Dream Forest
- 1 名前:あすか 投稿日:2007/05/07(月) 22:28
-
とりあえずアンリアル。
新リーダーの人と、そのオモチャな人。
- 2 名前:はじまり 投稿日:2007/05/07(月) 22:29
-
夢を見よう、優しい夢を。
穏やかで心地よくて、何もないけれど幸せな夢を。
- 3 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:29
-
瞼に朝日を感じて、エリは目を覚まします。
そして周りを見回して、古ぼけた柱時計を見つめます。
…朝の5時。
エリがいつも起きる時間ではないけれど、あの人は起きていて。
その証拠に…エリの隣で眠っていた、あの人がいない。
きっと、いつものように森に行ったのでしょう。
せっかくあの人が帰る前に目を覚ましたので。
今日はチャンスとばかりに、エリは台所に立ちます。
いつもいつも失敗するエリの料理。
仕方ないなあと言って、あの人は自分で作ってしまいます。
でも、エリはあの人のために何かしたいから。
何度失敗しても、こうして隙を見ては台所に立つのです。
それに、ちょっとは…ほんとにちょっとはうまくなってきてるもん。
- 4 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:30
- 何を作ろうかな。
パンは昨日あの人が焼いてくれた残りがあります。
そっと裏口の戸を開けて、鳥小屋を見ると、卵を産んでくれていました。
ごめんね、と言いながら2つ取って。
そうだ、昨日買って来た出来たてのハムを一緒に目玉焼き。
うきうきしながらかまどに火をつけて、フライパンを温めて。
…えーと、なんで卵を焼くだけなのに火がこんなに上がってるんだろう。
これって、やばい?
どどどどどうしよう、燃え広がる前になんとかしなきゃ!
でも井戸まで行ってたら危ないかも…どうしよう…
その時、でした。
- 5 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:30
-
「何やってんの、エリ!」
- 6 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:31
- あの人の怒ったような慌てたような声と。
思いっきり、飛んで来た水。
呆気にとられてるエリの前に、あの人がやってきます。
「…エリ、今度は何しようとしたの」
「何って…ご飯作ろうとしただけだもん…」
「ほー、美貴はてっきり放火かと思ったけど」
「………ごめんなさい、美貴さま」
「わかればよろしい」
このなんだか偉そうな人は、藤本美貴さま。
この森の唯一の住人で、魔法の薬を売って暮らす魔女。
そして私は…エリ。
美貴さまに作られた、生き人形。
- 7 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:31
- 「でもでも、かまどに火をつけるのはうまくできたんだよ!」
「その後、ちゃんと火の調節した?」
「…してないです」
「はあ…やっぱり美貴がやんなきゃダメみたいだね」
「やだやだ!いつか美貴さまにおいしいご飯を食べさせてあげますから!」
「そんなことしてくれなくても、美貴は大丈夫だよ」
「むー…」
私が膨れっ面になると、美貴さまは困ったように笑います。
エリは、美貴さまが森で一人で暮らす寂しさを紛らわすために作られたみたいで。
だから、愛玩用だからかはよくわからないけど、家事とか全然できなくて。
美貴さまの役にたちたいのに、お荷物状態で。
美貴さまに、喜んでほしいのに…
そう思っていると、美貴さまはエリの頭をくしゃりとなでてくれて。
- 8 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:31
-
「美貴は、エリがいてくれてるだけでいいんだから」
- 9 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:32
- そう、笑ってくれました。
美貴さまはずるい。
そんな笑顔されたら、エリが何も言わなくなるの知ってるもん。
「ま、そりゃ多少は料理くらいできた方がかわいいけどね」
「美貴さまのいじわる…美貴さまがダメダメに作ったくせに」
「あれ?そうだっけ?」
「美貴さまぁ〜」
美貴さまは楽しそうに笑ってます。
なんだかエリは楽しいような、むかっとするような複雑な気分。
でも、美貴さまとこうやってじゃれあうのも、楽しいのです。
だからエリも、美貴さまに反抗してみたりするのです。
…だいたいは、返り討ちだけど。
- 10 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:32
- 「ほら、料理はもういいから着替えてきな」
「えー、もう一回!」
「何回も焦がしたらニワトリがかわいそうでしょうが」
「もう焦がさないもん!」
「どうだか…それにね」
さわさわっ。
そうやって、美貴さまがエリのお尻に触ってきます。
美貴さまは、よくこういったことをするんです。
- 11 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:33
- 「やっぱりパジャマの上からじゃなあ〜、スカートの中に手を突っ込んでこそだね」
「美貴さまのえっち!」
「エリがいい尻してるのが悪いんだって」
そうやって、えっちなこと考えてる顔をして美貴さまが笑います。
ここがなければ、もっと素敵な魔女さんなのに。
でも、美貴さまの期待どおりにスカートをはくエリは、やっぱり美貴さまに弱いです。
着替えてテーブルにつくと、美貴さまが作ってくれたおいしそうな朝食。
エリも、これくらいできるようになりたいものです。
- 12 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:33
- 美貴さまと話しながらご飯を食べていると、美貴さまがエリの手を取りました。
エリがびっくりしていると、美貴さまはエリの手の赤くなっているところをちょんと触りました。
「〜〜〜〜〜!!!!!」
「やっぱり、火傷になってるじゃん!気付かなかったの!?」
全然気付かなかった…
美貴さまに触られたら急に痛いのに気付いて、声にならない叫びが出ます。
「ちょっと待ってて、火傷の薬作るから」
「え、でもでもっ!それは町で売るための大事な薬草…」
「いいから、美貴がやりたくてやってるんだから黙ってて」
- 13 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:33
- そう言って、エリにはよくわからない道具を取り出して、薬草を潰したり混ぜたり。
しばらく経って、薬の出来上がり。
薬をつけて、布と包帯をあてると、じんわりと痛みの引く感覚がします。
美貴さまみたいな効き目の薬。
最初はすごくしみるけど、じんわりと優しい薬。
だから、エリはしみても文句は言いません。
「さ、ご飯食べちゃおう…だいぶ冷めちゃったけどね」
「うんっ!」
- 14 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:34
-
美貴さまと、こうしてゆっくり過ごすことがエリの幸せ。
できれば美貴さまのお手伝いができるのが、エリの望み。
できれば、この幸せがどうか、ずっと。
- 15 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:34
-
- 16 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:34
-
- 17 名前:1.えりとまじょ 投稿日:2007/05/07(月) 22:34
-
つづく。
- 18 名前:あすか 投稿日:2007/05/07(月) 22:35
- えーと、夢のスレほったらかして何してるのかと。
ハロモニのみきえりのあまりのガチっぷりに踊らされております。
きっと短いですがおつきあい下さい。
- 19 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2007/05/07(月) 23:46
- にやにやしながら読みました
自分もハロモニのみきえりにはまっているもので…
夢の方も覗いてますのでマイペースで頑張ってください
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/08(火) 04:38
- みきえり良いですなぁ、
美貴様の手首を掴んで話さないエリザベスが目に浮かびます。
- 21 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:38
-
エリが最初に目を覚ましたとき、初めて見たのは木の天井。
次に見たのは美貴さまでした。
- 22 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:38
- エリが寝ているベッドから少し離れた机で何かしているキレイな人。
それが美貴さまの第一印象。
美貴さまはエリが目覚めたことに気付くと、笑顔で近付いてきました。
「目、覚めたんだ」
「あ、えっと…あの…ここは…」
「ここは美貴の家だよ。森の奥」
「あなたは…?」
「美貴は、藤本美貴。この森でまあ…魔女みたいなことをしてる」
美貴さまはエリの質問にすぐ答えてくれます。
でも、なんか冷めた感じで怖い。
それが、次の印象。
だから、変な子って思われそうで怖かったけど。
でも、わからないままは怖くて。
- 23 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:38
-
「わたしは…誰ですか?」
- 24 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:39
-
エリは、美貴さまに聞いていました。
その頃のエリはできたばっかりだから、自分のことをわかるはずなんてなかったのに。
でも、美貴さまは一瞬驚いて、それから笑って。
- 25 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:39
-
「あんたは、美貴が作った…生き人形だよ」
- 26 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:39
- そう、教えてくれました。
いき、にんぎょう。
わたしは、にんげんじゃない。
でもなんだが、頭の中が真っ白な気分は全部それで説明がついて。
だから、次にエリは。
「じゃあ、あなたはご主人様ってことですか?」
そう、真顔で聞きました。
美貴さまは、その顔の真似をよくして、今でもエリをからかいます。
- 27 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:40
- 「…まあ、そんなのかな?」
「じゃあ、じゃあご主人様は美貴さまですね!」
そう言うと、美貴さまは噴き出しました。
何が面白かったのか、エリはよくわかりません。
「みっ、美貴さまって…あはは、何さそれ」
「わたしのご主人様だから美貴さまって様づけで呼んでみましたぁ」
「はぁ…こんなとこ見られたらまた高尚な魔女様イメージついちゃうじゃん…」
美貴さまはそう言って頭を抱えています。
エリは、美貴さまって呼び方、なんかしっくりきて気に入ったのに。
- 28 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:40
- 美貴さまは、しばらくちょっと悩んでたけど。
顔を上げてエリの頭を撫でて。
「しょうがないなあ、美貴さまでいいよ」
そう言って、笑ってくれました。
「あんたもなんか呼び名つけないとねぇ…あんたじゃあんまりだし」
美貴さまがそう言って。
エリは、ようやく自分の呼び名がないのに気付きました。
- 29 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:40
- 「あんたは何がいい?」
「わたしは…美貴さまにつけてもらいたいです」
そう。美貴さまはご主人様。
だから、わたしの名前をつけるのは美貴さま。
そう、自然と考えていました。
「美貴がぁ?めんどくさいなあ」
「そんなこと言わないでくださいよぉ」
「下僕一号とかでもあんた満足なわけ?」
「かなり嫌ですけど…美貴さまがつけてくれるなら」
そう言うと、美貴さまはまた頭を抱えます。
正直、本当に下僕一号になるんじゃないかとちょっとドキドキしたり。
そして、しばらく悩んで美貴さまがふとこぼした名前。
- 30 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:40
-
「…エリ」
「え?」
「エリ、は?なんか昔聴いた歌の歌詞にそんな感じのがあった」
エリ…エリ。
その名前を噛み締めます。
エリ。わたしはエリ。
美貴さまがちゃんとつけてくれた、可愛い名前。
なぜか懐かしい感じがする、わたしの名前。
- 31 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:41
- 「もしもーし?これでいい?」
「…あっ、はい!嬉しいです!」
「そっか…よかった。よろしく、エリ」
そう言って、美貴さまは手を差し出してくれました。
だからエリも、その手をとって。
「よろしくお願いします、美貴さま」
エリも、笑いました。
- 32 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:41
-
- 33 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:41
- それから半年。
エリはずっと美貴さまと一緒。
美貴さまがエリを初めて町に連れて行ってくれた時は大騒ぎだったっけ。
人間そっくりなエリにみんなびっくりして。
でも、だからって美貴さまを怖がる人はいなかった。
美貴さまがほんとは優しいって、みんな知ってるから。
エリも、最初は珍しがられてたけど。
美貴さまにくっついて町に行ったり、一人でおつかいしたり。
そんなことをしてるうちに、みんなエリを普通の人間みたいに扱ってくれて。
…まあ、ちょっとちっちゃい子扱いされてる気はするけど。
美貴さまは、素敵なところに住んでるんだなあと感じて。
だから、エリは美貴さまと過ごす全てがしあわせ。
- 34 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:41
-
- 35 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:41
- 「エリ、燃料補給の時間だよ」
「ええー、やだぁー!」
「やだじゃない!」
訂正。
燃料補給の時間だけは嫌いです。
- 36 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:42
- 生き人形のエリは、ご飯だけじゃ生きられないみたいで。
週に一度の美貴さまの魔法薬が動力源らしいのですが。
…すっっっっごく、苦い!マズいの!
