dogsV
- 1 名前:拓 投稿日:2007/05/27(日) 01:01
- 水板でT.Uでグダグダな長文を続けて来た分の続編です。
今回こちらの板に引越して来ました。
突っ込み所満載な駄文ですが、暇つぶしにでもご覧下さい。
- 2 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:04
- その後、しばらく2人で、ここでの思い出話等をしていたら、ひとみがぐったりして帰って来た
「どうしたの、ひとみちゃん」
「ん・・・・なんか・・・・美貴が厳しくって・・・・ちょっと疲れた」
すると後から入って来た藤本が言う
「昨日調子に乗ってたから、少しお灸を饐えてやりましたよ、矢口さん」
「あ・・・ああ、そうだな、調子に乗らせると結構やばいからな」
矢口が藤本の迫力にたじろいでいた
梨華が体拭いておいでよと促すと、お先にとひとみが入って行った
「どしたんだ?藤本」
矢口が不思議そうに聞く
「いや・・・・・なんか・・・・腹たって」
どかっと椅子に座ってぶすくれている
その後矢口がどんなに話し掛けても、藤本の機嫌が良くなる事はなかった
ひとみが出て来て、藤本がずかずかと入っていく
「何あいつ、何か機嫌悪くない?」
ひとみもドカッと椅子に座ると梨華に聞く
梨華は自分のせいだよと心で呟くが、さあ、何でだろと言っておいた
そのひとみも何故か機嫌が悪く、梨華と矢口は顔を見合わせて首を捻るしかなかった
- 3 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:06
- そして夜になると、昼間布団を干しなおして掃除したベッドに、
藤本は梨華と共に入るから覗かないでねと釘をさして部屋へと入って行った
驚く矢口は想像しないように、ひとみの部屋に入る
先に部屋に入ったひとみが、床に寝ようとしていた
「何でそんなとこで寝るんだよ、おいらちっこいんだから、ここで二人で寝ても大丈夫だろ」
「・・・・・・・・・ここでいい」
ひとみは内心「できるかよ」と突っ込み、毛布に包まる
「ったく、そんなに嫌かよ、解ったよ、おいらがそっちで寝るから、お前自分のベッドで寝ろよ」
矢口がひとみの毛布を取り上げて丸まった
2人きりで同じ部屋で寝るのはYの国で寝て以来無いのでお互い少し緊張していた
しかし今のひとみは、何でどいつもこいつも会いに来るんだよともやもやの方が大きい
とにかく過去のいい加減な自分を矢口に知られたくなかった
そして、きっと藤本はそんな自分に腹を立てていたという事も薄々解ってる
だけど、矢口はそんな自分に腹も立ててくれない・・・・それ程どうでもいい存在なのだろうか
軽々しく一緒のベッドで寝ようという程・・・・・
こんな事なら、紺野の方について行けばよかったと悔やむひとみだった
そんな思いから、はぁ〜とひとみが無意識のため息をついた
- 4 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:08
-
「どうした?」
ゴソッと矢口が動いて聞いて来る
まさかため息が出ていたとは思わないひとみが動揺する
「な・・・何が?」
「でっかいため息ついて・・・・」
「ため息・・・・」
ひとみが無意識だったと解った矢口は、ベッドの上の見えない山に優しく言う
「今日、色んな友達と会って懐かしくなったのか?」
「ぜんぜん」
ひとみは即答する
「何でそんな即答すんだよ、友達に会うのは嬉しい事じゃん・・・・・」
「・・・・・・・・」
「下では言いにくかったのかもしれないけど・・・・もし・・・ここに残りたかったら」
「そんな訳ね〜じゃんっ」
矢口の言いたい事を察してガバッと起き上がる
「・・・・だけど」
驚いた矢口が暗闇の中のひとみを見て言いかけると
「そんな事言うなよっ」
怒って再び布団を被って影が横たわった
- 5 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:10
-
「・・・・ごめん」
矢口は謝ってもう何も言う事は出来なかった
しばらくして
「・・・・・ウチこそ・・・・ごめん」
そう言ってひとみは頭から布団を被った
ムシャクシャとした気分でひとみは眠る事が出来ない
大分時間が立ったが、寝付けずにひとみは布団から顔を出す
こそっと矢口を伺うと、スースーと寝息が聞こえていた
ふうっと小さく息を吐き、両手を頭の下に置いて天井を見上げた
静かに天井のしみを見つめていると
コツ
と、昔良く聞いていた音が聞こえる
コツ
小石が窓にぶつかる合図、ひとみは静かに起き上がる
矢口が起きないように、慎重に、ゆっくりと動きそっとドアから出て閉める
矢口もそれからゆっくり目を開けて、どうしようかと悩むとムクッと起き上がる
また稽古でもするんだろうかと後を追った
疲れからしっかり寝ていた矢口が、ひとみが部屋を出た事を気づいたのはドアが閉まった頃で、
窓にぶつかる石の音は気づいていなかった
- 6 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:12
- ひとみは下へと降り、ドアを開けると外に出た
「会いたかったよ、ひとみ」
壁に押し付けられて顔の横に手を置かれ男が顔を近づけて来た
昔良く遊んでいた男の一人・・・・
「ごめん・・・・もうそういうのなし」
男の口を手で塞いで体を押す
「どうした、特殊部隊に追われて姿を消したって聞いてたから心配してたのに」
会いたかったんだぜと切なげに聞いてくる
「まあ、そうだけど・・・・無事だし、心配かけて悪かったよ、
でももう安心しただろ、また明日からいなくなるけど、心配しなくていいから」
「今日、馬に乗ってたろ、梨華と、見たことない女と・・・・・、
それ見て驚いたけど・・・何やってんだ?」
この町でも馬に乗っているのはよほどの金持ちか兵隊、王族・貴族の関係者位だ
「関係ないよ・・・・」
ひとみの頬をから髪を手で梳きながら、男が体を寄せてくる
「なぁ・・・・お前が忘れられなくてさ・・・・毎日」
「悪いけど、好きな人できたから、相手出来ない」
男の動きが止まる
「好きな人?お前が?」
至近距離で驚きの表情をしていた
- 7 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:14
-
「そんな驚く事かよ、ウチだって本気になる事あるんだよ」
「本気・・・」
腰に回した手を離す
「だからもう会う事もないし、ウチの事は忘れてよ、他にもいるんだろ、楽しむ人が」
「・・・・ああ、でも悔しいな、お前にそんな事言わせる奴がいるなんて」
「自分でも驚いてるよ・・・・こんなにつらいなんて」
男が手をついたままひとみの顔を眺めた
「ふっ、片想いか・・・らしくないな・・・・でもお前に落ちない奴ってどんな奴だろうな、今度紹介してくれよ」
「やだよ、お前に紹介しても何もいい事はないからね」
フッと笑いあう2人
男は手を戻して離れた
「解ったよ・・・じゃあ、何やってるか知らないけど、元気でやれよ」
ここは暮らしにくいんで、俺もそろそろ移住しようと考えてるからな・・・
と男はニヒルに笑いながら背を向け去っていった
「じゃあな」
再びそっとドアを開けてから閉めると鍵を閉め、忍び足で上へと上がる
部屋のドアを開けると再びゆっくりとドアを閉めてベッドに横たわった
一度矢口が丸まっている所を見て小さくため息をつく
そして布団を被ってひとみは目を瞑った
- 8 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:16
- 再び二人の部屋の中で、矢口は胸の高鳴りが押さえられなかった
ひとみと知らない男の大人の会話に胸がドキドキしていたのだ
ドアへと近づくと、布を張っただけの窓から声が漏れてきて、会話が聞こえて来た
昼間も尋ねてきた男女が、ひとみとそういう関係だということは薄々感じてはいたのだが
実際の会話を聞くと、ひとみがえらく大人に感じてしまう
ひとみが本気で好きな人・・・・・もしかして鷹男?
そう考えた時、チクリと胸が痛む
それともまだ自分の事を・・・・・
だけど、怪我して返って来た時頃から、
ひとみはなんとなく自分を避けている気がする
2人きりになるのを嫌がっている気もするし、
今日だってずっと前のYの国でだって、決して一緒のベッドに寝る事はしようとしない
あの頃、自分が真希を好きだという事を知っていた・・・・・・・・
だから、他の・・・・鷹男の事を好きになったのかもしれない
だから鷹男は自分にひとみを好きだと言い、ひとみを傷つけているのは自分だと言ったのかもしれない
ただでさえ自分はひとみを連れ回して危険な目に合わせていたから・・・・・・
でも・・・・それでもひとみはついてくると言う
どうすればいい・・・・・どうすれば彼女を幸せにしてあげられるのだろう
ただ、自分はひとみがいないと寂しいけど・・・・
ギュッと毛布を掴み、眠れない夜を過ごした
- 9 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:16
-
- 10 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:18
- 同じ頃、互いに燃えあった後、梨華は藤本の胸に頭を置いて抱き締めていた
「今・・・・出てったみたいだね、よっちゃん」
「うん・・・・・昔もああやって誰かに呼び出されて・・・・朝まで帰ってこなかった」
「そんなにモテてたの?」
「うん・・・・すごく」
「そっか・・・・綺麗だもんね、よっちゃん」
「うん・・・・」
梨華の頭を撫でて、藤本が優しく言う
「じゃあ、その度に梨華ちゃんはせつない思いをしてたんだ」
「・・・・・・・うん」
きゅっとしがみつく梨華の顎を持ち上げて藤本が唇を寄せる
「妬けちゃうな・・・その頃のよっちゃんに」
「もうっ」
寄せられた唇にそういいながらも答える梨華
体勢を変えながら藤本が梨華の顔中に唇をふらす
「でも何で矢口さん、妬かないんだろ」
昼間の様子を見てると強がってる風にも見えなかったんだよね・・・と藤本
- 11 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:20
- 「う〜ん、矢口さんってずっと真希ちゃんだけを見て今まで来たんでしょ、
だから・・・・その人以外にいざ目を向けようとしても
なかなか気持がついていかないんじゃないかなぁ」
そっか・・・・自分も王族付きでそうだったような気が・・・・
と、首筋に唇をおとして梨華と手をからめる
「でも小難しく考えないで、こうやって抱き締めちゃえば簡単なのに」
「ん・・・美貴ちゃんだって・・・最初は逃げてたでしょ・・・私に触るの」
梨華の胸の頂きを咥え、舌で弄ぶ
「・・・・・そうだね・・・・やっぱ最初は怖かったっけ」
決められた運命以外で自分の気持ちさらけ出すのって結構勇気いったかなぁと梨華の胸に顔をうずめる
「あん・・そうだよ・・・私からだったもん・・・・結局・・・ん・・・・
あ・・・・美貴ちゃん・・って・・・案外意気地なしで・・・ああ」
「好きでも・・・・何も出来ないもんだよ・・・・特に好きすぎると」
梨華を見上げ、再び梨華の唇に自分の唇を寄せる藤本
- 12 名前:dogsV 投稿日:2007/05/27(日) 01:21
-
ひとしきりキスを楽しんで唇を離すと
「よっちゃんは今そんな感じなのかなぁ・・・でも・・・・やっぱ手に入る迄はつらかったっけ・・・」
おでこをくっつけて、藤本が目を瞑る
「私だって勇気いったんだよ・・・・特に・・・・経験だってないし・・・・・」
「うん・・・・ありがと・・・・梨華ちゃんのおかげ」
再び目を開けてチュッとキスする
「ふふ、またしばらくこんな事出来ないだろうから・・・・一杯愛してよ」
「へへ、知らないよ、そんな事言ってまた隈出来ても」
「さっき2人に宣言してるし、平気だもんっ」
「言ったなぁ〜」
隣の部屋とは違い、思い切り夜を満喫する2人だった
- 13 名前:拓 投稿日:2007/05/27(日) 01:37
- いきなりですが、前スレのレス返しを・・・
998:名無飼育さん
暖かい応援の言葉ありがとうございます。
存分に書きまくらせてもらいます。
確かに色んな国に行って欲しいのですが、幾分ネタが・・・
甘えさせてもらえるような錯覚に陥りそうな暖かい言葉ありがとうございました。
999:名無飼育さん
とても優しい言葉に感謝です。
こんなグダグダな文な上にゆっくり待っていただけるなんて
本当にありがとうございます。
1000:977さん
楽しんでくれていたり、面白いという嬉しいお言葉に
恐縮過ぎてどうすればいいのか解りません
お言葉に甘えてマイペースに続けさせて頂きます。
本当に皆様の暖かいレスに、今後の見通しもなく次スレをあげてしまいました。
今日更新した分迄、本当は昨日更新したかったのですが、前スレを更新しながら残量が
残っていない事に今更気づいた馬鹿者です。(このスレにて終了を狙いますが、入らない時はごめんなさい)
今後共ゆる〜くお付き合い頂ければと思います。m(_ _)m
- 14 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/05/27(日) 10:57
- 新スレが思いの外早く立ってうれしいです。
この微妙な関係なまま長く引っ張られたとしても余裕でついていきますので、作者さんの思うままに展開していって下さい。
- 15 名前:前スレ977 投稿日:2007/05/28(月) 00:47
- 更新お疲れ様です。個人的にはこのスレでおさまらなくて全然オッケーですw
矢口さん可愛いけどしっかりしてぇ!
- 16 名前:拓 投稿日:2007/05/31(木) 21:16
- 14:名無し飼育さん
あわわっ、引っ張り過ぎすか?
確かに・・・・読んでる人はコマ切れに少しずつ進むから
余計イライラするのかも・・・スミマセン
しかし・・・・・まだまだ引っ張ると思いますm(_ _)m
空気読まず、お言葉に甘えて思うままに続けさせて頂きます。
暖かいレスありがとうございました。
15:前スレ977さん
最近、なんとなくリアル・アンリアル共にそう叫びたくなる今日この頃ですねw
遠慮なくノーカットでグタグダいかせて頂きます。
前スレからハルバルありがとうございました。
あ、それと、少し前から藤本さんが吉澤さんを呼ぶ時の呼び名を、"よしこ"から
"よっちゃん"に変更しました。(言う迄もない?)
基本的に、リアルをあんまり出したくなかったのですが、なんだか違和感があって・・・
このスレの1の文も変だし、更新する時はいつも反省ばかりです。すみませんでした。
- 17 名前:dogsV 投稿日:2007/05/31(木) 21:19
-
翌朝、寝不足の2人と、朝方やっと眠れた矢口は眠たそうに起きる
梨華が藤本と仲良く朝食の準備をする間に、
矢口はひとみと洗濯物を取り込む
再びリュックに詰め込み、朝食を食べ終わるとそれぞれ出発の準備をした
ひとみは早々に準備が終わって馬のいる場所に向かう
裏に繋がれた馬に行くと、矢口が野菜や草を与えて、
今日もよろしくと首を撫でていた
いつもの風景
ひとみはその姿が好きだった
馬にまで愛情を注ぐ矢口・・・その延長線上にしかない自分の存在
心が弱くなった時には、きちんと気持を伝える
蒔絵は、今のこんな自分の姿が見えていたのだろうか
真希が紺野と幸せになったのだから、
自分は何度でも矢口に言葉を伝えてもいいのだろうか
あの海岸で真っ直ぐに自分の気持を伝えた時に感じた爽快感を、
何度でも伝える事は矢口にとって重荷ではないのだろうか
そんな事を考えていたら、振り向いた矢口の視線に捕まった事に気づかなかった
視線を合わせた途端、矢口が慌てて口を開く
「あ、もう準備出来たのか?」
一瞬見せる困った表情が、ひとみをさらに臆病にさせる
- 18 名前:dogsV 投稿日:2007/05/31(木) 21:21
- 「ん?あ・・・ああ、今梨華ちゃんと美貴が洋服の事で揉めてるから、ちょっと待っててって」
「洋服?」
首を捻ってひとみを見る矢口がやけにかわいくて、思わず笑みになる
「ああ、スカートを一着持って行きたいっていう梨華ちゃんと、
絶対ダメっていう美貴・・・・ばかみたいだろ」
矢口も笑う
「いいなぁ・・・・なんか・・・楽しくて、じゃあ、もう少し中で待つか、
どうせ最後はラブラブになってぐずぐずすんだから」
中に入ってテーブルに二人でつく
しばらく何も話せずに、静かな時が流れた
自分の気持が解らない矢口
自分の気持をどう伝えたらいいのか悩むひとみ
口を開くと、まずい状況になりそうで、互いに沈黙を守った
だが
「そういや、お前の腕・・・跡残っちまったのか?」
矢口が突然聞いて来る
「・・・・・あ、ああ、ここで撃たれた奴ね、うん、少し残ったかな」
あきらかに動揺してひとみが答える
「・・・・・そっか・・・・もう傷つけないようにしないとな」
折角綺麗な肌してるのに・・・・と申し訳なさそうに矢口は呟いた
- 19 名前:dogsV 投稿日:2007/05/31(木) 21:22
-
「矢口さんもだろ、それ言うなら」
片肘をついて顎を乗せると、台所の方に視線をやってひとみも呟いた
ただひとみにとっては、照れくさくてしてしまった仕草なのだが
その姿がやけに決まってて、矢口は思わず言う
「綺麗だな」
「は?」
眉間に皺を寄せて矢口を見ると、矢口は笑って立ち上がった
そしてリュックをからって台所へとゆっくり歩き出す
「お前は綺麗だよ、すごく」
ひとみの顔を見ずにそう呟いてから台所へ行って、階段の下から上へ向って叫ぶ
「お〜いっ、そろそろ行こうよっ、日が暮れちまうっ」
「「・・・・・・・は〜い」」
少し間を置いて二人の返事が返って来る
やっぱりいちゃついてやがったなと言いながら裏口へと向って行った
- 20 名前:dogsV 投稿日:2007/05/31(木) 21:23
- 下に降りて来た二人
「あれ、何赤くなってんの?」
「・・・・別に」
美貴の突っ込みにひとみはそっけなく言うと、荷物をからって自分も歩き出す
馬に乗って懐かしい家を後にする
いや、ひとみと梨華にとって本当に今日が最後
一度二人は家を振り返るが、お互い笑って頷くと、馬を歩かせる
もう二人の人生が、矢口達との出会いによって変わり、
それを受け止めて新たな生き方へと歩き出すようにと・・・・
- 21 名前:拓 投稿日:2007/05/31(木) 21:24
- 今日はちょっこすです
- 22 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/06/02(土) 18:48
- いえいえ、どんどん引っ張っちゃって下さいな。
主役二人が簡単にラブラブになったらお話が終わってしまいそうなので困ります。
もどかしい関係が大好きです。
- 23 名前:拓 投稿日:2007/06/03(日) 00:10
- 22:名無し飼育さん
もどかしくていいっすか、それに長くていいってことですよね?
暖かくて安心しました。
レスありがとうございます。
- 24 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:13
-
人々の視線を集めながら進んでいると、家の中からじっと見ている視線を感じた
散々見られている視線とは種類の違う・・・・・
何か熱を感じる視線に一同は気になって仕方が無い
パッと見ただけでも、とても綺麗な女性だというのが解る
矢口はその人を捉え、その視線の先へと目を移すと、ひとみもその窓を見ていた
そのまま通り過ぎた後少しして、ひとみが立ち止まる
「どしたの?よっちゃん」
藤本が止まったひとみに声をかけると、俯いたまましばらく考えて
「ごめん、先に行ってて」
真剣な顔でそう言った
三人は顔を見合わせて、矢口が言う
「ゆっくり進んでるから、慌てないでいいよ」
と、馬を歩かせた
2人も顔を見合わせたが、矢口の後をついていく
ひとみの馬が走り出す音が響く
三人が歩かせながら振り返ると、さっきの窓の家にひとみが近づいてドアが開けられ
馬から降りたひとみが中に入って行った
- 25 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:14
-
「梨華ちゃん・・・・知ってる人?」
藤本が聞くとすぐに梨華は首を振る
「・・・・・ううん」
「ほら、行くぞ」
矢口が促す
二人は馬を歩かせる矢口について行き、矢口の表情を伺う
迷い
窓から見ていた彼女は誰なんだろうという思いより、
ひとみへの自分の気持に戸惑っている・・・・二人はそう感じた
矢口は、完全にひとみが見えなくなる
前にこんな自分を好きだと言ってくれて、今でも毎日ひたむきなまでに努力し続けるひとみ
なのに鷹男やさゆみに、せつない表情をさせて口付けしているひとみ
すぐムキになって突っかかってくるけど・・・なぜか温かい気持になる事
時々見せる、人を惹きつける表情と、冷たい表情
きっと誰に聞いても綺麗という言葉しか出てこない憂いのある表情の時の横顔
今また知らない誰かと、真剣に何かを話しているだろうひとみ
どれが本当のひとみで、自分は一体ひとみの何を知っているのだろうか
そして、今・・・・ひとみは自分をどう思っているのだろうか
矢口は無意識の中で胸の辺りの洋服をギュッと掴んでいた
- 26 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:16
- 梨華と藤本は顔を見合わせる
「矢口さん?」
藤本が声をかけた
「ん?」
ハッとした感じで、手を手綱に戻すといつもの笑顔で振り返る
「少し待ちましょうか、どこか目立たない場所ででも」
「いや・・・・いいだろ、きっと走って追いかけてくるよ」
そうして、しばらく三人は、無言で歩く
すると遠くから馬の駆けて来る音が聞こえて来る
三人が振り返ると・・・・神妙な顔をしたひとみが走ってくる
「ごめん、あ・・・あの・・・・ずっとお世話になってた人だったから、ちゃんとお別れが言いたくて」
ひとみが矢口に視線をやって、伺うような表情で言う
「うん・・・もういいのか?」
優しく矢口が聞く
「うん、もう済んだよ」
ひとみが言うと、何も言わずに頷いて、少し早めに馬の足を進ませた
梨華が何か聞きたそうな表情をしていたので、避けるような仕草でひとみが少し距離を置く
ようやく町を抜けて、枯れた木の中を駆け抜ける
- 27 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:17
- しかし、夕方まで進み続けると、少し緑が増え、町が見えて来る
町に近づくと、藤本が気づく
「やっぱおかしい、前はこんなに枯れた場所が多くなかった」
冬が近いとかそんなんじゃない感じですよねと心配そう
「そっか・・・・やっぱ干ばつが進んでるんだな」
町に入り、馬に乗った四人が目立っている為注目を浴びる
暗くなった町の中を歩いていると、向こう側から兵隊らしき馬が走って来る
「いよいよ、登場かな」
藤本が言うと、矢口も気をつけろよと言う
「お前たち、何者だ」
そう言って、銃を構え出した
「怪しいもんじゃありませんよ」
「怪しいに決まってる、馬に乗ってどこから来た」
藤本がそれに答える
「隣町からだけど・・・・その紋章は、畑山派の隊長さんですね」
三人いた兵達が顔を見合わせる
「何だと?」
生意気な野郎だなという視線
- 28 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:20
- 「私、元、桜花部隊、司令官だった藤本美貴だから」
結構詳しいんですと笑う
三人の表情が驚愕の表情になる
「お・・・桜花部隊・・・・ふ・・じもと」
藤本の話では、王族の下に二派の勢力があり、貴族側にも二派勢力があるという
それぞれの派閥の下にも何個かグループがあり、
親父達が日々狸の化かしあいを繰り返しているらしい
畑山派というのは貴族側の派閥で、この町は畑山派の管轄に置かれている
ちなみにひとみ達の町も、畑山派で貴族側になるという
そして桜花部隊というのは、それらのどこにも属さない王族と貴族の中間に位置し、それらの派閥の調整をする部隊
最初聞いた時には、ひとみ達でさえその存在を知る事はなく、
しかも複雑な組織や派閥の話に全然解らないと藤本に泣きついた
基本的に王族が一番偉いのだが、
それは貴族のおかげで成り立っているのだ・・・というのがこの国の王都の内部事情らしい
納める町の繁栄が、王都の中での勢力にもなるらしく、
それはそれで国が栄えた要因となりうまく成り立っていたのだろう
藤本は王族付きで猫族であり、部隊に付く事もなく、派閥も作れる立場にいたらしいのだが
性に合わないと、どこの派閥にも属さない桜花部隊への配属を希望して、そこの上の方の位にいたという
しかし、仕事ぶりは問題ないのだが、王子とのあまりの仲の良さに
貴族側が馴れ合いを懸念して、あのはずれの町へと飛ばしたそうだ
あの町は、王族側の松山派という弱小派閥の為、あまり国政に権力もなく、
影響もないような小さな町だから・・・という理由と、
単に王都から離れているからちょうどいいというのもある
つまり、藤本は貴族側の陰謀により、左遷されたようなものだと自分で言っていた
あまりの王都の中の面倒くささに、喜んで左遷されたのが本音のようだった・・・
- 29 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:22
- とりあえずひとみには桜花部隊というのは
国中の兵隊の憧れの的のような部隊であると威張っていた
名乗った藤本に対しての反応は、三人の兵隊がひそひそと話し合いをした後、
ついて来なさい、と言ってその町の中心地へと連れて行かれるだけで今はよく解らない
梨華が兵の心情を読み取ると、不安と戸惑いしか無かった
この街も、商業が発達して、暮らしている人も多いし、
まだ水がそれほど不足しているという状態でもないようだが、貴重にはなっている雰囲気
とにかく、Yの国のように軍隊が主力ではなく、
あくまでも経済力がこの国での力のバロメーターになっている事に
矢口や中澤、安倍や若林も、面白いと言い、その辺の話しを聞きたがった
しかし、そこで弱点になるのが軍事力の弱さ、そこをMの国につけ込まれようとしているようだ
噂では王がその対応に疲れ、倒れてしまったという
王都の近くになり、兵隊に捕まるかもと言っていたが、
藤本がそこをなんとかして王都に進めるようにしますと言っていた
その言葉通り、藤本は見事なまでの変貌を見せる事になる
屋敷の割りに、兵の数の少ない城に連れて行かれると、
現在の責任者を呼んでくるので待っていてと広間で数人の兵に見張られながら待っていた
本当の司令官は王都に行って不在との事なので、
今頃どう藤本に対応しようかあたふたしているのだろうと思いながら四人は待っている
そこへ
「これはこれは噂に名高い藤本様、本日はどのような用件でこちらにいらしたので?」
責任者と言われた男が、へこへことした態度でお供を連れて入ってくる
- 30 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:24
- 「この町にではありません、王都に向かう為に町の様子を見ながら進んでいるだけですが、
いきなりこの兵達に無礼な質問をされたものですから」
「それは申し訳ありせん・・・・・・あの・・・それで王都には・・・・・・またどうして」
「それはここでは申し上げられませんが、しかし何もしていないのにこのような扱い、
さあ、どう説明していただけるのですか?」
毅然とした態度で圧倒する
「そっ、それはっ、こらっ、お前たち、なんて失礼な事をっ、すぐに無礼を謝りなさいっ」
一斉に兵達が申し訳ありませんと頭を下げる
ニヤリと笑いながら藤本は続ける
「いえ、こちらこそいつまでも昔の肩書きを持ち出してしまいまして申し訳ありません、
それに怪しい人にはとりあえず声をかけるのは基本、あなた達のした事は
正しいと思いますので、もう謝らないで下さい。こちらこそ申し訳ありませんでした」
一転穏やかな表情で責任者を見て微笑む
それを見てホッとした表情をして男が言い出す
「それで藤本様は今何を?」
「まぁ・・・・ご存知のように桜花部隊も街の司令官も退任しましたが、
私がJの国を愛しているのは変わりありませんから、色々と考える所がありまして」
「それはそれは・・・・今もわが国の為にご尽力していただいているのですね?」
「そうですね、私に出来る事をと、今考えております」
- 31 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:27
- 「素晴らしい心構えでいらっしゃる、あの、今この街の兵の多くは王都に行ってしまってますので
大したおもてなしも出来ませんが、
どうでしょう、本日はここにお泊り頂いて、明日、我々が王都にお送り致しましょうか?」
「いえ、そのような事をしていただいては申し訳ありませんので、
私どもはどこかに泊めていただけるような所を教えて頂ければ」
「いえいえ、皆様女性の方だし、何かありましたら大変です。
部屋も今準備させていますのでどうか本日はお泊り下さい」
藤本はちらりと梨華を見てから、微笑む梨華に頷き
「それでは、お言葉に甘えて・・・・・ご好意感謝致します」
「じきに食事の準備が整いましたら呼びにいきますので、部屋に案内致します、おいっ、あの部屋にお連れしろ」
ハッと兵達が動き出す
それを見て頷くと、にこやかに兵を連れて去っていく責任者
部屋に通されてから兵が全員出ていくと、藤本が三人を近くに寄せて言う
「あくまでも今日迄です、明日には待遇が変わりますから、
多分今頃王都の畑山に報告が向かってるでしょう」
「そうだろうな」
矢口も同じ考えのようだ
「いんじゃね〜の、元々こんな扱いされるウチらじゃね〜し」
ひとみがソファにドカッともたれかかる
「どうだ?石川的にあの責任者のオッサンの腹は」
「はい、全く信用出来ませんでした。なんか馬鹿にしてる感じだし、
どうやって報告しようか・・・・とか、なんだか迷惑そうに考えてました」
今頃何か企んでます・・・・とご立腹
「「だろうな」」
矢口と藤本の声がダブる
- 32 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:29
- 「それよりひとみちゃん・・・・あの女の人は誰?」
梨華がひとみの隣に座って体を寄せて真剣に聞いている
ウザッたそうな表情のひとみがそれ聞くなよという顔をして履き捨てる
「え?・・・言ったよね、ずっとお世話になってた人」
「お世話って?」
梨華はしつこく聞こうとしている
あの様子を見た矢口が、やけに小さく見えた為に聞かないといけないと思ったらしい
「何?梨華ちゃんに言わないといけない?」
「・・・・だって・・・・・気になる」
ひとみに強い視線で睨まれて言われた為、梨華は萎縮するように胸の前に手を置いて俯く
藤本と矢口もそれを見ていたが、特に何も言わなかった
少し泣きそうになっている梨華に、ひとみは息を吐き低い声で言う
「あの人の旦那さんが、暴力を振るっててよく相談を受けてたの・・・・・
最初はウチがまだ子供の時に同じ洋服ばっかり着てたから
それをあの人が気の毒に思って時々洋服を作ってくれてたのが最初なんだけど・・・・
だから・・・・ウチが旅に出てからのこととか様子聞いたり、それからもう会えなくなるって
ちゃんと言って来た・・・・それだけだよ」
「そう・・・・・そんな人がいるなんて、ひとみちゃん全然言ってくれなかったじゃない」
「・・・・・・どうして言わないといけないの?
あの人旦那さんに殴られてかわいそうなんだって梨華ちゃんに言えば良かった?」
少し苛立たしげにひとみが言う
- 33 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:31
- 「そんなんじゃない・・・・だけど・・・・ひとみちゃんは
本当に今まで私に何も言ってくれてなかったんだなぁってちょっと寂しかったの」
「・・・・・・・ごめん」
気まずい空気が流れる中、矢口が心配そうに聞いた
「それで、その人今どうしてたんだ?」
矢口が聞いて来た事に少し動揺したが静かに答えた
「うん・・・旦那さん女の人と街を出てったみたい・・・・だからもう暴力は受けてなかった」
「生活は?」
「元々あの人の洋服を作って売った収入で暮らしてるようなものだったから・・・・」
ぼそぼそと言うひとみに、
「それじゃ心配ないのかな・・・・・あの人綺麗な人だったし、支えてくれる人が・・・・出来る・・・のかな」
言いかけて困ったような笑顔で言う
「・・・・・うん、大丈夫だよきっと」
少し寂しそうなひとみの顔が、過去に何があったかを想像させる
だから矢口は、怒られると知りながら意を決して言う
「戻っても・・・・いんだぞ」
ひとみがハッと顔をあげる
何も言わずに矢口を睨み、口を結んだ
- 34 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:32
- 「お前にとって大事な人なら、その人についててやるのは悪い事じゃないだろ」
「矢口さん」
藤本が止めようとして名前を呼ぶと、ひとみは悔しそうに立ち上がり部屋から出ようとした
「よっちゃんっ、ダメだよ出てっちゃ」
「少し夜風にあたりたい・・・・今日の訓練もまだだし・・・・・それと・・・戻る気ないから」
顔を見せずに出てってしまうひとみ
残された三人は、気まずい中に取り残される
「矢口さん・・・・・あんな事言わなくても」
「・・・・・そうかな・・・心配するくらいなら・・・・そばにいてやればいいじゃないか・・・・」
「だからひとみちゃんは・・・」
梨華が矢口を睨み言葉を飲み込んだ
藤本がそばにいた矢口を覗き込み、優しく言う
「矢口さんがよっちゃんの事を大切にしてるよ・・・っていう事を・・・
もっと伝えないと・・・・って事ですよ・・・例え仲間としてだろうと
大切な人としてだとしても、もちろん美貴達のことも・・・」
「ん・・・・・そう・・・だな」
優しい藤本の言葉に、矢口の目にも暗い影が映し出されてしまった
- 35 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:33
-
梨華も立ち上がってひとみを追うように出て行く
「あ、梨華ちゃん、危ないからよっちゃんにも早く戻っておいでって言っておいてね」
「うん・・・解った」
「いい?、気配読んで、気をつけるんだよ」
「解ってる」
出てった後、大丈夫かな・・・という藤本に、矢口は何も言わなかった
おそらくそんなに早く兵達は行動しないだろうと二人は思ったから
「矢口さん・・・・よしこが今までどんな生活してたって・・・・
今はもう矢口さんと一緒に進んでいる仲間なんですよね」
「・・・・・うん」
「そろそろ、美貴達の事も家族みたく考えてもらえれば、私達も嬉しいんです」
「・・・・・うん・・・・もう思ってるんだけどな・・・・実際」
- 36 名前:dogsV 投稿日:2007/06/03(日) 00:34
-
「じゃあもう、さっきみたいな事言わないで下さい、特によっちゃんには」
「あいつには、そばにいて欲しいって一度は言ったし・・・・
お前らだってこれからどうなるか解らないけど・・・出来ればずっと
どこかで一緒に暮らしてければ楽しいと思ってるよ・・・・・迷惑じゃなければな」
穏やかな顔をして俯く
「迷惑なんて・・・・・はぁ・・・そうなんですか・・・」
矢口とひとみにそんなやりとりがあっていると知って、少し安心する藤本だったが、
だったら何故ひとみはまだあんなにつらそうなのかが解らない
「うん・・・・・すごくお前らの事大事なんだ・・・・おいらは」
それを聞いて、ふうっと息を吐き
「すみませんでした、矢口さん・・・梨華ちゃんがやけに腹立ててるし、
まぁ、よっちゃんの事が心配なんでしょうけど・・・・美貴達は
よっちゃんも矢口さんも大好きなんで・・・・・・
あ〜でもちょっと口をはさみすぎちゃってたんですね、すみません」
「いや・・・・・最近おいら調子悪いからな・・・・ごめんな、なんか心配かけちゃって」
「いえいえ・・・・矢口さんが調子悪いなら、美貴達が頑張りますから」
そう言って矢口に微笑んだ
- 37 名前:拓 投稿日:2007/06/03(日) 00:35
- 今夜はここ迄
- 38 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:13
- 一方部屋を出て、中庭のような所に来たひとみは、庭石に座ると大きなため息をつく
どうして伝わらないんだろう
どうしていつまでも自分の事を追い返そうとするんだろう
そばにいろって言ったくせに
大切だって言ってくれたくせに
自分の気持だって知ってるくせにどうして
そんな言葉を心の中で呟く
自分が昔いい加減な生活をしていたのを知られてしまったからなのだろうか?
「ひとみちゃん」
空しさに包まれている時にそれを引き裂く甲高い声
ひとみはその声に答えなかった
さっき梨華が聞きさえしなければ、矢口はあんな事は言わなかったはずだから
「ごめんね・・・・余計な事聞いて」
「・・・・・・・・」
解ってるじゃん・・・・ひとみはそう心でぶすくれる
- 39 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:16
- 「あの・・ね・・・・ひとみちゃんがあの女の人の所に行った時ね・・・・
矢口さんがものすごく辛そうだったの・・・・・きっと誰なんだろうって気になっても
矢口さんは絶対聞かないだろうから・・・・・私が聞かなきゃって・・・・・」
「力・・・・・使ってたの?」
辛そう?矢口が?どうして・・・・
ひとみの低い声が響く
「ううん、使ってないけど・・・・矢口さん迷ってるから・・・・・だから・・・・」
迷ってる?いつ自分の事を置いて行こうかって?
自分が好きでいる事が迷惑だから?
「余計な気・・・回さないで」
「・・・・ごめん・・・・・・・・・ねぇ、矢口さんにちゃんと好きって言っちゃお、
絶対大丈夫・・・・・矢口さんが迷ってるなら・・・・いつものひとみちゃんみたく」
「いつものウチって?」
昔やってたみたいに、少し気になる子に優しい言葉をかけて、甘く囁けば矢口が手に入るってか?
そんなどす黒い感情がひとみの中を渦巻く
言葉を遮られた梨華は、明らかにひとみが怒っていると感じた
どうして?・・・・
ただいつもの真っ直ぐなひとみでぶつかってってほしかったのに
二人は惹かれ合ってるのに・・・・と心で呟く
- 40 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:18
- 「だから・・・あの・・・・真っ直ぐな」
「遊び人でいい加減なウチは、いつものようにあいつの事口説いて抱いちまえよって言いたいの?」
「ちがっ」
そんなつもりで言ったのではないと必死に言葉を探すと
ひとみがフッと鼻で笑って自虐的な眼をして言う
「言ったよ、ちゃんと思いを込めて好きって・・・・こんなにも好きっていう気持ち・・・・
ほんとに初めて素直に・・・・・・・・・・・だけど・・・・あいつの心にはまだあの姫がいるんだよ」
「え・・・」
ひとみがちゃんと矢口に思いを言っていた事に驚く
梨華の中で謎は深まるばかり
「姫が・・・・・真希が心にいるあいつを無理やり抱いたって意味がない・・・・・
なのに・・・・・なのに抱きたくてしょうがないウチがいて・・・
もう押さえきれないとこまで来てたけど・・・・・・・だけど・・・
だけど・・・・・抱けばあいつは死んでしまう・・・ウチは死んでもかまわないけど・・・・でも・・・でも」
やっと苦しい気持を吐き出しているひとみを、唇を噛み締めてじっと見るしかできなかった
「好きなんだ・・・・どうしようもないくらい・・・・・狂ってしまいそうになる位・・・・・・あいつが・・・・」
前のめりに頭を抱える
「うん」
一度矢口に拒絶されたんだろうか・・・・
端から見ると2人は惹かれあっているように見えるのに・・・
梨華は悲しみの塊をそっと抱き寄せる
- 41 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:20
- 「ウチが好きって言うと、優しいあいつを困らせて・・・・悩ませて・・・・・
だから本当にウチを置いてどっかにいっちまったら・・・・・ウチは・・・・・ウチは・・・」
いつも大きくて逞しく感じる体とは違う、ちっちゃくなったひとみの目に涙が溢れると、
梨華は堪らない気持ちになり
「うん・・・・」
と呟きギュウッとひとみの頭を抱き締める
「あいつが目の前からいなくなっちまったら・・・・」
「うん」
そうだったのか・・と、梨華も一緒に涙ぐむ
ひとみの気持が痛い程に伝わってきたから・・・・
「だから・・・もう言えない」
「うん」
もう何も言うまい・・・
真希が言ったように、二人の事は、2人にしか解らない事がきっとあるはず
こんなに熱い思いを抱いているひとみに・・・・
きっと矢口は心を開く・・・・
いや・・・・絶対開きかけてるはずだから
藤本が自分の心を開かせてくれたように
だからせめて、大好きな幼馴染の恋が・・・・
悲しい結末を迎えませんようにと優しく抱きしめた
そこへ
突然庭の方々から黒い影が出て来る
ひとみも梨華も気づくのが遅れ、あっという間に首の辺りを殴られる
- 42 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:23
- ひとみはそれでも咄嗟にずらして背中を殴られながらも、
殴って来た奴の顔を肘で殴りつけ逃げた
しかし梨華はまともに殴られてひとみの目の前で「うっ」と言って崩れ落ちる
「梨華ちゃんっ」
叫びながらもそばに寄ってくる男達に、必死に剣を抜いて相手をする間に
倒れた梨華が2人の男に抱えられ連れ去られる
「くっ・待てっ」
すぐに近くにいる2人を蹴り倒し、襲い来る男達の剣をかわしながら梨華を追おうと走り出すと、
行く先を銃弾が数発通り過ぎ、動きを止められ後ろを振り返った
蹴り倒した男の一人が銃を持ち狙っていたので、
ひとみも瞬時に銃を取り出し撃ちながら、すぐに梨華を追いかける
「吉澤っ」「梨華ちゃんっ」
矢口と藤本の声がすぐ近くで聞こえたかと思うと、ひとみが走って行こうとする先へと力を使って消えていった
ひとみは2人が追いかけた事で安心して、後ろにいた男達に向かい合う
数は五人、
男達は剣を捨て、銃を持ってゆっくりとこちらを狙ってジリジリとひとみに近づいて来ていた
ひとみも真ん中の男に狙いを定め、男達を順に睨んでいく
圧倒的に不利な状況にもかかわらず、ひとみには勝機が見えていた
体中に神経を張り巡らせる
少し前迄ただの民間人だった自分は、
今までなんだかんだでこの兵よりも修羅場を潜り抜けてきたという自負がある
毎日矢口や藤本ら族に受けている訓練は伊達じゃないはずと心を落ち着ける
- 43 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:25
- 優位と思った兵がニヤリと笑った瞬間に、ひとみはすばやく姿を消す
動きと同時に五人がひとみのいなくなった場所へと放つ銃声の音と共に、その数と同じだけの銃声
暗くなった庭で、目標が定めにくいとはいえ、
微かな月明かりの中の集中力は今のひとみに勝てる訳はなかった
弾けるように男達が倒れる
暗闇で藤本や矢口、紺野の相手をしていた為、人間がやけに遅く感じてしまう
今撃った兵が地面で唸っている
急所は はずしているようだ
「どういうつもりだ、突然襲って」
一人の男を盾にし
その男の後ろから手を回して胸倉を掴み、銃をコメカミに付けひとみが言う
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
何も答えない兵隊に代わって後ろから藤本の声が響く
「怖くなったんだよね、藤本を泊まらせたって事で畑山様からお咎めが来る事」
背中に梨華をしょって藤本が帰って来た
矢口は後ろから二人の男をぐるぐる巻きにして連れてくる
「気の小さい男達だろ」
「ああ、梨華ちゃんは大丈夫?」
「多分、とりあえず梨華ちゃんを部屋に連れてった後、全員集合してもらいましょうかね」
「そうだな」
なんだか危ういオーラを漂わせて藤本が去っていくと、
まず目の前にいる兵達を矢口が持ってきた縄で順に縛り、その後屋敷中から兵を連れてくる
- 44 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:27
-
それから
集まって来たここにいる全ての兵隊達も縄で縛り、一部屋に押し込めた
その数十数名しかいない
さっき矢口達の部屋にも突然兵隊が入って来ていきなり襲って来たらしい
しかし、矢口と藤本はその気配を察してすぐに倒すと、庭から銃声が聞こえた為に出て来たと言う
「はてさて、この始末をどうしてくれましょうかね」
梨華を傷つけられて、相当腹を立てているのか、戻ってきた藤本の目は座っていた
矢口は部屋で眠っている梨華を看ているので、
二人でこの兵達を全て監視するには縛るしかなかった
迫力の眼力で睨んでいる藤本の目の前に直立する先ほどの責任者の顔は真っ青
「え〜っと、私はあなた達を傷つけようとは思ってませんけど・・・・・
やられたらただじゃすまない性格なんですよね」
藤本の手が一瞬消えたかと思うと、飾られている壷が斜めに切られてズレていき、ガチャンと音を立てる
梨華を傷つけられた事がどうにも藤本には許せないので容赦なく感情を表に出す
「あ・・・あの・・・申し訳ございません」
ただただ怯える責任者
「私は・・・・・ただ王都に行きたい・・・・・そう言っただけですよね」
「はい」
「何か犯罪のような事しました?」
「いえ」
じいっと真正面から睨み付ける藤本の顔が、とんでもなく恐ろしい事になっていた
- 45 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:29
- 「私はともかく・・・・・女性を寄ってたかって襲うとは・・・・・・
Jの国とは今どうなっているのやら・・・・・」
「申し訳・・・・ありません」
ピタピタと剣を責任者と呼ばれた男の顔に付けて
「確かに役職は解かれたけど・・・・・私をなめると痛い目に合いますよ」
「は・・・・はい」
あまりの迫力に、それを眺めるひとみはあんぐりと口を開けたままだった
「どうせ畑山様に連絡入れてるとは思いますが・・・・・・
返事が来る前にこんな事するなんて・・・・・まさかこれで手柄をとでも?」
見透かされたのか、さらに怯える
「いえ、めっそうもない」
「じゃあ、明日、私達をきちんと王都に連れて行き、
畑山様に会える様手配出来ると約束できますか?」
「それは・・・・・」
目をキョロキョロさせて焦る責任者に
「出来ますか?」
かなりの至近距離で凄む藤本
「は、はい」
返事を聞くと、にこりと笑い
「ならば問題ありません、あなた達もこんな世の中ですので何かと心労も多いのでしょう、
今回の事は何も無かったという事にしますが・・・・それでいいですか?」
「は・・はい、もちろんです。ありがとうございます」
ガタガタと震えている責任者
「それでは、食事・・・・・・・させてもらえますか?私達もお腹がすきましたので」
「は、はい・・・・・今・・・・部屋にお持ちします」
「よろしくお願いしますね」
にっこりと笑いながら剣で縄を一瞬にして切ってあげると、逃げるように責任者がドアから出て行く
- 46 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:31
-
「大丈夫かよ、美貴」
漸くひとみが口を開けた
それを聞きながら次々に兵達の縄を切っていく藤本
「兵ってね、やっぱ上官の命令は絶対な訳、それが正しかろうと、間違ってようと」
「あ・・うん」
縄を解かれた兵達は、次々に直立し敬礼していく
「あなた達は、私達が何か悪い事をしたと思ったから襲ったのですか?」
兵同士が視線を合わせた後、その中でも一番上官だと思われる男が口を開く
「・・・・・・・・・いえ」
「いい?この国の兵は今、色々考えなきゃいけない時に来てる、
他の国も兵の一人ひとりが、町民の一人ひとりが、国について色々考えてる」
全員の縄を切り終えた藤本が、ここに詰め込まれた兵の一人ひとりに視線を合わせて微笑む
「この国が今どういう状態で、何をすべきか・・・・・よく考えて下さい」
「・・・・はい」
戸惑いながらも兵が答えると、藤本はにこりと微笑み
「おいしい食事を期待してます」
そう優しく言うと、兵達は一度敬礼をしてぞろぞろと部屋を出てった
- 47 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:33
- 「平気かなぁ」
不安そうにドアを見つめるひとみ
「複雑な国だけどね、兵自体は案外単純なのよ、きっとあの責任者の人は約束を守ってくれるはず」
ひとみは藤本に自国へと愛情を感じた気がした
「うん・・・・・そうだね」
そしてその後、ちゃんと部屋に、おいしそうな食事を持ってきてくれて
まだ起きそうも無い梨華を気にしつつ三人は食事に口をつけた
さらに水が貴重になって来たはずのこの街で、入浴をさせてくれるというサービス付
ひとみと矢口が気まずく入浴をしている間に、
梨華の体を藤本がせっせと綺麗にした後、矢口達と入れ替わりに入浴しに行った
危険だからと二人で入浴した時にも、昨晩からの事もあり、
意識しすぎて話せなかった二人
梨華が眠るベッドの淵で心配そうに見守るひとみと、窓際で外を眺める矢口
「「あのさ」」
意を決して口から出た言葉が重なる
「「・・・・・・・・」」
「なんだよ」
「・・・・ちびこそなんだよ」
「いや・・・・あの・・・・き・・・・・今日はもう訓練はすんなよ」
「・・・・・・解ってるよ」
出て行くなと言われたのに出てった事で梨華を傷つけた事に反省の色は濃い
- 48 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:34
- 「もう大丈夫だとは思うんだけどさ・・・・」
「解ってるって、じゃあ・・・・・・でも、ここで出来る事位はいいだろ」
思い立ったようにひとみは腹筋を始めてしまった
「ああ」
矢口は優しく頷く
藤本が戻ってきて、そろそろ寝ようかという頃
起きる気配のない梨華を囲んで
三人で心配そうに覗き込む
「う〜ん、まだ起きないかぁ」
心配そうな矢口の言葉に、ついに
「ん」
ピクピクと梨華の瞼が痙攣する
「梨華ちゃん、梨華ちゃん」
と藤本が優しい声で梨華を揺する
- 49 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:35
-
「う・・・・ん・・・・」
すぐに反応があり
「梨華ちゃん」
藤本がさらに呼びかけると
眉間に皺を寄せてから梨華がゆっくり目を覚ます
「「梨華ちゃん」」
「石川」
覗き込む三人がほっと息を吐く
特に自分がそばにいたのに梨華を傷つけてしまったひとみは本当にほっとしていた
梨華が起き上がろうとして頭を押さえて顔をしかめる
「大丈夫?梨華ちゃん」
これでもかという位顔を近づけて藤本が梨華を覗き込む
すると
「う・・・・うん・・・・あ、ひとみちゃんっ」
藤本を押しのけて起き上がると、慌てて藤本と反対側にいるひとみを確認しひとみの手を握る
「ん?」
驚くひとみ
- 50 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:37
-
だが
「あ・・・・・・・・私・・・・・・え・・・」
漸く自分が気を失っていた事に気づいた梨華が三人をキョロキョロと見渡す
「兵隊に殴られたんだよ・・・・庭で、でも良かった、頭大丈夫か?」
矢口が説明して言うと
「あ・・・そうなんですか・・・・・え〜と・・・・はい、大丈夫です」
頭をなでながら微笑む
梨華は、さっきのひとみの事が心配で咄嗟に手を握ってしまったのだが、
藤本にはショックだったようで黙り込んで梨華を見ていた
「あ、美貴ちゃん」
「・・・・・起きてすぐひとみちゃん・・・・って・・・・」
呆然としながら言う藤本に、自分がとった行動を振り返って慌てる
「あ、美貴ちゃん、その・・・・・あの・・・・」
「・・・・とりあえず無事で良かった・・・・じゃあ寝るね、美貴」
しょんぼりとした背中を向けてベッドに潜り込む
しかも二つしかないベッドで、梨華が寝ているベッドとは別のベッドに入って背中を向けた
- 51 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:38
-
「み・・・美貴ちゃん」
「お・・・おい、美貴」
ひとみも矢口も、藤本の落ち込んだ原因があまりに単純で苦笑する
「あ、矢口さん、一緒に寝ましょうよ」
背中を向けたまま、落ち込んだ声を放ってくる
「え・・・・・あの、い・・・石川・・・・いいのか?」
「美貴ちゃ〜ん、ごめん、あの・・・」
起き上がって美貴を心配そうに見る
「いいから、ほら、ひとみちゃんはそっちね」
あくまでも背中を向けてしょんぼり語りかける藤本に逆らう者はいなかった・・・・
しかもひとみは藤本にひとみちゃんと言われ妙に気持悪い
矢口とひとみは目を合わせて困った顔をすると、言われた通りベッドに入った
藤本の背中側に入った矢口に、藤本は振り返って抱きつく
「だぁっ、何だよ藤本」
「矢口さ〜ん、美貴寂しい」
「抱きつくなよ」
「だって〜」
ギシギシときしむベッド
- 52 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:40
- 「美貴ちゃんごめんっ、これには・・・あの・・・・美貴ちゃ〜ん」
「ほら、謝ってっから、いいから離せ」
「・・・・・とりあえず今日は矢口さんでいいです」
「なんだよっ、とりあえずってこらっ」
「くすん」
おいおい・・・と呟き矢口は諦めて静かにした
梨華とひとみの中にも、複雑な思いを駆け巡らせる
ひとみは梨華が目覚めてあの時の自分を心配してくれたんだとわかったし
梨華も今それを言う事は出来ないけど、
今は矢口を抱き締めている美貴に嫉妬してしまっている事に苦笑する
「ごめんね、梨華ちゃん」
明かりを消して梨華のベッドに入ってきたひとみが小さく呟く
梨華は首を押さえながらも小さく首を振った
「大丈夫、明日にはきっと機嫌直るし」
「・・・・ごめん」
ひとみが再び謝ると梨華は微笑む
- 53 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:42
- 何を話しているか解らないが、こそこそと話している声を聞きながらギュッと矢口を抱く力を強めた藤本に
小さくため息をつきながらも加護や辻によくしてやるように腕を回して抱き締めてあげる矢口
「なんか理由があるんだろ・・・心配すんな」
と、呟くと、藤本はコクリと頷き矢口の胸に顔を埋めた
翌日、ちゃんともてなしてくれる兵達
朝食を準備してくれる使用人達に混じり、責任者自ら矢口達の部屋を訪れる
「先日は大変申し訳ありませんでした。お目覚めはいかがでしょうか?」
「おかげさまでゆっくり寝れました」
穏やかに答える藤本に、苦笑ぎみの三人
「そうですか、それは良かった」
ほっとする責任者に、畳み込むように藤本が聞く
「それで、どうですか?畑山様からの反応は」
返事が来たんでしょと藤本が微笑むと
「え・・・・・ええ、お連れするように・・・・との事でした」
「そうですか、それは良かった」
責任者の顔は固い
言っている事は本当なのか・・・・梨華の反応は嘘っぽいという事なので、脅しの意味もこめて
藤本がゆっくりと責任者のそばに行き、耳元に囁く
「何か変な事したら今度は容赦しないからね」
ビビりまくる責任者は、ただ深々と礼をして部屋を去っていった
- 54 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:43
-
「おい、藤本」
「やりすぎじゃね〜の?」
ニヤつく矢口とひとみ
「いいのいいの、さっ食べましょ、あ、矢口さん毒見よろしく」
「あいよ」
もちろん何も毒のような物は入って無くて、無事食事を済ませると、早速王都へ行く準備をする
梨華は、藤本に必至に誤解を解くようにべったりとひっつき、
次第に藤本の機嫌も直っていった
出発する頃には再び仲良しの2人になったのを見て、ひとみも矢口もホッとする
ひとみも梨華に自分の気持を吐き出せた事で少し落ち着いた感じがしている自分に気づき
やはり癒しの梨華ちゃんなんだなぁと仲良くしている二人を見つめた
- 55 名前:dogsV 投稿日:2007/06/07(木) 21:46
- 先日の女の人は、ひとみが始めて抱いた人で、遊びの人の中では唯一長く続いている人だった
いや、遊びの人ではない
ひとみの境遇を知っても知らなくても、勉強を教えてくれたりご飯を食べさせてくれたり
本当に優しく接してくれ唯一の理解者である存在であった
旦那の暴力にも何もしてやれなかったひとみだが、
ちょくちょく様子を見に行ったりして、いつか旦那を追い出してやると思っていた
だから、小さな時から建築現場で無理いって働かせてもらったりして体を鍛え・・・・
近所のガキに喧嘩を仕掛けたりして・・・・
子供の自分なりに強くなりたいという思いからきた行動・・・・
それは、恋心から・・・
という事でもなく、その女の人に母性を感じていたのだろう
改めて思い出してみると、昔から自分は強くなりたいと強く思うタイプのようだ
しかし自分がいなくなった事で、彼女も何かを切り開いたと言っていた
もう彼女にも、自分で新しい道に進む覚悟が出来ていたと、昨日話して感じていた
矢口が言ったように、綺麗な彼女は
これから新しい人が見つかるのにそう時間はかからないはずだから
彼女も自分と同じで、互いの不幸な境遇を
甘えさせてくれる相手にしていただけなのかもしれない
旅に出て、忘れていた人の事を思い出して・・・
改めてもう昔の自分の事は忘れようと心に決める
もうあの町に戻る事はない、だって自分は矢口にずっとついていくのだから
小さい背中を見つめて、馬を歩かせる
- 56 名前:拓 投稿日:2007/06/07(木) 21:47
- 今日はこのへんで
- 57 名前:15 投稿日:2007/06/08(金) 02:06
- 更新お疲れ様です。
癒しの梨華ちゃん良いですねw嫉妬する美貴ちゃんが可愛いです。
また一悶着ありそうですね…次回も楽しみにしてます。
- 58 名前:拓 投稿日:2007/06/10(日) 00:23
- 57:15さん
石川さん達が一番書いてて楽しいですw
う〜んどうやらまた一悶着ありそうなんです・・・
そして、どうしようか悩んでます。
レスいつもありがとうございます。
- 59 名前:dogsV 投稿日:2007/06/10(日) 00:25
-
矢口は考えていた
ここまでの事は、予想の範囲内で、これからのシナリオも、
矢口と藤本の間ではもう出来上がっていた
だからわざわざ貴族側の畑山派で拘束された
真希と別れてもう四日が経つ
後六日で、あの場所に真希達は現れるだろうか
いや、それより真希は慣れない野宿とかして疲れてはいないだろうか
矢口は道中気にしながら進む
ちゃんと紺野が守ってくれているとはいえ、あの山賊の人達に襲われでもしたら・・・・と考えると、
真希をあちらに行かせたのは少し心配でもあった
その頃真希は、山賊達と一緒になって御飯を食べている
湖の近くで、水も食料も豊富にあるこの場所は、山賊の小さな町になっている
やたら怖いというここの親方は、噂とは違いとても優しかった
親方の命令を無視して返って来た霧丸と譲達に何も言わずに食事を与えてくれる
しかし、加護と辻の様子がおかしかった
真希と紺野もおかしいと感じて神経を尖らせる
- 60 名前:dogsV 投稿日:2007/06/10(日) 00:27
- 食事が終わると、その親方が、ついに自分の家に霧丸と譲を呼ぶ
もちろん真希達の事も
「それで、俺の言う事を聞かずにここに戻って来たっていうのは、どういう事かな」
静かにどっしりと椅子に座って言う親方がどうにも恐ろしい
「はい、親方に言われて国の外れの場所にいたんですが、そこに矢口の集団がやって来まして」
「何、矢口だと?」
眉間に皺を寄せて真希を見る
「お前が矢口か?」
「いえ・・・・・違います」
一言だけ言う真希の視線は毅然とした姫の目だった
「噂の矢口ではないのか、フッ、一度会ってみたかったのだが、それで何故戻って来たという話だが」
霧丸が紺野に視線をやり、紺野が地図を取り出すと
それを親方と部下の数人が覗き込む
「矢口達はここに川を作りたいらしいんです」
霧丸の言葉と共に、紺野が指を指し示す
一瞬の間をおいて、親方他全員が大笑いしだす
- 61 名前:dogsV 投稿日:2007/06/10(日) 00:28
-
「はっはは、面白い事を考えるんだな」
かなり長い間笑っていた親方が、ようやく口を開いた
「はい、この国が干ばつに苦しんでいるようなので、何か手はないかと思って考えてみました」
紺野が言うと、親方が睨みつける
「あんたらに、何の利益がある?そんな事して」
親方の持論によると、自分の利益にならないものには、
誰も労力は使わないという持論だった
「俺達も何故なのかは解らないんですが・・・・
その・・・・矢口が交換条件を出して来まして」
「ふふん、だろうな・・・で、何だ」
「親方に、工事の協力をしてもらう約束を取り付ければ、
Jの国の王族達と話をさせてくれるそうです」
「・・・・・・・・・・・」
親方が立ち上がる、座っているとわからないが、かなりでかい と四人は驚く
しかも近寄ってきて紺野を上から睨みつけ上から下まで見渡した
「どうでしょうか?協力してもらえますか?」
紺野に向けられた視線を真希は許せなかったのか、親方の視線を自分に向けようと話し掛ける
「簡単だろう、協力すれば王族と話をさせてもらえるんじゃ、別にかまわない」
真希を見てあっさりと言う親方に、紺野は安心したという顔をする
加護と辻は相変わらず渋い顔をしているが
- 62 名前:dogsV 投稿日:2007/06/10(日) 00:30
- 「しかし・・・・・川を作る事も、王族と会う事もできないようならば、
貴様らも霧丸達も全員殺すぞ」
やたらと怖いと言っていた霧丸達がビビリ出す
「・・・・出来ないと思ってるんですね」
真希が言うと、にやっと親方が笑う
「当然だろう、簡単に川なんて出来る訳もなく、ましてあの王族が俺達に会うなんて考えられない」
「なんで決めつけんの?」
「せやせや、さっきから馬鹿にしたようにしてるけど、こんこんは賢いねんで、絶対出来る」
辻と加護が親方に近づいて噛み付く様に言うと
「ガキは引っ込んでろ、お前ら、連れて出とけ」
2人は瞬時に移動し、そばに来た男達の手をすり抜けたので男達は驚く
「ほう、お前ら族か」
「あんまり舐めてたら痛い目に合うで」
睨みつける加護と辻を見てた親方の顔が一瞬下をむくと
「がははっ、お前ら面白いな、まぁ子供だから許される事もある、
俺達にとっても有益な事以外には手は貸さん」
「ガキちゃうわっ」と怒る加護を霧丸が抑える
「有益だからこうしてお話してるんですが」
紺野はさっきまでのぼんやりとした顔を引き締めて親方を睨む
- 63 名前:dogsV 投稿日:2007/06/10(日) 00:32
- 「俺らは山賊だ・・・・俺らにとって山は家と同じなんだよ、
町の中の城の奴らが、俺らが町へ来る事を嫌がるように、
町の奴らが山に入るのは面白くない・・・・
そう思うがあえて、許可するという事は、俺らにどんな利益をもたらすんだ?」
紺野は意を決したように、話し始めようとすると
「ちょっと待ってコンコン」
そこで辻が言い出す
「何だ?チビ」
親方が面白そうに聞くと
「これはウチの親びんとコンコン達が必死に考えた計画なんや、
おいそれと多数の人に教える事はしてほしないっ、だけど、親方だけやったら話してもええ」
加護の言葉に「なんだとぉ」と、親方の取り巻きが剣を抜く
「親方だけやっ」
力強く言い切る加護に、ガハハと親方がまた笑い出す
「まぁいい、ガキの言う戯言、しょうがないからお前らは出ておけ」
親方の取り巻き達を全て追い出し、親方だけになると、
今まで不機嫌だった加護達は笑顔になり、どうぞコンコンと言い出す
霧丸達が不思議そうな顔をする中、紺野は頷いて、自分達が考え出した作戦を包み隠さず親方に話した
真希が途中止めようとしたが、紺野がここはちゃんと話してしまわないと、
この人は納得しないであろうと必死に伝えた
- 64 名前:dogsV 投稿日:2007/06/10(日) 00:34
- 「まぁ・・・・お前たちの言ってる事はただの絵空事だけではないようだな・・・・・・
だが、問題はその矢口達が王族の人達にその金を出させる事が
出来るのかどうか・・・・あの城の奴らは本音の見えない薄汚い狸ばかりだ、
今後また俺達に手を出して来るならば、
それ相応の報復をさせてもらおうと考えていた所でもある
・・・・お手並み拝見させてもらおうか」
「いいですよ、そのかわり、矢口さん達の作戦がうまくいけば、工事の妨害はしないでもらえますね」
紺野は、妨害しない所か他の山賊からの護衛の役を引き受けてくれれば、
今後報酬を出させるように考えていると伝える
川が出来れば、時間はかかるかもしれないが、きっと緑は増えていく
そうすれば食べ物も増えるし、山の暮らしも豊かになるでしょうと言った
「よし、約束しよう・・・・ただ・・・・どうしてそこの子供2人は、さっき俺らの仲間を追い出した」
「なんか・・・・・解らんけど・・・・嫌やってん」
「うん・・・・・嫌だった」
なんともわからない答えをする2人に、親方は渋い顔をした
その後笑い出した親方は、明日出発して、紺野達と共にJの国へ行くと言い出した
どうやら命令を無視して返って来た霧丸と譲の仲間も
無事もとの場所に住んでいいという事になったらしい
もちろん、矢口の成功が鍵を握るという事らしいが、真希も紺野も一様にほっとした表情をしていた
- 65 名前:拓 投稿日:2007/06/10(日) 00:34
- 今日はこのへんで
- 66 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:14
-
王都に到着する
脅して連れてこさせた兵達が、苦々しい顔をしながら町を進み、城へと案内してくれる
王都はとても人が多く、町も活気づいている印象だった
「へぇ〜、いい町だなぁ〜、なんかみんな笑ってるし、商売も盛んそうだし」
「まぁ、街づくりに関しては、この国は言う事はないですね、Yとかと違って」
「Mの国が欲しがる訳だ・・・・」
矢口は呟く
それに各町から兵が集結しているのか、町の中も兵隊が多く歩いている
荷車を引いている人も沢山みかけるので、
ひとみ達の町からもかなりここに移り住んできているのではと予想された
順調に城にやって来て、門をくぐる
藤本の姿を見て門番も驚いていた
貴族派の兵が集合しているせいか、やはり前より人が多いと藤本が言う
廊下や庭で会う兵達は、矢口達を誰だろうと見ていたが、
その中に藤本の姿を見つけるとざわっとざわめき、ひそひそと話すのだった
城に入ると、案内役だが迷う地方兵を藤本が先導し、ある部屋の前にやって来た
キョドる兵に、藤本が顎で指示してノックさせた
はいと返事が来て、連れて来た兵隊が一礼して入り、
「藤本様をお連れしました」と早口で言うと、兵はすぐに失礼しますと逃げるように去って行った
- 67 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:17
-
藤本が姿を見せると中の人物が驚く
「お久しぶりです、藤本さん、噂では役職を降りられ、民として暮らしているという事でしたが」
入っていく部屋の中で、偉そうな五十歳くらいの男が机からソファへと歩きながら
さらに「誰か素敵な相手でも見つかったのかと思いました」言い、矢口達にも腰掛けてと勧めた
矢口も梨華に力を使えと目で訴え、もちろん梨華も解ってますと頷く
「ええ、まぁ、楽しくやってます」
藤本が笑顔で答える
梨華が少しムッとする
左遷されてやけになって出てった小娘が何の用だと思っているのを感じてしまったから
しかも、先日の使いの人達が報告に来ていたが、
この町へは入れさせるなという命令が下っていたのに入らせてしまいやがってと心で呟いていた
「畑山様はお変わりなく?」
「最近少し、Mの国が可笑しな行動をし始めたからね、その対応に大変だよ」
肝心の王が倒れてしまうしね・・・・と馬鹿にするように笑う
「そうなんですか・・・それは大変ですね」
畑山も藤本も共に笑顔で会話は進んで行く
「王子にはもう会われたのか?」
「いえ、畑山様が最初です」
すでに駆け引きは始まったらしい
- 68 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:19
- 何故あれほど仲むつまじくしていた王子に
真っ先に会いに行かないのかを不思議に思っている
「で、何しにここに来たのですかな」
あの街の兵達が対処に困っておったぞ・・・・と軽く困惑を匂わせる
「それなんですが・・・・久しぶりに帰って来て驚いたのですが、干ばつが進んでませんか?」
「・・・・・・・・そうだな・・・・・で、それが何か?」
「実は、その干ばつに一石を投じる方法が見つかったんですよ」
「は?」
驚く畑山に、藤本がニコリと笑い
「この話は大変この国に有益ですので、どなたに話を持ちかけようか大変悩みました」
「有益・・・・・とは?」
「ええ・・・・・実現出来れば間違いなくこの国は潤います」
「ほほお・・・・そんな話・・・・・どうして私に?」
「ですから、実現出来なければ、ただの戯言・・・・・
私達は実現に向けてどなたに話をすれば一番実現出来るのかを考えました」
「・・・・・ほぉ」
何を企んでいる?という視線ながらもまんざらでもないような表情
- 69 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:21
- 藤本は笑顔で畑山を見続けると
「で?」
しびれを切らして聞いて来た
「はい」
焦らすかのように微笑む藤本に
「・・・・何が・・・・有益と?」
その言葉を聴いてからニヤリと笑い、畑山もピクリと眉を動かす
「はい、私達は、川を作ろうと思ってます」
「は?」
何をばかな・・・という畑山に、地図を貸してくれと言い、藤本がおおまかに説明する
矢口とひとみと梨華は、とりあえず黙って様子を見ていた
梨華は、この男が内心馬鹿にしている様子を知って唇を噛むが、
ここで自分が鳥族とバレてはいけないのでグッと我慢する
既にどれくらいの材料や物資が必要になるか、手配はどうするか、
労働力、期間に至る迄計算してあるが、今は詳しく話すわけにはいかないともちかける
しかし、説明するにしたがって、川は出来なくはないという事を感じたらしく表情が幾分真剣になった
「実現すれば多くの国民が、それを実行してくれた畑山に感謝し、崇拝すると思います。」
そう持ち上げて締めた藤本に向かって
「うむ・・・・・それで私に何を?」
刺すような視線で藤本に聞いてくる
- 70 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:22
-
「そうですね、お金を準備してもらえませんか?」
率直に、お願いする藤本
口元をヒクりと動かした後、笑みを浮かべた畑山
やはり金かという心情を梨華が掴む
「額は?」
と聞く畑山に、とても普通では用意出来ない額を提示する
畑山が、やはりただの小娘かと思った頃に、藤本が言う
「お金を出していただけたら、Mの国との争いごとを私達が解決しますよ」
「何を馬鹿な」
つい鼻で笑う畑山
「困ってるんでしょ、Mの国と戦っても、兵力は向こうと同じ位だし、
水を買い入れる事が出来なくなってしまえば苦しむ国民が大勢いる
だからといって、この国を引き渡す気はさらさらない・・・・違います?」
前に新聞で書かれた保田の見解を述べるだけの藤本に
「なるほど・・・・・新聞を見たのか・・・・全くあの新聞というものは・・・・
しかし、藤本さんがいくら強くても・・・・一人じゃ何も出来ないだろう」
すぐに畑山も新聞を読んでいると解る返答
そして藤本の戦力は認められているようだ
- 71 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:25
- 「いえ、一人ではないですよ、ここにも仲間が来てくれていますけど・・・・
他にも協力してくれる人が驚く程沢山出来ましたし、恩返しが出来ればと」
「ほぉ・・・それはそれは・・・・
それと・・・・・え〜と、お友達ですか、三人ともかわいらしいお嬢さんだが」
益々馬鹿にする視線は、梨華どころかひとみも不機嫌にさせていた
その中、一人矢口だけがニコニコして畑山を見ていた
「まあ、考えておいて下さい、それではまた明日にでも来ます」
通して頂けますよね、と確認すると一瞬考えながらも畑山は門番に言っておくと言ってくれた
藤本が立ち上がると、三人も続く
「これから王子に?」
「ええ、出来れば・・・・・どうでしょう、イチ"民"が会うような事はやはり出来ませんか?」
その時ばかりは、多少するどい視線で畑山を見た藤本に
「王子にはもう、婚約者がおりますのでほどほどにな」
と嫌味っぽく言う畑山に、藤本はご忠告どうもと言って笑って部屋を出た
部屋を出て、藤本に連れられ、廊下での視線を気にしながらすばやくドアを開け部屋に入る
藤本は元々ここに住んでいただけあって、空いている部屋を知っており、
入るとドアを開けたまま部屋の角で三人が梨華に注目する
「どう?出してくれそう?お金」
「ぜんぜん相手にしてない感じ・・・・ものすごく馬鹿にしてる、
こんな小娘達に何が出来るかって・・・しかも昨日は私達をここの町へ
来させるなって命令を出してたみたい、やはり地方の兵は使えないなって思ってる感じだった」
「やっぱり、そんな感じだったよな」
ひとみの言葉に矢口も頷く
- 72 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:28
- 「そりゃ、そうだろ、元王族付が来るのはややこしいって解るし、
川を作るなんて普通考えられないよね、紺野にちゃんと話しを聞くまでは」
「そうそう、それに金額も私達からすれば聞いた事もないような額だしね」
「まぁ、こんなもんだろ最初は、じゃあ王子に会いに行くか、
許可ももらえたし・・・・・・・・あ、それとも最初は一人がいいか?」
矢口が梨華を伺いながらそう言うと、藤本も一度梨華を見てから微笑んでゆっくりと言う
「いえ、みんなで会いに行きましょう・・・
ただ、いるかどうか・・・よく町に出て行く人だったから・・・・」
「そっか、今日の予定までは解らないもんな、でも平気か?お前がこの城の中うろうろしてて」
「そうですね・・・・」
そこまで言った所でドアの外の廊下が騒がしくなるのを感じて
四人はさらに部屋の壁際へと移動し、耳を澄ます
「どうだ、いたか」「おりません、近くにいるはずなのですが」
バタバタと足音が遠ざかり静かになると、ひとみが言う
「探されてるみたいだね」
「まぁ、招かれざる客だしな、捕らえられる感じではなかったし、見つかってみるか?」
梨華に視線をやる矢口
梨華はいつも思う、鳥族でもないのに、どうしてこんな気配を読むのはうまいのだろうかと
確かに表の兵達は、ただ藤本を探しているだけで、危害を加えようという事は考えていなかった
そんな事はズバリ読みきる矢口は、何故ひとみの気持や自分の気持は読み取れないのだろう
考え事をしている梨華に、三人の視線が集まっていた
「どうした?やめた方がいいか、見つかるの」
矢口が覗きこんで来る
- 73 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:30
- 「いえ、矢口さんの言った通り、全然私達を傷つけようとはしていなかったです」
「そっか、じゃあ見つかって、誰が探してるのか会ってみよ」
率先して藤本がドアから出て行き、それについて出て行く前に、
矢口は梨華の耳元に背伸びして
「藤本と王子の事なら心配すんな、もう石川のもんだろあいつは」
にこっと微笑んで背中をポンと叩き、ひとみ達の後を追って部屋を出た
梨華は、唇を噛んで後をついていく
心配なのは藤本ではなく、あなたなのにと
廊下を藤本に導かれるままに歩くと、探していた兵隊が声をあげる
「藤本司令官っ、ここにいらっしゃったのですか」
階段で王子の部屋の方へと登っていた四人に、下の方から声がかかる
「もう司令官じゃないし、元気だった?正平」
正平と呼ばれた男を確認すると、藤本はニコッと笑って応答した
「はい、司令官の役職をおりられたと聞いて、心配してたんです」
同じ歳くらいの男とにこやかに会話する藤本に、三人は誰?と視線を送る
「あ、桜花部隊の元部下、すごいでしょ、
こんなに若くで桜花部隊なんて、あ、こんな口聞いちゃいけないんだった」
「へぇ〜、すごいですね、兵隊の中でも超エリートなんですよね」
矢口がにこにこしてその男を見ると、その男の顔が一瞬にして赤くなる
また矢口に惚れたのかよ・・・と心の中で毒づくひとみが、
もじもじしている正平を睨むと、おずおずと言い始める
「あの、やめて下さい、藤本司令官も・・・・・・・そ・それよりこの方達は?」
- 74 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:34
- 「ん?新しい仲間、え〜と、ここじゃゆっくり紹介できないし、どっか落ち着く場所ない?
