The Spheroidal Jigsaw Puzzle
- 1 名前:紫人 投稿日:2007/02/13(火) 03:14
- オールスターでバトル。
以後よろしく。
- 2 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/13(火) 03:16
- 《こちら第三部隊! 入り口付近にてターゲットを確認しました!》
「躊躇うな。即刻殺せ」
《了解!》
無線のノイズが消えてもなお沈黙を保つ会議室。
語気を強めず冷淡に指令を出した女にセンスのないメガネをかけた男たちの視線が集まる。
女は深く溜め息をつくと、無線機を長机に置いて立ち上がった。
上司に媚を売ることしか能のない女の上司があわてて声をかける。
「どこに行く! 現場はどうなんだ!」
女は上司に冷笑に近い笑みを投げかけ、無言のまま会議室の扉へと向かった。
会議室がざわつきだす。
手元の書類を握りつぶしながら女の上司が叫ぶ。
「おい! 待て! どこに行く!」
怒号を無視して扉に向かう女。
扉の横に立っている誰かの秘書が女を制止しようと立ちふさがったが、女と目を合わせた途端その場にへたり込んでしまった。
扉を開けるはずの秘書がへたってしまっているので女は自分で扉を開ける。
上司が顔を真っ赤にして立ち上がった瞬間女は振り返り、秘書を睨んだ時と同じ眼をして、言った。
「これから現場に行ってきます。無理やったんですよやっぱり、並の人間じゃ……」
女は足早に廊下を歩いていった。
- 3 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/13(火) 03:16
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- 4 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/13(火) 03:19
- 「ひるむなぁ! 撃てええええぇぇぇ!」
足元には血だまりに倒れている仲間達。
明日は娘を遊園地に連れて行かなきゃならん、と愚痴を装いながらニヤケの止まらなかった隊長の同僚は
事切れて堆く積もっている隊員達の一番下でただの肉の塊と化していた。
最後方からあらん限りの声で命令している隊長だが、次々と倒れこむ隊員を目の前に足がガクガク震えている。
この国でこんな装備をすることなんてまずないだろう。
隊長就任当初、武器庫で武器の点検をしながら呟いた言葉だった。
今でも戦争を行なっている国では平然と使われているマシンガン。
とある昆虫をモデルに開発されたマグナムさえも貫通しない軽量にして頑丈なスーツ。
その二つを隊員全員が装備しているのにもかかわらず、まるでドミノのようにどんどん倒れていく。
「撃でええええええええ! 撃でえええええ!」
男達の鮮血がビルの廊下をむやみの染めていく。
あれほど見事な隊列を成していた筈の第三部隊は、もう十人も生き残っていなかった。
隊長は手榴弾を取り出し、安全ピンを咥えて引き抜くと力いっぱい前方に投げつけた。
鳴り響くマシンガンの音。情けなくなるくらい脅え切った隊員達の悲鳴。
隊長は耳を塞ぐこともせずマシンガンを構えた。
崩れる壁の塵やマシンガンから上がる煙で前方が見えにくかったが、その小さな光はハッキリと見えた。
そしてあまりに短く、あまりに非力な爆発音。
隊長は我を疑った瞬間、右前に立っていた最後の隊員が崩れるようにして倒れた。
「なっ――」
隊長は何か言葉を発しようとしたが、顔が顔であることすらわからなくなるほどの銃弾を浴び、
脳みそを細かく飛び散らせながら倒れたのだった。
- 5 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/13(火) 03:19
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- 6 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/13(火) 03:21
- 石川梨華は今時小学生だって持たないようなフリフリドピンクのハンカチをジーパンのポケットにしまった。
後ろでは腕を組み口を尖らせた藤本美貴が不満をもらしている。
「なんで梨華ちゃんばっかりそうやっていつもおいしいっていうかさ〜、いいとこもってくっていうかさ〜」
「しょうがないじゃん、ジャンケンで順番決めようって言ったのミキティだし」
「そうだけどさぁ」
藤本のジャンケンの手はいつも決まっている。
最初はパー、そしてグー、最後はチョキ。あとは繰り返し。
これは後藤に教えてもらったことなのだが、まだ三人とも藤本には内緒にしている。
「なにしてんのー。行くよー」
廊下の、綺麗な方の、向こうにいる吉澤が二人を呼ぶ。
藤本の方に腕を回し、だってミキティじゃんけん弱いんだもん、と言いながら歩き出す石川。
首を傾げながら何が弱いのか考える藤本だが、結局答えは出ないまま吉澤に追いついた。
四人はT字路の交点で止まった。
