勝利の法則

1 名前:名なしの石 投稿日:2007/04/19(木) 11:27
藤本一人称のガッタスがらみ&あやみきです。
よろしければどうぞ。
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:28

「Vamos jogar Futsal !」
フットサルをやろうよ。

2003年9月、ハロプロフットサル宣言。
みんなの前でこの言葉を言ったのは亜弥ちゃんだったと思う。
そしてこれが全ての始まりだった。


3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:29
「みきたん、ほら起きて!今日はあたしにとってだいっっじな試合があるんだから」

遠いところで亜弥ちゃんの声がする。
試合?何の?ライブの間違いじゃなくて?
半分夢の中にいたあたしはまだ亜弥ちゃんが何を言っているのか分からなかった。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:30
「今日はうんどうかいでしょ!」

うんどうかい!?次第に意識が戻って、
あたしは体の節々に少しだけ残っている筋肉痛を感じる。
そしてやっと今日が2度目の運動会の日だということに気付いた。
ハロプロのスポフェスは先週の大阪ドームに続いて
今日は東京ドームでも行われる。

試合というのは多分そこで行われるフットサルの試合のことだ。
そういえば亜弥ちゃんはハロプロのフットサル選抜選手に選ばれているんだっけ。
長ったらしい思考の後、やっと亜弥ちゃんの言葉を理解して、
「ああ、そうだね」あたしは眠い目をこすりながら、
満足してまた眠りにつこうとした。

だけどいつも朝寝坊の亜弥ちゃんが今日だけは違った。
がばっと両肩をつかまれて、思いっきり体を揺すられる。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:32
「ほら、ほら、起きたら起きる!」

亜弥ちゃんは、ベッドからあたしを引っ張り出そうとする。
いつもはあたしよりも寝たがるくせに何だって今日にかぎって早いんだ。

「今日、運動会午後からじゃん。そんな急ぐ必要ないし」

あたしは朝から元気いっぱいに声を上げている親友を不審の目で見た。

「あるんだな。これが」

亜弥ちゃんは、フットサルの最終練習が午前中にあることを
楽しそうにあたしに言った。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:32
「だって今日で終わりでしょ?フットサル」

ハロプロあげてのフットサル祭りは今日の試合をもって終わるはずだ。
それに仕事が忙しくてろくに練習もできないハロプロ選抜チームが
真剣勝負で勝てるはずがない。

「最後だから頑張るんじゃん」

亜弥ちゃんは抗議の声をあげる。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:33
はっきりいってフットサルには全く興味の無いあたしはぶりぶりの
アイドルの亜弥ちゃんがフットサルに夢中になっているのが
すごく不思議だった。
でもそれが何でも楽しめてしまう亜弥ちゃんと
納得がいかないと何もやる気がしないあたしとの違いなのかもしれないけど。

そう思ったところであたしは、無理やりベッドから引きずり出された。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:33
「みきターン、お皿とってきて」

「はいはい」

あたしの家だっていうのにあやちゃんは、
台所をてきぱき動いて朝ごはんを作ってる。
最近は料理を作るときは、いつもあやちゃん中心だ。
あたしは完全に手伝い役になってる。
昔、というかつい2年ぐらい前までは亜弥ちゃんは
甘えん坊であたしがやってやらなきゃ何も出来ないひとだった。
恋人がミッキーマウスだなんんて言ってしまう亜弥ちゃんが
本当に存在したのだ。

そしてつい最近だった。
亜弥ちゃんが変わり始めたのは。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:34
亜弥ちゃんが目玉焼きをいい感じに焼いてくれて、
あたし達は席についた。

「たん、ちゃんと絶対応援するんだよ」
「うん」

亜弥ちゃんは、フットサルがよっぽど楽しいらしく、
ずっとその話をしてる。

「あたしが出たらもっとちゃんと応援してよね」
「うん、どうせ見てるしかないんだから応援するよ」

言ってからあたしは自分の嫌味っぽい言葉に気付く。
他の選抜メンバーも亜弥ちゃんと同じようにフットサルを楽しんでるのかな。
あたしはちょっとそれが羨ましくてなんのけなしにそう言ってしまった。
亜弥ちゃんがあたしの言葉を聞いて目を細めてる。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:35
「やっぱり。あんたさあ、選抜選手に選ばれなかったからっていつまでも根にもって…」

「はぁ?だから!あたしは最初からフットサルに興味なかったんだって。
 正直、練習きつかったし。だから選ばれなくてむしろほっとしてたって感じ?」

やけに興奮して言ってしまった。でも本当にそうだ。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:36
「まあさ、別にいいけど。たんも十分楽しそうにフットサルやってたよ」

亜弥ちゃんはふうんという表情であたしを見てる。

「えー。そうかな。出来るだけ楽しんでやろうとはしてたけど」
「でもさ。今日はあたし達の最後の試合なんだから」

亜弥ちゃんが少し口を尖らせて言う。

「分かってるって。ちゃんと亜弥ちゃんたちが勝てるように応援するから」

あたしはパンをほおばりながら少しほっとして言った。
親友の亜弥ちゃんだけにあんまりこのことを突っ込まれたくはない。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:36
あたしは選抜選手が決まるまで週2回のフットサル練習には
必ず行っていた。
フットサルがすごく好きだったということは、もちろんない。
でもそれなりに頑張っただけに、ハロプロのフットサルチームとあたしはなんだか気まずいのだ。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:37
「ほら、たん、野菜また残してる。肉ばっかりじゃ体に悪いよ」