それに探してたんでしょ、私達の事」
「あ、そうだった、武蔵司令官が是非会いたいとおっしゃってましたので探してたんです、
何人か姿を見かけたと噂を聞いて」
「武蔵・・・ああ、美貴の次に司令官についた人ね、なんだろ?」
「知らないの?美貴」
「ううん、知ってる・・・・ん・・・と、引継の時と・・・・あ皆も一度見てるはず、
勝田さん達との件で王子と一緒に来てたから」
三人は思い浮かべる
王子の後ろにもう一人いた事・・・・確か、藤本の結婚相手を連れて来たって言ってたっけと
「う〜ん、顔が思い浮かべられないけど・・・・とりあえず会ってみようか」
矢口が藤本に言うと、正平に連れてってと言って案内させる
上がろうとしていた階段を再び下がって、さっきの畑山のいた部屋と逆の方向へと歩かされる
一番奥の部屋を叩き、正平が連れて参りましたとドアを開けて報告すると、
ご苦労様と男が椅子から立ち上がる
ガッチリとした体格で背の高いなかなか好青年風の若い男が近づいてくると、藤本と握手を交す
「久しぶりです、藤本さん」
藤本もいつもと違い、凛とした雰囲気を漂わせ爽やかに返事を返した
「はい」
後ろにいた三人も、言われてみれば本当にあの時見た顔だと思い出していた
- 75 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:37
- 「今日は、どうされたんですか?旅に出られてYの国で活躍されてたようですが」
四人はピクリと動く
畑山は知らなかったのに、あの勝田達の街で会ったこの人は知っている・・・・
そして三人に一人ずつ目をやって矢口に目を止める
「あ・・・あなた矢口さん・・・・でしょう?
あの町で一度お見かけしましたよね、民衆を束ねてしまった」
「いえ・・・・でも、名前は矢口と言います」
すると感激の表情で矢口の手を両手で握ってくる
「あの時は気づかなかったんですが、後日新聞で読んで
あの時の少女が矢口さんだったと気づき、王子と驚いていたんですよ」
興奮しながら、しっかと矢口の手を握ったまま微笑み掛ける
「それに新聞には載っていないものの、
絶対藤本さんは矢口さんと一緒にいると思っていましたので・・・・・
あ、今までそう思っても、王子と私の秘密にしていたので大丈夫です。もう手配中でもありませんし」
あ〜、やはり一緒だったのかと嬉しそう。
案外気さくな人のようだ
その後も、矢口の活躍ぶりは新聞で読んで、
王子とも、あの時もっと話しをしていればよかったと後悔していたんですよと話し出す
四人は共に意外な反応に戸惑う
自分達は、特に藤本はここに戻るとやっかいな人物と予想していただけに、拍子抜けとなった
ひとみが梨華を見ると、どうも本心からこう思っているようなので、とりあえずほっとする
同じ国の幹部なのに同じ情報を共有していない事もこれで証明された
- 76 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:39
-
「それで藤本さんは今日はここへ何をしに?」
「ええ、王子に会いに来ました」
最初、畑山以外には、川を作る事は言わないでおこうという事だった
畑山が今後どう動くかを見て、徐々にこちらの目的を詳しく漏らして行く事にしていた
「そうですか、ですがあいにく王子は街へ偵察に行っております」
「あいかわらずですね、王子は」
「ええ、いつもきちんと自分の目や耳で民の姿や声を聞きたがっています」
王が病気で大変だし、色々気苦労が多いですからね、街で元気をもらって来るようですよ
Mの国から実際どのような揺さぶりをかけられているのかはやはり教えてもらえないようだ
「そうですか、よかった・・・・それでは、私達もそろそろ失礼します」
藤本がそう言うと、武蔵も案内してきた正平も驚く
「え、王子が帰るまで待たれないんですか?」
「ええ、もう私はここの人間でもありませんし、長居はよくないと思いますから、また明日にでも改めて参ります」
矢口達も頷くと、出て行こうとする所を武蔵が慌てて止める
「待って下さい、それでは私が王子からお叱りを受けます、どうして帰してしまったのかと・・・・」
- 77 名前:dogsV 投稿日:2007/06/16(土) 21:42
- 四人は困ったように眼をあわせると、矢口が口を開く
「気持は解りますし、とても嬉しいのですが、藤本も私達も、あまり歓迎されるような身分ではないようです。
王子や武蔵司令官の立場を悪くしてしまうかもしれません・・・・
ですから、また明日、藤本と共に参る用事もあるますし、その時にでも会えればと思いますので、
いつごろ王子がいらっしゃるのかだけ教えて下さい」
「そんな・・・・私達の立場等気にしなくともよいのに・・・・
それに王子は気まぐれで、いついらっしゃるか・・・・」
本当に残念そうにする武蔵に、少し心が和む、
そして少しの罪悪感・・・もしかしたらこの人達を騙すかもしれない・・・と
「解りました・・・それではこれで」
藤本が柔らかく笑って挨拶して出て行き、三人も礼をして出て行く
出てった部屋で、正平が武蔵に聞く
「あの小さいかわいらしい人が噂の矢口さん・・・っていうんですか・・・」
あんなに有名な人なのに・・・・と不思議そう
「ああ・・・もっと話をしたかったのに・・・でも畑山の所に行ったと言っていたよな正平」
明日の用事・・・・とはまた畑山の所だろうかと眉間に皺を寄せる
「ですね、何を話してきたのかは解りませんが、
畑山様の町の兵達が無理やり連れてこさせられたとさっき嘆いてました」
「無理やり・・・・何をする気なのだろうか・・・・
ここは今Mの国との関係と水不足以外は、Yの国程問題がある訳ではないし・・・」
「ええ・・・・・でも矢口さんってMの国で確か兵を多数殺害して追われてる身ですよね・・・・
新聞によると罠にはめられたようですが」
一時我が国でも手配命令が出ましたよね・・・・と心配そう
「・・・・復讐でも・・・しようとしているのだろうか・・・・・そんな子には見えないが」
「ええ、新聞の内容を見ても、とてもすごい人物とは思いますけどね・・・・
かわいいのに・・・そしてそんな人がどうしてここに」
そう言って二人は佇み、王子には何と言えばいいのかを考え始めた
- 78 名前:拓 投稿日:2007/06/16(土) 21:42
- 今日はここ迄
- 79 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 13:57
- 城の中を進むと、藤本を見て話し掛けて来る兵と、ひそひそと話しをする兵と二つに別れた
矢口はそんな雰囲気を、不思議に思いながらも、気にしないようなそぶりで歩く
梨華は、兵達の心を読み取る
藤本の事を好きな人と、軽蔑している人・・・・その差がはっきり別れている
軽蔑してる人は、何しに来たんだとあからさまに顔に出していて、
王族付としての勤めを捨てた奴がのこのこ来るなと思っているようだ
好意を持ってくれている人達はきっと元部下なのだろう、
久しぶりに顔を見れて安心しただの、王子にはもう会ったのだろうかだの考えていた
ようやくそんな複雑な城を出て、四人は小声で話し出す
「ねぇ、美貴ちゃん・・・・どうしてあの城の中はあんなに両極端なの?」
「ああ、昔からだよ、言ったでしょ、畑山派と川口派は、
どこの派ともあまり口を聞かないし、美貴の事や桜花部隊も毛嫌いしてた・・・・
王族派の戸川派は無関心だけど、なんかここっていう時に美貴を助けてくれて、
松山派は美貴の事可愛がってくれてたし、その派閥の人達は、それに習って対応が極端に違ってるんだ、
あんまり気にしない方がいいよ、ここでは」
「話には聞いてたけど・・・・なんかその中に入ると異様な感じがするなぁ、
町は活気づいてるのに・・・・・みんな仲良くすりゃいいのにな」
矢口は不思議そうに言いながら馬を進めた
- 80 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:00
- とりあえず町の中を散策して、空家があれば少しの間住ませてもらおうと歩く
馬に乗るのはやはり目立った
兵隊や金持ち以外は乗れないものなので、やたらと人目を引く
しかし、ちらちらと藤本を見つけると話し掛けて来る
「飛ばされたって聞いてたけど、元気しとったんか」だとか
「美貴ちゃんが来ないからばあちゃんさびしがってたよ」等
町の人達からは慕われていたらしい
そんな町の人達に、藤本はどっか寝れそうな空家ない?と聞き、
しょうがないねぇと教えてくれた場所は、裏に大きな庭があるレンガ作りの小さな一軒家だった
移住してくる人が多い為、今空き家は王族にとって貴重な財源になっているのだという
街のはずれにあるこの家も、じきに移住者へ貸与されるだろうが、
数日ならバレずに泊れるのではとこっそり教えてくれた
大きな庭といっても馬が四頭入ればもう一杯なのだが、
馬たちはそこに生えている雑草をうれしそうに食べたりしだす
中はくもの巣だらけではあるが、掃除すれば十分四人が寝れるような環境だった
「いいじゃん、じゃあここを拠点にして、明日からまったり待つとしましょうか」
「いいですねぇ、まったりと・・・・
でもそうはいかないと思いますよ、あの城の人達はなかなかの狸ばかりですから」
「そうか?でもこのメンツだろ、大丈夫だよ、んじゃあ掃除して買い物でもしとこうか、
おいら達そういえば人の世話になってばっかであんまお金も使ってないしな」
「美貴と梨華ちゃんで買い物してきますから、矢口さんとよっちゃんは掃除しといてくださいね」
「おいおいっ、掃除は皆でしようよぉ〜」という矢口を振り切って2人は出てってしまった
- 81 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:07
- きっとデート気分で色んな場所を案内するつもりだろう
「ちぇっ、おいしい方とっとと取っていきやがって」
ぶすくれた矢口はひとみに視線をやりそう言いながらも二人きりになった事に戸惑った感じだった
それを見てひとみは、無表情で窓を開け出す
「この部屋だけ寝れるようにするんだろ、さっさとやっちまおうよ」
一応テーブルや椅子はそのまま置いてあり、台所もある
ひとみが外に持って出た椅子やテーブルの埃を矢口がリュックにしのばせている小さなホウキで払って行く
虫が嫌いなのか、矢口が外から遠巻きに指示を出す
ガランとした中のくもの巣を庭で見つけた棒でひとみが取ったり、虫を追い出したりして掃除は続く
最後に持って来ていた毛布を使って部屋の埃を外に向って出し始めた
「おいっ、ごほっ、ちょっ待て、おいらに向って埃出してるだろっ」
外で作業している矢口に襲い掛かる埃
馬も煙たそうにしながらおしりを向け出し、矢口も瞬時に部屋に入って来てひとみの後ろにつく
「しゃ〜ね〜だろ、ちゃんとした掃除道具ないんだから」
自分はちゃっかり布をマスク代わりにつけて乱暴に毛布を振り回していた
強引な掃除も、終盤に差し掛かる
矢口が置いてあった桶に水を汲んで来て、布を濡らしてテーブル等を拭きあげると、
2人は椅子にドカッと座り息を吐く
「「あ〜疲れた〜」」
声があった事で微笑みあう2人
- 82 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:09
- しかし、その後どうしていいか解らない2人は、互いに視線をずらして何を話そうか迷っていた
「あ・・・・・あのさ、昨日・・・・ごめんな」
別に追い返したい訳じゃないんだよ・・・・と
矢口がおどおどと言い出す
「あ〜、別にいんだけどさ・・・・矢口さんが何て言おうとついてくんだし・・・・」
ばつが悪そうにテーブルに肘をついて矢口に顔を背ける
昨日も思ったひとみのその決まった仕草に、矢口は少しどきどきする
「なぁ・・・・その・・・この一件が終わったら・・・
裕ちゃんの町で暮らすってのも悪くないなって加護と辻と言ってたんだ」
藤本に昨日怒られたように、ちゃんとひとみが必要な事を伝えようとしていた
「へぇ・・・・それいいかもね」
だが、ひとみの返事はそっけなかった
「お前らも・・・来るよな」
ひとみが肘をついていた手を離して矢口を見る
「え?」
「迷惑なら・・・・いんだけど・・・・お前らいないの寂しいし・・・・・
やならいんだ・・・・お前らにも考えはあるだろうし、よかったらさ」
あまりにも嬉しそうにひとみが矢口を見るものだから、なんとなく恥ずかしくなって控えめに言う
- 83 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:10
- 「いいよっ、いいに決まってるじゃん、言ったからな、ちびが言ったんだからな」
食いつくように言って来るひとみに苦笑しながら言う
「でも、ごっつぁんがMの国に残ると言えば、おいらも残ることになると思う・・・・
そしたらお前らはMの国に住むようになるのか?」
「いいよ、矢口さんがいるならどこでも」
手放しに喜んでいる表情のひとみ
それを見た矢口は不思議そうな顔をしてひとみを見つめる
「どのお前が本当の吉澤ひとみなんだ?」
「へ?」
矢口はつい口から出ていた言葉に慌てて首を振り
立ち上がると外へ出ようと桶を持った
「いやっ、何でもない、あっあのっ、水汲んで来るよ、
汗掻いたから体も拭きたいし、タンクは後で吉澤行って来てよ、重いから」
ひとみも立ち上がり、慌てて出て行こうとする矢口の腕を取る
矢口に触れる事で、ひとみはすでにいつものひとみではなくなり、矢口と目を合わせて睨む
「なんだよ今の・・・・どのってどういう事?」
「ん?・・・んと、何でもないって、おいら最近おかしいからさ、気にすんな」
掴まれた手にドキドキしながら笑顔で答えるが、真剣に矢口を見下ろしているひとみが口を開く
「・・・・・真希の事で?」
- 84 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:13
- 矢口の運命の相手、真希には、紺野というかわいい恋人が出来てしまった事で
何か不安定になっているのかとひとみは心配そうに矢口を見る
一方思ってもみなかった名前が突然出て来た事に矢口は目を逸らして苦笑する
「ごっつぁん?あ・・・・あぁ・・・・吉澤も知ってるんだ、
大丈夫、落ち込んでないよ、2人が幸せになってもらえれば」
そう言いながらも、ドアの下の方へと視線を向けている矢口の目が寂しそうな気がして
思わず抱き締めようと腕を引き寄せる
すっぽりと優しく抱き締められ随分久しぶりにひとみと触れ合う気がして矢口は心臓が高鳴る
ひとみも腕の中に小さな矢口を抱き締めて我を忘れてしまいそうになっていた
「な・・・なんだよ、落ち込んでないから・・・や・・・やめろよ」
ひとみの肩口を押して、離れようとする矢口を
ひとみがさらに抱き寄せて矢口の手から桶が音をたてて落ちていった
逃がさないようにひとみがギュッと抱き締めて、
しばらく2人は静かな時を過ごす
その時にはもうひとみは正気ではなくなり、
雰囲気に流されるように自分の腕の中にいる矢口に顔を近づけた
近づいて来るひとみの顔に、矢口の心臓は爆発しそうになりながらも、
フッと頭に鷹男とのキスシーンが浮かんで来て、咄嗟にひとみを激しく突き飛ばす
「や・・・やめろって・・・・」
「矢口さん・・・ウチ・・・私は」
ひとみが突き飛ばされた所で
泣きそうになりながらどうやって自分の気持を伝えようかと言いよどむと
「なんでだよ・・・」
矢口の怒ったような剥れた声と刺すような視線
- 85 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:17
-
「え?」
「おいらは・・・ごっつぁん以外にそんな事したいなんて思った事なかった・・・・
なのに・・・・なのになんでお前は誰とでもそんな事できるんだよ」
「だ・・・・誰とでもって・・・・ウチは」
焦って思い浮かべる・・・
さゆみとの事を見られた事を言われているのだろうか、
もしかして妬いてくれたんだろうかとかすかな希望に顔が少しにやける
そんなにやけたひとみに益々解らなくなった矢口は、カッと頭に血が昇るのを感じていた
「お前が優しいのは解るけど・・・・おいらは・・・・
おいらはそんな風に慰められたくないしっ、鷹男さんにも悪いし」
矢口は言いながら、自分のこのもやもやした気持は嫉妬だったんだと気づいた
ひとみは鷹男の名前が出て来る事が解らないので顔をしかめる
「は?」
「だからっ、こうやって軽軽しく抱き締めたりすんなっ」
真っ赤になって桶を拾い、再びドアを開けると
外には馬が三頭止まっていた
「あっ、やはりここだったのか、君、矢口さんだよね」
先頭の白い馬に乗った男が微笑み、矢口に目を止めて降りて来た
- 86 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:19
-
「あ・・・・王子・・・・様?」
まだ真っ赤になったままで驚きの表情をした矢口に、にこやかに握手を求めて来る
「さっき武蔵に、城に来てたって聞いて、探して廻ってたんですよ、
どうして私が帰る迄待っててくれなかったんです」
「いや・・・・ご迷惑かと思って・・・・あ、藤本は今買い物に行ってます」
矢口は慌てて気持を切り替える
「そうですか・・・・でも迷惑ではないですので今からでも城に来て下さい、
こんな場所に泊まらなくても城にいくらでも部屋があったのに」
ドアの外でそんなやりとりをやっている事は、ひとみの耳には入って来なかった
軽軽しく・・・・
そんな風に見られていた事がショックだった
だいたい何で鷹男の名前が出て来るのか
しかも妬いてくれたとのぼせていた自分への、思い切りの拒絶の言葉
がっくりと頭をもたれさせて立ち尽くす横を王子と矢口が入って来る
「お前たちはここで待っててくれ」
優しく後ろの兵達に言う王子は爽やかに登場してくる
「もうすぐ藤本も帰って来ますから、今掃除したばっかですけどここで待ってて下さい、
あの、私はちょっと水汲みに行って来ますから」
そう王子ににこやかに言うと、ひとみに剥れた顔をして相手してさしあげろよと言って出て行く
今の動揺している自分では、王子と冷静に対処する事は出来ないし、
すぐに藤本達が帰ってくるだろうと予測出来たから
- 87 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:22
-
「君も・・・・あの町で見た顔だよね・・・・・名前は?」
王子の言葉もまだひとみの耳には届かない
「あの・・・君」
「あ・・・」
どよんとした視線に、王子がどうしたのかと心配そうに見ている
「いや・・・・名前を聞いただけなんだけど・・・何か・・・あったの?」
「・・・・いえ・・・・あ、吉澤ひとみっていいます」
「吉澤・・・・君も美貴の町で一度会ったね、Yの国に矢口さんと乗り込んだのはもしたしから君かい?」
「・・・まぁ・・・」
「いや〜、あの記事読んで、緻密な作戦と思いやり溢れる行動に感激してね、
それに各自の能力を生かしているのがまたすごい」
「はぁ」
べた褒めな王子の言葉も、今のひとみには耳に入らない
そこへ買い物に行った2人が仲良く帰って来て、
馬と護衛の兵を見て驚いたのだろう、藤本がドアをバンッと開けて入って来た
「・・・・王子」
荷物を降ろして藤本が言うと王子もにこやかに返事をするように名前を呼んだ
「美貴・・・」
- 88 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:23
- しばし見詰め合うが、藤本がハッと膝間付く
「ご無沙汰しております、王子、その後お変わりありませんか?」
「ああ、美貴も元気そうで・・・・Yの国に行ってあんな事をしてたなんて驚いたよ」
「ええ、自分でも驚く事ばかりですが、矢口さんといると色々あって楽しく過ごしてます」
「そうか・・・それと今日は城に来て色々話しを聞きたいんだが、来てもらえるかな」
呆然とするひとみの横に、もう一人呆然とする人が出来る
「折角ですが、私はもうこの国の兵ではありませんし、
王子とこうして話す事さえ本当なら出来ない身分ですので遠慮致します」
言いながら梨華を見ると、寂しそうに佇んでいるので慌てる
「り・・・梨華ちゃん、どうしたの?」
梨華もハッとして王子を見て微笑む
「すみません、石川梨華といいます、前はペルシャの町に住んでました、
王子とこんなに近くでお目にかかれる事を光栄に思います」
同じように膝間付いて立派に挨拶する梨華に、ひとみも慌てて膝間付く
「いえ、そんなに畏まらないで、美貴の友達は僕の友達でもある、気軽に話して下さい」
「はい、勿体無いお言葉痛み入ります」
ひとみも同じように頭を下げた
- 89 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:26
- 「それで、城に来て貰えるのかな」
「心遣い有難うございます、しかし運良く空き家もありましたし、
掃除も済んだみたいだし、私達はこんな感じが楽しいので今日はここで大丈夫です」
そこに水を汲みに行った矢口が帰って来て、桶を置くと同じように膝をついて藤本に頷く
「そうか・・・本当に残念です、それでは明日、
改めて城に来て昼食でもしてお話を聞かせていただけないでしょうか」
それとここも使用許可を出すように事務方に言っておきますので自由に使ってくれと親切に言ってくれる
藤本は矢口と目を合わせ、頷くと昼食の件も快く了承した
いつまでも膝間付いている四人に、何か居辛い感覚を覚えたのか、
王子は立ち上がると昼前においでと言って去って行った
「ここの王子は優しい人なんだねぇ」
王子が出てって矢口が藤本に言いながらも、口をパクパクさせて何か訴えようとしていた
「はい、優しい人ですよ、昔から」
それが仇になって貴族派の勢力が野放しになっているのですけどと小声で悲しそうに呟く
藤本もそう会話しながらも、矢口に頷いて解ってますと言わんばかりに首を縦に振った
梨華は力を使っていたので、矢口の言いたい事を解っていた
外に誰かスパイみたいな人がいる事を矢口が訴えている事を・・・
- 90 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:28
- だが、ひとみはもうそんな事にかまっていられなかった
「どしたのよっちゃん、さっきからボーッとして」
「あ・・・・うん、何でもない」
それからわざとらしく矢口は大きな声で言う
「明日、王子様から昼食の招待されたけど、どうする?おいら達こんな服しかないし」
「大丈夫ですよ、このままで、王子はそんな事で腹立てるような人ではないですし」
藤本と矢口の会話は、あらかじめ予想された想定内の会話であり、
梨華もそれを知っているのだが、梨華の機嫌が悪くなる一方だった
「じゃあ、このままでいいか、畑山様にはその前にまたご機嫌を伺いに行けばいいかな」
「そうですね、じゃあ晩御飯の準備しましょうか、
なんか買い物してて懐かしい顔にあって、色々買ってしまったんですよね」
「よしっ、じゃあ、みんなで今日は晩御飯作ろうか」
明るく言う矢口や藤本に、梨華やひとみはあまり乗ってこなかった
その後食事の準備をして、食事をする際にも、
梨華とひとみは一様に暗い表情で、何も話そうとはしない
- 91 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:31
- 食事が終わってから、矢口は藤本を連れて一度外に出た
既に外の気配はなくなっているが、念のためにその目で確認したかった
周りを伺って張り込みの人がいないかの気配を細心の注意を払って伺っていたが、
もう見張りの兵隊等はいないようだと解ると、家を一周して帰って来る
梨華とひとみは、なんとなく自分達の気持を言えずに押し黙ったまま時間を過ごした
藤本は帰ると真っ先に梨華の手を取って、機嫌を伺う
「どうしたの?梨華ちゃん」
王子との仲を少し不安に思っているのだと
梨華以外の三人は諮り知ることが出来るのだが、本当の所は解らない
「もう・・・・話してもいいの?」
「うん、誰も聞いてないよ・・・・大丈夫・・・・・
今日・・・美貴の事・・・・信じられなかった?」
「・・・ううん・・・そんなんじゃないの・・・・
だけど・・・・少し見たくなかった・・・・かな」
正直に自分の気持を話す梨華に、藤本が微笑む
「うん・・・・ごめんね・・・・
でも、王子と会ってももう何とも思わないし、梨華ちゃんだけだから」
「・・・・うん」
矢口とひとみは、そんなやりとりを眺める
結ばれた二人でさえも、こんなに不安を抱えて過ごしているのに、
自分達はどうすれば互いの気持を伝える事が出来るのか、そればかり考える
- 92 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:34
-
矢口はさっき自分がやっぱりひとみの事を好きなんだと気づき
ひとみは矢口が自分の事を信用していないんだと気づいた
矢口は梨華達を置いて庭の馬の所へと出て行く
ひとみはそれを追って庭に出た
「矢口さん」
馬を撫でてエサをやりながら、返事をしない矢口にひとみは焦る
「あの・・・ごめん・・・・そんなに嫌とは思わなくって・・・・・
自分の気持で一杯一杯で・・・・」
「なぁ、吉澤・・・・」
「ん?」
ひとみはドキッとする、何を言われるのだろうかと
「今は・・・・ごっつぁんや、紺野達と会う迄、
目的以外の事にはなるべく気持をふらつかせない方がいいとは思わないか?」
「え・・・・」
「さっき、ついお前に感情的になってしまったけど、
おいらにとってお前達はもうかけがえのない存在だし、
これからの事はその時になって考えればいい事であって、
それまではこの事がうまくいく事だけを考えていないといけないと思うんだ」
「・・・うん」
ひとみは何も言う事は出来ない・・・・
矢口の言う事が至極正論で、言い返す事も出来ない事実だから
- 93 名前:dogsV 投稿日:2007/06/17(日) 14:35
- きっと、さっきから今まで、矢口は必至に考えていたのかもしれない
自分は、自分の気持だけしか考えていなかったのに対し、
矢口は仲間達全員の事を考えていたに違いない
そんな矢口だからこそ、自分は惹かれ、どうしようもなく好きになってしまったのだと一度目を閉じた
「それと、今日からしばらく訓練は控えろ、何があるか解らないし
どこで今回の事に影響があるか解らない、それに、もし夜中にお前がこっそり出てって、
帰って来ない事にでもなったらそれこそおいらはお前を許すことは出来ないから」
「はい・・・・」
珍しく敬語で答えるひとみ
今回の作戦で自分がへたに騒ぎを起して全てが無駄なことにでもなったらという、
事の重大さを、感じているのだろう
「ん・・・・解ったなら安心だ、お前はアホだから・・・・ちゃんと言わないと解らないもんな」
矢口は振り返って微笑む
「アホって言うなよ、これでも気にしてるんだから」
ひとみも柔らかく微笑み返した
- 94 名前:拓 投稿日:2007/06/17(日) 14:36
- 本日はこのへんで
- 95 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 00:21
- ハラハラドキドキします。
- 96 名前:15 投稿日:2007/06/18(月) 01:02
- 連日更新お疲れ様です。ドキドキしました。
矢口かっこいいですね。
- 97 名前:15 投稿日:2007/06/18(月) 01:02
- 連日更新お疲れ様です。
ドキドキしました。
矢口さんかっこいいですね。
- 98 名前:拓 投稿日:2007/07/02(月) 00:01
- 95:名無し飼育さん
こっちもドキドキですw
レスありがとうございます。
96.97:15さん
いつもありがとうございます。
これからどうなるかイチかバチか頑張ってみようと思います。
レスありがとうございました。
- 99 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:05
-
紺野達が、親方と山を降り出して二日が立つ
紺野は地形や土の質を確かめながら降りていく
もちろん道のない山中の為にその速度はゆっくりだ
真希は、あの湖の集落から翌日出発するという夜中に、
親方がどこかに出かけていった事が気になっていたが
さすがに紺野も加護達も熟睡していたし、ここでこの人数を
敵にまわすのもヤバいかと思いおとなしく眠った
一方加護と 辻は、何故かある人物にどうやら注意を払っているように真希は感じていた
こんな時梨華がいればなぁと加護が呟いたけど、
いつも近くにいる親方に、真意を確かめる事が出来ない
親方はやはり、長年山賊達を率いていただけあって、大変厳しい人で、
勝手な行動をしたものについてはかなり厳しい言葉で叱ったりしていた
しかし、真希や紺野の眼からみても横暴な感じではなく、
ちゃんと理に叶った人物であると感られた
さすがこの辺りを仕切っている山賊だけあって、山の事は知り抜いており、
途中の食物や、水のありかはよく知っていた
その山中にはまだ水があり緑もある
山賊達に川を作って何のメリットがあるかといえば、何もないかもしれない
とりあえず、王族と霧丸達が話し合いが出来る様になれば、
それで納得してもらえると紺野は思案するだけだった
- 100 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:05
-
- 101 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:07
- そして
Jの国にいる四人は互いに眠れない夜を過ごした為、
翌日少し遅めの朝を迎え城へ向う為に準備する
「おいらYの国で作ってもらった軍服でも着てった方がいいかなぁ」
「えっ、持って来たのかよ」
「持って来てないのかよ」
2人は微笑む
ひとみは中澤のいる城に置いてきたと言い、
梨華が似合ってたからそれ着ればファンが増えるのにと余計な事を言っていた
前日の微妙な雰囲気はなくなり、いつもの仲間の雰囲気に四人共ホッとしながら、
結局いつものラフな格好で城へと向う
城に入る時に門番には王子から連絡が行っていたらしく、すぐに門は開けられ、
中に入ると昨日と同じように声をかける人と、睨む人がいた
そんな中、昨日の部屋へと向うとノックした
畑山が昨日の顔と同じ様に迎え入れ、座らされる
「畑山様、昨日の話し・・・考えていただけましたか?」
「昨日?ああ、川の話し」
自分の顎を触りながら、ニヤリと笑う様が妙に気持ち悪い
「ええ、一晩じっくり考えて頂けましたら、この計画の現実性がわかっていただけると思いましたけど」
詳しい話を聞かないとまだ返事は出来ないが・・・・と前置きのように言うと
「それより・・・・そっちの小さな女の子は、矢口っていう名前なのかな」
どこから情報が入ったのか、いきなりの言葉に四人は慌てた
「はい、そうです」
だがそれを表面には出さず、
相変わらずにこにこして畑山の話を聞き、即答する矢口
- 102 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:09
- 「本当に、あの・・・矢口さん・・・・かね・・・
Mの国の・・・・最近ではYの国で革命を起こした」
どういう腹なのかと四人は緊張する
梨華にも半信半疑の心情しか読み取れない
「そうですよ・・・・それが何か?」
藤本が畑山に投げかける
「まさか・・・・藤本さんもYの国へ?」
「ええ・・・まぁ」
藤本が答えると、一瞬目を細める畑山
「ほぉ・・・・・昨日・・・・何故それを言わなかったのかね」
あんな大事件に関わって来ていたのに・・・・といぶかしげ
「言ってたら何か変わりましたか?」
「そうだね・・・・とりあえず考えてみる事にはなるね」
これからゆっくりと交渉の中でバラしていくはずだった矢口の正体
時期は早まったが、何かが動く気配に皆緊張する
「じゃあ全く考えて下さらなかった訳ですか?」
「いやいや、そんな事はありませんよ」
「私達はこの国の為を思って、他の国とも協力体制を取れる様に話をして来ています。
どうか真剣に考えてもらえませんか?」
藤本の真剣な表情に苦笑する畑山
- 103 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:10
- 「ちゃんと考えてますよ、しかしまさかここに矢口さんが来てくれているなんて、
思いもしなかったものだから少し確認したかっただけでね」
「それは何故です?人によって変わるんですか?」
藤本が冷静に言うと、畑山も冷静に返して来る
「彼女が矢口さんなら、そのMの国との交渉話がただの絵空事ではないという話になって
そちらには有利なのに、何故言わなかったのだろうかとちょっとね」
「そう・・・・ですか?」
今度は矢口がとぼけた声を出す
「それはそうだろう、君がMの国の矢口さんなら、
今私達が脅かされているMの国との関係が大きく変わるかもしれないからね」
「なんだか随分私の事を評価して下さってるんですね」
最初から笑顔を崩さない矢口に、畑山も笑顔で答える
「私がその川を作るという無茶な話しを受ければ、
昨日藤本さんが言っていたMの国との争いごとを解決してもらえるのだろう?」
「ええそうですね」
自信を見せる矢口
「干ばつもその川が出来れば止まると・・・・」
「まぁ、いずれそうなると思います」
矢口とのやりとりを、梨華は静かに読み取る
「自信は?」
畑山のするどい視線に
「あります」
目を逸らさずに笑顔で答える矢口
- 104 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:12
-
「なら、もう一日だけ考えさせてもらおう、
明日の午後にでもまた来てくれたまえ、門番には言っておく」
「はい、ではまた明日、良い返事を期待して同じ頃参ります」
にこやかに見送ってくれる畑山
部屋を出て会話のないまま、今度は王子の部屋を訪れる
待ち構えたように出迎えてくれた王子に部屋に通され、
下に今準備させているので状況を見てくるから、しばらくここで待っていてくれたまえと早々に王子は部屋を出てった
「どう?石川、感触がかわった感じだけど」
外に声が漏れないように
四人は顔を寄せ、ひそひそと話し始めた
わずか一日で矢口の存在がバレた背景
予想では昨日の武蔵の部屋での話しを誰かが盗み聞いていたのだろうというのが藤本の予想
だから今この部屋の前にも誰かいるかもしれないと顔を近づけコソコソと話し続ける
「そうですね、何か企んでいます、誰か後ろにいるようで、
彼に相談してみようと考えてたみたいです」
「彼・・・・誰だろう、藤本思いつく?」
「・・・・・いえ、彼は王族を除けば一番上の位の一人で、一匹狼のはずですが」
もしや・・・・と全員の頭の中でMの国という言葉が浮かぶ
「じゃあ、昨日からウロチョロしてるのはどっちだろう」
畑山派の人か、川口派の人なのは間違いないはず、小声で藤本が言う
そこに突然
ノックの音が響く
- 105 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:14
- 王子ならばノックはしないので別の人だろうと、四人は緊張を走らせ、銃に手をやる
「あの・・・」
入って来たのは、かわいらしい女の人だった
そのいでたちは、梨華ぐらいの身長で、おとなしそうな印象を持つ人だった
「はい、あ、今王子は下へ行かれましたが」
「あ・・・はい・・・・あの・・・・藤本・・・・様ですか?」
誰だろう、藤本が不思議そうに立ち上がる
「私・・・王子と婚約した川口雅子といいます」
「あ・・・・はい・・・川・・・口・・・様?」
四人は川口派の人の娘と婚約したのかと内心驚く
先日武蔵に少し聞いた所、まだ自分達の所にも話は下りて来ていないという位の話だったから
畑山の揺さぶりの一つだろうかとあまり気にしていなかった
しかしその話が本当なら、畑山派もおちおちしていられないだろう
力関係がぐっと川口派に有利になってしまうのが今の所決まってしまっているのだから
矢口を利益の対象とする事の意味が解る気がした
川口と畑山の鬩ぎ合いにMの国が絡んでしまって
どこでどう転ぶのか全く予想出来ない
- 106 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:16
- 「一度・・・ちゃんとお目にかかりたくて・・・・
桜花部隊の時にも、どんな方なのか知る事さえ出来なかったので」
だいたい、今まではここへ来る事も出来ませんでしたからと恥ずかしそう
「あの・・・・おめでとうございます、
しかし私はもう本来ならこの城に来る事も出来ないただの民です、
昔の事を案じておられるのでしょうが、
もう王子とは何もありませんので、ご心配なく」
わざわざ王子がいない時を狙ったようにここに現れたという事は、
そういう事を確認したかったのだろうと感じたからだろう
きちんと心中を察して雅子に言う藤本
「・・・・すみません、そのような疑いを持っている訳ではないのですが」
雅子は控えめに言うと、所在なさげに佇んだ
きっと、川口から大事に育てられて
何も解らないままに婚約させられたお嬢様なのだろうと四人の眼には映る
「大丈夫ですよ、藤本にはもう大事な人がいますし、
今回ここに来たのもその事とは関係ありません、別の用件で来ていますから安心して下さい」
矢口も立ち上がって雅子に優しく言うと、
失礼しましたときちんと挨拶してホッとしたように出てった
「ねずみ君は、川口派っぽいな」
再び四人だけになった部屋でコソッと矢口が呟く
「そうですね、そこまで貴族派が勢力を伸ばそうと躍起になってるとは思いませんでした」
互いに気になって仕方が無いんでしょうねと藤本が言うと
「矢口さんの名前で畑山派が本気になったのは、チャンスですね」
すぐに動き出しそう・・・・と梨華が言う
雅子に矢口が言った言葉が嬉しかったのか、その顔は幾分にこやかだ
「梨華ちゃん、計画通りって言ってよ」
藤本が言うと、そうだったねと2人は笑い会う
- 107 名前:dogsV 投稿日:2007/07/02(月) 00:18
- 中澤や安倍、若林等の経験豊かな人物にも十分相談して、
紺野の頭と藤本と矢口の感性で練りに練った策
まず一番勢力のあるとみられる畑山に話を持っていく
まさか婚約者が川口の娘とは知らなかったが、それでもきっと藤本の存在に川口派が動き出す
もしかしたら威厳を失いつつある王族派も何か動きを見せるかもしれない
誰がMの国と、どうつきあっていこうとしているのか
Mの国が、どうやってJの国と手を結ぼうとしているのか・・・
それとも奪おうとしているのか
誰かが焦りだすのをじっくり待つつもりだったのだが、
真希との約束の日迄に間に合わせなければならないのでそうもいってられない
若林や安倍達も、最初は矢口の名前をふせるのがいいだろうという事だった
矢口の名前で一斉に動きを見せるだろう派閥の動きを、前段階でちゃんと見ておきなさいとのアドバイス
矢口の名前をいつバラすかが問題・・・・
バレ始めれば一気に事は進みだす
進みだしたら、ちゃんと全派閥に目を配らないといけない
もちろん王族にも・・・・
早めにバラすつもりではいたが、あまりに早かった・・・・・
しかしもうバレてしまったからそこはしょうがない
これからが勝負
誰と誰がつながっているのか・・・・
きっと見えてくる
予定よりも早いが、予期せぬ王子のお誘いの食事会で何か解るかもしれないので焦りもない
王族だって何かを隠しているかもしれないから・・・・
- 108 名前:拓 投稿日:2007/07/02(月) 00:19
- お待たせしてちょっとですみませんが本日はこのへんで
- 109 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:14
- そして準備が整ったと呼びに来た王子と共に連れて行かれたのは、
かなり大きな来賓者専用の部屋だと藤本が驚く
「ちょ・・・王子・・・ここでですか?」
「ああ、我が国の実力者達にも君達の事を紹介したくてね」
嬉しそうな王子に戸惑う四人
そこには王子だけでなく、桜花部隊の武蔵他、部下だった隊長達や、
松山・戸川の王族派の長もいるらしく、かなり大袈裟に歓迎されるようなので四人は苦笑する
「やっぱこんな格好じゃ失礼だったかな」
「しょうがないですよ、そんな服持ってないんですから」
矢口と藤本の会話を王子が聞いていたのか、四人共こちらへ来て下さいと言い出した
急な来賓の為に準備されているという、たくさんのドレスの置いてある部屋へ通され、
どれでも好きな物をお召しくださいと言い、使用人を数人残して去って行った
驚く四人だったが、折角なので着させてもらいましょうと
ずらりと並んだ中のドレスを選ぶ藤本に続き、嬉しそうに梨華も吟味しだす
ひとみは「いいよ、うちはこのまんまで」と部屋の片隅に座って、矢口はどうしようと佇んだ
すると、座ったはずのひとみが立ち上がり衣装を見出す
何枚か掛けてあるのを取り出して眺めては元に戻し、
フワリとした黄色のドレスを手に取って使用人に持って行くと、こそこそと話して
その後またブラブラと衣装を見ていた
- 110 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:17
- 使用人が奥から出て来ると、ひとみは満足そうに受け取り
どうしようかと佇む矢口に近づいて来る
「こんなの着たら似合うんじゃね〜の?」
「え?」
ひとみも照れくさそうに言う為に、妙に恥ずかしくて矢口も赤くなる
「悩んでるみたいだから、手伝おうかなって」
「・・おいらもこのままでいいから」
そう言って俯く矢口の背中を押して、着替えて来いよと優しく言う
部屋に通されて使用人に手伝われて着替えさせられる
いつも身につけてる、くたびれたさらしをはぎとられ、
昔真希がよく付けているのを見ていた下着のようなコルセットを付けられる
おいおい、勘弁してくれよと心で叫びながら矢口はされるがままになっていると、
テキパキと動き回る使用人の手で、あれよあれよと変身していき、いつのまにか終了していた
肩口迄出して腰迄フィットしている上半身に反し、
コルセットに沿ってフンワリとかわいらしく演出してくれるドレスで、
いつもの短髪のざんばら髪を綺麗に整え宝飾を飾ってくれた
使用人達が満足そうに微笑む「まぁかわいらしい」と口々に言いながら矢口を外へと促す
先程ひとみが大人用ではこんな感じで小さいのはありませんかと言うと、
子供用で同じようなデザインがあると使用人が走ってくれた
子供用というのは決して言わないで下さいねとウィンクを決め、使用人の頬を染めさせていた
- 111 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:20
- 当の矢口はドレスなんてものは着た事がなく、
いつも真希の姿を見るだけだったので照れくさい
あまりにもいつもと違う矢口が真っ赤になって出て行くと、
藤本と梨華はすでに着替えており、矢口を見て嬉しそうに言う
「超かわいい〜矢口さん」
「ほんと綺麗〜」
藤本は肩から背中迄をすべて出して首に襟のある真っ赤なフレアドレスで、
梨華はいかにも好きそうなピンクのふわふわしたドレスを着ていた
「お前らこそ、別人みたいじゃん、すげ〜綺麗だよ」
梨華達の着替えを手伝った使用人達が「ほんとにお綺麗です事」と満足そうに並んでいた
2人は互いに見詰め合って見とれたように笑った
矢口はひとみを捜すが、見当たらず首を傾けてると藤本の声が響く
「よっちゃんなら今着替えに行ってます、
あのままでいいって言うから一人だけそんな格好はダメでしょって説教して、
嫌がるよっちゃんに妥協案を出したんです」
「何?」
「見れば解りますよ」
と梨華が嬉しそうに奥を見ると
丁度奥からひとみが軍服姿で出てくる
この国の軍服のようで、やはり髪の毛をきちんと整えた姿は部屋の空気を変えた
- 112 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:22
-
矢口は口を開けてひとみを見ていた
いや、見惚れていた
ひとみも矢口を見つけて微笑み、思ったとおりかわいいと心の中で呟く
「よっちゃん似合うね〜、軍服、女にしとくの勿体無いよ」
「ほんと」
梨華はひとみに釘付けとなり
少しムッとする藤本達も、結局ひとみの動く姿に、使用人達と同じくうっとりしていた
そして矢口は顔を逸らしてしまう
ドキドキする気持ちを懸命に抑える
今は、この国での事がうまくいく事だけを考えなければならないと自分で言ったんだから
ひとみの事なんて考えてはいけないんだと
再び四人が食事会の場所へ行くと、
ドアの外にいた見張りの兵がドアを開けてくれ、
中で四人を待ってざわついていた部屋がシンとなる
王族派のみ出席を許された食事会
国賓級の待遇に誰が来たのだろうと集まる王族派の上層部だろう人々が、
藤本がいた事で視線で会話していた
本当にどこかの上流階級のように気品溢れる姿の梨華と藤本
そして王子様のように目を引くひとみに連れられるお姫さまのような矢口
- 113 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:24
- 王子が立ち上がって近づいて来て、
藤本と梨華の間に入りエスコートするように背中を押すと席へと案内する
ひとみも空いてるからここだろうと矢口の背中に手を回して、
藤本達と反対の席へとエスコートするような仕草をした
矢口は心の中でどうしてこいつはこんな事自然に出来るのだろうかと思い
きっと、今までいろんな人を魅了して来たからなんだとチクリと胸を痛める
一方ひとみも、とにかく今は作戦を成功させる為に、
矢口への想いを封印しようと努めていた
しかし、自分の選んだ衣装を着て、
隣で自分のもののようにそばにいる矢口に口元は緩まない訳はなかった
登場する前の緊張感も一瞬にして変化し、そこにいる誰もが四人に魅了されたようだった
その後それよりも皆が驚いたのは、
藤本に付いてきた仲間の中のかわいらしく着飾った少女が、矢口という名前だった事
よくあるその名前の人物が、その名前で想像する通りの人物である事を王子が告げ
そしてそれを王子が知っていながら突然食事会を開いた事に驚きを隠せない
新聞で有名な人としての紹介、少し前は手配されていた事には触れない・・・・・
更に彼女に他の国の事を色々聞いて、いまのこの国の為に何をすればいいか参考にして欲しいと言い切った
そんな中、配膳の為にうろちょろしていた使用人たちも、ざわざわと有名人矢口に注目する
藤本の話では、使用人は兵達とも仲良くしているのだが、
そんな使用人の人達迄も貴族派と王族派にやんわり分かれているという
互いの派閥の事に関して情報を漏らすような事はないと聞くが実際はどうだかという事らしい
- 114 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:26
- この場でもう一つ発表がある
現在婚約し、結婚の準備を進めている人がいると王子が言い出した
川口の娘をタイミング良く使用人が迎え入れる
これからは派閥を気にする事なく、この国を作って行こうと語りかけるが、
それなら何故ここには王族派しかいないのかとは誰も突っ込めない
それを気にせず、王子の穏便で友好的な挨拶と共に、
食事会が開始され、話題が四人に集中しだす
少し前の手配中の人物なのに、今は英雄風に紹介されてしまっているので、
四人は若干苦笑しながら豪華な食事を堪能していく
まず矢口・藤本へ少しずつ質問が飛び、ひとみ達にも話を振る人が増えてくる
一緒にいるはずのMの国の姫はどこにいるのか、とか
Mの国での矢口の立場の事や
族の町の出来事
旧Eの国やYの国の出来事
新聞で見た事以上に詳しい事を聞きたがった
姫はまだEの国にいます、等
四人はあらかじめ決められた返事をして無難に話題をこなす
- 115 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:28
- 食事も終わり、テーブルが片付けられていくと、
次々と酒が持ちこまれ、踊りを披露されたりと立食パーティーのようになっていった
徐々に部屋の中は兵が増えて行き賑やかになる
場も暖まった頃には、藤本は松山という男に近づき抱きつく
「じっちゃん久しぶり」
「美貴もすっかり女らしくなって、元気しとるのか?軍曹いや、新司令官がえらく寂しかっとったが」
松山は、まさか美貴があの矢口さんという王族付の子についてってたとはと驚きを口にした
「どうせ司令官も知っておったんじゃろう?
たまに様子を見に行かせていたのに、何の報告もしなかったがなぁ」
「美貴は黙って出てったんだもん、司令官が知る訳ないじゃん、まさか咎めたりしないよね」
「ああ、大丈夫、様子見させている男もあの街も平和で、何より一体感のあるいい街になったと言っていたからな」
「すごいでしょ、あの司令官がすごく頑張ったんだよ」
はは、昔から美貴の事が好きだった男じゃからなと笑う松山
自分の事をかわいがってくれていたというだけあって、
本当の祖父のように抱きついていく藤本が微笑ましかった
使用人も、その頃には話し掛けて来るようになり、
梨華には若い兵隊の男が、ひとみは若い女の使用人が寄って来ていた
しかし矢口には王子と武蔵が人を寄せつけないような雰囲気を醸し出しながら、
部屋の一角で話を聞いてる為に誰も近づけない
- 116 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:31
-
王子には、Mの国に今の所帰るつもりはないと矢口は言う
それでは何をしにここにやって来たのかと聞くのだが、
今はただ藤本が王子に会いたいというので会いに来たと言うに留めていた
さらに畑山の所に行っているのは何故か・・・・困った感じでしつこくそれを聞きたがる王子
もちろん矢口は、この国にとって悪い話ではありませんとだけしか言わなかった
それに、すぐにまたEの国に戻る事を告げると、
もう少しこの国にいて下さいと言われてしまう
そしてMの国とのいざこざに力を貸してもらえないかと懇願する
やがて雑談を交え、ちょっとずつ硬さの取れた風に矢口は雰囲気を作っていく
まだ王子に何をしに来たのかを時折探られる中、
焦らしに焦らした矢口はついに口を開く
もし許されるのなら、自分達が他の国と協力体制を作る為の橋渡しになれるのではないか・・・と、
この話をする為にやって来たように見せかけた
そんな中で考えた結果、この国との取引も視野に入れて、
経済に詳しい畑山に交流の際の、流通の極意を教わりに来ていると嘘を言った
もちろんその話にくいつく王子
これからの他の国とのつきあい方や、交流の仕方を本当に探っていたからと喜び
「畑山は何か教えてくれますか?」
矢口の嘘に、心配迄してくれた
- 117 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:34
- そして今まで矢口達が関わってきた代表者たちの話を聞きたがり、熱く語っていた
是非この国もそうやって他の国と交流していきたい・・・・・
自分からも畑山に協力する様に言っておくと微笑む
我が国の産業は、贔屓目抜きに見ても発達していて、いい製品や技術も沢山ある
Mの国にも輸出しているが、だんだん足元を見られて来て、
今Jの国の貨幣はMの国に流れっぱなしだという
流通する金貨が、製造されていないのだから、商売をしやすくする貨幣を減らさないようにと
原料と商品の交換をお願いしているがそれも最近では断られる事があるようだ
だから今交流を求めてくるMの国はどうも信用できない・・・・・
貴族派はこぞって手を組みたがっているように見えるのだが今は何も言えない
実際今距離的に近いMの国に国交をやめられれば、
すぐにこの国の干ばつの地域は人が住めなくなってしまうのは目に見えていた
それにも増して、干ばつが広がれば、いずれこの王都迄も水不足に悩まされてしまい、
国は衰えていくという予感・・・・・
かといって貴族派の思惑通りMの国に合併されるのも、
どうも民にとっては良くない気がしてならないと、苦しい胸の内を正直に矢口に話した
他の町の水事情も、小さな川は各町に数あれど大きな川は存在しないし、
それ程大量に湧き水が出ているとは思えない為に、闇取引や個人レベルの商売でしか流通されていない
何より兵達は、街の間を行き来するのが怖いのか嫌がり、
比較的族の兵の多いMの国に運んでもらうのが一番安心だと頼りきっているのもこの国の弱い原因の一つ
山の方に大きな湖があるのも知ってて、なんとか水を引けないかと思ってはみても、
レオンと呼ばれる組織的な山賊が邪魔する事や、引くだけの術がない為に断念したという
だから距離的にも遠いが、Eの国側から水を取引してもらう方法を考えていた最中らしい
- 118 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:37
- 新聞で聞く、閉鎖していた族の町といわれた三つの街の統合や、
これから各国が交流していく雰囲気を作った矢口に、是非何か知恵をもらえないかという王子の言葉
だからこの食事会を王族派で開き、
他の国へ実際行っていた矢口達の話を直接聞いてもらって
皆が何か考えてくれたらという狙いだったようだ
Jの国では、目に見えて衰退している街もあるというのに、
実力者達は自分の身を気にするばかり
着実にこの国の空には暗雲がたちこめている気がしてならないと王子は弱弱しく呟く
王子は今、藁をも掴む気持ちであるのはよく解った
そんな弱気な王子を苦々しく見つめる武蔵も、きっともどかしい思いをしているに違いない
そんな色恋抜きの話をしている状況でも、
雅子がじとっとした視線で心配そうに眺めているのが目の端に入り、矢口は苦笑した
そして四人はそういった中で気配を読んでいた
さすがの梨華も、こう大勢の中では誰の心を読んでいいのか解らないので
力の温存で使用しない事にしていた
自分の話を誰が聞き耳をたてているか
視線の動きのおかしい人はいないか
王族派の中で裏切り者のような存在の人がいるか・・・・
それとも兵の一人として紛れ込んだ奴の中で、自分達に危害を及ぼそうとする人がいるか
四人は、使用人や側近の兵隊の中にも気を配る
そして動いた
その人物は辺りを伺いながら出て行く
- 119 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:39
-
梨華と藤本が気が付き、それをつけるように出て行く
それぞれ離れた場所で話していた人達にお手洗いに行くといい、
矢口とひとみに梨華は力で話しかけ、視線を合わせないまま小さく頷いたりして確認し合うと出て行く
違うドアから出たら、遠巻きに貴族派らしき兵が部屋に入りたそうに見ており、
藤本達が出てくるとそそくさとどっかに行ってしまった
出てった人物を見失わないように兵を気にしながらも
二人は自然に合流し城の中を歩いていく
自分達にも尾行がついていないか等気を配りながら後をつけていくと
予想通りその人物はやはり畑山の部屋へと入っていった
梨華と藤本は隠れながらひそひそと言葉を交す
「意外な人物だったね」
「うん、まさかあのお嬢様とはね」
王子の婚約者という事で、矢口達から少し離れた場所で、
矢口にジェラシーを妬きながらおとなしく座っていた少女、川口雅子
そんな部屋の中の会話を梨華に読み取らせる
だがその会話は、どんな話をしているかという事を細かく聴きだそうとする畑山に対し、
雅子は王子が仲良く矢口と話しをしているのがイヤだと言うだけであった
ただ、愛する王子が矢口と話しているのが気に入らないと嘆くばかりで、
宥めるだけの畑山は、目的をあまり達成出来ていなさそうだ
畑山はイラつき、雅子は嫉妬心を誰かに聞いてもらいたいだけの心境が梨華に伝わる
- 120 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:41
- 王子と藤本との過去を聞きたいと父親に詰めよる雅子に、
川口はわが子可愛さに教えなかった・・・
そして教えてもらえずに苛ついているのを利用し
元々川口派の情報を探る為に相談相手になり接近していた畑山が、
今日の食事会で婚約を紹介するに違いないと読んで、彼女にスパイさせようと企んだという事
雅子はただ何も解らないままに言われた通りにしていただけのようだ
役に立たない川口の娘に、この際藤本に王子とよりを戻させてしまった方が得策かも・・・・
と畑山が考えてる様子が梨華に届いてしまい、梨華は気分が落ちていく
もしJの国から・・・・国をあげての要望があって・・・・
それも昔愛し合った仲なら、美貴はその要望を断る事が出来るだろうかと梨華は考える
帰ろうとする藤本が、様子のおかしい梨華に気づいて原因を聞くと、なかなか梨華は口を開かない
誰もいない場所に移動し、梨華を抱き寄せると、藤本は唇を寄せる
「秘密は無しだよ」
優しく見つめる藤本に、ポツポツと梨華は心境を語ると、藤本はそれを笑い飛ばす
「ありえないから、そんなの・・・・
それに、もしそんな事になっても、美貴は梨華ちゃんのものだよ」
真剣に梨華を見つめて、そして頷く
「美貴ちゃん」
頷いて自分の事を恥ずかしいと思う梨華
いつだって美貴は解り易く行動し、言葉にしてくれる
ネガティブな自分には、とても心地いい相手
- 121 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:45
-
「よし、部屋に戻ろう、あんまり長く席をはずすとどこいったかって探されちゃう」
藤本はそう言って梨華の手を引く
とにかく今回の目的としては拍子抜けだし、
そんな事は絶対ないからねと再び梨華を安心させてか部屋へと帰る
王族派の厳戒態勢の部屋に戻ると、
ハーレムのように女をはべらせているひとみに、梨華は剥れた表情をしながらも、今度は矢口に目をやる
にこやかに王子と話をする矢口は、本当にどこかのお姫様のようにかわいらしく映った
どうにかして大好きな2人を結ばせてあげたい・・・・梨華は改めて感じた
昼食のつもりが、いつのまにか入れ替わり兵達がやって来て、
藤本に挨拶して行ったりして夕食の時間になってしまう
勤務時間が終わり、あの矢口がこの城に来ていると、公にバレてしまったという事で、
詰め掛ける王族派の兵が後をたたなかった
この国をどうにかして守りたいという気持ちはどの兵も同じようだった
今の所王族派は、Mの国との合併は望まない人ばかりで、
変な事を考える人はいなさそうだ
王族派の考えでは、とにかく一致団結して、Mの国からの要請をうまく切り抜け、
なんとか干ばつを止め、他の国と肩を並べて交流しながら
今まで通りの国づくりをしていきたいと皆が思っていた
兵達が矢口に言うのは、難しいかもしれないが、
どうか国に帰って水を供給してくれるようにして下さいと頼むばかりだった
それと、どうやら武蔵は本当に矢口を気に入ったらしく、
握手を求めて群がる兵達から守り、やたらと世話を焼いていてひとみをイラつかせていた
- 122 名前:dogsV 投稿日:2007/07/04(水) 00:47
- 長い長い食事会も、期待した程、
何か情報が出てきた訳でもなく、何事もなく終わりそう
四人の目には、王族派は全くMの国とつながっている様子は無い事位が収穫といえば収穫だった
ようやく夜になって解放され、着ていたドレスを返し、
いつもの洋服に戻るとホッとした表情を浮かべ、門まで見送りに来た王子に挨拶をした
「今日は本当に楽しかったです、これからもこの国が発展される事を祈っています」
病床にいらっしゃる王様の回復も含めて・・・・と四人が挨拶する
「明日も城に来られるという話ですが・・・いやもう聞きません、
とにかく寄られた際はまた部屋に来て下さい。武蔵も待ってますので」
今日話しをさせてもらった党首や幹部とも、Mの国との事、
よく考えてみますのでまた意見を聞かせて下さいと手を差し出してくる
「はい、私の意見等でよければいつでも・・・・
今日は本当にありがとうございました。ではこれで」
矢口が王子と握手を交し、皆も馬に乗って城を後にした
- 123 名前:拓 投稿日:2007/07/04(水) 00:47
- 今日はこのへんで
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 02:57
- 王子はいい人すぎますね
矢口たちにとっては一歩前進でしょうか
4人のドレス+α姿は壮観だったでしょうね…
- 125 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 19:48
- 今回更新されてからもうにやけてしまって、10回くらい同じところを読み返してます。
あと10回は読むと思います。
- 126 名前:拓 投稿日:2007/07/07(土) 19:36
- 124:名無飼育さん
レスありがとうございます。
四人の正装姿・・・是非、生で見てみたいです。
125:名無し飼育さん
そんなに何度も!!
