ルーズボール
- 1 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:24
- 新スレ立てさせていただきます。cloverです。
同板でいくつか書かせていただいていました。そちらも宜しくです。
前スレ Comparison
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1159091691/
こちらで書かせてもらう話しの登場人物は
亀井、吉澤、藤本、新垣、道重、辻、石川、小川、後藤、柴田、松浦、アヤカ・・・
今の予定です。増えるかも・・・
では、宜しくお願いします。
- 2 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:25
-
1.ブザービーター
- 3 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:26
- 広い体育館。スタンドは人が埋まっている。スコアボードには73−75と示されている。
自分よりも30センチ以上高いプレーヤーに囲まれている藤本はタイムボードに目をやり残りの時間を確認した。
あと、3分。ボールは相手チームにキープされたままだ。回し続けて逃げ切るつもりだろうか。
藤本はチャンスがないかとボールを目で追った。バウンドパスをする、そう思った瞬間、藤本は駆け出した。
カットしたボールをドリブルしてゴールに向かう藤本。足には自信がある。他のプレーヤーより身長がない分、このコートに居る誰よりもスピードはあると確信している。向かってきたディフェンスを確認するとその先にあるバスケットを確認した。明らかにミスマッチだ。
身長差がありすぎる藤本は腰を落として更に体制を低くするとスピードを上げ難なくディフェンスを交わした。
- 4 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:26
- スリーポイント。逆転するにはそれしかない。
周囲を気にしながら藤本はラインを確認するとその手前で踏み切った。
手首のスナップを利かせてショットした瞬間にブザーがなった。
入れ。と願い、自分の手から離れたボールの行方を目で追いかける。ストンとバスケットから落ちて床に転がるボール。その瞬間に藤本の回りをチームメイト囲んだ。周囲からは藤本の姿は見えないだろう。囲まれたその中央で藤本は伸びてくる数本の手にもみくちゃにされていた。
76−75
藤本はチームメイトや観客に笑顔を向けていた。
ここでの最後の試合。
頑張ってきた3年半の集大成。
- 5 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:26
- タオルで汗を拭きながら「How do you feel?」と尋ねるチームメイトに「I'm feeling on top of the world!」と応えた。
明後日、日本に帰る。
藤本は18歳の夏にこの土地にやって来た。入学した大学の提携校に留学と言う形で。
3月、大学を卒業する。卒業式は日本の大学の式に出席する予定だ。
あの子はどうしているだろうか。藤本はベンチコートを羽織るとポケットからケースを取り出した。
- 6 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:27
- 「また見てる。」と覗き込んできたのは寮で隣の部屋のケイトだ。「可愛いでしょ。」と藤本はケースの中にいる人物を見て微笑んだ。
ケイトは悲しそうに藤本を見ると肩にポンと乗せてから更衣室に消えていった。
- 7 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:28
- 異国に来た藤本はコミュニケーションをとることに必死だった。バスケットボールは何とかなってもその他で言葉を交わしても中々、分かってもらえず、苦労をしていた。日本に残してきた恋人と連絡を取る時間すら余り持てないほど、部活と英会話の勉強に追われる生活を1年送っていた。その間、日本から毎週来ていた手紙は月に2回になり1回になり数ヶ月に1回になり、藤本の生活に余裕が出てきて返事を書こうと思ったころにそれは既に途絶えていた。
手紙と一緒にいつも同封されている写真。藤本はそれをケースに入れていつも大切に持っていた。遠距離恋愛になって3年半。恋人は21歳になっているはずだが、ケースの中にいる恋人は18歳のものしかないのはそのせいだ。
携帯電話に残る恋人からの受信メール。返信のマークが残されているものは4件だけだ。最後の受信も3年前だ。
その後、何度か送ってみたが送信されることは無かった。アドレスは変更され、登録してある番号に繋がることも無かった。
- 8 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:28
- 高校卒業後は専門学校に進学。
同時に一人暮らしを始めている。
携帯は変えた後、教えてもらっていない。
幼馴染に連絡を取って知り得た自分の恋人の情報。
忙しい幼馴染も余り連絡は取っていないらしい。恋人以上に連絡を取り合っていても腹立たしいが、こんなときばかりはどうしてと思ってしまう。
- 9 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/14(水) 00:29
- ここで自分がするべきことは全てやった。自身を持って堂々と日本に帰れる。
日本に帰ったら、あの子が待ってるはずだ。
藤本は「よしっ。」と自分に気合を入れると更衣室に向かった。
- 10 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:33
- 本日の更新以上です。
>>2-8 ルーズボール 1.ブザービーター
いきなり名前変え忘れました・・・。Σ(-。-*)oガーン!
徐々に人物が出てきますので。
宜しくお願いします。
※あまりバスケットを知らないので・・・(スミマセン)
色々、違うところがあるかも知れないですがご了承ください。
- 11 名前:clover 投稿日:2007/02/14(水) 00:40
- 本日の更新以上です。
>>2-9 ルーズボール 1.ブザービーター
間違えました。すみません。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/14(水) 19:33
- 新作待ってました(^O^)
登場人物にワクワクです。
どんなカップリングになるのだろう次回更新楽しみにしてます。
頑張ってください
- 13 名前:名無し 投稿日:2007/02/14(水) 22:25
- 新作うううううーーーー!!!!!
頑張ってください!!!
- 14 名前:ももんが 投稿日:2007/02/15(木) 08:08
- 新作いよいよ始まったんですね♪
今回も更新楽しみにしてます。
- 15 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/15(木) 21:28
- おお新作が始まってる!おもしろそうですね〜
ちなみに自分バスケやってましたが表現とか全然違和感ないので安心してください☆
期待してます!
- 16 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/15(木) 22:02
-
2.知らない女性
- 17 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/15(木) 22:06
- 3月に入りもう春の陽気になっている。
亀井絵里は久々のデートに浮かれていた。
亀井はミニスカートにタンクトップに肩の大きく開いた長袖の上着を重ね春らしい格好をして電車に揺られている。
隣に座り亀井の微笑みに微笑みを返すのは恋人の吉澤ひとみ。
付き合いだして2年が過ぎた。
透き通る様な白い肌、綺麗な大きな瞳、小さな唇、筋の通った鼻が作り出す顔、細身の身体に160センチを超える身長を持つ吉澤はそこら辺のモデルよるも美しく、スタイルも抜群だ。
そんな恋人が自慢でもある亀井は、吉澤の顔を見るたびに笑みが零れてしまう。
- 18 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/15(木) 22:06
- 初めて会ったのはバイト先の喫茶店だった。
吉澤よりも1週間早くバイトを始めていた亀井は面接に来た吉澤に見惚れた。
それから一緒に働くようになり、吉澤の見せる笑顔や真面目な表情に惹かれた。もちろん惹かれたのは外見だけではない、吉澤はいつだって優しくて、親切で何より、亀井のギャグに笑ってくれる人だった。
亀井は窓の外に目を向けたが景色は見れない。
「3駅目、かな。」と亀井の視線に気がついた吉澤は目的の駅までもう直ぐだと教えた。亀井は路線図に視線を向け目を細める。
午前中に有楽町で映画を見て日比谷から千代田線に乗った。緑色の線を追いながら目的の駅を見つけ2つ手前の駅名を確認した。
「次は乃木坂?」
「うん。」と返事をする吉澤の声と同時に「乃木坂」に着くという車内アナウンスが流れ窓からホームの明かりが差し込んでくる。平日の昼間とは言え車内はそれほど空いてはいない。それでもゆったりと座っていた。亀井はホームに並ぶ人を見ると「へへ。」と笑い吉澤の方へ寄り、隣に一人座れるスペースを作った。一番端に座っていた吉澤もニコリと笑い少しずれる。それに続けて亀井もまた同じようにずれた。電車が止まり扉が開くと直ぐにおばさんが亀井の隣のスペースを見つけて腰を降ろす。
小太りのおばさんにそれは狭かったらしく動き出した電車の反動と共に亀井の身体におばさんの身体がのしかかった。亀井は顔をしかめると更に吉澤へ寄った。
「大丈夫?」
「うん。」と亀井は吉澤の腕に絡みついた。「こうしたら大丈夫。」と微笑む。
亀井の隣でゆったりと座っているおばさんを見た吉澤は母親は元気だろうか、としばらく会っていない母親を思った。
- 19 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/15(木) 22:07
- 「吉澤さん?」と亀井は不思議そうに吉澤を見上げた。
「うちの母さんもあんな感じなんだ。」吉澤は微笑み亀井の耳元に口を寄せると小声で囁いた。「そうなの?」と笑う亀井。
「会いたいな吉澤さんのお母さん。」
「じゃ、今度。うちもしばらく会ってないしね。」
「やった。」と亀井は嬉しそうに吉澤の腕に頬を寄せた。
電車は表参道の駅に止まった。半蔵門線と銀座線に乗り換えられるこの駅の利用者は多く空いた席は直ぐに埋まっていく。
杖を突いた老婆が乗ってきたにもかかわらず優先席に座ったままのサラリーマンと学生らしき人を亀井は戸惑った表情で眺めていた。空いている席は無いかと視線を巡らす老婆と視線が合った亀井は直ぐに立ち上がり「どうぞ。」と微笑んだ。
「すみません。」と頭を下げ歩み寄る老婆。だが動き出した電車の揺れにバランスを崩した。
その手を亀井より先に掴んだ吉澤じゃ老婆を自分たちが座っていた席に座らせる。
「ありがとうございます。」と頭を下げる老婆に「次、降りますから。大丈夫ですよ。」と微笑む吉澤。
亀井は振り返り自分たちのやり取りを傍観している優先席のサラリーマンを見た。
「亀ちゃん。降りるよ。」吉澤は嫌悪を表している亀井に苦笑しながら手を引き扉に歩を進めた。
- 20 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/15(木) 22:07
- 明治神宮前の駅のホームの光に目を細め「優先席なのに。」と呟くと亀井は再び優先席に目をやった。吉澤は亀井の手を引きながら明治神宮のホームに降り立ち走り去っていく電車を眺め「疲れてるんだよ。サラリーマンも。」と呟いた。
納得がいかないと言う顔を見せる亀井に「行こう。」と微笑み手を引いて改札がある上階に繋がるエスカレータに向かった。
亀井はあんな大人になりたくないと思いながら吉澤に手を引かれ先にエスカレータに乗った。直ぐ後ろに吉澤が乗り手が繋がれたままなことに笑顔を見せる亀井。
そんな亀井の様子を吉澤は微笑み見ている。
「今日は何が目的なのか、そろそろ教えてくれない?」と吉澤は嬉しそうに笑う亀井に尋ねた。
亀井は「まだ、内緒。」とエスカレータを降りると繋いでいた手を解き先に改札を抜けると早くと促すように手を差し出し吉澤が改札を抜けるのを待った。吉澤は歩を早め亀井の手を取ると壁にある出口案内に視線を向け足を止める。「目的によって出口変わってくるけど?」どうするんだ、と亀井を見た。
「こっちかな。」と不安気な表情で亀井はJR原宿駅と繋がる2番出口へ歩を進める。
吉澤は「大丈夫かな。」と呟きながら亀井に手を引かれ歩いた。エスカレータを使って地上に上がると人がごった返していた。
JRに乗り換えるのかと思っていた吉澤だったが、亀井が横断歩道を渡ろうとした。
渋谷に向かうのだろうか、それともラフォーレかソニプラか・・・いや、だったら最初からそっちの出口から出るか、と色々考えながら通りかかるショップを覗く亀井の横顔をみていた。覗くショップに統一性はないことから買うものは決まっていないのだろうと予想が出来る。
吉澤は何も言葉にはせずに亀井の歩調に自然と合わせた。
亀井は神宮前の交差点で立ち止まると「こっちかな。」と不安げに呟き、信号が青なのを確認して人ごみと一緒に渡る。
「表参道ヒルズなら真っ直ぐだよ。」吉澤は今歩いて来た表参道を指差し言うと「違うの。」と亀井は困った顔を見せ明治通りを渋谷に向かって歩みを進めた。吉澤はどうしたものかと困りながら今日は有給を取ったのだから1日亀井に付き合おうと亀井が歩を緩めて店を覗けば一緒になってその店を覗き込んだ。きっと、こうしているうちに亀井の目的も分かってくるだろうと期待をしながら。
「吉澤さん。」
足を止めた亀井は吉澤を見上げ困った表情をした。
亀井の頭を撫でた吉澤は「どうした?」と目を見つめた。
- 21 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/15(木) 22:08
- 立ち止まる二人を避けるように若者たちが渋谷に向かって歩いていった。
通行の邪魔になると思った吉澤は亀井の肩を抱いて道の端に移動した。
「亀ちゃん?」
俯く亀井に声をかける吉澤。亀井は「ギプあっぷ。」と呟いた。
吉澤はそれを聞くとクスっと笑って亀井の頭を撫でた。
分かったのだ、亀井が何をしにここに来たのか。そして、何を探そうとしていたのか。
この数日、亀井は吉澤が身に着けているアクセサリーのことを色々聞いていた、来月は自分の誕生日だ。
「こっちかな。」
吉澤は亀井の手を引いて路地に入っていった。
表の通りではない、裏通りにあるショップで吉澤はアクセサリーを買っていた。
オリジナルのものばかり、一つ一つが手作りで作り手の思いが込められている。
亀井がつけている、可愛らしいものとは違う吉澤はハードなシルバーアクセサリーを好んでつけていた。
「こんなところ、こないよ。」
亀井はショップを見ながら悔しそうに呟く。吉澤は「うちも、久々だよ。」と先にある店を見ながら呟いた。
ここ数年、こちらに足を運んでなかった。亀井が見るような店はこの辺りにはない。
- 22 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/15(木) 22:09
- 「あぁ。こういうのだ。」
ショップの前に来ると亀井は嬉しそうに吉澤の手を離し駆け出した。
吉澤は「ころぶなよ。」と笑い亀井の後を追った。
店の前に並ぶ商品を手に取り「ごっつい。」と笑う亀井に「かっけーじゃん。」と吉澤。
「絵里、こんなの付けたら凄くない?」
「似合うよ。案外。」
「ジーンズのときとか?」
「うん。これとかさ。バタフライだし。」吉澤は手に取ったペンダントを亀井の胸に当てて見た。
「似合う?」
「うん、いいんじゃない?」
「違う、違う、絵里じゃなくて吉澤さんの探すの。」
亀井は身体の向きを変えた。吉澤は「とうとう、はいたな。」と笑う吉澤に亀井はしまったと口を押さえた。
そんな亀井の隣で「どれがいいかなー。」と吉澤はリングを手に取り見た。
- 23 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/15(木) 22:09
- 「これ、カッコイイね。」いくつ目かのリングを亀井が吉澤の細い指に嵌めた。
「似合うよ。」と亀井は笑顔で顔を上げる。吉澤がリングでも自分でもなく店に目を向けていることを亀井は不思議に思いながら「吉澤さん?」と呟いた。亀井の呼びかけに反応を示さない吉澤。亀井はもう一度、店に視線を戻しハッとした表情を見せた。
吉澤は店の中を見ていたわけではない。店の窓に映る小柄な女性を見ていたのだ。
亀井は驚いたように振り替えるとそこには窓に映る女性が立っていた。だが、亀井の動きなど全く視界に入っていないのか窓越しに吉澤をじっと見ている。
「吉澤さん。知り合いなの?」亀井は吉澤の腕を引っ張り自分に意識を向かせた。「行こう。」と吉澤は指にはまっているリングを抜くともとあった場所に戻し亀井の手を引いた。直ぐ後ろに立っていた女性を素通りし明治通りに向かって歩みを速めた。
「えっ?買わないの?似合ってたのに。」と店を振り返った亀井はそれ以上なにも言わなかった。
女性がこちらを見ていたからだ。リングよりもそっちの方が気になった。亀井は吉澤の横顔を見上げながら歩いた。怒っているようにも悲しそうにも見える吉澤の横顔。亀井は初めて吉澤のそんな表情を見た。
- 24 名前:clover 投稿日:2007/02/15(木) 22:19
- 本日の更新以上です。
>>16-23 ルーズボール 2.知らない女性
田中さんも出てきます。書き忘れてた。
出しすぎたかも・・・なんて今更後悔してたりしてますがw
頑張って書いていこうと思います。
>>12 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>登場人物にワクワクです。
>どんなカップリングになるのだろう次回更新楽しみにしてます。
どうしよー。ってなってる自分が居たりするんですがw
>頑張ってください
頑張ります。今後もよろしくです。
>>13 :名無し 様
レスありがとうございます。
>新作うううううーーーー!!!!!
はい、新作ですw
>頑張ってください!!!
がんばります。今後もよろしくです。
>>14 :ももんが 様
レスありがとうございます。
>新作いよいよ始まったんですね♪
始めました。またこちらでも宜しくお願いします。レス、励みになるので。
>今回も更新楽しみにしてます。
ありがとうございます。がんばります。
>>15 :naanasshi 様
レスありがとうございます。
>おお新作が始まってる!おもしろそうですね〜
始めました。ありがとうございます。またよろしくお願いします。
>ちなみに自分バスケやってましたが表現とか全然違和感ないので安心してください☆
よかったwありがとうございます。
>期待してます!
頑張りますので今後もよろしくです。
- 25 名前:ももんが 投稿日:2007/02/16(金) 12:24
- 更新おつかれさまです。
謎の女性、気になります・・・。
自分の中で亀井さん熱がどんどん上がってます!
- 26 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/16(金) 16:18
- 新作始まってたんですね。
自分の中では大好きな組み合わせです。すでにどっぷり引きこまれました。
やっぱりcloverさんの作品は染みます。
次回更新も楽しみにしています。
- 27 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/16(金) 20:42
- 早くも更新お疲れ様です
これから波乱がたくさん起きそうですねえ
出演者が多いのも楽しみです
- 28 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:07
-
3.バスケットボールファン
- 29 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:08
- 吉澤に家まで送ってもらった亀井は自分の部屋に入るとカバンをベッドに投げ立ち尽くしていた。
「ヤバイ・・・」と亀井は呟くとベッドに飛び乗り今投げたカバンを開けて携帯を取り出しリダイヤルから番号を呼び出すと通話ボタンを押した。
『もしも・・・。』
「ガキさん、今、家?」と相手が電話に出るなり直ぐに尋ねる亀井。
『家だけど、どうし・・・。』
「今、行くから。」と亀井はまた、相手の言葉を最後で聞かず電話を切ると直ぐにカバンを持って部屋を出た。
- 30 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:09
- 階段を駆け下りキッチンで夕食の支度をしている母親に「夕飯いらないから。」と大きな声で叫びながら靴を履く。「どこいくの?」と言う母親の声に「ガキさんち。」と応え慌てて家を出て行った。
家の前の通りを突き当りまで掛け左に曲がる。3月もまだ、夕方になると冷える。亀井は上着を持ってくれば良かったと後悔しながら住宅地を走った。2つ目の通りを右に曲がって3件目の【新垣】と表札のある洋風の大きな家の前で足を止めると息を乱しながらインターホンを押し横にあるカメラの前に顔を寄せた。
『かめー。どうぞ。』と聞こえると直ぐに亀井は門を開け家の中に入っていった。玄関ではスリッパを出している新垣里沙の姿があった。
- 31 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:09
- 「かぁめ。あのさ、あんた人に電話かけてきて、一方的に話して切るのやめなよね。」と靴を脱ぐ亀井の背中に言う新垣。「あんたね、私だから、いいようなものの、他の人にあんな電話したら失礼だからね。」スリッパを履く亀井の顔を覗きこむ新垣に亀井は「うん、ガキさんにしかしないから安心して。」と笑顔を向け先に新垣の部屋に歩を進める。新垣は肩を落としながらその後に続いた。
亀井とは腐れ縁だと新垣は思っている。
2ヶ月違いで生まれ、たまたま近所に住んでいた。だから通う幼稚園も同じだった。そこから始まった腐れ縁。
同い年なのに、亀井は新垣に甘え、頼る子だった。新垣もそれをなんだかんだ言って受け入れてしまう子。その関係は幼稚園の頃から始まっていた。小学校は同じではなかった。新垣は私立に通い亀井は公立だった。同じ小学校に通う友達と遊んでいた亀井だったが、新垣のように何でも受け入れてくれる子共は少なく、気を使うようになっていた。電車で学校に通っていた新垣と距離を置くようになっていたがやはり新垣と遊んだ方が楽しかった亀井は新垣の家に通うようになっていた。亀井は中学受験を決めたのは新垣と同じ中学に通うためだった。見事に合格した亀井は内部進学した新垣に甘え楽しい中学、高校生活を送ることになった。
- 32 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:10
- 「ガキさん、紅茶いれてー。」と新垣の広い部屋に入りソファに座る亀井に「あんたねー。ずうずうしいっての。」と文句を言いながらそれでもポットに手を伸ばす新垣。
貿易関係の会社の社長らしい新垣の父親。大きな洋館のような家はいつ来ても綺麗になっている。新垣の部屋も亀井の部屋とは違い整理整頓がされ毎日、掃除をしているのだろうかと亀井は疑問に思う。亀井の部屋は洋服がそこらじゅうに散乱している。吉澤を招く前の日はいつも掃除が大変だった。片付いている新垣の部屋を関心しながら新垣が紅茶を入れるのを待った。
まだ、一杯しか入れていないからいいだろうと新垣はティポットにお湯を入れカップに注ぐと亀井の前に差し出し「で、どーしたのよ。慌ててたみたいだけど。」と切り出した。
亀井は「ありがと。」と呟き差し出されたカップに口をつける。新垣は様子を見ながら自分のカップにもそれを注いだ。
- 33 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:10
- 「今日ね映画みたの。」亀井はカップを戻した。
「日比谷でね。」
「吉澤さんとデートでなんかあったの?」新垣は心配そうに亀井を見つめる。
「楽しかったよ映画。それから原宿行ったの。」
「もう直ぐ、だっけ。誕生日。」
亀井は頷くと悲しそうな顔をする。新垣は何か、まずいことを言ってしまったのかと焦りながら亀井の隣に移動した。
「亀、どうした?」優しく尋ねる新垣に亀井は助けを求めるような目をした。
「絵里が知らない女の人と会ったの。」
「うん。」
「その後、吉澤さん急に帰ろうって言い出して・・・。」亀井は新垣から視線を外し目を閉じた。「それから女の人のこと聞いても知らないって言うし、まだ、帰りたくないって言うとごめんねしか言わないで家まで送ってくれて帰っちゃったの。」新垣は難しい顔をしながら亀井の話しを聞いていた。吉澤のことは良く知っている。優しくて、真面目で何より亀井絵里を大切に思ってる人だ。
- 34 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:10
- 「浮気してるのかな。」亀井の小さな呟きに新垣は「ないよ。それは。」と否定した。
「だって、嘘ついているんだよ。知らないわけないのに知らないって。」目に涙を溜めた亀井は新垣を見た。新垣は困った顔をしながらも吉澤が嘘をつく人だとはどうしても思えなかった。
「嘘、じゃなくてさ。吉澤さん自身が会いたくない人とか・・・。」思ったことをそのまま口にした新垣に亀井は「そうかな。」と涙を拭った。
「思ったんだけど・・・。」新垣は亀井にティッシュを渡した。「知り合う前の吉澤さんのことってあんまり知らないよね。」新垣はまた数枚ティッシュを取り出し渡した。「朝日学園のバスケ部だったことくらいしか知らないもんね。亀、他に知ってる?」亀井はティッシュで鼻をかみながら首を左右に動かした。
新垣は亀井が投げたティッシュを手に取り立ち上がるとゴミ箱にそれを投げ入れた。
- 35 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:11
- 「ガキさん?」と本棚の前で腕を組む新垣を眺める亀井。新垣は本棚にびっしりと埋まる雑誌の背表紙を指で追いかけた。「吉澤さんが高校生のころって2千何年だっけ。初めて会ったのが2年前だから、その前だよねー。」新垣はしゃがみこみ下の方にある雑誌を一冊取り出した。「2003年くらいかな。」亀井は立ち上がると新垣の隣にしゃがみこみ開かれた雑誌を覗き込む。
「これ、のんつぁん。だ。」と雑誌の中の人物を指差す亀井。「ホントだ。んーとのんつぁんが1年だから。吉澤さんもう引退しているね。夏の雑誌だね。」新垣は手にある雑誌を元の位置に戻し「夏、夏。」と呟きながらその年の7月8月の二冊を取り出しパラパラとページを捲っていく。亀井はもう一冊の雑誌を同じようにパラパラまくるが何も載ってい「最後の試合駄目だったって言ってたから載ってないかも。」と閉じた雑誌を床に置きびっしりと並ぶ雑誌を見ると「ガキさん、バスケオタクだよねぇ。」と笑う。新垣は「うるさいよ。」と言いながらページを捲る。本当なら自分もバスケをやっていたかった。小学生のころにミニバスに入ったが自分には余りバスケセンスというものがないことと身長が伸びなかったことを理由に諦めた。「載ってないね。あ・・・」新垣は床に置かれた雑誌と手にある雑誌を戻すと2001年と2002年の夏の雑誌を取り出した。
「どうしたの?」と覗き込む亀井。「藤本美貴って確か朝日学園だったんだよ。確か全国優勝してるからその年なら写真あるよ。」新垣は特集ページを探した。
- 36 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:12
- 「だれ、藤本美貴って。」
「最近日本に帰ってきたんだけど・・・。あった。これだ。」新垣は亀井に写真を指差して見せた。
「どれどれ。えぇーっとあ、いた。吉澤さんだ。」亀井の指先には金髪の吉澤の姿があった。亀井の指が吉澤の隣に居る少女に移動した。「藤本美貴だ。」新垣がその少女の名を口にする。
- 37 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:12
- 「今日、会った人。多分この人。」亀井は雑誌から顔を上げソファに戻った。
やっぱり知ってる人じゃないかと亀井は落胆した。どうして言ってくれないのだろうとう疑問で一杯になる。
「先輩じゃん。知ってるじゃん。」と呟く亀井に新垣は「かめー。落ち着け。」と言葉をかけ雑誌に目を通した。
2年でレギュラーとしてチームに貢献した藤本美貴の活躍ぶりがそこに書かれていた。新垣は読み終えると雑誌を元に戻し、最新の雑誌を手にとってソファに戻る。亀井は膝を抱えて落ち込んでいる。
「かめー。ホントにこの人だった?」と最新の雑誌を開いて見せた。ジーンズにタンクトップ姿やユニホームにボールを抱えた藤本美貴の姿と155センチの小さなポイントゲッターという文字があった。
頷く亀井を確認した新垣は本物の藤本美貴に会った亀井を羨ましく思いながら雑誌を閉じた。
- 38 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/16(金) 23:13
- 「ってことは、さゆに電話するか。」新垣は雑誌を戻すと机の上の充電中の携帯を手に取る。
「なんで、さゆ?」不思議そう言う亀井の隣に戻った新垣は携帯の電話帳を開いた。「さゆに電話してのんつぁんに話し聞かせてもらうの。知ってるかも知れないじゃん。吉澤さんと藤本美貴のこと。」目的の番号を画面に表示させ「でしょ。」と亀井に視線を向ける。「うん。」と亀井は少し不安な表情を見せる。「のんつぁんが知ってるとは限らないしね。」新垣はそう言ってから通話ボタンを押した。
- 39 名前:clover 投稿日:2007/02/16(金) 23:20
- 本日の更新以上です。
>>28-38 ルーズボール 3.バスケットボールファン
スタートダッシュwいつまで続くんだって話ですがw
保田さんも出ます・・・あと誰だろw
>>25 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>謎の女性、気になります・・・。
あっさりばらしましたw
>自分の中で亀井さん熱がどんどん上がってます!
亀井さんいいっすよねw
>>26 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
>新作始まってたんですね。
はい、始まってました〜。宜しくです。
>自分の中では大好きな組み合わせです。すでにどっぷり引きこまれました。
おぉっ、頑張らねばw
>やっぱりcloverさんの作品は染みます。
有り難うございます。励みに頑張ります。
>>27 :naanasshi 様
レス有り難うございます。
>早くも更新お疲れ様です
最初だけですw
>これから波乱がたくさん起きそうですねえ
そうですねw人が多い分w
>出演者が多いのも楽しみです
カップリングに悩んでますw
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/17(土) 02:14
- いま流行のさゆみきに期待してみるw
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/17(土) 09:43
- 美貴様キタァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*☆
- 42 名前:ももんが 投稿日:2007/02/17(土) 21:10
- 更新お疲れ様です。
謎の女性の正体が分かってスッキリです!
ガキさん面倒見いいなあ。
- 43 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:00
-
4.隣の部屋のネコ
- 44 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:01
- つい先日、高校を卒業した亀井は土日が休みの吉澤に合わせ土日以外をバイトで埋めていた。土日の方がバイトの時給がいいのに自分に合わせてそうしている亀井の気持ちを吉澤はよく分かっていた。
仕事の合間に見た雑誌で亀井が見たいといっていた映画が火曜日で終わってしまうことを知った吉澤は有給を使い亀井を映画に誘った。まさか、藤本美貴に会うなんて予想もしていなかった吉澤は逃げるように亀井を自宅に送り届け家に帰った。
- 45 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:01
- 吉澤がソファに座り込むなり、勝手に家の中に入ってきた猫。吉澤は気にもせず、何も映っていない真っ黒な画面のテレビを眺める
田中れいなは「お帰り。」と呟きキッチンに向かうとヤカンに水を入れコンロに乗せるとボッと火をつけた。
いつもなら「お前学校は?」と聞いてくるのに何も言わずにぼけっとしている吉澤をシンクに寄りかかりながら眺めていた。
- 46 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:02
- 吉澤と知り合って2年が過ぎた。まだ吉澤が専門学生で就職活動中だった。両親が離婚してどちらにも付いていく気になれなかった田中は高校進学と同時に福岡を出て東京に居る祖父母の近くで一人暮らしをさせてもらうことにした。
吉澤という人物は親切で優しい人で寂しがりやなのだろう、田中はそう思っていた。高校1年で一人暮らしをしている田中に何も聞かず親切にしてくれた。どの店は何が安いだの今日はあっちの店で特売があるから行かないかとか気にかけてくれる優しいお姉さんだった。一緒にいても気を使わないでいい田中にとって本当の姉のような存在。一方で吉澤も勝手に自分の家に居たり用も無いのにあがりこんで泊まっていく田中をなんだか飼い猫のように思え可愛がっている。
- 47 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:02
- ヤカンがお湯が沸いたことを知らせると田中は火を止めて2つのカップにココアの粉を入れお湯を注いだ。クルクルとカップのなかの茶色い液体をかき混ぜスプーンでそれを掬うと口に運んだ。「うん。上出来。」と呟き、それをもって吉澤のもとへ移動する。
「早かったとね。絵里と喧嘩でもしたと?」田中はカップをローテーブルに置いた。
吉澤は無言で田中が持ってきたカップを手に取りフーフーと息を吹きかけてからゴクっと一口喉に通した。田中は吉澤の向かい、膝を抱えてちょこんと座り、吉澤の様子を上目遣いに眺めていた。
- 48 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:03
- 吉澤はカップをテーブルに戻すと田中を視界に捉え「あ、れいないたんだ。」と呟く。
「いたとぉ。居るからココアつくったんやろ。大体、ドア開いたの気がつかんわけながろーが。」田中は目を細め自分の存在を訴える。「ネコかと思ってた。」吉澤は無表情のまま再びカップを口に運んだ。「ネコっちゃネコっちゃけど・・・」田中はアゴに人差し指を置き呟いた。「れーなは人間やけん。ネコじゃなか。」テーブルをパンと叩いた田中は未だ無表情な吉澤を見て首を傾げた。いつもならネコっぽいだろうがと笑うはずなのに卿に限ってはそうじゃない。本当に亀井と何かあったのかと心配そうな表情を見せた。
- 49 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:03
- 「本当になんかあったと?」床をズルズルと張って田中は吉澤の足元に移動すると「大丈夫?」と尋ねる。吉澤は田中のアゴを人差し指で撫でた。「ゴロロ・・・。」とネコの鳴き声を真似し目を細める田中。
「ほら、やっぱりネコじゃん。」吉澤はやっと笑うと田中の頭を撫でた。「ネコじゃなか、人間ったい。」田中は吉澤が笑ったことにほっと胸をなでおろした。そんな田中の顔を見た吉澤は気を使ってくれていることに心の中で感謝した。頭の中から町であった藤本のことが離れない。田中には何でも話してきた亀井とのことも仕事のことも専門学生だったころから田中には何でも話してきた。孤独だと思っている子だから、それは違うんだと知って欲しくて、何でも話した。そして話したことで吉澤自身も田中と同じ感情を満たしてきたのだ。自分は孤独ではないかもしれないという感情を。
- 50 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:04
- 「美貴に会ったんだ。」吉澤はカップを両手に包み込むように持った。田中は正座をするとじっと吉澤の顔を見つめていた。吉澤は一度、田中の表情を確認するとカップに視線を戻す。
「美貴、藤本美貴。幼馴染なんだ。高校までずっと一緒だった。大学行って直ぐに留学して・・・帰ってきてるなんて知らなかった。まさか、あんなところで会うなんて思ってなかった。」持っていたカップをテーブルに置くと膝を胸に引き寄せアゴを乗せた。「逃げてきた。亀ちゃんの顔もまともに見れなくて、何聞かれても何も言ってあげられなくて。」吉澤は田中に視線を向け「逃げてきたんだ。」と呟いた。
「幼馴染がおったとね。」田中は吉澤の悲しい視線を受け止めながら微笑んだ。「大丈夫ったい。絵里はそんなこと怒ったりするような子じゃないけん。」吉澤は「そうだね。」と呟き心配する田中を安心させるように微笑んだ。
「でも、なんで逃げたと?」田中の質問に吉澤は目を細めて渋い顔をする。
「わかんねー。」
「自分のことなのに?」
「見られたくなかったんだ。亀ちゃんといるところ・・・。多分、そうなんだと思う・・・。」
「その人となんかあったっちゃろ。」田中は全部言ってしまえと目で訴えた。吉澤は苦笑すると目を閉じる。
- 51 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 01:04
- 「初恋の人。初めて付き合った人・・・愛してる・・・人。」吉澤のその言葉を聴いた田中の目には軽蔑の色と悲しみの色が入り混じっていた。ゆっくりと目を開いた吉澤は田中を見ると同じような顔をして田中の涙を指で拭った。
「絵里には・・・言わん方がよかよ。」
「そうだね。」
「その人とももう、会わんほうがいいっちゃ。」
「そうだね。」
「絵里はいい子っちゃけん。吉澤さんのことバリ好いとーよ。」
「知ってる。」吉澤は涙を拭い終え「ごめんな。」と呟いた。
「れーなに謝らんで、絵里のこと気遣ってあげて。」田中は微笑んだ。
- 52 名前:clover 投稿日:2007/02/18(日) 01:10
- 本日の更新以上です。
>>44-51 ルーズボール 4.隣の部屋のネコ
日付変わってしまったけど、更新してみました。
>>40 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>いま流行のさゆみきに期待してみるw
うっ・・・w出来るかな・・・w
考えてみますw今後も宜しくです。
>>41 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>美貴様キタァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*☆
美貴様です。はい。メインなんで一応。
今後もよろしくです。
>>42 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>ガキさん面倒見いいなあ。
ガキさんいつもそんな役ばかりさせてるんですがw
今後もよろしくです。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/18(日) 01:31
- 前前前作で、作者様のののさゆにハマった者です。
今回ののさゆありの予感?何気に期待してます。
これからも楽しみにしていますので頑張って下さい。
- 54 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/18(日) 01:47
- 怒涛の更新ありがとうございますw
この二人のこんな関係はなんだか斬新でおもしろいですね
この先どーなっていくんだー楽しみに待ってます
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/18(日) 01:51
- 作者さんの描く亀ちゃんが健気で可愛すぎてヤバイっす
幸せになってほしいっす
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/18(日) 02:38
- 吉澤さんがミキティについて答えた言葉の最後の一言が、進行形になってるとこがとても気になりました。
それとれいなの活躍に期待してます!!
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/18(日) 13:44
- 最近みきよし流行ってるなぁ。w
差し詰め、みきよしえりってところなんですかね。
- 58 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/18(日) 14:53
- 隣の部屋の猫いいですね。
こういう関係好きです。
- 59 名前:ももんが 投稿日:2007/02/18(日) 20:50
- 更新お疲れ様です。
れーなもカワイイなあ・・・。
cloverさんのせいで好きな子が増えて困ります(笑)
- 60 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:21
-
5.お天気キャスター
- 61 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:22
- 藤本美貴は六本木ヒルズのアフタヌーンティに来ていた。明るい店内の一番奥に座り苛立った様子を見せている。待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。藤本の苛立ちはそれだけではない。昼間に会った吉澤が逃げたこともあった。なぜ、逃げたのか。隣に居た子は誰だったのか藤本は気になって仕方がなく、幼馴染に連絡を入れたのだ。ここなら会う時間があると場所を指定してきたうえに、時間に遅れているのだ。昔ならそんなことは絶対にありえない子だった。10分いや15分は余裕を持って行動する子だった。変なところでしっかりしていて融通のきかない子だ。それが数年でこんなに時間にルーズになるものなのかと藤本はため息をつき再び時計に目を向ける。
- 62 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:23
- 「いらっしゃいませ。」店員の声に藤本は入口に視線を向ける。深めに帽子を被った客はまさしく藤本の待ち人だ。店内に視線を巡らし藤本を確認すると片手を挙げ小走りに駆け寄ってくる。
「ごめん。またしちゃったね。」と帽子を取り、藤本の向かいに座ったのは人気のお天気キャスターの石川梨華だ。一番奥の2席は他の席からは見えないようになっている。この席を指定してきた理由に藤本は納得した。ここに向かうまでに石川は店内に居た客に握手を求められ笑顔を返していた。どちらかと言うと地味だった石川が東京で仕事を始めるとここまで垢抜けるものなのかと感心した。
「人気者だね。」藤本は苛立った表情を見せる。石川は困った顔をして「ごめん。収録長引いちゃって。」と謝り「1時間後にまた仕事あるんだ。」と長い出来ないことを伝えた。
- 63 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:23
- 「いいよ。美貴も夜は練習あるし。」
「大学?」
「実業団。」
「そっか、雑誌見たよ。私、スポーツも担当することあるから取材行くかも。」嬉しそうに微笑む石川だが藤本は「いいよ。来なくて。」と嫌そうな顔をした。
「相変わらず酷いな。これでも人気のお天気お姉さんなんだぞ。」と微笑む石川に「キショイから。」藤本は笑った。
「それより、美貴、今日よっちゃんに会った。」藤本は再び機嫌が悪そうな顔をした。
「あぁ、言ってたね。で、逃げたって。」
「そう。酷くない?逃げたんだよ。女の子連れて。しかもね、えっ?よっちゃんだよね?って位、見た目、変わってた。綺麗になっちゃっててさ。プニプニのよっちゃんじゃなかったの。」
「そうなんだ、綺麗になったかぁ。ぽっちゃりしたのは、まぁ年頃のせいもあっただろうけど、元々が美形だからね、そっかぁ。」石川の言葉に本当に会っていないのだと藤本は少し、驚いた。連絡を取っていないといっても、生まれ育った家は歩いて数分の距離だ、偶然、駅で会ったりくらいはあるだろうと思っていた。石川は懐かしそうに目を細める。「私もね・・・会ってないんだよ。んー。よっちゃんが高校卒業してからだからもう丸二年か・・・連絡先も知らないし。声かけなかったの?」石川は気まずそうな顔をする。
「掛ける言葉なんてなかったし。美貴だってよっちゃんだって分かっててあの態度でしょ。声なんてかけられないよ。それより、よっちゃんとなんかあったの?」
「えっ?無いよ何にも・・・。」石川は驚いた顔をして胸の前で手を左右に振った。
「嫌だ、ホントないから。」
- 64 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:24
- 藤本は不審な目を向け「ならいいけど。」と呟いた。
「おかしくない?あんなに甘えん坊のよっちゃんがさ・・・。美貴は・・・まぁ向こうに行っちゃったし。連絡あんまりしてあげられなかったから、何も言えないんだけど。梨華ちゃんにまで・・・。」
石川は気まずそうに藤本から視線を逸らした。
「逃げなくてもさ・・・ちょっと美貴、傷つくよ。3年半ぶりなのにさ。」藤本は俯いた。
「あっと・・・ほら、よっちゃんさ。ちょっと気が弱かったりするじゃない。変な行動取ったり、昔からそうだったでしょ。だからじゃないかな。日本にいないと思ってるのに突然いるから驚いちゃったんじゃないの?」
「でも逃げないでしょ。普通。」フォローする石川に藤本はボソっと呟く。
石川は困った顔をして俯いた。
- 65 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:25
- 「よっちゃん、どこにいるのかも知らないの?」石川は黙って頷いた。藤本は落胆を示し「そっか。」と呟く。
「もう、お勤めしてるみたいだよ。おばさんからちょっと聞いたんだけど。デザイン系の会社。品川に事務所があるって。」石川は去年聞いた話を思い出しながら話した。
「デザインねー。」
「うん。詳しく聞いてる時間なかったから・・・。ごめんね。」
「梨華ちゃんのせいじゃないし。今度、時間つくっておばさんのところに顔出してみるよ。」
「うん。そうして。」石川は腕時計に目をやり帽子を手に取った。
「時間?」
「うん。早めにスタジオはいらないと落ち着かなくて。」石川は帽子を深めに被り立ち上がると「今度ゆっくりご飯でも行こうよ。」と笑みを零した。
藤本は頷くと「仕事頑張ってね。」と手を振る。石川も手を振ると背を向けて店を出て行った。
お天気お姉さんは人気者らしい。今度、朝早くおきてテレビを見てみようと藤本は思った。
- 66 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:26
-
6.バスケットボール部
- 67 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:26
- 都内のキャンパス内にある体育館。夕方は部活動に励む学生で熱気が溢れている。その中にとても大学生とは思えない小柄な学生がバスケットボールを追いかけている。その学生を他の部活の学生も目で追っている。ボールを追いかけるスピードがとても速いのだ。バスケットをやるより陸上をやったほうがいいのではないだろうかと誰もが思うだろう。
身長150センチほどの小柄を活かし大柄の学生の間を素早く移動しているのはこの大学の1年生、辻希美だ。
「麻琴。こっち。」辻はチームメイトに声をかけボールを回せと手を上げる。麻琴と呼ばれた学生は辻と同い年の小川麻琴だ。小川はディフェンスを確認して直ぐにバウンドパスをした。ボールを受け取った辻はバスケットに向かって走った。ディフェンスする学生はその速さについていけず辻はほとんどフリーの状態でショットを決め笑顔で小川とハイタッチを交わす。
- 68 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:26
- 「辻さんナイスシュート。」スタンドから聞こえる声に辻は笑顔で手を振る。小川はその隣で「いいなぁ。」と辻の背中を叩いた。「麻琴も誰かいないの?」と辻は恋人に手を振りながら一瞬視線を小川に投げた。小川は「いないですよぉ。」と辻に背を向け歩を進めた。辻は「ハハ。」と笑うと再びスタンドに目を向ける。
スタンドでは辻の恋人、道重さゆみがセーラー服姿で手すりに手を置き身を乗り出しまだ、笑顔で手を振っている。辻はそんな恋人を可愛いなと思いながら微笑んだ。常に自分のことを可愛いと言う恋人。本当に可愛いからそれでいいと思う。自分が一番可愛いと言うのになぜ、自分に一目惚れしたと告白してきたのか、付き合いだしてもう1年以上経つのに未だに分からない。
付き合いだした頃、道重はまだ中学生だった。幼い可愛さだった道重だが、高校生になり大人になっていくなかでどんどん綺麗になっていく。その過程を一番近くで見られる自分は幸せだと思う。
- 69 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:27
- 「落ちないでよ。今、あがるから。もう少し待ってて。」辻は道重が頷くのを確認すると背を向けて駆け出した。
片付けをしている1年生部員に混ざり辻も一緒に倉庫へと姿を消した。道重は辻の姿が見えなくなると階段を昇り始める。他に見学をしている学生の視線を集めながら気にした様子を見せずに体育館の外へ向かって歩みを進める。キャンパスの中で一人高校の制服は目立つ。私服に着替えたいが、下校途中に着替えるのは校則違反だ。道重は違反と分かっていてその行動を取ることが出来ず、毎日制服でこの場所にやって来ていた。ただ、その視線を道重は余り気にしていない、自分は可愛いと思っているからだ。自分に自信があるから注目されても気にならない。
- 70 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:27
- 道重はキャンパスを平然と歩きながら辻が出てくるだろう建物の角で歩を止め、カバンから鏡を取り出した。好きな人には一番可愛い自分を見ていて欲しい。前髪を整え自分の顔を確認する。そこら辺にいる女子高生は当たり前のように化粧をしているが、道重はしていなかった。ビューラーくらいは使っているがそのままで十分に可愛いと思っている。実際、そうなのだ。色白は七難隠すと言うだけあり、道重の肌はとても白く、綺麗だ。それだけで十分、綺麗な顔立ちの部類に入るだろう。「よし、今日も可愛い。」道重は呟くと用を果たした鏡をカバンにしまった。
- 71 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:27
- 「不思議だ・・・。」シャワーを浴び、着替えを済ませた小川は髪を整えながら鏡越しに辻を見た。「ん?何が?」辻はハードスプレーを髪に異常な程ふりかけていた。
「ナルシストのさゆが、のんちゃんを好きになったこと。」
「それ、のんが一番知りたい。」
「さゆに聞いたことないの?」
「あるよ。」
「で?」
「ちっちゃくて可愛いの。って言われる。」辻はスプレーで固めた前髪に満足すると化粧道具を雑にカバンに詰め込んだ。
「あ、まって。」席を立った辻を見て小川も慌ててカバンに荷物を詰め込み辻の隣に並んで廊下を歩いた。
- 72 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:28
- 「さっき、先輩たちが話してるのちょっと聞こえてきたんだけど。藤本先輩、来るみたいだよ。」辻は「マジ?ホント?」と歩を止めると小川に詰め寄った。「マジ・・・だと思う。ちょっと聞こえただけだから。」と小川は近寄ってくる辻の顔をから顔を遠ざける。「なんだぁ。正確な情報じゃないのかよぉ。使えねー。麻琴。」辻はがっかりした様子で歩を進めた。
「でも、日本には帰ってきてるみたいだよ。卒業式でるみたいだから。」小川は辻の肩に手を置く。「んじゃ、一度は顔出すね。」と辻は笑顔を見せた。
- 73 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:29
- 建物から出ると辻は笑顔を向けている道重に向かって歩みを速める。小川はゆっくりとその後を追った。
「お待たせ。」辻はぎゅっと道重の胸に顔を埋めた。道重は嬉しそうに辻の背中に手を回す。
「人前だぞぉ。」小川は呆れた顔で二人の隣に並ぶ。
「あ、まこっちゃんいたの?」真顔で言う道重に小川は少し傷つく。毎日、毎日こうして辻と一緒に出てくるのに、道重は毎日、毎日同じ顔で同じ言葉を小川にかける。その度に小川は自分はここに居てはいけないのではないかと思うが帰るにはここを通るしかないから仕方ないだろうと思う。
- 74 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:30
- 「じゃね、麻琴。また明日。」辻は道重の手を引き先に歩き出す。「途中まで一緒に帰っていいでしょ。」と小川は辻の隣に並ぶ。道重はぎゅっと辻の腕に腕を絡ませると自分の方へ辻を引き寄せた。
「ねぇ、辻さん。」辻は道重の呼びかけに顔をグッお上にあげた。
「ガキさんが今度、実業団の練習見学に行くって行ってたの。一緒に行こう。」辻は頷くと「行く、一緒に行く。」と隣から小川が手を上げていた。
「まこっちゃんはいいの。」と道重はぷいっと横を向いた。
- 75 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:30
- 「酷い。行く、のんちゃんいいよね。」小川は道重とは反対側の辻脳でにしがみ付いた。「のんはいいけど。さゆが良いって言わないと駄目だよ。」辻は笑いながら二人を腕にぶら下げて駅に向かう。
「ねぇ。さゆ、お願い。連れてって。」小川は辻の腕から離れ道重の隣に回りこむと両手を合わせた。道重は「だめー。まこちゃん居るとさゆと辻さんの二人の時間が減るもん。」道重は辻の腕をぎゅっと抱く。
「二人の時間って新垣さんいるんでしょ。」
「ガキさんはいいの。どーでバスケ観戦に夢中になるんだから。」
「邪魔しないから、お願い。」
「そんなに見学したいなら一人で別の日に行けばいいの。」
「そんなぁ。」それでは意味がない。小川は取り合ってくれない道重を泣きそうな顔で見つめた。
- 76 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/18(日) 21:30
- 「さぁゆ。」見かねた辻が「ほっぺが膨らんでる。」と道重の頬を突く。「だって、まこっちゃんしつこいんだもん。」
「いいじゃん。ガキさんも居るんだし。邪魔にはならないって。」道重は仕方ないといった表情で頷いた。
「ありがと。やった。ありがと。」小川は何度も頭を下げると「じゃ、あとはお二人でごゆっくり。」とスキップしながら駅に向かっていった。
「変なやつ。」道重は「ホント。」と辻に同意して頷いた。
「今日はどこ行きましょっか。」道重は気を取り直して笑顔で尋ねた。
「お腹ペコペコだから取りあえず、なにか食べて。のんの家でマッタリコースは?」辻は「どう?」と首をかしげた。「じゃ、それで。」道重は満面の笑みを辻に向けた。
- 77 名前:clover 投稿日:2007/02/18(日) 21:45
- 本日の更新以上です。
>>60-65 ルーズボール 5.お天気キャスター
>>66-76 ルーズボール 6.バスケットボール部
沢山のレスありがとうございます。
かなり励みになるので更新頑張ろうって気になってますw。
本当に有り難うございます。
>>53 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>前前前作で、作者様のののさゆにハマった者です。
嬉しい。有り難うございます。
>今回ののさゆありの予感?何気に期待してます。
ののさゆも更新しましたw今後も宜しくです。
>>54 :naanasshi 様
いつも、レス有り難うございます。
>この二人のこんな関係はなんだか斬新でおもしろいですね
ありがとうございます。今後もよろしくです。
>>55 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>作者さんの描く亀ちゃんが健気で可愛すぎてヤバイっす
有り難うございますw今後も宜しくです。
>>56 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>吉澤さんがミキティについて答えた言葉の最後の一言が、進行形になってるとこがとても気になりました。
おー。それで物語が進む予定なのでw
>それとれいなの活躍に期待してます!!
れいなの出番も増えますよ(たぶん・・・)
今後もよろしくです。
>>57 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>最近みきよし流行ってるなぁ。w
うれしい限りですw
>差し詰め、みきよしえりってところなんですかね。
ん〜。どうでしょーw
今後も見守ってください。
>>58 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
>隣の部屋の猫いいですね。
>こういう関係好きです。
ありがとうございます。今後も宜しくお願いします。
>>59 :ももんが 様
いつも、レス有り難うございます。
>れーなもカワイイなあ・・・。
ありがとうございます。
>cloverさんのせいで好きな子が増えて困ります(笑)
えぇぇw困らないでくださいw今後も宜しくです。
- 78 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/18(日) 21:54
- 更新お疲れ様です
リアルタイムで読んじゃいました
お天気お姉さんキターと思っちゃいましたwありえそうですね
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/19(月) 02:15
- 新作キタ━━━━(゜∀゜)━━━━━♪
亀−吉−藤の三角関係が楽しみです。
あと損な役ばかりなガキさんが好きです^^
そしてシゲさん&のんちゃんwith邪険にされるまこっちゃん(笑)。
れいなの役どころが気になります。
新作がんばってください楽しみにしてます♪
- 80 名前:ももんが 投稿日:2007/02/19(月) 08:10
- 更新お疲れ様です。
今回のさゆアンド辻ちゃんが出てきてくれて密かにうれしいです♪
まこっちゃん可哀相・・・(笑)
- 81 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/19(月) 23:28
-
7.モーニングコール
- 82 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/19(月) 23:29
- 新垣は携帯の着信音で目を覚ました。
自分の携帯ではない。ということは隣で寝ている亀井のものに違いない。
結局、夕べはそのまま新垣の家で夕食をご馳走になり泊まったのだ。新垣は亀井の腕をペシペシと叩いたが、起きる気配はない。
新垣は目を擦りながら身体を起こした。亀井のカバンの中から聞こえてくる着信音。
- 83 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/19(月) 23:30
- 「かぁめー。携帯なってる。」亀井の肩を揺すりながら新垣は壁にある時計に目をやる。
時計は午前6時半を示している。「早い・・・。」新垣はあと30分は寝れたのにと未だ、眠っている亀井を睨んだ。
こんなに着信音が鳴り響くなか良く寝ていられるものだと感心している場合ではないと新垣は布団を剥ぎ取り背を向けて寝ている亀井のお尻を思い切り叩いた。
- 84 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/19(月) 23:30
- 「いったぁぃ。」亀井は身体を反らせ叩かれたお尻に手を当てたが未だ目は開かなかった。「もー。起きて、携帯なってるよ。吉澤さんじゃないの?」新垣は亀井の手を引っ張り身体を起こした。着信は未だ成り続いている。「起きてー。」パンパンと亀井の両頬を叩いた。薄っすらと目を開く亀井。「電話。吉澤さんでしょーが。」
「あ・・・はっはっ、ヤバ。携帯、携帯。」亀井はベッドから転がり落ちるように床に降りるとカバンを漁り携帯を取り出した。
- 85 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/19(月) 23:31
- 「おはよーございます。」
新垣はバタっと横になる。恋とは電話一本でアレほどまで人を幸せな顔にするのだと思いながら。
携帯と話す亀井の横顔を見ていた。
「起きました。ガキさんちに泊まったの。」
「うん。ちょっと寂しかったよー。」
「今日?うん。じゃ、近くまで行く。」
「うん。分かった行ってらっしゃい。」
携帯を切りカバンに戻した亀井はベッドに這い上がり新垣の隣に向かい合って横になる。
新垣はニヤニヤとしている亀井の顔を見て微笑んだ。昨日の心配は無用だと判断したのだ。
- 86 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/19(月) 23:32
- 「アハハ、モーニングコール吉澤さんから。」亀井はニコニコと目を細める。
「こんなに早く?」
「6時半から7時の間。7時半には吉澤さん家出ないといけないから。」
「ってか、初め、亀がやるって言ってなかった?」
「ガキさん・・・。」亀井は真顔になった。「何よ。」新垣も同じような顔をする。
「いつの話ししてるの?」
「はぁ?」
「絵里が起きれるわけ無いじゃん。初めっから吉澤さんがしてくれてるんだよ。」真顔のまま言う亀井に新垣は呆れた顔をした。新垣は身体を起こした。
「ほんと亀は昔から寝起きが悪いというか何と言うか・・・。」横になっている亀井を跨ぐとベッドから降りて伸びをする。
「だって起きれないんだもん。」亀井は身体を回転させ新垣に訴える。「ってか今、春休みなんだけど・・・。」新垣は欠伸をしながら長い髪を手で掬いかき上げた。
- 87 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/19(月) 23:33
- 「せめて、吉澤さんが会社に着くころにしてもらえないの?」
「あ・・・そうだよね。そうなんだよ。いや、でも、早く聞きたいじゃん。好きな人の声。それが乙女心ってもんじゃん。」
ベッドの上で悶えている亀井を見ながら新垣は苦笑し「はいはい。顔洗ってこよぉ。」と部屋を出て行った。
「ちょっとぉ。絵里も洗う。」亀井はバタバタとベッドから降り新垣を追った。
- 88 名前:clover 投稿日:2007/02/19(月) 23:43
-
本日の更新以上です。
>>81-875 ルーズボール 7.モーニングコール
ちょこっとですが更新しました。
>>78 :naanasshi 様
レス有り難うございます。
>リアルタイムで読んじゃいました
有り難うございます。早速レスをいただけて嬉しい限りです。
>お天気お姉さんキターと思っちゃいましたwありえそうですね
ありえそうですよねw
>>79 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>亀−吉−藤の三角関係が楽しみです。
おっ。三角関係かぁ〜w今後も読んでいってくださいw
>あと損な役ばかりなガキさんが好きです^^
ガキさんそーですよねw幸せをあげたいですw
>れいなの役どころが気になります。
れいなキーパーソンなのかな?どうなんだろう・・・
>新作がんばってください楽しみにしてます♪
有り難うございます。今後もよろしくです。
>>80 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>今回のさゆアンド辻ちゃんが出てきてくれて密かにうれしいです♪
なんか自分のなかでこのカップリングなんですよねぇ。なんでだろうw
>まこっちゃん可哀相・・・(笑)
ですよねw
- 89 名前:ももんが 投稿日:2007/02/20(火) 08:08
- 更新お疲れ様です!
ガキさんの苦労は続く・・・。
肩をぽんぽんとたたいて労ってあげたい!
- 90 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/20(火) 23:38
-
8.今日の占い
- 91 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/20(火) 23:39
- 田中は青い色のラグの上に丸くなり、羽根布団を被り頭だけをたすとテーブルに手を伸ばした。届きそうで届かない。田中はテーブルの上にあるテレビのリモコンを取ろうとしていた。
「不精もんが。」田中の身体を吉澤の細い長い足が通り過ぎていく。田中は目だけ上に向けて吉澤がリモコンを取ってくれるだろうと目で追う。「取ってっ。」テーブルを素通りしようとした吉澤を呼び止めた。「起きりゃいいじゃんかよぉ。ネコが。」吉澤は歩を止めて田中に視線を向ける。顔を上げた田中は吉澤が携帯を耳に当てていることにやっと気がついた。
絵里にモーニングコールしよぉとね。田中は仕方ないと再び手を伸ばしたがもう少しのところで指先はリモコンには届かない。
吉澤は呼び出し音を聞きながら田中の様子を微笑みながら見ていた。
- 92 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/20(火) 23:40
- 「もしもし亀ちゃん。おはよ。起きた?」
「そっか、昨日はごめんね。急に帰るなんて言い出して。」
田中は頭の上から聞こえてくる声を聞きながら仕方なく布団からはいてると難なくリモコンを手にしてテレビを点ける。電話の邪魔にならないようにボリュームを下げリモコンを戻すとまた布団の中に入った。お目当ての番組に間に合ったことに田中はホッとした。
「今夜、夕飯一緒に行かない?」
「じゃ、着いたら電話して。」
「行ってきます。」
- 93 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/20(火) 23:40
- 吉澤は電話を切るとGパンのお尻のポケットに閉まい田中の様子を伺った。布団の中から顔を出し真剣にテレビを見ていた。
ここに来ると田中はいつもこの時間にテレビを必ず見る。お目当ての今日の占いを見るために。
テレビに視線を向けると局アナが各社の新聞の一面を紹介していた。「歯磨かないと。」吉澤は画面に表示されている時刻を見て洗面所に向かった。
- 94 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/20(火) 23:41
- 「日本の政治もだめっちゃねぇ。」読み上げられる紙面を聞き田中は呟く。そうは言ったものの余り良く紙面の意味は理解していないのだ。そう、言ってみたいだけ、コメンテータが良くないようなことを話しているからそうなのだろうというカンなのだ。
「おはようございます。石川梨華です。今日はもう春の陽気ですよぉ。」テレビから甲高い声が聞こえてくる。田中は「嘘や。寒いけん。」とテレビの中の石川に呟いた。
- 95 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/20(火) 23:43
- 「何、テレビと話ししてるんだよ。」家を出る支度が出来た吉澤が戻って来た。
「春の陽気いうけん。嘘っちゃね。」田中は布団を身体に巻きつける。
「昼は暖かくなるんだろ。」吉澤はテレビに目を向けお天気キャスターを見た。
笑顔で甲高い声、オーバーなアクションを織り交ぜながら今日の全国各地の天気を伝えている。
「相変わらず、黒いな。」吉澤は苦笑した。「幼馴染なのに酷いなぁ。」田中は笑いながら言う。
「れいなもそう思ってんだろ。」吉澤は田中の頭にポンと手を置いた。
「行ってきます。鍵、かけてな。」吉澤は玄関に向かって歩みを進めた。
「行ってらっしゃい。今日、デートちゃろ?」吉澤は靴を履きながら田中に目を向け頷いた。
「いっぱい甘やかしてあげるっちゃよ。甘えん坊やけん、絵里は。」田中は笑って手を振る。
吉澤は「お前が絵里のこと言うな馬鹿ネコが。」吉澤は笑うと玄関の外に姿を消した。
- 96 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/20(火) 23:44
- 田中は再びテレビに目を向ける。
石川が次のコーナーの紹介をする。次のコーナーはお目当ての占いだ。
田中は自分の星座が出てくるのを待った。「あ、牡羊座や。吉澤さんやけん。ラブ運星5個や。金運は2個かぁ。勉強運6個とか吉澤さん関係なか。健康運4個に仕事運1個だって。今日は仕事だめっちゃね。」
田中はハハと乾いた笑いをした。「お、蠍座きた。ラブ運2。金運5。勉強運2。健康運1。仕事運5。んー。仕事は関係なかけんね。健康運1かぁ。寒いっちゃ・・・。」
田中は布団を頭から被った。
- 97 名前:clover 投稿日:2007/02/20(火) 23:49
- 本日の更新以上です。
>>90-96 ルーズボール 8.今日の占い
またまた、ちょこっとですが更新しました。
>>89 :ももんが 様
レス、有り難うございます。
>ガキさんの苦労は続く・・・。
はいw
>肩をぽんぽんとたたいて労ってあげたい!
叩いてやってくださいw
今後も宜しくです。
- 98 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/20(火) 23:54
- またしてもリアルタイムで吃驚w
連日の更新ありがとうございます
亀ちゃんとガキさんは癒されますね
そしてネコかわいいwうちにもほしいw
- 99 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/21(水) 02:39
- 更新お疲れ様です。
ここのネコがツボです。
- 100 名前:ももんが 投稿日:2007/02/21(水) 08:14
- 更新おつかれさまです!
連日の更新、読む側としては嬉しいです♪
こんなねこ可愛いすぎます!!
- 101 名前:名無飼育 投稿日:2007/02/21(水) 16:54
- 毎日の更新お疲れ様です
ヤバイ
猫れいなが可愛い過ぎます
- 102 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/21(水) 22:40
-
9.卒業生と在校生
- 103 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/21(水) 22:41
- 亀井と新垣はついこの間卒業した高校に来ていた。在学生は午前中に行われていた学期末試験を終え下校していく。二人は在校生の流れに逆らい学園へと歩を進めた。
「卒業とか言ってもさ・・・。」亀井は高校の校舎の隣にある大学のキャンパスに目を向ける。
「通う場所変わらないからねぇ。亀はまだいいよ。私なんか小学からずっとだよ。」
「だよねぇ。エスカレータなのはいいけど。せめて場所くらい変わって欲しいよね。さゆもでしょ。」
「さゆは幼稚園から。」
「はぁー。新鮮味がないって言うか、来月からまたここって大学生になる実感ないよねぇ。」
「まぁ。私服でお洒落できるってことくらいじゃないの。」
「それはあるね。高校まで髪は黒、肩に髪がついたら結わく、眉はいじっちゃ駄目って厳しかったからね。」
「亀、大学で部活やる?」
「やらない。」
「茶道部は?」
「んー。もういいかな。ってかお茶会とか土日にやったりするとさ・・・。」
「あぁ吉澤さんの休みとかぶるか。」
- 104 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/21(水) 22:43
- 校舎の中に入り来客用のスリッパを拝借した二人は廊下を左に進んでいく、職員室の前を通り階段を昇る。
「ってかさ、テスト中なのになんで部室なわけ?」新垣は亀井よりも一歩先を歩きながら呟く。
「さゆはあそこ大好きだからねぇ。」亀井は手すりを掴んで身体を引っ張りあげるように階段を昇る
「ってか5階とかキツイ・・・。」
先に踊り場に着いた新垣は亀井の様子を見て苦笑した。
「あんた18歳でしょーが・・・」と言葉を残し先に階段を昇って行った。
「ガキさん身軽だよねぇ。なんで大学はエレベータがあるのに高校は無いんだよ。」ブツブツと文句を言いながら新垣の後を追う。
- 105 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/21(水) 22:44
- 新垣は5階にたどり着くと美術部、書道部の部室を通り抜け茶道部とかかれた部屋のドアをノックした。
「はーい。」と声が聞こえドアが開かれると制服姿の道重が口をモグモグさせながら現れた。
「あれ、絵里は?」廊下に顔を出し左右を見る道重。
「今、来るよ。鈍ってるの。」新垣は道重の肩をポンと叩いて部屋に入った。
12畳程の部室は半分が畳みになっている。
新垣は椅子を引き出して座り二人が来るのを待った。
- 106 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/21(水) 22:44
- 「絵里、遅いの。」階段を昇ってきた亀井に道重は声をかけ部室に入る。亀井は苦笑しながら頭に手を持っていく。「運動不足かも・・・。」亀井はスカートから伸びる太腿を擦りながら茶道部の部室に入った。
「亀、ヤバイんじゃないの。」疲れて入ってきた亀井に新垣は笑う。「さゆもそう思うの。」道重は上履きを脱ぎ畳みの上に正座する。亀井は「はぁ。」とため息をつきながら新垣の隣に座った。
「で、辻さんに用ってなんなの?」道重は二人を見ながら首を傾げた。新垣の肘が亀井の腕を突く。
「えっと、そのあれだよ。吉澤さんの高校生時代を知りたいと思って・・・」亀井の声は段々と小さくなっていった。
「それは本人に聞けばいいんじゃないの?」もっともな道重の意見に亀井は新垣に助けの視線をおくった。
「最初から説明しなさいよ。」新垣は椅子から立ち上がると道重の隣に移動しスカートを気にしながら腰を降ろした。
「二人でデートしてるときに知らない女の人に会ったんだって、吉澤さんはその人を知ってる様子なのに、聞くと知らないって言うんだって。
そしたら良く考えてみたら私たちって出会う前の吉澤さんのこと知らないから、のんつあんなら知ってるから話しきけないかって思ってね。
それでさゆに頼んでるわけ。」新垣は道重の肩を叩いた。「頼むよ。さゆ。」
道重は新垣からゆっくりと視線を亀井に向ける。俯き加減で道重を見ていた亀井は顔の前で両手を合わせ「お願い。」と呟いた。
- 107 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/21(水) 22:46
- 「力になれないと思うよ。」
道重は辻から吉澤の話しを聞いたことがあった。だが、二人が知りたいことは聞いていない。辻と吉澤が一緒に学園生活を過ごしたのは1年だ、その中で係わりがあったのは吉澤が部活動を引退する前の約半年だろう。
「話しくらいさせてもらえないの?」あっさりと結論を出す道重に新垣は苦笑した。「話すのはいいけど、直ぐには無理だよ。」道重は新垣に視線を移す。亀井は二人の様子を黙ってみていた。
- 108 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/21(水) 22:47
- 「なんで?」
「ほら、なんだっけ、ガキさんも前に言ってた人。あの人が帰ってきたから。」
「あの人・・・藤本美貴?」
「そうそう。」
「え?まって、そっか、同じ大学か。」
「うん。だから、部活に顔出すかもしれないからって。どっちにしても毎日部活だし、その後さゆみとデートだし。時間ないよ。」
「そのデートの時間を少し割いてくれる気はないのかー。」新垣は道重の肩に手を置いた。「ない。」即答する道重は置かれた手を払った。
「だって、辻さん毎日部活でさゆみは学校も門限もあるから。2時間くらいしか一緒に居られないんだよ。」道重は不満げに頬を膨らました。
新垣は道重の頭を撫でながら亀井に視線を向ける「だって、どうしよっか。」亀井は困った表情を見せた。
「藤本さんのことのんつぁん知らないのかな?」
- 109 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/21(水) 22:48
- 「知ってるよ。だって、憧れの人だもん。だからあの大学いったのに、一度も帰国しないで卒業だって凹んでた。まぁ、凹んだ辻さんを慰めてあげるのも楽しいからいいんだけど。ちょー可愛いんだよ。ぐずっちゃって。」
ニコニコと話す道重に新垣は「はいはい。」と聞き流した。
「だったら、やっぱり会って話し聞かせてもらう価値はあるよね。」亀井が頷くと新垣は道重に視線を向けた。
「10分でいいから。お願い。今日も会うんでしょ?」「10分だけだよ。」と承諾した。
「絵里、バイト休むって連絡しといてね。私もってことで宜しく。」新垣は片手を挙げた。「はーい。」亀井は携帯を取り出すとバイト先に電話をすると二人とも風邪で熱があると理由をつけ休むと告げた。
- 110 名前:clover 投稿日:2007/02/21(水) 22:55
- 本日の更新以上です。
>>102-109 ルーズボール 9.卒業生と在校生
また、また、また短いですが更新しました。
えぇ大体の登場人物の関係を明かすまで毎日更新できたらと思ってますので
宜しくお願いします。
れいなネコが何か人気者wがんばろーw
>>98 :naanasshi 様
いつもレス有り難うございます。
>またしてもリアルタイムで吃驚w
おぉwすげーw
>連日の更新ありがとうございます
いえいえ、こちらこそ読んで頂いて有り難うございます。
>そしてネコかわいいwうちにもほしいw
自分も欲しいですよw居るなら買いたいw
>>99 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
>ここのネコがツボです。
ネコがなんか人気ですw今後も宜しくです。
>>100 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
>連日の更新、読む側としては嬉しいです♪
こちらこそ、読んで頂けて光栄です。
>こんなねこ可愛いすぎます!!
