夢 幻
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 00:00
- アンリアル、85年組メイン+α。
カップリングは定番。
設定は超能力だけど何気ないほのぼのをかければ。
- 2 名前:名無し作者A 投稿日:2006/12/12(火) 00:01
-
※物語は完全フィクションです。
取り扱っているテーマに実際と違うところがあってもご勘弁下さい。
超常現象を扱ってるけど、ホラー要素を入れるつもりはほとんどありません。
だからぜひ見捨てないで下さい☆
コメント・感想をいただけるととてもうれしいです。
が、レス返せないこともあるかもです。
お付き合いいただけるとうれしいです。
- 3 名前:はじまり 投稿日:2006/12/12(火) 00:02
-
本当はずっと一緒に居たかったんです。
- 4 名前:はじまり 投稿日:2006/12/12(火) 00:03
-
- 5 名前:はじまり 投稿日:2006/12/12(火) 00:05
- 日曜の始発電車はさすがに人がまばらだった。
最寄駅。
これから釣りにでもいくのだろうか、
アウトドアファッションの実に健康的な人たちを尻目に寝不足と二日酔いをひきずりながら梨華は席をたつ。
改札を抜け、風にさらされた梨華は薄い桃色のコートのえりを立てた。
冬の朝はまだ薄暗い。
徹夜明け、俗に言えば「オール明け」。
大学生の醍醐味だろうけれど、サークルに所属していない梨華にとっては珍しい体験。
大学2年の12月。
来春から始まるゼミのメンバーとの顔あわせだった。
羽目をはずしたのは、付き合いが悪いと思われたくないから。
けれどもともと向いていないことをするのは、体力の以上の心の疲れを誘った。
- 6 名前:はじまり 投稿日:2006/12/12(火) 00:05
- 一人暮らしのアパートまでは徒歩10分。
今は往来の少ない交差点は、いつも散らばるバスはひとつもなく、タクシーもまだまばらだった。
疲れで視野が狭くなっていたからだろうか、前しか見ていなかったようだ。
「きゃっ」
誰とも知れない声の後に突然の衝撃。
…どんっ。
- 7 名前:はじまり 投稿日:2006/12/12(火) 00:06
- 何とか踏みとどまる。
女の子がしりもちをついて倒れていた。
たぶん梨華とほとんど年は変わらないだろう。さらさらとしたストレートの髪に、通った鼻筋。
その子の隣には重そうなスーツケースが倒れていた。
鞄、傷ついただろうなとぼんやり考える。
ブランドはヴィトン。
本物だとしたら、梨華はそれが怖くて持ち歩けないだろう。
「…すみません、大丈夫ですか?」
とりあえず声をかける。
多分、梨華の不注意だから。
「こちらこそすみません。鞄があって、うまくよけられなくて」
細い声で相手も謝ってくれる。
梨華は彼女に手を差し出す。
素直に、申し訳なさそうに彼女はその手を握った。起き上がらせながら、彼女の華奢なヒールを見る。
これがブーツの梨華と転んだ彼女の違いだろう。
- 8 名前:はじまり 投稿日:2006/12/12(火) 00:06
- 冷たい手だった。
「ありがとうございます」
スーツケースを起こし、頭を下げる。
そのまま梨華のわきをすりぬけた彼女は、タクシーを止め、もう1度ふりむいて梨華に頭をさげた。
なんとなく彼女を見送っていた梨華もあわてて挨拶を返す。
「…きれいな子」
つぶやく。視線を戻すと、信号はちょうど青だった。
なんとなく不思議な気分のまま梨華は歩き出す。
- 9 名前:はじまり 投稿日:2006/12/12(火) 00:06
- 夢を。
妙な夢をみるようになったのはその夜からだった。
- 10 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:07
- 『痛い。
痛いよ…。
帰りたい。私は誰?』
- 11 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:08
-
- 12 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:08
-
「梨華ちゃん…梨華ちゃん!」
はっと顔を上げる。
明るい教室。それぞれの生徒の話し声がざわざわという雑音になって聞こえる。
時計は12時半をさしていた。昼休みだ。
さっきまで授業をうけていたと思ったのに、気づいたら教師はいなくなっている。
1月、最終授業。
「柴ちゃん…私、寝てた?」
「寝てた」
友人、柴田あゆみは眉をしかめる。
「そんなんで大丈夫なの? これからテストなのに」
同じ学部の1年からの友達。めでたく同じゼミにも受かれた。
- 13 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:08
- 「うん…ごめんね、なんか寝不足みたいで」
「てゆうか、顔色悪いもん。
働きすぎ?」
あいまいに笑ってみせる。
飲食店のバイトのために梨華は年越しも実家には帰っていない。
鞄をまとめて一緒に教室を出る。
あゆみは面倒くさそうに言う。
「私これからサークルで話し合いだわ。
梨華ちゃんは?」
あゆみは入っているテニスサークルで、来年3年として仕切ることになる。
それなりにきちんと活動しているサークルは忙しそうだった。
「私は…もう今日は終わり。勉強しに帰るわ」
これから数日休みをはさんで、テスト期間に入り。
「そっか。梨華ちゃん、ほんと健康気をつけてね。
一人暮らしの風邪は笑えないんだから」
礼をいい、手をふって友人と別れる。
人が多い校舎を歩きながら、梨華は軽くため息をついた。
