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「見つめていたい」

1 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)06時37分51秒
私は雨の降る中、傘も差さずに雑踏を駆けていた。
「久し振りに会えるんだ」、只その一心で。
久々に貰った電話のせいで私は矢も楯もたまらず、レコーディングスタジオを飛び出して来た筈だったのだ。

そう、その筈だったのに…
2 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)06時48分32秒
「あれぇ…」
気がついたら私は薄暗い部屋にひとり、立っていた。
何となく薬の臭いがする。

(私…何でこんな所にいるんだろ。それにここは…?)
「あ、そうだよ、私行かなきゃ…」

私はあの人の事を思いだした。そうだ、あの人との約束…
何でこんな所にいるかなんてどうでもいい。

「行かなきゃ…」

一人つぶやき、開いたままのドアをくぐる。
薄暗かったあの部屋と違い、ぱっと視界が開けた。
まず目に入ったのは忙しそうに動き回る看護婦、医師達…

「ここ…病院…?」

私はまだ頭の中がぼうっとしたままだった。
3 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)07時01分48秒
周りを見渡すにつけ、ここが病院だと解ってきた。

(ああ、結構興奮しちゃってたからな〜、血が昇り過ぎて倒れちゃったとか…バッカだな〜私)

(出て行くにしても取り敢えずお医者さんに挨拶はしておくべきかな)
「すいませ〜ん」

私は近くを歩いていた医師に声を掛けたが、私に気付かず通り過ぎていく。

「あ…行っちゃった。まあ忙しいからね〜」と呑気に見送る。

すると廊下の向うで聞き覚えのある声が響いてきた。

「先生、あの子は、あの子の容体はどうなんですか!?」

やば、裕ちゃんだよ。マネージャーも一緒だ。私がここにいる事を聞いて連れ戻しに来たのかなぁ?
まだレコーディングの途中だったしね〜、また怒られちゃうなあ…
仕方ない、今日はあきらめるか…

4 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)07時13分44秒
「裕ちゃん」
声を掛けるが気付いた様子は無い。あれ?
「裕ちゃ〜ん!」
さっきより大きな声で呼んだが反応無し。

(そりゃ悪いのはコッチだけど、無視って大人気無いよ〜?)

少しふくれていると、中澤は医師に促されてこちらに歩いてきた。
「ゴメンなさい、中澤さ…(ペコリ)」
私は一応丁寧に謝ってなんとかお怒りを鎮めてもらおうと思った。
しかし裕ちゃんは無視して頭を下げた私の横を通り過ぎる。

「ちょっと、裕ちゃんってば」

医師・裕ちゃん・マネージャーはつかつかと、歩いていく。
私は不思議に思いながらも後に続いていった。

「こちらです」

医師が歩みを止めたのは私がさっきまでいた部屋の前だった。
5 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)07時29分03秒
部屋に入ると、さっきまいた時には気付かなかったが、ベッドに「誰か」が横たわっている。
ぱっと見、私と同年代位だろうか。体中の包帯が痛々しい。


「誰…なんですか?」

私はおそるおそるマネージャーに尋ねてみるが裕ちゃんと同じく反応無し。

(何だよもう)

そこに医師の静かで、また無念そうな声が響いた。

「私共も手を尽くしたのですが…」

中澤はその場で泣き崩れ、マネージャーも肩を落とし、拳で壁を殴り付けた。
ベッドにすがりつき、すでに冷たくなっている「誰かの手」を握り、中澤はその「誰かの名前」を泣き叫んだ。

………私の名前だった。
6 名前:とりあえずここまで。 投稿日:2000年06月21日(水)07時38分35秒
作者です。
みなさんの力作に触発されて初めて小説、書いてみました。
とりあえず意味深な引きで第1幕終わり。

さて、この「私」とは誰なのか?
また、この「私」が会いに行こうとしてたのは誰なのか?
謎が謎を呼ぶ第2幕はまた、今夜にでも出来たらアップするつもりです。

御意見・御感想も辛口でも結構なので頂きたいです。
展開は思いつきで書いてるので破綻するところが今後多々あるかも知れませんが(笑)、おつき合い頂ければ幸いです。

7 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)07時57分09秒
幽体離脱してるのか。どう展開していくのか楽しみ。
8 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)13時19分38秒
作者です。

>7さん
この後の展開は暗めです。
というか全体的に重い話になる予定です・・・

今夜来れないかも知れないので現在出来てるとこまで書きます。
さて、第2幕。「私」の正体いきなり出ます。
カンのいい方なら気付いてるかも知れませんが(笑)
9 名前:続きです。 投稿日:2000年06月21日(水)13時30分20秒
「ごっちん…なんであんた死んでしもうたんや…!」

(えっ!?)

私は虚を突かれた。
何で私の名前が出てくるのよ!?私はここにいるってさっきから呼んでるのに。

「ちょ…裕ちゃん?」
大泣きしている裕ちゃんの肩を私は掴もうとした…が、手応えが無い。肩に手を伸ばそうとした私の手が…裕ちゃんをすり抜けたのだ。

「…!?」

私は訳が解らなくなった。あの人との約束の事など、すっかり頭の中から消えていた。
10 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)13時39分02秒
私は何かの間違いだと自分に言い聞かせながら裕ちゃんの腕や肩、背中に手を伸ばす。

…同じだった。私の手は空を斬るばかり。

何だか嫌な予感がしてきてベッドに回り込み、横たわる「誰か」の顔を見てみた。
顔の方にも包帯が巻かれていたが、隙間から見える茶色い髪。
すこし膨らみのある鼻。毎日鏡で見慣れた顔がそこにあった。

「本当に…私…なの?」
頭の中が真っ白になった。
11 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)13時53分39秒
私はあまりの事態に意識が少し飛んでしまっていたようだ。
再び気がつくと、部屋には既に誰もいなかった。
ここにいる「私」と「冷たくなった私」の2人だけが残されていた。
しかし、この「冷たくなった私」と同じ部屋にいると、自分が「死んだ」という事を認めてしまいそうになり、気分が悪くなったので慌てて病室を飛び出した。

あてもなく廊下をさまよっていると、ロビーに出た。
長椅子には中澤はがっくりうなだれて顔を両手で覆っていた。
マネージャーは携帯でどこかに電話しているようだ、相手はおそらく私の家族だろう。

「ごっちん…あんたなんで、なんでこんな事に…」
中澤は誰にともなくつぶやいていた。
12 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)14時06分10秒
(それは…)
私はレコーディングの休憩中に突然掛かってきた電話を思いだしていた。

『もしもし、後藤?』
「あ〜、どうしたの〜 超久しぶりじゃん」
『あのさ、今、ヒマある?』
「んとね〜、今、新曲のレコーディングしてた」
『あ、そうなんだ…じゃあ今は無理かぁ…』
「え、なになに〜?」
『いや、今日、さ。初めて私が作詞作曲全部した曲ができたんだよね』
「うっそ〜!?本当に?それ聴きたい聴きたい!もう、何だったら今すぐにでも行くって」
『何言ってんのアンタ。今レコーディングなんでしょ』
「大丈夫、大丈夫。私のパートはもう終わってるんだなこれが」
『ダ〜メだって。いつ手直しあるかわかんないんだよ?終わってからゆっくり来なって』
13 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)14時15分08秒
その止める言葉も聞く事なく私はスタジオを飛び出していたのだった。

私は雨の降る中、傘も差さずに雑踏を駆けていた。
「久し振りに会えるんだ」、只その一心で。

あの横断歩道を渡ればすぐに駅がある。私は人波をかき分け、走り抜ける。
遠くで誰かの叫び声が聞こえた気がした。

…私が覚えているのはここまでだ。気が付いたらあの薄暗い病室だった、という訳だ。
14 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)14時25分33秒
「何であの子、いきなりスタジオから飛び出していったんやろか…」
「この事、皆にどないして伝えたらええねん…」
「これからモーニング、どうなってまうんや…脱退とは訳が違うで…」
中澤が再び、独りごちている。その言葉ひとつひとつが私の胸に突き刺さる。

「ゴメンね裕ちゃん…私のせいでいっぱい、いっぱい迷惑掛けちゃうんだね…」

私は何度も何度も謝ったが、やはり裕ちゃんに私の言葉は届く事は無かった。
こんな体になったせいだろうか、悲しいはずなのに、泣きたいはずなのに、涙は流れてこなかった。
15 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)14時36分44秒
その頃、夜遅くになっても全く連絡をよこさない後藤を不審に思ってか、何度も後藤の携帯に電話する少女の姿があった。

「…ま〜た繋がんないよ。電源切ってんのかな?
やっぱりレコーディングが長引いたんだろうな…まあ仕方ないよね。夜中まで引っ張ること前から結構あったし。
止めても素っ飛んで来ると思ったんだけどな…アイツも大人になったって事かな?
せっかく紗耶香様の出来立ての作品を真っ先に聞かせてやろうと思ったのに…」

と、苦笑しつつ床に着いたのは、数カ月前モーニング娘。から突然脱退したばかりの市井紗耶香だった。
16 名前:今日はここまで。 投稿日:2000年06月21日(水)14時44分40秒
作者です。
エラい展開になって来ましたねえ。
正体判明の第2幕、とりあえず終了です。
「私」が死んだことを知らされる残りのメンバーはどうなる?
日本列島に衝撃のニュースが駆け巡る第3幕は近日更新予定です。

色々言葉足らずで解りにくい場面が多々ありますでしょうが何卒最後まで御付き合い下さい。
解らないこと書いて頂ければ答えていこうと思いますので。
17 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月21日(水)17時26分01秒
面白いです、正体については読み通りだったのですが、
ここからどういう展開に持っていくのが楽しみです、
期待してますよ。
18 名前:切なの国 投稿日:2000年06月21日(水)23時40分04秒
う〜ん、これから一体どうなるんでしょう?
後藤の事を知った紗耶香がどうなるのか、他のメンバーは?
とても気になります。
これからどうなるのか期待してます。頑張って下さい。
19 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月22日(木)18時48分21秒
作者です。感想有難うございます。

>17さん、切なの国さん
第3幕以降の展開に少々行き詰まっています(あかんがな)
ラストは考えているのですがそこまでの持っていき方に色々苦戦中なもので…
時間を下さい。(第3幕は明日辺りアップ予定です)
20 名前:切なの国 投稿日:2000年06月22日(木)19時19分53秒
>作者さん
いいのが思いついたら、また書いて下さい、
気長に待ってますんで。
21 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)02時18分13秒
作者です。
ちょっと間が開いてしまいましたがようやっと更新です。
第3・第4幕は重いです、暗いです。
見捨てず御付き合い下さい。
22 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)02時31分10秒
程無くして、マネージャーから連絡を受けた私の家族が駆けつけたのだが、お母さんや弟が流してくれる涙はやはり私にではなく「死んでいる私」に向けられたものだった。