居たらいいですよねw妄想ですw
>>101 :名無飼育 様
レス有り難うございます。
>猫れいなが可愛い過ぎます
欲しいですよねw
- 111 名前:訂正@clover 投稿日:2007/02/21(水) 23:40
-
>>109
「絵里、バイト休むって連絡しといてね。私もってことで宜しく。」新垣は片手を挙げた。
【訂正】
「亀、バイト休むって連絡しといてね。私もってことで宜しく。」新垣は片手を挙げた。
に脳内変換してください。新垣さんは亀井さんを「絵里」とは呼ばないです・・・
- 112 名前:clover 投稿日:2007/02/21(水) 23:41
- そして下げ忘れた・・・スミマセン。
明日も更新しますので宜しくです。
新しい人出す予定なので。
- 113 名前:ももんが 投稿日:2007/02/22(木) 08:11
- 更新ありがとうございます!
のろけさゆ可愛い・・・。
新しい人誰なのか楽しみに待ってます♪
- 114 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/22(木) 21:41
- 更新お疲れ様です
一途なさゆがカワイイですね
登場人物が多そうなので大変でしょうが頑張ってください楽しみです!
- 115 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:13
-
10.編集者とカメラマン
- 116 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:14
- 腕時計に目をやり足場やに歩道を歩いているのは柴田あゆみ。
長い髪をなびかせシックなスーツに身を包み仕事が出来そうだという印象を与える柴田は少し後ろをのんびりと歩くパートナーに視線を向ける。
「ごっちん急いでね。」首からデジタルカメラをぶら下げ、景色をそれにおさめながら柴田の後を追うのは後藤真希。
肩には大きなカバンをぶら下げている。
「なんか柴っちゃん嬉しそう。いつもカリカリしてるのに。」後藤はカシャと振り返った柴田をカメラに収め微笑んだ。
「ごっちん。ホントに急いでよぉ。ギリなんだって。」柴田は腕時計を指差し促す。
「大丈夫、直ぐそこじゃん。まだ15分あるって。」柴田はため息をつくと目的のマンションへと急いだ。
- 117 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:16
- デザイナーズマンションの前に立つと柴田は預かっていた鍵を使って自動ドアを開けた。
「ごっちん、入って。」着いてくる後藤を先に入れ柴田も中に入る。エレベータで3階に上がると目的の部屋の扉を開く。
部屋の中は昨日の用意してもらったソファーとテーブルにいくつかのキャビネットがあった。
どれも明るいポップなものを柴田がチョイスしたのだ。
「おっ、いい感じだね。」後藤は大きなカバンを壁に寄せると中から一眼レフやら照明を取り出し準備を始めた。
柴田はソファに座ると腕時計に視線を移す。約束の時間5分前だと確認すると鳴り響く形態に直ぐに出た。
「はい、柴田です。」
「はい、はい、そうですか。分かりました。」柴田は携帯をしまうと手際よく仕事の支度をする後藤を見た。
「ごっちんゆっくりでいいよ。」後藤は手を止めると首をかしげて柴田を見た。
「遅れるの?」
「前の仕事、押してるんだって。」柴田は足をテーブルの上に足を投げ出し、伸びをする。
「柴ちゃん、下着見えるよ。」後藤に指摘された柴田は「見ないでー。」と呟き肩に手を置くと首を回した。
「おばちゃん化してるし。」後藤は苦笑しながら作業の手を動かした。
- 118 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:17
-
「よく、梨華ちゃん取材オーケーしたね。」後藤は手を動かしながら尋ねた。
「んー。まー私に仮があるからねぇ。あの子は。」
「脅したんだ。」後藤は柴田を真顔で見る。柴田は真顔で頷いた。
「柴ちゃんってホント怖いよね。」
「何がよ。」
「手段選ばないっていうかなんていうか。」
「ひどーい。だから、2年目で担当ページこれだけ持ててるんだけど。」柴田は目を吊り上げて後藤を見る。
「まぁ。そのおかげで後藤も仕事があるんだけど、で?」後藤は柴田に視線を向けた。
「ん?」手を左右に伸ばし肩を回しながら柴田は首を傾げた。
「だから、何を脅したの?」
「自慢じゃないけど、あの子のネタなら数え切れないほど持ってるよ。」
「また、やな人を親友にもったもんだね。」
「大学まで同じだからね。まー。あの子も分かってるからオーケーしたんじゃない?ふぁぁ。」欠伸をし涙目になりながら柴田は手を口に当てた。
「柴ちゃん寝てていいよ。昨日も遅かったんでしょ。」後藤が優しい笑みを浮かべると「ありがと。」と柴田は目を閉じた。
- 119 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:17
- 準備を終えた後藤は壁に寄りかかり眠る柴田を眺めた。
まさか、一緒に仕事をするとは思ってなかった。
この人に会ったのは高校の入学式だった。生徒会長として話しをしていた姿が記憶にある。
だからと言って、高校時代は余り係わりはなかった。寧ろ副会長との方が係わりが深かった。
専門学校を出て出版社に入社した後藤。大学を卒業して出版社に入社した柴田。
年は2歳違っても今は同期で、パートナーだ。
- 120 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:18
- 部屋のインターホンがなり柴田は驚いたように目を覚ますと身だしなみを整え時計に目を向ける。
1時間の遅刻か。柴田は後藤の準備が整っていることを確認するとインターホンに出た。
「はい。今あけます。」と応じロックを解除するボタンを押す。
「さてと。やりますか。」柴田はもう一度伸びをしてから玄関に向かった。
- 121 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:19
- 再びインターホンが鳴り柴田はドアを開けた。
「こんにちは。今日は宜しくお願いします。」柴田は頭を下げ、微笑んだ。
「柴ちゃん久しぶりだね。」石川は満面の笑みで柴田の手を取る。
「せーんぱい。宜しくお願いします。覚えてます?」柴田の背後から顔を出す後藤を見た石川は目を見開き柴田の顔を見た。
「同期で、今一緒に仕事してるの。もちろん覚えてるよね?」石川は頷くと後藤に笑みを向ける。
「金髪で入学式来るわ、注意したらパーマしてくるわ。忘れるわけないじゃん。どんだけ、仕事増やしてくれたのよ。」
後藤は苦笑しながら「若気の至り。」と呟いた。
- 122 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:20
- 「さ、中入って。」石川を中に促し、一緒についてきたマネージャーと名刺交換をする柴田と後藤。
石川は先にひとり部屋の中へ歩みを進め部屋を見回した。
後藤は部屋を眺める石川の自然な表情にピントを合わせシャッターを切った。
「ビックリした。」フラッシュに驚いた石川は後藤に笑みを向ける。
「よしこは元気?」カメラを構えたまま後藤はファインダー越しに石川を捉える。
石川の困ったような表情に後藤はカメラを降ろし石川に目を向ける。
「よしこ・・・どうかしたの?」石川は首を横に振ると後藤の視線から逃れるように柴田の下へ歩みを進める。
「柴ちゃん、時間、押しちゃったし始める?」
「そうだね。」様子を見ていた柴田は後藤に始めるという合図を送り石川をソファへ促した。
- 123 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/22(木) 23:21
- 赤いソファに石川を座らせ向かいに腰を降ろした柴田はノートを開いた。
「石川さんも取材するだろうから私の立場も知ってますよね。」柴田はノートから視線を上げニヤっと微笑んだ。
「丸裸にしてあげるね。」
「怖いよ。柴ちゃん簡便して。」石川は苦笑しながらマネージャーに視線を向ける。
「事務所の関係もあるからさ。」気まずそうに声を潜める石川に柴田は「大丈夫、弁えてるから、知ってるでしょ?私、口堅いの。」と微笑んだ。
- 124 名前:clover 投稿日:2007/02/22(木) 23:25
- 本日の更新以上です。
>>115-123 ルーズボール 10.編集者とカメラマン
今夜も予定通り更新です。短いですが。新登場人物だしました。
>>113 :ももんが 様
毎日、レス有り難うございます。
>新しい人誰なのか楽しみに待ってます♪
二人ほど出しました。あと数人出す予定です。
今後もよろしくです。
>>114 :naanasshi 様
毎日、レス有り難うございます。
>登場人物が多そうなので大変でしょうが頑張ってください楽しみです!
どんどん増えちゃってw自分の首を絞めている感じですがw
頑張ります。今後もよろしくです。
- 125 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 03:42
- 毎日の更新お疲れ様です。
何だか役者が揃って来ましたね。
亀ちゃんの想いとみきよしの過去が心配になりつつ、ののさゆの可愛さに癒され・・・
毎回楽しみにさせていただいております。
- 126 名前:ももんが 投稿日:2007/02/23(金) 08:06
- 更新お疲れ様です。
まだ登場人物増えるんですか!?
そんなに書けるcloverさんすごいです。
- 127 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/23(金) 11:31
- 更新お疲れ様です
登場人物の役柄がこの人はこう来たか!という感じでおもしろいですね
まだいろんなキャラが出てきそうですね〜ワクワクしておりますw
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 21:38
- 誕生日に登場なんて、柴ちゃん・・・さすが(笑)
続きが、楽しみです。
- 129 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/23(金) 23:40
-
11.よしこ
- 130 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/23(金) 23:42
- 後藤は柴田の質問に淡々と応えていく石川をフィルター越しにシャッターを切りながら見ていた。
質問に対する答えは決められているのだろう石川は考える素振りも見せずに答えていた。
カシャ、カシャと聞こえるシャッター音に石川は時折、作った笑顔を見せる。
後藤はそんな時はシャッターを切らずにいた。作ったものはいらない。そんなものはテレビを見ればいいことだ。
普段は見せない表情を後藤は逃さずに取りたいと思っていた。
でも、石川はそんな顔を見せない。フィルターを覗いていた後藤は思わず石川らしいと苦笑した。
- 131 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/23(金) 23:44
- 演じるのが上手い人。
高校生の頃は品行方正な優等生を演じていた。
素行の悪い幼馴染と他人の振りをして、学校から一歩外にでれば幼馴染にからかわれ、空回りする。
そんな人だ。石川の幼馴染の一人は同じクラスで仲が良かった。よしこ・・・。
自分だけがそう呼んでいた。高校生活で心残りなのはよしこと喧嘩したまま卒業したことだ。
もっと早く気が付いてあげればよかった。もっと早く忠告してあげればよかった。
卒業して3年が過ぎてもそれだけが悔やまれる。仲の良い3人だったのに・・・。
- 132 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/23(金) 23:44
- 「ごっちん、終わりでいい?」柴田に声をかけられ後藤は慌てて頷いた。
「相変わらず、マイペースだね。」石川が後藤を見て微笑んだ。
「よしこと藤本先輩は元気?」後藤は構えていたカメラを下ろした。
石川は笑顔で頷いている。
「美貴ちゃんこないだ会ったけど元気そうだったよ。注目されてるし、テレビでも特集されるんじゃないかな。」
石川は自慢気に話した。
「でも、藤本さん素直にインタビューに応じなさそうだよね。」柴田が後藤に同意を求める。
「そんな時は私に仕事が回ってくるでしょ。」微笑む石川の肩に柴田が手を置く。
「幼馴染だったとか言っちゃだめだよ。同級生とかにバレるから。」石川は「そっか。」と笑った。
「よしこ・・・は?」後藤が気がかりなのは藤本よりももう一人の方だ。
「会ってない。」石川は気まずそうに後藤の視線から逃れた。
後藤は石川がそんな行動を取る理由を知っている。
柴田も知っているのだろうか。後藤は隣に視線を移した。
知らないのだろう。笑顔の柴田と目が合った後藤は「お疲れ。」と呟き仕事道具を方し始めた。
- 133 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/23(金) 23:45
- 「梨華ちゃんまだ仕事?」柴田は後藤を目で追いながら石川に歩み寄る。
「うん。」石川はマネージャーを横目に見ながら頷いた。
「そっか、売れっ子天気キャスターだもんね。夕飯でもとか思ったんだけどさ。お疲れさま。」仕方ないという顔をする柴田。
「ごめん。お疲れ様。」石川は両手を合わせるとマネジャーと部屋を出て行った。
- 134 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/23(金) 23:45
- 柴田は玄関を閉めると片付けをしている後藤の背中を見た。
「よしこって・・・吉澤さんだっけ?」後藤は背を向けたまま頷いた。
柴田は壁に背をつけ腕を組んだ。後藤と再会して2年が過ぎたが高校の話しを後藤は余りしなかった。
なのに石川に会ってしつこく吉澤の情況を尋ねたのには訳があるのだろう。
柴田は後藤の背中を見ながら突っ込んで聞いていいものかどうか悩んでいた。
- 135 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/23(金) 23:45
- 「よしこの連絡先・・・知らないんだ。高3の夏によしこ携帯変えてそれっきり聞いてなくて。」
背を向けたまま後藤が言うと柴田は難しい顔をする。高3の夏から卒業までの間、二人はどうしていのだろう。
後藤は振り返り柴田を見ると苦笑した。
「喧嘩、してて仲直りするきっかけ無いまま卒業したんだ。」
柴田が欲しいだろう答えを述べる後藤。柴田は片方の眉を起用に上げて笑った。
「卒業したあと石川先輩からよしこの話し聞いてない?」
後藤は荷物を詰め込んだバックを肩に掛け立ち上がる。
- 136 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/23(金) 23:45
- 柴田は過去の記憶を遡る。
石川からは大体のことは聞いている。だが、後藤が何を知っているか・・・それによって話せること話せないことがある。
「吉澤さんの最後の試合は駄目だった・・・?」柴田は後藤に確かめるように残っている記憶を口にする。
「その後は?」
「藤本さんが留学して、吉澤さん、寂しがってるって言ってたかな。」
「それだけ?」
「んー。あとは・・・ない、かな。」後藤は「そっか。」と呟き玄関に向かって歩を進めた。
「ごっちん、夕飯食べていかない?」柴田は後藤の後を追う。
「ごめん、まっつー、事務所で待ってるから。」後藤は振り返り微笑んだ。
柴田は「バイトに手つけて全く。」と苦笑する。
「私、直帰でいいかな?」柴田が尋ねると後藤「いいよ。」と微笑んだ。
- 137 名前:clover 投稿日:2007/02/23(金) 23:55
- 本日の更新以上です。
>>129-136 ルーズボール 11.よしこ
また、少なくて申し訳ないですが更新です。
今日も一人登場人物がw愛称だけですけどw
>>125 :名無し飼育さん様
レス有り難うございます。
>何だか役者が揃って来ましたね。
はいwあと、2人かな。
>毎回楽しみにさせていただいております。
有り難うございます。今後もよろしくです。
>>126 :ももんが様
毎朝wレス有り難うございます。
>まだ登場人物増えるんですか!?
はいw
>そんなに書けるcloverさんすごいです。
自分の首絞めてますw凄くないですよ・・・どうしよぅ
>>127 :naanasshi様
毎日、レス有り難うございます。
>まだいろんなキャラが出てきそうですね〜ワクワクしておりますw
頑張りますwどーしよーってなってますけどw今後もよろしくです。
>>128 :名無飼育さん様
レス有り難うございます。
>誕生日に登場なんて、柴ちゃん・・・さすが(笑)
偶然ですw自分も更新後に、おっ・・・って想いましたw
>続きが、楽しみです。
今後も宜しくです。
- 138 名前:ももんが 投稿日:2007/02/24(土) 13:55
- 更新お疲れ様です。
今回はなかなかキャストが多くて華やかな感じです。
いつもワクワクしながら更新楽しみにしてます♪
- 139 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/24(土) 23:23
-
12.インテリアデザイナー
- 140 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/24(土) 23:25
- 藤本は目の前に座る中年のおばさんに笑顔を向けていた。
話しを始めて1時間。ずっと質問攻めだ。
よくもまぁ、こんなに話題が出てくるなと藤本は感心しながら笑顔で応える。
「で?向こうにはカッコいい子いたの?」
興味深々といった顔を向けてくるおばさんに藤本は目を大きく開き「はぁ?」と声を上げる。
「うちのひとみもねなんだか高校生と付き合ってるみたいでね。」藤本は驚いた顔でおばさんの顔を見ていた。
こないだ見かけた子がそれなのだろうか?
いや、吉澤と付き合っているのは自分のはずだ。
別れた記憶などどこにも無い。
- 141 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/24(土) 23:25
- 藤本の様子がおかしいことに気がついた吉澤の母親は「美貴ちゃん、どうかした?」と藤本の顔を覗きこんだ。
「うんん。なんでもない。よっちゃん、そのことどこで知り合ったの?後輩?」藤本は冷静を装って笑みを作る。
「バイト先って聞いたかしら。あの子ったら、専門学校行きだして独り暮らし始めたら帰ってこないのよ。」
ため息をつく母親に藤本は「忙しいのかな?」と微笑んだ。
「デザインの専門学校が行って、インテリアデザイナーの会社に就職したみたいだけど。電話しかしてこないのよ。」
ため息をつく吉澤の母親に藤本は吉澤の仕事を初めて耳にした。
- 142 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/24(土) 23:26
- 「インテリアデザイナー・・・。」呟く藤本に「知らなかったの?」藤本の母親はまた、意外だという顔をする。
「美貴ちゃん・・・ひとみと何かあった?」藤本が首をかしげる。
「美貴ちゃんがアメリカに行ってから美貴ちゃんのこと全く話さなくなったから。」なにか躊躇うように吉澤の母親は呟く。
「何にも・・・無いよ。」藤本はぎこちなく微笑みカバンに手をかける。
「あら、帰るの?」藤本は頷くと立ち上がった。
「これから練習なんだ。また来るね。」藤本は笑みを見せると玄関に歩を進める。
吉澤の母親も慌てて藤本の後を追った。
「ホントに、またいらっしゃいね。」藤本は頷き吉澤の家を出た。
- 143 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/24(土) 23:26
- 三月は未だ寒い、人よりも寒がりな藤本はコートの絵里を立て腕を組むを小さな身体を更に小さくした。練習が行われる体育館までここから1時間くらいだろうか。藤本は駅に向かって歩みを進める。
先ほどの吉澤の母親の言葉が頭から離れない。
高校生と付き合っている?一体、どうなっているんだ。連絡を怠ったことは仕方がなかった。
だからって、あんまりだ。
藤本は組んでいた手を解くとコートのポケットに手を入れた。取り出した携帯を操作すると耳に当てる。
『もしもし、美貴ちゃん?』
「今、大丈夫?」
『うん。移動中だから。』
藤本は歩を緩めた。
- 144 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/24(土) 23:27
- 「よかった。」
『どうした?』
「今、よっちゃんの家に行ってきた。」
『おばさん元気だった?』
「うん。あのまま、パワフル過ぎた。」
『そう。ふふ。』
吉澤の母親を思い出して笑ったのだろう。藤本は「笑い方、キモイ。」と声を低くして呟いた。
『酷いな。』
「日本の世の中は、キモイのが流行ってるの?」
『ちょっとぉ。それどういう意味よ。』
「そんなことより。」
『そんなことってなによ。』
「美貴ってよっちゃんと別れたの?」
『え?』
「いつ別れたのかな?」
『それは・・・美貴ちゃんが連絡しなかったからじゃないの?』
「よっちゃんがそう言ってたの?」藤本の声には怒りが込められている。
『そうじゃないけど・・・。』
「じゃ、なんで分かるの?」
『じゃぁ。きかないでよ。』
「よっちゃん、高校生のこと付き合ってるって。多分、こないだ一緒にいた子。」
『そう・・・。』
「美貴、よっちゃんと別れたつもりないんだけど。」
耳に当てた携帯からしばらく何も聞こえてこない。藤本はイライラとした顔をしながら聞こえてくる言葉を待った。
- 145 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/24(土) 23:29
- 『美貴ちゃん。』
「なに?」
『自然消滅・・・じゃないの?』
「はぁ。なにそれ。」
『そう言われると何もいえないんだけど。』
「あぁ。もう駅だ。」藤本は駅に着くと歩を止めた。
「よっちゃんの職場どこか知ってる?」
『知らない。』
「分からないかな?」
『おばさんに聞けばよかったのに。』
「美貴としたことが忘れた。」
『んー。今ね、仕事で柴ちゃんと後藤さんに会ったんだけど。』
「誰だっけ。後藤って。」柴田の顔は直ぐに思い出せたが後藤と言う名に覚えがない。
『ほら、よっちゃんのクラスメイトで、入学式に金髪で来た・・・。』
「あぁ。うん。覚えてる。なんで生徒会長と後藤さん一緒にいるの?しかもなんで仕事で会うわけ?」
『二人は同じ会社なの出版社。取材で一緒になって。後藤さんももちろん柴ちゃんもよっちゃんのこと知らないみたいだった。』
藤本はチッと舌打ちをする。
「梨華ちゃん、なんか伝ないの?」
『ないよ。』
「あぁー。もう行かないと。」藤本は腕時計に目をやると再び舌打ちをする。
「なんか分かったら連絡頂戴。」
『わかった。あんまり期待はしないでね。』
「それじゃ。」藤本は電話をポケットに戻すと改札に向かって駆け出した。カードを通し改札を抜けるとホームに入ってくる電車を横目で見ながら駆け出す。階段を一段飛ばしで駆け上がる。通路を駆け抜け階段を駆け下りると一番近くのドアから乗車した。藤本が錠さすると直ぐに扉が閉まった。
「あぶねー。」藤本は電車が動き出すと空いている席に腰を降ろす。
- 146 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/24(土) 23:30
- 吉澤と会いたい。
アメリカに居る間は会えないことが当たり前だった。
日本に帰れば直ぐに会えると思っていたのにそうではなかった。
近所に住んでいて、いつだって会いたいときに会えたはずの恋人。
思えば藤本は吉澤の友達という存在を全く知らなかった。
それは石川も同じだ。
年が同じ石川の友達は知っていても年下の吉澤の友達は全く知らない。
そもそも吉澤に友達が居たのだろうか。そんな疑問が藤本に浮かぶ。
居た、としても吉澤を一番よく知っているのは藤本と石川だ。
吉澤のことを誰かに聞かなければならない情況なんて考えられない。
そもそも、そんな情況になるなんて思ってもいなかった。
電車が目的の駅に着くと藤本は電車を降りた。階段を昇り改札をでると大きな通りを足早に歩いた。
- 147 名前:clover 投稿日:2007/02/24(土) 23:33
- 本日の更新以上です。
>>140-146 ルーズボール 12.インテリアデザイナー
今日も短いですが・・・更新しました。
>>138 :ももんが様
毎日、本当にレス有り難うございます。
>今回はなかなかキャストが多くて華やかな感じです。
そうですね。途中で投げ出さないようにしないとw
>いつもワクワクしながら更新楽しみにしてます♪
有り難うございます。レスいただけるとこちらも更新のしがいがあるので
励みになります。
- 148 名前:ももんが 投稿日:2007/02/25(日) 20:42
- 毎日の更新ありがとうございます。
美貴ちゃんとよっちゃんのこれからが気になります!
cloverさんの作品は、ものっすごい続きが気になってしかたないです。
- 149 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:30
-
13.高校生と中学生
- 150 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:30
- 「きゃっ。辻さんカッコイイ。」道重はいつものようにスタンドから辻の応援をしていた。
いつもと少し違うのは隣に亀井と新垣がいることだ。
「凄い早いな。」新垣は辻のスピードに関心しながら大好きなバスケ観戦を楽しんでいる。
その隣の亀井はバスケのルールも知らずただ、プレーを眺めていた。
- 151 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:31
- 小川は練習を終え道重の声に手を振る辻を見つけ駆け寄るとスタンドに目を向けると口をポカンと開けた。
「さゆ、待っててね。」辻は笑顔で手を振り、部室に向かって歩みを進めるが小川の足音が聞こえず振り返った。
「麻琴、いくよ。」口を開けたまま上を眺めている小川に駆け寄ると背中を叩いた。
「新垣さんがいる。」辻はスタンドに目を向けた。
出口に向かって歩く道重の後ろに亀井と新垣の姿を見つける。
「ホントだ。気がつかなかった。亀ちゃんも来てるんだね。」
辻は未だ口を開けて新垣の姿を追う小川の横顔を見て笑うと引きずるようにして部室に連れて行った。
- 152 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:31
- 「のんちゃん、高校のときよりかなりレベル上がってるね。」
新垣は関心するように道重に今見たプレーについて語りだす。
道重はバスケの用語を使われても余りよく分からないが辻が褒められていることに笑顔を見せていた。
壁に寄りかかり亀井は笑っている道重を眺めていた。
自分が大好きだった子が自分ではない他の人を褒められて喜んでいる。
それが、誰かを愛することなのだろう。
吉澤が褒められたら自分だって嬉しい。
愛している人が自分に教えようとしないことを勝手に調べたりしていいのだろうか。
- 153 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:32
- 「お待たせー。さゆー。」道重に駆け寄り抱きつく辻。
新垣は亀井に歩み寄ると「相変わらずだねぇ。」と笑った。
「亀、どうかした?」
亀井が深刻そうな顔をしていることに気がついた新垣は亀井の肩に手をのせた。
「ん。あ、小川さん。」少しはなれた場所で新垣をじっと見ている小川。
新垣が視線を向けると慌てたように頭を下げた。
「あの人いつもオドオドしてるよね。」
新垣は小声で亀井に耳打ちする。亀井は苦笑しながら小川を見ていた。
「お久しぶりだね。」小川は新垣と亀井に歩み寄り笑顔を向ける。
亀井は小川が全く自分に視線を向けていないことに気がつき自分はもしかしたら邪魔かもしれないと一歩後ろに下がった。
「亀?」
新垣は振り向き「どうした?」と首をかしげる。
「どんかん。」と口だけ動かし小川を見た。
「あの、今度、実業団の見学、私も行くんで。」
小川は新垣の前に歩み寄り照れたようにつぶやいた。
新垣は「はぁ。」と困ったように小川を見つめる。
「それより・・・」新垣は未だ抱き合っている辻と道重に視線を向けた。
- 154 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:32
- 「さゆ。ちょっと。」
新垣は亀井の手を引いて二人に歩み寄る。
亀井は振り向きうな垂れている小川を見て笑みを零した。
「今日はね、二人がっていうか絵里が辻さんに聞きたいことあるっていうから仕方なく連れてきたの。」
抱き合ったまま、道重は亀井に視線を向けた。
「どうしたの亀ちゃん。」道重の胸の中で亀井に視線を向ける辻。
「ちょっと、離れて話しましょうよ。」
新垣は二人の肩に手をかけ離れさせた。
それでも手を繋いでいる二人を見て新垣は苦笑した。
「絵里、吉澤さんの過去を知りたいんだって。」
辻は道重を見上げると亀井に視線を向ける。
「マックでも行こうか。」
辻はそういうと新垣の背後で新垣をデレデレとした顔で見つめている小川を見つけた。
「麻琴、マックいく?」小川はガクガクと首を上下に動かした。
- 155 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:32
- 新垣と亀井が高校に進学して直ぐのことだった。
新垣が他校のバスケの練習を見に行くからと亀井を誘うと部活があると断られた。
「さゆ誘えば?」亀井にそういわれ道重に連絡をすると快く付いてきてくれた。
幼稚園から大学まで同じ敷地内に通うことになる道重にとって他校に出向くこと自体に興味があったようだった。
案の定、道重はバスケなどに興味はなくルールすら知らなかった。
- 156 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:33
- 「かわいいー。」ギャラリーで見学していると隣から聞こえてきた道重の声に新垣は「はぁ?」と声を出す。
カッコイイや凄いなら分かるがバスケを見て可愛いなんて聞いたことが無い。
「何が可愛いのよぉ。」新垣がため息混じりに呟くと道重は一人の選手を指差した。
「あの人。ちっちゃくて、凄い可愛い。さゆの次だけど。」
バックナンバー1。辻希美だ。
「2年だね。辻希美。」新垣がノートを見ながら呟く。
「ギュッてしてあげたい。やーん。かわいい。」悶える道重に新垣は呆れた様子だった。
- 157 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:33
- 辻は部活に参加しながら体育館の時計に目を向ける。
17時。そろそろだろう。辻は2階のギャラリーへ視線を巡らす。
見学している中から目当ての人を見つけることは辻にとって簡単なことだ。
黒髪の三つ編み、色白の長身。
辻が高校2年になった頃から見学に来るようになったその子。
誰を見に来ているのか分からないがその子は毎日、必ずやってくる。
「のんちゃん。また見てるの?」小川は辻が並ぶ列に入りながらギャラリーに視線を向ける。
「可愛いよね。あの子。」辻はボールを籠から取りながら呟いた。
頬を赤らめる辻の横顔を見ながら小川はもう一度ギャラリーに目を向けた。
- 158 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:33
- 部活を終え片付けを済ませ部室に戻ろうと辻は小川の姿を探していた。
「どこ行った?」片付けのころから姿が見えなかったと辻はマネージャの元へ歩を進めた。
ベンチに座りノートになにやら書き込んでいるマネージャー。
「亜弥ちゃん。麻琴知らない?」
辻はベンチに座りながら訪ねた。
3年のマネージャー、松浦亜弥はノートから顔を上げると辻に視線を向けた。
「知らないけど?」
体育館に視線を巡らせ小川の姿を探す松浦。
「来たら、先部室戻ってるって言って。」
辻は立ち上がると伸びをした。
「あいよ。」松浦はノートに視線を戻しながら呟いた。
- 159 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:34
- その頃、小川は片付けを途中で抜け出しステージの袖から階段を駆け上がっていた。
帰り始める見学者の間を「すみません。」と駆け抜け外に出たところで「ちょっとまって。」と目的の人の肩を叩く。
振り向いた道重は小川の姿を確認すると首を傾げた。
「あの、いつも来てますよね。」
小川は笑顔を見せると道重は眉を潜めた。
「別に、あなたは見てないの。」
道重はそう呟き小川に背を向け歩き出した。
小川は慌てて道重の肩を再び掴む。
「別にそーじゃなくて。あのうちの辻。辻が・・・。」
道重は辻と言う言葉に反応し歩みを止めると振り返った。
「辻さんがなに?」
「毎日、君が来るの楽しみにしてて・・・。」
小川は頭をポリポリとかいた。
「辻さん、さゆみのこと知ってるの?」
道重は目を輝かせた。
「うん。毎日5時に来るの待ってる。」
嬉しそうな道重の顔を見た小川はニヤと笑った。
「もしかして辻を見に来てる?」
道重は頬を染め頷いた。
「行こう。」
小川は道重の手を取ると来た通りを引っ張って歩く。
「行くって?」戸惑いながらも小川に着いていく道重。
「部室。」小川は道重の手を引き辻がいる部室へと急いだ。
- 160 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:34
- 「まこっちゃん。」
体育館を突っ切ろうとすると松浦が小川を呼び止める。
小川は足を止め松浦へ視線を向けた。
松浦は戸惑っている道重を不思議そうに見ていた。
「のんちゃんが、先に部室に行ってるって。」松浦は部室を指差した。
「うん。今、行くところ。」
小川が道重を連れて部室に向かって歩みを進める。
「ちょっと待った。」松浦は小川に駆け寄り、足止めをした。
「その子はだれ?うちの生徒じゃないでしょ。朝日女子の中学校の制服じゃない。」
松浦は道重を見た。
「のんちゃんに用があるの。」
小川が急いでるんだとジタバタしながら言った。
「用があるなら外で済ませなさい。だいたい、部室には皆いるでしょうが。」
用が何なのか気がついた松浦はそう言って小川の手から道重を解放させた。
「まこっちゃんが部室行ってのんちゃん連れてくる。いい?」
腕組する松浦に小川は首を上下させ部室へとかけていった。
松浦は呆然と小川の背中を見ている道重に近づいた。
「あっちに座ってよ。」松浦はベンチに向かって歩みを進めた。
怯えながら松浦のあとについて行った。
- 161 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:34
- 「あのぉ・・・さゆみは一体・・・。」
ベンチに座った道重は俯きながら呟いた。
松浦は微笑むと道重の肩をポンと叩いた。
「のんちゃん。見に来てる子でしょ。」
顔を上げた道重は頷いた。
「のんちゃんあなたが来るの楽しみにしてるんだよ。大丈夫、上手くいくって。」
微笑む松浦に道重は首を傾げた。
「上手くいくってなにがですか?」
「何がって告白するんでしょ?」松浦は違うの?と首を傾げる。
道重は首を横に振った。告白なんてとんでもない。
告白はするものでなくされるものだ。
だって、自分はこの世で一番可愛いのだから。
「じゃ、あんた何しに来たの?」松浦は真顔で呟く。
「何しにって、さっきの人に引っ張られて・・・。」
道重は言葉を止めて足音が聞こえる方へと顔を向けた。
松浦も同じように顔を向ける。
二人の視線の先には駆け寄ってくる辻の姿があった。
「ま・・・どうにかなるよ。」松浦は腰を上げると辻の方へ歩みを進めた。
- 162 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:35
- 「のんちゃんが告白しな。上手くいくからきっと。」
すれ違い座間に松浦は辻に耳打ちし体育館を後にした。
辻は緊張しながらゆっくりと道重へ歩を進める。
小川に突然、「あの子が待ってるから。」と部室を追い出され何がなんだか分からずここに来たら、松浦に告白しろなど耳打ちされ目の前には愛しい子が立ってる。
「辻さん・・・。」呟く道重に辻は笑みを零す。
「かわいい・・・。」道重は思わず目の前に来た辻を抱きしめた。
道重の柔らか胸にすっぽりと収まった辻は心臓が爆発しそうなほど胸が高鳴った。
「あの・・・。」やっと出た辻の言葉に「あっ・・・ごめんなさい。」と道重は辻を開放した。
「いや・・・謝らないで。嬉しかったし・・・。」
顔を真っ赤にさせた辻。
「あの・・・いつも来てるの見てて、凄い気になってて・・・のん・・・あのぉ・・・」
俯きながら言う辻を道重は微笑み再び抱きしめた。
「辻さんのことずっと見てました。一目惚れしたの。さゆみと付き合ってください。」と辻の頭の上で道重は呟いた。
- 163 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/25(日) 23:35
- それから数日が過ぎ、道重は辻の部活が休みの日、二人にとっての初デートに亀井と新垣がバイトする喫茶店に辻を連れて行った。
そこで亀井たちと一緒にバイトをしている吉澤と辻は再会した。
辻はあの日、自分を見て複雑な顔をした吉澤の顔を忘れられずにいる。
あんなに可愛がってくれた吉澤が他人のような態度だった。
- 164 名前:clover 投稿日:2007/02/25(日) 23:40
- 本日の更新以上です。
>>149-163 ルーズボール 13.高校生と中学生
メインの内容が出てきてないw
早く出したいのだけれどそれまでに何回更新しないといけないのかw
結構、先になる気が(*^。^*)?
これから出てくるので(出てこないと困るw)もう少しお付き合いください。
>>148 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
>美貴ちゃんとよっちゃんのこれからが気になります!
まだ、藤本さんが吉澤さんの居場所を知らないと言うw
もう少しお待ちをw
>cloverさんの作品は、ものっすごい続きが気になってしかたないです。
有り難うございます。頑張りますのでw
今後も宜しくです。
- 165 名前:ももんが 投稿日:2007/02/26(月) 08:12
- 更新おつかれさまです!
辻ちゃんとさゆの話、ほのぼのしますねえ。
このカプは可愛くていい!!
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 18:09
- マコトってこういう時はあんまりヘタレじゃないのになぁ…(遠い目)
と思ってしまいましたw
- 167 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/26(月) 19:26
- たくさん更新キテターありがとうございます
複雑な過去が気になりつつののさゆとマコに癒されてますw
積極的なさゆがカワイイですね
- 168 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:35
-
14.心のバランス
- 169 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:35
- 実業団の練習を終えた藤本は自分の情けなさに苛立っていた。
それだけではない、自分の最悪なプレーに何も言わない大人たちにもだ。
特別扱いなんてされたくない。
そんな扱いされるために頑張ってきたんじゃない。
大体、比べられるのが嫌いなのに・・・。
先輩すら何も言ってこない。
期待外れだったとかの嫌味くらい言って欲しい。
それとも呆れて何も言わないのだろうか。
藤本はさえない表情で「有り難うございました。」と頭を下げ練習場を後にした。
- 170 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:35
- 「さみぃ・・・。」
夜になると昼間よりも気温が下がる。
星なんて見る余裕すらない。藤本は寒がりなのだ。
駅までの道を藤本はひたすら歩いた。
今日の練習は最悪だ・・・帰国してからどんどん悪くなっている。
理由は吉澤だ。
吉澤が自分の活躍を喜んでくれると思えばこそ出来ていたプレイ。
今は心にあった余裕が全くない。
- 171 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:36
- チームを無視した個人プレイ。
吉澤がボールに思える。
離してしまったら・・・奪われてしまう。
だから一人で独占する。
他の人よりも自分のがボールをバスケットに入れる確立は高いと思うのは
能力を比べている証拠。
そして、コートのなかで独立してしまう。
その結果・・・ボールは奪われ、自分の無力さを実感する。
人は一人では生きていけない。
多くの人はいらない。吉澤さえ居てくれれば。
- 172 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:36
- 藤本は欠伸をかみ殺し電車に乗った。
仕事帰りのサラリーマンが空いている席を探し車両を移動していく。
藤本は車椅子用の角のスペースに寄りかかり流れていく景色を意味もなく眺めていた。
このところ眠れない。
布団に入り目を閉じると吉澤のことばかり考えてしまう。
いつの間にか新聞配達のバイクの音が聞こえてきて寝なくてはと焦っても眠れない。
吉澤が待っている。
藤本にとってそれだけが頑張れる唯一のものだった。
心はズタズタだ。
信じていたものが信じられなくなってしまう。
- 173 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:37
- 藤本は自分が居なければ吉澤は生きていけるはずが無いと思っていた。
吉澤がそれを望んでいた。
1日中、藤本のことを考えていた。
生活の中心は藤本だった。
留学することに不安なんて無かった。
距離にそれほど意味は無い。
心が通じ合っていれば・・・
通じ合っていると思っていた。
地元の駅につき藤本は改札を抜けるとコンビニに立ち寄った。
部活帰りによく食べた肉まんを片手にコンビニを出るとそれを口に運びながら家路を急ぐ。
「温かい・・・。」
口をモグモグさせながら呟くとなんだかとてつもなく寂しくなる。
留学中は待っていてくれると思うだけで満たされていたのに。
- 174 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:37
- 「ただいま。」
藤本は小さな声で呟き母親が付けておいてくれたのであろう玄関の電気を消した。
両親はもうすげに寝ているだろう、藤本は静かに部屋に向かった。
「疲れた・・・。」
机の上においてあった写真立てを手に取りベッドに倒れこむ。
藤本、吉澤、石川。
3人、同じ制服を着ている写真。藤本と石川の手には卒業証書がある。
- 175 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:37
- 「よっちゃん。」
藤本は写真に写る吉澤を人差し指で撫でた。
吉澤の腕に絡まる藤本の腕。石川の腕は絡んでいない。
吉澤と藤本は幼馴染で恋人。
吉澤と石川は幼馴染。
「どこに居るんだ。ばーか。」
写真を胸に抱き呟いた。
「心のバランスが崩れそうだよ・・・よっちゃん。」
- 176 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:37
-
15.幼馴染
- 177 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:38
- 「よっちゃんて、謎なんだよね。」
辻は道重によって口に運ばれたポテトをモグモグさせながら呟く。
新垣は甲斐甲斐しく辻の世話をする道重を呆然と見ていた。
角の席で小川はポテトを手に持ったまま新垣の顔を眺めている。
「謎って・・・。」
亀井は眉間に皺を寄せた。
「おいし。」
辻は道重が口元に持ってきたポテトをパクリと食いつき道重に微笑んで見せた。
道重はニコっと微笑み自分の口にポテトを入れる。
亀井は早くその先が知りたく道重に邪魔をしないでと目で合図を送るが頬を膨らませ睨まれた。
泣きそうな顔になった亀井を見て道重は仕方ないなという顔をして辻の口にもって行こうとっしたポテトを自分の口に入れた。
- 178 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:38
- 「のんが、入学したときはすっごい面白くてでもやるときはやるって感じで部活サボったりとか絶対無い人だったんんだけど。」
辻はテーブルの上で両手の肘を突きアゴを手の上に乗せた。
「夏になるちょっと前かな、サボったりしだしたの。ねぇ。麻琴。そうだったよね?」
辻は小川に視線を向けた。皆の視線が小川に集まる。話しを聞いていなかった小川は新垣が突然自分に視線を向けたことに驚きキョロキョロと目を泳がせた。
- 179 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:38
- 「よっちゃんサボるようになったの夏前だったよね?」
「うん。確か。」
小川は視線を上の方に上げ空を見つめた。
「確か、その辺りだよね。藤本先輩が留学しちゃったの。」
「そこ、もっと詳しく。」
新垣が小川の肩を掴むと小川は掴まれた肩を見ながらニタっとした顔をする。
「藤本さんと吉澤さんってどんな関係?」新垣が小川に詰め寄った。
亀井はじっと小川の口元を見つめる。
「幼馴染。石川さんと藤本さんと・・・。石川さんは吉澤さんが引退するまで試合見に来てたよ。」
小川はそういうと辻に視線を向けた。
- 180 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:38
- 「のんちゃん。可愛がられてたよね。石川さんに。」
辻は小川を睨んだ。
「可愛がられてないよ。」辻は道重を見て微笑んだ。
「麻琴の勘違い。」
辻は道重の頬を擦りながら呟いた。
道重の顔が泣きそうになっている。
新垣は小川をチラッと見ると「バーカ。」と小声で呟いた。
小川は「ごもっとも。」と俯く。
幼馴染ならなぜ、あの時なにも言わずに立ち去ったのだろう。
亀井はストローを見つめながら考えていた。
- 181 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:39
- 「石川ってだれ?」道重はじっと辻を見つめる。
「お天気キャスターの人。ほら朝やってるでしょ。石川梨華って声の高い人。」
辻は困りなが道重の頬を擦った。
「さゆの方がずっと可愛いから。」辻がそう言うと道重は納得したように頷いた。
「そんなの、吉澤さん言ってなかった。」亀井は呟く。
吉澤と一緒にテレビを見ていて、石川を見たとき吉澤は何も言わなかった。
「でも幼馴染だよ、あの3人。」
小川が申し訳なさそうに呟く。
「別に小川さんが悪いわけじゃないんだから。」うな垂れている小川の肩を新垣が叩いた。
幼馴染と言うのは事実なのだろう。
亀井はストローに口を付けながらあの日、吉澤が慌てて逃げるように立ち去ったことを思い出していた。
なにか、あったのだろうか。逃げるように去らなければならない何か。
- 182 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:39
- 「あのぉ・・・」俯いていた小川が顔をあげた。
小川の声に気がついたのは新垣だけだ。
道重と辻はイチャイチャとポテトの食べさせあいに夢中だ。
亀井はグラスを見ている。
「なによ?」新垣は周囲を見てため息をつくと小川に小声で囁いた。
「いや、あの・・・。実は・・・。」
「だから、なに?」はっきりしない小川に新垣は苛立ったよう小声で呟く。
「石川さんと吉澤さんがホテルに入ってくの見たこと・・・。」
新垣は眉を潜め小川の口を手で塞ぐと亀井に聞こえなかったかと視線を向けた。
「よかった。」聞こえていなかったようだ。
亀井はストローで遊んでいる。
「いつ?」新垣は小川の口からそっと手を離した。
「高1の秋だから・・・。」小川が声を潜めて考える。
「3年前か。」小川より先に新垣が呟いた。
「いい、それ、他言しないこと。得に亀井には。二人の秘密にしとこ。」
新垣は小川の肩を2度叩いて亀井に視線を向けた。
- 183 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:39
- 「亀、そろそろ吉澤さんと待ち合わせの時間じゃない?」
「あっ・・・。」亀井は腕時計に目を向けるとカバンを持って立ち上がった。
「さゆ、辻さん、今日はありがと。絵里、そろそろ行くね。」亀井は二人にそういうと新垣に視線を向けた。
「途中まで一緒にいく?」新垣はカバンに手をかけて尋ねる。
「大丈夫。ありがと。」亀井は笑顔を作りそう呟いた。
「小川さんもありがとうね。」
小川に視線を向けると小川は慌てたように首を横に振った。
新垣は小川がへまをしないか不安そうな顔をする。
亀井は「じゃぁ行くね。」と足早に店を出て行った。
- 184 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:40
- 「さっきの、辻さんも知ってるの?」
その姿を見送った新垣は小川の耳に顔を寄せる。
小川は顔を横に振る。
「そっか。じゃぁ。知ってるのは私たちだけだね。」小川は頷く。
「二人とも邪魔なの。早く帰ったら?」
道重はふと新垣と小川に視線を向けた。
「さゆ、あんたねぇ。」新垣は苦笑するとカバンに手をかけた。
「小川さんも行くよ。」呆然としている小川の手を掴み店を出て行った。
- 185 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:40
- ニタニタとした顔のまま小川は新垣の隣を歩く。
「小川さん、そのだらしない顔どうにかならない?」
新垣は眉を潜めて小川を見た。
「あっ。」慌てて顔を引き締める小川。
「小川さんって、バスケしてるときは頭脳プレイヤーに見えるんだけど。実際は随分違うよね。」
新垣は通行人にぶつからないように起用に歩く。
小川は肩を落としながら新垣のあとを追った。
「バスケは中学から始めたんですよ。吉澤さんに憧れて。」
新垣は歩を止めると振り返った。
「中学一緒なの?」小川は頷いた。
「なんで、さっきそんなこと言ってなかったよね?」
頷く小川に新垣は呆れた顔をする。
- 186 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:40
- 「のんちゃんより小川さんのが詳しいってこと?」
新垣は小川の隣に並び歩みを進めた。
「んー。でも、のんちゃんのが可愛がられてたから。プライベートでも会ったりしてたみたいだし。」
小川は寂しそうに呟いた。
新垣はそんな小川の横顔を黙って見つめる。
「のんちゃんて、身体小さいけどオーラみたいなのあるでしょ。いつもみんなの中心になる。誰からも好かれて直ぐに仲良くなって。バスケも色んな人に教えてもらってどんどん上手くなっていくし。」
呟く小川の横で新垣はため息をついた。
小川は不思議そうに新垣を見る。
新垣は小川の顔から視線を反らし行き交う人を横目に駅に向かって歩みを早めた。
「新垣さん?」遅れた小川が小走りに新垣の隣に並ぶ。
「小川さん。」新垣は歩を止めた。
小川は新垣よりも少し先で歩を止め振り返った。
- 187 名前:ルーズボール 投稿日:2007/02/26(月) 21:40
- 「ただ、立ってるだけでその人は好かれる?教えもらうだけでバスケ上手くなる?」
新垣はじっと小川を見つめた。
新垣の髪が風に靡き、顔が半分ほど隠れた。
小川は気まずそう新垣の顔を見つめた。
何も言わず、ただ、自分を見つめる小川に新垣は苛立ちを覚えた。
今日、小川に何度苛立ちを覚えただろうか。
人に対して余り苛立ったりするほうではないのに。
「帰るね。」
新垣はなぜだろうと小川から視線を外し歩を進め呆然としている小川の横を通り過ぎる。
小川は振り返ると新垣の背中を見送った。
辻に対して嫉妬心が無かったわけではない、でもだからって、今口にすることではなかったと後悔をした。
- 188 名前:clover 投稿日:2007/02/26(月) 21:49
- 本日の更新以上です。
>>168-175 ルーズボール 14.心のバランス
>>176-187 ルーズボール 15.幼馴染
藤本さん誕生日おめでとう。
取りあえず、ここらで毎日更新終了です。
週1で更新できればと思ってますので、読んでいただけたら嬉しいです。
>>165 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
>辻ちゃんとさゆの話、ほのぼのしますねえ。
>このカプは可愛くていい!!
どうもです。料理対決とか見てるとほのぼのしますもんね。
>>166 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>マコトってこういう時はあんまりヘタレじゃないのになぁ…(遠い目)
>と思ってしまいましたw
お・・・そうなんだ。スミマセン知らなくて。
もう、このキャラで書いてしまっているという・・・
ご辛抱を・・・
>>167 :naanasshi様
いつもレス有り難うございます。
>たくさん更新キテターありがとうございます
毎日してました。今日までですがw
>積極的なさゆがカワイイですね
道重さんに積極的にアピールされたい妄想ですw
- 189 名前:naanasshi 投稿日:2007/02/26(月) 22:13
- 毎日更新お疲れ様でした
これからはまったり待ってますよー
マコとがきさんのこれからが気になりますねぇがんばれマコ!!
- 190 名前:ももんが 投稿日:2007/02/27(火) 08:05
- 更新お疲れ様でした。
まこっちゃんいちょっと哀愁がただよってますねえ。
のんびり更新待ってますんで、ぼちぼち更新してください♪
- 191 名前:166 投稿日:2007/02/27(火) 14:45
- >>188
うお、違う違います!
ひとのことだとヘタレなりに行動力あるのになー、
自分のことになると本気でヘタレだよねw ってことですそんなとんでもない。
書き方まずくてすいませんでした…
これからのマコがきにも期待してマース
- 192 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/27(火) 19:19
- 毎日更新お疲れ様でした
みきよしの過去
いしよしの過去
どっちも気になりますね
さゆののは可愛いし
がきまこになるのか?
亀ちゃんどーなるんだ?
続き待ち遠しいです
- 193 名前:名無飼育 投稿日:2007/03/01(木) 18:31
- 更新ありがとうございます
過去が気になります。
更新楽しみにしています。
- 194 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/03/07(水) 09:14
- 一週間…
待ってます
- 195 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/08(木) 16:03
- イジイジしたマコト物凄くツボです!
- 196 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:16
-
16.愛を語る人
- 197 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:17
-
「おつかれさん。」空間デザイナーのアヤカは吉澤自身がデザインしたソファに座る吉澤に声をかけた。
「おつかれー。」吉澤はフロアを見回した。
アヤカがデザインしたこの空間の殆どのインテリアは吉澤がデザインしたものだ。
自分がデザインしたものを一番合った形で使ってくれる。
アヤカとの仕事は常に充実している。
吉澤は満足げな表情だった。
アヤカはカウンターに肘をつきそんな吉澤を見て微笑んだ。
- 198 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:18
- 「可愛い子なんだよ。とっても。」突然、呟く吉澤にアヤカは当たり前のように頷いた。
吉澤は突然、恋人について語りだす。
一緒に仕事をするようになって1年。
吉澤の仕事の速さと妥協のなさをアヤカはかっている。
だから仕事が来ると直ぐに吉澤に連絡を居れ打ち合わせに入るようにしていた。
初めて会った日も吉澤はこうして突然、恋人について語りだした。
アヤカは否定も肯定もせず、ただ、吉澤の話しに耳を傾けるのが習慣になっていた。
- 199 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:18
- 「一途で、健気で。」吉澤はフロアを見渡しながら呟く。
語る吉澤の前に黙ってその場に居てくれる人ならば別に自分でなくても良いのだろうと思いながらアヤカは吉澤を見つめる。
「元気で明るくて、フニャって笑って。でも寂しがりやで、凄いうちのこと大好きなんだ。」吉澤は目を閉じた。
その表情は悲しそうにアヤカには見えた。
「悲しませたりしたくない。」
目を開けた吉澤はアヤカを見て微笑んだ。
アヤカは「そう。」と微笑みを返す。
毎回、会うたびに同じ話をする吉澤をアヤカはまるで壊れたレコードのように思っていた。
「今度、アヤカに会わせてあげるよ。」微笑む吉澤にアヤカも微笑んだ。
会うことはない吉澤の恋人。本当に存在しているのかすら分からない。
吉澤が作り上げた架空の恋人かもしれない。
1年の間、会わせると言われ、未だ会うことのないその人は吉澤にとって大切な存在なのだろう。
- 200 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:19
- 「愛してるんだ。その子のこと。」頷く吉澤にアヤカは優しい顔で微笑んだ。
「じゃぁ。十分だよ。」懺悔するかのような顔をする吉澤にアヤカはいつもと同じ言葉をかける。
安心したように「ありがと。アヤカ。」と呟く吉澤へアヤカは歩み寄った。
「よっしぃが愛してるだけでその子は凄い幸せなんだよ。」
アヤカは吉澤の頭を撫でた。
吉澤はもう一度「ありがと。」と呟き帰り支度を始める。アヤカはソファの背に手を置き静かに吉澤を待った。
自分は愛されている。そう信じるために誰かに話しをするのだろうか。
誰かに聞いてもらい話すことで自分の中で納得していく。
一体、吉澤は何のためにそんなことをしているのだろうか。
1年、一緒に仕事をしてきて吉澤のプライベートが一切見えてこない。
だが、それで良いとアヤカは思っていた。
プライベートを知ったらきっと自分は吉澤の深みにはまって行ってしまうだろう。
ただ、仕事相手として話しを聞くだけで吉澤の力になれるのならそれはそれで良いと思っている。
- 201 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:19
- 「んじゃ、帰るね。また仕事あったらよろしく。」吉澤は振り返りアヤカに笑みを向け扉へと歩を進める。
「うん。こちらこそよろしくね。」アヤカは先を行く吉澤を追った。
「どうかした?」
扉の手前で歩を止め振り返った吉澤をアヤカは不思議そうに見つめた。
吉澤は何か、耐えるような表情をしている。「よっしぃ?」アヤカは心配そうに吉澤を見つめた。
「同じコートにいないとゲームはできないよね。」アヤカは意味が分からずに吉澤をじっと見つめる。
「うん。出来ないよ。うちはもう、コートにいない。」吉澤は自分に言い聞かせるように呟く。
アヤカは黙って頷いた。吉澤はアヤカの答えに期待はしていない。頷いてくれただけで十分だった。
自分を否定しないでくれる人。田中とは違う自分にとって必要な一人だと思っている。
そのアヤカが頷いたのだ、自信を持って亀井に会いに行こうと笑顔を見せた。
「大丈夫だよ。」アヤカが吉澤の腕を掴み呟いた。なんの根拠も無い言葉。
だが、吉澤にとっては大切な言葉だった。吉澤は「ありがと。」とフロアを出て行った。
- 202 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:20
-
- 203 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:21
- 吉澤は品川にあるオフィスに戻ると上司である保田圭を探していた。
広々としたフロア、ビルの5階から9階が吉澤の勤務する会社がある。
吉澤のデスクがあるのは6階だ。
ガラスの壁で出来ている会議室を覗き保田の姿を探して歩く吉澤。
一番奥の部屋で保田の姿を見つけると手を上げて自分の存在をアピールした。
保田は片手を挙げ待つようにと合図を送った。
吉澤は壁にある時計に視線を向けるとデスクに戻るとアヤカとの仕事の処理をし始めた。
- 204 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:22
- 「吉澤。お待たせ。」書類を抱えた保田が吉澤の隣のデスクに腰を降ろす。
「今日、定時であがりたいんですけど。」先に吉澤が言う。
保田は苦笑すると書類を吉澤に手渡した。
「急ぎじゃないからいいわよ。それ、次の仕事だから。準備しておいて。これにも資料入ってるから。」
保田はUSBメモリを吉澤のデスクに置く。
「了解です。で、これアヤカとの仕事終わったんで確認お願いします。」吉澤は今作っていた資料を保田に渡した。
吉澤の肩書きにはアシスタントと入っている。
保田が吉澤を信頼し知人であるアヤカを紹介したのだ。
「アヤカから連絡あったわよ。」保田は微笑み資料に視線を落とす。
「今回もいい仕事させてもらったってさ。」保田は顔を上げ吉澤を見て「よかったわね。」と微笑んだ。
「アヤカだからですよ。うち、まだまだだし。」吉澤はデスクの上を片しながら呟いた。
「当たり前でしょ。まだまだよ、吉澤。」保田は苦笑すると立ちあがった。
「もう、今日はいいわよ。私、打ち合わせあるから。お疲れ。」手を上げ去っていく保田に「お疲れ様です。」と吉澤は頭をさげると立ち上がり時計に目を向けた。
もうそろそろ来るだろう。
吉澤はパソコンの電源を落とすとカバンを肩から斜めに掛け回りの社員に「お先に失礼します。」と声をかけフロアを出た。
- 205 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:23
- エレベータホールで待っていると吉澤の携帯が震えた。
吉澤はホールほ端に歩みながら通話ボタンを押す。
「もしもし。」吉澤は声を潜めながら電話に出た。
チンと丁度、下に降りるエレベータの扉が開いた。
「うん、今降りるから。」携帯を耳から離すと閉まりかかる扉に手をかけた。
「すみません。」と呟きながら中に入り【閉】のボタンを押した。
亀井が駅に着いている。今、ビルに向かっているだろう。
吉澤は目を閉じ気持ちを落ち着かせた。
亀井のことだけを考えろ。
自分を一番愛してくれている亀井のことを思いやれ。
悲しませるな。
扉が開くと吉澤は目をゆっくりと開ける。
カードを通して退社記録を残すと吉澤はビルの外へ歩を向ける。
- 206 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/08(木) 20:24
- 駅に続く通路を歩きながら向かってくる亀井の姿を見つけると吉澤は笑みを浮かべた。
自分の姿を見つけいつもなら駆け寄ってくる亀井が俯いたままなことに不安を覚えた吉澤が駆け寄る。
「亀ちゃん?」歩を緩め声をかける吉澤。
顔を上げた亀井の顔は吉澤以上に不安に見える。
「吉澤さん。」作られた亀井の笑顔に吉澤は戸惑った。
朝はいつもと同じ声だったのに、今は声すら不安気だ。
「どうかした?」吉澤の声に俯く亀井。
吉澤は通行人の邪魔にならないように亀井の肩を抱き端に移動した。
「どっか、店はいろっか。」
通行人の視線を気にする亀井を見て吉澤は静かな個室がある店がよいだろうと考えた。
亀井の手を引きビルの中に戻るとエスカレーターで下に降りる。
何度か打ち合わせで使ったことのある和食の店に向かっていた。
そこならば個室がある。
- 207 名前:clover 投稿日:2007/03/08(木) 20:42
- 本日の更新以上です。
3月って何気に忙しいですね。
1週間更新頑張りますので気長にお待ちくだされば幸い。
>>197-206 ルーズボール 16.愛を語る人
>>189 :naanasshi 様
レス有り難うございます。
>マコとがきさんのこれからが気になりますねぇがんばれマコ!!
また、ちょこちょこ小川さんも出す予定ですw
今後も宜しくです。
>>190 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>のんびり更新待ってますんで、ぼちぼち更新してください♪
まったり、更新するのでw
ゆっくりお待ちをw
今後もよろしくです。
>>191 :166 様
レス有り難うございます。
>>188
スミマセン。私の勘違いで。
小川さんちょこちょこ出すのでお待ちくださいね。
今後もよろしくです。
>>192 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>どっちも気になりますね
少しずつ過去を明らかにしていきますねw
>がきまこになるのか?
>亀ちゃんどーなるんだ?
ゆっくり更新していくのでお待ちをw
今後も宜しくです。
>>193 :名無飼育 様
レス有り難うございます。
>過去が気になります。
まったり更新するのでw
今後も宜しくです。
>>194 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
>一週間…
>待ってます
すみませんw
頑張るので今後もよろしくです。
>>195 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>イジイジしたマコト物凄くツボです!
自分のなかでそんなイメージなんでw
今後も宜しくです。
- 208 名前:ももんが 投稿日:2007/03/09(金) 08:13
- 更新お疲れ様です。
不安を抱える2人の今後から目が離せません!!
アヤカさんいいお姉さんって感じです。
- 209 名前:naanasshi 投稿日:2007/03/09(金) 18:20
- 更新お疲れ様です
すごい切ないですね吉澤さんも亀ちゃんも…
吉澤さんを支えてくれそうな登場人物も出てきて今後どうなっていくのか楽しみです!
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/10(土) 22:22
- 吉澤さんも亀ちゃんも切ないですね…
続きが凄い気になりますね
- 211 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:43
-
17.ティーンエイジャー
- 212 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:44
- 新垣はコートのポケットに手を入れ家路を急いでいた。
「うぅ・・・寒い。」白い息と共に闇に声が漏れる。
なんであんなにオドオドしてるんだ。
新垣は先ほど別れた小川に苛立った気持ちは消えずに新垣の胸の中でモヤモヤと残っている。
何か言うときに人の顔色を伺って、はっきりと自分の意見を言えない。
この先、どうしていくんだ。
だからバスケットも高校のころから進歩がないんだ。
「あーもぉ。」新垣は顔をしかめて歩く。
- 213 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:45
- 家の前まで来ると門を開け小走りに家の中に入った。
「ただいまぁ。あぁ。寒い・・・。」脱いだ靴をそろえると新垣はリビングを覗いた。
「あら、絵里ちゃんたちと遊びに行ったんじゃないの?」
ダイニングテーブルで一人お茶を飲む母親が時計に視線を向けた。
「行ってきたよ。」新垣は向かいに座り「私も貰おう。」とティポットに手を伸ばした。
「あら、ご飯食べてないの?」母親はカップを差し出し時計に目を向けた。
「マック食べたよ。」新垣はフーフーと紅茶に息を吹きかけてから温かい紅茶を喉を通した。
「温まるぅ。」新垣は目を閉じてしみじみと呟いた。
「3人で行ったから遅いかお泊りかと思ってたのよ。」冷めてるであろう紅茶を飲む母親。
「亀は吉澤さん、さゆはのんつぁん。二人ともデート。」ため息混じりに新垣が呟いた。
「里沙はいないの?いい人。」苦笑しながら言う母親に新垣は眉を潜めて見せた。
「10代なんだからいっぱい恋しなきゃ。」微笑む母親に新垣はため息をついてみせる。
「幸せ逃げるわよ。」と笑う母親に「もう寝たら。」と新垣は呟いた。
「はいはい。寝ますよ。これ、宜しくね。」カップを指差す母親に頷く。
「おやすみ。」とリビングを出て行く母親の背中に「おやすみ。」と声をかけた。
- 214 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:45
- ティセットを持ってキッチンに向かいそれを洗ってからリビングの電気を消すと自分の部屋へ向かった。
部屋に入ると電気をつけずそのままソファに倒れこむように座った。
思わずため息がもれる。
18年、生きてきて付き合ったことがないだけ。
亀井や道重のように好きだとはっきり言えない。
恥ずかしさもあるが、行動する前にその後の展開を考えてしまう。
断られたら、別に好きな人が居たら・・・結局、行動する前に終わってしまうんだ。
辻や小川と一緒にボールを追いかけていた紺野あさ美。
紺野のプレイを見たとき新垣は鳥肌が立った。
持久力もスピードも備わった上に頭脳プレイヤーだった。
目立つプレイヤーではないけれど紺野の通すパスは確実にポイントに繋がる。
- 215 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:46
- 2度だけ紺野の試合を見た新垣は道重が辻を追うように紺野の姿を追いかけていた。
それが恋と呼べるものなのかどうか分からない。
でも、紺野のバスケをする姿に時めいていたのは確かだ。
3度目に試合を見に行ったとき紺野の姿はコートにもベンチにもなかった。
後から辻にやりたいことがあると部活を辞めたと聞いた。
元々頭が良かったという紺野は大学進学を目指して予備校に通い目出度く今では有名大学に通っているらしい。
辞めたと聞いたとき、勿体無いとまず思った。
そして、あんなプレイが出来るのにバスケを辞められる紺野のバスケに対する気持ちに落胆した。
亀井にバスケオタクと言われるくらい新垣はバスケが大好きだ。
だからと言って紺野を非難する権利が自分にないことは分かっている。
ただ、トキメキを返してくれと思うだけだ。
- 216 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:46
- 「恋愛ねぇー。」新垣は額に手を当ててため息をついた。
「あの二人がデートしてるって分かってて一人で部屋に居ると寂しいのは確かなんだよねぇ。確かに。」
手を当てたまま新垣は何度か頷くと「お風呂はいろ・・・。」と立ち上がった。
- 217 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:47
-
- 218 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:48
- 「今日、石川さんの取材だったんでしょ?元気だった?」
ソファに座る松浦亜弥は寄り添う後藤の髪を撫でながら尋ねた。
「んー。」後藤は松浦の肩に頭を乗せた。
松浦は髪を撫でながら何を考え事をしている様子の恋人を見つめた。
4畳半と6畳の部屋に4畳のキッチン、それほど広いともいえない間取り。
4畳半の部屋は暗室になっていて6畳の部屋にベッドとソファを置いてしまうと生活スペースはかなり限られる。
そのうえ、そのスペースのあちらこちらに後藤のカメラと作品が転がっている。
食事はキッチンで出来るが殆どの時間をソファかベッドで過ごしている。
- 219 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:49
- 松浦はまさか、後藤とこういう関係になるとは思ってもいなかった。
ひとつ年上の後藤。高校の先輩だった。
上級生に後藤真希という派手な先輩がいることは知っていたが言葉を交わした事は一度も無かった。
好きだった人の幼馴染の親友。松浦にとって後藤はそういった認識だけだった。
大学生になって編集のバイトを始めた先で再会したのが去年。直ぐに付き合いだした。
「藤本先輩の追っかけマネージャー。」
再会した時の後藤の一言目がそれだった。
覚えていてくれたことは嬉しがったが他に言いようがあるだろうと思ったことを今でも覚えている。
後藤はちょっと変わっている。
人と捉え方が違うのだろう。
だから一緒にいて新鮮に思えることが多い。
吉澤と後藤は似て居る。松浦はそう思っていた。
- 220 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:49
- 「ねー。まっつぅ。」
後藤は松浦の肩に頭を乗せたままカーテンの隙間から見える窓に視線を向けた。
外はもう真っ暗だ。
「なに?」松浦は後藤の視線の先を確認してから後藤に視線を戻す。
「まっつぅはさ。藤本先輩と連絡とってる?」
松浦は後藤の肩を少しだけ押した。
後藤は肩に乗せていた頭を上げて松浦に視線を向ける。
- 221 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:49
- 「別に嫉妬とかじゃないよ。」
後藤はフニャっと笑みを見せた。
「分かってるよ。」松浦は後藤の頬を摘む。
「痛いよ。そういうことしたら。」抓まれた頬を擦りながら後藤は笑った。
「連絡取ってないよ。卒業しちゃってから一度も。」
今度は松浦が後藤の肩に頭を乗せた。
後藤は松浦の肩を抱き頭を撫でる。
「あはは。」と笑う後藤に「なぁによ。」と松浦が不審がる。
「思い出し笑い。」後藤は笑いながら呟いた。
「必死だったじゃん。まっつぅ。追いかけるのさ。」
後藤は松浦の肩にアゴを乗せる。
松浦も同じようにアゴをのせて抱き会うような格好になった。
「美貴たんはかなり迷惑がってたけどね。」
松浦は目を細めて苦笑した。
「なんで、諦めたの?」
目を閉じ後藤は松浦の言葉を待った。
今まで一度だってこんな話をしたことはない。
石川に会って、吉澤のことが気になった。
いつも気にしていたことに変わりないが松浦に聞かずには居られなかった。
二人のことを知っていたのかどうか・・・。
- 222 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:50
- 「美貴たんは私の視線じゃなくて吉澤さんの視線を求めてた。」
ゆっくりと後藤の身体から離れる松浦。
「吉澤さんの想いに比べたら私の想いなんてちっぽけ過ぎた。」
後藤はじっと松浦の顔を見つめていた。
「今、ごとーに対する想いは?」
松浦の手を取り尋ねる後藤に松浦は微笑みそっと顔を寄せ唇を重ねた。
「誰にも負けない。」
微笑む松浦に後藤も微笑んだ。
「あの二人、今どうしてるかな?どこかで幸せにやってるのかな。」
幸せにしているだろうと微笑む松浦に後藤は悲しそうに首を横に振った。
松浦は二人のことを全ては知っていなかったのだ。
悲しそうに首を振る後藤に松浦は「そっか。」と頷いた。
後藤は松浦の呆然とした顔を見ていた。
「いつ?」松浦はソファに凭れ呟いた。
「二人、いつ別れたの?」
後藤は背もたれに肘を置き身体ごと松浦に向けた。
「ワインでも飲もうか。」
松浦の頭を撫でた後藤は立ち上がり、キッチンへ向かった。
- 223 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:50
- 少し酔わないと松浦にも話すことが出来ない。
自分にとって吉澤とのことがそれほどの傷だと改めて実感した。
「ごっちん?」
ボトルを持って戻って来た後藤の顔を見て松浦は心配そうに呟いた。
後藤は「うん。飲もう。」とグラスに赤ワインを注ぐ。
松浦がグラスを持つと後藤かカチンとグラスを軽くぶつけゴクゴクと喉を鳴らしてグラスのワインを全て飲み干した。
そしてまたそれを注ぐ。
松浦は一口だけグラスに口をつけるとテーブルに戻し後藤の横顔を見ていた。
「よしこはさ・・・捨てられたって思ってる。」
- 224 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:50
- 特別進学クラス、その教室で後藤は初めて吉澤と会った。
もともと校則の厳しい学校なうえ、特進クラスということもあり教室にいる生徒の第一印象はマジメ、そのものだった。
そんなクラスで派手だった後藤と吉澤は直ぐに仲良くなった。
学校では石川は生徒会で当たり前のように校則を破る藤本と吉澤と距離をとっていた。
二人もそれには納得していた。
学校の外では仲の良い3人だった。
年上の二人が吉澤を可愛がる仲の良い幼馴染。
後藤は吉澤の様子をいつも不思議に思っていた。
後藤の知っている吉澤と幼馴染といる吉澤は違いすぎた。
同じ顔を持つ別の人に思えた。
面倒見たがりな石川のためにだらしなく、大雑把に振る舞い、バスケ好きで面倒くさがりの藤本の前ではバスケを楽しみ、何でもしてあげていた。
石川でなく藤本と付き合ったのは石川よりも藤本が吉澤を必要としていたからだろうと後藤は思っている。
- 225 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/11(日) 03:51
- 「依存・・・。」
グラスの液体を見つめながら呟く後藤を松浦は黙って見つめている。
「よしこは異常なくらい藤本先輩に依存してた。いないと生きていけないってくらい。」
「言われるとそうだったかも。」
松浦は頷きながら部活をしていた頃の二人を思い出していた。
「高3の夏かな・・・先輩が留学しちゃってよしこは耐えらんなかったんだろうね。石川先輩に依存した。」
後藤はゴクと喉を鳴らしてワインを飲んだ。
その隣でまさかと言う顔をする松浦がいた。
「気がついてて・・・直ぐには何も言わなかった。様子、見てた。どうなるんだろうって。」
後藤はまたワインを飲む。
「後藤が二人のことを知ってるって知ったときのよしこの顔・・・悲しそうだった。」
悲しそうに呟く後藤のを松浦はぎゅっと抱きしめた。
- 226 名前:clover 投稿日:2007/03/11(日) 04:02
- 本日の更新以上です。
ちょこっと更新してみました。
>>211-225 ルーズボール 17.ティーンエイジャー
>>208 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
アヤカさんと保田さん極たまにでてくるかなw
見守ってやってくださいw
>>209 :naanasshi 様
いつもレス有り難うございます。
二人と回りを上手く絡ませられるように頑張りますw
見守ってやってくださいw
>>210 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
更新できるときにしていくのでw
見守ってやってください。
- 227 名前:ももんが 投稿日:2007/03/11(日) 20:01
- 更新お疲れさまです。
この二人が付き合ってるんだ!とかなり嬉しい今回のお話です♪
ちょっとずつ過去が話され始めたので、楽しみに待ってます。
ガキさんに幸あれ!!!