- 14 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:09
- おかしな夢を見る。
それはたいてい、誰かが苦しんでいるものだった。
定期的に梨華をうならせる声は女の子。
夢を見始めてもう2週間になる。いつの間にか夜寝付けなくなっていた。
もしそれをあゆみに告げたら、笑うだろうか。心配してくれるだろうか。
- 15 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:09
- 今は葉がない桜の木の脇を抜け大学構内から出る。
サークルをやっていない代わりに梨華はそれなりに学業で努力はしていた。
昼前に授業が終わる火曜日は、いつもは食事をつまんでから図書館に行く。
けれどテスト前になるとにわか勉強の学生で混むので、今日は駅前の喫茶店に行くことに決めていた。
原因はどうであれ、これで成績を落とすのはプライドが許さなかったから。
- 16 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:09
- 『私…があったの。ねぇ、とても大事な』
声がする。夢じゃないのか。
目をつぶって、首を軽く左右に振る。
晴れた駅前の商店街はこんなに明るいのに。
こんなに、みんな楽しそうなのに。
どうして自分はおかしなことに悩まされているのだろう。
地元でもずっと優等生として通っていた。「変な声が聞こえる」という悩みは梨華にとっては認められないことだった。
- 17 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:10
- 「憑かれてるみたいだね」
目をあける。
色とりどりの店の看板、行きかう人々。
梨華の斜め手前に、背の高い女の子がたっていた。明るい茶色の短い髪、白い肌に大きな目。
今はその目を細めて梨華を見ている。
すごく可愛い顔なのに、薄茶色のトレンチをきちんときこなしていた。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
疲れている?
「あの…?」
無意識に、右肩にかけていた鞄を胸の前に持ってくる。
「何か、悩んでない? 心霊関係で」
- 18 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:10
- 立ち去ることもできず、相手を見上げる。
怪しいけれど、変な感じはしなかったからかもしれない。
街や大学で知らない相手から声をかけられるのは、梨華にとって珍しいことではなかった。
たいていは男、たまに女の子。
気弱そうに見えるからか、あゆみなどに比べて一人でいることが多いからか。
昔から梨華は年上にも年下にも好かれた。
地元にいたころは、あまり仲良くない相手から電話や手紙をもらうこともしばしばあった。
- 19 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:10
- 「いるはずのない人に悩まされてない?
たまに見えたり、とか。もしかしたら声が聞こえたりとか。
多分、相手の子はあなたにべったりだから」
相手の言葉に梨華は軽く目をみひらく。
「みえるんだ、あたし。中学生ぐらいの女の子。
よかったら相談に乗るよ。
あなた可愛いから、割引だってしてあげるし」
からかうように言って笑うと、彼女はそのまま歩き始める。
- 20 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:10
- 「あの」
相談に乗ると言っておきながら立ち去る彼女に思わず梨華は声をかける。
まるでそれが分かっていたように、余裕たっぷりに彼女は振り向く。
「気が向いたら連絡くれればいいからさ」
手渡されたのは、シンプルな紙。名刺のようなものだった。
- 21 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:11
- 喫茶店でおしゃれな紙コップに入ったホットココアを片手に、きちんと名刺を眺める。
「よしざわ ひとみ」
小さくつぶやく。
本名だか分からない、ひらがなで書かれた名前の下に090で始まる11桁の番号が並んでいる。
『超常現象の相談に乗ります。相談無料、料金は応相談』
ドリンクをテーブルに置き、まじまじと紙をながめる。
広げたノートのページは、店を出るまでめくられなかった。
- 22 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:11
-
『連絡くれるかなって思ってた』
「…どうして、私のこと…」
『だから、見えるんだ。
顔色は悪いし、シンクロしてたし、多分悩まされてるんだろうって』
「シンクロ?」
『きちんと説明するよ。
この間の駅で待ち合わせできない? あの大学の生徒さんだよね』
「あの…」
『大丈夫、助けてあげるから。
こう見えてもきちんと活動してるんだ。
それに、営利目的じゃないからさ』
「営利じゃない?」
『そ。
お嬢様の余興、ボランティア。
あたしはそれにお付き合いしてるんだ』
- 23 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:37
- 電話をしたのが街で声をかけられた夜で、待ち合わせは翌日。
学校は休みで、バイトもさすがに直前は勉強のためにいれてなかったから。
ほとんど勢いのようなものだった。
超常現象は梨華にとってほとんど興味がないものだった。
かといって拒否するほどでもない。テレビや雑誌で特集されていれば特に偏見なくみる。
