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マジカル・ミステリー・ツアー

1 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月19日(月)19時11分56秒


世界中を巻き込み繰り広げられたあの戦争から早十年。
かつてその類稀なる能力とカリスマ性を誇った独裁者・市井紗耶香は、
その果てしなく大きな野望を、紅蓮の炎で自らの肉体ごと焼き尽くしてしまった。
世界は平和と秩序を取り戻し、急ピッチで復興が進められた。
人々の脳裏からあの忌まわしい戦争の記憶は徐々に失われていく・・・はずだった。

かつての経済大国としての姿を取り戻しつつある、日本。この国の人々は、
あの戦時中に自らの国から独裁者を生み出したことを忘れようとしていた。
いや、記憶から無理に消し去ろうとしていたのかもしれない。

ここに、一人の少女が居る。かつての独裁者・市井紗耶香に生き写しの。
戦争の副作用から産み落とされたこの少女の運命もまた、
どす黒い血で染められてしまうのだろうか・・・。
2 名前:プロローグ 投稿日:2000年06月19日(月)19時13分01秒


石川梨華。かつての独裁者・市井紗耶香に生き写しの少女の名である。
彼女は終戦当時に5歳になっていたが、市井紗耶香のことを覚えてはいない。
ただ、テレビなどで取り上げられる昔の市井紗耶香の映像を見るたび、
自らが独裁者に酷似していることを不思議に思ったりしたものだ。

彼女の両親はそのことについてあまり触れたがらなかった。
梨華が学校などでそのことを指摘されるたび、両親にそれとなく話をしてみるのだが、
両親はその話題を避け、友達付き合いや勉強の話に誤魔化されてしまう。
梨華が、市井紗耶香と自分の関係に疑問を持つまで、そう時間はかからなかった。
3 名前:プロローグ 投稿日:2000年06月19日(月)19時13分37秒


図書館で、梨華は戦争に関する記事を調べていた。
市井紗耶香の素性、TOY解放運動、大虐殺・・・。
そして、当時の写真を収めたグラフ誌を見つけた。
軍や民衆の写真に混じって、軍服姿の市井紗耶香と、
後ろにぴったりと寄り添う女が写っているものに目をやる。
キャプションは『「総統」市井紗耶香と後藤真希秘書官。』
総統府が陥落した時、中澤親衛隊長とともに3人の遺体が発見されている。

二人が寄り添う写真を見ながら、梨華は不思議な胸の高鳴りを
抑えられずにいた。
4 名前:会長 投稿日:2000年06月19日(月)21時22分43秒
なんちゃって小説スレであったかの名作の続編が本格的に始まるんスか?
楽しみです。
5 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月19日(月)22時48分30秒
また凄そうなのがはじまったなぁ・・・
やっぱり登場人物は新メンバー中心かな?
生き残ったの2人だけど片方は狂っちゃたしね。
マクドの未婚の店長登場希望!!
6 名前:Ca2plus 投稿日:2000年06月20日(火)00時46分58秒
「我が闘争」と同じく「作者っす」さんが書かれてるんでしょうか?
もし違う作者さんでも、頑張って下さい。期待してます。
7 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月20日(火)00時56分28秒
メアド欄を見てくださいっす
8 名前:プロローグ 投稿日:2000年06月20日(火)01時08分42秒


図書館で感じた胸の高鳴りは、これからの運命を暗示していたのかもしれない。
梨華が図書館の帰りに立ち寄ったマクドナルド。
少し眉の吊り上がった女の店長が、忙しく指示を出している。
列に並んだ梨華がレジの前に立つと、ちょうど店長が梨華の目の前に立ち、
注文を聞こうとする。梨華と目が合う。一瞬、その店長は絶句した。
梨華は、うんざりという表情を浮かべた。
市井紗耶香に似ているからって、何なのよ。私が何したって言うのよ。
先程感じた胸の高鳴りが嘘のように、今は鬱陶しかった。
9 名前:プロローグ 投稿日:2000年06月20日(火)01時09分14秒


ハンバーガーの袋を受け取り、足早に店を出る。苛立ち紛れに、
中からハンバーガーを一個取り出し、行儀悪くかぶりつきながら歩く。
その時ふと、紙袋の中に変わった紙切れが入っているのを見つけた。

「マジカル・ミステリー・ツアー・・・」梨華は呟いた。
『マジカル・ミステリー・ツアーへの招待状』とだけ書かれた黄色の紙。
犬のような顔の模様がうっすらと入っている。
さっきの店長に、ちょっとだけ似てる・・・。

マジカル・ミステリー・ツアーへの招待。
ここから、平凡な少女の運命は切り開かれていくことになる。
その道案内が、天使なのか悪魔なのかはまだ知る由もなかった。
10 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月20日(火)01時30分47秒
店長登場させてくれて感謝。
キーパーソンになりそうで嬉しい。でもこの時点で何歳だろう?
店長始めた時点で結構いってたはずだしなあ・・・
11 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時03分53秒


夢の中。

タンポポ畑。
風に舞うふわふわの綿毛。
怪しいおじさん・・・。

薄暗い部屋。おもちゃ箱。首輪。
薬の匂い・・・。

大きなブザーの音。銃の音。
軍服姿の女の人たち・・・。

お父さん。お母さん。そして・・・
12 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時05分01秒


「・・・気が付いた?」
女の声で、梨華は我に返った。
夢を見ていたのだろうか?

