと低迷するアタシの意識を大好きな人の声が呼び戻す。
ふわふわと宙に浮いた体がぎゅうっと抱きしめられて安定する。
やっぱり好き。
この腕の中が一番好き。
この匂いが一番好き。
…だから、足りない。
抱きしめられるだけじゃ足りない。
アタシがアンタを抱きしめたいと思うのと同じ切なさで。
抱きしめたいと思って欲しい。
アタシがアンタの全てを痛いくらいに欲しいと願う。
それと同じ痛みで。
アタシの全てを、欲しいと。

言って。

ほしいのに。
 
89 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:10

「亜弥ちゃん…寝ちゃった?」

遠慮がちな声に、重いまぶたを開く。
「…起きてる」
声も重い。気持ちも重い。
「そっか…」
たんはその細い指先にアタシの髪を絡めて、ぼんやりとその先を眺める。
ねえ…何を思ってる?
アタシのことじゃないの?

「チョコとワイン…ありがとね」
「え…ああ、うん。おいしかった?」
そういやお風呂に入る前に両方あけてちょっとずつ味見をしてたっけ。
「うん」
それからまた、アタシのことをぎゅうっと抱きしめる。
「…亜弥ちゃんはさ」
「うん?」
「美貴と…付き合いたいの?」
ぐ…。
どう、しよう。
具体的にその言葉を言ったことはない。
隠すつもりもないかったし、むしろアピールはしてたからバレてないとは思ってなかったけど。
…今、それを聞くかねキミは。
 
90 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:11

「美貴さ…やっぱり亜弥ちゃんと付き合えないと思う」

言いよどんでいるアタシの返事を待たずにそう言って、抱きしめる腕にぎゅうっと力がこもる。

「…そ、か」

ショック、だと言えばものすごいショックで、それこそベッドから叩き落されたみたいにショックを受けていたけど。
でもどこか冷静で。ううん、熱が。
冷め切らないままで。

「付き合うとか…やっぱやだ」
だから結構余裕もあって、たんのつらそうな声音になんかかわいそうになってきて。
ふられ中なアタシの方が断然かわいそうだと思うんだけど。
しょうがないなって頭をなでてやると、少し安心したみたいに抱きしめる腕が力を緩めた。

「…どうしてって、聞いて良い?」
そんな優しい声で聞く質問じゃないのになあ。
「亜弥ちゃんに梨華ちゃんとしてるとこ見られるの、やだったから」

やっぱり梨華ちゃんか…。
でもアンタには悪いけど梨華ちゃんがそう簡単になびくとは思われないよ。
だから…いや、そうじゃなくても。
なびいたとしても。
そんなことくらいであきらめてなんかやらない。
それくらいで温度を落とすほどの想いじゃないんだなって、かえって自分で再確認。
 
91 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:12

梨華ちゃんとバトってでも手に入れてやるって、決心を新たに握り締めた。
とき。

「なんかさ…美貴は亜弥ちゃんのことが大好きじゃん?」
「っ、はあ?」

その発言ですか?
ってかちょっと待って。
アナタ今アタシのことふろうとしてるんだよね?
それ意味わかんねえよ。

「でもだからって亜弥ちゃんと付き合っちゃったら…他の子とするたんびになんか…昨日みたいな罪悪感感じなきゃいけないわけじゃん?」
「はあ…」

えーと。
とりあえずアタシ…ふられてない、らしい…でいいよね?
なーんだ。紛らわしい態度で紛らわしいこと言うなよ。
そりゃあきらめはしないけど、それでもショックは受けてたんだからなー。
あーまーほっとしたよ。
はは…。
なんか今、すっごい幸せかも。

「それはやだなって」

アタシがどれだけ幸せな気分に浸っているかも知らない、淡々とした声。
 
92 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:13

…なるほどね。
『浮気』をしたくないから、本命と付き合わない。
10か0かしか選べないアンタらしいとは思うけど。

ある意味屁理屈だよね。

「…他の子としなきゃいいんじゃないの?」
アタシに都合のいい提案だとは思いつつ。
顔を上げると、たんはゆっくりと首を振った。
「それはできない」
ゆっくりとした、でもきっぱりとした口調。
テメェ……。
「だからやっぱり、付き合いたくない」


はあ。
これだけはっきり付き合いたくないって言ったらコイツはそう簡単にそれを覆しはしない。
…ホントは。
そろそろアタシだけのもんになってくれるんじゃないかなって思ってたんだけど。
まあ、しょうがない。
今まで誰としても『浮気』だなんて思ってもなかっただろうから、これは大きな進歩だ。
うん。
きっとそう。
アタシはこの子の全部が欲しい。
でもそれは、アタシがこの子の全てを奪いたいという意味じゃない。
この子がアタシに自らの意思で全てを差し出す。
それがアタシの理想であり、絶対に実現させてやる未来像。
だからアタシからがっついたりはしない。
ゆっくりと逃げられないように絡め取ってやる。
 
93 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:13
 
94 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:13

たんの心は確実にアタシに傾いている。
だから余裕で構えてればいいんだけど。

「たんー。今日お泊り行っても良い?」
「いいけど」

いいんだけど。


「愛ちゃん来るよ」


…絶対に実現させてやるんだから。
遊んでられんのも今のうちなんだから。
覚えてろよばかっ。
 
95 名前:SF214 投稿日:2007/02/14(水) 23:14

『 SF214 』  終わり
96 名前:stk 投稿日:2007/02/14(水) 23:16
以上です。
ぬーん……。
97 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 00:15
おもしろかったです
いしよしもあやみきもかわいいなぁ
あややがんばれー
98 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 10:40
はうあっ!もどかしい!!
99 名前:AM 投稿日:2007/02/16(金) 20:16
SFの続きだー!
あれで終わりって言ってたのに続き書いてくれて嬉しいです!

亜弥ちゃんがんばれww
100 名前:stk 投稿日:2007/02/20(火) 21:03
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>97さま
吉澤さんをもっとかわいくしたかったー。

>>98,99さま
果たして松浦さんが報われる日は来るのかどうか(笑)


お次はあいがき小ネタ。
101 名前: 投稿日:2007/02/20(火) 21:04

私の右手を人質にリビングでごろごろと転がっていた愛ちゃんがいつのまにか大人しくなっていた。

視線を落とすと、私の手を鎖骨の辺りに抱えるみたいにして寝息を立てている。
手のひらに伝わる規則正しい上下運動にじわりと広がる甘い気持ち。
少しだけ私の自由にできる指先で、あごからのど元のラインをなでた。
指先から伝わる滑らかな感触。
緩く目を閉じて気持ちを落ち着ける。

(やばいやばい)

小さく息を吐いて、視線はその細い首を捉えた。
愛ちゃんの私よりはずっと強いのど。
深い歌声をつむぎだすそれをたまらなくうらやましく思うことも、そりゃあ、ある。
でもだからこそ、大切に守ってあげたいと思うし。
だから暖房の効いたリビングでうたたねなんか、どんなにかわいくても大目に見てあげないから。

「愛ちゃん」

右手を少し強く引く。
それ以上の力で引き戻される。

「起きろー」

手をゆすってみるとむずがる子供のように眉をしかめる。
唇がむにゃむにゃとその形をゆがませた。
なんか食べる夢でも見てんのかな?
102 名前: 投稿日:2007/02/20(火) 21:04

「コぉラー。起・き・な・さーい」

もう意識は浅いところまで浮上しているみたいだから、本格的に起こしますか。
空いていた左手で肩をゆする。
それはちょうど、バランス悪く覆いかぶさるような体勢になって。
ふっと愛ちゃんが私の影の中に隠れたとき。

「ちょ」

私の右手を抱えていた愛ちゃんの腕が、強引に唇へ。
そして唇は、私の指にしきりに吸い付く。

こ、これは。

「…り、さ…ちゃ」

「あっ、愛ちゃんっ?」

呼吸の隙間、いつもと違う呼び名に顔がかあっと熱くなった。

それは。

つまり。

私の声に目を覚ました愛ちゃんは、私を視認したかどうかのタイミングで腕を回して。
 
103 名前: 投稿日:2007/02/20(火) 21:05

「わ…ぅ」

下から私を抱き寄せて。

深く。

熱く。

唇を。

重ねた。


…どんな夢見てたのばかっ。
 
104 名前:stk 投稿日:2007/02/20(火) 21:06
以上です。節操なく雑食でごめんなさい。
『笑顔』PVで高橋さんの胸元にある手ががきさんだったらいいなとか。
105 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/21(水) 01:37
うわぁ…
もう最高でございます。。。感無量です
106 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/21(水) 05:22
愛ちゃんイイヨイイヨー
ガキさんエロイヨー
特にあえぎ声もないのに勝手に色々想像してしまいました…。

あの、笑顔PVの手はほんとにガキさんですよ
ラジオで愛ちゃんが証言してましたw
PV自体もよく見ると一瞬ガキさんの横顔が映るらしいです
(…知らないで書かれて当ててるところがすごいです)
107 名前:stk 投稿日:2007/02/26(月) 21:34
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>105さま
そう言っていただけるとこちらが最高の気分になります♪

>>106さま
おおっ、そうなんですか!?ユニゾンとってるから可能性は高いかと思ってたんですけど。
妄想の勝利ですね(笑)貴重な情報ありがとうございました。


おめっとうさん。
108 名前:226 投稿日:2007/02/26(月) 21:34

『 226 』
 
109 名前:226 投稿日:2007/02/26(月) 21:35



ん。
携帯に伸ばしかけた手を泳がせる。
――アタシのじゃないや。
アタシの足を枕にしてくうくう寝こけてるたんを起こさないようにぐいーんと腕を伸ばす。
メールだったみたいで携帯はもう大人しくなってるけど。

ぱく。

お。愛ちゃんからじゃん。
愛ちゃんからのメールを読んでいる間にも次々に入ってくるメール。

…ったく。

「ちょっと…アンタ起きなよ」
すねの辺りに乗っかってるちっちゃい頭を揺らしてみるけど起きやしねえ。
幸せそうな顔ですぴすぴと鼻を鳴らす。
あーあ、もう。

…かわいいんだから。
 
110 名前:226 投稿日:2007/02/26(月) 21:35

全開になってるおでこにぺたっと携帯を乗せる。
「お。落ちない」
しかも気づかないとか。
熟睡しすぎやろオマエ。
心の中のツッコミが終わる前にも、またメールが入ってきて。

