少女ふたり
- 1 名前:ななし 投稿日:2007/04/13(金) 02:30
- 矢島舞美と梅田えりかのお話です。
だらだらと少しずつ書いていきます。
- 2 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/13(金) 02:31
-
梅田えりか、彼女と初めて出会ったのは高校一年生の夏休みでした。
高校生になって初めて迎える夏休み。
私は陸上選手としてインターハイに出るはずでした。
だけど、私はその年、父の実家、祖母の家にいました。
- 3 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/13(金) 02:32
- 東京から電車で一時間もかからない場所に祖母の家はあります。
最寄り駅の北鎌倉で降りた私は、まずはじめに汗をぬぐいました。
とても暑い日だったのです。
機械のない改札で、私は切符を駅員さんに渡してホームから降りました。
降りてすぐ左手には、とても長い石の階段がありました。
有名なお寺です。
けれど、私は観光にやってきたわけではないので通り過ぎるだけです。
それに、今の私には昇りきる自信がありません。
都大会の決勝で痛めた右足は、まだ時々疼きます。
私はそのまま南へと向かって歩きます。
祖母の家は、北鎌倉と鎌倉のちょうど間ぐらいにあります。
鶴岡八幡宮の脇といってもいいかもしれません。
私が歩いている横をバスやタクシーが通り過ぎていきます。
足を痛めているとはいえ、歩くのを諦めるほどの距離ではありません。
それに少しは歩かないと、早く治る事もありません。
もちろん無理はしませんが。
- 4 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/13(金) 02:34
- 祖母の家は、鎌倉のいわゆる“山側”にありました。
緑が生い茂る静かな家です。
祖母いわく「鎌倉では普通の家」ということでしたが、東京のマンションで暮らしている
私にとっては、もはやお屋敷です。
きちんと門があり、垣根があり、庭があり、石畳があり、縁側があり…
そうそう、『矢島』というかっこいい字で書かれた立派な表札もあります。
我が家はマンション住まいだし、防犯のためにも、という理由で表札を出していません。
そして、一軒隣の建物で、古本屋を営んでいます。
祖父が会社勤めを終えた後、趣味で始めた小さな小さな古本屋です。
その祖父が亡くなった後、その古本屋は祖母が引き継ぎました。
しかし、この『矢島書店』という名の古本屋、古本屋なのにお客さんから本を買いません。
「ここにある本が全て売れたら、私はお店をたたむのよ」
それが祖母の口癖です。
書物に詳しかった祖父と違い、本を見る目がなかった、というのも理由かもしれません。
しかし、祖父が亡くなって五年経った今でも、このお店は続いています。
つまり売れないのです。
- 5 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/13(金) 02:35
- 祖母は母屋と店、どちらにいるのだろう、と思って門をくぐりました。
すると、すぐに縁側にいる祖母に気が付き、私は思わず駆け寄りました。
にこにこと笑って私を迎えてくれた祖母は、私が汗でびしょびしょになっているにも関わらず、
体をぎゅっと抱きしめてくれて、自分よりも高い位置にある私の頭を撫でてくれました。
私はここで一月暮らすことになるのです。
私の名前は、矢島舞美。
梅田えりかと出会うのは、この日の午後四時のことでした。
- 6 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/14(土) 01:47
- 私はこの夏休みの間、ずっと鎌倉の家にいることにしました。
この足では部活にも出られないし、インターハイに出場する先輩の応援に行くことも出来ません。
勉強も遊びも放り出して、部活一筋で過ごしてきた私には、密に連絡を取り合う友人もいなく、
今頃ずっとトラックを走り続けていると私でさえ思い込んでいたので、誰とも遊ぶ約束をしていません。
中学三年生のとき、私ははじめて全国大会に出場しました。
そもそも、陸上を始めたのは中学二年生になってからでした。
昔から足の速さには自信があったけれど、いわゆる正しい走り方を知らなかった私は、
その理屈を理解するにつれて、先輩達をぐんぐん追い抜いていきました。
そして、中学三年生になって初めて都大会に出場し、見事2位に入賞したのです。
