彼女の誘惑

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 01:09
同板「彼女の魅力」の続きです

性別変えてます。そういうコントだと思って下さい
たまにエロくなります。気を付けて下さい
そんなの嫌だという人は、お読みにならないで下さい
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 01:10
登場人物


(0´∀`) :吉澤さん(変態執事)
川*’ー’):愛ちゃん(吉澤さんの恋人)

从*VvV):藤本美貴(会社員)
从*^▽^):梨華ちゃん(美貴の恋人)

从*^ー^) :絵里ちゃん(お嬢様)

从*´D`):のの(大学生)
∬∬´▽`):まこと(ののの彼氏;ののカレ)


その他はだいたい架空です

3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 01:11


*****


4 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:12
ののは、梨華ちゃん家のチャイムを鳴らした。
月に一度の恒例行事。ののの突撃晩御飯の時間がやってきたのだ。
のの、というのはあだ名だ。本当の名前は希美(のぞみ)だ。
希望が美しいと書いて希美だ。なんて素晴らしい名前なんだ。
その名前の通り、ののこと希美は希望満ち溢れる毎日を送っている。
彼女の笑顔は美しくキラキラと輝いて、いる。

「のんちゃんの笑った顔はホントに可愛いよね」
「うっそぉ。マジで?」
「マジマジ。大マジ。チョー最高級にマジ」
「はぁ…」

梨華ちゃんは呆れてものも言えない様子だった。
それもそのはず、こいつは人の家に毎月アポイントメントも無しにやってきて、
メシに連れてけと命令し、財布の中身をかっさらっていく。
彼女がいくら幼なじみの、妹同然な存在だとしても、ちょっとやめて頂きたい。
梨華ちゃんはそう思っていた。
そして、せめて、このまこととかいうアホ面の彼氏と一緒に来るのをやめろと、
何よりもまず言いたかった。
5 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:12
「今日は無理だよ」
「なんで?」

梨華ちゃんの部屋の玄関は、3人いるとだいぶ狭く感じた。
ののは、それじゃあ部屋に上げろよおめえと、ブーツを脱ごうとするが、
「ダメ。今度ちゃんとご飯連れてってあげるから、今日は帰ってくんない?」
「えー」
「えーじゃないえーじゃない。あたしにも一応、予定ってものがあるの」
「何の予定?」
「で、デートだよ」
「ウソだぁ。梨華ちゃん彼氏とかいないでしょ」
「いるから!失礼なこと言わないでよ!」
「もー梨華ちゃん寒い。中入れてー」

そんな感じでうだうだやってると、まことが何かに気付いた。

「ちょっと、ちょっとちょっと」
「あんだよまことぉ」
「ヤクザがこっち睨んでる…」
「え?!」
ののはまことと同じ方向を見て、口をあんぐりとした。
6 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:12
「ヤクザだ…」
「え?」
梨華ちゃんは部屋の中にいるからわけがわからない。
ヤクザ?そんな人はこのマンションには住んでないし、そんな人と関係の
ありそうな人も知らないけど…と思いながら玄関から顔出せば。

「美貴ちゃん!!!!!」

うそ。腕時計を見ると、時間はもう19時をまわっていた。
梨華ちゃんは、美貴のふてくされた顔を見て、空しく笑った。
7 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:12


*****


8 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:13
「のの?」
愛車のセダンを運転しながら、美貴はバックミラーを見た。
そこに映っているののは、持ち前の笑顔で頷いた。
「この子ね、ちっちゃいころから自分のこと”のの”って言ってたの」
助手席の梨華ちゃんが補足説明をする。

結局、ののの突撃晩御飯は続行されることとなった。
せっかくのデートを邪魔され、始めは不機嫌そうだった美貴も、
ののが梨華ちゃんの幼なじみだと知ると、態度が一変。
梨華ちゃんの妹的存在は、自分のそれと同じ。
じゃあこのお兄さんが晩御飯でも何でもおごってやるべ!
みたいな勢いで車に乗り込んだのだ。
9 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:13
「で、彼氏?」
「はい。まことっていうんです」
「ど、どうも」
「まことはののと高1の時から付き合ってるんだよ」
「へぇ。よく続いてんね」
「はい。今でもラブラブですから。フレッシュフレッシュ」
「ちょ、のんちゃん」

照れるまことと、あははと明るく笑い飛ばすのの。
なんだか微笑ましくて、美貴は梨華ちゃんを見た。
彼女も穏やかな顔をしていて、二人で笑い合う。
ののは、そんな二人を後ろの座席から見て、うれしそうに微笑んだ。
まことも意味も無くニコニコしていて、車内はとても良い雰囲気だった。
10 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:14


*****


11 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:14
「さ、二人とも、たんと食えたんと」
「わーい」

やってきましたここは焼肉食べ放題。
美貴も、意気揚々と腕まくり。
「あれ、梨華ちゃん?」
しかし、なんだか梨華ちゃんの様子がおかしい。
早速肉を焼き始めたカップル二人は何にも気付いてない。

「どした?」
「さっきから、ちょっと、気持ち悪くて…」
「大丈夫?」
「うん…でも吐きそう」
「トイレ行こうトイレ」
口元をおさえる梨華ちゃんの肩を、美貴は抱いた。
彼女をそっと、女子トイレへと誘導する。
美貴はもちろんそのドアの前で、心配そうにそわそわしながら、
梨華ちゃんを待っていた。
比較的健康な彼女が、突然あんなことを言い出すなんて。
風邪か何かのウイルスか、はたまた。
いや、あまり悪いことは考えないでおこう。気分が沈むから。
焼肉にメがない美貴だが、今は梨華ちゃんのことで頭がいっぱいだった。
12 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:15
ののとまことを駅まで送って、その帰り道。
梨華ちゃんが薬局に行きたいというので、美貴は車を走らせていた。
彼女は結局、サラダを少し食べただけで、焼肉を食べなかった。
今も具合が悪そうで、心配になる。

「ちょっと待ってて」
「うん」

エンジンをかけたまま、駐車場で待つ。
美貴がふとラジオをつければ、軽快なポップスが流れてきた。
桃色の桃色の、とサビで連呼している、変な曲。
間にセリフもあって、なんだか背筋がこそばくなってくるような。

『……聴いていただいたのは、重ピンクと、こはっピンクの1stアルバムより、
”レインボーピンク”でした……』

ブハッ!
なんだか聞いた事のある名前に、美貴は思わず噴き出した。
重ピンクと、こはっピンクって、吉澤さんから貸してもらった
エロDVDに出てたあの可愛い二人組…CDまで出してるのか。すごいな。
13 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:15
「お待たせ」
そこへ、梨華ちゃんが戻ってくる。
美貴はラジオを消して、
「何の薬?」
尋ねれば、梨華ちゃんは「んー」と曖昧な返事を。
大事そうに薬局の袋を抱え、どこかを見つめていた。

「あのね美貴ちゃん…」
梨華ちゃんが顔を上げた。なぜか、とても真剣な表情。
「ど、どうしたの?」
そんな真面目な顔、あまり見たことがない美貴は、少し動揺する。
え、なになにいきなり。すごく、嫌な予感。

「あのね…実は」
「……」
「美貴ちゃん」
「…な、なに?」
「大事な話があるの」
だ、大事な話って……美貴の背中に変な汗が流れる。
何だよ。何なんだよ。すげーこえー。
「…わ、別れ話ならお断りだからな」
「別れ話なんてするわけないでしょ!?」
「…すんません」
なぜかいきなり怒られて、美貴は平謝り。
14 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:15
「アレがこないの」
「はい?」
「アレが、まだこないの」
「…アレ?」
「そう、アレ」
「あー、アレ?」
「そうそう、アレ」
「あーあー、アレね」
「うんうん、アレだよ」
「なんだ、アレかぁ……って!!!何だよアレって!!!」
今度は美貴がキレる。すると梨華ちゃんもムッとして、
「アレはアレでしょ!」
「だからアレは何だって聞いてんの!」
「アレはアレよ!」
「アレはアレって何なんだよ!」
「アレはアレって言ってんでしょ!」
「ああもう!」
「何よ!」
「何だよ!」
「なに、ヤんの?!」
「ヤラないから!あとでヤルから!」
「わかったわよ!」
「……ねぇ、ホントにアレって何なの?」
トーンを落とし、美貴は真剣に尋ねた。
梨華ちゃんは小さく深呼吸をして、話し始める。
15 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:16
「アレはお月さまのことだよ」
「え?お月さま?」
「うん…毎月ちゃんと同じようにくるのに、今月まだこないの」
「え……えぇ?」
そそそそそそそれってもしかして!!!!!

「え?なに?うそ?え…え?なにそれ?うそでしょ?」
「美貴ちゃん、動揺しすぎ…」
頭をぐしゃぐしゃにして考える美貴に、梨華ちゃんが苦笑する。

「…よよ、要するに、できちゃったの?」
「かもしれないなぁ、と思って、コレ」
ガサガサと、薬局の袋から出てきたそれは、いわゆる妊娠検査薬。
「…美貴ちゃん?」
梨華ちゃんは、それを見つめたままポカンとしてる美貴の前に手をかざす。
しかし、美貴は無反応。
「どうする?おめでただったら」
微笑む梨華ちゃん。美貴は、ゆっくりと彼女の方に視線を移して、
「梨華ちゃん…」
「なに?」
「どうしよう、今、うれしすぎて走り回りたいんだけど」
16 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:16
ガバッと、美貴は梨華ちゃんを抱き寄せた。
「でもまだ調べてみないとわからないから」
「いや、できてるね」
「何その自信」
梨華ちゃんが笑う。
美貴も、ありえないくらいゴキゲンな調子で笑った。
17 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:16


*****


18 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:17
「おめでとうございます」

翌日、二人はそろって産婦人科に居た。
やっぱり、梨華ちゃんのお腹には、二人の赤ちゃんができていた。
19 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:17


*****


20 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:17
「で、いつ産まれるの?」

ワイングラス片手に、吉澤さんは尋ねた。
彼の正面に座っている美貴は、ナイフでステーキを切りながら、
「8月8日」
「おお、そろばんの日じゃん」
「いいだろ」
「うん」
何がいいんだか。吉澤さんの隣で、愛ちゃんがクスッと笑った。
「でも、男と女、どっちでしょうね」
正面に座る梨華ちゃんに、尋ねる。すると美貴が、
「元気に産まれてくれれば、どっちでもいいよね」
「出たそのセリフ。みーんな、そう言うんだ」
ぐいっとワインを流し込む、吉澤さん。
21 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:18
「ぶっちゃけさ、どっちがいいとかあるっしょ」
「別にどっちでもいいよ」
「いや。おめえは絶対、女の子が良いって思ってる」
「は?」
「パパ〜♪って呼ばれてデレデレしてる姿が目に浮かぶな!あぁ!」
「ちょっと吉澤さん…うるさいですって」
「そうだよ。赤ちゃんの胎教に悪いだろうがボケナス」
「美貴ちゃん言葉悪いよ、赤ちゃんに影響したらどうするの?」
「ホント、どうするの?」
梨華ちゃんの真似をして、吉澤さんが美貴を見た。
美貴は、それをシカトして肉を食らう。
愛ちゃんが料理した最高級の松坂牛だ。まずいハズがない。
「まいうー。最高だね愛ちゃん」
「あぁ、ありがとうございます」
「私の妻にちょっかい出さないでくれたまえミスター藤本」
「いつから愛ちゃんはおまえの妻になったんだよ!」
「え、今から」
ちょこん、と愛ちゃんの肩の上に頭をのっける、吉澤さん。大の大人。
22 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:19
「ねぇ、愛ちゃん。結婚したくなってきた…」
「よ、吉澤さん?」
唐突なプロポーズに、愛ちゃんは苦笑い。
ん?いや、よく見ると照れてハニカんでるじゃないか!このバカップルめ!
美貴はひとりツッコんで、ライスを口の中にかきこんだ。

「そういや、おめえ、結婚すんの?」
「んぐっ」
吉澤さんの質問に、美貴はご飯粒を喉に詰まらせた。
ゲホッゲホッ、と盛大に咳き込む。
すると梨華ちゃんが、美貴の背中を擦ってあげて、
「大丈夫?」
「…窒息するかと思った」
「そういうくだらない演技はいいからさ、結婚すんの?」
「…クソが」
「美貴ちゃん」
「え?何か?」
「これから、言葉遣いには十分気をつけましょうね」
顔は笑ってるけど目が笑ってない梨華ちゃんに、美貴は大人しく頷いた。
23 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:19
「結婚するよ。当たり前だろ」
「え、いつするんですか?」
「まだ決めてないけど、あたしのお腹が目立ってこないうちにね」
「ついに美貴が結婚かぁ。お父さん感無量だよ。ウンウン」
「誰がお父さんだよこのロリコン」
「おまっ、ロリコンとか根拠も無いデタラメを私の妻の前で言わないでくれないか!」
「こはっピンクに欲情してるてめえは立派な犯罪者予備軍なんだよ!」
「ちょ!犯罪者とか!こはっピンクに欲情しない男なんてこの世に存在しねえんだよ!
おめえが隠れてこはっピンクであんなことやこんなことしてるの知ってんだかんな!」
「うっせえ!おれはただこはっピンクのファンなだけだ!」
「おれだってただのこはっピンクのファンなだけなんだよ!」
「ああ?」
「ああん?」
美貴と吉澤さんは、顔を近づけて睨み合う。
しかし、隣の方から漂う嫌な空気に、二人は気付いてしまった。
24 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:20
「ちょっと美貴ちゃん?こはっピンクって何?」
「吉澤さん、こはっピンクに欲情してたんですか?」
「…ちょっとトイレ行って来る」
「…あ、おれも」
やっちゃった。美貴と吉澤さんは、我先にとトイレを目指した。
その後、二人がそれぞれ恋人から厳しい追及を受けたのは言うまでもない。
25 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:20

…つづく


26 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/22(木) 01:21

从*・ 。.・)<なんでさゆみ無視したの?
ノリo´ゥ`リ<…ドンマイ


27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 04:13
自分、重ピンクに欲情中っす
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 08:11
重ピンクはそういうキャラですか、そうですかw
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 15:52
キタ・・・キタキタキタキターーーー!!!!
待ち焦がれたぞリーダー!!!
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 22:11
新作キタコレ
リーダーありがとおおおおおお
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 10:19
>>27さん
ノリo´ゥ`リ<よかったね重ピンク!
从*・ 。.・)<同情という名の欲情はいらないの

>>28さん
ノリo´ゥ`リ<なんか笑われてるよ重ピンク!
从*・ 。.・)<笑いたい人は笑わせておけばいいの

>>29さん
(0´∀`)<待たせたなっ
ゆったり書いていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします

>>30さん
(0´∀`)<礼は身体で払ってもらおうか
すいません嘘ですごめんなさい引かないでください
32 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:20


*****


33 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:20
ある日の深夜も深夜、街中のとあるクラブ。
たくさんの若者たちが、DJの音楽に合わせてノリノリで身体を揺らしていた。
その中に混じって、吉澤さんと愛ちゃんも、仲良く踊っていた。
吉澤さんはいつものスーツでなく、ジャージー姿。もちアディダス。
スニーカーも、アディダス。つまり、全身アディダス。
でも、そんなにダサく見えないのは吉澤さんの特権だろう。
対する愛ちゃんは、露出度の高いイケイケな格好をしている。
そして、吉澤さんを無意識に誘惑しているのだ。
34 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:21
ダンスナンバーの次はムーディーな曲。照明もそれに合わせて、薄暗くなる。
回るミラーボール。見つめ合う、二人。
吉澤さんが愛ちゃんに手を差し出すと、彼女はそっとそれを握った。
二人は向かい合い、音楽に合わせて、揺れ始める。

「こうやって踊ってると、付き合い始めたころを思い出しません?」
膝と膝が触れ合いそうな距離で、愛ちゃんが囁いた。
「そうだね」
低い声で、吉澤さんが答える。
付き合い始めた頃か。目を閉じて、思い出してみる。

「覚えてますか?吉澤さんの部屋で踊ったこと」
呼吸をすれば、愛ちゃんの香りが鼻をくすぐる。
吉澤さんは目を閉じたまま、「うん」と答えた。
35 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:21
忘れるわけがない。あれほどロマンティックで、エロティックな夜は、
愛ちゃんと付き合うまで一度も無かった。
この、彼女の香りと手の柔らかさ、そして触れた腰から伝わる体温に、
吉澤さんの意識は付き合い始めた頃へと、ぶっ飛んでいった。
36 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:21


*****


37 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:22
亀井家で催される、恒例のダンスパーティ。
優雅に流れるクラシック。生演奏。
色んな世代のセレブたちが、豪華な料理と楽しいおしゃべりに
花を咲かせて、笑顔で踊る。そんなパーティ。
今夜は愛ちゃんも参加している。そして、あの元彼ボンボンも。
無数の人々を見渡して、吉澤さんは愛ちゃんを探した。そして見つける。

今夜の愛ちゃんは肩の開いた非常にセクシーなドレス姿。
美しい身体のラインが、なんとも艶かしい。
男が寄ってこない、わけがない。
あああ。欲しい。抱きたくて堪らない。

愛ちゃんは、男たちとおしゃべりをしていた。
彼女の一番側に奴がいた。メラメラと湧き上がる、嫉妬心。
吉澤さんは、少し離れたところから、じっと彼女を見つめた。
彼女は気づかない。それもそうだ。距離が遠すぎる。

「…帰ろう」
38 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:22
楽しい時間を過ごしていた絵里ちゃんに挨拶をしてから、
吉澤さんは自室に戻った。
堅苦しいネクタイを緩め、ベッドに大の字になる。
枕もとのリモコンを操作して、コンポのCDを再生する。
流れてきたのは英語の歌。切ないバラード。
こういう時にそういう曲を聴いてると、本当に切なくなる。
愛ちゃんと付き合い始めて、二人の距離は、確かに縮まったはずなのに。
元彼ボンボンから、見事に奪ってやったはずなのに。

こんな夜は、道重さゆみを見るに限る。よっこらしょと起き上がり、
その準備をするため、吉澤さんはジャージーに着替えようとした。
すると、突然ドアがノックされる。コンコン。

「はい」
誰だ。青山さんかな。
特に何も考えることなくそのドアを開ければ、そこには愛ちゃんがいた。

「高橋様」
「どうも」
「どうしてここを?」
「絵里から、この場所を聞いて」
39 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:22
愛ちゃんを、部屋に入れる。
同僚以外を招いたことがないこの部屋。
エロDVDを見えない場所に置いてて良かったと心底安心する。

「とりあえず、椅子に」
「ありがとうございます」

ぶっちゃけ、吉澤さんの部屋は狭い。
椅子も、机についているひとつだけで、ソファも何も無い。
あるのはちょっとした棚とベッドだけ。
吉澤さんはベッドに腰かけ、音楽を止めた。

「パーティはいいんですか?まだ、21時まででしょう」
「いいんです」
愛ちゃんが答えたあと、シーンとなる部屋。
こうやって二人きりになれたのはうれしいけれど、何を話そうか。
吉澤さんが考えていると、愛ちゃんがCDプレーヤーを見て、
「何聴いてたんですか?」
「洋楽の、オムニバスです。色々入ってて、お得なやつ」
手を伸ばしてCDケースを取り、愛ちゃんに渡す。

「聴きたい曲とかあったらかけますけど」
「続きからでいいですよ」
「そうですか」
ふたたびCDを再生する。流れ始める、さっきのバラード。
40 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:23
「どうして僕の部屋まで来たんですか?」
「絵里に、注意されちゃって」
「何を?」
「あんまり、元彼と仲良くするな、って」
ああ。吉澤さんは、苦笑いする愛ちゃんの顔を見た。
「あたしがそんなつもりなくても、吉澤さんがどう思うかわからないでしょって」
「絵里お嬢様がそんなことを」
「それで、吉澤さんが先に部屋に戻ったこと教えてくれて。だから、来たんです」
「僕の機嫌をとりに?」
「違いますよ」
即答で否定する愛ちゃんに、吉澤さんはクスッと笑った。
立ち上がって彼女の後ろにまわり、両腕で抱きしめる。
「吉澤さん?」
「ここに来た理由なんて、どうでもいいですね。
お嬢様が会いに来てくれたということだけで、僕はとても幸せです」
ぎゅっと力を込めると、愛ちゃんが手を重ねてきた。
なんだか、ロマンティックな雰囲気だ。
良い感じのバラードが、吉澤さんを後押しする。
41 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:23
「今日、吉澤さんと踊りたかったです」
「踊りましょうよ」
「え?」
「ここで」

抱きしめていた腕をほどいて、吉澤さんは愛ちゃんの前に立った。
右手を彼女へ差し出して、「さあ」
愛ちゃんはちょっと戸惑いつつも、その手を握り椅子から立ち上がった。

ちょうど良いタイミングで、次の曲に変わる。
有名なラブソングだった。心の中で、CDグッジョブ!!!と叫ぶ。
吉澤さんは、愛ちゃんの腰に手を添えて、音楽に合わせ揺れ始めた。
愛ちゃんも照れながら踊り始める。
狭い部屋が、一気にムード満点ダンスホールに。
42 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:23
ドレスの生地は思ったより薄い。
愛ちゃんの腰のラインをなぞりながら、吉澤さんは一歩前に出た。
彼女が微笑む。揺れながら、二人は次第に距離を縮めた。
あっという間に、胸と胸が触れ合うくらい近くに。

「なんか、ドキドキしますね」
「そうですね」
微笑む吉澤さんの視界に、愛ちゃんのうなじ。
いつしか二人の股間は触れ合い、どんどん体温が上がっていく。
音楽は止まらない。だから二人も止まらない。
狭い部屋でチークダンス。手を握り合って、こうやって近づくだけ。
裸になって肌を合わせるときと同じくらい、興奮する。
踊ることが、こんなにもエロティックだなんて、知らなかった。
43 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:24
曲が終わっても、二人は離れず、くっついていた。
愛ちゃんが、吉澤さんの肩におでこを寄せる。
吉澤さんは両腕で彼女を包み込む。そして、むきだしの肩にキスをする。
この真っ白な肌が、さっきからうるさいのだ。
ここにキスしてくれと、早く舐めてくれと、誘惑してくるのだ。

「…まだ、帰らなくて大丈夫ですか?」

愛ちゃんは、黙って縦に頷いた。
見つめ合ったまま、吉澤さんは彼女に唇を寄せる。
彼女がすっと目を閉じて、二人は静かに唇を重ねた。
はじめは軽く触れ合っていただけの唇は次第に開き、
舌がぶつかり合うように絡み始める。

吉澤さんはキスをしながら、手探りで背中のファスナーに触れた。
それを一気に下ろす。首の後ろの紐もほどく。
身に付けているか謎だったブラジャーが現れるが、それも剥ぎ取る。
あれよあれよと愛ちゃんは裸にされて、ベッドに押し倒された。
44 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:24
もう、すでに吉澤さんのアソコはビンビコビンだ。言うまでもない。
今夜の欲望は違う女で発散しようとしていたことなんて、すっかり忘れ去っている。

二人の距離をゼロにするべく、吉澤さんはスーツを脱ぎ捨てた。
夜のダンスパーティーは、まだまだこれからだ。
45 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:24

…つづく


46 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/02/23(金) 10:25

(0´∀`)<イメージソングは「メリージェーン」で頼むよ
从VvV)<洋楽じゃないじゃん。つのだ☆ひろじゃん


47 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 23:26
重ピンクかわいいよ重ピンク
48 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/24(土) 03:50
愛ちゃん・・・チョーセクシーッス

でも自分は、まだ重ピンクに欲情中です
(同情じゃないんだよ〜、重ピンク♪)
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/24(土) 08:34
続きが待遠しい…
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 00:20
ドキドキ
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/06(火) 00:31
深夜特急待ってるやよ
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/09(金) 21:13
>>47さん
確かに重ピンクもかわいいけど、こはっピンクもかわいいよ!

>>48さん
同情じゃなく欲情ってか!全然面白くないかんね!
すみませんレスに面白さなんて求めてませんまたコメントしてください

>>49さん
続きどぞー

>>50さん
LOVEメール

>>51さん
特急さん(*´Д`) ハァハァ
53 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:14


*****


54 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:14
「あのとき子供が出来てたら、きっと駆け落ちしてたと思う」
「どこに?」
「おいらの地元、”彩の国”サイタマさ」
吉澤さんがカッコつけて言うと、愛ちゃんがアッヒャと笑った。
その反応に吉澤さんもニヤニヤする。
「いやでも、あのときは焦ったよ」
「そうですね」
クラブにあるバーのカウンターで、お洒落なカクテルなんかを飲みながら、
さっきまで踊っていた疲れを癒す。ちびちび飲んでいる愛ちゃんと、
ぐいぐい飲む吉澤さん。高橋家のお嬢様と、亀井家の執事。
二人は今でこそ順調な交際をしているが、付き合い始めたころは大変だった。
何が一番大変だったのか。それは、愛ちゃんの妊娠騒動だった。
55 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:14


*****


56 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:15
あの夜は、ジャンルで言えばロックンロールだった。
亀井家でのダンスパーティの後、吉澤さんの部屋で。
元彼ボンボンと愛ちゃんのツーショットを見たせいか、吉澤さんはとても燃えていた。
あいつには負けない。あいつにだけは負けたくない。負けたくないし、負けてない。
この身体で愛ちゃんを夢中にさせてやるんだと、意気込んでいた。
57 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:15
愛ちゃんをM字開脚させて、吉澤さんは彼女の秘密な場所にキスをする。
尖った部分を舌で転がす度に、艶かしく身体をくねらせて愛ちゃんが悶える。
AV女優以上に、エッチな声で喘ぐ。
元彼ボンボンもこんな彼女を独り占めしていたのだろうか。
考えるだけで憎らしい。あいつが。そして、このいやらしい女も。
たっぷりとお仕置きしてやる。もう、ぶっ倒れるくらいの快感を、彼女に。

人差し指と中指で、愛ちゃんの入場ゲートを突破する。
だらしなく開いた唇にキスをすると、彼女の舌がすぐに絡んでくる。
指でガンガン中を突きながら、無茶苦茶に口づける。
苦しそうな愛ちゃんの声。吉澤さんの背筋はゾクゾクしっぱなしだ。
もっと責めたい。崖っぷちまで追い込んでやりたい。
58 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:16
機械の振動よりも速く、吉澤さんは指を動かす。
人間の限界に挑戦するように、愛ちゃんがイクまで、突きまくる。
淫らな彼女の顔を、穴が開くくらい、間近で凝視する。
ものすっごいいやらしい。それでいて、ムカついてくるくらい綺麗だ。
吉澤さんは愛ちゃんに半ば見とれながら、彼女の身体が大きく震えるまで、
ひたすら指を動かしていた。

シーツをぎゅっと握り締めて、泣きそうな顔で達した愛ちゃん。
いったん落ち着いて吉澤さんを見つめてくる。
吉澤さんは、あざ笑うようにニヤリとして、濡れた指を彼女の口に突っ込んだ。
「舐めて」
囁けば、愛ちゃんが素直に吉澤さんの指を舐める。
始めは赤ん坊がおしゃぶりを咥えているみたいだったけれど、
いつの間にか、アレを愛撫するようなセクシーな顔になってゆく。
吉澤さんのアレが欲しいと、視線で訴えかけてくる。
こんな眼差しも、以前は全て元彼ボンボンへ向けられていた。
でも、今は吉澤さんだけ。吉澤さんはオンリーワンなのだ。
59 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:17
「もういい」
愛ちゃんの口から自分の指を抜き、吉澤さんは彼女の上に跨った。
上目遣いで誘惑してくる彼女を、冷たい目で見下ろしてみる。
「吉澤さん?」
やっぱ良い。この潤んだ瞳が堪んない。
吉澤さんは内心ウヒョヒョとなっているが、表には出さない。
かがんで、愛ちゃんの顔の目の前まできて、
「次、あの男と話したりしたら、別れるからな」
「え」
「これからは、他のヤツ交えて会うとかも許さない」
「でも、今日みたいな場合は仕方ないよ?」
「今日みたいな場合でもダメだ。絶対あの男に近づくな」

彼女の誘惑は、男からしたらビックボムだ。
たとえ彼女自身が意識していなくとも、とんでもない威力を持っている。
そのことを誰よりもわかっているつもりの吉澤さんは、忠告する。
元彼ボンボンと今後一切関わりを持つな。
あいつの前で笑ったりしてもダメだし、視線を向けるのもダメだ。
過剰な束縛だって思われたっていい。
吉澤さんはいつも愛ちゃんのオンリーワンでいたいのだ。
オンリーワンかつ、ナンバーワンでありたいのだ。
60 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:17
素直な恋人は、黙って頷く。
そして、吉澤さんの首に両腕を巻きつけて、キスをした。

「あたし、縛られるほうが好きなんです」
「へ?」
唐突なカミングアウトに、吉澤さんの顔が一気に緩んだ。
「残念ながら、この部屋には縛れそうなものが無いんですけど」
「ちがっ!縛るのはその縛るじゃなくて、いや、そういう縛るも好きやけど…」
ブハッ。焦って訛って早口になった愛ちゃんがとんでもない発言を。
「好きなんですか?縛られるの」
「あたし、縛られてないと、すぐあっちこっち行っちゃうんで」
「へ」
「声かけられちゃうと断れないし。だから、縛ってくれたほうがいいんです」
「マジすか」
「はい…もっと縛ってください。身動きが取れんくらい」

それは、ちょっとアブナイ言葉。
けれど彼女は、本気で吉澤さんに縛られたがっている。
吉澤さんはそのお願いに応えないわけにはいかない。
縛られたい彼女を縛れるのは今、吉澤さんしかいないんだから。
61 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:18
「じゃあ、縛ります」

吉澤さんはベッドから降りて、さっき床に投げ捨てたネクタイを拾った。
愛ちゃんの身体を裏返しにして、彼女の両手首をそれで縛る。

「ホントに縛られちゃった」
うれしそうに笑う愛ちゃん。吉澤さんは彼女の上に寄り添って、
「今度はちゃんと縄を用意しておきますから、今日はこれで我慢してください」
綺麗な背中に、頬ずりする。
背骨に沿ってキスをして、プリッとしたお尻にかぶりつく。
割れ目にそっと舌を入れ、彼女のもうひとつの入り口に触れる。
「ちょっと…そこは…」
「いいじゃないですか。もう恥ずかしがることなんて、ないでしょう」
紳士的に囁いて、吉澤さんは愛ちゃんのお尻に顔を埋めた。
62 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:18
愛ちゃんは手首を拘束されている。
でも、彼女は抵抗する様子すら見せずに、ただ吉澤さんにされるがままだ。
お尻を持ち上げられて、ちょっと恥ずかしい格好になっても、黙っている。

「入れるよ」
「えっ?」
動揺した声が聞こえて、吉澤さんはニヤリとした。
それもそのはず、吉澤さんのアレの先っぽは、本来入るべきでない穴に
押し付けられていた。つまりは、禁断の穴なんとかプレイをしようと。
「ウソだよ」
禁断の穴に入るかと思いきや、吉澤さんは柔らかなソコへ一気に挿入。
愛ちゃんのバックから、ピストン運動を始める。
吉澤さんは、犬さながらに腰を振る。気持ち良すぎて、何もかもどうでもよくなってくる。
隣の部屋の青山さんにはコレ丸聞こえの可能性大なこととか、複雑なお互いの立場とか、
元彼ボンボンの存在とか、来月新しい道重さゆみのDVDが出ることとか、何もかも。
愛ちゃんの中の気持ち良さの前では、全部が全部ちっぽけに思えてくる。
この身体で彼女を夢中にさせるなんておこがましい。
吉澤さんの方が、彼女の魅力的な身体に夢中すぎる。
63 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:18
愛ちゃんは、すでに先にイッてイカされてもう1回イキそうだ。
手首を縛られ、ちょっと恥ずかしい格好で後ろから犯されて、
彼女はもうアンアン喘ぐしか出来ないくらいイッている。
吉澤さんの目の前にも、とうとう眩しい光が訪れようとしていた。

