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蜻蛉(とんぼ)

1 名前: 投稿日:2000年06月29日(木)03時16分58秒
小説いきます。
いちごま。やや保田×市井も含み・・。
2 名前: 投稿日:2000年06月29日(木)03時33分56秒
厄介な時代に生まれたね。

呟いた言葉は赤い空に呑みこまれ。耳を貫く轟音が真上を通り過ぎる。
真希は心底困ったように笑いながら、遠くで焼かれている街を
一緒に避難してきた小高い丘から見下ろす。

**********
時は昭和。

「市井ちゃーん!!」

あたしの家に遊びに来るのが日課になっている最近。
彼女はいつも通り、少し乱暴に家の戸を開けて廊下を歩いている。
書物をしていたあたしは、待っていたその顔を見ようと障子に視線を移す。
影が白い和紙に移った。

「すっごいよ!!」

戸が壊れるほど勢い良く開けられた障子。
満面の笑みが毀れている真希。
こんなに嬉しそうな真希を見るのは、久しぶりだった。

**********
最近になってあたしの友達が次々と戦争に狩り出された。
駅のプラットホームで、決して笑わない友を二人で見送った。

「圭・・・ちゃ・・んっ・・・」

歓声と軍歌に掻き消された友を呼ぶ真希の声。
悔しいのか、悲しいのか、真希は泣いていた。
あたしは隣にいながらも何も出来ない非力な自分の掌を握り締める。

**********
「何っ?どーしたの、突然」
「これっ!!!」

彼女の肉付きのいい手は、いつの間にか骨ばっていた。
そしてその手に握り締められていたのは

「あたし、国のために戦争にいけるんだ!!」

赤い、収集礼状、だった。

あたしは、震える手で、それを手に取る。
渡された紙は真希の汗で少し湿っていた。


以前、隣に住んでいた幼馴染の矢口にも同じ紙が届いた。
笑いながらあたしの元を去っていき、
そして小さな壷にしまわれて帰って来た。

「この骨の何処が矢口なんですかっ!!」

思わず矢口のお母さんのいる前で、町長に口応えした。
綺麗に軍服を着こなし、腕には赤と白の日の丸をつけて。

「矢口はお国のために立派に死んできたんだ!!
 オマエみたいな非国民とは違うんだ!!」

見下した瞳であたしを見つめる。
あたしは赤紙が来ても決して戦争には行かなかった。
他の町民からは「非国民」と呼ばれていた。が、あたしは別に気に留めない。
そんなあたしを、矢口は卑怯者といった。
矢口は笑顔で死んでいったのかな?



3 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月29日(木)03時34分42秒
がんばれ!
4 名前: 投稿日:2000年06月29日(木)03時39分52秒
「真希・・行くの?」
「あったりまえでしょ!国のためになれるんだよ?」