…今の自分は一体何なんだろう。誰にも気付いてもらえない体に何の意味があるのだろうか。
只、見て聞く事のみしか許されない、精神だけの存在。
皆が触れてくれるもう一人の自分に嫉妬さえ感じ、私の体を寂しさが包み込んでいく。
私はこの場にいるのが苦痛になり、病室を出ていった。家の泣き声を耳にしながら。
23 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)02時45分17秒
後藤が病室を出てきた時には、もう裕ちゃん達は病院を後にしていた。

その頃、事務所にはレコーディングを終えたメンバー達が集められていた。

「何で突然事務所に集められたのかなぁ」安倍はつぶやき、
「もぉ〜、帰りたいよぉ〜」矢口が安倍に抱き付きながらぼやく。
「あれ?リーダーと後藤は?」保田が尋ねるが、皆「知らない」とばかり首を横に振る。
「ごっちんは昆布の食べ過ぎでお腹壊したんじゃないのぉ」矢口が冗談混じりに返すと新人達からも笑い声が上がる。

すると、中澤達が事務所に戻ってきた。
「あ、裕ちゃ〜ん」飯田が声を掛けるが中澤の表情は重い。
「皆、集まってるな」マネージャーが言うと、
「後藤さんが…まだ、いませんけど…」吉澤が手を挙げ、答える。

しばらくの沈黙が流れる。

先程までの和んだ雰囲気はすでに無かった。
24 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)02時57分20秒
「その…ごっちんの事なんやけど…」
中澤が沈痛な面持ちで口を開いた。

メンバー達に「後藤の死」が伝えられた。
中澤が話し終わってもしばらく誰も声を上げる者はいなかった。

「…交通事故死って言ったって…一体後藤はレコーディング中に抜け出して、どこに行こうとしてたんですか…!?」
重い沈黙の中、ようやく口を開いたのは保田だった。
「そこがウチも一番わかれへんトコやねん…何か理由があって飛び出していったハズなんや。誰か心当たり無いか?」
皆、顔を見合わせるばかりで誰も答えられる者はいなかった。

『何故、後藤はスタジオからいなくなったのか』

この事が残されたメンバーにとって一番の謎だった。
25 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)03時05分54秒
「後藤真希、死亡」のニュースが公式に発表された。

『昨日未明、人気アイドルグループ「モーニング娘。」のメンバーである後藤真希さん(14)が都内で交通事故に巻き込まれ、病院に運ばれたが全身打撲により間もなく死亡していた事が判明した。
事故を起こした車両は行方をくらましており、警察は引き逃げ死亡事件として捜査する方針』

第1報は真夜中を過ぎてからだったが、ネット上などで大騒ぎになったのは言うまでもなかった。
26 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)03時18分19秒
衝撃の一夜が明けた。
朝一番からどのニュース番組でも真っ先に持ってくるほどの凄まじい事態になっていた。

私は、病院のロビーの長椅子に座り込んだまま「自分の死」を騒ぎ立てるニュースをぼうっと眺めていた。
社長が何か私の事を喋っていたけど内容は頭に残らなかった。

私は昨晩から一睡も出来ずひとり、思いを巡らせていた。
(裕ちゃん、なっち、かおりん、やぐっつぁん、彩っぺ…
ののちゃん、亜依ちゃん、梨華っち…
圭ちゃん、よっしー…せっかくプッチモニ再出発したばっかりだったのにね…
ハロプロのみんな…事務所やスタッフのみんな…)

私が去年モーニング娘に入ってから出会った人達の顔が浮かんでは消えていく。
27 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)03時34分53秒
(市井ちゃん…)

私は一番大切な人の顔を思い浮かべていた。
モーニング娘。に入って右も左も分からない私を教育係としていつも私を叱ってくれてた市井ちゃんの顔。
プッチモニで合宿中、夜中私にダンスの特訓をしてくれた風邪気味な市井ちゃんの顔。
映画の撮影中、私が後ろから抱き着いた時に振り向いた市井ちゃんの笑顔。
あの武道舘での爽やかな顔。
市井ちゃんと過ごした日々の記憶が鮮明に蘇ってくる。

『絶対、ビッグになって戻ってくるから』

市井ちゃんが何度も口にしていた言葉。
私はその夢が実現する時を見ることなく死んでしまった…

思い切り泣きたかった。泣けば少しでも楽になると思った。
…が、やはり涙は流れなかった。
28 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)03時46分17秒
激動の一夜が明け、初夏の空が明るくなり始めた時、市井は夢の中にいた。出来ればこのまま醒めて欲しくない、そんな夢だった。
ソロとしての初舞台。場所は勿論東京ドーム。
観客は5万人で超満員。特別ゲストは憧れの吉田美和さん。
アンコールの大声援。そして私は手を振りつつ、舞台へ戻ってくる。
歓声がドームを揺るがす。歌うのは私が初めて作詞・作曲したあの歌だ。
客席ではかつてのメンバー達が見ていてくれる。
そして歌い終わった私の元に花束を持った後藤が駆け寄って来るんだ、あれ…何か言ってるけど聞こえない…何?何て言ってんの…

そこで市井は目が醒めた。
29 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)03時59分20秒
(何だよぉ〜いい夢だったのにぃ…最後はワケわかんなかったけど)

もう一度眠って夢の続きを見たかったが、娘時代の「二度寝は命取り」の習慣がまだバッチリ生きており、眠気は飛んでいっていた。
市井は台所へ向かい、飲み掛けの牛乳パックを取り出した。
男前に片手を腰に当て、口飲みしつつTVのスイッチをつける。
キャスターの声が響く。

『…夜未明ですが、モーニング娘。の人気No.1、後藤真希さんが事故死するという事件がありました…』

市井は持っていた牛乳パックを落としていた。足元を流れ出た牛乳が濡らしている事にも気付かなかった…
30 名前:今日はここまで 投稿日:2000年06月24日(土)04時10分07秒
作者です。
重〜い第3幕、終了です。
ここまでちょっと引っ張り過ぎたかな〜
え〜と第4幕は明日更新予定です。
第4幕・第5幕、後藤あまり出番ありません(苦笑)
まあ、市井がカギですね。

31 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月24日(土)14時06分28秒
続くですか・・・
ハッピーエンドである事を願います。
32 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月25日(日)15時18分45秒
ここからどう話を展開させていくのかが楽しみです、頑張ってください。
33 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月25日(日)21時13分06秒
重い話ですね・・・
作者さんがんばってください、続き楽しみにしてます。
34 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月26日(月)02時59分16秒
作者です・・・
今後の展開について少し。
ラストがどうなるかは言えませんが
勿論、救いようのない終わり方には絶対しないつもりです、
期待に応えられる様頑張ります。
第4幕更新はちょっとだけ待って下さい、手直し中なので・・・


35 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)03時31分45秒
作者です。
ではでは第4幕始めます。

36 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)03時49分12秒
(後藤が…死んだ…)
市井は心臓が激しく鼓動し、全身が震えているのを感じた。

(…嘘。嘘に決まってる)

信じろと言うほうが無理がある。昨日電話で話をした後藤は、あんなにも、あんなにも元気だったのに。

TVからニュースキャスターの声が聞こえてくる。
『目撃者の証言によりますと、事故にあった後藤さんは雨の中、傘も差さずに何処かへ走っていき、そのまま道路に飛び出していってしまったらしいのです』

芸能デスクらしき人物がそれに続く。
『事務所の話ではこの日新曲のレコーディングだったらしいんです。後藤さんはそのレコーディング中に突然いなくなり、そのまま事故にあってしまったと…』

市井はハッとして昨日の後藤との会話を思いだした。市井が自作の曲が初めて出来たと伝えた時。

『聞きたい聞きたい!もう今すぐにでも行くって』

(後藤…まさか本当にレコーディング飛び出して来てたなんて…
嘘…それ、私のせいだ…私の…)






37 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)04時01分46秒
市井は自分の部屋に駆け込み、布団にもぐり込んだが、全身の震えはまだ続いていた。

「私の、私のせいで後藤が死んじゃった…」
涙をぼろぼろとこぼし、自分を責め続けた。

(後藤が「来る」と言った時、もっと強く止めるべきだった。そうすれば後藤は死なずに済んだはずだ…それなのに…)

市井はあの時軽く「ダメだって」と返しただけだった。本音ではやはり後藤にすぐにでも来て欲しかったのだ。一番に聴かせたい相手だったから…

「ごめんね後藤…ごめんね…」
38 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)04時15分01秒
その時、市井の携帯の着信音が鳴り響いた。
とても今の精神状態では出る気も起こらず、放っておいたがいつまでも切れる様子がない。

無機質な着信音が自分を責める声の様な気がしてきて市井は恐くなってきた。

「うるさい…うるさいうるさいっ」

電話を掴み、部屋の奥に力任せに投げ捨てると、2度とその電話が鳴り響くことはなかった。
市井は再び布団にもぐり込むと、泣き疲れたのかいつのまにか眠ってしまっていた。

その後どれ程眠ったのか解らない。気が付くと外は薄暗くなっていた。

すると突然部屋がノックされた。市井は黙ったまま目線だけをドアに向ける。

「紗耶香…私」
声の主は保田だった。
39 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)04時28分08秒
保田はそのままドアの外で言う。
「朝から電話してたんだけど繋がんないし…だから直接言おうと思って。
紗耶香ももう知ってると思うけど…後藤、交通事故で、死んだの」

市井は黙ったまま俯いている。

「それで今日…お通夜だから…
紗耶香、紗耶香がつらいのは良く解る…けど、行って最後のお別れしてあげよ?」
「………」

保田は何か市井がボソボソと言っているのが聞こえた。

「え…何?」
「…行かない。ううん、私…後藤に会う資格ないよ…」
「…? どういう意味?」

「だって、後藤が、後藤が死んだのは私の…私のせいなんだからっ…」

市井の泣き叫ぶ声を聞き、保田は市井の様子がどうもおかしいと思い、部屋に入った。
40 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)04時47分31秒
「何で、どうして紗耶香のせいなの!?」

保田は市井の言っている意味が解らず詰問した。
しばらく市井は泣いたままだったが暫くするとぽつりぽつりと喋り始めた。

「私の…初めて作った曲が昨日…出来たんだ。
それで凄い嬉しくって…早く聴かせてあげたいって思った。
私…娘辞める前に約束してたんだよ…初めて曲が出来たら真っ先に後藤に聴かせてやるって」
「うん…その約束後藤から聞いた事ある。後藤、すごく楽しみにしてた」

「…それで昨日、後藤に電話したんだ…初めて自分で作った曲が出来たよって…そしたらあの子嬉しそうに今から行くって言ってくれた。
でもレコーディング中だって言ってたし終わってから来ればいいからって私も言ったし…こっちに向かってるなんて思ってもみなかった。
夜中になっても連絡無かったけど、私、レコーディングが長引いちゃったんだって呑気に考えて…
もっと強く止めるべきだったんだ…そしたらあんな目に合わなくて…」
41 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)05時03分01秒
保田はようやく全てが理解できた。
何故後藤がレコーディング中、急に姿を消したのか。何故市井は自分を責めているのか。