- 228 名前:naanasshi 投稿日:2007/03/12(月) 10:02
- 更新お疲れ様です
少しずつ過去が見えてきましたねえめちゃくちゃ続きが気になるー
ゆっくりと見守ってますw
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/12(月) 11:33
- 3人の関係と亀井さんとのこれからが気になりますね
もちろん他の組合せも気になりますが特にガキさんが…
更新まったり待ってます
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/12(月) 15:49
- 松浦さんと後藤さんも、いい感じですね。
この後の展開、楽しみにしています。
- 231 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/12(月) 18:17
- お話に松浦さんが出てくるの珍しいですね
楽しみにしています
- 232 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:31
-
18.記憶喪失希望
- 233 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:32
- こじんまりとした部屋は小さな明かり一つ。
ウーロン茶とビール、海鮮盛をオーダーした吉澤はその部屋のなかでじっと俯く亀井をじっと見ていた。
店員が失礼しますと品を運び並べると部屋を出て行った。
正座をして俯く亀井の姿が吉澤の目に不安に映る。
「亀井ちゃん。」個室に響く吉澤の声に亀井は肩をビクつかせ顔を上げた。
「そんな顔、しないでよ。」泣き出しそうな亀井の顔を見た吉澤は悲しそうな顔をした。
「ごめんなさい。」自分が吉澤をそんな顔してしてしまっていることに亀井の心は痛む。
吉澤は少しだけ笑みを見せた。
「亀ちゃんがどうしてそんな顔してるのか、教えて。昨日のことと関係ある?」亀井は目を伏せ頷いた。
息を大きく吸ってから吉澤に視線を向ける。
「ごめんなさい。ガキさんの部屋でバスケットの雑誌を見たの。」吉澤は直ぐに目を細め胸に手を当てた。
- 234 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:32
- 心臓がやけに早く動く。
「昨日の人が吉澤さんの隣に映ってた。」亀井は胸にある吉澤の手を見ながら呟き、言葉を続ける。
ここに来るまでどう尋ねようか考えたがまとまることはなかった。
思ったことをそのまま聞くしかない。
不安に思ったまま気まずくなってしまえば吉澤との距離が離れてしまうように思っていた。
「最新の雑誌に特集もされてた。藤本美貴って書いてあった。それから、さっきのんつぁんと会ってた。」
吉澤は眉間に皺を寄せる。
手に視線を向けている亀井は吉澤のその表情には気がつかなかった。
「幼馴染だって教えてもらった。」
ゆっくりと亀井の視線が上と上がり吉澤と視線がぶつかると驚愕の表情を見せた。
吉澤の大きな目に薄っすらと涙が見えた。
「ごめん、なさい。」亀井は呟いた。
「謝るのはこっち。」涙を浮かべ顔を横に振る吉澤。
大きく息を吸い吐き出した吉澤は目じりに指を這わせ涙を拭った。
「ごめんね。夕べ、れいなにも言われたんだ。亀ちゃんは怒らないからちゃんと話せって。」
苦笑する吉澤に亀井はなんとなく安心して笑顔を見せた。
「美貴は幼馴染・・・。」
吉澤はビールのグラスに手をかけ亀井から視線をグラスへと移した。
- 235 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:32
- 「色々あってね・・・なんだろう。会うの気まずいままだったから、昨日は突然会って・・・ビックリしちゃってあんな風になっちゃって。」
グラスを見つめたままの吉澤を亀井はじっと見ていた。
本当のことを言うことは場合によっては良いことではない。
自分の生きているコートにもう藤本はいない。
吉澤は亀井の目を見て堂々と嘘を突き通す自信は無かった。
「もう・・・うちにとって関係ない人だから。」
吉澤は亀井に視線を向ける。
「だから、亀ちゃんが不安になる必要。ないよ。」吉澤は微笑んで見せた。
「それでいいの?幼馴染なのに・・・。」
悲しそうに呟く亀井に吉澤は苦笑し首を横に振った。
- 236 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:33
- 藤本は自分を見放した。
出来ることならもうあんな思いはしたくはない。
「せっかくだから、食べよう。」
ビールに口をつける吉澤。亀井も頷きウーロン茶を口にする。
「梨華のことも聞いた?お天気キャスターの。」
辻のことだ話しているだろうと吉澤は刺身に箸を伸ばした。
頷く亀井を見て吉澤はまた苦笑し、刺身を口に運んだ。
「梨華とも同じ。会うの気まずい。二人とももう、3年以上会ってないんだ。」
吉澤は未だいつものように笑顔を見せてくれない亀井を見ながらビールを飲む。
「結構、美味しいよ。」亀井の取り皿に刺身を乗せてやる吉澤。
亀井は「ありがと。」と醤油に漬けて口に運んだ。
「おいしい。」と微笑む亀井に吉澤はほっとしたように微笑む。
- 237 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:33
-
- 238 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:33
- 「もう少し一緒に居たい。」店を出て品川駅の改札を通ると亀井が呟いた。
五反田にある亀井を家まで送ろうと山手線のホームへ向かっていた吉澤は微笑み京浜東北線のホームへと向かった。
この時間帯は直ぐに電車がやってくる。
帰宅するサラリーマンやOLに紛れて吉澤は亀井の手を引いて電車へ乗った。
二人は一駅目の大井町で降りると住宅街に向かって歩く人の流れに二人も一緒に乗って歩いた。
「れいな、いるかな?」
亀井はぎゅっと吉澤の手を握り寄り添うように歩く。
「夕べは泊まったからどうだろ。」
吉澤は通りの先を見ながら呟く。
「いいなぁ。れいな泊まったんだ。」
吉澤を見上げ腕に頬をくっ付ける亀井。
「じゃ、絵里が今日は泊まろうかな。」
吉澤は困ったかをして亀井をみた。
「お母さんに了承を得てからね。」
ぶーっと頬を膨らませる亀井を見て吉澤が微笑む。
駅から歩いて15分ほどで吉澤の住むハイツがある。
途中、コンビニかスーパーに寄ろうか迷ったが何も買わずに部屋に向かった。
- 239 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:34
- 吉澤がドアの鍵を回し扉を開くとテレビの音が聞こえてくる。
「れいな?」亀井が吉澤を見上げ呟いた。
部屋の電気はついていない。
1LDKの部屋だ電気を消し忘れることは滅多にないだろう。
「れいなかな?」
吉澤が先に部屋に入ると亀井は吉澤の腰を掴んで後に続いた。
様子を伺う吉澤は8畳の部屋を見回しベランダに出る窓際で止めた。
朝と同じ光景がそこにはあった。
ラグの上に丸くなり布団をかぶっている田中。
「れいなだ。」亀井は吉澤の背後から出てくると丸くなる田中の横に跪いく。
「れいな?」と亀井はそっと頭まで被っている布団を捲る。
頬を赤らめ苦しそうに呼吸をしている田中がいた。
- 240 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:34
- 「れいな?」吉澤は田中を見ると慌てて亀井の横に跪くと田中の額に手を乗せた。
「熱ある。」吉澤は小柄な田中を抱き上げた。
亀井は直ぐに横にあるベッドの布団を捲った。
吉澤がベッドに田中を降ろすと亀井が直ぐに布団をかけてやる。
「テレビの横の棚のどっかに薬あるから。飲ましてあげて。」
亀井は頷くと直ぐに棚へ向かった。
吉澤はキッチンに入り冷凍庫からアイスノンを取り出し戻ってくるとチェストからタオルを出して包んだ。
「れいな、大丈夫か?」
寝ている田中の頭を持ち上げ枕を取ると変わりにアイスノンに頭を乗せる。
「あった。」と聞こえてきた亀井の声に吉澤は再びキッチンに向かいグラスに水を入れる。
「れいな。大丈夫だよ。薬あったからね。」
亀井は箱から錠剤を取り出し掌に乗せる。
戻って来た吉澤からグラスを受け取った。
「絵里っちゃ。」
吉澤が田中の身体を起こすと田中は薄っすらと目を開き亀井の顔に視線を向けた。
- 241 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:34
- 「れいな、お薬のもう。」
亀井は田中の口に錠剤を入れグラスを口へ運んだ。
ゴクっと喉が鳴り田中の喉に固い錠剤が通って行く。
「もうちょっと水飲ませたほうがいい。」
吉澤の言葉に素直に田中は口を開けた。
亀井がグラスから水を流し込むとゴクっと喉を鳴らし目を閉じると田中。
ぐったりとした田中を吉澤は寝かせた。
亀井が田中の肩まで布団をかけなおす。
まだ、苦しそうな田中を見て亀井は心配そうに田中の額に手を乗せた。
「熱、そんなに高くはないね。」
亀井は少し安心したように吉澤を見た。
「うん。今薬のんだから。少ししたら楽になるよ。」
吉澤は亀井の髪を撫で安心させるように微笑んだ。
しばらく田中に寄り添うように二人は様態を見守っていた。
田中の呼吸がいくらか楽になってきた様だ。
- 242 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:35
- 「遅くなったっちゃったね。」
吉澤は時計に視線を向けた。
亀井も時計へと視線を向け時間を確認した。
午後11時。親が心配しているだろう。
亀井は直ぐに立ち上がるとソファの横に置いたカバンに駆け寄った。
携帯を取り出し母親の携帯に電話をかける。
耳に携帯を当てながら心配そうに田中を見ている吉澤の横顔を眺める。
「もしもし。お母さん?寝てた?」
亀井の声に吉澤が振り返った。
亀井は「泊まっていい?」と口だけ動かした。吉澤は優しく微笑み頷く。
「今日、泊まる。うん。吉澤さんち。はぁい。おやすみ。」
亀井は笑顔で電話を切った。
「迷惑かけないでね。だって。」と田中を気遣い小声で言う。
「れいな。大丈夫そうだね。」
吉澤は微笑み亀井に歩み寄る。
亀井は吸い込まれるように吉澤の胸に抱きついた。
- 243 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:36
- 「ベッドないから。ここだね。」
吉澤はソファに視線を向ける。
「十分だよ。」亀井は微笑む。
「狭いよ?」吉澤は亀井を抱いたままソファに座った。
「狭いほうがくっつけるもん。」
亀井は吉澤の膝に横座りして首筋に顔を埋めて囁いた。
「確かに、でも重い。」と笑う吉澤に「酷い。」と亀井は立ち上がると両手を腰に当ててた。
「ごめん、ごめん。」と未だ笑う吉澤に「もう。」と頬を膨らませた。
吉澤が膨らんだ頬をツンツンと突くと「お風呂沸かしてくる。」と亀井は微笑みバスルームに向かった。
- 244 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:36
- 戻って来た亀井に吉澤を自分の膝を叩いて見せた。
「重いんでしょ?」
亀井は悪戯っぽく笑いながら歩み寄る。
「いいから。おいで。」
吉澤は亀井の手を掴むと引き寄せ、ぎゅっと亀井を抱きしめる。
「なんてもっと一緒に居たいって言ったの?」
田中のことで亀井がもっと一緒に居たいといったことがそのままになってしまっていたことを吉澤は気にしていた。
普段はキチンと家に帰る子だ。吉澤は平日は仕事があるからと気を使う子だ。
「んー。」亀井は吉澤の首に腕を回した。
「藤本さんと石川さんのこと・・・それでいいのかなって思って。」
吉澤は抱きしめる腕を緩め亀井の顔を見た。
もう、藤本のことは納得しているのだとばかり思っていた。
- 245 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:37
- 「幼馴染でしょ。喧嘩したままじゃ・・・寂しいよ。」
新垣と会えなくなったら寂しい、吉澤もそう思うだろう亀井は切ない表情を見せる。
吉澤は亀井の背中に回していた腕をゆっくりと肩に乗せた。
「このままでいい・・・。」吉澤は困ったように笑う。
「だって・・・」吉澤は亀井が何か言おうとしたが首を横に振った。
口を閉ざした亀井は寂しそうに吉澤を見つめる。
- 246 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:37
- 「亀ちゃんに出会う前の記憶なんて・・・なくなっちゃえばいいのに・・・」
吉澤はソファに凭れため息混じりに呟く。
「記憶喪失になりたいくらい・・・。思い出したくないんだ。」
亀井は何も言わず吉澤を胸に抱きしめた。
「ホントはのんにも会いたくなかったんだ。思い出すから。」
胸に抱かれたまま言葉を続ける吉澤。
「嫌な先輩だよね。後輩に優しくしてやれない。」
亀井は吉澤の背中を優しく撫でた。
「もういい。ごめんね。絵里、余計なこと聞いちゃって。」
亀井は優しく吉澤を抱きしめた。
「絵里もう何も言わないし、聞かないから。」
吉澤が「そうじゃないよ。」と言いながら顔を上げた。
「亀ちゃんが不安になってるほうが困るから。聞いてよ。ただ・・・。」
吉澤は渋い顔をして俯いた。
- 247 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:38
- 「吉澤さん?」
亀井は吉澤の顔を覗きこんだ。
「こんな風にかっこ悪いところ見せることになるけど。」
吉澤は恥ずかしそうに呟いた。
亀井はニコっと笑うと「吉澤さん。ずるい。」と笑う。
「えっ?」と吉澤は顔を上げた。
「可愛すぎる。」
亀井は吉澤の頬を両手で掴むとチュッと唇を重ね、照れた表情を見せると「お風呂。」と小走りに逃げていった。
吉澤をキスをされた唇に指を当ててた。
- 248 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:38
- 「人が熱でて寝てるのに何しとーと・・・記憶喪失希望の吉澤さん。」
吉澤は驚いて振り返るとベッドの中で身体を横にして吉澤を見ている田中がいた。
「起きてたのかよ。野良ネコ。」
吉澤は背もたれに肘を乗せて頬を赤らめる。
「見えるところでするほーが悪いっちゃ。」
未だうつろな目の田中が悪戯っぽく笑う。
「寝てろ。熱あんだから。」
「寝た後でイチャイチャするっちゃろ。」
「しねーよ。」
「可愛過ぎだって。」フフっと笑う田中。
「うるせーぞ。」
吉澤は恥ずかしそうに田中から視線を反らした。
「余計なことは言っちゃだめやけんね。」
田中は吉澤が視線を向けると「おやすみ。」と目を閉じた。
- 249 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/13(火) 21:38
- 吉澤は立ち上がり田中に布団をかけなおしてやるとソファに戻った。
亀井が浴びるシャワーの音を聞きながら膝を抱えた。
話せることだけ話せばいい。
余計なことは言わない。
今がとても幸せだから。
この生活を壊したくない。
やっと出来た自分の居場所だ。
亀井は絶対に自分の側から離れないだろうと確信していた。
藤本とは違う。亀井には吉澤以外に夢中になるものがない。
亀井は吉澤の生きるコートから去ったりはしない。
常に吉澤と言うボールをキープし続けてくれるだろうと信じていた。
- 250 名前:clover 投稿日:2007/03/13(火) 21:48
- 本日の更新以上です。
早く過去を出て話しを進めたい気持ちがw
>>232-249 ルーズボール 18.記憶喪失希望
227 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
えぇ後藤さんと松浦さん掻いたこと無いんでどーなるんだか・・・
頑張ります。
ガキさん今、色々なやんでますw
228 :naanasshi 様
いつもレス有り難うございます。
こっちが早く過去を出したい感じですw
229 :名無飼育さん 様
色々、皆にあるので
まったり待っててください。
230 :名無飼育さん 様
初めて書く組み合わせなのでどーなるか微妙ですが・・・
231 :名無飼育さん 様
そーですねぇ。
どーなるか・・・頑張りますw
- 251 名前:naanasshi 投稿日:2007/03/14(水) 00:23
- おお早速の更新お疲れ様です
今回も亀ちゃん切ないですねぇでも優しいですねぇ
まだ過去は分かりませんが吉澤さんそれでいいのかっ!と一人ツッコミながら読んでましたw
それにしてもやっぱり可愛いネコですねw
- 252 名前:ももんが 投稿日:2007/03/14(水) 08:16
- 更新お疲れ様です!!
吉澤さんなんだか弱いなあ・・・。
亀ちゃんの包容力はすごい!
吉澤さん頑張れと応援してます。
- 253 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/14(水) 19:15
- 更新ありがとうございます
猫れーながやはり可愛い
吉澤さん…
どうなるのか楽しみで仕方ないです
頑張って下さい
- 254 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:46
-
19.渋谷
- 255 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:46
- マックを出た道重と辻は渋谷へと向かっていた。
道重がお気に入りの場所を目指して道玄坂に向かって二人は寄り添い、人ごみを縫って歩く。
幼く見える辻とまだ高校生の二人。
道重はコートのボタンを一番上まで止め制服が見えないように気を使っていた。
水色と赤の建物の中に入っていく二人。
メンバーになっているので無料でコスプレが出来るこのホテルは道重のお気に入りなのだ。
無料なのはコスプレだけじゃない、色んなものも無料で借りれる。
しかも平日のショートならば辻と道重のお小遣いでどうにかなる。
- 256 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:47
- 「これ、どう?」
メイド服に身を包み辻の前で回転して笑顔を向ける道重。
「可愛い。のんは?」
辻も負けずとメイド服を着てみせる。
「やーん。辻さんも可愛い。」
辻を抱きしめる道重に「ってかさゆ。90分だからね。」と辻は時間を気にする。
ショートは延長がないんだ。
あったとしても部活をしていてバイトをしていない辻にとって追加料金は痛手だ。
- 257 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:47
- 「もう。わかってますよぉ。」
道重は辻から離れメイド服を脱ぎ下着姿になると辻も同じ姿になるのをベッドに座って待った。
下着姿になった辻はベッドに座る道重に歩み寄る。
真っ白な道重は本当に綺麗だ。
- 258 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:48
- 「はやくぅ。」
道重は両手を広げ微笑んだ。
辻は微笑みながら道重を跨ぐようにしてベッドに膝を付く。
いつも見上げてみている道重の顔を上から見下ろし微笑むと道重の肩に手を置きそっと唇を重ねた。
キスの主導権を辻に奪われたまま道重はゆっくりとベッドに横になった。
自分を愛しそうに見つめる辻の表情に道重の心は満たされる。
子供のように純粋な辻だから打算もない素直な本当の言葉、だから誰に言われるより辻の「可愛い」や「綺麗」は嬉しい。
- 259 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:48
- 道重は辻の背中に腕を回した。
「さゆ・・・。」
辻は唇を離し道重の顔を見つめると「可愛い。」と微笑み、胸に顔を埋める。
道重は幸せそうに微笑み辻を抱きしめた。
「好き・・・ずっと側に居てね。」
耳元で切なげに囁く道重に「うん。いる。約束するよ。」辻は道重の白い首に唇を近づけながら呟いた。
- 260 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:48
-
- 261 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:49
- 仕事を終えた石川は渋谷に向かってタクシーに乗っていた。
何時でもいいから飲もう。と柴田からメールが入っていたのだ。
思いのほか収録が早く終わり、柴田に連絡し渋谷で落ち合うことになった。
109の手前でタクシーから降りるとセンター街に向かって歩みを進める。
11時を過ぎているというのに渋谷は未だ賑やかだ。
石川は人にぶつからないように気をつけながら目的の場所に向かった。
地下へと階段を降りていくと外の賑やかさを忘れさせるような静かな店内に入った。
出迎えたウエイターにコートを預けレンガの壁とカウンター席の間を通り一番奥にいるという柴田の姿を見つけた。
- 262 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:49
- 「柴ちゃん。」
石川は片手を挙げ微笑むと柴田の隣の椅子に座る。
「さっきはありがとね。」
柴田は今日の取材の礼をしメニューを石川に渡した。
「後藤さんのこと柴ちゃんから聞いてたけど、高校のころと随分変わったね。ちゃんと社会人になってた。」
石川はメニューに視線を向けながら後藤に2年以上ぶりに会った感想を柴田に伝える。
「ごっちんは見た目が派手なだけでマジメな子だよ。頭もいいし。」
柴田は微笑む。
「特進だったもんね。後藤さん。」
石川は一度、柴田に視線を向けるとメニューを閉じた。
- 263 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:50
- 「じゃぁ・・・オレンジ・キャティ。」
カウンターの中に居るバーテンにオーダーすると石川は柴田に視線を戻した。
「で、なによ。何時でもいいからって。」
呼び出されたことに嬉しいのか石川は満面の笑みを柴田に向ける。
「近い。その笑顔はテレビだけにしなよ。」
柴田は苦笑しながら視線をカウンターに並ぶアルコールに向けた。
「酷い。もー。美貴ちゃんにも言われたんだよ。キモイって。なんでかな。」
微笑む石川の目の前にオレンジ色のカクテルが差し出された。
「梨華ちゃん、明日もお天気お姉さんで朝、早いんだよね。」
柴田は肘をつき手にアゴを乗せて呟く。
石川が来る前に頼んだカクテルは殆ど口にせずに残っている。
「美味しい。早いけど、1時間くらいなら大丈夫かな。それに来月でお天気キャスターも卒業だし。」
カクテルをテーブルに戻しながら石川は柴田の横顔を見た。
「柴ちゃん?」
心配そうに柴田の腕に触れる石川。
- 264 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:50
- 「いやいや、そんな顔することでもないの。ここ1ヶ月くらい会えてなかったじゃない。お互い忙しくてさ。」
柴田は肩に手を置き揉む仕草をする。
「柴ちゃん、おばちゃんぽいから。それ。で?1ヶ月会わないのなんでいくらでもあったじゃない。なんか話したいんじゃないの?」
石川は柴田に顔を寄せ微笑みながら言う。
柴田は余り石川に相談をしない。しない、のではない。
いつも石川が話しに夢中になってしまい、柴田が聞き役になってしまうのだ。
申し訳ないなと思う石川だが、柴田が相手だと気を使うことなく何でも言えるのでどうしてもそうなってしまうのだ。
- 265 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:51
- 「だから、近いし、キモイ。」
石川はムスっとした顔をすると顔を離した。
「たださ、あの頃に戻りたいなぁって思ったりするのよ最近。」
柴田はシガレットケースからタバコを取り出し咥えると火をつけフーっと煙を吐き出す。
石川は煙に目を細めた。
「あの頃って?」
石川はカクテルグラスに手を添えて尋ねた。
「高校時代。」
柴田は煙とため息を一緒に吐き出した。
「どうしたの?なんかあった?」
「何もないからだよ。毎日、色んな人に会うけどさ。その日限りの人なわけよ。」
石川を見るでもなく柴田は独り言のように話す。
- 266 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:51
- 仕事が早く終わっても、自分の帰りを心待ちにしている相手もいなければ、会いに行く相手が居るわけではない。
さらに、一緒に食事でも行こうと誘う相手も石川くらいしかいない自分に寂しさを感じていた。
「一人前のライターになりたくて手当たり次第に記事書いてさ・・・最近思うわけよ。誰に認められたら一人前なのかなって。」
石川は頷きながら話しを聞いた。
「学生のときみたいに試験があればいいのにな。」
柴田は灰皿にタバコを押し付けながら石川に視線を向ける。
「って人生の愚痴を聞いて欲しかっただけなんだけどね。」
苦笑する柴田に石川は「いつだって聞くよ。それくらい。」と笑みを向けた。
- 267 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:53
- 吉澤と藤本とバラバラになってからは遊びに誘ってくれる友達といったら柴田くらいだ。
暇が出来ればお互い連絡を取り合って食事に行ったり買い物に出かけたりしている親友。
生徒会長と副会長という関係だが柴田は一つ年上だが先輩後輩と言う関係とはまた違う。
「私だって同じだよ。」
石川は微笑み柴田の肩を叩いた。
「言われた通りにカメラの前で話して笑って、ホントは今頃、新人局アナになってるはずがお天気お姉さんにバラエティのアシスタントでしょ、たまにスポーツキャスター。」
柴田は苦笑して沈んでいく石川を見ていた。
「局アナだってやってること変わらないって。」
逆に柴田が石川の肩を叩くと石川は首を横に何度も振った。
- 268 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:53
- 「違うよ。局アナは社員だから、私は事務所に所属してるだけ。テレビ出れなくなったら終わりだもん。必死だよ。お天気なくなるし。」
石川は苦笑した。
「大学卒業するからか。」
「うん。」
「大変だね。お互い。」
柴田はまたため息をついた。
自分は辛うじて出版社の社員だが記事が書けなくなったら居場所なんてない。
必死でネタを探して来るもの楽ではない。
「大変だよ。今日みたいな雑誌の取材とかさ。あんな答え私じゃないじゃん。」
石川は残りのカクテルを飲み干すとバーテンにもう1杯同じものを頼んだ。
「大丈夫、書くの私だし、ホントの梨華ちゃん知ってるから。」と笑う柴田に石川は心配そうな顔をする。
「あはは、大丈夫、ちゃんとやるってチェックしてもらうし安心して。」
柴田は微笑んだ。
- 269 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:54
- その後、石川が仕事の愚痴を言い出し結局、柴田は聞き役になってしまった。
いつものことだと柴田は荒れる石川を心配しながら話しを聞いてやった。
「あ・・・そうだ。」突然石川が思い出したように呟く。
「ん?」何杯目かのカクテルを飲んだ柴田の目はうつろだ。
「よっちゃんのさ・・・」石川は俯き空いたカクテルグラスを見つめた。
柴田は石川の表情を気にかけた。
今日、後藤に藤本と会ったと話していたことが気になっていた。
- 270 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/15(木) 20:54
- 「どした?」
「んー。美貴ちゃん帰ってきたじゃん。」
「うん。取材させてくれないってスポーツ部嘆いてた。」
石川が苦笑すると柴田も苦笑する。
「よっちゃんの居場所、あたってって頼まれてて。」
柴田は肘を突いた手にアゴをのせ石川を見た。
「何も話さなかったんだ。」
「話せるわけないじゃん。」
石川の表情を見て言う柴田に石川は一瞬、視線を向けるとまた俯き頷いた。
「確かに・・・。で?」
「よっちゃんの居場所・・・。」
「知るわけないじゃん。」
石川の言葉を最後まで聞かず柴田が言う。
「だよね。」石川は苦笑した。
「分かったら直ぐ知らせるよ。」
苦笑するし柴田に「ありがと。」と石川は困った顔をした。
- 271 名前:clover 投稿日:2007/03/15(木) 21:05
- 本日の更新以上です。
>>255-270 ルーズボール 19.渋谷
早くメインの吉澤、亀井、藤本、石川を会せなければw
>>251 :naanasshi 様
いつもレス有り難うございます。
吉澤さん・・・自分で書いててもそう思いますw
今後もよろしくです。
>>252 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
亀井さんw
こんな子いたらいいなぁ。みたいなw
今後も宜しくです。
>>253 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
田中さんはネコです。自分の中でw
- 272 名前:naanasshi 投稿日:2007/03/15(木) 22:08
- リアル世界はなんだか大変なことになってますが更新お疲れ様です
ののさゆにこんなにドキドキしたのは初めてです
柴田さんはやっぱり聞き上手なんでしょうねw
- 273 名前:ももんが 投稿日:2007/03/16(金) 08:23
- 更新おつかれさまです。
辻ちゃんとさゆがっ!!!!
その情景が頭に浮かんで照れてしまいました(笑)
- 274 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/16(金) 14:21
- 辻ちゃんさゆw
この2人がw
- 275 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/03/19(月) 19:48
- お疲れ様です
辻ちゃんとさゆがとても新鮮でした
次回も楽しみにしてます
- 276 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/20(火) 01:02
- あげんときやー
- 277 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:33
- 20.忘れ物
- 278 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:34
- 保田は品川のオフィスから恵比寿へ向かった。
吉澤の仕事の成果を見に行くためだ。
「アヤカ。」
フロアに入り、カウンターの椅子に座り自分の作品を満足そうに眺めるアヤカに声をかけた。
「おっ。けーちゃん。偵察?」
アヤカは微笑、隣に座れと椅子を引いた。
「いい、椅子じゃない。」
保田は差し出された椅子をまじまじと見つめる。
「よっしぃの作品は温かいのと冷たいのがあるから良い。空間に安らぎと孤独を作れるから。」
保田は椅子に座るともう一度、フロア全体を眺めた。
2年目でこれだけ出来れば上出来だ。
自分の目に狂いは無かったことに微笑んだ。
- 279 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:34
- 「けーちゃんにはあぁいうのデザインできないでしょ。」
アヤカが指差すほうを見て保田は苦笑した。
「無理だね。あんなの私の中にはないもの。」保田は立ち上がるとその作品に歩み寄る。
落ち着く。安心感とは違ったそれ。
「ひとりきりになれる感じしない?」
アヤカの声に保田は頷いた。
騒がしいフロアでも落ち着くだろう。
立ち上がりアヤカの隣に戻る保田。
「今日も自己暗示して行った?」
アヤカが頷くと保田は「そっか。」と呟いた。
「居るのかな。恋人。」
「さぁ。」
- 280 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:34
- 吉澤はプライベートを話さない。
当たり前だが職場では仕事しかしない。
9時半始業なのに9時にはデスクに座っている。
朝、電車が止まっていたのに吉澤だけは遅刻せずに来ていた。
どうしてかと聞くと健康のために自宅から歩いて来ていると言っていた。
知っているのはそれくらいだ。
謎だらけの吉澤を保田はそれでも良いと思っている。
吉澤の作品は面白い。
「いつも悲しそうに語るんだ・・・。」
「自己暗示?」
吉澤のことかと保田はアヤカに視線を向ける。
「自己暗示・・・なのかな。理想を語ってる気もするんだけど。」
意見を求めるアヤカに保田は「さぁ。」と首を傾ける。
「今日はね、最後はいつもと違ったの。」
保田が方眉を起用に上げた。
- 281 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:35
- 「同じコートにいないとゲームは出来ない。って・・・どういう意味かな。」
アヤカは足を組み変え吉澤の表情を思い出していた。
「そのままの意味じゃないの?スポーツってなんだってそのコートに居ない人は試合できないじゃない。」
「うん。それはそうなんだけど。何にたとえたんだろう。」
「さぁ・・・」
「よっしぃの話し聞いてるとね。純粋だなって思うんだ。愛されたいし同じだけ愛したい。きっとそれがよっすぃの理想なんだよ。」
保田はアヤカの話しに耳を傾けながら理想は理想。
現実は違うだろうと苦笑した。
「不安なんだよね。きっと。自分の愛は足りているのか自分は十分愛されているのか。」
「普段、そんなこと考えて生活する?」
「しない。」アヤカは苦笑した。
「きっと感受性が人より豊かなんだろうね。作品みてもそう思うけど。話していても凄いナイーブ。」
「それは私も思う。話しをしていても突然、おちゃらけて流したりするのもそうだろうしね。」
アヤカは同意するように頷く。
- 282 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:36
- 「凄く敏感だし。子共と話しているみたい・・・こっちの言葉を無邪気に受け止めるの。」
「そうそう。冗談で言ったのに残業して次の日に企画書出してきたりする。」
「それはそういう性格って言うのもあるんじゃない?」
「そっか。じゃ、どういう意味よ。」
苦笑するアヤカに保田は恥ずかしそうに呟いた。
「嘘は言っちゃいけないんだよ。」
保田は目を細めた。
「ほら、子共にさ雷が鳴ったら雷様にお臍とられちゃうよとか言うじゃない。」
「大人になれば嘘だって分かるじゃない。そんなの。言われてことだっていつか忘れる。」
アヤカは頷き保田を見つめた。
「だから、子共と話してるみたいなんだって。よっしぃは忘れない。いろんなことそのまま受け止めたまま。」
「なんかそれ、会話するのも怖いわね。トラウマだらけになりそう。」
眉間に皺を寄せる保田にアヤカは苦笑し頷いた。
気がついたころからアヤカは吉澤に余計なことは言わないようにしていた。
吉澤が望む言葉を探しそれを言葉にしてあげる。
- 283 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:36
- 「ちょっと羨ましいけど可哀相かな。」
「どっちよ。」と保田は笑った。
「んー。どっちもだよ。子共は大人に守られる。お母さんだったり・・・家族に。だから純粋で素直でもいい。けど・・・子共のままならこの世は生き辛いよ。」
「上手く生きるために忘れ物をしてくるわけね・・・。」
「けーちゃんは何忘れ物してきた?」
保田は視線を宙に彷徨わす。
やがて思い出したように保田の口が開いた
「夢かな。やっぱり。」
「夢ってなに?」
「アイドル。」
「ぷっ。」アヤカは思わず突っ込んでしまった。
「ちょっと。失礼よ。」
「ごめん、だってアイドルって・・・」
噴出して笑うアヤカを保田は目を細めてみていた。
- 284 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:37
- 「ごめんごめん。」アヤカはお腹を擦りながら謝った。
「いいわよ。夢だっただけなんだから。アヤカは?」
「私は・・・愛かな。」
保田はアヤカにゆっくりと顔を近づけ口付けをした。
触れるだけの口付け。
アヤカは頬を緩め笑みを零す。保田も同じよに微笑んだ。
「いいんじゃないの。愛なんてなくても生きていけるんだから。ただ・・・。」
保田はアヤカから視線をそらした。
- 285 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:37
- 「ただ?」
「虚しいだけ。」
「自分と同じ人間を見つけて安心する?」
「そう。そして仕事に打ち込み、恋愛から逃げる。」
「面倒なのはごめん・・・。」
「尽くすのも嫉妬するのもエネルギーを使うからね。」
「私もけーちゃんもエネルギー使い果たしちゃったのかもね。」
「かもね。」
保田が笑うとアヤカは立ち上がり保田の首へ腕を絡ませ唇を寄せた。
- 286 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:38
- 21.想像力
- 287 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:38
- 目覚まし時計の音が部屋に鳴り響く。
吉澤は腕の中にいる亀井を落とさないように気をつけながらテーブルに手を伸ばしそれをとめた。
腕の中で眠る亀井は全く起きる気配がない。
吉澤は眠る亀井の前髪を撫で額に唇を寄せた。
そっと亀井を腕から開放しソファから抜け出すと布団をかけなおした。
さすがにラブソファに寝ると身体の節々が痛む。
吉澤は伸びをしながらベッドに視線を向けた。
目覚ましの音くらいで起きるようなやつではない。
吉澤はベッドにゆっくり歩み寄った。
「熱は下がったな。」田中の額に手を置き呟く吉澤。
ベッドなのに丸まって眠る田中の姿は本当にネコのようだ。
吉澤は笑みを零すと洗面所に向かった。
- 288 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:39
- 田中は目を覚ますとベッドから布団と一緒に床に降りた。
這うようにソファの横にある青いラグに向かう。
ベッドから聞こえる寝息の主を確認した田中は静かにテーブルからテレビのリモコンを取りボタンを押した。
直ぐにボリュームをゼロまで下げるとラグの上に丸くなり布団をかぶりなおした。
「れいな起きたの?」
出勤準備を終えた吉澤が田中の前にしゃがみこむ。
田中は頷くとテレビを見ようと体を捻った。
吉澤は呆れながら身体の向きを変え眠る亀井の顔を覗いた。
- 289 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:40
- 「亀ちゃん。」
髪を撫でながら亀井の名を呼ぶと亀井は薄っすらと目を開けた。
「おはよう。会社行って来るから。」
「いや・・・。」
亀井は寝ぼけたように手を伸ばし吉澤の首に腕を絡ませ引き寄せた。
「仕事、行かないと。」
やんわりと亀井の腕を解く吉澤。
「昼休み電話するね。」
起きているのかどうか定かではない亀井にそう伝え吉澤は田中に視線を向けた。
「なに、しよーとっ。」
吉澤は無関心にテレビを眺めている田中の頭に手を伸ばしクシャクシャと髪を撫でると田中は非難の声を上げた。
「あと宜しくな。」と吉澤が笑うと田中は頷き髪を手櫛で梳きながらテレビに視線を戻す。
吉澤はもう一度、亀井の寝顔を見ると「行って来ます。」と部屋を出た。
- 290 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:40
- 「やっぱり黒か・・・」
音の無いテレビを見ながら画面に映る石川を見て呟く田中。
吉澤の部屋に田中の一人ごとと亀井の寝息が聞こえてくる。
「ラブ運1。金運2。勉強運1。健康運2。仕事運2。あんまり良くないっちゃ・・・当たるけんねこの占い。」
田中は首筋をポリポリとかく。
「夕べお風呂入ってなか・・・」
勝手に吉澤の部屋のチェストを引き出し、タオルを取りだす。
「確か、新しいのあったと・・・。」
もう一つのチェストを開き下着の入っている段を開き物色する。
「黒ばっかっちゃ・・・。可愛い色がなか・・・。」
新品の下着を手に取りバスルームに姿を消した。
- 291 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:41
-
「いつまで寝てると・・・。」
青いラグの上、濡れた髪をタオルで叩きながら田中は全く起きる気配のない亀井を見ていた。
「乾かそう・・・。」
田中はもうタオルドライは無理だろうと洗面所に向かい髪にドライヤーの熱風をあてた。
- 292 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:41
- 「んぅ・・・吉澤さん?」
呻りながらソファの上で寝返りを打った亀井は薄っすらと目を開けた。
身体を起こしキョロキョロと部屋を見渡すが吉澤の姿はない。
代わりに横のラグの上にネコを見つけた。
- 293 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:42
-
- 294 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:42
-
2年前もこうしてこのネコはここにいた。
吉澤が遅番で「家で待ってて。」と家の鍵を渡された。
「あ、もしかしたらネコがいるかも知れない。」
そう微笑む吉澤に亀井は「ネコ。好きですよ。」と別れた。
預かった鍵を使うことなく吉澤の家の扉は開いた。
空き巣だろうかと不安になりながらそっと忍び込むと聞こえてくるテレビの音。
「おじゃましまぁす・・・。」
小声で呟き中の様子を伺いながら家に上がるが誰も居る気配はなくホッとした亀井はソファに腰を降ろした。
付けっぱなしのテレビを消して無用心だなぁと想いながら吉澤の帰りを待っているとゴソっと聞こえてくる物音に亀井は身体を強張らせ辺りをキョロキョロと見渡した。
- 295 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:43
- 「ひゃっ。」
真横で動く布団の塊を見つけた亀井はソファから飛び降り玄関まで逃げる。
「何?えっ?誰?」
ゴソゴソと動くその塊のなかからゆっくりと出てきた田中の顔。
田中は初めて見る亀井をじっと見つめた。
「誰?」
布団から顔だけ出して尋ねる田中の目は鋭い。
「えっ・・・絵里、亀井絵里ですけど・・・。」
亀井と聞いた田中は目を細め微笑んだ。
「あの・・・あなたは・・・。」
怯えながら壁に張り付いている亀井。
「田中れいなやけん。以後、宜しく。」
吉澤の恋人だと分かった田中は優しい笑顔を亀井に向ける。
自分に危害はないと分かった亀井は恐る恐るソファへと戻った。
「あのぉ。」
「なん?」
「なんでここに?ここ、吉澤さんの家だよね?」
ソファの田中から一番遠い位置に座り尋ねる亀井。
「れいなの家はとなりっちゃ。ここは吉澤さんの家っちゃけん。」
「そーだよね。」
人差し指をアゴに当てて一人納得する亀井に話しに聞いていた通りの子だと田中は目を細める。
「まさか・・・吉澤さん二股・・・違う。そんなことする人じゃないし。」
亀井は田中を見つめた。
「お隣んさんが留守に勝手にはいるもの?」
「れーなは。ペットみたいなもんやけん。ここのこれがお気に入りっちゃ。」
田中はラグを指さし微笑み布団に包まり気持ち良さそうな顔をする。
- 296 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:43
- 「あっ、あー。ネコ。」
亀井は田中を指差し嬉しそうに笑った。
吉澤が言っていたネコとは田中のことだ。
田中は「れーなはネコじゃなか。」と不貞腐れたように呟いた。
それから吉澤が帰ってくるまでいろんなことを話した。
不思議なことに吉澤が留守の間に勝手に出入りしている田中に亀井は嫉妬はなかった。
もしこれが新垣や道重なら亀井は怒り、嫉妬しているかもしれない。
亀井はソファから降りると田中の横に行き頭を撫でた。
「だから、ネコじゃなかけん。」
そう言いながらもなんとなく嬉しそうに見える田中。
- 297 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:43
-
- 298 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:43
-
亀井は寝ている田中の頭を撫でた。
「髪、傷みすぎだよ。れいな。」
亀井は苦笑しながら毛先を手に取った。
「うるさか・・・。」
「起きてたの?」
目を閉じたまま田中が呟くと亀井は髪から手を離し田中の顔を覗きこんだ。
「起きてたっちゃ。何時やとおもっとー?もう、お風呂も入ったけん。」
亀井はテーブルに置いてある目覚ましを手に取り時間を確認した。
「11時・・・11時?れいな学校は?まだあるでしょ?」
テーブルに時計を戻し尋ねると田中はゆっくりを目を開けて亀井を捉える。
「勉強運が1やけん。休む。」
亀井はキョトンとした目で田中を見るとゆっくりと頷いた。
「って、おいっ。意味がわかんない。そんなんで休むな。」
「よく当たるんよ。あの占い。昨日は健康運1で熱出たけん。」
- 299 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:44
- 亀井は思い出しように田中の額に手を当てた。
「熱は下がってるね。良かった。」
「夕べはありがと。」
田中が礼を言うと亀井は首を横に振って微笑んだ。
「デート邪魔してごめん。」
「いいよぉ。良くなって良かったね。」
田中の頭を撫でる亀井を田中は見上げて微笑んだ。
「ソファでイチャイチャしてもよかったっちゃよ。」
「やだぁ。しないよ。れーないるのに。」
照れながら身体をくねらせる亀井。
「狭いほーがくっつける言いようが。」
「へっ?聞いてたの?」
「ちょっと聞こえただけやけん。」
「ぅわ・・・。」
「このアパート壁が薄いけん。変わらんっちゃ。」
苦笑する田中に亀井は目を大きくし撫でていた手を止めた。
「もしかして・・・。」
「絵里は声が高いけん。響くっちゃ。」
顔を真っ赤にする亀井を面白そうに見ている田中。
「れーなが寝てからにして欲しいっちゃ。」
ヒヒヒと笑う田中の肩を亀井は叩いた。
「もー。」と亀井は苦笑した。
- 300 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:45
- 「どうかしたと?」
亀井の表情がいつもと違うことに田中は身体を起こし尋ねた。
亀井は苦笑したままその場にお尻をついて座った。
「れーなー。」
「なん?」田中は亀井の膝にも布団をかけてやった。
「記憶喪失になりたいって思ったことある?」
田中は夕べの吉澤と亀井の会話を思い出し膝を抱えた。
「絵里にはちょっと分からないよ。だって・・・。」
「無かったことにすることやけん。絵里の大切な思い出まで消すことは出来ん?」
田中が亀井の言葉を繋いだ。
田中は不思議な子だと亀井は思う。
言わなくても、通じてしまう。自分の気持ち。
色んな人の気持ちが分かるのだろう。
- 301 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:46
- 「大切な思い出も消したい嫌なことあったら・・・」
田中は目を閉じた。
「想像するっちゃ。嬉しくて絶対忘れたくないことと同じくらい嫌なことやけん。」
「出来ないよ・・・。」
亀井も田中と同じように目を閉じていたがそっと目を開けて困惑を示す。
田中はまだ目を閉じていた。
「なんやろ・・・悲しいことっちゃろか、辛いことっちゃろか・・・。」
呟く田中の言葉に亀井は耳を傾けた。
「心が痛いけん、忘れたいっちゃろか・・・」
田中は目を開くと亀井をじっと見つめた。
「傷は治さんと・・・痛いままやけん・・・。」
「治してあげたいな。」
亀井の声に田中は俯いた。
「擦り傷治すのに消毒するっちゃろ。」
「痛いよぉ。」亀井はその光景を想像し顔を歪めた。
「痛いっちゃ。怪我したときよりも痛いっちゃ・・・。」
田中は亀井に視線を向ける。
- 302 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:47
- 「怪我した本人も、その人の側におる人も・・・悲しくて辛い想いするけん。」
「そんなぁ・・・。」
「想像するっちゃ・・・吉澤さんは寂しがり屋やけん。」
「うん。」
「絵里が居なくなったら悲しむっちゃ。辛いっちゃ。」
亀井は頷いた。
「想像するっちゃ。吉澤さんの気持ち。」
「吉澤さんの気持ち・・・。」
田中が頷く。
「絵里に側に居て欲しいけん。今まで何も言わんかったとよ・・・。」
「言ったら絵里は居なくなる?」
不安そうに田中に視線を向ける亀井に田中は微笑んだ。
「居なくならんて思ったけんちょっとでも話したっちゃろ。」
「そっか。」
「やけん。側におってあげてね。」
微笑む田中に亀井は頷く。
「れいなは何か知ってるの?」
「知らんちゃよ。」
田中は真顔で応えた。「そっか。」と呟く亀井。
- 303 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:48
- 「なんでれーなが知ってると?」
「何でも話すかなって思ったの。吉澤さん。れいなになら。」
「なんそれ。」
「ほら、動物相手に独り言・・・。」
「れーなはネコじゃなか・・・。」
不貞腐れながら寝転がり布団を身体にかける田中。
「れいにゃぁ〜。」と笑いながら亀井は田中の背中を撫でた。
「だからぁれいなはネコじゃなか。」
「ほら、おいで。」
- 304 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:48
- 亀井は田中の頭を膝に無理やり乗せた。
「だから辞めー。」
ジタバタする田中の小さな身体を亀井は押さえ込むように無理やり身体を撫で回す。
「よしよし。」
「よしよしじゃなか。」
「ゴロゴロって言ってみ。」
「いわん。」
田中は亀井にネコ扱いされながら二人がずっと幸せで居てくれればいいと願った。
「ねー。ねいな。」
「なん。」田中は結局、亀井に身を任せ気持ち良さそうに目を閉じていた。
「吉澤さんの誕生日プレゼント買いに行くの付き合ってくれない?」
「ん。いいっちゃよ。」
「良かった。」
亀井は嬉しそうに微笑み田中の頭を撫でた。
- 305 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:51
- 22.刹那に生きる人
- 306 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:52
- 3月も中旬に入り昼間は春の陽気を思わせるように陽がぽかぽかと気持ちよい季節になってきた。
新垣は一人、体育館のスタンド席に熱心にバスケを観賞していた。
スタンドにはこの大学の生徒だろうか、人が溢れている。
コートを駆ける世間に注目される先輩、或いは同級生をひと目見に来ているのだろう。
新垣もその一人だ。
だが、その表情は曇っている。
リバウンドからのルーズボールを追う藤本と辻。
辻のスピードに藤本が負けている。
藤本が無理にドリブルするボールを小川がカットする。
「ありえない・・・。」
新垣は余りにも期待していた姿とは異なる藤本の姿に唖然としていた。
- 307 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:52
- 「新垣さん、来てたの?」
新垣は肩を叩かれ、振り向くと制服姿の道重の姿があった。
「うん。」
「だよね、バスケオタクだもんね。」
「違うから。」
新垣が隣の席においてあったカバンを膝に移動すると道重がそこに腰を降ろした。
「辻さんの顔が不機嫌なの・・・。」
道重は座るなり悲しそうに呟いた。
「まぁ、藤本さんがあれじゃね・・・楽しみにしてたんだろうし。」
「どういうこと?」
「見てればわかるよ。」
不思議そうに言う道重に新垣は苦笑した。
「下手っぴなの・・・。」
しばらく、黙って観賞していた道重が呟く。
その指す選手は藤本だろう。
新垣は軽く相槌を打った。
- 308 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:53
- 「あの人、なんでボール回さないの?」
「あの人、なんで誰のガードもしないの?」
「あの人、なんであんなに疲れてるの?」
道重が呟くたびに新垣は苦笑した。
スタンドで観戦している人々も同じように思っているのだろう。
先ほどから外へ流れる人が出てきている。
「辻さんのが上手いし、可愛いの。」
「可愛いは関係ないでしょ。」
「あるもん。」
「はいはい。」
練習が終わる頃にはいつもと変わらぬ体育館の風景になっていた。
「辻さーん。」
道重は手を振り辻に声をかける。
辻は一瞬だけ道重に視線を向け手を上げるとそのまま小川と扉の中に消えていった。
- 309 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:53
- 「あの人のせいで不機嫌なの・・・。」
「慰めるのも楽しいんでしょ。」
「可愛いから、甘えん坊で。」
道重の悲しそうな表情が一瞬にして嬉しそうに変わる。
新垣は呆れながら立ち上がった。
「帰る?」
道重も立ち上がり新垣のあとを追う。
「帰らない。藤本さんのサイン欲しいし。」
「オタク。」
苦笑いする道重に新垣は少し罰が悪そうに笑った。
- 310 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:54
-
道重がいつも辻を待つ場所で新垣も一緒に部員が出てくるのを待っていた。
一番最初に出てきたのは藤本だった。
俯き歩く藤本に新垣は駆け寄る。
足音に気がついた藤本は視線を上げ、向かってくる新垣を鋭い目つきで見た。
一瞬、歩を緩めた新垣だがそのまま藤本に近寄った。
「あのぉ。」
手帳を手に持ち歩み寄る新垣。
「なに?」
藤本は歩を止めた。
「サインを・・・。」
手帳とペンを差し出すに新垣に藤本は黙ってペンを手に取り【藤本美貴】と雑に書いた。
「有り難うございます。」
新垣が苦笑しながら礼を言うと藤本は歩みだした。
「あの・・・。」
呼び止める新垣に「ん?」と藤本は歩を止めそっけなく振り向く。
体育館の出口から辻と小川の姿が見えた。
新垣の様子を見ていた道重は直ぐに辻に駆け寄り3人は新垣と藤本に視線を向けた。
- 311 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:55
- 「なんであんな酷いプレイしたんですか?」
言いづらそうに言う新垣、それでも新垣は知りたかった。
顔だけ新垣に向けていた藤本は「フッ。」と苦笑すると身体ごと新垣に向きなおした。
「ありがと。」
「へっ?いや、あのぉ・・・。」
微笑む藤本に新垣は驚いた。
言い返されるか、ど突かれるかと思っていたのに礼を言われたのだ。
「本音言ってくれたの初めて。」
「へ?」
「日本に帰ってきてから、初めて。」
藤本は嬉しそうに新垣に歩み寄る。
「名前は?」
「新垣里沙、ですけど?へっ?」
「新垣ね。うん。ありがと。」
新垣の肩に手を置いて藤本は本当に嬉しそうな顔をする。
新垣は戸惑いながらも憧れの藤本とこうして居れることが嬉しかった。
「あんなプレイしたんじゃないよ。アレが今の美貴なだけ。」
苦笑気味に言う藤本を見た新垣は悲しみに襲われた。
「怪我・・・じゃないですよね。」
微笑み頷く藤本。
どうして笑っていられるのだろうと新垣は訝しげに藤本を見た。
- 312 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:55
- 「時間ある?」
「へっ?」
新垣の手を掴み歩みだす藤本に新垣は戸惑いながら道重たちを振り返る。
「ばいばーい。」と手を振る道重。
唖然と見送る辻と小川。
藤本は嬉しそうに新垣の手を引き歩いた。
「あのぉ。ちょ・・・。」
「ちょっと付き合ってよ。久々に美貴に本音言ってくれる人と話ししたいんだ。」
自信に満ち溢れている藤本の表情しか知らなかった新垣は切なげに呟く目の前のその人が本当に藤本なのかとまた悲しくなった。
人は何によって自信を持ち、何によて不安になるのだろう。
「ありがと。」
頷く新垣に藤本は微笑んだ。
- 313 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:56
-
- 314 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:56
-
大学から少し離れたファミレス。
新垣と藤本は向かい会って座っている。
「バイトって何時から?」
「7時です。」
メニューを見ながら尋ねる藤本に新垣は緊張しながら応えた。
「美貴、夕飯食べていい?」
「どうぞ。」
「新垣は?」
「あ、私は大丈夫です。お昼遅かったから。」
「フリーター?」
「違いますよ。高校卒業して、今は休みなんでどうしても朝起きるの遅くなっちゃって。」
「ふーん。じゃ。これにしよう。」
藤本は呼び鈴のボタンを押すと新垣に視線を向ける。
- 315 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:57
- 「4月からは?」
「付属大学に。」
「バスケ、やってるの?」
「ミニバスやってただけです。」
「バスケ好きなんだ。」
「はい。藤本さんのプレイ凄い好きでした。」
「でした、か。」
藤本は嬉しそうに微笑んだ。
「ごめんなさい。」
頭を下げる新垣。
「いいの。本音が久々で嬉しいって言ったでしょ。ってか店員おせー。」
藤本は苛立ちながら目で店員を探すと「すみませーん。」と手を上げた。
慌ててやって来た店員に「遅いよ。」と文句を言う藤本に新垣は苦笑した。
特性プレミアムハンバーグとドリンクバーを2個、注文した藤本は「何、飲む?」と新垣に視線を向けた。
「私行きます、何にしますか?」
「いいよ。付き合わせてるんだし。」
新垣は立ち上がり手で藤本を制した。
「いや、私いつもそういう役なんで。何にします?」
「そういう役って。」
藤本は笑うと「アメリカン。」と告げた。
新垣は「はい。」と頷きドリンクバーに向かう。
藤本は嬉しそうにその姿を追った。
- 316 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:57
- 嘘ばっかりだ・・・
監督も先輩も後輩も・・・
石川までも・・・何か隠してる。
「お待たせしました。」
カップを藤本の前にそっと置く新垣に「ありがと。」と藤本は微笑む。
「美貴のバスケ見てどう、思った?」
新垣は口元に運んだカップをテーブルに戻し藤本に視線を向ける。
「最低なプレイヤーだと思います。」
藤本は鋭い視線を新垣に向けた。
「スミマセン。いや、あの、えっだって本音でって・・・。」
慌ててペコペコと頭を下げる新垣に藤本は「ぷっ。」と噴出す。
「うそ、うそ。ありがと。自分でもそう思う。」
「どうして・・・」
「ルーズボールを追いかけに行くでしょ。美貴は誰よりも早くそのボールのコントロールを取る。自分のものにする。」
「藤本さんの判断とスピードは誰にも負けないくらい正確で速いですもんね。天才的に。」
藤本は照れたように微笑んだ。
「ボールがね、美貴を待ってる気がするの。」
「ボールが・・・。」
「そう、でも今はそう思えない。だから取れない。だから、取ったら離したくなくなる。」
新垣は頷きながら藤本の寂しそうな表情を眺めていた。
強いと思っていたがこの人はとても弱い人間なのかもしれない。
- 317 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:58
- 「ホントはね、あんなプレイ見せたくないよ。でも美貴は見せる。」
「どうして?」
「見て欲しい人がいるから。」
「そのぉ・・・酷いプレイでも?」
「その人が見ててくれたら、いつも通りのプレイが出来るよ。きっと。」
「大切な人なんですね。」
「うん。恋人。幼馴染なんだけどね。」
新垣は照れながら俯いた藤本に一瞬眉間に皺を寄せた。
石川だろうか、吉澤だろうか・・・
いや、小川の話しが本当なら石川と吉澤が恋人なはず・・・
もう一人・・・いるのだろうか。
「その人は・・・今・・・。」
「美貴が留学している間にね・・・。」
悲しそうに呟く藤本。
「でも、その人置いて、留学したんですよね。バスケを選んだんですよね。」
全てを手に入れる人は多くない、殆どの人が何かを諦めている。
藤本の言い方は余りにも一方的過ぎると新垣は思った。
- 318 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:58
- 「違うよ。そんなわけないじゃん。美貴は見て欲しかった。美貴が一番輝いているところを。それをよっちゃんも望んでた。」
興奮気味に言う藤本に新垣は驚いた。
藤本の態度だけではない。よっちゃんと言う言葉が出てきたことにだ。
吉澤の愛称。辻たちはそう呼んでいる。
丁度、「失礼します。」と藤本が頼んだハンバーグが運ばれテーブルに並べられる。
新垣は冷静になろうと紅茶を口に運んだ。
「ねぇ。さっき、美貴のこと天才的って言ったでしょ。」
ハンバーグにナイフを入れながら藤本が言う。
「はい。」
「天才なんてほんの僅かだよ。美貴はそれじゃない。努力した。バスケが好きだから。」
「私は諦めた・・・。」
新垣は苦笑しながら呟いた。
「誰も責めないよ。責める権利はないもん。続けるのも辞めるのも本人の意思。誰かに関係なんてない。」
「でも、自分のなかにはずっとありますよ。諦めたって。」
「皆そうだよ。いい思い出になる人も居るし、挫折して苦しむ人もいる。」
新垣はそうだなと想いながら頷いた。
「美貴は大きな試合に出たいとかじゃないんだよ。ただ、よっちゃんに見ていて欲しいだけ。」
「じゃぁ。どうして留学なんて・・・側でだってバスケは・・・。」
話しの途中で首を振る藤本に新垣は言葉をとめた。
「バスケが好きなの。アメリカで技術を学びたかった。」
やっぱり恋人よりもバスケを選んだのではないかと新垣には藤本の言葉を今は理解できずにいた。
- 319 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:59
- 「距離は関係ないよ・・・。」
藤本はハンバーグを口に運ぶ。
「そう・・・ですか?」
「関係ないよ。人は何れ離れ離れになるじゃん。いつか、死んじゃうもんだし。」
新垣は藤本の話しを聞きながら難しい顔をした。
当たり前のことを言われているけれど、なぜか寂しい気持ちになる。
「記憶だってどんどん無くなっていく。だから、美貴にとって今が大事なの。」
「今・・・。」
「そう。今が大事。おいしい。」
口を動かしながら微笑む藤本。
「なら・・・」
「ん?」
「今が大事なら・・・藤本さんが留学して、残された人は・・・。」
藤本は俯き離す新垣をじっと見つめていた。
「残された人は今、寂しかったら・・・誰かを頼ったり、求めたり・・・いけませんか?」
「いけない。」
すかさず、藤本が応えると新垣が顔を上げる。
「いけないよ。だって、そうじゃん。美貴も同じ思いをしてるんだよ。」
「藤本さんも・・・。」
「気持ちが繋がってるなら、嬉しいことも悲しいことも寂しいことも分け合うべきだよ。」
「じゃぁ・・・。」
「繋がってなかったのかな。」
泣きそうな顔をする藤本から新垣は目をそらした。
「まだ、早かったのかもしれないね。ってかなんで美貴、恋愛話なんか始めてるの?」
苦笑する藤本に新垣も苦笑した。
「私、よくされるんです。恋愛経験なんて無いのに。」
「あぁ、だからかもね、偏見ない答えが返って来るんだ。」
藤本は最後の一口を口に運ぶと水でそれを飲み干した。
「さて、腹ごしらえもしたし、これらまた無様なプレイを見せに行ってくるか。」
「今度、そっちの練習も見に行っていいですか?」
「うん。いいよ。先輩たちも実力あるし。面白いんじゃない。」
新垣は「ありがとうございます。」と頭を下げた。
- 320 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 14:59
-
- 321 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 15:00
- 仕事を終えて帰宅した吉澤はベッドで眠る亀井の姿に笑みを零した。
そっとベッドの端に座り亀井の髪に触れる。
今、もしも亀井が自分の側から居なくなったら・・・
そう考えると今、亀井がここにいるということが幸せに思える。
今、吉澤にとって亀井が全てなのだ。
「ん・・・。」と寝返りと共に薄っすら目を開き吉澤の姿を捉えると微笑む亀井。
亀井は撫でられている亀井の手を取り両手で包み込むとフニャっと微笑み目を閉じた。
「眠い?」
「ううん。」と目を閉じたまま首を横に振る亀井を吉澤は愛しそうに見つめた。
「お腹すいてない?」
「空いてない。」
「具合、悪いの?」
急に心配そうにする吉澤に亀井は先ほどと同じように首を横に振った。
- 322 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 15:00
- 「おっ。」
突然、手を思い切り引かれ吉澤は亀井の隣に倒れこんだ。
驚いている吉澤を亀井はニヒヒと笑ってみていた。
「なに?どうした?」
吉澤の首筋に顔を埋める亀井の背中を撫でなる吉澤。
亀井は何も言わずに吉澤の身体を抱く腕に力を入れた。
吉澤はもう、何も聞かずに優しく亀井の背中を撫でていた。
「絵里のこと好き?」
「うん。」
フフっと嬉しそうに吉澤の首元で微笑む亀井。
「好きだよ。凄く。」と吉澤は亀井が笑っているのを嬉しく想いながら、言葉にして気持ちを伝える。
- 323 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 15:02
- 「じゃ、こういうことしていい?」
顔を上げ吉澤の唇を奪い微笑んだ。
吉澤は愛しそうに亀井を見つめ頬を撫でた。
「絵里ね。」
「ん?」
亀井は身体を起こし吉澤の上に跨った。
吉澤は亀井の腰に手を添えて自分を見下ろす亀井に優しく微笑んだ。
「絵里、吉澤さんに会えて嬉しいの。」
「うちも嬉しいよ。」
「凄い凄い嬉しいんだよ。」と切なげに呟き吉澤の胸に耳をを当てた。
「絵里、吉澤さんいなくなったらどうしようって思うの。」
それは自分もだ。と吉澤はなんだか安心したように笑みを零す。
「絵里ね、ガキさんみたいにバスケ見るの好きとか趣味もないし・・・」
亀井は顔を上げて「吉澤さんだけなの。」と呟き顔を寄せた。
唇が重なる間際、吉澤の「うちもだよ。」という言葉が聞こえ亀井は唇を重ねながら笑みを浮かべた。
- 324 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 15:02
- 吉澤は亀井と身体の位置を入れ替え覆い被さると亀井の唇を奪った。
「亀ちゃん。」
名前を呼ばれた亀井は閉じていた目を開け吉澤を見つめた。
吉澤の首に腕を回し微笑み「絵里ね、今凄い幸せなの。」と呟いた。
吉澤は「そう。うちも幸せ。」と亀井の前髪を整えた。
亀井の嬉しそうに微笑んでいた笑みがゆっくりと消え、真剣な表情になる。
その様子を眺めていた吉澤は亀井の瞳から視線が反らせなくなった。
「絵里、忘れたい記憶がないから・・・。」
吉澤の身体が強張ったことに気がついた亀井は吉澤の髪を撫でながら自分の胸へと吉澤を引き寄せた。
子共を胸に抱くように亀井は吉澤の頭を撫でながら優しく抱きしめる。
- 325 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 15:02
- 「吉澤さんが忘れたい気持ち、分かってあげられない。れいなみたいに想像も出来ない・・・。」
吉澤の様子を確認しながら亀井は言葉を続ける。
「絵里ね、考えたの。絵里が出来ること。」
吉澤が顔を上げ亀井に視線を向けた。
亀井は微笑み、乱れた吉澤の髪を整えた。
「絵里ね、思うんだ。今、幸せって思うのは幸せだと思えるからなんだって。」
「ん?」
吉澤は理解が出来ずに声を漏らした。
亀井は微笑み天井に視線を向ける。
「幸せって思える人と思えない人の違いだよ。絵里も吉澤さんも幸せって思える。思えない人はきっとずっと幸せを味わえないの。」
「じゃ、それだけでも幸せなことだね。」
「そうなの。」
亀井は嬉しそうに吉澤に視線を向けた。
「だからね、絵里が出来ることはね。」
「うん。」
「吉澤さんと一緒にいつまでも幸せでいること。」
吉澤は微笑む亀井に微笑みを返し身体を起こすと亀井の唇を再び奪った。
- 326 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 15:02
-
- 327 名前:ルーズボール 投稿日:2007/03/21(水) 15:03
- 大の字に寝転がる吉澤の腕を亀井は自分の肩に回した。
「はは。」
吉澤は微笑み腕の中に亀井を包み込んだ。
素肌と素肌が触れ合うと亀井は幸せそうに微笑んだ。
「吉澤さんの体温好き。」
「なんで?」
「安心する。」
「体温ちょっと高いからかな?」
「吉澤さんの温度だからだよ。きっと。」
亀井は吉澤の腕に頬ずりをして微笑んだ。
「亀ちゃんはいつもより身体が熱ってる。」
「だって、それはぁ。」
恥ずかしそうに頬を赤らめた亀井は「あっ。」と声を上げた。
「なに?」と驚く吉澤に亀井は「しっ。」と人差し指を口の前で立てた。
不思議そうに亀井を見つめる吉澤。
「ここ、壁薄いから・・・れいなに聞こえてるって・・・。」
小声で囁く亀井を見て吉澤はぎゅっと目を瞑り「やられたね。」と苦笑した。
亀井は「恥ずかしいよぉ。」と困った顔を見せた。
- 328 名前:clover 投稿日:2007/03/21(水) 15:13
- 本日の更新以上です。
>>277-285 20.忘れ物
>>286-304 21.想像力
>>305-327 22.刹那に生きる人
気がつくと、吉澤さんの誕生日が迫っているわけで・・・
予定だともっと更新できているはずだったのに・・・
思わず、更新できるところまでしてしまいましたw
今日の更新、最後まで読んでくれた方、有り難うございます。
お疲れ様でした。
>>272 :naanasshi 様
レス有り難うございます。
>リアル世界はなんだか大変なことになってますが更新お疲れ様です
ついに・・・そっか・・・と言う感じで・・・
>ののさゆにこんなにドキドキしたのは初めてです
有り難うございます。
もっと書こうかどうしようか迷って辞めましたw
>>273 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>辻ちゃんとさゆがっ!!!!
>その情景が頭に浮かんで照れてしまいました(笑)
そうなんですw書こうとしていけない想像がw
>>274 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
>辻ちゃんさゆw
はい、また出てくるのでw
>>275 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
>辻ちゃんとさゆがとても新鮮でした
有り難うございます。
出来ればsageでお願いします。
>>276 :名無飼育さん 様
>あげんときやー
有り難うございます。
- 329 名前:ももんが 投稿日:2007/03/21(水) 17:23
- 大量更新お疲れ様です!!
いやー、一気に読みましたよ。
誰が悪いわけでもないのに、恋愛って上手くいかないもんだなって思いました。
みんなそれぞれに頑張ってほしいです。
- 330 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/22(木) 19:08
- 大量更新お疲れ様です!