「う、あっ」

メロディ&バイブになっていた携帯の、たぶんバイブの方で気づいたんだと思う。
振り払われた携帯がごとっと音を立てて床に落ちる。

「さすがに落ちるか」

「へ…?うぅ…亜弥…ちゃん?」

数秒間フローリングでうるさくしていた携帯が大人しくなる。
たんはおぼつかない指先で携帯を開いた。

「今…何時?」
「アタシが聞きたいよ」

携帯開けてる人のセリフじゃねえよ。

「あ…そか。0時4分だってさ」
「聞いてないし」
 
111 名前:226 投稿日:2007/02/26(月) 21:36

そかー。
とか言って、開かない目をしぱたかせながらメールを読んでいる。
ふにゃふにゃと緩む口元。

……ったく。

一通り読み終えたのか、もぞもぞとうつぶせに体を返す。
アタシの足の上で。
ひざのあたりに、一応、やわらかいモノが当たってて。
うむ。
気持ちいい。

カチカチカチ、カチカチ…

「モーニングの子とか?」
「うん」

カチカチカチカチ

「仲イイねえ」
「ん?うん」

カチ、カチカチ、カチ

カチカチ

カチカチ、カチ
 
112 名前:226 投稿日:2007/02/26(月) 21:36

「ってかさぁあ」
「うん?」

携帯から目も上げず、なんだか不満そうな声。

「…他に言うことは?」
他に?
「ああ、愛ちゃんからのメール見たこと?」
「はあ?アンタ見たの?」
「だめ?」
「や、基本だめじゃない?それは」
「ふーん」
「ふーんて…まあいいけど」
「いいんじゃん」
良くはないけど…。
自信なさげにつぶやく声。

「で?」
「は?」
「『他に言うことは?』」
「あ、ああ。あのさ、12時過ぎたわけですよ」
ああ。
それね。
「そうだね」
「…26日なわけですよ、もう」
「そうだねえ」
「今この瞬間に、なんか美貴に言うことあるでしょ」
「ないでしょ」
がっくりと床に突っ伏した手の中でまた携帯が音をたてる。
 
113 名前:226 投稿日:2007/02/26(月) 21:37

………ったく。

鈍感ばか。
なんで気づかないのさ。
閉じたばかりの携帯を再び開く指先に視線をくれてやる。

うつむいた口元のにやつきが少しおとなしい。

カチカチカチ

「…メールって右手で打つもんなんだね」
「は?普通そうでしょ。美貴右利きだし」
「美貴様参上?」
「美貴右利き、美貴右利き、みぎみぎみき…うわあっ」
「…やれとは言ってないよ」
しかも寝起きの滑舌で。
でも早口言う時の舌ったらずな感じは好き。
かわいいから。
「左手でメールとかやりに…く、い?…あれ?」

お。
やっと気づいたか、鈍感ばか。
手の中の携帯がまた鳴り出したけど、たんはめんどくさそうにソファに投げ上げて左手を眺める。

「……」

ほそっこい薬指をくるりとなでる。
 
114 名前:226 投稿日:2007/02/26(月) 21:38

「『他に言うことは?』」

「え…えっと。……アリガト」

シーリングライトの光に左手をかざして。
彼女の指がキラリと光を反射する。
戸惑うようだった表情が少しずつ緩んで。

「えへへ…へへ」

アタシの足を抱え込むようにして体を丸める。
押し付けられた体の感触。

「へへへ」

もだえるようにじたばたする22歳。

かわいいんだってば。

マジで。

たんの体を引きずるみたいにして。
ソファの上でまた鳴り出した携帯の電源を落として。
足の上からその痩せた体を抱き上げた。
もだえまくる体をきつく抱きしめて。
赤く染まった小さな耳に唇を寄せた。


「 happy birthday to my dearest 」
   
115 名前:226 投稿日:2007/02/26(月) 21:38

『 226 』  終わり
116 名前:stk 投稿日:2007/02/26(月) 21:39
以上です。
なんか久しぶりにあやみきを書いた気がします。
117 名前:stk 投稿日:2007/02/26(月) 21:45
追加。
ツアー決定ありがとう♪
118 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/27(火) 06:21
あやみき最高
119 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/28(水) 22:45
ヤバイ!やっぱり作者さんのあやみきワールド大好きデス!!
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/02(金) 15:08
今更ですが、SFの続きを書いてくれたのがめちゃくちゃ嬉しいです!!
もっともっと続いて欲しい…

みきたん22歳おめ!
作者さんのあやみきは胸がきゅんとなりますw
121 名前:stk 投稿日:2007/03/02(金) 20:18
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>118さま、>>119さま
ありがとうございます♪

>>120さま
ちょっとイマイチかなと思っていたのですが、楽しんでいただけたようで良かったです。
続きは…書けたらいいなと思っています〜。


でも次はいししば+α(笑)。
122 名前: 投稿日:2007/03/02(金) 20:19

どうしようどうしようどうしよう。
絶対絶対……ああ、なんでこんなことにっ。
昨日晩の私のばかばかばかばかっ。
まだ体温が残ったままのベッドから立ち上がることもできなくて。
最悪だよお。私ってば最低だよおお。



「っ」

携帯っ。
枕元に沈んでるそれに一瞬で飛びついて通話ボタンを強く押し込む。

『あ、おは』
「柴ちゃん!?ごめんねっ私っ」
『え?ち』
「私っまさか寝ちゃうなんか、だってお酒とか飲んだし、それに昨日は朝が早くて」
『いs』
「怒ってる?怒ってるよね?柴ちゃん怒ってるよね」
『し』
「ごめんね、ホントにごめんなさい。自分でもびっくりしてっ」
『k』
「まさか、え っ ち の 途 中 で寝ちゃうなんてっ」
『……』
「やっぱり怒ってる〜っ」
『………』
 
123 名前: 投稿日:2007/03/02(金) 20:19

かちゃ

「はー。さっぱりさっぱり。…あ、梨華ちゃん電話中?」

「え……?しば…ちゃん…」
携帯を耳に当てたままぎこちなく振り返る。
タオルでがしがしと髪を拭きながらベッドルームに入ってきたのは。
今電話でしゃべってるその人で。
しゃべってるはずの、人で。
その…人で。
ってことは…。
「…あの」
『……新垣です』
「マメ!?なんでっ!?」

なんで…ってそういえば私、携帯取るとき名前見たっけ…見てないよ。
だって気がついたら朝で。ベッドの中に柴ちゃんがいなくって。
それに私途中から、眠たいなって…思ってたあたりから記憶がなくって。
だからてっきり、怒って出て行っちゃったんだって。
でも電話くれて、それで…でも人違いで…。

…じゃあ私マメになんて言ったの(涙)。

『ちょっとあの…聞きたいことが、あったんですけど…あの…あとでいいです』
「そ、そう…」
 
124 名前: 投稿日:2007/03/02(金) 20:20

ぷーぷーぷー
しどろもどろなマメの声。
…ふとした瞬間のそれがちょっと似てるなって思ったことは以前にも、あった。
あったけど…私のばか…。

水気の残る髪のまま、ぎしりとベッドにあがって来た柴ちゃん。
片手に持ったお水のボトルをくいっと煽る。
その仕草にぽーっとしているといきなりほっぺたに触れられた。
「電話マメちゃん?」
「あの、うん。そう、私、柴ちゃんと間違えちゃった…」
「え?何それ?」
私の顔を覗き込んでくれていたせっかくの甘い表情がひくひくとひきつる。
そして耐え切れなくなったみたいにお水を噴出しそうなほど軽快に笑い出した。
ひどいよ、柴ちゃん。
「だって、だって、柴ちゃん、私」
「はいはい。で?マメちゃんなんて?」

なんて?
そういえば聞きたいことってなんだったんだろ?
あとでって…そっか。今日は一緒の仕事か。
 
125 名前: 投稿日:2007/03/02(金) 20:20

「あー。なんか顔合わせづらいなー」
「は?何が?てかなんて…」
「だってあんなこと言っちゃったし」
「あんなこと?」
「うん…あのね……って!ど、どうしよう柴ちゃんっ」
「はー?もー梨華ちゃん意味わかんない」
そんな興味なさ気な顔しちゃだめっ。
私マメにとんでもないこと言っちゃったんだよっ?
柴ちゃんも当事者なんだよ!?
「で?なんて言ったの?」
「だって、だって起きたら柴ちゃんいなくって…そうだよっ。どこ行ってたのっ!?」
「だからなんて……どこってシャワーしてただけだもん」
「そ、そうなんだ…あ、それに私昨日寝ちゃった…よね?その…途中で。ごめん…」
「あー。別にいいよそんなの。それはそれで…なかなか…うん。良かったし」
「良か、え?まさか続けたの?」
「え。あー、や、ホントはじめは気づかなくって。でもぐーぐー寝てるくせに体は反応するのが面白くって…つい」

「面白くないよばかー!!」

顔赤くするくらいならそんなことしないでよっ。
 
126 名前: 投稿日:2007/03/02(金) 20:21


「がきさん?」
「ひっ!?な、なんだカメか…」
「どしたの?顔真っ赤だよ?」
「どうもしないどうもしない。どーもしないよー」
「でも赤いもん。ねーがきさん、どうしたの?」
「どうもしないって言ってんでしょーがーっ」
「だって赤いもん。がきさんがきさんがきさん」
「うーるーさーーいっ。あ、くっつくなばかっ」
「なんでよー。がきさんってばー。ねーねーねー……」
 
127 名前:stk 投稿日:2007/03/02(金) 20:22
以上です。
柴田さんとがきさんの歌声が似ていると思って書いたのに、
今聞くとすでにどこが似ているのかわからなくなっていました。
まあいいや。
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/02(金) 20:35
いやー面白かったです
石川さんだったらありそうと思わせるあたりがw
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/02(金) 23:07
+αのお二人さんに萌えますたw
130 名前:stk 投稿日:2007/03/08(木) 22:17
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>128さま、>>129さま
レスありがとうございます。


みきよし&ののさん。
131 名前:愛されている 投稿日:2007/03/08(木) 22:18

『忙しそうだねえ、よっちゃん』
「まあねー。今がヤマ場って感じ」
『それはわかるけどさあ、よっちゃん、ちゃんと寝てんの?』
「あー?なんだよ。寝てるよ」
『うそだあ。今日もアキの時間うとうとしてたじゃん』
「よく見てんなー。のんのくせに」
『くせにってなんだよー。ご飯もあんま食べてなくない?のんご飯作りに行こうか?』
「食ーべてるよお。心配すんなよ、のんのくせに」
『のんだから心配すんのっ』
「あーわかったわかった」
『もお――』
「……のん」
『うん?』
「…サンキュ」
『……そう言われるとこれ以上言えないじゃん』
「そ?マジで感謝してるって」
『もう。じゃあ…ちゃんと寝てちゃんと食べるんだよ?』
「寝てから食べんのかよ」
『よっちゃんっ』
「ごめんごめん。わかったよ。アリガト」
 
132 名前:愛されている 投稿日:2007/03/08(木) 22:19

パタリ

携帯を閉じる音が誰もいないマンションのロビーに消えた。
思いの外長電話だったらしく耳から離した携帯がずいぶん熱くなっていた。
でもそれも一瞬のこと。手の中で急速に失われていく熱。
冷たい空気に満たされたこの空間で、あたしをあっためるカイロにはなってくれないみたいだ。