どこを・・・?というのは聞きませんね。
嬉しい限りです。レスありがとうございました。
- 127 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 19:38
-
「美貴ちゃん」
城を出た後門が閉められるとしばらくして梨華が合図のように言い、
矢口と藤本は姿を消した
ひとみも瞬時に梨華を馬から下ろして背中にかばい剣を構える
襲われる事は予想していた
暗闇で呻き声と殴る音・ドサリと何かが落ちる音が響いて静かになる
茂みの中から現れる矢口と藤本の手には、たくさんの銃が抱えられている
「川口派ですね、どうします?連れて帰って白状させますか」
茂みの中にはすっかり気を失わされた十数名が眠っているようだ
貴族派は基本的に頭脳派集団で、王族派は兵隊らしく武術に長け、
貴族派は商売や流通に頭を使うという風に分かれているので
川口派と呼ばれる兵隊はただ武装しているというだけで驚く程弱く、あっという間に二人にやられてしまう
「その必要はなさそうだよ」
藤本が歩きながら矢口に近づくと矢口はドサリと銃を落とし、ある一点を見つめていた
「さすが元桜花部隊司令官と、王族付きの族の矢口さんですね」
「これはこれは、誰かと思えば時期派閥の党首の出水様ではないですか」
- 128 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 19:42
- 藤本がその人物の名前を言うと、
苦々しい顔ですぐに近づいて来るので矢口が柔らかく聞いた
「どうして私達を襲ったんです?」
「今日は市中見回りを川口派がしておりますので、不審人物かと思いまして、大変失礼しました」
しゃあしゃあと挨拶する出水に、
「そうですか、それは大変ですね、あいにく私達は不審者ではありませんので
・・・・今回の事は正当防衛かと・・・・・ですので私達はこれで」
藤本がそう言うと、出水はすぐに言って来た
「そうはいきません、藤本様はご存知でしょうが、
我が国では私達勤務中の兵隊に暴力を振るう事はご法度になっております
申し訳ありませんが、四人には今日牢屋へと入っていただかないと」
出水が両手で銃を構えたため、藤本と矢口はため息をつき
「出水様、私達これでも色んな場所で修羅場をくぐってきた族ですよ、
無駄な事するより今聞きたい事を聞いてもらえれば答えますけど」
それに我が国ではこれは正当防衛だと証明出来ますけど?と涼しい顔をした藤本
あまりに四人が平然としている為に、出水は苦虫を噛み潰した顔で銃を下ろし
「なぜ畑山様なんだ」
「なぜと言われますと?」
「何か話しを持って来ているんだろう」
「いえ」
「とぼけるなっ、どんな話を持って来た、Mの国とどうやって手を結ぼうとしている」
焦りを見せる出水
「手を結ぶ?」
藤本の言葉に、冷静さを欠いた出水がしまったと思った時にはもう遅かった
- 129 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 19:46
- 予想はしていたものの、
貴族派は、こぞってMの国と手を結びたがっているんだとはっきり四人は知る事が出来た
「出水様、私達はどちらかというとMの国とは敵対関係であって、
手を結ばせるような話は持って来ていませんよ」
「なら、どうして畑山様に会いに来るんだ」
「それは出水様には関係ありません」
藤本は答えた
苦い顔で睨みつける出水
「どうします?私達を捕まえて吐かせますか?」
矢口が瞬時に出水の後ろにつき、銃に見せかけた指を突きつける
「・・・・・・・・」
どうみても分が悪いと解った出水が
「いや・・・・・・・・・誤解のようだし・・・行ってもよい」
観念したように弱弱しく言う
「ありがとうございます、それでは失礼します」
藤本の言葉に四人はまた馬に乗って歩き出す、
梨華は出水や後ろの人物達で意識が戻ったりして
誰か撃ってくるかどうか必至で気配を読んでいたが撃って来る事はなかった
噂だったMの国との合併話は、王子の言う通り貴族派のみが積極的
しかも、畑山派と川口派は互いに自分達のみ主導権を握りたがっている
おそらくMの国と手を組めた方がこの国の実権を握るとでも思ってるのだろう
王族派はその動きを知っていながらも、何も出来ずに手をこまねいている状態
思ったより王族の立場は弱いようだ
- 130 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 19:52
- 一番の原因は、Mの国との対応を迫られた王が、
その責任の重さから病に伏したこと
それにも増して優しい王子は、
リーダーシップを取るにはまだ若干頼りなさげだとひとみ達は思う
藤本は口には出さないが、そんな王族に・・・・王子に少し落胆していた
これで川口派も、矢口達を気にしているのは確認出来たし、
後はどちらがMの国と一緒に自分達を襲ってくるのかを待つばかり
空家にたどりつき、外の様子を梨華と共に探ると
誰も見張りのいない事を確認してから話し出す
「動き出しましたねやっと」
「ああ、これで間に合いそうだな」
藤本と矢口が話していると、頭に両手を乗せて机に寄っかかっていたひとみが呟く
「なんか厄介な城だね、Yの国もそうだったけど、どうしてこう偉い人って複雑なんだろ」
「お前が単純すぎるんだよ」
「あ、さいですか、それはすんません」
矢口の突っ込みに口を尖らせて口を閉ざすひとみに、梨華や美貴が笑う
「でも矢口さん、今日からおちおち寝てられませんね、いつ誰が襲って来るか解らないから」
さっきも即行で襲ってきたし今度は誰が来るのか
多分Mの国は、案外近く迄迫っていると四人は思う
- 131 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 19:57
- 「まぁ、そうだけど、もう吉澤もいっぱしに戦えるし、石川は気配が読めるし心配ないだろ」
信頼の言葉に、ひとみが少し嬉しそうな顔をした
「そうですね、じゃあ梨華ちゃん腹ごなしに散歩しにいこっ」
「おいおい、大丈夫か?」
手を引いて出て行く藤本に矢口が声をかける
「大丈夫大丈夫、すぐ帰って来ます、
だって梨華ちゃんのあんな綺麗な姿見せられて我慢出来ませんから」
「もうっ、美貴ちゃんっ」
相変わらず大胆な事を言って手を引き寄せ腕を組むと、
嫌がりながらも嬉しそうな梨華が真っ赤になって出て行く
「油断すんなよぉ〜」
「「は〜い」」
2人はとっとと出てってしまった
もう少ししたら、藤本は畑山の動きを探る為に一人城へと戻る事になっている為
それも仕方ないと矢口達はそれを許した
「なんだかあいつらどんどん熱くなってね〜か?」
矢口はひとみに微笑む
- 132 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:02
- 「ウチらがばかみたいだな、あんなに仲いいの見せられると」
「ああ」
ひとみも微笑み返すと自然に言葉が出る
「でも今日かわいかったじゃん」
「え?」
自分で言った言葉に驚き、顔を逸らす
「あの武蔵司令官だっけ?もうちびにメロメロって感じでさ、相変わらずもててんなぁって思ったよ」
「な・・・なんだよ、自分だってすっげ〜もててたくせに、背も高いしさ」
「背ぇ関係ね〜だろ」
逸らした顔でくすっと微笑む
「ったく、あいつらのせいでおいら達まで変な感じになっちまうじゃんか、なぁ」
矢口は必至だった
やはり自分がひとみを好きなんだと自覚してしまった為に、
よく解らないひとみの気持を探ってしまいそうになる事
「変って?」
ひとみはドキリとして聞いてしまい
それを聞いて再び慌てた矢口が立ち上がって
「いやっ、別に意味はね〜よ、んじゃ体拭いて来るからここにいろよ、何か怪しい気配があったらすぐ知らせろ」
動揺したのか矢口は逃げるように奥へと消えた
「ああ」
ひとみは一人椅子に座りなおし、今日の矢口の姿を思い浮かべて微笑んだ
- 133 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:04
- しかし、この一件が落ち着くまで
考えるのはやめようと言われたひとみだったが、やはり気になっている
誰とでもそんな事が出来る・・・・といわれた事
鷹男の名前が出て来た事・・・・
思いつくのは加護が矢口に何か言ったのだろうかという事
それとも鷹男が矢口に何か・・・・
それはないはず・・・じゃあ真希は何を知っている
矢口を泣かすなと言われても、今だって実際泣かされているのは自分で・・・・
毎日抱き締めたい衝動にかられるのをぐっと堪えているのに
どう考えたって解らない・・・・
慰めはいらないと言っている矢口は、まだ真希を思っているのだろうか
それとも・・・・
他に誰か・・・・・・・・
瞬さん?まさか・・・・でも亮のあの甘えっぷりは・・・
ひとみはあまりに必至に考え過ぎて、近くに忍び寄る人影に気づく事が出来なかった
- 134 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:06
-
矢口ももうこの事は考えまいと思っていたのに、
先程迄の目を奪われる程の美しい軍服姿に胸が締め付けられる
どうして彼女なんだろう・・・・
こうやっていつまでもそばにいてもらいたいと心底願ってしまう
ひとみを好きだと気づいたのに、どうすればいいのか解らない
鷹男の事や・・・・ひとみが住んでいた街で、
神妙な顔で会いに行ったあの女性とは本当はどんな関係だったのだろう
それにやたらと人が訪ねてくるあの街でのひとみの生活・・・・・
聞きたくてもどうすればいいのか・・・・・
どう聞けばいいのか矢口には経験がなくてうまく聞けそうに無い
そして
一番聞きたい事
ひとみは今・・・・・自分をどう思っているのだろうか
身動きもせずにただ立ち尽くす矢口は、ハッと意識を取り戻す
とにかく今は姫達と合流し、この一件をどうにかするまで考えてはいけない
自分で言ったくせにと苦笑し、慌てて体を拭いていく
こんな事を考えている間にも何かが動いているのかもしれない
そんな風にひとみとの事を考えていた事で、外の様子は耳に入っていなかった
- 135 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:12
- 気を取り直した矢口が奥で体を拭いて出て来ると、
ひとみの姿がなく、ドアが開いていた
「あれ、吉澤?」
ポツンと佇む矢口
ハッと気づいてドアから飛び出ると、丁度藤本と梨華が満足げに手を繋いで帰って来た
「あれ、矢口さん」
「おいっ、吉澤見なかったか?」
「え、よっちゃん?」
「いないんですか?」
二人は顔を見合わせる
「ああ、おいらが体拭いてる間に・・・出てきたらドアが開いてて」
矢口は考える、どっちだと
「何か物音は?」
「気づかなかった」
いや、気づけなかった・・・・後悔が矢口を襲い始める
「よっちゃんも大分気配感じる事出来るにようになってましたよね」
「ああ、って事は族?」
「・・・・だとしたら藤本っ、どっちだ?」
慌てふためいている矢口をとりあえず家の中に入れる
- 136 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:16
- 「解りません・・・・でも族は貴族派にはいないんです
・・・・だから王族・・・派・・・・?」
藤本も考える
矢口は、しばらく歩き回ると裏へ行って馬の手綱を取った
「待って矢口さん、どこに行くんです?」
「城に決まってるだろ、とりあえず川口に聞かないと」
「貴族派は城には住んでないんです・・・・」
「じゃあ、家知ってるだろ、そこへ行くよっ、教えてくれ」
完全に冷静さを失っている矢口を馬から離して部屋へと入れると
「冷静になりましょう矢口さん、ここで殺されていないって事は、すぐにどうこうされる訳ではないと思います」
前もあいぼんやののも大丈夫だったでしょうと強い視線で矢口を見る
「美貴もそう思います。この事で相手は、こっちの動向を探ってくる、
目的はよっちゃんの命ではなく私達の真意ですから」
意外に冷静な梨華に続き藤本にも諭されて、下唇を噛んでうろうろする矢口
梨華がハッとし顔をあげ叫ぶ
「誰か来ます」
瞬間藤本と矢口は奥へと梨華を突き飛ばしながら動くと、外でトンっと音がした
- 137 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:18
- 後ろ手に銃を構えて矢口が気配を伺いながら外に出ると
弓矢が刺さっていた、それも手紙付き
矢口は慌てて見回すが誰もいない、あきらかに族であると確信し、
矢を取ってすぐに中に入りドアを閉めると手紙を読む
『お前達の策略をこの娘から聞き出す迄帰さない、帰して欲しければ明日畑山と話した後三番山の麓の小屋迄来い』
手紙を持つ手が震える
畑山との話し合いを知っている人物
そして
頭にあるのは拷問を受けるひとみの姿
「川口の家はどこだ」
「町のはずれです、馬でも少し距離あります」
「川口のよく使用する場所は知らないのか」
藤本と梨華の目にも矢口がまだ冷静になりきれていない事が伺えた
「・・・・・」
「いいから川口の家を教えろ」
「矢口さん」
「藤本っ、教えてくれ」
必至に藤本の肩を掴んでくる矢口の顔に、もう断ることは出来なかった
- 138 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:25
- わかりましたと頷く藤本は、自分も行きますとまず川口の家へと向う
梨華を置いていく訳にはいかないし、自分も行くと梨華が言うので力を使っての移動は無理
目立たぬようにする為、馬には乗らずに自分達で行く為に少し時間がかかった
すっかり人通りの無くなった通りを、目立たないようにすばやく歩く三人はひそひそと話す
「ひとつくらいバーミン持って来とけばよかったですね」
「ああ、川口派には本当に族はいないのか」
「ええ、でも、Mの国の人はどれくらいの割合で兵に族がいます?」
「・・・・・そうだな・・・1割・・・・しかし今はもっと増えてるかもしれない」
どうしてです、という言葉を矢口は聞き流した
Mの国はもうKの国を徐々に手にいれているかもしれないと思っていたのだった
MはYとは違い、力づくで奪うような事はしていないはずだ、
和田がMの国でクーデターを起こしたようにジリジリと内面から追い詰めて行く
もしかしたらJの国もそんな力に惑わされているのかもしれない
人の心の善と悪は、ひょんな事から入れ替わる
そんな人の弱い場所を、和田は巧みについてくる・・・
だから・・・・もうこの国のあちこちにもその手は伸びていて
いや、すでにひとみが連れ去られた時点でMの国の匂いが非常に濃くなっているのを感じた
- 139 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:26
- 矢口の予想では畑山がつながっていると思っていた
藤本も同様で、夕方の攻撃を仕掛けてきて
失敗した川口がそれに焦ってのひとみの拉致であると睨む
今真希達と根来集の所に向っている霧丸と譲のような山賊を使って・・・・
しかし、走っているうちに藤本は少し気になる
「川口じゃないような気がします、とりあえず行ってみますけど、絶対に気づかれないようにしないといけませんね」
「・・・・・・解った」
家に隠れながら人目を忍んで駆けて行き、藤本が指差す大きな屋敷に付く
警備だろうか、門に一人男が立っており家の中は真っ暗になっている
ギリギリばれない程度に近づくと
「じゃあ、始めますね」
梨華が目を瞑る
- 140 名前:dogsV 投稿日:2007/07/07(土) 20:29
- 何のための鳥族だと言って、梨華が中の気配を読み、
ひとみが何か強い力で心の中で訴えている事はこの距離なら絶対解るはずだと矢口に言った
何人も屋敷にいる中で、ひとみの波長だけ解るのかと藤本が聞くと、
これでもずっとひとみと一緒に育って来たから解ると断言した
しかも、族でない自分達が狙われる事もあるだろうと、
二人は矢口達には内緒で、何かあったら心で訴える訓練を密かにやっていたと言う
「いません、ここにはひとみちゃんはいないです」
矢口が唇を噛む
少し離れた場所にある畑山の屋敷にも向ったが、やはりひとみの気配はなかった
当初の計画通り、藤本はこのまま畑山を見張るかどうかを三人は話し合うが、
状況が変わった今、三人は一緒にいた方がいいし
あの空き家にもしかしたらひとみが帰って来るかもしれないという事で戻る事にした
やはり手紙の場所に行くしか方法はないのかと思案しながら
矢口は力を使って一足先に家に戻るが、ひとみの姿はない
三人は、もうどちらの貴族派が繋がっていようと関係ない
既に敵はMの国に変わったのだという事を感じるのだった
- 141 名前:拓 投稿日:2007/07/07(土) 20:29
- 今日はこのへんで
- 142 名前:15 投稿日:2007/07/07(土) 22:07
- うわぁ…えらいことになってきましたね…
三人様頼むよぉ!
- 143 名前:拓 投稿日:2007/07/08(日) 15:26
- 142:15様
そうですねぇ・・・(これ以上はなんか書けないので・・申し訳)
レスありがとうございました。
- 144 名前:dogsV 投稿日:2007/07/08(日) 15:29
- その頃ひとみは崖の脇の道を馬の上に縄で手足を縛られ、
お腹を下にして乗せられた状態で目が覚めた
薬のような匂いのする布を、口と鼻に押し付けられ、
三人の男に机に押し付けられた所で記憶が無くなっていた
口には布で歯を開けられた状態で猿轡状態にされている
目覚めた事を後ろから馬に乗っている男に気付かれ声を掛けられた
「気付いたみたいだぞ、女が」
「おはよう、といっても夜だがな、はは、
全く、一般人のくせに矢口に連れられていたのが運の付きだったな」
ひとみを後ろに乗せていた男がひとみの背中に出された紐を掴んで振り返りながら言った
「まぁ、あいつは情にもろい所があるから思いっきり使わせてもらうと言っておられたぞ、よかったな」
「さっき少し見たらなかなか綺麗な顔してたんで楽しみにしてるんだが、まぁ覚悟しておけよ」
ひとみから見える後ろの男達2人が、そう言ってせせら笑う
ひとみはその顔を睨みつけながらも辺りを見渡す
自分の頭が向いている方は断崖絶壁で真っ暗、足の方は土壁のようになっていた
- 145 名前:dogsV 投稿日:2007/07/08(日) 15:32
- 一体どこへ連れて行かれているのか検討もつかないし、
兵の軍服を見るとJの国とは違う見た事もないデザインだった
「残念だったな、ここで暴れてもお前が死ぬだけだ、
それに死んでもお前がいると見せかけて使うだけだから、どうぞ、暴れてみたらどうだ?」
ポクポクという馬の歩く音と共に、楽しそうな男達の声もその近辺に響き渡る
冷酷なまでの男達の声は、ひとみの中に悔しいという他に悲しみをもたらせる
この人達はきっとMの国の兵達だと確信できたから
あんなにも他の国で色んな人達と一緒に戦う人を作れる矢口は、
自国のこんな人達に命を狙われるんだと思うと悔しさを通り越して行く
「何を企んでいるかわからんが、もうあの国もわが国の手中にあるんで邪魔されると困るんだよ」
乗せているリーダーらしき男が低い声で言う
「きっと矢口の事だから、何か仕掛けて来ると思うが、それまで俺達と楽しく待ってような」
いやらしく後ろの男が笑う
「あんまりお前が綺麗なもんだから、俺達も楽しくなっちまってな、早く帰ろうぜ」
一番後ろの奴が、せかすように叫ぶ
ひとみがフガフガと言いながら体を動かすと、
馬が少しよろけて、後ろ足が崖を削る、そして綱を引かれ怒鳴られる
「動くなっ、死にたいのか」
「無駄な事はするな、おとなしくしとけ」
ほっとしたのか、後ろの男が馬鹿にしたように笑う
- 146 名前:dogsV 投稿日:2007/07/08(日) 15:34
-
ひとみは考えた
このまま連れて行かれれば、矢口の足手まといになるだけだと
辱めを受けて矢口の足を引っ張る位なら、ここで死んだ方がましだと思う
しかし、矢口に思いを伝えられないまま死んでしまうのかと思うと、死んでも死にきれない
せめて、何か役に立ちそうな事を矢口に残したい
必死に頭を働かせる
そして冷静に周りを見回して男達の特徴や倒せそうな隙を探すが何も見つからない
悔しさが涙となって現れる
何も出来ない自分に腹が立つ
矢口を守りたいと思って
矢口の役に立ちたいと思って毎日頑張って来たつもりが、何も出来なかったばかりか
こんな事になってしまうとは・・・・
馬にまで愛情を掛けるような矢口は、
きっと自分の為に危険を侵してでも助けようとしてくれるだろう
自分の身なんてどうなってもいいと
またあの小さな体を傷つけて、自分の為に闘うのだろう
無様に捕らえられた自分を呪う
「おい、泣いてるぞ、その女」
「そりゃそうだろう、これから怖い目にあうんだ、泣かなきゃ嘘だ」
後ろの馬に乗った男に、ひとみを乗せた馬の男が低い声で言う
- 147 名前:dogsV 投稿日:2007/07/08(日) 15:36
-
ならば
自分が矢口の足かせになる前に消えてしまおう
ひとみの口の中にある布を思い切り噛み締めると
ひとみは体を動かし馬のバランスを崩させる
「ばかっやめろっ」
崩れた馬の体勢でひとみの足が土壁に届くと
一気にひとみは足を踏ん張り馬もろとも崖へとジャンプした
「次郎っ」
崖の上から後ろにいた男が叫ぶ
落ちて行くひとみの目に、
馬を足場にするように蹴って力を使って崖を上って行く男の姿が見えた
ああ、あいつは族だったのかと
そして、一人も倒す事なく自分は死ぬのかと思った所でひとみの視界は真っ暗になる
蒔絵様・・・・もうそばにいられなくなってしまいました
心でそう呟いた
- 148 名前:拓 投稿日:2007/07/08(日) 15:36
- 本日はここ迄
- 149 名前:15 投稿日:2007/07/09(月) 00:57
- 更新お疲れ様です。
……次回待ってます!
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/11(水) 21:25
- どうなってんだあー
- 151 名前:拓 投稿日:2007/07/16(月) 00:09
- 149:15様
お待たせしました。
150:名無飼育さん
むむ・・・むむむ
レスありがとうございます。
- 152 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:13
- 矢口は部屋でずっと手紙を見ている
「矢口さん、その場所・・・・どうします?」
何か考えている風の矢口に胸騒ぎを覚えた藤本は声を掛ける
「行くよ・・・当たり前だろ」
「でも」
「解ってる・・・罠だろ・・・・だから、おいら一人で行く、
お前らと畑山と会いに行った後で一人で行くから」
「一人って・・・族が何人いるか解らないのに一人じゃ」
きっと大勢でそこに来て待ち伏せしているのは確かですよと呟く
「いや、一人で行く・・・・・・わざわざこの国の兵を借りたりして大勢で行くと
それこそ相手の思うつぼ、どこのどいつがやってくるのか知らないけど・・・
一人でこっそり様子を伺って必ずあいつを取り戻す・・・
だから、お前たちは作戦通り畑山と川口・・・・それと王子と騙しあいを続けて姫達と合流してくれ
・・・・・おいらの名前が役に立ちそうならどんどん使っていいから
・・・・・・紺野や姫の苦労を・・・・無駄にしないように」
「いえ、行くときは一緒ですよ、それにごっちん達が、
矢口さんや紺ちゃんの考えるような事を掴んでれば一気に押せますからね」
ある仮説を2人は立てていたが、99%そんな事出来っこないだろうという皆の予想
だけどもしかしたらという事もあるかもと、
それも確認しにわざわざ紺野は山賊達と湖迄いく事にしたのだ
「姫達と会うのは明後日だ、明日三人で三番山に行って、
もし三人共捕まってしまえば全てが無駄になる、だから明日はおいら一人で行く」
みすみす捕まったりしないよ、様子を見るだけだ
そう言う矢口の中の白い炎に梨華は気づく
危うい光を放ちながら、矢口の中に何かが生まれているのを感じた
「でも明日、近く迄は皆で行きましょうね、矢口さん」
「・・・・・・ああ」
- 153 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:16
- その後、祈るような格好で固まった矢口
自分のミスを悔いているようにも見える
張り詰めた空気を出している矢口に、
2人はもう声を掛ける事が出来なかった
同じようにひとみの無事を祈りながら何か方法はないかと考えていたが、
朝も近くなった頃には、いつのまにか二人はそのまま眠ってしまったようだ
2人は机で突っ伏したまま目を覚ました頃には、
矢口はもう起きて馬を撫でていた
もしかしたら一睡もしていないのかもしれないと藤本が聞くと、
寝ないと戦えないからちゃんと寝てると言う
自分達は襲われる可能性のある時には
意識を残したまま寝る訓練をしているので平気だろと藤本に同意を求めた
そして、2人は矢口の中の何かに気づき、
緊張感が漂う中、軽く食事を取ると、早速城へと向う
予定通り畑山に会いに行くのは変更しない
恐らく畑山はもう"一人"人数が少ない事も知っているだろう
ひとみを浚ったのが畑山だろうと川口だろうと、
この事でこちらがどうするのかを伺って来るに違いない
三人の意見は一致し、普段通りにふるまわないといけない事を確認しあう
だから今日も、畑山の部屋でにこにことした笑顔を見せる矢口
- 154 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:19
- 梨華は矢口の演技に驚く前に、
その矢口を見ている畑山の心境の変化に驚く
ドアから入った時には余裕の笑みを浮かべ、勝ち誇ったような心境だったのに、
いざ話し出すと少しずつ恐れ出しているのが解った
内心とは裏腹に、余裕ある態度でニヤりとしながら一人足りないという畑山にも、
風邪をひいてしまったので置いてきましたと全く動じず笑顔で言う矢口
「もしかして彼女をお気に召されたとか?
申し訳ありませんが、彼女は特別この話に詳しいという訳ではありませんので、藤本と私で説明させていただきますね」
今朝迄の張り詰めた表情とは打って変わって、
平然と、「今日は必ずこの話がこの国の為になるとお解りになられると思います」・・・・と話し続ける
紺野が作ってくれた書類を披露し、ついに詳しい情報を与えだす
理路整然と、今後川が出来なかった場合のMの国に流れる金と、
川を作り他の国へと流れる金とを比較、そしてこの国の立場も加え、金額の正当性を訴える
もちろん働く人達は、この国の人達にし、
そこに金が流れればさらに流通も活発になり、この国は繁栄するはずとも付け加える
「ま・・・まぁ、計画としては・・・・ちゃんと考えられているようだね」
「もちろんです。私達の仲間達と一緒に、ものすごく考えましたから」
紺野が必死に考えた案だけあって、どこにも文句を言う隙のない計画であることは伝わったようだ
「だが、何故そんな話をわざわざこの国に持ってくるのだね、君達に何の得があるんだ」
苦し紛れの言葉に
「私達には何も、水不足になっている街の中の一つに、
大事な仲間の故郷もありますから、ただ力になりたいだけなんですよ」
それから取引には信用が第一、この計画には私達の存在が必要だという事はお解かりいただけると思います
と強い視線で畑山を追い詰める矢口達
「うむ」
だからこそ、畑山は追い詰められていると感じた
・・・・主導権が完全に矢口達に流れていたから
- 155 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:22
- Mの国との関係がなければ、是非にとお願いしたいような計画である
王族にこの話を持っていけば、
すぐにでも実現に向けて動くかもしれないのにどうして自分だけに・・・・・
ひとみを誘拐して動揺しているはずの矢口の顔色も変わらず、
侮っていたはずの計画としても完璧な出来栄えで、おまけにMの国に対抗していける秘策もあると言われる
昨晩のうちに探りを入れるよう命じた下級の兵が、
王族派の下級兵に、先に興奮するように話しかけられたと報告があった
あの有名な矢口様が、畑山様に極秘に経済の事を教えてもらいに来ているんだという情報をくれ、
だから改めて畑山様はやっぱりすごい人なんだなと褒められたという
本当に藤本が気を許している王族にさえ、この計画は漏らされておらず、
さらに川口派の揺さぶりにも動じない三人
何故王族に教えないのか・・・・
それは本当にこの国の中での実力が、自分にあると認めてもらえているからなのだろうか
あの人が探れと言うような真の目的もわからない・・・・
それがあるのかさえも霧の中で・・・・・
それに・・・・
この少女達は本当にこの国の為にと、
この話を持って来ただけなのかもしれないと思わされる
昨日畑山が相談した相手は、あの四人の中の民間人を既に人質に取ったと言っていた
だから明日、矢口達は焦って何かボロを出すに違いないから、
言葉尻でも捕まえて揚げ足を取ればいいと彼女らを軽く見ているのが解った
それにも増して、だいたい川等出来る訳がないだろうと笑い飛ばされてしまった・・・・
その後、矢口の事はすぐに自分達の国が対処するから、心配しなくていいと
事実、いつも一緒に来ていた大人っぽい綺麗な子がいない
矢口達は自分を信頼してくれているとは思えないのに・・・・
自分を疑わずにこうやって大事な話をしに来る
何故矢口達は、焦りも脅しもせずに、
にこにこといつものかわいらしい笑顔をして話していられるのだろうか
- 156 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:24
- Mと手を組もうと考えてはいたが、やはり危険な香りは拭いきれない
畑山は考える
よし、この話を受けたとしても、あとはあの人達が何か探り出すだろうし・・・
お互いが潰しあってくれればこの国はその間は安泰・・・・・
だいたいこの話・・・・
よく考えられていて、本当にこの国にとっては何も悪くない話なのだから・・・・
畑山は心を決めた
「解った、その金を出そう、それで干ばつが止まればこの国にとって良いことである事は間違いない」
「やっと解っていただけましたか畑山様」
畑山の目を見て微笑む矢口
「しかし何故、その話を私に持って来たのかね」
「それはこの国の経済の事は畑山様が支えていらっしゃるのを、藤本から聞いて知っているからですよ」
照れくさそうに藤本もはにかんでいる
「・・・・む」
明らかにうそ臭いと怪しんでいる感じの言葉に矢口は畳み込むように言う
「それから・・・もう一つお願いがあるのですが」
藤本の目が慌てて動くのを畑山は見逃さなかった
「何かね」
「念書を書いて下さい」
- 157 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:32
- 藤本がホッとする、もちろん心の中で・・・・・・
表には出していないが、まだ冷静になりきれていない矢口が、
ひとみの事を問い詰めるのではないかとドキドキしていた
まだはっきりと畑山のバックにMの国がいるとわからない状態では、
疑ったりへたな事を言うと、この話自体がひっくり返らないとは限らないし
畑山を疑うような素振りを見せれば、逆に難癖をつけられ、こちらが捕まるような事にもなりかねない
もちろん、王族派以外には矢口達に敵う兵などいやしないのだが、
もしMの国の族達か、はぐれの族を手懐けていたなら厄介
とにかく、経済的な事にはシビアな畑山は、
契約書というこの時代にはあまり効力を示さない念書を、過去に積極的に取り入れ広めた人物であるという
特徴あるサインと印鑑にて、いつも書類を作成しているという噂
しばらく考え、躊躇しながらも、その念書までもらえるようだ
梨華は畑山が本気で承諾したと判断したと目で訴えてくる。
サインしながら畑山は口を開き続ける
「今、Mの国のせいで、すぐに用意出来る金貨は少ないんだ」
「ええ、それは予測出来ています」
「まさかこれだけの額の金貨を、その協力してくれるEの国やYの国がすぐにくれという事にはならないだろうね」
「もちろんです。先程も説明しましたここの部分、ここですね、
これを最初の材料を運ぶ際迄に、用意してもらえばという手筈になります。
材料の掘り出しや切り出し、運搬等の労働者の事も考え、作業を急がせる為には、
労働後の代金はすぐに支払うと最初に約束さえしてればいいでしょう。
即お金になれば、労働者もきっと気合を入れて働くはずなので
その分の支払いと、この材料費だけは、作業終了迄に用意して頂くという事でいかがでしょう」
実際、その後の現場で働いていただく方については
そちらの好きなように手配していただいて結構ですしと付け加える
- 158 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:36
- 「うむ・・・・それも含めてまた一日考えさせえもらえるかな・・・・事務方や街の銀行の者達と相談したい」
「藤本から聞いてます。この国には銀行という職種があるそうで、
少ない金貨を有効に商売に繋げる為の仕組みがあるという事ですよね、すばらしい発想だと思いました」
畑山がもう何年も昔に考案したシステムを褒めると、本人もまんざらでもなさそうにし笑みを浮かべた
個人で大金を持っている人に銀行という場所を国が作り、まず個人の所有する金貨を銀行へと集めた
もちろん持ち込んだ人の金貨は、ちゃんとした預り証にてその人の財産だと保証されているので、
必要なら手続きさえふめば自由に出し入れ出来るらしい
それを商売で活用すれば、大きな取引の際、実際の金貨が動かなくても、
その店や人の財産が保障されるという機関を国が作った
お金を預ければ利息というものがつき、借りればやはりそれ相応の利子を発生させるようにすれば、
個人所有の金貨が各家に溜まらずに銀行に集まるし、国が有効に金貨を使用出来る事になるからだそうだ
中澤や若林達も、そのアイデアを絶賛し、今後真似ていけたらと興味深々な様子だった
「なかなか勉強されておられるようですな、若いのに」
なんだか機嫌の良くなった畑山に矢口が頷くと
「それでは早速、E.Yの国へと話を持ち帰りますので、
早急にいつ迄にお金を準備出来るのかご相談下さい、また明日の午後にでもその話をしに参ります」
「解った・・・・だが、少しでも工事が早く進み、川が流れる事を約束してくれ」
「それはもちろんです」
- 159 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:38
- 「王子には私が話しをしておこう、もちろん喜ばれると思うから心配しなくてもいい、
しかし、もしも王族が承諾しなければ、またこの話は白紙に戻るがよろしいのかな」
「ええ、私達は畑山様を信じております、それにこの話はまだ畑山様しか知りません、
もしお気に召されたのなら、どうか畑山様の功績としてこの話を王子へと持って行かれて下さい
それでは、明日参った際にでも、王族の反応を教えて頂ければ、
その返事を持ってすぐに行動へと移す手筈を整えておきます」
畑山は少し驚いた表情を見せ、矢口に握手を求める
「我が国の為にありがとう、すぐに王へと話を持っていくとしよう」
「ありがとうございます、よろしくお願い致します」
がっちりと三人と握手を交わし、円満に取引が終了した
「それではまた明日、よいお返事をお待ちしております」
「うむ」
さらに機嫌の良さそうな畑山
ドアを出て、三人は廊下を歩いていく
兵の姿が見えなくなった所で矢口は頷き、
藤本と梨華に、小声ですぐに王子にこの計画の話しをしに言って来いと言う
本当に畑山が王子に話しをしにくるかどうかを王子の部屋で隠れさせてもらえるかどうかも
ちゃんと聞いておけと言いながらその場を去ろうとする
「え、矢口さん?」
一緒に行かないのかという2人に、矢口はトイレに行って来るから先に行って話しておけと笑う
「大丈夫、畑山には見つからないように王子の部屋に行くから」
梨華を有効に使って王子だけに話をするように気をつけないとなと
こそっと2人に言うと、笑いながら走っていく
- 160 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:40
- まさか本当に一人であの手紙の場所に行くつもりなのではと胸騒ぎを感じる梨華は
咄嗟に力を使っても、結局矢口から何も感じられずに行かせてしまう
王子と三人だけで会う事を許され、王子も昨日と同様、穏やかに話をしてくれた
誰か尋ねて来たらどこかに隠れさせてもらえないかと2人はお願いすると
何かを感じた王子はじゃあここにならすぐに入れると壁のような所を開けて、
何かあった時の非常通路の入り口を提供してくれた
それからは、藤本達も矢口が来てから川の話をしようと、
誰が聞いてもおかしくない内容だけで会話をつなぐ
だが
「ねぇ美貴ちゃん、矢口さんちょっと遅すぎない?」
益々心配そうな視線を向ける梨華はつい呟く
「うん、美貴も今思ってたとこ」
「すぐに王子に言いに行くと畑山様はおっしゃっておられたのに来ないし」
「畑山が?」
それには王子が反応する
そこへ
コンコン
慌てて2人は先程教えてもらった場所に隠れる
- 161 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:42
- 「失礼します、王子、今矢口様が用事が出来たので先に帰ると伝言する様、
頼まれましたのでお伝えに参りました」
隠れていた二人は顔を見合わせる
「解った、ご苦労様」
兵の顔は、藤本達がさっき来たはずなのにいないので不思議そうな顔をし、
首を傾げながらも勤務に戻っていく
確かに誰かに自分達が王子に会いに来たかと聞かれても、
来てないと答えてくれとは言われていたが、どうして部屋にいないのかと不思議でたまらない
王子は不思議そうな顔で帰って行く護衛の兵の後姿を、警護の配置に付くまで見守ると
静かにドアを閉める
「どういう事だ?美貴」
王子も、何か良くない雰囲気を察したようだ
カチャっと扉が開き、美貴達が出てくる
梨華も周りの気配を一生懸命読んで、誰もいない事を確認して藤本に目で伝えると、
王子に本当は何をしにきたのかをついに伝える
「そうか」
川の話や今までしてきた事を洗いざらい王子に早口で言うと、王子は難しい顔で呟いて考え出す
王子は畑山がMの国と繋がっている事は気づいていた、
藤本が言う前に言って来たので間違いないだろう
しかし、この国はもう王族はお飾りのような存在で、
実質の財政運営や指令系統は貴族派へと移りつつあり、二人の貴族が頭角争いに必死だそうだ
予想されていたとはいえ、弱弱しい王子の言葉に藤本は悲しくなる
- 162 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:45
- 王子は別に自分達がこの国の当主を勤める必要はないと言う
畑山や川口がいなければ、この街もこんなに商売が発達しなかったはずなのは確かだから
水だけでなく資源の少ないこの国は隣国に物資を買い入れる事も大事な事で、
王国の崩壊したEの国側ではなくMの国への依存度は高い
貴族派の武装力の弱さは見ての通りで、その部分を王族が今、
綱渡り的にMへ示す事を主に仕事していると話す
こんなに王族が弱体化しているのを昨日迄に何故話してくれなかったのかと聞く藤本に、
非常に難しい時期に差し掛かっていて、藤本とはいえどこから何がはじまるのか解らないので
話す事をためらっていたという
そして矢口に他国はどうしているのかをしつこく聞いたのだが、
その国でやり方はあるでしょうから
ここにいる人達で国を作っていくのがいいと思いますと言われ益々考え出したという
今まで当主として努めてきた王族が、よりよい国作りの為に何をすべきかを考えた
実質今、国の権力を握っている畑山が、
本気かどうか解らないが川作りに資金を出すと言った事は大きいという
財力はこの国の武器であり、Mの国から狙われる所だけにその資金力を
国民の為に使うと畑山が了承したのであればとてもいい事だと笑う
計画についても、紺野の考える通りの計画を説明したので、
実現性を認識させる事も出来たようだ
王子に黙っていたのは、畑山にその約束をさせてからでないと、
王子がこの話を推したり、漏らしたりすれば別の力が働き、なかなかうんと言わなく
なると思っていたからだと正直に話した
- 163 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 00:47
- すぐに王子に言いに行くと約束した畑山は、
結局この話をしている間にも来ていない
まだまだ畑山の腹が解らないと2人は感じる
ひとみを想う余り、矢口らしくなく突っ走っていった事を重く受け止め、
藤本は自分がしっかりしなくてはと覚悟を決める
そして、最後にひとみがいなくなった事を王子に告げる
驚く王子
「王子、桜花部隊を貸していただけませんか?」
緊急事態を訴える藤本の視線に、考える事なく頷く王子
「もちろんかまわない、そして私がこの計画を川口派にうまく説明し、
川を作る事でも、二つの立場が均等になるように努めればいい」
「・・・・・それはどうでしょうか、
ここは王族派が力を見せるべき場所だと美貴的には思いますが、とにかく今は矢口さんを追わないと」
渋い顔をした王子も、解ったと急いで武蔵のところへと向う
突然城の中を王子が動き出した為、
川口派の兵も畑山派の兵も怪訝な顔をしていた
そして、それを城の上層部から眺める畑山が微笑む
- 164 名前:拓 投稿日:2007/07/16(月) 00:47
- ん〜、今日はこの辺で・・・
- 165 名前:15 投稿日:2007/07/16(月) 00:50
- ん〜、更新お疲れ様です。リアルタイムでした。畑山さんちょっと何してるんですかって感じです。次回も楽しみにしてます。
- 166 名前:拓 投稿日:2007/07/16(月) 20:49
- 165:15様
リアル読みありがとうございます。
ん〜、もっと解りやすくならないものかと頑張って考えてはみましたが、
自分の力量では無理でした。
申し訳ないのですが、今後も適当に、疲れない程度に読んで下さいね。
レスありがとうございました。
- 167 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 20:53
-
矢口は、手紙の場所に来ていた
三番山の麓の小屋は、町から離れており、普段人気は全く無いという
矢口は力を使い急ぎここにやって来たが、こっそりと様子を伺うような事はしない
すでに周りから人の気配が伺われ、小屋の前の広い場所に、隠れる事なくテケテケと歩いていく
小屋の中にひとみがいるのかどうか解らないが、人がいる気配はするので叫ぶ
「あんたたちの目的は?」
矢口が叫んだ後、しばらくして小屋のドアが開く
「久しぶりだな、矢口」
「やっぱり太郎か・・・・お前しかこんな事をする奴はいないと思っていたよ」
出て来た男に矢口はにこりともせずに冷たい視線を送る
すると、周りの茂みから銃を構えた男達がぞろぞろと出て来る
「やっとお礼が出来るな・・・お前に」
なぁみんな・・と
太郎はつかつかと近づいて来て言う
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/16(月) 20:54
- いつも楽しませていただいてます
何を書いてもネタバレになりそうなのでこれだけ
- 169 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 20:57
-
「お前の目的はおいらだろ、あいつは関係ない、そこにいるのか」
「あいかわらず甘いな、ここにはいないよ、
まぁ今頃その仲間もどうなっているか・・・・そうだな和田様がかわいがっておられるとは思うけどな」
「あいつに何かしてみろ、お前ら全員・・・・あの時のように・・・・・・・・・」
そこで矢口が口を結ぶ
「本性が出たな・・・・いくら新聞で救世主のように書かれようと、
お前は結局殺人鬼だという事だよ」
「・・・・・」
「なぁ、みんな聞いただろ、死んだ仲間の恨み・・・・やっと返せる時が来たな」
それを聞いて銃を構えていた周りの兵達がザッと一歩前へと近づいて来る
その数200人は優に超える
「解った・・・・行くよ」
矢口に2人の男が近づき、乱暴に縄をぐるぐると巻きつけると、
その間に近づいてくる男が乗った馬の後ろに、横向きに寝かせられるように乗せられた
「会いたかったよ、矢口元帥補佐」
そう言って振り返る男は、片目にマスクをして頬に傷をつけており、
矢口は目を見開く
「片桐・・・副司令官」
「まぁ、長い道のり・・・・じっくり昔話でもしながら行きましょうか、元帥補佐」
- 170 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 21:00
-
その馬を先頭に、集団が馬で駆け出した後、
しばらくすると藤本達は桜花部隊と共に現れる
「矢口さ〜んっ」
全く人の気配の無くなった場所で藤本は叫ぶ
梨華は目を瞑って必死に気配を探る
馬を降りて藤本が土の上についた無数の馬の足跡を見て
「すごい人数・・・・矢口さん・・・・もしかして」
泣きそうな藤本が振り返ると、梨華が目を開いて馬を戻すように歩かせた
「梨華ちゃん」
心配する藤本
「うん・・・・こっちに何か感じるの」
かまわず少し走って元の道へ戻ると木にナイフで手紙が刺してあった
「美貴ちゃん」
梨華が叫ぶと馬から力を使って梨華の視線の先に辿り着き、
馬から降りた梨華と一緒に手紙を開ける
「藤本・石川、ごめん、こんな事になってしまって、もう王子にきちんと聞いてもらったか?
後はごっつぁん達と合流して計画通り事を進めてくれ
お前らの生まれ育ったJの国という故郷が、これからも平和で楽しく潤っていく為に頑張れ
おいらの事は心配ない・・・・遅かれ早かれこうなる事は予想していた、
ただあいつが巻き込まれてしまった事が悔やまれてならない
先にMの国に行って、ちゃんとJの国との事もうまくいくように頑張ってみる、
早くお前たちの前に吉澤を戻せるように、どうか祈っていてくれ」
藤本が読み上げると、梨華が涙ぐむ
- 171 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 21:02
-
「もしかして、ここに来る前から矢口さん」
「・・・・・うん・・・・結局・・・・
美貴達の事・・・・仲間として認めてもらえてなかったのかな・・・・」
落胆の表情を浮かべる2人
2人が唇を噛んで俯いていると、王子が声を掛ける
「追いかけなくていいのか、まだ間に合うかもしれない」
「・・・・・いえ・・・・ありがとうございました、
私達一般人の為に、桜花部隊の皆を出動させてしまって」
藤本が悔しそうに言うのを、王子と武蔵が不思議そうに眺め
やがて、馬に乗って歩き出した藤本達について帰って行く
藤本も梨華も、矢口は最初から死ぬつもりだったんじゃないだろうかと考えていた
話し合いの最中、Mの国をどうやって丸く治めるつもりなのかと何度か聞くと
自分の国の事だから、おいらが交渉するよ、大丈夫、姫もついてるし、
Jの情報をある程度掴めばなんとか手を引いてもらう術は出てくるよ
そう言っていた矢口の中には、きっともう別のシナリオが描かれていたに違いない
・・・自分が死ぬことによって治まるかもというシナリオが
自分達には解らない・・・・真希と矢口達だけが解るMの国での出来事や、今のMの国の雰囲気
本当のMの国の狙いとは・・・・・
- 172 名前:dogsV 投稿日:2007/07/16(月) 21:04
- 何故かあの国で恨みの対象になっている矢口の存在だけに、
自分達やひとみを巻き込む事をずっと悩んでいたのかもしれない
特にひとみの事は、大事な存在になっているのに気づいていたはずだから・・・
ひとみを浚ったのは、Jの国にちょっかいを出している
不審人物の自分達を脅かす事でも、目的を探る事でもなく、矢口をおびきよせる為
矢口が一人で手紙を持って考えている時、
もうそれは矢口の中に結論づけられていた事だったのかもしれない
だから2人は悔しい・・・・
それを教えてもらえなかった事・・・
自分達を頼ってもらえなかった事
だけど・・・・・
矢口がそのつもりなら、自分達は矢口の言う通り、
この国でのこの出来事をきちんと解決させてからMの国へ乗り込もうと
矢口がなんと思ってようと・・・・
自分達は矢口の仲間なのだから・・・・
仲間と力を合わせて計画を進めよう・・・・・
矢口を信じて・・・・
矢口がひとみを連れて帰ると言ったのだから
- 173 名前:拓 投稿日:2007/07/16(月) 21:11
- 今日はこの辺で・・・
168:名無飼育さん
気を使っていただきありがとうございます。
このスレはあんまり人が見ないと思うし、大したネタも準備出来ていないので
遠慮せずに書き込んでもいいのかと思いますよ。・・・・・・・ダメ?
レスありがとうございました。
- 174 名前:168 投稿日:2007/07/16(月) 22:48
- ノロノロ書いてる間に更新されてたみたいですみませんでした。
壮大な話で面白いです。
次はどうなるんだろうとワクワクしていつも更新を楽しみに待ってます。
- 175 名前:拓 投稿日:2007/07/19(木) 22:54
- いえいえ、とんでもないです
もったいない言葉ありがとうございます。
レスありがとうございました。
- 176 名前:dogsV 投稿日:2007/07/19(木) 22:58
-
矢口は道々片桐に聞かされる・・・・
王権が変われば、どういう事が行われるのかをふまえた上で
矢口の父の部下だった片桐が、矢口の逃亡によってどういう目にあったか・・・・
殺された王についていた兵達は、牢屋に入れられこれからの事を聞かれ、
王子についてこの国の兵として働く事を約束した者達は
再び隊に戻り、新しい運営陣によって高額の報酬の元に働けていて、国民も今幸せに暮らせているという
しかし、矢口の元側近である片桐の部隊は、最後迄抵抗した為に逆賊とみなされ、拷問にあっていた
家族も同様に拷問にあうと、矢口の恨み言を言う迄痛めつけられ
きっと矢口が助けに来てくれると信じて死んだ仲間は半分以上・・・・
自分は家族が殺された時点で矢口への復讐を誓ったと言う
すると再び隊に戻され、下級位ながらも今は昔より高額の報酬をもらい、新しい王の為に働けていると言う
隊務の内容は問題ではない・・・と自嘲ぎみに笑っている
静かに矢口は片桐の話を聞く
思った通り・・・・矢口は覚悟を決める
しかし、ひとみだけは助けなければ死ぬに死ねない
どうすればひとみを助けられる?
Jの国はもう大丈夫だろう、自分が戻り、もし戦う事が出来るならば、
なんとしてもJの国にちょっかいを出すような事はさせない
だいたい・・・・和田の目的はJの国ではないはず
もっと私的な・・・・もっとくだらない理由
とにかく、今大事なのはひとみの命・・・・
そればかりを考えていた
- 177 名前:dogsV 投稿日:2007/07/19(木) 22:59
-
- 178 名前:dogsV 投稿日:2007/07/19(木) 23:00
- その頃、真希達はJの国近くの崖のわき道を通っていた
「ここは昔川だったんですね」
紺野が親方に聞く
矢口と仮説を立てた予想が、
湖を見た時に現実に有り得ると感じた事をまだ紺野は真希達に言っていない
「そう、少し前迄は、まだこの下は川だった、
いつのまにか干上がってしまって・・・・でも良く解ったな」
「ええ、地形の事も本に色々書いてありましたから」
そんな本があるのかと感心する親方
「でもどうしてここに水が流れなくなったのでしょうか」
「さぁな」
気が付くとなかったとだけ呟く親方
子分たちも聞いていたのか、口々にほんとにいつのまにかだったなぁと言う位
もう明日は十日目、約束した日になる
- 179 名前:dogsV 投稿日:2007/07/19(木) 23:05
- 矢口達はうまくいっているだろうか
いや、絶対うまくやっているに違いない
水の量、地形や土質を見ても間違いなく川は流れる、紺野は確信していた
というか、本当にどうしてここに川がないのか不思議でさえある
この分なら、予定よりも簡単な工事で済むかもしれない
後はEの国の建築技術と、
ダックスやバーニーズの町の資源で工事をする事さえ出来れば、確実に緑は増えていくはずだと・・・・
親方は加護と辻には何故か優しく、
真希達の事も徐々に信頼してくれているように感じていた
同行している霧丸と譲の一団の何人かと親方の下の幹部達の中で、
加護達はどうしても2人のある人物が嫌いだった
すると昨日、夜中にこっそりその2人が消えて行き、
疲れの為か目を覚まさない真希と、真希を置いていけない紺野が見送ってくれる中、加護と辻は尾行した
そして見た、Mの国の軍服を着た人と会って話しをした後、親方の所へと戻って来た
2人はやっと嫌いだった訳が解る
その時2人は、ちゃんと先に親方一団に戻って、なかなか話の出来ない中
隙をみて真希と紺野にその話をした
真希はなるほどと言った後、加護達に言う
親方はきっと気づいてる・・・
だけど親方や自分達が気づいている事を、絶対にあの2人に知られたらダメだよと
- 180 名前:dogsV 投稿日:2007/07/19(木) 23:08
-
そして勘太に手紙を持たせる
Jの国のお城にはりついていれば矢口達に会えるからと・・・・
この山賊の人たちにもMの国につながっている人物がいる事を
矢口達に知らせないとと思い、そして勘太を見送ってからも何か嫌な予感がしていた
「親方、もうすぐ着きますよね」
「ああ」
「そこに行くためにはこの道しか無いんですか?」
「いや、お前らの通れそうな道ならこの道だという事だが、嫌なのか?」
「いえ、もしかしてもっと近い道があるのかなぁって」
「・・・・ふむ・・・・・まぁ変更してもいいが・・・・・・・そういえば犬がいなくなったな」
突然何かを思いついたように聞いてくる親方
「エ?あれ、ほんとだ・・・・・時々いなくなるんですよね、
でもいつもちゃんと帰って来ますよ、賢い犬だから」
「・・・・・・ふ・・・・ん」
真希は内心ドキドキしながら笑う
何か考えてそうな親方は、一度フッと笑うと
「おいお前らっ、この先の大木のとこから左に行ってみようかっ」
へ〜いと全員が返事を返した
怪しいとされる二人の男も同じく返事しながら顔を合わせていた
必ず2人は今夜動く、その時こそ親方に言い
この二人との事をはっきりさせようと真希と紺野はこっそり話し合い、手紙にしたためた
そして明日、約束の場所で矢口達と会った時が、
本当の親方との勝負だと気を引き締める
- 181 名前:拓 投稿日:2007/07/19(木) 23:08
- 今夜はちょっこす
- 182 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:16
- 藤本達は、城に帰りながら、
王子から川口と畑山に伝えてもらいたい事があると言う
ある山賊・・・・
霧丸と譲という名前に心当たりはないかと・・・
藤本は完全に2人のどちらかだと確信していた
どういう事だと尋ねる王子に、詳しく言うと長くなるので、
とにかくその2人を知っている人を、明日迄に探さないといけないとだけ言う
もし心当たりがある様子なら、
明日その人と自分達と会う時にも立ち会ってもらいたいと頼む
・・・きっとどちらも知ってるとは言わないだろうけど
と藤本が真剣に王子を見つめると
しばらく考えた王子は、複雑な顔をして解ったと言う
城に戻ってから、会議室にて全ての派閥の頭が緊急に集められる
王子が話しをどうやって切り出そうかと、
各人が冷めた挨拶をしている様子を見ながら話の流れを見ていた
藤本と梨華は、予め衝立の後ろに隠れさせてもらい様子を伺う
「さて、突然集合をかけるとは、一体どういう事でしょうかね、王子」
座りながら早速話し始める畑山
「そうですよ、それでなくても先日なにやらそちら側だけで
盛大に宴をお開きになってたようですし、私どもは少し寂しい思いをしてたものですからね、
さらに、今日みたいに急に集合をかけられると、我々がなにやら軽く見られているようで、まぁ少し面白くないのですがね」
川口が不服そうに畑山と顔を合わせてから王子を見る
- 183 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:20
- 「軽く等見ておらぬ、それに先日の事は、
藤本が帰ってきたので、懐かしんでの心遣いだったのだが、気を悪くしたのならすまなかった」
「いえ、気は悪くしませんが、その宴の後、雅子が元気がなくなりまして、
心配しているんです・・・・まさか元王族付の掟を破り、
一度国務を離れた者だからとよりを戻すなんて事はございませんでしょうな」
「ちゃんと雅子様の事は婚約者といって皆に紹介しておりましたぞ王子は、
それにそのような言動、王子に失礼ではないかね川口様」
松山に戒められ一瞬口を歪ませる川口
「それに今は、そのような事を口にしている場合ではないだろう、
もう藤本とは過去の話であり、昨日も王子は一切そのような素振りは見せておられなかった」
さらに戸川も川口を責めるような眼差しでそう言い、もう川口は口を開かなかった
「フッ、だいたい娘を道具にしているのに心配とは笑止」
そして乗っかるように小さく呟く畑山
「何?」
川口の顔が怒りの形相を見せると、王子が困ったように言い出す
「そのような心配をするような事は何もない、大事な娘を心配をしての言動に何も咎める事はしないし、
ちゃんと彼女を大切にしたいと思っている、これ以上この事については議論無用」
「それにこれからも今までどおり、この布陣でこの国を守って行かなくてはならないのだから
このような事で揉めている訳にはいかないだろう」
戸川の言葉に、最もだと王族派の松山は頷く
すると畑山が
「では、何故私達の許可もなく、先程桜花部隊を連れ、その藤本達とどこかへ向われていたのですか、王子」
矢口が、Mの国に浚われた事は恐らく間違いない、だがここでそれを言ってもいいのだろうか・・・・
王子は一瞬動揺するが、そこで漸く先程の藤本からの質問を思い出したので
「実は・・・・・・ある手紙が私の元に届いた」
- 184 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:23
- もちろん王子の咄嗟の嘘なのだが、
何を言い出すのだろうかと梨華と藤本は顔を合わせて難しい顔をしていた
「霧丸と、譲という・・・・山賊からのもので、
なんだか我が国への恨みつらみが書かれていたのだが・・・・・まぁその名前に誰か何か知っているか?」
落ち着いて言うと、みんなの様子を伺う
四人共その事には顔色を変えなかった
「それで、どうして桜花部隊が出ていかなくてはならないのですか?」
畑山が話しを戻して聞くと、川口が続ける
「確か桜花部隊は、ここにいる全員の承諾がないと出動は許されないのではなかったのですか」
しかし、その頃には梨華の体にはっきりと動揺の色を示す人物の感情が入り込んでくる
言いよどむ王子にたたみ込むように、動揺していた人物・川口がさらに言い出す
「王子、今Mの国との事で色々ありますから、
桜花部隊の出動については慎重にして頂かないと困りますな」
藤本は物陰から、本人も言っていたように王子の立場が弱まっている事を直に感じる
しかし、王子が意を決したように言い出す
「そのMの国が、この国に頻繁に入り込んでいるというのはどういう事だろうか、
先日は川口派が町の警備に当たっているはずだったが
三番山付近にMの国の人とみられる多数の馬が掛けていくのを見たという町民の知らせが入った。
こんな時期だし、緊急事態という事で桜花部隊を緊急出動させたんだが、そこでやはりすごい数の馬の足跡が見つかった」
先程の出来事を少し脚色した王子の言い分、それに川口が反論するように冷静に言う
「山賊かもしれませんよね?我々もですが警備の時にあの辺りは民家も少ない為に、
見回る事はどの派閥でも行なっていないでしょう
それなのに何故我々にだけ問い詰めるような事を言うのです?
だいたい、なぜその馬の足跡がMの国の侵入者だと決め付けるのですか、何か根拠でもあるのですか?」
「足跡はちゃんとMの国の方向へと続いていた」
王子はきっと根拠を必死に考えているのだろうがなんだか心もとなく、
とりあえずその言葉を紡ぎ出している感じだった
- 185 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:26
- 「だからといってMの国の侵入者とは限らないのでは?
王子の言っている山賊からの手紙だって、ただ族の侵入だったら、なかなか見つけにくいし
届いたのではという推測であって、本当に山賊だとは限らないでしょう、
何の恨みか知りませんが、山賊だと名乗る街のゴロツキ達かもしれないし
もしかしたら先日、衣装を貸したりしておもてなしをしていた
矢口という元Mの国の王族付が招きいれていたかもしれませんぞ」
「いや、彼女達はただ、この国も他の国と共に交流しながら発展して行こうと
他の国との橋渡しを買って出てくれているだけだ」
だいたい新聞に載っている通りの人物なのか、
皆も興味はなかったかと王子が皆を見回して言うと、同席している松山と戸川が口を開く
「あの矢口さんという人は、なかなか優しい少女のようでしたよ、
とてもわが国に被害をもたらすような子ではなさそうだったが」
Yの国や族の街ですごい事をやらかして来た人物にも見えんかったがなと戸川
「わしもそう見えたな、兵達や使用人とも仲良く話していたようだし、
だいたい彼女達は畑山様の所へよく行っているようだがその辺りはどうなのかね」
松山から自分に話を振られてまずいと思ったのか
「まぁ元々藤本は松山様がかわいがっていたから欲目で見ているだけなのでしょうが?