亜弥ちゃんが、あたしが手をつけていないセロリを指さして言った。
亜弥ちゃんはそういうひとごとを本当に怒ったように言う。

「それじゃなくてもたんは、肉食なんだから」

亜弥ちゃんが、セロリをホークでつきさすと、
マヨネーズを少しつけてあたしの口までもってくる。
そうまでされたらあたしも食べざるを得ない。
口の中にセロリの香ばしい味とシャリシャリした歯ざわりがした。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:38
「亜弥ちゃん、最近変わったよね?」
「どーゆーふうに」
「何か、しっかりものになったというか」
「変わんないよ。でもたんと違ってあたし長女だからじゃない」

亜弥ちゃんは口をゆがめてひゃははと笑った。

「でも、前は違ったじゃん。亜弥ちゃんてどっちかっていうと天然ボケでしょ?」
「あんたに比べたら負けるけどね」
「えー。そうかなあ」
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 11:38
どっちかといえばあたしはボケより突っ込みのはずだ。
でも亜弥ちゃんの最近の勢いに押されて何も言えないでいると、
亜弥ちゃんはもう食器を片付け始めた。
食べるのも着替えるのも何かにつけ遅い亜弥ちゃんには珍しい。
よっぽどフットサルの練習をしたいみたいだ。

「いつごろ、合流できるかな?」
「お昼頃には」

亜弥ちゃんはいつもの余裕たっぷりな笑顔をあたしに見せた。
16 名前:名なしの石 投稿日:2007/04/19(木) 11:39
初回なのでこれぐらいにしておきます。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 23:20
あやみき&ガッタス!
ちょっと落ち着いてるみきたんの一人称ストーリー、次回更新を楽しみに待ってます。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 21:57
照明はまぶしくて観客席はかすんで見える。
東京ドームは思ったよりもたくさん人が入って超満員だ。
一つの種目でゴールすると盛大な拍手が迎えてくれる。
障害物でハードルを乗り越えるたびにどよめきが起こって心地よかった。
それだけにみんなは笑ったりガッツポーズ決めたりと、とてもテンションが高い。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 21:58
特に亜弥ちゃんは、カメラに写ると普段あたしと一緒にいるときに比べて
俄然ハイテンションになる。

見せびらかすみたいにあたし抱きついてきたり、
キスしようとしてきたり。
多分傍から見たら、友達同士というよりいちゃついてるカップルにしか
見えないと思う。
でもそんないちゃつきモードの亜弥ちゃんは最近はカメラの前だけだ。
昔だったら所構わず甘えん坊だった亜弥ちゃんは、
最近はすっかりクールになってしまって二人でいるときにキスなんて
せがんでこない。
だから、あたしはカメラの前だけ昔の二人に戻れたような不思議な気分になった。

そして競技の大半が終わり、残すところはあのフットサルのみになった。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 21:59
あたしは亜弥ちゃんから引き離されて、フットサルの入場行進を見ていた。
亜弥ちゃんだけが舞台に立って、あたしはその場に行くことはできない。
オレンジ色のハロプロチームだけが、笑顔で手をふりながら行進してる。

実況の人が、フットサルの選抜メンバーを紹介するたびに会場ですごい拍手が起こった。
相手チームの十条クラブはなんだか神妙な面持ちで歩いていた。
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:00
でもハロプロだからって注目されるのってどうなんだろう。
出れなくて悔しいから思うわけじゃない。
だけど相手チームの人だって同じように、
もしかしたらあたし達よりずっとフットサルやってきて、
厳しい練習にもたくさん耐えてきたはずだ。
それが今、相手チームに興味もってる人なんて多分この会場にはほとんどいない。

そしてあたし達だけが拍手されてる。
そういうのってなんか平等じゃない。
あたしは冷めた目でグラウンドを見ていた。

22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:01
「ほら、美貴ちゃん、また相手チームにガンつけてる」

あたしがずっと相手チームを見ていたせいか矢口さんに言われた。

「あたし達はガンつけとか、そういうんじゃなくて正々堂々と応援しないと」

矢口さんがアイドルのお手本のようなスマイルをあたしに見せて言った。

「あ、あ、あ、そんなことないですよ」

あたしは焦って否定する。
誤解なんです。
これは相手チームに対してではなく…
でも美貴の表情は、誤解を解く余地さえ与えないらしい。

「そうだよ、ミキティ北海道時代に戻っちゃだめだよ」

このあたしが安倍さんにも突っ込まれた。
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:02
「いや、ミキ戻るも何も…」

そのとき、ハロプロチームと十条クラブがグラウンドの中央に勢ぞろいして
また盛大な拍手が起こる。
我に返ったあたしは、少し大げさに拍手をしてみる。
あたしがどう思おうがこれは仕事なんだ。
「藤本美貴、出番のないフットサルで相手チームにガンつけ」
なんて写真とられてネットにでも公開されたらたまらない。
この場は誰が見てるか分からない。
あたしはそう思ってフットサルチームに対するわだかまりを打ち消した。

24 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:02
試合開始早々、最初は意気消沈しているように見えた相手チームが豹変する。
青い十条クラブの選手がハロプロの陣内に一気に駆け上がる。
綺麗にパスがつながって1失点。
その後、ハロプロチームのキックオフから全員攻めあがったところで、
ボールをとられ、相手チームのカウンター攻撃。