「・・・ここはどこ?」
梨華には事態がうまく飲み込めなかった。
さっきまで、自宅に帰る途中だった・・・。
ハンバーガーを食べてた・・・。
そして、あの黄色い紙切れ・・・。

気付くと、ここは薄暗い部屋、月の明りで
女の足元だけが浮かび上がっている。顔は見えない。

「まさか、あなたにまた会えるとは思わなかった」
女は、梨華の質問には答えずに続けた。
「誰?わたしは、あなたなんて知らない・・・」
13 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時06分05秒


「懐かしいわ・・・十年前、あなたはまだ小さかったから覚えていないのかもね」
女は構わず続ける。
「あの時こんなに小さかったあなたも、綺麗な女の子になったわ。
そう、まるで、私の愛したあの・・・」
女はそこで言葉を詰まらせる。

梨華には状況が全く理解できなかった。
「ねえ、そんなことはどうでもいいです。ここはどこ?
どうしてあたしはここにいるの?」

「招待状、渡さなかった?」

梨華はふと、黄色い紙切れに書いてあった文字を思い出した。
『マジカル・ミステリー・ツアー・・・』

「これから、ツアーが始まるのよ・・・本当のあなたを探す」
14 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時06分45秒


訳が分からなかった。
自分がここにいる理由も、旅に出なければならない理由も。
女の言っていることは突拍子もない。気が狂っているのか?
もしくは自分を誘拐して両親を脅迫するつもりなのか?

もう、嫌だ。帰ろう・・・。

梨華は部屋を見回し、ドアの場所を確認すると、
そちらに向けて走り出した。
ふと、体から力が抜ける。自らの体重を支えられなくなった梨華は、
だらしなくその場にへたり込んだ。

「・・・これは、運命なのよ。逃れられない」
女が笑いながら言った。

「何が運命ですのん。みーんなウチの能力やないか」
違う声。その声の主は梨華より幼げだ。
「ほんまに人遣いが荒いわー、店長」
15 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時07分34秒


「亜依」
店長と呼ばれた女は笑いながら応える。
「分かってるわよ。あんたにはいつも感謝してる」

「ほんまにですか?店長は口がウマいからなー」
亜依と呼ばれた少女も笑いかえす。

亜依はそのまま立ち上がれない梨華の傍へしゃがみこんだ。

「へー、カワイイおねえちゃんやわ。ほんまにこの人が、
あの・・・なんですか?」
「間違いないわ。この子、確かに総統の血を受け継いでいる」

総統の血?総統って、あの市井紗耶香?
ぼんやりとした梨華の頭には、あの軍服姿の写真が浮かんだ。
16 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時08分39秒


「確かに、顔はそっくりですけど、弱いですね〜。
総統閣下は幼少の頃から大人何十人を一瞬で倒せたといいますけど」
「そりゃ、普通の暮らしをしてればね。でも、もし目覚めたら
あんたなんか歯が立たないはずよ。」

目覚める?
何か眠っているの?
うっすらとした意識の中で、梨華は考える力を失おうとしていた。

亜依と店長の会話は続く。
「しかし、もしもその能力が目覚めたとして、また総統閣下のように
世界を望んだらどないします?」
「そのときは・・・」

『殺す』、といいかけて店長は言葉を飲み込んだ。甦りかけた市井紗耶香への屈折した愛。
梨華を一目見たその時から、その気持ちを抑えきれずにいた。

月明かりが不意に店長の顔を照らす。
そう、かつてのレジスタンス首領、保田圭である。
17 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時09分26秒


次に梨華が目を覚ましたとき、保田はすでに立ち去っていた。
「まいどっ。おねえちゃん、気分はどう?」
先程『亜依』と呼ばれた少女が声をかけた。
「・・・」梨華は応えない。

先程までのことが信じられない。
自分が総統の血を、市井紗耶香の血を引いている?
恐ろしい能力を隠しもっている?

「なんやなんや、狐につままれたような顔して〜。」
亜依が陽気に話しかける。
「ウチが知ってることでよかったら、何でも教えたるで」

「一体全体、何がどうなってるの?もう、わけがわかんない!」
梨華は、鬱屈した感情を爆発させる。
何も信じたくない、と顔を歪め、うっすらと涙を浮かべている。
18 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時10分36秒


「おねえちゃん、ワケ分からんやろ?そうやろなあ。ウチも、
初めて自分のことを知った時は、ほんまワケ分からんかったわ」
亜依が、まず自分の素性から話し始めた。

「ウチが、自分が人とちょっと違う、と気付いたのはちょうど2年前。
10歳の時やね。」

それまでずっと、亜依は自分を店長=保田の娘だと思っていたようだ。

「それがな、この写真を見てビビッと来てん」

そういって亜依が懐から取り出したのは、梨華が見たものと同じ、
総統・市井紗耶香と後藤真希秘書官の写真だった。
梨華と違うのは、市井ではなく後ろに寄り添う後藤真希秘書官に
何故か心を惹かれた、という点だけだった。
19 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月21日(水)23時13分43秒


そういえば、教科書に載るような写真を何故持っているのか。
疑問に思った亜依は店長=保田に何気なく訊ねた。

保田の口から出てきたのは、衝撃的な言葉だった。
まず、亜依が本当の自分の娘ではないこと。
そして2歳になるまで、秘書官・後藤真希によって育てられていたこと。
総統府の陥落寸前、レジスタンス首領であった保田に託されたのだという。

              ◇

時は十年前。
戦局はすでに大勢を決し、帝国の崩壊は時間の問題となっていた。
一時的に帝国を裏切り、レジスタンスに叛った後藤真希は、
一人の赤ん坊を連れていた。

「真希、その子は・・・」保田が訊ねると、後藤は笑いながら答えた。
「あたしの子供じゃないよ。まさかー」
「じゃ、紗耶香の・・・。」
「紗耶香様の子供でもないよ」
20 名前: 投稿日:2000年06月22日(木)01時26分10秒
面白いっス。
今後の新メンバーの絡み方に期待。
21 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月24日(土)01時28分37秒
10