でも、飲まなきゃ美貴さまといられないし…
なんで美貴さま、こんなめんどくさい感じにエリを作ったんだろう…
「ほら、飲まないといつか止まるよ」
「それはやだ…えいっ!」
気合いを入れて一気に飲み干します。
なんでこんなに量が多いのかなあ…
でも毎日ちょっとずつより週に一度でいっぱいのほうがいいのかなあ…
- 37 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:42
- そんなことを考えながら飲み干します。
うぅ…苦い…
エリが泣きそうな顔をしていると、美貴さまが飴をくれました。
「ほら、これでも食べて。泣かないの」
「うぅぅ美貴さまありがとうございます…」
まだ涙目のエリに苦笑いな美貴さま。
でも、頭を撫でてくれる手は優しくて。
エリは、やっぱりこの人に作ってもらってよかったと感じるのです。
- 38 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:42
-
…でも、できれば動力源はもうちょっとおいしいものに改良してほしいな。
- 39 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:42
-
- 40 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:43
-
- 41 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:43
-
つづく。
- 42 名前:2.いきにんぎょう 投稿日:2007/05/10(木) 21:46
- >19 名無し募集中。。。さん
あの、某スレの…
ニヤニヤしていただけて幸いです。
最近のハロモニはかなり大きいですよね。萌えだけで突き進んでいます。
夢の方も見て頂いてありがとうございます。精進します。
>20 名無飼育さん
みきえりいいですよねぇ。
私もそんなイメージです。あとコンサートでのじゃれあいのような。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/10(木) 23:08
- 19です すみません最近疲れていたもので…
でもそんな疲れもみきえりで吹っ飛びました
またニヤニヤしながら読ませていただくんでまったり頑張ってください
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/11(金) 18:01
- 更新乙です
良ければ夢板のタイトル教えてください
- 45 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:46
- 「エリ、今日は薬売りに行くよ」
朝ご飯の最中に、美貴さまが突然言いました。
美貴さまは気分屋なので、町に薬売りに行くのはいつになるかわかりません。
そして、エリは週に1度か2度の薬売りの日が楽しみで仕方がないのです。
「ほんと?美貴さま!」
「嘘言ってどうすんのこんなこと」
「やったあ!美貴さまありがとう!」
「なんでそこでお礼なのさ…目的見え見え。ガキさんでしょ」
「うへへへぇ〜」
美貴さまがガキさんと呼んだのは、町の食堂の娘さんで。
エリの初めての友達になってくれた、新垣里沙さんという人です。
エリが一人で町におつかいに行くこともありますが、食堂に寄れるほどお金は持たないので
その時は長居はできません。
だから、美貴さまと一緒に薬売りに行く時がチャンスで。
美貴さまもわかってくれているので、薬売りのときは必ず食堂に行ってくれます。
- 46 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:46
- 「ほら、さっさと食べて準備するよ」
「はぁ〜い」
いつもマイペースなエリも、こういうときは急いでご飯を食べます。
エリはやればできる子なのです。えっへん。
ご飯を食べたら薬売りのための身仕度をします。
いつもの洋服じゃなくて、可愛いドレスみたいな洋服。
美貴さまがキレイな黒いドレスみたいな洋服を着るので、
横に並ぶエリにも着なさいと与えてくれたものです。
なぜかエリのほうが枚数が多いのですが、美貴さまに聞いても
「特に意味はないから」
と言われてしまいます。
多分、エリを可愛くしたいんだけど照れてるんだと思います。うへへ。
- 47 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:46
- ちょっと悩んで選んだのは、薄水色のフリルいっぱいなワンピースに、
大きなリボンのついたカチューシャ。
美貴さまのところにいくと、とてもきれいな黒装束の美貴さまに
「遅い」
と、怒られてしまいました。
「でもでもっ、可愛いでしょ?」
「別にー」
「もー!」
美貴さまはいつも可愛いとは言ってくれません。
でも、きっと照れ隠しです。
だってほら、ちょっとだけ耳が赤いもん。
美貴さま、気付かれてないつもりなんだろうな。
そんな美貴さまを見るのが、エリの密かな楽しみです。
- 48 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:46
- 仕度ができたら、町に出発。
美貴さまは大きな車輪つきのトランクを引いて。
エリはそのあとにちょこちょことついていくだけです。
エリが手伝うと言っても、大事なものが入ってるから任せられないと断られます。ちぇー。
実際、美貴さまのトランクにはエリにはよくわからない薬草とか、機材とか。
あと、美貴さまがあらかじめ調合しておいた薬とか。
要するに、薬売りに必要なものがぎっしりで。
壊しちゃったら困るので、エリもあまりわがままは言いません。
エリの仕事は、町に着いてからなのです。
町に着いたら、いろんな人が声をかけてくれます。
「おっ、美貴ちゃん今日はお店の日かい」
「まあねー」
「美貴ちゃん、風邪用の常備薬が切れちゃったんだよ」
「ちゃんと持ってきてますから、取っときますね」
「美貴ちゃん、腰痛に効く湿布はないかい」
「えー、布くれれば作りますけどー」
こんな感じで、美貴さまは頼りにされてます。
目付きは悪いけどいい人だって、みんな知ってるんです。
- 49 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:47
- 商店街の中にある小さな屋台。
そこが美貴さまのお店です。
お店に着くと、美貴さまはまずお店の掃除。
エリも手伝いますが、簡単な雑巾がけくらいしかさせてくれません。
そして、ちょっとだけ飾り付けをして、お店開店。
ここからが、エリの仕事です。
「美貴さまの薬屋さん、ただいま開店でーす!」
美貴さまは、客寄せとかそういうのが嫌いです。
だからエリは、そっちを頑張ります。
「エリちゃん今日も元気いいねー」
「うへへぇ〜♪ありがとうございます!」
お向いの花屋さんのおばちゃんがほめてくれました。
いっつも、エリは元気がいいとほめられます。
だから、エリはもっと頑張ります。
- 50 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:47
- 「風邪に腹痛、頭痛に擦り傷切り傷、なんでもこいの薬屋さんですよー」
「おっ、エリちゃん今日もやってるねー」
「あっ、いらっしゃいませぇ〜!今日は何のご用ですか?」
「バァさんの血圧の薬はあるかい」
「はい、毎度ありぃ!美貴さまー」
「聞こえてるよ。いつものでいいですかー?」
「おうよー、美貴ちゃんいつもありがとな」
「いえいえ〜どういたしまして〜」
「お前が言うな!」
そんなやりとりをしながら、美貴さまの薬は売れていきます。
風邪の常備薬を取りに来たさっきのおばちゃん。
歯の痛み止めを買いに来る親子。
布を持ってきて湿布作りを頼むおじさん。
用意してない薬は、美貴さまがその場で作ります。
文句を言いながらも、美貴さまはちゃんとお客さんの頼みは聞いてくれるのです。
- 51 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:47
- そんな時、でした。
仕立て屋のおじさんが慌てて駆け込んできます。
「み、美貴ちゃん美貴ちゃん!」
「あれ、どうしましたー?」
「う、うちの母ちゃんが高熱出してぶっ倒れた!」
「はぁ!?いきなりですか?」
「いや、朝からちょっと顔が赤かったんだが出るって聞かなくて…」
「ったく早く言ってよ!エリ行くよ!」
「はい!」
美貴さまは、トランクに機材と薬草をしまって仕立て屋さんに向います。
エリも、その後をついていきます。
- 52 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:48
- 仕立て屋さんのおばちゃんの顔は真っ赤で。
すごく苦しそうにしてます。
美貴さまは額に手を当てたり、心臓の音を聞いたり。
その後、美貴さまがいつも見たり書いたりしてるノートをめくります。
「この症状には…うーん…」
ブツブツ言いながらも、すごい早さで行われていく調合。
エリはおばちゃんの氷枕の氷を代えたり、濡れたタオルを絞ったり。
そうこうしているうちに
「できたっ!早く飲ませて下さい!」
「あ、ああ!」
おばちゃんのための薬ができて、飲ませてから30分くらい。
顔はまだまだ赤いけど、呼吸は落ち着いて。
エリが見ても、大丈夫に見えて。
そこでみんな、やっと一息つきます。
- 53 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:48
- 「ありがとう、美貴ちゃん」
「別に、人に死なれるのは気分悪いから」
美貴さまはそう答えるけど、顔は赤くて。
やっぱり、照れてるだけで。
おじさんもわかってるから、笑ってまたありがとうって言ってくれます。
「で、この薬の値段は?」
「別にいいですよ、緊急事態だし元手ほとんどタダだし」
「そんなこと言われてもなあ…」
美貴さまはいつもそうです。
お店で出す時以外は、お金を取りません。
例えば、森で怪我人が出た時。
例えば、急病人が出たと呼ばれた時。
そういう時は、いつも無償で駆け付けるのです。
- 54 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:48
- 「美貴は医者じゃないから。正しい薬かなんて言えないから」
「でも、医者のいないこの町じゃ、魔女のあんたが医者がわりなわけだし…」
おじさんも、世話になりっぱなしじゃ悪いと引きません。
だから、美貴さまはいつもこうするのです。
「じゃあさ、エリに似合う洋服を一着ちょうだい」
そう、お金じゃなくて物でもらう。
そこが美貴さまの妥協点。
狩人さんやお肉屋さんなら、晩ご飯に足りるくらいの肉を。
八百屋さんなら、晩ご飯に足りるくらいの野菜(ネギを入れると怒られます)を。
そして、仕立て屋さんなら洋服を。
- 55 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:48
- 「おお、そうかい!じゃあエリちゃんおいでー」
「え、エリのでいいの?美貴さま」
「美貴着飾るの苦手だし」
美貴さまはそっけなく言うけど。
エリのために洋服をもらってくれて。
だから、エリは美貴さまのお役にもっと立たなきゃと思うのです。
結局、可愛らしいワンピースをまた一着もらって。
美貴さまはスカートの短さだけはほめてくれました。
美貴さまはやっぱりえっちです。
- 56 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:48
- お店を出ると、すっかり日が落ちて。
おなかも空く時間なので、ガキさんのお店に行こうとおねだりします。
美貴さまはしょうがないなあなんて言ってるけど、
もともと食堂に足が向かってるのを知ってるのは内緒です。
食堂に着くと、ウエイトレスとして働くガキさんの姿が見えました。
「ガキさぁ〜ん!」
「おおっ、エリにもっさん!元気にしてた?」
「もっさん言うなガキんちょ」
「じゃあガキんちょ言わないで下さい…ってコラー!エリは抱き付くな!」
そんな私たちのやり取りに、お店からは笑いが上がります。失礼な。
とりあえずガキさんに案内された席について、メニューを見ます。
美貴さまは見ません。いつも決まってますから。
- 57 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:49
- 「はい、注文何にする?」
「美貴はステーキ300グラム。草は添えるなよ」
「はいはい、いつものね」
手が空いたらしいガキさんが来てくれました。
美貴さまは慣れた様子で注文します。
いつも美貴さまはお肉しか食べません。
ガキさんも慣れた感じで対応してます。
「エリはあ…えーと…」