今日くらい中で出したって大丈夫だよね。
もちろん明日以降はちゃんとするし。絶対だし。ジーコに誓うし。
そう自分に言い聞かせた吉澤さんは、愛ちゃんの中でイッた。
64 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:19


*****


65 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:19
「綺麗だったか」
「あぁ」
「そんなに、綺麗だったか」
「あぁっつってんだろ!」

美貴は、声を張り上げた吉澤さんに顔をしかめることもなく、
グラス片手に微笑んだ。彼らの前ではバーテンダーがボーっと
お皿を拭いている。なんか落ち着いた雰囲気。
「おい」
「ん?」
「ホントに、これで良かったのか?」
「良かったも何も…こうするしか無かったし」
「おめえはそれで後悔してないのか?」
「してない。するわけないじゃん」
「おいおい」
「亜弥ちゃんが幸せになれるんなら、おれはそれでいい」
ぐいっと一気にウイスキーを飲み干す美貴。
吉澤さんは、バーテンさんと目を合わせて首をかしげる。
66 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:19
「そっちこそ最近どうなんだよ。あの可愛いお嬢様とは」
「おいどんはいたって順風満帆……だったらいいけど」
「あれあれ?」
「それがさぁ、その婚約パーティ以来、1週間会ってないわけよ」
「やっと相手もてめえの本性に気付いて愛想つかしたか」
「私は紳士的なジェントルマンじゃないか。失敬だぞ君」
「紳士的でジェントルマンってだいぶ意味被ってるけどね」
「けっ!金持ちのボンボンにソッコーで白旗上げた負け犬には言われたくないわ!」

こっちは絶対に負けないから。負けたくないし、負けてないから。
お気に入りのフレーズを心の中で呟き、吉澤さんはウォッカをあおった。

婚約パーティ。
松浦亜弥と某有名企業のお坊ちゃまとの2ショット初お披露目パーティ。
絵里ちゃんの付き添いで会場に居た吉澤さんは、愛ちゃんを見つけるより早く、
あの元彼ボンボンを発見してしまった。数秒見つめ合って、視線を交わしてしまった。
傲慢で上から目線な奴の態度。思い出すだけでムカムカしてくる。
67 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:20
「で、1週間会ってないってなんで」
「知らないよ。電話しても出ないしメールもたまにしか返ってこねえし」
「元彼とヨリが戻ったんじゃねえの?」
「それはおめえが松浦亜弥と結婚するくらいありえない」
「じゃあ、100%無いですね」
うむ。吉澤さんは腕組みをして頷いた。
すごい自信だな。美貴が苦笑いする。

「会いに行けばいいじゃん」
「愛に会いに?」
「うん。愛に会いに」
「愛に会いに行って愛し合ってきてもいいのかな」
「愛に会いに行って愛し合ってくればいいじゃん」
「じゃあ、愛に会いに行って愛し合ってくるよ。コンコン、おあいそ」
68 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:20


*****


69 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:21
愛ちゃんは、電源が入っていないか電波の届かない所に居るらしい。
明かりの点いている最上階を見上げ、吉澤さんは溜め息をついた。
彼女の住むマンションの前。夜風はジトッと湿っぽくて、汗とセットで不快だ。
ここまで走ってきたせいで、なんだか汗が止まらない。とても不愉快だ。

ケータイを操作して、愛ちゃんから返ってきた最後のメールを見る。
「会いたい」と言えば、「今日は無理です」と。
きっと、今同じメールを送っても同じ返事が返ってきそうな感じ。
恐ろしいくらい、会えそうな気が、しない。

でも、ここで諦めて帰らないのが吉澤さんだ。
彼は、無理矢理ペナルティエリアに攻め込んでVゴールを決めた男。
愛ちゃんにフラれかけたところを力ずくで抱いた、すっごい男なのだ。
そのすっごい男は、ケータイが使い物にならないくらいじゃへこたれない。
江戸時代とかはケータイなんてそんなもの存在しなかったのだ。
男と女は、ケータイなんぞ無くとも、成立するのだ。当然。そうじゃなきゃおかしい。
電波なんていらないいらない。この身ひとつさえあれば、それでいいのだ。
70 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:21
ちょうど帰宅した住人の後ろを付いていき、吉澤さんはマンションの中に入る。
いつもは熱くキスしてお互いの身体を弄り合うエレベーターの中へ乗り込んで、
愛ちゃんの部屋がある最上階を目指す。その間に、Tシャツで汗を拭って、
髪型を整える。走ってきたからといって、みっともない格好は見せたくない。

愛ちゃんの部屋のピンポンを、人差し指で丁寧に押す。
こうやって訪ねることは滅多に無い。彼女はどういう反応をするだろう。
カメラの前でかしこまって、吉澤さんは返事を待った。

『吉澤さん?』
「はい。吉澤さんです」

ものの数秒で、ドアが開く。ビックリ顔の愛ちゃんがひょっこり顔を出した。
吉澤さんはドアを掴んで強引に玄関に入って、愛ちゃんを見つめた。
「こんばんは」
「…どうしたんですか」
「それは、こっちのセリフなんですけど」
気まずい顔で視線を逸らす、愛ちゃん。吉澤さんの恋人。
71 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:22
「電話しても出ない。メールの返事も遅い。何よりこの1週間、会ってない。
おかしいと思わない方がおかしいでしょう」
「……」
「何か失礼なことをしたのなら謝ります」
愛ちゃんは俯いて壁にもたれた。

「お嬢様」
「出来ちゃったかもしれないんです」
「出来ちゃったって…ファイファン5全クリ出来たんですか」
「あ、先週やっと出来たんですよ…じゃなくって!」
「話逸らすなよ」
「逸らしたの吉澤さんじゃないですか」
いっけね。吉澤さんは自分の頭を叩いた。
顔を上げた愛ちゃんが、唇を尖らせている。
72 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:22
「ベイビーが、出来ちゃったかもしれないんです」
「ベイビー?ミリオンダラーベイビー?」
「いい加減にしてください」
「すいません」
ベイビーって、あのベイビーだよな。間違い無いよな。
吉澤さんはなんか全身から変な汗が出てくるのを感じる。
走ってきたせいでかいた汗とは、また違う汗。

「だから悩んでたんです」
「相談してくれればいいのに」
「嫌です」
「なんでさ」
「だって、もしかしたらその……あの…」
「ん?」
「もしかするとですよ、もしかすると…あの…」
「まさか」
嫌な予感を察知して、吉澤さんは愛ちゃんを見つめた。
彼女が、黙って頷く。オーマイガッ。頭を抱える吉澤さん。
なんてこった。そういうこともありえるんだ。ありえちゃうんだ。
ああジーコ。運命というものはなんて残酷なものなんでしょう。
さっきから冷や汗が止まらない。ここはクーラーがついてて快適なのに。
73 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:23
「あの男とも生でヤッてたのか…」
吉澤さんは、その場に座り込んで髪をかき乱した。なんてこったなんてこった。
「だって、結婚するつもりだったから…」
「くっそー」
指折り数えて、確認してみる。
しかし、何度考えてみても、わからない。馬鹿だから、計算できない。
悲しいことに、愛ちゃんのベイビーのパパがどっちなのか、断言できない。

「なんてこった…」
「まだ病院も行ってないし、自分で調べてもないんですけどね」
「どうしよう…」
「本当にベイビーが出来てたら、吉澤さん責任取ってくれますか?」
吉澤さんの前にしゃがみ込んで、愛ちゃんが言った。
責任取るも何も。さすがに即答は出来ない吉澤さんは、黙り込んだ。
74 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:23
「そうですよね」
カラッとした声で言って、愛ちゃんがすっと立ち上がった。
「どっちのベイビーかわからないのに責任なんて取れませんよね」
吉澤さんは、彼女を見上げる。「責任は取るよ」
ガバッと立ち上がり、愛ちゃんの両肩を掴んで、
「おれがそんなに無責任な男に見えるか。見えないだろ?」
「…はい」
「悩むことなんて無いから。愛ちゃんのベイベーは、おれのベイベーだ」
「吉澤さん」
見つめ合う二人。愛ちゃんは安心したように微笑んだ。
吉澤さんもニカッと笑って、彼女を抱き寄せた。
75 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:23


*****


76 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:24
「やべーチョーやべー」

部屋の中をグルグル歩き回る、吉澤さん。
タンクトップにハーフパンツ姿で、腕を組んで、グルグルぐるぐる。

「マジどうしようマジでどうしよう」

愛ちゃんにはきっぱりああ言ってしまったが、実際のところ
吉澤さんは心の準備が何も出来ていなかった。
責任を取る?結婚か?冗談じゃない。
だいいち、亀井家の旦那様に一体どう説明すればいいのだ。
高橋家のお嬢様を孕ませてしまいました、なんて言った日にゃ、
きっとソッコーでお暇を出されてしまうだろう。
それで親父の耳にも入ってあばばばばばばばば。ダメだ。それだけは。

とりあえず、とりあえず落ち着こうと吉澤さんはノートPCを立ち上げた。
エロ動画フォルダの中のファイルを適当に再生する。
しかし、全くテンションが上がらない。むしろイラついてくる。
「ああもう!」
乱暴にノートPCを閉じ、ベッドにダイブした。
77 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:24
「どうしようどうしようどうしよう……」

おそらく今日、午前中のうちに愛ちゃんが病院に行くだろう。
そして「よかったですねおめでたですよ」で母子手帳だ。
あ、ミキハウスに行かなきゃ。そして可愛い子供服をたくさん買わなきゃ。
ちょっと待って。愛ちゃんと自分のベイビーって、確実に可愛いじゃん。
でももし種が元彼ボンボンのものだったら、ブサイクになる可能性が。
いや、愛ちゃんから産まれてくるベイビーだ。可愛くないわけがない。
男だったらレアルマドリードに入れて、女だったらバレー選手に育てたいな。
色んなことが、吉澤さんの頭の中を駆け巡る。
幸せに暮らす吉澤ファミリーの図が、あのへんにフワフワと…

「ハッ」
我に返ると、目覚まし時計が朝の集合時間をさしている。
慌てて着替えて、部屋を飛び出した。
78 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:24


*****


79 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:25
ケータイを懐に忍ばせて、吉澤さんは待っていた。
愛ちゃんからの報告を、今か今かと。
でも、彼女から電話もメールも夕方まで一切無く、
神経は張り詰めたまま、帰宅した絵里ちゃんを迎えた。

「お帰りなさいませ」
「ただいま」

吉澤さんは、絵里ちゃんがくねくね歩いて行く後ろをついていく。
勢ぞろいでお出迎えのメイドさんたちを通り過ぎ、二人きりの廊下で
絵里ちゃんがクルッと振り返った。
「吉澤さん」
「はい?」
「むふふ」
怪しい微笑みの絵里ちゃん。
吉澤さんが首をかしげると、さらに目を細めて、
「愛ちゃんのこと聞きましたよ」
「愛お嬢様のことですか?」
「そ。なんか大変なことになってたみたいですね」
「えっ、何ですか」
「またまたぁ。とぼけるのは無しですよ?」
「……」
80 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:26
まさか、絵里ちゃんは全部知っている?
というか「愛ちゃんのことを聞いた」って、どこまで聞いたんだ。
どこからどこまでだ。生でヤッたせいで出来ちゃったかもしれないことまでか、
はたまた本当に出来ちゃってたことまで、聞いてたりするんだろうか。
とすると、今、この場で仕事をクビに……

「申し訳ありません!!!!!!!!!!!!」
素早く、おでこを床の絨毯の上に擦りつけ、吉澤さんは土下座した。

「後先考えない軽はずみな行動でご迷惑をおかけしてしまったこと、
この吉澤、誠意をもって謝罪いたします。許していただけるなんて
これっぽっちも思っていませんが責任を取って私は今すぐ荷物をまとめて
亀井家から離れますのでどうか、どうか両親だけはここに残してやってもらえませんか」
81 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:26
吉澤さんは、早口になりながらまくし立てた。
本当ならこんな土下座じゃ済まされないことだ。
それに、絵里ちゃん相手に言ったって結局は意味が無い。
廊下はシーンと静まり返っていて、少し怖かった。
この沈黙。頭を上げて絵里ちゃんの顔を窺いたいけれど、上げられない。
上げる資格が無い。吉澤さんはひたすらおでこを擦りつけた。
すると聞こえてくる、絵里ちゃんの、高笑い。

「吉澤さぁん、冗談はやめてくださいよぉ」
「冗談なんかじゃありません。私は真剣です、大真面目です」
「なんだかよくわかりませんけど、土下座とかやめません?」
「いいえ。こうしないと私の気が済みません」
「そんなに何のことを謝ってるんですか」
「それは…愛お嬢様の…」

ブーブー
82 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:27
「?!」
突然、吉澤さんのケータイが震えだした。
メールなら3回のバイブレイションで止まるはずが、止まらない。
電話だ。きっと、愛ちゃんだ。

「電話ですか?」
「はい」
「出ていいですよ?」
「すみません…」

正座のまま絵里ちゃんに背を向け、吉澤さんはケータイを耳にあてた。

『吉澤さん?』
「はい。吉澤です」
『どうしたんですか?声が暗いですよ?』
「病院、行ったんですよね」
『はい行きましたよ』
「…それで?」
吉澤さんは、目を閉じて深呼吸して、覚悟を決める。

『なんか、あたしの勘違いやったみたいです』
83 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:27


*****


84 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:27
「あのときの安心感ったら言葉じゃ表せないね。マジで」
「そんなにベイビーが出来てなかったの嬉しかったんですか?」
「ちがっ、違うよ」

クラブを出て、タクシーの中(飲酒運転ダメ。ゼッタイ。)、
二人くっついて座って、ちょこっとイチャイチャムード。

「美貴ちゃんのベイビー、男の子でしょうね女の子でしょうね」
「さぁ、どっちでも知ったこっちゃないよ」
「ひどい」
「でも、美貴みたいに生意気にならずに、石川先輩みたいに、
良い子に育ってくれたらいいよなあ」
「それもひどい」
愛ちゃんは、キャッキャいいながら笑って、吉澤さんにもたれかかった。
何度も言うが、愛ちゃんは無意識だ。
でも、吉澤さんからすると、じゅうぶんそれは誘惑で、ついつい今夜も
彼女を抱きたくなる。めちゃくちゃにしたくなる。

吉澤さんは、タクシーの運転手に言った。
「『バリバリ教室』に行ってください」と。
85 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:28

…つづく


86 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/09(金) 21:28

从VvV)<次回、『バリバリ教室』で大ハッスル!の巻
(0´∀`) <吉澤先生と高橋さんのマル秘個人レッスンだYO


87 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/09(金) 23:32
更新キタコレ
青山さんカワイソスwwwwwww
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/09(金) 23:43
「マル秘」・・・「個人」・・・そそる響きだ(*´Д`) ハァハァ
89 名前:重ピンピン 投稿日:2007/03/10(土) 03:55
更新ご苦労様です
同情:欲情のコメントキビシすぎっす。
本編もそうですけど、重ピンクの新作も
心よりお待ちしています
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/10(土) 17:16
どうしようもないカッポーだなぁ(ノ∀`)
ネクタイは(前スレ424)のもだと妄想してみる=3
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/12(月) 01:27
>>87さん
カワイソウってかむしろ青山さんは隣の部屋で(ry

>>88さん
じゃあ「マル秘個人タクシー」でもそそられますかね

>>重ビンビン
ちょコテハンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
作者が読者に甘いとでも思ったか!その考えこそ甘いぞ!
重ピンクの新作は近いうちに書く、とは宣言しません

>>90さん
「どうしようもない」っていう言葉のなんて素敵なこと!
ネクタイはたぶんそれだと思います
92 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:28


*****


93 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:28
「すっげ、これすっげ」
吉澤さんは、謎の黄緑色の液体が入っている試験管を振った。
すぐ側には白い煙がモクモク出ているビーカーもある。
「この部屋は初めてですね」
黒い実験台を撫でながら、愛ちゃんが言った。
台の上には、ガスバーナーとかフラスコとか天秤とか。
何が入っているかわからない薬品ビンもたくさん並んでいる。
そう。ここは化学実験室。
照明も、なんだか怪しげ。

「ていうかさ、ここでどうやって盛り上がれっていうわけ?」
ま、面白いからいいけど。吉澤さんは笑う。

「じゃあ高橋。今から実験をしよう」
「はい吉澤先生」
「まず服を全部脱いで、その台の上に横になりなさい」
「はい」
94 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:29
愛ちゃんが、素直に服を脱ぎ始める。
吉澤さんはその間に部屋を観察する。なんとか岩やちょうちょの標本。
気味悪い人体模型に、なんとも知れない魚が入った水槽。うーん、シュール。
大人しく保健室にしておけばよかったかも。そんなことを思ったり。
振り返れば、全裸で横たわっている愛ちゃん。

「さて。今から高橋の性感帯実験を行う」
壁にかけてあった白衣をジャージーの上から羽織り、吉澤さんは渋い声で言った。

「吉澤先生、具体的には何するんですか?」
「うむ。君が一番感じる場所を探索するのだ」
「あたしは乳首ですけど」
「それは知っている。しかし、ぼくも君も、まだ知らない秘密な場所があるかもしれない」
「はあ」
「高橋。我々は常に探究心を持ってないといけないぞ。そうでないと、科学者とは言えない」
「はい先生」
吉澤さんは愛ちゃんの返事に頷いて、辺りを見回した。
何か、良い感じに彼女の身体を刺激できそうなアイテムはないだろうか。
引き出しの中を見てみると、長いガラス棒があった。これでいっか。
95 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:29
「まず、乳首の反応を見て、そこと他の場所を比較しよう」
「はい」
吉澤さんは、真剣な表情でガラス棒を構え、愛ちゃんのおっぱいを見つめた。
その先っぽを、棒でツンツンと突っつく。
「どうだ。感じるか」
「全然」
「うむ。これはどうだ」
ツンツンと突っついてるうちに立ってきた乳首を、ガラス棒の先端で弄る。
円を描くように、なぞる。すると次第に愛ちゃんの顔が変化してきた。
あああエロいぞ。今夜は萌えて燃えまくるぞ。吉澤さんはそんな予感がした。

「高橋どうした。大丈夫か」
「先生…」
「どうしたんだ。口で言わないとわからないじゃないか」
乳首を突っつかれて、静かに感じてる愛ちゃん。
吉澤さんはそんなんじゃ満足しない。科学者の辞書には満足という
言葉は存在しないのだ。常に今より上、新しいモノを追求するのだ。
96 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:29
吉澤さんが愛ちゃんのおっぱいに吸い付くと、彼女の身体はビクッと跳ねた。
堪らず、吉澤さんはその小さな乳首をチューチュー吸う。
唇ではむはむ挟んだり、舌で舐めたりする。
いつもはそんなにココにこだわったりしないのだが、今夜は違う。
今夜の吉澤さんは一味も二味も違うのだ。なんてったって、科学者だから。

両手で、おっぱいを鷲づかみする。柔らかくて、気持ち良い。
綺麗なその形が壊れるくらいの力でモミモミする。
しつこく口で吸ったり、手のひらで揉んだり、指で乳首を弾いたり。
さっきまで声を出さないようにしていた愛ちゃんは、だんだん我慢できなくなって、
ついには色っぽい喘ぎ声で、吉澤さんの耳を刺激する。
「吉澤先生…」
「感じるか」
「はい…」
「気持ち良いか」
「気持ち良いです…」

目の前で横たわる全裸の愛ちゃん。
吉澤さんを、吉澤さんだけを見つめて離さない。
瞳で誘う。瞳でひとみを誘う。
そんな寒いダジャレも、熱い体温にかき消された。
97 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:30
彼女の丸くて大きい瞳は、吉澤さんの好奇心を煽る。
もっともっと知りたいな。愛ちゃんの身体を、知りたいな。

「高橋。四つんばいになりたまえ」
「え」
「さあ。早く」
「はい吉澤先生…」
逆らっても無駄だとわかってる愛ちゃんは、身体を起こした。
「私にケツを向け、四つんばいに」
「はい…」
「そうだ。それでいいんだ」

桃のような愛ちゃんのお尻が、突き出される。
とりあえず、吉澤さんは手のひらでそこをぺちんと叩いた。
それから思い切りその割れ目に鼻先を埋める。
愛ちゃんの小さな悲鳴が実験室に響いた。
98 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:30
それから吉澤さんは、愛ちゃんの太ももの裏やふくらはぎ、
くるぶしからかかとまでガラス棒でなぞり、舌で舐め、キスをした。
足の裏をくすぐれば、彼女は少しキレ気味になった。
しかし、吉澤さんの冷たい視線を感じると、素直に謝った。

「高橋。こっちを向きなさい」
「はい」

くるりと横方向に回転し、愛ちゃんの顔が吉澤さんの前に来た。
吉澤さんは、ガラス棒を手放して、ふっと優しい眼差しになる。
彼女の両頬をそっと掴み、撫でる。
すると愛ちゃんも静かに微笑んで、吉澤さんを見つめた。

勢い良く重なる唇。
大胆な二人の舌が、生々しい音を立てて絡み合う。
キスをしながら、愛ちゃんは四つんばいから正座の格好になり、
吉澤さんは白衣を取り去った。そして、自分のジャージーのファスナーを下ろす。
豪快に上着を脱いだ吉澤さんのTシャツの裾を、愛ちゃんが掴む。
バンザイしてそれを脱がせて、裸の胸をくっ付けあう。
99 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:30
「もう、実験は終わりですか?」
吉澤さんの首に両腕を巻きつけ、愛ちゃんが尋ねた。
「まだしたいの?」
そう返されると、愛ちゃんは真顔になって、
「吉澤先生となら、何回でもしたい」
ふはっ。吉澤さんは思わず噴き出した。なんで、そんな真面目に。
愛ちゃんも結構狂ってる。吉澤さんも相当キテるが、彼女もだいぶヤバイな。
でも、彼女をそうさせたのは、他でもない吉澤さんだけど。

変なラブホテルで、コントまがいのやりとりをし過ぎて、それに慣れてしまって、
今では口から普通に「吉澤先生」と出てくる彼女。
こんな女、滅多に居ない。一生のうち、一度出会えるか出会えないかだ。
だから吉澤さんは離さない。愛ちゃんを縛って、自分の手から放さない。
実験台の上から愛ちゃんを降ろして、がしっと強く抱きしめる。
もう絶対誰にも渡せないし、渡さない。
愛ちゃんは吉澤さんのオンリーワンな女性。
オンリーワンかつ、ナンバーワンな運命の女性。
100 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:31
奥にあるベッドまで、愛ちゃんを抱っこして進む。
実験室なのは実際手前だけで、奥は普通のベッドだった。
「降ろすよ」
優しく囁き、吉澤さんは愛ちゃんをベッドの上に降ろした。
裸で横たわり、微笑む愛ちゃん。
まるで娼婦のようなマーメイドのような、セクシーな彼女。
これは、裸だから色っぽいとか、そういう次元じゃない。

「吉澤さん。早く」

自分で長い髪を弄りながら、愛ちゃんが誘ってくる。
吉澤さんは、一気にジャージーの下とトランクスを脱ぎ捨て、ベッドに飛び乗った。
それからの二人のことは、改めて書くことも無いだろう。
101 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:32


*****


102 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:32
それから数日したある日。日本最大手のコンビニにて。

「プーケットでバケーション?」
「ぐふふ。そうなんですぅ」
「キメーんだよ」

美貴は吉澤さんに冷たく言い放ち、一冊の雑誌を手に取った。
それは定番の育児雑誌。パラパラと、流し読みする。

「だから、正月は楽園(パラダイス)でのんびり過ごしてくるわ」
「勝手にしろよ。おれはこたつでゆっくり紅白見てるから」
「ワイフとか。ワイフと見るのか」
「Yes」
ぱたん、と雑誌を閉じて、レジへ向かう美貴。
「それ買うのか?」
「買ってきてってお願いされちゃったから。マイワイフに」

来年に入ってから、美貴と梨華ちゃんは結婚するらしい。
おそらく入籍するのは、梨華ちゃんのお誕生日。
結婚式はすると思うけど、しないかもしれない。
でも、昔はやんちゃしてた美貴もこれでようやく落ち着く、というわけだ。
吉澤さんはうんうんと頷いて、レジで会計する美貴の後姿を見つめた。
103 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:33
「てめえはいつ落ち着くんだよ」
「おれは、旦那様からのお許しが出ないと落ち着けない」
「社長の?」
「ああ。彼女のご両親はもう今すぐにでも大歓迎ムードなんだけどよ」

行きつけのバーまで二人で歩く。
12月に入ってから慌しい街。まさに師匠も走る、師走だ。
忘年会だかコンパだか知らないがいくつかの団体とすれ違う。
みんな陽気な調子で笑ってて、よござんすな。

「もうさあ、梨華ちゃん最近ご機嫌ナナメでさあ」
「ほう」
「もっとあたしを労わりなさいよ!って。マジうぜえ妊婦だ」
「それは労わってあげないと。彼女ひとりの身体じゃないんだから」
「なんでてめえはあっちの肩持つんだよ」
「だって好きだもん。石川先輩」
「ああん?」
「おれたちが中学時代両思いだった過去は、消すことの出来ない事実だ。
二人の気持ちは今でも変わらない。プライスレス」
「言ってろ」
104 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:33
「楽しみだな。プーケット」
言いながら、吉澤さんは夜空を見上げた。
冬の星座と半分の月が、綺麗に輝いていた。
その隣では、コンビニの袋を手にぶら下げた美貴が、呆れた顔をしている。

「プライスレスなのは、愛ちゃんとの時間だろ?」

ロマンティックな美貴の言葉に、吉澤さんが目を見開いた。
自分で言ってちょっと照れてしまった美貴が、鼻を擦る。
吉澤さんからじっと見つめられて、もっと恥ずかしくなる。

「あんだよ。そんな見んなよ」
「おめえ……馬鹿だろ」
「は?!」

逃げる吉澤さん。追いかける美貴。
二人はバーまで本気で鬼ごっこをして、翌日筋肉痛に苦しんだとさ。
105 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:33


終わり


106 名前:彼女の誘惑 投稿日:2007/03/12(月) 01:34

川*’ー’)<吉澤さんと過ごすプーケットのホテル、一泊6万円とちょっと
(0´〜`)<リアルな数字出すなYO


107 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/12(月) 20:15
更新キタコレ
次はプーケット編?それともうぜえ妊婦編?どっちでもIN!!
ばっちこーーーーーい
108 名前:88 投稿日:2007/03/13(火) 00:20
「よしあいの」という枕詞さえあればなんでも(*´Д`) ハァハァ
ばっちこいっつうかきてくださいお願いします
109 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/03/13(火) 22:09
次も楽しみに待ってます
110 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/13(火) 22:18
あげたらダメょ
111 名前:重ピンピン 投稿日:2007/03/20(火) 03:13
愛ちゃん実験結果は感度良好って事で
よろしいでございますでしょうか?
112 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/25(日) 12:28
プーケット編楽しみにしてます♪
113 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/02(月) 23:34

>>107さん
どっちでもIN!!ってwwwwwwwwwwww
从*^▽^)<うざい妊婦って誰のことかしらん?

>>88さん
かなりのよしあいマニアですね。良いことだ
これからも頑張ってよしあい書いていきます

>>109さん
ありがとうございます。でも、書き込むときは、メール欄に「川*’ー’)<sageやよー」
って入れてもらえるともっとありがたいです

>>110さん
落としてくれてありがとうございます。助かりました

>>重ビンビンさん
よろしいですね。ハイ
ていうかそのコテハンで本当にいいんですか?「重ビン」って呼んじゃうよ?

>>112さん
それはもう「おまえ早くプーケット編書けよ」っていう遠回しな脅しですか (((( ;゜Д゜)))
…書くしかないっ
114 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/02(月) 23:36

登場人物


川*’∀’):愛ちゃん
(0´〜`) :吉澤さん

从*^ー^) :絵里ちゃん
( ・e・):ガキさん

その他はだいたいお馴染みメンバーです

115 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:37


*****


116 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:38

日本を旅立ったのは、今にも雪が降り出しそうな寒い日だった。
しかし、飛行機に乗り、あっという間に常夏の島。
やってきましたプーケット。タイの楽園プーケット。
吉澤さんは右手で絵里ちゃんのボストンバッグを持ち、左手で愛ちゃんの
スーツケースを転がし、自分の荷物はガキさんに持たせて、さっそうと歩いていた。
もちろん、お嬢様2人の後に。イッツァレディファースト。

「ちょっと吉澤さん!背中のヤツ重いんですけど!」

悲鳴に近いガキさんの声がしたが、無視して進む。
が、お嬢様2人が立ち止まり、後ろを振り返ったので、渋々吉澤さんもそれに倣う。

「あはは。ガキさんが死にそうなんだけど」
絵里ちゃんが、微笑みながらのんびりと呟いた。
「すでに汗だくやし」
ヒッヒッヒッ、と愛ちゃんは引き笑いする。

117 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:40

「ちょお!愛ちゃんもカメも!自分の荷物は自分で持ちなよ!」
「おまっ、レディに箸より重い物を持たすわけにはいかないじゃないか」
「この2人のどこがレディなんですか!」
「ガキさんひどーい」
「もう行こっか」
荷物を持たせて申し訳ない気持ちなんて、1ミクロンも無い愛ちゃんは、
絵里ちゃんの手を引いて再び歩き出した。
吉澤さんは、「どんまい」とガキさんの肩をぽん、と叩いた。

「吉澤さん。だいたい、何なんですかこの背中のヤツは」
背中に大きくて長いものを背負わされ、旅行鞄を両手にぶら下げたガキさんは、
吉澤さんに対して心底呆れた顔をした。

「何なんですかって、見りゃわかるだろ。ギターだよギター」
「なんで旅行先にまでこんなもん持ってきてるんですか」
チッチッ。吉澤さんは横に首を振って、ガキさんの肩に手を置いた。

118 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:40

「旅行先だからこそ、こいつが役に立つわけよ」
「え?」
「ま、可愛いチェリーのお前さんにはまだわからないこったな」
「はあ!?」
「テンション高いなあ。体力は、夜に向けて温存しとけよ。な?」
「何のために?」
ガキさんは、吉澤さんを見つめた。
その顔は真っ赤っかだ。まさにチェリーボーイ。

「いいか。よーく考えてみよう。ここはタイの、プーケット。常夏のパラダイスだ」
「そうですけど」
「ここには、君と、僕と愛、そして絵里お嬢様の4人でやってきた」
「そうですね」
「そして、ホテルの部屋は僕と愛、君と絵里お嬢様で泊まる」
「へっ?」
一瞬でアホ面になるガキさん。
「HAHAHAHA!」吉澤さんは両手を広げて笑い飛ばした。

119 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:41

「あれ。でも、部屋は愛ちゃんとカメ、僕と吉澤さんで泊まるはずじゃ…」
「君は、同じ部屋で男同士、3日も4日も過ごしたいのかい?」
ガキさんの耳元で囁き、吉澤さんは微笑んだ。
「それは…」
真面目な顔で、吉澤さんを見るガキさん。

「さ。彼女たちが待ってる。行こう」
吉澤さんは、スポーツインストラクターも真っ青の爽やかな笑顔で言った。

120 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:41


*****


121 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:42

確かに、冷静に考えてみればそうだ。
愛ちゃんと吉澤さんは本当の本当に付き合っているわけだし、
そんな2人を別々の部屋に泊まらせるなんて無粋な真似は出来ない。
なんせここはプーケット。日本じゃないのだ。
日本じゃできない特別なことをすべきなのだ。愛ちゃんと吉澤さんは。
もちろん、絵里ちゃんや、ガキさんだって。

122 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:42

「特別なこと…か」
「ん?何か言った?」
「いいや!何でも!」

なんだぁ、と笑顔で言う絵里ちゃん。
ガキさんは、妙にドキドキしながら、自分の荷物に視線を落とした。
ホテルにチェックインした4人は、2組に分かれ、とりあえずゆっくりすることになった。

あとで4人でビーチに出てみることになっているけれど、
おそらく結局はこんな風に2対2になるんだろう。
あのバカップル2人の”2人になりたいオーラ”は、童貞でも気付くほどだ。
だからガキさんは悶々とし始めたのだ。
どうしよう。この4日間、どうしよう。どうしようっていうか、どうしよう。
こんなことなら、今年も正月旅行は3人で来るべきだった。
しかし、そんな風に後悔しても後の祭りだ。
だってすでにもう、4人でプーケットに来ちゃってるんだから。

123 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:42

「ガキさんガキさん!見て見て!」
「んぁ?」
バルコニーから、絵里ちゃんの高い声がして、ガキさんは振り返る。
彼女が必死に手招きしているので、立ち上がって、外へ出る。

「海、チョー綺麗だよぉ」
「おぉ、ホントだ」

まさに透き通った青い海。眩しい太陽の光に、白い雲。
ゆったりと流れる風。ビーチに寝そべる、いくつかの水着姿。
ああ、パラダイス。

「うへへ」
そして、隣には絵里ちゃん。
うれしそうに微笑む幼なじみに、ガキさんは見とれそうになった。
それならまだしも、気持ちがじわじわとこみ上げてくる。
いかんいかんいかん!初日からこんなんじゃ!