いやぁいろんな組合せが楽しいです
次回も楽しみにしてます
- 331 名前:naanasshi 投稿日:2007/03/22(木) 23:22
- 大量更新キテターお疲れ様です
すれ違いが切ないですね
みんなの幸せ願うのは欲張りすぎでしょうか
この先どうなっていくのか楽しみです
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/23(金) 20:00
- みきよしがどうなるのか気になります。
あぁ恋愛って難しいですね
- 333 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/03(火) 21:09
- 待ってます
- 334 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/03(火) 22:09
- あげないあげない
- 335 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:12
- 23.追いかけっこ
- 336 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:13
- 田中は久々に学校に来ていた。
学期末の再試だ。
試験を終え渋谷に向かう電車に乗ると一緒に試験を受けていた生徒5人も乗ってきた。
田中を一瞥して車内の床に座りこむ生徒たち。
田中は端に立ちながら5人に視線を向けていた。
渋谷で電車が止まり田中が電車を降りると5人も一緒に降りた。
田中はそれに気がつくと歩を緩め5人の後ろを歩いた。
「やっぱりっちゃ・・・。」
5人の中で1人だけ浮いた生徒。
4人に囲まれるように歩く1人、明らかに仲良しグループではない。
田中は見失わないように後を付けた。
- 337 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:13
- 道玄坂まで来ると公衆電話の前で立ち止まると2人が公衆電話から電話をかけている。
田中は電柱に身を隠しながら様子を見ていた。
用を済ませたのだろう、5人はまた歩き出した。
「きまりっちゃね・・・。」
5人が歩みをとめると田中は辺りを見回した。
ホテル街。
20分ほど待つと中年男がやって来た。
2人が1人を挟み中年男となにやら言葉を交わしている。
残りの2人は少しはなれたところでその様子を見ていた。
1人を挟んでいた2人の生徒が離れようとすると田中は1人の生徒に向かって歩みを進めた。
- 338 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:14
- 「れいなが相手しちゃるけん。」
1人の生徒はいきなり掴まれた肩に驚きながら田中に視線を向けた。
「れいなのか可愛かろーが。」
男に視線を向けウインクすると男はニヤっと厭らしい笑みを浮かべた。
「決まりやけん。あんたにもう用はなかよ。」
男の腕に腕を絡ませると様子を見ていた4人が駆け寄ってきた。
「ちょっと、お前何してるんだよ。」
気が強そうな生徒が田中の腕を掴むと男は巻き込まれたくないのか逃げ出した。
「クソっ。お前がモタモタしてるからだよ。」
生徒たちにど突かれ「ごめんなさい。」と謝る生徒。
田中はその生徒の腕を引っ張り自分の背後に匿う。
「お前、何してんの?」
睨む生徒に田中は笑みを向けた。
「みんな、れいなみたいに可愛くないけん。人使わんと援交も出来んちゃね。」
4人の表情に怒りを感じ取った田中は後ろにいた生徒の手を掴むと駆け出した。
「待てっ。」と背に聞こえる声と足音。
道玄坂を高校生たちが駆け抜ける。
行き交う人は何事かと田中たちに視線を向けていた。
- 339 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:14
- 「れいなこっち行くけん。あんたあっちに逃げ。」
頷く生徒にニコリと笑った田中は生徒が逃げるのを確認すると足を止めた。
追いかけてくる生徒に舌をだし「バーカ。」と叫ぶと渋谷駅に向かって必死に走る。
時々、追いかけてくる生徒を振り向きながら4人が自分を追ってきてることに安堵する。
あの子は逃げられただろうと。
駅前のスクランブル交差点を駆け抜けハチ公を目指す。
そこに居るはずの亀井の姿を探した。
- 340 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:15
- 「絵里っ。こっちっちゃ。」
亀井の姿を見つけた田中は手を上げるとそのまま亀井の前を駆け抜けて行った。
「れいな?」
亀井は田中を追いかけた。
「ちょっと。何してるの?」
亀井が声をかけても田中は足を止めず振り返る。
「後ろ。追いかけっこ。絵里もくるっちゃ。」
亀井は「えっ。」と振り返る。
血相を変えて追いかけている高校生の姿を捉えるとと慌てて速度をあげた。
「追いかけっこって。」
田中の隣に並び尋ねる亀井に田中は苦笑した。
「話すの、辛いけん。あとで。」
苦しそうに呼吸をしながら走り続ける田中。
亀井は訳がわからず、取りあえず田中の隣で一緒に逃げた。
- 341 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:15
- 「ちょっとっ。どこまで行くの?」
息を切らしながら亀井が尋ねた。
もう、随分走っている。
通りは青山通りに変わっている。
青山学院大学の前を通り過ぎる。田中はまだ追ってきているのかと振り返り苦笑した。
「しぶといっちゃね。」
「れいな、何したのよ。明らかに負われてるじゃない。」
「何もしとらんけん。絵里、曲がるっちゃ。」
「えっ?っとと。」
突然、細い道へ曲がった田中に亀井は慌てて足を止め転びそうになりながら進行方向を変えた。
「ここで、いいっちゃね、絵里。もう逃げんでいいとよ。」
- 342 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:16
- 段々と走るスピードを緩める田中に亀井は不思議そうな顔をしながら立ち止まった。
田中は振り返り「遅いっちゃ。」と追いかけてきた4人を見て微笑んだ。
亀井は罵声を向けてくる4人に怯えながら後ずさった。
人通りの無い細い道。
亀井の頭の中に血の海の構図が出来上がる。
「ちょっとれいな。」
4人に笑顔を向けている田中は亀井に視線を向けると「絵里は後ろにいるっちゃ。」とだけ言い4人に3歩歩み寄る。
小さい田中、華奢な田中。
そんな田中のはずなのに亀井の目にはとても大きく映る。
「なん?疲れとー?なら、喧嘩やめてあげてもよかよ?」
「ふざけるな。」
- 343 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:16
- 1人が田中の後ろに回り田中を羽交い絞めにする。
3人はこれで自分たちに有利になったと笑みを浮かべた。
「お前、前からムカついてたんだよ。」
「なら、ムカついたときに言えばよか。っ。」
「キャッ。」と亀井の悲鳴が聞こえる。
1人の生徒が田中の頬を叩いたのだ。
「自分の顔がブスやからってれいなの顔叩かんといてくれる?」
「じゃ、お前の顔、人前に出せなくしてあげようか?」
パシンとまた田中の頬を叩く音が響いた。
「れいな。ちょっと皆やめようよ。」
「絵里はうるさか。黙ってそこにおって。」
亀井は止めようと踏み出した足を止めた。
「出来んこと言わんほうがいいっちゃよ。れいなのが強いけん。」
微笑む田中の頬にまた平手が飛ぶ。
頬を既に赤くなり、田中の顔が痛みを示した。
- 344 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:17
- 「次、やったられいなもやるけん。今のうちに辞めたほうがいいとよ。」
「馬鹿じゃないの?お前に殴られたりしないんだよ。」
笑みを浮かべ手を上げる生徒。そしてまたパシっと頬を叩く音が鳴った。
「やったっちゃね。」
微笑んでいた田中の目が鋭い目つきに変っる。
「うっ。」
田中を叩いていた生徒がお腹を押さえて蹲った。
羽交い絞めにされたままの田中が右足をその生徒のお腹へ蹴りだした。
そして、身体を回転させ羽交い絞めにしていた生徒を身体から振り落とすとそのままその生徒にも左足を軸に身体を回転させながら右足を脇腹目掛けて蹴りだす。
2人の蹲る生徒を心配そうに気遣う2人の生徒。
田中は腕を組み4人を見下ろした。
- 345 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:17
- 「なんであぁいうことすると?」
4人は何を言っているんだという顔で悲しそうに言う田中に視線を向けた。
「あんな馬鹿でトロイやつ。あいつだって友達いないからうちらと居られて良かったんじゃない。」
「怖いんちゃね。」
呆れたように田中を見る4人。
「自分が一番びりになるのが怖いっちゃね。勉強でも、友達の中でも。だから、人に優しくしてあげる余裕もないっちゃね。」
田中は一息ついて「悲しかね。」と呟いた。
「自分よりも劣っている子をみんなで苛めて、安心するっちゃ。
自分はまだこの子よりもマシやけん・・・でも、そんなことしてたらいつか、
自分もあの子と同じ立場になるとよ。その時、過ちに気がついても遅いけん・・・
もう辞めるっちゃ。劣っててもいいっちゃ。
それが自分なんだって受け入れることも大切やけん。きっと何かあるっちゃ。
自分に自信持てるもの。それを見つける努力したほうが人を傷つけて自分の価値を確認するよりも良いけん。」
田中は組んでいた腕を解くとしゃがみ込み4人と目線を同じにした。
鋭い目つきで4人をひとりひとり見ていく。
「今度、あの子苛めてるところ見たら、れいなが同じ目に合わせてあげるけんね。」
- 346 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:20
- 田中は立ち上がり振り返った。
泣きそうな顔をしている亀井に笑みを向ける。
「絵里、買い物いくっちゃよ。」と亀井に歩み寄り手を差し出した。
「ほっぺ、真っ赤だよ。」
田中の手を取り心配する亀井。
「大丈夫っちゃ。」
田中は微笑み亀井の手を引いて未だ道に座っている4人の横を通り過ぎた。
「何買うと?」
「シルバーアクセが良いかなって。ホントに大丈夫なの?」
「いったっ。」
田中は頷きながら頬を指先で触れた。
「ねぇ。やっぱり明日とかに変える?帰って冷やそうよ。」
田中の手を取り歩を止める亀井。
「ん・・・。でも、吉澤さんの誕生日もう直ぐやけん。」
「まだ、2週間以上あるから。」
「いいと?」
申し訳なさそうに言う田中はやはり頬が痛いのだろう。
顔が引きつり気味だ。
「うん。その代わり、ちゃんと付き合ってね。」
「約束は守るっちゃ。」
赤くなる頬を気にしながら二人は渋谷駅へと来た道を歩いて戻る。
- 347 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:20
- 「ねぇ。れいな。」
「なん?」
「れいなの自信はなに?」
「ん?」
何の話だろうと田中は亀井に視線を向けた。
「さっき言ってたでしょ。自分に自信持てるもの探せって。」
「あぁ・・・あれは・・・。」
田中は苦笑しながら頭を掻いた。
「なに?」亀井は不思議そうに田中を見つめる。
「吉澤さんの受け売りっちゃ。」
「吉澤さんの?」
「ん。」
田中は亀井から視線を通りに向けた。
「れーなが初めて会ったときやけん。れーなそん時、凄い落ちてたけん、自信持てるもの探せって言われたと。」
「そっか。で、何見つけたの?」
亀井は田中の横顔を眺めていた。
なんだか、とても綺麗なモノに見える。
聖母のような天使のような・・・偉大で美しい存在・・・。
- 348 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:21
- 「れーなは・・・生きること。」
「ん?」
「自信を持って生きたって言えるようにするっちゃ。」
「ほぉ。」
亀井は首をかしげて田中を見つめた。
「なんね?」
「それってどういう意味?へへ。よくわかんないんだけれども・・・。」
「れーなもまだよーわからんちゃ。」
「なんだよぉ。分かってないのかよぉ。」
笑う亀井に田中は頬を膨らませた。
「人生がそんなに簡単に分かったら凄いっちゃ。」
「まぁ、そうだよね。」
「絵里は人間と動物の違い分かると?」
「見た目でしょ。」
亀井は当たり前のように言い、田中に視線を向ける。
田中は苦笑しながら「そういうんじゃなか。」と空を見上げた。
亀井もつられて空を見上げる。
日が随分と長くなって来た。オレンジ色が広がる夕焼けがとても綺麗だ。
- 349 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:22
- 「人間は想像するけん。動物は出来んとよ。」
「そうなの?」
驚く亀井に田中は微笑んだ。
「犬が妄想とかしてたら怖いっちゃろ。」
「確かに、じゃぁ。れいなも出来ないね。ネコだから。」
ニヒヒと笑う亀井の肩を田中は叩いた。
「もう一つは分かる?」
「まだあるの?」
「あるっちゃよ。」
田中はしばらく考える亀井の横顔を眺めていたが降参を示す亀井の視線に苦笑した。
「自殺っちゃ。」
「へっ?」
「人間だけっちゃよ。自殺する生き物は。」
- 350 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:22
- 田中は見えてきたスクランブル交差点を行き交う人々を眺めながら呟いた。
少しだけ顔を引き攣らして言う田中の横顔。
こんな表情を亀井は幾度か見たことがある。
こんな表情を見たとき、亀井はいつもかける言葉が見つからない。
「想像力があるけん、自殺するっちゃね。きっと。」
「そうなの?」
「れーなも聞いた話やけん。よーわからんちゃ。」
へへっと笑う田中に亀井は寂しそうに微笑みを返した。
- 351 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:24
- 24.カフェモカ
- 352 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:30
- 大学の入学式を目前とした3月下旬。
新垣は何故か、小川と二人で体育館のベンチに座っていた。
「どうして、二人・・・。さゆのやつめ・・・。」
新垣はイライラしながらバスケの練習に目を向け呟いた。
ニコニコとバスケの練習ではなく新垣を見つめる小川。
道重と辻は新垣との約束をすっぽかしたのだ。
今頃、二人でイチャイチャしているのだろう。
先に行くとメールが来た時点でそんな気はしていた新垣。
駅で一人で待っていた小川を見つけて案の定と思った。
道重からは【あとでバイト先に行くから。】と言うメールがさっき届いたばかりだ。
- 353 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:33
-
「ねぇ小川さん。」
「はい?」
ニコニコと笑顔を向け小川。
「藤本さんの恋人って・・・」
新垣はコートで孤独なっている藤本を目で追った。
「ん?」小川はコートに視線を向けた。
「なんでもない・・・。」
小川は不思議そうに新垣を見た。
新垣の視線は藤本に向けられたままだ。
「恋人が見ててくれれば、藤本さんのプレーは戻るって。」
「見たい。って思っちゃう。」と悲しそうに小川に視線を向けた。
その、新垣の表情に小川の胸が疼く。
吉澤は・・・亀井は新垣の親友だ。
それでも、新垣は・・・。
小川は藤本の姿を追う新垣の横顔を眺め複雑な表情を見せた。
- 354 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:33
-
- 355 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:34
- 亀井は以前、吉澤と来た。藤本と会ったショップに田中と来ていた。
先週、駄目になってしまった吉澤の誕生日プレゼントを買いに行く約束。
田中は熱心にリングを見ている。
「これこれ。」
吉澤の指に嵌めたリングを手にした亀井は田中にそれを見せた。
「ん。吉澤さんぽいっちゃね。」
「でしょぉ。すっごい似合ってたんだよねぇ。」
「決まってるんなら、ひとりで来ればよかったと。」
「だって、一人でここにくるの怖いじゃん。」
亀井はイヒヒと笑いリングを持ってレジに向かった。
田中は微笑み亀井を見送った。
「れーなもなんか買おっかな。」
田中はディスプレイされているアクセサリに目を向けながら呟く。
「付き合ってくれたお礼にお茶奢る。」
小さな小箱を抱え満足気に微笑む亀井。
「どーせ、自分のバイト先っちゃろぉ。」
「正解。いこっ。バイトだしさ。」
「もぉ?まだれーな見とらんちゃ。」
「えぇ。今日はこれ買いに来たんだもん。」
「ひどか・・・。」
亀井は「帰るよ。」と田中の手を引いて店を出た。
- 356 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:34
- 「大体、絵里が寝坊するけん、時間が無くなったとよ。」
「はいはい。ケーキもつける。」
「朝が弱いとか、遅刻4時間はあり得んけん。」
「好きなもん食べていい。」と亀井は田中に笑顔を向けた。
「謝る気はなかとね。」
田中は呆れながら亀井に引かれて歩いた。
- 357 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:34
-
- 358 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:34
- 「まっつー。」後藤は腕時計に視線を向け歩を止めた。
歩道を歩いていた松浦は振り返り後藤の隣へ歩み寄る。
「どしたの?」
「次の現場ってさ。9時からだよね。」
「うん。」
「どーする。」
腕時計を松浦に見せる後藤。
松浦は「まだ、5時だね。」と呟いた。
「会社戻ったらゆっくりは出来ないし。」
「ラブホでもいく?」と笑う松浦の額を後藤は「バーカ。」と叩いた。
「痛いなぁ。冗談だよ。ごっちんはお茶がしたいと。サボりたいってことだね。」
笑う松浦に後藤は「そういうこと。」と微笑み歩き出した。
松浦は微笑みながら後藤と並んで歩く。
- 359 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:35
- 「喫茶店発見。」と後藤が店を指差す。
「入りますか?」
「ですな。」と後藤は松浦の手を引いて店へ入った。
広い店内。
二人は通りが見える窓際の席に座り、コーヒーと本日のケーキをオーダーした。
「あの子・・・。」
オーダーを取りに来た店員を目で追いながら松浦が呟く。
「どうしたの?」
後藤は不思議そうに松浦を見ながら、ふーっ。とタバコの煙を吐き出した。
「今の子どっかで見たことある気がしたんだけど。想い出せない。」
「そういうの気持ち悪いんだよね。」
「まぁいいや。」
「諦め早っ。」
「想い出せないもんは仕方ないじゃん。」
「まっつー。ぽいな。」
「でしょ。さっぱりしてるから。」
- 360 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:35
- 「お待たせしました。ホットコーヒーと本日のケーキ、こちらレアチーズケーキになります。」
微笑み会う二人のテーブルにコーヒーをトレイに乗せてやって来たのは亀井だ。
二人の前のそれぞれを置くと御辞儀をして席を離れた。
店内を見渡せる店の端に戻った亀井はトレイを元の場所に戻すと新垣の隣に並んで立った。
「で、小川さんとデートしてきたんだ。どうだったの?」
「デートはしてないから。」
店内に視線を向けながら会話をする二人。
「だって、二人でガキさんの大好きなバスケみてお茶して来たんでしょ。」
「だけどデートじゃないから。」
「ふーん。」
「亀は?今度はちゃんと買えたの?」
「うん。買ったよ。」
「そっか、どうなの吉澤さんとは。」
「うん。ボチボチ。」
新垣はチラッと亀井に視線を向けた。
今までなら、ここから亀井の惚気トークが始まるはずだ。
- 361 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:39
- 「吉澤さんに聞いたんだ。」
「うん。」
「なんて?」
「ちゃんと話してくれたよ。幼馴染で今は気まずい関係なんだって。」
「気まずいって何?」
「それは分からないけど。」
「ちゃんと話してもらって無いじゃん。」
亀井は店内に視線を向けたまま、困ったように微笑んだ。
「記憶喪失になりたいくらい思い出したくないんだって。聞けないよ。それ以上。」
「気にならないの?」
「なるけど・・・でも、いいの。思い出して辛い想いするより。今、幸せって思ってくれてれば。」
亀井は新垣に視線を向け微笑んだ。
「だって、過去は変えられないし過去の無い人なんていないし。でも絵里と吉澤さんは今とこれからを生きてるんだもん。」
新垣は渋い顔をしてから店内に視線を戻した。
「当人同士が納得してればいいけど。」
- 362 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:39
- 藤本の言う恋人は吉澤だ。
石川であれば居場所が分からないなんてことはないだろう。
ただ、小川の言葉が引っかかる。
「ガキさん、難しい顔をして、さては小川さんのこと・・・」
「考えて無いから。」
「テーブル片してきまーす。」
新垣の鋭い視線から逃げるように亀井は空いた席を片しに向かった。
吉澤が見ているだけで藤本のプレイは本当に戻るのだろうか。
ならば・・・と思ってしまう一方、亀井の悲しむ顔を見たくはない。
「いらっしゃいませ。」
客の入ってくる気配に新垣は入口へと向かった。
- 363 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:40
- 「いらっしゃい。」
入っていたのが道重と辻、そして何故か数時間前に別れた小川だったことに新垣は3人に対して目を細めた。
「態度が悪い店員なの。」と辻の腕にぶら下がる道重。
「どの口がそういうこと言ってるのかな?さゆ。」
道重は「この可愛いお口。」と自分を唇を指差した。
呆れた表情を見せた新垣は「こちらへどうぞ。」と3人をテーブルに案内する。
「何故か小川さんまで居るし。」
チラッと向けられた新垣の視線に小川はオドオドと席に着いた。
辻に今日の報告をしようと辻の家に向かっていた小川。
ちょうどその時辻たちはここに来るために駅に向かって歩いていた。
ウキウキの小川を見つけた道重は二人に進展があったのかもしれないとここに誘ったのだ。
いつもなら辻との時間を邪魔されると小川の存在を疎ましく思っていたりもするが今日は朝からずっと辻と二人で過ごせた。
二人きりに越したことは無いが、新垣とのことも気になったのだ。
「ご注文、お決まり次第。こちらのベルでお呼び下さい。」と新垣はメニューを置いても梳いた場所に戻る。
亀井の姿が無いと店内を見渡すと田中と話しをしている亀井を見つけた。
田中とは何度か道重を含めて4人で遊んだことがあった。
- 364 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:41
- 「のの?」
3人で見せに入ってきた学生を目で追いながら小声で呟く松浦。
「あっ、思い出したあの子。部活の見学に毎日来てた子だ。」
すっきりした顔をした松浦は後藤に「辻希美覚えてる?」と尋ねた。
「うん。ちっこい子でしょ。」
「そう、ほらあれそうじゃない?一緒にいるのまこっちゃんだし、隣にいるのは私が恋のキューピットした子だもん。」
「ホントだ。のの、だ。」
後藤は首を捻り辻たちが座る席に視線を向けた。
「行こう。」と松浦は立ち上がり後藤の手を引いて辻たちへとあゆみを進める。
- 365 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:41
- 「亜弥ちゃん?」
二人の視線に気がついた辻が呟くと小川が驚いて振り返った。
「松浦さんだ、なんで?」
「久しぶりだね。」と微笑む松浦に辻はニッコリと笑顔を向けた。
「マネージャーさん。」と呟いた道重はちょこんと頭を下げる。
「二人まだ続いてるんだ。」
「うん。」と辻は微笑み後藤に視線を向ける。
「よっちゃんと仲良かった・・・。」
「後藤だよ。」と後藤が辻の言葉を引き継ぎ自己紹介をする。
「まこっちゃんも相変わらず、うふふ。」
「なんで笑うのそこ。」小川は笑う松浦に非難の目を向けた。
- 366 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:42
- 「知り合い、かな。」
辻たちのテーブルに視線を向ける新垣にテーブルを片し終え戻った亀井が呟いた。
「あれで、知り合いじゃなかったらおかしいでしょーが。」
「だよね。」
苦笑する亀井の額をポンと新垣が叩いた。
「それよりさぁ。亀。」
「何だいガキさん。」
クネクネと笑いながら言う亀井を新垣はため息をついた。
「さっきから時計見すぎ。」
「だって、もう直ぐ吉澤さん迎えに来てくれるんだもん。」
「久しぶりじゃん、吉澤さん店にくるの。」
「そう、そーなの。」
嬉しそうに声を上げる亀井に新垣は人差し指を口の前で「しー。」立てた。
「仕事忙しいんじゃなかったの?」
「ひと段落したんだって。」
「じゃ、良かったね。」
嬉しそうに頷く亀井を見て新垣の脳裏には藤本の顔が浮かんだ。
バイト仲間だった吉澤。
親友の片思いの相手だった吉澤。
親友の恋人の吉澤。
新垣の知る吉澤は、どれも笑顔で・・・
藤本の話しが信じられなくなる。
- 367 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:42
- 「あっいらっしゃいませ。」
亀井が「来た来た。」と入口にかけていった。
新垣は「走るな。」と声を潜めその背中に投げかけるが亀井には届いていないようだ。
入ってきた吉澤に駆け寄る亀井を吉澤は笑顔で見つめていた。
新垣は幸せそうな二人を見ながら更に混乱していた。
- 368 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:42
- 「あ、吉澤さんかな。」
亀井が駆けていく姿を視界に捉えた道重が呟いた。
吉澤と言う名に後藤が一番に反応し道重の視線の先に視線を向けた。
「よしこだ・・・。」
視線の先に見つけた吉澤の姿に後藤の表情が硬くなる。
隣にいた松浦はそんな後藤を見て思わず後藤の手を握った。
駆け出しそうになった後藤は松浦に握られた手を見て冷静を取り戻した。
- 369 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:43
- 「いらっしゃいませ。早かったね。」
「うん。待ってるよ。8時まででしょ。」
「れいな来てるよ。あとさゆとのんつぁんも。」
「へー。凄い集まってるんだ。れいなはまた、奥で一人?」
「うん。さゆたちデートだしね。でも小川さんもいるけど」と笑う亀井。
吉澤は入口に近いカウンターに座ろうか田中と相席しようかと迷っていた。
「いらっしゃいませ。」と新垣が吉澤へ歩み寄る。
「久しぶりだね、ガキさん。なんか凄い綺麗になってるし。」
「そーんなことは無いんですけども。」と笑顔を作る新垣。
「あるある、最近すっごい綺麗いだもん。」と亀井も煽る。
「いいから、亀はカフェモカオーダーしてきなさい。」
新垣に背中を押され亀井は「はーい。待っててね。」と吉澤に笑みを向け奥へと消えていった。
「ここの席にします?」
「れいなの席にするわ。」と吉澤は視線を店内へと向けた。
- 370 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:44
- 「吉澤さん?」
驚愕の表情をし後ずさる吉澤に新垣は慌てて声をかけた。
「あれぇ?まだ席・・・」とカフェモカをトレイに乗せてやって来た亀井。
吉澤を見た亀井は不安になりながら吉澤の視線の先を見る。
「待って。」
店を出ようと振り返る吉澤の背中に後藤の声が突き刺さる。
身体をビクつかせ足を止めた吉澤はゆっくりと後藤に向き直った。
ゆっくり一歩一歩、吉澤へと歩み寄る後藤。
二人の様子を亀井、新垣、道重、辻そして小川が黙って見守っていた。
- 371 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:44
- 「生きてるんだ。よしこ。」
吉澤の目の前で歩を止め顔を寄せ呟く後藤。
泣きそうな顔をする吉澤を後藤は抱き寄せた。
「よしこ・・・生きてるじゃん。」と吉澤の耳元で囁く後藤。
吉澤の両目から涙が零れた。
「吉澤さん・・・。」
吉澤の涙を見た亀井が新垣にトレイを渡すと二人に駆け寄る。
「離れてっ。」と後藤から吉澤を解放させると亀井は吉澤を庇うように後藤の前に立った。
「ごっちん。何言ったのっ。」
亀井が間に入ったのを見て駆け寄った松浦は瞬きもせずにポロポロと涙を零す吉澤を見て後藤に尋ねた。
後藤は何も言わず、ただ吉澤の涙に驚いていた。
声も出さず、瞬きもせず、ただ涙を流す吉澤。
嬉しいのか悲しいのかさえ吉澤の表情からは読み取れない、無表情のまま涙を流している。
- 372 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:45
- 亀井に道重たちも来ていると聞いていた田中はどこにいるのだろうと店内を見ながら亀井の奢りのケーキを口に運ぶ。
後藤と松浦が歩く姿を見つけ目で追っていると辻の姿を発見することが出来た田中は二人と辻はどんな関係なのだろうかと考えながら様子を見ていると突然、後藤が入口に歩いていき直ぐに道重と小川が立ち上がり4人が入口に視線を向ける。
田中の席から入口は見ることが出来ない。
最後の一口のケーキを頬張ると席を立った。
「何しとると・・・。」
泣いている吉澤の前に立つ亀井。そして亀井の視線の先にいる後藤。
田中は慌てて亀井と吉澤のもとへ駆け寄った。
「どーしたと?」
亀井は駆け寄ってきた田中を見てホッとした表情を見せた。
「よしざ・・・。」吉澤の表情を間近で見た田中は言葉を失い亀井に視線を向けそして後藤へと視線を移した。
- 373 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:45
- 「吉澤さんに何言ったと?」
鋭く睨みつける田中に後藤は苦笑した。
「よしこ?ねぇ、そんな風にされても後藤、困るんだけど。何か言ってよ。」
田中の質問を無視し後藤は1歩2歩と吉澤との距離を縮める。
「吉澤さんのこと傷つけたられーなが許さんけん。」
歩寄ってくる後藤に言う田中だが、後藤は全く相手にしない。
「ねぇよしこ。藤本先輩帰って来てるよ。」
藤本の名前が出ると吉澤の眉間に皺が寄った。
「あの・・・吉澤さんの何なんですか?」
藤本の話しをさせたくないと思った田中が後藤を店から連れ出そうと前へ出ようとするとそれよりも早く亀井が前に出た。
「バイトさんこそ何なの?」
吉澤とちゃんと話しがしたい後藤は間に入ってくる亀井を鬱陶しく想いながら視線を向けた。
「恋人です。」
「恋人?」と吉澤に視線を向ける後藤。
「あなたは何なんですか?」
「高校のクラスメイト。」と後藤は吉澤を見ながら応えた。
「よしこ、ちゃんと・・・。」
「聞きたくない。」と吉澤が後藤の言葉を遮った。
「ごっちんの話し・・・聞きたくない。」
亀井は振り返り吉澤に視線を向けた。
怯えたような顔をする吉澤。
「れいな。吉澤さんと先に帰って、絵里バイト終わったら直ぐ行くから。」
吉澤に辛い思いをさせたくはない、そう思った亀井は田中に「お願い。」と伝えた。
「よしこ、待って。」
「ごっちん。」
田中に連れられ店を出て行く吉澤を後藤が追おうとしたが松浦がそれを止めた。
- 374 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:46
- 「あの・・・他のお客様の御迷惑になりますのでお席にお戻り下さい。」
注目を集めていることに気がついた新垣は後藤と松浦にそう頭を下げた。
「ナイス、ガキさん。」
松浦に促され席に戻っていく後藤を見ながら亀井が新垣の肩を叩いた。
「ナイスじゃないよ。あんた、情況わかってるの?」
「うん、多分。だからガキさん、まだ、終わるまで15分あるけど上がっていい?」
心配そうに視線を向ける新垣に亀井は笑みを向けた。
「いいけど・・・亀まさか。」
後藤に視線を向けている亀井を見て新垣は更に心配になった。
「ってことで、よろしく。あと、カフェモカ3つお願い。」と亀井は新垣の手からトレイを奪い奥へと消えていく。
「ちょっちょ、え?亀?」
新垣はため息をつくとキッチンにカフェモカをオーダーをしに向かった。
- 375 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:47
- 「ごっちん。顔が怖いぞぉ。」
松浦は不貞腐れている後藤の頬を突く。
「よしこ、変わってない・・・。」
「そう?凄い痩せてたじゃん。」
「そうーじゃなくて。」
「分かってるよぉ冗談だってば。もー。」
やっと笑った後藤に松浦はホッと息をついた。
「半くらいに出ようか。」と言う後藤に松浦が頷くと同時に制服から私服に着替えた亀井がやって来た。
その後ろからトレイを持った新垣がやってくる。
「ちょっと、お話いいですか?」
亀井は後藤の返事を待たずに松浦の隣に座った。
「どうぞ。」と新垣が亀井を見ながらそれぞれの前にカップを置いていく。
「サービスです。」と後藤に笑顔を向ける亀井。
「サービスなのかよ。」と新垣は苦笑すると去っていった。
後藤は笑顔を向けてくる亀井にどうしていいのか分からず松浦に視線を向けた。
松浦は微笑みを後藤に向けると亀井に身体を向けた。
- 376 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:47
- 「ねぇ、亀井さんだよね。」
亀井は頷きながら松浦に笑みを向けた。
「吉澤さんの恋人。」
頷く亀井に松浦は「そっかぁ。頂くね。」とカフェモカを手に取った。
「吉澤さんが大好きなんですよ。カフェモカ。それでコーヒー飲めなかった絵里もこれは飲めるようになって。」
亀井はそれを一口飲むと「美味しい。」と微笑み後藤に「美味しいですよ。うちのは特に。」と進める。
「よしこは高校のころからブラックだったけどね。」
後藤はそう亀井に視線を向けながら一口飲むと眉間に皺を寄せ「甘い・・・。」とカップを元に戻した。
「たまに、甘いのがいいんですって。エスプレッソの苦味も美味しいけど、チョコとホイップの甘さとミルクのまろやかさがホットするって。エスプレッソとチョコが無いとカフェモカは出来ないんですよ。吉澤さんがエスプレッソで絵里がチョコ。二人は一緒に居ないと駄目なんです。」
照れながら話す亀井を後藤は冷ややかな目で見ていた。
- 377 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:47
- 「あの・・・言いにくいんですけれども。」
亀井は笑みを消し後藤を真っ直ぐと見つめる。
後藤は肩眉を上げて「何?」と呟いた。
「吉澤さんにもう関らないでください。」
きっぱり言う亀井に後藤は悲しそう視線を落とした。
「亀井さん、あのさ、勘違いしてない?」
松浦に視線を向けた亀井は「へ?」と首を傾げる。
「ごっちんと吉澤さんは親友なんだよ。ごっちんはずっと気にしてたんだよ。吉澤さんのこと。心配してたの。」
後藤の様子を気にしながら言う松浦。
亀井は後藤の表情を見つめた。
「藤本さんと石川さんのこと、ですよね?」
後藤が顔を上げ亀井を見た。
「知ってるの3人の関係。」
「吉澤さんは思い出したくないって言ってます。だから、もう・・・。」
「よしこは弱いから、そういうところ。」
後藤は表情を和らげ懐かしそうに呟いた。
「良いじゃないですか、弱くたって・・・記憶喪失になりたいって言ったんですよ。」
「よしこが?」
悲しそうに言い頷く亀井。
後藤の表情が亀井以上に悲しく歪む。
「ごっちん、そろそろ出ないと。」
「うん。」後藤は頷きながら「よしこがホントに言ったの?」と亀井に訪ねる。
「言いましたよ。それくらい、思い出したくないって。」
「じゃぁ・・・なんで生きてるのさ。」
「ごっちん。辞めな。」
呟く後藤に松浦は声を大きくし立ち上がると後藤の隣へと移動した。
「生きてるって何ですか?」
「ごっちん、もう行こう。」
尋ねる亀井の声を遮って松浦が後藤脳でを掴む。
「ごっちん?」
松浦の言葉が後藤に聞こえているのかどうか後藤は反応をしない。
「自殺しようとしたんだよ。よしこ。」
悲しそうに亀井を真っ直ぐと見て後藤は言った。
話しを聞いていた松浦は俯き掴む後藤の腕に力を入れた。
- 378 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:48
- 亀井は無表情に後藤を見ていた。
後藤の言葉がゆっくりと亀井の脳に入ってきり理解すると亀井の目から薄っすらの涙が見えてきた。
「ごめんね、亀井さん私たちこれから仕事だから。」
半ば後藤を引っ張るように松浦は後藤を連れ出すとレジへと向かった。
「亀・・・。」
バイトを終え私服に着替え一部始終を見ていた新垣が亀井の隣へとやって来た。
「大丈夫?」
「うん。・・・駄目かも。」
亀井は頬に伝う涙を拭う。
「どっちだよ。」と苦笑する新垣に亀井はふっと笑みを見せた。
「聞いてた?」
「うん。最後だけね。」
困ったように笑みを作る新垣に亀井も同じような顔をする。
「ん。甘い。」
亀井はカフェモカを一口飲んで「ガキさんも飲む?」とそれを差し出した。
普段、甘いものを好んで口にしない新垣だが「ん。」と微笑み口にした。
舌に広がるホイップとミルクの甘さそのあとに広がったエスプレッソの苦味とチョコの甘み。
新垣は眉間に皺を寄せ「甘いね。」と笑った。
藤本は吉澤のそれを知っているのだろうか・・・
新垣は口中に残る甘さを感じながらそんなことを思った。
- 379 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:48
- 「ねぇガキさん。」
亀井は吉澤に貰った胸にあるネックレスに触れ目を閉じた。
新垣は「ん?」と亀井の胸元に視線を向けた。
誕生日に初めて貰ったと喜んでいた亀井の顔を思い出すと新垣の表情が和らぐ。
「絵里、吉澤さんのところ行って来るね。」
目を開き新垣に微笑む亀井。
普段は凄くいい加減で何でも頼ってくる亀井。
けれど、吉澤のことになると亀井は別人だ。
新垣は笑顔で頷くと立ち上がった。
亀井が「いってくるね。」と席をたち新垣の前を通り過ぎていく。
愛する人が居るということは強くなることなのだろうか。
いつもより大きく見える亀井の背中を見ながら新垣は自分にもいつかそんな人が現れるといいなと願った。
- 380 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:49
- 「ガキさん。」
心配そうに亀井たちの様子を見守っていた道重が新垣の肩を叩いた。
「おう・・・さゆ。」
「絵里、大丈夫?」
「ん。」
新垣は微笑み道重の腕を叩いた。
「泣いてたみたいだけど・・・何言われたの?」
「ん。大丈夫だから。さゆは辻さんとデートでしょ。」
心配させまいと言う新垣。
道重は頬を膨らまし新垣の手を取った。
「さゆだって同じだもん。ガキさんと同じくらい絵里のこと大切だよ。」
「さゆ。分かってるよ。」
「年下だからって除者は嫌なの。」
声を荒げる道重。
「さゆ。」
辻が慌てて駆け寄ってきた。
「さゆも一緒に悩んだり励ましたりしたいよ。」
泣きながら訴える道重の腰を抱きながら辻は新垣に視線を向けた。
新垣は困ったように辻に笑みを向けると「分かったから。」と道重の涙をハンカチで拭った。
- 381 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:49
- 「うちで話ししよっか。さゆ、門限あるでしょ。」
頷く道重に「お母さんにうちに泊まるって連絡しなさいよ。」と新垣は微笑んだ。
「辻さんも。」と言う道重。
吉澤たちのことを尋ねた時点で巻き込んでしまったのかもしれない。
新垣は苦笑しながら頷いた。
辻は困ったように振り替える。その視線の先には何も分かってない小川がいた。
「はぁ・・・小川さんも良かったらうち来ます?」
新垣が言うと小川は嬉しそうに頷いた。
- 382 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:50
- 25.真っ白い世界
- 383 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:50
-
「生きてるんだ。」
吉澤を支えるように歩いていた田中は吉澤の声を聞き見上げた。
行く先を見ながら歩く吉澤の頬には未だ涙が流れている。
田中はそれを拭おうとはしなかった。
その役目は亀井だと思ったからだ。
田中は吉澤を連れて帰ることだけが自分に出来ることだと思っていた。
「生きてる・・・。」
何度も呟く吉澤に何も聞き返さずに田中は吉澤を連れて歩いた。
- 384 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:50
- 「ごっちん。仕事だよ。」
ダラダラと歩く後藤に厳しい口調で言う松浦。
「分かってる。」と呟く後藤だが胸の奥の方から苦いものが込み上げてくる。
ちゃんと話をしたかった。
あんな風に言うつもりはなかった。
でも、亀井とあんな風に笑っている吉澤を見て・・・
吉澤が一番傷つくであろう言葉を口にしていた。
仕事場に入るなり柴田が「遅い。」と腕を組み後藤と松浦を睨みつける。
「30分前とは言わないけど15分前には来ててよ。」
「すみません。」と頭を下げる松浦の横で後藤は仕事の準備をし始めた。
「ごっちんも分かってる?」
しゃがみ込む後藤の顔を望みこみ言う柴田は「どうした?」と振り返り松浦に視線を向けた。
「ちょっと。」と苦笑する松浦。
「何よ。仕事に影響とか簡便してよ?」と松浦に歩み寄り小声で言う柴田。
「来る前によしこに会ったよ。」
コソコソと話しをする柴田に後藤は一眼レフを手に呟いた。
「仕事はちゃんとやるから心配しないで。」と言いながらまた支度に取り掛かる後藤。
柴田は後藤の様子を見ながら石川に言われたことを思い出した。
- 385 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:51
- 「ね、吉澤さんと連絡取れるの?」
松浦は「会っただけだから」と苦笑し後藤の様子を気にかける。
「仕事でちょっと吉澤さんの所在知りたいんだけど。」
後藤が顔を上げ「何それ。」と呟く。
「藤本さんの取材できたら特集ページ取れるんだ。スポーツ担当の方で断られてるみたいだから。」
「うち、関係ないじゃん。」
「藤本さんならスポーツだけじゃなくてもいけるでしょ。書き様によっては一般的に人気でるだろうし。」
「卓球のあいちゃんとかゴルフのあいちゃんとかみたいにってことですよね?」
口を挟んだ松浦に「そういうこと。」と柴田は笑みを向ける。
「なんでよしこが関係するの?」
「藤本さん吉澤さんと連絡付けたがってるみたいだからさ。」
「交換条件ってこと?」
頷く柴田に後藤はため息をつき仕事を再開する。
「直ぐそこの喫茶店によしこの恋人がバイトしてる。亀井って子。」
呟く後藤に「ありがと。」と柴田は頭を下げると仕事の準備に取り掛かった。
「いいの?」と後藤に小声で尋ねる松浦に後藤は頷く。
「どっちにしてもあの3人は会った方がいいし・・・先輩たちと連絡取れるの柴ちゃんだし。」
「そっか。」
松浦は複雑な顔をする後藤の頭を撫でて微笑んだ。
- 386 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:51
-
- 387 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:51
-
電車を降りた亀井は吉澤のアパートに向かって必死に走っていた。
藤本に会ってからどんどんの知らない一面を知ることになって戸惑う反面、今まで以上に吉澤の側に居たいと思う気持ちの方が大きくなる。
出来れば吉澤とこれまでどおり穏やかに生きて行きたい。
でも、そうは行かないのだろう。
いつかは・・・藤本が、石川が自分たちの前に現れるだろう。
どうなるのか分からない。
亀井は息を乱しながら吉澤の部屋のドアを開けた。
「絵里?」
田中の声が聞こえ「うん。」と言いながら部屋への歩を進める亀井。
ソファの上、子供のように膝を抱え顔を埋めて声を漏らし泣く吉澤の姿の横に田中が同じように膝を抱えて座っていた。
- 388 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:52
- 「ここに着いた途端、こうやって泣いてるけん。」
田中は立ち上がり亀井の前にやって来た吉澤に視線を向けた。
「れーなは何も言えんし出来んけん。」
田中は亀井に視線を向け微笑み「後は絵里の役目っちゃ。」と亀井の肩を叩いた。
「部屋もどるけん。何かあったら声かけるとよ。」と言う田中に「ありがと。」と頷く亀井。
田中が部屋を出て行くと亀井は吉澤のもとへ歩みを寄せた。
隣に座り何も言わずにそっと吉澤を抱きしめる亀井。
「亀ちゃん。」と吉澤は鳴き声を押さえ呟いた。
「そーですよ。」
ヒクヒクと呼吸を乱す吉澤の背中を擦り優しい声で言う亀井。
こんな風に泣く吉澤を初めて見た。
- 389 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:53
- 今まで自分が知っていた吉澤。
藤本にあってから知る吉澤。
どんどん、吉澤が全てをさらけ出してくる気がする。
そんな吉澤が愛しい。
「大好き。どうしようもないくらい大好き。」
吉澤を抱きしめながら呟く亀井の声を聞きながら吉澤は涙を流していた。
「絵里に会う前の吉澤がどんなんでも絵里の気持ちは変わらないんだと思う。
吉澤さんが強盗でも殺人者でも絵里はきっと吉澤さんを好きになる。
だって、絵里は吉澤さんがいない生活なんて考えられないの。
なんだろ・・・きっと絵里、吉澤さんがいなくなったら凄い苦しくなると思う。
ガキさんもさゆもきっとれいなも苦しむ絵里を助けられないの。
吉澤さんがいなくて苦しいから。他の人じゃどうしようも出来ない。
絵里にとって、愛してる人は吉澤さんだけだから。」
吉澤の背中を撫でながら亀井は目を閉じて囁くように話した。
自分の気持ちをどう伝えていいのか分からない。
思っていることの全てを言葉にすることはとても難しい。
好きで好きでたまらないだけなら「好き。」と何度だって言葉にすればいい。
でも、それだけではない。
亀井にとって吉澤の存在自体が生きていくために大切なものなのだ。
- 390 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:53
- 「吉澤さん、前に言ったよね。」
吉澤の涙を拭いながら亀井は愛しそうに吉澤を見つめる。
「絵里が居なくなったら生きていけないって。」
頷く吉澤に「絵里もそうだよ。」と亀井は微笑んだ。
言われた当時は吉澤の言葉の意味が余りよく分からなかった。
困った顔をした亀井に「何でもない。」と吉澤が話を濁したことを亀井は今でも覚えている。
今なら良く分かる。
生きていけないと言う意味が。
「吉澤さんの心と絵里の心、たまに取り替えてわかりあえたらいいのにね。」
亀井は吉澤の顔を上げさせ涙を拭きながら微笑んだ。
「そしたら絵里、今吉澤さんがどうして欲しいのか直ぐ分かるのに。」
拭っても、拭っても溢れてくる吉澤の涙を亀井は何度も拭った。
吉澤の視線が上がり亀井を捉えると亀井はニコッと笑みを作る。
- 391 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:53
- 「吉澤さん・・・話して。」
心を取り替えることは出来ない。
吉澤が拒否をしたら・・・不安になりながらも亀井は吉澤に笑顔を向け続けた。
それでも、吉澤の頬を伝う涙を拭う手はどうしても震えてしまう。
「亀ちゃん。」
しばらく黙って亀井を見つめていた吉澤が亀井の手を止めた。
- 392 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:54
- 「真っ白の世界だった。」
亀井は何も言わず頷いた。
吉澤は涙が止まらずにどうして良いのか分からない。
それでも、亀井に伝えないと、話さないといけないことがある。
「美貴と付き合ってたんだ。」
涙を拭いながらゆっくりと息を吐く吉澤。
「美貴も梨華も生まれたときから側にいて、いつも2人はうちのこと構ってくれてて
中学生になってねバスケやってる美貴が凄いかっこよくて綺麗で可愛くて・・・
今までと感情が変わってたのが分かった。好きになってた。」
過去のことだと分かっていても、自分でない誰かを好きと言う言葉を聞くと胸が苦しくなる。
亀井は胸に手を当てて頷いた。
吉澤はそんな亀井を見て目を閉じた。
吉澤も亀井と同じように胸の苦しさを感じている。
- 393 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:54
- 「高校生になって美貴に付き合おうって言われて嬉しかった。
美貴のためなら何でもしてあげた。うちが見てるだけでバスケを頑張れる。
美貴がそう言ってくれたからうちは美貴をいつも見てた。美貴だけを。
それなのに・・・美貴はうちを捨てて・・・留学した。連絡も殆どくれなくて。
18年・・・一緒だったのに・・・美貴が居ない生活なんて耐えられなかった。
でも、気がついたら梨華がいた。」
吉澤は溢れる涙を拭おうともせず「梨華が居たんだ。」と目をあける。
涙を拭おうと手を伸ばした亀井の手を吉澤は掴んだ。
「うちは・・・」
真っ直ぐと亀井を見つめる。
「梨華に美貴の代わりをさせたんだ。」
亀井は悲しそうに微笑み掴まれている手を引き寄せるように吉澤を胸に抱きしめた。
- 394 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:55
- 「何があっても絵里は吉澤さんが好き。」
不安そうに見えた吉澤を安心させたいと亀井は「好き。」と吉澤の頭を撫でて呟く。
「梨華を美貴って・・・いつの間にか美貴なのか梨華なのか分からなくなってた。」
吉澤は亀井の両肩に手をかけ距離をとると亀井を見つめた。
「夏休みにねごっちんと2人で海に行ったんだ。そこでね、ごっちんに言われた。
よしこは誰かに依存してないと生きていけないだけで、それは愛情じゃないって。」
亀井の肩を掴む吉澤の手が震えている。
「美貴を裏切って梨華を傷つけてまで生きたいのかって・・・
自分が傷つかないように他人を傷つけて何してるんだって怒られた。
でもね、うちそんなこと言われてもどうしていいかわからなかった。
ずっと美貴と梨華に頼って生きてきたんだから。」
ゆっくりと亀井の肩から手を離していく吉澤。
- 395 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:56
- 「でも一つだけ方法を見つけたんだ。人間だから出来ること・・・。
死のうと思った・・・最初はね寒くて寒くて苦痛だったんだけど
いつの間にか寒さは感じなくなってた。うちがいて美貴がいて梨華がいて
3人で庭の小さなプールで水遊びしてた。そんなの小さい頃しかやってなかったのに。」
吉澤は膝を抱え苦笑した。
「その後は・・・ブクブクって自分の口から酸素が白い泡になってどんどん出て行って・・・
真っ白い世界に居た。気がついたら病院のベッドで寝てた。」
吉澤は涙を拭くと目を閉じた。
「死ぬことも出来なかった。」
そっと目を開け自分を嘲笑うかのように微笑んだ。
- 396 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/07(土) 01:57
- 「死ぬことも出来なかった。」
そっと目を開け自分を嘲笑うかのように微笑んだ。
「人間だけが出来る、自分の人生の幕を閉じることすら出来ないうちは・・・神様に許されなかった。」
まだ、乾かない涙を拭いながら吉澤は笑った。
「生きる意味を考えた。生きていくことに必要なこと・・・。」
「自信・・・。」
吉澤は驚いたように亀井を見た。
「れいなが言ってた。」
微笑む亀井に「そっか。」と吉澤は笑って涙を拭った。
「何?吉澤さの自信・・・。」
「まだ・・・分からない。」
「じゃ、一緒に見つけよ。絵里と一緒に見つけよう。」
胸に飛び込んできた亀井を吉澤はしっかりと受け止めた。
「ありがと、話してくれて。好きだよ・・・吉澤さんの全部が好き。だから・・・。」
顔を上げた亀井に吉澤は微笑んだ。
もう、涙は出ていなかった。
話してよかった、そう思えた。
「好きだよ。亀ちゃん。」
亀井は微笑みそっと吉澤と唇を重ねた。
- 397 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/07(土) 02:06
- 大量更新お疲れ様です。
寝ようと思ったらリアルタイム!
眠れずうれしい悲鳴です。
それぞれの視線、過去、色んなことの重なりがもどかしいです。
すっきりしたいけどすっきりしたくない。
そんな気持ちで次回も更新お待ちしております。
- 398 名前:clover 投稿日:2007/04/07(土) 02:10
- 本日の更新以上です。
週1更新目指してたのに・・・
あいぼんが出てくる予定だったのに・・・
どうしよう・・・
>>335-350 23.追いかけっこ
>>351-381 24.カフェモカ
>>382-396 25.真っ白い世界
>>329 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>いやー、一気に読みましたよ。
有り難うございます。
また、読んで下さいw
>>330 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>いやぁいろんな組合せが楽しいです
収集が付かなく・・・頑張ります。
>>331 :naanasshi 様
レス有り難うございます。
>みんなの幸せ願うのは欲張りすぎでしょうか
ちょっと今、ある人をどうカップリングしようかと悩み中ですw
幸せになれれば・・・w
>>332 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>あぁ恋愛って難しいですね
難しいですよね・・・ホント。
>>333 :名無飼育さん
すみません。ありがとうございます。
出来ればsageでお願いします。
>>334 :名無飼育さん 様
有り難うございます。
- 399 名前:clover 投稿日:2007/04/07(土) 02:15
- >>397 名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>すっきりしたいけどすっきりしたくない。
まさにw
早くすっきりさせたいんですけどねw
- 400 名前:ももんが 投稿日:2007/04/07(土) 14:17
- 大量更新お疲れ様です!!
なんかもう亀ちゃんの包容力というか気持ちに感動しました!
吉澤さんには後ろからドロップキックかましたいぐらいです。
cloverさんの書くみんなの気持ちの絡み合いは、読んでて引き込まれます。
- 401 名前:naanasshi 投稿日:2007/04/07(土) 22:46
- 更新お疲れ様です
すっかり読み耽ってしまいました
亀ちゃん吉澤さんを救ってやってくれええええええと絶叫しそうですw
あいぼんさんは出してもいいんじゃないですかね自分は気にしないですけど…
- 402 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/08(日) 23:37
- 更新お疲れ様です
なんだか吉澤さん…
亀ちゃん頑張って
これからどうなるのか楽しみです
- 403 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 21:50
- 26.ジグソーパズル
- 404 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 21:51
-
「小川さん、あんまり見ないでよ・・・。」
初めて入る新垣の部屋。
小川はキョロキョロと部屋中を見回していた。
「ごめん。」と身体を丸めて俯く小川に新垣はため息をついた。
そんな新垣の隣で道重は砂時計とにらめっこをしていた。
「さゆ何やってんの?」と砂時計に顔を近づける道重に向かい側から顔を寄せる辻。
「紅茶入れるのに3分・・・よし。」
道重は砂が全部落ちきるの待ってカップに紅茶を注いだ。
変なところで几帳面だと新垣は道重を見ながら微笑んだ。
- 405 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 21:51
- 「ねぇ。ガキさん、あれ見ていい?」
辻がバスケ雑誌の本棚を指差す。
「いいよ。」と新垣は微笑んだ。
辻は四つんばいで本棚まで這うと「すげー。」と苦笑して数冊の雑誌を取り出し開いた。
「麻琴、見てみて、この頃ってさうちの高校凄かったんだよね。」
辻が藤本たちが全国優勝したときの特集ページを開いて小川を呼ぶ。
小川は「おっ。どれどれ。」と辻へと歩み寄る。
「あぁ、うちらの年代って藤本さんと吉澤さんに憧れてる子多かったもんね。」
小川が懐かしそうに雑誌を眺める。
「そうそう、のんたち入るの大変だったもんね。」
「だねぇ。まぁよく入れたもんだよ。」
懐かしそうに話す二人を見ながら道重の頬は少しずつ膨れていく。
新垣はそんな道重を見ながら微笑んだ。
- 406 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 21:52
- 「さゆ。」
膨れた頬を突く新垣。
「ん?」
「いかないの?」
「いいの。さゆには分からない話もあるの。」
「ほぉ。大人になったねぇ。」と道重の両頬を擦り微笑む新垣。
「恋愛に関してはさゆのが上だもん。」
「いたたたた・・・。」
ニヤっとわらう道重。
新垣は苦笑しながら立ち上がるとベッドに倒れこんだ。
「ガキさん?」
驚きながらベッドへと移動する道重。
「ちょっとね、しくじったよ・・・恋愛経験なんてないのに吉澤さんのこと・・・亀に余計なことしちゃったかなって。」
寝転がったまま仕舞ったという顔をする新垣の頭を道重は微笑み撫でた。
「何れ、分かることなの・・・良いのか悪いのかなんて、今は誰も分からないよ?」
「ありがと。」新垣は微笑むと目を閉じた。
- 407 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 21:55
- 「なーに二人でまったりしてるのぉ?」
辻が雑誌を手にベッドにやって来た。
新垣は身体を起こすとガラにもなくネガティブになってしまった自分に苦笑した。
「二人で盛り上がってたからさゆたちも二人で盛り上がってたの。」
道重は「ね。っ。」と新垣に微笑んだ。
「ヤキモチやくよ・・・。」と辻が道重の手を引っ張った。
道重は「なんでぇ?」と嬉しそうに辻を抱きしめる。
その後ろで小川がため息をつきながらソファに座るのが見えた新垣。
小川は毎日、二人のこんなやり取りを見てこうしているのだろうかと苦笑した。
- 408 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 21:55
- 「そうだ・・・絵里のこと。」
辻を胸に抱きしめたまま道重は新垣に視線を向ける。
新垣は頷きながらため息をついた。
どう、話して良いのか良くわからない。
自分がどうこう話して良いことなのだろうか・・・
「ガキさん?」
辻が新垣の顔を覗きこんだ。
「近いの。」
道重が直ぐに辻を自分に引き寄せた。
新垣は苦笑しながら「あぁー。」と伸びをした。
「吉澤さん・・・死のうとしたらしい。」
新垣の部屋が静まり返った。
- 409 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 21:57
- 「夏・・・吉澤さん何日間か入院してたね。」
小川が呟いた。
「部活引退したあと・・・だったっけ。」
辻は呟きながら小川の隣に腰を降ろした。
道重も新垣の隣に腰を降ろす。
再び沈黙が訪れた。
今頃、亀井と吉澤は何を話しているのだろう・・・
皆がそう思った。
「きっと今頃話してるのかな・・・。」
沈黙を破ったのは道重だった。
「そうだね。」
新垣が応えるとまた沈黙に包まれる。
「藤本さんと付き合ってたんだよ、吉澤さん。」
新垣の言葉に小川が驚愕の表情を見せた。
- 410 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:00
- 『重さんって可愛いって言ってないと不安なんでしょ。』
道重の記憶に蘇る吉澤の一言。
まだ、幼稚園に通っていた頃だ。幼稚園だけ共学だった。
男の子は女の子をからかいたがる。
今思えば大したことじゃない。
でも当時の『ブス。』の一言はとても傷ついた。
無意識にそうじゃない。自分は可愛い。
必要以上に自分に言い聞かせてた。
『不安だと口にでるよね。』そう吉澤は苦笑していた。
- 411 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:01
- 「じゃ・・・藤本先輩、吉澤さん置いて留学したんだ。」
小川の言葉に頷く新垣。
「こないだ藤本先輩と何はなしたの?」
小川の問いに新垣は鼻に皺を寄せ「んー。」と呻った。
「え?待って吉澤さんと藤本先輩?」
反応が遅く驚く小川に新垣は黙っていろという視線を向けた。
組んでいた足を組み変えながらどう話そうかと悩む新垣。
その隣に道重は吉澤と喫茶店で交わした言葉を思い出していた。
「藤本さんは吉澤さんを好き?」
新垣は自分に問いかけるように言う。
「藤本さんは吉澤さんに見てもらうためにバスケをしてる・・・それは確か。」
頷く新垣に「そうなんだ。」と辻が呟いた。
「でもよっちゃん、逃げたんだよね?」
視線を向ける辻に新垣は渋い顔で頷いた。
- 412 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:01
- 「さゆみ・・・ちょっと分かるかも。」
3人の視線が道重に向けられる。
- 413 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:02
- 「ガキさんと絵里がバイト終わるの待ってるときに吉澤さんと話したことあって、まださゆみが中学生のとき。吉澤さんって敏感なんだよ。いつもいろんなこと考えてる。普段、さゆみたちが考えないようなこと。」
道重は小川に視線を向けた。
「いつもヘラヘラしてごまかすのは、本当のこと言われて傷つくのが怖いから。」
小川が視線をそらすと道重は新垣に視線を向ける。
「先のことばかり考えてるのは今を楽しめてない弱虫だから。」
「さゆ?」と呟く新垣から道重は視線を辻へと向ける。
「毎日を楽しんで生きているのはまだ何も考えてない赤ちゃん。大人になったら変わっちゃう。」
「変わんないよ?のん、さゆのことずっと好きだよ。」
道重は微笑み頷いた。
「おとぎ話みたいなことばかり言ってるけど、本当は一番現実を理解してるの・・・自分が生きてる世界はおとぎの世界じゃないってこと。子供で居たいって現実逃避してるだけ。」
道重はふーっと息を吐き出した。
- 414 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:04
- 「誰だってズルイ部分も弱い部分もあるの・・・皆と同じ仮面をつけて、社会からはみ出さないように・・・」
眉間に皺を寄せる新垣を見つめる道重。
「なるべく辛い想いすることは避けて・・・誰だってそう・・・生きたいでしょ?」
「だから、吉澤さんは逃げたって?」
頷く道重に新垣は更に皺を深く寄せた。
「だったら亀は逃げ場にされてるだけってことじゃん。」
道重は微笑み顔を横に振る。
「そうじゃないよガキさん。」
新垣は「んぅ?」と首を傾げる。
「さゆみね思うんだけどね。」
道重は辻を見ながら微笑んだ。
辻は「ん?」と首を傾げる。
「人生ってジグソーパズルみたいになってるって思うの。色んな形があるでしょ。」
3人が頷くのを確認する道重。
「ピース1つ1つが色んな人の愛なの。家族とか友達とか。それは一杯あるでしょ。」
また、3人の様子を確認する。
「たった1つだけのものが恋人だと思うんだ。ピッタリ嵌らないといけないの。」
- 415 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:04
- 道重の話しを聞きながら新垣は関心していた。
子供だと思っていたのに、なんだか自分だけが取り残されている気がした。
「色々考える人だから、簡単じゃなかったと思うの。」
だったら・・・藤本はどうなるんだろう。
信じ続けて・・・裏切られ・・・
新垣は複雑な気持ちになりながら後ろに倒れベッドに寝転がった。
顔に腕を乗せため息をつく新垣を見て3人が顔を見合わせる。
「ガキさん?」
道重が声をかけた。
「吉澤さんが待ってるって信じて3年、一人でアメリカで頑張って帰ってきた藤本さんの気持ちはどうなるの?」
腕をどかし道重に尋ねる新垣。
道重は悲しそうに「ピースが合わなかったのかもね。」と呟いた。
「ここだって思って置いてみたけど、他のピースを嵌めてったら違ってたってこともあるでしょ。」
新垣の手を引き起こしながら言う道重。
- 416 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:04
- 「ねぇさゆ。」
辻の声に「ん?」と視線を向ける道重。
「のんたちが騒いでもどーにもならないよ。」
辻の隣で小川が頷いた。
「うん。そうだよね。」
頷く道重に辻は笑顔で「亀ちゃんが頼ってきたら皆で助けてあげようよ。」と言う。
「そうだね。さすが辻さん。」と微笑む道重に「のん、難しいことわかんないし。」と苦笑した。
ベッドの上で道重と辻のやり取りを見ながら新垣は嫌な予感を感じていた。
藤本は強引にでも吉澤を亀井から奪うのではないか。
ピースの形が合わないなら合うように変えてしまうのではないか。
今を生きている藤本に形に残るジグソーパズルなんて最初から無いのかもしれない。
新垣は眉間に皺を寄せながら胸の苦しさを感じていた。
亀井に吉澤と藤本のことを話すべきがどうか・・・。
それとも、今頃・・・吉澤から聞いているだろうか・・・。
- 417 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:05
-
- 418 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:05
- 27.錯覚
- 419 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:06
- 「ねぇ。柴ちゃん。」
取材を終え事務所に戻った後藤はパソコンに向かっている柴田の隣に座った。
「ん?」とディスプレイを見ながら応える柴田。
「もう、石川先輩に教えたの?」
「まだ。どうして?」
キーボードを叩く手を止め後藤に視線を向ける柴田。
「石川先輩とよしこのこと・・・知ってるんでしょ?」
後藤は手にしたデジカメの映像を見ながら尋ねる。
柴田は足を組み替えながら後藤に身体を向けた。
「二人のことって?」
試してる。後藤は柴田を見て苦笑した。
「知ってるんだね。」
後藤はデジカメをデスクに置くと笑みを消して柴田を見つめる。
「藤本先輩の取材、そんなにしたい?」
真っ直ぐと見つめてくる後藤に柴田は微笑んだ。
- 420 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:06
- 「どっちにしても、藤本さんは吉澤さんに会うでしょ。同じことじゃない。」
「そうだけど。」
後藤は悲しそうに柴田を見つめる。
「藤本さんの何を書くの?うちスポーツ部じゃないよ。」
「スポーツ部からなにか聞いたの?」
後藤は頷いた。
藤本美貴の不振の原因が話題になっている。
「よしことのこと書くんだったら石川さんのことも出てくるよね。」
柴田は視線を反らした。
「そんなことしたら、柴ちゃん友達なくすよ。」
「仕事だから。」
呟く柴田の横顔は寂しさが見える。
この人は強がりなんだ。
誰にも頼ろうとしない。せめてパートナーである自分には頼って欲しい。
年下だけれど、同期じゃないか。
後藤は悲しそうに柴田を見つめる。
何も言わず、自分へ向けられる視線に柴田は耐えていた。
パソコンに手を伸ばし書いていたものを保存するとパソコンの電源を落とした。
もう、今日は仕事になりそうにない。
- 421 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:07
- 「後藤、撮らないよ。藤本さん。」
柴田は後藤に視線を向けると「そう。」と呟きカバンに手をかけた。
「じゃ、この仕事やめなよ。ごっちんの仕事は言われたものを撮ること。好きなもの撮りたかったらフリーになったら。」
書きたくて書くんじゃない。
後藤にはそう聞こえた。
「辞めないよ。後藤は柴ちゃんのパートナーだから。」
知ってるよ。
記事に合った写真を選んでるんじゃないこと。
後藤が撮った物や人物に合わせて記事を書いてくれてること。
後藤の個性を活かそうとしてくれてること。
「じゃ、私の企画に口出さないで。」
後藤はため息をついて頷いた。
- 422 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:07
- 「飲み行かない?松浦待ってる?」
手帳をカバンに入れながら言う柴田に「大丈夫。」と後藤は呟く。
こないだ断ってしまった借りがある。
後藤は「仕度してくるから待ってて。」と言い残し自分のデスクへと向かった。
向かいのデスクで無表情に帰る仕度をする後藤。
いつも感情を表に出さないで何を考えているのか分からない子。
そんな印象だった。
でも、一緒に仕事をしているうちに後藤がそうでない子だって直ぐに分かった。
本当の時だけ、感情を見せる。
「いけるよ。」
笑みを向ける後藤に柴田は頷くと二人は「お先に。」と声をかけ事務所を後にした。
- 423 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:07
-
- 424 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:08
- 先日、大学の入学式を終えた新垣と亀井。
次の日からカリキュラムの説明やサークルの勧誘やらでヘトヘトになっていた。
「疲れた・・・。」
高等部、茶道部の部室で新垣はパイプ椅子に座り呟いた。
「早く普段どおりの生活したいね。」
隣で亀井が疲れきった表情で呟いた。
「ってかなんでここにいるの?」
道重は着物姿で畳みの上で正座をして首を傾げた。
「3人で夕食にでも行こうかって。」
新垣は「ね。」と亀井に視線を向けた。
「そういうこと。」と頷く亀井。
「そっか。じゃぁ。着替えるから待ってて。」
- 425 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:08
-
立ち上がり、部屋のカーテンを閉めると着替えだす道重。
新垣と亀井は視線を合わせると微笑んだ。
「さゆと遊んであげて。」と辻から新垣にメールが来たのは入学式の日だ。
土日の練習試合が札幌のため金曜日に出発してしまうという。
毎日、会っている道重にとって辻に会えないというのは一大事なのだ。
道重は何も言わないが辻はいつも遠征や合宿のときは心配している。
「何食べよっかね。」
「ナンカレー?」
「おっいいねぇ。」
「でしょー。」
新垣と亀井の会話を聞きながら道重は二人が誘ってくれた理由に気がつき視線を向け微笑んだ。
- 426 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:08
-
- 427 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:08
-
藤本は実業団の練習を終えるとスタンドを見上げた。
練習中に聞こえた「みきたんしっかりっ。」と言う声。
懐かしさを感じながらスタンドに立つ松浦を見つけた藤本は笑みを見せた。
「みきたん、出口で待ってるから。」
松浦の声に頷き藤本は更衣室へと向かう。
松浦なら吉澤のことを知っているかもしれない。
そんな期待を持ちながら一番端のロッカーの前に立ち着替え始めた。
- 428 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:09
- 体育館から出た途端、松浦は藤本に「遅い。」と言葉を投げつけた。
「一番、下っ端だからね。」と苦笑する藤本。
「しかも下手になってるし。」
「よっちゃんが見てないからかな。」
松浦は悲しそうに藤本を見つめた。
「私が見てても駄目なんだもんね。」
「ごめんね。」
「どっかで夕飯でも食べない?」
藤本が頷くと二人は歩き始めた。
- 429 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:09
- 「付き合ってたんでしょ。」
月明かりに作り出される自分の影を見ながら言う松浦。
「過去形にされてるし。」
苦笑する藤本に視線を向ける松浦。
「何?驚いてる顔して。」
「いや・・・」松浦は言葉につまり視線を立ち並ぶ店に向けた。
「焼肉にしようっか。みきたん好きだもんね。」と焼肉屋に向けて小走りする松浦。
個室に通された二人は無言のままメニューに視線を向けていた。
店員が入ってくるとお互い好きなものをオーダーした。
生ビールで「久しぶり。」と乾杯をすると藤本は一気にそれを飲み干した。
- 430 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:10
- 「なんか、大人になったんだなって思うよね。お酒とか一緒に飲むと。」
嬉しそうに微笑む松浦に「そうだね。」とかえす藤本。
「それより、みきたん。」
ビールのお代わりをしようと呼び鈴に手を伸ばしながら「ん?」と首を傾げる藤本。
「今、何してるの?とかちょっとは私に興味持ってよ。」
「学生じゃないの?」
「学生だけど。」
「他になんかある?」
「恋人いないの?とかさ。」
「いるんでしょ?」
「いるよ。」
「もー。」とため息をつく松浦に藤本は「何?」と笑う。
- 431 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:11
- 「後藤真希、覚えてる?」
「よっちゃんのクラスメイト。覚えてるよ。」
「私の恋人。」
驚いた表情をする藤本に悪戯っぽく笑う松浦。
「じゃぁ、よっちゃんの居場所とか知ってる?」
丁度、肉を持って来た店員が入ってきて松浦は「生ビール2つ。」とオーダーをする。
「食べよ。」と肉を網の上に次々と乗せていく松浦。
お腹が空いていた藤本は取りあえず肉を口に運んだ。
ビールが運ばれてくると箸を休める二人。
「で、知ってるの?」
「ん?なんだっけ?」ととぼける松浦に藤本は苛立ちの表情を見せる。
松浦は変わってないなと苦笑した。
「うそうそ。ごめん。」と松浦は姿勢を正した。
「居場所って言うのは知らないの。こないだ偶然、会ったけど。」
「どこで?」
身を乗り出す藤本を見て松浦は驚いた。
いつも、余裕で、くっ付いていたのは吉澤の方だ。
犬のように藤本に寄って行く吉澤を藤本が可愛がっていた。
それは錯覚していただけなのだろうか。
- 432 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:11
- 「ねぇ。どこで?」
「喫茶店・・・吉澤さんの・・・。」
松浦は言葉を止めると藤本を見つめた。
「よっちゃんのなに?」
「みきたん・・・。」
「なに?」身を乗り出していた藤本は身体を引きながら呟いた。
「吉澤さんが好き?」
「好き?」
藤本は「はは。」と乾いた笑い声を上げた。
「みきたん?」
「好きなんて言葉じゃちっぽけ過ぎる。」
「じゃぁ愛してる?」
「違うかな。」
「なら?」
藤本はゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲んだ。
細くて長い藤本の首を眺めながら松浦は藤本が消えてしまいそうな気がしていた。
- 433 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:12
- 「美貴にとってよっちゃんは・・・生きる意味なの。」
藤本は寂しそうに「よっちゃんに会いたい。」と呟いた。
「みきたん・・・。」
同情・・・だろう。
ひとり取り残された藤本。
松浦にはそう見えた。
「恵比寿の喫茶店に亀井さんって子がバイトしてる。今、一番吉澤さんを知ってる子だよ。」
「亀井・・・。」
「吉澤さんの・・・恋人。」
「それは、美貴だよ。」
松浦は困ったように視線を反らした。
取り残された吉澤も何度も藤本に会いたいと思っただろう。
石川に頼り、後藤に追い詰められ・・・
亀井は吉澤にとって救いだろう。
「美貴は認めない。別れたりしてない。」
呟きながらビールを飲む藤本に松浦にはかける言葉は見つからなかった。
- 434 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:12
-
- 435 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:12
- 「ナンカレー。」
「ナンカレー。」
新垣に続き亀井が歌う。
はしゃぐ二人に笑う道重。
「ほら、さゆも、ナンカレー。」
新垣がやれと道重の手をとる。
道重は「さゆみはいいよぉ。」と苦笑した。
亀井にも手をとられ間に挟まれた道重は「もう。」と苦笑しながら2人と一緒に「ナンカレー。」と呟いた。
インド人が営む本格派カレー。
新垣のお気に入りの店だ。
いつもの席に通された3には大きなナンに舌鼓を打った。
「今日はありがとね。」
満腹感と満足感に浸る新垣と亀井に礼を言う道重。
- 436 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:13
- 「なぁによぉ。」と新垣は笑みを零した。
「辻さん合宿だからでしょ?」
道重は寂しそうに言う。
「絵里も吉澤さんとの時間とっちゃってごめんね。」
「大丈夫だよぉ。絵里と吉澤さんは。」
微笑む亀井に新垣はなんともいえない表情をする。
道重はそんな新垣の顔を見ながら「絵里、凄い自信だね。」と微笑んだ。
「そーだよぉ。だって吉澤さんは絵里のこと好きなんだもん。可愛いって言ってくれるし。」
笑みを見せる亀井。
「辻さんだってさみのこと一番、好きで可愛いって言ってくれるもん。」
「おい、さゆ?ちがうでしょーが。」
対抗心に目覚める道重に新垣が苦笑した。
- 437 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:13
- 店を出るとそのまま新垣に家へ向かった3人。
久々にお泊り会をしようとはしゃぐ3人。
「久しぶりに3人で入ろうよ。」と亀井が2人に笑みを向けた。
「何、言ってるの亀?」
突然言い出す亀井に何の話か分からない新垣。
「お風呂でしょ?」と当たり前のように言う道重。
「お風呂って子供じゃないんだから。」
苦笑する新垣に「ガキさんの家のお風呂広いから大丈夫だよ。」と微笑む亀井。
「うん。そーだねぇ。いいなぁ。あんな広いお風呂。」
既に3人で入ることを前提に話す2人を新垣は苦笑してみていた。
- 438 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:13
- 「そりゃ足伸ばして入れるけど、限度があるでしょ。うちのは無意味に広すぎなんだよ。」
父親が家族全員で入れるようにとかなり広めに作られたお風呂場。
親と一緒に入っていたのは小学校に上がる前までだ。
あれほど広くしなくても元々小柄な新垣なら何の問題も無かったはず。
「まぁ。亀とかさゆがお泊りに来たときには役立ったけど。子供の頃の話じゃん。」
「いいじゃん。久々に入ろうっ。」
亀井に手を引かれ立ち上がる新垣の顔は迷惑そうだ。
「いこぉ。」と道重に背中を押され新垣は2人に挟まれて浴室へと向かった。
脱衣所で服を脱ぐのは当たり前だ。
新垣は制服のブラウスに手をかける道重、既に下着姿になっている亀井の間で時間をかけて腕時計を外していた。
「先、行ってるね。」
下着を抜いた亀井がそう言って浴室へと向かう。
新垣は亀井の背中に目をやり自然と目線を下げた。
女の身体・・・。新垣は思わずため息をつく。
- 439 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:14
- 「ガキさん?脱がないの?」
真っ白な肌を曝け出し、腰を曲げて下着を足から抜く道重。
道重の大きな乳房を見ながら自分の胸に手を当て新垣は「脱ぐよ。」と苦笑する。
「諦めて入るの。」
「はいはい。」
新垣は着ていた長袖の裾を掴み脱いだ。
浴室に入っていく道重を視界の横に取れえながらスカートを脱ぐ。
亀井はシャワーを浴びながら先に身体を洗っていた。
「さゆみ、髪洗っちゃおう。」
「うん。」
真っ黒な長い髪を濡らしシャンプーで丁寧に洗い出す道重。
「ガキさん、先に身体。」
入ってきた新垣に指示を出す亀井。
亀井は新垣にウォッシュタオルを渡すとシャワーを浴びると「ふぁ。」と浴槽に浸かる。
「ガキさんシャワー。」
髪を洗い終えた道重が下を向いたまま手を伸ばす。
「はいはい。いくよ。」と新垣は道重の髪にシャワーを向けた。
- 440 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:15
- 「いいねぇ。温泉に来てるみたい。」
交替で髪と身体を洗い終え3人で白い湯船に浸かると道重が嬉しそうに言う。
「絵里これぇ。」と道重が亀井の胸元に手を伸ばす。
亀井は道重に触れられる前に胸の上を押さえた。
「ん?なに?」
新垣が亀井の顔を覗きこんだ。
「ガキさぁん。」と困った顔をする亀井の向かいで道重が新垣の肩を叩く。
「さゆみもここにあるの。」と自分の胸と胸の間を指差す。
そんなところを指差されてもと思いながら新垣はチラっと視線を向ける。
蚊に指されたような痕。
新垣は顔を赤らめ「ちょっ、さゆ?」と信じられないという顔をした。
「さゆもやることやってんだ。」と慌てる新垣を見ながら亀井が微笑む。
「さゆは辻さんのものって言う印だもん。」と微笑む道重。
「絵里もだもん。」
「さゆみここにもあるもん。」と膝立ちになりお腹を見せる道重。
「良いから。そんなの自慢しあわないで。」
「ちょっとガキさーん。」
「さゆみ、鼻に入ったの。」
新垣は湯船のお湯を手で掬うとバシャと2人にかけた。
- 441 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:15
- 「もぉ。ガキさんだって恋人で来たら分かるって。」と新垣の肩を叩く亀井。
道重は湯船に肩まで浸かりながら「どうかな。」と微笑む。
「ガキさん、秘密にしそうだもん。実はもうあったりして。」
「ちょっさゆ?何よ。」
道重が新垣の胸を覗き込む。
「もぉ。無いから、そんなの。」
新垣は道重に背を向けながら呟いた。
「恥ずかしがっちゃって。」
フフと亀井が笑うと「違いますぅ。」と新垣は睨んだ。
「ガキさん、胸が小さいのは恥ずかしがることじゃないの。」
「おい。さゆ。誰もそんなこと言ってないから。」とうなだれる新垣の代わりに突っ込む亀井。
「あれ?さゆみ毒吐いた?」
惚ける道重に亀井が頷く「あんたたちねぇ。」と新垣は更に肩を落とした。
「ガキさん気にすることないよ。ガキさんスタイル良いんだから。細いし。」
「きゃっ。」
亀井は「羨ましいよね。さゆ。」と湯船の中で道重のお腹を突いて悪戯っぽく笑う。
「絵里だって。」
「きゃっ。」
脇腹を道重につままれて亀井は身体を捩った。
湯船を波立たせる2人を何をしているのだと新垣は呆れながらも微笑んでみていた。
- 442 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:16
-
- 443 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:16
- 「ごとーっ。」
「はいはい。」
2件梯子した後藤と柴田。
千鳥足の柴田を後藤は支えながら歩いている。
「次はぁ。あそこぉ。あの店行くよ。」と居酒屋を指差す柴田に「はいはい。」と後藤は店に方向転換した。
「飲むぞ。ごとー。」
「はいはい。もう結構飲んでるけど。」と言う後藤の表情はなんだか嬉しそうだ。
入社した当時はこうやって良く飲んだものだ。
朝まで柴田は理想を語っていた。
後藤に企画の相談をしたりしていた柴田だったが最近は一人で仕事を取ってきて一人で企画をして・・・
一人前になったと言われればそうなのかもしれない。
そう、後藤も思っていた。
でも、違う。今、後藤の肩にぶら下がり笑顔で大声を上げている柴田が本当だ。
時が経つに連れて錯覚していただけなのかもしれない。
- 444 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:17
- 「焼酎、焼酎のむぞ。」と騒ぐ柴田をカウンターに座らせた。
「おじさん、焼酎の芋ある?何でもいいや。あと串の盛り合わせお願い。」
「まだ?」とカウンターにうつ伏せになる柴田を見ながら苦笑する後藤は「今来るよ。」と柴田の頭を撫でた。
「松浦に怒られるぞー。」と笑う柴田。
「大丈夫だよ。」
後藤は優しい笑みを見せ「昔もしてたじゃん。」と呟いた。
「だね。よくこうしてもらったわ。年下なのに変なところでしっかりしてるんだよごっちんは。」
差し出された焼酎を柴田の手に持たせた後藤。
「よし。飲もう。」と身体を起こしそれを口にする柴田。
後藤はそんな柴田を横目に焼酎を飲んだ。
- 445 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:17
- 「ごっちん。」
「ん?」
タバコを出そうとして上手く取れない柴田の手からシガレットケースを取る後藤。
1本取り出すと自分の口に咥え火をつける。
煙を吐き出しながらタバコを柴田に「はい。」と差し出した。
「ん。ありがと。」
タバコを口にしフーと煙を吐き出すと微笑む柴田。
「梨華ちゃんが友達じゃなくなったら私、一人だわ。」
柴田は「どーしよーね。ホント。」と苦笑する。
後藤は柴田の横顔を黙ってみていた。
「ごっちん・・・。」
「ん?」
「寂しいよ・・・。」
柴田はカウンターにゆっくりと顔を寄せやがてうつ伏せた。
ゆっくり目を閉じた柴田。
- 446 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/15(日) 22:18
- 後藤は柴田の本音を聞いた気がした。
- 447 名前:clover 投稿日:2007/04/15(日) 22:26
- 本日の更新以上です。
よっちゃんの誕生日に話しが間に合わなかった・・・
>>403-417 26.ジグソーパズル
>>418-446 27.錯覚
>>400 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
>吉澤さんには後ろからドロップキックかましたいぐらいです。
なんかいつも自分が書くと吉澤さんってこういう人になってる気がw
>cloverさんの書くみんなの気持ちの絡み合いは、読んでて引き込まれます。
そういってもらえると嬉しいです。
最近、書くのが進んでなかったので励みになります。
>>401 :naanasshi 様
いつもレス有り難うございます。
>亀ちゃん吉澤さんを救ってやってくれええええええと絶叫しそうですw
自分もそうですw
>あいぼんさんは出してもいいんじゃないですかね自分は気にしないですけど…
出しますw出さないと他に適当な人が・・・w
>>402 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>これからどうなるのか楽しみです
ゆっくり更新していくので宜しくです。
- 448 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/15(日) 22:40
- リアルタイムきてたーwwww
続きが心底気になりまっす
- 449 名前:naanasshi 投稿日:2007/04/15(日) 23:47
- 更新お疲れ様です
柴ちゃん切ないですね大切なものに気付いて欲しいです
そして、、、ガキさんに早く春が訪れますように…w
- 450 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/04/16(月) 13:10
- 更新お疲れ様です
ガキさゆ亀のやり取りが可愛いですね
ガキさんの動きが気になりますね
- 451 名前:ももんが 投稿日:2007/04/16(月) 21:49
- 大量更新お疲れさまです。
さゆがちょっと大人な感じですね。こういうさゆ結構好きです♪
柴ちゃんの心がちょっと見えたかな?ごっちんの優しさに好感持てました。
- 452 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/17(火) 10:24
- お疲れさまです。
ますます面白くなってきました!!