「この子は、TOYにされるところだったの」
市井がTOYコレクター組織の大規模なオークションを襲撃して
救出した子供たちの中に、亜依はいたのだという。

救出された子供たちのうち、身元の分かるものは親元に返され、
分からないものは総統府付けの養育施設で育てられた。

その中に、他の子供と違う雰囲気を持った子供が二人、いたという。
そのうちの一人が、亜依である。

二人は、TOY組織の中で生まれた特別な子供だった。
そのうちの一人、亜依は生まれながらに特殊な能力を備えていた。
そのため、他の子供とは別に後藤が引き取って
特別な教育を施すことになった、というわけだ。

「そのもうひとりは・・・?」
22 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月24日(土)01時29分21秒
11

保田の問いに、後藤は口を濁した。
「もうひとりは、紗耶香様が直接育てられると仰ったわ。
何でも、帝国の跡取りにするんだとか・・・。
それ以上のことは、私にも教えて貰えなかった」

                 ◇

「それでな、後藤はんが総統府に戻った時に、店長にウチのことを託して、
それからは店長の娘として育てられた、というわけやな」
亜依はあっけらかんと言った。

梨華には俄かに信じられなかった。
戦争など、自分には関係ないTVや教科書の中の出来事だと思っていた。
それが、実際にレジスタンスとして戦争を体験したという人物や、
帝国の最高幹部に育てられたという少女が目の前にいるのである。
信じろ、というほうがおかしい。まして、自分が総統の血を引いているなどと・・・。

「その子供のうち一人が・・・あなただとして、もうひとりはどうしたの?
総統は確か焼け死んだはずよね?あたしとどう関係があるの?」
「・・・それは、ウチに聞くよりも店長に聞いたほうがええかもな。」
23 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月24日(土)01時30分17秒
12

「ともかく、続きやで。戦争が終わって、店長に育てられるように
なってからは、ウチは何か能力があるとも分からず、平凡に暮らしていた・・・
つもりやった」

しかし、目覚める兆候があったという。
ちょっと離れたものを手にとるとき、他の子供たちが手や体を
伸ばさなければならないのに、亜依はその物を手元に引き寄せることが出来た。
当然、他の子供たちには不思議がられ、仲間はずれやいじめも味わった。

「辛かったわな。どうしていじめられるんやろ、ウチはみんなと変わらんやん、
ってずっと思ってたわ。店長に、総統のことを聞くまでな」

そこへ、自分の素性を知らされることになる。自分が他の子供と違う、
という事実を当初は受け入れられなかった。

「でもな、結局しゃあないやろ?力が無くなるわけやないし。
それに、せっかくこんな力があるのやったら、使わな損やしな。
それから、トレーニングを始めたっちゅうわけや。
いろいろ覚えたで。店長が、何故か詳しかったのも助かったけど」
24 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月24日(土)01時30分49秒
13

リラックスして亜依の話を聞いていた梨華だったが、再び緊張の色を見せる。
亜依の背後に、保田の姿が見えたからだった。
「なんや、店長戻ってきてたんですか。気配を消さなくてもいいのに・・・」
「癖よ、癖。戦場の癖が抜けないの」
と言って笑うと、保田はゆっくりと梨華の傍に近寄ってきた。
梨華は眉間に皺を寄せて身構える。

「そんなに怖気づかなくてもいいのよ。獲って食ったりはしないわよ」
保田は穏やかに言った。

「ま、今はあなたの素性がどうこう言うよりも、力に目覚めてもらうほうが先ね。
亜依もすぐだったから、あなたならあっという間だと思うわ」

「・・・でも、あたし自分が他人と違うなんて、意識したことない・・・」
梨華には自覚がなかった。亜依とは違い、幼少の頃から特殊な能力があると
感じたこともない。

「じきに分かるわ。あなたが選ばれた人物であること」
25 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月25日(日)15時08分54秒
続き楽しみにしています
生き残りのもう一人は絡んでくるんでしょうか
26 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月26日(月)08時37分02秒
14

「嫌です。あたしがたとえ普通の人と違うとしても、隠して
平凡に生きていたい・・・。力?を目覚めさせたくなんかない・・・」
梨華は拒否しようとする姿勢を見せる。
「目覚めてもらわなきゃいけない理由があるのよ。このままいけば、
平穏には暮らせないからね、あなたも私も」

「もういいかげんにしてください・・・。これは夢ですよね?
この平和な世の中に、そんな馬鹿な話あるはずないもの・・・」

話を続けようとする保田を遮ると、梨華はドアに向かって歩き出した。
「ちょっと面白い夢だったわ。・・・明日も早いから、おやすみなさい」

出て行こうとする梨華を横目で見ながら、亜依が言った。
「あら〜、やっぱり信じてもらえへんな〜。また、動きを止めますか?」
亜依の問いに、保田は冷静に答えた。
「いえ、家まで尾行しましょ。嫌な予感がするの」
27 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月26日(月)08時37分40秒
15

梨華が家に着く頃には月は雲に隠れ、
辺りは無気味な静けさに包まれていた。
『夢の中とはいえ、気持ち悪』
両親はすでに寝静まっているはずの時間だが、
家の中はまだ灯りが点いている。

ただいま、と言いかけて家に入ろうとしたその時、
家の中から奇妙な声が聞こえてきた。
お父さん?お母さん?いや、違う!