心底嬉しそうにあたしを見つめる。
その瞳には、今までに無い強さが映し出される。
あたしは赤紙を真希に返しながら、小さな声で言う。

「クダラナイから、やめなよ」


目に見え始めていた敗戦の色。
今、誰がどうしようと、この国は負けるんだろう。


「く・・くだらないって・・
 市井ちゃん!?何言ってるの?
 それじゃあ、やぐっちゃんや圭ちゃんの死もクダラナイって言うの?」

圭ちゃんが死んだなんて、聞いてない。
胸が、痛む。

「け・・圭ちゃん・・死んだの?」
「今日、あたしの家にオバサンが来たよ。」




5 名前: 投稿日:2000年06月30日(金)02時12分05秒
**********
「きっとまた逢えるから」

馬鹿みたいに微笑んで、口付けられた。
軽く触れ合ったあたしの唇を、圭ちゃんの指がなぞる。

「っていうか・・悪いけど、あたし真希のことが・・」
「知ってるよ」

聞きなれてた声は、桜の木々のざわめきに消えた。
「また逢える」だなんて・・
嘘だというコトは彼女自身が一番自覚していて。
二度と逢うことは出来ない。

「死んだら、もう二度と逢ってやらないんだからっ!」
「はぁ?何ソレ?紗耶香、意味わかんないよ」

何だか辛気臭くなるのがイヤで何気なく言った。
最期まで笑って別れたかった。
けれど、笑えば笑うほど胸が苦しい。

・・・あの時、泣いてやればよかった。

**********
「真希、ちょ・・待ってよ!!」
部屋を出て行こうとする真希の腕を掴む。
真希は振り向きながら強い力で振りほどく。

「非国民!」

怒鳴る真希の顔は真剣で。
あたしはこんなに怒った真希を見たことが無い。

「落ち着きなよ。ねぇ、真希もわかるでしょ?
 もう戦争は負けなんだよ。だから行かないでよ。無駄死になんてやめなよ!」

勘の鋭い真希にはわかってるはず・・。
なのに、どうして・・。

「五月蝿いよっ!あたしがいつ死ぬかなんてあたしの勝手でしょ?」
「勝手じゃないよ、あたしは真希の事が」
「もう、離してよっ!!」

突き飛ばされて畳に不様に倒れこんだ。
真希は何も言わずに部屋から走り出て行った。
あたしは真希の足音を耳元で感じながら天井を見上げた。
歪んでいる視界が何よりもあたしの正直な気持ちで。

「・・・・・・・バカ、真希・・・・・・・」<BR>
<BR>
この思いは彼女には一生届かないままで終わってしまうのか。

「バカ、バカ、バカ、バカ」

どうにもならない理不尽な世界で己の非力さを悔やみながら。


6 名前:名無しさん 投稿日:2000年06月30日(金)07時45分16秒
苦しい・・・
気になる
7 名前: 投稿日:2000年07月01日(土)02時37分31秒
**********
季節は驚くほど早く進み、7月を迎えたこの街にも夏がやって来た。
真希の出発が明日に迫っているのに、真希はあたしの家にはあれ以来やってこない。
永遠の別れはもう少しなのに、終わりがやってきてしまうのに・・。

「あたしってなぁ・・・」

何事も無いかのように澄みきった川に向かって小石を投げる。
目を瞑れば幼い頃、ここで水切りをして遊んだ日のことが鮮明に思い出される。
平べったい石を探して、こう、水面に水平になるように投げる。
懐かしい二度と戻らない矢口と圭ちゃん、
そして、これから永遠になってしまう、真希。
投げた石はただ嫌な音を立てて落ちていくだけだった。
確か一番上手かったのは真希だったよね。
運動神経は無いくせに、やたら器用でいつもあたし達を驚かせてた。

「市井ちゃん、相変わらず下手だねー」
「・・・・真希?」

声を上げて笑いながら、あたしの隣に腰を降ろす。
彼女はあの時の圭ちゃんと同じ、軍服を着ていた。

「この前は・・ゴメン」

いつもは耳に残る高い声が、今日は何故か低く聞こえる。

「別に。あたしも悪かったし」

お互い目の前に流れている川を見ていた。
乾いた陽射しが痛い木曜の昼下がりは、静か過ぎて話題すら忘れてしまう。

「明日・・だよね」
「うん」

言わないと多分後悔する。
圭ちゃんの気持ちが、今ならわかる気がした。
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

「好きだよ」

発した声は空気に乗って真希の耳に届く。
恥ずかしくて顔を下に向けてしまう自分がバカみたい。
目の前には緑に茂った雑草が広がる。

女同士というコトに自分は余り違和感を持たない。
それは物心ついたとき圭ちゃんに「好きだ」といわれた時からで。
圭ちゃんの真っ直ぐな気持ちを酷く羨ましいと思った。


「あー・・・」

間の抜けた真希の声が聞こえる。
真希に言うのは間違っていたのかもしれない。
真希と圭ちゃんが同じとは限らないんだから。
軽蔑を恐れた。
非国民といわれようが何だろうが、ただ、
真希への思いを、真希自身に軽蔑されるのは怖かった。


「うん・・あたしも・・好きだよ」
「でも、あたし明日居なくなるから」

「そうだね・・・」

顔を上げて真希の顔を見る。
白い肌を赤く染めてあたしを見る真希はとても儚げで
捕まえていないと、本当に消えてしまいそうだった。
あたしは真希の腕を掴んで、静かに押し倒す。

「何、市井ちゃん、そーいうのしたいの?」

困った顔であたしを見てる。
それでも嬉しそうな声が、せめてもの救い。

「したい。けど・・別に」
「何それ?どっちなの?」

額を真希の額に重ねた。少し汗ばんでいる。
目の前には真希がいて、近すぎて視線を合わせるのも辛い。





8 名前:サンジ 投稿日:2000年07月01日(土)10時40分59秒
おおー。続きが気になる。
9 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月01日(土)12時35分20秒
みんないいところで止めてくれます、
続きが気になる。
10 名前: 投稿日:2000年07月02日(日)02時44分40秒
「真希・・・もう、会えないのかな・・・」
「さぁー・・・どうだろうねぇ・・・」