「エリはいつも悩んでてもハンバーグになるのだ」
「うう…その通りだけどトッピングに迷うー…」
ガキさんは私たちの好みは把握してます。
美貴さまがすぐに決めて、エリが悩む行動パターンも。
だから、最近は美貴さまの分は注文取る前に焼き始めてるみたい。
…美貴さまが気まぐれで違うの選んだらどうするんだろう。
- 58 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:49
- 散々悩みながらエリもメニューを決めて。
美貴さまの分とエリの分の料理を持って来た後、
ガキさんはそのままエリたちとお話してくれました。
エリたちの後にお客さんは来なかったので、お客さんに呼ばれるまでガキさんも自由行動です。
エリはどうやらガキさんと同い年くらいに作られてるらしく、
ガキさんが話してくれるお話には興味津津です。
エリが人間だったら、ガキさんみたいに暮らしてたのかな。
そう考えるけど、やっぱり美貴さまといる今の生活以外は考えられなくて。
それをガキさんに言ったら
「エリはほんともっさんのこと好きだね」
と、呆れたように言われました。
呆れるのは失礼だと思うなあ…
ちなみに美貴さまは、まったく気にせず黙々とお肉を食べていました。
なんというか、美貴さまらしいです。
- 59 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:49
- 美貴さまと並んで歩く帰り道。
森の道は暗くてちょっと危ないですが。
ずんずん進んで行く美貴さまの後につけばきっと平気。
だからエリも迷わず進めます。
トランクの中に増えたのは、決して多くはない稼ぎとエリの洋服。
もっと取ってもいいと町の人は言いますが、美貴さまは手に取りやすい値段を心掛けてます。
だから、生活もささやかなものだけど。
それでも、町の人の病気を減らしたい美貴さまは満足なのです。
美貴さまと並んで歩く帰り道。
思い立って、美貴さまの腕にエリの腕をからめます。
- 60 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:50
- 「何さいきなり」
「あのね、なんかね、エリ幸せなの」
「ほんとわけわかんないねエリは」
「うへへへぇ〜」
美貴さまがわからなくても、エリは今の暮らしがたまらなく幸せで。
美貴さまもエリの腕を離したりはしなくて。
美貴さまの腕はあったかくて。
だから、エリは美貴さまもこの暮らしも大好きです。
- 61 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:50
-
- 62 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:50
-
- 63 名前:3.しあわせなひび 投稿日:2007/05/19(土) 21:50
-
つづく。
- 64 名前:あすか 投稿日:2007/05/19(土) 21:54
- 区切るとこ間違えたorz
>>43 名無飼育さん
半分ネタのつもりで返してるのでお気になさらず。
ROM専ですが常駐ですw
私なんぞのみきえりで疲れを吹っ飛ばして下さって幸いです。
これからもニヤケていただけるよう頑張ります。
>>44 名無飼育さん
夢のタイトルは「しあわせ急便。」と申します。
絶好調に更新停滞中ですw
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1170250980/
- 65 名前:44 投稿日:2007/05/20(日) 01:44
- 更新乙です、ほんわかニヤニヤしましたよ。
回答ありがとうございます、夢板行ってきまーす。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/22(火) 04:28
- あぁとてもいいなぁ…
次回も楽しみにしてます
- 67 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:25
-
どこかで、エリを呼ぶ声がする。
- 68 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:26
-
―――……とエリは、ずっと親友だよね。
あなたは誰?
- 69 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:26
-
―――もちろんじゃない、なんでそんな事。今日の……は変だよ。
これは…エリ?
- 70 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:26
-
―――なんでもないの、ただ聞いただけ。
―――変な……。
エリは誰を呼んでるの?
この人は誰?
顔も、名前も思い出せないよ…
- 71 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:26
-
―――じゃあ、……は帰るの。エリ、絶対に帰ってきてね。
―――あたりまえじゃん。エリが……をのとこに帰ってこないわけないよ。
エリは、ここにいるよ。
あなたは、誰?
これは、どこ?
- 72 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:27
-
―――いらない心配だったの。じゃあね、エリ。
待って。
行かないで。
あなたは誰?
- 73 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:27
-
「待って!」
- 74 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:27
- そう叫んで飛び起きたのは、いつものベッド。
エリの格好も、いつものエリで。
横には、美貴さまが眠っていて。
今のは、夢?
はっきりしない意識。
まだ、夢のなかにいるみたいで。
あの子は、誰?
エリのこと、知ってるの?
エリは、あの子のこと、知らない。
エリには、美貴さまとのこの町の暮らしが全て。
じゃあ、なんであんなにはっきり夢に見るの?
エリは、あの子のこと、知ってる?
- 75 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:27
- そんなことない。
エリには美貴さまが全て。
きっとあれは、悪い夢。
でも、温かかった。
あの子といると、夢のエリはほっとしてた。
…親友だって、言った。
エリの親友は、ガキさん。
でも、あれは絶対、ガキさんじゃない。
真っ白な肌に、綺麗な黒髪。
ちょっと焼けた肌に、栗色の髪のガキさんとは違う。
- 76 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:28
- やっぱり、あの子は誰?
エリを知ってる、誰か?
…エリは、誰?
- 77 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:28
-
これは考えても無駄な事。
エリは、美貴さまが作った生き人形。
…本当に?
美貴さまがすべて。美貴さまは信じられる。
…本当に?
なんで、なんでエリは美貴さまを疑ってるの?
エリは、美貴さまといることが幸せじゃないの?
なんで、こんな夢に惑わされてるの?
- 78 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:28
-
「…寝よう」
- 79 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:28
- きっと、寝て起きたら忘れられる。
こんな怖い夢も考えも。
美貴さまに言ったら、きっと笑われちゃう。
ううん、悲しまれちゃうかも。
だから、エリは黙ってるの。
だって、いまが幸せなんだから。
おやすみ、エリ。
きっと起きたら元通り。
そう思わないと、怖かった。
エリが、エリじゃなくなるみたいで怖かった。
そうやって考える時点でエリはもうおかしいんだけど。
それには気付かず、なんとか眠ろうと必死で。
でも、夢を見るのが怖くてなかなか眠れなかった。
- 80 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:29
-
「エリ、エリー!こら起きろー!」
美貴さまがエリを起こす声が聞こえます。
…もう、朝がきたみたい。
- 81 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:29
- 「ったく、美貴が帰ってくるまで寝てるのは珍しいよね…ほら起きな!」
「…おはよございます、美貴さま」
「おはよ、エリ」
目覚めたエリが見た美貴さまの顔は、呆れたような笑顔で。
でも、そんな笑顔を見るとなんだかすごく安心できて。
…ああ、やっぱりエリの居場所はここなんだ。
そう、感じました。
- 82 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:29
- 「…エリ、何泣いてるの…」
「…え?」
気付きませんでした。
エリはいつの間にか泣いていて。
「あ、の…怖い夢、見ました」
「まったく…エリは子どもだなあ」
エリが言うと、美貴さまは笑ってくれて。
頭を撫でられて、なんだか安心しました。
大丈夫。
このぬくもりがある限り、エリは大丈夫。
- 83 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:29
-
そう、必死で思い込もうとしてるようで。
そうしないと、エリがエリじゃなくなるようで。
それが、なんだか怖くなりました。
- 84 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:30
-
- 85 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:30
-
- 86 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:30
-
つづく。
- 87 名前:4.ゆめのきおく 投稿日:2007/05/28(月) 20:32
- 何があろうと、みきえりは続きますよ?
>>65 44さん
夢も見て頂いたようで…ありがとうございます。
ニヤついていただいて幸いです。
>>66 名無飼育さん
ちょっと、思って頂いたようなほのぼの展開からは外れてきていますが…
ついてきて下さると嬉しいです。
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/29(火) 03:16
- 美貴様はゴタゴタですがコッチはコッチで行きましょう。
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/30(水) 14:41
- 美貴様だとぉ〜〜?あんな最低女の話なんて書かなくてもいいよ!
最低女!
今まで好きだったけど、もう〜大嫌い!。さよなら〜藤本。
- 90 名前:あすか 投稿日:2007/05/30(水) 20:02
- …せっかくレスがついたと喜んだら…
普段は更新時にしかレスをつけない主義ですが。
あまりにもあれなので。
言葉汚くなりますがご勘弁を。
荒らしですか?本心ですか?
荒らしなら釣られた馬鹿と笑って下さい。
美貴ちゃん嫌いになるのはあんたの勝手ですがね、押しつけるな。
私は書きたいものを書く。それだけだ。
まだ誰にも迷惑はかけていない。イメージ的にはともかく。
だから私はまだ藤本美貴は好きなんだよ。
タイミングは悪かったかもしれないが、そんなこと言ってたら更新なんてできない。
むしろあえてやりましたよ?
>>87の一行目が全てですよ?
この話は完結させますよ?
美貴ちゃんが娘。を捨ててしまったらわかりませんが…
これ、削除依頼効きますかねぇ…
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/31(木) 13:27
- 作者さま心中お察しします
飼育にこんなバカな事書く奴が現れるとは思いませんでしたが
私も藤本さんも作者さまも応援してますよ^^
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/01(金) 18:22
- 新リーダー脱退決まった。モームスどうなってしまうんだろう・・。
書いてる作者さんもたいへんですね。頑張ってください。
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 02:16
- 色々起こってますがみきえりもこの作品も大好きです!