胸騒ぎを覚えた梨華は慌てて家に入った。
しかし、時すでに遅し。
梨華はもっとも見たくないものを目にすることになる。
無残な姿にされた両親の姿である。
28 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月26日(月)08時38分22秒
16

梨華の両親は直立不動のまま身体運動を停止していた。
正確に言うと、琥珀のようなもので瞬間的に封じ込められていた。
まるで、ジュラシックパークの昆虫のように・・・。
驚きと絶望で我を見失う梨華。
さらに絶望的な状況が、彼女を襲った。

「おやおや・・・お帰りですか?総統閣下」
誰もいなかったはずの背後から男の声が聞こえる。総統閣下?
「随分と遅いお帰りで・・・悪いお子様ですなあ」

「・・・誰?」恐怖のあまり振り向くことが出来ない。

「あなたを、殺しに来た者ですよ」
男は冷静に言ってのけると、梨華の前方に回った。
ひるむ梨華。後ずさりしていくうちに、背中が壁にぶつかる。

「つくづく運が悪い。総統の血など引いて生まれてこなければよかったものを。
恨むなら、あなたを『造った』市井総統を恨むんですな。」

男は掌を梨華の顔に向け、力を込めた。
「もうすぐ、ご両親や総統のところへ送って差し上げます」
29 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月26日(月)08時39分58秒
17

男の掌からぼんやりと黄色い光が漏れる。
その瞬間、玄関のドアがばたんと開いた。
間もなく、保田がライフルを抱えて飛び込んできた。

「くっ、邪魔はさせんぞ!」
男は先に梨華を始末しようと力を込めた。
が、それより先に男の全身に強烈な重力が係る。
「ぬおぉぉぉ!」
男も必死で堪えるが、重力に逆らえず床にめり込んでいく。

ふと玄関のほうを見ると、亜依が両手を下に向けて力を込めていた。
梨華には、亜依の背後から何か人影のようなものが湧き出し、
男に圧し掛かっているのが見える。

「ふう。何とか間に合ったみたいね」
保田は動けない男の顔に向かうと、強く睨みつけた。
「残念でした。バーイ」
そういって指をパチンと鳴らす。
その瞬間、男は事切れていた。
30 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月26日(月)08時40分34秒
18

梨華は、呆然と二人を眺めていた。
自分が助かったことだけでなく、二人の不思議な力を目の当たりにして。

保田はふと一息つくと、梨華に向き直った。
「どう?夢の気分は」
梨華は目をぱちくりさせると、自分の頬をつねってみた。
痛い。目は・・・醒めない。夢じゃない。夢であって欲しい・・・。

夢ではないことが分かると、途端に悲しみがこみ上げてくる。
氷漬けにされた両親。
「お父さん・・・お母さん・・・嘘・・・」
泣きじゃくる梨華。
保田は彼女の肩を抱くと、優しく言った。

「大丈夫。あなた次第で、まだ助かる」
31 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月26日(月)08時41分29秒
19

「本当?」梨華は乱暴に保田の胸倉を掴み、前後に揺する。
「本当なの?助けて!今すぐ助けてよ!!」
怒りと哀しみ、興奮が最高潮に達した梨華の体に、変化が訪れた。
突然保田の体が宙に浮き、高く持ち上げられた格好になった。
「ぐ、ぐるじい・・・・・・」保田にも抵抗することが出来ない。
「マズッ!!店長死んでまうわ」
亜依は梨華の背後に回り、梨華を押さえつける。
「おねえちゃん、落ち着いて!!助かるもんも助からんようなるで、オイ!!」
しばらく揉みあった末、保田は真下にどさっと落とされた。
「・・・イテテテ・・・しかし、こんなに早く・・・」

梨華は呆然と自分の掌を見つめている。
「・・・今の・・・何?」
亜依が口を挟む。
「おねえちゃん、やっぱ素質あるわ。
ウチが1年かかったとこ、1日でできるようになってんから」
32 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月26日(月)08時42分03秒
20

しばらくして、落ち着いた保田が立ち上がった。
「・・・痛た〜。しかし、思い切りやってくれたもんだわ・・・
とりあえず、ここにいるのは危ないから、場所を変えましょ。
ご両親を安全な場所に匿わないといけないし。亜依?」
「はいはい、分かってます分かってます」

亜依は先程とは逆に、両手を上に掲げる。
ちょうど、物を持ち上げるような姿勢である。
すると、再び亜依の体から人影のようなものが浮き上がり、
梨華の両親を持ち上げる。

再び、先程の薄暗い部屋。
亜依が梨華の両親を運び入れる。
落ち着いたところで、保田が説明を始めた。
33 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月26日(月)08時42分40秒
21

「とりあえず、私たちが狙われてるのは分かったでしょ?
それは、あなたや亜依が帝国と関係があり、
特殊な能力を持っているから、というのがひとつの理由。
そして、総統の血や、特殊な能力を邪魔に思う人間がいると言うこと。」
「・・・誰か、総統に恨みがあって・・・」
「いえ、逆ね。復讐を恐れているというか。
私たちが敵味方に分かれて戦ったとき、両方に武器を流して
殺し合わせて、一人だけ大儲けした男がいるのよ。その男は
戦後ものうのうと生き残り、表では世界経済のトップとして振舞ってる。
しかし、実は裏社会のボスとして君臨しているのよ。」