誰も守備に戻れない。

2失点目。ハロプロの動きは相手に比べ段違いに遅かった。
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:03
試合が終わるまでに何点とられるんだろう。
あたしは深い溜息をついた。
せめてフットサルの経験者がもう少しいればなと思った。
練習不足で経験者がよっちゃんだけじゃ、相手が都大会で弱小と言われている
チームでも勝てってこない。

運動会の余韻のせいか、あたしの周りで応援してるハロプロメンバーも
大盛り上がりだったけど正直あたしにはつまらなかった。

だってフットサルだ。
サッカーでさえあんまり興味がなかったあたしに
フットサルで盛り上がれって言っても無理な話なのだ。

つまらなそうな表情をしていたら、メンバー交代でやっと亜弥ちゃんがコールされた。


26 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:04
「交代選手は、あややです!」

実況の声が響くと、場内にどよめきと拍手が広がる。
亜弥ちゃんの絶大な人気ぶりに嫉妬とうらやましさがあたしの中で強くくすぶる。

いつも見慣れている姿なのに、あたしは亜弥ちゃんが出てくると
何故かすごく気になってしまう。
ハロプロのDVD見てても必ず自分よりも先に亜弥ちゃんを探してしまう自分がいる。
一番近くにいる人のはずなのに、悔しいけどあたしはめちゃくちゃ亜弥ちゃんを意識してる。


27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:06
ハロプロチームの攻撃が続いている。
あやや効果なのか、ハロプロ側で珍しくボールがつながっている。
目立ちたがりの亜弥ちゃんがさっそくボールをもらいにいった。
そういえば亜弥ちゃんてほとんど練習出れてないんじゃなかったっけ。
さも自信ありげに走る亜弥ちゃんの姿を見てあたしは思った。
確か、選抜選手が決まってからフットサルの練習に1回しか出ていないはずだ。
亜弥ちゃんは、ボールを受け取ると相手ゴールに突進していった。
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:08
「スゲー。強気だ」

亜弥ちゃんを見て、思わず口に出てしまった。
亜弥ちゃんはディフェンスを押し倒してさらに前に進もうとしてる。
華奢なからだつきのくせに亜弥ちゃんは、相手チームに囲まれても、
強引にボールをひきずって前に出そうとしていた。
結局何人かがかりで押し倒されてボールを奪われた。
それでも亜弥ちゃんは笑ってフットサルをしていた。
またボールをとられた。でも何度も何度もボールを取りに行く。


29 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:08
試合中の亜弥ちゃんは、いつものアイドルしてる亜弥ちゃんじゃなかった。
テクニックもないくせにがむしゃらにゴールに向ってる。
あんな亜弥ちゃん、カメラの前で見せることなんてないのに。

亜弥ちゃんが、気が強くて負けず嫌いなのは前から知っていた。
でも亜弥ちゃんはテレビの前ではそういうところをあまり見せないようにしていた。
アイドルだからっていうのもあるだろうし、
「あやや」っていう自分のイメージを大事にしてるんだろうなと思った。

でもフットサルをやっている亜弥ちゃんはずいぶんと素に近い。
あたしと一緒にいるときの亜弥ちゃんだった。
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:10
ゴール前に亜弥ちゃんがボールをもっていき、あと少しで
シュートというところで敵チームに倒される。
場内に深い溜息がこだました。

ジャイアンなんだよなあ。

あたしは亜弥ちゃんを見てフットサルとは関係ないことを思っていた。
最近の亜弥ちゃんてジャイアンなんだ。
昔から亜弥ちゃんはあたしと一緒にいたいでしょとか、あたしがいないと寂しいでしょ。
とか聞いてきた。
それは亜弥ちゃんの可愛い女っぽさとなのかなと男っぽいあたしは思ってきた。
でも今は、亜弥ちゃんは可愛らしくというよりむしろ、
強引でしかも絶対に否定できない勢いで言ってくる。
そしてあの自分が中心でないと気がすまないっていうオレ様感。

それを考えると、あの亜弥ちゃんの容姿からは似ても似つかぬ
ジャイアンなのだという結論にあたしはたどりついた。


31 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:10
また、ハロプロチームが点を入れられてすでに0−4。
亜弥ちゃんが笑ってキーパーのこんこんを励ましてた。
これだけ負けてても楽しそうにチームの中心でいられるから亜弥ちゃんてすごい。
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:11
昔のあたしは、亜弥ちゃんのことをあやっぺって呼んでた。
亜弥ちゃんはあたしのことをみきスケって呼んでたっけ。
そのとき、今とは全然違った不安定な亜弥ちゃんがいて、
自分の方が先にデビューしてるくせに何かにつけ
心配事の相談をあたしにしてきた。

亜弥ちゃんは、不安になると夜眠れないみたいで夜中によく電話がかかってきた。
朝までいろんなこと話したっけ。
あたし達は、孤独な芸能界を二人で支えあっていた。
その時代のことをあたしは懐かしく思ってる。
いや、昔の亜弥ちゃんを懐かしく思ってるのかもしれない。

33 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:12
前半の終了間際になっても相手チームの攻撃はやまなかった。
0−5、0−6。
失点が重なっていく。
もしかしたら今日は前回以上の大敗になるかもしれないとあたしは思った。

それは、あともう少しで前半も終わるってときだった。
よっちゃんからのこぼれ球を梨華ちゃんが絶妙なタイミングでゴールめがけてシュートした。

ゴールから離れていたし、傍から見ててもすごく難しいコースだったように思う。
でも梨華ちゃんのシュートはゴールの左隅に鮮やかに決まった。
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:13
場内は大歓声に包まれた。
周りのみんなも立ち上がって大喜びしてる。
ハロプロが決めた初の得点だった。
あたしも安倍さんと抱き合って「やったー」と叫ぶ。