ただ、それが自分の身に降りかかるとなれば話は別だった。
素直に自称「霊能者」とあう約束をしたのは、寝不足でせっぱつまっていたせいもあるかもしれない。
そしてここが地元から遠く離れた場所だったのもあるのだろう。
- 24 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:37
- 「あの…」
よしざわひとみ、とはほとんど会話を交わしていない。
大学の最寄り駅で待ち合わせをした後、電車に乗って移動。
たどり着いたのは梨華の下宿先の駅だった。
「事務所って、こんな住宅街にあるんですか?」
普段は足を踏みいえれない方向。それなりに大き目の家が並んでいる。
「…疑ってる? 石川さん」
振り向いて、歩くのはやめずにひとみは聞く。
答えられずに梨華は黙って足元を見た。
相談を決心したのはわらにもすがるような思いだった。
けれど、女の子がこんなにもあっさり他人についていっていいのだろうかという警戒心もきちんとある。
- 25 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:37
- 「本当は喫茶店とかで相談にのれればよかったんだろうけど…。
あたしから説明できることなんてたいしてないんだ。
除霊できる人は…なんていうか。最近は体調が悪くて家からでたくないんだとか」
肩をすくめる。
「そんなに体悪そうに見えないから、単なる気まぐれなんだろうけど。
石川さん、早めに解決できたほうがいいでしょ?」
「その方って、昨日おっしゃってたお嬢様…ですか」
「…さあ。 ほら、そこ」
駅から15分以上は歩いただろうか。
指差された先にはそれなりに立派な家がたっていた。
- 26 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:38
- 黒い鉄の門に、生け垣。都内だとは思えない立派な庭には細い砂利道が続いていて、古いが粗末ではない洋風の玄関につながっている。
表札はでていなかった。
門を開けて入っていくひとみ。
少し迷ったが、おそるおそる後に続く。
何かあったら逃げ出そうと、緊張は体中にみなぎらせておく。多少、挙動不審になっただろうけど。
- 27 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:38
- 「真希、お客さん」
ひとみはドアの前で声をあげる。
インターホンがついているが、使わ様子はない。…もしかしたら壊れているのかもしれない。
しばらくの沈黙。
不安がせりあがってくる。
中に誰がいるかは分からない。
このまま誰かにおそわれたり殺されたりしてしまう可能性もあるのかもしれない。
軽い足音と共に内側からドアが開き。
顔をのぞかせた女性は、見覚えがあるものだった。
「あ…」
思わずつぶやく。
さらさらのストレートの髪。通った鼻筋に、見通すような目。
印象が先に飛び込んできて、すぐに記憶がつながった。
- 28 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:38
- 「…どうしたの? 知り合い?」
ひとみが問いかける。
梨華が予想外の反応をみせたからだろう。
「そういうわけじゃ、ないんですけど…」
「駅で、だよね」
意外にも、まきと呼ばれた彼女が先に言った。
目を細めて軽く笑う。
「助け起こしてくれた」
玄関から体を出し、ドアを固定して言う。
「最初なのにここまで呼んじゃってごめん、入って」
彼女は家に似合わずラフなジーパンにトレーナー姿だった。
玄関には、高いヒールのミュールとサンダルが一足だけ置いてある。
- 29 名前:第一章 投稿日:2006/12/12(火) 00:39
- ついてきてしまったのも勢いなら、上がりこんでしまったのも勢いだった。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 22:31
- 更新お疲れ様です。
85年組み大好きです。
また、超能力ものってことで、今後の展開を楽しみにしてます。
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/17(日) 22:29
- 面白そうですね
続き楽しみにしています
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/18(月) 10:27
- >>30
ありがとうございます。超能力…といっていいのかはわかりませんが。
頑張ります。
>>31
ありがとうございます。
次はもっとミスをなくすように頑張ります。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/18(月) 10:29
- 玄関はそこだけで一畳以上あるかもしれない広いものだった。
しかし真希がつっかけている簡素なサンダルのほかには、見覚えのあるヒールつきの靴がひとつ置いてあるだけ。
「お邪魔します…」
靴を脱ぎ、後ろをむいてそろえる。
玄関の先には何もない空間があって、正面に階段がある。吹き抜けになっているのだろうか。
そして階段の脇に1階に続くであろう廊下がある。
センスが悪くない程度にところどころに飾ってある、花瓶や絵画などのインテリアはどれも高価そうだった。
つい見渡してしまう梨華をよそに、脱ぎぬくいブーツと格闘していたひとみも上がりこむ。
2人を待っていたらしい真希は1階の方へ進んでいく。
ひとみより先に行った方がいいのか、待った方がいいのか。
迷ったが、ひとみが動かないので先に動くことにした。
「後藤相談所…」