後藤が飛び出していったのは彼女の性格を考えれば無理もなかった。市井が夢を叶え、再びステージに立つのを誰よりも心待ちにしていたのは後藤が自他共に認めるところだった。その夢の第一歩というものを一番に聴かせて貰えるのだから。
そして市井が自分を責めるのも解らないでもない。しかし、自分一人で全てを背負うのは酷というものである。

「紗耶香のせいじゃないよ…」
保田は市井の横に座り、肩をそっと抱いた。
市井の震えが保田にも伝わってくる。ここまで弱気になっている市井を感じたのは久しぶりだった。

「後藤が事故にあったのは紗耶香だけのせいじゃない。後藤をしっかり見ておかなかった私達も悪いし、後藤をはねた車の運転手だって悪い。勿論何も考えずに飛び出した後藤本人だって悪いよ。
紗耶香…自分一人で全部背負わないで…」

保田は何とか市井を慰めようとした。

(でも…私が後藤を呼びさえしなければ…)

市井の心は頑なになっていた。
42 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)05時10分03秒
「それにさ。まだ後藤、紗耶香の歌、聴いてないじゃない。
後藤のために歌ってあげなよ。それが後藤のために何よりの供養になるからさ…」

「私…もう…歌わない」

「え…?」
保田の表情が変わる。

「歌はもう…やめる。だってそうじゃない?みんなにさ、夢を与えるシンガーソングライターがだよ、自分の歌のせいで人死なせちゃ意味無いよ…!」
市井が自嘲的に言う。

その時パシっと乾いた音が部屋に響いた。
43 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)05時36分16秒
「叩いたりしてゴメン、けど紗耶香。あんたがここまで弱虫だとは思わなかった。失望した。
そんな紗耶香には後藤だって会いたくないって思うね」

市井はぶたれた頬を押えたままじっと動かない。
保田は市井の胸ぐらを掴んでまくし立てた。

「知ってると思うけど、私は歌手になるために学校を辞めた。
両親は勿論、周りから反対されたけど何より歌が好きだったから後悔なんてしてない。心配してくれた皆には歌を続けることで恩返しをしてるつもりだよ。
紗耶香、あんた自分の夢を叶えるためにモーニング辞めたんでしょ?絶対帰って来るって武道館で約束したんでしょ?
自分を責めるのはわかるけど、そんな簡単に夢をあきらめるの?
誰よりもあんたが帰ってくるのを楽しみにしてた後藤の分まで頑張るべきじゃないの?」
最後は涙声になっていた。

「圭ちゃんに私の気持ちなんてわからないよ…」

パシッ!と再び保田は市井を殴る。

「本当、こんな子のために後藤が死んだなんて無駄死にもいいトコだよ…死んでも死に切れないよ!」

保田は涙も拭かず、踵を返した。

「私、もう行くから」

保田は葬儀の場所・日程を事務的に伝えると部屋を出ていった。
市井は枕を保田の出ていったドアに投げつける。

「もう、ほっといてよ…」

再び布団の中にもぐり込む。全身の震えはまだ続いていた。
44 名前:今日はここまで。 投稿日:2000年06月27日(火)05時41分18秒
作者です。

第4幕、これまた重かった…
「永遠のライバル」の決別、書いててつらいな…
でも、重くなるのは多分ここまでだと思います。

何卒最後までお付き合いのほどお願いします。
45 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)06時02分42秒
プッチモニがばらばらだ〜
どうする、どうなる、頑張れ市井!
46 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月27日(火)12時40分10秒
おもしろいです。がんばってください。
47 名前:黄色い狛犬 投稿日:2000年06月28日(水)00時02分28秒
うっき〜〜!!
この素材、私的にど真ん中、ストライクです。

いいなあ、罪悪感に苛まれる市井……。
48 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月28日(水)19時18分49秒
作者です。

最近更新が遅くなってます…読んで下さってる方々、すいません。
第5幕の更新は明日必ずやります。

第5幕では中澤をはじめ残りのメンバーを出して行こうと思ってます。
頑なになった市井の心を解きほぐす事が出来るのか…そして後藤は?

何とかいいものに仕上げたいと思います。
49 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)08時54分43秒
第五幕、楽しみに待ってます
50 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)19時01分29秒
作者です。

では第5幕始めます。
51 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)19時14分50秒
もう時間は夜遅くなっていた。
市井はベッドの上でうずくまったまま保田の言葉を思い出していた。

『そんな簡単に夢をあきらめるの?』
『誰よりもあんたが帰ってくるのを楽しみにしてた後藤の分まで頑張るべきじゃないの?』

(そんな事言ったって…シンガーソングライターの夢だって本当になれるって無茶苦茶自信があった訳じゃない。
後藤が向こうで待っててくれるから私も負けずに頑張れるんだって気持ちがあった…
でもその後藤を私が死なせてしまったんだ…もう、無理だよ…)

市井はふと机の上に置かれた写真立てに目をやる。写真の中には市井と一緒に写っている後藤が満面の笑みを湛えていた。

(そんな目で私を見ないでよ…!)

市井は写真立てを倒し、部屋を出て行った。
52 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)19時28分14秒
私はその頃、自分の通夜が行われている会場に来ていた。
今日1日のTVやニュースを見て、自分が「死んだ」という事を認めざるを得なかった。
しかし一旦認めてしまえば、少し落ち着きが出てきた気がする。

(私、なんでこんな体になっちゃったんだろうな…幽霊だなんてさ、別に恨みなんか無いのにな)

(それにいつまでこんな姿でいなきゃならないのかな…)

一生このまま?それとも体が焼かれて無くなるまで?

(でも、消えちゃうにしても市井ちゃんには最後、会っておきたい…)

(ずっとこのままなら皆の事見守ってあげようかな…守護霊だね)

なんて少し前向きに考えたりもしていた。

誰にも触れられないし、誰とも喋れない。食欲も無ければ眠気も無い。
何よりつらい時、泣きたくても泣けないのがやっぱ苦しいけど。
53 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)19時42分43秒
通夜の席にはメンバーをはじめ、ハロープロジェクトの面々などが殆ど集まってきていたが、保田と中澤はまだ到着していなかった。
みんなが私がモーニング娘に入ってからの思い出なんかを話してくれている。

「後藤さ、入ってきた時金髪だったし、”わあ、都会人っ”て感じがしたよね」
「とても13歳には見えなかったよ。年齢、後で聞いて2度びっくりだったな〜」

安倍と矢口が話している。まだそれから1年しか経っていないのに凄く懐かしい感じがする。

(なつかしいな…)

私も当時を思い出していた。なんだか先輩であるみんなの方がおっかなびっくり、て感じがしてたっけ。

「で、紗耶香が教育係になってから2人とも凄く生き生きしてた」

(市井ちゃんか…迷惑いっぱい掛けちゃったな。今までも…今回も…)

「でもさ、これからどうなるのかな、私達…」

飯田の突然の現実的な言葉にそれまでの雰囲気は一瞬にして変わってしまった。
私もそれを聞くと本当に申し訳無い気持ちになる。
54 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)20時05分57秒
突然私の背後で大きな声がした。黙っていた皆の視線が集まる。
裕ちゃんだった。

「なんやあんたら湿っぽいなあ、こんな時は笑って送りださなごっちんも安心して行かれへんで」

裕ちゃんは持って来たビールをコップに注ぎ、私の遺影がある祭壇に置いた。

「ごっちん…あんたとはいっぺん飲みに行きたかったんやけどな、ほんま…
今からウチと飲み比べでもするか…?あんたまだ未成年やったけど今日くらい、ま、ええやろ?
あんたの好きやった昆布やピスタチオもあるしな」

そう言って自分のコップにもビールを注ぎ、一気に飲み干す。
周りの皆は裕ちゃんの突然の行動に少々びっくりしていた様だった。

「姉さん、私もつき合わせてもらうわ」

平家さんが裕ちゃんの横に座り、同じようにビールを飲み干す。
すると、「私も」「私も飲む」と次々メンバー達も続いてくれた。

「そうか、皆もごっちんと勝負するか?」

(ちょ、ちょっと辻ちゃんや加護ちゃんまで飲ませていいの?)

私はびっくりしてしまった。辻ちゃんの顔はやはり真っ赤っかになってる。
でも皆のその心使いが嬉しかった。

「みんな…ありがとう」

聞こえなくてもいい、私は声に出して言っていた。
この体になって初めて笑った気がした。
55 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)20時20分33秒
しばらくすると、プロデューサーのつんくさんも来てくれた。

「みんな来とるみたいやなあ…なんやお前、赤い顔してどないしたんや」

辻を見てみんな苦笑している。自分からとは言え、酒を飲んだとはやはり言いづらいみたい。

「今でもちょっと後藤が死んだって信じられへんとこあんねん。
ほんまは来る気なかってんけど、帰ろ思て車飛ばしてたらなあ…
勝手に車が曲がりよって勝手にここに着いてん、だから来ただけやで…」

よく分からない理屈を言い、焼香を上げる。

(つんくさん…)

「けど、後藤もほんま凄いやっちゃで。疾風のように現れたか思たら、疾風のように消えて行くんやからなぁ。
生涯二度とこんなヤツにはお目に掛かられへんな…」

つんくさんはいつものサングラスを外す事は無かったけど泣いている様にも見えた。
56 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)20時29分16秒
「お前ら、今後の事色々心配してるかも知れへんけどな、俺もこのまま終わらすつもりは無いで。
これで終いや、なんて事になってみ、後藤も浮かばれへんで」

つんくさんはメンバー達に向き直り、強く言い放った。

「そうやで、ごっちんの分までウチらが頑張らんと向こうでごっちんに笑われるで。」

裕ちゃんもそれに続く。

「そうだね、後藤の分まで頑張ろ!」「頑張ろう!」

口々にメンバー達から声が上がる。

私は皆が元気を取り戻してくれて嬉しく思った。これならもう大丈夫だよね。
胸のつかえが少し取れた気がする。

(みんな…頑張ってね)
57 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)20時42分10秒
「圭坊、吉澤、プッチモニもまた1からやり直しやけど、頑張って行かなな。
なんなら今度こそウチが入ってもええで…って圭坊おらへんがな」

(ほんとだ…圭ちゃんまだ来てないな。どうしたんだろ)

まさか事故…?とふっと嫌な予感が湧く。

「あの…保田さんなら市井さんを連れてくるから遅くなるって連絡ありました」
吉澤が前に出てくる。
「そうか〜、紗耶香もショック大きいやろうからな…」

すると、入り口のほうで物音がした。

「遅れてごめんなさい」
保田が重い表情で入って来る。

「あっ圭ちゃん…紗耶香は一緒じゃないの?」
皆が心配そうな視線を向ける。

あれ…市井ちゃんは…?市井ちゃんがいない…
58 名前:今日はここまで 投稿日:2000年06月29日(木)20時55分18秒
作者です。

第5幕、まだ終わりじゃないですが前半戦終了です。
あ〜、人称の使い分け、苗字そのままとか愛称だったりとかは意図してやってたんだけど
今回は色々間違っちゃったな、見苦しいかも知れませんがお許し下さい。

今回はメンバー色々出してく予定だったんだけどな、中澤&つんくしか目立ってないや(苦笑)

第5幕(後編)は、明日更新します。
59 名前:切なの国 投稿日:2000年06月29日(木)21時14分37秒
くー、皆頑張ろうとしてるのに市井は何をしてるんだ!!
市井よ、立て、立つんだー!
明日を楽しみにしてます。
60 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)02時45分30秒
やっぱり中澤はリーダーだな!
市井〜 後藤の為にもしっかりしろ!
61 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)19時15分05秒
作者です。

では、第5幕(後編)始めます。
62 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)19時31分43秒
「紗耶香は…多分、来ないよ」

「やっぱりショック…大きいの?」
「多分って…連れて来るんじゃ無かったの?」
皆が保田に尋ねる。

「それもあるけど…」
それきり、圭ちゃんはしばらく黙り込んでしまった。何だか様子がおかしい。

(何で市井ちゃん来ないの…?何があったの?)