苦笑いで瞳を伏せる真希は、本当に困っていた。
乾いた唇に、自分の唇を重ねる。
最初で最後の接吻。
目を閉じて、その感触を二度と忘れないように記憶する。

「あ・・えないかも、ね・・」

自由になった唇はそう語った。

「あたし、死ぬのかなぁ、ねぇ、怖いよ、怖いよっ・・市井ちゃん・・・」

細い腕があたしの背中に回る。
震えているのが伝わってくる。
何もいえない自分が居た。
圭ちゃんも怖かったんだと、今さら思う。
なのに、あたしはあんな態度しか取れなくて。
笑っていた圭ちゃんを尊敬した。
彼女は知らない間に、すごく、大人になっていたんだ。


「死にたくない・・・市井ちゃんと、もっと、一緒に居たい・・」

横隔膜の痙攣が声を切断する。
腕の中で泣きじゃくる真希を、あたしはどうすることも出来ない。
無責任な言葉が、一番辛くて。
それでも、そんな言葉たちを紡ぐしか、今のあたしには出来ない。

「なら行かないでよ。あたしと一緒に何処かに逃げよう、ね?」

自分で言っていて悲しくなる。
もうそんな夢を見れる時間すらない。
真希はあたしの言葉を聞くと少し落ち着いたのか
あたしの顔を見上げる。

「優しいね。だから、市井ちゃんって好き」

ああ。
真希はもう
決心しているんだ。

あたしよりも年下のクセに強がって。

ああ。
あたしは
やっぱり
真希が好きだ。

「真希っ!!!」

「行かないで、行かないで!!ずっとあたしの傍にいてよ、真希!!」


いつの間にか、泣いてた。


「きっと、また、逢える、から」

あたしの頭を抱えて、真希が呟く。

「嘘つかないでよっ!もう、逢えないのは、真希が一番しっ・・・」

「また逢えるから」

「・・・・・っ・・・真希・・」

嘘つくのが下手なんだよ、真希は。

「真希、好きだから。愛してるから、あたしの事、忘れないで」

既に微笑んでいる真希。
何が彼女をそこまで死地へと向かわせるのか?
国のタメに?
死んでいった友に逢うため?


「忘れないよ、絶対」

呟いた口元。

最後に。本当に、最後に

そっと、君に、接吻。

生温かい感触を夏の暑さと摩り替えてしまわないように。
舌で拭って、一生、あたしの中で


・・・生き続けて下さい。
11 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月02日(日)04時12分27秒
せつない、、、
12 名前:23 投稿日:2000年07月02日(日)15時14分25秒
うまいぞ。こらぁ!!
まじ、せつないよぉ・・
このやつの、現代版みたい・・。やってくれませんか?
13 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月02日(日)21時28分11秒
行間の使い方がうまいですね、
本気で切なくなります、これからも頑張ってください。
14 名前: 投稿日:2000年07月03日(月)03時34分12秒
**********
「バンザーイ、日本国帝国、バンザーイ」

歓声を苦笑いで受け止めながら、真希は列車に乗り込んだ。
もうあたしの隣には、誰1人、いない。
込み上げてくる涙を、真希に見られないようにそっと拭う。
伝えた思いは一瞬の夏の陽炎。

「ま・・・・」

呼んでも、五月蝿いホームでは届くはずもないと思った。
けど、彼女は気付く。

「市井ちゃん」

声は聞こえないにしても、口の動きは紛れもなくあたしを呼んでいて。
聴きなれたあの声は、もう二度と、聞くことは出来ない。

「また――――」

途端、人が横切り、真希が見えなくなる。
何か言いかけてたのに。

「ちょっ、どいてよ」

人波が途切れた後に見えたのは、既に笑っている真希で。
あたしが見えなかったことを知っているはずなのに、
もう何も言おうとはしない。

「ちょっと、真希。今、分かんなかったよ!
 もう一回、言ってよ!!」

「バンザーイ、バンザーイ」

歓声と汽車の笛でもう届かなかった。



「真希ちゃん、気の毒にね。奥さん、知ってます?」
「え、何を?」

列車を見送っても尚動くことが出来ず
ホームのベンチに座っていた。


「真希ちゃんね、誰かの身代わりで戦争に行ったみたいなのよ」
「どういうこと?」

それは、君の、最後の優しさ。

「本当は真希ちゃんじゃなくて、紗耶香ちゃんが行くはずだったんですって」
「うそ、じゃあ、紗耶香ちゃんの代わりに?」
「ええ・・まだ幼いのに、本当にお気の毒だわ」

聞こえてくる音たちに、あたしは今更、どう反応すればいい?