ふと、木でできた簡素な板が壁にたてかけてあるのを見つける。
「それ、いつもは外にだしてるの。
今は休みだから、なんだか看板だしとくのも嫌で」
反射的に声に出しただけで、それほど大きいわけではなかったのに意外にも答えてくれたのは真希だった。
…早いほうがいいと思って、特別に。
ひとみの言葉を思い出して申し訳ないような複雑な気分になる。
- 34 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:30
- 通されたのは小さな応接間のような場所。
ソファに梨華が腰掛ける。
そして簡単に自己紹介。
ひとみは勝手しったる、という感じでいつの間にかお茶を用意してくれていた。
「…それで、何か悩んでるだっけ。
とりあえずお金はとらないから話してみて」
ここにきてもまだ迷いはあった。
それを読み取るように真希は微笑む。
「私たちはこれが仕事だもの、笑ったりしないから」
その完璧な微笑みは、どこか嘘を含んでいると梨華は思った。
こちらに対してやさしさを精一杯伝えようとしてくれているのは分かる。
そうではなく、真希は必死に笑顔を作っている。
自分の感覚に疑問を抱きながら、梨華は話す。
「きっかけは…よくわからないんです。
年末に、来年からのゼミのメンバーと徹夜で遊んで」
朝方、家に帰った。
ロフトつきのお気に入りのアパート。
帰るなりシャワーを浴びることも放棄して眠りに入った。
いつもは几帳面な梨華にしては珍しく。
…疲れていたはずなのに、その日の夢はよく覚えている。
- 35 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:30
- ふらふらと、駅前の交差点をさまよっている自分。
何か体に痛みがあったような気もするがあいまいになっている。
ただ、何かをしたいと思っている自分。
「そんな夢が何日か続いて、不思議とよく眠れなくて。
不眠症のせいか…だんだん、声が聞こえてきて」
知らない女の子の声だった。
何かを訴えるように。
「…それって、私と会った日のこと?」
聞き終えた真希からの質問は、それだけだった。
ひとみはいつの間にか真希の横に座り、黙っている。
「はい」
「そっか」
眉をひそめる真希。
その反応が分からず、梨華は目を瞬かせる。
「まだ、誰かいる?」
今度は、真希はひとみに聞く。
「女の子がいる」
迷いなく答えるひとみ。
うなずくと、真希は梨華に向き直った。
- 36 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:31
- 「どこかで、未練ある霊を拾っちゃったのね。
たまたま波長があって、あなたには声を聞いてあげるセンスがあったせいで…。
こういったことになっちゃっているの」
「センスなんて、
私いままでこんなこと1度も…」
「まぁ、そういうものでしょうね」
歯切れの悪い真希。
「ただね、時々あるのよ。感覚が研ぎ澄まされているときとか」
「感覚が…?
徹夜あけに、ですか?」
「…まぁ、そういうこともあるってことで。
心配しないで、悪い霊じゃないから。
目を閉じて…。
今から私があなたの手に触れるから、静かにあなたの中でその子の声に耳を傾けてあげて。
大丈夫。
その子は、あなたにきちんと話を聞いてほしいだけなの」
- 37 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:31
- その子。
誰だかわからない相手。
しかし言われたとおり目を閉じると、真希は彼女の手を梨華にあてる。
冷たい手。
しかし何かが流れ込んでくる。
何か…
何か…意識がぼんやりとして。
- 38 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:31
-
……。
…………。
……………………。
- 39 名前:第一章 ゆめ 投稿日:2006/12/18(月) 10:32
- 中学校生活は夢にあふれていると思っていた。
制服は大人になった証。恋人がいて、部活では充実して…。
なんて嘘だった、ただの夢。
小春の現実は、厳しい校則の中でのの勉強。
部活は先輩からは締め付けられ、後輩は言うことを聞かず、毎日愚痴ばかり。
そして恋、なんてぜんぜん。
学校帰りの公園で、子猫をみつけたのは夏だった。
部活を終えた小春に、にゃーにゃーと甘えてきた猫。
守ったあげたかったけど、家で飼うわけにはいかなかった。
小春は毎日何か食べられるものを用意していった。
夏休みの部活が終わってからも毎日。
こんなに甘やかして、飼えるわけではないのに…という罪悪感もあったけれど。
どんどんなついていく猫は可愛かった。
小春が公園までくると、どこからともなく飛び出してくるようになった。
他の人にも食べ物をもらっているのだろうか、人懐こい猫はだんだんふくよかになっていった。
けど、信頼しているのは小春だけ。
少なくともそう思っていた。
- 40 名前:第一章 ゆめ 投稿日:2006/12/18(月) 10:33
- 学校の行き帰りに少しじゃれていくのが楽しみだった。
何をあげようか毎日考えた。
天気が悪い日は心配でたまらなかった。
小春のものじゃないんだから、名前はない。
でもいつか親を説得して家で飼いたい小春は思い始めていた。
あいつは嫌がるかもしれないけど、でも、小春にならついてきてくれるかもしれない。
友達もできた。
学校でもかっこいいって憧れの…先輩。
先輩も猫が好きらしくて、たまに小春と一緒に猫とじゃれていく。
こんな場面を部活の先輩や同級生に目撃されたらタイヘンだ、と思いながらも先輩との時間は楽しかった。