あたしは、意外だった。
まさか梨華ちゃんが決めるなんて。
さっきから見てたら梨華ちゃんはもう完全にバテバテで、
交代したほうがいいぐらいに疲れてた。

ハロプロ選抜チームの公式試合、初得点者石川梨華です!
実況の大きな声が響く。
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:14
梨華ちゃんが、観客席に向って力強く拳をあげた。

梨華ちゃんかあ。

ひとしきり周りの盛り上がりが終わった後であたしはつぶやいた。
はっきり言ってあたしはあの子と仲が悪い。
いや、仲が悪いっていうよりあたしが一方的に嫌われてるか避けられてる感じがする。
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:14
あたしは別に梨華ちゃんのことが嫌いなわけじゃない。
でも周りから美貴ちゃんは梨華ちゃんのこと嫌いでしょ?
と聞かれたりすることがしょっちゅうある。
そうでもないよって言ってもみんなはあまり信じてくれない。
あたしは、梨華ちゃんのファッションとか発言とかツッコミを入れるけど、
別に嫌いだからじゃない。
ああいういじられキャラ?みたいな人はいじられることで仲良くなれたりすると思う。
それに無視されるのがつらいみたいなことがあるからあたしは積極的に突っ込んでいた。

嫌いだったら多分無視していたと思う。

でも後から梨華ちゃん、結構傷ついてたみたいだよとか聞かされると
あたしのほうが落ち込んだりしてた。

37 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:15
そんな梨華ちゃんが会場のみんなに祝福されて喜んでいる。
亜弥ちゃんも一緒に抱き合ってる。
あたしはそれを複雑な感情で見ていた。

38 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/30(月) 22:15
正直に言うとどうもあたしはつまらなかった。
なんだかあたし、むしゃくしゃしてる。
フットサルを見ていると何故だかネガティブになってしまう自分がいる。
別に自分が出ていない番組とか、イベントだとか他のメンバーが出て楽しそうにやってるのを見ると、
むかつくなんてほど自分は子供じゃない。
だけどフットサルだけはあたしは駄目みたいだ。

本当にいらいらする。

後半にあさみがもう一点決めたけど結局試合自体は、9−2で負けてしまった。
ハロープロジェクトのフットサル企画はこれでやっと終わる。
試合が終わるとなんだかあたしのほうがほっとした気分になった。
39 名前:名なし石 投稿日:2007/04/30(月) 22:17
今回の更新を終わります。

>>17
初レスありがとうございます。
どうも一人称だとトーンダウンしてしまって落ち着いてしまうのですが、
思考錯誤しつつ頑張ります。
40 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/05/04(金) 22:28
藤本さんのクールな部分もジェラシーな部分も出ていてイイです!!
続きも楽しみにしてます。
がんばってください!
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 20:57
あたしは、選手が全員控え室に帰るのを見届けるとさっそうと席を立った。
すぐにハロプロの控え室に直行する。
運動会は、フットサルの試合をもって終わり。
つまり今日のお仕事は終わりなのだ。
そしてあたしは、亜弥ちゃんとごはんを食べに行く約束をしていた。
控え室に入った瞬間、うわ何この空気!?
みんながだらだらと持ち物を片付けてた。
よっちゃんをはじめ、みんな沈んでる。
なんとも言えず重い空気があたしを包んだ。
そうか、試合はぼろ負けだったんだっけ。
暗いわけだとあたしは今さらのように思い出す。
42 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 20:58
亜弥ちゃんは、正面の席で座って汗をふいていた。
「おお、みきターン!」

笑顔で手をあげる亜弥ちゃんは一人明るい。

「亜弥ちゃん、今日どこに行く?何食べる?」

あたしは、試合結果なんて気にせずに言った。

43 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 20:59
「それなんだけどさ。みんなで御飯食べに行くことになっちゃって」

亜弥ちゃんが気まずそうに言う。

「そっか。今日は最後の試合だもんね。じゃあまた今度にする?」

あたしは言った。
どうも遠慮したっていうよりあたしはこの場の空気から逃げたいみたいだ。

「それだったらミキティも一緒に来りゃいいじゃん」

よっちゃんがあたしを見て言う。

「や、あたしはいいや」
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:00
別にフットサルのメンバーが嫌なわけじゃないけど御免こうむりたい。
あたしはこういう団体行動ってのが苦手なのだ。
娘。だけでもおなか一杯なのにわざわざ自分から団体に入りに行くことはない。

あたしが部屋から出て行こうとすると、天敵の亜弥ちゃんに呼び止められた。

「駄目だよ。たん、約束してたでしょ?御飯食べに行くって」
「いや、してたけど」

それは、二人で行くって約束じゃん。
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:00
「約束はちゃんと守ってよね」

「えー、でもあたしいたってさ」

「フットサル選抜とか関係ないじゃん。一緒に行こう。ミキティ」

まいちゃんからも言われた。
もうこうなってくると断るに断れない。

「はい、じゃ決定!」

結局、あたしは強引な亜弥ちゃんに言いくるめられてしまった。
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:01
その後フットサルチームは北澤監督と重要なミーティングをして
終わってから食事に行くのだという。
しかもそのせいであたしは長時間、選手の控え室の前で待たされることになった。
どうせもう終わりなのに一体何を話し合うことがあるんだ。
思いっきりつっこみをいれてやりたい。
長い時間待たされたあたしは心底そう思う。
それからミーティングが終わったのは1時間以上も経った後だった。
あたしは、亜弥ちゃんの誘いにのったことを思いっきり後悔した。
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:02
スタッフの人にバスを借りて、あたし達は移動した。