「紗耶香…後藤が死んだの、自分のせいだから後藤には会えない、会う資格が無いって…だから…」
保田が再び口を開く。皆、イマイチ理解出来ていないようだった。

「ちょ、ちょっと圭坊、話わからんで。何でごっちんが死んだのが紗耶香のせいやねんな」

そうだ、なんで私が死んだのが市井ちゃんのせいになるんだろう…

「それは…」

保田は市井から聞かされた事を皆にも伝えた。
市井が初めて自作の曲が完成し、曲が出来たら一番に聞かせると約束していた後藤にあのレコーディング中、連絡を入れていた事。
そしてそれを聞いた後藤がレコーディングを飛び出していったらしいという事。
だから自分に後藤の死の責任がある、という事を。
63 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)20時01分37秒
「そうか…ごっちん、紗耶香の自作の歌、すっごく楽しみにしてたからな…」
「うん、レコーディング中に突然飛び出していったのもわかる気がする」
「でも、でもそれで死んじゃうなんて後藤さん、悲しすぎます」

残りのメンバー達も、ようやく一番の謎だった「後藤がなぜ飛び出していったか」を理解した。

「紗耶香、自分が誘った事で、そのせいでごっちんが死んだって責めてるわけか」
中澤が親指の爪を噛みながら呟く。

「うん…どうしてもっと強く止められなかったんだろうってそればかり言ってた…」

(そんな事無い…私が死んだのは私が原因だもん…勝手に抜け出して、勝手に事故に遭って…
市井ちゃんのせいだなんて、私、ちっとも思ってないよ…)
私は拳をきゅっと握り締める。

「でも、それ…紗耶香だけのせいやないで…ウチの監督不行き届きだってあるわ」

「私も自分一人を責めないでって何度も言ったんだけど…紗耶香、頑なになっちゃって…
それにあの子、もう歌もやめるって弱気になっちゃって…」

(…!?)
そんな馬鹿な。市井ちゃんが歌をやめるなんて…そんなに思い詰めてるなんて。

「何で!?」
皆が口々に声をあげる。当然の疑問だった、あれだけモーニング娘を脱退する直前まで力強く語っていた「夢」をあきらめると言うのだから。

「皆に夢や元気を与えるシンガーソングライターを目指すのに、自分の歌で人死なせちゃ意味が無いって言うんだ…
死なせたのが後藤だからショックも数段大きいのは分かるけど、私が何を言っても…ダメだった」

保田は肩を落として言った。皆はまた黙り込んでしまっていた。
64 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)20時13分23秒
(違う…違うよ市井ちゃん…そんなの間違ってる…
私の事なんかどうでもいい、市井ちゃんは私の事なんか忘れていいから自分の夢を叶えて欲しい…
そんな弱気な市井ちゃんなんて私が好きだった市井ちゃんじゃないっ…)

と、私は肩を震わせながら考えていた時、突然背後で誰かが立ち上がった。
裕ちゃんだった。

「ちょ、裕ちゃん、どうし…」
と、矢口が声を掛けようとしたがびくっとして動きが止まる。
驚くのも無理は無かった。中澤は今までメンバーが一度も見た事の無い程の怖い表情をしている。

「何の為に、いや、どんな思いでウチらが紗耶香を送り出してやった思ってんねん、そんな紗耶香は紗耶香や無いわ。
そのアホ、いっぺんドついて根性直したるわ!」
大声をあげて出口へと、ずかずかと向かう。
65 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)20時31分53秒
「裕ちゃん、やめなって!今は紗耶香はそっとしておくのがいいってば!」
「中澤さん、やめてください!」
「ちょっと、皆で姉さん捕まえて!」

皆で中澤を取り押さえようとするがその中澤は引きずる様にしてその歩みは止まらない。

「いつまでもウジウジしとってもなぁ、紗耶香の為にもごっちんの為にもならんねん!
ヘタに放っておくより、ドついて目ぇ覚まさせるのが一番なんや!」

私も同じ様な気持ちだった。どうにかして市井ちゃんに「自分を責めないで」って伝えたい。
「夢をあきらめないで」って伝えたい。私の事なんて気にしないでいいから…

(市井ちゃんの…市井ちゃんの…)

「市井ちゃんのばかぁっ!!」

私は思わず大声を出し、会場を飛び出していた…

その刹那、興奮した中澤の動きは突然止まった。
他のメンバーも顔を見合わせている…皆不思議そうな顔つき。

保田がぽつりと呟く。

「今…後藤の声が聞こえた…」
66 名前:今日はここまで 投稿日:2000年06月30日(金)20時37分45秒
作者です。

昨日書き切れなかった第5幕(後編)、終了です。
保田の最後の台詞が意味するものは…?
そして第5幕冒頭で部屋を出て行った市井は何処へ…?

次回第6幕は明日更新予定です。
67 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)21時19分08秒
こんなところで終わらせるなんて・・・
続きが気になります。
作者さん楽しみにしてるので頑張ってください。
68 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)22時10分20秒
いい所で切りますね。
続きが楽しみです。がんばってください。
69 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月01日(土)19時31分19秒
作者です。

第6幕も申し訳ありませんが、前後編に分けさせて頂きます。
では、始めます。
70 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月01日(土)19時51分16秒
会場はさっきまでのざわめきとは打って変わって、水を打ったように静まり返っていた。

「…今、後藤の声…聞こえたでしょ?」
最初に口を開いた保田は、周りに確かめるように尋ねる。

「うん…『市井ちゃんのばかっ』って確かに聞こえた…」
「あの声は後藤さんの声でした…」
「私も聞こえた…」

皆も唖然とした表情ながらも確かに後藤の声を聞いた様である。

「ごっちん、あんた…突然おらんようになった思てたら…ここに、ここにおったんやな…」

中澤は先程までの憤怒の表情はとうに消え、涙をぼろぼろ流している。

「後藤さん…ここにいたんなら、やっぱり市井さんの事聞いて飛び出していったのかな…」
「やっぱり、紗耶香が夢を諦めるって言うの…後藤も許せないと思ってるんだよ…」
「ごっちんらしいで。まあ、飛び出して行った言うても今度は事故に遭う事もないしな…ごっちん、紗耶香を頼むで…」

普通ならば到底信じられない出来事なのだが、皆は不思議とこの事を受け入れていた。
71 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月01日(土)20時01分49秒
私は夜の雑踏を駆けている…雨の降る中、傘も差さずに走る私。
そう、昨日と同じだ…同じ道を走っていた。市井ちゃんの所へ行く為に。

行って何ができるのだろうかなんて全然考えてない。でも行かずにはいられない、そんな気がする。
前は走るのキライだったし、走ってもすぐ脇腹が痛くなっていたのに今は全く気にならない。

人波を文字どおりすり抜けて、どんどん進んでいく。
自分が自分でない様な気がする。

少し頭がぼうっとしたが気に留める事は無かった。
72 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月01日(土)20時17分26秒
私は走り続け、駅へとようやく辿り着く。
しかし駅の灯りは消えていた。終電の時間は既に過ぎている様だった。

「どうしよう…?」

周りを見渡すとタクシーが何台か止まっている。
私は何も考えず急ぎ、手近なタクシーに乗り込んだ。

運転手は突然ドアが開いた事に少々驚いたが、バックミラーを覗くと少女が一人、座っている事に気付いた。
その少女は何やら厳しい顔付きをしている。

(どこかで見た事ある顔だな…)

運転手はふと思ったものの特に気にせず、座席の少女に行き先を問う。
少女が答えると、何か頭の中に直接響いてくる感覚がして、運転手は不気味に思いながらも車を発進させた。
73 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月01日(土)20時25分57秒
(早く…早く市井ちゃんの所へ行かなきゃ…)

私は何だかそんな不安感で一杯だった。何故そう思うのかは分からないけど、嫌な予感がするのだ。

「もっと急いで!」
私はイライラして運転手を急かす。
運転手は再び、その声が頭の中に直接響いて来るような感覚を覚え、ぞっとしながらも言われるまま車を飛ばしていった。

「…着きましたよ」
おそるおそるバックミラーを覗く。しかしさっきまで座っていた少女の姿はそこには無かった。
運転手は驚き、振り返って後部座席を見渡すがやはり誰もいない。

掛けていたラジオからハッピーサマーウェディングが流れてくる。
運転手は、どきり、とした。

(後藤…真希…?)

運転手は声にならない声を上げていた。
74 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月01日(土)20時36分50秒
(運転手さん、ただ乗りゴメンね)

軽く謝りながらも私はタクシーを後にして再び駆け出す。
市井ちゃんの家には何度も来た事無いけど、ここからなら、もうすぐそこの筈だ。

ふと再び頭がぼうっとする。目眩いに近い感じだ…がくっと膝をつく。
何でだろう…さっき走り続けてた時には全然疲れなんて無かったのに…

(…違う)

体の疲労とはまた違った感覚だ。ふと自分の手を見ると、
ただでさえ半透明だった自分の体がさらに少し薄くなってる気がする。

(まだダメ…まだ市井ちゃんに会ってない…!)