- 41 名前:第一章 ゆめ 投稿日:2006/12/18(月) 10:33
- あの日は…。
雨、だった。
そろそろ寒くなる頃。
公園にあいつは見当たらなかった。
どこかへ遊びに行っているのだろうか、よくあることだけど。
少し寂しい気分になりながら、おみやげのチーズをなるべく雨の当たらない木の下に置く。
「明日また来るからね」
誰もいないのにつぶやく。
雨はだいぶ強くて、傘を必死にさす。
制服がぬれて気持ち悪い。
もう少しで帰れるから。
右・左・右・左…。
定期的に足を動かす。
駅に差し掛かれば、家まではもうすぐ。
- 42 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:34
- 傘からのぞいた歩行者の信号は点滅していた。
こんな日に立ち往生したくない千春は、早足で渡る。
真ん中に差し掛かったときに信号は赤になったが、よくあることだった。
急に…
体に衝撃が走った。
傘が手から飛ぶ。
一瞬、視界に空が映った。
あぁ…どうしたんだろう。
あいつに明日もくるからねって言ったのに。
先輩にも…まだ…。
- 43 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:48
-
…………。
………………。
ささやかな幸せだったのに。
自分になついてくれる猫が可愛くて。
ただ、先輩に会うのがうれしくて。
ただ…。
- 44 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:48
- 「心配だったんだよね、猫が。
毎日世話をしてたのに、自分がいなくなったらどうしようって思ったんだよね…」
気づいたら声を出していた。
誰の声だかがうまく分からない。
ぼんやりと、あぁ、私だと思った。
「私が…伝えておいてあげる。
もうあなたは来ないんだよねって。
大丈夫だから。
野生の動物って…生命力が強いんだから…」
小さな心の残り。
でも、その子にとっては大切な。
…ふっと、女の子の姿が見えたような気がした。
紺の制服を着た、目が可愛らしい女の子。
そして、だんだん、ぼんやりと…。
- 45 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:49
- ………。
………………。
不安定な感覚。
多分、誰かに運ばれている。
- 46 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:50
- 『…この子、素人なんだよごっちん。
さっきは文句つけなかったけど、自分で対話させるなんて』
『強引だったのは認める』
『…今は、除霊する気分じゃなかったってこと?』
『ううん…なんていうか。
自分での対処法を覚えたほうがいいかなぁって…』
『…どういうこと?』
『私のせいなんだ、多分。あは』
『…はぁ?』
『もともと感覚が強い子だったのね、多分…。
ちょっとしたきっかけで、私、この子と握手をしたのよ。
それで…』
『とぎすまされて?』
『拾っちゃったのね。
たまにあるんだぁよ、霊能者と近づくのをきっかけに能力が目覚めちゃう人』
『だぁよってごっちん…』
『とりあえず、もうその子はいなくなったんでしょう。
あとは石川さんさえ目を覚ましてくれれば』
『…大丈夫なの、この子?』
『へーきへーき、ちょっと疲れてるだけだと思う』
『…無責任な』
- 47 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:50
-
夢?
……夢。
- 48 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:50
- さわさわとした布の感触…。
白い空間だった。
なにもない。上も下も、右も左も。
女の子がいた。
- 49 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 10:51
- 大きな目に、白い肌。
軽く茶色に染まった髪。
ぱっちりとした二重まぶたがきれいだった。
「…けて」
かすかな声、だった。
「たすけて…」
「たすけて…もう…くるしいよ…」
ごとーさん。
- 50 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 11:11
- 目を覚ますと、あたりは薄暗かった。
重い体を起こす。
腕時計の短針は、4を少し過ぎたところにあった。
「…寝て…た?」
ベッドにいた。
簡素な部屋。おそらく、6畳あるかないか。
家具はベッドと棚だけで、ベージュのじゅうたんがひいてある。
出窓からかすかな光が差し込んでいた。
そっと足を下ろし、ドアを開ける。
廊下。
ふきぬけを囲うように、コの字型に続いている。
ワインレッドのじゅうたんが、お屋敷のイメージにはまっていておかしかった。
- 51 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 11:11
- その端の部屋の扉が少し開いていて、明かりがもれている。
ひきよせられるように扉のほうへ行き、少し戸惑ったが覗き込む。
本棚であふれた部屋。
そこに真希が1人でいた。
壁に並べられた本棚、真ん中に木の机といすがある。
書斎、とでもいうのだろうか。
お屋敷。
非日常。
今日は最初から最後まで非日常だった。
- 52 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 11:12
-
「…あの?」
おそるおそる声をかけると、真希がふりむいた。
「おはよう?