「愛ちゃんたち、いま何してるかなぁ」
「さあ」
「さっそくイチャイチャしてたりしてね。あぁ、いいな」

124 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:44

くねくねしながら、うへへと微笑む絵里ちゃん。
ガキさんは、可憐な彼女の横顔を見て、顔をしかめた。
とりあえず、平静を取り戻すために、いつものセリフを言う。

「ちょっと、カメ、キモイよ」
「えぇ?ガキさんひどーい」
絵里ちゃんからぺしっと二の腕を叩かれる。
ガキさんは、わざと大げさに痛がってみた。
「折れた!複雑骨折だ!治療費請求すっぞ!」
「もぉ、ガキさん、面白い」

よしよし。これだ。うちらはこういうムードでなきゃ。
彼女にうっとり見とれるなんてのは、似合わないのだ。
本当は見とれたいし、もっと良い雰囲気にもしたいんだけど、
現実はそう上手くはいかないもので。ガキさんは、しみじみとうなずいた。

125 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:44

バルコニーの椅子にそれぞれ座り、まったりとひなたぼっこ。
ガキさんは、なんとなく絵里ちゃんの彼氏の話が聞きたくなった。

「そういや、彼氏とは、最近どうなの」
「へ?」
「こないだの、ほら、カメのバースデイも来てたじゃん」
「そうだね。うん」
「まさか彼氏をパーティに呼ぶなんて思わなかったよ。みんな、ビックリしてたね」
「特にお父さんがね」
急にしょんぼりしだした絵里ちゃんは、太陽の光の下なのに、幸薄く見える。
あははは。ちょっと、話題選びを間違えちゃったかな。

「ガキさんはさぁ、田中くんのことどう思う?」
「え?ど、どうって」
「文化祭のとき初めて会ったじゃん?そのときの印象とか」
「あー、印象ねぇ。うーん、ぶっちゃけ、不良に見えた」
すると、絵里ちゃんが苦笑い。
「お父さんもそう言ってた」
「やっぱり」

126 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:45

「なんであんなのと付き合ってるんだ、って」
「そりゃそうだよー」
「ガキさんもそう思う?」

もちろん。うなずいて答えようとしたガキさんだが、
絵里ちゃんのか弱い上目遣いに、思わず口ごもる。

「はぁ」
悩ましげな溜め息が聞こえて、ガキさんは我に返った。
「どうしたのさ。何か悩みでもあるわけ?」
「だってさぁ…」
「だって何さ」
「なんで愛ちゃんが吉澤さんと上手くいくのは良くて、
絵里が上手くいくのはいけないんだろうね」
「別に、愛ちゃんと吉澤さんのことを比べなくてもいいじゃん」

そうは言いつつ、絵里ちゃんの気持ちもわからんでもない。
愛ちゃんと吉澤さんの交際も、初めのうちは賛否両論だった。
吉澤さんと元彼ボンボンが、何度も取っ組み合いの喧嘩をしたとか、
怒鳴りあうほどの口論をしたとか、そういう噂も数え切れない。
けれども、今こうやって、恒例の正月旅行に一緒に行くことを許されるくらい、
吉澤さんは認められたのだ。
そして、愛ちゃんの恋人として、ちゃんと受け入れられているのだ。

127 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:45

きっと、絵里ちゃんの彼氏もそうなれるかは、彼次第。
どれだけ彼女が「付き合っていきたい」と真剣に思っていても、
彼氏がそう思っていないとも限らない。
周りから反対されたからバイバイなら、その程度の関係だったってこと。

吉澤さんは、絶対に諦めない人だった。
ガキさんが思うところ、とても男らしい人だった。
元彼ボンボンから奪い取った愛ちゃんを、ずっと離さない。
空からヤリ棒が振ってきても、何があっても、多分絶対に離さない。そういう人だった。
絵里ちゃんの彼氏はどうなのだろう。
吉澤さんのような情熱で立ち向かってきてくれるのだろうか。そうでないと困る。
何が困るって、絵里ちゃんが悲しむから。

だから、ガキさんはあのことも持ち出さない。
松浦亜弥が、結婚する前に、普通の会社員と付き合っていたことは、決して言わない。

ガキさんは絵里ちゃんの笑顔が好きなのだ。
彼女が悲しむ顔は、当然見たくない。

128 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:45

「ガキさん。絵里、このまま付き合っててもいいのかなぁ」

暗い顔で呟く、絵里ちゃん。
ガキさんは、彼女の頭のてっぺんを軽く叩いた。
「こら」
「だってぇ」
「カメをそんな甘えた声出す子に育てた覚えはないっ」
「絵里だってガキさんから育てられた覚えない」

くすっと絵里ちゃんが微笑んだ。ガキさんも、微笑み返す。

「カメ」
「ん?」
「よくないよ」
「なにが?」
「あいつとこのまま付き合うの、よくないと思う」

129 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:46

ちょっと戻ったいつもの雰囲気が、一気に崩れた。
でも、それでもいいと、ガキさんは思っていた。

だってここは、プーケット。
日本じゃ出来ない、特別なことをするのだ。

それからの2人は、太陽のみぞ知る。


130 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:46


思わせぶりに、つづく


131 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/02(月) 23:47

( ・e・) <太陽は全てお見通しさ、なのだ
(0´〜`)<今そのフレーズ聞くと結構辛いものがあるYO


132 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/03(火) 00:27
うわぁー続き気になる!
がきさん勝負に出るのか?
自分れなえり派ですが、がきさんにも頑張ってほしいです。
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/03(火) 22:12
更新お疲れ様です。

脅したかいがありましたwって言うのは冗談ですけどプーケット編楽しいです。
がきさん、ガンバレ!!
134 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/04/04(水) 02:40
れいなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(ry
絵里がガキさんに取られちまう。・゚・(ノД`)・゚・。
負けるなれいな!頑張れいな!!
135 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/04(水) 11:10
ちょ、マジでどうなんの!?
絵里ちゃん、プーケットの雰囲気に負けるな!w
136 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/04(水) 16:04
いや、ここはあえてがきさん押しで…ニヤリ

がきさん、かめを奪ってしまえっ!
137 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/05(木) 01:11
がきさんには悪いけど、れいなに頑張ってほしいかな。
ってかこの場合、絵里お嬢様が雰囲気に負けないで頑張ってほしい。

でも、絵里お嬢様は一途だと思うしちょっと変わっているので、
プーケットマジックにかかるわけがない!!………はず。
138 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/05(木) 11:01
田中くんはよく、いくら毎年恒例とはいえ、
あんなに嫉妬していたガキさんと(+よしあい)の旅行を許したなw
…ってことは、…そ、そういうことなのか?((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
139 名前:よしあいが腕組み登場してたから4月6日はよしあい記念日 投稿日:2007/04/06(金) 22:18

Mステ万歳

>>132さん
続き書きました。読んでもらえたらありがたいです

>>133さん
ありがとうございます…ってあの脅してきた人か (((( ;゜Д゜)))
…なんとか楽しんでもらえるようにがんばります先輩!

>>134さん
今回田中くんは名前しか出てきませんので、
プーケットで何が起ころうが、田中くんは何も頑張れません。・゜・(ノД`)・゜・。

>>135さん
さあ、どうなるんでしょうね
絵里ちゃんを信じてあげてください

>>136さん
なんだか色んな意見の方がいますね。レス見てると面白いです

>>137さん
>  絵里お嬢様は一途だと思うしちょっと変わっている

ここは完全に同意しますが、だからといって彼女がプーケットマジックに
かかるわけがないかどうかは、私にも謎ですね

>>138さん
田中くんが許さなくても、正月旅行は絶対行きます
絵里ちゃんはそういう女の子です
140 名前:【訂正とお詫び】 投稿日:2007/04/06(金) 22:19

お気付きの方がほとんどだと思いますが、
>>127の上から8行目「振ってきても」は、「降ってきても」の間違いです
せっかく「ヤリ棒」という単語を使ってみたのに、そのあとに誤字とか最悪ですよね。すみません

141 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:20


*****


142 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:21

これはまるで、父親のような感情だった。
どこの馬の骨だかわからない男よりも、長い付き合いで
お互いのことをよく知っている男の方が、やっぱり安心して任せられる。
絵里ちゃんは、普通の女の子じゃない。
だいぶお金持ちの家の、お嬢様なのだ。
そこらへんの、チャラチャラした野郎なんかには、絶対渡したくない。
いくら彼女自身が、相手のことが好きで好きで、真面目に交際していたとしても、
周りが決して許さない。許すわけがない。
だから、吉澤さんはあえて、あえてプーケットで2人を一緒に居させて、
どうにかこうにかしようと考えていた。
もちろん、そうすれば愛ちゃんと一緒に行動できるし、一石二鳥。

143 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:22

絵里ちゃんは、ガキさんとくっつくのが一番なのだ。
彼女にとっても、相手の男にとっても、それが一番良いはずなのだ。
もうすぐ、絵里ちゃんは大学生。
きっと、ハタチを過ぎれば縁談とか、そういう話も出てくるだろう。
彼女はああだから、おそらく多くの男たちが寄ってくる。
しかも、家柄のよろしい、お坊ちゃまたちが。
もしそうなったら、もしそのときまであの男と付き合っていたら…

「美貴の二の舞だけは、避けたいんだよ」

向こうの部屋の2人の心配をしていた愛ちゃんに、吉澤さんは言った。
愛ちゃんも、その言葉の意味を、じゅうぶんわかってくれるだろう。
彼女は、松浦亜弥の友人で、そのとき色々と相談に乗っていたらしいから。
もしそうなったとき、絵里ちゃんがどうなってしまうか、なんていうことも想像出来ると思う。
144 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:23

「ガキさんなら、絵里お嬢様を幸せにしてくれる」
「でも、今は、絵里は彼氏と幸せになりたいと思ってるでしょ」
「そんなの無理だよ。絶対ぇ、無理」

ありえない。松浦亜弥が美貴とヨリを戻すくらいありえない。吉澤さんは断言する。
その言葉に納得できない様子の愛ちゃんだが、反論はしてこない。
納得できないというか、したくないんだろう。
厳しい現実を突きつけられたみたいで、悲しいんだろう。
その気持ちもよくわかる。わかるけど、これはドラマや漫画じゃない。
愛の力でどうにかなる、なんて綺麗ごとは、まったく通用しないのだ。
そんなものでどうにかできたのなら、美貴だって今ごろ松浦亜弥と結婚できていた。

「吉澤さんは力ずくであたしと付き合ったくせに」
「力ずくで悪かったね」
「なんで、絵里の彼氏を応援してあげないの?」
「あんなヤンキー野郎にお嬢様を取られたくないから」
「わがままっ」
愛ちゃんがアッヒャー、と笑った。

145 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:23

「正直言えば、誰にも取られたくないんだよ。お嬢様は、ずっとみんなの
お嬢様でいてほしい」
「キモイよ、それはキモイ」
「どこがキモイんだよ!その理由を10文字以内で言え!」
「キモイからキモイ(8文字)」
「くっそー。生意気言いやがって」
「生意気じゃないもん」
「可愛くねー」
「そんなに絵里のこと好きなら、吉澤さんが付き合えばいいじゃん」
「え?」
「だから、吉澤さんがまた、力ずくで絵里と付き合えばいいじゃん」

フン、と愛ちゃんがそっぽを向いてしまった。
吉澤さんは、ぽかーんとした顔をして、黙り込む。
それが1秒や2秒じゃなく、1分2分経ったので、愛ちゃんは思わず振り返った。
したらまだ吉澤さんが、真顔で何かを考えていた。

146 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:23

「おまえは、おれが絵里お嬢様と付き合ってもいいんだ」
「え」
「なんだ。もう、別れたいのか。ならしょうがない。おれは男だから、潔く身を引くよ」
「ちょっ」
「あの元彼と、そんなにヨリを戻したいんなら、戻していいよ。
おれのことは気にしなくていいからさ。おまえの好きにすればいい」

ものすごい勢いで言ったあと、吉澤さんはすくっと立ち上がった。
愛ちゃんは、呆然と吉澤さんを見上げている。

「ちょっと一人になりたいから、散歩してくる」
「吉澤さんっ」

147 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:24


*****


148 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:24

いったい、何事かと思った。
深刻な顔をした愛ちゃんが部屋にやってきて、何も言わずに
絵里ちゃんに抱きついて、しくしく泣き出したのだ。
ガキさんも、絵里ちゃんもひたすらビックリしていた。
そして、なんとなく張り詰めた空気が緩んでくれて、良かったと思っていた。

149 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:25

「よじざーざんがー」
「なに?吉澤さんがどうしたの?」

愛ちゃんと抱き合った絵里ちゃんが、必死に彼女をなだめていた。
ガキさんは、ソファに座ってぼけーっと2人の様子を眺める。
どうやら、愛ちゃんは吉澤さんとケンカしたらしい。
いや、ケンカかどうかは知らないが、そういう類のいざこざが起こったらしい。
なにもプーケットにまで来てそんなことする必要ないのに。
仲の良い2人は、ケンカも多い。
男と女とはそういう風に出来ているものなのか、童貞にはわからない。

そういえば、絵里ちゃんとはケンカらしいケンカをしたことないな。
ガキさんは不思議になる。愛ちゃんとなら何度も言い合ったことがあるけれど、
絵里ちゃんとそういうことした記憶がほとんどない。
ケンカするほど仲が良い。ケンカしないほど仲が良い。
どちらが正しくて、どちらが間違っているかも、ガキさんにはわからない。

150 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:25

「ちょっとぉ、ガキさん」
困った絵里ちゃんの声がした。
「吉澤さん連れ戻して来てよぉ。もう、絵里の手には負えなから」
「わわ、わかった」

助けを求められて、断るわけにはいかない。
ガキさんは、バタバタ部屋を飛び出して行った。

151 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:25


****


152 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:26

「吉澤さん!」

ホテルを出て、すぐのビーチに彼は居た。
水着姿の金髪女性と何か話をしていた。
明らかに現地人ではなさそうなので、観光客だと思われる。
ガキさんが呼びかけると、吉澤さんは振り返った。

「吉澤さん!何やってんですか!」

走ってきたせいで、息がぜえぜえ、汗もだくだく。
そんなガキさんを見て、吉澤さんは少し鬱陶しそうな顔をした。
「おまっ、今いいとこなんだから来んじゃねえよ」
「いいとこって!ホント何やってんですか!」

ガキさんが登場したせいで、グバーイと金髪女性が笑顔で去って行った。
そのグラマラスな後姿を、吉澤さんが残念そうに見つめて、
「あーあ。せっかく良い雰囲気だったのにー」
ガキさんに非難の目を向ける。
逆にガキさんも、吉澤さんを睨む。
まったく何やってんだか。今、恋人がわんわん泣いているっつうのに。

153 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:26

「てか、おまえこそ何だよ。何か用でもあるわけ?」
「何か用って、愛ちゃんがいきなり泣きながら部屋に来たんですよ!」
「ふぇ?」
「何プーケットに来てまでケンカしてんですか!」

年下の、さらに童貞に説教されて、吉澤さんはかなりイラっとした。
ガッとガキさんの胸倉を掴み、自分の方へ強く引き寄せる。
「プーケットに来てるからわざとケンカしてんの」
「…そんな怖い顔して言わないでくださいよ」
「ケンカ中だもん。そら顔も怖くなるよ」
「…顔、近いんですけど」
「嫌か」
「嫌ですよ。男同士で」

近くのベンチに、2人並んで座る。
吉澤さんは、愛ちゃんのことを聞いても、動揺なんてしていない。
超余裕な態度だ。何でそんな風にしていられるのだろう。
彼女いない暦=年齢のガキさんには全く理解できなかった。

154 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:27

「で?」
「はい?」
「おまえさんは、何しに来たの?」
「何しにって。そうだ。吉澤さんを連れ戻しに来たんですよ!」
何ゆっくりベンチに腰かけてるんだろう。
ガキさんは慌てて立ち上がる。

「カメが、手に負えないから吉澤さん連れてきてって」
「お嬢様が?なら、戻るしかないな」
「カメじゃなかったら戻らないんですか?」
「ああ。もちろん」
だって、吉澤さんは絵里ちゃんのことが、大好きなんだもん。
絵里ちゃんに言われたことは、何でもする。
たとえ火の中水の中、どこでも行くし、何でも出来る。
それくらい好きなのだ。だから、戻るしかない。

155 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:27

ホテルへ戻る道の途中、吉澤さんはふと思いつく。
「そういや、お嬢様と、どう?」
「へっ?」
「せっかく2人きりにしてやったんだから、上手くやってくれよ」
「あー、まあ」
曖昧な返事のガキさんの肩を抱いて、吉澤さんは微笑んだ。
「なになに。早速何か動きでもあったわけ?」
「動きっていうか、その、まあ」
歯切れの悪いガキさん。はっきり言って、ちょっとウザい。

「ああいう大人しい女はさ、強引にベッドに押し倒せば、一発よ」
「はっ!?」
「いや、ああ見えて、逆にベッドじゃ豹変したりしてな。
チョー激しかったらどうしよう。萌えるー」
イヒヒ。いやらしい顔で笑って、吉澤さんはガキさんを叩く。

「ま、女は色々いるからわかんねえけどな」
「そうなんですか?」
「色々試してみればわかるよ。ほら、あっちに良い女が」
「嫌ですよ。吉澤さんとは違うんで」
「おまっ、おれだって一応、一途なピュアボーイなんだぞ?」

156 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:28

どこが。ガキさんはその言葉を鼻で笑った。
それは、さっき金髪女性を口説いていた男が言うセリフじゃない。
愛ちゃんという可愛い彼女がおりながら、あんなナンパまがいの
ことをしやがって、どこが一途なピュアボーイだ。笑わせんな。

「早く行きましょ」
「ちぇ」
童貞から鼻で笑われ、軽くあしらわれて、吉澤さんは少しムッとした。
あっちにいるのは、確かに良い女なのに。
スタイルが良くて、顔も良くて、あれで性格が悪かったら最高だな。
声をかけられないのが惜しいと思いつつ、通り過ぎた。

157 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:28


*****


158 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:28

「ぼくは、カメを困らせてるんですかね」

ホテルの部屋を目前にして、ガキさんが急にぽつりと呟いた。
吉澤さんは思わず立ち止まり、耳を傾ける。

「ぼくはずっとカメのことが好きで、ぼくのほうが絶対カメのこと
知ってるはずなのに、カメはあの不良と付き合ってる」
「確かに、あいつは不良だ」
それが見た目だけ、ということは、2人はまだ知らなかった。

「ぼくは、ぼくなら、カメのこと絶対に幸せに出来る。自信がある。
あの不良と付き合ってたって、きっとロクなことがないと思うし、
ぼくと付き合ったほうが、絶対カメのためになると思うんです」

159 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:29

冗談交じりに告白したのは、いつのことだかもう忘れてしまった。
絵里ちゃんに「好き」と言ったときの、あの困った顔は忘れられないけど。
そんな顔をされたから、生まれて初めての告白は、自分のほうから誤魔化してしまった。
なんであのとき、『本気だ』と言えなかったんだろう。
もしそう言えてたのなら、少しは変わっていたかもしれないというのに。

そういえば、文化祭で初めて彼氏と会ったとき、ガキさんは言ってやった。
『おまえは絵里ちゃんと似合わない』って。
下手に出て、舐められるのだけはごめんだった。
だから、めちゃくちゃ強気になって、闘いを挑んでみたのだ。

でも結局、絵里ちゃんはあの男とまだ続いている。
彼女の誕生日パーティにだって、なんとあいつは現れた。
ガキさんは、これでもちょこちょこ2人の邪魔をしてきて、
少しは変わるだろうとなんとなく思っていたけれど、全然変わってない。
前にも進んでいない。絵里ちゃんとの関係は、誤魔化されたまま。
さっきだって、必死に誤魔化された。
思い切ったセリフを言ってみたのに、冗談でしょと片付けられた。

160 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:29

「カメは、ぼくのこと何とも思ってないみたいなんですよね」
「そうかなあ」
「え?」
「何とも”思ってる”から、曖昧なことしか出来ないんじゃないの?」

絵里ちゃんと愛ちゃんがいる部屋は、本当にもうすぐだ。
しかし、2人はその場で立ち止まり、話している。

「多分、お嬢様も気付いてる。おまえのことが好きなんじゃないかって」
「そんな…」
「でも、おまえらは仲が良すぎた。あまりにも近い場所に居すぎたんだ。
お嬢様も、おまえも、そんな関係を壊したくなかったんだろ」
「ぼくは…」
「無意識のうちにな、そうなっちゃってたんだよ。でも、今は違う」
いつもは馬鹿なことばっかりしている吉澤さんだけど、こういうときは頼りになる。
ガキさんは、真剣に吉澤さんの顔を見つめ、うなずいた。
吉澤さんもいつにない真面目な顔で、ガキさんを見ている。

161 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:30

「今、お嬢様があの不良のことが好きなのは、これはどうしようもない事実だ。
好きじゃなきゃ、脅されてない限りあんなのと付き合わない」
「カメは、ぼくのこと好きって」
「それも事実だよ。少なくともおれは間違いないと思う。たぶん、愛もそう思ってる」

ガキさんの頭の中には、いくつか疑問が浮かんでいる。
なんで、好き合ってるのに絵里ちゃんと付き合えないんだろう。
なんで、絵里ちゃんはあの男を選んだんだろう。

「今さら、今までのことをどうこう言っても、しょうがないからさ」
「…はい」

好き同士だったガキさんと絵里ちゃんが、なんでこうなっちゃったのか。
それは、良い雰囲気を誤魔化し通した2人が悪い。
どうせ、そういうムードになったら、冗談で笑い飛ばしてたりしてたんだろう。

経験の無い2人は、好きな人とどうすれば上手くいくのか、全然わかってなかった。
そんな2人の間に、ちょっとわかってたあの男が割って入っただけ。
絵里ちゃんの気持ちが、そんな男のほうに少し傾いただけ。

162 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:30

傾いたものは、直せばいい。絵画の額縁と同じだ。
だから、何も恐れることは無い。
ガキさんなら、きっと直せる。
向こうに傾いた絵里ちゃんの気持ちを、こっちに戻すことができる。

「押してダメなら、引いてみろよ」
「わかりました」
「絶対ぇ、諦めんじゃないぞ」
「当然です」
絵里ちゃんを奪い返すにはどうすればいいか。
なんとなくわかったガキさんは、力強くうなずいた。
吉澤さんは、ガキさんの肩をばちこーんと叩く。

「痛いんですけど」
「さ、レディたちのもとへ戻ろうじゃないか」

ガキさんは、これから部屋で何が起こるか、知る由もない。
ただただ、絵里ちゃんと今夜決めてやろうと、心に誓っていた。

163 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:31


つづく


164 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/06(金) 22:31

( ・e・)<男と女の勝負は、ベッドの上で
(0´〜`)<チェリーが生意気な口きくんじゃねえYO

165 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/06(金) 22:42
うわっやばい吉澤さんもガキさんもかっこいい…
ワタシはがきえり派で。。
166 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/06(金) 22:49
吉澤さんの推測が本当なら・・・めちゃくちゃショックかもしれない自分はれなえり派?
作者さんもれなえり派と思ってたのにい!(ノ∀T)
167 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/07(土) 09:44
特にれなえり派ってわけじゃないのにれいなを見た目だけで判断する吉澤さんとガキさんに妙にムカついてる自分がいる…
複雑な心境です
168 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/07(土) 11:22
愛ちゃん泣かされて可哀想w
よしざーさんは鬼ですね
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/07(土) 13:59
吉澤さんの言ってることはキット正しい、
いくら仲が良くたってこの歳で他の人が居るにしても一緒に旅行はしないでしょ。
押して押して、引いて引いてガンバレ!!ガキさん。

愛ちゃんの言葉で拗ねちゃう吉澤さん好いです。w
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/07(土) 18:16
吉澤さんは策士 きっとなにか考えがあるんやよ
これからの出来事にイッパイ期待
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/07(土) 18:55
絵里の幸せ願わない日はない!
ガキさんに負けないでたなかくーーーーん
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/08(日) 23:46

>>165さん
かっこいいすか。そうすか
あなたはガキえり派ですか。私はれなえり派です

>>166さん
忘れてはいけません。吉澤さんは、アフォです
私はれなえり派ですけど、それがこの話へ与える影響は、ゼロですよ?

>>167さん
複雑れすね
あなたも立派なれなえり派だと思います

>>168さん
吉澤さんは愛ちゃんを泣かすことが生きがいなのです
ええ、鬼以外のなにものでもないと思います

>>169さん
おやおや、吉澤さんの口車に乗せられてはいけませんよ?
拗ねちゃうのも演技ですよ?騙されちゃいけません
とか言って、私の言葉に騙されるのが一番いけません。気をつけて!

>>170さん
ありがとうございます
ご期待に沿えるようがんばります先輩!