「はあ…さむ…」

心配してくれてありがとう、のん。
でもあたしそれなりに寝てそれなりに食べてるんだけどなあ。
なんでそう見えるのかな。

尖らせた唇から細く吐き出されたため息があたしの体を包んで。
やっだなあ。
なんだかだるくなる。
 
133 名前:愛されている 投稿日:2007/03/08(木) 22:20
 
134 名前:愛されている 投稿日:2007/03/08(木) 22:20

「よっちゃん?遅かったじゃん」
リビングに入るとソファの上、寝そべったままの美貴が顔だけをこっちに向ける。
相変わらず熱いくらいに暖房の効いた部屋でぐたりとのびきった彼女。
「ああ、ちょうど下入ったときにのんから電話かかってきて」
「ふーん」
「寝ろとか食べろとかそんなの」
「へえ…」
「意外と細かいんだよあいつ」
じっと目を見つめられて。
でもあたしの脳みそは外と部屋の温度差の対応に手いっぱいで。
彼女の表情を読んではくれなくて。
だからどんな表情を返していいかもわからなくて。
しょうがないからあたしはいいわけじみた言葉を口にする。

「こっち来なよ」

流しっぱなしになっていたTVの電源を落として。
美貴は少し体を起こして腕を広げた。
ふにゃりと緩められたその目に吸い寄せられるようにあたしは彼女に体を傾ける。
軽いキスの幸福感に、あたしはずるりと体を美貴に預けた。

「よっちゃん?」
 
135 名前:愛されている 投稿日:2007/03/08(木) 22:22

そのままずるずると崩れてゆくあたしの体は、美貴のおなかのあたりに顔を押し付けて止まった。
はー。きもちい。やらか。
なんだか心地よくなってきて。
細い腰に腕をまわして、だらりとソファに沈む彼女にできるだけ体をくっつけて。
ぎゅうって力を込めたら、きゅるりと彼女のおなかが鳴った。
「ぷはっ。何、今の。おなか減ってんの?」
「うあー。違うよ〜。消化中だ」
恥ずかしそうに照れた声。
ははは。かわいいなあ。

あたし待ってる間になんか食べてたのかな?
そういやテーブルになんかお菓子っぽいのがあったような。
そういや唇に何か味を感じたような。
ん?
味がわかるほどのはしてないぞ。
…んん。
でもなんか…。
……んー。
よくわかんなくなってきた。
……も、気持ち、イイ。
 
136 名前:愛されている 投稿日:2007/03/08(木) 22:22

くふくふと体の奥の方からこみ上げてくる意味のない笑いに任せて体を揺らすと、共鳴するように美貴の体も小さく揺れる。
含み笑いの声とか、直接体に伝わってくる振動とか…。
……。
美貴がなんか言ってるのに。
鼻にかかった美貴の声が。
あたしの意識を溶かして。
頬をなでる美貴の手が。
あたしを。

安心させて。

…眠い。
ああ、せっかくおなか減ってきたのに…。
……のんのごはん食べたい。
でも眠い……。
んー、明日になったらメールしよ……。

もう…今はただ。
眠ってしまおう。


……ボクの大好きなみなさん、おやすみなさい。

また明日。
 
137 名前:stk 投稿日:2007/03/08(木) 22:24
以上です。
ちょっとアレですけど、あまり深く考えないでいただければ。
138 名前:stk 投稿日:2007/03/08(木) 22:29
と言っといてなんですが、ちょっとしばらく下の方行きます。
139 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/09(金) 00:04
あったけぇ。こーゆーの好き。
140 名前:stk 投稿日:2007/03/19(月) 23:58
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>139さま
ほのぼのみきよしでしたー。


あいがき。
141 名前:stk 投稿日:2007/03/19(月) 23:59

かり


ステージ裏、みんなの声はやたらに遠い。
ああ、緊張するなあ。
コンサートでソロがもらえるのは嬉しいけど、やっぱり緊張は並大抵のものじゃない。
しかも愛ちゃんと二人だけで、しかも愛ちゃんとかわりばんこなんか。
…プレッシャー、大きすぎ。

どくどくと音を立てる心臓が痛い。
勝手にそんなに無理しないでよ。
体が鼓動と同じリズムでゆれる。
142 名前:stk 投稿日:2007/03/19(月) 23:59

かり


あー、やばい。集中集中。
えーと、なんだ…もう時間ないのかな?
今の曲あとどれくらいだろ。
……。
う〜。歌詞聞き取れないよお。
あ、あのフレーズが、ってことは、えーと、えーと。
………。
あ、ちょっと待ってっ。
だめ、こんなことしてたら自分の歌詞が飛んじゃいそう。
忘れてー、忘れてー。
143 名前:グロス 投稿日:2007/03/20(火) 00:00

かり、かり


「がきさん」


きし


…あれ?歌ったあとどうなってるんだっけ?
私はけていいの?残るの?
次の曲何?
うわっ。やっばい。
わかんないじゃん。
ちょっと待ってー。
何これ、頭ん中おかしい。
あ、消えてく。
消える。
ナニコレ。
 
144 名前:グロス 投稿日:2007/03/20(火) 00:01

かりっ、かりっ


「がきさん?」


かり、かり


かりかりかりかりうるさいよ、さっきからっ。
集中できないじゃんっ。
っていうか機材不調なんじゃないの?
やっばいでしょそれ。
145 名前:グロス 投稿日:2007/03/20(火) 00:02

かり、かり、かり


白い。
白くない。
黒い。
暗い。
アタマンナカ。
なんにもない。

だめ。

集中して。お願い。

…誰か……。
146 名前:グロス 投稿日:2007/03/20(火) 00:03

がりっ


「がきさんっ」

「ふぇっ!?」

むき出しの腕にあついモノが触れて、とっさに一歩飛びずさった。

「おおっ。がきさん飛んだ」

顔をくしゃくしゃにしてうれしそうに笑うのは。
見慣れた相棒。

「うっそ愛ちゃん!?いきなり何っ、びっくりするじゃんっ」
「さっきからずっと呼んでんのに無視すんやもん」
愛ちゃんは笑顔のままですねたみたいに唇を尖らせて、私に一歩近づく。
さっき私が後ずさったよりも大きく。
暗い通路でも顔がはっきりわかる距離。
おでこくっつけるくらいの距離。

その愛ちゃんの両手が、私の右手をそっと包み込んだ。
147 名前:グロス 投稿日:2007/03/20(火) 00:03

「ネイル食うたら体に悪いで?」
「へ?」

いきなり言われた言葉の意味がわかんなくて、ぽかんと開いた口が閉まらない。

「大丈夫や。あーしがきさんの後ろにずっとおる」

言いながら、私の親指の爪をなでられて。
あー、私またやっちゃったんだ…。
爪を噛む癖。
かりかりうるさいって…自分じゃん。
しかも愛ちゃんに慰められるって…。
しっかりしろー、新垣ぃ。
148 名前:グロス 投稿日:2007/03/20(火) 00:04

「大丈夫やで。な?」

愛ちゃんはそっと私の指を持ち上げて。
少しだけ開いた唇で。
私の親指を挟む。
そのままで目を合わせて、照れたように笑う。

「さ、もう終わるでなぁ」

さすがに自分のしたことが恥ずかしかったのか、愛ちゃんはくるりと私に背を向けた。
細い肩のラインがステージの明かりに反射してきらめく。

「あっと」

それをぼんやり眺めていた私の側をスタッフさんが走りぬけた。
崩れかけたバランスを立て直して気づく。
足、震えてない。
どきどき、してるけど体が震えるほどじゃなくて。
ショック療法ってやつかな。
あ、なんだ。段取りも曲順も忘れてないじゃん。
149 名前:グロス 投稿日:2007/03/20(火) 00:05

「曲終わります」


傍らのスタッフさんが照らす懐中電灯のオレンジ色が、私たちの足元をぽっかりと照らす。


「ほな行こか」

お気楽な口調に反して少しだけ震えている指先を強く握る。
しっかりと前を見据えた横顔は、凛としてとても綺麗で。

急に熱く感じた親指を眺めると、遠い明かりにきらりと反射した。
愛ちゃんとスタッフさんの視線を確認してから、私はその親指を舌先でちろりと舐めた。
150 名前:グロス 投稿日:2007/03/20(火) 00:05

愛ちゃんのグロスは、ずいぶん甘い味のするものを使っているらしい。
151 名前:stk 投稿日:2007/03/20(火) 00:06

以上です。
世間は8ビートなのに…(笑)。
 
152 名前:stk 投稿日:2007/03/25(日) 21:50
読んでくださった方がいたのならありがとうございます。


!ご注意ください!
次のお話は一部メンバーが男性化しています。

内容はいしよしみきです。
153 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:51

『 姉と弟と女王様 』
 
154 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:52

「ええええっ。わかれちゃったの!?」


「ちょ、ごっちん近所迷惑…」
二月の寒空に、悪友の声が高く響いた。
予備校帰りの男子高校生二人組み。
夜九時過ぎに住宅街の片隅で騒いでいても叙情酌量の余地はないだろう

「愛ちゃんかわいそー。よしこのことめっちゃ好きだったんだよ?」
昨日まで俺の彼女だった愛ちゃんはごっちんの元カノの、紺ちゃんの親友で、つまりごっちんの紹介から付き合うことになったんだけど。
「なんか…ぎこちなくなっちゃって」
「はあー。まあねー、愛ちゃんによしこは重いかなとは思ってたけど」
「重いの…?俺」
付き合えば付き合うほど笑わなくなった愛ちゃんが頭をよぎる。
「だってよしこMじゃん」
「なっ!?」
「女王様とお呼び的な相手が合うと思うな、ごとーは」
んなわけねーだろっ、と一言叫んだ俺に、ご近所さんからの罵声が飛ぶ。
すんません。マジすんません。
 
155 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:52

マジダッシュでその場を逃げ去り、そのままのテンションで自分ちまで走り続ける。
あー、なんか気持ちイ。
最近マジダッシュしねーもんな。
早く大学生になってまた部活してー。

「んじゃよしこ、早く大学生になって年上の女王様に引っかかれよ」
「意味わかんねえっ」

辞書だのテキストだのが詰まったかばんを振りかぶったが、残念ながら空振り。
ちっ。

「じゃあね〜」
「うぃー」

門扉に手をかけたままさわやかに笑うごっちんに手を振る。
 
156 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:52

ああ、腹減った。ダッシュなんかしたからマジで腹へって死にそう…。

「かーちゃんメシー」

どかんと勢い良くドアを開けたものの。
「あれ?」
いるはずのかーちゃんがいない。
風呂?寝た?
てか俺のメシは?
きょろきょろと部屋を見回すと、ダイニングテーブルには一枚の置手紙。