みんな色んな事を考えていてそれぞれ個性が浮き立って来て引き込まれます。
ごっちんガキさん好きです。
あいぼんも待ってます!!
- 453 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:41
-
28.モノトーンの世界
- 454 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:42
- 柴田は仕事の空いた時間は後藤から聞いた喫茶店に入り浸っていた。
目的の人物に会えたのは通いだして3日目のことだった。
「いらっしゃいませ。」とやんわりとした笑顔を見せた亀井。
柴田は吉澤の恋人は年上だと勝手に想像していたが少女の亀井を見てまず第一に驚いた。
オーダーし亀井がテーブルからいなくなると柴田はため息をついた。
まだ、10代であろう亀井と藤本が吉澤をめぐって対立するのかと思うと胸が痛む。
仕事のため・・・そういい聞かしていいものだろうか。
- 455 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:42
- 「お待たせしました。」とコーヒーを運んできた亀井。
「ありがと。可愛いね。えっと・・・」と柴田は亀井の胸にあるプレイトに視線を向け「亀井さんか。」と笑みを見せた。
「うへへ、ありがとうございます。」と体をくねらせて言う亀井。
「やっぱり恋人とかいるの?」
柴田は本当に吉澤が恋人なのかまず確認したかった。
後藤たちの勘違いでは話にならない。
一瞬、訝しげな表情を見せたが「いますよぉ。」と幸せそうに言う亀井。
- 456 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:43
- 「なんだ、残念。じゃぁここで会うくらいはいいかな?バイトっていつ入ってるの?」
不審な表情を見せる亀井に「あぁ、そういうんじゃないんだ。」と柴田は名刺を取り出し亀井に見せる。
「私、雑誌の編集しててね。可愛いバイトがいるお店を特集しようと思っててさ。」
柴田はとっさに言った。
「雑誌ですか。」
興味深々と言った表情で名刺を眺める亀井に「バイトの日教えてくれるかな?」と柴田は微笑んだ。
「平日は大体夕方から毎日入ってますよ。」という亀井。
「そうなんだ、頑張ってるね。」
柴田はシガレットケースを取り出した。
「ねぇちょっとだけ教えてもらってもいい?」
「なんですか?」
「恋人のこと。年上?」
うなずく亀井だが柴田はまだそれが吉澤なのかどうかわからない。
「あの・・・バイト中なんで。」と頭を下げ立ち去ろうとする亀井。
- 457 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:44
- 「吉澤ひとみ。」
嫌な顔を見せた亀井の背中に柴田はそう投げかけた。
「亀井さんの恋人、そうじゃない?」
驚いたのは柴田のほうだった。
振り返った亀井の表情に驚きはなかったからだ。
「高校のお知り合いの方、ですか?」
ため息交じりに言う亀井に柴田は再び驚いた。
「私が知ってること驚かないんだ。」
「後藤さんに会ったから、誰かくるかなって思ってました。藤本さんか石川さんだと思ってたけど。」
亀井はもらった名刺に視線を落とし「柴田さん。」と呟いた。
「梨華ちゃん、石川の友人ってとこかな。まだね、あの二人には知らせてないの。」
正直に話したほうが話が早いと思った柴田は「吉澤さんと藤本さん合わせたいんだけど。」と言った。
「吉澤さんは会いたがってないです。」
亀井は頭を下げ足早に奥へと消えていった。
「藤本美貴は会いたがってるんだけどな・・・。」
柴田は苦笑しながら呟いた。
逃げられたものの成果はあった。
- 458 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:44
-
- 459 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:44
- 夕方、仕事が終わり携帯をチェックすると着信履歴に柴田の名が何件も残っていた。
石川は何で用件だけでもメールをくれないのだと思いながらテレビ局のビルを出たところで柴田に電話をかける。
「もしもし、柴ちゃん?」
『あ、やっと連絡取れた。』
「ん。半日収録だったから。で、何?」
『吉澤さんのことでちょっと今から会えない?』
石川は腕時計に視線を向けた。
まだ6時を過ぎたところだ、久々に早く終わったのでゆっくりしようと思っていたが吉澤のことならそうも言ってられない。
「どこ行けばいい?。」
『恵比寿。』
「いいよ。今からって今すぐ?」
『うん。もう、店にいるから。』
- 460 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:44
-
- 461 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:45
- 石川は柴田から店の名前と場所を聞くとタクシーを拾いそこに向かった。
人目を気にしながら店内に入ると華奢な店員が出迎えた。
「待ち合わせなの。」
石川は店員が何か言う前にそう伝えると店内に視線を巡らした。
手上げる柴田を見つけ「ありがと。」と店員に言い小走りにテーブルに向かう。
- 462 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:45
- 新垣は本物の石川梨華はテレビで見るよりも黒いと思いながら亀井の隣に向かった。
吉澤さんの知り合いが来た。と名刺を見せてきた亀井はとても落ち着いていた。
自分ならどうしようと不安になるだろう、こんなときは亀井のいい加減さが羨ましい。
- 463 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:45
- 「お天気キャスター登場。」
「うん。」
「藤本さんも来るかな。」
「ガキさんなんかうれしそう。バスケヲタ。」
ちょっと嬉しそうに言う新垣に亀井は柴田のテーブルを見ながら呟く。
「ごめん。ってかここに集合されても吉澤さんいないけどね。」
「知りたいんでしょ。吉澤さんがどこにいるか。」
「幼馴染なら実家で聞けばわかるんじゃない。」
「聞けてたらとっくに来てるよ部屋に・・・てか、こっち見てる。」
新垣が柴田のテーブルに視線を向けると石川が亀井をじっと見ていた。
- 464 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:46
-
- 465 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:46
- 「よっちゃんの件って?」
席に着くなりたずねる石川。
「吉澤さんの恋人。ここでバイトしてる。」
「どの子?」
「あれ。」柴田の視線の先を見ると案内に出てきた子ともう一人の店員がいる。
「どっち?」
「背の高いほう。名前は亀井。平日はここで夜までバイトしてる。」
柴田はじっと亀井を眺める石川に亀井について話した。
「吉澤さんは会いたくないって言ってるって。」
- 466 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:46
-
- 467 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:46
- 石川はゆっくりと柴田に視線を向けた。
「聞いたの?」
「うん。本当に恋人かどうか確認してからって思って。」
「そう。」
「オーダーしたら?」
俯く石川に柴田はメニューを差し出した。
「すみません。」石川はメニューを閉じると新垣と亀井に向かって手を上げた。
- 468 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:47
- 「私、行くよ。」
石川が手を上げたのと同時に向かおうとした新垣を制止、亀井はテーブルへと向かった。
じっと見てくる石川の視線をなるべく気にしないようにしながら歩みを進める亀井。
「お待たせしました、お決まりでしょうか。」
「ホット1つ。」
「はい。ただいまお持ちいたします。」
頭を下げるとき柴田が視界の端で微笑んだのが見えたが気にせずに立ち去った。
- 469 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:47
- 「提案なんだけどね。」
声を潜める柴田に「ん?」視線を向ける石川。
「吉澤さんの居場所教える代わりに、取材できないかな。」
石川の眉間に皺がよる。
「あの子はきっと居場所は教えてくれないよ。居場所を突き止める報酬ってとこでさ。」
柴田は苦笑しながら続けた。
「柴ちゃん、無理だよ。私からは言えない。」
「私が言うよ。梨華ちゃんと取り次いでくれればいい。」
困った顔をする石川を見て柴田は「ごめんね。」と謝った。
取材を諦めるという意味ではない、嫌な役をやらせてしまってという意味だ。
「もぉ・・・。」と苦笑する石川に「ありがと。」と柴田はコーヒーを口に運ぶ。
- 470 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:47
- 「お待たせしました。」と石川の前にコーヒーを置いた亀井。
「ちょっと待って。」
去ろうとした亀井を柴田が呼び止めた。
石川は柴田が何を言うのか気が気でない。
「吉澤さんと連絡取りたいんだけど。」
亀井は柴田を見て困った顔をした。
「幼馴染なら・・・私に聞かなくても吉澤さんの実家で聞けばいいじゃないですか。」
亀井に視線を向けられた石川はその視線をそらした。
「絵里が会うわないでって言う権利も会せる権利もないと思うんですけど・・・。」
俯いたままの石川を見つめる亀井。
「今日はここに吉澤さん来ませんよ。」
亀井は悲しそうに呟くとテーブルを離れた。
- 471 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:49
- 「空いてるカメラマンでも使って張らせるか。」
「そんなの・・・」
「じゃぁ、私が吉澤さんの実家に行って聞いてくる。同窓会だとか言えば何とでもなるでしょ。」
「そんなに美貴ちゃんの取材したい?」
「話題性があるからね。噂だと日本に帰ってからの藤本さんのプレイは観れたもんじゃないって。」
「えっ?」
驚いた石川に「噂。見てないから。」と柴田は笑った。
「でも、良いネタにはなるよね。天才と期待されていた選手が日本で待っているはずの恋人が待ってなかった。」
「柴ちゃんっ。」
辞めてと嫌悪する石川。
「明らかになる幼馴染の三角関係の過去。それは現在進行形なのか?」
「柴ちゃん・・・。」
眉を八の字にさせる石川に「どうなの?」と続ける柴田。
「変わってないんだ。」
俯く石川を見て柴田はそう呟いた。
- 472 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:49
- 「会いたくないの?」
「会いたいよ。」
「じゃぁ・・・。」
「どんな顔して会えばいいのよ。」
涙ぐむ石川に「普通に、久しぶりって。」と柴田は呟いた。
「知ってるでしょ。」
「知ってるよ。」
「柴ちゃん?」
なんでもない様な言い方をする柴田に石川は信じられないという視線を向けた。
「そこら中にそんな話しゴロゴロしてる。」
「してないよ。」
「してるよ。大人の世界には腐るほどあるよ。」
「でも、私たちはまだ子供だった。」
俯く石川を柴田はタバコの火をつけながら眺めた。
ふー。と煙を吐き出す柴田。
石川は煙に目を細め顔を上げた。
- 473 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:49
- 「大人だったんだよ。3人とも。子共だったら笑って流せるよ。単純にセックスしたかっただけって。」
柴田は視線を反らす石川を見ながらため息をついた。
「梨華ちゃん、後悔してるんでしょ。」
顔を背けたままの石川。
「子共だったら、後悔なんてしないよ。そこまで考えて生きてないもん。」
石川がゆっくりと視線を上げた。
「私の仕事って真実を伝えることでもあるんだよ。梨華ちゃん。」
柴田はポンと灰皿に灰を落とし石川を見た。
- 474 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:50
- 「これから、藤本さんの練習見に行ってくる。」
「ホントに書く気?」
信じられないという表情を見せる石川に柴田は笑みを見せながら財布を取り出す。
千円札をテーブルの上に置くと立ち上がった柴田。
「柴ちゃん。」
柴田の手を掴み「辞めて。」と訴える石川。
「噂が本当かどうか確認しにいくだけだよ。この世界には白と黒しかないからね。」
笑みを向けた柴田が立ち去っていく。
石川はため息をつき目を閉じた。
- 475 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:50
-
「有り難うございました。」
出て行く柴田に頭を下げる新垣と亀井。
「また、会うかもね。」と柴田は亀井に笑みを見せて店を出た。
新垣は複雑な表情で亀井を見た。
「大丈夫だって。」と笑みを見せる亀井。
「藤本さんのこと気にならないの?」
新垣は不思議そうに尋ねる。
- 476 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/23(月) 23:50
- 「全くならないって言うのは嘘かもしれないけど・・・」
亀井は困ったように微笑み新垣に視線を向ける。
「気にならないんだよね。適当だからかな?」
へへ。と笑う亀井に新垣は「もぉ。かめぇ。」と安心したような笑みを見せた。
- 477 名前:clover 投稿日:2007/04/23(月) 23:57
- 本日の更新以上です。
>>453-476
28.モノトーンの世界
>>448 :名無飼育さん さま
レス有り難うございます。
>続きが心底気になりまっす
だらだらと話しが余り進んで無くて申し訳ない(;^。^A アセアセ・・
今後もよろしくです。
>>449 :naanasshi 様
レス有り難うございます。
>そして、、、ガキさんに早く春が訪れますように…w
全くですw今回、ガキさんも自分のなかでメインなんでw
どうにかしますw
>>450 :名無し飼育さん様
レス有り難うございます。
>ガキさゆ亀のやり取りが可愛いですね
>ガキさんの動きが気になりますね
ガキさんに色々してもらいますw
>>451 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>さゆがちょっと大人な感じですね。こういうさゆ結構好きです♪
有り難うございます。そういってもらえると嬉しいです。
>柴ちゃんの心がちょっと見えたかな?ごっちんの優しさに好感持てました。
まだ、こっちでも色々やる予定なのでw
よろしくです。
>>452 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>ますます面白くなってきました!!
有り難うございます。
>みんな色んな事を考えていてそれぞれ個性が浮き立って来て引き込まれます。
どうもです。( *^。^* )頑張りますので。
- 478 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/24(火) 07:06
- 更新お疲れ様です
石川さんと吉澤さんの過去も気になりますね
続きが非常に気になります
- 479 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/25(水) 07:12
- 更新ありがとうございます柴ちゃんがなんかすごいな
何かありそうと期待してみるw
- 480 名前:ももんが 投稿日:2007/04/25(水) 12:33
- 更新お疲れ様です。
亀ちゃんと柴ちゃんの攻防?がなんかすごいっす。
まだ明らかになってない過去が明らかになるの楽しみにしてます!
- 481 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/04/26(木) 21:23
- 続きが楽しみ
更新待ってます
- 482 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:36
-
29.信じる二人
- 483 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:37
- 午前中で講義が終わった新垣は午後も講義がある亀井をキャンパスに残しバイト先へと向かった。
暇な時間に話し相手もいない新垣はテーブルを拭いたりと仕事を見つけては身体を動かしていた。
松浦に聞いた店の前。
藤本はドア越しに様子を伺うとそのドアを開けた。
- 484 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:37
- 「いらっしゃい・・・。」
出迎えた店員、新垣が藤本の顔を見て驚く。
「ここでバイトしてたんだ。」
新垣は笑顔で頷き「こちらへどうぞ。」とテーブルへ案内する。
「あのさ。亀井って子、呼んでもらえる?」
席に着くなり尋ねる藤本。
新垣は何故か緊張しながら藤本の顔を水にテーブルに水の入ったコップを置く。
「亀井は今日は夕方からなので、未だ来てません。」
「そっか、夕方からか。」
藤本は腕時計を見ながら呟く。
「夕方って何時?」
「5時前には来ると思いますけど・・・。」
新垣は不安になりながら呟く。
「そっか、じゃぁ。待ってる。コーヒー頂戴。」
「はい。」と頭を下げて立ち去った新垣。
- 485 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:38
- ここで、吉澤もバイトをしていたのか。
あの、制服を吉澤も着ていたのか。
藤本はそんなことを思いながら店内を見回す。
「お待たせしました。」とコーヒーを運んできた新垣。
「よっちゃんのこと知ってる?ここでバイトしてた吉澤ひとみ。」
新垣は頷き、店内を見回した。
余り客がいないなら話していても大丈夫だろうと安心する。
- 486 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:38
- 「こないだ話した観て欲しい人って吉澤ひとみなんだ。」
嬉しそうに話す藤本を新垣は複雑な表情で見ていた。
「よっちゃんを知ってるってことは亀井って子とのことも?」
「亀は・・・親友なんで・・・。」
困った顔をする新垣に「そっか。」と笑みを見せた。
「亀に・・・。」
「よっちゃんに会せて欲しいだけ。」
新垣は「そうですか。」と呟く。
「会せてくれるかな?」
「どうでしょ・・・亀より吉澤さんの方が・・・。」
「よっちゃんが美貴に会いたくないって?」
苦笑しながら頷く新垣。
「美貴が会いたいって直接言えば来るよ、よっちゃんは。」
自信満々に言う藤本。
「美貴はそう信じてる。」
新垣は「失礼します。」と頭を下げ立ち去った。
- 487 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:39
- 藤本の自信はどこから来るのだろう。
そんなことを思いながら他のバイトが店内に居るのを確認して更衣室へと向かう。
『藤本さんが来てる。吉澤さんに会せて欲しいって。人足りてるから休めるよ。』
新垣はそう亀井にメールを送った。
午後の講義はもう既に終わっているだろう。
- 488 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:41
-
バイトの時間まで未だ時間があると部屋でゆっくりとしていた亀井は新垣からのメールを観るとベッドに倒れこんだ。
後藤に会ってから、いつかは会いに来るだろうと思っていた。
石川と柴田が来たときに、も直ぐだろうとなんとなく心の準備はしていたつもりだった。
それでもいざ、その時が来ると不安になる。
「よし。」と掛け声をかけると起き上がりベッドの上に正座をする。
手に持っていた携帯から吉澤の番号を呼び出し通話ボタンを押す。
- 489 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:41
- 4度目の呼び出しコールが終わると『亀ちゃん?』と耳に当てた携帯から吉澤の声が聞こえてくる。
「もしもし。絵里です。」
『うん。どうしたの?』
「お仕事なのに、ごめんね。」
『大丈夫だよ。どうした?』
「お願いがあるの。」
『うん。』
亀井は目を閉じて大きく深呼吸をする。
「今から一緒に行って欲しいところがあるの。」
『今から?』
「そう、今から。」
仕事中だと分かっている。
ただ、吉澤の会社は出社時間は決まっていても打ち合わせなど意外は自由なはずだ。
『分かった。亀ちゃんの家に行けばいい?』
「恵比寿。」
亀井は心の中で吉澤に謝罪した。
『店に行けばいいの?』
「駅で待ってる。」
『バイトは?』
「休むの。」
『ん。じゃ。直ぐ行くね。』
「ありがと。」
バイバイと電話を切るとバイト先に電話をし店長に休むと伝え亀井は急いで家を出た。
- 490 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:41
- 亀井が休むと店長から聞いた新垣は再び更衣室へと向かった。
携帯は新着メールがあることを示している。
急いでメールをチェックする新垣。
『これから、吉澤さんと行くね。』
亀井のメールはそれだけだった。
「行くねって・・・。」
藤本に伝えるべきだろうかと迷いながら店内に戻った新垣。
通りを行き交う人窓越しに見る藤本はなんだか楽しそうに見える。
新垣は何も言わずに亀井が来るのを待った。
- 491 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:41
-
- 492 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:42
- 「亀ちゃん。」
改札口を出たところで待っていた亀井は吉澤の姿を見つけて笑みを作った。
これから辛い思いをさせ手しまうのだろう。
笑顔で向かってくる吉澤の顔が消えてしまうのだろう。
亀井は胸が苦しくなるのを感じながら吉澤が改札を通る姿を見つめた。
「待った?」とやって来た吉澤に首を横に振る亀井。
「行こう。」
亀井は吉澤の手をとり店に向かった。
「バイト休んだのにいいの?」
心配する吉澤に「大丈夫だよ。」と笑みを向ける亀井。
亀井が急に呼び出すことは今までに一度も無かった。
吉澤は心配しながらやって来たが亀井に慌てている様子はない。
一体、どうしたんだと思いながら亀井の隣を歩いた。
亀井はいつだて自分を待っていて、いつだって一番側に居ようとしてくれる。
- 493 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:42
- 「亀ちゃん?」
店を目前に立ち止まった亀井。
亀井はひと目を憚らず吉澤を抱きしめた。
「こないだ、柴田さんと石川さんがお店に来たの。」
吉澤は耳元から聞こえてくる亀井の言葉に思わず亀井の着ている服の裾を掴んだ。
「ごめんなさい。言わなくて・・・。」
亀井は顔を上げ辛そうに眉間に皺を寄せる吉澤の顔を見つめた。
「言ったら、吉澤さん。ここに迎えに来てくれなくなるでしょ。」
寂しそうに呟く亀井に吉澤は困った表情を見せた。
「絵里、それが嫌なの。ここは、吉澤さんと初めて会った場所だから。」
泣きそうな顔で言う亀井の頭を撫でながら吉澤は頷いた。
「そんなに、弱くないよ。」と苦笑する吉澤に亀井は笑みを見せた。
「信じていい?」
「ん?」
「弱くないって信じていい?」
吉澤は亀井の頬を両手で挟み「うん。」と頷いた。
頬に触れる吉澤の手に亀井は手を重ねるとぎゅっと握る。
「行こう。」
亀井は優しい笑みを浮かべると吉澤の手を引いて店に入った。
- 494 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:43
- 「亀井さん?」
店長に言われ亀井は「すみません。」と頭を下げた。
「お久しぶりです。」と店長に声をかける吉澤。
2人を見た新垣が足早にやって来た。
「ガキさん。」
新垣はただ、頷いた。
なんだろうと吉澤は2人のやり取りを黙ってみていた。
「一番、奥の窓際の席。」
「そっか。ガキさんもう上がる?」
「うん。」
時計に目を向ける新垣に「ちょっと待っててよ。」と亀井が言った。
「亀?」
まさか、2人にするのかと驚く新垣に亀井は頷いた。
「ガキさん、カフェモカ1つね。」
亀井が新垣に小声で伝えると新垣は頷き奥へと消えていく。
吉澤の手をとった亀井は藤本がいる席へとゆっくりと歩を進める。
- 495 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:43
- 「よっちゃん。」
亀井と吉澤の姿を見つけた藤本が立ち上がり吉澤の名前を呼ぶと同時に吉澤の足が止まった。
「亀ちゃん。」と亀井の手を引き振り向かせる吉澤。
「絵里は吉澤さんの部屋で待ってる。そんな顔しないで。」
「亀ちゃん。」
吉澤は亀井の頬に触れた。
「絵里ね、皆に知って欲しい。堂々と吉澤さんと一緒に歩きたい。誰かに見られてコソコソ逃げるのは嫌。」
「亀ちゃん。」
「吉澤さんが苦しんで傷いたら、絵里が治療してあげる。待ってるから。」
亀井は頬にある吉澤の手をとり口元に持っていった。
吉澤の手の甲に唇を寄せ「待ってる。」ともう一度呟く。
「ホットココア作って待ってて。」
吉澤は微笑むと亀井の頭を撫でた。
亀井は頷くと吉澤の背後に回り背中をポンと押した。
- 496 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:43
- 新垣がカフェモカを持ってやってくると吉澤はゆっくりと藤本が居るテーブルへ歩みを進める。
テーブルの前で足を止めた吉澤の横から新垣はカップを置きテーブルを離れた。
亀井は吉澤が藤本の向かいに座るの確認すると新垣と一緒に店の更衣室へと入って行った。
「かぁめっ?」
更衣室の長椅子、亀井の隣に腰掛けながら顔を覗きこむ新垣。
「ちょっ亀?」
亀井は苦笑を見せると新垣の手をとり自分の胸に当てる。
「凄いドキドキしてるの・・・不安で・・・。」
「亀。」
新垣は胸から手を離し亀井の頭を撫でた。
「絵里、藤本さん苦手・・・。吉澤さんしか目に入ってないから。」
「ん?」
「今も絵里の存在気がついてるのか微妙だったでしょ。」
ハハっと苦笑する亀井に確かに自分も吉澤の横に行ったにも関らず藤本は吉澤だけを見ていたと頷いた。
「前に会ったときもそう窓越しに吉澤さんだけを見てた。」
俯きながら亀井は気持ちを吐き出していく。
- 497 名前:ルーズボール 投稿日:2007/04/30(月) 23:44
- 「藤本さんの世界に吉澤さんしか居ないみたい。吉澤さんがそっちに行っちゃったら帰ってこないかもしれない。」
「じゃ、なんで2人にしたの。」
「だって、絵里たち悪いことしてるみたいに逃げるの嫌だったんだもん。」
亀井はゆっくりと視線を上げて新垣を見た。
「いつかは忘れるかも知れないけど・・・思い出すたびに苦しんだり逃げたりするのは吉澤さんが可哀相。」
「でも吉澤さん来たってことは会う決心ついてきたんでしょ。安心じゃない。」
亀井はばつが悪そうに首を横に蓋。
「亀ぇ。」
「だって、言ったら来なかったと思う。でも、絵里が吉澤さんの部屋で待ってるって言ったら吉澤さん頷いたんだよ。」
「そう・・・じゃぁ。待っててあげな。」
「ガキさん一緒に・・・。」
亀井が全てを言い終える前に新垣は首を横に振った。
吉澤が亀井の元に戻ったら・・・藤本が一人ぼっちになってしまう。
新人戦が間近なはずだ・・・これ以上、藤本に精神的なダメージを与えないで欲しい。
「田中ちゃんがいるでしょ。」
新垣は亀井に作った笑顔を見せた。
「うん。絵里、甘えすぎだ。駄目だぁ。」
亀井は「よし。」と立ち上がると「バイバイ。」と新垣に手を振り更衣室を出て行った。
- 498 名前:clover 投稿日:2007/04/30(月) 23:54
- 本日の更新以上です
>>482-497 29.信じる二人
少なめです。
進んでないw
進めなければw
>>478 :名無飼育さん様
レス有り難うございます。
過去もそのうち出します・・・きっとw
>>479 :名無飼育さん様
レス有り難うございます。
きっとなにか起こると想いますw
>>480 :ももんが 様
レス有り難うございます。
そろそろ、全体を絡めたいと思ったらこんな形にw
>>481 :名無し飼育さん様
レス有り難うございます。
チョコチョコ更新しますので。
- 499 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/01(火) 02:43
- 泣ける・・・えりみきどっちも好きだから。・゚・(ノД`)・゚・。
- 500 名前:ももんが 投稿日:2007/05/01(火) 08:38
- 更新お疲れ様です。
ガキさんていろいろ考えていろいろ気を遣ってますねえ。
亀井さんも藤本さんもどっちも応援したくて困ってます!
- 501 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/02(水) 19:46
- 更新お疲れ様です
ミキティに亀ちゃん両方に幸があるといいな
ガキさんには春が訪れますようにw
- 502 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 19:44
- 更新待ってます
- 503 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:36
- 30.私だけのもの
- 504 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:37
- 「痩せたね。」
座った吉澤に微笑む藤本。
俯いたまま自分を見ようとしない吉澤に「よっちゃん。」と声をかける藤本。
「こないだは逃げるし・・・。」
まだ、俯いたままの吉澤。
「どういうつもり?美貴が帰ってきてるの分かってても連絡も無いし。」
テーブルの下で組んだ藤本の足が苛立ちを現し揺れている。
「なんか言ってよ、よっちゃん。」
ゆっくりと顔を上げた吉澤の目には薄っすらと涙が見えた。
- 505 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:38
- 「よっちゃん。」
涙を拭おうと伸ばした藤本の手から吉澤は顔を反らして逃げた。
「どうして逃げるの?」
寂しそうに呟く藤本の顔を吉澤は見れずにいた。
「美貴ね・・・今、よっちゃんが知ってる美貴のバスケ、出来ないんだよ。」
吉澤はやっと顔を上げ藤本を見た。
悲しそうに微笑む藤本の表情に吉澤の胸が締め付けられる。
自分を愛してくれる人。
いつも自分を求めてくれる人。
幸せな時間をくれる人。
でも・・・
残酷な時間をくれる人。
- 506 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:39
- 「うちを捨て、選んだバスケなのに・・・。」
吉澤の言葉に藤本の目から涙が溢れた。
自分の想いが伝わっていなかったことにどうしてあの時、気がつかずに渡米してしまったのだろう。
「よっちゃんはもう・・・美貴を見てくれない?」
吉澤は再び俯いた。
「美貴に捨てられて梨華にすがって・・・うちを救ってくれたのは美貴でも梨華でもなくて亀ちゃんだった。」
「美貴は捨てたつもりなんて・・・ないよ。」
- 507 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:39
- 吉澤は顔を上げ藤本を見つめた。
悲しそうな目を向けられる藤本は息が詰まるほど胸が締め付けられる。
愛しい人が今、目の前に居るのに触れることも言いたい言葉も言って欲しい言葉も許されない。
「美貴はうちと違って強いから。うちが居なくても平気かも知れないけどね。うちは違うんだ。」
吉澤はそう言って冷めてしまったカフェモカに手を伸ばす。
コーヒーが飲めない亀井に教えてあげた飲み物。
ほんのり甘いチョコの味が亀井の笑顔と重なってなんとなく心が落ち着く。
ブラックしか飲まなかった吉澤が甘い匂いを漂わせるそれを口にする姿を見ながら涙を拭った。
「美貴とよっちゃんは違う、か。」
何が違うのだろう。藤本は苦笑しながら冷め切ったコーヒーを口に運んだ。
- 508 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:40
- 「梨華ちゃんには?」
吉澤は首を横に振った。
「高校卒業してから会ってない。テレビでは見るけどね。うちのネコが朝あの番組みるから。」
「ネコ?ネコがテレビ見るの?」
吉澤は俯いたまま微笑み頷いた。
カフェモカが吉澤の心に亀井と言う存在で満たしていく。
「仕事は?楽しい?」
「ん。充実してるよ。」
「インテリアデザイナーだっけ?」
頷く吉澤に「子どものころから作るの好きだったもんね。」と藤本が優しく微笑む。
「そうだ、よっちゃん携帯変えたでしょ。教えてよ。」
ポケットから携帯を出し「赤外線つかえる?」と携帯を向ける藤本。
吉澤は藤本の携帯を見つめたまま自分の携帯を出そうとはしなかった。
- 509 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:40
- 「よっちゃん?教えてくれないの?」
悲しそうに携帯を閉じる藤本。
「美貴にメールしても返ってこない・・・電話してもいつも留守電で・・・」
吉澤はテーブルの上で両手をぎゅっと握った。
あの時の思いが蘇ってくる。
「それは、バスケのれん・・・。」
目を閉じて頷いた吉澤を見て藤本は口を噤んだ。
「うちらに携帯とか意味ないでしょ・・・。それに・・・。」
吉澤は藤本に視線を向ける。
「2人で会うことももうないよ・・・。」
「梨華ちゃんにも?」
頷く吉澤に藤本は言葉を失った。
- 510 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:41
- 「亀ちゃんが待ってるから・・・もう行くね。」
立ち上がろうとする吉澤に「待って。」と呼び止める藤本。
吉澤は腰を降ろすと「なに?」と尋ねる。
「よっちゃんは美貴のものなんだよ。美貴は別れるなんて認めない。」
睨みつけるように言う藤本に吉澤は視線を反らした。
「美貴はファンブルしたんだよ・・・うちって言うボールを・・・。」
「だったら美貴はルーズボールを誰よりも先にとって見せるよ。得意だもん。」
吉澤は首を横に振った。
「もう、亀ちゃんが取ってるよ。それに美貴は今、コートにすらいない。」
「よっちゃん・・・。」
「美貴は強いから・・・うちはね、いつも寄り添って生きて行きたいんだ。一人じゃ寂しいから。」
吉澤は「いくね。」と伝票を持って立ち上がり藤本を一瞥してからテーブルを離れた。
- 511 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:41
- 「美貴、強くなんて無いよ・・・。よっちゃんが見ててくれないからバスケも出来ない。」
涙で濡れる顔を両手で覆い言う藤本の言葉を聴いて経ちとどまった吉澤は振り向き藤本を見つめた。
小さな身体が更に小さく見える。
震える肩を抱きしめてやりたい衝動に駆られる一方で自分を信じて待っている亀井を思うと吉澤は拳を握り閉めて目を閉じた。
バスケをするために自分を必要としている藤本より・・・
今は自分を待っていてくれる亀井を裏切るわけにはいかない。
吉澤は目を閉じたまま藤本に背を向けるとレジに向かった。
「亀が待ってますよ。」
レジに近いカウンター。
私服姿でバイトを終えた新垣が座っていた。
吉澤は頷くとレジに伝票を置いた。
店長が出てきて「奢ってやるよ。」と吉澤に微笑む。
「有り難うございます。」と笑みを零し吉澤は店を出て行った。
- 512 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:42
- 「新垣、まだ帰らないのか?」
店長の言葉に新垣は微笑み「私にも奢ってくださいよ。」と言う。
「仕方ないな。」
「やった。ホット2つ。」
「2つ?」
頷く新垣に店長は「全く。」と微笑み奥へ消えていった。
藤本は顔を覆って未だ座っている。
泣いているのだろうか。
新垣はカウンターから藤本の様子を見ていた。
「はいよ。」と店長がトレイにカップを2つ載せて戻ってくる。
「有り難うございます。」
新垣はそれを受け取ると藤本の席へと向かった。
- 513 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:42
- 「お待たせいたしました。」
新垣は顔を覆う藤本にそう声をかけカップをテーブルに置くと自分も向かいに座った。
「新垣・・・。」
呟き、涙を拭く藤本に「どうぞ。」とカップを差し出す。
「美貴、大きなミスしたみたい。」
自虐的に微笑み呟くと、カップを口に運ぶ藤本。
新垣は頷きながらカップを両手で包み込んだ。
- 514 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:42
-
- 515 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:42
- 「今日、ガキさん夕方までだって。会いに行ってきたら?」
部活を終えた小川にそう伝えたのは辻だ。
合宿であえなかったのはたった3日間なのに、帰ってきてから2人のいちゃつき振りは相当なもので
辻までが小川を邪魔扱いする始末だ。
4月にある実業団の試合を一緒に行かないかと誘うつもりで小川は新垣がバイトする店へと向かった。
既にバイトは終わっているはずだと聞いていた小川が目にしたのは藤本美貴と一緒にコーヒーを飲む新垣の姿。
どうしたら良いのか分からず、小川は店を出た。
- 516 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:42
-
- 517 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:43
- 「ねぇ。亀井ってどんな子?」
新垣は微笑み「名前どおり、のんびりしてるけど、しっかりしてる面もあったりするかな。」と呟く。
「ふーん。」と背もたれに寄りかかる藤本を見て新垣はどうしたものかと考えた。
「新垣さんがさ知らせてくれたんでしょ?」
「ん?」
「よっちゃんに会せてってさ。」
「あぁ。はい。」
「ありがと。」
新垣は苦笑しながら首を横に振った。
「藤本さんのためと言うより自分のため・・・かな。」
「ん?」
俯く新垣に藤本は首を傾げる。
- 518 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:43
- 「藤本さんのプレイが見たいんです。」
顔を上げ真っ直ぐと藤本を見つめる新垣に藤本は微笑んだ。
「亀は親友だけど・・・藤本さんのプレイを見れるならって想ってる自分が居るんです。」
最低だ。と想いながら自分の中にある欲求は抑えられない。
「4月に試合あるの。美貴のデビュー戦。」
「実業団のですね。見に行きますよ。」
藤本は頷きながら新垣を見つめた。
「よっちゃんも来てくれるといいんだけどね。」
「携帯も教えてくれなかったよ。」と藤本は苦笑した。
新垣はかける言葉が見つからず黙ってそこに座っていた。
- 519 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:43
-
- 520 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:44
- ソファの上、亀井は一人膝を抱えて吉澤を待っていた。
田中の姿は今日に限って見当たらない。
自分の部屋に居るのかと隣の部屋をノックしてみたけれど返事は無かった。
まだ、吉澤の部屋についてそれほど時間は経っていないだろう。
それでももう何十時間も待っている気になる。
もしも・・・帰ってこなかったら・・・。
そんな不安に耐える様に亀井は膝を抱える手に力を込める。
- 521 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:45
- ガチャっという音に身体を一瞬強張らせた亀井はドアへ向かって駆け出した。
ゆっくりとドアを開け入ってきた吉澤の胸に亀井が飛び込んできた。
走ってきた吉澤は亀井を受け止めきれず玄関に抱き合ったまま崩れ落ちた。
「亀ちゃん。」
亀井をしっかりと抱きしめる吉澤。
「お帰りなさい。」
亀井は吉澤の胸に額を押し付けてもう一度「お帰りなさい。」と呟いた。
不安が涙と一緒に亀井の中から流れて出していく。
「泣いてるの?」
吉澤は亀井の髪を撫でながら顔を覗きこんだ。
「だって・・・」と涙を流しながら笑う亀井。
涙を拭ってやりながら「ごめん。それとありがと。」と吉澤は微笑むと再びぎゅっと抱きしめた。
- 522 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:45
- 亀井に甘えている。
そう想いながらも吉澤はそれで良いと想った。
ボールだって大切に扱えば長く使える。
自分を大切にしてくれる亀井に自分が出来ることは・・・
一緒に幸せになることだろう。
「吉澤さんは絵里のものだよ。」
ぎゅっと吉澤の手を握る亀井に吉澤は微笑んだ。
「違う・・・。」と呟きながら顔を上げる亀井。
「ん?」
「吉澤さんはものじゃないもんね。」
亀井は微笑み吉澤の首に手を回す。
「絵里が生きていくために必要な存在。」
亀井は吉澤の頭を胸に引き寄せ「だから側にいてね。」と呟いた。
「うちだって同じだよ。」と亀井の背中に手を回す吉澤。
- 523 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:47
- 神様に人間と認められなかったうちは・・・
命尽きるその時まで・・・生きるために必要なのは藤本じゃない
亀井だ・・・
「ラブバードみたいだね。」
亀井がそう言って笑う。
吉澤は「ん?」と首を傾げた。
「知らないの?ラブバード。」
「知らない。バードだから鳥?」
「うん。」
亀井は身体を離して吉澤を見つめた。
「インコだよ。いつも2羽で行動するの。浮気はしないんだよ。」
幸せそうに微笑む亀井に吉澤の心が満たされる。
「ラブバードか、いいね。」と吉澤は亀井に笑みを向けた。
- 524 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:47
-
- 525 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:47
- 「美貴、帰るね。新垣さんありがと。」
立ち上がる藤本に新垣は「あ、あの。」と呼び止めた。
「ん?」と藤本は見下ろした。
「試合、頑張ってくださいね。」
笑みを見せる新垣に「ありがと。」と藤本は悲しそうに笑みを零し立ち去っていった。
新垣はひとり冷めたコーヒーを飲みながらため息をつく。
一体、自分は何をやっているのだろう。
そんな疑問がぐるぐると頭の中を巡る。
- 526 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:47
- 20分ほど経っただろうか新垣はカップを片すと店長に「ご馳走さま。」と呟き店を出た。
平日の町はこの時間になると大人の恋人たちが多い。
仕事帰りに落ち合うのだろう。
今日の疲れをお互いに癒すのだろうか。
ただ、一人の部屋に帰るのが寂しくて誰かと時間を潰すのだろうか。
新垣はそんなことを考えながら電車に乗った。
- 527 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:48
-
- 528 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:48
- 藤本は家へ帰ると部屋のビデオデッキにビデオテープを差し込んだ。
テレビをつけて再生ボタンを押すと画面には高校生のバスケットボールの試合が映し出される。
「吉澤ひとみ。」
テレビに映る吉澤の姿を見つめながら呟く藤本。
吉澤の視線の先には自分が居る。
これが、自分と吉澤の関係だ。
誰が見ても吉澤の顔は愛しいものを見ている目だ。
人の記憶は消えていくもの・・・
吉澤は自分への気持ちを忘れてしまったのだろうか。
だとしたら、責めることはできない。
- 529 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:48
- 本当の気持ちを知りたい。
藤本はテレビ画面をいつまでも見つめていた。
- 530 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:49
-
- 531 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:49
- 「ぁっ?」
家の前の怪しい人影に新垣は声を上げ歩を止める。
「ガキさん?麻琴、麻琴。」と自分を指差し新垣に近寄る小川。
「お・・・小川さん・・・。」
新垣はホットしたのと同時に不振な目を小川に向けた。
「何してるんですか?人の家の前で。」
「いや・・・待ってたんだけど。」
何でそんな言い方するのだとキョトンとする小川。
「あぁ、あれだ。のんつぁんはさゆとデートで暇してたんだ。」
「まぁ・・・」
「ごめん。私、疲れてるんだ色々あって。」
「あ、そうなんだ。ごめん。」
「いや、別に小川さんのせいじゃないし。自分で勝手にやってることだから。」
「そう・・・。」
小川はどう返していいのか分からず言葉に詰まった。
新垣は「じゃ・・・。」と家に歩を進める。
「えっ?ちょっと待って。」
「なに?」と振り向く新垣に歩み寄る小川。
- 532 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:49
- 「木曜日さ。」
「今度の?」
頷く小川に「その日は実業団の試合だから。」と言う新垣。
「一緒に行かない?」
新垣は一瞬考えたが「いいよ。おやすみ。」と家へ入っていった。
- 533 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:51
- 31.初めての旅行
- 534 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:51
- 亀井は吉澤が運転する車の助手席でご機嫌な様子を見せている。
ステレオから流れてくる音楽に合わせて歌を口ずさみ、運手する吉澤の横顔を見ては笑みを浮かべる。
信号が赤で止まれば「飲む?」とペットボトルのお茶を見せては尋ねていた。
- 535 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:52
- 亀井が大学生になって初めての日曜日。
月曜は講義が無いと聞いていた吉澤は土曜日に仕事をし月曜日を代休に当てた。
月末から先週までいろんなことがありすぎた。
今まで忘れようと必死に亀井との今を大切にした来た吉澤に過去と言うものが一気に襲い掛かってきた。
それでも変わらず側に居てくれる亀井に吉澤からのちょっとしたプレゼントだった。
高校生の間は吉澤との旅行を禁止されていた亀井。
大学生になったら行こうねと何度も吉澤に言っていた。
- 536 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:53
- いつの間にか助手席から聞こえてくる寝息。
吉澤は横目に亀井の寝顔を見て笑みを浮かべた。
そんなに遠くまでは行くことは出来ないけれど、2人にとって初めての旅行。
午前中にチェックインをさせてもらい昼は近くを回ってから旅館に戻る計画を立てていた。
「亀ちゃん。」
予約しておいた旅館の駐車場に車を停め吉澤は亀井の肩を揺すった。
- 537 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:53
- 「ぅ・・・。」
目を覚ました亀井はフロントガラスから景色を見ると「寝てた・・・。」運転席に目を向けた。
「着いたよ。」
吉澤が優しく微笑むと「運転ご苦労様でした。」と可愛らしく敬礼をして見せる亀井。
「絵里、一杯寝てた?」
「そんなこと無いよ。」
車から降りて荷物を持ちながら旅館に向かう。
「なんか、お忍び旅行って感じですね。」
ウヘヘと仲居に案内されながら微笑む亀井。
「お忍びでじゃないでしょ。」
苦笑しながら亀井の手を引いて部屋に向かう。
- 538 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:53
- それほど高価な旅館ではないけれど一応、初旅行ということで海が見えて部屋に露天風呂が付いているところを予約した。
まだ、海に入れる季節ではないけれど部屋から見える海に亀井が喜んでくれればいいなと思いながら吉澤は亀井の手を引く。
「こちらでございます。」と仲居に部屋に通されると亀井は吉澤の手を引いて一目散に窓際へと向かった。
「海だぁ。吉澤さん海。」
想像以上に喜ぶ亀井に吉澤も笑みが零れる。
「こちらにお茶がございますので。」
ご自由にどうぞ。と言う仲居の声は亀井には届いていないようで吉澤が「はい。」と頷く。
「お夕食はお部屋でとなっておりますがよろしいですか。」
「はい。」と吉澤の腕に絡まりながら返事をする亀井。
- 539 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:54
- 仲居が出て行くとはしゃいでた亀井は急に大人しくなり吉澤の首に手を回し抱きつく。
「亀ちゃん?どうした?」
吉澤の温かい手が亀井の背中を優しく撫でる。
「すっごい嬉しいの。」
「良かった喜んでもらえて。」
吉澤の肩に額をくっ付けながら微笑んでいた亀井は顔を上げると切ない表情で吉澤を見つめる。
腰に回していた手を亀井の頬に移動して「ん?」と微笑む吉澤。
「嬉しすぎて、幸せすぎて、絵里怖いよ・・・。」
「怖いの?」
「うん。」と頷くと亀井は俯いた。
「こんなに吉澤さんに大切にしてもらっていいのかなって。」
「どうして?」
吉澤が亀井の髪を撫でながら訪ねると亀井は潤んだ目で吉澤を見つめた。
「だって・・・本当は吉澤さんがそうする相手は絵里じゃないのかなって・・・。」
心の中が落ち着かない。
吉澤がいなくなってしまうのかと言う不安とは違う。
藤本が吉澤を今でも愛しているということが。
- 540 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:54
- 「美貴はもう・・・関係ないんだ。ちゃんとそれは伝えてきたよ。」
だから、そんな風に思わないで・・・
吉澤は亀井を抱きしめた。
「ずるいけれど・・・亀ちゃんには当たり前のようにうちの隣に居て欲しいんだ。それでうちは安心するから。」
亀井の背中に回す手に力を入れる吉澤。
亀井は吉澤の腕の中で大人しく抱きしめられていた。
「自分の気持ちよりも亀ちゃんの気持ちを信じれるから。」
吉澤の身体からゆっくりと力が抜けていく。
亀井は跪く吉澤の手をしっかりと握り締めた。
泣いているのだろうか、吉澤の肩が小刻みに揺れている。
「亀ちゃんには・・・絶対にうちみたいな思いさせないから。だから、自信もってここにいて。」
吉澤は「お願い。」と亀井を見上げた。
亀井は戸惑いながら膝を付き吉澤と目線を合わせた。
- 541 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:55
- 「絵里でいい?」
吉澤の涙を拭いながら尋ねる亀井。
「絵里じゃないと駄目なんだよ。」
亀井は微笑み、吉澤の頭を胸に抱き寄せた。
「ずるいよ。吉澤さんは。」
「ごめん。」と胸の中で呟く吉澤の頭を亀井は撫でながらまるで母親のような顔をしている。
「でも、そんな吉澤さんを好きになったから仕方ない。」
「なんか亀ちゃんの方が大人だね。」
「そーだよ。絵里、大人だもん。」
「そっか。」
顔を上げると亀井の笑顔がそこにあった。
自分は亀井を愛し、愛されているんだ。
吉澤はその笑顔に安心する。
- 542 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:55
-
- 543 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:55
- 「まだ、入ってる人いないね。」
「4月だからね。」
「入りたいね。」
海辺を手を繋いで歩きながら言葉を交わす吉澤と亀井。
「夏、また来よう。」と吉澤が言うと亀井は嬉しそうに頷いた。
- 544 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:55
- 「なぁんか亀ちゃんにはかっこ悪いとこばっかり見せてるなぁ。」
「絵里の特権だからいいのぉ。」
繋いだ手を大きく振りながら笑う亀井に吉澤は困った顔をする。
「格好悪すぎて嫌にならない?」
「絵里が甘えすぎて嫌にならない?」
「ならないよ。」
「だから、絵里もならないもん。」
微笑み合うと亀井は繋いでいた手を一度離して腕を絡ませる。
吉澤の羽織ったシャツに頬をくっつけて嬉しそうに「お互い様だもん。」と笑う。
浜辺を出て土産物屋が立ち並ぶ通りにある定食屋で昼食を済ませた後は散り始めた桜並木を見ながら旅館へと戻った。
- 545 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:56
-
- 546 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:56
- 柴田に藤本と連絡を取って欲しいと言われた石川。
藤本に取材だとは言えず、練習を見に行くとメールをした。
『帰りに夕飯行こうよ。』と帰ってきた藤本のメールに心の中で謝りながら了解をした。
待ち合わせ場所に行くと柴田だけではなく後藤の姿があった。
石川は何も言わず取りあえずタクシーを拾って乗り込むと柴田と後藤も後に続く。
「乗り気じゃないって顔出しすぎですが。石川さん。」
真ん中に座る柴田がフロントガラス越しに景色を見ながら呟くと石川は眉間に皺を寄せた。
「自分に嫌気さしてるの。」
石川は被っていた帽子を深く被りなおすと流れる景色に目を向ける。
後藤はそんな2人の様子をシートに凭れて眺めていた。
- 547 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:57
- 「何かあったの?」柴田は石川の横顔に視線を向けて尋ねる。
石川はため息をつきながら「スケジュール埋まらないの。」と苦笑した。
「藤本さんを使ってスポーツキャスター狙おうってことか。」
柴田は腕を組みながら直ぐに藤本と連絡を取った理由だと納得した。
後藤は2人を悪魔だと思いながら何も言わずに様子を伺っていた。
「あの子、亀井さんとバイトしてた子。」
体育館に入ると新垣の姿を見つけた石川。
「ホントだ。」と柴田も新垣に視線を向けた。
そんな2人の横で後藤はコートを駆ける藤本にフィルターを合わせる。
- 548 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:57
- 「ごっちんどうしたの?」
藤本を追っている後藤のカメラに気が付いた柴田はそう、後藤に声をかけた。
後藤はシャッターを切らなかった。
後藤はカメラを藤本に向けたまま柴田の声に耳も貸さず藤本を追いかけている。
石川も後藤に向けていた視線を藤本に向けてそして驚愕の表情を浮かべた。
- 549 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:58
- 新垣は石川や柴田の存在に気が付き視線を向ける。
後藤がカメラを向けていることに気が付くと悲しそうに視線を反らした。
雑誌の編集者だといっていた。
今の藤本を記事にするのだろうか。
何度かこの体育館に来ているが記者の人たちの姿を見たことはなかった。
藤本にどうしてかと聞くと「取材拒否してる。」と笑って言っていた。
幼馴染、同窓生と言う立場で来ているのだろうか。
記事にしないのだろうか。
出来ればそうして欲しい。今の藤本美貴は本当の藤本美貴ではないから。
- 550 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/11(金) 23:59
- 結局、後藤は一度もシャッターを切ることなく藤本の練習は終わってしまった。
用具を片し終えてやっと藤本はスタンドに視線を向ける。
新垣に笑顔で片手を上げてから石川に視線を向けると笑顔が消えた。
柴田と後藤の姿に訝しげな表情を向ける藤本。
「表で待ってて。」
藤本は鋭い視線を石川に向けて呟いた。
「ガキさん。」
何度か見学に来ている新垣を先日から「ガキさん。」と呼ぶようになっていた藤本。
新垣は嬉しそうに「はい。」と返事を返す。
「ガキさんも外で待ってて夕食一緒に行こう。」
新垣は笑顔で頷いた。
- 551 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:00
- 「なんかごっついカメラ向けてたけど。」
体育館から私服に着替えて出てくる早々、藤本は後藤に視線を向けて言った。
後藤は「お久しぶりです。」と頭を下げ名刺を差し出す。
「カメラマンやってるんでしょ。こないだ亜弥ちゃんから聞いた。」
頷く後藤に「付き合ってるとも。」と付け出す藤本。
後藤はフニャっと笑みを見せた。
「で?何で先輩と後藤がいるわけ?」
藤本が視線を向けると石川は困った顔をして「取りあえずご飯行こう。」と歩き出した。
- 552 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:00
- 「あの・・・私居て良いんですか?)