まだ消えるわけにはいかない。私は再び市井ちゃんの所へと急いだ。
75 名前:今日はここまで 投稿日:2000年07月01日(土)20時45分59秒
第6幕(前編)、ちょっと短かったかも知れませんが、終了です。

おや、見えない筈の後藤、普通にタクシー乗っちゃってますね…
これは何故なのか、そして後藤の体を襲った突然の異変は?
おいおい明らかにしていきます。

次回、第6幕(後編)は月曜日に更新予定です。
76 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月02日(日)00時38分57秒
うーん、読み手をひきつける切り方、すばらしいですね。
次回が楽しみです。
77 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月02日(日)03時28分45秒
あぁ〜、気になる!
眠気も無くなりましたよ。
78 名前:サンジ 投稿日:2000年07月02日(日)04時24分22秒
今日、最初から一気に読みましたが・・・
ほんとに切り方とかすごくうまいなって思いました。
すごい面白いです。
79 名前:サンジ 投稿日:2000年07月02日(日)04時25分00秒
あげてしまった。
80 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月04日(火)00時26分03秒
早く更新してくれー。
81 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月04日(火)18時43分24秒
作者です。

遅くなってごめんなさいです。
では第6幕(後編)、始めます。
82 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月04日(火)18時57分05秒
私は雨の中を走り、市井ちゃんの家の前まで来ていた。
外から覗くと市井ちゃんの部屋に灯かりはついていなかった。

もう寝ちゃったのかな…時間が時間だし。私は少し迷ったが、

(黙って入るけど、ゴメン、市井ちゃん)

小さく謝り、玄関の扉をすり抜け中へと入る。中はどこも真っ暗…
階段を駆け上がり、市井ちゃんの部屋の前に立つ。何も考えずに来たものの、いざとなると何故か入りづらい。

「市井ちゃん…」

意を決して中へと入る…しかし人の気配が無い様に感じた。
私は部屋の灯かりをぱちり、とつける。

「市井ちゃんが…いない?」

ふと、机の上に倒された写真立てに目がいき、私はその写真立てを元に戻す。
中に収められていた写真には市井ちゃんと私が笑顔で写っている。
私が前に市井ちゃんにあげた写真…
83 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月04日(火)19時10分31秒
『私…自信たっぷりに見えるかもしれないけどさ、本当は目茶苦茶自信あるって訳じゃないんだ…』

『市井ちゃん…』

『自分でも驚く位大口叩いてたと思うよ…けど、それくらいの事言ってないと、逆に不安で一杯になっちゃうんだ』

『そんな事ない…市井ちゃんなら絶対、夢、叶えられるって信じてる』

『ううん…私はそんなに強くないよ。
…でもさ、目標があるから頑張れるなっていう気持ちはあるよ』

『目標…?』

『後藤…あんたさ、私が戻るまでモーニング娘で現役のままでいてよね。
…ほら、約束してくれたじゃん。プッチモニダイバーでゲストに呼んでくれるって』

『うんうん、絶対呼ぶ』

『後藤が向こうで待っててくれてるんだから頑張ろうって、私も負けらんないなって…』

『じゃあさ市井ちゃん、いいものあげる。市井ちゃんと私で撮った写真。
毎日これ見てその気持ちを忘れないように』

『ありがと…うん、頑張るよ』
84 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月04日(火)19時19分03秒
市井ちゃんが脱退した直後だったか、市井ちゃんの家に遊びに来た時の事を私は思い出していた。

倒された写真立て。こんな時間に姿を消した市井。そして保田の言葉。
『それにあの子、もう歌もやめるって…』

(市井ちゃ…)

急に嫌な胸騒ぎががして部屋を飛び出そうとした私を再び目眩いが襲う。
意識が途切れかける…体から力が抜けるいやな感覚。

「もう…時間、ないのかな…でも急がなきゃ…」

体勢を立て直し、市井ちゃんの家を後にして私はよろよろと駆け出す。
降り続く雨は一層強くなっていた。
85 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月04日(火)19時27分40秒
私は雨の降る夜道を走り続けている…市井ちゃんを捜して。
どこに行ったかなんて見当もつかないまま。

「どこ…どこに行ったの…?」

私が死んだ事で市井ちゃんが思い詰めてる…夢をあきらめようとしている…
止めなきゃ、市井ちゃんを止めなきゃ。焦る気持ちばかりが先に立つ。

私は足がもつれて転んでしまった。

「どこなの、市井ちゃぁんっ」

転んだ姿勢のまま、拳を地面に叩きつけ思わず叫ぶ。

その時突然私の頭の中にあるイメージが流れ込んでくる…酷く悲しみに満ちているが懐かしいイメージ。

(市井ちゃんっ)

私は起き上がり、再び駆け出す。何故かこの方向に市井ちゃんがいる、そんな確信があった。
途中、何度もあの目眩いに襲われたが、気に留める余裕なんて無かった。
86 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月04日(火)19時43分36秒
市井は雨が強さを増す中、夜道をふらふらと傘も差さずに歩いていた。

(後藤…)

後藤の事を思い出すにつけ、後悔の念があとからあとから湧いてくる。
涙と雨で顔はぐしゅぐしゅになっていたが拭いもせず、あても無いまま歩き続ける。

(私…もう、頑張れないよ…)

モーニング娘時代の後藤との思い出が頭の中を駆け巡る。思い出される後藤の笑顔が自分をさらに追い込んでしまう。

(このままつらい想いを抱える位なら、いっそ楽になりたい…もう、どうでもいい…)

突然視界が光で一杯になり、目が眩む。クラクションの音に歩みを止める。
目を凝らすと猛スピードの車が目前に迫っている。
市井はいつの間にか歩道をはずれ、車道に出ていたようだ。

鳴り響くクラクションと急ブレーキのタイヤの音が耳を突ん裂く。

(私、死ぬのか…後藤の所に行けるかな…ううん、合わす顔が無いよね…)

市井は逃げられず、いや、逃げようともせずそんな事を考える。


『…市井ちゃんっ…』


誰かに呼ばれた様な気がしたが、市井はそのまま意識を失った。
87 名前:今日はここまで 投稿日:2000年07月04日(火)19時49分37秒
作者です。

第6幕(後編)、終了です。いよいよクライマックスも近づいて来ました。

前後編に分けると、どうも短く感じますね。
第7幕は分けずに書きます。(その為更新がまたちょっと遅れるかもしれませんが)

何とかいい物に仕上げたいと思います、ではまた。
88 名前:サンジ 投稿日:2000年07月04日(火)20時15分58秒
はたして市井ちゃんはどうなるのか・・・。
気になります。
89 名前:れれれのおにいさん 投稿日:2000年07月04日(火)22時40分17秒
いよいよクライマックスですか。

後藤に、市井に、そして娘。に救いがありますように。
90 名前:俺達T.I.M!命! 投稿日:2000年07月05日(水)01時20分27秒
楽しく読ませてもらってます。作者さん、頑張ってください。
現在形と過去形の使い分けとか上手いですね。
91 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月11日(火)19時08分24秒
更新まだっすか。楽しみしてます
92 名前:まいのすけ 投稿日:2000年07月12日(水)10時04分52秒
続きが気になります・・・。
93 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)11時29分54秒
作者です。

更新がちょっとどころでなく大変遅くなりましたが、それでは第7幕、始めます。
94 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)11時38分39秒
私は自分の勘を信じて走り続けていた…もうどれ程の時間が経っただろう。
そして私は見つけた…見覚えのある後ろ姿。
雨の中でずぶ濡れになっているが間違いない…市井ちゃんだ。
私はどんどん近づいていく。

「市井ちゃん!」

反応が無い。私は今更ながらはっとする。
そうだった…この姿じゃ気付いて貰える筈無かったんだ…何やってたんだろ、私…
私の心に空しさが広がる。
95 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)11時41分51秒
ふと目の前が眩しくなる…車がこちらに猛スピードで向って来ている。
市井ちゃんは気付いてない様子だ、このままじゃ危ない。

私は何度も市井ちゃんに呼びかけるが結果は同じだった。
鳴り響くクラクションと急ブレーキの音が耳を突ん裂く。もう車は目の前に迫っているのに市井ちゃんは逃げようともしない。

「市井ちゃんっ」

私はそう叫ぶと無意識の内に手を伸ばしていた。
96 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)11時53分21秒
私はしばらくの間、放心状態になっていた。
気を失った市井ちゃんは私の隣でベンチに横たわっている。

そう、市井ちゃんが車に撥ねられそうになったまさにあの時…

私が思わず差し出した手は確かに市井ちゃんの腕を「掴んで」歩道へと引き戻していた。
そして気を失った市井ちゃんを近くのベンチまで運んで来ていた。

「私…何で市井ちゃんを助けられたのかな…」
自分の手をまじまじ見ながら一人つぶやく。ようやく自分のした事に驚き、自分でも信じられない気持ちで一杯だった。
今まで何にも触れられなかった筈なのに…

ふと記憶が蘇る。物に触れる事が出来たのは今が初めてでは無かった。

(そういえば市井ちゃんの部屋で電気も点けたし…写真立ても直した…
タクシー乗って運転手さんと話もしちゃってた…)

いつの間にこういう事が出来るようになったのだろう、市井ちゃんの事で頭が一杯になってて気付かなかったが無意識の内に色々触れている。
無意識だから出来たのだろうか、こういうのを奇跡とでも言うのだろうか…

私は思いを巡らせたがすぐにやめた。奇跡でも何でもいい、市井ちゃんが助かったのは事実だから…
97 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)12時04分36秒
降り続いていた雨はやがて小降りになっていた。

私は雨粒から守る様に市井ちゃんの顔に何気なく手をかざす。
額の上に置いた手の平に確かな感触があった…市井ちゃんの温もりが伝わってくる。
私は今、間違いなく市井ちゃんに触れている…

(う……ん)

しばらくして市井は目を覚ました。

(私…生きてる…確か車にはねられそうになった筈なのに)

途切れた記憶の糸を何とか手繰り寄せようとする。

(目の前に車が来た時…確か、誰かに呼ばれた気がして…腕を掴まれて…)

そこまでしか思い出せなかったが市井は自分が誰かに助けられたんだ、という事は認識できた。
そして自分の額に誰かの手が置かれている事にようやく気付き、顔を上げる。

見慣れた顔が自分を心配そうに覗き込んでいる…後藤の顔がそこにあった。
98 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)12時12分55秒
「あ…市井ちゃん…大丈夫…?」

市井は慌てて飛び起きる。しかし事態が飲み込めず、目を白黒させているのみだった。
死んだ筈の後藤が今、まさに自分の目の前にいる…市井でなくとも信じられなくて当然である。

「後藤……?」

市井は何とか一言だけ言葉を絞り出す。

「! 市井ちゃん、私が見えるの!?」

後藤は驚いた様な、嬉しそうな表情をしている。

「後藤…あんた、死んだんじゃ…」
「あ…うん、私、死んじゃったみたいなんだけど…その、何て言うか…簡単に言うと幽霊になっちゃって…」

確かに目の前の「後藤」の体はは薄い半透明に見えた。
市井は何か言いかけ、口をつぐむ。暗い表情になっている。
99 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)12時24分55秒
「市井ちゃん…どうしたの…?」

市井は黙ったまま目をそらす。しばらく沈黙が二人を包む。

「私、後藤に酷い事した…」
「え…?」
「謝っても謝りきれない…私のせいで後藤、こんな目に遭っちゃって」
「違うよ…」
「私があの時後藤を呼んだりしなきゃ、後藤が死ぬ事なんて無かったし…」