「スゲー遅かったんだけど」

あたしはあからさまに機嫌悪く言った。
あたしが怒ると誰もあたしに目を合わさなくなる。
だからあたしの怒りの矛先は当然亜弥ちゃんに向く。

「ちょっと深刻っていうか大事な話だったからさ」

「何さ?大事な話しって」

「んーと。要するにフットサルをこのまま続けるかやめるかっていう……」

亜弥ちゃんにしては妙に歯切れが悪い。
亜弥ちゃんは助けを求めるようによっちゃんを見た。
48 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:03
「あたし達、フットサル続けさせてくださいって北澤監督に言ったんだ。
 だってやっぱこのままぼろ負けで終わってさ。
 芸能人のお遊びみたいに思われるのって嫌じゃん。
 みんなもやっぱそう思ってるだろうしさ」

よっちゃんがあたしに言った。

「そう…なんだ…」
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:04
待ちくたびれて疲れていたのか、よっちゃんの言葉がくらくらと
あたしの頭の中で回る。

え!まだやるの!?
またやるの!!
あんなにぼろ負けしたのに!!!

あたしの頭は大ブーイングだ。
でもさすがにそんなことを口に出すわけにはいかない。
疲れてるのかみんなは黙ったまま車の外を見ていた。

あたしも深く溜息をつく。
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:04
「みんなはさ、ミーティングで言ってた通りでいいんだよね」

よっちゃんがやけに深刻そうな声で言った。
一斉にみんながよっちゃんのほうを見てあたしはぎょっとした。

「今は、試合ぼろ負けして落ち込んじゃってるけど。
 あたしもこのままで終わるの絶対嫌だし。
 よっすぃーと同じ気持ちでいるよ」

梨華ちゃんの言葉でみんなが納得したようにうなずきあう。
何だか部外者のあたしの居場所がない。
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:05
「そうだよね。このままじゃ終われないっしょ」
「次は絶対勝とうよ」
「そうだね」
みんなが口々に言う。

まるでモーニング娘。とは違ったグループがそこに誕生してしまったみたいだ。
それも娘。に負けないぐらい団結してしっかりと目的をもったグループ。
しかもあろうことかこの集団に亜弥ちゃんも入ってしまっている。
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:06
やりづらいなあとあたしは思う。
自分達だけ、練習とか試合を共有してあたしはその一部だって知らない。
同じ時間にその場にいたってあたしは、ただの観客としてだけだ。
そんな人たちと一緒にいるのははっきり言ってしんどい。

結局お目当ての中華料理のレストランに着いてもあたしは、空気になじめずだった。

「梨華ちゃん、あのシュートどうやって決めたの?」
「よっちゃんからパスが来ると思った瞬間、もうボール蹴っちゃってたんだ」
「でもあのコースは難しいよね」
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:07
バスの中とはうってかわって、レストランではみんな陽気にしゃべってる。
話題の中心はやっぱり今日、得点を決めた梨華ちゃんだった。
あたしは黙ったまま料理を黙々と食べている。
あたしもあのシュートはすごいと思ったけどあたしは何も言えなかった。
梨華ちゃんはあたしと話をするどころか目線すら合わせない。
でもあたしが何を言ったってそばで見ていた選抜メンバーのほうがどれくらいすごいのか知ってる。

それよりもあたしは一刻も早くこの場から逃げ出したかった。
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:08
「今度はさあ、みんな得点決められるようにもっとシュート練習とかチャンス作る練習しないとね」

あゆみちゃんが言った。

亜弥ちゃんはなにやら辻ちゃんとひそひそと楽しそうに話していた。
二人でごはん食べに行くっていったくせに!
あたしは恨めしそうに亜弥ちゃんを睨む。
だけど亜弥ちゃんは怒ってるあたしの顔なんか見慣れてるせいか全く気にしようともしてくれなかった。
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:08
また負ければいいのに。このチーム。
もはや制御のきかないあたしの感情は八つ当たり領域まで突っ込んでいった。
亜弥ちゃんと二人になったら思いっきり文句言ってやろう。
あたしはマーボー豆腐をかきこみながら心に決めた。

ご飯が終わるとみんな、お店の駐車場に出て行く。
あたし達は呼んであったタクシーに乗るためにお疲れ様を言い合った。

ずいぶんと冷たくなった風が耳元をすり抜けていく。
全く会話に参加しなかったせいか、あたしはおなかいっぱいだった。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:09
「あたし、今日はたんとこ泊まっていく」
の一言で亜弥ちゃんはうちに泊まっていくらしい。
そもそもあたし達にどちらかに泊まるときに前もって連絡なんてほとんどしない。

お泊りセットも完璧に用意されてるし、その場で決めてその場で泊まる。
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:10
レストランの駐車場は地下にあってテレビ局の駐車場みたいに蛍光灯がとても明るかった。
みんながはしゃいでいるのに、何故かよっちゃんだけが浮かない顔をしてあたしのそばにきた。
そういえばよっちゃんはレストランでもあたしと同じようにほとんど話していなかったのを思い出した。