- 94 名前:88 投稿日:2007/06/03(日) 00:57
- 俺が悪かったのかな?ごめんね。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/05(火) 01:27
- 多分88さんじゃないとオモ(^-^)
作者さんにまだ書く意欲残っているならば是非続けてくださいな
- 96 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:44
- 「旅芸人?」
「そ、来るんだって。チラシ置いとけって郵便が来たよ」
そう言ってガキさんが見せてくれたのは、旅芸人一座のチラシでした。
なかなか来ないこういった娯楽は、町の人を浮かれた気分にさせます。
「だからみんななんだか楽しそうだったんだぁ」
「そうそう。エリにも早く教えたかったけど、なかなか来ないんだもん」
「ごめんねガキさん、美貴さまがなかなか薬売りに行くって言ってくれないから」
「美貴のせいにするなよ」
黙々とお肉を食べていた美貴さまが、いきなり突っ込みをいれて来ます。
美貴さまは、こういう反応はすごく早いです。
エリも美貴さまみたいに突っ込みをバシバシ決めて見たいものです。
「多分無理だから」
「心読まないでくださいよぉ!」
「いや、口に出てたし」
…かなり恥ずかしいです。
なので、ごまかすためにもエリはガキさんに話し掛けます。
- 97 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:44
- 「ど、どんなことするのかなガキさん!」
「チラシに書いてあるよ、ちゃんと見てないでしょ」
ガキさんにも突っ込みを入れられました。
…やっぱりエリには無理なのかな。
「楽器とかダンスとかが中心みたいだね」
「剣の舞とかあるよー、こわいねーガキさん」
「鍛えてるから大丈夫でしょ」
「そっかぁ」
チラシを見ていると、エリもワクワクしてきます。
美貴さまも興味なさそうにしてるけど、チラチラとこっちを見ているあたり
興味津津なのがわかります。
…やっぱり、素直じゃない美貴さまは可愛いな。
そう言ったら怒られそうなので、口には出しません。
- 98 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:44
- ワクワクしながらチラシを見ていると、エリは気になる文章を発見しました。
「戦慄のローレライ?」
「ん?またすごいフレーズだね」
「なぜだか離れられないこの歌声、新たな世界をあなたに…だって」
「…どんな芸よ、それ」
ガキさんと二人で頭をひねりますが、やっぱりよくわかりません。
「こりゃ見に行くしかないかな」
「エリも行きたいけど、けど…」
エリにとって、美貴さまは絶対です。
美貴さまがダメって言ったら、エリは行けません。
だから、行きたいなぁ…という気持ちを込めて、美貴さまを見ます。
美貴さまはため息をついて…
- 99 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:44
- 「わーかったよ、行こうか」
「やったぁ!美貴さまありがと〜!」
「こら抱き付くな!」
「相変わらず仲いいね、あんたら…」
思わずエリがはしゃいで。
美貴さまが怒ってるようで怒ってなくて。
ガキさんはそれを見て笑って。
…いつもどおりの光景でした。
だからエリは。
いつかこんな光景に終わりがくるなんて。
ちっとも考えていなかったのです。
- 100 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:45
-
+++++
- 101 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:45
- 少女は、焦っていた。
見つからない探し人。
自らの旅は無意味ではないのかと。
だから、ひたすらに歌い続けた。
そんな少女を、女性が止める。
「…さゆみ」
「団長…」
旅芸人一座の団長をしている女性は、さゆみと呼ばれた少女の隣に座る。
- 102 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:45
- 「もう遅いわ…次の町は近いんだから休まないと」
「すみません…なんか、眠れなくて」
「…まあ、あなたは不調なくらいが丁度いいのだけどね」
そう言って、団長は笑う。
さゆみもそれに、笑顔を返す。
- 103 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:46
- 「…不安なんです。見つかるのか…生きているのか」
「大丈夫、きっと見つかるわ…それに」
「それに?」
「次の町は、私たちがあの子とはぐれた場所の近くよ」
「!?」
「はぐれたすぐ後の時は、会えなかったけれど…」
「一年経った、今なら…?」
さゆみの問いに、団長は笑顔でうなずく。
「だから、希望を持ちましょ…無事なら、きっと来てくれる」
「…わかりました」
そして、二人はテントの中に戻っていく。
一座の目指す町は、もうすぐ。
- 104 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:46
-
+++++
- 105 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:46
- 旅芸人一座がやって来る日、エリは朝からなんだか変な感じでした。
胸がモヤモヤするような、何かが溢れてくるような。
でも、それを美貴さまに言ったら、心配されて旅芸人を見に行けなくなります。
だから、エリはいつものエリとして過ごします。
薬売りのときのようなおしゃれをして。
いつもの荷物は持たずに、美貴さまと手をつないで町に向かいます。
町の人たちは、手をつないでるエリたちを見て、
「いつも仲良しだねぇ」
と、笑ってくれます。
美貴さまは照れちゃって手を離そうとするけど、エリは離してあげません。
いつも通り。
いつものエリたち。
そう、必死で思わなきゃならないくらい。
意味のわからない不安が、町に近付いてくるたび溢れてきました。
- 106 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:46
- 旅芸人一座のために広場に作られたステージ。
もう人がいっぱいで、見るのは大変そうでした。
「美貴さまぁ〜見づらいよ〜」
「エリが洋服選びに迷ったからでしょ」
「そうだけど…」
「ベンチが空いてただけよしとしとこう」
「はーい…」
美貴さまに言われてしぶしぶ答えます。
むー、確かにエリが悪いけど…
- 107 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:46
- ブツブツ文句を言って、美貴さまに頭を撫でられてなだめられて。
そんなことをしているうちに、どうやら始まる時間になったみたいで。
キレイな女の人が、挨拶に出てきました。
「皆様、今夜はラビット・ピース一座の公演にお集まりいただきましてありがとうございます」
「キレイな人だね、美貴さま」
「黙ってろ、エリ」
美貴さまは真剣です。
実はエリより楽しみにしてたのを知ってます。
でも言ったら美貴さまがすねちゃうから言いません。うへへ。
「それでは、ゆっくりとお楽しみ下さい」
そう言って、女の人が手を振り上げると。
後ろから二人の男女が踊りながら登場しました。
- 108 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:47
- さあ、楽しい時間の始まりです。
危なっかしいピエロ。
動物を操る人。
キレイな歌を歌う人。
剣の舞では、エリはキャーキャー言いながら美貴さまにしがみついて、
また美貴さまに怒られちゃいました。
そして…
「さあ、次はわが一座のアイドル、『戦慄のローレライ』道重さゆみ嬢です」
みちしげ、さゆみ。
なんだろう、エリはなぜかその名前にひっかかりを感じました。
…しかし、まあ次の瞬間に全て吹き飛んだのですが…
- 109 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:47
- 「曲はおなじみ、『赤いフリージア』です!どうぞ!」
紹介されて出て来た道重さゆみ嬢。
その、まるで透き通るような白い肌と。
キレイな黒い髪と。
…あれ、このひと、どこかで…
- 110 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:47
-
「しんじる〜ことに〜するわ〜あかいフリ〜ジ〜ア〜♪」
- 111 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:47
- …まさに、戦慄でした。
なに、この歌。
外れてるとか、そういうレベルじゃない。
…でも、なんか確かにくせになるかも。
…あれ、こんな感覚、前にも…
「い・つ・まで〜も、あ〜、赤いフリ〜ジア♪」
- 112 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:48
-
―――……は…これで歌で暮らすのは無理じゃない?
―――……は可愛いから大丈夫。
―――無茶言うなあ…
- 113 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:48
- なに、これ…
よくわからない声。
よくわからない記憶。
「しんじる〜ことに〜す〜るわ〜あかい〜フリ〜ジ〜ア〜♪」
頭の中がぐるぐるして。
結局、戦慄のローレライの歌声は半分も聞いてませんでした。
- 114 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:48
-
帰り道の途中、美貴さまはすごく楽しそうで。
さっき見たことをたくさんエリと話します。
「しっかし凄かった、『戦慄のローレライ』。まさに戦慄だね」
「そうですねぇ」
「あんなんで大人気旅芸人になれるなら美貴もなれそうだよね」
「そうですねぇ」
「…美貴の話聞いてる?」
「え?」
「さっきから返事が適当」
- 115 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:48
- …美貴さまの言うとおりです。
エリは、さっきの記憶が気になって上の空。
「美貴さま、ごめんね?」
「いや、別にいいけどね…でさあ…」
今度は、ちゃんとお話聞こう。
エリは、美貴さまと一緒が幸せなんだから。
でも、それが崩れる音は。
すぐ近くまで、来ていたのです。
- 116 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:49
-
+++++
- 117 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:49
- さゆみは、ステージの次の日、町へ繰り出していました。
探し人を、見つけるために。
これは、さゆみのいつもの行動。
さゆみは、この一座に入って旅を始めてから、ずっと探し続けていました。
…大切な、幼馴染みを。
幼馴染みが旅に出る前に撮った写真を持って。
でも、手掛かりはなくて。
でも、少しでも希望はあると信じて。
毎回、聞き続けて来ました。
- 118 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:49
- 商店街に入り、適当な店に行きます。
一人目で見つかると思わないし、あせらないあせらない…
「こんにちは〜」
「いらっしゃい!って…あ、昨日のローレライちゃん!ステージ見たよ!」
「ありがとうございます」
いつも、だいたいの人はさゆみのことを知っています。
でも、探し人については、いい答えはなくて。
だから、今回も期待はせずに…
そう、思いながらも。
さゆみは、用件を切り出します。
- 119 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:49
- 「何?一座さんの買い出しかい?ステージ凄かったしオマケするよ!」
「いえ、それもあるんですが…この人を、見ませんでした?」
さゆみは、写真を出します。
いつもは首をかしげたあと、すぐに返される写真を。
しかし、店主は笑って…
「あれ、エリちゃんじゃないか…なんで君がエリちゃんと?」
「絵里を知ってるんですか!?」
初めて、繋がった。
大切な彼女の、手掛かり。
- 120 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:49
- 「ああ、生き人形のエリちゃんだろ?すごいよねー、
魔女ってあんなに人間そっくりないい子を作っちゃうんだから」
「生き、人形…?そんなはずない!絵里は人間です!」
「でもこれってどう見てもエリちゃんだし…君もエリちゃんって呼んで…」
「さゆみが探してるのは人間の絵里です!そんな、そんな…」
「うーん、美貴ちゃんなら何か知ってるかもね…
狩人に美貴ちゃんの家まで案内させようか…おっ」
一旦途切れた店主の話。
そして、さゆみの後ろを指差して。
「ほら、あれがエリちゃんだよ…おーいエリちゃーん!」
- 121 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:50
- さゆみが、振り向いて。
目に入ったのは。
茶色の長い髪の少女と一緒にいる、大事な幼馴染みの…
「絵里っ!!!」
振り向いた、幼馴染みの顔は。
驚きに、満ちていた。