「ん?」
「明らかに部外者って感じなんですけど・・・。」
気まずそうに呟く新垣の肩に藤本は手をかけた。
「部外者いてくれたほうが美貴的に助かりそう。」
前を歩く3人に視線を向けて悲しそうに藤本は呟いた。
新垣はそんな藤本の表情に胸が苦しくなる。
これは同情なのだろうか・・・そんなことを想いながら藤本と並び3人の後ろを歩いた。
- 553 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:01
- 駅前のフランス料理店。
藤本と新垣が並んで座り向かいに石川、柴田、後藤が座る。
「そのカメラ仕舞ってくれない?」
後藤の手にある一眼レフに視線を向ける藤本。
「だって。」と柴田に視線を向ける後藤。
- 554 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:02
- 柴田は首を横に振ると藤本に視線を向けた。
「単刀直入に言うと取材しに来たの。」
「やらないよ。」
藤本は即座に言うと柴田から視線を反らし困った顔の石川を見た。
「そういうと思って、交換条件があるの。」
「やらない。」
「聞いてよ、美貴ちゃん。」
困った視線を向ける柴田をフォローする石川。
「私も取材させて欲しいの・・・。」
石川は俯きそう呟いた。
藤本はありえないという表情で石川を見る。
「美貴の練習見たのに、それ言ってるの?」
「梨華ちゃんだって業界に残るのに必死なんだよ。」
柴田が「だから、お願いします。」と頭を下げた。
- 555 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:02
- 「自分たちのことばっかりじゃないですか。」
今まで黙っていた新垣が突然、声を出すと4人は驚いたように新垣に視線を向けた。
「藤本さんの本来のプレイ知ってて、良く今の藤本さんに取材させてって言えますね。」
「ガキさん?」
興奮気味の新垣に声をかけた藤本だったが新垣は聴く耳を持とうとしない。
「自分がよければそれでいいんですか?」
「ありがと、ガキさん。もう良いよ。」
藤本が新垣の肩に手を置き首を横に振る。
新垣は悲しそうに藤本を見つめ口を閉じた。
- 556 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:03
- 「交換条件ってなに?」と言う藤本。
「吉澤さんの恋人・・・。」
柴田はそこまで言うとはっとしたように新垣を見た。
「会ったよ。よっちゃんに。ガキさんが亀井さんに言ってくれて。」
藤本は「それが交換条件?」と苦笑した。
困った顔をする柴田に藤本は「まっつーにも聞いてたし。」と付け足した。
柴田は後藤に視線を向けた。
松浦から話しを聞いていた後藤だが、柴田の視線に気が付かない振りをして新垣を見ていた。
- 557 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:03
- 「作戦失敗みたいだね、ごっちんそれ仕舞って。」
ため息をつきながら言う柴田に後藤は頷きカメラを仕舞いだした。
「練習の写真、使わないでよ。」
「撮ってないよ。ごとー、惹かれるものしか撮らないから。」
仕舞いながら言う後藤に藤本は苦笑する。
「よっちゃん、なんて?」
「仕事上手く言ってないの?」
石川の質問に質問で返す藤本。
「ちょっと仕事の内容がね・・・。」
「ふーん。」
「よっちゃんは?」
「美貴はファンブルしたんだって。」
藤本が苦笑すると柴田が「ファンブル?」と首を傾げる。
「ミスしたってこと。」
後藤が小声で呟くと柴田は頷いた。
- 558 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:04
- 「じゃぁ。」と呟く石川に藤本は「じゃぁ?」と首を傾げた。
「よっちゃんは、亀井さんと・・・。」
「美貴は認めないけどね。」
「相変わらず、強気だね。」
石川は苦笑しながら言った。
小さい頃から藤本は強気で勝気で何をやっても藤本のほうが上手だった。
間に吉澤がいなかったら、きっと自分と藤本は今とは全く違う関係だっただろう。
優等生を演じてた石川と校則を守らない藤本は学校で言葉を交わすことは殆ど無かった。
あったとしても、石川が生徒会として藤本を注意するくらい。
そんな石川と学校の外では何も変わらない幼馴染の藤本。
そういう生活があったのは何も知らない一つ年下の吉澤がいたからだろう。
吉澤が同じ高校に入学して来たとき、石川は藤本と同じように吉澤に接した。
もしも・・・そうでなかったら吉澤は藤本でなく自分を選んでいたかもしれない。
石川は恨めしそうな視線を藤本に向けた。
- 559 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:04
-
- 560 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:05
- 夕飯を前に折角だからと部屋に付いている露天風呂に入ろうとなった。
「うへへ。」
岩に肘を乗せて海を眺めている亀井が笑い声をもらした。
吉澤は亀井の背中を見ながら「なに?どうしたの?」と微笑む。
「海ってどこまで続いてるのかな?」
振り向きながら言う亀井に「ずっと続いてるよ。どこまでも。」と優しく微笑む吉澤。
亀井は嬉しそうに「そうだね。」と言い、湯船を移動する。
吉澤の隣に来た亀井は吉澤の腕を掴み「また、細くなってる。」と呟いた。
「何でかね。ダイエットなんてしてないのに。年かな?」と吉澤は苦笑する。
初めて会った頃は亀井の方が細かったのにいつのかにか逆になってしまった。
「絵里、この辺とかヤバイよね。ダイエットしないと・・・。」
お腹の肉を摘む亀井。
「亀ちゃんの年頃はそんくらいでいいんだって。うちもっとあったよ肉。」
「嘘だぁ。」
「ホントだって。やばいくらい太ったんだもん。」
「絵里のこと慰めようとして言ってるぅ。」
疑いの目を向ける亀井に吉澤は「ホントだって。」と笑った。
「ガキさん、バスケマガジン買ってるんでしょ?載ってるよヤバイころのうち。」
「ホント?」
「マジ、これでバスケ出来るの?ってくらいの写真。」
「想像できないよぉ。」
「だから見せてもらいな。ガキさんに。」
「うん。でもバスケ出来るのってそんなに?」
「見たら分かるよ。確かにね身体重かった。うちって美貴と組んでプレイしてたから。」
- 561 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:05
- 夕飯を前に折角だからと部屋に付いている露天風呂に入ろうとなった。
「うへへ。」
岩に肘を乗せて海を眺めている亀井が笑い声をもらした。
吉澤は亀井の背中を見ながら「なに?どうしたの?」と微笑む。
「海ってどこまで続いてるのかな?」
振り向きながら言う亀井に「ずっと続いてるよ。どこまでも。」と優しく微笑む吉澤。
亀井は嬉しそうに「そうだね。」と言い、湯船を移動する。
吉澤の隣に来た亀井は吉澤の腕を掴み「また、細くなってる。」と呟いた。
「何でかね。ダイエットなんてしてないのに。年かな?」と吉澤は苦笑する。
初めて会った頃は亀井の方が細かったのにいつのかにか逆になってしまった。
「絵里、この辺とかヤバイよね。ダイエットしないと・・・。」
お腹の肉を摘む亀井。
「亀ちゃんの年頃はそんくらいでいいんだって。うちもっとあったよ肉。」
「嘘だぁ。」
「ホントだって。やばいくらい太ったんだもん。」
「絵里のこと慰めようとして言ってるぅ。」
疑いの目を向ける亀井に吉澤は「ホントだって。」と笑った。
「ガキさん、バスケマガジン買ってるんでしょ?載ってるよヤバイころのうち。」
「ホント?」
「マジ、これでバスケ出来るの?ってくらいの写真。」
「想像できないよぉ。」
「だから見せてもらいな。ガキさんに。」
「うん。でもバスケ出来るのってそんなに?」
「見たら分かるよ。確かにね身体重かった。うちって美貴と組んでプレイしてたから。」
- 562 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:06
- 過去の話しをしようとしなかった吉澤がバスケをしていた頃の話をしだし、亀井は嬉しそうに吉澤を見つめた。
「走ったらうちのが速いんだけど、あの時は身体重くて美貴についていけてなかったもん。」
「へぇ。」
「動きが遅くなってたなぁ。あの頃。」
首筋にお湯をかけながら笑う吉澤。
「見て見たいな。吉澤さんがバスケやってる姿。」
「今の方が動きいいかも。」
「十代のころよりも?」
「あぁ。年寄り扱いしてるな。」バシャと亀井に向けてお湯を弾いた。
「してないよぉ。」
バシャバシャとお返しとばかりに吉澤にお湯を掛けながら逃げるように距離をとる亀井。
悪戯っ子みたいな顔をしている亀井を吉澤は優しい顔をして見ていた。
「お返ししてこないの?」
「大人だからしなーい。」
亀井はムッとした顔をしてまた吉澤の隣に戻ってくる。
「あれ?もーいいの?」
濡れた顔を脱ぐいそのままサイドの髪を後ろに流しオールバックにする吉澤。
「絵里も高校生じゃないから大人だもん。」
- 563 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:07
- 吉澤は拗ねている亀井を引き寄せ後ろから抱きしめる。
大人しく吉澤の胸に寄りかかりながら自分のお腹にある吉澤の手に手を重ねると亀井は微笑んだ。
「うそだよ。」
「ん?何が?」
「うち、大人なんかじゃない。」
「もう直ぐ22歳なのに?」
「うん。亀ちゃんのが大人かも。うちはきっと誰よりも子共だから。」
「どうして?」
亀井は首を捻り吉澤を見上げる。
「すっげー寂しいかったりするのにさ、自分から言えないの。気が付いてもらえるまでそこでじっとしてるんだ。」
迷子になって見つけて欲しくて泣きじゃくる子供みたいに。
自分から探しにはいけないんだ。
弱虫だから。
- 564 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:07
- 亀井は身体ごと吉澤の腕の中で回転すると吉澤の首に腕を回す。
「絵里は吉澤さんから目を離したりしないよ。」
そっと唇を重ねた亀井に吉澤は笑みを零す。
「ねぇ。吉澤さん。」
「ん?」
「一つだけ約束して欲しいの。」
「うん、何?」
「絵里は吉澤さんだけだから。吉澤さんもそうで居てね。」
湯船の中で吉澤をぎゅっと抱きしめて亀井は囁いた。
- 565 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/12(土) 00:07
- なんとなく、吉澤を取られてしまいそうな気がする。
吉澤が自分の気持ちじゃなくて亀井の気持ちを信じてると言ったから。
ちょっとでも自分の気持ちが吉澤に伝わらなかったら・・・
油断して吉澤から目を離してしまったら・・・
自分よりも吉澤から目を離さないほかの誰かに突然持っていかれそうで
なんとなく、怖いって思ってしまう。
だから、そんな不安な気持ちは・・・
「好き・・・すっごい好き・・・。」
言葉になって亀井の中から出てくる。
亀井はその夜まで何度も何度も、気持ちを言葉にして吉澤に気持ちを伝えた。
- 566 名前:clover 投稿日:2007/05/12(土) 00:18
- 本日の更新以上です。
なんか、ダラダラ長くなってしまいました・・・
30.私だけのもの
>>503-532
31.初めての旅行
>>533-565
>>499 :名無飼育さん様
レスありがとうございます。
自分もどっちも好きですw
だから、どーしようかなってw
>>500 :ももんが様
いつもレスありがとうございます。
ガキさんの話も進めないとw
亀ちゃんと藤本さんと吉澤さんの三角。
書きながらかなり悩んでますw
>>501 :名無飼育さん様
レスありがとうございます。
そーですねぇ。
ガキさんにもw
>>502 :名無飼育さん様
レスありがとうございます。
sageでお願いします。
- 567 名前:ももんが 投稿日:2007/05/12(土) 09:05
- 更新お疲れ様です。
吉澤さんなんかズルいなあ・・・。こんな危なっかしい人怖くて目が離せないっすよね。
今密かに後藤さんが気に入ってます!後藤さんカメラが似合いそうですねえ。
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/13(日) 14:02
- 更新お疲れ様です
吉澤さん…って感じです
どうなるのか続きが気になりますね
- 569 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/17(木) 21:01
- 亀ちゃんが可愛いなぁ
猫れいなも楽しみにしていますw
- 570 名前:32.本音 投稿日:2007/05/25(金) 22:40
- 「なんかガキさん変。」
講義が終わった教室で亀井はここ数日、全く突っ込んでこない新垣にそう言う。
「んなことないよ。」
「変だもん。絵里が吉澤さんの話ししても頷くだけで何も言わないし。」
藤本と吉澤を合わせた後からだ。
亀井が吉澤の話しをすると新垣はぎこちなくなる。
「なんかあったの?絵里、相談のるよ。」
それでも、新垣は「なーんもないって。」と作った笑顔を向ける。
- 571 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:40
- 「なーに。もー。帰るよ?」
帰り支度をする新垣を膨れっ面で見る亀井は席から立ち上がろうともせず、荷物すら未だ机に広がったままだ。
「だって、ガキさん変だもん。」
「変じゃないって言ってるでしょーが。」
ため息混じりの新垣を見ながら「変だもん。」とイジケモードになっていく亀井。
教室にはもう2人しか残っていなかった。
新垣は「はぁ・・・。」とため息をついて亀井の1つ前の席に横座りする。
- 572 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:41
- 「変だよぉ。」
「どこがよ。」
「全部。」
「全部って?」
「顔も態度も。」
「こらっ・・・顔って。」
新垣は笑いながら亀井を見た。
「今のは変じゃない。」
「はぁ?」
「だって、最近、ガキさんずっと眉間に皺寄ってるよ。」
新垣は眉間を人差し指で擦りながら「そっかなぁ?」と呟く。
「そうなの。18ねも一緒に居る絵里が言うんだからそうなの。」
「18年じゃないし。13年だから。」
「細かいことはいいの。」
「5年は大きいから。」
「ほら、言ってみ?」
「ちょっ。かめぇ。」
新垣は突然撫でられたアゴを庇いながら「ちょっこらぁ〜。」と身体をのけぞらせた。
- 573 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:41
- 「吐けコラっ。」と睨みつける亀井の額を新垣はツンと人差し指で突いた。
突かれた額を擦りながら真剣な顔で新垣を見つめる亀井。
新垣もその視線を反らさずに受け止めていた。
「幼馴染だから・・・。」
突然、話し始めた新垣に亀井は「うん。」と相打ちを返し姿勢を正した。
「親友だと思ってるからはっきり言うね。」
「なに?」
「藤本さんに吉澤さんを返して欲しい。」
- 574 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:42
- 真っ直ぐと亀井を見つめる新垣。
その亀井の顔が驚愕している。
吉澤に片思いをしていた頃から応援してくれていた親友の言葉を信じることが出来ない。
田中と同じくらい近い場所で自分たちを見守ってきてくれた人なのに・・・。
「亀、ごめんね・・・。」
目を伏せ言う新垣に亀井は何も言えなかった。
「藤本さんと吉澤さんのがってことじゃないの・・・私の我侭・・・。」
潤みだす亀井の黒目がちな瞳を見ながら新垣はぎゅっと両手を握った。
「藤本さんのホントのバスケが見たいの・・・。」
重力に逆らえずに頬を伝い亀井の顎からポツポツと落ちる涙。
「そう・・・思ってる私が居るの。ごめん。」
亀井はゆっくりと瞬きをしながら、頬に伝う涙を掌で拭うと「アハハ。」と笑顔を見せた。
- 575 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:42
- 亀井は「あぁもうビックリするじゃんか。」と言いながら机の上に広がるノートや筆箱をカバンに詰め込んだ。
そんな亀井の様子を見ながら新垣は血液の循環が悪くなって手が真っ白くなるほど更に強く手を握る。
「絵里・・・帰るね。バイト休む。」
亀井の表情から笑みは消え、無表情にそう言うと新垣の横を足早に通り過ぎ教室を出て行った。
- 576 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:43
- 本音を言えてホッとした気持ち。
本音を言ってしまった後悔。
亀井との関係への不安。
新垣の瞳からも亀井と同じように涙が零れた。
- 577 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:43
-
- 578 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:43
- 「吉澤さんっ。」
次の仕事の打ち合わせに来たアヤカをロビーの受付に迎えに来た保田はよく知る名前に声のする方へ視線を向けた。
その隣でアヤカも同じように視線を向けていた。
「あの子が恋人?」
「さぁ。」と保田が曖昧な返事を返す。
ロビーで吉澤の名を叫び、駆け寄り、抱きついた亀井。
そう、された吉澤はしっかりと亀井を受け止めていた。
- 579 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:44
-
突然『今から会社に行くね。』と来たメール。
温泉から帰ってきてから亀井からのメールの量はかなり増えた。
1時間おきのときもあれば10分おきのときもある。
亀井のバイト中以外、吉澤の携帯は頻繁にメールを受信していた。
どのメールの内容も吉澤が今何をしているのかを尋ねるものと好きだという気持ちを伝えるメッセージばかり。
吉澤はそんな亀井の束縛に心地良さを感じていた。
「どうしたの?亀ちゃん。」
「凄い会いたくなったの。」
潤んだ目で見上げる亀井に「そっか。」と微笑む吉澤。
「仕事中なのにごめんなさい。でも、会いたかったの凄く・・・会いたかったの。」
新垣にあんな告白をされて・・・
不安になった気持ちを一人ではどうすることも出来なくて。
ただ、会いたかった。
- 580 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:44
- 「上司に早退するって言ってくるから。ちょっと座って待ってて。」
吉澤は亀井の肩に手を回し窓際にあるソファへ誘導する。
「でも、お仕事・・・。」
「大丈夫だよ。」
亀井を座らせて微笑むと吉澤は足早に歩き出した。
- 581 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:45
-
「吉澤。」
駆け出そうとしたところで保田に呼び止められた吉澤。
2人に視線を向けると頭を下げて歩み寄る。
「恋人ですよ。愛して止まない・・・大切な恋人。」
- 582 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:45
- ソファに俯き座る亀井に向けられる2人の視線に吉澤がそう答える。
「で?何で来たのよ。」
保田の質問に言いづらそうに苦笑する吉澤。
「帰って良いわよ。」
何かあったのだろう。吉澤が不安定になるよりここは融通を利かせたほうが良いだろう。
保田はアヤカに視線を向けた。
「ん。いいよ。代わりにけーちゃんに呑みに連れて行ってもらうから。」
アヤカは吉澤に微笑み「いっぱい愛、あげてきな。」と吉澤の頭を撫でた。
吉澤は笑顔で頷くとエレベータへと駆けていく。
- 583 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:46
-
「こら。」
亀井のもとへ歩み寄ろうとするアヤカの手を掴む保田。
「ちょっと話ししたいじゃない。」
「仕事の話、つめるわよ。」
手を引かれるアヤカは「えぇ。」と非難の声を発しながらカバンを手に亀井へと駆けて行く吉澤を眺めた。
「あぁいう時期、昔あったなぁ。」
「ん〜?」
アヤカの視線の先に目を向けると吉澤と亀井が手を繋ぎ顔を近づけ言葉を交わす姿があった。
「面倒なだけ、でしょ。」
「まぁね。」
- 584 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:47
-
「今日、泊まってもいい?」
顔を寄せ小声で言う亀井に「もちろん。」と答え吉澤は微笑んだ。
どうして、急に会いたくなったのだろう。
別に迷惑なんて思わない。
寧ろ、24時間見張っていて欲しい。
自分の気持ちが迷わぬように。
吉澤は寄り添う亀井の横顔を眺めながらそんなことを思っていた。
- 585 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:47
-
「時間潰しに来ないで欲しいの。」
茶道部の部室。
休み時間はとっくに過ぎているにも関らず道重は畳みの上で女の子座りをして呟いた。
俯きながら高等部へやって来た新垣の姿を教室から見つけた道重はいつもと違ったその様子に教室を飛び出し部室に来てみると俯き椅子に座っている新垣がいた。
しばらく、何も言わずに同じ部屋にいたが、いかんせ30分が過ぎたところで道重の我慢も限界だった。
「そんなガキさんガキさんらしくないの。」
立ち上がり、新垣の前で腕を組んで仁王立ちする道重。
新垣はゆっくりと顔を上げて苦笑した。
「私らしいってどんなよ?」
自虐的に笑いながら言う新垣に道重は驚いた。
「どうしたの?」としゃがみ込み新垣の顔を見上げる道重。
- 586 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:48
- 「亀にね、藤本さんに吉澤さん返して欲しいって言ったの。」
道重は新垣の顔をしばらく眺めていたが立ち上がり新垣を見下ろした。
「ひどすぎる。」
新垣は苦笑しながら頷いた。
「分かってるの?」
「当たり前じゃん。」
道重は困ったように新垣を見つめた。
「どうして?どうして急にそんなこと言ったの。」
新垣は道重を見上げた。
「藤本さんの相手がのんつあんなら・・・さゆにも同じこと言ったと思う。」
道重は息を飲み込んだ。
- 587 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:48
- 「ただ、藤本さんの本当のプレイが見たいから・・・そう、思ってる自分がいるって・・・。」
「嘘、つけなかったの?」
道重は跪き新垣の太腿の上に置かれた小さな手を握った。
「馬鹿正直なところ・・・さゆみは好きだよ。」
微笑む道重に新垣は「ありがと。」と呟いた。
「絵里もきっとそう。でも・・・傷ついたよきっと。」
「亀のあんな顔、初めて見たよ。」
「ガキさん、今日もバイトでしょ?」
「うん。」
「終わったら、一緒に絵里の家行こう。」
「ん?」
「ちゃんと、話してないんでしょ。絵里のことだから、途中で帰ったんだろうし。」
頷く新垣は道重に頭を撫でられ苦笑した。
- 588 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:49
- 「ガキさんがいつもさゆみと絵里が喧嘩したとき言ってくれるじゃない。」
「ん?」
「一緒に行って上げるから、ごめん。っていいなって。」
「あぁ。」
「直ぐに言えば、直ぐに仲直りできるんだから。って小さいころから未だに。」
笑う道重を見ながら、新垣は参ったなと微笑み「ありがと。」と呟いた。
- 589 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:49
-
- 590 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:49
-
亀井と吉澤は手を繋いで歩いていた。
4月の温かい陽射しと心地よい風が2人の足取りを遅くする。
「昼間の散歩も気持ち良いね。」
風に散る桜を目で追いながら吉澤が呟いた。
「うん。」
頷いた亀井は吉澤の腕に腕を絡めなおした。
そんな亀井の行動に視線を向けて吉澤は微笑む。
- 591 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:50
- 「ガキさんがね・・・。」
吉澤の腕に頬を寄せ俯いた亀井。
「喧嘩でもした?」
首を横に振る亀井。
「藤本さんに吉澤さんを返して欲しいって。」
ゆっくりだった歩を吉澤は止めた。
「そう思ってるんだって。ガキさん。」
吉澤を見上げ悲しそうに呟く亀井。
それ以上に吉澤の表情は悲しみが溢れていた。
「何で・・・?」
「藤本さんの本当のプレイが見たいからだって。」
吉澤の表情を伺いながら亀井は「藤本さんの本当のプレイって・・・」と呟く。
「ガキさん・・・何言ってるだろうな。美貴とうちはもう関係なんてないのに。」
吉澤は早口にそういうと亀井の手を引いて歩を進めた。
- 592 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:51
- 「亀ちゃんが急に会いに来てくれた理由はそでか。」
隣で頷く亀井を眺めながら「美貴のこと・・・気にしなくて良いよ。」と吉澤は亀井の頭を撫でた。
頷くが不安げに吉澤の腕に凭れながら亀井は「木曜日、品川の駅で待ってていい?」と尋ねた。
「ん?いいけど?なに?」
「お誕生日でしょぉ。吉澤さんの。」
「あぁ。忘れてた。」
「もぉー。ホントはね、1日一緒に居たいけど、お仕事だから仕方ないもんね。」
「亀ちゃん、祝ってくれんだ。」
「去年もその前もお祝いしたもん。」
「覚えてるよ。」
「楽しみにしててね。」
「ん。」
- 593 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:51
-
「こっちと、どっちがいい?」
吉澤の家の近所のスパーに立ち寄ると亀井はシチューとカレーのルーの箱を両手に持って微笑む。
「シチューがいいかな。」
「りょーかぁい。」
カレーのルーを元の陳列に戻しシチューの箱を吉澤が持つ籠に入れる。
「シチューだからぁ。ブロッコリーも。」
吉澤の手を引いて野菜が並ぶ場所へと向かう亀井の表情は嬉しそうで吉澤も表情を緩めた。
亀井がこうして嬉しそうにしてくれていることがなんとなく幸せ。
- 594 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:51
- 「絵里が腕によりをかけますからねぇ。」
必要なものを籠に入れレジに並ぶと意気込む亀井。
「食べられるものにしてね。」
「ひどーい。」
「食べるほうの身にもなって。」
「わぁ。酷いこと言ってる。絵里の愛情たっぷりの料理なのにぃ。」
「だから、食べてるじゃん全部。」
「むぅー。」
「ほら、お金払うから。」
頬を膨らませる亀井の背を押すと吉澤はお金を払った。
袋に買ったものをつめている間も亀井は頬を膨らませて「絵里、お料理上手だもん。」と拗ねる。
「分かったからぁ。ほら、もう行くよぉ。」
「美味しいでしょ。」
「美味しい、美味しい。」
「あぁ〜。2回言ったぁ。」
スーパーを出て先を歩く吉澤を追いかける亀井の顔は嬉しそうに笑っている。
- 595 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:52
- 「わぁっ。こら、ぶら下がるな。」
荷物を持った手にぶら下がる亀井はわざと吉澤の手を下へと引っ張る。
「置いて行くのが悪い。」
「置いていってないって。」
スーパーの袋に一緒に手をかけた亀井は「隣に居て。」と呟く。
「ごめん。居るよ。ずーと亀ちゃんの隣にいる。」
吉澤は亀井の手から袋を奪い反対の手に持ち帰ると亀井の手をとった。
嬉しそうに微笑む亀井に吉澤も笑みを零す。
「そういえば、バイトは?」
「お休み。」
「サボりだ。」
「いいのぉ。」
「はいはい。」
「だから2回言うの駄目だよぉ。」
「はーい。」
「吉澤さんっ。」
ふざける吉澤の腕を軽く叩きながら吉澤の家へと到着した。
- 596 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:52
- 当たり前のようにラグの上に居た田中。
亀井と吉澤は「ただいま。」と声をかけると亀井はキッチンへと入っていった。
「仕事はどーしたと?」
「れいなと同じ。」
ソファに座った吉澤をラグの上で丸くなったまま見上げる田中。
「ふーん。」
「体調悪い?」
小声で亀井に聞こえないように尋ねる吉澤に田中は黙って頷いた。
「病院は?」
吉澤はソファから降りて田中の隣に座った。
- 597 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:53
- 「いっとるけん。大丈夫と。」
「ん。」
「絵里は何しとると?」
「シチュー作ってる。れいなも食べてきな。」
「邪魔はせん。」
のそっと起き上がり玄関へ向かおうとする田中の背中を吉澤は心配そうに見つめた。
「れーな?帰るの?」
「ん。ここで寝とったら邪魔っちゃろ。」
「いいよー。れーなはペットだから。」
- 598 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:54
- フニャっと笑う亀井に田中は困った顔をして吉澤に視線を向ける。
「一緒に、毒味しよーぜぇ。」
「そうそう、って吉澤さんっ。」
「うそうそ。美味しいはずだから一緒に食べよう。なっ。」
田中は亀井に視線を向けた。
「れーな、帰っちゃ駄目だよ。絵里の美味しいシチューを食べなさい。」
亀井はニコッと笑い「2人とも細いんだからいっぱい食べないと。」と言い残しキッチンへ戻っていった。
「絵里はちょっと食べすぎっちゃ・・・。」
ラグの上に戻りながら苦笑する田中。
「聞こえるぞ。しらねーぞ。」
クスっと笑いながら田中にタオルケットをかけてやる吉澤。
- 599 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:54
- 「絵里となんかあったと?」
「ん?亀ちゃんとガキさんにな。」
「なん?」
「ガキさんが美貴にうちを返せって思ってるって言われたんだって。」
「ホントの友達やけん、言えたんっちゃろね。」
目を閉じて呟く田中の顔を見ながら吉澤は「そっか。」と呟いた。
「なんていったと?」
「ん?」
「それ、聞いて絵里になんと言ったと?」
「美貴とはもう関係ないって。」
「言ったとね。」
「言ったよ。」
真剣な目で田中は吉澤を見つめた。
「恋人に嘘は言ったらいけん。」
「言ってない。」
「嘘にしてもいけん。」
「分かってる。」
「じゃぁ。よか。」
「偉そうに。」
吉澤は苦笑しながら田中の額を突いた。
- 600 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:55
- 「吉澤さーん。」
キッチンから亀井の呼ぶ声が聞こえると吉澤は直ぐにキッチンへ向かう。
「どーした?」
「鶏肉、切って。」
「ん。いいけど。どーして。」
「手触りが気持ち悪い。」
吉澤は苦笑しながら手を洗いまな板に乗っかった肉の塊に包丁をいれる。
亀井の料理の腕を考えて吉澤は鶏肉を小さめに切った。
生の鶏肉は危ない。
- 601 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:56
- 隣で人参の皮を剥きながら楽しそうに鼻歌を奏でる亀井を見ながらこんな風にずっと過ごせたらいいと吉澤は思った。
亀井が居て田中が居て・・・
「出来たよ。これでいい?」
「ありがと。あと絵里やるね。」と手を洗い終えた吉澤の背中を押してキッチンから追いやる亀井。
吉澤は「期待して待ってるよ。」と笑いながらソファへと移動した。
「絵里は吉澤さんといるときが一番幸せそうっちゃね。」
いつの間にかソファの上に身体を乗っけて背もたれにアゴを乗せている田中。
キッチンを眺めながら「永遠があったらよかったっちゃね。」と田中は呟いた。
- 602 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:56
- 「無いの・・・かな。」
亀井を見ながら呟いてみる吉澤。
命あるものいつかそれは絶えることを吉澤も分かっている。
そう、遠くないいつかきっとそれを間近で・・・
吉澤は亀井に視線を向ける田中に視線を向けると田中の顎を人差し指で撫でた。
「絵里を見てるとある気もするっちゃ。」
微笑み、そういう田中に吉澤は作った笑顔を向けた。
「あると良いな。」
田中はそう呟く吉澤を見て頷いた。
- 603 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:56
-
- 604 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:56
-
道重に手を引かれ亀井の家から新垣の家へ向かう。
結局、新垣もバイトを休み道重の授業が終わるのを待って亀井の家に行ってみたが留守だった。
道重が「良く考えれば・・・居るわけないよね。」と苦笑した。
新垣は何も言わず道重と一緒に自分の部屋に入るとテレビをつけた。
1度だけ見たことのある藤本の試合。
中学生の頃、父親にお願いして買ってもらったデジタルムービーで撮影したその試合。
この試合の後、何度も見た。
新垣はここ最近見て居なかったそのビデオをデッキに差込み再生ボタンを押した。
「吉澤さんだ。」
ベンチにチラっと映る吉澤。
新垣は道重に言われて初めて吉澤が映っていたことに気が付いた。
- 605 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:57
- コートを見ているのではないその視線は藤本に向けられているんだろう。
愛しげのその視線の先の藤本は誰が見ても惚れてしまうだろう素晴らしいプレイを見せている。
「こないだと全然違うの。藤本さん。」
この画面に映っているのが本物だんだ。
新垣は道重の言葉に耳を傾けながらボールを追う藤本を眺めた。
- 606 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:57
- 「もう一度、生で見たい。」
呟く新垣の顔を見ながら道重は複雑な気持ちを抱いた。
新垣の横顔は恋する乙女だ。
ただ、その相手に幸せになってもらいたいという新垣らしい愛。
応援したい。
幼馴染だし、大切な友人。
でも・・・亀井もまた同じなのだ。
「さゆ。」
「ん?」
ビデオを止めて道重に視線を向けた新垣。
「デート今日はいいの?」
自分のことばかりですっかり道重の予定を忘れていた新垣。
「さっき、メールしたの。うちに来てって。」
「ん。そっか。ごめんね。のんつぁんにも謝っておいて。」
道重は優しく微笑み頷いた。
再び、ビデオを再生して藤本の姿を見る新垣。
- 607 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:58
- 「試合もう直ぐだっけ。辻さん言ってた気がする。」
「うん。」
「あのままじゃヤバイって・・・。」
新垣は苦笑しながら頷いた。
「だから吉澤さんを・・・」
新垣は呟きながら鼻の奥に痛みを感じた。
目を閉じて涙を堪える。
一体、何に対する感情で涙が出そうになっているのだろう。
こんな体験、初めてだ。
新垣の様子を道重は黙って見ていた。
「あぁ・・・なんか私、変だわ。」
眉間に指を当てて笑って言う新垣に道重は「そんなことないの。」と頭に手を伸ばす。
「さゆにこんなことされてるなんて思っても無かったわ。」
新垣の頭を撫でながら道重は微笑んだ。
- 608 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:58
- 「ガキさんは小さい頃からしっかり者だったからなの。さゆもこの年になればしっかりするの。」
「そっか。」
「絵里だってそうだよ。3人の中で一番末っ子みたいだけど、大人な部分もあると思うの。」
「うん。」
「電話する?」
「今日、帰ってこないかな?」
「さゆみなら好きな人と一緒に過ごすの。」
道重が新垣の頭から手を離すと新垣はバックから携帯を取り出した。
「はぁ。」と一度、息を吐き出し、携帯を耳に当てる新垣。
道重はソファに座りなおすと再生されたままになっていたテレビ画面に目を向けた。
- 609 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:58
-
- 610 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:59
- 「美味しいでしょ?」
亀井の言葉に吉澤は笑顔で頷きシチューを口に運ぶ。
「ちょっと苦いと・・・。」
田中の小さな呟きに亀井は「うへへ。」と苦笑する。
「ちょっと目を離したら焦げちゃったの。」
「でも、美味しいよ。」
硬い人参を食べながら肉を細かく切った自分を心の中で褒める吉澤。
「吉澤さんには愛があるけん。美味しいかもしれんね。でも、れーなにはないけん・・・。」
「美味しくないって?」と肩を落とし聞く亀井。
「そんなことないけん。食べとるっちゃろ。」
焦りながら早口に言う田中に亀井は笑顔を向けた。
2人のやり取りを吉澤は楽しそうに眺めながら亀井の作ったシチューを食べた。
- 611 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 22:59
- 「あっ、絵里の携帯だ。」
亀井は「ごめんね。」と言って席を立ちソファに置いたカバンを漁る。
「ガキさんやろか?」
小声で言う田中に首を傾げる吉澤。
2人は携帯を耳に当てソファに座る亀井の後姿を見守った。
- 612 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:00
- 『返事くらいしてよ。亀。』
「ん。何?」
『さっき、ごめん。亀の家行ったらまだ帰ってないって、おばさんが。吉澤さんの家?』
「うん。」
『怒ってる?』
「怒ってないよ。」
『嘘だね。』
「だって・・・。」
『いいの、怒らせるようなこと言ったの私だから。』
「ガキさんはズルイ。」
『はぁ?何よ突然。』
「同い年なのに、絵里より大人ぶる。」
『それは亀がだらしないからでしょーが。』
「そういうことじゃないもん。今だって、自分が怒るようなこと言ったって先に謝るから絵里何もいえないじゃん。」
『何よ。言いたいことあるなら聞くから。』
「絵里、絵里は吉澤さんのこと大好きなんだから。」
『知ってるよ。』
「ガキさんが思ってるよりずっとずっと、好きなんだから。」
『だから分かってるって。話にまとまりが無いんだよ。亀は。』
「あるもん。」
『で、何が言いたいの?』
呆れたような声に亀井はむぅっと口を尖らした。
- 613 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:01
- 「ガキさんの我侭なんて絵里にも吉澤さんにも関係ない。」
『うん。そーだね。』
トーンが落ちた新垣の声。
こんなこと、言いたくないと思う亀井の目には薄っすら涙が溜まっている。
「でも、絵里・・・ガキさんのことも大好きなんだからね。」
『知ってるよ。』
「ガキさんと遊びたくて同じ学校行っちゃうくらい・・・。」
『うん。』
「でも、愛情と友情は違うんだよ。ガキさん。」
『・・・。』
「ガキさんだって好きな人が出来たら分かるよ。」
『そーだね。』
「友情はガキさんにもさゆにも沢山の人に持てるけど・・・愛情は吉澤さんだけなの。」
『うん。』
「返すとか・・・そういう問題じゃないの。」
『ごめん。』
- 614 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:01
- 「吉澤さんも絵里にだけなんだから・・・。」
『うん。』
「でもね。ガキさん。」
『ん?』
「ガキさんが本当の気持ち、思ってること言ってくれたのは嬉しいよ。」
『そう。』
「だから、凄い困ってる。」
『うん、私も。』
「じゃ、同じだね。良かった。」
『あはは。』
「うへへ。」
『亀。』
「ん?」
『ありがと。』
「何が?」
『ホットしたから。電話出てくれて。』
「絵里は心が広いから。」
『はいはい。切るよ。』
「ちょっと、ガキさん。」
『うそうそ。でも切るよ。吉澤さんと居るんでしょ?』
「うん。れーなも居るけど。」
『そっか。』
「うん。」
『じゃ、明日、大学で。おやすみ。』
「おやすみ。」
- 615 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:02
-
携帯をカバンに戻し振り返ると亀井は苦笑した。
田中が悪戯っ子のように笑いその隣で吉澤が恥ずかしそうに顔をそらしている。
「愛情は吉澤さんだけなの。」
「うるせーって。」
「吉澤さんも絵里だけなんだから。」
「分かったからうるせーっての。」
亀井の真似をする田中を見て亀井は笑いながら席に戻った。
「れーな。苛めないでくれるぅ。私の吉澤さん。」
「苛めないでくれるぅ。わ・た・しの吉澤さん。」
「れーな。」
亀井は未だ真似をする田中の肩を軽く叩き、いい加減に辞めろと促す。
「吉澤さん、恥ずかしがり屋なんだからね。」
「絵里は大胆やけん、ちょーどよかね。お似合いっちゃ。」
田中はスプーンをまだシチューが残る皿に置くと立ち上がった。
- 616 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:02
- 「ん?もういいの?」
「美味しかったとよ。れーな少食やけん。お腹いっぱいっちゃ。」
お腹を擦ってみせた田中は「ご馳走様。」と亀井に礼を言う。
「後はお似合いのお2人であいつ夜でも過ごすといいけん。」
玄関に向かいながら言う田中の背中に「スケベ。」と亀井が声をかける。
田中は悪戯っ子のように笑って「お邪魔しました。」と出て行った。
「もー。れいなってたまに意地悪だよねぇ。」
「だね。」
いくらかすっきりした顔になった亀井に笑顔を向ける吉澤。
「ガキさんとは?」
亀井は吉澤に「大丈夫。」と笑顔を向けた。
「これ、美味しかったよ。」
食べ終わった皿を亀井に見せて微笑む吉澤。
亀井は胸を張って「絵里が作ったんだもん。」と微笑んだ。
- 617 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:02
- 田中の皿にはまだシチューが残っている。
亀井はそれを見ながら「れーなって少食だよね。」と呟き、自分の皿に残るそれを口に運んだ。
「こっちも貰っちゃおう。」
吉澤が田中の残していった皿を引き寄せてそれを頬張ると亀井は嬉しそうに笑った。
- 618 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:03
-
- 619 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:03
- 「絵里なんだって?」
ベッドにうつぶせに倒れこんだ新垣にソファの上でクッションを抱えた道重が声をかける。
「思ってること言ってくれたのは嬉しいけど、困ってるって。」
「絵里らしいね。」
道重はクッションを抱えて微笑む。
ベッドに顔を伏せていた新垣も横を向き「だねぇ。」と力なく笑った。
「ねぇさゆ。」
「ん?」
ベッドから身体を起こし小さな身体を丸めて膝を抱える新垣。
「好きな人ってどんな感じ?」
抱えた膝に顎を乗せて上目遣いに視線を向ける新垣に道重は笑顔を向ける。
- 620 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:04
- 「なぁに。その笑みは。怖いよ。」
「ひどぉい。」
「どんな感じ?」
「人、それぞれじゃないかな。」
「ふーん。」
「きっとね、さゆみと辻さんも思ってること違うと思うよ。」
「それって寂しくない?」
「だって、違う人間だもん。」
「それは・・・そーだけどさ。」
道重はニヤっと笑みを浮かべる。
- 621 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:04
- 「もしかして、ガキさんってさゆみと絵里よりもロマンチストだったりする?」
「はぁ?」
「もしかして、もしかして。王子様が迎えに来てくれるとかって思ってる?」
「なんでそうなるわけ?思ってないし、さゆじゃないんだから。」
「さゆみはさ、王子様が来てくれるといいなぁって思ってるけど現実はそうじゃないって分かってるもん。」
「じゃ、さゆにとって現実はのんつぁんなんだ。」
「そーだよ。」
「その、現実ののんつぁんはさゆにとってどんな存在なのよ。」
「そー言われると難しいかも。」
腕を組んで考え込む道重を眺めならが新垣は思う。
出来れば、同じ景色を見たら同じ気持ちになりたい。
出来れば、同じ食べ物を2人で分かち合いたい。
出来れば、同じだけ好きって気持ちを持っていたい。
出来れば・・・一度好きになったら、ずっと好きで居たい。
本当に・・・本当に好きな人は一生に一人だけでいい。
- 622 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:05
- 「辻さんは、さゆにないものいっぱい持ってるから、だから辻さんじゃないといけないのかな。」
ふと話し出した道重に新垣は「ないものが無くなったらどうするの?」と尋ねる。
「なくならない。」
道重は頬を膨らまし「そう、信じてる。」と呟くと俯いた。
「恋愛ってさ。片思いのときは甘いことばっかりなんだよ。見ているだけで嬉しくて幸せで、触れたらどうなっちゃうのかって想像するだけで・・・こう、悶えちゃう感じ。一方的な気持ちだからだよね。きっと。でも、一方的じゃなくなったら一方的だった頃よりも幸せになれたりするけど、不安になったり、心配したり、疑ったり、喧嘩したり・・・そういうのあると思うの・・・それが好きな人ってそういう感じじゃないかな。」
頷きながら道重の話しを聞いていた新垣は床にあった視線を道重に向けると口を開いた。
「凄い、エネルギー使うね。」
「そうだよ。ってことで・・・。ちょっと待った。」と道重はポケットのなかで辻からの電話を知らせている携帯を耳に当てる。
「今、行くね。」と携帯を仕舞い新垣に申し訳なさそうに視線を向ける。
新垣は微笑み「今日はありがと。」と帰って良いよと手を振る。
「ごめんね。また、なんかあったらさゆみに相談してね。ガキさんも早く恋愛してみるといいのっ。」と笑顔で手を振り新垣の部屋を出て行く。
新垣は息を吐き出しながらベッドに横になった。
- 623 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:05
- 「恋愛ねぇ・・・。」
いまいち、愛するという気持ちが分からない。
新垣は目を閉じると眉間に皺を寄せた。
- 624 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:05
-
- 625 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:06
- 石川は気まずそうに藤本の部屋に居た。
お天気キャスターの仕事が終了してからは結構、自由になる時間が増えた。
嬉しいことだけれどもそれは困ることでもある。
「取材ならお断りだからね。」
ソファに足を組み座る藤本は絨毯にクッションを抱えて座る石川を見下ろした。
「分かってるよ。」
「じゃぁ、今日はなに?」
「用がないときちゃ駄目なの?」
上目遣いに言う石川に藤本は「クククッ。」と笑い声をもらした。
「なによぉ。」
「梨華ちゃんってそういうところ変わってないよね。」
「そういうところって?」
「暇だから相手してって素直に言えないところ。」
「暇って・・・。」
「最近、テレビで見かけることも少ないし。」
俯く石川に藤本は「ははは。」と笑う。
- 626 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:06
- 「笑うことないじゃない。」
「ってかさ。なんで美貴なわけ?そういう時の相手ってよっちゃんだったでしょ。」
石川は顔を上げて藤本をじっと見つめた。
「美貴ちゃんさ。」
「ん?」
「なんで私はいいの?」
「なにが?」
「よっちゃんに近寄る子、美貴ちゃん凄い怒ってたじゃん。」
「梨華ちゃんは幼馴染だから。」
「それだけ?」
「他になにがあるの?」
無表情に自分を見つめる石川の視線から藤本は逃げた。
「私の気持ち、知ってたからだよね。」
- 627 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:07
- 石川の声がいつもより低く感じられる。
藤本は目を閉じ息を吐いた。
「知ってたから、私から取り上げたりしなかったんだよね。美貴ちゃん優しいから。」
何も言わず目を閉じたままソファにもたれる藤本を石川は悲しそうに見つめた。
「好きだったよ。ずっと。美貴ちゃんがよっちゃんを好きになるよりもずっと前から。」
「知ってたよ。」
瞼を開け、石川を薄目から眺める藤本。
石川は自虐的に笑みを零した。
「昔からそう、何やっても私は美貴ちゃんには敵わない。」
「人を好きになるのにそういうの関係なくない?」
「あるよ。」
「美貴にとってよっちゃんは・・・一生を共にする人だっただけ。」
強い視線でそういわれた石川は下唇を噛み締めた。
言い返す言葉が見つからない。
「梨華ちゃんにとってよっちゃんは何?」
黙って視線を反らす石川。
- 628 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:07
-
「よっちゃんは飾りじゃないよ。」
藤本の声は静かに部屋に響いた。
「よっちゃんと何かあったんでしょ?」
石川は顔を上げ藤本を見つめた。
「あったよ。」
「何?」
「言わない。美貴ちゃんには言わない。」
「何それ。」
顔を背ける石川に「別にいいけどさ。」と軽くあしらう藤本。
いつもそうだ。
いつだって、藤本の方が上にいた。
- 629 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:07
- 「美貴ちゃん、今度の試合どうするの?」
「どうするって?」
「あのプレーする気?」
「それが今の美貴だから仕方ないじゃん。それでもメンバーに選ばれてるんだし。」
「代表候補は無理だね。」
「別に代表になりたくてしてるわけじゃないからいいし。」
「寂しがり屋の恋人置いて留学までしてやってきたバスケなのに?」
「みんな誤解してるよ。美貴はバスケが好きなだけ。好きなことをやってる美貴をよっちゃんに見てて欲しいだけ。よっちゃんに見せるためにバスケしてるの。」
石川は言葉をなくしただ、藤本を見つめた。
愛しそうに幸せそうにでも、どこか悲しそうに言う藤本。
石川にとってそれは初めてみる藤本の表情だった。
- 630 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:07
-
- 631 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:08
- 食事を作ってくれた亀井に変わって吉澤が食器を洗った。
といっても、亀井は後片付けはいつもしないからいつものことだ。
吉澤は楽しそうに食器をキッチンにひとりで運び込み洗い出す。
亀井は満腹感からなのかテーブルの上にうつ伏せて眠たそうにそんな吉澤の姿を眺めている。
亀井は洗物を終えて手を洗ってる吉澤の背後に歩み寄った。
- 632 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:08
- 「ん?どった?」
背中から抱きしめられた吉澤は首を横に回し亀井の姿を見ようとする。
「どうもしない。」
「甘えん坊になってる。」
吉澤は流れていた水を止めるとタオルで手を拭く。
その表情は凄い笑顔でベルトのバックルに手をかけている亀井の手に手を重ねるとソファへとゆっくり歩みだした。
「なんか、出会った頃の亀ちゃんみたいだね。」
「んぅ?」
「こうやっていっつもうちにピッタリくっ付いてたじゃん。」
「あはは。そうだったかも。」
吉澤の背中にピッタリと顔をくっつけて笑う亀井。
背中から亀井の笑い声の振動を心地よく感じながら吉澤はソファの前で止まると亀井を身体から離してソファに座ると直ぐに手を引き自分の上に向かい合って座らせる。
すると亀井は赤ん坊のように吉澤にしがみ付くように抱きついた。
- 633 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:09
- 「うれしいなぁ。」と吉澤は首元に顔を埋める亀井の頭に鼻を寄せて微笑む。
「絵里ね、自分から積極的にとかって無理な子だったでしょ。」
「ん。そーだったかもね。」
「そーだったよ。吉澤さんが絵里の気持ち気が付いてくれなかったら絵里の今はないもん。」
「気が付くよ、あんだけ毎日じっと見つめられてたら。」
「だって、いつの間にかいつも追ってたんだもん。」
「嬉しかったけどね。」
「絵里はきっとそういう子なんだと思う。」
「そういう子って?」
「自分から行動とかしないの・・・誰かが気が付いてくれるまで待ってるの。学校でもそうだもん。自分から、発言とかしないし。だからガキさんが絵里のこと構ってくれるんだよ。ガキさんはしっかりものだから。」
「じゃ、うちもしっかり者だから亀ちゃんとこうしてるの?」
「うん。だって、絵里が見てなかったら吉澤さん、絵里に付き合おうっかって言ってくれた?」
- 634 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:09
- 部屋は静まり返り、2人の呼吸だけが間近で聞こえるだけ。
顔を上げ至近距離で吉澤を見つめる亀井。
吉澤は乱れた亀井の前髪を整え頭を撫でた。
「誰かを好きになるって何かきっかけがあるんだと思う。亀ちゃんの視線をずっと感じててうちも亀ちゃんと同じ気持ちになった。もしね、亀ちゃんが視線を送って無くても、他になんかきっかけがきっと出来てたと思うよ。」
「そっか。」と微笑む亀井はまた吉澤の首筋に顔を埋める。
吉澤はそんな亀井の背中をゆっくりと撫でた。
「亀ちゃんとうちが出逢って、愛し合うってそう決まってたんだよ。だから、どこかできっときっかけは出来てたんだと思うな。」
亀井は吉澤の首に回した腕に力を込めた。
「藤本さんとは・・・?」
吉澤の首筋で小さく呟いた亀井は吉澤の顔を見ることはなかった。
- 635 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:09
- 「ごめんなさい。絵里、今凄い嫌な子だ・・・。」
「そんなこと無いよ。」
「ごめんなさい。」
新垣に言われた言葉。
忘れようとしてもそれは無理なことだった。
「ねぇ。亀ちゃん。」
「ん?」
顔を上げようとした亀井の頭に手を添えて上げさせない吉澤は
ゆっくりと亀井の亀井の髪を撫でた。
「うちね。」
「んぅ。」
「亀ちゃんに捨てられることはあっても捨てたりしないよ。」
亀井は驚いて顔を無理やり上げ、吉澤を見た。
- 636 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:10
- 「絵里はそんなことしない。」
分かってるよ。という吉澤の柔らかい笑顔。
「何も変わらないんだよ。」
「え?」
「部屋も置いてある家具も、いつもと何も変わらないのにさ。」
吉澤は亀井の顔を寂しそうに見つめた。
「隣に居たはずの人がいないの。ただ、それだけなんだけどさ。凄い寂しいんだ。家の電話とか携帯が鳴ると、もしかしたらなんて思ったりして、インターホンが鳴っても・・・ただ、1人居なくなっただけなのにね。」
吉澤はソファの横にある青いラグに視線を向けた。
「勝手に新しい世界に行っちゃって。こっちは何も変わらない生活を送るのにさ。取り残されていくんだ。だから・・・。」
吉澤は亀井に視線を戻した。
「亀ちゃんにそんな想いさせないよ。」
「絵里だってさせないもん。」
「ん。」
- 637 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:10
- 亀井はそっと目を閉じ吉澤の唇に自分のそれを重ねた。
吉澤の柔らかい唇の温度を感じながら不安は拭いきれることはなかった。
「んぅっ。亀ちゃん?」
突然、噛み付くようなキスを始めた亀井。
吉澤はしばらくそれに応えていたが息苦しくなって顔を離した。
「好き・・・。」とだけ呟いた亀井は吉澤の両頬を挟み再び唇を奪った。
激しく、吉澤の舌を吸い、絡ませた。
吉澤をソファに押し倒しその上に跨ると亀井は一端、唇を離した。
肩で息をしながら視線を絡ませる二人。
- 638 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:10
- 「亀ちゃん・・・。」
自分の服に手をかけ吉澤の声に笑みを零すとそれを脱ぎ捨てた。
腰にあった吉澤の手を自分の乳房へと運ぶ亀井。
「吉澤さん・・・愛してる。いっぱい、いっぱい愛してるよ。」
「亀ちゃん。うちもいっぱい愛してるよ。」
吉澤は身体を起こし亀井を抱きしめ唇に・・・首へと唇を這わせた。
- 639 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:11
-
- 640 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:11
- ことを終え、道重と辻はベッドの中で寄り添っていた。
「辻さん。」
「ん?」
道重の胸に顔を埋めていた辻は眠たそうに顔を上げた。
「辻さんにとってさゆみってどんな存在ですか?」
裸のままの道重の透き通るような白い肌から辻は名残惜しそうに顔を話し道重を見つめた。
「どんな存在って・・・どうしたの?」
「ガキさんに聞かれたから。」
「へー。のんにとってさゆは・・・。」
辻は道重の頬に手を添えるとそっと口付けした。
道重の顔を至近距離で見つめると「のんがのんでいられる場所。」と呟きニッコリと笑った。
「で、さゆはなんて答えたの?」
道重は答えられなかったとは言えずに胸に辻を抱きしめた。
- 641 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:11
- 「さゆも、辻さんと同じ。」
「そっか。一緒だもんね。のんとさゆは。」と胸の中から聞こえてくる。
恋人でも所詮、別の人間だと思っていた。
辻はきっとそんなこと、思ったりしないだろうとも思っていた。
自分にないところを辻は全部持っているから。
辻とこうしていられることが幸せだなぁとしみじみと感じていると胸のなかで辻が動き出す。
「何?どうしたの?」
突然、身体を起こしベッドから這い出る辻。
- 642 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:11
- 「時間じゃん。さゆママたち帰ってくるとまずいから。」
脱ぎ捨てた服を拾い身に着けていく辻を眺めながら道重は「はぁ。」と息を吐いた。
ムードもないところも辻なのだ。
「ほら、さゆも着な。」
「はーい。」
- 643 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:12
-
- 644 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:12
- いつもと全く違った亀井。
吉澤は果ててぐっすりと眠る亀井を眺めている。
「ごめんね。」
亀井の髪を撫でながら呟いた。
不安にさせているのは自分のせいだろう。
新垣をも巻き込んで・・・。
亀井にとって大切な親友なのに。
吉澤が剥き出しになった亀井の肩に触れると亀井が薄っすらと瞼を持ち上げた。
- 645 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:12
- 「ごめん。起こしちゃった。」
「んぅ。」と呻りながら身体を起こしている吉澤のお腹に顔を埋める亀井。
吉澤は微笑みながらその頭を撫でた。
「うち、亀ちゃんとのこういう時間好きだなぁ。」
「ん?」
亀井は状態を反らして顔を上げると吉澤の顔を見た。
「くるぢぃ・・・。」
その体勢の辛さに負けた亀井の身体は再び吉澤の上に乗っかった。
「あはは。こういうの好きだなぁ。」
「うー。馬鹿にされてる気がする。」
裸体のままの身体を起こした亀井は頬を膨らませて吉澤に視線を向ける。
微笑んでいる吉澤の表情は本当に愛しそうに見える。
- 646 名前:ルーズボール 投稿日:2007/05/25(金) 23:13
- 「こういう、まったりした時間が好き。亀ちゃんが作る時間が好き。」
「どうしたの?」
「亀ちゃんと居る時間が好き。」
「うん。」
吉澤の表情を見ながら亀井は嬉しそうに頷いた。
「だから、何も心配なんていらないよ。」
そっと抱きしめられた吉澤の腕の中で亀井はやっと安心感に満たされた。
- 647 名前:clover 投稿日:2007/05/25(金) 23:23
- 本日の更新以上です。
>>570-646 32.本音
読んでくださった方。
長くてスミマセン。お疲れ様でした。
初っ端、更新をミスりました・・・
何か、世間では色々あるけれど・・・
気にせず書いていこうかと思っているので
今後もよろしくお願いします。
ってことでやっと次の次の更新辺りに吉澤さんの
バースディがやってくるかと思います。
>>567 :ももんが 様
いつも、レス有り難うございます。
ズルイんですよぉ。吉澤さんw
なんでかこうなっちゃうんですがw
まぁ、お付き合いください。
>>568 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
これから皆が動くので読んでやってください。
>>569 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
いつもインドアな田中さんになってますが。
段々、ネコっぽくなくなってる気が・・・
今後もよろしくです。
- 648 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/05/26(土) 03:06
- 更新お疲れ様です。
こちらこそよろしくです。
ゆっくりとまた何かが動き出した気配がしますね。
静かだけどどこかに不安があるような・・・
亀井さんにも藤本さんにも吉澤さんにも幸せになって欲しいなぁ。
次回更新を楽しみにしています。
- 649 名前:亀かめカメ 投稿日:2007/05/26(土) 04:28
- とてもすばらしいです
人の深いところを考えてしまいます
ガンバレ吉カメ
動き出せガキさん
- 650 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/26(土) 13:32
- 大量更新お疲れ様です。
動き出したガキさん凄い気になるぅ
亀ちゃんがんばれ
- 651 名前:ももんが 投稿日:2007/05/26(土) 21:26
- 大量更新ありがとうございます!
こんなガキさんと亀井さんみたいな関係羨ましいです。
まっすぐなガキさんとても好感持てます。
さゆ可愛くて大人ですごい好きです♪
- 652 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/26(土) 22:45
- んー・・・
こんな時にでも美貴様再起動を願う
- 653 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:57
-
33.親友の決断
- 654 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:58
- 「何のため?」
デジタルムービーを片手に新垣は藤本の練習風景を見ていた。
自分のためではないその行為。
誰のためだろう・・・と考えてみる。
「亀のためではないな・・・。」
断ったのに付いてきた小川の質問に新垣はそう、応えた。
「なにそれ、どーいう意味?」
「ちょっとうるさい。」
録画をしている横にやってくる小川から新垣は少し距離をとり再び藤本を追いかける。
小川はしょんぼりとしながらも心配そうに新垣を見ていた。
- 655 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:58
-
- 656 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:58
- 吉澤は病院の待合室で壁に掛かる時計に目を向けた。
田中が診察室に入ってもう20分が経っている。
吉澤はゆっくりと息を吐き出しながら目を閉じた。
「吉澤さん。」
田中の声に目を開く吉澤。
吉澤の目の前で田中は苦笑しながら立っていた。
「待ちくたびれたと?」
「どーだった?」
「新しい薬試すけん。」
「そっか。」
「そんな心配しないでぇ。れーなはまだ大丈夫やけん。」
「まだ、と言ってんなバーカ。」
吉澤はミニスカートから曝け出した田中の太腿をパシっと叩き立ち上がった。
田中は叩かれた場所を擦りながら心配してくれる吉澤の存在に感謝した。
- 657 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:58
- 「仕事、休んで大丈夫だったと?」
「ん。気にすんな、普段、マジメに働いてるから。」
少しゆっくり歩く吉澤の後を歩く田中は
どこまで優しいのだろうと吉澤の背中を見つめながら思った。
もう、きっと自分は走ったり出来ないだろう。
こないだ、亀井と走ったのが嘘のように思える。
「なに、笑ってんの?」
「何でもなかと。」
田中は吉澤の横に並ぶと「お腹すいたと。」と呟いた。
「なんか美味いもん食べよっか。どーせ、ろくなの食ってないんだろ。」
食べてないのではない。
そんなことくらい吉澤だって分かってる。
最近、田中の食欲はめっきりないのだ。
元々、細い身体の田中なのに、更に細く、小さくなっている。
「コンビニのおにぎりとかでよか。どーせ食べ切れんけん。」
「残ったらうちが食べるからいいの。うちもお腹空いてるし。」
「行くぞ。」と吉澤は田中の手を引いて歩を進めた。
- 658 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:58
-
- 659 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:59
- 「ガキさんちょっとそれは酷いと思うよ。素直に言うのはいいことだけど。」
新垣の部屋に集まった亀井と道重。
道重は亀井の顔色を窺いながら新垣にそう言った。
新垣は俯き亀井の向かいに座っている。
「もう、時間ないの。だから・・・。」
「でも、ガキさんがすることじゃないと思うの。」
「それも分かってる。」
「なら、どうして?」
道重の質問に応えられず言葉に詰まる新垣。
部屋の中に沈黙が訪れた。
『うち、来ない?』と新垣から来たメール。
吉澤のおかげで新垣と普通に顔を会わせられそうな気がした亀井は新垣の家に向かった。
新垣の家の前で丁度、道重と会い部屋に通され藤本のバスケの練習風景のDVDを見せられた。
途中で「これ、吉澤さんに見てもらうつもり。」と新垣が言った。
そして今、こうして沈黙が訪れている。
亀井はずっと新垣を見ていた。
- 660 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:59
- 「いいんじゃない。」
亀井の声に道重は「えっ。」と驚愕の表情を見せた。
俯いていた新垣がゆっくりと顔を上げ亀井へと視線を向ける。
「ガキさんが、そういうの言うの初めてじゃん。」
亀井は微笑んだ。
意外な反応に新垣は戸惑いの表情をする。
「いつも絵里とさゆを優先してたのにさ。」
亀井の言葉に「確かに。」と道重が同意する。
泣かせてしまうかも、喧嘩になるかもと思っていた新垣は張り詰めていた糸が切れたように思えた。その瞬間、新垣の瞳からポロポロと涙が零れる。
「ガキさん?」
新垣を見ていた亀井は驚いて新垣の隣へと移動する。
「あれ?うっそなんでだろう。」と涙を拭う新垣。
亀井にティッシュの箱を渡され新垣は目頭を押さえた。
道重はそんな2人を微笑んで眺めていた。
何があってもきっと自分たちはこうして3人でいるんだろうなと想いながら道重も新垣の隣へと移動した。
- 661 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/01(金) 23:59
-
- 662 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:00
- 「なんで、いいよって言ったの?」
新垣の家からの帰り道、道重の質問に亀井は微笑んだ。
「んー。ガキさんってさ、自分のことっていっつも後回しじゃん。」
「そーだね。」
「なのにさ、ガキさんだって傷つきながら自分のしたいこと言うんだもん。」
「うん。」
「実際はね、ガキさんが藤本さんのプレイが見たいんじゃなくて藤本さんのためにみたいな気がしてさ。」
「ん?」
「ガキさん、藤本さんのこと・・・。」
「えっ・・・。」
顔を見合わせた亀井と道重は歩みを止め新垣の家を振り返った。
- 663 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:00
- 「気が付いてるのかな?」
道重の言葉に亀井は首を傾げた。
「絵里、大丈夫なの?」
「なにが?」
「ガキさんと藤本さんが親しくなればなるほどさ。吉澤さんと絵里も藤本さんの距離も近づくんだよ?」
「うん。」
亀井だってそんなことは分かってる。
吉澤への感情とは違うけれど、新垣を大好きなだけだ。
「どうしたの?」
俯く亀井に道重が心配そうに尋ねる。
亀井は苦笑しながら道重に視線を向ける。
「吉澤さんが心配なんだよね・・・あのビデオ見てどうするんだろうって・・・。」
「あ・・・誕生日だっけ試合の日。」
亀井は苦笑しながら頷く。
「一緒に過ごそうねって約束してるんだけどさ・・・。」
「大丈夫だよ。自信もちなって、今の恋人は絵里なんだから。」
「うん。」
不安そうな顔をする亀井の肩に道重は手を回すと道重は「帰ろう。」と歩を進めた。
吉澤のことはきっと自分よりも田中の方がよく知っているだろう。
自分に出来ることは亀井の側に居てあげることくらいだろう。
道重はそう想いながら亀井の横顔を見ていた。
- 664 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:00
-
- 665 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:01
- 大学の講義を終え、バイト先へ向かう亀井と別れた新垣は吉澤の家へと向かった。
あまりにもあっさりと了承した亀井に感謝をしながら新垣は吉澤の部屋のチャイムを押す。
しばらくしても部屋からの返事は聞こえなかった。
ここに来るのは数える程だったが新垣はドアノブに手をかけるとそれを回した。
吉澤はまだ会社から戻っていないことは分かっている。
「田中っちいる?」と玄関先から部屋の中に声を掛ける。
「ガキさん?」
奥から聞こえてきた田中の小さな声。
「そー。上がって良いかな?」
「うん。吉澤さん、おらんちゃけど。」
知ってるよ。と心の中で呟き新垣は靴を脱ぐと揃えた。
「おじゃましまぁす。」
さっぱりとした部屋の窓際の青いラグの上に丸まっている田中。
新垣は田中の姿を見ると目を細め笑みを零した。
「田中っちぃ。相変わらずインドアだねぇ。若いんだから外にでな。」
- 666 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:01
- 田中の前に正座した新垣は無意識に新垣の頭を撫でた。
田中は目を細め「れいなはここが好きっちゃ。」と呟く。
「それより目ずらしかね、どげんしたと?」
「んー。」と濁す新垣の表情を見た田中はだるい体を起こしチョコンと新垣に向かい合った。
「なんそれ。」
新垣の手にあるものを指差す田中。
「ビデオだよ。」
「そんなんしとーと。」
「藤本のさんの練習撮ってきた。」
田中は膝を抱えるとその上に顎を乗せ新垣を上目に見た。
「吉澤さんに見せると?」
田中から視線を反らし頷く新垣。
「絵里はしとーと?」
新垣は困ったように田中に視線を戻すと再び頷く。
「んじゃ、よかね。絵里が良いって言いようがやろ?そんな顔せんでよかっちゃろ。」
田中の言葉に新垣はなんだかホットしたように笑みを見せた。
- 667 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:02
- 「それ、なんで見せると?」
「藤本さんの試合・・・見に来て欲しいの。藤本さんのために。」
「今更っちゃろーが。もう、別れとるんよ?」
「分かってるよ。けどね・・・吉澤さんがいないと本来のプレイが出来ないんだよ。」
「そんなの絵里からしてみれば知らんこっちゃね。」
はっきりと言う田中に新垣は苦笑した。
「吉澤さんにとっても・・・戸惑うだけっちゃ。」
「でもっ・・・。」
「その人にとっては違う・・・ちゃろ?」
優しく微笑む田中に新垣は頷いた。
「好きなんちゃね・・・。」
新垣は首を傾げ「わからない・・・。」と呟いた。
「自分の気持ちなのにね・・・分からないの。亀のこと思ったら凄い酷いことしてるって分かってるのに・・・それでも、藤本さんのこと思うと・・・。」
俯き呟く新垣の話しを田中は微笑みながら聞いていた。
- 668 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:02
- 「羨ましいっちゃね。」
「ん?」
「そんな風に思える相手が見つかって羨ましいっちゃ。れーなはもうそういう気持ちになったりせんと。羨ましか。」
「それ・・・どういう意味?」
田中は悲しそうに微笑む。
新垣は田中との距離を詰め「どういうこと?」と問い詰めた。
「れーなの残された人生に恋愛はないっちゃ。れーなは吉澤さんの側に居るって決めたけん。絵里との幸せを見届けるって決めたとよ。」
「田中っち・・・意味が分からないんだけど。」
「それで、いーとよ。」と田中は微笑んだ。
「それより、吉澤さんと一緒にれーなもそれ見ていいと?」
「うん。私も一緒に見ようと思ってる。」
田中は微笑み頷くとラグの上に丸くなった。
「ちょっと寝るけん・・・膝借りると。」
「うぇ?」
新垣の太腿の上に頭をちょこんと乗せると田中は直ぐに眠りに付いた。
「ちょ・・・もう寝たの?」
返事の無い田中の寝顔を見ながら「もぉー。」と新垣は笑みを零した。
- 669 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:03
-
- 670 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:03
- 吉澤はアヤカとの仕事を終え、保田と3人で早めの夕飯をとっていた。
「あの子とは上手くいってるの?」
保田の質問に照れ笑いを浮かべながら頷いた。
久しぶりのお酒は美味しくて吉澤は楽しい食事の時間を過ごしていた。
「しかし、よっちゃんが年下と付き合ってることが私的には以外なんだけど。」
「そう?」と微笑み首を傾げる吉澤の表情にアヤカは一瞬見惚れた。
「お姉さまたちからしたら吉澤は可愛がりたい対象なのよ。甘やかしてあげたいって思うわけよ。そのルックスは。」
タバコの煙を吐きながら言う保田に吉澤は苦笑する。
「こっちもその対象を選んでもいいっすかね?」
吉澤の言葉にアヤカが笑い声を上げた。
「なによ。私じゃ不満?仕事では結構、甘やかしてあげてるけど?」
「そーでした。感謝してますよ。でも仕事だけでいいですから。」
吉澤が笑うと「まったく。」と保田も笑う。
「これ、誕生日プレゼント。」と箱を取り出した保田。
「2人からね。」とアヤカが言葉を添える。
「ありがと・・・明日だけど。」とほろ酔いの吉澤は満面の笑みでそれを受け取った。
- 671 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:03
- 「明日は恋人に祝ってもらうんでしょ。休み取ってるから渡せないでしょうが。」
保田の言葉に頷きながら吉澤は箱を開ける。
「デジカメだ。」
「欲しいって前に言ってたからね。」とアヤカは保田に視線を向けた。
ここ数日、仕事で顔を会せても吉澤はいつもの話しをしなかった。
アヤカと保田は吉澤が恋人と上手く行っているのだろうと安心していた。
仕事も順調にこなしている。
自分たちが捨てたものを吉澤が叶えてくれるのかもしれない。
そんな期待を持ちながら嬉しそうにデジカメを見ている吉澤に優しい視線を向けていた。
「一番最初は何撮るの?」
「愛しい人。」
保田の質問に笑顔で即答する吉澤に2人は呆れたようにでもどこか嬉しそうに笑みを零した。
- 672 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:04
-
- 673 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:04
- 「いらっしゃいませー。」
見慣れた顔に亀井は愛想なく言葉を発し頭を下げた。
「お客なの・・・。」と頬を膨らます道重の表頬に手を添えた亀井。
「いらっしゃいませ、心よりお待ちしておりましたぁ。」と表頬を撫でた。
「もう、いいの。」と道重は辻と小川を引き連れて店の中へと入っていく。
平日の夕方、客は余り居ない。
道重たちは近くの席に座るとメニューに目を向けた。
亀井は水の入ったコップを3つ持って道重たちのテーブルへと向かう。
「何にする?」
「さゆみ、チョコレートパフェとアイスティ。」
「太るよ?」とオーダーを取りながら言う亀井。
「いーんだもん。食べないほうがストレスで太るしぃ。」と頬を膨らます。
新垣の話しを聞いていた辻と小川は戸惑いながら亀井の様子を伺っていた。
「はいはい。で、2人は?」
「あ、のんも同じの。」
「パンケーキとコーヒーで。」
「はい、チョコレートパフェ2つとパンケーキね。それと、アイスティ2つにコーヒーと。」
オーダーを取り終えた亀井が居なくなると辻と小川は大きく息を吐き出した。
「なんか、あれだね。」
「うん、あれだね。」
呟く辻に返事をする小川。
そんな2人を道重は首をかしげて見ていた。
- 674 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:05
- 「亀ちゃんぽくないテンションで。」
「事情を知っているから何もいえないね。」
「そうだね。」
「そーなんだよね。」
苦笑しながら辻と小川は水を口へと運んだ。
「2人で会話しないで欲しいの・・・。」
「さゆはよく、普通に話せるよね。」と辻が息を吐き出しながら尋ねる。
「普通にしててあげないと絵里もっとおかしくなっちゃうよ。寒いギャグとか連発し始めるから。」
「そーなんだ。それもあれだね。辛いね。」
「だから、気にしないで付き合ってあげてればいいんだよ。」
そう言って道重は微笑むとトレイに頼んだ品を載せて向かってくる亀井に視線を向ける。
「お待たせしました。」
「ありがと。」
「さゆの好物オマケしといた。」
辻の前に置かれたパフェよりも豪快に生クリームが載っている道重の前にあるパフェ。
「わぁ、ありがとぉ。」と道重が笑みを零し亀井の腰に手を回して抱きついた。
いつもなら妬く辻だが無理に亀井の顔を見ると何も言えなくなった。
- 675 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:05
- 「絵里、バイト何時まで?」
「んと、7時、なんで?」
「待ってるよ。」
亀井は柔らかい笑みを零した。
「ありがと。でも、大丈夫。今日は早めに寝るよ。」
「そっか。」
「うん。じゃ、ごゆっくり。」
亀井が去って行く姿を3人で見送る。
「じゃ、食べ終わったらどっか行く?」
辻の提案に道重は首を横に振った。
「さゆのお家行こう。ガキさん心配だし。」
「ガキさんって・・・酷いことしてるのに。」
辻の言葉に道重は再び首を横に振った。
小川は俯くと下唇をかんだ。
- 676 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:06
- 「ガキさんだって、絵里と同じくらい辛い気持ちなの。」
道重はそう言って生クリームを口に運ぶ。
「ガキさんが絵里に何も言わなかったらさゆみだって辻さんと同じこと思うけど。」
そう言ってまた道重は生クリームを口に運ぶ。
「真正面からぶつかったガキさんもそれを受け止めた絵里もさゆみは凄いと思う。もし、それで2人が仲悪くなるんだったら、それだけの仲だったんだよ・・・。」
そんなにまでしてどうして新垣は・・・
そう思いながら小川は練習風景をビデオに納めていた新垣の表情を思い出し胸が苦しくなった。
辻も道重も黙ってパフェを口に運んでいる。
本当に藤本のプレイを見たいがためだけなのだろうか。
胸の中にある疑問を小川は不安そうにパフェを食べる道重の表情を見ると聞くことはできなかった。
- 677 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:06
-
- 678 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:06
- 「明日、試合行くの?」
後藤は仕事のスケジュールに目を通しながら呟いた。
向かいのデスクにいる柴田に聞こえているだろう。
だが、柴田は何も言わず、キーボードを操作している。
「ごとーいつからスポーツ担当になったんだろ。」と柴田に言葉を投げかけた後藤は出掛ける準備をしだした。
「仕度できたら行くよ。」
「んー。いける。」
後藤の言葉を聴くとさっとノートパソコンをカバンに入れ出掛けていく柴田。
それを見た後藤も直ぐに仕事道具を肩にかけ柴田を追った。
「明日、その大荷物持ってこなくていいよ。」
ビルを出ると直ぐに後藤にそういう柴田。
- 679 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:07
- 「へー。後藤、何しに行くわけさ。」
「私の付き添いじゃ不満。」
「別に。」
「ならいいじゃん。」
「いいけど。写真無くて記事どうするのさ。」
「私も手ぶらで行く。」
後藤は柴田の横顔に視線を向けた。
苦笑している柴田は後藤の視線を感じながら現場へと歩を進める。
「私が記事書かなくても、他の取材陣が来るし・・・。」
「だね。」
「梨華ちゃんからね。連絡あった。」
「石川先輩から?」
「私のことも含めて全部書いていいよって。」
後藤は「それで?」と柴田の手を取って歩みを止めた。
柴田は立ち止まると掴まれた腕を解いて後藤に視線を向ける。
「何が?」
- 680 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:07
- 「書いて良いよって言われて柴ちゃんはどうするの?」
書くんだろうかと疑るような後藤の視線に柴田は悲しそうに微笑んだ。
「ごっちんさ・・・ううん、なんでもない。遅れるから行こう。」
何かを言おうとして躊躇い歩みだす柴田の腕を後藤は慌てて捕まえた。
「まさか、書く気?」
「書かないよっ。」
再び歩を止められた柴田は掴まれた腕を振りほどき後藤に鋭い視線を向けた。
柴田の大きい声に後藤は一瞬、驚き肩を震わせる。
「パートナーなら・・・分かってよ。」
「ごめん。」
「ちょっとはさ、私のこと見てよ。」
柴田はそういい歩みだす。
後藤はしばらく柴田の背中を見ていたがやがてあとを追って歩みだした。
柴田の言葉を考えながら後藤は柴田の少し後ろを歩く。
現場についてから柴田は後藤と言葉を交わさなかった。
- 681 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:07
-
- 682 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:08
- 帰宅ラッシュには早い時間。
吉澤はほろ酔い状態で電車に揺られていた。
ガラガラの長椅子に座り、笑顔で携帯を操作する。
『先輩たちからデジカメ貰ったよ。最初に撮るのは亀ちゃんの笑顔がいいな。』
亀井へそう送信すると吉澤は窓の外の流れる景色に目を向けた。
オレンジ色に染まる都会の景色、ビルに反射する夕陽に目を細めながら吉澤は亀井の笑顔を思い浮かべた。
- 683 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:08
- 「ただいま。」と居るであろう田中に言うと吉澤は見慣れない靴に首を傾げた。
「お邪魔してます。」と聞こえてきた声。
吉澤は田中に膝枕をしている新垣の姿を捉えて困った表情を浮かべた。
「れーな寝てるんだ。」
「はい。」
「留守中に上がりこんでしまって、すみません。」
頭を下げる新垣に「いいよ。」と言ってソファに座った吉澤は田中の頭を撫でてた。
「足、痺れてない?」
「大丈夫です。」
「良く寝るなぁ。れいなは。」
「田中っち学校行ってないんですか?」
「行きたいときに行ってるよ。」
「行きたいときって・・・。」
苦笑する新垣に吉澤は笑みを零す。
- 684 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:08
- 「いいじゃん。それがれいなの生き方だから。」
「でも、出席日数とか。」
「いいんだよ。れいなは。皆と違う生き方してるんだ。」
新垣は膝の上で寝息を立てている田中を見て違う生き方とは何なのだろうと思った。
「れいな。起きろ。」と田中の肩を吉澤が揺すった。
ゆっくりと目を開き眠そうな目を擦ると田中は体を起こし
「ガキさんの太腿、絵里のより硬かね・・・。」と笑みを零す。
「吉澤さん、今日は早かね。しかもちょっとお酒の匂いがすると。」
「打ち合わせで呑んだからね。」
「ガキさん、見て欲しいものあるっちゃね。」
田中が新垣に視線を向ける。
「それ?」
手にあるビデオを指す吉澤に新垣は頷いた。
- 685 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:08
- 「テレビ、お借りできますか?」
「うん。」
新垣がテープをセットしようとすると田中がそれを止めた。
「れーながやると。」とテープをデッキに入れた。
新垣は吉澤がこれを見てどうするだろうと全く検討の付かないこれからに不安が募った。
「なんのビデオ?」と黒い画面がテレビに流れ始めると吉澤は新垣に視線を向けた。
「藤本美貴のビデオっちゃ。」
何も答えない新垣の代わりに田中はそう言い吉澤の隣に座った。
「藤本さんの今を・・・見て欲しくて。」
新垣がそう呟くと丁度、画面に練習風景の映像が流れ出した。
吉澤は画面に視線を向けず、じっと新垣の横顔を見ていた。
「美貴とうち、もう終わってるんだよ。見る必要ないと思う。」
「分かってます。でも・・・見て欲しい。」
懇願する視線を新垣は吉澤に向ける。
「れーな止めて。」
- 686 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:09
- 吉澤の指示に田中は従うことは無かった。
「れーな。貸して。」と田中の手にあるリモコンを奪おうと吉澤が手を伸ばすが田中はそれから逃げた。
「解決せんと、れーな心配でいなくなれん。」
伸びてくる吉澤の手首を掴み田中が言うと吉澤の動きはピタリと止まった。
「解決せんと、藤本って名前が出てくるたびに吉澤さんと絵里の空いたに不安が出るとよ。もう、れーなは・・・」
「分かった。ごめんな。」
言葉の途中で俯いた田中の頭を撫でながら吉澤はゆっくりと画面へと視線を向ける。
新垣はそんな吉澤の表情を目で追った。
やがて、涙を流す吉澤。
新垣はそれを確認すると画面へと視線を向けた。
コートの中で孤立する藤本。
「留学して・・・これかよ。」
映像が終わると吉澤が呟いた。
「吉澤さんが見に来てくれないからですよ。」
吉澤はふっと苦笑して涙を人差し指の腹で拭うと新垣を見た。
「吉澤さん・・・大丈夫と?」
「うん。大丈夫。」と言いながら吉澤は立ち上がる。
「ちょっと行ってくる。大丈夫、そんな顔しないで。亀ちゃんのこと傷つけたりしないから。」
不安そうに吉澤を見上げる田中の頭を撫でる吉澤。
「ガキさん、明日はね、亀ちゃんと約束あるから、試合にはいけないんだ。」
吉澤は新垣にそう言って微笑むと「ありがとね。」と言い残し部屋を出て行った。
- 687 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:09
- 「なんで、ありがとって・・・。」
入口を見ながら呟く新垣に田中は微笑んだ。
「きっかけくれたからっちゃろ。」
「はぁ・・・。」と新垣はため息を漏らし、正座しいていた足を崩した。
「どげんしたと?」
「藤本さんのプレイ見たいんだけど・・・なんか・・・」
膝を抱えて顔を伏せる新垣を田中はじっと見つめていた。
- 688 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:09
-
- 689 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:10
- 「柴ちゃん、このあと空いてる?」
なんとなく、このまま明日を迎えるのが嫌だった後藤は仕事を終え駅に向かう途中に声をかけた。
「梨華ちゃんとご飯の約束あるけど・・・。」
「そっか・・・。」
「ごっちんも来る?」
「邪魔じゃない?」
柴田は「邪魔ならちゃんと断るよ。」と歩みだす。
後藤は笑みを零すと距離を置いて歩みだした。
- 690 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:10
- 薄暗い店内で柴田が来るのを待っていた石川は後藤と一緒に現れた柴田に片手を上げた。
「後藤さんも一緒なんだ。」
「駄目じゃないでしょ。」
2人のやり取りを見ながら石川の向かいに座った柴田の隣に腰を降ろす。
「明日、私の取材もしちゃう?マネージャーに連絡しないといけないからさ。」
手帳を開く石川をよそに柴田はメニューを手に取った。
「ごっちん、何食べる?」
「ちょっと、柴ちゃん、私の話聞いてる?」
「聞いてるよ。ちょっと待ってって。私、これにしよ。ごっちんは。」
「後藤もそれ。」
後藤が「すみませーん。」といいながら店員に向かって手をあげ、オーダーを済ませる。
「さてと、で、明日だっけ。」
「そー。スケジュール調整っていっても無いんだけどね。」
「無いんだ。」と笑う柴田の隣で後藤はおつまみに手を伸ばした。
- 691 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:11
- 「明日、私も試合見に行くし、その後はどう?」
「んー。それなんだけどさ。まだ私、書くって言ってないよね。」
笑顔だった石川の表情からそれが消えていく。
「全部書いたってね、梨華ちゃん。何も変わらないよ。」
「分からないじゃない。」
「分かりますよ。」と後藤が口を挟むと石川は驚いた表情で後藤に視線を向けた。
「ごとー知ってるんで。石川さんとよしこのこと。それにそのあとのことはごとーが関ってるし。」
「うそ・・・。」
「一応、親友なんで。今はよしこがどー思ってるか分からないけど。」
「ってことでごっちんもそう言ってることだし、書かないってことで。」
「ことでって。柴ちゃん。」
「だって、梨華ちゃんのために仕事してるんじゃないもん私。」
- 692 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:11
- 運ばれてきたパスタをフォークに起用にまきながら言う柴田に後藤は笑みを零した。
「結局、私がいつも馬鹿をみるんだよ・・・。」
「何の話?」
柴田の視線に石川はため息をついた。
「勉強できないから、ちょっとでもって思って生徒会に入っていい子演じて、美貴ちゃんが留学したのをいいことに好きな人を手に入れようと失敗して、憧れてたアナウンサーにはなれなくて、なんとかなれたお天気お姉さんの仕事がなくなったら私を使ってくれる局はなくて、ここ最近、オファーがあったっていったらヌード写真集出さないかだって。笑えるでしょ。」
自虐的に笑った石川はグラスのビールを飲み干し「お代わり。」と店員に声をかけた。
その様子を黙って見ていた柴田と後藤。
冷えたビールがテーブルに届くと再び石川はそれを一気に飲み干す。
- 693 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:11
- 「で、幼馴染が苦しんでるのをネタに仕事のチャンスを掴もうとして、親友の私に頼ってみたけれど見事に振られて、こうして今はアルコールに頼るんだ。」
柴田がそういうと石川は「何よ。悪い?」と呟いた。
タバコの煙を吐き出した柴田は白けた目で石川を見た。
「確かにいい子演じてたかもしれないけど、人の弱みに付け込むような子じゃなかったな。一生懸命、頑張ってたよ・・・あの頃の梨華ちゃん。」
石川は「かもね。」と自虐的な笑みを浮かべた。
- 694 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:11
-
- 695 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:11
- 吉澤は電車を乗り継ぎ、実家へ向かっていた。
実家の最寄り駅に着くと携帯を取り出す。
『吉澤さん?』と聞こえてくる愛しい亀井の声に笑みが零れた。
「亀ちゃん、明日さ。」
『うん。駅で待ってるよ。品川の。』
「いいんだ。」
『え?』
「そんな不安そうな声ださでよ。会いたくなるじゃんか。」
『だって・・・ガキさん・・・。』
「来たよ。ビデオ見た。美貴の試合の。でも大丈夫、何も心配いらないよ。」
『吉澤さん。』と明るい亀井の声が聞こえてきた。
- 696 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/02(土) 00:12
- 「明日ね、亀ちゃんに祝ってもらおうって思って会社休み取ったんだ。」
『ほんと?』
「ほんとだよ。だから、亀ちゃんの大学の門で待ってるよ。昼に終わるんでしょ?」
『うん。じゃ、終わったら直ぐ行く。ホント直ぐだよ。飛んでくから。』
「よし。じゃぁ。おやすみ。」
『おやすみなさい。』
実家がある方向へ歩みを進めながら吉澤は携帯をポケットに仕舞うと駆け出した。
- 697 名前:clover 投稿日:2007/06/02(土) 00:35
- 本日の更新以上です。
>>653-696
33.親友の決断
えぇぇっと。藤本さんまで居なくなってしまって・・・
どうしよっかなぁ・・・状態なんですが。
更新しました。
色々、考えさせられる・・・。
ってかこのストリーに影響は出てくるんだろうな・・・。
>>648 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
>亀井さんにも藤本さんにも吉澤さんにも幸せになって欲しいなぁ。
そうですね。
藤本さん・・・。どーしよ。
>>649 :亀かめカメ 様
レス有り難うございます。
>ガンバレ吉カメ
>動き出せガキさん
ガキさん自分の中で物凄く応援してます。
>>650 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>動き出したガキさん凄い気になるぅ
>亀ちゃんがんばれ
2人には幸せになってほしいと思ってます。
>>651 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>こんなガキさんと亀井さんみたいな関係羨ましいです。
2人にはこんな関係で居て欲しい願望。
>>652 :名無飼育さん 様
>こんな時にでも美貴様再起動を願う
んー。考えてみますw
- 698 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 17:48
- 更新お疲れ様です。
みんなそれぞれが歩き出そうとしている。
ガキさんがリアルと被り、藤本さんと吉澤さんがリアルと被ってしまいそうです。
ストーリーに影響出てしまったとしても、それもまたcloverさんの選択だと思うので
自分はひたすらついて行くだけです。
次回も楽しみにしています。
- 699 名前:ももんが 投稿日:2007/06/03(日) 00:25
- 更新お疲れ様です。
今回れいなが気になってたまらなかったです。みんなと違う生き方のれいなに疑問いっぱいです。
どんなお話でもcloverさんの書くストーリー楽しみにしてます!!