こういう事は、客観的に冷静に判断していただかないと」
松山の質問を逸らした畑山が動揺した事を梨華は感じる、
そして川の事を畑山はここで皆に言うのだろうかと
「では冷静に、どんな話をしているのだね、美貴や矢口さん達と」
松山が畑山に聞く
「そ・・・・それは」
言いよどむ畑山に、今度は川口が聞く
「言えないような事ですか・・・・それはまたどういった事でしょうかね、
まさかその手紙をくれた山賊とやらもあなたに恨みを持ってたりしないでしょうね?」
- 186 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:28
- 疑いの矛先が畑山に流れているのを知り、川口が懸命にその後押しをする
「まさか、私は族や山賊に知り合いはおりません、
あの輩達と繋がりを持ってしまえば、どんどんつけあがってやがてこの国に多大な被害を
もたらしかねませんからな、その事は十分注意していますよ、私は・・・・」
私はという言葉を強めに言い、畑山が川口を見る
王子もそこで川口が繋がっているのではと疑いを持つ
戸川がそこで話を戻す
「さすが畑山様ですな、この国の事を考えていらっしゃる、
では矢口さん達は何をしにあなたの部屋に出入りするのです?」
「子供の戯言を話しに来るのですよ、
この国が干ばつに苦しんでいるから川を作る等という絵空事を話に来るのです」
王子も知ってはいたのだが、聞かなかった事にして三人が驚くのと同じように驚いてみせた
「川・・・・ですか」
松山が畑山に言うと、
「出来る訳ないんです、結局はこの国の財力を目当てにここに来ていたのではないかと思いますよ」
とあきれたような表情
「しかし・・・・・もし出来るとすれば、もうMの国に弱みを見せずに対等に話を付けられるのでは?」
戸川が王子に視線をやり
「どうしてあの昼食会の時に我々に話してはくれなかったのだろうか」
松山が寂しそうに言う
- 187 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:30
- 「どうしてでしょうね、やはり畑山様が言うように金目的か、何か裏があるのではないでしょうか」
「やはりそう考えるのが普通か・・・・」
うなる松山と戸川をよそに川口が言う
「川・・・・出来るといいとは思いますよ、出来れば詳しく話しを聞けないものでしょうか」
「いやいや、聞くに足らない戯言でした、この事は忘れましょう、
それより折角ですからMの国に矢口を引き渡すというのはどうでしょうか」
畑山の提案に、四人は驚く
「畑山様・・・・何故そのような事を?」
松山が険しい顔で聞く
「Mの国は、実際あの矢口に兵を多数殺されて、しかも前の新聞で
あのように悪者扱いされてしまって憤慨している事でしょう、矢口を引き渡す事を条件に
これからは水をもっと供給するように頼んだ方が得策かと思いますよ、川なんて無理な話を信じるよりは」
少し前は、この国に入りこんだと見られる矢口を必死に追いかけまわしてたじゃないですか、Mへと渡すためにと笑う
藤本は梨華の手をギュッと握る・・・・
解っていたとはいえ、こうも簡単に手の平を返すような事を言う畑山に腹が立って仕方が無かった
「しかし矢口を渡したからといって水をもらえるという話も、
川を作るのと同じように危ない橋を渡るようなものでしょう」
戸川が渋い顔で言うと
「その話がもしダメでも、我々の国には何の被害もない、
ただ矢口が連れて行かれるだけではないですか、ならばリスクが少ない方を選択するのは
この国を治める我々の仕事でしょう」
畑山の話しを聞いてから、王子がゆっくりと話し出す
「・・・・・わが国はMの国に頼った所もあるが、あの新聞を見る限り、
Mの国とあまり仲良くするとわが国も足元をすくわれて
いつどういう行動に出られるか解らない、新しい王子や側近達もなにやら策略好きのようだし、
水の問題さえなければこのままわが国は平和に過ごしていける、
リスクでいえば川を作っていく方に賭けた方が良いのでは」
- 188 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:33
- すると川口が苦みばしった顔で話し出す
「畑山様、矢口に聞いた話を、ここで公表してはもらえないでしょうか」
興味はあったのだろう、松山・戸川も頷いた
「畑山、話をしてもらえないだろうか」
王子が真剣に見つめると
それから畑山はしぶしぶ王子が持って来た地図を見て説明しだす
藤本や矢口達が話したようなことは全て話される事はなく、
あくまでも無理な方向へ持って行こうというのがミエミエな説明だった
しかし、その説明を聞いてから、興味を持っていたはずの川口が反対風を吹かせ出す
「なるほど・・・しかし、この計画ですとあの湖の近くにいる族達の事は考えられておりませんな、
この辺りの山賊やらはぐれの族をとりしきる、あのレオンという山賊集団・・・・・
恐ろしい程強いと言われているそいつらの妨害がある事は解りきっている」
前に水を引こうとしていたのに、その山賊が怖い為に断念したじゃないですか・・・・と
ここの全員はあそこにそういう集団がいる事は解っている、
だが実際、この町に被害らしき事をして来た形跡はなく、
時々ここに来ては、山の食べ物を売りに来て、酒等の欲しい物を買っていく
という情報くらいしか耳にしていない
隠れて聞いている藤本には、川口があの山賊と接触するのを恐れているように聞こえた・・・
そして梨華はその心境を裏付ける
王子や王族達も、時々起こる変な殺人は、その山賊の中にいる族ではないかと疑ってはいたが、
いつも動機がわからなくて山賊の取り締まりは出来ていない
なのに少し前から川口派が警備の時、
町の警備でなく山の方に向っている事を知らない者もいない
下の兵達も、とうに噂している事で、どうにかしないといけないと王族派も頭を悩ませてはいた問題ではある
- 189 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:35
- 「どうだろう・・・・その問題は別として、
ここはその川が出来るという話をもっと詳しく説明できる人物を呼ぼう」
一度はもっと詳しい情報を聞いていた王子が、説明不足な事を不審に思い一気に攻めはじめた
「しかし・・・」
畑山が言うと松山が言う
「何か藤本を呼ぶとまずい事でも?」
「いえ・・・・そうではないのですが・・・・・いいでしょう、呼びましょう」
観念する畑山
「では、夕方にはここに連れてきましょう」
王子が内心ほっとしながら言うとその場はお開きとなる
畑山も川口も・・・・
どうにかしなければならないと悩む様子が梨華に伝わる
それに対し、王族派は、何かこの国が変わるかもしれないという気配に
多少の希望が見てとれた
四人が出てった後、しばらくして衝立の後ろから藤本達は出て来る
2人共怒りの炎が体中から出ており、王子はどう声をかけていいのか解らずに佇む
「あいかわらず・・・・狸親父は健在ですね・・・・・時間がないのに・・・・・」
「でも、霧丸さんや譲さんを騙した人はあの川口って人ってのは解ったじゃない、
明日あの人を霧丸さん達に会わせればレオンとの約束は大丈夫だよね」
「その親方って人が工事に賛成してくれてればだけどね」
まぁ絶対大丈夫だと思うけどと自信を見せる藤本
- 190 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:38
- 王子がそのやりとりで理解する、
少し前に畑山派の幹部や松山派の幹部、そして川口派の下っぱが殺される事件
それは予想通り川口の仕業だったのかと・・・自分に疑いが来る事を恐れて、部下迄手をかけるとは・・
川口の娘と婚約してぱったり無くなったこの事件、
おかしいとは思っていたが、まさか本当に川口だったとは・・・・・
王子も拳を握り締める
その心中を察した梨華が言う
「明日・・・・Mの国の元姫がその霧丸って人達とこの町へ来ます・・・
王子も是非会って下さい・・・・・
レオンと呼ばれる山賊の組織の承諾も持って来るはずです。
川口様と霧丸さん達が会う事さえ出来れば、川を作る時の妨害はしないでくれると思います。
川口様には少し酷な事かもしれませんが、御自分のなさった事に対して、
それなりにけじめはつけていただきたいでしょ?
そして川を作る事をあの人達全員認めてもらったら、
私達はその足ですぐにMの国へと向います、川の事は心配いりません、必ず実現します・・・・」
言いながらも少し不安だった・・・・・真希達はうまくこっちに向かっているだろうか
そして、梨華の話しを黙って聞いてから、驚いてしまっている王子
「Mの国の姫がここに?Yの国から助け出し、
今Eの国で国づくりをしていると言っていたその姫が・・・・・」
王子の頭にすさましい勢いでいろんな状況のデータの分析が行なわれているのを梨華は感じ
とりあえず誰にも見つからないようにここから出て、
私達は外から来たようにしなければと王子に言う
王子も頷き、早くあの四人に納得のいく話を付けなければな、
と藤本に強い視線を投げかける
切羽詰った貴族派は、もしかして藤本達に手を掛けようと、
今頃あの空き家に兵を向ける手筈を整えだしたかもしれない
なので今から、すぐに武蔵に探りを入れさせると言ってくれた
- 191 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:40
-
王子に連れられ、王族しか知らない抜け道へと入れてもらった
途中何度も辿り着く別れ道も、教えられた出口迄の道順通りに、
蝋燭の明りを頼りながら外に出るとそこは城の裏の森だった。
まず城の表へと向おうと、二人が手をつないで通りに出た所で、意外な人物が現れた
「「保田さん」」
「おっす、久しぶり、ちょっと人目のつかない所までいい?」
そして近くの茂みに隠れると三人は話をしだす
保田はまずひとみが浚われ、矢口がいなくなった事を知り驚く
そして自分の身に起こった事を話しだす
Mの国へ侵入し、情報屋をいつものように尋ねようとした所、
その情報屋が姿を消しており、何人かいたネタ元の人達は、事故にあったり
強盗にあったりして、死んだり怪我したりしている
明らかに自分達が新聞の情報源と知られての圧力をかけられているようだと苦い顔をした
印刷する所はもう、兵隊達が占拠してて、
もうすぐMの国が作った新聞が出回るかもしれないと保田は言う
そして仲間の周りには常に兵の影がちらついていたので、近寄る事もできず、
ただ町の人達の噂話を聞くくらいしか今回出来なかったと話す
もう他の国では売られている最新の新聞を
売る事さえも出来ないまま中澤の所へと引き返すのもなんだから、
ちょっとJの国に寄ってみようと来てみたら、藤本達が来ている事を町の人たちから仕入れ
きっとこの城の周りにいれば会う事が出来るだろうと見張っていたと言った
こんな事になっているとは知らなかった保田は、これはまずい事になったと顔を曇らす
今Mの国は、ゆっくりと軍事国へと成長しているんじゃないかと予想していた
兵隊の優遇措置が民衆にも噂になり始め、
普通に商売するよりも兵隊の方が稼ぎがいいと知り
若者達がこぞって兵隊へと志願するようになり始めた
- 192 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:45
- 欲のない王族、真希の父親達は、国民にあまり負担をかけないように兵は精鋭だけ
報酬も通常の国民と同レベルで、裕福とはいえない生活を送っていたので
Mの国には無駄な蓄えがない
だから足りないのは金貨・・・・
それを見越した和田の作戦はJの国とKの国から金貨を集める事だった
急激に増えた兵に与える報酬の為に、きっと今後の年貢は増加するだろうと噂された
さらに兵がよく出入りし、兵に気に入られる店は繁盛するが、
兵を優遇しない店は嫌がらせのようなものにあってているのも保田は掴む事が出来た
兵達の矢口への憎悪は、保田達の少し前の新聞で、
Mの国がまるで悪者のように書かれているのが配られた後から激しくなり、
Eの国にいるのならば矢口の返還を求めに全兵で行くような噂迄たっていた
そして街の人の中にも、少し前に来た矢口の大虐殺事件の真実を書いた新聞を配布する前だって、
それほど矢口を悪く言う人はいなかったのに
一ヵ月後の今は、徐々に兵達のご機嫌を取るように矢口の悪口を言う商売人迄が出て来て、
その店へ兵達の金が流れるようになると、風向きはどんどん悪くなる一方だったみたいだという話
保田は自分の新聞のせいで、矢口が憎まれるようになるとは思わなかったと肩を落とすが、
藤本はそんな事はないと慰める
他の国ではあの新聞で矢口の事を見直しているし、
実際矢口は優しい人物に変わりはないのだからと言った
うん、自分は事実しか書いていない
それに自信を持たないと新聞屋なんて商売やってられないと息を吹き返した
そこへ犬の鳴き声が遠くに聞こえ出した事に三人はハッとする
「「「勘太」」」
辺りを見回して、遠くに小さく犬が走っているのを美貴が見つけると、
保田が瞬時にそこへ行きあっという間に連れて来た
三人で頑張ったね、お疲れと撫で回すと、嬉しそうに一鳴きし、ハァハァと息を荒げた勘太の首輪から手紙を取る
- 193 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:49
- その手紙は慌てて書いているのが解るような乱雑な字で綴られていた
一応、川を作る話に反対せず、妨害もしないと約束してくれたが、
そのレオンの親方も何故か一緒についてきてしまった
紺野や加護と辻の予想からしても、親方はその大きな体で予想出来る位、かなりな強さと思われる
仲間達の噂では、幻の獅子族とかいう族に会った事があるらしく、
その獅子族にさえ勝った事もある等、年とはいえ、かなりの使い手らしいので注意する様にと書いてあった
それに
「あの山賊もMの国からのねずみ君が紛れてるらしい・・・・
きっと自分達を狙って来るに違いないし、なんとか正体暴いてから明日ここに来るって」
「そっかぁ・・・やっぱりMの国」
「うん・・・・しかも、矢口さんと紺ちゃんが言ってた仮説・・・・・・どうやらはずれでもなさそうだって」
「まじでっ?」
読みながら嬉しそうな声になっていく梨華に、興奮ぎみな藤本がくいつく
「それと紺ちゃんが実際川になる予定の場所を見て、絶対に川は流れると確信したってさ、
元々川だった場所もあるし、意図的に川を干上がらせてるような節も確かに見受けられるから、
もしかしたら工事もずっと簡単な工事でいいかもしれないって」
藤本と梨華はガッツポーズをする
なんとなく紺野や矢口が予想していた事
ずっと前からクーデターをねらっていたMの国の和田という人物が、
十年以上もかけて積み上げてきた計画が、日の目にさらされていく
Jの国と戦わずして、意のままにここの国を操る・・・・
そんな奴が本当にいたなんてと保田も拳を握る
- 194 名前:dogsV 投稿日:2007/07/24(火) 23:51
- やはりMの国はこの国と合併する気なんてさらさらない
戦うべきはMの国
なら、もう畑山にへこへこする必要もないし、
堂々とあの五人に川を作りましょうといえばいい
川を作る事は、本当にこの国にとってはいい事なのだから
藤本は梨華の手を取る
「行こう、梨華ちゃん」
「うん、そしてすぐMの国へ行って、ひとみちゃんと矢口さんを取り戻そう」
ぐずぐずしている場合ではない、このままではMの国にまんまと騙されたままになってしまう
「ちょっと藤本、どうする気?」
保田が聞く
「もう待ってられません、こっちからガンガン攻めて、一気に決着つけます」
「保田さんは勘太と一緒に真希ちゃん達探して下さい」
「えっ、何?どういう事?」
止まって振り返ってはいるが、
すぐにでも駆け出したそうにしている2人は、説明するのももどかしいように言う
「勘太、解ったでしょ、ごっちんにこの事態を知らせるのっ、保田さん連れて」
「そうっ、その後Mの国で会いましょう、
保田さんっ、頑張ってすっごく強いって言われてる山賊の人達も連れて来て下さいね」
2人は声に出さずとも互いの考えている事を解っているように言葉を放った
「えっ?訳わかんないよっ、こらっ、藤本っ、石川」
手をつないだ2人は、力強い足取りで城の中へと消えて行った
- 195 名前:拓 投稿日:2007/07/24(火) 23:51
- 今夜はこのへんで
- 196 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:33
-
矢口がMの国の王都に着く
町の中をわざと目立つように通り、
矢口が捕まったことを知らせるように歩いて行く
矢口は久しぶりに見る街の様子を眺めた
町は自分達が平和に過ごしていた時と変わりなく、市民が生活しているように見えた
矢口はほっとする、町の人は別にひどい事はされていなさそうだと
それに、矢口に気づいた人々が、真里ちゃんだと囁いている
ひとみが浚われた場所が城でない可能性もある為、
街の人達の声に耳を傾け、しっかりと目を見開いて辺りを観察した
でも集中した耳に聞こえて来るのは、
自分捜索の為に最近山へと向う兵隊が増えてた事くらいしか入ってこなかった
そこで矢口が気づく
山の方からJの国に繋がる場所があるのかもしれない、
山の方が監禁されているとしたら・・・このまま城にいてはダメだ
今更逃げようとしても、カランの蔦でしっかりと巻かれているし、どう考えても逃げられない事に唇を噛む
人々の視線にさらされながら、久しぶりの城へと入って行った
隊務を終えた兵達だろうか、城から出て行こうとする兵が、
先導する太郎の姿に道の端へと寄り敬礼した後、
その後ろにいる片桐の後ろに乗せられた矢口を見て、驚きの視線を憎しみの視線へと変化させていく
- 197 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:36
- 片桐に乱暴に降ろされた後、太郎に引きずられて城の中へと連れて行かれる
久しぶりに入った大広間には、
いつも座っていた優しい王の姿はなく、真希の弟が座っていた
城への廊下で、片桐ともう一人から胴に巻いた縄を持たれて運ばれていた為、
王の前にドサッと落とされ、ついて来ていた数人の兵と共に跪いていく
太郎に首根っこを持たれてぐいっと持ち上げられ立たされると、座っている真希の弟と目を合わせた
「久しぶりだね、矢口・・・・・どうやら姉上とも無事再会出来たようだし、
さすが父と仲間の兵を殺し、部下を見殺しにした矢口一族だ」
今度は何を企んでるんだい?とニヤりと笑う
「何も・・・・それにここでの事に関しては、何も弁解する事もないし、けじめもつけます
・・・・ただ、教えて欲しい」
そこまで言った所で太郎が横から矢口を蹴り倒す
手を後ろに組まされて足も縛られている矢口は簡単に吹っ飛んだが、
顔を歪ませながらも弟・ユウキを見てさらに続ける
「ぐっ、ユウキ様っ・・・・・・ユウキ様は、一体何が欲しいのですか?」
矢口は寝転がったまま真っ直ぐにユウキを見た、
蔑んでも見下しても、もちろん恐れもしない綺麗な真っ直ぐな視線で・・・
見られたユウキが視線を逸らす
「決まってるだろ、この国の平和と市民の幸せだよ」
立ち上がって矢口の顔を見ないように矢口の側に来ると、
その頃再び太郎によって立たされた矢口へ、剣を引き抜き顔にピタピタとつけた
「ここにいる兵達の恨みと、この国を侮辱するような事をした矢口を明日処刑する、
片桐、それまでにいいたい事をこいつに言っておくのもよし
屈辱を晴らすのもよし、好きにしておけ・・・・・ただし、まだ殺すな、生かしておけ」
「ハッ」
- 198 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:40
- その後、矢口を連れて行こうとする太郎の手を振り解き、
ユウキに詰め寄ろうとして再び突き飛ばされる
「仲間を・・・・あの国で浚った仲間はどこにいる」
転がされた先で必死に聞く矢口
「仲間?お前にそんな奴がいたのか・・・・・
そういえば、その仲間を誑かして川を作ろうとしているようだな・・・・無駄な事を
・・・・そんな事出来る訳ないだろう、ふふ、それにすべて私達には筒抜けだ
その仲間とやらも、これからどうなるか・・・・矢口家と姉上に関わる全ての人達はこの世から抹殺する」
冷たい視線を残し、颯爽と去っていくユウキ
「吉澤はどこですっ、ユウキ様っ」
必死の形相で、全身のバネを使って素早く立ち上がり叫んだ
「グフッ、本当にっ、ガハッ、本当に真希様の事迄恨んでおられるのですかっ」
ユウキに攻撃を仕掛けようとして太郎に殴られ捕まるが、負けずに叫ぶ
「王の私にそのような態度をしていいと思っているのか、昔のような甘っちょろい国ではもうないのだぞ矢口」
「吉澤に・・・・あいつに何かしてみろっ、絶対に許さない」
口から血を流しながらも、睨みつける矢口
「関係ない、それにもうお前には何も出来ないだろう、無力な自分を思い知るがいい」
と去って行こうとするユウキに
「許さない・・・あいつはどこだ」
強い視線を受け止める事なくユウキは去って行き、太郎が撒かれている足の綱を掴んで倒すと乱暴に引きずる
「くそっどこに連れて行った、太郎っ」
引きずられながらも叫び続けると、広いフロアに響き渡る
- 199 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:42
- 「太郎っ」
「うるさいっ、黙れ」
「いいか、もう一度言う、あいつに何かあったら・・・・おいらが許さない」
太郎がフ〜ッと一つ息を吐き、気を落ち着かせると
「許そうが許すまいが、お前はそんな強気な事を言う立場ではない、
ただ・・・その吉澤とかいう奴を殺したくなければお前がおとなしくする事だ」
そして部屋の外までくると、傍にいた巨体の男が軽々と矢口を抱え上げ牢屋の方へと連れて行く
だが、それでもずっと叫び続けていた
「お願いだっ、あいつにあわせてくれ、
おとなしくおいらが明日殺されるのならもうあいつは必要ないだろっ」
「黙れ」
前を歩く太郎が冷たく言う
「お願いだ、関係ないんだよっあいつは」
周りで矢口を見に集まって来た兵達にも矢口は視線を向けて懇願する、
その兵達が矢口にいくら怒りの視線を向けていようと、それさえ見えないように矢口は叫ぶ
「あいつは関係ないんだっ、頼むっ、お前らの恨みはおいらが受け止めるっ、
だからっ、だから誰かあいつがどこにいるか教えてくれっ」
あまりにも必死に言う矢口に、兵達は哀れみの目を向けると同時に、
あの矢口のこんな姿を初めて見た驚きを隠せない
昔の矢口を知っている兵達は、矢口の笑顔しか頭になく、唯一怖いと感じたのはあの事件の時だけだった
- 200 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:45
- 突然迎えた王の謎の死、真希は不在、弟王子の指揮下で城が動き出し、
それ迄城を守っていた矢口一家はいつのまにか謀反の輩となっていた
何が起こったのか解らない中で、血だらけの矢口が城にやって来て、
鬼のような形相でユウキと和田を殺そうとしていた事を思い出していた
予め予想していた太郎や和田の兵達が一斉に矢口を狙ったが、
他の兵を巻き添えにしただけで、矢口はその後姿を消した
「吉澤っていうんだっ、いい奴なんだよっ、誰かっ、
誰か知ってたら助けてやってくれ、恨むならいくらでもおいらを恨めばいいっ」
うるさい矢口に腹を立てたのか、太郎が男から矢口を引き落し、銃を口に入れ込んで言う
「黙れと言っている」
落とされても、銃を口に入れられても太郎を睨みつける矢口
兵達の視線を集めたまま、口から銃を出すと、銃の柄を持った手で頬を殴り、
お腹を蹴り飛ばし、さらに首の後ろを殴ると矢口は気絶した
全てを静かに見ていた片桐
「早く運べ、そして片桐、川を作ろうとしているという細かい事を聞き出しておけ、
邪魔者は抹殺しなければな・・・・・・
それに、明日はこいつの泣き顔と恐怖に歪んだ顔を民衆に見せれるように
十分に恐怖を味あわせておくんだ、先程の王の言葉にもあるように決して殺すな、
お前たちの恨みを晴らし、完全に我々の国が生まれるという勝利を分かち合うためにな」
「はい」
抱えられていく矢口に付いて、片桐は顔色を変えずに牢屋へとついていった
その後、矢口は水を掛けられ目を覚ます
両手を上へと釣られ、右足には錘がつけられていた
- 201 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:47
-
「残念ですよ、矢口元帥補佐・・・・・もっと賢い人かと思っていたのに」
目の前の椅子に片桐が座り、
水をしたたらせた矢口の両脇には2人の兵隊が鉄の棒を持って立っていた
「片桐・・・・教えてくれ・・・・あいつはどこに連れて行かれた」
「知りません、きっとどこかにいるのでしょうが、
もしあなたが変なことをするようならすぐに殺すそうですよ」
「しないよ、どうすればいい、教えてくれ、おいらはどうなってもいい、
だからあいつの事助けてくれ・・・・頼む」
「・・・・・・では、Jの国の計画を詳しく教えてもらえますか?」
「・・・・・・知ってるんだろ、だから教えるような事はもうない」
「それなのにわざわざ一人であの場所に来たのですか?」
「どうせ、あそこにJの国の主力部隊を引き連れた所で、
あの銃の数で集中砲火するつもりだったんだろう」
「・・・そこはさすがですね、畑山にとってはあの部隊が目の上のこぶのような存在ですからね、いなくなれば畑山の天下
快く賛同してくれましたよ」
「どう転んでも畑山においしくなるように仕向けた訳か・・・・
さすがだな・・・・恩を売って、いずれはJの国を意のままに操り、金はこの国に流れるって訳だな」
邪魔になればすぐに消せる位の相手
- 202 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:49
- 片桐が片方の口だけで笑い、静かに呟く
「金を要求しているそうですね」
「川を作る工事をする為には人が動かなければならない、その人達への報酬はいるだろう」
「他の国に流れる金は?」
「それはJの国の畑山の判断でどうとでもなる、
資源をこの国が出すと指示すれば、畑山はもちろん嫌とはいうまい」
片桐が2人の男に視線をやると、棒が振り下ろされる
ガスッ ドスッ
うっ
鈍い音とうめき声
背中とお腹に容赦なく撃ちつけられる鉄の塊
「皆さん畑山と我々が仲良くしているのをご存知なんですね」
「仲が・・・・いいのか?」
痛みに耐えるように搾り出す声
片桐を真っ直ぐ見つめている矢口の視線を、片桐は真っ直ぐに見つめ返す
「どうでしょうね、私のような下っぱには解りません」
その目を見て、矢口は昔と同じ片桐だと確信する
- 203 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:52
- 「町の人が・・・楽しそうにしてて良かった・・・きっと片桐副司令官達のおかげなんだろうな」
ほんの少し片桐の目に動揺が現れた
「おいらは誰が国を治めようと・・・・かまわない・・・だけど・・・幸せな人は沢山いないとやなんだ」
「・・・・・・相変わらず甘い事を言ってるんですね、そんな立場にいないのに」
再び鉄の棒が何度も殴りかかる
「だからっ、うぐっ、川を作らせてやっ・・・ぐはっ・・・Jの国っ・・・がっ・・・・・
川を・・・・作ればきっと・・・この国にだって」
矢口の口から流れ出す血は顎から床へとしたたりだす
「考えろ・・・・片桐・・・・・・
この国だけ幸せなのは・・・・ぐふっ・・・とてもつまらない」
低い声で話し続ける矢口は、殴られてる間もずっと片桐を真っ直ぐな視線で見ている
見つめ返す片桐も、視線をはずさずに立ち上がる
矢口に近づくと殴っていた二人は殴るのをやめる
右にいる男が持っている棒を取り上げ、片桐は矢口のわき腹へと殴りつける
ミシッ
今までとは違う音が聞こえる
鉄よりも硬いと言われる族の骨が軋むような音
「そういうあなたは誰を幸せに出来ましたか」
ぐふっと大量の血が矢口の口から流れると、がっくりと首をたれさせる
- 204 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:55
-
「教えてあげましょう・・・・山の奥に姫がいるでしょう」
瞬間一撃でうなだれた矢口が、片桐を睨みつける
すると、真っ直ぐに片桐は矢口を見据え話し出す
「あの山賊はなかなかやっかいですよ・・・・しかし、もう何年も前から、
この国に協力してもらえる人を和田様は作ってました、さすがですね
この国への攻撃や略奪を防ぐ為にそういった状況を作っていた為にそんな人を作ってたのですが、
最近、のこのこ姫がやって来たようでしてね」
親方と姫達がJの国へと向かっている所を攻撃する部隊が、
多分今頃親方達を捕らえ、明日、あなたの処刑の横に姫が並ぶでしょうと話し出した
「新しい王と和田様にとって、レオンという山賊やJの国は邪魔でしかない・・・・・
そしてあなた達の存在も・・・・」
揺るがない強い視線で片桐は矢口を見つめる
「矢口元帥補佐にしては・・・・浅はかな行動でしたね、今回は」
再び同じ場所を殴りつける
それを聞いて矢口の頭に何かが浮かんでくる
そうだったのかと苦笑しながら息も絶え絶えに漏らす
「違う・・・・」
痛みに一度吊られた手だけのぶらさがった状態になっていたが、再び足に力を入れて片桐を見上げる
- 205 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:57
-
「山賊の集団は・・・・・利用されてる・・・・だけだ」
「・・・だからそう言ってるじゃないですか」
グフッ
片桐が一撃を加えながら言う
「あの場所を・・・お前たちに近づかせない・・・・為だ」
「・・・・・・」
「昔から・・・仕組まれていた・・・・・・
川は干ばつで無くなったのではない・・・・・和田が・・・・仕組んだ事だ・・・・」
「何を言っている」
お腹へ突きをくらわす
「和田様・・・が・・干ばつを・・・作ってる?
・・・・・・・・・・はっ、そんな事が・・・・・」
容赦なく棒を振り下ろす片桐が動きを止めて考え出す
しかし、再び棒を握り締め矢口を見下ろす
「だとしたらどうだというんです・・・・我々の生活に何の支障がある・・・・
ユウキ様の王権になって兵達の暮らしは豊かになった
町に落とす金だって昔より増えている・・・
山賊だってこの町にはあまり近づかない・・・・・幸せな人は増えてるんですよ」
- 206 名前:dogsV 投稿日:2007/07/27(金) 22:59
-
片桐の頭には、まだ前の王様の時に過ごしていた穏やかだった日々が思い起こされる
今ほど報酬はもらえなかったが・・・・
町民と共に街を作っていた気持ちになっていたのは確かだった・・・・・・
町の細かい争いごと等にも目がいきとどいていた事も・・・
「・・・・・それなら・・・・それでもいい・・・・そして一年後・・・・二年後の事は・・・・
お前たちが考えるべき事・・・・・お前たちも・・・気をつけろ」
もう顔を上げる事さえ出来なくなった矢口は、これだけを呟いて事切れた
項垂れた矢口を見下ろす片桐は、静かに矢口を見つめた
「片桐隊長、これが王族付きの矢口なんですか・・・・噂程でもないんですね」
この2人はユウキの代になって隣町の平民から兵になり、格下げになった片桐隊長の下にいる民兵である
「せっかくかわいいのにもったいないですね」
元は農家だった男は、もう腫れてしまって青くなる所もある矢口の顔を見て、あ〜あもったいないと呟く
「隊長、もう出ましょう、ここのにおいはキツすぎます、もう耐えられません」
カランと棒を投げ捨てて鼻をつまむと片桐に懇願の目を向ける
「ここは今までこの人の部下達が殺された場所でもある・・・・」
2人はウゲッと顔をしかめて出て行く
片桐は、静かにもう一度矢口を見てから牢の外に出て鍵をかけ、遠ざかっていった
- 207 名前:拓 投稿日:2007/07/27(金) 22:59
- 今日はここ迄
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/28(土) 19:00
- 緊張してレスしづらいですが矢口さんも吉澤さんもみんなも頑張ってください。
- 209 名前:拓 投稿日:2007/07/29(日) 16:09
- 208:名無飼育さん
気を遣わせてしまい申し訳ありません。
でも、一番頑張らないといけないのは自分ですよねw
レスありがとうございました。
- 210 名前:dogsV 投稿日:2007/07/29(日) 16:10
-
「おじいちゃ〜んっ、これでいい?」
「おお、これじゃ、よく見つけたな」
「うん、おじいちゃんが言ってた岩場で一日中日陰になった空気の温度の一定な場所を探してみたの」
「さすがはあゆみじゃ、ここら辺の事は知り尽くしておるな」
「へへ」
そんな声が聞こえて来る
目をあけると薄暗い中に岩が見える
洞窟?
ペタペタと足音が聞こえると、見知らぬ女の子が覗き込んできた
「おじいちゃん、目が覚めたみたい」
起き上がろうとするが、
全身が自分のものではないようでピクリとも動けなかった
「無理じゃろ、起き上がるのは」
視界に真っ白な髭を生やした小さなおじいさんが入って来る
- 211 名前:dogsV 投稿日:2007/07/29(日) 16:15
-
「・・・・・誰」
声は出た・・・・
生きてる・・・・生きてるのか
・・・・自問自答を繰り返すひとみ
「わしらはこの山に住む者じゃよ」
再び視界から姿を消したが、優しそうな声が響く
「今からお薬作るからちょっと待っててね」
そう言って洞窟の外へ出て行く同じ歳位の女の子は、
ちょっと見ただけでも、とてもかわいらしい子だと思った
その老人が言うには、怪我にきく薬草を取ってきて今から煎じて頭の傷に塗ってくれるという
そして何があったのかを説明してくれだした
「夕べこの洞窟の上で話し声がしだしてね・・・・またMの国の奴らかと息を潜めて隠れてたんだけど
あんたが空から降ってきて驚いたんじゃ」
「夕べ・・・・」
呟くと再び全身に力を入れて起き上がろうとしながら、
改めてやっと自分がどういう状態でこんな事になっているのかを理解しだす
「うっ」
背中や頭に激痛が走り、起き上がるのはやはり無理みたいで唇を噛む
「おっ、無理じゃて、落ちた際に岩に頭をぶつけたようじゃし、左手も変な方向に曲がっておった
あんたも運がいい、わしゃ少しだが医療の知識があるんで、多少の手当ては出来たんじゃよ。
まぁちゃんとした医者に見てもらった方がいいがな、
うん、心配せんでいい、Mの国にじゃが、わしの友達の医者がおるからな・・・・」
ちゃんと連れてってあげるよと、聞こえてくる方に顔を向けると
声の印象通りの優しそうな老人が、机で何かを書きながらこっちに微笑んでいた
- 212 名前:dogsV 投稿日:2007/07/29(日) 16:18
-
「ここは・・・・」
声を掛けると、ゆっくりと老人が立ち上がって近くに寄ってくれて
首元に手をつけて熱を見てくれているみたいだ
「やはり熱があるな、もうすぐ飯の時間だからそれが済んだら薬を飲みなさい、大丈夫、わしゃ薬なら専門だから」
「あの・・・私はどうなって・・・・」
「ああ、何やら浚われて泣いている女性が暴れて落ちてくるのに気づいて、それがあんただったんじゃが
すぐに追いかけたんじゃが、既にもうすぐ地面の所でな、余り勢いを消す事は出来なかったんじゃ、
だから咄嗟に横にあった土の所にに放り投げてしまったんじゃが、どうやら頭と背中を打ち付けてな」
頭の出血はひどかったが、友人の見よう見まねで処置したら止まったようだよとホッとした表情を見せた
そして、どうやら2人の住んでいる場所は崖の途中の洞窟のようだ
右手だけは動くようなので頭に手をやると、布が巻いてあり、添え木のようなものを巻かれた左手は全く感覚がなかった
ひとみの頭にみるみる昨日の事が蘇り慌てて老人の手を弱弱しく掴む
「矢口さんっ、矢口さんに伝えて下さい・・・・ウチが捕らえられていない事・・・・」
「・・・・誰かは解らないが、ずっとうわごとのようにその名前を呼んでおったよ・・・・
しかし残念じゃがわしらは町にはあまり近づけんのじゃ」
「お願いします・・・・知らせないとあいつが無茶して・・・・」
ひとみの目から涙が流れ落ちる
老人が困ったように見ているが
「すまない・・・・わしらは族なんじゃ・・・・
へたに町に近づくとわし達が危ない目にあうので、悪いがその願いは聞いてやれない」
普段ならともかく、なんだか怪しい雰囲気になっているようじゃないか・・・・と
- 213 名前:dogsV 投稿日:2007/07/29(日) 16:21
-
「族・・・」
だったら早く伝えられるはず、ひとみが泣きながら勢いづく
「お願いしますっ、何でもやります・・・怪我が治ったらどんな事でもやりますからっ、
どうか矢口さんに伝えて下さいっ、お願いします」
「君は・・・・私達が族と知っても怖くないのかい?」
老人は驚きの表情で見ている
「私は族の人達と一緒に旅をしてました・・・・族の人に尊敬さえ抱いています
矢口さんも族ですしっ、だからっ、だから早くっ」
「おじいちゃんっ、何で泣かせてるのっ」
さっき出てった子が器を持って入って来ると、老人を叱る
「お願い・・・矢口さんに伝えてほしいっ、ウチが捕まっていない事をっ」
その子にも涙ながらに訴える
だがその子は、懇願するひとみの視線から目をそらし
「すごく血が出てたからびっくりしちゃった、ね、おじいちゃん」
あゆみが老人を見て、ひざまづくと、ひとみの頭に巻かれた布を取り、
器に入った緑の物体をヘラのような棒で頭に塗り出す
「ぐっ・・・お願いです・・・・矢口さんに・・・・」
塗られた所が痛む、しかし動かない体で、右手だけで力なく老人に訴えて嗚咽しだす
- 214 名前:dogsV 投稿日:2007/07/29(日) 16:23
- そんなひとみを見て一度口を結ぶと、あゆみは頷いて言う
「・・・・・わかった・・・・どこにいるの?その矢口さんって人」
「あゆみ」
老人がだめだというよう首を振る
「・・・だって・・・・こんなに必死に頼んでるのに・・・」
「あゆみ・・・お前・・・・お前までいなくなったらわしは・・・・
お前の父さんや母さんにあの世で何といわれるか」
「すみません・・・・でも・・・・でも・・・・お願いします・・・・」
止まらない涙で訴えるひとみを老人は本当に困ったという顔で見つめ
老人が仕方ないと諦めるように息を吐く
「・・・・・・人前で力を使うんじゃないぞ・・・・町に入る時・・・姿を表す時は特に注意するんじゃぞ」
それを聞いた途端、ひとみは少し笑顔になりありがとうございますと手に力を入れる
そしてJの国のあの空家の説明をしだすが、
Jの王都には、ほとんど行った事のない子のようなので、城の近くで人に聞けば解るはずだと伝える
藤本という名前を言えば、誰かしら情報をくれるはずだからと
「さっきから気になってるのじゃが・・・・
Jの国の藤本・・・と族の矢口・・・・MとJの国の王族付きの子じゃないのかい」
あゆみは目をぱちくりさせると、老人が再び難しい顔をした
- 215 名前:dogsV 投稿日:2007/07/29(日) 16:25
- 「そうです・・・でも2人共優しくて・・・絶対に族だからといって捕まえたりしませんっ
むしろ友達になりたがるような人達なんですっ
今干ばつを止める為にあの国に川を作ってもらえるように交渉している所で、
ウチが馬鹿だから・・・・ウチが馬鹿な為に捕まってしまって・・・・・・
その為にこの計画がだめになったりしたら・・・」
すがるような目をして言うひとみに、老人は一言呟く
「川を・・・・・」
「いいよねおじいちゃん、ここから力使えばすぐだし、気をつけるから」
あゆみが協力してくれようとしている姿に、ひとみは心から感謝する
あゆみとひとみの必死の眼差しに、ついに老人は小さく頷いて行って来なさいと言う
ほっとしたのかひとみの目には溢れるように出てくる涙
「ありがとう・・・・ほんとにありがとう・・・・」
ぐしゃぐしゃな顔のひとみに、あゆみは優しく笑いかけると矢口の特徴や藤本の特徴を聞く
小さな紙に、書き留めた地図を握り締め
「よし、解った、あんまり自信ないけど、出来るだけ頑張って来るね」
じゃあ行って来ますと言った所で、2人は突然ひとみに向ってシッと唇に指を立ててじっとしていた
- 216 名前:dogsV 投稿日:2007/07/29(日) 16:29
-
ひとみの耳には何も聞こえなかったが、やがて馬の足音のようなものが聞こえ出す
静かな山間なのでやたらと音が響く
結構沢山の足音が響く中
「確かこの辺だったよな」
「そんな事言ってないで早くしろっ、急がないと明日間に合わないぞっ」
聞いた事のある声にひとみは自分達を浚った男達だと察した
「ったく一時はどうなるかと思ったけど、良かったですね、矢口が捕まって」
「あ〜、あの人質が死んでしまった時にはどうしようかと思ったな」
「まったくだ、このままトンズラしちまおうかと思ってたら矢口捕獲の情報が入ってて、まったく命拾いしましたよ」
「ああ、今回は失敗は許されないぞっ、明日の矢口処刑迄に姫を連れて帰らないと、和田様にどういう目にあうか」
「ええ、ですから全員気合入ってますよ」
おおっと大勢の声が響き渡り
ほらほら急げっと、聞きなれた声に急かされながら遠くに足音が消えて行くと、あゆみと老人がひとみを見る
- 217 名前:dogsV 投稿日:2007/07/29(日) 16:30
-
「今・・・・矢口・・・・って言ってたよね」
あゆみが言うと、ひとみの目からは再び涙が溢れ出ていた
言葉にならずに嗚咽するひとみに、
あゆみも老人も声をかける事が出来なかった
しばらく困った顔を2人はしていたが、あゆみがスクッと立ち上がり
「とにかく行って来る、え・・・と、すぐ帰って来るから待ってて」
「あゆみっ、気をつけるんじゃぞ」
「解ってる」
するとあっという間に消えていなくなる、しかも上へ向って・・・
彼女は兎族なのか、そう思いながらもひとみの意識は遠のきそうだった
ヒューヒューとひとみの口から嗚咽が漏れる
老人は泣きじゃくるひとみの頭を撫でた
「矢口さんという子の事・・・よっぽど大切なんじゃな」
ひとみはただ、しゃくりあげながら頷くだけだった
きっと自分の為に捕まってしまったのだと自分を責めて
- 218 名前:拓 投稿日:2007/07/29(日) 16:31
- 今日はこのへんで
- 219 名前:15 投稿日:2007/07/29(日) 23:52
- 更新お疲れ様です。
ヤバイ…泣きそう…
次回もお待ちしております。
- 220 名前:拓 投稿日:2007/08/04(土) 01:39
- 219:15様
申し訳ないです
レスありがとうございました。
- 221 名前:dogsV 投稿日:2007/08/04(土) 01:42
- 藤本達はあれからすぐに王子の元に戻り、
四人の幹部と話をすぐに再開させてくださいと言う
ここまで色んな事を掴めたら、もう駆け引きは必要ない
これまでの全ての出来事を話してすぐにMの国に向かわないと・・
・・と意気込み王子の部屋で四人が来るのを仁王立ちで待ちわびる
すぐにやって来た四人が、悲喜交々の表情で着席すると
藤本は鬼気迫る迫力で話し出す
さっきの畑山の説明をより詳しく、
紺野の作った書類も見せて計画の実現性と必要性は十分に伝わった
さらに、畑山にも話していない事・・・・
川が干上がったのはMの国の仕業で、その目的はこの国の金
これからずっとこの国は、
Mの国の為に金を流通させていかなければならないのかと説き
工事については不足していた事柄を全て話した、
しかもわざと止められていた川に再び元に戻す工事は提示した金額よりも安く済むかもと補足
驚きながらも、それでも自分の保身の為にぐずる畑山には、
書かせた念書をバンッと叩きつけ、約束しましたよねと睨みつけた
松山も戸川はもちろん快く賛成する、
畑山も特徴ある自筆の念書を見せられては何も言えない
畑山が落ちれば、残るは後一人・・・・・渋い顔をした川口
「さっきの、霧丸と譲という山賊の手紙の話なんだが」
ピクっと川口が動く
- 222 名前:dogsV 投稿日:2007/08/04(土) 01:43
-
「実は、藤本が聞いてきた話なんだ」
「はい、こちらに来る途中で知り合った人達なんです、私はこの国に生まれ育って、この国を愛してます。
だから、私がまだこの城にいる頃から下級の兵迄噂している事に関して、私的には噂だと思っていました」
そこ迄言うと藤本は渋い顔をした川口を見つめる
梨華も一緒にじっと見つめる
「・・・な・・・・何だね」
見られていると感じたのか、思わず目が泳ぐ川口
「・・・・・・・・いえ」
さらに見据える藤本
「・・・・・・・・」
川口が黙り込んでいると、今度は王子が意志のある声で言い出す
「川口・・・・悪いが、娘との縁談は無かった事にしよう」
「おっ、王子、そんな事が許されると」
慌てる川口
「私は、我が国の事を真剣に考えないような人の娘とは、やっていく自信はない」
「そっ、そんな、何故それが私等と、証拠もないのに・・・」
畑山は微かに、にやりと笑っている
- 223 名前:dogsV 投稿日:2007/08/04(土) 01:46
-
「それに山賊を使って仲間や部下を殺すような事をする奴もこの国にはいらない」
藤本の勢いに触発されたのか、
さっきとは打って変わって迫力ある雰囲気で川口を圧倒する王子
「私はそんな事してはおりません」
歯切れ悪く言う川口に、畑山は嫌味を言う
「そんな事をしていたのですか川口様は」
お互いを牽制するように視線を絡める二人に、王子が立ち上がり言い放つ
「川口、畑山、お前達は一体この国をどうしたいんだっ」
シンと静まる部屋
四人の幹部が初めて見る王子の感情的な姿
「私は、ここにいる、今までこの国を共に作って来たお前達と、
どの国にもひけをとらず、民が生き生きと暮らしていける国を作って行きたいのだっ」
理想論以外の何ものでもなく、ただ勢いのみの王子
だが、激しい言い方ながらも、優しく王子らしい言葉に、
四人の幹部も口を噤み視線を落とした
静まり返った部屋の中で、藤本が優しく川口に語りかける
「霧丸さんと譲さんに、会ってくれませんか」
会ってくれれば、レオンからは川を作る邪魔はされないんですよと少し強めに言う
- 224 名前:dogsV 投稿日:2007/08/04(土) 01:50
-
「何を馬鹿な、そんな奴らは知らん」
梨華の中には明らかに動揺している感情が入って来るので口を開く
「ならば会って、違うと直接言ってやって下さい、それでいいんです」
身の危険を感じるのなら、私達が守りますから
梨華の優しい語り口に、藤本も一度梨華と視線を合わせて頷き
「もう一度言います、レオンという山賊をここに連れて来るので、
知らなければ知らないと、直接会って言って下さい、そうすれば工事の邪魔はしないという事です」
「ん?・・・連れてくるとはどういう事だ?」
畑山には族の町からレオンへ話しをつけに行く部隊が用意出来ると嘘をついていた
また自分の知らない事が出てきて不愉快なのか畑山が聞いてくる
「私達には、各国に協力してくれる人達の他に、
この国の干ばつを親身になって考えて、共に動いてくれている仲間が四人います。
とても優しい、温かい仲間達・・・・・
その仲間が、湖の近くの山賊と一緒に、今まさにここへ向かってきているんです」
「はい、霧丸さんと譲さんが、この国で指令を出していた人と会う事が出来れば、
川を作る事の妨害もしないし協力もしてくれると言ってくれました」
説明する藤本に続き、梨華も補足する
もちろん是非協力したいと言う王族派の2人は感心しきり
- 225 名前:dogsV 投稿日:2007/08/04(土) 01:53
- そんな中、川口が必死に考えている様子が、梨華に手に取るように伝わる
「謝ればいいじゃないですか」
梨華が言うと、川口が睨みつける
「いい気になるな、お前たち一般人にそんな口を聞かれるとは心外だ」
バンっと藤本が机を叩く
怒りを露にしだした川口に、藤本がキレる
「美貴達は急いでるんですよっ、矢口さんとよっちゃんが・・・
大切な私の仲間が連れて行かれたんです、二人は必死にこの国の干ばつの事を考えてくれて
しかもMの国の姫は、王族にもかかわらず今山賊達を説得して
山の中を駆け回ってこの国に向かってくれてるんです、誰の為でもないこの国の為に」
仲間の中に、Mの国の姫がいる事にさらに驚く幹部達
「そして、Eの国にいるすごい建築士の人や、ダックスやバーニーズの族の町と言われる人達も、
この国の為に川を作る際の必要な材料等は、協力を惜しまないと心から言ってくれてるんです」
「争う事ばかり考えているのではなく、こうやって助け合っていこうとする基盤を作ってくれた矢口さん達を、
美貴達は早く助けに行きたいんですよっ」
熱く語る二人
なのに煮え切らない態度の貴族派2人にキレる王子
「もういいっ解ったっ、とにかく行こう、Mの国へ、その後山賊の人達に会おう」
「何故王子が行かなければならないのですっ、危険すぎます」
「Mの国に浚われたとは限らないのでしょう」
戸川に続き松山が言い
貴族派は黙ったままだった
- 226 名前:dogsV 投稿日:2007/08/04(土) 01:55
- 「手紙が残っていた、Mの国に行ってJの国の為になるよう頑張ると・・・・
わが国の為に力をそそいでれた彼女が、もしかしたら殺されるかもしれない自国に自ら帰る勇気、
このJの国の為にしてくれている行為なのだから、そんな彼女を私は見殺しにする事は出来ない・・・
私が心配だと言うなら、桜花部隊を出動させる、この国を守る為の出動だ、文句は言わせない」
藤本は昔の・・・自分が大好きだった時の、
若くて何も解らない時だからこその、勢いがあったあの頃のりりしい王子の姿を、再び見た気がした
四人も反対することはもうしなかった、
松山と戸川は、王子が行くのなら部隊を出しますといい、すぐに出発しようと言う
貴族派の2人はただ、しょうがないという表情で唇をかみ締め俯くだけだった
「よし、行くぞっ、美貴」
「はい、王子」
強い視線を絡ませながら出て行く王子に、梨華の手をしっかりと握りついていく藤本
王族派の2人も、目を輝かせて三人に続いた
この話が決まった頃には、もう夜も更けていて、
いくらMの国の王都が近いとはいえ馬で走れば朝になるような時間だった
きっと保田と勘太は真希達に会える
だから明日はMの国で再会を果たすと二人は信じていた
桜花部隊と、松山、戸川の部下の兵達が来てくれる事になり、
2人は幾分安心してはいたが
もしこの両国が戦争でもするようになってしまったら、矢口に申し訳ないと思うばかりであった
- 227 名前:拓 投稿日:2007/08/04(土) 01:56
- 今夜はこの辺で
- 228 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/05(日) 05:30
- うわあ色んなとこが大変なことに…
綱渡りだけどみんな踏ん張ってー
- 229 名前:拓 投稿日:2007/08/08(水) 23:21
- 228:名無飼育さん
本当に踏ん張り所です。
レスありがとうございます。
- 230 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:26
-
すぐそばにJの国のが見えている
だが、夜なので真希達は一度ここで休む事にした
山に慣れている親方達にすればどんな道でも問題ない為、早くついてしまったみたいだ
道々、レオンの生活の事等を、色々聞いたり話したりして、真希達は随分仲良くなり
自分達が見てきた、自分の欲望だけの為に人を襲ったりする、ただの山賊とはやはり違っている気がした
だから、明日はちゃんと話をしてもらえそうだと、紺野は安心しながらも、
加護と辻が嫌いな2人の様子を気にしながら真希に寄り添い目を閉じる
真希達三人も、粉臭い二人がいつ行動を起こすか、神経を張り詰めながら身を寄せた
それから少しの時が過ぎる
すっかり皆が寝静まった頃、のそりとその2人が起き上がる
辺りを伺った後、力を使って消え去ると、
示し合わせたようにムクッと起き上がって顔を見合わせ、静かに後を追っていく四人
だんだんとJの国から離れてしまっているが、
まだ朝迄はたっぷり時間はあるのでそのままつけて行く
それからひたすら歩き森を抜け出た所は、当初通ろうとしていたはずの道・・・
この前こっそり会っていた人達が自分達に接触しようと思っていた事が伺える
自分達は森の中からその二人を追うが、その二人の足場の下は、
堀り下がって岩がごろごろとある情景が続く所を下って行っているようだ
- 231 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:28
-
しばらく走ると、二人が姿を消す
どうやら岩場へと降りたようだ
四人は慌てて道筋へと向うと
2人は、月明かりの中、岩場で馬に乗り待っている三十人位の集団へと入って行った
何を話しているのかは聞こえないが、
自分達が来た方向を指差しながらもペコペコと謝っている
「次郎・・・・」
草むらに潜んでいる真希が囁く
「知ってる人ですか?」
あえて紺野が聞くと真希は頷く
「あいつら生きとったんか」
「のんあいつ嫌〜い」
言った途端に四人はビクッと肩を竦める
四人は後ろに気配を感じ、銃に手を置きながら恐る恐る振り返ると、
親方達一行が全員姿を表していたので幾分ホッとし、静かに話し掛けた
「親方・・・・・・・・あの集団はMの国の兵隊だけど・・・どうします?」
真希は親方を見据えて言う・・・
二人が会っているのは元々の自分の国の兵隊・・・・それなのに・・・・と真希の心は複雑だ
- 232 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:30
- 「あの2人がこそこそやっていた事は前から知っていた・・・・
とにかく何をしようとしているのかを聞くとしようか」
隠れるようにして見ていた中で、親方はズイッと立ち上がり大きな声を出す
「光蔵、光一っ、そいつらは誰だ」
2人は慌てて振り返って、月明かりの中で驚愕の顔を表す
「お・・親方・・・・いや・・・あの」
言いよどむ光蔵に代わって、親方がもう一度聞く
「答えられないなら、そいつらに聞くっ、お前らは何者だっ」
すると次郎という男が、返事の変わりになのか、すばやく銃を出し親方を撃った
しかし、読んでいたのか、親方も近くにいた真希達や部下も、
瞬時にガサガサと木の陰に隠れていた
「どうやら皆さんいらっしゃるようですね」
次郎が言うと、あきらかに怒っている声で親方が返す
「Mの国の兵隊のようだが、わしらに銃を向けるという事がどういう事か解ってるのか」
「そうですね、丁度良かった、急ぐので手間が省けましたよ」
集団の前で、既におどおどとしていた光蔵と光一に、次郎は銃口を向けた
「こっちに出て来てくださいよ、あなたには長年お世話になってたし、
ちゃんとお話してから死んでいただきたい、
・・・そしているんでしょ、真希様」
次郎がにやけて話し出す
- 233 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:32
-
「久しぶりだね・・・・次郎」
紺野の制止をやんわり振り払いながら、木陰から真希も姿を表す
Yの国に行く前に、自分に機嫌ばかり聞いてきて、
しきりにYの国への旅を勧めてきた人物の一人
「お元気そうで、こんな山の中で山賊に混じって何をされているのです?」
「言わなくても知ってるんじゃないの?」
真希の声は冷たかった
その間も紺野は、次郎が真希に何かしないかと必死に神経を尖らせていた
「とりあえず、どうしてわしが死なないといけないのか話を聞こうか、
お前らに会った事もなければ世話をした覚えもないしな」
親方が苛立たしげに言うと、光蔵と光一は怯えるようにその場から逃げようと後ずさった
後ずさった後、あっという間に力を使って対岸へと逃げた二人
次郎がそんな2人を撃つ
力を使っているにもかかわらず、その姿を確実にとらえ、
次郎の後ろにいる何人かも同時に撃つと、草むらに2人は消えて起き上がっては来なかった
そして次郎は実力を見せ付けて満足だったのか、饒舌に色々な事を話し出す
「和田様と共に、あなた達の下に仕えるのも苦労しましたよ」
「ほんとですよ、民と一緒の気持ちになれる様、ずっと無駄な仕事をこなしたりしましたからね」
すぐそばにいる男も話に加わる
- 234 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:33
- 「ああ、もうあなたの弟君・・いや、王と和田様の手腕で、
私達はいずれ、他の国の民をも服従させる様に変えていけますがね」
天下をとったような次郎の言葉
「そんな事させないっ」
真希が怒りを露にする
「真希様・・・・もう真希様は姫でも何でもないただの少女なのですよ、
それに私達は、最後の王族となったユウキ様の命にて動いているのです」
「・・・・・・・」
真希は思わず言葉を無くす
解ってても突きつけられる現実
「さぁ、参りましょう、真希様、
明日の朝迄に、あなたの最後の舞台へとお連れしなければなりません」
三十人位いる部隊の全員が銃と剣を構える
どうやら親方達との対決は最初から決まっていたようだ
「お前ら俺達が誰か知ってて、この状況を作ったのか?」
親方が低い声で、その空気を震わせる
「ええ、もちろんですよ、長年私達の計画に従い、あの湖を守り続けてくれた間抜けな山賊達でしょ」
「何だと?」
そこにいる親方以下の仲間達が怒りの表情を見せながら、やはり銃と剣を抜く
- 235 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:36
-
「あかん、あかんで親方、あいつら全員族や」
10年位前の族狩りの時の孤児達を、太郎はんが鍛えたんやでと心配顔
「うん、嫌いだけど、あいつら強いんだよ」
さっきの2人でさえ簡単に殺しちゃえるんだよと加護と辻が親方を見上げる
そして親方の一行の人数は真希達四人と、親方達が十人だったが、
2人が既に消えた為に全員で12人
人間相手ならまだしも、相手は全員族・・・・・・数的には不利
「ふん、わしらも族だ」
ニヤりと親方は笑い、仲間達も同じように鼻で笑う
「説明してもらおうか、わしらがお前らの計画に従っていたとはどういう事か」
「いいでしょう、親方、それに、あなた達の態度によっては、これからも仲良くしたいですからね」
「何?」
「私達と仲良くすれば、今死んでしまった二人のように、Mの国でおいしい思いが出来ますからね」
彼らには随分な量の金を渡したり、女を都合したりと結構大変だったのですよと微笑む
「今みたいに、邪魔になればすぐ殺すような間柄になろうってか?」
「ふっ・・・・どんな間柄だろうと、Jの国と仲良くするよりも得だという事にはなりますね」
「ほぉ」
「和田様は、自然をも自由に操れるんです。
私達が湖からこちら側に流れる川を無くし、Jの国を干ばつへと導いたのですからね、すごいと思いませんか?」
「苦労しましたよね、次郎様」
何人山賊が死んだ事か・・・・・・・
その部下達もそう言いながらせせら笑う
- 236 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:37
- 親方が暗闇ながら顔色を変えていくのが真希には解った
親方の中では湖から流れる川が無くなった事は、
意図的でなく自然界の中での出来事だと思っていたから・・・・
今回の真希達の川を作るという事も、まさか本当に出来るとはまだ思っていない
そんな真希達四人も銃を握り締める手に力が篭る
「どうです?親方、今まであの湖を守って頂いたお礼に、私達と手を組みませんか?」
「・・・・・・・」
「もう人間達の作る世は十分でしょう、大昔だって、
好き勝手に生きた人間によって一度滅ぼされたんです・・・・・
これからは族の私達の前に、ひれ伏させればいいのですよ」
そう思いませんか?とニヤけた顔を引き締めて親方を見据える
「確かにそうだな」
「「親方っ」」
加護と辻が親方を睨む
「どう考えたって族の方が優れているのに虐げられ、いつまでも無能な人間の為に働くなんて馬鹿げてる」
「ふっ・・・・・かもな」
真希や紺野も親方を睨みつける
「和田様についていけば、俺ら族の思う通りの世の中になるんですよ、いい話でしょ、親方」
「うむ」
- 237 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:40
- 「さすがレオンを作った男だ・・・・・俺達と手を組めば、
親方にはJの国をやってもいいと和田様もおっしゃっていた。昔随分世話して頂いたらしいじゃないですか」
「ああ・・・・・確かにな・・・・」
「和田様のいう事を聞かなかった矢口真之介一族は、
やはり天罰が下り命を落とした、親方達もそうはなりたくないでしょう?」
「うむ」
「「「「親方・・・・」」」」
悲しそうに呟く真希達四人
「それでは真希様をこちらへ渡して下さい。和田様には私から言っておきます」
真希達の視線が落ちる
「言ってどうする?」
「は?」
「俺らは山賊だ」
「え・・・・ええ、知ってますよ、長年あなた達を見て来ましたからね」
「・・・・・・・ほぉ」
「本当にすばらしかったですよ、あなた達のおかげでMもJも
湖には近づく事さえ出来なかった、和田様の思惑通りに・・・・」
「思惑ね・・・・」
呟きながら親方は真希達の怒りの視線を受け止める
「さぁ、時間がない、早く真希様を・・・」
霧丸や譲達の部下達も憮然とした表情をして話を聞いていた
- 238 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:43
-
「・・・・・ふん、舐めた真似を」
親方はそう呟くと剣を抜く
そして見える親方の怒りのオーラ
「おやおや・・・・・どういう事です?」
笑う次郎の言葉を聞きながらも真希達の目がパチパチと瞬き
「俺らレオンはな・・・・・仲間を守る為の掟以外の事は何しようと自由・・・・
だが・・・・・・お前達みたいな裏切り野郎の思惑にだけは乗れないんだよ」
加護と辻が笑顔になり、親方はその笑顔に微笑み返した
「そう・・・・・ですか・・・・残念です。まぁもともと、自分達がまた川を復活させて、
Jの国に恩を売る為に動き出すので、もう親方達には用はないんですよ」
と次郎が高笑いしている間に親方は消えた
もちろん部下も全員後を追い、紺野や加護達もついていく
あっという間に剣の音が響きだす
馬を置いて方々に散って行くMの兵隊達を、
親方は歳をとっていながらも俊敏な動きで追いかけ仕留めていく
その姿に真希達は驚く
親方の姿は、とても通常の族の動きとは思えない程速く、
誰も姿を捉える事が出来なかった
そして能力を開花させた真希も紺野達に守られながら共に剣を抜き、
能力的には劣るものの必死に応戦した
族同士の争いでは銃は使わない、どこで自分達に当たるか解らないから
- 239 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:47
-
親方達山賊と、次郎達の剣の腕の勝負が始まる
数的には倍以上いるMの国の部隊
なのに、まず、あっという間に親方に数人の首を飛ばされた
それを見た次郎は、すぐに親方から逃げていく
親方が次郎を追い、それぞれがターゲットを見つけ、
あちこちで勝負を繰り広げる
加護達は知っている人と戦う事に納得がいかないらしく、
なんでそんな事をするんやと言いながらも、二人で一人を徐々に追い詰めて行く
圧倒的な強さの親方は、次郎を追いながら、次々にMの国の族の兵隊を仕留めた
全て一撃
紺野はその姿を横目に見ながら 強い と呟くが、
それでも紺野の実力は、この中でも群を抜くようだった
次郎を追っていた親方は、少しすると次郎の側近達に総攻撃に合い、
真希達とは離れた場所で苦戦しはじめる
一方でも苦戦する真希を庇うように紺野が手助けし、
親方が離れているからか、ついに次郎が紺野の前に立った
すぐに攻撃を仕掛ける紺野
だが一瞬で剣を飛ばされそうになり、咄嗟に一度離れ真希の前に立った
真希には何が行われているのかさえ見えない
姿を現した次郎が紺野の実力を見切ったのか、ニヤりと笑う
焦りの表情が浮かぶ紺野
ここで負ける訳にはいかない
矢口と、必ず真希を守ると約束し・・・・・なにより愛する人を失う訳にはいかないのだから
- 240 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:50
-
「さあ、行きましょうか真希様・・・・明日の舞台に間に合わないといけない」
「舞台って何?、さっきから」
何を言っているのか解らない二人は、一瞬たりとも次郎から目をそらさないようにして呟く
「クスッ、矢口はもう捕まりました・・・・明日あなたと同じ舞台に立つのです・・・
ですからさぁ、一緒に参りましょう」
「「え?」」
真希と紺野は驚いて顔を見合わせてしまう
驚いた瞬間の隙をつき、真希の後ろに回りこむと、すばやく真希を盾にして紺野と向き合う
「後藤さんっ」
紺野が険しい顔をして叫ぶと苦しそうに真希が声を漏らす
「くっ」
はがいじめにされ剣を突きつけられた真希は、悔しそうに紺野を見るだけだった
その後、必死に抵抗する真希を、次郎は軽々と抱えて持ち去る
追いかける紺野
あちこちで剣を交わす音が、すぐに静寂へと変わり、次郎からの発砲音が響くだけになった
真希に突きつけていた剣をすばやく銃に替えると、
追いかけて来る紺野に確実に弾を集めて追随を許さない
紺野は焦る
矢口にしっかり頼まれたのに、みすみすここで連れ去られてたまるかとフル回転で頭を働かせる
同じ位の知識と能力を持つもの同士の争いは、経験と力の差で決まる勝敗
だから肉体的にも男に比べれば劣り、戦いの経験の乏しい紺野は、
ただ何か術はないかと考えながら、
見えなくなりそうになる真希達を見失わないようにと追いかけるしかなかった
- 241 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:53
- 真希を連れている為、速度の遅い次郎を見失う事はないが、
的確に銃で撃たれて近寄れない
だが、そんな暗闇の中から、紺野の視界の先から、
2人の人影がこっちに向って来るのが紺野の目から確認される
後ろを向いて掛けていく次郎と、
真希の後ろ側から近づいて来る影が、すぐに交わり、真希もろとも吹き飛んだ
「加護さんっ、辻さんっ」
紺野が笑顔で叫び、
飛ばされた真希に駆け寄り次郎から隠れるように抱きしめる
「何すんのやっ次郎はんっ」
「そうだっ、姫に手を出すなんてそれでもMの国の兵隊かっ」
2人は飛ばされた次郎に瞬時に詰め寄り、
加護が銃をつきつけて腕を捻り上げると、辻は地面にうつ伏させ足で押さえつけていた
「くそっ、どっからわいて出て来た」
「ウチら親びんの子分やでっ、こんなの朝飯前やっ、遠くであんたらの声を聞いて先回りしとったんや」
「いつまでも子供だと思って舐めないでよね」
勢いで飛ばされた真希は、紺野に支えられ、土を払いながら起き上がって
「かっこい〜あいぼん、のの」とにっこり笑うと声を上げる
「お前らの親分は今頃牢屋の中だ、真希様の父上・・・・王を殺害した犯人の子供で、
さらに自身も大量殺人の犯人なのだから処刑されて然るべきでしょう」
次郎が、言いながら2人を振り飛ばして逃げ去ろうとした瞬間、次郎の上半身が無くなってしまった
「「「「うわっ」」」」
思わず目を背ける四人の前には、親方が冷たい顔をして立っていた
紺野も思わず姫を後ろに庇いしゃがみこむ
- 242 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:55
- あまりに強い親方の実力
鉄より硬いと言われる族の骨をも感じさせない程の剣の切れ味
紺野は、さっき次郎には敵わないかもしれないと思っていたのに、
その次郎の抵抗さえも許さずに一瞬で倒す強さに体が震える
支えられていたはずの真希がそんな紺野を抱き寄せる
「紺野」
「大丈夫です」
声を掛けられた途端に真希の前へと動き親方を睨みつける
だがそれを見ていた親方は、恐ろしい表情を元に戻し
「加護と辻はさっきも殺せないでいただろ」
優しい表情に戻った親方は、まだ驚いている加護達に笑いかける
知り合いの兵隊を追い詰める迄しておきながら殺せないでいた2人を見て、
親方はすぐにそいつを殺し真希達を追わせてくれた
苦戦していたと思わせていたのも親方の演技のようで、
真希達が消えた後すぐに決着がついた
加護と辻も、内心恐ろしいと思いながらもギコチない笑顔を浮かべた
だが、親方がそんな加護達を見る目はもう冷たい目ではない
- 243 名前:dogsV 投稿日:2007/08/08(水) 23:57
- 「・・・・・だって・・・・無駄に殺したら親びんに怒られるから・・・・・」
その答えを聞くと、フッと微笑み柔らかく言う
「あいつらは悪党だ・・・・そして俺らも悪党・・・・だが俺らは裏切り者は決して許さない、
いくら人を殺そうが、煮て食べようがかまわないが
光蔵や光一のような仲間に嘘をつく裏切り者や、
こいつらみたいに俺らを馬鹿にするような奴は殺されて当然だ、迷う事はない」
「せやけど・・・・」
飛ばされて座ったまま俯く加護と辻は憮然とした表情で足元を見つめた
「明日会わせて貰える奴らも、どうせこんな奴らだろう?