階段を背にした後藤が口を開く。
「んじゃこっからは、あの場所集合ということで」
「今回一番遅かった人は、なんにしようか?」
「美貴今モーレツに焼肉が食べたいんですけど……」
「ってかそれいつもじゃん」
「んじゃ焼肉でいいんじゃない? 一番遅かった人が四人分の焼肉代おごりということで」
「よっし! 絶対負けん!」
「肉がかかるとミキティ強いからな〜」
「んじゃ……」
後藤は上に行く階段を、吉澤は下に行く階段、藤本は今来た廊下のほうを、石川は残りの廊下のほうを向いた。
「よ〜い……ドン!」
- 7 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/13(火) 03:21
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- 8 名前:紫人 投稿日:2007/02/13(火) 03:22
- 今回は以上。
まだ序章は続きます。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 09:29
- まだ話は見えてきてませんが続きを楽しみにしてます。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/14(水) 02:23
- 面白そうですね
楽しみにしてますよー
- 11 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/22(木) 03:54
- 乱雑に止められたパトカーをたくさん抱えるビルから離れること800メートル。
25階建てのマンションの屋上からライダースーツに金髪という出で立ちの女が望遠鏡を覗いている。
「あれは人間がどうにかできるレベルじゃないね」
「そんなこと見なくても感じるの」
望遠鏡を覗いていた女の後ろ、麦チョコを三、四粒ずつ頬張る色白の少女は口の端から麦チョコを一粒落としながらそう言った。
そんなことわかってるといわんばかりに眉をひそめるが、望遠鏡の覗き口が必死にそれを抑えている。
望遠鏡の隣では手すりから身を乗り出し、双眼鏡で惨劇のあったビルを覗くメガネをかけた女は口を嘯かせながら何かを探していた。
「出てこな〜いよ〜」
「村田さーん、チョコ食べます?」
「ああ〜ん……今はいいわ。……出てこない〜」
道重は村田に渡そうと手に握っていた麦チョコをこぼさないように頬張った。
体温で溶けて手に残った分のチョコはスカートに舐めさせる。
「出てこないぃ」
「入り口からは出てこないと思うの。警察が包囲してるの」
「そうそう」
そう言って望遠鏡から目を離し、道重の横にしりもちをつくかのようにして座る斉藤。
斉藤は両手を着いて空を見上げると切られた小指の爪のような三日月に目のピントを合わせようとする。
村田は二人の忠告も聞かず、より身を乗り出して「出てこない」を念仏のように何度も唱えながら双眼鏡を覗いている。
- 12 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/22(木) 03:54
- 「れいなからまだ連絡が来ないの」
「だって。おーい、聞いてる?」
指一本で押せば落ちるのではないかというような姿勢でかぶりつくように
ビルを見ている村田に斉藤は声をかけたが全く気付いていない。
携帯電話をじっと見て、鳴り出す気配もないことに小さな溜め息をついた道重は残りわずかな麦チョコを袋を傾け頬張った。
遠くに聞こえる救急車の音がずっと鳴り止まない。
「やっぱり逃げる所を見られるような抜けてる人達じゃな……あっ!」
突風で麦チョコの袋が手を離れた。
はしゃぐ猿のように転がっていく袋を追いかけるため道重は立ち上がった。
しかし、携帯電話が道重を引き止める。
斉藤は凍え震える携帯電話を手に取ると道重に渡した。
「もしもし、れいな?」
『あん、そやけど。なんか全然出てこないっちゃよ』
「やっぱり隙が無いの」
『大谷さんももう逃げたんじゃないかって言っとるけん、もう終わりでよかと? れいな寒いけんね』
「それはそんな格好してるれいなが悪いの」
報告を待つ斉藤の視線に気付き、道重は田中の方も収穫はないことを告げる。
すると斉藤はめんどくさそうに立ち上がり村田の元へ向かった。
「それじゃ一旦引き上げなの」
『了解っちゃ』
通話を切り軽く肩を落とす道重。
ふと前を見ると双眼鏡の奪い合いをする斉藤と村田。
道重は呆れて帰ろうと振り返ると、既に麦チョコの袋はどこかに吹き飛ばされていたのだった。
- 13 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/22(木) 03:54
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- 14 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/22(木) 03:55
- 視覚からも血生臭さが伝わってくる戦場の跡。