>>171さん
そうですね。私も絵里ちゃんには幸せになって欲しいです
田中くんは今頃のん気に福岡のおばあちゃん家で餅をついてると思います


173 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:49


*****


174 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:50

絵里ちゃんは、やっと2人が戻ってきたので、安心した溜め息をついた。
ベッドでふて寝している愛ちゃんを指差して、困った顔で笑う。

「お嬢様、お騒がせしてすみません」
とりあえず、吉澤さんは絵里ちゃんに頭を下げた。
ベッドで丸まっている愛ちゃんは、起きる気配がない。シャクに触る。

「ホントだよぉ。早くちゃんと仲直りしてくださいよ?」
「はい。あー、じゃあちょっと、2人にしてもらえませんか?」
「いいですよ」
「もしかしたら、ディナーまで時間がかかるかもしれませんけど」
「わかりました。そのときは先にガキさんと2人で食べてますから」
「すみません」
もう一度深くお辞儀をして、顔を上げた吉澤さんは、
つっ立っているガキさんに目配せをした。
ガキさんは、凛々しい顔で頷いて、
「じゃあカメ、ビーチでも散歩する?」
「そだね」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
2人は仲良く部屋を出て行った。


175 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:51

パタン。ドアが閉まったことを確認し、吉澤さんはベッドに向かった。
こっちの部屋はツイン。片方のベッドに、愛ちゃんが寝ている。
でも、本当に寝てるわけ、ないんだろうけど。

「おい」
低い声で言ってみても、何の反応も無い。
「おいっつってんだろ」
また無反応。
舌打ちした吉澤さんは、ドカッと隣のベッドの端に腰かけた。

「さるのクセにたぬき寝入りか」
「さるじゃない」
起きた。髪をぼっさぼさにして、愛ちゃんがむくっと起き上がった。
大泣きしたことが丸わかりの瞳で、吉澤さんの顔を窺う。
吉澤さんは、むすっとしたまま、脚を組む。

「絵里お嬢様に泣きつくのは反則だろ」
「…」


176 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:51

「どっちかっていうと、怒ってんのこっちだぞ?」
「あたしだって怒ってるもん」
「は?」
「…」
シーン、となる部屋。
オレンジ色に染まってきた太陽の光が、部屋に射し込んでいる。
なんだかんだで、今日という日が終わりそうだ。
まだ、プーケットに来て、何にもしてないんだけど。

「あたしと絵里、どっちが好き?」

それはかなり不意打ちの質問だった。そして、かなり際どい質問でもあった。
愛ちゃんは、じっと吉澤さんを見つめている。
大きな瞳で真っ直ぐ、吉澤さんだけを。
その眼差しに、吉澤さんは睨むことで応える。


177 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:52

「どっちが好き?」

しかし、愛ちゃんは答えて欲しいみたいだ。
そんな彼女を、馬鹿にするように、吉澤さんは笑った。

「答えないとどうなんの?」
「答えんやったら、別れる」
「おー」
「ふざけんといてください」
ピリピリムードの愛ちゃん。なんだか面白い。
今なら何を言っても怒り出しそうな勢いだ。吉澤さんは控えめに笑う。

「どうしたの。そんなにプリプリしちゃってさ」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「せっかくみんなで旅行に来てるんだから、仲良くやろうよ」
「話を逸らさないでください」
吉澤さんは、肩をすくめて、口をへの字にした。
そんな彼氏に、愛ちゃんがさらにイラついていた。

「さっきの質問。答えてください」
「なんだっけ」
「あたしと絵里、ホントはどっちが好きなんですか」


178 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:53

もし、絵里ちゃんに、こんな風に問いただしたら、どう答えるだろう。
あの不良彼氏と、ガキさん。どっちが好き?って。
迷わず答えてくれるだろうか。はっきりと、答えられるだろうか。
いや、答えられないだろうな。吉澤さんはなんとなく思う。
そんなこと聞けば、おろおろして、泣き出しちゃうかもしれない。
どっちも好き。どっちも大事だから傷つけたくない。だから答えられない。

でも、そんなんじゃ、どっちも手に入れられない。
こういうのは、どっちかしか、手に入れられないのだ。
男と女はペアになっている。靴のように。
右足が2種類あってもしょうがない。そのうち1つはいらないのだ。
いらないその1つが、左足の本当の相手だったら、大変なことだ。
左右違った靴を履くことほど、おかしなことはない。


179 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:53

絵里ちゃんは、今、左右違った靴を履いている。
正しい右足を、大事に靴箱に仕舞ったままにしている。
いつまでもその正しい右足がそこにあると思ったら大間違いだ。
だから、どこかへ失くしてしまう前に、早く家に帰ってその靴箱から
取り出さなきゃいけない。履き直して、ふたたび歩き始めないと。

ああ。上手くいけばいいけれど、ガキさんだからな。
あんな恋に不器用な男が、ちゃんと絵里ちゃんを奪い返せるのかな。


180 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:53

「…よじざーざん」

気付けば、目の前で愛ちゃんの顔が崩れていた。
その瞳からは大きな涙の粒が、ぼろぼろ零れ落ちている。

「…なんで答えてくれないんですか」
「何を?」
ってあれか!一瞬本気で忘れていた。

「…やっぱり絵里のほうが好きなんだ」
ひどい顔で、愛ちゃんが泣いている。
ちょっと放置しすぎたみたい。吉澤さんは、移動する。
愛ちゃんが座っているベッドに、乗る。

「誰がお嬢様のほうが好きだって?」
「よじざーざん」
「何言ってるかわかんねえよ」
泣いてる愛ちゃんの髪を、吉澤さんはそっと撫でる。
ボロボロな顔の彼女に、苦笑いする。
まったく、この子は可愛くてしょうがないんだから。


181 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:54

「愛ちゃんのほうが好きに決まってんじゃん」
顔を近づけ、至近距離で見つめてはっきりと言う。

「うそだ」
「おれがうそつきに見えるか?見えないだろ」
「…見えない」
「おれが好きなのはおまえだけだよ」
吉澤さんは、2匹のうさぎを同時に追いかけたりはしない。
1匹だけしか追いかけないし、捕まえない。
もう1匹がどれだけ可愛かろうが、関係ない。
吉澤さんは愛ちゃんにしか、興味がない。

「ホントに?」
「ホントだよ。好きすぎて、比べようがない」
「じゃあなんで、さっきあんなキモイこと言ったの?」
「愛ちゃんにヤキモチ焼かせたかっただけだよ」

吉澤さんは愛ちゃんにやさしくキスをした。
重ねるだけの、シンプルなキスを。


182 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:54

「あたしも吉澤さんだけだよ。元彼とか、どうでもいいもん」
「わかってるよ」
「わかってるなら、さっき、なんであんなこと」
「だって、心配なんだよ」
「心配なんか、いらないよ」
愛ちゃんの両手が吉澤さんの首の後ろにまわる。
再び重なる、2人の唇。
緩く抱き合いながら、2人はねっとりとした大人の口づけを交わした。
夕日のオレンジに包まれながら、太陽に負けないくらい熱く激しく。

堪らなくなった吉澤さんが、愛ちゃんをシーツの上に押し倒す。
同時にシャツの中に手を入れて、ブラジャーをずらし、おっぱいに触れる。
「ちょっと…ここ絵里のベッド…」
そんな弱々しい抵抗じゃ、吉澤さんに勝てるわけがない。
首筋にしつこくキスされて、乳首をコリコリされた愛ちゃんは、
大人しく吉澤さんの背中に腕をまわした。


183 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:55

「ガキさんとぼく、どっちが好き?」
それこそ愚問だった。でも、見つめ合う2人にはそんなこと関係ない。

「ガキさん」
ちょ。良い雰囲気がぶち壊されるくらい、豪快に笑う吉澤さん。
「うそだよ」
愛ちゃんは、色っぽく微笑んで、吉澤さんの頬を撫でる。

「吉澤さんが好き」
「やっぱりね」
くすくす笑い合いながら、キスを交わす。
初めは可愛いキスでも、いつの間にか、エッチなキスに変わってる。

「吉澤さんは、あたしとこはっピンク、どっちが好き?」
「うーん、愛ちゃん」
「あ、いま迷ったぁ」
「迷ってない。即答即答」
「怪しいなぁ」

誰が怪しいって?吉澤さんは、愛ちゃんのわき腹をくすぐった。
愛ちゃんがギブと言うまで、くすぐりまくる。
「ギブギブ!」
まだ何も始まってないのに、ハァハァ言ってる愛ちゃん。
吉澤さんは、彼女を見つめて、微笑んだ。

184 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:55

「ディナー、どうする?」

もう、夕日も沈みそうだ。時間的に、そろそろ用意して出かけなきゃいけない。
こんなカッコで、こんな体勢で、こんな状況で、はいおしまいってのは
惜しい気もするが、あの2人のこともちょっとは考えてあげなきゃいけない。

「別々でいいんじゃない?」
「そうかな」
「そうだよ」
愛ちゃんが、人差し指で吉澤さんの首筋をなぞる。
そして、その唇に触れて、誘うようになぞる。

「今から、向こうの部屋に戻ろ?」
甘えるように囁く愛ちゃん。
吉澤さんは、何も言わずに、うなずいた。


185 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:56

愛ちゃんを腕枕して、その長い髪を撫でながらガキさんに電話をかける。
どうやら、今は波打ち際で遊んでいたらしい。
吉澤さんは手短に、ディナーは2人でしていいことを伝えた。
ガキさんは、小言をブツブツ言っていたが、納得してくれた。

「あんまり暴走すんなよ」
『どっちがですか』
「いいか?ちゃんと引けよ?今まで押してきたんだから」
『はいはい』

電話を切ると、愛ちゃんが、
「引くって何?」
「んー、宝くじ?」
「またガキさんに変なこと吹き込んだんでしょ」


186 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:57

変なことじゃない。重要なことだ。
男と女の約7割は、駆け引きというもので出来ている。
そのことを吉澤さんはガキさんに叩き込んだのだ。何も間違っちゃない。

「ダメだよ。絵里は彼氏いるんだから」
上目遣いで忠告する、愛ちゃん。
吉澤さんは、彼女の上に覆いかぶさりながら、
「そんなの関係ない」
実際、吉澤さんは、彼氏のいる愛ちゃんを奪った経験がある。
人のものだからこそ欲しい、なんてこと恐ろしいことは思わない。
けれど、彼氏がいたからより燃えた。それは確かな事実である。

「お嬢様の悪いところは、隙があるところかな」
「隙?」
「彼氏がいるのに、ガキさんにもやさしくしちゃってさ」
「ガキさんは幼なじみやん」
「幼なじみだって1人の男だよ」


187 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:57

愛ちゃんが、黙った。彼女はどっちかっていうと、不良の彼氏派だ。
吉澤さんがガキさんに色々とアドバイスして、応援している様子を、
あまり快く思ってはいないようだった。吉澤さんがついてたら、
本当にガキさんが彼氏から絵里ちゃんを奪ってしまいそうだからだろう。
吉澤さんの決定力は、オシムJAPANのFW陣も真っ青だから。

ああ見えて、吉澤さんの底力はハンパない。
とくに女関係で、それは十二分に発揮される。
彼はただのエロい人ではないのだ。エロくてすごい人なのだ。


188 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:57

「でも、絵里の気持ちはどうなるの?」
「お嬢様の気持ちは、お嬢様にしかわからない」

口だけなら、どうとでも言える。
そうでない場合もあるが、本当の気持ちは、だいたい行動に現れる。
絵里ちゃんがガキさんと居たいなら、そういうこと。
彼氏のほうを選ぶのなら、ガキさんにハッキリ言えばいい。
ハッキリ対応を区別して、思い知らせてやればいい。
曖昧な態度をとっているからこそ、誤解を招く。
思わせぶりなのは、良くない。ガキさんにとっても、彼女自身にとっても。

この世は、0か1かで出来ている。0.5なんてありえない。
好きか、嫌いか。
付き合いたいか、付き合いたくないか。
キスしたいか、したくないか。
間違いなく、絵里ちゃんの心の中もそう出来ている。

プーケットに来たのは、良いチャンスなのだ。
2人の関係を、絵里ちゃんの気持ちを、ハッキリさせる最大の。


189 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:58

「吉澤さんには、絶対にわかんないよ。絵里の気持ち」
「んぁ?」
「あたしは、わかる」

そう言い切った愛ちゃん。その自信は、いったいどこから。
ていうか、今から向こうの部屋に戻って、エッチするはずだったのに、
そんな雰囲気がどこかへ吹き飛んでいる。あれ、おかしいな。

「絵里、ガキさんに告られたら、絶対悩むよ。悩んであたしに相談してくる。
そしたらあたしは、彼氏を大事にしてあげてって言うから」

愛ちゃんは、頑固者だ。一度言ったら、決して変えない。
だからきっと、そうなったとき、愛ちゃんはそうするのだろう。

「ガキさんがフラれてもいいのかよ」
「うん」愛ちゃんは即答する。
「ガキさんは、たぶんフラれてもいいって思ってると思う」
「馬鹿言うなよ。あいつは、自分と付き合ったほうがお嬢様は幸せになるって、
おれに言ったんだよ?」


190 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/08(日) 23:59

「ガキさん、そんなこと言ってたの?」
意外そうな顔をして、愛ちゃんが目を丸くした。
素直に、吉澤さんはうなずく。

「本気なんだ。ガキさん」
「本気じゃなきゃ、わざわざ、お嬢様に告白しようなんて思わないよ」
「そうだよね」
「フラれてどうこうっていうリスクよりも、この手でお嬢様を幸せにしたいっていう
気持ちのほうが勝ってる。あいつはなかなかの男だよ。美貴より男らしい」
「でも、絵里の彼氏だって、男らしいかもしれないよ?」

確かに、そこが1番ネックになりそうなポイントだ。
何度かあの不良彼氏と会ったことがある吉澤さんだけれど、
奴がどういう男で、絵里ちゃんとのことをどう考えているか、今は全くわからない。
もしかしたら、ガキさん以上に強い男かもしれないし、弱いかもしれない。


191 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/09(月) 00:00

「彼氏が、吉澤さんみたいな人だったら、ガキさんは負けちゃうかもね」
「どうだろうな」
「だってガキさん弱いもん。童貞だし」
「ひでえ」
くくく。吉澤さんは目を細めて笑う。

「吉澤さん」
ふいに、愛ちゃんは真面目な顔になって、吉澤さんの髪を撫でた。

「あたしたちは、中立でいようよ」
「へ?」
「どっちの味方もしないし、助けもしない。相談は乗るけど」
「でも、もう、かなり助けちゃったよ」
「今からね。今から」
「うん」
「どうするかは、絵里が決めることだし、あたしたちがどうこう言うことないと思う」

そりゃそうだ。吉澤さんは、愛ちゃんに微笑んだ。
愛ちゃんもクスッと笑って、吉澤さんを自分のほうへ引き寄せる。


192 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/09(月) 00:00

「部屋戻ろっか?」
「うん」

2人は移動する前に、もう一度キスをした。
お互いの熱い気持ちを確かめ合うような、甘い甘いキスだった。


193 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/09(月) 00:00

つづく@


194 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/09(月) 00:01

川*’∀’)<プーケットナイトを満喫するやよー
( ・e・)<愛ちゃんがいちばん暴走しそうなのだ


195 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/09(月) 00:54
ノノd*^ー^)<かしまし〜の絵里のパートみたい・・・こっち!・・・あ、やっぱりこっち!

こんな図が想像できてしまいます^^
196 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/09(月) 23:37
ん〜〜なんかガキさん負けそうな感じが・・でもやる時はやる人だと信じてるよ
ガンバレ!!ガキさん!!負けるな!!ガキさん!!
197 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/04/10(火) 01:00
おぉなんだか気になる展開…!
自分は何が何でもれなえり派なんで絵里ちゃんの田中くんへの強い想いに期待です!
198 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/12(木) 02:04
ちょっと愛ちゃんかっこいい
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/13(金) 23:16

>>195さん
かしまし!そう言われてみればそうですね
きっとあんな渋い顔で悩んでるはずです

>>196
そんな感じしますか。そうすか
どうなるかは長い目で見ててください!

>>197
れなえり派宣言出ました!仲間仲間!
こんな変な話を気にしてくださってありがとうございます

>>198
川*’へ’)<ちょっとって何ちょっとって

200 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/13(金) 23:17

(0´∀`)人(’ー’*川<よしあいで華麗に200ゲット!!!

201 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:18

*****

202 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:18
さて、ここはホテルのレストラン。
向かい合って、2人でディナー。
まさに素敵なプーケットナイト。

「これ、美味しいね」
「うん」

ガキさんは、正面の絵里ちゃんに、微笑む。
絵里ちゃんも、無防備な笑顔を見せている。
可愛くて、思わず見とれる。
出来るなら、ずっと見ていたいかもしれない。
でも、そんな素振りはなるたけ彼女には見せないようにする。
今まではそう思っていた。でも、これからは違う。
しっかりと、絵里ちゃんに見とれる。
それが、せめてものガキさんの、駆け引き。
203 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:18
「愛ちゃんと吉澤さん、ちゃんと仲直りしたのかなぁ」
「したと思うよ。さっき電話したとき、吉澤さんフツーだったし」
「そっか、よかったぁ。明日まで引きずられると困るなって思ってたけど」

そんな心配するまでもなく、ソッコーで仲直りしたと思う。
どうせあの2人のことだし、どうでもいい。勝手にやってくれって感じだ。
ガキさんは、お水を一口飲んで、絵里ちゃんを見つめた。
彼女はこっちの視線に気づかずに、ナイフとフォークで食べている。
もぐもぐ動く口元が、なんとも艶かしい。
彼女に対して、こんな感情を抱くなんて、自分でも驚きだけど、
こうなってしまったものはしょうがない。後戻りもできないし、したくない。
もう、今夜はこのまま、突っ走るしかない。

「カメはケンカとかすんの?」
「ケンカ?」
「うん。彼氏と」
そう言うと、絵里ちゃんの顔がちょっと微妙な表情になった。
「するんだ」
「するよぉ。しないわけないじゃん」
カチャリ。絵里ちゃんがお皿の上にナイフとフォークを置く。
お上品に、口元をナプキンで拭い、ガキさんを見る。
204 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:19
「実はさ、絵里のお誕生日会の後、ちょっと言い合いになっちゃったの」
「言い合い?」
「うん。最初、絵里がね、”今度またこういうことあったら、もっとちゃんとしたカッコしてきてね”
って言ったの。そしたらなんか、向こうが怒っちゃって。”場違いで悪かったな”って。
”もう絵里の家には行かん”って。それで、ちょっとケンカしちゃった」

ほほう。なんとなく、想像できる。
ガキさんは、あの日の様子を思い出してみる。
確かに彼氏はとても居心地が悪そうだった。
服装だってラフだったし、正装した人ばかりだった会場では、かなり浮いていた。
彼氏は、それが気に食わなかったのだろう。

「仲直りしようって言って、仲直りしたけど、なんか…」
「何?」
「あんなこと言われるとさ、やっぱ絵里と付き合うの、キツイなぁとか思ってるのかなって」
「…そうだね。思ってるんじゃない?」
205 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:20
嫌な言い方だと思いつつ、あえてガキさんは言った。
絵里ちゃんと付き合うにあたって、ああいった場に遭遇することは多々あると思う。
恒例のダンスパーティだってあるし、しばしば誰かの結婚式もあったりする。
クリスマスとか、誕生日とか、何かのイベントごとにパーティもある。
それを全て避けて通ろうなんて、どう考えても無理な話だ。
彼女と本気で付き合う気があるのなら、慣れるしかない。
もしそれが嫌だというのなら、彼女と付き合うということ自体、考え直すべきなのだ。

「価値観とかもけっこう違うしさ、いま絵里もちょっと、キツイかも」
「価値観か…」
「もともと他人なんだから、違って当たり前って思うんだよ?思うんだけど、
やっぱ限界ってあるじゃん」
「カメはもう、限界なの?」

ガキさんが尋ねると、静かに俯く絵里ちゃん。
彼女はいったいどうしたのだ。さっきから、弱さばっかり見せているじゃないか。
206 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:20
言わば、ガキさんは絵里ちゃんを狙うハンターだ。
ターゲットの絵里ちゃんが、そんな風にしていたら、ガキさんも黙っちゃない。
その弱さにつけこんで、一気に狙い撃ちだってしたくなる。

ガキさんはもう決めたのだ。
今夜、このプーケットで、全部ハッキリさせようと。
207 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:20
「カメ」
落ち着いた声で、ガキさんは言う。
すると、絵里ちゃんが顔を上げて、2人見つめ合う。

「もう、別れなよ」

そんなに悩むくらいなら、あいつと別れればいい。
別れて自分と付き合えばいい。そうしたら、絶対に悩ませたりなんかしない。
一生、ずっと側にいる自信があるし、2人なら幸せになれると思う。
幸せになりたい。絵里ちゃんと、2人で。

いつもなら、笑って誤魔化すその雰囲気も、今夜だけは違う。
ギャグにもしない。冗談だとも言わない。本音を伝える。
そんなガキさんの気合を感じたらしい絵里ちゃんも、笑ったりしなかった。
真剣な顔で、ガキさんを見つめ、しばらく黙り込んでいた。

「カメは、カメのことを1番わかってくれる人と付き合うべきだと思う」

ガキさんは、ハッキリと言う。
彼女だって、付き合う相手は理解のある男のほうがいいだろう。
そんな、服装を注意されたくらいでへそを曲げるようなヤツに、
絵里ちゃんは任せられない。
208 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:21
「あいつのことが好きなのはわかってる。でも、これから先、
カメがいつもそんな風な気持ちになるって考えたら、ぼくは、我慢できない」
「……」
視線を外した絵里ちゃんは、何も答えない。
答える気があるけど答えないのか。答える気すらないのか。それとも。

「今すぐにとは言わないけど、あいつと別れたほうがいいと、ぼくは思う」

絵里ちゃんが守りに徹するのなら、ガキさんは攻めるしかない。
でも、彼女をあまり傷つけたくないから、強くは言わない。
やっぱり彼女が好きだから、嫌な思いはさせたくない。
だから、ガキさんはとりあえずソフトに、やさしく言う。

「うん…」

小さく、絵里ちゃんがうなずいた。
彼女は神妙な表情で、テーブルの上に視線を落としている。
209 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:21
「ガキさんの言うことは、よくわかるよ。わかるけど…」
「わかるけど?」

きゅっと唇を噛み締めて、絵里ちゃんが黙り込んだ。
あああ。ガキさんはちょっと後悔する。
別にわざと困らせようとしてこんなこと言ってるんじゃないのだ。
でも、悲しい顔をさせたくないとか、傷つけたくないとか思いながら、
結果的には彼女にそういう顔や、思いをさせてしまっている。
どうすれば、1番いいのだろう。
後頭部をかきながら、ガキさんは改めて、考えた。

しかしながら、1番いい方法なんて、思いつかなかった。
まあ、初めからそんなもの、無いのかもしれない。
彼女にアタックするのには、いくつも沢山の方法があって、
そのうちの、どれが1番正しいなんて、童貞のガキさんにわかりっこない。
吉澤さんなら、最短距離で行ける道のりを知っていそうだけど、
ガキさんは吉澤さんじゃない。ガキさんはガキさんなのだ。
自分なりに手探りしながら、進むしかないのだ。
210 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:21
「ごめん。楽しいディナーが、暗くなっちゃったね」

あはは。軽く笑い飛ばして、ガキさんはお水を飲んだ。
「さ、食べよ食べよ。食べないともったいないよ」
と言いながら、ナイフとフォークでがつがつ食べ始める。

「ガキさん」
絵里ちゃんは浮かない顔で、ガキさんを見つめた。
ガキさんは、にかっと笑って、
「なに、そんな顔してんのさ。せっかくプーケットに来てるんだから、
もっと楽しんでいこうよ」
「ガキさんなら、絵里のこと1番わかってくれる?」

へ。フォークで刺したにんじんを、思わず落とすガキさん。
ちょっと、何を言ってんの、ってそう笑って返したかったところだが、
あまりにも絵里ちゃんが切ない顔をしているので、出来なかった。
ここでふざけるのは、彼女に失礼だと直感で思った。

それに、まるでそれは、確認するような質問だった。
つまり、『ガキさん、絵里のこと好きだよね?』と言ってるようなもので、
そうするとガキさんの答えはもう、1つしかない。
211 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:21
「もちろん」

大好きな漫画の中の名探偵も言っていた。真実はいつも1つだと。
だからガキさんはそう答えるしかない。
駆け引きもへったくれもないやりとりに、ちょっと笑ってしまう。
さっきから全然引いてないし、そもそもちゃんと押せてたのだろうか。
吉澤さんが見ていたら容赦なくダメ出しされそうだ。

「ぼく以上にカメのことわかってる男なんて、他にいないと思う」

言った後、なんという自信過剰なセリフを吐いたんだと思ったが、
後悔はしない。それは、なんだか気持ち良かったから。
絵里ちゃんに堂々とこういう発言が出来ることが、とてもうれしかったから。
ガキさんは微笑んで絵里ちゃんを見つめた。

「…ガキさんは馬鹿だよ」
「はいっ?」

さあ何て答えてくれるかと思ったら、そんな言葉。
もう一度食べようとしたにんじんを、ふたたび落としてしまう。
212 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:22
「馬鹿だから馬鹿って言ってんの」
「ちょっ、カメに馬鹿っていちばん言われたくないし!」
「ばーか」
うへへ。そんな独特な笑い声とともに、一気に崩れる絵里ちゃんの表情。
ふにゃふにゃした彼女に、ガキさんは思いっきり見とれてしまう。
そんな可愛い顔や声で言われるなら、自分は馬鹿でもいいと思う。
もう、ガキさんは絵里ちゃんに惚れてるなんてもんじゃない。
ベタ惚れなのだ。本当に、ベタすぎてちょっと引くくらいなのだ。

「絵里、ちゃんと考えるよ」
「え?」
「田中くんとどうするか、ちゃんと、考える」
「そ、そう」

まったく、絵里ちゃんはいきなりスイッチがオンオフされるから困る。
うへへと馬鹿っぽく笑ったかと思えば、急に真面目な顔になって、
それがまた大人の女の顔で、ガキさんの胸をきゅんとさせる。
そんなところもまあ、好きなところなんだけど。
213 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:22
「ガキさん、そんなに絵里のこと好きなんだ」
「うん…って、うえっ?」

絵里ちゃんがけたけたと笑っている。
こらーと怒ったふりをして腕を振りかぶり、ガキさんも笑う。
なんだかとても良い雰囲気の2人は、それからしばらく笑い合っていた。
214 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:25

*****

215 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:26
「そうか。とうとうヤッたか」
「だからヤッてませんって!」

ガキさんは、しつこくへばり付いてくる吉澤さんを、無理矢理引き剥がした。
シャツのシワになった場所を伸ばしながら、デリカシーのない執事を睨む。

「だってさ、2回もチャンスあったんだぞ?
2回もチャンスあって、何もありませんでしたーって、そりゃねえよ」

大げさに肩をすくめて、吉澤さんは言った。
今は、レディ2人はお手洗いに行っていて、それ待ち。
あと5分もすると搭乗手続きが始まる。
3日過ごしたプーケットとも、これでおさらばというわけだ。
今から飛行機に乗れば、もう新しい年の日本。
4人の新しい1年が、そこから始まるのだ。
216 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:26
「ぼくは、彼氏のいる女には興味無いですから」
「偉そうにこの童貞が」
「あーもう童貞童貞うるさいなあ!」

思ったより大きな声で叫んでしまい、周りから変な目で見られるガキさん。
吉澤さんをもう1回睨んで、近くの空いていた席に腰を下ろす。

「じゃあ、お嬢様のこと諦めるの?」
頭の上から聞こえてきた、吉澤さんの問い。
ガキさんは、顔を上げて、笑顔で答える。

「はい」

あ然とする吉澤さん。
ガキさんはさわやかに笑って、
「ウソですよ?諦めるわけないじゃないですか」

このぼくが。この絵里ちゃんにベタ惚れなぼくが。
彼を見つめて、不敵な笑みを浮かべるガキさん。
すると頭のてっぺんを思い切り叩かれる。
217 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:26
「童貞が一丁前にウソつくなボケ」
「あいたー、痛いですよ吉澤さん!」
「もうおれは、おまえらのことに関して何も口出さないから」
「そんなこと言って手出すんでしょ」
「手も出さない。愛と約束したからさ」

吉澤さんは、やっぱり男前だ。
何を言ってもビシッと決まるというか、説得力がある。

「吉澤さん、けっこう愛ちゃんの尻に敷かれてるんですね」
「おまっ、馬鹿言え。おれは美貴ほどじゃないし」
「美貴って」
「あ、おまえ知らないんだっけ」
「誰ですか」
尋ねられて、吉澤さんが答えようとしたそのとき、レディたちが戻ってきた。
218 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:27
「何楽しそうに話してたの?」
ニコニコした絵里ちゃん。ガキさんも微笑み返す。
「いやぁ」
「このギター、何のために持ってきたかって話ですよ」
え?ガキさんは吉澤さんを見るが、彼はその視線に構わず続ける。
「ぼく、一度でいいからパトンビーチでビーチボーイズを歌いたかったんですよ」
愛ちゃんが、それを聞いてクスッと笑う。

「なんでパトンビーチ限定なんですか」
「馬鹿。おまえは何もわかってない」
ソッコーで否定されて、ガキさんはちょっと凹む。

「なんでなの?吉澤さん」
「いや、特に意味は無いですけど」
「なんだぁ」
ふにゃふにゃしながら笑って、絵里ちゃんがガキさんを見た。
顔をしかめたガキさんの頭をよしよし撫でる。
「ちょ」
照れたガキさんに、無邪気に笑う絵里ちゃん。
2人はけっこう良さげな雰囲気で、吉澤さんもつい微笑んだ。
219 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:30
結局、プーケットではハッキリとした答えは見つからなかった。
でも、それでもよかったんじゃないかと、ガキさんは思う。
絵里ちゃんはいつか、近いうちに必ず答えを出す。
たとえそれがどんな答えでも、ガキさんは受け入れる。
それだけは間違いない、ハッキリしたことだ。

良い雰囲気で2人笑い合ったあの夜が、いつかまた訪れるように。
ガキさんは、心からそう願ったとさ。
220 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:30

おわり

221 名前:彼女はグッドバイブレーション 投稿日:2007/04/13(金) 23:31

(0´〜`)<愛ちゃんとの激しいプーケットナイトが豪快にはしょられてるYO
川*’へ’)<…

222 名前:重ピンピン 投稿日:2007/04/14(土) 02:54
更新おつかれッス
男前がきさん1,2歩前進って感じですかね
ガンバレがきさん、日本が応援してます
重ピンクも、もっとがんばれ!!
223 名前:!omikuji澤ひとみ 投稿日:2007/04/14(土) 15:25
作者の絶倫な更新ぶりにパンツ脱ぎながら一気読みしたら
泣ける展開じゃねーかこんちくしょーめ
風邪引いたわwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
224 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/20(金) 10:21

>>重ビンさん
いつも読んでくださってありがとうございます
重ピンクは、次の次の話くらいに出てくるかもしれません
そのときはよろしくお願いします

>>おみくじさん?
風邪は治りましたかね
せっかくパンツ脱いでくださったのに、しょーもない話ばっかですいません
また新しい話始めますんで是非読んでもらえたらうれしいです
225 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/20(金) 10:21
登場人物

从*´ ヮ`):田中くん
从*^ー^) :絵里ちゃん
( ・e・) :ガキさん

(0^〜^):吉澤さん
从VvV):藤本美貴
∬∬´▽`):小川先輩

その他もだいたいお馴染みメンバーです。

226 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:22


*****


227 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:22
あれから、キスもエッチもしていない。
もっと言えば、イチャイチャもしていない。
原因はなんとなくわかってる。わからないフリをしたいけど。
わからないフリをして、また元通りに戻りたいけれど。
田中くんは考える。果たして、戻れるのかと。
普通のブーメランは、投げるとちゃんとこの手に戻ってくる。
この、2人の恋のブーメランは、どうなのだろう。
上手いこと、この手に戻ってきてくれるのだろうか。

「田中ぁ!集中しろ!」

小川先輩の怒鳴り声がして、田中くんはハッと我に返った。
その瞬間、身体がふわっと浮かんで、畳に叩き付けられる。

「田中ぁ!しっかりせえ!」
「はいっ!」

部活にOBが来た日は、いつもと雰囲気が違う柔道場。
主将の田中くんがボーっとしてるわけにはいかない。
雑念は捨てる。今だけは、忘れるのだ。
228 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:23

「何か、悩み事でもあるの?」

練習が終わり、田中くんが部室で着替えているとそんな声。
顔を上げれば小川先輩が、白いタオルを首からぶら下げて、
心配そうに見つめていた。
「それともどっか調子でも悪かったり」
「いえ…」
小川先輩は、首をかしげる。
「もしかして恋の悩みだったり」
「……」
「図星だ」
うれしそうに笑う先輩。まるで子供だ。
「まあ話したくないんなら無理には聞かないけど」
ぽん、と田中くんの肩を叩く小川先輩。

「すいません…」
「おっかしいなと思ったんだよ。今日、全然ダメだったぞ」
「自分でもそう思います…」
うな垂れる田中くん。小川先輩が、そっと微笑む。
「何があったか知らないけど、しっかりせえよ主将」
「はい…」
229 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:23
しっかりせえ。田中くんは、何度も心の中で繰り返す。
こんなんじゃ、たくさんいる敵と闘えない。
もっと強い心で、立ち向かわないと。
絵里ちゃんのことが大好きで、誰にも渡さないという、強い心で。
腕っぷしだけじゃ通用しない。男はハートだ、ハート。

とは言いつつも、田中くんの心は揺れていた。
揺るぎない気持ちを抱きつつも、揺れていた。
とても、不安だった。
230 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:23


*****


231 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:24
『話したいことがある』と電話があったのは、つい昨夜のこと。
絵里ちゃんは、妙に真剣な声で、田中くんにそう言ったのだ。
電話じゃ話せない、大事な話。嫌な予感がしてもしょうがない。
2人きりで、静かな場所で話したいからとお願いされて、
今日田中くんの部屋で会うことになった。

絵里ちゃんを駅まで迎えに行く。
いつも待ち合わせ時間に遅刻してくる彼女は、すでにそこにいた。
今日に限って早いとか。予感は確信に変わりそうだった。
232 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:24
「何か、お菓子でも買ってく?」

腕が触れそうで触れない距離。
並んで歩きながら、田中くんは尋ねた。
絵里ちゃんは首を横に振って、「いい」と小さな声で答える。

さっきから、重たい沈黙が2人を包んでいる。
今まで見たことない顔をしてる絵里ちゃん。何を考えてるのか。
田中くんには、何かを決意してるような顔に見える。それは、つまり…

昨年末、ちょっとしたケンカをして、ちゃんと仲直りしたけれど、
未だに微妙な雰囲気で、その可能性は無くも無い。
まだわからないが、いちおう、覚悟だけはしておこう。そう思った。

233 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:24
「おじゃまします」

もちろん田中家には、今日は誰もいない。
だから絵里ちゃんを呼んだのだ。誰かいたら別の場所にしてる。

部屋に2人入っても、沈黙は続いたままだった。
田中くんは、彼女が話し始めるのを待つしかない。
こっちは言いたいこともまとまってないんだから、何も言えない。
絵里ちゃんと付き合うことに大きな不安を抱いているなんて、言えるわけない。

「ちょっと、お茶持ってくる」
ずっとじっとしていたので、なんだか動きたくなった田中くんは、
絵里ちゃんにそう告げて立ち上がった。
「待って」
すると、ベッドの前に座っている彼女が、そっと田中くんの手を掴む。
田中くんはビックリする。
そっと握られて、引っ張られて、彼女の隣に腰を下ろす。