王族や貴族は自分の私利私欲の為なら平気で人を騙せるような奴ばかりだ」
「じゃあ・・・・殺すんですか?」
真希が俯くと、紺野は親方に聞く
「当たり前だろう、さんざん霧丸と譲をこき使っておきながら、
自分の都合が悪くなると殺しにかかるような奴だ、そんな奴は死んでもらう」
王族だろうが何だろうか、わしらには関係ないと真希を見据えて言う
「ダメやっ、なんか訳があるかも解らんやんっ、ちゃんと話を聞いてやらんとあかんっ」
立ち上がって既に実力を解っている親方に向って、口を尖らせて詰め寄る
「聞く余地はない、お前らは俺らがそいつらに会って何しようと関係ないだろ、
会えた時点で川を作る事に反対はしないし妨害もしない
それでお前らの目的は果たせるんだ、それに訳などくだらない訳しかないに決まっている」
「せやけど間違う事って誰だってあるやんっ、お願いや」
「間違った事したってその人が謝ったら、許してやってよ親方」
辻も加護の横に立って見上げて懇願する
- 244 名前:dogsV 投稿日:2007/08/09(木) 00:00
- どうして敵にまで思いやるのかわからなかったが、
ここ何日か話している中で推測すると、なにやら矢口の教えのようだと感じていた
昔・・・・・そんな事を言っていた男と同じ名前の話題の少女
フッと親方はまた笑う
そして親方にとってこの2人のこういう所がかわいくて仕方がないようだ
なのに
「だがだめだ、これは山の中で生きてきたわしらの掟だ、裏切りは許さない、卑怯者や騙すような奴もな」
剣を納めた後、2人の頭をぽんぽんと叩いて、戻るぞ、あいつらも少し心配だという
「だいたいお前らの親分は、こいつらの国に浚われたんだろ、行かなくていいのか」
そう言って戻り出す親方・・・・・だが四人の体は動かない
「親びん・・・ほんとに捕まってしもたんやろか・・・・」
「じゃあ、美貴ちゃんや梨華ちゃん達も一緒に捕まってしまったのかな」
四人は考え込む
「・・・・・どうしましょう・・・・まずMの国に行きますか?」
紺野も苦しそうに口を開いた途端
「「親方」」
加護と辻が叫ぶ
「お願いがあります、今からJの国の城に行って下さい、
約束とは違うけど、まず親びん達を探して、いなかったらすぐにMの国に行きたいんです」
「親びんが捕まってるのがほんまやったら、すぐにでもMの国に行きたいんやけど・・・・
もしかしたらそれも次郎はんの嘘かもわからへんっ、やから」
親方の背中に一生懸命お願いする加護達
- 245 名前:dogsV 投稿日:2007/08/09(木) 00:02
- しばらく親方が止まっていると、加護がハッとした表情をする
「勘太やっ」
「「「えっ」」」
三人にも、もちろん親方にも何も見えないし聞こえない
「勘太〜っ」
加護が思い切り叫ぶ
よく通る声は山々を木霊する・・・・・
すると親方の向こうの方から勘太が走って来るのが解る
だが、勘太の到着の前に保田が現れて、全員がキャーっと驚いた
「何よっ、失礼ねっ、す〜っごい探し回ってやっと見つけたのにぃ〜」
「なっ、何でおばちゃんがおるんっ、ぐわっ」
驚く加護にやっと走ってきた勘太が飛びついてきた
「あ〜よしよしっ勘太っ、よく見つけたねぇ」
ワシワシと頭を撫でられて嬉しそうな勘太だったが、すぐに吠え出す
「もうっ、勘太についてけばあんた達に会えると思ってたらぜんっぜん会えなくてさ、
ず〜っと遠く迄いっちゃってから、私が追い越したんじゃないって言ってみたらさ
勘太ったら、それから匂い探し出すんだもんっ、遅いっちゅうねん」
そんな保田の言葉を聞く事もなく、勘太は加護の服を噛んでMの国の方向へと引っ張る
「何っ、どうしたん勘太」
- 246 名前:dogsV 投稿日:2007/08/09(木) 00:06
- いつもの勘太らしくなく、焦りまくってせわしなく引っ張っていたが、
もう待てないとばかりに少し前に走りこっちを向いている
「そうっ、大変なの、矢口と吉澤がMの国に連れてかれたみたいなの、
それで山賊?の人を連れてMの国へ来てって」
まずひとみが浚われ、
多分矢口は吉澤を助ける為に自分から国に戻ったのだろうと藤本が言っていたと伝える
それを聞いて四人は驚きと動揺を隠さなかった
「ほんとだったんだ・・・・親びん」
「いやや、親びん連れてかれたら殺されるかもしれへん」
辻は泣きそうな顔で佇み、加護は親方に詰め寄った
だが親方は、現れた保田を睨んでいた
「お前・・・兎族か」
「ええ、そ・・・そうですけど」
あまりのでかさと、恐ろしさに後ずさる
親方の向こうの方から、馬が数頭駆けて来るのが見えた
霧丸達がどうやら決着をつけてこっちに向かって来たようだ
「親方、お願い・・・・・Mの国に一緒に行って下さい、
その後で必ず霧丸さん達を騙した人と会わせますから」
真希も加護の近くに寄って懇願する
「いいだろう、このままMの国に舐められてたんじゃ俺らも悔しいからな」
親方は優しく言い
Mの国方面へと、霧丸に連れて来られた馬に乗って歩き出した
追いついてきた霧丸達は、多少傷ついてはいたが、全員無事だった
兵隊と山賊の勝敗でこんなに圧倒的でもいいのだろうかと多少真希は不安になる・・・
この人たちが敵になったら自分達は多分負けるだろう・・・・と
- 247 名前:拓 投稿日:2007/08/09(木) 00:07
- う〜ん、今日はここ迄です
- 248 名前:15 投稿日:2007/08/09(木) 00:11
- 更新お疲れ様です。
親方かっけ〜!
ここからがまた大変ですね。皆頑張れ!
- 249 名前:拓 投稿日:2007/08/13(月) 15:41
- 248:15さん
労いの言葉と応援
いつもありがとうございます。
励みにさせて頂いております。
- 250 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 15:45
-
ガシャン・・・・ガシャン・・・・ガシャン
牢屋の入り口の番兵はずっと耳を塞いでいた
夜中迄続くその音に、たまらず片桐の所へ訴えに来る
いい加減に止めさせてくれと・・・
太郎は、わざと番兵に元矢口の部下を選任し、
ユウキへの忠誠心を試しているようだった
片桐は再び牢屋に入りギョッとする
真っ暗な中、鳴り響く鎖の音・・・・
二つの松明によって照らされる牢屋の中で動く影
止まった所に炎を向けると、ぜぇぜぇという息遣いと、
ギラギラとした視線・引き結ばれた口元で必死の形相をした少女
顔の肌も身を包む布さえも色が変わっているのが解る・・・・多分流れ出た矢口の血
天井から吊られていた右手のクサビは引きちぎられ、
左手も、もう少しではずれようとしていた
しかし、鎖を掴んではいるものの、もう手首の肉は削げて骨が見えており腕は真っ赤だった
力を使って、そうとう鎖を引っ張り続けたようだ
- 251 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 15:47
- 片桐やその番兵が見ていようとやめる気配はなく、
一瞬消えて鎖がピンと張るたびに血が飛び散って片桐達の体に赤い斑点を作った
片桐は、頬に飛んできた生暖かい液体を拭いついに声を出す
「やめて下さい」
ガシャンッ
ハァ・・・ハァ・・・
「無駄ですよ・・・・あなたは自ら捕まってしまっているのだから」
ハァ・・・ハァ・・・
「真里さん・・・」
番兵もそう呟き唇をかみ締める
・・・・・すぅっ
「やめて下さいっ矢口元帥補佐」
ガシャンッ
また血が飛んでくる
ついに番兵が口を押さえて出て行く
牢屋の外から吐いている声が聞こえる
「死んでもいいんですかっ」
ガシャンッ
「死なない・・・・」
はぁ・・・・
「あいつを・・・・」
はぁっ・・・んぐっ・・・
「あいつを助ける迄」
はぁっはぁ・・・すぅーッ
「死ねないっ」
ガシャンッ
- 252 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 15:51
-
うぐっ・・はぁ
「それを取ったとしても、この牢屋から出れはしないんですよ」
ハァッすぅーッ
ガシャンッ
「出る・・・・体を切ってでもここから出て、はぁ・・・
なんとしてでも和田を問い詰め、あいつを・・・・すぅ〜っ、吉澤を助けるっ」
ガシャンッ
「もうやめて下さいっ」
ドゴッ、ガッシャカランカラン・・・・
コンッ
左手が取れ、矢口の体が吹っ飛ぶ
ヒューヒューと矢口の息遣いだけが木霊し、片桐の片目にはじんわりと涙が浮かぶ
はぁ・・・はぁ・・・・ふぅ〜っ
息を整えると、カチャカチャと鎖を鳴らし、
グラグラしながらおぼつかない足で立ち上がろうとするが、言うことをきかないようだ
うぐっ、うぐっ
うめきながら、そばに落ちている鉄の棒を拾い、ゆらゆらと立ち上がる
そして隙間に入れ牢の杭を曲げようとした
片桐が柵の中に手を入れて、真っ赤になった腕を握って首を振る
「やめて下さい・・・・・無理です」
はぁっ・・・はぁっ・・・
息も絶え絶えに片桐を睨む
「・・・・・おいらが・・・・おいらが助けないと・・・あいつが・・・・あいつが」
握っている腕には、殆ど力は入ってなく、
体重を一生懸命かけている事さえも空しく感じた
- 253 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 15:53
-
「そんなに・・・・大切な人だったんですか」
思わず片桐が言うと、もう血がかたまってしまっている口元を辛そうに歪ませ
大きな瞳の中の炎がゆらめきだす
「こんな・・・こんなおいらに・・・・おいらなんかに付いて来たら危険なのに、
ずっと・・・・ずっとついて来てくれた奴なんだ・・・・」
「・・・・・・・」
「片桐・・・・頼む・・・・おいらの事はどんな風に殺してくれてもかまわない・・・・
だけど・・・・あいつは・・・あいつは関係ないんだ」
澄んだ視線で見上げてくる矢口
それを片方の目で見つめ続ける
既に片桐は聞いていた・・・・
その仲間は谷に身を投げて死んでしまった事を・・・・
片桐の目が益々潤む
「やめましょう・・・・無駄です」
その時バキンと鈍い音をたてた
昔、矢口の部下達の体も叩き続けていたその棒は、
もうやめろというように折れてしまった
勢いから矢口の体が壁にぶつかり倒れ込んだ
倒れこんだ矢口は、もう上を見上げる事も出来ずに言う
「頼む・・・・あいつだけは・・・助けてくれ・・・・頼む・・・」
- 254 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 15:55
-
息も絶え絶えになっている姿を見ながら思い出す
小さな頃から、いつも姫の為に戦う少女の姿を
十年前に一度起こった内部紛争
矢口真之介が矢口を守って死んでしまったあの戦い
何故か族を一層しようと言い出した貴族派が、
勝手に町にいる全ての族狩りを始め、多数の死者が出た
町にいた族は、見つかると何も悪い事はしていないのに突然処刑されていく
見かねた王が、反対に貴族派を処罰しようと戦争になり、
小さな矢口は大人に混じりすでに戦っていた
結局は王族派の力が勝り、貴族派は絶滅
そんな中、街の人達の為に戦い、
自分に真里を頼むと言い残して死んだ無念そうな祖父、真之介の姿
そして、殺された族の家族の為に、
町に行っては様子を見て話し掛けたりする矢口達家族の姿
加護と辻を手元に置いて、
どんな世の中になろうと強く生きていく為にと厳しく叱っている所や
姫の為にどんな事でもやってのけると、
他の兵に馬鹿にされながらも、人一倍鍛えていた小さい体
そんな矢口達家族の事を、町の人も自分達兵も
・・・・大好きだった事
- 255 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 15:57
-
いつからだろう
こんなに恨むようになったのは
いや・・・・矢口を恨みたかったのではない・・・・・
何を恨んでいいのか解らない状態で、矢口しか恨む対象がなかったのである
王族や・・・矢口達王族付きの族の家族はいつだって兵や街の仲間を大切にしていた
なのに・・・・どうして矢口は仲間の兵を殺して逃げたんだろう
新聞で書かれていたように、ユウキと和田の策略は真実なんだろうか
そう・・・・自分も知っていた
怪しい動きがある事は解っていたはず
自分達がどんなに疑っても、王や姫、矢口達親子は、
仲間なんだから信じようと言って、身内を捜査するような事はしなかった
そして事は起こった
姫は友好の為にとYの国へと追い出され
それに同行していた矢口がいない間に、徐々に王の具合が悪くなって行った事
薬物を入れられた食事で、偉大な王はついに死んでしまい
ショックを受けた誇り高い王女は自殺、その捜索を始めた矢口の父親は、
いつのまにか逆に容疑者にさせられていた
- 256 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 16:00
- そして、一斉に和田の部隊が矢口親子に攻撃をしかけ、
その時矢口は加護と辻を助けるだけで精一杯の様だった
2人を連れていった後、戻って来た時には
父親も母親も蜂の巣のように撃たれて死んでおり
その時、大きく叫び声をあげた後、
周りに駆けつけた自分達が見ている前で、泣きながら当時の和田の部隊全てを殺し去って行った
共に戦った自分達の存在さえも見えないかのようにひたすら和田達の部隊を殺し
白い何かに包まれ、泣きながら飛び回る小さな体・・・・・
目の前で繰り広げられる惨劇
自分達の部隊はそれを見て呆然と立ち尽くすしかなかった
静まり返った後、我々の部隊を一度見た
だが、今、目の前にいる彼女は、その時何も言わずに消えてしまった
その大きな瞳に自分達の姿を映すことなく・・・・
その後、真っ赤な体で城へとやって来たらしく、
和田とユウキに襲い掛かろうとして失敗し、本当に姿を消した
残された自分達は、しばらく呆然としてしまってて、
駆けつけた和田の援軍に捕まり、逃げた矢口の行方を吐かされるように受けた拷問の後、ユウキに忠誠を誓えと脅され続けた
家族が殺される前迄は、きっと矢口が助けに来てくれると信じていた
なのに来てくれなかったのが悔しかったのかもしれない
見捨てられたから・・・・・
そのせいで家族が殺されたと思い込んでしまったのかもしれない
殺したのは・・・・和田とユウキなのに
- 257 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 16:02
-
矢口が落とした視線の先に、ポツリと水滴が落ちてくる
「俺達の事・・・・・・逃げた後に思い出す事はありませんでしたか?」
「・・・・・・・」
「俺達が・・・・・残された部下が・・・・どうなってるか気にした事はありましたか?」
「・・・・・・あるに・・・決まってる・・・・だから・・・戻って・・・・・
でも・・・・おいらのせいだね・・・その眼も・・・家族も・・・・解ってる・・・・解ってた」
ぐったりと壁にもたれたまま矢口も再び涙を流し出す
解っていたのに、目の前にあった温かい光を掴もうとしましまった罰
「遅かったんですよ・・・・何もかも」
その通りだと矢口は息を吐く
「・・・すまない・・・・でも・・・・だから・・・・吉澤・・・
吉澤だけはおいらの為に死んでほしくないんだ・・・もう誰もおいらの為に死んでほしくない」
矢口は涙を流し続けた
「自分が探してきます・・・・どこにいるか解らないけど、きっと・・・・・・・
だから・・・もうじっとしていて下さい」
そう言うと、しゃがみこみ、矢口の両手を引き寄せて、
骨がみえている場所を舐め始めた
- 258 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 16:04
-
「・・・・・片桐・・・・副司令官」
感謝の視線が片桐へと向けられて、片桐の口から何かが零れそうになる
だって探しようがない・・・
彼女はもう死んでいるのだから・・・・
でも、片桐にはこう言うしかなかった
「ありがとう・・・・ありがとう副司令官・・・・
本当にありがとう・・・・頼む・・・・絶対に見つけて逃がしてあげてくれ・・・・
片桐の恨みはおいらが全部受け止めるから」
「はい」
受け止めてもらおう・・・・自分達家族や部隊・・・・
その悔しさと空しさを・・・・
片桐は矢口の腕を取り、唇を寄せ止血し続ける
明日・・・・・彼女に出来るだけ安らかな死が訪れるよう・・・・・
その子の亡骸だけでも見つけてあげたい
片桐は、そう心から思いながら牢を出て行った
- 259 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 16:04
-
- 260 名前:dogsV 投稿日:2007/08/13(月) 16:05
-
「本当に殺してしまうのですか?」
ユウキの胸の上に頭を乗せた少女が聞く
「イヤなのか?」
「・・・・あの・・・・・私・・・どうしても真里さんが
そんなひどい事をするようには見えなかったんです」
ユウキが肩を抱き寄せておでこに唇を寄せて言う
「真奈美がそんな事言っちゃだめだろ、
あいつら家族は僕の父と母を殺し、沢山の仲間を殺したんだ」
「でも・・・」
「真奈美はそんな事心配しないで、僕の子供を産んでくれればいいんだよ」
ユウキはそう言って唇を寄せた
明日で終わる、姉を連れ戻して共に処刑すれば自分の天下が来るのだ
そして子供を産ませれば、その子にこの国を譲って思う通りの国づくりが出来る
そんな事を考えながら今日も和田の娘・真奈美を抱くのである
- 261 名前:拓 投稿日:2007/08/13(月) 16:06
- なんか暗いっすね・・・
申し訳ない・・・
- 262 名前:15 投稿日:2007/08/13(月) 20:29
- 更新お疲れ様です。
労りの言葉なんて!感謝の気持ちですよ。いつも楽しく読ませてもらってますので。
今回は泣きました。矢口さん………うまい事いってほしいです。
次回もお待ちしてます。
- 263 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/08/13(月) 22:39
- 矢口さん・・・
周りも複雑ですね
- 264 名前:拓 投稿日:2007/08/15(水) 13:45
- 262:15さん
疲れるだろうに楽しんでいただけて、とてもありがたい事です。
263:名無し飼育さん
複雑になっちゃったけど、そうでもない?・・・・自分でもよく解らな(ry
う〜ん、こんな文で情景が解られますでしょうか?心配・・・
空気読めないついでに、どんどんいかせていただきます。
レスありがとうございました。
- 265 名前:dogsV 投稿日:2007/08/15(水) 13:49
-
あゆみが帰って来たのは夜中だった
「どうだったあゆみ」
うとうとしていた老人、克巳が聞く
ずっと起きて横になりながらも近くの焚き火の番をしていたひとみは、
お願い・・とでもいうような視線を向けて見上げた
あゆみはそんなひとみにすまないとでも言うように首を振る
「すっごく迷ったから遅くなっちゃった、ごめんね」
ひとみは首を振り続きを聞きたがる
「あ〜家は・・・なんとか見つけられたんだけど・・・・
裏に二頭馬が繋がれてるだけで、誰もいなかった、しばらく待ってみたけど誰も帰って来ないの」
「二頭・・・」
一頭は自分の馬・・・・どうして一頭ではなく二頭残っているのだろうか・・・・
それは、やっぱり矢口だけが捕まったという事?
じゃあ藤本と梨華は?
それに自分達がMの国の兵隊に浚われたのを知っているのだろうか・・・
それとも畑山達の事を犯人と思って城を探ってる?・・・
まさか2人で矢口を追ってMの国に行ったとか・・・
でも明日は約束の日だからJの国にいないといけないはず
もしかしたら梨華達は畑山に何かされたのかもしれない
だったらやっぱり自分が行かないと・・・・・
美貴達はきっと城の中にいるんだ、王子やあのじじい達とまだ心理バトルを繰り返してるかもしれない
- 266 名前:dogsV 投稿日:2007/08/15(水) 13:52
-
フンッ くっ
ひとみが渾身の力を込めて起き上がろうとする
あゆみがやめさせようとするのに、ひとみはもう言う事を聞かない
「ちょっ、おじいちゃんっ」
「だっ、ダメじゃって、あんたが行った所で何も出来ないじゃろ、そんな体じゃ」
慌てる克己もよっこらせと近づく
「はぁっ、はぁ、っく、何も出来なくても、ウチが・・・ウチが捕らえられていないと知れば、
ふんっ・・・く、矢口さんはどうにか逃げ出せるっ、ウチさえ」
克巳は驚く、どこかしら体の中の骨が折れているはずなのに、
どこからこんな力が出て来るのか
2人共押さえつけようとするが、逆に怪我を悪くさせるような気がして手を出せず、
ひとみはよろよろと立ち上がった
しかし、洞窟の入り口迄歩いて来た時に<ひとみは愕然とする
そう、この洞窟はとても高い場所にある事に・・・・
壁に手をついた状態で下から吹き上げる風を受けてひとみは立ち尽くす
「わしらは戦う力を持ち合わせていない為に、こんな場所にすむしか安心する場所はないんじゃよ」
「犬族じゃココまで来る事は難しいけど、兎族だけは大丈夫だから・・・・・」
悲しそうな声で言う二人
- 267 名前:dogsV 投稿日:2007/08/15(水) 13:56
- だが、ひとみはゆっくりと座ってここから降りようとしだすので、あゆみが止める
「無理だって、体がちゃんとした状態でも
ここから降りるのは道具を使わないと人間には無理なの」
吹き上げる風でひとみの髪が揺れる
「ウチの事はどうやってここに?」
ひとみはあゆみに真剣に聞いた
「わしと2人で一気に抱えて登って来たんじゃ」
年寄りにはきつかったとおどける克己
「じゃあ、じゃあ悪いけどウチを降ろして下さい、
そこからは自分で行けます、ここを下って行けばMの国なんですよね」
おどけていた克巳を見る目が真剣で、少し圧倒される
あゆみは克巳に向かって首を振る、行かせてはいけないと・・
「せっかく助けてもらった命だけど・・・・矢口さんを助けられないのなら死んだ方がいい、
あいつが捕まったのは自分のせいだから、ウチが今助けないと、
もしこのまま生きてても自分はあいつのそばにいられないっ、そんなのっ、そんなのやなんですっ」
ひとみは2人を悲しそうに見た後、一度下を見ると目を閉じてフッと飛び降りた
あゆみと克巳が驚いて後を追う
ひとみを追い越し一度下へと降りてから再び飛び上がって体の衝撃を吸収した
その時点でひとみの顔は苦痛に歪む
さらにゆっくりと着地したのにも関わらず、
ふつうにジャンプした位の衝撃がひとみの足に加わり、全身を襲う激痛にひとみは倒れ込んだ
どうやら兎族とは、力を使えば短期間でも空間も操る事が出来るようだ
- 268 名前:dogsV 投稿日:2007/08/15(水) 14:01
- 「ばかものっ、そんなに助けたいのにここで死んでどうするっ」
倒れ込んだひとみをあゆみが支えようとするが、上から克巳は怒鳴りつけた
前にうつ伏せになって倒れた体をなんとか右手で起こし、
苦痛に歪ませた顔でよろよろと立ち上がる
「だって、行かないと矢口さんが・・・」
つらそうな顔をして歯を食いしばって立ち上がったひとみに、
困った顔をして克巳とあゆみは顔を合わせる
あそこで飛び降りても、きっと自分達が助けると思っていての行動だと解る
「何度も助けていただいて、ありがとうございました」
体を曲げると痛いのか、そのまま2人の眼を見て言うと、
ゆらゆらと岩場を歩き出す
さらに足が思うように動かないのか、なかなか遠くに行かない背中を見て、
あゆみは泣きそうになりながら克巳を見る
「仕方ない、連れて行ってあげようか」
しょうがないとため息をつきながら言うと、あゆみは笑って頷き
タタッとひとみに近づくと体にそっと手を添えて覗き込むように言う
「そんな速さじゃ、Mの国には何日かかるかわからないよ」
ちょっとした冗談を言ったつもりで覗き込んだあゆみだったが、
ひとみが泣きながら必死に歩いているのに気づき言葉を失う
唇を噛み締めて苦痛の表情をしながらひとみは泣いていた
あゆみは不謹慎だと思いながらも月明かりにうっすらと浮かぶひとみの顔に見惚れる
- 269 名前:dogsV 投稿日:2007/08/15(水) 14:05
- 普通ならこんな状態の人は、見てみない振りをしておくのが常、
咄嗟に助けてしまったとはいえこれだけの重症患者は本当なら、ほっておくはずだった・・・・
一気に死なせてあげなかったのも罪だが、出来れば意識のないまま、
そのまま静かに死なせてやる方がいい・・・・・
たまに見かける山賊も、決して助けたりはしなかったし、
それが山で暮らす者の掟のようなものでもあった
前の晩は、助けに行くのが遅かったせいで、ひとみをちゃんと助ける事は出来なかったが
血を流して倒れているひとみを見て、あゆみが助けたいと克巳に懇願したのだった
そのひとみが寝ても冷めても繰り返す人物、
矢口という人はどんな人なんだろう
こんなに綺麗な人がとても大切にしているのは、
きっとその矢口という人の事を本当に好きだからなんだろう
克巳は王族付きの人と言っていたけど、それは一体何のことなのか、
何年もここで祖父と暮らして来たあゆみには解らない
昔、祖父と両親と暮らしていたMの国で、
族狩りにあって両親を殺されてから、
祖父と一緒にここで静かに暮らしていたあゆみの前に表れたひとみ
どうして縄で縛られたまま谷に落ちて来たかは、だいたい解った
話していた事が筒抜けになっていたから・・・
だからひとみが泣くほど大切な存在
あゆみはどんな人か見てみたいと思った
- 270 名前:dogsV 投稿日:2007/08/15(水) 14:08
- 「おじいちゃん、さっきJの国から返って来る時に
馬が何頭かうろついていたの、ちょっと見てくる」
あゆみが消えて行く、克巳がひとみを代わりに支えて話し出す
「ほんとにこんな体で・・・どうしてそこまでして」
「・・・・好きなんです・・・なのに・・・ウチが・・・
ウチのせいであいつが死んだら」
涙を流し、おぼつかない足で歩き続けるひとみ
克巳も解っていた、あゆみが助けておじいちゃんと言って来た時から、
あゆみがこの娘に恋心を抱いてしまったのではないかと・・・・
だから、怪我の治療も手伝ってあげた
町で暮らすのを避けてこんな場所で静かに暮らす自分達が他人と出会うのは稀だ
山賊か、何故か定期的に通るMの国の兵隊しかいない
だから自分が死んでしまったら、
あゆみは一人でどうやってここで暮らしていくのか心配でもあった
もしこの子がずっと一緒に暮らしてくれるのならと思って、
街に卸せば高価になる、頭の傷にききそうな薬草のありかを教えてあげたのだ
でもこの子は、例え死んでも大切にしたいと思っている人がいる・・・
しかも自分も聴いたことのある名前、矢口
時々足りない物を買いに行くJの町や、仕事で行くMの町で聞く噂話
だったら、そのこがどんな子なのか見極めてみよう、
噂では最近すごい数の兵を殺してこの国から逃げて行った人物だと聞いていたから
そんな子よりはあゆみの方がいいに決まっている、
この子の目を覚まさせて、あゆみとうまくいかせてあげたいと心の中で願った
- 271 名前:dogsV 投稿日:2007/08/15(水) 14:11
- ゆっくりと岩場を歩き続けた二人は、
少し崖が低くなった場所であゆみが叫んでいるのを確認する
「おじいちゃんっ、ねぇこっちに馬がいるのっ、私乗れないからおじいちゃん来て」
あっという間にひとみを支えるのが克巳からあゆみへと変わる
「ごめんね・・・あゆみちゃん」
息も絶え絶えにひとみが呟く
「ううん、いいよ、大丈夫、きっと間に合うよ、馬に乗れば明日までにはMの国に着くはず」
「・・・・うん・・・ありがとう」
支えているひとみの体が熱いのを感じていた
きっと熱が上がっているのだろう
克巳が馬に乗って帰って来ると、2人で一気に崖の上に引き上げて馬に乗せた
克巳の前に乗り、ぐったりと体重をかけてくるひとみは本当に熱くて、
危険な状態じゃないのかと克巳は戸惑った
ゆっくり馬を歩かせて
なるべく振動させないように歩く横をあゆみは並走した
途中耳のいいあゆみ達は、遠くから馬が駆けて来る音を聞き、
静かに森の中へ隠れた
片目の男が自分達の来た方向へと急いで行ったのを見送って、
再び歩を進めた
- 272 名前:拓 投稿日:2007/08/15(水) 14:11
- 今日はこの辺で
- 273 名前:15 投稿日:2007/08/15(水) 23:35
- 更新お疲れ様です。
疲れませんよ、全然。ドキドキ緊張はします。
Mの国に行くんですね…皆無事に合流出来たらいいなぁ…
どんどん更新しちゃってくださいw
- 274 名前:拓 投稿日:2007/08/16(木) 00:20
- 273:15さん
疲れないようで良かったです。
レスありがとうございます。
- 275 名前:dogsU 投稿日:2007/08/16(木) 00:22
-
暗い牢屋の中に、うっすらと日が差し込む
朝が来たようだ
あの後、少し安心してそのまま眠ってしまったが、
小鳥のさえずりと共に目が覚めてしまった
矢口は、昨日片桐に治療してもらった腕を眺める
若干肉が復活しており、手のひらを開け閉めすると力が復活している気がした
片桐に感謝する、これで最後に少し抵抗する事が出来るかもしれないと
自分を恨んでいるのに、治療してくれた優しい元部下
最悪片桐が探しきれなかったらと、最後の手段を考える
今頃ひとみは何を考えているだろう
自分が浚われた事でこの作戦がうまくいかなかったらどうしよう・・とか
あんなに毎日訓練したのに、浚われてしまった自分が悔しくて泣いているかもしれない
- 276 名前:dogsU 投稿日:2007/08/16(木) 00:24
- いつも、あいつは自分自身に腹を立てていたから
無駄に自分を追い詰めていなければいいけど・・・・
やはりあいつは自分を責めるだろう
だから・・・・
まだ死ぬ訳にはいかない、あいつに伝えるまで
あいつは悪くない・・・守りきらなかったのはこの自分なのだから
あいつに自分を責める事は一つもないのだと伝えるまでは絶対に死ねない
もうあいつが誰を好きだろうとかまわない、
あいつを助け出して、笑ってもらえるようになればそれでいい
そして・・・・・自分はあいつの事を好きだと伝えたい
だから、どんな事をしてでも生き延びて探し出す
どんな鬼になってもあいつを助ける
真っ赤になった腕でぱりぱりになった血の幕を眺めながら、
矢口は再び目を瞑る
次の戦いに備えるために・・・
- 277 名前:dogsU 投稿日:2007/08/16(木) 00:25
-
- 278 名前:dogsU 投稿日:2007/08/16(木) 00:29
- 同じように西の空がほんのりと明るくなって来ている頃
真希達がMの国の近くまで来た、夕べほとんど寝ずにあの戦いをして
急いでこの地迄来た為に、全員疲れていた
このまま塀を越えるには、族ではない真希や馬を連れていけないし、
門番を脅して城へ向かっても、きっと大騒ぎになるだけであり、得策ではない
それこそ真希を連れていたら知っている顔だけに大変だ。
いや、加護と辻の事は、兵は元より、ほとんどの町民が知っている程の有名人なのですぐに知られてしまう
どうせ保田の情報位しか街の様子も解らないし、もう明るくなってるのなら、
少しでも休憩して体力を回復させようという事で山の中で仮眠する事になった
通常のルートとは違う山の間を来た為に
絶対に誰も通らないと親方が言うので安心して眠ってしまう四人
親方でさえ、光蔵と光一が何かするのではないかと
ここ何日か浅い眠りしかしていなかったためか熟睡する
だが、保田だけはそんな中静かに起き上がり塀を飛び越えた
共に同じ頃藤本達もMの国近くに来ており仮眠をとっていた
自分達の存在がある事もあり、夜は警戒を強め、見張りも多いはずだと王子も武蔵も口を揃える
明るくなって見張りが減れば、門番を倒し中に入るのは簡単だろうと言っている
偵察に行っていた族の兵達が続々と帰ってきては、壁づたいにかなりの兵が見張りについていると言う
族であれば軽く潜入出来そうな壁だったがそうはいかない
Jの国からの隊には族は三分の一位しかいないし、
王子も能力を開花させているとはいえ、道具なしで街を囲む塀を飛び越える事は出来ない
- 279 名前:dogsU 投稿日:2007/08/16(木) 00:33
-
兵達を仮眠させている間も、心配でたまらない藤本
仮眠している兵達をよそに静かに起き上がる
「どこ行くの?美貴ちゃん」
隣で寝ていたはずの梨華に捕まれる
「心配しないで、ちょっと様子を見てくるだけ、すぐ帰って来るから」
捕まれた手を離し、逆に手を握り締めると
起き上がった梨華の肩に、空いている手でポンポンと叩く
「美貴ちゃん、私、一人は嫌だよ」
矢口も、ひとみもいなくなってしまい、心細さ全開の梨華の表情に
たまらず藤本は梨華に口付ける
ん・・・んん
次第に深くなる口付けに梨華が夢中になると、いきなり藤本は消える
「大丈夫、本当にすぐ帰って来るから」
と耳元に囁きを残して行ってしまった。
「美貴ちゃん」
街の方を見つめて呟く梨華は、胸元に手をやり、心細そうに一人佇んだ
- 280 名前:拓 投稿日:2007/08/16(木) 00:33
- どんどんと言いながら、今夜はちょっとで・・・
- 281 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 14:41
-
塀を飛び越え、まだ静まり返っている町並みが見渡せる所に藤本が入り込む
見張りがいるとはいえ、族だけなら楽勝の潜入
城の周り以外にバーミンの設置はない事も矢口から聞いて知っている
兵の中でも族はちょこちょこいるので、力を使っても見える兵がいるという
それに、城迄はかなり距離がありそうだ
ちょこちょこと黒い影が歩き回っているのが見えるが数は少ない
あの人数と馬で、どうすればここを目立たずに城迄行く事が出来るのか・・・・
力を使うならまだしも、人間と馬で一番早く城に行くにはやはり一直線しかない
薄暗い中、この町への入り口となる門を確認しながら力を使う
門から城への延長線上の家が立ち並ぶ所の傍迄行くと、そこからは普通に歩き出す
時折、人がいない事を見回しながら力を使って屋根を飛び、城へと近づいてく
ここら辺はあまり兵はうろついていない、夜明けが近い為、急ぎ近づく
ちょっと道に降りてみる
だが、まだ寝静まっており、人通りがないので目立つ
再び人がいない事を確認し消えそうになる所に、ふと家の影から兵隊が出て来た
- 282 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 14:43
- 城に近づく程、警備の兵隊が多くなってくるのを感じていた頃だっただけに
内心チッと舌打ちする
すぐに藤本を見つけると銃を構えたが、優しげに聞いてくる
しかも驚いた事に、男は左腕が無かった
「どうしたんです?こんな朝早くに」
「え・・・・ええ、寝付けなくて朝を迎えてしまったものですから、少し散歩をと・・・・」
こんな回答で納得してもらえるだろうかと、内心ヒヤヒヤとしていたが
「そうですか・・・・今日、本当にこの国が変わろうとしているんですもんね、寝付けませんよね」
と、なんだか元気がない
「はい」
一応話しを合わせる藤本
「・・・・・心配いりませんよ、これから悲しみを乗り越えた王と和田様が、
きっと前以上のいい国を造って下さいますから」
そう言いながらも、なんだか悲しそうな兵隊
「本当に・・・・・大丈夫でしょうか?」
「・・・・・・・とにかく、まだ出歩かない方がいいですよ、侵入者と間違えられると大変です」
親切そうな兵隊は、そう言って敬礼した後、またキョロキョロとしながら去って行った
- 283 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 14:44
- どうやら、街の中も兵が一晩中見回っていたようだ
かなり自分達の存在を恐れているような気がする
だったらどうやって懲らしめてやろう
藤本は密かに闘志を燃やす
そこへ
「藤本」
ン?
自分を呼ぶ囁くような声
キョロキョロと辺りを伺うと、一軒のボロ家の窓からヒラヒラと手が振られている
一応、銃を持ち近づくと
「バァ」
と、変な顔をした中澤
そして
「お前幾つだよ」
「うっさい」
中澤の後ろから瞬が顔を出す
- 284 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 14:46
-
「中澤さんっ、瞬さんっ」
驚きで少し大きい声が出た為
「アホか、声が大きい、まぁ中入りぃ」
「あ、はい」
たてつけの悪い引き戸を開けると、中澤と瞬が何かを警戒するように構えた
「ん?」
藤本も後ろを振り返ると空から誰かやって来た
「よっ」
今までの出来事を見ていたかのような軽い登場
「「保田さんっ」」
「圭坊っ」
「いや〜、皆さんお揃いのようで」
驚く三人をよそに、藤本を差し置いて部屋へと入る
「なんや、どっから来たんや」
「ほんとですよ、だいたいごっちん達には会えたんですか?」
昨日の話だけに藤本は無理だったんだと落胆した声を発した
- 285 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 14:48
- 「ちょっとぉ、当たり前じゃないっ、
この私にまかせとけばちゃんとやるに決まってるでしょ、
会えたわよ、それもすっごい恐ろしい人ともね」
予想に反した言葉に嬉しさが零れる
「会えたんですか、良かった、で、ごっちん達は?」
「うん、塀の外で寝てる、なんかちょっと争いもあったし、
ずっと野宿みたいだったし疲れてるからね」
「でも無事なんですよね」
「うん、みんな元気よ」
ホッとする藤本
「んで、なんや、恐ろしい人って」
「ん、山賊」
中澤の突っ込みに飄々と答える保田
「「山賊?」」
そして話の見えない中澤と瞬
「ほら、大きな湖の近くにいるっていう」
「「ああ」」
話しのつながった2人は頷く
「すっごい大きいし、めっちゃ強いみたい、Mの国の兵でも強いって人達がやられたみたいだし、
私が見たのは、見た事ない位、綺麗に胴体が切れた人が一人転がってたの、あの剣はただの剣じゃないわ」
ほんっと怖かった、うんうんと一人納得しながら話す保田に中澤がイラつく
「圭坊っ、だから何でこないな状況になってんねん」
シッ
途端に保田が言うと、同じように気配を察した三人は銃を構え、
保田はすぐ逃げられるように奥の窓近くへと向かう
- 286 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 14:50
- 瞬が2人を制し、開けっ放しの入り口からすばやく外へ出て行き、
二人がすぐに後に続くと、既に瞬が一人の兵を羽交い絞めにしていた
それはさっき声を掛けてきた優しげな片腕の兵隊
中澤と藤本も銃を向けたが、藤本は銃を下ろす
羽交い絞めにされ、動けないながらも、こっちの隙を伺って、攻撃に転じようと銃を握りしめている
「だてに兵隊やってる訳じゃなさそうだな」
瞬が声を掛ける
「お前・・・たちは・・・・・」
怯えてはいるものの、しっかりとした視線で三人を見た
そこに、部屋の入り口迄出てきた保田
どうする?と四人は顔を見合わせる
「私達は、矢口さんと友達なんです」
藤本の言葉に驚く兵隊
「そう、Eの国やらJの国とかから来てんねんけど、
どうやらウチらの矢口を捕らえたらしいな」
自分でも、帰れば捕まるかもとは言っていたけど・・・と、
瞬はもう無抵抗な兵から銃を取り上げ、部屋の入り口にいる保田に銃を投げる
「でも何で知ってるんですか?」
声を出したのは、兵ではなく藤本
- 287 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 14:56
- 「ああ、昨日の夕方ウチらはここに着いてん、
正攻法で入らせてもらえる雰囲気でもないし大人数やし、
矢口達が何処までいってるか解らへんから、ちょいと様子みようかって」
中澤が瞬を見る
「そう、昨日の時点では慣れてへん長旅で疲れてるし、動ける奴らで一斉に情報収集と、
食料調達でもして腹ごしらえしとこうかって」
「したらなんか、矢口が捕まってるっつー噂が入って来て驚いたんや、そんな段取りじゃなかったはずなのにって
確かに計画では、Jの国との交渉が終わって・・・Mの国との交渉の突破口を開いた頃やと思ってたんやけどな
しかも今日、民衆を集めて何かあるらしいし、どうやってもぐり込むか、昨日ちゃんと皆で話し合ったんやで」
「そう、それで、その計画に抜け目がないかどうか、俺らで最終チェックに駆け回ってた所」
「何か作戦を考えてくれてたんですね?」
藤本の顔がほっとしたような表情になるが
兵は困惑の表情で話しを聞いている
「ああ、ちゃんと考えてんで、いきなり殴り込んでも矢口が危ないし、当の矢口は
争いや戦は嫌いやねんから、とにかく色々な」
田中も俊樹さんも加藤さんも、みんなおるんで色んな作戦が出て楽しかったわと微笑む
「ああ、争いは何も生まないのをみんな身をもって知ってるからな」
四人は微笑み、兵はそんな四人に救いを求めるような視線で見始める
「あの・・・・」
「待って、誰か来る」
兵が何かしゃべろうとした瞬間保田が言う
今度は、突然遠くから誰か力を使って近寄ってくる影らを捉え、中澤と藤本が消える
- 288 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:00
- しかし静かな街の中に目立った音は響かない
ただガチャガチャっという鉄の音だけが二つ響いた
一人の族と共に中澤が姿を現すが、藤本は中澤が向かった方と反対側から、
一人の兵に銃をつきつけて周りを気にしながら、歩いてこっちへ来ていた
街の中は、結構兵がうろついているようだ
「俺ら、結構強いんだが、知ってる限り話してもらえれば何もしないよ」
瞬が最初に羽交い絞めにした兵を、目立たない様家の中に入れながら言う
「本当に・・・・・・真里さんの・・・・・友達なのか?」
おとなしく部屋に入る兵
「せやな、戦友・・・・とも言うかもしれへん」
だが、
「誰だ、こいつらは」
中澤に連れられた少し年を取った族の男が、
部屋に入れられた途端、瞬に捕まっている兵に聞く
「・・・・・・真里さんの・・・・・戦友みたいです」
「元帥・・・補佐の?・・・・戦友?・・・・しかし、何故今になってこんな事をする」
捕らえられながらも強気な兵の顔には深い傷がある
「矢口さんを助けに来たに決まってるでしょ」
藤本も兵を連れて、入ってきながら話に加わる
- 289 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:03
- 連れられた兵は、体を震わせながら中澤の連れた兵を見て俯いた
「あんたも知らんのか?今日何があんのか」
年配の兵の襟首を持って揺らす中澤に
「・・・・・・私達下っぱ・・・・・いや、元矢口元帥の下にいた兵には
・・・・・・何一つ教えてもらえない
ただ今日から明日の昼迄は、夜を徹して街の隅々にいたる迄、
山賊や侵入者、不審者を捕らえ続けろという指令のみ受けた」
「そう、今日はこの国が変わる一日になるだろうから失敗は許されないと言われただけだ」
俺は悪い方に変わるとしか思えないけど・・・・
そう腹を立てたように答えたのは瞬の捕らえていた兵
「幸助」
咎めるように言う年配の兵
「班長、私はもう嫌なんです、こんな・・・・
ゆくゆく民が苦しんでいくのが目に見えてるようなこんなやり方についていくのが」
短期間ですごく裕福になったけど、何か違うんですと幸助
「ばかっ、何の為に我々が我慢していると思ってる」
「しかしっ」
「よう解った、もうええ」
年配の兵と、最初捕らえた幸助と呼ばれた兵のやりとりを遮ったのは中澤
- 290 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:05
- 「ウチらはあんたらの事情はあんま知らへんねん、
ただ、一応聞いとく、あんたらは矢口の敵か?味方か?」
年配の兵を締め上げて聞く
「・・・・・・・・・」
「敵です・・・・・・でもっ、でも俺らは真里さんの事、本当は憎いとは思ってないんですっ」
またしても年配の男ではなく幸助と呼ばれた男が決意の顔で答えた
「・・・・・・・和田っちゅう人のせいやろ・・・・・解ってるで、
ウチらはな元々Eの国のもんやったし、調べたらようやくつながったんや、ようやくな」
「何か解ったんですか?」
藤本がたまらず聞く
「ああ、それは後でゆっくり話す、とりあえずは矢口救出が先決や」
「それによっちゃんも」
藤本の声に、2人は同じように藤本に顔を向ける
「何?」
「吉澤もか?」
「はい」
残念そうに答える藤本に、中澤達も顔を合わせる
- 291 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:08
- 「とりあえずさ、まず最初にこの三人をどうするか考えない?」
突然三つの銃を抱えた保田が口を開く
「どうって、何も知らんのやったら役にたたん、
悪いが、助ける迄何かされると面倒やから、今日一日ここにいてもらうしかないんちゃう?」
「そうだな、早くみんなとも合流したい、
そして2人を助ける相談を練り直さないと間に合わない、保田さん、何か縛るものを探してくれ」
何か縛るものを探し出す保田
「班長っ、協力しましょう」
「幸助、お前何を」
「さっき班長も言っていたじゃないですか、何の為に我慢しているのかって」
「そ・・・・それは」
突然言い合いを始めた兵達
「みんな言わなくても、きっと真里さんが・・・・真里さんが姫を連れ戻して
あの平和な街を取り戻してくれるって信じてるんですよね、今がその時じゃないんですか?」
何故か真里さんは捕まってしまったけれど、
おとなしく捕まるタマじゃないってみんな思ってるはずですと興奮しきり
「じゃあ、本当は和田って人に仕えるのは嫌なの?」
藤本が聞くと
「・・・・・・少なくとも、元矢口元帥の下にいた者はそう思っているはずです。
表向きは・・・・皆に合わせて悪口を言ったりしていますけど」
しょうがないんです、皆にも家族や恋人がいますから・・・・と悔しそう
- 292 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:10
- 「本当に・・・王さえ生きていれば・・・・・こんな事にはならなかった、
それに民の中にも既に格差が出来てるんだ、贔屓と差別がひどくなってる。
こんなに早く兵の生活に違いが出て、これ以上"金"の為だけの兵が増えても、民が苦しむに違いないんだ」
それに隣国の関係だってこのままじゃ・・・・・またすぐに争いも起きるだろうと苦痛の表情
「だけど俺達は、何も出来ない・・・・俺達には・・・・力が無かった」
片腕の幸助が悔しそうに涙ぐむ
「何で何もでけへんのや、ただあんたらが弱いだけやん」
「中澤さん」
藤本がやめろというように名前を呼ぶが
冷たい中澤の言葉に、三人は俯いてしまった
すると
「ちょい前のウチらもそうやった・・・・やろ、藤本っちゃん」
ニヤッと中澤が笑う
「中澤さん」
- 293 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:13
-
「ん・・・・・何か胸にひっかかりながらも、現状に満足してるふりをしてた俺らと一緒だな」
「せや、ウチらみんな、矢口達に会えてから・・・色々考えて・・・・・そして戦ってきたんや・・・・・
自分の為やのうて・・・・・仲間や・・・・・大切な人の為に・・・・仲間と一緒にな」
「そう、みんな変わった・・・・いつのまにか・・・・・だからあなた達も変われる・・・・
ってか・・・・・元々矢口さんの仲間なんでしょ、じゃあ美貴達とも仲間・・・・」
「班長っ」
「班長」
片腕の幸助と、ビクビクしていた男も年配の男を見る
「・・・・・・やっ・・・・てみるか・・・・・
また・・・・この国が民と一緒に暮らしていける優しい国になるように」
「ええ、やりましょう、班長、俺、すぐ皆を説得します」
「ちょっと待って、まずは全員集合して、作戦会議から始めない?
焦ってミスしちゃ矢口さんが危ない」
「せやな、じゃああんたらも一緒にウチらんとこ来てくれるか?」
と優しい微笑み
「はい」
「ああ、じゃあ俺らがいなくても怪しまれない為に、持ち場の変更をまず指示してくるがいいのか?」
- 294 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:15
- ここで行かせてしまうと、もしかしてチクられるかもしれない危険
だが
「いいですよ、あなた達はもう仲間です、この幸助という人は、あきらかに美貴が怪しいのに
親切に声を掛けてくれました。美貴は彼を、そして彼の上司の人を信じます」
それに、元矢口さんの仲間でしょ、と藤本が言うと、年配の男も、藤本が拘束する男も幸助を見る
「名前・・・・教えてくれますか?」
幸助は、嬉しそうに聞いてくる
「私は藤本美貴、Jの国元王族付で、田舎町に飛ばされて司令官やってたけど、
今は矢口さんにくっついてるただの旅仲間」
「俺は若林瞬、Eの国近くで族の町を作って閉じこもってたけど、
同じように町を作ってた族達と今、新しい町を作ってる」
「ウチは中澤裕子、その族の町を昔追い出されて、山賊の集落作っとったんやけど、
矢口のせいでEの国を今面倒見てんねん、よろしゅうな」
「あ、私は保田圭、今は矢口のおかげでやりがい感じちゃってる新聞屋、
あなた達がまだ見てない新聞、持ってきてるよ、後で読ませてあげる」
四人の自己紹介を聞いて、三人は口が閉まらなくなる
どこか大きな物が動いている気配に・・・・
「す・・・・すごい」
藤本に捕まれていた男が呟く
するとみるみる三人の顔が輝いていく
- 295 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:17
- 「よしっ、昨日の作戦、全部練り直しや、急ぐで」
「ああ、じゃあこれ見てもらえるか?班長」
と、指されしているのは壊れたテーブルに置かれた地図
この町の地図の中に、警備の兵のだいたいの配置状況が書かれているようだ
「今こんな感じで警備してるけど、きっと交代の時間が来たら変えて来ると思うねん」
ウチやったらそうすると班長の顔色を伺う
「その通り、後一時間もすればその交代の時間、
今度は門から城に続く道沿いを中心に兵を置いていく」
そして夜、街にいた我々のような元矢口元帥の部隊の兵は休みなく城と、
民が集合される広場の周辺で、和田部隊の影でぼちぼち警備する様言われている、と地図を指さして説明してくれる班長
「やっぱりな、思った通りやな、瞬さん」
「ああ、念のため調べに来て良かった」
「でももうその心配いらないんじゃないですか?この人達が協力してくれるんなら」
笑顔の藤本と幸助
「せやな、あんたらにかかってきたで、この国の未来が」
茶化す中澤に、プレッシャーを感じ始める三人
「平気よ、この人達、今までの矢口の無茶にもつきあえる位、図太い神経してるからさ」
取り上げた銃を三人に返しながら言う保田の言葉に三人が微笑む
- 296 名前:dogsV 投稿日:2007/08/18(土) 15:20
- 「ところで中澤さん達はどこで休んでるんです?」
と藤本が場所を聞くと二人が地図上の同じ場所を指差し、
藤本と保田も、自分達は位置を確認し、「ここ」とそれぞれ指差した
「どっか一箇所に集まりたいな、班長はんどこがいい思う?」
「班長、門の前でいいでしょう、門番なら大丈夫です。
前、矢口元帥時代の大尉クラスを、わざと班長迄降格して、そこに交代で配置させてますから」
絶対に協力してくれるはずと幸助
「ああ、それが一番だと俺も思う」
「解った、なら俺らが一番近いな、保田さんと藤本さんはみんなをすぐに連れてきてくれ」
「「オッケー」」
「じゃあ幸助はんらは、ウチらと一緒に来てくれるか?ってかあんた、
あんさんは人間やな、力使えんとしたら、ウチと歩いてくけど大丈夫か?」
他の警備兵に、イチイチ説明したり、
気絶させて縛ってくんは時間かかってしゃ〜ないと中澤が言うと
「大丈夫だ、はなからそのつもりで、
今から警備の持ち場の変更を三番に変えてくる、どーいう事か解るな智哉」
「は、はいっ、え〜と、大塚の方から抜ければ警備の兵はいません」
頷く班長
この三人は一緒の班で、大塚の警備にあたるという事らしい
「よし、俺は後からすぐ門へ行く、俺達が抜けてもおかしくない様に、
すぐにでも協力してくれそうな仲間を抱き込んでから向かう」
昔からダチの隊長ならがきっと協力してくれる、と力強く言う班長に
「やれば出来るやん、班長はん、ほな行くで」
「おうっ、じゃあ先に行こうか、幸助」
「はいっ」
嬉しそうな幸助が、瞬に続いて出て行った後、それぞれが行動を開始した
- 297 名前:拓 投稿日:2007/08/18(土) 15:22
- 今日はここ迄・・・
- 298 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/18(土) 18:11
- みんな!どうか二人を助けて下さい。
- 299 名前:15 投稿日:2007/08/19(日) 00:51
- 更新お疲れ様です。
良いムードですね。
矢口さんの為に皆が協力する…凄い人だなぁと再認識しちゃいました。
次回もお待ちしてます。
- 300 名前:拓 投稿日:2007/08/21(火) 22:11
- 298:名無飼育さん
はい、頑張らせます!!