- 700 名前:通りすがりの人 投稿日:2007/06/03(日) 16:02
- 更新お疲れ様です
吉亀がんばれ、れいにゃーかわいすぎ
自分だけの生き方を持ってるれいにゃーがちょっと羨ましいですw
次も楽しみにしてます!!
- 701 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:15
- 34.ハッピーバースディ
- 702 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:16
- 吉澤の家をあとにした新垣はなんとなく、真っ直ぐ家に帰る気がせずに近所の公園のブランコに揺られていた。
藤本の本当のプレイを見たいだけの自分の我侭。
こんな行動を取ってよかったのだろうか。
皆に迷惑をかけていいのだろうか。
ギー、ギーと鳴るブランコの音を聞きながら
どんどんとネガティブモードになっていく新垣。
「わぁ・・・」
自分が凄く最低な人間に思えてくる。
ブランコを止め、両手で顔を覆った新垣はため息を漏らした。
- 703 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:16
-
「ガキさん?」
そう、新垣に声をかけたのは道重の家から一人先に帰ってきた小川だった。
「どーだった。吉澤さん。」
隣のブランコに腰掛け漕ぎながら尋ねる小川。
「さゆから聞いたの?」
「まーね。」
「最低だって。さゆ、怒ってなかった?」
「そんな子じゃないってガキさんが一番よく知ってるでしょーが。」
勢い良く漕ぎ出し笑みを零す小川に新垣は頷いた。
- 704 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:16
- 「重さん、ガキさんのこと心配して、のんちゃんとのデート家にしたんだよ。直ぐにガキさんのところに行けるようにって。」
新垣は「うぅー。」と呻りながら再び両手で顔を多い涙を零した。
何も言わずギー、ギーと大きな音を立てる小川。
「私さ・・・。」
小川は地面に足を下ろすとズズーと音を立ててブランコを止め新垣に視線を向けた。
「吉澤さんの代わりに私じゃだめかなって思ったりしたんだ。」
「変わりって?」
新垣は小川に視線を向けると目を細めて微笑んだ。
「藤本さんを見る役。」
「好き、なんだ。」
新垣は鼻に皺を寄せて首を傾げた。
- 705 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:17
- 「分からないの。亀が吉澤さんをさゆがのんつぁんを好きっていう気持ち・・・私の藤本さんへの気持ちってそれと同じなのかな・・・。どーなんだろう。じゃぁ、いつ、どうしてそう思うようになったの?きっかけはなに?」
新垣の話しを聞きながら小川は困った表情をみせる。
「そんな風に考えちゃうの・・・。おかしいよね。」
苦笑する新垣に「慎重なだけ、だよ。」と小川が呟く。
ギー。ギー。と小川が揺らすブランコの音が響く。
「傷つきたくない・・・弱虫なの。」
「みんなそうだよ。誰だって、傷つきたくないよ。でも、傷つかない人なんていない。」
小川は悲しそうに目を伏せてブランコを揺らした。
- 706 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:17
- 「まこっちゃんも何かに傷ついてる?」
好きな人が別の人に目を向けてる。
自分の気持ちに気が付いても貰えず。
傷・・・ついてるよ。
そして、素直に気持ちを伝えられない自分は
きっと同じくらい弱虫なんだろうね。
「重さんが心配してるから、そろそろ戻ったら?」
「あ・・・うん。」
「よっ。」とブランコから飛び降りた小川は新垣に笑顔を向けた。
「明日の試合、ガキさんが見たい試合になるといいね。」
新垣は頷くと自宅へと歩みだした。
小川は新垣を見送りながら「頑張れ。」と呟いた。
- 707 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:17
- ポイントゲッターになろうとは思わない。
自分の役目はそうじゃないことは分かってる。
花形選手になれるのはほんの僅かな人たちだから。
でも、花形選手は自分だけの力でそうなれるわけじゃない。
支えてる、仲間がいるからなれるんだ。
いつか新垣に僻みだと怒られたことを思い出した。
バスケでトップになるよりも・・・
愛する人の中でトップになりたい・・・。
小さくなっていく新垣の背中を見つめながら小川は自分の気持ちがどんどん強くなっていることを知った。
- 708 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:18
-
- 709 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:18
-
母親の言葉に明日の試合に備えて藤本はストレッチをしていた体を起こして慌てて窓の外を見た。
「よっちゃん・・・」
家の前に俯き立つ吉澤の姿を確認すると部屋を飛び出て階段を駆け下りた。
「よっちゃんっ。」
玄関のドアを開け目の前にいる吉澤に抱きついた。
「美貴。」
「戻ってきてくれたんだ。」
着ていたシャツを握り締める藤本の手を吉澤はゆっくりと解いた。
「話し、しにさ・・・。上げてもらえる?」
- 710 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:18
-
- 711 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:18
- ベッドを背凭れにさせて座る吉澤を見るとやはり、昔と何も変わっていないと想いながら、藤本は昔からの定位置、吉澤の右隣に腰を降ろした。
「ガキさん・・・分かる?」
目を合わせずに話し出した吉澤に藤本は頷いた。
「困ったよ。ホント・・・。」
苦笑する吉澤に「ん?何が?」と顔を覗き込む藤本。
「ガキさんは亀ちゃんと幼馴染で、親友で、お互い大切な存在なんだよ・・・。なのにさ、美貴のちゃんとしたプレイが見たいから、うちを美貴に返して欲しいって・・・ガキさん亀ちゃんに言うんだよ。亀ちゃんもさ・・・そんなガキさんを受け入れてて・・・。ガキさんが今日ね、ビデオ持ってきた。美貴の練習してるところ。明日の試合、見に行ってくれってお願いされた。」
「うん、来てよ。美貴にとって明日、大切な試合なんだもん。来てよ。」
一度も自分に視線を向けようとはしない吉澤の腕を掴む藤本。
- 712 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:19
- 「明日はね、うちにとっても大切な日なんだよ。だから、行けない。」
ゆっくりと大きな瞳を藤本に向ける吉澤。
「誕生日・・・。でしょ。」
「うん、一年に一度しかない日だから、大切な人と過ごしたいんだ。だから、美貴の試合、見にいくこと・・・出来ない。」
藤本は吉澤の腕を掴んでいた手をゆっくりと離すと不機嫌な表情で吉澤に視線を向けた。
「大切な人、美貴じゃないんだ。美貴がお願いしてるのに来てくれないんだ。」
ムスッとした表情の藤本を吉澤は表情を変えず真っ直ぐと見つめて頷いた。
- 713 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:19
- 「ね、どーして代わっちゃうの?よっちゃんさ、美貴のこと好きだったよね?美貴とずっと一緒に居たいって言ってくれてたよね?それがどーして代わっちゃうわけ?」
「ずっと一緒に居たかったんだよ。一緒に側で・・・。でも、美貴は留学しちゃった。うちを置いて。」
「それはっ・・・。」
「分かってるよ。美貴には美貴の言い分があるかも知れないけど、でもね。」
吉澤は藤本の言葉を遮って続けた。
- 714 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:20
- 「美貴はうちよりもバスケを選んだ。バスケをやってる美貴、好きだよ。見てるのも一緒にプレイするのも好きだよ。でもね、それは同じ部活に居て、一緒に居る時間が長いから。そういう時間を過ごすのも良いんだよ。でもね、環境が変わっていくと違ってくるんだよ。うちは美貴のプレイだけの生活に満足なんて出来ないよ。同じコートに居れば、そこで交わす会話もあるだろうし、同じこと考えたり思ったりするんだろうけど・・・でも、そういう時間って長い時間の中で一時なんだよ。美貴が留学して・・・うちは・・・どうしていいのか分からなくなった。だから、梨華に甘えた。梨華の美貴だと思っていいよって言葉に一時、救われた。でも、それも直ぐに終わった。ごっちんにね、梨華は美貴じゃない。梨華を傷つけてるって言われて・・・とんでもないことしちゃったって後悔した。美貴と梨華・・・うちにとって大切な人なのにって・・・それでね、うち馬鹿だから、もうどうしていいかわからないでさ、とった行動が・・・死んじゃおうって・・・。」
藤本の目が大きく見開かれた、吉澤は苦笑いを零す。
- 715 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:20
- 「ごっちんに助けられたんだけどね。馬鹿な真似するなって。すげー怒られた。なんだか恥ずかしくってさ。神様も、うちのこと死なせてくれないし。あぁ、うちって人間としても認められてないなぁって。人間だけじゃん・・・自分で自分の人生の幕を下ろせるのって。だからね、せめて人間だって認められたいとかって思った。まだ、うち、何にもしてないじゃんって。一人になって最初からやり直そうって思った。やり直して出会ったのが亀ちゃん。」
吉澤は「亀ちゃん。」と口に出して笑みを零した。
「亀ちゃんと出会ってね、この子の気持ちに応えたいって思った。でもいつからかな、うちがさ応えてあげたいとかしてあげたいとか思ってたのに、亀ちゃんと一緒にいるときの空気に凄い・・・なんだろう、安らぎみたいなの感じてるんだ。美貴と梨華と居るときとはまた違った安らぎ。今日はどんな話ししてくれるんだろう、今日は2人で何をしようか・・・そんなこと考えてるだけで、幸せだなって感じる。」
ムスっとして俯いている藤本の顔を見た吉澤は「ねぇ美貴。」と名を呼び視線を向けさした。
- 716 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:21
- 「まだね、時間がかかるかも知れないけれど。いつかね、昔みたいな3人に戻れるといいなって・・・うちがこんなこと言える立場じゃないけど・・・いい思い出にしたいんだ。あの頃を思い出したくないなんて思って生きているのって悲しいからさ。だから、うちが見てないからってあんなプレイしたりしないで欲しい・・・。美貴のプレイを楽しみにしてる人は沢山いるんだ。うちをさ・・・見返すくらいのプレイしてよ。うちが見てなくても藤本美貴は凄いんだぞっていうさ・・・。頼むよ・・・。」
頭を下げた吉澤を藤本はただ、眺めていた。
「美貴の知ってるよっちゃんじゃないね・・・。」
「え?」
「美貴の知ってるよっちゃんは・・・美貴と梨華ちゃんの前だけ凄い甘えん坊で・・・そんな風に自分の意見ちゃんと言える子じゃなくて、いつだって笑顔で美貴の我侭に付き合ってくれて・・・」
「大人になったのと・・・亀ちゃんのお陰かな。」
「もう・・・いい。分かった。ちゃんと別れる。」
ため息をつき、膝を抱えて顔を埋める藤本。
「美貴・・・ごめんね、今まで逃げてて。」
- 717 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:21
- 「もう、いい。分かったから。それ以上、何も言うな。」
「うん・・・じゃぁ・・・帰るね。おやすみ。」
顔を上げない藤本を心配そうに見ながら吉澤は立ち上がった。
「明日の試合、頑張ってね。」
部屋を出る前に吉澤がそういうと藤本は顔を上げた。
「よっちゃん。」
「ん?」
藤本は腕時計を見てから吉澤に視線を向ける。
「誕生日、おめでとう。」とぶっきら棒に藤本は呟いた。
「ありがと。」
「もー、早く帰れ。馬鹿。」と不貞腐れる藤本に吉澤は「分かってる。」と笑みを零して部屋を出た。
- 718 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:22
- 懐かしく思える通りを吉澤はゆっくりとした足取りで歩んでいた
3人で歩いていた道。
思い出すことも嫌だと思っていた思い出が吉澤の脳裏にどんどんと蘇ってくる。
吉澤は笑みを零しながら夜空を見上げた。
「よっちゃん。」
聞こえてきた声に足を止めた吉澤は目の前にいた声の主に笑みを向けた。
- 719 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:22
-
- 720 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:22
- 「おはよ。亀。いつまで寝てんのよ。大学遅刻するでしょーが。」
亀井の部屋。新垣の声が響く。
ベッドの上の部屋の主は「うぅー。まだ、大丈夫だよ。」と背を向けた。
「こらぁ。亀。おきなさい。」
新垣が布団を剥ぐと亀井は無言で体を起こしうつろな目を新垣に向ける。
「遅刻するからぁ。早く着替えて。」
「ガキさん、今日、サボるんでしょ。試合行くから。」
「そーだけど。」
「絵里、一人で行くんだよ。」
「駅まで一緒に行くから。」
「さゆものんつぁんと行くんでしょ。」
「みたいだね。」
「皆、サボってズルイ。」
「はぁ?いいから早くベッドから降りて、顔洗って着替えなさい。」
新垣は亀井の手を引いてベッドから降ろすと部屋のドアを開けた。
- 721 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:23
- 「顔、洗ってきなさい。」と亀井の背中を押して部屋から出す。
一人になった亀井の部屋で新垣は大きなため息をついた。
今日、吉澤が会場に来ることは無いのだ。
「ガキさーん。いでっ・・・。」
ドアの外で亀井のそんな声に新垣は散らかった亀井の机の上から眼鏡を手にしてドアを開けた。
「はい。」とそれを亀井に手渡し、亀井が眼鏡をかけるのを待って机を指差した。
「ちょっとは片しなさいってば・・・。」
「大丈夫、ってか絵里にそういうのやれっていっても無理だし。」
亀井は母親が畳んで置いて行った洗濯物の中から服を取り出し着替え始める。
新垣はそんな亀井を見ながら散らかった机の上の食べ終えたお菓子の袋やペットボトルをゴミ箱へと運んだ。
- 722 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:23
- 「今日って、吉澤さん来るのかな?」
一足先に駅で新垣のことを待っていた道重と辻と小川。
道重の言葉に2人は首を傾げた。
「ガキさん、昨日は大丈夫だからって言ってたけど・・・。」
「さゆが悩んでも仕方ないって。」
「うん。そーだけど・・・。」
「あっ来たよ。」と小川が亀井の手を引いて向かってくる新垣に手を上げた。
「あれ?待っててくれたの?」新垣は道重を見て笑みを零す。
「うん、一緒に行こうと思って。」と道重が言う。
「絵里だけ大学・・・。」
「絵里。仕方ないの。何かあったら直ぐ電話してね。」
どっちの味方にもなれない道重はそう言って亀井の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。さゆ。ありがとね。」
亀井はそう笑顔を見せると「じゃ、絵里は、ま・じ・めに大学行ってくるね。」と新垣の肩を叩き反対側のホームへと向かっていった。
- 723 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:24
- 「吉澤さん、どっちに行くんだろう。」
「会場には・・・来ないって。はっきり言われた。」
「そっか。」
道重と新垣の会話を辻と小川は黙って聞いていた。
「じゃぁ・・・凄いプレイは見れないかな・・・。」
肩を落とす辻の肩に小川の手がのる。
「まぁ、行って見てみないとわかんないじゃん。行こうよ。」
小川の言葉に3人は頷き電車を待った。
- 724 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:24
-
- 725 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:24
- 「目玉は藤本先輩・・・だよね。」
「もちろん。」
藤本の名が無かったらこんなには記者が集まらなかっただろう。
藤本の名が無かったらこんなにも学生が集まらなかっただろう。
「さすが、だね。」
「でも、プレッシャーだろうね。藤本さんにとっては。」
「そうかな?」
「普通そうじゃないの?」
「んー。ごとーはそう思わないんだよねぇ。プレッシャーに強い人を凄い近くで見てるからかも。ここだって時に一人で頑張っちゃう人。ごとーは知ってるから。だから、チャンスなんだって思うけどな。」
後藤の言葉に「そう・・・かもね。」と柴田が微笑む。
2人並んで騒がしい会場の雰囲気を楽しんだ。
もう直ぐ、アップをしに選手たちが出てくるだろう。
- 726 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:25
- 「梨華ちゃん・・・来ないね。」
スタンドに視線を巡らせ呟く柴田。
「直前に来るかもよ。」
「だといいけど・・・。吉澤さんも来てないみたいだし。」
「よしこは・・・きっと来るよ。」
「なんで?」
「今日はよしこの誕生日だから。藤本先輩のことまだ、ちゃんと終わってないから。」
わぁっと歓声が沸き起こり選手たちが入ってきた。
柴田は選手ではなく後藤へと視線を向ける。
「じゃぁ、賭けしよっか?」
「んぁ?」
キョトンとする後藤に柴田は微笑む。
- 727 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:25
- 「今日は取材もないし、写真も取らなくて良いし。暇でしょ。だから。」
「んー。いいけど。何を?」
「吉澤さんが来るか来ないか。」
「じゃなくて、何を賭けるの?」
「ごっちんが勝ったら、私は会社辞める。」
「はっ?」
「私が勝ったら・・・ごっちんは・・・私と付き合う。」
驚愕の表情で柴田を見つめる後藤。
柴田は「決まりね。」と微笑んで選手たちへと視線を向けた。
後藤はしばらく柴田の横顔を眺めていた。
- 728 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:26
- 「よかったぁ。間に合って。」
後藤の肩に手を置いたのは松浦だった。
「あっ、まっつぅ。」
驚いて慌てる後藤に首をかしげながら松浦は後藤の隣に腰を降ろす。
「あれ、なんで2人とも仕事道具持ってないの?」
「今日は仕事しないから。」
柴田は何もなかったように松浦に言う。
後藤は気まずさを覚えながら二人の間に挟まれて練習を眺めた。
- 729 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:26
-
- 730 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:26
- 「やっぱり、動きは一番いいね。」
アップする藤本を見て辻が呟くとその隣で小川が頷く。
心配そうに藤本を見る新垣の隣で道重は双眼鏡を覗いてスタンドを見渡す。
もしも、吉澤が来ていたら・・・そしたら直ぐに亀井のもとへ行こう。
道重はそう、決めていた。
ここに来たということは吉澤は藤本を選んだことだと思うから。
余計な心配なのかもしれないけど自分に出来ることはそれくらいしかない。
まだ、吉澤の姿はない。
道重はほっとして双眼鏡を膝に置いた。
- 731 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:27
- 「ねぇ・・・のんの見間違いかな?」
辻は隣にる小川にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「ん?」と小川も2人に気がつかれないように辻を見る。
「あれ・・・。あいぼん?」
辻の視線の先へと小川も視線を移す。
「だね・・・。」
「だよ・・・ね。」
「痩せた・・・ね。」
「ちょっとね。」
2人の視線の先にはベンチでドリンクやタオルの準備をしているマネージャーの姿があった。
「のんちゃん?」
「ん?」
「見すぎ・・・。」
「あぁ・・・うん。」
辻は気がつかれていないかと道重に視線を向けた。
「どうしたの?」
「んー。なんでもない。」と直ぐに選手たちへと視線を戻した。
小川はまた、心配事が一つ増えたとため息をつきながら新垣に視線を向ける。
眉間に皺を寄せたままの新垣がなんだから可愛らしくて小川は笑みを零した。
- 732 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:27
-
- 733 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:28
- 「みきたぁーん。頑張れよ。」
アップを終え汗を拭う藤本に松浦の大きな声援が飛ぶ。
藤本はキョロキョロとスタンドを見渡すと立ち上がり手を振っている松浦を見つけた。
「相変わらず、声が大きいな・・・。」
藤本は呟き笑みを零すと片手を挙げて松浦に応えた。
「さてと・・・。」
藤本は目を閉じて両頬をパンパンと叩いた。
吉澤はもう、自分を見に来ることは無い。
自分に残ったのはバスケだけだ。
自分の魅力はバスケなんだ。
吉澤は人生のパートナーではなかった。
自分のミスでそうでなくしてしまったんだ。
バスケをやっていたから・・・。
「それでも、美貴にはこれしかないんだよ。」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で藤本は呟いた。
新垣は来ているだろうか。
自分のために幼馴染に恋人と別れて欲しいとまで言ってくれた子。
自分のプレイを底までして見たいと思ってくれている子。
「いた・・・。」
新垣を見つけ、辻や小川の姿も目に入る。
藤本は笑みを浮かべた。
- 734 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:28
-
- 735 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:28
- 「藤本さん・・・別人じゃん・・・。」
「アレが本当のみきたんだし。」
「ごとーの知ってる藤本先輩より凄いかも。」
「そりゃ、チームメイトが当時より上手い人たちだもん。当たり前じゃん。」
「そっか、そっか。まっつーさすが元マネだね。」
「んー。でも、吉澤さんとのコンビには敵わないね・・・。」
驚く柴田と後藤をよそに松浦は「みきたん、遅い。」と激を飛ばす。
「吉澤さん・・・来てるの?」
柴田はスタンドに視線を向けた。
「来てないですよ。今朝、美貴たんからそうメールありましたから。」
柴田は「そう・・・。」と後藤に視線を向ける。
困った顔を見せた後藤に「だって。」と呟き藤本の試合に視線を戻した。
- 736 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:28
-
- 737 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:29
- 興奮する新垣の隣で道重は必死にスタンドの人を確認していく。
吉澤の姿は見当たらない。
「どういうこと?」と呟く道重の声は試合に夢中になる3人には届かない。
「速い。よし。」
確実にパスを出す藤本。
マークを外しポイントを取っていく藤本。
新垣が知っている藤本よりも目の前でプレイをする藤本は数倍凄いプレイをしていた。
吉澤は藤本に何を言ったのだろう。
たった、1日でこれほど影響を与える吉澤はやはり藤本にとって特別な存在なのだろう。
藤本の凄いプレイを見た新垣は自分の気持ちがなんだったのかやっと理解できた。
- 738 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:29
- 「さゆ・・・。」
「ん?」
「私さ・・・」
前半戦を終え、ベンチに戻る藤本を眺める新垣の横顔を道重は不思議そうに見つめる。
「私・・・ホント、自己満足のためだけに亀に酷いことしちゃった・・・。」
「えっ?」
「舞い上がってた。あの、藤本美貴に私がなにか影響できるんじゃないかって。藤本さんが凄いプレイしたら、少しはそのプレイに自分も関ってるってことになるんじゃないかって。そう思いたい自己満足・・・ヲタの自己満足・・・。藤本さんの努力だし、実力であのプレイがあるのに・・・余計なこと・・・した。失敗したなぁ・・・。」
苦笑しながら目に涙を溜める新垣。
小川は辻と道重を挟んでそんな新垣を見ていた。
「そんなこと・・・ないよ・・・。ガキさんにきっと藤本さん助けられた部分あると思うよ。」
ハンカチを差し出しながら道重の声はとても小さかった。
「ありがと。」
ハンカチで目頭を押さえながら新垣は呟く。
「でも、はっきり分かった。あんな凄いプレイ・・・努力と実力が無かったら出来ないよ。それと・・・気持ち・・・。それはきっと昨日、吉澤さんと会ったから・・・。私は何もしてない。」
「吉澤さんと会わせたのはガキさんでしょ。」
「それは・・・藤本さんのためじゃない。結局は自分のため。それが自己満足だって分かったの。」
道重は何か言おうとしたけれど、言葉が見つからなかった。
- 739 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:30
- 「ねぇ、さゆ。」
「ん?」
「私さ・・・やっぱり誰かを愛するって気持ち・・・分からないや・・・。」
寂しそうに笑う新垣を道重は心配そうに見つめるだけでやはりかける言葉は見つからなかった。
- 740 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:30
-
- 741 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:31
- 授業中にいつも私語を交わす相手がいない亀井。
それでも今日はつまらないなんて思わない。
亀井は今日、何度も小さな箱を手にとって眺めては笑みを零していた。
つまらない講義が終わるまであと15分。
亀井は開くことの無かった参考書とノートをカバンに仕舞い始めた。
5分前。
亀井は時計と睨めっこをしながら教室を出るスタンバイ。
1分前。
教授の半紙が終わる前に亀井は立ち上がる。
ゆっくりとドアに向かい、授業終了の合図と同時にドアの外へと出ると校門に向かって一目散に駆け出した。
- 742 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:31
-
- 743 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:31
- 午前中の試合が全て終了。
藤本は記者たちに囲まれフラッシュの光に目を細めていた。
不調だと言われていたのが嘘の様なプレイ。
「どっちにしてもああいう取材は私には無理だわ。」
藤本を見ながら柴田が呟く。
「ごとーも。」
後藤は藤本に向けて苦笑した。
「あの人たちもコメントなんて取れないと思うよ。」
松浦の言葉に柴田は「どーして?」と尋ねる。
「だって、美貴たん愛想悪いですから。あぁ言うの嫌いだったし。昔から。」
松浦の言う通り、藤本が何か話している様子は伺えない。
柴田はそんな藤本を見て苦笑をもらす。
- 744 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:32
- 「仕事しにくい相手だわ。」
「確かに、でもやっぱり実力はあるから注目されるだろうね。先輩が嫌いだって言ってもカメラもマイクも向けられるよ。」
「梨華ちゃんまだ、来ないね。」
「急な仕事かもよ。」
「んー。ってことは私がここに居る理由はもうないし。仕事残ってるからオフィスに戻ろうかな。」
「じゃぁ、ごとーも。」
後藤は先ほどの柴田の賭けのことを気にしながら松浦に視線を向けた。
「まっつぅ・・・。」
松浦にどうするか聞こうとした後藤は途中でやめた。
藤本を視線で追う松浦の表情を後藤はとても懐かしく思った。
「ごっちん?」
「ん。まっつぅはまだ見てくでしょ。」
「あっ、うん。」
後藤の声にも松浦は藤本から視線を反らさずに頷いた。
- 745 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:32
-
- 746 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:32
- 「のんっ。」と言う女の子の声にその名の辻に小川、そして道重と新垣が振り向くと小柄な少女が通路に立っていた。
「あいぼんっ。」
辻がそう言って立ち上がる。
「誰?」と新垣が小川に耳打ちすると小川は困った顔で笑みを浮かべた。
道重はじっと辻の様子を伺っている。
- 747 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:33
- 「のん。元気やったか?」
「うん。あいぼんは?」
「見ての通り元気や。嬉しいわぁ。こんなところで会えて。」
「マネージャーやってんだ。」
「見とったん?」
嬉しそうに微笑む少女。
「辻さん?」
背後からの道重の声に辻は慌てて振り向いた。
「あぁっと・・・高校、一緒だったの。」と辻が呟く。
「半年くらいだけやったけどね。加護亜依です。」と少女が会釈をする。
「辻さんとお付き合いしてます。道重さゆみです。」
ムスっと加護に大して敵意を現す道重。
「そーなん。よろしくな。で?まこっちんにも出来たんだ。」と加護は道重を相手にはせずに新垣に視線を向けた。
「ちがっ、違うよ。」と慌てて手を振る小川。
「友達の新垣里沙です。」
新垣は慌てる小川に苦笑をもらしながら会釈する。
「なんや違うんか。」と笑みを浮かべる加護。
「なぁ二人ともまだバスケしとるんやろ?」
頷く、辻と小川。
- 748 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:34
- 「ほな、卒業したらうちのチーム来たら?まだ、弱いチームだけど。二人なら受かるやろ?」
「大阪のチームじゃん。無理だよ。」と小川が笑った。
「まー。まこっちゃんはそーかもね。」と加護は新垣へチラッと視線を向けた。
「のん、考えておいてくれへん?」
加護は辻の手を握ってそう言うと「もう、いかなっ。これ。名刺、連絡ってる。」と小走りに人ごみを去っていった。
名刺には携帯番号とメールアドレスが記載されていた。
辻はそれをカバンに入れるとベンチに腰を降ろした。
- 749 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:34
- 「大阪行っちゃうの?」
心配そうに言う道重。
「まだ、のんは大学生だよ。」
「卒業後は分からないってこと?」
「さゆ?」
「なんで、行かないって言ってくれないの?」
「人、見てるから。」
「関係ないもん。なんで言ってくれないの?」
「なんでって。」
座っている辻を道重は立ったまま見下ろし、あからさまに不機嫌な表情をしていた。
「さゆ、あとにしなよ。お昼、行こう。」
「ガキさんは黙ってて。」
新垣は苦笑して小川に視線を向ける。
小川は首を横に振ると自分の席に腰を降ろした。新垣も二人を横目に座る。
「ねぇ、何で?」
「あと、何年後のことなんか分からないじゃん。」
「ずっと一緒にいるって言ってくれたじゃん。」
「そうだけど・・・。」
「じゃぁ、行かないでしょ。そう言ってよ。」
「のんは・・・バスケ続けたいから・・・わかんないよ。」
最後の辻の声はとても小さかった。
- 750 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:35
- 先のことなんて分からないことくらい道重だって分かってる。
それでも、言って欲しいだけ。言ってくれるだけで安心できたのに。
道重は「ごめん。帰る・・・。」と通路へ歩みだした。
追いかける気配の無い辻を見た新垣が道重のあとを追う。
「ちょっと、さゆ?」
「ごめんね、ガキさん。ホントは今日はさゆがガキさんの側に居てあげたかったんだけど。」
「あぁ・・・。私は大丈夫だよ。さゆ?」
「うん、さゆみも平気なんだけど、今は辻さんと居たくないし、向こうもそう思ってるだろうし。だから、さゆみが帰るよ。」
「ホントに大丈夫?」
「うん。ちょっと頭冷やしたいし・・・。」
道重は「バイバイ。」と手を振って人ごみに消えていった。
- 751 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:36
-
- 752 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:37
- 携帯電話を弄りながら亀井はひとり、校門の端に立っていた。
急いで来たそこに約束の相手は居なかった。
藤本のところに行ってしまったのだろうか・・・。
とてつもない不安を感じながら何度も吉澤の携帯に連絡を取ろうと試みたが吉澤の携帯は圏外か電源が入っていないらしく連絡が取れずにいる。
藤本のところに行っていれば、道重が連絡をくれるだろう。
それが無いということは行ってはいないはず。
そう信じながら亀井は吉澤のために買ったプレゼントを両手で包み込んだ。
- 753 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:37
-
- 754 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:38
- 気まずい雰囲気のなか小川が辻を連れて昼食の買出しに出掛けた。
「のんつぁんが悪いよ。」
「分かってるよ。」
小川は頷きながら天気の良い青空を見上げた。
「なんかさ、久々にかーちゃん見たら思ったんだけど・・・。」
「なに?」
「重さんと似てない?色白とかさ、スタイルとかさ・・・まぁ身長は全然違うけど。でもなんか似てるなって。」
「そーかもね。のんと反対のタイプだから二人とも。」
小川は辻の横顔を眺めながら「一目惚れって嘘だったの?」と歩を止めた。
「嘘じゃないよ。でも、あいぼんが居なかったからだと思う。」
辻は一度、立ち止まり振り返ってそう言うと直ぐに小川に背を向けて歩みだした。
「いなかったからって・・・。」
小川はそう呟きながら寂しそうな表情をした。
- 755 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:38
-
- 756 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:39
- 午後の試合も自分の力を出し切ったことに満足していた。
それでも取材陣に囲まれている藤本の表情は不機嫌だ。
ここで、こうしているよりも早く新垣にお礼を言いたかった。
「もう、いいですか?」
まだ、何も話しをしていない藤本の第一声に取材陣は困った様子を見せるが藤本は構わずその円から逃れた。
監督や仲間からの言葉に笑みを零しながら藤本は控え室から急いでスタンド席へと向かう。
「美貴たん。」
スタンド席の階段の手前で待っていたのは松浦だった。
「まだまだ、だな。」いう松浦に藤本は苦笑する。
「かなり精一杯だったんだけど。美貴としては。」
「頑張った、頑張った。」
松浦は藤本の頭を撫でながら笑みを零す。
泣きそうなった藤本は「はいはい。どーも。」と松浦の手を払いのけスタンド席へと階段を昇り始めた。
- 757 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:39
- 「ご褒美に焼肉でもいく?」
背後から聞こえてくる松浦の声に「んー。」 と返事をしながらスタンド席に視線を巡らす。
「辻ちゃんとかは?」
「帰ったよ。3人で・・・なんか用事あったの?」
「そっか・・・別に無いんだけどね。そっか。帰ったんだ。」
残念そうな顔をしながら藤本は「焼肉奢り?」と松浦に振り返った。
「しょーがない。奢ってやるか。」
藤本は「やった。」と笑みを零した。
- 758 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:39
-
- 759 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:40
- 「なに、この微妙な空気は・・・。」
辻と小川の間に挟まれて歩く新垣はボソっと呟く。
「ごめんね。」と小川が申し訳なさそうに呟いた。
「いや、別に謝ってもらわなくてもいいんだけど・・・。」
何も話しをしない辻と謝ってばかりの小川。
「藤本さん・・・良かったね。」
何か話しをしなければと小川はそう新垣に言う。
「うん。」
新垣は笑みを零す。
すっきりした表情の新垣に小川も嬉しそうに微笑んだ。
- 760 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:41
- 「麻琴、家まで送ってあげなよ。」
新垣が電車から降りようとすると今まで一言も話さなかった辻がそう言って小川を電車から降ろした。
ポンと背中を押され驚いた小川は閉まるドアを見て「ちょっと・・・。」と呟いた。
「あぁ〜。閉まっちゃったね。」
走り去る電車を見ながら新垣が笑っ。
「送るよ。」
「ん。」
素直に頷いてくれた新垣に小川は笑みを零し新垣の隣を歩く。
- 761 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:42
- 「昨日さ、私のこと慎重なだけだって言ってくれたでしょ。」
「あぁうん。」
「慎重とかじゃなかったみたい。」
「ん?」
「藤本さんのプレイ見てね、満足感は凄かった・・・・それだけだった・・・。」
ゆっくりと歩きながら新垣は「それだけだったよ。」と呟いた。
「恋愛とかそういう感情、私には分からないよ。」
「でもさ、誰かのために何かしたい。とか誰かの何かしてる姿を応援したい。とか・・・それって愛情の一つだと思うけどな。」
「ふーん。まこっちゃんはさ。どういう気持ちになるの?」
小川は新垣の横顔を見ながら照れたように頭を掻いた。
- 762 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:42
- 「頼りにされたり、頼りにしたり、甘えられたり、甘えたり・・・一緒にいてホッと出来たり、ドキドキしたり・・・。」
「なんか、かわいいね。」と新垣は微笑んで歩を停めた。
「じゃぁ、ありがと。」
家の前で新垣は小川に頭を下げる。
「ううん。」
「気をつけて帰ってね。」
「うん、なんか良かったね。」
「ん?何が?」
「ガキさん、すっきり顔してるから。」
「んー。結果オーライ・・・かな。」
「オーライって・・・。」
小川は笑いながら「おやすみ。」と手を振った。
「あっ、うん。おやすみなさい。」
新垣は首をかしげながら手を振り替えした。
- 763 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:42
-
- 764 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:44
- 校門の前で亀井は携帯を開いた。
もう、21時を過ぎている。
「誕生日、終わっちゃうよ・・・。」
まだ、吉澤と連絡をてれずに亀井はその場で待ち続けていた。
縁石に腰を下ろし亀井は携帯とにらめっこ。
「あっ。」
メール受信中の画面が表示され、亀井は吉澤からかもしれないと操作する。
『亀、吉澤さんと楽しく過ごしてる?私の方は藤本さんの見たかったプレイが見れて満足出来たよ。なんか、今回は私が凄い我侭で亀のこと傷つけたりしてごめんね。』
新垣からのメールだった。
「吉澤さんと一緒じゃないんだよ・・・ガキさん。」
思わず呟きと同時に涙が零れる。
- 765 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:44
- 亀井は新垣の番号を呼び出し通話ボタンを押した。
「ガキさん・・・。」
『亀?なに?どうしたの?』
「吉澤さんと一緒じゃないよ・・・。絵里、ひとりだよぉ。」
『えっ?嘘?どういうこ?』
「絵里、待ち合わせの場所間違えたかも。お昼からずっと待ってるんだけど、来なくて。」
『お昼からって・・・もう9時半じゃん。』
「絵里を9時間も待たせるなんて大したもんだよね。ハハ。」
『亀・・・今、どこ?』
「大学。」
『吉澤さんと連絡は?』
「携帯・・・繋がらないの。帰ったほうがいいかな?」
『もう少し・・・待ってみたら?何か、あったのかもしれないし。田中っちには?』
「吉澤さんの家に電話してみたけどれーなでなかった。携帯も。」
『そっか、亀、もう少しそこに居な。また、連絡するから。』
「えっ?ガキさん?」
既に電話は切れていた。
- 766 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:44
-
- 767 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:44
- 新垣はこめかみから汗を流し、走っていた。
「なんでよ。」
「どーいうことよ。」
「もぉーっ。」
独り言を言いながら新垣は必死に走った。
「なんで鍵かかってんのよー。」
新垣は吉澤の部屋のドアノブをガチャガチャと回した。
電話をかけてみたもののドアの向こうから音が聞こえるだけで誰の気配も感じられない。
「もぉー。田中っち?」
ピンポンピンポンと隣の田中の部屋のドアのチャイムを押す。
10回以上、押しただろうか。やっとドアが開いた。
- 768 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:45
- 「新垣さん・・・どうしたと?」
眠そうに目を細め、ボサボサの髪を手で押さえている田中。
「吉澤さんどこ?」
「え?絵里と・・・。」
険しい表情の新垣に田中は「一緒じゃなかと?」と眉間に皺を寄せた。
「亀、まだ待ってるの。」
「何しとーと吉澤さんは・・・。」
田中は「ちょっと上がって。」と新垣を部屋に上げる。
「今、着替えるけん。」
玄関に立ったまま部屋のなかを見渡した新垣はそのまま着替えている田中へと視線を向けた。
細く、色の白い田中の背中。
- 769 名前:ルーズボール 投稿日:2007/06/23(土) 22:45
- 「どこか・・・悪いの?」
新垣の声に田中は振り返り部屋の隅にある医療機器に視線を向け「ちょっとね。」と笑みを零す。
「大丈夫、なの?」
「うん、行こう。」
着替えを終えた田中は部屋の明かりを消した。
- 770 名前:clover 投稿日:2007/06/23(土) 22:58
- 本日の更新以上です。
ハッピーバースディの前半です。
残りは近いうちに更新します。
>>701-796
34.ハッピーバースディ
>>698 :名無し飼育さん 様
レス、有り難うございます。
>自分はひたすらついて行くだけです。
有り難うございます。嬉しい限りです。
最後までお付き合い宜しくお願いします。
>>699 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。
>どんなお話でもcloverさんの書くストーリー楽しみにしてます!!
有り難うございます。(>。<)ヽ
今後もよろしくです。
>>700 :通りすがりの人 様
レス有り難うございます。
>次も楽しみにしてます!!
有り難うございます。
- 771 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/24(日) 05:15
- アイツか!アイツなのかっ!
やばいワクワクするってかドキドキしちゃって大変
- 772 名前:ももんが 投稿日:2007/06/24(日) 11:56
- 大量更新お疲れ様です。
今回は吉澤さんに好感持てました。ちゃんと自分の意志で決めたんだなと思えました。
辻さゆにもちょっと波乱が…。ほのぼのだけじゃないんですねえ。個人的に結構気になってます。
みんなの恋の行方どうなるのか、後半楽しみにしてます!
- 773 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/25(月) 11:13
- あいぼん!!
- 774 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:51
- 「で、思い当たる場所とかあるの?」
「ないっちゃ・・・。」
「ないのかよっ。」
大通りまで出てきたもののどこを探したらいいのか分からず二人は行き交う車を眺めた。
「あっ・・・。」
「ん?なに?」
「新垣さん、藤本さんと連絡とれるっちゃろ?」
「うん。」
「じゃ、吉澤さんがいなくなったって伝えて。昨日、吉澤さん帰ってきてないっちゃ。藤本さんと会ったあといなくなったとよ。」
「あっ、うん。」
新垣は慌てて携帯を取り出し、藤本の携帯にかけた。
『もしもし?ガキさん?今日はありがとね。』
「あ、いぇ・・・あの、今、いいですか?」
『ん?どうしたの?』
「昨日、吉澤さんと会いましたよね。」
『うん。』
「そのあと、どこに行ったかしりませんか?」
『え?恋人と誕生日・・・。』
「吉澤さん行ってないんです。携帯も繋がらないし。どこに行ったのか知りませんか?」
『美貴は知ら・・・まって、梨華ちゃん?』
「石川さん?」
『さっき、変なメール来た・・・美貴はよっちゃん居なくても平気だね。って。』
「石川さんの家と連絡先・・・教えてください。」
『メールする・・・美貴も直ぐ行く。』
「お願いします。」
新垣は電話を切ると「とりあえず、駅行こう。」と歩みだした。
- 775 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:51
-
- 776 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:52
- 「よっちゃんがいないみたい・・・。」
新垣からの電話を切ると藤本は網の上にある肉を口に詰め込んだ。
「いないって?」
松浦は帰り支度をする藤本を見て自分も支度をする。
「これ、見て。どー思う?」
「ん?」
差し出された携帯を受け取りディスプレイを覗き込む松浦。
『美貴ちゃん、試合勝ったみたいだね、美貴ちゃんはよっちゃん居なくても大丈夫で凄いね、でも私は違うみたい。よっちゃんに側に居て欲しいよ。』
「意味深・・・ってか吉澤さん行方不明でこのメールって明らかじゃん。」
「だよねぇ。ったく・・・。」
「石川さんってさぁ。私、苦手だったなぁ。」
藤本は苦笑しながら立ち上がり「ご馳走様。」と松浦に伝票を渡した。
- 777 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:52
- 「美貴、タクシーで帰るわ。梨華ちゃんの家によっちゃんいると思うからさ。」
「私も行ったほうがいい?」
「大丈夫、ってか苦手なんでしょ?」
「んー。溜め込むタイプでしょ。石川先輩って。」
「美貴たちとは間逆だからね。」
「たち?」
「亜弥ちゃんも思ったこと直ぐ言うじゃん。」
「まーね。ってか早くいきなよ。」
松浦は大通りに歩み寄り手を上げてタクシーを停めた。
「ありがと。んじゃ、また。」
「また、って今度は美貴たんが奢ってよね。」
「はいはい。そのうちに。」
走り去っていくタクシーを松浦は笑顔で見送った。
- 778 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:52
- あの頃、追いかけていた藤本は吉澤のものだった。
今、ルーズボールになった藤本。
今まで一番、藤本の近くに居る。
松浦は振っていた手を下ろすと「はぁ・・・。」と小さくため息をついた。
- 779 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:52
-
- 780 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:53
- 「早かったね。」
藤本は新垣に笑みを向けると「全く・・・梨華ちゃんは。」と呟き石川の家の門を勝手に開けた。
「おばさーん。美貴です。開けて。」
ガチャガチャとノブを回す藤本。
「あら、美貴ちゃん、梨華は部屋よ。ひとみちゃんも来てるわよ。」
石川の母親がドアを開けそういうと藤本は「お邪魔します。」と入っていく。
新垣と田中も「お邪魔します。」と頭を下げて藤本について行った。
- 781 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:54
- 「梨華ちゃん、入るよ。」
石川の返事を待たずに藤本は石川の部屋のドアを開けた。
「うわっ。」と藤本の後ろで新垣が声を漏らし目を細めた。
「すごか・・・。」と田中が呟いた。
「ピンク好きなの、我慢したげて。」
藤本はそう言いながら部屋へ足を踏み入れる。
「よっちゃん、待ち合わせ場所に早く行きな。誕生日、終わっちゃうよ。」
石川の隣で石川に手首を握られて座っている吉澤。
吉澤は握られている手首を見ながらそっとそれを外す。
石川の手はすんなりと離れていった。
「吉澤さん、早く行ってあげて下さい。亀、待ってますから。」
「うん。」
「タクシー外におるけん。」
「ありがと。」
最寄り駅から石川の家が分からずタクシーで乗りつけた。
待たしておこう、と提案した新垣は正解だった。
田中は新垣の腕を肘で突いて微笑んだ。
- 782 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:54
- 「梨華ちゃん。それ、貸しな。」
藤本は右手に握られているカッターナイフを石川から奪った。
カタカタと音を鳴らして刃を仕舞う藤本。
「なんか、言うことは?」
「来てくれてありがと・・・。」と石川は俯き呟いた。
「何してんのさ。」
「だって・・・。」
「どうにも出来なくなって美貴にあんなメールしたんでしょ。」
頷く石川を見て藤本はため息をついた。
- 783 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:54
-
- 784 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:55
-
「亀ちゃん。」
『やっと繋がったぁ・・・。遅いよ。吉澤さん。』
「今、行くから。もう直ぐだから。もうちょっとだけ、待ってて。」
『誕生日、終わっちゃうよ。』
「大丈夫、終わったりしないから。待ってて。」
『充電なくな・・・。』
「もしもし?」
タクシーの後部座席で吉澤は舌打ちをして携帯を閉まった。
「もっと、急いでください。」
苛立った様子の吉澤にドライバーが少しだけスピードを上げた。
吉澤は腕時計に視線を落とした。
あと、10分。
亀井が通う大学の通りでタクシーを降りると吉澤は駆け出した。
大学の門まで車は入ることは出来ない。
- 785 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:55
- 「亀、ちゃん。」
肩で息をしながら歩を緩め、亀井の前に立った。
「あと、3分ある。」
「絵里はカップラーメンじゃないよぉ。」
「ごめん。」
「絵里をこんなに待たせるなんて大したもんだよぉ。」
「ごめん。」
「誕生日、おめでとうございます。」
「あり、がと。」
亀井は手に持っていた小さな箱を吉澤に渡した。
「あけていい?」
「うん。」
そっと包みを開き箱の蓋を開けた吉澤。
- 786 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:55
- 「これ・・・。」
「うん。」
「あの店の。」
「そう、藤本さんと再会したお店の。」
「行ったの?」
「れーなに付き合ってもらったの。」
「そっか、似合う?」
指に嵌めたそれを亀井に見せる吉澤は嬉しそうに微笑んだ。
嬉しそうに、でも、困った顔をして吉澤を見つめている亀井。
「亀、ちゃん?」
「どこに、いたの?」
吉澤は指輪を左手で撫でながら「梨華の家にいた。」と呟く。
「石川さん?」
「うちが悪いんだ。ごめんね・・・いっぱい待たして。」
「いっぱい、待った。いっぱい、不安になった。だから・・・自分が悪いで片付けないでよ・・・ちゃんと、絵里にも教えてよ。」
吉澤は手を伸ばし、亀井の頬に流れた涙を拭った。
「なに、してたの?」
「美貴と、ちゃんとさよならをしてきた。その帰りに梨華に会ったんだ。」
- 787 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:56
-
- 788 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:56
- 「よっちゃん。」
「梨華。」
「美貴ちゃんとこ?」
「うん。ちゃんと、さよならしてきた。」
石川は黙って吉澤に近寄ると手首を握った。
「うちにも寄ってってよ、お母さんもよっちゃんに会えたら喜ぶだろうし。」
「あ・・・うん。」
戸惑いながら石川に手を引かれ家に入っていく吉澤。
石川は「おかーさん。よっちゃん。来たよ。」と高い声をだした。
石川の母親は足早に玄関に出てきて「あらぁ。綺麗になったわね。」と笑顔を見せる。
吉澤は挨拶をして石川の部屋へと向かった。
「変わってないって思ったでしょ。」
「うん・・・。」
苦笑する吉澤を床に座らせてその隣に石川も座る。
- 789 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:57
- 「梨華・・・あのさ、うちもう、終電が・・・。」
「泊まっていけばいいじゃん。昔はよく泊まってたでしょ。」
吉澤は石川の態度に何も言えなくなり俯いた。
「美貴ちゃんとよっちゃん二人だけで解決しちゃって・・・私は蚊帳の外?」
「そういうつもりじゃ・・・。」
「私のことは?」
黙り込む、吉澤の顔を覗きこんだ石川は力が抜けたような笑みを零した。
「私が高校生になってからだよねぇ。」
石川は机の上にある制服姿の3人が映る写真に視線を向けた。
「私がいないところで色んな事が決まってた。」
吉澤は何か言おうとして石川に視線を向けた。
だが、何も言わずに石川の視線の先に目を向ける。
- 790 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:57
- 「梨華は・・・」
「そう・・・私が二人から距離置いたんだよね。学校の中で。」
「うちは高校に入るまでそんなこと知らなかった。」
「美貴ちゃん、そういうの言わないもんね。」
「うん。」
「ねぇよっちゃん。」
「ん?」
石川と視線が合った吉澤は体を強張らせた。
「私、よっちゃんに側に居て欲しい。」
「梨華、先にそれ貸して。危ないから。」
カタカタと音を立てて石川はカッターナイフの刃を出す。
「仕事も上手くいかないし・・・」
「うちが側にいたら・・・上手くいくの?」
吉澤はカッターナイフに視線を向けて呟く。
「心は満たされると思う。イライラもしなくなると思う。」
「幼馴染として、側に居ればいいの?」
「そうじゃなくて・・・。」
「うちには亀ちゃんがいる・・・今日も、会う約束してるんだ。」
「あ・・・おめでとう、誕生日だね。」
「うん。」
「昔は、毎年3人でお祝いしたよね。1月2月4月・・・懐かしいなぁ。」
「梨華がケーキ作ってくれてたね。」
吉澤が微笑み言うと石川も笑みを零した。
- 791 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:57
- 「そう、だって、二人ともそういうのやら無いじゃない。面倒とか言ってさ。あぁ、昔は何してても楽しかったなぁ。子共、だったからかな?」
「うちは・・・今も楽しいよ。頼れる職場の先輩がいて、うちを認めてくれるお客さんがいて、愛してくれて、愛する人が側に居てくれて、ネコが色々、助けてくれて・・・あとは幼馴染との関係を修復出来ればって思うくらい。」
カタ、カタと石川の手の中でカッターの刃が出たり入ったりする。
吉澤はそれを見ながら「美貴とはちゃんと向き合ったんだ。」と呟く。
「あとは私ってこと?」
「だね。」
「よっちゃん、私、ケーキ作ってあげる。ちょっと待ってて。帰ったら駄目だからね。」
突然、石川はそう言って立ち上がる。
吉澤を見下ろし「携帯、貸して。」と手を出した。
「なんで?」
「いいから。」
無表情な石川に吉澤は逆らうことはせずにポケットから携帯を取り出し、渡す。
「材料、買ってくるから寝ててもいいよ。」
石川はそう言って部屋を出て行った。
- 792 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:58
- 一人残されたピンク色の部屋。
吉澤は懐かしさを感じながら立ち上がり、机の上の写真たてに手を伸ばした。
もう何年も見ていなかった3人の制服姿の写真。
「わかっ。」と思わず声となる。
吉澤の高校の入学式の朝、吉澤の家の前で撮った写真。
いつも3人一緒だった。
でも一時、吉澤だけが違う時期がある。
藤本と石川が卒業した後、吉澤は一人で学校に通っていた。
羨ましかった。
同じ学年の二人が羨ましかった。
だから、甘えた。構って欲しくて。
置いていかれたくなくて。
子供だった。
側に居ないと・・・仲間はずれな気がして。
そうじゃないって分かったのは高校に入学してからだった。
石川と藤本は学校で他人として生活していることを知ったから。
数人のグループで行動している石川。
自由気まま一人、バスケをしている藤本。
自分はどっちと居ればいいのだろう。
いい子にして、石川といるか。
バスケ部に入って、藤本といるか。
- 793 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:58
- 藤本を愛した理由は・・・
簡単だった。
「よっちゃん。寂しいよ。」
藤本のたった一言だった。
- 794 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:59
-
- 795 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:59
- 「よっちゃん?起きて。」
石川に肩を揺すられて吉澤はゆっくりと瞼を持ち上げた。
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「朝?」
窓から差し込む光に目を細め吉澤は腕時計に視線を向けた。
「10時・・・行かないと。」
吉澤が立ち上がろうとすると目の前に真っ白なケーキが映った。
「駄目だよ。これからお祝いするんだから。」
ケーキに蝋燭を立てる石川の横顔を吉澤はただ眺めていた。
- 796 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:59
- 「夢、見てた。」
「どんな?」と蝋燭に火をつけながら笑みを向けた。
「高校のときの・・・この写真のせいかな。」
「ん?あぁそれ。懐かしいでしょ。」
「うん。」
「どんな夢だったの?」
「梨華と美貴が卒業した後ってさ。いつもうちはひとりぼっちになるんだよ。」
「え?」
全ての蝋燭に火をつけ終えた石川は不思議そうに吉澤を見た。
- 797 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 21:59
- 「入学するといつも梨華と美貴がうちを待っててくれたでしょ。幼稚園も小学校も中学校も・・・いつも3人でいてさ。うちは友達とか作らなかった。3人でいたほうが楽しかったから。でも卒業したあとってうちは一人なんだよ。1年間。うちはひとり。高校に入ったときは違った。梨華は・・・待ってなかった。美貴は寂しいって言った。」
「えっ?」
「寂しいって言ったんだ。」
「もしかして・・・だから?」
「美貴は・・・しっかりしてて、一人で大丈夫みたいに見えるけど、ホントはすっげー寂しがり屋で、負けず嫌いだから強がって・・・。美貴に寂しい想いなんてさせちゃいけない。うちは知ってたから一人が寂しいってこと・・・美貴のこと本当に好きだった。恋してたよ。バスケやってる美貴って凄いかっこよくて輝いてて・・・。美貴が居なくなるなんて考えたことなかった。梨華が高校で他人になって・・・美貴が留学して・・・卒業した梨華がうちの側に戻ってきて、ホッとした。あぁ、一人じゃなかったって。でも、そう思ってたのはうちだけ・・・梨華は違ったんだよね。ごっちんに言われて初めて気が付いた。」
吉澤は「ごめんね。」と小さな声で呟く。
- 798 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 22:00
- 「蝋燭・・・溶けちゃう。早く消して。」
吉澤からケーキに視線を移した石川に吉澤は「うん。」と頷きフーっと火を消した。
「おめでとう。あっ、美貴ちゃんに自慢のメールしちゃおう。」
携帯を取り出して藤本にメールを打ち出す石川。
「試合、どうだったかな。午前の試合もう終わってるよね?」
「終わってるね。」
「よし、送信っと。」
携帯をしまい、ニコっと微笑む石川を真っ直ぐと吉澤が見つめる。
「ねぇ梨華?」
「なに?」
「一生懸命で、空回りばっかりで、うちと美貴のこといつも気にかけてて・・・背伸びしすぎて頑張りすぎてさ。たまに息抜きしないと疲れてガス欠になんじゃない?って思うくらいで。梨華はあの時の高校生のまんま・・・。」
「変わったよ。あの時のまんま、なわけないじゃない。ずるいことだっていっぱい覚えた。」
「そう?」
「高校生のときの私がこんなものもってよっちゃん引き止めたりした?」
カタカタとカッターナイフを見せる石川。
- 799 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 22:00
- 「梨華も、美貴と同じくらい負けず嫌いなの、うちは知ってるよ。」
「そっか。」
石川は困ったような笑みを浮かべそれから何も話さなかった。
吉澤は壁に掛かる時計を眺めた。
もう、3時をまわっている。
吉澤は亀井が待っててくれることを願った。
- 800 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 22:01
- 「もう、8時だね。」
「うん。」
「さっき、柴ちゃんからメール来た。美貴ちゃん復活したって。」
「そう。」
微笑む吉澤。
石川も同じように微笑んでいた。
「帰るって言わないんだね。」
「言っても駄目って言うでしょ。」
「うん。」
あと・・・1時間。
自分のしていることに後に引けなくなっている石川。
きっと、藤本に連絡を入れているだろうと吉澤は思っていた。
それが当たっていてくれないと・・・。
不安になりながら吉澤は時計を眺めていた。
- 801 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 22:01
- 時計が11時半を回ろうとしたころ、石川の家の前にタクシーが止まる音が聞こえてきた。
「これ・・・返すね。」
石川が吉澤から奪った携帯をテーブルの上に置いた。
立ち上がった石川はカーテンを少しだけ開けて窓の外を眺める。
「待ってるみたいだね。亀井さんも。」
カタカタとカッターの刃を再び出す。
部屋の外から石川の母親の声が聞こえると石川は吉澤の隣に座った。
「ごめんね。」と呟き吉澤の手首を掴む。
階段を上る音が聞こえる。
「負けず嫌いだね。ホント。」と吉澤が呟くと部屋のドアが開いた。
- 802 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 22:01
-
- 803 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 22:02
- 「ズルイ。」
亀井がそう呟く。
「えっ?なにが?」
「ケーキ食べたんだ。」
「あぁ・・・そこ?」
「絵里も吉澤さんと一緒にバースディケーキ食べたかった。」
亀井が吉澤の腕を掴み時計を撫でながら呟く。
「来年。一緒に食べようね。」
「うん。」
「絵里が美味しいの作るから。」
「うん。」
「藤本さんの試合も一緒に行こう。」
「うん。」
「石川さんの番組も一緒に見よう。」
「うん。」
「吉澤さん?」
時計に視線を向けていた亀井はゆっくりと吉澤の顔を見上げた。
嬉しそうに、泣きそうな顔で亀井を見つめている吉澤。
- 804 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 22:02
- 「どうしたの?」
「こんな風になれるなんてさ、逃げ出した頃は思ってなくて・・・亀ちゃんに出会ったからだなって。」
「前に吉澤さん言ってたじゃん。」
「ん?」
「絵里と吉澤さんは出会って、付き合うって決まってたって。」
「あぁ。うん。きっかけが必ずあるってね。」
「藤本さんと石川さんともこうなるって決まってたんだよ。」
吉澤は「そっか、そうだね。」と亀井の頭を撫でた。
「えへへ、今、絵里いいこと言った?」
「ん?」
「ねぇ。いいこと言ったでしょ?」
「言った。言った。」
「じゃぁ、ご褒美頂戴。」
「ご褒美?」
「今日はもう、遅いから、変えろ。」
「えっ?ちょっと亀ちゃん?」
亀井は吉澤の手を引いて歩みだした。
鼻歌を歌う亀井の横で吉澤は意味が分からずでも、亀井が楽しそうだから言いのだろうと夜空を見上げる。
- 805 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/08(日) 22:02
- 「あとで、ガキさんとれーなにお礼言わないとね。」
「うん。タクシー代も払わないとなぁ。」
「じゃぁ、明日の夕飯さ、ガキさんも呼んで皆で食べようか。」
「亀ちゃん作るの?」
「あぁーなにその不安な顔。」
「してない。してない。」
「すっごい、してるよ。」
「暗くて分からないでしょ。」
「分かるもん。」
「ってか、お腹すかない?」
「あ・・・すいた。」
「ラーメンでも食べよっか。」
「食べる。食べる。」
亀井は吉澤の手を掴んだまま嬉しそうに駆け出す。
そんな亀井を見ながら吉澤も学生時代に戻ったように亀井を追いかけた。
- 806 名前:clover 投稿日:2007/07/08(日) 22:12
-
本日の更新以上です。
なんか・・・ずたずたになってきてる気が(ノ_-)
次は道重さんの部分を更新できたらなって思ってます。
ずたずたですが最後まで頑張るので
今後もお付き合いください。
>>774-805
34.ハッピーバースディ
>>771 :名無飼育さん 様
レス、有り難うございます。
>アイツか!アイツなのかっ!