- 122 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:50
-
+++++
- 123 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:50
- 美貴さまは意外に抜けてます。
昨日町に来たついでに、買い物もすればよかったのに。
いろいろ帰ってから物がないのに気が付いて、結局エリが買い出しです。
「やっほー、エリ」
「ガキさぁ〜ん!ガキさんも買い物?」
「うん、食材の買い出し」
ラッキーです。
買い出しをガキさんと一緒にするのはなかなかないことで。
食堂に行った時よりいっぱい話せて。
美貴さまがちょっとドジで返ってよかったかも。
…って言ったらまた怒られるから言いません。
- 124 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:50
- 雑貨をガキさんと話しながら買って。
晩ご飯のお肉を買いに行こうとした時でした。
「おーいエリちゃーん!」
エリたちがいるところと反対側の道。
そこから、果物屋のおじさんが声を掛けてきました。
今日は果物はいらないんだよね…
だから、ごめんなさいって言おうと思って。
振り向いた、その時でした。
- 125 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:50
-
「絵里っ!!!」
- 126 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:51
-
お店の前にいた、黒髪の女の子。
あれって、昨日の旅芸人さんの…
- 127 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:51
-
その時、でした。
急に痛む頭と。
溢れてくる、たくさんの声と…
- 128 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:51
-
―――やだなあ、絵里が旅に出ちゃうだなんて…
―――でも、踊りで暮していくのは絵里の夢だし…
―――わかってるの。でも、年に何回かは絶対無事に戻ってきてね。
―――わかってるよ。手紙もきちんと出すから。
―――待ってるよ、絵里。
―――うん、待ってて…さゆ。
- 129 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:51
-
ああ、思い、出した。
さゆは、絵里の…
- 130 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:51
-
そう思った瞬間、目の前が真っ白になって。
- 131 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:52
-
「さ……ゆ………」
- 132 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:52
- 「エリ、ちょっとエリ、しっかり!」
「絵里!絵里!!!」
意識が途切れる前に見たのは。
心配そうなガキさんと。
駆け寄ってきた、さゆの顔でした…
- 133 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:52
-
- 134 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:52
-
- 135 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:52
-
つづく。
- 136 名前:5.はれていくきり 投稿日:2007/06/05(火) 21:58
- まぁ、いろいろありましたねぇ…
>>88 名無飼育さん
そのとおりです、こっちはこっちで行きます。
88さんには怒っておりませんので…
>>91 名無飼育さん
まぁ、便乗荒らしかもしれませんが…
ここだけですからねぇこんなの書かれたの。
私も藤本さんは応援しておりますので…
>>92 名無飼育さん
どうなっちゃうんでしょうね…
とりあえず、私はみんなを応援しつつ妄想を書き散らすのみです。
…まぁリアルのみきえりが見れなくなるのは辛いのですがorz
>>93 名無飼育さん
嬉しいお言葉をありがとうございます。私もきっとこれからもみきえりは好きなんだろうなぁ。
>>95 名無飼育さん
創作意欲はあります。頑張らせていただきます。
というか最後まで考えてはあるので今辞めるのは気持ち悪い…
多分あと4回で終わります。
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/06(水) 09:23
- 気にせず自分の思うまま書けばいいと思います
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/09(土) 10:45
- それぞれを心配しながらも楽しみにしてます
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/10(日) 01:51
- 急展開ですね、ますます楽しみです。
- 140 名前:橘 投稿日:2007/06/13(水) 19:48
- この作品を読ませていただきました。ミキティの事で何やら上で酷いことを
言っている人がいましたが、これからもミキティを応援していきます。
最後ですが次回更新を楽しみにしています。
- 141 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:33
-
狩人が血相を変えて美貴の家に飛び込んで来た時、また誰か怪我でもしたのかと思った。
だから、美貴自身が慌てふためく言葉が出るなんて思ってもいなかった。
- 142 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:33
-
「美貴ちゃん大変だ!エリちゃんが倒れた!」
- 143 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:34
-
その言葉を聞いて、美貴は血の気が引く思いがした。
事故でもあったのか。
実は具合が悪かったのか。
そして、一番当たって欲しくない予想。
美貴のもとから、離れる理由を思い出したのか…
- 144 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:34
- 慌ててエリが寝かされているらしいガキさんの家に向かう。
エリに付き添っていたのは、ガキさんと…
あれは、昨日の旅芸人。
なんで、エリの側に?
その旅芸人は、美貴のことを他の人から聞くと。
驚いた顔をして、その後冷たい目になって。
椅子から立ち上がり、美貴のもとへ歩いて来る。
「…あなたが、藤本美貴さんですか」
「そうだけど、あんた…」
何なのさ、そう聞こうとした時だった。
- 145 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:34
-
ぱしん、と。
響き渡る、軽い音。
頬に走る、熱い痛み。
- 146 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:34
- 美貴は、この旅芸人に叩かれたみたいだった。
なぜだかはわからなかった。
でも、旅芸人が発した言葉。
それで、美貴の頭もはっきりしてくる。
「絵里に、何をしたんですか」
「モノあつかい、してたんですか」
「絵里を返して」
ああ、この旅芸人はエリの友達か何かだったんだろうか。
ぼんやりと、そう考えた。
そして、二発目の平手が向かってくる、その時だった。
- 147 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:35
-
「やめて、さゆ。この人が悪いわけじゃない」
- 148 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:35
-
この場の空気を和らげる声。
…エリが、目を覚ました。
- 149 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:35
-
+++++
- 150 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:35
- ぼんやり浮かび上がる意識の中、さゆの声が聞こえました。
「絵里に、何をしたんですか」
「モノあつかい、してたんですか」
「絵里を返して」
やめて、さゆ。
美貴さまが悪いわけじゃないよ。
こうなった原因は、絵里がドジだったからなんだよ。
目を開けると、おろおろしてるガキさんと。
美貴さまを叩こうとしてる、さゆがいた。
だから。
- 151 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:35
- 「やめて、さゆ。この人が悪いわけじゃない」
そう言うと、さゆも美貴さまもびっくりしながらこっちを見ました。
そして…
「絵里ぃっ!」
抱き付いてくるさゆと、複雑な表情の美貴さま。
絵里も、どんな顔していいかわかんないや。
「絵里っ…絵里…会いたかった…」
「ごめんね、さゆ。絵里はずっとさゆのこと忘れてた」
「ううん、いいの。だってそれは…」
「美貴さまのせいじゃないよ。あれはただの事故」
「え?」
そう、あれはただの事故。
- 152 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:36
-
- 153 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:36
- 旅芸人として、今さゆがいる一座にいた絵里は。
この町に向かう途中の山の中で。
その時、運悪く体調が優れなくて。
外の風を浴びようと車から出て。
…そして、熱のせいでふらついた体は。
うっかり、崖から滑り落ちて。
麓の森に、落ちていった。
絵里が生きていたのは奇跡だと思う。
木々がクッションになって、体は傷だらけで。
きっと、しばらく眠っていたんだろう。
助けてくれたのは、きっと美貴さま。
あんな森の奥に来るの、きっと美貴さまくらいだもん。
- 154 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:36
- その時のショックで、絵里は記憶を失って。
美貴さまが冗談で言った、生き人形っていう言葉を信じて。
美貴さまも、なぜかその生活を続けて。
いつの間にか、それが当たり前になって。
でも、時折夢に見る風景。
気になったけど、知るのは怖い。
今を壊すのが、怖かった。
そんな時、さゆがやって来た。
さゆに名前を呼ばれた瞬間、何かが溢れる気がした。
夢で見た風景が、溢れて来る。
それは、絵里の記憶だって、はっきりわかって。
でも、あまりにも一気に思い出したせいで。
頭が、ついていかなくなったんだと思う。
だから、倒れちゃったんだと思う。
- 155 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:36
-
- 156 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:36
- そう、一気に話す。
さゆは、泣きそうになりながら。
美貴さまは、辛そうな顔をしながら。
ガキさんは、驚きながら。
みんな、絵里のこと見てた。
「じゃあ、あの人に何かされたわけじゃ…」
「全然ないよ、むしろ恩人かな」
「でも、なんでずっと教えなかったの?」
「それはわからないけど…美貴さま?」
それは絵里も知りたかった。
なんで、絵里とずっと暮らしていたのか。
なんで、ずっと生き人形だって嘘を吐き続けたのか。
しばらくの沈黙の後、美貴さまはゆっくりと口を開く。
- 157 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:37
-
「…美貴は、あんたじゃなくてもよかったんだよ」
- 158 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:37
- 「…え?」
「自分に懐いてくれる奴ならよかったんだ。美貴さまって呼ばれて気分よかったからね」
「え、美貴さま?」
「お偉い女王様気分味わいたかっただけだよ。言ったでしょ?あんたは愛玩用だって」
そん、な…
嘘だよね、美貴さま?
「ちょうどいいのが手に入ったから、遊んでただけだよ」
「嘘…嘘だよね美貴さま、絵里だから、絵里だから大事なんじゃないの?」
「でも思い出したならもうおしまい。
バイバイ、美貴は美貴だけのものじゃないのなら興味はないの」
「美貴、さま…」
「その呼び方もやめてくれない?どうせご主人様だなんて思ってないんでしょ」
美貴さまの言葉が刺さります。
なんで?絵里は美貴さまのことも大好きだよ?
でも、美貴さまはそうじゃなかったの?
- 159 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:37
- 「美貴さま…」
「絵里…もう、止めよう?こういう人だったんだよ」
「そんな、そんな…」
「一座に帰ろう?きっと団長に言えばまた戻れるよ」
なんだか、もうよくわからなくなってきました。
美貴さまは、絵里のことただのおもちゃだと思ってた?
美貴さまって呼んで、懐いてあげたら誰でもいいの?