299:15さん
ここはいいムードなのですが・・・
これからちょっとグダグダが続きますので、
気が向いた時にでも、少しずつご覧下さい。
レスありがとうございました。
- 301 名前:dogsV 投稿日:2007/08/21(火) 22:17
-
瞬に連れられた幸助という片腕の兵隊は、
一度、田中達がいる場所に戻り、門前への移動を開始する
門前に到着する前に、幸助が瞬達との成り行きを門番の元大尉に言うと、
瞬の顔を見ながらも、幸助の顔の輝きに納得して、
そこにいる者全員、幸助の言葉を信じてくれて門の外にやってきた
そして警戒しながらも、やって来た面々の熱意に、渋渋協力する事になった
これで中澤達に協力してくれると言ったMの国の兵三人と、
そして門番をしていた部隊十数人が仲間になる
だが皆、歯が所々無かったり、傷だらけ
矢口がいなくなってから、矢口の所在を聞かれたり、
新しい王への忠誠を誓わせる為に受けた拷問の痕
上級位の中で唯一生き残っているのが、片桐副司令官という人だという
矢口元帥の配下の中ではその人が一番の上級位ながら、自分達とは別部隊の隊長という位で、
新しい民兵の世話させたりと、いいようにこき使われているらしい
藤本達や真希達が到着する前、既に一つ作業が決定していた
中澤達の仲間の族から、新聞を作れないかという意見が出る
一度Eの国で、新聞作りも経験しているし、なにより新聞発祥の地の仲間達
それを警備にあたっている元矢口の部下に、
族達で一斉に配布するのが一番手っ取り早いのではないか・・・・という事になり
中澤主導で、保田がここに来てから、すぐにでも記事を書いてもらえるよう準備を始めた
- 302 名前:dogsV 投稿日:2007/08/21(火) 22:20
- Mの国の兵は、そんな話し合いの横で、
Yの国の兵が持参していたYの国での戦いの記事を読んでいた
それから程なくして、藤本達とJの国の大所帯の兵達が現れ
その後、しばらくして現われた真希の登場に、Mの国の兵は驚愕の表情と涙を浮かべた
一斉に真希の前にやって来て跪く
「よくぞっ、よくぞご無事でっ」
泣き崩れるMの兵達
「みんな・・・・苦労をかけました」
一瞬圧倒されていたが
傷だらけの兵達が跪いているのを見て真希は優しく微笑み、思わず涙ぐむ
「姫こそ・・・・・苦労なされたみたいで」
新聞を読み終え、漸く真希の状況を知ったばかり
「いえ、それに今、私は王族ではありませんので頭を上げて下さい、
だいたい皆の苦労に比べれば何でも・・・・・
それより今、民はどうしているんです?幸せに暮らせていますか?」
いつもの天真爛漫な真希から着実に変化し、
何かを背負っているような違う姿になっていくのを全員が見ていた
「はい、それが・・・・一部の民は、きっと幸せなんだろうと思いますが・・・・・・・・
多くは・・・・これからの生活を不安に思っているはずです」
悔しそうな兵達は頭を下げてそう言い、口を噤んだ
- 303 名前:dogsV 投稿日:2007/08/21(火) 22:27
- 「そうですか・・・・・では、とりあえず私達を・・・・城へと連れて行ってくれますか?」
なにやら私と矢口に、舞台が用意されているようですねと落ち着いた表情
「・・・・・・・しかし」
「大丈夫です、見て下さい、この人達は、私達Mの国の為に集まってくれた各国の有志
もの凄く頼りになるし、優しい人達なんです。
だから、もし私の事をこの国の者と認めてもらえるのなら、
出来れば彼らに協力してはもらえませんか?」
「もちろんです、もちろん全力で協力させて致します。
ですが・・・・・意見させてもらえるのなら、姫はまだ城へ近づかない方が得策かと思います」
顔を見合わせ、頷きながら唇をかみ締めるMの兵達
「私には・・・・この国の行く末を見届ける責任があります。
それに・・・・・・私の為に戦ってくれた矢口の為にも行かなければならない・・・・
だからコソコソするつもりは毛頭ありません、必要であれば表舞台に立つ覚悟は出来ています」
堂々と言う姿を、紺野はただ唇を真一文字にして見つめ続けた
国に帰るとどうなるか・・・・
真希はちゃんと紺野に話し・・・・
そして共に運命を受け入れる事を望んだ
その様子を、親方も静かに眺めていた・・・・
「よ〜し後藤、よう言った、じゃあ皆、ここに来るまでの近況を報告してくでぇ〜っ、
作戦はそれからや、それから舞台がどうとか言ってたな後藤、それ後で詳しゅうな。
んならどっからいこうか、瞬さんから手短に話してや〜」
Jの国の兵には、どうして他の国からわざわざ来ているのかという疑問と、
Yの国の兵と中澤・瞬達の仲間は、既に打ち解けており、
国や職位には関係なく、活発に意見が出ている生き生きとした姿が、
やけにまぶしく感じられていた
それから始まる各国の近況と、ここに至るまでの経緯が足早に話されると、
JとMの国の兵達の心に何かが生まれる事になる
- 304 名前:dogsV 投稿日:2007/08/21(火) 22:32
-
まずは瞬達
矢口達が旅立った後、色々な話の中で和田という名前を聞いて、
昔の仲間の事を思い出した安倍と若林は、嫌な予感がするので
部隊を出して矢口達に着いて行く為に準備を始めろと瞬達に言いはじめた
昔、貨幣の利用価値が認められ始め、金貨があれば、どんな国も思うがままに
なると浮かれる輩が増えてきた頃
Eの国の王都で国の軍隊とは別に独自の部隊を持ち、力を持っていた真之介や安倍、若林達
それを取り締まろうと追いつ追われつしていた酒巻健太郎
他の国との物資の流通に欠かせない、金貨という貨幣の価値観を高め、
取引の基準を作った矢口達は、王族に逆らい、多すぎる金貨は必要ないと
世間の現状を見ながら必要最低限の作成しか許さなかった
もちろんEの国の国王が貨幣の大量生産の研究をしようと企むのも、
矢口真之介が力づくでやめさせ、うまく各国で流通する量を調整した事で取引は安定していった
真之介のカリスマ性に、他の国との取引を王族達で行うのではなく、
自分達街の仲間達で行っていた事に目をつけ、
各国をものにしようと言い寄って来ていた鼻息荒い若者がいた・・・・・
その男の名前は和田薫
数十年を経た中で蘇るその記憶を、
安倍や若林が孫の代の矢口達に詳細に話したのは、二度目にバーニーズに泊った時
Mの国や、今のJの国の状況を知り、そして矢口の表情に、
年寄り達は胸騒ぎがしてならなかった
蒔絵に相談すると、Yの国の方から援軍が来るから、
一緒にMの国へと向かいなさいと言われ、すぐに若者たちを集め、中澤と連絡を取ったそうだ
- 305 名前:dogsV 投稿日:2007/08/21(火) 22:35
- 中澤達も、内密に金貨の製造者や方法を調べていたら、
俊樹がシープから連れて来た十数人の老人達の中の記憶で、
銃の製造工場の他に、貨幣の製造工場も国が破壊、
しかも貨幣の方の製造に関わった者は、
へたに情報が漏れるとやっかいだと極秘に抹殺したという話を聞きつけた
金貨は元々、矢口真之介の発想に耳を貸した若い技術者によって、
たった一人の開発で出来上がった代物
天才技術者の彼一人さえ生きていれば、いずれまた貨幣の大量生産が出来ると睨んだEの国の国王は、
Eの兵隊の中での最強の精鋭を護衛につけ、国から外へと逃がした
それは、矢口真之介や安倍・若林達と、Jの国が戦をしている間の話しだという
しかし戦が終わっても、その技術者は姿を現す事はなかったそうだ
Eの国が崩壊したり、各国が流通の範囲を狭めた元凶は、
やはり銃とかだけでなく貨幣の製造をめぐっての争いがあると中澤達は思った
そして和田と佐久間という、二人の災いの元が動き出したのが、
それを狙ったものではないかという事も予測された
シープから来た老人は、昔のEの国の兵隊の名簿がある隠し扉を教えてくれたり、
知っている情報を話してくれたりと全面協力体勢
やはり閉鎖されていたシープでの世界から、
いつかはまたEの国の王政の元で勤めたいという思いからか、
何か昔を思い出して生き生きとしていた老人達は、
中澤達を王族とは認めないながらも、協力を惜しまないと言ってくれる
他にも
Jの国から技術者を狙う族が特使を受けて、逃げている技術者の行方を掴み殺してしまったとか、
その刺客が技術者が惚れて北へ逃げたとか・・・・
その他、貨幣の全国統一を成し遂げたといわれる一番の功労者、矢口の下に向かったとか・・・・・
いずれも噂の域を出ない話なのだが、安倍たち同様、何やら嫌な予感がすると、
中澤達は仲間達を引き連れ、自分達もMの国が見てみたいと言い旅立とうとした
そこに丁度Yの国から田中一行がやってくる
- 306 名前:dogsV 投稿日:2007/08/21(火) 22:38
- Yの国の田中達は、紺野が残した調査チームで色々調査するうちに、
佐久間がMの国との交流の代表者、和田とという男はつながっている裏づけを探す
そんな中、たまに佐久間が城からの抜け道をチェックするから探すなと言い、
姿をくらますのを思い出した側近の兵の言葉に、
一斉に城の捜索を行うと、食堂の、しかも誰も近づかない壁から隠し扉が出てきて、
さらに細かく調査すると、小さな箱が入っている隠し場所があった
その中にあったのは手紙と・・・・
数枚の真新しい金貨が特殊な紙によって包まれていた
睨んだとおり、Mの国の和田と、数回の手紙のやりとりが行われていた
四十年の年月が流れる中で数回の手紙・・・・・それだけが2人を繋いでいた
その中でわかった事
元はといえばEの国にいた兄弟だという事
いずれは二人で天下を取ろうという事
貨幣の製造者を探している事
Mの国に、あるはずのない新しい金貨が出てくる事
そして・・・・・
二人は、自分たちの提案をはねのけた矢口真之介を恨んでいる事
やはり胸騒ぎがした田中は、すぐに松原部隊を招集し、旅の準備を始めたのだった
- 307 名前:dogsV 投稿日:2007/08/21(火) 22:40
-
集結した田中・中澤・安倍・若林が出した結論、
貨幣製造の技術者は生きていて、和田・佐久間は、それを執念深く探して、
そしてMの国に痕跡を見つけた・・・・
そして見つければ、いずれは全国制覇をなしとげようという野望が叶う・・・・
という願いを持っていたという予想は確信となる
Eの国の隠し扉から出てきた膨大な数の名簿を全員でチェックし、
やがて見つかった名前
和田薫
和田譲二
Yの国での佐久間の名前は、佐久間譲二・・・・・二人は兄弟だった
そしてその兄弟の目的によって、自分達は翻弄され、
争わされていたという事実
憤りを抱いて、いてもたってもいられなくなった中澤・田中・瞬達は、Mの国へと急いだ
- 308 名前:dogsV 投稿日:2007/08/21(火) 22:43
- Yの国から、田中以下旧松原部隊50名
Eの国から中澤以下族50名
バーニーズ・ダックスから族ばかり100名ずつ・シープから20名
Jの国から 王子以下、武蔵率いる桜花部隊から族50名、
戸川・松山部隊が少数の族を含む各300名ずつ
そして、あの藤本がいた町からも司令官以下100名
総勢1000名近くの人達が
矢口を手助けに・・・・そして、今、矢口・吉澤救出へと目的を変え、
しかも、それぞれが自分の国をちゃんと繁栄させたいと願いを持って
見事にここ、Mの国に集結した
それぞれがここに集まった経緯を話し、
藤本達も、その中で一番数の多いJの国の兵達も、あまりの状況に戸惑っていた
自分達が、歴史の中の一ページになるかもしれないという出来事に、
今直面しているのだという事に・・・・
長く、閉鎖的な交流だけを続けていた各国
そんな時間が長く続いていた時代が・・・・・
今、各国の若者達の手によって動き始めたのだった
- 309 名前:拓 投稿日:2007/08/21(火) 22:45
- ん〜、なんとなく・・・申し訳ない気持ちですが今日はこのへんで。
- 310 名前:dogsV 投稿日:2007/08/23(木) 22:10
-
「さぁ〜て、また祭りが始まったでぇ〜」
千人近い集まりの中心に顔を揃える代表者達の中で、ニヤリと笑う中澤
彼等の未来を射すかのように太陽が顔を出し、もうすっかり明るくなった門の前に集合した面々
「裕ちゃんの顔、なんか怖いよ」
「なんやて後藤っ」
「「こらぁっ、おばさんっ、姫は本当の事言っただけ」」
「全く、どんな状況でもあんたらは変わらんなぁ、ええからちゃっちゃと考えんと、かわええ矢口がヤバいんやでっ」
笑いの起こる代表者の輪に、MやJの兵達は不思議な感情を抱いていた
既に中澤の仲間達は、保田と一緒にMの町のはずれにあるという印刷所へと向かった。
そこは元々保田達が拠点としていた場所、だが和田の部隊に占拠され、
元矢口元帥の配下には明かされなかったし近寄れない場所だった
技術者が生きていれば数時間で新聞が完成する
一度は、新しい王権によって新聞が発行されたらしいので、多分生きているという事
こうしている間や新聞の完成後も、Mの国の兵は協力者を増やす為に、
バレない様動き続けなければならない
残りは、広場での決戦の際の陣形や役割が徐々に固まっていく
- 311 名前:dogsV 投稿日:2007/08/23(木) 22:13
- 何やら民が集められる舞台・・・・
矢口と真希の為の舞台というのは12時丁度に始まる事も解った
大方の予想通り、真希は、自分と矢口の為に用意された舞台は
きっと処刑の場だと確信しており
逆を言えばそれ迄は絶対矢口とひとみは生きているという事だと希望的観測を持つ
だから中澤や瞬達、なつみやかおり、田中達が中心になり、
明るい表情で話し合いを繰り広げている。
その中でも、Jの兵達以外の面々が自主的に連携を取り、意見をぶつけ合いあちらこちらに動いていく
王子や武蔵、桜花部隊を始め、この中で大所帯のJの部隊は戸惑いの中、
他の部隊の人からの指示を聞くに留まった
指示を聞きながらも、
とにかく和田って奴の下のMの国の兵をぶち殺せばいいんだなと息巻くJの国の兵達の様子を見て藤本が動く
「美貴ちゃん?」
梨華の問いかけに少し振り向き、悲しそうな笑顔を見せて一度頷くとトコトコと歩いて行ってしまう
ざわざわと確認作業をしている中、
固まっているJの国の兵達の真ん中に藤本が立った
「ごめん、ちょっといいかな」
そう話しかけると、壁付近にいる王子や武蔵らも注目する
- 312 名前:dogsV 投稿日:2007/08/23(木) 22:16
- 「皆さん、こんな遠く迄、急な事だったのに出撃してくれてありがとう・・・・
でも・・・・少し聞いて欲しい。
今、皆が動いているのは、ただMの国を滅ぼしたいだけとか、
ただ矢口さんを助ける為だけじゃないの、私達が暮らし、愛しているJの国の干ばつ・・・
それを止める為の戦いでもあるの、
そして、遠い国からハルバル来てくれた各国の皆は、
一度は悲しい戦いや、空しい思い、悔しい思いをした人達が、こうやって動いてくれてる。
いろんな場所の、いろんな文化が交わって、新しい何かを作りたいって思ってるから・・・・・
だから今、違う国の兵士達が仲間となり、協力しあってるの・・・・・
ねぇ、それに私達も加わりたいとは思わない?」
顔を見合わせるJの国の兵士達
「私は・・・・・心から、それぞれの愛する人達の為に、この戦いに協力して欲しいって思ってる」
ただ上からの司令ってだけでなく、自分達の問題として戦って欲しい・・・・
と思いを口にする藤本を、遠くで中澤達が見守る
もちろん梨華も、中澤の近くで胸の前で手を組み、藤本を見つめ続ける
- 313 名前:dogsV 投稿日:2007/08/23(木) 22:20
- そして王子が藤本の近くに動く
「私は、父親である王さえも病に臥してしまった事柄・・・・
このMの国との難しい関係をどうすればいいのか解らずに、迷い、幹部に頼りきってしまっていた。
そして矢口さんや藤本さんが我が国を訪れ、干ばつやMの国との関係に悩んだ我が国の為に、
必死に何かを動かしてくれようとしていたのに、
当の矢口さんや吉澤さんが、何故か連れ去られてしまって、私でさえ一体どうなっているのか解らない内にここに来た
それに我々は、2人の救出と我が国の名誉の為に戦をしに、ここに来たと錯覚していたみたいだ・・・・・
しかし、もう時代は動き始めている。
直に他の国の兵達の働き、それに代表者たちの志の高さ・・・・・
私は今恥ずかしくて仕方が無い。
だから、我が国の中での勢力とか・・・・そんなの関係なく、
そして・・・・・この目の前にあるMの国という隣国や、もちろん各国とも
互いに協力しあえる状況を作りたいと、本当に心から思う」
だからこの戦いは、戦争ではないのだ・・・と大きく宣言する頃には
あちこちに小さな輪になって座り込んでいたJの国の兵達が、
一人・・・また一人と立ち上がっていく
「王子・・・・・もう伝わってるようですよ」
武蔵が言う
- 314 名前:dogsV 投稿日:2007/08/23(木) 22:21
-
「他の国から来た兵を見て、私達もショックを受けました」
「今、俺達がしなければならない事・・・・」
「もう考え過ぎて疲れて来てます」
ハハ・・・と兵達に笑顔が出だす
「解ってます・・・・これは、Mの国を滅ぼす戦いではないんですよね」
桜花部隊の一人が言うと
「そう、これは我々が新しい時代へ向かう為の戦い、いいか、他の国に遅れを取るなっ、気合入れていけっ」
おうっ、Jの国の兵達の笑顔が広がった
中澤達や他の国の有志達も笑顔になり、打ち合わせを急いだ
- 315 名前:dogsV 投稿日:2007/08/23(木) 22:21
-
- 316 名前:dogsV 投稿日:2007/08/23(木) 22:23
-
城の中が慌しくなってくる
「まだ次郎は帰って来ないのか」
太郎が苛立たしげに廊下を歩いて行く
まだ帰って来ませんという門番に、ついたらすぐ報告するようにと言って城へと帰って行く
そんな太郎に、今度は和田が聞いて来る
「まだ真希様は捕まらないのか」
「はい、そろそろ戻って来てもいい頃なのですが」
「あの山賊は中々のツワモノだと聞いているので手間取っているのかもしれんな」
「そうですね、対戦した事はないのですが、かなり強いらしいのです、
あの次郎でさえ少し危ないのかもしれませんけど」
我が隊でも最強の族達を集めたんで問題ないでしょう
2人はほくそ笑む
- 317 名前:dogsV 投稿日:2007/08/23(木) 22:24
- 「まあまだ時間もある事だし、舞台の方は出来あがっているのか」
「それはもう着々と、後はこの町の人間どもが我々族の偉大さに気付き、
ひれ伏す為に集まるのを待つだけですよ」
「フッ、長かったな・・・・実に・・・・・それに矢口も幸せな奴だ、
こんなに立派な舞台の上で死ねるなんてな」
「我々も人がいいですな、あれ程虐げられていた矢口の孫娘に、
立派な死に舞台を作ってあげるとは」
「今まで面倒みてくれたお礼だよ・・・・・・さぁ、もう少しの辛抱だ・・・・・この芝居もな
必ずこのMの国にあの男がいる。これで思う存分探す事が出来るし・・・・
それに、漸く弟とも会わせる事ができるな」
そう言うと、太郎の肩に手を置き、祝杯でもあげようかと部屋へと消えて行った。
- 318 名前:拓 投稿日:2007/08/23(木) 22:25
- 今日はこの辺で
- 319 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:31
-
日も高くなり、続々とMの国の兵が、次々に門や壁を越えてやってくる
他にもある国の門は、全て自分達が向かえば開放される事が約束された
城から遠い場所の兵には、直接幸助達が伝達と情報収集に向かっていたのだが、
興奮した見張り兵が、いてもたってもいられずにどんどんやって来て
姫を見ては涙を流していく
和田の配下に納まった裏切り行為をお許し下さいと、
来る人来る人が謝っている
最初に町で会った班長と幸助が、昔を思い出すのか、
しっかりと真希をガードし、
当の真希は困惑しながらも兵を労い、皆が傷だらけな事に心を痛めているようだった
あまりに皆が真希を見て泣くものだから、待機中の中澤が呟く
「あほばっかりか、あんたらんとこの兵は」
「ええやん、アホで、みんなええ奴やねん」
「そう、昔はほ〜んと平和だったんだから、王様も優しいし、
女王様も綺麗で、のん達がイタズラしても怒らなかったんだよ」
「ほ〜」
微笑んで腕を組む中澤を挟んでいた加護と辻が、岩に座って嬉しそうに足をブラブラさせている
今まであまり語ろうとしなかったMの国の事を、嬉しそうに話す加護と辻
そんな加護達の近くで、親方は話し合いには入らないまでも、
手下達は協力する様に言ってくれた
そして親方は、各国の兵や、中澤達をじぃっと見つめ続ける
- 320 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:33
- 城に集まっている和田の部隊に比べれば、数的には不利な状況だが
皆これだけの仲間が集まった事が心強くて、もう矢口と吉澤が助かる気になっている
それでも藤本や瞬達は、あちこちの隊に行っては、
総合的な段取りを確認していく
急ピッチで進む作戦会議
かき集められるだけのこの町の地図をあちこちで囲み、
全員が道のりを覚えていた
城と広場近辺の詳しい状況地図は数が少ない為に、
代表者が瞬達の所に行って各々、紙等に略図を書き必要事項を確認していく
一応、力の使えない者や人間の部隊は、
城の上階の見張りから見えない所迄は、なるべく広がって少人数ずつ馬に乗って近づき
途中の広場や学校、空き地や丘の影等で、見つかりにくい場所に馬をつないで歩いていけば
一見、町民と見分けが付かないので、バレずに苦労なく近づける筈という事だった
その頃には、きっと町民達も広場に向かって集結していくだろうから目立たないはず
広場はいくら大きいといえども数千人が入る規模のものしかないので、
町民で集められるのは地区の代表者や城近辺の住民が主だという
- 321 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:36
- 民に紛れる際、旅組は着替えを持ってきているが、
Jの国組は軍服しか持ってきていない為
民に化ける為の普段着を、今、協力してくれるMの兵達がかき集めに行っている
潜入後も、武器を全員持っているから、ちゃんと見ればすぐに怪しいと思われるのだろうが、
警備の兵はその頃にはもういない手筈
ついでに、城近くに集まった際、敵味方が解る様、
目印となる黄色い布を持参出来る様、急ぎ手配している最中だ
シープでの戦いの時のように、青の軍が戦った際の目印を参考に、
合図と共に手や首に巻く事にした
一応、黄色は平和の象徴としての選択
あくまでもイメージの話し・・・・
その場でその意味は通じないだろうが、
全員の志を示したいとYの国の兵達からのアイデアだった
だから、配布する新聞に、中澤達に協力してもらえるのなら、
黄色い布を隠し持って城へ集合する様に記事には目立つ位置に記述させた
それに、兵から捕まった時に、さりげなく黄色い布を見せて
反応がなければ和田の兵かもしれないので、傷つけないように気絶してもらえと指令を出している
- 322 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:39
- 出発までは、後もう少しとふんでいる
新聞が出来上がり、一度ここで集合してから一斉に各門へと出発し、新聞を配り始める
印刷所は先発隊によって既に取り返せており、
保田の懸命な執筆と、印刷準備作業で大騒ぎになっているらしい
時間がなさすぎる為、一枚だけの小さな紙の号外新聞だが、
元矢口の部下限定の為の文章は、Mの兵の心をくすぶる、どうやら熱い文になっているとの報告だった
Mの国の兵に聞くと、生き残った元矢口隊の数は多くて500、
印刷予定は時間的に限界の1000枚、もうすぐ刷り上る位の時間
それを城近辺にいる和田の兵にバレない様、既に意思表示してくれているMの兵も含む"族"総動員で、元矢口元帥の下にいた兵、
それに王族に仕えていた兵に新聞を配りながら城へと近づく事になった
余った分は、民に成りきって城に近づく人間の部隊が、
城から遠い場所で少しずつバラまいていく事としていた
町の警備は全て元矢口の部下、万が一和田の兵の手に渡っても、
城に着く迄には時間がかかる為バレないはず、
しかし、町民に何が起こっているのかは知らせる事が出来るだろうという予想
各場所で着々と準備が進んだ
「美貴ちゃん、張り切ってる」
「ほんとだ・・・・でもなんか、すごいですね、皆さん」
梨華が、真希の護衛の仕事を取られた紺野に微笑みかけると、紺野は感心する様にみんなを見渡す
- 323 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:41
- 「ほんとですね、れいなも、Eの国とか、
瞬さんの町とかJの国とか通って来て、しみじみ思いました」
「何て思ったの?」
なつみが聞くと
「矢口さんが来てくれて・・・・本当に良かったなぁって」
「そうね、自分達だけの世界じゃ・・・・・解らない事だったり、
知らなかった素敵な事が沢山あるって、本当に矢口が来て思った」
言いながら、かおりも頷く
全員の着替えが済み、黄色い布もなんとか行き渡る
地理も頭に入った
後は新聞が出来上がるのを待つだけ
そして・・・・・汗だくの保田が丁度現われる
「出来たわっ、みんなお待たせっ」
「よっしゃお疲れっ、圭ちゃんっ、ほれ、みんな取りにきてやっ」
両手に抱えた新聞の束を、早速そばにいた中澤や瞬達が
代表者を集合させて配達係りの族達に配り始める
Mの兵を中心にした族達が、新聞を受け取ると蜘蛛の子を散らすように飛び散っていく
- 324 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:45
-
「Jの国1〜30隊はこっち、31〜残りはこっちに来て直ちに陣形を取れっ、すぐに出発だっ」
北と南の門からは、隣国から来てまだ疲れも浅いJの国の兵が潜入する事にしている
ここ東門と共に開放される時間は、もう決めてある
その時間迄に北南に別れて馬で駆け抜け、
後、半時程で門に到着し、一斉に門を開放して潜入する
今が出発するにはぎりぎりの時間ではないかと門の開閉の為のMの兵達
なんとか間に合ったとホッとする面々
直ちにJの国の兵達が馬に乗り整列した
壁際に並んだ各国の代表者や王族
まず瞬が声を出す
「時間は多少ズレてもいいっ、とにかく城に集合する迄、
和田の兵達には気付かれるなっ、民になりきれっ」
「みんなっ、ぬかるなよっ、我が国の力っ、見せてやろうっ」
中央で立っている瞬の言葉に続き、北へ向かう隊の先頭に立った馬上で、
王子が拳を突き上げると、おうっとJの兵が拳を上げ、
もう一つの部隊は、武蔵や、桜花部隊を先頭に走っていく
- 325 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:46
- 「みんなっ、忘れないでねっ、これは戦争じゃないっ、
仲間と、家族と、これから私達が愛する人と平和に暮らす為の戦いなんだよっ」
目の前を走り行く兵たちに藤本が叫ぶ
「せやっ、ここにいる皆はもう同士やっ、ウチらの未来の為に戦えば、矢口もっ、吉澤も救う事が出来るんやでっ」
「そしてみんな〜っ、誰一人死なないでね〜っ」
中澤に続いて真希が叫ぶと、左右に別れた兵達は、手に黄色い布を持ち突き上げながら去って行った
彼らの背中を見送った後
「じゃあ、半時待って突入だな」
「ウチらも班分けで並んどき、遠く広がる奴が真ん中に来といてな」
各国の仲間達が動き出す
最後に門から入るのは、まっすぐ城へ向かう真希達
- 326 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:48
- 「でも変な感じだな、ここに集合してる奴らは、みんな最近迄は敵同士だったんだからな」
班分けは、各国入り乱れて構成された
「ほんと、でも・・・・生きている人間、ううん族も・・・・
元は皆同じだもんね、国とか、関係なく」
瞬の言葉に、藤本も微笑んでみんなを見渡す
そこへ
「すみません、ちょっと気になる事が耳に入ったんで戻って来たんですが」
と、壁の向こうから、一人、Mの国の族の兵がやってくる
「何?何か動きがあった?」
嫌な予感に藤本が食いつく
「いえ、特別に何かという訳ではありませんが、ちょっと気になって」
「どうした?」
中澤達も気になって近寄ってくる
- 327 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:50
- 「ええ、北門の人が、夜中に片桐隊長・・・元副司令官が
山に行った事を思い出したみたいなんです」
「ん、で、それが?」
瞬が聞くと
「ええ・・・・・なんでも・・・・・・その・・・・・」
言いづらそうな兵
「何?」
覗き込む藤本
「真里・・・さんの仲間の亡骸を・・・・・捜すって・・・・・」
え?と驚く一同
「な・・・・・きがら?」
藤本の目が大きく見開き、その兵を睨みつける
「なんでも・・・・・真里さんを捕獲する為の捕虜を・・・・・・
次郎様が山の中で殺してしまったらしくて・・・・・
その・・・・・亡骸を真里さんの前に突きつける・・・・・・とかなんとか・・・・」
- 328 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:53
-
「それは本当なの?」
信じられない表情の真希
瞬も加藤も鷹男を見る
ざわめく仲間達
鷹男はただ視線を下げて感情を殺している
そして梨華の表情が凍りついていた
「本当に死んだのかどうかは・・・・・不明なのですが・・・・・
何やらコソコソと片桐隊長が出て行った様なので、
きっと和田様達には内緒の行動だろうって」
だから嘘かもしれないし・・・・と、目の前の藤本から睨まれて萎縮する兵
「・・・・ご苦労様、ありがとう知らせてくれて、じゃあ任務に戻って」
真希に優しく言われると、恐縮するように敬礼をして塀を越えて行ってしまった
一同が渋い顔でそれぞれと視線を交わす中
「嘘よ」
真っ青な顔をした梨華が、呟く
- 329 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:54
-
「ひとみちゃんがっ、ひとみちゃんが死ぬ訳ないっ」
すぐに興奮して唇をかみ締めると両手で自分の体を抱きしめる
「梨華ちゃん」
藤本がすぐに梨華に近寄り抱き寄せる
「嘘よっ、約束したもんっ」
藤本に必死に訴える梨華
「うん、大丈夫だよ、まだ決まった訳じゃない」
そう言う藤本の顔も暗い
「約束したもんっ」
それは幼い頃の、自分を守ると言ってくれた約束
嘘だよと取り乱す梨華を皆が見守る
- 330 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:55
- 「ねぇ美貴ちゃんっ、私を残して死んだりしないもんっ」
皆の前ながらも、子供のように感情を抑えきらない
「うん、そうだよ、大丈夫だって」
大丈夫大丈夫、落ち着いてと優しく梨華の背中を撫でる
藤本と結ばれたとはいえ、ひとみは幼い頃からずっとそばにいた特別な存在には変わりは無い
梨華は藤本に優しく抱きしめられながらついに涙を流す
「よ・・・よっちゃんが死ぬ訳ないもん」
辻も駆け寄って梨華に近づき抱きつく
「せやっ、あいつは親びんを幸せにせんといかんのやから死ぬ訳あらへん」
別れる前までは、ひとみに冷たくしていた加護も涙を溜めて梨華に抱きつく
藤本も苦痛の表情で三人共抱き寄せて頭を撫でている
- 331 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 15:58
- 真希が横にいた紺野の手を握って来た
「後藤・・・・さん」
「・・・・・・紺野・・・・・」
不安そうな顔を一瞬紺野に見せるが
「大丈夫・・・・きっと大丈夫」
力強くそう言う真希の手は震えていた
一連の出来事は、自分の国が起こした出来事
あまり表にその心境を出す事は無かった真希だが、紺野には実は責任を感じている事は漏らしていた
自分の国の兵以外にも、大切な仲間の命の危険を冒す事になった責任に、
真希は潰されかけている・・・・と紺野は感じる
「ええ、大丈夫ですよ、きっと」
紺野はそんな真希を支えられないかと必死に手を握り返す
シンと静まる一行に、中澤が声を出す
「そろそろ時間や、みんなっ、準備開始や」
おうっと全員立ち上がる
ぐすぐすと鼻を鳴らしながらも藤本から体を離し、加護と辻も涙を拭いた
「吉澤さんが死んだと決まった訳じゃない、とにかく作戦通り、今から城へと向かう」
瞬の言葉に頷く梨華達
- 332 名前:dogsV 投稿日:2007/08/26(日) 16:00
- 予定時間が来て、開けられた門から、
並んでいた中心の兵達から入って行き町へと広がっていく
「せや、吉澤は生きてるっ、いくでぇ〜っ、気合入れ直しぃ〜っ」
重い雰囲気を払拭しようと、中澤が声を上げる
皆が町へと入って行き、残ったのは中澤たちだけ
かおりやなつみに必死に慰めの言葉を掛けられながらも、
ぐすぐずとまだ涙を浮かべている梨華に、中澤が声を掛ける
「石川っ、しっかりしぃ、まだ決まった訳やないんやでっ」
「はひ」
それを見て頷き、瞬と加藤、それに鷹男も入っていく
「梨華ちゃん、絶対に大丈夫だから」
藤本はキリッとした顔で今から向かう場所を見据える
助かる確信を持っていた分、ショックが大きく
特に梨華は、馬に乗っても沈んだ表情で皆についていくだけだった
- 333 名前:拓 投稿日:2007/08/26(日) 16:00
- 今日はここ迄
- 334 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/08(土) 23:36
- みんなの成功を祈っています。がんばって!
- 335 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:03
- 334:名無飼育さん
頑張ってくれると思います。
レスありがとうございます。
- 336 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:04
-
「おじいちゃん、誰も見張りの人いなかったよ」
「ほんとか?」
一人先に一度街を囲む塀付近の様子を見に行ったあゆみが戻って来てホッとする克己
だがいつもあの辺りには一人位兵がいるんだがと怪訝な顔
見えてきている壁の近くに馬を歩かせていく
「このまま馬で入らないと、吉澤さんはもう歩けないよね」
2人の視線がひとみに注がれる
「う〜ん、確かにそうじゃが、門は開けてもらえないじゃろう」
わしはいつもどっからでも入れるけどなぁと困り顔
聞きながら心配そうに見つめ続けるあゆみの視線はひとみの顔
「大丈夫かな、吉澤さん」
克己の前に乗ったまま、ぐったりと体を預けて目を瞑っている
- 337 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:07
- 一度気分が悪くなって吐いたりしてしまっていた
それからは口を開かずに、荒い息で苦しそうにしているだけの道中
「ちょっと危険じゃな、あゆみ、一度降ろそう」
親身になってくれる2人は、水を持ってきたり、汗を拭いてあげたりと、
ひとみの世話をずっとしながら大事に運んでくれた
「・・・・だ・・・じょ・はぁ・・はぁ」
微かな、本当に聞こえるか聞こえないかの声
「大丈夫じゃないじゃろ、ほんとに死んでしまうぞ」
「だ・・・・じょ・・・ぶ・・・・はや・・・・くっ・・・ぅっ」
体に力を入れようとして失敗する
「とにかく、わしが中を見てくるから、一度降りて安静にしておきなさい」
するすると克己がひとみを抱えたまま馬を降りて、それをあゆみが手伝い草に囲まれた木陰に運び横たえさせる
- 338 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:09
-
「中で馬が借りられないか見てくるよ、少し待ってなさい」
「あっ、おじいちゃん」
既に消えそうになった克己に、思わず声を掛ける
「気をつけてね」
心配そうな視線に
「ああ、あゆみも気をつけるんじゃよ、馬も遠くに離しておあげなさい」
言った後、優しい笑みを浮かべてすぐに消えてしまう
残されたあゆみは、言われた通り馬を遠くに連れて行き戻ってくる
その間も、ひとみは木陰で苦しそうに呼吸を繰り返しているだけだった
はぁ・・・・・はぁ・・・・
「大丈夫?」
「ん」
はぁ・・・・・はぁ・・・・
小さく頷くとまた呼吸を荒くしてぐったりとしてて
とても大丈夫そうには見えない
- 339 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:11
-
あゆみは、目を閉じて横たわっているひとみの顔を見る
青ざめているのに、透き通るような肌がなんだか神秘的に見える
・・・・不謹慎だと思いながらも綺麗だと感じてしまう
はぁ・・・・・はぁ・・・・
無意識に、手がゆっくりとひとみの顔に近づいていく
もう少しでひとみの頬に届きそうになって我に返り、手を引っ込めた
はぁ・・・・・はぁ・・・・
いけないいけない、あゆみは顔を横に振ると、
頭の布に、血が赤く染み出ているのに気付き、慌てて持ってきていた布に薬草を塗りだした
今巻いている布を取ろうと負担にならないように、抱えるように首に手を回す
「ごめんね、ちょっと痛むかもしれないけどすぐに取り替えるから」
「・・ごめ・・・ね」
「いいって」
はぁ・・・・・はぁ・・・・
やけに近くにひとみの吐息が聞こえ、あまりの顔の近づき具合に急にドキドキしだす
- 340 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:13
- いけないいけない、また変な自分になってると気を取り直し、
鞄をひとみの首の下に置いて、そっと支えながらカチカチに赤くなった布を取る
祖父の克己が、左頭頂部の傷口近くの髪の毛をすぐに短く切ってしまったので、生々しい傷が薬草に見え隠れしている
先程準備した布をすぐにあてて、細工した細い布でくるくると巻いていく
手早く巻くと、すぐに鞄をはずしてゆっくりとまた頭を戻す
「ありが・・・・・う」
「いいよ、もう少ししたら帰って来ると思うから少し寝てたら?」
「ん」
素直にそのまま眠ってくれるかのように動かなくなった
はぁ・・・・・はぁ・・・・
時間を忘れて、苦しそうに息を吐き続けるひとみを心配そうにじぃっと見つめていたあゆみだが、ふいに声が出てしまう
「・・・・・・ねぇ・・・・矢口さんって・・・・どんな人?」
「・・・・ぁ?」
わずかに口が開く
- 341 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:15
-
「・・・吉澤さんみたいな人が、命よりも・・・大切な人って・・・・どんな人かなって」
思わずあゆみは聞いてしまう
はぁ・・・・・はぁ・・・・
「・・・・・・ちび」
「ちび?」
ゆっくりとひとみが目を開け
「・・・・はぁ・・・・そ・・・れと・・・・」
言いかけて、ひとみはサワサワと風に揺れる木の葉を見つめた
はぁ・・・・・はぁ・・・・
停止していたひとみの脳が動き始める
「弱虫で・・・・はぁ・・・・嘘つき・・・」
出てきた言葉とは裏腹な、ひとみの柔らかい表情
- 342 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:16
-
どうしてそんな人を・・・・
そんな風に浮かんだ言葉を、あゆみは口から出す事は出来なかった
殺人鬼で・・・・ちびで・・・・
弱虫で嘘つき・・・・・本当にどうしてそんな人を
あゆみはただ、どんどん心臓の音が激しくなっていくのを感じながら、ひとみの表情を見続けた
既に昼が近づいている
安静にしていたから良かったのか・・・・・それとも彼女の事を思い出したからなのか
気がつくと苦しそうな呼吸が穏やかになった
サワサワと木々の葉っぱが音を立ててるのを聞きながら、
さっき迄の苦痛の表情から柔和になったように見えるひとみの顔
その表情を見れば、今、その人の面影を頭に浮かべているというのが一目で解る
ひとみは、木が揺れるのを見ながら矢口という人の事を思い出し、過去に舞い戻っているのかもしれない
そう思いながら、ひとみの綺麗な顔をただただ眺めた
- 343 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:18
-
サワサワと葉が擦れて優しい時間を刻む
木漏れ日が、今の状態を忘れさせてくれ、どうやら2人の時間をゆっくりと感じさせていた
- 344 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:19
-
『とりあえずおいらは、お前達と一緒にいるのが楽しいからもう追い返したりはしないけどさ、
これからどうするかは、お前らが決めればいい』
『お前らも・・・来るよな
迷惑なら・・・・いんだけど・・・・お前らいないの寂しいし・・・・・
やならいんだ・・・・お前らにも考えはあるだろうし、よかったらさ』
『でも、ごっつぁんがMの国に残ると言えば、おいらも残ることになると思う・・・・
そしたらお前らはMの国に住むようになるのか?』
『戻っても・・・・いんだぞ
お前にとって大事な人なら、その人についててやるのは悪い事じゃないだろ』
- 345 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:20
-
今考えると・・・・・
いつだって矢口は、自分の身を案じてくれては、突き放してきた
なのに、どうしてか・・・・
彼女はものすごく自分を求めていたように、今なら感じる
- 346 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:21
-
『さっき、ついお前に感情的になってしまったけど、
おいらにとってお前達はもうかけがえのない存在だし、
これからの事はその時になって考えればいい事であって、
それまではこの事がうまくいく事だけを考えていないといけないと思うんだ』
- 347 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:23
-
彼女の名前や・・・・して来た出来事がいくら大きくても
矢口だって、まだ二十そこそこの少女
国というとてつもない重荷を背負って、
いつも迷って・・・・苦しんでいたに違いない
だから・・・
友達として・・・・
仲間として・・・・・
みんなに傍にいて欲しいと思いながらも
彼女は、いつでも自分や梨華達の事から考えてくれ・・・・・・・
だからこそ・・・・・
ついてくるなといつも言ってくれていた
- 348 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:24
-
きっと、本当の彼女は弱くて・・・・・
そして・・・・・嘘つきだったんだ
誰も寄せ付けない雰囲気を出し・・・・
ただ真希の為だけに生きているのが幸せと思い込みながらも・・・・・・・
きっと誰かに傍にいて欲しいって願いながら・・・・
ただ強がっていた
- 349 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:25
-
こうやって静かに彼女の発した言葉と、表情を思い出せば解る
解ってたのに・・・・
臆病で・・・・
馬鹿な自分のせいで・・・・こんな始末になってしまった
- 350 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:26
-
本当に・・・・
本当にひとみは後悔している
どうして彼女が言ってくれたように・・・・
今回の事だけ考えて、周りの気配を伺わなかったのだろう
彼女のドレス姿を見て浮かれてしまっていたとしても
それよりも・・・・そんな馬鹿な自分の根底にある甘さが悔やまれる。
今まで、巻き込まれた事件が・・・・
たまたまうまくいってただけなのに
馬鹿な自分が・・・・・
自信過剰になってしまった自分が・・・・・
矢口や真希について行っても、いつもなんとかなるって、
どこかで軽く考えてしまっていたから・・・
その報いから、こうなってしまったのだ
- 351 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:27
-
一筋の涙が、ひとみの目から静かに流れる
- 352 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:27
-
そしてそんなひとみの涙を、あゆみはただ見つめた
昨日から流れる綺麗な涙が、どうしてか腹立たしく感じながらただ見つめた
- 353 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:29
- あゆみの視線を感じる事もなく、
ひとみは、優しい木漏れ日の光に誘われるように一人考えていた
もし矢口が・・・・・
自分のせいで連れて行かれたMの国で・・・・・
もしまた一人であの白い世界に行っていたりしたら・・・・
もし矢口が・・・・・
自分のせいで、彼女の望まない・・・・
多くの人の命を奪っていたとしたら
そして、もし矢口が・・・
今回、自分の為に死んでしまうような事にでもなったら
もちろん生きていられる訳はない
あのシープでの夜
彼女に想いを伝えてから、自分の体中に湧き上がった密かな誓い
彼女を守る・・・・
そして
もうあの白い世界に行かせたりしない
そう心に誓って・・・・
そしてきっと出来るはずだと今まで頑張ってきた事が全て無駄に・・・
それどころか、かえってこんな風に足枷になってしまった
- 354 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:30
- 助かったとしても
自分はもう・・・・・・あの人の傍では生きていられない
だいたい・・・・この怪我ではもう長くないだろう
頭はもうズキズキを通り過ぎ、痛すぎて感覚はなく、
体のどの場所さえも自由に動かせない上に、息をするのも苦しい状態
体中が熱くて麻痺してて
湧き上がってくる吐き気も、きっともう自分が消えて無くなる暗示のようなものじゃないだろうか
梨華ちゃん・・・・
ごめんね・・・・
なんか・・・・もう会えないような気がする
ほんとにごめん・・・・
ウチとの約束なんて忘れて・・・・
どうか生きて・・・・生きて美貴と幸せになって欲しい
- 355 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:32
- それに矢口と美貴・・・・
この王族付の2人が、自分が捕らえられていない事を知れば、
きっと彼女達はこの戦いに勝つと信じたい
美貴が今、どこにいるのか、どんな作戦を考えているのかは、馬鹿な自分なんかには到底解らない
だから命と引き換えてでも、この惨めな姿を矢口達に見せなければ・・・・
見せれなくても・・・・・
どうにかして捕らえられていない事だけでもなんとか伝えたい
何の関係もない自分を助けてくれた上に、
一生懸命に連れてきてくれたあゆみ達には、本当に申し訳ないと思う
せっかく助けた娘が死んでしまうなんて、後味が悪すぎる
城についたらすぐ、もう帰ってもいいと言わないと・・・
でも
せめてこの一件が終わる迄は、
どうか彼女達の好意に甘えさせてもらえないだろうかと思い、
ゆっくりと視線を移すと、あゆみが慌てて視線を逸らす
「あゆみ・・・さんっ・・・・本当に・・・・・・すみません」
「う、ううん、いいよこれくらいは」
見とれていた自分へ不意に向けられた視線に、
慌てふためくあゆみの返事はぎこちない
「多分・・・はぁ・・・・・この恩の・・・・っ・・お返しは・・・・」
出来そうになくて、本当にすまないという言葉を、視線で訴える事しかもうひとみには出来なかった
- 356 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:34
- 「大丈夫よっ、おじいちゃんが、すぐにすっごい優秀なお医者さんしてる
友達の所に連れてってくれるって言ってたから、ね、大丈夫」
視線の意味を理解したのかしていないのか、
あゆみが突然ぎゅっとひとみの手を握り、こう訴えてくる
「・・・そこまで・・・・・・めいわく・・・」
彼女のそばにいられなければ・・・もう生きている事なんて、意味はない
なのに
「大丈夫、きっと大丈夫よ、吉澤さんも・・・・それに矢口さんも」
優しい彼女がくれた言葉
そんな優しさが今の自分に沁みる
ひとみは頷く代わりに、少し口角を上げて、きらきらと煌く瞳であゆみを見つめた
その視線を受けて、あゆみは力強い表情で笑みを浮かべ頷いた
「あゆみ、どこじゃったかの」
遠くからすぐにこの言葉と一緒に克己の声が大きくなった
「おじいちゃんこっち」
すぐにあゆみは、ひとみの手を離して立ち上がり茂みから顔を出す
- 357 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:36
-
「そこじゃったか、何やらこの町の雰囲気がただならぬ事になっておるよ」
克己が大きな毛布を抱えて帰ってきた
「どういう事?」
「城近くの広場で何かがあるらしくて、各町の代表者や実力者が召集されているらしい、
それに、その為の見回りの兵達が、何故か任務を放り投げて集合していっているので
町中が不安で一杯になっているようだ」
「何かって昨日・・・・・あ」
「いや、あ、一度あいつのとこに寄ったんじゃが、あいつも何があるのか知らんかった・・・・・
何しろ急な召集で、町の人も何があるのかは解らんみたいじゃ」
2人は昨日住んでいる所の上を通っていった兵の"処刑"という言葉を言わなかった
ひとみがアウアウと口を動かして起き上がろうとする
「また無理する、大丈夫じゃよ、吉澤さんが姿を見せればきっと逃げる事が出来るんじゃろ?矢口さんて子は・・・・・
わしらは助ける事までは出来んからな・・・・・それと吉澤さんの怪我も心配せんでいい、
あいつにも診てもらえる様に頼んで来た、近くで待ち合わせておるからな、もう安心じゃ」
「そっか、良かった」
ホッとするあゆみが、結局起き上がれそうにないひとみを優しく押さえて横にする
- 358 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:37
- 「それに昼じゃ、丁度昼から始まるらしいから、
今から馬に乗って、少し急げば、ぎりぎり間に合うかもしれん」
「じゃあ門から入れそうなの?」
「いや、それは解らんので、帰る途中の学校に何十頭も馬が繋がれてるの見つけたから、
見張りの人の目を盗んで一頭拝借して来たんじゃ」
「じゃあ、2人で抱えて中に入れば馬が待ってるのね」
にこっと微笑む克己
「早く行こう、あいつの情報では、何やら武器を持った山賊か侵入者か解らんような奴らが、
多数城に向かっているとの事じゃから危険かもしれんが、それでも行くんじゃろ?」
言いながら克己がひとみを見ると、
もちろんそれでも連れてって欲しいという表情で見つめている
- 359 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:38
- 「いいから早く行こっ、おじいちゃん」
「ああ、ほれ、布も持ってきたからそれで体を包んで、
うまく飛べば体の負担も少ないじゃろ、あゆみはそっちを持って」
「うんっ」
優しく協力してくれる二人
早速毛布をひとみのそばに広げ、ひとみの体を持ち上げようと体を起こしていた
「あ・・・りが・・・とう」
「いいから・・・ほれいくぞ、あゆみ」
「「せーの」」
2人に体を支えられたひとみの体は毛布に包まれ、
そして壁の中へと消えていった
- 360 名前:拓 投稿日:2007/09/09(日) 00:41
- 今日はこの辺で
そして、今頃名前を変え忘れている事に気がつきました。
申し訳ないっすm(_ _)m
- 361 名前:15 投稿日:2007/09/17(月) 07:12
- よっすぃ〜間に合ってほしいな…
次回もお待ちしてます。
- 362 名前:拓 投稿日:2007/09/19(水) 23:03
- 361:15さん
お待たせして申し訳ありません。
いつもレスありがとうございます。
- 363 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:05
-
「出ろ、矢口」
太郎がやって来た
うわっ、自分で壊したのか、この鎖・・・・
と驚きの声を上げる太郎の脇から部下が出てきて
牢屋の鍵を開け同様に驚いている
「お前、馬鹿か?こんな事してここから出れるとでも思っていたのか」
部下の一人が足の鎖のかかった鉄輪を外そうと鍵穴に入れるが、
血が流れ込んで固まっているのかなかなか外れない
「早くしないか」
いやっ、あの、血が固まってて、鍵が開かないんですと焦る部下を蹴り飛ばし、太郎が鍵を取る
だが、やはりなかなか開かずに、イライラする様子が
部下には恐ろしかったようで太郎から後ずさっていく
力付くでやっと開けたら、もういい、丁度千切ってくれてるので手はそのまま連れて行けとわめき牢を出る
部下はほっとしたのか はい と頷き矢口の脇に手を入れて二人で抱えた
力なく引きずられる矢口を見て太郎は微笑む
「とうとう今日でお別れだな、矢口・・・・」
早い足取りで矢口を追い越し先導しだす太郎
- 364 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:07
-
「・・・・吉澤・・・」
あん?と聞き返す太郎
「吉澤は・・・・・どうした」
それを背中で聞いて笑う太郎
「まだそんな事を言っているのか、
お前がおとなしく舞台で処刑されるまでは、こっちで拘束していないとな」
「まだ生きてるのか」
引きずられながらも強い視線で太郎を睨むと
「さあ、どうだろう」
せせら笑うように一度笑うと、少し振り返りニヤリと笑って見せた
「一目だけでもいい、会わせてくれ、お願いだ」
強い視線を振り返った太郎に送り、
視線が合った途端、一瞬にして懇願の視線へと変え見つめ続ける
「お前の恐ろしさはよく知ってる、そんな事したらお前はすぐにまた鬼になる、無理だ」
俺達はお前の恐ろしさを忘れた訳ではない
憎憎しげにそう呟いて、再び前を向き、歩を進めだす
- 365 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:08
- 廊下をすれ違う兵達の驚愕の表情を、
太郎が払うような仕草をしながら避けさせて歩いていく
「どこにそんな体力が残ってる・・・・ただ伝えたい事がある。それだけなんだ」
ずっと言えなかった言葉
「知った事か」
太郎はだんだんイライラして来ている
「もともとあいつは何も知らないし、関係もない
川だって、作られるのが嫌なら邪魔すればいい、それに対抗するのは吉澤じゃない、Jの国だ」
紺野の計画は揺るがない
邪魔されても、藤本が何とかするだろう
とにかく何よりも今はひとみの所在を確認するのが、今の自分の第一の願い
- 366 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:10
-
だが
「関係ない奴が、お前のような奴と一緒に旅すると思うか?」
振り返り矢口の口元をグワッと鷲づかみにして冷たく言われる
睨み合う太郎と矢口
激しく太郎が矢口の顔を突き放し、倒れかけた三人を尻目に、再び廊下を歩き始め
イラついている太郎の背中に、2人の兵も、矢口を抱え必死についていく
「本当なんだ・・・・彼女は何も知らない・・・・だからもう開放してやってくれ」
「それは和田様が判断する事」
「お願いだ、もう乱暴はしないでくれ」
あの綺麗な体に・・・顔に・・・・もう傷を作ってはいけない
彼女を・・・・もう傷つけたくない
そんな想いから必死に懇願する
- 367 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:11
-
「お前がおとなしくしてれば、考えてやる」
「ほんとだな・・・・ちゃんとおとなしくしているっ、
だいたいあいつにはまだ何もしていないんだろうな」
それからの間に何度も何度も念を押した
- 368 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:13
-
城の出入り口へとやって来て、益々兵達が多くなった場所にやって来る
矢口の変わり果てた姿を見て目を伏せる兵と、
面白がるような視線を向ける者
そんな視線を受けながら、太郎は颯爽と城から出て、広場に向かう道へと歩く
さっき迄のイラついた背中とはうってかわった背中
その姿は、実に誇らしげだ
周りの兵達に、自分の作戦で捕らえた矢口を見せ付けられて満足なのだろう
ざわめいている広場の近くの建物の前には、大勢の和田が育てた兵達が敬礼して迎えてくれている。
その兵達が護衛しているかのような建物の中から、さらに兵に護衛された和田が現われた
「これはこれは矢口元帥補佐・・・この時を首を長くして待っ、クッ」
顔を見ようとして話しかけ始めた和田が、
全身真っ赤で、ひどい状態の矢口を見て鼻を摘み、顔を背けた
「とにかく太郎、このままじゃ民衆の前には出せない、顔ぐらい拭いとけ」
はい、と言い部下にぞうきんを持って来いと指示して
広場へと歩を進める和田の傍について歩いていく
- 369 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:14
-
そこへ、オドオドとした兵が走り寄ってくる
「何だ」
和田の近くにいた上長らしい兵に遮られる
「はっ・・・・和田様、ちょっと気になる事が」
「後にしろ、今から大事な舞台があり集中されるのだ、余計な気を遣わすな」
「しかし・・・・町民の様子が何だか」
「そんなものはアイツらに対処させておけっ、いつまでも死んだ王や、
こいつら家族の面影を引きずってる馬鹿者達にな」
和田と太郎も静かにそのやりとりを聞いていた
「その兵達も、役目を放棄して、
どうやらこの広場の近くに戻ってきだしている様なのです。何かおかしいのでは・・・」
「それは本当か」
途端に和田がするどく兵を睨む
「は、はい、町もなんだか落ち着かなくなってて、多くの民が不安そうにここに集まってきだしています」
- 370 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:16
- 急に和田が不機嫌な顔になっていく
矢口が処刑されると気付き、あのお人よしどもは役目を放棄して助けようとでもいうのか・・・・・
あんなに痛い目にあわせたのに、まだあの矢口家族を慕うというのか・・・・
それにこの町の人達が、いつまでも昔の王を懐かしんでいるとの疑い
金さえ与えれば、すぐに自分に擦り寄ってくる民の癖に、
まだのんびりとした田舎町がいいと思っているというのか・・・・
そう考えると、自然と苦々しい顔になっていた
「これから、生き残りの矢口が処刑されるという喜びを分かち合う為に、
皆落ち着かないのは当然っ、何を言っておるのだっ」
もう新しい王の時代は、確かに動き始めている
何も恐れる事はないと和田は背筋を伸ばして言い放った
- 371 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:18
- 「もっ申し訳ありませんっ、お前っ、くだらない事を申すなっ、
おいっ、こいつを牢屋にでも二、三日入れておけっ」
「そんなっ、本当に私は」
泣きそうな顔で連れて行かれる兵
「黙ればかものっ、それに職務を放棄してここに来ているのならば、
その者達も矢口の幻影をまだ抱いているという証拠、見つけ次第、即刻牢屋へ入れてしまえ」
「はっ」
上長も含めて、そこにいた大半の兵が町の方へと駆けて行く
チッと舌打ちして再び歩き出す
「次郎はまだかっ、もう時間だぞっ」
「それが・・・・まだ」
「ええい、じゃあ片桐はどこいったっ」
「次郎様を探しに行くと山へ・・・・」
ったく、どいつもこいつも・・・・・とイラつく和田
- 372 名前:dogsV 投稿日:2007/09/19(水) 23:19
- 「もうよいっ、真希様は既に民だっ、後でまた処刑すればいいだろうっ、
すぐに始めるぞっ、ユウキ様をお連れしろっ」
矢口はそんな会話に耳を傾ける事なく、
目だけで辺りを見渡し、風景の隅々に、ひとみや片桐の影を探す
広場を囲んだ塀の前にやってくる、矢口も良く知っている城の前の大広場
塀の向こうから、やたらと大勢の声が聞こえて来る
再び並んでいる兵の隙間から、するどく視線を動かしひとみがいないか探る
本当に捕らえられているのなら、脅しのためにも、
きっと自分から見える場所に拘束してくるはずだ
自分を処刑する直前、きっとひとみの姿を晒して動きを止めに来るだろうから
その時迄・・・・・
どうか自分に力を・・・・・・
そう願いながら塀の中に入る門をくぐる
- 373 名前:拓 投稿日:2007/09/19(水) 23:20
- 今日はこの辺で
- 374 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 20:51
-
遠くからも見えるようにか、
高い場所に、舞台と言われる場所が作られている
その舞台の奥には、それよりまた高い場所を作り十字架が二本立っていた
舞台脇まで来ると、矢口は汚い布で顔を乱暴に拭かれて肌の色を現し、
腕も同様に拭かれて苦痛に顔が歪む
「フッ、いいぞ、もっと苦しめ、
俺がどれだけ長い時間苦しんできたか・・・・お前にも少しは味わってもらわんとな」
それを見下ろし、和田が微笑む
「じいちゃんは、ずっとお前を信じてた・・・・もう馬鹿な真似等する訳がないと・・・・
部下が疑うような事を言った時だってずっと・・・・・・・なのに・・・・・どうして・・・・・・」
矢口の言葉を聞き微笑みが消えた
「それが疎ましいというのだ」
偽善者め・・・・と呟く
矢口が、唇を噛み締め、ゆっくりと言葉を発した
「じいちゃんに負けたのが・・・・そんなに悔しいのか」
そう和田に呟くと、いきなり和田が矢口を殴りつける
- 375 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 20:54
- ガチャンと両手の鎖が地面に落ちる音と共に、
脇を支えた人もろとも吹き飛ぶ
和田がフウッと一度息を吐いて、倒れたままの矢口の足の傷を踏みつける
グアッ
矢口の顔が歪むと、両脇の人達も、見ていた兵も顔を背ける
「ああ悔しいとも、馬鹿みたいに何年も何年も・・・・民の為、民の為と、
民の暮らしの為ばかりに気を使い続けて・・・・・・・・・
そんな事をしていて、隣国に勝てると思うか?
民のわがままにつきあってばかりいて、新しい技術が生まれると思うのか?
俺には夢がある・・・・・お前達のようなチャチな夢ではない・・・・・・・
だがお前の死で俺の望みはもう叶ったも同然
何度も俺の提案や、作戦を却下し続けた罰だ、恨むならお前の祖父や父親を恨め」
「そ・・・んなに・・・・・頂点に立ち・・・たいのか」
踏まれた足の激痛に耐えながらも言う
「当然だろう・・・・・ここまで本当に長かった」
お前らも王族も、俺の言う事に、ちゃんと耳を傾けていれば死なずに済んだものを・・・
恨みの篭った表情でそう囁き、矢口の顔に唾を吐くと
足を離して両脇で目を瞑っている兵達に、「何をしている、早く連れて来い」と怒鳴りつけて、
先に舞台へと進んでいく
慌てた兵はビビりながら、まだ拭い途中だった矢口の顔や、腕の血を雑巾で拭いて引きずっていった
- 376 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 20:57
- 舞台への階段を上がると、集まっている人達を見渡す事が出来た
集団の前の方に並んでいる兵達から歓声が上がる
ぐるりと囲まれた低めの壁に反響して、すごく大勢の声で叫んでいるように聞こえる
そんな声がだんだん静かになっていき、皆が注目した頃に
和田が満足そうに、自分が集めた兵や、民衆を見渡し大声を出す
「とうとう、我が国の偉大な王を殺し、仲間の兵達を多数殺害の上、
我が国がさも悪しき国へとなっている様な印象を他国に広めた犯人を捕まえる事が出来た」
前の方にいる兵が、うぉ〜っと叫び、早く殺せ〜という声をあげる
その声を聞いて微笑み、やがて静めさせる仕草をする和田は、
再び静かになった頃に話しだす
「我が国の名誉の為・・・・・
そして亡くなってしまった偉大な王の意思を受け継ぎ、若き王が今日のけじめを経て誕生する
そのすばらしい歴史の瞬間に、君達は立ち会う事が出来るのだ」
後ろの方から広がる戸惑いの声とは裏腹に、兵達は拳を突き上げる
王が死に、姫も矢口達親子もいなくなり、
民衆もユウキが次の王になるという事は、必然の出来事なのだが・・・・・
どうも後ろの方の人達は、今の状況を素直に祝福出来るような感覚ではなさそうだ
- 377 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 20:59
- それを気にするでもなく、
まるでもうわが天下になったかの様に両手を広げ、歓声を受け止める和田
そんな中、三人がかりで舞台上に設置された十字架に引っ掛けられる矢口
ダラリと揺れる鎖
兵達も、ここにいたくないとばかりに終わればそそくさと退場し、
舞台には和田と矢口の2人だけになった
隣にもう一つ十字架があるが、
もちろんそこに真希の姿は無くて少しホッとする矢口だった
そして再び必死にひとみの姿を探す
見渡した事で改めて気づく、後ろの方は見覚えのある顔・・・
町民の代表者が、多数集められているようだった
「どうしてこんな事を」という町民がいれば、近くにいる兵隊に怒られたりしている
兵隊びいきの町民は真ん中辺りに集められており、兵達と一緒になって騒いでいた
塀の前で、ぐるりと兵が等間隔に並び、銃を構えているから、
後ろの方の町民は、悲しそうな顔をして、ただ見る事しか出来ないようだ
矢口のあまりにもひどい状態に、
やじうまで来ていた人達だろうか、女の人や子供達は顔を背けて帰り出す
- 378 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 21:02
-
そんな雑然とした中、
突然、後ろの方から大きな声を上げる男の声が聞こえ出す
「彼女が何したっていうんじゃっ、王を殺したのはそこにいる和田じゃろっ」
老人の声のようだった
同じような歳くらいの人達の声がそうだそうだと聞こえる
「最近おかしいぞっ、やたら兵隊が威張ってるし増えているっ、
このままだとこの先きっと年貢が増えるに決まっているじゃないかっ」
再び「そうだそうだ」という小さな集団に、兵隊が慌てて走り寄るのが見える
その声に矢口は心当たりがある
どうしてそんな事を言いに来てるのだろう、だめだ、関わっちゃだめだと
そして民衆の真ん中を割りながら連れて来られる老人達は、
通り過ぎる集団が、民から兵隊ばかりになった所で掴まれた手を振り解く
その数、十数人の老人達
「お前たち兵隊は、本当にこの子が悪いと思っておるのか」
近くに集まっている兵達に聞く
矢口はその人物を捉えて頭を振った
- 379 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 21:04
-
怒りのオーラを纏って歩いてくる先頭の老人の名前は
酒巻健太郎
いつか、矢口真之介と会う事を約束し、それを果たせなかったシープの代表者
それを確認してさらに頭を振る
だめだ、そんな事しちゃ、あなたが殺されると力の限り頭を振り続ける
「その子はいい子じゃよ、それは町の人も皆知っておるじゃろ、
何故その子を、こんな風に晒して殺さなくてはならん」
兵が和田にどうするか伺うような視線を向けた時、
顔を確認できる位迄近づいた老人達を見て、和田が一瞬驚いているのが兵達に解る
そして、これはまずいと思った近くの兵が、
大勢老人に襲い掛かるが、その先頭にいた健太郎は次々に兵をかわし、
仲間の人は族の様で、ガチャガチャと武器が地に落ちる音と共に、次々に蹲る兵隊の山を築いて行く
武器を持たない老人なはずなのに、
余りの強さに、加勢しかけた兵達も後ずさり老人達の周りに空間を作り出す
武器を持って駆け寄った兵達も、味方が周りに大勢いるこの場所では、
下手に発砲出来ないので、手を拱いてしまった
避ける兵が作る道を、老人達が悠々と通りながら舞台へと近づく
- 380 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 21:06
-
ついに並んでいる兵達の最前列に来た頃
「随分久しぶりだなっ、和田」
「相変わらず汚ね〜事してるんだなっ」
和田を見て、昔から知っているような口ぶりで老人達が話しだし、兵達は驚いた
「大昔、俺たちにハブられて、俺たちを罠に嵌めた後
どこにいったかと思えば、この国でこんな事やってたのか」
町民達も戸惑う、だいたい和田という人物を実際見たのはこれが始めてだといってもよい程、
ほとんど表舞台に立ってはいない
すると何が起こっているのか理解出来ない民衆が声を発しだす
この山賊みたいな人は誰だ、だいたい王を殺したのはそこにいる矢口ではないのか?と
そして最初に声をあげた老人、健太郎を、
族である二人の老人が挟み、全員で一気に舞台上に上がる
どよめきと、疑問の声が舞台にかけられる
- 381 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 21:08
- 健太郎は堂々とそのどよめきに手をあげ、
民衆もその迫力にか、何故か静まった
「わしは酒巻健太郎、シープという町にいた老人じゃ、
矢口真之介、この子のおじいさんの戦友でな、この和田薫という男も一応知り合いじゃ」
大舞台には慣れているのか、よく通る声で話しだす
「わし達も同じくその時の戦友、ずっとKの国近くの山の中に住んでた、
まぁ、この男は戦友とは言えね〜がな、ずる賢くて仲間じゃ嫌われていたからね」
「そんな和田に、わしらの戦友、真之介の孫が殺されようとしてちゃ、黙って見てる訳にはいかない」
「悪いがこの子は返してもらう、後は勝手に兵隊さんたちで遊んでればよい」
健太郎達が矢口に近づこうとした瞬間、
太郎が部下と共に瞬時に現れ、健太郎と矢口の間に壁を作ると、銃を矢口に向けた
健太郎達は、それを見て仕方なく動きを止める
「健太郎さん、いいから逃げて」
矢口が叫ぶ
「そこまでのようだな、健太郎」
にやりと笑って和田が落ち着きを取り戻した
- 382 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 21:10
- 健太郎は、逆に追い詰められた表情で、
少し高い位置にいる矢口に視線を向ける
「どうしてこんな奴らにやられたんじゃね、君は強いのに」
健太郎の言葉に、悔しそうにだらりと十字架にもたれさせられたまま矢口は叫ぶ
「健太郎さんっ、吉澤がっ、吉澤が人質に取られてるんです」
「何、吉澤さんが?」
「はい、だから逃げる訳には・・・・」
それを聞いてすぐに健太郎の視線が和田に向けられる
「ほんとに薄汚い奴じゃ、お前は」
健太郎が怒りを露にして吐き捨てる
だが悪びれる事なく、和田は余裕の表情で話し始める
「今からわが王国の王を殺害し、
仲間の兵隊を数多く殺した矢口一家最後の生き残りの処刑だ、何の問題がある、
折角これ迄の働きに敬意を表して、色々セレモニーを用意していたのに、
お前のせいでこんな事になるとは・・・・・・仕方ない、予定より早いが開始する事にしよう」
「健太郎さんすみません、私は覚悟は出来てるんです、
でも、でもその前に和田っ、吉澤を・・・吉澤を出せっ」
するどい視線で和田を捉える
- 383 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 21:14
-
広場の前の方にいた和田の兵達の後ろで、町民達がザワザワしだす
今この状況を見て、和田という人物がとてもいい人には見えない
少なくとも自分達は、本当に偉大な王だった人や、
その王に忠誠を誓っていた矢口一家の事を見てきた・・・・・と
和田が王を殺して矢口に罪をなすりつけたのでは・・・・
つまり、あの新聞に書かれていた事は本当の事だったんじゃないのかという声
こんな人たちが自分達の事を治める事になるのかと思うと、
この国の将来が不安だ・・・・・と不満の声が上がり出す
それを聞いて逆上する和田
「黙れっ、王を殺したのはここにいる矢口の父親に間違いないっ、
それにこの国の兵を、この矢口が殺したのも本当の事だっ、
お前たち国民が今こうして幸せに暮らせているのは
混乱の後、ユウキ様がすばらしい手腕で国政を行なっているからであろうっ、
喜んでいる町民達は多いはずだ、何の問題がある」
壁際の兵達に向け、前方にいた上官から町民達を黙らせろと指示が飛ぶ
それを聞いた兵達が、空に向かって銃を撃ったりして、乱暴に町民達を黙らせていく
「いいから・・・・吉澤を出せよ、その後おいらを殺せば丸く収まるだろ、早く連れてこいよ」
怒りの表情で和田を睨み、静かに矢口は口を開いた
- 384 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 21:18
-
騒然としていた広場がまた静まり返る
怒りの表情で言う矢口を、もう邪魔だと和田は思い出し、太郎に合図する
再び矢口に向け数十人の兵達が銃を構えた
動けずに唇を噛み締める健太郎達
「せっかくお前の姫と共にいかせてやろうという俺の優しさを、
健太郎達に邪魔されて、さらに死期を早めるとは・・・あきれる程馬鹿な奴だな
それと・・・・・・・・・・
お前が言っている吉澤という娘なら、もうとっくに死んでるよ、
自分で谷へと身を投げてな、だからすぐにそばに行かせてやる」
「え・・・・・」
矢口が、和田を見据えて固まる
「フッ、これでもう心残りはないだろう、それでは処刑を行なう、ユウキ様はまだか」
和田はゆっくりと舞台の脇に行き、ユウキを呼ぶように合図する
健太郎達とのドタバタで、舞台下の兵に止められ、
ずっと出れなかったユウキは、すぐに壇上に姿を現し、広場を見渡すと
「民よ案ずる事はない、私がこの国をもっと新しく、もっと強くしていく」
さわめいていた兵達が、新王のユウキの言葉に徐々にまた活気を帯びていった
- 385 名前:dogsV 投稿日:2007/09/20(木) 21:19
- 「偉大な父のように、甘いばかりではなく、
そしてここに登ってきてしまっている輩のような、他の国の脅威にも負けない、力強い国へと私達が導いていく」
健太郎達を指差した後、力強く拳を突き上げて兵達を導く
歓声を挙げる兵達
「その為にっ」
ひときわ大声を上げると、歓声が静まりユウキに注目が集まる
「長年私達の為に尽くしてきてくれた筈の矢口一家の裏切りは、許す事は出来ない」
シンとなる広場の中
ユウキは舞台上で銃を構えている太郎達に視線をやって手を上げた
「さようなら、矢口」
ユウキは残念そうな顔をして手を振り下ろす
舞台の奥に設置されている十字架の下で、構えていた全ての兵から銃弾が発射される
それまでは、撃たれる瞬間、逃げようと考えていた矢口
しかしひとみの事を聞かされたショックで、もう動く事は出来なかった
- 386 名前:拓 投稿日:2007/09/20(木) 21:20
- 今日はここ迄
- 387 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/21(金) 18:20
- 平日に連続更新ありがとうございます。
痛々しくてつらいので早くみんな助けにきてください。がんばれ!
- 388 名前:15 投稿日:2007/09/21(金) 22:16
- 連日更新お疲れ様です。えーーどーなるんだーー!?皆助けて!!皆がんばれっ!