>やばいワクワクするってかドキドキしちゃって大変
そんなに事件ではなくて申し訳ないです・・・。
今後もよろしくです。
>>772 :ももんが 様
レス有り難うございます。
>今回は吉澤さんに好感持てました。
吉澤さんも成長させないとw自分が書く吉澤さんって駄目系になるのでw
>辻さゆにもちょっと波乱が…。
次回、道重さんメインの更新になるかと思います。
今後もよろしくお願いします。
>>773 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
はい、あいぼんですw
- 807 名前:ももんが 投稿日:2007/07/09(月) 08:23
- 更新お疲れ様です。
やっと落ち着いたって感じですね。画面の前でほっとしました。
次回の道重さんメインの話楽しみにしてます♪
- 808 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/09(月) 23:03
- 更新お疲れ様です
亀吉なんか落ち着いてよかったです。
そして
ノノ、あいぼん、さゆが楽しみでなりません
- 809 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:30
-
35.それぞれの夜
- 810 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:31
- 石川の家を出た新垣と田中はゆっくりと家へ向かって歩いた。
「タクシー拾う?」という新垣に田中は「歩きたい気分っちゃ。」と応えた。
石川と藤本のやり取りを見ていた二人。
お互い、厳しい言葉、皮肉めいた言葉をぶつけ合う二人。
それでも、最後には優しさを与え合っていた二人。
新垣は自分たちとは違っているかもしれないけど、大切な幼馴染なんだという部分に変わりは無いんだと思う。
田中は自分の知り合う前の吉澤があの二人と一緒にいたから今の優しい吉澤がいるのだろうと思う。
「ガキさんたちもあんな風に本音言ったりすると?」
「ん〜。今までなかったな、こないだが初めて。聞いてる?」
「ん。ちょっとだけね。」
「そっか。」
ふふっ。と微笑む新垣を田中は横目に眺めていた。
- 811 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:32
- 「絵里はガキさんが大好きっちゃね。」
「えぇー。吉澤さんには敵わないって。」
「そーいうんじゃないとよ。」
「分かってるって。私も亀が大好きだよ。」
照れ隠しのように微笑む新垣。
田中はそんな新垣を可愛い人だなと思う。
「ガキさんはいい人いないと?」
「んー。藤本さんなのかなって思ったけど違った。」
「そんなんわかると?」
「ってか、そういう気持ちがまだ分からないのよ。困ったもんで。」
「愛は難しいけん。でも、恋は簡単とよ?」
「そうなの?」
「ドキドキしたり時めいたら恋っちゃ。」
「んー。なるほどねぇ。」
「愛は10人いたら10人の形があるけん。難しかよ。」
星空を眺めながら言う田中。
新垣はそんな田中の横顔を見つめた。
「田中っちってさ。」
「ん?」
「病気・・・なんの病気なの?」
新垣が足を止めると田中も足を止めた。
田中は夜空を見上げ両手を広げた。
- 812 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:32
-
- 813 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:33
- 「ったく。なんで美貴が・・・。」
「もーいいじゃない。」
「寝れない。」
「目、閉じれば気にならいでしょ。」
「無理。」
「じゃ、起きてれば。」
「もとを辿れば梨華ちゃんのせいなんだからね。」
「だから、こうして泊めてるじゃない。」
「22歳にもなって部屋ん中が全部ピンクとかキモイんだよ。」
「人の趣味に文句言わないでくれる?」
「他人の迷惑も考えろって言ってるの。」
「自分の部屋なんだから誰に迷惑とか無いでしょう。大体、美貴ちゃんは昔から私のことキモイって言い過ぎなんだよ。」
「キモイもんはキモイんだよ。」
「酷いっ。大体ね。家の鍵忘れて威張ってる美貴ちゃんおかしいからね。もうね社会人なんだからそういうの認めてもらえないんだからね。」
「別に威張ってないし。こういう性格なの。」
「もーいい。私、明日はやいから寝るよ。」
- 814 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:33
- 石川は藤本に背を向け目を閉じる。
吉澤が帰った後、テーブルに置かれたケーキを見た藤本は石川を怒り嫌味を言った。
それに負けずと石川も言い返した。
傍から見たら口論に見えるだろう。
でも、二人はなんとなく分かっていた、その言葉の中に優しさが含まれていることを。
新垣と田中を帰した後、藤本も直ぐに自分の家に帰った。
明かりの無い家に入ろうとカバンの中にあるはずの鍵を探したが見当たらなかった。
運悪く、今日は父親が出張で母親は最近始めたというテニスの仲間と旅行中だった。
仕方なく、石川の家に戻り泊めてもらうことになった。
「美貴ちゃん寝た?」
「寝た。」
「可愛くない。」
「梨華ちゃんに可愛いなんて思われたくないし。」
「高校のときさ、ごめんね。」
「何が?」
「学校の中では他人になってとか言って。」
「別に気にしてないよ。」
「寂しい思いさせたんだなって。」
「別にしてないし。」
「・・・ならいいけど、ごめんね。って言いたいだけ。」
ゴソゴソと石川が向きを変え藤本の顔を見る。
薄暗い部屋で藤本の表情は良く見えないがなんとなく笑っているように見えた。
- 815 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:34
- 「また、3人でこうやって寝たいね。」
「この部屋以外でね。」
「もー。」
「よく、よっちゃん長時間この部屋で耐えたよ。」
「だから、もー良いって部屋のことは。それよりさ。美貴ちゃんってホントに吹っ切れたの?」
「昨日、言われてはいそうですかって出来ると思う?」
「思わない。」
「ただ、もうよっちゃんは美貴の側には居ないんだなってのと。美貴が思っていた想いとよっちゃんの想いは違ってたんだって・・・認めたくらい。」
「それでバスケ復活するんだ。」
「美貴を見てる人は他にも居るって知ったから、かな。ってかもう、美貴の話しはいいよ。」
「いいなぁ。」
「梨華ちゃんだって、見てくれてる人いっぱい居るでしょ。テレビでてるんだから。」
「チャーミーでぇすって何歳まで出来ると思ってるのよ。」
「自覚してんだ。ははっ。」
「年は誰だってとるからね。」
「で、明日は早いって仕事あるんじゃいいじゃない。」
「深夜番組のアシスタント。1回きりのだし、適当に愛想振りまいて終わり。」
ゴソっと石川が体を動かし天井を眺める。
- 816 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:34
- 「美貴なら・・・与えられたポディションがどこだって精一杯やるけどな・・・。チャンスなんてどこにあるかわからないし・・・目立たないポディションだってその役割がちゃんと機能してないとポイントには結びつかないし、そこにはちゃんと意味があっるって美貴は思うけどね・・・あぁ、なんか喋ったら眠い・・・おやすみ。」
藤本はごろっと石川に背を向ける。
その背中に「ありがと。」と言う石川の声を聞きながら藤本は目を閉じた。
- 817 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:34
-
- 818 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:35
- 毎晩していた寝る前の会話。
道重は鳴らない携帯を握りベッドに横になった。
先に帰った自分を怒っているのだろうか。それとも、呆れているのだろうか。
今まで一度も喧嘩なんてしたことなかった。
お互いを思いやる気持ちがあったからだと道重は思う。
喧嘩するほど仲が良いなんてそんなものは嘘だと思う。
時計は既に0時を過ぎて1時も過ぎている。
もう、新しい日が始まっている。
付き合いだして、初めて約束を果たさなかった。
道重はハンガーに掛かっていたパーカーを羽織ると足音を忍ばせて家を出た。
携帯を握り、耳に当てコール音を聞きながらぎゅっと目を閉じてから星空を見上げた。
- 819 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:35
- 「ガキさん、家入れて。」
『さゆ?どうしたのよ。いまどこ?』
「ガキさんの家の前。」
『はぁ?ちょっと待ってて。』
真っ暗だった新垣の家の玄関の明かりがつくと新垣がドアから顔を出す。
「どうしたのよ。早く入りな。」
「おじゃまします。」
寝ているであろう新垣の家族を起こさないように小声で言葉を交わすと道重は静かに新垣の部屋へと向かう。
- 820 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:36
- 「どしたの?のんつぁんとなんかあった?」
ソファに座るに道重の向かいにクッションを抱えて座る新垣。
道重は新垣の服装を見て「今、帰ってきたの?」と尋ねた。
「あ、うん。一回、帰ってきたんだけどね、亀のことでちょっと出てたの。」
「絵里?吉澤さんとなんかあった?」
「ん。吉澤さんと連絡取れなくなっててね、さっき日付が変わる前にプレゼント渡せたってメール来たよ。」
「そっか、さゆみ全然知らなくて。」
「私も一緒にいるもんだとばかり思ってたし。」
「あそこには居なかったのに、どこにいたの?」
「石川さんに拘束されてたの。」
「監禁?」
「拘束。」
「違うの?」
「ちょっと違うんじゃない?ってそれはもう解決したから、さゆは?なに、こんな時間にどうしたのよ。」
「辻さん、あれからどうした?」
「一緒に帰ってきたけど。」
「ふーん。」
「仲直りしてないの?」
「話してないの。電話、かけたけど話中だった。毎晩してるおやすみの電話も無かったの。」
「疲れて、寝ちゃっ・・・ない、よね。」
新垣は下手な慰めなんていらないのだろうと真っ直ぐと見つめてくる道重から目を逸らした。
- 821 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:38
- 「ガキさん。」
「ん?」
「さゆみ、決めたの。」
「何、を?」
再び、道重に視線を向けた新垣は一瞬、息を止めた。
道重の表情がとても悲しそうに見えてこれから口にするであろう言葉が安易に想像できた。
「辻さんと別れる。」
小さい頃から諦めが良いというかさっぱりしているというか執着心がない・・・そんな子だった。
運動神経が悪いからと体育の成績が悪くても落ち込みもせず、別にできなくたって生きていけるという考えの子だった。
友達があまり出来なくても、沢山いればいいってもんでもないと笑っている子だった。
でも、本当は寂しがり屋なのを新垣は知っている。
だから、学年が違っていようが一緒に居られる時は一緒にいた。
そんな子だから、恋人に対してもそういう子なんだと納得できるわけない。
- 822 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:40
- 「昼間の喧嘩が原因なわけ?」
「違うよ。電話・・・約束の電話が無かったから。」
「そ、それだけで?」
「重要なことだよ。」と道重は目を伏せた。
新垣はそっとテーブルにティッシュを置くと2枚取り出し道重に差し出した。
「ありがと。」
「いいえ。大丈夫?」
「ん。」
道重は涙を拭い鼻をかむと「はぁ。」とため息をひとつついた。
「さゆみね、思うの。」と話し出した道重。
新垣はクッションに顎を乗せて上目に道重を眺めた。
- 823 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:40
- 「約束ってさ契約みたいなもので、契約違反した時点で終わりなの。毎晩、相手の声を聞いてから寝ようって約束したのに・・・。1日の最後は相手の声を聞いて居たいからって・・・好きだから、そうしたいってお互い思ってたから、そう、約束したの。でも、さっき、辻さんはそう、思わなかったんだよね。だから、電話してきてくれないし、出てくれない。だからもう終わり。優しさが足りないの。」
「優しさ?のんつぁん優しいでしょ。」
「何があってもだよ。お互いを想い合えないといけないと思う。ねぇガキさんも言ってたでしょ。藤本さんが本来のプレイできたのは実力だって。」
「うん。」
「そうなの。ただ、言い訳してただけなんだよ、きっと。吉澤さんが見てないから出来ないって。人間って強い生き物じゃないから。誰かのせいにしたいの。きっとね、辻さんもさゆみにあったら電話しなかった言い訳すると思うの。ついつい寝ちゃったとかアクシデントがあって出来なかったとか・・・さゆみはそういうの聞きたくないし、言って欲しくない。平等で居たいと思うから・・・。」
「平等・・・。」
「うん。言い訳したら、平等じゃなくなるでしょ。いつかさゆみはそれを持ち出すもん。あの時、電話くれなかったじゃないって。」
「あぁ・・・。うん。分かるかも。」
「さゆみはさ、見返りなんて求めないの。さゆみがこんなに愛してるんだから同じくらい愛してなんてさゆみは思わない。だって、愛なんて人によって違うもの。さゆみがこの愛は10だよって渡しても相手にとっては10じゃないかも知れない。愛を測る道具なんてないもん。あったら、良いけどね。」
道重は少しだけはにかんだ。
つられて新垣もはにかむ。
- 824 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:41
- 「ほんのちょっとでいいの。優しさが・・・思いやりがあったら・・・電話くれたし出てくれたはずなの。どんな気持ちでさゆみがいるのかって・・・考えてくれたら・・・。だれだって、自分が一番、可愛いって思うんだと思うの。辻さんにとってさゆみに電話することは自分を傷つけることだったのかもしれない。苦痛だったんだろうね。でも、さゆみだって、そう。加護さんのこと聞かないといけない、嫉妬するかもしれない、傷つくかもしれない、それでも、辻さんとの約束、守りたかったの。さゆみにとってそんな辻さんの気持ちは・・・足りないの。」
「足りないって・・・前に自分にないもの持ってるからって言ってたじゃん。」
「そうだよ。それがあるから、お互いが優位な部分持ってたんだよ。相手に無いもの持ってるから心に余裕が出来るし、自分にないもの持ってるから相手を尊敬できる・・・劣等感だけ持ってたら一緒になんて居られないと思うの。」
「難しいね・・・。」と新垣は苦笑する。
「簡単だよ。」
道重は優しく微笑んだ。
- 825 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:41
- 「さゆみって、きっとガキさんよりも現実を論理的に考えちゃうの。」
「私が論理的?」
「なんとなく、そんな言葉使ってみたかっただけなんだけどね。」
「おーい。」と新垣が手を伸ばし道重の膝を叩く。道重は笑いながら新垣をじっと見つめていた。
「さゆみ、永遠の愛なんて存在しないって思ってる。王子様が迎えに来てくれるとかメルヘンなこと言ってるけど、それは空想の世界の話しで、現実にはないって思ってる。」
新垣はなんと言って良いのか分からずに道重を見つめていた。
「所詮、人間なんて所有欲の塊なんだと思うの。この人は自分のもの・・・あの服が欲しいとかアクセが欲しいとかと同じだよね。この人を恋人にしたい・・・。いつもつけているピアス。それがお気に入りでも、他にお気に入りのものが出来ればそのピアスはきっと引き出しの奥の方へしまわれちゃうの・・・思い出したころに付けてみたら懐かしくてしばらくそれをつけようかなって・・・でも、今つけてるピアスどうしよう・・・」
「ごめん、さゆ。なんの話ししてるの?」
「辻さんの話し・・・きっと加護さんってさゆみの前の恋人だったんだと思う。」
「どうして?」
「加護さんの様子で分かるよ。さゆみは、ものじゃないの・・・引き出しの奥になんて仕舞われたくない。だから・・・別れる。」
「そんなに簡単なの?気持ちの整理とかそういうの。」
- 826 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:41
- 「言ったでしょ・・・さゆみ、論理的なの・・・。人生の全てを恋人に捧げる生き方なんて出来ない。恋愛なんて駆け引きだよ。打算もあるし裏切られることだってある・・・ずっと一緒に、それが出来たらベストだけどね。そんな相手を見つけるのは凄い稀なんだよ。だから、いっぱい恋愛したい。一度きりの人生だから。もしも、その中でずっと一緒に居られる相手が見つかったらラッキーかなって思うの。」
「ねぇ、さゆ。」
「なに?」
「それって、相手の気持ちは全く関係ないの?」
道重は薄っすらと口を開き新垣を見つめた。
「約束を破ったのは辻さんだよ・・・。さゆみの気持ち、考えなかったのは辻さん。」
新垣は返す言葉が見つからず。
ただ、真っ直ぐと見つめてくる道重の視線を受け止めていた。
- 827 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:41
-
- 828 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:42
- マスクを口と鼻に装着した田中はベッドの上に横たわった。
手を伸ばしローテーブルに置かれた機械に手を伸ばす。
1.2.3と心の中でボタンを押しながら数えた。
すると、マスクから規則的に空気が出てくる。
田中は目を閉じ、意識的にそれに呼吸を合わせる。
1ヶ月前から付け始めた装置。
少しは呼吸が楽になる。
- 829 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:42
- 病気の話しをした時の新垣の表情が脳裏に浮かぶ。
「別の生き方ってそういうこと?」
新垣の問いかけに曖昧に微笑んで返した。
自分だってこの生き方がそうなのかはっきりとは分からない。
ただ、みんなと同じ風には生きられないって分かったから、人間らしく生きろっていわれたから・・・忘れられたら悲しいから・・・。
絵里、ごめんね。
田中は心の中で呟いた。
- 830 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:42
-
- 831 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:43
- 「掃除、しろよ。」
「ちょっとした、ガキさんが。」
「ガキさんかよ。」
そっと足を忍ばせて上がりこんだ亀井の家。
ベッドの上で壁に寄りかかり腕の中で亀井を背中から抱きしめる吉澤。
散らかった机の上を見て吉澤は苦笑する。
「あれで、勉強できんの?」
「しなーいもん。」
「しろ。今しか出来ないんだから。」
「吉澤さんしたの?」
「専門はいってからはしたよ。」
「したんだ。」
「それしか、すること無かったんだよ。」
「その前までは藤本さんと石川さんと遊んでたから?」
首を捻り背後の吉澤の顔を見る亀井。
吉澤はそんな亀井の唇をちゅっと音をたてて奪う。
- 832 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:44
- 「まず、朝は梨華が迎えに来て、二人で美貴を迎えに行って、3人で登校する。高校からは梨華は途中から先に一人で行ってたけどね。」
亀井が吉澤の膝を跨るように向きを変えて吉澤の唇を同じように奪う。
「それで?学校が終わったら3人で帰るの?」
「ちがーう。部活。うちと美貴が汗ながして、梨華がうちらの世話して。汗拭かないと風邪ひくだの、膝と肩はちゃんと冷せって五月蝿いお母さんかよって感じでね。」
「お天気お姉さんが、お母さん?」
「そう。美貴ははっきり口にする子だから、いつもウルサイだの、キモイだの言ってて。」
「なんでキモイの?」
「ピンクが好きなんだ。なんでもピンク。で、あの声で自分のこと可愛いとか言うんだ。ブリブリなの。」
「はは、さゆっぽい。」
「だね、それで、キモイって言われるとどんどんエスカレートするの、嬉しがるんだよね。」
「えぇ〜。なんで?」
「なんでだろうね。なんかキモイって言われて喜ぶようになってて。」
「ヤバイよそれはヤバイ。」
「だろ。で、部活終わると3人で帰って、週1で美貴の家がうちの家でお泊り会。」
「あれ、石川さんの家は?」
「まず、片付いてないから無理。片付けたとしても、部屋の中が全部ピンクだからうちと美貴は耐えられないんだよね。」
亀井は吉澤の肩を叩きながら「ないない。」と呟き笑う。
- 833 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:44
- 「あるんだって。」
「全部、ピンクって、アハハ、絵里、想像できないよぉ。ないって。」
「あるんだって、しかも、未だにそうだった。ベッドカバーもカーテンも絨毯も椅子もクッションも壁紙も机もテレビも・・・ピンク。」
「嘘だ、そんなのどこで売ってるの?」
「知らないけど。ホント。れーなに聞いてみ。昨日、見てるから。」
「でも信じられない。」
「信じてくれないの?」
吉澤の大きな瞳が亀井を見つめる。
亀井は吉澤の真っ白い頬にそっと手を添えて微笑んだ。
「絵里は、いつだって信じてるよ。」と囁き吉澤の首に腕を回し唇を寄せた。
- 834 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:44
- 「ねぇ亀ちゃん。」
「ん?」
「ちょっと、足が、痺れた。」
「朝までギュッてしてくれるって言った。」
「言った。する。でも、痺れた。」
「むぅ〜。」と唇を尖らせる亀井の体を吉澤はちょっとだけ持ち上げて足を広げ、すとん、と吉澤の足の間に体を落とした亀井の頭を撫でた。
「これなら、足でもほら、抱きしめられる。」
吉澤は納得がいかないという顔の亀井の体を手と足を使って抱きしめた。
「絵里。」
吉澤がそう呼ぶと俯いていた亀井は顔を上げ微笑んだ。
「初めて、絵里って言ってくれた。もっかい、言って?」
「無理。」
「もっかい、ちょっとだけ言ってみて。」
「ちょっとだけって、二文字だよ。」
「だから、ほら、言ってみて。」
亀井は吉澤の口元に耳を寄せて「ほらほら。」と煽る。
- 835 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:45
- 「亀。」
「えーり。」
「無理、はずいって。」
「けち。」
「けちって・・・。」
「まぁいいや。」
亀井はそう言って微笑むと吉澤との距離をゼロにして肩に頬を乗せ手を背中に回した。
「寝るの?」
「んーん。」
「どうしたの?」
「吉澤さんの体温を全身で感じてるの。」
「なにそれ。」
「寒かったから。」
「ごめん。」
「いいの。だから、今すごい温かいんだもん。」
「そっか。」
吉澤は亀井の背中を擦りながら、何もかも終わったのだろう。
過去に傷つくことを恐れることもなく、亀井と二人ずっとこうしていられるだろう。
- 836 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:45
- 「亀ちゃん。」
「ん?」
「愛してるよ。」
「うへへ。もっかい言って。」
「もー無理。」
「照れ屋の吉澤さんのこと、嫌いじゃないよ。」
亀井は幸せそうに微笑んだ。
- 837 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:45
-
- 838 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:45
- 「ねぇ、柴ちゃん。」
「んぅ?」
「ってか、飲みすぎ、じゃない?」
「かもね。」
「ってか、柴ちゃんの部屋初めて入った。」
「いつも、飲むのは外だもんね。」
「ってか、結構、女の子の部屋、なんだね。」
「一応、女だから。」
「ってか、まだ飲むの?」
「ごっちんが飲まないから。」
「ってか、もう、十分飲んだし。」
「酔ってないじゃん。」
「ってか、酔えないじゃん?」
柴田はソファからグラスを持ってソファから立ち上がる。
「さっきから、てかってウルサイ。」
「だね。」
苦笑しながら頭をかく後藤。
- 839 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:46
- 「賭け、覚えてる?」
「一応ね。」
「どうする?」
床に座っている後藤の前にやって来た柴田はゆっくりとその場にしゃがみ込む。
「どーしよっか。」
「まっつぅ、いるしね。」
後藤は顔を覗きこんでくる柴田をじっと見つめた。
さっき、あんな松浦の顔を見たばかりで嫉妬しているのかもしれない。
松浦がそうなら、自分も・・・なんて子共じみてる。
だいたい・・・自分の気持ちはそんなに簡単なものだったけ。
「ずっと好きだったんだけど。」
「気がつかなかった。」
「知ってる。ごっちんって鈍いから。」
ふふ、と笑う柴田は大人びていた。
ねぇ、裏切ったのはどっちが先かな?
後藤は松浦に心の中で尋ね、そっと目を閉じた。
- 840 名前:ルーズボール 投稿日:2007/07/15(日) 00:46
-
「ありがと、ごっちん。」
柴田はそう呟くと後藤の唇に自分のそれを重ねた。
- 841 名前:clover 投稿日:2007/07/15(日) 01:16
- 本日の更新は以上です。
>>807 :ももんが 様
いつも、レスありがとうございます。
>次回の道重さんメインの話楽しみにしてます♪
辻さんが出てこなかったですがw
次回に持ち越しです。
>>808 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>ノノ、あいぼん、さゆが楽しみでなりません
ありがとうございます。チョコチョコ書き出しますんで。
- 842 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/15(日) 23:32
- 更新お疲れ様です
なんだか道重さんの決断が凄いですね辻さんとの今後がたのしみです
後藤さんと柴田さんも気になりますね
- 843 名前:ももんが 投稿日:2007/07/16(月) 00:18
- 更新お疲れ様です。
道重さんすごいいろいろ考えてるんですね。ちょっとびっくりしました。道重さんの決意は読んでてつらいなあ…。
次回の更新も楽しみにしてます!
- 844 名前:名無し 投稿日:2007/07/16(月) 01:50
- れいにゃが気になる;;
- 845 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/03(金) 22:41
- 更新待ってます
- 846 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:38
-
36.ご褒美
- 847 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:38
- 「のんちゃん、重さんとこ行ったほうがよくない?」
小川はスタンドを眺めている辻にそういう。
「こないなんて初めてじゃん。」
「のん、そういうの苦手なの、麻琴知ってるでしょ。」
「そういうのって?」
「気まずい雰囲気。」
辻は怒ったように言って行ってしまう。
ねぇ、もう子共じゃないんだから。と想いながら小川はため息を漏らした。
- 848 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:39
- ご機嫌斜めの辻と体育館から出て行くと新垣の姿があった。
「ガキさん、重さんは?」
立ち止まった辻を残して小川は新垣の側で小声で尋ねる。
困った顔をした新垣は「来てないんだ。」と呟いた。
新垣の顔を見た辻はよそよそしく立ち去っていく。
- 849 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:40
- 「のんつぁんから連絡するつもりないみたい。」
「そう。」
「いっつものんつぁんそうなんだ。あいぼんの時もそう。自分からってしないの。」
「どういう意味?」
「喧嘩とかするとさ、向こうから謝ってくるまでずっとイライラしていじけてるんだ。一緒に居るほうは疲れるんだけどね。」
「まこっちゃんてそういう役目っぽい。」
「役目っぽいとか。」
「私もそうだけどね。」
「重さんの様子は?」
「別れるって。」
「重さん、展開速いね。」
「色々考えてるんだよ。さゆも。っていうか、加護さんとのんつぁんてやっぱり付き合ってたんだ。」
「あぁうん。中学のころね。あいぼんが転校するまで。」
「さゆの勘は鋭いなぁ。私、気がつかなかったけど。」
「重さん分かったんだ。」
「うん。」
「へぇ。ってか立ち話もなんだし、どっか入らない?」
「うん。」
「バイト休みなの?」
「うん。」
じゃぁ、ゆっくり話せるねと小川が嬉しそうに呟いた。
- 850 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:41
- 「絵里、入るよぉ。」
「どーぞぉ。」
吉澤はベッドの端に移動しながらさゆみが入ってくると「どうも。」と頭を下げた。
「お誕生日、おめでとうございます。色々あったみたいですけど、絵里のこと泣かせたらさゆみとガキさんがいるってこと忘れないでくださいね。」
ニコっと笑い言う道重に吉澤は困ったなと笑みを浮かべた。
「ねぇ、絵里。」
「ん?」
「人を呼ぶなら部屋、片しなよ。」
「ガキさんみたいなこと言わないでぇ。」
二人の会話を聞きながら吉澤は微笑んでいた。
「用事ってなに?」
「んとね。んーと。」
「さっき、麻琴から連絡あったの。」と吉澤が口を挟む。
「小川さん?」
「うん、辻と喧嘩したって?」
「あぁ、そのことですか。なんですか?」
がっかりでもなく寂しそうでもなく無表情のままの道重に吉澤と亀井は驚いた。
- 851 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:42
- 「練習見に来てないって。小川さん心配してたんだよ。さゆ。」
「さゆみ、別にバスケに興味あるわけじゃないから。辻さん見てただけだから。もう、行く意味ないの。それだけなの。」
「それだけってさゆ?」
「絵里とは違うから・・・絵里は吉澤さんじゃないとダメかもしれないけど、さゆみは違うの。」
何も言えない亀井は困った顔をして吉澤に助けを求めた。
「さよならもしないの?」
吉澤の問いかけに道重は頷いた。
- 852 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:42
- 「辻さんってそういうの苦手な人だから。きっとさゆみが連絡しなかったらもう、終わりだと思うの。そういうのって平等じゃないと想いませんか?」
「そうだね。」
「だから、もういいの。」
「そっか。」
「でも、でもそんなのって・・・。」
「亀ちゃん。本人がちゃんと分かってるんだから。周りが言うことじゃないよ。」
「でもぉ。」
「色んな恋愛があるんだから。」
亀井は渋々頷いた。
「きっと、今頃、心配性なガキさんが大学に行ってると思うの。」
「あ、ガキさんなら行ってるかもね。」
「ガキさんには話したし。でも、きっとね。辻さんはガキさんからも逃げると思うの。」
「なんで分かるの?」
「当たり前なの。良い所も悪い所も知ってるから。」
亀井はもう辻のことはそれ以上、言わなかったし聞かなかった。
- 853 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:43
- 「そうだ、さゆも一緒に来て。」
「どこに?」
「大学。」
「えぇ、さゆみ今日サボったんだよぉ。」
「いいじゃん。高校じゃなくて大学のほう。」
「亀ちゃん?」
「ほら、吉澤さん、迷惑そうな顔してるし。さゆみは辞めとくって。」
「ダメ、参列者いないの寂しいもん。」
「参列?」
「まいったなぁ。」
吉澤が呟くと亀井はニヒヒと笑った。
- 854 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:43
-
- 855 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:45
- 「そうっか、重さんってすっごい色々考えてるんだね。単に、好きだから一緒にいるって思ってたんだけど。」
「ねぇ。私もビックリしたの。」
道重の話しを新垣から聞いた小川はストローを弄びながら寂しそうな表情をする。
「でも、なんかそう言われると納得もできるしでも、なんか納得したくないって気持ちもあるね。ま、誰とも付き合ったことないやつが言うのもなんだけど。」と小川が苦笑した。
「いや、私も同じ立場だけど・・・。」
「あ、そうか。」
「なによぉ。」
「別に。」
「もぉー。ふふ。」
新垣は笑いながらため息をついた。
- 856 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:45
- 「ん?電話?」
「うん。」
小川に「ちょっとごめん。」といい新垣は電話に出る。
「今から?うん。分かった。」
電話を切った新垣に「急用?」とがっかりした顔をする小川。
「のんつぁん、呼び出せるかな?」
「連絡してみるけど。なに?」
「亀から、なんかのんつぁん連れてうちの大学きてって。」
「なにかあるの?」
「さぁ、なんか、私らって振り回されてるよね。」
新垣は苦笑しながら「行こう。」と立ち上がった。
- 857 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:46
-
「ねぇ、何?」
「いいから。」
新垣と小川に連れられた辻は新垣たちの大学に向かって歩いていた。
いつもより元気がなさそうに見える辻。
新垣は夕べの道重の顔を思い出してしまう。
「ねぇ、辻さん。」
「なに?」
明らかに不機嫌そうに応える辻に新垣は困った顔をする。
「なんで、さゆに電話しなかったんですか?」
「別に、する気にならなかっただけ。さゆだって怒ってたし。」
あぁ、さゆの言ったとおりだ。
新垣は落胆した。
「さゆは・・・待ってたのに。」
「は?先に帰ったのはさゆじゃん。」
「でも、さゆは、ずっと続けてきた約束は守りたかったんですよ。だから、電話もしたし、ずっと待ってたのに。」
「そんなの、勝手に思われたって。」
「勝手、じゃないですよね。二人でした約束でしょ。」
辻は何も応えなかった。
- 858 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:46
- 「こっち。」
キャンパスに入ろうとする小川と辻を新垣が手招きした。
「なんか教会にこいってさ。」
「そっか、この大学キリストだもんね。」
「うん。」
「あ・・・。」
「のんつぁん。」
教会の扉を開けると見えた道重の姿に踵を返した辻。
小川が手を掴んで中に入っていく。
「さゆ。」
「あ、ガキさん。」
振り向いた道重は辻と小川の姿を捉えても表情を変えなかった。
「絵里、何を企んでるんだろうね。皆よんで。」
「ね。」
道重の隣に新垣が座るとその後ろに辻と小川も座った。
- 859 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:47
- 「なんか、参列者になってとか言ってたけど。」
「私、さっき藤本さんに連絡して藤本さんと石川さんも呼んでって言われた。」
「来るの?」
「一応、メールしたんだけど。どうだろう。」
「ふーん。」
「あ、あのぉ。重さん。」と小川が小声で新垣と道重の間に入った。
「どうしたの?小川さん。」
「いや、重さん。そのあれ、席をさ・・・変わらない?」
道重は辻へ視線を向けてため息をつく。
「さゆみ、もういいの。辻さんと別れたから。」
小川と新垣は目を合わせ苦笑した。
「辻さん、気にしなくて良いですよ。さゆみの我侭ですから。」
それだけ言って道重は前を向く。
- 860 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:48
- 「藤本さんたち、まだみたい。」
白いワンピースを着た亀井が嬉しそうに振り返った。
田中は「吉澤さん緊張しとると。」と隣に座れって居る吉澤の腕を突く。
「するに決まってるだろーが。」
「幼馴染が来るといいっちゃね。」
「亀ちゃんがなんて呼んだか知らないけど。」
「絵里?絵里じゃなくてガキさんにお願いしたの。吉澤さんの一世一代のイベント見に来てくださいってメールしてって。」
「うわぁ。それじゃくるっちゃね。」
「そんなにさぁ。大々的にやらなくてもさ。」
「だめ、絵里的にはこれが一生で一度きりなんだもん。」
「だって、頑張ってね、吉澤さん。」
田中は微笑みながら亀井と吉澤の顔を交互に見た。
- 861 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:48
-
「さゆ、いいの?」
「いいの。ここに居るだけでも辻さんにしては頑張ったもんよ。」
「なんか、さゆ。凄いわ。」
「なにが?」
「大きい、器が大きい。」
「なんかその言い方嫌かも。」
「ごめん。でもうん。カッコいいよ。さゆ。」
「のん、帰る。」
「えっ?のんつぁん。」
辻がそう言って立ち上がると道重がわざとらしいため息をついた。
「ちょっと、辻さんっ。」
と立ち上がる道重。
「さゆぅ?」
喧嘩でも始まるのかと新垣は声をかけた。
- 862 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:49
-
そっとドアを開けた石川と藤本は道重の大きな声に驚き足を止めた。
「なに?喧嘩を見に来いってよんだわけ?ガキさんは・・・。」
「まさか。新垣さんだって美貴ちゃんの怖さ知ってるでしょ。」
「ちょっと見とく?」
「うん。」
- 863 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:50
-
「なに?」
辻は背を向けたまま呟いた。
道重はまた、聞こえるようにため息をついた。
「恋人だったらイジイジしている辻さんも可愛いし、頑固な辻さんも可愛いの、でももう、恋人じゃないから。可愛いって思えない。もちろん、慰めることも。だから、知り合いとして言わせて貰いますけど。」
辻がゆっくりと振り返った。
道重は俯いている辻を見て苦笑した。
ゆっくりと近づいていくと辻の着ていたジャケットの襟元を掴んだ。
驚いた辻は道重を見上げる。
「絵里の用事で呼び出されて来たんだったら、さゆみとのことを理由に帰らないでもらえます?絵里が残念がる顔、見たくないんで。帰るんだったら、絵里の用事が済んでからにしてください。それくらい、もう直ぐ成人するんだから出来るでしょ?」
道重はそういうとジャケットから手を離し「だから、そこに座ってて。」と可愛らしく言って新垣の隣に戻った。
新垣は「さゆ、たまに怖いわ。」と呟く。
「のんちゃん。こっち、座りな。」と小川が手招きすると辻は大人しくそこに座った。
- 864 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:50
-
「なんか美貴ちゃん乗り移ってなかった?」
「いやいや、美貴なら手も出すね。」
「良いもの見たわぁ。」
「仕事、早く終わってよかったね。ってかそれしかなかったんだろうけど。」
「一言多いんだけど。」
「ガキさんここでなにかあるの?」と藤本は中に入っていく。
慌てて石川もついていった。
「私も何か聞いてないんですけど。ここに座っててってことなんで。」
「そう。んじゃ、座っとく。」
藤本は大人しく新垣たちと反対側の椅子に腰掛けた。
「何が始まるんだろうね。」と石川も隣にやってくる。
「ま、大人しく座っとけ。」
「はいはい。」
- 865 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:51
-
「なんか、さゆってかっこよかね。」
「ん〜。結構、言うときははっきり言う子だからねぇ。」
「言わんといけんときにちゃんといえる人ってそうはいないっちゃよ。」
「あ、藤本さんたち来た。」
「じゃ、始めると?」
「吉澤さん。絵里とれーな先いくからね。」
吉澤が頷くと亀井は楽しそうに田中と横の扉から出て行った。
「まぢかよ・・・。」
椅子に座る人たちを見て吉澤は息をひとつ吐いた。
ゆっくりとみんなの前に姿を現す吉澤。
「よっちゃん?」と呼びかける藤本に吉澤は困った顔を向けながら中央で歩を止めた。
- 866 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:51
- 「えっと、今日は・・・なんて言ったらいいんだろう。昨日、22歳になって・・・それまでに、いろんなことがあって。美貴にも梨華にも迷惑かけて傷つけて・・・ガキさんにも色々心配と迷惑をかけて。うち、きっと一人だったら、ずっと閉じこもって、うちがしてきたこと隠して、知らん顔して・・・そうやって生きてたと思う。あぁ・・・なんだろ。だから、言いたいのは・・・たった一言で・・・皆、ありがと。」
吉澤はそう言って頭を下げた。
と同時に後ろの扉が開き亀井と田中が入ってきた。
ゆっくり、ゆっくりと吉澤へ向かって歩いていく。
- 867 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:52
- 「なんか・・・結婚式?」
新垣が呟く。
「ぽいね。」
道重が苦笑する。
「何これ。」
藤本が立ち上がる。
「あの子、やるわね。」
石川が立ち上がり拍手を送った。
新垣も道重も続けて拍手を送る。
田中が亀井の手を吉澤へと渡して中央にある台に上った。
- 868 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:53
-
「吉澤さんも絵里も同性やけん。結婚はできないっちゃ。」
田中がそういうと亀井は「うるさい。」と呟く。
「でも、絵里は吉澤さんを愛してて、吉澤さんは絵里を愛してると。だから神父様は認めんかもしれんけどれーなが認めると。」
新垣と道重は笑い。
藤本は「意味、わかんない。」と呟く。
「れーなちゃんと神父様っぽくやってよ。」
亀井が頬を膨らませる。
「れーな、難しいこと分からんけん。れーなの言葉でやるとよ。文句あると?」
「ないです、れーな。怖い。」
「吉澤さん。」
「はい。」
「吉澤さんは絵里とずっと一緒っちゃ。絵里が会いたいって言ったら仕事より優先するとよ。絵里は寂しがり屋やけん。それと、絵里に悲しい顔させちゃいけんと。あと、絵里はあんまり頭がよくないけん、ちゃんと言葉で伝えるとよ。れーながずっといると思ったら間違いやけん。誓いますか。」
「はい。」と苦笑しながら吉澤が返事をする。
「頭がよくないは余計なんだけど。」
「絵里、うるさか。次は絵里。」
「はい。」
「絵里はずっと吉澤さんから離れたらいけんと。絵里はたまにすごい我侭で甘えるときがあるっちゃね、それを自覚するとよ。吉澤さんは優しいけん、絵里にお願いされたら断れんけんね。あと、絵里は待ってるばかりやけん。たまには自分から走り出さんといけんちゃ。でも、初めて走ったら結婚式したいって走り出し過ぎっちゃけん。最後に、絵里・・・吉澤さんは絶対に絵里の側に戻ってくるけん、信じてあげて。えっと、誓いますか?」
「はい。」
「じゃ、吉澤さん。みんなの前で誓いのキス。絵里にしてあげて。」
吉澤は恥ずかしそうに新垣や藤本たちに視線を向ける。
- 869 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:54
- 「ご褒美っちゃろ。吉澤さん。」
「分かってるよ。」
「吉澤さん、早く。」
「分かってるけど。」
みんなの前でキスしてって・・・吉澤は顔を真っ赤にさせて目を閉じて待っている亀井を見る。
「吉澤さん、観念すると。」
「わーってるよ。」
吉澤は亀井の腰にてを添える。
亀井が少しだけ顎を上げると吉澤はゆっくりと亀井と唇を重ねた。
田中はにこやかに拍手を送った。
新垣も道重も小川もそして辻もそれに続いて拍手を送った。
「若さに負けたのかな、美貴ちゃん。」
「知らない。」
藤本と石川は苦笑しながら拍手を送った。
- 870 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:55
- 「顔真っ赤。」
「誰のせい?」
「絵里なの?」
「どんなご褒美なんだよ。」
「だって、夢だったんだもん。」
亀井は嬉しそうに吉澤を見上げた。
照れる吉澤の手を引いて亀井はゆっくりと段を降りる。
新垣の前に立つと「ガキさんにあげる。」と手に持っていた小さなブーケを手渡した
「もー亀さぁ。もーなんでもないや、ありがと。」
照れたように新垣は微笑んだ。
「ねぇ、美貴たち呼んでおいて、放置?」
藤本の声に亀井は振り返り頭を下げる。
「あの、あの、絵里。ちゃんと認めて欲しくて。」
小走りに藤本と石川の前にやってくる亀井。
「認める?」
「吉澤さんと絵里のこと・・・二人にちゃんと祝福して欲しくて。」
「こんな結婚式みたいな真似されて認めないなんて言えないと思うけど。ね、美貴ちゃん。」
石川が言うと藤本は苦笑する。
「よっちゃんが、決めたなら・・・別にいいんじゃない。」
ぶっきらぼうに呟く藤本。
亀井は「良かった。」と吉澤を見た。
- 871 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:56
-
「美貴、梨華ありがと。」
「じゃ、美貴たち帰る。」
「え、帰るの?」
「帰るの。」
藤本がバイバイと手を振り石川の手を引いて歩みだした。
「なんで、帰るのよ。」
「お邪魔だろ。」
「そうなの?」
「そうなの。あービール飲みたい。」
「いいねぇ。行こう。行こう。」
「藤本さん、石川さん。」
ドアに手をかけた二人に亀井が呼びかける。
ゆっくりと振り向いた二人。
「今度、吉澤さんと試合見に行っていいですか?」
藤本は笑顔で頷くと扉を上げて出て行った。
「私の番組も見てね。写真集も出たら買ってね。あとぉ・・・。」
「もう、いいって。」と藤本が石川の手を引いた。
閉じた扉を見ながらそこに居る皆が微笑んでいた。
- 872 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:57
- 「のんも帰るね。」と小川に小声で伝える辻。
「あ・・・うん。」と戸惑いながら小川は道重を見た。
道重は後ろから聞こえてくる会話に耳を傾けながら俯いた。
そんな道重の様子を見ながら新垣はもう、自分が口を出しても仕方のないことだろうと思う。
辻が歩き出すと小川「バイバイ。」と声をかけた。
辻は振り返らずにドアに向かって歩みを進める。
扉が開き、閉まる音がすると道重はゆっくりと振り返った。
「さよなら、辻さん。」
辻の姿がない扉を眺めながら小さな声で呟いた。
新垣は道重の手をそっと握った。
- 873 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:58
- 「亀ちゃんもいったら?」
新垣と道重の様子を見ていた亀井。
吉澤はそっと亀井の背中を押した。
亀井は一度、吉澤を振り返り2人へと歩み寄り、繋がれた二人の手にそっと手を乗せた。
「絵里に心配されちゃったぁ。」と道重は笑った。
「なによぉ。」と頬を膨らます亀井。
- 874 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:58
- 「なんかいいっちゃね。」
田中が吉澤の隣にやって来てそういうと吉澤は「そうだね。」と田中の頭に手を置いた。
「ねぇ・・・吉澤さん・・・。」
「ん?」
「れーな。明日から入院すると。」
3人の姿を見ながら田中は小さな声で呟いた。
「そっか。」
「もう、安心っちゃけんね。」
「うん。」
「絵里には言わんでね。」
「うん。ってか、もう・・・帰る?」
「そうっちゃね・・・。結構、辛いし。」
吉澤は田中の頭を撫でると「そろそろ、帰ろう。」と促した。
- 875 名前:ルーズボール 投稿日:2007/08/09(木) 23:59
- 「ねぇ、お腹空かない?」と小川が言う。
「あ、そうだね。さっき途中だもんね。」
「食べ行こうよ。さゆみもお腹空いた。」
「亀、どうする?」
「絵里は・・・。」
亀井は吉澤に視線を向けた。
「行っておいで、家で待ってるから。」
「うん。れーなは?」
「れーなは眠いけん。帰ると。」
新垣には田中を心配そうに見ていた。
「ほら、早くいくっちゃ。」
田中がそういうと新垣は慌てて「うん、行こう。行こう。」と率先して3人を連れでした。
4人が出て行くと田中は椅子に座った。
「大丈夫?」
「ん。眠いと・・・。」
「ねぇ、ガキさんは知ってるの?」
「こないだ部屋、見られたけん。話したと。」
「そっか。」
意識が朦朧としだした田中の体を支えた。
「おやすみ。」と呟いた吉澤は小さな田中を背に負ぶり教会を後にした。
- 876 名前:clover 投稿日:2007/08/10(金) 00:22
- 本日の更新以上です。
36.ご褒美
>>846-875
なんだか、間があいてしまいました。
そろそろ、スレ立てないとダメかな・・・
>>842 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
なんだか辻ちゃんが悪者になってしまいました。
>後藤さんと柴田さんも気になりますね
今度、二人の話しも(^。^;;
気長にお付き合い下さい。
>>843 :ももんが 様
レス有り難うございます。
道重さん、さっぱりし過ぎた感が(^。^;;
まだ、続くので宜しくお願いします。
>>844 :名無し 様
レス有り難うございます。
>れいにゃが気になる;;
田中さんはぁ〜。まだ教えませんw
今後も宜しくです。
>>845 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
>更新待ってます
有り難うございます。
- 877 名前:名無飼育さ 投稿日:2007/08/10(金) 00:29
- うぉおおおおおれいにゃぁああああああ!!
れいにゃ・・・セツナイです
- 878 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/10(金) 00:42
- さゆたちは本当にこのまま終わってしまうのでしょうか…
- 879 名前:ももんが 投稿日:2007/08/10(金) 08:26
- 更新お疲れ様です。
さゆかっこいい!!シビレました。
れいながなかなかいい役回りですね。
うーむ、れいなが心配です・・・。
次回も楽しみにしています♪
- 880 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/11(土) 23:37
- 本筋と関係ないですが
>>じゃぁ、ゆっくり話せるねと小川が嬉しそうに呟いた。
が無茶苦茶可愛かったです。
- 881 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:37
-
それぞれの恋
- 882 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:38
- 「あぁ。さゆみもルーズボールになっちゃったぁ。」
ファミレスに着くなり道重は呟く。
「ルーズボールってなぁに?」
「誰も所有してないボールだよ。」
首を傾げる亀井に小川が教えてやる。
「そう、さゆみ、今、誰の所有でもないのぉ。」
「へーそういう使い方するんだぁ。ね、ガキさん。」
「なんで私にふるのよ。」
「だって、ガキさんもルーズボールでしょ?」
「はいはい。ってか、なんで、急に結婚式とかやってんのよ。」
「だって、絵里、ずっと待ってたの。」
「昨日の話し?」
「そう、だからご褒美にって絵里の夢を叶えてもらったの。」
「あんたねぇ・・・。」
「だって、大々的に絵里と吉澤さん結婚しますってわけにはさ・・・。だからちょっとあぁいういのやってみたかったの。」
「まぁ、よかったけどね。」
「でしょ。」
ニヒヒと笑う亀井。
「羨ましいなぁ。」
道重が亀井を眺めながら呟いた。
- 883 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:38
- 「さゆにだって、きっと居るよ?」
「それは分かってるの。っていうか、ガキさんに言われたくない。」
「ちょ、なによそれぇ。」
「ガキさんは周りを見てるようで見てないんだよ。ね、まこっちゃん。」
「うぇ?なに?」
急に話しを振られた小川が挙動不審に動くと道重はクスクスと笑う。
「あ、絵里もなんとなく分かる。ガキさん見てない、見てない。」
「はぁ?ちょっと、あんたたち何なのよ。」
「ねぇ、ガキさん。」
「な、なによ。」
道重が急にまじめな顔をして新垣を正面から見ると
新垣は警戒しながら道重に視線を合わせた。
「まこっちゃんと付き合えば?」
驚き、息を呑む新垣と道重の隣で笑顔で頷いてる亀井。
カチャン。と小川が持っていたフォークを落とした。
「まこっちゃん、口開いてる。いつもだけど。」
「ちょ、ちょっとさゆ。何言い出すのよ。もぉびっくりしたじゃん。」
新垣は慌てながら言い、ウーロン茶を口に含んだ。
「そう、そうだよ。何言い出すんだよぉ。重さん。」
小川も同じように慌てると落としたフォークを拾った。
「じゃ、絵里。あとは若い人たちで。」
「あ、うん。そーだね。年寄りは退散しよっか。」
そう言って席から立つ道重と亀井。
「は、なによ。ちょっと。どこ行くの?」
「バイバイ。」と道重が手を振り
「ごゆっくりぃ。」と亀井が手を降る。
「ちょっと二人ともぉ?」
新垣の呼びとめを無視して二人は去っていった。
「年寄りって、あの二人のが若いじゃん。」
新垣が呟いた。
- 884 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:39
-
- 885 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:39
- 「置いてきちゃって、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。」
「さゆ、ストレートに言うからビックリしたよ。」
「あぁ、でも言わないとまこっちゃんずっと眺めてるだけだから。」
「でも、玉砕するかもよ。」
「それはそれでいいんだよ。前に進めないよりいいと思うの。」
「なんか、さゆって強いよね。」
「そんなことないの。絵里だってそうなの。」
「えぇ絵里、弱いって。」
「一人の人を信じるって凄い強いよ。」
道重はそう言って隣を歩く亀井に微笑んだ。
「そっかなぁ。」
「そう、絵里はそういう強さがある。」
「じゃ、じゃ、ガキさんは?」
「ガキさんは、慎重なところ。ガキさんは勇気がないんじゃないの。こないだ凄いそう、感じたの。ガキさんは、色んな人の気持ちを考えて自分の気持ちを我慢できる、強い人だと思うの。」
「そっかぁ。」
「でもね、絵里。」
「ん?」
「みんな、強いだけじゃないと思うの。弱い部分もいっぱいあるの。みんなが居るから、支えてくれるから。強く居られるの。」
亀井は道重の手を握り心配そうな表情を見せる。
「のんつぁんのこと・・・」
「全然、なんともないなんて、ありえると思う?」
「だよね・・・。」
道重は微笑んだ。
- 886 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:39
- 「でも、ガキさんに話し聞いてもらって。絵里に心配してもらって。だから、こうしていられるの。」
「さゆぅ。」
「絵里がそんな顔しないの、別れようって決めたのはさゆみ自身なんだから。」
「でもぉ。」
「もぉ、直ぐにいい人見つかるもん。今度はぜぇったい。約束だけは守る人見つける。」
「おう、直ぐに見つかる見つかる。」
「なんか、絵里がいうと嘘っぽく聞こえるんだけど。」
「えぇなんでよぉ。」
二人は笑いながら自然と手を繋ぎ歩みだした。
- 887 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:39
- v
- 888 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:40
- 「二人になっちゃったね・・・。」
無言でウーロン茶を飲む新垣に向けて呟いた小川の小さな声。
新垣は「だねぇ。」と相槌を打つ。
「あのぉ・・・。」
「ん?なに?」
「さっき、重さんが言ってた・・・。」
ストローから口を離し小川を見つめ首を傾げる新垣。
小川は手元と新垣の顔を視線を行き来させていた。
「さゆがなに?」
「あの、ほら・・・付き合っちゃえばってやつ。」
「あぁ、さゆも、冗談きついよね。アハハ。」
「冗談・・・じゃなくて。」
「ん?」
「付き合うんじゃなくて・・・待っててもいい、かな?」
「んぅ?」
首を傾げる新垣の目を真っ直ぐと見つめる小川。
- 889 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:40
- 「好きだから、ガキさんの気持ち・・・待ってる。」
「ちょっ・・・。」
新垣は小川の真剣な表情を見て言葉を失った。
「あ、えっと、そんなに重く考えないで・・・。」
小川は慌てて笑みを作った。
「直ぐにどうこうじゃなくて、その、あの、いつか、ガキさんが好きになってくれたらでいいから・・・。」
新垣は自分を落ち着かせようとウーロン茶を一口飲んだ。
「いいからって・・・。」
「いいの、ほんとにいいの。」
「それって・・・別に、私が好きになっても好きにならなくてもいいってこと?」
小川はふっと笑みを零した。
「自分のポディションで精一杯、ベストを尽くそうって決めたんだ。だから、うん・・・そう思われるかもしれないけど・・・どんな形でも・・・好きって意味で・・・。」
「ちょ、ちょっと待って。」
ボソボソと呟く小川を新垣は制した。
「ごめん、混乱してきた・・・。」
「あ、ごめん。」
「うん、えっと、うん。オーケー。ちょっと一人になって頭の中、整理する。」
新垣は焦りながらそう言って席を立った。
- 890 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:40
- 「ガキさん。」
「うん。ちょっと帰るわ。」
混乱した様子に新垣に小川は「バイバイ。」と声をかける。
新垣は頷きながら店を出て行った。
「わぁ。言っちゃった。どーしよ。言っちゃった。」
一人になったらテーブルに小川は顔を伏せて呟いた。
- 891 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:41
-
- 892 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:42
- ベッドの振動で目が覚めた後藤は自分の直ぐ横でもそもそと動くシーツを眺め首をかしげた。
「柴ちゃん?」
「おはよ。」とシーツの中から聞こえてくる柴田の声。
動いている物体の正体は柴田。
そんなことは分かっている。寧ろ違っていたら凄い困ってしまう。
後藤は目を擦りながら未だもそもそと動く物体を眺めている。
「何してるの?」
「服着てるの。もう昼すぎだし。」
「着にくくない?」
真っ暗な布団の中でもそもそと着るよりも、普通に起きて着た方が楽に決まっているだろうと後藤は目を細めた。
「スタイルいいとは思ってたけどね、そこまで完璧な裸を目の前に自分の裸曝け出すのは恥ずかしいの。」
そんな風に言われてしまうとなんだか恥ずかしくなってしまう。
後藤はゆっくりと体を動かし横を向いた。
「うぁ。」
空気が肌に直接触れる。
驚いて顔を上げると服を着た柴田がシーツを手に体を起こしていた。
「何?」
柴田の視線が気になって後藤は思わず胸に手を翳した。
- 893 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:43
- 「早く、帰りな。」
「えっ?」
「まっつぅ、待ってるでしょ。」
柴田はベッドからから降りると、散らばっている後藤の服を手に取り渡す。
「柴ちゃん?」
「賭け、って言っても私が勝手に言い出したことだし。ごっちん気にすることないし。」
柴田はそういいながらキッチンへと入っていった。
手に持っている服を無表情で着だす後藤。
柴田はヤカンを火にかけながらベッドの上の後藤の様子を見ていた。
服を気負えた後藤はベッドから降り、手を天井に突き上げて「んぅ。」と伸びをする。
チラッとキッチンにいる柴田に視線を向け、ソファにおいてあるバックを掴むと部屋を出て行った。
- 894 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:43
- 「コーヒーくらい飲んでからでもいいのに。」
ピー。と鳴るヤカン。
柴田はガスを止めインスタントコーヒーの入ったカップにお湯を注いだ。
「あつっ。」
出来た手のインスタントコーヒーは想像以上に熱く、柴田は舌を出してカップを置く。
散らかったシーツ眺めてため息を一つ。
「私、最悪。」
呟いて。乱暴にシーツを引き剥がした。
- 895 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:43
-
- 896 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:43
- 後藤はカバンを脇に抱えて走っていた。
自分の家に向かってひたすら走る。
アスファルトだけを見つめて、ただひたすら。
頭の中が空っぽになる。
「は、は。」と口からもれる呼吸。
家の前の通りに来てやっと足を緩めた後藤の額から汗が流れ落ちる。
ゆっくりと呼吸を整えながら自分の部屋の扉に手をかける。
きっと松浦がいるだろう。
だから、鍵は開いている。
クルっと回るドアノブ。
後藤は目を閉じた。
- 897 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:44
- 「ごっちんっ。」
松浦の声と同時に引っ張られるドア。
ノブを掴んでいた後藤の体は自然と部屋に入っていく。
「ただいま。」
松浦の視線が後藤の目を捉え、後藤はその視線にじっと耐える。
「ごめん、帰る。」
松浦は一度部屋の中に戻った。
カバンを持って戻って来た松浦は黙って後藤の横を通り過ぎていく。
パタンと閉まるドアと後藤のため息は同時だった。
「同罪・・・だよ。」
後藤はテーブルの上にあったデジカメを手に取り呟いた。
次々に移り変わる昨日の試合の藤本の姿。
自分の帰りを待ちながら、この映像を見ていたのだろう。
そう、思うと自分の犯した松浦への罪が薄れていく気がする。
- 898 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:46
- 「ごっちんっ。」
松浦の声と同時に引っ張られるドア。
ノブを掴んでいた後藤の体は自然と部屋に入っていく。
「ただいま。」
松浦の視線が後藤の目を捉え、後藤はその視線にじっと耐える。
「ごめん、帰る。」
松浦は一度部屋の中に戻った。
カバンを持って戻って来た松浦は黙って後藤の横を通り過ぎていく。
パタンと閉まるドアと後藤のため息は同時だった。
「同罪・・・だよ。」
後藤はテーブルの上にあったデジカメを手に取り呟いた。
次々に移り変わる昨日の試合の藤本の姿。
自分の帰りを待ちながら、この映像を見ていたのだろう。
そう、思うと自分の犯した松浦への罪が薄れていく気がする。
- 899 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:47
- 「もしもし。」
『どうする?』
松浦らしいな。と後藤は笑みを零した。
「答え、同じだよきっと。」
『そっか。』
「うん。」
『楽しかったよ。』
「ごとーも。」
『ちゃんと、好き、だったよ。』
「知ってる。ごとーもそう、だった。」
『・・・。』
「ありがと。まっつぅ。」
『うん、ごっちんも、ありがとう。』
「バイトは?」
『辞める。気使うの嫌いなの。』
「知ってる。」
『柴田先輩、でしょ?』
「知ってたの?」
『松浦、そういう勘は鋭いんだよ。』
「それも知ってたつもりなんだけど。」
『まだまだだね。』
「そうだね。」
『ねぇ、ごっちん。』
「ん?」
『長くなるとさ、なんか。』
「そうだね。」
『うん。』
「バイバイ。」
『バイバイ。』
「・・・。」
『・・・。』
「切らないの?」
『ごっちんから切れば。』
「ん。じゃぁ。切るね。」
『ごめんね。』
「バイバイ。」
後藤はゆっくりと携帯を降ろし携帯を切った。
- 900 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:47
- 「やっぱり、ごとーは素直じゃないな。」
本当は、何が原因でどっちが悪くて・・・
白黒はっきりしたかった。
はっきりしたところで・・・どうなるわけでもないけれど。
自分だけが悪いのではないと
想いたいだけかもしれないけど。
- 901 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:47
-
- 902 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:48
- 「荷物、オッケー。」
吉澤は入院の準備を済ませベッドの上で眠る田中に視線を向けた。
規則正しい、呼吸の音が聞こえてくる。
田中が自発的にしているものではない。
ベッドの横にある機械がそうしている。
「なんで、れーななのかな。」
田中の頭を撫で吉澤は呟いた。
れーなは喜怒哀楽が激しいっちゃ。
我慢とか出来んとよ。
思ってること全部出し切りたいとよ。
でも、それって自分のことしか考えてないっちゃね。
みんながれーなを知ってるわけじゃないっちゃ。
迷惑な人もおるけん。
それ、気がついてから、感情を出すの辞めたと・・・
悲しくても笑ったと。
頭にきても笑ったと。
そうしてたら、いつの間にか一人になってたと。
お父さんもお母さんもれーなは一人でも大丈夫って言ってたと。
本当は嫌なのに嫌だって言えん子になってたけん、仕方なかね。
一人ぼっちは寂しいって素直に言えん子になっとった。
もう、疲れたと・・・。
- 903 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:48
- 仕事から帰ってきて田中を買い物に誘おうと田中の部屋の前に立ったとき
ガスの匂いがして慌てた日のことを思い出した。
白いベッドの上で一命を取り留めた田中は白い天井を眺めながらそんな話しをしてくれた。
喜怒哀楽を捨てるなら人間辞めるだろ。
自殺できるのは人間だけなんだから。
れーなは出来ないんだよ。
したかったら人間になってからしろ。
そう、怒った。
自分のことを棚にあげて。
神様は意地悪だ。
人間になろうとしたら
生きようとしたら
タイムリミットを知らせてくるなんて。
- 904 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:49
- 吉澤さんと絵里みたく、れーなも恋愛してみたかったと。
でも、吉澤さんと絵里が幸せになってくれたられーなは満足っちゃ。
だから、側でみとっていいと?
タイムリミットを知った田中はそう言ってはにかんだ。
- 905 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:50
- 「起きた?」
目を開けた田中は頷いて機械に手を伸ばす。
規則正しく聞こえていた音が静かになってマスクが田中の口元から外れた。
「ずっとおってくれたと?」
「入院の準備、終わったよ。」
「ありがと。」
体を起こそうとする田中に吉澤が手を貸してやる。
「なぁ、吉澤さん。」
「なに?」
「たまにね、笑えてくるっちゃよ。」
「何が?」
「死のうとしたれーなが、死ぬの怖いっちゃ。」
「人間になれた証拠だろ。」
「そうっちゃね?」
「想像力があるのは・・・。」
「人間だけっちゃもんね。」
吉澤は頷きながら田中の頭を撫でた。
- 906 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:50
- 「れーなは絵里が大好きっちゃ。」
「うん。」
「吉澤さんと同じくらい大好きっちゃ。」
「うん。」
「ホントはね、ここに居りたいっちゃよ。病院より、ここで吉澤さんと絵里と居りたいと。」
「うん。」
「でも、絵里には知られたくないと。」
「亀ちゃんは知りたいと思うよ。突然いなくなられたら・・・。」
「絵里は不器用っちゃけん。吉澤さんのことだけ考えてればいいと。」
「れーなが思ってるほど、亀ちゃんは弱くないと思うよ。」
「絵里の涙にれーなが弱いと。」
「そっか。」
「れーなが弱いとよ。絵里に泣かれたらもっと死ぬのが怖くなるっちゃ。」
吉澤はそっと包み込むように田中を抱きしめた。
- 907 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/01(土) 22:51
- 「ねー。吉澤さん。」
「ん?」
「れーな。一人ぼっちになって一つよかったことがあるっちゃよ。」
「なに?」
「吉澤さんたちに会えたことっちゃ。」
目を閉じて微笑む田中はとても幸せそうに見えた。
- 908 名前:clover 投稿日:2007/09/01(土) 22:59
- 本日の更新以上です。
881-907 それぞれの恋
違う話しを書き始めてしまってこっちが進んでないという最悪なw
こっちも書かないとw
>>877 :名無飼育さ 様
レス有り難うございます。
田中さんが何気にここから話題をもたらす予定なので
今後もよろしくです。
>>878 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
ん〜。どうでしょw
続きを待ってくださいw
>>879 :ももんが 様
レス有り難うございます。
道重さんって自分の中でこんなイメージなんですよねw
田中さんも今後も話題をもたらす予定なので
見守ってください。
>>880 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
小川さんも色々これからなのでw
今後も宜しくです。
- 909 名前:名無飼育さっ 投稿日:2007/09/02(日) 01:17
- れいにゃ・・・やるせないです
でもれーなのポジションはとても素敵だなと・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
- 910 名前:ももんが 投稿日:2007/09/02(日) 20:56
- 更新おつかれさまです。
後藤さんと松浦さんはこうなったのか・・・。ちょっと予想外でした!
れいなの最後のセリフにジーンときました。
いい子だなあ・・・。
- 911 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:28
- 恋の行方
- 912 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:28
- 「なんで直ぐ言ってくれなかったのよぉ。」
小川に待ってるといわれて1週間。
そのことを部屋に来た亀井に話した新垣を亀井が嬉しそうに眺めている。
「なんでって、恥ずかしいじゃん、なんとなく」。】
亀井は首を傾げ新垣を見つめた。
「なんで、恥ずかしいの?」
「だって、ほら、今までそういう風にみてなかったのにさぁ。」
「意識しちゃって?」
「するでしょ。普通。」
「藤本さんのときそんなこと言わなかったじゃん。」
悪戯っぽく笑う亀井と驚いている新垣。
「ガキさんこの辺がキュンとかなってない?」
新垣の座るソファに這って行った亀井は新垣の胸の辺りをツンと突く。
- 913 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:29
- 「なっ、なってないから。」
「あー動揺してるぅ。」
「してない、してない。」
「ガキさん。」
「何よ。してないってば。」
「それが、恋のときめきってやつですよ。いいことだ。」
「だぁーからぁ。」
亀井は真面目な表情で新垣を見つめた。
「どうしたの?」
突然の変化に戸惑う表情の新垣。
「恥ずかしいとかでさ、はぐらかしたり、流したらダメだよ?」
「ん?何が?」
「小川麻琴は真剣に気持ちを伝えてきたんだから。それを恥ずかしいとかではぐらかしたら、可愛そうだよ。傷つくよ。」
新垣はじっと亀井を見つめてた。
- 914 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:29
- 「小川麻琴の気持ちをガキさんなりにちゃんと受け止めて答えは絶対に出さないとダメだよ。それが、礼儀ってもんよ。」
ニコっと笑った亀井に新垣は頷いた。
「言われなくてもちゃんと分かってます。でも・・・ありがと亀。」
亀井が満足そうに微笑むと新垣も優しい笑みを見せた。
「そういえばさ、カメ。」
「ん?」
「最近、田中っちどう?」
「どうって?」
「様子、とかさ。」
「んー。最近、れーなに会ってないから、わかんない。」
「そうなの?」
「うん、教会で会ったきりなんだ。吉澤さんの家にも来てないし。絵里も会いたいんだけどね。吉澤さんがれーな忙しいんだろうって。」
「そっか。」
新垣の表情が少しだけ曇った。
- 915 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:30
- 「どうしたの?」
「んー。なんでもないけど。」
「ガキさんもれーなに会いたいの?」
「んー。なんとなくね。」
「あーっ。もしかして、ガキさん絵里じゃ頼りなくてれーなに相談しようとか思ってるんでしょ。ひどーい。」
「そうそう、カメよりいいアドバイスくれるかなってね。」
新垣は作った笑みを浮かべながら、田中の体を心配していた。
- 916 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:31
- 亀井と吉澤の結婚式以来。1週間ぶりに小川と道重は顔を合わしていた。
道重が小川を呼び出したのだ。
「元気そうだね。」
辻とのことを気遣う小川に道重は満面の笑みで頷いた。
「もう、全然気にしてないからまこっちゃんも気にしないでいいよ。」
「ん。」
「それに、今さゆみハンターなの。」
「ハンター?」
「次の恋人探すハンター。」
「ハンターねー。」
「それより、行こう。」
「あぁうん、ってどこに?」
- 917 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:31
- 「付き合って欲しいところがある。」そう呼び出されてきたけれど、どこに行くのかは教えてくれなかった。
「まこっちゃんって人がいいよね。」
「ん?」
「ちょっと来てでのこのこ来ちゃうんだから。」
「付き合ってって言うからでしょ。で、どこに向かってるのさ。」
「実業団の練習見に行くの。」
「どこの?ってか、もう今から行っても終わってない?」
「練習はどーでもいいの。」
「そうなの?で、どこの?」
「加護さんが藤本さんのところで練習試合してるってまこっちゃん言ってたじゃん。」
「あーうん。」
「加護さんとちょっと話ししたいの。」
心配そうな顔をする小川に道重は笑みを見せた。
- 918 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:32
- 「吹っ切れてるけど、やっぱりね。なんか・・・加護さんのこと気になってるのもあるの。」
「話しして・・・どうするの?」
「加護さんの気持ち、聞きたいだけ。」
「そっか。んじゃ、行こう。」
- 919 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:32
- 「あれ?」
練習を終えた藤本が体育館を覗く小川と道重に声をかけた。
「あ、藤本さん。お疲れ様です。」
「小川、何してんの?」
「あいぼん、加護さんに用事があって。」
「マネージャーの?」
「はい。」
「呼んでこようか?」
「お願いします。」
「待ってて。」と言葉を残し体育館の中へと入っていく藤本。
「良かったね。」
「うん。」
「大丈夫?緊張してる?」
「大丈夫、ってかまこっちゃん優しいね。ガキさんにも伝わるといいね。」
「はっ。」
「ふふ、絵里から聞いたよ。」
「がぁー。」
「いい返事来るといいね。」
「もう、1週間なんもないけどね。」
俯く小川の肩を道重がポンポンと叩いた。
「今まで待ったんだから1週間だって2週間だって待ちなって。」
- 920 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:33
- 「うちに用ってなんや?」
スポーツタオルを手にやって来た加護。
小川が道重に視線を向けると道重は頷いてから加護へと歩み寄っていく。
加護は何事かと心配そうに道重の背を見つめる小川に視線を向けていた。
「あの、突然伺ってスミマセン。」
「えぇけどなんなん?」
「辻さんのことで、ちょっと。」
「のんがどうかした?」
「別れたんです。」
「そっか、そら都合えぇわ。」
ニコっと笑みを浮かべる加護。
「正直な方ですね、加護さんて。」
「何のことや?」
「都合が良いってことは辻さんのこと、まだ好きってことですよね。」
「そやな、好きやで、のんのこと一番よく分かってるのはうちやからな。」
「それは間違ってます。さゆみと付き合ってる間はさゆみが一番、辻さんを良く分かってました。」
「あんたも正直やな、道重さんやっけ。」
微笑み合う二人を小川はほっとした表情で眺めていた。
- 921 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:34
- 「加護さんは、辻さんとなんで別れたんですか?」
「側におらんとダメな子やから、中学生やったから転校が嫌とも言えんやろ。」
「仕方なかったってことですか。」
「そうや、その間はあんたがのんの側に居てくれたってことになるわけや、うちも就職したし自由の身やからのんの側に居れる。」
「じゃぁ。さゆみの役目も終わりってことですね。」
「自分、簡単やな。」
道重は寂しそうに微笑んだ。
「さゆみ、ダメなんです。」
「何が?」
「同じ気持ちじゃないとダメなんです。離れてたって、同じ気持ちなら側に感じること、出来ると思うんです。でも、辻さんはそうじゃない。さゆみが電話を待ってることも分かってくれなかった。だから、もういいんです。加護さんの気持ち聞いたら、辻さんは加護さんとのがあいそうだし。」
「同じ気持ちの人ってそう簡単には見つからんやろ。」
「そうですね。だから色んな人と付き合おうって思ってますよ。」
道重は笑顔で頭を下げると小川の隣へと戻っていく。
- 922 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:34
- 「すっきりした?」
「うん。完全に吹っ切れた。」
「なんか、凄いよね。重さんって。」
「ん?」と首を傾げる道重に小川は「ふふ。」と笑みを漏らす。
「まこっちゃんがそういう笑い方しても可愛くないよ。」
「はいはい。」
「かえろー。」と歩みだす道重の背中を追いながら小川はいつまでも笑っていた。
二人の後ろ姿を見送りながら加護は「のんはいい子にばっか好かれとるな。」と呟き微笑んだ。
- 923 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:35
- 「みーきたん。」
道重と加護の話しを聞き終えた藤本が家路をゆっくりと歩いていると暗闇に浮かぶ人影がそう呟く。
「不審者さんですか?」
「酷いなぁ。待ってたのに。」
藤本は歩を緩めることなく人影の前を過ぎてゆく。
「ちょっと。」
「んー?」
「待ってたって言ったでしょ。」
「うん。」
「用があるのとか聞いてよ。」
藤本は歩を止めて振り返り街灯の下で腕組みをしている松浦を視界に捉えるとあからさまにため息をついた。
「別に用事って用は無いんだけど、気がついたらここに居たの。でしょ。」
「さすが美貴たんわかってるじゃん。」
「ストーカーされてたことあるからね、松浦亜弥って子に。」
「ありがたく思えー。何年経っても変わらずストーカーしてもらえてるんだから。」
「うわぁ、今ちょっと嫌味言ったし。」
「あ、分かった?」
「で、なんでまたストーカー始めるわけ?」
「やっぱり、美貴たんが好きだから。」
ストレートに言われた藤本は苦笑をもらした。
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