人間の輪郭さえしていない隊員の亡骸は一般装備の警官が吐き気をおさえながら火バサミで回収している。
ビル界隈のギャラリーは野次馬やマスコミを合わせて五百を超え、微かな異臭が漂う中警官隊と押し合いをしていた。
「なんやねん、これ……ホンマに日本か? ここ」
青紫のスーツの袖で口元を押さえながらビルの前に立ち尽くす中澤。
凄惨な現場を隠すため急いでブルーシートが張られていく。
ブルーシートの隙間からフラッシュが焚かれる。
そんな中小さな体で跳ねながら叫ぶ輩が、一人。
「裕ちゃん! 裕ちゃん入れて! 裕ちゃ〜ん!」
聞き覚えのある声に中澤はビル内に向かう歩を止めた。
中澤は声の主を見つけ、数秒視線をそらして思案すると矢口の元へと歩いていった。
うるさい小女を制止していた警官に適当な嘘と睨みをきかせ、矢口を中に入れた。
「なんで来たんや?」
「そんなことより裕ちゃん、久しぶりだね」
「……そやな」
矢口は振り向いてカメラを構えるマスコミ達に優越を振り撒くと、中澤の腕を掴んだ。
懐かしい感触と見上げる笑顔に中澤の頬がわずかに緩む。
すごいね裕ちゃん、と場違いな盛り上がり方をする矢口を連れ、中澤はビル内へと入っていった。
- 15 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/22(木) 03:55
- 「うわぁ〜……あぁ……あっ! ……ひゃ! ……うぅ……うえっ」
「もうちょっと静かにできんのかい」
「だってぇ、裕ちゃんは平気なの?」
「平気なわけあるか、ボケ」
肉片はほとんど回収されたものの血糊が壁紙をほとんど隠していて、その凄惨さを微塵も隠していない廊下。
現場検証を行なっていた警官の話によると、出動していた特殊部隊は地下金庫前、一階と地下一階の間の階段の踊り場、
一階廊下の三ヵ所に一部隊ずつの計三部隊。その三部隊全てが全滅。
現場の悲惨は一階廊下が一番マシだったらしく、最も凄惨だった階段の踊り場は骨までミンチにされた血肉が
階段や壁、天井に至るあらゆる場所に擦りつけられていたそうだ。
その話を聞いて矢口は吐いたが、中澤はなんとか耐えた。
「もう無理……出ようよ裕ちゃん」
「ならあんた一人で出えや。あたしは金庫も見に行かなあかんねん」
「……もうヤダ」
そう言いながらも中澤の袖を掴みついて行く矢口。
金庫につくと中澤はその場にいる警官に状況を聞いた。
中澤の予想していた通りの物だけが盗まれたらしい。
「矢口、お願いがあんねんけど」
「何? 気持ち悪いのはヤだよ」
「気持ち悪いことはないけど、ちょっとめんどくさいことなんや。頼まれてくれへん?」
「んまぁ裕ちゃんの頼みならなんでもいいけど……何?」
中澤は右口角だけニヤリを吊り上げた。
「ある連中を呼び集めて欲しいんや」
- 16 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/22(木) 03:55
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- 17 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/22(木) 03:55
- 「亜弥、早くお風呂入りなさい」
「は〜い」
同じやりとりをすること八回目。
リビングのテレビに釘付けの娘に業を煮やした母親は自分がお風呂に入る支度を始めた。
しかし、そんなこともお構いなしにテレビを見続ける松浦。
リポーターはあからさまに手と声を震わせ状況を伝えている。
死者百十二人。生存者はゼロ。犯人は逃走中。
とある局を抜かして全てのテレビ局が同じニュースを伝えている。
無意味にザッピングをしながら松浦は無邪気に笑った。
「すごいすごい」
「コラ、すごいなんていうもんじゃないぞ」
「ごめんなさ〜い」
パソコンで持ち帰った仕事をこなしている父親に怒られ仮初めの反省を見せるが、松浦の顔に笑みは張り付きっぱなしである。
廊下の向こうで母親がお風呂のドアを閉める音が聞こえたのを機に、松浦はテレビを消すと二階の自室へ戻った。
ベッドに寝転ぶと抱き枕を思い切り抱きしめ、笑顔を押し付ける。
松浦は出会ったのだった。運命の人達に。
「ついに見っけちゃったアタシ……んふふ」
右手をめいっぱい握り、堅くなった拳を今度は緩めて親指とその他の指で輪を作る。
右手を眺めて松浦はまた無邪気に笑った。
- 18 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/02/22(木) 03:56
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- 19 名前:紫人 投稿日:2007/02/22(木) 03:58
- 今回は以上。
まだ序章を続きます。
次回で終わらせます……。
>>9
今回も見えてませんね……スイマセン。
>>10
期待を裏切らぬよう頑張ります。
- 20 名前:名無し 投稿日:2007/02/23(金) 18:07
- 裕ちゃん登場!ますます楽しみです!