「違うの市井ちゃん!!」
私の突然の大声に市井ちゃんはびくっとして口を止める。

「私が事故に遭ったの、市井ちゃんのせいだなんて私、ちっとも思ってなんか無いよ。市井ちゃんが謝る事なんて無い。
謝るとしたら私の方だよ…私が勝手に飛び出して、勝手に死んじゃったのに市井ちゃんがそんなに思い詰めてるなんて…」

「後藤…」
100 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)12時35分00秒
「それから…圭ちゃんが言ってたの聞いたんだけど…市井ちゃん、歌ももうやめるって…本当?」

再び二人の間を沈黙が流れる。

「…後藤がくれた写真の事、覚えてる…?」
市井ちゃんの部屋にあった写真立てに入っていた写真の事だろう。

「あの時言ったでしょ…夢を叶える自信はそこまである訳じゃないけど、後藤が向こうで待っててくれてるから私も負けない、頑張れるかも知れないって事…」

「…うん」

「でもその後藤を私、死なせちゃって…自分の歌のせいで人が死ぬなんて凄いショックだった…
目標を自分で壊しちゃって、もう待っててくれる人いなくなっちゃったって思ったら恐くなって…頑張れなくなった。
だから、もう……後藤!?」

私は市井ちゃんの言葉を遮るように、思わず市井ちゃんを抱きしめていた。
市井ちゃんをこんなに小さく感じたのは初めてだった…
101 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)12時50分58秒
「だからそれは市井ちゃんのせいじゃないよ…!全部一人で抱え込まないでよ…
待ってるのは私だけじゃない…圭ちゃんだって裕ちゃんだって、メンバーみんなだって、ファンのみんなだってずっと市井ちゃんの事待ってる…!
それに私、死んだって言ったって、こうやって今市井ちゃんと会ってる…話もしてる…
市井ちゃんを待つ事、出来るんだよ…」

私はいつの間にか涙を流しながら市井ちゃんに訴えていた。
この体になって以来、泣こうと思っても全然泣けなかったのに今は自然と涙が流れていた。

「私が知ってる市井ちゃんはいつだって自信たっぷりで、かっこ良くって…
一度シンガーソングライターになるんだって決めたらスパッとモーニング娘やめちゃう位、意志の強い子で…
私の事なんか気にしないで市井ちゃんには自分の夢を追いかけて欲しい…そんな簡単に諦めちゃう市井ちゃんなんか市井ちゃんじゃないよ…」

涙がとめどなく溢れる。頭の中には言いたい事が一杯あったが言葉が続かない。
102 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)13時02分18秒
市井ちゃんは黙って私の言葉を聞いていたが、ぽんぽんと私の肩を優しく叩く。

「…ほんとに可愛いなぁ後藤は」

「……」
私は鼻水をぐしゅぐしゅすする。

「そうやって泣いてる後藤見てたらさ…最後のダイバーや武道館思い出して、こっちまで泣きそうになっちゃったよ…
そうだよね…後藤の他にも待っててくれる人、いっぱい、いっぱいいるんだよね…
後藤がそんな姿になっても応援してくれてたら、頑張らないわけにはいかないじゃない」

「じゃあ…」

「心配かけてごめんね後藤。私、もう二度と歌やめるなんて言わないよ…
いつになるかわかんないけどさ、待っててくれる…?」

「市井ちゃんっ…」

よかった…市井ちゃんが立ち直ってくれて…
私は嬉しくなってぎゅっと、さらに市井ちゃんを抱きしめる。
さっきまでの弱々しい市井ちゃんじゃなく、いつもの市井ちゃんの感触がいっぱいに伝わって来ていた。
103 名前:今日はここまで 投稿日:2000年07月13日(木)13時13分06秒
第7幕終了です。

「小説どう思う」スレ見て、続けようかどうしようか迷いました(笑)
でもほったらかしにして置くのは管理人さんに対しても見てくれてた人にも失礼なので
最後まで書かせて頂こうと思います…
小説家なんて気取ってないです、ただのマジファンなんですってそれがいかんのかな(笑)

えと、大詰め第8幕は明日更新予定。
104 名前:まいのすけ 投稿日:2000年07月13日(木)14時12分51秒
続き頑張って下さい。
105 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月13日(木)14時58分39秒
更新待ってました。期待してますよ!!
106 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月14日(金)23時09分18秒
読みました、泣けてます。
続きお待ちしております。
107 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月15日(土)04時05分37秒
最後どのような展開になるか、期待してます。
108 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月15日(土)17時45分42秒
作者です。皆さん感想有り難うございます。

作者の都合により週末、更新できなくなりました。
毎回読んでくれてる方々、すいませんです…週明けには何とか…はい。
109 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月16日(日)23時45分05秒
続き待ってます。がんばってください
110 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)16時18分34秒
作者です。

それでは第8幕始めます。
111 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)16時32分59秒
「ちょっと痛いってば後藤」
市井ちゃんが苦笑しながら言う…もう暗い表情は無い。

「あ…ごめん」
と、私はあわてて市井ちゃんから離れる。

「そうだ、私が車にはねられそうになった時助けてくれたの、後藤だよね…ありがとう」
「そんな…改めて言われると照れちゃうな〜」
私は照れくさくてただ笑っていた。

「でも本当、今回の事ゴメンね…後藤だってまだモーニング娘やプッチモニ頑張らなきゃならなかったのに」
「市井ちゃん、だからそれは…」
私はまた市井ちゃんが自虐的になるんじゃないかと少し心配になる。

「…わかってるよ。けど、後で皆にも謝ろうと思ってる」
「皆だって怒ってないよ、心配しなくていいから…」
私は頭をぶんぶん横に振って否定する。

「でも、皆にも迷惑かけちゃったのは事実だし…私だけまた頑張りますって訳にはいかないよ。
謝っておかなきゃ私の気が済まないから…その上で一から出直し」
「うん…わかった」

(圭ちゃんにも心配かけちゃったなあ)
市井はそんな事を考えながら昨日ぶたれた頬の痛みを思い出していた。
112 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)16時42分00秒
「それから後藤…今更なんだけど、あんた何で幽霊のクセして見えたり触れたり出来るの?」

「自分でも信じられないんだ…ちょっと前までは誰にも気づいて貰えないし、何にも触れる事出来なかったし…
すごく寂しかった」

「いきなり見える様になっちゃったって訳…?」

「うん…昨日、お通夜の席で皆が市井ちゃんの話してて…市井ちゃんが歌をやめるって事聞いて…
そしたら私、いてもたってもいられなくって会場飛び出しちゃって…多分そのくらいから」

「私の事考えて暴走しちゃったって事…?何だか複雑だなあ」

「愛の力って言ってよね」
と、私は鼻を鳴らす。

「ばーか、私はそんな趣味無いよ…まぁ、嬉しいけどさ」
市井ちゃんも笑って答える。
113 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)16時51分50秒
ふと市井ちゃんが真面目な顔になる。

「後藤さ…そうやって見えたり触れたり出来た事で、何か変わった事とかない?」
「…どゆ事?」

「だから、今まで出来なかった事が急に出来る様になったって事で…何か反動があったりしないかって」
「何かあったっけ…あ、時々目眩いがした事くらいかな」
市井ちゃんを探している時、何度もあったアレだ。

「大丈夫なの、それ…」
市井ちゃんは心配そうな顔で私を見ている。

「多分…大丈夫。今は何とも無いし」
私は気楽に考えていた。

それから私たちは2人で話し込んでいた。
新たな決意を語る市井ちゃん。やっぱりこういう市井ちゃんが市井ちゃんらしいよね。
ずっとこの時間が続けばいいのにな…

もう雨はすっかりやみ、空は白み始めていた。
114 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)17時01分47秒
「そうだ!」
突然大声を出す私に市井ちゃんはきょとんとしている。

「市井ちゃん、私まだ市井ちゃんの初めて作った歌、聞いてない」
「あ…そうか、まあその、お互い色々あったしね」

「市井ちゃんの歌…聞きたい」
「えぇ?今?いきなりはちょっと恥ずかしいな〜」
「何でよ〜私、市井ちゃんの歌聞く為に、こんな体にまでなっちゃったんだよ〜」
冗談っぽく言ったのだが私はしまった、と思う。

おそるおそる横を見ると市井ちゃんはうつむいている。

「あ…ごめん、私そんなつもりじゃ…」

市井ちゃんはうつむいたままだ。どうしよう、どうしよう。
私はあたふたするだけだった。

すると市井ちゃんは突然顔を上げてぱっと笑顔になる。

「びっくりした?」

私の泣きそうな顔を見て市井ちゃんはケラケラ笑っている。
すっかり騙されてしまった…
115 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)17時08分30秒
「後藤の慌てた顔ってば、面白いな〜」

市井は笑いながら後藤に目をやるが、今度は後藤の方が黙り込んでしまっている。

「あれ…後藤?」
「………」
「ごめんってば後藤…ホントにごめん」
市井はちょっと調子に乗りすぎちゃったか、と後悔した。

「反省した?」
後藤はお返し、とばかり笑顔を向けた。
市井もやられた、という顔をしている。

「これでおあいこだね」

2人は思わず笑い合う。
116 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)17時22分25秒
「わかったよ、今度こそ本当に聞かせてあげるから…でもイザとなると緊張するな〜」
「市井ちゃん、私一人相手でそんなに緊張してどうすんの、デビューしたら人、いっぱいいるんだよ」
「うっ…後藤、痛いトコ突くね…って後藤、目、どしたのさ?」

さっきから目をこすっていた私を見て市井ちゃんがたずねる。

「え…?あ、ちょっと目が霞んじゃって…」
大丈夫だから、と返すと市井ちゃんはそれ以上気にはしなかった様だ。

「よし…じゃあ歌うからさ、心して聞けよっ」
「うんっ」

市井ちゃんてば、まだ緊張しているのか歌う前から顔を赤くしている。それを悟られたくないのか私に背を向けた。

「市井ちゃん、タイトルはなんていうの?」

「………」
市井ちゃんは何か答えたようだが私には聞こえなかった。

『あれ、市井ちゃん…聞こえないよ…何て言ったの…?』

そう言おうとした時突然、昨晩何度も経験したあの目眩いが私を襲ってきた。
今までは市井ちゃんの事で頭がいっぱいで何とか気にせずに来れたが、安心しきっていた今の私に抗う力は無かった…
117 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)17時33分17秒
「ちょっと〜何かリアクションくらいしてくれたっていいじゃんか〜、『内容は?』とかさ」
と市井はぶつぶつ言いながら振り返るが、一瞬にしてその表情は凍り付く。
振り向いたその視線の先に後藤が倒れていたからである。

「後藤っ、どうしたの!?」
あわてて駆け寄り、後藤を抱き起こそうとするが出来なかった。
手応えが無かった…というよりも市井の手は後藤の体をすり抜けてしまったからだ。

(どうして…!?ついさっきまで後藤に触れる事、出来たのに…)

市井は後藤の体を見て絶句する。半透明に見えていた誤答の体はその透明さを増し、今にも消えてしまいそうだった。
さっきまでは半透明とはいえ、もう少しはっきり見えていた筈だったのに。

「後藤…後藤っ」
市井は後藤の名を呼び続けるが後藤は倒れたまま反応が無かった。
118 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)17時48分33秒
『…藤…後藤っ』

遠くで私を呼ぶ声がする…誰だろう…聞き覚えのある声…市井…ちゃん?