「やだ…やだよう…美貴さま嘘って言ってよ…」
「嘘?なんでさ。一座に帰るなら勝手にどうぞ、美貴止めないから」
「絵里…」
しばらく、涙は止まりそうにありません。
なんで、どうして…
でも、絵里を見る美貴さまの目はやっぱり冷たくて。
今まで信じてきたものが、崩れる気がして。
だから…
- 160 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:37
- 「ね、絵里…帰ろう?」
「うん…わかったよ、さゆ」
思わず、さゆの申し出に答えました。
「じゃあ私たちの宿に行くの。歩ける?」
「うん、大丈夫だよ…」
立ち上がって、さゆに手を引かれて。
「じゃあ、絵里がお世話になりました…ほら、絵里も」
「うん…」
絵里、ちゃんと言えるかな。
言ったら、泣いちゃいそうで。
でも、言わなきゃ、きっと行けないから。
どこにも、絵里の居場所がなくなるから。
だから…
- 161 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:37
-
「お世話になりました…『藤本さん』」
- 162 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:38
- 初めて、美貴さまをこう呼んで。
しばらく歩いてから、さゆに抱き付いて、いっぱい泣きました。
泣いて、今までの思い出を忘れようと。
泣いて、今度はラビット・ピース一座の絵里になろうと。
全部吹っ切ろうと、ひたすらに泣きました。
- 163 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:38
-
+++++
- 164 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:38
- 「…いいんですかもっさん、あんなこと言って」
「うっさいガキんちょ」
「本心じゃないでしょ」
「…うっさい」
本当にこのガキんちょは痛いとこを突いて来る。
その通りだよ、ああもう。
「憎まれ役を買って出たつもりですか」
「そんなんじゃないけどさ…美貴に未練があったら、あのさゆってのにも悪いし」
「本当に素直じゃないですね」
「だからうっさい」
ああもう、美貴だって辛いんだ。
傷をえぐるような事を言うな。
- 165 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:38
- 「…なんで、嘘ついてたんですか。エリが思い出したら辛いだけなのに」
「…何でだろ。愛着わいちゃったのかな、あいつに…」
手放したくなかった。
美貴の側に居て欲しかった。
でも、全てを知っていたらきっとエリは笑えない。
だから…手放すことにした。
「美貴のやり方、間違ってるかな」
「私から見たら大間違いですよ」
「そっか」
でも、美貴は素直じゃないらしいから。
きっと、こうしかできない。
「ねーガキさん、ちょっと聞いてくれる?」
「何をですか」
「…美貴の懺悔」
「…内容によっては出て行きますよ」
「ありがと」
- 166 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:39
-
そして、美貴は話し出す。
今までの、一年…ううん、この町に来てからの、懺悔を。
- 167 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:39
-
- 168 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:39
-
- 169 名前:6.きえるまぼろし 投稿日:2007/06/13(水) 22:39
-
つづく。
- 170 名前:あすか 投稿日:2007/06/13(水) 22:44
- レス返し
>>137 名無飼育さん
そのお言葉に甘えて思うがまま書いていこうと思います。
>>138 名無飼育さん
現実も小説も心配されるような展開ですみません。
楽しみにして下さると幸いです。
>>139 名無飼育さん
読者の方は急展開すぎて戸惑われてはいないでしょうか。
楽しんでいただけると幸いです。
>>140 橘さん
まぁ、今回の件についてはレス番90が全てです。
私もミキティを応援します。
楽しみにして頂いた価値があるものには仕上がっているでしょうか。
これからも楽しんで下さると嬉しいです。
ハッピーエンド至上主義です。
私が思う幸せにします。
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/14(木) 02:46
- 意地っ張り。・゚・(ノД`)・゚・。
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 20:38
- 美貴さまが何考えてたか予想しながら待ってます
- 173 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:53
-
美貴には、力なんてなかった。
ただ少し、調子に乗ってただけだったんだ。
- 174 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:53
- 美貴がこの道に進んだのは、幼い頃。
美貴の村の浜辺に、金の髪に青い目の異国の人間が現われてから。
美貴の親は彼女を助けた。
ユウコと名乗った彼女は、傷だらけで倒れていて。
しばらく全く動けなかったのを、美貴の両親は一生懸命に世話して。
ユウコさんが一人で歩けるようになった頃には、
村の人もよそもの扱いしなくなるような長い時間がかかった。
その頃からだった。ユウコさんが不思議な力を発揮し始めたのは。
- 175 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:53
- ユウコさんは不思議な薬で、村の人の病気をたちどころに治してみせた。
傷も、すこししみるけれどすぐに治った。
いつしかユウコさんは魔女様と呼ばれ、慕われるようになった。
美貴の家にずっといたユウコさんに魔女様と言ってみると
「これは魔法なんかじゃない」
と、笑って言った。
- 176 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:53
- 「美貴もやってみるか?簡単やでぇ」
ユウコさんは、少し癖のあるしゃべり方で美貴に薬の作り方を教えてくれた。
ユウコさんが持っていた数少ない荷物の中。
そこにある数冊のノート。
そして、いろいろな道具。
それが、彼女の魔法の源。
- 177 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:54
-
そう、美貴もユウコさんも魔女なんかじゃない。
ただの、薬師だったんだ。
異国の技術が、魔法に見えただけ。
- 178 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:54
- 美貴は、魔女の弟子として周りから可愛がられた。
美貴も、そんな反応が嬉しいのと単純に調合を覚えるのが楽しいのとで、
どんどんいろいろなことを覚えていった。
そして、美貴が書き貯めたノートがかなりの冊数になった頃。
ふと思い付いた、旅の思い。
ユウコさんは異国に薬を広める旅の途中、船が沈んで美貴の村に流れ着いた。
じゃあ美貴は、ユウコさんみたいに旅をして、ユウコさんが行けなかった場所に薬を広めよう。
そう言ったら、両親は泣いて。
でも、応援してくれた。
ユウコさんは呆れて、でも応援の言葉と一緒に古い道具を譲ってくれた。
そして、両親と一緒に黒い綺麗なドレスをくれた。
美貴が黒のドレスをよく着るのはそのため。
- 179 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:54
- 旅に出て、薬を売りながら暮らす日々。
でも、大いに広めるのにいい材料のある場所はなく。
数少ない薬草を見つけては薬にする生活。
そんな時、山を数個越えて見つけた森。
珍しい薬草もたくさんある、理想的な場所。
近くには朽ちかけた山小屋しかないけど、頑張って直せば住めるはず。
そう考えて、美貴はしばらくこの森に住むことを決めた。
- 180 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:54
-
◇◇◇◇◇
- 181 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:55
-
「それが、今の森なんですね」
「そういうこと。美貴は最初から魔女なんかじゃないの」
「でもそれはこっちが勘違いしただけで…」
「黙ってるのはタチ悪いでしょ」
- 182 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:55
-
◇◇◇◇◇
- 183 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:55
-
美貴は、かつてのユウコさんのように魔女と呼ばれ暮らしていた。
まあ、別に恐れられているわけじゃないし。
薬が売りやすくていい、そのくらいに考えていた。
珍しい薬草を使って、自分なりの薬を作る研究。
それと、病人を助ける仕事。
それができれば、美貴はよかった。
そんな時だった。
あいつを、拾ったのは。
- 184 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:56
-
いつものように薬草を採取に行く時、何かいつもと違う空気を感じた。
動物とかの声も足音も聞こえない、妙な空気。
不思議に思いながらも、岩壁の近くに来た時だった。
- 185 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:56
- 倒れている、女の子。
歳は、美貴より少し下だろうか。
全身傷だらけで、辛うじて息をしている感じ。
慌てて、小屋に連れ帰った。
目の前で死なれるのは気分が悪いから。
必死で看病して、傷は治った。
でも、一月近く、意識は戻らない。
美貴の薬を無理矢理飲ませて生き延びている現状。
このままでいいのか、悩み始めた時だった。
そいつは、目を覚ました。
- 186 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:57
- ひとまずそれでほっとしたのも束の間だった。
「わたしは…誰ですか?」
記憶喪失。
なんてこった。
美貴も、こいつが誰かなんて知らない。
そこで、ちょっとした悪戯心がわいて来た。
魔女・藤本美貴のいいオプション。
信じるか信じないかはそいつの自由。
そして。
- 187 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:57
-
「あんたは、美貴が作った…生き人形だよ」
そいつは、驚くほどすんなりその言葉を受け止めた。
そして、美貴のことを「美貴さま」なんて呼んで慕い始めて。
なんだかそれが心地よくて。
自分で選んだはずの森の奥の生活に寂しさを感じていたのかもしれない。
だから、こいつの…エリの存在が、日に日に大きくなっていった。
- 188 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:58
-
◇◇◇◇◇
- 189 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:58
-
「エリって名前は偶然だよ。あいつの本名も絵里だなんて思ってなかった」
「でも、もっさんもエリも楽しそうだったじゃないですか」
「そうだね、美貴が何もしてなければ、普通に幸せだったんだ」
- 190 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:58
-
◇◇◇◇◇
- 191 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 22:59
- 美貴は、エリと暮らしていくにつれて。
多分、エリに依存しかけてる自分に気付いた。
表面的には、美貴にエリがなついてるように見える関係。
でも実際は、美貴がエリを求めてる。
エリのあの気の抜けた笑顔が。
ふわふわとした話し方が。
危なっかしい性格が。
美貴の目を捕らえて。
美貴は、こいつを手放したくない。
そう、自覚して。
それをごまかすために、セクハラなんかをたくさんしていたけど。
- 192 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:00
- でも、生き人形ごっこは終わらせたくなかったから。
怪しまれないよう、ただの栄養剤を動力として飲ませたりして。
ばれて、嫌われるのが怖かった。
美貴のもとから離れていかれるのが嫌だった。
だから必死に、つなぎとめようとした。
生き人形ごっこを、必死に続けてた。
そんな時、だった。
エリが、夢を見たのは。
- 193 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:00