全国大会では決勝に残れなかったので、陸上の強豪高校から推薦を受けることはありませんでしたが、
それでも自信があった私は、自分で選んだ私立の強豪校に入学しました。
出場枠が決まっている大会に出場するには、まず部活内での競争に勝たなくてはいけなかったのですが、
入学してすぐの最初の記録会で、全学年合わせてトップという成績を出し、一年生ながら出場枠を獲得したのです。
しかし、いい気になっていたのは、そこまでです。
都大会決勝、3位でゴールラインを越えた私にはインターハイの出場権がありましたが、
走り終わった後の私の足は、まるで砕けたように力が入らなくなり、表彰台に上がることが出来なくなっていました。
後日、正式にインターハイ出場を辞退しました。
この瞬間、私の高校一年生の夏は終わりました。
- 7 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/14(土) 01:49
- 祖母の家に着いて荷物を降ろすと、祖母は素麺を茹でてくれました。
氷水につけられた素麺が私の前に現れたとき、私は気になって祖母に尋ねました。
「ばあちゃん、そういえばお店は?」
もしかしたら、お店を畳んでしまったのでは。
そんなことを一瞬考えてしまい、もしそうだったら私はどう言ったらいいのだろうと考えてしまいました。
お店が出来なくなって、残念、であるのか。
本を全て売り切ったということなら、おめでとう、であるのか。
しかしそんな心配は無用でした。
「店番を頼んでいるからね。心配いらないよ」
- 8 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/14(土) 01:49
- 「店番?」
一日にやってくる客の数は一桁であるあの店に、店主以外の店員が必要なのだろうか?
私が不思議そうな顔をしていたので、祖母は説明してくれました。
「是非やらせてくれってね。お給料はいらないって言うからさ」
「ちょっと、ばあちゃん危なくない?」
このご時世、人の好い老人を騙し操る悪党など星の数ほどいるのです。
そんな輩に騙されているのではないかと私は心配になりました。
「変な男に騙されちゃ駄目だよ、ばあちゃん」
「いやいや、品の良いお嬢さんですよ」
「悪女だよ!悪女!」
祖母はけらけらと笑います。
私が悪女と罵った相手こそ梅田エリカであったのですが、その時の私は知る由もありません。
- 9 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/14(土) 01:50
-
2.
「ご挨拶してらっしゃいよ」
素麺を頂いた後、畳の上に転がって涼んでいた私に祖母が言いました。
確かにこれから一月もいるのなら、顔も合わせることもあるでしょう。
挨拶は早めに済ませて置いたほうがいいかもしれません。
履いてきた靴ではなく、サンダルを借りて外に出ました。
太陽はとっくに西側に傾いていて、少し涼しくなってきたようです。
でもまだ夕焼けには早い。
そんな時間。
『矢島書店』に行くには門を出なくても、庭から裏口に入れます。
けれど、いきなり裏口から現れたら悪女は腰を抜かしてしまうだろう。
そう考えた私は、いったん門を出て、正面から現れることにしました。
ガラスの引き戸は開けっ放しです。
きっと中は暑いのでしょう。
確か古い扇風機が一台あるだけですから。
ただでさえ湿気に弱い書物を扱っているのに、こんな設備環境でよいのだろうかと思うのですが、
祖母はやはりたいして気にしていないようでした。
- 10 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/14(土) 01:51
- 「ごめんください」
そういって私は『矢島書店』の中に足を踏み入れました。
入り口付近には文庫本が置いてあります。
けれど、みんな古くてよく知らないタイトルが並んでいます。
そして右側の壁際は、文芸書が並んでいます。
よく見ると、現代小説から古典文学まで全てごちゃ混ぜです。
左側の壁際には、専門書やら古地図やら、どこかの古い研究所のような書棚になっています。
そして、その間に置かれたいくつかの机の上にも、本が所狭しと載っています。
そこには絵本や参考書などもあれば、写真集、絵画集、辞書、そして書籍とは言えないようなただの紙の束…
あらゆる古い本が置かれています。
そして、その一番奥、といっても5メートル程度の距離ですが、カウンターがあります。
レジの機械はありません。
二年前に訪れた記憶では、そろばんと帳簿が置いてあるだけでした。