北海道の親戚に不幸があったらしく両親そろって出かけたとのこと。
帰りは明日遅く。

ふーん。別にいいけど。
…メシ(涙)。
 
157 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:53

わかってればごっちんとラーメンでも食ってきたのに。
インスタントはひもじいし。
冷凍チャーハンかなんかあったかな。

何を食おうか思案しつつ、とんとんと階段を上がる。
上りきったすぐわきのドアはねーちゃんの部屋。
ピンクのハートマークの中に『Rika』。
…あいかわらずキモイ。

あ、そうだ。あいつになんか作らせよう。一応女なんだし。
 
158 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:54

「ねーちゃん」

コンコン

「…梨華〜?」

コンコンコン

あ…アイツも一緒に行ったのか。
カチャリと扉を開けると、部屋は案の定真っ暗。
あーあ。自力でなんとかするしかないか。

…そうあきらめかけた視線が。

ベッドに釘付けになる。
 
159 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:54

いる。

ベッドに。

人が。


……二人。
 
160 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:55

ごくりとつばを飲み込む。
薄暗い中目線だけで部屋を見回すと、ベッドの下の散らかりは衣服と思われる。
ちなみに明らかに一人分とは思われない。

これは。
マズイ。

そうだよな。
ねーちゃんももう大学生なんだもんな。
19になったんだもんな。
でもさ、こういうのは家族にばれないようにやってほしいわけで…。

俺はぎしぎしと手足の関節が立てる音を耳に聞きながらぎこちなくあとずさった。
 
161 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:56

「…ぅん」

「っ!!」

その音が聞こえたかのように、なんの前触れもなくベッドの中の一人が寝返りを打つ。

「……」

起きてらっしゃいますね…。

しかも…。

「…んだよ…オマエ…だれだよ」
「あ、あ」
「ん?…あー、おとーと君でしょ…。ふあ…。梨華ちゃん…起きな〜」
「い、いいっすっ。失礼しましたっ」

ばたんっ
 
162 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 21:56

「う、わっ」

部屋を飛び出したとたん、廊下で派手にすっころぶ。
なんだ。
何が起こったんだ。
落ち着け。
落ち着くんだひとみ。
涙が出そうだぞ。

『おとーと君でしょ』

微妙に男言葉ながらも、鼻にかかった甘い声。

あれは女だった。

そして、決して見たかったわけではないが、目に入ってしまったその人物の肩は素肌だった。
その奥に見え――目に入ってしまった梨華の肩も素肌だった。
見――目に入ってしまったベッドの下に、下着が、見え、目に入って、
 
163 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:03

「ちょっと君」

「ひっ!?」

座り込んだままあわあわとあとずさる。
トレーナーとジャージ姿のさっきの女はあごをしゃくるようにして俺のことを見下ろした。

全身に寒気が走る。
背骨がぞわぞわした。
はっきり言って……怖い。
一歩も動けねえ。

あからさまに今着たところだと思われる服を調えながら俺のことをじっと見すえる。
寝起きのせいか座った目がヤバすぎる。
ちょっと待って、なんかヤバイ人なんじゃないの?
ねーちゃんってばそんな女と…その…あの…。
 
164 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:03

「なんか用?」
「はっ?はひ?」
「だから、梨華ちゃんになんか用だったんじゃないの?あの子いったん寝たら起きないからさ」
背後に控えた扉にあごをしゃくってみせる。
ピンクのハートマークがかえって彼女の目力を過剰に見せている。
「そ、そそそそ、そーですねっ。そうでしたよねっ。ハイ、すみませんっ」
「いや、すみませんじゃなくて。用事は?」
ひっ。
ぎろりと睨まれてさらに寒気が走る。
すんません、マジですんません。
「はっ、母が、かーちゃんが、いな、メシ…や、いいんです、あの、ごゆっくりっ」
エアーズロックをも砕き去りかねないその目力に腰が抜けたみたいになって、俺はへらへらと笑いながら自分の部屋へケツを滑らせる。
部屋に入ったら一歩も出ない。
…腹が減ったのは我慢しよう。
とにかくここからに。

「んげっ」
 
165 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:04

がくんと首が後ろにのけぞる。
げほげほと咳き込みながら恐る恐る振り返ると、さっきの女が斜めがけにしていた俺のかばんを踏んでいる。
だるそうに髪をかきあげてのたまうには。


「美貴、おなかへった」
 
166 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:06

 
167 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:07

「じゃあ、ひとみ君は四月から美貴たちの後輩なんだ」
「まー受かればですけどね」

ラーメンでも作りましょうかと申し出た俺の言葉を無視して無理やり連れてこられた、連れてこさされた(当たり前の顔で俺の自転車の後ろに乗った)のは駅前の汚い焼き鳥屋。でも旨い。
彼女の手にはビールジョッキ、俺の前にもビールジョッキ。
ボク高校生なんですけど。
受験生なんですけどボク。
 
168 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:08

心底うまそうにビールを煽るこの女性は自分のことを『美貴』と呼ぶ。
ねーちゃんが大学に入ってからよく話に出てきた『みきちゃん』がこの人なのだろう。
それなりに仲良くしていたらしき様子は伝わっていたけれど、まさかここまでの仲良しさんだったとはボクも気づきませんでしたよ。
しかもねーちゃん…面食い。
目つきは少々よろしくないが、初対面で抱いたヤバい女のイメージは総崩れ。
ツボにはまると綺麗に整った顔をくしゃくしゃにして涙を流して笑う。
たまに凄まれるとネタとわかっててもやっぱり震え上がってしまうけど、そのあと必ず大笑いする顔がむちゃくちゃかわいい。
梨華もかなりの美形だが、この二人が並んで立ってたらかえって男共は声もかけられないだろうな。

そんな二人がそんな関係だなんて。
 
169 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:09


  釣りあがった目をふにゃりと緩めて意外に人懐っこく笑う彼女。

  社交的なようで少し人見知りでおどおどした梨華。

 『あ、だめだよ美貴ちゃん…ひとみが帰って来ちゃう』

  『そんなこと言って…梨華ちゃんこんななってんじゃん』

  『やぁん…だめ…ううん…だめだよぉ』

 
170 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:10

「…くん。ひとみ君?」
「へ?…うわあっ」
近っ。顔近っ。
ちっこい体を乗り出して、顔を近づけてくる。
ビールと焼き鳥にまぎれて、ちょっとだけいい匂いがした。
…てか俺。
今何考えてた(涙)?

「ひとみ君?ひとみく〜ん」
「なんですかっ」
「呼んでみただけー。ふへへへ」
怪しげな目つきで甘い声をだす彼女に…なんか心拍数が上がってきた。
俺…酔ってきたかな。
そうだよな。
普段こんなに飲まないもんな。
 
171 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:11

「ねーねーねー。ひ・と・み・く〜ん」
この人はあきらかに酔ってる。
「あの…それやめてください」
「名前?なんでー?じゃあひとくん?ひーちゃん?」
「マジやめてくださいって」

女名前コンプレックス、実はかなり強い。
全然他人ならかまわないんだけど、親しくなった相手には勘弁してもらいたくなる。
…親しく?なったのか?

「えー?顔に似合ってるのに。友達は?なんて呼ぶの?」
「えーと…よしことか、よっちゃんとか」
「じゃあよっちゃんね。美貴のことはあ、美貴でいいよお」

「え、や…美貴、さん」
 
172 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:11

「……」

こわっ。
いや、あなた相手に呼び捨ては無理でしょ。
ね?
ね?

「……」

こええ。
超こええっすおねーさま。

「……」

だめなの?
言わなきゃだめなの?
じゃ、じゃあ梨華のまねで…。
「美貴ちゃん…さん」
「ぷはっ。なにそれ。『さん』の場所おかしいよっ」
よっぽどツボにはまったのか腹をかかえて笑い転げる美貴ちゃんさん。
良かった…。はずさなかったらしい。
しかも何気にポイントゲッちゅ?
ちょっとこれ俺好感度up?
 
173 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:13

「そ、そしたらよっちゃんは、よっちゃんさんじゃん」
目の端にたまった涙を指で拭いながら美貴ちゃんさんが声を震わせる。
「いや、それはおかしいでしょ。俺のが年下っすから」
「えーだって下ったって…よっちゃん誕生日いつ?」
「ん?四月っす」
「ほらー。美貴誕生日まだだもん。18だもん。同い年じゃん」
「え?そうなんすか?」
あ。
ちょっとうれしいかも。
へー。同い年か。
…へへへ。同い年か。

へ……いや。
待てよ。
たとえこの人が同学年だったとしても…むしろ年下だとしても。
呼び捨てとか絶対無理だろ、俺。

「…あれ?」
うんうんと腕を組んで一人うなづく俺に、美貴ちゃんさんは首をかしげて見せた。
…かわいい。


「梨華ちゃんとよっちゃんって血繋がってないの?」

 
174 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:14

「…あ」
不意打ちに言葉が詰まる。
しまったな。
梨華の誕生日が一月だと知っていれば直結でばれてしまう事実。
俺にとっては普段忘れてしまっているくらいのことでも、梨華がこの人に言えなかったのなら。
不用意なことをしてしまったかもしれない思ったけど。

「へー。通りで似てないと思った」
俺の肯定の言葉を聞く前に言った彼女の言葉は、それまでといっさい色を変えることもなくて。
「だって梨華ちゃん黒いし、よっちゃん白いし」
こんなときでもひどいことを言って。
うはははと笑い飛ばす。
 
175 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:15

「一応うっすらとは繋がってるんですけどね」
肩透かしというか、力が抜けて。
俺も今度はするりと言葉が出た。
梨華の亡くなった親父さんと俺の親父がいとこ同士だから一応の血縁はある。
ちなみに梨華はかーちゃんも亡くしている。
「そうなんだー」
おざなりな相槌を返す彼女の興味はすでにビールに移ったらしくジョッキの中身はぐんぐんと減っていく。
詳しい説明とか事情とか、聞く気もないその態度に。

梨華がこの人を好きになった理由が、わかった気がした。
 
176 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:19

「あれ?よしこじゃん」

「ふぇ?」

上機嫌な美貴ちゃんさんから目が離せないでいた俺の耳に、聞きなれた声が割り込んできた。
振り返ると見慣れた顔。

「ごっちん!?」
何してんのってメシ食いに来たのか、てか飲みに来たのか、てか高校生だろオマエ、てか俺もだけどさ、てかその服装はバイトか、てか未成年がこんなとこでバイトしていいのか、てか俺も未成年だけど、てかそういえば美貴ちゃんさんも未成年じゃん、てかさらに俺ら受験生なのに。
「…余裕だな」
「は?」
「あ、いや…」
ごっちんは何気に頭いいからな。
しかし予備校終わってからバイトって…タフなヤツ。
「ところでよしこ」
「ん?」
「さっそくひっかかったの?」
 
177 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:25

は?
何が?
ごっちんの視線を点線で追うと、俺達にかまいもせず上機嫌にジョッキを煽る美人さん。
ひっかかる?
美貴ちゃんさんが?
「違うの?M男くん」
「なっ!?」
俺がかよっ。
いや、突っ込みどころはそこじゃなくて、M、じゃあ、美貴ちゃんさんが、いや、ちょっと待て、あの、確かにひっかかったけど、でも、俺、あれ?
あ。
俺。


……ひかっかってる。
 
178 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:26

俺、美貴ちゃんさんのこと…好き、なんじゃん…。
ちょ、俺すごいことに気づいちゃったかも。
自慢してもなんだけど、俺は結構モテる。
だから今まで付き合ってきたのも全部向こうから来た子だし。
だからこれ、『こんな気持ちは初めてなの』なわけで。

…ごっちん!俺どうしたらいいのっ?