私は何とか目を開く。目が霞んであまりよく見えないが市井ちゃんが側で私の名前を呼んでくれているのがわかった。

(市井ちゃん…)
手を伸ばし市井ちゃんの顔に触れようとしたが私の手はすり抜ける。
さっきまでの様に市井ちゃんに触れる事が出来なくなってる…それに…体に力が入らない。

「後藤、やっぱり見える様になってその分、精神的に負担が掛かってたんじゃ…」
「ごめんね…市井ちゃんの歌…聞けそうにない…」
市井ちゃんは黙って首を横に振っている。目には涙が浮かんでいた。

「お別れだね…市井ちゃん…」
「バカっ、せっかく会えたのにそんな事…」

「最後に市井ちゃんと話が出来たの、嬉しかった…もう、思い残す事…ないよ」
「後藤、私の事、待っててくれるって言ったじゃない…!
そんな弱気は私、許さないから…私の事立ち直らせてくれた後藤はどこいったのよっ」
119 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)17時59分47秒
「でも、最後にもう1度…市井ちゃんに触れたかったな…」
「後藤…まだやり残した事あるじゃない、まだ私の歌、聞いてないでしょ…だから…!」

「市井ちゃん…心配、しなくていいよ…消えるっていっても…ちょっと寂しいけど…また誰にも見えなくなる事に戻るだけだよ…
私はそばにいるから…いつでも市井ちゃんの歌は聞けるから…見守ってるから…」
「後藤…」

ごめんね市井ちゃん、私、嘘ついた。
”また誰にも見えなくなるだけ”…そんな確信全然無かったけど市井ちゃんにこれ以上心配かけたくなかったから。

私は残った力を振り絞り、再び市井ちゃんに手を差し伸べる。市井ちゃんも私に手を差し出す。
2人の手の平が合わさり、指を絡める。

また市井ちゃんに触れる事が出来た…
120 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)18時13分02秒
「市井ちゃん…私…今、市井ちゃんの手に触れてるよね…?」

「うん…」

「私、絶対市井ちゃんの初舞台、見に行くから…」

透明さを増していく後藤の姿を見て市井は複雑な気持ちになっていた。
こうして後藤と触れ合う事が出来る…それはとても嬉しい。
しかしこの事はまた、後藤の体に大きな負担が掛かっているという事でもあった。
後藤は否定していたが、このまま後藤が消えてしまえば、おそらくもう二度と会えない、最後の別れになるだろうとも市井は考えていた。

(後藤はそれでも最後の力を振り絞って私を元気付けてくれてる…)

市井はしっかりと後藤の手を握り締める。
「うん…絶対、絶対見に来いよっ私、後藤の分まで頑張るから見守ってて…」

そして後藤の体が薄れていくに連れ、握り合っている手の感触も薄れていき、その感覚が完全に無くなった時、後藤の姿はもう見えなくなっていた。
市井が最後に見た後藤の顔は、とても満足そうだった。
121 名前:今日はここまで 投稿日:2000年07月17日(月)18時18分30秒
作者です。

第8幕終了です。後藤が、後藤が〜
次回でおそらく最終幕です、中心はその後の市井です。
122 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月17日(月)21時09分49秒
まさか後藤はそのまま・・・なんてことは・・・
最終幕を見守りたいと思います。
123 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月18日(火)20時59分11秒
気になる〜〜。
作者さん、がんばって!!
124 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月22日(土)20時24分54秒
作者です。

では最終幕、第9幕(前編)始めます。
125 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月22日(土)20時38分23秒
市井は後藤が消えてしまった後もしばらくその場を離れる事が出来ずにいた。
しかし後藤の姿が再び見える事はなく、気配さえ感じる事も出来なかった。

(やっぱり…行っちゃったのか)
軽くため息を吐くと市井はゆっくりと歩き出す。

「でも…いつかまた、会えるかな」
そう呟き、空を見上げた。



家に戻り、自分の部屋に入ろうとすると市井は後藤の気配がした錯覚を覚える。

「…後藤!?」

あわてて中に入るが後藤の姿はやはり無かった。

(…気のせい、か)

ふと市井の目に机の上にきちんと立てられた写真立てが目に入る。
写真の中には市井と一緒に写っている後藤が満面の笑みを湛えていた。

確か昨日、部屋を出た時に写真立ては倒して出たはずだったのに…
そう考えながら市井は、はっとする。そうか…後藤、来てたんだ…

「私、もう迷わないからね」

写真立てを手に取り、そう力強く言うと市井は着替え、部屋を出ていった。
126 名前:まいのすけ 投稿日:2000年07月22日(土)20時44分48秒
久しぶりに見てみる・・・
続きが気になっております・・・
127 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月22日(土)20時50分19秒
この日、後藤の告別式が滞りなく執り行われ、残されたメンバー達は斎場へと来ていた。

「紗耶香、結局お葬式来なかったね…もう、これで最後なのに」
矢口が寂しそうにぽつりと呟く。

「何言ってんねんな、あんたも昨日、ごっちんの声聞いたんやろ。
ごっちんと紗耶香を信じぃや」

「うん、でも…もうすぐ後藤、灰になっちゃう…」

「大丈夫、きっと来るよ」
不安気な矢口に保田も声を掛ける。

その時、突然後ろで勢い良く扉が開く音がした。
皆は一斉に振り返ると市井の姿があった。急いで来たのだろう、市井は肩で息をしている。
128 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月22日(土)20時58分56秒
「紗耶香!」
「市井さん!」
メンバー達が市井に駆け寄る。

「遅いよ紗耶香…」
保田が優しく声を掛ける。

「心配かけてごめんね圭ちゃん…私…」
「私の方こそ昨日、ぶったりしてごめん…で、答えは出たんでしょ?」
「うん…私、もう歌やめるなんて言わない…もう一度頑張る。
あ…それからみんな、後藤の事…本当にごめんなさ…」

「それは言いっこなしやで」
中澤が市井の言葉を遮る。

「それは紗耶香のせいやない。誰のせいとか、そういうのは無しや。
それにごっちんかて、自分を責めるな言うたやろ?」
129 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月22日(土)21時11分24秒
「うん…だけど私…て、あれ?裕ちゃん何で後藤の事知ってるの?」

「私達も昨日、後藤の声…聞いたんだよ。丁度紗耶香が歌をやめるんじゃないかって話してた時。
それで後藤、紗耶香の所に行ったんじゃないかって」
保田が代わりに答える。

「昨日…いや、今日かな…私、後藤に会ったんだ。
後藤、死んだっていうのに全然そんなの気にしてなくて…投げやりになってた私の心配ばかりしてくれた。
皆が私の事待っててくれてるんだからそんな事で夢をあきらめるなって…」

メンバー達は黙って市井の言葉を待っていた。

「…それから後藤、私の事ずっと見守ってるからって言って…」
市井はそこまで言って口を閉ざし、目を伏せる。
130 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月22日(土)21時19分32秒
「そうか…ごっちん、行ってしもたんか」

「………」
市井は黙ったまま肯く。

「紗耶香、ごっちんは紗耶香を励ます為にほんの少し、魂だけでも生きてたんやと思う。
紗耶香が立ち直る事が出来て…そんで安心して行けたんや。ごっちんの気持ち、無駄にしたらあかんで」

「でも…私、また後藤に歌、聞かせてあげられなかった」

「簡単じゃない」
保田が市井の肩をぽんと叩く。

「え…?」
「今、ここで歌ってあげなよ。後藤、紗耶香の事見守ってくれるって言ったんでしょ。ちゃんと聞いてくれるよ」

そうか…そうだよね。
『いつでもそばにいるから』、後藤は確かにそう言ってくれた。

市井は前に進み出て、後藤の棺の前に立つ。
131 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月22日(土)21時32分55秒
棺の中に横たわっている後藤はとても奇麗な顔をしている。
眠っているように見えても不思議ではないだろう。

(後藤、今度こそ心して聞けよっ)

市井はひとつ深呼吸をすると歌い始めた。それは少し切ない歌だった。





歌い終わると市井はいつの間にか涙が流れていたのに気づいたが、拭わずに皆の方へと振り返る。

「やっとごっちんに聞かせてあげられたね」
「カッコ良かったよ」
「ええ歌やなぁ、紗耶香」
皆拍手して口々に感想を言いながら迎える。

しかし市井は突然駆け出し、外へと飛び出す。
そして空を見上げ、大声で叫ぶ。

「後藤ーっ!私の歌、ちゃんと届いたでしょーっ!感想、聞かせに来いよなぁーっ!」

初夏の太陽が何故かひどく眩しく感じられた。
132 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月22日(土)21時47分49秒
それから3年の月日が流れた。
あの忘れられない事件があった時と同じく、初夏の日差しが眩しく映える日だった。

そしてこの日、一人のシンガーソングライターのデビューコンサートが行われていた。
その新人歌手の名前は市井紗耶香。彼女の夢が叶った記念すべき日である。

モーニング娘。を脱退して以来、ソロとしての初舞台。
場所は勿論東京ドーム。
観客は5万人で超満員。特別ゲストは市井の憧れの吉田美和。
アンコールの大声援。そして市井は手を振りつつ、舞台へ戻ってくる。
歓声がドームを揺るがす。

客席を見渡すとモーニング娘。として同じ時を過ごした、かつての仲間達の顔も並んでいた。
しかしただ一人、後藤の顔はそこには無かった。

市井は少し表情が曇るがすぐに元気な表情に戻し、観客に手を振り返す。

(どこかで…聞いててくれてるよね、後藤…)

観客の大声援が響く中でも、市井は確かに後藤の声を耳にした気がした。

「それでは…私がモーニング娘。を脱退して初めて作った曲を歌います。タイトルは…」
133 名前:今日はここまで 投稿日:2000年07月22日(土)21時49分28秒
作者です。

とりあえず第9幕(前編)、ここまでです。

後編はエピローグ。
134 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月27日(木)00時20分53秒
後編はまだか?楽しみにしてます。
135 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月28日(金)17時10分55秒
私も続き待ってます。
136 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)18時01分17秒
作者です。

更新が大変遅くなりましたが最終回です。

137 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)18時14分17秒
無事に市井のソロデビューコンサートも終わり、楽屋には市井の他、メンバー達も集まっていた。

「3年待たされた甲斐があったよね」
「紗耶香すっごくカッコよかったよ〜、もう惚れちゃいそう」
「何かますます男前に磨きがかかったなぁ」
「私もこんな大舞台で歌ってみたいさ、羨ましいよ本当」
メンバー達は口々に市井へ感想をぶつけている。