「あたし、フットサルやるの。やっぱ不安だな」
よっちゃんがあたしに言った。

「何で。フットサルまたやれることになったんでしょ?よかったじゃん」
「レストランでみんなはしゃいでたけどさ。やっぱみんな不安だからなんじゃないかな」

よっちゃんがやけに深刻そうな声で言う。
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:11
「仕事とフットサルの両立ってそんな簡単なもんじゃないし。
 それに注目される分だけ中途半端なことなんて出来ないからさ」

「そっか」

あたしがそれだけ答える。

「そんな心配いらないんじゃない」

後ろからきた亜弥ちゃんが明るい声をあびせてくる。

「なるようにしかならないって」

亜弥ちゃんは相変わらずマイペースだ。
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/06(日) 21:12
よっちゃんが何が不安でどういう気持ちでいるのか正直あたしにはわからなかった。
それに何で部外者のあたしに不安な気持ちを言ったのかもわからない。
同じモーニング娘。としての信頼感?でも違う。

ここはあきらかにモーニング娘。じゃない。
フットサルの空気は、モーニング娘。の空気とは全く違うし、
これまでに経験したどんなユニットとも違う。

仕事っていう感じもない。
みんなそれぞれに何かを考えていて、よっちゃん以外誰もそれを言おうとしない。
とてつもなく大きな問題を抱えてそうな、でもあたしの知らないところでしっかりとつながりあってる。
そんなチームに思えた。
60 名前:名なしの石 投稿日:2007/05/06(日) 21:15
<<40
レスありがとうございます。
藤本さんてなかなか書くのが難しいですけど一人称なんで頑張りたいと思います。
これからもよろしくです。
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:01
「あー、疲れた」

タクシーの中で亜弥ちゃんは大きな背伸びをした。

「ねえ、たんも疲れたでしょ?」

「別に。あたしは、試合も出てないし疲れてないもん」

あたしは亜弥ちゃんを睨んで言った。

「あ、ひょっとして、二人で御飯行きたかったのにとか思ってる?」

でも誰もが怯むあたしの怖い顔に亜弥ちゃんは全く動じようとしない。
むしろ楽しそうにあたしを見てる。

「思ってない」
あたしは、悔しくて亜弥ちゃんからそっぽを向いて答えた。
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:02
「もしかしてあたしと喧嘩しようとか思ってる?」

喧嘩はしようと思ってするもんじゃないし。
でも亜弥ちゃんの質問には答えようがなくてあたしは噴出してしまった。

「あはは。思ってません」

あたしを見て亜弥ちゃんがにっこり微笑む。

「たださあ、フットサルメンバーじゃないからさ。
ミキ、居場所なかったよ。何かきまずいし」

「あたしが一緒にいたのに?」

「ていうか、あんたずっと離れたところに辻ちゃんといたじゃん」

あたしは「ずっと」を強調していった。

「そうだっけ」

最近の亜弥ちゃんのボケは確信犯だ。

「そうだよ」

あたしは即答する。いつ頃からだ。
この子があたしに全く気を使わなくなったのは。
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:03
「じゃあたんもさあ。フットサルやればいいんだよ」

「いやだ」

「やろうよ。フットサル」

亜弥ちゃんが顔を乗り出してあたしに思いっきり顔をくっつけて言う。
夜のタクシーの中は暗かったけどそれでも十分に亜弥ちゃんの顔がはっきり見えた。

「いやです」

あたしはきっぱりと拒絶する。
そこまでしてあたしはフットサルチームの輪に入ろうなんて絶対思わない。

「じゃ、決定ね」
「や、決定も何もあたし選ばれなかったんだから。できないよ」

「ほらほら。やっぱ選抜に落とされたこと気にしてるんでしょ。
今回からは有志だけでフットサル始めるから選抜チーム関係ないみたいよ。
でも今日の様子だと選抜チームは全員残りそうだけど」

どうやら亜弥ちゃんは本気であたしを誘ってみるみたいだ。
最近の亜弥ちゃんは冗談と本気の区別がつかないから難しい。
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:04
「うーん。やっぱいい。練習きつそうだし。朝つらいし」

「あ、そう」

そう言って亜弥ちゃんは何も気にしていないって言わんばかりにさっとあたしの体から離れた。

冷たいっていうわけでは全然ない。
だけど最近の亜弥ちゃんは時々クールになる。
女王様でオレ様だけどすごくさばさばしてる。
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:04
一昔前の亜弥ちゃんはツッコミどころ満載の天然ボケタイプだった。
受け答えが半歩ぐらい遅かったり、本人は大真面目なのにどこかしたらズレてたり。
事務所のパソコンがコンピューターウイルスに感染したのを見て、
亜弥ちゃんはこれって人がかかったらどうなるんですか?って素で聞いて
事務所中で大笑いされたことだってある。

亜弥ちゃんが変わっていくのにあたしは何も変わってない。
別にあたしは亜弥ちゃんが変化するのに合わせて
自分も成長していかなきゃなんて焦りがあるわけじゃない。
だけど一方でこんなに亜弥ちゃんが変わっていくのに
あたしがそのままで二人の関係は今まで同じでいられるのか不安だった。

お互い、我をはるし、気は強いし、男っぽいし。
これからの二人はどうなるんだろう。
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:05
あたしは隣の亜弥ちゃんをじっと見てみる。
亜弥ちゃんは窓の外を見ていた。