「ま、がんばれよ」
年季の入った黒エプロンをがしりとつかんだ俺を男前ににやりと見下ろして、ごっちんは後ろにいた客に呼ばれてくるりと体を返した。
常連さんなのか、ごとうくぅ〜んとかきんきんに高い声が梨華を思わせて癇に障る。
梨華…そうだよ。
美貴ちゃんさんは梨華の…か、彼女さん…なわけで。
それっていろんな意味で俺すんげー望みない…。
 
179 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/25(日) 22:27

 
180 名前:stk 投稿日:2007/03/25(日) 22:28
後半へ続く。
181 名前:名無しの人 投稿日:2007/03/25(日) 23:01
めっちゃイイ!です
後半も楽しみにしてますっ
182 名前:名無し飼育さん。 投稿日:2007/03/26(月) 01:24
すごい引き込まれました!!
後半もめっちゃ楽しみにしてます、頑張って下さい!
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/29(木) 23:42
美貴様ぁ!
めっちゃいいっす
続き期待してまーす
184 名前:stk 投稿日:2007/03/31(土) 18:10
読んでくださった方、ありがとうございます。

>>181>>182>>183さま
楽しんでいただけたでしょうか?ありがとうございます!

ご期待に添えるかはわかりませんが、後半をどうぞー。
185 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:12


「よっちゃん、漕げーっ」
「ハイっ。吉澤漕ぎますっ」

閉店時刻まで飲み続けた俺たちは追い出されるようにして店を出た。
最後に見送ってくれたごっちんの妙に優しげな笑顔が忘れられない。
…ちょっときゅんときちゃったぜ。

ハイテンションにけらけらと笑う美貴ちゃんさんを後ろに乗せて、チャリは快走する。
上機嫌なせいか俺の頭だの肩をばしばしとたたく美貴ちゃんさんの、その手の感触に(いや、殴られてるからってわけじゃなくて(多分))俺のテンションもぶっちぎりにあがっていく。

「ぅおりゃーっっ」
「うおー、はええっ、よっちゃんはええよっ」
自転車にスピード違反があれば即免取だな、コレ。


受験による運動不足とアルコールがまわってきたダブルパンチですぐによれよれになったが。
 
186 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:12

「ねー、よっちゃ〜ん」

信号でようやく止まった時、俺の頭の後ろで美貴ちゃんさんの甘い声。
「な、なんすか?」
うは。
顔あつっ。
「さっきの子、友達?」
「…え?あ、ごっちん…さっきの店員だったら、そうです。幼馴染で」
俺とごっちんとの付き合いは公園デビューからはじまって、もし受かればあと大学4年間は続く。
まあたぶんあと何十年でも続くんだろう。
「ふーん。あの子いいね」
!?
とっさに振り返ると、うおっ顔近っ。
ちょっとのけぞって顔を遠ざけると、俺の慌てっぷりに動じることもなくご機嫌に目を細める美貴ちゃんさん。
「そ、そっすか?」
「えー、だってかっこいいじゃん。笑顔はかわいいし。あんな子だったら美貴年下でもおっけーだな」
え?え?え?
美貴ちゃんさん、なんか変なこと言ってないっ?
 
187 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:13

「青んなったぞー。漕げー」
「あ、ハイ」

さっきまでの勢いは失って、まったりと進むチャリ。
何もしゃべってくれないと、美貴ちゃんさんが考えていることなんて前を向いている俺には何もわからない。
「あの…」
「うん?」
「ごっちんとか…タイプ、ですか?」
ごっちんがどうとかよりもなんつーか…男はダメってわけでもないの?

「うーん、かっこいいとは思うけど…でもあの子女の子泣かせてるでしょ」
……思いっきり泣かせてます。
友達としては最高にいいヤツなんだけど。
でも美貴ちゃんさん、一瞬考えたってことは男は即却下、ではない…ってことだよね?
「やっぱ美貴女泣かせな男はやだから、なし」
「俺はっ泣かせな――」
…い、ことないか。
ごっちんとは全く意味が違うけど。
愛ちゃんも泣きそうな顔してたし…。
俺のどっちつかずで優柔不断なところが女の子を傷つけているらしい(後藤氏談)。
 
188 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:13

「お?なんだ?よっちゃんも泣かせてんのかー?」
「いや…あの…」
「ま、よっちゃんは優しすぎるからね」
ぽんぽんって、頭をゆるくたたかれて。
…ずるい。
その台詞でその仕草は、ずるいって。

しかし。
ねーちゃんってモノがありながらあの台詞…この人の方が男女問わず泣かせてるんじゃないか?
…ってことは俺にも。
まったく望みがないわけでもないの、かな?
姉弟で美貴ちゃんさん奪い合うとか?
……濃いい展開だな。
 
189 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:14
 
190 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:14

もう終電なんか余裕で逃してしまった美貴ちゃんさんと自分の家に帰り着く。
とりあえず冷たいお茶をがぶ飲みして目をあわせると、二人してぷはっと噴出した。

「あー楽しかった」
上機嫌でにこにこと笑う美貴ちゃんさん。
…かわいすぎだろ、この人。
「よっちゃん受験いつまで?」
「もうあと一ヶ月もないっすよ」
「一ヶ月っ」
そーっす。
やべーんすよ、マジで。
「ながっ」
「ええっ?」
「さっさと終わらせてよー」
いや、俺が何をさっさとやったところで試験日は変わらないわけでして。
 
191 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:15

「じゃー試験終わったらその足で飲みに行くからね」
「へ?」
「何。美貴と飲みに行くのやなわけ?」
うおっ。
マジ睨みキタコレ。
「ちがっ……光栄っす」
「よし」
腰に手をやってえへんとふんぞり返る美貴ちゃんさん。
満足げな笑顔最高っす。
その足元に膝まづきたくなるっす。

「んじゃ約束ね」
いきなり美貴ちゃんさんの体が俺との距離を縮めてきて体がこわばる。
結構背の高い俺の頭を撫でるために必死になって背伸びをしている。
――なんてちっちゃいんだ、この人は。
なんでかそんなとこに胸をずきゅんとやられて。
 
192 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:15

気がつくと俺は。

すぐそこにあった体を抱きしめていた。
心臓ばくばく言ってる。
もうわけわかんなくて、細いちっこい体をめちゃくちゃに抱きしめて、うわ、マジでちっちゃい。

「ちょっ…よっちゃーん」

冗談だと思ってるのか、美貴ちゃんさんはこんな状況でもけらけらと笑い出す。
その振動に、俺もう、だめだ。

「美貴ちゃんさんっ」

「なんだーっ?」

「俺っ。美貴ちゃんさんが好きだーっ」

うおー、言っちゃった。
言っちまったよ、俺っ。
 
193 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:16

「はー?マジでかっ」

「マジっすっ」



「そりゃご苦労さんだね」



……なんすかそれ。
だめってこと…だよね。

がっくりして腕の力が弱まった隙間から美貴ちゃんさんの腕がするりと抜け出して、俺の背中をぽんぽんと叩く。

「よっちゃん――」



「ひとみ?」



よりにもよってここで登場?
我が姉よ。
 
194 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:17

「何騒いで――美貴ちゃんっっ!?」


あーもーキンキンうるせー。

「ひとみっ、何してんのよっ!?」

俺の背中に美貴ちゃんさんの手が回されていて、見ようによっては抱きあってるようにも見えるんだろう。

修羅場?これって修羅場?
いや、俺こんなことでひかないから。
梨華になんか負けないから。

「離れてよ、離れなさいよっ、美貴ちゃん、やだよっ」
もともと高い声をさらに上ずらせて俺の腕をばしばしと叩く。
ひかない。
ひかないけど…。

ゆるく腕を解くと美貴ちゃんさんがするりと俺から離れる。

ああ…なんだこの切なさ。
俺の人生切なさランキングのトップを飾る瞬間だよ。
 
195 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:17

「ど、どこ行ってたのよ?二人でえ」
涙を浮かべた梨華が美貴ちゃんさんの腕にすがる。
「ん?ごはんだよ」
「…飲みでしょ」
「うん」
うれしそうににこにこと答える美貴ちゃんさん。
さすが。
全く動じない。
それどころかめんどくさそうに梨華の腕を解く。
「なんで…ひとみと」
ちらちらと俺のことを横目で睨む梨華。
美貴ちゃんさんの睨みとはまさに雲泥の差。

なんていうかな、美貴ちゃんさんの睨みには輝きがあるからね。光がね。うん。
こう、ぞわぞわと寒気がする中にもその光に照らされる快感が……。

って俺やっぱり(涙)。
 
196 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:18

「ひどい…ひどいよ美貴ちゃん」
「どーしてえ?」
からかうように調子をつけた美貴ちゃんさんの声。
にやにやと梨華の顔を覗き込む。
やっぱり梨華のこと泣かせてるんだな、これは。
「だってひどいよ、美貴ちゃん…目、覚めたらいないし、それでひとみと…」
「よっちゃんと?」
「…だって…だって」
唇をかむ梨華をにやにやと覗き込む美貴ちゃんさん。
しかしこれ…なんつーかちょっと、ひどくね?
俺一応弟としていくらなんでもねーちゃんがかわいそうになってきたんだけど。
 
197 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:18

「あの、ねーちゃん…俺らホントにメシ食いに行っただけだから」
「じゃあ…あの…今の、何よ」
「あれはー、あー俺…ねーちゃん、ごめん。俺、美貴ちゃんさんのこと、好きだ」

梨華の潤んだ目が大きく見開かれる。

「でもあの、俺の一方的な気持ちだから」

悔しそうな顔をしながら涙をあふれさせた姉貴に、俺は頭を垂れる。
シスコンじゃないよ?
違うけど。
俺はこの三ヶ月しか年の変わらない姉にめっぽう弱い、自覚は、ある。

梨華が俺の姉貴になったのは俺が産まれて本当にすぐで、この人を姉以外の何者としても見たことはないけれど。

家族として、大切にしたい人だとは思っている。
から。
 
198 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:19

「ごめん…」

申し訳ないとは思うけど。

「でも、好きなんだ」

「ひとみ…」

なんかねーちゃんとこんな話するなんかすんげー変な感じだ。
…まあ普通はないわな。

「…なんかすげーことになってきたねえ、キミタチ」

盛り上がりすぎじゃね?
とかって美貴ちゃんさん、あなたが冷めすぎです。

「美貴ちゃん、美貴ちゃんは?ひとみのことどう思ってるの?私のことは?ねえ、私はどうなるの?」
 
199 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:19

梨華は振り払われた美貴ちゃんさんの腕をつかんで上下に振り回した。
…お前が聞くか、それを。
いや、めちゃくちゃ気になるけどさ。
でも俺は何も言い出せなくて、ただ美貴ちゃんさんを見つめた。