「あのね。絵里、れいなに話したいことがあるの」

234 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:25
俯き気味の絵里ちゃんが、小さな声で言った。
手は握られたままだ。田中くんは力も込めず、彼女の横顔を見つめる。
彼女は一度深呼吸をした。

「絵里の誕生日にケンカしてから、ずっと気まずかったじゃん?
なんかれいな、仲直りしたのに、納得してない顔してたし」

ぶわっと、脳裏にその日の出来事が蘇ってくる。
12月23日。初めて2人で過ごす、絵里ちゃんの誕生日。
盛大なパーティ。彼女を祝うためにやってきた、たくさんの人。
今でもすぐに思い出せる。
彼女の父親に、服装について言われたこと。
周りの参加者たちから、変な目で見られたこと。
ものすごい居心地が悪かったこと。
そして、彼女と些細なことでケンカをしてしまったこと。

あのときは、自分が悪いと思ったから、すぐに謝った。
絵里ちゃんの言うことは、全部正しかったのだ。
前々から”パーティ”だと言われてて、ちゃんとした格好をして行かないほうが悪い。
そのことを指摘されて、皮肉を言うほうが悪い。
ちょっと不機嫌だったからって、彼女に当たるほうが悪い。
235 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:25
「やっぱり、絵里と付き合うの、れいなにとって負担なのかなぁって
思っちゃってさ、悩んだりしたんだけど」
「それは…こっちのセリフやろ」
「え?」
「絵里のほうが負担になっとるんやないと?」
「そんなことないよ。そんなこと、ない」

田中くんを見た絵里ちゃんが、ハッキリ言った。
その眼差しは、真っ直ぐ田中くんへと向けられている。

「でも、ガキさんから、このまま付き合うのよくないって言われて、
ちゃんと考えたの。これからの、絵里たちのこと」

あの坊ちゃんめ!余計な口出しをしやがって!
なんて言うと、絵里ちゃんが怒るのは目に見えてるので、
田中くんは黙ったまま、うなずくだけにした。

これからの、2人のことか。
確かに田中くんも考えていた。2人の、これからのことを。
236 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:25
「松浦亜弥さんっていう人がいてさ」
「へ?」
「その人、松浦グループの会長さんの娘さんで」
「松浦グループ…ってあの」
「そう」

急に絵里ちゃんがそんな人の話をし始めたのに理由があるだなんて、
まだ田中くんは気付かない。有名な松浦グループの、会長の娘が、
絵里ちゃんにどういう影響を与えたのか、まったく知らない。

「その人が、どしたと?」
「去年結婚したの」
「へぇ」
「相手は、都内で飲食店をいくつか経営してる人でね」
うん、と田中くんはうなずく。でも、それがどうした?みたいな。

「松浦さん、それまで付き合ってた彼氏を捨てて、その人と結婚したの」
「捨ててって」
「家同士のアレもあってさ、無理矢理お見合いして、すぐ結婚」
237 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:26
周りから固められて、結婚せざるを得ない状況を作られて。
いくら好きで付き合っていた彼氏がいても、その見えない力には勝てなくて。
松浦亜弥は結婚した。春になれば、子供も産まれる。
絵里ちゃんは、悲しい顔をしながら、彼女のことを話した。
その話の中で何を伝えたいのか。田中くんにはじゅうぶん理解できた。
つまり、要するにだ。将来、2人がそうなる可能性が、あるってことだ。

「愛ちゃんは、吉澤さんと上手くいってるけどさ、あの2人は特殊だから」
「愛ちゃんって吉澤さんと付き合っとうと?」
「あれ、知らなかったっけ」
「知らん知らん」
吉澤さんの顔は、すっかり覚えた。
まるでイタリアのサッカー少年みたいなイケメンでかつ、ジェントルマン。
愛ちゃんのほうは、こないだ初めて会った。
髪が長くて、背が小さくて、可愛い女の人。
あの2人が付き合ってるのか。なんか意外な感じ。
ということは、吉澤さんは絵里ちゃんに特別な感情は無いということだ。
なぜかちょっと安心する田中くん。
238 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:26
「いつか、松浦さんみたいなことになったらって考えるとさ、やっぱ…
このまま付き合うの、良いのかなって」
ものすごく言いづらそうに、絵里ちゃんは言った。

「後悔しとる?付き合わなきゃ良かったって」
「そんなの思ったこと1回も無いよ。後悔も、してない」
言葉は力強いのに、彼女の顔はどこまでも頼りない。
田中くんは思わず握られた手に力を込めた。

「でも、れいなに辛い思いして欲しくないし、無理もさせたくないし。もし絵里の
せいでそうなっちゃうんなら、もう、やめにしたほうが良いんじゃないかとか、思う」
「絵里…」
「けど、裏を返せば、絵里が辛い思いしたくない、無理もしたくないっていうこと
なんだよね。れいなのことだけ考えてるつもりでも、絵里は自分のことも考えてる」
絵里ちゃんは、溜め息と共に微笑んだ。

「結局、どうすればいいかわかんない…どうすれば、いいのかな」
「……」

239 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:26
最後に答えを委ねられて、田中くんは黙り込む。
彼女は何かを決意して、今日会いに来たわけじゃなかった。
2人で答えを見つけるために、ここへ来たのだ。
一方的に別れを告げられたり、するかもしれないと思っていたけど、
そうじゃなかった。安心してはいられないけど、少しだけ、ホッとした。

「じゃあ、別れよっか」
田中くんは、囁いた。
自分でもビックリするほど、さらっと出てきたそのセリフ。
絵里ちゃんは田中くんの肩に頭をのせて、小さく首を横に振った。
「それだけは、やだ」
「そか」
一番恐ろしい答えが消されて、安心した田中くんは、空いたほうの手で
絵里ちゃんの頭を撫でる。そして、そこをぽんぽん、とやさしく叩いた。
240 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:27
「どうにか、なるよね」
絵里ちゃんが田中くんを見つめる。

「どうにか、なるんかな」
「ケ・セラ・セラ〜って歌あるじゃん」
「…そんなん知らん」
「なるようになるさ、って歌」
また、えらい適当だな。田中くんはつい噴き出して笑った。

「なるようになるさ、か」

本当に、絵里ちゃんの言う通りかもしれない。
予言者じゃない限り、これから先のことは誰にもわからない。
2人の未来も、気になるけれど、別に知らなくていいのだ。
今日が明日に繋がれば、明日を明後日に繋げればいい。
それをずっと続けていけることができるなら、一生一緒に居られる。
難しいことなんかじゃない。シンプルに考えよう。
241 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:27
「もしかしたら、これから嫌な思いをすることも、あるかもしれないけど、
絵里は、それよりもっとたくさん、楽しいことがあるって信じてるから」
「うん」

それが答えだ。何の異論も無い。
わからないなりに、絵里ちゃんが導き出したこと。
田中くんはそれを大切にしようと思う。
なぜかと言えば、絵里ちゃんのことが好きだから。ずっと一緒に居たいから。
いくら心が揺らいでも、その気持ちだけは変わらない。
242 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:28
「絵里」

名前を呼んで、そっとキスをした。
すると彼女は微笑んだ。目を細めたまま、田中くんを見つめた。
「久しぶりのチューだね」
「うん…」
答えながら、田中くんはもう一度唇を寄せる。
いとも簡単に2人の唇は重なって、いつの間にか絡み合う。
久しぶりだし、真面目な話の後だし、しょうがない。

「チューだけじゃ、我慢できんのやけど」
正直に言って、田中くんは絵里ちゃんを両手で抱きしめた。
絵里ちゃんはふにゃふにゃ笑いながら、抱き返してくる。
それから、田中くんの耳元で、
「まだまだ修行が足りませんな」
「…誰?」
「カメ仙人」
「誰それ」
くくく。2人で、一緒になって笑う。

もう、大丈夫だ。こんな風に笑い合える。
彼女の笑顔は、自分だけのもの。誰にも渡さない。
田中くんは、絵里ちゃんを見つめ、穏やかに微笑んだ。
243 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:28


*****


244 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:28
「仲直り、出来たんだ…」

ガキさんは、表情を強ばらせ、口元を引き締めた。
隣には絵里ちゃん。ガキさんの幼なじみで、片思い相手。
ここは新垣家のガキさんの部屋。
絵里ちゃんが「報告がある」って言って、やってきたのだ。
そして、ガキさんは彼女の報告を聞いた。
微妙な雰囲気になっていた彼氏と、なんとか元通りになったらしい。

彼女と(他2名で)プーケットへ行ったときに、思い切って言ってみたことが、
結果的に2人をさらに強く結びつけることになってしまったみたい。

「ガキさん。ありがと」

でもまあ、こうやって絵里ちゃんに笑顔が戻ったから、それで良かったんだと思う。
これでまだ彼女の顔が暗かったら、もう、力ずくでも何でも、お金を使ってでもいいから、
あいつから彼女を奪ってやるところだったけど。

「心配かけてごめんね」
「えー、心配なんてしてませんけど?」
「もぉ。してたくせに」
ぺしっと二の腕を叩かれて、ガキさんは大げさに顔をしかめた。
245 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:28
「あいたた。こりゃヒビ入ったな」
「それくらいでヒビ入るとか、ガキさんカルシウム足りないんじゃない?」
「なにぃ」
「きゃー」
もうすぐ高校卒業する年齢だというのに、2人して子供みたいにふざけ合う。
ガキさんの部屋を、絵里ちゃんがどたばた暴れ回る。
彼女に呆れながらも、一緒になってはしゃぐガキさん。

「カメ、こらー」
「あははー」

これで良いのだ、と思う。未練は無い。
絵里ちゃんが決めたことを、ガキさんも受け入れると決めたんだから。

彼女とは、これからもずっと、こんな風に馬鹿やれる関係でありたい。
大人になっても、いくつになっても、彼女と笑っていたい。
だから、ガキさんは、側で見守り続ける。
彼女はただの幼なじみ。そう自分に言い聞かせながら。
246 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:29

つづく


247 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/20(金) 10:29

从*^ー^) <幼なじみ…か
从VvV)<幼なじみ…ね


248 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/20(金) 21:26
もう一波乱を期待
249 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/20(金) 22:53
ほっと安心したが、つづく、なのでこれ以上何かあるのか……あわわ
れいな頑張ってえ!
250 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/21(土) 01:20
今回の更新とは関係有りませんが吉澤さんの卒業を前にラブハロ吉高コメンタリーやら
ハロよし単行本やらフラッシュやらで意外にも吉澤さんと高橋さんは案外ガチで仲がイイのかしらん
というのが思いもよらず伝わってきてどうしていいのかわからないままこのお話を読み返してみると
また感慨深いものが
251 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/22(日) 01:22
ガキさんに頑張って欲しいけどもう、無理かなぁ。
逆転ホームランがあるとしたらガキさんがほかの娘と仲良くして
亀ちゃんにヤキモチを妬かせるしかないよ。

確かに最近の吉愛仲が良い感じがしますね、愛ちゃんが心配でしょうがないって。
252 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/23(月) 23:14

>>248さん
そうですね
一波乱どころか二波乱三波乱起こしていけたらいいなと思います

>>249さん
いちおう、1話4回程度でいつも書いてます
だから「つづく」は少なくともあと2回は出てきます
まあ肩の力を抜いて、リラックスして読んでもらえたらうれしいです

>>250さん
読み返してくだるなんてうれしい限りです
おっしゃるとおり、最近妙によしあいの波がきてますよね
2人は、お互い強い絆で結びついているなあという感じで、私も本当に感動してます
5月6日、よしあいが”案外”じゃなく”マジで”ガチだとわかるかもしれません

>>251さん
ガキさんはヤルときゃヤル奴ですよ?
てか、ヤキモチ焼く絵里ちゃんって想像するだけでキャワワ
そのネタいつか使わせていただきますね。ありがとうございます

愛ちゃんを心配して呼び出すよっちぃ
よっちぃに泣きながら相談する愛ちゃん
そんなよしあいが私は大好きです


253 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:15


*****


254 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:16
明日デートをしよう。
つい昨夜、田中くんは絵里ちゃんを電話で誘ったが、断られた。
なんでも、お友達と約束があるらしい。
会えないのは寂しいけれど、まあ昨日も電話越しでイチャイチャしてたんだし、
お友達とのお付き合いも大事だから、田中くんは納得したのだ。
255 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:16
「さむっ…」

日曜日だというのに、今日は雨だった。
外は凍りつきそうなほど寒くて、田中くんは傘を差しながら足早に歩いていた。
家に居ても暇だった。だから、駅前の大きな本屋でも行こうと歩いていた。
でも、これだけ寒いと、家で大人しくしてればよかったなんて思う。

駅前には、ミライ百貨店もあるし、さすがに人がたくさん居る。
デート中のカップルは、相合傘で、楽しそうに会話をしながら歩いてる。
絵里ちゃんは今、お友達と何をしてるのだろう。
やっぱり、ひとりで居ると彼女のことばかり考えてしまう。

雨の日は、センチメンタルな気分になるから好き。
絵里ちゃんはいつか、そんなことを言っていた。
確かに。雨の日は、なんだかセンチメンタルだ。
まあ、それは今、ひとりで居るからだけなのかもしれないけど。
256 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:17
ひとりは好きだけど、絵里ちゃんが居るとそうじゃなくなる。
隣に彼女が居ないと本当に寂しい。
気の抜けたあの笑い声が無いだけで、田中くんの心は曇り空だ。

今夜、電話をしよう。
したら絵里ちゃんは、今日お友達とどこへ行って何をして、
こんな面白いことがあったんだよと、明るい声で話してくれるはずだ。
そうすれば、田中くんのこのセンチメンタルは、きっと解消される。

本屋で2時間、雑誌や漫画を適当に立ち読みして過ごす。
なんか、こんなことをしてると、ますます空しくなる。
絵里ちゃんに会いたい。会って彼女の笑顔を見たい。
寒いギャグを聞きたい。好きだよと、言われたい。

なるようになるさって、そう思うようにしてから、ずいぶん気が楽になった。
絵里ちゃんも、同じだろう。最近の彼女は、ご機嫌だから。
肩に乗っかっていた重たいものを、取っ払った感じ。
それは、全部なのか、一部まだ残ってるのかはわからないけど、
とりあえず軽くなったということだ。2人とも。
257 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:17
本屋を出て、ブラブラしようと思ったけれど、寒すぎて断念する。
田中くんは家のある方向へと、歩き出す。

「マジさむっ…」

コンビニで、肉まんでも買って帰ろう。
それがいい。ついでにホットコーヒーも買って…
なんて考えながら、歩道を進む。
まさか、その道の先で、絵里ちゃんと遭遇するなんて、
田中くんは思ってもみなかった。
258 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:17
「……あれ」

絵里ちゃんが出てきたのは、世界的に有名なブランドのお店。
紙袋を持った彼女は、店の中を振り返る。
すると、入り口から、ビニール傘を持った知らない男が出てきた。
その男の手にも同じ紙袋。そいつは、バッと傘を差す。
2人は、見つめ合って微笑んでから、相合傘で歩き出した。
すぐ角で左に曲がって、姿が見えなくなる。

「……」

呆然と、立ち尽くす田中くん。
そう言えば、お友達の名前を具体的に聞いてなかった。
でも、どうせ学校のお友達とか、そういうのだろうと思ってた。
もちろん女の子だろうと、勝手に思ってた。

慌てて、小走りで角を曲がる。
すぐそこに100円パーキングがあった。
素早く、ビルの陰に隠れて、2人を眺める。
259 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:18
料金の精算機の前に、男は立っていた。
その隣の絵里ちゃんが興味津々な様子で覗き込むと、
男は何かを手渡して、してみる?みたいなことを言っているようだ。
男に教わりながら、駐車料金を精算している絵里ちゃん。
終わったら、ぱちぱちと2人で拍手。

それから、2人はピンクの自動車に乗り込んだ。
絵里ちゃんは、ごく自然に助手席に座っている。
運転席のそいつと何か話しながら、シートベルトを締める。
うんうんうなずいて、とても楽しそうに、けたけた笑ってる。
何も知らない人から見れば、じゅうぶん恋人同士に、見える。

あいつは、誰だ?

車の運転が出来るということは、絵里ちゃんより確実に年上だ。
いや、同い年って可能性もあるけど、どう見てもそうは見えない。
それに、吉澤さんレベルのイケメンだった。ぶっちゃけカッコイイ。
ピンクの車に乗ってるのは、ちょっとどうかと思うけど。
260 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:18
「あ…」

男が、突然絵里ちゃんの前髪に触れた。
田中くんは思わず身を乗り出すが、ぐっと我慢する。
しかし、その後の信じられない光景に、心臓が止まりそうだった。

角度的に、男の後頭部しか見えなかった。
でも、どう見てもキスしてるだろうというくらい、2人の顔は近づいていて。
離れるとまた絵里ちゃんは微笑んで、男を見つめている。

「……」

田中くんがボーっとしていた間に、車がさっそうと走り出した。
こっそり隠れていたビルを通り過ぎて、角を右に曲がる。
後を追いかけてみるけれど、車はどんどん離れて行く。
261 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:19
開いたままの傘をだらんと下げて、田中くんは、放心状態だった。
雨はしとしと降っている。濡れると寒い。寒いけど、なぜか動けない。
思わぬ偶然の遭遇に、ひどくショックを受けていた。

あいつは誰だ。車の中でキスをして、今から2人でどこへ行く。
頭の中で、嫌な妄想がぐるぐる回る。駆け巡る。
知らない男に微笑む彼女が、この目に焼き付いている。

絵里ちゃんにあんなお友達がいるなんて、聞いてない。
そもそも、あれはお友達とは言えないだろう。男なんだから。
相合傘して、あんなに彼女と近い距離で…
262 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:19
まだ、相手がガキさんなら、少しは冷静でいられたかもしれない。
でもあいつは、田中くんが全く知らない、今日初めて見た男。
落ち着いてなんかいられない。
ポケットの中から携帯電話を取り出して、絵里ちゃんにかける。

プルルルル、プルルルル、プルルルル…

「なんで出らんの…」

ついさっき、見かけたのに。絶対ケータイ持ってるはずなのに。
しばらくして留守番電話に切り替わり、田中くんは乱暴にそれを閉じた。
263 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:19
『あのね、明日は約束があるの』
『え、誰と?』
『友達と』

絵里ちゃんは、とてもウソをついたようには聞こえなかった。
でも、電話だったし、顔は見えなかったわけだし、
だいたい田中くんはウソに鈍感なんだし、気付くわけないのだ。
それに、絵里ちゃんを疑うなんてありえない田中くんは、
何の疑問も抱かずにうなずいた。その結果がこれ。
年上のイケメンと、浮気されてるじゃん。
浮気なんて、されたら一番嫌なことだった。

雨の日はやっぱり大嫌いだ。センチメンタルすぎる。
田中くんは、ようやくちゃんと傘を差して、歩き出す。
寒さに身を震わせながら、真っ直ぐ家に帰った。
264 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:20


*****


265 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:20
その日の夜、何もする気になれなかった田中くんは、
ヘッドフォンでロックンロールを大音量で聴きながら、布団にくるまっていた。
目をつぶると何度も脳裏に蘇ってくる、絵里ちゃんと男のあの様子。
2人はとても親しげで、絵里ちゃんはあいつに心を許してるように見えた。

この部屋で、なるようになるさと笑い合ったあの日は、ウソだったのか。
もう、田中くんとのことなんて、絵里ちゃんはどうでもいいのだろうか。
どうでもいいから、彼女は”ケ・セラ・セラ”だなんて言ったのだろうか。
田中くんの頭は混乱している。処理能力も、落ちている。
このベッドでいっぱい愛し合ったことと、今日の最悪な出来事が、
わけがわからないほど、ごちゃ混ぜになっている。
266 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:21
あれから、絵里ちゃんは電話をかけ直してもこない。
数時間経っているのに、メールのひとつもよこさない。
今日、どんな所で、どんなことをしたという、報告がない。
やっぱりそれは、後ろめたいから。浮気をしているから。
彼女から自らシロだと宣言してくれれば、許せるんだけど、
今は田中くんが見たものだけが全てで、限りなくクロに近いグレイゾーン。

絵里ちゃんは、あの男に微笑んでいた。
自分以外にもああいう顔を見せてることに、ものすごく怒りを覚える。
そんな子供じみた独占欲を抱くのもしょうがない。
田中くんは好きなのだ。絵里ちゃんのことが、堪らないほど。
今までのカノジョじゃありえないくらい、彼女のことしか考えられない。
だから、こんなに凹んでいる。
何にも手がつかないほど、参っている。
夕飯だってなんとか食べたくらいだ。本当は食欲なんか無かった。

ブーブー

?!
267 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:21
枕もとの携帯電話が突然震え始めた。
田中くんはビクッとして、ゆっくりそれを手に取る。
絵里ちゃんからの着信だった。

「…もしもし」

絵里ちゃんは、あの店から出てくるところを見られていたことは知らない。
言わないでいたい。出来れば、何も見ていなかったことにしたい。
でも、そんなこと、出来ない。
268 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:21
『あ、れいな?ごめんね。色々あって、電話できなくて』
「色々って、何?」
『家族で食事に行くことになっちゃって。さっきやっと帰ってきたとこなの』
「ふーん」
『れいな怒ってる?ホントごめん』

絵里ちゃんは、本当に申し訳なさそうだ。
だけど、今は全然信じられない。疑ってしまう。
彼女の言葉の裏に、何か隠されてないかと、勘繰ってしまう。

『もうご飯食べた?』
「うん」
『お風呂入った?』
「まだ」
『絵里もお風呂まだなの。入ってからかけ直してもいいかな』

田中くんは、無言になった。
ダメだ。絵里ちゃんの声を聞けば聞くほど、ムカついてくる。
269 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:22
『れいな?どうしたの?』
「いや。何でもない」
『なんか機嫌悪くない?やっぱ怒ってるでしょ』
誰のせいだと思ってんだ誰の。田中くんは溜め息をつく。

『今日、何してた?』
「別に何もしてない」
『そっか…』
「…絵里は、何しよったん?」
覚悟を決めて、田中くんは尋ねた。
これでちゃんと白状してくれれば、まだ許せる。
あの男の正体と、彼との関係を、ちゃんと説明してくれたら。
田中くんは、残り少ない希望を抱きながら、絵里ちゃんの答えを待つ。

『ミライ百貨店で買い物したよ?』
「友達と?」
『うん。買い物して、お昼はハンバーガー食べた』
「友達って、高校の友達やったっけ?」
『まあ、そんな感じ』
「……」
こいつ、チョー適当だ。お友達について語る気ゼロやん。
『今日さぁ、外すっごい寒かったよ』
「……」
おまけに話題を変えやがった。あああ。もう。
270 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:22
「今日、どっかの店から絵里が出てくるの見たんやけど、何買ったと?」
『え…ウソ…』
「そんなウソついてどうするん」
『買ったよ。うん。買ったけど、何を買ったかは言えない』
「なんで」
『それも言えない』

絵里ちゃんは何かを隠している。それだけはわかった。
その何かが、果たして何なのかは、全く検討もつかないけれど。

「おれに言えないような物?」
『違う、そういう意味じゃなくて…』
「じゃあどういう意味なん」
『れいな怖いよ…』
「絵里がハッキリ言わんけ悪いんやん」

思い切り不機嫌にそう答えたら、絵里ちゃんが黙り込んだ。
271 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:22
「言いたくないなら言わんでいい」
『違う。違うんだよれいな』
「何が違うと?全然意味わからんし」
『……』

田中くんは、ふと、昨年末の絵里ちゃんの誕生日を思い出す。
あの日もこんな風だった。絵里ちゃんは、何も言い返してこない。
だから、田中くん自身がブレーキを踏まない限り、止まらないのだ。

「あの男、誰なん」
『…あの人は、友達だよ』
「ホントに?」
『ホントに、あの人は友達』
「絵里、何か隠しとうやろ」
『隠してない。なんでそうゆうこと言うの?絵里の言うこと、信じられない?』

うん、と田中くんはわざとハッキリと断言した。
272 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:23
『あの人は、高校の先輩。カノジョにあげるプレゼント選びたいからって、
誘われたの』
「高校の先輩?」
『そうだよ?』
「ウソやろ。ホントのこと言いって」

さすがに、その田中くんの言葉に腹が立ったらしい絵里ちゃんは、
『信じてくれないなら、もういい』
「は?逆ギレ?何それ」
『もう、れいな嫌い』

プツッと唐突に電話が切れた。プープーという音が、聞こえ始める。
田中くんは、一度舌打ちをして、ケータイを床に投げ捨てた。

完全に、クロやん。
273 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:23
「あーもう」

絵里ちゃんの言葉を信じないこっちが悪い?んなわけない。
何かを必死で隠そうとする、彼女のほうが悪い。

今日、あそこで見たのだ。この目でしっかりと、絵里ちゃんが
他の男とイチャついている場面を、目撃したのだ。
だから、彼女はちゃんと説明すべきなのだ。
あの男は誰で、どういう関係なのか。
でも、彼女はそれを拒否した。
つまり、あの男のことで隠したいことがあるってことだ。
はいはい、クロだ。クロで決定だ。

絵里ちゃんは、可愛い。
性格も穏やかで、女の子らしい。
育ちも良いし、そりゃモテるだろう。
彼女が微笑めば、男はイチコロ。
なんてったって、田中くんもそうなのだから。
274 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:23
田中くんは、今日の思いがけない出来事に、この恋の終わりを予感した。
そして、それから3日間、絵里ちゃんからの連絡は、無かった。
275 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:24

ノノ*´ー`) <ハンバーガー、美味しかったよ?
( ・e・) <そんなの聞いてないから…

276 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/23(月) 23:24

また「つづく」入れ忘れた_| ̄|○

277 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/23(月) 23:45
れなえりヲタとしては、続きを見るのが非常に怖い・・・
ほんとこの小説は心臓に悪いです・・・けど、見るのをやめる事が出来ないから更につらいw
最初の頃はただのバカップルだと思ってたれなえりが、実は1番生々しくてドロドロしてる気がw
278 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/24(火) 01:31
ピンクの車を乗り回す先輩って・・・あの人かな?
279 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/27(金) 22:24
>>277さん
なんか申し訳ないです。許してください
はじめは生々しくてドロドロとは正反対のピュアピュア路線を狙ってたのに、
無意識のうちにこんな話を書いていました。反省しています
なんとかあと数回で話をまとめる予定ですので、どうぞよろしくお願いします

>>278さん
誰のことを想像してるんだろう…逆に気になるな…
280 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:26


*****


281 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:27
ガキさんは腕組みをして、難しい顔をしていた。
そして、テーブルの向かいに座っている絵里ちゃんを、じっと見ていた。
彼女はさっきから黙りこくったまま、ずっと俯いている。

どうやら、絵里ちゃんが彼氏とまたケンカしたらしいのだ。
昨日から様子がおかしかったから、ガキさんがちょっと尋ねてみれば、
そういうようなことを言っていた。
だから、ガキさんは放課後亀井家へと赴いた。
応接間に通されて、彼女と2人きりになった。
282 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:27
「ケンカの原因は何なの」
「原因は…」
普段から幸薄いと言われている絵里ちゃん。
今は相当、幸が薄く見える。

「日曜日にね、吉澤さんのお友達とお買い物に行ったの。
最初は吉澤さんも行く予定だったんだけど、用事ができて行けなくて、
絵里とその人の2人で行ったんだけど」
「うん」
「その人、フィアンセに良いバッグを贈りたかったらしくて、絵里と
選びたいって誘われて。そういうの、詳しいでしょって」

良いバッグ。つまり、有名なブランドものの、ということか。
確かに、絵里ちゃんならどこのお店がどんなものを置いているか、詳しいはず。
色んなお店も知っているから、そういう意味でその人は相談したのだろう。
283 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:28
「最初、エメルスのお店に行ったけど、やっぱミライ百貨店にあるヴィントのほうが
良いかなとか言って、ミライ百貨店に行って。でもやっぱりエメルスが良いってことで、
結局、エメルスのお店に戻ったのね」

ガキさんは、夢が丘駅前周辺を思い浮かべた。
駅前に大きくそびえ立つミライ百貨店。
そこからちょっと離れた場所にある、エメルスのお店。
あの辺りを2人でうろついていたわけだ。

「でさ、その人がうれしそうにバッグ買うのを見てたら、
絵里もれいなに何かあげたくなって、今寒いし、マフラーを買ったの」
「へぇ」
「それで、帰ろう、って店を出たとこをれいなが見てたらしくて……」
「見てたらしいって、カメは気付いてなかったんだ」
284 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:28
小さく、絵里ちゃんはうなずいた。
ははーん。あいつは、派手に勘違いしたんだな。
それでケンカになったんだ。そうに違いない。

「いきなりプレゼントして、ビックリさせたかったからさ、
れいなには絶対内緒にしておこうって思ったの」
「マフラー買ったこと?」
「うん。でも、お店から出てくるとこ見られてるわけだし、
あんまり下手なことは言えないなぁって」
285 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:29
絵里ちゃんは、隠し事が苦手だ。
だから、もし本気で田中くんを驚かそうとしているのなら、何を聞かれても
言わないように、そして、自分から言い出さないように、気をつけるしかない。
今回の2人のケンカの原因は、そんな絵里ちゃんにあったんじゃないか。
ガキさんはそう推測する。

「誰とお買い物に行ったかって、それも言っちゃうとさ、バレちゃうじゃん?
バレたら全然意味無いじゃん?せっかくプレゼント買ったのに」
「でもさカメ。あいつは、カメが他の男とデートしてたって思ってる」
「デートじゃないよ。絵里はただの付き添いだもん」
「そうだけど、あいつはそう思ってない」
「なんでよ。違うって何回も言ったのに、れいな全然信じてくれなかった」

そう言って、唇を尖らせた絵里ちゃん。
彼女も彼女で、けっこう怒ってるらしい。
そんな彼女を久しぶりに見たガキさんは、困った顔でおでこをかいた。
「もう、本当のこと言うしかないんじゃない?」
「やだ」
「カーメー」
286 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:29
田中くんも怒ってるんだ。
その理由は、絵里ちゃんが、他の男と浮気していたと勘違いしてるせいで、
仲直りするなら、絵里ちゃんから謝らないと。
その人が吉澤さんの友達で、フィアンセもいる人なんだって言って、
全部あなたの勘違いなんだよって言うしかない。
サプライズなプレゼントを、渡す前にバラすことになるのはちょっと
アレだけど、しょうがないじゃないか。
こんなことでケンカが長引いても、良いことは何も無い。
だからここは、絵里ちゃんが潔く謝って、仲直りすればいい。

「しかも、カメから電話切ったんでしょ?」
「だってれいな全然絵里の言うこと信じてくれなかったんだもん」
「切る前に、ちゃんとホントのこと言えばよかったのに」
「言ったってどうせ信じてくれなかったもん」

怒って、拗ねてる絵里ちゃん。
まるで子供だ。ワガママな幼稚園児だ。
参ったなあ。可愛いなあ。ガキさんはおでこをかく。
287 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:29
「…とにかく。ちゃんと仲直りしなよ。
いつまでもそうやってたって、しょうがないでしょ」