お疲れさま」
「あの…ありがとう、ございました。
話がきけて」
入り口でドアをおさえたまま、頭をさげる。
「いや、なんていうか、こちらも…」
「お礼は?」
「いいよ、ぜんぜん。うん。
…よく眠れた?」
目を細める真希。
- 53 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 11:12
- 久しぶりにきちんと眠れた。
猫のことを訴えたかった女の子。
あれは現実なんだろうか。
- 54 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 11:12
- 「でも、なんだか不思議な夢もあって」
「…不思議な?」
「女の子が、たすけてって。
こんなことがあったからそんな夢をみたのかな」
それを言った瞬間、真希の顔色が変わったのが見て取れた。
広げていた本から手を離し、梨華に向き直る。
「たすけて?
他には?」
「くるしいって…言っていたかも。
どうして、ですか?」
「どんな子だった?
どんな?」
「どうだろう…髪の毛がさらさらで。
あ、あと、スタイルがよかったかな」
聞かれるままに素直に答えつつ、梨華は真希の態度が心配だった。
椅子から立ち上がって、真希は聞いている。
- 55 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 11:13
- 「目が…大きくて、ぱっちりしてて。
それから…」
「…こんの」
「え?」
「紺野!!」
突然、真希が叫んだ。
梨華をすり抜けて、廊下を走りつい数分前まで梨華が寝かされていた部屋のドアを上げる。
「どこにいるの? 紺野?!」
- 56 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 11:13
-
「後藤さ…」
「紺野! どこにいるの?」
半狂乱、だった。
走り回り、部屋の扉をあけ、中を確かめては違う場所へと向かう。
階段を走り降り、1階に真希が差し掛かったときやっと梨華はわれに返った。
「後藤さ…」
「紺野ぉ!!」
1階まで降りると、真希が床に座り髪をふりみだして頭を抱えていた。
さわっていいのか分からず、梨華は立ち尽くす。
- 57 名前:第一章 投稿日:2006/12/18(月) 11:14
- 「ほかには…?」
梨華の足に、真希がすがる。
突然の感触に梨華はびくりとする。
「くるしいって…言っていたの?」
「あの…そんな…」
梨華が答えられずにいると、真希は手を離しへたりこんだ。
「どうして…。
どうして…。
どうして、私には何も言ってくれないの…紺野」
こんの。
ふれてしまった何だか分からない傷に、梨華はとまどったまま真希をみつめていた。
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/18(月) 11:14
- 第一章 了 です
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/20(水) 21:49
- お疲れ様です。
ごっちん・・・どうなるんでしょう。
今後の展開を楽しみにしてます。
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/24(日) 20:07
- 梨華ちゃんもごっちんもどうなるんでしょうね。
続きを楽しみにしています。
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/14(水) 22:31
- 続きが気になる展開ですね。
春に向けて多忙でしょうが、のんびり続きが読みたいです。
- 62 名前:名無し作者A 投稿日:2007/02/15(木) 02:32
- 時間があきました。
>>59さま
ありがとうございます。
ごっちん…今回はスルーとなってしまいました。
まだ待っていて下さっているでしょうか。
>>60さま
ありがとうございます。
梨華ちゃんはこうなりました。
>>61さま
だいぶ時間があいているというのにレスありがとうございます。
今回の更新の励みになりました。
- 63 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:32
-
それはほんの一瞬だった。でも、せつなさで胸が苦しかった。
私が死んでしまう。それは分かったから。
- 64 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:33
-
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ」
後ろから聞こえた声に、テーブルを片付けていた梨華は振り向かずに復唱する。
大学1年になってすぐはじめた、大学の最寄り駅でのバイトはもう1年以上になる。
そろそろ、バイトの先輩より後輩の方が多くなってきた。
慣れた仕事とはいえ気は抜けない。
「1名様ご案内です」
満面の笑顔を浮かべて、後輩が梨華が作業している机のすぐ隣に客を案内する。
…その顔をみて、梨華は自分がかなり複雑な表情を浮かべてしまうのが分かった。
「…吉澤さん」
また、きたの。
言外のつぶやき。
- 65 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:33
- 個人経営の小さな店。
喫茶メニューと、手作りのため限定品のケーキ、そして簡単な料理。
常連客も多い。
が、めったに毎日来る人はいない。
メニューの数も限られているし、味には定評があるとはいえ少し値がはるためだ。
…とくに、ひとみのような学生は。本当にめったに。
「つれないなぁ、石川さん」
にこにこと、ひとみはつぶやき、まだそばにいた後輩にケーキセットを頼む。
「そう毎日きていただいても…困ります。
もう何回も何回もお断りしたはずです」
思わず作業の手をとめて梨華はつぶやく。
毎日、と分かるのは梨華もほとんど毎日のようにバイトをしているから。
春休みに入ってしまえば時間はあるし、バイトをしていることは苦にならなかったから。
労働基準法などなんのそのである。
- 66 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:34