- 389 名前:拓 投稿日:2007/09/25(火) 21:29
- 387:名無し飼育さん
応援ありがとうございます。
388:15さん
多分・・・・頑張ってくれます。
レスありがとうございます。
- 390 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 21:32
-
少し時が戻った広場の近辺
「まだ藤本は来んのかい」
中澤が苛立たしげに近くのれいなに聞く
「おかしいですよね、むしろ先に着いててもおかしくない位なのに」
既に城近くの広場に近づいた中澤とれいな
少人数の方が動きやすいだろうと、
途中で、真希達や藤本達とは別々に行動する事にした
そして方々から集結するはずの各国の有志達
ちらほらと見えている黄色い布をさりげなく確認しながら
徐々に集結を感じている2人
作戦のおかげか、自分達よそ者が紛れ込んでいる事もバレて無いようで
今のところ何の騒ぎも起きていない
- 391 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 21:36
-
しかし
「くそっ、人が多すぎんねんっ、矢口んとこの兵は、代表者が呼ばれてるだけ言うてたのにっ」
「ん〜、でも、町の人も気になってしょうがないんでしょう」
イラつく中澤
これやったら馬で一斉にここに来て、
存在を見せ付けた方が町の人達は近づかなかったかもなと悔やむ
「もう時間や、はよせな矢口が死んでまうで、どないしよか、先に突入するか?」
珍しく中澤が慌てている
「でも、こんなに民がいたんじゃ、犠牲者が・・・・」
「・・・・・・・・・矢口は・・・・・民を犠牲にして迄助けてほしない言うわな・・・・・くそっ」
こんなんじゃ何もできへんと唇を噛む中澤に頷くれいな
- 392 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 21:38
- そこに
「お前ら何だっ」
そこで急に、大声をあげながら走ってきた兵達に話しかけられる
「何って・・・・別に何者でもあらしまへんよ」
中澤がれいなと視線を交わしながら面倒くさそうに言うと
「変な言葉遣いだな、お前らよそものだろっ、おいっ、捕らえろっ」
走ってきた勢いのまま、兵達が中澤達を捕らえようとする
- 393 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 21:42
-
「ったく、あんたら役者がちゃうねんて」
言った途端、中澤とれいなは消え、
音もなくMの兵達が倒れ、周りに居合わせた民がギョッとした視線を中澤達に送る
「ああ、すんませんお騒がせしてもうて、
ウチら怪しいもんちゃいますから、気にせんといて下さい」
あっという間に、五人の兵を倒し、ひょうひょうと言う中澤に、
「怪しいに決まってるじゃないですか、すみません皆さん、本当に怪しくないんで」
れいなが突っ込み、へらへらと笑いながらその場を離れようとすると
そこに黄色い布を胸に入れたMの国の兵がやって来て、
倒れた兵に縄を巻き、中澤達に一度視線を移す
「もうすぐ始まります」
「解っとる、まかしとき」
小声で言葉少なにこれだけ交わすと、
強い視線を残して気絶した兵を運んで行った
とはいったものの、既に計画通りに進まなくなってしまっている現状
ため息をつきながら、中澤達は辺りを見回す
- 394 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 21:46
- 壁の周りには、民衆が押しかけてごった返し、
和田側の護衛の兵も、もはやただの交通整理の人になっている。
どうやら中に入るには、先に配布されている券が必要らしい為に、
再び作戦の変更を余儀なくされているのに、まだ仲間達は来ない
街の人の中には、多分族だろうという人が、広場を囲む壁の上に立って、
見物しようとしている姿も見え
壁の外にある木にもポツポツと人、それもやはり壁の上にいる人同様に、
族の人が中の様子を気にしては、下の人に様子を伝えている
民が集まりすぎて広場に近づけない上に
あちこちで、町人同士の小競り合いの声も聞こえる
さながら祭りのような雰囲気に、
益々作戦通りにはいかないような不安が募る
「ちょ〜、みんなに軍服に着替える様に言ってまわろうやっ、
バレんで近づけたんはええけど、こんなに人いてたらマジで何もでけへんで」
今度は存在感をバラしてかんとあかんな、と中澤の仲間達に言うと、
そうですねと少し遠くにいたYの国の兵らしき人物に伝えに行きだす
「ええ、でも、念のために保田さんに頼んでおいてよかったですね」
「ああ、でもその圭坊もおっそいなぁ」
再び人ごみを見回す2人
- 395 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 21:50
-
「中澤さん、黄色い布持ってる人・・・・・増えて来てますよね」
確かにさっきよりも目に付くようになっている
中澤は、不安ながらも機が熟すのを感じていた
そのすぐ近くに迄来ていたのは真希と紺野、それに辻加護に親方
真希は王族、国民から顔は知られている。
だから頭からすっぽりと薄い布を被り、紺野に支えられるようにして病人を装い、
とにかく人目に触れないようにと、ここ迄やって来ていた
加護達も有名な為、真希から少し離れ、
親方に隠れるようにしてついて来ていた
溢れかえる人に驚きながらも、
方々から聞こえる"矢口処刑"という響きに二人は心を痛める
「これだから町は嫌なんだ」
呟く親方
- 396 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 21:52
-
「まぁまぁ親方、もうちょい辛抱したってや」
「子供じゃないんだから、辛抱出来るでしょ」
ちょろちょろと親方を隠れ蓑にしながらも
憎まれ口を叩いている2人を、親方はぐわしと捕まえる
襟ぐりを掴んで親方は自分の顔の前に2人を持ってきた
もちろん2人の足は宙に浮いた
なのにニコニコと笑っている二人に、親方は一つため息をつき
「解ったからもうあんまりちょろちょろするな、邪魔でしょうがない」
「「は〜い」」
人々は、大きな親方に、多少注目を浴びせるが、
小さな加護や辻に気付く人はいない様
親方は、2人が無理に明るくしているのを察したのか、
その後はちょこまかする2人に対し文句を言う事は無かった
- 397 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 21:56
-
一方、まだ少し離れた場所に藤本と梨華はいた
広場に集まろうとする人達が歩く道から、家と家の間の狭い路地に入った所
「ほら、早く行かないともう時間だよ」
道中ずっと不安そうにしていた梨華の足がついに止まってしまった
「だって・・・・だってひとみちゃんが」
ぐずぐずと涙を浮かべる梨華の足は動かない
「もう、何度言わせるの?よっちゃんは生きてるから、私達が信じるんだよ」
早くと手を引く藤本
それでも動かない梨華
「梨華ちゃん」
ため息をつく藤本
その藤本の腰に手を回し、胸元にすがるように抱きつく梨華
- 398 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 22:00
-
「怖いの」
「・・・・・・・」
「もしかして・・・・・みんな・・・・・みんないなくなっちゃうんじゃないかって」
自分よりも大きい梨華の体が、
小さく震えているのを感じて、藤本はぎゅっと抱き寄せる
「もう、そんな訳ないでしょ、仲間達みんな来てくれてるし、
矢口さんだってきっと捕まっていながらも何か考えてるに違いないもの」
それによっちゃんだって・・・・・
絶対大丈夫・・・大丈夫だから・・・・・・優しく頭を撫でながらそう声をかける
トクン・・・・・トクン・・・・・
梨華が目を閉じると、聞きなれた藤本の心臓の音が聞こえてくる
トクン・・・・・トクン・・・・・
ゆっくりと目を開けて、徐々に顔をあげると、そこには優しい表情をした藤本の顔
「美貴は強いよ」
そう優しく呟く
「うん・・・・・知ってる」
梨華の表情も柔らかくなっていき、次第に落ち着きを取り戻していく
- 399 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 22:02
- 「そして、よっちゃんも、矢口さんだって強い・・・・・でしょ」
「・・・・・・うん」
微笑み会う二人
すばやく藤本が梨華の唇を奪い
すぐに離れると、今度は二人で互いを真剣に見つめる
引き寄せられる唇
しばらく2人は舌を絡ませあう
昼間の路上に似つかわしくない水音が2人の耳に響き続ける
存分に2人は互いを求めてから唇を離し、見詰め合う
「落ち着いた?」
「・・・・・・うん」
「・・・・・じゃあ・・・・・いこっ、2人を助けるよっ、絶対」
「うんっ」
信じなきゃ・・・・
ひとみがまだ生きているという事を・・・・
ネガティブな思考から立ち直ったのか
漸く梨華の足が動き出す
- 400 名前:dogsV 投稿日:2007/09/25(火) 22:04
-
手をつないで2人は人ごみを駆け抜ける
「美貴ちゃんっ」
ついていく梨華が声を掛ける
「何?」
必死に辺りに気を配りながら走る藤本は、少しぶっきらぼうにそう答える
「好きっ」
「えっ」
急な告白に藤本の足が止まる
「大好き」
立ち止まって振り返ると、満面の笑顔で言われる言葉に、藤本は瞬時に真っ赤になり
「もっ・・・もうっ、早く行くよっ」
照れ隠しのようにすぐに前を向いて梨華を引っ張った
「うんっ」
ニヤけ顔が止まらない藤本は、ぎゅっと梨華の手を握りなおして走る
2人は絶対に大丈夫と信じながら・・・・
- 401 名前:拓 投稿日:2007/09/25(火) 22:05
- 今日はこの辺で
- 402 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 20:47
- 手をつないで走る藤本と梨華の2人は、
もう広場にはあと少しという所で、思わぬ人物を見つけて同時に叫ぶ
「「健太郎さんっ」」
その声に、同じ方向へと向かっていた老人達の集団が振り返る
「お・・・・おおっ、これは藤本さんに石川さん」
おお、おお、久しぶりとにこやかに手を差し伸べてくる
「何してるんですか?こんな所で」
咄嗟に出る言葉
あの時より確実に肉付きが良くなり、元気そう
「何って、矢口さんが処刑されるって聞いたんでな、ちょいと皆で動き出そうかってな」
「知ってるんですか?」
驚く二人は、大きな声を出す
- 403 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 20:51
- 「ああ、町の人達が詳しい情報を教えてくれるよ、今のここの町じゃ
兵におべっか使ってれば、贔屓にしてくれるもんだから、
そんな所の人達には情報も来るし、町の代表にしか配られないという、
今日の広場への入場券が配布されているんじゃよ
だからわしらも金でそれを買ったから、そこに入ってどんな様子か見て来ようと思ってね」
「そんな券があるんですか?」
「ああ、知らんかったのか?それでどうやって矢口さんを助けようとしたんじゃね」
「・・・・・それは・・・・・」
一応、族の能力を使って様子を見てから、突入のチャンスを作ろうとしていた。
やはり蚊帳の外の元矢口の部下では情報が足りなかったのかと、
多少の不安を感じ出す藤本
追い越していく街の人達が、怪訝そうに自分達集団を見ていく
それに気付いた健太郎が、歩きながら話そうと再び歩き出す
「君達の仲間は何人位いるんだい?」
「まぁ・・・1000人はいると思います」
- 404 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 20:59
- 「それはまたすごい数だな・・・・・しかしう〜ん・・・・・こんなに罪の無い町の人達が集まっていくんじゃ、
無茶すると返って犠牲者を増やして恨みを買うよ、ここは一度、わしら年寄りにまかせてみんか」
「でも・・・・・」
確かに健太郎の言う通り、矢口が民の命を犠牲にして迄
自分を助けて欲しいなんて思っていない事は解っている・・・・・
でも・・・・藁をも掴むとは言うものの・・・・と
藤本が健太郎の仲間の老人を見て何か言いたそうにしていると
「はは、こいつらは全員族じゃよ、しかも山賊、Kの国近くにいつもはいるんじゃ、訳あってね、
だいたいわしもこいつらが山賊になってるのなんて知らんかった
真之介も死んでるんで、Kの国に行ったと聞いている
この懐かしい顔を見てからシープに帰ろうとしたんじゃが、道中こいつらに見つかってな、色々話すうちに、
どうやらそうもいかんくなってしまった、ここでしなきゃならん事が出来てしまったんでな」
だがこの町に来て良かった・・・・・
ここの至る所に矢口真之介は生きておったよと嬉しそう
「ああ、私達は元々、大昔のEの国とJの国との戦争でチリヂリになった戦友なんだ」
「あの和田の野郎には、昔からの恨みが溜まってるからね」
「しかも今回、話しを聞くと、あの矢口真之介とその家族を罠に嵌めたのは目に見えてる」
「昔、Kの国で、穏やかに暮らしていた私達を騙したようにな」
「そう、俺達にハブられた恨みを晴らす為に、王族の財宝を強盗した罪を私達に押し付け、
金を独り占めして逃走した時と同じだ」
「そして俺らはKの国で暮らせなくなった・・・・・・愛する人や妻や子が・・・・・
今ごろどうなっているのか・・・・・知る事さえ出来なかった」
- 405 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:06
- Kの国は、ここ程族の侵入が容易ではない国だから、一度追い出されたらもう二度と国には戻れない
いや、戻ろうと思えば戻れたかもしれない
なのにそれをしなかったのは、
各々の家族が、こんな自分達をどう思っているのかを知るのが怖かったのが本当の理由
弱い男達は、傷を隠しながら山賊として暮らしだす
KとMの間を行き来する人達を、密かに守ってあげる事で、
せめて残された家族達への罪滅ぼしになればと願いながら暮らしていたそうだ
この二つの国が、友好的に交流してきた背景に、
この人達の影があったのを、王族達が知っていた事を彼らは知らない
「てっきり和田はKの国でのうのうと暮らしているものと思ってたら、懐かしい健太郎が通りかかって、
和田がMの国で幅利かせてるっていうのを聞いたもんだから、いてもたってもいられなくて、
この国に入って和田の企みを暴いてやろうとしてたら、真之介の孫が捕まったって聞いてな」
「この国には、無くてはならない子だそうじゃないか」
町の人や兵も言ってたよと笑う
「健太郎には、Kの国での妻や子供たちの様子を調べて来てもらった恩もあるし、
なにより和田への恨みを忘れた訳じゃない、ここは矢口真之介の孫の為に協力しようと思って集ってみたのさ」
次々に話しだす老人達は、長年の恨みなのか、はやる気持ちを抑えきれないように見える
- 406 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:09
- 「健太郎が根気良く全員の家族の今の状況を調べてくれたおかげでもう悔いはない、
ただ、ここでの出来事を、自分達の最高の舞台にしてやろうって、今燃えてるんだ」
ここにいる老人達の妻や、愛する人達はもうこの世にはいなかった・・・・
子供が数人、自分達の事を隠し、細々とだが、幸せにくらしているのを知る事ができた・・・・・
それだけで満足している様だった
「ああ、とにかく和田だけは許す事は出来ね〜・・・・・
人の人生を、何とも思ってやしないあの野郎は、俺達が成敗してやるよ」
「でもこの人数じゃ」
「人数じゃないよ、きっと矢口さんを助ければ何かが変わる・・・・・
昔のあの真之介の戦い方のように」
見えない何か・・・・・・・・・・
見える事のない人の心が動き出していく不思議な出来事が・・・・・きっと起こる
老人達の顔は輝いていた
話しながら歩いていたら、既に広場の近くに来ていた
「「健太郎さんだっ」」
そこに響き渡る加護と辻の声
「おおっ、ちびちゃん達、元気じゃったか」
「うんっ、でも何で美貴ちゃん達と一緒におるん?」
加護は既に藤本に纏わりつき
辻も梨華の腕に絡み付いて来てて、微笑みあっている
- 407 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:14
- 「偶然会ったの、先に矢口さん助けに広場に入ってくれるって」
「ほんと?じゃあ益々心強いね、あいぼん」
「ほんまやっ、ねっ姫」
人ごみの中、顔を隠しながら親方の隣にいる真希に、健太郎達は注目した
その隣では、紺野が人目を気にして必死に真希を守ろうと目を光らせている
「ごっちん、前に話した事あるでしょ、矢口さんのおじいさんの友達、酒巻健太郎さんと、その戦友達」
どーもといいながらも、俺達は一纏めかと笑っている老人達
「真爺の・・・始めまして、後藤真希といいます」
だが・・・・・・緊張か・・・・
または不安からか、その笑顔に、輝きはない
なのに
「これはまた・・・・・彼の面影が残る子じゃ事」
ほぉ〜と感心しきり健太郎は、
会えて光栄ですと真希の前に一度跪いてから再び立ち上がる
すぐに隣にいる親方に視線を移し、親方と見詰め合った
「お前も・・・・・生きておったんじゃな」
「お前こそ・・・・」
フッと笑いあう老人達
- 408 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:20
-
「美貴っ」「藤本っ」「藤本さんっ」
そこに加藤や中澤、れいなや瞬が駆け寄ってくる
この人ごみの中でも、親方が大きいから目印になったようだ
さらになつみやかおり、鷹男らも次々に顔を見せだす
「おっそいやないか、心配したで、ごっちんも」
「すみません、あっ、健太郎さんっ、この人達は」
藤本が慌てて説明しようと口を開きかけると
「知っとるよ、ダックスの所の加藤君に安倍の孫なつみさん・・・・
それに、若林の所の確か瞬君・・・・じゃな」
健太郎が指を指しながらピタリと名前を言い当てた
「「「「酒巻健太郎」」」」
三人とかおりの声が揃う
にこっと笑った健太郎
「どうやら、加賀が迷惑をかけてしまったみたいで、本当に申し訳ない、
だが、皆が活躍してくれたおかげで、
わしや真之介が、昔望んでいた事が現実になったようじゃの、ありがとう」
個性的で、求心力のある人物達が、
共に新しい国を作る事が出来るはずだってな・・・・・と健太郎は皆を見回し微笑んだ
- 409 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:27
- 突然のお礼の言葉に戸惑う若き代表者たち
その顔を見て、健太郎が突然笑い出す
「安倍と若林も元気なようじゃし・・・・・・
ふふっ、それにどうやら真之介のイタズラがまた始まったようじゃな」
「そうだな」
老人達もつられたように笑い出す
「こんな風にはなったが、あの昔の仲間達が集合出来たのも、
矢口さん、いや真之介のイタズラじゃ、楽しませてもらうよ、なぁみんな」
おおっと老人達は既に広場に行く気満々になっている
「とにかく、わしら老人にまず任せておきなさい、きっと真之介が何か考えてくれてるよ」
面白いドラマをな
「なんやねん、おっさんら」
意味が解らない中澤が不快感を露にすると
「裕ちゃんっ、やぐっつぁんのおじいさんの友達だよ」
真希が元気が無いながらも少し笑顔になる
「せやかて大事な矢口の一大事のときに」
焦りだす中澤を尻目に、健太郎達は、くれぐれも無茶するんじゃないよと言いながら壁の方へと歩き出す
- 410 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:29
- 「じゃあ藤本さん、矢口さんの事、これからもよろしく頼むよ」
あ、俊樹も来とるんじゃろ、これからも頑張れと伝えてくれと笑顔で健太郎が言い、
老人達は手を振って去って行った
「・・・・・・・・意味がわからんねん、あのおっさん達」
何があっているのかを見たい人が門に詰め寄っているが、
そこを健太郎達はどいてくれと券を見せては掻き分けて入っていく
「なんだろう・・・・・すごい満足感だよ、あの健太郎さんって人達」
かおりが呟く
「中澤さん、もう時間がありません、早く動かないと」
焦る梨華が言った途端に塀の中から歓声が上がりだす
ついに始まってしまったようだと全員顔を見合わせてから焦る
「ここに集まってる人は、不安を持ってる人ばかりだ、なかなかここから帰りそうもないけど」
鷹男が、悔しそうに民衆の心理を伝えると、鳥族のかおりも頷く
鷹男も、ひとみの安否が心配でしょうがないのか、ずっと落ち着かない様子だった
- 411 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:31
- そこに汗びっしょりの俊樹が駆け寄ってきた
「すまん遅くなって、それとJの国組の到着も遅れているようだ」
「やっぱ難しいか、あの距離を時間通りに来るのは」
中澤や瞬達の顔色が曇る
「あ、俊樹さん、健太郎さんに会いました、頑張れと伝えてくれって」
もう中に入ってしまいましたけど、と藤本が言うと
「ええっ健太郎さんが?くそっもう少し早く来てれば」
驚いたが、すぐに「会いたかったのに」と悔しがる俊樹と三浦
だが少し離れた場所で、争いごとが起こっている声に、一行はそちらに気を寄せる
「任務を放棄する奴はすぐに捕まえろとの和田様の命令だっ、おとなしくしろっ」
「お前ら本当に和田様で大丈夫だと思ってるのかっ」
同じMの国の軍服を身にまとった同士の小競り合い
そして塀の中から聞こえる歓声
- 412 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:34
- そんな中、健太郎が入っていった門から、
人の壁を掻き分けて子供連れの女性や、老人が渋い顔で出てくる
かわいそうで見てられないという声がここにも届く
瞬と加藤が慌ててちょっと見てくると姿を消す
さらに城の方から塀の外に沸いてくるMの国の兵達・・・・黄色い布は見当たらない
人ごみを掻き分け、不審者らしき人物や、
任務を放棄したとみられる兵を捕まえようと散らばっていく
「クソッ、しゃ〜ない、とりあえず、
なるべく騒ぎを起こさんようにあいつら片付けようか」
それから集まってる民を至急帰らせないと何もできへん、
とにかく軍服持ってるもんは着替えて、皆で呼びかけようと中澤が声をかけ
中の様子を気にしながら、全員がちらばって、着替えたり、
黄色い布をつけた軍服を探しては一緒に兵を捕らえる事に奔走する
「どうだった勝」
塀の中の様子を見てすぐに帰ってきた瞬と加藤に、
散らばった仲間の中で唯一残った藤本が問いかける
「矢口さんが舞台の上で十字架に括られてる、今から何かセレモニーでもあるみたいな雰囲気になってたぞ」
もう少しは大丈夫そうだと言ったそばから
早くここから皆去ってくれと、焦りから大声を出してしまっている瞬
本当に急がないと大変だと加藤も焦っている
- 413 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:41
- 「早くしよっ、急いでこの人達を帰らせないとホント何も出来ないっ」
争いになれば、シープの戦闘以上の犠牲者が出るのは明らか
藤本と梨華も手をつないで雑踏に紛れて叫ぶ
「皆さんっ、広場から離れて下さいっ、お願いしますっ」
黄色い布を掲げ、仲間を探しながら民を帰宅へと促す
そんな中、親方は一人、塀の上に登り中の様子をずっと見ていた
健太郎達が、民衆や兵士の間を悠々と歩いていく様を・・・・
そのすぐ近くに、加護達や紺野に支えられた真希が塀に登って来た
四人の目に映る現実
「「親びん」」
「矢口さんっ」
遠くても解る矢口の状況
「やぐっ・・・・つぁん」
真希の顔も険しくなる
洋服は真っ赤になっていて、とても生きているようには見えない
四人の目に涙が浮かんでくる
- 414 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:45
- 加護と辻はすぐにでも駆け寄りたい衝動に駆られているが、
真希にしっかり手を握られていて動けない
涙目で真希に懇願の目を向ける加護辻
「ダメだよ、まだ・・・行っちゃダメ」
ざっと見渡しても、ここにひとみの姿は見えないから・・・・・
真希は感じている
自分にこの責任はあると・・・・
だから、壁の外で動いてくれている仲間の為にも、
ひとみの為にも・・・・・今、ここで勝手に乗り込む事は出来ない
一方壁の外での仲間達の働き・・・・・Mの国の兵を捕まえるのは容易だった
だが、あちこちで兵達が争っても、これだけ集まった人達の興味は、
中で何が行われているのかの一点に集中している
この場所に来て知る情報、
自分達がよく知っている「矢口」が処刑されるという噂が
さらに人々の興味を掻きたてるのか、仲間達の懸命な叫びも民衆の心には通じない
「あかん、人数が多すぎる、帰ってくれそうもあらへん、敵は兵やのうて民衆やったか」
Yの国やシープの軍服を着た者達が集まる中、くしゃくしゃと頭を掻き毟る中澤
「考える時間はないぞ、とにかく出来る限り呼びかけて、
矢口が危ないようなら、しょうがないっ、犠牲を気にせず一気に突入しよう」
中の兵も、塀の外にいるような、すぐに捕らえる事が出来る兵ばかりならいいがと瞬の顔も曇る
- 415 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:49
- 「OK、まだJの国の兵達は着かない?」
「族の者達が、軍服着用の上至急集合する様に伝言に走ってますが、まだ帰って来てません」
飛び回る族の仲間達は中澤の町の人や、瞬の町の人、それにMの国の兵も協力してくれる
「そうか、ありがとう」
瞬がお礼を言った後、突入もまだ無理かとため息をつく
自分達主力は到着していても、数の上で一番多いJの国の王子や武蔵達の姿は見えない
突入するにしても数が足りない
だが迷う暇のない仲間達は、飛び回りながら、
実際どれくらい仲間がいるのかの確認作業と、引き続き民に帰宅を呼びかけ続ける
『今から我々は、矢口を助ける為に突入する、怪我したくなければ今すぐ帰宅する様に』
と、全員が必死で叫びまくるが、なかなか人が減らない
軍服を着ていても、どこの軍服かも知らない人達は、
怪訝そうな顔をするだけであった
その間にも、塀の中からはどよめきや歓声が上がって気が気ではない
- 416 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:51
- 今の所、黄色い布を持っていない軍服の兵達は、全て抑えられた事が救いではある
捕らえて周りの壁際に並べていくのを、民衆は驚いて見ているが、
縛っているのも同じ軍服なので訳が解らない表情をして黄色い布を巻いた兵達に聞いたりしている
「もうっ、圭坊はまだかいなっ」
「何か策があったんですね」
中澤に聞く藤本
「いや、もしかしたらこんな事もあるかと思って新しい記事書いてもうててん」
「美貴達に協力してもらえるような?」
「せや、でも時間的にそんなに沢山は刷れんやろうからどのくらいの数になるか」
すると
裕ちゃんどこ〜という甲高い声
人が多い為か、力を使わずに走って来た
「「きたっ」」
喜ぶ藤本とれいな
「こっちや圭坊っ」
一番大きな門の近くだった為に解り易かったのかすぐに見つけられたようだ
- 417 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:54
- 「あ〜っ疲れる〜っ、力使えないと大変っ、でも遅くなってごめんっ、
とにかくこれっ、手分けして配ろうっ、矢口は?」
ざっと目を通す中澤達
矢口を助けたいという仲間の紹介と、
和田の危険性や悪事を言葉少なだがちゃんと伝わる文章で書いている
ちゃんと今まで皆が目にしていた新聞に、必ずある印が押してあるミニ新聞
「もう処刑台や、早くせんと手遅れになる、それに、これで人が動くかどうかは運やなっ」
後ろからついてくるMの軍服に黄色い布を腕に巻いた兵達が十人位、紙の束を持って走ってくる
「まだ第二陣が来るよ」
ある紙全部使ったからそれ配ったらないけどねと笑っている
「よっしゃ、黄色い布持ってる奴集合っ」
中澤が言うと、中澤の仲間やYの国の兵達が叫んで集まってくる
「もう黄色い布は隠さなくていいからっ、すぐに解る場所に巻いてっ」
「これからこの紙配るんで、皆協力してっ」
すると、声が届く範囲の人に釣られて、ここから見渡せる人々の間に、
かなりの数の黄色い布がヒラヒラと振りながら近づいてくる
その中には、多数のMの兵の手が上がっていた
黄色い布を振る人達の姿に、何があっているのか解らない人達や、
壁に並べられたMの兵達も、驚きの表情を見せた
中の兵達には、もう外の様子は伝わる事はないだろう
- 418 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:56
- 「これだけいればもう大丈夫だろ、ここは一気に族でこの紙をバラ巻いて、
民が少なくなればすぐに行くぞっ」
「お願いだから早くっ」
先頭を切って藤本が空を舞う
すぐに辺りに白い紙が、太陽に反射するようにキラキラと舞い踊った
異様な雰囲気が広場を包んでいたので、
もちろん興味があったのか、それを我先にと拾って読み出す人々
「関係の無い民衆を巻き込まない為に、早く皆に帰ってもらう様促すんだっ」
「せやっ、民がおらんようになったら全員壁際に集合やっ、様子見て中の人達も追い出すでっ」
時間がないっ、早くしろっとあちこちで声がする
中の歓声と混じって、おおっという声が響き渡り、白い紙が舞っていった
そして
徐々に民衆が動き出す
慌てて子供を抱いて帰って行く家族連れ
戸惑いと、何かを託す視線を中澤達に向けて帰って行く
あれだけいた民衆が徐々に減っていった
- 419 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 21:58
- 「うまくいったな、田中」
ほっとした顔をする中澤と
「はい、さぁいきましょう」
すでに次の行動にいこうと広場へ向けて走り出しそうな田中
そして遅れていたJの国の王子以下、兵達が、軍服を着用して到着しだす
「遅れてすまん、民達が広場から急に帰ってきだした、うまくいってるのか?」
人が多すぎる為に計画難航しているのは伝わっていた
「ええ、しかし、もう始まってしまってて、矢口さんは処刑台に・・・・」
同じように広場に心がいっている藤本が急ぎ説明すると、
あちこちから駆け寄ってくるJの国の軍服はすぐに次の行動に移っていた
「すまない、じゃあみんなっ、武器を持って配置につけっ、一気に行くぞっ」
それにつられる様に黄色い布を巻いた人達が広がっていく
縄で縛られたMの兵達は、壁際でただ呆然とその様子を眺めた
「でも中にまだ民がいますから、ウチら族は先に壁に上って情報送りますっ、
王子も族の人に乗せてもろて下さいっ」
その後、広場を囲む塀の周りを、合同軍でぐるりと包囲する事に成功し、
族の人達はその内側に一列にぐるりと壁を囲んだ
- 420 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 22:03
- 中澤と瞬が先に壁に上り中の様子を見ると、そこにいる全員が舞台に釘付けで
文句らしき言葉を舞台に向かって叫んだり怒ったりしていて、
内側に武器を持って立っている兵達も必死にそんな民を抑えようとしていて
自分達の存在には気付かなそうだったので合図を送る
一気に壁の上に矢口達の仲間が勢ぞろいした
そして舞台真正面にある壁の上に、親方や真希達が固唾を飲んで見つめているのを全員が確認する
真希、紺野、加護と辻・・・・・
その目には悲しみが宿り、自分達が登ってきた事にさえ気付けない様子だった
それほど一心不乱に見つめている舞台の上を全員が注目する
健太郎が舞台の上で、おそらく和田という人物とみられる男と
言い争いを繰り広げていたようだった
矢口には既に兵達の銃口が向けられている
壁の内側の兵達が、必死に民衆を黙らせ、静かになった頃、
矢口の声が聞こえてくる
『いいから・・・・吉澤を出せよ、
その後おいらを殺せば丸く収まるだろっ、早く連れてこいよ』
矢口は一人戦っていた・・・・・
ただ吉澤ひとみという大切な仲間の命だけの為に・・・・
だが、一人の男が手を挙げると、矢口の前にいた兵達が銃を構えてしまう
塀の上にいる仲間達が、全員、舞台右側の壁に立っている中澤や瞬達を見つめ、
その中澤達は真希を見つめた
すると真希は、両手を広げ加護達を抑えるような仕草をして
静観してくれとでも言うように舞台を見つめ続けた
ここで一気に攻撃を仕掛けても、
既に矢口に向けられた銃口から出た弾を止める事は出来ないだろうとの予測
中澤や瞬、藤本にもそれは予測出来ている
- 421 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 22:05
- 苦々しく舞台を見つめ、数分遅かったと悔やむ代表者達
『せっかくお前の姫と共にいかせてやろうという俺の優しさを、
健太郎達に邪魔されて、さらに死期を早めるとは・・・あきれる程馬鹿な奴だな
それと・・・・・・・・・・お前が言っている吉澤という娘なら、
もうとっくに死んでるよ、自分で谷へと身を投げてな、だからすぐにそばに行かせてやる』
『え・・・・・』
矢口が、和田を見据えて固まる
藤本や梨華達も息を呑む
『フッ、これでもう心残りはないだろう、それでは処刑を行なう、ユウキ様はまだか』
和田はゆっくりと舞台の脇に行き、何か合図を送ると、一人の若い男が登ってくる
「ユウキ・・・・」
真希が呟く
『民よ案ずる事はない、私がこの国をもっと新しく、もっと強くしていく』
少しざわついていた前の方の兵が、活気を帯びていく
- 422 名前:dogsV 投稿日:2007/09/26(水) 22:06
- 『偉大な父のように、甘いばかりではなく、そしてここに登ってきてしまっている輩のような、
他の国の脅威にも負けない、力強い国へと私達が導いていく』
確かに逞しく見える若き王に、兵達がついていっている様が、
中澤達には理解出来ない
歓声を挙げる兵達
『その為にっ』
ひときわ大声を上げると、歓声が静まりユウキに注目が集まる
『長年私達の為に尽くしてきてくれた筈の矢口一家の裏切りは、許す事は出来ない』
シンとなる広場の中
ユウキは舞台上で銃を構えている太郎達に視線をやって手を上げた
『さようなら、矢口』
ユウキは残念そうな顔をして手を振り下ろす
「アカンっ、間に合わんっ」
中澤の呟きと同じ気持ちの仲間達は、
心で矢口の名前を叫びながらも、一歩もそこを動く事が出来なかった
そして・・・・・・真希は静かに天を見上げた
- 423 名前:拓 投稿日:2007/09/26(水) 22:07
- 今日はこの辺で・・・
- 424 名前:15 投稿日:2007/09/26(水) 22:46
- 更新お疲れ様です。
心臓がドキドキしてヤバイです…次回お待ちしています。
- 425 名前:拓 投稿日:2007/10/06(土) 19:59
- 424:15さん
お待たせして申し訳ありません。
レスありがとうございます。
- 426 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:03
- 矢口の視界が真っ暗になる
何が起きたか解らないが、遠くで悲鳴が聞こえている
吉澤が・・・・死んだ
そして、今、そんな事を考えている最中も、銃声は響いていた
「くそっ、何をやっているっ、そいつらをどかせっ、早く続行しろ」
どうしてそんな和田の声が聞こえるのか、まだ自分は死んでないのだろうか
鳴り止まない銃声が聞こえる中、
自分の体が温もりに包まれているのを感じた
意識がはっきりしていく中で、自分の体に誰か抱きついているのが解りだす
「矢口さんまだじゃ」
耳元で囁くような声
「健太郎・・・・さん?」
ゆっくりと視界が明るくなって、すぐ近くに健太郎が笑っていた
- 427 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:05
-
「矢口さんはまだ死んではならん・・・・死ぬのは俺達年寄りからだよ」
話しながら矢口の手足をゆるく括りつけているロープを切ってくれている
ここに連れてきた兵も、矢口に逃げて欲しいと思っていたのか、
縛った意味を成していないロープに健太郎は微笑む
さらに良く見るとさっき出て来てくれていた山賊の人達が、
がっちりと肩を組んで、健太郎と同じように自分の前に壁を作ってくれていた
「その通り、俺達はもう十分楽しく生きた・・・・
元々は・・・・矢口真之介に・・・もらえた・・・・命・・・」
「・・・そういう・・・・事・・・・」
そしてその人たちは・・・・
血を流し、息も絶え絶えに言ってくる
なかにはもう息絶えている老人・・・・・
だがその顔は満足感に溢れていた
- 428 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:06
-
その老人達の目の奥から伝わってくる言葉
生きろ
体のあちこちから血が噴出しても尚、強い視線は崩れなかった
- 429 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:10
- 自分の友達の真之介のかわいい孫娘よ、
お前はまだ死なせてやらない とでも言うように
男達は満足げな顔をしながら目を閉じ
やがて全員動かなくなった
健太郎も微笑みを浮かべたままゆっくりと矢口にもたれかかり
何も言わなくなる
矢口の目に涙が溢れる
銃声が止み、覆い被さる山賊達を、駆け寄ってきた兵が
一人一人剥ぎ取ろうとしていた
そして太郎達が弾を詰めなおして再びこちらを撃とうとしているのが、隙間から見える
目の前で、兵の何人かが健太郎達をどかせようと、
蹴ったり引っ張ったりするが、健太郎達は息絶えてからも尚、
矢口をかばうように力を入れてくれているのか、なかなか動かない
「早くどかせっ、いいから早くっ」
叫ぶ和田
今度は乱暴に、息絶えた健太郎達の亡骸をはがしては、蹴り飛ばしていく兵
- 430 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:14
-
動かなかった矢口が突然呟く
「・・な・・・・・・に・・・やって・・・・んだよ」
怒りの表情で、溢れる涙が顎から滴り落ちる頃
矢口が動く
太郎がまさに銃を撃とうとした時、
ギロりと矢口が太郎を睨むと、その視線を受けた太郎が動けなくなった
なぜなら
矢口の体が変化を起こしていたから・・・・
- 431 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:21
-
あの感覚がまた矢口を包みだす
目の前が真っ白になっていく、あの感触
そしてユウキや和田、太郎の目だけでなく、
驚きの表情をしたまま、矢口に注目している人たちの全ての目に、
矢口の体から発せられる光が見える
「おっおいっ、危ないぞっ、矢口の体が光っているっ、あの時と同じだっ」
ヒィィと狂ったように健太郎達をどかしていた男の一人が、
舞台から走り出して逃げていくと、他の兵もそれを追って逃げていく
舞台上の銃撃隊が舞台を飛び降りて後ずさり、並んでいる兵達に紛れてしまう
矢口が昔起こした殺戮の話しは兵の中の記憶に新しく、
兵達は、じわりと死の恐怖を感じていく
太郎も舞台を降り、和田も舞台袖に隠れて、
横にいる兵達も避難していくと、
矢口が健太郎を優しく横たわらせてから、ゆらゆらと立ち上がる
両手の鎖をジャラジャラ言わせ、
そこらじゅうに無造作に倒された健太郎や、
投げ散らかされて不自然な姿勢で倒れていた山賊達の死体を、
ゆっくりと・・・
そしてずっと静かに涙を流し、楽な姿勢へと変えてあげていく
- 432 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:23
- その体を踏まないように舞台の前へと歩いて行き、
怪しい光を発しながら太郎達が向けている銃口の前に立った
大量の涙を流しながら見た事もないような冷たい目で見下ろしていた
矢口の白い炎のようなオーラに、それを見ている者全てが凍らされる
「許さない・・・」
銃を構えていながらも、恐怖が兵達の体を支配してガタガタと震え、
誰も引き金を引くことが出来ない
真っ白な世界が矢口の体を侵食して行くと、
矢口は大きく息を吸い込むのが解る
すぐそこに破滅がやって来ているのを感じる兵達
目の前にいる太郎や、舞台脇に移動した和田やユウキでさえも、
その矢口の冷たい目に凍らされたように一歩も動く事が出来なかった
- 433 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:25
-
そして、矢口の口から、今にも叫び声が響こうとしたその時、
『行くなっ、矢口さんっ』
矢口の耳に、声が聞こえた
矢口の動きが止まる
『そっちに行っちゃいけないっ』
真っ白い世界に覆われそうになった時に聞こえたその声の主は・・・・・
今、一番聞きたい声
突然動きを止めた矢口に
シンと静まる広場の空気が変わる
矢口の白い世界に色が戻ってくる
「・・しざわ?」
- 434 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:29
- 凍りついていた空気が緩く変化するのに気付いた太郎達の体に、
再び血が通い出すと
「ぜ・・・全員構えっ」
歯切れ悪く太郎が言う
しかし、もはや誰も構える事はできなかった
「いい加減にしいっ」
突然声が響く
そして、町民や、逃げようとしていた兵達は、
息をのんで矢口と太郎達の部隊の行方を見ていて気づけなかった光景に気付く
ぐるりと囲まれた塀の上にずらりと人が並んでいる事に・・・・
ユウキと和田も、矢口の光に時を止められたかのように黙って矢口を見ていた為に、
気が付く事が出来なかった
いつのまにか広場中に舞いっている白い紙
それには、和田の陰謀と、ここに何故集ったのかという仲間達の紹介と理由、
それに、争いに巻き込まれたくなければ、ここを離れる様に・・・・
という事が書かれた新聞
人々は静かにその記事を読み始める
- 435 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:33
-
そんな中に轟く声
「随分ウチの矢口をかわいがってくれたやんっ、和田っちゅう人」
「あんた達には矢口のすごさが解らないようだな」
全ての広場の中の視線が一斉にその声の方向へと向けられる
「ウチは今、旧Eの国で町の復興に携わってる中澤裕子や」
「俺は族の町と呼ばれるバーニーズ代表者の一人、若林瞬」
「飯田かおり」
「ダックス代表加藤勝」
「安倍なつみ」
「今、そこで見事に戦った健太郎さんの後を継ぐシープ代表、加賀俊樹」
「健太郎様の生き様は見届けましたっ、三浦ですっ」
涙を溜めて叫ぶ俊樹の横に、同じように涙を浮かべる三浦も叫ぶ
- 436 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:36
- 舞台を見て右方向の壁の上で聞こえていた声に、
その仲間と思われる人々が、壁の上や後ろから歓声を上げる
そして今度は反対側からよく通る声が聞こえ出す
「私はYの国当主、田中れいな、矢口さんには本当にお世話になりました、
だから是非力になりたいと恩返しに来ました」
れいなの横にも、どうやって登ったのか、元三坂部隊や志願兵の姿が拳を上げて塀に立っている
そして・・・・今度は後ろの方から
「よくも我が国を干ばつに、和田、悪いが全て解ったよ、
これから我が国は矢口さんや、ここにいる各国の代表者達と共に協力体制を作って行く、
Jの国時期当主神崎健吾」
「桜花部隊、武蔵」
この広場を、壁の後ろから囲んでいるような印象を受けるJの国の兵達の声が轟く
ひらひらと舞う白い紙をあちこち飛んで巻き終えた保田が、
「今回の事もばっちり記事にするよっ、取材頼んだからね、新聞屋の保田圭」
言いながら後ろのJの国の王子の隣に姿を現し終わると
後方を見ていた、広場全員の視線が、やがて一点に集中する
そして、
民衆や兵達からざわざわと聞こえ出す声
- 437 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:38
-
姫だ・・・・姫がいる
姫が帰って来たぞとあちこちから聞こえ
ざわざわした声が、やがて歓声へと変化していく
「真希・・・・様」
「姉・・・・・さん」
舞台隅で唖然とする和田とユウキ
そんな中、見つめ合う矢口と真希
おもむろに真希が両手を広げると、ピタリと歓声が止み
紺野と加護、辻に抱えられて地面へと降りる
そして梨華は親方に抱きかかえられて地面へ藤本と共に降り立ち
その後を追いかける勘太
- 438 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:41
-
仲間達には今まで見せた事のない、圧倒的な王族の存在感を見せ付ける真希
そばにいたMの兵達が跪く
ザアッと人垣が割れ、舞台への道筋を作ると、
まるで波のように人々が跪いていく
それは、太郎達をも同じ行動をさせてしまう程のオーラ
その道を、真希は矢口と視線を絡ませながら一歩一歩近づいていく
後ろについていくのは加護、辻、それに藤本と梨華に、紺野と親方に勘太
注目の中、舞台を登る中央の階段から七人と一匹が登ると、
真希は矢口を見つめて頷いた
矢口は唇を噛み締め真希と視線を交わした後、俯いてただ涙を流し続けた
- 439 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:44
- 矢口をかばうように広がっていく七人と一匹
「親びんっ、この人湖の近くにいる親方っ、すっごい強いの、親びんの子分の辻希美、参上」
背中に矢口をおいやり、元気に言い出す辻
「ふっ、どうやらずっと世話になってたようだな、この落とし前はきちんとつけさせてもらうぞ、和田」
親方は静かに怒りを言葉にする
「和田はんっ、もう親びんをいじめさせんでっ、同じく子分の加護亜依、参上」
ウォンウォンッ【よくも親びんをっ、絶対許さないっ】
腕を組んで仁王立ちする親方を中心に、左右でポーズを決める加護と辻に勘太
そして舞台の下で銃を構えている兵達の前に立ち、
矢口をかばうように立つのは
「矢口さん、矢口さんは一人じゃありません、元Yの国王族付き、紺野あさみ」
「矢口さん、心配しましたよ、元Jの国王族付き藤本美貴」
「石川梨華」
涙声の三人
だが、矢口の無事を確認してホッとしているようだった
- 440 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:47
-
そして
「矢口元帥補佐・・・・・・あなたにはこんなに沢山の仲間がいます、
それを忘れてはいけません。そしてユウキ、これ以上、この国と、
矢口の事を傷つけたら・・・・・・今度は私が許さない」
怒りのオーラを漂わせる真希の背中からそう聞こえ、仲間達は少し矢口を振り返って頷く
町民達が、失望の顔を希望に漲らせた顔に変えていくのが中澤達から見てとれた
「よ〜し、これで矢口の仲間の紹介は済んだようやな、町の人たち、怪我しと〜なかったら今すぐ出て行き」
「そうそう、美貴達めちゃくちゃ腹たってるからとばっちりくらうよ」
「にわかの兵隊さん達もよう聞き、はっきり言って、このメンバーかなり強いよ、死にたくなければ早く逃げな」
まだ塀の上にいる中澤達や、目の前で、銃をも恐れずに自分をかばうように立っている仲間たち
矢口は舞台からその一人一人見回すと、涙を腕で拭う
「みんな」
唇を噛み締める矢口
- 441 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:53
- 「な・・なんだお前ら、どこから入って来た」
和田が少し怯えながら舞台に登場し、真希とは視線を合わせずに塀の上の人物達に叫ぶ
「どっからて、色んなとこからや、そしてな、
ウチら国とか山賊とかそんなん抜きにして言える事があんねんっ」
「その通りっ、私達は矢口さんの友達っていう言葉でつながれた立派な仲間なんです」
中澤に続き、れいなが言うと全員が
「そうだそうだ」「俺達は仲間だ」と、壁の上の仲間たちが口々に叫ぶ
「最初に言っておくで、ウチらはこの国を乗っ取る気もなければ
やってまう気持もないで・・・ただ矢口が殺されるのは許さへんだけや」
「そうっ、だから早く民は外へ逃げなさいっ、後は私達が引き受けます」
必至な真希の言葉
町民達が良く知るその顔の、その口から発せられる言葉に
バラ巻かれた紙に書かれた事が真実味を増す・・・・
辺りから次々に聞こえる声に戸惑いを見せていた人達は、
新聞でようやく事態が解ったらしくあちこちの出口から次々に出て行きだす
何故か、よそ者であるはずの人達が並ぶ、壁の上に声援を送りながら
真里ちゃんを助けてあげてだの、
やっぱり昔の方が良かっただの言いながらゆっくりといなくなる
入れ替わりに入ってくるJの国の軍服や、Mの国の軍服は、
すぐに中にいる兵達を抑えていく
その手には、黄色い布が掲げられ、壁際からじわじわと舞台に近寄って来た
- 442 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:55
- 人々が移動してる間に、顔面蒼白になった太郎が、
隙をついて矢口を撃とうと引き金を引く指に力を入れる時
的であるはずの矢口が消える
太郎が小さく「あっ」と言った瞬間、
矢口の鎖の先についていた壁の塊が太郎の銃を飛ばす
「ええでっ、矢口、そいつやってまえ」
「一対一の戦いに他の人は邪魔しないようにねっ」
叫んだ後、慌てて広場に降り立った中澤と、
梨華を紺野に任せて段の下に降りた藤本が、黄色い布を持っていない兵達を静止するように威嚇し、応援する
実際、銃を撃とうとしたら、すぐにその銃が飛ばされる事から、
彼女達の強さが兵達に伝わる
町の人たちはその様子を気にしながらも出て行き
民がほぼいなくなった大広場には、もう黄色い花が一面に広がっていた
戸惑うMの兵達を、どんどん片隅に追いやっていく黄色い花達
- 443 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:57
- 舞台下の空間では、太郎からの銃撃を避け続ける矢口が、
けが人とは思えぬ動きで攻撃に転じ始めた
銃で味方を傷つけ続けた太郎は、
舞台上へとやって来て、逆に、舞台上から、紺野達が降りる
和田とユウキは、真希や親方達に追い詰められ、
既に舞台の端っこでにらみ合いを続けていた
一方舞台真ん中で繰り広げられる1対1の族同士の戦い
怪我して真っ赤な体なのに、俊敏な動きで太郎を追い詰め、
鎖を巧みに利用し、なんと太郎の体を吹き飛ばす
その顔には、先程からずっと怒りが宿っていた
「さすが矢口さんっ」
舞台下で盛り上がる仲間達は、どんどん増えていく
逆に静まっていく和田の兵達は、和田達が睨みあっている方の角に追いやられながらも、
口々に驚きを口にする
太郎が強い事は、兵は知っている
そんな太郎を追い詰める怪我人、矢口
- 444 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 20:59
-
どこにそんな力が・・・・
驚きの表情でその戦いを見つめていたが
やはり傷ついた矢口の体は、気力でも、もう限界が近づいてきたのが見て取れた
徐々に目はうつろになり、息が上がって足がフラついていた
舞台上で倒れ、ジリジリと追い詰められていた太郎は
「化け物め」
と悔しげに言いながらもニヤりとし、次の攻撃を仕掛けようと立ち上がった
「アカん」
「危ないっ」
舞台の下の中澤達が思った瞬間、太郎のお腹から剣が突き出てくる
人間の目には見えない位の一瞬の動き
「ぐふっ」
全員が見ている中で、背中から太郎が刺されていた
- 445 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:01
- 刺している男は、そんな太郎を突き飛ばし、
倒れた体の心臓を、すばやく上から一突きする・・・・・・
そして、全員が唖然とする中、後ろから刺した男が、もう倒れそうな矢口の前に膝間付く
「矢口元帥補佐・・・・申し訳ありません・・・・
どうしても・・・・・・どうしても見つける事はできませんでした」
「片桐・・・・副司令官」
両手からポタポタと血が流れたまま立ち尽くす矢口と、
その目の前に膝間付く片桐に、真希達や和田でさえも釘付けだった
「そして・・・お許しください・・・・自分の弱さに・・・和田に屈した私の事を・・・」
「許すも・・・何もないよ、恨まれるのは私だから・・・
片桐副司令官が和田の命令をきくのは軍隊としては仕方のない事」
「しかし、やはり私はあの時、もっと違った方法で家族を守る事が出来たはず、
それをしなかったのを元帥補佐のせいにして
恨む事で、自分の生きる意味を持とうとしていたのです・・・・・
だから・・・・この始末は、私がつけます」
注目を浴びたまま立ち上がって、
黄色い布を持っていない、追い詰められていく兵の中で、自分の部隊の前に向かった
- 446 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:03
- 「今から・・・・和田を捉える
国王の暗殺と、矢口元帥の一家を抹殺し、
この国を混乱に陥れた罪を裁く為に・・・・・・賛同するものは自分の前に出ろ」
すると、パラパラと兵が出てきて、矢口に向かって敬礼する
その顔は、昔から見る和田の下の兵
そして、和田達と睨み合っていた真希の前に行くと、次々と膝間付く
「お帰りなさい、姫」
さらに分が悪くなったと感じる和田が、
片桐の問いかけにも残った部隊や、戸惑っている民兵に命令する
「よ・・・予定通り真希様が現れたぞ、捕らえて矢口と一緒に処刑するっ、早く捕らえろっ」
戸惑いながらも、真希達や片桐の声に賛同した兵に向かって攻撃を仕掛けだして騒然とする
矢口を守る片桐や藤本達、姫の前で応戦する加護や辻に勘太達
- 447 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:04
- 混乱をよそに、真希達の視線を逃れた和田が、
ユウキを連れて奥へと逃げようとした
しかし舞台下の広場からの出口に現われたのは、作戦に協力した元矢口の部下達が回りこむ
「お前達、どけっ、これが王や元帥に対する態度かっ、無礼だぞっ」
和田が怒りの顔で叫ぶ
「申し訳ありません、どうやら私達は、王とは真希様、
そして、今は亡き矢口元帥にしかその地位を認めてはおりません」
傷だらけの顔から放たれる強い視線で、その手には黄色い布を握り締め、二人に剣を突きつけた
「なにぃ、やはりお前達はあの時殺しておくべきだった、恩を仇で返しよって」
「何をしている、和田っ、早く始末しろ」
ユウキがそんな和田に言う
矢口達の仲間達は、今すぐそばで混乱の真っ最中
相手は、目の前の雑兵のみ
「解っております」
ニヤりと笑い、和田は剣と銃を構えた
- 448 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:07
- 和田はただ策略家なだけでこの地位に来たのではない、
族でもあり武術にも長け、剣使いも天下一品であった
強い視線ながらも、少しビビるMの兵達
実力の差は兵達がよく知っている
混乱を収めようとしていた中澤や瞬、藤本達が、
それを見て助けに行こうと顔を見合わせた時
「どけ、俺が相手しよう」
立ちはだかっていた布を持った兵達前に、一瞬にして親方が現れ、
和田の前に立ちはだかった
あまりにも大きな親方に、2人はびびる
「川を消したのはお前達か」
ユウキはキョトンとしていたが、和田は明らかに動揺した
「そのせいで、大地が乾いて死んでいってるのをどう思ってる」
「お前・・・・・・・・・・さ・・・山賊が入り込んだぞっ、
矢口も真希様もこいつらも、とにかく全員捕らえろっ」
和田が親方を見て知人の顔を一瞬すると、
舞台下で既に黄色い布の兵に捉えられ始めた自分の部下達とは別に、
立ちはだかった兵の向こう側で戸惑っていた数百人の兵達に指令を出し、
兵達はやけっぱちぎみに黄色い布を持った兵達に切りかかる
- 449 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:11
- 藤本や瞬・れいなや中澤が、兵達を守ろうと応戦に駆けつける
そんな中で親方は、攻撃してくる和田とユウキを、あっという間にぶった切ってしまった
あまりの強さに、それを見ていた全ての兵達が恐怖を覚えた
矢口軍の仲間達は、労せず和田達の兵を捕らえ、
抵抗する者は切られていった
みるみる広場は黄色い花で一杯になり、歓声があがると、勝敗が決する
守られて十字架のそばに連れて来られていた矢口は、
事の決着を見届けると、力なく倒れこみ、それを梨華が抱き寄せる
混乱を収め、漸く近づいてこれた
なつみとかおりが必死に大丈夫?と何度も名前を呼んでいる
ウォンウォンッ【親びんっしっかりっ】
勘太も投げ出されている赤い手を必死に舐めている
目を瞑り、ぐったりと梨華の胸に納まる矢口
- 450 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:13
- 片桐を見て梨華が叫ぶ
「鍵を下さいっ、矢口さんの腕の鎖の鍵っ」
必死に叫ぶ梨華に、
「そんな事より石川・・・・吉澤が・・・・」
矢口は涙目で梨華を見上げる
「・・・・・・・」
言葉をなくす梨華
梨華もここに、本当にひとみがいない事に俯く
既にあちこちから、中澤達のもとに報告が入っている
あんなに信じていたひとみの無事は、
争いの中、方々を探し回ってくれた仲間達によっても見つけられなかったようだ
- 451 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:15
- 梨華は矢口の体を抱き締める
その体から溢れるように流れている悲しみの感情を抱き締めるように
しかし、その時にふと感じてしまう
矢口の体が異常な熱さであると共に、背中の感触が普通の感触でない事を・・・
すぐに矢口を寝かせると、医者を呼んで下さいと叫ぶ
矢口の体の骨は所々折られて変な窪みや裂傷を作っているのを見つける
「もう・・・・・いいよ、石川・・・・このまま楽にさせてくれれば」
寝かされた矢口は、涙を流しながら静かに目を瞑る
もう殺してくれと言わんばかりに
「何言ってんですか、みんな矢口さんに生きてほしいからはるばる遠くから来てるんです、
健太郎さんだって、さっきみんなと会った時に言ってました、
和田という人は、昔我々と共にJの国との戦をした仲間だったと、
親方も昔は知り合いでそれぞれ別の道を歩いていたのに
ここでこうしてみんなが再会できたのは、やはり矢口さんのおじいさんのイタズラだろうって
・・・・だから矢口さんの事は自分達にまかせろって」
健太郎さんの死を無駄にする気ですかと叫ぶ梨華
- 452 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:18
- 「うん、あの人達は、確かにここを死に場所に選んどったわ」
最初から決め取ったと、城への出入り口での混乱を収めた中澤達も帰って来る
「でも、それを楽しんでた・・・・心から」
「ああ・・・・・俺も感じた・・・・・ものすごい決意と・・・・・そして満足感だった」
かおりに続き、鷹男も少し潤ませた目で矢口を見ていた
「健・・・太郎さん・・・・」
すぐ近くに並べられた健太郎の亡骸には、
俊樹や三浦達シープの兵達が集まって涙を流している
矢口の瞑られた目から涙がとめどなく流れる
片桐がやって来て手首の鍵を外し始める
「矢口さんさえ助ければ、昔おじいさんがしてきたみたいな不思議な事がきっと起こるって・・・・・」
そして現実に起こりましたよと藤本が涙目で笑う
遠い国や、知らない土地から、
はるばる仲間という言葉だけで繋がれた友人達が、Mの国を助けにやって来てくれた奇跡
それを仲間達みんなが感じていた
- 453 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:20
- 「・・・・・でも・・・・・吉澤が・・・・吉澤を守れなかった
・・・・おいらにはもうそんな力なんて・・・・・」
静かに涙を流す矢口を皆が見つめる
そんな中、矢口が力なく梨華を見上げ
「ごめん」
本当に申し訳なさそうにそう呟いた後目を閉じた
その瞬間、ぶわっと梨華の目からも涙が流れ、何も言えなくなってしまう
「ほんとに・・・・・ごめん・・・・・・・・
さっき・・・・・聞こえた気のする吉澤の声も・・・・
気のせいだったんだ・・・・・・・だったら、もう」
いいから死なせてくれと呟く
血が固まってなかなか開かない鍵に、唇を噛み締めながら片桐はすみませんと謝り続ける
- 454 名前:dogsV 投稿日:2007/10/06(土) 21:21
- 「何言ってんのや、矢口、吉澤が死ぬ訳ないやろ、
どっかで生きてんねんっ、声やろ、聞こえたわっウチにも」
「裕ちゃんにも?」
ぱちりと目が開けられ、中澤を見る
頷く中澤
だが実際には中澤には聞こえていない
「ああ、みんな聞こえてた、あれは吉澤の声やった」
誰も聞いていないのに、皆は頷く
生きていると信じさせてやることで、
怪我を治そうとしてくれるかもしれないとの思いから・・・・・
中澤の嘘に付き合う事しか、今の皆には出来なかった
ゆっくりと視線を落とし
矢口は、えぐっえぐっと嗚咽しはじめる
梨華も共に静かに涙を流し続け、同じく涙目の藤本に肩を抱かれる
その後は、もう誰も口を開く事はなかった
- 455 名前:拓 投稿日:2007/10/06(土) 21:22
- 本日はここ迄
・・・なんか、申し訳ない気持ちで一杯です。
- 456 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/07(日) 02:30
- 更新乙ですドキドキハラハラでした!
・・・クライマックスでしょうか
続きが気になります
- 457 名前:拓 投稿日:2007/10/08(月) 15:31
- 456:名無飼育さん
あの・・・クライマックスに近づいてはいるのですが・・・
もう少しグダグダと続けてもいいでしょうか・・・
実は・・・このスレではどうも終わりそうにない感じなので凹んでます。
さらに、>>436の中間あたり
× れいなの横にも、どうやって登ったのか、元三坂部隊や志願兵の姿が拳を上げて塀に立っている
○ れいなの横にも、どうやって登ったのか、元松原部隊や志願兵の姿が拳を上げて塀に立っている
に変更させて下さい。
前に粗で書いてた時、実はれいなの母親は、松原ではなく三坂にしてたのですが、
更新前に急に変えたくなって、変えてしまったのを忘れてました。
同じ間違いを二度もしてしまう位ならしなければ良かったと後悔・・・
本当にすみませんでした。
それと、レスありがとうございました。
- 458 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:31
-
- 459 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:35
-
その場に、確かにひとみは来ていた
中澤達が、民衆を帰らせようとジタバタしていた頃
「こんな体じゃ無理じゃ、早くわしの所へ連れて来なさい」
広場近く、克己の友達との約束の場所へ馬で駆けつけた時
克己の前に毛布にくるまってぐったりとするひとみを見て、その友達の医者はすぐに怒った
だが、ひとみは意識を朦朧とさせながらも首を振る
「バカか、この娘はっ」
さらに激怒する医者の友達
「や・・・・ぐちさんが・・」
目を瞑って小さな声でそう言うひとみの声に
抱えている克己と医者とが視線を合わせる
- 460 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:37
-
「この子は、今、この壁の向こう側にいるという矢口さんさえ助かれば、自分は死んでもいいそうじゃ」
「・・・・・まったく・・・・・この国はバカ者ばかりじゃ」
ため息をついてる医者をよそに、
2人はどこか広場の中が見えそうな所を見つけようと見上げる
チケットは、その医者分の一枚だけしかないので
この状態では、もちろん一人で入らせる事は出来ない
塀の上に登れば、もし中の兵から撃たれたりした時に、
逃げる事も出来ない為、二人は近くの木の上で見れそうな枝を捜す
皆興味があるのか、見れそうな枝には、必ず誰か族の人達が乗っていた
すでに虫の息のひとみを馬に乗せてうろうろする間に、
民衆が少なくなっていき、Mの国とは違う軍服姿の兵達が増えていった
あゆみがヒラヒラと舞っていた紙を拾い読み上げる
「おじいちゃんっ、なんか矢口さんの友達みたいな人がここに集まって来て助けるから、
関係ない人は早くここを離れなさいって」
「おぉ・・・・・じゃあもう、吉澤さんは無理して姿を見せる必要はないようじゃな」
喜ぶ克己とあゆみ
- 461 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:38
- しかし、ひとみは、呆然と目の前を駆け回る兵達を見てから、
悔しそうな表情で克己を見上げた
「・・・・・・すみ・・・・・ません・・・・・それ・・・・・・でも一目」
「もういいだろう、吉澤さんの体の方が心配なんじゃよ、わしらは」
「・・・・・・・いいんです・・・もう・・・・・だから」
うるうると自分の腕の中から見上げてくるひとみ
その様子を見て
「お・・・・おじいちゃん、見るだけ・・・見るだけ見させてあげようよ」
馬の下からあゆみも懇願してくる
- 462 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:39
-
困る克己に
「この子は、死にたいそうじゃよ、最後に見せてやればいいじゃないか」
命を粗末にする奴はさっさと死ねばいい
友達の医者は、こうはき捨てて怒って帰ってしまった
どうやら、この医者は、最近のこの国の様子に元々腹を立ててらしい
視線を落とすひとみ
- 463 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:41
-
あゆみは克己と視線を合わせ、それから歓声の聞こえる壁の上を見た
壁の上には、他の国の人と解る沢山の兵隊が、
族の人に連れられて登って行ったりして、中を見ていた
駆け回る兵達は、いつでも突入出来るように隊列を組み始め、
塀の上からの情報を伺っている
見回す2人の視線の端には大きな木
「とにかく行こっ、おじいちゃんっ、早くっ」
あゆみが少し遠くの大きな木を指差す
「・・・・・・解った」
- 464 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:42
-
「すみ・・・・ません」
しゅんとした表情のひとみに
「粗末にはしてないもんね、それほど大切な人なんだもんね、矢口さんの事」
さっきの医者の言葉に、少し腹を立てたように笑いながらあゆみが見上げてくる
「・・・・・・あり・・・・がとう」
頭を下げる事さえもう出来ないひとみは、ただ熱い視線であゆみを見つめた
それを受けるのが照れくさいのか、すぐにあゆみは姿を消す
そして見つけた大きな木で、やはり中を見ている人に話しかけて場所をゆずってもらっていた
「おっ、譲ってもらえたようじゃ、よかったな吉澤さん」
「・・・・・はい」
小さな声で答えるひとみは、薄く微笑む
- 465 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:43
- 戻ってきたあゆみは、
「もう始まってる・・・・・っていうか・・・・・・」
言いにくいのか、そこまでで何も言わずに克己に視線をやる
「じゃあ、もうひとふんばりするぞ、あゆみ」
年老いた体で、昨夜から寝ずにここ迄ついてきてくれたが
やはり体力は限界に近いのか、力を使ってひとみの体を木の上に持っていく行為はかなり厳しいと感じていた
ひとみの体をよっこらせと馬から降ろす
忙しく行き交う兵や民の中、
そこだけが異空間のように止まって見える中、体勢を整える
「「せ〜の」」
2人は毛布をしっかりと持ち、息を合わせて一気に高い木の枝にひとみを連れて行く事が出来た
- 466 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:46
- しっかりとした太い幹に、うまく乗せられたが、
ひとみはもう自分の体を支える事さえ出来ない
消えてしまいそうなひとみの体を、あゆみは必死で抱き寄せる
あゆみの胸に納まるようにもたれかかったひとみの目に映ったのは、
十字架に貼り付けられた真っ赤な服の矢口
ひとみは唇を噛み締める
少し目の下にある壁には、続々と族の兵達が姿を現し、
その中には、中澤や瞬、加藤・俊樹・三浦・鷹男やなつみ、かおり等頼もしい仲間達の姿
遠くにはれいな達Yの国で見た兵達、
そして舞台正面の壁の上には、一際目立つオーラを纏った真希や紺野、もちろん加護や辻
それに、もう会う事はないと思っていた梨華や藤本
少し前迄、一緒に旅していた愛しい者達の姿
自分なんかが来なくても・・・・・こんなに頼もしい仲間達がいた
- 467 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:48
- 矢口を助けに来てくれた全ての人達が、
固唾を呑んで矢口に注目し、言葉を失っている
そんな中、ふいに聞こえた自分の名前
もう既に、"吉澤ひとみ"は、死んだ事になっていた
さらに、真希によく似た男が振り下ろす腕を合図に
矢口への銃弾が発射される
「「あっ」」
あゆみと克己が小さく呟き
目に見えない何かが動く
それは舞台上にいたと思われる老人達が、
目にも見えぬ速さで矢口の前に立ちはだかるという一瞬の出来事に、思わず出た言葉だった
- 468 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:50
-
容赦なく発射される銃弾が、老人達を赤く染めていく
静まり返る広場には数千人の人達
意識がなくなりかけている頭の中で、漠然とひとみは思う
目の前で起こっている出来事は何なんだろう
どうして矢口さんは、あんな所で十字架に貼り付けられているのだろう
ひとみは目に見える事態を把握出来ない
「なんという・・・・」
「ひどい」
克己とあゆみが思わず口に手をやる
- 469 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:52
- 駆け寄った兵達に、乱暴にどけられる老人達
再び処刑しようと、弾を込めている兵達、
目下の壁の上では中澤達が銃を準備したり、剣を抜いたりしだす
注目の中、矢口の小さな体がゆらゆらと動き出し、再び人々は固まってしまう
泣きながら歩く矢口の体は、白い炎に包まれていた
兵達が逃げていき、挑発するかのように舞台の一番前迄来た矢口の顔は
見た事もないような冷たい表情
いつも見ていた笑顔や、優しい表情は、こんなにも人間の顔を失うものなのか
ひとみの頭に浮かぶのは
白い世界
ああ、また矢口は、白い世界に行ってしまう
ハラハラと静かに涙が流れていく
そして、あゆみの体から自分の体を起こし、
何かに憑かれたように腕を矢口に伸ばす
あゆみと克己は、腕を出してひとみが落ちないか気にしながらも、
何かが起きそうな舞台に釘付けになっている
- 470 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:54
-
必死に腕を伸ばし、唇を動かす
『行くなっ、矢口さんっ』
だが、もう声は出て来ない
ダメだ
『そっちに行っちゃだめだっ』
漏れるのはヒューヒューと喉から漏れる息だけ
あゆみがそんな横顔に気付いて体を引き寄せようとするが、体は矢口へと近づいていく
- 471 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:56
-
ダメだダメだっ
何やってんだ自分はっ
心で必死に叫ぶ
もうあいつをあの白い世界になんか行かせたりしないって決めてたのにっ
その為に、今まで必死に体を鍛えて来たのに
あいつを守るのは・・・・・
自分のたった一つの目標なはずだったのに・・・・
スタスタと顎から零れ落ちる涙は、キラキラと遠い地面へと落ちていく
- 472 名前:dogsV 投稿日:2007/10/08(月) 15:57
-
「あ・・・・う・・・・・・」
震える手を伸ばしながら悔し涙にくれるひとみの体は、
バランスを失い枝からズリ落ちてしまう
「いかんっ」
「おじいちゃんっ」
慌てるその声は、広場のどよめきに掻き消されてしまっていた
- 473 名前:拓 投稿日:2007/10/08(月) 15:58
- 申し訳ないっす
- 474 名前:15 投稿日:2007/10/08(月) 22:32
- ぉあ〜〜!!
頑張ってくれ!