「ありがとう、みんな…皆が応援してくれたからだよ」

「ちょっと皆、紗耶香の事ばかりで私には何もないの?」

市井が皆に笑顔で答えていると、石黒が後ろから少し不満気に口を挟んで来た。

「あ、そうか。彩っぺが紗耶香の衣裳デザインしたんだよね」
安倍が今気付いた、という風に答える。

「ん〜、今イチだったかなぁ〜」
「タンポポにも作ってよぉ〜」

矢口・飯田らも好き勝手に感想を言っている。

こういう騒がしい風景を見るにつけ、市井は改めて”帰ってきたんだな”という気持ちになった。
138 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)18時26分02秒
「どうしたの、紗耶香。遠い目なんかしちゃって」
保田が飲み物を差し出しながら声を掛ける。

「え?あ…何かこういうの、懐かしいなぁって」
「何だか元気無いよ。せっかく夢叶えたっていうのに…やっぱり疲れたの?」

飲み物を受け取りながら市井は、そんな事ないよ、と答えていると中澤がニヤニヤしながら近付いてきた。

「圭坊、紗耶香はごっちんの事気にしとるんよ」

…やっぱり裕ちゃんは何でもお見通しか。市井は少しバツの悪そうな顔をする。

「ホラ図星や。分かりやすすぎるで自分」
「だって…後藤があの時私を励ましてくれなかったら、今の私は無かった様なものだし…
やっぱり、会ってお礼のひとつでも言いたいよ」

「そうか…それでな、紗耶香にちょっと会わせたい子おんねん」
「え…?」

中澤が合図すると、扉がゆっくりと開いた。
139 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)18時39分47秒
扉を開けて入ってきたのは…後藤だった。

「市井ちゃん…」
後藤は花束を持ったまま恥ずかしそうにしている。

「後藤〜〜!」
市井は表情をぱぁっと明るくして後藤の所へ走り寄っていた。

「後藤、アンタどこにいたんだよ〜!?客席いなかったでしょ〜?」

後藤の肩を掴んでぶんぶん揺らしながら問うと、中澤が代わりに答えた。

「あぁ、ホンマはな。コンサートの時、最後にごっちんが花束渡す筈やったんよ。
けどな、あれだけ楽しみにしとったクセにイザとなったら緊張して見てられへんやて…笑ろてまうやろ?」

「何だよそれぇ〜!?後藤、あの時戻って来れたのは何の為だったのよぉ」
「う…まぁ、そうなんだけどね…」

後藤は頭を掻き、笑って答える。

140 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)18時57分40秒
皆、3年前のあの日の事を思い出していた。


「それにしてもホンマ奇麗な顔してるな…いつ起き上がってきても不思議やないな」
棺の中に横たわる後藤を見つめながら中澤が呟く。

「皆、もう言っておく事ないか…?」

中澤はメンバー達の顔をを見回しながら問い掛けるが返事は無かった。
泣いている者も数人いた。これで最後と思うとやはりつらいのだろう。

「昨日も言うたやろ…ちゃんと笑って送りださなって」
「でも…裕ちゃんだって泣いてるさ」

中澤は言われて初めて、自分も泣いていた事に気付いた。
141 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)19時10分07秒
「これで最後なんかじゃないよ」

市井が突然声を上げる。

「でも…」
「私はまた後藤に会えるって思ってる…そう後藤と約束したから」

「そうやな…その気持ちを忘れへんかったら、きっとまた会える日も来る筈やな」
中澤が自分に言い聞かせる様にそう答えると、皆も黙って肯いた。

「それじゃそろそろ閉めるで…とりあえずは暫くのお別れやけど、さよならは言わへんからな」

棺の小窓に手を掛け、横たわっている後藤に静かに声を掛ける。
142 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)19時23分41秒

「きゅーん」

…どこからかそんな声が聞こえて来た。
皆、びっくりして辺りを見回す。

「誰やねんな…ごっちんの真似なんかして…不謹慎やで」
中澤はそう窘めるが声は怒っていなかった。


「きゅーん」


再びその声が聞こえる。
市井は、はっとして後藤の棺に駆け寄った。

「ちょ、ちょっと紗耶香?」
「後藤…!今の、後藤でしょ!?」

市井は後藤に声を掛け続ける。
最初は皆も唖然としたように市井を見ているだけだったが、いつの間にか市井と同じ様に後藤に声を掛けていた。

「後藤!」
「後藤さん!」
「ごっちん!」

…しかし反応は無い。

市井の流した涙は頬を伝い、後藤の顔へと落ちていた。
143 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)19時43分50秒
(私の気のせいだったの…?)

市井はがっくりと肩を落とし、戻ろうとすると突然、後藤の気配を確かに感じた。

「市井…ちゃん…」
「……!?」

三たび声が聞こえて、市井は弾かれたように棺の方へ振り向く。
…ゆっくりと後藤の目が開かれた。
144 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)19時58分53秒
「市井ちゃん…」
目覚めた私が最初に見たのは涙で顔をくしゃくしゃにした市井ちゃんだった。

「戻って…来ちゃった」
それ以上言葉が浮かばず私が照れ笑いをすると、市井ちゃんは黙って私を抱きしめてくれた。

「市井ちゃんの歌…すっごく良かったよ…
続きが…聞きたくなっちゃった」

市井ちゃんは泣きながら肯き、さらに私をぎゅっと抱きしめる。
あの姿でいた時には無かった感触。
痛い程のその感触が逆に、戻って来れた事を実感できて私は嬉しく思った。

「ちょっと紗耶香…いい加減にしとかないと、せっかく後藤戻ってきたのに、また逆戻りになっちゃうよ」
「あ…ごめん後藤、大丈夫…?」

圭ちゃんの言葉に慌てて市井ちゃんは体を離す。
周りから自然に笑い声があがり、しばらく止む事は無かった。


145 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)20時11分43秒
「…まさかごっちんが生き返るなんて、あの時は思いもせんかったわ」
「皆びっくりしたよね〜」
「その後も大変だったよ、一度お葬式まであげたのに」
「そうそう、ドッキリだったんじゃないかって色々騒がれたし」

皆当時を思い出して口々に声を上げていたが、突然市井ちゃんが私の前にずいっと出て来る。
…あれ、怒ってる?

「で…後藤、話を戻すけどさ。せっかく戻って来れたのに…私の初舞台見てないってどーいう事なのかな?」
「え、えっとそれは裕ちゃんの言葉のアヤで…何ていうかその、緊張しちゃって…」
「ふ〜ん」
市井ちゃんはジロッと私を睨んでいる。

「ちゃんと見てたよ、見てたってば、信じて市井ちゃ〜ん」
どうしよう、私はしどろもどろになってしまった。

「あはは…冗談だよ、後藤はどこかで見てくれてるって信じてたから」

よかった…怒ってなくて。
146 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)20時21分37秒
「それにあの時しっかり約束してたしね」

私が一度、力尽きた時…”絶対市井ちゃんの初舞台、見に行くから”って言った事、市井ちゃん覚えててくれてたんだ…嬉しいな。

「どうだった?私の初舞台」
市井ちゃんは目を輝かせながら聞いてくる。
皆も私の言葉を待っているようだ。

「うん…カッコよかった」

2人の間にしばらく沈黙が続いた。

「へ?それだけ?」
何だよそれぇ、と市井ちゃんは私の首を絞めるフリをする。
皆からもどっと笑い声が上がっていた。

夢を叶えた市井ちゃんの姿は本当にカッコ良くて、眩しくて…
感想はいっぱいあるけど、すぐには表せないよ。
147 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)20時34分26秒
私と市井ちゃんがじゃれていると、突然かおりんが声を上げる。

「カオリ思うんだけど…ごっちん、紗耶香の初舞台を見たい気持ちがすっごく強くなって戻って来れたんだよね。
今日、それが叶っちゃったけど、ごっちんどうなるの?」

皆ぎょっとして一気に静まり返る。

「そう言えばそうやな…
ごっちん、あんた突然成仏したりせえへんやろな?」

裕ちゃんが心配そうに声を掛けて来る。
市井ちゃんや皆も私を見つめている。


(…大丈夫だよ)

私はそう力強く答えるんだ。
私、まだまだやりたい事がいっぱいある。
市井ちゃんの初舞台見て私も娘やプッチでも負けらんないって、思ったし。

…それに、これからの市井ちゃんも見つめていたいから。

<FIN>
148 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)20時37分44秒
はい、作者です。

一ヶ月以上に渡って書いてまいりましたが、これにて終了です。
とは言ってもただ更新が遅かっただけでしたが。
これは本当にせっかく読んでいただいてる方には申し訳なかったです…

こういう結末でしたが如何だったでしょうか…
149 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)20時50分23秒
作者です。

もうちょっとだけ、後書き紛いの事を。

「いちごまはもうお腹いっぱい」て言う声もあるとは思ったんですが、やらせて貰いました。
今までとはちがったタイプのいちごま小説(…になるだろうか?)
目指して書きましたが筆力の無さは如何ともし難く、
頭に浮かんだ構想とおりには行かなかったのがちょっと残念です(笑)
でも、途中の感想も好意的なものばかりで、本当嬉しかったっすね。

この場を提供してくださったfire7さんにも感謝してますです。

それではこの辺で…
150 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)20時53分14秒
作者です。

あともう一つだけ(笑)

後半、更新期間が開いてばかりだったので今回のエピローグ見る前にもう1度最初から読み返すといいかもしれません。
作者が伏線張りに苦労してる所も見えるかもしれませんが(笑)

それでは、今度こそこの辺で。
151 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)21時03分29秒
楽しく読ませてもらいました。いちごまお腹いっぱいだなんて、とんでもない。
よかったですよ。(といっても、自分は娘。小説なら節操なく読むやつだけど)
今から読み返してみますね。
152 名前:ちーと 投稿日:2000年07月31日(月)22時06分42秒
初めて書きこみますが、ずっと読ませてもらってました。おもしろかったですよ。新作楽しみにしてます。
153 名前:狛犬 投稿日:2000年07月31日(月)23時17分48秒
……良かった。うん、本当に良かった。
いろんな意味で、救われた。みんな、本当に、良かったね。

作者さん、お疲れさまでした。
154 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月31日(月)23時41分06秒
狛犬さん
今日小説書きませんでしたか??
155 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月01日(火)01時52分02秒
いやー、作者さんお疲れ様でした。そしてありがとうございました。

葬式で死者を歌で送るというのはすごいシーンですよね。
かのh氏の葬式の時の名シーンを思い出しながら読んでました。

また気が向いたら新作を書いていただきたいです。
(勝手な事言ってすいません)
156 名前:Hruso 投稿日:2000年08月01日(火)02時02分39秒
作者さん、お疲れさまでした。
「いちごまはもうお腹いっぱい」になることなんてありえません。
いちごまは別腹です。(笑)
157 名前:まいのすけ 投稿日:2000年08月01日(火)08時48分11秒
なにはともあれハッピーエンドでよかったです。」
158 名前:名無しさん 投稿日:2000年08月01日(火)09時44分40秒
作者さんお疲れさまでした、
いちごまはやはりいいですね。

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