- 「別に頼みにきたわけじゃないよ。
ここのケーキと、あと可愛い店員さんたちを見にきただけ」
そんなわけないでしょう、という言葉を飲み込んだ。
喧嘩をうったところでどうにもならないし、相手は客だ。
小さな店にはマニュアルもない。
たいていすいた時間に、頻繁に来るひとみは店の人とも会話をかわすようになっていた。
彼女が学生だ、とか、1つ下の学年だ、とか、そういった情報も入ってくる。
実際、梨華が彼女を歓迎しようとしまいと、顔をあわす回数が多ければ以前より仲良くなったことは確かだ。
- 67 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:34
-
食器をキッチンに運ぶと、バイトの後輩が大きな目をくりくりさせて梨華をみた。
「また梨華さんに会いにきたんですかね?」
大学の付属高校に通っている、進路の安泰した高校3年生。
無邪気な彼女にどう返してよいのかが分からず、梨華は苦笑した。
ひとみと関わるようになったきっかけは、もう1ヶ月以上前になるのだろうか。
- 68 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:35
-
豪邸の、吹き抜けになった階段の下で。
梨華にしがみついたまますすり泣く真希になんと言葉をかけていいのか分からなかった。
そのままどのくらい立ち尽くしていたのだろうか…そう、長くはなかったのかもしれないし数時間にも感じた。
結局わからずじまいだった。
真希の家をあとにした後も時間の感覚はなく、時計をみたのはだいぶ後だったから。
しばらくして唐突にドアが開き入ってきた人物は、ドアの前に固まっている2人に目を少し見開いた。
ラフの服装の美人だった。
驚きからはすぐに立ち直ったのだろうか、切れ長の目を細めて梨華と真希を彼女は交互に眺めている。
- 69 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:35
- ためらいもなく入ってきたのは、家族か親戚なのか、よほど仲のいい知り合いなのか。
どう説明をしていいのか、そもそも何を言っていいのかが分からず梨華はとまどった。
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 02:36
- 「ごっちん」
しかし彼女は梨華を無視して、早足で近づいてくると真希の背に手をそえ声をかける。
「ごっちん、落ち着いて。 美貴がわかる?」
こくこくと真希は首を上下に動かし、体を起こす。
ようやく離された足は、少し違和感が残っていた。
そのまま真希を支え、肩をかした彼女は、昼間案内された廊下のほうへ向かって歩き出す。
「…あなた」
そこでようやく、彼女は振り向いた。
長い髪がなびく。きれいな顔なのに、妙に迫力があった。
「悪いけれど、今日は帰ってもらえる?」
事情を梨華に聞くつもりも、そして今のところ責めるつもりもないようだった。
体を、みきと自分のことを呼んだ彼女に預けたままの真希は何も答えない。
- 71 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:36
- 「あの…」
「ごめんね、今、この子不安定な時期で」
眉をひそめて、彼女はかすかに微笑む。
何が分かっているのだろうか。それは少し梨華にたいして同情的だった。
- 72 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:37
- それから日常に戻るまではすぐだった。
本当に、それ以来夢をみることはなくなったから。
夢の中の公園は、本当にみつかった。
誰かの記憶と同じ道をたどれることに気づいたとき、少し不気味ではなかったといえば嘘になる。
猫はどこにも見当たらなかった。
少し待ってみても、日を変えて探しにいっても。
誰かに飼われているのか、世話をしてくれる人に会えないことに気づきすみかを変えたのか…。
それは梨華が想像した理由だった。
どこかで生きているのだろう、という予感はあった。
なぜか。
その予感を信じることにした。
- 73 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:37
- そして、ひとみから連絡があったのは数日後だった。
- 74 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:37
- 最初に彼女と会った駅の喫茶店で待ち合わせ。
電話で話があるといわれたとき、何についてかをあえてたずねはしなかった。
約束は電話がきた翌日になったし、なんとなく検討はあったからだ。
まず梨華は、真希に助けてもらったことに関して何の礼もしていない。
金の請求は覚悟していた。
これについては自分から連絡するべきかもしれないとは思ったが、
真希がどうなったのかは気になっていたのだが、
なかなかできずにいたところだった。
金額は応相談、だったはずだがいきなり始まった「除霊」に巻かれ何も情報はない。
かなりの高額というのもじゅうぶん予想できる。
親に頼りたくはない。
営利目的ではないというひとみの言葉にすがるばかり。
- 75 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:38
-
そして…真希の狂乱への説明も期待していた。
自分の安易な言葉がきっかけなため、罪悪感が深くあった。
けれどそれ以上になぞも多かった。
「こんの」。
誰、なのだろうか。素直に解釈すれば、それはあの日夢にみた少女であるはずだった。
- 76 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:38
- けれどその両方は裏切られた。
まず、現れたひとみは料金の支払いはいらないとあっさり言ってのけた。
「まぁ、ほとんど石川さんが自分でなんとかしたようなものだし」
コートを脱ぎもせず、コーヒーをすすりながらひとみは器用に肩をすくめた。
「でも…」
「そんなこと、ほんと気にしなくていいから。
お金に困ってなさそうな感じはしたでしょ?」
…真希の家を思い浮かべ、少し迷ってから素直にうなずく。