反応の無い絵里ちゃんに、ガキさんはもう一度言う。

「カメ。あいつは待ってるよ。電話かかってくるの」
「…」
「そんな、意地にならないでさ」

まだ童貞だから、そんな偉そうに言える立場じゃないけど、
ガキさんは絵里ちゃんをやさしく諭した。
「そのマフラーあげてさ、仲直りしてさ」
「…うん」

絵里ちゃんは、ムスッとしながらも、うなずいた。
だからガキさんは、ホッと一息ついて、微笑んだ。
288 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:30


*****


289 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:30
時間が経てば、許すとでも思ったのか。
田中くんは震える携帯電話を握り締め、ディスプレイを睨んだ。
絵里ちゃんの名前が、表示されている。
3日前、いきなり話を終わらせて、一方的に電話を切ったくせに。
3日間、何にも連絡してこなかったくせに。

「なん?」
電話に出るなり、冷たく言った。
田中くんとしてはこの態度を翻すつもりはない。

『……』
「自分から電話してきて、それはないやろ」

だんまり絵里ちゃんに、田中くんはアクセル全開。
3日空いても、怒りは治まらない。
むしろ、3日放っておかれた苛立ちもプラスされて、一気に爆発しそうだった。
290 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:30
『ごめん…』
「いや、謝られても」
『……』
「何もないんなら、切るよ」
『…待って』

本当は今すぐ電話を切りたかった。
でも、絵里ちゃんがそう言ったから、少し待つ。
すると、受話器の向こうから、鼻水をすする音がした。
絵里ちゃんは、泣き出した?
涙は女の武器だ。ああ恐ろしい。

「泣くより、言うことあるやろ」
『……』
また、グスッという音が聞こえた。
本当に彼女は泣いているらしい。
しかし、田中くんは動じない。
男がみんな、女の涙に弱いと思ったら大間違いだ。

「何も言わんのやね」
『…だって、れいな、信じてくれないじゃん』
「本当のこと言えば信じるし」
『絵里は、ウソなんかつかないよ?』

この期に及んでも、絵里ちゃんはまだそんなことを言いやがる。
田中くんはますます腹が立って、イライラした。
291 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:31
「相合傘したり、車の中でキスしたりしよったのに友達とか言う、
絵里の言うことは信じられん」
『…キスなんかしてない』
「しよったやん。駐車場で…車ん中で…」

絵里ちゃんは、ひっくひっくなりながら、反論してくる。
『絶対してないもん』
「信じられん」
『信じてよ』
「…もう、全部ウソに聞こえるんやけど」

感情に全て任せて、こうやって絵里ちゃんを責めるなんて、
冷静になれば、間違ってるのかもしれない。
絵里ちゃんのことは、信じたい。
大好きだから、ずっと信じていたい。
でも、今は無理だった。自分自身でも、どうにもできない。
292 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:31
『もういい』
「え?」
『れいなが絵里の言うこと信じてくれないなら、もういい』
「…それはこっちのセリフやし」

もういいのは、こっちのほうだ。電話をしてきておいて、何も話そうとしない、
泣いてどうにかしようとする、そういう絵里ちゃんは、もういい。

「切るよ」
『切れば?』
「ああ切りますよバイバイ」

電源ボタンを押して電話を切って、田中くんはケータイを投げ捨てた。
勢い良くベッドの上に寝転んで、舌打ちをする。
イラつく。ムカつく。腹が立つ。

ブーブー

震えだしたケータイ。田中くんは、むくっと起き上がる。
すぐに鳴り止んだので、誰かからのメールか。
それを手にとって、開いてメールを見る。
絵里ちゃんからだった。
293 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:31
内容は、一言「バイバイ」。

終わった。完全に終わった。
あっけないもんだ。
まあ、所詮その程度の恋だったってことだ。

「もう知らん」

田中くんはベッドに倒れこんで、そのまま眠りについた。
294 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:32


*****


295 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:32
絵里ちゃんが学校に来てないって時点で、おかしいと思った。
ガキさんは、昼休みに彼女へ電話をかけるが、繋がらなかった。
心配だったので、メールも送った。放課後、家に行くからと。
返事は、返ってこなかった。

「こんにちは」
「おう…」
いつもは陽気に笑っている吉澤さん。今は神妙な面持ちだ。

「カメは」
「朝から、ずっと部屋にこもりっきりで」
「やっぱり…」
絶対、彼氏と何かあったんだ。
ガキさんは吉澤さんの後ろについて、絵里ちゃんの部屋まで歩く。

「ドア越しに、今日はひとりにしておいてって言われたよ。
愛に聞いてみたけど、あいつも何も知らないみたいなんだ」
「そうですか…」
296 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:33
絵里ちゃんの部屋の、ドアの前までたどり着いた。
吉澤さんは、すっとガキさんに先を譲る。
「たぶん、おれじゃ、お嬢様は助けられない。だから…」
おまえ、がんばれ。そういう視線を受け、ガキさんがうなずく。
ここは自分の出番。幼なじみの、本領発揮なのだ。

トントン。ドアを叩いて、
「カメ」
もう一度、叩いて、
「カメ。メール見た?」
何も反応無し。ガキさんは、吉澤さんを振り返る。

「あ。おれ、何か食べる物持って来るわ。お嬢様、朝から何も食べてないし」
「ああ、はい」
小走りで、吉澤さんが去って行った。
ガキさんは一息ついて、もう一度、ドアを叩く。

「カーメー」
「…ガキさん」

ドアノブが回った。ゆっくりと、扉が開く。
297 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:33
ひょっこり顔を出した絵里ちゃんは、ひどい顔だった。
ずいぶん泣いたんだろうなと思わせるくらい、目がはれていた。

「カメ…」
「ガキさん…」
絵里ちゃんが、ガキさんを見る。
じわじわと潤んでくる、彼女の瞳。
ガキさんの目の前で、彼女は静かに泣き始めた。

好きな女の子が、泣いている。
悲しそうに辛そうに、しくしく泣いている。
ガキさんは、絵里ちゃんの頭をそっと撫でて、囁く。
「泣くな」
「ガキさん…」
すると絵里ちゃんが、ふわっと抱きついてきた。
おっとっとーい!!!ガキさんは慌てて両手を挙げる。

「ガキさん…」

どうしよう。どうしよう。どうしようっていうか、どうしよう。
絵里ちゃんの感触と香りが、妙に気になってしょうがない。
でも、今は、くだらない欲求に負けている場合じゃない。
298 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:33
「仲直り、しなかったの?」
落ち着かせるように背中を擦って、ガキさんは囁く。

「…出来なかった…もう、終わっちゃったみたい」

絵里ちゃんの答えに、ガキさんは、目を見開いた。
「…わ、別れたの?」思わず絵里ちゃんを離して、顔を覗きこむ。
「ホントに、別れたの?」
「ガキさんまで絵里の言うこと疑うんだ」
「いや…疑ってないけど。ちょっと、ビックリして…」

額に手を当てる、ガキさん。
なんてこった。彼女に「仲直りしろ」と言ったのは自分だ。

ガキさんは、あいつから絵里ちゃんを奪いたいと思ってはいるけれど、
あいつと居ることで彼女の笑顔が絶えないのなら、それでいいと思ってた。
だから、仲直りして欲しくて、ああ言ったのに、こんなことになるだなんて。
299 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:34
「ホントに、いいの?」
今でも信じられなくて、ガキさんは再度尋ねてしまう。
それが気に入らなかったのか、絵里ちゃんは唇を尖らせた。

「なんで何回も聞くの?ガキさんは絵里のこと信じてないの?」

なんだか、絵里ちゃんは怒っているように見えた。
普段ふにゃふにゃ微笑んでいるイメージしかない彼女。
そういう穏やかな人ほど、キレるとやばいのだ。

「ぼくはカメを信じてる。けど、後悔しない?」

勢いで別れて、ふと冷静になったとき、もしかしたら、
なんて馬鹿なことをしたのだろうと、後悔するかもしれない。
今ならまだ戻れると思う。今なら、まだ。
300 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:35
「嫌いになったの。だから、もういい」

そう言った絵里ちゃんは、ガキさんを真っ直ぐ見ていた。
その眼差しがひどく強くて鋭くて、怖かった。
ガキさんは尋ね返すこともなく、絵里ちゃんだけを見つめていた。
吉澤さんがずっと陰で見守っていたことなど気付かずに、
絵里ちゃんに、見とれていた。
301 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:35


*****


302 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:35
ここら辺では馬鹿高で有名な湾田高校の柔道場。
ガキさんは、背伸びして窓を覗き込む。
田中くんは白い柔道着を着て、相手と戦っていた。
真剣な顔。夢中で柔道に打ち込んでいるようだった。
でも、今あいつに起こっている出来事を考えれば、
そのことを忘れようと必死になっているように見える。
何度も倒し、起こしてはまた倒す。
相手がへろへろになっているのに、構わず技をかける。

「しっかりしぃ!」
そう相手を怒鳴りつける、田中くん。
ガキさんは彼を眺めながら、絵里ちゃんのことを想った。

初めてあんなに強く抱きしめられた。抱きしめた。
うれしいはずなのに、素直に喜べない自分がいる。
303 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:36
絵里ちゃんが謝れば、全部済む話だと思っていた。
謝って、本当のことを話せば良かったのだ。
でも、彼女はそうしなかった。出来なかった、らしい。
発言を全て疑われて、怖くなった。
信じてもらえなくて、腹が立った。
彼女の気持ちも、わからないでもない。
いや、わかってあげなきゃいけない。ガキさんは。ガキさんだけは。

あいつも悪いのだ。
付き合ってる、大好きな彼女なんだから、何があっても信じるべきだった。
しかし、絵里ちゃんが他の知らない男と一緒に居る場面と遭遇した時の
衝撃は、ガキさんには想像しようもない。
あいつはあいつなりの気持ちがある。
ガキさんとは違う、絵里ちゃんへの気持ちが。

だから、どっちもどっちだ。
絵里ちゃんは正直になるべきだったし、あいつは信じるべきだった。
どっちもそう出来なかった結果、こうなった。
304 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:36
今、ガキさんに出来ることと言えば、あいつの本音を聞くこと。
それを彼女へ伝えて、もう一度考え直せと、そう言うことだ。
お節介でお人好しも甚だしいが、何もせずにはいられなかった。

あいつは絶対、悔やんでる。
別れたくないって思ってるはずなのだ。
でも、これは、ガキさんのただの自己満足なのかもしれない。

あいつが絵里ちゃんと別れるはずがない。
あいつが絵里ちゃんを諦めるはずがない。
自分自身でそれを確かめて、絵里ちゃんを助け出す。
当の2人からしたら、迷惑な話かもしれない。
だけどガキさんは、絵里ちゃんの笑顔を取り戻すため、
たとえ火の中水の中、どんなことでもやってやると、思っていた。
305 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:36
「田中ぁ!」

部活を終えて、出てきた田中くんに向け、ガキさんは叫んだ。
ビクッとした田中くんが、こちらに気付く。ダッシュで近づいてくる。

「あんた何しよん」
思いっきり睨まれるが、怯まないガキさんは、怖い顔で睨み返した。

「どうして、カメと別れた」
「…」
「聞いてるのか?」
「あんた、絵里のこと好きやなかったと?」
「あぁ。好きだよ」
「なら、おれらが別れてうれしいやろうが」

あぁ?ガキさんは、田中くんのふてぶてしい態度に、ちょっと腹が立った。
「うれしいわけないだろうがぁ!」
胸倉を掴み、顔を近づけて睨みつける。
「あんなにカメを傷つけやがって…」
306 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:37
田中くんは、真剣なガキさんをあざけるように笑いだした。
「あんな女、もうどうでもええ」
「あぁ?」
「あんたも気をつけたがいいよ。女も浮気する生き物やけんね」
「ふざけんなぁ!」

ガキさんは、柔道着を掴んでいた手を放し、田中くんを突き飛ばした。
田中くんは地面の上に、しりもちをつく。

「カメは浮気なんかしてない!君はどうしてカメの言うことを信じてあげないんだ!」

立ち上がり、お尻についた砂をパッパッと払う田中くん。
怒り狂ってるガキさんをチラッと見て、乾いた声で笑う。

「あんたは実際見てないからそんなこと言えるんよ」
「あぁ?」
「彼女が、知らん男と相合傘して、その男の車の助手席で髪撫でられて、
キスされて、笑っとるんぞ?そんな女、どうやって信じればいいんね」
「…ぼくは、何があっても、カメのことを信じる」
307 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:37
2人は、無言で睨み合った。
他の部員たちが周りでざわついているが、そんなこと気にしない。

「絵里は、あんたにコクられても、ハッキリ断らんかった。
ずっと曖昧な幼なじみのままで、旅行に行ったり、遊びに行っとった。
おれは、ずっとそれが嫌やった。今でも、おれはあんたが好かん」
「…言うね」
「ああ。もう関係ないけんね。絵里もおれと別れてせいせいしとうやろ。
これからは、自分と釣り合う金持ちの男と付き合えるって、どうせそう思っとう」
「…君は、本当にカメがそんな風に思うと思ってるのか?」
「ああ」
フッと笑う、田中くん。
ガキさんを見たまま、何のためらいも無く答えた。
ガキさんは笑わない。怖い顔のまま、田中くんを睨む。

「どうせおれと絵里は釣り合わんのやろ?」
「…確かにそう言ったけど、最近はお似合いだなって思ってたよ」
308 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:38
ガキさんが、くるりと身体を反転させ、歩き出した。
田中くんはボーっとその後姿を見ていた。
離れてゆく2人の距離。
しばらく行ったところで、ガキさんは振り返る。

「君なら、カメを幸せにしてくれると思ってた」
「……」
「でも、違った。彼女を幸せにするのは君じゃない」
「…」
「このぼくだ」

真剣な表情で断言する、ガキさん。
田中くんは、緩んでいた顔を引き締め、怖い顔になった。

「後になって後悔しても遅いぞ」
「…後悔とか、せんし」

その答えを聞いてから、ガキさんは去って行った。
田中くんはなぜか、その場からしばらく、動けなかった。
309 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:38

つづく


310 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/04/27(金) 22:39

(0´〜`) <いっそのこと、ぼくちんが絵里の彼氏になるYO
( ・e・)<寝言は寝て言え!


311 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/27(金) 22:44
リアルタイムで読ませていただきました。
青春ドラマですね。ガキさん熱いよ。
312 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/27(金) 22:56
ひぃ!ガキさんカッコヨス。。
よしわかったここは私がガキさんの脱童貞に一役買(ry
313 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 00:22
真剣に読んでたのに>>310で力抜けたwwwwぼくちん言うなw
314 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 01:26
ガキさん、優しいにも程があるよ・・・でもカッケーです。惚れました///
315 名前:重ピンピン 投稿日:2007/04/28(土) 02:28
更新ご苦労です
ガキさ〜ん。日本を代表する男前ですなぁ
この先の展開が楽しみ楽しみ♪
316 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 09:53
れなえりが…_| ̄|◯
田中くんも絵里ちゃんも素直になってくれええええ。・゚・(ノД`)・゚・。
317 名前:!omikuji澤ひとみ 投稿日:2007/04/29(日) 13:01
ワンダ高校で鼻水吹いた
318 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 03:18
半年振りに









深夜特急便キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
作者さんお久しぶりですwwwwwwwwwww
ただいま続編拝見させていただきましたww
いきなりシリアスなことになっててハラハラドキドキです!
夜中に叫んで不動産から(ry
それじゃあ次も期待してます♪
319 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/04(金) 01:57
>>311さん
リアルタイムで読んでくださるなんてありがとうございました
青春ドラマですか。そうかもしれないです。ちなみに、この話の
主題歌はカーペンターズの「Can't Smile Without You」です
毎回終わりにこの曲を頭の中で流してもらえたらうれしいです

>>312さん
脱童貞ハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!
てか誰も頼んでないのにwwwwwwwwwwwww
アネゴって呼んでもいいですか(*´Д`) ハァハァ

>>313ちん
吉澤さんのあの発言も真剣なのに…ね
「ぼくちん」は実は吉澤さんが愛ちゃんの前でよく使う言葉だったりします

>>314さん
ガキさんは絵里ちゃんのことが大好きなので、
報われない片思いになると思いますけどそれでもいいですか?
320 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/04(金) 01:58
>>315 重ビン
いつもレスありがとうございます
やっぱり日本を代表する男前は、渡辺謙かガキさんですよね
これからも楽しんで読んでもらえたらうれしいです

>>316さん
ホント、素直になれたらいいんですけどどうなんでしょうね

>>317 おみくじさん
気付きました?ちょっとうれしい
固有名詞はけっこう気を遣って考えてます

>>318 特急さん
「半年振りにこんなクソつまらないスレ見たわ」とか言われるかと思ったらwww
ちょっとエロ書くの飽きたので、今はただのラブコメディ書いてます
次もぜひ時間があれば読んでください
321 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 01:59


*****


322 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 01:59
眠れない。頭が冴えて、しょうがない。
田中くんは布団の中で何度も寝返りを打ちながら、
考えたくもないことを色々考えてしまっていた。
ガキさんに言われた言葉が頭から離れない。
何度も何度もリピートされて、田中くんをさらに苦しめる。

『君はどうしてカメの言うことを信じてあげないんだ!』
323 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:00
後悔はしない。
ガキさんにそう言った気持ちにウソは無かったはずだった。
でも、ひとりになって、いま冷静になってみれば、後悔の嵐。
絵里ちゃんを、ガキさんなんかに取られたくない。

彼女は本当に浮気なんかしてない。
ちょっと大人になって考えればわかることだったのに…
嫌なことを考え始めれば、どんどん深みにはまるだけ。
いずれ、頭の中では収まらず、外に出る。
口からだけでなく、身体全体からも。
それでさらに嫌なことが起こる。自分で起こしてしまう。
わかってたのに、こんなことになってしまった。

振り返れば雨の日の日曜日。”たられば”とか、”もしか”なんて、
考えてもどうしようもないことだというのに、考えてしまう。
やっぱり、自分はかなり後悔してるようだ。田中くんは頭を抱える。
新しい恋は後悔しないようにって、そう決意していたけれど、
どうもこんなことばっかりを繰り返してしまうようだ。情けない。
324 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:00
どうして、絵里ちゃんにあんな冷たく当たってしまったんだろう。
そのときは頭に血が上っていて、自分が全て正しいって思い込んでいた。
しかし、今ならそれが間違っていたと、ハッキリ言える。
タイムマシンで戻りたい。戻って、絵里ちゃんに言いたい。
『信じてよ』と言う彼女に、『信じるよ』と返したい。
仲直りしたい。また、元に戻りたい。けど。

「もう遅いやん……」

そう。ガキさんの言うとおり、後悔してももう遅いのだ。
2人は別れた。子供っぽいケンカで、別れてしまった。
325 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:00
携帯電話の電池のふたを開ける。
そこには、2人きりの初デートで撮ったプリクラが貼ってある。
ただ2人でピースしてるだけの、まだ初々しい写真。
部活でイラついたときとか、ふと絵里ちゃんのことを考えたときに、
こうやっていつも眺めていた。
絵里ちゃんのケータイの電池にも、同じように貼ってあるけれど、
彼女はこれをはがしてしまったのだろうか。
もし、まだはがしていないのなら、はがすのを躊躇っているのなら、
もう一度やり直せないだろうか。自分勝手だけど、本気で思う。

「…絵里」

全然会わなくなっても、鮮明に思い出せる彼女の微笑。
やっぱり、絵里ちゃんのことが、好きすぎてバカみたいだ。
326 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:01


*****


327 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:01
翌日の放課後。
私立波浪学園高等学校(略してハロ高)の正門の前。
田中くんは、ぞろぞろ下校しているハロ高生徒たちを、真剣に見つめていた。
もちろん絵里ちゃんを探すため。彼女と話をするためだ。

今のままでは、後悔してもしきれない。
絵里ちゃんが別れたいのなら、それでいい。
せめて直接会ってから、バイバイしたい。
でも、別れたくないって、ちょっとでも思ってくれているのなら…
それが、田中くんが頭を冷やして一晩中考えた結論だった。

お上品な制服たちが、どんどん通り過ぎる。
その中に、絵里ちゃんの姿はまだ見えない。

絵里ちゃんがここに来たとき、何て言おう。
形振りなんて構わない。カッコ良いとか悪いとかも気にしない。
とりあえず謝ろう。素直になろう。
328 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:02
「あ」
「田中」

なんと、絵里ちゃんより先に、ガキさんを見つけてしまった。
田中くんは、気まずさを隠せず、無愛想になってしまう。
そんな田中くんに、ガキさんはふっと微笑み、近づいてくる。

「何しに来たんだ」
「……絵里は」

田中くんの目的は、ガキさんとやり合うことじゃない。
絵里ちゃんと会うことだ。会って話をすることだ。

「カメは、もう帰ったよ」
「はぁ!?」
田中くんが大きな声で反応してしまったせいで、
2人はハロ高生徒たちの注目の的。
「こらっ」慌ててガキさんは田中くんの腕を引っ張った。
329 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:02
「余計目立つようなことしないでくれ」
「ああ、ごめん。絵里、もう帰ったと?」
「あぁ。今ごろ、家の花壇の水やりしてるかもね」

なんだ。がっくしうな垂れる田中くん。
ガキさんは彼を見つめて、溜め息をついた。
「カメのことは、どうでもいいんじゃなかったのか」
「…」
「昨日、ぼくに言ったことは、ウソだったのか」
「あんときは、そう思っとったんやけど…」
「考え直したか」
大人しく、田中くんはうなずく。

「やっぱり、おれは別れたくない」
「…そうか」
2人で肩を並べ、歩道を行く。
お上品なハロ高の制服に身を包むお坊ちゃまと、
湾田高校のブレザーを着崩している一見ヤンキー。
はたから見れば、アンバランスな組み合わせだ。
330 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:02
「まだ好きなんよね…もう、遅いかもしれんけど。
今日会って、ちゃんとそれを伝えようって」
「ちょっと遅かったな」
「…もうちょい早よ来ればよかった」
しおらしい田中くんの横顔をちらりと見て、ガキさんは微笑んだ。

「明後日の日曜日、パーティがあるんだ」
「パーティ?」
「うん。ぼくの父親がやってる事務所の、誕生10年記念パーティなんだけど」
「へぇ…」
「君も、来るか?」
「へ?」
田中くんは思わず立ち止まり、ガキさんを見る。

「絶対カメも来るから、そのとき話せばいい」
「…あんた、ようわからんわ」

絵里ちゃんのことが好きなのに、付き合いたいって思ってるはずなのに、
ガキさんはなぜか、田中くんの味方もしてくれる。
ずっとライバルだ恋敵だって思ってたけれど、そうでもないみたいだ。
331 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:03
「実は、昨日はカマかけてたんだ。
わざと君を挑発して、カメと仲直りしてくれたらって思ってた」
「そうやったん…」
「君は、カメと、別れるべきじゃないと思う」

そう言ったガキさんは、ふたたび歩き出した。
田中くんはその後を追う。

「来るのか。来ないのか。今決めてくれ」
「…行くよ」
行くしかないやん。心の中で呟く田中くん。
ガキさんがくるっと振り向いた。とても真剣な顔だった。

「最後のチャンスだからな。
これで仲直りできなきゃ、二度とぼくは君に協力などしない」
332 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:03


*****


333 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:03
「あいつを呼んだのか」
「はい」

パーティ前日。亀井家。
ちょうど絵里ちゃんは、衣裳部屋にこもって、明日の衣装を選んでいた。
だから、ガキさんは今のうちに吉澤さんにあのことを話す。

「おまえって奴は…ホント童貞丸出しだな」
「ちょぉ!」
「今が最大のチャンスなんだぞ?」
絵里ちゃんを奪う、絶好のチャンス。それはそうだ。
ガキさんもちゃんとわかってる。
今、彼女を支えてやれば、優しくしてあげれば、
簡単に彼女の気持ちをこっちへ向けることができるかもしれない。
だけど、それは出来ない。なぜなら、彼女のことが、本当に大好きだから。

「まだカメのことが好きだって、あいつはぼくに言ったんです。
きっと、カメも…だから、ぼくは2人を放っておけない」

吉澤さんは、ガキさんの言葉を聞いて、眉間にシワを寄せた。
渋い顔で腕を組み、遠くを見る。
334 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:04
「そうか…まだ、好きなのか」

呟く吉澤さんの整った横顔を、ガキさんは眺めた。
いったい、何を考えてるんだろう。わからなくて、首をかしげた。

「カメに、言っておいたほうがいいですかね」
「言わないほうがいいんじゃない?」

はい、とガキさんはうなずいて、溜め息をついた。
明日上手くいくといいけどな。
335 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:04


*****


336 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:05
貯金をはたいて、スーツを買った。
恥ずかしい思いをしたくないし、させたくない。
昨年の絵里ちゃんのお誕生日みたいなことには、したくない。

運命の日曜日は、なんだかハッキリしない曇り空。
田中くんは、駅でガキさんと待ち合わせ。
さすが、坊ちゃんは黒い高級車の中から現れた。
田中くんもそれに乗り込み、いざパーティ会場へ。
337 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:05
一流ホテルの雰囲気に、早くも飲まれそう。
田中くんはガキさんに連れられ、会場へ入る。

『新垣弁護士事務所 誕生10年記念パーティ』という、大きな横断幕。
華やかなドレスを身にまとう女性たちや、お上品なお子様たち。
それから、いかにもエリートな男性たち。全体的な平均年齢は少し高め。

「カメはどこだー」
んー。2人してきょろきょろ見回すが、見当たらない。
しばらくそうしていると、ガキさんの肩を誰かが叩いた。
「おぉ、吉澤さん。カメは?」
「向こうで愛と話してる…」

田中くんは、吉澤さんから視線を向けられ、背筋を伸ばした。
ものすっごい鋭い眼差しでにらまれる。チョー怖い。
絵里ちゃんの側にいるときは、にこにこ穏やかなジェントルマン
って感じだったのに、今は893の人みたいだ。
まるで田中くんを敵視している。ガキさんより、だいぶ厄介だ。
338 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:05
ずいと一歩前に出て、吉澤さんはさらに凄む。
「今日のパーティ、何のパーティかちゃんとわかってんだろうな」
「…はい」
としか答えようがない。ここで、絵里ちゃんだけに会いに来ました、
だなんて言えない。言うと彼の拳が顔に飛んできそうだった。

「パーティを台無しにするような行動は絶対すんなよ」
ぐっ。吉澤さんから胸をドンッと突かれ、田中くんは一歩下がる。
ガキさんは、心配そうな顔で、2人を交互に眺めていた。

「それと」
吉澤さんは言いながら、さらに田中くんに詰め寄る。

「おれは、ガキさんみたいに、天使じゃないからな」

背の高い吉澤さんは、妙に迫力満点で、ぶっちゃけ怖い。
田中くんの中で、やさしい人だったイメージが、一気に崩れ去る。
339 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:05
「お嬢様やガキさんに恥かかせんなよ」

念を押すように、最後にそう言って、吉澤さんは去って行った。
田中くんは大きく溜め息をつき、ガキさんを見る。
「あの人、あんな怖い人やったんやね」
苦笑いして、後頭部をかく。
「良い人なんだけどね」
ガキさんも同じような笑みを浮かべ、おでこをかいた。

「…さて。ぼくはそろそろ行かなきゃいけない。
少し居心地が悪いだろうけど、まあ、楽しんでくれ」
「ああ」
「ここにある料理や飲み物、自由に食べたり飲んだりしてもらって
構わないから」
「ありがとう」
本当に、色々ありがとう。そういう気持ちを込めて、田中くんは言った。

「あとでまた戻ってくるから」そう言い残してガキさんは父親の元へ行った。
ひとりになる田中くん。とりあえず、喉が渇いたので、ウーロン茶をいただく。
壁際にいくつか並んでいた椅子に腰を下ろして、会場内を眺める。
340 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:06
絵里ちゃんは、どこだ。
きょろきょろしても、見たことのない顔ばかり。

「まだ来てないんかな…」
と、おもむろに入り口付近を見て、田中くんは目を見開いた。
ああああああの男は!!!!!!!!!!!!!!!