つんく。その名を口にした保田の表情はどこか強張っていた。

「帝国が滅びた時、彼は武器の供給を全て絶ったのよ。
もし紗耶香の後継ぎがいれば、自分の命を狙ってくると思うでしょうね。
だから、戦後、自分の過去に関わる人物を彼は次々と消していったのよ」
34 名前: 投稿日:2000年06月27日(火)01時32分44秒
いやー面白い。
今後の展開期待してます。
35 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)12時43分09秒
期待大。
36 名前:第一章 −覚醒− 投稿日:2000年06月27日(火)15時58分31秒
22

「それで・・・お父さんとお母さんを・・・許せない」
拳を握り締め、梨華は単純に怒りを露わにした。
再び、梨華の体から人影のようなものが浮かび上がった。

「おっと、あんまり興奮しないで。まだあなた、
うまく自分をコントロールできないみたいだから」
保田が釘を差す。

「つんくには、権力はあるけど戦闘能力はない。彼を補佐する人間がいて、
そいつも能力者なの。詳しいことは分からないんだけど、そいつが
たくさんの能力者を『造り出した』みたい。さっきの男もその一人ね。
で、お父さんとお母さんを助けるには、その元締めを倒さないと駄目なの」

保田の言葉を聴くか聴かないかの内に、梨華は立ち上がって叫ぶ。
「早く!そいつやっつけに行きましょ!」
「馬鹿。今行ったって勝てるわけないじゃない。
だから、あなたに目覚めてもらわなきゃならない、ってわけ。
死ぬかもしれない。でも、それぐらいやらないと助けられないわよ。
どうする?」

梨華は、コクリと頷いた。
「・・・何でもする。お父さんとお母さんを助けるためなら」
ここから、梨華の『マジカル・ミステリー・ツアー』が始まるのである。

(第一章終わり、第二章に続く)
37 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)16時05分20秒
一応説明と言うか釈明を・・・
モチーフは言うまでもなく我が闘争です。(作者っすさん、すいません)
なんちゃって小説スレッドや2編ちゃんにあった続・我が闘争のさわりを
読んでて続きがこうならいいな、という妄想にかられまして。
他にキャラとして、黒魔術の石川、保田石川師弟ネタ、いしかご萌えあたりを
取り込んでいくつもりです。

よろしくお付き合いのほど・・・
38 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)16時31分29秒
体からでる人影…スタンド?
39 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)16時36分59秒
ぎくっ・・・
40 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)16時49分23秒
そうか、第三部も入ってんのか・・・
続き、楽しみにしています
41 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)21時02分30秒
おもしろいっす。
加護がよくしゃべるのがいいです。
作者さん、がんばってください。
42 名前:HN未定 投稿日:2000年07月02日(日)22時55分55秒
続き期待しています・・・。
43 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月03日(月)11時24分25秒
頑張れ、石川。
44 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月07日(金)01時42分06秒
違うとこに書いてるの?続き早く読みたい。
45 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月12日(水)02時17分54秒
続きまだ?
46 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月19日(水)03時36分38秒
あう・・・
煮詰まってます・・・
もうちょっと待って・・・
47 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月19日(水)04時01分32秒
>>46
待ってます。がんばってね!
48 名前:>46 投稿日:2000年07月20日(木)02時47分13秒
楽しみにしてるんで、
じっくり推敲して作ってください♪
49 名前:トリプルセブン 投稿日:2000年07月27日(木)01時15分16秒
これ面白い!
しかも石川!
がんばれー!
50 名前:第二章 −三人目− 投稿日:2000年07月27日(木)03時47分40秒


保田、梨華、亜依が消息を絶ってから約2ヶ月。
つんくの追っ手が必死で追跡するも、見つけることが出来ない。
その間、梨華の『能力』はなかなかレベルアップしていた。
しかし、保田はこう指摘する。
「梨華はねえ、素質は凄いんだけどムラがあるわよねえ。怒ったら
手がつけられないけど、ボケーっとしてたら全然力を出さないんだもん」

梨華が不意に保田に訊ねた。
「あの、保田さん?人影みたいなの、出るじゃないですか、あたしと亜依ちゃん。
あれ、何なんですかねえ・・・。能力だってことはわかるんですけど・・・」
保田はふと笑って応えた。
「昔々、私や紗耶香が敵味方に分かれる前、みんなおんなじグループで
アイドルやってた、って話はしたわよね。亜依の中から見える人影はねえ、
その中の『なっち』って子にそっくりなのよ。
あ、梨華の中の人はまだ顔が見えないけど・・・。」

写真でしか見たことがない安倍元帥。
直接は知らない人が自分たちを守ってくれているようで、不思議だった。
51 名前:第二章 −三人目− 投稿日:2000年07月27日(木)03時48分28秒


保田たち一行は北へ向かっていた。
「あの頃の生き残りって、私を含めて3人しかいないのよね。
・・・ただ、会ってどうなるかはわからないけど」
その人物はかつて不敗神話を持つ将軍として知られていたが、
終戦後は重度の精神障害と記憶喪失に苦しんでいた。

三人はその人物の住んでいる場所に辿り着いた。
とりあえず、調べてある住所へ向かい歩いていると、
川べりを散歩する背の高い女性を見つけることができた。
隣には小柄な少女がトコトコとついて歩いている。
三人はそっと後をつけた。

女性と少女は川べりに腰をおろした。
辺り一面はたんぽぽの黄色と白で埋め尽くされている。
保田は、梨華と亜依に合図を出して、二人に近づこうとする。
しかし、突然梨華の様子がおかしくなった。