- 77 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:39
- 「それより頼みがあるわけよ」
コーヒーカップをかろやかに机に置き、ひとみは身を乗り出した。
「石川さんには多分、霊と接する能力がある。
つまり霊感がある」
大げさに断言する。
思わず梨華は周囲を見渡さずにはいられなかった。
正直、こんな会話をしているのを知り合いに聞かれたくはない。
できれば他人にも聞かれたくはない。
世間体は気にするほうだ。
幸い知っている人も2人に注目している人はいなかった。
…ピントのはずれた心配をしたため、梨華はひとみの発言自体は受け入れてしまった形になった。
- 78 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:39
- 「だからね、ぜひぜひうちの事務所でバイトしてほしいんだ。
あ、もちろん給料は弾むからさ」
「…へ?」
ひとみの声は相変わらず大きかったが、今回は世間体どころではなかった。
思い切りまぬけな声を出してしまう。
「勤務ノルマなし、即日払い、予定考慮。絶対損はしないって。
とりあえずもっかい事務所にきてもらえないかな」
満面の笑顔。
はじめて会ったときに漂わせていたミステリアスな雰囲気と、今のひとみにはギャップがありすぎた。
- 79 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:39
- しばらくの沈黙をはさんだ。
「どういう、ことですか」
梨華の口から出たのは、意味のない疑問。
「どういうことって、そういうことなんだけど…」
困ったように頬をかくひとみ。
「…ダメかな、石川さん?」
「…できれば、お断りしたいのですが」
下手にでてもらえたので、丁重に答えることができた。
- 80 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:40
- 「どうして?! こんないいバイトめったにないよ、もうかるよ?」
「…そういう問題じゃ、ないです」
小さいころから優等生だった。
厳格な親に育てられ、羽目をはずすこともほとんどない。
周囲からの評価を気にしないといえば嘘になる。
「普通」からそれることは梨華にとって恐怖だった。
あの夢をみたとき。…声が、聞こえたとき。
その出来事自体への混乱と同時に、自分が特殊な状況におちいっていることも悩みだった。
そんな超常現象に自ら関わる、などと遠慮したい。
そもそも、唐突に誘われても困惑する。
梨華をじっとみつめたひとみは、困ったような表情を浮かべた。
- 81 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:40
- 「石川さん、がんこって言われたりしない?」
ご名答。
「…どうしてですか?」
「いや、なんかそういう雰囲気がにじみ出てるからさ。
そっかぁ…。
そっかぁ」
1人、ぶつぶつと繰り返すひとみ。
- 82 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:41
- 「…でも、本当に助かりました。
ありがとうございます」
話の切れ目とみて、梨華は礼を述べる。
「それでは私はこれで失礼します。
本当に、どれだけ感謝しても足りないです。
事務所までご挨拶におうかがいするべきかもしれないのですが…。
とりあえず、今回はこれで」
優柔不断で気が弱い。
そういうところがある梨華にしては、われながら強引に席をたつ。
これ以上誘われても、困る。
「石川さぁん…」
店の出入り口で、もう1度頭を下げる。
それでは失礼します、と心を込めて。
- 83 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:42
-
結局、真希に関しては分からずじまいだった。
そしての自分がなぜ急に誘われたのかも。
事務所には、住所を調べ簡単な礼状と菓子折りを一応は送っておいた。
分からないことだらけだったが、1つだけ自分でも感じることができたのは…。
「石川さんには霊感がある」というくだりだった。
ふとした気配を感じることがあった。
何気ない夢が、誰かの記憶にようなことも。
しかし幸い、それが梨華を困らせることは今のところなかった。
- 84 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:42
- 慣れもあるのだろうか。
それにしても、20歳まで何もなければ超常現象にかんしては大丈夫、なんて嘘だったのだろうか。
今まで立ち入ったことのなかった本屋の占いコーナーで立ち読みして調べた、
守りになりそうな天然石を持ち歩くようになってからは顕著に気配も減った。
自分で思いついた応急処置に満足、だった。
- 85 名前:第2章 投稿日:2007/02/15(木) 02:42
-
再びひとみが、なぜか梨華のバイト先に現れたのは、ほんの1・2週間あとのことだった。
- 86 名前:名無し作者 投稿日:2007/02/15(木) 04:13
- あとから確認すると非常に誤字が多いです…
なるべく次からは気を付けます。
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 14:28
- 更新お待ちしてました♪
なんだかほのぼのとはかけ離れたかの様な状況ですがw
これからどうなってくのか楽しみにしています。^^
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 22:44
- 更新待ってました♪
85年組み大好きです。
どうなっていくか続きが楽しみです。
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/01(日) 13:14
- 後藤さんが心配です。
そして、石川さんはどうなってしまうのか・・・
続き楽しみに待ってます。
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 00:17
- 85年組おいらもだいすきです
続き楽しみにしてます
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