あたしは思わず首をふった。だめだ。
よくよく考えたら友達同士なのに二人の将来を気にすること自体、
おかしいかもしれない。
何か最近のあたしって気持ち悪い。

「たん、今日さ、前たんが見たいって言ってた映画借りていこうよ」

あたしが自己嫌悪に陥っていると能天気な亜弥ちゃんがあたしのほうを振り向いて言った。
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:11
松浦亜弥邸。
久々に早く仕事が終わって亜弥ちゃんの家にやってきた午後4時。
あたし、藤本美貴はあっけにとられてる。

「亜弥ちゃんさあ。これって」
「いいでしょ。これ」

亜弥ちゃんは必死に笑いをこらえながらしゃべってる。

「いいけどさ。どこでこれを……」

普段殺風景で何も貼ってない部屋の壁にしっかりと貼り付けられた藤本美貴のポスター。
それも特大サイズ。
こんなに大きなポスター作ったっけ……。

68 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:12
「恥ずかしい。ていうか超居心地悪い」
「何で何で」

亜弥ちゃんが子犬のように無邪気に聞いてくる。

「当たり前じゃん。自分のポスター貼ってあるところなんて居心地悪いよ」
「だって事務所とか貼ってあるじゃん」
「貼ってあるけど。事務所はそういうところでしょ」

「恥ずかしがることないじゃん」
「問答無用。外せ!すぐに」

あたしは亜弥ちゃんに詰め寄った。
69 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:13
あたしに襟首つかまれても亜弥ちゃんはげらげらと笑っている。
しかたない。あたしは実力行使に出た。
亜弥ちゃんはほっといて、ポスターのところへ行くと慎重に外しにかかる。
さすがに破れちゃまずい。
悔しいけどこれは自分のものじゃないし、自分が破られるのはごめんだ。

「ええー。外しちゃうの」

亜弥ちゃんの声を無視してあたしはポスターを4箇所きれいに外す。
さっきあたしが来る直前に貼ったに違いない。
すぐに外れた。
ポスターを丸めて本人に返す。

「つまんない。たんが喜ぶと思ったのに」
絶対に思ってない。
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:13
今度はあたしが亜弥ちゃんのポスターを部屋に張ってやろうかと思ったけど少し考えてすぐやめた。
亜弥ちゃんは、恥ずかしがるどころか大喜びしてあんたもあややファン○人目だとか言いだすに決まってる。

「こうやって仕事を家に持ち込むのは亜弥ちゃんの悪い癖だよね」

動揺しすぎたせいかあたしもわけの分からないことを言った。

「こういうふうに素直になれないのもあんたの悪い癖だよね」

亜弥ちゃんはポスターをもう一度きれいに丸めると、大事そうに棚にしまった。

かわりにがさごそと真新しいボールを取り出した。
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:14
「これ、今日もらったんだ」
亜弥ちゃんがフットサルのボールらしきものをあたしにひょいと投げた。

「へえ、このボールで家でも練習しろって?」

あたしはそれをキャッチする。

「そう」
あたしはそのボールを手の上で回転させてみる。
まだ真新しいボールがあたしの指の上でくるくると回った。
ふいに東京ドームでのフットサルがフラッシュバックする。
あたしならもっとやれるかもしれない。
フットサルをやる気もないのにそんなことを思ってしまった。
72 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:15
「あたし、シャワー浴びてくるわ」

亜弥ちゃんが突拍子もなく言った。

「はあ?何で今」

「仕事終わって汗っぽい。たんも一緒に入る?」
「いや、あたしはいい」
「あそ。じゃあさ、これ今日のフットサルでとった写真。見といてよ」

亜弥ちゃんは、自分の携帯をあたしに差し出した。
今日の練習の後でとった写真らしい。
まだフットサルのユニフォーム姿の亜弥ちゃんがピースサインで写ってる。

「ていうかこれ、ほとんど亜弥ちゃんの写真じゃん」
あたしは呆れて言った。
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:16
「えー。そんなことないっしょ。みんなでたくさん撮ったから」

亜弥ちゃんが洗面所から顔を覗かせて言った。

多分、スタッフさんとか他のメンバーに撮ってもらったのだろう。
写真をめくっていくと亜弥ちゃんは必ず写っていたけど他のメンバーも一緒に写っていた。
赤いユニフォームがなかなか可愛い。
しばらく写真をめくっていたら亜弥ちゃんと誰かの2ショットも多い。
梨華ちゃんと顔を近づけあってピースサインとか。
いつもクールなごっちんが亜弥ちゃんといっしょにはしゃいでる写真とか。
後はよっちゃんにあゆみちゃん。
とても楽しそうだった。
亜弥ちゃんてこんなに他のメンバーと仲良かったっけ。
あたしがいてもこんなに溶け込めないだろうと思うのと同時に
嫉妬心がふつふつとあたしの中に芽生えるのを感じる。
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:17
何故かフットサルのことを見たり聞いたりするとあたしは取り残されているような
嫌な気分になる。

あたしとは関係のないことなのにすごく気になる。
多分亜弥ちゃんのせいだ。
亜弥ちゃんがフットサルチームに入ってるせいで必然的にフットサルの話が多くなるんだ。
あたしは写真を見るのをやめて、溜息をついた。
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:17
お風呂場からのんきなシャワーの音が聞こえてきた。
仕方ないのであたしは、側にあったファッション雑誌をめくってみる。
nonnoとかBAILAとかが置いてあって亜弥ちゃんは大人っぽい雑誌読むなあと思う。
コスメカウンターとか読んでいるうちにあたしはだんだん眠くなってしまった。