「・・・頭が・・・ぐらぐらする・・・」
「梨華ちゃん?どないしたん?」亜依が気遣って声をかける。
「何でだろ・・・頭の中が、たんぽぽの綿毛でいっぱいになったみたい・・・」
保田も梨華の様子を見て、この場をあきらめることにした。
52 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月27日(木)04時39分13秒
おおっ!めちゃ久しぶりに再開ですね。
期待してます。
53 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月28日(金)02時59分36秒
やったー! 連載再開だー!
54 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月28日(金)15時12分03秒
復活おめでとうあげ
55 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月29日(土)04時23分45秒
亡くなった人が守ってる・・・
ブラックエンジェルズみたいっすね。
(ふるすぎー)
56 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月29日(土)18時37分55秒
雪藤「地獄へおちろ!」
57 名前:第二章 −三人目− 投稿日:2000年07月31日(月)04時52分29秒


保田はまだ調子の悪い梨華と亜依をホテルに置き、一人で外に出た。
「ま、亜依なら何とかできるでしょ。私のことは心配しなくても大丈夫」
「店長のことなんか、最初から心配なんかしませんよ」
亜依がおどけると保田は苦笑いを浮かべながら部屋を後にする。

とあるスナック。
散歩を終えた女性と少女が戻ってくる。
「お母さん、ただいま。」
少女は中にいた母親に向かって元気に声をかける。
「お帰り。今日もたんぽぽ畑に行ってきたの?ののちゃん」
「うん、かおりさんといっしょに、いっぱいお花を摘んできたよ」
母親はにっこり笑うと女性のほうに向き直った。
「圭織、いつもありがとね。」
圭織と呼ばれた女性は微笑むだけだった。
58 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月05日(土)03時41分29秒
早く続き読みたいです。
59 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月07日(月)22時15分40秒
首を長〜くして続きを待ってます。
60 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月21日(月)01時51分47秒
続き待ってます。
61 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月27日(日)14時04分35秒
作者はどこへ行っちゃったのかな? もう1か月近くも更新がないね。
止めるんなら止めるって言ってくんないかな?
これでも更新を楽しみに、毎日チェックしてるんだけどね。
62 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月28日(月)02時54分58秒
同上。
63 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月31日(木)02時48分45秒
61に同意
あの名作(だよね?一応)「我が闘争」の続編で始めたのに、途中で放り投げるのは
「我が闘争」に対しても失礼だよ。
「もう少し待て」でも「もうやめます」でもいいから、作者は何か書き込むべきだよ。

64 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月31日(木)03時39分22秒
気長に待って
終わらせないわけじゃない

あせりすぎだよ
65 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月05日(火)02時21分44秒
age
66 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月23日(土)00時32分24秒

そのやり取りを密かに覗いていた保田は、一つの確信を抱いた。
また、三人の何も知らない女たちに、荒波が襲おうとしている事も。
しかし、保田にはどうする事も出来なかった。彼女らの平穏な暮らしを
破ろうとしているかつての師は、彼女らにも容赦の無い魔の手を伸ばしていた。

翌日。まだ具合の悪い梨華をホテルに残し、保田と亜依は再び河原に向かった。
ほぼ同じ時刻に、圭織と希美はやってきた。仲良さげに手を繋ぎ、時折笑いながら。
かつての仲間時代にも、保田は圭織のこのような笑顔を見た事が無かった。

圭織は河原に腰を下ろし、思うままに遊ぶ希美の姿を眺めていた。
春の河原、希美が遊ぶたびにたんぽぽの綿毛がふわふわと風に舞う。
その光景は、圭織の心に何かを甦がえらせそうで、何故か切ない。

そこに、希美とほぼ同じ背格好の少女が近づく。
最初は緊張の色を見せた希美も、次第に打ちとけ、少女と仲良く遊んでいった。
圭織は、どこかに見た光景を思い出していた。
たんぽぽ畑の中でたたずむ、仲の良い三人。
ふと気が付くと、圭織の隣には女が座っていた。
67 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月23日(土)01時56分51秒
執筆再開?
楽しみにしてます。
68 名前:RA-MK 投稿日:2000年09月23日(土)02時33分08秒
再開ですか?
ずっと待ってたよ!
69 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月28日(木)04時13分47秒


「カオリ、どこかであなたに逢った事があるような気がする。
いつのことだったかは、はっきり思い出せないけど。」
隣に音も無く座っていた保田は応えなかった。
「でもね、なんとなく懐かしいの。苦しくない、辛くない、
楽しかった思い出・・・。いつか思い出せるかもしれないと思って、
この河原に毎日来るのよ。ここに来るたびに、いつも涙が出るの・・・」

圭織はさめざめと涙を流していた。
保田は立ちあがると、静かに圭織へと向き直った。
「圭織・・・。またいつか逢えるよね」
そう言うと、希美と遊んでいた亜依を促して、静かにその場を後にした。
70 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月28日(木)04時14分24秒


ホテルに着いてから、亜依は先程の無邪気さとは別人のように語り出した。
「いや〜、可愛い顔してあの嬢ちゃんめっちゃすごい能力やで。ビンビン来たわ。
しっかし、どうしてあんな普通の子が、あんなパワーを持ってんのやろうな。
うちや梨華ちゃんなら・・・」
「コラっ!!いいかげんにしなさい!!」
保田にたしなめられて、亜依は慌てて口をつぐんだ。

「ところで、何人くらい潜んでた?それくらい数えてたでしょ」
「もちろんですよ。えっと、川べりに二人、お姉さんの周りに三人かな?
でも、どれも大して強い奴じゃなさそうですわ。」
保田はふと考え込みながらつぶやいた。
「ふーむ、ということは彩っぺのところにも二人以上居るわね。」
しばらく思案を続け、保田は決断した様子で二人に向き直った。
「私はスナックに向かうわ。亜依は梨華ちゃんと河原へ行って。
そろそろ、やつらも動き出しそうだからね。」
71 名前:名無しさん 投稿日:2000年09月28日(木)04時25分20秒