…更新お疲れ様です。
スレ足らないとか…こちらとしては大歓迎です。
二人に無事再会してもらいたいです。
- 475 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/09(火) 02:27
- 初レスですが終わらないのも大歓迎
ハラハラするけどもっと読んでいたいです
- 476 名前:拓 投稿日:2007/10/14(日) 16:35
- 474:15さん
頑張って・・・・くれる・・・はず。
475:名無飼育さん
初レスありがとうございます。
お二方共、気を遣わせて申し訳ありませんでした。
ご迷惑でしょうが、マイペースに、グダグダとこれからも更新致しますので、
決して無理なさらない程度に、ぼちぼち読んでみて下さい。
あの・・・・調子にノって、無駄に、そしてまだまだ続きますから・・・申し訳ないっす。
- 477 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:37
-
見事なまでに、Mの国に集結した部隊は、あの一件の事後処理を手伝った。
ひとみの情報は、和田の側近に近い兵達に聞いても、
出てくるのは山で、自分から身を投げたという事だけ・・・
城や近くの兵舎も、徹底的に探したが、その事実以外何も出てこなかった。
出てくる情報を信じたくはなかったが、加護と辻が中心になって、
山へ捜索へ行っても、ひとみの亡骸は出てきてはくれなかった。
矢口の怪我と、心の傷は深く、
そんな状態を心配する各国の精鋭は、必要の無い部隊にMの国の結末と未来への結束とを
「事実と指示」として持たせて国へと帰し、何とか矢口の力になれないかとMの国に留まった。
- 478 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:39
- ユウキと和田が死んで、その時に和田達についていた兵隊は、
あの戦いで深く何かを考える事になる。
元々王族についていた部隊や片桐達は、積極的に兵隊の再構築を始め、
にわかに兵隊になった人は志のない者については国に帰るよう薦めた。
そんな中、民衆の願いもあり、再び真希が王権につくと、
YやEの国で行なったような事柄を、
藤本・紺野の2人の王族付きが知恵を出し合い毎日会議を繰り返していく
徐々に町も落ち着きを取り戻し、昔のようにのんびりとした雰囲気になっていった。
保田の新聞で策略にまんまとはめられた事を知った人々は、
矢口達一家をうらんだ事を反省する。
また、Jの国の川口は、王子立会いの下、ついに親方と対面し、
心から反省するという言葉を言わせると、加護達にも許してやってと言われしぶしぶ許す事になった。
もちろん畑山は、自分がMの国と組もうと画策していたのを
新聞によって広められたくないのか、すぐに資金を出して川の再開工事を承諾し、
資金の準備に奔走していく
各国が協力すれば、新しい何かが生まれる予感に、民はもちろん、代表者たちの胸は弾んでいった
- 479 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:40
-
- 480 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:42
- すっかり寒くなり、もういつ雪が降ってもおかしくない中
すべてが動き出し、各々の国との交流の礎を確認し合った頃
各国の精鋭が帰国する日の前日に、宴が設けられる。
親方はJの国に寄った後、一度山に戻っていた
これから山の中は、冬が厳しい為に食料を大量に準備して閉じこもる事になるので、
その前にと真希が呼び掛けて再び城へとやって来てもらう
そこに、矢口を心配して駆けつけた安倍と若林が来ていて再会を果たす。
三人は、昔を思い出しながら酒巻健太郎と矢口真之介の死を悼んだ
その夜、Mの国中の街の代表者や、兵が集まり盛大に宴が行われる
- 481 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:44
-
違う国の、違う文化や風習の話しに、笑顔の輪が広がる。
これから各国との交流を深め、新しい何かを掴もうと皆の顔は希望に満ちている。
各国であった争いや戦いは無駄ではないが
もう二度と繰り返してはならないと、多くの人がそう思えるようになっていた。
盛り上がった酒席も深夜になり、人々が帰宅していくと
自然と集まる各国の代表者
安倍親子・加藤勝、若林親子・飯田かおり・鷹男、加賀俊樹と三浦、
中澤裕子、田中れいな、神崎健吾・武蔵、片桐
そして後藤真希・紺野あさ美・加護亜衣・辻希美・藤本美貴・石川梨華と・・・・はじっこに座っている親方と勘太
これから各国を引っ張る存在になるだろう、このメンバーが
Mの国の城の一室に自然と集まった。
- 482 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:46
-
各国で起こった数々の出来事を、皆が時間を忘れて夢中で話し続ける。
笑いも交えた各国での矢口達少女の活躍と、
ありえない今の国の状況を皆楽しそうに話し、
親方は寝ている勘太を撫でながら静かにその話を聞いていた。
しかし夜も明ける頃、Mの国での出来事迄を振り返ると、
それぞれの心の中に何かが浮かんできて静かになる。
このメンバーの今望む事は
矢口の回復
そして・・・・・・矢口と共に各国の未来を開いた人間
吉澤ひとみの冥福を全員が祈っていた
静まり返った部屋で、中澤がポツリと呟く
「ほんまに・・・・おらへんのやな・・・・ここに吉澤ひとみは」
それぞれが何かを思い、口を結んだ。
- 483 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:47
- しんみりする空気の中
「吉澤・・・・ひと・・・み?」
突然何かを思い出したかのように、親方が考え込む
気を取り直すかのように梨華が背筋を伸ばし、ゆっくりと話し出す
「はい・・・・・吉澤ひとみ、本当の歳は解らないし・・・
どこから来たのかも・・・・どんな運命を持っていたのかも何も解らない子だったけど・・・・
間違いなく吉澤ひとみという素敵な女の子は、ちゃんと生きてました」
うっすらと涙を浮かべ、梨華が微笑むと、藤本がそっと手を握る。
「ううん、まだ生きてるよ・・・・・ここにいる皆の心の中に・・・・」
藤本の言葉に、鷹男がぐいっと酒を煽る
「せやな」
中澤が同意し、これからの各国の未来に乾杯して終わろうかと、明るい表情で告げようとすると
「ひとみ・・・・確かひとみだった」
親方が、突然話し出すので全員が注目した。
- 484 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:49
- 「何がです?親方」
真希も目をパチくりとして聞く
「ああ・・・・確かにひとみだった・・・・間違いない」
「だから何が?」
ちょいとイラつきぎみに藤本が今度は聞く
鋭い親方の視線が藤本を捕らえて藤本がビビる。
その後、親方は急にフッと笑い、勘太の頭を撫で呟く
「・・・・・ついにこの国最後の獅子族も死んじまったようだな」
途端、獅子族?とその場の全員が声を出す
「どういう事?親方」
辻が急かすように聞くと
「どうしようかと悩んだが・・・・・・ずっとお前らの話しを聞いてて・・・・・
俺も漸く肩の荷を降ろせる時が来たと思えるようになった・・・・・
いいか、俺が今から話す事は、お前ら全員にとって、とても重要で、
お前らの国の奴にとっても運命が変わる出来事だ・・・・」
神妙な顔をしてそう言い出した親方は、言い終わる頃には安堵の表情になった。
- 485 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:51
- 「何だ?わしらにも関係がある事なのか?」
若林が聞くと
「そうだな・・・・・これを聞いて、お前らがどうするのか・・・・・
事と次第によっては俺はこの場で全員を殺さなければならなくなる」
「何?」
「何だと?」
安倍と若林が親方を睨む
「お前ら聞く勇気があるか?」
各々が顔を見合わせ
全員頷く
「しかも長くなる・・・・それでもいいか?」
またも全員が頷く
- 486 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:52
- 親方が覚悟を確かめるように全員の目を見つめてから話し出す
「俺はずっと、ある家族を見守ってきたんだ」
はなっから全員の頭には?がついた
「いや、その家族も、とうとう一人になっちまったがな」
さらに訳がわからない
皆が顔を見合わせ始めたのを見て、親方が笑う
「お前らの話にちょいちょい出て来てた、昔から必死こいて探している奴・・・・・・
そして全ての災いの種が・・・・その一人だ」
は?
と声にならない声が聞こえそうな全員の顔
- 487 名前:dogsV 投稿日:2007/10/14(日) 16:53
- 「ちょ・・・・ちょいまち〜な親方・・・・・吉澤の話から・・・何でそないな話に」
「中澤さんっ、とりあえず聞きましょう」
制止する藤本
親方が、藤本と中澤にニヤりと笑い、今度は真希を見て話し出す
「女王よ、お前達が山の中で川を作りたいと言って来た日、俺はその災いの男に会いに行ってきた
健太郎の言葉を借りれば、矢口真之介の孫が、いや、矢口真之介のイタズラがまた始まったってな」
話しかけられた真希は、確かにその日、
親方がどこかに行ったのがやけに気になったのを思い出した。
「俺達の運命を変え続けてきたあの矢口の孫達の行動が、
今後自分達にどんな変化をもたらせるのか・・・とにかく覚悟しとけと言ってきた」
ゴクリと皆の喉が鳴る
聞く体勢の整った中、静かに親方が話し始めた・・・
- 488 名前:拓 投稿日:2007/10/14(日) 16:54
- てな具合で、まだまだグダグダ続きますm(_ _)m
- 489 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/14(日) 21:08
- こんないいところで…
- 490 名前:15 投稿日:2007/10/14(日) 22:27
- 更新お疲れ様です。
どんどん続いて下さい!
親方早く続きを話して下さいw
- 491 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/27(土) 22:23
- う〜〜〜、焦らしますね!
いろいろ書きたい所ですがスレッドサイズが残り少ないので止めておきます。
別にこのスレに収まらなくても全然いいですよ。
続き待っています。
- 492 名前:拓 投稿日:2007/10/28(日) 13:17
- 489:名無飼育さん
KY?・・・申し訳ありません
490:15さん
すみません、早くしゃべらせます。
しかもクドい位に・・・
491:名無飼育さん
焦らしてしまいましたか・・・
お待たせして申し訳ない、しかも残りスレ迄お気遣い下さって感謝ですm(_ _)m
皆様レスありがとうございました。
今回からちょっと思い出話が長くなります。
特に今回分は、前に記述してたりして重複したりしてますので
適当にスルーしても大丈夫だと思います。
どうかまたーりとご覧下さい。(しかも現在と過去が入り混じって解り辛いかも・・・)
- 493 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:20
-
昔あったJとEの戦争の数年前の話しから始まる
族が非常に多く、争い事も多い街の中での解決者は、その頃の王族達ではなく、
若くて血気盛んな矢口や安倍、若林といった族達のグループによって治まっていた時代
今は中澤達がまとめようとしているあの場所に、
親方も、安倍や若林達も皆バラバラに暮らしていた
互いのナワバリを守り、国に納めるべき作物や製品の多くは、その族達に流れ、王族は手を焼いていた
そんなグループの中でも、親方はEの国の街で圧倒的な強さで、
本当に信頼出来る少数の手下を率い、最も我が物顔で幅を利かせているある意味やっかいな存在
王族の軍隊や人間達や別の集団の言う事等、もちろん聞く事のなかったならず者で、
矢口真之介と出会う迄は、決してEの国、ましてや王の為に戦う等考えもしない男だった
毎日、ナワバリを荒らしに来る奴や暴れるような輩を殺したりするのを仕事にしながら、
酒に溺れ、今と同じく、仲間は大切にするが裏切り者には死という
派閥の中でも最も乱暴な正義で生きている族のグループの頭
昔からハバを利かせていた族の年寄り達を、一目置かせた上に、隠居させる程の強さは圧倒的だった
- 494 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:23
-
◇◇◇◇◇
「だが、あいつは違ってたよ、その頃から・・・・
ナワバリ内の商売人や農民達が、毎日毎日小競り合いを繰り返していた現状を見て、
馬鹿みたいに悩んでたな、矢口真之介は・・・・
多くの人間は、怖がって俺達にはあまり近づかない時代だったけど、
真之介は族とか関係なく仲良くしてて、噂で変な奴がいるって事は聞いてた」
俺も、他の集団も最初はバカにしてたけどなと笑う親方
「俺達も昔は、人間を従えて当然のような考えだったな」
「ああ、若かったしな」
若林や安倍も、クスッと片頬を持ち上げる
「だけど、なんか、争いごとが価値観の相違から始まるんだって気付いたとか、
ある日突然言い出してな、ガンガン、他の族が治めるナワバリに入って来て、
学者や頭のいい奴を探し始めたんだ」
各国の生活が便利になる為に、まずその時代で主流だった物々交換を、
一定の価値のある物との交換が出来ないだろうかという発想からの行動
「それとは別に、王族達の所で、昔の書物が発見されたのもその頃だ
でも真之介とは別に、王族によって、町中の技術者や学者が極秘で召集されていた事をそれで知る事が出来た」
◇◇◇◇◇
- 495 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:27
- そして・・・・
その中に、乱暴な族が出た時に手を焼いていた町の人の為の対抗策として、
何かないかと日ごろから密かに研究していた人物がいた
町の小さな工場に勤めている一人の若い技術者
その頃の有名な学者とか、技術者の研究によっても出来なかった「銃」という
はるか昔にはあった武器が、その彼の手によって生まれた
王の為でもなく、町の人達の為にと、まだ少年の頃から研究していた事が功を奏したようだった・・・・・
◇◇◇◇◇
「銃の存在や威力を知った王族が、さらに国中の技術者を集め大量生産に乗り出し、各国をも手中に収めようと
画策しはじめたんだが、彼の作った銃の作り方は、王族の気を引く技術者達が受け継ぎ、
彼は町へと戻されて、もとの生活に戻されていたんだ」
「どうしてです?」
疑問をすぐに口にする藤本
「どうやら、あまり銃を乱用してはいけないのではと、王族に意見した事が気に食わなかったらしい
それにその頃には、彼の力がなくても、大量生産する術を製造出来ると思ったんだろう」
全く、王族って奴は・・・・・と親方が笑うと、
真希が唇を噛み締め紺野がチラりとその様子を気にしていた
「それを知った真之介は、勢い勇んで彼の元を訪れ、熱い思いをぶつけた」
◇◇◇◇◇
- 496 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:29
- 技術者は、「銃」を誕生させた事で、
毎日後悔の渦に巻き込まれていた為、真之介の想いにも全く耳を貸さなかった。
しかし、止まらない真之介は、実現する為に、
自分なりに毎日材料になりそうな物を集めたりして、ヒントや技術を考えてはやってくる。
元々、争いを無くし、みんなで仲良く暮らしたいという思いを共有する2人は、
日に日に心を通い合わせ、ついに協力しあうようになった
数ヶ月の後
真之介の熱意で、漸くやる気を出した天才技術者のひらめきで、
その頃価値のあった金と近くの山奥に沢山ある硬度がある物を交えて、
暗闇でも光るという、そこらの職人では模倣出来ない貨幣が出来上がる
価値によって種類を分け、その頃には面白そうだと真之介の行動に賛同しだした族達の力を借りて、
王の元に集められてなかった町の技術者を集め空き家を数軒改造し、
大量に製造する機械を作成する事に成功した。
試しにそれを、ナワバリを無視して、自分達の各街でそれを使用してみた
最初は町の人々も抵抗を示していたが、価値が決まっているし、
持ち運びも手軽なのが解ると、その便利さであっという間に広まっていく
そして貨幣の使用を広める事に尽力した族達も、なんだか面白い気持ちになっている事に気付いた
- 497 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:32
-
◇◇◇◇◇
安倍や若林も、その時協力して駆け回った事を今でも覚えている
「なんだかワクワクしたんだよな、みんなが」
なんか新しい事が始まりそうでな、今のように・・・・と安倍と若林が微笑み、皆も静かに笑みを浮かべた
◇◇◇◇◇
噂を聞きつけた王族もそれを推奨し、
やがて貨幣での商売や取引が当たり前になってくる
取引がスムーズになると、新しい道具とか新しい食べ物の作り方、
食べ方がどんどん生まれてきた。
商売の面白さを知り、欲しい物は力づくで奪うという手段を捨てて、
人間と共に暮らしていこうとする族達
町はだんだん平穏になっていく
喜ぶ矢口達やその技術者
王族は、とにかく沢山金貨を作れと命令して来たが、
真之介は、町に出回る量が多ければ価値は下がるし、少なければ争いと不便さが生まれるとそれを許さない
各集団の族達を使い、頻繁に町の中の状況を探らせ、量を見極める事に毎日を費やした
- 498 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:34
-
◇◇◇◇◇
「それと同時期あたりに、銃によって、
ただ乱暴な族に対抗する手段を持った人間が増えた・・・・主に王族だったが」
「いくら銃があっても、使う人によっては、全く俺達に歯が立たなかったし、
あまり数もなかったからまだ俺達の時代が続いたんだよな、確か」
安倍が親方に続き話しを補足
「ああ、俺達も後で知る事になるのだが、
その頃王族は着々と銃の大量生産を成功させ、生産を始めてたよ、山の奥の方でな」
若林の言葉に頷く安倍と親方
◇◇◇◇◇
その噂を聞きつけた他の国は、
銃と共にその貨幣も手に入れようと、族を使って取引を要求して来た
Eの国の王は、何故かそれを拒否し、
この国の実態を知っていた他の国は、その話を真之介他集団に持ちかける事になる
それからほどなくしてやって来た族達が、自分達のような、自由勝手に行動する族とは違い、
王族と連携した雰囲気だった為に、最初は戸惑った
確かに、族の命をおびやかす銃の存在は、
一歩間違えれば自分達の命の危機に繋がる争い事になる可能性を秘めていた
それを広める事には、多少の抵抗はあったが
貨幣の存在で、取引の楽しさや、
便利さを知った安倍や若林達のような多数の族の集団は、すぐにノリ気になる
- 499 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:37
-
◇◇◇◇◇
「自分達の街が、案外暮らしやすくなった事に自信もあったし、
どうせ他の国じゃ銃を作る技術は無いだろうと高を括ってた
他の国にしかない機械の材料や書物、報酬の為の財宝をふんだくれるし、
銃も取引の材料として利用しながら金貨の価値を高めていく事にもなるし、やってみようぜってな
まぁ、俺達も結局王族と同じ、愚かな考えの持ち主だった訳なんだが、
その頃はそれが正しいような気がしていたんだ」
恥ずかしそうな若林
取引をする際に、族達が思ったのは、まず相手に舐められてはいけないという事
そこで矢口真之介が選んだ交渉人が、自分だったと親方
その集団の中でも、一際体の大きい親方の存在は、
一目で相手をビビらせる事が出来、実際とても強い為に、その一人になるには適任ではと矢口真之介は思っていた
「お前が協力してくれる迄は、他の国とは取引しないって仲間達に言ってたよ、あいつは」
「フッ、俺は、今まで真之介達のやってる事自体に反対はしなかったが、実際協力もしてなかった
ナワバリさえ守ってくれれば、抱えてる人間や族の中から誰を利用しようと関係ないってな・・・
で、真之介がやって来て、初めて話をする事になったのだが・・・・」
と、親方は、もちろんそんな事に興味はなかったと話し続ける
◇◇◇◇◇
- 500 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:40
- 仲間と酒を飲み、乱暴な族から人間を守ってやるだけで、
日々食べる物が集まってくる生活が一番だと思っていた親方
でも毎日毎日・・・・
真之介は力を貸してくれとやって来てこう話す
「いずれ王族が銃を使って俺達を排除しようとするだろうけど、まぁそんなん関係ねぇ、
道具や卑怯な手で掴む力ってのは、必ずどこかでひずみが出る。
ただ、弱い人にはいざという時、自分や家族を守る武器が必要、強い人には優しさが必要、
それだけでどんだけ皆が心強くなり、楽しくなるか
弱くて卑怯な心に負け、無駄に力を持った人間や族は醜い、
でもあんたはそうじゃない。
そんな人に、力を持って欲しいんだ・・・・・
だから・・・・・この交渉をやってみないか・・・・俺と」
この町の人達だけでなく、どこの国の人間だって族だって、
共に楽しく生きていく為に・・・・暮らしていけるようにさ・・・・・・
だから、さぁ、勝負だ・・・・と息巻く矢口真之介
力的には圧倒的に強い自分に、何度も勝負を挑んでた男
その度にボロカスに負けては、傷だらけの顔と体で、戦った後に、
笑いながら酒を酌み交わし、また来ると去っていく男、矢口真之介
「正直、俺がお前に勝てるとは思ってない、でも諦めたくないんだ、
どうだろう、悔しいけど、お前に一太刀入れる事が出来たら俺が勝ちってのは?」
挑戦的な目でそう言って来る
- 501 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:41
- 毎回、何故か殺そうと思えないそんな男に、
親方は不思議な感覚を持ったという
その勝負の度に、親方に向かって可愛そうだなぁと、
負けたくせに幸せそうに笑う男
馬鹿にするでもなく、哀れむでも蔑むでもない矢口真之介の言葉と幸せそうな顔
「負ける事がないって事は、もう成長出来ねんだろう?俺はお前を倒す迄成長を続けるけど、
お前はただ今の力を見せびらかすだけで終わっていくんだよなぁ」
「ハッ、その前にお前が死ぬよ」
「それもそうだなっ、ははっ」
血だらけでへべれけに酔いながら、そんな失礼な言葉を言う男を、
周りの子分たちは快く思わなかったみたいだが
親方はどうにも矢口真之介が毎回羨ましく見えて仕方なかったそうだ
それも一ヶ月を超える頃
各国がしびれをきらして、力づくでEの国を奪おうと画策しているという噂が広まる
そんな中、矢口の一太刀が、初めて親方の体を傷つける事が出来た
驚く手下達、そして名物化していた為に、周りに集まっていた見物者
- 502 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:43
- もちろんその前に、親方の反撃でそれ以上の傷を作ってたのだが、
矢口真之介は天下をとったように血だらけになって喜び、
そして親方にありがとうと礼を言い続けた
「これできっと、この国だって、他の国だってもっと平和になるに違いないよ」
兵隊や、国の為って訳でもなく、ただそばにいる人達・・・・
仲間達や街の人達の為だけに戦う矢口という男に
・・・・・なんとなく初めて敗北を感じてしまったようだ
だからその後、矢口真之介と共に各国をまわった
各国の族を相手に、時に戦い、時に駆け引きを駆使し、
面白いように決まっていく交渉事と、自分達のいる国に流れ込む対価としての財宝や物資
技術者は、輸出用の金貨を日々大量に作り続け、
他の国の財宝や金等が集まりだすと、それを使って人間達が新しい便利な物を作り出す
金貨は自分達が思ったよりも便利で、そして定着していった
ただ暴れたり、力を誇示する事では決して得られない満足感が族達の集団を包む
一気に繁栄するEの国
安倍や若林等、個性豊かなEの国の集団も、国の繁栄が、
まるで自分達のおかげだと奢り高ぶっていた
国中が、まだ若い、矢口や親方、安倍、若林達を認め、新しい技術を生み繁栄を続け活気づいていく
親方も町で新しい技術を駆使し、豪華な家を立てて、仲間達としばらくは楽しく暮らした
- 503 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:46
-
◇◇◇◇◇
ゆっくりと、そこまで話し続けた三人
だから、矢口真之介との出会いが、ひとつ目の転機だったと親方
真希や中澤達も、所々知っている事の詳しい話に静かに耳を傾けていた
だが、と展開を予想させる言葉と共に三人は表情を曇らせ、そして声色を低くした
◇◇◇◇◇
そんな矢口達の成功を面白くないと思っていた王族達
本来なら自分達の自由になるはずの財宝や金、
それに金貨が、族によってコントロールされる事が面白くない
裏で大量に銃を作っていた王族は、それを取り締まろうと町に繰り出し族と争いだす
確かに自分達は調子に乗っていたのかもしれないと、親方達は振り返る
真之介と親方が最初に各国との取引の道筋を作った後は、
他の族達によって取引が続けられていたのだが
実際他の国の足元を見るような交渉になりだしており、
また新たな戦いの火種を作っていく事になっていた
- 504 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:48
- それに、もう自分達を追いかける事のないと思っていた特殊部隊の、
度重なる攻撃が始まり
銃の存在があるから、人間が族を脅かす事が出来るようになったと腹を立てた族達が、
山の中の銃の製作工場を破壊した
それだけに留まらず、その開発をした天才技術者を殺害しようとする所を、真之介達は守り
そして国家は、また技術者を操り、さらなる新しい兵器を作らせようと、
再び城に誘おうとしたのも、矢口達が必死にやめさせた
やはり人間や族という生き物は、心を失い、欲に溺れれば怖い・・・
そして醜い生き物なのかと、2人は失望の言葉を仲間達に漏らしていた
町で暮らす人間達の不安を取り除く為に始めた研究が、
まさか新たな争いを生む事になろうとは思いもしなかったようで、二人は心を痛めた
便利な道具は、使い方を間違えると悪になる
若い矢口真之介達は、まだ、人間や族の体に潜む悪に気付くことは出来ていなかった
そして毎日、銃によって沢山の仲間が死んでいく
人々の暮らしは安定しているものの
報復が報復を呼び、王族の軍も矢口達の仲間達もどんどん減っていった
長期に及ぶ、健太郎達王族の軍隊との衝突の日々
- 505 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:50
-
それからまもなくして、Jの国との戦争が始まる
族達の取引があまりに強欲で、
そこから来る不信感とによって大きくなる憎しみと・・・
そして国家の威信によって・・・・
銃と・・・・金貨・・・・
いずれもその技術者が生み出した物・・・・・
「どうしてこんな風になってしまったんだ・・・」
毎日呟いていた矢口真之介や天才技術者は、
悲しみの中、そんな争いの中に巻き込まれていく
各国が欲しがったのは、その天才技術者と技術
王族は、矢口達よりも先に彼を隠すように連れ去って行った
そして国を盗られるのが嫌なことは、王族も族達も同様
力を合わせ対抗する事になった・・・
- 506 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:56
- 落ち込む真之介を助けるかのように、戦場に出かけた親方だが
あまりに多くの命が失われていく原因が、
ただの金や、王族、各国の地位や名誉の為と知り早々に戦意を失った
始めは優勢に進めていた戦況も、Mの国が現われて一気に形成が逆転した
駆けつけたMの国の王子が、
若林達の見ていたEの国の王族とあまりに違いすぎて驚いた事が影響する
若く勇ましく、族が相手だろうと臆する事なく先頭に立つ姿、
そして王子を守ろうと、目を輝かせ戦う族の兵達の姿
"お前達は銃や金貨は争う為に広げているのか?"
そう問いかける王子や族達の勢いに完全に圧されていく
当の真之介は、迷いの戦の中で出会ったMの国の王族に魅せられてしまった
健太郎とはまた会う約束を・・・
安倍や若林達には、この国と未来を・・・そして彼を頼む・・・
そう言葉を残し去っていき、そして戦は負けた
だが、元々Mの国は助っ人としての戦の為深追いはせず
Jの国にも安倍と若林達、やはり族達の活躍によって対抗し、なんとか支配は免れたのだった
- 507 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 13:59
-
◇◇◇◇◇
「だからお前達によく言う、貨幣や新しい技術を見つける時は注意しろというのは、
こういった事を背景に言ってるんだ」
若林が中澤や真希達に語りかける
「ウチらはそんなんなりませんよ、時代もちゃうし、
そんな経験してる人達が周りにようけいてますから」
「そうですよ、なにより、親父達の苦労は見てきましたからね」
「Yの国だってもう大丈夫です、
書物だって全部お見せしてますし、争い事は避けたいと皆願ってます」
「もちろん美貴達も大丈夫です、ごっちんも王子もそうですよね」
「うん、これから頑張るもんね、紺野」
「はい」
「俺達も、もちろん大丈夫ですよ、皆さんとこれから色々議論しながら進めていきます」
若き代表者たちは力強く頷く
「な、ウチらは大丈夫ですって、だから親方、吉澤の話しはどないなってんねん」
「ああ、だから長くなるって言ったろ」
とりあえず、真之介や天才技術者、そして俺達の出会いと
金貨は危険だという事が言いたかったんだと親方は笑う
◇◇◇◇◇
- 508 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 14:01
-
そんな中、親方も自暴自棄になり戦場から離れ、
もう誰も信じないと心に決めた。
当初は全くのはぐれの族として単独行動していた。
ムシャクシャした気持ちで、出会う兵隊崩れの山賊やはぐれの族を
かたっぱしから殺してウサを晴らすかのように暴れまわる毎日
そして偶然出くわした一組の男女
しかも恐ろしく強く・・・
美しい女性と
どこかで見た事のある男
何の会話もなく、ただ敵意をむき出しに襲い来る女性
親方は一瞬にして二度目の敗北を知る事になった
親方でさえ初めて見た、獅子族という存在
初めて瀕死の状態になる迄痛めつけられ、その男女は去って行った
- 509 名前:dogsV 投稿日:2007/10/28(日) 14:03
-
圧倒的な力の差
敗北を噛み締め、真っ暗な空を見上げ死を覚悟した時
何の神様のいたずらなのか、あるはぐれの族達に助けられる
ずっと子分で、こっぴどく叱ったり、
機嫌が悪い時には当り散らしたはずの男達
「親方・・・・良かった、ずっと探してたんす、
大丈夫、俺らがついてますから」
傷の手当をして、食べ物を探してくれたり、
せっせと瀕死の自分を世話してくれた
「いつも矢口って生意気なで馬鹿な男が言ってましたよね・・・・
負ける事は成長する事が出来る事なんだって・・・・・
良かったっすね、親方はまだ成長出来ますよ」
あいつのせいで戦なんてくだらないもんに巻き込まれて、
一杯仲間が死んでしまいやしたけど・・・・
それまでは、色んな所に行って結構楽しかったですよねと笑った
その言葉に涙が出た・・・・・
本当に信頼出来る仲間の存在に、
その時の矢口の心情がようやく解った気がして・・・・
そして追いかけ始めた
助けてくれた族達と、共に旅をしながら
- 510 名前:拓 投稿日:2007/10/28(日) 14:04
- まだまだ続きますが、続きは近日中に・・・
- 511 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 23:38
- 更新ありがとうございます。
年配の登場人物の語り口はお話に厚みを増すようで好きです。
- 512 名前:拓 投稿日:2007/11/01(木) 21:39
- 511:名無し飼育さん
こちらこそ読んで下さって、そしてレス頂いてありがとうございます。
年寄りの昔話はまだ続きますので、よろしくお付き合い下さい。
- 513 名前:dogsV 投稿日:2007/11/01(木) 21:42
-
一年程、流浪の山賊として彷徨い続ける親方達
もちろん、どんな族に会おうと無敵の強さは変わらなかった
そして、ついに二人を見つける事が出来た
今親方達が暮らしているあの湖の向こう岸、
人間ではとうていたどり着く事もない山奥にひっそりと暮らしていた
しかもまだ産まれて間もない、かわいらしい男の子を連れて
意気揚々と再挑戦を挑む親方
心配そうに見守る仲間
しかし、いざ戦いが始まると、母となり、平穏な今の生活を望む女性は、
出産からか、筋力も衰え、戦闘から離れているからか動きも鈍くなっていた
それでも、普通の族にすればとても適わない、とんでもない能力ではあったのだが・・・・
親方は、あらゆる戦法と今までの自分の技を駆使し、
能力的には上の彼女の剣を持つ腕を切り落とし勝機を見出した。
- 514 名前:dogsV 投稿日:2007/11/01(木) 21:44
- だが最後のトドめの一撃を繰り出そうとした一瞬の間に、
彼女は涙していたのに気が付いた為、剣が空を切った
負けを認めたのか、ただ立ち尽くす女性
「私は殺してくれても構わない、ただこの人・・・
いや、この子だけは・・・この子だけは殺さないで」
ピンと背筋を伸ばし、胸を張って親方を見据える姿
そして・・・・美しい涙
自分が負けたと思う涙ではなく、守りたいものがあるという生への懇願
自分の欲の為でも・・・・戦いの中でのプライドでもなく
母親として・・・・女としての生への執着
そして2人の戦いを、子供を抱いて静かに見ていた男は、
彼女が死ねば自分も死ぬとばかりに、涙を流しながら自分の首にナイフを当てていた
そこに見える"愛情"という、また自分の信じていない言葉を目の当たりにし
さらに血だらけにも関わらず、やけに美しいその姿に・・・・
親方達はすっかり魅せられてしまった
- 515 名前:dogsV 投稿日:2007/11/01(木) 21:47
- その女が命を懸けて守ろうとした、どこかで見た事のある男は、
各国が喉から手が出る程欲しいと思っている貨幣の開発者、
そして今、その製造方法を知る唯一の技術者だった
女性の方は、一部の人間しか知らない、銃の製造と繁栄を妬んだ事に始まったと見られる戦が、
実は貨幣の製造技術を巡っての戦いだった事を知っていて
その彼を狙いに来ていた、Jの国の特殊部隊のさらに上、
極秘任務部隊の隊長をしていた女性だという
そんな二人は、戦の中で恋に落ち・・・・そして逃げ出した
災いの元になる手順書と、
その技法が生み出されたきっかけとなった道具と残っていた材料を持って・・・・
親方も一応、真之介とその男が貨幣を作ったのは知っていたし、
その男の存在自体がどの国にも大変危険な事位解っていた
彼が生きている事が知られれば、再び金貨という存在の為に醜い戦争が起こり、
数多くの人間や族達が、目の前で死んでいく惨状は容易に想像出来た
この世に存在するはずのない獅子族と災いの技術者・・・・
そんな二人は肩を寄せ合い、必死に愛をはぐくんでこんな山の中にひっそりと暮らしていた
小さな家の周りに沢山の畑を作って、本当にひっそりと・・・・
ここで殺すのは簡単・・・・・しかし親方達はそれを選択しなかった
- 516 名前:dogsV 投稿日:2007/11/01(木) 21:50
- それからは、その一家を守る為、家族から離れた湖のほとりに暮らしだす
元々、彼の作る金貨と、こんなに遠い場所でも、
彼女の能力によって街にも行けたり、獣を取ったり、
なにより自然との共生によって生活は出来ているようだった
親方と仲間はそれを守る為、そこら一体を広範囲でナワバリにし、
その一家に、はぐれの族や山賊、それに他の国が近づかない様、
自分が全て管理出来る様に厳しい規律の下に仲間を増やした
それがレオンの始まり
金貨造りの為の材料も、親方が山賊を使ってかき集めた
彼らが金脈や材料のありかを知っており、教えてくれたから
時には薄汚い山賊や、町から時々やってくる兵隊と衝突しながらも、
ナワバリとその災いの家族を守る為に親方は尽力した
それを知る事もなく、各国は今迄真之介や親方が取引して流通させていた貨幣を使用し、
すっかり普及させていった
だから山の中の自給自足の道具の中では、どうしても不便な事も出てきた際、
物々交換もするが、子分を使って必要な物資を買いに行かせたりする為に金貨が必要だった。
それに、たまには仲間達に酒や娯楽も必要だったから・・・・
そしてそのお金を落とす先は、Jの国ではなく、Mの国にしたと親方は少し照れた
- 517 名前:dogsV 投稿日:2007/11/01(木) 21:54
-
親方達は略奪はしない事を掟にしている
他の山賊が知れば、山賊なのにと笑われるだろう
しかし親方は仲間たちに決して略奪を許さなかった
だから技術者と女戦士を守るその代償として、山の中では何の価値もない貨幣を作成してもらい、
町に降りて何か買う際の、仲間の生活を維持する為の対価としてもらっていた。
親方も時折、街に降りていった
街の噂で、矢口真之介は、既にMの国の王に信頼され、
王族付という大層城の中で高い地位におさまったと聞いていたので、
一度は恨みかけていたものの、仲間の大切さを思い出した親方は、
悩んだあげく、漸く城へと足を運ぶ決心をした。
もちろん親方の訪問を喜ぶ真之介
Eの国がどうなっているかを気にする真之介
だが、そんな事は知らない親方
あれから国同士の交流は再び無くなるだろうから、
俺も、もう戻れないかもしれないと視線を落としていたという
- 518 名前:dogsV 投稿日:2007/11/01(木) 21:56
-
だけど後悔はしていないという
そして恥ずかしそうにMの国の王様はすごいよと語りだす
Eの国も、こんな王族のような人達によって治められ、
民が幸せに笑えるような国になってくれていたらと願うよと寂しげに笑う
「お前がすればいいじゃないか」
「俺にはそんな器はないよ、だけど諦めた訳じゃない、俺は一生この国の王子を守り続ける存在になったけど、
いつか・・・・・こんなに遠いこの街と、俺達のあの街が、
また気楽に行き来出来る日を作るんだ・・・・・お前や・・・・若林や安倍・・・・・
そして共に戦ったり笑ったりした、あいつらみんなとまた酒を飲む為にさ」
「やっぱりお前はお前でしかないんだな」
あんなに落ち込んでたのに・・・・
戦前の真之介とは別人のように生き生きとしていた
- 519 名前:dogsV 投稿日:2007/11/01(木) 21:59
- 「王子のおかげさ・・・・・俺達がやった事で、新しい争いが起きてしまったけど・・・・
俺達がやった事は間違っちゃいなかったって・・・・慰めとかじゃなく、本気でそう言ってくれた。
だって思いつきだけで、こんなにすごい事、他に誰が出来る?って大きな口を開けて笑ってくれたんだ。
争いを無くしたいという思いは、欲望という怪物に潰されたけど・・・・・
それをどうしてだ?どうすればよかった?と悩み苦しんで、
そしてまた何かを生み出すという力を持ってるうちは、お前にもまだ何か出来る事があるはずだ、
落ち込んでる場合じゃないだろって言ってくれた・・・・・な、あの国の王族と全然違うだろ」
それに王様もすげ〜人なんだぜと言う真之介に少し圧倒されながら
「・・・・・・ああ、えらい違いだな」
思わず呟くと
「だろ、俺はあの人の為に命を懸ける・・・・・あの人と一緒に・・・・
人間と族も・・・・ただの農民も商人も・・・・・そして兵隊や山賊も、
みなが笑って暮らせるような国を作る為にさ」
久しぶりに会ったあいつの顔は、バカみたいに輝いてた
それが少し悔しい親方は
「それはまた無謀な夢を」
皮肉を込めてそう言う
- 520 名前:dogsV 投稿日:2007/11/01(木) 22:02
-
だけど
「いいんだ、俺はまた負けたけど・・・・」
親方に向かって不適な笑みを浮かべ
そこで視線を合わせる
「「それは成長出来るって事だから」」
「「・・・・・・・」」
2人はその後大声で笑いあう
やはり俺達は仲間だという思いを、お互い噛み締めながら・・・・
真之介にも、バカな俺を支えてくれる人がいて、
子供も出来たんだと教えてくれた。
俺達は、今生きている
親方は再会の日、そう感じた
だからその街に存在する矢口真之介に迷惑を掛けたくないので、
街で決して仲間達を暴れさせたりはしなかった・・・・・・・と一人照れる
その頃には、山の中でひっそりと暮らし、愛し会う二人にも、
息子の下に可愛い娘が二人、男の子もまた一人生まれていた。
- 521 名前:拓 投稿日:2007/11/01(木) 22:02
- 今日はこのへんで
- 522 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 21:50
- すっかり忘れてた種族が出てきました
物語がどう転がっていくのか楽しみです
- 523 名前:拓 投稿日:2007/11/02(金) 22:03
- 522:名無飼育さん
自分も、あまりに前に書いた事なので忘れてしまってますw
レスありがとうございました。
- 524 名前:dogsV 投稿日:2007/11/02(金) 22:04
-
一時期は平和な時が流れた
しかし
山奥に家族だけで暮らすのには、やはり限界がある
子供達の好奇心が旺盛になる頃、勝手にうろつく山中で、
女の子一人が獣に襲われて命を落とした
さらにもう一人の女の子は湖で魚を取っている時に
誤って湖に落ちて死んでしまった
悲しみにくれる一家
大自然の中で、誰とも会わない家族だけの暮らしはさすがに厳しいと感じる
族の子供なのに、能力の発揮されない上の息子に、戦い方を教えるのは母親
一応読み書きや学問を教えるのは父親
そして山での生き方を教えるのは親方
閉鎖された限られた人間関係の中での生活は、
子供たちの成長にいい事なのかと両親達は悩む
- 525 名前:dogsV 投稿日:2007/11/02(金) 22:09
- そんな心配の中、孤独な山の中の暮らしに嫌気がさしたのが、
年頃になった上の息子
いくらなんでも四人だけでの暮らしは、
年頃の少年には、とてもつまらない生活だったよう・・・・
レオンの中にも、噂で仲間に加えて欲しいとよってくる輩や、
子供が産まれ家族が増えたり、同じ年くらいの青年や子供たちも沢山いた
だからその両親は、親方に相談して、年頃になったやんちゃな息子を、
"ある山賊"の一人として遊びに行かせる事にした。
親方達の家に何週間か泊まり、また戻って何週間後にやってくる・・・・
そんな感じで行き来させてみようと・・・・
両親の心配をよそに、彼に初めて友達が出来る。
楽しかったと帰って来る息子に、両親はひとまず安心するが、
自分達の存在は隠し通したい両親は、その息子には決して居場所を教えるなといつも言い聞かせていた
だから友達に、どこら辺に暮らしているのかとか、
何人位の集団から来ているのか等、
質問をされると、息子はいつも困ってあいまいにごまかし続ける。
- 526 名前:dogsV 投稿日:2007/11/02(金) 22:13
- そして息子は、何故両親の存在を隠さないといけないのかと
不審に思う様になった。
逆に、友達の方は、他にも時々遊びに来る他の集団の子とは違った雰囲気に、
彼に興味を持ってしまった
その頃、レオンは小さな集団が数多く在籍しており、
親方以外はどんな集団がどの位いるのか知らされていない
同じレオンの仲間とはいえ、たまに親方に言われて小集団同士で交流する際、
どっちの集団が強いのかという敵対意識は多少はあった
だけど決して仲間を裏切らないという掟があったので、仲良く交流していた
だが、あまりに様子が違う、その息子の雰囲気が不思議でならない
自分達も、他の集団の所におつかいや連絡をしに行く時は、
決して一人で向かおうとは思わない
なのに、どうして彼は、一人でいつも遊びに来るのか・・・・
そしてその後、息子はつい、レオンの中の小集団から来ているのではないと口をすべらしてしまう。
- 527 名前:dogsV 投稿日:2007/11/02(金) 22:19
- だいたい息子はレオンの存在自体知らなかった。
それに親方は、やけにその子を気にかけてあげている
だからある日、ますます興味をもった仲間は、彼が帰る時に
その子の暮らしている場所を探り出そうと面白がって彼の後を付けた。
するとその息子が帰って行くのは、
親方が全集団に向かって、決して近づいてはいけないという湖の向こう岸へと歩いていく
ますます不思議がる少年達
息子は人間のようだから、ゆっくりと半日も歩いて遊びに来ていた事を知り、
友達の少年達はただ、不思議に思いながら見つからない様に後を付けていく
森の中に、迷わない様にか、所々に布が巻かれてあり、
彼が歩くからか、小さな道も出来ていた
そして、開かれた広場が突然現われた。
明らかに人の手によって作られた畑が、一面に広がっていた。
畑の中にポツンと一軒だけ立った、石と木で作られた家に入ってく彼
ついてきた少年達は、隠れながら近づこうと、
来た道から逆の切り立った山の前にある森へと、力を使って飛んで行った。
- 528 名前:dogsV 投稿日:2007/11/02(金) 22:26
- 木に覆われた、暗くて近づく気分になれないような場所
すぐそばに山肌がむき出しになっている山があり尚更不気味に見える。
だが、そんな木に覆われた場所に・・・・ひっそりと洞窟が開いている事に少年の一人が気付いた。
そこは、父親が子供にも内緒に、コソコソ金貨を作り続けている場所・・・
恐る恐る入った少年達は、そこで真新しい貨幣の山を見つけてしまう
少年達は、嬉々としてその金を盗み、
喜び勇んで街へ遊びに行こうと洞窟を出た所で母親に見つかった
母親は咄嗟に父親を呼び、力を使って彼らの行く手を阻む
その少年達にその姿は見えなかった。
恐怖からか、彼らはすぐに武器を手に取り、
いまにも攻撃をしかけようと母親を囲む
「どけよっ、死にたくないだろっ」
「・・・・・」
何も言わず片腕の母親が、小剣を腰から抜き彼らを睨む
人数の差と、母親が片腕だった事で、少年達はニヤりとする
「やめろよっ」
その騒ぎに気付いて家から出てきた父親と息子がその様子を見て、
慌てて息子が声を上げ、母を守ろうと友達に立ち向かった。
- 529 名前:dogsV 投稿日:2007/11/02(金) 22:29
- だが、その子達が族だった為、すぐに反対に息子がやられそうになってしまい、
咄嗟に母親はその若者達を殺してしまう
瞬きもし終わらない程の一瞬の出来事
息子は母親が族だという事を知らなかった。
あまりに強い母親の能力に驚く息子と、
息子の友達を殺してしまったという母親の自責の念
またも一家は悲しみに包まれた
母親と父親は、ゆっくりと全てを彼に話し、
息子に自分達を殺し、そしてその足で親方に全てを話し面倒見てもらえるように頼めと伝える
災いになるのは自分達の存在なのだから、
最愛の息子に殺してもらえるのなら本望・・・・と彼に剣を渡す
その剣も、父親が作った物
彼の作った剣は、その頃出回っていた剣の中でも、切れ味が違うと親方に言わしめた剣だった。
- 530 名前:dogsV 投稿日:2007/11/02(金) 22:33
-
戸惑う息子
息子は、父親が金貨を作れるどころか、
この世界で初めて金貨の開発者で、唯一その製造手法を知る人物なんて、
知りもしなかったのだからかなり戸惑い、驚くのも当然だった。
だが、彼は不用意な自分の言葉と行動が起こした悲劇に責任を感じていた・・・・・・
それにも増して、今まで父親の技術を教えられる事がない所か、
そんな事をしていたのも知らなかった事に深く傷つき
死んでしまった仲間達の為に、自分が金貨を作り続ける事を懇願した
それが仲間達の家族への償いだと思い込んで・・・・・
その後三人で罪を報告しようと親方の所に向かおうとした矢先、異変に気づいた親方がやって来た
- 531 名前:dogsV 投稿日:2007/11/02(金) 22:37
- 仲間を裏切り、傷つけましたと言うその母親に親方は言う
「山賊は、弱い者は死ぬ、裏切りや卑怯者は許さない・・・・それが掟」
親方がその家族を守る為に課した厳しい山の掟
「親方」
覚悟を決め、親方の前に静かに歩み寄る母親
だが
「こいつらは私欲に目がくらんだ卑怯者、お前達に何の罪もない・・・・
そんな生活が嫌なら・・・町へ戻るんだな」
それだけを言って帰ったという
その家族は、それから話し合いを繰り返し、子供の為に町に下りる決心をする。
もちろん貨幣造りは封印、手順書は親方に預ける事となったのだった。
- 532 名前:拓 投稿日:2007/11/02(金) 22:37
- 今日はここ迄
- 533 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 15:54
- 親方が、その家族の面倒を頼んだのが、再び矢口真之介だった
彼が一番心配していた技術者が生きていてくれたのが、
本当に嬉しかったようで、抱きついて喜んだ。
そして、快く世話してくれると約束してくれた真之介
王族ご用達の剣や銃の管理係りはどうだろうともちかけたが、
出来れば銃や刀剣等にはもう関わりたくないという技術者
親方の為になら作るのも苦じゃないけど、
信頼出来ない人への武器作りはまだ嫌だという技術者に、矢口真之介は微笑む
彼もまた、傷ついた心を癒している最中なのだと・・・
- 534 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 15:56
- だから、父親の明晰な頭脳と、手先の器用さに、
街の小さな縫製工場等いくつかを紹介してくれ
好きな所に行けばいいと言ってくれた。
もちろん貨幣の事は矢口真之介も内緒にしてくれるし、
たまに様子を見に行ってくれるとも約束した。
だが、年頃の長男は、兵隊になりたいと言いだし、
母親の猛烈な反対を押し切り、真之介の下で戦いの訓練に勤しむ事になった
親方も、レオンの存在の意義を無くしたが、
膨れ上がった仲間の事を見捨てる訳にもいかないし、
何より山の暮らしは気に入っていたので山に戻った。
◇◇◇◇◇
- 535 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:00
- 「それから数年は、順調に過ごしていたんだが、俺達レオンは、
あいつがいなくなって金が無くなってしまった。
だから前々から時々言い寄ってきていたJの国の闇の仕事に手を出したんだ」
「もしかしてそれって」
藤本が聞くと
「そんな頃から?」
Jの国の王子が驚く
「ああ、そこにいる王子の父親は知ってるはずだ、それに俺も今更強奪は出来ないし、
その頃は貴族派より王族派の方が目障りな役人や兵隊を殺してくれと言って来てたな」
顔を見合わせる藤本と王子
「俺は真之介のような、綺麗事が元々好きではない、
生きてるのも許せないような屑は殺すのに何の抵抗もない」
「「親方」」
悲しそうに加護と辻が親方を見る
- 536 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:03
- 「だから、俺達は街には住めない、人を殺すのに慣れすぎてるから、
ワケもない事だと引き受けたよ、欲しい物をくれるしな
まぁ・・・・後々、その事で霧丸や譲みたいな若い奴を苦しめる結果にもなるのだがな」
所詮俺達は山賊だ・・・・
弱けりゃ死ぬだけだと親方は勘太を撫でながら自嘲ぎみに笑いながらまた話しだす。
「そんなある日長男の体が変化を起こした、長男の戦闘能力が格段に上がったそうだ
Mの国の城の中で、一番の実力者である矢口真之介とその息子(矢口の父親)でさえ適わない能力
・・・・・長男は調子に乗り、暴走を始めた」
その話に差し掛かると、やはり静かに飲んでいた片桐が、その事なら知ってると話に加わりだす
「私も聞いた話でしかないのですが、一人のとんでもない青年の出現に、
城中が困惑したという話しは聞いた事があります」
「ああ、俺もまだ、時々この街に、あいつの様子を見に来てたんで、
両親からそれを聞いた時はついに来たかと心配しながら山に戻ったりしたもんだ」
そして・・・・・・その心配はあっけなく予想通りに働く・・・・
力を持つ物が囚われる、欲望という化け物は、例外なく彼を支配した。
◇◇◇◇◇
- 537 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:04
- 誰も自分に勝てないと知った長男は、
次第に兵の中で頭角を現し、力を持っていった
真之介達城の中の王族派を取り込み実権を握ろうとし、
秘密にしていた貨幣の存在を思い出し父親に製造を頼みだす
母親は腹をくくる
この子を止める事は自分しか出来ない・・・・と
自分のこの血が、悲劇ばかりを生んでしまう元凶
両親と真之介親子は、夜な夜な話し合いを繰り返す
何か方法はあるはずだと説得する真之介に
やはりこれしかないと母親は譲らなかった
矢口親子と共に、ある日一家は親方を尋ねて来たという
その下の息子・・・・青年になった彼も連れて
- 538 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:05
-
真夜中に到着する湖の畔
長年世話になった親方との再会でも長男の鼻息は納まる事がなさそうだった
数年前迄暮らしていた屋敷の近くで最後の説得が行われる事となった
そんな場でも、親方に世話になったからと、
Mの国と協力して他の国を乗っ取ろうとけしかける始末に母親はついにキレた
自分達の思うままの国を作ろう
金も人もこの世を動かす事さえも・・・・きっと思うがままになる
自分達家族の力を世界中の奴らに見せ付けてやろうと息巻く危険な息子に・・・・
母親は覚悟を決め、剣を取り出し息子に決闘を挑む
だが片腕の上にもう年をとっている母親
鼻で笑う息子
- 539 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:09
- 下手に剣を合わす音で、
耳のいいレオンの仲間達が駆けつけないようにとここまで来た。
そしてここで静かに暮らし、
少年の時に友達を無くした時のつらい記憶を思い出して欲しかったという両親の願い
しかしいざ戦いが始まると、やはり強いのは母親
血の濃さの違いからか、
真之介達には到底追いつかない息子のスピードにも対応し、片腕でちゃんとバランスを取りながら息子を追い詰めていく
元Jの国の極秘部隊隊長・・・・
孤独の美戦士というあだ名迄あったという母親の強さ
長男は改めて母親の恐ろしさを知る
というより・・・・獅子族の恐ろしさ
だが、さすがに追い詰めてからの最後の一撃の時に躊躇してしまう
犬族の矢口や父親達が、目にも見えない戦いを、
ハラハラしながら見守っている中
やはり殺す事が出来ないと一瞬静止した母親に、
息子が容赦なく剣を突き刺そうとしたその時、
見かねた親方が息子の首を飛ばした
- 540 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:11
-
ドサリと体が落ち、ごろごろと首が転がっていく
もちろん矢口達や父親には何が起きたのか全く解らなかった。
姿を現した母親は、しばらく立ち尽くし、
やがてよろよろと息子の体に近づく
首を飛ばされた体をゆっくりと抱きしめる母親
悲しみの叫びが静かな夜に響く
「昔あなたが命を懸けて守った命を、また俺が奪ってしまったな、
しかし、そいつは山を裏切った。それも山の掟・・・・・俺は裏切り者や卑怯者は許さない」
静かに親方が言うと、父親と母親はだまって頭を下げた。
そして兄弟を全て失った最後の青年は、その姿を静かに眺めていた
それをきっかけに、再び二人は山に篭り、
親方達レオンの為に剣や金貨を作り続ける事になる。
少年と青年の間に差し掛かっていた下の息子を矢口親子に託して・・・
- 541 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:14
- さすがに心配だった母親は、矢口達親子と暮らす様に頼む。
いつも彼に目が届くようにと・・・・
そしてその頃生まれた矢口(真里)の面倒をしばらく残された息子に見させた。
次男は分別のつく歳になっていた為、
矢口真之介親子はその子の運命をちゃんと教えた。
今は普通の人間だが、ふとしたきっかけで、
兄のようにとてつもない能力を開花させる事になると・・・
そしてそうなった時に、多くの人を傷つけようとしたり、
支配しようとしたら・・・死んでもらうと釘を刺した。
活発だった長男と違い、本を読むのが好きだった少しおとなしい次男は、
矢口が二歳を迎える頃、城を離れ町で働き出す
勉強が得意だったので、事務として働くという。
人柄も良く、矢口の面倒もキチンとみてくれて優しい男だったので、
心配ないだろうと矢口真之介達はそれを許した。
市場の管理を任される仕事を覚えようと必死に生きている中で、
花を仕入れに来る少女とすぐに恋に落ち、結婚した。
どうやら女の子が生まれ、幸せに暮らしていたようだが、
もうその頃になると親方はその次男の家族には近づかないでいた。
- 542 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:15
-
◇◇◇◇◇
「多分・・・・・その頃に姿を現したのが和田だよ」
片桐が親方の話しを補足する様に話し始める
「聞く所によると、Eの国を出て、しばらくはKの国に住んでいたみたいなのですが、
何故か数年前からMの国に住み着き、この国の為になりたいと城へとやって来たそうです。
真之介様と面識があるし、ぜひ、Mの国の為に城で働きたいと志願してきたんです」
「昔のよしみで、頼みを聞いてしまったんだろ、真之介は」
呆れるような口ぶりで言う親方の顔は穏やかだ。
◇◇◇◇◇
- 543 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:18
- だがその言葉通り、和田は誠心誠意、数年間は働いてくれる。
真希も生まれ、弟のユウキという国の後継者も生まれMの国は平和だった。
和田も街の族の娘と結婚し、娘が生まれる。
そんな頃、次男の体に変化が訪れる。
とうとう力が発揮され、そうなった時の知識をちゃんと学んでいた次男は、
それでも人間として振る舞い続けた。
その後何故か起こった遠くYの国との戦争や貴族派の族狩り
真之介の話しでは、突然Yの国が、手を結ぼうと使者を送ってくる。
今考えれば、和田とその弟、佐久間の陰謀の第一歩が始まっていたという事・・・
そんな事は知らないので、もちろん歓迎するMの国の王だったが、
時が経つにつれ、こちら側からとYの国側から、領土を奪い取っていかないかと言い出してきた。
その申し出を断るMの国への報復攻撃を、Yの国が仕掛けてきた。
Jの国より北の山を越えた場所での戦いは、
族の少ないYの国を圧倒した戦いを繰り広げ、有利だったのだが、
昔から深追いしないのが心情のMの国の王がそれをしなかった為に引き分けに終わった。
親方達レオンの仲間達は、その戦いを遠くから眺めていたという。
- 544 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:21
-
そしてその五年後
今度は貴族派が王の権威を脅かす存在の族を取り締まりたいと言い出す
それも今思えば和田が裏で貴族派をけしかけていたのだろうと片桐は言う。
確かに族の割合が幾分高いMの国で、
たまに街で乱暴を働く族に手を焼いていたのはたしかだったようだ。
制止する王や真之介達の言葉も聞かず、王の為にと準備は進んでいく
その頃 矢口は10歳になっていた
ついに貴族派による族狩りが始まった。
街に繰り出し、族を炙り出して殺していく貴族派に、
とうとう矢口一族は立ち上がる。
祖父・父親・そして娘が軍を引っ張る。
Jの国同様、族は王族派に固められており、
昔からの血筋で兵となっている貴族派は徐々に減っていく。
その時も傷だらけになりながら大人に混じって戦う矢口
しかしいかんせんまだ10歳
飛び交う銃弾を完全に避けきる事が出来ずに傷だらけになる。
やられそうになった矢口をかばい、祖父、真之介が命を落とす事になった。
- 545 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:21
-
◇◇◇◇◇
「でも、矢口元帥補佐・・・真里さんはYの国との戦で真之介様が死んだと思ってるはずです
自分のせいで真之介様が死んだ事での落ち込みがひどかったので、
見かねた王が、町の鳥族の長老に頼んで記憶を消してもらったようでした」
「うん、確かに矢口さんはYの国との戦いでお祖父さんが死んだって健太郎さんに言ってた気がします」
責任感の強い矢口さんは、今回のひとみの事でどうなってしまうのか・・・・と藤本
「兵の皆も、真里さんの事を心配してたので、それからはお祖父さんの事は、誰も何も言いませんでした・・・・」
片桐の言葉に続き、また親方と共に話し始める
◇◇◇◇◇
- 546 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:24
- そして、その族狩りで、運命に翻弄された山の中の二人にとって最後の息子にも、
その魔の手が襲い掛かっていた。
まだそこにいれば気づかれなかったかもしれない正体を、
怖くなって一斉に逃げ出す族の人達と一緒に逃げた事が災いした。
街の中は矢口達のおかげで貴族派が壊滅。
だが、山へと逃げた人達を追った貴族派においつくには少々時間がかかった。
武器も持たない人達は、洞窟に追い詰められ、
そして女子供関係なく全ての人が雨のように降り注ぐ銃弾に殺されてしまった。
その殺戮が行われた後、矢口(父親)達の援軍が到着し、
それを行った兵を倒した。
あまりに凄惨な、地獄絵図のような現場に気分が悪くなる人が続出し、一時退散。
そこまで語った片桐とスイッチするように、今度は親方が話し出した
- 547 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:26
- レオンの仲間が、Mの国で族狩りとかいう事が起きると教えてくれ、
親方はすぐに二人の所に向かった。
心配する両親の二人と街へと向かう道中・・・・・
多数の兵隊の死体が転がる場所があり
その洞窟を発見した。
見るに耐えない状況の中・・・・・
母親は、洞窟の中の一番手前に見慣れた背中を見つける。
愛する最後の息子の亡骸を・・・・
一度も能力を使う事なく・・・・
奥さんをかばうように抱きしめて彼は死んでいたという。
多分皆を守ろうと前に出てきたのだろう。
母親はこれで全ての子供の遺体を抱きしめ涙する事になった。
だが、不思議な事にその最後の息子の一人娘の姿がどこにも見当たらなかった。
- 548 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:27
-
◇◇◇◇◇
「まさか・・・・」
梨華が親方になきそうな顔で聞く
「ああ・・・・・その技術者の名前は吉澤・・・・・
いなくなった最後の息子の子供は・・・・ひとみ」
「やっぱり獅子族だったんだ・・・・よっちゃん」
「いつか矢口が言うとったわ・・・・・幻とされる悲劇の族・・・・
吉澤は獅子族じゃないかって・・・・」
「血は薄くなってるがな」
藤本も中澤も視線を落とす
「俺も年を取り、もうずっと昔に亡くなってしまった、
あんまり会った事のない娘の名前はなかなか思い出せなかった」
「十年も前の事だ、仕方あるまい・・・・・・それで、その吉澤という技術者は今」
- 549 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:29
- 「ああ・・・生きてる、ただ、美しい女戦士だった母親は、
その息子の死を見て以来ふさぎこみ、その後湖の遠く反対側で起きた疫病で死んでしまったよ」
「本当に・・・・悲劇の族・・・・ですね・・・・・獅子族って」
ずっと静かに聴いていた梨華は、そう言って涙を流す
「ああ・・・・・力があるからって幸せやないのはウチらかて知ってるやろ・・・・・
せやからちゃんと生きなあかんねや・・・・人間と一緒にな」
深く頷く族の人達
「ん・・・・・どうやらお前達を殺す事はしなくて良さそうだな」
漸く親方は笑顔を見せた
その後朝迄、急遽会議が行われる
- 550 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:30
-
これからの取引の際、重要になってくる貨幣の存在
確かに今流通している貨幣では数が足りず、
取引が行えないと各国が思っているだけに非常に扱いが難しい
若林や安倍達年寄りは、昔の経験をもとに色々な問題点を提起し、
それを解決する為に必死に考える代表者たち
材料の確保、ルート、製作の量、それに携る人の選定・・・・・
そして各国への配分
各国が連携し、国の状況を把握しながら、
ちゃんとそれを正確に報告しあえるか・・・・・
そして取引へうまく繋げていけるか
そして、人々や族達は・・・・欲望に打ち勝つ事が出来るか
ここにいる各国の代表といえる人に、
一人でも欲が出てしまえば、再び悲劇の争いが生まれてしまう可能性がある。
「ウチらは、ただの代表者とちゃうねんで・・・・」
「そやそや、ウチらは仲間やんっ」
「そうだよっ、親びんが色んな所で仲良くなった仲間でしょ」
中澤の両隣でずっと沈んだ顔をしてた加護と辻が涙を浮かべながらニカッと笑った。
- 551 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:31
- 「そうですよ・・・・とりあえず、よっちゃんのお祖父さんが・・・・・・
私達の話を聞いてくれるのか・・・・・話はそれからです」
「そうだな・・・・しかし・・・・あの男がまだ生きてるとは・・・・」
「確かに色男だったが・・・・まさか知らない所で獅子族の女戦士と恋に落ちるとはな」
安倍と若林の年寄りコンビが、なつかしんで視線を落とした
「それで親方、会ってくれそうなんですか、その人は」
真希が心配そうに聞くと
「どうかな・・・・・矢口の孫には会ってみたいと言っていたが・・・・・
妻が死んでからは、誰にも会いたくなさそうにしてたよ」
新聞も読ませていたんだが、
読むという事は、世間の様子に興味はあるという事だろう。
そう親方は微笑む・・・
- 552 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:34
- 「そんなに愛していたそのひとみちゃんのお婆さんを追おうとは?」
「いや、その人にあなたは生きてって言われたそうだよ・・・・
まだその孫が生きている限り・・・・と」
親方が梨華の言葉に静かに答え、皆俯いてしまった
その人の最後の望みは・・・・・
もう適わなくなったのだ
「探そうとはしなかったんですか?」
紺野が聞くと
「俺もそうしようと・・・・
手下達を使って山や街を探させようとしたんだが、その夫婦はもういいと言ってな」
「どうして」
なつみが泣きそうな声で言うと
「いずれ、力が発揮されれば、嫌でも噂は流れてくるだろう・・・・・ってな」
それに・・・・俺に、もうこれ以上迷惑は掛けたくないと、
今も毎日コツコツ金貨を作ってくれてるよと親方は俯いた。
- 553 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:36
-
「そっか・・・・・きっと会えるって信じてるんだね・・・・その人」
かおりも呟く
「・・・・・・・・ごめんなさい」
突然梨華が涙声で謝る
「何謝ってんの?梨華ちゃん」
藤本が手を握る
「多分・・・・・ひとみちゃんの記憶は・・・・私の母が・・・・」
消さなければもっと早くお祖父さんの存在を・・・・
そう呟いて梨華は俯いた
記憶は消されたのはひとみも梨華も知っていたけど、口にした事は無かった。
「バカやなぁ、よっさんの記憶が消されたから、
あんたらと元気に旅して・・・・笑えるようになっててん、それでよかったんや」
「そうだよ」
「うん・・・・・」
気を取り直したような顔で藤本と見詰め合う
- 554 名前:dogsV 投稿日:2007/11/04(日) 16:38
-
「じゃあ・・・・・・よっちゃんが死んでしまった事をもしその人が・・・・・・」
藤本が言った途端、梨華がその手を握り返し言葉を遮った。
「親方・・・・その事は言わないであげて下さい」
梨華が頭を下げる。
「ああ、言えないよ・・・・
それと、よければここにいる全員・・・・・吉澤に会ってくれ・・・・・」
それで漸く俺の肩の荷もおりる。
安堵の表情の親方には長年の苦労が垣間見えた。
- 555 名前:拓 投稿日:2007/11/04(日) 16:47
- 本日はここで・・・
後少し、このスレも容量があるのですが、
次回更新から新スレを立てさせていただこうかと思います。
このスレの後半は、本来ならカットする予定の部分で、
本当に載せてしまって良いのだろうかと悩んだ所ばっかりでした。
いつもレス頂けたり、初レスをいただける喜びに、
ついつい載せてしまい、これ迄三スレも消費してしまって申し訳ないです。
管理人様すみません。
この様なグダグダ感たっぷりな駄文ですが、次スレもよろしくお願い致します。
新スレは、この際ですので違う所、幻版へとおじゃまさせていただこうかと考えております。
もちろん完結予定です。
ここ迄の長い間、読んで下さった方々に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
- 556 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/04(日) 21:33
- いつも楽しみにしてます
ありがとう
- 557 名前:15 投稿日:2007/11/05(月) 00:03
- 更新お疲れ様です。
新スレで完結してしまうのですか…残念です。
次回も楽しみにしてます。
- 558 名前:拓 投稿日:2007/11/11(日) 16:44
- 556:名無飼育さん
いつも読んでいただいてるみたいで
ありがとうございます。
557:15さん
完結を惜しんでいただけるなんて
ありがたい事です。
さらに、皆さんの満足いく終わり方が出来るのか
非常にプレッシャーを感じております。
お二方ともレスありがとうございました。
そして、今度は幻板の方に新スレを立てました。
もしよろしければ、また遊びに来て頂きたいと思います。
続きはdogsW
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1194765594/l50
にてご覧下さい。
ほんとに、ここ迄読んでいただけた方全てにお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
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