「梨華ちゃん」

ごくり。

「何言ってんの?」

ってオイ。

「だってどうもなんないじゃん」

うあー。
それって…美貴ちゃんさんの気持ちは変わらないってことですか?
そうか。そうだよね。
梨華…幸せになれよ…。
 
200 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:19

「あのさー、美貴そういうのがめんどくさいからやだって言ったんじゃん。でも梨華ちゃんがそれでもいいって言うから寝たんでしょ?そういう約束でしょ?」
「そう…だけどぉ」
めんどくさそうに自分のつめ先をいじる美貴ちゃんさんの前で、しゅんと小さくなる梨華。
っていうか。
??
どういうこと?
「でもぉ…私だって、美貴ちゃんのこと……好きだもん…」
「あーもー勝手にしなよ。美貴は知らないからね」

ひらひらと手を振る美貴ちゃんさん。
これ…もしかして…。
 
201 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:20

「はいっ」
天井高く右手のひらを突き上げる。
「何?よっちゃん」

「美貴ちゃんさんとねーちゃんは、付き合ってないんですかっ!?」

「ナイナイナイ。何、よっちゃんそんなこと思ってたの?」
いや、思うでしょ普通。
あ、あんなこと…してたら。


そうか、付き合ってないのか。
そうなんだ。
…そうなんだ♪

そして梨華は…振られたけどそれでもえっちだけでもしてくれって頼んでしてもらったってとこか。
……ねーちゃん。
大人になったんだ…。

年上面するくせに俺とごっちんの後をくっついてまわっていた梨華はもういないんだな…。
 
202 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:20

「そんなこと言わないで付き合ってよ美貴ちゃん〜っ」
「ありえないから」
しかし19歳の梨華は18歳の美貴ちゃんさんに即答で一刀両断。
さすがっす。切れ味最高っす。断面に顔が映るっす。
「ひどいよ美貴ちゃん!私初めてだったのに!」
ちょっ……う、うおいっ。
姉貴〜〜〜っ。
弟の前でんーなカミングアウトすんなっ。

「いや、それを聞いて美貴にどうしろっての?だいたいどーしてもっつったのオマエだろ」
ひっ。
これ、梨華のが俺より扱いひどくね?
やばいって。声めっちゃ怖いってっ。
「でもほら、絶対嫌だったら断るでしょ?断らないってことはぁ…美貴ちゃん、実は私のこと好きなんでしょっ?」
「ウザっ。超ウザいんだけど、そういうの。キモすぎ」
オトメチックキモ笑顔で指を突きつけるねーちゃんに、美貴ちゃんさんのあからさまなイライラ声。
ねーちゃんやばいってっ。
謝れってっ。そのつま先に膝まづけっ。
生きて一緒に明日の朝日を拝もうよっ。
 
203 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:21

「でもね、でもね美貴ちゃんっ」
「あーうるせーうるせーうるせー」

なおもくってかかる梨華。
うざったそうにそれをあしらう美貴ちゃんさん。
ちなみに浴びせられている言葉は聞いてるこっちが身をすくめてしまうほどひどい。
ねーちゃん…強くなったな。


口を挟む暇もないやりとりを意識遠く眺めながら。
ふと俺はあることに気がついた。

美貴ちゃんさんの目が、キラキラと輝いている。

…そうだよな。
マジでヤだったら怒鳴りつけるなり無視するなり他の方法もあるのに。
そろそろ話がそれてあほらしくなってきた梨華の主張を一つずつ丁寧に打ち砕いていく。

それはいっそ、楽しそうで。
 
204 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:21

梨華は美貴ちゃんさんと約一年の付き合いで。
俺は美貴ちゃんさんと数時間の付き合いで。

やっぱり俺は全然。

梨華に負けてるんだなあ。


「…キショっ」
「いや〜ん♪」
「テメっ…嬉しそうな声すんなっっ」





(Mさ加減も含む)
 
205 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:22

「今日だけだから。今度とかないからっ」
「そんな〜。じゃあ私のことは遊びだったの?」
「はじめっからそう言ってるんだけど」
はっ。
負けてる場合じゃないんだったっ。
「じゃ、じゃあ俺のことも遊びだったの?」
「いや、オマエとはまだ何もない」
……。
あ、いや、すごまれた視線に喜んでる場合でもなくて。

「そうよ、ひとみは関係ないじゃないっ」
「関係あるっ。俺だって美貴ちゃんさんのこと好きなんだからなっ」
「な、なによっ。後から来て勝手に言ってなさいよっ」
「順番じゃねえっ」
「てか美貴どっちでもやなんだけど」
「そんなこと言わないでよっ。だって好きなんだもん。えっちしたらもっと好きになっちゃったんだもんっ」
し、したとか言うなよっ。
俺だって…俺だって……。

…ちゅーとか、してえええ。
 
206 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:22

「あーもーいらねえ。オマエだけはいらねえ」
「美貴ちゃんひどいよっ。さっきはあんなに優しかったのに…」
「はあっ?優しくなんかないしっ。全然っ」
「優しかったもんっ。それにすっごい楽しそうだったじゃないっ。私のことちょっとは好きなんじゃないのっ」
「う、うっさい……好きなのはカラダだけだよ」
好きなんだ。
てか美貴ちゃんさんって結構ツンデレ…。

「えっと、じゃあ俺では?」
「オマエはもっといらねえ」
…俺って梨華以下ですか。

「ほら見なさい、ひとみ。えっちしてくれた分私の方が好かれてるのよっ」
「違うし」
胸をはって威張る梨華を軽く一睨み。
ちくしょう、なんでその睨みが梨華のものなんだよっ。
梨華も嬉しそうな顔してんじゃねえよっ。
 
207 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:23

「くっそーっ。んだよっ。梨華なんかキショくて誰もいらねーってのっ」
「な、なによっ。ひとみなんか5年生までおねしょしてたくせにっ」
「なっっ!?か、関係ねーだろっ」
「…それは恥ずかしい」
「り、りり梨華なんか小学校の調理実習の日にかーちゃん呼び出しくらってたじゃんかっ。何やったんだよあれっ」
「あ、あれは…ちょっとした手違いよ」
「理科室で実験中にボヤだしたのも梨華だろっ」
「あれは、あの」
「中学の体育大会の騎馬戦で審判にマジギレして30分も競技中断になったとき俺めっちゃ恥ずかしかったんだからなっ」
「あれは審判が――」

「高校の時も――」

「う、うるさいわねっ。ひとみだって――」

「なっ!?俺は――」
 
208 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:23

「ねー美貴もう寝るよ?梨華ちゃん、ベッド借りるね」

「あっ、私も寝るっ」

「待て梨華っ。オマエは今夜は寝かせねーっっ」




「よっちゃん…姉弟でその台詞はちょっと……」
 
209 名前:姉と弟と女王様 投稿日:2007/03/31(土) 18:24

『 姉と弟と女王様 』  終わり
 
210 名前:stk 投稿日:2007/03/31(土) 18:27
以上です。
ぬ〜オチが甘い…。

ハロモニ(二週?遅れ地区在住)にあんなりかみきがあったなんてっ。(HPC)
お二人に並ばれるとニヤケるよりもなんか恥ずかしくなってしまいました…。

ちなみに、この話の藤本さんの性格(性癖?)設定が『SF』と同じなのは『SF』の小ネタを書こうとしていて思いついたお話だからです。
211 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/01(日) 01:07
美貴様(ノ▽^)アチャーミー
このカオスな感じがいいですな〜
212 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/01(日) 23:57
すごい…すごいよ美貴様ww
最高ですた
213 名前:esk 投稿日:2007/04/15(日) 17:08
読んでくださった方、ありがとうございます。

>211さま
この三人は絶対まとまりないと思います。

>212さま
美貴様は女王様ですからw


おめでとう!!(遅)
214 名前:この子カワイさ限りなし 投稿日:2007/04/15(日) 17:09

ぅおっと。

シャワーから帰って来たあたしをお迎えしてくれたのは、カワイイ恋人のカワイ…イ寝顔。
カワイイ…う、うん。カワイイよ。
眉間シワシワで下唇突き出してアゴまでシワシワだけど。

それでもカワイイと思っちゃうあたしがオメデタイ。

ご自慢デカテレビには見ていた映画のエンドロールも終わりかけ。
多分見れてない結末も、メンドクサイとか言って結局もう一度見ることはないんだろうな。
ソファでクッションを抱いたままスピスピと鼻笛を鳴らすこのオンナは。
215 名前:この子カワイさ限りなし 投稿日:2007/04/15(日) 17:10

「…美貴ちゃ〜ん」

力入りまくりの眉間を指でクニャクニャしてやると、サっとほぐれるシワシワ。


ヨシヨシ。


腕組してうなずくそのまま。

突き出てる下唇にチョコっとキスをしてやる。

チョコっとだけ顔を離したドアップでアゴを確認。


ヨシヨシ。


シワシワなくなってる。
216 名前:この子カワイさ限りなし 投稿日:2007/04/15(日) 17:11

二回目。
キスしてやる。


クニャリと目元が緩む。


三回目。


唇のハシっこがニィって広がる。


ホントに寝てる?
起きてんじゃないの?
 
217 名前:この子カワイさ限りなし 投稿日:2007/04/15(日) 17:11

てかさ。あのさ。ソロソロさ。もうさ。
起きてもイんじゃね?
ちゃんとしたの、したいんだけどあたし。

ね?起きなよ。
じゃないと勝手にしちゃうよ?

マヌケにズレちゃってるメガネをちっこい顔から抜き取って。

キツク唇を押し付ける。

力抜けきった唇をわって押し込んだあたしのシタサキが。

美貴のシタサキに触れるよりも。

ハヤク。
 
218 名前:この子カワイさ限りなし 投稿日:2007/04/15(日) 17:12

「んっ」

キツク。

首の後ろに回されたウデに抱き寄せられて。

ハゲシク。

カキ回されて。



「バーカ」

キシシシ。

イタズラっこの顔で笑うこのおねーさんが。

二ヶ月間だけおねーさんだったこのヒトが。

あたしは。


カワイくてカワイくて。

しかたがないんですヨ。
 
219 名前:esk 投稿日:2007/04/15(日) 17:14
以上です。
吉澤さん、おめでとうございました。
220 名前:esk 投稿日:2007/05/20(日) 18:26
読んで下さった方(…いるのかな?)ありがとうございます。

りかみき。時期的にはまだ十分に寒い頃で。
221 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:28

「美貴、生。梨華ちゃんは?」
「え?えっとね…」
「いや、ソフトドリンクとかないから」
「ええっ?そうなの?」
「当たり前。自分の年わかってる?」
「えっと…22」
「ハイ正解。生でいいよね」
「え、待って待って待って。あのー、えっとー」
「はーやーくー」
「待ってってばっ。あ。梅酒にする」
「の?どれよ?」
「え?あの、あ、これ」
「おっけー。――すいませーん。あ、食べるのも決めといて」
「え?ちょっと、ま、ええっ?」
 