          「泣けばいいんだよ」

真希・・・?

「ばっかだなぁ・・真希・・」


少し気の早い蜻蛉が目の前を通り過ぎた

・・・・ような気がした。


15 名前: 投稿日:2000年07月03日(月)03時38分17秒
>12さん
現代版・・「市井ちゃんの脱退」版でしょうか?
そうですねぇ・・
思いつき次第、頑張って書き始めてみたいです。
16 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月03日(月)04時32分17秒
む、胸が痛ぇ・・・
17 名前:サンジ 投稿日:2000年07月03日(月)15時48分40秒
そうだったのか・・・。
切ないなぁ。まじで。
18 名前:23 投稿日:2000年07月04日(火)02時30分41秒
12です。あの、脱退とかべつにシチュエーションはどうでもいいんです。
朝さんの、感じで時代がいまであれば。
機会があればよろしくおねがいします。
19 名前: 投稿日:2000年07月06日(木)03時32分15秒
数週間後。
戦争は結局、日本の「敗戦」という形でようやく幕を下ろした。
街は、人々の安堵の溜息と悔恨の声で混沌としていて。


慌しい街の復旧活動に手を貸す気にもなれなくて。
以前のように、友の声も慌しく廊下を小走りで歩いてくる足音も
・・・もう二度と聞くことは出来ない。
1日中、部屋の中で蹲っていた。

そうして数日間、まるで廃人の様に過ごしたあたしの元に
真希のお母さんが訪ねてきた。

あたしは思わず、あの日ホームで聞いた音を思い出します。

「本当は真希ちゃんじゃなくて、紗耶香ちゃんが行くはずだったんですって」
「ええ・・まだ幼いのに、本当にお気の毒だわ」

おばさんも、あたしのことを責めに来たのかな?


ガラッ――――
障子に影が入り、静かに襖が開く。

「紗耶香ちゃん・・・」
少しやつれたおばさんの顔。
見ているのが辛くなって、思わず俯いた。

「そんなに怯えないで・・。おばさん、紗耶香ちゃんを責めに来たわけじゃないの。
 今日はアナタに渡したいものがあってね。」

下を向いたまま、聞いていた。

「コレなんだけど・・」
そう言ってカサカサと何かを取り出した。
少し顔を上げると、床に置かれた茶色い封筒。

「さっきね、真希の部屋を片付けてたら出てきたの」

封筒を手に取る。
宛名にはあたしの名前。

「じゃあ、おばさんもう行くわね。
 もしよかったら、読んであげて・・?」
そう言い残すと、おばさんは部屋を出て行った。


小さく息をつくと、震える手で封を切る。

「市井ちゃんへ
 あたしは市井ちゃんと出会えて、本当に幸せでした。
 いつまでも市井ちゃんは、市井ちゃんのままで。
 かけがえのない時間をアリガトウ。
 真希」


「きったない字だなぁ・・ったく」

あたしの目からは、アタタカイ液体が、いつまでもいつまでも


止まることなく、溢れていました。


20 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月07日(金)22時13分25秒
この二人が、生まれ変わったとゆうせっていで。
現代版なんかどうすかね?
途中経過でこんなこといってすまんです。続きとてもたのしみです。
21 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月12日(水)20時42分24秒
これで終了ですか?
22 名前: 投稿日:2000年07月14日(金)01時46分27秒
>21さん
や・・まだ続きますよ。
最近ちょっと忙しいので、落ち着き次第
すぐにでも再開するつもりではあるのですが・・・
23 名前:龍岩寺 投稿日:2000年07月21日(金)11時02分13秒
すっごく面白いです。続きあるのですね。楽しみにしてます。
急がすに、ゆっくりでいいので、頑張ってください。
24 名前: 投稿日:2000年07月28日(金)03時48分35秒
長い間ほったらかしでスミマセン。
やっとこさ、続き書きます。
25 名前: 投稿日:2000年07月28日(金)04時16分30秒
真希――――

今さ、あの川に来てるんだ。
本当によくココで遊んだよね?
水浴びしたり、水泳の競争したりさ・・
泳ぐの苦手だった真希に、みんなで泳ぎ教えたりもしたっけ。

ホント・・懐かしい・・・

見上げた空は、泣きたくなるくらいの青空で。
真希もどこかでこの空、見てるのかな?
それとも、もう・・・

「バッカみたい」
やけに感傷的になっている自分に、酷く自嘲して
川辺に落ちていた石を1つ、拾い上げた。

・・・バシャッ

石は水面を跳ねることなく沈んでいく。

「くっ・・・」

石の奏でる嫌な音に不愉快になって、
あたしは、狂ったように何度も何度も石を投げつける。

その時・・・

「ったく、相変わらず短気なんだから」

吹き付ける強い風に乗って聞こえてきたのは

真希・・・?