次の日。春とはいえ、北国はまだまだ寒い。
肌寒さを感じながら、保田と亜依・梨華はホテルを後にした。
「亜依、いい?くれぐれも油断しないで。まだ梨華ちゃんは戦い慣れてないんだし」
保田に釘を刺されると、亜依は頬を膨らませて応えた。
「それくらい、分かってますがな。」

いつもの河原。圭織はいつものように希美を連れて遊びながら、
曇り空のどんよりとした雰囲気もあいまって、
いつもとは明らかに違う不快感を味わっていた。
「いつもの河原なのに、気持ち悪い・・・。」
こんな日には楽しい思い出ではなく、辛い記憶が甦ってきそうだ。
そんな直感が知らず知らず、圭織に不快を感じさせていたのである。
しかし、希美を連れている手前、自分だけ引き返すわけにはいかなかった。

悪寒が次第に高まっていく。圭織の中で悪寒が頂点に達したとき、
希美の金切り声が響いた。
「いやああああ!!か、かおりさん・・・・。」
希美は見知らぬ男数人に取り囲まれていた。
慌てて立ち上がった圭織の目の前にも、突然男が現れた。
72 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月03日(火)05時46分46秒


無言で武器を構える男達に、圭織は全ての終わりを覚悟した。
むしろ、早く終わらせて欲しい、とさえ思った。
平穏に暮らしているつもりでも、どこか残っていた過去への悔恨。
思い出したくない記憶が自らを苦しめるのなら、誰かの手で断ち切って欲しかった。

『希美・・・ごめんね・・・』

圭織の目の前に、たんぽぽの綿毛がふわりと舞った。
激しく飛び散る綿毛は全てを覆い尽くすかのように風に吹かれていた。
圭織の中で、綿毛の、いや全てのものの動きがスロウになっていく・・・。

一瞬で、圭織の周りの男達は薙ぎ倒されていた。
「間に合った、みたいやな。」
亜依と梨華だった。
73 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月07日(土)02時09分14秒
頑張って下さい。
74 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月07日(土)23時11分34秒
はじめて見たけど、すげー面白い。
作者さん頑張ってください。
75 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月09日(月)03時43分01秒


『なっち?なっちなの?』
圭織には、亜依の後ろにはっきりと安倍の姿を確認することが出来た。
圭織の瞳から一筋、涙が零れ落ちた。

                     ◇

スナックにも案の定3人の刺客がいたが、保田にとっては大した敵ではなかった。
二人を難なく片付けたが、追い詰められたもう一人がスナックの中の彩に襲い掛かる。
保田は彩の前に姿を見せたくなかったが、こうなっては仕方ない。
刺客は、彩に踊りかかろうとしてその活動を永遠に停止した。

「彩っぺ・・・。」
保田はバツ悪そうに向き直った。
「圭ちゃん?圭ちゃんなの?」
彩はそれが保田である、とわかると、すばやく自分と圭織・希美の危険を察知したようだ。
「圭織が、圭織が危ない・・・。」
「大丈夫、もう二人、行かせてるから」
「そうじゃないの!!秘密が・・・圭織の・・・」
76 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)05時12分25秒
10

保田は、一人圭織の元へと向かった。
「間に合えば、いいけど・・・」
彩から聞いた『秘密』は、それほど大きく、辛いものであった。

                     ◇

圭織は何かを思い出そうとしていた。
楽しかったこと。苦しかったこと。大切な人。いとおしいもの。
亜依の後ろにいる「なっち」を感じながら、
精神の奥底に閉じ込めていた、記憶が蠢きはじめていた。

「梨華ちゃんは、あのおねえさんを何とかしてや。
ウチは嬢ちゃんを助けるから」
「うん・・・。」

正直、梨華はまた気分が悪かった。
たんぽぽ。何かが頭の中に呼びかけてくる。
それでも、梨華は何とか身体を動かし、圭織の元へ近づいた。
圭織は、梨華の顔を確認すると、ポツリと呟いた。
「・・・紗耶香」
77 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)05時12分57秒
11

『紗耶香・・・?・・・総統の名前・・・
この人も、あたしを市井紗耶香だと思ってる』
慣れてきてはいたが、やはり気分がいいものではない。
しかし、圭織の様子はそれ以上におかしかった。
「紗耶香・・・私の希美はどこ?」
「希美?・・・あの女の子のこと?それなら、亜依ちゃんが・・・」

亜依は簡単に3人の男達を倒していた。
「ののちゃん、もうだいじょうぶやで」
「・・・ありがとう・・・」
自分に起こったことがまだわからない様子で、希美はもじもじしていた。

突然、圭織が立ち上がり、希美に向かって駆け出した。
「希美・・・。よかった・・・。」
希美のほうも、圭織の無事が確認できて多少落ち着きを取り戻したようだった。
しかし・・・。
78 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)05時14分05秒
12

亜依が最初に倒した男のうち一人がまた息を吹き返し、
走る圭織めがけて拳を突き出した。
この男も『能力者』であった。それほど力はなかったが・・・。
しかし、男がその生命の終わりに繰り出した能力は、
圭織の動きを止めるのには十分だった。
梨華がそれに気づいたときにはもう手遅れだった。