- 21 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:24
- 「お疲れ様〜」
「お疲れ様でしたぁ! さよなら〜」
マネージャーの車が見えなくなるまで小さく手を振る。
以前諸手を挙げてブンブン振り回していたらマネージャーに怒られたからだ。
バレたらどうする。
こっちは私生活でも見られてる部分はアイドルしようとしてるのに、久住は思った。
オートロックを抜けエレベーターに乗り、顔から薄く塗り固めていた笑みを払う。
月島きらりから久住小春に戻る瞬間である。
『自分なのに自分じゃない誰か』を家にまであげたくないと久住はいつもエレベーターの中で月島きらりを脱いでいるのだった。
久住はこの行為を『生まれ戻る』と呼んでいる。
エレベーターから降りると久住は誰もいない廊下を早足で歩いた。
鍵を乱暴に挿し込み、必ず閉めるほうに回してから開けるほうへ回す。
「ただいま」
電気もついていない玄関でその言葉は空しく響いた。
一人暮らしになってしまったせいで無駄な習慣がまだ抜けていないのだろう、久住は思った。
- 22 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:24
- 洗濯はするが炊事はあまりしない。掃除は普通。
ソファの下に落ちているクッションを拾い、ソファにだらしなく腰掛ける。
夕食代わり、とはいってももう二十三時を過ぎているのだが、久住はスナック菓子の袋を開けた。
今夜は新発売のスナック菓子、梅こんぶ味。
「ん〜ふふっふ〜……ふっふ〜んふ〜んふ〜」
今日一緒に仕事した歌手の歌を覚えている部分だけ鼻歌で歌う。
気持ち悪い歌い方をする歌手だったが歌自体は良い。
梅こんぶはアリだな、と思いながらテレビをつけた。
別に社会派を気取るつもりもないが、最近のバラエティ番組が低俗に騒ぐだけなのが嫌いなので
久住は帰宅が夜中になった時はニュース番組をつけることにしていた。
低俗ではないが、いつもは淡々としているニュース番組がなぜだか今日は騒がしかった。
上空からヘリコプターがどこかのビルを映しており、周辺に止まるパトカーは赤い光で満天の星空を地上に作っている。
ヘリコプターの音に負けないよう声を張るアナウンサーが時々声を裏返しながら何か喋っている。
「繰り返します! 死者百二十人! 生存者はい、いない模様です!」
自分がどぎついピンクのフリフリを着て歌っている時に何かあったらしい。
スナック菓子を噛む音のせいでテレビの音が聞こえにくいのだろうと音量を上げたが、まだ聞こえにくい。
音楽番組の後は耳がおかしくなるからかな、とも思ったのが原因はアナウンサーの異様なテンションだった。
- 23 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:25
- どうやら都心のビルで大量殺人があったらしく、警官隊が全滅したらしかった。
犯人は未だ逃走中らしい。よく住所を見てみると自分の住んでいる区で起こった事件ようだ。
それ以上のことを何故か言わないことに疑問と、同時に正解が思い浮かんだ。
「誰か先にやっちゃったんだぁ……」
普段はほとんど独り言を言わない久住が思わず呟いた一言。
湧いた感情は恐怖でも落胆でもなく、めんどくさいことが一つ減ったという安堵だった。
梅こんぶ味は後半飽きる。
でもよく考えてみればめんどくさいことが一つ増えたのか、久住は思った。
仕事が疲れたから今日はもう寝ようと思っていたが、時間は待ってくれないらしい。
せっかくあんなことしたんだから早めに行動しよう、久住は思った。
思いはしたがやはり疲れていたので、梅こんぶ味のスナックを食べ終わった後はクッションで指を拭くだけで立ち上がろうとはしなかった。
「あ〜めんどくさっ」
もう動こうと思っていたけどやっぱりやめた。今日は一旦寝よう。
マネージャーは明日部屋まで来てもらえばいいし、それから着替えよう。久住は思った。
ベッドに移動するのも面倒なのでソファでこのまま寝てしまおうと思ったが、ふとあることを思い出して大きな欠伸をしながら立ち上がった。
鼻つまもうかな、マスクは効果ないかな、息止めてればいいかな。
久住は洗面所へ向かうと、風呂場の扉を開ける前に大きく息を吸い込んだ。
頬を膨らませて風呂場に入る。
風呂の蓋をできるだけ触れないようにつまみながら開けた。
雑な体育座りをしている母親の亡骸が腐乱臭を漂わせている。
まいっか、久住は思った。
- 24 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:25
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- 25 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:25
- 「失礼します」
気だるそうなノックの後、気だるい声して、中澤はとある部屋に入った。