一瞬にしてプレイバックしてくる、1週間前の悪夢。
絵里ちゃんと相合傘して、彼女をピンクの車の助手席に乗せて、
彼女の髪を撫でて、微笑み合っていた、あの男。
あの顔は一生忘れない。悔しいくらいイケメンで、笑顔が可愛くて。
田中くんは、グラスを握り締め、あの男をにらんだ。

しかし、怖い顔は次の瞬間、一気に緩む。
そいつの後ろから、絵里ちゃんが現れたのだ。
皮肉なものだ。1週間前と何ら変わりのない光景が、そこにあった。

吉澤さんも彼女の隣にいたけれど、そのまた隣に女がいた。
背が小さくてスタイルの良い、髪の長い女。愛ちゃんだ。
4人は笑顔で、ガキさん一家の元へ挨拶に行っていた。
あの男の横で笑ってる絵里ちゃんの姿。いつもの彼女だった。
なぜか、ガキさんだけがぎこちなく笑っていた。
341 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:07
パーティは、スムースに進んでいる。
田中くんは会場の隅っこで、ウーロン茶片手にボーっとしていた。
ボーっとするしか、なかった。

「田中っ」
「おお」
気付けばいつの間にか、ガキさんが近づいていた。
田中くんの隣に座り、おでこをかく。

「……」
「……」
沈黙になる2人。
田中くんは、ウーロン茶を飲み干す。

「…全部、吉澤さんが仕組んだんだと思う」
「ん?」
「藤本さんを連れてくるだなんて、一言も言ってなかったのに」
ガキさんは、厳しい顔で俯いた。
「藤本さん…」田中くんは呟き、そいつに視線を向ける。
吉澤さんと笑顔で会話している横顔。やっぱりイケメンだ。
ちょっとワルそうで、でも大人で頼りになりそうで。
まともに戦ったら、敵わないだろうなと、思う。
でも、今さら戦う気力も無い。
342 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:07
「ぼくが、君を連れてくるなんて言ったから…」
「藤本さんって何者なん」
「吉澤さんの高校の時からの友達らしい。
それに、今はピースカンパニーに勤めてる」
なるほどそういう繋がりか。なんて感心してる場合じゃない。
「あいつは、何なん。絵里とどういう関係なん」
「…わからない。なんであんなに仲が良いのか、ぼくにもさっぱり」

見ようによっては、兄妹みたいだと思える。
でもやっぱり、田中くんからしたら、そういう風にはとても見えなくて。

「なんかさぁ、馬鹿馬鹿しくなってこん?」
「え?」
「浮気してるって思ったけど、してないって信じることにした。
でも、やっぱりしてるっぽい。本当にバッカみたいやん。もう、無理」
「…」
「吉澤さんは厳しいなぁ。マジで悪魔やんね」
田中くんは、ハハッと無理矢理笑い飛ばして、立ち上がる。
複雑そうな表情で、ガキさんは田中くんを見つめた。
343 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:08
「悪いけど、帰るわ」
「ごめん…」
「なんであんたが謝るんね」
「…車、用意するよ」
「いい。なんもかんも、あんたにしてもらうわけにはいかん」

田中くんは、絵里ちゃんと会話することなく、会場を後にした。
外に出ると、どしゃ降りの雨が待っていた。
先週の日曜より激しく、ザーザー降っていた。
まるで田中くんの心の中を表しているような、ひどい雨だった。
344 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:08


*****


345 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:08
絵里ちゃんは何も知らない。
あのパーティに田中くんが来ていたことも、吉澤さんがあの男をわざと呼んだことも。
彼女にとってはただのおめでたいパーティで、楽しい時間だった。

「あー、楽しかったぁ」

盛り上がった両親たちは、二次会へと繰り出した。
そうもいかない子供たちは、大人しく帰宅。
ガキさんと絵里ちゃんは一緒の車で帰っていた。

「お父さんたち、今日帰って来ないかもね」
「……」
笑顔の絵里ちゃんとは対照的に、暗い顔のガキさん。
この雨の中、ひとりで帰った田中くんのことを思うと、ちょっと泣きそうだ。
傘も持ってなかったし、無事にちゃんと帰り着いたのだろうか。
346 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:08
全部、自分のせいなんじゃないかと思い始めている。
田中くんをパーティに呼ばなきゃ、それを吉澤さんに言わなきゃ、
こんなことには絶対ならなかったのだ。
もしかしたら、彼自身に任せておけば、2人は元通りになっていたかもしれない。
自分が口を出し、余計なお世話を焼いたせいで…
何も2人に良いことをしていない。むしろ悪いことをしてしまった。
ああ。泣きそうっていうか本当に涙が出てきそう。

「…ガキさんってば」
「はいっ?」
我に返って横を見れば、絵里ちゃんがアヒル口になっていた。

「なんでそんなに機嫌悪いの?」
「いや…機嫌悪くはないけど…」
「今日ずっと元気なかったよね。何か、あった?」

何かありまくりだけど、それを絵里ちゃんにぶっちゃけるわけにはいかない。
言えないし、それよりも言いたくない。
言えばさらに2人をめちゃくちゃにしてしまいそうだから。
絵里ちゃんを、もっと苦しめてしまいそうだから。
347 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:09
「絵里が藤本さんと仲良いから、やきもち焼いちゃった?」
「……」
「あ、図星?やだなぁもうガキさんはー」
ぺしぺしとガキさんの二の腕を叩く絵里ちゃん。
笑っている彼女は、いつもどおり、少しキショくて可愛かった。

「でも、藤本さんは6月に結婚するんだから安心していいよ?」
「…」
「ていうか絵里、年上の人、タイプじゃないしー」
「そうなの?」
「そうだよぉ。知らなかったの?」
うへへ。目を細めて、微笑む絵里ちゃん。
あまりに彼女が無邪気すぎて、ガキさんもつい笑った。

「じゃあ、田中と付き合ったのって、年下だったから?」
「うーん。それだけじゃないけどね。顔もタイプだったし、やさしかったし」
「へぇ」
「まあ、やさしいって言っても、ガキさんのほうが100万倍やさしいんだけどね!」
348 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:09
きゃっきゃ言う絵里ちゃんから、二の腕をまた叩かれる。
なんか、テンションおかしくないっすかこの人。
ガキさんは溜め息をついて、真っ黒な窓の外を眺めた。

「あれ。ガキさん照れてる?」
「照れてません」
「またまたぁ」
「…あいつのこと、まだ好きだったりとかは、しないの?」

窓を見つめたまま、ガキさんは尋ねた。
声のトーンを落として、真面目に。
すると絵里ちゃんもふっと真顔になる。
少しの沈黙が、車内を包んだ。

「しないよ。嫌いになったって言ったじゃん」
「……そっか」
絵里ちゃんは、最初から最後まで、答えを替えなかった。
田中くんは替えたけど、彼女は頑固だった。
2人は別れるべきじゃない。
そう信じ続けたガキさんだったけど、今とうとう限界が訪れたようだ。
349 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:10
「ケータイの電池にね、プリクラを貼ってたの」
「ん?」

バッグの中から、絵里ちゃんは自分の携帯電話を取り出した。
明かりをつけてから、電池のふたを開け、ガキさんに見せる。
そこには絵里ちゃんと田中くんがピースをしてる写真があった。
きっとそれは2人の思い出の一枚。大切な大切な、2人の。

「ちょ、カメ?」
何を思ったか、絵里ちゃんは黙ってそれをはがし始める。
窓を下げて、雨の中へと、そのプリクラを投げ捨てる。
350 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:10
「こんなこと、ガキさんにしか言えないんだけどさ…」
手を伸ばして明かりを消して、小さな声で話し始める絵里ちゃん。
その横顔を、ガキさんは見つめる。
「いいや。やっぱ何でもない」
「言いかけてやめるとか…言ってよ」

絵里ちゃんが、ガキさんのほうを見た。
薄暗い中、2人はじっと見つめ合う。
長い間一緒にいるけれど、こんな雰囲気は初めてだった。

「ホントは…まだ好きなの…」

急に絵里ちゃんは泣き顔になって、ぼろぼろ涙をこぼし始めた。
あばばば。焦ったガキさんは、素早くポッケからハンカチを取り出す。
彼女はそれを受け取って、メイクが崩れない程度に、そっと涙を拭った。
「…でも、もう付き合えないって、思った…だから別れたの」
「カメ…」
「…れいなだってきっと、もう絵里のことなんか嫌いだろうし」
「そんなことない。そんなことないから…」
「ガキさん…」
涙でぐしゃぐしゃの絵里ちゃんを見ていたら、もうダメだった。
ガキさんはスーツの袖で、自分の涙を拭う。
351 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:10
「…なんでガキさんまで泣いてんのぉ?」
「泣いてなんかないよ…ちょっと目にゴミが入っただけだし」

本当に、なんで泣いてるんだろう。
目をごしごしと擦りながら、ガキさんは思わず笑ってしまった。

「そんな風に泣かれると…絵里…」

潤んだ瞳で、絵里ちゃんが見つめてくる。
ガキさんはがっつり見とれてしまって、何も言葉が出てこない。
こんな近い距離で、そんな顔されたらもう…

「カメ…」
「絵里、やさしいガキさんに甘えて…ホントに、ホントに最低な女になるから…」

最低とか!ぼくにとって君は最高なレディさ!
心の中でガキさんはそう叫ぶが、口には出さない。つか出せない。
あくまでも、ここは車の中。そしてもうすぐ、亀井家へと到着する。
352 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:11
「甘えてよ」

絵里ちゃんはもう、他の誰にも奪われたくない。
だから、田中くんが離した彼女の手を掴むのは、自分しかいない。
強引でも無理矢理でも何でもいい。
今まで散々チャンスボールを見逃してきたのだ。
空振りじゃなく、見逃し三振ばかりを繰り返してきたのだ。
いま、9回裏の2アウト満塁。
勝つためには、自分がここで大きな一発を打つしかない。
ガキさんがバットを大きく振って、逆転満塁サヨナラホームランを、
あのバックスクリーンへと豪快に叩き付けてやるしか、道はないのだ。

「カメが、たとえどんなに最低な女でも、ぼくは構わない。
だってぼくは…カメのことが大好きだから」
言い切る、ガキさん。

「もぉガキさんそんな寒いこと言わないでよぉ…」
絵里ちゃんは、さらにぼろぼろ泣きだした。
子供みたいな彼女は本当に可愛い。
こんなときにまでそんな返しをしてくる彼女がすごい愛しい。
353 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:11
「寒くたってぼくは言い続けるよ。カメのことが好きだから、
カメから甘えられたらうれしいし、最低だなんて、思わない」
「もぉいいって…」
そう言う絵里ちゃんの口元は少しだけ笑ってる。

「もぉ。ガキさん泣きすぎっ」
絵里ちゃんが、ハンカチでガキさんの目や頬を拭った。

「泣きながら告白とか、チョーかっこわるい」
ガキさんの目の前で、彼女が微笑む。
「…かっこわるいとか言うな」
なんだか、急に照れくささがガキさんを襲う。
勢いですごいことを言ってしまった。思いをぶちまけてしまった。
でも、自分から振ろうと思って大きくバットを振ったのだ。
打った打球の行く先は、今すぐにはまだわからないけれど。
354 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:12
「ありがとう」

亀井家に到着して、車のドアが開いた。
絵里ちゃんはガキさんにそう言って、ハンカチを持った手を振った。

「これ、洗って返すから」
「うん…」
「ガキさん。おやすみ」
「おやすみ」

穏やかに微笑んでから、絵里ちゃんは去って行った。
ガキさんは、大きく息を吐きながら、背もたれに背中を預けた。
355 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:13

つづく

356 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/04(金) 02:15

(0´∀`) <本日のお立ち台ヒーローインタビューはガキさんですYO
( ・e・)<黙ってろこの悪魔めが!

357 名前:重ピンピン 投稿日:2007/05/04(金) 05:23

更新お疲れッス

最高ですガキさん
あなたは日本最後の侍だ


『LAST ガキさん』

絶賛公開中!!

すごいワクワクした展開です
続きもワクワクしたまま待ってます

358 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/04(金) 07:49
今回でやっとれなえりが解決すると思ったのに・・・
れいなのへたれいな゚・(ノД`)・゚
好きならお互い素直になってください・・・
続き見るのがこええええええ
359 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/04(金) 11:34
ガキさーんもうメッチャ感動です。
絵里チャンこんなに優しくて素敵な人はいないよ?
でもきっと振られちゃうんだよねその時は一緒に泣くよ!!ガキさん。
360 名前:アネゴ 投稿日:2007/05/05(土) 23:46
アネゴって名乗ってみる事にします。
ガキさん…逆転満塁サヨナラホームランを願ってるよ。
もしダメだったら私の心に打ちなさいっ
361 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 22:31
>>357 重ビン
侍とかwww
これで今回のお話は最終回です
最後までワクワクしてもらえたらいいなと思います

>>358さん
へたれいな全開ですいません許してください

>>359さん
ちょw振られるって決め付けんなかわいそうじゃん!www

>>360 アネゴ
どんどんコテハンが増えていくwww
頼もしすぎるぜアネゴ(*´Д`) ハァハァ
362 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:32


*****


363 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:32
藤本美貴は、ピンクの車を運転していた。
亀井家の門をくぐり、玄関を目指し走っていた。

この車は、梨華ちゃんのものだ。
今まで美貴は黒いセダンに乗っていた。
しかし、一緒に暮らし始めたせいで、車を2台も持ってるのはどうかという
話になり、どうせもうすぐ結婚するんだからと、どちらか1台にすることになった。
もちろん美貴は、黒を推した。でも、梨華ちゃんはピンクが良いと言った。
ピンクが一番胎教に良いからとかなんとか言いくるめられて、結局これだ。
まあ、移動できればいいので、車なんて別に何色でもいいんだけど。
364 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:32
今日は、絵里ちゃんとお出かけする約束をしていた。
こう見えても、2人はお友達なのだ。
美貴が絵里ちゃんとと初めて出かけたのは、先月のこと。
梨華ちゃんの誕生日プレゼントを選んでもらった。
気合を入れて、ウン万円するバッグ。
梨華ちゃんはとても喜んでいた。
一緒に暮らし始めてちょっと険悪になりかけていた空気が、一気に良くなった。

美貴と絵里ちゃんは、なんだか知らないけどお友達だ。
こないだは、新垣弁護士事務所のパーティにもお呼ばれしてしまった。
社長令嬢とお友達になるなんて、不思議なことだ。
でも、2人は確かに仲良しなのだ。

「おはようございます」

運転席から出てきた美貴に、絵里ちゃんが挨拶した。
可愛らしい服に身を包み、可憐に微笑んでいる。
美貴の頬も、つい緩む。

「今日も可愛いね」
「もぉ、お世辞は結構ですよ?」
2人、笑い合う。
そこに聞こえてくる、大きな咳払い。

「ちょっと。藤本くん」

365 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:33
吉澤さんだ。ぴしっとしたスーツを着て、見た目はとてもジェントルマン。
美貴は、完全に無視して助手席のドアを開ける。
「どうぞお嬢様」
「おい」
「今日は、天気が良いのでドライブでもしましょうか」
「おいっつってんだろ」
絵里ちゃんはクスクス笑っている。

「なんだい。吉澤くん」
「今日、絵里お嬢様は夕方18時から食事会が入ってますので、
17時までには絶対お帰りくださいね」
「わかってるから。吉澤くん」
「くっ…」
366 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:33
走り出すピンクの車。
絵里ちゃんはうれしそうにニコニコしていて、流れる景色を眺めている。

「なんでそんなに楽しそうなの?」
呆れながら、美貴は尋ねる。
「だって、助手席なんて、乗る機会、滅多にないですから」
「いつも後ろに乗ってるの?」
「はい。いつも、ドアを開けてもらって、運転してもらって。
絵里、早く免許とって自分で車を運転したいんですよ」
「へぇ」

なんというか、絵里ちゃんはお嬢様らしくないお嬢様だ。
性格も穏やかで、謙虚で慎ましい。
何不自由なく育ってきたのに、わがままなところなんて無い。
昔、美貴が付き合っていたお嬢様とは、まったく正反対だ。

「彼氏は免許持ってないの?」
「…別れました」

ええええええ?思わず横を向いて驚く美貴。
前、前、と絵里ちゃんから指差され、元に戻る。
が、動揺は元に戻らない。
367 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:33
「ついこないだ、マフラー買ってたじゃん」
「それ、渡さないまま、別れちゃいました」
「なんで。どうしたの」
そう美貴が尋ねれば、絵里ちゃんは黙ってしまった。
音楽もラジオもつけていないので、シーンとする車内。

「色々あったんだね」
「…はい」
あまり根掘り葉掘り聞きたくなかった美貴は、そうまとめる。
でも、絵里ちゃんの顔は、あからさまに暗くなっていて、
本当に色々あったんだなと思わせる。

「まあ、元気出しなよ」

まさか、別れたその理由が自分に少しあるだなんて、美貴は想像もしていない。
絵里ちゃんが詳しく何も言わなくて、ずっと黙っていたからわからない。
368 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:34

それから美貴は、黙々と運転していた。
もうすぐお昼だから、どこかで食事をしようかな。
どこがいいかな。うどん屋さんでもいいのかな。
ハンバーガーでもいいな。最近食べてないからな。
ていうか、こないだ絵里ちゃんと出かけたときもそうだったな。
なんて考えながら走っていると、ちょうど目に入ってくる看板。
キッチンズバーガーだ。

「ねぇ、今日もハンバーガー食べようよ」
「いいですよ?」
「じゃあ決まり」
ハンドルを左に切って、キッチンズバーガーへと入る。
2人は同じハンバーガーセットを頼んで、向かい合って座った。

「絵里、このポテトが好きなんですよねぇ」
うへへ。と笑って、細長いポテトを咥える絵里ちゃん。
美貴も笑いながら、同じようにポテトをかじる。
「なんかさぁ、うちらカップルみたいじゃない?」
「ねぇ」
うれしそうな絵里ちゃん。可愛い。
美貴はでれでれしまくりで、ハンバーガーにかぶりつく。
369 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:34
「藤本さんはなんか、お兄ちゃんみたいだけど彼氏みたい」

絵里ちゃんは、そんなことを言ってくれる。
これは、吉澤さんを軽く超えたな。内心ガッツポーズをする。
あいつはただの執事。
こっちは、お兄ちゃんみたいな彼氏みたいなお友達。
ははは。勝ったぞ!完全勝利だ!

「あのさぁ、前から思ってたんだけど」
「ん?」
「お嬢様のこと、何て呼べばいい?」

んーと斜め上を見上げ、絵里ちゃんは一瞬考えた。
美貴はコーラを一口飲んで答えを待つ。

「絵里」
「いいの?」
「うん」

そううなずいた彼女の微笑は、美貴の心をズキュンと貫いた。
こりゃ可愛いな。可愛すぎてたまらんな。

「じゃあ、絵里は藤本さんのこと何て呼べばいい?」
「美貴でいいよ」
370 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:34
お互い、名前で呼び合う2人。どこの恋人同士だ。
でもまあ絵里ちゃんがうれしそうだからいいや。美貴はそう思った。

「なんか、安心する」
「え?」
「美貴といると、ホッとする」
「えぇ」
ふにゃりとした絵里ちゃんに、美貴は苦笑い。
そんなこと梨華ちゃんにも言われたことがない。
何か、この身体から妙なものが出ているのだろうか。
絵里ちゃんだけに伝わる、そういうものが。

「なんででしょうね」
「知らないよ」
ぶっきらぼうに答えると、絵里ちゃんは唇を尖らせた。
そんな顔もまた、可愛かった。
やばいな自分。これで酒が入ってたら、間違いを起こしそうだ。
371 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:34
「結婚するのやめて、絵里と付き合いません?」
「はぁ?!」
「ジョーダンですよ。ジョーダン」
目を丸くした美貴に、絵里ちゃんはけたけた言いながら笑った。
「ちょっとそれは、笑えないジョーダンですけど」
「…そうですよね」

眉毛を下げて、力なく笑う絵里ちゃん。
もしかしたら、半分本気の、ジョーダンだったのかもしれない。
きっと彼氏と別れて寂しいんだろう。
誰でもいいから、縋りつきたいんだろう。
その気持ちは痛いほどわかる。わかるよ。
美貴は、真正面の絵里ちゃんを見つめて、頬杖ついた。
彼女はストローに口をつけ、一口飲んでから、再び口を開く。

「藤本さんは、同時に2人の人を好きになったこと、ありますか?」
372 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:35
ちょ、もう呼び名戻ってるし!
とツッコむより、質問の内容がアレだったから、美貴は驚いた。
まさか彼氏と別れた原因は、それだったりするんだろうか。

「無いけど…もしかして」
美貴はそこまで言って、止める。
だって、絵里ちゃんは明らかにそうだという顔をしていたから。
まあ、そうじゃないとそんなことわざわざ聞かないわな。

「どっちも好きなの?」
尋ねれば、彼女はこくりとうなずく。
「どっちか、選べない感じ?」
「…でももう、別れたから」

絵里ちゃんが好きな2人の男。
ひとりは別れた彼氏で、さてもう1人は。

「まさかとは思うけど、1人は吉澤とかいうアホじゃないよね」
「違います」
だよね。美貴はうんうんとうなずいた。
373 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:35
「絵里、どうしたらいいのかもう、わかんなくて…」

確かに複雑だ。絵里ちゃんの中でも、色々と葛藤があるんだろう。
美貴はひとりの人しか愛せない人間なので、その気持ちは、
申し訳ないけど理解できない。だけど、悩んでる彼女を見てると、
どうにか力になってあげたくなる。

「自分がしたいようにすればいいと思うけど、どうしたいのか
わかんないんだっけか。うーん」
「もし、藤本さんがそうなったら、どうしますか?」
「え」
「付き合ってる人の他にも、ずっと友達みたいに仲が良い人がいて、
2人とも好きなんです。比べられないくらい、どっちも」

腕を組んで、美貴は考える。
聞かれたからには答えないといけない。
絵里ちゃんは頼りにしてるから相談してきたのだ。
ここはひと肌脱いで、お兄さんぶりを発揮しないと。

「でも、別れたんだよね?じゃあもう、好きな人はひとりじゃん」
374 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:35
もし自分がそんな状況だったら、その友達に告白する。
だって、付き合ってた人と別れたんだから。
どんな理由で別れたかは知らないが、別れたものは別れたのだ。
何度もくっつくマジックテープな恋だったら、まだヨリが戻る可能性が
無いとも限らないが、美貴はそういうことを考えるのが嫌いだった。
けじめはしっかりつけないといけない。一度別れると決意しておいて、
やっぱまだ好きだからまた付き合おうなんて、都合が良すぎる。
別れるなんて、重大な決意を、そんな簡単に翻して欲しくない。
美貴はそういう男だった。

「その友達のこと、まだ好きなんでしょ?そいつと付き合えばいいじゃん」
「……付き合ってもいいんですか?」
「なんでおれに聞くのさ。自分のことだろ。
付き合いたいんなら付き合えばいい。シンプルなことじゃん」

絵里ちゃんは、真剣な顔で黙り込んだ。
一瞬で大人の女の表情になるところがまた、たまらない。
高校生といえど、ひとりの女。あんなことをすれば、こんなこともする。
美貴は少しだけ、ベッドの上の絵里ちゃんを想像して、すぐに止めた。
375 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:36
「そうですよね…シンプルなことなんですよね」
「そう。あんまり考えすぎると、頭パンクしちゃうよ」

ちょっぴりふざけた調子で言うと、絵里ちゃんがふっと微笑んだ。
やっぱりこいつは可愛いな。今すぐ告白してやろうか。
ダメダメ。自分には梨華ちゃんがいるんだから。
美貴はそんなことを思いながら、すっかり薄くなったコーラを飲んだ。
376 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:36


*****


377 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:37
田中くんが絵里ちゃんのことを完全に諦めてから、約1ヶ月。
2月も半ばになってきて、いわゆるバレンタインシーズン。
デパートやスーパー、コンビニでもどこでもチョコレートが売っていて、
嫌でもバレンタインのことを考えてしまう。
ひとりの田中くんは、なるたけバレンタインについては触れないように、
チョコレートとかいう単語も出さないようにしていた。
でも、やっぱり友達たちは盛り上がる。
今年は女の子からどれだけチョコをもらえるのか。
突然の告白は、あるのだろうか。楽しみでしょうがない様子。
378 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:37
「バレンタインの日は田中さんは…あっ」
わざとらしく、斉藤くんが口元を手のひらで覆った。
林くんが彼の頭を引っ叩き、
「おまえだって何も予定ないだろうが」
「そうでした」
あはは。笑い飛ばす斉藤くんを見て、田中くんも少し笑った。
林くんは田中くんを見て頬杖をつく。
「でもタナやんが別れるなんてな」
「そうだよ。カノジョめっちゃ可愛かったのに」
「もういいやんその話は」
「よくねえよ。ケンカ別れなんだろ?」
「そうやけど。もう、いい」
何度聞いてもその一点張りの田中くん。
斉藤くんと林くんは、肩をすくめる。
379 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:37
「あいつはどうせ今ごろ、幼なじみのお坊ちゃまとイチャイチャしよると思う」
「え、もしかして別れた原因って、そいつのせい?」
「違う違う。また別の男」
「えっ!もしかして、あの子ってけっこうイケイケだったの?」
身を乗り出す斉藤くん。
「だってさ、おまえという彼氏がいるのに、幼なじみとイチャイチャして?
また別の男とも肉体関係があった?これ3股じゃん。3つ口丸底フラスコ状態じゃん」
「意味わかんね」
「肉体関係っち言いたいだけやろ」
「CKB最高じゃん。肉体関係最高じゃん」
「はいはい」
「おまっ、ライムスも馬鹿にしてんな?それは許さんぞ!」
「馬鹿にしてないって。おれもライムス好きだからさ」
「じゃあ何が好きなんだよ!曲!」
「やっぱ、隣の芝生にホールインワン?」
「マジかよ。わかってんじゃん」
笑顔で固く握手する2人の横で、田中くんは頬杖ついて、斜め上を見上げた。
あの2人は、肉体関係あったのかな。あっても別にいいや。別れたんだし。
380 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:38
「なあタナやん、14日は3人でカラオケ行って肉体関係part2熱唱しようや」
「おう、ええよ」
「だからおれは予定あるって…」
「はい林の言うこと無視無視。バレンタインはカラオケだー!」

カノジョなんていなくても、十分楽しい毎日だ。
友達もいるし部活もある。全然寂しくなんか、ない。

でもなぜか、あの日からずっと田中くんの心は曇り空だ。
雨は止んだはずなのに。全部終わった、はずなのに。
いつか、この心が晴れる日は来るのだろうか。
自分の太陽になってくれる女の子が、いつか現れるのだろうか。
それはまだ、今の田中くんには検討もつかないことだった。
381 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:39


*****


382 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:39
2月14日。バレンタインデーの日の朝。
吉澤さんが絵里ちゃんの部屋のドアを開けると、
彼女は大きな紙袋を持って、立っていた。

「おはようございます。絵里お嬢様」
「おはようございます」
朝からにこにこ笑顔が可愛らしい絵里ちゃん。
吉澤さんの頬も、自然と緩む。

「今日バレンタインだから、みなさんにお配りしようと思って」
彼女は紙袋を吉澤さんに見せて、うれしそうに言う。
「そうですか」
「吉澤さんにもあげたかったんですよ?
でも、愛ちゃんから絶対あげるなーって脅されて」
ぶはっ。噴き出す吉澤さん。
あの女はお嬢様になんてことを!
せっかく年に一度のバレンタインなのに!
383 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:39
「だから、吉澤さんにはネクタイピンをあげます」
「あ。ありがとうございます」
紙袋の中から出てきた小さな箱。
絵里ちゃんから受け取って、吉澤さんはしばし固まった。
「どうしたんですか?」
「…やっぱりチョコが欲しかったです」
しゅんとなった執事に、絵里ちゃんがうへへと笑った。
「愛ちゃんからすっごいチョコもらえるから、いいじゃないですか」
「そうですね。本当はお嬢様からのチョコが一番欲しかったんですけど、
今年はあいつのチョコだけで我慢します」
「もぉ、そんなこと言って、愛ちゃんからもらうのが一番うれしいくせに」
ケタケタ笑う絵里ちゃん。チョーご機嫌だ。

「お嬢様。本命チョコとか、その中に入ってたりするんですか?」
「えー、それは内緒です」

そう言う彼女の微笑が、なんだかとても大人びていて、
吉澤さんの胸はちょっときゅんとなった。
384 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:40


*****


385 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:40
モテないガキさんにとっては、バレンタインなど無いものに等しかった。
クラスメイトからの義理チョコや、家族と家政婦さんからちょこっとチョコをもらうだけ。
好きな女の子から、本命チョコをもらうなんて、夢のまた夢だった。
でも、そんなガキさんに、思わぬ出来事が起こる。

「ん?」

放課後、さあ帰ろうと下駄箱の靴を手に取った瞬間。
何か封筒みたいなものが、ひらりと下に落ちていった。

「これは…」
新垣くんへ、と女の子の字で書かれた封筒だった。
これは誰の字だろう。裏返してみたが、差出人は不明。
386 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:40
「がーきさん」
「おわっと!」

じっと封筒を見つめていたら、いきなり後ろから絵里ちゃんの声がした。
ガキさんは慌ててそれを背中に隠す。けれどもう遅かった。
「何、それ」
「え?」
「いま何か後ろに隠したじゃん」
「隠してない隠してない」
「もぉ、バレバレだし」
「……」

絵里ちゃんから封筒を奪われて、ガキさんはおでこをかいた。
明らかにそれはラブレターで、バレンタインデーの今日そんなものを
もらったら、否が応でも告白されるんじゃないかと思うものだ。
「ん」
「え?」
ん、と絵里ちゃんは表だけ見て中を見ずに、それを差し出してきた。
ガキさんは受け取って、首をかしげる。
「開けて読んでみれば?」
「あぁ、うん」
とうなずいていたら、絵里ちゃんがさっさと靴を履き替えていた。
387 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:41
「ちょぉカメ。一緒帰ろうよ」
「やだ」
「えぇ?」
すたすたと絵里ちゃんは下駄箱の出口まで歩いてく。
焦ったガキさんは、急いで靴を履き替えて、彼女の後を追った。

「何?」
「いや何?って…」
絵里ちゃんは、怒ってる?なんでだ。
わけのわからないガキさんは、封筒を手にしたまま、また首をかしげる。
彼女は心なしか不機嫌な顔で、「じゃあね」と言って、走って帰っていった。

ひとり残されたガキさん。
とりあえず、封筒の中身を確認する。
予想通りラブレターで、17時に3−Bの教室で待ってて欲しいという。
「17時かぁ…」
腕時計を見ると、今はその10分くらい前。
あまりもたもたしてる時間は無い。
でも、さっきの絵里ちゃんのことが気になる。
もしかして、ガキさんがラブレターもらったことに、怒ってる?
そう思ってブンブン首を振る。んなわけ。
だって、2人はまだ、ただの幼なじみなのだ。
こないだ、大きくバットを振ったはいいものの、未だに結果が出ていないのだ。
388 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:41

「これ…チョコなんだけど…」

結局、17時に教室へと戻ったら、クラスメイトが待っていた。
絵里ちゃんと仲の良い、ガキさんともそこそこ話す、秋吉さんだった。

「あたし、ガキさんと大学違うところ行くから…」
「うん…」
「最後くらい、ちょっと張り切ろうかなって」
はにかんで、ガキさんを見る秋吉さん。相武紗季似のさわやか少女。
まさか彼女から呼び出されてチョコをもらうだなんて。
驚きというかなんというか。ガキさんはけっこう、動揺した。

「それ、本命だから」

清々しいくらいはっきり宣言されて、さらに戸惑いは大きくなる。
ガキさんの手の中の、四角い箱。
彼女の想いが詰まっていて、なんだか重い。
389 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:42
「何か言ってよガキさん」
「うん…なんというか…うれしいけど…」
「あたし、同じクラスになってから、ずっとガキさんのこと好きだったの。
でもずっと言えなくて…こんなギリギリになっちゃったけど」
「ごめん…」
「やっぱり無理か」
「好きな人がいるから」
「絵里でしょ」
「うん…ってえぇぇ」
きゃははと笑う秋吉さん。ガキさんは苦笑い。

「絵里、誰かにチョコあげたのかな」
「さあ」
まさか、田中くんに?
ガキさんはそんなことを考えるが、首を振る。
ありえない。2人は完全に別れたのだ。

「あ…」
そういえば、絵里ちゃんからチョコをまだもらってない。
毎年、学校で朝会ったときとかにくれるのに。義理チョコを。
390 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:42

秋吉さんとは笑顔でバイバイして、ガキさんは家に帰る。
絵里ちゃんのことばかり考えながら、歩いて帰る。

別に、チョコがもらえなくて凹んでるわけじゃない。
どうせ義理チョコなんだから、もらわなくても気にしない。
気になってるのはラブレターを見たときの彼女のこと。
なぜか微妙に怒ってた。ガキさんにはわかる。あれは怒ってた。

「なんだかなぁ…」
「おかえりなさいませお坊ちゃま」

玄関のドアを開けると、家政婦さんがすぐにやってきた。
ガキさんは「ただいま」と返して、鞄を彼女へ渡す。
靴を脱ごうと視線を落とした瞬間、あるモノに気付く。

「あ、絵里お嬢様がお見えになってますよ」
「……」
綺麗に揃えられた、絵里ちゃんのローファーをじっと見つめるガキさん。

え。なんで来てるの?
急に心臓がバクバク鳴り出した。
必死に冷静を装い、ガキさんは居間を覗き込む。

「…何してんの?」
391 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:42
ソファにひとり、ぽつんと座っている絵里ちゃん。
ガキさんに気付いて、顔を上げた。
「ガキさんを待ってました」
なんだか冷たい口調で言われて、そう、とだけ返す。

「どうしたの」
「……」
「ま、まあ、2階に上がろうか」

様子がおかしい。ガキさんにはわかる。
自分の部屋に通して、絵里ちゃんをソファに座らせた。
ガキさんは、彼女の隣へ、そーっと腰を下ろす。

「…アキちゃんから告白された感想は?」
「はぁっ?」
なんで、秋吉さんから告白されたことを、知っている。
わかりやすく仰け反って驚いたガキさんを見て、絵里ちゃんは、
「封筒の字見たら、誰からだってすぐわかるじゃん」
「…なるほど」
392 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:43
で?絵里ちゃんからじっと見つめられて、ガキさんはおでこをかいた。
「でって言われても…」
「チョコもらった?」
「もらったけど、返した」
「はい?」
そんな、間抜けな顔で聞き返されても。
溜め息をついたガキさんに、絵里ちゃんは首をかしげた。

「なんで返したの?」
「だって、好きって言われてもさ、その気持ちに応えられない、から」
言いながら、途中で恥ずかしくなる。
遠回しに絵里ちゃんのことが好きって言ってるようなものだから。
あちゃー。おでこに手をあて、ガキさんは彼女の顔を窺う。

「…もぉ、ガキさんは本当に絵里のこと好きなんだから」

ぺしっと、二の腕を叩かれるかと思った。
でも、絵里ちゃんはその場から動かず、はにかんでいた。
あれあれ?調子が狂うガキさん。
怒っていたかと思えば笑ってる。今日のこの子はよくわからない。
393 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:43
「カメ?」

絵里ちゃんは、自分の鞄を引き寄せて、その中を漁りだした。
そして、ガキさんの前に、丸い箱をすっと差し出してきた。

「なに、これ…」
聞かなくても、見りゃわかる。ガキさんは馬鹿じゃない。
だけども、尋ねずにはいられなかった。
こんなことあっていいのだろうか。信じられない。

「絵里のは、もらっても返さないよね?」

ワオ…と呟いて、ガキさんはそれを受け取った。
持ってみて、感じる。秋吉さんのより、もっと、もっともっと重い…

「…これ、開けたらビックリ箱とかいうオチじゃ、ないよね?」
「開けてみれば?」
394 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:43
慎重に紐を解き、ふたを開ける。
何かがビヨーンと飛び出してくるわけもなく、
もちろん、中身は、ちゃんとしたチョコレート…

「ってせんべいじゃん!!!!!!!!!!!」

全力で、ガキさんはツッコんだ。
箱の中には、色んな種類のせんべいが詰まっていた。
今日は何の日ですか。ええ、バレンタインですけども。

「…チョコじゃないんだ」
「だって、毎年文句言うじゃん。甘いものダメなのにぃって」
「そんなこと言ってたっけ?」
「もぉ、とぼけたって無駄ですぅ」
絵里ちゃんから、いーっとされる。
正直、可愛かったから、ガキさんは照れる。

「いや、そのなんだ……ありがとう」
395 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:43
なんだなんだ!なんだこの雰囲気は!
2人の周り、いや部屋全体が、なにやらおかしな
空気に包まれてるじゃないか!