梨華の能力により男が活動を止めるとともに、
圭織もその場に止まり、力なく崩れ落ちた。

「かおりさん!!」
異変に気づいた希美は圭織の元に駆けよる。
圭織は目を見開いたまま意識を失っていた。
泣きじゃくる希美に、梨華も亜依も言葉を失った。

「遅かった、か・・・。」
保田が到着したのはこのときであった。
79 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)05時15分56秒
13

──────保田らは、スナックに圭織を抱えて戻った。
泣き疲れた希美が眠るのを待って、彩は皆に語り始めた。
「圭織を引き取ったとき、あのコ妊娠してたのよ。」

                     ◇

戦争が終わって、圭織が戦争犯罪人として裁かれるのには数年を要した。
しかもA級戦犯であり、特殊な独房で24時間体制で警備されていたし、
まして帝国の大将軍である、誰かが近づくということも考えられなかった。
妊娠している、という状態は不自然すぎた。

「思えば、こうなることはあのときから分かっていたのかもね。
どう考えてもおかしかったもの。圭織に子供がいるなんて」

そのときには、圭織にはかろうじてアイドル時代までの記憶があった。
相当歪んだ形ではあったが・・・。
彩に引き取られてからも、楽しかった記憶の中に生きようとしていた。
そして、彩だけに見守られて、子供を産んだのである。
それが、希美だった。
80 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)05時16分57秒
14

彩は、希美の将来を考え、自らの子供として育てることにした。
幸い、子供を産んで以降、圭織の精神状態は少しずつ落ち着いていった。
記憶と引き換えに。忌まわしい記憶を自ら心の奥底に
沈めてしまうことで圭織は、平穏な暮らしを手に入れたのだった。

圭織は希美を産んだことも忘れてしまっていた。
希美のことを、彩の娘で自分によくなついているいい子だと思っていた。
希美のほうも、圭織を優しいおねえさんだと信じて育った。
だからこそ、本当のことを話すわけにはいかなかった。

しかし、希美は成長するにつれて普通の子とは違う側面を見せるようになった。
希美には、何かが見える、というのである。そのことで学校でもいじめられ、
現在では登校せずに圭織と過ごしているほうが多くなっていた。

                     ◇
81 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)06時05分20秒
15

「処女懐胎、か・・・」
あらかた話を聞き終えた保田は大きく息を吐いた。
確かに自分や梨華、亜依らの能力についても異常を感じることがあった。
しかし、この現象はあまりにも常軌を逸しすぎていた。

『圭織を、聖母マリアにでもする気だったのかしら。
馬鹿げてる。紗耶香?それとも真希?』
保田は、すでにいない二人に対する恨みがましい視線を、
思わず梨華と亜依に向けた。二人はその視線に驚き、顔をそむけた。
『この子たちに当たってもしょうがないのよね・・・』
と反省しながら、圭織のほうへ振り返った。

圭織は、まるで二度と目を醒まさないかのようだ。
全てのしがらみを捨てて。実際、そうだろう。
もう思い出さなくてもいい、永久に。
『能力者』によって受けた傷は、やはり“元締め”を倒すまで
回復することは出来ないのであった。
82 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)06時05分50秒
16

ふと、希美が目を覚ました。
彩も保田も、希美に聞かれまいと話をやめた。

「圭織さん、もう起きないの?」
彩がそっと希美を抱きしめながら諭すように言った。
「・・・圭織はね、寝てるんだよ。気がすむまで」

「嘘!」
希美が急にすごい剣幕になった。
「だって、あたし見えるもん!!
圭織さんを眠らせてるおじさんがいるんだもん!!」

保田と梨華、亜依は顔を見合わせた。
希美には、“元締め”の存在がイメージとして見えるようだった。
『この子、もしかしたら・・・』
希美は昨日の夢を話すように、彩に必死に訴えていた。
83 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)06時06分37秒
17

彩が何も言ってくれないとわかると、
希美は保田や梨華・亜依に取りすがって泣いた。
「ねえ、圭織さんを助けられるでしょ?お願い!!」
保田が口を開こうとしたそのとき、希美を堅く抱きしめたのは梨華だった。

「希美ちゃん?あたしもね、お父さんとお母さんを
助けるために旅をしているんだよ」
「ほんと?」
保田が口をはさんだ。
「そうよ。そして、あんたのいってた“おじさん”をやっつければ、
梨華の両親も、圭織も元に戻るわ。」
笑顔になりそうになった希美に、保田はもっと冷たい口調で言った。

「本気で助けに行きたいのなら、連れて行ってあげてもいいわよ。
圭織を助けるどころか、私達全員生きて帰れないかもしれないけどね。
それでもいいの?」

希美は、強く頷いた。
84 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)06時07分40秒
18

翌朝。彩を一人残すのは心配だったが、戦闘の経験のない
彩を連れて行くわけにもいかなかった。
それに、圭織を安全な場所にかくまう必要もあった。

「ののちゃん、気をつけてね。」
「うん、お母さん。圭織さんを・・・」
そこまで言ったところで、彩は希美を抱きしめた。
実の娘として育ててきた娘の旅立ち。
旅を進めるごとに、自分や圭織の素性も知るかもしれない。
それでもよかった。
しかし、母親としての思いが涙になってあふれてくるのを、
彩は止めることが出来なかった。

「行ってきます」
そういって背中を向いた希美の姿は、
昨日より少しだけ大きくなったように見えた。

(第二章終わり、第三章に続く)
85 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月11日(水)06時33分25秒
あげときます
次回更新は未定です
86 名前:名無しさん 投稿日:2000年10月12日(木)03時29分23秒
更新ご苦労様です。
次回更新気長に待ってます。
87 名前:名無しさん 投稿日:2001年04月07日(土)03時04分31秒
次回更新期待しとります

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