- エリから聞いた、漠然とした夢の話。
でも、美貴には記憶が戻る兆候にしか思えなくて。
だから、美貴は、罪を犯す。
エリに定期的に飲ませていた栄養剤に。
記憶を曖昧にする草を、混ぜ始めた。
毒にならないように、少しずつ。
美貴のことまで忘れないように、少しだけ。
でも、一度ほころびができるともう止まらなくて。
混ぜられる草の量にも限度があって。
エリは、よくまた夢を見るようになった。
日によっては激しくうなされたり、目覚めた時に泣いていることもあった。
だから美貴は、覚悟しなければならなかった。
そう遠くはない、別れを。
- 194 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:01
-
◇◇◇◇◇
- 195 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:01
- 「あとはまあ、ガキさんの見た通り。
さゆみってのを切っ掛けに、エリの記憶は戻った」
「………」
「どう?美貴は、エリのことを完全に所有物扱いしてたんだよ」
「………」
「そんな奴のとこにいるよりもさ、昔馴染のとこに戻ったほうがエリも幸せになるよ」
自嘲するように笑う美貴。
それを見ながら、里沙は考え込んでいた。
「だからさ、美貴はこれでいいの。自分で選んだんだから」
「もっさんは、それでいいんですか」
「あ?」
「もっさん、話聞くだけでもエリへの未練たらたら」
「うっさいガキんちょ」
また里沙から顔を背け、うつむく美貴。
- 196 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:01
- 「もっさんはまだエリのこと…」
「うっさいって言ってんでしょ!ほっといてよ!」
うつむく美貴の頬には、涙が伝っていて。
里沙はそれを見て、呆れるようにため息をつく。
「まあ、いいですけどね…私はこのままでいいとは思ってませんから」
「…勝手にしなよ」
「はいはい勝手にします。ただ言わせてもらうけどね…エリ、もっさんのこと本気で大好きでしたよ」
「刷り込みみたいなもんだよ、それは」
「理由はともかく、私はノロケを聞かされまくってますから…じゃあ」
そう言って、里沙も部屋を出ようとする。
…が、何かを思い出したように立ち止まり。
振り向いて、美貴に声を掛ける。
- 197 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:01
- 「もっさん」
「なんだよ」
「魔女だろうとなかろうと、私たちはもっさんのこと、けっこう好きですから」
そう言って、今度こそ部屋を出て行く里沙。
ドアが閉まると同時に、美貴はへたり込む。
「なんだよ…みんなして…ちくしょー…」
こぼれる涙は、しばらく止まりそうになかった。
- 198 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:01
-
- 199 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:01
-
- 200 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:02
-
つづく。
- 201 名前:7.げんじつのめ 投稿日:2007/06/25(月) 23:03
- 200ゲトー。
レス返し。
>>171 名無飼育さん
美貴さま素直じゃないから…
>>172 名無飼育さん
こんなことを考えてました。
たいしたことじゃないと思われるかもしれませんが…
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/26(火) 01:17
- 更新お疲れ様です、こうゆう方向に行きましたか。
ファンタジーから現実的になってきましたね、先が楽しみです。
- 203 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/26(火) 14:39
- なるほどそうだったのか…
ほんと素直じゃないなぁ美貴さま
- 204 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:10
- 一座の泊まっている宿に行くと、団長は驚いた顔をして、それから涙ぐんで。
そして、絵里のことを抱きしめてくれました。
他のみんなも、とても嬉しそうで。
さゆも、ずっと笑っていて。
とても懐かしくて、安心する雰囲気でした。
でも、なぜでしょう。
美貴さまのことが。
きつい言い方をされた、美貴さまのことが。
ずっと、心の中から離れなくて。
すごく、泣きたくなりました。
- 205 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:10
-
◇◇◇◇◇
- 206 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:11
- 「…いいんですか、もっさん」
「何が」
「ラビット・ピース一座、今日この町を離れるらしいですよ」
「美貴には関係ない」
「じゃあ、なんでわざわざ極端にひきこもりますかね…」
里沙が美貴の家を訪ねると、そこは荒れ放題だった。
散乱した食器と洋服、放置されている機材。
そして、頭から布団を被り寝ている美貴。
今までここを訪ねた時にはなかった光景に、里沙はため息をつく。
「この一週間町にも来ないし何してるかと思えば…」
「食料はまだあるし、わざわざ行く用事なんてない」
「もうトバとか干物とかしかないじゃないですか」
「それだけあればあと数日平気だよ」
「そんなにエリに会いたくないんですか…」
エリ、の言葉に美貴の肩が揺れる。
しかし、また布団をさらに被り、無視することに決めたようだ。
- 207 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:11
- 「エリの方はエリの方で、『藤本さんはもう関係ないです』なんて言って…あんたらは…」
「うるさいガんちょ、黙ってろ」
「いーえ黙りませんよ、こんな状態でエリを出ていかせるなんてね、あたしは…」
「うるさいっ!美貴にはもう関係ないんだ!!」
エリの事を振り払うかのように叫ぶ美貴。
その姿が見ていられなくなって、里沙は静かに美貴の小屋を出た。
「…なんで、こうなるかなぁ」
二人の関係をずっと見ていた里沙は、その二人の関係がずっと好きで。
だからこそ、それが壊れていくのが悲しくて。
「…もう一回、エリの方を当たってみるか」
そう呟き、町に向けて歩き出した。
- 208 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:11
-
◇◇◇◇◇
- 209 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:11
- 旅立つためにみんなが荷物をまとめているのを見て、絵里はふと気付きました。
そういえば、絵里の荷物は、ほとんど美貴さまの家にあるわけで。
みんなに洋服とかは貸してもらったけど、ずっと甘えているわけにも行かないし。
でも、美貴さまの家には行きづらいし。
「…気まずい」
「何が?」
思わずつぶやくと、隣にいたさゆが問いかけてきました。
「いやー、絵里、何も持ってないけどいいのかなぁ、って…」
「気にしなくていいよ、衣装とかもしばらくさゆみの貸してあげるし」
「でも…」
「さゆみは、荷物取りに行くって言った絵里がまた帰って来なくなる方が嫌」
「…ごめんね」
「謝らなくてもいいの」
ごめん、ごめんねさゆ。
いろいろと、ごめんなさい。
謝らなくていいとさゆは言ったけど、その気遣いがすごく痛くて。
だから、心の中で謝って。
その時でした。
絵里達の部屋に、またガキさんがやってきたのは。
- 210 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:11
- 「やー。もう出てくんだねぇ…」
「そだね、ガキさんにもあんまり挨拶できなくてごめん」
「いや、いいんだけどさぁ…」
「?」
ガキさんが、すごく歯切れのわるい言い方をします。
だから、絵里も首を傾げていたら。
「…もっさんに、会ってきた」
「…!」
なんで、なんだろう。
なんで、ガキさんはこんなギリギリになって絵里の心を揺さぶるような事を言うのだろう。
「へ、へぇー、それで、どうでした?」
「もっさん、なんか死んじゃいそうだった。やっぱり、エリがついてないと…」
「やめてください!」
ガキさんの言葉を遮るように、さゆが叫びます。
- 211 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:12
- 「絵里を、絵里を惑わせるようなことを言わないで…さゆから、もう絵里を奪っていかないで…」
「さゆ…」
「道重、さん…」
さゆは、さらにまくし立てるように話し始めます。
「新垣さんは、ここにいる絵里しか知らない…さゆみが、どれだけ絵里のこと心配してたかなんて」
「…ごめん、それは知らない。でも、あんただってここにいたエリのこと知らないでしょ!」
「何ですか!さゆみは、ずっと絵里のこと探して、ずっと心配して…」
「二人ともやめて!さゆもガキさんもありがと。でも…ごめんなさい、絵里はやっぱり行きます」
「エリ…」
ガキさんが、悲しそうな顔をします。
ごめんなさい、これは絵里が決めたことだから。
でも、最後に、最後だから。
絵里の、本当の気持ちを。
- 212 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:12
- 「美貴さまのこと、本当に大好きでした。すごく、大切でした。
絵里のこと助けてくれて、ずっとあったかい気持ちをくれたのは美貴さまだから。
たとえオモチャ扱いされていたとしても、絵里は本当に嬉しかったです。
もう一度会いたかったけど、美貴さまは会いたくないみたいだから。
だから、絵里の気持ち、ガキさんが伝えて下さい…」
「エリ、それって…」
「早く、旅立つ準備しなくちゃいけないから、もう行って下さい」
「…あたしは、このままで終わらせるつもりはないから」
ドアの閉まる音がして、その後走り去っていく靴音がしました。
絵里は、顔を上げることができなくて。
「絵里…」
「ごめん、さゆ…」
もう、なんで謝っているのか、絵里にもわかりませんでした。
- 213 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:12
-
◇◇◇◇◇
- 214 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:12
- 一度出ていった里沙が、慌ててまた美貴の小屋に駆け込んできた。
トランクを抱えて、絵里の洋服をその中に突っ込んでいく。
「…何してんのさガキんちょ」
「エリの忘れ物を取りに来たんですよ」
「…あっそ」
興味なさそうに、また布団にこもる美貴。
その間に、絵里が使っていた小物類などを里沙は無造作にトランクに入れて。
トランクの蓋を閉め、美貴の布団をひっぺがした。
「何すんのさ」
「一番の忘れ物を持って行かなきゃいけませんから」
「何だよ、それ」
「もっさんは、エリに会わなきゃだめなんです」
そのまま、美貴の手を強引に引っ張る。
片手にトランクを抱えているのに、思いの外里沙の力は強くて。
最近ろくに動いてもいなかった美貴は引きずられていく。
- 215 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:13
- 「さあ、行きますよ!」
「嫌だって!!行かない!!!」
「子どもみたいなだだこねないで下さい!
…エリからの伝言です。美貴さまのことずっと大好きだったって」
「……」
「もう一度会いたいって言ってたんだから、会わなきゃだめです」
「…エリが、そんなこと…」
「さ、行きますよ!」
「…わかったよ」
渋々ながらも歩き出した美貴の手を引いて、里沙は駆け出す。
「ちょっと、ガキんちょ早い!」
「早くしないと間に合いませんからー!!」
手を引かれる美貴は、一瞬不満そうな顔をして。
でも、里沙に見えないように、小さく笑った。
- 216 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:13
-
◇◇◇◇◇
- 217 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:13
- エリが旅立つその瞬間まで、やっぱり美貴さまは来ませんでした。
ガキさんまでいなかったのは意外だったけど。
商店街のみんなは、エリちゃんがいなくなって寂しいとか、いろいろ声をかけてくれました。
「さ、絵里…そろそろ行くの」
「うん…」
さゆに声を掛けられ、車に乗り込もうと背を向けます。
…できれば、最後くらい美貴さまに来て欲しかった。
そう思った、瞬間でした。
- 218 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:13
-
「エリ!!!」
- 219 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:13
- …え?