それもこれも、絵里ちゃんが微笑んでいるせいだ。
まるでガキさんしか目に入らないみたいに、ずっと見つめてるせいだ。
な、なんか変な汗かいてきた…ガキさんはおでこに触れる。

「ガキさん」
「なに?」
「…ガキさん」
絵里ちゃんは、ガキさんにそっと寄り添って、その肩に頭をのせた。
腕を絡ませてぎゅっとする。2人の身体が、密着する。

「な、なに…」
困った声しか出せないガキさん。
かっこわるいのも仕方ない。なんせ、童貞ですから。
396 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:44
「おせんべいだけど、ちゃんと気持ちはこもってるからね」
「…うん」
ガキさんがうなずくと、うへへと笑う絵里ちゃん。
ホント、何これ。こんなことが起こっていいの?
信じられないけど、夢じゃない。
だって、絵里ちゃんはこんなにやわらかくて良い匂いが…

おっとっと!ヤバイヤバイ!
ガキさんのバットが、木製から金属製になりそうだった。
童貞だって男は男。好きな女の子からこんな風にされて、
何も感じないほうがおかしいじゃないか。
そう自分を正当化しながら、ガキさんは絵里ちゃんの手を、握った。

「カメ。好きだよ」
397 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:44

ガキさんの打球の行く末は、見事なホームランだった。
2人は、こうしてなんとか付き合い始めることになったとさ。

これから、ガキさんは絵里ちゃんに夜の特大ホームランを
かっ飛ばすようになるけれども、それはまた、別のお話。
398 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:45

おわり

399 名前:彼女の微笑 投稿日:2007/05/07(月) 22:45

(0´〜`)<だけど4番は譲らねえYO
从VvV)<てめえはボールボーイでもやってろ!

400 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 22:46

(0´∀`)人(’ー’*川<よしあいで仲良く400ゲット!!!

401 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/08(火) 00:04
毎回楽しく読ませてもらってます!ガキさんカッケー!吉愛話も待ってます!
402 名前:アネゴ 投稿日:2007/05/08(火) 00:45
おおぉぉお?!?!
ネタばれ防止しますけどおおお?!?!
なんかリアルに嬉しいよ…出番はなかったか…
403 名前:重ピンピン 投稿日:2007/05/08(火) 02:44

更新お疲れっす
さすがは全米100万人が涙した
『LAST ガキさん』
主演男優賞間違いなしです

『LAST ガキさん2 〜深夜の戦い〜』
こちらの方もできればでいいんですが・・・
よろしくですm(__)m

もちろん、通常版も続きを楽しみにしていますが
あと、密かに重ピンクの新作も待ってます

404 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/08(火) 03:24
何かいてもネタバレになるよううぅぅぅぅぅ
個人的にはこのオチで大満足でしたw
ありがとう作者さん
405 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/08(火) 21:28
これは吉愛チョコレートプレイへの前振りか>すっごいチョコ
406 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/05/09(水) 14:50
おもしろかったー
途中ハラハラしたけど彼を応援していてよかった
そんな中でもさりげない吉愛に萌え燃え(;´Д`)
407 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/11(金) 18:17
夜の特大ホームランに期待大
408 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/27(日) 22:02
あらためて読み返して(*´Д`)ヌハー
某赤ちゃんプレイを楽しみに明日からまた仕事ガムばります
409 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/29(火) 23:07
>>401さん
ありがとうございます!
次も楽しく読んでもらえたらうれしいです!

>>402 アネゴ(*´Д`) ハァハァ
ちょwどんだけ動揺してんだwww
いつ出番が来るかわかりません油断は禁物ですよ

>>403 重ピン
いつからガキさんハリウッドスターになったんだwww
重ピンクの新作は水面下で着々と進んで…ないですね
いつか、いつか書きたい重ピンク

>>404さん
マジすかw大満足すかw
こちらこそ読んでレスしてくれてありがとう(*´Д`) ハァハァ
410 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/29(火) 23:07
>>405さん
そうそう愛ちゃんは自分の身体にチョコを塗って吉澤さんがね…っておい
でもチョコレートプレイっていう響き新鮮だYO(*´Д`) ハァハァ

>>406さん
おもしろいと言われるとすっごいうれしいですありがとうございます
これからもさりげなく吉愛を書きますYO

>>407さん
その期待に応えられるようがんばります先輩!

>>408さん
ちょwww某赤ちゃんプレイてwwwwwwww
もっと仕事ガムばってもらえるようにリボンネタ書きましたYO!
411 名前:宮殿 投稿日:2007/05/29(火) 23:08
今日、わたしと愛ちゃんと小春ちゃんは吉澤さんの舞台を観に来た。
本番前の彼女の楽屋へ、3人で突撃訪問する。
とその前に、いきなり愛ちゃんが立ち止まった。

「ちょっと待って。あたしトイレ行きたい」
「あ。絵里も」
小春ちゃんに先に行くよう言って、わたしは愛ちゃんとお手洗いへ行った。
そして、戻ってきて吉澤さんの楽屋を開けた瞬間、ただよう妙な雰囲気を感じる。
彼女の第一声は、今日の舞台とは違う某舞台の中のセリフだった。

「…花嫁候補をこれへ」

低い吉澤さんの声。わたしは思わず愛ちゃんの方を見る。
愛ちゃんは吉澤さんをじっと見つめていて、視線に気付いてくれなかった。
412 名前:宮殿 投稿日:2007/05/29(火) 23:08
「わーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」

ひとりハイテンションで、吉澤さんと小春ちゃんの元へ走っていく愛ちゃん。
そして、彼女が2人の前に跪くと、吉澤さんはにやりとした。
「顔を上げるがいい」
言うとおりに顔を上げた愛ちゃんを見て、「おっほーぃ。美人だ」
吉澤さんに肩を抱かれて、小春ちゃんは戸惑っている。

「大臣!この顔に見覚えは!?」
「ん?」
「覚悟っ!!!」
「危ないっ!!!」

なんという反射神経だろう。バッグの中から何かを取り出した愛ちゃんが
襲い掛かってくると、小春ちゃんは見事に彼女をかわしてみせた。
あの舞台はもう昨年の夏の出来事だというのに、すごい記憶力だ。
わたしは半ば放心状態で、3人の様子を眺めていた。

「おまえは誰だ!」
「見忘れたか!!!」
「…サファイア!」
愛ちゃんは、おもちゃの刀を片手に、吉澤さんをにらみつけている。
そんなものバッグに入れてたんだ。変わった趣味だね。
413 名前:宮殿 投稿日:2007/05/29(火) 23:09
「生きていたのか…」
「女と呼ばれた王子が男になって帰ってきた。この国の王位は渡さない!」
「愚かな。近衛兵!出て来い!」
出て来いって言っても、誰も出てくるわけがない。
しっかし、3人とも迫真の演技だな。ちょっと尊敬する。

「どうした!」
「この城にはもう誰も残ってないみたいだよ」
なんと、アドリブまでかましてくる小春ちゃん。
「なんだと!?」
吉澤さんは言った。
そこから、しばらく沈黙になる。
なぜかと考えれば、すぐにわかった。
次はフランツの台詞だった。
もう。しょうがないんだから……

「聞けぇっ!!!」

わたしは、バッグからおもちゃの刀を取り出した。
え?絵里も愛ちゃんと同じじゃんって?偶然だよ偶然。

それから、わたしたちはリボンの騎士ごっこを思いきり楽しんだ。
そのせいで吉澤さんは、肝心の本番の舞台に遅刻しかけましたとさ。
414 名前:宮殿 投稿日:2007/05/29(火) 23:09

おわり

415 名前:宮殿 投稿日:2007/05/29(火) 23:09

从*^ー^) <ガキさんのバッグの中にも刀は常備されております
( ・e・)<こらーホラ吹くなー

416 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/30(水) 02:41
早速キタコレェェェ
キャメおまえもかキャメw
愛すべきリボン脳です
417 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/30(水) 10:14
ちょっww
久々にキター!!!!
そして愛すべきリボン。自分も未だに脳内再生w
418 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/07(木) 22:32
>>416さん
あの夏が忘れられないモー娘。メンバーは
今後、ミッチーとジュンジュンリンリンを洗脳してゆくことでしょう

>>417さん
私は脳内再生どころか続編を妄想してますよw




きっと次の話はここでは容量が足りないので心機一転、新しいスレッドを夢板に立てました
夢板の一番下「彼女の限界」です。お暇があればぜひお読みになってください
419 名前: 投稿日:2007/09/13(木) 22:31


(0´〜`)<愛誕前夜祭だYO



420 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:32


今夜は特別な夜。
あの子にとっても、わたしにとっても。



421 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:32
「今、タカハシの真後ろにいるんだけど」

電話越しにそう言うと、高橋愛はものすごい勢いで振り返った。
バチッと目が合って、わたしは立ち止まる。
大丈夫。イケるって。自分に言い聞かせて、ビックリ顔の彼女に微笑みかける。
ケータイをパチン、と閉じて、彼女のもとへ近づいてく。

「いやー、偶然だねー」
わたしは大げさに言いながら、高橋愛の目の前に立った。
まさか、彼女が仕事場から出てきたときから追っかけてきたなんて言えない。
まさか、今日、愛の告白をしに追っかけてきただなんて言えるわけない。
だからあくまで偶然出くわしたように、わたしはふるまう。

422 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:33
「タカハシって家、このへんだっけ?」
自然な感じでそう尋ねる。
背の小さな彼女はわたしを見上げて、ボー然としていた。
「おーい、帰ってこーい」
わたしが目の前で手のひらをブンブン振ると、彼女はハッとする。
「あっ、別に、今からヨシザワさんの家に行こうとかそんなこと全然思ってませんから!」
「へ?」
今度はわたしが間抜けな顔になる。
高橋愛は、無駄にほっぺを真っ赤にして必死に何かを否定していた。
全然意味がわからなくて、わたしは首をかしげるしかない。

「よよよ、ヨシザワさんは、今からお家に帰るんですか?」
「あっ、いや…」
あぶねーあぶねー。
さっきの高橋愛と同じ過ちを繰り返しそうになって、慌てて口を閉じる。
苦し紛れにそっぽを向いて、ポッケに手を突っ込む。
423 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:33
「ごめんなさい!ヨシザワさん。あたし、さっき嘘つきました」
急に真面目な声がして、わたしは彼女のほうを見た。
彼女は、じっとこっちを見つめていて、その迫力に少し圧倒された。
ただならぬ空気に、思わず構えてしまう。

「今から、ヨシザワさんの家に行こうって全然思ってました」
「全然の使い方おかしくね?って、うぇぇえええ?」
何を言い出すんだこの女は。
わたしは目を見開いて、彼女を見つめる。
彼女は怖いくらいの顔でわたしを見てる。にらんでる?ええ?
424 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:33
「どどど、どうしてタカハシが、あたしの家に?」
「それは、その…」

沈黙する高橋愛。変な汗が、だくだく出てくるわたし。

「ヨシザワさんに、誕生日が来るまでに、言いたいことがあったんです」
「あっ、そっかータカハシ誕生日だよねー」
あははは。ぎこちなく、へらへらと笑いながら右手の腕時計を見る。
うげっ。もうすぐ日付が変わりそうだ。

もう、迷ってなんかいられない。

「実はわたしも、タカハシの誕生日が来るまでに、言いたいこと、あったんだ」

思いきって言う。
大丈夫。イケるって。何度も心の中で呟く。
425 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:34
「じゃあ、ヨシザワさんからどうぞ」
「…え?タカハシからいいよ」
「…そうですか?んー、でもヨシザワさんからいいですよ」
「そんなー、タカハシからどうぞ」
「…いえ、やっぱりヨシザワさんから」
「…いやいや、最初に言い出したのタカハシだから…って!」

わたしはハッとしてもう一度腕時計を見た。
完全に、0時1分をまわったところだった。

「あー。もう、14日になっちゃったよ」
「えっ!」

高橋愛は、慌てた様子でわたしの腕をつかみ、時計を覗き込んできた。
いきなり近くなった2人の距離に、心臓がドキドキしはじめる。
426 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:34
「あー、下手こいたー」

ぶはっ。何を言うかと思ったら、彼女がそんなオッパッピーなセリフを口にした。
わたしはつい噴き出して、笑ってしまう。
そして、次に例のギャグでも言い出すんじゃないかって思ってたら!

「ヨシザワさん、好きです」
「はっ?」

わたしの右腕をつかんだまま、高橋愛はまっすぐ見つめてくる。
マジかよ。マジだよ。信じらんない。夢みたい。だけど、夢じゃない。

「いきなりこんなこと言ってごめんなさい。
でも、あたし、ケジメをつけたかったんです。誕生日が来るまでに」

はっきり言って、顔が近い。
この距離でそんなに見つめられたら、いくらこのわたしでも耐えられない。
427 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:34
小さな彼女を抱き寄せて、ぎゅうっと強く抱きしめる。
まるでドラマの1シーンみたいでかっこよくね?
自分でもクサイなと思いつつ、彼女に囁く。

「あたしも、タカハシが好き」

いったい、彼女はどんな表情をしているだろう。
まさか2人とも伝えたいことが同じだったなんて、ちょっと運命なんじゃない?
わたしはとても心が穏やかになってきて、静かに微笑んだ。

「それと、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」

高橋愛の手がわたしの背中にまわる。
ますます緩んでゆくわたしの頬。
428 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:35
「そうだ。今からケーキ買って、お祝いしようよ」

ピコーン、ときたわたしは、彼女を離す。
今すぐ彼女の誕生日をお祝いしたい。誰よりも、真っ先に。
コンビニのケーキだって何だっていい。特別な時間を、一緒に過ごしたい。

「イチゴがのってるケーキ、あればいいね」

ひとりで舞い上がってるわたしを見て、高橋愛はくすっと笑った。
そして、そっとわたしの腕をとって、寄り添ってくる。

「ヨシザワさんと食べるケーキなら、何でもいいんですけどね」
「あたしだってタカハシと食べれるなら、何でもいいよ」
そんなケーキよりも甘ったるい会話を交わしながら、コンビニを目指す。
429 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:35
「さっき、あたしに言いたいことがあるって言ってたじゃないですか。
あれは何だったんですか?」
「え?もう言ったけど」
「えー?」
「えーじゃないですよー、タカハシさん」
「言ってないですってば!聞いてないもん!」
「じゃあ、もう1回言おうか?」

立ち止まって、わたしは、彼女の耳元へ唇を寄せる。
自分でもサムイなとか思いながらも、真面目な声で囁く。

「タカハシのことがね、めっちゃ好きやねん」

直前で照れて関西弁になっちゃったのはご愛嬌、なんちゃって。
離れて、彼女の顔を窺ってみると、なぜかカチンコチンに凍ってて、
わたしはその目の前でぶんぶん振る。「おーい、帰ってこーい」
430 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:35
ハッとした高橋愛が、いきなり叫ぶ。

「あたしも、大好きですヨシザワさん!!!!!!!!!」

ちょ!いま夜!深夜!
わたしは彼女の口を塞ぐ。手で、だけど。

「ごめんなさい」
シュンとなった彼女が俯く。
わたしは、笑って彼女の髪を撫でる。
「タカハシの、そういうとこも、好きだよ」
すると、上目遣いではにかむ高橋愛。
そんな乙女みたいな顔しやがって!可愛いじゃねえか!
431 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:37
手を繋いで、ゆっくり歩き出す。
あー、夢みたいだなー。こうやって、隣に彼女がいることが。
ハッピー!!!ってアニメ声で叫びたい気分だよ。マジで。
でも、今は深夜だからやめておきますがね。

今からケーキを買ってさ、一緒に食べてさ、その後はさ…ぐふふふふ。


432 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:38





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
          ○
           O
         o
  ノノハヽ
 |(0´〜`) なんてな、なんてな…
 |\U⌒U\
 \ |⌒⌒⌒|
    ̄ ̄ ̄ 

433 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:38




   ∩___∩
   | ノ  ノ ヽ、 ヽ
  /  ●   ● |
  |  *  ( _●_) ミ  結局夢オチ!
 彡、  /⌒)(⌒ヽ/
  ./  /  / \  ヽ
  l    ノ 





434 名前:ハッピー!バースデイナイト 投稿日:2007/09/13(木) 22:40

おわり


435 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/14(金) 00:23
あぁ古き良きよしたか(よしあいではない)がまだここに…
436 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/14(金) 00:26
これはこれで素敵なオチだと思います
437 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/14(金) 00:47
でた〜、読者を翻弄する必殺のパターン!!
そんな作者様が大好きだYO
438 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/14(金) 01:51
オチワロスw
439 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/14(金) 23:59
にやけさしてもらいました
黄金のパターンって大好きだぁー!
440 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/15(土) 00:11
きたクマー!!!
しゃーないから続きは今から自力で妄想するか
441 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2007/09/17(月) 20:10

あれはもう1年も前のことなのに、まだまだ引きずるつもりらしい。

カメと一緒に昼食をとったあと、たまたま、
美勇伝の控え室に遊びに行こうという話になった。
いま秋のツアーで一緒に全国をまわっている美勇伝と、
私たちモーニング娘。の控え室は別になっているのだ。

コンコン。
2人でそのドアを叩き、扉を開ける。
そこには、なぜか仁王立ちで待ち構えている石川さん。
まるでどこかの国の王子様のようなその表情を見て、
一瞬で嫌な予感を察知する私。
すると、隣のカメが突然両腕を水平に広げ、例の決めポーズをした。
442 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2007/09/17(月) 20:10
「名は」石川さんが問う。やっぱり。私は顔をしかめる。
「トルテュ」迷い無くカメは答える。無駄に凛々しい顔で。

ふと控え室の端っこを見たら、美勇伝の他の2人がいた。
全然我関せずで、音楽を聴いたり雑誌をめくったり。
ちょっとは気にしろよ。私は口に出さずツッコむ。

「よく来た。兵士の数は?」
「精鋭ばかりを2万!」
うえぇぇぇぇえええ?どこに2万も?って感じだ。
廊下の外を見渡してみても、2万人の兵士などいるわけがない。
「よし。7万の軍になった」
でもカメと石川さんは真剣にどこかを見つめている。
さも現実に7万の軍隊を率いる騎士たちのように。
443 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2007/09/17(月) 20:10
そこまできて、その場がシーンと静まり返る。
2人からの視線を感じた私は、はてどうしようか迷う。
まあ、この流れを無視するだなんてそんな冷たいこと、
私が出来るわけがないということは、きっと2人ともわかってる。

例の曲を歌う。大真面目にフリ付きで歌う。
カメは歌を省略しやがったけど、私は全部しっかり歌う。
なんだかんだで、嫌いじゃないのだ。

私は歌いきったあと、右の拳を握り、ガッツポーズをする。
石川さんが「名は」と尋ねてくる。
「ヌーヴォー」
「兵士の数を聞かせてくれ」
「命知らずが3万!」
「合わせて10万。これでシルバーランドに勝てる!」

あいにく今日は剣がないので、腕だけあげる。
3人で合わせて、決める。
444 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2007/09/17(月) 20:11
「王が変わり、シルバーランドは混乱している。
国民は重税にあえぎ、軍隊の志気は落ち、
もはや国としての体裁をなしていない」
「シルバーランドは我々の前に滅ぶ!」
命知らずを3万率いる男らしく、私は言う。
「待て。血を流すのが目的ではない。出来る限り犠牲者は減らしたい」
「では、どうやって攻撃する?」
「大通りを攻めのぼり、一気に城をめざす」
「敵に会ったら」
高い!声高いよトルテュ!
「戦う。だが深追いはしない」
「いまのシルバーランドなら、兵士はみな逃げる」
私はドスをきかせ出来る限りの低い声で言う。
445 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2007/09/17(月) 20:12
「そうだ。逃げた兵士もいずれ、我々が治める国民になる。
それから城に火を放つな」
「理由は」
高い高い!トルテュよおまえは女か!
「勝利ののち、我々が活動する拠点にする。
…いや。正直に言おう。ある人と、そう約束した」
「誰と」それにセリフ短いよトルテュ!
心の中で、ひとりでカメにツッコんで、にやにやする私。
「言えない」
そしてついに私の名セリフの番だ。
「言えないなら、聞かないでおこう。
我々はあなたを信頼している。だからこうして集まった」
446 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2007/09/17(月) 20:12
かっこいいよねヌーヴォー様。
”抱かれたい男”ナンバー1だよね。
私はとびきりの渋い顔で、フランツを見つめる。
フランツもフランツで、かっこいい顔で言う。
「信頼をむだにはしない。では、明日の夜明けに」
まあ、あと30分もすればコンサートで会うけどね。
カメとうなずきあって、無いマントをひるがえし、控え室から出て行く。

私たちが去って行ったあと、石川さんがひとり控え室で
「あなたに会いたい」を熱唱していたと、コンサートの合間に
美勇伝の2人から愚痴られたとさ。
447 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2007/09/17(月) 20:12

おわり


448 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2007/09/17(月) 20:13

川*’ー’)<ヌーヴォーさん抱いてくれやよー
( ・e・)<全力で断る

449 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/17(月) 20:40
おいおいwww
450 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/17(月) 21:56
ちょwwwまじで何がしたいのwww
451 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/18(火) 00:10
こんな感じでまだやってたら嬉しくて死ねるw
452 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/18(火) 00:13
お、おもれえww
453 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/18(火) 02:28
やべえw熱唱するリカンツが愛しいwww
454 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/20(木) 21:26
ちょwww
久々にktkrwww
455 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:40
今度は愛ちゃんが、美勇伝の楽屋に行こうと言い出した。
もう、秋ツアーに美勇伝が帯同するということを知ってから、
こうなるってことは目に見えていたんだ。

「ようこそ。牢番のピエールです」
ドアを開けるなり、石川さんが低い声で言って、
頭の上で手をくるくるさせ、大げさに礼をした。
ソッコーかよ。私はこっそり顔をしかめる。
「同じくトロワです」「コリンです」
もしかしたら、ドアを開ける前に3人はあの牢番の歌を歌っていたんじゃ
ないかってくらいの自然な流れだった。
そして、この隣のリーダーも、笑っちゃうくらい自然に、次のセリフを言うのだ。
456 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:41
「すまないが、食べるものはないだろうか。
ここに連れてこられるまで、なにも口にできなかった」
「ハッ。それは命令でしょうか?」
ハイテンションでピエール石川が叫ぶ。
「いや。お願いだ」
愛ちゃんは頭を下げる。
するとトロワ三好がニヤニヤと、いやらしい顔で笑いながら言う。
「人になにかを頼むには、お礼が必要です」
「たとえばこの指輪とか」
「うおっ!」
唯ちゃんがいきなり右手の指輪に手を伸ばしてきて、私はビクッとする。
まさか、まさかだと思うけど私、マルシア?

「さわるな無礼な!!!」
愛ちゃんがもの凄い剣幕で唯ちゃんの手を払う。
ちょっとキチガイみたいだ。
「サファイア。おやめ」
おっとっと!驚くほど無意識に、王妃のセリフが私の口からこぼれ落ちる。
やっぱり、私の身体には全てが染み付いている。
457 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:41
「フォー!」
まるでハー○ゲイみたいなテンションでトロワ三好が私の指輪を奪う。
え?伏字にした意味?なんとなくね。なんとなく。
「ほかには?」
「価値のあるものは、もうなにも…」
って言いながら横目で愛ちゃんをちらっと見れば、
なんか無駄に高そうな時計をしてるじゃないか!
おいおい、私の指輪なんかより絶対そっちの方が高いぞ!
たぶんその時計取られたら本気で焦るでしょ愛ちゃん。

「ならば寝ろ!」
「待て!食事はどうなった!」低い声で言う愛ちゃん。
うん。食事しにここに来たんじゃないしね。
食事は、ケータリングで今さっきたらふく食べてきたところだしね。

「このくらいのお礼ではアアアアア食えない!」

トロワ三好と唯ちゃんが仲良く歌って、笑いながら楽屋から去って行った。
石川さんは腕組みをしたまま、クールな表情でその後に続いた。
458 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:42
なぜか美勇伝の楽屋に残された、愛ちゃんと私。
当然、M34『許しあい助けあい』を歌うまで演技をする。

「なんてやつらだ」
「許して。私があんなことを口走ったばかりに」
「お母さまのせいではありません。
あの祝杯の酒に、なにか仕掛けてあったのです」
「私はずっと告白したかったのです。その弱さにつけこまれてしまったのです」
「いいえ!みな大臣の企みです!私は大臣が憎い!
大臣に従う人々が憎い!憎くて、憎くて、この世のすべてを憎んでしまいそうです!」
「この世のすべてを?」
「そうです、なにもかも!!!」
本番の舞台さながらに気合が入っている愛ちゃん。
ライブのMCもこれくらい緊張感持ってやってくれたらいいのにね。

「おいで、サファイア」
459 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:42
それから私たちは見事に『許しあい助けあい』を歌いあげた。
そして、2人で抱き合っていると、楽屋のドアが開く。
キャベツの千切りが山盛りになっている皿を両手に持って、石川さんが入ってきた。
しかもそのときの石川さんの表情は無意味にワルそうな顔。
ちょ。おまっ。思わず笑いがこみ上げてしまう。

「おい」
「なんだ」
「食事だ」
石川さんは、そのお皿をテーブルの上に置く。
「なにも食わせないんじゃなかったのか」
「腹が減ってるんだろ」
いや減ってないです。むしろ満腹です石川さん。
心の中でそう思いつつも、私は頭を下げる。
「ありがとうございます」
愛ちゃんと2人、椅子に座って、祈りを捧げるポーズをする。
いざ、食べようとして、箸もフォークもないことに気付く。
おいおい。私たちに犬になれっていうのかい?石川さんよ。
なんて思ってると、「待て!」とストップがかけられる。
460 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:42
「なぜここへ送られた」
「食べながらでもかまわないか」
「いや。食うまえに話せ」
「この子は昨日まで王でした。でも本当は女の子だったのです」
「だから?」
「私たちはみんなをだましたのです」
「ほかには?」
「ほかには、って?」
「秘密を守るため、たくさん人を殺したんだろう」
「ブジョクするのかぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」
うは。キタキタ。愛ちゃんの名セリフ。
今日はちゃんと侮辱って言えてたね。えらいえらい。

「食うな!」

突然、石川さんがテーブルの上のキャベツを勢い良く弾き飛ばした。
床に散らばる千切りキャベツ。
「なにをする!見せるだけ見せて食べさせないつもりか!」
「これを読め!」
石川さんは丸めた1枚の紙をどこからか取り出して、私たちに見せた。
えーっと、なになに。じゃじゃ馬パラダイス、9月26日オンセール?
目の前にはそう、美勇伝の新曲のポスター。宣伝か!
てゆうかポスターだからでかいよ!石川さんの顔見えないよ!
461 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:43
「ピエール!」
「おい!」
トロワ三好と唯ちゃんが楽屋に入ってきた。
「どういうつもりだ!」
日頃の恨みを晴らすように、トロワ三好が石川さんを突き飛ばす。

「すまなかった」
頭を下げる石川さん。
なんかさっきからちょこちょこセリフが飛んでない?
って気付いたアナタはかなりのリボンの騎士ヲタ☆

私と愛ちゃんは、美勇伝のやりとりをただ眺める。
「だめだ。許せない」
「おまえは俺たちを疑ったんだ。2人がかわいそうになって、
食い物を持って来たらこの騒ぎだ」
「あ。俺も持ってきちゃった」

さっき、石川さんが持ってきたのは、山盛りのキャベツの千切りだった。
そして、トロワ三好が手に持っていたのも、
唯ちゃんが手に持っていたのも、キャベツの千切りだった。
462 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:44
「仲間に隠れてこっそりと、か?」

笑いながら、かたく抱き合う美勇伝。

「よし。急ごう」
「ほら。持ってけ」
石川さんと唯ちゃんからキャベツが入ったビニル袋を渡される。
「ちょっと惜しいが、指輪も返してやろう」
「いや。指輪はダメだ」トロワ三好を、石川さんがおさえる。
「2人を殺した証拠がいる」
と言って、石川さんは自分のネックレスを外す。
「代わりにこれを持っていけ。石がついてるから売れる」
「大切なものでは?」
まじまじ見てみれば、本当に石がついている。高そうなネックレスだった。
うっひょー。儲かった。あとで質屋に持って行って…っておーい。

「みんな、本当にありがとう!」
「いいか。生きる資格がなんだ理想を並べても、生き残れないんだぞ」
「では、あなたがたはどうして私たちを逃がしてくださるのですか?」
「行ってくれ。歌で送ろう」

愛ちゃんと私は、『よき日を願って』を歌う美勇伝に見送られて楽屋を出た。
それから、ライブの本番前に、石川さんにネックレスを返して、
トロワ三好から私の指輪を返してもらったとさ。
463 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:44

おわり


464 名前:監獄 投稿日:2007/10/01(月) 01:44

( ^▽^)<俺たちは仲間だ!
从,,^ ロ ^)川 ´・`)<…そーですね(棒読み)


465 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/01(月) 03:25
あ、じゃ私、リボンの騎士ヲタかもww
466 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2007/10/01(月) 18:17
ワロタw
僕もかなりのリボンの騎士ヲタだったようです
467 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/02(火) 09:50
自分もリボンの騎士ヲタのようですw

そして今のツアーに美勇伝がいる時点で同じく想像中www
468 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/01(木) 17:00
今最も更新が待ち遠しいスレです
469 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 23:59
飼育の管理人さんへ
もうこのスレには書かないので倉庫送りにしてください
よろしくお願いします

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