いかにも偉そうな人が座る椅子には偉い人が座っている。
「今日はすまなかったね」
「いいですよ別に。誰がやってもああなったでしょうし……」
「第一部隊が全滅した時点で逃げ出した司令官の代わりに司令官を頼むなんて、君のプライドが許さないと思っていたんだがね」
「だからもういいですよ」
中澤は苛立っていた。
こんなことを言う為に自分を呼んだのではないということがわかっているからだ。
偉い立場だけあってこの部屋は禁煙ではないので男はタバコを吸っている。
それもまた癇に障った。
「で、なんなんですか?」
「ん?」
中澤の表情が険しく歪む。
男はニタリと笑うと口の端から煙が漏れた。
煙草を消し、男は立ち上がる。
「今日からGHQ(Genocide Heart Queens)を始動させるとともに、君のGHQのリーダーをやってもらいたい」
「…………んふふふふ……あっはっはっはっはっはっはっはっは」
両手をお腹にあて笑う中澤。
そんな彼女をやさしく鋭い視線で見つめる男。
ひとしきり笑い終えると中澤は目じりに顔を出した涙を拭って、言った。
- 26 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:26
- 「こんなん笑い話ですよ」
「笑ってもらっても構わないが、こちらは本気だ」
男は笑顔こそ崩さなかったが、語気には明らかに威圧が乗っかっている。
「いいですよやりましょう。現場に行ったら血が騒いでしもうたし」
「そうか。……GHQがどういうものかはわかってるんだろうな?」
「そら知ってますよ。何をしても許されるんですよね?」
中澤が不敵に笑う。
何をしても許されるか……、と呟いて椅子に座る男。
高そうな椅子がギシリと音を立てた。
「もちろん目的も知ってるんだろうね?」
「ええ、そりゃ」
「私のコレクションを使うかい? 今いいのが二つあるんだが」
「遠慮しときます。こんな事になるだろうと思ってもう手はうってますから。それより……」
中澤は一枚のカードを差し出した。
黒ずんだ血にカードの端々は汚されているが、中心に書かれた文字ははっきりと読み取れる。
「これは?」
「倉庫に落ちてたもんです。……そこに書かれてること読んだら笑ってまうでしょ?」
男はカードを手に取り眺めると、たしかに、と鼻で笑う。
そして典型的な日本の親父的な風貌からは想像もできないほど完璧なアクセントと発音でカードの文字を読んだ。
「The World Is Mine」
- 27 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:26
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- 28 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:26
- 「スイマセーン! ビールもうひと、あっ、二つお願いします!」
藤本は空のビールジョッキを掲げて叫ぶと、幾度となくそのテーブルにビールを運んだ店員は呆れ顔で返事をした。
肉はまだ三人前は残っているかという状態なのだが既に吉澤と石川の箸は止まっている。
後藤は一枚一枚肉を焼いては食べ、藤本は石川の残した二口分のビールを勝手に飲んでいる。
「新しいビール梨華ちゃんの分、もうすぐ来るよ」
「もういいよ私は〜」
「じゃあ美貴が飲むからね」
石川は机に寝そべりながら脳内で飛び回る重力と戦っている。
藤本は石川の分を吉澤にすすめるが断られ、嬉しそうに二杯飲むことを宣言した。
骨付きカルビの焼け具合を覗いている後藤に吉澤は言った。
「ごっちん、今日盗んだ書類を入れて五枚あるんだよね?」
「そうだよ」
「他のも今日盗んだやつみたいに一枚ずつなの?」
「さあね。でもそうじゃないかなぁ?」
「めんどくさいなー」
盗んだ書類を後藤から貸してもらい見てみるが何が書いてあるかさっぱりわからない吉澤。
家帰らないとあたしも読めないけどね、と後藤。
後藤に書類を返すと掘りごたつの中で足を伸ばし、両手を床について吉澤は背筋を伸びた。
丸くなっている石川の背中が視界に入り、気まぐれで背中を撫でながら吉澤は言った。
「これでホントに世界が手に入るわけ?」
「入るよ」
後藤が簡単に答えたのと同時に店員がビールを持ってきたので、後藤の返事は藤本のビールの催促の声にかき消されてしまったのだった。
- 29 名前:序章 〜遭〜 投稿日:2007/03/12(月) 01:26
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- 30 名前:紫人 投稿日:2007/03/12(月) 01:27
- 今回は以上。
これで序章は終わりです。
まだ何の話か具体的にわからないと思いますが……。
>>20
ありがとうございます。頑張ります。
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