222 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:28

「ビールがおいしいって大人って感じだよね〜」
「そうかあ?美貴的にはオッサンって感じだけど」
「あはは。自分で言っちゃう?言っちゃう?」
「はー?もーそれはさー。別にいんだよ。好きなもの好きって言ってオッサンなら美貴はそれでも」
「いいんだ。でもさ、そういうのも美貴ちゃんっぽいよ」
「なに、やっぱりオッサンくさいってこと?」
「ちっがうよ〜。だからさ、こー、あの…」
「はいはい。美貴もちゃんとわかってるから。…梨華ちゃんは梅酒って感じするよ」
「えー?どんな感じ?」
「オンナノコって感じ。亜弥ちゃんもよく梅酒とか飲んでるし」
「へえ、そうなんだ。ってゆーか亜弥ちゃんも二十歳なんだよねー」
「う、うん…すごい今更だけどね」
「えー。だってさ、13?14?今の三井と同じだったんだよね」
「…三井…三井か」
「どうしたの?」
「三井…あいつさあ……あ、生私です。それそっちで」
 
223 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:29

「じゃあえっと、お疲れ様ー」
「おーマジでお疲れ」
「今やっぱ大変なの?……ってもう半分!?」
「あ?ビールってのはこうやって飲むもんなの。ちまちま飲んでんじゃねーよ」
「そうなんだ…って私ビールじゃないし…」
「でさー、三井さあ。あいつどうしたらいい?」
「どうって…でもがんばってるじゃん」
「がんばってるってかさ、何してんのかわかんないし、こっちもどう扱っていいのか謎じゃん?あいつ何キャラ?オカマ押し?」
「えー?でもさ、まだ入ったばっかじゃん?すぐは無理だよ。三井の中で何かが生まれてくるのを待ってあげないと」
「はー?生まれるって何。だいたいさあ――あ、これおいしい」
「え?ホント?――あ、ホントだ」
「何だっけコレ」
「えっとね、牛スジのなんとか煮込みじゃない?」
「ふーん。牛スジシリーズ他にもなんかあったよね」
「うん。えっと、あ、これだ」
「あ、そうそう。頼んでいい?」
「うん」
「すいませーん。――コレ。と生一つ」
「えっ!?もうっ?」
「いや、普通だから。驚きすぎ。梨華ちゃんは?」
「あ、私はまだいいです」
 
224 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:30

「で、何だっけ?ああ、三井三井。っていうかさー、キャラとかって元からある物じゃん。生まれるとか意味わかんないんだけど」
「いやー、美貴ちゃんはさ、そりゃずっとそのままのキャラだからわかんないかもしれないけど」
「わかんねえ」
「聞いてよー。だからね、例えばさ、私だってモーニング入る前からこんなキショキャラだったわけじゃないじゃん?」
「うっそ、うそうそ、うそだよお」
「ホントだってばっ。中学とか部長だったんだよ、テニスの」
「あーもーダメだね。その部は」
「ダメじゃないよっ。あのね、ちゃんと今でも続いてるんだからっ」
「それはあれでしょ。梨華ちゃんが辞めたからでしょ」
「辞めてないっ。ちゃんと卒業まで、引退まで部長したもんっ」
「卒業までね。ってゆーかさ、今梨華ちゃんの話とかしてないし。三井だよ三井」
 
225 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:31

「だからー、それはたとえ話じゃない。だから三井も今はわかんなくても、そのうち美貴ちゃんくらいの突っ込みキャラになるかもしれないじゃん」
「はー?ナイナイナイ」
「ないかな?でもほら、せかしちゃダメだよ。やっぱり」
「んなこと言ったってさあ、早く何とかなってもらわないと困るんだよね。…聞いた?」
「あーっ、なんかね、すっごいよねっ」
「すごかないから。もーありえないよ。この上中国人とかかかえらんないから美貴」
「うーん。でもさあ…あ、会ったの?」
「うん。つっても顔合わせだけね。ケーヤク?とかで来てたんじゃない?」
「そーなんだ。どんな感じ?」
「えー?どんなって…わかるほど話してないし。――ってかさ、ありえないんだけどっ」
「えっ、何が?」
「みんなのびびり方がっ」
「あーでもしょうがないよ、初対面は」
「や、もーそういうんじゃなくてさ…がきさんあたりちょっと期待してたんだけどなー」
 
226 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:31

「ちょっとーサブリーダーは高橋でしょ」
「愛ちゃんかー。あの子はー、まあ好きにしててよって感じだよね」
「ふふっ」
「わっ、キショっ」
「えー?だって美貴ちゃんって高橋には甘いって言うか、普通だよね」
「は?何それ?」
「だってさ、亀井とかにはツッコミじゃん?マメには上から目線なのにちょっと甘えてて、よっちゃんには後ろをくるくるついて行ってる感じで、亜弥ちゃんにはすっごい甘えるじゃん?」
「じゃんとか言われても…」
「でさ、高橋には普通なの」
「だから普通ってなんだよ」
「うーん。なんかね、どっちが上とか下とかじゃなくて、背中合わせで立ってる感じ」
「何それ。仲悪そうってこと?」
「違うよー。なんかね、高橋といるときの美貴ちゃんは一般人っぽい」
「…それってなんかダメっぽくない?仕事的に」
「ダメじゃなくてー。わかんないかなあ」
 
227 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:32

「わかんねえよ。てか美貴の話とかどうでもいいんだよ。もーこれからどうしよう。GAMだってあるのにさあ」
「あ、でもGAMは楽しんでやってるんだしいいんじゃないの?」
「いや、ラクっちゃラクだけど結局は仕事じゃん」
「そりゃそうだけど」
「まーあいつらとずっと一緒にいなくていいのは助かるけどね」
「またそんなこと言う〜」
「いや、スキとかキライとかじゃなくて毎日毎日一日中一緒だと思うとうんざりするでしょ?」
「そーかなー」
「するよー。だって美貴、亜弥ちゃんとでもずっと一緒とか無理だよ。仕事がGAMだけとかもームリーっってなるもん」
「へえ、そうなんだ」
「そーだよお。キョリカン?ってあるじゃん。誰とでもさあ。今がねーそのちょうどいい感じ?――あ、すいません、生一つ…あ、いや、焼酎にしようかな」
「え!?まだ飲むの?」
「はー?まだ全然じゃん。えっとね…あ、これ。ロックで」
 
228 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:32

「明日大丈夫?朝から練習日だよ?」
「何言ってんの。これくらいなんともないでしょお?全然へーきだもーん」
「すでに平気じゃなさそうだよ…。しかもビール…3?4杯?飲んだでしょ?」
「いや、全然今から行くかって感じなんだけど、そんなのお」
「美貴ちゃん〜」
「あ、どうも〜。…これね、おいしんだよお」
「あ――もおっ。だからそんなに一気に飲んじゃだめだってっ」
「んふふー。うまーい。梨華ちゃんも飲む?」
「いらないっ」
「そう?じゃあ」
 
229 名前:居酒屋にて 投稿日:2007/05/20(日) 18:32

「え。――っ」
「――んふふ。そんなのじゃ味わかんない?もっとちゃんとしたのしたい?」
「ばっ…ばかっ!ここどこだと思ってっ…やっぱり酔っ払ってるでしょ!?」
「酔ってないもーん。カーテンあるから平気だしい」
「そういう問題じゃないのっ」
「ふへへへ。梨華ちゃん真っ赤〜。かあいいなあ」
「っ。ちょ、美貴ちゃん!どこ触って…」
「イテっ。…だってー。梨華ちゃん足見せすぎー。美貴よくじょーしちゃう」
「美貴ちゃ、ホント…だめ…」
「んー。イイ匂い〜」
「ちょ…」
「んへへへ。やっぱさ、あるんだよ」
「な、何があ」
「だからさ、人と人のお、きょりって決まってんの」
「そ、そう?」
「美貴と亜弥ちゃんは隣同士で手をつないで歩いてて、よっちゃんは振り返って手引っ張ってくれてんの」
「私…は?」
「梨華ちゃんはね」
「んっっ」


「ベッドで馬乗り♪」
 
230 名前:esk 投稿日:2007/05/20(日) 18:34
以上です。
ずいぶん前に書いたものなのですが、改めて読むとホントどうでもいいですね〜。
231 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/20(日) 20:37
見てますよー
負担になったらあれですが更新を楽しみにしてます
ハロモニのハロプロチャンネルで久々に組んだ二人は最高に面白かったから
りかみき小説増えたらいいなと思っていましたのでかなり嬉しかったです
ありがとうございました
232 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/20(日) 21:43
はいっ私も見てますノシ
いつもほんわかいいお話ありがとうです。
差し出がましいようですが三井→光井かと…
233 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/20(日) 22:00
やべーりかみき最高!
またよかったら書いてください。
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/21(月) 14:40
作者さんのりかみき好きです!
よかったらまた書いて下さい
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/23(水) 07:53
りかみき最高です!!

また書いてください!!
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/24(木) 02:34
スラダンの三井かと思ったw
光井ですよw
でも面白かったです
237 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 13:47
読んでくださった方、ありがとうございます。
なんかレス催促したみたいでしたが(みたいで?w)、ありがとうございます!


>>231さま
負担だなんてとんでもないです!
りかみきはビジュアルが最高なのに、ボケとツッコミのタイミングまで完璧なので大好きです。

>>232さま
orz これ以上はない恥ずかしい誤字でした……。
こんなアホウですが、これからも暖かく見守っていただけると嬉しいです。

>>233さま、>>234さま、>>235さま
りかみき意外と需要あるんですね〜。
供給が少ないからかな?
またネタを練ってみたいと思います。

>>236
カマっぽい三井……違和感ないかもw
(いや、良くは覚えてないんですけど)
ご指摘ありがとうございます。


さて、レス返ししてたら落ち着いてきたんですけど、一応上げときますね。
あやみきです。
238 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 13:48

叫べ


言葉や、まして涙で赦されるなどオマエにふさわしくない

魂で叫んでいろ

オマエを叫べ

一人で立て


アタシがココで

全霊尽くして、見ていてやる

239 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 13:50
♪涙が〜のやつのシャウトがすごいです。
240 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 15:58
って。更新量がレス返しよりはるかに少ないとか……。落ち着け自分。
ということで、半年前の没ネタ。

みきよし
241 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 15:59

慌しく人が行き交う狭い廊下を早足に通り抜ける。
紅白ってやつはホントお祭りだ。
人が多すぎる。

「あれ?」
全員が待機しているはずの部屋に入ると、携帯を触っているがきさんが一人でうずくまっていた。
あれ?
集団脱走?