それは紛れも無い、忘れられるはずもない愛しい人の声。
けど、真希の姿はどこにも見当たらなかった。

「気のせい・・・だよね?
 はぁ・・疲れてんのかなぁ、あたし・・」

「市井ちゃん・・・」

今度は名前を呼ばれる。
やっぱり気のせいなんかじゃない。
真希だ。真希が帰ってきたんだ!!

「真希、どこ?ねぇ、どこに居るの?」

辺りを見回す。
すると、目の前の濁った川の向こう側に人の影。

「真希?何でそんなとこにいるの?早く、こっち来なよ!!」


26 名前: 投稿日:2000年07月28日(金)04時25分26秒
大声で叫ぶ。
けど、真希は悲しそうな表情を浮かべるだけで。

「市井ちゃん、あたしね・・」
「真希!!水切り教えてよ!あたし全然上手くならないんだ。
 だから・・・」

真希が何かいいたそうな顔をしていたけど、
何だか嫌な予感がして、言葉を遮った。

「市井ちゃん!!いいから聞いて・・」

「言わないでっ!何も・・言わないで・・よっ・・」

真希の言いたいことなんて、とっくに判っていて
こんなことって本当にあるんだなぁ、なんて
こんな時にそんなバカな事考える自分に、苦笑。

「あのね、あたし・・もう帰れないから。
 もう市井ちゃんと一緒に居られないけど。
 けどっ・・」

その時、突然の強い風。
風に舞う砂埃の所為で、目も口も言う事を聞かなくなる。
真希の顔が見たいのに。言いたいこと、たくさんあるのに。
これが、きっと、最期、なのに・・。

「けど・・あたしの事・・忘・・い・・で・・」

最後のほうはよく聞こえなかった。

「ちょっ、真希!待ってよ、あたしまだ話が・・っ」

風もやみ、ようやく目を開けることが出来ても
そこには真希の姿は、無かった。

 


27 名前: 投稿日:2000年07月28日(金)04時32分25秒
あぁ、神様・・・
もう二度と、真希は帰ってこないのですか?
もう二度と、真希の声は聞くことが出来ませんか?
もう二度と、真希に触れることは出来ませんか?

もう二度と、二度と――――

「ひっ・・・く・・・」

あたしはその場に蹲ると、声を押し殺して、泣いた。
もちろん覚悟はしていた。
戦争に行って、帰ってくる人なんてまれなのは、
バカなあたしにでもわかる。

けどさ、心のどこかで信じていたんだ。
真希は帰ってくるんじゃないかって。
今度はずっと一緒にいられるはずだって・・。

けど・・
愛しい人はもういない。

でも・・
忘れない。
忘れてなんかやらない。

誰よりも愛していたことを。
たとえ止まない痛みがいつか消えたとしても。
2人で過ごしたときが色褪せていっても。
君の居ない世界でも・・・。
君はあたしを想ってくれたから。


また、笑って歩けるから――――。


[END]
28 名前: 投稿日:2000年07月28日(金)04時34分56秒
これにて終りです。
読んでくれた方、どうもでした。

次、明日・・いや明後日にでも現代版を。
現代版っても、この話とは繋がらないかもですが・・(苦笑)
29 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月28日(金)04時52分58秒
最近、涙もろい・・・
現代版も楽しみ。
30 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月28日(金)13時13分10秒
泣ける話だ・・・
31 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月28日(金)22時15分43秒
切ない話ですね。現代版は、超ハッピーエンドがいいなー。切ない終わり方は心が痛すぎます。
32 名前:名無しさん 投稿日:2000年07月28日(金)23時30分28秒
浜崎あゆみの「A Song for XX」の歌詞と曲がすごく
この小説に合っていて、聞きながら読むと感動倍増。
33 名前:まいのすけ 投稿日:2000年07月29日(土)10時50分50秒
読むたんびに切なくなる・・・。
現代版はホントにハッピーエンドがいいっす。
34 名前:龍岩寺 投稿日:2000年07月31日(月)10時24分18秒
現代版では、二人で笑って歩いて行ってもらいたいです。
現代版頑張ってください。楽しみにしています。

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