どうせ亜弥ちゃんのシャワーは長いしと思うとそのまま意識が遠ざかっていった。
ガチャンとドアの音が響いてあたしは目がさめた。
76 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:18
「たん、布団かけないと風邪ひくよ」
目の前に亜弥ちゃんがバスタオルを羽織っただけであたしの前で
しゃがんでいる。

「うーん。寝てた」

あたしはつぶやくように言った。

ちょうど白いバスタオルのから亜弥ちゃんの膝小僧が見えて、
そこが青紫色に腫れているのが見えた。

「亜弥ちゃん!どうしたの?これ」

あたしは寝ぼけまなこにも関わらず思わず言った。
77 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:19
「あ、これ今日の練習で。こけちった」

よく見ると足の別の部分にもあざみたいなのがある。

「危ないよ。気をつけないと」

「えへへ。でもこれぐらいだったら歌とか普段の仕事は大丈夫みたいよ。
メイクでごまかせるし、たんも気付かなかったでしょ」

「そうだけど」

「さすがにグラビアとか入ってたらまずかったけど。
スケジュールまだ入ってないし」

亜弥ちゃんがにゃははと笑った。
亜弥ちゃんがなんでもないっていうふうに笑うと逆にあたしのほうが不安になる。
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:19
「みんなこんなに怪我してんの?」
「さあ、そんなでもないと思うけど」

亜弥ちゃんは洗面所のほうへ戻っていく。
あたしはもう完全に目が醒めてしまった。
女の子ならみんなそうだけど、見た目や外見をさらに気にする亜弥ちゃんが
これだけひょうひょうとしているのが信じられない。
あたしがそんなことを思っていると洗面所からドライヤーの音が聞こえ始めた。

あたしは、立ち上がって洗面所まで行った。
亜弥ちゃんが鏡の前に座って髪を乾かしている。
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:20
「あのさあ、亜弥ちゃん」

あたしは、鏡の中の亜弥ちゃんに話し掛けた。

亜弥ちゃんはお気に入りの髪型にしたいのか髪を束ねながら
苦心してドライヤーをあてていた。
あたしは意を決して言うことにする。

「フットサル、やめちゃえば」

「え、えーやめんの!」

まさかこんなに驚かれるとは思ってなかった。
亜弥ちゃんはまるで人事みたいに驚いた。

「だってさあ、怪我も多いみたいだし。それに朝から練習ってきついでしょ」

でもこれは、あたしが心配したり、言うことじゃないかもしれない。
それを亜弥ちゃんに言われたら返す言葉がない。
でも亜弥ちゃんは言わなかった。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:21
急にドライヤーの音が止まる。

「たん、心配してくれてんだ」

同時に亜弥ちゃんは深刻そうな目であたしを見た。
そんな亜弥ちゃんの目を見ていたらあたしの顔はだんだん熱くなってきた。

「そうだね。別にフットサルにこだわってるんじゃないんだけど」

あたしは思いつきみたいに言ったのに、亜弥ちゃんは
なんだか真剣に考えてくれてるみたいだ。

「だけどさあ、先月みんなで頑張ろうって決まったばっかじゃん。
さすがにあたしはもうやめますとはね。心配してくれたのにごめん」

亜弥ちゃんがぺこりと頭を下げた。
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:22
亜弥ちゃんがあまりにも真面目に返すからあたしのほうが恥ずかしくなって、
耳たぶまで何だか熱っぽい。
あたしの顔は真っ赤になってる気がする。
まさか親友の前でこんなに動揺しちゃってるあたしを見せるわけにはいかない。

「亜弥ちゃん、どうせこうやって玉転がししてるだけでしょ。
試合のとき、あたし代わってあげたいくらいだったもん」

あたしは、運動会の亜弥ちゃんのドリブルを真似て言った。
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:22
「いいよ。いいよ。代われるもんなら代わってごらん。
そのかわり、たんも練習こなきゃ駄目だよ」

やっと亜弥ちゃんの表情がいつもの言い合いモードに切り替わる。

「亜弥ちゃんがやめたら行ってあげる」

「あ、そっか。分かった。たんが、あたしに何でやめて欲しいか。
それはずばり嫉妬でしょ?」

「はあ?嫉妬?」

何言ってんのとばかりにあたしは亜弥ちゃんをにらむ。
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:23
「あたしが、フットサルでメンバーと仲良くしてるのに嫉妬してるんでしょ?」

「そんなことあるわけないじゃん。あたしがメンバーに嫉妬……」

完全に否定しようと言いかけたところでやっと亜弥ちゃんが言っている意味が分かる。
亜弥ちゃんをとられて嫉妬してるんじゃなくて
いつも娘。とかで一緒のメンバーを亜弥ちゃんにとられて嫉妬しているって意味だ。
危ないとこだった……。

「あたしも仲間に入れてくださいって正直に言えば。寂しがり屋の藤本さん」

「そんなことないよ。あたしは別にフットサルなんか入らなくてもいろんな人と仲いいもん」

亜弥ちゃんがドライヤーをまた開始した。
あたしの声はそれにかき消される。
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/15(金) 08:24
「まあいいけどさ」

亜弥ちゃんは、また元の表情に戻っていた。

「あたしはたんが来てくれたらうれしいけどね」

そう言って亜弥ちゃんがあたしを見てにやりと笑う。
完全に上の立場からものを言われてるみたいであたしは何だか悔しかった。
85 名前:名なしの石 投稿日:2007/06/15(金) 08:24

今回の更新終わります。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 20:00
ミキティが分かりやすすぎてかわいいw
彼女がこれからどう行動するか気になります

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