「お疲れ様です、吉澤さん」
自分こそ少し疲れたような顔をあげたがきさん。
「うん。がきさんもお疲れ。みんなは?」
「あー、あっちです」
なんだか微妙に嫌そうな顔でパーテーションを指差す。

瞬間、うぎゃあっ、ってなんかを踏み潰したような叫び声。

…高橋はとりあえずいるらしいね。
「美貴は?」
「…あっちです」
がきさんの顔が嫌そう度を増す。
 
242 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 15:59

がきさん曰く、美貴とがきさんは今冷戦中らしい。
原因は >>56-58 参照。
尤も美貴にそんなつもりはさらさらなく、むしろ煽りまくって楽しんでいる。
がきさんだって自分が嫌そうな顔をすればするほど嬉々として煽ってくるのはわかっているはずなのに、なかなか乙女心はコントロールが難しい。


「わっ」

突然わきあがった黄色い歓声にあたしはびくりと肩をすくめる。
がきさんはその中のひとつの声を拾って眉をひそめた。

ハート飛びまくりの声でやたらかわいいを繰り返すのは、カメちゃん。
しょうがないなあってため息をつくと、がきさんが低くつぶやく。
「吉澤さん、もっさん何とかしてくださいよ…」
「何とかったって…。美貴があの中で何かしてんの?」
微妙に嫌な予感。
「なんかってわけじゃないですけど…」

「あーーっ。吉澤さんっ。藤本さんすっごいことになってますよっ」
パーテーションから顔をのぞかせて、小春がしきりに手招きをする。
やたらすっごいすっごいを繰り返しながら。
 
243 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 16:00

なんなんだ?
微妙な不安を覚えつつ一歩踏み出したとき。
「吉澤さん」
「え?」
「気を確かに持ってくださいね」
…は?
がきさんの神妙な顔と言葉を反芻しながらパーテーションを回り込む。
ああ、そうだ。あたし美貴に伝言があったんだった。

「美貴、スタッフさんが――」


ごと

手近に書き付けるものがなかったから携帯に書き込んだ、その文章を呼び出そうとしていた手元から携帯が滑り落ちる。
 
244 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 16:01

ちょ…

「あー、よっちゃん、どうどう?」

思いっきり照れた顔でポーズをつけて見せる美貴。

まて

それはちょっと…反則

そりゃ一緒にこんな商売してますから。
ブリブリな衣装も見慣れてるわけですよ。
だからさ。
あたしの心臓をこんなに的確にぶち抜いたのは。

…心底楽しそうに照れた笑顔が、プラスされていたから。
そんなプライベートな顔でそんなカッコしないで。
くらくらとめまいがしたあたしの頭の中で。
 
245 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 16:03

『気を確かに持ってくださいね』

がきさんの声がリフレインする。
がんばるよ。よしこがんばるよがきさん。

「かっわいいでしょお?」

自分のことのように甘い声を出すカメちゃん。


「…ちょっとキツイんじゃないのー?年的に」
よし、無難。


「愛ちゃんに着れるんだったら美貴も着れるのっ」
「なんやのっ。あーしは美貴ちゃんより年下やがっ」
「二十歳過ぎたら一緒なんだよ」
妙に含みのある言葉を吐く。
 
246 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 16:04

っていうか。
…藤本さん。
「それ…高橋の衣装なの?」
「え?ハイ」

…。

高橋の衣装を、着たわけだ。キミは。

高橋の着ていた衣装を、着たわけだ。キミは。

高橋の脱いだ衣装を、着たわけだ。キミは。

……。

美貴を囲んで撮影会になっているそこをそっと立ち去る。



「だから気を確かにって言ったじゃないですか」

ふらふらと一人戻ってきたあたしの顔を見て、がきさんは憐れみの声で迎えてくれた。
 
247 名前:esk 投稿日:2007/06/03(日) 16:15
以上です。
あの、赦されないとかは実際に思ってるわけじゃないんで……。
ただ、シャウトがすごくて。言い訳、ごめんなさい。
248 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/05(火) 01:21
ミキティのシャウトは鳥肌モンですよね!

…久しぶりにあやみきのエロも読みたいかなぁ〜て(^^;)リクじゃないので気になさらずに
249 名前:esk 投稿日:2007/06/10(日) 19:12
>>248さま
久しぶりって、エロはSFくらいですよぅw
でもネタ倉庫をあさったらこんなものがあったので仕上げてみました。
エロと言うほどではないですがどうぞー。

>>25-33 の続きです。

※ちょいエロです。ご注意を。
250 名前:esk 投稿日:2007/06/10(日) 19:13


(あ、やば)

(……目、覚ます?)

(ん〜。もうちょいなんだけどな)

(……)

(ああ、だめだわ)

(残念。今日はここまでだね)

251 名前:現実 投稿日:2007/06/10(日) 19:15



「ん、う〜〜〜〜」
「う〜〜じゃなくて」

頭は起きてるんだけど手足にうまく力が入んない。
じいっと横顔に亜弥ちゃんの視線を感じるけど。でも見ない。絶対に見ない。無視。今はダメ。
視線を振り切ってなんとかベッドを這い出したものの、数歩目でかくんと腰が落ちた。

「ちょっとお、大丈夫なの?」
大丈夫じゃねえよ。
ってか助けに来てくれるとかそういうのはないのね。
今触られると大変なことになりそうだから来なくていいけどね。


「……明け方はダメだね」


「う〜〜……何が?」

壁にへばりつきながらかろうじてドアまでたどり着いたころ、ぽつりと亜弥ちゃんの声。
明け方?

「中途ってのもかわいそうだし。これからは気をつけるよ」
「はあ?」
まあどうでもいいし。
それよりとにかくシャワーだ。
皮膚の内側のもそもそした感じをすっきりさっぱりと洗い流さないと、どんどん堕落していきそうだ。

 
252 名前:現実 投稿日:2007/06/10(日) 19:16

ざー

「うぁ……」
って。コレ逆効果じゃん。
熱いシャワーの飛沫が肌に触れると、もそもそがはっきりとしたうずきになる。

「はあ」

吐き出した吐息の熱さに苦笑いが浮かぶ。
いつもの夢が、今日は朝方に見たせいか途中で目が覚めちゃって。
……もったいない。どうせ見るならもっとちゃんと最後まで、ねえ?
だからほら、体の中でちろちろととろ火が残っちゃってるし。

もう一度大きく息をついて、水しぶきの中でぱちりと目を開く。
いくらかクリアになった視界で見下ろすのは、夢の中ではためらいもなく彼女に差し出されるカラダ。
凹凸の少ないハダカ。
……ほっとけバカ(涙)。あ、胸んとこぽつっと赤いアトできてる。なんだろ?
きゅっとシャワーを止めて、立ち上った香りにふわりと記憶が摩り替わって。
今朝触れられた手の感触に思いがとらわれる。

今朝ってうか朝方っていうか『明け方』。

……??


『明け方はだめだね』


ん?
 
253 名前:現実 投稿日:2007/06/10(日) 19:17

夢に迷いかけた意識が違和感に立ち止まって。

無意識の指先はそのまま赤いアトをなぞった。


「はっぅ!」

とっさに体を折ってべしゃりと床に崩れ落ちる。

「あ、あ、あ……」

薄い皮膚一枚内側で生肉が粟立つ。
皮膚と肉の間を何かが流動する。

フラッシュバックするのは、夢と言うにはあまりにも鮮明な。
指先が、唇が、美貴の体を隙間なくなぞる。
あんな華奢な指先数本にいいように追い詰められて。


「は、あ……亜弥、ちゃ……」

自分の体をきつく抱きしめて、そうしないと手足が勝手に走り出しそうだった。
 
254 名前:現実 投稿日:2007/06/10(日) 19:17

ばく

「やっぱアタシも、――っ、どした!?」
「っっ」

声、だけで。
気配、だけで。

びくりと体の中身が反応する。
下半身に熱がたまる。
足の裏から放熱される。
余った熱が頬を熱くする。
やばい。
だめ。
亜弥ちゃん、だめ。

触らないで。

自分の指で触れるだけで、こんなになっちゃってる体。
亜弥ちゃんに触られたりなんかしたら……耐えられない。

理性と裏腹に亜弥ちゃんを見上げた視界が、彼女の白い肌を認識するのと。
その肌に抱きかかえられるのは、ほぼ同時だった。

「あああっっ」
 
255 名前:現実 投稿日:2007/06/10(日) 19:18

重柔らかい体の感触に。

美貴の全身が閃光を放つ。


はあ、はあ、はあ、はあ

遠くなった意識が少しずつ降りてきて、自分の呼吸音を拾う。
ぐったりと完全に亜弥ちゃんに体重を預けて、もう本当に、指先一つ動かせない。


「……たん?あのさー。アタシ、すっげータイミング悪かった?」
側頭部の上のほうで、亜弥ちゃんの低めの声。
「なに、が?」

「あんた、もしかして一人でしてた?」

……は??してた?

「なにを……っ、何をだ、ばかっっ」

反射的に体を離したら、支えをなくした体ががくりと沈んだ。
離れたままの距離で亜弥ちゃんの腕が美貴を支える。
 
256 名前:現実 投稿日:2007/06/10(日) 19:18

「えー?だってさ、あんた今――」
「ちがっ、これはっ、これ……てかコレっ。そっちこそどういうこと!?」

良く考えたらとんでもない姿を見られたわけだけれど。
もし美貴の今考えていることが正しいのなら、初めてさらす姿ではないことになるわけで。

美貴の指差した左胸を、亜弥ちゃんがまじまじと見つめる。
え、えと、そんな顔近づけて見られるのは、ちょっと。
ふっと息を吹きかけられて。

記憶が鮮明にソレを思い出す。


『……つっ』
『にゃはは。ここはさすがに見つけるかな〜』
『は、ああ、ん』
『お。たんもうれしい?愛のシルシだよん』


夢じゃない。
夢じゃなかった。
夢じゃなかったんだ。
 
257 名前:現実 投稿日:2007/06/10(日) 19:19

「どういうって」
「ちょ……んっ」

亜弥ちゃんの赤い舌が、左胸の赤いあとをぺろりとなめる。

「愛のシルシ?」
「はっ」

そのままするりと肌をなぞって。
頂点がぱくりと口の中に含まれる。

「あ、ぁ」

あたたかい感触にくるまれて、体が甘くほどけた。
マシュマロみたいな、わたあめみたいな。甘くて頼りないものになっちゃったみたいになる。
それは、亜弥ちゃんが大好きな類の……。

最後に音を立てて強く吸い上げられると、もう。
「あんた気づくの遅すぎ」
ソレをよく覚えている美貴の体は。
「何その顔」
君を求めて。

「ベッド戻ろっか?」


くふりと笑みをもらす亜弥ちゃんのえっちぃ顔に、美貴はこくんとうなずいた。

夢だなんて思わされていた今までの分、責任もって取り返させてよねっ。
 
258 名前:esk 投稿日:2007/06/10(日) 19:21
以上です。
容量が……どうしよう……。
259 名前:esk 投稿日:2007/06/10(日) 19:25
おおう。なんか変だと思ったら必ず入れようと思っていた一行が抜けました。

前回分読んでくださった方、ありがとうございます。
260 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/12(火) 20:32
>>25-33の話が好きだったので続きが読めて嬉しいです。
261 名前:esk 投稿日:2007/06/14(木) 00:01

読んでくださった方、ありがとうございます。

>>260さま
記憶に残していただいていたとは嬉しいかぎりです。


さて、こちらの容量も尽きてきたので新スレを立てさせていただきました。
夢版『四角関係』です。下の方です。
草のスレを二つも消費したアホウですが、まだお付き合いいただけるという心優しい方がいらっしゃいましたら、そちらもよろしくお願いします。

先の見通しもなくゆるゆるに書き続けたこんな話のために、このスレへ足を運んでくださった方、通りすがりに目にとめていただけた方、そしてさらにレスを下さった方、本当にありがとうございました。
 

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