お金の類は机の引き出しに詰められています。
- 11 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/14(土) 01:52
- 今日そのカウンターにいるのは祖母ではありません。
そこにいたのは、綺麗な女性の人でした。
少し茶色に染めてある髪は肩に届くか届かないかぎりぎりの長さで、
横顔がはっきり見えるほどに、髪を耳の後ろにかけていました。
彼女は椅子に座って、文庫本をじっと読んでいました。
その人がおそらく店番を頼まれている人なのでしょう。
私が近づくと足音で気付いたのか、ふっと顔をあげました。
そして、一瞬ちょっと焦ったように慌てて本を閉じて、「いらっしゃいませ」と小声で言いました。
本から離された視線は、私の視線とぶつかりました。
知らない人です。
年はいくつぐらいでしょう。
雰囲気的には大学生のようです。
あまり、見たことがないような顔をしています。
少し外人さんのおようにも見えます。
なんというか…
とにかく、綺麗な人だったのです。
- 12 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/14(土) 01:53
- 「あ、えっと…」
急に店に訪れて本を見るでもなく、いきなりカウンターに現れた私に驚いているようでした。
彼女は慌てて周りをきょろきょろ見たりしています。
「あの、矢島です」
「え?矢島…さん?」
彼女は余計わけがわからなくなっているようでした。
『矢島書店』にやってきた矢島さん。
私の名乗り方が間違っていたようです。
「あ、もしかして舞美さん…ですか?」
「はい、そうです」
「そっか今日だったんですね、おばあちゃんから聞いていましたよ」
彼女はそう言うと、やっと安心したようにして、手に持っていた本を膝の上に下ろしました。
彼女も祖母のことを「おばあちゃん」と呼んでいるようです。
「私は梅田です。梅田えりか、っていいます」
「梅田さん…」
「さん、なんて付けなくていいですよ。同じ年なんですから」
「ええ!」
私は思わず大きな声を出してしまいました。
一目見たときから、この人は年上だと思っていたからです。
「えーっと…。じゃあ15歳…?」
「ううん。誕生日過ぎたから、もう16歳」
見た目からしたら「もう16歳」なんてとんでもない、「まだ16歳」と言って欲しいものです。
でも私はまだ15歳なので、実はこっそりほっとしています。
- 13 名前:少女ふたり 投稿日:2007/04/14(土) 01:55
- その後、同い年ということもあってか、お互い色々なことを話しました。
ここで店番をやるようになったのは、梅田さんのほうから頼んだということ。
お給料はなし。
けれど代わりに、ここにある本を自由に読ませてもらっているということ。
かなりの本好き。
暇さえあれば本を読んでいる。
店番をしているのだから暇といってはいけないが、事実暇なので仕方ないでしょう。
家はここから歩いて5分もしないご近所。
通っている学校は、鎌倉市内の有名な私立女子高。
ううむ…
典型的な鎌倉のお嬢様ではありませんか。
などと私が感想を述べると、梅田さんは顔の前で手を振って否定しました。
そんな上品な素振りが、否定ではなく肯定を表しているのです。
私も自分のことを話しました。
と言っても自分の特徴など、ただ足が速いのです、だけで足りるのです。
寂しい自己紹介をした後で梅田さんは「あら、すごい」とやっぱり上品に驚いてみせるのでした。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/14(土) 20:44
- 探してたCPの小説キタコレ!(笑
この後の展開、楽しみにしております。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/15(日) 11:33
- まってたこのCP!ktkr
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/17(木) 22:09
- まってます!
- 17 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/06/23(土) 23:56
- 待ち続けます…!
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/25(火) 16:16
- これってパクリだよね?
Converted by dat2html.pl v0.2