思わず振り返った、そこには。
大きなトランクを持ったガキさんと。
ボサボサの頭で、パジャマに使っていたワンピースで、でも一生懸命走ってきたらしい美貴さま。
「ごめん、最後に、プレゼント…」
息を切らせながら、ガキさんがトランクを投げてきて。
そして、美貴さまの背中を押しました。
「…美貴、さま」
「あー、その…うん、ごめん、会いに来なくて」
「そ、そんな、美貴さま…」
「酷いことも言ってごめん。全部、嘘だから」
「え…」
「美貴も、エリのことけっこう好きだったよ」
その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れてきて。
何か言いたいけど、言葉が浮かばなくて。
このまま、美貴さまと一緒にいたい。そう思ったけど。
でも、絵里が決めたことだから、絵里が行くって決めたから。
- 220 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:14
- 美貴さまもわかってくれたのか、最後に絵里の頭を撫でて。
「行ってこい、エリ!」
そう言って、送り出してくれようとしたから。
だから、もっともっと涙が止まらなくなって。
「は…はい、行ってきます、行ってきます…」
涙でぐちゃぐちゃな顔を上げて。
美貴さまに背を向けて。
エリは、車に乗り込みます。
- 221 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:14
- 「…いいのかい?絵里」
「いいんです、絵里が、決めたことだから」
団長が心配してくれたけど、絵里は大丈夫って言いたかったから。
涙をこらえて、顔を上げて。
ふと目に入ったさゆの顔。
泣きそうで、苦しそうで。
ああ、どうしたんだろう。
「…さゆ?」
「ごめん、ごめんね、絵里…」
「何で、謝るの?」
「だって、だってさゆみ…」
「大丈夫、絵里は、大丈夫だから」
それっきり泣き出してしまったさゆの頭を撫でながら、トランクの中身を見ます。
ぐちゃぐちゃに詰め込まれていたど、そこにあったのは美貴さまに買ってもらったいろんなもので。
沢山の思い出が浮かんできて、ちょっぴりまた涙が出そうになりました。
- 222 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:14
-
- 223 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:14
-
- 224 名前:8.ゆめのおわり 投稿日:2007/07/16(月) 23:14
-
つづく。
- 225 名前:あすか 投稿日:2007/07/16(月) 23:17
- レス返し
>>202 名無飼育さん
ファンタジーのようで、実は魔女と生き人形って言葉以外は特別なことはしてなかったんですよね。
こういう方向ですが、楽しんで頂けたでしょうか。
>>203 名無飼育さん
素直じゃないんです、美貴さまは。
次回、最終回の予定。
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/17(火) 01:43
- さすがガキさん、アリガトね。
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/27(金) 00:03
- 次回がすげー楽しみ
- 228 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:16
- エリが旅立って、季節が一つ巡った。
最初は少し落ち込んでいた美貴も、少しずつ元気を取り戻して。
無愛想ながらも、また街で薬売りを再開し始めた。
街の人々も、美貴が魔女ではないことと、エリが人間だったことにも驚きはしていたが。
美貴の作る薬と、美貴自身の根は優しい性格に惹かれていた人が多かったため、
優しく美貴を受け入れて。
今でも、美貴は医者がわりとして色々な家に引っ張り回されている。
そんな、ゆったりとした毎日が続いていて。
でも、美貴はやっぱり何かが足りないような。
そんな時間を過ごしていた。
そんな時だった。里沙が慌てて美貴の小屋へ飛び込んできたのは。
- 229 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:17
- 「もっさんもっさんもっさーん!!!」
「何さガキんちょ…もっさん連呼するな」
「いいじゃないですかそんなこと…じゃなくて、来るんですよ!」
「来る…何が?」
「ラビット・ピース一座がですよ!」
その名前を聞いた瞬間、美貴の動きが止まった。
それから、なんだかちょっと泣きそうな顔になって。
それから、嬉しそうに笑って。
そんな美貴を見て、里沙は話し掛ける。
- 230 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:17
- 「やっぱり、嬉しいですか」
「なっ…別に…」
「ほんと素直じゃないなあ…行きますよねもちろん」
「誰も行くって、いや、行きたいけど…」
「はいはい、じゃあいい場所取っておきますから」
「その言い方は何よ…」
「わかりやすい照れ隠しですからね。もっさん結構可愛いとこありますよね」
「うるさいガキんちょ。用はそれだけ?」
「はいはい、もっさんは照れてるとこ見られるの嫌そうなんで帰りますよ」
「だから勝手に決めるな!」
顔を真っ赤にして叫ぶ美貴と、あしらう里沙。
この一年、エリの代わりのように美貴のところに足しげく通っていた里沙は、
美貴のあしらい方を覚えたようで。
それを悔しく思いつつも、やっぱりエリに会いたいのは本当なので。
結局、ラビット・ピースの舞台を見に行く自分に、美貴は苦笑した。
- 231 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:17
-
◇◇◇◇◇
- 232 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:17
- 公演当日、広場は沢山の人で溢れていた。
芸が純粋に楽しみな人も多いのだが、それ以上にエリに会いたい人が多かった。
商店街は夕方にはみな店をしまい、エリの晴れ姿を見に集まっていた。
美貴が広場に足を踏み入れると、色々な人に声をかけられる。
みな、そして美貴を前の方に押しやっていく。
「エリちゃんの晴れ姿、前で見てやりな!」
「美貴ちゃんがいるってわかったら、エリちゃん喜ぶよ!」
そんな言葉を口々にかけられて、なんだか照れくさくて。
一番前に敷かれたゴザのところまで来ると、里沙が笑って手招きした。
「もっさん遅いー、ギリギリじゃないですか」
「いいんだよ、遅れてないし」
「よくないー!私が場所取りしてなかったら後ろで見るつもりだったんですか?」
「まあね」
「コラー!」
里沙に怒られながらも、本当は二人とも気付いていた。
この街の人間が、この舞台で、美貴に席を譲らないはずがないと。
だって、この街の人間はみな美貴とエリを大切に思っていたのだから。
- 233 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:18
-
- 234 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:18
- 舞台の幕が開く。
色々な芸、歌、踊り。
みな食い入るように見つめつつも、心の底ではある一人を待っていた。
前回も場をどよめかせた『戦慄のローレライ』の歌が終わり、さゆみがマイクを手に話し始める。
「さて、次は私の大親友、当一座自慢の踊り子…亀井絵里の登場です!」
その言葉に、会場が一気に沸き立つ。
ひときわ大きな拍手に迎えられ、現われたエリ。
フリルが沢山の白いワンピースを身にまとい、大きなリボンを頭につけたその姿。
その姿を見て、美貴の動きが止まった。
- 235 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:18
- (あれ、この、衣装…)
音楽が流れ始め、エリが舞う。
軽やかに踊る姿に、少し不釣り合いにも感じるひらひらとした衣装。
他の団員の、明らかなステージ衣装とは少し違う、ちょっとしたおしゃれといった感じの洋服。
そして、それは美貴にとっては非常に見覚えのあるもので。
(あの服…美貴が、買ってあげた…)
エリが、薬売りについていく時によく着ていた洋服。
それに気付いて、美貴はなんだか嬉しくて、泣きそうで。
同じく気付いた里沙は、そんな美貴の様子に気付かないフリをしていた。
- 236 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:18
- 舞が終わり、大きな拍手が起こる。
エリがお辞儀をすると、今度はさゆみが舞台袖から現われた。
「ここで、当一座からお知らせがあります」
神妙な面持ちで話すさゆみ。
先ほどまでの客席がうそのように静まり返る会場。
そして、またさゆみが口を開く。
「只今御覧いただきました当一座の踊り子、亀井絵里ですが…本日が最後の公演となります」
さらにざわめく会場。
美貴と里沙も、いきなりの流れに頭がついていかない。
「絵里は、しばらくの間この街にお世話になり、この街を大切に思っていました。
だから、終わるときもここで終わりたい。そう、言っていました」
さゆみの言葉を、皆がじっと聞く。
美貴も、里沙も、この先のさゆみの言葉が予測できなかった。
- 237 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:19
- 「絵里はずっと言っていました。この街で大事なものを手に入れたと。
…大事な人を、手にいれたと。
そしてずっと、その人の思い出とともに舞ってきました」
その言葉に、美貴ははっとなる。
もしかして、エリはずっと…
「そして今日、絵里はその大切な人のもとへ帰ります…行って来るの、絵里!」
さゆみが叫び、顔を上げたエリと、美貴の目があった瞬間だった。
エリが、駆け出す。
客席に向かって、まっすぐに。
そして。
- 238 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:19
-
「美貴さまあっ!!」
- 239 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:19
- ステージから、美貴に向かって思いっきりジャンプした。
「受け止めるの!藤本さん!」
「うわ、ちょっと、わあっ!!」
いきなりのことに頭がついていかなくなった美貴。
しかし、思わず伸ばしたその腕の中に。
ダイブするように、エリが飛び込んできた。
…まあ、勢い余って美貴と共に転んだのはご愛嬌。
「いったぁ…」
「うへへ、美貴さまぁ」
「…何さ」
「ただいまぁ!」
「…おかえり」
ふてくされながら呟く美貴と、相変わらず気の抜けた笑顔でいるエリ。
その二人の姿を見て、さらに拍手が巻き起こる。
- 240 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:19
- 「…一座はどうしたの」
「ちゃんと、お話してきました」
「あのさゆみってのは」
「いっぱい怒られたけど、許してもらいました」
「後悔しない?」
「しません。エリは美貴さまがいないとダメみたいで…それに」
「それに?」
「美貴さまも、エリがいないとダメでしょ?」
「…こいつは」
ふにゃりと笑うエリに、美貴は何も言えなくなってくる。
(ああそうだよ、確かに美貴はエリがいないとダメなんだ)
悔しいから言ってやるつもりもない言葉を飲み込み、美貴はエリを抱き締めた。
- 241 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:20
-
- 242 名前:9.ゆめのつづき 投稿日:2007/07/30(月) 22:20
-
- 243 名前:それから 投稿日:2007/07/30(月) 22:20
- 目を覚ますと、隣で眠っていたはずの美貴さまはいなくなっていました。
相変わらず、毎朝絵里を置いて薬草を取りに行ってしまいます。
たまには絵里にも手伝わせて欲しいものです。
もぞもぞと起き上がって、キッチンに向かいます。
卵と野菜を用意して朝食の準備。
絵里が料理苦手なのはもともとだったみたいですが、最近はちょっとうまくなったかな?
ちょっとだけ焦げたハムエッグと、ちょっとだけ歪な切り口のきゅうりが入った
サラダを並べ終わると、ちょうど美貴さまが帰ってきました。
「お、今日はちゃんと食べられそうだね」
「今日も、です!」
そんな、些細なやりとりがたまらなく幸せに感じます。
絵里は、美貴さまとこうして過ごすのが幸せで。
それは、人間でも生き人形でも変わらなくて。
だから…
- 244 名前:それから 投稿日:2007/07/30(月) 22:21
- 「ねぇ、美貴さま」
「何?」
「美貴さまは、幸せ?」
「何さ、いきなり…」
「知りたいんです、絵里」
「…幸せ、だよ。あーもうわざわざ言わせないでよ恥ずかしいことをさ…」
「うへへへぇ、絵里も、幸せです」
そう言って笑ったら、美貴さまも真っ赤な顔で笑ってくれました。
きっと、こんな緩やかな幸せが、続いていくのでしょう。
この、静かな森の奥で…
- 245 名前:それから 投稿日:2007/07/30(月) 22:21
-
- 246 名前:それから 投稿日:2007/07/30(月) 22:21
-
- 247 名前:それから 投稿日:2007/07/30(月) 22:21
-
おわり。
- 248 名前:あすか 投稿日:2007/07/30(月) 22:23
- レス返し。
>>226 名無飼育さん
ガキさんはいいひと。
世話焼きなイメージが勝手にあります。
>>227 名無飼育さん
期待していただけたものになっているでしょうか…
これにて、Dream Forest終了です。
短い話ですが、お付き合い頂きありがとうございました。
- 249 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/07/30(月) 22:51
- 読んでて涙が溢れました
心がすごいぽかぽかしてます
素敵な作品をありがとうございます
- 250 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/07/30(月) 22:51
- 読んでて涙が溢れました
心がすごいぽかぽかしてます
素敵な作品をありがとう
- 251 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/07/30(月) 22:52
- コメント重複しちゃいましたすいませんorz
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/31(火) 00:14
- はあ……。よかったあ。
すごく楽しかったです。
ありがとうございました。
- 253 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/31(火) 00:55
- あ〜ぁ終わっちゃた、楽しませて頂きました作者さんアリガト。
エリと美貴様、ガキさんもアリガトね。
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/31(火) 01:19
- いい話をありがとう。
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/31(火) 13:10
- うまく言えませんが素晴らしい作品でした。
どうもありがとうございました。
- 256 名前:名無飼育さ 投稿日:2007/08/01(水) 20:30
- 毎回更新楽しみにしてました
感動で締めくくられてもう更新ないのかと思うと切ないです
素敵な物語をありがとうございました
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/03(金) 05:16
- あまり読み返すことは無いんですが大好きな話とキャラだったので最初から読み返しました。
お疲れさまです、完結ありがとうございました。
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/09(日) 00:34
- 亀ちゃんがとても可愛かったです。
御互いが御互いを思いやることは
とても大事で、
そして自分の幸せも考えなくちゃいけない。
大変な時期に完結された作者さん、ありがとう。
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